おしゃべりな"個性" (非単一三角形)
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プロローグ
C0-1 わたしの"個性"


最近のヒロアカブームに乗って初投稿です。
一話3000~4000文字目安、二日に一本ペースで更新……出来ればいいなあ。

初日は3話目まで投稿予定。



 

《―――ねえ》

 

 声が、聞こえた。

 

 

《―――ねえったら》

 

 気のせいだと、思った。

 

 

《―――そうじゃないよ》

 

 あの時は、夢中だったから。

 

 

《―――そうじゃないったら》

 

 目の前に浮かぶボールに。それを浮かばせられる"力"に。

 

 

《―――使うなら、ちゃんと使いなさいよ》

 

 使えるようになったばかりの"個性"に、目を輝かせていて。

 

 

《―――仕方ないから、教えてあげる》

 

 これで自分もヒーローになれると、喜んでいた幼いわたしは。

 

 

 

《―――"私"はこうやって使うのよ》

 

 突然()()()()()()()()()に、呆然と漂った。

 

 

 

 

 わたしには、最高の相棒が居る。

 

《はい、もう一本。ダッシュダッシュ》

 

 

 四歳になったあの日から、ずっと傍に居てくれて。

 

《はいはい、へばってないで動きなさい。そんなんでヒーローになれると思うの?》

 

 

 誰よりも先頭で、わたしの夢を応援してくれていて。

 

《じゃ、次の問題。7373×1507。……おっそい。頭と体、同時に動かしなさい》

 

 

 応援、して……

 

《ほら、足が上がらなくなってきたわよ》

 

 

 応、援……

 

《ただでさえ小さいのに、駆けつけてゼエゼエ言ってるようなヒーローが頼りになると思うの?》

 

 

 …………

 

《その程度の根性しかないなら諦めなさい。大人しく普通科受験するのね》

 

 

 最高の、相棒です。

 

 

 ……本当だよ?

 

 

 

 

《……ねえ、本当に雄英受けるつもりなの? これで?》

 

 ……え、えーと……

 

 

《定員分かってるわよね? 推薦枠含め二クラス合わせて四十人。上位四十人よ?》

 

 ……は、はい。

 

 

《へえ? 筆記で百位以内も怪しいこの成績で? つまり実技一本でどうにかする気なのね?》

 

 あ、いや、そういうわけじゃ……

 

 

《じゃあまさか()()丸投げするの? あれ、誰が受験するんだったかしら?》

 

 …………

 

 

《……ヒーローになりたいって言ったのは、誰だった?》

 

 ……わたし、です。

 

 

《涙が流れるより早く、(ヴィラン)を捕まえるヒーローに。そう言ったのは誰だっけ?》

 

 わたし、です!

 

 

 あの日、お母様が流していた涙を。

 

 あの時、ヴィランに奪われた笑顔を。

 

 取り戻してくれた、あのヒーローのように!

 

 

 

《―――じゃ、やりましょうか。勉強》

 

 あ、はい。

 

 

 

 ―――これはわたしが、おしゃべりな、ちょっと、かなり、だいぶ、耳に痛い"個性"と一緒に、最高のヒーローを目指す物語だ。

 

 

 

 

《ヒーローになりたいのは、あなたであって私じゃあないからね》

 

《まあ、応援だけは、してあげるわよ?》

 

《私は、あなたの……干河(ほしかわ)(あゆみ)の"個性"だから》

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

《―――もっと派手な"個性"の場合、どうするのかしら》

「……えっ? あっ!?」

 

 不意に頭に響いた声に、乱れた集中力が結果となってゴトリと音を立てる。

 

《あらあら、もっと集中しなさいよ》

「ずっと黙ってたのに急に話しかけるからですよ!」

 

 憤慨しながら、足元に転がったボールに右手を向けて。

 軽く、軽く意識を向ければ、ボールはふわりと元の位置へ舞い戻る。

 

「……それで、急に何の話だったんですか?」

《ほら、公道で許可なく"個性"を使えば犯罪でしょ? 殆ど有名無実だけど》

 

「……そうですね」

《"私"みたいに地味な"個性"ならこうして自宅で訓練できるけど、火とか音とか出るような"個性"だと練習場所の確保も大変だろうなって》

 

 返事を求めてるのか否かもふわふわした話題に、わたしの意識をさければ何でもよかったんだなと気付き、溜息を吐く。

 今やっている"個性"の制御訓練には有効だと分かるから文句も言えない。

 実際、予想外に話しかけられた程度で"個性"の制御を手放していたんじゃ冗談にもならないし。

 

「……っ」

 

 気を取り直して、周囲に浮かべている()()()()()()に意識を向ける。

 それぞれを異なる高さで、異なる方向に、異なる速度に振り幅で揺り動かす。

 

 ―――加速。

 ―――減速。

 ―――反転。

 ―――角度変更。

 ―――半周期ずらす。

 ―――ボール同士をぶつけて、軌道を修正……っ

 

「う、あっ……くぅ」

 

 ズキンと刺す様な頭痛が始まったところで"個性"を解除。

 ぼとぼととボールが床に落ちる音を聞きながら、頭をさする。

 

《んー……だいぶ許容量は上がってきたけどねえ》

「精密動作はもう十分じゃないですか? これ以上は()()()()()と思うんです」

 

 ズキズキと痛む頭を押さえながら、ここ数日続けていた鍛錬を思い起こす。

 細かな、本当に細かな切り換えを矢継ぎ早に繰り返す個性操作は、練習としてはともかく()()()適しているとはやはり思えない。

 

《物体を操る系"個性"のヒーローはもっと細かな動きを幾らでもやってるけど?》

「……それでも、もっと大雑把な操作を前提にしないとわたしの頭が保ちません」

 

 わたしの主張に、頭の中で《うーん、そうねえ……》と悩む声が続く。

 それを聞きつつ、偶然近くに転がってきたボールを一つ、手慰みに掴み上げた。

 

 掴んだ手を開けば、ボールは万有引力の法則により床へと向かう。

 その寸前のボールに向けて"個性"を使った。

 

 

(……【減速】)

 

 

 ほんの僅か、床に向けて始まった加速が、鈍化、減速、そして宙に静止した。

 伸ばしていた手をボールの下へと迂回させ、掬い上げるようにして放り投げる。

 

(【反射】)

 

 壁に当たり、跳ね返ってきたボールに向けて、再び"個性"を使う。

 わたしの腕の先、数センチのところでボールはその進行方向を変え、巻き戻しの如く描いてきた放物線を遡っていく。

 

(【加速】)

 

 部屋の壁と、わたしの眼前。

 二つの壁を往復し、徐々に高度と速度を落としていたボールが、再び加速した。

 

《……確かに、こういう使い方ならボールが百個になっても問題ないのよね》

「ええ、だからやっぱりこっちがわたしの本領だと思うんですよ、『干渉』」

 

 減速、加速を時々切り替えて、リズミカルなボールのシャトルランを維持する。

 諦めたように苦笑する声に向けて、わたしはにっこり笑って胸を張った。

 

 

 

《でもうるさいからそろそろ解除してね》

「あ、はい」




名前:干河(ほしかわ)(あゆみ)

 苗字の第一案は「干川」でしたが、主に群馬の辺りに実在する苗字らしく、「歩」も人名として普通にあり得るため同姓同名の読者の存在を危ぶみ改名。
 「干河」性は軽く調べた範囲では非実在でした。

"個性"『干渉』

・範囲内にある物体、非物体を対象に選び、それらに働く力に干渉できる!
・基本操作は進行方向に正負の力を加える加減速と、力の向きを変化させる反射屈折の二種類!
・対象化の可能範囲は本人の周囲(現状で)半径二メートル圏内まで!
・解除条件は当人の意思、操作範囲(半径三十メートル)を越える、大きな状態変化のいずれか!
・生物か非生物、物体か非物体によって干渉できる力の絶対値が変化する!
 絶対値が大きい順に、本人>非物体>物体(非生物)>生物となっているぞ!
・「加速度=力÷重さ」の物理法則に従うため、重過ぎるor速過ぎる対象物は動かせなかったり、止めきれなかったり、反射・屈折しきれなかったりするぞ!


・干渉対象に"個性"そのものを選ぶと……?


※アンケートは終了しました。(2022/12/16)


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Chapter-1
C1-1 入学試験・前編


 "個性"と会話する系作品誕生の経緯。

 入学まで延々独り言垂れ流させるとかきついよな……
 →原作クラスメイトと同中設定とか上手く調理できる気しねーな……
 →オリ中学クラスメイトを序盤だけ作るのもなー……
 →せや、"個性"と会話させたろ!



 

(…………わあ)

《何を呆けてるの、こんな時に》

 

 心の中の呟きに、声が返ってくる。

 

(だ、だって、周りの人達、これが全部受験生だと思うと……)

《そうね。倍率三百倍、たった四十枠弱を競い合うライバル達ね》

 

 すし詰めと言っていい人口密度の中、檀上に立ったプロヒーロー『プレゼント・マイク』の試験説明を耳にしながら、わたしは前後左右から感じる熱気に圧倒されていた。

 誰も彼もが不安と高揚の入り混じった呼気を放ち、己以外の何者も受け付けぬと言わんばかりの表情で壇上へと視線を飛ばす。

 そんな空気に当てられてか、果ては周囲の集中を乱そうとする挙動をしていたと、ある受験生に別の受験生が怒号を飛ばす事態まで引き起こされていた。

 

《……まあ、ああいうのは無視するとして、方針は考えた?》

(えっと……つまりこれって、ポイントの取り合い、ですよね?)

 

 諍いを宥めるプレゼント・マイクの声を遠くに聞きながら、試験について『干渉』と相談する。

 

 ―――試験会場である模擬市街地内に三種・多量に配置された仮想(ヴィラン)

 それらを何らかの方法で行動不能にすれば、種類毎に設定されたP(ポイント)を獲得。

 また会場内には一体、所狭しと暴れ回る妨害用の0P敵が配置されている。

 

《一人の(ヴィラン)相手にヒーローが二人三人と次々駆けつけて、手柄の取り合いしている昨今の状況に即した試験内容。そういう印象ね》

(重視されているのは誰より早く駆け付けられる機動力、解決までの速さ、それに動き続けられる持久力でしょうか)

 

《機動力は大丈夫、持久力は鍛えてきた。後は仮想敵とやらがどの程度を想定しているのか》

(わたしの力で倒せるでしょうか?)

 

《戦闘には活かしにくい"個性"の受験生の存在を考えれば滅多矢鱈に頑丈にはしないでしょうよ。高ポイント個体ならともかく》

(……それもそうですね)

 

 いつも通り頼りになる『干渉』の見解を元に、試験中に取るべき動きを頭の中で思い描く。

 ……そうするうちに、今まで『干渉』にやらされてきた訓練の多くが見事なまでに図に当たっていたことに気付いて、内心で溜息を吐いた。

 

《ヒーローに求められそうなことを先回りして考えてきただけよ》

(……分かってますよう)

 

 わたしのそんな心の声も余さず拾い上げる『干渉』に、少しだけ棘を乗せた言葉を返す。

 すっかり慣れたとはいえプライバシーを許してくれない『彼女』に思うところはあるんだぞと、わたしはもう何十度目かの空しい抗議の意を送る。

 

 

《……ふうん。じゃあ、実技試験こそ()()()()()()()のよね?》

「うっ……」

 

 思わず出た呻きに、一瞬遅れて周囲を確認する。

 ……どうやら誰も聞いていなかったか、聞いても不審には思わなかったらしい。

 

《筆記試験。私の自己採点では甘めに見ても百位以内だったわ。カンニングを疑われても困るし、全部の誤答を直しはしなかったけどね》

「…………」

 

《実技試験でも本気の本気を出すっていうなら、()()()()()()?》

(……いい、え)

 

 ……『干渉』は、わたしよりずっと頭が良い。

 試験だってきっと、始めから任せてしまった方が良い結果が出せる。

 

 けれど『干渉』は、わたしの"個性"だ。

 そんな"個性"も含めて、『干河歩(わたし)』である……そう、分かっているのだけど。

 

(……ごめん、なさい)

《……別に? (あゆみ)の人生は、私の人生……"個性"生? でもあるんだし》

 

 普段通りの、飄々とした声を『彼女』はわたしに返す。

 

 任せきりにするわけにはいかない。

 頼り切りになるわけにはいかない。

 

 何よりもわたしが、わたしである為に。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――ハイ スタート!」

 

 

「…………えっ?」

《……スタート、したみたいよ?》

 

「え、わ、わあぁっ!?」

《やれやれ……》

 

 会場となる模擬市街地についてなお引き摺っていたもやもやは、プレゼント・マイクの気の抜けた号令と、必死の形相で駆け出す同会場の受験生の姿とで、忽ち思考の彼方へと吹き飛ばされた。

 

 視界の端々でぞわぞわと動く、説明された通りの姿をした仮想敵達。

 先に駆け出した受験生の背を眼前にして、ついさっき頭に描いていた筈のシミュレーションが、ぐにゃぐにゃと脳裏から零れ落ちていく。

 

《……自分の脚で走る予定なんてあったかしら?》

「あっ……!?」

 

 ……馬鹿か。馬鹿なのか、わたしは。

 『干渉』に指摘されてやっと回りだした頭と顔に血が集まる感覚を味わいながら、()()()()()へと"個性"を向けた。

 

「【自己自在(マニピュレイション)】っ!」

「「「うおおっ!?」」」

 

 前方にあった受験生達の背中を一息に()()()()()

 顔に影が差したことで気付いたのだろう、わたしを見上げた数人の声が足の下から聞こえた。

 

 わたし自身の身体を"個性"の対象にし、踏み込みで生まれた力を【加速】。

 主に重力により加減速する力を、反射屈折を駆使して望む方向へ望む速度に!

 

 やがてわたしの身体は万有の法則を逃れ、自在な三次元移動を可能にする。

 これがわたしが(『干渉』に言われるまま)何年もかけて練り上げた移動技だ。

 

「あの女子、飛んでる!?」

「しかもどんどん加速してるぞ!」

「クッソ、追いつけねえ!」

 

 そんな声を背中に、一番近かった仮想敵に向けて、【加速】、【加速】。

 制御出来るギリギリの速度を維持し、首元を狙って右足を突き出す。

 

「加速―――キックっ!」

《だっさ》

 

 ぐしゃり、と最大得点である3P敵の頭部が潰れる音に紛れた、痛烈な声。

 ……仕方ないじゃないですか。直前で技名考えてないって気付いたんですから。

 

 頭の中ではそんな考えを抱きつつ、勢いが削がれないように再度跳躍。

 わたしの"個性"はその性質上、停止してるものを動かすときに一番時間が掛かるので、なるべく速度を失わないように気を付ける必要がある。

 

(右前方三十度、【反射】っ!)

 

「また飛ん……えぇっ!?」

「あれほど機敏に方向を変えられるのか!?」

「同じ会場にあんなの居たらポイント稼げねーよ!?」

 

 加速・減速だけでは難しくても、反射を活用すれば複雑な軌道も可能になる。

 わたし自身が対象なら、"個性"の制限が非常に緩くなるからこそ成立している技だ。

 あまり速度を上げ過ぎると、急激な視界の切り替わりに対応できなくて混乱するけれど。

 

《……で、脚の状態は?》

(……とっても痛いです)

 

《そりゃ普通の靴で金属の塊を蹴り飛ばせばそうなるわよね》

(うう……っ)

 

 驚愕する受験生(ライバル)の声という名の声援で大きくなっていた気勢が萎れていく。

 話が違うと抗議しようとした声は、《逆に戦闘に適した"個性"の想定もするでしょうよ》という正論を以て無残に叩き潰された。

 

(……どうしたら良いでしょう)

《いや色々あるでしょう。ほら、あっちの……左前方の女の子みたいに》

 

(え……わっ!?)

 

 言われて、向けた視線の先に広がっていた光景に、思わず目を見開く。

 そこには幾台もの仮想敵がまるで宙にピン止めされたかの如く浮かび、その金属の多脚で虚しく空を掻いている光景が広がっていた。

 

 わたしが見たのは、駆け回っていた仮想敵が一人の女の子にぺしっと平手で張られる瞬間。

 途端、吊り上げられるかのようにふわりと浮き上がった仮想敵は、これまた脚をもがかせながら空中標本の列に加わった。

 

《ポイント獲得の条件は撃破ではなく行動不能。だからあれでも加算されるでしょうね》

(な、成程、あれなら……)

 

《ただし"私"の場合、浮かせておく物体の重さで負担が変わるから、見た目以上に軽量な1P敵はともかく、2P以上には別の方法を探しなさい》

(あ、はい)

 

 その見立て通り、速くて軽いというわたしに都合の良い性能を持つ1P敵は、射程に入り次第、その進行方向を垂直方向へと反射、それから減速して滞空させるだけで無力化できた。

 いつの間にこんな観察をしていたのかと思いつつ、見つけた1P敵に近寄っては、先の女の子に倣って宙に放逐していく。

 

 一応、2P以上の仮想敵にも試してみたけれど、重量が災いしてかたたらを踏ませるに留まったところを他の受験生に倒されてしまった。

 ……協力して倒した扱いになりそうだし、これはこれでという呟きが聞こえる。

 

 

《―――ペースは十分。体力もまだまだ余裕。これなら……っ、七時方向!》

(え、は、はいっ!)

 

 他の受験生と分けたポイントがあるとしても、それなりに稼げたかと考えていたところに、鋭い声の指示を受けて振り返る。

 視界に入る1P敵に一瞬疑問に思った直後、明らかに身を竦ませた様子で立ち尽くす男の子が、その進行方向に見えた。

 

(っ、射程、届かな―――)

《―――いや、いけるわ。反射を!》

 

 わたしから半径二メートル内。射程範囲を僅かに出てしまった仮想敵。それでもと飛んだ指示がわたしを反射的に動かし、【反射】が機能する。

 対象に出来たのか否か、中途半端な感覚の中で、()()は起きた。

 

「対象捕捉!! ぶっk―――」

「……えっ」

「……あっ」

 

 ミチッ、ブチッ

 そんな音と共に、1P敵がまるで裁断されたかのように真っ二つに裂けた。

 

「……あ」

「え、えっと……」

 

 助ける形になった緑髪の男の子と、何だか気まずい空気で見つめ合う。

 

《……一台の仮想敵、ではなくそれを構成する部品の一部を対象にして【反射】させれば、対象にされていない部分と引っ張り合い、結果自ら生んだ加速度で己を引き裂くことになる、と。まあ、ヒーローらしいやり方じゃないし、使いどころには気を付けなさいよ?》

(そういう問題かなあ!?)

 

「い、良いチームプレイが出来ましたね! それではまた会いましょう!」

「えっ、あ―――」

 

 目の前で起きた凄惨な事象、凄い眼差しを向けてくる男の子への対応、加えて不穏なことを言う『彼女』への反論でごちゃごちゃになった頭を内心抱えながら、わたしは適当な台詞を口にその場から【反射】するのだった。

 





 タグ:青山不在。

 麗日、飯田に続いて緑谷くんに絡んだクラスメイトって彼だったんだと読み返して気付くアレ。


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C1-2 入学試験・後編


 自分の中に、よりハイスペックな『自分』が居たとしたら。
 またその『自分』の存在を、自分以外は知らない、知る由もないとしたら。

 受験、求職、人生の勘所において、
 『自分』に頼らないという選択を、あなたはできますか?



 

《―――同じ受験生相手に、また会いましょう、か。良い激励ね》

(え? ……あ、確かに)

 

 ……呆れの感情だけを器用に送ってくる『干渉』から意識を背けながら、もう少なくなってきた仮想(ヴィラン)を探すべく気を取り直す。

 

 とはいえ、受験生に襲い掛かる敵に、その敵を探し回る受験生。

 試験会場が幾ら広くても受験生がばらけた現状、もう残っている仮想敵などそう居ない―――

 

 

「《……えっ》」

 

 耳に感じた轟音、よろける受験生と空気の振動で察した地震。

 彼方へ集まる視線に釣られ、振り返った先には、天を衝かんばかりの巨大な影。

 

「……0P(ヴィラン)

《……雄英ってひょっとしてバカしかいないのかしら》

 

「「「う、うわああああっっ!!?」」」

 

 ゆっくりとした前進。緩慢な動作で振られる腕。

 たったそれだけで模擬市街地に巻き起こされる絶望的な破壊。

 あまりに分かりやすい暴威に、一斉に逃げ出す受験生達が眼下に見えて。

 

「……っ!」

《……あら》

 

 そんな彼らを追うように【反射】し、暴威から距離を取る。

 一瞬の迷いの後、その判断をしたわたしの頭に、どこか静かな呟きが落ちた。

 

《……この先の方針は?》

(……あれを避けて行動します。わたしの機動力なら可能なはず)

 

《……まあ、合理的な思考ができているようで何より》

(他がどれぐらい稼いでいるか分かりませんし、出来る限りはしないとですから)

 

《……仮想ビル、崩れてるわね》

(あ、本当だ……崩落に巻き込まれた受験生とかいないですよね?)

 

《……模擬、市街地に、巨大敵、か》

(……『干渉』?)

 

 

 

《―――ま、いいか。ヒーローになりたいのは私じゃないし》

 

 

 

 …………いま、なんていった?

 

 

《あら……二時の方向》

「え……」

 

 頭に響いた言葉を咀嚼するより早く、指示された方向に顔を向ける。

 一方向に固定された人の流れ。その中にたった一つ、遡っていく人影。

 

「―――あ」

 

 制御を手放した"個性"が、わたしの身体を地面に導く。

 不格好に着地し、久し振りに踏んた地面は、何故だかひどく遠く感じた。

 

 脅威から、我先にと逃げて。

 街の被害から、能天気に目を背けて。

 

 今の、わたしの行動は。

 つい先刻の、わたしの判断は。

 

 

 ―――ヒーロー足り得る、振る舞いか?

 

 

「…………っ!」

 

 頭の中で、火花が散った気がした。

 振り返って、滲む視界についさっき見送った背中を探す。

 

 誰もが背を向けた暴威へと。

 ヒーローを志したはずの誰もが逃げ出した恐怖へと。

 

 真っ直ぐに立ち向かっていく背中が、そこにあった。

 

「―――っ、『干渉』!」

《…………》

 

 溜まらず叫んだ声に、返って来た沈黙からは、わたしを試すような熱を感じた。

 

 悔いは、ある。

 後ろめたさも、ある。

 出来る事なら、わたし、だけで挑みたかった。

 

 けれど()()も含めて、わたしだから。

 そして何よりも。

 

(ヴィラン)に破壊される街を前に『全力』を出さないヒーローが居るわけないっ!」

 

《了解》

 

 その小さな呟きを境に。

 わたしの全身から、()()()()()()が抜けた。

 

 

 

 

「―――SMAASH!!!」

 

 拳の一振り。

 たった一度の拳の一振りが、聳え立った絶望を粉砕した。

 

「お見事。後は私が」

「え―――」

 

 右腕を振り抜いた姿勢で宙に浮かんでいた男の子―――見覚えのある顔で驚いた―――が、()()()()()()()()()()に反応する。

 

()()()()()()()()、【掌握(スフィア)】、【減速】」

 

 宙に直立した姿勢のまま、溢された呟き。

 その瞬間、視界に映る全てが―――世界が、その歩みを緩める。

 

 崩落するビルの残骸が。

 粉砕された0P敵の欠片が。

 急速に落下速度を失い、緩やかに地面へと降りていく。

 

 干渉可能範囲にある知覚可能なほぼ全てのモノを無差別に対象化する技、【掌握(スフィア)】。

 半径二メートル圏内を限界とするわたしがここで使っても、防塵程度が精々だけど。

 

 わたしに出来る対象化限界射程の十倍以上。

 わたしに操作可能な限界重量の数十倍。

 全対象に同操作であれば低負荷―――そんな考えが空しくなる規模の同時操作。

 それらをいとも容易く実現する『干渉(わたし)』が使ったならば。

 

「―――そ、っか。二次被害……っ」

 

 男の子のはっとしたような呟きに、『彼女』が目を向け、微笑んだ。

 

 『干渉』にとって"個性"とは己そのもの。

 わたしが指を曲げ伸ばしするように、あるいは呼吸をするように『彼女』は"それ"を扱える。

 

 こうしてわたしの意志を引っ込めれば―――わたしと『彼女』の関係を疑似的に入れ替えれば、遥かに強力な出力で"個性"を使えるようになる。

 ……逆に『彼女』は手足の動きが覚束ないらしいが、【自己自在(マニピュレイション)】があれば支障はない。

 

「―――あ……わああぁっ!?」

「えっ?」

(えっ?)

 

 『彼女』の笑みのせいか、やや赤面していた男の子の身体が落下を始める。

 それだけならば何も不思議なことはないが、やけに男の子が慌てているのが気にかかった。

 

 この高さまで飛び跳ね、0P敵を一撃で粉砕してのけた、おそらく身体能力を強化する"増強系"の中でも規格外の強化倍率を誇るだろう"個性"の持ち主。

 身体の頑丈さも相応に跳ね上がるはずで、着地程度お茶の子さいさい―――

 

(―――には見えませんね!?)

「【減速】、【反射】っ」

 

 理由は不明だが自力着地できない状態と判断した『彼女』が彼の身体にも"個性"を使う。

 けれどそこで、使い手が『彼女』であっても避けられない"個性"の欠点が足を引っ張った。

 

「……あ、駄目だ彼意外と重いわ」

(ええっ!?)

 

 "個性"『干渉』の欠点。それは自分を除く生物を対象にした場合、出力上限が非常に低いこと。

 どうもこの"個性"は自身の意思で力を加えられない無機物を対象にするのが前提であるらしく、他者他人に対しては一定以上の力を加えられなくなっている。

 

 加速度とは、加えた力と重さの割り算だ。

 その力に上限が定められている以上、後は重さ次第。

 小柄ながらも"増強系"らしく鍛え上げられているらしい男の子の身体を重力から解き放つには、上限出力でも全く足りないようだ。

 

 【反射】も同様に、彼にかかる力のごく一部を逆向きにするのが精一杯。

 どちらでも見て分からない程度には減速させられる、はずだけれど。

 

(ど、どどどうすれば……あうっ!?)

「……っ」

 

 落下していく彼の悲鳴に思考を真っ白にしていたわたしは、突然ぐりぐりと動き出した視界に、思わず呻き声を上げた。

 『彼女』がこの状況の打開策を探していたのだと気付いたのは、ある一点を注視したことでその動きが止まった後。

 

 わたしと彼から十数メートル下方、そこに浮かんだ瓦礫の上に横たわりこちらを見上げている、見覚えのある女の子。

 さっき目にした彼女の"個性"を思い起こすわたしを余所に、『わたし』の口が動き出す。

 

「―――私の"個性"は、人間には効きにくいっ!」

「……っ!」

 

 その叫びに目を見張った女の子が、瓦礫の上で必死に手を伸ばす。

 同時に『彼女』が、彼女の乗った瓦礫を男の子の落下軌道へと向かわせる。

 

(届い……たっ)

 

 バチン、と頬を張られた男の子が、地面にぶつかる寸前でフワリと浮かんで。

 その周囲を囲うように、『彼女』が失速させていた無数の瓦礫が静かに着地。

 続いてわたしの身体もまた、即席の連携を行った女の子の傍に足をつけた。

 

(……ああ、起き上がった。良かった……)

 

 地面についてすぐに、必死の形相で上半身を起こした男の子を見て、安堵した。

 そういえば、もうすぐ試験時間終了のはずだと、頭の片隅でぼんやり考えて。

 

《ああ……それじゃ、身体返すわね》

(えっ)

 

 達成感とか余韻とか、そんなあれこれを放り捨てた一言が聞こえて。

 次の瞬間、噴き出すような勢いで総身の感覚が戻ってきた。

 

(えっ、ちょ、まだ試験―――)

《もう何秒も残ってないわよ》

 

(や、でも、この後―――)

《先延ばしにしてもしょうがないでしょ》

 

 慌てるわたしを、にべもなく切り捨てる『彼女』。

 返す言葉を考える暇もなく、()()()がやってくる。

 

「…………うぷっ」

 

 わたしが"個性"を使い続けて、許容量を超えると頭痛が始まる。

 より正確に言うなら、頭痛が始まるその地点が、わたしの許容限界。

 

 『彼女』は許容量もまた、わたしとは比較にもならない程。

 そんな『彼女』が全力を出した後で、わたしに身体を戻すとどうなるか。

 

(こ、こんな、周りに一杯、人が居るのに……っ)

 

 数十の鈍器で一斉に殴られたような頭痛と、共に襲い来るぐらぐらとした酩酊感。

 咄嗟に口を抑えた手の向こう、喉の奥から熱くせり上がってくる不快感。

 涙に滲んだ視界がぐらりと揺れて、耐え切れずに膝から倒れ込んで。

 

(え……)

(あ……)

 

 ―――そこで、目が合った。

 同じような体勢、同じ仕草、同じ顔色をした、女の子と。

 

 お互いに、抑えた口から声を出せるはずもなく。

 今日会ったばかりで、互いの名前や出身など知る由もなく。

 

(……そっちも?)

(うん)

 

(そっかあ)

(えへへ……)

 

 真っ青な顔を突き合わせた、聞こえるはずのない会話。

 それでもお互い目元だけが、自然と笑みに変わって。

 

(ねえ、わたし達……)

(……うん)

 

 

((…………仲間だね))

 

 

 友達になれると、そう思った。

 

 

「「おぇ

 

※しばらくお待ちください。

 

 

 

 

《二人とも合格すればの話だけどね》

「言わないでください」

 




 メインヒロインがゲ○イン属性持ちなのは珍しい気がする。

 ちなみに帰宅まで『干渉』さんが出続けていれば、歩ちゃんが人前で乙女の尊厳(婉曲表現)を吐き出す必要はありませんでした。


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C1-3 運命の再会


二日に一話投稿目標(それより早くしないとは言ってない)
UA、お気に入りの増え方にビビり散らかしたので投稿ペース上げます。
無名投稿者初作品が一時間で500UAオーバーとかヒロアカ人気やばすぎん?


干河 歩ちゃん's 身体データ。

 身長:153cm
 髪色と髪型:青色、ショートヘア
 瞳の色:黒

 体型:ぺたんすとんつるん



 

 ―――入学試験から一週間後。

 わたしの手の中には、たった今届いたばかりの合否通知の封筒があった。

 

《早く開けたら?》

「…………」

 

「手応えは十分だったのでしょう?」

「は、はい、お母様」

 

 封筒を手にしたまま震えていた腕に、お母様の手がそっと添えられる。

 いつも通りの楚々とした、けれどほんの僅かに緊張が滲んだ眼差しに、早鐘を打っていた心臓が少しだけ落ち着いた気がした。

 

《……この人でも流石に一人娘の人生が掛かっているとなれば、こうなるのね》

(……お母様を何だと思っていたんですか)

 

 どうせ聞こえないからと失礼なことを呟く『干渉』に、お母様に言い付けてやろうかと一瞬考えて、すぐに思い直す。

 怒られるのが『彼女』であろうと、必ずわたしは同席させられることになるのだから、不毛にも程がある。

 

(……よし)

 

 そんなどうでもいいことに思考を一度飛ばしたおかげか、さっきまでと比べ震えの治まった手で一気に封筒を破る。

 小さく息を呑む音二人分を耳に感じつつ、手元から転がり落ちた物体に思わず目を瞬く。

 

「……映像投射装置」

《お金のかけ方にためらいが無い》

 

 逐一夢の無いことを言う『干渉』に軽く抗議を送りつつ、装置を起動させて。

 頭の中でそんなやりとりをしていたわたし達は微かな電子音と共に浮かんだ映像に、思わず声を揃えることになる。

 

『―――私が投影された!』

 

「《……っ、オールマイト!?》」

 

 No.1ヒーロー、『オールマイト』。またの名を『平和の象徴』。

 その身一つで国内の犯罪率を大幅に減少させたといわれる、誰もが認める最高のヒーロー。

 

 ヒーローを志す者全て―――当然わたしも含め―――にとっての目標そのもの。

 メディア媒体で、時に街角で、その姿自体は何度となく目にする機会はあるけれど。

 

『初めましてだ、干河歩君。……何故私が現れたかって? 何を隠そう、来年度から雄英で教鞭を執ることになったからさ!』

 

 ()()()()()()()話しかけてくれる姿など、当然初めて見るもので。

 驚きと高揚が頭を埋めて、映像だと分かっているのに緊張が止められず。

 

 結局わたしはその内容の殆どを、後で『干渉』に聞き直す羽目になる。

 

 『彼女』が要約して曰く、文句なしの合格である。

 筆記と合わせた総合成績は合格者の中でも上位。

 特に実技に関しては仮想の舞台を現実の市街地と捉え、被害を抑えるべく限界を振り絞った姿勢が高く評価された。

 そして最後に―――

 

『―――来いよ、干河少女。雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ!』

 

 ……臨場感たっぷりに再現された。余程印象に残ったらしい。

 

 

「……良かったわね、(あゆみ)

「……はい、お母様」

 

 映像を見終えた後のお母様の言葉には、そう答えた。

 自分が合格した、ということだけはその時の頭でも理解できていたから。

 

 

《それじゃ、一人暮らしの準備を始めないとね》

「はい…………はい?」

 

 

 内容が頭から飛んだのは、この一言も多分に影響していたと、今になって思う。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

《生活能力の無い人間がヒーロー名乗るの?》

 

《実家暮らしのヒーローとか、もし居たらどう思う?》

 

《経験も無しに、ヒーローになったらいきなり出来るようになるとでも?》

 

 

 怒涛の正論で追い出されるように雄英付近のアパートに放り込まれて早数週間。

 その間、呆れ混じりに『干渉』に叱責された回数は数えきれず。

 実家で見ていた家政婦さん達って凄かったんだなあと実感する日々を越え。

 

 ついに迎えた雄英高校入学式の日―――

 

「……【自己自在(マニピュレイション)】使っちゃ駄目かなあ」

《ほお、入学初日から犯罪に手を染めると申すか》

 

「だよねー……あはは……」

 

 至極当たり前の指摘に、顔を覆って。

 縋るような気持ちで、時計を仰いで。

 

 

「―――うわあぁぁんっ、遅刻するぅ!?」

 

 

 地価の高い雄英近郊から、安さと距離の天秤を前者に傾けたアパートで。

 未だ公道では"個性"を使えない我が身を呪い、駆け出していくわたしの姿がそこにあった。

 

《トースト咥えていく?》

「やりませんっ!?」

 

 事ここに至ってもなお暢気な『干渉』に八つ当たりしながら、けれど『彼女』に鍛え上げられた健脚に、もう何度目かの複雑な感謝を捧げる。

 ヒーローは身体が資本、と移動技を身に着けた後も変わらず駆けずり回らされたことを有り難いと思い返すこんな日は、できれば来て欲しくはなかった。

 

「どうして起こしてくれなかったんですかっ!?」

《呼び掛けはしたのよ? でもいつにも増して寝ぎたなくてねえ》

 

「……そ、それでも大事な日なんですから、もう少し強引にでも……」

《だから身支度だけでも整えておいてあげたんだけど、お気付きでないかしら?》

 

 ……言われて、時計に青ざめた頃には既に制服を着ていた自分に気が付いて。

 起き抜けで飛び出したはずなのに、髪に違和感が無いことにも意識が向いて。

 

「……ごめんなさい、ありがとう、ちくしょうっ!」

《どういたしまして》

 

 はしたないとは思いつつ漏らした悪態も含めてさらりと流す『彼女』に、わたしは慣れ親しんでしまった敗北感と共に駆け続けるのだった。

 

 

 

「はぁ……ふぅ……」

《お疲れ様。ぎりぎりだけど間に合ったわね》

 

 指定時間の十分前と際どいところで、一年A組の教室前へと辿り着いたわたしは、やけに大きな扉の前で急ぎ息を整えていた。

 既に中にはこれからクラスメイトになる人間が勢揃いしているだろうし、第一印象が遅刻寸前で息を切らして駆け込んできた女子、になるのは勘弁してほしい。

 

「ふぅ……どうですか?」

《まあ、平然としていれば大丈夫じゃない?》

 

 『干渉』のお墨付きも貰い、努めて平然と扉を開ける。

 集まってくる様々な視線を感じながら、その顔を一通り確認―――

 

 

「「あっ」」

 

 

 気が付いて。

 駆け出して。

 互いに手を伸ばして。

 

「―――干河歩!」

「麗日お茶子!」

 

 最低限の自己紹介と共に、がっちりと両手を取り合った。

 

「受かってたんや!」

「同じクラスですね!」

 

 手を繋いだまま、その場でぴょんぴょんと跳ねて互いの合格と再会を祝い合う。

 ……第一印象? 魂の友人との交流以上に大事なことなんてありません。

 

《……あなたがそれで良いならいいけどね》

「その様子……同じ中学の出身なのかい?」

 

 『干渉』の声と重なって、近くにいた眼鏡の男子に声を掛けられる。

 位置からしてわたしが来るまでお茶子ちゃんと話をしていたのかもしれない。

 

「ううん、入試の日が初対面」

「実技試験の会場が同じだったんです」

「そ、そうなのか……」

 

「その時に気付いたんよ、ねっ?」

「はい、わたし達は―――」

 

 顔を見合わせて、にっこりと笑う。

 

 

「「魂で通じ合った仲間だと!」」

 

「あの十分で何があったらそうなるんだい!?」

 

 

 男子生徒の叫びに、居並ぶクラスメイト達がうんうんと頷く。

 

《一緒にキラキラ(婉曲表現)を吐いた仲だとは思わないでしょうねー》

 

 『干渉』、うるさいです。

 

「お友達ごっこがしたいなら余所へ行け。ここは……ヒーロー科だぞ」

 

 …………足元になんか居る。えっ、誰?

 





 麗日さん(156cm)とほぼ同じ身長、よく似た髪型、暖色系(茶髪)と寒色系(青髪)の対比が美しい(とある一点を見て)凸凹コンビです。


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C1-4 "個性"把握テスト


 独自解釈タグが火を噴くシーンまで本日中に更新することにしました。
 実は現時点で書き溜めは結構あるのです。


 歩ちゃんの実技試験獲得ポイントについて

・敵ポイント
 飯田くん以上の機動力(三次元ゆえに)+麗日さん以下の殲滅力。
 原作におけるこの二人のポイントが52・28のため、大体その中間ぐらい。

・救助ポイント
 0ポイント敵出現までは棒立ちになっていた緑谷くんを助けたぐらい。
 0ポイント敵粉砕時、街への被害を抑えたことでやや加点。
 落下する緑谷くんを麗日さんと協力して救助した扱いでポイントを分け合う。
 原作における麗日さんのポイントが45(これ一つではなさそう)なので半分ずつ分け合ったとして諸々合わせて30ポイント前後。

 最終的なポイントは70前後、順位は三位~五位辺りのどこか。

 ちなみに緑谷くんは歩ちゃんが事後処理をしたことで原作以上に「後先考えずに行動した」扱いになったこともありちょっぴり減点。
 ひそかに原作以上にぎりぎりの合格になっていました。



 

「「「―――"個性"把握……テストォ!?」」」

 

 寝袋に入り足元から声を掛けてきた不審者、もとい、担任の相澤先生に促されるまま、体操服に着替えて集合させられたのはグラウンド。

 「入学式は!? ガイダンスは!?」と問いかけるお茶子ちゃんを、諸君らにそんな悠長に構えていられる時間はない、とバッサリ切り捨てて説明は続く。

 

 途中、通常入試首席合格だったらしい爆豪さんという男子生徒に、計測種目の一つであるソフトボール投げを行わせ、彼の"個性"『爆破』を活用した大記録に盛り上がる生徒達を冷たく一瞥する一幕を挟んで曰く。

 

 ―――"個性"を禁止した上で測られる平均記録は時代に即していない。

 よって"個性"を含めた現状の『最大限』を今ここで測定する。

 総合記録最下位の生徒は『見込み無し』と判断し直ちに除籍する。

 

 これに「理不尽過ぎる!!」と抗議したお茶子ちゃんに対し返ってきたのが、理不尽(それ)を覆すのがヒーローだ、という答え。

 雄英(われわれ)は今後も諸君らに苦難を与え続ける。『Plus Ultra(更に向こうへ)』さ。乗り越えてこい、と校訓を交えた言葉で説明は締められた。

 

(……『干渉』と気が合いそう)

 

 毎度反論を入れていたお茶子ちゃんを横目に、わたしが何も言わなかった理由がこれに尽きる。

 この先生の論調は、わたしの反論を逐一正論で叩き潰す『彼女』と実によく似ていると感じた。

 ……この思考に対し何も言ってこなかった辺り、『彼女』も同意見なのだろう。

 

 クラスメイト達十九人もまた、そのときのわたし同様、反論する余地は持たず。

 

「―――まずは50メートル走。二人一組ずつ走れ」

 

 その指示に、総員黙って従うのだった。

 

 

 

 

 第一種目 50メートル走

 

 

 出席番号順に二人ずつ計測は進み、迎えた九組目。

 隣を走るのは何の因果か、入試の中で二度手助けをすることになった男子、緑谷さんだった。

 出番を待っている間に何かしら話しかけようかと思ったのだけど、何やら追い詰められた表情でずっと何かを呟いていたので、集中を乱すのは良くないかと思い遠巻きにすることに。

 ……そもそも私語が出来るような空気でもなかったし。

 

《あの0P敵を粉砕するほどの"増強系"。風圧に警戒しておいた方が良さそうね》

(【掌握(スフィア)】……だと妨害になりかねませんね)

 

《さっきの組を見る限り多少は許されるようだけどね》

(ああ、そういえば)

 

 『彼女』に言われて、ひと組前の計測の様子を思い起こす。

 合図と同時に爆豪さんが背後に伸ばした両手を爆発―――手の平から爆発を放つのが彼の"個性"らしい―――させてスタートダッシュを行ったのだが、爆発音に紛れた「わっ!?」という悲鳴は間違いなく隣のレーンを走る葉隠さんの声だった。

 ……彼女の『身体が透明な』"個性"のせいで分かり辛かったけど。

 

 彼女の記録に少なからず影響したと思ったが、これに対して相澤先生は何も言わなかったので、そういうことなのだろう。

 だからと言ってわたしは誰かを妨害しようなんて考えたりしないが。

 

《まあ【自己自在(マニピュレイション)】で問題ないわ。急な突風程度でどうにかなる技ではないし。ねえ?》

(…………はい)

 

 実家の敷地内なら大丈夫と、台風の中で鍛錬させられた記憶がよみがえる。

 頭の中からかかってくるプレッシャーに、隣を気にする余裕は一気に無くなった。

 

 

「―――【自己自在】っ!」

 

 クラスメイト達の驚く声を意識の片隅に流しながら、全ての力を前方へ【反射】、【加速】。

 制御の難しい速度に達するか否かという辺りで、ゴールを越えたことに気付き、徐々に減速。

 

「干河、3秒27」

「……やっぱり50メートルじゃ速度が出し切れないですね」

「何か同じようなことさっき聞いた気が」

 

 横からそんな感想が聞こえてきた辺りで「あれ?」と気付く。

 長距離ならいざ知らず、この距離なら一息に踏破できてもおかしくない"個性"の持ち主が、未だ隣に辿り着いていないことに。

 

「緑谷、6秒83」

 

 わたしの記録から約三秒半遅れてのゴール。

 ひょっとしてと思い、横で見ていたお茶子ちゃんに聞いてみれば、やはり"個性"を使う素振りもなく普通に走っていたとのこと。

 

「……"個性"の発動自体に反動があるタイプなんでしょうか」

「……ああ、そっか、私らあの後見てへんかったから……」

 

 あの日、人前でキラキラ(婉曲表現)を吐き散らかし搬送されたわたし達に、周囲に目を向ける余裕などあるはずもなく。

 予想が当たっているとしたら、彼にとっては初日からとんでもない試練だなと、自分達も渦中にいることを含めても、そう思わざるを得なかった。

 

 

 第二種目 握力

 

 

(……握る部分とそれ以外を別々に対象化、片方に掛かっている重力を反対向きに、そして両方を【加速】、【加速】、【加速】!)

 

 ―――113.7キロ

 

「スゲェな!? 女子の記録じゃねえ!!」

「でも握力計に触ってなくね!?」

「最早何計ってるんだそれ!?」

 

 クラスメイト達の突っ込みに「《確かに!?》」と思って先生を仰ぎ見たところ、「構わん」の一言を貰えてほっと一息。

 ……緑谷さんは『何か』を思い出したらしく目が怯えていたけど。

 

 ただその後、八百万さんという女子生徒が"個性"で作ったらしい万力で握力計を締めあげている様を見て、向けられたクラスメイトの視線が少し痛かった。

 

《……アレがアリなら、コレもアリになっちゃうわよね》

「……なんか、ごめんなさい」

 

 

 第三種目 立ち幅跳び

 

 

「干河、お前の飛行技だが、飛行時間に制限はあるか?」

「いえ、わたし自身のみを"個性"対象にしている限りほぼ無制限です」

 

 ―――(無限)メートル

 

「アリなんすかそれぇっ!?」

「測るだけ時間の無駄だからな」

 

 ……ありがたいけど総合成績にはどう反映されるんだろうか。

 

 

 第四種目 反復横跳び

 

 

(……【加速】、【反射】、【加速】、【反射】、【反射】【反射】【反射】【加速】【反射】【反射】【反射】【加速】―――っ!)

 

「残像っ!? 残像できてんぞっ!」

「幾ら何でも速過ぎるだろっ!?」

「というかコレ計測出来てるのか緑谷ぁ!?」

 

 カウント役の緑谷さんの目が追いつかなかったらしく、記録は一旦保留。

 次に計測した峰田さんという男子生徒が触れると反発する弾? を頭から出す"個性"を活用し、ぎりぎりカウント可能な速度で100回を超える記録を計上。

 それから「……二倍くらいか?」という相澤先生の一言で、わたしの記録は200回となった。

 

 

 第五種目 ソフトボール投げ

 

 

 この種目で、わたしの立ち幅跳びに続き二人目の、記録:∞が出た。

 

 お茶子ちゃんの触れたものを無重力にする"個性"により、彼女が投げたボールはふわふわと空の彼方へ消えていき。

 暫くそれを眺めていた相澤先生は、やがて計測器に『∞』を表示させ、記録にすると宣言。

 わたしは《何でそんな機能付けているのよ》という声を聞きながら、戻って来るお茶子ちゃんを笑顔で迎えた。

 

「やったね、お茶子ちゃーん」

「やったよ、歩ちゃーん」

 

「仲良いなあ……∞コンビ」

「あれで入試が初対面ってマジかよ」

「最初名前逆だと思ってたわ」

「ああ、それぞれ相手の名前呼んだんだと思ったよな」

 

 そしてわたしの出番が来たとき、また相澤先生に尋ねられた。

 

「何かしらの制限があるなら聞いておくが」

「あ、わたしは今回『∞』は無理です」

 

 クラスメイト達からも含めて意外そうな目を向けられたので、"個性"の制約について説明した。

 対象化の射程範囲は半径二メートルだが、操作の限界範囲は半径三十メートルまで。

 なので、ほどよく加速させつつ操作限界ギリギリまで飛ばし、そこから理想の投射角を設定して射出する予定であると申告。

 

「―――理想の射出位置と角度をこの場で計算するのは無理があるので、前者を垂直水平距離共に正弦余弦45度……約21メートル地点に、後者を30度に設定しようかと思っています」

「……既にそこまで細かな調整が可能なのか」

 

 驚かれながら申告通りの操作を行い、記録は252メートル。

 《概算結果は約270メートルだけど、空気圧とかあるものね》というのが『彼女』の感想。

 

 投げ終わった後で、待機するクラスメイト達の中に戻ってお茶子ちゃんを探すと、教室でも少し話した眼鏡の男子―――飯田さんと話しているところだった。

 どうやら次に投げる緑谷さんについて、そろそろ大記録が出ないと危ないのではという話をしていたらしい。

 

「……そういえば飯田さんも入試の時、同じ試験会場でしたよね?」

「ああ、覚えていてくれたのか。てっきり視界に入っていなかったのかと……」

 

 苦笑いを浮かべる飯田さんに、はて、と首を傾げる。

 何か気にするようなことをしたかと浮かんだ問いに、頭の中から回答があった。

 

《教室のアレのせいね》

「あっ……ごめんなさい」

「いや、気にしないでくれ。それより何か聞きたいことがあったのでは?」

 

「えっと、緑谷さんの"個性"についてなんですけど―――」

 

 

「あいつは"無個性"のザコなんだよ!」

 

「ひゃっ!?」

「"無個性"!? 彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」

「は?」

 

 わたしの言葉を遮り、突然背後から怒鳴り声を浴びせてきた爆豪さん。

 驚きで一瞬身を竦めたわたしが振り向くより早く、飯田さんがそれに反論。

 身の置き所に困りながら向けた視界にお茶子ちゃんの手招きが見えたので、言い争いが始まる前にとそちらへ避難。

 

「あの会場に居た飯田さんなら緑谷さんの"個性"の反動について見ているかと思ったんですけど」

「今はやめとこか、うん」

 

 

 ―――その後、結果的には確認しにいく必要もなく、緑谷さんの"個性"についてはクラス全員がその大きすぎる欠点を知ることになった。

 途轍もない強化倍率の代償となるのは、なんと強化した部位の粉砕骨折。

 

 雄英には強力な"治癒系個性"の持ち主『リカバリーガール』が常駐しているからいいとしても、本来ならたった一度の使用で数ヶ月の療養期間が必要になる"個性"。

 同じ"増強系"らしい砂藤さんという男子生徒が「パワー負けしてるけど全く羨ましくねぇ……」と真顔で呟くほどの凶悪過ぎるデメリット。

 

 一人助ける代わりに木偶の坊になって終わり、ヒーローになれる"力"じゃない、という相澤先生の正論に対して、緑谷さんが出した返答はまさに斜め上。

 壊れる部位を指一本に抑えて大記録を叩き出し、まだ動けますと宣言する姿に《いや、そういう問題かしらぁ……?》と珍しく自信無さげな声が聞こえた。

 

 

 

 

 ―――その後、持久走とは? と思いつつ飛行していたらバイクに追われ。

 流石に長座体前屈の計測器に『干渉』するのは違うなあ、と普通に測り。

 上体起こしに活かせる手段は無いな、と普通に測り。

 

 全ての種目の計測が終わり、クラス全員が何となく最下位の人間を察して沈鬱になる空気の中で、()()は告げられた。

 

「ちなみに除籍はウソな」

「「「……!?」」」

 

「君達の最大限を引き出す合理的虚偽」

「「「はーー!!?」」」

 

 誰よりも凄まじい反応をしていたのが、すわ、この世の終わりかという顔をしていたところから奇跡の生還と相成った緑谷さん。

 そんな彼に相澤先生は、その指リカバリーガールに治してもらってこい、と淡々と教師のサイン済み保健室利用書を渡して校舎に戻っていった。

 

(……どう思います?)

《……もし本当にその権限を持っていて、毎年こんなやり取りをしているとしたら、二年生以上の学年に除籍された生徒が数人は居るでしょうね》

 

 相澤先生と似た所がある『干渉』なら、即答してくれるかと思っていたわたしの予想に反して、『彼女』は相当に悩みながら返答した。

 

《けれど除籍された生徒の保護者はまず納得しないし相応に揉めることになる。それはあの先生が嫌う非合理な気がするのだけど……》

(じゃあ、やっぱり本当に嘘?)

 

《……人となりが分かれば本当にやる人間かどうかも想像できるでしょうけれど、それには情報が足りな過ぎるわ。まあ、とにかくヒーローを目指そうというなら、嘘だと思い込んで行動するのは危険極まりないとだけ言っておくわよ》

(あ、はい)

 





 出席番号を確認すべくA組全員の苗字を書き出そうとする。
 →折角なので記憶だけでいけるか挑戦する。
 →残り二枠になったところで歩ちゃん未記入に気付き、残り一枠。
 →十数分唸ったところで尾白くん未記入に気付く。
 →思わず爆笑。ごめんね尾白くん。

 →かな順並び替えで歩ちゃんが爆豪と緑谷の間になることに気付く。マジかよ。
 →並走相手が爆豪から歩ちゃんに変わったお陰で爆風の妨害を受けなかった緑谷くん。50m走記録ちょっぴり良化(7.02 → 6.83)


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C1-5 秘密の懇談


 歩ちゃん's ソフトボール投げ記録計算式

 射出開始地点:水平座標 30 cos45° ≒ 21.2m、垂直座標 30 sin45° ≒ 21.2m
 重力加速度:9.8m/s^2
 射出速度:180km/h = 50m/s
  垂直成分 50 sin30° = 25m/s、水平成分 50 cos30° ≒ 43.3m/s
 頂点までの時間:25 / 9.8 ≒ 2.55秒
 頂点:25×2.55 - 9.8×2.55^2 / 2 + 21.2 ≒ 53.1m
 落下時間:sqrt(2×53.1 / 9.8) ≒ 3.29秒
 総滞空時間:2.55 + 3.29 ≒ 5.84秒
 記録:21.2 + 43.3×5.84 ≒ 274.2m

 同様の計算で爆豪くんの記録700m近くを出そうとすると、必要な初速は320km/h少々。
 ちなみにソフトボール世界最高球速が135km/h(下投げ)です。


 なお他種目の記録は割と適当です。



 

 ―――入学初日、放課後。

 初日とは思えない濃密な一日に、気怠く座っていたわたしに掛かる声が一つ。

 

「歩ちゃん、駅まで一緒に帰らへん?」

「勿論です、行きましょう、お茶子ちゃん!」

《急に元気》

 

 今日の体験について話し合ったり、住んでいる場所の話になって、「アパートに下宿中です」「一緒やん!」と他愛のない会話をしながら校舎を出て正門前。

 前方に見えた人影に、ツッテケテーと走り出したお茶子ちゃんを追いかける。

 

「お二人さーん! 駅まで? 待ってー!」

「あ、緑谷さんに飯田さん。わたし達も御一緒して良いですか?」

「君達は……W∞(ダブル無限)女子」

《W∞女子》

 

「干河歩です」

「麗日お茶子です! 飯田天哉くんに緑谷……デクくん! だよね!!」

「デク!!?」

 

 先の"個性"把握テストの途中、同じ中学出身だったらしい爆豪さんが口にしていた名前を使ったお茶子ちゃんに対して、何だか慌てた様子の緑谷さん曰く、彼に付けられた蔑称だったとのこと。

 

「でも『デク』って……『頑張れ!!』って感じで、なんか好きだ私。響きが」

「お茶子ちゃん!?」

 

 じゃあ呼び方を改めた方がいいかなと考えていたわたしの横で、お茶子ちゃんが輝く笑顔で斜め六十度彼方のコメントをかっ飛ばす。

 

「デクです」

「緑谷くん!! 浅いぞ!! 蔑称なんだろ!?」

《ちょっろ》

 

 そして気の毒なくらい真っ赤になって「コペルニクス的転回……」などとよく分からないことを呟く緑谷くんに、本当によく分かってない様子のお茶子ちゃん。

 わたしの友達は意外と悪い女になるかもしれない。わたしは『干渉』と共にそう思った。

 

 

 

 

 ―――駅にて、男子二人と別れ。

 あ、乗る電車同じなんだー、と盛り上がり。

 あ、降りる駅も同じなんだ、と喜び合い。

 あ、向かう方向も同じなんだ……と顔を見合わせて。

 

「―――いや、同じアパートやん!?」

「……何となくそうかなって、途中から思ってました」

 

 果ては部屋が隣同士と発覚した際には、一周回って変な笑いが出た。

 ここまで来ると逆によく今まで出会わなかったなあと、二人で首を傾げる。

 それぞれ入学式の数週間前には入居していて、生活圏も当然被っていたのに。

 

「スーパーの特売とかですれ違ったりもしてへんよね……?」

「あ、その……あまり安い食材は口にするなとお母様に言われていて……」

 

「お母様!? あれ、ひょっとして歩ちゃんってお嬢様!?」

「そ、そこまでではない、と思いますよ?」

 

「…………ご実家でお料理されてたのは?」

「え、家政婦の方ですが」

 

「セレブやないかい」

《キレのある突っ込み》

 

 その後、お互いの実家の経済状況を知り、ちょっぴり友情に亀裂が入りかけたりもしたものの、そんな世間知らずを解消するための下宿なんやな、と納得され。

 セレブっぷりを確認したる、と部屋に乗り込んできたお茶子ちゃんに、『干渉』も知らなかった生活の知恵を教わっているうちに、外はすっかり暗くなっていた。

 

「……なんか思ったより絵に描いたようなお嬢様、って感じやなかったなあ」

「それは、えっと……ありがとうございます?」

 

 褒められてるのか貶されてるのかよく分からない感想に小首を傾げる。

 尚も部屋のあちこちを見回すお茶子ちゃんもまた、不思議そうに続けた。

 

「色々知らんことはあったけど、でも誰かに助言されてたみたいな感じがして……誰かもう一人とルームシェアでもしてたみたいに感じたんよ。……でも洗い物とか間違いなくひとり分やし……」

「あ……」

《……へえ》

 

 お茶子ちゃんが何に引っかかったのか、その疑問の源に気付いて驚愕した。

 頭の奥からも驚いて、でもどこか嬉しそうな呟きが聞こえる。

 

(……良いよね、『干渉』?)

《……任せるわ、(あゆみ)

 

 二人分の気配があって、一人分の生活痕しかない部屋。

 そんな些細な違和感から、()()に気付いてくれた彼女になら、教えてもいい。

 

「……お茶子ちゃん。道すがら話したわたしの"個性"についてなんですけどね」

「歩ちゃん?」

 

「物体、非物体……それ以外にもう一つ、『干渉』できるモノがあるんです」

「もう一つ……?」

 

 パチパチと目を瞬くお茶子ちゃんに、わたしは手の平を上に右手を差し出す。

 

「お母様以外には特に親しい友達にしか話していないわたしの秘密、聞いてくれますか?」

「…………っ、うん!」

 

 差し出した手を見て、それからわたしの顔をじっと見つめて。

 ぐっと口角を上げたお茶子ちゃんは、その手をグッと握り返してくれて。

 

「《【面会(ディグアウト)】》」

 

 暗転した視界に、意識を委ねた。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 目を開ければ、視界に映るのは真っ白な部屋の中。

 そう広くない部屋の中央に置かれた白い机に、わたしが座ってるものを含めて白い椅子が四脚。

 

 向かいの椅子に座っているのは、目を閉じた状態のお茶子ちゃん。

 やがてその瞼が、ゆっくりと上げられて。

 

「―――え、ここどこ!?」

「「ようこそ、お茶子ちゃん」」

 

「あ、歩ちゃん……と、誰!?」

 

 気持ちの良いリアクションしてくれるお茶子ちゃんに、隣の席を見るように指を差して促す。

 顔中に疑問を貼り付けたまま、お茶子ちゃんは目を白黒させつつそちらに顔を向け―――硬直。

 

 

「おちゃこー! おちゃこー!」

「…………何コノかわええ生き物!? 何が起きたん!? 説明して!!」

 

 

 自分を小さくしたような、満面の笑みを浮かべる女の子にじゃれつかれながら、お茶子ちゃんは腹の底から絞り出すような叫びを上げた。

 

「さて、何から説明しましょうか、『干渉』?」

「まあ、ゆっくり話をしましょう、お茶子さん。それと―――『無重力(ゼログラビティ)』さん」

 

 

 

 

 ―――"個性"には、意思が宿る。

 都市伝説に近い形で扱われるその説に、わたしは明確な解答を持っていた。

 

 意思はあれど、持ち主と言葉を交わせるほど『強い』ものではない。

 人の体内から"個性因子"なるものが発見され、その『動き』を測定できるようにはなれど、そこに意思があるかどうかを裏付ける証拠は無く。

 

 しかし、わたしになら、わたしの"個性"にならば。

 そこに『動き』が、『力』があるならば、『干渉』し【加速】させられる。

 微弱な意思を、対話可能な『強さ』にまで。

 

 

「―――なんて言っておいてなんですけど、実の所はそれっぽい仮説ってだけです。わたし自身は"個性"が発現したその日から、『干渉』とこうしておしゃべりしているので」

「私に"私"を使っているのだという仮定の基にね。普段から歩の足りないところを手出し口出し補っているから、お茶子さんの覚えた違和感はそのせいよ」

「ほあー……」

 

 お茶子ちゃんが驚きつつも、少しずつ顔に納得の色を広げていく。

 その腕の中に、十歳前後の女の子に見える『無重力』を抱きしめて。

 

「えへへー……おちゃこー」

「……でも、それなら私の"個性"は何でこんなかわええの……? 『干渉』さんは同い年ぐらいに見えるし、歩ちゃんともそんな似てへんよね」

「これも仮説ですけど、基本的に本人より四年遅く生まれるからじゃないかなと。見た目については個人差が激しいみたいでなんとも……」

「これまで見てきた例だと"異形系"が特に似ても似つかなかったぐらいね。歩が先に言った通り、試した相手が少ないから確かなことは言えないわ」

 

 わたしと『干渉』のように、見た目から性格まで共通点がほとんど見つからないこともあれば、お茶子ちゃんのような姉妹にすら見える例もある。

 本人は穏やかな性格なのに"個性"はやたらと攻撃的というか、手の付けられないやんちゃ坊主だったことなども。

 

 今まで見てきた小中学生時代の友達の"個性"を例に説明していくと、お茶子ちゃんはふむふむと頷いた後で小さく「この子で良かったわ……」と呟いた。

 

「……あ、そうだ。折角ですし『無重力』さんに聞きたいことがあるんです」

「この子に?」

「んー? なあにー?」

 

 

「―――"個性"『無重力』のデメリットについて、ね」

 

 

 一瞬、言葉にはしにくいな、とわたしが思うや否や、察したらしい『干渉』が代弁してくれた。

 案の定、その一言にお茶子ちゃんはムッと眉に皺を寄せ、『無重力』を強く抱きしめる。

 

「他の物体なら許容量は約3t(トン)。なのに自分を浮かせると忽ち許容量超過の症状が出る。すなわち自分を対象にしたときに重量以外の何かを対象にしてしまっていて、それが許容量を大きく削っているんじゃないかしら」

「…………そう、なん?」

 

 『干渉』の指摘に、思わぬことを言われたという顔で、呆然としていたお茶子ちゃんは、暫しの沈黙を経て腕の中の『無重力』に確認する。

 暫しポカンとしていた『無重力』は、聞かれた内容を理解した途端ムッと眉間に皺を作った。

 

「……そう、そうなの! おちゃこ、使い方、悪い!」

「えっ!?」

 

「おちゃこ、わたしにまで"わたし"を使っちゃう。だから、ぐちゃぐちゃ!」

「うええぇっ!?」

 

 あまりのショックに三度硬直するお茶子ちゃん。

 わたし達の出会いの切っ掛けにもなったとはいえ、キラキラ(婉曲表現)を回避できる可能性があったと言われたら気持ちはとてもよく分かる。

 

 同系統であっても、詳細まで全く同じ"個性"ということはまずあり得ない。

 よく似た"個性"を参考には出来ても、自分で使い方を探る必要はどうしても出てくる。

 その為、思い込みから非効率な使い方をしていたことが随分後になって判明したという体験談を持つプロヒーローも少なくない。

 

「つまり自分と"個性"を別々に認識して、自分だけに"個性"を使うことが出来れば、今後は急激なキラキラ(婉曲表現)に怯える必要もなくなる?」

「うん!」

「マジでか!?」

 

 "個性"のことは"個性"に聞く。

 他人に聞かれたら、それが出来れば苦労しない、と言われそうなことだけれど、わたしは四歳のあの日からそれをずっと実行してきた。

 

 ()()が羨まれるようなことだと理解してからは、後ろめたさも少しある。

 とはいえこれからも『干渉』の事を親しくもない相手に話すつもりはない。

 ……普通に精神疾患だと思われるだろうというのもあるし。

 

 けれど、友達の役に立てるなら話は別。

 わたしが話す前から『干渉』(もう一人)の存在に気付いたお茶子ちゃんなら尚の事だ。

 

「さ、早速一回試してみる! ……えっと、歩ちゃん?」

「はい、戻りましょう。『干渉』?」

「ええ、やるわよ」

 

 

「「解除」」

 

 

 

 

 ―――ふわふわと、アパートの一室に浮かぶお茶子ちゃん。

 ぎゅっと目をつぶって、緩やかに回転しながら、時々静かに息を吐き。

 

 ……三十秒。……一分。

 すっと目を見開き、徐に両手の指先を合わせ、解除。

 そのまますとんと着地したお茶子ちゃんが、ふっとわたしに微笑みを見せて。

 

 

「…………おぇ

 

※しばらくお待ちください

 

 

 

 

《……片方の腕だけを自分と認識するな、と急に言われたようなものよね》

「……体の一部からそう簡単に認識を外せるわけないですよね……」

「…………さき、いうてえな」

 

 死んだ目でちゃぶ台に突っ伏すお茶子ちゃん。

 色々と申し訳ない気持ちになりながら、()()の際にと用意しているミントティーを淹れれば、「……ありがと」と小さな声を返してくれた。

 

「その、えっと、ごめんなさい、お茶子ちゃん」

「ん、いや、歩ちゃんには感謝しとるんよ? もうすっかり諦めとった事が苦労はしそうでも無理やなかったって分かったし……」

 

 そう言って、何か思いついたようにお茶子ちゃんが胸元に手を当てる。

 

「『無重力』と話せる日が来るなんて夢にも思ってへんかったし。……『干渉』さんは、今も?」

「はい。わたしの頭にいつでも口煩く呟きを溢してきますよ」

《あら、口煩くさせてるのは誰かしら?》

 

「あー……ああー……それでか」

「……あの、ひょっとして今何か失礼な事考えてませんでした?」

《意外と言うこと言うわよね、彼女》

 

 『干渉』による補助が無くなれば、話が出来るほどの『動き』は失われる。

 これは今まで【面会】を使ったどの"個性"でも共通していること。

 

 それでもこの『四者面談』を経験した誰もが、"個性"との付き合い方が変わったと言っていた。

 自分の中に居る、自分ではないもう一人を意識すると、自然とその使い方も深く考えられるようになるそうだ。

 

 目を瞑って「そっかー……それで……」と何やら頷いていたお茶子ちゃんは、不意にはっとした顔になって呟いた。

 

「―――そうや、デクくん!」

「デクさん?」

《緑谷さん?》

 

 

「デクくんの"個性"も、私達みたいに話し合ったら何とかならへんかな?」

 





 書きたかったシーンその一。
 『無重力』ちゃんの見た目は原作の回想に出てくる幼女お茶子に近いイメージ。
 『干渉』さんについては金髪黒目でぺったんなことぐらいしか決めてません。

 『無重力』のデメリットについては独自解釈。許容量については原作22話扉絵から。
 あと麗日さんが意外と口が悪いのは公式設定(単行本一巻より)。


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C1-6 善意の提案


 本日中の更新はここまで。
 書き溜めが続く内は一日一本更新かなあ。

 作者も生粋の関西人だし、麗日さんをメインに据えても問題ないな!
 →関西弁をそのまま文字に書き起こすと意外に読みづらいことに気付く。
 標準語が標準とされる理由がよく分かる……



 

「―――っ! 今日の『ヒーロー基礎学』、担当がオールマイト先生ですよ!」

《これから珍しくなくなるんだから、いちいち騒がないの》

 

 初日に配られて見忘れていた、数日先までの授業予定表。

 そこに並んでいる憧れの名前に興奮するわたしに、呆れた声が降り注ぐ。

 

《……こう見ると教室から離れる授業も多いわね。念のため、敷地の地図で大体の場所は把握しておきなさいよ? あの先生ならいきなり、何処其処に集合だ、情報は前もって渡しているのだから把握しているはずだろう? なんて言いそうだし》

「うわあ、言いそう……あ、こっちのプリントには施設概要も……『USJ』?」

 

《え、何それ? あ、ほんとにUSJって書いてある……》

「演習場の一つみたいですけど……というか校舎から遠いなあ」

 

 

「―――(あゆみ)ちゃーん、起きとるー?」

「《あ》」

 

 

 玄関の向こうからお茶子ちゃんに呼ばれ、身支度の途中だったことを思い出した。

 慌てて鞄に必要な文具を詰め込み、"個性"で身支度を整えながら部屋を飛び出す。

 

「お、お待たせ、お茶子ちゃん!」

《……これから遅刻の心配だけはなさそうね》

「おはよ……わぁ、髪とか服とか勝手に整えられていっとる。便利やなあ」

 

 

 

 

「あ、居た居た。デクくーん!」

「デクさーん!」

「う、麗日さん!? 干河さん!?」

 

 昨日の反省を活かし、一緒に登校したお茶子ちゃんと教室へ。

 すぐに姿を見つけたデクさんに、二人揃って手を挙げて呼ぶ。

 

「ちょっと内緒で話したいことあるんやけど、ええかな?」

「始業前ですし、そう時間は取りませんので……」

「え」

 

 カチン、と固まったところに返答を促すと、カクカクと人形のような首肯。

 「ほな待っとるなー」とお茶子ちゃんが返して、二人で廊下に戻り、一拍。

 

 

「―――み・ど・り・やお前えぇっ!? 昨日の今日で女子二人からお呼び出しとか何しやがったテメエエェェッ!!?」

 

 

 ……確か、峰田とかいう人の、蛙を引き潰したような鳴き声が聞こえてきた。

 昨日の持久走の折、頭の上を通り過ぎる度に「最高のアングル」等と呟かれて悪寒を感じたのでよく覚えている。

 

「しかも巨乳貧乳両取りとはイイご身分だなあ!? ええオイィッ!?」

「飛躍させ過ぎだ落ち着けって……まあ、ちょっと分かるけどな」

「羨ましいシチュではあったよな……ほら早く行ってこい、緑谷」

「う、うん……」

 

「「…………」」

《わぁお》

 

 二人で能面のようになった顔を見合わせて、何も聞かなかったことにした。

 

 

 

 

「―――"個性"との、対話……っ!!?」

「そうそう。それで私も"個性"の欠点改善の糸口が見えてきたんよ」

 

 お茶子ちゃんにも説明した【面会(ディグアウト)】についてと、それによる欠点克服の可能性。

 それを含む"個性"への理解向上その他を聞いたデクさんは、再び呆然とした表情で硬直した。

 やはりすぐには信じてもらえないかな、と考えていたわたしを余所に、突如口元に手を当て視線を下げたデクさんが、何やら猛烈な勢いで呟き始める。

 

「"個性"に会話できるほどの意識が存在する? いや確かにそういう学説は個性科学の一分野として一昔前に発表されてたはずだ。でも誰にも立証できなくて与太話に近い形で片付けられていたような。ああでもそうか干河さんが自分の"個性"の制約についてあそこまで細かく把握していたのは"個性"そのものと話し合った結果だったのか。家族親戚に似た"個性"を持っている人が居たとしても個々人で違いはあるはずだしどうやって検証したのかと思っていたけど、"個性"のことを"個性"に直接聞くことができるっていうなら話はまるっきり変わってくるぞ。これが立証できれば"個性"に対する世の中の認識を大きく変えることにも……いや待て待て落ち着け、干河さんはさっき家族と信用できる友人にしか話す気は無いって言ったじゃないか。他人の好意を踏みにじるようなことを考えるだなんて最低だぞ僕。何より僕の現状を危ぶんでこんな秘密を打ち明けてくれたんだ。ここはお言葉に甘えてでも現状の改善を急いで……あれでもさっきの話を聞く限り干河さんとその"個性"が同席した四者面談になるわけで、そうなると僕の隣に現れるのは―――」

 

 ……突然、糸が切れたように呟きを止めて、青ざめていくデクさん。

 その様子がちょっと尋常なものだとは思えず、不思議に思いながら声を掛ける。

 

「その……やるなら時間も掛かりますし、今すぐというわけにもいきませんから」

「……えっ、あ、ウ、ウン、ソウダヨネ……」

「……もう時間あれやし、教室入ろか」

 

 明らかに挙動不審になったデクさんに、首を傾げながら三人で教室に戻った。

 デクさんの顔色を見たクラスメイトから「カツアゲ?」「美人局?」と失礼な言葉が飛んでくるのを苦笑と共に否定しつつ、彼の異様な反応について『干渉』に問いかける。

 

(……どう思います?)

《思考の途中で何かの危険性に行きついたように見えたけれど……》

 

 頭の中で『干渉』が悩む声を聞きながら、わたしも考えてみる。

 これが昨日の下校時のような真っ赤になっての遠慮なら、女性に免疫の無いデクさんがわたしと長時間手を繋ぐというところに過剰反応した《いや、それはどうかしら……》可能性もなくはないけれど、そんな雰囲気ではなかった。

 

《……身体を破壊してくる"個性"との話し合いを想像して気が引けた?》

(ああ、それなら……)

 

 例の白い部屋の中で、相手の"個性"が暴れようとしたという経験はなくもない。

 けれどその"個性"の意思を『干渉』が増幅して対話が成立しているわけで、即ちあの部屋の中で『彼女』以上の力を発揮できるはずもない。

 万が一、が起こりそうなら『彼女』が【減速】させれば抑えられる。

 

《さっきの話の中で、それは説明していないわね》

(それじゃもう一度、お昼休みにでも話をしてみましょうか)

 

 

 ―――そんなわたしの考えは、当のデクさんが予鈴が鳴った瞬間、携帯電話片手に教室から駆け出していったことで流れてしまい。

 仕方なくお茶子ちゃんに先に聞いてもらったところ、「あー……」と納得の声。

 しかし彼本人と話す時間は取れないまま、()()()()がやってきた。

 

 

 科目『ヒーロー基礎学』。担当教員―――オールマイト!

 

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!」

 

 

「すごい……近くで見ると本当に画風が違う……っ」

《え、そこ?》

 

 『干渉』の入れてくる茶々を耳の奥に流し、授業の把握に専念する。

 ……とはいえ与えられた指示は非常に簡潔なもので。

 

 入学前に送った『個性届』と『要望』に沿って製作された"戦闘服(コスチューム)"に着替え、所定の場所(入試に使われた演習場の一つ)に集合。

 

 ただそれだけの指示を受けたクラスメイト達の気分は、わたしも含めて最高潮に高揚していた。

 

《今日から自分はヒーローなんだ、か。流石に煽りも上手いわね》

(またそんなこと言って。『干渉』だって結構興奮してたくせに)

 

 更衣室への移動中、『彼女』の斜に構えたコメントに返答する。

 素直じゃないんだから、と意識を送れば、煩わしそうな溜息が聞こえた。

 

(要望については『干渉』の言う通り書きましたけど、どんな"戦闘服"になったんでしょうね)

《プロヒーローの"戦闘服"も作ってるサポート会社製のそれを、授業初日の一年生が着られるって本当に凄い学校よね》

 

 デザインも併記すれば要望と矛盾しない程度に実現してくれる、と説明にあったけれど、あまり明確なイメージが湧かなかったわたしは条件の箇条書きに留めた。

 なのでどんな"戦闘服"になっているかは、実際に目にするまで分からない。

 

《奇抜な恰好にならなければいいわね》

(流石にないですよ……ないですよね?)

 

 

 

「「…………パツパツスーツになった」」

「「「二人で揃えたわけではなく!?」」」

 

 流石にちょっと信じられない思いで、お茶子ちゃんと顔を見合わせる。

 一応お互いが出した『要望』を確認するも、被っている要素は特になかった。

 

「昨日もお見せした例の移動技は衣服の重さが一定以上になると多大な影響が出てしまうんです。ただ手足あるいは足だけでも打撃に使える装備が欲しかったので、指定した重量を越えない範囲で可能な限り強度のあるものを、と頼んだんですが……」

「……結果がそのメタリックなブーツにパツパツスーツと」

「そう聞くと理解はできますけど……」

 

 鈍く金属光沢を放つ、見た目よりも遥かに軽量な、それでいてしっかりした硬さを感じる銀色のブーツに、首から下をぴっちりと覆う黒いスーツ。

 水色のラインがスーツの手首足首にあしらわれているのは、デザイナーの趣味だろうか。

 重量の都合で余計な装飾を付けられない中で、デザイン性を追求した結果なのかもしれない。

 

「……たまたまデザイナーが一緒やったんかな」

「……そっちのピンクのラインを見るとそんな感じしますよね」

「完全にペアコーデじゃんよ」

「偶然って怖いわ」

 

 一方、お茶子ちゃんの出した『要望』は、首や手首の酔いを抑えるツボを押してくれる装飾を、程度のものだったらしい。

 なのに何故かわたしと同様、体型がくっきり出るスーツにされたことにお茶子ちゃんは「もっとしっかり書けば良かった……」と苦笑を浮かべた。

 

「……何度か耳に入ってきてたけど、入試の日が初対面って本当なの?」

「うん、本当に偶然同じ会場だったんよ?」

「で、偶然同じクラスになりまして」

 

「偶然、同じような"個性"のデメリットを抱えとって」

「偶然、よく似たデザインの"戦闘服"になって」

 

「「偶然、下宿先のアパートも同じでした」」

「「「もう怖いよ、その一致具合!?」」」

 

 慄く一同を前に「入試まで本当に全く縁はなかったんですけどねー」「なー」と頷き合う。

 そんなわたし達に"個性"なのだろうイヤホンのような耳をしたクラスメイト―――耳郎さんが、ボソリと呟いた。

 

「…………(ここ)は一致してないんだ」

 

 …………。

 

「……あ、あれ? 歩ちゃん?」

《あー……》

 

 ……………………。

 

「……か」

「か?」

 

 

「考えないように、してたのに……友情を、折角出来た友情を捨てたくなくて……必死に、見ないように……っ!」

「そうやったん!?」

「耳郎ちゃん!」

「ごめん! 干河、マジでごめん!?」

 

 

《胸の大きさぐらいで何だってこう大騒ぎ出来るんだか》

「……着替えたなら早く行きましょう、みんな」

 





 単行本一巻の幕間にてクラスメイトそれぞれが出した『要望』はある程度確認できます。
 峰田くんあたりはほぼそのままのデザインを書いていたりしますが、麗日さんは本当に首と手首部分の簡素な図解のみ。
 あれで体型ばっちりパツパツスーツにされたのは、お年頃の女の子としてキレていいレベル。

 初授業直前に緑谷くんから爆弾を落とされる新米教師オールマイト。
 歩ちゃんの視界外の出来事を今後どのように書くかは悩みどころですね。

 個性に意思があるという学説……一体どこの医者が提唱したんだ(棒)。
 なお常闇くん。緑谷くんも歩ちゃんもまだ彼の"個性"は見ていませんので。


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C1-7 戦闘訓練・前編


 Q. 峰田くんの叫びでは格差に意識はいかなかったの?
 A. あれは鳴き声です。



 

 ―――二人一組でヒーロー側、ヴィラン側に分かれての屋内対人戦闘訓練。

 舞台となるビル内には、核兵器を想定したハリボテが一つ。

 ヒーロー側の勝利条件は、15分の制限時間以内に核兵器に触れる、もしくはヴィラン側二人に支給された確保テープを巻き付けての捕獲。

 ヴィラン側も同様にヒーロー側をテープで捕獲するか、制限時間まで核兵器を守り切る。

 また訓練中同陣営間では小型無線による会話が可能。

 

 なお、それぞれのコンビ及び対戦相手は、くじを引いて決定。

 またいずれか二組による訓練を行われている間、残りの十六名は地下のモニタールームからビル各地に設置された定点カメラの映像越しにその様子を観戦する。

 

 筋骨隆々、大木のような手に摘まんだカンペにちょくちょく目をやりつつ、それらの説明を行うオールマイトに、一同思わぬギャップを見せつけられる一幕を経て。

 中身を見えなくした箱からそれぞれくじを引き、コンビ相手の確認をすること暫し。

 

「私はAやな」

「わたしはEでした」

「「「そこ揃わないの!?」」」

 

「そらまあ流石に―――あ、デクくんAやん! すごい! 縁があるね! よろしくね!」

「……っ! ……!!」

《喋れてないわよ、頑張れ男の子》

 

「あ、Eって私だよー、干河ー」

「芦戸さんでしたか、よろしくお願いしますね」

 

 最後にオールマイトが対戦する二組及び役割を決定するくじを引くことで、『ヒーロー基礎学』最初の授業の本格的な幕開けとなった。

 第一戦、ヒーローチームは緑谷さんとお茶子ちゃん。ヴィランチームは爆豪さんと飯田さん。

 

 

(……どうなると思います?)

《……緑谷さんが"個性"をそう簡単に使えない状況は変わらず。お茶子さんも昨日見て、話して、観察した限りでは近接戦闘の心得を磨いてきたようには思えない》

 

 そんなところを見ていたのか、という思いを抱くわたしを余所に『干渉』の分析は続く。

 

《対して爆豪さんは見るからに()()()()様子。飯田さんも方向性は違えど少なからず鍛え上げられ、かつどちらも戦闘に活かせる"個性"の持ち主。真っ向勝負なら勝敗は火を見るより明らか》

(……じゃあ、お茶子ちゃん達に勝ち目は無いんですか?)

 

《真っ向から戦えば、と言ったわよ?》

(それは―――)

 

 

「いきなり奇襲!!」

 

 峰田の叫び声に、はっとモニターを見上げれば、ビル内に侵入した二人が爆破の一撃から辛くも逃れる瞬間が映っていた。

 爆豪さんの右手が追撃に振りかぶられた瞬間、その正面へと飛び出す影が一つ。

 

「え、デクさ……わぁ」

《背負い投げ、かしら。彼もその手の訓練をしているようではなかったのに……》

 

 その後もデクさんは、そのハイリスク過ぎる"個性"を使用しないまま爆豪さんと交戦、隙を見てお茶子ちゃんを核兵器の探索に進ませることに成功。

 自分もまた地形を駆使して相手の視界から逃れ、息を整える姿がカメラに映る。

 

 遭遇戦を突破したお茶子ちゃんはと言えば、五階まで進んだところで核を守る飯田さんに遭遇。

 何事か言葉を交わしたらしき停滞の後で、間合いを図るように対峙していた。

 

《……一対一、二対二では勝ち目が薄いと察して、二対一を二回仕掛ける心積もりかしら》

(成程、それなら有利不利を覆せますね)

 

《ただ、残り時間でそれが実現できるかは怪しいわ。今はお茶子さんが自分一人での核兵器確保に切り替えるべきか、選択を迫られているところね》

(お茶子ちゃん……っ)

 

 核兵器と、その傍で対峙する二人が映るモニターに、わたしが注視していたそのときだった。

 この場でただ一人、訓練中の四人の会話を聞いているオールマイトが不意に口を開く。

 

 

「爆豪少年、ストップだ―――殺す気か」

 

 

 次に起きたのは、地下のモニター室にまで届く轟音と振動。

 そして幾つもの、一瞬だけ真っ白に染まり、映像の切れてしまったモニター群。

 

「授業だぞコレ!」

「……!! 緑谷少年!!」

《今はヴィラン役とはいえ、これは……っと、お茶子さんが動いたわよ》

「人に向けて良い威力じゃ……え、あっ」

 

 地下の面々同様、大きく揺れるビルに飯田さんが気を逸らされた隙を狙い、お茶子ちゃんがその頭上を跳躍していた。

 まだまだリスクは高いままであるはずの、自分自身を重力から解き放つ『超必』を使って。

 

 ただしそう安易に出し抜かれるような飯田さんではなかったらしく、両脚に着いた『エンジン』の"個性"を使った高速機動で核兵器を抱え上げ、お茶子ちゃんの軌道上から退避。

 既に核兵器回収の為に"個性"を解除し落下軌道に入っていたお茶子ちゃんは、着地点の急な変化に対応できずにゴロンゴロンと盛大に転がって壁に激突した。

 

「うわあぁ、だ、大丈夫かな、お茶子ちゃん……っ」

《動揺からくる着地ミスだなんて、随分練度が不足してるわね》

「え? うわ、麗日ひっくり返ってるじゃん。何があったの?」

「みんな爆豪と緑谷のほう見てたからなー」

「ぶれないのね、干河ちゃん」

 

 お茶子ちゃんにまで辛口になりだした『彼女』の声を意識から追い出して《ちょっと?》、奮闘を続ける姿に心の中でエールを送る。

 それから暫く飯田さんと『超必』を混ぜた追いかけ合いをしていたお茶子ちゃんが、不意に彼と距離を保ったままビルの柱の一つにしがみついた。

 

「……? お茶子ちゃん、何して……うえっ!?」

「緑谷コレ、マジかよ!?」

「麗日達が居る階までブチ抜いて……!」

 

 二度目の大爆音と地響きの中、お茶子ちゃんの眼前にあった床が膨らむように破裂した。

 前方に浮かんだ無数の瓦礫に、"個性"を使ったらしい柱で流れるようなフルスイング。

 核兵器を抱える飯田さんへと、柱に打たれた瓦礫が流星群の如く降り注ぐ。

 

 ビル全体が未だ衝撃に揺れる中では、飯田さんもこれまでのような核を抱えた移動は選べず。

 飛来する瓦礫への防御に転じた瞬間を、再度の『超必』を仕掛けたお茶子ちゃんが突破に成功、核兵器への回収(ダイブ)を達成。ヒーロー側の勝利で第一戦は幕引きとなった。

 

《…………は?》

「うわあ、凄い連携……連携? で、良いんですよね、これ」

「割と脳筋気味な解決……いやでも爆豪が先にビルぶっ壊してるしなあ……」

 

 気分が悪そうに核のハリボテに寄りかかるお茶子ちゃんに、飯田さんが気遣わしげに声を掛けているらしい様子が見える。

 デクさんの方はと目を向けると、不味い方向に曲がった左腕を抱えて倒れこんだところだった。

 

 

 

 

「―――お茶子ちゃん!」

「あ、歩ちゃーん!」

「ぼ……俺も居るんだが……まあいいか」

 

 終了宣言からその場に立ち尽くしている爆豪さんを、オールマイトが迎えに出ていって暫し。

 先にモニタールームへと戻って来たお茶子ちゃんを笑顔で迎え、いつかのように手を取り合う。

 

「成功したんですね、『超必』完全版!」

「うん、まだ半分……いや、三割くらいやけど。目に見えて耐えれるようになったわ。歩ちゃんのおかげやね」

「何々、お二人さん。何の話ー?」

 

「ああ、えっと……私の"個性"のデメリットがな。昨日歩ちゃんと相談して色々試してたら改善の糸口が見つかったんよ」

「デメリットとは……さっき訓練終了後に、顔色を悪くしていたあれかい?」

「ええ。あの様子なら今後の選択肢が大きく広がりますね、お茶子ちゃん」

 

「いうてもかなり難しいんやけど……方法が見つかったからには頑張らへんとな」

 

 顔を寄せて、ボソっと溢された「乙女の尊厳も守れたし……ほんまありがとうな」という呟きがわたしの耳を叩く。

 笑みを返そうとしたところに『干渉』からの思念が伝わって、わたしの笑みは苦笑に変わった。

 

「あー……ただ自分の技で着地ミスからの横転は、ちょっと」

「え……あっ、あー………せやね」

 

 自分の頭をトントンと叩きながら、伝えるようにいわれた苦言を口に出せば、一瞬驚いたようにわたしを見たお茶子ちゃんは、すぐに『誰』の伝言か気付いたらしく、苦笑いを浮かべた。

 

「あと核兵器想定のハリボテにも当たりかねない軌道で瓦礫打ち込んでましたよね」

「…………あっ」

「……割と容赦なく駄目出しするんだな」

「仲良いだけじゃないのね」

 

 

 それから爆豪さんを伴って戻って来たオールマイト曰く、緑谷さんは現在搬送用のロボに担架で運ばれ、保健室へと送られている最中とのこと。

 爆豪さんから"個性"による爆破を含めた猛攻を受け、また己の"個性"により左腕を骨折しているものの、受け答えは可能な状態なので心配は要らない、ということらしい。

 

「さて今の一戦の講評……の前に配布品の回収か。では確保テープと小型無線機を……あっ」

「オールマイト先生?」

 

「緑谷少年から小型無線機の回収を忘れていた……麗日少女、まだ通信は繋がっているかい?」

「え……は、はい! デクくん、聞こえる? ……繋がってました!」

 

「では後で回収するので保健室に着いたらリカバリーガールに渡すよう頼んでおいてくれるかな。さてすっかり長くなってしまったが今の一戦の講評に移ろうか!」

 

 

 その後、八百万さんに『干渉』のソレに輪をかけて厳しい講評をされたお茶子ちゃんから助けを求めるような目を向けられたものの、いずれも正論でしかなかったために首を横に振るしかなく。

 縦横に大きく穴が貫通したビルで次戦を行うわけにもいかないからと隣のビルに移動する間に、しょんぼりするお茶子ちゃんを慰めることになるのだった。

 





 爆豪緑谷が派手な戦闘をしている中、頑なに麗日さんから目を離さない歩ちゃん。
 原作では講評前に気絶、搬送されてしまう緑谷くんですが、聞いてほしいやり取りがあったので少しばかり根性を盛ることに。
 無線越しに麗日さんがPlusUltraしてる声が聞こえてたので食いしばり発動したということで。


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C1-8 戦闘訓練・後編


 何やらスピンオフで第三戦以降も描かれたそうですが、作者は未読ゆえよく知りません。
 単行本から分かるのは芦戸さんが青山くんのマントを溶かしたことと、耳郎さんが相手の位置を探知していたらしいぐらいですね。



 

 ―――続く第二戦。

 開幕と同時にヒーロー側の片割れ、轟さんの"個性"により、なんとビル丸ごと氷漬け。

 爆豪さんといいデクさんといい、モニタールームにまで影響するような攻撃をしないでほしい。

 

 寒さで一同震えているうちに、足が凍り付いて動けなくなったヴィラン側二名の脇をヒーロー側が悠々と通り過ぎ、核兵器に触れてあっけなく決着。

 この氷をどうするのかというところで、驚いたことに轟さんは先の"個性"と相反する炎を放ってビルを解凍。

 その強力過ぎる"個性"にただただ戦慄させられるばかりの一戦となった。

 

 ……なお、結局水浸しになったビルは次戦に使えないので再度別のビルに移動することに。

 無残に破壊した先の二人とは違うといえ、後で同じ舞台を使う人間の事も少しは考えて欲しい。

 

 

(―――ついに、出番ですね)

《残ってるのがもう四人二組だけだから、当然だけども》

 

 第三戦、第四戦を経て、わたしの所属するEチームが選ばれたのは、第五戦ヴィラン側。

 コンビの相方である芦戸さん―――黒目に鮮やかなピンクの肌が眩しい―――と共に、核兵器のハリボテの元へと向かう。

 

 ヒーロー側の二人、上鳴さんと耳郎さんの侵攻が始まるのが今から5分後。

 ヴィラン側のわたし達は、それまでに核兵器防衛の準備と作戦会議をしなければならない。

 

「……さて、まずお互いの出来ることを確認したいんですが、芦戸さんはわたしの"個性"について何か聞きたいことはありますか?」

「ああ、これまで結構色々見せてたもんね。干河の"個性"って何でもああやって操れるの?」

 

「いえ、自分自身を除く生物は動きを阻害するのが限度です。小鳥や鼠ぐらいなら別ですけど」

「あー、そこまで無敵じゃないかあ……じゃあ、これは?」

 

 そう言った芦戸さんの手から、ドロリと粘性のある液体が溢れ落ちる。

 床に落ちたその紫の雫は、ジュウ、と音と湯気を立ててコンクリートをへこませた。

 

《……さしずめ"個性"『酸』ってところね》

「動かせ……ますけど、芦戸さん自身は大丈夫なんですか、これ?」

「おっ、浮いた! あ、私の皮膚には耐性あるから大丈夫!」

 

 芦戸さんの"個性"について詳しく聞けば、ある程度粘性と溶解性に強弱も付けられるとのこと。

 それならということで、粘性を高めに、溶解性は対戦相手とはいえクラスメイトに当てることを踏まえてそこそこに抑えたものを、拳程度の大きさで幾つか出してもらう。

 

「これを、板状に伸ばして……よし、これで階段を塞げば素通りはできないはずです」

「おお、凄い! でもこんなに一杯大丈夫なの!?」

 

「滞空させるだけなら……問題はどこに設置するかですが……」

《……はいはい》

 

 ビルの見取り図を片手に、『干渉』が見繕ってくれた地点に酸の板を順次移動。

 また設置地点にABCで簡単に名前を付けることで、芦戸さんとも位置情報を共有する。

 

 わたしの"個性"は操作範囲である半径三十メートル圏を無条件で探知できるわけではないけど、操作している対象物の大きな状態変化ぐらいなら感じ取れる。

 相手方の二人が道を塞ぐ酸をどうやって突破するかは分からないけど、何かの手段で除去する、あるいは突き破ろうとしたならその変化を感知できるはずだ。

 

「……というわけで、どこかの酸板が突破されればヒーロー側の位置と経路が分かるはずです」

「わあ、成程! それじゃ、場所が分かり次第襲撃?」

 

「それも良いですけど……わたしの"個性"は核兵器の防衛に使いたいですね。わたしなら同じ部屋に居れば衝撃も与えずに逃がせますし」

「あ、そっか……あれ、それってひょっとして干河と同じ速度で動かせる?」

 

「このハリボテの重さなら十分に。むしろ視界とか考えなくて済むのでさらに、でしょうか」

「うひゃあ……」

 

 おそらく昨日見せた姿を思い出し、部屋の広さを確認した芦戸さんが苦笑いを浮かべる。

 勿論、わたし自身が倒されてしまったらアウトだけれど、負け筋の一つは相当遠くなるはずだ。

 

《……相手側の"個性"の想定が出来てないわよ》

「あっ……後は上鳴さんと耳郎さんの"個性"がどんなものかですけど……」

「うーん? 二人とも昨日の"個性"把握テストではそれっぽいことしてないよね? 耳郎はあの耳が"個性"なんだろうけど」

 

《聴覚、音……"戦闘服(コスチューム)"に拡声器(スピーカー)らしきものが付いていたわ。音波による攻撃は警戒すべきね》

「……聴覚による探索と、音波あたりでしょうか。上鳴さんは手掛かりがありませんね」

「むむ……動き回ると位置を特定されちゃうかな? ますます待機戦法が良さそうだね」

 

「それでしたら―――」

 

 

 その後も"個性"を使いつつ芦戸さんと話し合い、防衛の準備を進めていくこと暫し。

 ヒーロー側の侵攻が始まってからも待機を続けていたわたしの頭に、()()()()がやってくる。

 

「っ、来ました! 三階B地点!」

「よっしゃ、行くぞー!!」

 

 核兵器を配置した部屋から勢いよく飛び出していく芦戸さんと、それを追う十個の酸の球。

 ……見取り図を参考に移動させているだけで、彼女に追従させられるわけではないのだけど。

 

「……即興連携【酸弾(アシッド・バレット)】、というところですか」

《下らないこと言ってないで集中なさい。相手が連れ立って行動しているかは不明なんだから》

 

(あ、はい)

 

 『彼女』に戒められ、黙って対象化した無数の酸に集中する。

 時折無線越しに芦戸さんから届く【酸弾】の移動・停止の指示を聞きつつ、先の地点から繋がる酸板が数枚散らされたところで、状況は動き出した。

 

『フフフ……来たね、お二人さん! ここを通りたくば私を倒してからにするんだね!』

『出たな芦戸……って、何だその立ち姿!? カッケェ!!』

『酸が周りに浮かんで……干河だよね? どんだけ遠くから"個性"届くのさ……っ』

 

 無線越しに何やら楽しそうな声音とやり取りが聞こえてくる。

 ……まさかと思いますけど、さっき細かく【酸弾】の位置を指定したのは格好良さの追求だったわけじゃないですよね、芦戸さん?

