【急募】見知らぬ世界で生きていく方法 (道化所属)
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一スレ目

 掲示板形式は初なので暖かな目で見てくれるとありがたいです。


 

 

1 : 名無しの冒険者

この世界について詳しく知らない

でも設定はどっかで聞いた事ある。回答求む。

 

 

2 : 名無しの冒険者

おっ、初めてのスレ立てか?

 

 

3 : 名無しの冒険者

転生モノか

 

 

4 : 名無しの冒険者

とりまイッチ、現状報告ヨロ

 

 

5 : 名無しの冒険者

異世界系の作品は結構あるぞ。先ずは語れ

 

 

6 : 名無しの冒険者

えっと、ザックリ纏めるとこんな感じ。

・通り魔にブスッと逝った

・目が覚めたら身体が縮んでた

・服一枚で汚い裏路地に居た

・家とか金とか必要だから稼ぐ術を探した

・冒険者という職業があって神様探し中

・そしたら吊り目貧乳の神に勧誘受けた

・神の恩恵?を刻まれたらスレ画面が見えた

・書かずにはいられず書いてみた←今ここ

 

 

7 : 名無しの冒険者

先ずイッチコテハンしな

 

 

8 : 名無しの冒険者

話はそれからだ

 

 

9 :>>道化所属

>>7

>>8

これでいい?

 

 

10 : 名無しの冒険者

よきよき

 

 

11 : 名無しの冒険者

それはそうとブスッと逝ったのかぁ

 

 

12 : 名無しの冒険者

今時、通り魔転生なんてあるのか

 

 

13 : 名無しの冒険者

おいたわしや

 

 

14 : 名無しの冒険者

つーか、この世界アレじゃね?

 

 

15 : 名無しの冒険者

ダンまちか?

 

 

16 : 名無しの冒険者

あっ

 

 

17 : 名無しの冒険者

無乳の神ロキ!

 

 

18 : 名無しの冒険者

そうだ無乳だ!

 

 

19 : 名無しの冒険者

無乳を司るロキ!

 

 

20 : 名無しの冒険者

やったぜイッチ!勝ち組だぞ!

 

 

21 : 名無しの冒険者

この人生、我々の勝利だ!

 

 

22 : 道化所属

えっ、でも団員はワイ含めて七人だけど?

 

 

23 : 名無しの冒険者

えっ?

 

 

24 : 名無しの冒険者

えっ?

 

 

25 : 名無しの冒険者

君達はいつからイッチがロキファミリア所属だと錯覚していた?

 

 

26 : 名無しの冒険者

ば、馬鹿な無乳で吊り目で道化と言ったらロキしか

 

 

27 : 道化所属

いや神は間違いなくロキ

 

 

28 : 名無しの冒険者

>>25 おうおう、藍染サマ?

 

 

29 : 名無しの冒険者

>>25 ねえねえ今どんな気持ち?

 

 

30 : 名無しの冒険者

>>25 自信満々に間違ってどんな気持ち?

 

 

31 : 名無しの冒険者

やめて!>>25のライフはゼロよ!

 

 

32 : 名無しの冒険者

もしかしてロキ・ファミリア設立から時間経ってない?

 

 

33 : 道化所属

団長がショタ、めっちゃ飲むドワーフ、プライド高そうなエルフと愉快な年寄りたち。

 

 

34 : 名無しの冒険者

最後の雑さww

 

 

35 : 名無しの冒険者

ノアール、ダイン、バーラかな?

 

 

36 : 名無しの冒険者

えっ、でも七人って少な過ぎね?

 

 

37 : 名無しの冒険者

イッチ、三大クエストはどうなってる?

 

 

38 : 名無しの冒険者

いやその前にイッチのスペックだろ

 

 

39 : 名無しの冒険者

確かに

 

 

40 : 名無しの冒険者

イッチスペックはよ

 

 

41 : 道化所属

とりあえず容姿は言葉にしにくいから画像で。

コレが今のワイのステイタスもろもろや。

 

性別 男

年齢 八歳

容姿 【画像】

Lv.1

力 I0

耐久 I0

敏捷 I0

器用 I0

魔力 I0

『魔法』

【アプソール・コフィン】

二段階階位付与魔法

一段階『凍てつく残響よ渦を巻け』

二段階『燻りし焔をその手に慄け、氷界の果てに疾く失せよ』

『スキル』

天啓質疑(スレッド・アンサーズ)

・■■■■■■■■■

・神威に対する拒絶権

 

 

42 : 名無しの冒険者

イッチ最初からチート

 

 

43 : 名無しの冒険者

イージーモードか?おおん?

藍色の髪に青い瞳とかマジでアレやん

 

 

44 : 名無しの冒険者

ロ○アカのリィエルちゃんみたい

イッチ女の子みたい。絶対モテる顔やわぁ

 

 

45 : 名無しの冒険者

イッチの応援やめます

 

 

46 : 名無しの冒険者

ワイも

 

 

47 : 名無しの冒険者

ワッチも

 

 

48 : 道化所属

安価するから見捨てないで!

 

 

49 : 名無しの冒険者

おん?言ったな

 

 

50 : 名無しの冒険者

言ったな

 

 

51 : 名無しの冒険者

逝ったな

 

 

52 : 名無しの冒険者

いや殺すなよ

 

 

53 : 名無しの冒険者

イッチはダンまちについてどれくらい知ってる?

 

 

54 : 道化所属

漫画一巻分の知識しか知らない。

ベル君の成長チートとトマト野郎だっけ?

 

 

55 : 名無しの冒険者

うーん、中途半端

 

 

56 : 名無しの冒険者

原作開始前でロキ・ファミリアもイッチ含めて七人なら下手したら三大クエストがまだ終わってない可能性が

 

 

57 : 名無しの冒険者

そこんとこどーなのよイッチ

 

 

58 : 道化所属

全部終わってないだとさ

 

 

60 : 名無しの冒険者

つまりアレか。超絶ヤンデレ女神と下半神直結爺がまだいる訳か

 

 

61 : 名無しの冒険者

よしイッチ、安価だ。

 

 

62 : 名無しの冒険者

それだ

 

 

63 : 名無しの冒険者

それしかねえー

 

 

64 : 名無しの冒険者

安価と聞いて(シュピ

 

 

65 : 名無しの冒険者

呼びました?

 

 

66 : 名無しの冒険者

いや呼んでねえ

 

 

67 : 道化所属

いやこれどんな事安価すればいいの?

 

 

68 : 名無しの冒険者

察しが悪いぜイッチ

 

 

69 : 名無しの冒険者

その時代は黄金期だ、強くなる目標は幾らでもある

 

 

70 : 名無しの冒険者

最終目標と好敵手と武器に決まってるだろぉ?

 

 

71 : 道化所属

えっ、武器も!?

 

 

72 : 名無しの冒険者

おう

 

 

73 : 名無しの冒険者

さっき言ってたよなイッチが安価するって

 

 

74 : 名無しの冒険者

つまりはそういう事だ

 

 

75 : 名無しの冒険者

はよしろ

 

 

76 : 道化所属

うええ、とりあえずじゃあこれで

武器>>85

好敵手>>95

最終目標>>105

 

 

77 : 名無しの冒険者

よくやったイッチ

 

 

78 : 名無しの冒険者

愛してるぜイッチ♡

 

 

79 : 名無しの冒険者

 

 

80 : 名無しの冒険者

 

 

81 : 名無しの冒険者

 

 

82 : 名無しの冒険者

ヌンチャク

 

 

83 : 名無しの冒険者

男なら素手一択だろぉ?

 

 

84 : 名無しの冒険者

仕込み杖

 

 

85 : 名無しの冒険者

二刀流

 

 

86 : 名無しの冒険者

鉄パイプ

 

 

87 : 名無しの冒険者

メリケンサック

 

 

88 : 名無しの冒険者

オッタル

 

 

89 : 名無しの冒険者

マキシム

 

 

90 : 名無しの冒険者

アルバート

 

 

91 : 名無しの冒険者

アルバート

 

 

92 : 名無しの冒険者

ザルド

 

 

93 : 名無しの冒険者

アルバート

 

 

94 : 名無しの冒険者

アルバート

 

 

95 : 名無しの冒険者

アルフィア

 

 

96 : 名無しの冒険者

マキシム

 

 

97 : 名無しの冒険者

黒竜を倒す

 

 

98 : 名無しの冒険者

ロキファミリア団長になる

 

 

99 : 名無しの冒険者

死亡キャラ全員生存させる

 

 

100 : 名無しの冒険者

黒竜殺し

 

 

101 : 名無しの冒険者

黒竜殺し

 

 

102 : 名無しの冒険者

暗黒期の英雄に俺はなる!

 

 

103 : 名無しの冒険者

アルバートを超える

 

 

104 : 名無しの冒険者

三大クエストに参加する

 

 

105 : 名無しの冒険者

アルフィアを超えたらプロポーズする

 

 

106 : 名無しの冒険者

ダンジョン最下層攻略

 

 

107 : 名無しの冒険者

イッチが挑むLV.10の道。

 

 

108 : 名無しの冒険者

あっ、キリト君だ!

 

 

109 : 名無しの冒険者

そろそろ映画始まるよなぁ

 

 

110 : 名無しの冒険者

俺の二刀流が火を吹くぜ(キリッ

 

 

111 : 名無しの冒険者

解釈違い過ぎる。イキリトはそんなんじゃない

 

 

112 : 名無しの冒険者

つまりアルフィアがアスナだと

 

 

113 : 名無しの冒険者

ツンデレキャラからデレデレになるアルフィアを見たくはないなぁ

 

 

114 : 道化所属

いやワイの意志は!?

 

 

115 : 名無しの冒険者

イッチ、スレにはお約束という言葉があってだな

 

 

116 : 名無しの冒険者

もう分かるだろ?

 

 

117 : 名無しの冒険者

まあ単純な話や

 

 

118 : 名無しの冒険者

安価は絶対

 

 

119 : 名無しの冒険者

よく覚えとくんやで?

 

 

120 : 道化所属

そげなー!?

 

 

 ★★★★★

 

 

「先ずアルフィアって誰だよ!?」

「うおっ!?急に叫ぶなや!」

「あっ、ごめんロキ」

 

 

 此処は『道化の箱庭』

 現在団員が六人である【ロキ・ファミリア】の本拠地。神ロキにステイタスを刻まれて、見えていたスレッドから意識が遠ざかり叫ぶとロキはギョッとして目を見開いた。

 

 

「なんか天啓でも来たんか?」

「アルフィアを目標に強くなれと」

「あの子の真似したらノーグが死ぬわ」

 

 

 そんなに強い人なのか。

 というか俺はこの世界についてよく分からない。ランクアップすれば能力値が上がる。冒険者になるとは決めたけど、まだ世間についてよく分からない。

 

 

「アルフィアを知ってるの?」

「あの子は天才中の天才。余りあって才禍の怪物と呼ばれとるくらいの魔導士や。ランクアップ期間が一年と三ヶ月で世界最速の称号まで持っとる」

 

 

 この世界に転生して路地裏暮らしをしていた時期でも耳に届くほどの名声を持つ【ヘラ・ファミリア】。なんでも、誰でも英雄になれる資格を得たこの時代で一番突出して強い存在が【ヘラ・ファミリア】なのだ。そんな中でも静寂のアルフィアは別格。条件次第ではそこの団長に勝てる才格を持っているらしい。

 

 

「ロキ、俺頑張るよ」

「無茶はせえへんようにな?直ぐに逝ったらウチが悲しいわ」

「死なない!生きる!」

「んな必死に言わんでも」

 

 

 ★★★★★

 

 

 ノーグは『道化の箱庭』で使われていたが今は使われなくなった剣を握る。【ロキ・ファミリア】は全員Lv.2以上、駆け出し用の装備はいずれ使われなくなる。中層域の攻略に励んでいる時点で、武器はどうしても性能の高いものを買うからだ。

 

 

「おっ、双剣だ」

 

 

 ノーグが手に取ったのは二振りの剣。

 ナイフより長く、剣と呼ぶにはそれほど長くない。ノーグの身長の半分くらいだが、重さは片手で持てる程度のしっかりとしたもの。

 

 

「リヴェリア、これを使ってもいい?」

「それは構わんが、最初だと片手の長剣の方が」

「いや、スピードを活かすスタイルにするから手数の多い方がいいし」

 

 

 リヴェリアは瞠目した。

 ロキが連れてきた時、リヴェリアは少なからず反対意見を出そうとした。【ロキ・ファミリア】で現在Lv.3が三人、勢いに乗っているとも言っていいのだが、ギルドの徴税や中層域の攻略に向けての新たな装備代、その他見積もっても余裕が無かった。子供の面倒を見る時間はないと。

 

 だが……

 

 

「(コイツ、本当に八歳か……?)」

 

 

 余りにも()()()()()()()()

 ハッキリ言うなら、リヴェリアはノーグが少し怖かった。小人族と言われた方が納得するし、それこそ人間でありながら最初から魔法を習得しているのは異常だ。アルフィアと同じ歳だからか、まるで直ぐに追い越されてしまうのではないかと。プライドより恐怖が勝るような存在が目の前にいる。

 

 

「リヴェリア、大丈夫?」

「っ、すまん考え事をしてた」

「俺はダンジョンに潜るけど、リヴェリアは?」

「私は中層域に向けての準備がある。くれぐれも三階層までだぞ?」

「はいよ」

 

 

 子供らしくない。

 ロキが拾ってきただけはある未知。長寿であるハイエルフからしても異質。そんな存在にリヴェリアは僅かに戦慄していた。

 

 

 ★★★★★

 

 

『ノーグ Lv.1

 力  I0 →I39

 耐久 I0 →I21

 器用 I0 →I31

 敏捷 I0 →I42

 魔法 I0 →I26

『魔法』

【アプソール・コフィン】

・二段階階位付与魔法

・一段階『凍てつく残響よ渦を巻け』

・二段階『燻りし焔をその手に慄け、氷界の果てに疾く失せよ』

『スキル』

天啓質疑(スレッド・アンサーズ)

・■■■■■■■■■

・神威に対する拒絶権

 

 

 

 

 ロキは絶句した。

 

 

「(三階層で得られる経験値ちゃうで!?)」

 

 

 帰ってきたノーグは如何にも疲れている表情だったのは知っている。ノアール達も忙しそうだから単独でいいと本人の希望もあって許したが、まさかこんな結果になって帰ってくるとは思わなかった。

 

 剣は若干摩耗しているが、血はしっかりと拭き取られているし素人が素人なりに気を遣いながら扱っている事は何となく分かった。それを抜きにしても一体どれほど殺してきたのだろうか。

 

 

「どしたのロキ?」

「ノーグ四階層以上に行ったんか?」

「いや行ってないけど?」

 

 

 じゃあどれだけ殺せばこんなステイタスの上がり方になるのだろう。神は嘘が分かる。ノーグは嘘をついていない。三階層でどれだけのモンスターを狩ればこうなるのか知りたかった。

 

 

「ノーグ四階層以上行きたいと思わなかったんか?」

「それはあったけど魔法も考えて三階層までって決めてた。付与魔法だと剣が結構摩耗するらしいし、約束もあったから」

 

 

 付与魔法による剣の摩耗。

 それも『天啓』から来る答えらしい。だからといって、精神力も考えて此処まで効率よく攻略する事が出来るものなのか。

 

 

「(アルフィアを目指す……不可能じゃないかも知れへんな)」

 

 

 裏路地でノーグを見つけた時、ロキは否応もなく惹かれた。男でありながら容姿は中性的で女らしく見え、意外とストライクゾーンに入っていたのもあったのだが、それ以上に惹かれたのは瞳。

 

 裏路地での現状を変えようとする強い熱を感じた。蒼い瞳はそれだけ強い意志を感じたのだ。そしてロキの直感がこの子供をファミリアに入れろと背筋をゾクゾクさせる未知を感じたのだ。

 

 

「(そもそも『天啓』ってなんや?少なくとも神の仕業やない、神威を感じんし、だとしたら()()()()()()()()()()()()()()()()?)」

 

 

 そしてステイタスを刻めば余計ノーグの事が分からなくなった。『天啓質疑(スレッド・アンサーズ)』という不可解なスキル。一つは神であるロキにすら読めず、もう一つは神威に対する拒絶権という謎の表記。ノーグに指示する天啓とは()()()()()()()()()()()()()、未知であるが故に何を意味しているのかが分からない。

 

 

「未知過ぎて頭痛いわぁ」

 

 

 ロキは頭を悩ませていた。

 

 

 




 
 まだ三大クエストは終わってないゼウスとヘラの時代からのスタート。良かったら感想評価お願いします。モチベが上がります。


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二スレ目


 展開は早めのほうがいいってジッチャンが言ってた。
 感想くれた方々、めっちゃありがとう!!


 

 

 

603 : 名無しの冒険者

イッチの成長度合い半端なくね?

 

 

604 : 名無しの冒険者

それな

 

 

605 :名無しの冒険者

幼女時代のアイズたん超えてる

 

 

606 :名無しの冒険者

それも全て

 

 

607 :名無しの冒険者

ワイ達のおかげやな

 

 

608 :名無しの冒険者

天啓って形で攻略の仕方とかモンスターの特徴を教えるのはビーターだと思う

 

 

609 :名無しの冒険者

アイズたんより効率よく進めてる

 

 

610 :名無しの冒険者

つまり

 

 

611 :名無しの冒険者

我らが神だ!!!ドドン

 

 

612 :名無しの冒険者

時間が歪んでるからイッチが今どれくらい強いのか分からないけどな

 

 

613 :名無しの冒険者

おーいイッチー、今暇ー?

 

 

614 :名無しの冒険者

あーそーぼー

 

 

615 :道化所属

いや今10階層攻略中

 

 

616 :名無しの冒険者

キター( ^ω^ )

 

 

617 :名無しの冒険者

待ってましたイッチ!!

 

 

618 :名無しの冒険者

早くない?10階層?

 

 

619 :名無しの冒険者

スレの手助けからそんな時間経ってないぞ?

 

 

620 :名無しの冒険者

時間歪み過ぎじゃね?

 

 

621 :道化所属

多分なんだけど『天啓質疑』の塗り潰された部分が、危険時にスレとの時間倍率を一定にする効果だと思う。しかも危険になると勝手にライブになったりするでしょ?

 

あと今時間的に一年経ってるけど、特に何も無い。装備はちょっといいものに変えたけど、まだ三大クエストは何もなし。最高がLv.7まで。精神と時の部屋よろしく、多分それだけそっちの世界とこっちの世界の時間の流れが違うらしい

 

 

622 :名無しの冒険者

ライブは確かにあったなぁ……

 

 

623 :名無しの冒険者

時間歪んでんのに危険時のみ映像が流れる。

しかもスキル発動ってしっかり表示されてるしね。

 

 

624 :名無しの冒険者

最初イッチがシャドウさんに背後取られて斬られた時はヒヤヒヤしたしな

 

 

625 :名無しの冒険者

つまり俺達は

 

 

626 :名無しの冒険者

イッチの未来予知者!?

 

 

627 :名無しの冒険者

原作知ってりゃ未来予知者じゃね?

 

 

628 :名無しの冒険者

危険時にワイ達が天啓出さないとイッチが死ぬ可能性があると

 

 

629 :名無しの冒険者

天啓ってそんな意味だっけ?

 

 

630 :名無しの冒険者

見聞色の覇気か?

 

 

631 :名無しの冒険者

極めてやがる…

 

 

632 :道化所属

たすけて

 

 

633 :名無しの冒険者

!?

 

 

634 :名無しの冒険者

!?

 

 

635 :名無しの冒険者

どうしたイッチ

 

 

636 :名無しの冒険者

何があった

 

 

637 :道化所属

なんかデッカいヒキガエルみたいなババアに襲われてる!品定めって何!?

 

 

638 :名無しの冒険者

 

 

639 :名無しの冒険者

 

 

640 :名無しの冒険者

男殺しだァーー!!?

 

 

641 :名無しの冒険者

逃げろイッチ!?

 

 

642 :名無しの冒険者

アマゾネス流の品定めは食われると同義だぞ!?

 

 

643 :道化所属

いやぁーー!?絶っ対嫌だ!?つーか、体格差とか年齢とか色々犯罪だろ!?

 

 

644 :名無しの冒険者

まあ世界が世界だし

 

 

645 :名無しの冒険者

十四歳でベル君もお酒飲んでたし

 

 

646 :名無しの冒険者

法の概念がガバガバだしね

 

 

647 :名無しの冒険者

言ってる場合か

 

 

648 :道化所属

危険時によりスキルが発動します。

https://www.○○☆☆■■.com/☆○♪*=――――

 

 

649 :名無しの冒険者

イッチのスキルが発動するだけ危険

つーかなぜヒキガエルとエンカウントした

 

 

650 :名無しの冒険者

それはともかくや、ワイらの出番や

 

 

651 :名無しの冒険者

不謹慎だけど待ってました!

 

 

652 :名無しの冒険者

待たせたなイッチ

 

 

653 :名無しの冒険者

こっからがワイらのターンや

 

 

654 :道化所属

それ死亡フラグじゃね!?

 

 

 ★★★★★

 

 

 その容貌は蟾蜍(ひきがえる)だった。

 16歳という年齢でありながらドワーフを思わせる身体の大きさ、美の神の下に所属していながらその身体の醜悪に気付かず、自分を至高の美と疑わない異常者。

 

 そしてLv.1でありながら、格下の男を20人程食い散らかした怪物。そして更には自分より格上のLv.2の男すら襲う見境無しの大妖婦。その恐ろしさ故に神々より与えられた二つ名。

 

 【男殺し】フリュネ・ジャミール

 

 そしてその名を与えられ、二年が経過した。

 

 

「うおっ!?」

 

 

 振り下ろされる斧を必死に躱すノーグに対し、フリュネは徐々に壁際へと追い詰めていく。フリュネのステイタスは既にLv.2の後半に迫っている。

 

 

「ゲゲゲゲゲッ。逃がさないよ!」

「目的はなんだ!?いきなり襲いかかって来やがって!?」

「決まってるじゃないか!品定めさぁ!!」

 

 

 洗礼というには程遠い。

 私欲の混じった下卑た顔で襲いかかってくるフリュネを見て背筋がゾッとする。この場合、品定めという意味は……

 

 

「(おもっくそ、貞操の危機じゃねえか!?)」

 

 

 有罪過ぎる。

 最近漸く九歳になったというのに、こんなショタ狂いが存在するのか。この世界が異質だと感じてはいたが、まさか法の設定さえガバガバな事にノーグが恐怖を隠せない。

 

 

「(逃げられねえ……ステイタスはあっちが勝ってる)」

 

 

 逃げた所で捕まる。

 Lv.2の後半クラスともなれば流石に拮抗する事は出来ない。一つのレベル差はそれだけ絶望的な差がある。それを埋めるスキルはノーグに存在しない。

 

665 :名無しの冒険者

イッチ右!

666 :名無しの冒険者

剣で受けるな!折れるぞ!

 

 

「っっ!!」

 

 

 突如『天啓』からの警告。

 剣で受け止めるようにするのではなく、体重差を利用して自分が跳ぶ。あっちの筋力に耐えられない事を理解し、自分の身体の軽さを利用してフリュネから距離を作る。

 

 

「あっ…ぶねぇ!」

「ゲゲゲゲゲゲッ、上手く躱せたねぇ!そこらの奴よりやるじゃないか!!」

 

 

 今のをまともに食らっていたらと思うとノーグは背筋が強張る。力、敏捷、耐久は間違いなく負けている。『天啓』とフィンの駆け引きを学んでいなければ間違いなく今の一撃で終わっていた。

 

667 :名無しの冒険者

イッチ並行詠唱は出来るん?

 

 一段階なら可能だが、二段階は無理。

 そもそもリヴェリアに二段階の使用を禁じられていた。リスクが大き過ぎるのだ。二段階目は強力な分、膨大な魔力を消費する。それこそ40秒で魔力切れによる精神疲弊(マインドダウン)が起きる。そうなればフリュネに負けるだろう。

 

669 :名無しの冒険者

なら一段階でフリュネの顔を傷付けろ。激昂してまた大振りが来る

670 :名無しの冒険者

距離を取ったら一気に二段階解放や

 

 逃げる手段が無い以上、迎撃するしかない。

 助けを呼びたいが、多分恐らく不可能だ。十階層を見渡しても人の気配がしない。叫んだ所で助けの声は無情にも届かない。

 

 

「やるしかないのかよ…!」

 

 

 双剣を構えてノーグはフリュネに向き合う。

 勝利条件はフリュネを動かなくする事、それが一番難しいのだが、『天啓』の指示が有れば不可能ではないと思いたい。

 

 

「【凍てつく残響よ渦を巻け】!」

 

 

 凍える風を纏い、ノーグはフリュネに迫る。

 ただの属性付与。力や敏捷が上がるわけでもない。斬った部分の血液が凍結出来る程度の冷気ではフリュネを止められない。

 

671 :名無しの冒険者

上や!

672 :名無しの冒険者

いなせイッチ!

 

 ()()()()()()()()()()()()()()、左手の剣で振り下ろされる斧を逸らす。

 ピキリと嫌な音が鳴った。僅かな鈍痛とそして剣の限界が耳に届く。斧は力強い分、返しが遅い。振り下ろされた斧を足で踏み込み、フリュネに一閃を繰り出す。

 

 だが……

 

「(っ、躱され––––)」

 

 

 顔が仰け反り、右腕の剣の一閃を躱す。

 躱せないと踏んだ上の意表を突いた一閃ですらフリュネには当たらない。僅かに頬を掠った程度。

 

 

「お前ええええええええっ!!?」

 

673 :名無しの冒険者

蹴りが迫るぜイッチィィ!!

674 :名無しの冒険者

あかん間に合わない!耐えろイッチ!!

 

 そして『天啓』の警告。

 分かっていても間に合わず太い足が迫る。左腕で腹に突き刺さる蹴りを防ぐが、威力が強過ぎて受け止め切れず、身体が軽いノーグは数十メトラ吹き飛ばされていく。

 

 

「ごっ……がぁ……!?」

 

 

 左腕がミシミシと嫌な音を立てた。

 金棒で殴られたかのような重さと硬さ、意識を保つことは出来たが、付与魔法は消えてしまっている。血を吐き出し、揺さぶられる視界にかなりのダメージを負った事を自覚する。立ち上がる事すら今のノーグには厳しく感じた。

 

 

「ふざけんじゃねえよおおおおおっ!!アタイの顔に、この美しい顔を傷つけやがってぇぇ!!ぶっ殺す!!もうぶっ殺すよおおおっ!!」

 

 

 フリュネの激昂が耳に届く。

 品定めの範囲を超えた。下卑た愉悦感の感情から明らかな殺意と変わった。

 

 分かっていた。

 いくら『天啓』があってもそれに反応出来るだけの能力値が足りていない事を。慢心していたのか、驕っていたのか僅かながら希望があると思っていた。それを体現するだけの力はノーグにはまだ無かった。

 

 それでも……

 

 

「【凍てつく残響よ…渦を巻け––––燻りし焔をその手に慄け】」

 

 

 ()()()()()()

 この距離なら詠唱が間に合う。ダメージを負った。重傷である事は変わりない。しかし、()()()()()()()()()()()()。激情で叫びながらノーグに向かうが、もう遅い。ノーグの詠唱がフリュネが迫る前に完了する。

 

 

「【氷界の果てに–––疾く失せよ】!」

 

 

 付与魔法【アプソール・コフィン】の二段階解放。

 一段階目は凍てつく冷気を纏う程度、能力値が上がるわけではない上に範囲は精々剣に纏わせる事が出来る程度。

 

 だが二段階目の解放で纏うものは––––

 

 

「なんだいそれはああああっ!!?」

 

 

 ()()()()()()()()()

 それがノーグを包み、陽炎のように揺らぎ出す。踏み締めた大地が藍色の焔に晒され、草木が一瞬で凍り付く。出力の桁が今までの比ではない。右手の剣に焔を纏わせ、迫り来るフリュネに振り抜いた。

 

 

「がああああああああああっ!?」

 

 

 大寒波。

 まるで魔剣のように中距離に襲いかかり、何もかもが凍り付いてしまいそうな冷たい焔がフリュネの脚を氷結させる。それと同時に魔法に耐え切れずノーグの右手の剣は砕け散る。

 

 

「こ、の程度でええええっ!!」

 

 

 バキバキッ!!と氷結した筈の氷が砕けようとしていた。Lv.3間近の冒険者としてのプライド、そしてそれを抜きにしてもアマゾネスであるが故の怪力が止められた脚を動かそうとしていた。

 

675 :名無しの冒険者

決めろイッチィィ!!!

676 :名無しの冒険者

この一撃に全てを込めろ!!

 

 そしてその隙を逃す程、ノーグは甘くない。

 最大出力。折れた剣の柄を捨て、もう一つの剣を右手に持ち直し、フリュネに向かって駆け出した。

 

 

「ま、待てえええええっ!!?」

「うるせええええっ!!」

 

 

 隙は二度と訪れない。

 身体も限界、この一撃を流せばノーグの負けは確実。身体も剣もピキピキと嫌な音を立てながらも最後の一撃を装填、豪氷の一閃がフリュネの胴体に振り抜いた。

 

 

「っ、あ……がっ!?」

 

 

 フリュネに届いた斬撃は斬り裂かれた部分の血液すら凍り付かせ、遥か後方に吹き飛ばした。

 

 

 ★★★★★

 

 

 バキンッ!!とノーグのもう一つの剣が砕け散る。

 駆け出しでなくともLv.1で出せるだけの金で買った二振りの剣も見る影もなく砕けてしまっていた。

 

 

「ハァ、ハァ……!!」

 

 

 息が乱れて安定しない。

 無茶を重ねた代償は剣だけではない。あれだけ温存していた魔力は最大出力で殆ど使い果たし、揺らぐ藍色の焔は消え去っていた。

 

 

「悪い……」

 

 

 そして視界がグラつき、ノーグもまた倒れた。

 痛みもそうだが、魔力が限界だ。身体が重く、立ち上がろうにも身体中が痛くて動けない。

 

 モンスターが生み出される前に逃げなければいけないが、吹き飛ばされた時ポーションの瓶が全て割れていた。

 

 

「(とりあえず、場所を変えねえと……)」

 

 

 無理矢理起き上がろうと身体を奮い立たせたその時だった。()()()()()()()()()()()()()

 

 

「こ……の」

 

 

 嘘、という言葉すら出せないほどの恐怖。

 モンスターより恐ろしい欲望の獣が怒りの形相で立ち上がった。

 

 

「クソガキがああああああああああっ!!!!」

 

 

 最悪の存在は意識を失わず、怒りに身を任せてノーグに突貫していく。対してノーグは警告の『天啓』が次々と頭の中で流れるが、逃げる力すら振り絞る事で精一杯だ。

 

 

「(死––––––)」

 

 

 死を覚悟した。

 貞操で許せるほどの相手ではない。逃げられないながらも虚勢を張って立ち上がりなけなしの力で構えた––––その時だった。

 

 

 

 

 

 

「––––【五月蝿い(ゴスペル)】」

 

 

 

 

 耳に届いた鐘の音が欲望の獣を吹き飛ばした。

 何が起きたか分からず、ノーグは鐘の音が聞こえた方向に首を向ける。

 

 

「––––へぇ、貴女が手を出すとはね」

「別に、耳が腐りそうな獣を黙らせただけだ」

「おーい少年、無事かい?」

 

 

 ゾロゾロと下層の方から上がって来る屈強な女達、そして瞠目する。フィンやリヴェリアですら敵わない。次元が違う存在、素人が見ても分かるその異質な圧力(プレッシャー)がこの場を既に支配している。

 

 

「ぐふぉ…あ、アンタらは……!?」

「【福音(ゴスペル)】」

 

 

 たった二言。

 超短文詠唱でノーグが勝てなかった存在を黙らせた。口と耳から血を吹き出し、まるで内部から破壊されたかのような惨状に目を疑った。それと同時に力が抜け、ノーグは地面に座り込む。恐怖から解放された反動で安心感に息を吐いた。

 

 

「にしても、コイツって確かLv.2の後半ですよね?それをここまで傷付けるなんて少年すげー」

「ただの獣だろう」

「アンタは例外、少年の方はLv.1でしょ?」

「っ……貴女、たちは」

「【ヘラ・ファミリア】ですよ少年」

 

 

 その圧倒的な実力を持ちながら、オラリオでも最強と謳われたファミリア。思わず言葉が詰まってしまう程の存在に今度は緊張が走る。前を歩いていた副団長さんが「危害を加えるつもりとかないから安心してよ少年」と言ってきてノーグは少し安心した。

 

 

「見てたのでしょう()()()()()。手を貸してあげなさい」

「私がか?治癒士が居るだろう」

「貴女()()()()()()()()()()()()()()()()?治癒士は今疲弊中ですし、見捨てて私達のファミリアに泥を塗るわけにもいかないわ」

「チッ……いいだろう、乗せられてやる」

 

 

 灰色の髪と、黒いドレスに身を包むノーグと同じくらいの年齢の女の子が座り込むノーグに手を伸ばす。

 

 

「ほら、手を貸してやる。さっさと来い」

 

 

 ––––それが彼女との出会いだった。

 傲慢そうで、気高くて、高潔で、強くてカッコいい同年代の女の子。『天啓』で言われていた最終目標は正直、馬鹿らしいと思い会おうと努力したことは無かった。

 

 けど、そうだ。

 これが全ての始まりだった。

 

 この日を以って、ノーグの英雄譚の1ページが刻まれたのだった。

 

 

 





・ノーグ(イッチ)
この子がアルフィアかぁ…つーかこの世界ってもしかしてヤバい?

・アルフィア Lv.4
未来でも見えていたのか?あの動きは一体……?

・団長 Lv.7
––––へえ、やるじゃない。

・副団長 Lv.6
うわっ、マジっすか少年。

・スレ民たち Lv.0
ワイ達が神や!!


★★★★★★★★★★★★

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三スレ目


 明日はキツイかも。御免な。
 あとスレって多機能フォームあるんだね。全然知らなくて一から手書きしてた。一スレ目の機能は見逃してほしい。
  
 感想くれた方々ありがとう!
 皆様のお陰で日刊三位になりました!!



 

900 :名無しの冒険者

遂にこのスレも900超えたな

 

 

901 :名無しの冒険者

の割にはイッチの応答がないけど

 

 

902 :名無しの冒険者

イッチの霊圧が……消えた!?

 

 

903 :名無しの冒険者

アルフィア(幼女)に助けられてからイッチのライブが消えたし

 

 

904 :名無しの冒険者

大丈夫、イッチはキリト君成り代わり説あるからゴキブリのようにしぶとい……筈

 

 

905 :名無しの冒険者

今思うと武器安価無難だったよなぁ

 

 

906 :名無しの冒険者

他の武器ならイッチが食われる所だったぜ…

 

 

907 :名無しの冒険者

しかもステゴロを武器と呼んでた奴もいたしな

 

 

908 :名無しの冒険者

ふひひ、サーセンww

 

 

909 :名無しの冒険者

悪意のラインナップで唯一の無難を引けたイッチはマジ『幸運』持ち説あり、素手ならライブにR18指定入ってたろ

 

 

910 :名無しの冒険者

R18Gの間違いだろ

 

 

911 :名無しの冒険者

www

 

 

912 :名無しの冒険者

想像してみ––––オロロロロロ

 

 

913 :名無しの冒険者

駄目だ想像が色々とヤバ––––オロロロロロ

 

 

914 :名無しの冒険者

想像テロやめ––––オロロロロロロ

 

 

915 :名無しの冒険者

リバースし過ぎて草

 

 

916 :道化所属

想像するな、割と吐きそうになったわ

 

 

917 :名無しの冒険者

あっ、イッチだ!

 

 

918 :名無しの冒険者

おかえりイッチ!安価まだ?

 

 

919 :名無しの冒険者

で、現状報告はよ

 

 

920 :道化所属

あのヒキガエルに襲われかけたワイに慰めの一つも無いんかい!?

 

 

921 :名無しの冒険者

いやスレってこんなもんよ?

 

 

922 :名無しの冒険者

何を期待してるんだか

 

 

923 :名無しの冒険者

┐(´д`)┌ヤレヤレ

 

 

924 :名無しの冒険者

大丈夫、イッチなら乗り越えると信じてたから

 

 

925 :名無しの冒険者

アルフィアで卒業出来ると思ったのかい?甘いヨ

 

 

9296 :道化所属

クソッ、暫く蛙は見たくない

夢に出てきた

 

 

927 :名無しの冒険者

あっ、うん。それはマジ同情するわ

 

 

928 :名無しの冒険者

あの後アルフィア(幼女)にトゥンクとしただろぉ?

 

 

929 :名無しの冒険者

安価達成に向かってのスタートを切ったイッチくん。現状報告お願い♡

 

 

930 :道化所属

まあ確かにめちゃくちゃ美人だったけどさぁ……

とりあえず現状報告は纏めとくわ

・【ヘラ・ファミリア】の遠征帰還に同行

・腕折れたから三日ほど療養

・ステイタス更新でLv.2達成

・ランクアップ祝いで居酒屋←今ここ

 

 

931 :名無しの冒険者

いや未成年

 

 

932 :名無しの冒険者

そこんとこガバガバだなおい、法はどこ行った

 

 

933 :名無しの冒険者

で、肝心のステイタスは?

確か十ヶ月くらいで耐久以外がオールAだっけ。

 

 

934 :名無しの冒険者

そして数十分で二ヶ月経って、十階層ヒキガエル

精神と時の部屋レベルで時間差かけ離れとるなぁ。とりあえず基礎ステイタスに期待。

 

 

935 :名無しの冒険者

ワイらが育てたイッチの実力は?

 

 

936 :名無しの冒険者

ワクワク、ワクワク

 

 

937 :道化所属

ハァ、これが最終ステイタス。

二枚目がランクアップの数値や。

 

『ノーグ Lv.1

 力  S981

 耐久 A822

 器用 SS1021

 敏捷 SS1011

 魔力 S932

『魔法』

【アプソール・コフィン】

・二段階階位付与魔法

・一段階『凍てつく残響よ渦を巻け』

・二段階『燻りし焔をその手に慄け、氷界の果てに疾く失せよ』

『スキル』

天啓質疑(スレッド・アンサーズ)

・■■■■■■■■■

・神威に対する拒絶権』

 

『ノーグ Lv.2

 力  I0

 耐久 I0

 器用 I0

 敏捷 I0

 魔力 I0

【天眼I】

『魔法』

【アプソール・コフィン】

・二段階階位付与魔法

・一段階『凍てつく残響よ渦を巻け』

・二段階『燻りし焔をその手に慄け、氷界の果てに疾く失せよ』

『スキル』

天啓質疑(スレッド・アンサーズ)

・■■■■■■■■■

・神威に対する拒絶権

追走駆動(ウェルザー・ハイウェイ)

任意発動(アクティブ・トリガー)

・疾走時、魔力を消費し『敏捷』の上昇

・発動時、加速限界の制限無視

 

 

938 :名無しの冒険者

S超えてるやんけ!?

 

 

939 :名無しの冒険者

イッチィィィ!ランクアップ前に発展アビリティは安価するべきだろうがァァァ!!?

 

 

940 :道化所属

あっ……メンゴ

 

 

941 :名無しの冒険者

有罪

 

 

942 :名無しの冒険者

ギルティ

 

 

943 :名無しの冒険者

逃げるなぁぁぁ!安価から逃げるなぁぁぁ!!

 

 

944 :名無しの冒険者

有罪。

というか発展アビリティは他に何があったの?

 

 

945 :道化所属

【耐異常】と【狩人】

 

 

946 :名無しの冒険者

【天眼】一択だな

 

 

947 :名無しの冒険者

安価するまでもなく多分そうしただろうけど

 

 

948 :名無しの冒険者

そういうの言おうなイッチ

 

 

949 :道化所属

すまん。次は気をつけるわ。

そもそも【天眼】は未知だからロキに勧められたけど、効果はなんなん?

 

 

950 :名無しの冒険者

知らん

 

 

951 :名無しの冒険者

ありそうで情報はない

 

 

952 :名無しの冒険者

完全に未知やで

 

 

953 :名無しの冒険者

転スラだと動体視力を上げるとかだけど

 

 

954 :名無しの冒険者

ダンまち世界でそんな確証はない

 

 

955 :名無しの冒険者

効果は身をもって知るといい

 

 

956 :道化所属

めっちゃ上から目線。

まあ効果は戦っていくうちに調べるとし–––あっ

 

 

957 :名無しの冒険者

どうしたイッチ

 

 

958 :道化所属

【速報】ゼウス・ファミリアの『暴食』とガレ爺が飲み比べしてた

 

 

959 :名無しの冒険者

はあ?

 

 

960 :道化所属

いつの間にかワイの隣にゼウスの所の団長もいる

 

 

961 :名無しの冒険者

気付けよ

 

 

962 :名無しの冒険者

鈍すぎだろ

 

 

963 :道化所属

脳内スレ結構集中してて、いつの間にか注目があっちに行ってるの気付かなかった。

 

 

964 :名無しの冒険者

定期報告ご苦労様

 

 

965 :名無しの冒険者

まああっちはいいでしょ、イッチ酒飲めないんだし

 

 

966 :名無しの冒険者

というかイッチ結構効率厨やったんやろ?アイズたん程過激でないにしろ、効率の良さだけ言えばワイらのおかげもあってビーターやったのに、やっぱ一ヶ月半で全アビリティSになってるベル君を見るとえげつないわぁ

 

 

967 :名無しの冒険者

アレはもうバグチート

 

 

968 :名無しの冒険者

ぶっ壊れキャラはダンまち作品で右に出るものはアルフィアくらいだろ

 

 

969 :名無しの冒険者

アルフィアもオールラウンダーだからな

一対一で勝てんのアルバートとか黒竜くらいだろ

 

 

970 :道化所属

あっ、ガレ爺負けた。

額に油性ペンで『牛肉(ミノ)』って書かれた

 

【画像】

 

 

971 :名無しの冒険者

ブフォww

 

 

972 :名無しの冒険者

猫の髭描いたのイッチやろww

 

 

973 :名無しの冒険者

マキシム腹押さえて死にかけているww

 

 

974 :道化所属

あっ、リヴェリアも描き始めた

 

【画像】

 

 

975 :名無しの冒険者

お前に至っては何を描いてんだ(真顔

 

 

976 :名無しの冒険者

何コレ……豚?

 

 

977 :名無しの冒険者

ツノ生えた豚なんていたか?新種のモンスターやろ

 

 

978 :名無しの冒険者

リヴェリアさんには絵心が無かった模様

 

 

979 :名無しの冒険者

あっ、マキシムが死んだ!

 

 

980 :名無しの冒険者

この人でなし!!

 

 

981 :道化所属

いやさ、一応名目上ではワイのランクアップ祝いやろ?それなのに負けたら酒代全額奢りを勝手に仕掛けて負けてしまったガレ爺さぁ。自由過ぎると思わない?ドワーフの火酒ってめっちゃ高いんやよ?ガレ爺の手持ちで足りると思うか?

 

 

982 :名無しの冒険者

正当な報復だった

 

 

983 :名無しの冒険者

それに関してはガレ爺が悪い

 

 

984 :道化所属

すまんちょっと抜けるわ。マキシムさんに水渡してくる

 

 

985 :名無しの冒険者

いってらー。

そういや触れてこんかったけど新スキルあったやんね。スレ終わりに近いからそっち触れとこ

 

 

986 :名無しの冒険者

追走駆動(ウェルザー・ハイウェイ)

疾走時、魔力消費にて『敏捷』強化は分かるんやけど加速限界の制限無視ってなんや?

 

 

987 :名無しの冒険者

100キロしか出せないイッチが走り続ければ120キロとかになるみたいな?

 

 

988 :名無しの冒険者

スピード違反やん

 

 

989 :名無しの冒険者

この世界にそんな違反はない

寧ろ轢き殺す事を口癖としたシスコンがいるだろ

 

 

990 :道化所属

お待たせ

 

 

991 :名無しの冒険者

おうおかえり、マキシムと何か話したん?

 

 

992 :道化所属

いや、二つ返事で受けたけどちょっと後悔してきたかも

 

 

993 :名無しの冒険者

何話したんだイッチ

 

 

994 :名無しの冒険者

後悔って、どったの?

 

 

995 :道化所属

ワイ氏、明日ゼウスとヘラの合同訓練に参加する事になった

 

 

996 :名無しの冒険者

は?

 

 

997 :名無しの冒険者

え?

 

 

998 :名無しの冒険者

マジ?

 

 

999 :名無しの冒険者

次回、イッチ死す!

 

 

1000 :名無しの冒険者

デュエルスタンバイ! 

 

 

1001:名無しの冒険者

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 ★★★★★

 

 

「ぶっ…く、く……」

「アカン、マキシムが死にかけとる」

 

 

 荘厳、圧倒的な威厳を放ち、強者の迫力に周囲が萎縮する程の英傑。【ゼウス・ファミリア】団長であるマキシムは腹を抱えて地面に跪いた。酔い潰れたガレスの額には『牛肉(ミノ)』と書かれ、更にはノーグによって猫髭まで追加されたのだ。しかも油性。笑わずにはいられなかった。

 

 

「でも意外だな。君がガレスに悪戯するなんて」

「ドワーフの火酒は高いし、勝手に飲み比べして負けたら全額奢りを約束したのはガレスだし、アレくらいの恥は正当な報復だろ?」

「そうだな、私も描いてくる」

 

 

 リヴェリアは油性の羽ペンを受け取り、寝ているガレスに近づいていた。今日は遠慮はしなくていい筈なのに、ガレスの火酒代を考えてチビチビと料理を食っている。

 

 

「そこまで気を遣わなくていいのに」

「それと一応ランクアップ祝いなのに趣旨忘れた老いぼれにはいい罰だ」

「……意外と怒ってる?」

「別に」

 

 

 フィンは僅かに笑みを零す。

 大人びているからあまり触れてこなかったが、意外と子供っぽい部分もある事に少し苦笑する。フィン達はノーグより10歳は歳上だが、ノーグ自身大人びている性格を崩さない。甘えたり、頼ったりする事が少ない。

 

 それは才能もあり、ノーグ自身がそれを望む事が少ないのもあるのだが、そのせいか自然と距離が出来ている。家族となった以上、悩みがあるなら聞いてあげたいと思うのだが、『天啓』で答えを得て自己完結する事が多い。だから少し子供っぽい一面を見れた事に笑みを溢した。

 

 

「ほら、マキシムさんだっけ?お水」

「悪いな小僧……うぐっ、まだ余韻が」

「しっかりしろよ団長。すまんな坊主、ランクアップ祝いに水差したか?」

「構わないよ。楽しそうなら何より」

 

 

 ザルドはノーグを見て、乾いた笑みを零す。

 まるでフィンのように子供の外見でありながら子供らしくない。年齢は間違いなく九歳だというのに、この大人びたような在り方の歪さに目を疑いたくなりそうだ。

 

 

「お前がアイツの言ってた小僧だったか」

「アイツ?誰?」

「ヘラの団長。お前の事面白いって聞いてたからな。アルフィアの最速記録塗り替えたんだろ?」

 

 

 コクリとノーグは首を縦に振る。

 

 

「なあ小僧、お前確か剣が砕けたんだよな?」

「まあ、うん」

「俺のお下がりでいいならやろうか?」

 

 

 目を見開き、そして困惑。

 そして裏があるのではないかと疑う様子にマキシムは僅かに瞠目した。九歳の思考ではない。アルフィアもそうだが、才あるものは此処まで歪に大人びているものなのだろうか。子供らしくない子供を見てマキシムはそう感じた。

 

 

「いいの?」

「俺は構わん。どうせもう使わないし、使われる方が武器にとっても有難いだろ。まあ、代わりと言ってはなんだが」

 

 

 ヘラの団長は言った。

 面白い子供が居る、とマキシムに伝えられていた。二柱のファミリアは親交が深い。ゼウスとヘラの仲もあり、合同で遠征に行く事も多々ある。現在都市最強のLv.7がノーグを面白いと言ったのだ。

 

 話しているうちに、その意味が少し分かった気がした。

 

 

「明日、俺達【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】の合同訓練に参加しないか?」

 

 

 良くも悪くも、弱肉強食の時代。

 その中で歪ながらも才能を以って道を切り拓く一人の冒険者にマキシムも興味が湧いた。

 

 

「参加するなら剣はやろう」

「やる」

「おいおい団長」

「ザルドも知りたいだろ?俺達は特に強さに貪欲だ。それが一部でも知れるとなると見返りとしちゃ充分過ぎる」

 

 

 ノーグはフィンの許可を貰いにマキシムから離れる。マキシムは強さを求める男だ、後輩の育成はすれど他派閥に興味を持つのはヘラ以外では()()()()。ザルドの目には、いずれ最強になるであろう雛を見定めているようにも見えた。

 

 

「それに、【アパテー・ファミリア】の事もある」

「!」

「是が非でも強くならなければ死ぬのがオラリオだ。英雄の雛であるならば、手を差し伸べることもまた俺達の役割だ」

 

 

 未だ拭いきれない邪神の存在。

 不正を司る【アパテー・ファミリア】は最大派閥でさえ手を焼いている。最速記録の称号を得て勢いが増していく風を意図的に掻き消そうとする者が現れる可能性は大いにある。

 

 

「それを抜きにしても、最近の子供は恐ろしいな」

「……それは少し同意する」

 

 

 アルフィア然り、ノーグ然り、最近の子供はこうも大人を抜きに出ようとするものなのか。それが恐ろしく『未知』で『異端』だった。

 

 

「マキシムさん。許可もらった」

「そうか。ところで小僧、あのハイエルフがドワーフの顔面に描いてる絵はなんなんだ?」

「ユニコーンらしいけど……アレじゃ、ツノ生えた豚だね」

 

 

 ノーグの正直な感想にマキシムの腹筋が再び崩壊した。

 

 

 





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四スレ目


 短い時間の中で何とか出来た。
 とりあえず短いけどこれで勘弁してくだちぃ。すまん、時間足んなくて感想も碌に返せなくて。明日明後日かなり時間ないので空いた時間で書くけど、遅くても日曜日に投稿します。あと、時間逆算するとアルフィアが四歳から冒険者になってるのでちょっと修正します。

 日刊一位、多くの感想ありがとう!



【急募】剣くれる代わりにゼウス達の特訓に加わったんだけど生き残るにはどうしたらいい?

 

 

1:道化所属

助けを求む

 

 

2:名無しの冒険者

イッチアホやろ

 

 

3:名無しの冒険者

何故二つ返事で答えたし

 

 

4:名無しの冒険者

典型的な詐欺に引っ掛かるイッチ

変な壺買わされてそう

 

 

5:道化所属

いや理由はあるんやよ

詐欺ではない。騙されてない…はず

 

 

6:名無しの冒険者

このスレ立てた意味を振り返ってみようなイッチ

 

 

7:名無しの冒険者

生き残れるかすでに半信半疑じゃねえか

 

 

8:道化所属

はっ、それに関しては確かに否定できない!?

 

 

9:名無しの冒険者

 

 

10:名無しの冒険者

www

 

 

11:名無しの冒険者

【悲報】イッチアホの子説 浮上

 

 

12:道化所属

ちゃんと理由はあるんやって……。

とりあえずメリットデメリット纏めとくわ

『メリット』

・参加すれば双剣が貰える(マキシムのお下がり)

・ランクアップしたけど、中層はパーティ組まなきゃ降りる許可くれないから必然的にダンジョン攻略の速度は落ちる。つまりレベルの高い奴等との戦闘は経験値がウマアジ

・現在オシリス、アパテーのファミリア。闇派閥?が快楽殺人やってるから遭遇したら殺される確率大、鍛えるしかねえ

・あと単純に強くなる目標とどれくらい差があるか分かる。

 

『デメリット』

・最後の晩餐は昨日の居酒屋のキノコグラタンになるかもしれん

 

 

13:名無しの冒険者

別にええやん

 

 

14:名無しの冒険者

何が問題でも?

 

 

15:道化所属

スレ始めたきっかけ振り返ろう?

生きるためだよ、死にたくないから。

 

あっ、あとアルフィアに会えたわ

 

 

16:名無しの冒険者

アルフィアもメリットだよなイッチィ?

 

 

17:名無しの冒険者

馬鹿野郎、最大のメリットじゃねえかぁ!

 

 

18:名無しの冒険者

いいじゃねえか!屈強だけどヘラ達みんなめっちゃ美人だろうが!屈強だけど!

 

 

19:名無しの冒険者

美少女美女達と特訓出来るとか羨まし過ぎる

 

 

20:名無しの冒険者

そう思うとイッチに腹が立ってきた

 

 

21:名無しの冒険者

イッチ殺す

 

 

22:名無しの冒険者

処す

 

 

23:名無しの冒険者

貴様を殺す

 

 

24:名無しの冒険者

爆発しろ

 

 

25:道化所属

ボロクソ言ってっけどお前らこれを見て同じ事言えるか?

【画像】

 

 

26:名無しの冒険者

何コレ?

 

 

27:名無しの冒険者

壁尻か?

 

 

28:名無しの冒険者

汚ねえケツだぜ

 

 

29:道化所属

いやこれアルフィアにお触りしようとしたゼウス

 

 

30:名無しの冒険者

 

 

31:名無しの冒険者

 

 

32:名無しの冒険者

回収しろー!?

 

 

33:名無しの冒険者

何してんのゼウス!?

YESロリータNOタッチだろ!

 

 

34:名無しの冒険者

違う、そうじゃない

 

 

35:道化所属

あっ、アルフィアがヘラにチクった

 

 

36:名無しの冒険者

【悲報】ゼウス終了のお知らせ

 

 

37:名無しの冒険者

もうだめだぁ、おしまいだぁ…

 

 

38:道化所属

マキシムさん達にドナドナされたからよく分からなかったけど、ヘラが持ってた赤ワインと蝋燭と鞭は何に使うつもりなのだろう(震え)

 

 

39:名無しの冒険者

ゼウスゥゥ!!?

 

 

40:名無しの冒険者

やべぇよ、やべぇよ…

 

 

41:名無しの冒険者

何に使うって?ナニにだよ

 

 

42:名無しの冒険者

この後ゼウスを見たものは居なかった……

 

 

43:道化所属

あとそれとは別に

【画像】

 

 

44:名無しの冒険者

今度はなんだ……えっ死んでる?

 

 

45:名無しの冒険者

多分、地面にごめん寝してるだけ

 

 

46:名無しの冒険者

顔面にケチャップぶち撒けただけ

 

 

47:名無しの冒険者

んだよ、紛らわしい

 

 

48:道化所属

なんかフレイヤの所の猪人(ボアズ)らしい

女神馬鹿にされて襲い掛かってきたのを返り討ちにしたらしい。むしろこれ見てスレタイ決めたくらいだし。

 

 

49:名無しの冒険者

えっ……

 

 

50:名無しの冒険者

い、イッチ?その人の名前は?

 

 

51:道化所属

確かオッタルだったか?

 

 

52:名無しの冒険者

 

 

53:名無しの冒険者

 

 

54:名無しの冒険者

猛者ァーー!?

 

 

55:名無しの冒険者

未来の最強候補が見る影もなく……!

 

 

56:名無しの冒険者

これが終末(ラグナロク)だというのか……!?

 

 

57:道化所属

どうや?生き残れるか不安になってきたやろ?

 

 

58:名無しの冒険者

悪かったイッチ

 

 

59:名無しの冒険者

ワイらが間違ってたわ

 

 

60:名無しの冒険者

ここで漸くスレタイ回収か

 

 

61:名無しの冒険者

半分ほど自業自得な気がするが……

 

 

62:名無しの冒険者

具体的に特訓って何やんのイッチ?

 

 

63:道化所属

模擬戦が殆どや。なんならアルフィアがマキシムさんに挑んでる

 

 

64:名無しの冒険者

流石アルフィア

 

 

65:名無しの冒険者

よしイッチ、安価だ

 

 

66:名無しの冒険者

それだ

 

 

67:名無しの冒険者

待ってました

 

 

68:道化所属

あっ、ちょっと待って

今丁度模擬戦誘われたから一戦やってくるわ

 

 

69:名無しの冒険者

待てイッチ、ライブ機能にしいや

 

 

70:道化所属

すまん。もう終わった

 

 

71:名無しの冒険者

速すぎィ!

 

 

72:名無しの冒険者

瞬殺かよ

 

 

73:名無しの冒険者

一レスの間に終わらせるとは……

 

 

74:名無しの冒険者

成長したなイッチ!

 

 

75:名無しの冒険者

誰と戦ったん?

 

 

76:道化所属

なんかめっちゃ愉快な人。ゼウファミ所属。

「ふははは!君が最速記録の少年か!この俺と戦う資格を与えよう!」とか言ってきてイラッとしたから木刀一つで瞬殺した

 

 

77:名無しの冒険者

これはウザい

 

 

78:名無しの冒険者

ゼウスの中にも天狗の奴はいるんだなぁ

 

 

79:道化所属

「知ってるか?剣ってのは片手で振るより両手で振った方が強ェらしいぜ」って人生で一度は言ってみたかったセリフを言えた(満足)

 

 

80:名無しの冒険者

要するにごり押しww

 

 

81:名無しの冒険者

お前いつも二刀流だけどな

 

 

82:道化所属

なんかこの人サポーターっぽい

いっつも自信満々だけどめっちゃ弱い事に定評があったらしい

 

 

83:名無しの冒険者

はー、なる……ん?

 

 

84:名無しの冒険者

サポーター?

 

 

85:名無しの冒険者

ゼウスの所のサポーター?

 

 

86:道化所属

どした?

 

 

87:名無しの冒険者

い、イッチ?そのサポーターの特徴は?

 

 

88:道化所属

え?身長はそこまで高くなくて、童顔で黒髪で目が結構赤い。どうしたん?

 

 

89:名無しの冒険者

 

 

90:名無しの冒険者

 

 

91:名無しの冒険者

 

 

92:名無しの冒険者

この世には言わぬが吉という言葉がある。

 

そうだろう諸君

 

 

93:名無しの冒険者

ああ

 

 

94:名無しの冒険者

全くもって同意である

 

 

95:名無しの冒険者

ガチ勢は全員口を噤め

 

 

96:道化所属

この人ってもしかしてなんか重要な人?

 

 

97:名無しの冒険者

勘のいいガキは嫌いだよ

 

 

98:名無しの冒険者

気付かない方が身のためだ

 

 

99:名無しの冒険者

イッチ、それより安価だ

分かるな?詮索するな

死ぬぞ

 

 

100:道化所属

あっ、はい……

 

 

 

 

 ★★★★★

 

 

「結局何だったんだこの人……」

「また負けたのかコイツ、俺が運んどくから模擬戦に戻っていいぞ」

「いいんですか?」

「ポーションかけとけば治るし構わん」

 

 

 ザルドに愉快なサポーターを任せ、アルフィアとマキシムの模擬戦に首を向ける。すると突如襲い掛かる爆発音に逃げれるようにノーグは両手で防御の姿勢を取り、突風が吹き荒れた。

 

 

「っっ!?」

 

 

 まるで連鎖するかのような大衝撃に地面が抉れ、砂煙が立ち上る。そして晴れていく景色の先には二人の姿。アルフィアは息切れをしているのに対し、マキシムは服が所々裂かれたような傷を残していた。

  

 

「ハァ…ハァ……」

「おっそろしい女だなお前。まだLv.4成り立てだろ」

「チッ、まだ遠いか」

「いや大分近い。相変わらず馬鹿げた才能だ」

 

 

 あの大爆撃の中、あの程度の傷で済んだマキシムを見て絶句する。アルフィアは本来後衛職であるにも関わらず剣を巧みに使いながら、近距離に近づかせても対応出来る。それだけあの超短文魔法は桁が違うのだ。使い続ければ四散する魔力を更に巻き込み、音の大衝撃を引き起こす。

 

 

「マキシムさんどうして躱せるんだ?」

「団長は【魔防】持ち、しかも魔力を色で見分けられる。だからアルフィアの魔力が漂わない場所に回避したんだよ」

「写○眼かよ……」

 

 

 一人の団員の説明に目を剥く。

 空気中に漂うアルフィアの魔力を気にしながら戦えるだけの実力と広い視野を持っている。『英傑』と呼ばれた存在は伊達ではない。次元が違い過ぎる。そんな相手に追い縋るアルフィアを見て負けてられない気持ちが湧いてきた。

 

 

「俺の次の相手は誰?」

「なら俺が––––」

 

 

 どちらにせよ格上。

 サポーターは例外として恐らく誰がやっても同じ結末になるだけだ。そういう意味では誰でもいい。説明してくれたLv.4の男が手をあげようとしたその時だった。

 

 

 

「––––いいえ」

 

 

 

 人が一斉に退いた。

 まるで女王の道を開けるかのように、そしてそれとは裏腹に穏やかな顔で一人の男に近づいていく。現ファミリア最強の存在が動いた事に誰もが息を呑み、そして告げた。

 

 

 

「貴方の相手は––––私よ」

 

 

 

 覆せない女帝の命令に耳を疑った。 

 そして既に戦うべき存在が誰なのか決まっていた。竜と蟻ほどの差があるにも関わらず、女帝自らが指名した一人の少年に誰もが目を向け––––

 

 

 

「……………遺書を書いてくるべきだったかなぁ」

 

 

 

 少年は天を仰ぎ、現実逃避していた。

 

 

 






ノーグ(イッチ) Lv.2
「……いや……なんで?」
  
アルフィア Lv.4
「あの女、何考えてる?」

マキシム Lv.6
「小僧死ぬんじゃね?」

ザルド Lv.4
「笑ってやがる……」

女帝 Lv.7
「うふふ」

赤目のサポーター Lv.2
「」

未来の最強 Lv.3
「」

スレ民 Lv.0
「やせいのじょていがあらわれた!イッチ、きみにきめた!」

 逃げる
 戦う  ←

赤目のサポーターの喋り方は『始まりの道化』を参考。


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五スレ目


 すまん。頑張ったけど明日は無理かも……
 感想くれた方々本当にありがとうごさいます。日刊一位。総合評価10000越えてめっちゃ嬉しいです。



 

120:道化所属

やせいのじょていがあらわれたのだけどどうすればいい?

 

 

121:名無しの冒険者

戦え

 

 

122:名無しの冒険者

当たって砕けろ

 

 

123:名無しの冒険者

いい奴だったよイッチ

 

 

124:名無しの冒険者

お前の事は一週間くらい忘れないぜ

 

 

125:道化所属

諦めんなよ!諦めたらそこで試合終了だろうが!

 

 

126:名無しの冒険者

いや試合にすらならないだろ

 

 

127:名無しの冒険者

レベル差考えてもさ

 

 

128:名無しの冒険者

現実見ようぜイッチ

 

 

129:名無しの冒険者

現実見ないスレ民が言う言葉じゃねえ

 

 

130:名無しの冒険者

>>129○ァック

 

 

131:名無しの冒険者

>>129今貴様は言ってはならない事を言った

 

 

132:名無しの冒険者

見ないんじゃねえ、敢えて見てないだけだ!

 

 

133:道化所属

現実見ろよ。やせいの団長めっちゃニコニコしてるぞ

【画像】

 

 

134:名無しの冒険者

ヒェッ

 

 

135:名無しの冒険者

笑ってやがる……

 

 

136:名無しの冒険者

画面越しなのに伝わるこの恐怖

 

 

137:名無しの冒険者

これが女帝…!

 

 

138:道化所属

現実逃避したいけど、アッチが指名してきた

ワイはホストでもなんでもないんやが……

 

 

139:名無しの冒険者

もしそうなら有罪過ぎる、イッチが

 

 

140:名無しの冒険者

おねショタの概念はダンまちでもあるしな

 

 

141:道化所属

えっ、これワイのせいなの!?

 

 

142:名無しの冒険者

女帝の目に止まったイッチが悪い

 

 

143:名無しの冒険者

理不尽過ぎる

 

 

144:名無しの冒険者

なんて無理ゲー

 

 

145:名無しの冒険者

何ン億歳と十四歳って構図はあったしな

 

 

146:名無しの冒険者

つまりそういう事や

 

 

147:道化所属

それって神と人の恋の話じゃ

 

 

148:名無しの冒険者

細けえ事は気にすんな、ハゲるぞ

 

 

149:名無しの冒険者

さてイッチ、女帝と戦うわけだが

 

 

150:名無しの冒険者

ワイらに何かいう事は?

 

 

151:道化所属

助けてくださいお願いします(土下座)

https://www.○○☆☆■■.com/☆○♪*=―――

 

 

152:名無しの冒険者

待ってた♡

 

 

153:名無しの冒険者

キター!♪─O(≧∇≦)O──♪

 

 

154:名無しの冒険者

むしろこれを待ってたまである

 

 

155:名無しの冒険者

スレ民達よ、スレの貯蔵は充分か?

 

 

156:名無しの冒険者

今宵、伝説が生まれる

 

 

157:名無しの冒険者

イッチという男の名が世界に轟く日となる

 

 

158:名無しの冒険者

まあ必敗は確定だけど

 

 

159:名無しの冒険者

それな

 

 

160:道化所属

持ち上げといて下げるのやめて!?

 

 

 ★★★★★

 

 

 女帝は一人の少年に興味を持った。

 いつか訪れる最強の存在との決戦、神々ですら手に負えず、下界の可能性に託すほどのこの世界の負の遺産、いずれそれを精算しなければいけない中、未だに倒せる確証がない。

 

 強ければ勝てる存在ではない。

 破壊力に身を任せての討伐が叶うほどの存在ではない。

 

 いずれゼウスの眷属が大地の王を殺すならば、ヘラの眷属達が殺すのは海の王。

 

 ただ、海の王を殺す方法が未だ思い浮かばない。

 今の下界に王を殺すだけの存在が現れていない訳ではない。だが、地を踏み締め生きる人間が海の中で勝てるはずもない。故に地へと引き摺り出す方法が無ければならない。

 

 恐らくそう遠くない未来、女帝達は挑む事になる。

 生態系の崩壊、踏み締めた大地の汚染、天の王を抜きにしてもいずれ殺さなければならない存在は世界を壊していく。多く見積もっても五年後が限界だろう。

 

 猛毒を撒き散らし、踏み締めた大地を殺すベヒーモス。

 

 海を総べ、海の生命を喰らい尽くすリヴァイアサン。

 

 

 海の王を殺す切り札がいる。

 策はあれど決定打にならない。

 怪物を殺す切り札はアルフィアや女帝だけでは足りない可能性がある。

 

 そう悩んでる中で––––女帝は見た。

 

 僅かに見た藍色の焔にその可能性を見出していた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 女帝自らノーグを指名する。

 都市最強の冒険者である【ヘラ・ファミリア】団長が自ら動く事態に誰もが息を呑む。Lv.2とLv.7の差は蟻と竜程に実力がかけ離れている。木刀を二つ構えているノーグに対して女帝は右手に木刀を握っている。

 

 

「(今まで見てきた誰よりも––––次元が違う)」

 

 

 身体が戦闘を拒否している。

 女帝が本気を出せばあらゆる手段も小細工も一瞬にして無に帰す。勝てる可能性があったフリュネに挑む度胸はあったが、目の前で笑う女帝に対しては既に敗北を悟っていた。

 

 

「どこからでもいいわ––––構えなさい」

「っっ…!」

 

 

 ノーグは息を吐く。

 足の震えを止め、押し潰されそうな恐怖心を生存本能に変え、女帝を前に構えた。

 

 

「(集中しろ…!生半可な攻めじゃ殺される!)」

 

 

 女帝は手加減するつもりだろうが、やっている事は蟻を潰さないまま摘むのと同じ。潰されないようにする為には、いつも以上に集中しなければならない。

 

 

「先ずは疾走。からの様子見」

 

 

 疾走しノーグは魔力を消費し、スキルを発動。

 加速上限の無視。勝てるとは思っていないが、僅かでも隙を作れる状況を見出すため、女帝の周りを疾走する。

 

 そして––––瞬きしたその瞬間だった。

 

 

「(–––っ!?消え)」

 

 

161:名無しの冒険者

イッチ前!

 

 姿を消した女帝は目の前に立っていた。

 全筋力を用いて後退、様子見すら出来ずに、隙どころか此方の虚を突かれたノーグは一度距離を取る––––つもりだった。

 

162:名無しの冒険者

うしろのしょうめんだーれ?

 

 警戒の『天啓』に目を見開き、首を振るより早く、体勢を崩しながら背後を取る女帝に剣を振るう。剣先に響く衝撃、当たった感覚を確かに感じた。そして目を疑った。

 

 

「凄いわね、まるで何処に現れるか分かっていたみたい」

「指……!?」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 能力値が違い過ぎる。隔絶とした差が目の前で体現されている。未来が僅かに分かっている『天啓』でさえ、分かったところでどうする事も出来ない実力差がそこにはあった。

 

 だが、周囲の反応は本人と真逆。

 唖然、驚愕、寒気がするほどの異質さを感じていた。

 

 

「ザルド、お前見えたか?」

「見えねえよ。そこから一撃を出せもしない」

「アルフィアはどうだ?」

「見えはした。だがLv.2では見えなかった。未来視のスキルでもなければあの動きは不可能だ」

 

 

 アルフィアの推測は少なからず当たってはいる。

 だが未来視ではなく啓示である場合、何処にいるのか分かっても細かい動きに対応が出来ない。右から来ると分かっていても薙ぎ払うようなのか、右から蹴りを入れるのか、右から何処を狙って攻撃するかまでは知る由もない。

 

 ノーグは断片的な情報からどう動くのが最善なのか判断しながら動いているが、『天啓』が頼りになるのは作戦や護りのみ。攻撃をどうするべきなのかは自分で選ばなければならない。反射的な攻撃ならまだしも、攻めてる途中に攻撃方法の『天啓』が来ても対応出来ないからだ。

 

 

「目が異常にいいのか、未知のスキルなのか、面白いわ」

「っ、ハァ…ハァ……」

「けど、私が見たいのは別」

 

 

 既に満身創痍。

 息を切らしているノーグに対し、傷一つ負わずに全ての攻撃を指先一つで止めている女帝。どちらが優位か、どちらが強いかなど勝負の前に一目瞭然。

 

 覆す手段があるとすれば一つしかない。

 

 

「使いなさい––––貴方の魔法を」

「いや……無理、剣が先に壊れる」

「マキシム」

「えっ、マジ?」

「メナ」

「私の?……貸し一つだよ」

 

 

 マキシムとメナというヘラの団員からノーグの目の前に剣を投げられた。マキシムの剣は長く、重くて稲妻が走ったかのような煌びやかな刀身。メナの剣は真っ直ぐで輝きを損なわないような綺麗な刀身が地面に突き刺さる。

 

 使え、という意味なのだろう。 

 ノーグは二振りの至上の剣を抜いた。

 

 

「求める事はただ一つ––––私を満足させなさい」

 

 

 女帝を満足させられるだけの切り札。

 負ける事は分かっていても僅かでも通じるモノがあるとすれば確かにあの魔法しかない。

 

 

「––––八秒。それ以上は無理だ」

 

 

 最強の女帝に宣告した八秒。

 その間でしか出せないノーグの全力。あの魔法は強力さとは裏腹にリスクが存在する。故にリヴェリアが全力の解放を禁じていた。

 

 フリュネの時ですら、ノーグは全力を出し切る事を躊躇っていた。

 

 

「八秒で満足させられると?」

「確約は出来ない」

 

 

 ノーグはLv.2だ。

 レベルが五つも違う女帝を満足させられるだけの実力はない。元々何を期待しているのかと団員達ですら女帝に疑いを持っていたくらいだ。

 

 

「けど、全力を出す事は約束する」

 

 

 負ける事は確実。

 どう考えても覆らない。

 だが、それでもその八秒に僅かな勝機を感じているのならば全力を以て最強に挑む。弱肉強食のこの時代で生き残るには強くならなければ死ぬだけだ。

 

 

「いいわ––––見せて頂戴」

 

 

 女帝もまた期待を込め、ノーグを見定める。

 二振りの至上の剣を構え、小さな英雄の雛は歌を紡ぎ始めた。

 

 

 ★★★★★

 

 

163:名無しの冒険者

えっ、イッチ?

 

 

164:名無しの冒険者

主人公感醸し出してるけど無理だろ

 

 

165:名無しの冒険者

厨二病丸出しやんけ

 

 

166:名無しの冒険者

八秒、それ以上は無理だ(キリッ

 

 

167:名無しの冒険者

むしろ戦えてる感出してただけ奇跡だろ

 

 

168:名無しの冒険者

マジそれな

 

 

169:道化所属

諸君、考えた事あるかい?

藍色の焔は一体何を燃焼しているか?

 

 

170:名無しの冒険者

はっ?

 

 

171:名無しの冒険者

何って、炎なら酸素じゃね?

 

 

172:名無しの冒険者

凍る炎ってだけだろう?

 

 

173:名無しの冒険者

二段階目は別に冷気の強化だし

 

 

174:名無しの冒険者

そーゆーエフェクトじゃねえの?

 

 

175:道化所属

では問おう。

君達はいつから、藍色の焔が冷気の強化エフェクトだと錯覚していた?

 

 

176:名無しの冒険者

なん……だと……?

 

 

177:名無しの冒険者

違うのか?

 

 

178:名無しの冒険者

イッチのオサレポイントが僅かに上がった

 

 

179:名無しの冒険者

つかイッチ

お前ただそれが言いたかっただけだろ

 

 

180:道化所属

勘のいいガキは嫌いだよ

 

 




 後半に続く

 ★★★★★
良かったら、感想評価お願いします。モチベが上がります。


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六スレ目


 カキフライ定食食いながら感想見たら吹き出した。
 ※11:32 矛盾を修正しました。


 

 

「【凍てつく残響よ渦を巻け––––燻りし焔をその手に慄け】」

 

 

 一段階目では話にならない。

 最強の女帝に僅かでも勝てる可能性があるとするならば当然二段階目。そしてそれは何より一歩間違えば自滅する諸刃の剣でもある。

 

 

「【氷界の果てに疾く失せよ】」

 

 

 顕現された藍色の焔。

 幻想的でありながら最も冷酷な炎がノーグを覆い尽くす。

 

 

「【アプソール・コフィン】」

 

 

 強く燃え上がる藍色の焔が剥き出しとなる。

 負ける事は分かっていても僅かでも通じるモノがあるとすれば確かにこの魔法しかないとノーグは悟っていた。

 

 

「マキシムさん。悪いけど団員達を退かせてくれ」

「必要あるのか?」

「冒険者としての人生を終わらせたくないなら」   

 

 

 ピシリ、と空気が凍り付く。

 そして嘲笑、たかがLv.2に何が出来ると嘲る声が聞こえた。だがノーグは態度も眼差しも変えない。マキシムはため息を吐きながら動かす事が不可能だと判断した。

 

 

「悪いな小僧、動かすのは無理そうだ」

「どうなっても知らないですよ……」

 

 

 ノーグは諦め、女帝を前に剣を構える。

 

 

「俺の魔法の二段階は冷気の強化じゃない」

 

 

 藍色の炎色反応は基本的にはインジウムを燃やす事で出現する。だが、ノーグは魔法に対して科学的な理論は働かない事を理解していた。炎を纏っているのにその人間が燃えなかったり、自分から発する音で何故自分の耳が破裂しないのか、どういう原理が働けばそうなるのか。ファンタジー脳ならそういうものだと理解出来たかもしれないが、ノーグはその世界に適応し切れなかった。

 

 そして調べた。

 魔法とは何なのか、自分が使える魔法とは何なのか。少なからず焔の外見をしているが、燃えているのは酸素ではなかった。

 

 そして調べて一週間、そこで漸く答えを得た。

 

 

「第二段階の効果は()()()()()()()()()()()

 

 

 正確には指定された温度になるまで熱を()やし続ける。存在から熱のみが奪われた場合、その存在の温度が下がっていく。そしてこの魔法は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが例えマイナスであったとしてもだ。

 

 出力量によって温度を調整する。

 それが一番難しい上に、一歩間違えば死にかねない綱渡りをノーグは慎重に行っていく。

 

 

「女帝、貴女は強いよ。技術も能力も隔絶し過ぎてる。けど、人としてどれほどの寒さで生きていける?」

 

 

 藍色の焔が猛っている。

 熱を燃焼し、熱を奪う藍色の焔が大気の熱を()やしていく。出力が徐々に上がっていくと同時に熱が消え、氷点以下となっていく空間。そしてノーグを中心にそれが広がっていく。

 

 

「−42度、水を多く含む物にフリーズドライ現象」

 

 

 一人の団員が持っていた水筒の中身が一瞬にして凍り付く。それを見た団員達は嘲笑していた笑みを凍り付かせ、即座に二人の間合いから離れていく。そしてノーグが強く足を踏み下ろす。

 

 

「−61度、一定範囲の地面の水分が氷結し、俺を中心に氷震を起こす」

 

 

 バキバキッ!!と音を立てて地面が割れ、訓練所が揺れた。ノーグの焔に触れ続ける限り熱は燃焼し、温度は下がり続ける。最も熱を奪い難いであろう地中の土でさえ、急速に凍り付いてしまう。

 

 

「−80度、眼球は凍結し、呼吸をすれば肺が凍る」

 

 

 冷やされた空気は人類が生きられる限界地点を超える。眼球は凍り付き、呼吸すれば肺胞を砕き壊死させる程に大気は冷やされていく。気が付けば既に他の団員は二人からかなり離れていた。

 

 

「−108度、今の俺の出力限界」

 

 

 そして焔の勢いは弱まっていく。

 穏やかでまるで蝋燭の火のように一定となる。そしてそれは、大気中の空気が一時的にでも−108度の寒さになったという事。熱を奪われた大気が広がり、訓練所全域が更に凍り付き始める。 

 

 

「いくぞ––––女帝」

「ええ、殺す気で来なさい」

 

 

 指定した八秒の時間。

 ノーグは剣を振るった。剣圧に乗せられた極寒の風が女帝の左を通り過ぎた。その剣線が通った行先は凍り付く。まるで九魔姫の劣化版【ウィン・フィンブルヴェトル】。それがノーグの一振りで引き起こされる。

 

 

「嘘だろおい…!?」

「普通の魔法の出力ではないな。希少魔法(レアマジック)か」

 

 

 藍色の焔は触れた物の熱を奪う。

 大気だろうと地面だろうと人間だろうと凍て付かせる。副次的結果で冷やされた空気を飛ばすだけで人を殺せるだけの大寒波を生み出せる。

 

 

「ふっ–––!」

 

 

 二閃。

 女帝が避ける方向を潰すように冷やされた空気を乗せた剣線が左右に通り過ぎる。凍り付き生まれた氷壁で右にも左にも逃げられない。後ろに回避しても冷まされた空気に乗せた大寒波を直接食らう事になる。

 

 

「……!逃げ場を––––」

「もらった!」

 

 

 これが最後の勝機。

 残り三秒、ノーグは駆け出す。真正面から馬鹿正直に突っ込んだところで躱されるのが目に見えている。だが女帝が持つ武器は木刀、熱を燃やす焔が当たれば木刀は脆くなり防御出来ない。

 

 迎撃してきても焔に身を包んでいるノーグに木刀が当たっても、焔に触れれば木刀は脆く砕けやすくなり大したダメージを負わない。故にシンプルな特攻。逃げ場を封じた相手に突貫するだけ。

 

 

「おおおおおおおっ!!!!」

 

 

 ノーグは女帝に剣を振るった。

 逃げ場はない。焔からは逃れられないその状況の中、女帝は僅かに笑った。そして次の瞬間だった。

 

 

「(えっ–––––?)」

 

 

 ()()()()()

 剣まで包み込んでいた藍色の焔は一瞬にして視界から消えていた。

 

 

「(嘘、だろ––––)」

「期待以上よ、ノーグ」

 

 

 女帝は右手を薙ぐように振っていた。

 規格外なのは知っていた。勝てないのは知っていた。だけど、それでもこれはあり得ないと否定したかった。

 

 藍色の焔を()()()()()()()()()()()()()()()()()()。差が離れていても通じる筈の切り札は女帝の前に呆気なく散っていた。

 

 

「がっ……!?」

 

 

 額が弾かれた。

 女帝が指を組み、放たれたのはただのデコピン。しかし蟻と竜の差ほどある女帝の攻撃はノーグを弾き飛ばすには十分過ぎた。十数メトラ地面をバウンドしながらノーグは弾き飛ばされ、地面に意識を沈めていた。

 

 

 ★★★★★

 

 

181:名無しの冒険者

知ってた

 

 

182:名無しの冒険者

見事なまでのフラグ回収乙

 

 

183:名無しの冒険者

女帝には勝てなかったよ……

 

 

184:名無しの冒険者

お前の事は忘れないぜ……

 

 

185:道化所属

殺 す…な

 

 

186:名無しの冒険者

えっ、マジ?

 

 

187:名無しの冒険者

生きとったんかワレェ!?

 

 

188:名無しの冒険者

いや文脈から大分キツいだろ

 

 

189:名無しの冒険者

袖白雪の真似事して楽しかったかいイッチ?

 

 

190:名無しの冒険者

やってる事は似ているようで違うがな

 

 

191:名無しの冒険者

氷点以下に下げるのは似てるけど

 

 

192:名無しの冒険者

つーかイッチ、何故生きてるし?

 

 

193:名無しの冒険者

確かに。氷点以下なら死ぬんじゃね普通

 

 

194:名無しの冒険者

ルキアも一時的に死んでるし

 

 

195:道化所属

魔法には安全装置みたいな概念が含まれてる

炎の付与してるのにどうして自分は燃えないのかとか考えた事ない?魔法展開中は自分は魔法効果の影響は受けないのが基本らしい

 

 

196:名無しの冒険者

あー、確かに。ベル君も手から炎出してるのに手のひら焼けないしな

 

 

197:名無しの冒険者

安全装置がないのが呪詛だしな

 

 

198:名無しの冒険者

じゃあなんで八秒?

 

 

199:道化所属

展開中は安全装置があるけど、展開解除すれば自分にもダメージが行く。−108度まで下げてから解除するとワイも食らって死ぬわ、解除に時間かけるのと単純に最大出力は魔力が大量に消費されるし八秒から解除まで時間かけなきゃならんし。フリュネの時は−20度ぐらいまでしか下げなかったから解除しても死なんかったし

 

 

200:名無しの冒険者

イッチ割と考えてんだね、割と

 

 

201:名無しの冒険者

でもそれ酸素で燃えないなら女帝の薙ぎ払う風で吹き飛ぶの?熱を燃やすんだから厳密に言えば炎の動きをしないから吹き飛ばせないと思うけど、どうして吹き飛ばせたの?

 

 

202:道化所属

んなもん決まっとるやろ

彼女が女帝やからや

 

 

203:名無しの冒険者

説得力があり過ぎる

 

 

204:名無しの冒険者

説明になってないのに一番納得できる

 

 

205:名無しの冒険者

流石女帝。てかイッチいつの間か文脈戻ったけど回復したん?

 

 

206:道化所属

ザルドからポーション貰ったわ

アルフィアに渡されたポーションは凍っとった

 

 

207:名無しの冒険者

おいww

 

 

208:名無しの冒険者

自業自得過ぎる

 

 

209:名無しの冒険者

イッチのせいじゃねえかぁ!

 

 

210:道化所属

あっ、あとワイ氏。女帝とマキシムさんから【ヘラ・ファミリア】か【ゼウス・ファミリア】に入らないかって勧誘受けたんやけど

 

 

211:名無しの冒険者

変態とヤンデレは辞めとけ

 

 

212:名無しの冒険者

安価達成には近づくけど……

 

 

213:名無しの冒険者

分かるよな諸君

 

 

214:名無しの冒険者

皆まで言うな

 

 

215:名無しの冒険者

安価達成の最高のシチュは決まってる

 

 

216:名無しの冒険者

よって却下だイッチ

 

 

217:道化所属

断ったけど、シチュって何?

 

 

218:名無しの冒険者

聞くなイッチ

 

 

219:名無しの冒険者

ワイらはその物語が始まる時の為にイッチ育成してる

 

 

220:名無しの冒険者

その為ならある程度は助けたるわ

 

 

221:道化所属

ええ、めっちゃ知りたいんやけど……ちょっと女帝とアルフィアと話してくるから抜けるわ

 

 

222:名無しの冒険者

おういってら

 

 

223:名無しの冒険者 

概ねスレタイは達成か

 

 

224:名無しの冒険者 

イッチ育成計画は分かっとるな?

 

 

225:名無しの冒険者

モチのロン

 

 

226:名無しの冒険者

それまでにどうするべきか分かっとるな?

 

 

227:名無しの冒険者

イエッサー!

 

 

228:名無しの冒険者

イッチが割と不憫だけどな

 

 

229:名無しの冒険者

あのシチュに突っ込むのは割と外道だろ

 

 

230:名無しの冒険者

お前ら、此処がどこだか分かってる?

 

 

231:名無しの冒険者

否定出来ないのがつらたん

 

 

232:名無しの冒険者

悔しい!でも、認めざるえない…!

 

 

233:名無しの冒険者

吹いたww

 

 

234:名無しの冒険者

スレ民って自分達が楽しめればそれでいいからな

 

 

235:名無しの冒険者

神かと思った?残念!邪神でした!

 

 

236:名無しの冒険者

此処にいる人みんな邪神説

 

 

237:名無しの冒険者

スレ民ってそういうもんだろ

 

 

238:名無しの冒険者

それな

 

 

239:名無しの冒険者

今日の締めくくりを誰か一言

 

 

240:名無しの冒険者

今日も、生き延びた!!

 

 

 

 ★★★★★

 

 

「……うぁー、痛っ」

「意識があるのか。呆れたタフさだな」

「額が割れた。アルフィア、ポーション持ってない?」

「私が渡す義理は……いやなんでもない。それで早く傷を治せ」

 

 

 血が結構出て止まらない。

 意識を失わなかっただけ驚愕だが、一発で瀕死状態だ。ノーグはアルフィアに渡された回復薬(ポーション)の瓶を開ける。だが、逆さにしたのに流れてこない。何これイジメ?と思いつつノーグは中身を覗く。

 

 

「ポーション凍って出ねえ」

「それはお前のせいだろ」

「ほらよ。遠くに離れてて良かったわ」

 

 

 ザルドに渡されたポーションで割れた額を癒していく。流した血でふらつくノーグにアルフィアは手を差し出す。一瞬ザルドは瞠目する。アルフィアから手を差し出すと思わなかった。ノーグは迷う事なく手を掴み立ち上がる。

 

 

「ありがとう。二回目だなこれ」

「……ただの気紛れだ」

 

 

 アルフィアは顔を逸らした。

 無意識だったのか視線をノーグに合わせない。似合わない自覚があったからか何故か気恥ずかくなっていたのか。

 

 

「俺の負けか……いや生き延びただけ上出来か」

「いいえ、私の負けよ」

 

 

 女帝の言葉に呆気に取られ、首を傾げた。

 

 

「指で弾く瞬間、僅かに焔が指に当たったらホラ」

 

 

 女帝の右指に()()()()()()()()()()()()()()

 それは僅かであったといえど女帝を傷付けるだけの力があの魔法にはあったという事。此処にいる全ての団員が絶句する。

 

 

「お前の【魔防】で防げないとはな」

「氷点以下になる焔は【魔防】があってもノーダメージとはいかなかったわね。焔を纏った斬撃を食らったら凍り付いて斬り殺される。それが例え私であってもね」

 

 

 アルフィアのような魔法無効化なら可能だろうが、魔防というのは恐らく魔法に対する耐性を得るだけ。効きにくくなるだけで、効かない訳ではない。熱を奪う焔は僅かに女帝から熱を奪い指の皮膚を割る程度にはなったようだ。

 

 

「防御無視か……最近の餓鬼はどうなってやがる」

 

 

 仮に防御した所で焔に当たれば細胞が凍り付き、下手をすれば割れる。それが結果的に防御無視を再現している。熱の燃焼なんて法則から大分外れている。()()()()()()()()()()()()()()()()()理解できない。

 

 

「素晴らしいわノーグ。【ヘラ・ファミリア】に欲しいくらい」

「おいおいそれは狡くないか?俺達も欲しいぜ」

 

 

 二大派閥による勧誘。

 生きる伝説達に認められ、二人の最強が直々に欲しいと告げた。贅沢過ぎる程の勧誘、だがそれ相応の実力を持っていた事から誰も反対意見は出さない。

 

 けれど、ノーグは首を横に振る。

 

 

「やめとく、俺を見つけたのはロキだ。あんなでも今の俺の母親だし」

「まっ、ゼウスよか確かにマシか」

「私は諦めないわよ」

「おい」

 

 

 これから下手したら引き抜きのために色々あると思うと頭が痛くなりそうだが、それに関してはノーグは考える事をやめた。

 

 

「(……にしても)」

 

 

 あの時、ノーグに見えた光景

 額に指が届くその瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()。それがあったから僅かに女帝が狙う位置に焔を出現させる事が出来たが、あの時見えた世界は『天啓』とはまた違う。

 

 

「(【天眼】の効果か?……動体視力の強化か、洞察力の強化なのかもしれないけど…トリガーが分からん)」

 

 

 危機的状況、生存本能の危機、過剰集中のどれかがトリガーだと推測出来るが、最後を除いて日頃から危機的状況になる訳ないから試す事は出来ないし、したくないというのが本音だ。

 

 ノーグの違和感はそれだけではない。

 転生したから変だとは思うのは認めるが、明らかに自分の異質さに目を疑う程に。

 

 

「(出力もそうだが……普通の魔法の基準値を超えてる)」

 

 

 比べる存在が少ないから分からなかったが、出力の桁が普通ではない。あり得ない法則が働く魔法、そして能力値の限界突破、そして()()()()()()()()()()()()()()()()。自分が転生したという記憶はあれど、それ以前が分からない。

 

 

「(俺は––––この世界から見てどんな存在なんだ?)」

 

 

 明らかに何かが違う。

 違う世界を知っているからという理由だけでは片付けられない違和感が今のノーグにあった。

 

 






スレ民が優しい存在だと思った?
イッチに「どうして……お前が」と言わせた後に安価達成させたいだけである。

★★★★★
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七スレ目



 すまん感想返せなくて、毎日投稿やるとどうしても追いつかない。感想くれているのに本当に済まない……!


 

 

1:道化所属

和食が食べたい

 

 

2:名無しの冒険者

お、おう……。

 

 

3:名無しの冒険者

転生者お決まりのよくあるやつですね

 

 

4:名無しの冒険者

味噌、醤油、米が欲しくなるよな

 

 

5:名無しの冒険者

悪いなイッチ、ワイ今寿司食っとるんだ

 

 

6:名無しの冒険者

ワイは味噌汁

 

 

7:名無しの冒険者

ワイは塩結び

 

 

8:名無しの冒険者

ワイは焼きおにぎりと焼酎

 

 

9:道化所属

お前ら……

 

 

ワイ、もうライブしない

 

 

10:名無しの冒険者

待て

 

 

11:名無しの冒険者

早まるなイッチ

 

 

12:名無しの冒険者

ワイらが悪かった

 

 

13:名無しの冒険者

許してヒヤシンス

 

 

14:道化所属

もうパン飽きた。サンドイッチとか、フレンチトーストとか色々工夫したけどもう限界。刺身食べたい

 

 

15:名無しの冒険者

転生者特有の日本食の反動か

 

 

16:名無しの冒険者

最早呪いだな

 

 

17:名無しの冒険者

でもオラリオにはデメテルさんが居るだろ?米は作ってないの?

 

 

18:道化所属

少量しか作ってないらしい。今【デメテル・ファミリア】が大体野菜とか色々作っているけど規模が小さい

 

 

19:名無しの冒険者

えっ?なんで?

 

 

20:道化所属

ヘラ、ゼウス達が居るとはいえその二大派閥がいても闇派閥が居るからな。危険を省みずオラリオで農業しようと思う奴は少ないんやわ

 

 

21:名無しの冒険者

あー、なるほど

 

 

22:名無しの冒険者

盲点だった

 

 

23:道化所属

だから【デメテル・ファミリア】本陣がオラリオに居ない。外で作って食材の大半は【ヘルメス・ファミリア】達に任せてオラリオに回してくれてる

 

 

24:名無しの冒険者

へー、ヘルメスやるやん

 

 

25:名無しの冒険者

見直したぜ

 

 

26:道化所属

いや、前にゼウスと一緒に女風呂覗こうとしてボコられてた

【画像】

 

 

27:名無しの冒険者

良かったワイらの知ってるヘルメスや

 

 

28:名無しの冒険者

二人は壁のシミになったのだ

 

 

29:道化所属

いや、あの時のヘラは怖かった……どうしてヘラがあんな美人なのにゼウスは変態なんだろ

 

 

30:名無しの冒険者

愛が重いからだろ

 

 

31:名無しの冒険者

ヤンデレだからだろ

 

 

32:名無しの冒険者

覗きは男のロマンだから!

 

 

33:名無しの冒険者

結果二人の壁尻が出来上がったけどな

 

 

34:名無しの冒険者

つーか、これどこで撮ったし

 

 

35:道化所属

訓練の後にみんなで大浴場に入ったわ

そこにヘルメスもいた。まあワイが訓練所凍らせてみんな寒がってたし

 

 

36:名無しの冒険者

仲良しかよ

 

 

37:名無しの冒険者

てかイッチ、見たのか?

 

 

38:道化所属

見るわけねえだろ、命が大事だわ

 

 

39:名無しの冒険者

んだよイッチ、度胸ねーな

 

 

40:名無しの冒険者

それでも男かよ!

 

 

41:名無しの冒険者

まさか……ホモなのか?

 

 

42:名無しの冒険者

ヒェッ

 

 

43:名無しの冒険者

ご、ごめんワイらにその気は

 

 

44:道化所属

よし分かった……

 

 

ワイ、もうスレ立てない

 

 

45:名無しの冒険者

待て

 

 

46:名無しの冒険者

早まるなイッチィィ!?

 

 

47:名無しの冒険者

さーせんしたm(_ _)m

 

 

48:名無しの冒険者

全面的にワイらが悪かった

 

 

49:名無しの冒険者

イッチにはアルフィアが居るしな

 

 

50:名無しの冒険者

話戻すけど、和食食いたいならヘルメスに聞けば?

 

 

51:名無しの冒険者

確かに、何処に卸してるかである程度は和食があるか絞れる

 

 

52:名無しの冒険者

そもそも極東に行けば解決するけど

 

 

53:道化所属

それは無理。まだ単独で外に出る事が許されてへん。マッマに止められた。

 

 

54:名無しの冒険者

あっ良かった戻ってきた

 

 

55:名無しの冒険者

よくよく考えたらイッチ九歳だもんな

 

 

56:名無しの冒険者

マッマが許すわけないか

 

 

57:道化所属

ヘルメスは都市外に行くらしい、裏路地の隠れ店みたいなの探す

 

 

58:名無しの冒険者

そんな所に見つかるわけねえだろ

 

 

59:名無しの冒険者

普通に表通り探せばあるんじゃね?

 

 

60:道化所属

一通り探したけど見つかんなかった

あと、あるとするなら歓楽街とかダイダロス通りとか裏路地の隠れた名店とか

 

 

61:名無しの冒険者

で、成果は?

 

 

62:道化所属

何の成果も得られませんでしたぁ!!

 

 

63:名無しの冒険者

だろうねww

 

 

64:名無しの冒険者

知ってたww

 

 

65:名無しの冒険者

イッチが米まで辿り着く日は遠い……

 

 

66:名無しの冒険者

歓楽街行けば?

 

 

67:名無しの冒険者

神には嘘がバレる、よって行けないと思う

 

 

68:道化所属

あっ

 

 

69:名無しの冒険者

ん?

 

 

70:名無しの冒険者

どしたイッチ?

 

 

71:名無しの冒険者

見つけたのか米を?

 

 

72:道化所属

【急募】赤目のサポーターとアルフィア激似の女の子が裏路地で男に囲まれてるけどどうしたらいい?

 

 

73:名無しの冒険者

 

 

74:名無しの冒険者

 

 

75:名無しの冒険者

はっ、意識飛んでたわ

 

 

76:名無しの冒険者

米探してる途中で人攫い見つけたイッチ氏

 

 

77:名無しの冒険者

イッチ悪運カンスト説

 

 

78:名無しの冒険者

待ってどういう状況?

 

 

79:道化所属

アルフィア激似の女の子が口縛られて拘束されてて、助けようとしてる赤目のサポーターがめっちゃボコボコにされてる

 

 

80:名無しの冒険者

今すぐ助けろ

 

 

81:名無しの冒険者

下手したら世界が終わる。そしてイッチ安価だ、決め台詞のな

 

 

82:道化所属

今!?…それ一歩間違えば死亡フラグじゃね?

 

 

83:名無しの冒険者

危険時はワイらが助けたるわ

 

 

84:名無しの冒険者

むしろウェルカム

 

 

85:名無しの冒険者

全裸待機して待ってるわ

 

 

86:道化所属

服は着ろよ……まあええか

>>96

 

 

87:名無しの冒険者

待ってましたイッチ

 

 

88:名無しの冒険者

イヤイヤながらやってくれるイッチスコ♡

 

 

89:名無しの冒険者

ここが貴様の墓場だ

 

 

90:名無しの冒険者

ぶっ殺してやる

 

 

91:名無しの冒険者

こっから先は一方通行だ

 

 

92:名無しの冒険者

お前は既に死んでいる

 

 

93:名無しの冒険者

喧嘩売る相手は選ぶべきだったな

 

 

94:名無しの冒険者

誰敵に回してるか分かってんのかオマエ

 

 

95:名無しの冒険者

氷界の果てに砕け散れ

 

 

96:名無しの冒険者

お前の敗因はただ一つ––––お前は俺を怒らせた

 

 

97:名無しの冒険者

思い上がったな雑種

 

 

98:名無しの冒険者

あっ

 

 

99:名無しの冒険者

格上相手だったら死亡フラグだろコレ

 

 

100:道化所属

なあ、このスレ基本的にワイが生きる為に立てとるのに殺しにきてない?

 

 

101:名無しの冒険者

気のせい気のせい

 

 

102:名無しの冒険者

それでは行ってみよー!

 

 

 ★★★★★

 

 

 俺は人生最大の危機に陥っている。

 アルフィアの妹が攫われた、今日は体調もよく教会まで散歩している所を攫われた所を俺は目撃した。アルフィアや仲間たちにその事を伝えようと別の場所に行けばきっと見失ってしまう。俺しかいない、取り返そうと短剣を構えた。

 

 これでもLv.2だ。

 俺ならそこらのチンピラから彼女を救える。そう思っていた。

 

 

「がっ……!?ごぉ!?」

「んだよ弱えな」

「ファミリア調べて金を巻き上げるか」

 

 

 多数に囲まれ俺は呆気なく地面に落ちた。

 俺ならどうにかなると思っていた。だけど、この集団の中にLv.2が混じっていたのは想定外過ぎた。

 

 

「お前ら…目的は、なんだ」

「決まってんだろ?コイツの姉をぶっ殺す為だ」

「なっ、アルフィアを…狙って!?」  

 

 

 狙いは間違ってはいない。

 アルフィアはあの子を愛している。だからこそ、その作戦は通用してしまう。アルフィアって結構シスコンだし。

 

 

「あの女の怖さは俺が一番知っている!あの忌まわしい音!あの時仲間が挽肉にされている中で仲間の臓物被ってやり過ごす俺の恐怖がわかるか!?あの女は殺す!絶対に殺す!不正の神アパテーの名の下になぁ!!」

「っ…、アルフィアを直接狙わない辺り小物だな…」

「っ、死にたいらしいな糞餓鬼」

 

 

 殺気を撒き散らしながら男が近づいていく。マズイ、頭がふらついて全然立てない。逃げる事に定評のある俺でさえこの囲まれた状況では逃げられない。

 

 

「俺の叫び声が…聞こえれば仲間がすぐ来るぞ」

「馬鹿が、よく見やがれ」

 

 

 男が持っていた酒瓶が落ちる。

 地面に叩きつけられた酒瓶は割れた––––筈なのに音が聞こえない。

 

 

「はっ?」

「俺の魔法【遮音の衣(シャット・ノイズ)】は音の全てを遮断する。あの忌まわしき女から逃げ切った恐怖から発現し、今では奴の妹を容易く攫えた。愉快だと思わねえか?」

「っ、助け––––」

「もう遅え、死ね」

 

 

 俺の持っていた短剣の刃が迫る。

 こんな呆気なく惨めに死ぬのか。死に対する恐怖を抱きながら俺は反射的に目を瞑り、自分の人生の最後を悟った。

 

 ––––冷たい風が頰を撫でるまでは。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 気が付けば腕を切り落とされていた。

 何が起きたか理解できない、ゴトリと音を立てるはずの自分の腕から音は聞こえない。

 

 

「は、はああああああああああっ!?」

「愉快だと思わないか?斬られた音は消えて、自分の声は遮断出来ねえなんて」

 

 

 藍色の焔を顕現させ腕を切り落とす子供がいた。

 切り落とされた腕から血は流れない。凍り付いて痛みさえ置き去りに漸くその事態に気付いた男は叫んだ。

 

 

「大丈夫か?」

「き、君はこの俺がボコボコにしたあの時の少年!?」

「過去を捏造するな」

 

 

 赤目のサポーターを横目にため息を吐く。

 これだけ元気なら問題ないだろと思いながらもノーグはポーションを渡し、剣を構える。

 

 

「ば、馬鹿な俺の仲間は––––!」

「後ろを見ろよ」

「はっ?なっ、なぁ……!?」

 

 

 後ろにいた仲間は全て凍てついていた。

 一太刀、傷が存在していたが声を上げる間も無く凍り付き、まるで今も生きているのではないかと錯覚する光景、だが、仲間は立ったまま絶命している。躊躇がない辺り更に恐怖が膨れ上がる。

 

 

「あ、藍色の髪…そして藍色の炎……テメェまさか……!」

 

 

 曰く、世界最速のレコードホルダーの称号を手にした子供

 曰く、世界最強の女帝に傷を付けた男

 曰く、二人の最強に認められ二振りの剣を授かった道化の子供

 

 その特徴は藍色の髪をし、藍色の瞳であり、稲妻が走ったような紋様が入った剣と美しい直刃をしながら高潔さすら思わせる綺麗な剣を持ち、そして藍色の焔が燻る小さな子供だと聞く。

 

 そして神々から授かった二つ名は––––

 

 

「––––【氷鬼】のノーグ!?」

 

 

 凍て付く世界に愛された鬼。

 触れたもの全てを凍り付かせ、才能に愛された鬼才の子に神々が名付けた新たな階位に足を踏み入れた者に対しての異名。

 

 

「クソがぁ!?世界最速がなんでこんな裏路地にいやがる!?」

「米と醤油と味噌探してたらまさか人攫いを見つけるとはな。そっちの方が確率低いだろ」

  

 

 来る、と構えた男に対してノーグはゆっくり歩み寄る。コツコツと聞こえる足音がまるで死神の足音のようで、恐怖が身体を凍てつかせてしまうのではないかと思わされるその迫力。たかがLv.2、同じ実力を持っている筈なのに。

 

 

「お前の敗因はただ一つ」

「テメッ––––俺を誰だと」

 

 

 気が付けば男の足が凍結していた。

 動かそうにも地面に氷結させられ剥がせない。目線を離してしまった男が再び視線を戻すが、目の前の子供は既に自分の背後にいた。

 

 

––––お前は俺を怒らせた

 

 

 僅かに感じた怒気とは裏腹に表情は冷たかった。

 急速に体温を奪う無慈悲な焔が体温を奪っていく。最後に見えた光景は自分の肩から咲いた自分の血が凍って出来た赤い華だった。

 

 

 ★★★★★

 

 

「ったく……もう少し考えてから行動しろ」

「悪かったって、あともうちょい揺らさないでくれると助かるぜ少年」

「捨てるぞ貴様」

「すいません」

 

 

 ノーグはサポーターを背中に背負い、アルフィアに似た女の子をお姫様抱っこし、気を失っている変な魔法を使っていた男を縄で縛ってその縄を腹に巻きつけ、歩き出していた。人を引き摺っているその光景はまさしく鬼そのもの。男の尻が傷だらけにはなっているだろうが我関せずにヘラの本拠地へ歩いていく。

 

 

「しっかしこの子がアルフィアの妹とはね」

「どっからか情報が漏れた可能性があるけど、【アパテー・ファミリア】は不正の神だ。アルフィアの弱味を握りたかったんだろうね」

「そういう話はフィンの方が詳しいけど……」

 

 

 【ヘラ・ファミリア】の本拠地、『神妃の王宮』に到着すると、前に剣を貸してくれた団員のメナの顔があった。ノーグが持っているアルフィアの妹を見て、颯爽と何処かに走っていく。そして十秒もしない内に姿を現した。

 

 

「メーテリア!!」

「あっ、アルフィア」

「ノーグ!?」

 

 

 いつも冷静なアルフィアにしては珍しく慌てた様子を見て、ノーグは意外そうな目で見た。アルフィアが此処まで取り乱すとは思わなかったのだろう。

 

 

「落ち着け、気を失ってるだけだ」

「良かった……お前が助けてくれたのか?」

()()()がな。このまま部屋まで運ぶわ」

「ああ……分かった」

 

 

 サポーターと犯人である男をメナに預けたノーグはアルフィアの妹であるメーテリアを部屋に運ぶ。若干、女の子の部屋に入るのは今世で初めてで少し良い匂いがした気がしたが、煩悩を見せればアルフィアに殺されることを悟り、無表情を貫きメーテリアをベッドに寝かせた。

 

 

「ちゃんとお姉ちゃんしてるんだな、お前」

「……この子が私を姉と思っているか分からないけどな」

「そんな事ないよ。妹の為に冷静さを欠ける奴はちゃんと想っている証拠だ。想いは届いてるだろ」

 

 

 そもそも、アルフィアの妹という情報は聞いた事なかった。【ヘラ・ファミリア】は才あるものが集い、都市最強に上り詰めた。そんなファミリアの中にこんなにもか細い存在。思いっきり掴めば折れてしまいそうな子がいるとはノーグも思わなかった。

 

 

「この子は、病気なんだ」

「!」

「私が才能を奪った。だから生まれ付き身体が弱くて、体調が良い時しか部屋を出られないんだ」

 

 

 聞けばメーテリアは病弱であり不治の病にかかっていた。ランクアップをすれば病気に耐え得る身体を手にしたかもしれないが、彼女は驚くほどに才能がなかった。モンスターを殺す才能も、戦うだけの体力さえ彼女には無く、ただ不治の病でいつ死ぬかも分からない毎日を生きる。姉である自分が才能を奪ったと悔やんでいるようだ。

 

 

「済まない…此処で言うべき話でも無かった」

「それでもこの子はお前の事をちゃんと姉だと想ってる筈だ」

「何を根拠に」

「この子を運んでる時に聞こえたんだ。–––––姉さんってな」

 

 

 目を見開き、驚いた様子のアルフィアの頭に手を乗せた。

 

 

「お前はいい姉してるよ」

 

 ––––お前の想いはちゃんと届いてる

 ノーグが頭を軽く撫でると、我に返ったような表情で手を払われた。その顔は動揺、困惑、そして拒まなかった自分自身に驚いているようだった。

 

 

「あっ、悪い。無遠慮だった」

「いや、すまん……ありがとう、妹を救ってくれて」

「気にすんな。俺も剣とか借りもあるからな」

 

  

 アルフィアにとってメーテリアは宝以上に大切な存在だ。それを失わないでよかったと心の底から思い、ノーグに感謝を告げていた。

 

 

「何か礼をしたい。望むものはあるか?」

「いや武器も貰った借りもあるし別に」

「私個人の礼だ。ファミリアは関係ない」

「つっても特には……あっ、ならさ–––––」

 

 

 ★★★★★

 

 

「〜〜〜♪」

「楽しそうだねノーグ」

「あの子のあんな顔見るのは初めてだ」

「よほど嬉しかったんじゃろ」

 

 

 調理場に立ち、鼻歌を奏でている。

 エプロンをつけて満面の笑みで調理するノーグを見て、フィン達もつられて笑っていた。

 

 その晩、【ロキ・ファミリア】の食卓には多くの和食が並んでいた。

 





今日の献立
・白米
・ワカメの味噌汁
・里芋の煮物
・だし巻き卵
・焼き鮭
・ほうれん草のお浸し
・グリーンサラダ

 お代わりなら焼きおにぎりで。
 お好みで出汁を加えて茶漬けでどうぞ。

 


 無論、全員お代わりした。



 ★★★★★
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八スレ目


 すまん。アレン達は正しい時間に帰ったのだ。


 

 

 

400:名無しの冒険者

イッチが現れん

 

 

401:名無しの冒険者

それな

 

 

402:名無しの冒険者

時間的に結構経ったはず

 

 

403:道化所属

済まん遅くなったわ

 

 

404:名無しの冒険者

来たー!

 

 

405:名無しの冒険者

イッチ遅いわ!

 

 

406:名無しの冒険者

貴方のことなんか待ってないんだからね!

 

 

407:道化所属

えっ、じゃあ帰っていい?

 

 

408:名無しの冒険者

というのは嘘だ

 

 

409:名無しの冒険者

ジョークに決まってるだろイッチぃ

 

 

410:名無しの冒険者

「僕のツンデレをなかった事にした」

 

 

411:名無しの冒険者

まあ冗談はさておき

 

 

412:名無しの冒険者

いつも定期報告早かったのに今回は大分遅かったなイッチ、何があったん?

 

 

413:名無しの冒険者

お兄さん達に話してみそ

 

 

414:道化所属

うーん、端的に言うと今25階層で休息取ってる

 

 

415:名無しの冒険者

端的スギィ!?

 

 

416:名無しの冒険者

もっとkwsk

 

 

417:道化所属

時間で言うと一年半でワイ10歳。フィン、リヴェリア、ガレスがLv.4、愉快な年寄り達がLv.3、そしてワイも漸くレベルが年寄り達に追いついたわ。団員も増え始めた訳やし、絶好調や

 

 

418:名無しの冒険者

えっ、レベル上がったの?発展アビリティは?

 

 

419:道化所属

【耐異常】しかなかったわ

 

 

420:名無しの冒険者

まあそこはええわ

 

 

421:名無しの冒険者

今回は許したる

 

 

422:道化所属

他にはオッタルがLv.4、ミア団長さんがLv.5。

アルフィアもLv.5に到達したわ。あとあのサポーターも最近の遠征でLv.3になったらしい。敏捷以外紙装甲やけど

 

 

423:名無しの冒険者

ほー、結構伸びたんやな色々

 

 

424:名無しの冒険者

待ってイッチの偉業はなんなん?

 

 

425:道化所属

女帝戦で偉業は溜まってたんや。あとはステイタス上げるだけやったし

 

 

426:名無しの冒険者

まあアレと戦えばな

 

 

427:名無しの冒険者

ランクアップするわな

 

 

428:名無しの冒険者

Lv.7に挑めばランクアップすることは既に証明されとるしな

 

 

429:道化所属

ステイタス上げる為に愉快な年寄り達とパーティ組んだり、あのサポーターとオッタルとで潜ったりして、漸くランクアップしたんや

 

 

430:名無しの冒険者

へー、なる……ん?

 

 

431:名無しの冒険者

お、オッタルさん?

 

 

432:道化所属

ん?ああオッタルとか偶にアルフィアとかと組んでる。まあアルフィアの場合は経験値殆ど持ってかれるけど

 

 

433:名無しの冒険者

【速報】イッチの人脈がチートな件

 

 

434:名無しの冒険者

寧ろオッタルとどうやってパーティ組んだのか知りたい

 

 

435:名無しの冒険者

えっ、マジでどうやって組んだの?

 

 

436:道化所属

ワイ世界最速やけど、中層に降りる許可の為にパーティ組まなきゃいけなかったし。そしたらオッタルを見つけた。アッチも一人だと荷物とか魔石の回収とか面倒だから色々メリットもあるし

 

 

437:名無しの冒険者

難易度高すぎる……イッチもしや陽キャ?

 

 

438:名無しの冒険者

はうっ……!

 

 

439:名無しの冒険者

ば、馬鹿な……この俺が!?

 

 

440:名無しの冒険者

陽キャに当てられて瀕死になるスレ民

 

 

441:道化所属

いや、サポーターが潤滑油になってくれた。ランクアップする前はオッタルがLv.3でワイらLv.2やったから「この俺に任せろ!」って言って連れてきてたし

 

 

442:名無しの冒険者

うおおおおおおおおおおおおおっ!!!

 

 

443:名無しの冒険者

フェニックスは何度でも蘇る!!

 

 

444:名無しの冒険者

大半勘違いの自滅だけどなww

 

 

445:名無しの冒険者

フェニックス(笑)

 

 

446:名無しの冒険者

ところでイッチ今のスペックは?

 

 

447:名無しの冒険者

最終ステイタスはよ

 

 

448:道化所属

ほい、コレが今のワイの最終ステイタスや

 

『ノーグ Lv.2

 力  S980

 耐久 B792

 器用 SS1013

 敏捷 SS1014

 魔力 SS1041

【天眼I】

『魔法』

【アプソール・コフィン】

・二段階階位付与魔法

・一段階『凍てつく残響よ渦を巻け』

・二段階『燻りし焔をその手に慄け、氷界の果てに疾く失せよ』

『スキル』

天啓質疑(スレッド・アンサーズ)

・■■■■■■■■■

・神威に対する拒絶権

追走駆動(ウェルザー・ハイウェイ)

任意発動(アクティブ・トリガー)

・疾走時、魔力を消費し『敏捷』の上昇

・発動時、加速限界の制限無視    

 

ノーグ Lv.3

 力  I0

 耐久 I0

 器用 I0

 敏捷 I0

 魔力 I0

【天眼G】

【耐異常I】

『魔法』

【アプソール・コフィン】

・二段階階位付与魔法

・一段階『凍てつく残響よ渦を巻け』

・二段階『燻りし焔をその手に慄け、氷界の果てに疾く失せよ』

『スキル』

天啓質疑(スレッド・アンサーズ)

・■■■■■■■■■

・神威に対する拒絶権

追走駆動(ウェルザー・ハイウェイ)

任意発動(アクティブ・トリガー)

・疾走時、精神力を消費し『敏捷』の上昇

・発動時、加速限界の制限無視

冷鬼覇豪(ヘル・フレーザー)

・発展アビリティ【耐冷】の獲得

・環境極寒時、ステイタスの高補正 』

 

 

449:名無しの冒険者

サラッとSの壁をぶち破ってるイッチ氏

 

 

450:名無しの冒険者

いやおかしくね?

 

 

451:名無しの冒険者

SSとかベルくんのようなバグがなければ普通無理だろ

 

 

452:名無しの冒険者

【速報】イッチがチート過ぎる件

 

 

453:道化所属

ワイも色々おかしいから調べたんやけど、何が原因なのかは分からんわ。あるとするなら転生を自覚する前の八歳になる前の記憶やけど、思い出せんわ

 

 

454:名無しの冒険者

えっ?

 

 

455:名無しの冒険者

待って聞いてない

 

 

456:名無しの冒険者

転生前の記憶は引き継がなかったんか?

 

 

457:道化所属

転生した時に精々分かったのは年齢と名前程度や。服は血が付いてたけど、傷があった訳やなかったし

 

 

458:名無しの冒険者

謎過ぎるイッチの過去

 

 

459:名無しの冒険者

コレは壮大なドラマが待っていると見た

 

 

460:道化所属

まあワイの過去についてはいいわ。いずれ分かると思うし話戻すで。今25階層に居る理由は討伐遠征やからや

 

 

461:名無しの冒険者

その階層の近くだと何が居たっけ

 

 

462:名無しの冒険者

アンフィスさんや

 

 

463:名無しの冒険者

戦闘描写はアニメ版はまだないんだよなぁ

 

 

464:名無しの冒険者

紅霧、蒼炎、二つの頭を持った竜

 

 

465:名無しの冒険者

魔法殺し+防御不可

 

 

466:名無しの冒険者

ポテンシャルLv.5の怪物やで

 

 

467:名無しの冒険者

ロキ・ファミリアによく討伐依頼入ったな。安全第一なのに

 

 

468:道化所属

ああ今回ワイらの他に【フレイヤ・ファミリア】が来とるで

 

 

469:名無しの冒険者

はっ?

 

 

470:名無しの冒険者

うせやろ

 

 

471:名無しの冒険者

仲違いしていたファミリアが手を組むだと?

 

 

472:名無しの冒険者

何をしたイッチ

 

 

473:道化所属

いや普通にオッタルに頼んで経験値欲しいなら合同遠征するか?って提案したら「……割と悪くない。提案は女神に持ち帰る」って事でトントン拍子に話進んだ

 

 

474:名無しの冒険者

意外すぎる

 

 

475:名無しの冒険者

フレコンのオッタルさんが協力するなんて

 

 

476:道化所属

元々アンフィスバエナの周期は決まってたんやけどゼウス達かヘラ達が基本やったからな。それを追いかけるファミリアとして名を馳せる意味でも経験値的にもアッチもおいしいし、フィンは勇者目指してるから名声求めて賛同してくれたんや

 

 

477:名無しの冒険者

あー、割とメリット多いな

 

 

478:名無しの冒険者

じゃあメンバーは?

 

 

479:道化所属

ミア団長を除いて、オッタルとその他はフレイヤの所の戦闘員Lv.3が三人いる。ミア団長だと経験値殆ど持ってかれかねないし。

 

 

480:名無しの冒険者

今の時代だとロキ・ファミリアがやや優勢?

 

 

481:名無しの冒険者

いやミア母さん居るから劣勢だよ

 

 

482:名無しの冒険者

あの人に勝てる人がまだロキ・ファミリアに居ない

 

 

483:名無しの冒険者

拳骨で沈められる

 

 

484:道化所属

済まん、もう戦闘やから抜けるで

https://www.○○☆☆■■.com/☆○♪*=―――

 

 

485:名無しの冒険者

来たでー!みんなー!

 

 

486:名無しの冒険者

拡散しろー!

 

 

487:名無しの冒険者

この時を待っていた!(バッ

 

 

488:名無しの冒険者

いやー寒い時期になってきましたね(バッ

 

 

489:名無しの冒険者

確かにもう寒いよなぁ(バッ

 

 

490:名無しの冒険者

全裸待機多すぎぃ!

 

 

491:名無しの冒険者

待ってた♡

 

 

492:名無しの冒険者

二大連合ファミリア対アンフィスバエナ!

 

 

493:名無しの冒険者

さあ、いざ尋常に!

 

 

494:名無しの冒険者

決闘(デュエル)!!

 

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 結論を言えば、圧巻だった。

 階層主として生まれてくる双頭の竜アンフィスバエナ。何もかも燃やし尽くす蒼炎に魔法殺しの『紅霧(ミスト)』。最強の矛と盾を持つ怪物に対して最も突き刺さる存在が一人存在する。それは……

 

 

「ふっ!!」

 

 

 藍色の焔を纏うノーグだった。

 アンフィスバエナの『紅霧(ミスト)』の中に突っ込めば魔法は減衰するが、消える訳ではない。発動する砲撃魔法と発動し続ける付与魔法では付与魔法の方が有効だ。『紅霧(ミスト)』の魔法減衰は一点突破するノーグには効果が薄い。霧を突破され、出力は元に戻される。

 

 ならば最強の矛である蒼炎はどうか。

 アンフィスバエナは最も危険な存在に灼熱の息吹(ブレス)を吐き出す。しかしノーグは避けもせずに蒼炎に剣を振るう。

 

 

「悪いな、今の俺に届く前に熱は燃焼する」

 

 

 灼熱の蒼炎はノーグに届く前に藍色の炎に飲み込まれ届かない。届いているのだろうが、明らかに熱が奪われて、届く時には炎が消えて熱波程度に減衰される。

 

 対炎熱戦においてノーグは相性が良かった。

 Lv.3に至りその出力は以前と比べ物にならない。階層主の炎さえ飲み込み、燃え続ける事を許さない藍色の焔は竜の目に最も驚異と認識されていた。

 

 

「余所見するでない」

「こっちも忘れるな阿呆が!」

 

 

 ノワールの一撃が竜鱗を抉り、ガレスの斧が右の頭を地に叩き落とす。

 

 

「落ちろ」

 

 

 オッタルが振るう大剣の一閃が左の頭の首に大きな傷を付けた。すかさずフィンの指示が戦場に響き渡る。

 

 

「ダイン、バーラ!風の魔剣準備!撃ち終わった後にリヴェリアが撃つ!前衛組は後退しろ!!」

「了解」

「決めろ!!」

「分かった」

 

 

 今回ばかりは連合であり、頭脳や指揮はフィンに委ねられている。【フレイヤ・ファミリア】は決して協力主義ではない。女神至上主義である為、誰もが敵であるが故にその闘争心がファミリアを強くした。フレイヤの威光を示す為という名目で協力している。失敗は女神に泥を塗ると同じだ。

 

 風の魔剣に『紅霧(ミスト)』は吹き飛ばされる。そしてそれにより盾を失った竜に魔法が届く。

 

 

「リヴェリア!」

「––––【レア・ラーヴァテイン】!!」

 

 

 連結詠唱により増幅させた第二階位魔法。

 その範囲は此処にいる敵全てに対してに爆撃となって敵を吹き飛ばす。灼熱の業火がダイン、バーラが堰き止めていたモンスター達まで殲滅していく。【ロキ・ファミリア】最強の魔導士の称号は伊達ではない。

 

 だが、その業火ですら双竜を殺すには至らない。

 焼き焦げた痕こそあるが、倒すまでのダメージにはならなかった。

 

 

「チッ、やはり階層主までは無理か」

「いや、充分」

「此処まで弱らせれば俺達で事足りる」

 

 

 同時に駆け出すノーグとオッタル。

 此処まで弱れば、最早指示など必要ない。走り出した二人がすべき事は何か理解していた。

 

 

「【凍てつく残響よ渦を巻け––––燻りし焔をその手に慄け】」

「【月銀(ぎん)の慈悲、黄金の原野––––】」

 

 

 後退し、渡された『高等精神回復薬(ハイ・ポーション)』で回復させたノーグと、竜の首を落とす機会を虎視眈々と狙っていたオッタルは全力の走行にもかかわらず詠唱。魔導士が羨む技術である並行詠唱を死の危険を前にして実現している。

 

 

「【氷界の果てに疾く失せよ】」

「【この身は戦の猛猪(おう)を拝命せし】」

 

 

 蒼炎が二人に放たれる。

 だが、走る速度を緩めずに突貫する二人。そしてノーグがオッタルの前に出る。

 

 

「【アプソール・コフィン】」

 

 

 再び藍色の焔が顕現され、蒼炎を殺していく。

 先程までと違い、熱波を相殺しきる程の最大出力に双竜は『紅霧(ミスト)』を吐き出す。魔法が消えれば蒼炎は通じ、二人を燃やし尽くすだろう。

 

 だが、後ろを走るオッタルが剛腕で大剣を振るう。オッタルは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。いずれ未来の最強に至る存在の行動に誰もが絶句する。

 

 そして、勢いを殺す事なく階層主に走る二人には––––

 

 

「【駆け抜けよ、女神の神意を乗せて】」

 

 

 階層主を殺す一撃が装填されている。

 片や全てを凍て付かす藍色の焔の最大出力、片や不撓不屈に上り詰め、最強を屠る刃を磨き続けた巌の一撃。

 

 

「『天来氷葬』!」

「【ヒルディス・ヴィーニ】!」

 

 

 藍色の焔を纏った二閃に右の首は凍結と同時に砕け散り、左の首は薙ぎ払われた最強の一撃に宙を舞っていた。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

「(ふう、今回『天啓』が来るほどでもなかったな。疲れはしたが)」

 

 

 ノーグは二振りの剣を鞘に収める。

 上からジッと見下ろしているオッタルに顔を合わせる。余りにも凝視する為、顔に何が付いているのではないかと思うくらいだ。

 

 

「何?」

「……フレイヤ様が貴様に興味を持った理由が分かった気がした」

「えっ?どういう事?」

「いや、只の戯言だ。気にするな」

 

 

 ノーグはフレイヤとの面識はない。

 出会ってもいないのに興味を持たれたことに首を傾げる。ロキがノーグには絶対会わせないと言っているほどに危険人物。いや、危険な神に興味を持たれた事に顰めっ面になるノーグ。ため息を吐きながら仲間の元へ歩いていく。

 

 

「お疲れノーグ」

「フィンも指揮お疲れ様」

「蒼炎に呑み込まれた時は背筋が凍ったぞ」

「悪い、心配かけた」

「全く……自覚があるからタチが悪い」

 

 

 リヴェリアにため息を吐きながらよくやったと撫でられるノーグ。嫌そうな顔をせず、ただ王女様の機嫌を直すのに素直に撫でられる事に徹しているのを見てフィンはやや苦笑し、ガレスとノワール達は笑っていた。

 

 二つのファミリアも勝鬨を上げ、残りは戦果の回収を果たそうとしたその時だった。

 

 

 

 

 パチパチパチ––––と拍手の音が聞こえたのは。

 

 





 


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九スレ目



 皆さま、大変申し訳ありません。
 アンケートで変更しなくていいとの事でしたが、私自身が黄金時代を追求したいというプライドもありまして八スレ目を勝手ながら書き直させて頂きました。アンケート協力してくれたのに申し訳無さで一杯です。

 ご迷惑をおかけした事、このままの方が良かったと思う人もいるかと思いますがご了承願います。

 お詫びとして今日の18:00にもう一話分投稿させていただきます。
 
 それで許してもらえると幸いです。



 

 

 

 パチパチと拍手する音が聞こえた。

 暗闇の奥から出てきたのは無邪気そうな顔をして嗤っている二人の妖精の姿がそこにはあった。

 

 

「おめでとう!ふふふ、本当に凄いわ!そう思わないヴェナ!」

「ええ姉様!あんな怪物を倒しちゃうなんて!流石今勢いに乗ってるファミリアね!」

 

 

 拍手をしながらこの場の空気に水を差す小さなエルフ達、白い肌と黒い肌のコントラストが異色の雰囲気を醸し出し、何よりこの場所は階層主が出現していたにもかかわらず、笑ってはしゃいでキャイキャイと緊張感がない。それが何処か気持ち悪い。

 

 

「これはこれはリヴェリア様!初めまして!」

「私達は貴女を尊敬しているわ!エルフの習わしを尊重する王女様!私はとってもとっても尊敬(軽蔑)しているわ!」

「リヴェリア、あんな頭悪そうなモノクロエルフと知り合いなのか?」

「初めましてとあちらが言っているだろう」

 

 

 ノーグは二振りの剣を抜く。

 念の為、というわけではない。ただ、この二人の妖精から感じる嫌悪感。この二人を生かしておくのが危険だと本能が悟っていた。

 

 

「ゼウスの言ってた『メスガキ悪堕ち』ってこんな感じなのか」

「おい待て、ゼウスに何を吹き込まれた」

 

 

 リヴェリアは神妙な顔をしてノーグに視線を向ける。子供に何を吹き込んでんだと若干変態の好々爺に怒りが湧く。教育に悪すぎる。

 

 

「でも今日は貴女の挨拶はついで。目的は貴方」

 

 

 白妖精(ホワイトエルフ)のディナがノーグに指を向ける。

 

 

「俺?」

「ええ!随分と姿が変わったようだけど、()()()()()()()()()()()!」

「だとしたら滑稽だわ!ねえ、あの子は何処?」

 

 

 ドクン、と心臓が高鳴った気がした。

 ヴィルデアの真似、という言葉の意味をノーグは知らない。だが、何故か心を揺さぶる。何処かで聞いた事のあるような言葉に反応する。

 

 

「……何の、話だ」

「アレ?通じてないようね姉様?」

「おかしいわね?惚けている訳では無さそうだけど」

「私達一度会ってるのだけど憶えてないなんて悲しいわ!」

 

 

 会った事のある筈がない。

 冒険者になってからノーグはあんなエルフ達を見た事が無い。と、否定を口に出来る筈なのに、頭の中に流れる嗤う二人の顔が浮かぶ。いつ、何処であったかなんて憶えてはいない。

 

 けど、会った事がある気がした。その言葉は間違っていなかった。

 

 

「あっ、そういえば彼ってヴィルデアの事を別の名前で呼んでなかった?」

「あっ、そうそう!確か名前は––––」

「何、言って」

 

 

 動揺、困惑、そんな状態のノーグにヴェナは決定的な一言を口に出した。

 

 

「––––()()()、だったかしら?」

 

 

 カチリと頭の中で音が聞こえた気がした。

 聞いた事がある、で済ませられないような一言がまるで足りなかったパズルピースを埋める。記憶の奥底に眠っていたかのような光景が頭の中に浮かび出す。

 

 

「フ……ララ」

 

 

 知っている。

 知っている!知っている!!知っている!!!

 何故、どうして、あり得ない、何処で、何時、何で、意味が分からない、思考を放棄したい、何も考えたくない、何も思い出したくない。

 

 ノーグの頭の中で駆け巡る記憶。

 後悔、絶望、憎悪、それら全てがごちゃ混ぜになって襲いかかってくる中で、目の前に浮かぶのは()()()()()()姿()

 

 

「あっ……ああ……!」

 

 

 自分が知りたくもあり、知らなかった自分の過去。

 頭にフラッシュバックする光景。目を閉じても、耳を塞いでも、まるで怨嗟のように頭に流れてくる記録。そして生まれ変わるような、自分が書き換わるような消失感。過去の自分と今の自分が対立して無理やり掻き回されているようだ。

 

 今の自分が滑稽か、過去の自分が滑稽か、いや、今の自分は()()()()()()、それすら判断出来ずに混乱に堕ちる程に。

 

 

『ずっとずっと、大好きだよ……愛してる■■■』

 

 

 誰だ、とは言えなかった。

 知っていた。忘れなかった。塗りつぶせないほどに大切だった記憶が今の自分に突き刺さる。でもそれは今の自分ではなく、過去の自分に対しての言葉、揺さぶられる心と記憶の混乱。堪らず、ノーグは剣を落とし頭を抱えながら膝を突いた。

 

 

「ぐっ……っあ……!」

「ノーグ!?」

 

 

 耐え難い吐き気。酷い頭痛。

 知らない、知っている筈のない記憶、自分の存在が不安定になるような瓦解する感情。いっそ全て吐き出せればどれだけ楽か。口元を押さえて吐き気を噛み殺した。

 

 

「思い出したかしら?」

「っ……話す事はねぇ…失せろ糞餓鬼……!!」

 

 

 気を失ってる場合ではない。

 此処はダンジョン、思い出以上の生存本能が意識を手放すのを無理矢理止めた。頭の痛みに耐えながらも虚勢の言葉を放ち、立ち上がる。

 

 

「どうやら今日は無理そうね姉様」

「仕方ないわヴェナ、とりあえず今日は帰るとするわ」

「このまま逃すとでも思っているのかい?」

 

 

 ノーグの前に立ち、槍を構えるフィン。

 あの二人がどちら側なのか、それはもはや明白だろう。オッタルもノワール達もフレイヤの戦闘員も武器を構えている。

 

 だが、その二人の後ろから白い宗教服を着た信者のような姿をした人間達が二人の前に立つ。全面戦争の賽は既に投げられた。

 

 

「思ってるけど?おチビさん」

「行きなさい。信者達」

 

 

 二人の指示に一斉に走り出す信者達。涙を流しながらナイフを構え、叫びながら冒険者に襲いかかる。動きは大した事のない、恩恵を授かって間も無い素人の動き。だが、その目は血走り、心は既に壊れていた。

 

 

「愚かなるこの身に祝福をぉぉぉっ!!」

「咎を許したまえカーナ!」

「ソラキ、どうかこの精算をもってええ!」

「あぁ、来世で会おうグーマン!!」

 

 

 狂気とも呼べる心の叫び。

 死を恐れてそれでも死ぬ事を恐れない『捨て駒』の狂気に一瞬呑まれる道化の眷属。だが、そんな中でただ一人、一瞥すると全員の前に立つ巌が剣を構えた。

 

 

「Lv.1程度の連中が捨て身だと?数で圧倒すれば勝てると思ったのか?」

 

 

 失笑、そして有象無象に落胆。

 

 

「腹立たしい」

 

 

 オッタルは一閃、振るった。

 それだけで信者達は薙ぎ払われ、肉塊に晒された。だが、吹き飛ばされてもなお執念深くオッタル達に近づこうとする。

 

 そして結果は同じ。

 吹き飛ばされ、薙ぎ払われ、白装束の信者達は徐々に命を散らしていく。その結果を見たガレスもノワール達もフレイヤの戦闘員もオッタルの蹂躙戦に参戦する。

 

 

「まあ流石。やっぱ今の時代、数より質よねヴェナ」

「そうね姉様。やっぱ信者達じゃ傷一つ付けられないわね」  

「「でも、強さと勝つ事は別よ」」

 

 

495:名無しの冒険者

オラトリア編の死兵じゃね?

496:名無しの冒険者

自爆装置ってこの時代に存在したっけ?

 

 

 頭痛がする中、『天啓』に目を見開く。

 そしてそれと同時にフィンが信者達に括り付けられているある存在に気付き、それよりも早く黒妖精(ダークエルフ)のディナから莫大な魔力が滲み出ていた。

 

 

「【開け、第五の園!響け、第九の歌!】」

「––––オッタル!ガレス!信者から離れろ!『火炎石』だ!」

「っ!?」

「チッ!?」

「【木霊せよ、心願(こえ)を届けよ––––!】」

 

 

 何もかもが遅かった。

 フィンは叫び、リヴェリアは詠唱、オッタルとガレス達が信者達を薙ぎ払うが、死体が多すぎる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな最悪な光景が脳内に過る中、()()()()()()()()()()展開される毒々しい紫の魔法円(マジック・サークル)が四つ。既に詠唱を唱え待機状態とした臨界寸前の砲門の行先は決まっていた。

 

 

「【ディアルヴ・ディース】!!」

 

 

 灼熱の業火が()()()()()()()()()()()

 火炎石を持っていた信者の一人が爆発する。そして爆破は次の火炎石を誘爆、それが徐々に連鎖となって道化と美の女神の眷属達を呑み込んだ。

 

 

 ★★★★★

 

 

 二十七階層

 死体の火炎石全てが誘爆すれば崩壊するほどの大爆撃。

 この爆撃で生きられる程の存在はいない。頑丈さに取り柄のあるオッタルやガレスでさえ、盾無しで至近距離の爆撃を喰らえば四肢が四散するだろう。

 

 誰もが死を覚悟した。

 大爆撃を止められない。逃げる暇もない。盾何枚かで防げる程の規模ではない。

 

 そして爆撃は––––

 

 

「ハァ…ハァ……!!!」

 

 

 –––––誰一人として死へと誘わなかった。

 

 

「ノーグ!お前……!?」

 

 

 広がっていたのは白銀の世界。

 そして最大出力で世界を凍て付かす藍色の焔。ノーグは『天啓』が見えた瞬間に即座に詠唱し、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 此処は27階層。

巨蒼の滝(グレート・フォール)』の滝壺であるこの場所は()()()()()()()()()。その特性もあり、凍て付く速さが誘爆し切るよりも先に作用し、結果的に誘爆する事を防いだ。

 

 

「でかしたノーグ!最高の判断だ!!」

「ああ……ちょっとヤバい『天啓』が来てな」

 

 

 藍色の焔が消え、ノーグは倒れる。

 息切れと意識の低下でまともに動けない状態にオッタルは寧ろ称賛する。無理をしてでも藍色の焔を顕現したのは最良の選択と言えるのだから。結果、その代償が支払われているのも当然だろう。

 

 

精神疲弊(マインドダウン)か。無理もない」

「助けられたから何も言えないが、無茶し過ぎだ!」

 

 

 リヴェリアが駆け寄る。

 死兵だけを凍らせるだけの魔力操作といい範囲といい、無茶をしたノーグに自分のローブを被せて包む。ノーグの身体はまるで氷のように冷たくなっていた。これで生きていられるのか不安なくらいに。

 

 魔法を放った二人の妖精は既に姿を消していた。逃げられたのだろう。

 

 

「まだ間に合う。俺はあの妖魔を追う」

「やめろオッタル…お前が死ぬぞ」

「何?」

 

 

 その一言に振り返り殺気を滲ませるオッタル。

 

 

「俺があの妖魔に遅れを取ると?」

「タイマンなら百万回やったってお前が勝つよ。俺もお前の強さは知ってる」

「なら何故」

「そんな妖魔や信者達を()()()()()()()()()()()()()()()は、一体どれほどの強さなんだ?」

 

 

 その言葉にオッタルは瞠目する。

 あの妖魔達は魔法円(マジックサークル)が展開されていた以上、【魔導】を持ったLv.2程度だろう。そして恩恵を受けて間も無い死兵。そんな下級冒険者を無傷のまま27階層に連れてこられる存在が居る。

 

 

「フィン、お主はどれほどのレベルなら可能だと推測する?」

「低く見積もってもLv.5がいるね」

「俺も同じ意見。此処で藪を突いて蛇が出れば誰かは死ぬぞ」

 

 

 それは本意ではないだろう。

 遠征の勝利に水を差され、煮湯を飲まされた屈辱は存在するが、報復に動く事は出来ない。低く見積もってもLv.5であるならば、勝てたとしても間違いなく消耗しているこちらに戦死者が出るだろう。

 

 敵の案内役が追撃してこなかったのも、分が悪いと思ったのだろう。階層主討伐の消耗、そして火炎石の誘爆死兵、それだけやっても倒し切れるか不安があったのか襲ってこなかった。

 

 

「今回の遠征は階層主への完全勝利が目的だ。今回は諦めろ」

「いずれ女神に向けられる刃を見逃せというのか?」

「向けられる刃を砕ける強さを持てという意味だ。今はまだ俺達の誰もが持ってないよ」

 

 

 このメンバーの中で単独でLv.5級の存在に勝てる冒険者はまだ居ない。連携すれば話は別だが、あくまで遠征は階層主の討伐まで。そこまでが協力関係であるに過ぎない。お互いのファミリアのみで別行動したところで結果は目に見えている。

 

 

「––––帰還する」

「悪いなオッタル」

「女神の顔に泥を塗るわけにはいかん。今回は乗せられてやる」

 

 

 オッタルは渋々ながら了承し、帰還の準備を整える。フレイヤの戦闘員もそれについていくように歩き始めた。

 

 

「ハァ…ごめんリヴェリア。大分キツい」

「元より動けないのだろう。全く」

「わっ」

 

 

 限界まで振り絞った結果、身体に負担がきて動けないノーグをリヴェリアはため息を吐きながらも背負っていた。

 

 

「ありがとう」

「これくらいはさせろ。助かった」

 

 

 リヴェリアの背中はローブで包まれた中でも暖かく感じた。ノーグの身体が冷え切っているのもあるのだろうが、ただ今の暖かさに身を委ね、僅かに頰を緩ませ意識を落としていた。

 

 27階層、アンフィスバエナ討伐は【ロキ・ファミリア】【フレイヤ・ファミリア】の完全勝利という形で幕を閉じた。

 

 




 
 お詫びとして18:00にもう一話分頑張って投稿します。
 良かったら感想・評価お願いします。モチベが上がります。


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十スレ目


 スタイリッシュ詫び投稿(シュタ!



 

 

 

600:名無しの冒険者

ヴィルデアって何なんだ?

 

 

601:名無しの冒険者

知らん

 

 

602:名無しの冒険者

ダンまちシリーズでそんな名前は出なかった

 

 

603:名無しの冒険者

ダンまちなら元ネタは絶対あるだろう?みんなググれ

 

 

604:名無しの冒険者

よしきた

 

 

605:名無しの冒険者

こういうのもスレの醍醐味

 

 

606:名無しの冒険者

貴様らより先に見つけたるわ!

 

 

607:名無しの冒険者

あっ、元ネタあったわ

 

 

608:名無しの冒険者

>>607 速すぎぃ!

 

 

609:名無しの冒険者

ヴィルデ・フラウ

ドイツに伝わる妖精一族。ザルツブルク近く、バンデルベルクの丘の中に住む、長い髪の美女とされて「野性女」という意味もあるらしいで?氷属性かは知らんけど多分コレやと思う

 

 

610:道化所属

妖精?

 

 

611:名無しの冒険者

元ネタじゃ妖精=精霊とも言える

 

 

612:名無しの冒険者

あっ

 

 

613:名無しの冒険者

ちょっ、イッチィィ!?

 

 

614:名無しの冒険者

い、イッチ?いつからそこに?

 

 

615:道化所属

>>600 から。へー、精霊ねぇ?

 

 

616:名無しの冒険者

悪い顔してるのが目に見える……!

 

 

617:名無しの冒険者

女帝の笑みが浮かぶだと…!

 

 

618:名無しの冒険者

よくぞ此処まで強くなったなイッチ!!

 

 

619:道化所属

はっはっは、ありがとう……それで誤魔化せると思ってる?

 

 

620:名無しの冒険者

ヒェッ

 

 

621:名無しの冒険者

チビりかけた

 

 

622:名無しの冒険者

アカン、イッチが女帝達に似てきた

 

 

623:道化所属

なるほどヴィルデ・フラウか。精霊ではあっても氷かどうかはわからないけどもしかしたらそんな精霊がいるかも知れないって事か。まあ神様が跋扈する世界なら不思議ではなかったけど

 

 

624:名無しの冒険者

せ、せやで(震え)

 

 

625:道化所属

全く……よくやってくれた貴様ら

 

 

626:名無しの冒険者

はっ?

 

 

627:名無しの冒険者

えっ?

 

 

628:名無しの冒険者

イッチ情緒不安説を提唱したいと思います

 

 

629:名無しの冒険者

ワイも

 

 

630:名無しの冒険者

オラも

 

 

631:道化所属

まあ待て、とりあえずワイの話を聞け。お前らも知りたいだろ?ヴィルデアの事について

 

 

632:名無しの冒険者

お、おう

 

 

633:名無しの冒険者

聞くだけ聞いたるわ

 

 

634:道化所属

先ず、ヴィルデアとは何なのか。この世界で色々調べたけど意外と身近な人が知っとったわ

 

 

635:名無しの冒険者

えっ、誰や?

 

 

636:名無しの冒険者

まさか、アルフィアさん?

 

 

637:道化所属

いやリヴェリア。というよりはエルフなら誰でも知ってるくらい有名だって

 

 

638:名無しの冒険者

エルフなら誰でも有名?

 

 

639:名無しの冒険者

えっ、マジかイッチ

 

 

640:名無しの冒険者

まさか……

 

 

641:道化所属

ヴィルデアってのはな?エルフの伝承に於いて

藍色の姿をした氷の大精霊らしいんや

 

 

642:名無しの冒険者

ガタッ!

 

 

643:名無しの冒険者

ガタガタッ!!

 

 

644:名無しの冒険者

お前ら座れww

 

 

645:名無しの冒険者

い、イッチの髪って藍色だよね

 

 

646:名無しの冒険者

まさかイッチ……

 

 

647:名無しの冒険者

チ○コ付いてないの!?

 

 

648:名無しの冒険者

おい待てww

 

 

649:名無しの冒険者

>>647 どうしてそうなったww

 

 

650:名無しの冒険者

>>647 何を叫んでんだお前は

 

 

651:名無しの冒険者

い、いやさ。イッチが精霊憑依でTS説が浮かんでつい……

 

 

652:道化所属

馬鹿野郎

ちゃんとビンビンだわボケ

 

 

653:名無しの冒険者

ブッハww

 

 

654:名無しの冒険者

お前もお前で何言ってんだww

 

 

655:道化所属

てかTSだっけ?その結論に至った理由を知りたいんやけど

 

 

656:名無しの冒険者

………。

 

 

657:名無しの冒険者

………。

 

 

658:名無しの冒険者

………。

 

 

659:道化所属

………えっ?

 

 

660:名無しの冒険者

いや見た目が完全にリィエルちゃんじゃん?

 

 

661:名無しの冒険者

ちょっと凛々しくしたリィエルちゃんじゃん?

 

 

662:名無しの冒険者

中性過ぎてちょっと男らしく見えないというか……

 

 

663:道化所属

えっ、何? 

ワイ、性別明言しなかったっけ?

 

 

664:名無しの冒険者

分かっていても、という奴だよイッチくん

 

 

665:名無しの冒険者

すまんなイッチ。ワンチャン抜ける

 

 

666:道化所属

………明日坊主にしようかな

 

 

667:名無しの冒険者

ちょっと待て

 

 

668:名無しの冒険者

早まるなイッチィィ!!

 

 

669:名無しの冒険者

いや髪は切ってもいい!だが何故チョイスが坊主なんだ!?

 

 

670:名無しの冒険者

髪切ったところで過去も顔も変わらねえぞ!?

 

 

671:道化所属

いやさ、ちょっと……かなり……うん

 

 

672:名無しの冒険者

落ち込み過ぎて説明放棄してる!?

 

 

673:名無しの冒険者

大丈夫だイッチ!まだ十歳だし全然男らしくなる猶予はある!!

 

 

674:名無しの冒険者

>>665 おいテメェ!何言ってんだゴラァ!?

 

 

675:道化所属

ごめん、少し離れるわ……ちょっと、ね

 

 

676:名無しの冒険者

行かないでイッチィィィィ!!?

 

 

677:名無しの冒険者

誰か彼女に男らしさを!!

 

 

678:名無しの冒険者

>>677 馬鹿野郎!トドメを刺してんじゃねえ!!

 

 

679:名無しの冒険者

ちょっ、イッチ!?せめて説明してから逝ってえぇぇ!?

 

 

 

 ★★★★★

 

 

「…………………髪、切ろうかな」

 

 

 ため息混じりで剣を二振り携え、颯爽とホームから出て目的地に歩く。遠征が終わり、二日経った今は体力も精神力も全回復してる。朝食よりも今はこの記憶について知りたかった。

 

 頭の中で情報を整理していく。

 リヴェリアから聞いた氷の大精霊ヴィルデア。俺が使う【アプソール・コフィン】は氷属性。熱を燃焼し、奪うという炎熱殺しの魔法と類似点がある。

 

 というかヴィルデ・フラウなんて元ネタがあるくらいだ。ゼウス、ヘラ、ロキ、フレイヤとか神がいる世界だし、あり得ない話ではない。本当の伝承で属性が氷かは知らないらしいけど此方では氷の大精霊となってる訳だし。

 

 そして伝承では大精霊ヴィルデアの姿は藍色の乙女であるという。本当に伝承通りなら、自分の記憶の中を過ったあの藍色の少女と類似点が多すぎる。

 

 仮説を立てるとするなら、八歳になる前の俺は()()()()()()()()()()()()()()()。そして何らかの形でヴィルデアの力を手に入れ、彼女自身が消えた。故に闇派閥は俺からヴィルデアの居場所を探ろうとしている。

 

 

「(……誕生日が確か【ロキ・ファミリア】に入った時。俺が彷徨ったのが三日、その三日前に確実に何かがあった)」

 

 

 大精霊が自分に力を与えるようなキッカケがあった。それが何なのかは分からない。でも、推測は出来る。その日にヴィルデアは間違いなく俺に()()()()()

 

 なら、そこまで分かっているなら向かう先はロキと初めて出会ったあの裏路地。その近くにきっと過去に繋がる手掛かりが……

 

 

「何処に向かう気だい?」

「!」

  

 

 脚が止まる。

 振り返ると、いつもの見知った三人の姿があった。

 

 

「フィン、リヴェリア、ガレス……どうして此処に?」

「なぁに、儂等もお前の行先が気になっただけじゃ」

「私達も同行させてもらうぞ」

「えっ、でも」

 

 

 同行した所で何のメリットもないし、この件は一人で解決出来る。だから別に手を貸さなくったって結果は多分何も––––

 

 

「僕達では頼りないかい?」

「!」

 

 

 そう言われて言葉が詰まる。

 頼りない訳ではない、寧ろ頼っている。けど頼る事が少ないだけだ。俺の方がおかしいと分かっているから。『天啓』もそうだが、転生なんて馬鹿げた話、本の中の世界、明らかに自分が異物であると分かっているから、頼れない気持ちは僅かにある。

 

 

「……済まない。僕らは少し君を特別視し過ぎていた」

「何でもかんでも一人で解決できてしまうくらい優秀じゃからの。それが却って、頼ってくれない事に繋がっとる」

「私達はファミリアで家族だ。頼りにしてると同時に、頼られたいと思う。だから手伝わせてくれないか?」

 

 

 その申し出に僅かに困惑する。

 断った方がいい、もし何かあったら自分がどういう存在か知られてしまうから。知らない方がいい。俺にとってもフィン達にとっても。

 

 

「で、でも……」

「お前が探している真実が何なのか分からん。けど、どんな結果であれ私たちはお前を軽蔑したり否定したりする事はしない」

 

 

 その言葉に何も言えなくなった。

 俺が転生者でこの世界の未来を少しだけ知っているなんて言ったらどうなる?何かが変わるのか?漫画一冊分の知識しかないそれは殆ど役に立たない。転生者だからいる筈がない存在、だから仲間と思われる事が少し怖い。

 

 この世界を知らない。

 生きたい為に強くなる自分はかなり異端だ。その生き方が何かしら流れを変えて、いつか大切なものを砕いてしまうのではないかといつも何処かで一線を引く。

 

 今回もきっと言えない。

 きっと俺はずっと三人を身近な他人と認識し続けると思う。【ファミリア】は仲間で家族だが、きっと変わる事が出来ないと思う。

 

 

「……ごめん。真実までは言えない。俺にとって重要な事である事は間違いないけど、フィン達は違う。真実が言えないとしても、手伝ってくれるの?」

「ああ、言っただろ?頼られたいと」

「お前さんに世話になった事も多いしのぉ」

「不甲斐ない大人だが、力になるさ」

 

 

 それでも、三人はきっと違うのだろう。

 ノアール達もきっと同じ事を思ってる。だから心配して来てくれた。俺を仲間として、家族として見てくれているのだろう。だから断ろうにも断れず、諦めて歩くと三人は俺の後ろを歩き始めた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「……此処だ。間違いない」

 

 

 ロキと出会った場所から十分。

 僅かに残っていた記憶を頼りに歩き続け、辿り着いたのは既に寂れた何かの店のような場所。階段を上がり、中を見渡すと劣化が酷く、足を踏み締めただけで木材がギシギシと音を鳴らす。

 

 

「ガレス、外にいた方がいいよ?」

「なんじゃ此処まで来て––––のわっ!?」

「木材、結構脆いから重いと抜けるって」

「先に言えい!?」

  

 

 ガレスの両足が木材の床が割れ、脚が地面に抜ける。普通の建築と違い、此処は意外とハリボテ建築で、劣化までしていると床を踏み締めると地面に抜ける。因みに下は柔くなった泥。抜ければ汚れるのは決まっている。

 

 

「なっ!?」

「あれ、リヴェリアも抜けた」

「なんじゃリヴェリア、お主もしかして太」

「【終末の前触れよ、白き雪よ––––】」

「待て冗談じゃ!魔法を使うなこんな室内で!?」

「やっぱ置いてきた方がよかったんじゃ……」

「あはは、仕方ない。僕がどうにかするから先に行っておいで」

 

 

 フィンの言葉に甘え、ノーグは店の奥へと歩いていく。

 憶えている、見た事のある。間違いなく此処にいたという記憶が残っていた。古びたランプ、蜘蛛の巣を張った天井、割れた窓、もう古びて変わってしまっても、その記憶は色褪せなかった。

 

 

「えっと確か……」

 

 

 そして右のドアを開くと、そこにはズタズタになったベッドとテーブルが一つ。散乱した羽根ペンや破れた英雄譚など、大きさ的にも子供部屋と呼べるくらいの狭さだが、見覚えがあった。

 

 確定だった。

 自分は昔、間違いなくこの部屋に住んでいた。

 

 

「枕の中……いつも高くするために入れてたっけ」

 

 

 枕だけは幸い、黒ずんでいるがボロボロにされていない。枕のシーツを剥がし、その中にいつも仕舞っていた一冊のノートのような物を手に取る。そこに書かれていた名前は–––

 

 

「『ラースのにっき』」

 

 

 ボロボロになった一冊の日記帳。

 自分の過去が記された最後の手掛かりがそこにはあった。

 

 





 次回、全ての過去が明らかに。


 ★★★★★

 良かったら感想評価お願いします。モチベが上がります。
 追記 過去編が多分一万超えるので明日はお休みになります。


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□□□が生まれた日


 全てと言ったなアレは嘘だ。
 一万字近く書いたけど終わらねえので前後半分けます。後半も一万字くらいだと思うので時間がかかります。毎回書き溜め無しはキツイ。しかも明日忙しいから多分月曜日投稿。

 追記 忙しかったのでもう少しかかります


 

 

 ボロボロのベッドに腰を掛け、日記帳を捲る。

 書いている文字は子供相応のヘッタクソな文字で、読みにくいったらありゃしない。だけど綴られていたその文字は、とても幸せが滲んでいるように思えた。

 

 一ページごとに思い出していく記憶。

 笑顔も、悲しさも、懐かしさから無意識の内に涙すら溢れた。そうだ、此処から始まったのだ。

 

 

 ()の最初の記憶。 

 ラースという転生前の自分の人生は。

 

 

 ★★★★★

 

 

 僕の名前はラース。

 黒髪黒目の何処にでもいるような普通の人間(ヒューマン)。産まれて四歳までの記憶は曖昧で、両親には愛されていた気がする。名前は憶えていないし、顔は今ではぼんやりとしか憶えていない。

 

 そこそこ裕福だったと思う。

 特に本が好きだったから絵本を飽きるまで読んでた記憶がある。絵本じゃ足りなくて英雄譚を母さんに音読してもらったりと、多分幸せな人生を送っていたと思う。

 

 

 だけど……幸せは突如終わりを告げた。

 

 五歳になる前に二人は殺された。

 オラリオではよくあるような闇派閥の快楽殺人か、強盗かは分からない。僕を部屋のクローゼットに隠していたから生き延びた。けど、その後に僕の家は燃えた。証拠隠滅のためか、家は燃えて家族は全員焼死体となった。僕は燃える自分の家から脱出は出来たが、それだけだった。

 

 

 その日、僕は何もかも失った。

 服もなければ金もない、家もなければ家族もいない。

 

 居場所を失い当てもなくオラリオの街を彷徨っていた。

 

 この当時、孤児院なんてものはなく、物乞いをして生き続けた。お金がなくなった時はゴミ箱を漁った。盗むだけの度胸はなかった。殺して奪うだけの覚悟はなかった。でも、死にたくなかった、惨めでも死ぬのが怖くてずっと浅ましくみっともなく生きてきた。

 

 

 そして……限界は訪れた。

 

 雨の日、僕は空腹と高熱で裏路地に倒れた。降り注ぐ雨が体温を奪い、震える体も次第という事すら聞かない始末、薬もなければ食料もない。

 

 

「さむい……」

 

 

 でも、死を乗り切れば幸せな未来が待っているのかもしれない。もう苦しまなくてもいいのかもしれない。不幸の連続続きで嫌になりそうな人生に終わりが来るのならば、それはそれで良かったのかもしれない。気を張っていた力も抜け、僕は意識を手放した。

 

 

 

「ーーーーーー」

 

 

 目が閉じかける前に雨の中に黒い影が見えた気がした。

 

 

 ★★★★★

 

 

 身体が温かい、身体がいつもより軽い。

 あの苦しみから解き放たれたのか、此処は天国にいるのか分からずゆっくりと目を開ける。そこに見えたのは見知らぬ天井、自分にかけられた布団、そして額には濡れたタオルが置かれていた。

 

 

「……い、きてる?」

 

 

 起き上がるが、お腹が空いて力が入らない。

 それでも動ける程度にはなった。此処が何処なのか分からず辺りをキョロキョロと見渡すと、部屋のドアが開いた。

 

 

「目が覚めたかガキンチョ」

 

 

 そこに居たのは白髪の老人だった。

 老人というには厳つく、筋肉もあるから老人と言えるのか微妙だが、多分この人に助けられたらしい。

 お盆に水と鼻をくすぐるような匂いがするお粥がのっていて、小さなテーブルにそれは置かれた。

 

 

「おら、生姜粥だ。食ったら降りてこい」

「えっ、食べて…いいの?」

「テメェの為に作ってやったんだ。冷める前に食え、そして残すな」

 

 

 そういうと老人は部屋を出ていく。

 色々と困惑して、どうすればいいか分からなかったがお腹は正直だった。我慢出来ずに震えた手でスプーンを掴み、お粥を口の中に入れる。

 

 

「おい、しい…」

 

 

 あったかい。くるしくない。

 そう思えるだけで涙が滲んでいた。

 

 

「おいしい…おいしい……!」

 

 

 一口、また一口、泣きながらお粥を食べ続けた。

 死ぬ怖さから逃げられた事に安堵しながら、僕は今を生きている実感を噛み締めていた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 老人の名前はガジという。

 此処でパン屋を営んでいるらしく、食材調達の為に買い出しに出掛けていたところで僕を発見したらしい。助けてくれた事やお粥についてお礼を言ったら、助ける気があった訳ではないとガジは言った。

 

 

「人手不足だから体調治したら手伝いやがれ。そしたらあの小さな倉庫部屋と飯くらいは約束してやる」

 

 

 そう言って僕の新しい人生がまた始まった。

 パンを作る事は難しい。ガジに何回も怒られた。時には頭を殴られた。けど、最後まで見捨てるような事はしなかった。

 

 毎日が忙しい。

 朝早く起きてパンを焼き、具材が足らなくなったら買い出し、新しいパンのアイデアの模索、お店の呼び込み担当だったり、これでは放浪していた方が楽だと言わんばかりにこき使われた。

 

 けど、ご飯は欠かさなかった。

 試作のパンは飽きるほど食って、風邪をひいた日には米の生姜粥が出て来て、誕生日には不恰好なケーキを焼いてくれたりしていた。

 

 そしてクリスマスの日には……

 

 

「ガジ、これ……」

「あっ?ああそれか。暇な時に読めよ。夜更かしは許さん」

 

 

 クリスマスには英雄譚が枕の横に置かれていた。嬉しくてはしゃいだら、煩わしいとガジに殴られた。とにかく忙しくて、慌ただしくて、変な新しい人生だと思った。忙しくて死にたいなんて思う事すら与えてくれない。

 

 でも、そんな時間が僕はとても幸せだった。

 

 

 ★★★★★

 

 

「ラース!買い出し行ってこい!!」

「ふぁい……いつものでいい?」

「当たり前だ!四十秒で行って来やがれ!」

「ウソだろ!?まだパジャマだし無理!?」

「だったら寝過ごすなクソガキ!」

 

 

 ガジの拳骨が怖くてパジャマをベッドに放り投げ、全力で早着替えをして、机にあった金の入った巾着袋を持ってダッシュでいつもの買い出し場所へと向かう。全く人使いの荒い事だと言いたいが夜更かししてしまったので今回は僕が悪いし何も言い返せない。

 

 

「……ん?」

 

 

 買い出しを終え、材料の入った紙袋を抱えたまま帰ろうとしたその時、ふと足が止まった。裏路地に誰か倒れている。近づいてみると藍色の髪で綺麗な顔立ちをした僕くらいの女の子。行き倒れか何かか分からないが、近づいて声をかけてみる。

 

 

「おーい、生きてるか?」

 

 

 返事がない、ただの屍のようだ。

 この子も孤児なのか、どっから来たのか分からない。倒れてるなら僕みたいにもしかして熱でもあるのではないかと思い、女の子の額に手を当ててみると、驚愕した。

 

 

「……つめたっ!?」

 

 

 なんだこれ!?冷た過ぎる!?