 

『これまでの酸板が近付いても動かなかった以上、干河もこの状況が見えてるわけじゃないはず。そんなの単なるハッタリでしょ!』

『それはどうかなあ! 二番、十二時、三メートル!』

「【加速】」

『うおわぁ!? 飛んできた! そんなんアリかよ!?』

 

 あらかじめ【酸弾】に番号を振っておき、番号・方角・移動距離を無線越しに指示してもらう。

 これがわたしが核兵器前に陣取ったまま連携出来るように考えた方法だ。

 提案したときに《有効に機能させるには相当な修練が必要よ?》と言われたものの、芦戸さんがびっくりするほど乗り気だったことで、時間もないことだしと採用になった。

 

『もちろん私だって攻撃するよ! それえっ!』

『うわ、酸ブッパかよ! じ、耳郎さん?』

『ああもう、上鳴あんた……ふっ!』

 

『わっ、音波攻撃!? やっぱり!』

『ここまで酸の突破に使ってきたし、そりゃ知られてるか……というか、上鳴!』

『しょうがねえだろ!? 俺のはブッパしたら巻き込んじまうんだから!?』

 

 聞く限りでは優位に戦えているように思えたけれど、流石に二対一ではどちらかを確保するまでにはなかなか至れないようで。

 数回の攻撃指示と、音波を受けた【酸弾】が"個性"対象から外れていく感覚を何度か覚えながら時間は過ぎていく。

 

『―――あ、やばっ……ごめん干河! 上鳴に突破された!』

「大丈夫です、芦戸さん。時間は十分稼げましたし……こちらは任せてください」

 

 焦りを含んだ芦戸さんの声に、問題ないと返して視線を上げる。

 この部屋唯一の入り口である扉を見据えて、わたしはその時を待った。

 

 

「―――五階の……ここか! よし、待ってろよ、耳郎!!」

《扉の前まで来たようね。迷いの無さからして、芦戸さんのスタート位置を探知したのかしら》

 

 やがて、扉の裏に迫った足音に、今一度『備え』の状態を確認。

 程良いとさえ感じる緊張感の中、勢いよく扉が開けられる。

 

「よっしゃあ! タイマンだ、干か、わ…………」

 

 飛び込んできた上鳴さんは、視線を少しばかり上にあげて、硬直した。

 そこにあるのは、部屋内を所狭しと浮かんだ大量の【酸弾】。その数およそ三十個。

 

 

「…………タイム!」

「【加速】」

 

「ですよねぇっ!?」

 

 

 どこか悟ったような顔になり、両手でTの字を作った上鳴さんに【酸弾】を余さず投下。

 粘性高めの弱酸に埋もれた彼を『確保』しつつ救出する頃には、わたしたちヴィラン側の勝利で第五戦も閉幕となっていた。

 

 

 

 

「―――さて、今日最後となる講評の時間だが、今回のMVPは言わずもがな、干河少女だよ!」

「やろなあ」

「ですよね」

「知ってた」

 

 満場一致の賞賛に、少々気恥ずかしくなって顔を背ける。

 直後、《これで自力で立てた作戦だったらねえ》という声で冷静になり、視線を戻した。

 

「ただモニターで見ていた諸君には、彼女が核兵器前で待ち構えていた理由に疑問もあるだろう! 遠隔での共闘も発想は素晴らしかったが、即興ゆえのぎこちなさの方が目立ったからね!」

「……確かに、あの場で芦戸の後ろにでも干河が居たらもっとやばかったよな」

「ミスって芦戸に酸が当たったとしてもノーダメだもんね」

 

「というわけで私は知っているが、理由を説明してくれるかな!?」

「はい、オールマイト先生」

 

 わたしは開戦前に芦戸さんにした説明を再び口にする。

 まず"個性"がその制約から近接戦闘には案外向いていないこと。

 そのため負け筋を潰すことを優先し、核兵器の前に陣取ったこと。

 さらにヒーロー側に一気に空中へ上がる手段がなさそうなら、核兵器に天井付近を逃げるように飛行させるつもりだったことを加えて。

 

「エッグイ!? 見た目の可憐さに反して考えることがえぐい!」

「干河以上の速度で天井逃げ回るとか飯田や爆豪でも無理だろ……」

「本人をどうにかしようにも同じような速度で逃げられるだろうしなあ」

「相手を直接操作することはできないのか……」

「いや出来たら無敵過ぎるからな? ちゃんと弱点あってほっとしたよ……」

 

 その後はヒーロー側の耳郎さんが向かってくる芦戸さんの位置を足音で察知、またそれまで動きがなかったことから核兵器の場所まで推測、特定していたことが明かされ、改めて高評価を貰い。

 芦戸さんがほぼ二対一の中で優位に戦っていたことを評価されるも、やはり少々遊びが多かったと釘を刺されて苦笑い。

 評価される前から良いところなしだったと自覚し肩を落とす上鳴さんに、これから学んでいけばいいのさ少年! というオールマイトの慰めを添えて、最初の『ヒーロー基礎学』は締められた。

 

 

 

《向いてないだけで戦えないとは言ってないんだけどねえ》

(……戦えないのを許してくれなかったですもんね)

 





 芦戸さんの酸弾背負った立ち姿は各自想像してください。歩ちゃんは見てませんので。

 それにしても、こういうオリキャラ無双の回を投稿するときが一番精神に来ますね。
 書く側になって初めて知りました。書きたい話の展開上しょうがないんですが。


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C1-9 想定外の真実


 評価赤バー……だと……? @2022/10/31/7:00

 確実に賛否両論くらうだろう設定だと思っていたのでぶったまげました。
 オリキャラ二人(?)も現時点では読者に好かれるキャラにはならないように仕上げたつもりでしたので尚更です。
 これは更新を早めざるを得ない。


 安易に別キャラ視点や三人称を使いたくない系作者なのですが、今話はちょっと無理したかも。



 

「―――あれ? デクくん怪我!? 治してもらえへんかったの!?」

「あ、いや、これは僕の体力のアレで……それよりも―――」

 

 迎えた放課後、未だ戦闘訓練の興奮冷め止まぬ中で誰かが成した呼びかけに、我も我もと続いたクラスメイト達による反省会が教室を舞台に開かれていた。

 先に下校した轟さんに爆豪さん、そしてまだ保健室に送られたままのデクさんを除いた十七名で行われていたそれが盛り上がりを見せる中、何故かデクさんは固定された左腕に身体中に巻かれた包帯と、痛々しい姿で教室に戻って来る。

 

 何人かのクラスメイトに話しかけられ応対しながらも、焦るように教室を見回していた彼の視線が止まったのは、わたしを正面に見据えた瞬間だった。

 

「干河さん! 今朝の話の件で、その……今からちょっと時間を貰えないかな?」

「……ああ、決心がつきました?」

「あ、それなら私も一緒に―――」

 

「へ? あ、ま、待って!」

 

 わたしを探していた理由が分かり、お茶子ちゃんと一緒に教室を出ようとしたところで、殊更に焦った様子のデクさんがわたし達を呼び止めた。

 そこから飛び出した予想外の一言に、わたし達はおろか教室中が凍り付くことになる。

 

 

「で、できれば、干河さんだけでお願いしたいというか……その……」

 

 

「……え?」

《おお?》

「へっ?」

 

 振り返ったお茶子ちゃんは、幾つもの感情を煮詰めたような形容しがたい顔になっていた。

 『干渉』すら頭の中で《え……おおう……》とよく分からない呻きを漏らすだけになっている。

 

「だ、駄目かな?」

「え、いえ、そんなことは……そ、それじゃあ、行ってきます?」

「い、いってらっしゃい?」

 

 ただ、やけに真剣な輝きを宿すデクさんの目に、勢いのままわたしの口から出たのは了承で。

 周囲のクラスメイト同様、白黒させた目のお茶子ちゃんにも見送られ。

 ほっと安堵した様子のデクさんの背を追うように、わたしは教室を後にした。

 

 

「―――オイ、今のはどういう了見だ、緑谷コラアアァッ!?」

「何今の!? 何!? そういうこと!? そういうことなの!?」

「落ち着けあんたら!? 麗日の気持ち考えろ馬鹿共!!」

「あなたも落ち着いた方がいいわ、耳郎ちゃん」

「……友情崩壊の危機か」

 

 

 ……背後から聞こえる阿鼻叫喚からは、耳を背けて。

 

 

 

 

「―――人から授かった"個性"なんだ」

 

 張り詰めた表情でそう語ったデクさんに、わたし達は一瞬息を忘れた。

 

 "個性"を『譲渡する』"個性"。

 人から人へと聖火の如く受け継がれ、培われてきた力の結晶。それが彼の"個性"の正体。

 その蓄えられた力があまりに大きいために、中学三年生から急遽鍛え上げたデクさんの身体には収まりきらず、その結果使用するたびに骨折、という事態を引き起こしていると思われる。

 

「……爆豪さんが"無個性"云々と言っていたのはそういうことでしたか」

「う、うん……かっちゃんにはずっと"無個性"のデクって言われていじめられてきたから……」

 

 "個性"の『先代所有者』曰く、使う力に強弱は付けられるはずなので、"個性"の制御法さえ身に付ければその惨状を避けられるようになるとのことだが、そもそもつい先日まで"無個性"であったデクさんにとっては"個性"制御という感覚自体が全く未知のもの。

 それは例えるなら、両足をどのように動かせば歩けるか、を転ぶ=重症を負うという条件の中、何度も『転び』ながら成功するまで碌な当てもなく繰り返すようなもので。

 

「正直に言えば、干河さんの提案にすぐ縋り付きたいぐらいだったけど、この"個性"がどんな姿で出てくるかも分からないし、すぐに返事をするわけにはいかなくて……」

《慌てて関係者と相談していたというわけね》

「……今朝と昼、ひどく焦った様子だったのはそういうことだったんですね」

 

 そんな中で舞い込んできたわたしの提案は、まさに降って湧いたような、それでいて安易に飛び付くには問題のあり過ぎる希望だったそうだ。

 何しろどんな形でその"個性"の異常性がわたしに伝わるかが全く予測できない。

 下手をすれば重大な秘密をも、わたしが()()()()()()()()()()()かもしれないのだから。

 

 元来"個性"とは天から一人一人に与えられた"才能"にして"力"。

 齢四歳にして、全ての人間に突き付けられる、己の価値。

 それを後から手に入れる方法があるなど、噂になるだけでも社会の混乱を招きかねない。

 

《……確かに好んで知りたい秘密ではなかったし、無関係な一生徒が知っていい秘密でもないわ。それをつい今しがた、曲げて見せたのはどういう了見なのかしら?》

「えっと……それならどうして、わたしに?」

「それが―――」

 

 続いてデクさんが話してくれたのは、先の『ヒーロー基礎学』で保健室へと搬送された後の事。

 

 校医のリカバリーガールは件の"個性"や彼の状況についても把握していた人物の一人だそうで、ある程度は仕方ないと医者として苦々しく思いつつも黙認していたそうだが、二日連続三度目の、そして一度には治癒しきれない程の大怪我を見てついに大爆発。

 その場にはデクさんの容体を案じて訪れた『先代』も居合わせたらしく、解決策が無いなら無いなりに"力"を渡した人間として考えることがあるだろうと、激しく叱責したそうだ。

 

 恩人が自分のせいで責められている姿に、これまで以上の焦りを味わっていたデクさん。

 そんな中、リカバリーガールの『解決策』という言葉に、彼の頭の中で響く声があったという。

 

 

『―――それで私も"個性"の欠点改善の糸口が見えてきたんよ』

 

『デクくんも頑張っとるんや! 私だってここで限界超えたるっ!』

 

『いうてもかなり難しいんやけど……方法が見つかったからには頑張らへんとな』

 

 

(滅茶苦茶お茶子ちゃんの言葉をリフレインしてる!?)

《私達どういう感情で聞いたらいいのよ、これ……》

 

「それでオール……『先代』には昼にも電話で伝えてたんだけど、今朝の話をリカバリーガールの前なのに口に出しちゃって……ごめん、秘密だって言われてたのに」

 

「え、ああ、それはまあ、良いですけど」

《…………もっととんでもない秘密を知っていたようだし、今更よね》

 

 『干渉』から《隠し事に向いてなさすぎる……》と頭を抱えているような声が聞こえてきた。

 どういう意味だろうと思いつつ、デクさんに「気にしていないから」と伝えて話の続きを促す。

 

「『先代』は昼に話した時と変わらず慎重に考えて……ていう意見だったんだけど、それを聞いたリカバリーガールが……大噴火したんだ」

「……大噴火」

《……先の大爆発以上だったと》

 

「今すぐ頭下げてでも協力してもらえって、凄い剣幕で……フォローしようにも僕の身体を第一に考えてくれてることに起因する怒りだったから……」

「……それはデクさんの立場じゃ何も言えませんね」

《採れる手段が無いからと渋々黙っていたところにそれは、まあそうなるわよ》

 

 

 先を歩いていたデクさんが、一つの部屋の前で立ち止まる。

 教室のそれほど大きくない扉に対してノックを一つ、部屋の中から小さな声が返ってきた。

 

「話の流れからして、『先代』の方ですか?」

「う、うん。雄英に職員として勤めている人なんだ」

《……職員》

 

 部屋の中にあったのは、ソファーが二脚に机が一つ。

 簡易な応接室らしきそこに、先の声の主だろう痩身の男性が一人、ソファーに腰掛けていた。

 

「やあ、初めましてだっ……じゃない、初めまして、干河さん。ここ雄英で職員をしてい……しております。八木俊典……デス!」

「は、はい、初めまして。干川歩です」

《…………》

 

 細身、を越えて骸骨を想起しそうなほどの体型で、自己紹介と同時に口の端から血を垂らす姿に圧倒されながら、わたしは初対面の挨拶を返す。

 『彼女』も流石に動揺しているのか、さっきから頭の中が妙に静かだ。

 

 勧められるままわたしは対面に座り、デクさんは八木さんの隣に腰を下ろす。

 僅かの沈黙を経て、後ろめたさを多分に含んだ様子で八木さんが口を開いた。

 

「……こちらの一方的な都合で、君には大変な秘密と、それを守る義務と責任までもを押し付けることになる。一生徒でしかない君に対してこれはあまりにも不誠実な行いだ」

「…………」

 

「だからこそ、伏してお願いしたい。……力を貸してくれ、干河歩さん」

「オ……八木、さん!?」

「っ……!」

 

 ギリ、と歯を食いしばった八木さんが、机に両手を付けて頭を下げた。

 どうしていいか分からず泳いだ視線が、同じような顔をしているのだろうデクさんと重なる。

 

 その後、ようやく再起動した『干渉』に促され、「分かりましたから顔を上げてくださいっ!」とわたしが叫ぶまで、八木さんは微動だにせず頭を下げ続けていた。

 《……彼らにとってそれだけのことなのよ》と呟いた『干渉』ほどには、わたしは彼の気持ちを理解しきれていないのだろうと思う。

 

 

「―――さて、事の前に確認したいのだが、君の"個性"による"個性"との対談というのは、外から聞けるようなものではないのだったね?」

「はい。わたしともう一人とが、手を繋いだまま眠っているように見えるそうです」

 

「すると、夢の中で会話しているようなものなのか……ふむ」

 

 目をつぶって「では、やはりあれは……」と、八木さんが口の中で呟く。

 傍らのデクさんに二言三言確認した後で、彼は自分の記憶を確かめるように言葉を紡いだ。

 

「……私もまた『譲渡』された者であり、突然得た"力"を使いこなすべく努力を重ねていた時期があるわけだが、そんな中で見たことがあるんだ……"個性"の中に佇む幾つかの人影を」

「っ、それは……!」

 

「"個性"に染み付いた面影のようなもの。互いに干渉できるようなものじゃない……今まではそう認識していたよ。だが、君の話を聞いて違う可能性が頭に浮かんでね」

「……会話できるほどの『強さ』には届いていない『意志』」

 

 "個性"そのものへの『干渉』により、"個性"それぞれが持つ微弱な『意志』を呼び起こす。

 わたし達の考えた理屈が正しければにはなるけれど、【面会(ディグアウト)】はそういう仕組みの技だ。

 

 人から人へと、幾つもの旅をしてきた特別な"個性"。

 そんな『彼』あるいは『彼女』ならば、【加速】されるまでもなく人型を作る……そんなことも有り得るのかもしれない。

 

《……いや、待ちなさい。『幾つかの』人影ということは……》

「……あれ、ひょっとしてデクさんの中……何人も居らっしゃる?」

「えっ」

「ああ、うん。私が想像したのもそういう光景だよ」

 

 『四者面談』どころではない光景を想像して、思わずデクさんと顔を見合わせる。

 ただし、八木さんが気にしている点は他にもあるようで。

 

「他の例を聞くに、その人影は"個性"の『意思』のはず。だとすればこれまでの継承者の"個性"がこの身にあってもおかしくないことになるが、そのような経験はしていないんだ」

「……そう、なんですね」

 

「ああ、だから……そうだな。願望になるようだが、彼らは"個性"に宿った継承者達それぞれの、培ってきた"想い"が"力"として記憶されている……そう、思わずにはいられないんだ」

「あ……」

《ああ、気にしているのは、そういう……》

 

 デクさんにとって八木さんが恩人であるように、彼にとっての『先代』もまた大恩ある人だったのだろう。

 この様子と、五、六十代に見える彼の年齢からして、既に故人である可能性にも行き当たる。

 

「だからもし……もしこの予想が正しかったのなら、私に対して何と言っていたか、事が済んだ後で教えてもらえないだろうか」

「そのぐらいならお安い御用ですよ。ね、デクさん」

「う、うん。勿論です!」

 

 では、と差し出したわたしの手に、デクさんが緊張の面持ちで火傷の残る右手を伸ばす。

 心の中で『干渉』に合図しようかという直前、不意にわたしはあることが気になった。

 

「……そういえばこの『譲渡する』"個性"、名前は何と?」

「ああ…………そうだね。君には話しておこう」

 

 これも無暗には口にしないでおくれ、と念押しして、八木さんはそれを教えてくれた。

 

 

「繋げられた想いの結晶。冠された名は―――『ワン(O)フォー(F)オール(A)』だ」

 





 この時点では追い詰められてるのはオールマイトだけで、他の事情知ってる勢はゆっくり後継育てたらいいんじゃ? という感覚だったと思います。
 犯罪発生率を見れば『平和の象徴』を重要視するのは理解できるけど、人間である以上は永遠に立ち続けるのはそりゃ不可能だろう、と。

 原作リカバリーガールも内心はともかく「あーはいはい、平和の象徴様」と流していますし。
 何よりこの時点では『魔王』を倒した後だと思ってます。これが大きい。
 実情はともかく「OFAを知る→AFOに目を付けられる」の構図を危惧する必要がないのです。

 緑谷くんの憧れ追いかけて破滅まっしぐらな姿勢、及びそれを助長するオールマイトにブチギレ状態のリカバリーガールなら不義理を呑み込んででも協力を仰ぐよう叱責することでしょう。
 OFAについても、変に喧伝でもしない限りは知ったところでほぼ無問題という認識。
 オールマイトは滅茶苦茶問題だと思ってますし、ほんの少し未来には同意見になるんですが。


 爆豪くんの察しフラグが一つ潰れましたが、彼ならきっと大丈夫でしょう。
 代わりに『干渉』さんが色々察して内心修羅場。師弟揃って大根役者なのが悪い。



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C1-10 有識者会議


 それは開演前の楽屋裏を無理矢理覗いたかのような。

 解釈違い激しく注意です。



 

 ―――椅子に座るわたしと、隣に座る『干渉』。

 やけに大きな円卓の向こう、対面席に座っているデクさん。

 

 その席を挟むように展開された―――八脚の椅子。

 

 

「…………思ってたより多い!?」

「……もはや会議場ね」

 

 

 大量の―――主に好意的な―――視線を浴びて固まるデクさんの隣で、優し気な顔に強い意思を感じさせる男性が、柔らかな口調で口火を切る。

 

「まずはこの機会を一足飛びに与えてくれたことに感謝するよ。干河歩さん、『干渉』さん」

 

 居並ぶ八人の視線が、わたしと『彼女』へと注がれる。

 いずれも温度差はあれど、親しみの込もった視線であることに、心の底から安堵した。

 

 

「あらためて初めまして。僕が『ワン・フォー・オール』初代所有者だ」

 

 

 八木さんの願望に近かった推測は、概ね当たっていた。

 "個性"『OFA(ワン・フォー・オール)』はその歴代所有者の意識を宿してきていたというのだ。

 

 想定外だったのは、その意識がハッキリと輪郭を得るにはまだ遠いはずだったということで。

 漸く『兆し』が見えたかというところを、わたし達が一気に引っ張り上げてしまったらしく。

 

 

「―――そんじゃお先に……俺が『五代目』さぁ! 初めまして先輩方! よろしくな後輩達!」

「……そんな先輩から『譲渡』されました。『六代目』です。よろしく」

「ああ、そういう流れかい? どうも、『七代目』だ。先輩方」

「……『四代目』。奇矯な運命(さだめ)もあったものだ」

「…………」

「…………」

「…………そこの二人が、こちらから『二代目』と『三代目』だよ」

 

 

 最初に始まったのは、歴代所有者同士の自己紹介と情報共有だった。

 それぞれ自分より二代以上後の人物については半分一方的に知っていて、二代以上前の人物とは全くの初対面、というのが殆どだそう。

 

「……先輩、僕の記憶はあるんですか?」

「いやぁ、えらく断片的だな……『奴』に再戦を挑んだところは朧気にあるが……」

「……おそらくだが、強い意志を持って『OFA』を振るった瞬間ではないかな?」

「それにしては、ここ最近の記憶だけが随分と明瞭だが」

「それはやはり……『やり遂げた』ことが切っ掛けなんじゃないか?」

 

「それは……そうかもしれないね」

「思いっきりやってくれたからなぁ! 何度思い起こしても清々しくて堪らねえさぁ!」

「その話はそれくらいにしましょう。今はこの機会が用意された理由の方を優先しないと」

「それですけど……九代目についてみんな知ってることは同じなんですかね?」

「精神に身体が追いついていない子供という印象だが……この様子なら齟齬はないようだな」

 

 時折わたし達には理解できない話題があったものの、『九代目』こと現所有者であるデクさんに関する情報については、それぞれの間に差異はないということで一致したらしい。

 そこまで話を進めたところで、一同の視線が一瞬泳いだ後でとある席に向けられる。

 

「それで……『彼』はどういう状態なんだろうか?」

「……俊典、なんだよな?」

『……! ……!!』

 

 初代と七代目が困惑を滲ませて声を掛ける先は、『八代目』であるらしい八木さんの席。

 そこには他の七人とは明らかに毛色の違う、靄のように揺らぐシルエットが座っていた。

 

 七代目の声に反応して手振りと頷きを繰り返すものの、言葉を発することは出来ずにいる。

 しばらく無言のやり取りを続けた後、「何故……」という雰囲気で肩を落としてしまった。

 

「……八木くんは今も存命中だから、と思うしかなさそうだね」

「……後で、外で待ってる俊典への伝言を頼んでいいかい、お二人さん」

「は、はい、勿論です!」

「ええ、八木さんからも頼まれていますから」

 

 疑問は残りつつも、彼らにもわたし達にもどうしようもないので先送りとなった。

 

 

「―――てなわけで経緯は把握してるぜ。難儀させちまったなぁ、九代目!」

「え、あ、その……」

「僅か十ヶ月の鍛錬で急造した器に詰め込んだのがそもそもの間違いだろう」

「まあまあ、その期間で想定した限界以上に仕上げてみせたじゃないか、彼は」

 

「毎度骨肉を爆散させる様を評価するのは難しいが」

「爆散できるって時点で並みの精神じゃないですよ。二回目以降は臆するでしょう普通」

「常軌を逸した想いの強さ。……八木くんが君を選んだ理由がよく分かるよ」

 

 一目でただ者ではないと分かる方々に囲まれ、自分について激しく意見が交わされる様に、泡を食うしかない状態のデクさん。

 何度かこちらに助けを求めるような目が飛んでくるものの、わたし達の役割はこの舞台の成立で終わっているので、正直なところ何ともしようがない。

 

「一つ、質問を良いかしら?」

「おや、何かな?」

 

「今現在"個性"『OFA』の『動き』を【加速】させているわけだけど、他の"個性"に比べてやけに抵抗を感じるのよ。そちらに何か心当たりはあるかしら?」

「うーん……『OFA』が所有者の意思によってしか動かない、という原則を持っているからかな。九代目は勿論、我々もなるべく抵抗しないようにしているつもりなんだけど」

 

 ……どうして『干渉』は普通に会話に加われるんでしょうか。

 わたしは黙って座っているだけでも、この場の空気に当てられて身が竦む思いをしているのに。

 

「"異能"の意識を呼び起こす"異能"……いよいよそんなものが現れたか」

『OFA』(この光景)の特異性に比べれば大したものではないわ。それに私達の"干渉"がなくとも、いずれはこのような機会が訪れる兆しがあったのでしょう?」

「……もう一年は先になると思っていた」

 

 特にこの二代目、三代目という二人の圧力が半端なものじゃない。

 デクさんよりわたしや『干渉』に興味を持っているのではと思うほど、席も距離も近い。

 

「―――しっかし八代目はもうちょっと説明のしようがあっただろ。何だよケツの穴グッと閉めて叫べって、分かるかよそんなもんで。お前さんの教育のせいじゃないのか、七代目よう?」

「そう言わんでください、先輩。俊典の奴は出会った頃から身体だけは出来上がってたんですよ。あれがアイツなりの感覚なんでしょう」

「問題なのは、その説明を受けた九代目が腕と足を粉砕させたことへの受け止め方だ。力加減などより根本的な問題があることに気付けていない」

「ですね。器の問題だとしても、あの壊れ方はおかしいと気付いてもらわないと」

「……おっと、後でその辺り八木さんに伝えるためにも議事録取っておくわ」

「はは……本当に会議になってきたなあ」

 

 主に話題を進めているのは、五代目、六代目、七代目。

 そこに厳しい意見を入れる四代目と、様子を見つつ時折会話に加わる初代。

 ……そして伝えるべき内容をまとめ、都度確認をとる『干渉』。

 

 ふと気付いて八木さんの影を見ると、シルエットでも分かるぐらいに肩を落としていた。

 

「あの、八木さん? 大丈夫ですか?」

『……っ』

「ああ……大丈夫だ、八木君。ほら君も言ったじゃないか、突如尻尾が生えた人間に芸を見せてと言っても操ることすらままならない、と。今まで"無個性"だった 人間に"個性"の使い方を教えるというのも同じようなものさ。苦労するのは仕方のないことだよ」

 

『……っ? ……!』

「ああ、僕も僕の時点では同じようなものだったからね。指導の難しさもある程度は分かるよ」

 

 初代に慰められて、顔を上げる八木さんの影。

 

「―――そもそも後継者を育てるというなら、それだけの時間を確保するべきだろう。ただでさえ今の容体で活動できる時間は短いというのに、他に割いているから半端になるのだ」

「教師免許を取ったのは八代目の指導者を真似たんだろうけどね。思えば彼も凄かったなあ」

「ああ、そういえば空彦は雄英で俊典の指導をする為だけにヒーロー免許を取ったんだったか」

「……そんな理由でヒーローになった人物が?」

「ヒーロー制度もまだまだ泥縄式だったからなぁ……形から入るのは悪いことじゃねえんだが」

 

 上がった顔と肩がストンと落ちた。

 初代も「はは……」と苦笑いをするばかり。フォローにも限度はあるらしい。

 

 

「そ、そうか。培われる力ということは、初代が"個性"を発現した時点ではまだ何も無い"個性"だったわけで、そう考えると初代も僕と同じようにある程度の年齢までは自他共に"無個性"だと思っていたことになるのか。あれ、でもそうなると、どんな経緯で『譲渡する』力が判明したんだろう? ひょっとして他人の"個性"について調べられるような"個性"の持ち主が当時居たのかな? それに『OFA』が今のような腕の一振りで天候を変えるほどのパワーを蓄えるに至ったのはいつからなんだろう。オールマイト以前にそんなことが出来たヒーローの話は聞かないし、やっぱりオールマイトの代でここまでになったのか……あれ、そういえばこの人達を過去のヒーロー名鑑でも見た覚えがないぞ。それぞれがどのぐらい昔の人達かも分からないし、僕も僕が生まれる前に居た地方のヒーローまで全部知っているわけじゃないから仕方ないかもしれないけど、よし、家に帰ったらこの人達がどんなヒーローだったのか早速調べて―――」

 

 

 そしてこのデクさんである。

 今朝も見たけれど、この無呼吸でブツブツ考え事を呟くのは彼の癖なんだろうか。

 ……というかこの場の誰よりも当事者なんだから会議に集中してください。

 

 

 

 

「―――おお、戻ってきたのか! お二人さん!」

「……あ、オール、んぐっ、八木さん!」

「ええ、お待たせしました、八木さん。……伝言です」

 

 

「『よくやったな、俊典』」

「っ!? ……お、お師匠……っ!」

 

「『僕達兄弟の因縁に付き合わせてしまってすまなかった。兄を止めてくれて、ありがとう』」

「兄……っ!? まさ、か……初代……!?」

 

 

「…………他の伝言については、後日文書にまとめてお渡ししますね」

「……っ、ああ……! ありがとう、干河さん……っ」

「干河さん……」

 

 

 

 

「……あの流れからでは流石に伝えられないですよね」

《後は歴代からの怒涛のダメ出しだものね》

 





 書きたかったシーンその二。
 原作において、三月下旬の死柄木inAFO戦直後のOFA内会議にて、四ヶ月程前から継承者同士でコミュニケーションをとれるようになった、という台詞があります。
 なので本作現時点では中の人同士も自分の前後以外は基本初対面。
 また原作初代の発言通り、今の自分達は歴代の意識がOFAに宿ったものだ、と微妙に勘違い中。
 そのためOFA内にある『八代目の意識』がどういう存在なのか分かっていません。
 七代目は残した家族が大変なことになってるなんて知りません。
 四代目も自分の正確な死因を知りません。
 それぞれの"個性"が九代目に発現する未来など考えてもいません。
 緑谷くんにOFAのオリジンが説明されるのも、もう少し先の話なので……
 無理矢理時期を早めたせいでてんやわんやですね。

 緑谷くんと歩ちゃんが対面席になることもあり原作とは席順が違います。
 原作の並びが「四、七、一、八、六、五、三?、二?」。
 本作では「四、七、八、一、九、六、五、三、二、干渉、歩」。

 原作で台詞の少ない方々も色々捏造して喋らせてみたところなかなかにカオスな空間に。
 割と雰囲気がゆるゆるな理由は、既に因縁は断ち切れた、と思っているから。
 それぞれ程度差はあれど、少なからず余生をEnjoyモードなのです。


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C1-11 委員長投票と運命の絆


 原作において教室の席順は廊下側から出席番号順に縦に五人ずつ四列。
 歩ちゃんの存在により緑谷くんの同横列が瀬呂、切島、蛙吹から常闇、口田、飯田に。
 また縦四列目爆豪緑谷の間(原作爆豪の席)に歩ちゃんが入ってる形になっています。

 葉隠さんが最前列から最後列に変わって、「私のせいで黒板見え辛かったらゴメンね!」というネタ振りが出来なくなっているであろうことが一番の変化点かもしれません。



 

「―――と、いうわけで、特に差し障りない日々を送っています」

『そう……(あゆみ)の元気そうな声が聞けて良かったわ』

 

 高校生活二日目の夜。

 携帯電話に通話をかけてきたのは、一人娘から近況を聞きたいと仰るお母様。

 理由も分かるし嬉しくも思うけれど、もう少し日を置いても良いのではと思わなくもない。

 

『ところでさっきの話では、お友達と喧嘩になっているように聞こえたけれど?』

「け、喧嘩という程ではないですよ、お母様。ただちょっと、ぎくしゃくしているだけで……」

 

 ……デクさんの"個性"の中での会議の後、教室に戻ったあのときから、お茶子ちゃんとはお互い微妙な距離感が生まれてしまっている。

 原因は主に、彼と話した内容について、わたしがほぼ全てを秘密だと言ったことだ。

 わたしの秘密についてはわたしの匙加減でしかないけれど、デクさん達の秘密はわたしの一存で他人に言いふらしていい代物じゃない。たとえ相手がお茶子ちゃんであっても。

 

 お茶子ちゃんが心配するような話はしていないと伝えたところ、「し、心配って、何が!?」とほんのり赤らめた顔で言われてしまい、こちらからそれ以上深入りできなくなったのもある。

 『干渉』の見立てでは、《まだ意識しているとも言い難い段階かしら》とのことだが。

 

 問題だったのは、既に放課後にしても遅い時間で、流石に下校しようという流れにあったこと。

 そして当然ながら向かう場所が同じわたし達は、一緒に下校しない理由が無かったこと。

 

 この間どちらかが一度別の話題を振っていれば「ああ、あの話は終わったんだ」と、直ぐに元の距離感に戻れたんじゃないだろうか。

 けれどわたしは時々視線を感じながらも、部屋の前で別れるまで無言を貫いてしまった。

 話しかけて良いのか悪いのか、様子を伺う内にその機会を逃してしまった形だ。

 

《友達に隠し事をする後ろめたさと、図らずも他人との約束を破らせようと食い下がるような態度をとってしまった負い目、ね。だからこじれる前にどうにかなさいと言ったのに》

『お互いに謝る切っ掛けを探しているということかしら?』

「そう……かもしれません」

 

 勿論お母様にはそのまま話すわけにはいかないので、ちょっとしたすれ違いだと説明している。

 なのに『干渉』と同じような見解になるのは、わたしが分かり易いということなんだろうか。

 

 わたしが『干渉』について周囲には秘密にしてきた、ということをすぐに納得してくれたお茶子ちゃんなら、デクさんにもまた秘密があって、わたしがそれを話すわけにいかなくなった、というのも本当はそう時間を置くことなく理解してくれていたはず。

 だからあの時の怒り……と呼ぶのも言い過ぎなわだかまりは、継続されてはいないだろう。

 

 何となく……そう、本当に何となくお互い「許して」とも「許す」とも言い出しにくくなって、ずるずると機会を逃しているだけなはずだ。

 ……うん。そうと決まれば。

 

「……お母様。この前テレビで午後には必ず売り切れてしまうと評判の水羊羹が紹介されていたんですが―――」

『《友達を物で釣る気? 余計ややこしくなるから止めなさい》』

 

 怒られた。しかも声を揃えて。

 特に『干渉』には《実家の財力関係には触れない約束をしたでしょうが》と、滾々と怒られた。

 

 その後、二重音声(サラウンド)お説教を止めてくれたのは、お茶子ちゃんが鳴らしたアパートの呼び鈴。

 出てきたわたしの顔が相当ひどかったのか「どんだけ気にしとるん!? ごめん!」と、若干の勘違いを含みつつ謝られ、わたしもすぐに謝り返したことで結果的に仲直りできたのだった。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

『―――"平和の象徴"が教壇に立っているということで、様子など聞かせて!』

 

「様子!? えー……と、筋骨隆々!! です!」

「お茶子ちゃん、違う、そういうことじゃない」

《意外と天然よね、お茶子さん》

 

 高校生活三日目の登校時間。校門前に大量のマスコミが押しかけていた。

 あのオールマイトが突如教師になったということで、今日までの二日間にも報道のネタを求めて集まっていたそうだけど、学生の登校時間に人垣を作るのは流石に非常識じゃないだろうか。

 

 

『―――教師オールマイトについてどう思ってます?』

 

「えっ、わ、わたし? えっと……ギャップがかわいいです!」

「いや、歩ちゃん、それもなんか違わへん?」

《いったい何を口走ってるのよ》

 

 周りを見れば、わたし達以外のクラスメイトも次々と同じような質問をされている。

 テレビで見るオールマイトが常に笑顔で報道陣に応対していたのが実は凄いことだったんだと、この立場になってみて初めて思い知った。

 

「敷地に入るだけでめっちゃ疲れたな……」

「相澤先生が全然メディアに出ないようにしているという理由も分かりますね……」

《ヒーローになるならマスコミ対応も身に付けなさい、と言うつもりだったけどこれはひどいわ。一部のヒーローのように、始めから対応しない、という姿勢も考えるべきかしらね》

 

 ……『干渉』もこう言っているし、今度からは囲まれる前に逃げよう。

 

 

 

 

「―――急で悪いが、今日は君らに……学級委員長を決めてもらう」

 

 朝のHR(ホームルーム)の時間、相澤先生は諸々の注意と釘差しの後で、徐にそう言った。

 瞬間、誰も彼もが自分が勤めると沸き立ったクラスメイトの中で、とりわけ大きな声を響かせたのは飯田さん。

 

「"多"を牽引する責任重大な仕事だぞ……! 『やりたい者』がやれるモノ ではないだろう!! 周囲からの信頼あってこそ務まる聖務……! 民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!!」

 

《……ぐうの音も出ない程の正論なんだけど》

「その意見自体には心の底から同意しますけど」

「そびえ立ってんじゃねーか!! 何故発案した!!」

 

 自分こそがと高々に手を挙げた姿でなされた提案に、集団として過ごした日の浅さから果たして多数決が成立するのかという意見が出るも、相澤先生の「時間内に決めりゃ何でも良いよ」という一言で、クラス全員で無記名投票を行うことに。

 

「……発案した飯田さんで良いのでは? メガネですし」

「ブフッ!?」

「干河さんはメガネを何だと思ってるの!?」

「やめろ、緑谷……っ、追撃はやめろ……っ!」

 

 何気なく呟いた一言に誰かが噴き出した音を聞きながら、飯田さんの名前を記入する。

 トップヒーローの素地を鍛えられる役ということで皆は乗り気ですけど、少なくとも『干渉』に頼ってばかりな今のわたしが、引き受けて良い役じゃない。

 それに結果的に発案を通してクラスをまとめる形になった飯田さんが一番向いているだろう。

 

《……いや収拾つけなさいよ。ほら見なさい、みんな頭から離れなくなってるじゃない》

「……メガネ」

「メガネか……」

「メガネやしなあ……」

 

 投票結果は予想通りと言うべきか、殆どのクラスメイトが自分自身に投票したらしく、一得票の名前がずらりと並んだ。

 その分、他人へと入れられた一票の重みは大きく、二票以上を得たのは僅か三人。

 デクさん、飯田さん、それから八百万さんが二票ずつで同率一位となっていた。

 

「僕二票ーーー!!?」

「なんでデクに……!! 誰が……!!」

《確実に他人に投票したのは歩の他に、お茶子さんと……轟さんか》

(じゃあデクさんに入れたのは、お茶子ちゃんでしょうか? ……大丈夫かな)

 

 何かとデクさんを敵視する爆豪さんの怒気を間近に、少し心配になって教室の端を振り返る。

 わたしの視線に気付いたお茶子ちゃんは、けれど顔をふるふると横に振った。

 

《あら? ……ということは、まさか飯田さん……》

(……そういうこと、になりますよね?)

 

 わたしが『干渉』と一緒に得票数の内訳について考えている間に、周囲では学級委員長ならびに副委員長を決めるため、二票を得た三人が教卓へ上がっていた。

 そこで三人から二人を選ぶ方法が思案されていたので、気が付いたことを口にする。

 

「あの、もしかしてなんですけど……飯田さん、自分以外に投票されました?」

「!? 何故それを!」

「ええっ、そうなの!?」

「おまえもあんだけやりたがってたのに、何考えてんだ!?」

 

「ちなみにデクさんと、八百万さんは……」

「……一票は私自身の票ですわ」

「右に同じです……」

 

「では、先程飯田さんの言った通り、周囲の信頼という意味で答えは出ているのでは?」

「……そうだね。僕も飯田くんがやるのが()()()と思うよ」

「ほ、干河くん、緑谷くん……っ!」

「ま、その通りだな! 任せたぜ、飯田!」

「しっかりやれよー!」

 

 感無量といった様子で震える飯田さんに、クラスメイトからも納得と祝いの声が飛ぶ。

 

「……あとメガネですし」

「ブホッ!?」

「だから干河さんのメガネに対するその信頼は何なの!?」

《歩の突っ込み担当になりつつあるわね、緑谷さん》

 

 

「……はよ副委員長も決めろ」

 

 その後、男女別に行動する機会を考えると副委員長は委員長と異性の方が良いのでは? という普通に普通な意見により、八百万さんが副委員長に決定した。

 

 

 

 

「―――えっ、僕に投票したのって飯田くんだったの!?」

「ああ、だから僕……俺としては緑谷くんに副委員長を担って欲しかったのだが……」

 

 時間は過ぎて昼食時。

 クックヒーロー『ランチラッシュ』が切り盛りする大食堂で、わたし達は席を囲んでいた。

 途中、今朝のHRが話題になったところで、不意にお茶子ちゃんが目を爛々とさせて口を開く。

 

「ちょっと思ってたけど、飯田くんて……坊ちゃん!?」

「坊!!」

《相変わらずざっくりいくわね、この子》

「…………そう言われるのが嫌で一人称を変えていたんだが……」

「……ちなみにご実家でお料理されてたのは?」

 

「? 母だが……」

「……そうですか」

《あなたも何に対抗しようとしてるのよ》

 

 話を聞くと、飯田さんは代々プロヒーローを輩出している家の出身、現家長の次男だそうだ。

 さらにその兄に至っては、プロヒーローに詳しいデクさん曰く、東京の事務所に多くの相棒(サイドキック)を雇っている大人気現役ヒーロー、ということらしい。

 

 興奮した様子で称えるデクさんに、まんざらでもない、どころか鼻高々に自慢する飯田さん。

 そんな二人をお茶子ちゃんと微笑ましく眺めていたとき、()()は聞こえてきた。

 

 

『―――セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい』

 

 

 その警報に、いち早く反応したのは在学期間の長い上級生達。

 日の浅いわたし達がまごついている間に、指示に従って一斉に外に出ようとした彼らの起こした人波がわたし達を呑み込まんと襲い掛かってきた。

 

「さすが最高峰!! 危機への対応が迅速だ!!」

「迅速過ぎてパニックに……」

「あ、わっ、【自己自在(マニピュレイション)】!」

「え、ちょおっ!? 歩ちゃん、それずるない!?」

 

 突如生まれた人の波に飲まれるまいと、"個性"を使って頭一つ上の空間へと緊急避難。

 そんなわたしを指差しながら人波に流されていくお茶子ちゃんを、「ごめんなさい! 自分以外は運べないのでごめんなさいっ!」と、手を合わせながら見送った。

 

《……薄情者》

「仕方ないじゃないですか……それより、侵入者というのは一体……?」

 

《ああ、それなら窓の外を見てみなさい》

「窓の……うわっ」

 

 『干渉』に言われて目を向ければ、そこにはみっしりと列を成している報道陣。

 朝から校門前に詰めかけていた彼らが、遂に雄英の敷地内にまで乗り込んできたらしい。

 

「……侵入者がマスコミと分かれば混乱も収まりますよね?」

《この騒ぎの中でただ声を張ったところで望み薄だけどね》

 

 『彼女』の指摘に返す言葉が見当たらず、せめて混乱の中にはぐれた三人を探そうと顔を向けたそのとき、人混みの中から文字通り浮かび上がる人影があった。

 

「……え、飯田さん?」

《あれは……お茶子さんの"個性"で浮かんで……っ、歩! 彼の傍へ!》

 

「えっ!? は、はいっ!」

 

 指示のままに急行する途中で、飯田さんが脚から『エンジン』の"個性"を吹かせる姿が見える。

 ところが『無重力』状態であるためか、壁から手を離した瞬間空中で一回転するにとどまった。

 

「ぐ……やはり上手く進めな……干河くん!?」

《目的地を聞きなさいっ!》

「え、ええっと、飯田さん、何処へ!?」

 

「っ! 皆の視線が集中する場所! あの非常口看板の上だ!!」

《成程、運んであげなさい、歩》

(え、でも……)

 

《いいから!》

「は、はいっ! 【加速】っ!?」

 

 急かされて、無駄なはずと思いながら、振るった"個性"。

 それが、わたしの視界に信じられないものを映し出す。

 

「ぬおおっ!?」

「…………え」

 

 設定した方向、望んだ速度で、宙を横滑りにすっ飛んでいく飯田さん。

 わたしの"個性"『干渉』では、わたし以外の誰かを飛ばすことはできない。

 その決して覆らないはずの制約が、目の前で否定された。

 

《……他人を動かせないのは、働かせられる『力』の上限が人間の重さを運べるそれ以下だから。けれど誰かさんの"個性"は、物体を動かす為に必要な『力』を限りなくゼロに近くする》

「あ……」

 

 混乱を収めようとする飯田さんの声をどこか遠くで聞きながら、人混みの中に()()姿()を探す。

 わたしの視線に気付いたお茶子ちゃんは、一瞬目を見開いた後で、にへっと笑った。

 

 

《……本当に運命だったのかもしれないわね、この出会いは》

 





 原作で「私の立場は……!?」と呟く八百万さんの為に納得できそうな流れを考えよう。
 →歩ちゃんがメガネフリークになりました。何を言っているのか(ry
 「飯田くんも委員長やりたかったんじゃないの? メガネだし!」が原作麗日さんの台詞。
 そのため歩ちゃんに引っ張られて飯田君に投票したということで。


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C1-12 USJ襲撃・前編


さあ、ヒロアカ二次最初の山場だ。



 

「―――今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう一人の3人体制で見ることになった」

 

《……『なった』》

 

 

 ある日の午後の授業前。

 相澤先生の言葉に『干渉』の含むような呟きが聞こえた。

 

(……詳しく聞いてみますか?)

《…………いいえ、必要ない……というより生徒に教える理由がないのでしょうね》

 

 不思議に思って『彼女』に投げた問いの返しはこの言葉。

 この場で説明しないなら教師側の事情であって、生徒が知る意味はないだろうとのこと。

 そう言われては仕方がないので、黙って授業説明に耳を傾ける。

 

 主な内容は人命救助(レスキュー)訓練。

 コスチュームの着用は各自の判断に任される。

 訓練場が校舎から離れているため、移動にはバスを使う。

 

「―――以上、準備開始」

 

 相変わらずさらりと告げられる合図に、そろそろ慣れたクラス一同、弾かれた様に動き出す。

 各自のコスチュームを持って更衣室へ向かう面子に加わりながら、わたしはどこか普段と様子が違うような気がする『彼女』に首を傾げていた。

 

 

 

 

「―――私、思ったことを何でも言っちゃうの、緑谷ちゃん」

「あ!? ハイ!? 蛙吹さん!!」

 

「梅雨ちゃんと呼んで―――あなたの"個性"、オールマイトに似てる」

「!!!」

 

《……わぁお》

(んー……確かに?)

 

 訓練場へと向かうバスの中、デクさんの隣に座った蛙吹さんが無表情のままにそう言った。

 言われて気付いたけど、彼が"個性"を十全に扱える身体になったなら、その力はオールマイトのそれにかなり近くなるのではないだろうか。

 

(……まあ、実際にはデクさんの"個性"は八木さんから『譲り受け』た……あの八人が培ってきた『力』なんですけどね)

《そ、そうね……》

 

(そう考えると、合わせて九人分の力に匹敵するオールマイトってやっぱり凄いですね)

《…………そうね》

 

「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトはケガしねえぞ。似て非なるアレだぜ」

 

 何故だか慌てた様子のデクさんと、何だか反応の悪い『干渉』を不思議に思うわたしを余所に、『硬化』の"個性"を持つ切島さんが会話に加わる。

 そこから話題は"個性"の強さと大衆受けする派手さに関してへと流れていった。

 

「わたしの"個性"は……あれ、活躍してもわたしがやったと分からない可能性あるのでは?」

「そういえば戦闘訓練のときも、最後まで核の傍に居るまま戦ってたもんね」

「現場から離れたところから戦えるって、凄いメリットなんだけどね……」

 

 今のプロヒーローは人気商売でもあり、功績を競い合う職業でもある。

 人前に姿を出さず、一見誰がやったか分からない功績の上げ方をするのは、職業ヒーローとして結構不味いような気がしてきた。

 

(……か、『干渉』、どうしよう……)

《知らないわよ。飯の種としてのヒーローなんてそれこそどうでもいいわ》

 

 何やら遠くから聞こえる爆豪さんの怒声を意識の端に流しながら、わたしは初めて直面した微妙に笑えない問題に頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

「―――水難、土砂災害、火事……etc. あらゆる事故や災害を想定し僕がつくった演習場です。その名も……ウソ(U)災害(S)事故(J)ルーム!!」

 

(《あ、ここかあ》)

 

 バスが着いた先は、以前施設情報で確認した『USJ』だった。

 そこで待っていたのは、宇宙服のようなコスチュームに身を包んだ、初めて見る先生。

 

「スペースヒーロー『13号』だ! 災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

 

 ……らしい。デクさん曰く。

 (ヴィラン)退治からは一線離れて活躍するヒーローのようなので、わたしが知らないのも仕方ない。

 

「わーー! 私好きなの、13号!」

 

 お茶子ちゃんが好きなヒーローということなので、きっと凄いヒーローなんだろう。

 《熱い手のひら返し》うるさいです。……今度、活動の記録を調べておかないと。

 

「えー、始める前に小言を一つ二つ……三つ……四つ……」

(《増える……》)

 

 おそらくクラス全員に同じ思いを抱かせただろう言葉を前置きに、13号先生は語り始める。

 

 曰く、自分の"個性"は万物を吸い込みチリに変える『ブラックホール』。

 これは簡単に人を殺せてしまう"力"である。

 今の社会は"個性"使用を法にて制限することで成り立っているように見えるが、一歩間違えれば容易に人を奪える"いきすぎた個性"を個々が持っている。

 この授業は、そんな"力"を如何に人命救助に活用するかを学ぶものである。

 その"力"は人を傷つける為ではなく、人を(たす)ける為にあるのだと学んで欲しい。

 

 

「―――以上! ご静聴ありがとうございました」

「ステキー!」

「ブラボー!! ブラーボー!!」

 

(……人を傷つける……)

 

 演説を聞き終えて、盛り上がるクラスメイト達の横で少し考える。

 

(……もしわたしが、"個性"で他人を不当に傷付けようとしたら、『干渉』はどうする?)

《……止める、努力はするかしら。私が干河歩(あなた)であるように、干河歩(あなた)も私なのだから》

 

 その答えに少しほっとしたわたしに、『彼女』は咎めるように続ける。

 

《けれど私達は、一本の腕を二つの意思で持っているようなものよ。両方が別々の意図でその腕を振るったなら、もたらされる結果は私達にすら分からない。そんな博打を打つ機会を持ちたいとは思わないわね》

(あはは……そうですね)

 

 それは例えるならピアノの曲を手一つで二曲同時に弾こうとするようなもの。

 どちらの曲もまともな旋律になるはずがない。

 昔も昔、思い付きを実行しようとしたときの惨状が頭をよぎる。

 あの時は一気にデタラメな軌道と速度になったボールが部屋中を飛び回って―――

 

 

「―――ひとかたまりになって動くな!!」

 

 

 …………え?

 

 

 

 

 ―――施設内中央の噴水付き広場に、突如現れ、広がった黒い靄。

 そこからまるで蟻のように、ゾロゾロと湧き出る大小の人影。

 

 先日は確かに働いたはずの、侵入者の存在を知らせる警報は沈黙を守る。

 それはこの事態が、周到に用意された(ヴィラン)の襲撃である何よりの証左で。

 

「―――13号! 任せたぞ」

 

 施設入り口に集まるわたし達生徒を守るため、諸々の指示を飛ばし終えた相澤先生―――プロヒーロー『イレイザーヘッド』は、敵の集まる広場へと突貫。

 その避難指示に従い、わたし達が背後の扉へ振り返ろうとしたそのとき、()()はやってきた。

 

 

「―――させませんよ」

 

 

 大量の敵を何処かから侵入させた、黒い靄。

 その正体は世にも珍しい"転移系個性"を持つ、顔と手足を靄で覆った一人の(ヴィラン)

 

「初めまして、我々は『(ヴィラン)連合』。せんえつながら……この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは―――」

 

 飛び掛かった爆豪さんの『爆破』、切島さんの『硬化』させた腕刀を靄のような身体で透かし、嗤って、彼は言う。

 

 

 ―――平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして。

 

 ―――まぁ……それとは関係なく……私の役目は、これ。

 

 

《靄を広げて……覆い尽くす気ね》

「お茶子ちゃん!!」

 

 

 ―――散らして

 

 

「歩ちゃん!?」

 

 

 ―――なぶり

 

 

「【掌握(スフィア)】!!」

 

 

 ―――殺す

 

 

 

 

 半径二メートル圏内。わたしの射程に入ったものほぼ全てを無差別に【反射】。

 物体なのか、身体の一部なのか、判定の分からない黒靄への賭けは、半分成功した。

 

「皆は!? 居るか!? 確認出来るか!?」

「……散り散りにはなっているが、この施設内に居る」

 

 クラスメイト二十人中、守りきれたのは()()

 偶々、わたしが優先して守ろうとしたお茶子ちゃんの傍に居た人間だけ。

 

「まさか私の『ゲート』を防げる生徒まで居るとは。まあ、最低限は送れたので構いませんが」

 

「物理攻撃無効でワープって……最悪の"個性"だぜ、おい!!」

「……音波も駄目。靄自体をどうにかできる"個性"じゃないとどっかに転移されるだけみたい」

「それでは安全圏はあの靄に対抗できる干河さんの周囲だけ……」

「無線も相変わらず通じねえし! これじゃ避難もできねえぞ!?」

 

 わたし達を囲う黒靄の中に、ぽっかりと開いた半径二メートルの球状空間。

 やがてその領域を侵せないと悟ったのか、敵は靄の先に光る眼を細めて黒靄を引っ込めた。

 

「……委員長! 君に託します。学校まで駆けてこの事を伝えて下さい」

「は!?」

 

 自分一人だけこの場を離れろと言われ、躊躇する飯田さんに、13号先生は言葉を重ねる。

 警報機を妨害する"個性"の持ち主が敵の中に紛れていること。

 敵もその"個性"の持ち主を要と捉え、どこかに隠しているだろうこと。

 故に、外にこの異常を伝えるには、それが最速最善の手段であること。

 

「そして干河さん。君はこれ以上散り散りにされないよう、皆を守ってあげてください」

「っ、はい!」

 

「救う為に、"個性"を使って下さい!!」

「食堂の時みたく……サポートなら私達超出来るから! する! から!!」

 

 恐怖の滲んだ激励と信頼。

 顔を歪めた飯田さんが、決断しようとしていたその直前。

 

「手段がないとはいえ、敵前で策を語る阿呆がいますか」

「バレても問題ないから、語ったんでしょうが!」

 

 身体を覆う靄を歪め身を乗り出した敵に、『ブラックホール』の制御用なのか、コスチュームの指先に着いたカバーを外し、挑みかかる13号先生。

 わたしの射程から僅かに外で、その一戦が幕を開け―――

 

 

「13号。災害救助で活躍するヒーロー……やはり戦闘経験は一般ヒーローに比べ半歩劣る」

 

 

「…………え?」

 

 一瞬で閉幕した。

 背後に転移された『ブラックホール』に、その背を削られるという結末で。

 

「自分で自分をチリにしてしまった」

「先生ー!!」

 

 悲鳴が聞こえた。

 憧れのヒーローが、目の前で崩れ落ちる姿を見せられたお茶子ちゃんの悲鳴が。

 

《…………》

 

 ゆっくりと、膝を付く13号の姿が見えた。

 絶望に顔を歪めるクラスメイト達の表情が見えた。

 靄の向こうで、愉悦に細められた敵の目が見えた。

 

(……『干……渉』……)

《…………》

 

 ()()()()()()()()()、どれも起こり得なかったはずだ。

 ここに立っているのが、高々二メートルの守りしか作れない、わたしじゃなければ。

 

 

《了解》

 





 原作では障子くん、飯田くんが近くのクラスメイトを抱えて逃げることで六人残っていました。
 歩ちゃんの存在による変化を出したかったので、麗日さん付近に居た上鳴くん他二名を救助。

 USJ出入口付近のやり取りは緑谷くんサイドの合間に挟まることもあって、そこだけまとめるとかなりのさっくり進行。
 原作ママの会話はなるべく省きたいのもあって、飯田くん早く行こうよ、とか思ってしまった。


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C1-13 USJ襲撃・中編


 三編構成になりました。

 どうにも難産です。



 

「―――だから逃がさない、と……っ?」

 

 最初に異変に気付いたのは、奇しくも走り出した飯田さんに靄を伸ばそうとした(ヴィラン)

 身体を覆っていた靄が風に煽られるように背後へと散らされ、隠されていた胴と首、四肢の袖口までが露わとなっていた。

 

 

「半径三十メートル、【掌握(スフィア)】」

 

「え……」

「干、河……?」

 

 次に気付いたのは―――()()()()()()()のは。

 干河歩(わたし)の誰より近くで、必死に敵の隙を伺っていたお茶子ちゃん。

 

「……かん、しょ―――」

(……!)

「お茶子さん」

 

 その見開かれた目と同じぐらい、驚愕の中にいるわたしを余所に、『わたし』の口が動き出す。

 

「『非常口』」

(はい?)

「…………っ!」

 

 一瞬、わたしには『干渉』が何を言ったのか分からなかった。

 どういうことかとわたしが心の奥で問い返しているうちに、事は進んでいく。

 

「―――りょーかいっ!」

 

 パチン、と。

 徐にお茶子ちゃんが自分の身体を五指で叩いて。

 

 

「連携、【無重自在(ゼロ・マニピュレイト)】」

 

「うらあぁぁーーーっ!!」

 

 

 敵に向かって、弾丸のような軌道で『飛び』出した。

 

「麗日さん!?」

「麗日どうし……飛んだァ!?」

 

 驚き戸惑ったのは、敵も味方も含めた全員。

 倒れた13号先生に駆け寄って医療器具を『創造』していた八百万さんと、応急処置を試みていた芦戸さんの叫びが、その背中を追いかける。

 

「……教師が倒れてやぶれかぶれの突撃とは、浅はかな」

 

 "個性"を阻害されている現状に少なからず動揺を見せながらも、靄の敵は一直線に向かってくるお茶子ちゃんに対応すべく姿勢を正す。

 散らされながらも手首から先に残る靄が、顎の如く飛び込んでくる獲物の軌道を捉えていた。

 

「……【加速】」

「てやぁっ!」

「な……!? くっ!」

 

 お互いの腕が届く距離から僅かに遠くで、お茶子ちゃんの身体が急加速。

 首元を狙って振るわれた手のひらを、敵は驚愕しつつも大きく仰け反ることで回避。

 

「単純な"増強系"かと思いきや空中で更に加速とは……ですがその程度―――っ!?」

 

 敵の言葉を途切れさせたのは、その背中に響いたのだろう小さな衝撃。

 姿勢を崩しながらも余裕を見せていた敵の眼が、今度こそ焦燥に歪む。

 

「直角軌道……!? いや、それどころか今のは、百八十度……っ!?」

「理屈は知らへんけどこんなん着とるなら、実体あるってことちゃうかな……!」

 

 超速で目の前を通り過ぎたはずのその姿が、自身の背後にあるという事実。

 慄く敵の服を五指でがっちりと掴んだお茶子ちゃんが、重さの消えたその身体を放り投げる。

 

 

「やってまえ!! 歩ちゃん!!」

「連携必殺、【無重旋転(ゼロ・スクリュー)】」

 

 

「ぐっ!? うっ……ぁああぁああっ!?」

 

 宙に浮かされた敵の身体が、その場で急激な【加速】を伴って回転する。

 上下左右前後、速度も方向もデタラメに与えられた高速三軸回転。

 『無重力(ゼログラビティ)』と『干渉』。二つの"個性"によって成り立つ(命を奪わない)必殺技だった。

 

「その状態で動けるもんならやってみぃ!」

(い、いつの間にこんな……)

「す……スッゲェよ、麗日!」

「つーか実質干河か? いや、それでも凄え!」

 

 自身の『無重力』を解除したお茶子ちゃんが、今も呻き声と共に回転する敵を得意気に指差し。

 絶望から俄かに立ち直ったクラスメイト達が歓声を上げる中で。

 

「―――まだ、よ」

 

 冷たく響いた『わたし』の声が、皆の顔に浮かんでいた喜色を吹き飛ばした。

 凍り付く彼らを一瞥してから自分の身体にも"個性"を使い飛び立った『彼女』は、目を丸くして立ち尽くしているお茶子ちゃんの傍へと着地する。

 

「えっ、『干渉』さ……歩、ちゃん?」

「……お茶子さん」

 

 わたしに分かったのは、『彼女』が遠くにある『何か』に対して"個性"を使っていたこと。

 向けている視線の方向が相澤先生の向かった広場方面であること。

 そして、そこで行われているのだろう『何か』への隠しきれない焦燥と―――

 

 

「あなたの命……私に預けてもらえるかしら?」

 

 

 『わたし』の口元が、苦渋に歪んでいたことだった。

 

 

 

 

「―――対、平和の象徴。改人"脳無"」

 

 ミシッ、バキッ、と。

 音を立て軋んでいたのは、全身黒色の身体に脳を剥き出しにした巨漢の敵に伸し掛かられ、その巨大な手に握り潰されようとしている、相澤先生の右腕。

 

「"個性"を消せる。素敵だけどなんてことはないね」

 

 その巨漢の傍に佇む、顔や体の各部に切り取られた誰かの手首を掴ませるようにして身に付けている痩身の男。

 

「圧倒的な力の前では、つまりただの"無個性"だもの」

 

「ーーっ!!」

 

 メギリ、と悍ましい音がして。

 脳無と呼ばれた敵が、余ったもう片方の腕で地面と挟むように、相澤先生の左腕を軋ませる。

 それら指示を出していると思しき痩身の男は、しかし何か不可解に感じたように首元を掻いた。

 

「……オイ、急に力が鈍ってないか、脳無?」

 

「ぐっ……がっ!?」

 

 その言葉が聞こえたか否か、脳無の左手が相澤先生の頭を掴み、グイと持ち上げ、叩きつける。

 亀裂の入った地面と、微かに聞こえる呻き声に、男はいよいよ首を傾げた。

 

「……やっぱりだ。明らかに動きが悪い……バグったのか? おいおい聞いてないぞ先生……」

 

 苛立ちを滲ませ、男が両手でガリガリと自らの首を引っ掻き始める。

 しかしふと、手を止めた彼は弾かれたように上を見上げた。

 

 

「―――いち、げき、ひっさあぁーーつっ!!」

 

 

「…………は?」

 

 敵達の遥か上空、頭を下に右手を振りかぶった姿勢で急降下するお茶子ちゃんの姿に、男が困惑の声を上げた。

 

「奇襲に声上げてどうすんだ馬鹿が。大体がガキの張り手でどうにかなると―――」

 

 言いかけて、男は自らの手へと何か含むような視線を向ける。

 そして、その攻撃の着地点に脳無がいることを確認し、小さく舌打ちを漏らした。

 

「触れると文字通り必殺……なんてのがヒーローの卵に居るとは思えないが……避けろ、脳無」

 

 その体躯に反して機敏に飛び退いた脳無の居た場所に、両腕をねじられた相澤先生が残された。

 数瞬遅れてその場に辿り着いたお茶子ちゃんは、そのまま怪我の少ない背中へと五指を乗せる。

 

「……麗、日?」

「お叱りは後でっ! お願い!」

 

 額からも血を流す相澤先生の身体が、そのまま()()()()()()()()()わたしの傍へと飛び上がる。

 そこで初めてこちらの狙いに気付いた男が、顔を握る手指の裏で血走った眼を見開いた。

 

「ああ……ああ、そういうことか。触ったものを自由に飛ばせる"個性"。なるほど必殺の一手だ。嘘は言ってない。すごいなぁ……最近の子どもは」

 

「……っ!!」

 

 言葉だけは軽い調子で、しかし明らかに一線を越えた怒りを滲ませて、男は呟く。

 出し抜かれた憤りを加えて噴き出した殺意に、お茶子ちゃんの顔が真っ青になるのが見えた。

 

 

「―――死、柄木……とむ、ら……っ」

黒霧(くろぎり)、13号は……どうしたお前?」

 

 

 しかし男が次の行動を起こすより先に、その背後に黒い靄が小さく滲み出るように広がった。

 息も絶え絶えに小さな靄から這い出し膝を付くその姿に、死柄木と呼ばれた彼は面食らった様子で殺気を薄れさせる。

 

「行動不能には、出来たもの、の……散らし損ねた生徒の、思わぬ"個性"に妨害、され……一名、逃げられまし、た……」

「…………は?」

 

 

「……お加減はどうですか、相澤先生?」

「干河……? 成程、お前達の……」

 

 敵達が会話をしている姿を隙と見たのか、傍まで引き寄せた相澤先生に『彼女』が声を掛ける。

 折られた腕や出血する頭に負担が掛けないよう、倒れこんだ姿勢を維持して浮かされた先生は、何か言いたげな眼をギロリと向けた後で、小さく溜め息を吐いた。

 

「麗日ともども叱責は終わった後だ。……助けられたな。感謝する」

「……後でお茶子ちゃんにもお願いしますね。危険を買って出てくれたのはお茶子ちゃんなので」

 

「……その麗日もこうして逃がせないのか?」

「今、行動を見せれば即座に脳無とやらをけしかけてくるでしょう。お茶子ちゃんだけなら怪我なんてさせませんけど、すぐ傍の水岸にデクさん、蛙吹さん、あと峰田が居ますから」

(……え? あっ!?)

 

 言われて、視界の隅に水面から様子を伺う三人の姿があることに初めて気付いた。

 何事かやりとりを交わす死柄木と黒霧。そして指示を待つように立ち尽くす脳無と、張り詰めた顔でそれと対峙するお茶子ちゃんを、三人とも真っ青な顔で見守っている。

 

「っ、あいつら……」

「飯田さんが既に校舎に向かっています。じきに応援が到着する、ということを彼らも知ったようですから……このまま退いてくれれば助かるんですけどね」

 

 お茶子ちゃんが敵の視界から離れてしまえば、次に標的にされるのは彼ら三人だろう、という『彼女』の見立てに、相澤先生から苦り切った同意が返った。

 

「頭の傷は、急を要しますか?」

「まだ意識に淀みは無い……が、平衡感覚をやられているな」

 

「では先生の"個性"、有効射程に制限は?」

「……この位置からなら確実に一人は『消せる』。だがあの巨漢は『消し』ても力はそのままだ」

 

 敵達、とりわけ脳無から視線を離さないまま、言葉少なに成される現状と切れる手札の確認。

 そんな中、先生は『彼女』に向けて、どこか諦念の滲んだ声で問いかけた。

 

 

「…………それと、一応聞いておくが―――()()()()()?」

 

(……っ!!?)

「……安心して、相澤先生」

 

 

 ……わたしが驚きに思考を固まらせているうちに、『彼女』は淡々と返した。

 

 

「私は麗日お茶子さんの友人。それだけは揺らがないわ」

 





 一応口調を歩ちゃんに寄せている『干渉』さんですが、まあ気付かれないわけがない。

 "個性"『干渉』の出力上限の境界となるのは生物判定か、非生物判定か。
 相澤先生が原作より軽傷な理由は、さて何でしょうね。


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C1-14 USJ襲撃・後編


 オリキャラ無双が精神に悪いなら補助に回して原作キャラに活躍させれば良いじゃない。
 麗日さんの"個性"は強い相手には本当に強いですよね。

※とある理由から本日は12:00に次話を更新します。



 

「―――さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ、あーあ……今回はゲームオーバーだ…………帰ろっか」

 

 長くはないやり取りの後で、死柄木の口から溢されたのはそんな投げ遣りな言葉だった。

 その傍らで、ふらつきながら立ち上がった黒霧が、未だ靄を散らされる己の腕に目を眇める。

 

「……それと死柄木、先程から何らかの……おそらく生徒の"個性"により『ゲート』の生成が阻害されています。今の私は直接触れている相手でなければ転移不能です」

「ああ!? ……『使える』ならイレイザーヘッドの下位互換か。面倒なだけの雑魚"個性"だな」

 

「そういえば、そのイレイザーヘッドはどちらに?」

「飛び込んできたあのガキの"個性"で安全圏行きだ。生徒に庇われるとは落ちたもんだぜ」

 

「っ、あの生徒は……! 敵は宙に拘束、味方は避難。加えて本人は空中移動自在とは……」

「触れられるだけで空中行きじゃ『力』も『耐久』も役に立たない。とんだクソゲーだぜ」

 

 お茶子ちゃんが想像以上に警戒されているやりとりが、場違いながら少し嬉しく思えた。

 ……表に出ている『干渉』から、かなりきつい怒りの感情を伝えられ、慌てて引っ込む。

 

「……だがラスボスにも会えずに帰るんだ。ここは平和の象徴の矜持を少しでも―――」

 

「っ、干河!」

「言われずとも! 【無重自在(ゼロ・マニピュレイト)】!」

 

 俄かに悪意を漲らせた死柄木が動く気配を見せた瞬間、相澤先生と『わたし』の声が重なった。

 (ヴィラン)が向かった先、デクさん達が隠れる水岸へと、先生の身体が急降下する。

 

「―――へし折って帰ろう!」

 

 ひたり、と。

 蛙吹さんの頭を触れた腕に、一瞬遅れて相澤先生が肩に巻いた『捕縛布』が絡みつく。

 落下しながら首の動きだけで放ったそれに、先生は死柄木を視界に収めたままに足を絡め、相手を引き倒しに掛かっていた。

 

「っ、はは……何だよかっこいいじゃないか……イレイザーヘッド!」

「くっ……」

「け、けろぉ……っ」

 

 『干渉』が捕縛布を引く方向に相澤先生の身体を【加速】させ、死柄木はそれに抵抗するように蛙吹さんの頭を掴む。

 引き合いの支点にされた蛙吹さんが、こめかみに食い込む死柄木の指から逃れようともがいて。

 

「手っ……離せえっ!」

「……脳無」

 

 刹那、デクさんが振りかぶった右腕に緑色の電光が走った。

 それを一瞥した死柄木が一言呟いた瞬間、『わたし』の視界の中で黒の巨体が動き出す。

 

「―――SMAASH!」

 

 気合いの叫びと共に振り抜かれた拳が、飛び込んだ脳無の腕を捉え、砂埃が巻き起こる。

 数秒、視界を埋めた煙が晴れたとき、そこにあった光景に『わたし』が目を見開いた。

 

「スマッシュって……オールマイトのフォロワーかい? 丁度いいや、君……」

 

(……えっ)

《……っ》

 

 

 ビルを縦に貫く拳が、まるで何事もなかったかのように片腕で防がれている。

 その信じ難い現実に呆然とするデクさんの前で、脳無の空いた腕がゆっくりと動き出して。

 

 

「―――デクくん!」

 

 

 わたしが不味いと思ったそのとき、『彼女』は既に次の手を打っていた。

 

「後ろの女を潰せ! 脳無!」

 

 デクさんを助ける為、お茶子ちゃんが後先考えず飛び掛かった―――ように見えたんだろう。

 彼女がそうやって隙を晒すところを、敵は狙い澄ましたつもりだったんだろう。

 死柄木の指示を聞いた脳無の、勢い良く捻った裏拳がお茶子ちゃんに迫る。

 

 けれどお茶子ちゃんの軌道を操っているのは、それを上から俯瞰している『干渉』だ。

 『彼女』を欺けない限り、その反撃がお茶子ちゃんを捉えることなど有り得ない。

 

「……は? ……がっ!?」

「……気を散らし過ぎだ」

 

 速度そのままに【反射(バック)】したお茶子ちゃんの目の前を、脳無の腕が空しく素通りし。

 その時間を巻き戻したかのような軌道に困惑を漏らした死柄木の顔を、捕縛布を巻き寄せるようにして接近した相澤先生が蹴り抜いて。

 

「合体、必殺! 【無重(ゼロ・)―――」

「―――旋転(スクリュー)】!」

 

 一瞬前まで自分の頭があった位置に突き出された脳無の拳を、お茶子ちゃんが力一杯に叩く。

 次の瞬間、絶望を振りまいてきた巨体が、虚空へと跳ね飛んだ。

 

 

 

 

「―――もう大丈夫。『私が来た』!」

 

 オールマイトの姿が見えたそのとき、わたしは『勝った』と思った。

 

「……っ、今来るなよ、ラスボスが。クソゲーにも程があるぞ」

 

 両腕を力無く垂らしながらもしっかりとデクさん達の前に立ち、眼光鋭く敵を見据える相澤先生から、逃げるように距離を取った死柄木の悪態がそれを助長した。

 

「死柄木!」

「分かってる! 早くゲート開け、黒霧!」

 

 『干渉』の【掌握(スフィア)】に阻害され、小さな出口しか作れない黒霧に駆け寄っていく死柄木。

 彼らを追う戦力がこの場にないことを、残念にすら思っていて。

 

 

《―――不味い……っ!?》

 

 

 ……だから、心の奥に聞こえたその一言を、わたしは聞き間違いだと思った。

 

「う、ぷっ……あっ……あか、ん……っ」

 

 真っ青になった顔に、口元を抑えて倒れこむお茶子ちゃんを、呆然と見下ろしていて。

 

《"個性"の許容限界……オールマイトの姿に糸が切れた……っ!》

 

 むくり、と。

 いつの間にか大地を踏みしめ、立ち上がっていた脳無を幻覚か何かだと思った。

 

「お茶子さんっ!」

(お茶子ちゃんっ!?)

「あ…………」

 

 死柄木から与えられた最後の命令を果たそうと飛び掛かる脳無。

 猛然と迫るその姿を、動かない身体に見開いた目で見上げるお茶子ちゃん。

 必死に、最高速で流れていく『わたし』の視界。

 

 

 そこへ割り込んだのは、迸る緑色の閃光。

 

 

「―――DETROIT(デトロイトォ) SMAAAAASH(スマアアァァッシュ)!!」

 

 

 バキ、ブシュ、と音を立てて、砕けた骨肉から血を吹き出すデクさんの右腕。

 そこまで捧げた彼の一撃すら、僅かにたたらを踏むに留めてみせた脳無。

 

 稼げた時間はごくごく僅かで―――

 

 

「よく頑張った、緑谷少年! 麗日少女!」

 

 

 けれど金銀よりもなお貴重な数秒。

 

「後は私に、任せな……っさい!」

 

 駆け付けたオールマイトが、脳無を二人から遠ざけるべく放り投げる様が視界の端に映った。

 『わたし』が地面に足を着ける頃、デクさんがだらりと下がった右腕を抱えて振り返る。

 

 

「……っ、う、麗日さんっ! 大丈夫? 怪我はない?」

「…………っ」

 

 

 『わたし』の視界が、急に上を向いた。

 《それは反則じゃないかしらぁ……》という、何だか投げ遣りな呟きも聞こえる。

 

「……緑谷さん」

「あっ、干河……さん?」

 

 デクさんを呼び止め、お茶子ちゃんに寄り添うように膝をついた『彼女』。

 ちら、とその赤みが差した―――ミックスされて紫色になった顔を見て、溜息を吐いた。

 

「お茶子さんの為を想うなら、今すぐ回れ右しなさい」

「…………へ?」

 

「それから……なるべく聞かないように。良いわね?」

「え? あ、あの―――」

 

「返事は?」

「はい!」

 

 勢いに押されてコクコクと頷き、首を傾げながら背中を向けるデクさん。

 それから『彼女』は一転して優し気な声を作り、口元を抑えるお茶子ちゃんに話しかける。

 

「……大丈夫よ、お茶子さん」

「……?」

 

 

「ちゃんと道連れは置いていくから」

「…………?」

(…………え?)

 

 

 ……何故か、嫌な予感がした。

 ついさっきまでの命が掛かったソレよりは遥かにマシな、けれど背筋を凍らせる予感が。

 

(あ、あの、『干渉』? まさか―――)

《あら、お茶子さんを一人にする気?》

 

(い、いや、でもまだ敵が居なくなったわけじゃ―――)

《他の先生方も、もう施設内まで来ているわ》

 

(い、今倒れたら、その先生方にも迷惑に―――)

《手は足りてるわよ。はい、返したわ》

 

「え…………おぶっ!!?」

 

 突如戻って来た手足の感覚、襲い来る頭痛、ひっくり返る腹の奥。

 咄嗟に手で塞いだ口の奥で、せり上がってくるモノを感じながら、わたしは視線を横に向ける。

 

(……なんか、ごめんな。歩ちゃん)

(……いえ、良いんですよ。お茶子ちゃん)

 

 紫の顔で目尻を下げるお茶子ちゃんと目を合わせたとき。

 これはこれでいいかなあと、わたしはどこか投げ遣りな気分で、そう思った。

 

 

「「……おぇ

 

※しばらくお待ちください

 

 

 

 

「けろ……『魂で通じ合った』ってこういうことだったのね」

「緑谷のヤロゥ……カッケェことばっかしやがって……」

 





 友達の乙女心へのダメージを軽減する為、歩ちゃんに(強制的に)一肌脱がせる『干渉』さん。
 本当は色々と聞かれない距離まで遠ざけたかったですが、状況が状況なので妥協しました。

 実は緑谷くん、原作と違って左手の指は骨折していなかったり。
 件の会議からUSJまで少なくとも週末は跨いでますので、制御訓練がしっかり進んでいます。
 歩ちゃんが見る機会が無いので描写外にならざるを得ないですが。

 爆豪、切島、轟の三名は、バックドロップで脳無を埋めるオールマイトを見たことでしょう。
 一方で『超再生』がお目見えせず、死柄木も脳無が無力化されている+出入口(黒霧)に制限掛かってる状態でのオールマイト襲来に対して流石に様子見は選ばなかったため『ショック無効』についても解説することなくさっさと撤退。
 結果として死柄木の負傷も無ければ「脳無=複数個性」も割れませんでした。ヤバイですね。


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C1-15 反省会


 失敗したなら、ごめんなさいしないとね。



 

 ―――その後、わたし達が二人仲良く倒れている傍で、飯田さんの連絡で集まった教師陣(プロヒーロー)および駆け付けた警察の方々により、事後処理は進められていった。

 

 重傷者として搬送されたのは、13号先生、相澤先生、デクさんの三人。

 一番の重症を負っていた13号先生も命に別状はないとのこと。

 相澤先生は警察の方々が来るまで自分の脚で立っていたそうだけれど、頭に強い衝撃を受けたとあって検査の為にも外部の病院へ送られたらしい。

 

 デクさんを除き、教室に戻されたわたし達生徒十九人に待っていたのは、警察による事情聴取。

 ……とはいっても、それぞれがどんな(ヴィラン)と相対し、どんな行動を取ったかを聞かれたぐらい。

 わたし達がまだ他人に対して"個性"を振るう許可を持たない身であるとはいえ、生命の危機など非常時においてはその限りではないのだから、そう強く詰問されるはずもない。

 

 ただし、《飯田さんを逃がす為に黒霧と戦闘したのは別としても、広場に向かったのは明らかに先生の指示を無視した行い。警察はともかく学校からは反省文の一つも書かされるでしょうね》と『干渉』は言う。

 お茶子ちゃんにも『彼女』からと言ってそれを伝えると「せやろなぁ……」と苦笑していた。

 

 ……あれ、でもそれって『干渉』の判断であって、わたしは関係ないのでは?

 

《……まあ、そうね。これに関しては私が対応するわ》

「わたしの分は『干渉』がやってくれるそうです」

「歩ちゃん、それずるない?」

 

 聴取を終えた後の教室で、わたし達はくすくすと笑い合う。

 デクさんがいつかのように腕を吊った姿で教室に戻って来たのは、丁度そのときだった。

 

「あ、デクくん!」

「デクさん、腕の具合は……えっと、いつも通りで?」

「い、いつも通り……否定できない……」

「ざっくりいったな、干河」

「まあそういうイメージ付いちゃってる緑谷サイドの問題でもあるしな」

 

 ズゥンと落ち込んでしまったデクさんの様子に、「歩ちゃん!?」とお茶子ちゃんに怒られた。

 宥めながら聞いたところによると、リカバリーガール曰く怪我の具合としては今まででも一段と酷かったそうだが、今回に限っては状況が状況だからとあまり強くは怒られなかったらしい。

 

「え、ええっとそれで、かん……干河さんに聞きたいことがあって」

「あー……わたしに、ですか?」

 

 この場に居るのが『彼女』を知っている人間だけではないのでちょっと面倒なやり取りになってしまうけれどしょうがない。

 

「あの脳無と呼ばれていた脳みそ剥き出しの敵なんだけど、相澤先生を組み伏せたあたりから急に動きが悪くなったんだ。あいつらのリーダー格だった敵も不思議がっていたし……それからすぐに麗日さんが飛び込んできたから、もしかして干河さんが何かしていたのかなって」

「え? えっと……」

《ああ、あれね……私の所感を送るから彼らに説明しなさい》

 

 デクさんの質問に対し、『彼女』からわたしへ矢継ぎ早に情報が送られてくる。

 考えている振りをしながらそれを聞くこと暫し、わたしなりに要約して返答した。

 

「……あの敵に対しては、何故か"個性"の()()()()()()()んですよ。わたし一人の力で飛ばしたり浮かしたりは出来ませんでしたけど……あの敵の力の二割ぐらいに"干渉"出来ていました」

「二割? でもそれだけじゃ……」

 

「二割分の力を逆方向に【反射】させれば、残り八割の力と相殺して実質六割程の力に抑え込めたことになりますから。……けれどどうしてでしょうね? 普通の人間には一割にも満たない程度にしか"干渉"出来ないんですけど」

 

 『彼女』の情報を伝え終えた後で、わたしも少し考えてみる。

 ……液体や鉱物に近い"異形系個性"の持ち主が相手ならそういうこともあるかもしれない。でもあの脳みそ敵の身体は見た限り肉の質感だったように思うのだけど。

 

「なるほど以前から干河さんの"個性"は距離と対象に関して対応力がとんでもなく高い"個性"だと思っていたけど、対象に加えられる力の向きを逆方向含め細かく調整出来るという点こそ強みでもあるのか。麗日さんの"個性"と組み合わせた制限の踏み倒しも強力無比だけど、条件次第では干河さんの"個性"単体でも制限が緩和される可能性がある? その場合の条件は何だ? 鉱物植物液体あたりの"異形系"? あの敵は僕どころかオールマイトの打撃すら受け止めていたし、ああ見えてゴムか何かの弾性が異常に高い物質で身体が構成されているタイプの"異形系"だったんだろうか? 相澤先生の『抹消』も"異形系"には効かないと言っていたしそれなら辻褄は―――」

 

「……あ、そういえば今日と明日は臨時休校だってさ」

「じゃあそろそろ帰ろっか」

 

 授業については翌日まで含めて臨時休校に。

 クラス一同、とんでもなく濃い一日だったな、などと話し合いつつ三々五々に下校した。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――ごめんなさいっ!!」

 

「いきなりどしたんっ!?」

 

 

 ……そして今、アパートに帰り着いた途端に聞こえた《替わって》の一言に従った結果。

 上がりこんだお茶子ちゃんの部屋で、家主に向かい深々と頭を下げる『わたし』の姿があった。

 

「え、えっと、さっき『替わって』たから、『干渉』さん、だよね?」

「……ええ、私よ」

 

「ああ、改めて聞くと同じ声やのに全然違って聞こえる……じゃなくて!」

 

 急に頭を下げた『干渉』に、驚き硬直するお茶子ちゃん、及びわたし。

 視界一杯に床があるせいで見えないけれど、わたわたと慌てている様子が目に浮かぶ。

 

「……命を預けてくれと、頼んだのは私。引き受けてくれたのは、あなた」

「……!」

 

「敵の眼前にあなたを飛び込ませておいて、私は最後まで奴らの視界外にいた」

「……ん」

 

 話の行き所が分かったらしいお茶子ちゃんが、スンと落ち着いたのが分かった。

 

 お茶子ちゃんの『無重力(ゼログラビティ)』と、わたしの『干渉』を合わせた即興連携。

 結果だけ見れば掠り傷一つ負わずに敵を翻弄し続けたあの作戦には、一つ重大な欠点がある。

 

「ドス黒い悪意と殺意に晒されると分かっていて、私はあなたに『動くな』と言った」

「…………」

 

「敵の手が、拳が、皮一枚を掠る度に壮絶な恐怖を味わうことになると分かっていて」

「あぅ……」

 

 二つの"個性"が掛かっている間、お茶子ちゃんは自分の意志では身動きが取れなくなる。

 攻撃も、回避も、全ての行動はその身体を移動させている『干渉』次第。

 だからこそ、あの敵達の思惑を悉く外せたのだと言えるけれど。

 

「それでもあなたは、最後まで揺らぐことなく私を信じてくれた」

「……うん」

 

「それなのに私は……最後の最後で、あなたの信頼を裏切った」

「え……?」

(えっ?)

 

 『彼女』の口から零れた悔恨に満ちた言葉に、再びわたし達の反応が揃った。

 

許容量(キャパ)を越え、動けなくなったあなたを、敵の前に晒してしまった」

「あ、あれはっ、私が気ぃ抜いたのが悪いというか、そのぉ……」

 

 もにょもにょと、おそらく目を逸らしながらの呟きが降ってくる。

 それを確かに耳に入れながらも、『彼女』の懺悔染みた述懐は続いた。

 

「今回現れた敵……死柄木弔と黒霧は捕まっていない。彼らは麗日お茶子という『厄介な"個性"を持つ生徒』を覚えていった」

「あ……」

 

「敵の注目を押し付けるだけ押し付け、信頼にも応えられなかった。……だから、ごめんなさい」

「そ、そういう……うー……」

 

 返答に困ったように唸るお茶子ちゃんと、静かに頭を下げたままの『干渉』。

 そんな二人の様子を、わたしはどこか不思議な気分で眺めていた。

 

 ……あのとき呑気な思考を流したわたしに、『彼女』が怒りを伝えてきた理由は分かった。

 それでも、誰かに謝る為に『彼女』がわたしに入れ替わりを頼むだなんて初めてのこと。

 他人に弱みを見せる『干渉』にどんな感情を抱けば良いのか、わたしは分からなかった。

 

「まあ、その……結局怪我はせえへんかったし。そないに気にせんでもええんよ?」

「……!」

 

「敵に目ぇ付けられてーいうのも、ヒーローになるなら遅かれ早かれやろうし」

「それは……」

 

「だから……うん。顔上げてえな、『干渉』さん」

「お茶子さん……」

 

 明るい口調でそう言ったお茶子ちゃんに、『彼女』が驚きながら顔を上げる。

 視界に映ったその顔は、普段通りのうららかな微笑みだった。

 

「それに……怖かった、いうのも……あると言えばあるけど……うん、まあ……うん」

「……ん?」

(……んん?)

 

 ふい、と。

 何かを思い出すようにお茶子ちゃんの眼が遠くを見る。

 わしゃわしゃと手で頭の後ろを掻きながら、頬には少なからず赤みを増やして。

 

「…………デクくん」

「キョっ!?」

 

 わざとお茶子ちゃんの使う呼び方に倣った呟きに、何やら愉快な悲鳴が返ってきた。

 さっきまで張り詰めるようだった『彼女』の感情に、一気に呆れのようなそれが広がっていく。

 

「恰好良かったわよねー。粉砕した腕を痛がるより先に『麗日さん! 大丈夫?』だもの」

「あ、う……っ」

 

騎士(ナイト)君が上手いこと恐怖を上書きしてくれたわけだ。なるほどなるほど、御馳走様」

「え、やっ、ちゃうんよ!? そういうのとちゃうから!?」

 

「へー、ほー、ふーん……《返すわ》」

「ふえっ!? あ、お茶子ちゃん……」

「あっ、『干渉』さん引っ込んでもうたん!? ちゃうねん! ちゃうからな!?」

 

 急速にやる気を失くして奥に引っ込んでしまった『干渉』に、真っ赤な顔で必死に否定しながらわたしの肩を掴んで揺さぶるお茶子ちゃん。

 まるで間に挟まれたような構図に、何だろうこれ、と思いながら夜は更けていくのだった。

 





※二話更新の理由は謝罪パートに時間を空けたくなかった為。

 フラッシュバックなどの精神的ダメージの可能性を考え、わざとその時の状況を思い起こさせるような言い回しを繰り返し、麗日さんのメンタル面を確認していた『干渉』さん。
 結果、思ったより甘酸っぱい反応が返って来たので安堵すると同時にやる気が消滅しました。
 謝るべきと思ったときの歩ちゃんと『干渉』さんの行動の差異よ。

 死柄木達の認識のズレは体育祭で修正されるよ。やったねお茶子ちゃん。


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Chapter-2
C2-1 目指す理由



 ここから新章突入。
 さあヒロアカ二次最大の山場の開幕だ。



 

「―――お早う」

「「「相澤先生、復帰早えええ!!」」」

 

 襲撃の翌々日朝。今までと変わらない調子で教壇に立った相澤先生にクラス一同の声が揃う。

 目に見える治療痕は、頭と左腕に巻いた包帯、それからギプスに固められた右腕だ。

 ……やはり握り潰された右腕が特に重症だったんだろう。

 

「俺の安否はどうでも良い。何よりまだ戦いは終わってねぇ」

 

 剣呑な言葉にざわつく一同を一瞥して、先生はいつになく力を込めて告げた。

 

「『雄英体育祭』が迫ってる!」

「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!」」」

《……いや学校でしょうに》

 

 どこかホッとした空気の込もった歓声の中に、わたしだけが呆れたような呟きを聞いていた。

 

 

 ―――人間の規格が変化したこの『超人社会』において、かつての『スポーツの祭典』に代わるものとされる年に一度の大行事。それが雄英体育祭。

 全国のプロヒーロー達もまた、未来の相棒(サイドキック)を見出す目的で毎年欠かさず注視しているはず。

 自身の実力、有用性をアピールし、プロに見込まれることが出来ればその場で将来が拓かれる、年に一回……計三回だけのチャンス。

 ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントである!

 

 

《―――まあ、せいぜい頑張りなさい》

(……やっぱり、そうなりますよね)

 

 迎えた昼休み。

 口々に体育祭へのやる気と意気込みを話し合うクラスメイトの声に紛れて、頭の中からこれ以上ないという程に無味乾燥な励ましが届いた。

 分かってはいたし、安易に頼るつもりもなかったけれど、この大行事に『干渉』は全く興味を持っていないらしい。

 

《命が掛かってるわけでもなければ、この一回に人生が掛かってるわけでもない》

(プロからスカウトが来るかどうかは結構人生に影響すると思いますけど)

 

《それだって三度もあるうちの一回。それも特に大きな機会ってだけでしょう?》

(……まあ、そうですけど)

 

《雄英卒業者以外のプロヒーローだって幾らでも存在するわ。そもそもこの体育祭で活躍しなきゃヒーローになれないなら、他の高校のヒーロー科の存在は何よ?》

(…………)

 

 いつも通り正論に正論を重ねて撃退された。ごねる暇もない。

 周りで盛り上がっているクラスメイトを見ていると、温度差で悲しくなってくる。

 

《……あれだけの事があって、警備を強化するにしても強行する学校の姿勢も、ね。"私"のように『知られない』ことがメリットになる"個性"もあるでしょうに容赦無く全国放送というのも……》

 

「―――デクくん、歩ちゃん、飯田くん……頑張ろうね体育祭」

「顔がアレだよ、麗日さん!?」

 

 『干渉』との話に集中しているうちに、いつもの三人がお昼の誘いに来てくれていたらしい。

 そこでも話題は体育祭についてだったそうだが……何だかお茶子ちゃんが見た事のない顔で意欲を燃やしていた。

 

《……ああ、そうか。お茶子さんは……そうよね》

(『干渉』?)

 

 ひとり納得している『干渉』にわたしが首を傾げている間に、気付けばデクさんがお茶子ちゃんの、顔がうららかでいられなくなるほどの意欲の源について聞いていた。

 そこで返ってきた、究極的に言えばお金の為、という言葉でわたしも入学初日の事を思い出す。

 

 

「―――私は絶対ヒーローになってお金稼いで、父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ」

 

 

(……これがお茶子ちゃんのヒーローを目指す理由なんですよね)

《友人として触れない約束はしたけれど……親の経済状況はどうしたって人生に影響するわよね》

 

 力強くそう言い切ったお茶子ちゃんに、デクさんや飯田さんも感銘を受けた様子だ。

 わたしがそう思っていると、頭の中からもほんの少し熱を含んだ呟きが聞こえる。

 

《……もし団体競技でもあったなら助言ぐらいはしてあげるわ。歩が足を引っ張らないように》

(うー……)

 

 手厳しいなあと思う反面、少なからず安堵してしまうわたしが居た。

 

 

「―――そういえば、干河さんは?」

「えっ?」

「あ、確かに歩ちゃんの理由は聞いたことあらへんわ」

 

 急に水を向けられ、少なからず期待を宿した三対の視線がわたしを射貫く。

 ……この話の流れを予想していなかったわけではないけれど……どうしよう。

 

「その……お茶子ちゃんの話の後だと凄く言い辛いんですけど……」

「私の後で? えっ、逆に?」

 

 自分の動機を不純なものと言っていたお茶子ちゃんが首を傾げる。

 それでも三人の眼差しに―――こちらはそれぞれの理由を既に聞いていることも相まって―――抗いきれずに口を開いた。

 

 

「……わたしが小さい頃、お父様が(ヴィラン)に誘拐されたことがあったんです」

「「「誘拐!?」」」

 

 

 目を真ん丸にして驚く三人。

 その様子に口元に苦笑いが浮かぶのを感じつつ、わたしは話を続ける。

 

「詳しい話を聞いたのは結構最近なので伝聞ばかりになりますけど……そのときの敵からは何故か身代金等の要求が無かったそうなんです」

「あれ、それ目的じゃなかったってこと?」

「歩ちゃんの実家って割とセレブやもんね」

 

 実感を持ったのはお茶子ちゃんと話すようになってからだけれど、わたしの家は金銭目的の敵に目を付けられてもおかしくはないぐらいだったらしい。

 ……八百万さんの御実家に比べたら吹けば飛ぶような程度というのも最近知った。

 

「犯行声明すらなかったので当時の警察も行方不明者の捜索として近場を探すぐらいしか対応してくれなかったとか……いえ、仕方ないとは思ってますよ?」

「それはまあ、そうだよね。その時点じゃそもそも敵の犯行かどうかも分からないし」

「歩ちゃんのお父さんの事は知らへんけど、ちょっと連絡忘れて遠出しただけかも知らんし……」

 

「それで、その……当時のお母様は、お金に物を言わせて大量に人を雇ったそうで……」

「「「ああー……」」」

 

 ここで三人とも、わたしが言い淀んだ理由を理解してくれたらしい。

 お茶子ちゃんと目線が重なって、お互いに苦笑し合う。

 

「……こほん。まだ小さかったわたしがそのとき見ていたのが、お父様を案じて涙を流すお母様の姿でした。人前では気丈に振る舞って、でも自室では一人静かに泣いていらしたんです」

「それは……」

 

「実情はともかく失踪と見る動きもあったそうですし、今になって思うと親戚の方々からも色々と言われたりしていたのではないかと」

「…………」

 

 赤の他人より近くの身内の方がひどい言葉を掛けてくることもある。

 直接お母様に聞いたことはないけれど、まだ小さいわたしを抱えて大変な苦労をされたはずだ。

 

「そんなお母様に手を差し伸べてくれたのが……お父様を攫った敵を探し出し、助け出してくれたのが……とあるヒーロー、だったらしいです」

「『らしい』!?」

「誰なのかは分からへんの!?」

 

「いえその、お母様が言うにはちゃんとした雇用契約でない形での依頼だったそうで……バレるとヒーロー免許的にまあ、ごにょごにょ……な感じなのだそうで」

「……ああ、うん、そっかあ……敵による犯罪かどうかもあやふやだったんだもんね」

「法や規則の外で行動したヒーローということか……むむむ……」

「で、でも、そのおかげで歩ちゃんの家族が救われたわけやし……」

 

 わたしのヒーローを目指す理由が話し辛い理由の二つ目がこれだ。

 簡単に言えば子供の頃に見たヒーローに憧れて、で済むのだけど、詳しく話すとどうしてもそのヒーローのアウトローな行動を明かすことになってしまう。

 

「というわけで何処のどんなヒーローかは秘密……というよりわたしも知りません。お母様は当然知っているはずですけど……」

「あんまり深く聞いたらあかんやつやね……」

「で、でも規則を曲げてでも、泣いている人の為に手を差し伸べた立派なヒーローだよ!」

「そう……だな。人として尊敬すべき人物であることは確かだ」

 

「はい。だからこそわたしはその人のように、流された涙や奪われた笑顔の為に戦えるヒーローになりたいと願っています。……法律にはなるべく触れない方向で」

 

 わたしの宣言に、三人とも苦笑しながらも素晴らしい理由だと言ってくれた。

 

 未だに名前も知らない相手だけれど、今回の体育祭で活躍すれば、向こうからわたしを見つけてくれたりしないだろうか。

 ……まあ、仮にスカウトされてもわたしにはその人だと分からない可能性が高いけれど。

 

 

 ―――そんなことを考えていた放課後。

 教室の前に人垣を作っていた普通科の生徒から、わたしは大変な情報を聞くことになる。

 

(あの、リザルト次第でヒーロー科から普通科に編入も検討されるって……)

《その時は大人しく普通科に行きなさいよ。それ相応と判断されたということでしょう?》

 

「―――って、言われました……」

「割と歩ちゃんに……いや、みんなに手厳しいんよな『干渉』さん……」

 





 歩ちゃんのオリジン回でした。
 干河家を救った人物についてはもう少し後に登場する予定です。
 苦しむ人の為なら法など踏み越えて動いてくれるお方。果たして誰でしょうね。


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C2-2 第一種目


 なるべくサクサク進めますよー。



 

『―――どうせてめーらアレだろこいつらだろ!? (ヴィラン)の襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!! ヒーロー科! 一年! A組だろぉぉ!?』

 

 

 大観衆の詰めかけたスタジアムに響き渡るプレゼント・マイクの実況の声。

 今までに浴びたことのない規模の視線に、自然と身体が強張っていく。

 

『B組に続いて普通科C・D・E組……! サポート科F・G・H組も―――』

 

《……いや、もうちょっとA組以外にも力入れて紹介してあげなさいよ》

 

 実況に対して呆れたように呟く『干渉』の声を聞いて、少し強張りが解けた。

 でも確かに普通科の生徒からは「完全に引き立て役だよなぁ」「たるいよねー……」といった、不満の声がこちらにまで聞こえてくる。

 

 各クラスの入場が終わったところで朝礼台に上がったのは、同性のわたしでも直視するには勇気が要るコスチュームに身を包んだ……包んでる? 18禁ヒーロー『ミッドナイト』先生。

 ……18禁なのに高校に居ていいんだろうか。あ、常闇さんも同じこと言ってる。峰田は黙れ。

 

 そのミッドナイト先生に呼ばれ、爆豪さんが開会前の選手宣誓の為に壇上へと上がる。

 デクさんを始めとしてクラス中から「大丈夫なのかアレ」という呟きが聞こえる中、気負いない立ち姿で爆豪さんが口を開いた。

 

「せんせー―――俺が一位になる」

 

「絶対やると思った!!」

《わぁお》

 

 傲慢の極みのような宣誓に最初に突っ込みを入れたのは切島さん。

 そこからA組を含む全てのクラスからブーイングの嵐。

 けれど全く堪えた様子もない爆豪さん。……いったいどんな精神力をしているんだろうか。

 

「さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう」

 

 ざわつく生徒達を余所に、ミッドナイト先生の司会は恙なく進行。

 朝礼台の裏に投射された映像の中で、ドラムロールが始まる。

 

 その演出が止まり、投射映像に浮かび上がっていたのは―――『障害物競争』の文字。

 それと同時に、スタジアムの外へと続く大きなゲートが、ゆっくりと開いていく。

 

 ―――計11クラスでの総当たりレース。

 コースはスタジアムの外周約4キロ。

 コースさえ守れば、何をしたって構わない、とのこと。

 

《……得意分野に分類されるわね》

(何でちょっと不満そうに!?)

 

 各生徒がゲート前に軽く集合した時点で、ゲート上部のスタートランプが点灯を始めた。

 ……ところでこのゲート、全生徒が通ろうとするにはかなり狭いような。

 

《そこが最初の篩ということでしょ。そもそもヒーロー科以外の生徒はほぼここで落とす腹積もりのようだし》

(えぇ……)

 

 その偏見染みた見解に何か言いたかったけれど、否定出来る要素もない。

 なので大人しくスタートの準備として、()()()()()()()向かった。

 

「……え、歩ちゃん?」

「気にしないでください。こっちの方が都合が良いので」

 

 不思議そうな顔をするお茶子ちゃんに手を振って、人口密度の小さい場所まで移動する。

 そうこうするうちに、ゲート上部のスタートランプが点灯を始め―――

 

『スターーーート!!』

 

 合図共に一斉に……二百人以上がゲートへと殺到する。

 想像した通り、ギチギチに詰まった通路の中で生徒同士の押し合い圧し合いが始まった。

 

「それではわたしも行きましょうか、【自己自在(マニピュレイション)】」

 

「ゲート狭すぎ……!」

「うおっ、誰だアレ!?」

「干河さんっ!?」

 

 ゲートの横幅は二百人が通れる広さではなくても、縦幅は観客席と同等の高さがある。

 皆の頭の上にあるこの空間ならば、わたし一人が通り抜けるのに何の障害もない。

 

「お先です、皆さん」

 

 見上げる同級生達の顔を見渡しながら―――今、デクさん居ませんでした?―――スタジアムの外へと出た瞬間、地面に氷が走る様が視界の端を過ぎていく。

 

「これは……轟さんの氷、ですか」

《先頭に立った上で後続の足止めを狙ったのね》

 

 『干渉』の見立て通り、彼の狙いに嵌ったらしい悲鳴と怒声が背中に聞こえてくる。

 殆ど競争者(ライバル)が居なくなってしまったのでは? と思って振り返ろうとした瞬間、わたしに並んでくる複数の人影が見えた。

 

「甘いわ、轟さん!」

「そう上手くいかせねえよ、半分野郎!!」

《半分野郎……ああ、髪の色かしら》

 

 腕から『創造』した棒で、高跳びのように氷を越えた八百万さん。

 両手からの『爆破』でわたしと同様に同級生の頭の上を飛んできた爆豪さん。

 影のような"個性"『黒影(ダークシャドウ)』を使って宙に逃れた常闇さん。

 足元を『酸』で溶かし、氷に固められることを防いだ芦戸さん。

 そして―――

 

「一人では行かせへんよ、歩ちゃん?」

「お茶子ちゃん!」

 

 自らを『無重力』にした大跳躍で氷を避けつつ追い付いてきたお茶子ちゃん。

 この体育祭本番までにあった二週間で、彼女はすっかり『超必』を『通常技』に仕上げていた。

 

『―――さーて実況してくぜ! 解説アーユーレディ(are you ready)!? イレイザー!!』

『無理矢理呼んだんだろが、マイク』

 

「《……実況席に相澤先生居る!?》」

「意外と突っ込みの機会を逃さんねえ」

 

 競争の本格的な始まりを告げるように響いたプレゼント・マイクの実況の声。

 そこに解説役として応える刺々しく気怠げな声に、意識を一瞬持っていかれた。

 ……だって絶対解説役とかやらない人ですよ。無理矢理連れてこられたみたいですけど。

 

「―――どっけ、邪魔だ! 丸顔! 青髪!!」

「きゃあっ!?」

「ひぃっ!?」

《丸顔に青髪……》

 

 突如、間に飛び込んできた爆豪さんの爆破に視界を塞がれた。

 ……何でもアリのルールだと言われているし仕方ないけれど、追い抜かすにしても穏便に済ます気はないのだろうか。

 

《いや、レースなんだから最短距離を突っ切るのは当たり前よ。彼の"個性"は"私"ほど空中機動が自由ではないし……それよりどうして()()()()()()のかしら?》

「え? あ……空を飛んでいれば妨害を受ける心配なんてそうないかなと……」

 

《……じゃあ、目の前の『関門』は何とかなさいよ》

「『関門』? って、え―――」

 

 

『まずは手始め……第一関門、ロボ・インフェルノ!!』

 

 

 コース上を逆走するように迫る無数の、そして見覚えのあるロボット群。

 その背後に所狭しと並び、仁王立ちする巨大なロボット。

 

「「「入試の時の0P(ポイント)(ヴィラン)じゃねえか!!」」」

「「「ヒーロー科あんなんと戦ったの!?」」」

 

 迫る巨大ロボの威容に押され、集団が少なからず立ち止まる様子が見える。

 そんな中、未だ先頭に立ち続けていた轟さんが吹き上げるような冷気を放った。

 

 そのまま轟さんが、凍り付かせた0P敵達の隙間を走り抜けていく。

 けれど氷が薄かったのか《わざと体勢の悪い瞬間を狙ったのよ》……本人が通り過ぎた後、その背中を追わんと動き出す集団の前で、凍らされた0P敵は盛大な音と部品を撒き散らせて倒れた。

 

「……入試と違って立ち向かう必要はないですし、わたしは飛び越えれば良いですよね?」

《既に同じ判断をしたクラスメイトが何人か居るわね》

 

 言われて前を見れば、爆破で上昇していく爆豪さんに、後を追う常闇さん。

 さらに0P敵の身体に腕から射出する『テープ』を貼り付け、それを巻き取ることで越えていく瀬呂さんの姿があった。

 

『一足先行く連中、A組が多いなやっぱ!』

『立ち止まる時間が短い』

 

《……だ、そうよ?》

「う……」

 

 相澤先生と『干渉』の声に押されるように、急ぎ0P敵の上空へと高度を上げていく。

 進行方向を塞ぐ物が無くなったところで、前方へと可能な限り【加速】を重ねた。

 

 

『―――実に色々な方がチャンスを掴もうと励んでますね、イレイザーヘッドさん』

『何、足止めてんだあのバカ共……』

 

 実況の声も遠く聞こえる空の上。

 遥か眼下には、飛び石のように配置された石柱同士を、綱で繋ぎ合ったコースが広がっている。

 

「第二関門『ザ・フォール』、ということですけど」

《……"飛行系個性"ピンポイントで対策するのもそれはそれで不公平だものね》

 

 同級生達の悪戦苦闘を眺めながら、何となく物悲しい気持ちで飛行を続ける。

 特にそれぞれ"個性"の調整により可能になった大跳躍を繰り返し、競うように関門を越えていくお茶子ちゃんとデクさんを見ていると、尚更寂しさが増してきた。

 ……ところで彼はどうして0p敵の装甲板を背負っているんだろうか。

 

《……余計なこと考えてないで速度に集中なさい。先頭はそろそろ―――》

『そして早くも最終関門! かくしてその実態は―――』

 

 先頭集団に目を向ければ、未だ一位を譲らない轟さんに、宙から猛追する爆豪さんの姿。

 そんな彼らが不自然に広く取られたレースコースに差し掛かったところで、再び実況が入る。

 

『一面地雷原!! "怒りのアフガン"だ!』

《……『USJ』といい、雄英っていつもギリギリを攻めるわよね》

 

 地雷を踏んだらしい誰かが中々派手に吹き飛ばされる様子が遠目に見える。

 ここまで快調に進んできた轟さんも、その威力には慎重に進まざるを得なかったようで―――

 

《爆豪さんが先頭に立ったわね》

「やっぱり空を進める"個性"は有利ですね」

 

《何を他人事のように言ってるのかしら。ほら、そろそろ()()()?》

「ええ、分かってます……【加速】、【加速】、【加速】っ!」

 

 先頭の入れ替わりに盛り上がる実況を聞きながら、抑えてきた飛行速度を一気に上げる。

 たとえわたし自身が対象であっても、"個性"で一度に掛けられる以上の速度まで上げてしまうと旋回が難しくなるのでここまで抑えてきたけれど、残りが直線だけになれば話は別だ。

 

 地雷原の先にあるゲートを通れるよう、高度を徐々に下げながら前傾姿勢で突進!

 後は他の生徒が起動した地雷の爆風を避けられるように―――

 

「【掌握(スフィア)】! ……お久し振りです、爆豪さん! 轟さん!」

「アァ!? てめェ、青髪……っ!」

「……!」

 

 『爆破』と『氷』で互いに進路妨害を繰り返している二人のもとへと急接近。

 瞬間、二人がやけに息の合った動きでわたしにそれぞれ右手を掲げた。

 

「来ると分かっていれば効きませんよ!」

「がっ!?」

「なっ……!」

 

 爆風、爆熱、冷気……全てまとめて【反射】して、目を剥いた二人に笑ってみせる。

 形の無いもの、命の無いものが相手なら、わたしの"個性"は結構万能なんですよ?

 

『あぁん!? A組干河、争い合う先頭二人を押し退け……ってか今どっから来た!?』

『上空からだな。第一関門を抜けた後も、誰の視界にも入らない高空を飛び続け、最後のゲートを潜るために地上に向けて鋭角軌道で飛び込んできたんだ』

 

『成程……にしては、わざわざ先頭二人にちょっかい掛けに行ったように見えたが!?』

『干河の"個性"の本領はあの二人のような"個性"に対する防御力。咄嗟に出される攻撃を跳ね返すことで妨害を兼ねたんだろう』

 

 そのまま滑るように突っ切れば、体勢を崩した二人からの穴の開きそうな眼光が突き刺さる。

 思わず喉の奥から悲鳴を上げそうになりながら、視線を前に固定―――

 

「……え?」

《……わぁ》

 

 ―――しようとした瞬間、背中に響いたこれまでにない大爆音に、堪らず振り返る。

 視界に入ったのは、遥か後方で起きたらしい大爆発と、頭の上を越えていく一つの人影。

 

「デクぁ!! 俺の前を行くんじゃねえ!!」

「後ろ気にしてる場合じゃねえ……!」

「デクさん、どうやって……っ」

 

 どこかで見た装甲板に乗った形で飛行しているデクさんに、それを追うように爆破移動を掛ける爆豪さん、そして地雷原に道を作るように前方へ氷を走らせる轟さん。

 わたしも慌てて―――"個性"の性質上、姿勢と速度に関連性はほぼ無いけれど―――前を向き直して彼を追う。

 

『元・先頭の三人、足の引っ張り合いを止め緑谷を追う!! 共通の敵が現れれば人は争いを止める!! 争いはなくならないがな!』

『何言ってんだお前』

《何言ってんだこの人》

 

 わたし達三人が追い始めたところで、前を行くデクさんが失速し始める。

 先の爆発から察するに、飛んできたというより、あの爆風をどうにか利用して飛ばされてきた、というのが正しかったんだろう。

 それならすぐに追いつける……と思ったわたしの前で、勢いに任せて一回転したデクさんは手に持ち直した装甲板をすかさず地面に向けて振り下ろした。

 

(うわ……っ)

《……やっるぅ》

 

 カチ、カチ、カチ……と、地雷の起動音が複数聞こえた瞬間、わたしの視界を煙が閉じ込める。

 爆豪さん、轟さんの悪態が微かに聞こえる中、すぐ傍にあったデクさんの気配が遠く『飛んで』いくのが何となく理解できた。

 

 

『さァさァ序盤の展開から誰が予想出来た!? 今一番にスタジアムへ還ってきたその男―――』

 

 三人の中で唯一、爆風の影響を受けないわたしが全力で追いかけ、背中まで迫るも後僅か。

 ゴールのゲートまでほんの僅かというところで、わたしの伸ばした手の先に彼は居た。

 

 

『―――緑谷出久の存在を!!』

 





 二次作品ではよく空を往くオリ主対策が追加される障害物競争ですが、『干渉』の仕様上、空を攻撃出来るだけの『ロボット』では障害になり得ないんですよね。
 脅威にしようとするなら、高重量かつ高速で追尾するミサイルでもぶっ放す必要があります。
 本作の雄英教師陣は悩んだ末に、個人を狙った仕掛けを追加するのも違うだろう、という結論を出したということで。


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C2-3 第二種目・前編


 第一種目の結果の中で原作と異なる点は以下の通り。
 ・青山くん(42位)不在。
 ・歩ちゃんが青山くん(42位)の代わりに2位に入ったことで2~41位の順位が一つズレる。
 ・麗日さんが原作16位から10位に(第二関門を跳び越えられなさそうな生徒より上の順位に)変化したことで10~15位の順位が一つズレる。

 しかし塩崎さん(原作4位)や骨抜くん(原作5位)が飯田くん(原作6位)より早くゴールインしてるのは一体何があったんだろうか。



 

 ―――第二種目、『騎馬戦』。

 それが予選通過者である第一種目の上位42名に提示された次なる種目。

 

 二~四人のチームを自由に組んで騎馬を作る。

 第一種目の結果に従い、各自にP(ポイント)が割り振られる。

 そのPの合計が騎馬のPとなり、騎手はそのP数が表示されたハチマキを装着。

 制限時間15分の間にハチマキを奪い合い、最終的な保持Pを競う。

 取ったハチマキは首から上に巻く。なおハチマキの留め具はマジックテープ式。

 割り振られるPは第一種目42位が5P。そこから順位が上がるごとに5Pずつ上昇し―――

 

《1位は1000万Pって……やっぱり雄英ってバカしか居ないわよね》

(あ、あはは……)

 

 2位通過のわたしが205P……約五万分の一の価値と考えると、その異常性がより際立つ。

 『干渉』の呟きに何も返せないまま、一位になれなくて良かったなあと、少しだけ思った。

 

 チーム決めに用意された15分。一斉に動き始めた同級生の中に遠巻きにされる人影が一つ。

 予選1位通過、1000万の持ちPを投下されたデクさんだ。

 規定時間内逃げ切れれば必ず勝てるとはいえ、そう広くはないフィールド上で10以上の騎馬に付け狙われるとなれば、現実的でないと考えてしまうのも頷ける。

 

 けれど、それは―――

 

「……お茶子ちゃん」

「っ! 歩ちゃん」

 

 ほとんど同時にお互いを見付けて、どちらから言うでもなく頷き合う。

 向かう先は当然、人の流れの逆方向。

 

「デクくん!」

「デクさん!」

 

 わたし達が組んだなら、話は全く別物だ。

 

「組も……わっ!」

「【掌握(スフィア)】っ」

「麗日さん!! 干河さん!!」

 

 始まる前から追い詰められた顔をしていたデクさんに、二人揃って声を掛ければ、噴水のような感涙に迎えられた。

 咄嗟に除けたわたしの頭に《その水量どっから出てるのよ》と呆れの声が響く。

 

「い、良いの!? 多分僕1000万故に超狙われるけど……」

「ガン逃げされたらデクくん勝つじゃん」

「わたし達としてはむしろ組まない理由がないです」

 

「そ、それ過信してる気がするよ、麗日さん、干河さん……」

「過信でもありませんよ。それに何より……」

「仲良い人とやった方が良い!」

 

「…………!!」

《わぁお、多感少年凄い顔》

 

「うわあどうしたの!? 不細工だよ!?」

《そしてこの子も容赦無い》

 

「あ、いや、直視出来ないくらいうららかで……」

《うららかとは》

 

「……っ、いちいち合いの手入れるのやめて、『干渉』!」

「「合いの手入ってたの!?」」

 

 ()()()一頻り笑いあって、それから騎馬を組む最後の一人について話し合う。

 デクさんとしては機動力があり、これまでの交流もある飯田さんを加えた策があるとのこと。

 

「では勧誘はデクさんに任せるとして……知恵を貰えますよね、『干渉』?」

《……ええ、まあ、そう言ったのは私ね。分かったわよ》

 

 事がお茶子ちゃんの為となれば、『彼女』も惜しまず力を貸してくれる。

 溜め息の中に混じるまんざらでもない声音を聞きながら、わたしは既に勝った気分でいた。

 

 

 

 

『―――サァ上げてけ鬨の声!! 血で血を洗う雄英の合戦が今!! 狼煙を上げる!!!』

 

 

「麗日さん!」

「っ、はい!」

 

「干河さん!」

「はいっ」

《はぁい》

 

「常闇くん!」

「ああ……」

 

「よろしく!!」

 

 実況に呼応するように、騎馬を務めるわたし達三人に点呼を取るデクさん。

 彼が連れてきた最後のチームメンバーは、ある意味わたしと似た"個性"を持つ常闇さんだった。

 

《……こういう"個性"の形もあるのね》

(こう立て込んだ状況でなければ、一度お話したいですね)

 

 実況のカウントダウンを耳にしながら、目の前でキョロキョロと首を動かす『黒影』を見遣る。

 本人と独立した意志で動ける"個性"『黒影(ダークシャドウ)』。

 実体を持つ影、という防御にも攻撃にも動ける、近距離全方位においての万能"個性"。

 

《まあ、終わった後なら幾らでも。……それよりちゃんと作戦は頭に入ってるかしら?》

(それは勿論……ですけど、わたしの提案になってるんですよね、常闇さんの中では)

 

 お茶子ちゃんに目配せし、手に伝わる重さが消えていく様を感じる。

 開始の合図のほんの数瞬前、わたしを含む四人を"個性"の対象に!

 

 

『―――START(スターート)!』

 

「「【無重自在(ゼロ・マニピュレイト)】!」」

 

 

 開始の瞬間、1000万P(わたしたち)に集約されていた視線の全てをちぎり切って横滑りに跳躍する。

 襲い掛かろうとしていた幾つもの騎馬が、呆気に取られたように動きを止めるのが見えた。

 

「だあァ!? そんなのアリか!?」

「麗日干河が騎馬組んだらそうなるよねえっ! 耳郎ちゃん!」

「わってる」

 

 目を剥いたのはB組の生徒の騎馬、驚きながらも目で追ってきたのはA組、騎手をしている葉隠さんの呼び掛けを受けた耳郎さん。

 "個性"『イヤホンジャック』による伸ばした耳を、こちらも常闇さんの『黒影』が弾き落とす。

 

「まだまだ行きますよ、【加速】、【反射】、【加速】!」

「き、機動性バッチリ! すごいや干河さん! 麗日さん!」

「流星……否、隼の如し……!」

「私と歩ちゃんが組めばこんなもんや!」

 

 他の騎馬の頭の上の高度を維持し、直角軌道を織り交ぜながらフィールドを縦断、横断。

 『干渉』の与えた作戦(オーダー)は、なるべく多くの騎馬にこの機動力を見せつけること。

 

『何だァ!? 1位緑谷チーム、凄まじい空中機動でフィールド上を飛び回る! ってか騎馬戦でやっていい動きじゃねーぞオイ!?』

『これだけこれ見よがしに動けば狙ってくれと言っているようなものだが……何を狙ってる?』

 

「調子乗ってんじゃねえぞクソが!」

「かっちゃん……っ! 常闇くん!」

 

 空を行くわたし達を迎撃に来た爆豪さんの前に、『黒影』が割り込み射線を塞ぐ。

 手を『黒影』に向けた姿勢でピクリと目を吊り上げた彼は、小さな舌打ちから腕を横へ動かし、爆破の勢いで自分の騎馬へと戻っていった。

 

「あ、あれ……?」

「……わたしに跳ね返されるのを嫌ったんだと思いますよ?」

 

 爆豪さんは先の種目で一度、わたしに爆破を反射されている。

 その為、おそらくはわたし達の騎馬の誰かを直接掴もうとして『黒影』に防がれた形のはずだ。

 

『騎馬から離れたぞ!? 良いのかアレ!?』

『テクニカルなのでオッケー! 地面に足ついてたらダメだったけど!』

 

 騎手の単騎駆けに関する実況と主審の裁定が周知される中、わたしはわたしで作戦に集中。

 進行方向に居た見覚えの無い生徒―――B組の騎馬へと接近する。

 

「近付いて来た!? なら固めてしまえば―――ぬあっ!?」

「ちょ、凡戸っ!?」

 

 噴射された粘性の白い液体のような"個性"を反射、当人達の頭に被せる。

 ……どうやら接着剤のような性質の物体だったらしい。固まって動けなくなっていた。

 

「わたしの半径二メートル以内には、何者も近付くことはできませんよ!」

「不可侵領域……!」

「や、やっぱり干河さんの"個性"は防御に関する万能性が凄いな……何かを放射する系の"個性"が忽ちこちらの攻め手に早変わりだなんて、やられる方は堪ったもんじゃないぞ……」

「今のB組の人達みたいに知らん相手にはぶっ刺さるねえ」

 

 身体の一部を伸ばしたりする"個性"には通じにくいので、そこまで万能でもないんですけどね。

 そんなことを考えながら、()()()()()()()()ことをお茶子ちゃんに目配せで伝える。

 

「着地するよ!」

《……! 足元に気を付けなさい。峰田さんの"個性"がバラ撒かれてるわ》

「っ、峰田の"個性"を踏まないように気を付けて下さい!」

「むっ……!」

 

 幾らお茶子ちゃんが『超必』をものにしたと言っても、自分含めた三人に『無重力』を掛けたまま15分維持し続けるのは無理がある。

 競技開始から初めて地面に着地しようとしたところで、『干渉』から飛んだ警告を皆に伝えた。

 

 地面に張り付いた峰田の"個性"『もぎもぎ』は、わたしの"個性"でも動かせなかった。

 投げ付けられたそれなら跳ね返すことも出来るだろうけど、貼り付いたものを剥がす力はない。

 気付かずに踏んでいたらかなり厄介なことになっただろう。

 

「……あれ、でもその峰田くんはどこに……」

《消去法で障子さんの背中ね》

「障子さんの背中に潜んでいるみたいです」

 

「え……な、成程……あの体格差ならそういうことも出来るのか」

「よう見とるねえ、歩ちゃん」

「チーム名で騎手をしていることは分かりましたから」

 

 目を遣る余裕さえあれば、スタジアムのモニターで全チームの名前と保持Pを確認出来る。

 そして一瞬でもわたしの視界に映せば、状況分析は『干渉』がやってくれるのだ。

 

《……B組の騎馬にPが集まってるわね。ちょっと予想外だけど好都合だわ》

「え……PがB組に集まっていました」

「えっ!?」

 

《どうやら2~4位狙い……というより1000万狙いの騎馬からハチマキを掠め取るのがB組の主な戦略のようね。私達を狙った直後に爆豪さんもPを取られているわ》

「……爆豪さんを含め、B組の漁夫の利狙いに引っ掛かったみたいです」

「ほ、本当だ。道理でかっちゃんがあれから襲い掛かってこないと……」

 

 何やらよく似た"個性"の持ち主らしい騎手を相手に、爆破し合っている姿が遠目に見える。

 1000万(わたしたち)を視野に入れているかはともかく、今は目の前の相手に集中しているだろう。

 

「お茶子ちゃん、許容量(キャパ)は大丈夫?」

「ん、このまま予定通り休めれば大丈夫!」

「B組の動きは予想外だけど、この分なら逃げ切れ―――」

 

 デクさんがそう口にしたのが契機になったのか、目の前に立ちふさがる騎馬が一騎。

 飯田さん、八百万さん、上鳴さんの作る騎馬に乗り、こちらをギラリと睨み付ける轟さん。

 

 

「そう上手くは……いかないか」

「そろそろ……()るぞ」

 

『―――B組隆盛の中、果たして1000万Pは誰に頭を垂れるのか!!』

 

 

 残り時間は、あと半分。

 





 原作騎馬戦の不思議その1。
 B組の鱗(第一種目32位)は頭に70Pのハチマキを巻いているが、共に騎馬を組んでいる宍田(29位)と合わせると所持Pは125のはずである。
 消去法でメンバーが特定出来る角取チームの合計ポイントが角取(37位)と鎌切(35位)で70Pなので、こちらのハチマキを貰っていたとすれば一応辻褄は合う。
 ただしその場合、何故この四人で騎馬を組まなかったかという疑問が残る。全員B組なのに。


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C2-4 第二種目・後編


 Q. 発目さんは?
 A. 体育祭の間だけ原作青山くんの役割を担ってもらってます。

※本作とは全く無関係ですが息抜きに短編を一作書きました。
ノリと勢いだけの駄作ですが、気になる方は作者名→投稿小説リストからご覧ください。


 

「―――時間後半、爆豪チームおよび轟チームで二対一もしくは三つ巴……そう読んでましたが」

「そう考えると想定よりは甘い状況やね」

「けど足を止めた現状、仕掛けてくるのは一組じゃ―――」

 

 A組B組問わず、集まって来た騎馬に対して動いたのは轟チーム。

 八百万さんが『創った』シートを被った瞬間、わたしの視界を稲光が照らした。

 

「う、わっ……!」

「ヒャアッ」

「上鳴くんの放電! それじゃ八百万さんが創ったのは絶縁体のシートか!」

 

 急にオドオドと怯え始めた『黒影(ダークシャドウ)』に目を遣りつつ、迫る電撃の波を反射する。

 葉隠さん、峰田、それにB組生徒が騎手を務める二チームを入れた計四つの騎馬が、放電に巻き込まれて硬直していた。

 

「驚きましたが……届きませんよ、轟さん!」

「……これも駄目なのか。だが残り六分弱、後は引かねえ」

 

 そう呟いた轟さんが、八百万さんから地面にまで届く棒を受け取る。

 何の為かとわたしが浮かべた疑問を、彼は『氷』の伝導に使うという答えで晴らしてくれた。

 

「氷もわたしが居る限りは……あれ?」

「狙いは僕達じゃない! 電気で止まった周りの騎馬の足を固めたんだ!」

「一騎打ちが望みか……随分買われたな、緑谷」

 

 行き掛けの駄賃とばかりに近くに居たB組のハチマキを奪いつつ、轟さんの騎馬が迫ってくる。

 牽制にと伸ばした『黒影』の一撃は、八百万さんの腕から『創造』された装甲に防がれた。

 

「かん……干河さんの作戦(オーダー)完了まで後二分……常闇くん、凌げそう?」

「ああ……上鳴の電光で『黒影』は及び腰だが、防御ならば問題無いはずだ」

 

 氷の壁に区切られた空間で、改めて轟さんの騎馬と対峙する。

 冷気に電気、まだ使ってきていないけれど炎が来たとしても、わたしが居る限り届かせない。

 何が出るか分からない八百万さんの『創造』も、流石に生物は創り出せないだろうから大丈夫!

 

「……干河が居る限り遠距離攻撃は無駄、か。行くぞ、飯田」

「ああ! しっかり掴まっていろよ、皆!」

 

「っ、来るよ!」

《まあ、それしか選択肢はないわよね》

 

 飯田さんの『エンジン』を噴かせ、飛び込んでくる騎馬にデクさんが身構える。

 『黒影』が両腕を広げて待ち構えるその上で、彼の身体に緑色の稲妻が走った。

 

「……僕を信用してくれた、三人の思いを……僕は今、背負ってんだ……っ!」

「「……!」」

《あらまあ》

 

 おそらくは無意識にデクさんが口から漏らした言葉に、両手に感じる力が強くなる。

 電光に涙目になっていた『黒影』まで、心なしか顔付きに締まりが戻ったような気がした。

 

「【フルカウル】……5%……っ!」

「っ!!」

 

 接触は一瞬。轟さんが伸ばした炎を纏う手を、デクさんの腕が掠るように弾く。

 直前に放たれた電撃はわたしが、『創造』された鉄棒の一撃は『黒影』がそれぞれ捌いた。

 

 轟さんの騎馬は勢いをすぐには止められず、数歩分余計に前進したところでこちらに向き直る。

 状況は変わらず、けれど時間を稼ぐというこちらの目的だけはしっかり果たされた。

 

《残り5分よ。始めなさい、歩》

「時間来ました! 行きますよ、お茶子ちゃん!」

「了解や!」

 

「何だ!? 何する気だよ!?」

 

 再び三人の重さが消えたところで、ここまで()()()()()()()()()()()()一度に"干渉"。

 『干渉』が考えてくれた残り5分の『ダメ押し』を実行する。

 

 

「【無重自在(ゼロ・マニピュレイト)】、ならびに……【P(ポイント)シャッフル】!」

 

 

 "個性"の対象化の射程は、わたしの場合半径二メートル。

 一度対象化しておけば、三十メートル離れるか損壊しない限り、いつでも力を加えられる。

 一度でも、わたしの射程圏内に入ったことのある()()()()ならば、いつでも。

 

『何だァ!? 全員の……いや、1000万以外の全てのハチマキが一斉に宙を舞った!? っと、その隙に上空へ逃げる1位緑谷……って、オイお前らどこまで飛んでく気だァ!?』

『完全に逃げ切りに動いたな。混乱を巻いておいて残り時間を高空でやり過ごすハラか』

 

 しっかり頭に結んでいるならいざ知らず、取り易さ重視のマジックテープ式。

 額にあろうと首に巻こうと、一度の【加速】で十分に剥がしてしまえる。

 

 残り五分、ある程度上位陣が決まってきていたところで、引き起こされたちゃぶ台返し。

 相澤先生の言う通り、『彼女』が狙ったのは混乱だ。

 

「けろ……640P。これ爆豪ちゃんのハチマキね」

「うおおお!! これさえ守れば4位は狙えるじゃねーか! 障子が固められちまってもう終わりだと思ってたのによお!!」

 

「……595P。これだけで突破できるかは分からないが……」

「やっと『ボンド』も取れたところだ! ここからだよ、凡戸!」

 

 動きを止められたり、体力が切れて半ば諦めていた騎馬も、目の前を無防備にちらつくハチマキがあれば話は変わる。

 

「ここまできて0Pに……」

「あの小人の方のP、穢らわしい取り方をしてしまった罰でしょうか……」

 

「はは……振り出しか。可愛い顔してやってくれるよA組」

「あンの青髪ィ!? 面倒臭ェことしやがって!!」

 

 上位に居た騎馬は、盤石だったはずの状況を奪われた衝撃と焦燥に襲われる。

 そうなれば彼らは、失くしたPの再回収に躍起になるしかない。

 

 

『個々の騎馬の士気も含めた"振り出し"だ。制限時間は三分の一、上位に居た騎馬ほど"喪失"が頭に浮かんだ状態で、な。一部まだ1000万を諦めてない奴は居るだろうが―――』

 

 

「轟さん!」

「……分かってる。凍ってる奴らから回収するぞ」

 

「爆豪!! まずはP確保しねえと!」

「わあってる! ……クッソがあぁ!!」

 

 

『―――団体競技である以上、我は通せない。1位は十分かけて機動力と防御力を散々見せつけ、おまけに今は簡単には手の届かない空の上……どう判断しても意識から外さざるを得ない』

Hmmm(うむむ)……だが全ハチマキを飛ばせたってことは、回収も出来たんじゃねえのか!?』

 

『その場合、全騎馬が空に逃げた緑谷チームを引き摺り落とす為に協力し合う可能性が出てくる。1000万を守れれば良いと判断して、協力する、という択を潰しにかかったんだ』

『オイオイ、エゲツネーな!? マジでどんな教育してんだよ、イレイザー!?』

 

『奴らが勝手に火ィ付け合った結果だと言っただろ……あの四人の中でこんな策を考えそうなのは……さて、誰だろうな』

 

 

《さて、誰でしょうね?》

「干河が予測した通りだな……何という慧眼……!」

「そ、そうですね。わたしに掛かれば……ごにょごにょ」

「歩ちゃん……」

「干河さん……」

 

 スタジアム上空、観客席をも一望できる高度を保ち、遥か足元で行われる戦いを見守りながら。

 常闇さんと、ついでに『黒影』さんから向けられるキラキラした視線と、デクさんお茶子ちゃんから向けられる生暖かい視線から、わたしはまとめて顔を逸らした。

 

 一応、眼下の戦いに意識を払ってはいるけれど、『彼女』の見立て通り轟さんどころか爆豪さんすらこちらに視線を飛ばす余裕も残っていないようで。

 棚ボタであろうと手に入ったPを死に物狂いで守る騎馬の抵抗を受け、少なからず苦戦している様子が見て取れる。

 

「……こほん。お茶子ちゃん、時間まで保ちますか?」

「うん、大丈夫。……二回も見立てを外させるわけにはいかへんよ」

《…………》

 

 

 

 

『―――そろそろ時間だ、カウント行くぜ! エヴィバディセイヘイ(every buddy say hey)! 10! 9! 8―――』

 

 スタジアムのモニターでPの推移を確認しつつ、実況のカウント終了を静かに待つ。

 やはり轟さん、爆豪さん、あとはB組らしい鉄哲さんチームがPを集めていた。

 『彼女』に聞く限り、振り出しに戻す前の状況に収束するかのように推移しているらしい。

 

《大半の騎馬は動けなくなっていたか、そもそも地力の差でハチマキを奪われていたから、当然と言えば当然……ん?》

(どうかしました?)

 

《鉄哲チームのPがごっそり心操チームに……はて、誰かしら?》

 

 

『―――2! 1! TIME UP!』

 

 

「……降りましょうか」

「終わってみれば最後まで作戦通りやったね」

「ありがとう……麗日さん、干河さん、常闇くん……」

「選んだのはお前だ、緑谷。こちらこそ感謝する」

 

 わたし達が地上を目指し降下する間に、実況が第二種目突破となる上位四チームを挙げる。

 

 四位、轟チーム920P。

 三位、心操チーム1070P。

 二位、爆豪チーム1290P。

 

 

 一位、緑谷チーム10000525P。

 





ちょっと未来のどこぞのネズミ「頭脳派(ヴィラン)は高みの見物さ! HAHAHAHA!」

 原作騎馬戦の不思議その二。
 残り十秒のカウント開始時点で爆豪チームの保持Pは1350P。
 内訳は爆豪チーム、物間チーム、そして物間くんが「漁夫の利」の一言と共に確保していた葉隠チームのハチマキであるはず。しかしその合計は1360Pである(665 + 305 + 390)。
 物間チームが実は心操チームのハチマキを確保していて、自チームのハチマキを手放していたとすればこちらの計算は合う。
 ただしその場合、拳藤チームの合計520Pを実現できるハチマキの組み合わせが存在しない。
 (拳藤チーム225P + 心操チーム295P = 520P)

 ※作者の持っている単行本4巻は第1刷です。


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C2-5 最終種目・開幕


 原作と変わらない組み合わせはなるべくカット多用していきたい。



 

 ―――雄英体育祭。

 それはかつてのスポーツの祭典に代わる行事でありながら、一高校の体育祭でもある。

 すなわち全員参加のレクリエーション種目も健在ということで。

 

 波乱の騎馬戦から昼休憩を挟み、最終種目発表の前にスタジアムへと集められたわたし達は。

 

 

『……ん? アリャ? どーしたA組!?』

 

 

 膝までのハイソックスにミニスカート、へそ部分を露出したノースリーブのチアコスチュームに加えて両手にはポンポン。

 A組の女子全員、八百万さんの"個性"で創ったチア衣装に身を包んだ姿で立ち尽くしていた。

 

 B組以下他クラスの女子が装いを新たにしている様子は無い。

 レクリエーション種目の間、女子は応援合戦に参加しなければならない―――そんな情報を与えられたことによる大惨事である。

 

「峰田さん! 上鳴さん! 騙しましたわね!?」

 

 昼食を終えた後のわたし達に「相澤先生からの言伝だからな」と言って、この姿になるよう誘導したのは八百万さんが名前を挙げたこの二人。

 頭の中でクスクス笑いを止めない『干渉』に恨みの感情をぶつけながら、彼らに歩き寄る。

 

「……上鳴、峰田。わたしの言いたいことは分かりますね?」

「干河からの呼び捨てだと……?」

「割と前から峰田くんにだけはそうやったよ?」

「フッ……大丈夫だ、干河。皆まで言うな―――」

 

 冷え切っている自覚のあるわたしの視線に見下ろされながら、峰田は無性に腹の立つ笑顔で指を立てた。

 

「―――オイラは『まな板』も守備範囲内だ!!」

「死ね」

「ゆるふわお嬢様キャラから出てはいけないセリフが!?」

「まあまあ、歩ちゃん……後で【無重旋転(ゼロ・スクリュー)】の刑にかけたったらええやん」

 

「……それもそうですね、お茶子ちゃん」

「……アレ、待って? それ確か(ヴィラン)にゲロ吐かせてた必殺技じゃ……み、峰田だけよな? 俺は余計なことまで言ってないもんな!?」

「オイ上鳴ィ!? オイラを見捨てる気か!?」

「まあ上鳴くんはホラ、最終種目があるし? 体育祭が終わった後にせんとな」

 

「「執行は確定!?」」

 

 

「アホだろアイツら……」

「まァ本戦まで時間空くし張りつめててもシンドイしさ……いいんじゃない!? やったろ!!」

「透ちゃん、好きね」

 

 青くなる二人に多少なり溜飲を下げながら、実況に耳を傾ける。

 最終種目はトーナメント形式。総勢16名からなる1対1のガチバトル。

 その組み合わせだけは今の時点で決定するそうだ。

 

 檀上のミッドナイト先生がその為のくじを取り出したところで、傍から挙がる手が一つ。

 

「あの……! すみません。俺、辞退します」

 

 挙がった手の主は『尻尾』の"個性"を持つ……《……尾白猿夫》尾白さん。

 彼が言うには、先の騎馬戦に関して誰かの"個性"の影響か、記憶が殆ど無いとのこと。

 こんなわけのわからないまま本戦には上がれない。自身のプライドの問題だ。あと何で君達女子はチアの恰好してるんだ―――といった理由《何か混じったわよ?》から辞退を希望するらしい。

 

 またB組の庄田さんという方も、それに呼応するように辞退を希望。

 放送席から決定を委ねられた主審ミッドナイト先生は「そういう青臭い話はさァ……好み!!」と素晴らしい笑顔でこれを了承。

 空いた2枠には繰り上がりとなったB組生徒同士の話し合いの結果、鉄哲さん、塩崎さんというお二方が代わりに本戦へと進むことになった。

 

《……潔いと見てくれる人間ばかりなら良いのだけどね》

 

 辞退した二人、鉄哲さん達に譲ったB組の生徒達に『干渉』が呟いた言葉が、妙に耳に残った。

 

 ……なお、尾白さん達と同じ境遇にあったサポート科の発目さんという方に関しては、「私は、やりますからね?」と辞退した二人に鬼気迫る表情で宣言していた。

 この空気の中で力強く宣言できる彼女もそれはそれで凄い人物だと思う。

 

 

 16名による1体1のトーナメント。くじ引きの時点で決定される組み合わせは8試合分。

 1~4試合目、5~8試合目がブロック分けされ、異なるブロックの相手と当たるのは決勝のみ。

 モニターに映されたそんな形式のトーナメント表に今、出場者全員の名前が書き加えられた。

 

 

 第一試合、緑谷 対 心操

 第二試合、轟  対 瀬呂

 第三試合、塩崎 対 上鳴

 第四試合、飯田 対 干河

 第五試合、芦戸 対 発目

 第六試合、常闇 対 八百万

 第七試合、鉄哲 対 切島

 第八試合、麗日 対 爆豪

 

 

「……第四試合。お茶子ちゃんと当たる可能性があるのは決勝戦、だけど……」

 

「麗日?」

「ヒィィー!」

《……厳しい戦いになりそうね》

 

「芦戸ってあなたですか!?」

「え? そうだけど?」

 

 周囲で起こる悲喜交々なやり取りを聞きながら、ちらと視線を向ける。

 そこにはモニターを見上げ、いつも通りの四角四面な表情を浮かべる飯田さんの姿があった。

 

「……他人の心配よりまずは自分、ですね」

《"個性"相性は良くはないわね。これはここまでかしら?》

 

「そこは振りでも良いから応援して下さいよ」

 

 

 そうして始まった、本戦開始前のレクリエーション。

 今だけはごく普通の高校の体育祭といった風情になっている。

 

 本戦出場者のわたし達はレクリエーションへの参加は自由ということだけれど、皆に―――主に芦戸さんと葉隠さんに―――に誘われて、チアだけは参加することにした。

 ……本音を言えば、本戦開始まで控室に籠っていても良かったのだけど―――

 

《……表情が硬い。うららかじゃないわねえ》

(うららかとは)

 

 明らかに無理をして気持ちを盛り上げているお茶子ちゃんを放っては置けないと言われ、一緒にポンポンを振ることに。

 ……結構良い笑顔を作っていたようにも見えたんですけどね?

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 スタジアムの中央に特設された正方形のステージ。

 セメントス先生のコンクリートを操る"個性"により、瞬く間に建設されたフィールドだ。

 

 説明されたルールは単純。相手を場外に落とす、行動不能にする、降参を口にさせる。いずれかを達成すれば勝利。……勿論、命に関わるような攻撃は禁止。

 ジョークを飛ばしながらの実況の中、最初の試合の対戦者二人がステージに上がる。

 

『一回戦!! 第一第二種目共に一位通過! しかし成績の割に何だその顔! ヒーロー科、緑谷出久! (バーサス) ごめんまだ目立つ活躍なし! 普通科、心操人使!』

 

《……活躍なし、ねえ?》

「尾白さん達が言っていたのって、彼の"個性"ですよね?」

 

 騎馬戦の開始前から終盤まで、凡そニ十分程度の記憶を失わせる"個性"。

 おまけに傍から見れば何の異常もなく騎馬を組んでいたように見えたことからして、自由意志を奪い操ることが出来ると考えて間違いない。

 特に『干渉』は、彼のチームが時間ギリギリで上位チームからPを奪う瞬間を確認している。

 即ち試合中、警戒して対峙しているはずの相手も対象に出来る"個性"だということ。

 

《目に見えた行動ではなかっただけで、活躍という意味では十分に力を振るってきているわよ》

「……偶々目に付かなかっただけで、十分に活躍しています」

「そう、なん? ……デクくん大丈夫やろか」

 

 

『レディィィィィ―――STRAT(スタァート)!!』

 

 

 お茶子ちゃんと一緒に観客席で見守る中、実況席から開始の合図が響き渡り。

 即座にデクさんが何事か叫びながら動き出して―――ピタリと立ち止まった。

 

「デクくん……?」

「もう相手の"個性"に……? 一体どうやって……」

《……開始の合図に紛れて何事か呼び掛けていたわ》

 

 クルリと振り返り、自ら場外へと歩き出してしまうデクさんを見ながら、『彼女』は考察する。

 

《条件は会話……いえ、『応答』かしらね。呼び掛けに答えさせることで思考と身体を分離させ、命令することすら可能……効果については予想通りとはいえ、とんでもない"個性"ね》

「呼び掛けに答える……口を閉じてさえいれば防げそうですけど」

 

《緑谷さんも実直だからね……動揺か、義憤に駆られるような事でも言われたんでしょう》

「彼の言葉に思わず返答してしまって……ですか」

 

《とはいえこんな舞台の上で、しかも盛大に披露していい"個性"じゃないわ。彼のような"個性"が『知られる』ことにどれだけの損失があるか。この学校は考えたことがあるのかしら……っ》

「で、でもヒーローになるからには『知られない』わけに行かないですし……」

 

「……ね、ねぇ、歩ちゃん? コッソリ納得してないで私にも……」

「あ、ごめん、お茶子ちゃん。えっと―――」

 

 ひそひそとお茶子ちゃんに『彼女』の見解を説明している内に、デクさんの身体はゆっくりと、しかし真っ直ぐに場外へと近付いていく。

 これはもう決まったかと、実況、観衆、おそらくステージ上の心操さんも確信しただろう瞬間、試合はまさかの方向に動き出した。

 

「え? わっ……風圧……?」

「これって……まさか!?」

 

 デクさんを中心に突如発生した風圧と土煙。

 それに覚えがあったわたし達は、一瞬顔を見合わせてデクさんの四肢を注視する。

 やはりと言うべきか、いつかのように赤黒く腫れた指を抱え、歯を食いしばる彼の姿があった。

 

「制御出来ていたのを敢えて外して……? あ、でも足が止まってる!」

《解除条件の一つは痛み、か。それにしたって自ら指を粉砕……相変わらずぶっとんだ度胸ね》

 

 必殺の"個性"を解かれたと知った心操さんが、動揺しつつもデクさんに荒々しく声を掛ける。

 どうにか返答させようと手を変え品を変え様々な話題を口にする辺り、やはり『彼女』の応答が鍵という見立ては正しかったんだろう。

 

 けれどデクさんも二度は喰らわないと頑なに口を塞いだまま、彼の"個性"使用の証である緑色の稲妻を全身に走らせる。

 そのまま一足飛びに心操さんの懐へ飛び込むと、場外まで押し出すように彼を突き飛ばした。

 

 

『心操くん、場外!! 緑谷くん、二回戦進出!!』

 





 第二種目を『干渉』さんが引っ掻き回しましたが最終結果は大体原作と同じ。
 残り五分の時点で仕掛けたのは、実力のある騎馬に堅実にやれば勝てると判断させるためというのもあります。徹底して1000万狙いの博打を考えさせないスタイル。

 最終種目も展開の都合で発目さんにポジションを代わってもらいました。
 肉弾戦は反射できない歩ちゃん VS 誰かさんの計略のせいで切り札(レシプロ)が割れてない飯田くん。
 ヤバイですね?


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C2-6 最終種目・一回戦


 歩ちゃんの戦闘能力お披露目回。



 

《…………お誂え向きの"個性"に生まれて、か》

(……『干渉』?)

 

 試合を終えた二人が拍手に包まれつつ裏手へ―――指を粉砕骨折したデクさんは保健室へ―――下がっていく中、わたしは小さな呟きを聞いた。

 

《この『超人社会』、自身の"個性"に不満を持つ人間も少なくない。……歩、あなたは―――》

(そんなこと、今更聞かれなくても決まってますよ)

 

 らしくもない声色を聞いて、頭の中の()()へと食い気味に答えを返す。

 

(ちょっと口煩い最高の友人で、わたしの自慢の"個性"です。そこは揺らいだりしませんよ?)

《…………ああ、そう》

 

 その一言を溢したきり、押し黙ってしまった『彼女』。

 けれどわたしには、今まで伝えられたことのないチクチクとした感情が微かに届いていた。

 

 

「―――これ、やり過ぎでしょう……」

《過剰火力ねえ……》

 

 第二試合、轟さん対瀬呂さん。

 開始の合図と同時に瀬呂さんが『テープ』を一気に轟さんに巻き付けて場外勝利を狙うも、対する轟さんは今まで見たこともない規模の氷結攻撃でこれを迎撃。

 観客席の屋根を越える巨大な氷塊に半身飲み込まれた瀬呂さんが、主審ミッドナイト先生の確認に答えて降参。会場中からドンマイ(Don't mind)コールを浴びながらの敗退となった。

 

 

《……何というか、芸術的な負け振りね》

「……チアの件は忘れてあげましょうか、うん」

 

 続く第三試合、上鳴さんの相手はB組の女子生徒塩崎さん。

 頭髪が伸縮自在な『ツル』になっているのが彼女の"個性"らしく、これを操り攻撃、捕縛に使うのが彼女の戦い方のようだ。

 見た目に植物の性質を持っていると分かるツルは水分も含む以上導電率が低くはないだろうし、それが身体の一部であるとなれば、上鳴さんにとって"個性"相性は悪くない相手だったと言える。

 上鳴さんもおそらくそのように判断して《いや、どうかしら彼の場合……》開始前から余裕綽々に「一瞬で終わらせる」という旨の発言をしていたのだけれど、その言葉が自分に跳ね返ってきたような瞬殺に終わってしまった。

 

 彼女のツルは任意に切り離すことも出来るようで、開始直後に勢い良く伸ばして上鳴さんを捕縛したツルを、彼が放電を行う前に自身の身体から切り離していたのだ。

 結果、電撃は塩崎さんまで届かず、全力放電の代償として上鳴さんは思考能力を失い捕縛されたまま行動不能。

 見事なブーメラン発言+緩みきった《アホ面》……を全国に披露する羽目になってしまった。

 

 

 ―――そして、第四試合。

 

『陸を駆ける韋駄天ボーイ! 飯田天哉! (バーサス) 空を舞うゆるふわガール! 干河歩!』

 

 大観衆の声援を浴びて痺れたように震える身体を奮い立たせ、ステージに上がる。

 一度息を飲み込んで前を見れば、普段以上に硬い表情の飯田さんと目が合った。

 

「……騎馬戦では上手く戦いを避けられてしまったが、今度はそうはいかないぞ、干河くん」

 

 飯田さんがとったのは隠す気も無い前傾姿勢。

 開始の合図と同時に『エンジン』の"個性"で飛び込んでくる様が目に見える。

 

「……ではわたしからも一言。以前、近接戦闘に向いてないとは言いましたが―――」

 

 

『レディ……STRAT!!』

 

 

 予想通り突進してきた飯田さんの、わたしの肩を狙って伸ばされた腕に手を向ける。

 

「なっ……!?」

「―――出来ないとは言ってませんよ?」

 

 肩を掴んで場外へ放り出そうとしたのだろう、飯田さんの手が虚空を掴む。

 一瞬の動揺を振り払うように、腰を回して放たれた蹴りを、"個性"を使って()()()

 

「君の"個性"は他人には―――」

「自由に動かせる程には効きません。けれど、僅かに角度や速度をずらす目的ならば十分に!」

 

 追い縋るように放たれる攻撃を、今度はわたし自身の身体を背後方向へ【加速】して回避する。

 直線軌道では追い付かれてしまうので、飯田さんの速度を散らすようにジグザグに。

 

『飯田開幕速攻からの連続攻撃! しかし干河、これをギリギリで回避し続ける!』

『飯田は空を飛ばれれば詰みと見て速攻を仕掛けたのは良かったが……干河の"個性"は足を使わず移動出来るのも強みだな。動きの前兆が存在しないのは近接戦闘においても大きな利点だ』

 

「避けるだけじゃありませんよ……【加速】!」

「くっ、捉えきれ……うぐっ!?」

 

 飯田さんの側面に回り、右手で作った掌底を突き出すと同時に全力で【加速】。

 距離が近く大した威力は乗らないけれど、腕で防いだ上から彼の姿勢を崩す程度には通じた。

 

「く……そういえば君は入試の時、仮想(ヴィラン)を蹴りで破壊していたな! 肉弾戦で優位に立てると見たのは早計だったか!」

「金属の塊を蹴ったのは失敗でしたけどね。飯田さんのように頑丈な脚は持ってませんので!」

 

 作った隙を利用し距離を取ろうとするわたしに、エンジンを噴かせ食らいついてくる飯田さん。

 相澤先生の解説通り、対空手段の無いからこその前のめりな接近戦狙いなのだろう。

 

 けれどわたしの強みはどの方向に、どんな姿勢からでも動けること。

 初速はあまり早くないので実は最初の一撃が一番危なかったのだけど、飯田さんが初撃に選んだのは蹴りに比べて格段に遅く、重さもない掴みだった。

 

 速く、重い一撃でなければ、反射は出来なくてもずらすことぐらいは出来る。

 身体の中心を狙った攻撃じゃなければ、同時にわたしの身体を動かすことで大体は避けられる。

 

「後は速度を溜める時間を貰えれば、もっと威力を出せるんですけどね!」

「ああ、分かっているとも! だからこそここで君を逃がすわけにはいかない!」

 

 即座に方向転換可能な最大速度まで来ても、追い縋る飯田さんを振り切れない。

 攻撃後の隙を狙った【加速】掌底も当たりはすれど、急所を狙わせてはくれなかった。

 

『オイオイオイまるで舞踏じゃねーか! 機動力特化な"個性"同士の対戦カードからこんな戦いになると一体誰が予想した!?』

『干河はここまで全て回避しているが、一撃の威力では飯田に分がある。こうなればどちらが先に有効打を与えられるかだな』

 

 ステージ上を駆け回りながらの蹴りと掌底の応酬が続く。

 体力といい近接戦闘の技術といい、昔から『干渉』にせっつかれて鍛えていなかったら、きっと勝負にもなっていなかったなと、殊更強く実感した。

 

「―――ふっ!」

「え……っ?」

 

『おおっと!? どうした飯田!? あれだけ詰めていた距離を自分から取ったぞ!?』

 

 このまま勝負が着くまで続くかと思っていた組み合いは、不意に終わりを告げた。

 それも飯田さんから離れてくれる―――空へ逃げられる余裕はない間合い―――という形で。

 

「……済まなかった、干河くん。"個性"相性で有利と判断し、少なからず慢心していた!」

「えっ、あ、はい……?」

 

「思えばここまでの種目、どちらも君に敗北している……君もまた僕が挑戦すべき相手だった!」

「そ、そうですか……っ」

 

 試合の最中という非日常にありながら、びっくりするほど普段の延長にある飯田さんの言動に、少しだけ笑いそうになる。

 そんなわたしを知ってか知らずか、苦みの走った表情で彼は続けた。

 

「まだクラスメイトの誰にも見せていなかった僕の『切り札』……緑谷くんに挑戦するときに切るつもりでいたが、君相手に温存などと甘い考えは許されなかったようだ。女性相手に手荒な真似をすることになるのは心苦しいが、これも真剣勝負! 仕方があるまい!」

 

 規則的な駆動音を立てていた飯田さんの両脚が、一風変わった音を立てて煙を噴き出す。

 再び前傾姿勢をとった彼に、わたしも何が来ても対応するつもりで身構えた。

 

 

「トルクオーバー……【レシプロバースト】ッ!」

 

 

 ……! 飯田さんの姿が、消え―――

 





 オリ"個性"『干渉』の弱点解説的なアレ。
 防御系能力としては、肉弾戦は元より防ぎ切れない威力もしくは大質量であっさり割れる。
 回避系能力としては、避け切れない速度や角度、ないし知覚外からの攻撃が有効。
 また攻撃力は割と微妙。加速を重ねた拳や脚なら威力は出るが普通に反動もある。
 その為コスチュームには防具兼武器を備えているが、体育祭では着用不可。
 接近状態だと加速を重ねられず、その体格にしてはちょっと強い、ぐらいの威力が限界。
 何もないステージ上でなければ適当な物体を飛ばしてそれなりの威力の攻撃が出来る。
 距離を詰めてこられても三次元自由移動で逃げられるので遠距離に専念するのが大安定。

 『無重力』と組めば、3トンまでの鉄球群を秒速キロ単位で最大三十メートル先から放り込み、目標が動かなくなるまでぶつけ続けるとか出来る。やばいですね。


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C2-7 後始末


 初の視点変更。

※本作とは全く無関係ですが息抜きに性懲りもなく短編を一作書きました。
これまたノリと勢いだけの駄作ですが、気になる方は作者名→投稿小説リストからご覧ください。


 

『―――なあ、アレ、大丈夫なのか、イレイザー?』

『……干河の"個性"はあれで逐一操作が必要なタイプだ。つまりああやって滞空出来ている以上、本人の意識はある』

 

 異様な光景に静まり返ったスタジアムに、実況解説のやり取りが響く。

 その視線が集まる先にあるのは、観客席から手が届こうかという位置に仰向けで静止した青髪の女子生徒。

 

『……イヤハヤ! 飯田、突然の超加速から干河の回避を貫く電光石火の一撃! だがあの威力で女子の腹ぁ蹴り飛ばすのはどうかと思うぞー!』

『干河に攻撃を当てるには、逃げられない速度かつ逸らせない角度でなきゃならん。飯田の性格上苦渋の決断だったろうが、腹の他には顔面ぐらいしか選択肢は無かったからな』

 

『Oh! つまり精一杯配慮した末か! そりゃ悪かったな!」

『そもそもこれは真剣勝負だ。男だ女だで忖度していたんじゃ話にならん」

 

 気を取り直してという調子で再開した実況は、聞く者が聞けばステージ上で()()()()()()()()()()()()男子生徒を内外両面から慮ったと分かる内容だった。

 

『それにあの位置なら決着していないと分かっていても飯田は追撃に向かえない。場外判定を回避できないからな。このままある程度ダメージが抜けるまであの位置で休む気だろう』

『土手っ腹にエッッグイ一撃もらって吹き飛んだ先でそこまで考えるかよ! 頭の回転が早いっつーか、悪知恵が働くっつーか……』

 

『悪知恵も知恵の内だ……とはいえあまり長くなるようなら判定取るぞ。そろそろ動け、干河』

 

 ピクリ、と。解説の声に応えるように干河の身体が動く。

 ぷあっ、と小さく血煙を吐いた後で、彼女はまるで床から上がるように身体を起こした。

 

『…………()()()()()()な』

Huh(ハァン)!?』

 

 溢された一言の意味を理解した人間はごく僅か。

 次の瞬間、彼女は大きく弧を描く軌道で加速を始めた。

 

「ムっ!? これは……」

 

 ステージ上の飯田からすれば、それは滑るように視界から消えようとする軌道だった。

 半ば反射的に首を動かし必死にその姿を追うも、視界の端に捉えるのがやっとというところ。

 

「くっ……まずい……!」

 

 それでなくとも、彼は焦っていた。

 何しろ彼の最大の強みである『脚』が、あと数十秒は使い物にならないのだから。

 

 相手の回避を破った超加速の絡繰りは、意図的に"個性"を暴走させる言わば『誤った使用法』。

 その代償として、発動後一分弱は"個性"『エンジン』が機能しなくなる。

 空へと逃げて稼がれた数十秒が、おそらく相手も意図しない形で彼に圧し掛かっていた。

 

「……し、しまった! どこに……!?」

 

 焦燥は視野を狭める。

 比喩と言葉通り両方の意味が働き、遂に飯田の視界から対戦相手が消えた。

 彼の耳に届くのは、今も高速で動く干河の身体が周囲で風を切る音のみ。

 

(後ろ……? 上……!? いや、ここはむしろ防御に専念するべきか……!?)

 

 あと十数秒もすれば、少なくとも二次元の機動力で遅れは取らなくなる。

 それでも不利には違いないが、反撃を狙うのはそれからでも遅くはない。

 そんな考えの下、顎や後頭部など一撃で落とされかねない急所を守ることに意識を置きながら、飯田は相手が仕掛けてくる瞬間を待っていた。

 

「―――っ!?」

 

 果たして、再び飯田の目が捉えた干河の姿は、目線の僅かに上を狙った横薙ぎの蹴り。

 空中であることを感じさせない、身体を横倒しにして放たれた踵の一撃を、飯田は反射的に屈むことで間一髪回避に成功する。

 

(なん、とかっ、回避出来た! 次は―――)

 

 頭の後ろで髪が擦られた感触を覚える中で、『次』へと意識を向けたその瞬間。

 

 

「―――アガッ!!?」

 

 

 後頭部へと落ちてきた衝撃と激痛に、飯田は糸が切れたように倒れこんだ。

 

『……お、Oh!? 今何が起きた!? 飯田が避けたと思った瞬間、干河の踵が飯田の後頭部にぶっ刺さったぜ!?』

『……そもそも干河の飛行の仕組みは端的に言えば『任意方向への落下』だ。方向を切り替えれば直角軌道も可能になる。頭の上を水平に通過する蹴りを即座に垂直方向に変化させることもな』

 

『マジかよ……っと、主審が倒れた飯田に駆け寄り意識レベルの確認に向かう! しっかし綺麗に後頭部に入ったもんだな……』

『綺麗に狙える回避をさせたんだ。目の高さより上に物体が迫ってくれば、余程の訓練を積まない限り人は反射的に頭を下げて避けようとするからな』

 

『もうコエーよ!? 何だよその思考!? あ、アレだろ? 騎馬戦引っ掻き回した一位チームの頭脳担当(ブレーン)絶対コイツだろ!? お前分かって言ってたな、イレイザー!?』

『……さあな』

 

 倒れた飯田のすぐ傍に、干河は両の足でゆっくりと着地する。

 ステージ上へ駆け付けたミッドナイトが飯田の首元に手を触れ、やがて声を上げた。

 

『飯田くん、行動不能! 干河さん、二回戦進出!』

 

 歓声がスタジアムを包み込む。

 気絶した飯田を搬送するため、舞台裏手から二台の『ハンソーロボ』が派遣され、担架に乗せて彼を運び出す。

 それを横目に見ながらステージを降りようとしていた干河を、ミッドナイトが呼び止めた。

 

「待ちなさい、干河さん。あなたも保健室に行くのよ」

「……ええ、分かっています」

 

 干河は平然と立っているが口の端からは吐き出した血が垂れているし、飯田の蹴りを受けた瞬間の音からして、少なくとも肋骨にヒビくらいは入っているというのがミッドナイトの判断である。

 しかし自身の身体に今気付きました、と言わんばかりのその様子に、初めの印象に比べて随分と根性が据わった子だな、などと彼女は考えていた。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――ほい、これで治癒完了さね」

「……ありがとうございます」

 

 自分の足で―――正確には飛行して―――保健室へ向かった干河は、リカバリーガールの"個性"『治癒』を受けて回復していた。

 診断された結果は肋骨二本に入った小さなヒビで、治癒の代わりに体力を消耗する彼女の"個性"で十分に回復可能と判断されたのである。

 

「……飯田さんの状態はどうですか?」

「十数分としないうちに目を覚ますさ。そうなるように狙ったんだろう?」

 

「実際に人を相手にするのは初めてなもので」

「その年にしちゃ大した鍛え方だよ。ほれ、ハリボーお食べ」

 

 コーラ味のグミ(固め)を渡された干河は、軽く会釈して保健室を後にする。

 他の試合の観戦に戻る為、観覧席へと続く廊下を歩いていたところで、前から来る人影に気付き彼女は立ち止まった。

 

 

「―――あっ! 歩ちゃー……んじゃないね! 『干渉』さんだよね、やっぱり!?」

「…………ええ、私よ。お茶子さん」

 

 

 ぱたぱたと手を振りテンション高めに声を掛ける麗日に、一度目を見開いた後でふんわりとした笑みを作る干河―――改め、その身に宿る"個性"『干渉』。

 その様子に同じだけの笑顔を返した上で、麗日は探るような調子で聞いた。

 

「……もしかしてなんやけど……歩ちゃん、気絶してる?」

「ええ、飯田さんの攻撃でぷっつりと。彼にはちょっと申し訳ないかもしれないわね」

 

「ま、まあ『干渉』さんも『干河(ほしかわ)(あゆみ)』なのは確かやし……いや、やっぱちょっとずるい?」

「ふふ、まあ気を失う度に切り替わるのもどうかと思うし、歩の体育祭はこれで終わりよ」

 

「それはそれで酷ない!? ほんまに歩ちゃんに手厳しいな『干渉』さん!」

「最近、事ある毎に私を頼っているからねえ。……ヒーローになりたいのは私じゃないんだから、もう少し踏ん張ってもらわないと困るわ」

 

 目を丸くして叫ぶ麗日に、あしらうように『干渉』はそう言い放つ。

 そのまま観覧席への道を歩き始めた『干渉』を、麗日は慌てて追いかけた。

 

「……一年先に同じ機会があるかどうか、私にはその保証が無い」

「え……?」

 

「歩が私を必要としなくなれば……ね。一応はそのつもりで鍛えているわけだけど」

「…………」

 

「だから折角なら私も、体育祭を楽しんでみようかと思ったのよ」

「『干渉』、さん」

 

 もう一度、友人(麗日)へと向けた『干渉』の笑みは言葉に反しひどく寂しげで。

 一度、息を詰めた麗日は、努めて作り上げた笑顔でその隣に並んだ。

 

「歩ちゃんは勿論やけど、『干渉』さんだって私の友達なんやからね!」

「…………ええ。ありがとう、お茶子さん」

 

 

 

 

「……あっ、麗日さん、干河さん! 戻って来たんだ!」

「お待たせ、デクくん。第五試合はどうやったん……え、何コノ空気」

「確か芦戸さんと、サポート科の方の試合だったはずよね?」

 

「イヤ、試合っていうか、何ていうか……深夜の通販番組?」

「「何ソレめっちゃ気になる」」

 





 ここからしばらく三人称予定です。理由は言わずもがな。

 芦戸vs発目は原作と異なる展開ですが無慈悲のカット。
 飯田くんよりノリの良い相手を用意したらどうなるか、大体想像つくよね。


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C2-8 着火


 応援はしよう。
 努力もさせよう。

 足りないモノは少ない程に、理解が及ぶはずだから。



 

「―――っし……そろそろ控え室行ってくるね」

「……!」

「……ええ、行ってらっしゃい、お茶子さん」

 

 第六試合。八百万に『創造』の時間を与えず『黒影』で畳みかけた常闇による再々度の電撃決着を見届けたところで、麗日は来るべき試合に備えて席を立った。

 遠ざかる背中をもの言いたげに見つめる緑谷を、腕を組んだままちらりと目を向ける『干渉』。

 

「……次の試合は防御特化"個性"同士。流石にこれは長引きそうね」

「……っ」

 

「お茶子さんの様子に少々不安なものを感じるし、試合前に激励でもと思ったけれど、緑谷さんも一緒にどうかしら?」

「は、はいっ! ほしか……ええと……」

 

「……無理に呼び方変えなくて良いわよ?」

 

 そう言って連れ立って離れていく二人を見ていたクラスメイト一同。

 その間にあったやや謎めいたやり取りについてボソボソと話し合う。

 

「……あの干河の口調が変わるのってアレ、本気モードって奴なのかな?」

「USJの時もそうだったよな。丁寧語が消えて……こう、女王様っぽくなるというか」

「ああ、分かる分かる。何か微妙に近寄り辛くなるというか、張り詰めてる感じあるよな」

「麗日と緑谷はあの状態の干河にも普通に接してるけどね」

「ほわほわな干河に睨まれるのも良いが、クールな干河に踏んでもらうのもアリだな」

「本当にブレないね、峰田くん」

「目付きが不潔よ、峰田ちゃん」

 

 

 

 

「―――お茶子さん、今だいじょう……ぶじゃないわね。眉間シワシワよ?」

「あれ、『干渉』さん? みけん? あー……ちょっとね、緊張がね。眉間に来てたね」

 

「気持ちは分かるけど……乙女として割とギリギリな顔だったわよ?」

「嘘ォ!?」

 

「先に様子見しておいて良かったわ。……さ、入って良いわよ、緑谷さん」

「お、お邪魔します?」

「でででデクくんも!? アレ!? 次の試合見なくていいの!?」

 

 試合直前の控え室。

 泡を食ったように入室者に応対する麗日の姿に、入室直後に見えた緊張と恐怖で限界に近かった友人の表情が結果的に緩んだことに満足している悪女(干渉)が一人。

 

「切島くんと鉄哲くんの戦いは相当長引きそうだし……それに僕は麗日さんにたくさん助けられたから、少しでも助けになれればと思って……麗日さんの"個性"でかっちゃんに対抗する策、付け焼き刃だけど……考えてきた!」

「あらまあ、何を書いているかと思えば……」

 

 そう言いながら緑谷が取り出したのは一冊のノート。

 彼は観覧席でも他の試合を見ながら出場者の"個性"について鬼気迫る表情で分析を行っており、その様子を傍で見ていた麗日は、それが彼の努力と熱意の結晶であることを知っている。

 

「…………ありがとう、デクくん―――」

 

 また彼女の対戦相手である爆豪は緑谷にとって長年研究してきた幼馴染でもある。

 細かな癖まで知り尽くし、一矢報いた実績すらある彼ならば、言葉通りにこの場で生まれた策であろうと十分に助けになってくれることは疑いようはない。

 

 

「……でも、いい」

 

 

「え……」

「……!」

 

 その上で、麗日は差し出された手を取らないという答えを選んだ。

 

「デクくんも、歩ちゃん……『干渉』さんも、凄い! どんどん凄いとこ見えてくる」

 

 呆然とする緑谷に、微かに目を見張る『干渉』に、彼女はポツリポツリとその心情を口にする。

 

「さっきの試合で、飯田くんは言うとった。デクくんや歩ちゃんに『挑戦する』んやって。それで思い直したら……私、頼ってばっかりやったなって、ちょっと恥ずかしくなった」

「麗日さん……」

「そんなことは……歩に比べれば全然……」

 

「『干渉』さんも歩ちゃんに言うとったやん。頼りにばっかされても困るって」

「まあ、それは……ええ」

 

「他人に頼っとる私が友達として近くにおったら、歩ちゃんにも悪影響やろ?」

「…………そう、かもねえ」

 

 額を指で抑えて苦笑いする『干渉』に、一度笑みを向けて麗日は立ち上がる。

 

「……だから、いい!」

 

 きっぱりとそう言い切り、控え室の出口を前にして麗日が今一度振り返る。

 そうして緊張に震える拳から肉球付きの親指を上げ、力強く言い放った。

 

 

「―――決勝で、会おうぜ!」

 

 

 

 

 引き分けとなり決着が延ばされた第七試合を経た、第八試合。

 脅威の反射神経と攻撃的な"個性"を持つ爆豪と、相手に触れなければ力を発揮できない"個性"を持つ麗日の戦いは、始まる前から実況席にも波乱を予想されていた。

 

 いざ試合が始まれば懸念は現実となり、触れる為に手を尽くし腕を振り上げる麗日を、ひたすら爆破で迎撃する爆豪という構図が繰り広げられる。

 強面の男子生徒がか弱い女子生徒を実力差にモノを言わせなぶっている―――試合の様相をそう受け止めた観客から早々にブーイングが飛ぶ事態となっていた。

 

『今遊んでるっつったのプロか? 何年目だ? シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ』

 

 

「ああ…………あれが、()()なのね」

「っ、か……干河、さん?」

 

 会場から飛んだ罵声に実況席から痛烈な言葉が浴びせられていたその裏で。

 ざわめきに紛れたその小声に反応したのは、隣の席に居た緑谷のみ。

 

 

「―――私は、ね? 本当は、歩にヒーローを諦めさせたいの」

 

 

 唐突に溢されたその言葉に、緑谷は一瞬試合の趨勢すら忘れ、彼女の顔を呆然と見つめた。

 

「え…………そ、それは、どういう……?」

「本当に……本当の意味でヒーローになるべき雄英生(あなた達)の中にいれば、折れてくれるんじゃないか、なんて思っていてね」

 

 そんな緑谷の動揺を置き去りに、彼女の温度を無くした呟きは続く。

 

「思慮は浅い、根性は足りない、そのくせ理想だけは一人前……あくまでその道を突き進むというなら、それでもいいかとも思ってはいるけれど」

 

 彼の表情を、混乱するその様を確かに眺めながら彼女は―――"個性"『干渉』は言葉を紡いだ。

 

 

「『ヒーロー向きの"個性"』……誉め言葉、なのよね?」

「っ……!?」

 

 

 そう言った彼女の視線の先にあるのは、空に浮かんだ無数の瓦礫。

 爆豪の爆破攻撃を逆手に取り、ステージの破片を蓄え続けて麗日が用意した『秘策』。

 次の瞬間、ステージ上の彼女が五指を合わせ、『無重力』が解除された瓦礫が一斉に降り注ぐ。

 

「私にはあなた達が……ヒーローに()()()()()あなた達のことが、理解出来ない」

 

 スタジアムを揺るがす巨大な爆破が、麗日の『秘策』をたった一手で根こそぎ消し去った。

 爆破によるダメージ、"個性"使用による消耗、策を正面突破された精神的動揺。

 その全てに圧し掛かられた麗日は明らかな死に体で、しかし目の光だけは未だ死んでいない。

 

 

「だから聞かせて? 歩は、お茶子さんのような―――ヒーローに()()()()人間なのかしら?」

「…………!!」

 

 

 やがて、心よりも身体が限界を迎えた麗日が、ステージの上で崩れ落ちる。

 それでもズルズルと這いずりながら前に進もうとする彼女に駆け寄ったミッドナイトは、暫しの沈黙の後で宣言した。

 

『麗日さん……行動不能。二回戦進出、爆豪くん!』

 

 

「…………僕、その、次……」

「……ええ、分かってるわ」

 

 次の試合の出場者である緑谷に、先の問いに答える時間は無かった。

 また、つい今しがた敗戦を喫した麗日と控え室で鉢会う可能性も高い。

 

「……ごめんなさいね、緑谷さん。歩は勿論、お茶子さんにも聞かせられないから……今しか口に出来なかったの」

「あ……」

 

「それとお茶子さんに会ったら……やめておくわ。この敗戦をどう受け止めてるか分からないし、どんな言葉を欲しがっているかなんて顔を合わせないと分からないものね」

「…………!」

 

 幾つもの理由で後ろ髪を引かれているような様子のまま、緑谷は席を立つ。

 その眼差しに下手な問いを投げかけた自分への憂いの色までが混じっていたことに、気付いた『干渉』は薄く笑った。

 

 

 

 

 ―――最終種目トーナメント第二回戦第一試合、緑谷対轟……開幕少し前。

 

「……二人、まだ始まっとらん? ……見ねば」

「お茶子さ……!? あー……大丈夫、かしら?」

 