 人がなっていい体温じゃない、()()()()()()()()……あっ、でも息はあるし鼓動もちゃんとある。

 

 スヤスヤと寝息を立てて眠っているが、裏路地は危ない。目に見えなければオラリオは無法地帯そのもの。裏路地はその代表と言える。僕も何度か絡まれかけてお金取られそうになった事あったし。

 

 

「……仕方ない」

 

 

 僕は持っていた紙袋を口に咥え、少女を背中に乗せて店に戻った。

 

 

 ★★★★★

 

 

「なあ、俺はテメェに材料買ってこいって言ったよな」

「うん」

 

 

 仁王立ちのガジを前に口に咥えた紙袋をそのまま渡す。いつもなら戻ったなクソガキと言ってくるのだが、今回は目を見開いてギョッとしていた。悪びれもせずにとりあえず部屋に女の子を寝かせ、ガジの所に戻ると叫び声が耳に突き刺さる。

 

 

「何でガキを拾ってんだ!?しかも幼女!さっさと元いた場所に返してきやがれ!」

「ネコじゃないんだから無茶言うな!?めっちゃ冷たかったんだから死にかけだと思うだろ!?あと、材料重くてアゴめっちゃ疲れた」

「知るかアホ!!」

 

 

 何処からきたのか、誰なのかすら分からず連れてきた自覚はあるが、死にかけの女の子を放っておいたら呪われそうだったし、良心的にも見捨てる訳にもいかなかった。

 

 

「とにかく、僕の部屋に寝かせるよ。起きて帰る場所があったんならそのまま帰せばいいし」

「あー、こういうのってギルドの管轄にねえの?」

「えっと捜索依頼……ってやつ?多分ない」

「言い切れる根拠は」

()()()()()()()()()

 

 

 家族を持っているなら間違いなく靴を履いてる筈だ。だが、服はボロボロで、顔立ちの良さとは裏腹にあの女の子の服はかなり汚れていた。それに発見した場所が裏路地だ。子供なら誰しもが危険だと大人に教わる裏路地にいた。

 

 

「迷子なら身なりは整ってる。それに裏路地がアブない場所ってのは子供ならみんな知ってる。僕みたいな人以外は」

「コイツも孤児って言いてぇのか?ったく、此処は宿屋でも孤児院でもねえっつーの」

 

 

 ガジはため息を吐くが追い出せとは言わなかった。

 

 

「僕ちょっとギルドの依頼書見てくる。ゆーかい疑惑?になったら困るし」

「さっさと見て戻ってこい。依頼あったら連れてけよ」

 

 

 首を縦に振り、僕はギルドに向かった。

 だが、藍色の髪をした女の子に関する捜索依頼は何処にもなかった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 私は––––どう生きればいいのだろう。

 

 それが私の最大の苦悩だ。

 私の名前はもう、思い出す事が出来ないくらいに消耗していた。

 

 人類の為に戦った、英雄の為に戦った。

 神々の『英雄を助けよ』という神意に応えるように私は生み出され、下界で多くの人を救ってきた。時には怪物を一掃し、時には灼熱の地に冬を届け、時には英雄達の手を取って力を振るった。

 

 それが辛くはなかった。

 命令される事で自分が此処にいてもいいという実感があった。

 

 誰かを助ける為、誰でもいい……救えばきっとそれが私の生きる道となる。だから、いつか終わる混沌の時代に私はずっと直走ってきた。

 

 

 だけど––––そんな日々は突如終わりを告げた。

 

 

 大英雄アルバート。

 人類が決して敵わないと称された黒竜をオラリオから遠ざけるという偉業を為した彼を讃えた神々は下界の地に遊びに来るという名目で誰もが英雄になれる時代を作り上げた。

 

 神時代がやってきた。

 それと共に精霊達の役割は徐々に消えていく。神がいるなら精霊は要らない。役割を失った私達は精霊の祠や住みやすい環境へと移り住む事になった。

 

 

 役割を失った––––神は私の生きる理由を奪った。

 

 

 そして私の手を取ってくれる人は、もう居ない。

 

 

 ★★★★★

 

 

「………ん」

「あっ、起きた」

 

 

 ベッドに座りながら英雄譚を読んでいると、女の子の目が覚めていた。額に軽く手を当てるが、やっぱり冷たい。普通の人間なら確実に死んでいるほどの体温だ。

 

 

「ここ、は?」

「僕の部屋だよ。パンあるけど食べる?」

 

 

 ラッピングされた今日の売れ残ったパンを差し出すと、女の子はクロワッサンを手に取りサクサクとリスのように食べ始める。その様子に思わず笑ってしまう。

 

 

「おいしい」

「そりゃよかった。僕はラース。君の名前は?」

「名前?……名前…わかんない」

「うわっ、思ったより重症。じゃあ何処からきたの?」

「わかんない」

「家族はいる?」

「わかんない」

「何歳かは?」

「わかんない」

「……めんどくさくなってわかんないしか言ってなくない?」

「本当にわからない」

 

 

 分からない事だらけで何も情報を得られなかった。

 何処からきたのかも、家族がいるのかも、名前も何歳かすらも分からないと来た。うん、頭が痛い。

 

 

「私、誰なの?」

「おおう……」

 

 

 これは思った以上に闇が深いのかもしれない。

 

 

 ★★★★★

 

 

「居場所不明、年齢不明、家族不明、名前不明か」

「いやーわかったのは女の子って事だけだね!ウケる!」

「しばくぞクソガキ」

「いや僕も参ってるから」

 

 

 とりあえずガジに報告する事にしたのだが……うん、分からない事がわかっただけで根本的な解決になってない。何もかも分からない少女を僕らはどうするべきか。厄介ごとといえば厄介ごとなのだろうけど、記憶がない少女は正直扱いに困っていた。素直にいないと言ってくれたら楽なのにわからないときたし。

 

 

「しばらく僕の部屋に置いていい?毛布さえあれば床で寝るから」

「正気か?」

「うん」

 

 

 少なからず、記憶が戻るまでとは言わない。

 けど、今あの子は道に迷う子供以上に人生の迷子になってる。なんというか、放っておけなかった。

 

 

「……お前が面倒見ろ」

「分かった」

 

 

 ガジはそれ以上何も言わなかった。

 床で寝れるように毛布と枕は貸してくれた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「ただいま」

「………おかえり?」

「おっ、パンは完食か」

 

  

 お皿に乗っていたパンは見事に完食し、パン屑が口元に付いている。しかし改めて見ると凄い可愛い女の子だな。藍色の長い髪、整った顔立ち、可憐さみたいなものがあってなんというか、上手く口に出来ないけどとにかく綺麗だ。

 

 

「名前が無いと不便だな。何か名乗りたい名前はある?」

「……ない。名前付けて」

「いや…そんな簡単に僕に言わないでよ」

 

 

 名前ってどんな名前がいいのだろう。

 女の子っぽくて、可愛い名前がいいのだろうか。藍色の女の子、人生の迷子少女、迷子、迷子、フラフラ……あっ。

 

 

「じゃあフララで」

「フララ」

 

 

 まあ一応女の子っぽい名前だ。

 意味はアレだけど、名前を思い出すまでの仮の名前だ。丁度いいかもしれない。パンが乗っていた皿を回収し、部屋を出ようとするとキュッと、袖口を掴まれた。

 

 

「ねえ……私はどうしたらいい?」

「えっ?」

「私、どうしたらいいかわかんない。何も」

 

 

 予想以上に深刻だった。

 思った以上に迷子、というよりはやりたい事をやるという人間なら誰しも思う行動がない。まるでずっと何か大義とか使命の為に自分を犠牲にし続けたみたいで、答えを得るために僕に縋り付いていた。ただ拾っただけの僕に答えを求めていた。そうしてほしいと懇願するように袖口を強く握る彼女を見て、僕は手を取った。

 

 

「じゃあ、此処で働いてみない?」

「えっ?」

「此処で働いて、飯を食べて寝る、夢とかそういうのは少しずつ探せばいい」

 

 

 この子は子供過ぎた。

 大人びた僕がおかしいのかもしれないけどフララは子供より子供だ。頼らなければ動けないそんな当たり前の子供なのだ。

 

 

「フララが怖いなら僕が味方をしてあげる。分からないなら僕が分かるくらいの事なら教えてあげる。だから、先ずは生きる事。どうやって生きたいかを探してみよう」

「……それで、いいの?」

「うん」

 

 

 生きる事は簡単ではない。

 けど、先ずは生きる為に努力をしなければ何かをしたいなんて考えられない。僕がそうだったから。まあ此処で生きれば生き方を模索するなんて大変だとは思うけど。

 

 

「改めて、僕の名前はラース。君は?」

「私は……名前は」

「さっき言ったでしょ?」

「あっ、フララ…です。その、よろしくおねがいします」

 

 

 こちらこそ、と言って僕は笑う。

 なんというか……照れ臭いなこういうの。

 

 

 ★★★★★

 

 

「どう、ですか?」

「おお……」

「ん……まあ良いだろう。及第点よりは高え」

 

 

 パン屋の制服に着替えると可憐な看板娘の出来上がりだ。風呂に入れ、身なりを整えれば何処か異国のお姫様のような美貌を持つフララは首をコテンと傾けて僕の近くに迫る。

 

 

「ラース、似合う?」

「似合うって……近い近い」

「オラ、さっさと呼び込みしてきやがれ」

 

 

 ガジが外に押し出すように僕らを外に出す。

 無表情ながらも呼び込みを手伝うフララに惹かれて客が増え、次々とパンを買っていく。いつもは売れ残るはずのパンも、徐々に売れて行き、次第にカウンターのパンは全て消えた。

 

 営業が時短で終わり、ガジはフララの肩に手を乗せ優しく告げた。

 

 

「採用」

「おいこら、僕の時と全然違うじゃねえか」

「お前より使える」

「ぶっ飛ばす」

 

 

 そしてガジとの喧嘩時間が僅かに増えた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 服を脱ぎ捨て、風呂場に入る。

 フララも風呂の使い方が分からないらしいからガジが一緒に入ってこいと丸投げされた。十歳だったら殴れたのに…!身長差が恨めし過ぎた。拳骨一発で僕の方が沈んだ。

 

 

「ったく、ガジめ……」

「大丈夫?」

「平気。つか、フララ風呂でも冷たいんだな。熱くない?」

「平気」

 

 

 シャンプーでフララの頭を洗う。

 気持ちよさそうに目を閉じているけど、洗う必要があるのかと思うくらいに髪がサラサラ。しかも身体が相変わらず冷たい。シャワーの温度で火傷してしまうのではないかと思うくらいに。

 

 

「しばらくは一緒に入るけど、ちゃんと一人で入れるようになれよ?」

「なんで?」

「よく分からないけど、ガジが言ってた」

「うん」

 

 

 そして三十分後にガジが入った時、風呂は微温くなっていたらしい。僕らが悪いわけではないのに何故か怒鳴られた。理不尽過ぎる。

 

 

 ★★★★★

 

 

「んじゃガジ、行ってくる!」

「日没までには帰ってこい。あとフララ、お前も気をつけろよ」

「はい…えと、行ってきます」

 

 

 今日は休日、パン屋で働かずに遊びに行ける日。

 僕はその日にある場所に訪ねる。ウチのパン屋から少し離れた場所の民家の家のドアをノックする。

 

 

「お久しぶりナナさん!」

「おや、久しぶりだねぇラース君。あらま、フララちゃんも一緒に」

「ナナさん……こんにちは」

 

 

 出てきたのは常連のナナお婆さん。

 僕はいつも休日に此処によく本を読みに来る。

 

 

「本読んでいい?この子も一緒に」

「構わないよ。好きに読みなさい」

「ありがとう!行くよフララ!」

「あっ、うん!」

 

 

 そう言ってある部屋まで小走りで向かう。

 向かった先には一つの部屋があり、そこを開くと大きな本棚があって僕はそこで休日にナナさんの許可を貰って本を読み耽るのが趣味だ。そして今日は待ちに待った休日なのだ。時間は幾らあっても足りない。

 

 

「ラース、本好きなの?」

「好きだよ?雑学とか全部本で学んでるし、英雄譚も読む」

 

 

 僕の賢さは此処から来てる。

 自慢ではないけど、僕は読んだものの大体は忘れずに覚えている。知識量だけなら同年代に負けないくらいに、ふふん。

 

 

「英雄譚、好きなの?」

「まあ夢見るよね。英雄になって世界に名前を轟かせてお金持ちになる夢」

「夢…英雄になりたいの?」

「そんな暇はないかな」

 

 

 英雄になってみたいと思った事は無かった。

 英雄になれば幸せになれるのか、苦悩の果てに生きられる人生なら僕はそんなものより毎日を生きられたらいい。

 

 

「それに、なるんだったらガジみたいに手に届く誰かを助けられる人になりたい」

「!」

「そっちの方がカッコいいと思う」

 

 

 あれ、なんかめっちゃ恥ずかしくなってきた。ガジに言ったらニヤニヤと笑われる。本で顔を隠しながらフララを見る。

 

 

「!」

 

 

 そして瞠目した。

 フララの顔は何処か苦しそうな表情をしていた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「ありがとねナナさん」

「また暇な日においで、その時はケーキでも焼いて待ってるさね」

「うん。じゃあまた」

 

 

 ナナさんに手を振っていつもの帰り道。フララの顔は曇ったままだ。

 

 

「フララ、大丈夫?」

「…………」

 

 

 フララが此処まで不安な顔をしているのは初めてかもしれない。出会った時以上に顔は暗い。

 

 

「私、ここにいて、いいのかな…」

「えっ?」

「英雄を助けなきゃ、いけないはずなのに……私はどうして」

 

 

 震えて、瞳が揺れて、動揺していた。

 僕はフララの手を握った。相変わらず冷たいけど、動揺してるフララには今必要な行動だと思ったから。

 

 

「落ち着いて、フララ」

 

 

 近くのベンチに座った。

 フララはまだ震えている。自分の冷たさに震えてるわけじゃない、不安な自分に震えているようだった。

 

 

「そんなに、使命がなければ怖い?」

「えっ……?」

「君が普通の人間じゃないって事くらい僕は知ってる」

 

 

 フララが更に動揺した。

 本人にとっては衝撃的かもしれないけど、僕は本当は知ってた。この子が普通の人間……いや、()()()()()()()()()

 

 

「な、んで……」

「君は冷たいから。体質で割り切れる話じゃない。ガジには言ってないけど。多分特別な存在なんでしょ?」

 

 

 あえて何なのかは明言しなかった。

 フララは多分だけど、精霊のような存在なのだろう。英雄譚で出てくるような英雄を助ける神の代行者。それも多分、かなり特殊な存在だ。身体が冷たくて、触れているものが冷たくなるからもしかしたら氷の精霊とかなのかもしれないけど……それは関係ない。

 

 フララはフララだ。

 僕にとって変わらない家族だ。動揺が少しずつ消えてフララは僕に話した。

 

 

「私、本当は全部憶えてるの」

 

 

 フララは全部僕に話した。  

 彼女の本当の名前はヴィルデア。世界に冬を届ける氷の大精霊らしい。どうにも彼女は大英雄に力を貸し過ぎた反動で身体が縮んで知性が一時期失われていたらしい。

 

 僕らと出会った時はまだ失われていた時期だったけど、最近は知性を取り戻し、記憶や力も徐々に戻り始めているらしい。だが思い出した時には神は地上に降り、人間には恩恵を与えていたのを目にして、自分がやってきた事が無意味に思えてしまったらしい。

 

 

「……神様が降りてきて、私は居場所を失った。誰かを助けなきゃいけないのに、私はここにいて」

「神様が降りてきたなら、そんな事考えなくていい」

「でも!!」

 

 

 憶えていたけど、どうすればいいかわからなかった。神様が降りてきた以上、精霊の使命の意味は殆ど無くなる。恩恵とはそれだけ強い力だ。フララはどう生きればいいのか分からなかった。

 

 本当に迷子だ。

 迷子の子供のようにどこに向かえばいいのか分からなくなったのが今のフララだった。

 

 どう答えても、慰めにもなりはしない。

 こう生きろといつも言われて動いてきた彼女に命令してもきっと何も変わらないだろう。それに僕は神ではない。

 

 

「神様が降りてきたから誰もが英雄になれる神時代が始まった。たしかに君はお役御免になったのかもしれない」

 

 

 フララの顔が歪む。

 自分の人生を否定する言葉に冷気が溢れた。

 

 

「でも、君の意思はどこにある?」

「意思?」

「何をしたい?自分で考えて、自分で悩んで、自分がどう生きたい?神の意思とか、使命とか抜きに君がどうしたい?」

 

 

 その言葉にフララの瞳が揺れた。

 使命の為にしか動けない精霊という訳ではない。フララには自我が存在してる。だから考えて、どうしたいかを選べるはずだ。大精霊として生きるか、フララという一人の女の子として生きるのか悩んでいるからきっと不安なのだ。

 

 

「考えた事…ない」

「そうだね。だから今、君は探してる」

 

 

 だったら今から考えて探せばいい。

 あのパン屋で生きてる以上、きっと生き方を探せるはずだ。どちらでも構わない。けど選ぶのはいつだって自分だ。僕でもガジでも、神ですらない。

 

 

「探してるからここに居ていい、縛られなくていい、先ずは自分がどうしたいか生きて探す。それが一番大事な事だよ」

 

 

 そしたらいつか見つかる筈だ。

 自分がどう生きたいのかフララは選べる筈だ。

 

 

「ラースは、どうしたいの?」

「僕?んー、そうだなぁ」

 

 

 夢、というわけではないけど、どう生きたいかと言うのは決まってる。ちょっぴり照れ臭いけど、ありきたりな答えをフララに語った。

 

 

「––––幸せになりたい」

 

 

 僕は多分、その為に生きてる。

 

 

「いつかガジのパン屋を継いで、誰かと結婚して、子供を作って、英雄譚を読んだりお客さんと話したり、僕らみたいな身寄りのない子供を助けたりして、幸せな毎日を生きられたらって思ってる」

 

 

 そして、そうなりたいから今を生きてる。

 夢というほど巨大で、いつか成し遂げてやると思えるような事ではない。けど、ありきたりでもそんな日々を過ごせたらって思ってる。

 

 

「いい夢、だね」

「だろ?あっ、そうだ。子供が生まれた時の名付け親はフララに決めた!」

「えっ!?わ、私名前なんて……」

「いいからいいから、はいあと10秒!」

「うえぇ!?え、えっと……」

 

 

 あっ、ちょっと無茶振りが過ぎたかも。

 頭を悩ませて湯気が出ているように見える。やっぱ無しと言おうとしたその時、彼女は閃いたように顔をあげ、僕に告げた。

 

 

 

「ノーグ」

 

 

 

 その名前に僕は目を見開いた。

 

 

「意味は?」

「楽園って意味」

 

 

 その言葉の意味にとてもしっくり来た。

 僕が生きる未来の子供が楽園の世界であればいい。そんな意味ならとても素敵だ。ノーグ、ノーグかぁ……男の子なら多分その名前を採用しよう。

 

 

「決まりっ!」

「えっ、ちょ!そ、そんな簡単に!?」

「いやフララの時も簡単に決めたし、あとは直感を信じる!」

「ま、待ってってば!?ラース!」

 

 

 夕陽が沈むオラリオの地で、僕らははしゃぎながら帰る場所へと走っていく。僕は幸せになりたいと言った。けど、ガジもいてフララもいて、帰る場所がある今も充分幸せだ。

 

 

 そう、僕はこんな幸せな世界にずっといたかったのだ。

 

 






 次回、イッチの過去最終回。
 
 ★★★★★
 良かったら感想・評価お願いします。モチベが上がります。後半も多分文量一万字なので明日の投稿はありません。待っててね。


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■■■が生まれた日

 
 疲れた。明日は休ませて


 

 

 英雄の道を選ぶ事はない。

 フララはラースを見てそう思った。幸せになりたいと願う彼の意志を何処までも尊重した。

 

 フララ、いや大精霊ヴィルデアには意志がある。遥か昔、自分を生み出した生みの親、神々の使命を護り続け、英雄を救う大精霊として世界に在り続けた。

 

 今は力を失い、体も縮み、どこまでも弱くなった少女に過ぎない。いつか力が戻ったら英雄達を助けなければいけない。終わらない使命を果たす為にラース達から離れなければならない時は来る。

 

 

 けど……それでも初めて思った。

 

 

「(離れたくない……)」

 

 

 まだ力が戻らないで欲しい、とフララは自分に願い続けた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「起きたかクソガキ」

「おはよ、ガジ」

「おはようございますガジさん」

「おう、フララもおはよう」

「おいコラ僕との扱いの差」

「お前はこんなもんでいいだろクソガキ」

「締め落とす」

 

 

 当たり前のように喧嘩が始まり、ラースが負ける。

 大人と子供の差。ジャンプして首に巻き付いて締め落とそうするが、頭に乗ったラースをガジはヒョイッと掴み、適当に放り投げる。

 

 

「ちぇっ」

「オラ支度しろ。呼び込んでこい」

「朝飯なに?」

「そこの失敗作齧ってろ」

 

 

 商品として出せない失敗作のパンを掴み、フララと分けて食べながら着替えにいく。これがいつもの日常、昼休みは朝より少し豪華でその為に仕事は頑張る。そして店が終わったら掃除と明日の為のパン生地を作り、風呂に入って飯を食べて寝るのがいつもの日常。

 

 

「んじゃ、開店!」

「お、おはようございます!」

 

 

 勢いよく扉を開くと待っていた客がパン屋に入り込む。会計をしながら、盗難されないように見張りをするのも二人の役割だ。ガジはパンを焼き続けて、終わったら次の種類のパンを焼く。

 

 ガジのパン屋は近所では人気だ。

 結構常連をよく見かけ、見かけない顔より憶えている人の方が多い程に客足が多い。

 

 

「フララ、悪いけど会計お願い!」

「あっ、うん!」

 

 

 ガジに呼ばれ、焼き上がったパンを持ち、トレーに入れていく。数と種類は結構多く、いつも入れるのに時間がかかる。まだ七歳で手伝いとはいえ働いているラースを常連の客も良く可愛がる。

 

 パンを入れながら話し相手になったりと色々と忙しい。トレーにパンを入れ終え、接客を再開する。

 

 

「……ん?」

 

 

 ラースが戻ると、フララが誰かに囲まれていた。

 

 

「面白いと思わないヴェナ?」

「ええ、とても面白いわね姉様?」

「や、やめて……!」

 

 

 厭らしい手付きをしてフララに触る二人のエルフ。手付きが艶かしく、振り解こうと必死の顔をしている。ため息を吐きながらエルフの腕を掴み、フララを抱き寄せる。

 

 

「やめろお客様。フララに触れんな」

「ら、ラース」

 

 

 ()()()()()()()()()

 嫌悪感か、致命的に合わなかったのか。これは恐怖とも言える震え。何を感じ取ったのか、恐怖に震えたフララはラースの胸に顔を埋める。

 

 

「あら、私達は客よ?お客様には相応の態度を取ると思うのだけど?」

「ウチの従業員の嫌がることをする奴を客とは認めないよ。つーか、嫌がってるのに触れようとするな」

「ねえねえ、貴方はその子の契約者?」

 

 

 一瞬瞠目、そして二人を睨む。

 フララが精霊だという事を悟られている。エルフだから気付く事が出来たのかもしれないが、これ以上この話題は広げるべきではない。

 

 

「帰れ。冒険者呼ぶぞ」

「あら、振られちゃった。まあいいわ帰るわよヴェナ」

「仕方ないわね姉様。機会なんて幾らでもあるのだし」

 

 

 不吉な事を言い残し、二人のエルフは店から出て行った。黒妖精、白妖精と珍しい存在がこんな所に来たと内心愚痴りながらもフララを抱えたまま一度部屋まで運ぶ。

 

 

「ありがとう…ラース」

「いい、気にすんな。落ち着くまでそこにいていいから」

 

 

 ラースは接客に戻る。

 取り残された部屋で、まだフララの手は震えていた。あの時、二人のエルフに触れられた時だった。ソレを感じ取ったのは……

 

 

「(仲間の…血の匂いがした……)」

 

 

 精霊を弄んだような匂い。

 人だろうとモンスターだろうと快楽のままに貪る獣。精霊だからか、あの二人から感じたのはソレだった。震えた身体を掴み、フララは恐怖に震えていた。   

 

 

 ★★★★★

 

 

「ふー、終わった」

「フララはまだ部屋か?」

「うん。どうにもベタベタ触られたからとりあえず部屋に」

「誰に」

「白黒エルフ。どっちも女だけど」

「そうか……。飯作ってる間に風呂入れ。もう沸いてる」

 

 

 あの二人のエルフに触れられて怯えていた。

 しかもあの二人組はフララが精霊である事に気付いた。何もなければいいのだが、問題はフララの精神的な問題だ。部屋を開けると、フララはベッドの上で体育座りをしていた。

 

 

「フララ、大丈夫?」

「ラース……」

「風呂、入れるか?」

「うん……」  

 

 

 衣服を脱ぎ、浴槽に二人入る。

 言葉を発せずに俯き続けるフララにラースは疑問に思い、何が怖かったのか問う。この怯え方は尋常ではない。

 

 

「どうしたんだ?あの二人組そんな怖かったか?」

「うん……」

「なら次来た時は部屋に戻っていい。だから大丈夫」

 

 

 あのエルフは何か怖いというフララの感性は恐らく間違っていない。あの時、ラースは腕を掴んだのに白妖精(ホワイトエルフ)はそれを嫌がっていなかった。エルフは接触を拒む。大抵はその筈だ。なのにその事を気にも留めなかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それにフララは本能で怯えていたのかもしれない。

 

 

「大丈夫、此処にいていいよ。僕が守ってあげるから」

 

 

 フララの頭に手を乗せ、落ち着かせる。

 あの二人組がどんな存在かは分からない。けど店に来たらフララを遠ざけるくらいは出来る。ラースの手に触れてフララは涙を流す。

 

 

「え、フララ?」

「もう少しだけ……このまま」

 

 

 フララが頭に乗せた手を頬に寄せる。

 冷たい手で自分の頬にラースの手を寄せてその温かさに浸る。それが何よりもフララにとって幸福だった。

 

 手を振り解こうともせずにラースは安心するまで頬に手を添え続けた。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 寂れて床が脆くなり泥の地面へと足を突っ込んだ二人を救出したフィンは一度外に出る事を提案したのだが、今度は床全体が抜け、フィンまで泥の地面に足を突っ込むことになったのだ。

 

 いつも余裕めいた表情をするフィンから笑顔が消え、二人の巻き添えを食らった事に腹立たしく思いながら三人は一度店の外へ出た。

 

 

「ようやく抜けたわい」

「クソッ、私まで抜けるとは思わなかった」

「あはは、二人が重過ぎて床が耐え切れないとはね」

「凍らされたいか?」

「御免被るね。それよりノーグを」

 

 

 子供であるノーグと小人族であるフィンくらいなら床はまだ耐えられるので、二人を残しフィンは店の奥に向かおうとすると隣を風が通り過ぎた。

 

 

「えっ――」

「ノーグ!?」

「何処に行く気じゃ!?」

 

 

 走るノーグの姿が見えた。

 顔を伏せ、必死の形相をしながら店から駆け出すノーグに三人は驚きながらも背中を追いかける。

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

 混乱しながらも走り続け、そして立ち尽くす。

 思い出したのはラースという少年の記憶。それは転生前であった自分の記憶だった。思い出せた筈なのに謎が更に深まった。

 

 

「(そうだ……俺はあの時)」

 

 

 胸を押さえて走り続ける。

 思い出した全ては本当の意味で全てではない。ラースという少年時代の記憶は取り戻せた。それはいい、だがそれだけだった。

 

 問題はラースの記憶のその後の話だった。

 動揺、混乱、そしてあり得ない事実に気が付いた。

 

 それはあの日……

 

 

 

 

「(胸を貫かれて――死んだ筈)」

 

 

 

 

 ラースという少年は――()()()()()()()()()

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 それはあの二人のエルフが来てから一週間後の事だった。

 風呂に上がり、服一枚であとは寝るだけの状態だった。新しい英雄譚を読みたいから先に入らせてもらったのだ。フララを呼ぼうとしたその時、店の中で煩いほどに物音がした。何事かと思い、顔を出そうとすると次の瞬間――

 

 

「いやああああああああああああっ!!!」

「っ!?」

 

 

 フララの絶叫が店内に響いた。

 異常事態に厨房から包丁とフライパンを手にし、カウンターから何が起きたのかを凝視する。

 

 

「っ」

 

 

 そこに居たのは二人の大人。

 一人がフララの髪を掴み、抑えつけている。そしてもう一人は抜き身の剣を持ち、横たわっているガジに振り下ろそうとする瞬間だった。

 

 ザクリと肉を貫く音が聞こえた。

 フララの泣き叫ぶ声が聞こえた。

 

 ピシリと、何かが壊れる音が聞こえた。

 それは激しい憎悪と、激しい怒り。理性で叫びを噛み殺し、音を消しながらガジを殺した男の背後に回る。

 

 頭の中はぐちゃぐちゃなのに、どうしたら殺せるのかだけは理解出来ていた。持っていたフライパンを別の方向に投げ捨てる。

 

 

「あ"っ? んだ物音――」

「死ね」

 

 

 飛びついて、首にしがみ付いた自分の包丁が一人の喉元を切り裂いた。首を締め付けながら、包丁で何度も喉元を突き刺す。神に恩恵を授かっていようが、刃物を無効化できるわけではない。不意をつかれた男の喉元が切り裂かれ、流れる血で呼吸が出来ずに地に落ちる。

 

 

「あっ、がっ……ごぶっ……!」

「はっ?」

 

 

 耐え難い肉を斬る感触に吐き気を抑え込みながらもフララの髪を掴む人間へと襲いかかる。片や恩恵無しの子供、片や恩恵持ちの大人。力の差は歴然。走るラースに対して、もう一人の男はフララを一度放し、腰に据えたナイフを抜く。

 

 

「テメッ、糞餓鬼ぃ!?」

「っ【閉ざせ幻雪の箱庭】!」

 

 

 ラースに振り下ろされる凶刃。

 男が持つナイフが子供の脳天に突き刺さった――筈なのに感触が無い。それどころか突き刺したナイフは()()()()()()()()

 

 

「幻像……!?」

 

 

 ザシュッ、という音と共に男の喉元に突き刺さる。

 

 

「ごぶっ…!?」

 

 

 生々しい血の温度、人を斬る感触。

 どれも吐き気しかしない感覚の中、殺意だけがラースを動かしていた。ガジが倒れ、血を流して命を奪われた。その事実に怒りは突き抜けて今まで培った知識でどうしたら殺せるかしか考えられないほどに明るい子供の笑顔はドス黒い殺意に支配されていた。

 

 

「が……じ、し、に"だぐっ」

「死ね」

 

 

 倒れ伏した男の首に包丁を振り下ろした。

 そして男はピクリとも動かなくなった。それを確認すると、ラースはガジに視線を向けた。

 

 

「ハァ……ハァ……っ、うぷっ」

「ラース!」

「……フ、ララ」

 

 

 あの時、フララの魔法が無ければきっとラースは死んでいた。幻像に身を隠し、背景と同化する事で姿を消す雪化粧。そのおかげで狙う位置がズレた。大精霊ヴィルデアを狙う理由としては充分過ぎる強さだ。

 

 

「ごめんなさい…!私が、私がやらないといけなかったのに!!」

「ガジ、は?君の力で治せる?」

「っ」

 

 

 フララは顔を俯かせた。

 それが答えだった。ガジは死んだ。余りに唐突な別れに混乱し、叫びたくなりそうだが、二人を殺したラースの精神は疲れ、思ったよりも冷静だった。

 

 

「そりゃ、そうだよね……心臓を貫かれたら生きてる人なんていない」

「ラース……」

「分かってる、分かってるつもりなのに……」

 

 

 ポタリと、何かが落ちる音が聞こえた。

 気が付けば目の前が潤んで見えにくくなった。冷静なんかじゃなかった、冷静になり切れるわけがなかった。冷静になれればよかったのに、悲しさも押し殺せればよかったのに……抑えきれなかった感情が決壊する。

 

 

 

「涙、止まんない……」

 

 

 

 もう、自分を育てたもう一人の親は居ない。

 パンを焼いて、自分をこき使って、褒めるときは不器用な手で撫でてくれたあの手はもう冷たくなっていた。

 

 命の喪失を嘆いても、きっと何もならない。

 けど、それでも溢れてくるものを止める術を今は知らなかった。

 

 

「……逃げよう。フララ」

「で、でも私のせいで狙われ」

「失うくらいなら一緒に死んだ方がマシだ」

 

 

 本当はガジから離れたくなかった。

 物言わぬ骸になっても、それでも此処に居たいとラースは心の中で思っていた。それでも連中は間違いなくフララを狙っていた。だから此処から離れなければ、また狙われる。

 

 

「ガジだって…そう言った筈だよ」

「!」

 

 

 フララを守る為に命を散らした。

 その意志を継がなければきっと後悔する。ラースは男からナイフだけを拝借し、外へと逃げていく。靴も服も、金も何も持たずにただ遠くに――

 

 

 ★★★★★

 

 

 逃げた。逃げ続けた。

 悪意から逃げ続けた。フララを連れて、遠くに逃げ続けた。それでも子供の足、ましてや恩恵を持たない人間には限度があった。

 

 逃げ切れなかった悪意が目の前に広がった。

 逃げ場を探そうとするが、その逃げ道も封鎖された。

 

 

「(囲まれた……!)」

 

 

 フララを狙う闇派閥の下っ端。

 懸賞金をかけてフララを狙う下卑た笑みを浮かべた下衆の存在に殺したいほどに苛立つが、そんな事をした所で状況が良くなるわけではない。前にも後ろにも武器を持った人間。逃げられない。

 

 

「ラース、私がやる」

「フララ…?」

 

 

 そんな中、フララがラースの前に出た。

 後ろにも前にも敵が居る中、フララは両手を前後に広げた。

 

 

「【空を閉ざす曇天、大地凍てつく王の吹雪】」

 

 

 溢れ出す莫大な魔力。

 漏れ出す冷気に恩恵を持たないラースでも分かる程の痺れるような荒れ狂う力。いつものフララからは想像も付かない程の存在感が今のフララにはあった。

 

 

「【我に従い疾く激しく駈けよ】」

 

 

 そしてフララの詠唱は完成した。

 両手に展開された二つの魔法円(マジックサークル)にとてつもない力が込められ、それと同時に襲いかかる敵の死を悟った。

 

 

「【アイス・ブランド】」

 

 

 氷の砲撃。眩い藍色の閃光が駆けた。

 思わず目を瞑り、そして開けた時には全てが凍りついていた。

 

 時さえも凍り付かせる大精霊ヴィルデアの厳冬が敵全てを凍て付かせ、全てを粉砕した。圧倒的過ぎた。

 

 

「嘘、だろ」

 

 

 フララの正体は知っていた。

 だが、大精霊ヴィルデアとは此処まで規格外の存在だとはラースでさえ思っていなかった。ヴィルデアは冬を運ぶと言われた氷の大精霊。逆説的に言えば冬の脅威そのものを意のままに操れる。

 

 

「ラース、行こ――」

 

 

 ザクリ、と音が響いた。

 フララから唖然とした声が出た。

 

 

「えっ?」

 

 

 ()()()()()()()()

 今日初めて聞いた人生で一番不快な音が再び耳に届いた。そしてそれが聞こえた時にはもう遅かった。その音の発生源は――

 

 

「ごっ…ぶ……!?」

 

 

 背中を貫かれたラースからだった。

 視界が揺れる。力が入らずに崩れ落ちる身体、血溜まりに沈む意識。

 

 

「ラース!!!」

 

 

 最後に見えた光景。

 必死の形相で手を伸ばすフララと、赤い外套を被った白い妖精の嗤う顔。意識を保つ事も出来ず、小さな身体は地面へと落ちていく。そしてラースの記憶は此処で途絶えた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「(俺はあの時、背中を貫かれて死んだ)」

 

 

 あの白妖精に貫かれてラースは死んだ。

 あの妖精共は『火精霊の護符(サラマンダー・ウール)』を二重に被ってフララの攻撃を躱していた。極寒の中でも暖かさを保ち、精霊の攻撃に反発する。属性が違えど二重に被れば躱す事は出来るだろう。

 

 否、それは割とどうでもいい。

 

 ではこの肉体は?貫かれた跡はない。だが、記憶のラースは間違いなく死んだ。貫かれて死亡している。ノーグである自分は転生者だと理解してる、憑依ならまだ分かる。だが、死者蘇生はあり得ない。カードゲームのように死からの復活などあり得ない。仮に魂があったとして死んだ肉体に入れば蘇るなんてあり得る筈がない。

 

 

「どうしたんじゃノーグ」

「何が書いてあったんだ、その日記に」

 

 

 混乱の中、一つの仮説を思い付く。

 荒唐無稽、その考えに至るだけで不敬な話かもしれないが、それしか筋が通らない。

 

 

「リヴェリア」

「なんだ?」

「精霊は人を甦らせるだけの奇跡を起こせるのか?」

「それは不可能だ。傷を癒すならまだしも、失った命は回帰させる事は出来ない」

 

 

 そんな事が出来たなら誰もが精霊を捕らえようとする。精霊が絶滅するほどの乱獲なんてあり得る話だろう。そんな話は出てこないし、ハイエルフであるリヴェリアは精霊に詳しい。そのリヴェリアが不可能と言っていた。

 

 

「なら、()()()()()()()()()()使()()()()?」

「はっ?」

「精霊が自分自身さえ維持出来ない程の莫大な力を死んだ人間に与えれば、人は甦らせられるのか?」

 

 

 ハイエルフからしたら不敬な話だろう。

 だが、それでもやはりこの仮説でしか通らないのだ。精霊が生きたまま奇跡を起こした所で不可能なら、精霊が命をかけて奇跡を行使したならどうなるのか。

 

 

「……精霊にもよるが、可能性はあるかもしれない」

 

 

 目を見開き、リヴェリアに振り向く。

 

 

「精霊とは神々が創り出した代行者だ。その超常の力は血を与えるだけで精霊の魔法すら使わせる事も出来ると聞いた事がある。そんな精霊が存在そのものを代価に奇跡を起こすならそれは」

「不可能ではないかもしれない……か」

 

 

 その仮説が本当であるならば、筋だけは通る。

 ノーグが生きていて、フララが消えた理由も全部納得が出来てしまう。それと同時に成長率の高さも理解出来てしまう。

 

 もしもフララの存在が自分の中に溶け合っているなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。一人分の恩恵ではなく、フララも含めて二人分の経験値を得ている。肉体は一つしかないから流石に二倍とはいかないが、上がりやすい経験値、限界を超えたステイタス。それらにも説明が付く。

 

 

「(だったら……分かるはずだ)」

 

 

 ノーグは間違いなく、精霊の力を持っている。

 それもフララ、大精霊ヴィルデアの力を行使できる。出力の桁が違うのも納得出来る。ノーグは大精霊ヴィルデアではないが、精霊の末端であれど力を持っている。

 

 そして、溶け合ったのならフララの記憶を抽出出来るはずだ。だが、自力では流石に無理だ。

 

 

「クソッ、仕方ない……あまり頼りたくはないが」

「おい、何処に行く気だ?」

 

 

 ため息を吐きながら足を進め、行きたくない行先を口にした。

 

 

「美の女神に会ってくる」

 

 

 ★★★★★

 

 

「それで私のところに来たわけ?」

「まあ、その為にまさか殺し合いになるとは思わなかったけど」

 

 

 まさか戦士達に攻撃されるとは思わなかった。ミア団長が来なければ第二段階を使わざるを得なかった。アポ無しでファミリアのホームに訪れたからといって此処まで過剰なのは気になったが。

 

 

「つか坊主はウチの主神に何の用なんだい?只事ではないんだろ?」

「まあそうですね。用件というか、お願いですかね」

 

 

 目の前の女神、美の女神フレイヤにお願いを口にした。

 

 

「ちょっと全力で魅了してもらえますか?」

「坊主、頭がおかしくなったか?」

「ちょっと全力で魅了してもらえますか?」

「誰が二回言えといったアホンダラ」

 

 

 ミアは呆れながら紅茶とクッキーを出す。

 美の女神フレイヤの魅了はこの世界屈指の反則(チート)。全てが茶番に成り下がるそれを行使すれば誰も抗えない。それを自分にかけてほしいとお願いするノーグを、被虐素質(マゾヒスト)でもあるのではとミアは変な目で見ていた。

 

 

「へぇ……私が貴方を魅了ねぇ」

「イシュタルよりは貴女の方が確実だと思ったんで。あっ、クッキー美味い」

「でもどうして?」

「魂の扱いに関して、一番詳しいのは貴女だとゼウスから聞いたので」

 

 

 それを聞いたらヘラが激怒しかねない為、此処だけの話だがゼウスはフレイヤの力を買っている。それこそ世界の為に必要だとヘラに進言するくらいだ。まあ結果的にヘラの逆鱗に触れて実力行使でオラリオに縛り付けたのだが。

 

 

「あの狒々爺がねぇ。まあ私自身も貴方に興味があったもの、貸し一つでそのお願い聞いてあげる」

「貸し一つの中にファミリアの改宗は無しだよ?」

「それくらい分かっているわ?貴方がそれに耐えられたらね」

 

 

 美の女神が目の前に立ち、顎に触れる。

 

 

「――――平伏しなさい」

 

 

 魂を揺さぶる声が聞こえた。

 声が、息が、耳が、目が、その幸福感に満ちて全てを捧げたいという衝動に駆られた。だが、ノーグはその感覚に陥ったまま意識を自分自身に向ける。魂が揺さぶられたその感覚から、自分自身の魂を感知する。

 

 ノーグに魅了は効かない。

 神威の拒絶は魅了を含んでいる。だが、それでも揺れ動く魂があるとするならそれはノーグの魂ではなく、別の魂である筈だ。

 

 視界が暗転する。

 その魂を感知し、意識を向けるとノーグの意識は魂の中へと引き摺り込まれた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「ラース!!!」

 

 

 ラースを貫く一振りの剣。

 背中から腹にかけて風穴が開き、それに激昂したフララが叫んだ。

 

 

「【氷よ(コキュートス)】!!!」

 

 

 氷の付与魔法、触れたものを全て凍て付かせる。『火精霊の護符(サラマンダー・ウール)』を剥がし、ラースを貫いた白妖精を凍らせようとしたその時、魔力が上から感じ取れた。

 

 

「【ディアルヴ・ディース】!」

 

 

 天から灼熱の炎が降り注ぐ。

 ラースを抱え、降り注ぐ炎を避けると同時に白妖精を逃した。

 

 

「ラース!ラース!!」

 

 

 傷口を凍らせて延命しようが、貫かれた場所が悪過ぎた。間違いなく臓器を貫かれている。死へと近づくラースにフララは泣き叫びながら抱え続ける。

 

 

「あはは!気に入ってもらったかしら私達の贈り物(プレゼント)は!」

「とってもとっても悲しいわ!大事な人を失ってしまったもの」

「「でも、それは貴女のせい」」 

 

 

 何かが切れる音が聞こえた。

 力を失えば自分が消えてしまうかもしれない。その恐怖心に怯えて、力は最低限しか使ってこなかった。

 

 後悔も絶望も噛み締めた、そして自分を憎むと同時にこんな惨状を招いた二人の妖魔を睨み付けた。

 

 

「貴女が私達の所に来れば店主も、その子も生きてたかもしれない」

「でも貴女はそれをしなかった。幸せを手放せなくてその結果はこうなった」

「「選んだのなら、当然の末路でしょう?」」

 

 

 あの時、確かにあの二人は忠告していた。

 そのお店から離れなければ店主達を殺す、と確かに脅迫していた。でもラースは此処にいていいと言ってくれた。それが嬉しくて、力を使ってでも二人を守ろうとしていた。自惚れた結果なら当然の末路なのかもしれない。

 

 

「【閉ざせ幻雪の箱庭】」

 

 

 ラースを抱え、雪化粧で姿を覆い隠す。

 当然の末路を引き起こした奴等を許さない。恐怖はなかった、そこにあったのは怒りだった。

 

 

 

「貴女達はいずれ殺す。震えて待ってろ――妖魔」

 

 

 

 腕を振るう。それだけで荒れ狂う大寒波が二人を襲う。『火精霊の護符(サラマンダー・ウール)』を持つ二人には大して効果はないが、牽制程度には充分すぎる一振りだった。

 

 

「あら、逃げられちゃったわヴェナ」

「逃げられちゃったね姉様。しかも騒ぎ始めた」

「仕方ないわね、帰るわ」

「そうね」

 

 

 精霊を捕らえて力を抽出する精霊兵の実験にヴィルデアほど有用な存在はいない。氷の大出力、そして幻像の雪化粧、彼女がいるだけで闇派閥のバランスが傾くと言っても過言ではなかったのだが、功を急ぎ過ぎたようだ。

 

 異変を駆けつけたマキシムが到着した時には、血溜まりがあるだけで誰の姿も確認出来なかった。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 

「……ラース」

 

 

 ラースの身体は冷たくなっていた。

 魂が離れている。精霊であるが故に理解出来る。ラースはもう死んでいる。それはもう覆らない事実だ。

 

 

「死なせない……」

 

 

 だが、フララは諦めたくなかった。

 喪った事を認めたくなかった。大事な人だったからこそ、フララは逃れられようのない死を否定した。

 

 

「…どうか繋いで……ラース!!」

 

 

 大精霊ヴィルデアの全ての権能の行使。

 この身体は神々によって生み出された神の力で構成された神秘の結晶、ならそれを代価にラースの肉体を修復、そして魂そのものを呼び戻す。

 

 普通はあり得ない。不可能だ。

 だが、大精霊ヴィルデアは冬を運ぶ最高位の精霊、内包された力だけなら他の精霊とは比べ物にならない。手を翳し、一か八かの賭けを始めた。

 

 

「くぅ……うう……!!」

 

 

 消える、自分が消えていく、魂が消えていく。

 存在が、記憶が、思い出が、力の全てが消えていく。想像を絶する苦しみの中、フララはそれでも投げ出さなかった。

 

 

「ごめんね……私のせいで、辛い思いをさせて」

 

 

 腕が消えていくと同時にラースの身体の中は元に戻っていた。全てを使い果たせば自我も思い出も、存在すら消えて、きっと魂の転生すら出来ないだろう。だが、それでも迷いはなかった。

 

 

「絶対に、幸せになってね」

 

 

 脚が消えていく、身体が徐々に消えていく。

 それでもヴィルデアは力を使い続けた。遠く離れた魂と繋がった感覚があった。あとは呼び戻せば、帰って来られる筈だ。

 

 

 

 

「ずっとずっと、大好きだよ……愛してるラース」

   

 

 

 

 唇が重なる。これがきっと最後。

 二度と会えなくなったとしてもきっとラースの中で生き続ける。もう会話も出来ない、もう一緒に英雄譚を読めない、もう一緒に居られなかったとしても、英雄の為ではなく、たった一人の大切な人にフララは未来を託し、消えていった。

 

 

 ★★★★★★

 

 

「……ここ、は?」

 

 

 見知らぬ少年が目を覚ました。

 キョロキョロと辺りを見渡しながら現状を確認する。

 

 

「あれ、此処はなんだ?うわっ、血がついてるし服一枚じゃん」

 

 

 血に濡れた服、見慣れぬ場所。

 だが、何があったかの記憶は何もない。

 

 

「えっと……なんだ?憑依ものなら記憶残しとけよ」

 

 

 必死に、せめて名前だけを思い出そうと頭を回す。だが全然思い出せない。知識はあっても自分が誰だったのかは思い出せない。

 

 

「名前は確か……」

 

 

 ふと、夕焼けの街の光景が浮かび、知らない女の子が言った名前が頭を過ぎる。不思議と違和感なくその名前を口にした。

 

 

()()()

 

 

 不思議とその名前がしっくり来ていた。

 だから違和感がなく、それが自分の名前だと錯覚し続けた。

 

 

「俺の名前はノーグ」

 

 

 そして、ノーグという子供は生まれた。

 ラースの肉体、フララの存在代価の蘇生、呼び戻した魂はラースの魂ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()。外世界の魂をラースの身体に引き寄せ、この日異分子(イレギュラー)は生まれたのだ。

 

 

 ★★★★★

 

 

「……ふんっ!!」

 

 

 意識が戻ると、魅了の効果そのものを拒絶し、魅了の状態を解除する。フレイヤもミアも自らの意思で魅了を解除したのを見て目を見開いていた。魅了に唯一抗える男が目の前にいるのだから。

 

 

「ありがとう……用は済んだ」

「魅了を自力で、自分の意志で弾くなんて」

 

 

 神威の拒絶。 

 それは恐らくこの世界を作り上げた世界の魂だからというのがあるのだろう。つまり創作物の魂に抗う力が存在する。めっちゃメタな話だが。転生した時に副次的結果として『天啓』という形で外世界と繋がっている。この世界の魂ではないというのが原因で魅了が躱せるとは斜め下を行っている。

 

 

「貴女の眼には何が映っている?」

 

 

 フレイヤは目を凝らす。

 魂を見るフレイヤの眼に映っていたのは黒い魂を包んだ藍色の炎。それはとても綺麗で、ある意味芸術的にも思えるほどに美しかった。

 

 今まで遠くからでは見えなかったけど、此処まで近くで見ると今まで見た事のない魂とその在り方が本当に面白い。

 

 

「ノーグ、私のファミリアに入らない?」

 

 

 欲しい、そう思った。

 だが、ノーグは首を横に振った。美の女神がどれだけ魅了してもノーグは振り向かないだろう。

 

 

「お誘いは嬉しいが断るよ」

 

 

 誰よりも歪で、奇跡が生み出した一人の少年の魂は揺さぶれない。

 

 

 

「俺にもまた――家族が出来たんでね」

 

 

 全てを知ったノーグが変わることはない。 

 ラースという少年の記憶を取り戻し、フララという大精霊ヴィルデアの奇跡によって生かされ、そしてこの世界に転生した。

 

 その真実を知ったところでノーグが変わる訳ではない。ただ、一つ変わることがあるとするなら……

 

 

 

「幸せにならねえとな……フララ」

 

 

 

 その約束は違えない。

 生きていくだけでは足りない。転生してよかったと、思えるくらいに幸せになって生きていきたい。家族も、命も、何も手放さない強さが欲しいと思えた。

 

 いつか幸せになるその時まで、ノーグは見知らぬ世界を生きていく。

 

 

 

 

 





 ※別に最終回ではありません。


 ★★★★★
 良かったら感想、評価お願いします。モチベが上がります。一万二千字は疲れたので明日は休ませてください。


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十一スレ目

毎日投稿がキツくなってきたのですみませんがペースは落ちます。一週間に二回以上は出します。身体壊しかねないのと課題も多いので。


 

 

1:道化所属

たすけて 

 

 

2:名無しの冒険者

スレ立てて唐突にSOS

 

 

3:名無しの冒険者

最初からクライマックスかよ

 

 

4:名無しの冒険者

エンターテイメントしやがる

 

 

5:名無しの冒険者

で、どしたのイッチ?

 

 

6:名無しの冒険者

お兄さん達が解決策を教えたるわ

 

 

7:道化所属

やせいのじょていたちにかこまれてる

 

 

8:名無しの冒険者

 

 

9:名無しの冒険者

 

 

10:名無しの冒険者

 

 

11:名無しの冒険者

地獄か?

 

 

12:名無しの冒険者

イッチ終了のお知らせ

 

 

13:名無しの冒険者

すまん、前言撤回するわ

 

 

14:名無しの冒険者

逃げ場など、なかった

 

 

15:名無しの冒険者

【悲報】ガチで最初からクライマックスだった

 

 

16:名無しの冒険者

つかどしたらそんな状況になんだよ

 

 

17:名無しの冒険者

ハーレムか?おん?

 

 

18:道化所属

アレは忘れもしない数時間前、拙僧がダンジョンに向かおうとした時の事

 

 

19:名無しの冒険者

おっ、なんか始まったぞ

 

 

20:名無しの冒険者

リンボの真似かな?

 

 

21:名無しの冒険者

ンンンソンンンンンン

 

 

22:道化所属

アルフィアに襟掴まれてホームまで誘拐されたのでございます

 

 

23:名無しの冒険者

何で!?

 

 

24:名無しの冒険者

イッチなんか悪い事した?

 

 

25:道化所属

そして道中で首が締まって意識を持ってかれたのでございます

 

 

26:名無しの冒険者

死にかけてんじゃねーかww

 

 

27:名無しの冒険者

なんかアルフィアは理由話さなかったん?

 

 

28:道化所属

言ってたかもしれないがその前に意識堕ちてたのです

 

 

29:名無しの冒険者

イッチはなんかそうなる心当たりはあるんやろ?(確信)

 

 

30:名無しの冒険者

最近フレイヤと会ったんやろ?

 

 

31:名無しの冒険者

マゾヒストよろしく「俺を魅了して!」って言ったんやろ?

 

 

32:名無しの冒険者

自業自得じゃね?

 

 

33:道化所属

それが原因じゃない。つか会う事くらいでアルフィアが動くと思うか?

 

 

34:名無しの冒険者

あっ、キャラ戻った

 

 

35:名無しの冒険者

つか好感度を上げる難易度高すぎるだろ

 

 

36:名無しの冒険者

マジそれな

 

 

37:名無しの冒険者

アルフィアはダンまち史上最強に難易度高い

 

 

38:名無しの冒険者

安価達成はまだまだ遠いな

 

 

39:道化所属

そして目が覚めたら何故かアルフィアに膝枕されてたわ

 

 

40:名無しの冒険者

待ておいコラ

 

 

41:名無しの冒険者

前言撤回、イッチ殺す

 

 

42:名無しの冒険者

処す

 

 

43:名無しの冒険者

有罪

 

 

44:名無しの冒険者

ぶっ殺してやる

 

 

45:道化所属

いや意識落ちてる事に気付かなくて死にかけだったらしいからお詫びという形らしくて……つかお前らが安価やれ言ったのにこの仕打ちは酷くね?

 

 

46:名無しの冒険者

それとこれとは話が別

 

 

47:名無しの冒険者

不幸を嗤い、幸せは潰し合う

 

 

48:名無しの冒険者

それがワイ達スレ民や!

 

 

49:道化所属

分かったお前ら外道だろ

 

 

50:名無しの冒険者

今更過ぎる

 

 

51:名無しの冒険者

外道ですが何か?

 

 

52:道化所属

無敵過ぎる。あれ……ワイの目の前に伝家の宝刀『スレ立て封じ』という刀が

 

 

53:名無しの冒険者

待てイッチコラ

 

 

54:名無しの冒険者

間違ってもそれ抜くんじゃねぇぞ?

 

 

55:名無しの冒険者

うん、ワイらが悪かったからマジで抜くなよ?

 

 

56:道化所属

それはフリかな?人間、抜くなって言われるほどに抜きたく

 

 

57:名無しの冒険者

ヤメテー!?

 

 

58:名無しの冒険者

らめえええええええええ!!!!

 

 

59:名無しの冒険者

外道?イッチの方がよっぽど外道だろ

 

 

60:名無しの冒険者

人の心はないんか?

 

 

61:道化所属

ああ、アイツら(スレ民)が持ってっちまったからな

 

 

62:名無しの冒険者

返すからヤメテ?

 

 

63:名無しの冒険者

ざけんなや スレが立てれん ドブカスが

 

 

64:名無しの冒険者

うんこクズに定評のある男

 

 

65:道化所属

うん、話戻していいか?

 

 

66:名無しの冒険者

あっ、はい

 

 

67:名無しの冒険者

蛇行し過ぎたわ

 

 

68:名無しの冒険者

肝心なとこ全然分からんままやったわ

 

 

69:道化所属

まあちょっと遡って話すけど、ワイはメーテリアの見舞いにたまに行ったりするんやよ。そん時に甘味の差し入れを持ってったりするんや、水羊羹とか饅頭とか

 

 

70:名無しの冒険者

オラリオに和菓子なんてあったのか?

 

 

71:道化所属

いやワイの手作り

 

 

72:名無しの冒険者

いやイッチ何を目指してんの

 

 

73:名無しの冒険者

ダンまち産女子より女子力高すぎる

 

 

74:名無しの冒険者

つかメーテリアのお見舞いってよくヘラが許可してるな

 

 

75:道化所属

>>72

いや前世の趣味が釣り、孤独のグルメ、手の込んだ料理だったから手作りで色んなもの作ってたんやよ。その名残りやな

>>74

許可……取ってないな

 

 

76:名無しの冒険者

いい人生送ってやがっ……えっ?

 

 

77:名無しの冒険者

許可取ってないで無断侵入?

 

 

78:道化所属

いや元々があの赤目サポーター頻繁に見舞い行くから偶に「見舞いに行こうぜ!」って言われて行く話やったんや。手ぶらもアレだから前日に和菓子作って差し入れとして持っていったんや

 

 

79:名無しの冒険者

えっ、赤目サポーター頻繁に出入りしてんの?

 

 

80:名無しの冒険者

どうやって許可なしにホーム入ってんの?

 

 

81:道化所属

女の子って……甘いものに弱いよね

 

 

82:名無しの冒険者

賄賂じゃねーかww

 

 

83:名無しの冒険者

買収してたんかいww

 

 

84:名無しの冒険者

それバレたら殺されるんじゃ

 

 

85:道化所属

赤目がワイに唯一勝っているものは何やと思う?

 

 

86:名無しの冒険者

逃げ足だな

 

 

87:名無しの冒険者

逃げ足しかねえな

 

 

88:名無しの冒険者

つまり、なすりつけられて逃げられたと

 

 

89:道化所属

ああいや、ワイは別に偶にしか行かないしアルフィアも信頼してくれてるから別に殺されたりはしなかったわ。サポーターは勘だけでアルフィアが入る時には逃げてるから殺されてはないわ。まあヘラも分かってて黙認しとる節はあるけど

 

 

90:名無しの冒険者

えっ、じゃあ何でやせいのじょていたちに囲まれてるの?

 

 

91:名無しの冒険者

振り出しに戻ったな

 

 

92:名無しの冒険者

黙認してるならなんで囲まれてんの?

 

 

93:道化所属

いやまあ差し入れの和菓子持ってったやん?タイミング悪くてメーテリアご飯食べたばっかだから後で食べるって事で冷蔵庫に入れといたんよ

 

 

94:名無しの冒険者

それで?

 

 

95:道化所属

それをアルフィアとヘラが食べたらしくて、メーテリアから竜の息吹が出る勢いで怒られたらしいんや。しかも二人に正座させて

 

 

96:名無しの冒険者

強過ぎる

 

 

97:名無しの冒険者

妹は強し

 

 

98:名無しの冒険者

最弱が最強を降してやがる

 

 

99:名無しの冒険者

メーテリア最強説が浮上したな

 

 

100:道化所属

で、極東くらいしか和菓子がないんよ。一応ヘラん所に侍ガールが居るんやけど、作り方知らないから実質知っとんのワイだけなんや

 

 

101:名無しの冒険者

つまり機嫌直しの為にイッチが引き摺り込まれたのか

 

 

102:名無しの冒険者

待てヘラやアルフィアは分かる。何でやせいのじょていたちまで?

 

 

103:名無しの冒険者

確かに

 

 

104:名無しの冒険者

つか、じょてい達って事は他に誰が居るんや?

 

 

105:道化所属

ヘラ、アルフィアの他だと五人。

しかも全員第一級冒険者(震え)

 

 

106:名無しの冒険者

うーん、ハーレムって素直に喜べるはずなのに全然変わりたいと思えない

 

 

107:名無しの冒険者

マジそれな

 

 

108:名無しの冒険者

命の危険と比べるまでもないわ

 

 

109:道化所属

女帝 笑ってやがる

副団長 苦笑

侍ガール 餡子の作り方知りてぇ

蛮族女 唇舐め回してる

メナ 暇だった

 

うん、蛮族女がヤバす。

めっちゃこっち見てるし女帝も女帝で笑ってるし、アルフィアの視線でワイが殺されそう

 

 

110:名無しの冒険者

うん、死ねよ

 

 

111:名無しの冒険者

ハーレムじゃねえか、死ね

 

 

112:名無しの冒険者

代わりたくないけどとりあえず死ね

 

 

113:名無しの冒険者

蛮族女ってアマゾネスか、死ね

 

 

114:道化所属

死にたくねえよ!!生きたいからスレ立ててるんや!!

 

 

115:名無しの冒険者

いやどうしようもない時ってあるで?

 

 

116:名無しの冒険者

今がその時や、諦めろ

 

 

117:名無しの冒険者

いい夢見ろよ。バイッ☆

 

 

118:名無しの冒険者

あばよイッチ

 

 

119:名無しの冒険者

お前の事は三日くらい忘れねえわ

 

 

120:道化所属

この状況の解決策!!強制安価!!

>>130

 

 

121:名無しの冒険者

いや無理くね?

 

 

122:名無しの冒険者

こんなやる気のでねえ安価は初めてだ

 

 

123:名無しの冒険者

諦めろ

 

 

124:名無しの冒険者

お前はもう逃げられない

 

 

125:名無しの冒険者

イッチどんまい

 

 

126:名無しの冒険者

メーテリア召喚

 

 

127:名無しの冒険者

サポーターを生贄

 

 

128:名無しの冒険者

いや無理だろ、囲まれてるし

 

 

129:名無しの冒険者

あっ!UFOと言って逃げ……神いるから無理か

 

 

130:名無しの冒険者

解決策なんて…なかった

 

 

131:名無しの冒険者

人生諦めも肝心やで

 

 

132:名無しの冒険者

あっ

 

 

133:名無しの冒険者

終わったな

 

 

134:名無しの冒険者

自力で頑張れイッチ

 

 

135:道化所属

くそがああああああああああああああああああああ!!!!

 

 

 

 ★★★★★

 

 

「……あっ、少年が目を覚ました」

「……っ?此処、どこ…っておおい!?」

「五月蝿い」

「あっ、悪い……つか俺はなんで膝枕されて」

 

 

 目が覚めると知らない天井、そして後頭部に伝わるほんのり温かく柔らかい感触に動揺し、起き上がると何故此処にいるのかの記憶が戻っていく。アルフィアに襟掴まれて首締まって気を失って……そこから思い出せない。

 

 

「つかなんで俺は締め落とされたの?」

「………」

「おい、こっち向けコラ」

 

 

 アルフィアが珍しく叱られる子供のようにそっぽ向いて視線を合わせない。睨むノーグを宥めるように副団長が苦笑しながらフォローに入る。

 

 

「まあまあ、許してあげな少年。かわりにアルフィアの膝枕で手を打ったんだし、役得と思えば」

「命の危険と全然釣り合ってないが?」

「あっ、うん……ですよねー」

 

 

 副団長も強く出られずに萎縮していく。

 今回ばかりはアルフィアの方に非が大きいせいか庇いきれないようだ。一歩間違えば死ぬくらいの強さで引き摺られてノーグも若干キレていた。

 

 

「それで、何の用?」

「……和菓子の作り方を教えてほしくてな」

「普通に頼めよ」

 

 

 何故引き摺る必要があったのか。 

 と、思ったのだが何故かヘラが涙目で俯いている。詳しい話を聞いた所、メーテリアに差し入れとして持ってきた和菓子をアルフィアとヘラが食べてしまったらしく、それはもう逆鱗を踏み付けた竜よりも怖い雷が降ったらしく、機嫌を直してほしいので同じ物を買おうとしたが、残念ながらオラリオに和菓子は無かった。

 

 怒って会話しないメーテリアに居た堪れなくなったアルフィアは、和菓子がノーグの手作りである事を知ってホームまで誘拐したらしい。気が動転していたのか、早く仲直りがしたかったのか、首根っこ掴みながら全力でホームに連れてきたのだ。何してんだと頭を抱えたくなった。

 

 

「あー、メーテリアの和菓子食べたのか」

「あれは本当に怖かった。死の危険を感じた程に」

「食い物の恨みは怖いからなぁ」

 

 

 頭の中でフララの甘味を食べた時の記憶が過ぎる。食い物の恨みは恐ろしい。メーテリアは特に外に出る事が極端に少ない。持病もあり身体も弱い為、外で食べ歩きが出来ない。甘味は唯一の楽しみだったのだろう。

 

 

「まあ、和菓子の作り方くらいなら教えるけど……」

 

 

 視線をアルフィアから別の方向に向ける。

 

 

「貴女達は何で?」

「面白そうだったから」

「えっと、アルフィアがやらかしたの見てたし」

「暇だった」

 

 

 女帝、副団長、メナはそれぞれ答えたが、副団長以外碌な答えが返ってこなかった。ダンジョン行けよと言いたかったが、流石にそんな勇気はない。アルフィア以外がLV.6以上の怪物の巣窟で命を捨てる覚悟はなかった。SAN値が若干ピンチだった。

 

 

「拙の故郷の餡子を作れるとは、是非とも拙にも伝授頂きたく」

「お、おう……」

 

 

 若干固い雰囲気はある女の侍剣士。真面目だと思っていたけど本音はこの人ただ餡子使った和菓子が食いたいだけだった。ため息を吐きながら、視線はアマゾネスのレシアに向く。

 

 

「アタシ?アタシは決まってんだろ?」

 

 

 腕を掴まれ、抱き寄せられる。

 咄嗟の事で反応が遅れ、体勢を崩しながら胸に顔を押し付けられる。

 

 

「むぐっ!?」

「アンタに興味があるからに決まってんだろ?」

 

 

 アマゾネスが使うような香水の匂いに若干クラクラとしそうになる中、この状況は不味いと思い、動こうとすれば卑猥な声を態とらしく口にするレシア。逃げるどころか胸に押し付ける力が増して抜け出せない。

 

 

「ちょっ、離……力強いなオイ!?」

「このまま子種奪って、ウチのファミリアに入れるのも」

「【福音(ゴスペル)】」

「へばっ!?」

「あっ」

「うおおおおおっ!?少年!?」

 

 

 アルフィアの魔法をモロに受けて吹っ飛ぶノーグ。レシアはいち早くノーグを捨てて離脱。魔法で吹き飛び壁に激突し、気を失ったノーグを見て、メナと副団長はダッシュで駆け寄る。女帝だけは笑っていた。

 

 

「あまり風紀を乱すことをするな」

「なーにアルフィア、まさかその子が好きとか?」

「寝言は寝て言え蛮族」

「じゃあ私が貰っても文句無――」

「【炸響(ルギオ)】」

 

 

 魔力の炸裂に腕を組み耐えるレシア。

 アルフィアは魔力を激らせ、互いに戦闘体制に入る。ヘラのホームという事を忘れ、二人の冒険者は殺気を飛ばしていた。

 

 

「此処で貴様を殺して次の階位に行くのも悪くない」

「やってみなクソガキ」

 

 

 合図があれば直ぐにでも戦闘を始めようとする二人。女帝もそろそろ止めようかと腰を上げようとしたその時だった。

 

 キィ、と扉が開く音が聞こえたのは。

 

 

 

 

 

 

「――――姉さん?」

 

 

 ビックゥゥ!!!とアルフィアの背筋が強張った。それは原始的な恐怖、才禍の怪物と呼ばれ、LV.6間近の女王でさえ抗えない刻みつけられたトラウマ。その声を聞いたヘラは震え続けていた。こればかりは完全にとばっちりである。

 

 

「何の騒ぎかな?ねぇ、姉さん?」

「い、いやなんでもない。なんでもないんだメーテリア」

「じゃあノーグさんが気を失ってるのと、この惨状はどう説明するの?」

 

 

 先程の魔力の炸裂に客間は見るも無惨な光景へと変わっていた。そしてノーグは頭を打って気を失っているところをメナが回復魔法で治している。原因は言うまでもない。アルフィアは視線を逸らし続けるが、その手は若干震えていた。視線をレシアに向けようとしたが、姿が見当たらない。窓だけが開いていた。

 

 

「(私を置いて逃げたなあの蛮族!?)」

「姉さん?ねぇ、こっちを向いて姉さん」

「め、メーテリア……」

 

 

 近づいてくる恐怖(メーテリア)

 それも笑顔なのが更に恐怖を煽る。笑っていた女帝でさえこの時は息を呑み冷や汗を流していた。

 

 

「――――少し、お話しましょうか」

「……………はい」

 

 

 アルフィアは全てを悟ったような顔で客間から離れていった。その後、【ヘラ・ファミリア】の教訓にメーテリアだけは怒らせてはいけないという項目が追加されたらしい。

 





ロキ「……なんかめっちゃ耐久上がっとる」

 因みに和菓子は侍ガールにレシピを渡した。
 ノーグがメーテリアに和菓子を作って事件は幕を閉じた。アルフィアは涙目だった。


 ★★★★★
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十二スレ目

 

 

400:名無しの冒険者

イッチー、そろそろ出ておいでー

 

 

401:名無しの冒険者

みんな待ってるよー

 

 

402:名無しの冒険者

定期報告マダァー?

 

 

403:名無しの冒険者

イッチ、前回の安価に失敗して死亡した説

 

 

404:名無しの冒険者

大丈夫、それはない……筈

 

 

405:名無しの冒険者

そこは自信持てよ、蛮族女に食われた説は?

 

 

406:名無しの冒険者

ノープロブレム……な筈

 

 

407:名無しの冒険者 

問題しかねえわ

 

 

408:名無しの冒険者

何やかんやでイッチ安価達成頑張ってるよね

 

 

409:名無しの冒険者

意外と健気やわ

 

 

410:名無しの冒険者

健気過ぎて泣けてくるわ

 

 

411:名無しの冒険者

真面目に頑張ればどうにかなる程この世界は甘く出来とらんで?

 

 

412:名無しの冒険者

腹黒メガネパイセンも懐かしいなぁ

 

 

413:名無しの冒険者

もうアレから八年経っとるしなぁ

 

 

414:道化所属

アレは激動の時代だった

ワンピ、鰤、NARUTO、黒バスはワイにとっての全盛期やった。ワンピどうなったのか今超気になるけど。

 

 

415:名無しの冒険者

あっ、イッチ!

 

 

416:名無しの冒険者

待ちくたびれたぜィ!!

 

 

417:名無しの冒険者 

さて、聞きたい事は色々あるがとりあえず先ず一つ。アレからどのくらい経った?

 

 

418:道化所属

ランクアップから一年半弱。

ワイはそろそろ12歳。激動の時代ですわ。

女帝Lv.8、マキシムLv.7、ザルドLv.6、アルフィアももう少しでLv.6になるわ。エグくね?

 

 

419:名無しの冒険者

マジで激動の時代だな

 

 

420:名無しの冒険者

最強格が一気にランクアップか

 

 

421:名無しの冒険者

アルフィアなんて多分二年ちょいだろ?エグすぎだろ。アイズたんでさえ三年はかかっとるのに

 

 

422:名無しの冒険者

いやまあロキが安全思考って所があるから仕方ない部分もあるけど

 

 

423:名無しの冒険者

才禍の怪物は伊達ではないな

 

 

424:道化所属

そんで現状報告すると、ワイは今パトロールしとる

 

 

425:名無しの冒険者

なんで?

 

 

426:名無しの冒険者

パトロールする意味は?

つか【ガネーシャ・ファミリア】とかの管轄じゃないの?

 

 

427:名無しの冒険者

いや、今の時期はまだ【ガネーシャ・ファミリア】が育ってねぇんじゃね?

 

 

428:名無しの冒険者

よくよく考えたらまだゼウス達の黄金時代だから原作登場の神に関しては分からねえ

 

 

429:名無しの冒険者

ゼウス、ヘラ、ロキ、フレイヤ、イシュタル、ヘルメス、あとは都市外のポセイドンか?目ぼしい冒険者が居るのは?

 

 

430:名無しの冒険者

でも都市外だとそんな強い奴いないんじゃ

 

 

431:道化所属

居るで?ポセイドンの団長はLv.6らしいし

 

 

432:名無しの冒険者

えっ……?

 

 

433:名無しの冒険者

なんで?ベヒーモスやリヴァイアサンに挑んでる訳やないんやろ?

 

 

434:名無しの冒険者

いや、討伐されてないからダンジョンからモンスターが来るだろ

 

 

435:名無しの冒険者

あっ

 

 

436:名無しの冒険者

そうか、『海の覇王の化石(リヴァイアサンシール)』がないから凶悪なモンスターはダンジョンから

 

 

437:名無しの冒険者

イグアスとか水中で来られたらベル君でも殺されるしな

 

 

438:名無しの冒険者

海で戦う場合、立地条件が悪いから偉業としては上げやすい可能性もあるな

 

 

439:道化所属

リヴァイアサンシールって何や?

 

 

440:名無しの冒険者

ダンジョンから海にモンスターを出さない為にリヴァイアサンの骨を使った化石で閉じるんや。そうすればこれ以上、海にモンスターは放たれないやろ?

 

 

441:名無しの冒険者

まあこれに関してはいずれ実現はされるだろうし

 

 

442:道化所属

ほーん、まあ話戻すで?パトロールやってんのはゼウス達が【アパテー・ファミリア】の拠点を見つけたらしいんや。そこにはオシリスの残党も居るらしいし、それの殲滅作戦を組んで実行しとる。ダンジョンで見つけたらしいんやけど、他の奴等が街中に潜んどる可能性もあるからその為にパトロールやな

 

 

443:名無しの冒険者

オシリスファミリアっつったら……何だっけ?

 

 

444:名無しの冒険者

この時代最強の闇派閥。ただ確か今の時期だと十年前くらいか?抗争で敗れてオシリスは都市から追放されたらしい。ただ団長に至ってはLv.7らしいし、この時期でそのポテンシャルなんだろ

 

 

445:名無しの冒険者

マキシムと並ぶのか

 

 

446:名無しの冒険者

二大派閥が一枚上手って訳でも無かったんだな

 

 

447:名無しの冒険者

まだ対処できるのが女帝しかいなかったし、オラリオが危険ってのもよく分かるぜ

 

 

448:名無しの冒険者

それで?イッチの現在のステイタスは?

 

 

449:名無しの冒険者

はよはよ

 

 

450:道化所属

あー、新しい魔法と新しいスキルが発現した。どっちもワイの記憶に関するものやったし、結構調あやはなま

 

 

451:名無しの冒険者

どしたイッチ?

 

 

452:名無しの冒険者

誤字か?

 

 

453:道化所属

………なあ、今からワイが言う事信じる?

 

 

454:名無しの冒険者

なんか嫌な予感しかしない

 

 

455:名無しの冒険者

舐めるなイッチ

 

 

456:名無しの冒険者

百戦錬磨のスレ民が大抵の事で動じる訳がない

 

 

457:名無しの冒険者

信じるか信じないか、ワイらで決めるわ

 

 

458:名無しの冒険者

さあ、どんな事でも言うがいい

 

 

459:道化所属

じゃあ遠慮なく

ダンジョンの入り口が盛大に爆破されたんだけど

 

 

460:名無しの冒険者

 

 

461:名無しの冒険者

 

 

462:名無しの冒険者

 

 

463:名無しの冒険者

 

 

464:名無しの冒険者

嘘やろ

 

 

465:名無しの冒険者

えっ、マジ?

 

 

466:名無しの冒険者

嘘乙

 

 

467:名無しの冒険者

それはないやろ、イッチも嘘上手くなったなぁ

 

 

468:道化所属

………画像送ろうか?

 

 

469:名無しの冒険者

ヤメテー!?

 

 

470:名無しの冒険者

嘘だと言ってよバーニィ……

 

 

471:名無しの冒険者

ば、ばんなそかな……!

 

 

472:名無しの冒険者

ええええええっ、なんでえええええええ!?

 

 

473:名無しの冒険者

くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」

 

 

474:名無しの冒険者

【速報】ダンジョンの入り口がぶっ壊された

 

 

475:道化所属

お前ら動揺しないんじゃなかったのか?

 

 

476:名無しの冒険者

無理だろ

 

 

477:名無しの冒険者

イッチ、限度というものがあってだな……

 

 

478:名無しの冒険者

入り口ぶっ壊されたらそりゃ動揺するやろ

 

 

479:名無しの冒険者

ん?ちょっと待って、それヤバくねぇか?

 

 

480:名無しの冒険者

ヤバいやろ、ダンジョン入れなくなったんやで?

 

 

481:>>コ○ン君(偽)

ちょっとコテハンするわ。

いや別の意味でヤバいってのは別の意味でや

 

 

482:名無しの冒険者

コテハンの名前ww

 

 

483:名無しの冒険者

平成のシャーロックホームズww

 

 

484:名無しの冒険者

今は令和だけどなww

 

 

485:道化所属

ヤバいはヤバいけど、別の意味って何や?

まあ入れないことはヤバいのは分かるんやけど

 

 

486:コ○ン君(偽)

いや、ゼウスやヘラの主部隊はダンジョンにいる訳やろ?入り口塞がれたって事は、ダンジョンに一時的に閉じ込められたんやで?

 

 

487:名無しの冒険者

えっ

 

 

488:名無しの冒険者

ちょっと待て

 

 

489:コ○ン君(偽)

スレ民は分かっとるよな?1000年前からの狂気の遺産を

 

 

490:名無しの冒険者

あっ……

 

 

491:名無しの冒険者

ヤバいヤバいヤバい!?

 

 

492:名無しの冒険者

イッチ!!今すぐ逃げろ!!!

 

 

493:道化所属

は?えっ、どういう事や?

 

 

494:コ○ン君(偽)

よく聞け!!ゼウス達が閉じ込められたって事は逆に言えば()()()()()()()()()()()!!助けを呼べなくなった!!

 

 

495:名無しの冒険者

闇派閥の目的の一つにはディース姉妹が狙っていたものがあるやろ!?

 

 

496:名無しの冒険者

勘違いかもしれへんけど狙いは間違いない!

 

 

497:名無しの冒険者

イッチ、お前が狙われてるで!?

 

 

498:道化所属

えっ、嘘はあまらたなやま

 

 

499:名無しの冒険者

イッチ!?

 

 

500:名無しの冒険者

応答しろイッチィィィィ!?

 

 

 ★★★★★

 

 

 ダンジョンの入り口が爆破された。

 同行していたガレスとリヴェリアは瞠目し、視線をバベルに向けた。ノーグも驚きこそしたが、二人に比べれば驚きは薄い。

 

 入り口の破壊と同時に、敵の目的を思考する。

 敵が最も嫌がる行為は何なのか。バベルが破壊された理由は何なのかと結びつけようと思考を回そうとするその時、『天啓』の言葉に目を見開いた。

 

 現在最大派閥【ゼウス・ファミリア】【ヘラ・ファミリア】が闇派閥である【アパテー・ファミリア】の殲滅作戦にダンジョンに潜っている。【アパテー・ファミリア】は元々二大派閥が鎬を削ってまで戦い続けた【オシリス・ファミリア】の残党の殆どで構成されている。

 

 故に二大派閥の団長二人だけでなくファミリア全体で動く事になっている。ノーグ達は地上に残していた保険に過ぎない。地上に潜む主戦力に満たない残党狩りという名目でパトロールをしている。

 

 最大戦力を注ぎ込んだ大規模殲滅作戦。

 そして、マキシム達がダンジョンに潜っている間に入り口が爆発された。つまりそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言える。

 

 この仮説が正しいなら目的は?

 

 思い浮かぶのは地上の住人の鏖殺、【ヘファイストス・ファミリア】の強襲、ヘラやゼウスの天界送還。最後が一番拙いが、最悪の場合を考慮してザルドやアルフィアを地上に残してはいるらしい。だが万が一の可能性を考慮すれば攻勢に出れず、防衛の為にホームから出れないが、それでもその可能性は低いだろう。

 

 なら住人の鏖殺は?

 それをやる意味などない。二柱の名声に傷を付けるだけでリスクリターンがあっていない。

 

 なら【ヘファイストス・ファミリア】の強襲は?

 武器を取り上げれば大打撃を受けるが、恐らくその線は薄い。バベルにはフレイヤが居る上にオッタルもミア団長も居る。戦力は豊富だ。

 

 

「ま、さか……」

 

 

 狙いの答えに辿り着いた。

 武器でもない、鏖殺でもない、天界送還ですらない。

 

 武器以上に価値があり、手に入れさえすれば天秤を傾ける程の力を持ち、マキシム達を屠るだけの切り札になり得る存在、そして以前から闇派閥が虎視眈々と狙い、秘密裏にそれを成そうとしていたある目的に該当する存在が一名。

 

 それは自惚れで無ければ間違いない。

 

 それは冬を運ぶ世界最高位の力を持つ精霊、大英雄に力を貸し与えるだけの神秘を持つ存在、雪化粧、氷の砲撃、熱の燃焼、冬の力そのものと言ってもいい力を受け継いだ存在が……

 

 

「――――」

 

 

 既視感を感じた。

 ノーグはスキルに関係なく勘が鋭い。そしてフララの力もあり、世界の異常さや物事に対する見解はフィンに迫ると言ってもいい。

 

 その既視感はノーグのものではなく、ラースであった記憶の時のものでさえない。

 

 

「っ……!?」

「ノーグ?」

「どうしたんじゃ急に止まって」

 

 

 この既視感は()()()()()()()

 以前、彼女が感じ取った匂いが脚を止めた。気付いた時には既に手遅れだという事を悟った。

 

 

「構えろ!早く!!」

 

 

 匂いがした。

 それは()()()()()()()()()()––––それに気付いた時には叫んでいた。鼻を劈く匂いに目を見開き剣を抜いていた。そしてその行動さえも遅かった。

 

 ザクリ、という音が耳に届いた。

 忘れもしない、人を貫く音がノーグの後ろから聞こえた。

 

 

「えっ……?」

「リヴェリア!?」

 

 

 気が付いた時にはリヴェリアの背中にナイフが突き刺さっていた。一瞬の事だった。僅かに見えたのは何もない虚空から()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 人は居ない、透明化しているわけでもない。

 ただ、腕だけがリヴェリアの背後に出現し、背中を貫いていた。その摩訶不思議な光景に驚愕するが、身体は既に動いていた。剣を突き出す腕に突き刺そうとした矢先、黒い影のような円の中に腕は引っ込んだ。

 

 

「な、にが……」

「ガレス!リヴェリアを!!」

「チィ!何処からじゃ!?」

 

 

 傷は深いが、急所は外れていた。

 リヴェリアの咄嗟の勘が僅かに身体を無意識に動かしていたのか分からない。ノーグが常備していた煙玉の魔導具を地面に叩き付ける。

 

 

「ぐっ…ごふっ……」

「しっかりせいリヴェリア!クソッ、何が起きたんじゃ一体!?」

「ポーションの傷の治りも悪い…麻痺毒か何か塗られてる。直ぐに治療院まで運ばないと」

 

 

501:名無しの冒険者

躱せイッチ!

502:名無しの冒険者

なんか飛んでくる!食らったらヤバい!!

 

 

 突如『天啓』が脳内に過ぎる。

 ガレスに叫ぶと同時にリヴェリアを抱えてその場から跳躍し離れる。煙の中に無差別に飛んでくる小さな弾丸がノーグ達に襲いかかる。

 

 

「ガレス伏せろ!!」

「はっ?ぐおおおおおおっっ!?」

 

 

 飛来する何かにガレスは肩と腰を貫かれた。

 ノーグはリヴェリアを抱え、射線を外れるように壁に身を隠すがガレスへの指示は間に合わなかった。ガレスは斧を地面に突き刺し、盾のように機能させて地面に伏せているが、攻撃は食らっていた。

 

 

「ぐっ…何じゃコレは!?」

「ガレス!?」

 

 

 二発食らったガレスの傷口から()()()()()()()。その光景にノーグは唖然とする。ガレスは立ち上がるが、力が抜けたように地面に崩れ落ちる。

 

503:名無しの冒険者

強化版モス・ヒュージの種子弾丸じゃね?

504:名無しの冒険者

いやここ街中だぞ?モンスターじゃない

 

 モス・ヒュージ

 それは確か苔を纏ったモンスター。だがここは地上だ、モンスターが地上に出れば騒ぎなんてあっという間に広がる。こんな場所に居るのはモンスターなんかではない。

 

 煙が晴れた。

 背中を貫かれ、意識が遠のくリヴェリアと地面に膝をつくガレス。そして唯一二回の攻撃を回避し、警戒度を更に上げて相対するノーグの前に姿を現された。

 

 

 

 

「––––見ぃつけた♡」

 

 

 

 

 紫の髪をした人形のような女だった。

 女帝やアルフィアに劣らない肢体、整った美貌、黙っていれば気品ある姫と言っても過言ではない程の女。紫のロングコートに身を包み、緑色の歪な形をした大剣を右手に厭らしく嗤う。

 

 そして、その特徴から全てを悟った。

 マキシム達が討滅しようとした目的の一人が目の前に居る。震えた口調で、その正体を口にした。

 

 

 

「メルティ…ザーラ」

 

 

 かつて【オシリス・ファミリア】団長であった最強の殺戮者。女帝と並んだ最高位のLv.7がノーグの目の前に姿を現していた。

 

 




『地上パトロール』
第一部隊
フィン、ノアール、ダイン、バーラ
第二部隊
リヴェリア、ガレス、ノーグ
第三部隊
オッタル、戦闘員Lv.3 ×2

ロキとフレイヤの護衛の為、ミアはバベル残留。

『闇派閥殲滅部隊』
・サポーター、ザルドを残した【ゼウス・ファミリア】全戦力
・アルフィアを残した【ヘラ・ファミリア】全戦力
・主神送還を避ける為の護衛に戦力を残した。


リヴェリア 瀕死
ガレス 撃ち込まれた種子ドレイン
ノーグ 無傷、精神恐慌状態


メルティ・ザーラ 嗤ってやがる…!

 ★★★★★
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十三スレ目


 感想返答コメント始めようと思います。
 ちょっと最近生活リズム狂ってたのでペースが落ちましたが、12月には完結すればと思います。アストレア・レコードが早く発売されないかなぁ。


 

 

 ノーグの身体が震えた。

 武者震いではない、身体が敗北する事を悟り、戦闘を拒否している。それは純然たる恐怖、人は違えどそれは女帝を連想させる程のオラリオで未だ三人しか存在しないLv.7が目の前に居る。

 

 

「ふふっ、かーわい♡」

 

 

 ゾクリ、と背筋を撫でる恐怖。

 蠱惑的な笑みを浮かべたメルティに死のイメージが鮮明に過ぎった。

 

 

「っ……!ガレス!リヴェリアを連れて離れろ!!」

「な、ノーグお前はどうする気じゃ!?」

「リヴェリアも巻き込みかねないからさっさと退いて助けを呼んで!!」

 

 

 勝ち目なんてあるはずがない。

 あの時虚空から腕が突き出た以上、メルティ・ザーラには()()()()()()()()()()()()()()。それも凶悪な後衛殺しの魔法。大剣といいLv.7のステイタスといい、連携すれば勝てるという領分を遥かに超えている。

 

 

「今の二人じゃ()()()()()!早く!!」

「…っ、ええい生意気なクソガキ!死ぬ事は許さんぞ!!」

 

 

 リヴェリアを抱え、この場から離脱する。

 種子を撃ち込まれ、体力を奪われているガレスでは足手纏いであると自ら悟っていた。見捨てなければいけないという合理的判断に嫌気が差しながらも、重傷のリヴェリアが居ては戦えるものも戦えない。

 

 今できる最善策はノーグに全力を出せるだけの場を整える事しか出来ない。

 

 

「逃すと思ってる?」

 

 

 深緑色の歪な大剣を振るわれると、緑の弾丸のようなものがガレスの背中に射出される。弾丸は七発、二発食らっているガレスに全て撃ち込まれれば、吸い尽くされてしまうだろう。

 

 

「【凍てつく残響よ渦を巻け】」

 

 

 発展アビリティ【天眼】

 洞察力の強化、大剣を振るう方向から弾丸を見切り、一段階の冷気を纏い氷壁を張り弾丸を止める。マキシムや女帝、一級冒険者の動きを何度も見てきたノーグなら、音速を超えない矢弾くらいなら予測し見切れる。

 

 

「へぇ––––やるじゃない」

「行かせない。アンタの相手は俺だろ」

 

 

 逃げる事は出来ない、勝率は絶望的。

 だが、可能性はゼロではない。切り札が無い訳ではない。対精霊装備をしていない部分から舐めている部分は存在する。

 

 隙を付けるとするなら、その時である今でしかない。

 

 

「いいわ、凄くいい。ほんの少しだけ踊ってあげる」

 

 

 異端者と殺戮者の壮絶な闘いが始まった。

 

 

 ★★★★★

 

 

「チッ、やっぱ塞がってやがる」

「魔法で吹き飛ばすと、バベルに被害が出かねないわね」

 

 

 マキシムと女帝達は二階層付近で立ち止まり、手分けして地上の道をこじ開けている。ダンジョンは生きている以上、修繕が入るだろうがそれを待つよりも撤去した方が早い。

 

 とはいえ、一階層から二階層分の撤去は二大派閥でも時間がかかる。魔法でぶち抜いた方が早いが、これほどの爆破があった上に、これ以上のダメージをダンジョンに与えればバベルにも影響する。倒壊すると思うと想像したくもない光景が目に浮かぶ。

 

 

「敵の目的は?」

「私達の主神の送還……もしくはあの子ね」

「あの小僧か?何で?」

 

 

 マキシムは首を傾げる。

 目的としては些か足りない気もするが、女帝はため息を吐きながら説明し始めた。

 

 

「忘れたのかしら?最近、精霊関連の事件が多発してエルフ達が騒いでいたじゃない」

「ああ、言ってたな。感知できるエルフ達が血眼になって犯人特定しようとしてたが……おい待て、まさかと思うがあの小僧」

「多分精霊の加護を、いやそれ以上の何かを持ってる。Lv.2で私に傷を付けられるだけの出力よ?」

 

 

 確かに何かはあると思っていた。

 魔法やスキルは想いの強さに合わせて発現する。ノーグの【アプソール・コフィン】の熱の燃焼という規格外の法則を含んだ魔法の発現には確かに疑問には思っていた。

 

 

「氷の精霊となるとアレか?ゼウスの言ってた」

「ヴィルデア。間違いなく大精霊の力を持ってる」

「根拠は?」

「女の勘」

 

 

 よりにもよって一番当たりそうな勘に反応され、マキシムは頭を抱えた。氷の大精霊ヴィルデアの逸話はかなり有名だ。英雄譚にさえ記載される程の知名度を誇る。

 

 曰く、冬を運ぶ大精霊である

 曰く、冬の世界で彼女を捕らえられず

 曰く、英雄に永遠を与え続けた女王

 

 最後の記載はよく分からないが、ゼウスが書く英雄譚は間違いなく古代神話。神が舞い降りる前の人類が成し遂げた武勇伝である事は間違いない。そんな中でもヴィルデアは間違いなく誰もが知るほどの圧倒的な強さを誇っている。

 

 

「それがもし、敵の手に渡ってその力を利用されたら」

「……俺達でさえ対処が出来ないって事か。あの小僧に関しては確かにぶっ飛んでる」

 

 

 あの藍色の焔が敵全員が使えるようになるならオラリオは終わりだ。防御なんて関係がない。精霊であるならば、()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()

 

 

「クロッゾと同じ、精霊の奇跡」

「それが人為的に出来るとなると、()()()()()()()()()

 

 

 それは女帝でさえ確信する程の危機。

 闇派閥と二大派閥の天秤は後者の方が優位であったにも関わらず、最強である自分達ですら覆される切り札が敵の手に渡ったなら、闇派閥の優位性が一気に跳ね上がる。

 

 それも最近、オラリオに彷徨う微精霊が一気に姿を消した事件。それを感知できるエルフ達が騒ぎ、血眼になって探していたが、未だ見つからないのだ。精霊関連で闇派閥は何かを行っているのは間違い無いだろう。それがもし精霊の奇跡を行う為の実験に使われたら……

 

 

「急ぐぞテメェら、舐められたままだと男が廃る」

「同じく、泥を塗られたままじゃ性に合わないわ」

 

 

 地上に開通まであと二十分––––

 

 

 ★★★★★

 

 

「チッ!!」

「おっと、危ない危ない」

 

 

 ノーグは【アプソール・コフィン】を二段階に引き上げ、近寄らせないように攻撃を繰り返す。−181度にまで下げられた空気を剣圧に乗せて飛ばしているが、メルティ・ザーラには当たらない。

 

 

「(クソッ、近寄らせないのが精一杯かよ…!)」

 

 

 触れればレベル関係なくダメージを与えられる二段階を警戒されている。舐められているとはいえ、舐められるだけの実力の差が存在する。二段階目は魔力の消費が激しい。近づこうとする時だけ最大火力にして近寄らせないのが精一杯だ。

 

 

「【虚空の影よ】」

「っ……ぶねぇ!?」

 

 

 極め付けはこの距離殺しの魔法。

 何もない虚空に黒い影が浮かび、そこからナイフが飛んでくる。腕が通るほどのワープゲートを生み出す超短文詠唱。明らかな初見殺し、制約としては二回目の詠唱をすれば一回目に発動したワープゲートは消える。同時使用は出来ないのと目視が届く場所である事だろうが、それでも常軌を逸している。

 

 

「(クソッ…このままやっても精神力が尽きる!俺はまだ超長文詠唱の並行詠唱なんてやった事ねぇんだよ!?)」

 

 

 可能性があるなら二つ目の魔法。

 ロキでさえ反則と呼ぶ程の第二魔法は超長文詠唱、それを詠唱すれば可能性は充分にあるが、付与魔法を発動しながら詠唱出来るだけの魔力制御出来る自信はない。

 

 

「(そもそも魔法同時使用なんて出来るのか!?アルフィアはやってたけど、アイツ超短文詠唱だし!?)」

 

 

 そもそも魔法同時使用なんて出来るのはアルフィアくらいのものだ。付与魔法が使え、それとは別の魔法を覚えているのがアルフィアくらいしか知らないからこそ出来るか不安過ぎる。一度付与魔法を切って別の詠唱に移ろうとすればその隙に終わる。

 

 

513:名無しの冒険者

親方ァ、空から種子達が!?