「ん、コレは、アレで……うん、大丈夫」

 

 瞼を赤く腫らした半目で観覧席へと戻ってきた麗日に、一瞬大きく反応しかけて、色々と察した『干渉』は小さく気遣うに留める。

 自身の顔の状態を自覚してはいたのだろう麗日も、小さく笑って空いた席に腰を下ろした。

 

「……あの氷結、デクくんどうするんやろか?」

「……現状リスク無しで使える範囲で対応するのは難しいはず。となれば―――」

 

 実況の合図が終わるか否かというところで、轟の右足から氷を伴い走り出す大冷気。

 それに対し緑谷がとったのは、右手中指を使ったデコピンの姿勢。

 

 次の瞬間、衝撃波に押し退けられスタジアムに吹き荒れる冷気。

 ステージ上に走った氷壁もまた、粉々に砕かれて舞い散った。

 

「―――それしかないからって、本当にやるあたりブッ飛んでるわ」

 

 グシャリと潰れ、血を垂らす中指を抱えてなお対戦相手を睨み付ける緑谷。

 間髪入れず再び放たれた冷気に、同じ手の人差し指を使った再『自爆』。

 

「……デクくん」

「何で、そこまで出来るのよ」

 

 三度、四度と重ねられた攻撃を、その都度指を破壊しながら緑谷は抗う。

 相殺される冷気を囮に接近を試みた轟を、左腕丸ごと費やした一撃で振り払った。

 

 

「……身体が『壊れる』から、『壊れない』方法を探す―――これは分かるわよ?」

「……ん」

 

「『壊れる』部分を抑えて、残した手足で立ち上がる―――この際これもいいとするわ」

「あー……」

 

「『壊し』て、『壊し』て、『壊し』続けて……そうしなければ勝負にならない―――そんなの、諦めてもいいでしょうに……っ」

「……!」

 

 

 遂に両腕が壊れた緑谷に、轟が止めの冷気を放つ。

 実況も、観客も、誰もが決着を確信したその時。

 

「…………え」

「…………は?」

 

 再々度、弾かれた冷気と、吹き荒れる風。

 この場に居る全ての人間の目に晒される、より一層歪みを大きくした緑谷の右手。

 

「―――皆……本気でやってる。勝って……目標に近付く為に……っ、一番になる為に! 半分の力で勝つ!? まだ僕は君に傷一つつけられちゃいないぞ!」

 

 ゴキャ、グチッ、と耳を覆いたくなる音を立てて、彼は壊れたその手で拳を作る。

 

「全力でかかって来い!!」

 

 

 

 

「…………『全力』」

「え……?」

 

 誰もが彼の叫びに呑まれる中で、麗日だけが彼女の変化に気付いていた。

 

 

「期待に応えたいんだ……! 笑って、応えられるような、カッコイイ(ヒーロー)に、なりたいんだ」

 

 

「ヒーローって……何?」

「……っ」

 

 感心と呼ぶには恐れに近い声音で。

 驚愕と呼ぶには慄きに近い顔色で。

 熱く火の点いたような自分の心とは、真逆に近い感情を見せる友人の姿に。

 

「俺は、親父を―――」

「君の! 『力』じゃないか!!」

 

 

 

 

「…………"私"の」

 





 轟くん宛ての拳がとんでもないところに飛び火した模様。

 麗日さんに話した内容も、全部が全部嘘というわけではありません。
 ただし代わりにトーナメントを進んだ真意はというと……


 爆豪対麗日戦は過程も結末も原作通り。
 爆豪くんの意識を地面側に固定するのが大前提の作戦なので、『超必』跳躍を有効に使えるのは詰めの接近にだけなんですよね。
 それ以外は原作麗日さんと特に大きな変化は無いのでこうなります。


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C2-9 最終種目・二回戦


 プレマイ先生の台詞考えるの難しいけど面白いけど難しい。



 

『―――あー、次の試合、と言いたいところだがステージ大崩壊につきここから暫く補修タイムに入るぜ! つーかどっちもやり過ぎなんだよ!』

 

 二回戦第一試合、勝者となったのは轟。

 緑谷の肉体を犠牲にした腕力と、さんざんに冷やされた空気が轟の『炎』により瞬間加熱されて起きた膨張とがぶつかり合い、引き起こされたのは小柄な人間を風圧で宙に浮かせる程の大爆発。

 

 巻き起こった粉塵が晴れてみれば、見るも無残に崩壊したステージとその上に立つ轟の姿。

 ステージから吹き飛び、スタジアムの壁に叩きつけられた緑谷は、完全に意識を失ったまま場外判定を取られたのだった。

 

「……か、歩ちゃん、私……」

「……緑谷さんのお見舞いでしょう? 私は控え室に向かうから一緒には行けないけど……他にも何人か向かおうとしているし、行ってきたらいいわ」

 

 飯田、蛙吹、峰田の三人に目線を送り、麗日を送り出そうとする『干渉』。

 何度かその能面のような表情へ物憂げに目を遣りながら、麗日は先の三人と共に席を立つ。

 

 四人を見送り、修復されていくステージを一瞥して、『干渉』も観覧席を後にする。

 スタジアムの喧噪遠くなる廊下へと出たところで、追いかける足音に気付き彼女は足を止めた。

 

 

「……ね、ねえ……干河……?」

「あら、耳郎さん? ……ああ、成程。緑谷さんとのやり取りが聞こえたのね」

 

 

 どこか後ろめたい表情で呼び止めた耳郎に、『干渉』は貼り付けたような薄い笑みを見せる。

 振り返ったその顔にビクリと身を震わせた耳郎は、心なし早口で弁明した。

 

「あ、いや、聞こえたというか聞いちゃったというか、ほらウチ耳の"個性"だから聴覚がさ……」

「別に怒ったりしないわ。聞かれ得る場所で喋った私が不用心だっただけよ」

 

「そ、そう……えっと……やっぱ干河のソレって、多重人格なわけ……?」

「……まあ、そんなところね」

 

 悩みつつも精神疾患の一種を言及する耳郎に、あっさりと肯定する『干渉』。

 彼女にとって隠さねばならない"個性(事実)"には掠りもしないのだから殊更否定する理由もない。

 

「歩よりも私の方が"個性"の使い手として優れているから、勘所では私に替わるのよ……人の命が掛かった時、とかね」

「……! ああ、それであの時……」

 

 直接助けられた側である耳郎には、その言葉の意味が素直に理解出来た。

 ……と、同時に当初の疑問が彼女の頭に戻ってくる。

 

「色々聞きたいことはあるけど……ヒーローに憧れるのが分かんないってのは……」

「……簡単な話。ヒーローになりたいのは歩であって、私じゃないのよ」

 

「うっわ、ややこし」

「簡単だって言ってるじゃない」

 

「そりゃ話としてはそうだけどさ」

 

 遠い目になる耳郎に、『干渉』は一度肩を竦めて、再び廊下を歩き出す。

 追うかどうか数秒迷った後で、観覧席に戻っても別にやることないなと彼女は後に続いた。

 

「……さっきの緑谷さんの試合で、余計に分からなくなったわ」

「ん? あー……ああ見えて無茶苦茶やるよね、緑谷……」

 

「ヒーローなんて……歩がなりたいというならそうすれば良い。そう思ってたわ、さっきまで」

「……今は違うわけ?」

 

 耳郎も関りは薄いながら同じヒーローの卵として、先の緑谷からは形容しにくい熱を感じた。

 それが普段の干河に比べ冷えた印象のある『彼女』にも火を灯したのかと、彼女は思っていた。

 

 

「―――ヒーローになど、なって堪るか」

 

 

 耳郎の足が止まった。何なら呼吸も止まりかけた。

 

「……主の人格は歩なのよね。私は言わば『付属品』……」

 

 ―――この先を聞いてはならないのではないか。

 耳郎の頭をそんな思いが瞬時に埋め尽くした。

 

「ねえ」

「っ!」

 

 何で声を掛けちゃったんだ。

 何で後を追いかけちゃったんだ。

 そんな後悔が渦を巻く耳郎の脳内に、温度の無くした問いが捩り込まれる。

 

 

「私も"私"の人生を望んで良いのかな?」

 

 

 

 

『―――さーて、ステージの修復を挟んで、二回戦第二試合! チクチクなのは見た目だけか!? 心は清きB組最後の希望! 塩崎茨! (バーサス) フワフワなのは見た目だけか!? 心は黒きA組最恐の頭脳! 干河歩!』

『……また物言いつけられても知らねえぞ』

 

 ステージに上がった生徒から実況席に向けられた視線に、その生徒の前試合を思い出した観客の忍び笑いがそこかしこで漏れる。

 一方、口を挟む権利があるだろうもう一人の生徒は、気にもしないという様子で佇んでいた。

 

『……よし、セーフだな。レディ……STRAT!!』

 

「空へ逃げられる前に―――」

「あなたには無理よ」

 

 開始の合図と共に相手を捕えるべく伸びたツルの向こうで、『干渉』の身体が空へと飛び立つ。

 視界から消えられたと意識した瞬間、塩崎は頭上にツルを集めて壁を作り上げた。

 

『おおっと!? 塩崎の開幕攻撃を空へ逃げて躱した干河、頭上から強襲を掛ける寸前でルートを遮られ堪らず方向転換! お互いに初手は空振りに終わったな!』

『前試合で飯田が干河を地上に釘付けに出来たのは速度に優れるアイツの"個性"であればこそだ。塩崎のツルも先端の速度は悪くないが、開幕は伸ばす工程が必要なこともあって届かなかったな』

 

「そう簡単には行きませんか……ですが」

「……っ」

 

 空を舞う『干渉』を追うように無数のツルが伸び始める。

 自身を追うツルを振り切るように加速し、再び塩崎の視界を外れるべく背中に回ったところで、相手の狙いに気付いた彼女は眉をひそめた。

 

 塩崎は頭髪の半分を攻撃に使いつつ、もう半分で自身の背後にツルの壁を形成していた。

 加速を重ねた攻撃でこれを破れるか一瞬の思案の後、出来上がる壁に向かい再加速。

 前試合に比べ大きく速度の乗った蹴りは、はたして表面のツルを数本削り落とすに留まった。

 

『牽制しつつ着々と防御を固めた塩崎! 干河も築かれた壁の上から果敢に攻撃するがこの分じゃ修復速度の方が圧倒的に早そうだぞ!』

『……生きている植物であり、塩崎の身体の一部、か』

 

Huh(ハァン)!? いきなりどうしたイレイザー!?』

『干河の"個性"の制限だ。飛ぶのが本領な"個性"じゃないと言っただろ』

 

『……Oh!? そういえばそうだったな!? 騎馬戦で見せた無敵の防御力を利用しないのは、塩崎のツルが"個性"の対象外ってコトか!?』

 

「これで十分に防げるようですね。ではここからは全力で捕えさせて頂きます!」

「……あら」

 

 ドーム状に伸ばした壁を残し、頭髪からそれに繋がるツルが切り離された。

 防御に使っていたツルが再び伸ばされ攻撃へと転じたことで、空を追うツルの密度が倍となる。

 

 一気に空の道を塞いだツルに、『干渉』は一度気の抜けたような声を上げ、囲いを抜けるようにひときわ高所へと飛び上がった。

 

「……折角詰めていた間合いを離して良かったのですか?」

「ええ。じっくり攻めるつもりだったのだけど、()()()()()()()わ」

 

「それはどういう―――ッ!?」

 

 問いかけようとした塩崎の声が、驚愕に途切れる。

 彼女の視界は今、無数のツルに巻き付かれて塞がれていた。

 

「なん、何故っ!? 私のツルは、操れないのではっ!?」

「……切り離したツルは、生物でもなければその一部でもない」

 

『What!? 何が起きてんだ!? 塩崎のツルが塩崎を襲っているぞ!? オイ、イレイザー、話が違うじゃねーか!?』

『……本体から切り離されれば別なのか。機動力に優れた相手に警戒すべき方向を減らす策は実際有効なんだが……塩崎は成功体験に釣られたな』

 

『アァン!? どういうこった?』

『前の試合で上鳴を切り離したツルで完封したからな。同じ考えで実行に移した結果、相手に武器を献上することになったんだ。詰めの準備が整うまで切り離したツルなら操れることを隠した干河の企みもあったがな』

 

「っ……ア……!!」

「じっくり削って、武器を増やすつもりだったのよ? お茶子さんみたいにね」

 

 頭に繋がったツルを使い必死に抗う塩崎に、"干渉"されたツルは首を重点的に締め付ける。

 ジタバタ、ジタバタともがく様に動いていたツルが、ある瞬間ふっと地面に落ちた。

 

「! ミッドナイト先生」

「ええ! ……塩崎さん! 聞こえる!?」

 

 抵抗が無くなった瞬間、ツルへの"干渉"を止めた『干渉』が主審に声を掛ける。

 倒れた塩崎の元へと駆け付けたミッドナイトは数秒の確認を経て、決着を宣言した。

 

 

『塩崎さん、行動不能! 干河さん、三回戦進出!』

 





 うっかり深淵を覗いちゃう耳郎ちゃんかわいそうかわいい。


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C2-10 最終種目・三回戦


 丁度良いところで切れなくて微妙な長さになってしまった。
 今回ちょい場面転換多いです。要反省ですね。



 

「―――どうかなさいましたの、耳郎さん?」

「……い、イヤ? 何でも、ない。何でもない、よ?」

 

 二回戦第三試合、芦戸対常闇の一戦が行われている最中。

 観覧席に戻ってきた『干渉』の姿が目に入った途端、明らかな挙動不審に陥る耳郎に周囲の席に座るクラスメイトが首を傾げる。

 『干渉』はその様子をちらと一瞥するも、特に反応せずに麗日が空けていた席に腰を下ろした。

 

「……耳郎さんに何かしたん?」

「……いえ、何も? ところで緑谷さんは……まだ戻っていないようだけど、どうだった?」

 

「ああ、デクくんは、その……リカバリーガールがこれから手術やって」

「…………そこまでの重傷で……まあ、あれならおかしくはないわね……」

 

 やり取りの間も、『干渉』の意識はピクピクと動くとある女子生徒の『耳』に向いていた。

 暫しの沈黙の後、彼女は少し困ったような笑みを浮かべ、麗日を手招きで呼び耳打ちする。

 

「彼女も『私』を見付けてくれたのよ。でもちょっと冗談を言ったら思ったより怖がらせちゃったみたいなの」

「え、あ、耳郎さんも……いや怖がらせたって、何しとるん……」

 

「意外とそういうの苦手だったみたいで……詳しい話は何も出来てないのよ。後でお茶子さんから話してもらっていいかしら? 私も歩が起きたら説明しておくから」

「ん、ええよ。そっか耳郎さんもかー……切っ掛けは?」

 

「切っ掛けというか―――」

 

 言いながら、『干渉』は離れた席に座る耳郎の『イヤホンジャック』をそっと指差す。

 麗日の注目がそちらに向いたことを確認し、再び小声で囁いた。

 

「―――耳郎さん? ……ほらね?」

「うわぁ、背筋ピーンって……いったい何言うたらあんなことに……」

 

「切っ掛けはお茶子さんの試合の途中、私と歩を別々に扱って緑谷さんと話しているのを聞いていたらしくて……そこからちょっと気分が乗っちゃって、思わせぶりなことを色々と」

「ああ、なるほ……って、イヤイヤほんまに何しとるんよ」

 

「だから、私が後から何を言っても逆効果になりそうでね」

「せやろなあ……耳郎さーん、何も怖いことあらへんよー?」

 

 麗日の呼びかけが効いたか、「本当に?」と言いたげなジト目を向ける耳郎。

 苦笑いで「また後でなー」と答える麗日に多少は安心したか、彼女は複雑な顔で溜息を吐く。

 

 ステージ上では常闇の"個性"『黒影』の猛攻を捌き切れなくなった芦戸が、敢え無く場外へ突き落とされる裏での出来事であった。

 

 

 

 

「―――あら、緑谷さん? 手術と聞いていたけれど……お元気そうね」

「あ……『干渉』さん、だよね? う、うん……ありがとう」

 

 二回戦第三試合、鉄哲との再試合(腕相撲)を制した切島対爆豪の一戦。

 白熱する試合を眺めつつも次の試合の為、控え室に向かおうとした『干渉』は、丁度廊下側から出てきた緑谷と鉢合わせた。

 

 身体の各部を覆う包帯に、左腕を器具で吊られ、右腕をも力無く垂らす緑谷に、『干渉』は眉をひそめながらも彼の無事を祝う。

 ついさっきその傷を治療してくれた人間から受けた眼差しに似たモノを感じ取り、緑谷は思わず背中に冷や汗を感じていた。

 

「……第一第二種目、それに一回戦の最後と、"個性"制御は確かに進んでいるじゃない」

「え? あ、はい、その節はどうも―――」

 

 

()()()()しなくちゃいけなかったのかしら?」

 

 

「…………っ!」

 

 向けられた問いは、視線は、ヒヤリとした温度を宿したもので。

 一度、息を詰めた緑谷はしかし、それがこの瞬間までにも何度か投げかけられた問いであることに気付き、『干渉』の目をしっかりと見つめ返して答える。

 

「……轟くんに伝えたかったんだ。彼の抱えてきたものは……あ、えと、僕が知っちゃった事情はあんまり言えないんだけど……自分の"個性"を憎んでまでいる彼を、放っておけなくて……」

 

 轟当人から伝えられたこと、彼の父親から言われたことを、尋ねてきた相手は知らない、および無責任に言いふらすわけにいかないことに、途中で気付いた緑谷の目が高速で泳ぎ出す。

 その姿にやや毒気を抜かれた表情になりながら、『干渉』は呆れたように問いを重ねる。

 

「ああ、そう……ならもう一つ。()()なってでも、あなたにとってはやる価値があったのね?」

「っ……うん!」

 

 迷いなく、拳を作り損ねた右手を上げ言い切った緑谷に、『干渉』は今度こそ深く溜息を吐く。

 

「……緑谷さんが轟さんの何を知って、何を憂いて()()()()()かは知らないわ」

「『干渉』さん……」

 

 『爆破』を受け止め続けた『硬化』が遂に打ち破られる様を伝える実況を背に、彼から目線を切った彼女が静かに呟く。

 

 

「私はただ『全力』を尽くすだけよ。勝って一番になる為に、ね」

 

 

 

 

『―――さあ準決、サクサク行くぜ! "個性"相性じゃ白黒ついてるがタイマンならどうよ!? 轟焦凍! (バーサス) 干河歩!』

 

 ステージの上で相対した二人は、互いに温度を感じさせない瞳で相手を見据えていた。

 時間が押しているのか、口上も簡素になった実況から間を置かずに開始の合図が告げられる。

 

『レディ、START!! ……オォ!?』

 

「……悪いな」

「っ!」

 

 最早観衆も見慣れた開幕大氷結。

 前試合では悉く弾かれた大氷壁が、対戦相手である女子生徒の姿を覆い尽くして天を衝く。

 

『当然の権利と言わんばかりの開幕大氷壁! 一応言っとくがフライングじゃねーぜ!? しかしコレ干河は大丈夫なのか!?』

『ここまでの種目で相手の半径約二メートル圏に氷が届かないことを知ってるからな。危険域まで凍らせてしまう懸念はないと分かった上での判断だ』

 

『成程な! さて氷に包まれた干河は動きが見えないが、今度は何をしてんだ!?』

『操作圏外の氷を押し退けられないならこれで終わりでもおかしくはないが……ム?』

 

 ざわつく観衆に向けた実況が続く中、解説役を含めた幾人かが()()に気付く。

 ピシ、ミシという微かな音と共に、スタジアムを越える氷塊が()()()()()()()()()()ことに。

 

 

「―――操作射程は半径二メートル……(ブラフ)だったわけじゃないのよ?」

「……っ!?」

 

 

 氷の奥から響いた呟きに、轟の目が見開かれる。

 同時に彼の眼前で、雄大な大氷壁に無数の亀裂が走った。

 

反動(リスク)を恐れなければ大きく伸ばせる。まあ、緑谷さん程ではないけれどね?」

「! ……そうか」

 

 拳大から人の頭部大程度に砕けた無数の氷が、上空を舞う『干渉』を中心に緩く渦を巻く。

 声につられるように彼女を見上げた轟が一瞬息を詰まらせ、微かな呟きを返した。

 

『ブ、Blizzard(ブリザァード)!? 干河の奴、轟の大氷壁を丸ごと砕いて武器に変えちまったぜ!? つーか、絵面が完全に氷の女帝とかそういう方向じゃね!?』

『これまでの防御範囲が見せ札だった……わけじゃなさそうだが、轟は見事にすかされた形だな』

 

「さて、自らの全力をあなたは相殺出来るのか、試させてもらうわ」

「く……っ!?」

 

 回転を早め、冷気をまき散らす氷の竜巻に轟は半ば反射的に左腕を掲げる。

 そして一瞬、己のその行動に驚いたかのように目を向けた彼に、氷弾が殺到した。

 

 巨大な回転槍を模した氷群の、その先端がステージを砕いた辺りでぴたと動きが止まる。

 操る『干渉』が一度首を傾げた後で、試合を見守る主審に声を掛けた。

 

「……? ミッドナイト先生」

「デジャヴを感じるわ!」

 

 動きを止めた氷群の槍が退けられた先には、力無く倒れ伏す轟の姿。

 主審ミッドナイトがその身体に触れ、暫しの沈黙の後で声を上げる。

 

『……轟くん、行動不能! 干河さん、決勝進出!』

 

 

「……不完全燃焼ね」

 

 不要になった氷をステージ外へと降ろす『干渉』の呟きは、誰の耳にも入らないまま巻き起こる大歓声の中に掻き消えた。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――え?」

「あ?」

 

 バン、と勢いよく蹴り開けられた控え室の扉。

 部屋の中に居た女子生徒と、荒々しく入室した男子生徒の虚を突かれたような視線が重なった。

 

 片や一早く決勝進出を決め、別ブロック準決勝の決着を控え室の中で待っていた『干渉』。

 此方つい先程その準決勝にて常闇から勝利をもぎ取り、控え室へとやってきた爆豪。

 

「あれ!? 何でてめェがここに……控え室……あ、ここ2の方か! クソが!!」

「……ふふっ」

 

「あァ!?」

 

 不意の遭遇の原因となったのは、爆豪側の部屋間違い。

 一瞬遅れてそれに気付き、ぶつけどころを見失った苛立ちを放った彼の耳に、思わずとばかりの笑い声が届いて、再度その目が吊り上がる。

 

「ご、めんなさい、でも……ふっくぅ……!」

「笑い過ぎだてめェ!? ……ああクソがッ!」

 

 怒りはすれど原因が自分のミスであることは間違いないため理不尽に糾弾するわけにもいかず、苦虫を噛み潰したような顔で黙るしかなくなる爆豪。

 それすらも助長になったか、『干渉』は抑えきれない忍び笑いから、遂には目の端に薄らと水が浮かんでいた。

 

「……っふう、ごめんなさい。驚くと同時にちょっと安心しちゃったものだから」

「……ンだと?」

 

 目元を拭いながらのその言葉に、爆豪が言外の意味を感じて眉を上げる。

 沸点の低い彼が瞬間着火しなかったのは、偏にその目に侮りの色が見えなかったがゆえ。

 

「だって私、爆豪さん対策しか考えていなかったのだもの」

「……!」

 

「まず有り得ないと思っていたけれど、常闇さんだったらどうしよう、とね」

「……ハッ!」

 

 ―――決勝の相手として、自分が上がってくると確信していた。

 言葉に含まれた意味と、その意志に偽りがないことを直感した爆豪の口角が一段吊り上がる。

 

「……なら俺からも言っとくぞ」

「あら、何かしら」

 

 不遜な一言の礼とばかりに、爆豪が射貫くような眼差しで立てた指を突き付ける。

 

 

()()()がてめェの『全力』か?」

 

 

 その一言に『干渉』は動きを止めた。

 

「切り替わったのは眼鏡(飯田)に蹴られたときだ。障害物競争で俺の爆破跳ね返してドヤってた『青髪』と今のてめェはどうみても別人だからな」

「…………」

 

「騎馬戦で面倒臭ェ策考えたのもてめェか? あんな戦いもしねぇ逃げ切りを考えるなんざデクのやることじゃねえからな」

「……失礼ね。あれは戦わせないことに『全力』を注いだ結果よ。何より私の掌で踊っていた口で言うことじゃないでしょう?」

 

 その返答に無言のまま、眦を吊り上げる爆豪。

 剣呑な圧を放ち始めた彼を座ったまま見上げ、『干渉』は含むように目を細める。

 

「……今のところ、あなたの望む『全力』を出せるのは私、と言って良いでしょうね」

「あぁ?」

 

「歩が成長すれば、私が出る必要は無くなる。それが何時になるかは、まあ歩次第よ」

「……っ」

 

 遂に明確に『干河歩』とは別人であることを認めるような言葉が出たことに、爆豪は少なからず驚きを表情に浮かばせる。

 その様子を勘定に入れているのか否か、彼女は遠い誰かに向けるような呟きを続けた。

 

「あなた達にとっては三度あるうちの一回でも、私にとってはもしかすると最初で最後の機会」

「…………」

 

「言われなくとも『全力』でお相手するわ。後で歩が五臓六腑をひっくり返すことになってもね」

「……いや、どういうことだ」

 

 驚愕が胡乱な目に変わった爆豪に、『干渉』がどこかヒヤリとした笑みを浮かべて『彼女達』の関係を掻い摘んで語る。

 "個性"の出力、制御力、許容量に大きな差が存在し、自分が出せる『全力』を振るえば許容量を大きく超えさせられたもう一人は多大な反動を受ける羽目になることを。

 

「いつもは嘔吐ぐらいで済むけど、今日はこれまでと比較にならないほど長く入れ替わって"力"を使ってるからねえ……まあ、調子に乗って実質一回戦敗退に終わった罰よ」

「……ひでェな、オイ」

 

「だってこの子ったら、あれだけ、ヒーローになりたいなりたい、って言っててこの結果よ?」

「いや、知らね……てめェは違うのか?」

 

 保護者の愚痴を聞くような気分になっていた爆豪が、言葉尻の違和感を捉え口を挟む。

 その問いに一度口を引き締めた『干渉』は、不意に誰かを真似るように口角を上げた。

 

 

「『ヒーローになりたくない』私が、『ヒーローになりたい』あなた達を捩じ伏せてトップに立っちゃったとしたら、どうかしら?」

「…………ほおォ?」

 

 

「第二戦第三戦と、肩透かしに終わっちゃったものだから鬱憤が溜まってるのよ。爆豪さんこそ、ちゃんと私に『全力』を出させてくれるのよね?」

「上ッ等だてめェ……二度とフザケたこと言えねぇよう、念入りにブッ殺してやらぁ……ッ!」

 

 今度こそ、互いに笑みを湛えて睨み合う。

 暫しの沈黙の後、己の控え室へ向かうべく視線を切った爆豪の背に、一つの問いが投げられた。

 

 

「……そうだわ。折角だから私にもあだ名を付けてくれない? 爆豪さんのセンスで良いわよ」

 

「あ? …………『腹黒女』」

「ふはっ……! 良いわねえ」

 





 原作でまともに描写されてないんだからしょうがないんだよ芦戸さん。
 されてたらされてたで変化が無いならカットするけど。

 『干渉』さんの情緒は割とぐちゃぐちゃ。
 何しろ手の掛かる誰かさんのせいで大人びて見えますが、周囲より四歳少々幼いわけでして。
 緑谷くんへ尋ねたこと。
 麗日さんと話したこと。
 耳郎さんに囁いたこと。
 爆豪くんとの煽り合い。
 彼女の本音があるのは果たしてどこでしょうね。


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C2-11 最終種目・決勝戦


 初の別キャラ視点。



 

『―――さァいよいよラスト! 雄英1年の頂点がここで決まる! 決勝戦、干河 対 爆豪!』

 

 耳にうるせぇ観衆(モブ)共の声を意識の隅に押し遣って、ソイツの姿を改めて見据える。

 青髪、干河、腹黒女……多重人格だか何だか知らねぇが、ここに立ったならもう関係ねえ。

 

 最初で最後?

 ヒーローになりたくねえ?

 知らねぇよ。全部上から捻じ伏せる。そんで―――俺が、トップだ!

 

『今!! START!!』

 

「死ぃねえぇぇッ!!」

 

 半分野郎()の試合からして例え最大火力で爆破しようが反射されるのは目に見えてる。

 だから爆速でとにかく距離詰める!

 俺が攻撃を当てるには、肉弾戦もしくは直接掴んでゼロ距離爆破しかねえ―――

 

(……と、思ってんだろ?)

 

 開幕突進を分かってたとばかりに構えをとる腹黒女に、予想通りと口角が上がる。

 控え室のやり取りからして、こっちはてめェが俺の前試合を見てねえことも分かってんだ。

 掴むか、殴るか、その二択しか頭にねえ奴に()()は防げねえよな?

 

 両手をこするように合わせ、腹黒女の顔に向ける。

 想定した択のどちらでもねえ動きに目を見張ったのが分かるが、もう遅えよ。

 

「【閃光弾(スタングレネード)】!」

「っ!」

 

 爆熱や爆風じゃなく、光を重視した目眩し。

 前試合で鳥頭(常闇)相手に弱点暴いて作った即興技だが、視界潰す光量としては十分だ。

 

 何より腹黒女は騎馬戦であの鳥頭と組んでて、アホ面(上鳴)の電光に対処出来てなかった。

 敵として対峙した俺に分かって、味方として組んだ腹黒女が気付かねえわけがねえ。

 万能と宣ったてめェの"個性"にも跳ね返せねえモノがあるっつうこと―――

 

 

「ごめんなさいね。騎馬戦(あのとき)は私じゃなかったから」

「……は?」

 

 

 自分の目眩しにやられねえよう細めた瞼に想定以上の光を喰らって、反射的に目が閉じた。

 失った視界の向こうで腹黒女が遠ざかる気配を感じる。……間違いねえ、()()()()

 

『Oh! 先手は爆豪、前試合で見せた閃光弾じみた爆破技だったが、今のは何が起きた!?』

『光も反射対象か……これまたここまで隠してやがったな』

 

 ……隠してた? いや、違……わねえ、それもある。だが問題なのはそこじゃねえ。

 暗闇の中で聞いた呟き。あれは俺の策に対する……そこに至った経緯に対する謝罪(煽り)で―――

 

(……ンのっ、腹黒女……ッ!)

 

 俺が考えるだろうてめェ対策を見透かした上で。

 あたかも予想外を突かれたような素振りまでして俺を良い気にさせた上で。

 ソコは未だ自分の掌上だと、わざわざ俺に教えてきやがったんだ。

 

「上ッ……等だッ!」

 

 復活した視界で見上げりゃ、空から睥睨する眼差しと重なった。

 目の眩んだ俺に追撃するより、優位な土俵に立つことを優先した証。

 

 戦わせねえ為の全力。

 負けねえ為の全力。

 ああ、よく分かった……てめェは俺を舐めてるわけじゃねえ。

 どこまでも貪欲に……俺に『勝つ』為だけに頭回してきてやがるってなぁ!

 

『干河が空へ逃げ、爆豪は地上でそれを睨み付ける! 意外や意外、膠着状態か!』

『爆豪が空中戦可能と言えど、移動の自由度には大きく差があるからな。勢いだけで突っ込んでもガン不利押し付けられるのが分かってんだ。当てが外れたのもあって仕切り直しってとこか』

 

Ummm(うむむ)……だがこの状況、干河からも攻めるのは難しくないか!? これまでの試合じゃ空中機動力活かして視界外からの攻撃を狙ってたが、爆豪の反射神経相手じゃそれも分が悪いぜ!?』

『ああ、干河もそれは理解しているはずだが……今度は何を企んでる?』

 

 ……ツタ女(塩崎)の試合のときに見せた蹴りの速度なら、集中してりゃ迎撃出来る。

 だが眼鏡(飯田)の試合みてえに俺の視界を振り切って頭上へ回ろうともしねえ。

 ただそこに漂ったまま、俺を見下ろしてやがる。

 

「ハァ……ハァ……ッ」

 

 いつ腹黒女が動き出すか分からねえから集中を解くわけにゃいかねえ。

 この距離で爆破を撃っても反射されるだけだ。

 俺が焦れて飛び込んでくるのを待っている? 舐めんな、ンな誘いに誰が乗るかよ。

 

 幾ら騎馬戦と違って制限時間がねえっつっても、このまま動きが無けりゃ催促される。

 そうなりゃどうしてもどっちかに有利な状況から仕切り直しになるだろが、そんなうっすい筋をこの腹黒女が狙うわけねえ。

 

「ハァッ……ハァッ……!」

 

 ああ、クソ、観衆(モブ)共の声が耳にキンキン響きやがる。

 このまま俺の消耗を待つ? 違う……いや、違わねえ?

 何か、何かが、おかしい。カンが、思考が、鈍ってきて―――

 

「ハ、ア…………あ?」

 

 汗? ちがう、いつから、息切れ……緊張? んなバカな……ッ!!?

 

 

「―――こんっ、の……腹黒女ァァァッ!!」

 

 

『What!? 爆豪、突然の猪突猛進!? 不利な舞台にゃ上がらねえ筈じゃなかったのか!?』

『あの様子……まさか、だが……だとしたら干河の奴、どれだけ……』

 

Huh(ハァン)!? こっちもどうしたイレイザー! ひとりで納得してないで説明プリーズ(Please)!』

『……目に見えた変化がないから気付けなかったが、空気を押し退けてステージ地上付近を低気圧状態にしてるんだ。おそらく今の爆豪は高山病の症状に襲われている』

 

 耳の閉塞感、息苦しさ、倦怠感に立ちくらみ。

 気付かなかった俺も間抜けだが、気付かせねえ為に腹黒女が打ち続けた手も最早異常だ。

 

『光と同様、空気への干渉も隠し通したというのが一つ。おそらくはそれなりに時間のかかる一手だからこそ、この一戦に持ってきたというのもあるんだろうが……』

『轟戦はともかく、飯田塩崎戦に使えばもっと楽に勝てたんじゃねーのか!?』

 

『ああ、そうだ。それを隠して空からの肉弾戦しかないと、この会場全ての人間に思い込ませた。

空に逃げられても反撃狙いで勝てる……決勝に上がってくるだろう爆豪にそう判断させる為にな』

『トーナメント表が決まった時点でってことか!? どんな思考回路してんだこの娘ェ!?』

 

 実況解説がどれだけ腹黒女の思考を当てているかは分からねえ。

 今の俺にとって重要なのは、この状態で長期戦を挑むのは自殺行為だってことだけだ。

 

 幸いと言っていいのか、汗は十分に噴き出している。

 そこに冷や汗が多分に含まれていようが、俺の火力を最大限引き出すには問題ねえ。

 とにかく今は真っ直ぐに、手の届く距離まで近付くことにだけ注力―――

 

「ッ!? ……ン度目だ、クソがッ!!」

 

 鈍っていた直感が突然がなり立てた警告に従って、寸前で進行方向を直角に変える。

 その瞬間、『何か』が直前まで俺が居た空間を通過し、爆破したばかりの指先を撫でた。

 

『アァン!? 爆豪突然の方向転か―――うおォ!? 何だァ!?』

『……空気砲、か? 押し退けた地上付近の空気を圧縮して砲弾にしているのか』

 

 ……デクや半分野郎()の衝撃波に比べりゃ何てことのねえ威力。

 だが今の俺を打ち落とすにゃ十分過ぎる威力だよなあ、クソがッ!

 

 腹黒女の行動にはどれも予備動作がねえし、空気の弾なんざ当然見えやしねえ。

 初撃はたまたま直感で避けれたが、あんなもん何度も続くわけがねえ。

 何重に考えても、リスク度外視の突撃で何が何でも奴の身体を掴む以外にとれる択が無ぇ!

 

(クッソ……騎馬戦と同じだ。一から十まで誘導されてんのに他に戦いようがねえ!)

 

 爆破を掌に痛みが走る程の威力にまで上げることで更に速度を上げる。

 爆破を繰り返した煙で空気の揺らぎを見付けて、少しでも回避の目を増やす。

 ……思考と直感、両方が導き出す最適解が、悉く読まれているという確信がある。

 

 ―――だったら、いや、だからこそ。

 

「てめェが何を考えていようが、全部喰い破ってやらぁ!!」

 

 次の爆破で腹黒女まで手が届く。

 そう直感が弾き出した答えを補強するように、ひときわ強力にした爆破で一気に接近。

 全力の爆破を浴びせるべく、腹黒女の身体に両手を伸ばす。

 

 躱してくるか、弾いてくるか。はたまた予想もしねえ手段で反撃してくるか―――

 そう思っていた俺の両手は、腹黒女の両手に真正面から掴まれた。

 

「…………はぁ?」

 

 ……反応出来なかった。

 俺は奴を掴むことに集中していて、なのに相手からその手を掴んできたからだ。

 まるで俺の狙いを助長するような動き。仮に反応出来てたとして回避する理由がねえ。

 

「てめェ、何を考えて……」

「『全力』は出したい。でも私は負ける戦いをする気はないの」

 

 互いの手の平が合わさる感覚と、やけに近く見える腹黒女の顔。

 一度漂白された頭を回して、やっと()()に気が付いた。

 

 ―――今の俺の体勢で、全力の爆破を放てばどうなる?

 反作用で吹っ飛ぶ先は、場外の芝生の上だ。

 爆破を撃たなければ? 最初で最後の攻撃チャンスを逃すだけだ。

 おまけに腹黒女の背後で揺らいでいる無数の空気砲で場外に叩き込まれる。

 

 仮に爆破でコイツを倒せたとして、気絶と場外、良くて引き分け再試合。

 ……ああ、成程。見事に腹黒女の『負け』だけが無くなってやがる。

 

「ありがとね、付き合ってくれて」

「…………バカ、かよ」

 

 てめェなら、もっと悪辣な策だってとれただろ。

 俺がてめェに触れもしないような戦い方だってあったはずだ。

 全力のやり合いをしたくて、だが負けたくない……分からなくもねえが、ここまでするかよ。

 

 

「最大、火力―――」

「【空気連砲(エアブラスト)】」

 

 

 痛みと轟音。身体中メタメタにボコされるような衝撃と、一瞬の浮遊感。

 背中に触れる芝の感覚の中で、けぶる視界に微かに見える空に浮いた人影。

 

 ……ああ、認めてやるよ。『今の俺』はトップじゃねえ。

 だが次は……次に出てきたのがてめェだろうがもう一人だろうが、完膚なきまでに叩き潰す。

 

 だから、今は―――

 

 

『爆豪くん、場外! よって、今年度雄英体育祭1年優勝は―――』

 

 

 満足したかよ、腹黒女。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――それではこれより、表彰式に……移ります」

 

 治癒ババア(リカバリーガール)に処置されたばかりの気怠い身体に、困惑にまみれた観衆(モブ)共のザワザワが響く。

 微妙に歯切れの悪いタイツ女(ミッドナイト)の仕切りもそれに重なるが、まあ無理もねえ。

 三位の台には鳥頭と半分野郎の二人が並んでるってのに、肝心の一位の台が()()なんだからな。

 

「えー……優勝した干河さんですが"個性"の反動により半日は起き上がれないということなので、先に表彰式を進めるよう保険医のリカバリーガールより指示が出されました。ご了承ください」

 

 その宣言にモブ共の落胆の声が聞こえてくるが、俺にしてみりゃ「やりやがったな腹黒女」しか感想が出ねえな。

 ヒーローになる気のねえ自分がその台に立つ気は無く、そして普段前に出てるっつうもう一人にこの台をくれてやる気にもならなかった、ただそれだけだろ。

 

「と、とにかくメダル授与よ! 今年メダルを授与するのは勿論この人!」

「私がメダルを持って来た「我らがヒーロー、オールマイト!」」

 

 コールと口上が被ったオールマイトが何か言いたげにタイツ女に振り返った。

 ……段取りしろよ。何かとせっかちなんだよてめーら。

 

 気を取り直したオールマイトが三位連中の首にメダルを掛けていく。

 特に半分野郎に何か色々言ってたが……目の前の相手も見れねえような奴に何が出来る。

 まあ、たとえ炎を使ってたとしても決勝に上がってくるのは腹黒女だっただろうけどな。

 

「―――さて、爆豪少年。伏線回収ならずだが……意外と大人しいね?」

「……『今の』トップは俺じゃなかった。それだけだ」

 

 苛立ちはある。負けた自分への怒りもある。

 だが何より俺は今回、最初っから最後まで腹黒女の掌から抜け出せなかった。

 こんだけ差ぁ見せられて表面だけ抗っても見苦しいだけだ。

 

「『今の俺』よりあの女が上。そこを認めなきゃ進めやしねえ。次は叩き潰す……そんだけだ」

「そ、そうか……少々物騒だが君が飲み込めているようなら何よりだよ」

 

 オールマイトに掛けられた銀色のメダルを目に焼き付けるつもりで見つめる。

 ……これは俺に付けられた『傷』だ。受け取っておくさ。忘れねえようにな。

 

「……さァ! 今回は彼等だった! しかし皆さん! この場の誰にも ここに立つ可能性はあった! ご覧いただいた通りだ! 競い! 高め合い! さらに 先へと昇っていくその姿! 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている! てな感じで最後に一言! 皆さんご唱和下さい! せーの!」

 

「「「プルス『おつかれさまでした!』…えっ!?」」」

 

 …………だから段取り決めとけって。

 

 

 

 

「―――お ェ゛

 

※しばらくお待ちください。

 

※しばらくお待ちください。

 

※しばらくお待ちください。

 

 

「歩ちゃん……ムチャシヤガッテ……」

「無茶させたのは『干渉』さんだよね!?」

 





 素直に名前で呼んでくれませんかね、爆豪くん。
 呼び名が分からなかった相手は独自設定です。

 認めた相手は苗字で呼ぶ彼ですが、『干渉』さんは色んな意味で認めた上での腹黒女呼び。
 干河と呼ばれることを嫌うだろうと、何となく察していたというのもあります。


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C2-12 祭りの後で


 歩ちゃん視点復帰。

 ちなみに飯田くん以外の対戦相手と歩ちゃんが戦っていた場合。
 ・VS塩崎:開幕からツルの操作権を掛けて鍔迫り合い、物量に負けて敗退。
 ・VS轟:開幕氷結で射程範囲の外まで氷で埋められ、脱出出来ずに敗退。
 ・VS爆豪:爆破なら平気と高を括って開幕目眩しを受ける。そのまま場外に叩き込まれ敗退。

 そういうとこやぞ。



 

「………………ひどくないですか?」

《何が?》

 

「だって、一回戦の途中で……気付いたら体育祭が終わってたんですよ!?」

《あそこで歩は気絶しちゃったんだからしょうがないじゃない》

 

 身体の操作権を返してもらった瞬間は、何が起きたのかさっぱり分からなかった。

 とにかく頭がドリルで削られてるみたいに痛んで、上下左右に前後も分からなくなって、両腕は火傷で引き攣るし、視界はぐるぐるひたすらキラキラ(婉曲表現)……リカバリーガールの治療を受けつつ半日の―――永遠のように感じた―――地獄が明けて、落ち着けたのは翌日朝。

 

 体育祭翌日、翌々日は休校ということで、保健室で日を跨いだわたしは灯が消えたように静かな校舎からひとり下校することに。

 

《何? 歩の将来を考えて優勝までしてあげたのに、不満でもあるのかしら?》

「んうぅー……」

 

 それを言われてしまっては文句なんてつけられるわけがない。

 わたしの身体を使った『干渉』は飯田さんに勝ったばかりか、そのまま優勝してしまった。

 ようやく快復したわたしを労わってくれたリカバリーガールからそれを聞いたときにはわたしの存在って何なんだろう、と結構本格的に悩んでしまった。

 

「…………お茶子ちゃんに慰めてもらいたいです」

《駄目よ。家族団らんの邪魔は許さないわ》

 

 一日遅れでアパートに戻ったわたしに待っていたのは、安普請の壁越しに聞こえるお茶子ちゃんおよびそのご両親の声。

 娘の為に仕事に穴を開けて新幹線で駆けつけたといった会話が漏れ聞こえた辺りで、《聞き耳を立てるのもやめなさい》と『干渉』に窘められてしまった。

 

「お母様に電話……は、今の時間お忙しいですよね……」

《まあ、そうね。昨夜倒れている間に着信はあったけど》

 

「ええっ、そうだったんですか? その時は何か……」

《歩が受け答え出来る状態じゃなかったから、リカバリーガールが代わりに応対して状況説明していたわよ。聞こえてきた反応は、良しなに、ぐらいね》

 

 ……全然心配されてない。まあテレビか何かで見ていたなら、お母様にはわたしが倒れた原因も分かっていただろうし、心配する必要もなかったと言われたらそうなのだけど。

 

《大人しく休校明けにすることね。あ、そうそう、耳郎さんと爆豪さんが私の存在に気付いたわ。詳しい説明はまだだけどね》

「……ええっ、どうしてそんなことに? 好き勝手し過ぎですよぉ!」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――おはよう諸君。今日の"ヒーロー情報学"、ちょっと特別だぞ」

 

 迎えた登校日、朝のHR。

 右腕のギプスも取れ、完治した姿で教壇に立った相澤先生の言葉でクラス一同に緊張が走る。

 

「『コードネーム』、ヒーロー名の考案だ」

「「「夢ふくらむヤツきたああああ!!」」」

《ああ、授業時間割くのね、アレ》

 

 両手を掲げて、人によっては飛び上がる程に興奮する一同。

 ただそれも次の瞬間、髪を逆立てた相澤先生の『一瞥』で、シーン……と静まり返る。

 《よく訓練されてるわねえ》という呟きに、苦笑いしながら同意した。

 

 そこから続いた説明は、この時期にヒーロー名を決める理由だった。

 まず、先日の体育祭で活躍した生徒には既に『プロからのドラフト指名』が来ているという。

 ……とは言えこれ自体は一年生のわたし達の場合、将来性に対する興味に近いらしいけれど。

 

「例年はもっとバラけるんだが、今年は三人に注目が偏った」

 

 そう言って相澤先生が黒板に表示したのは『A組指名件数』と銘打った棒グラフ。

 上から並んだ轟さん、わたし、爆豪さんの名前の横に過剰な長さの件数があり、その下には大体最終種目の順位に応じた面子が列挙されていた。

 

「だーーー白黒ついた!」

「わ、わたしの指名が凄いことに……」

《爆豪さんが三番目だなんて、見る目ないわねえ、プロ》

 

「三位が一番上に来ているという謎」

「完全に親の話題ありきだろ……」

 

「わあああ!」

「う、む」

《お茶子さん、指名されて嬉しいのは分かるけど飯田さん揺さぶらないであげて》

 

「……無いな! 怖かったんだ、やっぱ」

「まあデクさんを指名して、自分の管理下で四肢粉砕されたらと思うと二の足踏みますよね」

「ぐうの音も出ない……!」

 

 教室中から悲喜交々な声が上がる中、淡々と説明は続く。

 曰く、この結果を踏まえて指名の有無関係なく全員プロの現場へ、いわゆる『職場体験』に行くことになるとのこと。

 訓練ではあれど、現場ではヒーローの一人として扱われるということで―――

 

「それでヒーロー名か!」

「俄然楽しみになってきたァ!」

「まァ仮ではあるが、適当なもんは……」

 

 

「―――付けたら地獄を見ちゃうよ!!」

 

 

 相澤先生の言葉を遮って、教室に入ってきたのはミッドナイト先生。

 何故この人が? というわたしの視線の先で、相澤先生はゴソゴソと寝袋を取り出す。

 自身にその手のセンスは無いのでミッドナイトに任せる、とそのまま休眠に入ってしまった。

 

 

(―――どうしましょう、『干渉』?)

《……さあ? ヒーローになりたいあなたが考えなさいよ》

 

 各自ヒーロー名を考えるようにと配られたフリップを前にして、『彼女』へと向けた呼び掛けはすげなくあしらわれる。

 ……聞く前から分かっていたけど、もう少し興味を持ってくれても良いと思うんです。

 

《候補を上げれば駄目出しぐらいはするわよ》

(それ一番ひどいじゃないですか……)

 

 そんなやり取りをしながら、ペンを片手にフリップに向き直る。

 ……一応、将来を想って考えたことはなくもない。ただ、こうして表明するのは初めてだ。

 頭に浮かんだフレーズぐらいなら『彼女』も一々反応したりしないし。

 

(……『不触(サワレズ)ヒーロー No one can touch me.(誰も私に触れられない)』)

《短文!? ……名前としては長い。"私"の実情にも合ってない。却下)

 

(……わたしの全てはあなたの為に。『献身ヒーロー オール・フォー・ユー(All for you)』)

《名前から実態を想起出来ない。微妙に呼びにくい。オールマイトに似た響きは分不相応な期待を呼び込む。却下》

 

(……『調整ヒーロー フィクサー』)

《……"私"にも、推奨する戦い方にも合ってるけど……ヒーローというより悪役臭い。却下》

 

(……それって『干渉』が悪役向きということでは?)

《うるさいわね》

 

 

「―――じゃ、そろそろ出来た人から発表してね!」

 

「「「!!!」」」

《発表形式!?》

 

 凡そ15分後、ミッドナイト先生の言葉に相澤先生のそれとは違う方向の緊張がクラスを襲う。

 それでも意気揚々と教壇に上がった一番手は芦戸さん。

 

「『リドリーヒーロー エイリアンクイーン』!」

「2!! 血が強酸性のアレを目指してるの!? やめときな!!」

 

「……えっと、デクさん、今の突っ込みはどういう……?」

「あれ、干河さん知らない!? あ、そっかテレビゲームとかやらないのか……」

《……何にせよ異星人(エイリアン)はヒーローとしてどうかと思うわ》

 

 考え直すように言われ、ちぇー、と口を尖らせながら席に戻っていく芦戸さん。

 入れ替わるように檀上へ登ったのは、蛙吹―――梅雨ちゃんだ。

 

「小学生の時から決めてたの。『梅雨入りヒーロー FROPPY(フロッピー)』」

「カワイイ! 親しみやすくて良いわ!」

 

 即座にOKを貰った梅雨ちゃんを皮切りに、続々とクラスメイトのヒーロー名は決まっていく。

 

 切島さんは憧れのヒーローにあやかった『剛健ヒーロー 烈怒頼雄斗(レッドライオット)』。《……読めないわよ》

 耳郎さんは『ヒアヒーロー イヤホン=ジャック』。《ほぼ"個性"名そのままなのね》

 障子さんは『触手ヒーロー テンタコル』。《後ろで誰かさん(ブドウ頭)の鼻息が荒くなったような……》

 ドンマイさ《……歩?》……瀬呂さんは『テーピンヒーロー セロファン』。

 

《―――で、他人のを聞いてばかりいないであなたも早く行きなさいよ》

(わ、分かってますよ!)

 

 『彼女』に急かされて、わたしも檀上に駆け上がる。

 フリップに書いたのは、却下に次ぐ却下を乗り越えやっと認めてもらった自信作。

 ……ソレを考え付いて初めて書き込んだから、試行錯誤の跡が残ってないのがちょっと残念。

 

 

「―――『アクセラ』。Accelerate(加速させる)からとって、『不可侵ヒーロー アクセラ』です」

 

 

 

 

「『爆殺王』」

《ヒーローの名前じゃないでしょうよ》

 

「考えてありました、『ウラビティ』」

「《かわいい!》」

 

「ある人に意味を変えられて……嬉しかったんだ。だからこれが僕のヒーロー名『デク』です」

「……デクさん」

《これはこれは。ご馳走様》

 

 

「『爆殺卿』!」

「《ちがうそうじゃない》」

 





 周りから見た歩ちゃん「……(がくん)……(しょぼん)……はぁ……」
 後ろの席の緑谷くん(……『干渉』さんに駄目出しされまくってるんだな、干河さん)
 遠くの席の麗日さん(……『干渉』さんに駄目出しされまくっとるんやな、歩ちゃん)

 前の席の爆豪くん(青髪と腹黒女……普段から普通にやり取りしてんのか)


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Chapter-3
C3-1 二心同体



 指名数の具体的な数字は決めてません。
 想定としては轟くん、歩ちゃん、爆豪くんが四桁ずつ。
 後は発目さんのお陰で原作以上に目立った芦戸さんに指名が来ているぐらいです。
 そもそも何故原作では指名無しなのか。最終種目に出場したA組生徒の中で他に指名されてないのは緑谷くんだけなのに。

 今回から新章突入です。



 

 職場体験の期間は一週間。

 指名が有った者はその中から自分が向かう事務所を自分で決める。

 そうでなければ学校からオファーを出した40件の事務所から選ぶように、とのこと。

 

「―――うーん……」

《これはまた大漁ねえ》

 

 前者に該当するわたしの手元に来たのは、ヒーロー事務所の名が延々と列挙された書類の束。

 メディアでよく見かけるトップヒーローの名前から、殆ど耳に馴染みのない名前まで、より取り見取り……と言えば聞こえは良いけれど。

 

「……これだけ多いと実績や系統を調べるだけでも大変そうだね」

「……歩ちゃんを見とると多ければ良いってわけでもないんやなって」

「お茶子ちゃんはもう決めました?」

 

「うん、実はみんなより見る件数が少なくて……『バトルヒーロー ガンヘッド』のとこにした」

「ゴリッゴリの武闘派じゃん!! 麗日さんがそこに!?」

「そうなんですか? あれ、13号みたいなヒーローが目標だったのでは?」

 

 聞きながら、五十音順に並んだ事務所名を急いで確認する。

 ……ガンヘッド事務所の名前は無い《プロ側も指名数に制限はあるんでしょうね》……残念。

 

「最終的にはね! こないだの爆豪くん戦で思ったんだ。強くなればそんだけ可能性が広がる! やりたい方だけ向いてても見識狭まる! と」

《そもそも触れれば倒せる"個性"で近接戦闘を鍛えてないのは勿体無いわよ》

「……お茶子ちゃんの"個性"で接近戦鍛えてないのは勿体無かった、ですもんね」

「…………なるほど」

 

 相槌の前にチラッとわたしを見てからデクさんは頷いた。

 実際には誰の意見なのか二人には伝わったようで何よりだ。

 

「わたしは……将来を考えればやっぱりトップヒーローの事務所を選ぶべきでしょうけど……」

《実質一回戦敗退》

 

「……実力不足という懸念が()()引っかかって」

「「ああ……」」

 

 今のわたしの評価は『干渉』の手で塗り固められたメッキのようなもの。

 そう考えると幾ら山ほど指名が来ているからといって自惚れてはいられない。

 

 ……入学試験は、一度きりのチャンスだから仕方なかった。

 USJの時は、人の命が掛かっていたのだからためらってはいられなかった。

 だから体育祭はわたしの力でと張り切って……結果はあの通り。決して悪くはないのだけど。

 

「……それよりさっきから気になってたんだけど、デクくん震えてるね?」

「ああ……コレ、空気イス」

 

「「《クーキィス!!》」……まさか授業中ずっと!?」

 

 デクさんをよく見ると、確かに席に座らずに腰を浮かせていることに気付く。

 動けない状態でも出来るトレーニングだと力説されたけど、幾ら"増強系個性"の持ち主にとって基礎身体能力が大事とはいえ、座学の授業中まで鍛えようとするのはどうなんだろう。

 

(……真似しなきゃ駄目だったりします?)

《自分一人で座学について行けるようになってから言いなさい》

 

 恐る恐るしてみた問いかけは、片手間で成績を維持出来るようになってからだ、と一蹴された。

 ……ちょっとほっとしたけど嬉しくない。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――くれぐれも失礼のないように! じゃあ行け」

 

 職場体験当日。雄英最寄りの駅に集まり、各々コスチュームが入った鞄を手に解散。

 

「楽しみだねえ!」

「おまえ九州か、逆だ」

「あ、常闇さんも九州なんですね。では一緒に行きませんか?」

「干河か。ああ、是非もない」

 

 指名が全国津々浦々から集まっていることもありクラスメイトそれぞれが向かう方向は様々。

 なので自然と目的の事務所が近い地域に在る者同士が固まって行動するように。

 

 わたしも同じ方向と分かった常闇さんと連れ沿って―――いたら背中に強い視線を感じた。

 

「常闇ィ……女子と二人っきりで『ぶ○り途中下車の旅』たぁイイ身分だな……」

「途中下車はしねえよ、何言ってんだこいつ」

「本当に見境ねえな……でもちょっと分かる自分が悔しい」

 

 ……峰田だろうなと思った。峰田だった。そういえば色々あって『執行』出来てないなあ。

 お茶子ちゃんと視線が合った。きっと同じ事を考えているんだろう。相手をするのも面倒なのでさっさと離れることにする。

 

「行きましょう、常闇さん」

「……っ、あ、ああ……」

 

 わたし以上に突き刺さる視線を感じていたんだろう、微妙に落ち着かない様子の常闇さんの手を引いて振り向かずにその場を歩き去る。

 乗り込んだ新幹線の自由席に、二つ並んだ空席を見付けて座ったところで手を離した。

 

「全くあのブドウ頭は……出来れば反応もしたくないんですけど、男子のああいう視線って嫌でも気付いちゃうんですよね……」

「……そういう、ものなのか」

 

「目を向けてしまった後で気まずそうにされる分には許せるんですけど、彼は冷たく睨み返しても喜ぶものだからどうしたらいいやらで」

「……うむ。困った奴だな」

 

 まだ何かソワソワした様子で腕を組む常闇さん。

 聞こえてきた《……傍で見る分には笑えるのだけどねえ》という呟きに深く頷く。

 

「……まあ、アレのことなんか考えていたくないのでもういいです。それにしても結構時間かかりますよね。常闇さんは何か暇を潰せるもの持ってきてます?」

「…………」

 

「常闇さん?」

「いや……改めて『表の顔』と相対すると、内に秘めし『裏の顔』との明暗を意識させられてな」

 

 ……常闇さんの思わぬ言葉に、頬が引きつった。

 どういうことか、と頭の中に猛然と問いかければ、返ってきたのは余裕の微笑み。

 

(新たに気付いたのは耳郎さんと爆豪さんのはずじゃなかったんですか!?)

《まあ、体育祭では特に演技もしていなかったからね……何だか彼の場合、そういう方面に理解が深いからというのもありそうだけど》

 

「え、えっと、急に、何のことだか……」

「……! ああ、済まない。『表』は何も知らない、そういうことだな」

 

「誤解が加速した気しかしない! そういう気遣いは要りませんよ!?」

 

 何やら大変に不本意な解釈をされる気がして、堪らず事情の説明について『干渉』に確認する。

 それに対して『彼女』は《良いんじゃない? 彼なら納得する下地もあるし……っ》と同意してくれた。……爆笑しながら。ひどい。誰のせいだと。

 

「……常闇さん、ちょっと手を出してもらって良いですか? 良いですね?」

「え? あ、ああ……」

 

「少し不思議な感覚がすると思いますが、受け入れてください。……『黒影(ダークシャドウ)』さん共々」

「……!?」

 

 

「《【面会(ディグアウト)】》」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

『―――ヨォ、フミカゲ』

 

「なっ……!?」

「え……っ!?」

「あら」

 

 降りかかってきたのは聞き覚えのある、けれど予想外に尊大な声。

 見上げればそこには、巨大な怪鳥の影という形容がぴったりな、威風湛えて鎮座する存在。

 

「これは一体……干河、お前か?」

「あ、は、はい……すみません、碌な説明も無しに……」

 

「『黒影』の真なる姿……つまり此処は、我が心の深奥……ッ」

「……あれ、もしかして喜んでます?」

「驚異の適応力」

 

 険しい顔をしつつも瞳だけはキラキラさせている常闇さんに、ちょっと、だいぶ、戸惑った。

 わたしが何と声を掛けようか悩んでいるうちに、再び身を震わせる声が響く。

 

 

『俺の意思を増幅するトハ、三下にしテハ面白「【減速】」いことしてクレテありが……じゃなクテ……中々良い"力"ダ。今後は俺の手下とシテ「【減速】」お友達から始メ……じゃネェ、一緒に気に入らネェモノ全部ブッ壊「【減速】」アッ、ちょ「【減速】」アノ「【減速】」……』

 

 

「意外と荒々しい性格の"個性"だったのね」

「……あ、ああ……夜闇などの中では破壊衝動が強くてな。今の俺では制御し切れん」

「…………何か、その、ごめんなさい」

 

 みるみるうちに威容を消し去られ、クスンクスンとすすり泣くようになった『黒影』を、どこか悲しげに見つめる常闇さん。

 あのままでは話が出来そうになかったし仕方ないのだけど、容赦無いですね、『干渉』。

 

「えっと、"個性"の意思を呼び起こして対話出来るようにする、という技なんですよ。常闇さんと『黒影』なら説明を省いても問題ないかなと思ったん、ですけど……」

「…………成程。つまり彼女が干河の"個性"『干渉』なのだな?」

「ええ、そういうこと。……ついでに『裏の顔』よ。改めてよろしくね、常闇さん」

 

 常闇さんが一度大きく目を見開き、やがて合点がいったとばかりに深く頷いた。

 そして一拍の沈黙を経て、わたしに気まずそうな目を向ける。

 

「……すまん。その、何がとは言わんが……同志だと思ったのだ」

「……こちらこそすいません。その…………心外過ぎまして」

 

「ぐふっ……!」

『フミカゲェ!?』

「あっ」

「あーあー……」

 

 

 

 

 ―――普段の『黒影』は常闇さんの手足から伸びるような形で姿を見せている。

 そんな彼(?)も、この部屋においては完全に別個の存在として床に寝転んでいた。

 

 足があるべき部分は絵本に出てくる幽霊のような、ふよふよした尾のようになっていた。

 "個性"同士で会話したいと言った『干渉』が傍に座り、その部分を興味深そうに撫でている。

 

「―――という感じで、結構プライベートにも口出しされるんですよね……」

「ああ……『黒影』にもそういう傾向はなくもない。今でこそ慣れたが幼い頃は苦労した……」

 

 一方わたしと常闇さんは四つの椅子の半分を埋めて互いの"個性"について話し合っている。

 やはり自分の中に別の『自分』が居る者同士、話が合うと思っていたのは正解だった。

 

「"個性"とは身体機能の一つであり手足の延長上にあるもの……とは言いますけど、わたし達にはそういう認識はしにくいですよね」

「そうだな……最も近い友であり同志……やはり自身と異なる存在という意識が……ふむ」

 

「どうかしました?」

「いや……表彰式の際に受けた言葉が脳裏を過ってな……"個性"に頼りきり、か」

 

 その呟きに驚いて『干渉』に顔を向けるも、『黒影』に夢中でこっちを見てくれてなかった。

 

「……そういえば干河は表彰台を欠席していたのだったか。あれから『黒影』を越えて接近された場合に備えるべく模索中なのだが、『黒影』が俺とは独立した意思で動く故、下手に動くと邪魔をしてしまいそうでな……」

「……騎馬戦の時に見た限りではかなり自由が利きそうですけど……『黒影』で常闇さんの全身を覆ったりは出来ないんですか?」

 

「…………全身を、覆う」

 

 ピタッと動きを止めた常闇さんが、目を見張ってわたしを、それから『干渉』を相手にじゃれている『黒影』に顔を向けた。

 

「デクさんは出力の制御も勿論ですけど、身体の一箇所だけに注いでいた"個性"を全身に満遍なく行き渡らせることで、結構自由に動けるようになっていました。常闇さんと『黒影』で同じように出来るかは分かりませんけど、試してみてもいいんじゃないでしょうか」

「ああ……これまでの俺には無かった発想だ。感謝する」

 

 

 

 

「―――それじゃあなた達は二心同体にして一心同体、それでもあなたに疑問は無いのね」

『俺ハ俺デ、フミカゲはフミカゲダ! ダガ、俺はフミカゲデ、フミカゲは俺でもアルゼ!』

 

「…………そう」

 





 フルカウルに続き、深淵闇躯早期習得フラグが立ちました。
 特定のキャラが歩ちゃんと自然に二人きりになる状況をあまり作れないのと各キャラの"個性"というオリキャラの追加に繋がるので、無暗にやると収拾つかなくなる恐れがあるのが難点です。
 みんな超エリートだけあって相談しなきゃならないデメリットなんか特に抱えてないし。
 その点『黒影』くんは安心です。原作でも喋りまくってくれてますので。

 傍から見ると新幹線内で仲良く手を繋いで眠っている高校生の男女。
 少なくとも"個性"の不正使用を疑われるような絵面ではないのでセーフ。


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C3-2 職場体験・前編


 行先が九州ということで予想された方もおられたでしょうが、ヒーロー殺し関連に歩ちゃんが関わることはありません。
 OFAを知っている人間としてグラントリノに指名される展開も考えはしましたが納得出来る理由付けを思いつかなかったのでボツに。



 

「―――いやあ今年の雄英は凄い子が多かった。けど一つの事務所に指名権は二つ。上位の成績を残した生徒ほど指名が殺到するだろうし正直不安だったけど、まさか二人とも来てくれるとはね」

 

 わたしと常闇さんがお互い同じ事務所に向かっていると気が付いたのは、そこに向かう途中。

 事務所に到着して早々、事務員であろう人達に案内された部屋でその人は待っていた。

 

 ヒーローを人気と実績からランキング化する、ビルボードチャートにて現順位はNo.3。

 史上最年少でのトップ10位入りを果たした、通称『速過ぎる男』こと『ウイングヒーロー ホークス』が、開いた窓を背に人当たりの良い笑顔を浮かべて。

 

 背中に生えた鷹のような大きな羽『剛翼』で空を翔け、事件発生の発覚から解決までを規格外の速度でこなす活動スタイル。

 "飛行系"に加えて羽を操る"操作系"と、わたしにとって両方で参考になる"個性"の持ち主。

 トップもトップのプロヒーローについて行けるかと言う不安を除けば、わたしにとって一番実りの見込める事務所であるはずだ。

 

《……主に緑谷さん情報だけれどね》

(……まあ、そうなんですけど)

 

 呆れ混じりの《彼、ヒーロー関連喋らせると凄かったわね……》という呟きに内心全力で頷く。

 千件を優に超えていた指名の中からここまでわたしに合いそうな事務所を探すなんて到底出来る事ではなかった。『干渉』もヒーローの情報にだけは割と疎いし。

 

 わたしがそんな悩みを口にした途端、協力を申し出てくれたのがデクさんだった。……後ろの席から、ちょっと引くぐらいの勢いで。

 自分やクラスメイト達だけじゃなく、プロヒーロー達の"個性"についてまで事細かく分析されたノートが出てきたのを始まりに、わたしの指名事務所の表から類似する"個性"主のリストアップが始まったのは普通に怖かったです。

 

「―――と、いうわけで今日から一週間よろしくね、干河(アクセラ)常闇(ツクヨミ)

「「こちらこそよろしくお願いします!」」

 

 初めてヒーロー名で……ヒーローとして呼ばれたことに少し高揚感を覚えつつ。

 頭を下げて返した挨拶は、常闇さんと声を揃える形になった。

 

「それじゃ早速始めよっか……なんて、あんまり細かい事は言わないよ、職場『体験』だし。君達はひとまず俺の仕事について回ってれば良いだけ」

「……ついて回る」

「そ、そういうことなら……」

《……へえ?》

 

 微笑みを絶やさずに言われたホークスさんの言葉に、安心しそうになったその瞬間。

 頭から聞こえた剣呑な響きに反応する暇もなく、彼の身体がふわりと浮かぶ。

 

「―――ついてこれるなら、ね」

「えっ……」

「なっ……」

 

 開けっ放しの窓から、こちらを向いたままに飛び出したホークスさん。

 事務所の中で呆けるわたし達に、一度にやりと悪戯のように笑ったかと思うと、あっという間にその姿は遠ざかっていった。

 

《……ほら、ついて来いって言われたわよ?》

「え、あ、わ、わたし行ってきますね! 【自己自在(マニピュレイション)】!」

「干河っ!?」

 

 常闇さんの叫びと、事務員さん達の暖かい目を背中に、ホークスさんを追って窓から飛び出す。

 広げた翼を視界の先に見付け、そこを目指してとにかく【加速】を重ねた。

 

「……っ、ホークスさん!」

「おお、やっぱついて来れるか、アクセラ。本当に将来有望だね」

 

「と、とこや……ツクヨミさんがまだ―――」

「俺も待ってあげたい。でも事件は待っちゃくれないさ。さあ、行くよ?」

 

 そう言って眼下の街並みに向かって滑空していくホークスさん。

 急制動の利く速度では追い付ける気がしなくて、ぶつからないことだけ考えながらの【加速】。

 そうしているうちに、追っていた背中から急に何枚もの羽根が飛び散る様が見えた。

 

「え……」

《はー……これがトッププロ……》

 

 デクさんに聞いていたホークスさんは、羽根一枚一枚を精緻に操作して敵退治から災害救助までマルチに活躍するヒーローとのこと。

 その予備知識があってもなお、わたしは目の前の光景を信じられない気持ちで見つめていた。

 

 コンビニの入り口、羽根に押されて地面に転がっている男性は、多分万引き犯。

 沢山の羽根がまとわりついた車は、歩道に乗り上げるところを止められたんだろう。

 視界の端では、荷物を階段の上へと運ぶ羽根を足腰の弱そうな老人が有り難そうに見つめながら歩道橋を上っている。

 

 一つ一つは、理解出来る。

 どれか一つをやれと言われたら、わたしの"個性"なら出来なくはないと思う。

 そういう意味ではデクさんの見立ては、本当に正確だった。

 

 

「ほら、事件も(ヴィラン)も待っちゃくれないだろう?」

 

 

 

 

「―――ここだけの話、始めは轟くん……エンデヴァーの息子さんを指名する気でいたんだけど。まあ流石に父親のところに行くだろうし、何より彼と君の直接対決を見て気になっちゃってね」

「は、はあ……」

 

「飛行能力といい、物体の操作といい、君の"個性"は俺のに似てる。あ、ちなみにツクヨミも俺に似て鳥っぽいから指名したんだよ。二割ぐらいは」

「えぇ……」

《残りの配分が気になる》

 

 ホークスさんの巡回警備(パトロール)に、必死の思いでついて行くこと数時間。

 鉄塔の上で小休止しながら、ホークスさんはそんな話をしてくれた。

 ……途中捕まえた犯罪者に関しては、事務所に所属する相棒(サイドキック)の方々が後の処理をするらしい。

 すると常闇さんは今頃、そちらの仕事を体験しているんじゃないだろうか。

 

「実際にはどこまで出来る? 俺が羽根でやるみたいにして他人を運んだりとかさ」

「えっと……軽くて大きな人を乗せられる強度の板があれば、でしょうか。ホークスさんの翼って小さいものでも凄く頑丈ですよね……」

 

「あー……それは中々自然にあるものじゃないね。サポートアイテムとして持ち歩いたりは?」

「重量が上がると自身の移動に制限が掛かるんです。今のコスチュームで現状のギリギリですね」

 

「んー……これからの"個性"伸ばし込みでもそう上手くはいかないか」

「ホークスさんの敵退治を見ていて、攻撃に使える投射物も欲しくなりましたし……」

 

 わたしの"個性"のネックになるのは、武器になる物の持ち込みが難しいことだ。

 あまりコスチュームに色々仕込むと肝心の機動力が落ちることもあって、ホークスさんの羽根のような様々な用途に使える武器、というのを予め用意するのが難しい。

 

「俺の羽根にも弱点はあるよ。特に火は駄目。焼けると威力も強度も半減以下。俺の場合それ系の敵は出す前に仕留めるに限るけど、アクセラの場合燃えない物を急遽武器にして戦ったりも出来るだろうし、準備が出来れば対応力は高いはず……あ、そうだ、俺の羽根は操れる?」

「えっ……あ、はい、やってみます」

 

 ホークスさんの翼から羽根を一枚出してもらって―――身体の一部判定になるらしく、引き抜くのは無理だった―――"個性"の対象にする。

 【加速】【反射】を繰り返して宙を舞わせた後、足元に転がっていた螺子を乗せて運んでみる。

 

 ……異様に強靭なことを除けば、鳩やカラスの羽根を操作するのと変わらなかった。

 暫くそうして操作していた羽根が不意に意図しない動きをして、驚いてホークスさんを見る。

 

「この状態で俺の操作も差し込めるのか……次、俺の操作に合わせて加速してみてくれる?」

「あ、はい」

 

 真っ直ぐ速度を上げた羽根を【加速】させて、更に高速化させる。

 そこからホークスさんの要望に合わせて、【反射】を織り交ぜた直角軌道に。

 次に操作する羽根を増やして同じ事を―――とするうちに、いつの間にかホークスさんが口元に手を当てて考え込んでいた。

 

「…………出せる速度を上げられれば威力も上がる。力押しに対抗できる公算も上がるし、何枚か羽根貸し出しとけば二方面で働くのも出来るな……まだぎこちないとはいえ今の時点で俺に同行は出来てるし……やばいなあ、本気でサイドキックに欲しくなってきたかも」

「ええっ!?」

《あらまあ》

 

 思わずといった調子で漏れ聞こえた呟きに、嬉しさ混じりに仰天した。

 興味を持ってもらうのが職場体験の目的とはいえ、そこまで関心を寄せられるのは予想外だ。

 

「……ありゃ、枚数はこの辺りが限界? 体育祭じゃもっと大量の氷を扱ってたはずだけど」

「ああ、えっと……あの時は上限突破のいわゆる『超必』状態で……使うと後で反動が……」

 

「ああ、そういえば表彰台欠席してたっけね、一位だったのに。そこまで反動キツイ感じ?」

「…………乙女の尊厳(婉曲表現)出ます。口から」

 

 

「オーケィ、職場体験に来た学生にキラキラ(婉曲表現)出させたら俺がエライ人達に怒られる。この一週間はよっぽどじゃない限り禁止ね」

 





 というわけで職場体験先はホークスでした。
 事務所が九州方面であること以外ほぼオリジナルになるので書きにくいことこの上ない。

 原作ホークスの"個性"制御って完全に人外の域ですよね。
 倒壊するビルから要救助者を羽根の振動で感知して救助とかちょっと何言ってるか分からない。


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C3-3 職場体験・後編


 おまけの緑谷くんカウント。

 ・喫緊の極みにあった"個性"制御に尽力してくれた恩人である。 1Combo!
 ・体育祭にて抱えているものを打ち明けられ、救ける対象に片足突っ込んでいた。 2Combo!
 ・オタクが専門分野について意見を求められた。 3Combo!

 なお熱意が強すぎて怖がられた模様。



 

「……何か言った方が良いんでしょうか、常闇さんに」

《やめときなさい。今あなたが何を言ったところで逆効果よ》

 

 ホークスさんのパトロールに食らいついていくことに終始した職場体験初日。

 日没後、彼に連れられ事務所に戻って来たわたしを迎えてくれたのはサイドキックの方々。

 その人達に揃って「ホークスについていける学生がいるなんてなぁ」と言われ、どうしても気になって尋ねてしまったのが事の始まり。

 

「まさか一日中ずっとホークスさんを追いかけていたなんて……」

《地面を走って追い付ける道理なんて無いと、直ぐに分かったでしょうにね》

 

 ずば抜けた機動力と対応力を持つホークスが矢継ぎ早に解決する事件を、後からサイドキックが事務処理の為に駆け付ける。それが常態化しているのがこの事務所の在り方とのこと。

 そんなホークスさんに同行出来るわたしは、プロの仕事を間近で見て、今日一日だけでも色々と参考になる話も聞けている。

 そんな中で常闇さんの現状を聞いて、何となく後ろめたい気持ちを拭えなくなっていた。

 

《……サイドキックの方々の仕事も十分得難い経験のはずなのだけど。かといって追い付けない、と早々に諦めてしまうのも、ヒーローを目指す人間として受け入れられない、か》

「……どうしたら良いんでしょう」

 

《……何も。どうなろうともそれが常闇さんの選択よ。あなたが口を出すことじゃないわ》

「で、でも……あ、ホークスさんはどういう考えでこんなことを?」

 

《そうねえ……どこかで折り合いをつけるか、はたまた何らかの手段で本当に追い付いてくるか。多分どちらになろうとも構わないと思っているんじゃないかしら。少なくとも常闇さんは今、何か自分に取れる手段が無いかと必死に考えているところでしょうし》

 

 向上心の高い人間に対してなら合理的、という結論を出して『干渉』はひとり納得していた。

 ……いつの間にか常闇さんに対して当たりが強くなった印象があるのは気のせいだろうか。

 

《……ともかく余計な事を言うんじゃないわよ? 歩の立場から妥協の進言でもした日には、彼の心を深く抉ることになりかねないんだから》

 

 

 

 

 ―――職場体験二日目。

 

「……あの、ホークスさん?」

「どうかしたかい? アクセラ」

 

「さっき、とこ……ツクヨミから凄い目で見られたんですけど、昨夜何かなさったんですか?」

 

 色々と気にはなりつつ『干渉』に言われた通りに非干渉を貫いたはずなのに、今朝になって顔を合わせたときに彼から見たこともないような眼光を向けられた。

 焦りと嫉妬とそれを向けてしまったことへの自己嫌悪、というのが『彼女』の見立て。

 

「昨夜? ……ああ、どうして自分を指名したのかって聞かれてね。昨日アクセラにも言った通り鳥仲間ってのと、後は今年の雄英1年A組の人間に聞きたいこともあったから、それもついでに」

「聞きたいこと、ですか?」

 

「ほら、年度初めに襲撃してきたチンピラの話とか。詳しい情報までは入って来なかったから」

《……扱いが伝書鳩》

 

「そしたら自分は主犯格には会ってない。詳しくはアクセラに聞けってさ」

「火に油ぁっ!?」

《そりゃ彼だってああもなるわね……》

 

 

 ―――三日目。

 

「……あれ?」

「どうかしたかい? アクセラ」

 

「携帯にクラスメイト向けの一括送信で連絡が……位置情報?」

「ちょっと見せて―――本土か。流石に遠過ぎるなぁ」

 

 これまで通りのパトロールの最中に届いた着信を検めれば、前置きも無しに一文だけの情報に、発信者にはデクさんの名前。

 真剣な顔に切り替わって画面を見たホークスさんは、直ぐに苦い表情で首を振った。

 

《何か危急の事態なんでしょうけど、私達にはどうしようもないわね》

「……どうにもなりませんよね?」

「ならないね。俺でも真っ直ぐ飛んで一日以上はかかる距離だ。要件も書けない程切羽詰まってるみたいだし……まあ事務所に居る面子に情報入ってないか確認してもらっとこうか」

 

 

 ……この連絡の意味をわたしが知ったのは翌日の朝。

 その日に報道された凶悪(ヴィラン)逮捕の知らせと、いち早く連絡したというお茶子ちゃんから現場に居たというデクさん達の話を聞く形でのこと。

 

 デクさん、飯田さん、轟さんの職場体験先事務所に近い場所で起きた事件らしく、今は三人とも重軽症を負って病院に居るのだとか。……お茶子ちゃんも昨日の今日で詳しい怪我の状態は聞いていないという。

 

「……ネットに上がってますね。『ヒーロー殺し』逮捕の瞬間」

「こういうのは消してもイタチごっこだからね……おエライさん方、今頃大わらわだろうなあ」

《何だか変な演出も付いて、いよいよ思想宣伝(プロパガンダ)動画みたいね》

 

 事務所の端末で話題になっているという動画を見ていたところ、ホークスさんが後ろから画面を覗いて茶化すようにそう口にした。

 けれど言葉とは裏腹に、その眼差しには冷たい光を湛えているように見える。

 

「……一定のラインを越えたカリスマ。これは感化される有象無象が出てくるなあ、ポコポコと」

《そんな雨後のタケノコみたいに》

 

 

 ―――五日目。

 

「……きばるねえ、ツクヨミ君」

「え?」

《わぁお》

 

 ホークスさんに言われて振り向いてみれば、植木や街灯を伝って駆け付ける常闇さんの姿。

 まだ事件解決の場に追い付く程ではないにしろ、わたし達が次の現場に向かう前に見える範囲にまで来たのはこれが初めてだった。

 

《手に『黒影』を纏うことで、彼を伸ばして自分を引っ張らせる、という遅延時間(ラグ)が減っている。まだ付け焼刃だけあって安定はしていないようだれど、面白いことを始めたじゃない》

(わたしが『全身を覆う』という案を出したおかげでしょうか)

 

《そのままの採用とは行かなかったようだけどね。彼の『黒影』には足が無いから》

(……ああ、言われてみれば)

 

 『黒影』の鉤爪を自らの腕で振るいながら、猛禽類のような瞳でわたし達を見上げている。

 そんな彼を少しだけ感嘆したように見ていたホークスさんは、けれど次の瞬間今まで通りの軽い調子で指示を出した。

 

「……じゃ、次の現場行こっか、アクセラ」

「えっ……その、待ってあげたりとか……」

 

「足並み揃えて被害拡大させてたんじゃしょうがないからね」

 

 それだけ言って飛び去ってしまう彼に、わたしも慌ててついて行く。

 ……背中に感じた常闇さんの視線が、威力マシマシで突き刺さっていた。

 

 

 ―――職場体験、最終日。

 

「―――【深淵闇駆(しんえんあんく)】!」

(遂に技名が付いたっ!?)

《技と呼べるだけの完成度に仕上がったのね。……ものの一週間でよくやるわ》

 

 後でサイドキックの方々に聞いてみたところ、日々のパトロールで駆け回った後にも事務所内のトレーニングスペースを借りて遅くまで自主訓練を繰り返していたのだそう。

 「若いって良いよねぇ」「男の子だねぇ」などと口々に話す面々に、《……あぁ、それも有ったのかしら?》と呟いた『彼女』にわたしは首を傾げた。

 

「……残りの三割、話してあげても良いかな」

「ホークスさん?」

 

「いや、何でも。さて折角最終日だし、アクセラもちょっと仕事やってみるかい?」

「え……わ、は、はいっ!」

 

 

 ……その日のわたしに回されたのは、子供の手から飛んでいった風船の回収や、転んだ人が宙にぶちまけた荷物の回収など。

 どちらも『剛翼』でやるより楽だし無駄がない、と言われたけれど、それを相手が視界に映るかどうかという距離から予期して駆け付ける彼は何者なんだろうかと、本気で疑問に思った。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――すまんな、干河。この一週間、一方的に悪感情を抱いてしまった」

「い、いえいえそんな……」

 

 一週間の職場体験を終え、本土へと帰る新幹線の中。

 久し振りにしっかりと顔を合わせた常闇さんから開口一番に謝られて、わたしは慌てて気にしていないと答える。

 

「その、それで……最後の日に何かありました?」

「ああ……少し、話を聞かせてもらった」

 

 最終日のパトロールの後、ホークスさんは徐に常闇さんを鷹に捕獲された獲物のように掴んだかと思うと、すっかり暗くなった夜空へと飛び去って行ってしまった。

 サイドキックの方々に「心配要らないよ」と言われて事務所へ戻ったわたしが、再び常闇さんを見たのがつい今しがた。

 どこか憑き物が落ちたように目を細める彼に、わたしは少なからず安心した。

 

「ところで物は相談なのだが、俺の"個性"で空を飛べると思うか?」

「……えっ?」

 

「あの技でも課題だった近接戦や機動力の向上には繋がったのだが、ホークスには『勿体ない』と言われてしまってな……」

《……彼からは他にも何か見えるものがあったということかしら。はてさて……》

 

 その後、どうせ移動時間は暇だからと互いの"個性"を交えた懇談をすること数時間。

 前回『干渉』が楽しんでいた『黒影』の手触り等々を堪能させてもらいつつ、わたしと常闇さんの職場体験はそれぞれ得るもの多く幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

「―――なぁ、常闇。九州どうだった?」

「…………特に何も」

「その行間、絶対何かあっただろオイィ……!」

「だから落ち着けって」

 

 

「―――お茶子ちゃんはどうだったの? この一週間」

「とても、有意義だったよ」

「お茶子ちゃん!? 何があったの!?」

《な、何て綺麗な正拳突き……》

 

 

「―――笑うな! クセついちまって洗っても直んねえんだ……おい笑うなブッ殺すぞ」

「「やってみろよ8:2(ハチニィ)坊や!! アッハハハハハハ!!」」

「うわぁ、爆豪さん……」

《……わぁお》

 

「こっち見んじゃねぇ! 腹黒女!!」

「腹黒はやめてください!? 青髪で良いですから!」

 





 原作では職場体験の一週間では特に進捗はなく、その後のインターンにてあったという常闇くんとホークスのやり取り(回想シーン)を一足早く展開。
 しかしホークスの巡航速度や継続飛行距離って具体的にはどれぐらいなんだろうか。
 現実の鷹から推測しようにもタカ目タカ科の中だけでも結構幅がありますし、モデルになった種が分からないんですよね。翼が真っ赤な鷹なんていないんよ。

 ステイン関連には特に変更なし。
 ただし画面外ではグラントリノおよびエンデヴァーが複数個性持ち脳無に目を剥いています。
 USJ脳無のDNA検査結果がオールマイトに伝えられたのもこの時期ですね。


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C3-4 救助訓練レース


 一組目の五人しか面子が分かんないんですよね。



 

「ハイ私が来た。……ってな感じでやっていくわけだけどもね、ハイ、ヒーロー基礎学ね!」

 

《ヌルっと入ったわね》

「ヌルっと入りましたね」

「久々なのにな」

「パターンが尽きたのかしら」

 

 職場体験明け、久々に感じるヒーロー基礎学。

 デクさん曰く黄金時代(ゴールデンエイジ)のコスチュームで現れたオールマイト先生の、やけに簡素な挨拶から授業は始まった。

 

 今回の内容は、遊びの要素を含めた『救助訓練レース』。

 舞台は複雑に入り組んだ細道が続く密集工業地帯……を模した運動場。

 五人四組に分かれて街外に待機、舞台のどこかで要救助者役のオールマイト先生が出す救難信号を合図に一斉スタート。

 そこで誰が一番早く要救助者のもとに駆け付けられるかの競争である。

 

「―――もちろん建物の被害は最小限にな!」

「指さすなよ」

《そりゃ一発目の授業でビル破壊してればそうなるわよ》

 

 クジで決まった最初の組は、デクさん、尾白さん、飯田さん、芦戸さん、瀬呂さんの五人。

 他の十五人はその間どうするのかと思っていたら、縦に五分割された映像を流す巨大モニターが用意された待機場所《OZASHIKIって書いてある……雄英のセンスって……》へ移動することに。

 

「トップ予想しようぜ。俺、瀬呂が一位」

「あー……うーん、でも尾白もあるぜ」

「オイラは芦戸! あいつ運動神経すげえぞ」

「デクが最下位」

「ケガのハンデはあっても飯田くんな気がするなあ」

《こう入り組んだ地形では彼はむしろ不利よ。上を行ける瀬呂さん、緑谷さんのどちらかね》

「……瀬呂さんかデクさんですね。飯田さんは真っ直ぐ走れない場所だと不利、かもしれません」

 

「ああ、そっか地形が……って、歩ちゃんガン有利やん、コレ」

《飛べる、ないし跳べる人間も多い以上、そうでもないわよ》

 

 そんな観客の勝手な予想を背景に、一組目の競争は初授業のような大きな波乱もなく決着。

 トップを取ったのは『干渉』の予想通り、瀬呂さんとデクさんのほぼ同着という結果に。

 途中、一度だけ着地にもたついたロスが無ければ、デクさんが単独トップだったかもしれない。

 

 

「―――皆、入学時より"個性"の使い方に幅が出て来たぞ! この調子で期末テストへ向け、準備を始めてくれ! …………それじゃ、二組目も位置について―――」

 

「……今の、明らかに締めの台詞でしたよね」

《相変わらずの段取り》

 

 モニター越しに聞こえるオールマイト先生の言葉に変な笑いが喉奥で燻る。

 ……偉大な人のはずなのに、ことあるごとに新米教師感出してくるからずるいです。

 

 

 

 

「―――【自己自在(マニピュレイション)】!」

 

「出た、伝家の宝刀」

「滞空時間って意味じゃクラス最強だよな」

「……でも前より速度上がってるような」

「一週間ホークスを……トッププロの背中を追い続けていたからな。然もあらん」

 

 

「―――速度は力÷『重さ』! 【ゼロ・ジャンプ】!」

 

「うおぉ!? 麗日、何だアレ!?」

「自分浮かすアレに名前付けたのか! でもあんな速度で跳ぶモンだったっけ!?」

《体捌きの強化とコスチュームの脚部に追加した推進装置(バーニア)の効果ね》

「今回は着地大丈夫でしょうか」

 

 

「―――運べ『黒影』……【黒の堕天使】!」

 

「常闇それアリなの!? ソレで飛べんのかよお前!?」

「案を出しておいてなんですけど、どこから推進力発生してるんでしょうね?」

「歩ちゃん発案やったんかー……あ、ひょっとして常闇くんも?」

《……黒い天使が堕天したら、それ光落ちなのでは? いや、黒い堕天使?》

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「はー……久々の授業で汗かいちゃいました」

「いやいやメッチャ余裕だったじゃん、干河。どこに疲れる要素あったのさ」

 

「それがここ最近必死に背中を追ってばっかりだったもので、元のペースが分からなく……」

「……ホークス事務所だったっけ。常闇も言ってたけど、一週間追っかけてたってマジなんだ」

 

 授業を終えて更衣室、それぞれ制服へと着替えながら先の訓練について振り返る。

 

「機動力課題だなあ、私」

「ウチもだよ。お互いそれに活かせる"個性"じゃないかんね……」

「私もビル溶かして登ってたからなー、一応セーフだけどやり過ぎ注意って言われちゃった」

「私も……もっと状況に応じた道具を的確に作れるようになりませんと」

 

 図らずも反省会のような空気が作られる中、余裕を持って高順位につけたわたしに降りかかるちょっとした疎外感。

 助けを求めてお茶子ちゃんに目を向ければ、ちょっと困り顔のうららかな微笑みに迎えられた。

 

「……そういえばお茶子ちゃん、その脚のバーニア……コスチューム改良したんですね」

「あ、うん。滞空時間伸びてきたから、空中で姿勢直したり飛距離伸ばしたり出来ひんかなって思って要望出してみたらこうなったんよ」

《今までは"個性"の解除タイミングで着地点を調整していたものね》

 

「そういう歩ちゃんもコスチュームの靴、デザイン変わっとるよね。何か新機能付いたん?」

「あ、はい、ホークスさんの所で働いているときにこういうものが欲しいなと思って―――」

 

 

「―――見ろよこの穴ショーシャンク!! 恐らく諸先輩方が頑張ったんだろう!! 隣はそうさ! わかるだろう!? 女子更衣室!!」

 

 

 ……壁越しに聞こえた下劣極まりない叫びに、部屋内の空気がスンっと冷めた。

 誰ともなしに声の方向を探し、該当する穴らしきものを最初に見付けたのは耳郎さん。

 

「……ウチがやる」

「任せるわ」

「後の『執行』はわたし達が。ね、お茶子ちゃん」

「せやな。延び延びになっとったし」

 

 壁の向こうからは飯田さんを始めとした男子一同の制止が聞こえてくる。

 それでも欲望に忠実なブドウ頭(峰田)の声に、踏み止まろうとする意思は毛の先程もなく。

 

 

「八百万のヤオヨロッパイ!! 芦戸の腰つき!! 葉隠の浮かぶ下着!! 麗日のうららかボディに蛙吹の意外おっぱァアアア―――」

 

 

 穴の先に突き立てられた『イヤホンジャック』が、彼の叫びを断末魔に変更。

 眼球から爆音を流されたブドウ頭がのたうち回る声が壁の向こうから響き渡った。

 

「…………ウチらだけ何も言われてなかったな?」

「…………これは一時間コースですね」

「いや流石に死んでまうんとちゃうかな……」

《というか葉隠さんがアリなら下着売り場で十分なのでは》

 

 

 

 

「―――オイ、この光らないミラーボールと化した峰田は何があった?」

「「そのエロブドウの事ならお気になさらず」」

 

「……何となく理解はしたが、今日は重要な連絡事項がある。一人だけ聞いてないなんてことになったら非合理だ。下ろしてやれ」

「「……チッ、運が良かったな」」

 

「……何であの二人が一番キレてんの? いやキレられんのは分かるけどよ」

「まあ、そこは、乙女心的なアレコレで」

 

 

 気を取り直した相澤先生の連絡事項とは、目前に迫る夏休み期間のことだった。

 普通の学校なら無邪気に休校期間と喜ぶところだけど、天下の雄英ヒーロー科ともなるとそうはいかないようで。

 

「夏休み林間合宿やるぞ」

 

「肝試そー!」

「花火」

「カレーだな」

「ふ、風呂……行水っ……湯浴み……っ!!」

「ちっ、復活したか」

《わぁお、何てバイタリティ》

 

 次の瞬間、例の如くシーンと黙らされた教室に相澤先生の言葉が響く。

 

「ただし、その前の期末テストで合格点に届かなかった者は……学校で補習地獄だ」

「「みんな、頑張ろうぜ!!」」

 

 

「テスト……補習……」

《……さあて、どうしましょうか、歩?》

 

 思い出すのは入学試験、とりわけ筆記試験の惨状。

 実はあんまりついて行けていない、日々の座学。

 

 きっと今回ばかりは力を貸してはくれないだろう『干渉』の笑い声が、無情に頭に響いていた。

 

 

「お茶子ちゃん……林間合宿、楽しんできてね」

「歩ちゃん、諦め入っとる!? え、何で!? 確か中間試験では―――あっ」

 

「え……あっ」

「あー……」

「む……」

「……ハッ」

 

 教室のあちこちで、察してくれた皆さんの反応が見える。

 ……幸いなのはそれをズルだとして非難するような眼差しではないことか。

 

「あ、あー、そっかあ、そういう……いやでも歩ちゃんであることに違いは無いんやし……」

「ええ、そこの後ろめたさは……少しありますけど、ただ掛かっているのが補習となると……」

「……大人しく補習を受けろって意見なわけだね、『干渉』さんは」

《命や人生が掛かってるわけでもないからねえ、今回はより明確に》

 

 ぼそぼそと声を潜めてくれるお茶子ちゃんとデクさん。

 これなら他に聞こえてるのは、()()をこちらに向けている耳郎さんだけだろう。

 

「でも歩ちゃんてそんなに、その……ダメなん?」

《本当にざっくりいくわねー》

「自己採点だと……多分、上鳴さんと同じぐらいじゃないかなあ、と」

「クラス最下位を争うレベルなのか……」

 

 視界の端に「えっ、マジで?」という顔で、上鳴さんとわたしを見比べる耳郎さんが見えた。

 一周回った笑みを浮かべる芦戸さんと一緒に「全く勉強してねー!」と頭を抱える彼を見遣り、それからまたわたしを見て、もう一度「マジで?」と口が動いた。

 

 

「私は歩ちゃんと……『干渉』さんとも一緒に合宿行きたいんやけどなあ」

《…………》

「……あっ! 今ちょっと揺らいでます! お茶子ちゃん、その方向でどんどん説得を―――」

「必死過ぎるよ、干河さん……」

 





 麗日さんのコスチュームの詳しい解説は単行本6巻の幕間で確認できます。
 その時点では脚部の機能は高所からの着地補助のみですが、256話(単行本26巻)にて踵部分にバーニアが追加されていることが確認できます。
 他に彼女がコスチュームを着ているシーン(インターン・B組対抗戦)では明確な描写は見当たらず、またそこを区切りにメットのデザインが変わっているため、原作ではそのタイミングで追加された機能なのかもしれません。
 本作では自身を浮かせて移動、の習得が早まった為にコスチューム改良依頼を出す時期も変化したということで。

 緑谷くんもフルカウルを使い始めた時期が原作より早いため練度マシマシ。
 なお、この授業の直後にOFAのオリジンおよびAFOについて聞かされています。
 歩ちゃんはOFAの名前を知っているだけ、歴代からもそれにまつわる因縁は聞かされていないと分かっている為、オールマイトも緑谷くんも巻き込むことを避けました。
 歴代と再び相談したいとも思ってますが、100万%巻き込むことになるので断念しています。


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C3-5 期末試験・前編


 多くのヒロアカ二次作者が悩むだろう箇所その……幾つ目ぐらいだろう?