514:名無しの冒険者

躱すぜよイッチィィィ!!!

 

「っ–––!?」

 

 

 雑念から集中力が乱れ、詠唱を聞き逃した。

 振るった大剣から放たれた緑の種子が目の前から消え、上に出現した影から種子が降り注ぐ。無理な体勢から跳躍したが、避け切れず二発食らった。だが、撃ち込まれた部分からは血が出ているのにノーグの身体から蔓は伸びない。

 

 

「届く前に凍り付かせて種子を殺したのね、でも––––」

 

 

 その判断力、魔法の出力、総合的に見てもLv.4の後半に迫っていると言ってもいい。Lv.4では間違いなく負ける。格上殺しの冒険者としてはこれ以上の存在はアルフィアやザルドを除いて他にいないだろう。

 

 だが……

 

 

「甘い」

 

 

 相手がメルティ・ザーラだった。

 姿が消えたと思えば、体勢が崩れたノーグに過ぎる無数の『天啓』。躱せない。最大出力にする事さえ間に合わない。

 

 

「ごっ……が、あっ……!?」

 

 

 藍色の焔が揺らぎ、僅かに露出した腹部に拳が突き刺さる。ゴシャッ、と音が鳴り、骨が砕かれるような音が聞こえながらも後方へ吹き飛んでいく。

 

 

「が、かっ……ぐ、あ……」

 

 

 肋骨が何本かイった。

 血反吐を吐きながらも焔を途切らせない。だが、無傷のLv.7と大量に精神力を消費し、血を吐き出すほどのダメージを負わされたノーグ。どちらが優位か比べるまでもなかった。

 

 

「あら、まだ動けたのねぇ。壊れない人形を相手してるみたい」

「……っ、その大剣、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 時間を稼ぐように大剣を指摘すると、彼女は笑った。そもそも『天啓』でその存在の正体は理解できたが、モンスターを武具にするなんて聞いた事が無い。ドロップアイテムの加工とは訳が違う。生きたモンスターそのものの武具加工なんて見た事も聞いた事も無い。

 

 

「本当、勘の良さといい目敏さといい噂されるだけあるわねぇ。この剣はあるモンスターの性質だけを抽出した生きた呪剣(カースウェポン)。どのモンスターか興味ある?」

「モス・ヒュージだろ…しかも魔石を食わせた強化種」

「……本当、貴方って怖いくらい目敏いわね」

 

 

 その効果は『生命吸収(ライフドレイン)』。体力と精神力を吸い成長する種子を生成する。ただ、その為には本人にも精神や体力の消費が無ければ種子を生み出す事は出来ない制約はありそうだが、それでも超短文詠唱の魔法より厄介過ぎる。距離殺しと組み合わさればそれこそ避けられない程に。

 

 

「ぐっ……」

 

 

 藍色の焔が切れた。

 精神力が尽き、魔法が維持できなくなる。息切れと薄れる意識の中、剣だけは構えているが、限界なのは見抜かれていた。

 

 

「もう限界みたいね。まあお姉さん楽しめたし、大きくなったら夫にしてあげてもよかったけど」

 

 

 コツコツと、足音が聞こえた。

 気が付けば目の前にメルティは現れていた。接近さえ反応出来ないほどの疲弊、剣を振ったと思ったら既に手から弾き飛ばされていた。

 

 

「私達がその力、存分に利用してあげる」

 

 

 剣の峰が頭に向かってくる。

 躱せない、『天啓』の警告があっても身体が動かない。武器も弾き飛ばされ防げない。詰みとも呼べる状況を逆転出来る程の力は今のノーグには無かった。敗北を悟ったその瞬間だった。

 

 

 

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

 

 

 

 鐘の音が聞こえた。

 メルティ・ザーラは吹き飛び、視界には灰色の髪と黒いドレスが写った。助けに来れるはずがない、ヘラの防衛で動けないはずなのに、姿は見間違えるはずがなかった。

 

 

「お前、防衛で動けないんじゃ……」

「そんなもの、全て蹴散らしてきた」 

 

 

 この短時間で迫り来る闇派閥の部隊を全て蹴散らし、ノーグの前に現れた最高位の魔道士、条件さえ満たせば女帝にさえ届くと言われた存在がメルティ・ザーラを前に魔力を激らせていた。

 

 

「アルフィア……」

「よくここまで耐えた」

 

 

 これ以上安心出来る存在は居ない。

 危機を救ってくれたのは二度目だ。Lv.6間近であるが、ノーグと同じく格上殺しに特化した冒険者。

 

 

「あとは任せろ」

 

 

 最強の殺戮者を前に、才禍の怪物が立ち塞がった。

 

 





ノーグ Lv.3
「(冨岡……)」

アルフィア Lv.5
「この女が……」

メルティ・ザーラ Lv.7
「えっ、馬に蹴られた?」

 ★★★★★
 良かったら感想評価お願いします。モチベが上がります。

 次回、暗黒動乱編、完結。


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十四スレ目


 ハッピーバースデー俺。
 21歳になり、新しい仕事や課題で時間もかかり、やっとまともな形になるまで考えて書き続けた結果14102字。うん、長かった。ちょっと褒めて欲しい。

 感想欄にノーグヒロイン説が多くて笑った。いつも感想ありがとうございます。では行こう。



 

 

 それはラースの記憶を取り戻した後の事、ダンジョンから戻りいつも通りステイタス更新していた時に存在した新しい魔法と新しいスキル。半裸のまま羊皮紙を見たノーグは渋い顔をしていた。

 

 

「……使えなくね?」

「いやめっちゃレアスキルやん。魔法もそうやけど、こんなスキル前代未聞やで?」

「いや、まあ確かに強力だとは思うけど……」

 

 

 超長文詠唱はまだいい。これは本当に強力だ。大精霊ヴィルデアの魔法そのものと言っても過言ではないだろう。素直に喜べる。だが、もう一つに関しては明らかに()()()()使()()()()()()()()()

 

 

()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()なんて使える気しないんだけど」

 

 

 恐らくこのスキルはラースやフララの怒りそのものがスキル化したものだろう。殺意や憎悪、怒りといったその感情は記憶に染み付いていた。これも納得は出来るのだが、ノーグには使えない。正確に言うならば、その怒りを抱く事が出来ないと言った方が正しいだろう。

 

 正確にはノーグはラースではない。

 在り方が違い過ぎる。過去の自分(ラース)は子供らしい子供だった。少し大人びていても夢を語り、笑い、怒る時は怒る、奪った者に殺意を抱く、どれも人間なら当たり前の感情を持ち合わせていた。

 

 だが、現在の自分(ノーグ)は精神が大人過ぎる。物事を客観視して、他人と無意識の内に距離を作り、誰にも頼らず世界に馴染めずに生きられるように強くなろうとする。自分が異物だと分かっているからこそ感情的に行動する事が出来ない。本能のままに行動をしないように無意識のセーブをかけている。

 

 怒りは抱くのは誰だってある。

 だが、その無意識のセーブがある限り、()()()()()()()()()()()()()()()()()。故に使えない。

 

 

「……ノーグ、偶にはウチも神らしく話をしたるわ」

「自分が神らしくない自覚あったの?」

「うっさいわボケ!ウチは天界きってのトリックスターって呼ばれとるけど、別の異名があるんや。なんやと思う?」

 

 

 いつも酒を飲んで、関西弁を話す神の異名は想像もつかない。嫌な時だけ勘が冴え、トリックスターと認めるだけの狡猾さがあるのは理解しているが、北欧神話のロキの体系をよく知らない。

 

 そんな中、不敵な笑みを浮かべ、もう一つの異名は告げられた。

 

 

「––––終わらせる者、や」

 

 

 全身の鳥肌が立つような声色。

 その威圧感、人間とは違う在り方をした超越の存在に一瞬恐怖した。

 

 

「ウチな?神々の秘密とか散々暴露して引っ掻き回して、色々あってひっどい仕打ち受けたんや。それに腹が立って戦争引き起こしたんや」

「えっ、それだけで戦争引き起こしたの?」

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 理解したくはないが、自然とその言葉を否定出来るほどの答えが見つからない。腹が立ったから行動を起こすというのは間違っているとは思えないからだ。この世界だろうが元の世界だろうが、怒りの鎮め方は人によってベクトルがかなり違う。神の憤怒とはそういうものなのだろう。

 

 

「怒りは自由や。ただ壊したい、ただ泣き叫んだ顔が見たい、ただ絶望を拝みたい。怒り狂った先にある自由さは愉しいモンや」

「……馬鹿げてる」

「せやな。馬鹿げた話やろ?でも、重要なのは怒りを振り翳す事やない、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 怒りは怒りだ。それだけならまだいいが、目的を持った怒りほど恐ろしいものはない。報復、殺戮、陵辱、強奪、誰かを不幸な目に遭わせたいという意味での怒りは時に神さえも想像出来ない力を発揮する。暴走した力は行き場を作らなければ収まらないのが怒りだ。

 

 

「怒りは溜め込むモンでも、抑え込むモンでもない。腹ン底から出た感情がありのままの自分でもある。まあ、客観視して怒りを抑えられるノーグは凄いで?凄いけどそれはずっと自分を抑え込んでるのに過ぎへん」

 

 

 胸に指を置かれた。

 その指は心臓ではなく、心を示しているようでほんの少しだけ何かが揺れ動くような感覚がした。ロキは細目だった目を見開き、真剣な表情で問う。

 

 

 

「ノーグ、アンタは何の為に怒りたい?」

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 この場に歪みそうなほどの魔力が迸る。

 現在ノーグが辿り着けない領域。才禍の怪物の闘志が撒き散らされ、その圧力に呼吸すら置き去りにしてしまう程の強力な援軍。だというのに、安心が出来る程の実感が湧かない。

 

 

「奴の情報を簡潔に教えろ」

「…実力はLv.7。『虚空の影よ』の一言で空間を繋ぐ。あの剣から射出される弾丸は精神力、体力を吸い取る。魔法の類いじゃないから避けるか迎撃で撃ち落とすしかない」

 

 

 説明が終わると『高等回復薬』と『高等精神回復薬』を投げ渡された。流石に全快とまではいかないが、今のノーグには必要な物だ。

 

 

「それ飲んで回復したら撤退しろ。あとは私がやる」

「おまっ、それは」

「今のお前では足手纏いだ」

「貴女一人で私をどうにか出来るって?」

 

 

 距離を一瞬で詰めるメルティ・ザーラに対し、アルフィアは一言(ワンワード)を告げる。

 

 

「【福音(ゴスペル)】」

「!」

 

 

 メルティ・ザーラが弾き飛ばされた。

 音の衝撃に多少驚いているようだが、効果は思った程ではない。恐らく【魔防】を持っている。耐久値も相当高い。

 

 

「音の塊を飛ばす魔法、悪くないわね」

「【福音(ゴスペル)】」

「でも、狙い所は大体分かるわ」

 

 

 二発目を避けながら大剣から種子が射出される。

 アルフィアの【サタナス・ヴェーリオン】は音の塊を飛ばす魔法、範囲を絞れば威力は高まるが格上相手によっては躱される。魔力を見切れるマキシムがいい例だ。

 

 

「【炸響(ルギオ)】」

「っ!?」

 

 

 だが、この魔法の真髄は放った後にある。

 魔力の残滓が爆ぜ、メルティごと巻き込んで連鎖爆破。これには目を見開いて爆破に巻き込まれながらも後退する。

 

 

「(一点を狙うだけでなく範囲攻撃に切り替えれて種子ごと吹き飛ばせる上に魔力残滓を誘爆させれる。攻防一体は坊ややマキシムの魔法だけだと思ってたけど)」

 

 

 範囲を自在に調節する魔力操作。そして汎用性の高い魔法。条件次第では女帝にさえ勝てると呼ばれるだけはある程の強さに舌を巻く。

 

 

「(この子も相当強いわねぇ)」

 

 

 才禍の怪物と呼ばれるだけはある。

 だが、それでも相手がメルティ・ザーラだった。

 

 

「でも、もう見切ったわ」

「【福–––】」

「アルフィア待て!?」

 

 

 魔法発動と同時にアルフィアの目の前に影が生まれた。発動した音の塊は影に吸い込まれ……

 

 

「がっ……!?」

 

 

 ()()()()()()()()()()()。直線上に影が出現したと思ったら音は飲み込まれ、魔法を直接返され、壁に吹き飛んだ。アルフィアには魔法無効化の付与魔法が存在するが、それは自分にも作用する。メルティ・ザーラ相手に威力を下げられない。

 

 

「(あの女、爆破中に詠唱して魔法を待機させて……!?)」

「【虚空の影よ】」

「くっ!?」

 

 

 種子の射出と同時に詠唱が完了する。

 魔法で迎撃すれば跳ね返され、躱しても隙が生まれる。一瞬の隙がメルティ・ザーラ相手には命取りとなる中で判断が僅かに鈍る。迫る種子に対して魔法を発動しようとしたその時、

 

 

「『氷湖牢』!」

 

 

 氷閃がアルフィアの前を横切った。

 凍てつく風がメルティに放たれ、視界を覆うほどの大氷壁に距離を取った。

 

 

「氷のドーム。まだ動けたのね」

 

 

 ただの時間稼ぎ。

 魔導師であるアルフィアが音魔法以外を使おうが発動前に潰せる自信がメルティには存在する。どう転ぼうが勝ちは揺るがない。どう殺してやろうかと頭の中で想像し、殺戮者は嗤った。

 

 

 ★★★★★

 

 

 氷のドームの内側。

 種子を氷壁で受け止めたが、発動させた藍色の焔を消しアルフィアに近寄るも、かなり寒そうな格好だ。いつもの黒のドレスで肌の露出とかを考えても正気を疑う程の格好だ。

 

 

「私は逃げろと言ったはずだが?」

「だったらせめて安心させてから言え。震えてんぞ」

 

 

 この環境ではアルフィアでさえ動きが悪い。

 当たり前だが、此処ら一帯は恩恵を持たない住人が避難し、全開で使った魔法の影響で冷え切っている。魔法無効化は発動状態は無効化できても、発動後から時間の経ち過ぎた魔法効果までは流石に作用しないのだろう。そもそも自分の魔法にも作用する無効化付与は流石に張っていない。

 

 

「着とけ。俺のせいとはいえ此処ら一帯が冷え切ってる。次第に動けなくなるぞ」

 

 

 耐冷重視の藍色のコート『ミッドフレア』をアルフィアに被せる。元々精霊の力を持っているせいで防寒素材に『火精霊の護符(サラマンダー・ウール)』などの精霊の加護がある素材では魔法を阻害する為、特注装備として製作されたこのコートは魔力を通すと暖かくなる。値段は七桁を超えたのに顔は引き攣ったようだが。

 

 

「……汗臭い」

「文句言うなおい!死ぬよかマシだろ!」

「これで防壁張ってるつもりなら甘過ぎる。奴は直ぐに砕くぞ」

「分かってる。だから作戦は簡潔に言う」

 

 

 普通に共闘した所でメルティ・ザーラは倒せない。藍色の焔は躊躇なく発揮すれば味方を巻き込みかねない。アルフィアも種子を迎撃しようと範囲攻撃すればノーグにも当たる。ただの共闘は距離殺しの搦手を打つ存在には悪手だ。

 

 此処で勝機を見出すとするなら一つしかない。

 

 

「アルフィア、二分耐えろ」

 

 

 新たに刻まれた第二魔法を発動する。

 その為には攻撃を捨て、藍色の焔を解除しなければならない。超長文詠唱の魔力は絶大、並行詠唱として使うには回避程度しか出来ない。魔法同時使用が出来ないノーグをアルフィア一人でLv.7から二分護らなくてはいけない。

 

 

「勝てるとするならその後だ」

 

 

 一か八かの大一番。

 だが、アルフィア自身が持つ切り札よりも確実性のある可能性はそれしかない。アルフィアは第二魔法は知らない、だが当たるかも分からない自分の魔法よりもその可能性に賭けるしかない。

 

 氷壁に罅が入る。

 もう保たない。壊れたらもうこれ以上作戦は立てられない。

 

 

「しくじったら私が殺すぞノーグ」

「ならお前が殺されたら俺が氷葬してやるよアルフィア」

 

 

 氷壁が破壊され、満面の笑みで襲いかかる殺戮者。

 詠唱時間を稼ぐアルフィア単独での戦闘。ノーグの剣を持ち、二分間の絶望に挑む賭けが始まった。

 

 

「【それは尊き冬の幻想、今は閉ざされし幻雪の箱庭】」

 

 

 新しい魔法は強力な分だけ戦局を変えるだけの切り札にはなる。だが、リヴェリア以上の詠唱量と扱うだけの魔力量に後方支援でなければ使えないと彼女に告げられ、並行詠唱も精々回避程度にしか使えない。

 

 

「【流れて駆けゆく数多の精、黄昏に吹雪く厳冬の風】」

 

 

 だが、効果は絶大。

 大精霊ヴィルデアが冬を運ぶという逸話を生み出すだけはある。その分だけの詠唱量には納得出来てしまう程に。

 

 

「【打ち震えよ、我が声に耳を傾け力を貸せ】」

「チッ、【虚空の––––】」

「【福音(ゴスペル)】!」

 

 

 詠唱をさせる前に潰す。

 隙があれば詠唱をし、待機させていつでも使えるメルティに対して有効な手段。詠唱のタイミングを見切る観察眼、そして超短文詠唱のアルフィアの魔法でなければ成立しない。

 

 

「こっの、邪魔!」

「私が居る限り行かす訳がないだろう、年増」

「殺す」

 

 

 戦いが苛烈化していく中、分が悪いのはアルフィアだ。前衛をこなせるだけの技量があるとはいえ、ステイタスは前衛向きではない。敵は最強の殺戮者、致命傷こそ避け、弾丸を撃ち落としているがアルフィアだけが傷が増えていく。

 

 

「【黄昏の空を飛翔し渡り、白銀の大地を踏み締め走れ、悠久の時を経て、懐かしき冬が目を醒ます】」

 

 

 光明は見えない中、アルフィアは太刀筋を切り替えた。それに驚いたのか後退するメルティに更に迫って距離を詰める。魔導師が前線に出て剣技の応酬。突発的な行動にリズムを崩され、思うように攻められないメルティは舌打ちをする。

 

 

「この動き…!マキシムの太刀筋!?」

「見えるのであればこの程度造作もない」

「化け物ね貴女!?」

 

  

 だが、それも焼け石に水。

 ステイタスの差は埋まらない。魔法を連射し、ノーグに近寄らせない事だけに重きを置いた戦闘ではアルフィアでさえ荷が重い。特に格上相手に対して防衛する事は全力で相対するより難しい。

 

 

「【届かぬ天を地に落とし、今こそ我等に栄光を】」

「ぐっ……【福音(ゴスペル)】!」

 

 

 だが、アルフィアは守り続けた。

 Lv.2の差がありながら、アルフィアはメルティをノーグに近寄らせない。魔法を連発し、埋められないステイタスの差を技量でカバーし、それでも傷を負い続けながらも守り抜いた。

 

 

「【箱庭は開かれた、偉大なる冬の世界へようこそ】」

 

 

 そして詠唱は紡がれた。

 時間にして二分、ノーグの第二魔法は完成し、古を生きたヴィルデアの冬の箱庭は顕現された。

 

 

「【リア・スノーライズ】」

 

 

 発動された魔法はアルフィアに向かう。

 ノーグと同じく彼女を包む凍て付く風、それはノーグが初めに使っていた【アプソール・コフィン】の第一段階と同じ、メルティは目を細めてため息をついた。

 

 

「アルフィアにも氷の付与魔法を?」

 

 

 アルフィアは確かに前衛を出来るが、付与魔法は第一段階と同じ程度の出力、それでは差は僅かにしか埋まらない。他人に対して行う付与魔法は珍しいが、その程度でしかない。

 

 だが、次の瞬間メルティの足は止まった。

 

 

「…!?」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 天には黒い三日月が映し出され、次の瞬間ノーグとアルフィアの姿が掻き消える。透明化したかのように、雲を散らすように姿が見えなくなった。

 

 

「この魔法は大精霊ヴィルデアの領域魔法、()()()()()()()()()()()()()()()()()。風景を上書きして俺らの姿を隠してるだけだ」

「へぇ……なら術者を堕とせば解除出来るのかしらぁ!!」

 

 

 腐ってもLv.7。

 音と気配から惑わす幻像風景に躊躇せずに踏み込み、声の聞こえたノーグに駆け寄る。ノーグが意識を落とせば魔法は解除される。

 

 

「【福音(ゴスペル)】!」

「がっ……!?」

 

 

 至近距離の音魔法がメルティの鼓膜を破く。

 付与魔法のせいで人間の体温を感じられず、()()()()()()()()()()()()()()()。姿が見えないアルフィアの攻撃は恐ろしく脅威となる。

 

 

「鼓膜が破れたら音は拾えないな」

「こっの…クソガキィがあああああ!!!」

 

 

 怒りのまま地面を踏み砕いた。

 凍り付いた領域が揺らぐほどの剛力に顔が引き攣る。だが、姿も魔力も体温も感じられないメルティに残されたのは気配のみ、闇雲に種子を発射しないだけまだ冷静ではあるのだろう。

 

 

「領域の効果は三つ、領域にいる存在に任意で一段階の付与魔法をかけられる事、凍り付いた場所全てに幻像を生み出せる事、そして三つ目は凍り付いた領域から()()()()()()()()()()

 

 

 凍り付いた範囲は半径約三十メートル。その範囲にある魔素を還元し、()()()()()()()()()()()()()()。領域に使う魔力以上に精神力を回復出来るこの魔法は死ぬか魔法を任意で解かない限り、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 大精霊ヴィルデアは冬の女王として英雄に永遠の冬の力を与え続けた最高位の存在。その領域はこの世界のどの魔法よりも一線を画すものだ。

 

 魔素が回収され、その行く先はアルフィア–––––ではなく。

 

 

「なっ、精神力(マインド)が回復…」

「今俺はアンタに領域内の魔素を回収させてる」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 魔素が集まりメルティの精神力が回復していく。敵を回復させる蛮行に対してアルフィアは何も言わなかった。それはノーグの意図を理解したからだ。

 

 

「さあ問題だ。散々使っていた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?聞こえちゃいないから正解は身をもって知るんだな」

 

 

 アルフィアの魔法【サタナス・ヴェーリオン】は放てば放つだけ魔力が拡散し、アルフィアから生まれた魔素を誘爆させる事が出来る希少魔法。超短文詠唱とは思えない便利さと汎用性を兼ね備えている。ただ相手が格上の場合、範囲起爆では大したダメージを与えられない。

 

 その拡散した魔素をノーグがメルティに集めた。範囲ではなく一点集中した魔素にアルフィアは導火線の火をつけた。

 

 

「【炸響(ルギオ)】」

 

 

 炸裂したアルフィアの魔素が最強の殺戮者を飲み込んだ。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 一点突破の爆発、その余波だけで民家の窓ガラスが砕け散るほどに強力だ。こんなものを食らって生きていたらそれこそ怪物だ。

 

 

「よく狙いを理解出来たなお前」

「わざとらしく説明したのは私への指示だろう?お前を再起不能にすれば魔法は解除されると奴は思い込む。狙いが単調になる」

「いや確かに意図的に言ったけど精々耳を潰せばよかった程度しか……」

 

 

 流石に狙いまでの考えには至らなかった。

 メルティ・ザーラの取るべき行動は二つ。術者である俺の意識を飛ばすか、氷結範囲から出るかの二択。奴なら絶対に俺を攻撃するだろうなと思ってはいた。だが、アルフィアはそれを読み切り奇襲を仕掛けた。大した奴と思いながらも爆破された場所を見る。

 

 

「っ!?」

 

 

 言葉が詰まる。勝鬨が上がらない。 

 あの一点突破の爆破を食らって倒れない筈がない。至近距離から火炎石が爆発したようなものだ。女帝でさえ屈する程の威力だったはず、勝ったはずだ。なのに身体は無意識に魔法を解かずに回収した魔素で精神力を回復させている。

 

 魔法を解けない程の無意識の警戒。

 追い詰められた最強の殺戮者の圧力(プレッシャー)。殺気迸る眼光が、見えない筈の此方を向いていた。

 

 

528:名無しの冒険者

後ろやイッチ!?

529:名無しの冒険者

見えてない筈なのに場所がバレてる!?

 

 

「なっ、アル––––」

 

 

 振り向いた時にはアルフィアが斬られていた。

 辛うじて腹部に俺の剣を添えたが、血が溢れて倒れていくアルフィアの首を片手で掴む血濡れの殺戮者が此方を向いた。

 

 

「魔法を解除しなさい。しないのならこの女を殺す」

「テメッ、どうやって……!」

「何言ってるか分からないけど、()()()()は隠せなかったわね」

 

 

 ノーグは瞠目した。

 メルティ・ザーラは獣人ではない。レベルの高い冒険者なら五感は確かに優れる。だが、遠い場所から匂いだけで位置を把握する程の嗅覚、最も人を殺した災厄の獣は血の匂いに敏感だった。

 

 ギリギリと喉元を掴まれ、魔法を詠唱しようとすれば喉を潰される。魔法より先にアルフィアを殺す方が早いだろう。

 

 

「や…めろ…逃げ……」

「………クソッ」

 

 

 黒い三日月は消え、幻像に隠れていた姿が露わになる。アルフィアを見捨てて逃げる事は出来た。だが、ノーグにはそれが出来なかった。メルティが片手で振り翳した大剣から種子が撃ち出され、躱そうとした瞬間アルフィアの首を掴む力が目に見えるほどに強くなっていた。

 

 

「ぐっ……!?」

「どうやら本物のようね、そんなにこの子が大事?」

 

 

 撃ち込まれた種子から蔓が伸び、魔力と体力を吸収していく。動けない程ではないが、ガレスはこんなものを食らっていたのかと膝を突く。この状態じゃ満足に逃げる事も出来ない。

 

 

「武器を捨てなさい。それで終わりよ」

 

 

 右手に持つ剣を捨てれば、アルフィアは助かる。

 だが、捨てればきっと抵抗できずにノーグは連れ去られるだろう。自分か、アルフィアか、その二択を迫られた。

 

 アルフィアの視線は自分を見殺しにしろと訴えていた。アルフィアを殺してノーグを回収するくらいメルティ・ザーラには出来る。だが辛酸を舐めさせられたが故の報復。

 

 最悪の殺戮者は嗤っていた。

 どっちに転ぼうが待っているのは破滅でしかないのだから。

 

 

 そして––––ノーグは選択した。

 ノーグは剣を捨てずに、持てる全ての力を振り絞り駆け出した。

 

 

「愚かね」

 

 

 種子を撃ち込まれ、キレが悪い動きをしているが速さは中々なものだった。だがそれでも遅すぎる。掴む力に全力を注ぎ、取るに足らない子供を黙らせようとした次の瞬間。

 

 

「……はっ?」

 

 

 メルティの右肩が()()()()()()()()()

 音もなく、形も見えずに投げられた神速の槍が、右腕を飛ばし地面に突き刺さっていた。

 

 視線が放たれた方向に向く。

 そこに居たのは風景に紛れ、民家の屋根の上から槍を投擲してきた金髪の小人族の姿が。

 

 

「【勇者(ブレイバー)】……!?」

 

 

 フィンの第二魔法【ティル・ナ・ノーグ】

 全アビリティ数値を魔法能力に加算させ放つ投槍魔法は当たりさえすればメルティを殺せるほどの神槍と化す。聴覚は奪われようが、視覚はまだ生きている筈、見逃すなんてあり得ない。その疑問の答えは直ぐに理解した。()()()()()()()()()()()()

 

 

「(あの坊や、魔法を完全に解いてなかった……!?)」

 

 

 あの時の黒い三日月は()()()()()()()

 第二魔法【リア・スノーライズ】が発現し試しに使用した時に、救難信号として使えると踏んだノーグはフィン達に月の色と形で指示を出せるように暗号を作っていた。

 

 黒い三日月の意味は『隙が出来るまで待機』

 

 一部の幻像を残し、自分が囮になってまでフィンを隠し、切り札を悟らせなかった。その切り札が今、人質となったアルフィアの解放の鬼札に変わった。

 

 駆け出すノーグに対してメルティは片腕で相対する。片腕でもLv.7、藍色の焔を出す前に潰せるだけの自信がある。

 

 走るノーグの剣に顕現したのは藍色の焔–––()()()()()()

 

 

「黒い、焔?」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()が剣に纏われた。

 耳が潰れて詠唱は聞こえなかったが、口は動いていなかった。あの魔法は()()()()()()()()()()

 

 

「【魂の(アタラ)平穏(クシア)】」

 

 

 その出力を見たアルフィアは魔法無効化の装甲を張る。

 ノーグを止められる者はない。ノーグが躊躇する原因は消えた。桁が外れた大出力の黒い焔がメルティ・ザーラに向かっていく。

 

 

「(それでも、私の方が速い)」

 

 

 深緑の大剣がノーグに届く方が速い。

 種子を吐き出し、動きを封じる。凍らせて種子が殺されようと牽制程度にはなる。タイミングを合わせればメルティの剣の方が速い。ノーグに飛んでいく無数の種子が黒い焔に呑み込まれ––––

 

 

「はっ?」

 

 

 種子が()()()辿()()()()()()()()()()()

 藍色の焔の時とは明らかに違う出力。そして気が付けば大剣を振るった腕が凍り付いていた。スキル全解放、極寒の環境によるステイタス高補正と疾走時の敏捷強化、Lv.5にすら迫るノーグの剣閃が最強の殺戮者を捉えた。

 

 

「ああああああああああああああっ!!!!」

「っ–––––!?」

 

 

 黒い焔は深緑の大剣すら砕き、メルティの胴体を呑み込んだ。あらゆる熱が奪われ、生命維持に必要な熱も消え失せ、最強の殺戮者は氷界の果てへと命を散らしていった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 その後の処理は迅速だった。

 最強の殺戮者であり元【オシリス・ファミリア】団長であったメルティ・ザーラの討伐を果たした【氷鬼】のノーグ、【静寂】のアルフィアは重傷、精神枯渇を負いながらもノアール達に治療院に運ばれ、死の淵を彷徨いかけたが命に別状は無かった。

 

 帰ってきた女帝とマキシムは信じられない顔をしていたが、永久凍結されたメルティ・ザーラの死体を見て言葉を失っていたらしい。【アパテー・ファミリア】の討伐は精々構成員の下っ端程度しか削りきれなかったが、【アパテー・ファミリア】から最強の戦力を失わせたと思えばお釣りが出るほどの大金星にオラリオは騒いだ。

 

 アルフィアは腹部を斬られ、出血が酷かったが天界の神が天界に送る事をさせなかった。治療士の的確な処置と、帰ってきたメナの魔法により傷は塞がり痕もなくなったが、暫くは休息に当たるとの事。

 

 リヴェリアは麻痺毒を抜かれ、回復薬で傷は既に癒えていたがエルフ達が心配して病室が騒がしかったようだ。ガレスに関しては大剣が砕けた事により種子が消え、酒と飯を食って回復していたようだ。

 

 ノーグに関しては暫く入院。

 蔓が伸びていた状態でデメリットの大きいスキルを使い、精神疲弊(マインドダウン)を超えて精神枯渇(マインド・ゼロ)により生命維持ギリギリの精神力を使い、ぶっ倒れてから5日は目を覚まさなかった。肋骨も折れていた為、そんな状態で戦闘を行ったノーグに診察した神ディアンケヒトから雷が落ちたとか。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ………」

 

 

 英雄譚を読み、欠伸を溢しているといつもの黒髪サポーターが病室に入る。ノックしない辺りデリカシーが無いが、右手にはフルーツバスケットが握られていた。

 

 

「やあノーグ、入院生活はどうだい?」

「まあ暇だな」

「元気そうで何よりだよ、これメーテリアからの差し入れと俺の差し入れ、豪華なフルーツバスケット」

「おおー、ありがとう」

「因みに賞味期限明日」

「しばくぞ」

 

 

 近くの物置に置かれたラッピングされたクッキーと大きめのフルーツバスケット。賞味期限切れ間近の安いやつを買うあたりコイツらしいと思いながらもバスケットからバナナを取り出し剥いていく。

 

 

「しっかしメルティ・ザーラを斃すとはねぇ、お兄さん君の才能が怖いよ」

「お前と歳それほど変わらないだろ」

「歳上でーす!君より身長ちょっと高いお兄さんでーす!」

「病室で騒ぐな」

 

 

 まだステイタス更新はしていないが、Lv.4は確実だろう。フィンも美味しい所を持っていってLv.5に昇華したらしいし、アルフィアもLv.6に至ったと報告を受けている。

 

 

「とはいえ、俺も俺でやっぱり色々と思う所はあんだけどね」

「……何かあったの?」

「まあお前ならいっか、俺のスキルには一定以上の憤怒が無ければ発動出来ないスキルがあるんだけど」

 

 

 ステイタスに関する情報は禁句だが、仲は悪くないし相談としてはいいだろう。黙っていれば誰にもバレない。ノーグは少しだけ心境について悩みを打ち明けた。

 

 

「リヴェリアやガレスを傷付けられて、発動出来るだけの憤怒を抱けなかった」

「…………」

「なんつーかなぁ……やっぱ俺って薄情なのかな」

 

 

 二人を傷つけられて怒りに身を任せるだけの力を得られなかった。家族が傷つけられたら怒るのが普通な筈だが、ノーグが発動できたのはアルフィアを人質に取られた時だった。リヴェリア達が大切だというのに、それが出来なかった。

 

 大切だと思っている筈なのにそれが出来ない薄情さに、今回ばかりは思う所があった。

 

 

「人生の先輩として一個だけ言っとくぜ少年」

「あっ?」

「それは()()()()()()

 

 

 思わず呆気に取られた表情になる。

 まさかコイツが普通の感情と肯定するとは思わなかったとノーグは目を細めた。これが普通とは思えない自分とは裏腹に、普通だと言い切ったサポーターは語る。

 

 

「ファミリアなんて主神が同じで一緒にホームに住む最も近い他人だぜ?肉親と同じような感情を持てって方が無理な話だ」

「……それは」

「子供ならそう思えるのかもしれないけど、ノーグって異常なくらい大人びてるからねー。精々頼りになる大人くらいの認識でしかないのかもしれない」

 

 

 確かにその通りだった。

 精神が大人過ぎるから子供のようにファミリアの人間を家族と思えない。頼りになる大人という認識だからか、他人事を他人事としか感じられないのかもしれない。ノーグにとってはそう思う事こそ普通なのかもしれない。

 

 

「ファミリアに対してそうあれとは誰も言わないよ。君のペースで家族と思えればいい、そんなの時間が解決するしね」

「………」

「そこに責任を感じる必要はない。焦んなよ」

 

 

 ポンポン、と頭を撫でられた。

 この男は妙な所で勘が鋭い。だからか責任を感じてる事を見抜かれていた。

 

 

「……なんかムカつく。いっつも率先して逃げるくせに」

「あははっ、まあ俺は死にたくないからねー、まあ夢見て冒険者やってっけど逃げ足くらいしか才能ないし」

「逃げてっから最弱なんだろうが」

 

 

 その言葉がグサッと刺さり地面に倒れ伏す最弱。自覚があったから更に地面にめり込んでいた。悩みはある、責任はまだ感じているがそれでも少しは楽になった気がした。

 

 

「……まっ、ありがとう」

「どーいたしまして、御礼はメロンでいいぜ」

「つーか手伝え、賞味期限明日なんだろ」

 

 

 フルーツバスケットを漁り、メロンや葡萄などをつまみ始める。男二人でフルーツを食べ進め、軽いフルーツパーティは次のお見舞いに来たオッタルが来るまで続いたとか。

 

 




ノーグ Lv.3 (最終ステイタス)
 力  S941→S999
 耐久 A863→S998
 器用 S921→SS1023
 敏捷 S952→SS1052
 魔力 SS1051→SSS1235
【天眼G→F】
【耐異常H】
【耐冷I→G】
『魔法』
【アプソール・コフィン】
・二段階階位付与魔法
・一段階『凍てつく残響よ渦を巻け』
・二段階『燻りし焔をその手に慄け、氷界の果てに疾く失せよ』
【リア・スノーライズ】
・領域魔法
・指定した存在に氷付与魔法を付与
・極寒、氷結範囲に幻像使用権限獲得
・極寒、氷結範囲から魔素の回収、精神力還元
『それは尊き冬の幻想、今は閉ざされし幻雪の箱庭、流れて駆けゆく数多の精、黄昏に吹雪く厳冬の風、打ち震えよ、我が声に耳を傾け力を貸せ、黄昏の空を飛翔し渡り、白銀の大地を踏み締め走れ、悠久の時を経て、懐かしき冬が目を醒ます、届かぬ天を地に落とし、今こそ我等に栄光を、箱庭は開かれた、偉大なる冬の世界へようこそ』
『スキル』
天啓質疑(スレッド・アンサーズ)
・■■■■■■■■■
・神威に対する拒絶権
追走駆動(ウェルザー・ハイウェイ)
任意発動(アクティブ・トリガー)
・疾走時、精神力を消費し『敏捷』の上昇
・発動時、加速限界の制限無視
冷鬼覇豪(ヘル・フレーザー)
・発展アビリティ【耐冷】の獲得
・環境極寒時、ステイタスの高補正 
憤怒臨界(アベレンジ・ラース)
・一定以上の憤怒時発動可能
・精神力二倍消費による魔法の詠唱破棄
・怒りの丈より出力上昇


 ★★★★★
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十五スレ目



 ちょっと課題ヤバいので少しペースが落ちますが頑張ります。


 

 

 

1:道化所属 

みんなー、定期報告の時間だよー!

出欠取りますAre you Ready バンゴー!

 

 

2:名無しの冒険者

1

 

 

3:名無しの冒険者

2

 

 

4:名無しの冒険者

3

 

 

5:名無しの冒険者

4

 

 

6:名無しの冒険者

5

 

 

7:名無しの冒険者

いや超えたな

 

 

8:名無しの冒険者

懐かしいな、今でも聴いてる人いる?

 

 

9:名無しの冒険者

ワイは今でも聴いてる

 

 

10:名無しの冒険者

スレ民全部出欠取ったら100レスは持ってかれるで?

 

 

11:名無しの冒険者

とりあえずスレ立て乙

 

 

12:名無しの冒険者

さあ聞かせてもらうで、今のイッチのスペックをよぉ!!

 

 

13:名無しの冒険者

待て、その前に時間や。あの戦いからどれくらい経った?

 

 

14:道化所属

二週間やな。入院中に報告纏めてもよかったんやが、ステイタス更新で漸くワイの今のスペックがわかったわ

 

 

15:名無しの冒険者

発展アビリティの安価期待

 

 

16:名無しの冒険者

安価に呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!

 

 

17:名無しの冒険者

呼んでねえわ

 

 

18:名無しの冒険者

安価と聞いて(シュタ

 

 

19:名無しの冒険者

気が早過ぎる

 

 

20:名無しの冒険者

とりまスペックからや。安価出来るかはイッチの才能にかかってる

 

 

21:道化所属

出来るで、今回は異常に多かったわ

 

 

22:名無しの冒険者

FOOOOOOOOOOOOOOOOO〜〜!!

 

 

23:名無しの冒険者

安価の時間だぜィ!

 

 

24:名無しの冒険者

拡散しろー!!

 

 

25:名無しの冒険者

待っていたぜこの時を…!!

 

 

26:道化所属

まあ待てや。とりあえず最終ステイタスやな。

ノーグ Lv.3

 力  S999

 耐久 S998

 器用 SS1023

 敏捷 SS1052

 魔力 SSS1235

【天眼F】

【耐異常H】

【耐冷G】

『魔法』

【アプソール・コフィン】

・二段階階位付与魔法

・一段階『凍てつく残響よ渦を巻け』

・二段階『燻りし焔をその手に慄け、氷界の果てに疾く失せよ』

【リア・スノーライズ】

・領域魔法

・指定した存在に氷付与魔法を付与

・極寒、氷結範囲に幻像使用権限獲得

・極寒、氷結範囲から魔素の回収、精神力還元

『それは尊き冬の幻想、今は閉ざされし幻雪の箱庭、流れて駆けゆく数多の精、黄昏に吹雪く厳冬の風、打ち震えよ、我が声に耳を傾け力を貸せ、黄昏の空を飛翔し渡り、白銀の大地を踏み締め走れ、悠久の時を経て、懐かしき冬が目を醒ます、届かぬ天を地に落とし、今こそ我等に栄光を、箱庭は開かれた、偉大なる冬の世界へようこそ』

『スキル』

天啓質疑(スレッド・アンサーズ)

・■■■■■■■■■

・神威に対する拒絶権

追走駆動(ウェルザー・ハイウェイ)

任意発動(アクティブ・トリガー)

・疾走時、精神力を消費し『敏捷』の上昇

・発動時、加速限界の制限無視

冷鬼覇豪(ヘル・フレーザー)

・発展アビリティ【耐冷】の獲得

・環境極寒時、ステイタスの高補正 

憤怒臨界(アベレンジ・ラース)

・一定以上の憤怒時発動可能

・精神力二倍消費による魔法の詠唱破棄

・怒りの丈より出力上昇

 

 

27:名無しの冒険者

うん、もうチーターやん

 

 

28:名無しの冒険者

もうこれに関しては前回のライブ見たから驚かんわ

 

 

29:名無しの冒険者

まあ逆にこれだけなければLv.7には勝てんやろうし……

 

 

30:名無しの冒険者

寧ろよく勝てたなと褒めてやらんでもない

 

 

31:名無しの冒険者

それで、発展アビリティはなんなん?多い言うてたけど

 

 

32:道化所属

今回は【魔導】【剣士】【精癒】【直勘】【心眼】の五つや

 

 

33:名無しの冒険者

うおおっ……結構エグいな

 

 

34:名無しの冒険者

それぞれ効果が重要やからな

 

 

35:名無しの冒険者

【魔導】魔法の威力増幅

【剣士】剣を使う時の補正

【精癒】精神力の自動回復

【直勘】虫の知らせ

【心眼】死角からの攻撃の反応?

 

 

36:名無しの冒険者

解説乙

 

 

37:名無しの冒険者

【心眼】は結構魅力的だよなぁ

 

 

38:名無しの冒険者

多対一戦では欲しいもんではある

 

 

39:名無しの冒険者

付与魔法の剣士なら【精癒】だな

 

 

40:名無しの冒険者

イッチ付与魔法での攻め多いし

 

 

41:名無しの冒険者

イッチ的には何がいいんや?

 

 

42:道化所属

ワイは【魔導】やな

 

 

43:名無しの冒険者

意外過ぎるチョイス

 

 

44:名無しの冒険者

死にたくないから【直勘】選ぶと思ってた

 

 

45:名無しの冒険者

なんか理由でもあるんか?

 

 

46:道化所属

【魔導】は威力増幅と魔法の容量を上げられるんや。詠唱を終わらせて臨界寸前の待機とかあの白黒エルフがやっとったやろ?アレやりたい

 

 

47:名無しの冒険者

それメルティ・ザーラもやってなかったか?

 

 

48:名無しの冒険者

いや【魔導】がなくても超短文詠唱なら可能かもな

 

 

49:名無しの冒険者

でも容量上げられたって強みあるんか?イッチ並行詠唱出来るんやろ?

 

 

50:名無しの冒険者

まあ威力増幅は確かにええけど

 

 

51:道化所属

ワイの第二魔法は超長文詠唱で自分他人に一段階付与しか出来へんのや。それ自体はええんやけど、ワイの強みである第二段階の解放が出来へんのや。第二段階に切り替える時、第二魔法を一度切らなアカン。【魔導】が成長して容量が上がれば()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()

 

 

52:名無しの冒険者

な、んだと……

 

 

53:名無しの冒険者

それはアツい

 

 

54:名無しの冒険者

姿を消しながら第二段階の奇襲とかヤバいな

 

 

55:名無しの冒険者 

精神力回復するから魔法が尽きない

 

 

56:名無しの冒険者

確かにロマンがある

 

 

57:道化所属

じゃあそろそろ行こうか。

運命の選択をよぉ!!>>70

 

 

58:名無しの冒険者

クソがああああ!?早漏(はや)すぎる……!?

 

 

59:名無しの冒険者

もう少し考えたかった……!

 

 

60:名無しの冒険者

剣士

 

 

61:名無しの冒険者

魔導

 

 

62:名無しの冒険者

精癒

 

 

63:名無しの冒険者

精癒

 

 

64:名無しの冒険者

直勘

 

 

65:名無しの冒険者

剣士

 

 

66:名無しの冒険者

エミヤ目指して心眼

 

 

67:名無しの冒険者

心眼

 

 

68:名無しの冒険者

剣士

 

 

69:名無しの冒険者

心眼

 

 

70:名無しの冒険者

魔導

 

 

71:名無しの冒険者

直勘

 

 

72:名無しの冒険者

剣士

 

 

73:名無しの冒険者

ちくしょおおおおおお!!

 

 

74:名無しの冒険者

イッチのせいでえええええ!!

 

 

75:道化所属

いやこれワイのステイタスやからな?今回は助かったわ。ありがとうな>>70の人

 

 

76:名無しの冒険者

ふっ、もっと褒めるがいい

 

 

77:名無しの冒険者

>>76 死ね

 

 

78:名無しの冒険者

>>76 貴様を殺す

 

 

79:名無しの冒険者

>>76 テメェは俺を怒らせた…!

 

 

80:名無しの冒険者

>>76 スレ民としての自覚はないのか!?

 

 

81:道化所属

>>77>>78>>79>>80 貴様ら外道だろ。いやまあ何が来てもプラスになってたからよかったんやけどさ

 

 

82:名無しの冒険者

因みに何が一番嫌だったん?

 

 

83:名無しの冒険者

どれもプラスやけど強いて言えば?

 

 

84:道化所属

【剣士】かな。器用さでなんとかなるし、殲滅系付与剣士やから

 

 

85:名無しの冒険者

クソが

 

 

86:名無しの冒険者

ワイらの愉悦がぁ……!

 

 

87:道化所属

まあ帰ったら更新するとし…ん?

 

 

88:名無しの冒険者

どしたイッチ?

 

 

89:名無しの冒険者

つかイッチ、外に居るんか?何処にいるんや

 

 

90:道化所属

メインストリート。こっちやとそろそろ年越すのと不謹慎やけどメルティ・ザーラが死んで脅威が消えた分、ちょっとしたお祭り騒ぎになっとってな?だからワイもちょっと周っとったんやけど

 

 

91:名無しの冒険者

何何?なんか見つけたの?

 

 

92:名無しの冒険者

イッチのさりげない疑問が爆弾投下に繋がるからなぁ

 

 

93:名無しの冒険者

とりあえず話してみそ

 

 

94:道化所属

【速報】黒髪赤目のサポーターがメーテリアをお姫様抱っこしている所を見つけてしまった件

 

 

95:名無しの冒険者

ダニィ!?

 

 

96:名無しの冒険者

尾行しろイッチ

 

 

97:道化所属

えっ、はっ?なんかこっち来た。

 

 

98:名無しの冒険者

はっ?

 

 

99:名無しの冒険者

えっ、何で?

 

 

100:名無しの冒険者

二人のデートやで?馬に蹴られるで?

 

 

101:道化所属

あっ……ヤバい

 

 

102:名無しの冒険者

今度はなんや!?

 

 

103:名無しの冒険者

つか待って、サポーターまた許可取ってないんじゃ

 

 

104:名無しの冒険者

えっ、誘拐?

 

 

105:道化所属

ヤバいヤバいヤバい!走ってきたアルフィアがめっちゃキレてる!?なんかワイまで巻き込まれた!?

 

 

106:名無しの冒険者

 

 

 

107:名無しの冒険者

 

 

 

108:名無しの冒険者

【悲報】イッチ、誘拐疑惑なすりつけられた件

 

 

109:名無しの冒険者

この後の行動の安価やろ

 

 

110:道化所属

馬鹿野郎!逃げの一択だわ!?これ見て同じ事言えるか!?

【画像】

 

 

111:名無しの冒険者

ヒエッ

 

 

112:名無しの冒険者

メルティ・ザーラ戦よりキレてね?

 

 

113:名無しの冒険者

捕まったらタヒ

 

 

114:名無しの冒険者

イッチ、お前はいい奴やった

 

 

115:名無しの冒険者

この祭りの花火となるのだ

 

 

116:名無しの冒険者

きったねえ花火だぜ

 

 

117:道化所属

ちょっとぉ!?今回ばかりは完全にとばっちりなんだけど!?

 

 

118:名無しの冒険者

ザマァww

 

 

119:名無しの冒険者

他人の不幸でメシが美味ぇ!!

 

 

120:名無しの冒険者

これぞ愉悦

 

 

121:名無しの冒険者

愉悦不足のワイらからしたらありがたいわ

 

 

122:名無しの冒険者

イッチよ、盛大に死ぬがよい

 

 

123:道化所属

クソおおおおっ!!なんで年明け間近で鬼ごっこやらなきゃいけないんだよおおおおっ!?

 

 

124:名無しの冒険者

鬼はイッチでは?【氷鬼】やし

 

 

 

 

 

 ★★★★★★

 

 

「テメッ!?何で俺まで巻き込みやがった!?」

「今捕まるわけにはいかないし、なんならノーグにも用があったからね!」

「振り切った後でもよかっただろうが!?」

「残念!残念だ!残念でしたの三段活用!こうなったら君も道連れだ!ようこそ鬼ごっこへ!歓迎するぞ少年!」

「嫌だよ!死ぬわ!?」

 

 

 アルフィアが鬼の形相で追っかけてくる。こう見ると般若に見える。捕まったら殺される威圧感を撒き散らしながら、追いかけてくるそれはハッキリ言ってメルティ・ザーラより怖い。サポーターがメーテリアをお姫様抱っこしながら街中を逃げていく中、巻き添え食らった俺も気が付けば走っていた。

 

 

「つーか素直にアルフィアに説明すりゃあいいんじゃないの!?」

「あー、それはメーテリアの要望で」

「ごめんなさい…今捕まる訳にはいかないんです!」

 

 

 のっぴきならない事情でもあるのか。

 メーテリアが我儘を言うのは珍しいのだが、後ろの存在から逃げられる保証など何処にもない。つかサポーター、貴様また無断で外に連れ出したな?アルフィアがあそこまで怒る理由はそれしかねえ。

 

 

「クソッ、貸し一つだぞ!?【それは尊き冬の幻想、今は閉ざされし幻雪の箱庭––––】」

「えっ!?並行詠唱!?」

 

 

 流石に恐怖心が勝った。

 まだステイタス更新をしていないのが幸いか【魔導】の魔法円(マジックサークル)は出ないから騒ぎは起きない。しかも年明け前、環境は極寒。神は言っていた、ここで死ぬ定めではないと。

 

 メルティ・ザーラ戦から器用さに磨きがかかり魔力操作は全力疾走しながらでも乱れない。あっ、ヤバいアルフィアが魔法唱えようとしてる。

 

 

「【冬の世界へようこそ––––リア・スノーライズ】!」

 

 

 幻像の箱庭の顕現。

 隠れるには充分過ぎるほどの魔法でアルフィアを撹乱させる。こんな事の為にヴィルデアの魔法を使うのも馬鹿らしいと思うが、俺も命が惜しいので割と全力で隠れた。

 

 

「声出すなよ」

 

 

 人混みを超え、街角を曲がったところで風景と同化し何とかやり過ごしたが、幻像の俺達に魔法をぶっ放している所を見て震えが止まらなかった。幻像だと分かって更に怒りを激らせていたのを見て捕まったら死ぬ事を悟った。

 

 

「これ、俺も後で殺されるんじゃねえの?」

「あははは、めっちゃあり得る」

「年明け前の花火になりたくないんだが」

「想像出来るからやめて」

 

 

 うん、アルフィアの魔法は知ってるから想像出来てしまう。仲良く二発の汚い花火になりかねない。震えが止まらねえよ。俺まだアルフィアに絶対勝てないし。

 

 

「で、またメーテリアを無断で連れ出したのか?」

「まあそうだけど、今回は事情があるんだ」

「……何かあったのか?」

 

 

 メーテリアは言葉を詰まらせながら答えていく。

 どうやら今回の脱走はメーテリアの我儘っぽい。少しこの後の事で後ろめたい気持ちがあるのかも。俺とサポーターはこの後地獄を見る羽目になりそうだし。

 

 

「その、姉さんに……贈り物をしたくて」

「ん?もしかして誕生日なのか?」

「はい。でもいつも私だけ貰ってばかりで、偶には私から贈りたいからこの人にお願いしたら」

 

 

 ため息を吐く。

 アルフィアにバレたくないからって無断外出して命の危険に晒されるこっちの身にもなってほしい。俺もサポーターも殺される運命しか見えないのに。

 

 事情を聞くとメーテリアとアルフィアは双子だから誕生日の時はプレゼントを渡す。だが、アルフィアからメーテリアは多いのに逆は外に殆ど出られないから全くと言っていいほどないらしい。

 

 

「成る程……うん、だからってそれくらいヘラとかに事情を話せば」

「ヘラ様は外出する際は団長か副団長が居ればいいって」

「過保護か。余りあって過剰戦力だろ」

 

 

 そういや団長や副団長は外で見かけたな。

 今回のお祭り主催者で、祭りに必要な物資運搬とか色々やってたらしいし、もしかしたら忙しくてメーテリアに手が回らないのかも。

 

 

「まあ、乗りかかった船だ。俺も協力するが……お前はいいのか?」

「?」

 

 

 サポーターは不満そうだ。

 何せメーテリアとのデートに野郎が一人入るのだ。気を遣って離れるべきなら離れる方がいいのかもしれない。というかメーテリアのお願いを聞くの半分、デートの欲望半分な気がするが。

 

 

「我慢するさ、白いお姫様の願いだからね!非常に不満だが今回はメーテリアの願いを優先する」

「少しは隠せよ」

 

 

 やっぱり二人きりが良かったんだな。

 というより、アルフィアの誕生日知ってたらまあ贈り物くらいは考えてたけど、アイツ騒がしいのが嫌いだからパーティとか絶対参加しないと思うし誕生日とか教えるつもりは無さそうなイメージがある。祝ってほしいと思わないような気もするが。

 

 

「でも元から俺を誘うつもりって、何か理由があるのか?」

「その方が姉さんも喜ぶと思うし」

「そうかねぇ……」

「だって姉さん」

 

 

 メーテリアが朗らかに笑いながら告げる。

 

 

「貴方の話をする時、楽しそうに笑うんですよ?」

 

 

 

 呼吸が止まった。

 あ、れ?なんか身体が熱い気がする。アルフィアが俺の話をする時に楽しそうって言葉になんか照れるというか嬉しいというか恥ずかしいと言うか……ヤバい結構動揺しちゃってるよ俺。

 

 いやさ、『天啓』のくだらない安価な結果だった訳だし、アルフィアが今後の話の重要な存在だと思ったから結構気にかけてた……けど。

 

 アレ……?俺ってもしかしてヤバい?

 アルフィアを特別視し過ぎてる自覚はあったけどコレは……

 

 

「………あー、うん。とりあえず行こうぜ」

「照れてる?」

「照れてます?」

「うっせえ!空前絶後の凡人共!」

 

 

 自覚してしまうと身体が熱くなる。

 暫く頬の熱が冷まされそうにない気がする。下手に意識すると悶えそうだ。そうしたら二人に揶揄われそうだから、マフラーで顔を埋め、俺たちは祭り中の街中を歩き始めた。

 

 







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自覚


 スレ民よ、今回は出番などない。済まないな。


 

 

「で、アテはあるのか?アルフィアの誕プレ」

「とりあえず雑貨屋を見ようかなって思います。姉さんは派手なものとか余り好きではありませんし」

 

 

 二つ名が【静寂】と呼ばれる程だ。

 確かに派手そうなものは好まなそうだが、それだと一つ疑問が生まれる。アルフィアは静寂を好むが、服に関しては結構派手にも思える。

 

 

「その割には大体いつも黒いドレスなんだけど」

「あの人自分に似合うものを着るので、そこら辺は曖昧ですね」

「女だったら羨ましい限りだなオイ」 

 

 

 大半の服が美貌に負けるから派手なものが似合うというふざけた理由でいつも少し派手そうな服を着ている。女としては羨望を浴びる程のものだ。何着ても似合いそうな美人ではなく、何着ても大体美貌に負けるという美人だから似合う服が限られるとは斜め上を行っていた。

 

 

「アクセサリーとか?アルフィアって大人っぽいし」

「うーん、マフラーとかそういうのもいいんじゃ」

「本というのも悪くありませんし、候補が――」

 

 

 メーテリアが露店に視線を向けると、ノーグも自然と足を止める。

 

 

「ん?どったの二人とも」

 

 

 サポーターも二人が見ているものに視線を向ける。メーテリアとノーグの視線が偶々やっていた小さな露店に向く。そこには綺麗なガラス細工やネックレスと見た目が華やかでプレゼントに丁度いい物があった。雑貨屋で探すよりここがいい気もしてくる程に。

 

 

「露店にこんな物があるとはな……意外といい」

 

 

 メーテリアが指差したのは一つのブローチ、周りは金メッキで丁寧に形を整えられていながら、中心に取り付けられた宝石のようなガラス細工はハッキリ言って素人が造れるような物ではなかった。

 

 

「これ、凄くいい……」

「お目が高い。そのブローチを選ぶとは」

 

 

 ローブを被って顔を隠した老人が称賛の言葉を語る。ノーグは細目のまま置かれたネックレスやブローチ、指輪を見ていく。どれも質は悪くないが、一つだけ違和感を感じて店主を睨む。

 

 

「曰く付きか?つーか、右から三番目の奴は呪詛具だろ」

「えっ……!?」

「命に害を及ぼすような奴じゃない。それほど強力な物でも無さそうだし、触れたら離れられなくなるとかそんな程度だろうけど」

「……ええその通り、あのネックレスは付けたら外せない呪いが付与されてます。まあ壊せば取れますが」

 

 

 ノーグの【天眼】は洞察力の強化。

 最近では魔力の色すら見えるようになったその瞳はネックレスから滲み出ている呪詛の魔力を見分けられる。マキシムも同じスキルを持っているのか、魔力を見る力は希少な発展アビリティなのだろう。

 

 

「呪詛具とかそんなもの売って大丈夫なのかい?そういうのって違法なんじゃ」

「いや、憲兵を動かせる程の呪詛じゃねえ。なんなら掘り出し物として呪いのアクセサリーって部類を欲しがる人もいるしな。そもそも呪詛とか気づける人間は少ないし」

「あ、あくどい……」

 

 

 バレなければ違法ではない。

 そもそも魔力を見分ける力を持った冒険者が少ないのだ。ノーグの他にマキシムや女帝なら出来るが他の人間は見ただけで呪詛具とは気付けない。それにバレたところで一夜経てば行方を眩ませるくらい造作もない。

 

 

「そのブローチは呪詛具ではなく、ある魔導師が作った物です」

「へぇ、効果は?」

「試しに触れてみると分かります」

 

 

 メーテリアがノーグを見た。

 試しに触れてほしい、と視線で訴えていた。呪詛は感じないが、さっきの説明でなんとなく怖くなったのか押し付けてきた。

 

 

「よしノーグ任せた!」

「貴様もかブルータス」

 

 

 ノーグは溜息を吐きながらも軽く触れる。

 するとブローチに埋め込まれたガラス部分の色が変わる。透明な色から深く浸透するような綺麗な藍色に変わっていく。

 

 

「おお、色が変わった」

「綺麗な藍色ですね……」

「成る程……()()()()()()()()()()()()()

 

 

 確かにかなりの物だ。

 魔力は基本的に感知は出来ても色で見分ける事が出来ない。それが出来るようになるスキルや発展アビリティは存在するが、それを持つ者は少ない。誰でもそれを視認できるように造り出した物なら大したものだ。

 

 

「いいんじゃないか?値段は?」

「十二万ヴァリスです」

「高っ!?そんなにするもんなの!?」

「まあするだろうな、こういう商品は貴族との取引で利益が出たりするしな。コアな奴等はその腕を買って専属契約をしたりする所もあるらしいし」

「鍛治士みたいですね……ううっ、お金が足りない」

 

 

 魔導具は基本的に冒険者が買うが、こう言った装飾品として売り出すことも多々ある。宝石や金に物を言わせた装飾品よりもこういったものが注目を集めることも多いのだ。貴族の中ではよくある話だ。神の宴に参加した事のあるロキに聞いた事がある。

 

 

「どのくらいあるんだ?」

「四万ヴァリスしかないです」

「お前はどんくらい持ってる?」

「二万ヴァリスだね。残念ながら俺はそこまで持ってない。最近英雄譚を大人買いしちゃったし」

 

 

 メーテリアの我儘で脱走しているせいかサポーターが持っているお金は少ない。デートなら絶対に多く持ってきているはずだが、脱走とプレゼント選びまでは考えてなかったのだろう。

 

 

「ノーグは?」

「俺は十八万ヴァリス」

「すっごい持ってるな!?」

「剣の整備代分を持ってきたからな」

 

 

 メルティ・ザーラとの戦闘で剣がかなり摩耗してしまったので整備に出すためと、偶の休暇を楽しむ為にそこそこ多く持ってきている。とはいえ整備代から出せば明日になりそうだが、そこまで整備に急いでいる訳でもない。

 

 

「仕方ない、一人四万で出し合うか。お前は後で返せ」

「ぐっ…仕方ない。まあ直ぐに稼げるか」

「えっ、でもいいんですか?」

「稼いだ金はまだ全然あるし、一日あれば倍の額が戻るからいいさ」

「じゃあ返さなくてもよくね?」

「利子付けるぞコラ」

 

 

 結果、三人で出し合ったお金でブローチを購入した。

 

 

 ★★★★★

 

 

「………くそ、前もこんな事なかったか?」

 

 

 俺はサポーターを背負い、メーテリアをお姫様抱っこしながら『神妃の王宮』へと向かっている。誕生日プレゼントを買い終えて暇となってしまい、メーテリア自身遠くに行けるほどの体力もなく、お金も無かった為、雑貨屋や本屋を見て回った後に酒場へと入った。

 

 メーテリアはキラキラと目を輝かせていた。

 酒場に入るのは初めてらしくて、俺もサポーターも苦笑していた。メーテリアも誕生日だったので俺が奢る事になったのだが、サポーターは頼んだ火酒に酔い潰れ、メーテリアに関してはノンアルコールをわざわざ出したというのに酒の匂いと場の雰囲気で酔い潰れ、今に至る。

 

 

「弱過ぎる……」

 

 

 火酒を頼んだサポーターは自業自得だとしてもメーテリアに関してはここまで弱いと思わなかった。なんなら飲んですらいないのに。二人を背負って『神妃の王宮』に向かう所とか完全にデジャヴだ。三年前を思い出す。

 

 

 

「ん?」

 

 

 歩いていると裏路地のゴミ箱に見た事のある汚ねえケツが見えた。恐る恐る近づいてみると、どっかで見た事のある存在がこっちを見ていた。

 

 それは神と言うには、あまりに変態すぎた。

 我欲まみれで、変態で、女好きで、救いようがなかった。それは正に絵に描いたようなエロジジイだった。

 

 

「………………」

「………………」

 

 

 見なかった事にしよう。

 触らぬ神に祟りなしというし。華麗に回れ右をしてその場を去る。変態を助けるほど慈悲深い存在ではない。

 

 

「いや助けろぃ!?」

「面倒事ならもうなってんだ、自力で何とかしろよ。どうせセクハラしたらビンタ飛んできたんだろ」

 

 

 ゴミ箱から勢いよく起き上がったゼウス。

 その頬には赤い紅葉が浮かんでいた。またいつものようにセクハラをかまして返り討ちにされたのだろう。

 

 

「はーっ、最近の子供は揃いも揃ってクソガキじゃのぅ」

「アホか。年がら年中女のケツを追っかけてるアンタに言われたくねえ。ヘラがいるんだから諦めろよ」

「いーや、ワシは諦めん!聖夜は過ぎても性夜はいつでも追っかけるのが男の性ってもんじゃろうが!」

「やべえよこの(ジジイ)。教育に悪過ぎる」

 

 

 最早生かしておいた方が害悪なまである。

 元気過ぎるよ色んな意味で、ヘラの怖さを知ってるのに懲りないし。

 

 

「ところでノーグ、お主メーテリアを抱えとるがなんじゃ?お持ち帰りか?送り狼にならないようにワシが」

「いやアンタに預けるくらいなら俺が責任持って送り届けるわ。アンタが一番の危険人物だからな?」

「いやいや、過ちを犯さないように導くのが神の――」

「【福音(ゴスペル)】」

 

 

 ゼウスが吹き飛んだ。

 慣れ親しんだ詠唱に背筋が凍り付きそうだ。ギギギと首を後ろに向けると、そこには怒気を放ちながら睨むメーテリアの姉の姿が。

 

 

「あ、アルフィア……」

「先程は舐めた真似をしてくれたようだが、遺言はあるか?」

「ヒェッ」

 

 

 あっ、コレ死んだ。

 そう思って目を瞑るが、どうにもならない。汚い花火になる覚悟を決めたその時、溜息の音が聞こえて恐る恐る目を開ける。

 

 

「冗談だ。大体事情は察している」

「……はっ?いつから?」

「先程だがな。ただ脱走するくらいならお前が協力する筈もないしな」

「……寿命が縮んだぞ」

 

 

 そこは信用してくれた事に安堵する。

 よくやった過去の俺、じゃなきゃ今日が命日になっていただろう。

 

 

「メーテリアは私が運ぶから渡せ」

「あー、うん。まあ怒らないでやってくれ」

「怒るものか、この子が私の為に外に出たんだろう?無理はしていないようだしな」

「悪かったな、魔法で欺く真似なんてして」

「私はそこまで器の小さい女ではない。メーテリアに何かがあったら話は変わったがな」

  

 

 あっ、やっぱり完全に許した訳ではないんですねハイ。ゼウスを置き去りに俺達はそれぞれのホームへと歩き始める。今背負っているコイツも送り届けなきゃいけないし。

 

 

「……ほらコレ」

 

 

 メーテリアと同時に持っていた紙袋を渡す。

 雑貨屋を回っていた時に買ったプレゼントだ。メーテリアの物と比べれば安い物だが、一応二人の十三歳の誕生日として普通に贈り物はしときたかったから買っといた物だ。

 

 

「リボン?」

「俺からお前ら二人に。13歳おめでとう」

「似合うとは思えないがな」

「似合うだろ。お前もメーテリアも美人なんだし」

 

 

 リボンはどう使うのか。ポニーテールか?サイドテールも似合う気がする。まあ何着ても大体似合う訳だし、どんな髪型でも似合うだろう。個人的にはポニーテールとか見てみたい。

 

 

「どうした?」

「こっち見るな。見たら殺す」

「あっ、はい……」

 

 

 アルフィアが顔を逸らした。

 殺されたくは無いので視線を向けずに歩き続ける。

 

 

「あの日、何故私を見捨てなかった」

「はっ?」

「助かったからよかったものを、私を見捨てればお前なら逃げられただろう」

 

 

 メルティ・ザーラとの戦いでアルフィアが人質に取られた時、確かに俺なら逃げられただろう。幻像の箱庭を展開していた以上、隠れ続ける事は確かに出来た。だが、それは俺には出来なかった。

 

 

「ばーか、理屈とかで片付けられるほど俺も大人じゃねーからな」

「!」

「アルフィアを死なせたくなかった。それだけだ」

 

 

 何回も救われて、助けに来てくれたのにアルフィアを見捨てて無様に生きる事はしたくなかった。生き延びればいいって信念も、アルフィアを犠牲にしてまで叶えたいとは思えなかった。理屈では俺の力を取られたら天秤が傾くから逃げなくてはいけなかったのかもしれない。

 

 けど、理屈だけで人は動けない。

 俺もこの世界に馴染んできたという事なのだろう。随分と我が強くなった。

 

 

「ノーグ」

「ん?」

 

 

 アルフィアの足が止まり、自然と俺も足を止めた。

 そして振り返ると、アルフィアはこちらを見て瞳を逸らさずに笑った。

 

 

 

「――ありがとう」

 

 

 

 柔らかく微笑むアルフィアを見て、心音が高鳴った気がした。気が付けば身体が熱くなって、頬が赤い気がする。動揺を隠すように顔を逸らすが、それでも熱は暫く冷めそうにない。外は寒いのに、熱は引いてくれない。

 

 

「っ………」

 

 

 ああ、うん。コレはもう確定だ。

 大人である分、自分の感情に気付かないほど鈍くはない。熱くなった頬は冷めやしない。だけど、この時が何故か嫌いではない。手で顔を覆いながら空を見上げる。

 

 

「何故顔を逸らす」

「……酒が回っただけだ」

 

 

 ああ本当に―――月が綺麗な事で。

 

 

 






 後日、『神妃の王宮』にて黒いリボンをつけたサイドテールのアルフィアを見て、勘のいい女帝達はニヤニヤと笑っていた。ホームが爆散し、メーテリアの雷が落ちたとか。

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十六スレ目

 すまん。課題が終わらないと進級出来ないから遅れます。合間で書いた八千字が消えてエタりそうになった。とりあえずどうぞ。


 

 

1:道化所属

はい、よーいスタート

 

 

2:名無しの冒険者

biim兄貴!?

 

 

3:名無しの冒険者

何に対してのRTAだ?

 

 

4:名無しの冒険者

いや待て、そろそろだろ諸君

 

 

5:名無しの冒険者

ハッ!

 

 

6:名無しの冒険者

そうかそろそろだ!

 

 

7:名無しの冒険者

海の王獣リヴァイアサンの討伐のRTAがはーじまーるよー!

 

 

8:名無しの冒険者

だが待て、その前にいつもの事だ

 

 

9:名無しの冒険者

時間と現状スペックを存分に語れぃ!

 

 

10:道化所属

先ずは現状報告からや。

ワイ、期限付きで【ヘラ・ファミリア】に改宗(コンバート)したわ

 

 

11:名無しの冒険者

 

 

12:名無しの冒険者

 

 

13:名無しの冒険者

 

 

14:名無しの冒険者

 

 

15:名無しの冒険者

はっ?

 

 

16:名無しの冒険者

えっ、ちょっと待て

 

 

17:名無しの冒険者

【ロキ・ファミリア】はどうしたの?

 

 

18:道化所属

むっっっちゃ渋ってたけど、戦争遊戯(ウォーゲーム)や略奪よりかはマシだし、陸の巨獣も海の王獣も生態系を崩しかねないから近いうちに討伐は必須なんやって事で交渉された結果一年くらい留学みたいに貸し出しとして送られたわ。

 

 

19:名無しの冒険者

断り切れなかったと、まあヘラだし

 

 

20:名無しの冒険者

やっぱ領域魔法と付与魔法はチートやしな

 

 

21:名無しの冒険者

レイド戦なら無限魔力とかズルやん

 

 

22:名無しの冒険者

で、期限はリヴァイアサンをぶっ殺すまでか?

 

 

23:道化所属

そうやな。今んとこ、ゼウスが一足先に陸の巨獣を斃す準備はしとるんやけど、リヴァイアサンの方が大幅に遅れとるしな。

 

 

24:名無しの冒険者 

なんで?

 

 

25:名無しの冒険者

いやまあ陸より海の方が足場とか逃げ道封鎖とか考えたら氷の魔剣とかめっちゃ必要じゃね?クロッゾの魔剣レベルでも百くらいないとリヴァイアサンに逃げられるしなぁ。

 

 

26:名無しの冒険者

あー、忘れてたけど陸で戦える訳じゃなくて、逃げ道封鎖してから陸に釣りあげるしか斃す術がないから女帝達も厳しいのか。

 

 

27:名無しの冒険者

まあイッチなら熱の燃焼でそれ以上の効果を齎してくれるしなぁ

 

 

28:名無しの冒険者

因みにイッチの心境は?

 

 

29:道化所属

アルフィアと居るのは確かに嬉しいけど、やっぱ帰りたい。家族から離れるって言ってロキはめちゃくちゃ嫌そうだったし、けど強くならなきゃ生き残れないから了承したけど、ホームが恋しい。

 

 

30:名無しの冒険者

見事なまでにホームシックww

 

 

31:名無しの冒険者

まあ年月は仕方のない事やしなぁ

 

 

32:名無しの冒険者

というか時間は?

 

 

33:道化所属

ランクアップから一年、【ヘラ・ファミリア】に入ってから一週間ってとこやな。今13歳や。

半年後にゼウス達がベヒーモス討伐に、一年後にワイらがリヴァイアサン討伐やな。

 

 

34:名無しの冒険者

えっ、別々に行くの?

 

 

35:名無しの冒険者

連合組んでいく方が確率上がらない?

 

 

36:道化所属

メルティ・ザーラを殺しても第一級殺戮者はまだ生きている訳だし、フレイヤの所でもワイらのファミリアでも対処し切れない。まだ五人以上生きとるらしいし

 

 

37:名無しの冒険者

そうやった……

 

 

38:名無しの冒険者

抑止力が一気にオラリオから離れたらそれこそオラリオの終わりやな

 

 

39:名無しの冒険者

つか思ったんやけど

 

 

 

今は道化所属じゃなくね?

 

 

40:名無しの冒険者

はっ

 

 

41:名無しの冒険者

確かに

 

 

42:名無しの冒険者

よしイッチ!コテハン安価しようぜ!

 

 

43:道化所属

待て待て、そう言えば二つ名についてなんやけど【氷鬼】からまた新しくなったわ

 

 

44:名無しの冒険者

何……だと?

 

 

45:名無しの冒険者

よし、ワイ達が予想したるわ

 

 

46:名無しの冒険者

氷獄藍炎騎士(アイスブリザードナイト)

 

 

47:名無しの冒険者

はいはーい!【藍色の天使(ブルーエンジェリック)

 

 

48:名無しの冒険者

【才禍の婿】一択やろ

 

 

49:名無しの冒険者

【女神の旦那】というのをフレイヤが出してそう

 

 

50:名無しの冒険者

速攻魔法!【道化の戦士】でその名前の効果を無効化する!

 

 

51:名無しの冒険者

【藍色のやべー奴】

 

 

52:名無しの冒険者

まんまやないかい

 

 

53:名無しの冒険者

まあイッチはやべー奴やけど

 

 

54:名無しの冒険者

【氷猫】

 

 

55:名無しの冒険者

なんか弱くなっとるがな

 

 

56:名無しの冒険者

リィエルちゃん似の容姿やと猫っぽいしなぁ……

 

 

57:道化所属

因みに選ばれたのは、ゼウスでした。

 

 

58:名無しの冒険者

あの変態爺が!?

 

 

59:名無しの冒険者

しゃーない、答えはなんや?

 

 

60:道化所属

【修羅】やった。

 

 

61:名無しの冒険者

あー……

 

 

62:名無しの冒険者

まあ納得

 

 

63:名無しの冒険者

メルティ・ザーラを殺した以上鬼から修羅に昇華したわけか、

 

 

64:名無しの冒険者

カッコいいぜイッチ、だがコテハンの安価とは話が別だ。

 

 

65:道化所属

今回は勘弁しろ

訓練続きすぎてもう寝たいのだ。

 

 

66:名無しの冒険者

貴様ぁ…!?

 

 

67:名無しの冒険者

逃げるんじゃねえぞ安価から……!!

 

 

68:名無しの冒険者

貴様はワイらを怒らせた…!

 

 

69:名無しの冒険者

ただでさえ最近愉悦不足だというのに……!

 

 

70:名無しの冒険者

テメェには人の心とか無いんか!?

 

 

71:道化所属

もうそんな余裕がない。今女帝達と訓練してて、相手が全員第一級冒険者。メナが居なかったらワイ五回くらいは死んどる。失血し過ぎてもう動けない……

 

 

72:名無しの冒険者

 

 

73:名無しの冒険者

 

 

74:名無しの冒険者

 

 

75:名無しの冒険者

 

 

76:名無しの冒険者

えっ、そんなハードなの?

 

 

77:名無しの冒険者

五人と戦って五人とも瀕死の状態まで持ってかれたのか

 

 

78:名無しの冒険者

失血寸前って……どんだけだよ

 

 

79:道化所属

あっ……最後に一つ

メーテリアの治療薬として……ワイの血で僅かに緩和出来るらしいわって…こと……だけ…………すま…ん限………界

 

 

80:名無しの冒険者

ファッ!?

 

 

81:名無しの冒険者

おい待てイッチ!?

 

 

82:名無しの冒険者

爆弾落としてから寝るな!?説明しろぉぉ!?

 

 

 ★★★★★

 

 

「マジかこれ……病気の緩和程度なら確かに出来るかもしれん」

「本当かディアンケヒト」

「かなり薄まっているが、精霊の血としての効力はある。じゃが、病気に対しての特効薬にはなり得ないが、生き永らえさせる程度には力を持ってある」

 

 

 ヘラがこっそり回収したノーグの血をディアンケヒトに見せる。女帝の言葉通りならノーグには大精霊ヴィルデアの血が流れている。もしかしたらと思い、訓練で流した血を回収していたのだ。無断で。

 

 ディアンケヒトの反応は予想以上のものだった。

 ノーグにはかなり薄まっているが、血の中にはヴィルデアの神秘が内包されている。それを使えば完治せずとも症状の緩和程度は出来るだろう。

 

 

「特効薬になり得ないのは何故だ?」

「精霊の血は万能であって全能ではない。そもそも、血を分け与える事自体が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これは【修羅】の血なのじゃろう? 本人が精霊としての力がある事を自覚しても精霊ではない」

「精霊の力を持ちながら人間であるノーグでは精霊の奇跡を起こせない、という訳か」

 

 

 精霊の奇跡はそう何度も起こせるものではない。

 奇跡とはそういうものだ。血を分け与えるというのは精霊として構成された存在を分け与えると同じようなものだ。勿論本人の了承が無ければ成立しない。

 

 

「じゃが神秘は本物、定期的に摂取すればそれなりに効力はある。病気を治せはしなくとも、緩和なら儂がどうにかしよう」

「頼む。愛し子の為だ、妾からもノーグに説明しておく」

 

 

 成果はあった。

 ロキが激怒するだろうが、ヘラにとっては大切な事だ。一人は世界のために、そしてもう一人は親として子を死なせないが為に奔走していた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 一方その頃。

 訓練所にてアルフィアとメナに見守られながらノーグは付与魔法の第二段階を解放していた。

 

 

「ぐっ……うううう……!!!」

 

 

 ノーグは藍色の焔を一点に集中し、圧縮し出力を一点突破にする訓練をしている。汗が滲み出て、訓練用に渡された剣がギチギチと音を立てて罅が入り始める。

 

 

「ぐ、ぎぎ……!」

「集中」

「や、ばっ……自壊する……!!」

「【魂の平穏(アタラクシア)】」

 

 

 自壊寸前で、アルフィアが魔法無効化で自壊を防ぐ。

 暴発寸前で鎮静化してくれたおかげで安定した状態に戻り、魔法を解くと息を大きく吸い込みながら冷たくなった芝生に倒れる。

 

 

「うーん、やっぱり難しい?」

「大精霊ヴィルデアならこれくらい出来るはずと思うがな」

 

 

 メナが見下ろしながらも回復魔法をかける。

 気が付けば剣を握りしめ過ぎて血が出ていた。魔力を通して剣にも付与範囲を増やす事は属性系統の付与魔法なら難しくないが、魔力を圧縮し効果を増幅させるようにする技術は初めてで慣れず、一歩間違えば圧縮した藍色の焔が此処ら一帯を凍り付かせてしまうほどに。

 

 

「ハァ、ハァ……そもそもアルフィアは付与魔法を一点集中した事はあんの?」

「無いな。私のは装甲型で打ち消しきれないなら一点集中で守るという事が出来ない。魔法の型が定まり過ぎている」

 

 

 付与魔法は自由度が高い。

 マキシムの雷付与魔法は特に自由さがある。魔法を纏うだけではなく、誘導すれば遠距離攻撃も不可能ではない。だが、限度は当然存在する。マキシムが剣閃に雷を乗せて遠距離範囲まで攻撃が出来るのだが、雷単体を飛ばす事が出来ない。

 

 だが、ノーグの魔法は魔素を回収まで出来る領域魔法を兼ね備えているなら、冷気の隷属が出来るのではないかという女帝の見解を聞いて特訓しているのだが、実際にやってみると相当の集中力と魔力を持っていかれる。

 

 

「圧縮と解放、それが確かに出来れば効果は増すけど、魔力を魔力で抑え込んでるみたいだ」

「それと同時に剣もこのザマか」

「これ一回使ったら自壊するね」

 

 

 試しにメナが振ると刀身は粉々に砕け散った。

 圧縮をすれば刀身にそれなりの負荷はかかる。だから刀身への付与は常日頃から行わずに大気の凍える風を剣閃に乗せる程度に収まっているから未だあの二振りの剣が壊れていないのだ。壊れる前提で付与したのは初めてかもしれない。

 

 

「とりあえず、圧縮は魔力大量消費にて不可能ではないようだな」

「溜めて放つ事は無理だな。そう言ったスキルが有れば話は別だが、精々剣の収束が限界だ」

 

 

 だが、文字通り諸刃の剣。

 剣が付与に耐えきれない上に相当の集中力と魔力を持っていかれる。使う機会は少ないだろう。

 

 

「起きろ、女帝がこっちを見てるぞ」

「仲間になりたそうにか?」

「いや、殺し合いたそうにだ」

 

 

 ノーグの頬が盛大に引き攣った。

 その後、日が暮れるまで女帝達と殺し合いを続け、ノーグは四度くらい三途の川を拝んだ。

 

 

 ★★★★★

 

 

「ふうぅぅぅーーーー」

 

 

 血を流し過ぎたノーグだが、食事を多めに摂り大浴場に一人浸かりため息を溢す。自然治癒能力というべきか、魔力や体力の回復力はスキルにないが常人より遥かに早い。貧血気味だった身体はまだ少し重いがその程度まで回復している。

 

 

「男が居ねえ……ゼウスとヘラで見事に分かれてるなぁ……」

 

 

 大浴場が一つしかないとは思わなかった。

【ヘラ・ファミリア】の冒険者の殆どが美人なのだが、不思議なことに男が居ない。単純に強さを追い求めるこのファミリアの過酷さを前に逃げ出したのか、冷徹なヘラより寛大なゼウスの方があっていたのか、男女がきっちり分かれている。まるで女子寮に男が一人住んでいるみたいで肩身が狭い。

 

 

「疲れた……」

 

 

 風呂は好きだが、すぐに上気せやすい。

 だが、少しは長く浸かって疲れを取りたい。だが入浴時間はわざわざ分かれているためそこまで長く浸かれない。わざわざノーグの為に時間を作ったくらいだ。本人は申し訳なさそうにしていたが。

 

 

「しかしここまで男女分かれてると流石に不憫だな」

「それに関してはアタシも同意さ」

「へぇ、どん…な……はっ!?」

 

 

 気が付けば隣にアマゾネスのレシアが湯に浸かっていた。括れた肢体とはち切れんばかりの胸、褐色の肌、所々と女の色気を醸し出して抜群のプロポーションが生まれたままの姿で隣にいた事に混乱し、慌てて両手で目を覆う。

 

 

「ちょっ!?なんで居るの!?俺立て札かけたよな!?」

「んなもん無視したに決まってるじゃないか」

「堂々という事じゃねぇ!?俺は出る!?」

「待ちな」

「ぬわっ!?」

 

 

 足掴まれて浴槽の床に顔からダイブした。

 耐久値が上がっていたのかそこまで痛くはないが、倒れた後ろから裸体を押し付けてきた。柔らかな感触と貞操の危機に焦る。

 

 

「最近男と関わってなくて欲求不満なんだ。男女一つで風呂と言えばやる事は分かってるだろう?」

「知るか万年発情魔!?」

「アタシの身体に不満でもあるのかい?」

「不満はないし刺激が強すぎるから直視しないようにしてんの!?つか覆った手を剥がそうとすんな!?」

 

 

 レシアの筋力値は女帝の次に高い。

 アマゾネスという事もあり屈強、手など簡単に引き剥がされてしまう。辛うじて目を瞑って抵抗するが頬を舌で舐められた感触にゾワッとして口を開いた。

 

 

「【凍て付く残響よ渦を巻け】!」

「うわっ、冷た!?」

「クソッ、アマゾネスからの貞操の危機がどれだけ有れば気が済むんだよ!?」

 

 

 蟾蜍(ひきがえる)然り、蛮族女然り、どうして襲われる事に定評があるのかノーグは静かに涙を流した。子を成したとかしたら絶対にヘラが手離さないだろう。それは絶対に困る。理性がガリガリと削られているがそれはとても困る。アルフィアに対する自覚もあり超絶困る。第一段階の付与魔法を使い引き剥がし、大浴場から脱出する。

 

 

「えっ………」

 

 

 脱出した先に居たのは衣服を脱いで大浴場に入ろうとするアルフィアの姿だった。灰色の髪と女神のような身体つき、見えてしまった裸が【天眼】のせいで目に焼き付き、それを見た瞬間、自分の命の終わりを悟り両手で顔を隠し天を仰いだ。

 

 

「あの、立て札は?」

「立て掛けられてなかったが?」

「テメェの仕業か!?」

 

 

 取っ払った元凶(レシア)に怒号が飛ぶ。

 だがどう足掻いても見てしまった以上被害者はアルフィアになる。つまりノーグに逃げる術などない。潔く終わりを受け入れるように軽く微笑んだ。

 

 

「遺言はあるか?」

「その、生きててすみません」

「【福音(ゴスペル)】」

 

 

 大浴場に吹っ飛ばされた。

 ノーグは本日五度の三途の川を拝んだ。

 

 

 






ヘラ「……耐久が凄い上がっているな」

 因みにレシアは暫くノーグに接近禁止令が言い渡され、ノーグに関してはお咎め無し、アルフィアは破壊した大浴場の一部を弁償する事になった。居た堪れなくてノーグも半額出した。そして暫くの間アルフィアを見ると顔を逸らすようになり、それを見て想像している事が分かり魔法を食らう羽目となる。

★★★★★
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十七スレ目


 久々の連日投稿やもってけこのヤロー!
 ……………………寝ます。


 

 

400:道化所属

前回は気力が無かったから出来なかった。故に諸君、存分に悩むがいい。

道化所属じゃなくなったのであと半年のコテハン

>>415

 

 

401:名無しの冒険者

ダニィ!?

 

 

402:名無しの冒険者

一か八か!0.2秒の速攻安価!?

 

 

403:名無しの冒険者

拡散する暇もねぇ!?

 

 

404:名無しの冒険者

昂ってきたあああああああ!!!

 

 

405:名無しの冒険者

イッチのこういう所スコ♡

此処にいるスレ民の確率が上がったぜ

 

 

406:名無しの冒険者

フォオオオオオオオオオオオオオ!!!!(狂喜乱舞)

 

 

407:名無しの冒険者

超絶混沌藍色剣士(スーパーカオスソードマスター)

 

 

408:名無しの冒険者

藍焔の悪魔

 

 

409:名無しの冒険者

執行官No.9

 

 

410:名無しの冒険者

道化の玩具(ロイザラス)

 

 

411:名無しの冒険者

世界最強のモブ

 

 

412:名無しの冒険者

異世界転生したモブが魔王候補になってしまったがどうすればいい?

 

 

413:名無しの冒険者

聖王断罪者(ジャスティス・モルム)

 

 

414:名無しの冒険者

アホの子

 

 

415:名無しの冒険者

超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

 

 

416:名無しの冒険者

二刀修羅

 

 

417:名無しの冒険者

藍色混沌悪魔(ブルーカオスデビル)

 

 

418:名無しの冒険者

あっ

 

 

419:名無しの冒険者

クソおおおおっ!?拡散前ならいけると思ったのにぃぃぃ!?

 

 

420:名無しの冒険者

まあ【ヘラ・ファミリア】って事は分かるな。良かったなイッチ。プークスクスww

 

 

421:名無しの冒険者

思いっきりパワーワードやけどなww

 

 

422:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

悪意しかなくない?

 

 

423:名無しの冒険者

ブッハww

 

 

424:名無しの冒険者

アカン、スレが立てられないww

 

 

425:名無しの冒険者

インパクトが強すぎるww

 

 

426:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

さて、定期報告始めるで、よしなに。

 

 

427:名無しの冒険者

よしなにー!

 

 

428:名無しの冒険者

先ずは時間だ!倍速し過ぎてワイらが分からん!

 

 

429:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

前回のスレから約半年弱、一週間後遂にベヒーモス討伐や。

 

 

430:名無しの冒険者

遂に来たか……

 

 

431:名無しの冒険者

まあ、イッチの出番はまだやろうけど

 

 

432:名無しの冒険者

まだオラリオには闇派閥主力が残っとるしなぁ

 

 

433:名無しの冒険者

まあ、確定された運命に関しては置いといて

 

 

434:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

……?何が確定されとるのや?討伐は出来るって意味か?

 

 

435:名無しの冒険者

そこは置いておいて

 

 

436:名無しの冒険者

下手に干渉し過ぎると未来が変わるかもしれへんからワイらも言葉を選んだのや、流しときぃ

 

 

437:名無しの冒険者

まあ強いて言えばイッチに関係する事やないから気にすんなや

 

 

438:名無しの冒険者

とりあえずスペックを語ろうぜ

 

 

439:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

まだLv.4やけど、半年の訓練の末にワイは最強のスキルを手に入れた

 

 

440:名無しの冒険者

ほう?

 

 

441:名無しの冒険者

詳しく聞こうか

 

 

442:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

いやあ、思い出したくもないあの半年の殺し愛。

ありがとう、これが、これが戦いだ!!って実感する剣八のようにはなれなかったよ……

 

 

443:名無しの冒険者

何基準で話しとんねんww

 

 

444:名無しの冒険者

それは余程の戦闘狂でなければ誰でも無理やろ

 

 

445:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

そして女帝は殺せなかった

 

 

446:名無しの冒険者

女帝を初代剣八に仕立てるな

 

 

447:名無しの冒険者

底知れない所は似てるけどさぁ

 

 

448:名無しの冒険者

この子だ!この子こそ、女帝の名に相応しい!

 

 

449:名無しの冒険者

男やけどなww

 

 

450:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

そして現在のステイタスや

 

ノーグ Lv.4

 力  B777

 耐久 A861

 器用 B799

 敏捷 A881

 魔力 S932

【天眼E】

【耐異常G】

【耐冷E】

【魔導H】

『魔法』

【アプソール・コフィン】

・二段階階位付与魔法

・一段階『凍てつく残響よ渦を巻け』

・二段階『燻りし焔をその手に慄け、氷界の果てに疾く失せよ』

【リア・スノーライズ】

・領域魔法

・指定した存在に氷付与魔法を付与

・極寒、氷結範囲に幻像使用権限獲得

・極寒、氷結範囲から魔素の回収、精神力還元

『それは尊き冬の幻想、今は閉ざされし幻雪の箱庭、流れて駆けゆく数多の精、黄昏に吹雪く厳冬の風、打ち震えよ、我が声に耳を傾け力を貸せ、黄昏の空を飛翔し渡り、白銀の大地を踏み締め走れ、悠久の時を経て、懐かしき冬が目を醒ます、届かぬ天を地に落とし、今こそ我等に栄光を、箱庭は開かれた、偉大なる冬の世界へようこそ』

『スキル』

天啓質疑(スレッド・アンサーズ)

・■■■■■■■■■

・神威に対する拒絶権

追走駆動(ウェルザー・ハイウェイ)

任意発動(アクティブ・トリガー)

・疾走時、精神力を消費し『敏捷』の上昇

・発動時、加速限界の制限無視

冷鬼覇豪(ヘル・フレーザー)

・発展アビリティ【耐冷】の獲得

・環境極寒時、ステイタスの高補正 

憤怒臨界(アベレンジ・ラース)

・一定以上の憤怒時発動可能

・精神力二倍消費による魔法の詠唱破棄

・怒りの丈より出力上昇

天冽氷魔(ノーザン・メビウス)

・魔法発動中、精神力超消費にて冷気隷属

・隷属範囲及び練度はLv.に依存

 

 

451:名無しの冒険者

うわぁ……

 

 

452:名無しの冒険者

イッチのチートにドン引きするべきか、殺し合い過ぎた結果こうなったのかコメント出来ねぇ……

 

 

453:名無しの冒険者

チートの上にチートを乗せて楽しいかいイッチ?

 

 

454:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

仕方ねえだろ!?これが出来るようになるまで何回も殺されかけたんやぞ!?ただこれめっちゃ疲れるし、砲弾みたいに撃つ事は二発で限界やった。

 

 

455:名無しの冒険者

いや出来ちゃダメでしょ……

 

 

456:名無しの冒険者

パワーブレイカー過ぎるぜイッチ

 

 

457:名無しの冒険者

もうイッチの応援やめようかなぁ

 

 

458:名無しの冒険者

つか魔法と同時使用すればもう無敵やん

 

 

459:名無しの冒険者

クソが、異世界でチートとか裏山

 

 

460:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

……代わりたいか?飯と風呂と部屋は豪華やけど一日三回くらい女帝達に殺されるような特訓と暴発スレスレの魔法制御と深層に少数精鋭で突っ込む事になるけど、チートにはなれるで

 

 

461:名無しの冒険者

うん、まあ女帝の所に居たら納得だよな諸君!

 

 

462:名無しの冒険者

やっぱ無難が一番だよな

 

 

463:名無しの冒険者

あー、異世界転生しなくて良かった、マジで

 

 

464:名無しの冒険者

日本に生まれた事を此処まで嬉しく思った事はない

 

 

465:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

誰か代わらない?

 

 

466:名無しの冒険者

嫌でござる

 

 

467:名無しの冒険者

嫌であります

 

 

468:名無しの冒険者

ワイらは安全な所でイッチの喜劇を眺めてるわ

 

 

469:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

○ァック

 

 

 ★★★★★

 

 

 【ゼウス・ファミリア】の士気が上がっていた。

 陸の巨獣ベヒーモスの討伐に備え、武器や回復薬は怠らずにオラリオは騒がしくなっていた。三大クエストに挑むのは初めて、神々でさえ脅威と認識した地上の怪物を斃してくれる事を祈り、【ゼウス・ファミリア】に惜しみなく協力していた。

 

 それに引き換え、【ヘラ・ファミリア】は……

 

 

「うわっ、ダラけ切ってんじゃねえか」

 

 

 この真夏の猛暑に全員グッタリとしていた。

 いつも威厳のある女帝が力無くソファーに倒れ、他の者も死屍累々と倒れていた。テーブルに伏すレシア、濡れタオルを顔に当てて天を仰ぐメナ、アルフィアさえも眠そうな顔をしながらも暑くて眠れずにストレスを抱えていた。

 

 

「【ゼウス・ファミリア】の訓練はどうすんだ?」

「今日は無いわ、準備で訓練してる暇は無いようだし」

「しっかし、暑すぎやしないかい……」

「とける〜〜」

 

 

 レシアもメナも限界のようだ。

 窓を開けても暑く、この部屋の気温だけでも三十度はある。しかも湿気も多いせいか、熱中症で死人が出そうな環境にノーグは苦笑いした。だが全員ではない。副団長と極東侍の紅が居なかった。

 

 

「副団長と紅さんは?」

「あの二人はダンジョンだ。二十七階層に涼みに行った」

「見習っていけばいいんじゃ」

「装備が暑いし、ダンジョンに行くまでの気力が起きないようだな」

「アルフィアは何で行かなかったんだ?」

「……夏バテだ、暑くて眠れなかった」

 

 

 最近の暑さだけ言えば大体四十度といった所だ。

 この世界には魔石で冷蔵庫や洗濯機など幅広い道具があれどエアコンが未だ無い。その内作られると思ったのだが、エアコンは作られなかったようだ。アルフィアもこの暑さで眠れずに隈を作っていた。

 

 

「【凍てつく残響よ渦を巻け】」

「おー、涼しいじゃないか」

「あー、生き返るぅぅぅ!!」

 

 

 出力最低限に制御した冷気を軽く風に乗せると涼しさ求めて二人が近寄ってくる。

 

 

「お前は大丈夫なのか?冬の大精霊の性質的に」

特注品(オーダーメイド)のインナーのお陰で問題ねえよ。定期的な献血のお陰でお金もあったしな」

 

 

 インナーは魔力を通すと暖かくなる『ミッドフレア』とは性質が逆の特注品『ミッドノース』を購入し、魔力を通すと涼しくなる。メーテリアの為の献血の正当な報酬としてかなりの所持金があった為、何枚か購入していた。ノーグは大精霊ヴィルデアの性質を持っている為、夏は天敵だ。七桁を何枚も購入するのは懐が痛かったが死活問題だった。

 

 

「お前は何してたんだ?」

「メーテリアの部屋に氷塊を設置してた。夏バテで一番危険なのアイツだし」

「……私も頼んでいいか?」

「いいぞ」

 

 

 この暑さは流石に体に障る。

 倒れる前に処置しないと危険かもしれないとノーグは了承する。

 

 

「アタシも頼むわ」

「私も……」

 

 

 この暑さの中でも氷塊さえあれば暑さを軽減出来る。メナとレシアも背中から抱き着いてノーグに懇願する。胸や顔を押し付けられて若干動揺するが、半年もいるのだ。若干耐性はついてそっけなく対応する。

 

 

「分かったから離れろ暑苦しい。淑女がはしたない真似するんじゃありません」

「うー、身体も冷たい。一家一台、ノーグが欲しい」

「もう永久改宗すれば良いじゃないかい」

「出力上昇」

「「ギャー寒い!?」」

 

 

 凍り付く出力にラフな格好していた二人が飛び退いた。理性がガリガリと削られる上にレシアなどは躊躇なく迫ってくるし、メナも弟のように接してくるからパーソナルスペースが近過ぎて溜息を吐く。並大抵の男だったら理性が爆発してもおかしくないと心の中で呟きながらも付与魔法を解除する。

 

 

「貸し一つな。ほら行くぞ」

「ノーグ、後で私もお願い」

「はいはい、仰せの通りに」

 

 

 先に二人に袖を掴まれ部屋へと向かうノーグを横目に、アルフィアは飲んでいた紅茶が無くなり、キッチンへ歩き始める。

 

 

「(ノーグが来て半年、随分と馴染んだものだな)」

 

 

 ノーグは随分と馴染んだ。

 最初こそヘラの横暴な要求から反抗的な態度を取ると思っていたのだが、強くなりたいという気持ちが強く、魔法の理論だけではなく実践でアルフィアと同じく条件次第で女帝に勝てるとまで言わしめる程の剣技と魔法、前衛特化の戦闘姿(バトルスタイル)や普段の態度を見ても、変態の眷属とは違うと認識してからは人気が高かった。

 

 

「(まあ私も、それなりにアイツとの会話は嫌いではないしな)」

 

 

 静寂が好きでもノーグとの会話は嫌いではない。

 才能で共感する所が多いのか、他人との差を気にしがちなアルフィアと似ている為、妹以外と比べて話しやすい。よくパーティーを組んだりするし、メルティ・ザーラの討伐の後から距離はある程度縮まり、見掛ければ話しかけるくらいの間柄にはなっていた。

 

 ノーグが【ヘラ・ファミリア】で強さを学ぶ為と同時に、ノーグに助けられている部分も少なくはない。家事もそうだが、洞察力が高いせいか気遣いが上手い。だから馴染むのはそう時間がかからなかった。こんな日々も悪くないとアルフィアは僅かに微笑った。

 

 そんな時、ある会話が耳に届いた。

 

 

「本当凄いですよねノーグさん」

「強いし、顔立ちは可愛いけど戦ってる時は凛々しくてカッコいいよね」

「家事も出来て気遣いも出来て、頭も良くて料理も上手い」

「完璧超人過ぎない?」

 

 

 Lv.4の二軍メンバーがノーグの話をしながら通路を歩いていた。ノーグは基本的に第一級冒険者の幹部達と深層に行く事が多いが、そうでない場合は二軍のメンバーとパーティーを組む事も多い。特に第二魔法のおかげで姿を隠しながら奇襲し、他人の付与まで行える為、安全に下層まで潜れる。

 

 

「で?リリナはどうなの?好きなんでしょ?」

「わ、私はその……」

「大丈夫だって!ノーグさんに彼女とかいた事ないって聞いた事あるし」

「いっそリリナが落としちゃえYO!」

 

 

 そのせいか、組んだ者はノーグとまた組みたがる。性格や容姿も相まって惹かれる者も少なくない。煩わしいと口にしたいが色恋沙汰の話を止めるのは野暮だ。静寂が好きでも黙らせる程横暴ではない。溜息を吐きながらキッチンへと足を運ぶ。

 

 

「私も彼氏にするならあんな優しい人がいいなぁ」

「と言うかよく今まで浮いた話が無かったよね」

「あの人相当モテそうなのに、もしかしたらさ」

 

 

 一人の団員の言葉が聞こえた。

 流石に五月蝿い、と言おうと思った一言が次の言葉に飲み込まれた。

 

 

 

「ノーグさん、好きな人でもいるのかもね」

 

 

 

 ドクン、と心臓が高鳴った。

 ノーグに好きな人がいる、それ自体はどうでもいい事だ。アルフィアにとってノーグは親友であり、それ以上それ以下でもない。ノーグに好きな人が居ようが応援はする。

 

 自分には関係ない……筈だった。

 揺れ動いた感じた事のない感情に足が止まって、その場を動けない。

 

 

「(何…だ、この感情は……)」

 

 

 アルフィアは立ち止まり、胸を軽く抑えた。

 ノーグに好きな人がいる、その言葉に感じたことのない不快な感情が胸の中で騒めいた気がした。

 

 

 その感情が何なのか、アルフィアはまだ知らない。

 

 




【ヘラ・ファミリア】
Lv.8 女帝
Lv.7 副団長
Lv.7 極東侍 (くれない)
Lv.6 蛮族女 レシア
Lv.6 回復役 メナ
Lv.6 魔導師 アルフィア

その他Lv.5が8人。Lv.4が23人。
ノーグはLv.5までなら付与魔法アリなら倒せるが、Lv.6には勝てない。そしてメルティ・ザーラの偉業のせいか格上の存在と戦っても偉業が溜まりにくくなっている。

 ★★★★★
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課題がある為、合間に書く時間で投稿するので遅れたりしますが、頑張ります。


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十八スレ目


 そう、私は考えた。男の娘とタグを付けたくないならちゃんと男にすればいいのではないかと。


 

 

700:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

ワイは激怒した。

ワイの海より広い寛大さは今、奈落の底へと凋落した

 

 

701:名無しの冒険者

い、イッチ……?

 

 

702:名無しの冒険者

どうしたんや急に

 

 

703:名無しの冒険者

とりあえず落ち着こな?な?

 

 

704:名無しの冒険者

ワイらが話聞いてやるわ

 

 

705:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

【ヘラ・ファミリア】の女達のパーソナルスペースが近過ぎる!!ワイはもう限界や!!

 

 

706:名無しの冒険者

はい解散

 

 

707:名無しの冒険者

クソくだらなかった

 

 

708:名無しの冒険者

寧ろ死ね

 

 

709:名無しの冒険者

滅べ

 

 

710:名無しの冒険者

貴様に生きている価値はない

 

 

711:名無しの冒険者

女に囲まれてる時点で羨ましいんだよ死ね

 

 

712:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

馬鹿野郎!童貞には刺激が強過ぎんだよ!!

 

 

713:名無しの冒険者

ウッ

 

 

714:名無しの冒険者

やめろその術は俺に効く

 

 

715:名無しの冒険者

イッチもお年頃なんやな

 

 

716:名無しの冒険者

あー、確かに男扱いされてるというより弟とかそんな感じなのか。容姿もアレやし

 

 

717:名無しの冒険者

でも抜けばいいだろ?オカズに出来るだけの人はおるやろ

 

 

718:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

この世界に獣人が居ること忘れたか?

 

 

719:名無しの冒険者

はっ

 

 

720:名無しの冒険者

そうやった

 

 

721:名無しの冒険者

うわっ、じゃあ半年くらい抜けなかったんや

 

 

722:名無しの冒険者

匂いでバレるから

 

 

723:名無しの冒険者

流石に同情するぜイッチ

 

 

724:名無しの冒険者

距離近くて生殺しとか

 

 

725:名無しの冒険者

でもヤッたら帰れないからなぁ

 

 

726:名無しの冒険者

寧ろよく我慢したよね

 

 

727:名無しの冒険者

暴発寸前やろ

 

 

728:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

流石に激怒した。男としての認識が薄い。だから今の状況に陥ってる訳や。そこでワイは考えた。

 

 

729:名無しの冒険者

アルフィアにプロポーズか?

 

 

730:名無しの冒険者

壁ドンで俺も男なんだよと言って回る。

 

 

731:名無しの冒険者

いや此処は家出だろ

 

 

732:名無しの冒険者

蛮族女とヤる

 

 

733:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

ワイ、髪切るわ

 

 

734:名無しの冒険者

方法がショボ!?

 

 

735:名無しの冒険者

つか最初からその方法に気付けよ

 

 

736:名無しの冒険者

何故今まで気付かなかったし

 

 

737:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

いやさ、リヴェリアとか綺麗な髪って褒めてくれるし、ロキに今のままがええとか言い包められて気付くのが遅れた

 

 

738:名無しの冒険者

あの二人確信犯では?

 

 

739:名無しの冒険者

計画通り

 

 

740:名無しの冒険者

はっ!?

 

 

741:名無しの冒険者

この匂わせは……

 

 

742:名無しの冒険者

安価の霊圧が上がっている……?

 

 

743:名無しの冒険者

何……だと……

 

 

744:名無しの冒険者

拡散しろ!イッチの髪型安価がはーじまーるよー!

 

 

745:名無しの冒険者

呼んだかい?

 

 

746:名無しの冒険者

待っていたぜ(バッ

 

 

747:名無しの冒険者

遂にこの時が来たな(シュタ

 

 

748:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

待て、今回の安価には条件がある

 

 

749:名無しの冒険者

何や?

 

 

750:名無しの冒険者

安価の道を阻むかイッチ

 

 

751:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

いや別にやってもいいんやけど、先ず安価で長髪系は無しな?それだけの髪の長さは無いし

 

 

752:名無しの冒険者

まあ物理的に無理なのはしないやろ

 

 

753:名無しの冒険者

リィエルちゃんの髪から切っていったヘアスタイルじゃ無いと無理やしなぁ

 

 

754:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

それと、今回髪を切るのがメーテリアやからメーテリアが駄目と判断したものは禁止や。自分で髪適当に切ろうとしたらメーテリアにめっちゃ怒られた。

 

 

755:名無しの冒険者

サラッと尻に敷かれているイッチ氏

 

 

756:名無しの冒険者

やっぱメーテリアが最強なのでは

 

 

757:名無しの冒険者

クソッ、常識的な安価なんて味気ないが仕方ねえ

 

 

758:名無しの冒険者

安価出来るだけ得か……。

 

 

759:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

安価結果をメーテリアが却下したらやり直しや。

それじゃあ行くで、参考にするヘアスタイルのキャラ名。

>>770

 

 

760:名無しの冒険者

今回は難しいなぁ………

 

 

761:名無しの冒険者

此処は無難にキリト君

 

 

762:名無しの冒険者

キルア

 

 

763:名無しの冒険者

更木剣八

 

 

764:名無しの冒険者

ゴン

 

 

765:名無しの冒険者

夏油傑

 

 

766:名無しの冒険者

一角

 

 

767:名無しの冒険者

孫悟空

 

 

768:名無しの冒険者

ブラクロのアスタ

 

 

769:名無しの冒険者

山田リョウ

 

 

770:名無しの冒険者

白猫のジン

 

 

771:名無しの冒険者

佐藤カズマ

 

 

772:名無しの冒険者

武藤遊戯

 

 

773:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

えっ、知らないキャラなんやけど……

 

 

774:名無しの冒険者

知ってんの白猫やってる奴だけやな

 

 

775:名無しの冒険者

ほらよ、これや

【画像】

 

 

776:名無しの冒険者

少し長めの髪下ろした五条悟みたいやな

 

 

777:名無しの冒険者

イケメンやないかい爆ぜろ

 

 

778:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

まあこれなら納得するやろ。とりま行ってくるぜ

 

 

779:名無しの冒険者

クソッ、無難どころかイッチをイケメンにしてしまった

 

 

780:名無しの冒険者

カヒュー、カヒュー

 

 

781:名無しの冒険者

どなたか愉悦の話を持つお医者様はいらっしゃいますか

 

 

782:名無しの冒険者

今回ワイらがやった事マジでただのイッチのアシストやん

 

 

783:名無しの冒険者

此処でメーテリアが失敗して頭の一部ハゲて欲しい

 

 

784:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

これやるから黙ってろ

【画像】

 

 

785:名無しの冒険者

な……ガハッ……!

 

 

786:名無しの冒険者

アルフィアの髪を整えるメーテリア、そして柔らかな笑みを浮かべたアルフィアと髪を撫でて微笑んでるメーテリア……ごぶっ…!

 

 

787:名無しの冒険者

『アル×メー』ですかありがとうございます

 

 

788:名無しの冒険者

てぇてぇ

 

 

789:名無しの冒険者

神様仏様イッチ様、感謝します。

 

 

790:名無しの冒険者

ご馳走様です

 

 

791:名無しの冒険者

ああ、心が浄化されていく………

 

 

 

 ★★★★★

 

 

「じゃあ始めますね?」

「メーテリアは散髪の経験はあるんだよな?」

「姉さんの髪はよく私が切ってます。メナさんや団長さんの髪も」

「へー、意外」

 

 

 メーテリアがノーグの髪を触る。

 女なら散髪した事はあるが、男は無い。髪質を触れて確かめる。

 

 

「(うわ凄い……ノーグさんの髪凄いサラサラ。癖っ毛はあるけど柔らかい)」

 

 

 ゴワゴワしてなく、指を落とせば透き通るような髪の滑らかさ。男の人の髪に直接触ることは初めてだが、撫でるとそれなりに気持ちいい。長くなり肩にまで伸び切った髪を見てこれはこれで似合うと心の中で思った。

 

 

「それにしても長い方が好きなんですか?」

「いや、リヴェリアやロキに騙された。結果距離感が近過ぎて困るしな」

「あー、ノーグさんも男の子ですもんね」

 

 

 レシアに迫られたり、メナに弟扱いされたりと距離が近過ぎてノーグの背中には悲壮感が出ていた。女の子扱いされたくないのだが、顔立ちが中性である以上、どうしても他の男よりも男としての認識が弱いのだろう。

 

 

「髪型はこんな感じ、出来る?」

「はい、大丈夫だと思います」

 

 

 ノーグが紙に書いた髪型を見て、メーテリアは鋏を持ち髪を切り始めた。軽快な音を立てて切れていく髪とメーテリアの鼻歌が聞こえ、ノーグは静かに目を閉じる。

 

 

 三十分後。

 

 

「おおぉ………」

「ん?どうした?」

 

 

 鋏を置き、鏡に写るノーグを見てメーテリアは顔の良さに目を見開いていた。自分でいい仕事をしたという自覚はあるが、大成功と共に大誤算だった。まさか此処までの変貌を遂げるとはメーテリア自身も予想していなかった。

 

 

「(まつ毛が長い……前髪が少し長くて分からなかったけど、藍色の瞳とか肌の色とかも儚さ相まって本当に精霊みたい)」

 

 

 ノーグの肌は普通の人より若干白い。

 リヴェリアに似た肌色なのは恐らくヴィルデアの影響なのだろうが、黙っていれば儚さ漂う異国の王子のような雰囲気に切った本人も驚いている。

 

 

「おっ、凄い要望通りだ。ありがとなメーテリア」

「あ、はい……」

 

 

 鏡を見たノーグはご機嫌な様子で切った髪を片付けて部屋を出る。その様子をメーテリアは見て、ある事を悟った。少し兄貴分な大人びた性格のノーグがこの髪型であるとどうなるか。

 

 

「(これ、レシアさんとか好かれてる人から本気で迫られるんじゃ……)」

 

 

 その後、ノーグが悲惨な目に遭うかもしれない事が容易に想像出来てしまい、考える事を止めた。

 

 

 ★★★★★

 

 

853:名無しの冒険者

リヴァイアサンを倒すとするならマッマ呼ばれなかったんやな

 

 

854:名無しの冒険者 

マッマは殲滅は得意でも巨大獣や階層主を消し飛ばす事はキツイんやろ

 

 

855:名無しの冒険者

アルフィアとリヴェリアでも系統が意外と違うんやなぁ

 

 

856:名無しの冒険者

殲滅魔法でも範囲特化か一点突破かの違いはあるやろな

 

 

857:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

ただいま

 

 

858:名無しの冒険者

おっ、帰ってきた

 

 

859:名無しの冒険者 

おかえりイッチ

 

 

860:名無しの冒険者

それで?髪どうなったんや?

 

 

861:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

こうなったわ

【画像】

 

 

862:名無しの冒険者

おおぉ……

 

 

863:名無しの冒険者

イケメンじゃねぇか爆ぜろ

 

 

864:名無しの冒険者

リア充は死すべしナウ

 

 

865:名無しの冒険者

リィエルちゃんから此処まで変わるとは

 

 

866:名無しの冒険者

まあ、望んだ通りにはなったな。男らしくなったやんイッチ

 

 

867:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

いや、うん…髪はいいんだけど

 

 

868:名無しの冒険者

何やお披露目したんか?

 

 

869:名無しの冒険者

反応はどんな感じや?

 

 

870:名無しの冒険者

蛮族女が涎垂らして迫ってくるとワイは見た

 

 

871:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

いや、なんかレシア以外は余所余所しくなった。男と見られてそれはそれでええんやけど、なんか話しかけようとすると脱兎の如く逃げ出された

 

 

872:名無しの冒険者

寧ろ望んだ事では?

 

 

873:名無しの冒険者

よかったじゃないか、望んだ通りになったで

 

 

874:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

いや、無言で逃げ出されるのは流石に傷付いた

 

 

875:名無しの冒険者

うーん、この朴念仁

 

 

876:名無しの冒険者

イッチそろそろ死んだ方がいいで?

 

 

877:名無しの冒険者

介錯はしてやる

 

 

878:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

えっ、これワイ処刑されるの? 

イケメンですみません。生まれ変わったら普通の男の子になりたいです。

 

 

879:名無しの冒険者

火と水と切腹とギロチン、好きなの選びな

 

 

880:名無しの冒険者

いっそ全部やれ

 

 

881:名無しの冒険者

罪な男が罪を重ね過ぎてんじゃねえ

 

 

882:名無しの冒険者

潔く腹を切れ

 

 





『女帝の場合』

「おお……」
「……どうした団長?」
「あと五年したら夫にしてあげる」
「!?」

 寒気を感じた。


『副団長の場合』

「うおお、イケメンになったっすね少年」
「似合う?」
「似合う似合う。うわっ、髪柔らかっ」ナデナデ
「……もう少し撫でます?」
「是非」

 甘え上手なノーグ君。


『紅(侍ガール)の場合』

「…………」
「…………」
「……似合っている」
「あっ、はいありがとうございます」
「(一瞬誰か分からなかった)」

 不覚だった紅。見分け付かずに修行が足らなかった。


『レシア(蛮族女)の場合』

「ノーグ、それ誘ってる?誘ってるんだね?分かった任せな」
「待っっって」

 その後、襲われないように藍色の焔を出すノーグと舌で唇を舐めて狩人の如く力尽きるまで眼光を光らせるレシアの姿を複数の団員が見たという。


『メナの場合』

「………嘘」
「何で絶望してるし」
「あんな可愛いノーグが…!髪を切るなんて……!!何で相談してくれなかったの!?」
「アンタ絶対女っぽいチョイスしそうだから」

 その後、魔導大国に髪が伸びる薬を依頼したとか。


『ヘラの団員の場合』

「あっ、いたいた。リリナ達、今日深層に」
「」
「ああ!?リリナが死んだ!?」
「心肺停止状態!大至急メナさんの所に!」
「えっ、俺運ぼうか?」
「「絶対やめろ!?」

 他の団員には無言で逃げられた。


『アルフィアの場合』

「………」
「………」
「………」
「いや、なんか言えよ」
「【福音(ゴスペル)】」
「何で!?」


 照れ隠し福音(ゴスペル)。耐久が上がった。



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十九スレ目

 三章販売に昂って創作意欲から投稿してくぜ。当然私は二冊買った。


 

 

1:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

ザルドがヤバい

 

 

2:名無しの冒険者

おかえりイッチ

 

 

3:名無しの冒険者

やっぱ勝ったんか?

 

 

4:名無しの冒険者

ザルドはいい奴だったよ……

 

 

5:名無しの冒険者

安らかに眠れ

 

 

6:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

いや死んでないから、あのオッサン喰ったものをステイタスに反映させるスキルがあるんやけど、ベヒーモス戦で削った肉を喰って殺したからもの凄い毒が回ってる

 

 

7:名無しの冒険者

あー、やっぱりそう来たか

 

 

8:名無しの冒険者

苦肉の策とはいえやる事がイカれてる

 

 

9:名無しの冒険者

やはりゼウスだけではキツかった部分は大きいな

 

 

10:名無しの冒険者

ヘラ達が居ればまだ余裕があって勝てただろうに

 

 

11:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

もしかして、ザルドがこうなる事知ってた?

 

 

12:名無しの冒険者

まあね

 

 

13:名無しの冒険者

結果は知ってたんやけど過程は詳しくは知らん

 

 

14:名無しの冒険者

ワイらが知ってるのはザルドがベヒーモス戦でのMVPである事と、黒竜戦には行けないって事や

 

 

15:名無しの冒険者

イッチ、別に責任感じる事はないで?

 

 

16:名無しの冒険者

これはある意味物語の筋書き通りに進んどる以上、何でもかんでも改変出来ると思う方が罪や

 

 

17:名無しの冒険者

もしかしたらイッチが持つ精霊の血の薬剤で消せずとも苦痛を和らげる程度なら出来るかもしれへんけど

 

 

18:名無しの冒険者

ベヒーモス戦に行かなかったイッチに出来る事はそんくらいや

 

 

19:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

悪いけど、スレから離れる

ディアンケヒトの所に行ってくる

 

 

20:名無しの冒険者

おう、いってら

 

 

21:名無しの冒険者

まあ辛い気持ちは分かるけどなぁ

 

 

22:名無しの冒険者

逃げたらあかんよイッチ

 

 

23:名無しの冒険者

ワイらは識っているだけでどうにか出来る訳やない

 

 

24:名無しの冒険者

どれだけやっても変える変えないを決めるのはイッチなんやから

 

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 ディアンケヒトの治療院は部屋が埋め尽くされ、犬猿の仲であったミアハの手を借りる程に忙しなく動いていた。マキシムでさえ侵された毒に苦しむ程だが、それ以上に危険なのがザルドだった。

 

 

「酷い……」

 

 

 身体から()()()()()。 

 今は鎮静剤を打って落ち着いているが、人の身体からそんな匂いがするなんて余程重症だ。身体の一部が既に黒ずんで、そこから腐臭がする。【耐異常】を貫通するベヒーモスの毒性、それはダンジョンで出会ったら即殺せと言わしめたペルーダの毒を凌駕し、この毒を治せる程の魔法も薬も未だ作り出されていない。

 

 

「神ディアンケヒト、献血しに来た」

「先日やったばかりだろう」

「いい、やってくれ」

「……まあ、お前以上の薬がないのも事実か。来い」

 

 

 献血は昨日やったばかりだがまた150ccの献血をして、若干貧血気味に陥るが、ノーグなら数日すれば治る。回復だけなら精霊の血を持つ分、他の人より早い。とはいえ、献血にはやはり限度がある。

 

 

「精霊の血と言えどだ。病気も毒も進行を和らげる程度、治るわけではないし、お前から生成される血は自然と増やさなきゃならん」

「その量でどれくらい出来る?」

「一度の献血で大体二ヶ月分ぐらいなら可能だが、ザルドもメーテリアもと輸血を続けたら限界が来る」

 

 

 仮に一月で300ccずつ取られた場合、ダンジョンに行けなくなる程だ。献血した血は回復魔法でも戻らない為、ノーグがダンジョンに行ける時間は格段に落ちる。

 

 

「(それに、あの子については口止めされとるしな)」

 

 

 メーテリアとザルド以外にもう一人『精霊薬』が必要な人間が居る。それを含めてもノーグの負担が大きいのだ。そしてザルドは足を引っ張る事を望んでいない。この事実を知ればいずれ自分から反対を申し出るだろう。

 

 

「ザルドは分かった。マキシムさん達は?」

「アイツらも毒に侵されてはいるがザルド程ではない。耐え抜けば【耐異常】で自然と弾く。それでもヤバい奴等はお前産の精霊薬を投与して毒の進行を止め、手遅れな部分を切除した。腕、足、臓器、色々と失われた奴等は少なくない」

 

 

 最強の陸の巨獣の被害は少なくない。

 一番は毒性にやられた人間が多いことだろう。耐毒装備を整えて万全を期したベヒーモス討伐は『デダイン』の砂漠を黒く染め上げる程の毒を撒き散らし、歴戦の戦士に少なくない損傷を残した。

 

 

「あの逃げ腰サポーターは?」

「奴なら毒には侵されておらん。疲労困憊じゃけどな」

「えっ」

「なんでも炎の付与魔法で熱消毒が出来たらしくての。サポーターが発現するような魔法ではないんじゃが、そのおかげで毒を防ぎ、重症のザルドを運んでたわい」

 

 

 ノーグは呆気に取られた顔となった。

 いつも逃げ腰で逃げ足だけならファミリアで一番と呼ばれたあの男に魔法が発現するなんて、予想外も予想外だった。

 

 

「アイツ魔法使えたのか……」

「ゼウスが言うには発現したのはつい最近らしいがの。どっかの誰かさんを見て、憧れが昇華したとかなんとか…」

「…………」

「照れとるのか?」

「うっさい」

 

 

 顔を逸らしたが、僅かに頬が熱くなっていた。

 とはいえ、サポーターだから前線で戦わない為、使う機会が殆ど無い気もする為、宝の持ち腐れと不憫に思っていた。

 

 そんな事を考えていると診療所の扉が開いた。頭に包帯を巻かれ、腕がギプスで固定されて布に吊られ、ザルドの次に重傷であったマキシムが入ってきた。

 

 

「おい、何故立ち歩いとる」

「暇だったんだ。つか、解毒は出来た筈だ」

「もう治ったの?」

「俺は雷で毒を燃やしてたしな。【精癒】も【耐異常】も軒並み高い」

 

 

 マキシムは最もベヒーモスと戦い続けた。

 決め手に欠けていた巨獣殺しが通じずに殿を務めて毒に侵されて戦えなくなった団員を退かせていた。ザルドの苦肉の策が無ければ、ベヒーモスを一人で抑えた後に撤退していただろう。

 

 そのせいか、怪我はメナでさえ治せない程に()()()()()()()()()()()()()()。ディアンケヒトとミアハの二人の神がかった手術さえ無ければ二度と使えない程にだ。本人はケロッとしているが、軽く強がっているのは明らかだった。

 

 

「ドロップアイテムはどうするの?あのままじゃ、影響は出るだろうし」

 

 

 ベヒーモスから出たドロップアイテムは未だ『デダイン』の黒の砂漠に放置されている。というのも回収し、処理するだけの余力もなく、耐毒装備でさえ防ぎきれなかった事から治療の為、回収は出来ず魔石を砕けるだけ砕く事しか出来なかった。ベヒーモスから出たドロップアイテムにも毒があり、処理に困ってはいた。

 

 

「処理はお前に一任しようかと思う」

「待て、なんで?」

「お前なら毒を凍結させて持ち運べるだろ。燃やすわけにもいかねぇしな。毒煙撒き散らすし」

 

 

 そもそもベヒーモスの焼却はマキシム達の巨獣殺しの策だった。灯油、火炎石、様々なものを使いベヒーモスの毒を焼却する筈だったのだが、撒き散らされた毒ならまだしも、焼かれたベヒーモスの肉から発生した毒煙が余りにも酷く、燃やす策はベヒーモスに対しては失敗の一言に尽きた。

 

 

「次の討伐はお前達だろ?なら餞別だ。上手く使え」

「使えるのか?」

「それは知らん」

 

 

 無責任なと心の中で呟く。

 ベヒーモスの毒を解析出来ればザルドの症状を和らげる薬を作れるかもしれない上に、ベヒーモスの毒は下界最強の毒だ。海の王獣の討伐に使えるかもしれない。ノーグは一度ヘラにその提案を持ち帰る事にした。

 

 

 ★★★★★

 

 

「………」

 

 

 風が吹いていた。

 テラスから見上げる空は満天の星、観るもの全てを魅了するように輝いている。綺麗で、美しくて、惹かれてしまうくらいな夜空が目に写る。いつも、此処で飲む夜酒が好きだった。心が落ち着くようで、嫌な事全てを忘れられるようだから。

 

 なのに、心が晴れない。

 偶に飲む酒も、今は不味かった。飲んでもアルコールの酔いが回らない。体質的に強い自負はあるが、全く酔えないのは初めてだった。

 

 

「………クソッ」

 

 

 未来を知っているわけではない。

 自分が出来ることなどたかが知れている。

 

 ザルドがああなったのは俺のせいではない。俺は全知全能ではないし、英雄でもない。救う事が出来ると言われたらそれは無理だと断言出来る。けど、未来を知り得る存在に踊らされて、生きている自分が今はとても嫌気が差した。

 

 割と遊ばれている自覚はある。

 それでも、割と助かっている部分もある。だから信頼はせずとも信用はしている。

 

 その存在が最初に漏らした言葉が胸に引っ掛かっている。

 

 

『超絶ヤンデレ女神と下半神直結爺が()()いる訳か』

 

 

 ()()、とは。

 三大クエストが終わった暁には、【ヘラ・ファミリア】や【ゼウス・ファミリア】がオラリオから居なくなるという事なのだろうか。それとも、この三大クエストで命を落としてしまう事があるのだろうか。

 

 あの最強の英傑達が、あの最強の女帝達がいつか消えるかもしれない。その答えが分からない。分からないから不安だった。未来なんて分からないのが普通だ。未来を知らないから恐怖する自分がとても滑稽に思えて自嘲を溢す。

 

 

「……馬鹿みたいだ」

「何がだ?」

「うおおっ!?!?」

 

 

 動揺し過ぎてテラスの手摺りから滑り落ちる。

 落ちる俺の手を掴む。落ちても大した痛みはないが、むしろいつの間にか背後にいたアルフィアに心臓がバクバク言ってる。

 

 

「馬鹿っ、動揺し過ぎだ」

「いきなり背後に居るからだろっ!?」

「全く」

 

 

 ヒョイっと身体が浮き、テラスに引き戻された。

 よかった、酒の入ったグラスもテラスから落ちていない。少し安堵の息をこぼした。

 

 

「で、何が馬鹿みたいだ?」

「あ、いや……」

 

 

 未来の事は知らないが、未来を知っている存在から未来を聞けないから怖いなんて抜かせる訳もない。とはいえ、アルフィアは大抵の嘘は勘で見抜く為、今心の中で思った事を素直に口にした。

 

 

「あと半年で、リヴァイアサン討伐だろ?ザルド達がああなってんの見て、少し不安になっただけだ」

「お前らしくないな」

「いや、俺は……」

 

 

 お前らしくない、かぁ。

 一体どんな俺が俺らしいのか。冒険者になった理由も、生き様も中途半端で誰かに定められたような在り方をしてる俺はどんな生き方が俺なのかわからない。

 

 

「強くならなきゃ生きられないから強くなった。それだけだったからなぁ」

 

 

 俺は()()()()()()()()()()

 野望や渇望、歪んだ感情が無ければ冒険をする意味などない。一族の復興、未知の探究、まだ見ぬ世界を見る為、あの三人は明確な野望や願いがあった。

 

 でも、俺は少し違う。

 恐怖心というべきか、生きる為に強くなる。強くならなければ生き残れないこの世界で、死にたくないから強くなるのは間違ってはいないと思うが、それはある程度強くなったら果たされてしまう事だ。

 

 

「奪われない強さを持ったら、虚しくなんのかねぇ」

 

 

 明確な野望がない。

 天啓で知らない人間に生き様を委ねて、今は強くなったら終わってしまう目標。これから更に強くなり、誰にも奪われない強さが手に入れたのならその時、冒険者を本気で続けていられるのか。

 

 何の為に強くなりたいという言動が果たされたら、今度は強さに何の意味を持てばいいのか。

 

 

「一つ、強くなる為の理由を私が言おう」

 

 

 アルフィアがテラスの手摺りに座った俺の隣に座ると、ただ一言告げた。

 

 

 

「『英雄』になれ」

 

 

 

 唇に浮かぶ笑みが、緑と灰色の異色双眼(オッドアイ)に見つめられ、僅かに胸が熱くなる。

 

 

「俺が?」

「お前なら至れるだろ。余りある才能が無駄であるものか」

「俺がねぇ……ガラじゃないと思うけど?」

「誰よりも強くなって、理由が無くなったらでいい。それを目指すのも、悪くはないだろう」

 

 

 理由なく強くなるくらいなら、確かにそれもいいのかもしれない。俺は正直、この世界で異物みたいなものだけど、それでも生きているのだ。いつか理由を失ったのなら、それを目指すのも悪くないのかもしれない。

 

 

「……そうだな。本当の意味で最強になったら、考えてみる」

「お前ならなれるさ。私と違ってな」

「皮肉か?お前の方が先に最強になるだろ」

 

 

 アルフィアが最も女帝に近い才能。

【ヘラ・ファミリア】の中でも異端の才能を持った魔導師、絶対に俺が最強になる前に最強の座を奪っているだろう。だって想像が容易過ぎるし。

 

 

「そうだな。お前が最強に至る時、最強の壁として立ち塞がってやる」

「はっ?破る壁が分厚過ぎるから却下」

「殴るぞ?」

「それはもっと嫌だ」

 

 

 最強の階段を上がり、女帝を超えた先がアルフィアとか笑えない。オラリオ最強を超えられる日が来るのか、正直想像もつかないので、アルフィアから最強の座を奪うのは遙か先の未来になりそうだけど。

 

 

 それでも、少しだけ気が楽になった気がした。

 俺はきっと全てを救う事は出来ない。手の届く人しか救えないちっぽけな人間だ。それでもきっと、強くなり続ける。生きる為以外に強くなる理由を示してくれたのだから。

 

 強くなったその時は、本当の意味で護れるようになれたのなら、その時は……

 

 

「アルフィア」

「?」

「俺、お前と出会えてよかったわ」

 

 

 夜空に浮かぶ月を見上げ、静かに酒を呷った。

 

 

 ★★★★★

 

 

「………」

 

 

 無言のままテラスから出て行くアルフィア。

 ノーグは追いかける様子もなく月を見上げている中、アルフィアは自室の扉を乱雑に閉め、ベッドに顔を埋める。

 

 

「アレは……卑怯だろ」

 

 

 分からない感情とむず痒い感覚、そして何より酒を飲んだ訳でもないのに身体が熱くなった。ベッドから見える姿鏡を覗くとそこに写る自分の顔を見て額を抑える。

 

 

「私は私で……重症か」

 

 

 その顔は、誰が見ても分かるくらいに赤く染まっていた。

 

 





 アルフィアは強いけど恋愛に関しては恋した事無さそうだから弱いと思う(偏見)

 ★★★★★
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二十スレ目


 今年は此処まで。


 

 

1:解析最強ニキ

遂に、遂に出来たぞ!イッチのスレ機能を此方側からこじ開けられるようになった!!

 

 

2:名無しの冒険者

乙……えっ

 

 

3:名無しの冒険者

イッチじゃない…だと?

 

 

4:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

ちょっ、おま、マジで何してくれちゃってんの!?

 

 

5:名無しの冒険者

あっ、イッチだ!

 

 

6:名無しの冒険者

プライバシーガン無視はアカンて……

 

 

7:名無しの冒険者

つかイッチが反応しとるって事は……マ?

 

 

8:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

背筋がゾワゾワしたと思ったら勝手にスキルが機能してるし、何でそっちからスレ立てられるんや!?つか犯罪やろ!?

 

 

9:解析最強ニキ

この俺に不可能の文字は無いのさ

 

 

10:名無しの冒険者

誰か止めろ

 

 

11:名無しの冒険者

スレ民の一線を越えようとしてる

 

 

12:名無しの冒険者

それはアカン奴やろ

 

 

13:解析最強ニキ

まあ待て諸君。コレはいずれ必要な事だった……違うか?

 

 

14:名無しの冒険者

 

 

15:名無しの冒険者

 

 

16:名無しの冒険者

 

 

17:名無しの冒険者

しゃーない、今回は見逃したる

 

 

18:名無しの冒険者

必要な犠牲でした

 

 

19:名無しの冒険者

このワイの心の広さに感謝するがいい

 

 

20:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

待てやコラ。ワイのプライバシーガン無視はダメやろ!?

 

 

21:名無しの冒険者

安心しいイッチ

 

 

22:名無しの冒険者

流石にプライベートのLiveはコッチからしないし、そこんとこの一線は守るわ

 

 

23:名無しの冒険者

そーゆー問題じゃないと思うけどなぁ……

 

 

24:名無しの冒険者

スレ立て考察とか色々したかった部分もあるし、Liveの時はイッチの許可を貰うわ。今まで以上に助けたるし

 

 

25:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

ワイ、スレ民に頼るのもう嫌なんやが……何隠しとんの?

 

 

26:解析最強ニキ

女は秘密を着飾って美しくなるのさ

 

 

27:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

お前ネカマやろ

 

 

28:解析最強ニキ

殺す

 

 

29:名無しの冒険者

即バレとるやないかいww

 

 

30:名無しの冒険者

女の秘密(笑)

 

 

31:名無しの冒険者

流れるように秘密暴かれとるやんけww

 

 

32:名無しの冒険者

大丈夫やってイッチ、マジもマジな時しかせえへんから

 

 

33:名無しの冒険者

まあコレで伝家の宝刀『スレ立て封じ』は抜けなくなったけどな

 

 

34:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

恩恵無くせばスレとか消えんのかな

 

 

35:名無しの冒険者

アレェ!?

 

 

36:名無しの冒険者

思い切りが良過ぎるぜイッチィィ!?

 

 

37:名無しの冒険者

こ、コレまでの努力を全て水の泡にする気か!?

 

 

38:名無しの冒険者

伝家の宝刀『スレ立て根絶』

 

 

39:名無しの冒険者

抜いたらあかん、抜いたらあかん…!

 

 

40:名無しの冒険者

宝刀抜かずにスレ立ててぇ……!

 

 

41:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

誰がのど飴のCM流せといった

 

 

42:名無しの冒険者

ブハッww

 

 

43:名無しの冒険者

今気付いたわ

 

 

44:解析最強ニキ

まっ、イッチのスレ干渉とかめっちゃ時間かかるし、頻繁には出来へんから許してヒヤシンス

 

 

45:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

諸悪の根源が何言ってんだマジブッ殺すぞ。スレ民なら超えてはいけない一線くらい守れやカス

 

 

46:名無しの冒険者

マジの正論の暴力

 

 

47:名無しの冒険者

まあ同じ立場ならイッチの反応は妥当やけどな

 

 

48:名無しの冒険者

まあとりあえず解析最強ニキはステイな?

 

 

49:名無しの冒険者

反省しろ

 

 

50:名無しの冒険者

まあワイらも望んだ事と言えど過激派がおるなんてワイらも予想外や

 

 

51:名無しの冒険者

コレが下界でいう未知なんやなぁ

 

 

52:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

いや未知やないから…ハァ、もうええわ通報したし

 

 

53:名無しの冒険者

諦めが早いなイッチ

 

 

54:名無しの冒険者

もっと熱くなれよぉ!!

 

 

55:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

やだよ疲れた。

あっ、残り一ヶ月でリヴァイアサン討伐なんやけど情報ある?

 

 

56:名無しの冒険者

イッチ、心して聞け

 

 

57:名無しの冒険者

リヴァイアサン討伐に関しては全くと言っていいほど情報が無い

 

 

58:名無しの冒険者

そもそも原作開始前やし

 

 

59:名無しの冒険者

ゼウスとヘラの実態もそこまで詳しい訳でもなかったしなぁ

 

 

60:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

じゃあなんでアルフィアやザルドとかマキシムは知ってたの?

 

 

61:名無しの冒険者

メンバーは一部のみ知ってた

 

 

62:名無しの冒険者

未来の最強オッタルくんの敗北描写に名前あったし

 

 

63:名無しの冒険者

しかも原作ではなく外伝(クロニクル)だったしなぁ

 

 

64:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

まあ、そうなるとワイが知ってる事の方が大きいか。

 

 

65:名無しの冒険者

なんか知っとんのか?

 

 

66:名無しの冒険者

まあ千年の歴史を築いた二大派閥ならリヴァイアサンの情報くらい持っとると思うけどな

 

 

67:名無しの冒険者

女帝達の時代が異常やったんや。なんやLv.9って

 

 

68:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

え"っ、あの人まだ強くなんの?

 

 

69:名無しの冒険者

おー

 

 

70:名無しの冒険者

女帝は女帝やから女帝なのだ

 

 

71:名無しの冒険者

全部女帝やないかい

 

 

72:名無しの冒険者

女帝以上が居るとするならアルバートやな

 

 

73:名無しの冒険者

アルバート>>>女帝>マキシム>アルフィア

 

 

74:名無しの冒険者

アルバートの間には絶対に超えられない差がある

 

 

75:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

古代の英雄って凄いんやな……。

 

 

76:名無しの冒険者

つーかイッチ、お前も英雄になれるスペックやろ

 

 

77:名無しの冒険者

英雄と精霊、原作でも結び付きの匂わせはあるしなぁ

 

 

78:名無しの冒険者

英雄の素質があり、精霊の力を得ているイッチ氏

 

 

79:名無しの冒険者

それつまり英雄候補じゃね?

 

 

80:名無しの冒険者

お前も英雄にならないか?

 

 

81:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

いや、いっつもスレ立ててる理由を振り返ってみような

 

 

82:名無しの冒険者

はっ

 

 

83:名無しの冒険者

そうやった

 

 

84:名無しの冒険者

いやイッチ、今の環境振り返ってみような?

 

 

85:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

ああ……うん。そうやね……。

前回から約半年。毎日毎日シゴかれてるお陰で一週間前にランクアップ出来るようになったわ。

 

 

86:名無しの冒険者

ダニィ!?

 

 

87:名無しの冒険者

メルティ戦以来、格上の経験値が取りにくかったイッチが遂に!?

 

 

88:名無しの冒険者

決め手は何やったんや?

 

 

89:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

深層67階層の攻略

 

 

90:名無しの冒険者

 

 

91:名無しの冒険者

 

 

92:名無しの冒険者

 

 

93:名無しの冒険者

えっっっぐ

 

 

94:名無しの冒険者

イッチ、スレ立てのタイトル振り返ってみような

 

 

95:名無しの冒険者

完全にブーメランどころかついでに鎖まで付いてきた始末

 

 

96:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

常に攻撃表示しか出来へんわ。守備表示?女帝の前で?あはは、何回殺されかけたんやろなぁ、……最終ステイタスはこんな感じや。

 

ノーグ Lv.4

 力  SSS1501

 耐久 SSS1600

 器用 SSS1452

 敏捷 SSS1529

 魔力 SSS1600

【天眼E】

【耐異常F】

【耐冷D】

【魔導G】

『魔法』

【アプソール・コフィン】

・二段階階位付与魔法

・一段階『凍てつく残響よ渦を巻け』

・二段階『燻りし焔をその手に慄け、氷界の果てに疾く失せよ』

【リア・スノーライズ】

・領域魔法

・指定した存在に氷付与魔法を付与

・極寒、氷結範囲に幻像使用権限獲得

・極寒、氷結範囲から魔素の回収、精神力還元

『それは尊き冬の幻想、今は閉ざされし幻雪の箱庭、流れて駆けゆく数多の精、黄昏に吹雪く厳冬の風、打ち震えよ、我が声に耳を傾け力を貸せ、黄昏の空を飛翔し渡り、白銀の大地を踏み締め走れ、悠久の時を経て、懐かしき冬が目を醒ます、届かぬ天を地に落とし、今こそ我等に栄光を、箱庭は開かれた、偉大なる冬の世界へようこそ』

『スキル』

天啓質疑(スレッド・アンサーズ)

・■■■■■■■■■

・神威に対する拒絶権

追走駆動(ウェルザー・ハイウェイ)

任意発動(アクティブ・トリガー)

・疾走時、精神力を消費し『敏捷』の上昇

・発動時、加速限界の制限無視

冷鬼覇豪(ヘル・フレーザー)

・発展アビリティ【耐冷】の獲得

・環境極寒時、ステイタスの高補正 

憤怒臨界(アベレンジ・ラース)

・一定以上の憤怒時発動可能

・精神力二倍消費による魔法の詠唱破棄

・怒りの丈より出力上昇

天冽氷魔(ノーザン・メビウス)

・魔法発動中、精神力超消費にて冷気隷属

・隷属範囲及び練度はLv.に依存

 

 

ワイもヘラもドン引きの数値やった。

耐久と魔力に関してはSSSの限界値に達したからLv.4だと上げられないとの事やった。

 

 

97:名無しの冒険者

うわぁ……

 

 

98:名無しの冒険者

うわぁ………

 

 

99:名無しの冒険者

最早イッチが可哀想に思えてきたわ。

 

 

100:名無しの冒険者

で、どうやったんや深層67階層は?

 

 

101:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

思い出させるな吐く

 

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 【ヘラ・ファミリア】全員の休暇。

 ()()6()7()()()の遠征から帰り、能力値を目一杯引き上げる為の事はやった。階層から鉱石の採取も終わり、討伐に必要な巨額のヴァリスも手に入れ、残りは各自深層に行くなり、準備するなりと忙しくなる。その為、団員にもよるが三日程の休暇を取る者も珍しくない。

 

 ノーグも幹部として67階層に後衛として突入し、領域魔法や冷気隷属の腕を格段に引き上げ、ランクアップが出来るようになった。発展アビリティに悩んでいた為保留にしているが、二年弱で全アビリティSSSはヘラでさえ戦慄する程だった。特に魔力と耐久がずば抜けている事にロキの怒りは間違いないと遠い目をしていたらしい。

 

 流石にノーグも未知の階層の遠征は堪えたのか。帰ってから二日ほどはベッドから離れなかった。メーテリアが心配になって覗いてみると、返事がない屍のようだった。二年でSSSという記録はそれだけノーグ自身の神経をすり減らしていた。

 

 メーテリアは此処で悟った。

 このままじゃリヴァイアサン討伐前にノーグが壊れるのではないのかと。【修羅】と呼ばれた男でも【修羅】になりたかった訳ではない。限度があるのは当然の話だ。

 

 

「ハァ……」

「の、ノーグさん大丈夫ですか?」

「いや……流石に疲れたかな」

 

 

 ノーグの様子は一言で言うなら疲れ切っていた。リヴァイアサン討伐の為に必要ではあったのかもしれないが、癒しという癒しが少な過ぎて飴と鞭の比率で言えば八割程鞭に傾いてノーグも限界だった。休めば治るという限度を超えている。

 

 特に急激な環境の変化、【ヘラ・ファミリア】の一時的な改宗(コンバート)もそうだが、ファミリア内に男がノーグしかいない状態。外ならサポーターや偶にオッタルなどと会話するが、身近な男がファミリアに居ない中だと、神経もすり減るだろう。

 

 

「ハァ……」

 

 

 ため息は幸せが逃げると聞くが、一体どれだけの溜息を吐くのか。疲れ切って幸せすら感じられないならもう相当心が限界であるのだろう。

 

 

 ★★★★★

 

 

「姉さん、どうにかならない?」

「何故私に振った」

 

 

 本を読み、休暇を満喫していたアルフィアにメーテリアが相談する。ノーグの限界は女帝もヘラも悟っていたのか、休暇期間を一週間延長させる程だ。優れたパフォーマンスが出来なければリヴァイアサンは倒せない。特にノーグはそれが顕著に出る。

 

 そう言う意味ではアルフィアも聞き逃せない相談ではあった。

 

 

「だって、ノーグさんが一番信頼してるのって姉さんだし」

「それはお前の見解じゃないのか?」

「女の勘だけど、間違いないと思うよ?」

 

 

 メーテリアの言葉に僅かながら頬が熱くなった気がした。アルフィアは咳をして誤魔化す。

 

 

「とはいえだ。私に出来る事はない。本人が疲れているなら休ませるだけ休ませる事が唯一の回復方法だろう」

「でもノーグさん、ずっと辛い思いしてるんだよ?」

「はっ?」

 

 

 辛い思いをしている。

 ノーグに限ってそんな事は無いと思っていた。いつも自然体で、疲れていても喰らい付いてくる気概もあって手加減は余りしていない。遠征で疲れた様子ではあったが、辛そうには見えなかった。

 

 だが……それは。

 

 

「リヴァイアサン討伐だって、私達のファミリアが挑む訳でノーグさんはそれに巻き込まれたようなものだし、ノーグさんは強くなりたい事が第一でも無いのに私達が環境を無理矢理整えて強くして、ノーグさんが何も無いと思ってるの?」

 

 

 ずっと、ノーグは悟らせなかったからだ。

 アルフィアが気付けなかったのも無理はない。ノーグ自身の意地もあり、アルフィアにそんな顔を見せたくなかったからアルフィアは気付かなかったのだ。だが、最近は隠し切れていない。大丈夫という言葉の裏腹には相当過酷な時間に疲弊し続けている。

 

 

「幾らなんでも可哀想だよ。戦えない私から見ても」

「それは……」

「それに利用するだけ利用してその後は元に戻すみたいで、本当に良いと思ってるの?」

「っ……」

 

 

 その言葉に息が止まった。

 ノーグの限界に気付けたのはメーテリアだけだ。気を許しているというよりは、幹部メンバーに苦労をかけたくないノーグ本人の配慮もあった。性格も相まって、その優しさに甘え続けた結果が今のノーグの状態なのだ。このままでは討伐前に壊れるというのは間違いじゃないだろう。

 

 

「何をすればいい」

「近々、リヴァイアサン討伐前に『二大祭』があるでしょ?」

 

 

 オラリオ恒例の『挽歌祭(エレジア)』と『女神祭』を同時に行う『二大祭』。

 英雄や冒険者に送る鎮静歌(レクイエム)、過去を思った後に明るい未来を信じる。豊穣の女神達が主催となって収穫した果実などを振る舞う収穫祭。リヴァイアサン討伐前の最後の英気を養う為、主催を早めに行う事となっているらしく、今回は健闘を祈り、華やかなパレードを行うと噂が流れている。

 

 

「ああそうだが……まさか」

 

 

 メーテリアは軽く笑って、アルフィアに提案する。

 

 

「ノーグさんをデートに誘ってみない?」

 

 

 





 
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二十一スレ目


 漸く厄介な課題が終わった。
 だが就職の為にまた忙しくなる、更新が遅れるううぅぅ!!本当お待たせしました。では行こう。


 

 

1:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

デートに指定の服ってありますか?

 

 

2:名無しの冒険者

はっ?

 

 

3:名無しの冒険者

はっ?

 

 

4:名無しの冒険者

お前やったな?

 

 

5:名無しの冒険者

処す

 

 

6:名無しの冒険者

まあ待て、とりあえずイッチに聞こうじゃないか。デートまでの経緯をよぉ!

 

 

7:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

いや、帰ってきて就寝時間前にアルフィアに袖掴まれて明日の祭り一緒に回らないかと言われたんや。えっ、コレってデートの誘いって勘違いしてる痛い奴なの?

 

 

8:名無しの冒険者

こ、れは…

 

 

9:名無しの冒険者

どっちや?

 

 

10:名無しの冒険者

アルフィアのその時の様子は?

 

 

11:名無しの冒険者

それによるだろ。

 

 

12:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

ちょっと俯いてた…と思う。顔は見てないけど。

 

 

13:名無しの冒険者

殺す

 

 

14:名無しの冒険者

やっぱダメだ殺してェ

 

 

15:名無しの冒険者

それはデートのお誘いだ。間違いねぇ、死ね

 

 

16:名無しの冒険者

幸せなイッチが許せねえ死ね

 

 

17:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

そういうのいいから。デートに指定の服はありますか?

 

 

18:名無しの冒険者

ねぇよ

 

 

19:名無しの冒険者

普段ジャージのワイらに何聞いとんねん

 

 

20:名無しの冒険者

それは偏見だろ(目潰しの呪文)

 

 

21:名無しの冒険者

全くです(マンゴー仮面)

 

 

22:名無しの冒険者

スレ民全員がジャージな訳ないだろ!(赤目ヒーロー)

 

 

23:名無しの冒険者

全員ジャージやないかい

 

 

24:名無しの冒険者

そこら辺は変にカッコつけずにイッチがいいと思う服選べばいいと思うで?

 

 

25:名無しの冒険者

>>24コイツデートした事ある口調だぞ

 

 

26:名無しの冒険者

吊るせ

 

 

27:名無しの冒険者

そういや祭りってなんや?

 

 

28:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

『二大祭』って知ってる?

 

 

29:名無しの冒険者

アレか

 

 

30:名無しの冒険者

確か過去の死者を悼む鎮静歌(レクイエム)と豊穣神の祭りだっけ?

 

 

31:名無しの冒険者

アニメ勢は知らんけど

 

 

32:名無しの冒険者

まあ、規模ある祭りやな。この時期もやっとんのか

 

 

33:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

詳しくは知らんけど、今回はリヴァイアサン討伐の健闘を祈る為のパレードがあるらしくてな?【ヘルメス・ファミリア】が動いてんのや

 

 

34:名無しの冒険者

ほー

 

 

35:名無しの冒険者

デートにはいい日だと

 

 

36:名無しの冒険者

しかもアルフィアから

 

 

37:名無しの冒険者

やっぱ死ね

 

 

38:名無しの冒険者

安価達成に向かってんのは褒めてやる。だが死ね

 

 

39:名無しの冒険者

つーか、イッチも結構ノリノリだよな。安価について

 

 

40:名無しの冒険者

………確かに

 

 

41:名無しの冒険者

コレはまさか……

 

 

42:名無しの冒険者

イッチ、もしかして安価関係なくアルフィアに惚れたか?

 

 

43:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

おいおい、そんな事あるわけにゃいだろ

 

 

44:名無しの冒険者

確定

 

 

45:名無しの冒険者

噛んだぞコイツ

 

 

46:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

いや違うからねマジで!?アルフィアに恋心だと?俺に対してツンケンしてきて特訓の時はクッッソスパルタの女帝二号に恋心とかある訳ないやろ!!

 

 

47:名無しの冒険者

レスの速さ

 

 

48:名無しの冒険者

光の速度でレス立てたことはあるか〜〜い??

 

 

49:名無しの冒険者

さりげなく俺口調になってる時点でなぁ……

 

 

50:名無しの冒険者

すまんなイッチ、コレからはちゃんと応援してやるZ

 

 

51:名無しの冒険者

ヒャッハー!楽しくなってキタァアアァアア!!!

 

 

52:名無しの冒険者

やっべ、マジ興奮してきた

 

 

53:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

いやホント待って!?勘違いしてんじゃねええええっ!!!

 

 

 

 ★★★★★

 

 

「しまった……今回は振り回された」

 

 

 相談する相手を間違えた。

 昔から信用はしていたが、こっちの内情を知られてしまった辺り痛手ではある。代わりと言ってはなんだが、服装やデートスポットなどが『天啓』でかなり流れてくる。

 

 情報源達には隠しておきたかったが、アルフィアのことを思い出して動揺を隠せなかった。

 

 

「仕方ないだろ……あんなの」

 

 

 あんな俯いて、掴んだ袖は震えて顔が少し赤かったアルフィアの誘いを断れるわけが無い。普段は毅然とした女王だというのに、あのギャップは反則だろと心の中では動揺と歓喜と困惑でぐちゃぐちゃに掻き乱されてるみたいだ。

 

 まあ、多分だがアルフィアがクソ騒がしい祭りに自発的に行こうなんて言わないから大方メーテリアの提案だろうけど。それでも嬉しいものは嬉しい。

 

 

「コレでいいか……」

 

 

 服装を決め終え、早めにベッドに潜る。

 最近の疲弊と緊張から寝不足というわけでもないが身体が重い。睡眠の質も悪いので、とりあえず長く眠ることにした。早めに回復しないと討伐の時に影響は出るし。

 

 最近は精神、というより心が疲弊してるからか回復も遅い。明日楽しめればいいなぁ。

 

 

「デートって待ち合わせ十五分前だっけ……」

 

 

 ★★★★★

 

 

 白いオーバーコートと藍色のセーター、黒ズボンと茶色いブーツ。とりあえず鏡で見た感じは悪くない組み合わせだろう。ほぼダンジョンに行く事の方が多いからあまりオシャレに気を使わなかったが、デートを意識してなんか気合いを入れてしまった。恥ずかしい。

 

 しかも待ち合わせ三十分前に街を歩いているあたり、俺は相当浮かれている。ちょっとヤバいかもしれない。俺ってこんなキャラだったか?

 

 悶々と頭の中で雑念ばかり浮かんでいると待ち合わせ場所が目の前に……待って早過ぎね?

 

 

「遅い」

「悪い。待ち合わせ時間間違えたか?三十分前だぞ?」

 

 

 アルフィアは視線を逸らした。

 待ち合わせ時間間違えたわけではないらしい。いや、俺も早く来過ぎたと思っていたのだが、まさかアルフィアが先にいると思わなかった。

 

 それにしても……

 

 

「………っ」

 

 

 くすみ色のセーターに紫のロングスカート、そして赤いマフラーを首に巻き、黒い厚底ブーツ。そして何より誕生日に渡した黒リボンでサイドテール。素材の良さが際立って、絶世の美女が俺の目の前に座っている。

 

 ハッキリ言おう、めっちゃどストライクだ。

 デートするならこんな服を着た美人がいいという妄想の九割ほど当て嵌まって来ると思わなかった。

 

 

「あー、月並み程度の事しか言えないが、似合ってるぞその服」

「………」

「あっ、ちょっ、痛い!無言で脇腹突くな!?」

 

 

 痣が残らない程度の絶妙な威力で脇腹を連続で突いてくる。大した感想は言えなかったが、珍しくアルフィアが照れている。少しだけ動揺してくれたと思うとちょっぴり嬉しかったりする。

 

 

「……さっさと行くぞ」

「そうだな」

 

 

 普段から振り回されているのだ。

 振り回してる愉悦に口角が上がりそうなのを隠しながら、不貞腐れて少し早歩きして先に行くアルフィアの後ろを俺は追いかけた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「想像以上に賑わっているな」

「豊穣の神は多い、それなりの規模だと予想してはいたが、神の宴よろしく暇つぶしに騒ぐ所は相変わらずだ」

「お前それ絶対神の前で言うなよ?」

 

 

 特に多いのは屋台。豊穣の神達の収穫祭というくらいだ、多種多様の様々な食材を使った料理が振る舞われる。牛串焼き、麦酒、アップルパイに葡萄の水飴、見た感じ普段は屋台として見かけない種類の甘味や贅沢に使われた果物や肉、前世でいう食べ歩きフェスのようにも思える。コレを制覇出来るのはザルドくらいだろう。

 

 

「うわっ、ソーマ産の酒が売ってる」

「買うか?安くしておくぞ」

「じゃあ2本くれ。ヘラとロキの土産にする」

「ヘラの分は私が出そう」

 

 

 最近出来た商業系の【ソーマ・ファミリア】だったか。たまに売り出す酒が絶品だとか評判はある。意外と分かりやすい場所に売っているのに売れてなさそうだ。まあ冒険者じゃ無ければこの金額は相当なものだろう。

 

 

「ん?」

 

 

 店員が包んでいる間、辺りを見渡すと白い髪のアルフィア似の女と黒髪の童顔の男が並んで歩いていた。メーテリアとサポーターが俺に気付くと、小走りで人混みの中に紛れて隠れ始めた。

 

 

「どうしたノーグ」

「何でもない」

 

 

 アイツら何気にデートしてやがる。

 アイツあとでアルフィアに殺されそうだな、と遠い目をしながら見ていた方向から視線を逸らす。鉢合わせると絶対に碌な事が起きないので見て見ぬフリをして反対方向に歩き始めた。

 

 

「(メーテリアってアイツの事結構好きだよな)」

 

 

 馬鹿みたいに逃げ足が速くて覗き魔で色々と醜聞垂れ流す上に大した強さではないアイツだが、偶にしか外に出れないメーテリアに冒険の話を聞かせたり、外へと連れ出したりする。だらしない部分は多いが、アイツはいい奴だ。

 

 意外と、あの二人の組み合わせは悪くないのかもしれないな。無断で【ヘラ・ファミリア】に侵入してるのはアレだが……ん?ちょっと待てメーテリアもしかして監視から外す為にアルフィアを遠ざけたのか?祭りの行事の時はアルフィアが引き篭もるからメーテリアの監視の目が強くなるから……

 

 もしそうならメーテリアめちゃくちゃ策士なんだけど。恋愛頭脳戦の小悪魔っぷりに戦慄を感じざる得なかった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 色々な所を回った。

 屋台の牛串焼きを食べたり、大聖堂を観覧し、英雄の橋を渡ったり、アクセサリーの露店を回ったりと様々な所を回った。体感的には三時間と言った所だ。そして屋台が並ぶ場所から離れたベンチにアルフィアは座る。

 

 

「ハァ……」

「大丈夫?」

「済まない……やはり雑音だらけの場所は神経を削る」

 

 

 アルフィアが珍しくグロッキー状態になっていた。

 そもそもアルフィアは祭りが嫌いだ。というより騒がしい行事が苦手なのだ。【静寂】と言われるくらいの二つ名だ。煩い環境は単純にストレスになりやすいのだろう。いつもは祭りの日は部屋に籠っている事の方が多い。

 

 

「悪かったな、祭りに付き合ってもらって」

「私が誘った。謝罪するな」

「でもお前祭り苦手だろ。普段なら引き篭もってるし」

「うっ」

 

 

 図星を突かれて呻き声を上げるアルフィア。意外とアルフィアは体力が無い。持続戦闘が長く出来ない所からストレスの影響に弱かったりする。祭りや騒がしい行事などは体力を相当削るのだろう。

 

 

「メーテリア辺りが気を回したんだろ?悪かったな騒がしい事に付き合わせて」

「馬鹿にするな」

 

 

 アルフィアはノーグの胸ぐらを掴み、強く引き寄せた。

 まるで嫌々付き合わせたみたいな物言いに苛立ちを感じ、反論するように言葉をアルフィアは口にする。

 

 

 

「私がお前と一緒に行きたかっ──……」

 

 

 

 ムキになって告げた言葉が小さくなっていく。

 反射的に反論した言葉の意味を理解すると、徐々に掴む力は弱くなり、顔は俯いていく。顔は赤くなり、耳まで真っ赤になっているのを見て、ノーグ自身も顔が熱くなり始めた。

 

 

「……忘れろ」

「えっ、いや」

「忘れないと殺す」

「あ、はい」

 

 

 セーターから手を離すとアルフィアは後ろを向いて顔を隠す。そのギャップにノーグ自身も天を仰いで悶え苦しむ。

 

 

「(あ……ヤバい……コレはちょっとヤバい)」

 

 

 一瞬、理性が崩壊しそうになった。

 強く抱きしめたいとか、キスしたいとか、恋人でもないのにそんな事が頭をよぎった。顔を赤くして顔を逸らすアルフィアを一人占めにしてしまいたいという独占欲が理性の鎖を引き千切りそうになった。

 

 

「(それは、反則だろ……)」

 

 

 それに喜ばない男がこの世にいるのだろうか。

 自分の意思で一緒に行きたいと思ってくれている女の言葉に歓喜しない男がいるだろうか。自分が好きで、好きな相手が自分の事を意識してくれている。

 

 本当に狡い、こんなのは反則過ぎる。

 これ以上好きになったら、自分はどうなってしまうのか。恋というのは此処まで心を乱されるものなのか、恋愛の経験が全くないノーグは恋という感情を少し恨めしく思った。

 

 

「(あー、クソッ……駄目だ、恋をする事を舐めてた……)」

 

 

 意識し過ぎてしまえばきっと、今までの関係に戻れないかもしれないから。友達である事の意識を保てなくなる。果たして今まで通りの関係になれるのか、恋というのは想像以上に複雑だとノーグは静かに後悔し始めた。

 

 

「(おっ……風船だ)」

 

 

 見上げた空には赤い風船が浮かんでおり、風船の行方を追いかける子供の姿があった。オラリオにも風船がある。日本と比べてファンタジーな分、文明的な部分は遅れているオラリオでもあるんだなと意外そうに見ていた。

 

 

「あっ」

 

 

 子供が転けた。

 

 

「アルフィア、ポーションとか持ってたりする?」

「はっ?……持ってる訳ないだろ」

「だよな。子供の方を頼めるか?」

「?…ああそういう事か」

 

 

 ノーグは跳躍し、風船の紐を掴む。

 空高く飛んでしまった風船も、Lv.5の身体能力が有れば届く。子供の頃ジャンプして何処まで飛べるかとやった事があるが、今となっては全力出せばビルくらいなら余裕な事にこの世界に大分馴染んだと遠い目で実感する。

 

 

「大丈夫か?」

「う……だ、いじょうぶ」

「盛大に擦りむいたな」

 

 

 転げた子供の膝が血が滲んでいる。

 アルフィアもノーグもポーションは持っていない。とりあえずベンチに座らせて滲んだ血を持っていた水とハンカチで軽く拭く。絆創膏も消毒液もない中、とりあえず水で洗い流し擦りむいた箇所の血を拭っていく。

 

 

「いっ……」

「我慢しろ」

「そのままだとバイ菌とか大変だからな。ちょっと痛いのは耐えてくれ」

 

 

 涙に耐えながら歯を食い縛る赤髪の少女に、アルフィアは的確に処置を施し、傷口をハンカチで結ぶ。

 

 

「とりあえず応急処置だ。帰ったら消毒液で化膿した部分を拭いておけ」

「ほら風船、今度は離さないようにな」

「あ、ありがとうございます」

 

 

 涙ぐむ少女の頭を撫で、よく耐えたなと褒めるノーグ。この子供の親御さんが何処にいるのか辺りを見渡すと息を切らしながら走る老婆の姿が見えた。

 

 

「────()()()()!」

 

 

 ビクッと赤髪の少女は少し震えた。

 走ってきた老婆は息を切らしながら近づいて、軽く少女の頭にチョップをかました。

 

 

「ハァ……ハァ……年寄りを走らせるんじゃ、ないよ」

「ごめん、なさい」

「まあ風船って見慣れないものだか…ら……」

 

 

 顔を上げた老婆にノーグは目を見開いた。

 見覚えのある顔、いつも店に訪れてきてパンを買っていく常連客であり、記憶の奥底で本を読みに家に訪れてお世話になったラースの知り合い。

 

 老婆もノーグの顔を見ると目を見開いて名前を呼ぶ。ノーグも震えた声で、その老婆の名前を口にした。

 

 

「──ラース、君?」

「ナナ……さん?」

 

 

 かつてラースがお世話になった知人とノーグは再会した。

 

 





《DB風 恋愛戦闘力(偏見)》

ノーグ 5000
恋愛経験ゼロだが、女に囲まれた分、耐性が高く普通の男より数値は高い。

アルフィア 4800
恋愛経験がない為、この数値。
ツンデレのギャップが計り知れず、潜在能力的には計り知れない。だが肝心な所で素直になりきれない。

サポーター 8000
愛に生きる男、恋愛経験はないが度胸と女慣れしてる分数値は高め、失敗を恐れないポジティブな男

メーテリア 530000
ヘラの眷属。恋愛が絡むと小悪魔


 ★★★★★

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「────」

 今回短めです。


 

 

 大きな本棚に無数の本が並ぶリビング。

 ジャンルは多種多様に存在し、歴史や英雄譚、薬学に医学の本と様々な物が本棚に並び、アルフィアと俺は客用のソファーに座ると、ナナさんはゆっくりとティーセットを持ってきた。

 

 

「紅茶でよかったかい?」

「ああお構いなく、すみません家に上がらせてもらって」

「昔は遠慮なかったし、構いやしないさ」

 

 

 ラースの記憶にいた恩人のナナさん。

 記憶にいた頃より随分と老けている。当然といえば当然、あの日から六年は経っているのだ。髪は白くなり、皺は増えた。この歳で走れるのが不思議なくらいだが、元気でいられるのはどれほど保つのだろうか少し心配だった。

 

 

「あの、レヴィスって子は?」

「孤児さ。アタシが引き取った」

 

 

 あの赤髪の子供、レヴィスは孤児らしくナナさんが育てている。なんでもラースであった自分とフララ、そして殺されたガジの事件の後に裏路地にボロボロの服で捨てられていた子供を見つけ、今は薬学などを学んで内職の手伝いをしているらしい。

 

 

「……その、ガジの事はどうなりましたか?あの後、一回死にかけて記憶喪失になったんですけど」

「ガジさんの遺体なら共同墓地、店はもうあの有り様さね」

 

 

 ガジ、俺のもう一人の父親。

 孤児となったラースを拾ってくれた性格の悪いパン屋の店主。フララの誘拐を企てた闇派閥に殺されて遺言も聞けずにこの世を去った人であり、育ててくれた一番の恩人は共同墓地に埋められている。

 

 居場所が分かった以上、花を添えてやれる事に少し嬉しかった。いつもパン屋に花を添える事しか出来なかったから、ちゃんと弔って感謝を伝えたかった。

 

 

「フララちゃんはどうしたんだい?その髪、フララちゃんの色そっくりじゃないかい」

「フララ……?」

「アイツなら……故郷に帰りました」

 

 

 フララ、大精霊ヴィルデアはもういない。

 俺自身が大精霊の力を持ち、フララはそれに溶け合っている為、ヴィルデアとして下界に顕現する事はこの先きっと来ないだろう。

 

 

「そうかい……ラース君がまさか、巷で噂の【修羅】とは思わなかったさね」

「あ、はは」

 

 

 別に修羅になりたかった訳ではないが、苛烈さ故にそう思われても仕方ない。うん、だって俺女帝達に何回殺されたんだ?最後の晩餐と思えてしまう日がずっと続いて、吐いて、死にかけて、深層行って、女に喰われないように気にかけて……振り返るとかなりヤバい。普通の人間なら壊れてる。いやもう俺も大分毒されて壊れてるけど。

 

 

「その娘は……ラース君の恋人さんかい?」

「えっ、あ、いやコイツは同じファミリアの親友で」

「デートとはやるねぇ、フララちゃんといい女の子侍らせて、罪な男だねぇ」

「違いますぅ!?侍らせてません!」

 

 

 アルフィアが脇腹を抓りながら、「フララ?誰だその女は」と聞いてきたがその話はまた今度だ。今は言うべき事ではない。それにあの子は恋人ではなく家族だからノーカンだ。恋愛感情があったとしてもラースの頃だ。

 

 嫉妬しているのは嬉しいが、脇腹の肉に爪が入って痛い。ギリギリと摘むアルフィアを愉快そうな目でナナさんは見ていた。視線が居た堪れなくなってアルフィアは脇腹から手を離した。

 

 

「その、怒ってますか?俺が冒険者になった事」

「まさか」

 

 

 首を振ってナナさんは優しく笑う。

 

 

「無事でよかった、それだけ知れただけで充分さね」

 

 

 ナナさんは何も言わなかった。

 聡い人で、それ以上深く踏み込まなかった。俺がもうラースではない事も、消えてしまったフララの事も、あの日の事も何も問わなかった。

 

 ただ、優しく頭を撫でてくれる。

 何も変わらない、優しいラースの恩人だった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 帰り道、もうすっかり暗くなった街道。

 祭りの終わりは近いというのに騒がしい街にやや苦笑を溢すノーグの隣を、アルフィアは歩いていた。

 

 

「よかったのか?」

「ん?」

「あの人の提案」

 

 

 ナナが告げた言葉を思い出す。

 

 

『──冒険者辞めて一緒に暮らさないかい?』

 

 

 ナナが言った言葉は純粋な善意で裏は無かった。その言葉に一瞬だけ揺れた。けれどノーグは断った。冒険者を辞める事は約束出来なかった。アルフィアはノーグが冒険者をやっている理由を知っている。生きるために強くなると言う理由で、もうかなりの強さを得た以上、その提案を呑むのではないかと危惧していた。

 

 

「なに?アルフィアは俺に冒険者やめてほしいの?」

「いや……そうではないが」

 

 

 あの人も歳で人生が長いわけではない。

 自分が死ぬより早く死んでほしくない。きっと危険な目にあって欲しくはない。そんな思いがあったのだろう。けど、それはもう遅い話だった。今更過ぎた。

 

 ただその代わり、ナナが死んでレヴィスが一人になってしまうのならその時は【ロキ・ファミリア】か【ヘラ・ファミリア】で引き取る事になる事は約束した。子供を心配するあの人の優しさはあの頃から変わらない。優しくて、穏やかで、恩人だった。

 

 もしも、ラースであったのなら頷いていたかもしれない。

 

 

「今更な話だよ。俺はラースじゃない、ノーグだ。だからラースとしての居場所はもう無いんだ」

「記憶喪失だからって居場所が無いのは違」

「違わないよ」

 

 

 ノーグは異世界から来た。

 言葉通り、ノーグはラースの身体に転生した外世界の存在。死んで一から転生ではなく憑依に近い形なのだろうが。神々さえ創り出した創造神の世界に生まれて、死んだらこの世界にいた。

 

 日本にはモンスターも魔法も居なくて、法に厳しくて剣を持つだけで処罰されて、文明の利器が発展し、脅威の無い平和な世界だった。

 

 ──だからこの世界が怖い。今でも変わらない。

 

 

「法が欠けてて、圧倒的な力に理不尽に奪われる。弱ければ淘汰されて当然の世界で、力を捨てちゃあ生きにくいしな」

 

 

 だからノーグは強くなる道を選んだ。

 生きたかったから、奪われたくなかったから。それを捨ててしまえばきっと怯え続ける。剣を置くのも悪くはなかった。けど、そうして手にした幸せはどれくらい長続きするのか。この世界はいつか滅びるかもしれない。平和な世界とは違って、明確な終末装置が待ってる。

 

 人の手ではどうしようもない天災ではない以上、いつか人の手で終わらせなければいけない天災はいずれ世界を滅ぼす。オラリオだっていつかそうなるかもしれない。

 

 

「きっと、無駄なんだよ。束の間の幸せはきっと」

 

 

 それこそ、ずっと生きていけない。

 決着を付けなければ、この世界はいずれ滅びる。神々がわざわざ示唆してまで提示した三大クエストは人理崩壊の可能性が秘められているからだ。

 

 

「だから、とりあえずリヴァイアサンは斃す。黒竜はロキが許すか知らんが、オラリオが平和になるまで強くなってやるさ」

「ふっ、それこそ英雄みたいだな」

「待って、なんか恥ずかしいからやめて」

 

 

 英雄を目指しているわけではないが、言動が英雄の言いそうな台詞だったことを自覚して徐々に顔が熱くなる。ガラではない自覚はあるが、結局生き方はそれしかないのだ。狙われてる自覚があるからこそ、強くならなきゃいけない。

 

 ため息を吐くと、突如轟音が広場から鳴り響く。

 パァン!!という音と共に火薬の匂いと、夜空を照らす花火が目に映った。女帝がこの時間帯にパレードがあると言っていたが、気付けば時間は過ぎていた。

 

 

「……パレード、見逃したな俺ら」

「また来年に見ればいいだろう」

「えっ、来年も一緒に回ってくれんの?」

 

 

 少しだけ揶揄い気味に尋ねるノーグにアルフィアは瞼を閉じながら動揺もせずに答えた。

 

 

「さあな。その時の私次第だな」

「それ、行けたら行く並に信用ならないんだけど……」

「なら次はお前が誘え。私とデートに行きたいとな。熱烈な誘いを期待してるぞ?」

「はっ!?」

「冗談だ」

 

 

 柔らかな笑みを溢し、アルフィアは先を歩く。照れてる様子もなく、揶揄い返された事に気付いたノーグは肩を落としながら花火が散る夜空を見上げた。

 

 

「騒がしいのは嫌いだが、綺麗だな」

「そうだな」

 

 

 月と花火が夜空を彩る。

 人々の笑い声と、歓声が飛び交う。

 未来を祈る鎮魂歌(レクイエム)が聞こえる。

 

 

「──────」

 

 

 呟いた言葉は花火の音に掻き消される。

 ノーグが告げた小さな言葉が聞こえずにアルフィアは首を傾げた。

 

 

「何か言ったか?」

「いや、ただの独り言だ」

 

 

 夜が終わればまた朝が始まる。

 そんなありきたりな事を明日を願い、来年も同じようにこんな日が来ることを祈る。豊穣と挽歌の宴はどれだけ騒がしくても嫌いにはなれない。二人は誰もいない街道で空を見上げて軽く笑みを溢した。

 

 

 





 
「また来年もお前と」

 未来を祈るなら、また来年も同じ未来を。
 ただ小さく誰かに祈るように願いを告げた。


 ★★★★★

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 次回、リヴァイアサン編に突入します。就職活動の合間の息抜き程度の時間しか取れませんが、お楽しみに。


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二十二スレ目


 つい筆が乗ってしまったリヴァイアサン戦はーじまーるよー!