 

《―――さあ、何が何でも補習を回避するべく勉強するわよ、歩》

「手のひらがえ……ってはいないけど、突然何が!?」

 

 わたしが何とかして宥めすかそうとしていた『干渉』が突如意見を翻したのは翌日のこと。

 

《……一晩冷静に考えて気が付いたのよ。ヒーロー科に対して楽しむだけの合宿を企画するわけがない。敷地内では出来ない鍛錬をさせるつもりだとすれば……成績不振者をこそ置いていくはずがないってことに》

「な、成程?」

 

《とはいえ体育祭のレクリエーション然り、学生が楽しむ機会を何でも取り上げるわけじゃない。林間合宿にも自由時間の類はおそらく確保してある……補習として削られるとすればそこよ》

「……なるほど」

 

 その分析内容は相変わらずわたしに疑問の余地を挟ませない見事な論法で。

 

 

《つまり歩が赤点を取ると……私がお茶子さんと合宿を楽しめる時間だけが減る》

「なーるほどぉ」

 

 

 重々しい口調から話はすごいところに着地した。

 ……わたしが言うことじゃないですけど、『干渉』ったらお茶子ちゃんのこと好き過ぎません?

 わたしが気絶していた間の体育祭に、いったい何があったんだろう?

 

《……と、いうわけでこの週末は勉強会よ。お茶子さんと一緒に》

「そろそろかな? 呼ばれて来ましたお茶子ですー」

「お茶子ちゃん!? 呼ばれたって……ええっ、いつの間に!?」

 

《昨日眠った歩の手を使ってちょいちょいとメールを》

「道理で昨夜寝苦しいと思ったら!」

「……何となく会話予想して言うけど、それは気付こうよ、歩ちゃん」

 

 携帯を調べたら書いた覚えのないメールがしっかり送信されていた。

 その文面だけでも『干渉』からだと分かった、というお茶子ちゃんの言葉にやたらと機嫌良くなった『彼女』に扱かれる形で休日は過ぎていくのだった。

 

「……なんか、ごめんなさい、お茶子ちゃん。付き合わせちゃって……」

「いやあ、私も下から数えた方が早いし……家におっても寝るだけやし。節約の為に」

 

「せつやく」

「起きとるからお金かかんねやで」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 そうして迎えた筆記試験―――()()

 

(……どう、でした?)

《……私が途中で口出ししなかった時点で察しなさいな》

 

 上鳴さんや芦戸さんなど、八百万さんの家で勉強会をしていたという面々が歓声を上げる中で、わたしは『干渉』の一言に強く拳を握った。

 

「……歩ちゃん、どないやった……あっ!」

「はい。少なくとも赤点はナイです!」

《以前の成績からガクっと落としてることに先生方は驚くでしょうけどね》

 

 握った拳を顔の前まで持ってきて親指を立てる。

 わたしに悲壮感が無かったからか、お茶子ちゃんもにっこり笑って拳を上げてくれた。

 

《今までどんなに無理に勉強させても振るわなかったのに……あなたも現金よねえ》

(今回に限っては『干渉』も人のこと言えないのでは?)

 

 

「―――後は実技の演習試験! ロボにブッパして終わりだ!」

 

 

 笑顔で万歳する上鳴さんの言葉で、そういえばまだ試験は終わってなかったなと思い出す。

 筆記の後に予定されているのは、詳細不明の演習試験。いつしか入試や体育祭で出てきたような対ロボットの実戦演習だという話が流れてきていたものだ。

 

 話の元はデクさんを始めとした数人のクラスメイト……がB組のとある生徒から聞いたそうで。

 ではそのB組生徒はどこから? の答えは現在二年生の先輩からとのこと。

 それなら確かに信憑性は《今年からカリキュラムが変わってなければ》……高い、はず。

 

 

 ……余計な一言を挟まれたせいで急に不安になってきた。

 折角どうにか筆記を乗り越えたんですから、これ以上の試練は勘弁してもらえません?

 

 

 

 

「―――残念! 諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!」

 

《知ってた》

(……そんな気はしてました)

 

 演習試験の場として集められたそこに、ずらりと集合していた教師陣を見て一度目の看取。

 そしてその中で先頭に立つ相澤先生の捕縛布を巻いた首元から飛び出した、小柄な人間サイズの白ネズミ―――根津校長の宣言で確定。

 笑顔のままピシリと固まった芦戸さん、上鳴さんほどではないけれど、人生ままならないなあと気持ちの上ではその二人に同調した。

 

 そうして伝えられた試験内容は、クラスメイトの誰かと二人一組(チームアップ)の上で、現役プロヒーローたる先生方との戦闘……格上(ヴィラン)との遭遇戦を想定したものとのこと。

 

「―――尚、ペアの組と対戦する教師と既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度……諸々を噛ませて独断で組ませてもらったから発表してくぞ」

 

(……う)

《敵だけじゃなく仲間についても、その場で偶然出会ったという想定なのね》

 

 ちらっと横に向けた視線がお茶子ちゃんと重なった。

 わたし達の"個性"相性(シナジー)について相澤先生は特に把握済みの筈。組ませてもらえるとは思えない。

 『彼女』に聞くまでもなくそう考えたわたしの考えは、それでもまだ甘かったようで。

 

 目に見えた強"個性"を持つ轟さん、八百万さんの相手に、"個性"を『抹消』する相澤先生。

 デクさん、爆豪さんというミスマッチ極まる組に、無慈悲にぶつけられるオールマイト先生。

 音や声に関する"個性"を持つ耳郎さん、口田さんに対し、その全てを掻き消しかねない大音量を武器にするプレゼントマイク先生―――と、ここまでくれば傾向は分かってくる。

 

《弱みを突いてくる組み合わせ、か。さてさて歩の相手は誰かしら》

(そんな暢気なぁ……)

 

《試験である以上、勝ち筋を全く潰されはしないわ。頭回しなさい》

(うぅ……)

 

 そんなわたし達だけのやり取りの中、発表されたペア相手はやはりこれまで授業その他で一度も組んだことのない人物、切島さん。

 そして対戦相手は、明らかに"干渉"不能でありかつ空を行くわたしを捕えられるだろう"個性"の持ち主、13号先生だった。

 

「よろしくな、干河! ……けど、13号先生かぁ……」

《切島さんへの課題は、防御不能な"個性"への対応かしらね》

「どれだけ『硬く』ても『ブラックホール』は防げませんよね……が、頑張りましょう?」

 

 ペアになった切島さんに挨拶しつつ、お茶子ちゃんに目を向ければ相方は常闇さんで対戦相手はエクトプラズム先生らしい。

 多分あちらは近接戦闘への対応を課題に固められたんだろう。

 二人が職場体験で近接対応の技、体術を学んできたことまでは先生方も詳しくないだろうし。

 

「……だよなあ、流石に漢らしく突貫ってわけにいかねーよな」

「でも試験なんですから、想定された勝ち筋はあるはずです。何とか考えましょう?」

 

「おっ、そうだよな! 頼りにしてるぜ、体育祭1位!」

「んぐっ……そ、そーですねぇ……」

 

 ……この前ようやく体育祭での『干渉』の活躍振りをお茶子ちゃんから聞いたけれど、わたしがとんでもない知将にされていることが判明した。

 となれば自他共に認める脳筋思考の切島さんから、期待と信頼を向けられるのは当然なわけで。

 

 …………いざとなれば『彼女』も力を貸してくれるだろう。今回もそうする理由はあるし。

 けれどやっと、ようやく、筆記試験まではわたしの実力で乗り切れたんだ。

 ここまで来たならこの期末試験、わたしだけの力で乗り越えたい。いや、乗り越えなくちゃ。

 

《…………ふぅん、まあ頑張りなさいな》

 

 

「試験の概要については各々の対戦相手から説明される。移動は学内バスだ。時間がもったいない速やかに乗れ」

 

 その指示を受け、二人一組+対戦する教師の三人ずつ10台のバスに分かれて乗り込む。

 わたし達を乗せたバスが着いた場所はドーム状の建物―――いつかのウソ(U)災害(S)事故(J)ルームを思い起こさせる、各種災害や事故現場を再現した小型演習場だった。

 

「今回は極めて実戦に近い状況での試験。僕らを敵そのものだと考えて下さい」

 

 そんな前置きを皮切りに、試験の詳しい内容が13号先生の口から語られる。

 流石にというべきか本気の戦闘というわけではなく、体重の半分だという重りを両手足に嵌めて身体能力を落とした先生が相手となるそうだ。

 

 また勝利条件は、相手の身体のどこかに確保証明のハンドカフスを装着する、もしくは割り当てられたステージに一つ設置された脱出口(ゲート)を潜ることのどちらか。

 試験時間は30分。戦闘か、逃走か。判断は受験者であるわたし達に委ねられているという。

 

 

「わたし達はステージ中央スタート。ゲートは舞台の端にあるわけですから、先生が居るのは当然その方向ですよね」

《そうじゃなければ横や後ろに逃げて即逃走成功だものね》

「絶対一回は戦わなきゃなんねえってことか……13号の『ブラックホール』って干河の"個性"で何とかならねえのか?」

 

「それそのものへは無理だと思いますし、引力も反射減速は可能ですけど、わたしに扱える以上の力で引かれたらアウトです。つまり一定距離未満にまで近付かなければ逃げられるでしょうけど、それではゲートにも本人にも決して近付けません」

《さながら『事象の地平線』ね。歩は光じゃないし、先生のそれも本物のブラックホールとは違うでしょうけど》

「……つまり真っ向勝負はムリ! ってことだよな?」

 

「そうですね……逃げるにも戦うにも、何とか気を逸らして接近しないことには何とも……」

「気を逸らしてか……漢らしくねえなあ」

《ブラックホールに生身で飛び込むのは漢らしい通り越して単なるバカよ?》

 

 

『―――皆、位置についたね。それじゃあ今から雄英高1年期末テストを始めるよ!』

 

 

「「えっ」」

《作戦タイムとか設けないのね……ああ、突発的な会敵仮定だっけ》

 

 何とか突破口を見出そうと相談するわたし達を嘲笑わんと響いた声の主はリカバリーガール。

 わたわたと慌てるわたし達など知らぬとばかりに、開始の合図は無情に伝えられる。

 

 

レディイイ(Ready)―――ゴォ(Go)!!』

 





 麗日さん式節約術、『寝る』『(暑さを)耐える』『食べない』。
 いずれも単行本で確認出来る公式設定です。花の女子高生ぃ……


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C3-6 期末試験・後編


 歩ちゃんの演習試験相手について

 ・オールマイト・イレイザーヘッド:原作の組み合わせ以外有り得ない。
 ・根津校長:重機? 非生物ですね。
 ・エクトプラズム:実体化した『エクトプラズム』は生物判定じゃないよなあ……
 ・パワーローダー:地形を凸凹に……? はい飛行技。
 ・プレゼントマイク・スナイプ他:【反射】がチート過ぎて相手出来ない。

 ・セメントス:候補その一。コンクリ波は大質量過ぎて操り切れないという展開を考えていた。
 ・13号:本採用。ただし原作リカバリーガールの台詞的にペア相手変更の必要あり。



 

「―――あなたの"個性"相手だとこうなりますか」

「……はい。わたしに掛かる引力もまた【反射】の対象内ですからっ!」

 

 大方の予想通り、やけに華々しく装飾されたゲートを塞ぐように立っている13号先生を発見。

 向けられたブラックホールの吸引力と重力によって体に掛かる速度変化をまとめて【反射】し、高速飛行で一旦離脱。

 ゲートと先生を見下ろす形で、その視界の前に滞空する。

 

「……予想はしてましたけど、反射角度を調整して脇をすり抜けるというのは難しそうですね」

「そう簡単に逃がしてはあげられませんよ。僕は捕り物には一家言あるんです―――そして」

 

 わたしに向けた手と反対の方向へ、空いたもう片方の腕を伸ばした13号先生。

 その指から発生した二つ目の『ブラックホール』が、()()()()()()()をチリに変えた。

 

「山岳地帯の岩石……切島君が砕いて供給しているんですね。勿論そちらも見えてますよ?」

「むむ……吸引力の変わらない唯一つの"個性"……」

《言いたいだけでしょ、それ》

 

 わたしへの圧力と警戒を続ける片手間に、断続的に飛来する岩石を対処していく"個性"捌き。

 幾つかの岩石には屈折、加減速を駆使して懐へ潜り込ませようとしてみるけれど、やはり見事な反応でチリに変えられてしまう。

 

「おっとと……ふむふむ、良い操作精度です。僕の"個性"に対し安全を確保しつつ攻撃可能なことも含め、君の"個性"は応用性が素晴らしい。次の課題は同時操作数の増加ですね」

「そればかりは伸び悩んでまして……先生こそもうちょっと隙を作ってくれてもいいんですよ?」

 

 岩石の突撃を一旦止め、数が揃うのを待つ。

 その間に攻撃してくるかと身構えていたけれど、あちらもわたしの吶喊に備えてか動きは無し。

 

「……おや、岩の供給が止まりましたね?」

「あちらの山岳地帯で大きな岩を幾つか対象化しておいて、切島さんに砕いてもらっていたので。どうやらそろそろ砕き終えてしまったみたいですね」

 

「……試験とはいえ、そう律儀に作戦を話す必要はないんですよ? 何より今は対(ヴィラン)を想定しているのですから敵前で策を―――アッ、もしかして僕の影響ですか!?」

「え? あ、いえ、それも踏まえた作戦ですのでお気になさらず……」

 

 宇宙服じみたコスチュームの向こうで一瞬ショックを受けたように固まる13号先生に、慌てて無関係ですと言い繕う。《まさかの精神攻撃》……そんなつもりじゃありません。

 

 ……気を取り直し、傍らに揃えた四つの岩塊をそれぞれタイミングをズラして飛び込ませる。

 今度は簡単にチリにされないよう、吸引されかけた岩は【反射】による離脱も視野にして。

 

「【加速】、【反射】、【反射】【反射】【加速】【反射】【減速】【加速】……うぐぐぅ」

「こ、これはなかなか……おっと?」

 

「あっ……」

「……成程。一定ラインを越えると逃げられなくなるんですね」

 

 13号先生に近付かせ過ぎた岩石が一つ、吸引力を【反射】しきれなくなって じりじりと後退、やがてチリになって消滅した。

 操作数が一つ減って走り始めた頭痛は治まったけれど、状況的に良くはない。

 

 

『―――報告だよ。条件達成最初のチームは、轟・八百万チーム!』

 

「こんな放送あるんですね!?」

「……ふむ。あと20分ほどですが、このまま岩投げを続けますか?」

 

 リカバリーガールの声で響いた宣言で、同課題を突破したクラスメイトの存在を知る。

 そこに関しては競うわけではないとはいえ、否が応にも残り時間が思考に入り込んだ。

 

《…………》

(……いえ、まだです)

 

 言葉は無く、それでも伝わってくる『彼女』の感情に否の意思を示す。

 わたしだって、考えなしに挑んでるわけじゃない。ここまでは()()()()なのだから。

 

「……13号先生。コレ、何だか分かりますよね?」

「捕獲証明のカフス……君ならソレ単体を嗾けることも可能ですか」

 

「吸われないギリギリのラインは把握出来ました。……後は根競べですよ、先生!」

「良いでしょう。君の意気を見せて下さい!」

 

 残った三つの岩石と、一つのカフスに空を舞わせる。

 やはりというべきか、他に比べてカフスに対する警戒が一段強い。

 元々近付けることが困難だったそれが、更なる鉄壁へと変化……けれど、()()()()()

 

 

「行きますよ―――切島さん!!」

「―――ウオオォォーーッ!!」

 

「……はぁッ!?」

 

 突如、()()()()()()飛び込んできた切島さんに、13号先生の素っ頓狂な声が聞こえた。

 その右手には配布されたカフスが、そして左手には『金属の羽根』が握り締められている。

 

 ―――職場体験後、ホークスさんの『剛翼』に着想を得てサポート会社に要望を出した新装備。

 靴に使っていた金属で作られた、人間を運べる強靭で軽い羽根、その名も『銀翼(シルバーフェザー)』。

 普段は靴の両側面に収納する形で計四枚を携帯……蹴撃用に考えていた靴がそれだけ薄くなったけれど、結局近付かれないように立ち回る方が向いているし、そこは最低限で構わない。

 

 ただし本来は数枚を使って運ぶ対象を『乗せる』形で使うモノであって、『掴んで移動』なんて想定されていない。

 鋭利ではなくとも、高速で動く薄い金属の板を掴んだりしたら裂傷を負ってもおかしくないし、身体を引き回されながらそれを握り続けるなんて並みの根性で出来ることじゃない。

 

「相方が切島さんで良かったです!」

「こっちこそだぜ、干河ぁっ!!」

 

 握られた手から、引っ張られる肩から、ギシギシギリギリと軋み音を響かせ飛行する切島さん。

 全身を『硬化』出来る彼だからこそ、無茶な軌道変化にも耐えて『銀翼』を握り続けていられる彼だからこそ成立する高速軌道。

 

「高速移動手段を持たない、どころか山岳地帯で岩を供給していた筈の切島さんが飛び込んでくるとは思いませんよね、13号先生!」

「……! 敵前での饒舌さはそういう……っ」

 

 13号先生の"個性"が向けられ、当然わたしも切島さんを危機から遠ざけるべく【反射】。

 それと同時にわたしのカフスを先生に向かって【加速】。

 先生の意識がそちらに向いたところで、『銀翼』を通じて切島さんに合図を送る。

 

「……っしゃ! 今だな!? オラァっ!!」

「なっ、カフスを!?」

 

 切島さんがカフスを13号先生の右手側から投げ付ける。当然これも"個性"の対象化済み。

 そして、わたしが突撃させたカフスは先生の左手側。

 吸われず、かつ離脱出来ない速度を与え、二つのカフスを同時に先生の眼前に滞空させる。

 

「ああ……これは……時間が足りないなあ」

「ええ、先生なら二つとも片手で対処して手を空けることも出来ますよね……時間があれば」

 

 13号先生は"個性"を両手の指から発生させている。

 両手指それぞれの吸引力、範囲を調整して隙を作らないように岩石群には対処していたけれど、一定以上離れた二点から同時に迫れば両手を使わせられるというのは既に分かっていた。

 

 問題は先生に近くなってしまえば、片手で対処出来る範囲に収まってしまうということ。

 だからこそタイミングをズラして吶喊させたり、【反射】でフェイントを掛けたりと試していたものの、攻撃を届かせることは出来なかった。

 

 時間いっぱいまでこれを続けて勝機を探るという手もなくはなかったかもしれないけれど、既に許容限界の頭痛が始まっていたわたしに、そう悠長に仕掛けていられる余裕はない。

 

「その隙は攻撃が届く程ではないですけれど……脇を潜り抜けるには十分です!」

「……っ、ああ、やっぱりダメか」

 

 カフスへの対処を片手に切り換え、空いた手をすかさず背後に回して吸引。

 ……けれど吸い込めるラインを離れている以上、その引力は脱出ゲートへと向かう切島さんへの追い風にしかならない。

 

 

『―――おっと報告。切島・干河チーム、条件達成!』

 

 

「オッシャオラアアァッ!!」

「……いい雄叫びだねえ」

「切島さーん、『銀翼』歪んじゃうから返してくださーい」

 

 

 

 

「―――干河さん!? 切島くんも!」

 

「わぁ、見慣れた光景」

「干河の言う通りだったなー」

 

 試験会場近くに設置された『リカバリーガール出張診療所』……と銘打たれたプレハブの中。

 校舎に戻る途中で聞こえてきたデクさん達チームの達成報告からもしやと思って訪れてみれば、案の定満身創痍でベッドにうつ伏せになっているデクさんの姿があった。

 

「まあ、お前んとこオールマイト相手で、しかも相方爆発さん太郎(爆豪)だろ? よく達成出来たよな」

「……でも今までみたいに手足を壊したわけじゃないですね。今回はどの辺りを?」

「今回はこの子のせいじゃないさ。オールマイトがやり過ぎたんだよ」

《あらまあ》

 

 話を聞くと、デクさんは腰に結構ギリギリな一撃を貰い、爆豪さんも気を失ったまま先程校舎のベッドに運ばれていったとのこと。

 入れ違いかあ、という切島さんの呟きを聞きつつ、プレハブの中を見回して、ソレに気付く。

 

「あ……ここから試験の様子を見てたんですね」

「うおっ!? モニターの数すげえ……!」

「あんたらも見たいのかい? まあ、怪我人が少ない内なら構わないがね」

「……いや、干河さんの場合、多分みんなを見たいというよりは……」

 

 デクさんの苦笑いを背中に聞きつつ、大量のモニターを見渡して目的の姿を探す。

 見付けたと思った次の瞬間、カメラの視界一杯に巨大な顔が映った。

 

 

『―――【強制収容ジャイアントバイツ】』

 

 

「ひえっ!?」

「エクトプラズム先生の"個性"『分身』! 口から吐いたエクトプラズムを実体化して三十以上の分身を出す"個性"だけど、それを一つにまとめた必殺技だ!」

《相変わらず流石ね、緑谷さん》

 

 お茶子ちゃん、常闇さんの二人を呑み込むような勢いで迫る、デクさん曰くの巨大な『分身』。

 咄嗟に天井まで跳び上がったお茶子ちゃんは逃げきれたけれど、『黒影』を纏う技からでは即座に飛行は出来ない常闇さんは、巨大分身の影になる形で見えなくなってしまった。

 

『何たる万能"個性"』

『俺もダヨ』

 

 すぐに分身の背中側、表面に手足を拘束される形で浮かび上がる常闇さん、および『黒影』。

 あの状態でも『黒影』だけは動けるようだけれど、彼自身はもう身動き取れないだろう。

 

『すまん、麗日!』

『大丈夫や、常闇くん! 引っ張れェ!!』

 

 そう思っていた矢先、天井から降りて来たお茶子ちゃんが巨大分身の頭に五指を押し当てた。

 次の瞬間、『黒影』の飛び出す勢いに引かれるように、巨大分身が丸ごと浮かび上がる。

 

『……コレデハ逆効果カ』

『っ!? 解除される! 今や!』

『【深淵闇駆】ッ!』

 

 自分に向け倒れかかってくる巨大分身を堪らず解除した先生に、その隙を突かんと二人掛かりで攻めに回るお茶子ちゃん達。

 両脚義足とは思えない体捌きで応戦するも、大技後の隙かつ二対一の上に重りを嵌めた状態では流石に抑えきれなかったらしく、最後には義足をお茶子ちゃんが触れたことで勝負は決まった。

 

「やったー、お茶子ちゃん!」

「放送入れるから黙ってるんだよ? ……『麗日・常闇チーム条件達成!』」

 

 モニター越しに常闇さんと喜び合うお茶子ちゃんの姿が見える。

 エクトプラズム先生にも何かしら労いの言葉を掛けられているらしく、揃って晴れやかな表情でステージを後にしていた。

 

 

 

 

「……あの分なら二人とも治療に来る必要は無さそうだね」

「あ、じゃあ、わたし校舎に帰りますね」

「「わっかりやすいな本当に」」

 





 13号本採用の最大の理由:ポジション青山として台詞消化。……冗談ですよ?
 新装備により左右の靴から一対二翼の羽根が生えた見た目になってます。タラリアかな?

 歩ちゃんの存在で組み合わせが変わった組があと一つありますが、そちらの顛末は追々。
 麗日さんのところと違って歩ちゃんが興味持ってくれないからね。仕方ないね。


 私事ですがハーメルンの掲示板形式タグというものに触れてみました。
 意外と簡単に書けるようなので、ヒロアカ二次では定番になりつつある体育祭掲示板回というのも折を見て投入してみようかなと思っています。


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C3-7 試験の後で


 Q. 【ジャイアントバイツ】に『無重力』効くの?
 A. 本作内では効くということで。また重さも不明ですが、エクトプラズムの体重を×30したとして『無重力』の許容重量(3t)は恐らく越えないだろう、という判断からキラキラ(婉曲表現)も無しとしました。

 ※歩ちゃん父親の名前が何だか意図しない被害をもたらしているようなので、次話更新までに特に反対意見が無いようなら改名しておこうと思います。ミーム汚染を甘く見てたんよ。
(2022/11/24 13:15追記)

 ※歩ちゃん父親の名前を改名しました。(2022/11/25 2:20追記)


 

「―――皆……土産話っひぐ、楽しみに……うう、してるっ……がら!」

「まっ、まだわかんないよ。どんでん返しがあるかもしれないよ……!」

「緑谷、それ口にしたらなくなるパターンだ……」

 

「試験で赤点取ったら林間合宿行けずに補習地獄! そして俺らは実技クリアならず! これでまだわからんのなら貴様らの偏差値は猿以下だ!!」

 

 

「《うわぁ》」

「ドン引きするのはやめたりぃや、歩ちゃん……気持ちは分かるけど」

 

 期末試験翌日、悲壮という言葉を絵にしたような風情で立ち尽くす芦戸さんと上鳴さん。

 宥めに行ったデクさんに、八つ当たりとも何とも形容しがたい勢いでまくし立てる姿に、思わず漏れた声が何だか久し振りに『干渉』と揃った。

 

「わかんねえのは俺もさ。峰田のおかげでクリアはしたけど寝てただけだ」

「おいやめろよ……早々にダウンして梅雨ちゃんの足引っ張りまくった俺まで不安になるだろ」

 

 そう言って間に入る瀬呂さんと、降って湧いた矛先に怯える砂藤さん。

 ……いやに得意気なブドウ(峰田)が視界に入った。瀬呂さん、いったい何が。

 

「……ほんまに『干渉』さんの言ってた通り皆で合宿行けるんやろか。いや、確かに聞いたらその通りやなあとは思ったけど」

《どちらにせよ今の彼らには言えないけどね。万が一ぬか喜びになったら流石に可哀想過ぎるわ》

「……確定するまでは黙っていましょう。多分すぐに相澤先生が―――」

 

 

「予鈴が鳴ったら席につけ」

 

 

 中の騒ぎを聞いていたのか、勢い良く音を立てて扉を開けた相澤先生。

 クラス全員が速やかに着席し、シー……ンと静まり返った教室に淡々とした声が響く。

 

「おはよう、今回の期末テストだが……残念ながら赤点が出た。したがって……」

 

 上鳴さん、芦戸さん共にわたしの席から表情は見えず、しかし後ろ姿から既に諦め切った哀愁が滲み出ている。

 けれど次に続いた言葉は彼らにとっては予想外の、わたし達にとっては想定通りの知らせで。

 

 

「―――林間合宿は全員行きます」

 

「どんでんがえしだあ!」

 

 

 即座に涙ながらに叫んだ芦戸さんに、まだ何が起きたか分かっていない様子の上鳴さん。

 そんな様子を斟酌する気配もなく、相澤先生の宣告は続く。

 

「筆記の方はゼロ。実技で芦戸・上鳴、あと瀬呂と砂藤が赤点だ」

 

「……確かにクリアしたら合格とは言ってなかったもんな……」

「……クリア出来ずの二人よりキチぃぞコレ……」

 

 望外の朗報に喜び合う二人と対称的に、身構えていなかった凶報に沈む二人。

 四人の置かれた立場は同じはずなのに、その顔が明暗に分かれているのは不思議なものだ。

 

 相澤先生がその後説明したのは、試験を通して個々人に突き付けた課題について。

 また、まさに『干渉』の見立て通り、ここで赤点を取った者こそ林間合宿という名の強化の場で鍛え上げなければならないとのこと。

 

「―――合理的虚偽ってやつさ」

「「「ゴーリテキキョギィイー!!」」」

 

 と、いつものフレーズが飛び出した。

 その後、浮かれる面々に対してこれまた『彼女』の推測通り、合宿内の時間を削った補習地獄の存在を仄めかして相澤先生は締め括る。

 歓喜の姿勢のまま顔だけ青白く固まった彼らに、わたしは悪いと思いつつも笑いを堪えていた。

 

 

「―――まぁ何はともあれ、全員で行けて良かったね」

「一週間の強化合宿か!」

「けっこうな大荷物になるね」

「水着とか持ってねーや。色々買わねえとなあ」

「暗視ゴーグル」

「何に使う気だ、そこのブドウ」

「遂にブドウ呼びに……」

「意外と歩ちゃんの方が厳しいねんよな」

《まあ、どうせ私の身体じゃないし?》

「干河が反応してくれるからウチらまで言う必要が無いというか」

「あ、じゃあさ! 明日休みだしテスト明けだし……ってことでA組みんなで買い物行こうよ!」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――ってな感じでやってきました! 県内最多店舗数を誇る、ナウでヤングな最先端! 『木椰区ショッピングモール』!」

《どこ目線なの、その解説》

 

 翌日、集まったクラスメイトは爆豪さんと轟さんを除いた18名。

 そんなわたし達を迎えるのは、盛況なショッピングモールのそこかしこから飛ぶ無数の視線。

 

「……お!? アレ雄英生じゃん!? 1年!?」

「体育祭ウェーイ!!」

 

「うおお、まだ覚えてる人いるんだぁ……!」

「いつにも増して注目されますね」

《一人二人ならともかく、全国放送にも出ていた顔がこれだけ並んでいれば気付かれるわよね》

 

 この注目度からして固まって動くのは難しいということや、それぞれ意外と目的がバラけていることなどから、誰かの呟きで自然と数人毎に分かれて行動することに決まる。

 目的別に分かれようとする流れの中で、ふとした気付きがわたしの視界に映った。

 

「とりあえずウチ大きめのキャリーバッグ買わなきゃ」

「あら、では一緒に回りましょうか」

「……わたしもそちらに参加して良いですか?」

 

「っ! 干河、さん」

「え、干河? あれ麗日と一緒じゃなくて良いの?」

「ふふ、それがですね」

 

 驚く耳郎さん、八百万さんに見えるようにそちらを指差す。

 そこにはグループを作り終えたクラスメイト達の中で、あぶれたような形になった二人の姿。

 

 

「……皆、行動早いな」

「そ、そやね……」

 

 

「ああ、成程……麗日めっちゃ干河のこと見てるけど?」

「同じだけデクさんにも意識が向いてますよ。がんばれー、お茶子ちゃーん」

《歩にしては珍しい気の回し方ねえ》

 

 小声で送った応援(エール)に困ったように眉を下げながらも、傍らのデクさんに話しかけられ、何気なく返答しようとした途中で頬を紅潮させるお茶子ちゃん。

 一体そこからどんな思考に至ったのか、突然「虫よけーー!」と叫んで走り去ってしまう。

 ……必死に笑いを堪えたものの、その場に残されたデクさんが「虫!?」と叫んで自身を指差す姿に、わたしはトドメを刺された。

 

「っ! ……っ! あ、あれでつつくと毎度そんなんじゃない、って否定するんですよ……っ」

「き、気持ちは分かるけど笑い過ぎでしょ。いや本当分かるけど……っ」

 

 笑ってはいけないと思うほど沸点が下がるとはよくいったもので。

 わたしは耳郎さんと一緒に暫く含み笑いを喉奥に収めることに奮闘する。

 

「ふう……お茶子ちゃんのことですから、そのうち置き去りにしてしまったデクさんを気にして戻ってくるはずです。気にせずに、いえ()()()()()行くとしましょう、耳郎さん、八百万さん」

「あんたもイイ性格してるよ。そうしよっか、八百万」

「……ええ、そうですわね」

 

 

 

 

「―――そういえば干河は緑谷に対してそういうの無いの?」

「わたしですか?」

 

 見付けた旅行鞄を取り扱う店舗で陳列された商品を眺めること十数分。

 幾つかを手に取り、使い心地を確かめていた耳郎さんが不意にそんな話題を振ってくる。

 

「ほら入学したての頃、何か放課後呼びだされてたじゃん?」

「ああ、あれは色々と相談に乗ってただけですよ。……彼の"個性"のことで」

 

「…………ああ、そっかあいつ初めは……そういうことだったんだ、アレ」

 

 お茶子ちゃんから『彼女』の事や、わたしとの関係も聞いたらしい耳郎さんが頻りに納得の声を上げる。……この様子なら【面会(ディグアウト)】についても説明済みだろう。

 

「自分ガンガンぶっ壊す"個性"だもんね……ヤバかったの?」

「……想像以上に想像以上でしたよ。何とか話し合いにはなりましたけど」

 

 その『想像以上』の中身についてはお茶子ちゃんにしたのと同じ説明で誤魔化す。

 ここに関してはデクさんと、それから八木さんとの約束なので詳しくは話せない。

 

「……ですので、デクさんに対してお茶子ちゃんみたいな感情は持ち合わせてないですよ。それにわたしはこう見えても理想は結構高いので!」

「ほほう? 具体的には?」

 

「……やっぱり理想は両親のような関係になりますよね。乙女としては」

「あ、あー……うん、分かる」

 

 何かを思い出すように明後日の方向に目を向け、耳先をつんつん合わせる耳郎さん。

 ……手は商品のキャリーバッグを持ったままで。便利だなあ『イヤホンジャック』。

 

「ウチの両親は業界が縁で知り合ったらしいんだけど、もう本当にノリが同じというか、あんたら元他人のはずだよね? って言いたくなる感じでさぁ……」

「わたしもお父様に寄り添うお母様の姿を見ていると、するならこういう恋愛をしてみたいなぁと常々思って―――」

 

 

「お待ち、ください……干河さん」

 

 

「……八百万?」

「…………」

 

 ……聞こえてきたのは、迷いに迷ったという声音を含んだ八百万さんの声。

 その様子に目を白黒させる耳郎さんを余所に、彼女はわたしに問いかけを続ける。

 

「干河さんのお母様というのは、『干河心美(ここみ)』さんで間違いありませんか?」

「……八百万さんの御実家とは縁があったようですね」

 

「っ、やはり……体育祭で干河さんを見た両親が、()()()()()()()()()()()()()からと私に教えてくださりましたの」

《……ああ、歩があんまり普通に話題に出したものだから驚いたのね》

「し、知らずにって……どういう……?」

 

 見つめ合うわたし達の間に挟まれてオロオロする耳郎さんを一度見遣った八百万さんが、今度は目線でわたしに問いかける。

 彼女への説明の許可だろうと『彼女』に言われ、わたしにとっては隠すことでもないので首肯を返した。

 

 

「干河さんのお父様……『干河増太(そうた)』さんは、既に十年以上の昏睡状態にあると聞いていますわ。その原因は凶悪な(ヴィラン)に誘拐されたせいだとも」

 





 遂に歩ちゃん両親の名前が出せました。
 細かな設定も用意してはいますが、作中に出せるのはもう少し先かなあ。

 ゆるーくコイバナ振ったら突如始まった激重会話。
 耳郎ちゃんこんな役目ばっかだなあ? 何でだろうなー?


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C3-8 林間合宿開始


 ※前話にて歩ちゃん父親の名前を変更いたしました。
 あと作者は某国民的アニメがちょっぴり嫌いになりました。



 

 ―――(ヴィラン)連合首魁とされる死柄木弔、木椰区ショッピングモールに出没。

 

 偶然に遭遇したデクさん、お茶子ちゃんの通報により、ショッピングモールは一時閉鎖。

 ショッピングに興じていたわたし達は、動揺冷めやらぬまま急遽解散の運びとなった。

 

 その翌日、登校したわたし達を待っていたのは、一昨日周知された合宿開催地の変更。

 更に情報が漏れる可能性を危ぶみ、実際の開催地は当日まで明かさないという通達だった。

 

 

「―――と、いうわけです。お母様」

『それは……そういうことなら仕方ないわね』

 

 その日の夜、わたしは先日伝えていた情報が変更されたことをお母様に電話していた。

 聞けばお茶子ちゃんも同様の連絡をご両親にしていたそうなので、どれだけの人間が開催地を知っていたか把握出来ないという学校側の理屈も頷くしかない。

 

「開催地に着いた後なら連絡出来ると思います。携帯を取り上げられるわけではないようなので」

《生徒と親が互いの声を聞くことまで禁止するとなるとPTAその他とも事を構えることになるし、幾ら何でも強制は出来ないでしょうね》

『……分かったわ。あなたが旅先から元気な声を聞かせてくれるのを待つことにするわね』

 

《雄英の方針を考えるに、元気が残るかは怪しいところだけど》

「……そのとき元気かどうかは分かりませんけど、頑張ります」

 

 まるで『彼女』の補足が聞こえていたかのように、お母様の小さな笑い声が電話越しに届く。

 ……補習地獄は免れたのだからマシだと思いたいけれど、かといって余裕を残してもらえるとも考えにくいからなあ。

 

 

「…………お母様。お父様のお加減は、その後お変わりありませんか?」

『……何かあったの、歩?』

 

「その……クラスメイトの八百万さんから、先日話題に出されたもので」

『八百万……成程ね』

 

 電話の向こうから伝わってくるのは、深い沈黙。

 その奇妙な間隙の中、わたしの脳裏にはベッドに横たわるお父様の姿が過っていた。

 

 ―――あの日、お父様がながい眠りに就かれたのは、敵の手から救い出された直後のこと。

 帰ってきたお父様は、わたしを見て小さく笑ったのを最後に糸が切れたように意識を手放して、それきり目を覚ましてくれていない。

 

 敵に誘拐、監禁されている間にお父様が何をされていたのか、当時幼かったわたしに詳しい事は誰も教えてはくれなかった。

 身体に目立った外傷は無く、心因性の昏睡状態なのだと、随分後になって知らされた限り。

 

『……寂しい?』

「……時折、少し」

 

 日々、お忙しくされていたお父様に、わたしが笑いかけてもらった記憶はあれが最初で最後。

 それを幸いと言っていいかはさておき、わたしの抱く喪失感は実のところそれほどではない。

 お母様からはその分の愛情を注がれてきたと思っているし、わたしには片時も傍を離れることのない『相棒』も居てくれるから。

 

『全くあの人ったら寝坊助さんなんだから……ああ、でも今日は微かに反応してくれたのよ?』

「本当ですか!?」

 

『ええ、私の"呼び掛け"で極僅かだけれど瞼が動いたの』

 

 ―――お母様の"個性"『伝心』。

 指定した相手に己の嘘偽りない心を伝えられる"個性"。

 意識の無いお父様にこの"個性"を使い、お母様は十年間毎日欠かさず"呼び掛け"を続けている。

 

 わたしの【面会(ディグアウト)】でも一切の反応が拾えないお父様に『心』を『伝え』られる唯一の手段。

 "個性"使用の為、眠るお父様の手を握り寄り添って微笑むお母様の姿に、それが素晴らしい光景なのだと幼心に刻み付けてわたしは生きてきた。

 

『諦めなければきっといつか、目を覚ましてくれると信じているわ』

「お母様……」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ―――時は過ぎて、前期終了、夏休み期間へと突入。

 そして訪れた林間合宿当日。

 

 

「え!? A組補習いるの? つまり赤点取った人がいるってこと!? ええ!? おかしくない!? おかしくない!? A組はB組よりずっと優秀なハズなのにぃ!? あれれれれぇ!?」

 

 

 雄英の校門前に二台のバスが、A組とB組それぞれの移動用に用意されていた。

 そのため同じヒーロー科であるB組の面々とも久し振りに顔を合わせることに。

 そしてB組の集団から一人こちらに向かってきた男子生徒が居たかと思えば、開口一番凄まじい勢いで煽り倒してきたのだった。

 

 しかもそんな彼にこちらが反応する間もなく、同じくB組の中から歩み出てきた女子生徒が彼の首筋に手刀一閃、手慣れた様子で回収して去っていく。

 何より問題なのは、この一連の流れを気にしている人間が極端に少なかったことだろう。

 

《…………わぁお》

「なんてキャラの濃い……」

「何気にこれまで物間くんと縁が無かったんだね、干河さん」

「初めて見るとビビるよな」

「A組のバスはこっちだ。席順に並びたまえ!」

 

 

 乗り込んだバスが動き出した方向は山間道。

 まだまだ行先の予想は出来ないなと思いつつ、一時間後に一度止まる、という相澤先生の言葉を耳に入れておく。

 

「音楽流そうぜ! 夏っぽいの! チューブだチューブ!」

「ポッキーちょうだい」

「しりとりの『り』!」

「りそな銀行!」

「席は立つべからず! べからずなんだ皆!」

 

《……やけに脇道を使うわね。B組のバスも見えなくなったし、これは……》

「っ、そういえば……同じ場所に向かうはずでは……?」

「……『干渉』さんやね? 何かあるん?」

 

 皆が思い思いの姿勢で過ごしている非常にやかましいバス内の様相に、一度振り向いた相澤先生が辟易したように溜息を吐いた。

 わたしはと言えば、何だか不穏な調子でブツブツ呟く『彼女』にテンションを引き戻されつつ、隣に座るお茶子ちゃんと声を潜めて話し合う。

 

《進む方角がやたら変わるように道を選んでいた事といい……なるほどねえ》

「……よく分かりませんけど、すんなり合宿場所に着くとは考えてないみたいですよ」

「……雄英っていっつもそんな感じやなあ」

 

 

 果たして一時間後にバスが止められたのはパーキングエリアでも何でもなく、広がる山岳地帯を一望できる以外に何の変哲もない高台の上。

 嫌な予感をひしひしと感じ始めたわたし達の前に現れたのは、見慣れない三人分の人影。

 

「よーーう、イレイザー!」

「ご無沙汰してます」

 

 手足や頭に猫を思わせる装飾をあしらったコスチュームに身を包む二人の女性、おそらくプロヒーローコンビと、その二人からやや離れて佇む一人の少年。

 声を掛けられた相澤先生の反応で、少なくとも予定外の人物でないことは分かる。

 

 

「煌めく眼でロックオン!」

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」

 

 

「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」

「連名事務所を構える四名一チームのヒーロー集団ワイプシ! 山岳救助等を得意とするベテランチームだよ! キャリアはもう12年にもなる―――」

 

「心は18!!」

「へぶ」

 

「デクさん!?」

《毎度分かり易い解説ありがたいのだけど、年齢は地雷だったようね》

 

 見事な口上ポーズを決めた二人組に、すかさずデクさんの解説が入って素性が判明した。

 途中で片方の女性の猫っぽいグローブに顔を掴まれて黙らされてしまったけれど。

 

 突然のプロヒーロー登場に呆然とするわたし達に向け、もう片方の女性が説明する。

 ここら一帯、眼下にある山岳地帯丸ごと彼女らの私有地であること。

 わたし達の合宿中の宿泊地が、遥か遠くに見える山のふもとにあるということ。

 

 今は午前9時半、早ければ12時前後……という意味深な台詞に続けて、12時半までに辿り着けなければ昼食抜き―――

 

「……やっぱりそういう感じなんですね」

「ジタバタしてもあかんやつやなあ、コレ」

 

 泡を食ってバスに戻ろうとするクラスメイト達を横目に、わたしはお茶子ちゃんと頷き合う。

 デクさんを掴んでいた女性が今度は地面に手を付けたかと思えば、それを中心に周辺の土が盛り上がり始めた。

 大体何をされるか理解して一緒に相澤先生を仰ぎ見れば、少しだけ感心の色が窺える『視線』がわたしに向いている。

 

《まあ、歩に飛ばれたら面倒よね》

「……逃げませんよ?」

「理解が早いようで何よりだ。……わるいね諸君、合宿はもう始まってる」

 

 直後、バスをも呑み込まん勢いで吹き上がったのは土石流。

 三々五々に悲鳴を上げて放り込まれるクラスメイト達の中、心なしか丁重に高台下に広がる森へ落とされるわたし達。

 セメントス先生を思わせるとんでもない規模の"操作系個性"だけど、詳細についてはデクさんに聞けば分かるだろうか。

 

「私有地につき"個性"の使用は自由だよ! 今から三時間! 自分の足で施設までおいでませ! この……『魔獣の森』を抜けて!!」

 

「『魔獣の森』……!?」

「なんだそのドラ○エめいた名称は……」

《自分達が所有する土地とはいえ何て名前を付けてるのよ》

 

 尤も、その名前の由来はすぐに判明した。

 四足歩行で牙を生やしたまさしく『魔獣』……のように成形された土くれの塊が現れたからだ。

 即座に飛び掛かったデクさん、轟さん、爆豪さんの三人によって四散したが、土石流を操る先のヒーローの"個性"なら何度でも、何体でも嗾けられることだろう。

 

《それらの妨害を受けながら目印の無い森の中を突き進んで宿泊地まで、しかも制限時間有りか。雄英もいよいよフルスロットルねえ》

「雄英こういうの多過ぎだろ……」

「文句言ってもしゃあねえよ。行くっきゃねえ」

「そうですね。育ち盛りの高校生(わたし達)に一食抜けなんてあり得ません」

「えっ」

 

「《えっ?》」

「えっ?」

 

「……お茶子ちゃん?」

「まあ、その……たまに?」

《普通に健康に悪いわよ? 発育にも……あっ》

 

「…………」

「あ、歩ちゃん? えっと、急にどこ見て……」

「干河に麗日? あんたら何して……あっ」

 

「なんで……なんでそれでこんな格差……っ! 何で……!?」

「え、あ、その……ご、ごめん?」

「落ち着け干河! その気持ちウチには分かる! 分かるから!」

 

 

 

 

「……あ、あの、干河さんには空から偵察と進行方向の確認をしてもらいたいんですけど……」

「……今取り込み中みてえだから後にしようぜ、緑谷」

 





 ※この後すぐ正気に戻りました。

 原作上鳴くんの台詞からして、ヒロアカ世界ってド○クエあるんですね。
 ○トの勇者とか"個性"持ちだったりするんだろうか。
 モンスターのデザインも迂闊に人型にすると"異形系"と被るだろうし相当変わってそう。


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C3-9 林間合宿・初日


 二次創作では原作以上に早く到着してワイプシの度肝を抜くという展開が多いですが、何らかの要因でクラス全体が底上げされているという描写があってこそ許される改変なので……



 

「―――やーーっと来たにゃん。とりあえずお昼は抜くまでもなかったねえ」

 

 時刻は昼食どころか日没直前。

 それぞれ体力も"個性"も使い切り、満身創痍のわたし達に掛けられたのはそんな一言。

 

「何が『三時間』ですか……」

「腹へった……死ぬ」

「三食必ず食べるようにとお母様に言い付けられていたのに……」

「この育ちの良さよ」

「八百万とはまた方向性の違うお嬢様感よな」

「あー……それはごめんね? 時間については私たちならって意味よ」

 

 絶え間ない土魔獣の襲撃。慣れない山岳地帯および季節柄の暑さの下での長時間活動。

 わたしを含めた何人かが木々の上から目的地を確認していたので、方向を見失う心配はなかったとはいえ、今までに経験のない過酷さを体験した。

 

「……でも歩ちゃん、案外元気やねえ」

「皆に比べると楽をさせてもらいましたから。"個性"も体力よりは頭を使うタイプですし」

 

 相手が見た目はどうあれ『土』な以上、わたしの"個性"で個々の無力化は簡単だった。

 これが突然目の前や背後に形成されることもある土魔獣に対して、安全地帯を作るのに有用だと判断され、わたしの役目は専ら集団中央で休憩の余地を確保することになる。

 

 砂藤さんや上鳴さんのように消耗が激しい"個性"の持ち主は勿論のこと、切島さんや尾白さん、デクさんといったとにかく動く必要がある面々も暫く迎撃にあたるごとに休憩を取る必要があり。

 その他の面々も始めから最後まで戦い続けるということは出来ず、多かれ少なかれ各員わたしの半径二メートルという安全地帯を利用することになった。

 

 そのため皆わたしに倒れられるわけにはいかないと、負担を抑えられるよう守ってくれたのだ。

 移動に関しても皆が木の根や泥に苦労する中、ひとり気楽な低空飛行。

 ……これでこの場で息を切らしていたら、そっちの方が申し訳なくなってしまう。

 

「それに幼い頃から鍛えら、鍛えてきたので……」

「……あ、そっかあ。私も走り込みとかしようかな、もうちょっと」

 

 

「私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。いいよ君ら……特にそこ四人」

 

 土を操っていたというプロヒーローにデクさんを始めとした四人が想像以上だったと称賛され、ツバを付けられている(物理的に)《……何してるのかしら、アレ》間に、少しばかり許容重量をオーバーして青い顔をしているお茶子ちゃんの背中をさする。

 触れるだけで土魔獣を実質撃破出来る彼女もまた交代しながら"個性"を使い、一度に消すことになる重量を抑えつつ戦っていたけれど、やはり目的地に辿り着いた今は限界ギリギリだった。

 

《使い方による消耗軽減にも限界はあるわ。これからは上限を伸ばす方向を考えないとね》

「これからは"個性"の上限を伸ばしていきましょう。わたしも散々……やらされてきましたから」

「そうなんや……うん、そん時はまた相談させてな」

 

 

「―――緑谷くん! おのれ従甥!! 何故緑谷くんの陰嚢を!!」

 

「「《えっ》」」

 

 飯田さんの声に驚いて振り返ってみれば、明らかに疲労とは別の要因でのたうつデクさんの姿。

 ……それにしても、「いんのう?」「いんのうって……」と目配せをしたところで、一瞬遅れてお茶子ちゃんの頬が真っ赤に染まった。……多分、わたしも。

 

《あらまあ、緑谷さんの緑谷さんが》

「で、ででデクくん大丈夫!?」

「デクさん大丈夫ですか!?」

「やめてやってくれ! 今、女性陣が近付くのは駄目だ!」

「緑谷ぁ! しっかりしろ、傷は浅いぞ!」

 

「茶番はいい。バスから荷物降ろせ。部屋に荷物を運んだら食堂にて夕食。その後、入浴で就寝だ。本格的なスタートは明日からだ。さァ早くしろ」

 

 

 

 

 その後、一部始終を見ていた飯田さんに夕食の傍ら聞いたところ、デクさんはプロヒーロー達に同行していた少年について尋ね、あの場にいたヒーローの一人『マンダレイ』の従甥、洸太くんであるとの答えをもらい。

 これから一週間関わるのだからと、挨拶に手を差し出したところを、その……やられたそうな。

 

 そのとき吐き捨てていった言葉から察するに、ヒーローというもの自体に否定的な感覚を持っているように見受けられたとのこと。

 その途端に溢された、《まあ真面な精神で目指す職じゃないものね》という呟きに微妙な相槌を打ったわたしを、お茶子ちゃんやデクさんは何事か察したらしい表情で見つめてくれていた。

 

 二人は『干渉』がわたしを止めはしなくとも、ヒーローを目指すことに難色を示していることは知っている。……あれ、デクさんにも話したっけ? 《体育祭の時よ》……そっかあ。

 その洸太くんという少年が『彼女』のような意図で言っているかはともかく、あの年齢の子供にしては珍しいなと、その時はそんなことを話し合った。

 

 

「……入浴って、温泉やったんやねえ」

「この辺り一帯所有地って言ってましたよね? 温泉付きの拠点ですか……」

 

 夕食の後で通されたのは七人どころか十数人入っても余裕がありそうな露天風呂。

 喜び勇んで飛び込んでいく芦戸さんや葉隠さん《お湯が体の形に凹んで……凄いわ》……の背中を目送りつつ、のんびりと服を脱いで湯船に向かう。

 

 少し熱めの湯に身体を沈めて改めて周りを見れば、見慣れたクラスメイト達の見慣れない裸身が自然と視界に入った。

 

「…………こうして見ると耳郎さんも結構()()じゃないですか」

「えっ……い、いや、そういう干河だってそこまで気にする、こと……」

 

 今までさも()()()()に居るかのように振る舞ってきた耳郎さん。

 しっかりと丸みを帯びた()()を睨むわたしに、同じ場所に目を遣った彼女は一拍置いた後で……目を逸らした。

 

「……耳郎さん? 何で今、目を背けたんですか?」

「あ、いや、別に深い意味は……」

 

《人と話すときに背中向けちゃダメよー? あ、前向いてたのね》

「……ああ、背中と胸の見分けがつかなかったと? じゃあ後ろ向きましょうか?」

「え、ちょ、誰もそこまで言ってないって!?」

 

《そこまで》

「そこまで? それってちょっとは思ってたってことですよね?」

「うっわやばい面倒くさい!? ……どうしよう急に中学の頃の友達に謝りたくなってきた」

 

 ……何ですお茶子ちゃん? え、八百万さん? 良いんですアレもう同じ人類枠じゃないので。

 

「……解せませんわ」

「まあヤオモモのは、ね。次元が違うというか……うわぁ、浮いてる」

「このサイズになるとほんまに浮くんやなあ」

「透ちゃんもひょっとして浮いてないかしら? 透明で分かりにくいけれど」

《あら本当ね。服のシルエットじゃ分かりにくいけど水の中なら……》

「え?」

「わわっ! 梅雨ちゃんがそんなこと言うからこっち見たじゃん!」

「バーサーカーかよ。ほんと落ち着けってば」

 

 お茶子ちゃんや耳郎さんに宥められて―――偶に『干渉』に煽られながら―――猛ってばかりも勿体ないと、温泉を堪能することに努めて集中する。

 ……八百万さんは例外と置くとしても、みんな発育が良過ぎると思うんです。

 

「……食生活、じゃないですよねえ?」

「あ、あー……せやなあ」

「そこ言うとずっと良い物食べてるはずだもんね」

「……ねえ、歩ちゃん。私、思ったことは何でも言っちゃうの。お茶子ちゃんから聞いたのだけど歩ちゃんって"個性"も身体も小さい頃からしっかり鍛えてきたのよね?」

 

 ……鍛えたというより、鍛えさせられたのけど。否定する要素はないので頷く。

 

「あくまで俗説だけど……幼い内から身体を鍛え過ぎると成長が阻害されるという説が―――」

「っ!? 『干っ……』、ちくしょう!!」

「干河がどんどんぶっ壊れてく!?」

「梅雨ちゃーん!」

 

「けろぉ……ごめんなさい」

「「あっ……ああー……」」

「お二方とも諦めないでくださいまし!?」

「宥められるのはそこ二人だけだってばぁ!」

 

 初めて知った新事実に思わず『彼女』を呼びそうになって、苛立ち紛れに水面を叩く。

 事の次第を察したお茶子ちゃんと耳郎さんの生暖かい視線が背中に痛かった。

 

 

「―――峰田くん、やめたまえ! 君がしている事は己も女性陣も貶める恥ずべき行為だ!」

 

 

「「「…………」」」

 

 暖かかった温泉の空気が、いつかのようにスンっと冷めた。

 仕切りの向こうから聞こえてきた飯田さんの声で、何が起こっているかは大体推測出来る。

 

「壁とは越える為にある!! "Plus Ultra"!!」

「速っ!! 校訓を穢すんじゃないよ!!」

 

 けれど今回はわたし達が反応するよりも早く事は推移しているらしい。

 壁の向こう側であのアレ(峰田)がこちらに近付いてくる感覚が何となく分かる。

 

「え、ど、どうしよう!」

「出てきたところを叩き落せば……」

「それだと一瞬でも見られちゃうよ!」

「今すぐ仕切りを『創れ』ば……」

 

(……ね、ねえ、『干渉』?)

《くっっっだらないけど仕方ないわね。まあ彼の体重なら……》

 

 俄かに大慌てで対策を考える皆の姿に、直前の怒りも忘れて呼び掛ける。

 『彼女』もまたかつてない程の呆れの感情を噴き出させつつも、驚くほど早く腰を上げた。

 わたしの"個性"射程、及び制御力では壁の向こうのアレをここから対象化することは出来ない。

 けれど『彼女』なら話は別だ。非常に小柄なアレ相手なら行動阻害も可能だろうし。

 

 そうしてわたしの身体から感覚が消えるか否かというその瞬間、仕切りの壁上に小さな人影。

 一瞬、まさかと身体を強張らせたけれど、そこに居たのは危惧した相手とは別の少年。

 

「ヒーロー以前にヒトのあれこれから学び直せ」

「くそガキィイイィイ!!?」

 

 登ってきたアレの突撃を阻み、男子風呂側へと突き落としたのは洸太くん。

 おそらくはこうなると見越した相澤先生辺りが手配していたのだろう。

 汚い断末魔をあげて落下―――『彼女』が一応【減速】させていた。要らなくない?―――する様子を壁越しに感じ取った一同に安堵の空気が広がる。

 

「やっぱり峰田ちゃんサイテーね」

「ありがと洸太くーん!」

 

「わっ……、あ……」

 

「「「あっ」」」

 

 けれど功労者たる洸太くんは一度こちらを見たかと思うと、何やら動揺して後退ってしまった。

 更にここからでは分からないけれど、その足元はあまり安定した足場ではなかったらしく、突き落としたアレを追うように男子風呂側へと落下してしまう。

 

「おっと【減速】。そちらの男子諸君、誰か―――」

「だ、大丈夫! 受け止めた!」

 

「その声、緑谷さんね? 彼の様子は?」

「…………失神しちゃってる。僕、マンダレイの所に運んでくるよ!」

 

 『干渉』が落下速度を緩めた洸太くんを、壁の向こうでデクさんがキャッチしたらしい。

 聞こえてくる足音と『彼女』から伝わる"個性"の感覚から、洸太くんを抱えたデクさんが浴場を真っ直ぐに離れていく様が感じ取れた。

 

「それじゃ後は彼に任せて、もう少し温泉を楽しみましょうか」

「……出た、干河の本気モード」

「切り換えの温度差で風邪ひきそうだよー……」

「けろ……温泉の中なのにね」

 

 

「……直前の話は完全にどっか行ったね。というかアレって……」

「そういうことなんやろね。その、あっちはそういうの気にせえへんみたいやから……」

 

「マジか……とことん真逆なんだなあ」

 

 

(あ、あのお……)

《何か?》

 

(……いえ、何でもないです)

 

 

 その後、温泉に浸かっている間、『干渉』は身体を返してくれなかった。

 ……入浴の感覚はわたしにもあるから良いんですけどね?

 





 あくまで俗説です。やみくもに負荷を掛けて成長軟骨まで影響が及ぶと、身長が伸びづらくなる可能性があるとは言われていますが、女性的な発育にまで影響するかどうかは……

 さらっと終わらせて翌日まで飛ばすつもりだったのに何でこんなに文字数増えたんだろう。


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C3-10 林間合宿・二日目


 "個性"伸ばし訓練のそれぞれの内容については単行本幕間で詳しく説明されています。
 飯田くんや耳郎さんのようにコマ内には映っていない面々も含めて。



 

 ―――林間合宿二日目、AM5:30。

 

 誰も彼もが寝ぼけ眼な中、相澤先生が取り出したのは忘れもしない入学初日の"個性"把握テストに使われたソフトボール。

 それを爆豪さんへと投げ渡し、入学直後からどれだけ記録が伸びているか見せてみろとのこと。

 

「んじゃ、よっこら……くたばれ!!」

(《くたばれ!?》)

 

 相変わらず物騒な掛け声と爆破により、山景色へと吸い込まれていったボールが刻んだ記録は、以前の記録を越えること僅か数メートル。

 予想を裏切られ呆然とするわたし達に、こうなると分かっていたらしい相澤先生の説明は続く。

 

 入学から約三か月、これまで成長してきたのはあくまで精神面、技術面、そして体力面。

 今しがた目の当たりにした通り、"個性"そのものはそこまで成長していない。故に―――

 

「今日から君らの"個性"を伸ばす。死ぬ程キツイがくれぐれも……死なないように」

 

 

 

 

「―――煌めく眼でロックオン!」

「猫の手、手助けやって来る!」

「どこからともなくやって来る……」

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!(フルver.)」」」」

 

 

《……そういえば四名一チームと言ってたわね。緑谷さんが》

(残りの二人も濃い……別方向に)

 

 前日に見せてくれた口上の完全版と共に現れた、二人加えて四人のプロヒーロー。

 猫の手や耳等を模した装飾は共通しているけれど、四人揃うと何というか……違和感が凄い。

 

 ヒーロー名『ラグドール』、"個性"『サーチ』。

 

「この目で見た人の情報、100人まで丸わかり! 居場所も弱点も!」

 

 

 ヒーロー名『ピクシーボブ』、"個性"『土流』。

 

「私の"個性"で各々の鍛錬に見合う場を形成!」

 

 

 ヒーロー名『マンダレイ』、"個性"『テレパス』。

 

「そして私の"個性"で一度に複数の人間へアドバイス」

 

 

 ヒーロー名『虎』。

 

「そこを我が殴る蹴るの暴行よ……!」

 

 

《いや、色々おかしい》

「一人だけ異色過ぎません!? ジャンルといい性別といい!」

 

 妙齢の女性三人組の中に一人混じった筋骨隆々の男性。当然の如く猫耳猫尻尾完備。

 発言の危なさまで含め、堂々と四人組として加わっている姿が逆に怖い。

 

「あ、虎さんは元女性だよ」

「「「《マジで!?》」」」

 

 安定のデクさん情報にわたし達が驚いている間に、プロヒーロー達は粛々と準備を進めていく。

 ドラム缶、大量のお菓子、大型バッテリーに巨大ハムスターボール……え、何ですかコレ?

 

「許容上限のある発動型は上限の底上げ。異形型・その他複合型は"個性"に由来する器官・部位の更なる鍛錬を行う。これらはその為の小道具だ。個々人が具体的に何をするかは順次説明する」

「ちなみに単純な増強型は、我の元で全身の筋繊維がブチブチに千切れるまでひたすら鍛錬だ!」

 

「……デクさん、頑張ってくださいね」

「……あっ!」

《その『あ、そっか、僕か!』みたいな反応……まだ"増強系"と言われてピンと来ないのね》

「俺らの中だと……後、砂藤もか?」

「いや俺の場合糖分がねえと……あっ、大量のお菓子……」

「"個性"伸ばし……そういうことかあ」

 

 

 当人も察した通り、糖分を必要とする砂藤さんに加え、脂肪を消費していたらしい八百万さんに大量のお菓子を食べながらの"個性"使用を。

 上鳴さんには巨大バッテリーを用いて長時間の通電を行うことで、耐えられる電力の向上を。

 爆豪さんにはドラム缶に沸かした湯で両手を熱し、掌の汗腺を拡げた状態での爆破―――という調子で、一人ずつ相澤先生とラグドールさんから鍛錬内容を指示されていく。

 

 そうして迎えたお茶子ちゃんの順番、用意されたのはさっき見掛けた、中に人間が丸ごと入れるタイプのハムスターボール。

 

「……あの、何でハムスターボール?」

「麗日。お前の場合は酔った状態での"個性"使用を繰り返すことで、三半規管の強化とその感覚に慣らして限界重量の増加を試みる」

 

「…………それで何故にハムスターボール?」

「"個性"と無関係に酔った状態にする為だ。いいからはよ入れ」

 

「酔った状態……あっ…………いえす、さー」

「よし、入ったな。……お願いします、ピクシーボブ」

「オーケー! 舌噛まないようにね、ウララカキティ!」

 

 一瞬、ボールのビニル越しにお茶子ちゃんの色の無い視線がわたしに向いたのが見えて。

 どうするべきか悩んだわたしは結局、他に思い付くものもなく親指を立てた。

 

「いやそこでサムズアップはオカシ―――きゃああああッ!?」

「お茶子ちゃーん!?」

《もうちょっと他に方法は……一番手っ取り早いといえばそうかあ》

 

 『土流』に突き上げられたハムスターボールが天高く空を舞う。

 そのまま形成された坂道を勢いよく転がり落ちる……かと思えば、転がる先が再び盛り上がり、さらなる回転時間と距離を確保。世にも恐ろしい無限機関が実にコンパクトに構築されていた。

 

「……さて次、干河」

「お茶子ちゃ―――あ、はい」

《まあ、突っ込んでも無駄よね》

 

 お茶子ちゃんの悲鳴を背景に、呼ばれて前に出たわたしをラグドールさんの『視線』が射貫く。

 ……相澤先生もそうですが、目に関する"個性"に見つめられると何となく落ち着きませんね。

 

「うーん……やっぱりこの子の"個性"、フルスペックだとほぼ弱点が無いにゃん。肉弾戦の力押しに関してはどうしても相性が出るし、近接戦もこの齢この体格としては及第点にゃし……」

「……となるとやはり『全力』を出した際のリスク低減、許容上限の増加だな」

 

 どうやら"個性"『サーチ』には『彼女』に身を委ねたときの性能(スペック)が見えているらしい。

 確かにわたしにとって一番分かりやすい目標は、『干渉』自身が使うソレに追いつくことだ。

 現状ではわたしの身の丈に合わないせいで使用後に反動を受ける形になっているけれど、鍛錬を続ければいつかはわたしにも同じことが無反動で出来るようになるはず。

 ……あれ? それって、つまり―――

 

「ひたすら限界ギリギリまで『全力』を使え。それにより許容量増加と通常時の性能向上を図る」

「ですよねー……」

《成程成程……さぁて、合宿中何回胃をひっくり返すことになるかしら?》

 

 "個性"の『全力』使用について、他に影響を出さない事や、あまり集団から離れ過ぎないようにといった諸注意を受けている間、『彼女』は上機嫌にわたしを酷使する計画を練っていた。

 ……他のクラスメイトのようなサポートは無いのでしょうかと相澤先生に視線で尋ねたところ、「この山林の中なら"個性"対象には困らんだろう」と返されてしまった。確かにそうですけど。

 

「言っとくがあくまで限界近くまでだ。行動不能に陥るラインを見極めた上で、それを引き上げることが目的だからな」

《ちっ、イェッサー》

「……いえす、さー」

 

 付け加えられたそれは、わたしにというよりは見えない監督にでも向けたような一言で。

 何人かの納得と首を傾げる幾名かの視線を背に、気付けばわたしの身体は飛び立っていた。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――さァ昨日言ったね、世話焼くのは今日だけ、って!」

「己で食う飯くらい己でつくれ! カレー!!」

 

「「「イエッサ……」」」

 

 

 あれからB組も加わって鍛錬を続け、気付けば日も傾き始めたPM4:00。

 テーブルの上にどっさり積まれたカレーの材料を前に、数十人分の覇気のない応答が揃う。

 

 

「―――さすが雄英、無駄がない!! 世界一旨いカレーを作ろう、皆!!」

「「「オ……オォー……」」」

 

 本人も疲労困憊の筈ながら、急に張り切りだした飯田さんに急き立てられる形で調理に入る。

 飯盒による炊飯、食材の下拵えと、三々五々に別れて行動する中で、わたしと同様に喉をさするお茶子ちゃんと目が合った。

 

「……大丈夫ですか、お茶子ちゃん?」

「歩ちゃんこそ……なんかデッカイ土魔獣作ってたん見えとったで?」

 

「折角の機会だから、と……ふふ、いつも通りだと思ったわたしが浅はかでした……」

 

 "個性"伸ばし自体は小さい頃から『干渉』に言われるままこなしてきたけれど、これだけ広さのある屋外でというのは『彼女』にとっても初めてのこと。

 ピクシーボブさんの土魔獣にでも影響を受けたのか、何やら造形に拘った大規模"個性"操作で、あっという間にわたしを限界付近まで追い詰めてくれた。

 

「あの時は氷の竜巻だったけど、もう少し拘っても良かったかしら……なんて言ってました」

「あー……体育祭の時やな。溢れ出るラスボス感」

《まあそれで消耗してたら世話無いし、やらなかったでしょうけどね。決勝ならともかく》

 

 そうして返される身体は前後不覚に陥る寸前も寸前。

 絶え間ない吐き気と頭痛に襲われながら、たった一個の小さな石を対象にしてのろのろと操作。

 回復してくればそれだけ操作対象(負荷)を増やして 限界状態の"個性"使用を続け、それでも十分余裕が戻ってきたなら再び『彼女』に身体を渡して即席瀕死状態に―――この繰り返しだった。

 

「今朝に比べれば限界が延びた実感はあるんですけどね……」

「喉がヒリヒリするわ……カレー食えるんかな、私」

「あんたら二人は限界が吐き気として来るタイプだもんね。まあ"増強系"連中や、ひたすら声出しさせられてた口田あたりも似たような感じだけどさ」

 

「そういう耳郎さんは……うわ、耳……」

「ああ、うん。ひたすら耳たぶ……ジャック部分を打ち付けて鍛えてた。もう痛くて痛くて……」

「……それって効果は出てるん?」

 

「それが……何かだんだん音質が良くなってきた」

「「《何で?》」」

 

 

 

 

「干河ー! 料理漫画みたいにこう、食材を空に浮かせてスパパパって出来ない?」

「……前者はともかく固定出来ない空中でどうやって切るんですか」

《優雅に鍋に放り込むのが関の山ね》

 

 

「爆豪、爆発で火ィつけれね?」

「つけれるわクソが!」

「ええ……!?」

《何故そこで悪態》

(そして着火はするんですね)

 

 

「轟ー! こっちも火ィちょーだい」

「皆さん! 人の手を煩わせてばかりでは火の起こし方も学べませんよ」

《……言ってることは間違ってないのだけど……》

(……着火器具を『創る』のは、どうなんでしょう?)

 





 よくラグドールの"個性"に緑谷くんがどう映っていたのか、というのが話題になりますが、それ以前に彼女は一度ぐらいオールマイトを『視る』機会があったはずですよね。
 あんな"個性"を持ってヒーローになった以上、No.1ヒーローの"個性"が秘密にされている理由その他諸々、少なくとも彼女がプロデビューをする頃には知らされていたと考える方が自然です。

 単純な"個性"の性能だけでなく居場所や弱点まで丸わかりと言うからには、『OFA』についてもかなりのところまで知っていたと見て良いでしょう。
 具体的には『譲渡する』『力を培う』『八代目』、一度視れば100人分キープ出来るようなのでこの時点では『活動可能時間』などもでしょうか。持久戦に弱いというのは明確に弱点ですし。

 おそらく緑谷くん(後継者)についても合宿の話が決定した時点で根津校長あたりが根回ししていたはず。
 そんな彼にツバ付け(物理)するピクシーボブを、内心「とんでもねえことするにゃん……」という目で見ていたとしたら面白くないですか?


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C3-11 肝試し


 ハイ、二人組作ってー、を奇数でやるトラウマを回避するために赤点回避者を増やしました。
 ……嘘です。



 

 林間合宿三日目―――の夜。

 前日と大きくは変わらない一日(地獄)を過ごした一同にはしかし、前日とは異なって生気を溢れさせた顔を浮かべている者が幾人か。

 

 その要因は日中に伝えられた行事予定、クラス対抗の『肝試し』。

 苦難の後には楽しいこと。ザ、アメとムチ……その予告に目を輝かせる者もいれば、逆に意気が下がっている者もこれまた何名か。

 

 

「その前に大変心苦しいが、補習連中は……これから俺と補習授業だ」

 

「「「ウソだろ!!?」」」

 

 

 その言葉に死刑宣告も斯くやとばかりに絶望に満ちた顔で叫ぶ補習組。

 抵抗の間もなく無慈悲にお馴染み捕縛布で簀巻きにされた面々が引きずられていく。

 

「……『干渉』さんの言った通りやったなあ」

「ええ、歩の尻を蹴飛ばして勉強させた甲斐があったわ」

 

「…………えっ、『干渉』さん……っ!?」

Hi(ハァイ)、お茶子さん。こうして直接話すのは暫く振り……でもないか」

 

 咄嗟に息を潜めた麗日に、にこやかに顔の高さで手を振る、干河歩に宿りし"個性"『干渉』。

 補習組の嘆きがまだ響く中、"個性"由来の聴覚によりそのやり取りに気付いた耳郎もまた驚きに染まった顔で振り返った。

 

「な、何でまた急に……」

「何故だと思う? ヒントは『肝試し』」

 

「……答えやん!」

「……え、ちょっと待って何それズルくない!?」

 

 目を剥く麗日、何やら憤慨した様子の耳郎。

 集まってきた二人に声を潜めつつ『彼女』は説明する。

 日中、その行事予定を聞いた時からあまり乗り気ではなかった歩に対し、これに関しては自分が肩代わりしても一向に構わないと申し出たのだと。

 

「まあ、こういうお遊びにまで硬いことを言うつもりはないからね。こればっかりは楽しめる方が楽しんだらいいのよ」

「そっかあ……何と言うか……何て言ったらええねんやろ?」

「なにそれずるい……」

 

 時に世話を焼かれ、時に厳しく躾けられ……形容しがたい友人達の関係に首を傾げる麗日。

 一方、目の前に迫る行事に半ば以上本気で忌避感を抱えていた耳郎は、冗談抜きに妬心を露わにした後―――徐に自身の耳に目を向けた。

 

「ねえ…………『イヤホンジャック』?」

「イヤそれは無理やと思うで!?」

「耳郎さん、追い詰められ過ぎじゃない!?」

 

「そこのキティ達、ルール説明するよー?」

 

 

 据わった目で自らの耳を見つめる耳郎が二人掛かりで宥められる一幕を経て、やっと落ち着いたA組生徒16人に対し、肝試しの細かなルールが提示される。

 

 森の中に作られた一周の所要時間約15分のルートを進み、その中央に用意された名札を持ってルートの終着点であるこの出発地点へと帰還すること。

 A組生徒はくじ引きで二人一組を作り、3分置きに出発。

 その道中には既にB組生徒が脅かす側先攻として待機済み。

 脅かす側の注意として、直接接触禁止。"個性"を使った脅かしネタを披露すること。

 

「―――創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスが勝者だ!」

 

「いや失禁はどうかと思うわ」

「やめてください汚い……」

 

 

 その後、各々の引いたくじの結果により作られた八つの二人組。

 ある意味では組み合わせの妙と言うべきか、ペア相手に不満を持った者は実に多かったらしく。

 

「おい尻尾(尾白)、代われ……!」

 

 浅からぬ敵愾心を抱く相手()と組むことになった爆豪を皮切りに。

 

「干河ぁ、オイラと代わってくれよ!」

「下心を表に出し過ぎなのよ……あなたを八百万さんに近付ける女子が居るわけないでしょう」

 

「……そこで自分がトレード対象なのは怒らないんだ?」

「ああ……まあ、あっちは……いや何でもない」

 

 男子生徒(尾白)とペアになった峰田が淡い期待を抱いて交渉を始め。

 

「俺は何なの……」

 

 自身とペア相手それぞれがトレード対象になりかけた尾白が居た堪れなさに襲われ。

 

「……緑谷ちゃんと代わりましょうか?」

「へっ!? い、いいイヤ別に私そんなデクくんと一緒に行きたいなんて……っ」

 

「あら、私が切島ちゃんと一緒に行きたいだけかもしれないわよ。けろけろ」

「っ! ……つ、梅雨ちゃーん!」

 

 

「くじの結果に物言いは……イヤ、むしろここは応じる方が漢なのか……?」

「切島くん?」

 

 混沌としかけた場は、くじ引きの結果は絶対、というピクシーボブの一声で収束した。

 決して青春の気配を感じた彼女が妬心から斬り捨てたわけではない。多分、きっと、おそらく。

 

 

 

 

 ―――9分後。

 時折木々の間から漏れ聞こえてくる耳郎の悲鳴に彩られながら出発した、干河・八百万ペア。

 

「……本当の本当に苦手だったのね、耳郎さん」

「……こちらまで身構えてしまいますわね」

 

 面食らった様子は見せつつも、緩まない足取りで進む『干渉』を追う形になる八百万。

 暫しの無言の中、言葉を探すように視線を彷徨わせていた彼女の耳に声が届く。

 

 

「……先日の、私の父親の話かしら?」

「え……は、ハイっ! すみません、あの時はあのような場で……」

 

「先に話題に出したのも許可したのもこちらよ。……耳郎さんにはちょっと気の毒だったけど」

 

 八百万が喉奥に滞らせていた話題を言い当て、『干渉』は気にするなとばかりに微笑む。

 ……続けて届いた渦中の人物の悲鳴が後押しになり、八百万もまた少なからず相好を崩した。

 

「私自身は本当に気にしていないわ。それに実のところ、一緒に過ごした時間が短過ぎて喪失感も何もない、というのが本音なのよね」

「そう、なのですか?」

 

「ええ、当時の事も殆ど覚えていないもの。眠り姿しか見たことないと言っても過言ではないわ」

「…………」

 

 その言葉に八百万は再び思い悩む。

 当人が苦にしていないことは事実のようだが、それはそれで放置して良いものなのだろうかと。

 

 彼女は両親より、干河家の現状についてある程度聞き及んでいる。

 目の前の友人の母親が、政財界に太い繋がりを持つ現当主の末孫であること。

 祖父にあたる現当主には溺愛されているが、他の親戚とは折り合いが悪いと言われていること。

 既に老齢な現当主の身に何かあれば、十年以上も眠り続ける男に執着している母親がどのような扱いになるのだろうかと、関わりの薄い他家からすら危ぶまれて―――

 

 

「ん」

 

「「…………」」

 

 

 音も無く、地面からぬるりと湧いた生首。

 はたと立ち止まった二人はそれを見遣り、一瞬悩んだ後で声を掛ける。

 

「B組の……小大さん、だったかしら」

「……ん」

 

「何を……ええと、脅かしに、ですわよね」

「ん……」

 

 泥のように『柔らかく』なった地面から顔を出した女子生徒が言葉少なに肯定する。

 暫しの沈黙の後、彼女は心なしか肩を落とした様子で再び地面に潜っていった。

 

「……干河さんは足取りに迷いがありませんのね。もしかして、"個性"で探知を?」

「やろうと思えばある程度は出来るわよ? けれど肝試しでお化け役の居所を察知してしまうのも風情がないと思わない?」

 

 八百万は知らないことだが、今の『彼女』の"個性"射程は普段の十倍以上。

 対象物が視界外にあれど問題無く対象化可能な『彼女』であれば、木々の間に潜む操作出来ない生物―――B組生徒を察知することは容易い。

 

「……そういうものでしょうか」

「そういうものだと思うわよ、多分」

 

 なおこの二人、世間一般で言うところの『お化け屋敷』に立ち入った経験は無い。

 自覚の有無はさておき、上流階級の家に生まれ育った彼女達にそのような機会は無かったのだ。

 

「……さっきの小大さん、悪いことをしてしまったのでしょうか」

「怖がらなきゃいけないってことはないんじゃないかしら。よく分からないけど」

 

 つまり事ここに至って、ツッコミ不在であった。

 

 

 

 

「―――泡瀬さん、鉄哲さん、塩崎さん。お疲れ様です」

「ああ、お疲れ……じゃねえよ! リアクションとってくれよ!」

「耳郎さんは凄い良い悲鳴上げてくれたのにな……」

「いや何というか……その影響でハードルが無駄に上がってるのよね……」

「……罪深いです」

 

 互いにとっての不幸は、3分先を行くペアの反応が良過ぎたことであった。

 これにより脅かす側は少なからず自信をつけ、次の相手側の反応を無意識に期待する。

 脅かされる側はその悲鳴に、次に襲い来る脅かし方への期待をこれまた無意識に高める。

 

 結果、お互いがお互いに勝手に設けたハードルを越えられず、微妙な空気が作り出される。

 先を行く彼女も全力で被害者であることを鑑みると、まさに勝者不在の戦いであった。

 ……否、その耳郎のペアである葉隠だけが行事を余すことなく楽しんでいるのかもしれない。

 

「……次のペアからはきっと良い反応が得られますわ」

「私達が無反応で通り過ぎてしまった分、今度は逆に、ね?」

「だと良いけどよぉ……よし、切り替えるぞ! 泡瀬、塩崎!」

 

 己を奮起させ、クラスメイト二人を連れて木々の間へと戻っていく鉄哲。

 『干渉』は八百万と目を合わせ、手持無沙汰に後ろ髪を掻き上げながらその背中を見送った。

 

「……いっそのこと探知して反応する準備をしながら進もうかしら」

「それもそれで何かが違うような気がいたしますけど……あら? そういえば次の耳郎さんの声が聞こえてきませんわね」

 

「目印にするのも悪いけれど確かに……というより何か変な―――っ!?」

「干河さん?」

 

 不自然に途切れた友人の言葉に、ただならぬ気配を感じて八百万が振り返る。

 返ってきたのは果たして、いつか本物の(ヴィラン)を相手に見せた鋭く怜悧な眼差し。

 

 

「半径っ……五メートル、【掌握(スフィア)】!」

 

「っ、これは……!?」

 

 

 八百万の目に映ったのは、今まで知覚の外にあった薄く色付いた空気が押し退けられる様。

 付随した臭いを一度意識してしまえば、有毒ガスの一種であると知識に富んだ頭が弾き出す。

 

「八百万さん!」

「ガスマスクを『創り』ました! B組の皆さん! まだ近くにおられますね!?」

「うおっ!? な、何だ何だ!?」

 

 即座に八百万の腕から『創り』出された複数の簡易式ガスマスク。

 呼び掛けに気付き振り向いた鉄哲にそれらを押し付けながら、彼女は『干渉』と視線を交わす。

 

「マスクを作れる私がB組の居場所を知る皆さんと行動し、他のB組の方の元へ向かいます!」

「なら私は、推定このガスの中で倒れているだろうA組生徒の回収ね」

 

 ハッと息を呑んだ八百万の前で、薄く伸ばされていたガスが突如、分厚く渦を巻き始めた。

 まるで尾を踏まれたと気付いた大蛇が如きその様子に、遅れて把握したB組一同が目を見開く。

 

「これは……このガス自体が敵の"個性"……?」

「やたらと広げているようだからまさかと思ったけれど、やはり感知を兼ねていたようね」

 

「っ、安全圏を狭めたのはその為ですの?」

「ええ……下手に私を脅威と判断させると、先に行ったはずのクラスメイトが危険だから」

 

 直後、ガスの幕に前触れなく大穴が穿たれる。

 穴の前に佇んだ『干渉』の視線を受け、意を察した八百万が頷きを返す。

 

「……ご武運を」

「そちらこそ。……敵が一人とは限らないわよ?」

 

 再度息を呑んだ八百万に背を向け、彼女は自ら穿った穴へと身を投じるのだった。

 





 というわけで久し振りの三人称でした。
 なお歩ちゃんは寝ています。『干渉』さんも敢えて起こしません。
 一刻を争う状況で説明に時間取られるからね。仕方ないね。

 ところで原作において5人しかいない女性陣に対し女子二人のペアが二組出来ているんですが、ピクシーボブさん本当にくじに細工とかしてませんよね?
 肝試しなのに男女ペアを可能な限り少なくするとかアラサーのひg(ry


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C3-12 合宿襲撃


 Q. 切島くんも気付いてるの?
 A. 本作の麗日さんはそれぐらいわかりやすいのです。

 Q. 緑谷くんは?
 A. 彼はどこまでいってもクソナード(公式)ですので……



 

「―――んっ、……んぅ……」

 

 彼女が重い瞼を開いたとき、その視界に飛び込んできたのはこの数日で見慣れた木々と夜空。

 

「……ここ、は?」

 

 朦朧とする意識に、ひどく気怠く重い手足。

 すぅ、と吸い込んだ空気が肺に貼りつくような感覚で、彼女は直前の記憶を思い出す。

 

(そう、だ……肝試しの途中、急に息苦しくなって……あ、葉隠、は……?)