 

 

1:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

起きろテメェら、開戦の時間だ。

 

 

2:名無しの冒険者

開戦だと?

 

 

3:名無しの冒険者

ま、さか……

 

 

4:名無しの冒険者

俺はこの日を三千年待った

 

 

5:名無しの冒険者

いや老衰してるやないかい

 

 

6:名無しの冒険者

という事はイッチ、遂に……!

 

 

7:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

今日、海の王獣を屠る。

 

 

8:名無しの冒険者

キター!!

 

 

9:名無しの冒険者

FOOOOOOOOOOーーー!!!

 

 

10:名無しの冒険者

ずっとスタンばってました!!

 

 

11:名無しの冒険者

カッケェェェ!!イッチ、輝いてるぞおおぉぉぉ!!!

 

 

12:名無しの冒険者

はい!はい!その前にイッチのスペック!!

 

 

13:名無しの冒険者

いやもう前回から目も当てられなかったんやけど、第一級になったんやろ?今回は発展アビリティの安価無かったけど

 

 

14:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

今回はヘラに念押しされたから安価却下。

【精癒】【剣士】【連攻】があったが、それは選ばなかった。ステイタスの上がりもまあ、ランクアップしてから一ヶ月やったし、こんなもんやろ。

 

ノーグ Lv.5

 力  I70

 耐久 H141

 器用 I99

 敏捷 H160

 魔力 H171

【天眼E】

【耐異常F】

【耐冷D】

【魔導G】

【並列思考I】

『魔法』

【アプソール・コフィン】

・二段階階位付与魔法

・一段階『凍てつく残響よ渦を巻け』

・二段階『燻りし焔をその手に慄け、氷界の果てに疾く失せよ』

【リア・スノーライズ】

・領域魔法

・指定した存在に氷付与魔法を付与

・極寒、氷結範囲に幻像使用権限獲得

・極寒、氷結範囲から魔素の回収、精神力還元

『それは尊き冬の幻想、今は閉ざされし幻雪の箱庭、流れて駆けゆく数多の精、黄昏に吹雪く厳冬の風、打ち震えよ、我が声に耳を傾け力を貸せ、黄昏の空を飛翔し渡り、白銀の大地を踏み締め走れ、悠久の時を経て、懐かしき冬が目を醒ます、届かぬ天を地に落とし、今こそ我等に栄光を、箱庭は開かれた、偉大なる冬の世界へようこそ』

『スキル』

天啓質疑(スレッド・アンサーズ)

・■■■■■■■■■

・神威に対する拒絶権

追走駆動(ウェルザー・ハイウェイ)

任意発動(アクティブ・トリガー)

・疾走時、精神力を消費し『敏捷』の上昇

・発動時、加速限界の制限無視

冷鬼覇豪(ヘル・フレーザー)

・発展アビリティ【耐冷】の獲得

・環境極寒時、ステイタスの高補正 

憤怒臨界(アベレンジ・ラース)

・一定以上の憤怒時発動可能

・精神力二倍消費による魔法の詠唱破棄

・怒りの丈より出力上昇

天冽氷魔(ノーザン・メビウス)

・魔法発動中、精神力超消費にて冷気隷属

・隷属範囲及び練度はLv.に依存

 

 

15:名無しの冒険者

うん、まあ……

 

 

16:名無しの冒険者

そこに関してはもう何も言わないぜイッチ

 

 

17:名無しの冒険者

改めてドン引きする数値やけどな

 

 

18:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

女帝に死ぬほど扱かれたからこんなもんやろ。あとはレイド戦が初めてだし、中衛で前後衛に魔素回収を割り振るからめっちゃ頭使うって事で【並列思考】が選ばれた。まあ指揮官が手に出来るようなスキルやけど、魔法同時使用でスキルまで使うとヤバいからとりまこうなった。

 

 

19:名無しの冒険者

でも、フィンはそんなアビリティ持ってないで

 

 

20:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

アレは別。

あらゆる局面を記憶し、最適解を導いては最適化する。スキル有無の話じゃなく、単純な経験(キャリア)と知識量から出来とる。つか発現した所で要らんと思うで?

 

 

21:名無しの冒険者

そう考えるとフィンって化け物やなぁ

 

 

22:名無しの冒険者

まあ、小人族やし小賢しいのは当然と言えるやろうけど

 

 

23:名無しの冒険者

で?リヴァイアサン討伐の作戦は?

 

 

24:名無しの冒険者

少なからず蛇のようなモンスターとしか知らん。

 

 

25:名無しの冒険者

骨から察するに相当でかいんやろ?

 

 

26:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

分かっている情報やと全長五十メートル。

魔法減衰の装甲、超広域範囲の探知音(ソナー)、今まで喰らった水中系統のモンスターの特性を扱える最強の強化種モンスターって事くらいやな

 

 

27:名無しの冒険者

なんやそのチート生物

 

 

28:名無しの冒険者

ぼくのかんがえたさいきょうのラスボスに出てくるような奴やん

 

 

29:名無しの冒険者

てことは、注意すべきは外殻か?

 

 

30:名無しの冒険者

甲殻系のモンスターの特性もあれば耐久戦になりそうやな。

 

 

31:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

千年の歴史の中で【ヘラ・ファミリア】は二回討伐を逃してる。

原因はまさにそれや。耐久戦になったらリヴァイアサンは海に逃げる。逃げ道を封鎖しなきゃアカン。前は網にかける事をして陸に引き上げたんやけど、網の耐久性が足りんくて逃げたらしい。

 

 

32:名無しの冒険者

そらそうやろ

 

 

33:名無しの冒険者

いや、むしろそれ以外に方法が無いのか

 

 

34:名無しの冒険者

今回はイッチがいるって事は

 

 

35:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

そう、ある場所まで誘導したら海を凍らせて()()()()()。つーわけで、今回ばかりは力を貸せ。

 

 

36:名無しの冒険者

超絶脳筋

 

 

37:名無しの冒険者

馬鹿かよ

 

 

38:名無しの冒険者  

魔法に物言わせた作戦、脳筋や

 

 

39:名無しの冒険者

イッチ、お前偏差値低いやろ

 

 

40:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

これ考えたの女帝ですが?

 

 

41:名無しの冒険者

アッ

 

 

42:名無しの冒険者

オワタ

 

 

43:名無しの冒険者

【悲報】スレ民終了のお知らせ

 

 

44:名無しの冒険者

さ、さぁイッチ!頑張るんやで(震え声)

 

 

 

 ★★★★★

 

 

「こ、これで本当に大丈夫なんですか?」

「仕方ねぇだろ、人数は最小限。大部隊は海の王獣に対して号砲待機中だ」

 

 

 決戦場所はメレン。

 現在は【ポセイドン・ファミリア】が本拠地としている場所であり、海辺には誰も寄り付かない事で有名だ。ダンジョンの穴からモンスターが出る事で、海は地獄と化し、並大抵の人間は海の中では餌と同義。飛び込めば最後血肉は残らない。

 

 そんな中、リヴァイアサンが居ると思われる地点の遥か先までボートを漕いでいく二人の姿。ノーグと最近幹部に昇格したエルフの魔法剣士リリナ。

 

 

「だ、大丈夫なんでしょうか。私達二人で」

「問題ねえよ。ポセイドン達の()()()が終わってるし、ソナー持ちに大人数だとバレるしな」

 

 

 ポセイドンの眷属がリヴァイアサン討伐の為に危険を冒してまで仕込みをしてくれたのだ。使うのは最終手段になるが、損はないだろう。

 

 

「お前なら出来るよ。俺が保証する」

「!」

 

 

 Lv.5での昇格はアルフィア以来だ。

 例外であるノーグを除けば、実力で幹部入りを果たしたと言っても過言ではない。幹部は全員何処かしら尖っているスキルや魔法を兼ね備えている。リリナもその一人だ。

 

 

「私、頑張ります!」

「ちょっ、大声出すな!?」

 

 

 波が一瞬強く揺れた事に二人とも真顔になってゆっくりとボートを漕ぐ。何せリヴァイアサンは二人の下の海中に眠っているのだから。此処でバレたら即死である中で、二人ともため息を吐いて安堵する。リリナが小声で謝った。

 

 

「よし配置に付いた。リリナ、やってくれ」

「はい!」

 

 

 杖をノーグに向け、詠唱を開始する。

 

 

「【──起きろ憤怒の怪物共よ】」

 

 

 リリナ・ウィーシェルは【ヘラ・ファミリア】の中で珍しい魔法スロット三つを埋めたエルフ。エルフである魔法種族(マジック・ユーザー)にとって不思議ではないが、どの魔法も性能が尖っている。

 

 

「【燃ゆる故郷、鏖殺の宴、無力を呪え残灰の骸】」

 

 

 最初から一つの魔法と一つの呪詛を持つ復讐心を燃やすエルフ。絶望から発現したとされるその性能は破格と言える。

 

 

「【ああ憎い、人が憎い、空が憎い、運命が憎い、焦がす憎悪を糧に薪を焚べよ】」

 

 

 かつて、ラキアの侵攻に使われたクロッゾの魔剣。故郷が焼かれ、その憎しみから発現した呪詛魔法は今となっては殆ど使われなくなったが、今回は使用を命じられ、ノーグの手助けとして側に置いた。

 

 リリナは人間が嫌いだった。

 故郷を奪った人間が許せなかった。最初こそ、ノーグを見かけたらきっと嫌いになると思っていた。だが、纏う雰囲気から嫌悪感が湧かなかった。それが後に精霊から授かった力だと知り、精霊に認められた人間として興味を持った。

 

 

「【楔を解き放て、憤怒のままに吠え狂い、灰燼と帰せ】」

 

 

 今となっては、ノーグに想いを寄せ、復讐心は薄れているが、この魔法が起動されればその復讐心は目を覚ます。故郷を守れなかった後悔と無念、怒りのままに暴れて復讐したかった渇望を呪詛に詠唱は紡がれる。

 

 

「【私は私を許さない】」

 

 

 小さな魔法円(マジック・サークル)は黒く滲み、そこから発せられたドス黒い魔力が溢れ出す。だが、今回はリリナにではなく、ノーグに対してその呪詛は発動された。

 

 

「【グリヴェント・イラ】」

 

 

 紡がれた歌と共に出現した漆黒の魔力がノーグへと向かった。そしてノーグの身体に侵食すると、その魔力から身体が拒絶反応を起こし、身体が震え、発汗が止まらない。そして、それと同時にノーグの内側から溢れ出す激しい魔力。掻きむしりたくなる衝動をリリナが手を抑えて止める。

 

 

「グッ、ギィァ、これキツッ…!」

「抑えてください!まだ……!」

 

 

 リリナが発動した【グリヴェント・イラ】は『憤慨』の呪詛。ありとあらゆる存在に対しての殺戮衝動を剝き出しにする『狂猛の魔眼』とは違い、()()()()()()()()()()()()()()()()()。発動すれば最後、理性のタガが外れた狂戦士と化し、あらゆる敵を殲滅する衝動に殆どの人間が暴走する。怒りの増幅度は魔力に依存し、増幅すればするほどに耐久が落ちる代わりに対象の魔法効果の超増幅。

 

 クロッゾの魔剣で故郷を焼かれ、怒りと共に魔法を発動する森の狂戦士。対象は自分か他者の一人のみ、リリナが自分にかければ最後、魔法戦だけならリヴェリアの持つ広範囲殲滅魔法(レア・ラーヴァテイン)に匹敵する威力を引き出す。遠征を通してLv.5となり幹部入りを果たした彼女の呪詛をノーグは真っ向に食らった。

 

 

「女帝の…サインは!?」

「まだ……!」

 

 

 激昂を抑えるノーグに合図と呼べる鐘の音が鳴り響く。

 

 

「来た!ノーグさん!」

 

 

 普通の人間なら暴走し、精神力(マインド)を使い果たすまで暴れ続ける。怒りのタガが外れると自分を制御出来ない。全開で呪詛をかければ最後、本来なら会話すら出来ない。周囲の有無すら視界に留まらない破壊者となる。本来は魔法を持たない人間に対する異常精神(アンチマインド)か、自身に対しての諸刃の剣の秘策でしかない。

 

 だが……

 

 

「…【憤怒臨界(アベレンジ・ラース)】、【天冽氷魔(ノーザン・メビウス)】起動……!」

 

 

 ノーグにとってこれほどに相性のいい呪詛は存在しない。一定以上の憤怒を強制的に抱かせる事で魔法の詠唱破棄と効果の増幅。そして魔法発動による冷気の隷属により、黒い焔は掲げた右手へと収束していく。

 

 熱の燃焼。マイナスの世界は際限なく上げられる温度とは違い限度が存在する。絶対零度である−273.15度より下には下げられない。

 

 だが、新しいスキル【天冽氷魔(ノーザン・メビウス)】の効果は冷気の隷属。冷気とは熱だけではなく、()()()()()()()()()()()()。つまりノーグはスキル発動に伴い、風すらも掌握する。そして何よりいつもなら撒き散らす焔を制御し、リリナを巻き込まないように調整が可能となった。

 

 今は真冬、海の上では気温は−3度。

 既に冷たい極寒の空間である以上、領域魔法の恩恵を最大限に賜わる事が出来る。理論上無限に回復する精神力に馬鹿みたいに消費してまで増幅した魔法の効果をたった一点に圧縮する。

 

 絶対零度にまで下げられた冷気と焔が圧縮され、それは海に放り投げられた。

 

 

 

「──『黒星』」

 

 

 

 瞬間、海一面が一瞬にして白銀の世界と化した。

 圧縮した黒い焔の爆破に海の熱は一瞬にして奪われ、凍結する。あらゆるモンスターは凍結し、身動きも取れずに死に至る。

 

 そして、眠っていたリヴァイアサンごと海が凍結。時間が経てば凍ったまま死に至る事も考えたが、楽観視した期待は当然の如く裏切られた。

 

 

「……っ、やっぱ、無理か…!」

 

 

 氷海が揺れた。

 あれだけの出力の魔法でさえリヴァイアサンを殺すに至らない。凍り付いて動きを止める所か、氷の中で暴れて氷海が割れ始める。リヴァイアサンが海へと戻ろうと踠いている中で、ノーグは視線をリヴァイアサンから沿岸にいる四人に向ける。

 

 此処までは想定範囲内。この程度で殺せるとは思っていない。

 

 

「女帝、副団長、紅さん、レシア!!」

 

 

 第二段階に移行する。

 予め四人にかけておいた領域魔法の付与。それもスキルによって出力が上がり、付与された焔の色は()()()()()()()()。リヴァイアサンの動きを止めている間に四人は海辺から此方まで海に足を踏み入れると同時に、海水が凍り付き、海の上へと出来る氷の橋。そして沿岸までの道が完成する。

 

 

『リヴァイアサンの誘導?』

『ええ、リヴァイアサンと戦うなら沿岸で戦う事は必須』

 

 

 リヴァイアサンと海辺で戦うのは自殺行為だ。

 故に沖までリヴァイアサンを引き摺り出さなければならない。

 

 第一段階はリヴァイアサンの一時的な足止め。

 第二段階はリヴァイアサンを閉じ込める『生け簀』作り。

 

 

『リヴァイアサンは脅威に敏感、不意打ち後は逃げられる。だから敢えて()()()()()()()()()()()

『という事は、沿岸まで誘導する死路を作らなきゃいけないのか』

『ええ、貴方がリヴァイアサンを一時的に動きを止めて、破られた時の抜け道にリヴァイアサンを誘導、道を作ったらすかさず凍らせて沿()()()()()()()()()()()()()()()()

『俺めっちゃ大変じゃん……』

 

 

 ゲンナリするほどの大仕事に顔を引き攣らせながらも、ステイタスが軒並み高い四人が藍色の焔を纏って走り、海を凍らせる事で、リヴァイアサンを閉じ込める為の『生け簀』が完成する。

 

 だが……

 

 

「っっ!?退避!!」

 

 

 予定調和を砕くかのように、『黒星』の凍結範囲からリヴァイアサンの顎が開かれた。それを見た六人は即座に射線から離脱する。そして次の瞬間、

 

 

「うおおおおおっ!?」

「熱っ!?」

 

 

 氷が崩壊する。

 深層の竜の巣を連想するような火力、階層主を思い出すような咆哮と共に、あり得ない密度の魔力が込められた熱線に目を見開いた。

 

 ベヒーモスがどんな者でも殺す猛毒のモンスターであるならば、リヴァイアサンはどんな者すら消滅させる矛とあらゆる者を嘲笑うような強靭な盾を兼ね備えている古のモンスター。

 

 それがこの一つ。

 圧倒的な熱量を収束させた矛。

 

 

「リヴァイアサンの破壊光線……!」

 

 

 圧倒的な魔力が収束した万物を破壊するリヴァイアサンの光線。その射程は驚異の約400メトラ。海から破壊光線をメレンに向けて放つ厄災の矛。海から顔を出す事もなく、地上に影響を与えられるそれはハッキリ言って規格外。まともに戦おうと思えば、リヴァイアサンにとっては海から一方的な蹂躙(ワンサイドゲーム)に変わる。

 

 何より光線の熱波に氷が溶け始める。

 バキバキバキッ!!と割れる氷海、誘導する為に生み出した『生け簀』の一部が崩れ始める。これが崩れたら前提が崩れる。逃げ場を無くす為の作戦が瓦解する。

 

 

「こ、の……大人しくしやがれええぇぇぇ!!!!」

 

 

 ノーグは両手に収束した『黒星』二発を再び海へとぶち込んだ。崩れた『生け簀』をカバーするように凍結範囲が更に広まり、再びリヴァイアサンの動きを封じる。だが、リヴァイアサンはそれを避けるように砕いた氷から海へと這い擦り出た。凍結する焔から逃げるようにリヴァイアサンは沿岸まで逃げるように泳いでいく。

 

 

「でかしたノーグ!リヴァイアサンを誘導出来てる!!」

「追いかけるっすよ!!」

「無茶言うな……!?俺めっちゃキツイんだけど……!」

「の、ノーグさん!その、ファイトです!」

「もっと気の利いた言葉を言え…!!雑か!?」

 

 

 消費精神力が倍となり、『黒星』を二発。

 精神疲弊(マインドダウン)から回復しては女帝達の付与の維持、燃費が悪過ぎて眩暈がする程の虚脱感に動きが鈍い。呪詛を維持したままのせいか精神的にもキツい。自身の付与魔法を解除し、発動を領域魔法のみに絞る。

 

 

「全く」

「うおっ…!」

「拙が中衛まで運ぶ。その後は自分でどうにかしてくれ」

「ありがと…紅さん……!」

「それとよくやった。値千金の判断だ」

 

 

 米俵のように抱えられながらも魔素を回収し、自身の回復から四人の付与までを続けるのは流石に疲弊する。呪詛も完全に解いている訳ではない。今は前衛に必要な火力を送るために呪詛は継続だ。

 

 寧ろ、結構な精神力を呪詛に注ぎ込んでまだ辛うじてとはいえ理性があるノーグにリリナは驚愕している。

 

 

「魔導師部隊、構えなさい!」

 

 

 第二段階は成功、第三段階は魔法を待機させた魔導師達の一斉掃射。リヴァイアサンが沿岸へと顔を出した瞬間、魔導師達の魔法を一斉に炸裂させる。

 

 だが、リヴァイアサンもわざわざ攻撃を食らうために突っ込みはしない。海中で顎を開き、魔力を収束させる。

 

 

「二発目の破壊光線が来る!!」

「メナ!!」

 

 

 女帝の叫びと共に魔導師の前に立ち、メナは杖を構えて詠唱を始める。

 

 

「【才知の祝福、天理の杖、我が手の上に魔は統べる】」

 

 

 メナはこの世界最高位の治癒士であると共に、治癒士でありながら魔法剣士としての実力を持つ。彼女が後衛にいる限り、冥府へと誘う死神は消え、前衛である場合は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「【コーネリアス・ロア】」

 

 

 リヴァイアサンから放たれた破壊光線に対し、メナが広げた魔法円(マジック・サークル)から出現した黒い球体が六つ並び、破壊光線に直撃した。

 

 

「すっげ……」

 

 

 破壊光線が一つの球体に衝突すると、光線が()()()()()()()()

 

 メナが持つ第二魔法【コーネリアス・ロア】の効果は()()()()()()()()()()()()()。黒い球体は魔法や魔力に由来した攻撃に衝突すると制御が奪われ、メナに掌握される。人間に当たれば意図的に魔力暴発(イグニスファトゥス)を起こしたり、魔法の制御の手助けを行ったりする事が可能。

 

 実際に彼女は49階層の階層主である()()()()()()()()()()()()()。二つ名は【枢機魔女】。オラリオ最高位の治癒と最高位の魔力制御を誇る魔女である。

 

 

「っ……ヤバッ、保たない!」

 

 

 だが、リヴァイアサンの破壊光線に込められた魔力は並みではない。放たれ続ける光線に一つずつ球体が消失していく。三、四、五と最後の球体に差し掛かるその時、

 

 

「【福音(ゴスペル)───サタナス・ヴェーリオン】」

 

 

 音という防御無視の鐘楼の鐘がリヴァイアサンに直撃した。リヴァイアサンの外殻の魔法耐性は属性に対しては相性がいいが、『音』だけは相性が最悪だ。何せリヴァイアサンの探知は音で判断する為、その器官を閉じる事が出来ない。破壊光線が途切れ、嫌がるように咆哮する。

 

 

「五月蝿い断末魔だ。【福音(ゴスペル)】」

 

 

 アルフィアの魔法が海中のリヴァイアサンに直撃。

 そして遂に痺れを切らしたかのように海の王獣は海から地上へと顔を出した。

 

 それは蛇と呼ぶには余りにも異質。青と黒の二色が混合した外殻、それを支える密度の高い筋力を兼ね備えた肢体、双眼から放たれる殺気とビシビシと伝わる魔力の塊。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 海の王獣、リヴァイアサン。

 天に向かい咆哮する。今日此処で、此処にいる全てを殲滅する雄叫びを上げる。リヴァイアサンは此処にいる全ての存在を敵と見做し、殲滅する対象として認識した。それに対して【ヘラ・ファミリア】の開戦の挨拶はただ一つ。

 

 

「放てっ!!!」

 

 

 全ては思い描いていた構図の中、リヴァイアサン討伐の開戦の号砲は、魔導師達の一斉掃射によって鳴らされた。

 

 

 





リリナ・ウィーシェル Lv.5
 力  I70
 耐久 i59
 器用 I99
 敏捷 I53
 魔力 G235
【魔導E】
【耐異常F】
【精癒H】
【鉄心I】
『魔法』
【ウォーパル・スレイズ】
・炎属性
・広範囲殲滅魔法
【フィアレンズ・クロア】 
・付与魔法
・炎属性
・魔力追加消費にで不滅効果付与
【グリヴェント・イラ】
・憤慨呪詛
・耐久値減少と引き換えに魔法効果超増幅
『スキル』
妖精憎魔(フェアリー・アグリクス)
・魔法効果増幅
・憎しみを抱く対象に魔力の超高補正
護天氷魔(ディア・カランコエ)
・特定の存在との共闘時、魔力の超高補正


メナ・アルテイン Lv.6
 力  B777
 耐久 C681
 器用 S999
 敏捷 B742
 魔力 S999
【魔導D】
【耐異常F】
【精癒G】
【聖光G】
【魔防H】
『魔法』
【リザ・アルフィエル】
・広範囲回復魔法
・回復力は魔力値に依存
・魔力追加消費にて状態異常回復
【コーネリアス・ロア】
・制御奪取魔法
・魔力制御の奪取
・制御効果は器用値に依存
『スキル』
天癒包円(リザレクトエリーゼ)
魔法円(マジックサークル)内の回復魔法効果の増幅
・魔力効率の最適化
破天魔女(ロストフルーレ)
・戦闘時、魔力の超高補正
・魔法発動時、魔力制御の高補正


 ★★★★★
 18巻見たら筆が乗ってしまったリヴァイアサン戦。
 リヴァイアサン戦多分三話くらい引き摺りそうです。小説読んだら小説風に書けた気がする。

 良かったら感想・評価お願いします。モチベが上がります。


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二十三スレ目


 バレンタインに何も書かなかったのか貴様? 
 と、言われたのでめっちゃ遅いバレンタインの贈り物です。
 甘い話書き続けると胃もたれするので、苦みアリで話を進めます。甘い話が見たかった?ソーリー、長めに作ったから許して

 ※ 一部訂正致しました。


 

 

 魔導師の一斉掃射から始まったリヴァイアサン戦。

 Lv.5以上の魔導士から放たれた魔法はリヴァイアサンの頭に集中して放たれ、大爆発を引き起こした。 

 

 階層主を一撃で消し飛ばす【ヘラ・ファミリア】の魔導士の集中砲火にリヴァイアサンは絶叫を上げる。

 

 

「マジか……」

 

 

 効いている。

 だが、リヴァイアサンの外殻が損傷している程度、魔法が外殻に衝突すると同時に散らされている。リヴァイアサンの外殻は魔法減衰装甲(マジックダウンアーマー)。魔法が衝突すれば魔力が弾かれるように分散し、威力を減衰させる。コレは過去の情報通りだが、明らかに外殻の強度と効果が報告されていた時より強くなっている。

 

 

「硬いわね。リヴァイアサンの()()()

 

 

 海を総べる覇王は千年以上の時を経て更に強化されている。海のモンスターを喰らい、生態系の頂点に君臨する怪物。魔法はダメージこそ与えてもリヴァイアサンを殺す程の火力には達する事が出来ない。

 

 

「先ずは外殻を剥がすわよ」

「了解。此処で降ろす。援護を頼む」

「ありがとう紅さん…」

 

 

 リヴァイアサンの外殻を剥がすのは前衛の役割だ。

 ノーグは今回前衛ではなく中衛、魔導師達に対して魔素の回収、前衛に氷炎の付与、その二つの仕事を同時に進行しなければならない。特に外殻は硬過ぎる為、氷結した後の砲撃で外殻を脆くする。

 

 

「あー、クソッ……!」

 

 

 問題なのは魔素の回収と同時に前衛に掛けた氷炎の付与。ノーグは前衛全てに付与する事は出来ない。単純な話、自分の容量限界(キャパオーバー)だ。無限に精神力を回復出来るとはいえ全ての前衛に同じ事をすれば回復よりも消費の方が早い。その為、最もステイタスが高い四人に対象を絞る必要があった。特に【憤怒臨界(アベレンジ・ラース)】は精神力消費が二倍。威力の底上げとは引き換えのデメリットがあり過ぎた。

 

 その上、雪化粧による後衛達の不可視化。

 遠距離殲滅砲を持つリヴァイアサンに距離など関係がない。故に後衛は一度撃てば所定の位置から移動し、それを隠す為に思考を割くのは無理がある。

 

 その為、ノーグは中衛で最前線に出ない。

 指揮官でもなければ、後衛職でもない。中衛を支える助力者(バランサー)として前衛に攻撃を、後衛に雪化粧の隠れ蓑を生み出す事に専念している。

 

 

「っ、キッツ……マジで」

 

 

 当然、死ぬ程キツい。

 外殻さえ崩せれば外殻を脆くする理由も無くなり、後衛のみに仕事を傾けられるのだが、アマゾネスのレシアの湾曲刀(タルワール)が外殻に当たると、ガキィン!!と鋼鉄がぶつかり合うような音が聞こえた。

 

 その硬さはLv.6最上位の力を持つレシアでさえ外殻を砕けない。傷は付いているが、砕くに至れていない。

 

 

「ノーグ!」

「ッ……!」

 

 

 レシアの湾曲刀(タルワール)に氷炎の圧縮。 

 ステイタス全てを一撃に込めて振り下ろす。魔法を散らし、減衰させようが至近距離で思いっきり振り下ろせば減衰し切る前に外殻にダメージを与えられる。

 

 先程よりも激しい音と共に、レシアが一度後退する。余りの衝撃に腕が痺れ、最硬金属(オリハルコン)で出来た湾曲刀(タルワール)が刃こぼれしている。

 

 

「ぐっ……アタシと付与ありで外殻に罅一つか」

「硬さだけ言えば最硬金属(オリハルコン)に匹敵する。関節を狙えレシア」

「はいはい分かってるっつーのクソ侍!」

 

 

 レシアの横を並走し、納刀したままリヴァイアサンの肢体を走り、外殻を繋ぐ関節部分に視線を向ける。

 

 

「【禍つ彼岸の華】」

 

 

 超短文詠唱。

 込められた魔力と共に外殻の隙間を定め、紅は駆ける。殺意を感じたのかリヴァイアサンは吸い込んだ息に魔力を乗せて吐き出した。

 

 豪砲、そう思えるほどの突風に目を剥く。

 乗せられた黒い魔力と共に放たれた咆哮という名の大砲が三発放たれた。一つが氷結した海に着弾すると、氷海に()()()()()()

 

 まともに喰らえば叩きつけられて圧殺される咆哮が紅に放たれる。迫り来る二発に紅は駆ける脚を更に稼働させ射程から離れる。

 

 

「(想定より反応が速い!)」

「紅!!」

 

 

 巨大な尾が紅の頭上に迫る。

 射程から外れるのを読まれたと思えるほどの反射行動、範囲も速さも深層にいたモンスターよりも格が違う。振り下ろされた尾に紅は反応出来ない。

 

 尾が振り下ろされた。

 氷海が割れ砕け、それを見た一同は動揺を隠せない。紅が押し潰された光景に絶句し、僅かに脚が止まる。

 

 ただ一人を除いて、

 

 

(かたじけな)い、ノーグ」

 

 

 ()()()()()()

 ノーグの幻像による位置の認識の誤認。尾を振り下ろした先には紅の姿は無く、必殺とも呼べる抜刀の剣閃領域は外殻の隙間を捉えていた。

 

 

「【五光・雲耀】」

 

 

 都度に五条。

 抜刀から繰り出される神速の斬撃が、外殻の隙間を抜けリヴァイアサンの身体を斬り付けた。外殻の隙間から血が溢れ出す。攻撃が通った瞬間、リヴァイアサンは絶叫を上げ肢体を揺らし、紅を振り落とす。

 

 紅の抜刀は間違いなくダメージを与えているが、外殻の隙間への攻撃でさえそこまで通らない。外殻は最硬金属レベルの硬度、外殻の隙間には狙われる対策をしていたかのような硬い鱗。外殻程ではないが、深く斬撃が通らない。

 

 

「関節だけを狙うのは正直厳しいな。攻撃があまり通らない」

「やっぱ外殻を剥がすしかないって事かい? 手間が掛かりすぎる」

「いや、狙う場所に関しては副団長がいる」

 

 

 狙うは魔石、その一つに限る。

 このまま外殻全てを剥がし、失血死させるのは事実上不可能に近い。外殻の強度、鱗の鎧、耐久性という一点に於いて、リヴァイアサンは世界最強と言える。そんな存在に耐久戦など明らかに物資も武器も体力も足りない。

 

 だが、魔石が何処かは分からない。コレほど長い肢体の何処に隠されているのか。それを見切る事が出来ない。

 

 ただ一人を除いて……

 

 

「【逢魔の一、天魔の全、凡ゆる世界を見据え止まるな今を定めよ】」

 

 

 並行詠唱しながらリヴァイアサンの周りを駆ける副団長。口調的に下っ端のような彼女だが、副団長である理由はその眼にある。

 

 

「【アキュレイス・マルズ】」

 

 

 紫紺の瞳が金色に染まる。

 見定めた場所に外殻の部分に斧槍(ハルバート)を叩き込み、傷を付ける。瞬間、リヴァイアサンが極端に反応した。

 

 透視魔法【アキュレイス・マルズ】

 効果は単純、あらゆる物を透視する。副団長はモンスターを殺せる魔法も回復もなく、戦力で言うならばレシアや紅の方が上だ。

 

 だが、対怪物(モンスター)戦に於いて、魔石の位置を正確に割り出す高い視野と判断力、そこから逆算し、行動する勇気。自身が非才の身であると自覚している中、それでもLv.7という境地に辿り着いた女帝の右腕。

 

 指揮官としてはフィンと互角とも言っていい知略。【ヘラ・ファミリア】の頭脳(ブレイン)は女帝ではなく、彼女である。

 

 

「この位置!団長!!」

 

 

 そして、副団長が居るからこそこのファミリア最強の女は、最も強い力を引き出せる状況に飛び込める。

 

 

「──沈め」

 

 

 一撃で外殻に亀裂を生んだ女帝の剣閃。

 リヴァイアサンの最も嫌がる位置に最高位の剣を叩き込む。だが、亀裂が生まれた外殻は新たに再生した外殻に押し出され、地面へと落ちていく。脱皮のように傷付いた外殻を捨て、新しく強靭な外殻に作り変わっていた。

 

 

「ダメね。再生してる」

「やっぱり?」

「ノーグの付与で凍らせて再生阻害は出来るけど」

 

 

 女帝は視線を中衛のノーグに向ける。

 特注品(オーダーメイド)の『魔雹の杖』を握りながら戦局を見極める為に並列思考を全開にしながら雪化粧と付与を同時進行で行っている。その為、膝をついてその場から動けず、高等精神回復薬(ハイマジックポーション)を飲んでは出力を上げている。

 

 

「ノーグの方が先に倒れるわね」

「外殻の一部を剥がしたら、例の奴を使うっすか?」

「そうしたいけど、その為には多少弱らせて動きを止めないと無理ね」

 

 

 外殻の再生には魔力を消費する。

 深層の中でも自身の魔石から特性を用いた攻撃はあるが、それには限度があった。リヴァイアサンの貯蔵魔力にもよるが、再生にはいずれ限度が来る。

 

 

「外殻を剥がして凍結か燃焼、それを継続ね」

「それしかないってのが厄介っすね」

「三大クエストというくらいだし妥当よ」

「納得っす」

 

 

 二人の指示の下、前線は攻撃を繰り返しリヴァイアサンの魔力を削っていた。

 

 

 ★★★★★★

 

 

 

「大丈夫か?」

「お前、前線行けよ」

「中衛の護りが無ければ後衛に支障を来たす。今は待機だ」

「つっても…音に関してはアッチの弱点…だろ?」

「精々嫌がる程度では大した役に立たん。混戦になれば巻き込みかねないしな」

 

 

 アルフィアの音魔法は指向性の限定は出来るが、それでも範囲が広い。音の塊を飛ばすという魔法は厳密に言えば衝撃波のようなものだ。音は振動、意図せずとも広がるのが音であり、前衛の人数を考えれば集団戦には不向きだ。寧ろ少数精鋭である時こそアルフィアはめっちゃ強い。完全に魔法剣士という形ではなく『個』として自己完結している。そういう意味では俺と似たタイプだ。

 

 前衛は女帝達、そしてLv.5の魔法剣士で構成され、サポーターとしてLv.4の二軍メンバーが支えている。

 

 後衛に関しては魔導師達が詠唱、女帝の合図と共に魔法を掃射する。

 

 中衛は俺、アルフィア、メナ、リリナと他数人。

 俺に至っては高等精神回復薬(ハイマジックポーション)がぶ飲みである。もう口の中が甘くて気持ち悪い。

 

 

「会話が出来てるのは凄いね。リリナの魔法、マジの狂戦士になるのに」

「い、一応コレでも最大なんですけど」

「煩え…俺はすこぶる冷静だボケ……」

「死にかけてるけどな」

 

 

 俺の場合、ラースの記憶の時から怒りが突き抜けた場合殺意と共に冷静になって恩恵持ちの冒険者を殺していた。あとは日常的に一線を越えないように感情を抑えているおかげか、怒りの感情はリヴァイアサンに対する殺意となって冷静になれている。

 

 つっても気を抜けば叫んでリヴァイアサンに突撃していると思う。確かに呪詛によってスキルは発動出来ているが、正直やり場のない怒りをリヴァイアサンに向けてる気しかしないから出力がめちゃくちゃ高いとは言えない。怒りの感情の増幅と言っても怒りの感情そのものが薄ければスキルの効果は低い。意味のある怒りと比べるまでもないって事か。

 

 

「咆哮による魔力砲を撃ち続けているが、焦っている様には見えんな」

「硬いね」

 

 

 前衛がほぼLv.7級の奴らでコレか。

 外殻の再生が厄介過ぎる。アッチの魔力が尽きるまでループ作業はこちらが持たない。外殻を再生する前に凍らせるのは悪くはないのだが、凍ってしまうと出血させられないのが難点だ。

 

 

「……っ、プハッ……切り札…は?」

「まだ無理だな。少なからず弱らせなければ動きを止める事も出来ん」

「アレの動きを止めるって無理でしょ」

「レシアさん達でも出来る気しないんですけど……」

 

 

 既に七本の高等精神回復薬(ハイ・マジックポーション)を飲んでるが、外殻に対して再生を封じられる程の出力は無く、せいぜい阻害。このままだと俺の腹が限界になる。外殻が再生し切る前に凍結する作戦は効いてはいるが、魔石部分に近い所に対しては余り意味はねえ。リヴァイアサンはその部分に関しては重点的に護ってる。

 

 

「っっ!?」

 

 

 リヴァイアサンの顎に魔力が収束していく。

 顎の中で燻っているそれを見て四人とも絶句した。

 

 

「おい、何の冗談だ……?」

「アレって、階層主の」

 

 

 海の覇王の顎から吐き出されたのは()()

 それを使えるモンスターはダンジョンの中で一体しかいない。双頭の竜の攻撃を海の覇王が使っている光景に目を疑いたくなった。

 

 だが、その熱量は間違いなかった。熱量さえ段違いの高火力の蒼炎が戦場に撒き散らされる。

 

 

「アンフィスバエナの…火炎放射」

「まっず……!?」

 

 

 氷のフィールドから足場を奪われる。

 前衛の一部が解けた海へと落ちてくのを見て、冷気の収束を一度止めた。落ちている人がいる以上フィールドを修復出来ない。俺が『黒星』を海にぶち込んで修復するには海にいる人間を救出しなければ無理だ。

 

 救出している間にリヴァイアサンが攻撃してきたら避けようがない。足場の回復は急務だ。

 

 

「私が行く。付与任せた」

 

 

 前線が崩壊する前にアルフィアが前線に向かう。

 この状況を打破するには救出の手が足りない。誰かがリヴァイアサンを抑えなければならない。後衛職でありながら前衛もこなせるアイツがわざわざ前に出たって事は策があるはずだ。

 

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

 

 音の塊が海中で弾ける。

 海水が飛沫を上げてリヴァイアサンを呑み込むと同時に付与をかけた。【憤怒臨界(アベレンジラース)】の強みは詠唱の省略、発動後の後付けの付与は出来ないが、このスキルがあればそれが可能だ。アルフィアの付与から冷気を収束させ、立ち昇る水柱のみ狙って氷結させる。

 

 

「距離、ギリ……!」

 

 

 美味しい所持ってかれた、憎たらしいと思いながらも今の状況の最適解を導き出していた。リヴァイアサンを封じる事が出来た以上、ポセイドン達が用意した切り札が使える。

 

 

「頼むぜポセイドン……!」

 

 

 視線をリヴァイアサンから外し、俺は雪化粧に隠した切り札に向けた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「照準良し、計算完了、魔石の位置コンプリート」

 

 

 海の神ポセイドンは静かに目測をしていた。

 魔法を吸収するフロスヴェルト、魔力伝達率の良いミスリル、それをありったけ注ぎ込んで鍛治神達に鍛えられた三叉槍(トライデント)。そしてそれを射出する為に必要な大型弩砲(バリスタ)は魔力に比例して射出速度を上げる魔法大国(アルテナ)の最高傑作。

 

 ──名を【海神の三叉槍(ポセイドン・トライデント)

 

 製造に100億ヴァリス、注ぎ込まれた額は深層最前線に向かえる二大派閥でなければかき集める事が出来ないほどの巨額を注ぎ込んで作られた『対海の覇王(リヴァイアサン)』用の切り札。速度は雷の如く、威力は山を打ち砕き、貫通力はオラリオを築き上げる為の道を生み出した勇者の槍を遥かに凌駕する。眷属達が込めた魔法と共に超加速で射出されるそれは神造武具の一撃と同義、外殻の硬いリヴァイアサンを貫く為に用意した、ポセイドンの槍。

 

 

「まだっすかポセイドン様ぁ!?」

「俺、もう限界……吐く」

「すっげー精神力持ってかれるー!?何だよ弩引くだけで精神疲弊(マインドダウン)するって!?」

 

 

 だが、装填する魔力は尋常ではない。

 その槍を装填し、全力でリヴァイアサンを狙う為に【ヘラ・ファミリア】の魔導師達の力を『フロスヴェルト』で吸収し、構えている際に魔力が四散しない為に弩はそれを封じ込める為の鞘のような機構をしている。だが、その機構にも魔力を必要とし、弩を引くポセイドンの眷属から精神力が奪われ、その顔はやや青い。

 

 リヴァイアサンに決定的な隙が出来る前にこちらが枯れるのではないかと団員達が悲鳴を上げている中、海神たるポセイドンはただ一言、

 

 

「耐えろ」

「「「そんな無茶な!?」」」

 

 

 鬼と叫ぶ眷属達を横目にポセイドンは一瞬の隙すら見逃さずにリヴァイアサンに視線を向ける。アルフィアが動き、水柱が立つと同時にリヴァイアサンごと凍結し、動きが止まった。

 

 それと同時にノーグの幻影の指示で前線にいるヘラの眷属達がリヴァイアサンから離れていく。神がかったタイミングの指示、狙う位置は射程範囲内に収まっての絶好の好機。

 

 

「来た。眷属達よ!」

「イエッサー!!」

「魔力充填95%!!」

「照準、誤差修正完了!」

「【海神の三叉槍(ポセイドン・トライデント)】射出準備完了!!」

 

 

 千載一遇の好機を生み出したヘラの眷属達は射線から離れるようにリヴァイアサンから離れる。リヴァイアサンには知性がある以上、その危険性から遠距離攻撃をされる事を考慮し、ノーグの雪化粧で隠していた見えざる切り札。

 

 それが今、覇王殺しの一射となって解き放たれる。

 

 

「放てっ!!」

 

 

 海神の叫びに引かれた弩から槍は放たれた。

 魔力が充填された下界最高峰の威力を誇る海神の一撃がリヴァイアサンの魔石へと向かっていく。貫通力も破壊力も既存の魔法とは比べ物にならない。幾ら外殻があろうと貫く槍をリヴァイアサンは回避出来ない。

 

 誰もが討った、と。

 そう思っていた期待にリヴァイアサンは吼えた。

 

 

「!?」

 

 

 リヴァイアサンの尾が射線へと割り込んだ。

 だが関係がない、割り込んだ所で槍は尾すら貫通する。そう思った矢先、リヴァイアサンは尾に刺さると同時に尾を力強く地面に振り下ろした。

 

 槍はリヴァイアサンの外殻に突き刺さり、尾を貫き魔石へと飛んでいく。

 

 ズドンッ!!!という音と共にその槍はリヴァイアサンを貫いた。絶叫を上げ、血飛沫を撒き散らし、砕かれた氷と共に肢体が倒れて行く様子が目に映り、誰もが勝利を疑わなかった。女帝と副団長、ノーグの三人を除いて。

 

 

「はっ……?」

 

 

 魔力が消えない。

 魔石を砕かれたモンスターは灰のように塵となって消えていく中で、リヴァイアサンは()()()()()()()()()()()

 

 倒れていく肢体に目を凝らすと、槍は確かに貫き、肢体に突き刺さっていた。

 

 魔石の位置の()()()()()()()

 

 

「外、された……!?」

 

 

 千載一遇の好機に狙った最強の槍が怪物の執念によって()()()()。貫き飛ばされた尾の外殻に視線を向けると、外殻が今までより分厚い、貫通力を持った槍を僅かに逸らせる程度に。撃ち抜かれる一瞬でリヴァイアサンは躱せない一撃を逸らすためだけに全力を注いでいた事に、女帝達は絶句していた。

 

 まだ生きている。

 そう女帝が叫ぶ前にリヴァイアサンの眼光が大型弩砲(バリスタ)へと向けられた。

 

 リヴァイアサンの情報は知っていた。

 怪物最高峰の外殻、そして()()()()()()()()()()()()()()()海の覇王だと。だが、計算外だったのは、千年もの間生き続けた怪物の知性とその特性を使う『駆け引き』。

 

 ()()()()()()()()()()()。どの時機に使うかという知力と生き物の直感と言うべき生存本能に対する対応の速さ。それが僅かに画策していたヘラの眷属達の知恵を上回った。

 

 

「ブアアアアアアアァァァァァァァ!!!」

 

 

 リヴァイアサンが天に向けて咆哮する。

 耳を塞ぎ、眷属達の動きが止まる。今までの咆哮とは何かが違う。身体に纏わりつくような重圧に身体が動かせない。咆哮による強制停止ではなく、単純に身体が重くなるような現象にヘラの眷属達の動きが鈍る。

 

 

「逃げろ!!」

 

 

 主神ポセイドンが叫ぶと腰を掴んで大型弩砲(バリスタ)から離れる眷属達。リヴァイアサンの口に過剰とも呼べる魔力が装填されているのを見て全員が背筋を凍らせて一目散に逃げ出した。

 

 

「うおおおおおっ!?」

「退避ー!退避ー!!」

「やっべ全員逃げろおおおおっ!?」

 

 

 逃げるポセイドンの眷属達にリヴァイアサンの破壊光線は無慈悲にも放たれた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「っっ、マジか!アレで死なねえのかよ!?」

「よかった、退避してる……」

 

 

 ポセイドン達は何とか攻撃から逃げ切れたようだが、大型弩砲(バリスタ)は破壊光線により見るも無惨な姿に変わっていた。予備の槍はあったが、アレではもう撃ち込む事は不可能だ。

 

 

「っ……?あ、れ?」

 

 

 此処で漸く違和感に気付いた。

 

 

「身体の動きが……」

 

 

 鈍い。まるで誰かが乗っかっているような身体の重さを感じる異常に脚が止まる。敏捷が落ちている感覚……だけではない。力が入らない。まるで痺れて全力を引き出せないような身体の低下にメナは目を見開いて確信する。

 

 

「いや、気のせいじゃない、能力降下(ステイタスダウン)が起きてる」

「そんな…!?幾ら何でも出鱈目すぎます!?呪詛(カース)でもないのに能力降下(ステイタスダウン)なんて……!?」

 

 

 そもそも能力降下(ステイタスダウン)は魔法や呪詛(カース)と言った人が人に対して使われる事の多い効果だ。毒や麻痺などの間接的な影響ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であるからだ。モンスターが使う事は前例がない。ミノタウロスの『咆哮(ハウル)』やマーメイドの『魅了』と言った怪物の特性はあくまで精神面。間違ってもモンスターが使える筈がない。

 

 

「実際起きてる以上マーメイドやセイレーン辺りの魅了の歌を改悪してんだろ」

「そんな……!?アリなんですかそんなの!?」

「出来てる以上嘆いたって意味ねえだろメナ、これの解除は出来るか」

 

 

 嘆いても成立している以上、過程に意味はない。リヴァイアサンだから出来ると納得するしかない。だが所詮は呪詛と同じ、効果が永続する訳でもない上に回復魔法を使えるメナならこの効果を打ち消す事は出来る。

 

 

「問題ない。けど、能力降下(ステイタスダウン)で範囲が狭くなってる。前衛に行けば私が即座に狙われる」

「だったら俺とリリナの解除を先に頼む。終わり次第女帝と俺で前衛を一度入れ替える。雪化粧は継続するが、流石に付与は一度切る」

 

 

 現状、前衛も後衛も戦力低下が発生する中で前衛の崩壊は一番の危機だ。下がっても戦えているのは幹部クラスのみ、他のLv.5の前衛の女戦士達はリヴァイアサンを傷付ける事も困難となっている。前衛を回復させる為に先ずは一番の戦力である女帝を回復させ、その後、前衛を一気に退かせて回復へ移らせる。女帝なら少なからず三分程度なら一人でも前線の維持は可能な筈だ。

 

 

「そうだね。能力降下でみんな下手するとレベルが一段階くらいは降下してる。前衛がこのままだと崩壊す──」

 

 

258:名無しの冒険者

あっ、これタヒ

259:名無しの冒険者

破壊光線全方向ってマ?

260:名無しの冒険者

【悲報】イッチ終了のお知らせ

 

 

 頭の中を駆け巡る最悪の『天啓』に目を見開いて叫んだ。

 

 

「リヴァイアサンから離れろおおおおおっ!!!」

 

 

 過剰な程に込められた魔力がノーグには見えた。

 バキバキと音を立てて造り替えられた外殻の隙間から生まれた矍鑠色の水晶のような砲身へと集められていくその光景を。それを見た瞬間、『天啓』の意味を理解した時にはもう遅過ぎた。

 

 

「ッッ──!!!」

 

 

 氷海諸共、()()()()()()

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 紅く染まる光景、飛び交う阿鼻叫喚、回避も防御もままならない程の全方位に放たれた破壊光線。ある人は首が吹き飛び、ある人は心臓がくり抜かれ、氷海は血で染まり足の踏み場がないほどに解けて崩れていた。

 

 最悪の事態を想定はしていた。

 リヴァイアサンという存在の手数の多さから撤退の言葉が出るかもしれないと覚悟はしていた。

 

 射程距離は短い代わりに範囲が絶大の全方位破壊光線。中衛まで届かなかったのが幸いしたのかノーグ達は攻撃を喰らっていなかった。

 

 だが、前線が()()()()()()

 幹部全てが少なからず攻撃を喰らっていた。能力降下(ステイタスダウン)、全方位の壊滅の矛、回復が追いつかず、撤退に背を向ければ撃ち抜かれる。

 

 

「紅さん!レシア!」

「ぐっ……済まぬ」

「あん、なのありか……!」

 

 

 紅は脚と脇腹から少なくない出血、レシアに関しては太腿と肩を撃ち抜かれている。破壊光線が分散した分、範囲が広くなり躱し切れない物量の必殺が降り注いだ。重要な臓器部分を意図して躱したのは流石と言えるだろうが、幹部が三人動けないのは前線の機能が半分低下しているようなものだ。

 

 

「アルフィア、お前は?」

「肩が焼けたが、私は対魔力装甲(アタラクシア)があるから二人よりマシだ」

 

 

 右肩が焼かれているが貫通には至っていない。

 メナの回復なら治せるがこの範囲だ。最高位の治癒士の力を以てしても時間がかなりかかる上に、またあの全方位が来るかもしれない中でメナを前線に上げるのは危険過ぎる。前衛が下がって中衛で回復するしかない。

 

 

「いやあああああああああっ!?」

「っっ!!」

 

 

 一人、また一人とリヴァイアサンに喰い殺される。

 崩壊した前線から更に崩されていく。女帝達が撤退させようと奮起しているが、それすらも保たない。女帝も腰を貫通し、副団長は指が飛び、脚を撃ち抜かれていた。二人して動きが鈍い。

 

 

「がっ……!?」

 

 

 副団長がリヴァイアサンの咆哮を避け切れずに後方へと恐ろしい勢いで吹き飛ばされた。ステイタスが下がっている中、まるで弾丸のように飛ばされれば命を落とすまではいかないが副団長は頭から血を流しふらついていた。

 

 

「っっ、この……!」

 

 

 前衛が半壊した中で、止めを刺しに来た。

 再び、魔力が充填されていく光景に前線は恐怖した。後衛達の防御魔法で防ぎ切れる程、甘い力ではない。前衛は恐怖と共に絶望で剣を握るその手が震えていた。

 

 ただ一人、女帝がそれを止めようと前線で攻撃を繰り返しているが、止められない。充填した魔力は四散もしない、攻撃を潰せない。

 

 

「逃げろおおおおおおおッ!!」

 

 

 ノーグは女帝に最高出力の付与を掛け直した。

 止められない光線の緩和にしかならない氷焔のベールを前衛全てに。扱える魔力の容量値を超えて血を吐き出すが、それでも前衛が完全に崩壊するのを防ぐ為に振り絞る魔力。

 

 前衛を崩壊させた光線の雨が再び前線の戦場へと降り注いだ。

 

 

 ★★★★★

 

 

 怪物は吼えた。

 怪物は人間程の知略を持ち合わせていない。生きる為の知性が異常ではあるが故に最適解を導き出す。その結果がこれだ。前線にいた人間は死に絶え、生きている人間も虫の息、辛うじて攻撃範囲から外れて逃げている存在もいるが、その程度でこの絶対的優位は揺るがない。

 

 情けなど微塵もない。

 ただ死体を貪り尽くす人類の敵は勝利に吼えた。

 

 故に怪物、故に覇王。

 絶望は歓喜した、命の危機に晒させた脅威を殺し尽くせた事に歓喜し、生きて絶望を刻まれ震える人間を見下ろしている。

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

 生きている。

 あの弾幕で生きていることには驚いたが虫の息だ。血濡れていない場所がない程に集団の頭は瀕死だ。それでも剣を構え、生き残る者を逃がそうとしている。

 

 愚か、怪物が思ったのはそれだけだった。

 

 手心など一切も無く尾を振り下ろした。

 女は避けられずに砕けた氷海に沈む、何度も何度も尾を振り下ろした。肉片など残すつもりは毛頭ない。命を脅かす敵を殺す事、怪物が考えていたのはそれだけだった。

 

 何度叩き潰しても死んでいない。

 圧殺出来るはずだが、砕けた氷海のせいで圧殺し切れずにいた。

 

 怪物は魔力を顎に溜めた。

 数百年前に食らった双竜の竜肝が熱を帯び、死にかけている頭に放射した。最早生きている事すら絶望的な状況の女帝にそれを躱せない。

 

 蒼炎は目の前の敵を焼き尽くした。

 そう──リヴァイアサンは確信していた。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

「いい加減にしろよ怪物……」

 

 

 死にかけの女の前に男が一人立っていた。

 その身体に黒い焔を纏い、蒼炎が掻き消された。あの蒼炎は並大抵では消えるはずがない筈だ。

 

 それを剣の一振りで散らした。

 その出力は前衛の一部が纏っていた氷結を超えていた。あり得ない、人間が出せる出力ではない。その出力が一振りの剣に収束されていく光景、怪物は僅かに恐怖を抱いた。

 

 

「──『天地零界』」

 

 

 振り抜いた黒焔が怪物を一瞬で凍結させた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「はっ……?」

 

 

 中衛にいた紅は目を見開いていた。

 黒焔の出力が上がっている。ノーグのスキルについては知っていた。『怒りの丈により出力上昇』という怒りの丈によっては無制限に力を引き出せるその力はリリナの憤慨呪詛によって一度見ていた。

 

 前衛に掛けた全ての付与が解かれ、後衛全てを隠していた雪化粧を解いて前衛に上がっていく攻撃を止められず自分は回復に徹しているが、リヴァイアサンが一瞬で凍結するほどの出力は流石に度肝を抜かれた。

 

 リヴァイアサンの視界を幻像で塞ぎ、あり得ない出力で攻撃を繰り返し、崩壊した前衛を食い止めていた。リヴァイアサンの外殻は魔法を散らす。故に砲撃の効果は半減してしまう。なのに()()()()()()

 

 

「そうか…【天冽氷魔(ノーザン・メビウス)】」

 

 

 ノーグのスキル【天冽氷魔(ノーザン・メビウス)】は魔法発動中に精神力を超消費する事によって冷気の隷属を可能としている。外殻は魔法の威力を散らそうとするが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だが、外殻ごと凍らされたリヴァイアサンは一瞬で凍結した外殻を脱ぎ捨て再生した。蛇の脱皮のように、凍らされ使い物にならなくなった外殻を捨ててまで攻撃に適した形に変容し始める。

 

 その隙すら与えずに間髪入れずノーグは黒焔を振るう。

 

 外殻は凍結する──捨てて新たな形に変容

 変容した外殻で散らせずに芯まで凍り付く前に再び脱ぎ捨てて別の外殻を再生。

 

 外殻は凍結する──捨てて新たな形に変容

 この変容でさえ効果が低い。凍り切る前に外殻を脱ぎ捨て再生。変容した外殻に蒼炎を纏わせる。

 

 外殻は凍結する──捨てて新たな形に変容

 蒼炎が一瞬で鎮火、熱を奪う焔に炎での対抗は不可。外殻で防がないのならば、直接魔法を四散させる為に『紅霧(ミスト)』を吐き出す。

 

 外殻が凍結する──捨てて新たな形に変容

紅霧(ミスト)』が風に吹き飛ばされた。ふざけている。冷気は風を含むと言ったが限度がある。『黒星』に吹き飛ばされ散らされた。一人に撃つには業腹だが再び全方位に攻撃を試みる。

 

 外殻が凍結し、矍鑠色の結晶が凍結する。

 凍り付いたせいで高確率で発動に失敗する。

 

 神がかったような対応の速さ。苛立ちにリヴァイアサンは直接尾を叩き付ける。氷海が砕けるのに当たった手応えが全くない。目の前の光景が揺らいだ。幻像に踊らされ、背後からリヴァイアサンは再び凍結する。

 

 無限に回復する精神力(マインド)、圧倒的出力の防御不可の黒焔、姿を欺く雪化粧にリヴァイアサンが翻弄されている。その光景に震えていた前衛は目を見開いていた。

 

 このままなら勝てる。

 女帝が戦闘不能に陥った中でそんな淡い希望を見出す一同に対して、

 

 

「………」

 

 

 アルフィアだけは厳しい顔をしていた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「ハァ……ハァ……!!」

 

 

 ノーグは焦っていた。

 前衛が回復するまで繋ぐ為にリヴァイアサンに一人で立ち向かっている。幻像、冷気隷属、無限魔力、それら全てを用いてもリヴァイアサンを押し留める事しか出来ない。

 

 押し留める事さえ偉業であるにも関わらず、焦りを生んでいるのはただ一つ。

 

 

「(足りねぇ……!俺じゃ圧倒的に能力値(スペック)が足りてねぇ……!!)」

 

 

 ノーグではリヴァイアサンを倒せない。

 外殻を凍結させているが、脱ぎ捨てられて新しく再生した外殻に阻まれて芯まで凍らせるに至らない。近づいても『紅霧(ミスト)』を吐かれて距離を保たれる。

 

 距離を潰す速力があっても、外殻を凍結させるだけの魔法があっても、神がかった『天啓』があっても、魔石を覆う外殻を砕く事が出来ない。

 

 

「(力が欲しい……!コイツを殺せるだけの一撃が俺には無い……!!)」

 

 

 威力が、破壊力が全く足りていない。

 魔法の威力以前の問題、能力値がリヴァイアサンを殺せるだけの力に至っていない。外殻を砕けない以上、魔石まで絶対に届かない。

 

 能力値による火力不足に歯痒さすら感じていた。

 凍らせて傷つけた外殻すら再生を繰り返し、一から攻撃を繰り返している。一撃で魔石を砕くだけの破壊力が出せない事に焦りを生んでいた。ないものねだりなどしても意味がないのに、奥歯を噛み締めて攻撃を続けていた。

 

 そもそもリヴァイアサンが魔力暴発(イグニスファトゥス)覚悟で回復している中衛に破壊光線を撃たれたらそれこそ終わりだ。それに幻像に対応し始めてきた。惑わす幻像が徐々に気付かれている。

 

 

「っ……!」

 

 

 強靭な尾が僅かに掠った。

 気のせいではない。やはり見え始めている。幻像の不具合などではなく、リヴァイアサンが魔力を感知し始めた。

 

 視線が一歩遅れて此方を捉えている。その眼力に背筋が強張る。前線を持ち直すか撤退の指示があるまで動きを止め続けるのは一人では荷が重すぎる。

 

 

「っっ!?しまっ……!?」

 

 

 蒼炎が揺らいで雪化粧も解けた。

 幻像が可能な場所はあくまで極寒と氷結した領域のみ、吐かれた蒼炎にその前提が崩れ、視界を覆っていた雪化粧が解けた。中衛も後衛もどちらもリヴァイアサンの視界に入っていた。

 

 黒焔で蒼炎を消すが、位置がバレてしまったのかリヴァイアサンは此方を見向きもせずに魔力を顎に溜め始めた。

 

 

「止めろっ!!」

 

 

 黒焔の太刀がリヴァイアサンを凍結させる。

 だが、収束する魔力は止まらない。それどころか最初に撃った時よりも過剰に込められた。範囲は恐らく今まで以上、中衛も後衛もまとめて吹き飛ばすつもりだ。

 

 

「待って…止まれよ……!頼むから……!!」

 

 

 止まらない事に焦りを生みながらも攻撃を繰り返す。

 だが、リヴァイアサンは止まらない。魔力は暴発もしない。顎に込められた赤黒い魔力が止まる気配はない。

 

 あと数秒もしない内に射出される絶望をノーグは止められない。射程から離れようとする中衛も障壁を張って防ごうとする後衛も間に合わない。回復中のメナの援護が無ければ逸らすことも出来ない。

 

 

 

「止まれぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 失ってしまう恐怖感、ノーグは絶望に声を荒げた。

 間に合わない、その事実を受け入れたくなくてみっともなく叫んだ。その砲撃は無慈悲にも射出されていく。

 

 その時だった。

 ノーグの視界に()()()()()()()()()

 

 

 

 

「──ああ、本当に見事だ」

 

 

 

 

 鋭い一閃がリヴァイアサンの顎を揺らし、攻撃を逸らした。

 上半身を覆う白銀の鎧、手には大長剣を握りしめ、リヴァイアサンを揺らすだけの能力値を兼ね備えた一人の男がそこに居た。

 

 

「誰かを護り、この戦況を変えようとしてる。君に敬意を表そう」

 

 

 たった一人で戦局を持ち堪えたノーグに男は称賛の声を掛けた。それに対してノーグは混乱していた。見た事はないが、その男のポテンシャルはLv.6の上位に位置すると聞いた事はある。

 

 だが、この場所にはいる筈がない。

『国際紛争』が起こる『世界勢力』に嫌気が差し、『世界勢力』が保有していた最大戦力が世界を放浪していると聞いた事はあるが、この地獄の戦場に突如現れるメリットは無い筈だ。

 

 

「勝手に割り込んだ事には謝罪しよう。だが、手が足りないのであれば俺も手を貸そう」

 

 

 此処にいる筈がないオラリオの外の最高戦力。

 いる筈が無いにも関わらずそこに立っている男はその噂の存在の特徴と一致していた。

 

 

「お前…は?」

「俺の名はレオン」

 

 

 それは後の最強の冒険者オッタルに並ぶ未来のLv.7。

 予定調和には無いリヴァイアサン討伐に紛れ込んだ異分子(イレギュラー)。誰よりも騎士らしい男としてオラリオの神々によって与えられた獅子色の騎士。

 

 その二つ名は【ナイト・オブ・ナイト】

 

 

「世界を放浪するただの騎士さ」

 

 

 レオン・ヴァーデンベルクが地獄の戦場に参戦した。

 

 





『原作との相違点』
・本来ならリヴァイアサン討伐の為の足場を【ポセイドン・ファミリア】が作っていたが、ノーグの凍結により足場を作れる為、大型弩砲に変更。足場は予備案となり並列で造設しているが、規模は原作より小さい。
・原作ではゼウスとヘラの二大派閥の結託で倒した
・『学区』自体は存在こそしているが小さな規模でバルドルが学び屋を開いている。
・世界勢力の国際紛争に嫌気が刺してレオンまさかのアイルビーバック(戻るとは言ってない)
・現在Lv.6、世界放浪中


『海の覇王』リヴァイアサン
・推定討伐レベル9
・500メトラまで届く遠距離破壊光線
・保有魔力による圧倒的な再生力
・海の怪物の特性の総集
・外殻に対し魔法減衰効果
・特性を引き出す為の身体の変容
・能力値低下の改悪魅了
・溜めが要らない咆哮の砲弾



ゴジョウノ・紅 Lv.7
 力  C602
 耐久 D596
 器用 S982
 敏捷 S901
 魔力 D611
【耐異常E】
【抜刀E】
【侍F】
【心眼G】
【閃斬H】
【孤剣I】
『魔法』
【ゴコウ・ウンヨウ】
・斬撃魔法
・抜刀に対する高補正
【ナナヤ】
・飛斬魔法
・斬撃威力増幅
『スキル』
【孤狼剣豪】
・刀での戦闘時、器用補正
・単独戦闘時、殺傷能力増幅
【覇刃竜胆】
・毒に対する免疫
・毒を持つモンスターとの戦闘時高補正


レシア・ペンテシルク Lv.6
 力  S999
 耐久 A892
 器用 F355
 敏捷 B789
 魔力 F369
【耐異常F】
【潜水G】
【破砕G】
【剛力H】
【覇斬I】
『魔法』
【フレア・アウトロスト】
・付与魔法
・発展アビリティの高補正
・思考力低下
『スキル』
勇猛女王(ペンテシレイア)
・戦闘時、『力』の高補正
・格上戦闘時、激情の丈より補正


 ★★★★★

 書いてて思った。リヴァイアサン強すぎねえ?
 妄想の想像だけど、ノーグがいるんだからバランスを取らねぇとな!

 良かったら感想、評価お願い致します。
 モチベが上がります。


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二十四スレ目


 就活が進み、やっと書けた。
 リヴァイアサン最終戦です。


 

 

「いや、いやいやいや!? お前なんでいんの!?」

「実を言うと放浪の途中で道に迷っててね。人里を探してたら騒がしそうだったから来たのさ」

「何してんのお前!?」

 

 

 騎士様、まさかの迷子だった件。

 だが白銀の鎧と長剣、そしてリヴァイアサンの砲撃を逸らした膂力。間違いなくステイタスだけならノーグより上。つまり、Lv.6以上の戦力が牡丹餅で降ってきたような状況に僅かながら希望を見出した。

 

 

「まあいい、お前Lv.6だろ! 前線の戦力が足りてねえし、回復時間を稼ぎたい! 奴の攻撃を出来るだけ遠ざけてくれ!!」

「ああ、任せてくれ」

 

 

 黒焔を纏ったノーグの一振りが外殻を凍結させる。そこに間髪入れずにレオンが外殻を斬り落とし、肉体を覆う鱗ごと斬りつけた。絶叫を上げる怪物に怯む事なく雪化粧に紛れて攻撃を躱していく。

 

 黒焔の嵐と騎士の閃斬が海の覇王に傷を付けていく。ノーグもレオンの動きも卓越している。ノーグは天啓により僅かながら未来を知り、的確な攻撃を繰り返す中、冬の風に導かれ雪化粧に姿を眩ませ、凍った外殻を切断する流麗な剣技がリヴァイアサンが最も嫌がる場所に突き刺さる。人間が少なくなり、幻像もやりやすくなった。

 

 リリナの憤慨呪詛は今は解除されている。範囲の制限もあるが、今はそれが丁度いい。レオンが来てくれたお陰で僅かに余裕が出来た。変に暴走するより、冷静である状態の方がやりやすいのか、動きは洗練されている。思考を割けるだけの余裕が出来た。

 

 

「(僅かだが前線で少し余裕が出来た……が、根本的な解決にはなってねぇ)」

 

 

 このまま攻撃しては隠れる(ヒットアンドウェイ)に徹した所でこちらの体力が尽きて終わりだ。レオンもそれは分かっているし、【ヘラ・ファミリア】が撤退出来ないのはノーグから離れ過ぎれば雪化粧が届かずに狙われるからだ。だが、前線を維持出来なければ結果暴れ回って見つかるのが目に見えている。

 

 

「(これ以上の長期戦は先ず無理。ファミリアの消耗具合を考えてもそうだが、女帝がもう一度戦線に立てるかすら怪しい)」

 

 

 女帝が倒された事により士気も落ちている。

 まだ勝てると思っている人間は幹部クラスのみ。だが、依然として勝機が薄いのも事実。必殺と呼べるあの三叉槍は未だ刺さったままだが血が流れていない以上、出血死は期待出来ない。こちらの体力と敵の魔力、どちらが尽きるかなんて目に見えた話だ。

 

 

「(やるなら短期決戦だが……まず魔石に届くだけの威力が無い。外殻が再生し切る前に攻撃を繰り返すのが一番だが、二人だけじゃ無理だ)」

 

 

 回復が終わりアルフィアや副団長、紅、レシアが参戦したとしても消耗戦は無理だ。女帝の抜けた穴をノーグやレオンで埋めたとしてもやはり勝算は三割以下。能力低下の改悪魅了が出されたらその時点で前線崩壊する怪物に時間をかけた攻めは絶望的だ。

 

 

「(確かアレは魔法吸収量と魔力伝導率がクソ高かった……)」

 

 

 試してみる価値はある。

 多少強引に近づく必要があるが、レオンに負担がデカいのを考えれば三叉槍に近づくのもままならない。既に前線でギリギリだというのに思い付きで勝機になるかも分からない賭けをするには余りにも前線で戦える人間が足りない。

 

 

「──手が足りてねぇんだろ?」

 

 

 声が聞こえた。

 気が付けば隣を通り越して跳んでいた。リヴァイアサンの頭上に影が見えると同時に、槍を振り下ろす巨大な影がリヴァイアサンの脳天に叩きつけられた。氷塊を揺らすほどの衝撃が迸り、外殻には槍のあとから

 

 

「ッ……!?」

「なんて剛力……あの人は?」

「マジか……!」

 

 

 巌な黒肌の男がリヴァイアサンの頭を氷海へと沈めた。

 

 

「俺も混ぜろや」

 

 

 その男は海の男だった。

 バンダナを巻き、甲殻類系のモンスターのドロップアイテムから装備を作り、銛にも似たその槍で常日頃から海で水中のモンスターを狩り続ける海の狩人。そのレベルは6。

 

 【ポセイドン・ファミリア】団長。

 ガイネウス・ドミエスタがノーグ達の前線に混ざり始めた。

 

 

「ヘラの部隊半壊してんのに諦めねえたぁ根性あるじゃねえか。俺もやってやんよ」

「助かる……! ポセイドンや他の人達は?」

「仲間と一緒に撤退した。悪いが戦えんのは俺くれぇだ。士気が下がって死地そのものに見えてるらしいしな」

 

 

 だがそれは正しい。

 女帝が倒れたのが何より痛手である。望んで死地へと参戦出来るほどの強さがない人間は萎縮するか逃げるかのどちらかだ。戦力はLv.6が二枚とLv.5が一枚。対してリヴァイアサンは()()()()()()()L()v().()8()()()。戦うまでもなく勝敗が目に見えてしまうのもある。

 

 だが、撤退は出来ない。

 リヴァイアサンは逃げ場を失った分、迎撃に徹しているのだ。もしも撤退を図ろうとすればあの長距離破壊光線を放たれる。雪化粧で姿を隠しても幻像で撹乱させられるだけの範囲は限られている上、前衛に上がってしまった以上は後衛も動くに動けない。

 

 

「ガイネウス! レオン! 悪いが少し引き付けてくれ!」

「何かあるのか!?」

「試してみたい事がある!」

 

 

 ガイネウスとレオンに藍焔の付与が行き渡ると、二人はリヴァイアサンを前に怯む事なく攻撃を続ける。ガイネウスも女帝がやられてしまう所までは見ている、敵のパターンや動きなどを察知していち早く行動する事で紙一重で避けているが長くは保たない。

 

 リヴァイアサンは咆哮を撃ち続けている。

 氷海に穴が空き、亀裂が走る中で攻撃の手を緩めない。レオンもガイネウスも回避を優先しながらリヴァイアサンの注意を引き付ける。

 

 

「急げ小僧! 長くは保たねえぞっ!!」

 

 

 だが、その隙を突いてノーグがリヴァイアサンに突き刺さった槍、『海神の三叉槍(ポセイドン・トライデント)』を握り締めた。

 

 

「掴んだぞ怪物」

 

 

 出力全解放。

 熱殺しの黒焔が三叉槍へと注がれるとリヴァイアサンはかつてないほどの絶叫を上げ、胴体を激しく揺らした。突き刺さった内部から魔法が発生している、硬い外殻を無視して内部に直接魔法が作用しているのだ。

 

 

「っ、やっぱ嫌がってる!」

 

 

 この槍なら内部に届く。直接魔法をぶち込めば魔石まで届かせられる。その事実に僅かな勝算を見出した瞬間、リヴァイアサンが激しく肢体を揺らした。

 

 

「っっ……!? うおっ!?」

 

 

 自身の身体を氷海に叩きつけるのを見て、掴んだ槍から手を離し、距離を取ろうとした矢先。リヴァイアサンの尾がノーグの頭上に振り下ろされる。影が迫り、尾に叩きつけられ砕け散る氷海に二人が顔を青くする。

 

 

「小僧!?」

「平気……! マジ紙一重」

 

 

 叩きつけられた場所が歪んだ。

 幻像の撹乱、一瞬でも遅れたら即死だった。右肩が掠ったが、ギリギリ直撃は免れ、リヴァイアサンから距離を取る。今の行動で分かったのは、あの三叉槍に魔法を込めれば内部に伝わるという事。勝機があるならそれしかないが、破壊力が足りない。

 

 

「くっそ、やっぱ警戒されてる」

 

 

 その上、先程より警戒を強めている。

 幻像は体温や姿を眩ませられても、魔力まで隠し切れていない。見える人間からすれば、魔力を辿られてしまうのは知っていたが、まさかそれを怪物がやるとは思いもしなかった。

 

 

「(魔力が見えてるのか……的確に俺だけを警戒してる)」

 

 

 このまま警戒され続ければ負ける。

 レオンやガイネウスにリヴァイアサンを落とせるだけの魔法があるか不明ではあるが、現状この中で魔力量が一番多いのはノーグだ。大精霊の魔法を超えられるだけの魔法があるとは思えない。

 

 

「(遠距離で魔法を撃っても避けられるし、『紅霧(ミスト)』を吐かれる。後衛の魔導士が撃たねえのはそれもあるが……)」

 

 

 前衛が居なければ後衛は攻撃が出来ない。

 二人に集中する事で辛うじてリヴァイアサンの気を逸らしているに過ぎないこの状況で魔法を撃てば狙われる。前衛が後衛をカバーするだけの戦力が今足りてない。

 

 総合的に見ればリヴァイアサンをたった三人で押し留めているだけ奇跡だ。()()()()()リヴァイアサンが後衛を狙えばその時点で終わりだ。

 

 

「どうすんだ小僧、このままじゃジリ貧だぞ」

「……あの槍に魔法をぶち込む。あの怪物の外殻を損傷できるレベルの魔法をぶち込めれば、刺さってる内部から魔石を砕けると思うけど」

「ああ成る程、お前が感じてんのは」

「そんな大火力を()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな威力となれば魔力も膨大だ。並行詠唱出来る後衛はいねえ」

 

 

 遠距離で攻撃したところで警戒しているリヴァイアサンには当たらない。特に警戒されている中で遠距離で放ったところで躱されて終わりだ。それに後衛では魔法の破壊力が足りない。リヴェリア並みの火力でも無ければ不可能だ。だが、そんな魔力を要求されると並行詠唱が出来る後衛が居ない。

 

 幾らヘラの眷属とはいえ、リヴェリアを超える大魔法を並行詠唱出来ない。扱う魔力量に比例して並行詠唱は難易度を上げる。それほどの出力を要求されると魔導士の大前提が崩れる。魔法剣士の域を超えた魔力制御が必要だ。

 

 

「並行詠唱で大魔法が使える魔導士は──」

「私だ」

 

 

 鐘の音にリヴァイアサンが咆哮を上げる。

 魔素が爆ぜ、音の残響に嫌がってリヴァイアサンが距離を取る。回復をいち早く済ませて前衛まで上がってきたアルフィアが隣に立つ。

 

 

「お前の魔法二つだけじゃ」

()()()()()使()()。道を開けば確実にな」

「そんな魔法聞いた事も」

「基本的に使わないからな」

 

 

 深層でさえ使用した事の無いアルフィアの第三魔法。余程デメリットがあるのか、強力である以上一度使えば戦闘不能に陥るかの二択と推測し、この状況を見た上で頭を悩ませた。

 

 

「……成功させる自信あるか?」

「くどい。やらなきゃ死ぬならやるだけだ。絶対成功させる」

「何分欲しい」

「全精神力込めるのに五分。それとあの場所までの道を開ければ」

 

 

 正直五分さえ今の前線には厳しい。

 レオン、ガイネウス、ノーグの三人でアルフィアを護らなければならない。リヴァイアサンは魔力が見えているなら、間違いなくアルフィアの詠唱を狙われる。そうなれば咆哮一つ防ぐだけで誰かが脱落する。

 

 

「任せな。時間ぐらい幾らでも稼いでやる」

「ノーグ、見知らぬ騎士殿、ガイネウス殿、感謝を。お陰で回復出来た」

「団長はキツイっすけど、私達で前衛を固めるっすよ」

 

 

 絶望的な状況に変わりはない。

 だが、それでも立ち上がろうとする人間は此処にいる。振り返れば副団長たちが立ち上がり、剣を構えていた。

 

 

「レシア、紅さん、副団長……生きてたんですね!」

「死ぬかクソガキィ!?」

「いや、回復が遅かったからてっきり逝きかけたのかと」

「まあ死にかけたっすよ……」

「済まぬ、動けるまでの回復に時間が掛かった」

 

 

 息を切らしながらVサインを出す後衛のメナ。

 未だ女帝の回復をしている。メナの後衛の支援はこれ以上は厳しいが、最前線の復活により後衛の魔導士達も顔色を取り戻す。

 

 

「レオン、まだ行けるか」

「当然、ここで倒れたら俺は騎士を名乗れない」

「ガイネウス、まだ戦えるか」

「馬鹿野郎、女任せじゃ漢が廃る」

 

 

 ここに居るのは、一人じゃない。

 これほど心強い英雄達が居るだろうか。最前線に立つノーグは奮いを立たせるように叫んだ。

 

 

「全員聞け!!」

 

 

 それは女帝の代理でしかない道化の叫び。

 代理すら名乗るのも烏滸がましい。勇者でもなければ英雄でもない。小さな背中に乗せられた期待の重さに応えられるだけの実力が見合わない子供の叫び。

 

 

「女帝は戦えない、勝機は僅か、撤退は絶望的だ」

 

 

 されど誰よりも怒り、誰よりも諦めなかった者の言葉。今この時だけは誰よりもその言葉が重く感じる。女帝が戦えず、戦線復帰できるかどうかすら分からない。撤退は出来ない。魔力が見えている以上、遠距離攻撃を浴びせられたら一方的に蹂躙される。勝機と呼べるのはアルフィアの第三魔法を魔石付近に突き刺さる三叉槍に届ける事。

 

 絶望的なまでの強さを持つあの存在に勝てるのはそれだけしかない。最早ジリ貧である事は否定出来ない。

 

 

「だけど顔を上げて前を見ろ。この戦場が死に場所なんて愉快なモノに見えるか?」

 

 

 顔を上げればそこに居るのは一騎当千の英雄達。

 謳う魔女、猛き狂戦士、彼岸の侍、最凶の右腕、海を制する漢、最高の騎士、そして異端の修羅と災禍の怪物が海の王を前にして怯まずに立ち上がる。

 

 

「俺たちを前にしてリヴァイアサンに日和っている奴はまだ居るか!!」

 

 

 叫びが轟く。

 それは恐怖を勇気に変えて立ち上がる戦士の雄叫び。先陣を切るように剣を掲げて走り出した。

 

 

「勝つぞ【ヘラ・ファミリア】!!」

 

 

 その日、伝説が生まれた。

 分不相応にも絶望へと駆ける英雄の雛の姿を【ヘラ・ファミリア】は忘れない。勇者が在らずとも、英雄のように抗い続ける少年の姿を。

 

 

 ★★★★★★

 

 

333:名無しの冒険者

かっけええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! 