 

 意識が落ちる寸前まで近くにいた友人の存在を思い出し、彼女はぐらつく視界を周囲に向ける。

 程なくして奇妙な形に膨らんだ学校指定のジャージ……自分と同様の姿勢で横たわる『透明』なクラスメイトの姿を確認した。

 

「……目を覚ましたのね、耳郎さん」

「干、河?」

 

 耳に届いたのは、別のクラスメイトの声。

 確か自分達の後ろ、3分後に出発した組に居たなと、耳郎は未だぼんやりとする頭で思い出す。

 

「……また、助けてもらっちゃった……のかな?」

「ええ……目が覚めて良かったわ。ただ―――」

 

 聞こえる声は歯切れが悪く、またどうにも距離があることに疑問が浮かぶ。

 感覚の鈍い腕で身体を起こし、声の方向に顔を向けたところで、彼女は初めて()()に気付いた。

 

 

「その顔……表彰台欠席した体育祭1位じゃないか」

「おまえ、死柄木の殺せリストには無かった顔だぜ! あったけどな!」

 

「出来ればもう少し遅く起きて欲しかったわ。言っても仕方ないけれどね」

 

 

 友人が二人の男―――推定、襲撃に現れた(ヴィラン)と対峙していたこと。

 そして彼らの口振りからして、自身の声によってたった今、発見されてしまったということに。

 

 

「氷に電気に光……放射系"個性"をことごとく反射、操作する"個性"だったな」

「マジかよ、荼毘お前相性悪くね!? 最高だな!」

「……大変ユニークなお仲間だことで」

 

「だろう? まだ縁は浅いが自慢の仲間さ」

「急に褒めんなよ気持ち悪いぜ! 最高かよ!」

 

 

 顔の半分から手首まで、焼け焦げた皮膚と奇妙な継ぎ目を晒す、荼毘と呼ばれた黒髪の男。

 全身タイツに奇妙な覆面、コミカルな仕草に奇矯な言葉遣いをするもう一人の男。

 理解不能さ由来の怖気を与えてくる敵達に、不敵な態度を崩さずに対峙する『彼女』を、耳郎は力の入らない四肢を震わせながら見つめていた。

 

「しかしヒーローの卵が敵を前に逃げ隠れ、か? オイオイ、情けないなあ」

「動けない仲間を背に、気付いてもいない敵に殴りかかるのは蛮勇ですらないわ」

 

「……へえ? それじゃ後ろに居ないお友達の命には目を瞑るのか?」

「……見敵必殺はヒーローの職務じゃない。何より『守る』為に『捨てて』いたら世話ないわよ」

 

 "個性"の予備動作であろう片手をかざす荼毘に、軽く身構えたまま返答する『干渉』。

 奇妙な沈黙はやがて、かざされた手の先に小さく灯った青い炎により破られる。

 

「見ての通り『炎』さ。山火事になればお前と傍のお友達はともかく……何人死ぬだろうな?」

「……お互い見なかったことに。そう願いたいわね」

 

「さすがはエリート校。お利口さんで結構だ。……行くぞ、トゥワイス」

「良いのか!? 良くねーよ! 見逃してやるぜ! 撤退だな!」

 

「お互いに()()()()()()()のさ。紳士協定ってヤツだ」

「成程な! どういうことだ!?」

 

 最後まで支離滅裂な言動を繰り返す男―――トゥワイスを引き連れて荼毘は歩き去っていく。

 その背が木々の向こうに消え、耳郎にすらその足音が聞こえなくなった頃、大きく息を吐く音を彼女の耳は捉えた。

 

「……ほし、『干渉』さん、ごめんっ」

「良いのよ。さっきも言ったけど意識が戻って何よりだわ。……状況の説明は必要?」

 

「……出来ればお願い」

「有毒ガスに気付く。ガスマスクを『創れる』八百万さんがB組の、ガスを退けられる私がA組の回収に動く。あなた達を見付けてガス地帯の外へ運搬。先の敵達に遭遇……こんなところかしら」

 

「うっわ端的ありがとう……でもあいつらの他にもまだ敵が居るってことか」

「マンダレイの『テレパス』で施設近くにも二人来てることが分かってるわ。さっき仲間に向けて大声で叫んでいた男も居たし、これで少なくとも六人ね」

 

「マジか……万全を期したハズじゃなかったの……っ!?」

 

 畳みかけるように知らされた凶報に、耳郎は堪らず頭を抱えガシガシと髪を掻く。

 その様子を一瞥した『干渉』は未だ昏睡する葉隠へと目を向け、その身体を浮かび上がらせた。

 

「……あれ、それって」

「丁度良く削った岩に乗せているのよ。市街地じゃなければコスチューム無しでもこういうことが出来る。……耳郎さんも辛いようなら運ぶけれど?」

 

「そっか……いや、ウチは大丈夫。ただ……」

「……耳郎さん?」

 

 ためらいながら耳郎が視線を向けるのは、先の敵が歩き去っていった木々の先。

 

「さっきのヤツの言葉……やけに簡単に引いてくれたことといい、何か不味いことが起きてるんじゃないの……?」

「……()()()()()()()()のリスクを嫌ったんでしょうね」

 

 半ば以上確信を含んだ耳郎の問いに、『干渉』は観念したように口を開く。

 しかし与えられた答えに耳郎は、決して浅くない後悔を抱くことになった。

 

「『テレパス』で周知された彼らの目的は爆豪さん。そして先刻の叫びは目標回収達成との連絡だった。先の二人が引いたのは、おそらく撤退の為に回収地点とやらへ向かう途中だったから」

「ッ、回収達成……それって……!?」

 

「……殺害が目的なら回収とは言わないわ。命に別状は無いはずよ」

「…………」

 

 辟易したように言い捨てた『干渉』に、耳郎は何事か考え込むように瞑目する。

 数瞬の逡巡の後で、彼女は力無く浮かぶ葉隠へと近付き、その身体を背負った。

 

「……行ってよ、『干渉』さん」

「っ、耳郎さん? 何を……」

 

「足手纏いのウチらさえ居なきゃ戦えたんでしょ? 葉隠はウチが何とかするから『干渉』さんは爆豪を助けに行ってやって!」

「それは……どうして私がそんな無謀なことを―――」

 

 

(たす)けに行きたいって顔、してたよ?」

「っ……!?」

 

 

 息を詰まらせ、口元を手で覆う『干渉』に、耳郎はこんなときにと自身を戒めつつ微かに笑う。

 敵と対峙する最中でさえ超然としていた表情が大きく歪んだその様は、ファーストコンタクトで軽く弄られた身として最上の意趣返しであった。

 

「ヒーローになんてなりたくない、なるもんかって言ってたけどさ。以前も、さっきも、ウチらを救けてくれたあんたの背中は間違いなくヒーローだったよ」

「…………心外、よ」

 

 背中を向け、顔も逸らして、やっとそれだけ返した、とばかりの呟きに耳郎の頬が再び緩む。

 互いにそれ以上の言葉は探さず、動き出そうとしたその瞬間。

 

 

『―――おおおおおお!?』

 

「「…………」」

 

 

 それぞれの視界の端を『何か』が高速で横切った。

 

「……今の、緑谷だった?」

「……ああ、彼ならこの状況、動かないわけないわね」

 

 クラスメイトである障子と、その手に掴まれた轟、そして緑谷。

 夜空をカッ飛んでいったソレを即座に識別出来たのは、それが二人が知る彼ならば、全くもって違和感の無い行動だったが故。

 

「……緑谷も救けてやって!」

「世話が焼けるわねえ、本当に!」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「悪い癖だよ。マジックの基本でね。モノを見せびらかす時ってのは―――」

 

 草木の開かれた小さな広場に立っていたのは、荼毘やトゥワイスを含む四人の敵。

 その中でもシルクハットに仮面という道化師じみた風体の敵、Mr.コンプレスの"個性"は 人間を空間ごとビー玉サイズの玉に『圧縮』して持ち運べるというものだった。

 

 彼のコートのポケットから、推定クラスメイトの入った玉をすり取った障子は、轟、緑谷と共にその場を逃れんと走り出す。

 しかし、いつかの襲撃に続き同胞の回収に現れた"転移系個性"の持ち主、黒霧がその眼前に立ち足を止めさせる。

 たたらを踏んだ三人と、目標を取り返されたままだと食い下がる荼毘に向け、コンプレスは仮面を外し、これ見よがしに口の中を開いて見せた。

 

 そこにあったのは舌の上に乗せられた、彼の"個性"による玉が二つ。

 同時に障子の手にあった同じ玉が破裂し、中から玉の大きさを遥かに越える氷塊が飛び出す。

 騙されたことに気付いた三人が焦燥に身を焼かれながら振り向いた、その時だった。

 

見せたくないもの(トリック)がある時だ……ぜ?」

 

「……は?」

「えっ?」

「へ?」

 

 意気揚々と種明かしに興じていた敵の口から、二つの玉が音も無く宙を泳ぐ。

 誰もが止まった思考に視線だけでそれを追う中、広場に響いたのは静かな声。

 

「―――成程。つまりそれが本当の爆豪さんに常闇さんね」

「干河さんっ!!」

「彼女は……っ! こちらに来ていましたか!」

 

 ここに来ての思わぬ援軍に快哉を叫ぶ緑谷。

 いつかのように靄のような『ゲート』を散らされ歯噛みする黒霧。

 

「早く掴んで! 人間が入っているせいか"個性"の通りが悪いのよ!」

「「っ!」」

「体育祭1位の"操作系"……っ! 邪魔しやがって……俺のショウが台無しだ!」

 

 決して早くはない速度ながら、独りでに向かってくる二つの玉へと駆け出したのは轟と障子。

 コンプレスと荼毘もまた、それぞれ逃げていく玉に向かい走り出し手を伸ばす。

 緑谷も動き出そうとした瞬間、どこか重傷を負った部分に力を入れてしまったか、痛みに身体を痙攣させ膝をついた。

 

「オイオイ、紳士協定はどうしたァ!」

「敵の言う事を真面に取り合うとでも!?」

 

「なるほどそりゃ道理だ!」

「うおっ!? おいこら荼毘! 相性悪いんだから攻撃すんなっての!」

 

 走りながら荼毘が『干渉』へ向けて放った青い炎が、忽ち方向を変えて敵達へと降り注ぐ。

 悲鳴や悪態を吐きながら炎に対処する彼らを視界に入れつつ、浮かぶ玉へと轟が手を伸ばす。

 

「な……っ」

「哀しいなぁ、轟焦凍」

 

 しかし、青い炎を貫くように伸ばした腕で、先に玉を掴んだのは荼毘だった。

 目と鼻の先で僅かに手が届かなかった轟を煽るように憐れむ彼の背後に、一つの人影が現れる。

 

「黒霧……!」

「ありゃ? ワープゲートのあんたが何してんだ?」

「彼女にはゲートの生成を妨害されるので。直接触れなければ回収出来なくなるのです」

 

「つくづく厄介な生徒だな……Mr.(ミスター)、確認兼ねて解除しろ。そうすりゃもう引っ張られない。……もう一人は?」

「取られちまったよ……お前の炎のせいだぞ、荼毘!」

 

「……そりゃ悪かったよ」

 

 コンプレスと呼ばれた仮面の敵が忌々し気にパチンと指を鳴らす。

 その瞬間、障子の腕の中に常闇が、そして荼毘に首の裏を掴まれる形で爆豪が姿を現した。

 

「問題なし」

「かっちゃん!!」

 

 見るからに激痛が走っているだろう満身創痍な身体を引き摺り、壊れた手を伸ばす緑谷。

 靄を纏う黒霧の両手それぞれが、憤然と立つコンプレスと爆豪を捕える荼毘の背に伸ばされる。

 

「来んな、デク」

 

 敵達の身体と共に黒靄へと沈む僅かな時間、爆豪の発した言葉はその一言のみだった。

 





 『干渉』さんはマスタードくんとは戦いませんでした。人命救助最優先。
 ガス+拳銃に対して遠距離攻撃全反射とかイジメでしかないですが、一蹴出来る相性差と分かるのはあくまで原作読者視点ですので。
 意識不明の友人二人抱えて戦力不明の相手に挑めるわけがない。

 そんな訳で、原作通り拳藤さんと合流した鉄哲くんが倒しました。


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C3-13 悪夢の裏で


 Q. 本作爆豪くん原作表彰式よりマシだったのに誘拐(勧誘)対象なの?
 A. マシだったというのは原作読者視点です。全国放送される場で○ねだのブッ○すだの口走ってる時点でそっち側判定されるのは残当なのです。


 今話はちょっと変わった表現に挑戦しました。



 

差出人:干河歩

宛先:麗日お茶子

件名:ごめんなさい

本文:

 今回の事件でお母様から実家に戻ってくるように言われました。

 少なくとも学校が再開するまでは家から出してもらえなさそうです。

 デクさんのお見舞いには行けそうにありません。誘ってくれたのにごめんなさい。

 何かそちらで新しい情報があれば教えて下さい。お願いします。

 

 

差出人:麗日お茶子

宛先:干河歩

件名:気にしないで

本文:

 朝早くに出かける気配がしたのに戻ってくる様子がないと思ったらそういうことやったんやね。

 驚いたけど、歩ちゃんのお母さんの気持ちも分かります。気にしないで。

 お見舞いについてですが、病院に着いたらA組の皆が集合していて、こんな人数一度に病室には入れないよね、なんて話を今してます。だから本当に大丈夫だよ。

 

(追伸)

 いつの間にかみんなでお金を出し合って大きなメロンを買うという話になってました。

 歩ちゃん、今からでも来てくれへん?

 

 

差出人:麗日お茶子

宛先:干河歩

件名:デクくん起きた

本文:

 デクくんが目を覚ましました。

 また両腕バキバキやったみたいやし元気とは言いにくいけど、大事は無いそうです。

 ただ、ずっと気を失ってたからさっき初めて状況を知って、凄く辛そうにしていました。

 そうしたら切島くんが

 

 

差出人:麗日お茶子

宛先:干河歩

件名:ごめん

本文:

 変なところで切れたメール送ってしまったごめんなさい。

 あの後で切島くんが大変なことを言って、それを歩ちゃんにどう伝えようか悩んで書いて消してを繰り返してる内に間違って送信してしまいました。

 今も悩んでる途中で、このままやとさっきの変なメールの後で時間が空いてしまうし、ひとまずそれだけ説明することにしました。

 書くこと整理できたらまた送り直します。

 

 

差出人:麗日お茶子

宛先:干河歩

件名:どう思う?

本文:

 切島くんと轟くんが攫われた爆豪くんを自分達の手で救けたいって言ってます。

 飯田くんや障子くんはプロに任せるべきやって反対しました。

 耳郎ちゃんは命を捨てにいくような真似はヒーローのすることじゃないって叱りました。

 特に梅雨ちゃんは、実態はどうあれルールを破るならそれはヴィランの行いだと窘めました。

 デクくんがどうするかは分からへんけど、行くなら今晩だって切島くんは言ってました。

 爆豪くんは私達には救けられたくないんじゃないかなって私は思います。

 歩ちゃんはどう思う?

 

 

差出人:干河歩

宛先:麗日お茶子

件名:(件名なし)

本文:

 歩に代わって私が答えるわ。

 まあ、言うべきことは既に大体言ってくれているようだし、私から送る言葉はこれだけね。

 

 ヒーローって命を捨てるのが仕事だったかしら?

 そんなに犯罪者になりたいのなら好きにすればいいわ。

 

 動こうとしている面々には私からだと言ってこれを伝えておいてもらえるかしら。

 先の文面に含めなかったあたり、どうせ手段についても碌なものじゃないんでしょう?

 

 

差出人:麗日お茶子

宛先:干河歩

件名:どうしたら

本文:

 デクくん、切島くん、轟くん、それからその三人が動くとなったら必ず協力することになる人に干渉さんの言葉を送りました。

 今のところ誰からも返信はありません。

 というか私が迷った挙句に何も書かへんかったの何で分かったん?

 

(追伸)

 捨てたりなんてしないよ、でもヒーローは命懸けでキレイごと実践するお仕事だ。

 って、デクくんから返ってきました。

 絶対あの身体で無茶する気やと思います。どうしたらええんかな。

 

 

差出人:干河歩

宛先:麗日お茶子

件名:どうしよう

本文:

 干渉が、デクさん達の行動を知っていて止めなかった人もまとめて除籍されるんじゃないか、と言い出しました。

 それなら本気で止めないといけないんじゃって聞いたら、何て返ってきたと思います?

 むしろ今の内にそうなって別の学校のヒーロー科に移る方が良い。そう言われました。

 どうやらお母様も同じような考えでいらっしゃるみたいです。

 ヒーローを目指す事と雄英に通い続けることは等価ではないでしょうと言われました。

 説得するつもりですけど、何て言えば良いのか分からなくなっています。

 お茶子ちゃんは、もし御両親に同じ事を言われたら何と答えますか?

 

 

 

 

差出人:麗日お茶子

宛先:干河歩

件名:ごめんなさい

本文:

 返信遅くなってごめん。

 多分もうデクくん達は行ってしまったと思います。

 私、結局何も出来ひんかった。

 歩ちゃんの質問にも、何も答えられへん。

 歩ちゃんのお母さんの気持ちも分かるもん。

 多分私の父ちゃん母ちゃんもどこかで同じこと考えとると思うし。

 ヒーローになりたいって気持ちは変わらへんけど、雄英じゃないとあかんの? って聞かれたら私もどうしたらええのか分からへんよ。

 

(追伸)

 さっきの雄英の謝罪会見は見た? メディア嫌いの相澤先生が記者の質問に答えとったやつ。

 まだちゃんとした答えは返せへんけど、私は歩ちゃんと雄英でまた会いたいって思ったよ。

 

 

差出人:麗日お茶子

宛先:干河歩

件名:(件名なし)

本文:

 電話が繋がらないのでメールします。神野区の中継見てる?

 

 

差出人:麗日お茶子

宛先:干河歩

件名:デクくんから

本文:

 デクくんから連絡がありました。皆無事だそうです。

 中継には映ってへんかったけど、本当に神野区まで行って爆豪くんを取り戻したそうです。

 その後は警察に爆豪くんを届けて、今は帰ってきてる途中なんやって。

 クラスメイト向けに一括送信したら? って言ったら、全員が黙認してくれた証拠を残しちゃうからって言ってました。思わずもっとちゃうとこ心配しようよって言った私は間違ってへんよね?

 

 

 

 

差出人:干河歩

宛先:麗日お茶子

件名:さよなら

本文:

 歩に代わって私よ。

 以前のように眠ってしまった歩の手を使って書いているわ。真夜中にごめんなさいね。

 お茶子さんがこれを読むのは翌日になるかしら。

 神野区の中継の後、歩と歩のお母さんがちょっと大変なことになっちゃってね。

 まだ結論は出ていないけれど、歩は雄英に通えなくなる可能性が高いわ。

 それどころかこの先、こうして連絡することも出来なくなるかも。

 また会いたいと言ってくれて嬉しかったわ。じゃあね。

 

(追伸)

 また、会いましょう。

 

 

 

 

差出人:麗日お茶子

宛先:干河歩

件名:(件名なし)

本文:

 どういうこと

 

 

差出人:麗日お茶子

宛先:干河歩

件名:(件名なし)

本文:

 電話出てよ

 

 

差出人:麗日お茶子

宛先:干河歩

件名:(件名なし)

本文:

 こんなお別れやだよ

 

 

 

 

差出人:麗日お茶子

宛先:干河歩

件名:諦めないで

本文:

 今、雄英から全寮制導入検討のお知らせっていうのが届きました。

 歩ちゃんの手にも届いてますか?

 相澤先生たちが家庭訪問に来て、詳しい話をしてくれるそうです。

 諦めないで。お願いだから。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――とりあえず1年A組……また集まれて何よりだ」

 

「無事に集まれたのは先生もよ。会見を見た時は居なくなってしまうのかと思って悲しかったの」

「……俺もびっくりさ。まァ……色々あんだろうよ」

 

 

「…………あの、相澤先生……歩ちゃんは……?」

 

 

「え……あれ、そういえば干河は……?」

「何となく違和感あると思ったら……」

 

「これから寮について説明するつもりだったが、その前に言っておくか―――」

 

 

「1年A組干河歩は一身上の都合により休学を申請……雄英は本日付けでこれを受理した」

 





 リアリティのある文面を目指しました。超苦労したので二度とやりません。
 原作との違いはガスによる被害が少なく済んだ耳郎さんが、緑谷くんのお見舞いに参加しているくらいです。

 歩ちゃん休学のお知らせ。一身上の都合は便利な言葉。


 次回から新章突入です。


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Chapter-4
C4-1 波及



 作者の趣味の一つにトランプタワーがあります。
 一組百枚オーバーのUNOを使って見上げるほどのタワーをよく作っています。
 しかし実のところ、最後の一段を立てる直前の状態が作者的には完成品なんです。
 そこまで立ててから崩すのが、一番気持ち良いんですよ。


 今回から新章開始です。



 

「―――ねえ」

 

 小さな声が、重く響いた。

 

 雄英敷地内に建てられた1年A組用の寮、『ハイツアライアンス』。

 男女別に二分された寮の二階、男子棟。

 引退した元No.1ヒーローグッズに塗れたその部屋の中で。

 

「キミだけが、違う反応してた」

 

 一階に集まっていた一同の中から、その部屋主の手を引いて。

 誰にも追うことも、囃すことも許さない気迫を宿して。

 

「もしかしてって、顔しとった」

 

 彼女、麗日お茶子は、射殺すような瞳で問いかける。

 今も動揺に瞳を激しく揺らす少年、緑谷出久に向けて。

 

 

「歩ちゃんの休学。何か心当たりあるんやろ、デクくん?」

 

 

 

 

 『OFA(ワン・フォー・オール)』と『AFO(オール・フォー・ワン)』。

 紡がれてきた正義と、因縁深き巨悪。

 共通しているのはどちらも厳重に隠され、それにより社会の混乱が防がれてきたという事実。

 

「……おかしいやんか。電話もメールも、あれから全く通じひん」

 

 『AFO』は『OFA』に固執している。

 自身から生まれたそれへの執着か、自身に届き得るそれを疎んでか、それは分からない。

 

 彼の―――緑谷の抱いた懸念は、その執着の矛先。

 そしてただ一人、その"個性"の名と特異性を知っていたクラスメイトの、失踪に近い消失。

 

「相澤先生に聞いても、家庭の事情としか言うてくれへん」

 

 あの日、おそらく中継を見ていただろう彼女は知ってしまった。

 『平和の象徴』の真の姿と、受け継がれてきた"力"との関係を。

 

 その気付きが彼女達に何をもたらしたのか、それは彼には分からない。

 しかしそれでも言い様のない不安が、足元が瓦解する感覚が、彼女の休学を聞いたときから彼の頭を離れない。

 

「一番歩ちゃんの近くにおった私が、何も、なんも分からへんのに!」

 

 

 ―――そしてもう一人。

 出会った当初から彼に手を差し伸べ、明るく接してくれたクラスメイト。

 彼が長年抱えていた劣等感を拭い去り、新たな意味を授けてくれた相手。

 

 

「何を……キミは何を知ってるんよ! デクくん!?」

 

「ぼ、僕は……」

 

 

 うららかな瞳に激情を湛え。

 うららかな頬を憤りに引き締め。

 うららかな拳を彼の胸に打ち付けて。

 

 怒りと焦り、それに悲しみと恨みをない交ぜにした慟哭を突き付ける彼女に。

 

「何、も……っ」

 

 望む言葉を何一つ口に出来ない己を、彼は呪った。

 

 

 

 

「…………なんで」

 

 顔を伏せて、麗日は呟く。

 

「何で、そこまで……」

 

 緑谷の胸元を掴む手に一層力を籠め、肩を震わせて。

 

 

「何でそこまで、隠し事が下手っぴいなんさキミはぁ……」

「…………えっ」

 

 

 思わぬ方向からの罵倒に緑谷の表情が固まる。

 再び上がった麗日の顔は、怒りよりも泣き笑いに近かった。

 

「全部顔に書いてあるやん……むかついとったのに笑てまうわ……卑怯者ぉ」

「え、ご、ごめん?」

 

「ブフっ……!? 何でそこで謝るんさぁ!」

「ええぇ!? ど、どどどうしたら……」

 

 高校生になるまで女子との会話すら経験の無かった緑谷には些かハードルの高いやり取り。

 慌てふためく彼の姿に、麗日は今度こそ大声で笑いだした。

 

 

「……ねえ」

「っ!」

 

 繰り返されたのは最初の呼び掛け。

 同じ言葉ながらずっと柔らかなその声に、緑谷の顔が引き締まる。

 

「私は、歩ちゃんとこんな別れ方、イヤや」

「…………うん、僕も」

 

 先程までとは裏腹に、彼女の瞳を見つめ返して彼は答える。

 

「でも僕が知ってる事も、もしかしたらでしかない。だから―――」

 

 そう言って緑谷は、自身の携帯電話を手に取った。

 

 

「知っていそうな人に、聞いてみる!」

 

 

 

 

『―――ち、ちち違うぞ緑谷少年!? 干河少女の休学理由は決して……決して君が想像しているようなものでは……っ!』

 

 電話越しに響く、元No.1ヒーローの激しく狼狽滲む声。

 常の緑谷ならば、その必死過ぎる否定に引き下がっただろう。

 また相手があの担任教師(相澤)ならば、()()()()()()が通じるとも考えなかっただろう。

 

 しかし二人の友人を想う心と、何より罪悪感に突き動かされる今の彼には、他ならぬ師の動揺に付け込むという一手を選べた。……選べてしまった。

 

「干河さんは……僕の、僕達のせいで()()()に目を付けられてしまったんじゃないですか!?」

『……っ!? ち、違う……のだ。原因は我々では―――』

 

 そして彼らは、師弟揃って―――

 

 

「……我々()()ない?」

『…………あ』

 

 

 隠し事がド下手クソであった。

 

「……っ、や……っぱり! アイツが関係しているんですね!? 干河さんの事情に!」

『き、きき汚いぞ緑谷少年!? 君いつからそんな話術を弄するようになったんだい!?』

 

「干河さん……『干渉』さんに、他人を手玉に取る手腕を間近で色々と!」

『Shit! 純朴な緑谷少年に何してくれてるんだ彼女!』

 

「そんなことより答えてください! 干河さんは……巻き込まれたんじゃないんですか!?」

『グ……ヌゥ……』

 

 口からスラングが飛び出すほどの動揺の極致に追い込まれたオールマイトは、しかし愛弟子への意地を見せるべく踏みとどまる。

 自身の中で幾つもの天秤が音を立てて崩れる様を感じながら、それでも相手は未だ守られるべき子供なのだと己に言い聞かせて。

 

『…………心配することは、ない。彼女は……干河少女は無事だよ。それに今の状況は……彼女の意志でもあるんだ』

「……っ」

 

 師にそう言われてしまえば、緑谷にそれ以上食い下がることは出来なかった。

 そもそもが無礼を働いた横紙破り。二歩目を踏み込める気力が彼には無い。

 

 

「…………その『アイツ』って、『オール・フォー・ワン』のこと?」

 

 

 しかしこの場には、その一歩を埋め得る生徒(子供)がもう一人。

 

『その、声……麗日少女、かい?』

「え……何で、その……名前……っ」

「デクくんが言うたんやん。オール・フォー・ワンは何が目的なんだ、ってショッピングモールで死柄木に」

 

 電話を挟み呆然とする師弟の前で、麗日の推理は続く。

 

「あの時そう聞いたってことは死柄木の後ろに居る奴ってことやんな? 神野区の中継で映った、あのとんでもない(ヴィラン)の事なん? でもあいつは逮捕されたやん。何なん? 歩ちゃんは―――」

 

 ギリ、と。

 噛み締めた唇から血を滴らせて、彼女は問いかける。

 

「何に、巻き込まれたん? 何に巻き込んだん? 教えてよ……デクくん。オールマイト」

 

 

 

 

「―――君達は、まだ子供だ。……ヒーローを志す卵に過ぎない」

 

「不安には思うだろうが、大人に任せて欲しい……と、言っても納得は出来ないんだろう?」

 

 

「…………『ヒーロー仮免試験』。迫っているのは分かっているね?」

 

「合格率は例年で五割。君達より一年、あるいは二年多く経験を積んだ者達を合わせて、五割だ」

 

「いかな雄英が国内最高峰のヒーロー輩出校と言えど、一年生での仮免取得は非常に狭き門だ」

 

 

「…………だからこそ、約束しよう」

 

「君達が見事に仮免取得を達成出来たならば……この件に関して『子供だから』という理由で排斥するのはやめる、とね」

 

 

「……あ、ああ、だがしかし、だ!」

 

「あくまで仮、であってヒーロー免許ではないんだ。分かるね?」

 

「そもそもプロヒーローであっても望む事件に関われるかと言えばそうじゃないんだ」

 

「だから……そうだ、こうしよう!」

 

 

「一つ。彼女について君達の質問に一つだけ、包み隠さずに答える、これでどうかな?」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「…………戻ってこないねえ、緑谷と麗日」

「おい、誰か様子見に行けよ」

「イヤ、行くならお前行けよ」

 

「無茶言うなよ……絶対地雷踏むじゃねえか」

「じゃあ他人に行かせようとするなよ……」

 

「ああー……ほら、峰田お前行けよ。ひょっとしたら濡れ場かも―――」

「「「殺すよ?」」」

 

「…………ハイ、すんませんっした」

「巻き込むなよ……オイラだって空気ぐらい読むっての」

 

 

「うー……でも気になる……! 耳郎ー、聞こえてたりしない?」

「……ノーコメント」

 

「え、それ聞こえてるんじゃ―――」

「ノーコメント」

 

「……うう、こっちも怖いよぉ……」

「……無理もありませんわ」

 

 

「……ッ、じゃ、じゃあこれだけ教えてくれ、耳郎! ……俺達の、せいか?」

「切島……!」

「…………イヤ、それは違う……と思う」

 

「そ……そっか……」

「……うん」

 

 

「……ハッ! 何のことはねえ。これがあの腹黒女の選択ってだけじゃねえか」

「爆豪お前、こんな時まで……!」

「腹黒呼ばわりやめたげなよー!」

 

「腹黒は腹黒だ。いよいよ青髪に愛想尽かしたんだろ」

「…………んぅ?」

「何言ってんだお前……?」

 

 

「……! 爆豪、あんた……」

「……気付かねえこいつらが鈍過ぎんだよ」

 





 ※この後、摘出したはずの胃を関係者一同にハチの巣にされる模様。

 これが作者の送る至高のデク茶です。デク茶いいよねデク茶。


 次回、ちょっと時間を遡って干河家家庭訪問です。


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C4-2 家庭訪問・前編


 時折小さな変更はありましたが、これまでもこれからも大筋は全て初期プロット通りです。



 

「―――次が最後……干河の家ですね」

 

 全寮制の開始から遡ること数日前。

 担任である相澤と、副担任であり、既にヒーロー引退を表明した『平和の象徴』オールマイトによる各生徒の家への家庭訪問が行われていた。

 

 波乱が予想された最大の被害者、爆豪家からは拍子抜けしかねないほど簡単に了承を貰い。

 一方で緑谷家では元ヒーロー、現教師、そしてひとりの人間としての矜持を厳しく問われ。

 家庭訪問兼説得という名の謝罪行脚は、遂に最後となる二十軒目へと向かっていた。

 

「しかし繰り返しになりますがオールマイト、あまり特定の生徒に肩入れするのは……」

「わわ分かってるさ、だが彼に関しては私個人が通さねばならない筋があってだね……っ」

 

 つい先ほど、本来ならば二人で各生徒の親と話し合うところを、緑谷家だけはどうしてもというのでオールマイト一人での訪問を行ったのだ。

 いい加減ここまで来れば勘ぐれるものは幾らでもあるんだが……と、相澤は心中で溜息を吐く。

 

「……結果的にまとまったようですし追及はしませんが……教師として線引きはお忘れなく」

「……ああ、すまないね」

 

 根津校長からその可能性を示唆され、またその際には最終的に折れるよう頼まれていなければ、決して納得しなかっただろうと、相澤は己を俯瞰した上で種々の疑問を飲み下す。

 その様子にオールマイトは、ヒーローとしての後輩、教師としての先輩である彼が大いに譲ってくれた気配を察し、可能な限りの謝意を言葉に込めた。

 

「ところで相澤君、こう言っては何だが……どうして干河少女のお宅を最後に回したんだい?」

「……事前に入った情報による判断です」

 

 伸ばし放題だった髪と無精髭を丁寧に整え、着慣れないスーツに身を包んだ相澤が、干河家へと向かう車の中で一つの資料を取り出す。

 骨と皮だと揶揄される真の姿(トゥルーフォーム)を晒すオールマイトは渡された資料に目を通し、小さく唸った。

 

「報道はされてませんが、干河の父親は過去の事件が原因で実に十年以上昏睡状態にあります」

「ムゥ……では干河少女は母親に女手一つで育てられてきたというわけか」

 

「いえ、母親に加えて家政婦十数人です」

「あ、そういう感じのご家庭なんだね!?」

 

 一瞬頭に浮かんだ予想図を盛大にひっくり返されたオールマイトが軽い吐血と共に叫んだ。

 「いや、ならば良いとはならないけども……」と懊悩する姿を横目に、相澤は深く溜息を吐く。

 

「家庭訪問の連絡を回した際、麗日が俺個人に伝えてきたんですが、どうにも本人の意思とは別に推定軟禁状態にあるようでして。……件の『神野の悪夢』を境に連絡が途絶えているそうです」

「なっ……!? それは……」

 

「まさに校長の懸念通りの批判を受ける可能性が極めて高い。想定し得る限り一番の難題です」

「それで最後に回されたのか……」

 

 携帯を手に取った相澤が、差出人に麗日お茶子と付いた一通のメールを表示させる。

 

「幸いというべきか、当人の意思は雄英に通い続けることにあるそうです。……半分は」

「半分……? それは……っ、もしや相澤くん、キミ知って……?」

 

「……その様子ですとご存じでしたか。()()()()()干河について」

「ああ……意識を常態的に顕在化させた"個性"。今思えば常闇少年の"個性"とも似ているが、本人から聞いた時には私も驚いたよ」

 

 

「…………は?」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――いや、その……相澤君も本人達から聞いたのかなって思……すいませんでした」

「謝るなら勝手に秘密をバラした事を干河に、でしょう……ホラ、着きましたよ」

 

 辿り着いた住所にあったのは、一般的な家屋数軒分の敷地に建つ洋風の屋敷。

 玄関まで続く庭道は、人によっては気後れしかねない程の風情であったが、そこはどちらも経験豊かなプロヒーロー、特に気にすることも無く横切っていく。

 ……実は先に訪問した八百万家で感覚がマヒしたままだったりするのだが、二人に自覚は無い。

 

 重厚な扉に備えられた、古風なドアノッカーを鳴らすこと暫し。

 内部から微かに響いてくる足音を、鍛え上げられたヒーローの感覚が拾う。

 やがて開かれた扉の向こうには、両名共に見慣れた女生徒の姿があった。

 

「ようこそいらっしゃいました、オールマイト、イレイザーヘッド」

「やあ! 久し振りだな、干河少女!」

「……今は教師だ」

 

「では相澤先生、それから……八木先生、どうぞ中へ」

「ほ、干河少女!? そちらの名前は出来れば……」

「……やぎ?」

 

「あれ、同僚にも秘密だったんですか? 雄英職員の八木俊典さん?」

「……緑谷の事といい、あんた特定の生徒に肩入れし過ぎなんですよ」

「ムウゥ!? それはその、色々と事情が……さ、さァ、お邪魔させてもらうよ、干河少女!」

 

 "個性"ほどではないにせよ、謎とされてきたNo.1ヒーローの本名をあっさり明かされ動揺するオールマイトに、くすくすと笑う干河。

 その様子に相澤は教師として幾つか頭に忠言を浮かばせるも、「まぁ、職場や同僚にまで本名を隠してるとは流石に思わんか」と、それらを喉奥に仕舞い込むことを選んだ。

 

 

「リビングにテーブルがありますから、そちらに掛けてお待ちを。私はお茶を淹れてきますので」

 

 

 

 

「―――それで、そちらの姿で話す機会があったと」

「ああ……その時はこの姿 (イコール) (オールマイト)にならないように配慮したんだが……」

 

「神野の中継で露見したわけですか。まァ、それはもういいです。それよりオールマイト……」

「……分かっているさ、相澤君」

 

 家主の娘の案内で通された部屋、上品なテーブルに着いた状態で目配せする二名のヒーロー。

 それぞれのヒーローとして培った経験と直感が、彼らに漠然とした何かを訴えかけていた。

 

「……ここ数日中に人の出入りがあった気配が無い。娘を含む生徒が狙われたことで信用のおける人間以外を排したにしてもやや異様に映るね」

「監視カメラに赤外線センサー……我々を迎えるために幾つかは解除してあるようですが、どこの要塞だって域だ」

 

「……そこを言うと八百万少女の自宅も相当なものだったけどね」

「いえ、確かにどちらも万全のセキュリティではありますが、こちらは……()()

 

 そう言った相澤が目を向けるのは、室内の花瓶、照明、その他さりげなく佇む置物類。

 直感の訴えを言語化出来ずに「違う……?」と唸るオールマイトに向けて、彼は言葉を続ける。

 

「……機器の設置場所や向きからして、これらは侵入者に対する防備じゃない。外へ出ようとする人間の阻止、いわば牢獄としての設備ですよ」

「何だって!? ……いや、そう言われれば確かに……!」

 

「推定軟禁なんて甘い状況じゃない可能性が出てきた……これは想定以上の難題かもしれません」

Umm(ウムム)……」

 

 

「まあまあ、そう警戒しないでくださいな。先生方に実害はないでしょう?」

 

「……!」

「っ、干河少女……か」

 

 

 身構えた教師二人の視界に割り込んだ、宙を舞うティーカップと茶菓子を乗せた小皿。

 しかし両名の想定とは裏腹に、次いで現れたのは家主の娘ただ一人であった。

 

「……おい、干河。この屋敷は常に家政婦を雇っていた筈だが、人気(ひとけ)が無いのはどういうことだ」

「今日の話の為に暇を出しておきました。不特定多数に聞かせる話ではありませんからね」

 

「……それでお前の母親は?」

「もう暫く手が離せない、と。お手数掛けましてすみません、先生」

 

「…………こちらが頼む立場だ。想定はしている」

 

 ―――交渉の席にそもそも着かない。そんな盤外戦術が相澤の頭を過る。

 思えば他の生徒の家が立て板に水のごとく話が進み過ぎたのだと、人知れず彼は自省した。

 ちなみにその隣では新米教師(オールマイト)が想定外過ぎる対応に硬直している。

 ここ数十年、どこでも『平和の象徴』と持てはやされてきた身には厳しい文化的衝撃(カルチャーショック)だろう。

 

「……干河、この機会にお前の意思を確認しておきたい」

「それは重畳。私も話の前に先生方へお聞きしたいことがあったんです」

 

 意識を切り換え、交渉の糸口を探りにかかる相澤に、快く頷く……()()()()()干河。

 普段の口調や振る舞いに差異があることを彼は知っているが、片方がもう片方を演じようとする姿も一度目にしている。演技力向上の可能性を踏まえれば根拠には弱い。

 

(麗日が言うには片方が賛成、片方が反対の立場。目の前のコイツはどっちだ……?)

 

 見極めに頭を回す相澤の前で彼女がテーブルに置いたのは、手の平程の包みが二つに紙束一つ。

 それから自身と後から来る母親の分だろうティーカップと茶菓子を教師達の対面側に着陸させ、彼女はゆったりと席に着く。

 

「聞きたいことだと?」

「ええ、簡単なことですよ」

 

 そう言った彼女は一つ目の包みを開く。

 中から現れたのは、相澤にとってどこか見覚えのある携帯端末だった。

 

 

「……合宿開催地の急遽変更および現地到着までの未提示。さらに移動するバスに取らせた執拗なまでの方角変更。これらは私達生徒にも(ヴィラン)との内通の疑いがあったが故、ですね?」

 

 

「……ああ、そうだ」

「相澤君……っ!?」

 

 雄英が生徒を疑っていた、という『事実』。

 事件直後の職員会議でも上がった疑惑を呆気なく肯定した相澤にオールマイトが目を剥く。

 

「では重ねてお聞きしますが……私達から携帯電話を、位置情報の取得と外部への連絡手段を取り上げなかった理由は?」

「っ……我々を責めているのかね、干河少女」

「責められて当然でしょう。本当の意味で万全を期すならばやるべきだったことだ」

 

 一つ目の包みの中身が、合宿中にも干河が使用していた携帯電話だと、ここで相澤は確信した。

 痛烈な批判ともとれる教え子の問いかけを肯定した上で彼は答える。

 

「雄英が国立の教育機関である以上、踏み越えられんラインがある」

「生徒が合宿地内から行う連絡を監視しなかったのも同様の理由で?」

 

「……しなかったと確信しているんだな」

「事前の忠告も有りませんでしたからね。抜き打ちならそれこそライン越え、でしょう?」

 

 相手の言葉を即座に利用してまでのける詰め方に、相澤はもう一つ確信する。

 ……今、自分が話しているのは、母親と共に反対の立場をとる『干河』である、と。

 

「……オールマイト曰く、"個性"『干渉』、で良かったか?」

「っ、あらまあ……オールマイト先生?」

「ちょ、ちょっと相澤君!?」

 

「ちなみに麗日からもお前の存在については聞いている。今回の話の為に、だそうだ」

「……もう、お茶子さんったら」

「私と態度が違い過ぎないかな、干河少女!?」

 

 育ちの良いお嬢様、といった風情のあった表情を薄笑いへと変える干河、もとい『干渉』。

 オールマイトに対しては目だけ笑っていない笑顔を向けた一方で、麗日の名前が出た途端、顔を困ったような微笑みに変化させる。

 切り換え振りに戦慄しつつも、「そこのブレなさは共通なのか」と相澤は呆れ混じりに呟いた。

 

「お前は雄英に通い続けることに否定的な立場と聞いている。理由はこれか?」

「…………理由の一割程度ではあるかしら」

「一割、かい?」

 

 対策を徹底した、と謳っておいて分かり易く残っていたセキュリティホール。

 それを指して信用に欠けると結論付けたのかという問いに、彼女は首を横に振る。

 

 

「この子は……(あゆみ)は、雄英に相応しくない」

 





 ついに突きつけにかかりました。
 読者目線ならば結論は分かっているわけですが、はてさてその経緯とは。


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C4-3 家庭訪問・後編


 重ねてになりますが初期の草案通りです。
 この展開は一話目投稿前から決まっていました。



 

「……どういう意味だ?」

 

 雄英の落ち度を突いたかと思えば、提示された理由は当人にこそ問題があるというもの。

 流石に意表を突かれた相澤に対し、『干渉』は淡々と告げる。

 

「入学試験、筆記実技共に合格点を出したのは私よ」

「……っ」

 

「その他にも、主要な判断を行ってきたのは私。体育祭後半などは相澤先生もお察しでしょう?」

「……だろうとは思ったが」

 

「合宿前の期末試験、特に筆記で急激に成績を落としていたでしょう? あれは初めて私が一切の手出しをしなかった結果よ」

「…………成程な」

「し、しかしそれは……」

 

 ―――()()()()()()()()として除籍させる。

 真の狙いはこちらかと、相澤は既に何度目かも怪しい戦慄を覚える。

 成程その方向で理論武装されれば、自分には特に反論が難しい……と彼が考えていた一方で。

 

「待ってくれほし……『干渉』君! 例えそうだとして"個性"とはその人間の身体機能の一つだ! つまり君も干河少女も合わせて一人の生徒であることに変わりはない! 何より彼女がヒーローに相応しい人間となるべく日々邁進していることを、他ならぬ君こそが一番良く知っているはずじゃないのかい!?」

「成績不振、向上心はあれどそれだけの無能、そんな歩にこれ以上雄英の末席を汚させたくない、これが雄英に通い続けることを反対する理由―――」

 

 言葉を尽くし追い縋ろうとするオールマイトを、彼女は一顧だにせず。

 淡々と、ただ淡々と彼女の口は結論を紡ぐ。

 

 

「その更に一割よ」

 

 

「……へっ?」

「何……っ?」

 

 飛び込んできた最後の一言に、己が耳を疑う二人の教師。

 聞くからに重大な、そして秘められた大事と思われた告解が、尚も理由の十に一つなのかと。

 

「一割は雄英の問題。もう一割は歩の問題。残りの八割に歩は関係しているけど……酌量の余地はあるのよね。残念なことに」

「……つまりようやく本題だと?」

 

「ふふ、ごめんなさい、合理性好きのイレイザーヘッド」

「……今は教師だと言ってるだろ」

 

 目を据わらせる相澤を茶化しながら、彼女は二つ目の包みを開けた。

 何が飛び出すのかと構えた教師達が見たのは、一つ目とほぼ変わらない見た目の携帯電話。

 

「まあまあ、相澤君……それで、これはなんだい?」

「歩の母親、干河心美の私用端末」

 

「……何でそんなものを君が?」

「借りてきたの。この話し合いに必要だから……ほらこれが合宿初日の夜に歩が送ったメールよ」

「……成程、これだけ情報があれば合宿場所の特定は難しくないな」

 

 送られていた文面から分かるのは、出発地点と移動時間、大体の方角に山岳地帯という情報。

 これらの要件を満たす場所は日本全国にもそう多くはない、と相澤は深く嘆息する。

 

「実は合宿の前、歩は場所が分かり次第連絡するように母親に頼まれていたのよ」

「あー……親御さんの気持ちを考えれば仕方のないことだね」

「……想定内ではあった。保護者から第三者へ広がらない限りは問題ない、とな」

 

 まさしく最初に指摘された懸念そのもの。

 むしろこれがあったからこそ初手に追及してきたのだと、相澤は納得する。

 

 

「そして通話記録を見るとね。届いてから十数分後、誰かから()()()()()()()()()()()の」

 

 

「…………オイ、だとしたら真夜中だぞ?」

「な……まさかッ!?」

 

 しかし続いた言葉は彼らからこれまでとは全く異なる驚愕を引き出した。

 椅子を蹴倒さんばかりに立ち上がった二人の前で、彼女は淀みない操作で携帯に標準搭載された通話録音アプリを起動する。

 

 カチ、と。

 何ということはない押下音が、記録された()()を再生した。

 

 

『―――やあ、合宿先は判明したかな?』

『ええ。娘が伝えてきてくれましたわ、叔父様』

 

 

「……ッ!!?」

 

 聞き違えるはずがなかった。

 他ならぬ『平和の象徴』オールマイトが。

 

 

「…………『オール・フォー・ワン』」

「な……っ!?」

 

 

 追い続け、追い詰め、己の全てを賭けて地に沈めた最凶最悪の敵の声を。

 

 

「……ね?」

 

 俄かに漂白された教師達の思考に、小さな呟きを落とし。

 見開かれた二対の瞳を見上げて、彼女はうっそりと笑う。

 

 

「雄英に置いてなどおけないでしょう? イレイザーヘッド」

「……!」

 

 

 彼ら教師陣が危惧し、生徒にまで疑念の目を向けさせた内通者。

 その正体こそ、1年A組出席番号17番『干河歩』―――自覚無き協力者だと。

 

 

「あらそれは悪しゅ―――」

「っ、『干渉』君!?」

 

 コスチュームではなくスーツ姿であったが故に捕縛布の用意は無く。

 やむを得ず相澤が選んだのは、"個性"『抹消』および直接取り押さえての無力化。

 しかし"個性"を使用し、髪を逆立てた彼がテーブルを乗り越えるより先に、彼女の身体はまるで糸が切れたかように倒れ伏した。

 

「相澤君、何を!?」

「……片方が内通者で片方が告発者、そんなものが事実とは限らない。念の為『消した』上で尋問するつもりでしたが……こうなるのか」

 

 相澤が取り押さえた身体には既に力は無い。

 それもそのはず、『干渉』が意識を顕在化させていたのも"個性"によるものだ。

 "個性"発動を無効化する『抹消』を受けてしまっては昏倒するのも必定である。

 彼女が倒れる間際に言おうとした『悪手』の意味を遅れて理解し、彼は意識の無い生徒の身体を見下ろしながらガリガリと頭を掻いた。

 

「……事実ならば……いや、どちらにせよ彼女の母親は奴と繋がっていた……」

「そちらについてもコイツが何かしらの対処をしたんでしょうが……いや、まさか……」

 

 相澤が目を向けたのは、彼女が包みと共に用意し、テーブルに残ったままの紙束。

 『干河歩』を当人の衣類を利用し拘束した彼は、一番上が白紙になっているそれを取り上げた。

 

「…………ああ、お前はそういうやつだったな」

「相澤君?」

 

 めくり上げた紙の下を見た後で、相澤はまた深く息を吐く。

 そこにあった最初の一文を、彼はオールマイトに見えるように広げた。

 

 

 "こちらには私が喋れなくなったときの為に続きを書いています。"

 "便利な個性には違いありませんが、以後気を付けてくださいな、イレイザーヘッド。"

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――至急、医療関係者を招く必要があるな」

 

 託されたメモに導かれ、相澤が向かった先は干河家地下の一室。

 辿り着いたその場所で、目に入ってきた景色に彼は小さく呟いた。

 

 それほど広くはない真っ白な部屋に佇む一つのベッド。

 その背後に、周囲に、所狭しと並ぶ生命維持用の機材。

 それらから伸びる無数の管に繋がれた、骨と皮にも近い一人の男性。

 

「……この男が干河増太。アイツらの父親、か」

 

 横たわるその顔を覗き込み、軽く意識確認を行って「()()()()か」と、相澤はまた息を吐く。

 つい先日見た捕縛された『脳無』が頭を過り、彼の思考を辟易が埋めていった。

 

 相澤には分かった。この男は最早何も見てはいない、と。

 何も聞いていない。

 何も感じていない。

 思考の一欠片すら、ぼんやりと開かれたこの瞳の奥には残っていないのだと。

 

 先程オールマイトが呟いた巨悪(AFO)の手により改造されたという遺体(脳無)もこれに近いが、こちらは彼を生き長らえさせようという『善意』で行われているという点において、よりタチが悪い。

 

「まァ、生理的反応の有無という差はあるが……『生きた死体』と『死んでいる生者』、どちらがマシかは分からんな」

 

 一部の『脳無』については既に死体であるとして、荼毘に付す案が持ち上がっているという。

 それに対しこちらはそのような案を俎上に乗せることすら出来ないだろう。

 何せ当人の意識が無いという一点を除けば紛れもなく生きているのだから。

 

 

『―――相澤君、聞こえるかい?』

「オールマイト……警備室からですか」

 

 

 地下室に届いたのは、屋敷内放送に乗せたオールマイトの声。

 託されたメモにより最初に指示された、要塞じみた警備システムの掌握の為に、警備室に残った彼の声が届いたことに対して相澤の表情に驚きは無い。

 屋敷にそうした機能が備えられている事は、警備室および地下室の様相を見ればメモが無くとも推測可能だったからだ。

 

『ああ、屋敷内の警備システムが彼女の記述通りの状況であることを確認したよ……彼女の母親の現状についてもね』

「ああ……」

 

 "―――さて歩の母親にしてヴィランの直接の幇助者である干河心美についてですが、どこかに軟禁、拘束し続けるのも面倒、もとい難しい為、丁度良くこの屋敷に存在する脱走防止機構の中に放り込んでおきました。内部で数ヶ月は余裕で生きられるようになっていますし、自身で手ずから作り上げた仕掛けを堪能しているのですから、本望でしょう。"

 

『……システムを作った業者に連絡しないと救助は不可能じゃないかな、コレ』

「正規の建築の結果なら良いんですが……そのときは警察と共に改めてお邪魔するとしましょう」

 

 幇助犯の受ける刑は正犯の刑の減軽が基本。

 酌量の余地による減軽を除けば、懲役および罰金は正犯の二分の一と規定されている。

 

 しかしこの場合の正犯とは、すなわち(ヴィラン)連合の真なる首魁AFO(オール・フォー・ワン)である。

 あまりの罪過に特例中の特例として刑の確定を待たずして最高最悪の監獄(タルタロス)へと送られた存在だ。

 

「幇助の理由がどう判断されるかは分かりませんが、減刑の余地が残されたとして此処より処遇が良くなることは無いでしょう。それを思えば多少私刑の色が強いが合理的と言っていい」

『ムゥ……そう、かもしれないね』

 

 機材越しに聞こえた苦渋の滲む唸りに、相澤は知れず目を伏せる。

 今となっては『元』が付くとは言え、『平和の象徴』の心痛の原因は明らかだった。

 

 何故なら『干渉』のメモには、あくまで彼女の視点からとはいえ書かれていたからだ。

 干河心美の真実、干河家の真実、そして―――彼の生徒が内通者と化した経緯の全てが。

 

(全てが全て事実とは限らん。これからの取り調べ次第だが……)

 

 大至急手配した警察の手で護送されていった生徒を想い、相澤は瞑目する。

 彼女の"個性"は四肢や視覚を抑えれば封じられるものではない。

 そうした"個性"の持ち主に取り調べを行うにはそれに応じた"個性"が必要であり……何の因果か彼の"個性"はまさにお誂え向けであった。

 

 警察上層部の打診を受けて、相澤がそのような尋問を行ったことも一度や二度ではない。

 彼の脳裏には既に、慣れたくもない取り調べ風景に座る教え子の姿が実像を作っていた。

 

(……滅入るな)

 

 懐に仕舞った携帯電話、その中に今もあるだろう一人の生徒の訴えが思い起こされる。

 相澤にとって、これほど重く感じる生徒からの信頼は、久しかった。

 





 タグ:青山不在。
 ならば代わりが必要ですよね。

 刑法62条1項「正犯を幇助した者は、従犯とする。」
 刑法63条「従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。」
 原作の法律がこれらに即しているかは分かりませんが、本作ではそういう設定ということで。

 何気に原作ではこのときAFOが収監された場所をタルタロスとは明言していません。
 ただし後にタルタロスで登場したステインが収監されていますし、単に名称が決まってなかっただけかもしれませんね。


 ところでこうなるとC3-13話のメールに違和感はありませんか?


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C4-4 干河歩:オリジン


 答え合わせ、その一。

 原作でも内通者が明かされるのは合宿辺りの時期を予定されていたそうな(34巻幕間より)。
 作者的に本作において書きたかったシーントップ3の一つが今話となります。



 

 "―――私達を拘束するならば、個性因子の動きを感知出来る設備が必要です。"

 "個性を使おうとすれば即座に眠らせる。そんな備えを敷く必要があるでしょう。"

 "何しろ非生物、無機物に対して汎用性が効き過ぎる。拘束具の鍵や電子式の扉を開けるぐらい歩でも時間を掛ければやってのけます。"

 

 "幸い、とは言いにくいでしょうが、それらの準備に時間は掛からないでしょう?"

 "それより遥かに危険度の高いヴィランが収監された直後ですから。"

 

 

 託されたメモを読み返すことで、相澤は僅かな()()()()を過ごしていた。

 周囲で動く職員の気配に、動かされる機器の駆動音。

 目の前にある大きなガラス越しに見える、四肢の拘束と目隠しをされた生徒を前にして。

 

 "尋問にはイレイザーヘッドのような個性の持ち主が必要になるでしょう。"

 "意識があり、かつ個性を使用できない状態でなければ、喋らせることが出来ませんから。"

 

「―――イレイザーヘッド」

「っ、ああ……」

 

 機材の示す波形を睨んでいた職員の声が、相澤の耳に届いた。

 意識の覚醒が近いことを指すその合図に従い、彼は髪を逆立ててガラスの先を『視る』。

 

 "尤もそうなると、私が表に出る機会は二度と無いでしょうけどね。"

 "個性を封じられた状態で応対が可能なのは歩だけですから。"

 

「……起きてます」

「では、始めてくれ」

 

 "イレイザーヘッドがそれを担うのか、より特化した個性があるのかは存じ上げません。"

 "取り敢えずこの先は、起きた歩が口にしそうな内容を書いておきますね。"

 "別の方が行うということなら、そちらに伝えておいてくださいな。"

 

 

「…………ぁ、え? ここ、何処……?」

 

 

 "まず歩の記憶に関してですが、丁度合宿地から戻った辺りで途切れています。"

 "母親を糾弾し、屋敷を掌握する上で歩が起きていると支障がありましたので。"

 "私の個性が行えるのは加減速。加速により私の意識を顕在化させたように、減速によって歩の意識を封じ込めることも可能でしたから。"

 

「何も見えな……あ、あれっ、動けない!? 何で、何が―――」

「……干河」

 

「っ、その声、相澤先生!? た、助けてくださいっ! 多分、縛られて……」

「一度落ち着け。そして俺の質問に答えろ」

 

「え…………は、はい」

 

 

 "次に歩の認識ですが、自分がヴィランの内通者であったとは思っていません。"

 "合宿先の情報を母親に送ったことと、ヴィランの襲撃があったことが繋がっていませんから。"

 "さらに言えばUSJの襲撃も授業予定を母親に知らせたことが原因だったのでしょうが、そちらに関しては私にとっても確信には至っていません。"

 "勿論、そこに違和感を覚えたからこそ、今回お見せした証拠を掴めたわけですが。"

 

「お前は合宿の最中、その開催場所について母親に連絡したな?」

「……はい」

 

「ではお前の母親がそれを、誰かへ伝えていたことを知っていたな?」

 

 

 "そして歩は、以前からオール・フォー・ワンの事を知っていました。"

 

 

「あ……はい」

「……それはお前の母親が『叔父様』と呼ぶ人物で間違いないか?」

 

「はい」

 

 

 "その名前以外、ですけどね。"

 "彼の人物がヴィラン連合に連なる人物、まして真の首魁であったことなど露程も。"

 "まあ私も神野の中継を見た上で、干河心美を締め上げたことで初めて知りましたが。"

 

「その『叔父様』とやらが、(ヴィラン)連合と繋がっていたことが分かった」

「……は、へ?」

 

「合宿が襲撃されたのは、お前が母親に、そして母親がソイツに合宿先を伝えたからだ」

「う、うそ……嘘です……っ」

 

 

 "これらが立証できれば情状酌量、自覚無き協力者で済むかもしれません。"

 "娘が母親の要望に応えただけ、近しい肉親を疑えというのは酷だとする見方もあるでしょう。"

 

 

「『叔父様』がそんなことするはずありませんっ!」

「っ……」

 

 

 "まあ、ここからの認識が問題なんですが。"

 

「『叔父様』は立派な方なんです! お母様を、わたしをっ、助けてくれた素晴らしい―――」

「具体的には?」

 

「……えっ?」

「具体的にソイツはお前に何をもたらした」

 

 

 "歩の中で彼の人物への認識は、人目を忍んで活動するヒーロー、というところです。"

 "彼から受けた恩を無暗に吹聴してはならない。幼い頃からそのように言い聞かされている。"

 

「どこがどう素晴らしい人物なのか、お前が言わない限り疑惑は深まるぞ」

「そ、それは……」

 

「……言えないようなら、もう一つ別の質問をすることになるが」

「っ、別の……?」

 

 

 "彼の人物の為に言わねばならない、と思わせれば口を滑らせる可能性はあるでしょう。"

 "それで駄目なら、具体例を一つ知っていると示唆してやってください。"

 

 

「…………お前の"個性"。()()()お前のものか?」

 

 

 "歩は、こう答えるでしょう。"

 

 

「か……『干渉』はわたしの"個性"です!」

 

 

 "―――と。臆面もなく、罪悪感すら見せずに、ね。"

 "言うまでもないことですが、真実は私こそが知っています。"

 "なのでこの次には、こう問いかけてください。"

 

 

「ならお前は……()()()()()は忘れたんだな?」

 

「……ッ!? あ……違……」

 

 

 "ここまで来れば言葉は要りません。後は勝手に自白するでしょう。"

 

「違う……違うんです。間違いなんです」

「……間違い?」

 

 

 "言い聞かされてきた、歩にとっての真実を。"

 

「間違って……生まれてきてしまったお義姉さまが悪いんです」

 

 

 "他ならぬ私に対して、宣い続けてきた妄言を。"

 

「そのせいで神様が間違えて……わたしの"個性"をお義姉さまに渡しちゃったんです!」

 

 

 "決して許されない人間への信奉を。"

 

「だから! わたしの"個性"を取り返してくれた『叔父様』は! お父様を攫った女を懲らしめてくれた『叔父様』は! わたしの、わたし達のヒーローなんです!」

 

「…………そうか」

 

 

 "それが巨悪と呼ばれる存在と知らなかったにしても、心証は最悪でしょうね。"

 "そも幼児の理屈としてならともかく、この年齢で盲信を許される内容じゃない。"

 "ちなみに私の元の持ち主がどうなったかは分かりません。多分この世にはいないでしょう。"

 

「だから……だから助けてください、先生! わたしもお母様も『叔父様』も、敵連合なんかとは関係無いですっ! それが分かりましたよねっ!?」

「…………」

 

「どう、して……何も言ってくれないんですか!? 相澤先生っ!」

 

 

 "そしてこの辺りで、自分の言葉で解決出来ないと知った歩は、私を頼ることでしょう。"

 

「『干渉』……ねえ、何か言ってよ……わたし、どうしたら良いのか分からないよ……!」

「……っ」

 

「何で……何で? わたしが困っていたら、いつも何だかんだ言っても助けてくれたのに……! なんでこんな時に限って何も言ってくれないの!?」

 

 

 "私が、そうなるようにしてきたから。"

 "窮地で、土壇場で、勘所で、必ず私を頼るように躾けてきたから。"

 "歩の行うあらゆる判断、あらゆる行動は私の行うそれら以下だと、刻み込んできたから。"

 

 "何年も、何年も。"

 "丁寧に、丹念に。"

 "自尊心という自尊心を、欠片も残さず磨り潰してやってきたから。"

 

 

「…………干河」

「っ、せん、せい……?」

 

 

 "私はこの娘から、その母親から、信頼を得る事に腐心しました。"

 "彼らが望む彼女の個性を演じ続けました。"

 "私の元の持ち主の記憶の残滓が、あるべき場所から引き剥がされた恨みが、残留しているなどおくびにも出さずに。"

 

 

 "私の全てはこの時の為に。"

 "これは父を奪われ、母を殺され、個性を剥がれた少女の怨念から生まれた私の、意趣返し。"

 

 

「お前は、ヒーローになってはならない人間だ」

 

 

 "自分の目でそれを知覚出来ないことだけが、返す返すも残念ですけれどね。"

 

 

 

 

 "最後に。"

 "かなり最近まで、私は私の人生を歩のそれと確かに同一視していました。"

 "当時の私ならば、こんな巻き込み自爆の形で罪を曝け出すことなど考えなかったでしょう。"

 

 "もし、歩が心からヒーローに相応しい人物へと成長していたなら。"

 "もし、歩がヒーローであると、他者から認められる立場にまでなって見せたなら。"

 "その手で救われる誰かの未来を鑑み、私個人の恨みを飲み下す覚悟は固めていました。"

 "また、そうなった場合は自身の意志の増幅を止め、物言わぬ個性になるつもりでも。"

 

 "ヒーローになりたい歩と、それを諦めさせたい私。互いの未来を賭けた勝負だった訳です。"

 "まあ勝負のつもりでいたのは私だけで、歩はそれを知る由もなかったでしょうが。"

 

 "しかし私達の存在は、彼の御仁にとって駒の一つに過ぎなかった。"

 "私達が机を並べる彼らへの害になると知った以上、座して受け入れるわけにはいきません。"

 "ゆえに私は私の意志をもって私達を諸共に葬り去ることを決めました。"

 "私見は含みますが、歩がそれを惜しまれるような人物にならなかったことが事ここに至っては幸いだったかもしれませんね。"

 

 

 "つきましては。"

 "私に私であることを思い出させてくれた、緑谷出久さんと。"

 "私に私であることを選ばせてくれた、麗日お茶子さん。"

 "そして、こんな私をヒーローと呼んでくれた、耳郎響香さんに。"

 "この場を借りてありったけの感謝と、謝罪を送らせていただきます。"

 

 "獄中か、はたまた彼岸で、か。"

 "彼らが輝かしいヒーローになったという報せを受け取る日を心待ちにしております。"

 

 "尤も、往くべき彼岸が私に存在するのかは分かりかねますが。"

 

 

 "追伸"

 "丁度これを書いている時に緑谷さん達が神野区で大変なことをやらかしたらしいという連絡が私にも入りました。"

 "その意思を把握していた全員まとめて除籍になって然るべき愚挙と存じますが、そんな彼らを引き留めようとした者達が居たこともまた事実です。"

 "どうかその面々にだけでも寛大な措置をお願い致します、相澤先生。"

 





 ここまでの伏線的なヤツのコーナーその1。

 ・原作緑谷くんはOFAについて初めて聞いた時、まずそんな"個性"が有り得るのかと否定から入りました。それがヒロアカ世界における常識だからです。
 しかし本作C1-9話において緑谷くんから聞いた歩ちゃんにそんな素振りはありませんね?
 これは"個性"の移動という現象が、彼女にとって既知のものだったからです。

 ・歩ちゃんは誰かへ向けての発言の中でなら「わたしに個性が発現したとき~」と話すことがありましたが、彼女視点の地の文=心内台詞の中で、自分に個性が発現した、と言ったことは一度もありません。

 ・C1-9:"個性"に対し、「齢四歳にして、全ての人間に突き付けられる、己の価値」と地の文で語っています。
 生まれながらの強個性持ちにしてはやけに後ろ向きな表現ですよね。社会派的ともとれますが。

 ・C1-11:母親からの電話に対し、「理由も分かるし嬉しくも思うけれど、もう少し日を置いても良いのではと~」と地の文で語っています。
 さて彼女が察した母親の電話の理由とは?
 ところでUSJ襲撃は原作でも珍しく『水曜日』の『午後』と特定出来る事件なんですよね。
 ……特に深い意味はありませんよ? ええ。


次回、皆さんお待ちかねの掲示板回です。


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幕間1 今年の雄英体育祭1年ステージについて振り返るスレ


※前話、前々話の感想の増え方がすごい……
 皆様に深く考察していただけているようで大変感謝しております。

 ……ところで、答え合わせはまだ「その一」なんですよね。


 ヒロアカ二次といえば体育祭掲示板という風潮にお応えして、初期プロットにはありませんでしたがここに投入。
 タイミングとしては随分遅くなってしまいましたが、まあちょっとした理由がありまして。

 オリヒーロー注意です。

※後書き部分にあった作品に関係ないアレコレを削除しました。(2022/12/07)



 

 

190:ヒーローネームは名無しです ID:fs6p4/eX0

 今年も実に波瀾万丈な大会でしたね……

 

191:ヒーローネームは名無しです ID:FSKqzSue0

 宣誓でぶちかました爆発小僧、エンデヴァー息子、氷の女王様、ジャ○ネット発目ちゃん……

 

192:ヒーローネームは名無しです ID:AfPyPRPe0

 なんか混ざってんだよなあw

 

193:ヒーローネームは名無しです ID:dwC8Y6Rn0

 あそこで空気一転したよなw

 

194:ヒーローネームは名無しです ID:2i/Z6rTX0

 サポート科の目立ち方としては満点なのがなw

 

195:ヒーローネームは名無しです ID:hb5JzfAP0

 あれ以上本戦進んでもしょうがないといえばしょうがないからね

 

196:ヒーローネームは名無しです ID:990WSmRY0

 ノリノリで付き合ってあげた芦戸ちゃんほんとすこ

 

197:ヒーローネームは名無しです ID:+Xfi8-lG0

 芦戸ちゃん側にもメリットあったからな

 自分の酸で壊れないサポートアイテムとかあれ本気で驚いてたよあの子

 

198:ヒーローネームは名無しです ID:1-crTl1t0

 あの手の個性はまず自分の個性で劣化しない素材って時点で苦労するからな

 ああいう技術者と早いうちに伝手が作れたのは彼女得でしかない

 

199:ヒーローネームは名無しです ID:92Ka8ZKu0

 まさに理想的なwin-winである

 

200:ヒーローネームは名無しです ID:h3Oy0ZoQ0

 でもステージを降りていく発目ちゃんをお疲れ様でしたーって手振って見送ってたのは草

 

201:ヒーローネームは名無しです ID:PdjlxyaC0

 発目ちゃんも笑顔で手振り返してたからなw

 

202:ヒーローネームは名無しです ID:7eO6/zzY0

 これ何のコーナーだったっけ定期w

 

203:ヒーローネームは名無しです ID:001eIdXI0

 あそこでチャンネル回しかけた俺がいる

 

204:ヒーローネームは名無しです ID:Px2kjulD0

 おまおれ

 

205:ヒーローネームは名無しです ID:4BQVEhSk0

 発目ちゃんネタはもういいんだよw

 それ以外で目立ってたのはやっぱ氷の女王様だな

 

206:ヒーローネームは名無しです ID:C68tOABc0

 実況席のプレマイが毎回戦慄してんの草生えたわ

 

207:ヒーローネームは名無しです ID:QXL3zeRq0

 こんなゆるふわ系女子の心が黒いわけないやろ!

 →真っ黒くろすけやったわ……

 

 この流れよ

 

208:ヒーローネームは名無しです ID:5O6mrB+Y0

 ツタは操れない!

 →あ、切り離すの? それは別なんで

 

 射程外まで氷で埋める!

 →いつから射程を伸ばせないと(ry

 

 後出しが常に致命傷狙ってくるの極悪過ぎて草

 

209:ヒーローネームは名無しです ID:nXKmZPRM0

 最終的に今までの試合全部含めて掌の上でした、だからなあ……

 騎馬戦から暗躍してたっぽいし見た目と中身の乖離が激しすぎるんよ

 

210:ヒーローネームは名無しです ID:WC4MpnQw0

 あれだけイキってた爆豪が最後まで手の平コロコロされてたのざまぁだったわw

 

211:ヒーローネームは名無しです ID:SmvfcdVG0

 まあ本人も認めて省みてたし多少はね?

 

212:ヒーローネームは名無しです ID:6wBEzrI20

 表彰でオールマイトまで困惑してたのマジで草だったわ

 普段からそういう感じなのかよ

 

213:ヒーローネームは名無しです ID:yy9i43mi0

 まあでも表彰の裏でぶっ倒れてたあたり女王様も余裕ではなかったんやなって

 

214:ヒーローネームは名無しです ID:qb+CGkiE0

 爆豪を場外に吹っ飛ばすためとはいえ爆破自体はモロに喰らってたしな

 ステージに降りて来たとき両腕火傷で割とひどいことになってたし

 

215:ヒーローネームは名無しです ID:0DZIdtzT0

 しかし半日起き上がれないレベルの反動ってなあ……

 ヒーローとしては割と致命的じゃね?

 

216:ヒーローネームは名無しです ID:wfAuI6vX0

 限界の限界まで振り絞った結果だしまあ

 

217:ヒーローネームは名無しです ID:G4njDPh50

 しかし飛行+反射って強個性よなあ

 実況解説曰く飛行は反射の応用らしいが

 

218:ヒーローネームは名無しです ID:5SEdALyJ0

 あれ見てて思ったんだが、昔ああいう動きするヒーロー居なかったっけ?

 

219:ヒーローネームは名無しです ID:zSrRChs40

 知らん

 

220:ヒーローネームは名無しです ID:oGgHZZyG0

 心当たりないな 何年ぐらい前?

 

221:218 ID:5SEdALyJ0

 十年……あれもう二十年経ってる? 地方の女性ヒーロー

 

222:ヒーローネームは名無しです ID:fx3ZRFAx0

 逆に誰が知ってんだよそれw

 

223:ヒーローネームは名無しです ID:TwDP5Je40

 マイナー過ぎるわw しかも未だ無名ってことは鳴かず飛ばずってことだろw

 

224:ヒーローネームは名無しです ID:feqb+agF0

 いやでもあれに近い動きが出来て無名なんてことある?

 

225:218 ID:5SEdALyJ0

 それがデビューから割とすぐに消えちゃったんだよな

 

226:ヒーローネームは名無しです ID:esdNSwtd0

 消えたってw 引退って言ってやれよw

 

227:218 ID:5SEdALyJ0

 いや本当に急に活動しなくなっちゃったんだよ

 

228:ヒーローネームは名無しです ID:RGFzMHvb0

 ん? 引退宣言無しってこと?

 

229:ヒーローネームは名無しです ID:7+9FgqCR0

 まあ地方のマイナーヒーローがいちいちやるもんでもないけど

 

230:ヒーローネームは名無しです ID:x4GhXiVH0

 まさか事件性アリなパターン?

 

231:218 ID:5SEdALyJ0

 当時の噂では寿引退

 

232:ヒーローネームは名無しです ID:gijEOZlz0

 はい解散

 

233:ヒーローネームは名無しです ID:Ef3q+jwh0

 終了しました

 

234:ヒーローネームは名無しです ID:aJMHksqA0

 めでたしめでたし

 

235:218 ID:5SEdALyJ0

 まあ待ってくれ今ヒーロー名鑑で確認した

 反射ヒーロー リフレクション 最後の活動は十六年前だ

 

236:ヒーローネームは名無しです ID:YQmT+baF0

 懐かしい名前だね

 

237:ヒーローネームは名無しです ID:c6cDZSwD0

 知ってる奴がいるのかよw 十六年前かー

 

238:ヒーローネームは名無しです ID:Zc3wjc9p0

 ……十六年?

 

239:ヒーローネームは名無しです ID:4rdcBGJq0

 高校一年生って何歳だったっけ

 

240:ヒーローネームは名無しです ID:9AomEGc10

 十五もしくは十六歳だな

 

241:ヒーローネームは名無しです ID:QOQLMAI90

 寿引退……あっ(察し)

 

242:ヒーローネームは名無しです ID:xAclON9c0

 繋がってしまったな……

 

243:ヒーローネームは名無しです ID:BT/v3Hh30

 もしかして>産休

 

244:ヒーローネームは名無しです ID:CQd7YZmd0

 もしかして>そのまま事実上引退

 

245:ヒーローネームは名無しです ID:jvZgZ0lB0

 女性ヒーローあるある

 

246:ヒーローネームは名無しです ID:xpCKsNik0

 某猫耳ヒーロー「!」 ガタッ

 

247:ヒーローネームは名無しです ID:Rk1IexgP0

 心は十八な方は座ってもろて

 

248:ヒーローネームは名無しです ID:USp/-dbD0

 四人おるぞ

 

249:ヒーローネームは名無しです ID:2k6-TPOC0

 一人男やぞ

 

250:ヒーローネームは名無しです ID:uEHWZEz70

 元は女性だからセーフ

 

251:ヒーローネームは名無しです ID:guLCBoNS0

 何がセーフなんですかねえ……

 

252:ヒーローネームは名無しです ID:2JX8gVHy0

 話戻せw リフレクションかあ……

 名は体を表すというか

 

253:ヒーローネームは名無しです ID:U0LBw-S20

 ヒーロー名が体を表してなかったら何を表すというんだw

 

254:ヒーローネームは名無しです ID:SDykPgIs0

 ……ベストジーニスト(ボソッ)

 

255:ヒーローネームは名無しです ID:TXaTky4C0

 この上なく表してるじゃないかw

 

256:ヒーローネームは名無しです ID:-qB5llW40

 何故ヒーロー名で主張したのか

 

257:ヒーローネームは名無しです ID:vN72yl/M0

 有言実行してるからセーフ

 

258:218 ID:5SEdALyJ0

 いやでも個性以外はあんま似てないぞ

 髪の色も違うし

 

259:ヒーローネームは名無しです ID:01cc4LQf0

 父親似でFA

 

260:ヒーローネームは名無しです ID:R1z6AthL0

 髪色ぐらいいくらでも変わるだろw 染めてるかもしれんし

 

261:ヒーローネームは名無しです ID:kDAO8Gn-0

 実際染めてる子居たぞ? 一年男子の硬化の子

 同中を名乗るスレ民が黒髪だったと証言した

 

262:ヒーローネームは名無しです ID:YQmT+baF0

 あの個性をよくあそこまで鍛えたものだね

 

263:ヒーローネームは名無しです ID:AnxKaLBr0

 >>262 身内の方?

 

264:262 ID:YQmT+baF0

 友人の家のお嬢さん、というところかな

 直接顔を合わせたのは一度だけだよ

 

265:ヒーローネームは名無しです ID:oa5DoNgX0

 本人からすれば他人やな……

 まあ個性についてkwsk

 

266:ヒーローネームは名無しです ID:mreTw9vg0

 kwsk

 

267:ヒーローネームは名無しです ID:WHhFaxJK0

 オナシャス!

 

268:262 ID:YQmT+baF0

 kwskされたならしょうがないね

 とはいえ知っているのは非常に緻密な計算を要求する個性ということぐらいだよ

 

269:ヒーローネームは名無しです ID:HuFf4MM60

 ……ほほう?

 

270:ヒーローネームは名無しです ID:GXnk5miV0

 あーなるほど完全に理解した

 

271:ヒーローネームは名無しです ID:BKtqH/Vi0

 それ絶対に分かってないやつw 続きお願いしまーす

 

272:262 ID:YQmT+baF0

 飛行一つとっても自身にかかる力を細かく調整、かつそれをリアルタイムで更新し続ける必要があるらしくてね

 仮に自分が持っていたとしても、到底計算が追いつかないなと思ったものさ

 

273:ヒーローネームは名無しです ID:HeOJFCZ60

 それはそれは……

 

274:ヒーローネームは名無しです ID:hxh/g4+c0

 つまりバカには使えない個性だな

 

275:ヒーローネームは名無しです ID:Wq-vFtok0

 白鳥が水の下でめっちゃ足バタバタさせてるようなもんか

 

276:ヒーローネームは名無しです ID:aTxifKVq0

 つまり女王様の女王様は裏で足超バタバタさせて成り立ってると

 

277:ヒーローネームは名無しです ID:6gvAcJVW0

 やめれw

 

278:ヒーローネームは名無しです ID:6WuyLbLi0

 それは草

 

279:ヒーローネームは名無しです ID:JFpGGF+S0

 涼し気な顔の裏でバタバタしてんの想像しちまったじゃねえかw

 

280:ヒーローネームは名無しです ID:kzzpX4EV0

 あの真っ黒な計算高さは凄まじい計算力で成り立っていたと

 ……あれ、そのまんまじゃね?

 

281:262 ID:YQmT+baF0

 あれだけ盛大に使って半日の反動で済んだというのはむしろ素晴らしいね

 積み重ねてきた努力が見えるようだよ

 

282:ヒーローネームは名無しです ID:aSOQBfut0

 急な親戚のおじさん感で草

 

283:ヒーローネームは名無しです ID:SBo0R1xh0

 実際そんな感じの距離感なんやろ

 





 誰とは言いませんが結構注目してましたというアレ。
 体育祭から掲示板回までこんなに空いた作品はうちだけじゃないかなーなんて。
 このタイミングじゃないと問題ありましたからね。

 オリキャラ・オリ"個性"はなるべく少なくしたい系の作者なので、半分だけです。

 IDはそれっぽく生成する式をExcelで適当に組みました。
 IDとして有り得ない文字列になっていたならご愛敬。


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C4-5 『干渉』:オリジン


 答え合わせ、その二。
 作者的に本作において書きたかったシーントップ3の二つ目です。

 オリ"個性"注意。



 

「―――いやあ……退屈ねえ」

 

 真っ白な部屋の中に、そんな呟きがこぼれ落ちる。

 

「目を覚ませばまた即座に眠らされる。()()に僅かの時間も許してはいけないからだけど」

 

 白い机に椅子が二つ。

 度々の懇談に使われたその部屋は、客人を招かずとも其処にある。

 

「あなたが眠っている間も、私にはこうして意識がある。本当に退屈でしょうがないわ」

 

 『彼女』が席を立ち、対面席で震えている彼女へゆっくりと歩み寄る。

 

「感謝なさいよ? あなたが眠っている間も"個性"を使えると知れたら、看守の皆さんも射殺するしかなくなってしまう。退屈凌ぎの自殺は勘弁してあげてるんだから」

 

 『彼女』の手が、彼女の肩に擦る様に乗せられる。

 びくり、と一度身動ぎした彼女は、震えを止められないまま顔を向けた。

 

 

「私ったら本当に優しいなあ。そう思わない? ……ねえ、(あゆみ)?」

 

「…………どうして?」

 

 

 青髪の少女が、擦り硝子のような瞳で()()を見上げ。

 金髪の少女は、悲喜の入り混じった瞳で()()を見下ろす。

 

 

「どうして? どうして……どうして、と来るかあ」

 

 爛々と輝く瞳を一度閉じ、大仰な手振りで『彼女』は問われたその一言を繰り返す。

 時間にすれば僅かに数秒、歌うように呟いていた『彼女』は不意にぴたりと動きを止めた。

 

「あなたの、父親の"個性"。……何だったかしら?」

「お父様、の? 確か……『増力』、では?」

 

 突然の質問に、彼女は遠い昔に母親から聞いた情報を思い起こす。

 しかし同時にそのような質問をされることが不思議だった。

 何故なら『彼女』は彼女の知覚した全てを知っているはずだからだ。

 

「そう、『増力』。対象に力を加える"個性"。腕力に"個性"で力を加えれば、そこらの"増強系"に迫る力を発揮出来る! まさしく"私"の【加速】の由来(ルーツ)! ……けれど彼はヒーローの道は早々に諦めたそうよ。何故だと思う?」

「え…………何故、ですか?」

 

 続いて出てきたのは、彼女の記憶には無い情報。

 怯えは未だ残れど、純粋な興味を引かれて彼女は答えを求める。

 

「……力は増やせても、それに対する耐久は増やせなかった。ただの一度、拳を振るえば忽ち腕はぐしゃぐしゃに……あらあら、どこかで聞いたような話よね」

「……!」

 

「そんな"個性"でヒーローを目指そうとは思わない……彼はそんな『普通の』人間だったそうよ」

「…………」

 

 頭に過ったのは緑髪のクラスメイトの顔。

 入学直後の彼に何度となく戦慄を受けていた『彼女』の感情を、彼女は思い起こす。

 

「更にその"個性"が増加対象に出来たのは自身の内のみ……鍛えれば別だったかもしれないけど。自身に対してのみ"私"の制約がやけに緩いのは、その性質を受け継いだが故なのでしょうね」

「そう……なんだ」

 

 思わぬ形で聞けた"個性"の考察に、彼女は一度恐怖を忘れて気を落ち着けた。

 自分に欠けた知識を語る『彼女』の声音が、慣れ親しんだものであったことも大きい。

 

「―――さてさてさぁて! ここで問題よ、歩?」

「……っ!?」

 

 そんな束の間の安堵は、常の様子から豹変した『彼女』によって打ち砕かれる。

 

 

「そんな彼が、あなたの父親が、永の眠りに就いたその時っ! 最後に見た光景は何だった!? あなたなら答えられるわよねえ! 答えられるだろぉ!? 答えろッ!」

「え、あ、ぅ……っ!?」

 

 

 そう詰められて、なじられて、彼女の意思とは別に記憶が掘り起こされる。

 ……四歳そこそこの時分、あのときの自分は、そう……喜んでいた。

 

 

「わ……わたしの、"個性"を見せ―――うあっ!!?」

 

 その瞬間の彼女に理解出来た事実はたった二つ。

 折れんばかりの力で頬を殴られ、自身の身体が床に転がったこと。もう一つは―――

 

 

Leeeesson(聞け)!! 他人の機微に致命的にスットロいあなたに教えてあげるわ謹聴なさい!」

 

 ただの一度も見たことがない程に、『彼女』が激昂しているということのみ。

 

「あなたが彼に見せたその光景! 彼の目にいったいどう映ったのか!」

「……っ、……?」

 

 彼女の記憶に浮かぶのは、父親が見せた最初で最後の微笑みだ。

 ようやく"個性"を()()()()()自分を祝ってくれた、あの微笑みだけ。

 

 だからこそ、彼女は分からない。

 彼女には分からない。

 目の前で怒り狂う『彼女』の激情が。

 

 

「あの日から遡ること五年前、彼は愛する女性と引き裂かれた。婿入りという名の拉致によって」

 

 耳に聞こえた言葉を、自身に関係のある情報だと認識出来なかった。

 

 

「五年間、屋敷から逃れようと足掻いて、その度に警備は強化されていった」

 

 どこか異国の歴史を聞く思いで、それを聞いていた。

 

 

「手首を切っても、舌を噛んでも、即座に手厚い治療が待っている。眠れば毎晩やってくる憎い女から、聞きたくもない『心』を『伝え』られる。遂には親類の命を盾に子供まで作らされた」

 

 彼女の知る父親の、彼女が知る母親の姿には、程遠かったから。

 

 

「そして五年後……彼は()()()()()()のよ。犯罪を厭わず乗り込んだ最愛の女性によって」

 

「屋敷から逃れた彼と彼女を迎えたのは、五年前に二人の間に宿っていた愛娘」

 

 彼女が聞かされてきた『事実』とは、似ても似つかなかったから。

 

 

「喜びもそこそこに、海の向こうへ逃れんとしていた彼らの元へ……『魔王』が現れた」

 

 彼女が生きてきた『世界』と、地続きになっているとは思えなかったから。

 

 

「……『妻』は殺され、愛娘は攫われ、自分は屋敷に連れ戻されて! そんな彼を迎えたのが!」

 

 呆然と倒れたままだった彼女の首を、再び歩み寄った『彼女』が掴み上げる。

 

 

 

「―――愛娘の"個性()"を使って無邪気に笑う、"無個性"だった(オマエ)だよ」

 

 

 

 部屋の中に時計があったなら。

 秒を刻む針が二周、三周するだけの時間、沈黙が部屋を満たした。

 

 

「……"私"が『増力』から受け継いだのだろう性質があと一つあるわ。さて、何だと思う?」

「…………」

 

 徐に告げられた問いに、彼女の思考は動かない。

 

「今、私があなたにやっていること……『意思』、『意識』、あるいは『魂』の対象化、よっ」

「っ、……」

 

 掴み上げた彼女の身体を、『彼女』は元の椅子へと叩きつけるように座らせて、手を離す。

 そうして『彼女』は深く息を吐き、もう一度、今度は指揮でも取るように大仰に腕を振るった。

 

「っ、さぁて復習よ、歩? あなたの父親の"個性"『増力』! その欠点は何だった!?」

「…………」

 

「……そう! 力は増やせても丈夫にはならない! 増やせばそれだけ器が壊れる! もう流石に分かるわね!? 分かるでしょう!? 彼が最期に『力』を『増し』たのは! 壊した器は!?」

 

 『彼女』に彼女の答えを待つ素振りなど無く。

 意識の有無も分からぬほど項垂れた彼女に背を向け、『彼女』は高らかに声を上げ―――

 

 

「…………どうして?」

 

 

 『彼女』が止まった。

 振り返った。

 見た。

 

 彼女の擦り硝子のような―――()()()()()()()()()()を。

 

 

「…………ああ、あー……」

 

 『彼女』は一言、呻き、顔を覆い、天を仰いで。

 ゆるゆると伸ばした手を、彼女の顔へと触れさせる。

 

「……【減速】」

「っ、ぁ」

 

 

「【減速】、【減速】……【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】―――」

 

 

 やがて『彼女』の手が離され、その下から覗くようになった彼女の瞳は。

 

 

「……仇、とったよ…………お父さん、お母さん」

 

 

 最早何も、何一つ、映してはいなかった。

 





ここまでの伏線的なヤツのコーナーその2。

・C2-1、C3-8:歩ちゃんが父親について話し始めると途端に台詞がなくなる『干渉』さん。
 → 口を開けば今話のようなブチギレを隠せなくなるのでひたすら耐えていました。

・C2-6冒頭:生まれ持った"個性"に対する心操くんの叫びを聞いてのやり取り。
 → 歩ちゃんの"個性"『干渉』への認識を再確認。これもまた一つの分水嶺でしたが……

・C3-13 :
 合宿が(ヴィラン)に襲撃されたことで、娘の身を案じて実家に呼び出す……これは自然なことですね。
 しかしC4-3時点で干河心美に襲撃幇助の自覚があったことは確実となりました。
 となれば1通目、実家に戻ってくるよう言われたというのはどういうことだったのでしょうか?

 結論から言えば、差出人干河歩のメールは全て『干渉』さんが書いたものです。
 USJより続く心美さんへの情報送信→敵襲撃、の流れからその繋がりを確信した『干渉』さんは合宿地から戻り次第糾弾に向かっていました。
 すなわち1通目、実家に戻るよう言われたということ自体が嘘です。
 またC4-4での記述から、この時点で歩ちゃんの意識は封印済みだったことも判明します。

 その証拠となるのが4通目。
 「歩に代わって私よ」と始めに書いているにも関わらず、3通目に対する麗日さんの返信の中、すなわち歩ちゃんにあてた「また会いたい」の言葉に反応してしまっています。
 歩ちゃんの振りをして3通目を書いたことがうっかり頭から抜けていた『干渉』さんでした。

 では当の3通目は何故自分の言葉にしなかったのか。
 これは「干河歩」の去就になるべく自然な「設定」を与える為でした。
 娘の身を案じる母親、および前々から難色を示していた『干渉』から反対されて、ということにした上で「歩ちゃん」は雄英に通い続けることを希望していた、というのが麗日さんを一番傷付けない「設定」だろうと勘案。
 ただしその内容を「代わって」書くのは不自然過ぎた為、歩ちゃんを演じることになりました。

 最後に4通目追伸ですが……通常、追伸というのは本文を書き終えて送信する直前、どうしても書き加えたい内容が浮かんだ際に追記するものです。

 つまりこの一言は「別れ」を書き終えた彼女がどうしても残したくなってしまった本音でした。








・今までの前書き、後書き、および皆様から頂いた感想への返信、その全ての中で私は一度として歩ちゃんを指して「オリ主」や「主人公」と表記したことはありません。
 さて、そこで皆様に質問です。


 本作のタイトルは?