 

 

334:名無しの冒険者

輝いてるぞイッチィィィィ!! 

 

 

335:名無しの冒険者

スパチャあったら送りたいレベル

 

 

336:名無しの冒険者

演出ご苦労! 華々しく散る様を眺めてるぜぃ☆

 

 

337:名無しの冒険者

完全にやってる事厨二やけど興奮する

臨場感が堪らん。滴ってきたぜぇ……!! 

 

 

338:名無しの冒険者

原作だと乱入してきた悪童のレオンは知ってたけどガイネウスってポセイドンにも主戦力居たんやなぁ

 

 

339:名無しの冒険者

だけどレベル7が三人とレベル6が四人、イッチがレベル5で妖精ちゃんもそうだからちょい厳しめか

 

 

340:名無しの冒険者

原作ならこれでも相当ヤバいのにリヴァさんパネエ

 

 

341:名無しの冒険者

リヴァイアサンの現在の情報まとめとくわ。

『海の覇王』リヴァイアサン

 ・推定討伐レベル9

 ・500メトラまで届く遠距離破壊光線

 ・保有魔力による圧倒的な再生力

 ・海の怪物の特性の総集

 ・外殻に対し魔法減衰効果

 ・特性を引き出す為の身体の変容

 ・能力値低下の改悪魅了

 ・溜めが要らない咆哮の砲弾

 

 

342:名無しの冒険者

改めて見るとスペックえげつなっ

 

 

343:名無しの冒険者

チートやんこんなの

 

 

344:名無しの冒険者

問題は改悪魅了やけど、これ自体は回復魔法で治せることが証明済。外殻は削っても魔力ある限り再生。破壊光線はもう食らったら即死。そして問題はその破壊光線を全身から出せること

 

 

345:名無しの冒険者

身体を作り替えて発射口を全身にしてるから、回避が不可能。アルフィアの第二魔法でも防げないし、貫通力はレベル7も容易く貫く

 

 

346:名無しの冒険者

いやどうしろと? 

 

 

347:名無しの冒険者

どう足掻いても絶望

 

 

348:名無しの冒険者

アルフィアの詠唱は始まってるけど全身から撃たれたら終わり

 

 

349:名無しの冒険者

盾が無いし、盾で防げるほど甘くない

 

 

350:名無しの冒険者

此処でやられた前線の影響が出てるな

 

 

351:名無しの冒険者

イッチも相当疲れとるし

 

 

352:名無しの冒険者

むしろイッチが一番無理してる

 

 

353:名無しの冒険者

元々イッチのスペックがレベル5でスキルや魔法で誤魔化してるけど、単純に攻撃食らったらアウトなんだよなぁ

 

 

354:名無しの冒険者

あっ、ヤバいぞリヴァイアサンが改悪魅了

 

 

355:名無しの冒険者

今前線はマズイだろ。それにアルフィアの威力下げられたら

 

 

356:名無しの冒険者

おおっーと! イッチの華麗なる攻撃が炸裂ぅ!! 

 

 

357:名無しの冒険者

口元を凍らせたァァァァ!! 

 

 

358:名無しの冒険者

いや、リヴァイアサンものともしねえ!?改悪魅了から全身破壊光線に変更してるぅぅぅぅ!? 

 

 

359:名無しの冒険者

ああああああああああああああ(絶望)

 

 

360:名無しの冒険者

ヤバい避けろ避けろ避けろ破壊光線はアカン!!? 

 

 

361:名無しの冒険者

逃げろイッチィィィィ!!! 

 

 

 

 ★★★★★

 

 

「クソがっ……マジでふざけんな……!?」

 

 

 改悪魅了を防いだと思ったら今度は全身からの破壊光線。魔力の装填は当然ながらアルフィアの魔法よりも遥かに早い回避不可の全方位。そもそもアルフィアが食らったら魔力暴発(イグニスファトゥス)で後がない。氷結範囲が足りず、装填された攻撃を潰せない。

 

 

「私が止める!!」

 

 

 黒い球体がリヴァイアサンに直撃する。

 メナの魔法は制御奪取。リヴァイアサンの攻撃の発動を潰すつもりだが、総量が尋常ではなくビクともしない。根の張った大木を力で引き抜くような不動の総量。

 

 

「ぐっ……ぎぎっ……!!」

「紅さん、レシア、レオン、ガイネウス!!」

「分かってるっ!!」

 

 

 四人の攻撃に対し、リヴァイアサンは外殻を生成しては覆って亀のように閉じ籠る。チャージの時間を稼ぐだけの防御形態。だがその効果は絶大過ぎる。

 

 

「このっ!!」

「止められない……!!」

 

 

 四人の攻撃が外殻に阻まれる。

 リヴァイアサンの外殻は世界で五指に入るほどの強度を誇る。しなやかな肢体を覆い、衝撃を吸収しては柔軟に力を逃すだけでなく不壊金属に最も近い強度を誇っている。外殻を全力で攻撃していても、四人の攻撃が外殻を破壊するだけの力がない。

 

 

「【神々の喇叭(らっぱ)、精霊の竪琴(たてごと)、光の旋律、すなわち罪禍の烙印】 」

 

 

 詠唱は続いている。膨大な魔力が肌で伝わる。

 だが、リヴァイアサンの蓄積(チャージ)が刻一刻と溜まっていく中、それに対抗する手段がノーグ達には残されていない。

 

 

「……いつまで」

 

 

 この場を乗り切れるのはたった一人しかいない。

 怒号のように、倒れている気高い女に向けてノーグは叫んだ。

 

 

 

「いつまで寝てんだ最凶!!起きろ!!!」

 

 

 

 風が吹いた。

 一歩踏み込むだけで起きた突風。隣を閃光のように駆け抜けては血濡れた身体でリヴァイアサンへと向かう最凶の女が。そしてそれに連動するように動き始めた相棒の姿。その二人がボロボロの身体で剣を握り締めて走っていく。

 

 豪傑のドワーフや英傑の漢の力すら上回る下界最強の一撃。

 

 その一閃は神に届き得ると言わしめる女帝の怒り。冷徹で恐怖さえ覚えるその女が──吠えた。

 

 

「はああああああああああああああっ───!!!」

 

 

 副団長が示した最も弱い場所に女帝の一撃が突き刺さる。その一撃は自身の剣諸共リヴァイアサンの外殻を()()()()。全身を突き抜けるような一撃は海の覇王を揺らし、制御を一瞬とはいえ奪い取れた。その一瞬があればメナには充分すぎた。

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!?!?」

 

 

 ──魔力暴発(イグニス・ファトゥス)

 装填中の魔力が乱れ、内部から過剰な魔力が暴発する。外殻を覆い、内部を守っているリヴァイアサンにとって内部から焼かれることは未知の経験。

 

 

「団長!!」

 

 

 だが、それと同時に女帝の右腕から破裂したかのように血が溢れ出た。限界を超えた戦闘、死の淵に居た女帝の一撃は大きな爪痕を残したと同時に、戦線離脱を余儀なくされる程の損傷に倒れていく。

 

 前線から一時離脱し、女帝はガイネウスに抱えられながらも、ノーグを見て僅かに微笑んだ。

 

 

「あとは、お願い……」

「任せろ」

 

 

 生意気にも最凶のファミリアを支えるちっぽけな英雄に女帝は託し、意識を落としていた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 海の覇王リヴァイアサン。この時のみは彼と呼ぼう。

 

 彼は初めから海の王であったわけではない。

 オラリオにバベルという蓋をする前に生み出した防衛機構。モンスターを生み出す百獣母体のような奈落の中、怪物は下界を蹂躙する為に産み落とされる。彼は産まれながらにして最強であったわけではない。

 

 ダンジョンが生まれる前の話、怪物を産む奈落からの権能を譲り受けた特殊な怪物、彼はその一部に過ぎなかった。

 

 例えるならば陸の覇王(ベヒーモス)

 その圧倒的なまでの猛毒を宿し、歩く大地を殺す最強の巨獣。

 

 例えるならば星を喰らう蠍(アンタレス)

 モンスターがモンスターを産む百獣母体の一部を譲り受けた蠍の王。

 

 例えるならば黒竜。

 例えるまでもない。大英雄アルバートでさえ片目を奪う事しか出来なかった人類の終末。いずれ世界を滅ぼすとされる最強の竜。

 

 彼もまたその一つ。

 他の怪物とは一線を画す権能。それは喰らった怪物から特性をその身に宿す。変幻自在、無限の進化、海を統べるに相応しい最強の権能。強化種とは次元が違う程の理不尽の体現。それが彼だった。

 

 彼は喰らい尽くした。

 歌う人魚を、襲い掛かる燕を、頑強な蟹を、硬質な亀を、そして双頭の竜を喰らい力を得た。気が付けば海で彼に勝てるものなど誰も居なかった。

 

 三大クエスト。

 それは人類の終わりの可能性を打破すべく神によって出された悲願。海の生態系を崩壊させては無限に進化し、誰にも倒せなくなる程に強くなるその存在の一つ。

 

 

 彼は退屈していた。

 血湧き踊る闘いの末に生まれた海の覇王。だがその存在故に捕食者であり続ける事しか出来ない。絶対的な強者に挑む存在などこの世界では数少ない。その存在感に怯えては逃げる軟弱な同胞、それを眺め続けることしかできない。

 

 だからこそ、彼は歓喜した。

 命を脅かすような感覚を久しく忘れていた。過去に同じエンブレムの旗を掲げた存在が自分を殺しにきた事を思い出す。あの頃とは全く違う。過去最強、全盛期とも呼べる神の眷属。

 

 退路を塞がれて、此処まで追い詰められたというのに何処か愉しい。生存本能からの恐怖よりも、ただこの場にいる存在を叩き潰したい願望が溢れてはそれを実行する為に思考を回していた。

 

 最凶の女がもう戦えない以上、警戒するべきはたった二人。

 

 詠唱をしながら大気が歪む程の魔力を迸らせて近づいてくる灰色の魔導士。そして凍て付く黒い焔を纏い、幾度と自分を追い詰めようとした藍色の魔法剣士。他の者よりも危険なのはこの二人だった。

 

 

 この世界でも最も異端である才能の権化。 

 世界の命運がこの二人に託されているのは彼にも理解出来た。

 

 

 彼は吠えた。

 此処で確実に葬るという殺意を込めて。切り札が消えれば勝利は確実。であるならば狙いを定めて最強の覇王として立ち塞がる。挑戦者に対して一切の油断も無い。

 

 彼は笑った。

 今はただ、この出会いに感謝を。

 

 忘れていた怪物の本能が目を覚ました。

 

 

 ★★★★★

 

 

 アルフィアは詠唱しながら目を見開いた。

 

 

「なんだ……アレは」

 

 

 リヴァイアサンが()()()()()

 海の覇王が今更潔く死を選ぶなんて事はあり得ない。ただ身体全てが蒼炎に包まれては迫ろうとする前衛を睨んでいる。

 

 リヴァイアサンに魔法は使えない。

 魔力の運用は出来れど、魔法という『術式』がないからだ。魔法は詠唱し、魔力を運用する事で様々な効果を発揮する奇跡。神が降りなかった時代では精霊しか魔法を使えなかった。神の恩恵を持って人類が奇跡を再現する事を可能としたが、リヴァイアサンにはそれがない。

 

 纏う蒼炎。

 あれは付与魔法ではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だがそれは前衛の攻撃の方が危険と判断した故の蒼炎の鎧。こじ開けられるのは現状ノーグしかいない。

 

 

「っ、来る!!」

「避けろっ!!!」

 

 

 蒼炎で燃やしながら尾を回しては薙ぎ払う。

 巨大な肢体から放たれる旋回に蒼炎の熱が加わり、凍結した海が解け始める。前衛は何とか躱すが、荒れ狂う蒼炎の壁に阻まれては近づけない。

 

 

「ぐっ、おおっ!?」

「出鱈目かっ!?」

 

 

 陣形が崩される。

 動きを止めてその場に踏ん張る前衛に対してリヴァイアサンは旋回しながら容赦なく蒼炎を撒き散らす。激しい猛攻に回避する事で精一杯。流石のアルフィアも詠唱を待機させ、避ける事に専念する。

 

 

「クソッ……! 熱の盾かよ……!!」

「絶対触れるんじゃねえぞ! 海に飛び込むか、俺の魔法でしか対処出来ねえ!!」

「こんなん無理ゲーっすよ!?」

 

 

 海に飛び込んだらそれこそ思う壺だ。

 出力を上げて蒼炎を掻き消そうとした次の瞬間だった。

 

 

「ぐあっ!?」

「レオン!?」

 

 

 飛来してきた何かにレオンが吹き飛んだ。

 それだけじゃない。レシアと紅も同様に前衛から弾き飛ばされたように吹き飛んでは流されていく。リヴァイアサンに視線を移すと、頭部から造り変わり大砲のようなものが付いていた。

 

 次の瞬間、大砲から大量の海水が撃ち出された。

 圧倒的質量による水の砲弾。躱そうとしても速度が速く、範囲が広過ぎて避けられない。着弾すれば海水に流されて前衛が維持できない。

 

 

「今度は洪水かよ!?」

「クソがっ、災害のフルセットかこの怪物!?」

 

 

 蒼炎で氷を溶かして海水を供給する為に暴れ回っていた。しかもノーグと致命的に相性が悪い攻撃に切り替えた。海水を凍らせた所で液体が固体になるだけだ。飛んできた弾丸の威力を殺せずにただ悪戯にダメージを増やしかねない。付与魔法が強力な分、近付いた弾丸は容赦なく凍るが凍ってしまったら圧倒的な速度で飛来する氷塊に早変わりだ。

 

 

「(嘘だろオイ、いくら覇王って言っても限度があるだろ!? 知能が人間のソレじゃねえか!?)」

 

 

 圧倒的な知能を持っている。

 前衛崩しの計略、本能のままに戦う怪物とは訳が違う。正しく冒険者に対して有利な展開を引き出す厄災。前衛が崩れた今、再びリヴァイアサンにとっては絶好の好機。魔力を装填し、全身からの破壊光線の魔力を蓄積し始めている。

 

 

「ぐっ、この距離じゃ凍結も無理だ……! 回避!!」

「ノーグ! 氷壁で一か八か対応を!!」

「あの攻撃じゃ障子紙レベルだぞ!? 距離を取れ!!」

 

 

 絶体絶命。

 追い詰められた最凶のファミリア。再び全身からの破壊光線を撃たれたら今度こそ誰かが死ぬ。圧倒的貫通力を誇るそれを防ぐ術はない。前衛は一か八かリヴァイアサンから離れるように退避する。

 

 間に合わない。

 そう感じていたその時だった。

 

 ノーグに『天啓』が浮かんだのは──

 

 

「……アルフィア、詠唱はまだ続いているか?」

「ああ、どうした?」

「俺の判断に命を預けられるか?」

「勝てるならな」

「なら、行くぞっ!!」

 

 

 退避する前衛に対して、ノーグはリヴァイアサンに向けて()()()()。接近した所で防ぐ術もなく迫る方が危険、自殺行為にも等しいその蛮行にアルフィアでさえ絶句していた。

 

 

「なっ、ええい玉砕覚悟か!?」

「俺を信じろ!!」

「くっ、これで死んだら祟るからな!?」

「上等!」

 

 

 だが、それでもノーグを信じて走り出す。

 退避する前衛に対して二人だけがリヴァイアサンに迫っていた。

 

 

「なっ、戻りなさい二人共!?」

 

 

 副団長が叫んでいるが二人は走り続ける。

 気が狂ったかのような蛮行に誰もが止めようと叫ぶが二人は止まらない。リヴァイアサンが一斉掃射する三秒前、その絶望に対してノーグの瞳には恐怖など微塵もなかった。

 

 発射される一秒前。

 その惨状から目を瞑りそうになった後衛達の視界に映ったのは──

 

 

「…………えっ?」

 

 

 リヴァイアサンが血を吐き出している光景だった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 遡る事、四時間前。

 大型弩級に装填した【海神の三叉槍(ポセイドン・トライデント)】。

 

 過剰に魔力を充填し、絶大な破壊力と貫通力を生む討伐の切り札。だがそれとは別にもう一つの切り札を【ヘラ・ファミリア】は用意していた。女帝が手に持つ大きな瓶の中にそれは存在していた。

 

 

「っ、『ベヒーモス』の猛毒!?」

「ええ、これを塗り込むわ。もしも貫通し切れなかった場合の保険だけど、あって損はないわ」

 

 

 地上最強の猛毒を持つ『ベヒーモスの黒灰』。

 その猛毒は深層の『ペルーダ』の数倍はあると言われているほどに強力な毒性を持つ。現にLv.7へと至ったザルドの四肢を腐らせようと巡っている程に、強い毒ではある。

 

 これはそれに改良を加えて毒性を更に引き上げたもの。『ベヒーモス』の死体から回収し、この日の為に用意したもう一つの切り札。

 

 

「時間が経てば経つほどにリヴァイアサンを弱らせる」

「エグッ、これ本当に行けるのか?」

「さあ?」

「俺、臭いだけでも死ねる気がするんだけど」

 

 

 最も容易く行われるえげつない方法に海の漢が僅かに引いて萎縮した。

 

 

 ★★★★★

 

 

 全身からの破壊光線が不発に終わった。

 リヴァイアサンは混乱した。魔力暴発により内側から焼かれ、感覚が鈍っていたせいか身体の熱はそれが原因だと錯覚し続けていた。猛毒による時間差の罠。

 

 それだけではない。

 溜め込んでいた魔力を撃つ事が出来ないほどの疲弊。幾多と前線に対しての攻撃だけではない。

 

 凍結を防ぐ為に外殻を脱ぎ捨てて作り替え続け、女帝の渾身の一撃で全身に痺れるような衝撃が残り、内側から焼かれた魔力、そして自分が運用していた攻撃に必要な魔力が予想以上に減らされていた。

 

 猛攻は無駄では無かった。

 積み重ねた眷属達の軌跡が海の覇王を追い詰めている。

 

 そして、その命運を握る二人がリヴァイアサンに迫っていく。

 

 

「【箱庭に愛されし我が運命(いのち)よ砕け散れ。私は貴様(おまえ)を憎んでいる!】 」

 

 

 だが、相手は海の覇王リヴァイアサン。

 全身から発動は無理でも残された魔力で口から破壊光線を撃つのは可能。蓄積(チャージ)を早めて二人諸共迎撃の構えに入る。

 

 対してノーグはアルフィアの前を走り、魔法とスキルを全開放。黒焔を剣に纏い、破壊光線に対しての迎撃の為に力を溜めている。

 

 

「勝負だ……!」

「ブオオオオオオオオオオオオオオッッ──!!!」

 

 

 以前、ロキと話した事がある。

 必殺技があると強くなれると。馬鹿馬鹿しい発想だが、『天啓』で教えられた情報には主人公にも必殺技があった。渋々ながら二人で悩み、考えついた名前がある。それは『追随者』という意味を持つ北欧神話の言語。

 

 最強に迫る為に名付けたその名は──

 

 

 

「【覇双の冰斬(フュルギア・アルフリーズ)】!!!」

 

 

 

 黒焔を纏いし双閃が破壊光線を迎撃する。

 激突する紅き閃光と全てを凍て付かせる黒焔。その二つが衝突し、あり得ないほどの衝撃を生み出し、氷海が砕け始めた。ここまで弱っているのにも関わらず、その破壊力に最大出力のノーグの黒焔が押されている。

 

 このままだと押し切られる。

 押し切られたらアルフィア諸共この戦いの敗北となる。意地でもこの攻撃をアルフィアに届かせないように耐えているが、紅き閃光は目の前まで迫っていた。

 

 

「ぐっ……おおおおおおおおおお!!!」

 

 

 押し切られる。それだけは駄目だ。

 押し切られたらアルフィアも死ぬ。その現実から目を逸らさない。此処で今、自分がどうなっても次に繋ぐ。その覚悟で挑んでなお足りない。

 

 止められない、押し切られる。

 死を覚悟したその時──()()()()()()()()()()

 

 

「【グリヴェント・イラ】! ノーグさん!!」

「っ、おおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ──!!!!」

 

 

 前衛を置き去りに誰よりも早く二人に追いついたリリナが紡いだ憤慨呪詛がノーグに向いた。激情に叫ぶノーグ、桁違いに跳ね上がる黒焔の出力、押し切られかけた破壊光線を押し返し、ノーグの双刃がリヴァイアサンの顎に直撃した。

 

 

「【代償はここに。罪の証をもって万物(すべて)を滅す】 」

 

 

 その一撃はリヴァイアサンから視界を奪った。

 剥き出しとなった三叉槍に対して全精神力(マインド)を装填したアルフィアの第三魔法。それは【サタナス・ヴェーリオン】とは比べ物にならない程の大火力。

 

 

「【哭け、聖鐘楼】」

 

 

 鐘が鳴り響く。

 アルフィア自身、使う事を躊躇する程の圧倒的な破壊力。全てを滅する光の閃光。代償は大きく、破壊力は階層すらブチ抜くその魔法はリヴァイアサンの魔石付近に刺さった三叉槍に向けて放たれた。

 

 

 

「【ジェノス・アンジェラス】!!」

 

 

 

 放たれた閃光を三叉槍は吸収し、リヴァイアサンの胴体と共に自壊した。過剰なまでの魔力暴発を引き起こした。魔石に近い部分に突き刺さっていた中で、内側から閃光が破裂した。

 

 

「アルフィア!!」

「っ!!」

 

 

 閃光の破裂に巻き込まれないように手を伸ばした。

 伸ばした手をアルフィアが掴むと、引き寄せて抱き抱えながら、冷気の風を操作して空へと離れていく。

 

 そんなノーグ達をリヴァイアサンは見ていた。

 まるで見事、と言われているような視線を最後に当てられて何も言えなかった。魔石が砕け散り、怪物の瞳から光が消えていく。

 

 

 海の覇王は死んだ。

 

 【ヘラ・ファミリア】の勝利に誰もが歓喜の雄叫びを上げていた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 

 着地した二人は氷海に崩れ落ちた。

 最後の立役者である二人は喜びよりも疲弊が強く騒ぐ気にもなれない。寒いはずの氷海の上も今だけは心地良かった。

 

 

「大丈夫か……アルフィア」

「すまない……流石に限界だ」

「俺もだ。でも、勝ったなあんな化け物に」

「よく勝てたなと……私も思う」

 

 

 アルフィアもノーグは限界だった。

 二人共もう身体が動かない。魔法の行使による負担が一番大きいのはノーグとアルフィアだ。特にノーグは一時間ずっと魔法を使い続けていたのだ。理論上精神力を無限に回復し、魔法を使い続けられるがそれでも負担が大き過ぎた。これ以上戦えと言われても絶対に無理と言えるほどに負担が掛かり、動く事さえ億劫だった。

 

 

「叫ぶ力も湧かねえ……」

「勝鬨を上げるのは……あの女がやってくれるさ」

「じゃあ寝るわ……もう無理」

「ああ……私も……」

 

 

 二人は目を閉じて意識を閉ざしていた。

 勝鬨を上げて喜びを露わにする最凶の眷属達の声も聞こえずに、ただ夢へと堕ちていった。

 

 後にレオン達が見たのは、寄り添って氷海で眠る二人の姿だった。そして無意識なのか、寒かったからなのかは分からない。けれど、レオン達は微笑ましそうにその光景を見ていた。

 

 

 ──離脱する際に繋いだ手は握られたままな事に。

 

 





 次回、アルフィアとノーグのステイタス更新。  
 良かったら、感想評価お願い致します。モチベがめっちゃ上がります。


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二十五スレ目


 久しぶりに書くと止まらない事、あるよね。


 

 

523:名無しの冒険者

リヴァイアサンは強敵やったなぁ

 

 

524:名無しの冒険者

レベル6以下はランクアップ間違いなしやろ

 

 

525:名無しの冒険者

はっきり言っていい?イッチさぁチート過ぎない?

 

 

526:名無しの冒険者

それな

 

 

527:名無しの冒険者

もうあの人だけで良くない?

 

 

528:名無しの冒険者

冒険者という果てしないマラソンゲーム

 

 

529:名無しの冒険者

倒す、換金する、装備を整える

 

 

530:名無しの冒険者

何の為に?

 

 

531:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

はいお疲れ、解散解散

 

 

532:名無しの冒険者

なっ

 

 

533:名無しの冒険者

なんで、オマエが此処にいる

 

 

534:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

なんでって、あーそう言う事。

道化所属はヘラが56した

 

 

535:名無しの冒険者

そうか、タヒね

 

 

536:名無しの冒険者

もうええねん

 

 

537:名無しの冒険者

どんだけこのくだり続けんの

 

 

538:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

親に恵まれたな

スレ立てする為のパソコンとか

 

 

539:名無しの冒険者

あっ、うん。そこはマジで否定出来ねぇ

 

 

540:名無しの冒険者

>>535 おいおいアイツ死んだわ

 

 

541:名無しの冒険者

>>535 仮にもヘラに死ねと言ったぞ

 

 

542:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

死刑ですね。分かります。

火と水、どっちがいい?

 

 

543:>>535

オワタ\(^o^)/

 

『>>535がログアウトしました』

 

544:名無しの冒険者

そう言えば些細な疑問なんやけど、ヘラがもしゼウスを殺すなら死因はなんやと思う?

 

 

545:名無しの冒険者

おいバカやめろ。なんか想像出来るから

 

 

546:名無しの冒険者

絶対生々しいヤツじゃね?

 

 

547:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

首絞めながらの腹上死だろ。そして逝ったら後を追う

 

 

548:名無しの冒険者

イッチィィィィ!?

 

 

549:名無しの冒険者

何故言ったし!?馬鹿なの!?

 

 

550:名無しの冒険者

それ話題にしたら実行されるヤツ!?

 

 

551:名無しの冒険者

【悲報】ゼウス終了のお知らせ

 

 

552:名無しの冒険者

ヤンデレがアップを始めました。

 

 

553:名無しの冒険者

これで二大派閥消えたらイッチのせいやからな!?

 

 

554:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

大丈夫でしょ。ゼウスやし

 

 

555:名無しの冒険者

変態爺の頑丈さに対する信頼が重い!?

 

 

556:名無しの冒険者

まあ、あの爺なら確かにのらりくらりと逃げるやろ

 

 

557:名無しの冒険者

最近思ったんやけどイッチもヘラの眷属らしくなってきたじゃん

 

 

558:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

感情にブレーキかけ過ぎるとストレス溜まるからな

 

 

559:名無しの冒険者

花御も呪いらしくなってきたじゃん

 

 

560:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

花御じゃないノーグだ。

この名言、テストに出るから注意しておくように

 

 

561:名無しの冒険者

ヅラァ……何のテストだよそれは

 

 

562:名無しの冒険者

ノーグ検定、一級はいるんか?

 

 

563:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

いる。解析最強ニキは一級

彼には『空前絶後のストーカー』の称号を与えよう

 

 

564:名無しの冒険者

サンシャインかよww

 

 

565:名無しの冒険者

残当やろ

 

 

566:名無しの冒険者

あのネカマも泣いて喜ぶんじゃねww

 

 

567:名無しの冒険者

とりまリヴァイアサン討伐、マジおつかれー

 

 

568:名無しの冒険者

カツカレー

 

 

569:名無しの冒険者

ビーフカレー

 

 

570:名無しの冒険者 

ハヤシライス

 

 

571:名無しの冒険者

最後変なヤツ居たな

 

 

572:名無しの冒険者

今イッチ何しとんの?てか時間は?

 

 

573:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

今はメレンの砂浜で一休み。あと二日は宿屋にいる感じ。流石に全員は泊まれないから宿分けとるけど、ワイや一級以上は個室泊まりや。時間はあの日から三日後、祝勝会中やけど抜け出しとるし

 

 

574:名無しの冒険者

なんや疲れたんか?

 

 

575:名無しの冒険者

まあそこにアルフィア居ないからやろ、静寂やしボイコットしとるんちゃう?

 

 

576:名無しの冒険者

立役者二人がボイコットか

 

 

577:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

あー、違う違う。アルフィアはリヴァイアサン戦の疲れが取れてないから休んどるし、ワイは単純に夜風に当たりたかっただけや。女ばかりで肩身狭いし

 

 

578:名無しの冒険者

た、確かに……!?

 

 

579:名無しの冒険者

同じ立場なら同じ行動してる気がする

 

 

580:名無しの冒険者

レオンやガイネウスは?

 

 

581:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

生贄にして緊急テレポート

 

 

582:名無しの冒険者

押し付けて逃げたなイッチ

 

 

583:名無しの冒険者

いやむしろご褒美だろ。女の子に囲まれてる時点でさ

 

 

584:名無しの冒険者

いいご身分じゃねえかタヒね

 

 

585:名無しの冒険者

もう嫉妬はええやろ。そろそろ聞かせてもらおうか。肝心のイッチのステイタスをよぉ!

 

 

586:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

まあええよ。そこを含めてちょっと相談したかったし

 

 

587:名無しの冒険者

キターーー!!

 

 

588:名無しの冒険者

キターーーン!!!

 

 

589:名無しの冒険者

拡散しろーー!!

 

 

590:名無しの冒険者

待ってたぜ、この時を……!!

 

 

591:名無しの冒険者

ずっとスタンバっていました!!

 

 

592:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

とりあえずランクアップ可能やけど今は保留。

これが今のワイのステイタスや。

 

ノーグ Lv.5 (ランクアップ可能)

 力  E411

 耐久 G200

 器用 S972

 敏捷 D503

 魔力 SSS1301

【天眼E→D】

【耐異常F】

【耐冷D→C】

【魔導G→F】

【並列思考I→H】

『魔法』

【アプソール・コフィン】

・二段階階位付与魔法

・一段階『凍てつく残響よ渦を巻け』

・二段階『燻りし焔をその手に慄け、氷界の果てに疾く失せよ』

【リア・スノーライズ】

・領域魔法

・指定した存在に氷付与魔法を付与

・極寒、氷結範囲に幻像使用権限獲得

・極寒、氷結範囲から魔素の回収、精神力還元

『それは尊き冬の幻想、今は閉ざされし幻雪の箱庭、流れて駆けゆく数多の精、黄昏に吹雪く厳冬の風、打ち震えよ、我が声に耳を傾け力を貸せ、黄昏の空を飛翔し渡り、白銀の大地を踏み締め走れ、悠久の時を経て、懐かしき冬が目を醒ます、届かぬ天を地に落とし、今こそ我等に栄光を、箱庭は開かれた、偉大なる冬の世界へようこそ』

『スキル』

天啓質疑(スレッド・アンサーズ)

・■■■■■■■■■

・神威に対する拒絶権

追走駆動(ウェルザー・ハイウェイ)

任意発動(アクティブ・トリガー)

・疾走時、精神力を消費し『敏捷』の上昇

・発動時、加速限界の制限無視

冷鬼覇豪(ヘル・フレーザー)

・発展アビリティ【耐冷】の獲得

・環境極寒時、ステイタスの高補正 

憤怒臨界(アベレンジ・ラース)

・一定以上の憤怒時発動可能

・精神力二倍消費による魔法の詠唱破棄

・怒りの丈より出力上昇

天冽氷魔(ノーザン・メビウス)

・魔法発動中、精神力超消費にて冷気隷属

・隷属範囲及び練度はLv.に依存

天闢氷精(ニヴゥヘルム・サガ)

任意限界突破(アクティブリリース)

・発動中行動(アクション)にLv.及び潜在値を含む全アビリティ数値を加算。持続時間はLvに依存。

・発動終了後、回復期間(インターバル)中七十二時間の能力降下(ステイタスダウン)及び氷属性魔法の使用不可。

原初変性(ロスボロス・スピリット)

・限界突破ごとに肉体及び精神の精霊化、人間性の機能消失

・肉体の不老獲得

 

 

593:名無しの冒険者

 

 

594:名無しの冒険者

 

 

595:名無しの冒険者

 

 

596:名無しの冒険者

 

 

597:名無しの冒険者

 

 

598:名無しの冒険者

待て

 

 

599:名無しの冒険者

うん、ツッコミたい事が幾つかあるんだけど

 

 

600:名無しの冒険者

リヴァイアサン戦一回でこの数値?

 

 

601:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

ワイ、リヴァイアサン戦ずっと魔法を使い続けたせいで魔力値が異常に伸びとる。逆に耐久はそうでもないのは残当やろ

 

 

602:名無しの冒険者

残当な訳ねえだろやっぱおかしいって

 

 

603:名無しの冒険者

君ホントにどうなってんの?

 

 

604:名無しの冒険者

ベル君じゃあるまいし、成長補正無しでコレかよ

 

 

605:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

多分なんやけど、ワイの魂の他にフララの魂も溶け込んどるから恩恵二人分。二倍とはいかへんけど1.5倍の成長速度が有るんやない?アルフィアも同じようなスキルあるっぽいし

 

 

606:名無しの冒険者

へー、アルフィアにもあるんやな成長補正スキル

 

 

607:名無しの冒険者

じゃ、じゃあスキルは?なんやこの新スキル?

 

 

608:名無しの冒険者

天闢氷精(ニヴゥヘルム・サガ)

任意限界突破(アクティブリリース)

・発動中行動(アクション)にLv.及び潜在値を含む全アビリティ数値を加算。持続時間はLvに依存。

・発動終了後、回復期間(インターバル)中七十二時間内の能力降下(ステイタスダウン)及び氷属性魔法の使用不可。

 

これアレか?フィンの第二魔法の持続版?

 

 

609:名無しの冒険者

またチートかよ。ふざけんなイッチ

 

 

610:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

馬鹿野郎使えるわけねえだろ。もう一つのスキルを見ろや

 

 

611:名無しの冒険者

原初変性(ロスボロス・スピリット)

・限界突破ごとに肉体及び精神の精霊化、人間性の機能消失

・肉体の不老獲得

 

なんやこれ……不穏過ぎへん?

 

 

612:名無しの冒険者

人間性の機能の消失って、なんや?

 

 

613:名無しの冒険者

イッチが精霊になるって事?

 

 

614:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

まあそんな感じ、ヘラ曰く限界突破するごとに自身の肉体がその出力に耐えきれないから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。多分、溶け合ってるフララの影響やろうけど。精霊は神秘の存在、人間がフルで扱う事は出来んけど、同化して精霊でありながら人間でもあるワイは話が変わってくるらしいんやよ

 

 

615:名無しの冒険者

つまるところアレか。

人間8で精霊2の比重が傾いて戦闘中は人間2で精霊8になるって事やろ?

 

 

616:名無しの冒険者

あっ、そういう事か。

それで戻そうとしたら人間7と精霊3までしか戻せない感じって認識でオケ?

 

 

617:名無しの冒険者

解説乙

 

 

618:名無しの冒険者

意外と分かりやすい

 

 

619:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

まっ、そゆことや。

こればかりはワイを抱きしめながらヘラも謝っとった。精霊になればなるほどに人から外れていく。代償になる対象が分からへんけど、肉体や精神は当然として機能って意味が広過ぎる。

記憶、感情、食欲、性欲、睡眠欲、知識、本能、理性、理念、意思、感性、数え上げたらキリないしそれこそ何が対象になるんか分からへん。まあ使えば確実にデメリットでしかない。

 

 

620:名無しの冒険者

封印だな。それ使うなよ

 

 

621:名無しの冒険者

使うとしても使い所を誤るなよイッチ

 

 

622:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

あの時はリリナ…あのエルフっ娘が使ってた憤慨呪詛でタガが外れてて、こう器にピキッと罅が入った感じや。そのせいか左手から肘にかけて肌が真っ白で、魔法使っとらんのにドライアイス並に冷たい。対処法はある?

 

 

623:名無しの冒険者

火精霊の護符(サラマンダーウール)を包帯に加工して巻いておけ

 

 

624:名無しの冒険者

精霊の力が反発して少し戻る可能性にかける

 

 

625:名無しの冒険者

火傷する可能性に一票

 

 

626:名無しの冒険者

加護がすぐ切れるに一票

 

 

627:名無しの冒険者

加護が喧嘩してフララが消えるに一票

 

 

628:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

不謹慎すぎない?

人の心とかないんか?

 

 

 ★★★★★

 

 

 メレンの砂浜にて。

 あの日からリヴァイアサンの死体の回収。メレンの修復作業に海の男達が尽力している。氷塊が未だ浮かぶ海と空に浮かぶ月と満天の星空を眺めながら酒を飲む。

 

 

「ゴホッ……っ、流石に、無理し過ぎたかな」

 

 

 左手に持つ酒瓶を傾けて飲み込んだ酒は()()()()()。左手の冷気が酒に移って喉を通る酒がやけに冷たくて咳き込む。

 

 あの激戦の代償としては見合ったものかもしれない。しかし、あのスキルを反映させてしまってから、人でなくなる事に僅かな恐怖を覚えていた。記憶、感情、理性、それがなくなってしまったらきっともう立ち直る事は出来なくなるだろう。

 

 何かを捨てる強さ。

 それだけは自分が唯一持っていないものだった。

 

 

「ああ、嫌だなぁ……」

「何がですか?」

「っ!?」

 

 

 気を抜き過ぎていた。

 随分と考え事に没頭していた。振り返るとそこには少し顔に赤みがかかったリリナの姿だった。

 

 

「お疲れ様です。ノーグさん」

「リリナか……あれ、祝勝会は?」

「抜け出してきました。少し酔ってしまったので」

 

 

 エルフであるリリナが珍しく酒を飲んでいた。

 リリナは宴会の時はアルコール抜きのカクテルや果実水などを飲むことが多い。潔癖というか、毅然とした自分の在り方に誇りを持ち、そのイメージを崩さないようにしているかららしい。

 

 まあ今日は無礼講。

 魔法で氷のグラスを作り、少し酒を注いだ。

 

 

「飲むか?」

「いただきます……あっ、美味しい」

「そっか。作った甲斐がある」

「手作りですかコレ!?」

 

 

 よく飲むクラフトコーラをハイボールで割ったコークハイ。この世界にコーラがない分、炭酸はないがコーラの味だけは再現出来た。一口飲めばお気に召したようで目を見開いている。

 

 誰かと酒を飲むのはサポーター以来だ。

 (さざなみ)の音に耳を傾けながら星を眺めて酒を飲んだ。

 

 

「大丈夫ですか?」

「何が?」

「左手、真っ白になって…何かあったんですよね」

「っ」

 

 

 酔っているのに目敏い。

 包帯か手袋か着けておけばよかったが、別に隠し通せるような事でもないしな。いずれバレる話ではあるが、それでもあまり言いたくはなかった。弱みを見せたくなかったから。

 

 

「大丈夫です。聞きませんから」

「……いいのか?」

「話してほしい気持ちはありますけど傷付けたくはありませんし、そんな顔していたら言いたくないって分かりますから」

 

 

 本当に気を遣ってくれる優しい子だ。

 傲岸不遜のアルフィアと正反対で献身的と言えばいいのか。メーテリアと同じく、ヘラの中の良心みたいな存在だった。しっかり相手を見て考えてあげられる優しさが少し染み渡る。

 

 

「ありがとな」

「えっ?」

「あの時、憤慨呪詛が無かったら俺は死んでたからな。お前が居なかったらリヴァイアサンを討伐出来なかったかもしれない」

 

 

 あのスキルの原因はおそらくリリナだ。

 憤慨呪詛が影響して器に罅が入った感覚があった。自身が制御出来る範囲での出力だった付与魔法のタガを外して暴走させた。その反動で人と精霊の調律(バランス)が崩壊してあの悪腫(スキル)が刻まれてしまった。

 

 でも、感謝はしている。

 死ぬよりマシで、あの時リリナが居なければリヴァイアサンに勝てなかったかもしれない。だからこのスキルが生まれた意味はリリナには伝えない。その方がきっと幸せだから。

 

 

 

「──ありがとなリリナ。俺を助けてくれて」

「っ──……」

 

 

 

 だから、恨みなんてない。

 ただ背中を押してもらったリリナにノーグは感謝を告げた。

 

 

「──好き」

「えっ?」

 

 

 ポツリと呟かれたその言葉に困惑した。

 酒に酔っているのか、顔が赤いだけじゃなくリリナの瞳には涙が溢れていた。ポロポロと泣き上戸のまま此方を向くと、俺の片手を掴んで俯いていた。

 

 

「私、ノーグさんが好き。異性として貴方が好きです」

 

 

 酒に酔ってなんかいない。

 照れながらも勇気を振り絞って手が震えていた。自分の事を好きとリリナの本心を告げられて僅かに頰が紅潮する。

 

 

「っ……俺は」

「分かってます。ノーグさんの気持ちがアルフィアさんに向いている事くらい私は知ってますよ」

 

 

 絶句した。何故知ってるのか。

 誰にも告げたことはないのにそれに気付けたという事は自分を見て察していたという事だ。正直な話、二人きりの場合を除いてそんな素振りを見せなかった筈なのだが。

 

 

「……俺そんな分かりやすい?」

「いいえ。でも副団長や紅さんくらいは分かってると」

「女帝は知らないんだ」

「あの人は強過ぎて恋を知らないんだと思いますよ」

「お前それ絶対本人の前で言うなよ?」

 

 

 想像は付くけれど、と内心では思っている。

 泥臭くて強くなろうとする男が好きらしいが、その好きは恋愛のそれではなく、手元に置きたい支配欲も含まれている。恋よりも愛で物事を考えてるから多分恋は知らないと思うが、本人が聞けばここは血の惨状に早変わりだ。

 

 

「……俺は確かにアルフィアに気持ちが向いてる。多分、恋してるとは思う」

「はい……」

「俺は親友としてはお前に好きと言えても、異性としては言えない」

 

 

 リリナの告白は普通に嬉しい。

 こんな自分を好きになってくれるなんてという気持ちが大きかった。けれど、もう好きになってしまった人がいる。そういう関係になりたいと思う自分がいる。だから、今の気持ちを口にした。

 

 

「分かってます。だから、少しだけズルさせてください」

「へっ?」

 

 

 呆気に取られたような声が漏れた。

 次の瞬間、目の前にリリナが迫っては頰に柔らかい感触に僅かに微睡むような意識は完全に覚醒していた。目を見開いて頰に手を当てて飛び退いた。

 

 

「なっ……お、まっ……」

「私、諦めませんから。アルフィアさんが相手でもいつかノーグさんを振り向かせます」

 

 

 不敵に笑ったリリナは指を刺して笑った。 

 いつか絶対に好きにさせてみせる、そんな分の悪い賭けに対して負けないという意地を張りながら笑って宣戦布告した。

 

 

 

 

「覚悟、してくださいね?」

 

 

 

 

 それだけ告げるとリリナは走って砂浜から離れていく。

 取り残されたノーグはただ茫然としながらその背中を見つめていた。

 

 

「………………」

 

 

 頰が熱い、身体が熱い、今まで意識してこなかった女の子からの告白。もしも振ってしまったら友達で居られなくなる事を知っていながら、それでもリリナは想いを告げた。諦められないから勝ち目の薄い勝負に挑んでは、接触を苦手とするエルフでありながら頰に口付けをする大胆さまであった。

 

 僅かに揺れた。ほんの僅かに想いが揺らいだ気がした。

 

 

 

「……………やっぱアイツもヘラの眷属か」

 

 

 

 その事実に納得し、顔に手を当てて砂浜に倒れ込んだ。酒に溺れて酔えたのなら、どれだけ良かったのか。もしくは出会い方が変わっていたのなら、あの子を好きになっていたのか。

 

 今はただ、この冷めない熱に浸って目を閉じた。

 この熱の冷まし方を空に浮かぶ星々は答えてくれなかった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 同時刻。

 宴会に参加せずに宿の自室に籠っているアルフィアと、隣でアルフィアを支えているメナ。苦しそうに蹲っては心臓が酷い痛みを発していた。

 

 

「ゴホッ、ゴホッ……!」

 

 

 胸を押さえて血を吐き出し、苦しそうな様子のアルフィアにメナは背中を撫でている。酷い発作だ。第三魔法を使った際に起きる反動は三日経っても鎮まり切らない。

 

 

「薬飲んで、少しは良くなるから」

「ああ……っ、ハァ…ハァ……」

「第三魔法の反動、やっぱり酷いね」

 

 

 精霊の丸薬。

 ノーグの血を使い作られた唯一の緩和薬。アルフィアやメーテリアの不治の病にすら通じる。それを飲んでは身体を横にしていた。メナが医療道具を用いてアルフィアを診察する。

 

 

「これじゃあ、黒竜戦は厳しいね」

「っ、そこまで酷いか」

「うん。薬は進行を緩めるだけで、完治は出来ない。診断したけどかなり酷いよ。臓器にダメージがあるし、機能がこれから弱まっていく」

 

 

 アルフィアにはあるスキルが存在する。そのスキルの名は【才禍代償(ギア・ブレッシング)

 

 ステイタスの常時限界解除(リミット・オフ)を約束する代わり、交戦時及び発作時、『毒』『麻痺』『機能障害』を始めとした複数の『状態異常』を併発し、発動中は半永久的に能力値(アビリティ)、体力、精神力の低下を伴い続ける。

 

 元々、アルフィアはメーテリアと同じ『不治の病』を抱えていた。恩恵として刻まれた時、それが悪種(スキル)となってしまったのが始まり。戦闘を行うたびに何度もそれが現れては、メナの回復魔法によって支えられている。回復を続けても何度もそれが引き起こされれば身体に対するダメージが酷く蓄積される。これから臓器や重要箇所が弱まっていく。

 

 

「ノーグに精霊の奇跡が出来るなら、延命は出来るのかな」

「やめろ、私の問題にノーグは関係ない」

 

 

 ありもしない可能性を告げても意味などない。

 だが、出来るかもしれない。メナでは根本的な治療も出来なければ、この病は医神でさえお手上げ状態、唯一救えるかもしれないその可能性に縋らずにはいられなかった。

 

 

「……ノーグに頼んで出来るように特訓させてみる?案外出来るかもしれないよ?」

「それも止めろ。絶対にだ」

「何で?」

「知られたくない。それが出来るなら私よりもメーテリアにしてほしい。それに……」

 

 

 ノーグは精霊ではない。

 精霊の力を宿していても、人である事を捨ててまではいない。精霊と人間の在り方はかけ離れている。大いなる力には大いなる代償が必要だ。それを実行してほしいとまでは思えない。

 

 

「恐らくそれは代償が大きい。分かってる筈だ」

「……うん」

 

 

 メナもそれ以上は何も言わなかった。

 今はノーグも家族だ。家族を犠牲にしてまで得られる幸せなんてメーテリアも望まないだろう。だからこの話はここで終わりだ。

 

 ただ、アルフィアは少しだけ変わった気がする。傲岸不遜は相変わらずだが、先程の発言はノーグを意識している言い回しだった。メナは横になるアルフィアを見て口にした。

 

 

「アルフィア、なんか変わったね」

「?」

「少し、柔らかくなった」

 

 

 少しだけ、他人に対して優しくなった気がする。

 アルフィアの理解者は多いわけではない。天才が故にそれに嫉妬するもの、それを畏怖するものは多く、女王という名が相応しい彼女が何処か柔らかくなった気がした。

 

 その原因となる人の名前を告げてメナは質問する。

 

 

「ノーグの事、どう思ってる?」

「!」

 

 

 その質問に僅かに肩が揺れた。

 答える必要などない。けれど今の反応で意識している事を知られた。アルフィアはノーグとの関わりが嫌いではなかった。同じタイプで、同じ天才、気が合うからこそ親友だとは思っている。

 

 この先どうなりたいのかは分からない。

 恋人になりたいと思っているのか、今の関係を維持したいのか、その答えはきっと出ない。いずれ置いていってしまう事を悟っているから。情を深め過ぎてしまえば、置いていかれた人間は地獄を生きなければならない事を知っている。失う苦しみは少なからず理解はしているつもりだから。

 

 けれど、どう思っているのか。それだけは素直に告げた。

 

 

「……大切だとは思っている」

「!」

「それが親友としてなのか、別の意味なのかは分からないが」

 

 

 それだけ告げると寝返りを打ってそっぽ向いた。

 意外と気恥ずかしかったのか、僅かに頰が熱くなった気がした。

 

 

「そっか……頑張れアルフィア」

「何をだ?」

「それが分からない内は、まだ子供だよ」

「むっ」

 

 

 年長であるメナはケラケラと笑うと、部屋を出た。

 薬が効いてきたのか、先程まで苦しかった発作は収まりアルフィアはベランダに座り空を見上げた。寒い筈なのに吹く風は何処か心地良かった。

 

 彼女は微笑んで星空を眺め、月は静かに灰色の乙女を照らしていた。

 

 





 アルフィア Lv.6(ランクアップ可能)
 力  D598
 耐久 E458
 器用 SS1023
 敏捷 A869
 魔力 SS1125
【魔導D】
【耐異常F】
【魔防F】
【精癒F】

『魔法』
【サタナス・ヴェーリオン】
・音魔法
爆散鍵(スペルキー)炸響(ルギオ)

魂の平穏(シレンティウム・エデン)
付与魔法(エンチャント)
対魔力装甲(アンチマジックアーマ)

【ジェノス・アンジェラス】
・広範囲殲滅魔法
・発動時、【才禍代償(ギア・ブレッシング)】の悪種凍結
・発動後、【才禍代償(ギア・ブレッシング)】の悪種進行加速

『スキル』
才禍代償(ギア・ブレッシング)
能力(ステイタス)の常時限界突破(リミット・オフ)
・交戦時及び発作時、複数の『状態異常』を併発
・発動中、能力値(アビリティ)、体力、精神力の低下

双分運命(アルメー)
経験値(エクセリア)の高補正
・技能習熟度の高補正

奏律曲光(ヴェル・アルドーレ)
・音、光属性の魔法効果増幅
・詠唱中、魔力制御に対する高補正

 ★★★★★
 名前から効果はフィーリングで書きました。
 良かったら感想・評価お願いします。モチベが上がります。


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二十六スレ目 

 

1:道化所属

やっべーよ。ロキめっちゃブチ切れてるよ。ラグナロク一歩手前だよ

 

 

2:名無しの冒険者

スレ立て乙

 

 

3:名無しの冒険者

スレ立て乙

 

 

4:名無しの冒険者

最初から絶望かよ

 

 

5:名無しの冒険者

【悲報】イッチ終了のお知らせ

 

 

6:名無しの冒険者

で、何したのイッチ?

 

 

7:道化所属

いや、スキルとステイタスの潜在値バレた

 

 

8:名無しの冒険者

ああ……

 

 

9:名無しの冒険者

それはキレるわな

 

 

10:名無しの冒険者

そもそもロキ結構イッチ溺愛してたしなぁ

 

 

11:名無しの冒険者

悪神なのに家族みたいに見てるし

 

 

12:名無しの冒険者

意外としっかりしとるしなぁ

 

 

13:名無しの冒険者

まあ妥当な行動じゃね?

 

 

14:名無しの冒険者

そもそもイッチがズタボロにされたのよく今までキレなかったよな

 

 

15:名無しの冒険者

怒り溜めて爆発したんやろ。しゃーなし

 

 

16:道化所属

いや俺じゃなくてヘラにブチ切れ。あのヘラが正座してる

 

 

17:名無しの冒険者

母は強し

 

 

18:名無しの冒険者

傲岸不遜なあの神が……

 

 

19:名無しの冒険者

メーテリアと同じレベルの怒りと見た

 

 

20:名無しの冒険者

正確には母親代わりだけどな

 

 

21:道化所属

ワイがファミリアに戻る事は当然として、リヴァイアサンの外殻の一部やある程度の違約金くらいはもぎ取った。ヘラは別に違反してないけど追い込み過ぎてやらかした自覚あるらしいし。当然ながら黒竜討伐の参加は却下された

 

 

22:名無しの冒険者

そりゃ爆弾みたいなスキル抱えたらなぁ

 

 

23:名無しの冒険者

怖いんやろな。イッチがイッチじゃなくなるの

 

 

24:名無しの冒険者

代償が人間性の消失って、ロキは許したくないやろ

 

 

25:名無しの冒険者

衛宮士郎がエミヤになるみたいに

 

 

26:道化所属

この身は戦うごとに、精霊ヴィルデアに置き換わっていた

 

 

27:名無しの冒険者

認識が甘いぞ女帝!

 

 

28:名無しの冒険者

今お前が相手にしてるのは精霊の紛い物だ!!

 

 

29:道化所属

紛い物じゃないんだよなぁコレが。最近調べたんだけど、精霊の血の濃度が濃くなってる。効能は前より強くなるらしいから、メーテリアの延命は確実や

 

 

30:名無しの冒険者

ダニィ!?

 

 

31:名無しの冒険者

もしかしてデメリットよりメリットが大きかったりする?

 

 

32:名無しの冒険者

このまま精霊になっちゃえYO

 

 

33:道化所属

いや、幾ら精霊の血が強くなっても病は治らない。そもそも神秘が強過ぎてメーテリアが保たない。そこは単純にメーテリアの身体の弱さが問題だな。それにどこまで行っても『良く効く薬』程度にしかならない。持病を止めてもそれ以上にはならん。

 

 

34:名無しの冒険者

延命は出来てもやっぱ不治の病は治らないのか

 

 

35:名無しの冒険者

医神がお手上げならどうしようもあらへんしなぁ

 

 

36:道化所属

ああ、その献血の契約は継続するがどうにも出来ないのが歯痒い

 

 

37:名無しの冒険者

その世界に呪いはあっても病気に対する特効の回復魔法があらへんしな

 

 

38:名無しの冒険者

聖女も恐らく無理やしなぁ

 

 

39:名無しの冒険者

今だと産まれて間もないくらいか?

 

 

40:名無しの冒険者

オラリオは設備が充実しとる。都市街の治療もそんなにやろ

 

 

41:名無しの冒険者

その世界の病気ってこっちの医療通じへんしな

 

 

42:道化所属

それも考えて一通り調べたけど、風邪や癌とか典型的な病はこっちの世界にもある。その上で不治の病と言われてるからどうしようもない

 

 

43:名無しの冒険者

……まあ、せめて延命出来ればええやろ

 

 

44:名無しの冒険者

早く死ぬより長く生きる方がええのは当然やしな

 

 

45:名無しの冒険者

そこは置いといて、黒竜戦まであとどのくらいや?

 

 

46:道化所属

あと一年。ゼウスとヘラの共闘にワイも誘われたけどロキがあの様子やとお留守番かなぁ

 

 

47:名無しの冒険者

いよいよ黒竜かぁ

 

 

48:名無しの冒険者

リヴァイアサン倒したし覇気が上がっとるわ

 

 

49:名無しの冒険者

多分この一年で女帝のレベル上がるやろ

 

 

50:名無しの冒険者

それな

 

 

51:名無しの冒険者

マキシム、女帝の二段構えやし

 

 

52:名無しの冒険者

まあ、そこは問題ないやろ

 

 

53:道化所属

あの二人が揃うと負ける姿はあんま想像出来ない

 

 

54:名無しの冒険者

ああ……うん、せやね

 

 

55:名無しの冒険者

イッチが心配した所でやろ

 

 

56:名無しの冒険者

あとは何かないの?イッチの身辺状況とか

 

 

57:名無しの冒険者

アルフィアと何か無かったのか?

 

 

58:道化所属

あの……えっとですね

 

 

59:名無しの冒険者 

何が思い当たる節やぞ

 

 

60:名無しの冒険者

返答次第じゃアンチの嵐やぞ

 

 

61:名無しの冒険者

言葉を慎重に選べよイッチ

 

 

62:名無しの冒険者

今際の際だぞ

 

 

63:道化所属

えっ、じゃあ言わなくていい?

 

 

64:名無しの冒険者

待て

 

 

65:名無しの冒険者

その反抗はズル過ぎねぇ?

 

 

66:名無しの冒険者

外道過ぎる

 

 

67:名無しの冒険者

やめんなーー!!

 

 

68:名無しの冒険者

つかお前が始めたスレだろ

 

 

69:名無しの冒険者

こんなんじゃ何もできなぇよ……

 

 

70:名無しの冒険者

すまん。ワイらは何も言わんから話してみ?

 

 

71:道化所属

その、【ヘラ・ファミリア】のエルフっ娘リリナちゃんに告られまして……

 

 

72:名無しの冒険者

死ね

 

 

73:名無しの冒険者

死ね

 

 

74:名無しの冒険者

死ね

 

 

75:名無しの冒険者

訓練されたスレ民達の罵倒

 

 

76:名無しの冒険者

ストレートに言ってきたなぁ

 

 

77:名無しの冒険者

美少女に告白されるとか羨ましいんだよ死ね

 

 

78:名無しの冒険者

写真ないの?はよはよ

 

 

79:道化所属

これ…… 【画像】

どこがいいんだよ、こんなワイ

 

 

80:名無しの冒険者

可愛いかよ、うらやま

 

 

81:名無しの冒険者

式守さんのエルフverみたいな容姿やな

 

 

82:名無しの冒険者

胸も大きい。えちえちだぁ

 

 

83:名無しの冒険者

イッチそろそろ死んだ方がええで

 

 

84:道化所属

お前らが安価した結果やろがい!?

 

 

85:名無しの冒険者

それはそれ、これはこれや

 

 

86:名無しの冒険者

でもイッチは【ヘラ・ファミリア】抜けたんやろ?

 

 

87:名無しの冒険者

他派閥の恋愛は無理くね?

 

 

88:名無しの冒険者

道化所属に戻っとるし

 

 

89:名無しの冒険者

ヘラがそれを許すんかいな?

 

 

90:名無しの冒険者

いや許しそうじゃね?自分の眷属には寛大だし

 

 

91:名無しの冒険者

むしろそれを理由に【ヘラ・ファミリア】に戻される可能性が微レ存

 

 

92:名無しの冒険者

まあ振っても殺される可能性アリか。ウチの子よくも泣かせたなとモンペでくる可能性あり

 

 

93:道化所属

えっ、これワイもしかして詰んでる?

 

 

94:名無しの冒険者

せやね

 

 

95:名無しの冒険者

理由さえあれば容赦無いやろ

 

 

96:名無しの冒険者

そもそもヘラが武力行使しないだけ奇跡やし

 

 

97:名無しの冒険者

イッチがどちらと付き合ったとしても詰んでるなぁ

 

 

98:名無しの冒険者

もう開き直って【ヘラ・ファミリア】行けば?

 

 

99:名無しの冒険者

女に囲まれて嬉しいだろ?

 

 

100:道化所属

あの屈強な女に囲まれて死を何度も経験して、飴と鞭が鞭に九割くらい傾いてて、いっそ生きてるのが辛いって思った事があるんやけど、それ聞いて戻りたいと思う?

 

 

101:名無しの冒険者

絶対嫌

 

 

102:名無しの冒険者

ワイは無理や

 

 

103:名無しの冒険者

すまんイッチ、それは質問が悪かったわ

 

 

104:名無しの冒険者 

はっ?何言ってんの?

強い女に囲まれて毎日SMプレイ(戦闘)出来る

最高じゃないか

 

 

105:名無しの冒険者

>>104 キッショ

 

 

106:名無しの冒険者

>>104 キッショ

 

 

107:名無しの冒険者

>>104 救いようがないねん

 

 

108:名無しの冒険者

>>104 もうお前行ってこいよ

 

 

109:名無しの冒険者

SMの概念超えての殺し合いやぞ

 

 

110:名無しの冒険者

それ喜ぶの剣八くらいやろ

 

 

111:道化所属

ホームに帰れて嬉しい

フィン達が優しく出迎えてくれて落ち着く

もう色々あり過ぎて三人に抱きついて泣いた

 

 

112:名無しの冒険者

割とホームシックやんけww

 

 

113:名無しの冒険者

イッチの人生かなり波瀾万丈やしな

 

 

114:名無しの冒険者

その原因の半分くらいはワイらのせいやけど

 

 

115:道化所属

だったら自重してくれない?

 

 

116:名無しの冒険者

だが断る

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 欠伸を溢した。

 ソファーに腰掛けながらも、眠たげな様子で灰色の髪を靡かせて暇を持て余していたアルフィアと、コーヒーを淹れて報告書を纏めている女帝が興味本位でアルフィアに尋ねた。

 

 

「良かったの?」

「何の話だ」

「ノーグが帰った事」

 

 

 本を読むアルフィアに女帝は尋ねた。

 アルフィアの体調も全快とはいかず、知っている一部の者達がアルフィアに構いにいく。少し煩わしそうにしていたが、魔法をぶっ放さないだけ嫌という訳ではないのだろう。

 

 

「そういう契約だった。それだけだ」

「そう?でもいざとなったら私達は力づくで奪い取ってた。ノーグには悪いけれどね」

「その場合、ノーグは私達に力を貸してくれる事はないだろう。冷静な男ではあるが、情が深い。籠絡したい気持ちは理解出来るがな」

 

 

 女帝はノーグの力をかなり評価している。

 素質だけ言えば、アルフィアと同等。いずれLv.9となる女帝さえ超えるだけの才能を秘めている。精霊と混ざり合ったからという理由だけでは説明がつかない。元々、そういう素質があったのだろう。

 

 今の【ロキ・ファミリア】では持て余す。

 ノーグは既に総合値だけなら【勇者(ブレイバー)】を遙かに超えている。戻した所で慎重さに拍車がかかり、成長が遅くなるのは目に見えている。『戦争遊戯(ウォーゲーム)』で奪う事も視野に入れていたが、それをノーグは認めないだろう。紡いだ絆をふいにすればどうなるかは目に見えている。

 

 

「まあ……正直残ってほしかったけどな」

「えっ?」

「ん? ──っ、忘れてくれ」

「はいはい。その程度の素直さくらい恥ずかしがる事でもないでしょうに」

 

 

 それはそれとして、ノーグはモテる。

 何せ傲岸不遜の灰色の魔女に此処までの顔をさせているくらいだ。レシアもそうだが、メナも好感度は高い。副団長と紅に関しては先輩後輩くらいの距離感を保っているが、居なくなれば少しだけ寂しそうにしていた。

 

 抜けた穴は意外と大きい。

 無限の精神力回復と、異次元のサポート、そして圧倒的な魔法の出力の潜在能力。リヴァイアサン戦での立役者は間違いなくノーグだ。そこからか惹かれる者が多くなった。性格や容姿、知能や戦闘力、料理の腕も高く、気遣いが上手い。ゼウスのような煩悩の欲を感じさせない所から恋に堕ちる者が二桁が三桁になる勢いだ。

 

 

「……少しは素直にならないとリリナに取られるわよ?」

「何故あのエルフの名が出てくる」

「だってリリナ、ノーグに告白してるし」

「…………はっ?」

 

 

 自分では気付けないくらい低い声が出ていた。

 その声を聞いた女帝は呆気に取られながらも、頰に一筋の冷や汗を垂らした。

 

 

 ★★★★★

 

 

 二十四階層。

 別名『大樹の迷宮』と呼ばれ、十メドルを超える高低差、幾つもある小さな樹洞、層域特有の植物群、青光苔に照らされた幻想的な空間を醸し出す裏腹に、冒険者を魅了し、死へ誘う罠が森に潜む。

 

 時に毒が、狡猾な怪物が、植物が、大地が敵と化す中堅のファミリアが探索する領域に、黒髪のサポーターと藍色の髪の魔法剣士は足を踏み入れていた。

 

 

「いやー久しぶりだね。二人で中層向かうの」

「まあな。お前そういやLv.4のランクアップが可能って聞いたけど」

「敏捷以外は低過ぎるから爺さんに断られた。まあ仕方ないヨネ!」

「相変わらずの紙装甲だな」

 

 

 二人はこれから更に下まで向かう。

 機動力優先のタッグ。ノーグが殺し、後ろでサポートしながら魔石を取り出していくサポーター。オッタルも居れば深層の一歩手前までは向かえるだろうが、今日は金稼ぎ優先だ。

 

 

「俺からしたらノーグの方が異常なんだけど、ランクアップ到達所要期間一ヶ月って何?」

「海の覇王はそれだけヤバかったって話だろ」

「まあそうなんだけど」

「俺はあくまで保留にしてるだけだ。魔力だけが抜きん出てたから出来なくはないけど軒並み能力値は低い。暫くは上げる事メインだな」

 

 

 アルフィア、レシア、メナ、後衛達も全員ランクアップしている。恐らく今回の討伐でゼウスの眷属との戦力差を僅かに超えた。女帝も紅と副団長もランクアップ間近、リリナはまだ数値が足りてないからランクアップ出来ないらしいが、偉業は貯まっているからノーグと同じだ。

 

 

「聞いたぜノーグぅ、リリナちゃんに告られたんだろ?」

「っ、何で知って」

「メーテリアから聞いた」

「いや何でアイツが知ってんだよ!?」

 

 

 リリナからメーテリアに相談したのだ。

 正直な話、狼狽えていた。「私は姉さんか、リリナちゃんのどちらを応援すればいいの…!?」とただでさえ身体が弱いのに胃を痛めていた。リリナは今まで自信がなく、一歩引くような性格ではあったが見違えるように今は自信を持って行動し、幹部としての風格を醸し出している。

 

 元々、復讐心もありエルフの森を焼いたクロッゾを憎む妖精ではあったが、ノーグとの時間があったからかその復讐心は薄れて本来の性格を取り戻したというのがヘラの見解だった。

 

 

「いや噂になってるぜ?リリナちゃん奥手だと思ってたけど、吹っ切れて気持ちをぶつけたことはウチのファミリアでも話題だし」

「暇人どもめ」

「ウチは色恋沙汰は少ないからなぁ。苛烈さマシマシで恋人作る機会なんて早々無いし」

 

 

 リリナは今、ノーグへの想いを曝け出している。

 若干、ライバルに対しての牽制の意味合いもあるのだろうが、恋する乙女は止まらないとはよく言ったものだ。

 

 

「(まあ……リリナはエルフだし、『時間』という意味も考えてメーテリアに相談したんだろうけど)」

 

 

 エルフの寿命は人間とは違う。

 人間が100年だとするなら、エルフは数百年。共に寄り添い生きることは出来たとしても、エルフの人生では限られた時間しか寄り添えない。必ず置いていく時が来てしまう。人に恋するエルフの定めと言えるだろう。

 

 実際は、ノーグのデメリットの中には『不老』が含まれてしまっているので、肉体的老化は停止する。精霊となれば()()()()()()()()()()()()()。まだ()()()()()()()()()()()()()()()()。ノーグ自身、人の在り方を外れた人智を超えた精霊への昇格は望むものではないだろう。

 

 精霊として生きるという事は人の身に抑え込まれた大精霊ヴィルデアの力が剥き出しになるという事。冬の精霊である以上、自覚はなくても冬を運ぶ存在になりかねない。今は片腕だけで済んでいるが、これが全身などに及べば触れ合う事すら危険になるだろう。

 

 

「(俺からしたら、アルフィアが『恋』って自覚しても静観する気がするんだよなぁ。病のせいもあるけど、自分が幸せになりたいって思いが欠けてるし)」

 

 

 ノーグはアルフィアの病を知らない。

 本人が意図的に隠している。アルフィアの弱点が露見すれば闇派閥の増長を招く。最悪の殺戮者メルティ・ザーラが消えたとしても、闇派閥にも第一級冒険者は多く存在する。それはまだ討伐が果たされていない。サポーターも知ったのは偶然だったが、その情報はゼウスの中でも一部しか知らない。

 

 現状、メーテリアもアルフィアも救える可能性が最も高いのはノーグから取れる大精霊の血のみ。ダンジョンではそれ以上の目処が立っていない。リヴァイアサンからも薬になるものは取れ無かった。

 

 可能性があるとするなら、それはダンジョンの更に最深部、もしくは黒竜の素材か。かつての神話では竜の血は絶大な生命力を及ぼすとされる。サポーターはその為、黒竜討伐に向かうつもりだ。

 

 

「マジで頑張れよノーグ」

「あぁ?何だ突然、気色悪い」

 

 

 大切な人を死なせたくないと思う気持ちは理解できる。生きたいと頑張り続けるメーテリアと違って、アルフィアは生きることに執着を見せていない。いつか死ぬことを認めた上で在り方を定めている。聡過ぎるが故にメーテリアとは正反対だ。

 

 だからきっと想いで繋ぎ止めるしか生きる糧を見出してはくれないだろう。そうであってほしいという願望を潜ませ、陰ながらサポーターは応援を口にした。

 

 

『いや、放してッッ……助けッ!!?』

「大人しくしろっ、この」

 

 

 聞こえた声に足を止めた。

 女の声が聞こえた。誰かに押さえ付けられて助けを呼ぶ悲鳴に二人はその場所へと走る。そこにあったのはガラの悪いタトゥーを入れたスキンヘッドの男が、歌人鳥(セイレーン)を縛り上げている光景だった。

 

 

「何の騒ぎだこれ?」

「モンスターの輸送?禁止されてる筈なんだけどなぁ」

「テメェらには関係……って【修羅】ァ!?」

 

 

 距離を取って退いた。

 戦闘になるかもしれないという咄嗟の行動。自分が悪行をしている自覚のある行動から、良からぬ事を企んでいる派閥の人間だと悟り、目を細めた。

 

 

「おい、何処のファミリアだ。怪物輸送は禁止な筈だ」

「っ、調教用のモンスターを捕らえようとしただけだ!関係ねぇだろ!?」

「へぇ、外に出せないのに調教する?んな嘘通じるか間抜け」

 

 

 剣に手をかけていつでも戦闘出来るように構える。

 スキンヘッドの男は舌打ちをして縛ったモンスターに目を向けた。此処で敵対すれば間違いなく殺される。【修羅】の異名は伊達ではない。女帝に勝てるとされる異才の持ち主に勝てると驕ってはいなかった。

 

 

「くっ……ああクソッ!解放しとけ…!変に敵対するよりマシだ」

「……で、でもよぉ」

「死にたいなら勝手にしろ!テメェら行くぞ!!」

 

 

 あくまで未遂。追いはしない。

 拘束しても此処はダンジョン。地上まで運べる余裕はない。殺すのも背後のファミリアが定かでない以上、殺しては罰則を食らう可能性もある。

 

 

「ったく、何なんだアイツら」

歌人鳥(セイレーン)だね。あれ?さっきは女の子の声がした気がしたんだけど」

 

 

 確かに聞こえていた。

 ノーグの耳にもハッキリと聞こえていたが、あのスキンヘッドの男の連れには女は居なかった。

 

 

「……俺も聞こえたが、歌人鳥(セイレーン)共通語(コイネー)を話す訳ねえだろ」

「それもそっか」

「あノ……」

 

 

 その声に身体が硬直した。

 ギギギ、と錆びたブリキのようにその声の方向へと振り向くと、困った顔をして襲ってこない歌人鳥(セイレーン)が口を開いた。

 

 

 

「ちょっとだけなラ、話せまス」

 

 

 

 サポーターは瞠目し、ノーグは頭を抱えた。

 リリナの告白、黒竜討伐、メーテリアの持病、そしてこの喋る歌人鳥(セイレーン)。考えることをやめられるならそうしたかった。

 

 

「……マジ?」

「………どうしてこう、立て続けに問題が起こるんだよ」

 

 

 二人は初めて目撃した。

 知性を持ち、人類と同じ言語を話すモンスター。『異端児(ゼノス)』というイレギュラーな怪物の姿を。

 

 





 そろそろオラトリア編の原作に向かえるかな。
 
 良かったら感想・評価お願い致します。
 内定決まりました。モチベが上がり始めましたので課題の合間ですが書いていきたいと思います。


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二十七スレ目

 

 

 初めて見た。

 喋るモンスターという存在について俺も幾分か考えた事はあった。この世界にはモンスターを操る為に調教するテイマーは存在する。命令通りにモンスターを行動させる為に躾を繰り返し行う事で従順な僕として扱う人間はいる。

 

 今の時代はそれが禁止されている訳ではないが、メリットが無さすぎるのだ。先ず地上へ調教したモンスターは出せない。調教しても怪物に怯える民衆も居る上、それを許可したら闇派閥が良からぬ企みをしかねない。調教に時間がかかるのは当然として、ダンジョンに置いていたとしても誰かに狩られたらそこで終わり。リスクリターンが釣り合わない為、『調教師(テイマー)』の数は激減した。

 

 居ない訳ではないが、数少ないだろう。

 そしてその数少ない『調教師(テイマー)』によってある程度の知性を持つ存在は聞いた事があるが、流石に喋るモンスターなんて存在は噂でも聞いた事が無い。高度な知性を持ち、人類の対話が可能である怪物。

 

 剣を抜いた。

 この存在は危険過ぎると警鐘を鳴らしていた。

 

 

「待ってくれ!!」

「……何で止める」

「止めるよ。そりゃ止めなきゃお前殺してたろ!?」

「当たり前だろ。止める理由がない」

 

 

 サポーターは俺の前に立った。

 剣を向ける歌人鳥(セイレーン)の前に両手を広げて庇っている。目を細めて睨み付けるが、一向に退く気配はない。

 

 

「モンスターとは言えど喋る訳で対話が可能なら襲わないだろ?」

「遂に頭がイカれたか?他の怪物と違ってコイツは()()()()()()()()()()。そんな危険な存在は摘んでおくのが最善だろ」

「だからっていきなり縛られて恐怖しているのに斬ろうとするか!?ほらプルプル震えてるし!」

「アホか。怪物と人類が相容れずに千年も殺し合いを続けてたってのにお気楽な頭してんな。それは今に始まった事じゃねえけど」

 

 

 存在そのものが危険過ぎる。

 これは生かしておいていいのか聞くまでもない。にも関わらずサポーターは庇うように真っ直ぐな瞳で睨み付ける俺の眼光を受け止めていた。

 

 

「話を聞こう。どうするかはその後でもいい筈だ」

「狡猾なモンスターは深層に腐るほど居た。だがコイツは喋れるだけの知性からしてそれ以上の潜在能力だ。それを見逃してこの先牙を剥いたらどうするつもりだ」

「俺が止める。その時は責任持って俺が殺す」

 

 

 それが出来るとは思えない。

 ハッタリに過ぎない言葉で剣を収めるつもりはない。震えた様子の歌人鳥(セイレーン)は人間に見えていたとしてもだ。

 

 

「……お前がそうするだけの理由はなんだ」

「もしかしたら終わるかもしれないだろ?怪物と人類の戦争の歴史に終止符を打てるかもしれない。この子はその可能性なんだ」

「逃げ腰のお前にそんな誇大妄想が実現出来ると?笑わせんな」

「だからこの件は【ゼウス・ファミリア】で預かる」

「!」

「それなら、可能性はゼロじゃないだろ?」

 

 

 二大派閥の一角として対処するなら確かに可能性はゼロではないが、ゼウスはさておきマキシムがそれを納得出来るとは思えない。モンスターである存在に希望を賭けはしないだろう。出来たとしても隠蔽と現状維持が精一杯な筈だ。

 

 

「誇大妄想でも、可能性があるなら賭けてみたい」

「正気か?そんな戯言が本気で叶うと思ってんのか?」

「ああ……頼む」

「………チッ」

 

 

 だが、ゼウスが動く事を考えれば目を瞑るしかない。

 戯言だろうとそうでなかろうと、この異常事態はどの道誰かが対処しなければいけない。モンスターとして殺す在り方を貫くか、和解する事で共存を許容出来る世界の可能性を見出すかの分岐点だ。眉間を押さえて深くため息を吐いた。

 

 

「あくまで事情を聞いてから判断してやる。俺のファミリアにこの件の問題は抱え込めねぇし、怪物を殺せというのがファミリアの総意だ」

「っ……」

「俺個人として口を噤んでやる。けど、俺のファミリアを巻き込むことは許さない。人類に牙を剥いたらお前が責任持って始末する事を忘れんな」

「……ありがとう」

 

 

 特にフィンはそう言うだろう。

 ファミリアとしては警戒心を下げたり、名声に傷が付く厄ネタを持っていく事はできない。怪物に殺された人間だって多いし、納得は難しい。知らぬフリをして現状維持の方がまだいいしな。

 

 

「で?お前、名前はあるのか?」

「……レイ、と申しまス」

「仲間はいるのか?場所は問わねえが、お前のように喋る存在はどれだけ居る?」

「今の所、喋れる存在は限られていまス。私が知る限り、三人ほど。発達器官から喋れずとも知性のある同胞はそこそこ居まス」

 

 

 発達器官を考えるとやはり異常だ。

 ダンジョンの何処で()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 冒険者と殺し合う事で間接的に覚えた?

 そんな訳がない。相対して殺されたらそこで終わりだ。

 

 人間を食う事で知性を得た?

 それも低い。警戒心はあるけど人を見る目が何処か違う。モンスターに穏やかな性格があるとは思わないが、あまりにも人に対して敵意の視線が薄過ぎる。

 

 

「知性を持ったお前達の目的はなんだ?人類抹殺?」

「しませン!!その……言わないとダメですか?」

「目的を隠して行動するなら俺はお前を危険指定として見るぞ」

「うっ……その」

 

 

 頰を赤くしてモジモジとしながらも小さな声で答えられた。

 

 

「抱きしめることができないので、愛する人に抱きしめて貰いたい……でス」

「…………」

「…………」

「あ、あノ…無言にならないでくださイ!?」

 

 

 何処かズレている返答に気が抜ける。人に良くしてもらった記憶があるのか。人に対して向ける感情を何処で抱いてるのか。阿呆らしくなってきた。嘘に見えないし、心からの本音なのだろう。

 

 

「……ハァ、警戒するのが馬鹿らしく思えてきた」

「めっちゃ可愛いじゃん」

「アウウ………」

「……もう好きにしろ。お前に任せるから適当になんとかしとけ」

「オッケー、そうするよ」

 

 

 サポーターは歌人鳥(セイレーン)のレイと話し始めた。

 言いたくはないが、こういう所には本当に敵わない。弱くて臆病で冒険者に向いてなどいないけれど、他人を信用して味方につける事に関してだけは天才だった。聡明な道化、引っ掻き回す事に定評があるのに憎めない奴であることに僅かにため息をついた。

 

 

 ★★★★★

 

 

1:道化所属

お前ら、喋るモンスターって知っとるか?

 

 

2:名無しの冒険者

待て

 

 

3:名無しの冒険者

と、とりあえずスレ立て乙

 

 

4:名無しの冒険者

展開が十六年も早いよ!?

 

 

5:名無しの冒険者

いや元を辿ればエンカウントって確かにこの時期だろ?

 

 

6:名無しの冒険者

マジかー、イッチが第一発見者かー

 

 

7:道化所属

その様子だと知ってるな?で、何やのこの喋るモンスター?

 

 

8:名無しの冒険者

異端児(ゼノス)』と言ってな。喋るモンスターだ

 

 

9:名無しの冒険者

そうやな

 

 

10:名無しの冒険者

>>8 説明雑っ!?

 

 

11:名無しの冒険者

もうちょっと何かなかった訳?

 

 

12:名無しの冒険者

つまる所、ダンジョンでドカーンってなってぎゅわーーんとなって生まれてくるモンスターって事!

 

 

13:名無しの冒険者

>>12 お前は炭治郎か

 

 

14:名無しの冒険者

>>13 いや恋柱じゃない?

 

 

15:名無しの冒険者

どっちもどっちだろ。この感覚派ども

 

 

16:名無しの冒険者

経験者は語るけど、転生者には語れない!

 

 

17:名無しの冒険者

だって原作に引っかかるもん!

 

 

18:道化所属

じゃあやっぱ殺した方がいいのか?よし殺ろう

 

 

19:名無しの冒険者

待っっって!?!?

 

 

20:名無しの冒険者

判断が早い!?

 

 

21:名無しの冒険者

女帝の面影を感じるわその迷いの無さ

 

 

22:道化所属

相手怪物だし、知性あったら狡猾さ覚えて怖くね?

 

 

23:名無しの冒険者

マズイぞ割とイッチに正当性がある

 

 

24:名無しの冒険者

客観的に見たらそうなんよなぁ……

 

 

25:名無しの冒険者

えっとな、まあ要するに『異端児(ゼノス)』は共生を目的とするモンスターや。未来的に言えばそれは約束されとるし

 

 

26:名無しの冒険者

ダンジョンのモンスターって魂がダンジョンに還るんやけど、その度に何度も輪廻転生が起きるとな。自然と覚えていられるようになっとるのよ

 

 

27:名無しの冒険者

そこから争いが不毛と感じるモンスターとして現れたんや

 

 

28:道化所属

輪廻転生……逆にそれが積み重なって憎悪を持つモンスターは?

 

 

29:名無しの冒険者

結論を言えば多分居る…とは思う

 

 

30:名無しの冒険者

知性の獲得から狡猾化した存在は居るとは思うけど、原作では現れた描写はないけど、ダンまちの世界って異常事態が多いし

 

 

31:名無しの冒険者

普通は記憶リセットされとるから問題ないという答えはあかんかも

 

 

32:名無しの冒険者

正直全ては作者のみぞ知る

 

 

33:名無しの冒険者

そもそもダンジョンって摩訶不思議だし

 

 

34:名無しの冒険者

神を憎んでる。過度な破壊は御法度。何処まで階層があるか不明。モンスターは無限にリスポーンするのは分かっとるけど、総数だけ言えば多分オラリオの住民を超えとるしなぁ

 

 

35:名無しの冒険者

喋るモンスターってイレギュラーもあるしなぁ

 

 

36:名無しの冒険者

あり得ない事があり得てしまう事があるのがその世界だな

 

 

37:名無しの冒険者

結論を言えばワイらも詳しくは知らん

 

 

38:道化所属

ええい、役に立たん。じゃあその『異端児(ゼノス)』を使って悪行を企む奴等はいるのか?

 

 

39:名無しの冒険者

悪行って訳じゃないけどモンスターを捕らえて外の貴族に密輸するようなファミリアはある

 

 

40:名無しの冒険者

快楽主義で殺そうとする奴もいるし

 

 

41:名無しの冒険者

人語が喋れるならその悲鳴は最高というサイコパスは確かにいる

 

 

42:名無しの冒険者

邪神や面白半分でそうする神はいるね

 

 

43:名無しの冒険者

名前はとりあえず伏せておくけど、少なからずオシリスやアパテーとは別種の存在やで

 

 

44:道化所属

モンスターの密輸はどうなっとる。先ず地上に上がれないやろ

 

 

45:名無しの冒険者

そこは自力で見つけぇや

 

 

46:名無しの冒険者

何でもかんでもスレ民を頼られてもなぁ

 

 

47:名無しの冒険者

あくまで『異端児(ゼノス)』分の情報の対価は払ったからええやろ

 

 

48:名無しの冒険者

ほながんばりぃ

 

 

49:名無しの冒険者

因みにその喋るモンスターの名前は?

 

 

50:道化所属

レイって名乗ってた。セイレーンの怪物やな

 

 

51:名無しの冒険者

イッチお前やっぱ女難の相が見えるで

 

 

52:名無しの冒険者

今のうちに背中刺されんように守っとき

 

 

53:道化所属

なんでっ!?

 

 

 ★★★★★

 

 

「(成る程な、モンスターの輪廻転生……)」

 

 

 モンスターの魂はダンジョンへと還る。

 輪廻転生を繰り返す事で魂が記憶を覚えて蓄積していく。怪物の継承輪廻。記憶を魂が覚えているのか。()()()()()()()()()()()知性を習得した。そう考えるのが妥当か。

 

 

「(考えた事もなかったが無限に湧くパラドックスから起きたバグみたいなものか。だとしたらやはり問題を抱えられねえ)」

 

 

 特に【ロキ・ファミリア】の悪評は広められない。

 それはフィンの夢を考えた上での判断だ。フィンが目指しているのは小人族の英雄、古代の英雄フィアナのように象徴的な意味合いを込めた在り方を示している。

 

 その上で言えば()()()()()()()

 俺はリヴァイアサン討伐で最も戦果を上げたと言ってもいい。外聞的にはやや語弊はあれど間違いはないだろう。第一級冒険者、ヘラとゼウス達が注目を置いている存在の帰還。今の時期、【ロキ・ファミリア】は上へと上がる勢いが最も強いと言える。

 

 そんな中、こんな情報は爆弾でしかない。

 導火線に起爆寸前の爆弾と言ってもいい。先ずフィンがそれを許さない。対話が可能であり、友好を望む怪物を受け入れられる訳がない。怪物は怪物と認識していなければ、殺す事に躊躇を生む。メリットデメリット差し引いても得策とは言えない。

 

 隠蔽、という訳ではないが一存でファミリアを巻き込むのは不本意だ。そもそもそんな異常事態を受け入れられるだけの規模ではない。人数こそ増えてきてはいるのだが、ゼウス達のように余裕がある訳ではない。

 

 ダンジョンから帰ってきて【ゼウス・ファミリア】に真っ先に相談に向かったサポーターを待っていると、小走りで俺の所まで来た。

 

 

「で、どうだったんだ?」

「『隠れ里』の情報は俺とノーグ、あとは爺さん(ゼウス)と団長達で共有して祈祷を捧げてる神ウラノスと相談かな。これ、場所の地図」

「俺はあくまで隠すだけだ。分かっているな?」

「ああ、だからこれは受け取らなくてもいいけど」

「……貰っておくよ。念の為な」

 

 

 いざという時の抑止力は必要だ。

 確認だけはしておくが、関与出来ることは少ないな。【ゼウス・ファミリア】でこの件は預かりとなったなら俺は沈黙を貫くだけだ。渡された『隠れ里』の地図を懐に入れた。

 

 

「神ウラノスってギルドの中枢の存在だろ?ギルドが認めるとは思えねえけど」

「そこは上手くやるさ。何たって俺だし」

 

 

 そういう所だけは強いから説得力がある。

 腹が立つ、と思いながらも心意を問う為に名を呼んだ。

 

 

 

「──()()()

 

 

 

 この男が何を考えているのか分からない。

 本気でこの争いの歴史に終止符を打てると思っているのか。嘘だけは許さないと、視線で答えてはアルゴに問う。

 

 

 

「お前は本気で怪物と友好を築きあげた世界が出来ると思っているのか?」

 

 

 

 俺は無理だと思っている。

 黙認での共存は出来ても友好を築き上げるのは不可能だというのが俺の意見だ。世界を変えられるだけの起爆材料になるとは思えない。誤って爆発すればそれこそ諍いが加速するだけだと思っている。

 

 アルゴは何を持って考えているのか。

 メリットが大きいわけでもなく、寧ろデメリットだらけだ。そんな中で喋る怪物を生かす選択をした。それが本当に実現出来ると思っているのか。尋ねた俺の言葉を聞いてフッ、と笑ってアルゴは答えた。

 

 

「知らん!」

「はっ?」

「俺は可能性を残すだけ。どうしたいか、どうなりたいかは本人達の頑張りだろ。それを支えてやるのが俺のやる事だと思ってる」

「これがお前の役割だと?」

「まあね。それにさ、俺は弱くてちっぽけな人間だからさ。英雄になれないし、英雄の夢を見るだけのクソガキだけどさ」

 

 

 空を見上げてアルゴは笑った。

 英雄になれる器でもなければ強さもない。どれだけ努力しても英傑と女帝のようにもなれず、我を通せるだけの強さを持ち合わせているわけでもない。臆病で弱くて、自分がちっぽけだと分かった上でそれでも笑う。

 

 

 

「──それでも、俺は笑える世界の希望を残したい。きっとそれが、俺が出来る精一杯なんだ」

 

 

 

 それが何処か俺まで笑えてしまう。

 喜劇にもならない。筋書き(プロット)なんて存在しない考え無しが考えついた物語にもならない道化の話。きっと讃えられる日は来ない。きっとそれが実現される日が来たとしても主役はアルゴじゃない。

 

 

「だから、この可能性は未来の英雄に託す!」

「結局人任せじゃねえか!……ったく」

 

 

 それでも未来でそれを肯定してくれる英雄に託す。 

 それがアルゴの選択が正しかったと笑える日が来るのならそれはきっと喜劇なのだろう。実現されるかなんて分からない遠い未来に送る可能性でしかないけれど。

 

 

「酒、飲みに行こうぜ。奢ってやる」

「おっ、いいね。ノーグから誘うなんて初めてじゃね?」

「そういう気分なんだよ」

 

 

 本当にそういう所だ。

 無鉄砲で馬鹿で逃げ腰で、英雄にはなれないと知りながら、英雄のように笑って未来を歩いているアルゴを見て何処か笑ってしまう。そういう所が嫌いになれないから、不思議な奴だ。

 

 ホント、愉快な奴だから友達をやめられないな。見てて面白いし。

 

 

 ★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………はっ?」

 

 

 

 前言撤回、友達やめます。

 心の底から低い声が酒場の一角で漏れ出ていた。考え無しなのは分かっていたが、考え無し過ぎて軽蔑する所まで来てしまっていた。

 

 

「嘘……だろ……」

「いやガチだから……」

「……お前…後で絶対にアルフィアに殺されるぞ」

「で、ですよね……」

 

 

 呆気に取られてこの後ゼウスやヘラの関係を考えたら相当恐ろしい未来が待っているのを察して頭を抱えた。酒場で告げられたその事実に酒に酔う事も出来ずにただただ頭が痛い。

 

 

「お前最低だな。せめて避妊しとけよ」

「やめてっ!?そんな目で俺を見ないで!?」

「見るわ馬鹿!ホント、何やってんだお前……」

「あー、その……助けてくれたりは」

「するか。勝手に死ね」

「ひどい!?」

 

 

 いや、本当に何やってんだよ……

 

 メーテリアを()()()()()なんて……。

 

 

 





 次回 結婚式
 
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祝福は幻の中で

 

 

 俺はメーテリアが好きだ。

 これは今更な話かもしれない。今だから言おうと思う。

 

 俺が冒険者を始めたきっかけは生きたいが為だった。生きる為にはお金が必要だし、強さが必要だった。両親がモンスターに食い殺されて、憎しみに走るよりも恐怖があった。いつか自分もこうなってしまうのではないかって。誰かを見捨てて自分だけが逃げてしまう時が来るんじゃないかって。

 

 俺は自分の逃げ足が少しだけ嫌いだった。

 逃げられるって事は生きる上で必要な事だ。けど、逃げるという行為は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。逃げるという選択肢があるなら臆病な俺は真っ先に逃げる事を選んでしまうから。

 

 俺は俺自身が天才でもなければ凡夫以下なのは身に染みて理解している。脚の速さだけが取り柄でも殺す才能が致命的に欠けている。モンスターを殺す事、人を殺す事、傷付けるという行動に一歩を踏み出す勇気が足りない。

 

 同じファミリアの傑物やよくパーティーを組むノーグとかオッタルとかを見ても、自分がああなれるなんて思っていない。それはきっと変わらない。

 

 きっとこの先もその足りない勇気を補えるような事はないだろうって思ってた。

 

 いつかは幸せになりたいって思った事がある。

 ゼウスの爺さんの愉快で痛快な生き様を見て真似た事はある。どれだけヘラにボコされても、どれだけ変態と罵られようが、それでも何処かついていきたくなる背中と生き様だから俺や団長達も馬鹿な爺さんのファミリアを抜け出さないと思ってるんだろうな。

 

 まあそんな愉快な生き様を真似しても意味なんてないって分かってるのに。

 

 俺には何もない。

 俺という虚像が道化を演じている。

 

 だって俺には誰かを救う勇気もない。誰かを守れる覚悟がない。英雄になりたいとか思う高尚な目標もなければ生きられたのならそれで良いって思える日々が満足していたから。

 

 だからきっとこの空っぽの自分を誰にも悟られず、日々の幸せを噛み締めていくのが俺にはお似合いなんだろうって、ずっと思ってた。

 

 

 俺がメーテリアに出会うまではそんな空虚な自分があったんだ。

 

 

 実を言うと、きっかけなんて些細なものだった。ゼウスの爺さんと一緒に覗きに行ったらバレて追い回されて殺されそうになった時、咄嗟に隠れた部屋に彼女はいた。

 

 薬の匂い、百合の華の匂い、部屋は何処か殺風景でカーテンが風に揺れる。ベッドの上で身体を起こし、木漏れ日から空を眺める白いお姫様がいた。

 

 

「──誰ですか?」

 

 

 呼吸を忘れた。顔が熱かった。

 生まれて初めての激情。心が揺れるような感覚に何処か幸せを感じている。美の女神様を見たような感覚とは違う。ただ、その光景が美しくて何も言えなくなった。さながらそれは白百合のようで可憐という言葉が似合う異国の姫にも思えた。

 

   

「?」

 

 

 質問の答えが返されない事にきょとんとしてる女の子を見て我に帰った。やっべ、そういや逃げてたんだった。今の俺、不法侵入もいい所じゃないか?

 

 

「あっ、いやお客さんとかじゃなくてちょっと逃げてて」

「何かあったんですか?」

「いや大した事じゃ……」

 

 

 覗きから逃げてきたなんて言えない。

 言葉に詰まっていると足音が聞こえてきた。背筋が凍り付いて震える事しかできない。アルフィアに見つかったら間違いなく殺される。何ならよく逃げられたと自分でも思っているが、奇跡は長く続かないようだ。

 

 せめてこの子の前で無惨な死体にならない事を祈りながら死神の足音に耳を傾け──

 

 

「えっ、ちょっ」

「此処に居てください」

 

 

 手を掴まれた。

 女の子は俺をクローゼットに押し込んだ。いきなりの侵入者である俺を匿う行為に呆気に取られながらもクローゼットの中に隠れると同時に勢いよくドアが開いた。

 

 

「メーテリア!」

「姉さん、少し煩いです」

「あっ、す、すまん。此処に黒髪で赤目のアホ面は来なかったか?」

 

 

 ア、アホ面……。

 俺の事を嫌ってるアルフィアの心情がよく分かるね。とは言えバレたら死ぬ為心臓の音が聞こえないように呼吸を止めて心拍を限界まで抑える事に必死になりながら、外の声に耳を傾ける。

 

 

()()()()()()()。ただ門の外に黒髪の人がチラッと見えましたけど」

「そうか。ありがとう」

 

 

 冷静さを欠いているのか気配から探知は出来ずに外に走り出す音が聞こえた。どうやら部屋から出ていったようだ。それを聞くとゆっくりクローゼットから外を覗き始めた。

 

 

「もう大丈夫ですよ」

「あ、ありがとう。その…どうして俺を」

「その、困ってそうだったから?」

「何で疑問形……? ま、まあ助かったよ。ありがとう」

 

 

 ただ、キッカケはそこからだった。

 

 俺が彼女と交流を始めたのはその日からだった。

 

 この出会いがきっと俺の運命を変えたんだ。

 

 空虚で全く取り柄のない俺が誰かの為に生きたいって思えたのは。

 

 劇的に変わった訳じゃない。人間の本質がそう簡単に変わる訳がない。怖いものは怖いし、逃げ癖は相変わらずだけどそれでも今があるのはきっとメーテリアがいるからだった。

 

 頑張った。それはもう死に物狂いで努力した。

 才能がなくても今はLv.4になった訳だし、そこはまあ誇っていいかな。

 

 才能もあって地獄を突き進むような努力をしてるノーグみたいにはなれないって分かってたけどそれでも頑張って今がある。みっともなくてもメーテリアの前ではカッコいい男になる為に。

 

 

 だから──

 

 

 

 想いを受け入れてくれたときは本当に嬉しかったんだ。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 黒竜戦まで残り一週間を切った。

 異端児(ゼノス)の対応や二大派閥との合同訓練、武具の調整など時間はあっという間に過ぎていく。そんな中でとびきりの爆弾である事件、メーテリアの妊娠について深くため息をついて眉間を押さえた。

 

 とりあえず言い分を聞く為、本人に直接聞く事にした。アルゴがメーテリアを連れ出して、お気に入りの教会にいるのだが空気は重い。

 

 

「で、どうすんだよ?」

「孕ませた責任は取る。けど……俺も少し軽率過ぎた」

「い、いやそんな事ないです! 誘ったのは私ですし、その……」

「言っておくが二人とも悪いからな。誘ったのも乗ったのも、お互いを考えるならまだそういう事をするべきじゃなかった。過程をすっ飛ばし過ぎだ」

 

 

 ヘラの怒りから血の惨状が目に見える近い未来に合掌した。

 あの日の二大祭。メーテリアに告白し受け入れてもらえた。秘密に交際していたのだが、最近体調のいい日にアルゴが一発かました事によりメーテリアが妊娠したらしい。今はまだお腹は大きくないが、次第に大きくなってくる。そうなれば隠しようが無い。

 

 ホントどうしよう……と頭を悩ませてお通夜状態になっていた。

 

 

「(まあ、他派閥との恋愛自体が悪いとは言い難い部分はあるけどな。節度さえあればそれくらいはあってもいい気もするが)」

 

 

 他派閥との恋愛が禁止になる理由には少し疑問を抱いている。信仰の問題か、他派閥との諍いが起こり得る可能性があったとしても、強い血を絶やさないという意味では不向きなシステムだろう。客観的に見れば別の会社に勤める人間同士では結婚出来ないと言われてるみたいで、ノーグはこの手の問題にはいつも疑問を抱いていた。

 

 

「(まあ、それは割とどうでもいいな。孕んでしまった以上は孕ませた男が悪いのは何処でも同じだし)」

 

 

 色々と順番を間違えたというか、親友がデキ婚してるとか夢にも思わなかった。少なからずアルゴは殺され、メーテリアの子がどちらかに所属するかの終末戦争(ラグナロク)が起きるだろう。八割ほどヘラが勝つと思うが。

 

 

「今までありがとなアルゴ」

「諦めないでっ!?諦められたら俺絶対死んじゃうから!?」

「とりあえずそこは置いといて」

「置かないで!?」

 

 

 アルゴは放っておいて問題はメーテリアだ。

 

 

「メーテリア、お前はどうしたいんだ?」

 

 

 一番苦労するのは孕ませた男より孕んでしまった女の方だ。それにメーテリアはアルゴに背負われたり介抱してもらわなければまともに歩く事が出来ない程に病弱だ。産むにしても、相当のリスクを抱える事になる。

 

 

「お前は身体が弱い。その上で子供を産む事は母胎であるお前に相当な負荷が掛かる。下手したら命がけかもしれねえ」

「……それでも、産みたいです」

「正直な話、俺は反対だ。客観的に見れば派閥の壁もそうだが、こればっかりは薬でどうこうなる問題じゃない。それでもか?」

「はい」

 

 

 深くため息をついて肩を竦めた。

 意見を出したところで覚悟が決まってるのなら説得など最初から意味はない。決めるのは二人であって、反対の意見を出しても産みたいという意思があるなら尊重するしかない。そこは当人達の問題だ。

 

 

「この件を知ってるのは?」

「まだノーグさんしか、後は診断してくれたディアンケヒト様も知ってます」

「ヘラやアルフィアには?」

「まだ……その、姉さんにバレたらアルゴさんが」

「ああ、うん言わなくていい」

 

 

 絶対殺される。

 アルフィアなら間違いなく爆散させてる。余りにも簡単にアルゴの死のイメージが百通りほど浮かんだ。秘密裏にするにしてもちゃんと避妊しとけと心の中で悪態を吐いた。

 

 

「とりあえず覚悟があるなら俺から言える事はねえよ。産みたいなら好きにすればいい。決めるのは二人だしな」

「……ありがとうございます」

「こうなった以上はバレるまで秘密にするしかない。他派閥同士での妊娠は大問題だから公に出来ないし」

 

 

 娼婦とかなら良かったかもしれない。

 避妊対策が万全とは言い難く、アマゾネスなどで一線を越えてしまって出来た子とかなら問題は問題だが、まあ……ギリ許される範疇だ。娼婦を職業としているならあり得なくはない。そう言ったリスクはあれど大金で遊女を買う身請けの概念がある。問題は金で解決できなくはない。

 

 だが、メーテリアはヘラの眷属。

 そもそも最大派閥の主神のお気に入りを孕ませたとなると……考えるだけでも悲惨である。下手をすれば二大派閥の関係性に亀裂が入って黒竜どころではなくなる。ゼウスの眷属はヘラ達には頭が上がらないので余計軋轢を生みかねない。

 

 

「……ウェディングドレス着せてやりたかったなぁ」

「言ってる場合かこの野郎。バレたらお前の死は確実だからな」

「あはは、だってさ……憧れるだろ?」

「確かに……結婚式はちょっと憧れますね」

「人が頭悩ませてんのに呑気な……」

 

 

 だが、気持ちは理解出来ない訳ではない。

 愛している女の晴れ舞台、人生で一度は憧れるウェディングドレス姿を見たいと思う。同じ立場なら確かに見たいと思うだろう。流石に順序をすっ飛ばしたアルゴと同じ立場にはならないと思うが。

 

 

「……擬似的でいいならやるか?結婚式」

「えっ?」

「あくまで擬似的にだ。来賓は居ないけどな」

 

 

 頭を掻きながら呆気に取られた二人にノーグは僅かに笑う。一先ず悲惨な未来から目を背け、素直に祝福する事にした。

 

 

 ★★★★★

 

 

 教会の扉が開く。

 来賓代わりに参列するのは形を成していない微精霊達。拍手をするかのように身体を動かして笑っている。教会のスタンドグラスから差し込む光は扉を開けた二人を祝福するかのようで、即興にしては大した演出である事を見て少しだけ自画自賛したい気分だ。

 

 

「新郎新婦、入場」

 

 

 白いスーツを身に纏い、ガチガチに緊張しているアルゴの肘を掴んで歩く純白のウェディングドレスに身を包んだメーテリアが微笑みながら教会をゆっくりと歩いている。

 

 

「どうですか?アルゴさん」

「綺麗……ホント、ノーグのセンスに今はただ感謝してる……!」

「泣くなよ」

 

 

 ノーグの第二魔法【リア・スノーライズ】。

 それは極寒や氷結範囲に幻影を生み出せる。教会の床を軽く凍らせてわざわざ幻影を生み出し、結婚式をそれっぽく演出しているに過ぎない。メーテリアのウェディングドレスもノーグの想像を当て嵌めているだけだが、アルゴは感無量と言わんばかりに号泣していた。

 

 

「新郎アルゴ・クラネル。新婦メーテリアを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も、健やかなる時も共に歩み、死が二人を分かつまで、愛を誓い妻を想い、妻のみに添うことを誓いますか?」

 

「誓います。俺はメーテリアを幸せにします」

 

「新婦メーテリア。新郎アルゴ・クラネルを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も、健やかなる時も共に歩み、死が二人を分かつまで、愛を誓い夫を想い、夫のみに添うことを誓いますか?」

 

「はい。誓います」

 

 

 手を握りながら、二人は愛を誓う。

 この先、本当にどうなるか分からない。いずれケジメは付けなければいけないのは事実で、二人が愛し合っていてもファミリアの壁や立場がある。きっと後悔する事もあれば苦労する事もあるのだろう。

 

 

「新郎アルゴ・クラネル、新婦メーテリア」

 

 

 親友としてノーグは二人に誓いを尋ねた。

 

 

「君達はこれから様々な苦難の道を歩むだろう。他派閥の諍い、子供の問題、様々な困難が待っている」

 

 

 こればかりはノーグにどうこう出来る話ではない。

 手助けは出来たとしても全て解決するなんて無理だ。この件はノーグの手に余り過ぎる。

 

 だが、それでも二人ならきっと──

 

 

「それでもなお、手を取り合って困難に立ち向かい、助け合っては進んで、支え合っては笑い合って、幸せな未来を歩く事を誓いますか?」

「!」

「ノーグさん……」

 

 

 お互いを助け合って生きていけるような気がするから。

 お互いに足りないものを埋めあって生きている。アルゴだって、メーテリアだけじゃない。ノーグやアルフィアも同じだ。一人で生きていくなんて出来ない。

 

 それでも二人の手が固く握られていた。

 離れないように、離さないように誓いを立てて笑っていた。

 

 

「覚悟は決まっています」

「誓うよ。そんな未来に進めるように」

 

 

 その二人の誓いにノーグも笑いを溢してしまった。

 二人ともまだ子供であると思っていた。子供のように一途な想いが曲がらないのも曲げられないのも分かっている。アルゴは馬鹿ではあるが、メーテリアに一途な想いを向けていたし、メーテリアも意外と頑固な部分はある。歳が近いから、まだ大人の手を借りなければ生きられないような子供だと、ずっと思い続けていた。

 

 今は少しだけ大人になった。

 そう思えるだけであるがそれでも二人は確かに幸せな未来に進もうとしている。それが何処か感慨深かった。

 

 

「では、指輪の交換を」

「えっ、指輪なんて」

「ちゃんとアルゴを見てみろ」

 

 

 アルゴは左手をポケットからずっと出さなかった。

 スリが起きる事を避けて握り続けていた。大事な物をしっかりと持つのはサポーターをやっている時からだ。その癖だけは見逃していない。

 

 

「その、順番が色々とおかしいかもしれないけど。君に似合う指輪を前から作ってたんだ。その……受け取って欲しい」

 

 

 そこには翡翠の宝石が淡い輝きを放つ指輪だった。

 翡翠の宝石言葉は『長寿』の意味が込められている。そして、メーテリアの眼の色でもある。アルフィアも右眼は翡翠の色をしているが、メーテリアは両眼が翡翠色。そんなメーテリアにアルゴが考えて相応しい指輪を用意していた。

 

 

「メ、メーテリア?」

「本当に、いいんですか……?」

 

 

 メーテリアは少し震えていた。

 顔を俯かせながら、涙を堪えているように見えた。

 

 

「私、助けてもらってばかりでアルゴさんやノーグさん達に頼りっきりなのに……こんなに幸せでいいのかな…って」

 

 

 泣きながら肩を震わせている。

 二人とてその気持ちは分からなくはない。誰かに助けてもらわなければ生きていけない人生は、きっと苦労をかけ続けて頼らなくてはいけない。一人で動けたなら、病弱ではなかったらまだこんなに辛くはなかったのかもしれない。顔を両手で押さえてメーテリアの手をアルゴは優しく包むように握る。

 

 

「俺は君が幸せなのが幸せだから。生きたいという思いがあったから君に出会えた。恥じることでもなんでもないさ。俺は君の生きたいという想いの強さに惚れたんだ」

「っ……」

「だから、俺は君と一緒の人生を歩みたい。受け取ってくれますか?」

 

 

 流れ落ちる涙を拭い、胸に手を当てて彼女は笑った。

 

 

「──はいっ!」

 

 

 二つの影が重なった。

 祝福の鐘は鳴らずとも、この光景が幻であったとしても、二人は涙を流して笑っていた。二人はまだ若いし、メーテリアだってこれからが一番大変なのだ。それでも死が二人を分つまで、幸せな未来を歩める事はノーグはただ祈っていた。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 結婚式が終わり、日も落ち始める。

 氷結張りにしてしまった教会を掃除した後、三人は帰り道の街道を歩いていた。メーテリアは長時間の散歩は出来ないし、居なくなればアルフィアが心配する為、寄り道をする事なく三人は帰っていく。

 

 

「そういや忘れてたが、ほれ」

「おっと、これは?」

「結婚祝い」

 

 

 投げ渡した小さな包みをアルゴが開く。

 中に入っていたのは深紅(ルベライト)の宝石のようで淡く艶のある色が輝き、花のような装飾が施された──

 

 

「ピアス?」

「お互いの耳にでも付けておけ。メレンで回収した珊瑚を加工して作ったんだよ。『幸福』と『長寿』の意味合いを持つ石だし、験担ぎにはなるだろ」

 

 

 リヴァイアサン討伐の後、破壊された海辺付近から珊瑚の一部を回収していた。捨てるには少し勿体無い気もしていたし、第一級冒険者となってからは都市外へ出る事が厳しくなっている。冒険者を外の国に引き込まれないようにする為のギルドの措置ではあるが、メレンなんて頻繁に行ける場所ではない為、ちょっとした記念物を作りたかったのもあるのだ。

 

 メーテリアには桜色。アルゴには深紅色。

 まあ、意味合いとしては偶々ではあるが祝いの品としても丁度いい気もしたのでそれを選んだ。

 

 

「これ凄い高いんじゃ……」

「元々お土産代わりに渡そうと思ってたし、加工もそんなに高くなかったから素直に受け取っとけ。それにお前らは指輪を人前で付けられないからな。それ(ピアス)は良くてもちゃんと隠しておけよ」

「うぐっ、そうだった」

「気を付けますね……」

 

 

 指輪は人前で見せたら絶対にバレてしまう為、精々同じ装飾品であれば問題はないだろう。二人の仲は両派閥とも知っている。神でなければピアスの事も誤魔化せる筈だ。

 

 メーテリアは嘘が下手なので勘付かれたらプレゼントを貰ったと言えば言い訳にはなるだろう。その場合は低確率で妹に手を出したなと鬼の形相でアルフィアの制裁をノーグが喰らう羽目になるかもしれないが。

 

 

「そういや聞いてなかったけど、子供の名前どうするんだ?」

「ああ、それなら決まってる」

「ほー、名前は?」

「女の子だったらリズで、男の子だったら──()()

 

 

 はっ?と思わず呆気に取られた声を漏らした。

 それはこの世界の最後の英雄を望む少年の名前、この物語の主人公の名前であるからこそ、ノーグは目を見開いて僅かに動揺した。

 

 

 

「(そうか……ベル・()()()()……!うろ覚え過ぎて忘れてたが主人公の名前……!)」

 

 

 

 物語をあまり知らないノーグ、よく見れば顔立ちから察する事が出来てしまった。深紅(ルベライト)の瞳を持つアルゴとメーテリアの白髪、その二つが合わさった子供の容姿が自然と頭に浮かんだ。

 

 そして漸く謎が解け、その事実に目元を押さえて天を仰いだ。

 

 

「……そういう因果か」

「ん?どうしたノーグ」

「いや、いい名前だな」

「だろ?」

 

 

 その少年が二人の子供だという事に今更気付いた。

 ベル・クラネル。ノーグが知る限りでは成長の早熟というレアスキルを手に入れて惚れた女の子に追いつく為に英雄の道を駆け上がるこの世界の主人公。それがこの二人から生まれるという事実にそれを気付かれないように押し殺して少し笑った。

 

 

「俺はこっちから帰るわ」

「じゃあ、またなノーグ」

「今日はありがとうございました」

「気にすんな。お幸せに」

 

 

 手を振って二人は離れていく。

 時間が経ち過ぎて忘れていた主人公の名前。そういえば苗字はクラネルだという事実を忘れていた。確信があった訳ではないが、『天啓』による二人の重要性について考えていたが漸く理由が分かった。

 

 

 

「……お前らだったのかよ」

 

 

 

 こんな事なら物語を読んでおけばよかったと空を見上げた。

 足りないからこそ補い合って今の二人があるならば、きっとベル・クラネルは誰かを想う優しさと誰にでも駆けつけられるような速さを持って産まれる。

 

 ちっぽけで頼りなくて誰かに助けてもらわなきゃ生きられない二人から主人公になれる存在が生まれると思うと、他人事だというのにそれが何処か嬉しく思えていた。

 

 

「さて、と」

 

 

 感傷に浸るのを止めて足を急に止めた。

 視られていた視線は邪なものではないと知っていたから放置していたが、二人がいなくなった今はもう放っておく必要はない。

 

 

「二人はもう行ったぞ」

 

 

 あの二人は気付かなかったが、ノーグは気付いていた。足を止めればザリッと地面が擦れる音が耳に聞こえた。第一級冒険者の癖に下手くそな尾行に若干呆れながらも立ち止まって木箱に視線を向けて語りかけた。

 

 

 

「いい加減姿を現したらどうだ?──()()()

 

 

 

 ビクッと長い耳が動いた。

 呆れと僅かながら苦笑を漏らしながら告げると怒られるのを覚悟している様子でタジタジになりながら木箱の裏に蹲って隠れていた一人のエルフが顔を出した。

 

 

「ハァ……盗み見とはいい趣味だな」

「その、覗く気はなかったんですけど」

「その言い訳は最初から覗いてた奴の言葉じゃねえから」

 

 

 うっ、と言葉を詰まらせてそっぽを向いた。

 まさか結婚式の実演をした所を覗かれるとは思わなかったが、二人にバレないように幻影でメッセージを送って放置していた。リリナは真面目で口が固い。今不利益になるような事を伝えないのはノーグも知っていた。

 

 

「内緒にしとけよ。今はデリケートな時期だ」

「分かってますけど……あとが怖いですね」

「それな」

 

 

 本当に後が怖い。

 特にアルゴの未来は少なからず真っ暗である。主にアルフィアの制裁を考えれば生きていられるかどうかすら悲惨である。いやアルフィアもそうだがヘラも中々に怖い。強く生きろと空を見上げて遠い目をしていた。

 

 

「俺は飯屋行くけど、リリナも来るか?」

「えっ、いいんですか?」

「ああ、いつも世話になってたし奢るけど」

「い、行きます!」

 

 

 黙ってくれた事に対する口止め料だが、リリナは鼻歌を歌いながら陽気な様子でノーグの隣に。日が落ち始め、赤く照らされた街道を二人はゆっくりと歩いていた。

 

 

「嬉しそうだな」

「そりゃそうですよ!というか私の想いに応える気がないのに誘うとかちょっと酷くないですか?普通の女の子だったら傷ついちゃいますよ?」

「あー、うんまあ……好きなの奢るよ」

「食べ物で釣られるような安い女の子じゃないんですよ!この、この!」

「痛い痛い。悪かったから背中を叩くな」

 

 

 魔導士とは言えLv.5の拳は地味に痛い。

 頬を膨らませて潤んだ瞳で叩いてくるあたり罪悪感も湧く。

 

 好きな女の子、好きで居てくれる女の子。

 選び切れずにいるがいずれは伝えなければいけない。告白を保留している辺り申し訳ない部分はあるが、今はこの形が一番いいのかもしれない。黒竜戦の前に浮かれられても落ち込まれても困るだろうし。

 

 かくなる上は少しだけ高い店を選───

 

 

「…………?」

「どうしました?」

「……気のせいか」

 

 

 足を止めて振り返るが誰もいない。

 僅かに感じた視線と気配はそこにはなかった。気を張り過ぎていたのか頭を掻きながら自分の臆病さに内心呆れながら足を進めていた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 私は最近ノーグと会っていない。

 偶にパーティに誘われる事はあれど、ノーグが【ヘラ・ファミリア】に所属していた時に比べれば大した回数は会っていない。

 

 それは単純に居心地の悪さを感じたからだ。自分の感情に振り回されている。リリナが告白したという事実を聞いて病気でもないのに胸が痛み、その感情の意味を理解したくないと必死で否定している。

 

 認めたくない。

 認めてしまえばきっとそれは傷付けるだけにしかならないから。

 

 もしも……本当にもしもの話をしよう。

 ノーグの隣に立てたとしてもそれは長く続かない。人の一生より短い時間しか生きられない私はきっとアイツを置いていく。妹より酷くはないが、この身体を蝕む病はきっとその時間を奪っていく。

 

 死ぬ前に我儘になってもいいはずだ。

 短い命ならその短い時間だけでも自分のものにしてもいいと。傲慢な女王たる考えならそうあってもいい筈だ。他人に気を使うなんて私らしくないのに───

 

 

 

『──アルフィア、行こうぜ』

 

 

 

 あの笑顔が曇る所を見たくなかった。

 目をギラつかせて、不敵に笑いながら背中を預けて戦うノーグの傷になんてなりたくない。大切だから関わりたくない。気を許し合える仲だからこそ、苦しんでほしくない。

 

 ああ、認めよう。

 恋という程大層なものを認めるつもりはないが、私はノーグには惹かれている所がある。だからリリナが告白していると分かった時は少しだけ苦い感情のようなものが湧いた。

 

 でも、複雑ではあったがそれはいいのかもしれない。 

 リリナはエルフである為、長命というその意味を私と同じくらい理解している。誰かを置いていったとしてもきっと最後まで寄り添えるだろう。ああ見えて強い奴だから。

 

 それがいい……それでいいんだ。

 

 

「!」

 

 

 メーテリアがまた部屋からいなかった。

 あの男が原因だな。青筋を浮かべとりあえず奴はシメる事を決めた。あの男、偶にメーテリアを誘拐するくせに帰ってくる時間が妙に律儀なのが腹が立つ。そろそろメーテリアも戻るだろうし、本の買い出しにでも出掛ける事にした。

 

 すっかり夕暮れで街は夜の騒がしさの前の静寂。歩くヒールの足跡が耳に響き、それがどこか心地いい。一人でいる事は何も気にする必要がなくて気楽だ。

 

 だからなのか、孤高を突き詰めるのは。

 孤高になれば恐れられ、畏怖される。そうあるならきっと関わりを持たなくなるから。雑音が嫌いだ。脆弱さが嫌いだ。私より長く生きられるくせに堕落している存在全てが嫌いだ。

 

 その在り方から【静寂】なんて二つ名を付けられるとは皮肉もいい所だが、私はそれでいい。きっとその在り方が正しい。

 

 

「食べ物で釣られるような安い女の子じゃないんですよ!この、この!」

「痛い痛い。悪かったから背中を叩くな」

 

 

 足を止めた。止めてしまった。

 声が聞こえた向かいの角から咄嗟に身を隠した。聞きたくない声、感情が複雑に絡み合って会いたくない男の僅かな談笑とその隣を歩く同じファミリアのエルフの声が耳に届いた。

 

 

「…………?」

「どうしました?」

「……気のせいか」

 

 

 向けた視線を感知してノーグが振り返る。

 同じレベルであったなら見抜かれていたが、気配を最大限に隠した私には気付かなかったようだ。

 

 

「………っ」

 

 

 ああこれだ。これだから嫌なのだ。

 自分の事は一番自分が理解しているからこそ胸を抉るような痛み。傲慢で気高くあろうとした自分に対する代償のようだ。

 

 この感情の名前はもう知ってる。

 

 認めたくないだけで、もう分からないなんてほど愚鈍ではない。

 

 でも、それでも……

 

 

「ノーグ……」

 

 

 それを認めてしまえば抑えられないから。

 心に蓋をして痛みを誤魔化す。それがきっと……私にとって正しい答えなのだろう。

 

 





 久しぶり。
 忙しいけどちょくちょくまた書いていくから応援してくれよな!感想評価待ってるぜ!モチベが上がりますわ!

 次回、始まりの終わり、終わりの始まり


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『     』

 

 

 

 

 黒竜討伐の日がやってきた。

 正確には二大派閥はこれから黒竜が佇んでいるとされる『竜の谷』へと向かう。オラリオの外へ出る城門の前には勝利を願う複数の民間人が二大派閥を見送りにやって来ている。

 

 

「いよいよか」

 

 

 人類を滅ぼす可能性を孕んだ危険の代表は二つ。

 

 一つが『大穴』。モンスターを無尽蔵に産み、人類が古代の時代から争い続け、蓋をされてもなお内部で冒険者を殺すモンスターを産み続ける迷宮。即ちダンジョンである。

 

 そしてもう一つが『三大討伐依頼(クエスト)』。

 蓋をされる『大穴』の防衛本能であったのかは不明だが、ダンジョンの階層主を越える三体のモンスター。海の覇王(リヴァイアサン)陸の巨獣(ベヒーモス)、そして天空の王とされた隻眼の黒竜が世界へと解き放たれ、今も世界の悲劇を繰り広げている。

 

 特に隻眼の黒竜は凶悪だ。

 かつて精霊の力を借り、古代の英雄達の中でも別格とされた最強の大英雄アルバートが片目しか奪う事が出来なかったとされる最強の竜種。そして何より()()()()()()()()()()()()

 

 海の覇王(リヴァイアサン)陸の巨獣(ベヒーモス)の討伐の際は入念な準備が出来た。それは敗戦となっても情報が存在したからだ。どう倒すのか、どうすれば勝てるのかを慎重に吟味し、その上で必要な物を全て揃えて勝利したと言っていい。

 

 過去の文献を漁ったが成果は全く見られず。

 残された記録の中には斥候部隊を使って情報を手に入れる作戦があったらしい。黒竜という存在は基本的に戦いの姿勢を見せず、ただ眠っている事の方が多い。藪を突けば何かしらの情報を手に入れられるかもしれないと斥候部隊が逃走を目的に攻撃をしたのだが、その斥候は帰ってくる事はなかったらしい。過去の記録では黒竜がどんな攻撃をするのかどんな特性を秘めているのか終ぞ知る事はできなかった。

 

 ただ、言えるとするなら凶悪な『竜種』が『竜の谷』から放たれている事を鑑みるに、隻眼の黒竜は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 竜種はダンジョンから生み出すモンスターの中では間違いなく最強の部類に入る。一同が気を引き締めて準備をしていた。

 

 

「よっ」

「あっ、ノーグ。見送りに来てくれたんだ」

「まーな。俺も元だが【ヘラ・ファミリア】ではあったしな」

 

 

 オラリオが凱旋を祈るパレードの唄が街に轟く中、ひょっこりと現れたノーグに女帝達も視線を向けた。改めて見ると壮観だ。二大派閥以外だと第一級冒険者が多い訳ではない。英雄候補がここまで揃うと圧巻の一言に尽きる。

 

 

「改めて見ると凄絶だな」

「それはそうでしょ。団長もLv.9になったし、紅さんと副団長もLv.8。レシアやアルフィアは私はまだだけどそれでも限界まで上げたし」

「ウチや女神フレイヤの所だと第一級冒険者は未だ二人ずつだぜ? 本来希少な第一級冒険者がここまで揃うとな」

「負ける気がしないね」

「わかる」

 

 

 マキシム率いる【ゼウス・ファミリア】の方がLv.7が多いが、質という意味では【ヘラ・ファミリア】が一歩勝る。そもそもマキシムはLv.8に留まって尚女帝と同格の戦闘力を兼ね備えている。Lv.6だけでも二大派閥合わせて100人を越える。世界で最も強く世界で最も堅牢な布陣が出来上がりそうだ。

 

 それに今回は【ポセイドン・ファミリア】の団長ガイネウスも存在している。前回使った【海神の三叉槍(ポセイドン・トライデント)】の運用の為に来ているようだ。

 

 

「ノーグさん!」

「おー、リリナ」

 

 

 トテテテと小走りで近づく所で足を引っ掛けて転びそうになる所をノーグが支える。何してんだと呆れそうになった時、支えて気付いた。身体が僅かに震えている。

 

 二大派閥が見た深層の限界到達地点まで見たリリナでさえ、黒竜討伐に関して身体が強張っている。

 

 

「っと……なんだ緊張してんのか?」

「うっ、その……はい」

「あはは。そういう所は変わらねえな」

 

 

 リヴァイアサン戦もそうだった。

 二人で小舟に入り、死ぬかもしれない作戦の要となった時は身体が震えて満足に動けるか心配だった。だが、戦闘となり決意を固めたリリナは強い。それはノーグが間近で見ていたから分かっていた。

 

 多少前向きになっても、未知に挑む際はこうなるところは相変わらずでやや苦笑した。

 

 

「その……ノーグさん」

「?」

「い、行く前に緊張をほぐしたいので……だ、抱き締めてもらえませんか?」

「………………はっ?」

 

 

 一瞬意識が飛んでいたようだ。

 咄嗟にメナに助けを求める視線を送るが、ニヤニヤとしながら面白いものを見るような視線が帰ってきた。

 

 

「やってあげなよノーグ」

「えっ、大衆やお前らの前で?」

「目は瞑ってあげるから、ギュッとやって一発かましちゃいなよ」

「おい黒竜の前に俺がお前をぶっ飛ばすぞ」

 

 

 まさか断るのか、という視線が集まり退くに退けなくなってしまった事に若干苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。アルフィアまで居るのにそんな事をするのはかなり気が引けるのだが、断ろうにも勇気を出して告げた一言で真っ赤になったリリナから潤んだ瞳が此方に向けられ、余計断れなくなった。

 

 

「ハァ……ほら、来い」

「!」

 

 

 観念して両手を広げると、リリナが胸に飛び込んできた。身長的に丁度いいので抱き締めやすい。背中に手を回して胸に顔を押し付けるリリナに対して、ノーグは頭を優しく撫でる。大衆もゼウスやヘラの眷属達も口笛や黄色い悲鳴を上げて茶化してくるが、反応したら負けなのでただ一言だけ告げた。

 

 

「ちゃんと帰ってこいよ」

「はい……!」

「ノーグ、アタシも」

「絶対ヤダわ」

 

 

 ただしレシア、テメーはダメだ。

 甘酸っぱさもクソもない性的にヤバいアマゾネスの抱擁は全力で回避した。ステイタスも負けてるので掴まれたら逃げられないため、ギリギリ捕まる前にザルドの後ろに隠れていた。

 

 

「おいおい小僧、情けなくないか?」

「同じ目にあってみろ。能力値で負けてんだぞ。好き放題されるわ」

「それはそれで羨ましい気もしなくはないが」

「レシアー! ザルドがお前の事好きだってー!」

「おまっ、馬鹿小僧!?」

 

 

 獰猛で勇猛なアマゾネスがザルドを襲った。

 強い男に惹かれるのはアマゾネスの性である。ザルドは脇目も振らず逃げ、レシアは追いかけた。ザルドに標的を押し付けてノーグは離脱した。

 

 

「ふうっ……あっ」

 

 

 離脱した先にいた黒いドレスと珍しく杖を握り締めて噴水の近くで座っているオラリオ最強の魔導士の姿を見ると、ノーグは手を振った。

 

 

「アルフィア」

「…………」

「アルフィア……?」

「…………」

「おーい」

五月蝿い(ゴスペル)

「へぶっ!?」

 

 

 特に攻撃を食らう理由もない無慈悲な暴力がノーグを襲った。いきなりの理不尽に怒りを露わにし、十メートルくらい吹っ飛んでガバリと起き上がった。

 

 

「無視した挙げ句、何しやがる!?」

「喧しい殺すぞ」

「パレードの音ぐらい我慢しろよ……騒がしいのが嫌いなのは知ってるけどさ」

 

 

 人を雑音扱いしないでほしい。

 そういう傲慢な所は本当にヘラにそっくりだ。曲がりなりにもリヴァイアサン討伐で背中を預け合ったのに絆レベルが上がってない事にガッカリしていた。

 

 

「アルフィア、手を出してくれるか」

 

 

 首を僅かに傾げながらアルフィアが手を出すとその上にノーグの左手を重ねた。一瞬だけ瞠目し、何のつもりだと視線で問い詰めるアルフィア。目を瞑り、ノーグは左手に意識を集中する。

 

 

「おい」

「いいから……『汝に精霊の加護が在らん事を』」

 

 

 身体から僅かに精神力が消費された。

 ノーグは大精霊ヴィルデアの力を持ち、精霊に近づいているのであるなら原理上は加護を付与する事も出来る。とはいえ近いだけで人間であるノーグではヴィルデアの加護は付与出来ない。実践はしたが、実戦で使えるものではないため結局は運試し程度でしか使えないが。

 

 

「ただの験担ぎだ。マジで宿ってるかは一割以下だけど」

「…………」

「生きて帰ってこい。オラリオで待ってるぜ」

「…………ああ」

 

 

 そういうとノーグはまた別の場所に向かっていく。

 掴まれた手をぎゅっぱっと握っては開き、加護が本当に宿っているのか確かめるが何も分からない。

 

 ただ、アルフィアは少しだけ笑っていた。

 冷たくて、まるで雪のようなノーグの手から込められた想いだけ心に留めて、少しだけ感傷に浸っていた。

 

 

 

 

 

「アルゴ」

「おっ、ノーグ」

「ピアス、付けたんだな」

「まーね。メーテリアと交換して験担ぎしといた」

 

 

 ノーグが渡した二色のピアスの内、メーテリアに渡した桜色のピアスがアルゴの左耳に付いていた。生きて帰ってきてほしいというメーテリアの願いを感じる。そして、アルゴが抱えるバスケットボールくらいの大きさの魔導具(マジックアイテム)に視線を向けると自慢して来た。アルゴが用意する類のものは大体逃走に必要な物ばかりでノーグはやや呆れていた。

 

 

「お前は前線には行かねえだろうけど、頑張れよ」

「ああ。まっ、ヤバくなったら逃げるさ」

「それはいつも通りだろうが」

 

 

 差し出された拳を合わせてお互いに笑い合った。

 これ以上言葉は要らない。やるべき事はお互いに分かっているから。

 

 かつての英雄の中には竜の血を浴びる事によって強靭な肉体と生命力を宿すことに成功した者がいる。ゼウスの記した英雄譚は全て原典、竜種の中でも『純血(オリジン)』とされる黒竜の血はメーテリアの病気を治せる可能性を秘めているから。

 

 ノーグは二大派閥が帰ってくるまでのこのオラリオの抑止力となる為、ダンジョンへ潜って自身の力を上げていく。お互いに役割を理解しているからこそ、言葉は多く要らない。ただ合わせた拳から熱意を受け取り、成功をお互いに祈るだけだ。

 

 

 そして──時間がやってきた。

 ヘラが先頭に立ち、神威と共にオラリオに響き渡るほどの怒号が一度静寂を生み出した。

 

 

「聞け、英傑達よ!」

 

「『三大討伐依頼(クエスト)』もいよいよ最後となった! 隻眼の黒竜、古代より精霊の力を借り、人類史の中で英雄と謳われた全ての存在が奴を前に破れ去った!」

 

「だが、断言しよう。千年の歴史の中でこの時代こそ、この時代を生きる我等こそ最強の精鋭! 千年の中でも異端でありながら歴代最強の英傑が揃った!!」

 

「『人類の終焉』そして『最強の竜』。相手にとって不足無し! 今まで積み上げてきた我等の力を以て奴を殺す!!」

 

「勝利を謳え! 我等が最強であると世界に示せ! 英雄候補から真の英雄へと至れ!」

 

 

 今、正に確信する。

 最強と最凶が織りなした千年の歴史の中で、その歴史にただの一度も終止符を打たなかったのは彼女が主神であるから。これほどのカリスマはゼウスを除いて他にいない。大神の神妃であり、恐怖を兼ね備えてもなおこのファミリアを支え続けた最凶の女神の神髄が戦士の恐怖さえも飲み込んだ。

 

 

 

「──勝つぞ!!」

 

 

 

 オオオオオオオオオッ──!!! と湧き上がる士気に叫ぶ最強の精鋭。これ以上とない程に挙げられた勝利への渇望。恐怖の全てを純粋な力で踏み躙り、最強の竜を殺す覇気を高めた最強と最凶の眷属の挑戦。

 

 そして──門が開かれた。

 二大派閥は『竜の谷』へと向かっていく。誰もが最強と認める英傑達がオラリオから離れていく。

 

 

 

「……行くか」

 

 

 

 ノーグはそれを見送りダンジョンへと向かった。

 最強に至りたい訳ではない。彼等のようになりたい訳ではない。英雄の志も、信念も今のノーグにはない。英傑達がいるのであれば自分がそうなる必要を考える意味がなかったから。

 

 ただ剣を取り始めた理由はまだ消えない。

 

 強くなりたいという思いが伝播したようで、身体の内に湧き上がった熱は消えない。どうやら自分にも生きたいと思う以上に悔しいと思う気持ちが存在していたようだ。すっかり感化されて、今までの自分を壊されて今がある。

 

 

「結局、俺もこの世界に染まったって事か」

 

 

 剣を携え、街を駆ける。

 力をつけるために、彼女に追い付くために、そしてこの世界を生きていく為にノーグは迷宮へと向かっていった。

 

 

 

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 ★★★★★

 

 

468:名無しの冒険者

いよいよ始まるなぁ暗黒期

 

 

469:名無しの冒険者

この時をずっと待ってた

 

 

470:名無しの冒険者

寧ろここから始まるやろワイらの英雄は

 

 

471:名無しの冒険者

ある意味、テンプレかもしれんけどグッと来てる自分がいる

 

 

472:名無しの冒険者

>>471 ワイも

 

 

473:名無しの冒険者

イッチが異物過ぎてどうなるか分からない所が唆る

 

 

474:名無しの冒険者

ザルドとアルフィアはまあ確定かな?

 

 

475:名無しの冒険者

いや精霊薬を摂取してると読めんなぁ

 

 

476:名無しの冒険者

俺はリリナちゃんを推すね、あの脚最高やろ

 

 

477:名無しの冒険者

>>477 お前脚フェチかよ……先輩と呼んでいいですか

 

 

478:名無しの冒険者

じゃあワイ蛮族女を推すわ。あのケツ最高やろ

 

 

479:名無しの冒険者

寧ろ誘ってるんだろぉ……フゥ(ボロン)

 

 

480:名無しの冒険者

こちらも抜かねば無作法というもの(コキ…)

 

 

481:名無しの冒険者

やめろ早漏ども

 

 

482:名無しの冒険者

妄想が捗り過ぎて異次元の方向性にイっちゃってるの草

 

 

483:名無しの冒険者

抜き終われ。話はそれからだ

 

 

484:名無しの冒険者

時系列どうなんやっけ? 追放からの暗黒期到来、ベル君誕生から剣姫ちゃん遭遇、『膝枕してほしい女神No.1』のファミリアが頭角を表すの認識でおk?

 

 

485:名無しの冒険者

大体あってる

 

 

486:名無しの冒険者

若干イッチが可哀想になってきたんやけど

 

 

487:名無しの冒険者

SAN値チェック失敗して英雄辞めない?

 

 

488:名無しの冒険者

あとこの掲示板の運営とかさ

 

 

489:解析最強ニキ

任せろ

 

 

490:名無しの冒険者

!!

 

 

491:名無しの冒険者

キター!世界で一番やべえ人!!

 

 

492:名無しの冒険者

待ってたぜええええええ!!

 

 

493:解析最強ニキ

イッチがスキル使わなくても此方から閲覧可能! 神の視点、つまり四次元の干渉!!

 

 

494:名無しの冒険者

超越視野(メタビジョン)』ならぬ『超越掲示板(メタスレッド)』!!

 

 

495:名無しの冒険者

うん、ここまで来ると流石に引く

 

 

496:名無しの冒険者

イッチが拒否しても繋がれるとかプライバシーやばやば

 

 

497:名無しの冒険者

もうストーカー超えてヤンデレやろ

 

 

498:名無しの冒険者

いつも見守っています(はぁと)

 

 

499:名無しの冒険者

キッショ

 

 

500:名無しの冒険者

いや割と事実なの草

 

 

501:名無しの冒険者

やってる事犯罪なんやけど、オラリオの法じゃワイらを裁けんしなぁ

 

 

502:名無しの冒険者

掲示板なんて治外法権もいい所やろ

 

 

503:名無しの冒険者

物語でしっちゃかめっちゃかしてるのを上から見てるワイら邪神やん

 

 

504:名無しの冒険者

だってその方がオモロいし

 

 

505:名無しの冒険者

だってその方が曇るし

 

 

506:名無しの冒険者

その方がずっと愉しく遊べるやろ?

 

 

507:名無しの冒険者

やっっっば……このスレ民邪悪過ぎ

 

 

508:名無しの冒険者

こいつはくせえッー! ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!!

 

 

509:名無しの冒険者

この計画いつからやっとった?

 

 

510:名無しの冒険者

イッチがレベル1の時から

 

 

511:名無しの冒険者

うわぁ……

 

 

512:名無しの冒険者

イッチに反撃されても知らんでこれ

 

 

513:名無しの冒険者

寧ろ挫折するんやない?

 

 

514:名無しの冒険者

大丈夫やろ。イッチやし

 

 

515:名無しの冒険者

謎の信頼感

 

 

516:名無しの冒険者

だってそっちの方が燃えるし、お前らも好きやろ?

 

 

517:名無しの冒険者

仲間の死を嘆いて奮い立つ英雄ってやつがさ

 

 

 

 ★★★★★★

 

 

「ハァ……ハァ……ッ!!!」

 

 

 女帝達がオラリオを去ってから二週間が経った。

 ノーグは走っていた。都市街を、女帝達が向かった『竜の谷』から一番近い都市までスキルを全開にして走り続けていた。【追走駆動(ウェルザー・ハイウェイ)】による敏捷の強化と加速限界の制限無視。恩恵を持たない人間ならば一ヶ月の道のりをノーグは恐ろしい速度で進んでいく。

 

 

「っっ、嘘だよな……!」

 

 

 あの英傑達が死ぬはずがない。

 その強さは身近で見ていたノーグが一番知っていた。だからあり得ない。あの人達が死ぬなんて想像が出来ないのに、まるで予定調和の如く盤外から告げられた『天啓』に血の気が引いて背筋が震えた。

 

 だってそれは何度も助けられた力だったから。

 だってそれは何度も窮地を救ってくれたものだったから。

 

 信じたくなかった。

 今まで頼りにしてきたモノの腹の中が底の見えない邪悪なんて知りたくなかった。ご都合主義の物語にさせたくないが故の邪悪達の沈黙が、この事態そのものを想定済みと軽く告げては嗤ってこの世界を見下ろす存在を認めたくなかった。

 

 

「ハァ…ハァ……魔法で精神力を回復させねえと……」

 

 

 とある街に着いた。

 一部の場所を凍結させて精神力を回復しようとした矢先、街は騒然として響き渡る絶叫が轟く。息を切らしながら騒ぎを無視し、詠唱を唱えようとしたその時──

 

 

「嘘だろおおおおおおぉぉ!?」

「ま、じかよ……!」

「あの二大派閥でもダメだったのかよ……ッ!」

 

 

 言葉を失った。

 ダメだった。その言葉が耳に聞こえた時に身体から熱が失われていく気がした。魔力を暴走させないように詠唱し切った後にすぐに魔法を切り、騒いでいた街の住人の一人に声を掛けた。

 

 

「おいおっさん、その新聞見せてくれるか?」

「あ、ああ……」

 

 

 渡された新聞紙を覗く。

 それはこの世界最新の情報。『帝国』から世界へと公表された結末。震えた手で渡された情報に目を通した。

 

 

 

 

 

 

 

『──【ゼウス・ファミリア】及び【ヘラ・ファミリア】壊滅。黒竜討伐は叶わず敗走し、僅か十数名を残し黒竜に虐殺。世界最強の敗北の報告により黒き終末に対し、帝国は世界連合との会議を発表』

 

 

 

 

 

 

 

 新聞紙が地面へと落ちた。

 世界が廻る。呼吸が乱れる。視界が歪む。前が見えない。

 

 ご都合主義の神様(デウスエクス・マキナ)にもなれず、ただ邪悪に未来を明け渡した故の末路。

 

 盤外からゲラゲラと嗤う声が幻聴となって世界を満たす。現実を生きるノーグと非現実を楽しむ邪悪。彼等にとって助言は『遊び』で、物語が破綻しない程度の『遊興』だった。

 

 

「あ……ああ………」

 

 

 今になって知った。

 小説と現実の世界の差異を。自分の歪さを。邪悪達の計画を。

 

 それは愚かしく、手遅れすぎた。

 仲間が死んだ事実の重さを邪悪達は感じられない。寧ろ物語が始まったと喜び、この世界を生きる自分の生き様を楽しんでいるように見えた。

 

 邪悪達にとって『死』とは物語の中の一つの転機でしかない。生きたいと願って『死』を恐れたノーグにとってそれは果てしなく重い現実だった。

 

 膝から崩れ落ちた。

 喉が張り裂けるような絶叫を、頭が狂ってしまうような絶望を、嫌に聞こえる鼓動の叫びと共に全てが溢れ出した。

 

 

 

 

「ああああああああぁぁあああぁああああああああああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああぁぁぁあああああぁぁぁ────!!!!」

 

 

 

 

 一つの都市に藍色の髪をした青年の慟哭が響き渡った。

 

 慟哭も涙も流れても何も変わらない。

 過去は変わらない。変えたくても何も変えられない。それが『現実』だった。世界で一番近くて、世界で最も残酷な世界の真理だった。

 

 千年の歴史を誇る二大派閥は壊滅した。

 

 始まりは終わり、終わりが始まる。

 

 第零章から第一章へと物語の幕を開き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『プロローグ』はこれにてお終い。

 

 これから始まるのは彼の『現実』のお話。

 

 誰が為の物語になるかは、彼の行く末次第。

 

 

 



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カランコエの祝福(のろい)

 

 

 

 ノーグは二大派閥の生き残りがいると噂されている都市まで必死に駆けていた。生き残りは十数名ならもしかしたらアルゴやアルフィア達は死ななかったのかもしれないと考えた。

 

 泣き喚いた。喉が裂けそうなほど叫んだ。

 死にたいとさえ思えた。その方がこの罪悪感から解放されるのではないかと思った。それでも死なない。そんな無責任な事は出来ないと唇を血が出るくらい噛み切り、生き残りを探す事以外を何も考えなかった。

 

 泣いても、苦しくても現状は変えられない。

 変えられたかもしれないなんて、自惚れていたのならそれは奴等への侮辱となる。どんな形であれ、自分がこの目で見て勝てると思っていたから深く追求しなかった。

 

 原作通りだったのかもしれない。

 物語的にはあの二大派閥は消えていたのかもしれない。

 

 それでも識れていたのなら。

 情報を深く読み切っていたのなら、回避出来ていたかもしれない。

 

 二大派閥がそんな言葉を聞いたら、自惚れるな阿呆が、と叱責していただろうけど。

 

 それでも、もう誰かに自分の意志を委ねる事は辞めた。

 生きていく情報の代償は重く、今となってはもう必要が無くなり、それに頼っていた自分の甘さがこんな状況を招いた。それを邪悪と嘆いても、それに縋っていたのは自分だった。

 

 

 

 もう、未来(さき)の知識を求めない。

 

 

 

 この日から、ノーグはもう二度と『天啓』に頼ることは無かった。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 とある都市についた。

 ヘラとゼウスは『竜の谷』に行けない。戦場に神を向かわせるわけにはいかない。送還による恩恵の封印を考慮し、都市に護衛を数人付けて都市で眷属達の帰りを待っていた。

 

 壊滅という惨状を考慮するならば、絶対重傷者がいる。今もなお都市で治療を受けている人間は絶対に存在する。それを考えた上で精霊薬と万能薬を数十本持って走ってきた。

 

 都市は騒ぎに騒いでいた。

 倒せなかった事に石を投げる人間はいない。倒せなかった責任を押し付けるような愚か者は存在しないとしても、齎された混沌と混乱は計り知れず世界に伝播していた。

 

 これからの未来をどうするか。

 

 最強亡き今、誰が『隻眼の黒竜』を討つのか。

 

 誰がこれから起こる『絶望』を止める事が止める事が出来るのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二大派閥が居るとされた治療院まで到着すると、そこには人並みが溢れかえっていた。アルフィアが居るのなら、間違いなく蹴散らしているその光景に目を見開き、顔を顰めた。

 

 

「『黒竜』はどうするんだ!?」

「『竜の谷』から出る竜の大群があちこちに散開してんだ!!」

「どうすればいい!何処に逃げればいいんだ!?」

 

 

 倒せなかった『黒竜』。拡大する被害。

 二大派閥の生き残りにこの後どうするのか尋ねたい人間ばかりだろう。最強が居なくなれば世界の均衡(パワーバランス)が崩れる。否、最初から均衡など崩れていた。決して癒せない爪痕を残し、追随を許さない空の暴君に為す術がなく『壊滅』という惨状を作り上げた。

 

 少なからず『竜の谷』から生まれる竜の群れを対処できる存在が殆どいない。『竜の谷』から生まれる竜を討伐するにあたっても最低でもLv.7以上の戦力が居なければならなくなる。

 

 被害は増えていく。

 竜の大群が街から、村から絶望を撒き散らすだろう。不安に煽られ、民衆がこうなってしまうのは無理もない。『黒竜』討伐に参加せず、現在治療に関わっていないLv.3の団員達が押し返している。

 

 

「邪魔だ。通してくれ」

「っ、なんだ邪魔をッ!?」

 

 

 チリッ、と焔が肩から漏れ出した。

 耳障りな雑音が、苛立ちとなって殺意に変わった。

 

 

 

「──退け」

 

 

 

 民衆が呼吸を忘れた。

 冷酷で無慈悲な『死』がそこにある。ただ冷たい殺意、ノーグにとって八つ当たりのような殺意でしかないが第一級冒険者の殺意は恩恵を持たない民衆にとって死神の鎌を突きつけられている感覚だった。これ以上騒ぎ、彼の行く末を阻むのであればそれは現実となると。僅かに漏れ出た黒い焔と鋭い眼光がこの場を静寂へと包み込んだ。

 

 

「今の俺は気が立ってんだ。これ以上邪魔するなら手を出さねえ保証はねえぞ」

「ッ……!」

「え…ノーグ……さん?」

 

 

 治療院に入るのを堰き止めていた団員が気付く。

 被害が出ないように制御した焔を消し、割れた人混みの中を通りながら唖然とした団員の一人に声をかけた。

 

 

「『万能薬(エリクサー)』や『精霊薬』を持ってきた。入れてくれ」

「あ…は、はい!!」

 

 

 騒然とする民衆を通り過ぎ、扉に手をかける。

 恐怖もある。後悔もある。今更二大派閥の顔を見れるのだろうか。手が震えて僅かに足が止まりそうになる。

 

 それでも此処まで来て引き返す訳にはいかない。

 どんな結果になっても受け入れなければならない。意を決してノーグは治療院の扉を開いた。

 

 

「………ッ」

 

 

 空気が重かった。

 覇気がまるで感じ取れなかった。まるで牙を抜かれてしまったかのような、そんな敗北後特有の空気の重さを感じた。

 

 入った瞬間、目に映るのは意気消沈しているゼウスの眷属達。数にして八人程度、しかも殆どがLv.3以下。唯一生き残っているLv.7は【暴喰】のザルド。マキシムや他の幹部達は見当たらない。

 

 何人かは治療の為に動いているが、恐らくLv.4〜8までの殆どが全滅と見ていいだろう。あまりの衝撃に現実を受け止め切れなくて絶望している人間が殆どだ。

 

 

「ザルド……」

「小僧か……悪いなこんな状況で」

「いやいい。生き残りは……あと何人いる?」

()()()。ゼウスの団員は俺が確認する限り、この治療院の中に居る人間で全員だ」

 

 

 顔を顰め、奥歯を噛み締めて俯いた。

 此処にアルゴが居ない。二階にいるのか出掛けているのか、どちらかなのだろうという希望的観測もザルドの表情を見て悟ってしまった。

 

 此処にいる人間が()()と言った。

 震えた口調で、それでも真実を確かめる為にザルドに尋ねた。

 

 

「アルゴは……?」

「………」

 

 

 その沈黙が答えだった。

 死んだ事実に実感が湧かない。心の何処かでまだ生きているのではないかと思わされるほど、アルゴには生きる事へのしぶとさがあった。逃げ足が速く、臆病な性格でありながら此処ぞとばかりに豪胆さを発揮する所は少しばかり認めていた。

 

 だが、天空を総べる『黒き終末』からは逃げられなかった。

 

 

「そ、う……か」

「……アイツが逃走用の魔導具を使わなきゃもっと死んでいた。いつも最初に逃げる筈のアイツが最後の最後で逃げ遅れた」

 

 

 討伐遠征の前、アルゴは逃走用の魔導具を自慢していたのを思い出す。ザルド曰く他の人間が逃げられたのは女帝とマキシムが死んだ光景を見て咄嗟に討伐から撤退へと切り替えた事だ。

 

 魔導具『黒霧(ブラックミスト)

 アルゴが持つ逃走、および撹乱のために使う魔導具で生きているかのように対象に絡みつく煙幕を発する。それを使い黒竜の視界を奪った後、現実を受け止め切れずに絶望で動けなかった人間を最後の最後でまとめ上げて逃走を図った。

 

 それでも結果は最悪もいい所だ。

 撤退に切り替えて尚、壊滅という被害が討伐遠征の結果となってしまったのだから。

 

 

「っ……ヘラの眷属達は」

「上の階にいる。あの娘にとって、お前が来たのは幸運なのかもしれんな」

「どういう意味だ」

 

 

 目を細めて、ザルドに問う。

 

 

 

「リリナが……もう風前の灯火だ」

「っっ……!?」

「会ってやれ。せめて、最期を見届けてやれ」

 

 

 返事を聞くまでもなく二階へと駆け上がった。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 ノックして声が聞こえ、扉を開ける。

 そこには草臥れた様子で目に隈を残しながら、回復魔法を掛けていたLv.7の後衛治癒師のメナの姿だった。そして違和感を感じた。病室だというのに何処か()()()()。普通なら薬品や消毒液の匂いが鼻に来るはずなのに。

 

 

「ノーグ……?」

「っ、メナ……無事だったのか」

「……何、しにきたの」

「……万能薬と精霊薬を持って来た」

「ありがとう……でも、()()()()()

 

 

 ──もう、多分誰も必要無くなるから。

 そう告げたメナに顔を顰めた。カーテンで遮られて見えないが、微かに呼吸の音を感じる。そこにリリナが眠っているのは理解出来た。

 

 だというのに必要ないという答えを告げた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だ。

 

 

「……まだ、そこに生きてるやつがいるだろ」

()()()()()()

 

 

 それはメナの回復魔法でさえ延命にしかならないという宣告。メナの魔法は全癒魔法ではない。総合的な回復力で言えばこの時代では生まれて間もないが、未来でディアンケヒトの眷属として治療院を支える【戦場の聖女(デア・セイント)】の異名を持つアミッドの方が上だろう。

 

 それでも魔力に依存した回復力は全癒に最も近いとされ、範囲のみは桁違いに広く展開が可能。その広さは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 後ろに彼女がいる限り、誰も死なせない最強の治癒師(ヒーラー)がこれ以上は不可能と判断した。反論も出来ない。目尻が赤く、泣きながらも生存者を支え続けた彼女の顔を見て何も言葉が出なかった。

 

 どうして救えなかった、と言えるはずも無い。

 精一杯の最善を尽くした結果がこれだというなら責めるのはお門違いだ。仲間が死に過ぎた中で彼女はよくやった方だ。

 

 

「最期くらい看取ってあげて。私は部屋を出るから」

「それが……俺でいいのかよ」

「もう私じゃ苦しませることしか出来ない。せめて別れの時まで側にいてあげて」

 

 

 俯いたまま、部屋を出ていく。

 弱々しい彼女に『万能薬(エリクサー)』だけを渡そうとするが首を横に振った。ただ小さな声で「ごめんね」とカーテンに隠れたリリナに告げて。

 

 

「……治せない事、恨んでくれて構わないよ」

「恨まねえよ……俺がどの口で恨めばいいんだよ」

 

 

 バタン、と閉じた扉の音と共に静寂が訪れる。

 嫌な静寂だった。どんな声をかければいいのか分からなかった。これから死にゆく彼女に何を告げるべきなのか。

 

 意を決して歩いた。

 カーテンで見えなかった彼女の姿を見た。

 

 

「………ぁ、ノーグ……さん?」

「……ぁ……」

 

 

 幸運だったのは吐き気を抑え込めた事。

 不幸だったのは絶句した声を抑えられなかった事だ。

 

 リリナの右半身の()()()()()()()()()()

 

 右腕と右脚は焼き飛ばされたというべきか酷い損傷で、今にも熱が燻っているかのような焦げた肉の臭いが鼻を劈く。まるで回復を阻害する呪詛を込められているかのようで、焼き削れた肉体はメナの回復魔法でも修復は出来ていない。寧ろいつ死んでもおかしくないこの状態で命を繋いだ事を称賛する。同じ立場ならとっくに死んでいる自信があるほどにリリナは重傷だった。

 

 

「来て…くれたんですか?」

「……ああ」

 

 

 差し出した左手をリリナは握る。

 それだけで彼女は優しく笑った。識っていたなら救えたかもしれなかったなんて過ぎ去ってしまったありもしない過程に罪悪感が胸を指す。

 

 

「お前も、死ぬのか」

「……ご、めんなさい。弱…くて」

「弱くなんかねえよ。女帝達でも勝てなかった相手に命拾えただけお前は凄えよ」

 

 

 女帝もマキシムも死んだ。

 あの場所で命を拾えただけでも偉業だ。決して弱くなんかない。彼女は最期まで誇り高く強いエルフだった。命が溢れていくのを見て、自分の惨めさを痛感する。

 

 今まで自分はあんなものに頼って生きてきた。

 他人に意思を委ねてはいけない。己の在り方一つさえ他人任せで、生きるためならそうでもいいとずっと自分に言い聞かせて逃げていた。

 

 

「俺に、してほしい事はあるか?」

「えっ……?」

「出来ることなら、なんでもする」

「な、なんでも……」

「ああ……出来る限りの事だけな」

 

 

 贖罪にもならないが、リリナには出来るだけの誠意で答えるつもりだった。

 

 

「じゃあ……一つだけ」

 

 

 真っ直ぐ此方を見て、リリナは告げた。

 

 

「聞かせて…ください。告白の返事を」

「!」

「どんな答えでも、私は…構いません」

 

 

 それは最期の答え。

 リリナはノーグを振り向かせると言ってから一年が経った。リリナの終わりが此処だとするのなら、その答えを言わなくてはならない。逃げる訳にはいかなかった。勇気を出して好きと言ってくれた女の子から逃げるなんて出来なかった。

 

 嘘をついても良かった。

 せめて幸せなまま死ぬのならこの場限りで嘘をついても。

 

 それでもノーグは──

 

 

 

 

 

「──ごめん。俺には好きな人が居るんだ」

 

 

 

 

 

 ──恋を終わらせる答えを出した。

 彼女を泣かせることしかノーグには出来ない。取り繕って嘘をついて、虚実に塗れた愛の言葉を吐くなんて本気で自分に恋をしてくれたリリナに失礼だったから。

 

 

「最初は、ただ目標みたいに見てた。アイツみたいになりたいって、強くなりたいって思って」

 

「いつの間にか目が離せなくなって、笑った顔が好きで……この気持ちに嘘をつけなくなって、どうしようもなく惹かれてる」

 

 

 気持ちには嘘はつけない。

 それが他人に言われた目標であっても好きになってしまったのは自分の意思だから。好きの感情は友達以上に大きくできない。それが答えだった。

 

 

「だから、リリナの想いには答えられない。俺はアルフィアが好きだから」

 

 

 初恋を終わらせる事しかできない。

 けれど、彼女は優しく笑った。それが分かっていたかのようで、覚悟していたはずなのに泣きもしなかった。

 

 

「……ありがとう、ございます」

「……ごめんなリリナ」

「謝らないで…ください。どんな形であれ…答えを聞けてよかった」

 

 

 リリナは身体を起こした。

 意を決したかのようにベッドから半身の状態で立ち上がり、側に立て掛けてあったリリナの杖『覇炎の魔杖』に装着してある『魔法石』を取り外した。

 

 

「お、おい何して……!」

「【──起きろ憤怒の…怪物共よ】」

 

 

 途轍もない魔力の唸り。

 そして既視感のある魔法円(マジックサークル)。Lv.5でありながら幹部に至れたその魔力出力が部屋を軋ませる。

 

 

「【燃ゆる故郷…鏖殺の宴、無力を…呪え残灰の骸】」

「やめろ…魔法を使えるような身体じゃ…」

「【ああ憎い、人が…憎い、空が憎い、運命が憎い、焦がす…憎悪を糧に薪を焚べよ──楔を解き放て…憤怒のまま…に吠え狂い…灰燼と帰せ】」

「っ、リリナ!!」

 

 

 静止の言葉を振り切って、『魔法石』に呪詛(カース)が込められていく。聞いた事がある。呪詛(カース)を魔導具に宿す方法。呪詛を持つ人間の死体から呪詛具(カースアイテム)を作ったり、死ぬ間際にありったけの呪詛を込める事で魔導具に呪詛を宿す方法がある。

 

 ただ、それは簡単じゃない。

 余程の想いの強さがない限り宿す事は出来ない。それでもリリナは魔力を振り絞るように呪いを込めた。傷付ける為にではなく、護るために彼女は呪いをかけた。

 

 

 

「【私は…私を許さない──グリヴェント・イラ】」

 

 

 

 詠唱が終わると『魔法石』は()()()()()()()

 呪詛(カース)には様々な効果はあるが、消耗した力は簡単には癒せない。体力と引き換えにする呪詛(カース)を使用した場合、回復薬(ポーション)で簡単に癒せないのと同じく、リリナの呪詛は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 右半身の殆どを失っているリリナがそんな呪詛を使えばそれは──

 

 

 

「これはノーグさん、貴方に…託します」

「これって……」

「ノーグさんは優しいから……きっと無茶をする」

「だからって……お前」

 

 

 酷い息切れと共に、赤黒く変色した『魔法石』をリリナは差し出した。精神力(マインド)を絞り出すだけでも無茶だというのにリリナはやり切った表情で笑った。

 

 

「少しでも…貴方の旅路に……役に立て…るように」

「っっ、リリナ……!」

 

 

 無理矢理片足で立っていたリリナが倒れていくのを地面に落ちる前にノーグは支える。

 

 

「ゴホッ…ゴホッ……!!」

「待ってろ!今『万能薬(エリクサー)』を……!」

 

 

 血を吐き出して苦しそうな様子のリリナに焦りを溢しながら背負っていた鞄から『万能薬(エリクサー)』を取り出す。魔法を使っての回復も『万能薬(エリクサー)』も今のリリナには大した効果がないと分かっていても理性で動けるほど大人ではなかった。

 

 

「ノーグ…さん」

 

 

 ぎゅっ、と彼女は半身でノーグを抱きしめた。

 力なく込められた彼女の抱擁から鼓動の音が遠ざかるのを感じ取り、焼けた半身に触れずに力強く抱きしめ返す。

 

 

「私…貴方を好き…になれて…よかった……」

 

 

 胸に顔を埋めて、彼女は笑った。

 眠る前の子供のように、安らかな笑みを浮かべたまま。

 

 

 

「すぐに…こっちに来たら……怒ります…から……ね」

 

 

 

 リリナは抱きしめられたまま瞼を閉じた。

 窓から吹く風が彼女の髪を撫でる。少し冷たい風と共に抱えた身体が冷たくなっていく。

 

 

 

「リ…リナ……?」

 

 

 

 返事は聞こえなかった。

 僅かに見えた光と共に、リリナから色が失われていく。身体を揺すっても、リリナは瞼を閉じて起きない。寝息も、鼓動も、体温も、脈さえも失われていく。蘇生しようと動こうとしたが、それが無駄だという事は自分の中で悟ってしまった。

 

 

「っ……」

 

 

 もうこの身体から魂は失われていた。『天眼』がリリナの身体から魂が解放されていく光景を捉えてしまったから。

 

 

 

「……最期に笑って逝くなよ。涙、流せなくなるじゃねえか」

 

 

 

 ベッドに運んで髪を撫でた。

 もしも、本当にもしもの話だ。『天啓』なんて頼らずに出会っていたら。心が傾いていたかもしれない。識ることが出来たはずだ。唯一最悪を回避できる手を差し出せるのは自分だけだった筈だ。

 

 今更、こんな事を言う資格なんてない。

 それでも……ただ胸の内の言葉を安らかに眠るリリナに告げた。

 

 

 

「ありがとうリリナ。こんなどうしようもない俺を──好きでいてくれて」

 

 

 

 風の音が聞こえた。

 窓の外の騒がしさを掻き消すくらいに大きな風の音が彼等を包み込んだ。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 リリナの遺体はすぐに火葬された。

 元々、死人が多過ぎた。逃走の道中で黒竜の咆哮を喰らって死にかけた眷属が多く。『竜の谷』から逃げ切れた眷属の九割は焼かれた後遺症で亡くなっている。リリナがその最期だった。

 

 遺灰となった彼女に手を合わせた。

 涙はもう枯れて、感情は抜け落ちたかのようで悲しみをまるで感じない。現実が変わり過ぎてついていけてないのか、まるで夢の中に取り残されたような感覚だった。

 

 いまだに信じ切れなかった。

 あれだけ強かった二大派閥が壊滅なんてするとは欠片も思っていなかったから。

 

 メナと共に火葬の最後を見送り、暗くなった街の中へと戻っていく。

 

 

「………ありがとね」

「何がだ」

「リリナの事、最期までいてくれて」

「お前に礼を言われるほどの事じゃねえよ。それに、俺もこれを託された」

 

 

 杖に取り付けられた最上級の『魔法石』

 リリナの死と共にそれが呪いを宿し、呪物化している。熱を宿しているかのように、触れるだけで身体が熱くなる。憤慨呪詛をかけられた時の状態と何処か似ている。

 

 

「それなんだけど、私に預けてくれない?」

「ファミリアの資産で回収するってんなら断るぞ。その場合倍額で買い取ってやる」

「それはノーグの物だし、そんながめつい事しないよ」

 

 

 呆れた顔のままため息をついた。

 

 

「私ならそれを呪詛具(カースアイテム)に出来る。【神秘】のアビリティも発現したし、リリナの呪いもまだそれに残ってる」

「……出来るのか」

「やるよ。やってみせる」

「……なら託す」

 

 

 リリナから託された『魔法石』を預けた。

 メナはまだ練度こそ低いが知識に関しては博識だ。上手く装備できるように改良もしてくれるだろう。

 

 

「今更だが、ヘラの生き残りはお前だけなのか?」

「アルフィアとレシアが生きてる。今はヘラとゼウスの護衛しながらオラリオに向かってるはず」

「……そうか」

 

 

 僅かながらアルフィアの生存に安堵する。

 最愛の姉を失ったらメーテリアもどうなるかわからない。大切な人が死んだ苦しみは想像を絶する。そうなっていたら自分も耐えられなかったのかもしれない。

 

 とはいえ状況は変わらない。二大派閥の失墜はオラリオにとっても世界にとっても影響が大き過ぎる。

 

 

「これからどうするんだ? また黒竜に挑もうにもLv.4からLv.7が殆どいなくなった。後進の育成もまた時間を掛けなきゃ育たねえし」

「それなんだけど…私達はオラリオから離れるよ。私やアルフィア達ならともかくとして、Lv.3以下じゃ闇派閥に蹂躙されて根こそぎ壊滅させられる。だから世代の交代って形でフレイヤとロキの派閥に次の抑止力になってもらうかな」

 

 

 そうするしかないのだろう。

 討伐失敗は仕方ないにしてもその代償は大きい。築き上げた伝説でさえ勝てなかったのなら今まで培ってきた二大派閥の偉業や教訓では『黒竜』を討伐する事が不可能と認めているようなものだった。

 

 故に必要なのは未知の英雄。

 二大派閥とは全く違うやり方。『黒竜』を殺せるだけの『切り札(ジョーカー)』を見つけ上げ、育て上げなきゃならない。正攻法では勝てないし、そんな人材は簡単に見つかるはずもない。故に英雄の都と呼ばれたオラリオの内ではなく外にまで範囲を広げて探さなくてはならない。

 

 

「あの豚やウラノスがそれを納得するのか?」

「させるよ。それにロキ達を巻き込んで『追放』って形にすれば『全滅』は免れるし……レシアは故郷の『闘争の国(テルスキュラ)』、私はバルドルが開いた『学区』で後進の育成をするよ」

「他は?」

「多分散開。残るなり何処かのファミリアに属すなり辞めるなりすると思うけど黒竜討伐への協力は私達を除いて強要はしない。若い世代は特に深い心傷(トラウマ)を持ったし」

 

 

 事実上、二大派閥は解散という形になる。

 闇派閥なら完全に伝説を駆逐しようと『残当狩り』が起きてもおかしくない。闇派閥への抑止力(パワーバランス)が崩れた以上、それは起こり得てしまう。

 

 

「アルフィアは?」

「あの子はわからない。メーテリアの状態を無視できないし」

「まあ……メーテリア妊娠してるし、生まれた赤子の育児かね」

「ゑ?」

 

 

 目を見開き、こっちを見てきた。

 お前把握してなかったのか? と視線で返すが初耳と言わんばかりの表情に視線を逸らした。どうやらメーテリアもまだ誰にも言ってなかったようだ。

 

 

「マジ? 誰の子?」

「アルゴの子。多分半年もすれば産まれる」

「ち、因みにその事を知ってるのは?」

「当の本人達と俺とリリナと医神だけだ」

「おーまいごっと」

 

 

 神はヘラだろ、という言葉を飲み込み胃の辺りを抑えた。とんだ爆弾を残したものだ。メナも顔を真っ青にして事の顛末を震えた口調で聞いてきたが、聞き終えた時にはメナも胃を抑えていた。

 

 

「ま、まあその話はいいや。後が怖いけど」

 

 

 メナは向き直って瞳を合わせた。

 

 

「ノーグ。君がオラリオの最強になって」

「簡単に言うなよ」

「大丈夫だって、ヘラの教えを忘れてなきゃきっとなれる。あの猪くんもそうだけど」

 

 

 二大派閥の中で群を抜いている存在は二人。

 泥臭くも執念を持って最強の頂に手を伸ばすオッタルと、ヘラの教えを受け精霊と才能に愛された鬼才のノーグ。今はお互いにLv.6間近であり、オラリオの中ではその二人が最も成長すると二大派閥は見ていた。

 

 のしかかる責任は尋常ではないが、やるしかないのだ。二大派閥が壊滅したこの現実を生きなくてはならないから。

 

 

「……どの道メーテリアの精霊薬に必要な素材は50階層付近だ。単独で潜れるくらいには強くなるさ」

「うん。今はそれでいいよ」

 

 

 少なからず単独となればLv.7以上にならなければならない。そのくらいはやらなければ死んでいった奴等に面子が立たないだろう。生きる為に努力する目標は今日で終わりだ。

 

 他人に意思を委ねるのをやめた現実で──彼は走る。

 

 取りこぼした未来の清算をする為に、険しい茨の道に足を踏み込んだ。

 

 





 カランコエの花言葉は「あなたを守る」
 それは呪いでもあり、祝福でもある。いつかその想いが助けになると信じる少女の無垢な愛。

 それに何を想うかは、それは彼にしか分からない。


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