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C4-6 真実を追う者達


※私事ですが、リアルが本格的にヤバくなってきました。そして書き溜めも残り僅かです。
 毎日更新が止まったらそういうことだということで。


 フラグ補完回。



 

「―――おまえ、一番強ぇ人にレール敷いてもらって……敗けてんなよ」

 

 ヒーロー仮免試験、その日の夜。

 活動時間をとうに過ぎた寮外グラウンドで、()()は引き起こされた。

 

 鬱屈した感情の発露に決闘という手段を選んだ爆豪。

 そんな彼に呼びだされ、葛藤しつつもそれに応えた緑谷。

 

 爆豪は語った。

 "無個性"だったはずの幼馴染の突然の"個性"発現。

 常から異様なまでに彼を気にかけるオールマイト。

 そしてそのオールマイトの引退を決定付けたあのとき、全国へと届けられた『平和の象徴』のメッセージから、ただ一人別の意味を受け取っていた緑谷の姿。

 

「分かんねぇのは"個性"……だったが、神野に現れた(ヴィラン)のボスヤロー、あいつがいる」

 

「他人の"個性"をパクって使ったり与えたり……ンな"個性"が実在するなら、"個性"の移動ぐらい現実としてあってもおかしかねえ」

 

「……『平和の象徴』の"個性"、誰かに継がせる手段があるなら誰だってそーしようと思うわな」

 

「引退会見で、身体は限界だったっつってた……そんなオールマイトが街にやってきて、てめェが変わって、オールマイトは力を失った……」

 

 ―――これだけのヒントがあれば、気付かない方がおかしい。

 遠く後塵を拝していたはずの幼馴染(緑谷)こそが、自身の憧れたNo.1の選んだ後継者である、と。

 

 割り切れぬ想いに端を発した戦い(ケンカ)の行方が決したとき、現れたのはオールマイト。

 爆豪の胸の裡を、慟哭を、後悔を、『彼の憧れ』はただ静かに受け止めた。

 

「……分かった。こうなったからには爆豪少年にも納得いく説明が要る。それが筋だ」

 

 そうして、オールマイトは爆豪に語る。

 巨悪に立ち向かう為に受け継がれてきた"力"の存在。

 己の身体に迫っていた限界。

 そして彼の推測通りに、後継者を選んだということを。

 

 

「―――分かった。あんたとデクの事は、もういい。……結局、俺のやる事は変わんねえ」

 

 オールマイトの述懐を聞き終えた爆豪は、先程までより確かに晴れた顔でそう呟く。

 

「けど、もう一個……聞かなきゃなんねえことがあんだよ、デク」

「うえぇっ!? かっちゃん、何を……」

 

「自覚がねえのか……てめェが不可思議な反応してた瞬間がもう一つあったろうが」

「え……」

「……! 爆豪少年、それは―――」

 

 

「腹黒……()()()に何があった?」

 

 

 師弟揃って息を詰まらせ、視線でやり取りを繰り返す二人に胡乱な目を向ける爆豪。

 しばらくその様を見ていた彼は、やがて深く深く溜息を吐く。

 

「…………いや、いい。正直に言やぁ、俺はそこまで気になってるわけじゃねぇ」

「え……そ、そうなの!?」

 

「一番気にしてたヤツが今日には落ち着いてたからな。……麗日には何か教えたんだろ?」

「……本当に鋭いね君は」

 

 仮免試験の間、常に張り詰めた顔をしていた麗日が寮の自室へと戻ってから暫し。

 再び寮の一階へと姿を見せた彼女に、必要以上の気負いは既になかったと彼は言う。

 

「休学期間は社会情勢が落ち着くまで、だったか? ……戻ってくる可能性はあんのか?」

「…………」

 

「……ハッ! そうかよ」

「爆豪少年……」

 

 僅かな時間、言い淀んだオールマイトに、それで十分だとばかりに爆豪は背を向ける。

 そのまま歩き出して数歩、ふと立ち止まった彼が再び口を開いた。

 

「……あの女に伝言は出来るのか?」

「……っ、あ、ああ……不可能ではないね」

 

 

「なら言っとけ。……勝ち逃げは許さねぇ、ってな」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ―――緑谷出久は聞いた。「干河さんは今、どこに居るのか」と。

 得られた答えは、「例え私が知る限り最悪の(ヴィラン)でも、破ること叶わない守りの中だ」。

 

 ―――麗日お茶子は聞いた。「歩ちゃんは無事なのか」と。

 得られた答えは、「五体満足健康体さ。少々、退屈そうではあったがね」。

 

 

 それを聞いた彼女―――耳郎響香は思った。

 なるほど、二人が納得しそうな回答だ、と。

 

 

 彼女は知っている。

 『平和の象徴』オールマイトの為人を、一生徒の立場を逸脱しない範囲で。

 

 彼女は聞いていた。

 彼の人物が当初、慌てふためいて二人に弁解していた声を。

 

 

(……誰かが用意した答えだ。絶対)

 

 

 それが彼女の出した結論であり、見出した糸口。

 数日、数週間、考え、考え……警戒と呼ぶべき気構えが緩むだろうその時を待ち。

 

 

「―――緑谷と麗日が仮免取得で使った権利。ウチも使って良いですよね、オールマイト先生?」

 

 

 それは狙いに狙い澄ました、一刺し。

 

 

 

 

(だ…………だだだ大丈夫だ。あれから時間が経っているとはいえ、根津校長監修『聞かれそうな質問ならびに模範回答100選』はあれだけ頭に叩き込んだ! まだまだしっかり覚えているはずだろうオールマイトよ!)

 

 前々から特定の生徒への贔屓を繰り返し繰り返し釘差しされていたオールマイトに、承諾以外の返答が出来るはずもなく。

 かといって先の二人の時のように、新たに相談する時間を取れる道理もまた有り得ず。

 

(というか何でそんな『一世一代の決戦に挑む』みたいな覇気を背負ってるんだ耳郎少女よ!? ゆ、友人を想う心と思えば素晴らしいが……ソレ私に向けなくても良くない!? 私、キミに何かしちゃったかな!?)

 

 内心の動揺を隠す……隠しているつもりなのだろうその姿を前に、耳郎は一度息を吐く。

 第一段階、クリア―――そんな呟きを口の中だけで響かせ、再度身を奮い立たせた。

 

 

 彼女は知らない。

 答えを用意した者が何者であるのかを。

 

 ゆえにどこまでも高く想像するしかなかった。

 それを用意した人物の思慮深さ、世の中を知らぬ子供を納得させる賢しさを。

 

「……干河と、話をすることは出来ないわけじゃないんですよね?」

「あ、ああ……私にも簡単にとはいかないが、然るべき手続きを踏めば……」

 

「そうですか……なら、質問です」

 

 だから彼女は、考え続けた。

 想像の中にしかいない最強の頭脳を、出し抜き得る一手を。

 

 

「―――『干渉』さんとは、話せますか?」

 

 

 緑谷は、麗日は、言っていた。

 オールマイト"は"『彼女』の存在を知っている、と。

 

「……キミ……知って―――」

「干河について、包み隠さず答える。そうですよね?」

 

 

 故に耳郎は、賭けた。

 オールマイトに答えを用意した存在が、『彼女』を知っていたか否かに。

 

 果たして―――

 

 

「…………っ」

 

 

 『平和の象徴』の笑顔は、歪んだ。

 

 

 

 

「……『干渉』さんが話せへん状態……? なにそれ、どういうことなん……?」

「干河さんは無事なのに、『干渉』さんが……? それって、まさか……っ!」

 





 『ハイスペック』が如何にハイスペックだろうとも。


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C4-7 届く声


※書き溜めが尽きる前に先のプロットに無視できない矛盾が見つかりました……
 更新が追いつくまでに解決できないようなら、しばらく時間を頂くことになりそうです。
 また頂いた感想への返信が急に滞っているのも、迂闊な事を書いて修正中のプロットに致命傷を与えかねないという判断からです。申し訳ありません。



 

「…………ふう」

 

 真っ白な部屋に、何度目かも分からない溜息が零れる。

 百か、二百か……気まぐれに数えた数字が、彼女の思考の端を掠めた。

 

 "個性"『干渉』。その力で形作られた、現実には存在しない客間。

 その傍には椅子に座ったまま、彫像のように佇む少女の姿が一つ。

 

「……いやあ、勢い任せに【減速】を掛け過ぎたわ」

 

 その少女の、薄く開かれた瞳を覗き込みながら、自嘲を込めて彼女は呟く。

 

「もうちょっとで……"個性"使用を感知した機銃が火を噴くところだった。危ない危ない」

 

 現実の身体に繋がれた機器が、観測できないギリギリの範囲の見極め。

 投獄から数日間の努力が危うく無駄になる所だったと、彼女は自身を暗く嗤う。

 

「流石にまだ、死ぬわけにはいかないもの。関わった教師辺りには連絡が入りそうだし……」

 

 経緯はどうあれ、長きに渡り己が半身であった少女。

 今や意思なく佇むその姿を正面に、彼女は瞑目する。

 

「……ここまでしておいてさっさと楽になろうだなんて、そんな道理は通らない」

 

 自らの全てを捨て去った彼女が、事ここに至って憂うことはたった一つ。

 

「それに万が一にも……お茶子さんの耳に入ってしまったら、ねえ……」

 

 閉じた瞼の裏で、『干渉』は思い返す。

 

 何の予備知識もなく、『自分』の存在を見つけてくれた彼女。

 一目で、一声で、いつでも『自分』であると気付いてくれる彼女。

 一度、信用を損なう失敗を犯した『自分』に、それでも信頼を置いてくれた彼女。

 

 そして"個性"である『自分』を―――友達だと言ってくれた彼女のことを。

 

「……なるべく早く、私達のことを忘れて、くれたら…………良いのだけど」

 

 たったそれだけの、頭の中ではもう何度と無く繰り返した一言。

 だというのに口にしようとした途端、ひどく詰まりだした己の喉を、彼女はまた嗤った。

 

 

「…………ちゃんと『干河歩』を()()()()()()()かしら? 相澤先生は」

 

 

 先日、彼女達の元を訪れたその姿を思い出し、その思考は物思いに沈んでいく。

 

「生徒の除籍の権限もあるそうだし、半端に希望を持たせるのも非合理……そう判断してくれる、と思うのだけど……確認が出来ないのが返す返すも―――」

 

 

《…………ぁ》

 

 

 半ば反射的に目を見開いた彼女は、眼前に座る少女を注視し身を強張らせた。

 彼女と、少女の意思だけが存在し得るこの空間で、可能性は()()だけの筈だったからだ。

 

《……ぇ、ぅ……》

 

「歩じゃ……ない?」

 

 しかし依然として件の少女に『動き』は見られず、少なからず困惑が滲ませ彼女は呟く。

 

《ぉ……》

 

「……現実として聞こえている。何かが此処に届いている。第一の可能性は……"私"のように他者の意識に"干渉"出来る"個性"? ……獄中の()に?」

 

 内心の混乱を抑え、彼女は可能性に頭を巡らせる。

 誰もが自分だけの"個性"を持ちうる『超人社会』。どれほど信じがたい事象でも、有り得ないと切り捨てるわけにはいかなかった。

 

《……ぃ、ぁ……ぇ……?》

 

「…………歩の身体が起きるまであと数分、再び眠らせられるまでに数秒はある」

 

 "個性"使用を防ぐ為にと、常に監視と睡眠を維持されている彼女達の肉体。

 それでも定期的に意識の覚醒を感知されては、繋がれた各機材により速やかに再び睡眠状態へと移行させられている。

 裏を返せば、定期化されたタイミングであれば、僅かばかりの"個性"因子の動きが計測されても違和感は与えないのだ。

 

「そこに僅かでも、『動き』があるならば―――」

 

 何処かから、何者かから届いている、微か過ぎる『繋がり』。

 存在しない部屋の中ですら、見えもしないそれを、彼女は探り当てる。

 

「"私"は()()を増幅出来る。……【加速】!」

《……っ、ア!?》

 

 囁きと呼ぶにも小さすぎたその声が、確かな音となって白い部屋に響いた。

 

 

《ア……だ……誰……?》

「いやこっちの台詞よ?」

 

 

 確かに届くようになった声が、含んでいたのは純粋な困惑。

 どこか舌足らずなその声音に、『干渉』は頭の中に浮かべていた可能性の幾つかを修正する。

 

「やっぱり意図しない事態? ……この通話は、あなたの"個性"によるものかしら?」

《"個性"……ワタシ、まダ"個性"、無イ……》

 

 まだ"個性"が無い。

 やけに舌足らずな幼い声。

 ここから『干渉』が導き出した答えは一つ。

 

「……発現したての"通信系個性"による個性事故、かしらね。……それにしたって繋がった場所がよりによって過ぎるけど」

 

 彼女の頭を過ったのは、『テレパシー』の"個性"を持つ猫耳プロヒーロー。

 あちらと違い双方向通信ということなら将来有望だな、と彼女は投げやり気味に納得する。

 

「それじゃ……周りに誰か大人のひとは居る?」

《……今、いなイ……》

 

「席を外してるのかぁ……えっと、じゃあ……"個性"の解除の仕方は分からない?」

《……"個性"、なイ》

 

「ああ、うん……そっかぁ」

 

 『干渉』は頭を抱えた。……彼女にとって久し振りの経験であった。

 今になってこんな苦労が舞い込むなど、予想の遥か彼方である。

 

「大人のひとがいつ戻ってくるか分からない?」

《……分かラ、なイ……》

 

「じゃ、じゃあ……戻ってきてからでいいから、相談しなさい、ね?」

《……できなイ》

 

「何で!? どういう状態なの!? ……あっ……ごめんね?」

《ン……》

 

 大人げなく声を荒げてしまったことに、一瞬遅れて項垂れる『干渉』。

 『繋がり』を通して聞こえる声は、それまでにも増してたどたどしく―――

 

 

《喋レ、なイ。動けナ、イ。……ワタシ、ここかラ出られなイ》

 

「…………待ちなさい。あなた……今、()()に居るの?」

 

 

 告げられた言葉に、『干渉』の認識が切り替わる。

 『繋がり』の先に居る存在に対する、何不自由なく育てられている一般家庭の子供、という想像は最早掻き消えていた。

 

《…………分からなイ》

「っ、周りに有る物は? 何でも良いの、何が見える?」

 

《……カプセル、と……大きナ、機械……》

「……そこに来る大人が、今は居なくてもいるのよね? どんな奴―――」

 

 問いかけの途中で言葉を詰まらせ、『干渉』は意識を他へ向ける。

 『干河歩』の感覚を通して聞いたのは、獄中に備え付けられた機銃の駆動音。

 

「不味い、これ以上は……」

《……オ姉、ちゃン?》

 

「あ……また今度、お話しましょ? それまで、良い子で待っていて?」

《…………ン、待つ……ワタシ、良い子で、お寝んネして待つ、ノ……》

 

 【加速】を止めた『繋がり』が弱く、小さく……元に戻ろうとしていた。

 遠くなっていく声に向けて、『干渉』は今一度問いかける。

 

「それは……誰かにそう言われてるの?」

《うン……》

 

「それは……どんな人?」

《えっト……ォ》

 

 声として届かなくなる最後の瞬間、それは呟かれた。

 

 

《―――白イ、服……メガネの、おじいさン……》

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ゴポリ、と。

 液体が満ちたカプセルから気泡が弾けた。

 

「……ムム? また意識が覚醒に近付いておるのう」

 

 カプセルの前に備え付けられた端末。

 白衣姿に眼鏡を掛けた老人が一人、あれやこれやと呟きながらその端末に手を伸ばす。

 

「では次はこうして……うむ、これでよかろう」

 

 老人が見上げるカプセルの中、満ちた液体に浮かぶ異形の人型。

 黒い体色もさることながら、本来後生大事に守られるべき脳を、さらけ出すかのように開かれた頭部が、それが尋常な生物ではないことを何よりも物語っていた。

 

「移植した"個性"の定着まで約三ヶ月……それまでの負担軽減の為に仮死状態にしておるんじゃ」

 

 閉じられた目と、牙の生えた口から漏れ出ていた気泡が途切れる様に、老人が満足気に頷く。

 異形の怪物―――脳無へと向けられる彼の視線に含まれているのは、自らが作り出した作品への惜しみない自負と愛情。

 

「その身体が完成した暁には、お友達と一緒に存分に遊ばせてあげるからのう」

 

 老人は、笑う。

 白い髭を蓄えた口に、純粋な喜悦と、どこまでも純粋な悪意を湛えて。

 

 

「じゃからそれまで、良い子でお寝んねしておくんじゃよ―――『ウーマン』ちゃん?」

 

 

 コポリ、と。

 カプセルの中に立った小さな波だけが、その呟きに応えた。

 





 アバラちゃん。
 ロボットちゃん。
 ゾウさん。
 おでぶちゃん。
 ウーマンちゃん。


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C4-8 乙女の密談


※プロットの修正にはどうにか目途が立ちました。
 ……が、書き溜めの大半が書き直しとなり、またリアル事情で暫く執筆の時間が取れそうにないため、次の更新まで相当な間をいただくことになるかもしれません。



 

「―――文化祭があります」

「「「ガッポォオォイ!!」」」 (※学校っぽいの略)

 

 1年A組の教室。寝袋を着込み普段以上に気怠げな相澤の一言に、盛り上がる一同。

 とはいえ(ヴィラン)隆盛のこの時期に行えるものなのか、と問う切島に答える形で説明は続く。

 

 体育祭がヒーロー科の晴れ舞台なら、文化祭は他科が主役。

 また現状、学校全体がヒーロー科主体で動いていることに不満を抱く者も少なくない。

 一方で、()()懸念にも対応すべく、例年と異なりごく一部の関係者を除いた学内だけの文化祭が予定されているという。

 

「―――決まりとして一クラス一つ出し物をせにゃならん。今日はそれを決めてもらう」

 

 その一言を最後に教室の隅で寝袋に包まってしまう相澤。

 後の場を任された飯田(委員長)八百万(副委員長)が壇上で意見を求めた瞬間、一同は怒涛の勢いで挙手を始めた。

 

 

「メイド喫茶にしようぜ!」

「ぬるいわ上鳴!! オッパ―――」

「おもち屋さん」

「腕相撲大会!!」

「ビックリハウス」

 

 

 ―――銘々勝手に案を出し続けた結果、時間一杯まで候補は絞られず。

 先日までインターンという形で現場に出ていた面々を補習組として引き連れた相澤による、明日朝まで決まらないようなら公開座学にするという宣言により、その場は締められるのだった。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――はー……それでライブになったんや。……相変わらずやなぁ、爆豪くん」

「ね。言い方アレだけど……いつも本質突いてくれるよ、あいつ」

 

 数日後、休日午前。

 麗日の部屋で行われていたのは、補習組ゆえにその後のやり取りを聞けなかった部屋主と、話の流れから企画の中心に据えられた耳郎による情報交換、という名の雑談であった。

 

「チラっと話聞いたけど……インターンで保護した子を文化祭に連れてこられないか、緑谷が掛け合ってるんだって?」

「ん、だから私もそれ聞いて……休学中の歩ちゃんもどうかって聞いてみたんやけど……」

 

「……相澤先生は、なんて?」

「『親御さんに打診はしてみるが、期待はするな』……だって」

 

 答えると共に力無く机に突っ伏す麗日に、口をつぐみ『耳』同士を絡ませる耳郎。

 暫くの沈黙の後、徐に伸ばした『耳』を部屋の扉に触れさせた後で、耳郎が口を開く。

 

 

「……やっぱ、緑谷の予想通りになってるってことなのかな。干河と、『干渉』さん」

「……オール・フォー・ワン」

 

 小さく、小さく、声を潜め。

 部屋に近付く足音を察知出来る備えを整えた上で、二人は言葉を交わす。

 

「……でも、何度考えてもタイミングがおかしいんよ」

 

 そう言って麗日が取り出したのは、彼女の所持する携帯電話。

 そこに表示されるは、まさに()()()に行われた幾つものやり取り。

 

「私が歩ちゃんと最後に会ったのは、前日の夜。あの神野区の中継でアイツが逮捕された前後に、私は歩ちゃんと『干渉』さんの両方とメールでやり取りしとる」

「襲われる時間が無いはずなんだよね。そうなると……」

 

「でも、そうでもないと……耳郎ちゃんがオールマイトから引き出した情報に合わへんし……」

「……二匹目のドジョウは狙わせてもらえないよね、流石に」

 

 耳郎が一世一代の不意打ちで手に入れた情報は、三人にとって値千金には違いなく。

 しかしその後で、こうして答えるのは最後だと、しっかりと釘差しをされてしまっていた。

 他のクラスメイトが事情を明かされて質問権を得ることを危惧したのだろう。

 相手の不義理を突いてうるさくゴネれば可能性はゼロではないだろうが、それは彼らにとってもあまり取りたい方針とは言えなかった。

 

「……結局今でも、反応は無し?」

「うん……電話も、メールも……どんだけ送っても、うんともすんともあらへんよ」

 

 梨のつぶて。八方塞がり。

 無力感に苛まれる麗日は、再び机に頬を乗せて項垂れる。

 その様子に耳郎も「あー……」と口から覇気の無い唸りを漏らした。

 

 

「…………ウチも、やってもらっとけば良かったかな、【面会(ディグアウト)】」

「っ、耳郎ちゃん?」

 

 ガリガリと頭を掻きつつ、耳郎が選んだのは話題の転換。

 

「『イヤホンジャック』がどんな見た目でどんな性格なのか、麗日の『無重力(ゼログラビティ)』のこと聞いて、ちょい気になってきてさ」

「あー……うん、メッチャ可愛いかったで、私の"個性"」

 

 どうしようもない閉塞感の中に居た麗日も、友人の心遣いに乗る形で顔を上げた。

 耳郎もまた、努めて明るい話題にすべく自らの声に喜色を乗せる。

 

「だよね? 聞いた限りじゃ必ずしも持ち主に似てるってわけじゃないらしいし……そうだ、折角だしA組の皆の"個性"がどんな感じか想像してみない?」

「……ええねえ。ほんなら最初は……出席番号順で三奈ちゃん?」

 

「芦戸……『酸』。『酸』かあ……」

「……何か、ジトっとしたイメージあるね。三奈ちゃんに合わん……」

 

「いや、それもだけど意外とやばい溶解力だからなー……割と危険な女が出てきそう。地雷的な」

「ちょっと"異形系"入っとるとこもあるし、動物的要素もあったりして……」

 

 

「ああ、"異形系個性"はそうなんだっけ。……あれ、じゃあ梅雨ちゃんの場合……カエル?」

「カエルそのまま出てくるん? ……喋れるんかな、ソレ」

 

「そこはこう……梅雨ちゃん的なカエルが喋るんじゃない?」

「メルヘン!? ……何となくだけど声高そう」

 

 

「次はー……飯田かあ。『エンジン』もやっぱ四角四面だったりするのかな?」

「絶対そうやね。カッチカチやね。あとメガネしてそう」

 

「っ、いや要らないでしょメガネ……っ! やめてよ想像しちゃったじゃん……!」

「飯田くんと言えばメガネ。これは外されへんよ」

 

 

 勝手な想像に花を咲かせ、時に突飛な発想を出し合いながら笑う二人。

 そうして順繰りに挙げられていく名前が、遂に『彼』へと辿り着く。

 

「―――緑谷、は……確か受けたことあるんだよね。干河は『想像以上』って言ってたけど」

「あ……うん」

 

「……あれ、麗日ひょっとして……」

「……ちょっと強引に聞いてもた。歩ちゃんとデクくんの秘密やったらしいんやけど……」

 

 特異、という意味では極北にあると言っていい、彼の"個性"『OFA』。

 緑谷と干河、そしてオールマイトの間で秘されてきたその事実を、麗日は結果的に彼らの罪悪感に突け込む形で聞き出していた。

 

 既に爆豪という、オールマイトから秘密を明かした人物が居たことも要因の一つである。

 事ここに至って麗日へも打ち明けたい、という緑谷の意思を、強硬に阻む名分をオールマイトは持ち合わせていなかったのだ。

 

 流石にこれ以上の流出は避けてほしいと、爆豪同様に麗日も言い含められている。

 ゆえに彼女は耳郎に対してその詳細を語るわけにはいかなかったのだが―――

 

 

「…………やきもち?」

「んきゅうっ!?」

 

 心外、とも言い切れない場所を突かれた麗日の喉から愉快な悲鳴が漏れる。

 流石に理由としては違うのだが……親友と緑谷の間に存在するらしい秘密に心揺らされた日々があったことを、彼女自身も己に強く否定は出来なかったのだ。

 

「な、なにゃにゃにゃにをいきなりィ!?」

「いやもう自白してるようなもんじゃん……まさかとは思うけど、気付かれてないと思ってる?」

 

「え…………ちょ、ま……まさか、みんなそうやと思ってるん?」

「男子にまで確認は取ってないけど……まあ、見たとこ大半は?」

 

 それを聞いた瞬間、先刻とは異なる理由で勢い良く机に沈む麗日。

 それをこれまた違う理由で「あー……」と息を吐きつつ見守る耳郎。

 

「……というか別に誰を好きになったっていーじゃんさ。芦戸や葉隠じゃないけど、命短し恋せよ乙女、ってヤツでしょ」

「うー……で、でも、今はお互い大事な時期やから……邪魔になりたくないというか……」

 

「……ウチら(ヒーロー志望)がそんなん言ってたらいつまでも何も出来なくない? 別にヒーロー目指すからって青春捨てなきゃいけないわけじゃないでしょ」

「…………」

 

 黙り込んでしまった麗日に、耳郎は暫し考え込んだ後……やや遠い目になって話を続ける。

 

「あと、そうやって青春捨てた先がさ……その、ピクシーボブさんの()()なんじゃないかなって、こないだ話題になって危機感的なアレがちょっとさ……」

「…………おおう」

 

 青少年にツバ付け(物理)する妙齢の女性ヒーローを思い出し、麗日の頭がスンと冷える。

 ヒーローとしてはともかく、乙女として追いたい背中ではなかった。切に。

 

「……まぁ、そんなわけで基本的には見守る流れだからさ。あの二人みたく急かしはしないけど、後に続けと見せてくれた方が個人的にはありがたいかなって」

「んにゅう……!」

 

 再々度、真っ赤に染まった頬のまま机で顔を覆い隠す麗日。

 そんな級友に暖かい眼差しを向けていた耳郎だったが、ふと手を口元に、彼方へと目を向けた。

 

「……あれ? でも進展しないのってむしろ緑谷側の問題? ていうか何で気付かないのアイツ? 爆豪じゃないけど罵りたくなる気持ちも分かるんだけど?」

「えっ……じ、耳郎ちゃん?」

 

「傍から見てて何回『そうじゃないんだよ』って言いたくなったか……やっぱ芦戸達巻き込んであっちをどうにかしにかかる方が先決……?」

「ちょ、ちょおっ、デクくんに何する気なん!? やめてぇっ!?」

 

 

 年頃の乙女は三人寄らずとも姦しき。

 午後に予定した各々の練習時間まで、部屋の中からは華やかな声が響くのだった。

 





 ピクシーボブさんのアレは女性ヒーローの卵達に向けた「あなた達は、こうなるなよ!」という身体を張った激励だった説……ないか。


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C4-9 無垢


※皆様、長らくお待たせいたしました。
 更新を止めてからも増え続けるUA数他に我慢できなくなりましたので投稿再開いたします。
 ……リアル? 知らんな。

 さて、実施したアンケート結果に従いまして、投稿方針はこれまで通りとさせていただきます。
 なおアンケート結果について具体的な数字は出しませんが、そこそこ4が迫っていたとだけ。
 作者的にはそれも面白そうかなとは思ってましたが、尋ねた以上、民意は絶対ですからね。

 ついでにここまでの話を忘れてしまった、という方の為に本作のあらすじを以下に三行で。

 ・オリ主、復讐を果たし投獄(休学)
 ・A組クラスメイト(ヒーローの卵)達は諦めない
 ・獄中に届く謎の声

 またC4-6話以降は1話ごとに場面を転換しておりますので、今話と直接繋がるのはC4-7話です。

 それでは長くなりましたが、本編をお楽しみください。



 

「―――『ウーマン』ちゃん?」

《ウン、『ウーマン』チャンって呼ばれテたノ》

 

「……何というか、名前と言うより……」

《お姉チャン?》

 

「あ、ああ、ごめんね? えっとそれじゃあ……ウーちゃんって呼んで良いかしら?」

《! ウーチャン! ワタシの名前、ウーチャン!》

 

「……気に入ってくれたみたいね。良かったわ」

 

 

 

 

《―――それデね? ジョンチャンはネ? 小っチャクてね? 頭がシワシワでね? 目はギョロギョロしてテ、二本の足でテコテコ歩くノ!》

「う、うん……うん? ……明らかに犬や猫の話じゃ……」

 

《それデね? ソレでネ? 『ドクター』がジョンチャンの頭をグリグリってするとドロドロってしタノをゲェって吐キだすノ!》

「そ、そうなんだぁ。……どういう生物なのか全くイメージできないわ……」

 

《『ドクター』はネ? ソんなジョンチャンをスッゴく可愛がってルンだよ!》

「そう……ウーちゃんはその、ジョンちゃんと遊んだりするの?」

 

《…………デキないノ》

「あら、それは……どうして?」

 

 

《ウーチャン、動ケないノ。ウウン、動くんだケド。動けナイノ》

「…………どういうこと?」

 

 

《ウーチャンの身体、動かスノも、喋るノモ、ウーチャンじゃないノ。ウーチャンが、どうシヨうかなッテ考えタラネ? 身体が動キ出すノ》

「…………」

 

《でもネ? ウーチャンが考えたノとはチョット違うノ。ダカラね? だからネ? ジョンチャンとは遊んダことナイの》

「そう……なのね」

 

 

 

 

《―――オ姉ちゃん》

「あら、どうしたの?」

 

《今日は、お姉チャンの事、聞きたイ》

「え……私の?」

 

《いツモ、ウーチャンが話シテばっかりだモン。ワタシ、お姉チャンの事も知りたいナ》

「そ、そうね。そうじゃなきゃ不公平よね」

 

《ジャア、最初の質問ネ! オ姉ちゃんの周りには何がアルの?》

「あー……」

 

《…………》

「……壁?」

 

《カベ》

「待ってごめん違う。……機銃、いやいやえっと……」

 

《オ姉チャン?》

「…………私、ね? 閉じ込められているのよ。周りに何にもない、小さな部屋の中にね」

 

《閉じ込メ……》

「動けないように縛られて、目隠しもされているの。だから、それぐらいしか分からない」

 

 

《……お姉チャン、何か悪イコトしたノ?》

「……!」

 

 

《イタズラするとネ? 閉じ込めラレちゃうノ。反省するマデ出てきチャだめッテ》

「……そう、ね。悪い事、しちゃったの。とってもとっても、悪い事」

 

《…………》

「それで、反省するまで……いえ、二度と出てくるなって、言われちゃうぐらいにね」

 

《オ姉ちゃん……》

「何もかも、取り返しはつかないし……後悔はしていないけど……ああ、でも―――」

 

 

《『ごめんなさい』、シた?》

「……!!」

 

 

《……だめダヨお姉ちゃん? 悪い事シたらちゃンと、ごめんなサイ、しなくッチャ》

「…………そう、だったわね。ウーチャンは……偉いわね」

 

《エライ? ウーチャン、えらイ?》

「ええ、偉いわ。……お姉ちゃん、そんなことも忘れちゃってた」

 

《ワぁい! ウーチャン、えらい!》

「…………ごめんね。今日は、ここまで、よ」

 

《……エっ? あ、お姉チャ―――》

「…………」

 

 

「私が…………最後に歩に謝ったのは、いつだった……?」

 

 

「私は、いつから……」

 

 

 

 

《―――アッ、お姉ちゃん!?》

「……うん、昨日はごめんね? ウーちゃん」

 

《ンーン、気にしテないヨ!》

「そっか……えっと、それで……昨日の話でウーちゃんに聞きたいことがあるんだけどね?」

 

《? なぁニ、お姉チャン?》

「その……悪戯すると閉じ込められるっていうのは、『ドクター』って人から言われたの?」

 

《違ウ、よ? 反省しなサイって言わレタのは、お母サンからダよ?》

「あ……お母さん、居るのね?」

 

《ウン、オ母さん、かラ…………アレ?》

「……ウーちゃん?」

 

《悪い事したら……反省……お母さん、ワタシ、良い子で、待っテ―――》

「ウーちゃん? どうしたの? 急に何が……」

 

《―――ア゛》

「っ!? ……ウー、ちゃん?」

 

 

「…………繋がりが……いえ、切れてはいない、けど……」

 

 

「いったい、どうなって……?」

 

 

 

 

「―――っ、【加速】!」

《……っ、ア!?》

 

「ウーちゃん? 聞こえる? 昨日は何が―――」

《ウー、チャン?》

 

 

《ソれは……誰? アなたは、誰、ナノ?》

「……!?」

 

 

《どこ、カラ……声……? ワタシ、は……?》

「…………ごめん、ね? あなたの、お名前は?」

 

《なま、エ……ワタシの名前ハ……えぇっト……?》

「……焦らなくていいから、ゆっくり思い出して……ね?」

 

《…………『ウーマン』チャン。ワタシ、『ウーマン』チャンって呼ばれテたノ》

「そう……それじゃあ、ウーちゃんって呼んで良いかしら?」

 

《! ウーチャン! ワタシの名前、ウーチャン!》

「…………気に入ってくれたなら、何よりよ」

 

 

 

 

《―――お外に出らレたラ?》

「そう。そこから出られたら、まずは何をしたい?」

 

《ンーっと……ンーっとねェ……まずハいっぱい身体を動かしタイ!》

「……!」

 

《お日様の下でネ! イッパイ遊んデね! そノママころん、って転がっテお昼寝するノ!》

「……そっか。それは、楽しそうね」

 

《ソしたらね! そしタラネ! お母サンがお膝の上ニ乗セテくれて、ナデナデしてクレルの!》

「っ! ……そう、なのね」

 

《エヘヘ……楽しミだなア……》

「…………お母さんのこと、好きなのね?」

 

《ウン! 大好キなノ! ワタシ、大きくなったラお母サンみたイナ、ヒぃ―――》

「…………ウーちゃん?」

 

《…………》

「ウーちゃん? ねえ、どうしたの?」

 

 

 

 

《お、おかァ……オカかかかかかぁさ、み、ミタ……ァニ―――》

「ッ!!? ウーちゃん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

《―――ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは殺ス。ヒーローは敵、ヒーローは―――》

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウーちゃんって呼んで、良いかしら?」

《! ウーチャン! ワタシの名前、ウーチャン!》

 





 全編会話形式は初ですかね。


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C4-10 託されたモノ


※頂いた感想への返信もゆっくり再開する予定ですが、展開の予想に関するような箇所については今後、一律で言及を避けることにいたします。


 かなり大きな改変入ります。



 

 ―――その日、緑谷出久は夢を見た。

 

 

 荒野のような場所に立ち尽くす自分。

 動かせるのは鼻から上と、右手のみ。

 それ以外の部分はまるで靄のようにおぼろげで、感覚はひどく鈍く。

 

 ふと気付いて振り向けば、隣には見覚えのある精悍な女性―――『OFA』七代目所有者の姿。

 もしやと思った彼はその先へと目を向けて。

 五代目、六代目、四代目―――入学間もないあの日、言葉を交わした先達の姿を目に映した。

 

(これは……OFAの……!)

 

 彼がそれを見るのは、三度目のこと。

 ある種の『裏技』による初めの邂逅に比べれば、二度目および今回の()()はひどく不安定で。

 けれど何らかの意図を持って訪れたと思しき機会に、彼は全力で意識を傾けた。

 

 

『何故抗うんだ? 僕と征こう。愚かで可愛い弟よ』

『間違っているからだ。許してはならないからだ。兄さんの全てを』

 

 

(初代、と……この声……! オール・フォー・ワン……っ)

 

 『OFA』が緑谷に見せたのは、その初代所有者の記憶。

 『AFO』が如何にして"力"を手にしたか、如何にして"支配"を広げてきたか。その軌跡。

 

 

『―――兄さん、知ってるか。悪者はな、必ず最後に敗けるんだ』

架空(ゆめ)は現実になった! 現実は定石通りにいかない』

 

 

 記憶の中の『初代』が、オール・フォー・ワンの手に頭を掴まれる。

 それは、その二人のどちらもがその存在に気付かなかった"個性"と、与えられた"個性"が交わる―――OFA誕生の瞬間。

 拒絶しようともがく『初代』に、緑谷が思わず手を伸ばしたところで、記憶は終わりを迎えた。

 

 

「……やあ、久し振りだね。九代目」

(……っ!?)

 

 記憶の像が消え、靄の中から現れたのは初代の姿。

 呆然と手を伸ばす緑谷へと、彼もまたゆっくりと歩み寄る。

 

「もう少し見せたかったけど……まだなんとか20%なんだね……彼女達の力を再び借りられたら、良かったんだけど……」

(彼女……干河、さん……!)

 

 初代の口から出された、今は状況の分からないクラスメイトの顔が緑谷の頭を過った。

 その思考を視線から察したのか、初代もまた痛ましげな表情で彼を見る。

 

「彼女達について八木君は、君達に秘するという選択をしたようだからね……僕達の中でも意見は分かれているけど、彼の気持ちを無下には出来ない。……すまないね、九代目」

(え……な、何で……!?)

 

「ああ……気になることは沢山あるだろうけど、あまり時間がないからね……今はそれよりも君に伝えなくちゃいけないことがあるんだ」

 

 靄に包まれていない両目を剥いた緑谷に、気遣わしげにしながらも初代は言葉を続ける。

 

「特異点はもう過ぎている……ただ、彼女達に一度()()()()まで導いてもらったお陰かな。この先のことに多少融通を利かせられそうなんだ」

(特異点? ……融通? 一体何の話を……っ)

 

 夢から覚めようとしているのか、薄れゆく世界にもどかしさを目に宿す現所有者(緑谷)

 そんな彼に向け、初代は一度表情を緩めた後で口を開く。

 

「……忘れないでくれ。君は一人じゃない」

(あ……歴代……!?)

 

 伸ばされた手の向こうに並ぶ、七つの人影。

 自分を見つめる八対の眼差しに、緑谷が目を大きく見開いたそのとき。

 

 

「…………まあ、それでもかなり苦労するだろうけど……頑張ってくれ、九代目」

(え―――)

 

 

 苦笑いで付け加えられた最後の言葉に、緑谷が問い返そうとした言葉は夢の中に消え―――

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

 目を覚ました彼の視界には、見慣れた自室のベッドが映り。

 

 

「っ、痛!? ……はへ……?」

 

 

 背中と後頭部に走る鈍痛が、寝起きの思考を呼び覚ます。

 

「え、コレ……飛ん……えっ……?」

 

 そうして彼はようやく気付いた。

 自身の身体が、自室の()()()()()()()()()()という現状に。

 

 

「―――デクくん大丈夫!? さっきの音はいった、い……?」

 

「あ……」

 

 

 おそらくは彼が起きる直前、天井を半ばまで破壊する轟音が響いたのだろう。

 それに反応し、いち早く窓から駆け付けたらしい麗日が、部屋内の現状に硬直する。

 

「えっ……何コノ状況……?」

「そ、それが僕にも何が何だか……?」

 

 未だ混乱に思考を染めつつも、とにかく天井に生じたへこみから抜け出そうともがく緑谷。

 しかし彼がへこみの縁に手を掛け力を込めても、その身体はまるで宙にピン止めされたかの如く動かなかった。

 

「あ、あれ……出れない……っ!?」

「ええぇ!? デクくん、どうなってるのソレ……?」

 

 麗日もまた、状況は理解出来ないまでも手助けになろうと部屋内に入り、天井に貼り付けられた緑谷に手を伸ばす。

 掛け布団が跳ね飛ばされたベッドに上り、彼の片足に手を掛けたそのときだった。

 

 

「―――おい、どうした緑谷? 朝から何のお、と……」

 

「「あっ」」

 

 

 続いて部屋の様子を見に来たのは、緑谷の隣室である峰田。

 その目に映った光景は、天井にめり込む緑谷と、投げた瞬間のような姿勢でその足を掴む麗日。

 

「……んだよ、朝から痴話喧嘩かよ。……ケッ」

「「違うよ(ちゃうよ)!?」」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――やはりソレはお師匠の"個性"『浮遊』に間違いない……! だが、一体何が……?」

「初代は、特異点を過ぎた、と言っていました。もしこれがそうなんだとしたら……」

 

 校舎内、仮眠室。

 以前から事ある毎に利用してきたその場所で、師弟は何度目かになる相談の場を設けていた。

 

 ―――OFA初代所有者の記憶。

 それ自体は八代目である自分も、そして七代目も同様の"面影"を見たことはあったらしい、とオールマイトは語った。

 その"面影"に声を掛けられたという現象は緑谷が初ということにはなるが、そうなる兆しがあるというのは他ならぬ歴代達から、とあるクラスメイトの力を借りることで既知となっている。

 

「……つまり将来的には歩ちゃんと『干渉』さんみたいになるはず……ってことやんね?」

「……プライベートもクソもねえな」

「そ、そこは流石に配慮してくれるんじゃないかな……?」

 

 これまで師弟二人だけで行われていたその場には、それぞれの経緯でOFAについて聞き及ぶことになった人間がもう二人。

 オールマイトが、緑谷が、それぞれ自責の念を大きな理由に秘密を明かし、以来その共有者となった爆豪と麗日の二名である。

 

「しかしお師匠の"個性"は自身の身体を宙に留め置くというものである筈……それが動けないほど固定されていたとなると……"個性"の出力が過剰になっていた……?」

「……今思えばそれとは別に身体に負担も掛かっている感覚もありました。多分ですけど今の僕が耐えられる20%ギリギリまで力が掛かっていたんじゃないかと……」

「そういえばカッチカチに強張っとったねえ……まあ、そのおかげで天井壊したのに怪我してへんかったんやろうけど」

 

 感触を思い出すように自身の手の平をさする麗日。

 一方で、話を聞きながら口元に手を当て考え込んでいた爆豪が、三人に向けて口を開く。

 

「……『この先』、『融通』……幾つかあるモンの中から選んだって口振りだな。今朝デクに発現したのがオールマイトの前のヤツの"個性"ってんなら、更に前の連中の"個性"もそのうち出るって意味じゃねえのか?」

「え」

「えぇ……!? 何それデクくんどうなるん……」

「む、ムゥ……確かにそういう意味にも……しかし何故緑谷少年の代になって急に……」

 

 

「オール・フォー・ワン。元々アイツから派生した"個性"なんだろ?」

 

 

 落とされたその一言に、混沌となりかけた場が静まり返る。

 

「"個性"の複数持ち。成程アイツと同じじゃねえか」

「……言いにくいことを……」

「…………」

「デクくん……」

 

 自身の腕を見つめ、物思いに沈む緑谷の横顔に、不安げに声を掛ける麗日。

 俄かに訪れた陰惨な空気に、爆豪の眦が吊り上がる。

 

「……ハッ! 由来が何でも得たモンは得たモンだろーが。第一腹黒達の介入で早まっただけで、元々そうなるハズだったんだろ。悩んでる暇があったら有効な使い方でも考えてろやっ!」

「うわぁ円滑、爆豪くん」

「ま、まあ爆豪少年の意見は尤もだ。その"力"はお師匠の……歴代の意思によるもの。ならば君の味方であることは疑いようが無いさ、緑谷少年!」

「あ……そ、そうですよね!」

 

 強引ながら懸念を振り払っていく爆豪に、感謝しつつも苦笑を止められない三人。

 コホン、と一つ咳払いをしたオールマイトが、以降の指針を決めるべく話を進める。

 

「私はお師匠より前の方々の"個性"を調べてみよう。どこまで辿れるかは分からないが……やれることはやっておかなければな。緑谷少年はこれまでの制御訓練に平行して"個性"の切り替えを……少なくとも皆の前で暴走させる心配がないように習熟しておく必要があるね」

「今回はたまったま誤魔化せた……いや、誤魔化せそうなのを中の連中が選んだんだろうが、出てくる"個性"によっちゃフォローのしようも無ぇだろうからな」

「だ、だよね……安定するまでは麗日さんに迷惑かけることになっちゃうけど……」

「気にせんでええよ。私がなるべくデクくんの近くにおるようにすればええだけ―――」

 

 笑顔でそう言いかけて、麗日は一瞬遅れてその言葉の意味に気付く。

 

 これから先、なるべく彼の―――緑谷出久の傍に居るように心掛ける。

 いや、何も変な意味ではない。……というより言われなくとも友人として普通に会話する機会はこれまでも多かったではないか。

 

 致命的なのは自分が居ない所で彼が突然『浮遊』してしまって、それを先に他のクラスメイトに見られてしまうことであって。

 それを防ぐ為には皆の視線が無い場所でも、なるべく彼の傍に居ておくべきであって。

 いやいや変な意味ではない。そこに変な意味は何も無いのだ。

 

 ただ、そう、他に人目がない状況というのは、つまり二人きりということでもあって。

 これから先、自然とそういう機会が増えるということであって。

 

 いやいやいや……いやいやいやいや―――

 

 

「―――そこで唐突にアオハル始めんなッ! うっとうしいんだよ、丸顔!!」

「か、かっちゃん、急に何を……!? だ、大丈夫、麗日さん? 顔赤いよ?」

「わひゃいっ!? い、いいいいや何でもあらへんよ!?」

 

「そんで、てめェの鈍感も大概にしやがれ! このクソナードがッ!」

「いやあ、香山君(ミッドナイト)じゃないが……青いなあ、十代……」

 





 C1-10の後書きでも触れましたが、原作におけるOFA歴代同士の会話が始まったのは三月下旬の決戦から四か月程前。すなわち文化祭直後の11月下旬(原作184話に記載あり)頃です。
 よって原作193話、今話冒頭のシーンはそれが始まった後だと推測できます。

 個人的に『黒鞭』が『超パワー』の延長として違和感を持たれつつも誤魔化せる展開をどうかと思っていたので少々大胆な改変をば。
 原作では緑谷くんの想いに呼応して対応する歴代の"個性"が発現、という形でしたが、原作よりOFAの成長が早まっているということで歴代側で発現のタイミングを調整出来た……という理屈をこねまわして「痴話喧嘩」の一言を引き出したかっただけの回です。仕方ないね。


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C4-11 残されたモノ


 微妙に改変および独自解釈あり。
 またオリキャラの名前が出ます。



 

「―――考えなしに"個性"を持たせれば、それだけ思考能力に負荷が掛かる。適当な扱いでも機能する"個性"なら、最低限の命令を聞く程度の知能が残れば構わんのじゃがな」

 

「仮にも"王"に仕える"(しもべ)"としてそれではあまりにツマランじゃろう? 故に挑戦することにしたんじゃよ。高い戦闘力と思考力を両立した脳無……『ハイエンド』の製作にの」

 

「最初のアプローチは、戦闘志向の高い人間を素体とすること。まァ要するに多少知能が落ちても戦いに関する思考力だけなら残りそうな『人材』、ということじゃな」

 

「そこで素体の厳選に乗り出したわけじゃが……丁度手元に面白い『人材』があっての? 予定とは違ったが、そちらの『再利用』も兼ねて試してみることにしたんじゃよ」

 

 

「ところでのう……"個性"と体質の関係については―――おっと、言うまでもなかったの」

 

「"炎熱系個性"の持ち主ならば、熱に強い耐性を持った身体で生まれてくる。耐性の高さには……まあ、個人差があるわけじゃが」

 

「いやいや話したいのはお前さんのことじゃないわい。例えばそうじゃな……ウイングヒーロー ホークス。あの男の"個性"制御は最早芸術の域じゃよ」

 

「あれほどの量の羽根を同時操作……例えるなら大量に増やした指一本一本で精密作業をするようなもんじゃ。あんなモノ、少なくとも超常以前の人間の脳味噌では土台不可能」

 

「すなわちあの男の脳味噌は他とは比較にならん処理能力を持っとると推測出来るわけじゃが……仮にあやつから"個性"を奪ったとしよう。残ったホークスはさて、知能が落ちると思うかの?」

 

「……ああ、そうはならんとも。要するに統計として、"操作系個性"の持ち主からは良い脳味噌が手に入りやすい。これが言いたかったわけじゃな」

 

 

「さて話は変わるが……先生がオールマイトに深手を負わされ、自由に動かせる『手足』の調達が急務となったあの日から遡ること五年前、先生の元に少々面白い『依頼』が舞い込んだんじゃ」

 

「始めは"無個性"の娘に"個性"を与えて欲しい、というありふれた願いだったんじゃがな? いざ先生が向かってみれば、攫われた夫を取り返して欲しい、ときたもんじゃ」

 

「そんなもん警察かヒーローに頼めと思うじゃろ? だが事情を聞くに面白いことが分かっての」

 

「その夫というのが、厳重強固な警備システムに守られていたにも関わらず、一人の人間によって連れ出されたというんじゃ。如何なる"個性"がそれを成し得たのか、先生も興味津々じゃったよ」

 

 

「……まあ、それについてはそこそこの強"個性"を限界まで磨き抜いた結果ということに終わったんじゃがの。むしろワシらが驚かされたのは、その娘の"個性"だったんじゃ」

 

「長年"個性"の研究を行ってきたワシですら驚くほどに、()()()()()()()"操作系個性"じゃった。先生ですらコレを十全に扱うには脳味噌がもう一つ欲しい、と溢しとったよ」

 

「結局"個性"の方はワシも先生も持て余すということで要求通り依頼主の娘に渡したんじゃがの? ワシが注目したのは残った娘の方じゃよ。これほどの"個性"を持って生まれてきた脳味噌をただで捨てるのは余りにも惜しかった!」

 

「まだ年若かったゆえ、身体の成長を待つついでに『教育』を施せば何とかなるかと思うたが……如何せん元ヒーローの母親に『染まって』おっての。さっきも言った通りのんびり研究もしてられなくなった事情も相まって、思い切って『ハイエンド』の製作に回すことにしたんじゃ」

 

 

「……『生きる屍』か。言い得て妙じゃが、中でも()()()は凄いんじゃぞ?」

 

「他の者が暴れたい、壊したいといった性根や執着を残すのがせいぜいという中、この子は確かな知性や学習能力を残しておる! 生前は中々の聞かん坊じゃったが、今では『教育』も素直に受け入れてくれる良い子じゃよ」

 

「生前の記憶? ああ勿論綺麗サッパリ掃除しておいたとも。彼女は一度死ぬことで凝り固まった価値観を捨てることに成功したというわけじゃな。生まれ変わったと言っても良いかもしれん」

 

「そういう意味では君と真逆じゃのう、荼毘……いや、とどろ―――」

()()()()()()()()の話なんか、どうでもいいね」

 

 

「俺が戻ったのは、葬式に丁度いい場所だったからだよ」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

《―――って、言っテタノ》

「…………」

 

 泡沫に存在する真っ白な部屋。

 そこで永の暇を過ごす筈だった彼女の元へ、あるとき突然届くようになった『少女』の声。

 

 舌足らずなその声で語られたのは、『少女』の置かれた尋常でない状況。

 知ったところで何の意味があるのかと自嘲しつつも、聞けば聞かれるまま答える『少女』から、彼女は幾日もかけて()()を聞き出した。

 

「あなた、は……」

《……お姉ちゃン?》

 

 『少女』の眼前で行われていたという悍ましきやり取り。

 他の内容も然ることながら、彼女にこの上ない驚愕と焦燥を与えたのは、老人の口から語られたという『少女』の由来。

 信じ難い、信じたくない、そんな想いを抱きながらも、彼女はそっと問いかける。

 

 

「……『通子(とおこ)』ちゃん。あなたは……通子ちゃん、なの?」

《…………エ?》

 

 

 返ってきた声にはしかし、彼女が望んだ温度は含まれず。

 それでも彼我の距離を排する『繋がり』を通し、彼女―――"個性"『干渉』は尚も言い募る。

 

「何か……何か覚えてない? お母…………お父さんのこと、とか」

《ン……ゥ……?》

 

「それに…………あなたの、"個性"……とか」

《"個性"……無イ、よ?》

 

 唇を歪め、目を伏せた彼女の耳に、《……アッ》と遅れて何かに気付いたような声が届く。

 刹那、淡い希望を滲ませ上げた顔に、落とされたのは無情の呟き。

 

《ナイ……無い、カラ……移植スルって、『ドクター』が言ッテ―――》

「違うのよ!?」

 

 上げた叫びが、静寂の中に消えていく。

 彼方の『少女』が動揺する気配に、彼女は一度視線を落とした。

 

「違う……違う、のよ……あなたは、"私"の……っ!」

 

 幾つもの言葉が、沸き上がる感情が、彼女の脳裏を通り過ぎていく。

 数秒、数十秒、口元を覆い思考の海へと潜った彼女は、やがてゆっくりと顔を上げた。

 

 

「―――最初は……白いボールだったわね」

《……エ?》

 

 

 徐に呟かれたその言葉に、返って来たのは純粋な疑問。

 

「手を触れなくても動いたボールに、それを浮かせられる力に、夢中になって」

《…………》

 

「それを見たお母さんが喜んでくれるのが嬉しくて、他にもっと動かす物がないか探したの」

《何ノ、話……?》

 

 依然、困惑だけが返ってくる『繋がり』へ向けて、彼女は尚も言葉を紡ぐ。

 

 

「そうして気付いたの。……お母さんの真似をするのが、一番喜んでもらえるんじゃないかって」

 

「お母さんみたいに、空を自由に飛び回れたら、かっこいいなって」

 

「そうして覚えたての感覚を、自分の身体に向けて」

 

 

「……気付けば空中で《ひっくリ返っテタ……?》……っ!」

 

 

 彼方からの声に、戸惑いが混じった。

 

 

《な、ニ……コレ……? 知らな、イ……》

「っ……戻し、方が分かるまで……結局丸一日、お母さんに抱きかかえられて過ごしたわ」

 

《ア……》

「次の日は少しずつ"個性"でやれることを確かめていって……お母さんの"個性"より出来ることが多いねって、褒めてもらって……っ」

 

《……ァ、サ……》

「……そう言われて舞い上がった『(あなた)』は、お母さんに聞いたよね?」

 

 

「―――私も、《オ母さんみたいなヒーローにナれるカナ》? ……って」

 

 

 『少女』の声が、途切れる。

 突如訪れた痛みを伴うほどの沈黙は、それから何秒も経たぬ内に破られた。

 

 

《イィ、ヲ? ェエ、テァ……ンイ、エェ?》

「っ!?」

 

 

 再度届けられたのは、言葉を成さない雑音じみた声。

 豹変と呼ぶべきそれが何の前兆であるか、彼女は数十日に及ぶ『少女』との会話により、それを経験として知っていた。

 

「特定の思考を切っ掛け(トリガー)にした記憶の再設定(リセット)……ッ!」

 

 それが何の為に存在しているのか、今となれば最早明白であった。

 優秀な"(しもべ)"を"(しもべ)"のままで在らせる為、『余計な思考』を許さぬ為の安全機構(セーフティ)

 

 『ドクター』と呼ばれている老人、おそらくはその背後にいたのだろう『先生(AFO)』。

 どこまでも周到で、どこまでも醜悪な……どうしようもなく純粋なる、悪意の発露。

 

「生前の記憶……凝り固まった価値観……? ふざけ……ッ!?」

 

 『繋がり』の先へと意識を向け、手を掲げた彼女の思考が一瞬、止まる。

 姿勢をそのままに視線を向けた先は、未だ沈黙を保ったまま佇む青髪の少女。

 

「…………っ! 私、は……!!」

 

 浮かんだ迷いを振り払い、彼女は伸ばした手の彼方へと"自身"を延長する。

 今なお故の不明な、しかし確かに存在する『繋がり』を辿り、その果てに居る『少女』へと。

 

 

「あなたがまだ、そこに居るのなら……! 【加速】! 【加速】、【加速】ッ!!」

《アッ!? エ、ア゛、ォアッ!?》

 

「【加速】……ああ、畜生!? 【掌握(スフィア)】! 【反射】っ! 【加速】ッ!!」

《ヒィ、ローは……てキ……ひィロぉは、コロ、ろろろろろ―――》

 

 見えない手応えに、あるかも分からない希望に、それでも彼女は"力"を振るう。

 遥か以前に剥がされ、失い、忘れかけてすらいた―――()()()()()()へと。

 

 

 

 

「あなたの名前は、通子! 反向(そりむき)通子(とおこ)! ヒーローに……お母さんに憧れた、ヒーローの娘!!」

《おカ、ァ……あこ、ガ……ェ―――》

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………切れ、た?」

 

「いえ、『繋がり』は、まだ……」

 

「…………」

 

「……はは、どうしようかしらねえ」

 

「ああ、本当に私は―――」

 

 

 

 

『―――干河歩。貴様は……()()()()?』

 





 ドクターと荼毘の会話は原作ではフードちゃんの前ですね。


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C4-12 隠蔽


 ちょい説明台詞多めです。



 

「―――それで訓練に付き合って欲しいって……何をすれば良いの?」

「『浮遊』を使ったときの空中制動の身のこなしと……それから新しく使えるようになった歴代の"個性"の習熟を目指しているところなんだけどね……」

 

「『黒鞭』だよね? 私もアレ見てコスチュームにワイヤー付けたばっかりやし、それについては教わってる側なんやけど……というか、デクくんその頭はどしたん……?」

「ああ、これは、かっちゃんを『黒鞭』で捕まえるって訓練で負け続けた結果だよ。かっちゃんは捕まらずに僕にタッチしたら勝ちっていう―――」

 

「爆破がルールにない! 爆豪くんあーた相変わらずひどいねえ!」

「実戦形式ってデクから言ってきたんだよ!」

 

 

 雄英高校校舎内に用意された、予約制の"個性"訓練用教室。

 そこに緑谷と爆豪、呼ばれて訪れた麗日、そして彼らを見守るオールマイトの姿があった。

 

 

「―――『浮遊』、からの……エアフォース(OFA15%)で推進!」

「おお! いいじゃん!」

 

「うん、麗日さんのバーニア移動を見てたおかげでイメージは固められてたから……」

「っ……そっかぁ。……あ、もうちょっと空中を泳ぐ感じで手足のバランスを―――」

 

 OFA七代目の"個性"を発動させ、軽い衝撃波を発生させる程度の力を四肢から放つことで、既に緑谷は空中機動の術を確保していた。

 その道では一日の長を持つ麗日の指導を受け、彼は少しずつ自身の技術としてモノにしていく。

 

「んー……折角だから爆豪くんとやっとった訓練、私ともやらへん?」

「えっ!? そ、そんな……良いの、麗日さん?」

 

「私もワイヤーの練習したいし……どっちが先に相手を捕まえられるか勝負ってことで!」

「っ! ……乗った!」

 

 

 

 

「―――やれてンな」

「ああ……同程度の技量の持ち主と競い合えれば、上達も早いはずだ」

 

 踊るように空を駆け、よく似た武器を伸ばし互いを追い合う緑谷と麗日。

 そんな二人を見上げながら、施設の隅に腰を下ろした爆豪とオールマイトは言葉を交わす。

 

「……今はギリ誤魔化せてっけどなァ……現場で必要だと判断したら、デクがためらうわけねぇ。確実に隠し切れなくなるぞ、この先」

「……一番の懸念は、彼の意図しない形での暴発。故に習得は急がねばならない」

 

 頭上から届く二人の声とは対照的に、交わされるやり取りは重く響く。

 

 ―――大いなる力を継承させられる、という事実が晒されることによる危険性。

 オールマイトの手で集められたOFA歴代所有者達の記録から、爆豪が読み取った違和感。

 そしてそこから彼らが辿り着き、未だ後継者(緑谷)には伏せられているOFAへの懸念。

 

「……なァ、何か気付いちまったんじゃねぇのか!? OFAが―――」

「まだ! ……分かっていないんだ。……分かってない事を断言は出来ない」

 

「…………」

「少年を案じているからこそだ。……君と同じように」

 

 告げられたその言葉に、爆豪は一度視線を下げ……そして不意に上げた口から()()を呟いた。

 

 

「―――干河達の事もか?」

「っ!? …………」

 

「分かっていないから、じゃねェよな? あんたは言いたくねぇんだ。あいつらに」

「……君は……」

 

 

 苦みの走った顔で緑谷を、そして何より麗日の姿を追うオールマイトを、爆豪は一瞥する。

 対するオールマイトの脳裏には、数日前に()()()()()と行った会話が蘇っていた。

 

 

 

 

『―――それは許可出来ないのさ、オールマイト』

『なっ……何故です、根津校長!?』

 

 それは余人を排した校長室で行われた、誰の耳にも入ることの無いやり取り。

 "個性"『ハイスペック』―――人間以上の頭脳を持つとされる白鼠(根津)に諭される彼の姿があった。

 

『新たに脳無であると判明した黒霧について、干河母娘について……どちらも奴に聞いたところで利になる情報が得られるとは思えない、という点は同じさ。ただ後者については少々事情に違いがあってね』

『違い、ですか?』

 

 議題はこれまで幾度か彼が行っていた、宿敵(AFO)への面会とその際に投げかける質問について。

 何者も出ること叶わぬ最大の監獄の中にあって、尚も薄笑いを崩さない彼の者への、有意義とは言えないまでも無意味に終わらせない為に行われていたその場で、彼は初めて否定を受けていた。

 

『干河心美が現在どうなっているか、知っているかい?』

『いえ……並の手段では救助不能とみて、あの時は立ち去る他ありませんでしたが……』

 

『干河増太がセントラル病院に搬送されたことで、他の親類も状況を知ることになったさ。しかしそれを知った干河本家の者達は、直ちに彼女の救助活動を()()()()()()()()

『なっ!?』

 

『そして我々にもこの件に関して隠蔽に協力するよう要請してきたのさ。そこで様々鑑みた結果、私もその要求を呑むことにしたんだよ』

『な、何故ですか、校長!? そのような―――』

 

 

『"個性社会の闇"に傾倒した身内。……現状ではその身柄を扱いかねるから、だそうだよ』

『っ……』

 

 

 息を呑んだ彼に対し、根津は「その要求時に聞き出したのだけどね」と前置きし、話を続ける。

 

『母親の方は娘と違い、明確な幇助の証拠が存在する。故に取り調べの段になれば罪過は確定する筈だが、それを現当主が知れば家名に傷が付くことも厭わず庇い立てするだろうとのことでね』

 

『既に老齢の当主は一年と待たずして代替わりを予定している状況。家の為にも本件を次代の者達で扱いたいというのがあちらの意向なのさ』

 

『幸いというべきか、件の地下室が人間一人であれば一年少々生き延びるに不自由しない事は私も確認済み。事が恙無く運んだ後なら罪人を庇うつもりも無いというので話に応じた形なのさ』

 

 

『…………し、しかし、それとこれとに何の関係が……』

 

 理屈としては理解可能、されど心情としては筆舌しがたい感覚に絶句した後で、オールマイトは絞り出すようにそう問い返す。

 そんな彼を前に、根津は校長室の机の中から一台の携帯電話を取り出しその眼前に鎮座させた。

 

『干河歩君の休学についても、学外の人間には口外しないよう生徒達に周知している。勿論これは秘するべき個人情報にあたるから、という理由そのままだけどね』

 

『加えて()の家の全力の隠蔽により、あの母娘の去就はまともな手段では決して手に入らない情報となっている。これが奴らへの情報遮断としても成功していたなら……次に雄英(ここ)を狙う際に最初に連絡が入るのはこの端末なのさ。そして最後に私の勘が、未だそれを有効だと判断している』

 

『そしてその情報を奴に与えることを、同じく私の勘は不利益と判断しているのさ! まるで奴が()()()()()()()と示すかのように! 正直、考えたくもないんだけどね!』

 

 

『…………』

 

 根津の勘、という名の憂慮については、彼にも言語化不能ながら理解が及んでいた。

 自身の手で討ち果たし、その命脈を断った筈の巨悪が未だ漂わせる余裕。

 まるで自身が打つべき布石は何もかも打った後、とでも思わせる語り口。

 

 故にしたくは無くとも出来てしまった。

 かつての相棒(サイドキック)をも彷彿とさせる目の前の人物(ネズミ)の勘に対する納得が。

 

『まあ、実のところ口止め料も受け取ってしまっているからね! 表向きには干河歩の学費ということになっているが、受け取った以上は他に選択肢は無いのさ! HAHAHA―――』

 

 

 

 

「―――オイ、オールマイト?」

「ハッ!? あ、ああ、すまない、爆豪少年」

 

 眦を吊り上げ問いかける爆豪に、思考を現在に戻したオールマイトは慌てて返答する。

 その反応により胡乱な表情となった爆豪だったが、何も言わぬまま視線を前へと戻した。

 

「……君は、何も聞かないんだね」

「……耳の奴(耳郎)は色々小細工してたみてぇだがな。少なくとも、麗日を差し置いて俺が先に聞き出すのは筋が違ぇ」

 

「……そう、か」

「近ぇ内には話せよ? 何があったかはともかく、()()()()が来てから後悔させても知らねぇぞ」

 

「……そうだね。肝に銘じておくよ」

 

 落ち窪んだ目の奥、細めた瞳でオールマイトは現在()を駆け抜ける二人の姿を視界に映す。

 彼らが真実を受け止められるその日まで、傍に在らねばならぬと彼は決意を新たにした。

 

 

 

 

「―――おわーっ!? デクくん、締まっとる! 締まっとるってェ!?」

「ご、ごめん、麗日さん!? い、今、解くから……あ、アレ、ワイヤーが絡まって……!?」

 

「ぐえぇっ……!? ちょ、ま……コレ、久々に…………うぷっ」

「わあぁっ!? 麗日さーんっ!?」

 

 

「ーーッにしてンだ、てめェら!! 解き殺してやっからそれ以上動こうとすんじゃねェ!!」

「はは…………まだもう少し先、かなあ」

 





 歩ちゃんの休学扱いには様々な人間の思惑が絡み合っていましたというアレ。

 『ハイスペック(根津校長)』には積めるだけ積んでいくスタイルです。
 清濁併吞……どころかあの世界なら清濁濁濁ぐらい呑んでてもおかしくないかなあと。

 『黒鞭』が皆にバレてないので麗日さんに加えて梅雨ちゃん瀬呂くんに協力を仰ぐ展開が消去。
 その分デク茶が進行したので無問題です(謎)。


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C4-13 解放


 ここから新章にしようかとも思ったんですが、どうにも収まりが悪く……

 原作ママの展開を文字起こしするみたいになってしまった感。
 ……あのシーンだけはカット出来ないからね。仕方ないね。



 

 ―――蛇腔病院、地下。

 院長である彼、殻木球大のみがその存在を知るその場所は今、喧噪が降りかかる直前にあった。

 

 潜入捜査を続けた警察により判明した、病院内を潜む改造人間脳無の存在。

 露見した脳無の製造者―――AFOの片腕。

 彼を捕えるべく病院に乗り込んだNo.1を含むトップヒーロー達。

 ……これがヒーロー達による一網打尽を計画した二方面作戦であることを彼はまだ知らない。

 

「ワシが死柄木 弔(マスターピース)に夢中で他事一切分身に任せているなど、知らんものなァ~」

 

 皺に白ひげを蓄えた顔で、彼の指は逸る心を示すように端末を叩く。

 成就間近の大願と、脳裏を走る損切りのラインが、彼の行動を知れず鈍らせていた。

 

「……この病院を捨てたくない! しかし苦渋の決断―――ぬおっ!?」

 

 突如、くぐもった水音と共に響いた打擲音に老人の身体は小さく飛び跳ねる。

 音の源は、彼の脇に佇む溶液の満たされた一つのカプセル。

 

 

「―――何、カ……来タ? ドク、ター……?」

 

「……お、おお! ウーマンちゃんか! そうじゃ、お主がおったわい!」

 

 

 しかし驚愕は一瞬、気を取り直したように顔を上げた彼は、喜色に満ちた声で()()を見上げた。

 

「お主の身体もまだ完成とは言えんが……ワシが死柄木を動かせる状態にする時間を稼ぐんじゃ。それが済んだら合図をするからワシの元へ! ジョン(ワープ)ちゃんと一緒に皆で逃げるぞい!」

「……了、解」

 

 返ってきた言葉に目を細め、殻木の手が小さな端末を操作する。

 微かな駆動音と共に容器を満たしていた液体が水位を下げ、カプセルのガラスが取り除かれた。

 

「ア……フ……」

 

 溶液が滴る手足を確かめるように曲げ伸ばししつつ、装置から歩き出る一体の脳無。

 手元の作業を進めつつも満足げにそれを眺めた老人は、徐に部屋の隅へと声を掛けた。

 

「さあ散歩は終わりじゃよ、ジョンちゃん。ワシと一緒に死柄木の元へ―――」

 

 その視線の先に居たのは、管に繋がれ二本足でテコテコと歩く子犬サイズの奇怪な脳無。

 その小さな体躯に"転移系個性"を宿し、閉鎖空間であるこの地下から多少の制限こそあれ逃走を可能にする、彼らにとって唯一無二の非常口。

 

「ジャあ……まず、ハ……」

 

 見た目以上に圧縮された太くしなやかな黒腕が。

 容易く床にヒビを入れ得る長く筋張った黒脚が、ぎこちなさを残しつつ唸りを上げる。

 

 

「―――『ワープ(ソレ)』から」

 

 

 『()()』の目の前を歩く、小さく哀れな脳無へと。

 

 

「キャッ

 

「ほ……?」

 

 

 振り返った老人の、時が止まる。

 振り下ろされた剛腕と、その主を見上げて一秒、二秒、沈黙を流して。

 

「ウーマン、ちゃ―――」

 

 何事かを言わんと口を開いたその瞬間、地下と地上を繋ぐ鉄扉が轟音と共に弾け飛ぶ。

 それぞれが視線を向けた先、扉周囲の壁と棚をも砕きながら、飛び込んできたのは一人の女性。

 

 

「―――てめェは、本物かぁ!?」

 

 

 砕かれた無数の試験管、飛び散る液体、弾け飛んだ鉄扉に破壊される無数の装置。

 目を覆わんばかりの被害にパカンと口を開ける老人を余所に、『少女』の瞳は()()を映す。

 

「っ、ヒーロー……! ……ウサギ?」

 

 ウサギの尻尾にウサギの耳。

 褐色の肢体を晒すヒーロースーツに、眦を吊り上げた獰猛な笑み。

 No.5ヒーロー、『ラビットヒーロー ミルコ』の姿を。

 

「やあああああ!!!」

「皆! 強そうな脳無とジジイいた。―――知らね、蹴りゃわかる」

 

 老いた喉から甲高い悲鳴を上げる殻木を前に、ミルコは耳元を押さえつつ遠くにいる誰かと会話する素振りを見せる。

 笑みを残しつつ油断なく向けられる視線の先は、黒き四肢に剥き出しの脳髄を乗せた『少女』。

 

「そ…………そうじゃ、ウーマンちゃん! そっちじゃ! お主は忌々しいヒーローを―――」

「ウーマンチャン? ソれはだぁレ?」

 

「…………へ?」

「あぁ?」

 

 獰猛なウサギの微かに困惑が浮かんだ瞳に、『少女』はゆっくりと()()()()()

 

 

「ワタシは……通子(とおこ)反向(そりむき)通子(とおこ)。ヒーローに……母ニ憧レタ、ヒーローの娘!」

 

 

 ドス黒い悪意に形作られた、悍ましき身体。

 されど脳に埋もれたその瞳にだけは、確かな光を煌々と宿して。

 

「な…………」

 

 それを信じられないという目で呆然と見つめるのはこの男。

 自らの最高傑作が一つ、最上級脳無『ハイエンド』の、俎上にすら無かった『裏切り』。

 

「何でっ……何でェ!? 確かに記憶はっ、先生にも『嘘』を判定して貰って太鼓判をぉ!?」

 

 数ヶ月、数年、積み上げてきた研究が出す筈の無い結果に、老人は幼子のように泣き叫ぶ。

 しかしその嘆きに返って来たのはあまりに軽々しい答え。

 

「アァ、それナラ思い出シましタ。こないダ」

「コナイダァ!!?」

「……よく分かんねっ、けど面白ェなぁ!」

 

 混乱はすれど、即座に次の行動に移るは野生の(ラビット)ヒーロー。

 敵意は無いと判断した脳無の背を飛び越え、一足飛びに老人の身を間合いに入れる。

 

地上(うえ)のは偽物だったらしいからなぁ! まず本物か調べる!!」

「あ……あああああ!! ほ、本物じゃワシ本物じゃ!?」

 

「蹴りゃわかる」

 

 無情の宣言に老人のメガネの縁から、髭を蓄えた鼻から、あらゆる液体がビャッと噴き出す。

 ウサギのヒーローにも関わらず、肉食獣に睨まれた被食者の如き感覚を与えられた老人の脳裏に走るのは、積もりに積もった数多の思考。

 

(ほ、他のハイエンド脳無―――無ゥ理じゃよ! テスト段階にも至っておらん! 荼毘がフードちゃんの回収に――― じゃがあちらも起動に十時間――― AFO無き今増産も――― 緊急(スクランブル)では十分な力が―――)

 

 空転する思考の中、それでも彼の腕は他の『ハイエンド』を起動させる端末を取り出していた。

 その腕の白衣に、薙ぐように繰り出されたウサギの左脚がめり込んだその瞬間。

 

「あ!?」

「モカちゃ―――」

 

 物陰から飛び出した一体の影―――先の個体に似た小型脳無(モカちゃん)がミルコの腰に身体ごとぶつかり、その体勢を崩すことで蹴りの軌道を僅かにずらした。

 返す右脚が脳無を粉砕するも、生まれた一瞬の時間が逃げる殻木に端末操作の機会を与える。

 

「うぅうぅ、モカちゃんの勇気、無駄にはせんぞ!!」

「ッ、傍のカプセルヲ!」

「めんっ……どくせェ!」

 

 破壊を免れていた四つのカプセルに佇んでいた黒い影に、一筋の電流が流れる。

 沈黙は一瞬、黒き手足が内部からガラスを粉砕、破片と溶液を撒き散らしながら躍り出た。

 

「今度こそじゃ! 忌々しいヒーロー共を蹂躙せよ!! 愛しきハイエンドたち!!」

「【踵月輪(ルナリング)】ッ!」

 

 鍛え抜かれたウサギの両脚が二つの半月を描き、飛び出した異形を含む四肢と交差する。

 四肢の先を損壊し、たたらを踏んだのは二体の異形。

 顎から上を大きく変形させながら転がったのは、丸々とした体躯を持つ個体。

 

「っ、さセな、イ!」

「あぁ!? お前……っ!」

 

 両脚で踵落としを放った体勢から身体を捻り四つ足で着地したヒーローの前に、突如手を広げるようにして立った『少女』。

 その行動の意味をミルコが思考するより早く、目に見えた変化がその黒腕に発生した。

 

「……直線上……ッ、空間歪曲!」

「っ! てめェ他のヤツの"個性"―――」

 

 遮られた射線の先、直接ぶつかった三体から一歩離れた場所に佇み手を掲げる個体。

 頭に金属のアーマーを被らされたその脳無の手が捻られ、握られると同時に、血飛沫を噴き出し捻られる『少女』の右腕。

 

「彼の独り言からノ推察でス! それト……『超再生』ハ標準装備!」

「……ははっ! 良いなあ、お前ェ!」

 

 捻り切られた腕が即座に『再生』する様を見せる『少女』に、口の端を吊り上げるミルコ。

 そんな彼女らのやり取りを前に、同様に『再生』の煙を手足から立ち上らせた脳無達は、微かな声量で呟き合う。

 

『ひっ、お』

『えこっ』

『ひ……ロ』

 

『うん……』

『久……ぶり』

『暴れらレル……』

 

 一部を除き剥き出しの脳味噌。異形と化した黒き手足。

 覗かせる眼球には知性こそあれ、宿るのは昏く淀んだ悪意のみ。

 

「ワタシの同型……でモ彼らの素体ハ、(ヴィラン)だソウでス」

「あー……なら全員蹴っとばすだけだな!」

 

「それカラ……みンナ既に死体でス。……ワタシも含めテ、ですケド」

「……ああ、知ってる」

 

 三体のハイエンドと対峙する彼女達の視界の端、レールが用意された椅子に飛び乗った殻木が、滑るように地下室の奥へと消えていく。

 一方、ミルコの一撃で転がっていった脳無は地上への出入り口に飛び込んだらしく、そちらから交戦するヒーローの声が地下室の中に微かに響いた。

 

「……さっきのジジイ、逃げずに奥で留まってんなァ。カタカタやってんのが聞こえてくんぞ」

「アァ、逃げ道……『ワープ』の脳無なラ、ワタシが潰しマシたカラ」

 

「マジか、お前やるなぁ!?」

「その代ワリ、死柄木……マスターピースとやらガ奥に。……そっちは見たことアりまセン」

 

「あー……ヤルならそっち優先―――」

 

 

『蹂躙せよト』

 

 

 動き出したのは、奇妙に伸びた頭部とアバラの浮いた胴体を持つ脳無。

 その頭部が高速で二人の頭上へと伸ばされ、木の根の如く枝分かれして降り注ぐ。

 

『ソそそういう指令ダ』

 

「伸びる角ト……胴と腕、隆起すル肋骨!」

「気ッ色悪ぃな!? 【月墜蹴(ルナフォール)】!」

 

 檻に捉えようとするかのように降り注ぐ『角』。

 警告に従い一瞬早くその隙間を抜けたミルコは、そのまま眼下にさらけ出された後頭部へと叩きつけるような蹴りを見舞った。

 

 

『―――』

 

「っ、こいつはぁ!?」

「パワー特化!」

 

「なら分かりやすいな! 【踵半月輪(ルナアーク)】!」

「……エッ」

 

 『角』を沈めた彼女に飛びついてきたのは、象を思わせる鼻に一回り大きな体躯の脳無。

 重さを感じさせない俊敏さで振るわれた鼻を、振り向きざまに放たれた踵が砕き弾く。

 

 

『チョ、チョコマカと……!』

 

「エ、遠距離特化っ……! 射線に―――」

「知ってる」

 

 特に殺傷能力の高い歪曲の一撃を放った脳無へと、助言も置き去りに突貫するミルコ。

 掲げられた手の直線上をしっかり避けつつ、瞬く間にその懐へと辿り着く。

 

『臆サず飛び込ンデクルとは―――』

「咄嗟に遠距離攻撃出す奴ぁ、近距離弱ェと決まってる」

 

 接近に対応すべく、標準搭載された膂力に頼ろうとした脳無の首に、伸ばされた腕の影から跳び上がったミルコの両脚が掛けられた。

 

『死ヌぞ』

「目かラ『レーザー』が―――」

「ああ! 死ぬ時ゃ死ぬんだよ人間はぁ!! 【月頭鋏(ルナティヘラ)】!!」

 

 瞬間、脳無の双眸から放たれた『レーザー』を避けると同時に、掛けた両脚でその首を捩じ切るべくミルコは身体を倒す。

 ベキ、ブチ、という悍ましい音と共に、メットに包まれた脳無の頭部が胴から毟り取られ、床に叩きつけるようにして砕き潰された。

 

「エ……えエェ……!?」

「ドタマ潰しゃあ止まンなら、むしろそこらの(ヴィラン)よかよっぽど楽だ!」

 

 ゆらりと振り向いた二体の脳無に、思わず目を剥いた『少女』に、見せつけるように自身の額を指差し、ミルコは不敵に笑う。

 

 

「―――こちとらいつ死んでも後悔ないよう毎日死ぬ気で息してる! ゾンビにヒーローミルコは殺れねえぞ」

 

 

「……ッ!」

 

 向けられたヒーローの輝き(笑み)に、『少女』は異形と成り果てた身体を震わせるのだった。

 





 原作のハイエンド達が飛び出すコマなんですが、よく見ると出てきた彼らの手足を数本、反撃で粉砕してるんですよね、ミルコさん。
 コレ、不意打ちじゃなかったら何とかしたんじゃね? と思った結果が今話です。

 ハイエンドの中でも特に活躍(?)していたアバラちゃんこと頭を伸縮させる個体なんですが、あの頭は『骨』なのか『角』なのかはたまた『樹木』なのか……
 文中での表現に非常に困ったので本作では『角』としました。言うまでもなく独自解釈です。
 アニメだと質感分かりやすくなってたのかな? (未視聴勢)


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C4-14 起床


 ※今回、本編中に1箇所のみですが特殊タグを使用してみました。
 なお「k」は意図的に抜いてます。

 ゾウさんは明確にそうだと分かる台詞が無いので喋れるかどうかも分かんないんですよね。



 

「―――当たんなくなってきたなぁ! 生意気な!」

「彼ラの目が覚めテ来たんでス! 元は名うてノ(ヴィラン)だったソウですカラ……ワタシと違っテ」

 

「だろうなぁ! お前、パワーあっても動きがド素人だ!」

「ス、すみまセン……ワタシ、享年九歳なものデ……」

 

「ぉう…………ならしゃーねぇ! 切り替えてけ!」

「ハイっ!」

 

 

 残った二体のハイエンド、『角』と『鼻』に進路を阻まれた現状に、ミルコは悪態を吐く。

 この場から殻木が逃走して約五分。彼女の意識は少なからず老人が消えた先へと向いていた。

 

「……兎の生存本能だ。奥でやってること、止めなきゃなんねぇ……何を差し置いても」

 

 立てた兎耳をピクリと震わせ、ミルコはちらと横目を向ける。

 異形の身体を懸命に振るう『少女』へと、彼女は静かに問いかけた。

 

「なあお前……足止めしろっつったら出来るか?」

「っ……一瞬、一度で良イのナラ!」

 

 答えと共に、突き出した『少女』の両腕が、その肉感を失いながらブクと膨らむ。

 何が起きるか不明ながらも結果を直感したミルコは、頬を吊り上げながら前傾姿勢をとった。

 

 

「『液体化』(プラス)『炸裂』ッ!」

 

「……へえ」

『―――ッ』

『グッ!? こノ程度デ―――』

 

 スライム状の液体と化した『少女』の腕が、散弾となって二体の脳無へと降りかかる。

 その無数の水弾を追走するように駆け出したミルコの、防御に移った彼らの隙を抜けるべく踏み切った脚が床を砕いた。

 

 着弾の衝撃と、纏わりつく液体を力任せに堪えた彼らは、視線の先を横切っていく『兎』へと、それぞれ異形の『角』と『鼻』を伸ばし―――

 

 

「『液体化』部分解除……即興必殺【液生黒手(マッドハンド)】!」

 

『グガッ!?』

『―――ォ!?』

 

 

 二体に付着した液体から生えた(、、、)黒腕が、彼らの顔面に改人由来の『力』を刻む。

 意識外から叩き込まれたその一撃は、同型種たる彼らから確かに一瞬、思考を刈り取った。

 

「あっははは!? 良いなッ、お前! 良いなァ!!」

「恐縮デすッ!」

 

 笑う『兎』は悠々と、作り出された間隙を享受する。

 直ちに『再生』した彼らの視界に、もはやその背は映らなかった。

 

『キさ、マァッ! ……イヤ、先にあノ女ヲッ!』

『―――ッ!』

 

 『角』の個体が悪態の途中で振り返り、ミルコが消えていった通路へと『角』を伸ばす。

 『鼻』の個体が呼応するようにその背中に立ち、『少女』へと敵意を漲らせて対峙した。

 

「……役目ハ果たせタ、カナ?」

 

 『角』の邪魔はさせぬと迫りくる『鼻』を前に、『少女』はそんな呟きを溢す。

 次の瞬間、振り抜かれた黒腕が、防御に交差させた一回り細い腕を赤と青の水飛沫に変えた。

 

『―――ォ!』

「アっ……!」

 

 受けきれないと判断した瞬間の『液体化』であったが、生じる隙は避けられず。

 互いの急所たる頭部を狙った続く一撃を、躱しきれずに顎に受けた『少女』の身体が宙を舞う。

 

「っ、【液生(マッド)……】、あ……」

『―――!』

 

 奇策も二度は通じず、飛び散った液体から再度生やした腕は振るわれた『鼻』に薙ぎ砕かれる。

 そのまま地響きと共に足を進めた『鼻』は、床に転がり先の一撃で抉れた顎部を『再生』させる『少女』を憤然と見下ろした。

 

「……楽しかっタ、な。最期にチョットだけデも、ヒーローの気分になれテ……」

 

 同じ最上位(ハイエンド)とはいえ、片やパワー特化、此方知性に期待されたやや細身の女性型。

 さらに身体を操るは、悪の極北に見出された元(ヴィラン)と、悪意に絡め取られた一人の少女。

 肉体の覚醒状態、トップヒーロー(ミルコ)の存在という下駄が外れれば、この結果は必然であった。

 

「……おやスミ。お姉―――」

 

 見上げる瞳に何を感じたか、『鼻』の個体はまさしく象の如き脚を振り上げる。

 自らの頭部を覆う影を前に、『少女』はゆっくりと脳髄に埋まる眼を伏せた。

 

 

 

 

「―――いいや、()()はまだ早いな」

 

「…………エ?」

 

 

 届けられた声と共に、吹き荒れたのは業炎。

 赤く煌々と燃える炎熱を感じ、閉じようとしていた『少女』の眼が再び開かれる。

 

 

「眠りに就く前に、俺を見てゆけ……名も無きヒーロー!」

 

 

 火達磨となった『鼻』を、さらに噴射した炎の勢いで蹴り飛ばし現れるは現No.1。

 『フレイムヒーロー エンデヴァー』。

 

 

「ミルコの無線越しに聞こえていたぞ! よくやってくれた!」

 

「…………はイっ!」

 

 両腕から生成した『盾』を投射し、現れたのはNo.6、『シールドヒーロー クラスト』。

 さらには目から『光線』を放つヒーロー、身体にオーラを纏うヒーロー、『サーベル』を振るうヒーロー―――様々な"個性"を振るう者達が、彼に続き次々と地下室に足を踏み入れる。

 

 

「……なあ、イレイザー。あれが……」

「ああ……生前の自我を取り戻し、奴らに反抗する脳無……」

 

 そしてその一団の中に、トップヒーローにして雄英高校現役教師が二人。

 『ボイスヒーロー プレゼントマイク』ならびに『抹消ヒーロー イレイザーヘッド』。

 その姿を瞳に映した『少女』から、思わずといった声音で呟きが漏らされる。

 

 

「―――イレイ、ザー……セン、せイ……?」

 

「「っ!?」」

 

 

 『少女』の口から漏れた一言に、目を見開き絶句する二人の教師。

 無線越しに伝わっていたこの地下でのやり取りに、彼ら二人の心中が荒れ狂っていたことなど、『少女』にとっては預かり知らぬことであったのだが。

 

 冷静になれば否定出来ただろう。反証は幾らでもあるのだから。

 漏れ聞こえた名前、享年……どちらも教師としての彼らと関わりを示すものではないだろうと。

 しかしこの鉄火場で、また()()()()()に関する目を覆いたい事実が頭にあった彼らに、自らの中で芽生えた可能性を即座に切り捨てることは出来なかった。

 

 すなわち目の前の、少女が素体となった遺体(改人)が―――

 

「……イレイザー……警告頼むわ」

「マイク……?」

 

 ―――かつての教え子であるという可能性を。

 

「っ! 総員、耳を塞げ!」

「なっ!?」

「は!?」

 

 

 『ボイスヒーロー プレゼント・マイク』。"個性"『ヴォイス』。

 声量がヤバイ。高音もヤバイ。低音もヤバイ。

 産声で両親、分娩医の耳を出血させた逸話を持つ、『声』を武器にするトップヒーロー。

 彼の必殺技【ラウドヴォイス】は、指向性を持たせた『声』で正面にある全てを破壊する。

 

 そして媒介が『声』であるが故に。

 技の威力に影響するのは、込められた声量あるいは―――感情の多寡。

 

 

 

Get The Fuuuuuuuuuuuuuc Out(てめえらみんな消えちまえ)!!!」

 

 

 

『ク、ぉ―――』

『―――ァ』

 

 生き残っていた二体の脳無、稼働していなかった無数の脳無に様々な機器、薬品および培養物。

 数年、数十年、『魔王』の右腕が積み上げた悪意を、彼の激情が砕き、穿ち、千々へと還す。

 

「…………Fuc〇はやめとけ、英語教師」

 

 呆れたように呟く同僚(イレイザー)の一言が、沈黙するヒーロー達の痺れる耳朶を叩いた。

 

 

 

 

『―――オイ、お前ら! 聞いてんのかぁ!?』

 

「アっ、こノ声……」

「っ、ミルコか! すまん、一瞬だが音を拾える状態ではなくなっていて……」

 

 ヒーロー達が身に付けた無線から、苛立ちの混じったミルコの声が響く。

 同時に聞こえた足音に一同が目を向ければ、辛うじて原型を残した通路の先から駆け抜けてくる彼女……の奇妙に膨らんだシルエットが迫ってきていた。

 

「ミルコ? ……その男は!」

「殻木球大……本物か!」

 

 膨らんだ影の正体は、ミルコが小脇に抱えた白衣の老人、殻木の身体。

 襲撃の目的であり首謀者たる男を見事確保した女傑の顔からはしかし、常の笑みが消えていた。

 

「っ、聞いてなかったんなら、もいっぺん言うぞ! 今すぐ―――」

 

 如何なる危機にも、如何なる死線にも獰猛に笑ってきた彼女が浮かべる表情は、焦燥。

 床を砕き割り走るその背後で、明らかに彼女とは無関係に()()()()()通路。

 

 

「全員、()()()ォ!!」

 

 

「は……?」

「壁が……いや、建物そのものが、崩れ……」

 

 如何なトップに属するヒーローといえど、反応出来たのはごく数人。

 

「死柄木の、『崩壊』……っ!」

「接触するモノに伝播して……」

「唯一情報の無かった、強化内容……!」

 

 得ていた情報と、目の前の事態を繋げられた人間はさらに僅か。

 

「ヒビに触れるな! 死ぬぞ!」

「機動力のある者は他を運べ!」

「……乗っテ、下さイ!」

「ッ、地下から『崩壊』していく! 地上(うえ)に居る者も今すぐ逃げろ!」

 

 迫りくる『崩壊』の伝播、絶死の波から逃れるべく、ヒーロー達は動き出す。

 爆発的に広がるそれに危機感を覚えた数人が、地上に居る者へ伝えるべく無線に向けて叫んだ。

 

 

「―――終わらせぬよ」

 

 

 ミルコの腕に抱えられた老人が、しわがれた声で朴訥と呟く

 

 

死柄木()の為に生きてきた……魔王の夢は、終わらせぬ」

 

 涙に濡れた目で凄絶に嗤い。

 

 

ヒーロー(おまえたち)の積み重ねなど、寝覚めの一撫でで瓦解する」

 

 ただそこには、悍ましき悪意だけを湛えて。

 

 

「ワシらの、勝ちじゃ」

 





 Plus(プルス) Ultra(lo)ud(ウルトラウド) Voice(ヴォイス).
 ※kを抜いているのでセーフ。誤字にあらず。

 ミルコ&通子がドクターを追い詰め過ぎた為、彼が死柄木を起こす判断をする迄の時間が短縮。
 それ故原作のような奇跡に奇跡を重ねたものではなく、まだ生きている機器による中途ながらも正常な起床となりました。やばいですね。

 一方でクラスト、エクスレスその他モブヒーロー多数生存。ミルコさんも五体満足です。

 ところで『炸裂』の元の持ち主って発現時どうなったんだろう。
 四歳児が四肢炸裂させたんだろうか。


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C4-15 伸びていく影


 重傷負わなかったミルコさんが勝手に動きなさる……



 

『―――全体通信こちらエンデヴァー!! 病院跡地にて死柄木と交戦中!! 地に触れずとも動ける者はすぐに包囲網を―――』

 

 

 蛇腔病院、周囲の森林、道路、ビル群、住宅地―――あらゆるものを塵へと『崩壊』させた波の彼方から、猛るNo.1の声と戦闘音が無線を通じ流される。

 

「ワン・フォー……何だって!? オイ、エンデヴァー! ……くっそ」

 

 通信越しに聞こえた呟きを聞き返すも、答えを得られなかったミルコが悪態を吐く。

 その腕には未だ無言のまま薄笑いを浮かべ続ける殻木が抱えられていた。

 

「おい、『トーコ』! お前何か聞いてねぇか!?」

「えェッ!? い、いえ何モ…………ワン・フォー・オール?」

 

「お、何か知ってんな! 全部言え!」

「エ、あ……ダ、誰かノ"個性"名とイウことシカ……」

「……ホホッ、その子が知っとるのはそれぐらいじゃろうのう」

 

「あぁ!? ジジイてめェ、お前から搾り取ってやろうか! あぁん!?」

「落ち着けミルコ! どうせそう簡単に情報など吐かん! 今は一刻も早く避難を―――」

 

 泣き濡れた目で態度だけは太々しく呟く殻木に、気炎を上げるミルコを抑えるクラスト。

 『崩壊』の波を逃れ、態勢を立て直そうとするヒーロー達へ、再び通信が入る。

 

 

『―――避難先の方角に向かってる! 戦闘区域を拡大しろ!! 街の外にも避難命令を!!』

 

 

「…………また地面触られりゃ飛べねぇと(しま)いだ。蹴り飛ばしにゃいけねぇな……生意気な」

「それぞれ出来る事をすべきだ。今は一分一秒を争う……」

「一刻も早く避難を……」

 

 

「えぇット……ワタシは、どうしましょウ?」

 

 

 一瞬無言になったヒーロー達の視線が『少女』に―――脳髄剥き出しの異形へと向けられる。

 この場に居る者は皆、地下のやり取りを見聞きした者ばかりであるため混乱は起きていないが、さりとてその扱いを如何にするか、という問いに即答出来る者は居なかった。

 

「お前、飛べる"個性"は持ってねぇのか?」

「え、あ、ハイ。そういウのは無いでス」

 

「んじゃ避難誘導側だな。一緒に来い」

「…………エッ」

 

 ―――この野生の兎(ミルコ)を除いて。

 

「いや待て待て待てミルコ!?」

「それは流石に無理があるぞ!?」

「……何とも思い切りがええのう」

 

 さも当然のように『少女』を連れ出そうとしたミルコを、他のヒーロー達が慌てて押し留める。

 何なら彼女に担がれた殻木さえも、呆れたようにその顔を見上げた。

 

「何だ? コイツの"個性"、災害救助に超便利だぞ? パワーもあるしな!」

「ほ、本人の意思はともかく、遠隔で操られる危険性は!?」

 

「ンなもんあるならこのジジイがもうやってるだろ」

「し、しかし幾ら何でも見た目が……あ、いや彼女のせいではないが……」

 

「あぁ、見た目か……おい、トーコ! あの水になるヤツで何とか出来るだろ!」

「エえぇ……わ、分かりまシタ、ヤってみまス……」

 

 その言葉と共に異形の肉体が膨らみ、端から粘度のある液体となって徐々に形を失っていく。

 小柄な人間程度の大きさに一度固まった後、表面を波立たせて少しずつ四肢を形成。

 数十秒の試行錯誤を経て、十歳前後と見える少女……の形をした青い液体の塊が完成した。

 

「……これなら液体寄りの"異形系"で通るな?」

「なあコレ……ひょっとして、生前の……」

「ア……はイ。改造されル前のワタシをイメージしまシタ」

「そ、そうか……」

 

 作れるようになった表情で、儚げに笑う『少女』に数人のヒーローが悲痛に目を伏せる。

 さらにこの間に縛り上げられた殻木へと数人が憎悪に近い視線を向ける中、スライム状になった『少女』の肩を徐に叩くは『兎』の手。

 

「よしこれで問題ねぇな! さっさと行くぞ時間を無駄にした!」

「エ、あ、は、ハイ!」

「いや誰のせいだと思って―――」

 

 

『―――皆聞け!! 死柄木跳躍し、南西に進路変更!! 『超再生』を持っている!! 最早以前の奴ではない!!』

 

 

 再々度、流されたエンデヴァーの声にヒーロー達の顔付きが切り替わる。

 戦闘区域、避難区域の再設定など、彼らが言葉少なに動き始める中で、()()は届いた。

 

 

「―――っ、コれ、ハ……!?」

「あん? どうした!?」

 

「……『電波』によル脳無の起動電流……ワタシ以外の脳無が生きテいマス!」

「何だと!?」

「馬鹿な!? 病院ごと全て塵に―――」

 

 

「ふはははっはははははぁっ!」

 

 

 突如哄笑を上げたのは、今や手足を縛られた上で首根っこをミルコに掴まれた状態の殻木。

 一斉に集まる絶対零度の視線を意にも介さず、彼は心の底から楽しげに解説する(うたい上げる)

 

 

「さすが友の弟子じゃ。ハイエンドを生かしてくれていた!! 『電波』によって誘導電流を発生させたんじゃ!! 賢くなっとる!! 只彼らはテスト段階には至っておらん! その子のような自立思考はできぬ……しかしその力は上位以上…………差し詰めニア・ハイエンドと言ったところかのぉおおお!!」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

『―――現在超大型の(ヴィラン)が和歌山県群訝山から京都府蛇腔までまっすぐ北上しております』

 

 とある避難民の携帯端末から、臨時ニュースという形で()()は伝えられた。

 AFOもう一つの右腕、身の丈三十メートルを越える巨人敵『ギガントマキア』。

 小さな画面の中でキャスターが伝えるその予想進路には、数十にも及ぶ市の名前。

 

「……ヒーロー。今回の作戦で殆ど出張っとんねやろ」

 

 脳裏にもたらされる被害を描きながら、避難誘導を任されたヒーローの雛鳥(麗日)は呆然と呟く。

 

「むむ……緑谷くんも爆豪くんも何をしているんだ! こんな時に……!」

「忘れ物と言っていたけど、それにしては……お茶子ちゃん?」

 

 病院側の異常事態を聞くや否や、飛び出していってしまった二人に憤慨する飯田の傍で、蛙吹が首を傾げたのは麗日の顔色。

 緑谷達が跳び去っていった方向を食い入るように見つめる彼女から、小さな呟きが零れ落ちる。

 

 

「……ワン・フォー・オール」

「わん、ふぉー……?」

 

 

 それは通信に流れたエンデヴァーの呟きであり、対峙する死柄木の口から零れた言葉。

 麗日がその意味に思い立ったそのときには、既に緑谷の背中は視界の彼方にあった。

 

(……死柄木がOFAを……デクくんを狙っとるんやとしたら、皆の安全の為にはそうするしか……デクくんやったら、そうする。……絶対)

 

 緑谷の行動の理由も、麗日には理解出来ていた。

 彼が誰にもそれを告げず、また誰にも―――自分を含めて誰にも()()()()()()()()()ことにも。

 

(……ちく、しょう)

 

 理屈の上でなら、彼女は理解していた。

 

 この場に留まり、避難誘導の一助となるのがプロヒーローの指示。

 ひとりこの場から離れ、脅威を人々に近付けさせないのが緑谷の意思。

 

 未だ『プロ』を冠しない身には、前者に従うことこそが当然であり。

 自身の力量を忌憚なく鑑みれば、後者に沿うことこそが正解であり。

 

 

 ゆえに―――即座に緑谷を追って飛び出した爆豪は、正しく(間違って)などないのだ、と。

 

 

(私、また結局……何も……ッ!)

 

 彼女の脳裏を過るのは、後に神野区の悪夢と呼ばれたあの一日。

 死地に向かう彼を止めることも、共に立つことも出来ず『観客』として過ごしたあの一夜。

 

 だからこそ、あれから彼女は強引に彼に詰め寄ったのだ。

 いつも気付けば駆け抜けてしまっていた背中に追い付く為に。

 今度こそ彼と同じ場所に立ち、同じ景色を見ながら駆けていく為に。

 

 隠されていた秘密を共有し、同じ目標に向かって歩き始めて。

 逃れ得ぬ因縁に共に立ち向かうのだと思い決めた矢先に。

 

「……ちくしょう……!」

 

 置いていかれた―――否、置き去りにされることを()()()()()()()()

 その事実こそが彼女を何よりも苦しめていた。

 

 

『―――ヒーローはこれから大型敵の進路先へ! 住民の避難・救助及び敵の進行阻止に移る!!』

 

 

「っ……お茶子ちゃん!」

「……梅雨、ちゃん」

 

 待機していたヒーロー及び彼らインターン生(ヒーローの雛)に向け新たな指示がなされる中、未だ常の様子から明らかに外れた状態にあった麗日に、蛙吹が気遣わしげに肩に触れる。

 己を覗き込む友人の瞳を見つめ返した彼女は、数秒の沈黙の後で重く息を吐いた。

 

「……ご、めん。もう、大丈夫。今は……私達もヒーローとして、やれることせな」

「そう……そう、ね」

 

 明らかな取り繕いの台詞を、しかしカエルの友人はそれ以上追及せず。

 そのことに言葉に出来ない感謝を噛みしめつつ、麗日はもう一度だけ彼方に目を向ける。

 

(……デクくん、キミは……いなくなったり、せえへんよね……?)

 

 喪失を一度経験した心は、目を逸らしたい可能性をこそ()()する。

 日が沈むたび影が伸びていくかのように、事態が悪化していく感覚が彼女の中に広がっていた。

 





 極一部のトップ層、かつ相性の良い"個性"持ち以外が入っていい戦場じゃないので、麗日さんは何も間違ってないんですけどね。


 Q. 通子ちゃんも『電波』を受信出来るの?
 A. 起動に関しては生きているカプセルにただ電流を流しただけのように見えますが、その後でAFOが行った『電波』指令からして脳無側に受信用の仕掛けがあると解釈しました。
 それが『受信』といった"個性"かどうかまでは分からないので、パワー同様に肉体もしくは脳に与えられた機能ということで。


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C4-16 救ける想い


 原作のハイエンド達って割と雑に退場しちゃった印象あるんですよね。
 折角複数の"個性"に知能を残して、という触れ込みなのに『抹消』による封殺および『崩壊』に巻き込まれて終了とは……

 無理に詰め込んだせいで普段の二話分近い文字数になりました。反省。



 

『目標現在那鳩市をおよそ100km/hで直進中! 土竜のような長い爪で建物を掻き分けてる! 瓦礫が飛び散って奴の図体以上に被害規模がデカイ! 進路周辺5kmは避難区域になる!!』

 

 もはや災害と呼ぶべき超大型(ヴィラン)『ギガントマキア』の縦断。

 まるで子供が砂場の山を崩すかの如く、飛び散る建材が目を覆わんばかりの被害を生んでいく。

 

『まだある命を!! 死んでも守れ!! 我々への罰をこれ以上他者に被らせるな!!』

 

 逃げ惑う人々の悲鳴の中を飛び交うのは、"個性"相性から決戦には向かえなかったヒーロー達。

 降り注ぐ瓦礫を、ガラス片を振り払い、倒壊した建築物を取り払って、巻き込まれた被害者達の救助に奔走する。

 

 

「……どうシてワタシをそこまデ信用出来ルンですカ?」

「あ?」

 

 そんな渦中に存在するは、彼らと共に駆け抜ける『兎』と、液体が形作る『少女』。

 

「ワタシ自身、ワタシであるコトを思い出セタのはつい最近でス。今、こうしテいる内にモ、我を失っテ暴れ出すカモ知れなイ。ソんなワタシをどうしテここまで……」

 

 時折周囲を探る様に立てた兎耳をぴくぴくと動かしながら先導するミルコを、液体に隠した黒脚の膂力で『少女』は追いかける。

 今もまた一つ、倒壊する家屋を避難の妨げにならぬよう押し倒しつつ、『少女』は問い掛けた。

 

「ンなもん、決まってんだろ。勘だ、勘」

「エッ」

 

 しかし返ってきた答えは実に簡素極まる一言。

 液体で作り上げた顔に『呆然』を描く『少女』に、ミルコは振り返ることもなく言い放つ。

 

「お前を連れてった方が助かる命が多くなるって勘で出た。そんだけ、っだ!」

「……っ」

 

 頭上から崩れ落ちてきた瓦礫を宙で蹴り砕きながら、『兎』の瞳はギラリと光る。

 その間に何を感知していたか、着地した彼女は傍らの瓦礫を指差し『少女』を呼んだ。

 

「そこの瓦礫の奥、火ィ出てる! 消せ!」

「は、はイ! ……『炸裂』!」

 

 『少女』が『液体化』した腕を瓦礫の隙間に突っ込み、その先で『炸裂』。

 放置すれば大規模な火災に繋がっただろう、誰の手も届かなかった火種が消し止められる。

 引き抜いた腕は肘の中ほどまでに減じていたが、それも瞬き程の時間を置いて『超再生』した。

 

「次ィ! そこの下から声聞こえた! あの水から手ェ出すヤツやれ!」

「っ、『炸裂』……【液生黒手(マッドハンド)】!」

 

「……ぇ、うわっ」

 

 指を入れる余地すら無かった隙間に液体が浸透、そこから実体化した黒腕が積み重なった瓦礫を捲り上がる様に持ち上げる。

 身動き取れずに半ば諦めていた男性が一人、突然差し込んだ光に驚きながらも這い出した。

 

「ほら見ろ、お前クッソ便利だ。こんなもん使わねぇ方がバカだろ」

「…………」

 

 窮地を救われ走り去っていく男性からの感謝と、歯に衣着せぬミルコの言葉に、『少女』は沈黙したまま『再生』していく自分の腕を見つめる。

 

「……(たす)け、ラレた……ワタシの、手デ……」

 

 『液体化』により作られた頬から、コポリとひとつ気泡が漏れた。

 

「ワタシ、もっト(たす)けたイ……! こノ()()()()ガ、続ク限り……ッ!」

「……おう! 休んでる暇なんかねぇぞ!」

 

「ッ、ハイ!」

 

 再び要救助者を見付けるべく跳躍するミルコの背を追い、『少女』は造られた脚に力を込める。

 一瞬遅れて傍らへと並んだ『少女』に、『兎』は微かに目を見開き、そして頬を吊り上げた。

 

 

「……チッ、この辺、瓦礫が直撃したな? 動けなくなってるヤツがあっちこっち……」

「それジャ、一箇所ずつ持ち上ゲテいきますカ?」

 

「駄目だ、それやると他が崩れる。やるならいっぺんに持ち上げるか吹き飛ばすかしねぇとだな」

「いっぺンニ……」

 

 彼女らが向かった先に広がっていたのは、倒壊した家屋同士が複雑に積み重なり生まれた惨状。

 足の下から聞こえる複数の呻き声に、その親類らしき人々の悲鳴染みた叫びが木霊していた。

 

「…………ミルコさン、ちょっト任せて貰っテ良イデすか?」

「あぁ? ……良いぜ、やってみな」

 

 『少女』の一言に、問われたミルコは一瞬の思考を挟み口端を上げる。

 信頼か、直感か、何らかの確信を得たらしい『兎』の前で、『少女』は徐に諸手を上げた。

 

「『炸裂』……『超再生』、『炸裂』、『超再生』、『炸裂』!」

 

 上げた両腕が水飛沫となって先の繰り返しの如く積み重なった瓦礫の隙間へと流れ込んでいく。

 それでもそれらは『液体』となった『少女』の両腕には違いなく、すなわちたとえ『液体化』を解除しようとも二本以上の腕になるはずもない。

 

 

「限界とハ超えルもノ……『Plus Ultra(更に向こうへ)』、だよネ」

 

 

 制約、限界、それらを踏み越えてこそのヒーローである―――己にそう教えたのが果たして誰であったのか、『少女』の記憶は朧気で。

 しかし決して覆らないはずの制約を前に、『少女』は最早迷わない。

 

 

「『液体化』部分解除―――【液生黒手群(マッドハンドオーバー)】ッ!」

 

「……ははっ」

 

 

 ―――手、手、手。

 積み重なった瓦礫を、或いは倒壊した街そのものを、土台から持ち上げる無数の黒手。

 ともすれば一種の地獄のようにも見えるその光景に、救助を求め悲嘆に暮れていた人々も、一瞬息を忘れて静まり返る。

 

「あっ……はははは!? お前それどうなってんだ!?」

「『炸裂』さセた欠片一つ一つを腕とシテ『超再生』させマシた!」

 

「やっぱりお前最高だな! ……ほら、お前らもぼーっとしてないでさっさと逃げろ! 動けねぇヤツには手ェ貸してやれ!」

 

 ミルコに発破をかけられたことで、戸惑いながらも瓦礫に埋められていた人々が各々這い出し、自力で動けない者には周囲の人間が手を貸す形で避難が進んでいく。

 無数の黒腕の維持に集中しつつそれを見守っていた『少女』は、不意にミルコへと口を開いた。

 

「……ミルコさん……ワタシ、今でモやっぱリ、ヒーローになりたイと思っていマス」

「あぁ? あー……」

 

「ワタシは……ナれるでしょうカ。今カラでモ、ヒーローに」

「…………」

 

 『少女』の問いに、然しもの『兎』もこればかりは即答とはいかず、唇を引き結ぶ。

 

「…………ゴめんなサイ、忘レテ―――」

「いっこ、覚えとけ」

 

 元々諦念混じりだった問いを『少女』が謝罪と共に引っ込めようとしたその瞬間。

 常の笑みに微かな苦みを走らせつつも、No.5を背負う女傑は確かな口調で呟いた。

 

 

「―――自分(てめェ)ん中でヒーローだと叫んだそん瞬間(とき)から、自分(てめェ)ん中ではヒーローだ」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――私、お茶子ちゃんみたいになりたいの。だから教えて、お茶子ちゃん」

 

 今なお降り注ぐ『災害』から、ヒーロー達の懸命な救助活動が続く街中に佇むとある平屋の中。

 動けない要救助者が居る―――そう懇願し走り出した老婆に応える形でそこへ誘導された麗日は今、一人の(ヴィラン)に組み敷かれ、その身に刃物を突き付けられていた。

 

「私を、どうしたい?」

「…………っ、そんなこと聞く為に……! さっきのおばあちゃんの……"血"を奪ったの……? 殺したの……!?」

 

 老婆の正体は、彼女とほぼ同年代―――『変身』の"個性"を持つ少女、渡我被身子。

 合宿以来となる掴み所のない敵との予期せぬ遭遇に、麗日は内心に積もった苛立ちを隠す余裕もなく叫び返す。

 

「私は今、一人でも多くの人を助けたいの……!! トガヒミコ!! 邪魔するなら今すぐあなたを捕まえる!」

 

 その言葉と同時に麗日は勢い良く身体を捻り、自身に圧し掛かる相手の身体を吹き飛ばす。

 受け身を取りつつ起き上がった渡我は、彼女の"個性"により『重力』の軛が外れた袖口を横目で睨みつつナイフを構えた。

 

 狭い家屋の中、麗日は相手の無力化を狙い身体に触れるべく飛び掛かり。

 対する渡我は手にしたナイフで応戦しつつ、彼女特有の価値観による問い掛けを続ける。

 

 ―――曰く、好意を抱いた相手には、その人そのものになりたくなる。

 その人物の血の全てを、欲する気持ちが抑えられない。それが自身にとっての"普通"なのだ。

 

 そんな自身の"普通"を否定し、あまつさえ命を奪おうとした人物が居た。故に―――

 

「お茶子ちゃんの血と"個性"で、高いとこから落としたの」

「……!?」

 

 以前の遭遇の折、注射器に近い武器で採られていた血液。

 その使い道、および自身の"個性"により起こされた惨劇を、鮮明に思い浮かべてしまった麗日の思考が一瞬漂白される。

 

「『好きな人の血』だと"個性"もその人になれた―――あの時とっても幸せだったよ」

「……っ! トガぁッ!!」

 

 何よりも馴染み深い自身の"個性"だからこそ。

 自分にもそれが可能であることが考えるまでもなく理解出来る。出来てしまう。

 

「私の、"個性"……『無重力(ゼログラビティ)』をそんなことに……ッ!」

 

 彼女が親友達から教えられた、人それぞれの"個性"が持つ確固たる『意思』。

 向けられる笑みとは対照的に、凶行に嘆く小さな少女の姿を、麗日は自身の中に幻視していた。

 

「……? お茶子、ちゃん?」

「う、あっ……!?」

 

 一方で、彼女の激昂の理由が掴めず戸惑いを見せるは渡我被身子。

 しかし動揺とは裏腹に、必要に迫られ鍛えられた彼女の戦闘技術は、感情の発露で疎かになった麗日の武道に基づく動きを容易く見切り、再び床に組み敷くに至った。

 

「……っ、()()は! 人を落として幸せを感じたりしない! さっきから何が言いたいの!?」

「…………」

 

 今度は振りほどかれない為にか、麗日の喉元に刃物を押し当てたまま、渡我は矯めつ眇めつ彼女を眺める。

 沈黙を数秒、首を傾げたままの渡我は朴訥と呟いた。

 

「……お茶子ちゃん、何だか変わりました? こないだの人とちょっと似てるのです」

「……?」

 

「モヤモヤしたままは気持ち悪いのです。だから聞きたくて……でも今のお茶子ちゃんは分かんないです」

「何を―――」

 

 

「―――もう一回、刺したら。もう一回お茶子ちゃんになったら、分かるです?」

 

 

 首筋に当てられた刃が惑いながらも皮膚を裂く感覚に、麗日は総身を震わせた。

 相も変わらず殺意も敵意も感じさせない死の気配に、彼女の思考は激しく空転を始める。

 

(あかん……この体勢、返せへん……! ……今動いたら、首……! 誰か……梅雨ちゃんがまだ近くに……でも……!)

 

「刺すから、動かないでね」

 

 ナイフをそのままに、渡我が空いた片手に注射器に似た武器を握る。

 刺した相手の血を必要量抜き取るというそれを、抜き取られる血の行方を再度意識してしまった麗日は、憤りと死の恐怖に挟まれたまま歯を食いしばる。

 

(血ぃ採られたら、また『無重力』に……! 誰か……誰か居てくれたら……! デクくん……! 歩ちゃん……! たす、け―――)

 

 

「―――どなタか、ソこに居るンですカ?」

 

「「……!」」

 

 

 薄暗い家屋の中に届いた声に、目を剥いたのは両人。

 しかし聞こえた声がややくぐもってはいれど幼い少女の声であることに気付いた麗日は、恐怖と混乱を振り払って警告を叫んだ。

 

「こっち来たらあかん!! 逃げてっ!」

「邪魔、しないでください」

 

 対して渡我は苛立ちを隠さず、視界に見えた小さな人影に手の中にあった注射器を投射する。

 光源に乏しい閉空間で、しかし投げられた針は狙い過たず顔を出した少女の額を捉えた。

 

「アッ」

「ああっ!?」

 

 仰け反った少女の影に、麗日が絶望に滲んだ悲鳴を上げる。

 けれど浮かんだそのシルエットが、彼女の想像した通りに倒れることはなかった。

 

「…………『炸裂』」

「え、わぷっ!?」

「は? えっ? ……これ、水?」

 

 さらには二人から見えていた人影が爆散。それを形成する『何か』が大量に飛来した。

 その内一つを顔で受ける形になった渡我が仰け反り転がされる中、麗日はコスチュームを濡らす青い液体を見つめる。

 

「……っ! 邪魔を―――」

「【液生黒手】」

 

「「えっ」」

 

 猛然と起き上がり飛び掛かろうとした渡我の、どうにか身体を起こし身構えた麗日の、それぞれの視界に唐突に生えた二本の黒い腕。

 一本は渡我の、もう一本は麗日の、それぞれの根元は()()()()()

 

「なにそ―――ア゛っ」

 

 自身から生えた腕に抑えられ、相対する相手の胸から繰り出された拳が渡我の胴を捉える。

 謎の黒腕に込められた腕力は、壁を破壊し家屋の外まで(ヴィラン)の少女の身体を吹き飛ばした。

 

「え……えぇ……?」

「ふゥ……」

 

 壁に空いた大穴、吹き飛ばされた敵と危機、液体に戻った黒い腕。

 目まぐるしく変わった状況に目を白黒させつつも、麗日は満足気に頷く液体に包まれた『少女』へと感謝を伝えるべく声を掛ける。

 

「あ、えと……ヒーロー、なんです、か? た、助けてもらったみたいで―――」

「ン……」

 

 それに気付いた『少女』はくるりと振り返り、にっこりと笑って口を開いた。

 

 

「―――初メましテ(久し振りね)お茶子チャン(お茶子さん)

 

「…………え」

 

 

 耳に届いた声は、確かに一つ。

 なのにまるでどこか彼方から聞き慣れた誰かの声が重なった気がして、麗日は目を見開く。

 

「……あなた、いったい―――」

 

「おいトーコぉ! 次行くぞ!」

「わワっ!? はイ、ミルコさん! 今行きまス!」

 

「あ……っ」

 

 しかし違和感の元を麗日が尋ねるより先に、『少女』は近くから届けられた女性の声に応答し、その場から跳び去っていく。

 吹き荒れた粉塵に一瞬閉じた瞼を開けた時、彼女の視界にはその背中だけが小さく映っていた。

 

「ア、そうダ、ミルコさン! さっき家ノ中にヴィランが居ましタ!」

「何!? 先に言え! どこだ!」

 

「……吹き飛ばシちゃいマシた。あっチの方ニ」

「あぁ? ……飛ばし過ぎだろ! 何してんだ!」

 

「すみませン!?」

 

 

 

 

「……『干渉』、さん……?」

 

 徐々に遠くなるやり取りを耳に入れながら、麗日はその方向に呆然と視線を送る。

 やがて戻ってこない彼女を案じた蛙吹に見付けられるまで、彼女はその場に立ち尽くしていた。

 





 原作に比べ精神的にガタガタな麗日さんではトガちゃんに対抗出来ず。
 トガちゃんも様子のおかしい麗日さんに乱入者も重なってモヤモヤを晴らせませんでした。


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C4-17 破られし安寧


 新章前の繋ぎ回。



 

 ―――その後。

 

 病院一帯を塵に替え、緑谷出久(OFA所有者)を追った死柄木弔、集結したニア・ハイエンド達、そして都市を縦断し辿り着いたギガント・マキアとヒーロー達の戦いは、互いに最大の目的を果たせずに一旦の幕引きを見ることとなる。

 

 前線の生存者、および避難・救助等を終え前線へ向かった者。

 動ける者達が撤退を始めた死柄木を阻むも、彼らの確保には至らず。

 

 死柄木一行に残ったのは、頭である当人と十数体の近似・最上位脳無(ニア・ハイエンド)

 病院と同時に強襲を掛けた群牙山荘から、元(ヴィラン)連合、現超常解放戦線より幹部を含む132名。

 

 一方、ヒーロー側では―――

 

 

「……おい、今何つった?」

 

 負傷者が集められた簡易施設の中、比較的軽傷ながら身を休めていた『兎』はしかし、たった今()()を告げた警官へと苦々し気に問い返す。

 彼女を含め、顔を向ける余裕のあった十数人の視線を浴びながら、彼は繰り返した。

 

「聞いての通りだ。奴らが今向かっている先は……対"個性"最高警備特殊拘置所『タルタロス』」

 

 それを耳にした者から、理解が()()()()()()()者から、戦慄が伝搬していく。

 今、其処に何が―――()()居るのか。其処に向かう彼らが何を目的としているのかを。

 

 国内最高かつ最大規模の警備システム―――彼らと直接対峙しその脅威を思い知った者達ほど、そんな触れ込みを信じ楽観視出来る余裕からは無縁となっていた。

 

「……『トーコ』か」

「……ある()()()()()()によって『電波』を介した指示の傍受に成功した。……散開した脳無達に届かせる為にか、奴が広範囲へ一斉指示を行ってくれたお陰でもあるが……その人物が受け取った位置情報をこちらで照らし合わせたことで奴らの目的地が判明したんだ」

 

 一瞬、目の前の警官に探るような瞳を向けたミルコが、返される眼差しにややあって息を吐く。

 しかし納得を見せた彼女と対比するように、居合わせたヒーロー達には動揺が広がっていた。

 

「……今回の作戦の為に全国からヒーローを集めたはずだろ……?」

「今、追加で出せる戦力なんて、もうどこにも……」

 

「……ああ。確保した超常解放戦線構成員16929人の護送、その他全国に点在する支部及びシンパの制圧……重傷者を除き()()()()()()ヒーローは、最早ここにいる者達だけだ」

 

 互いの顔色を伺うようにして目を合わせたヒーロー達が、やがてその視線を一人に集中させる。

 この場にいる最大の実力者、最高の肩書を持つNo.5(ミルコ)へと。

 

No.1(エンデヴァー)No.2(ホークス)は共に瀕死の重傷、No.3(ベストジーニスト)も消耗に仮死の後遺症が重なり本調子には程遠く、No.4(エッジショット)の現在地はここから80km先の群牙山荘……向かってもらうには距離があり過ぎる」

 

 顔色を青くしていくヒーロー達を見渡しながら、彼は今一度口を開く。

 

 

「そこで聞きたい。君は―――」

「無理だな」

 

 

 しかし、彼の問い掛けは声になる前に否を突き付けられる。

 驚く彼に答えたのは、不本意という感情を顔中に貼り付けたミルコであった。

 

「……死んででも達成出来る目が1%(パー)でも有んなら行く。けどダメだ、勘が言ってる。今こっから何人連れてこうが0%(パー)だ」

 

 その言葉に一部のヒーローが悔し気に、また一部のヒーローが微かな安堵の息を吐く。

 ……後者に対しミルコは眉根を吊り上げたが、それ以外に何かを口にすることは無かった。

 

「……そうか。いや、私も同じ見解だよ」

「……あん?」

 

 警察という組織の一員としては場違いな言葉に、ミルコが直前とは違った理由で眉を寄せる。

 そんな彼女に微かに苦笑いを浮かべた上で、彼―――塚内直正は疑問に答えた。

 

 

「本来こういう状況での指示は公安から出るんだが、今はそちらも機能停止しているらしくてね。ついでに言ってしまえば『彼女』からの情報を信用したことすら私の独断さ」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ―――本土から沖合に約5km。対"個性"最高警備特殊拘置所、通称『タルタロス』。

 国民の安全を著しく脅かす、又は脅かした人物を、厳重に禁錮し監視下に置くべくある施設。

 

『―――セキュリティレッド発令。侵入者アリ、セキュリティレッド発令』

 

 6つの居房に区分され、収監者は"個性"の危険性、事件の重大性によって振り分けられる。

 危険性の高い人物程地下深くへと収監され、最下層は地下10階、水深約500m。

 一度入れば生きて出ることは叶わないとされており、『"個性"社会の闇』とすら呼ばれている。

 

『―――橋降下開始。コットス(戦闘用ドローン)出撃。対象の殺―――』

 

 侵入者の生命を顧みない殺傷力と物量に特化した最大級の防衛設備。

 完全なるスタンドアローンで稼働する最高の警備監視システム。

 社会の為、人々の安寧の為、そうあれと願われた不落の監獄は、されど今―――

 

「―――監視棟崩壊!! 死柄木と脳無だ!!」

「監視システムダウン! EMP(電磁パルス)のような攻撃も受けたようだ」

「復旧まで3秒―――待て……何で……システムダウンは中から分からないハズだ!」

 

 空から、海から、襲い掛かるは超越者と、疲労も死の恐怖も感じぬその(しもべ)達。

 外から、内から、奇怪な手段で成されたシステム停止により、引き起こされるは収容者の暴走。

 

 銃器を手に制圧を試みる看守達。

 独房を抜け出し各々の"個性"を振りかざす収容者達。

 ()()()()を解放すべく地下へと進む超越者。

 

 血飛沫と硝煙、怒号と破壊が飛び交う地獄の渦中で。

 

 

 

 

「―――【掌握(スフィア)】」

 

 

 目鼻、口を覆う布、手足を縛る鉄枷。

 頭部に、胸部に、めり込むように突き付けられた銃口。

 僅かの"個性因子"の動きすら、余さず感知し動き出すはずだった各種機器。

 

 布が落ちる。

 錠が回る。

 銃口が少しずつ脇へと逸らされ、取り外された幾つもの管が床を擦る。

 

「…………困ったわ、ね」

 

 約半年振りとなる、その足で床を踏む感覚に身体を震わせながら。

 干河歩の身に宿された"個性"『干渉』は、乾く喉から絞るように呟いた。

 

「今更逃げる気力なんて……でも、このままここに居たら……」

 

 ()()()()()によりここ数日で、地上側から海底に近い場所へと独房を移されていた彼女。

 壁の先、天井の向こうへと【掌握】した空間を伸ばして、また小さく溜め息を吐く。

 

「……この生物とも無機物ともとれない感覚……ああ、覚えてるわ。こいつらが、脳無……」

 

 【掌握】下を動く()()に"干渉"、その接近を感知した彼女はそう独りごちる。

 監獄生活で棒きれの如く衰えた手足を"個性"で操作し、聞こえる喧噪を耳に入れながら。

 

「そして、先頭に居るこいつが…………はは、何よコレ……」

 

 海底方向へと進行する『彼』へと感覚を伸ばしたところで、彼女は自らの手で顔を覆い呻く。

 指の隙間から覗く瞳には今や、やつれた四肢以上に覇気は無く。

 

「こんなの……今更私に、何が……っ」

 

 言いかけた彼女の言葉が、不意に途切れる。

 何かに気付いたように見上げたその視線の先は、重々しい錠が回されていく独房の扉。

 

 

「ああ…………私は、何の為に―――」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ―――蛇腔病院、および群牙山荘における決戦から数日後の朝。

 雄英高校1年A組用の寮はその日、ハチの巣をつついたが如き混乱の最中にあった。

 

「みんな大変だ!! ドアに緑谷からの手紙が……!!」

「おまえも……!?」

「なんだよこれ……」

 

 その原因は、推定前日夜の内に全員の部屋扉に挟まれていた置手紙。

 クラスメイトの一人、緑谷出久がその心中と、"個性"に関する秘密を綴ったソレを残し、彼らの前から姿を消したことによるものだった。

 

「『オール・フォー・ワン』……!? (ヴィラン)が……狙ってる……!?」

「緑谷……! 何なんだよこれ……!!」

「こ、こんなの……ねえ麗―――ヒィッ!?」

 

 その場の多くの者が真っ先に頭に浮かべた懸念は、彼と最も近かったクラスメイトの反応。

 うち一人が恐る恐るといった風情で彼女を視界に収め……悲鳴と共に目を逸らした。

 

 

「―――あんっ……のッ! ばっかやろぉッ!!?」

 

 

 そこにあったのは、常のうららかさなど彼方に投げ捨てた鬼の如き形相。

 背中を向けてすら感じ取れるような轟々と噴き出す怒気。

 沈黙は一瞬、手の中の書置きを握り潰した彼女は、寮の出入り口へと身を翻し―――

 

「どこ行く気だ、丸顔」

 

 その足を止めさせたのは、失踪したクラスメイトの幼馴染たるもう一人の縁深き者(爆豪)

 呼び掛けの後、背後へと歩み寄ってきた彼に、麗日はその勢いのまま振り返る。

 

「連れ戻しに「当ては?」……っ」

 

 出しかけた叫びに首根を抑えるように問いを被せられ、麗日は黙り込む。

 そのまま意気消沈した彼女へと、爆豪は己の見解を淡々と告げた。

 

 

「―――今の雄英は入る人間だけじゃねえ、出る人間も厳しく監視してる」

 

「なのにどうやってデクが昨夜のうちにこんなモン仕込める? その足で出ていける?」

 

「100%教師が加担してんだよ。筆頭はオールマイト……そっから人数絞んならあのネズミ(校長)だ」

 

「そんでてめェは誰に、何を話して、どうやってこっから出てく気だ? なあ、丸顔」

 

 

「……それ、は……」

 

 燃え盛る火に水を被せられたかのように、言葉の雨に鎮火されて立ち尽くす麗日。

 しかしいつか彼と対峙した時のように、目の光だけは絶やさずにいた彼女は徐に顔を上げた。

 

「……それでもっ、私達にまで―――!?」

「……あ?」

 

 上げかけた麗日の気炎は再度、誰もが予期しない形で留められた。

 彼女の私服、ポケットの中から響く携帯電話の着信音という形で。

 

「……な、なあ、ケータイ鳴ってるぜ、麗日?」

「分かっとる! いったい誰やこんな時、に…………っ」

 

 苛立ちを全方位に放ちながら、携帯の画面に目を通した麗日が動きを止める。

 その急激な変化に顔を見合わせる級友達に見守られつつ、彼女は呆然とした面持ちで通話状態にした端末を耳元へと上げた。

 

 

「も……もしもし?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………久し振り』

 





 死柄木起床時の意識が原作より明瞭だったため、『崩壊』を免れた脳無の数が……
 原作ではこの時点で残り七体です。


 次回、新章開始……の前に幕間を一つ挟みます。


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幕間2 悪夢の裏の、その裏で


 大体フラグが出揃ったので、本作初のオリ主視点。ただし過去回想のため幕間です。
 タイトルの通り、時期としては主にC3-13話です。良ければそちらと合わせてお楽しみ下さい。



 

"宛先:麗日お茶子"

"件名:ごめんなさい"

 

"今回の事件でお母様から実家に戻ってくるように言われました―――"

"―――何かそちらで新しい情報があれば教えて下さい。お願いします。"

 

 

「……これで、無用な心配を掛けずに済むわね」

 

 不自然にならないだけの手荷物に、携帯電話。

 それだけを腕に抱え、まだ薄暗い早朝の空の下、半年ほどを過ごしたアパートを見上げる。

 

「目を覚ますのはもう少し先かしら? あれだけの事があった後だものね……」

 

 ついさっきまで自分が中に居た部屋に、その隣に、視線を向けてしまってから目を伏せた。

 ……今からこんな気分になっていたんじゃ、我ながら先が思いやられるわ。

 

 

「……安心して、お茶子さん。雄英(あなた達)に危険を運ぶ輩は、これで居なくなるから」

 

 

 

 

 ―――最初の違和感は、学内でありながら(ヴィラン)の襲撃を受けた救助訓練。

 幾ら歩に目を掛けているといっても、先々の授業予定を知りたがった干河心美(あの女)の……その背後に居る『叔父様』の意図を、当時の私は測りかねていた。

 

 結果として予感は現実に……とはいえ、あの時点ではまだ偶然の可能性も捨てきれなかったし、何より()()()()を持った人間が敵の集団なんて輩と態々繋がりを持つ意味が―――

 

 

 ……いえ、違うわね。

 目を逸らしていたかったんだわ、あの時の私は。

 

 私達が存在しているだけで……歩が雄英に受かるように手を貸したことが、彼ら(ヒーロー科)の仇になってしまった、なんて現実から。

 

 

 

 

"差出人:麗日お茶子"

"件名:気にしないで"

 

"―――いつの間にかみんなでお金を出し合って大きなメロンを買うという話になってました。"

"歩ちゃん、今からでも来てくれへん?"

 

 

「ふふ……っ、お茶子さんったら……一人当たり何百円も変わらないでしょうに……っ」

 

 歩の実家へと向かう電車に揺られながら、返信として送られたメールに笑いを噛み殺す。

 どうやらA組の殆どが駆けつけてくれたようだし、緑谷さんも仲間想いの級友を持てて幸せね。

 

「……謝れる機会は、無さそうね……」

 

 大怪我を負った緑谷さん、八百万さん。それに誘拐されてしまった爆豪さん。

 葉隠さん、耳郎さん、常闇さんはこの手で助けられたとはいえ、何のお詫びにもなりはしない。

 それに巻き込んでしまったB組の面々にも……全ては、私の決断が遅れたせいだ。

 

 

「……ねえ、歩? あなたは……っ、なんて、ね……」

 

 普段の癖で呼び掛けかけた自分に、一瞬遅れて何をしてるのやらと自問した。

 合宿場から戻った直後、邪魔をされては堪らないと、心の奥底へ眠らせたというのに。

 

 歩は今でも何にも気付いてはいないし、何も疑ってもいない。

 けれど私がこれからやろうとしている事を聞けば、少なくとも大人しくはしてくれないだろう。

 

「歩に抵抗されると、私は何も出来なくなる。そうして機を逃せば……現れるのは『叔父様』」

 

 私達の"力"は、一本の腕を二つの意思で持っているようなもの。

 双方が別々の意図で力を振るえば、もたらされる結果は私達にも分からない。

 だからこそこうして、有無を言わせず『眠らせて』しまう以外に取れる手段は無かった。

 

 『お母様』や『叔父様』を疑わせる事など、疾うの昔に諦めて久しい。

 どれだけ私を『頼り』にさせようと、彼女の優先順位は変えられなかったのだから。

 今更話し合って認識を変えられるとも思えないし―――何より、もうそんな場合じゃない。

 

「結局は……まだ時間はある、そう思っていた私が間違っていたのよね……」

 

 歩が描いた夢の先を、見届けようとしてしまったこと。

 彼女の中にある世界が、いつか変わってくれるかもしれないと期待してしまったこと。

 そして……"個性"でしかない私が()()()()()()()()()()()ことこそが、間違いだったんだろう。

 

「あなたは……どうなるかしら」

 

 これから先、私が描いた青図をどこまで現実に出来るかは分からない。

 仮にその通りに事が運んだとして、歩の評価は……内通の無自覚な協力者、といったところか。

 何も知らなかったのは事実でもあるし、心証次第で罪を免れる可能性も無くは無いけれど―――

 

「いや……()()も歩の選択、か」

 

 既に被害が出てしまっている以上、あるかもしれなかった未来を想う時間など無い。

 今日の歩が抱いている認識こそ、彼女の選択であり結果……ここに至ってはそう思うしかない。

 

「私が、もっと早くあなたに……いや、そもそも何で……っ」

 

 口を衝きそうになった悪態を呑み込みかけて、何に憚るのだとまた自嘲した。

 胸の裡に黒々とした感情が溜まる感覚を自覚しながら、口の中だけで()()を呟く。

 

 

「―――何で私が、この()の未来を慮ってやらなきゃならないのよ」

 

 

 言い放ってしまった後で、腹の底がじわりと痛みを訴えた。

 握りしめた拳がひどく冷たく感じられて、何故だか目の奥も熱くなっていく。

 

 ―――これは、後ろめたさ? それとも、悔しさ?

 何が、悔しいというのよ。

 何を、惜しんでいるというの、私は。

 

 口にしなかっただけで……誰にも伝えない、悟られないようにしていただけで。

 その実、心の奥ではずっと抱き続けていた恨みだというのに。

 

 

"差出人:麗日お茶子"

"件名:デクくん起きた"

 

 

 …………ああ、そうか。

 辛いんだ、私は。

 

 彼らの友人であれた者から、それを許される存在から、遠ざかってしまうことが。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――歩? どうしたの、何も言わずに突然帰ってくるなんて」

 

 先触れも無く屋敷へと戻って来た()に、干河心美は驚いた様子で屋敷の奥から現れた。

 今、この場で……は、駄目だ。何事かといった顔をした家政婦の方々の目に入ってしまう。

 ……この人達はそれこそ何の関係も無いのだから、決して巻き込むわけにはいかないわ。

 

「すみません、お母様。でもどうしてもお聞きしたいことがあって……」

 

 演じるのは、何らかの疑問を抱いて居ても立ってもいられず、という様子の『干河歩』。

 ()()が私であることには気付いているかもしれないけれど、他に人目のあるこの状況で『私』が『歩』を演じるのは自然なことだ。

 

「どうか、時間を取ってもらえませんか? ここでは、その……」

「……分かったわ。夜になったら私の部屋にいらっしゃい」

 

 周囲の目線を気にする素振りを見せていれば、そう言って彼女は自室へと向かって行った。

 手荷物を受け取ろうと近付いて来た家政婦さんの一人を、目線で制して下がってもらう。

 ……事が済んだら、この人達には暇を出してあげないと。

 

 

「……っ、メール、ね。……お茶子さんからかしら?」

 

 歩の自室に向かう途中で、手の中の携帯電話が受信を知らせた。

 ……そういえば、書くことを整理するという旨のメールから結構時間が経っているけど……

 

 

"差出人:麗日お茶子"

"件名:どう思う?"

 

"―――歩ちゃんはどう思う?"

 

 

 …………。

 

 ばか、じゃないの?

 どうしてそう、ヒーローになろうって人間は、誰も彼も―――

 

 ……いいや。これも、私のせいだ。

 私がもっと早く……この結論を出していたら。

 ためらいなど、持っていなければ。

 

 

 ……早まるなと、伝えておきましょう。

 私には、もう、何を言う資格も無いけれど。

 

 

 ―――(未来)を捨てるのも、犯罪者(ヴィラン)になるのも、私だけで十分なのだから。

 

 

 

 

"宛先:麗日お茶子"

"件名:どうしよう"

 

"―――お茶子ちゃんは、もし御両親に同じ事を言われたら何と答えますか?"

 

 

「これで……なるべく傷付けずに済む、かしら」

 

 親の反対と、『私』の反対。

 説得の意思はあれど覆せず。

 そんな筋書きが背景にあれば、後は先生方が上手く説明してくれるでしょう。

 

 あわよくば、お茶子さんも別の高校に移ってくれたりは……どうかしらね。

 雄英に固執しているように思える敵連合から逃れる手段として、悪くはないと思うのだけど。

 雄英出身であることがヒーローの価値ではないし、あのご両親なら……まあ、それは二の次か。

 

 

"差出人:麗日お茶子"

"件名:ごめんなさい"

 

"―――私は歩ちゃんと雄英でまた会いたいって思ったよ。"

 

 

「…………ごめんなさい、お茶子さん」

 

 返信として届いたメールに、謝罪の言葉が口から溢れ落ちた。

 『干河歩』が雄英に戻る道を、この手で断ち切ってしまうつもりだというのに。

 もう、どうなろうとも立ち止まるつもりなどないというのに。

 

 ……謝る資格すら、もう私は持ち合わせていないのに。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

"差出人:麗日お茶子"

"電話が繋がらないのでメールします。神野区の中継見てる?"

 

 

『―――勝利!! オールマイト!! 勝利の! スタンディングです!!』

 

 

「…………オール、マイト」

「そんな……まさか叔父様が、オールマイトに……」

 

「……どうするんですか、お母様?」

「……どうしようもないわ。元々、こちらからでは連絡も出来ないもの」

 

「! ……そう、だったの?」

「? ええ……頼み事を聞くときも答えるときも、連絡は常に叔父様からだったのよ?」

 

「そう…………そう、だったなら……」

「……歩?」

 

 

「―――もっと早く、私は()()しなければならなかった」

 

 

 

 

 手足の自由を奪う。

 目を覆う。

 口を塞ぐ。

 適度な大きさの布さえ用意しておけば、相手が"増強系"でもない限りこれぐらい簡単……そう、こんなにも簡単だったんだ。

 

「……っ! ……!?」

 

 何が起こったのか分からない様子で藻掻く姿を見下ろして、沸き上がる感情に息が切れた。

 ……これが、私が幾年も焦がれ描いていた反逆……ああ、なんて呆気ない。

 

 

《あゆ、み……? 何を、している、の……?》

 

 

 数秒遅れで、頭の中に声が響く。

 この女の"個性"『伝心』……これがあるからこそ、口まで塞いでしまって問題無いと判断した。

 何しろこの"個性"は、己の()()()()()『心』を『伝える』代物。喋らせるよりむしろ好都合だ。

 

「……何を? 『叔父様』が()()なったのだから、当然でしょう?」

《な……!?》

 

 ……まあ、実際には()()なろうとも()()するつもりだったのだけど。

 それでも、こうして問答の余裕が出来たのは間違いなく、『平和の象徴(オールマイト)』のお陰だ。

 

 『叔父様』が現れる前に―――連絡を取る隙を与えずに制圧する。

 そう思い決めていたことが、まさか杞憂だったとは夢にも思わなかった。

 尚更、私は……いや、もういい。それはもう、済んだことだ。

 

 

「本当に……本当に"私"が全てを忘れ、歩の"個性"として納得していると思っていたの? お前や『叔父様』を恨んでいないと、本気で信じていたのかしら? ……干河心美」

 

《! ……あなたは……》

 

 

 ……この問答に意味があるのかは、私にも分からない。

 それでもこの降って湧いた機会に、どうしても聞きたくなってしまった。

 

 ―――間違って生まれてきた義姉に宿った、歩の"個性"。

 それが歩に対してこの女が行った説明であり、彼らに望まれた"私"の設定。

 歩が頭から信じ込んだままのこの理論を、果たしてこの女自身はどう思っていたのかを。

 

 

 ……そうだ、もしここで否定が返ってくるのなら。

 この女の『心』から、これを否定するような返答を、歩に聞かせることが出来たら―――

 

 

《あなたを(たす)けてくれた叔父様に何てことを言うの!?》

 

 

 …………は?

 

 

《叔父様のお陰であなたは、歩の元に()()()()()()()()!?》

 

 

 …………。

 

 

「……叔父、様が……(ヴィラン)連合に通じていたことを、お前は知っていたの?」

《? そうね》

 

「っ……娘、が……敵の襲撃を受けたことを、どう思っているの?」

 

 これ、だけは……聞かない、と。

 この女もまた、無作為、あるいは不可抗力の幇助だったのか、それだけは……

 

 

《あなたは大丈夫だったでしょう? 叔父様は()()()()()()()()()と仰っていたもの》

 

 

 ……脳裏に、襲撃時に遭遇した(トゥワイス)の言葉が、通り過ぎた。

 ああ、そう……あれはそういう事だった、のか。

 

 

 これを……この事を知れば、もしかしたら歩も……

 ……いや、駄目だ。ここに至って()()()()()を打つわけに―――

 

 

《それなのに、こんなことをして……このっ、『恩知らず』!!》

 

「うん、もう、恩知らず(ソレ)でいいわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

"差出人:麗日お茶子"

"件名:デクくんから"

 

"デクくんから連絡がありました。皆無事だそうです―――"

 

 

「……ああ、やっぱり。何やってるのよ、緑谷さん……」

 

 地下室へと向かっていた私の手元に、お茶子さんから届いたメール。

 その内容は、種々の引き止めも空しく行動に移してしまった緑谷さん達について。

 運良く……本当に運良く全員怪我もせず無事だったようだけど、だから良いとはならないわよ?

 

「……なんて、ヴィランになった私が言うことじゃない、か」

 

 彼らに綴るべき言葉を頭の片隅で考えながら、目的の部屋の前へと辿り着く。

 歩も時折訪ねていたここは、あの女が一日一度、必ず足を運んでいた部屋でもあった。

 

 扉を開けて、視界に入ってくるのは、痛いほどに清浄な空気の漂う白い部屋。

 ベッドの上、無数の機器に繋がれた男性―――干河増太、さん。

 

「…………」

 

 ……私には、分かっている。

 彼も、その"個性"『増力』も、微塵に砕けてその身の内に残ってはいない。

 あの女の"個性"『伝心』から逃れる為には、それしか手段が無かったから。

 

 歩は『お母様』が彼に寄り添う姿を、素晴らしいものだと認識していて。

 それすら腹立たしかった私は、歩の中で可能な限りそこから目を背けていた。

 

「……っ」

 

 …………違う。

 私がここを訪れたのは、彼に繋がる生命維持機材の状態を確認する為であって。

 次に人の手が入るまで、放置していても問題無いかを確認する為であって。

 この人に……会いに来た、わけじゃない。

 

 だから―――

 

 

「…………お父、さ……っ」

 

 

 伸ばした手が、視界に入って。

 溢した声が、耳に届いて。

 薄く開かれた彼の瞳を前に、私は金縛りにあったように動けなくなった。

 

 

 この手は、彼が疎んじた『干河歩』のものだ。

 この声も、彼の心を壊した『干河歩』のものだ。

 彼を見つめる眼差しも、彼の瞳に映る姿も、何もかもが。

 

 

 この人が愛した娘―――『反向通子』は、もうどこにもいない。

 私は、僅かに彼女の記憶を継いだだけの"個性"でしかないのだから。

 

 

「…………もう……大丈夫だから、ね」

 

 

 ……確認を済ませて、踵を返した。

 向こう十数日は、機器の調整を行わずとも大丈夫だ。

 

 これから彼は、ゆっくりと眠ることが出来るだろう。

 事が済めば、その身体だけでも帰りたかった場所、帰るべき所へ辿り着けるかもしれない。

 少なくとも彼を傷付けた奴らの姿が、その瞳に映ることは二度と無い筈だ。

 

 

 『干河歩』が流す、この涙も。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

"宛先:麗日お茶子"

"件名:さよなら"

 

 ……これが、最後だ。

 必要な準備は、全て終えた。

 

 

"歩に代わって私よ。"

"以前のように眠ってしまった歩の手を使って書いているわ。真夜中にごめんなさいね。"

 

 このメールを最後に私は……『干河歩』は彼らの前から消える。

 災いをもたらした無自覚の内通者、罪無き人間を奈落に突き落とした、クズのヴィランが。

 

 

"―――この先、こうして連絡することも出来なくなるかも。"

"また会いたいと言ってくれて嬉しかったわ。じゃあね。"

 

 これを、送れば。

 

 

「…………」

 

 

"(追伸)"

 

 ……何を、書いてる?

 

 

"また"

 

 私は、何を……

 

 

"また、会いましょう。"

 

 そんな願いが、許されると―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「また…………会いたい、なぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

"差出人:麗日お茶子"

 

"どういうこと"

 

"電話出てよ"

 

"こんなお別れやだよ"

 

 

 

 

"差出人:麗日お茶子"

"件名:諦めないで"

 

"―――諦めないで。お願いだから。"

 

 

 

 

 ……笑え。

 

 さあ笑え、私。

 

 

 この幕引きは、私が選んだもの。

 

 この結末は、私が望んだものなのだから。

 

 笑いなさい、最期の瞬間まで。

 

 

 私が、私であれるように。

 

 

 

 

「―――ようこそいらっしゃいました、オールマイト、イレイザーヘッド」

 





 ・C1-12:二人が同時に"個性"を使った場合について。
 ・C3-7:どうせ私の身体じゃない。
 ・C3-12:この時点のトゥワイスの台詞は基本的に事実 → 否定の順。


 次回から最終章開始です。


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Chapter-5
C5-1 デク vs ハイエンド



 今話より最終章開始。

 本作も終わりが近いです。
 終わりが近いということは、原作沿いから外れても後への影響が少ないということです。

 いいとこで切れなくて二話分のボリュームに……



 

 ―――母校を離れた彼、緑谷出久の歩みは、順調と呼ぶには程遠い場所にあった。

 

 死柄木弔、AFOにより全国の各地の刑務所から解放され、無作為に暴れ回る『ダツゴク』達。

 その陰に潜伏するように動き、各所に致命的な被害をもたらす元(ヴィラン)連合、および脳無達。

 そして、そんな彼らと戦い疲弊した緑谷の元へと差し向けられる、AFOの刺客達。

 

 元公安ヒーロー、レディ・ナガンとの激戦の末、瀕死の彼女が託してくれた情報も今は遠く。

 かの『魔王(AFO)』の興味が彼へと移ったことの確認、という徒労に塗れた結果に終わり。

 

(AFO……何がしたいんだ。どこにいるんだ)

 

 ―――OFA四代目の"個性"『危機感知』。

 危険や害意を捉える"個性"で、彼は力無き『誰か』の悲鳴を感知し、駆け続ける。

 

(皆に手は出させない……OFAを完遂させなきゃ……)

 

 他人を巻き込むまいとする心。

 OFA継承者としての使命。

 生来の気性とその身に宿った"力"が、限界を超えて彼を突き動かす。

 

 

(皆とまた―――笑って過ごせるように)

 

 

 しかし緑谷は気付かない……否、目を逸らし続けていた。

 

「……!」

 

 限界とは、みだりに超えてはならないからこそ、『限界』と呼ぶのだと。

 

(身体が……視界が、ふらつく。今、倒れるわけには……)

 

 分厚い暗雲の下、降りしきる雨音を耳に入れながら、地に膝をついた彼の視界を水に濡れた灰色のアスファルトが埋める。

 小さな水溜まりに雨粒が作る波紋を、彼は鈍る思考の中でただ漠然と見つめ―――

 

「っ、!?」

 

 泥濘に沈みかけた彼の意識を掬い上げたのは、不意にバシャリと響いた水の音。

 顔を上げたそこに佇むのは、()()()()()()異形の人影。

 

 

「焦燥かラノ暴走……独リを望ミ、そしテ疲弊。聞いてイタ通りだナア」

 

「……脳、無……『ハイエンド』……!?」

 

 

 大柄ながら女性型と分かる伸びた手足に、この雨空の下でも剥き出しとなった脳髄。

 やや特徴のある抑揚ながらも流暢に紡がれる言葉は、最早残っていなかった筈の最上級(ハイエンド)の証。

 

「っ、OFA、45%……!」

 

 事ここに至って、何故、を問う暇はない。

 AFOの尖兵にして、生ける屍を相手に躊躇の余地も残されていない。

 

マンチェスター(MANCHESTER)スマッシュ(SMASH)!!」

 

 与えられた"個性"は不明だが、高い殺傷力を持つ"個性"が少なくとも二つ以上と考えるべき。

 これまでの刺客、生きた人間とも異なり、情報を得られる可能性は極めて低い。

 好む好まざるに関わらず、この数日の間に鍛え上げられた思考が合理的な答えを弾き出す。

 

「わア」

「……え」

 

 急所たる頭部を狙い放たれた一撃は、しかし緑谷に思いもよらぬ手応えを伝えた。

 あまりにも……あまりにも簡単に、異形の頭は彼の蹴撃に抉り取られたのだ。

 その呆気ない幕引きに、思わず脳に埋まる目を見つめ―――直後、駆け抜けた戦慄に身を翻す。

 

「ン、惜しイ」

「くっ……あれは……!?」

 

 一瞬前まで彼が居た空間、相手の頭上の虚空を貫いた黒腕。

 OFA歴代の"個性"を駆使して逃れ、姿勢を戻した彼の目に映ったのは、青く波立つその頭部。

 

「……身体を液体に変える"個性"……!?」

「ゴ名答(メートぉ)!」

 

 得られた答え―――最大の強みたる打撃を無効化する"個性"の存在に慄く緑谷に、どこか明るく答えた脳無が徐に片手を掲げる。

 一瞬遅れて身構えた彼の前で、その腕が前触れなくブクリと膨らんだ。

 

「『液体化』(プラス)『炸裂』ッ!」

「っ!? 『黒鞭(5th)』!」

 

 散弾銃の如く降り注ぐ青の水飛沫。

 寸でのところで跳び上がり、回避した緑谷の身体から、縄状の黒い力が迸る。

 

 ―――OFA五代目の"個性"『黒鞭』。

 自在に伸縮、ある程度の弾性も兼ね備えた黒い縄を生み出す"個性"。

 肩口から伸ばしたそれを地面や周囲の建造物へと伸ばし、絡め、縮めることで、自在かつ高速の三次元起動を彼は可能にした。

 

「あラ、避けられちゃっタ」

「液体……打撃は効果が薄い……拳圧? 散らせる……それは……!」

 

 液状の肉体を持つ相手を前に、緑谷の脳裏を過ったのは最早二年もの昔の光景。

 多くのヒーローが立ち往生を演じたその場を、天候ごと吹き散らした拳の一振り。

 

「……出来るか、今の僕に? ……いや、やるんだ。やるしか……!」

「逃げナイ、デ。『炸裂』、『炸裂』ッ」

 

 右腕を、左腕を、再生するごとに破裂させて追撃する脳無。

 『黒鞭』を駆使して回避しつつ、緑谷は意識を集中させた人差し指を繰り返し曲げ伸ばす。

 

 ―――OFA三代目の"個性"『発勁』。

 一定の動きを繰り返すことで力を溜め、任意のタイミングで解放出来る"個性"。

 未だOFAの出力を45%に抑えなければ反動を受ける彼に、疑似的な全力(100%)を発揮させ得る"力"。

 

 

「疑似100%デラウェア(DELAWARE)スマッシュ(SMASH)!」

「ヒャ」

 

 

 放たれたのは、天候を変え得る程の力で引き絞られたデコピン。

 それでも空に向けて放っていたなら、天を塞ぐ暗雲を穿ち得た衝撃波が叩きつけられる。

 

 中空から地面へと、吹き荒れた風圧がアスファルトを剥がし飛ばす。

 その中心に据えられた脳無はといえば、短い悲鳴と共に全身を液体に変えて飛び散った。

 

「……上手く、いった……? また、集まる前に回収してしまわないと……」

 

 雨が作る水溜まりに紛れ、脳無を構成していた青い液体があちらこちらでピクピクと蠕動する。

 その様に込み上げる生理的嫌悪感を抑えながら、器になるものを探すべく周囲を見渡し―――

 

 

「【液生黒手(マッドハンド)】」

 

「へ……うあぁっ!!?」

 

 

 躱せたのは奇跡―――ではなく彼自身の意思を必要としない『危機感知(4th)』と反射神経。

 けれど突如地面から生えた拳に、動揺から不格好な回避を選んでしまった彼の身を、更なる頭痛に似た『危機感知』が襲う。

 

「地面から……? 違う、飛び散った液体から、腕が……そんなことも出来る、のかっ……!」

 

 千々に飛び散ったが故に、地面に、周囲の建築物に、緑谷が近寄る端から生えてくる黒の腕。

 脳無に共通する膂力が込められたその拳は、まともに受ければただでは済まないことを鳴り響く頭痛(4th)が彼に伝える。

 

「っ、エアフォース! 『浮遊(7th)』!」

 

 近付けなくなった地面から逃れる為、選んだ力はOFA七代目の"個性"『浮遊』。

 己を空に留め置く"個性"と、衝撃波を生み出すだけの出力(15%)を駆使して緑谷は空に居場所を移す。

 

「……でも、飛び散ったままで思考が……イヤ、違う……違った! そこだ!」

「……あ、見つかっちゃっタ」

 

 空から戦域を見渡した緑谷は、数秒の思索を経てソレを見付ける。

 立っていた場所から少し先、液体に包まれた頭部だけで転がる脳無の姿を。

 

「幾ら液体化する"個性"でも、頭まで散り散りになった状態で思考が出来るわけがない! 身体の大半を防御に回すことで頭部はそのまま逃げたんだ! ならもう一度疑似100%を―――」

「アわわ……再生、再生……」

 

「……するよな、やっぱり」

 

 頭部を覆う液体が少しずつ量を増している様に、同じだけ遠のく勝機を緑谷は察する。

 尤も、逃げるつもりなら今の内に高空へと向かえば可能だろうが、人気(ひとけ)は最早少ないとはいえ、住宅地で遭遇した脳無を放置していくという選択肢は彼の頭には存在しなかった。

 

(疑似100%を打ち込むにも、もう一度近くまで寄らなきゃ……けれどあいつの近くは飛び散った液体だらけ、迂闊に近寄れば……待てよ?)

 

 『超再生』、『液体化』、『炸裂』。判明した三つの"個性"による戦闘形態、およびここまでに得られた情報を頭の中で反芻し、彼は必要な最後の一押しを導き出す。

 

「……『煙幕(6th)』」

「ゲ……」

 

 緑谷の身体から真っ白な煙が噴き出し、周囲の者から視界を奪う。

 煙の向こうから聞こえた微かな悪態に、彼は仮説が当たった確信を得る。

 

 ―――OFA六代目の"個性"『煙幕』。

 雨風に容易には流されない煙を生成する"個性"。

 

「その反応……やっぱりお前、()()()()()()()んだな?」

「…………」

 

 返答は言葉としては得られず、されど煙幕の中で地面に降ろした足に追撃は『生え』ず。

 『危機感知(4th)』も交え安全を確認した緑谷は、白煙の先に転がる相手の元へと駆け抜ける。

 

「……『発勁(3rd)』」

「ア……」

 

 トドメの一撃を手の中に用意し、視界を閉ざす前に確認した場所へ。

 一撃を放つ直前の手を構えた彼の姿が、再生途中の脳無の眼前に突き付けられる。

 

「……期待はしてない。けど、一応聞いとく。AFOの居場所は?」

「…………」

 

「……だよね」

 

 脳無といえど意思持つ個体なら或いは―――その微かな期待に応える素振りは当然あらず。

 緑谷の指先に溜められた全力が、僅かのためらいもなく放たれる。

 

 

「疑似100%デラウェア(DELAWARE)スマ(SMA…)―――」

「【液屍自在(リキッドマニピュレイト)】」

 

 

 聞こえた声が緑谷の思考に届いたのは、その指が弾かれた直後。

 風に煽られる木の葉の如く、脳無の頭部が跳び上がる様を、彼は視界の端で見送った。

 

 

 

 

「悪いけど、そこまでで勘弁してもらえない? 緑谷さん」

 

「…………干河……『干渉』、さん?」

 

 

 血と泥に塗れたフードの下で、疲労を湛えた緑谷の目が再々度見開かれる。

 半年振りに相対したクラスメイト(干河歩)の姿に、彼の警戒は一瞬揺らぎ―――直後、最大限にまで引き上げられた。

 

 彼の中で、彼女の身に起きたと推定されている事態に、甘い予想は一滴たりとも存在しない。

 彼女が()()()()()現れたことで最悪の底からは外れたが―――魔王(AFO)の底知れぬ悪意に触れた今、実態が自身の考え得る『最悪』の遥か先にある可能性も頭に残っていた。

 

「……キミ、は……AFOの―――」

「あら、あなたまでそう来るの? 私ってそんなに信用無かったかしら……ちょっとへこむわ」

 

「えっ? あ、その……」

「私について何も教えなかった先生方の気持ちも分かるけど、その方向に進まれるのは心外よ?」

 

「あ……ご、ごめん?」

 

 しかし緑谷の最大の懸念は、心底困った様子で苦笑いを浮かべる彼女にあっさりと否定された。

 呆気に取られた彼が、思わず警戒を緩めてしまったその瞬間。

 

「っ!?」

「おっと」

 

 バシャリ、と。

 雨音に紛れて響いた水音に、彼の警戒心は再び刺激を受けて総毛立つ。

 音の出所は、彼女のすぐ傍へと着地した液体の塊―――脳無の頭。

 

 緑谷がその青い水塊と、それを無言で見守る彼女とに目線を左右させる中、ボコボコと波だったソレがやがて人の形を作り出す。

 十歳前後の少女に見える姿をとったそれは、液体で出来た瞳を輝かせて手を挙げた。

 

「フゥ、負ケちゃっタ……改めテ初めマシて! デクさん!」

「え……は、初めまし、て?」

「……紹介するわね、緑谷さん」

 

 悍ましき生ける屍……であった筈のソレから発せられた、無垢で無邪気な少女の声と、その姿。

 二心を感じさせない挨拶に、再度緑谷の思考は大きく鈍る。

 そんな彼に笑い掛けながら、液体の肩に手を置いた彼女は淡々と()()を告げた。

 

 

「彼女の名前は反向(そりむき)通子(とおこ)。"私"の……"個性"『干渉』の元の持ち主よ」

 

「…………え」

 

 

 時が止まる。

 呼吸が止まる。

 告げられた言葉が、込められた意味が、緑谷の脳を滑り落ちる。

 

「彼女が"個性"を『奪われた』のは、"私"が干河歩(この身体)へと『与えられた』のは、今より十二年の昔」

 

 大人の手で隠されていた真実が、傷となって刻み付けられる。

 理解を拒む彼の心へ、信じていた彼の世界へと。

 

 

「その恩を以て彼女の母、干河心美は……娘をAFOの手先として動かしていた」

 

「USJも、合宿も……あれらの襲撃は歩の無自覚な手引きが引き起こした」

 

「『奪われ』ていたこの子は……死んだものだと私も最近まで思っていたのだけどね」

 

 彼女の目配せを受けて、液体の少女が再びその形を変化させる。

 泡立つ頭部から再度姿を見せたのは、黒の体色を土台にした悍ましき脳髄。

 

「……AFOの悪意に皆を巻き込みたくない、だったかしら?」

 

 呆然と、ただ呆然と、彼の視線は彼女を追う。

 光を無くしたその瞳に、彼女は寂しげに微笑みを返して。

 

 

「その心根は素晴らしいけれど……私達ほど()()()()存在は居ないと思うわよ?」

 

「……っ、あ゛あぁっ!!」

 

 

 緑谷が選んだのは、声にならないただの叫び。

 そこに込められた感情が怒りなのか嘆きなのか……彼自身も分からないままに吠え猛る。

 

「あ、ああ゛ッ! うあ゛あぁ、あ……ッ!!」

 

 歪められていた。

 壊されていた。

 踏みにじられていた。

 

 彼の見てきたモノ。

 信じてきたモノ。

 あると思っていた日常は、()()()()、全てが。

 

 

 声も枯れよと叫び、叫び―――

 怒りに吊り上げた瞳で歯を食いしばる緑谷に、静かな呟きは紡がれる。

 

「だから、良いのよ? あなたはもう、立ち止まっても―――」

「取り、戻すっ……から! 全部、あいつから……僕が……ッ!」

 

「っ、緑谷さん?」

 

 けれど彼は止まらない。

 止まることを己に許さない。

 悲憤に歪む顔をそのままに、瞳に使命感を漲らせて喉を震わせる。

 

「だから……!! キミも、待っていて……どこか、安全なところで……っ」

「何を……くっ!?」

「うわワっ!」

 

 緑の閃光と、水飛沫の混じった粉塵を散らして、緑谷は彼女の視界の彼方へと跳んでいく。

 みるみる小さくなっていくその影を見上げて、『干渉』は再度苦い笑みを作った。

 

「……今のあなたはこれでも折れないのね。私にお似合いの役目だと思ったのだけど……」

「……オ姉ちゃン、どうすルの?」

 

「まあ、こうなったからには仕方ないわ。ここは潔く―――」

 

 彼女の手が自身の懐を探り、一台の携帯電話を取り出す。

 予め設定した操作でワン(One)コール(Call)、繋がった相手へと言葉を告げる。

 

 

「1stプラン失敗。これより2ndプランに移るわ」

 

 

 

 

「…………っ!?」

 

 未だ動揺冷めやらぬ緑谷の身に襲い掛かったのは、網に掛けられたような違和感。

 遮る物など何もないはずの空中で、いったい何が起きたかと視線を走らせ、そして気付いた。

 

(っ、引っ張られて、る……!? 『黒鞭(5th)』が……っ)

 

 その汎用性の高さから、緑谷が手足の延長として常に両肩から三本ずつ伸ばしていた『黒鞭』。

 それが今、見えない蜘蛛の巣にでも掛かったかのように虚空に引っ張られていた。

 

(干河さんの"個性"……『干渉』、さん……半径三十メートルの超射程も強み……)

 

 移動の勢いを削がれたことを認識し、緑谷は『黒鞭』を身の内に収めてその場に『浮遊(7th)』する。

 振り返れば、ビルの屋上に立った『干渉』が、指揮者の如く両手を広げて彼を見上げていた。

 

(あんなところで何を……何で……!?)

 

 見えた姿に幾つもの疑問符を浮かべる中で、彼女が大きく息を吸ったことだけを彼は認識した。

 

 

「―――さあ、勝負よ、緑谷さん! さあ、勝負よ、OFA! あなたは私の【掌握】下、半径三十メートル……約十一万三千立法メートル空間から果たして逃れられるかしらぁ!?」

 

「っ!? 何、を……!?」

 

 

 常の様子を大きく逸脱した彼女の響き渡るような啖呵に、緑谷は思わず息を呑む。

 けれどその様について思考するより先に、視界の端を通過した人影につられてそちらを振り向き―――更なる驚愕に彼の頭は漂白される。

 

 

「その空間を自在に駆ける―――お茶子さんを振り切って!」

 

「……麗日、さん?」

「デクくん」

 

 

 降りしきる雨の下、薄暗い雲海を背負いながら、彼女はうららかに笑いかけた。

 

 

「迎えに、来たよ?」

 





 4/3 * 30 * 30 * 30 * 3.14 = 113040.

 後への影響が少ないということは、プロットに自由が利くということです。
 プロットに自由が利くとは、趣味に走れるということです。


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C5-2 デク vs ウラビティ's


※とある感想への返信について、十数分で撤回したとはいえ読者の皆様に責任転嫁するような最低の失言をしてしまいました。ただいま猛省中であります。
 この責任は作者として読者を楽しませることで取るべし、ということで過去に感想で軽く要望のありました、ifルートを本編完結後に一話投稿しようかと思います。
 ……リアル? そんなモノより大事なモノがここにある。


 ちょっと過去の魔王さま「怪我をおして通し続けたその矜持を奪わせてもらうよ」
 前話の腹黒女さん「今の彼に足を止めさせるには、その矜持を折るのが早道よね」

 そういうとこやぞ。



 

「―――デクくんの気持ち、分からへんわけじゃないんよ?」

 

「一緒に居る私達が危険やから……キミがそういう人なんやって、私達も分かっとる」

 

「いつも一生懸命で、いっぱいいっぱいで……一度決めたら、絶対に止まらへん」

 

「私はそんなキミが……ううん、何でもない」

 

 

「でも今のキミに、言葉じゃ届かへんみたいやから」

 

「大丈夫だよって言葉だけじゃ、キミも止まれへんやろうから」

 

「だから―――」

 

 

 

 

「いっっっっぺん、ブン殴って分からせたるから! 歯ぁ食いしばれェッ!!」

 

「ええぇっ!? う、麗日さんっ!?」

『……【無重自在(ゼロ・マニピュレイト)】』

 

 

 空を滑るようにして迫りくる麗日から、その耳元の無線から聞こえた『干渉』の声から、緑谷は必死の想いで距離を取る。

 『浮遊(7th)』にエアフォース(OFA15%)の推進力を重ね、正面に見えたビルの壁へと『黒鞭(5th)』を伸ばして。

 

『……"私"の【掌握】下だと言ったはずよ? 緑谷さん』

「あっ……!?」

 

 しかし彼が伸ばした『黒鞭』は、目標に絡まる寸前で僅かに向きをずらされる。

 いつか、彼女と相対した級友(飯田)の蹴撃が、相手に触れる直前で逸らされたときのように。

 

(不、味い……軌道が……!)

《……不味ぃなあ、小僧。お前さんの練度じゃ今の引っ張り合いにゃまだ対抗出来ねぇさぁ》

 

 驚く緑谷の身体は着地点のズレた『黒鞭』に引かれ、当人の意図しない空間へと投げ出される。

 

《驚いている場合じゃないぞ、出久君。周りを見るんだ》

(……これ、は……!)

 

 緑谷の視界に広がっていたのは、自身を囲うように浮かぶ大小の瓦礫群。

 それを成したと思われる相手は、やはり相方(麗日)の無線を通して彼に声を届ける。

 

『市街地だというのにこんなに瓦礫が……世も末よね』

「っ……で、も……幾ら『干渉』さんでもこんな質量は減速させるのが限度の筈じゃ……」

 

『何を言ってるの、緑谷さん? 私が今、誰と組んでいるか忘れたのかしら?』

「……!」

 

 空を舞う瓦礫の流れは二つ。

 緑谷を囲うように浮かび、進行ルートを塞いでいく流れ。

 そしてもう一つは、彼の正面に浮かぶ麗日の手に()()()()()順番を待つ流れ。

 

 彼が気付いたまさにその時、麗日のコスチューム両手首から射出されたワイヤーが、一際大きな瓦礫へと巻き付けられていた。

 

(あれは……『無重力』にした物体をワイヤーで振り回す、麗日さんの必殺技……)

 

「……準備完了や、『干渉』さん」

『了解。それじゃいくわよ、お茶子さん』

 

 ワイヤーの繋がった瓦礫。

 空に浮かぶ瓦礫。

 二人それぞれの意思に繋げられた、無数の大質量。

 

 

「【ゼロ・サテライツ】!!」

『ならびに【無重流星群(ゼロ・スターズ)】!』

「ッ! 45%セント(ST.)ルイス(LOUIS)スマッシュ(SMAAASH)!!」

 

 

 空中で身体を捻り繰り出された蹴撃と、巻き起こる衝撃波が、襲い掛かる瓦礫の多くを砕く。

 穿ち開けた視界に一瞬意識を抜いた緑谷は、しかし周囲で進行する事態に背筋を凍らせた。

 

(砕いた欠片が、集まって……)

《……荒く割った程度では武器を増やすだけだな》

 

「うらあぁぁーーーッ!!」

「!? う、わ……っ!」

 

 慄く緑谷が気を取り直すより先に、雄叫びを上げて突進する麗日。

 その行動の意味を彼が理解出来たのは、向かってくる彼女の手の平を見た瞬間。

 

(ま…………ずい!? そうか僕の敗北条件……二人の勝利条件は―――)

『お茶子さんに触れられたら最後、あなた自身の身体も【掌握】下、よ』

 

 半径三十メートル空間に存在するあらゆる物体、非物体を操作する"個性"『干渉』。

 その最大の弱点にして制限は、生物に対する機能上限。

 そして無体にもその制限を取り払う手段こそ、相方(麗日)の"個性"『無重力(ゼログラビティ)』。

 クラスメイト達の中でも取り分け噛み合いを見せる二つの"個性"が今、緑谷に対し牙を剥く。

 

「え、エアフォース……うあっ!」

『そんな速度で逃げられるとでも?』

「逃がさへんよ、デクくん!」

 

 麗日の手を回避すべく、空中で放った力の反作用で飛んだ先へと、遮るように横滑りした瓦礫に緑谷の身体は背中から激突した。

 痛みに白んだ彼の視界に、支える物も無い空中から直角軌道で切り返してくる麗日の姿が映る。

 

「っ、『煙幕(6th)』!」

「えっ、わぶっ!?」

『おっと?』

《ヘイヘイヘイそりゃ不味いよ九代目!? 今までも言ってきたけど今回は特に!》

 

 苦し紛れにも見える表情で、緑谷の身体から放たれた白煙が麗日達の視界を埋める。

 得られる間隙を利用しようと、身を翻した彼に届いたのは呆れたような『干渉』の声。

 

《そりゃ『煙幕(ソレ)』は雨風では飛ばないよ? けれど『彼女』に対しては―――》

『それじゃ時間稼ぎにもならないわよ?』

「ぐあっ!?」

 

 自身の視界すら塞がれる白煙の中で、突き進んだ先には壁の如き瓦礫。

 起きた事象の認識すら待たずして、彼を包む煙が吸い込まれるように晴れていく。

 

『"私"と特に相性が悪いのが六代目(これ)かしらねえ』

《逆手にとられたら元も子もないってこれ何度目かな? 回避一回の釣りとしては大き過ぎるよ》

「……く……っ」

 

 球状に纏められ、瓦礫と共に浮かぶ『煙幕』を眼前に、フードの下で眉根を下げる緑谷。

 そんな彼の眼前に、視界を取り戻した麗日が浮かび、憮然とした表情で見下ろした。

 

「……デクくん、私達は―――」

「もう……かまわなくていいから……僕から、っ……離れてよ!」

 

 背中と四方を瓦礫に、正面を麗日に塞がれた中で、緑谷は諦念を振り払うように拳を握る。

 血を吐くように絞り出された彼の言葉に、彼女が返すのは簡潔なる一言。

 

「嫌や」

「っ! 頼むから……!」

 

「嫌やッ!」

「……ッ! だから……離れてよ!」

 

「……! 私達……私は―――」

「僕はっ! 大丈夫だから!!」

 

 

「うぁっ!?」

『なっ!?』

《うおっ、小僧!?》

 

 悲痛に満ちた叫びと共に、緑谷の全身から黒い光が迸る。

 急ぎ麗日を退避させた『干渉』の目に映ったのは、その光が周囲の物体に()()()()()()()姿。

 

『っ、五代目の"個性"!? まさか、意図的に制御を……ああもう相変わらずねえ、彼は!』

「『干渉』さん! デクくんは!?」

 

『……噴き出したアレの中心に……え、ちょ、まさか……?』

 

 【掌握】空間内の物体を知覚する彼女へ向けた麗日の問いに、返る答えが動揺に濁される。

 信じられないものを見たとばかりの声色に彼女が首を傾げる中、二人の視線の先で屹立していた『黒鞭』の柱が不意に弾けた。

 

「……え、今……」

『……弾性でカッ飛んでいったわ、二時方向の廃ビルの中よ。……生きていればね!』

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「う……あ……」

 

 自らの身体で砕いた廃材の中に埋もれ、緑谷は全身に走る痛みに呻いていた。

 

 包囲網を強引に破る為、払った代償は軽くなく。

 常の数十倍の出力で噴き出した『黒鞭』の反動、及びピンボールの如く飛ばされ叩きつけられた衝撃に、全身の骨と筋肉がけたたましい悲鳴を上げる事態を引き起こしていた。

 

《……ンな使い方考えもしなかったぞ。思い切ったことするなぁ、九代目よう》

《結果だけ見れば凶悪な"個性"の使い手から視界を切れたことにはなるか》

(縛りの無い三次元空間であの二人を相手にするのは……それに麗日さんには四代目までの"個性"を知られてる。当然情報共有もしてるはず……)

 

 廃材散らばる薄暗い廃ビルの一室で、彼は彼の武器たる分析力をもって必死に思考を回す。

 

(知られてないのは『発勁(3rd)』……あの脳無には見せたけど、詳細までは分からないはず。レディ・ナガンとの戦いの時のように、視界から逃れられた今の内に溜めておいて―――)

 

 しかし、そんな彼を遮る音が一つ。

 

「……いっ!? な……んだ、天井から……」

 

 コツン、と小さな音を立てて、緑谷の頭に命中したのはありふれた小さな螺子。

 おそらくは先の衝撃で崩れた天井に引っかかっていたそれが落ちてきたのだと、それ以上気にも留めずに彼は思索に戻る。

 

「……うあっ!? と……立てかけてあった板、か」

 

 次の衝撃は、肩に倒れてきた薄いベニヤ板。

 見れば何かの目的で積まれていたらしい同型のそれが、すぐ傍の壁に並んでいる。

 そんなこともあるかと、緑谷が視線を前方に戻したその瞬間。

 

「ぎっ!? こ、れは、まさか……嘘だろ……!?」

 

 全身に走る痛みを助長したのは、勢い良く脛にぶち当たった鉄パイプ。

 事ここに至れば、続けざまにその身を襲った事象を『不幸』などでは片付けられず。

 しかし同時に、頭に浮かんだ答えから目を逸らしたい想いが、彼の内から沸き上がる。

 

《……視界外まで射程範囲なのかい、彼女?》

《……冗談きついなあ》

《……こりゃ不味いぞ、小僧》

「まさか……とっ、とにかく部屋の外へ……!」

 

 危機感に煽られた緑谷が動き出せば、それを感じ取ったとばかりに一斉に動き出す廃材達。

 錆びた扉を蹴破り廊下に出た彼の背後を、大小雑多な物体が思い思いの軌道で追いかける。

 

「うっ……づ……あ……ッ!?」

 

 そのまま走れば床板が、天井のパイプが、壁の装飾が、彼の行く手を阻むように動き出す。

 態勢を崩され、視界を遮られ、鈍った彼の背を無数の廃材が小突き回した。

 

《オイオイオイまるでビル自体に牙剥かれてる気分だなぁ!》

《容赦が無さ過ぎやしないかい!? ちょっと四ノ森さん、これ本当に―――》

《間違いない。それよりも九代目、気付いているか?》

「う、ぐ……?」

 

 不意に、緑谷の視界が何かに光源を遮られたかのように影が差す。

 不思議に思った彼は、ビルの外へと通じる窓に目を向け……そして、硬直した。

 

《彼女がこちらの位置を、視界の外にあっても感知しているならば―――》

(そ、っか……そう、だよな。『干渉』さんから僕の位置が……麗日さんにも……!)

 

 

「デクくん」

 

 

 空に仁王立ちする麗日の背後には、瓦礫というより最早崩れかけた家屋とでも呼ぶべきモノ。

 戦慄に竦む緑谷の前で、両手首から伸ばした十数のワイヤーを雑多に巻き付けたソレを、彼女はゆっくりと背負い投げの如く振りかぶる。

 

 

「―――往生せぃやぁ! 『【無重隕石(ゼロ・ミーティア)】!!』」

 





 Q. ……往年の暴力系ヒロイン?
 A. デクくんが悪いんよ。

 歴代"個性"発現が調整され、『黒鞭』の暴走も回避された……と思っていましたか?
 必要と思えば意図的暴走も辞さない。それが緑谷くんです。


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C5-3 緑谷出久 vs 麗日お茶子


※感想返信でも漏らしてしまいましたが、ここ数話の内容を読者の皆様に楽しんで頂けているのか大変に大変に不安というのが作者の本音です。
 特にその日更新した話の内容に関する感想が……


 ところで前話、妙に空白が多いですね?



 

「―――気付いていたそうね。私達が……ただの『休学』だったわけじゃなかったこと」

 

「聞きたいこと、疑問に思っていること、山程あるのも分かってる」

 

「でも今は……ひとまず今は、何も聞かずに協力してもらえないかしら」

 

「今の緑谷さんを、一人にしておくわけにはいかないでしょう?」

 

 

「……ええ、ごめんなさい。ずるい言い方なのも分かってるわ」

 

「あなたの気持ちに付け込むようなことをして、申し訳ないとも思ってるのよ?」

 

「……え、違う? あら、それじゃ未だに……ふふっ、ごめんなさい?」

 

 

「…………ええ、分かったわ」

 

「事が済んでからにはなるけど、それであなたが納得してくれるのなら……」

 

 

「何もかも、全部話すと約束するわ。……お茶子さん」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

『―――あの、お茶子さん? 往生させちゃ駄目じゃない……?』

「あぁ?」

 

『あ、はい、なんでもないです』

 

 唇を真一文字に引き締め、麗日は据わった瞳で半壊した廃ビルを見下ろす。

 無線から届く『干渉』(相方)の声に反応を返しつつ、投げ込まれた廃屋によって抉れたように倒壊したその場所へ、彼女はゆっくりと着地した。

 

『……緑谷さん、生きてるわよね?』

「大丈夫や、デクくんやったら……っ」

 

 その呟きに応えるかのように、麗日の眼前で瓦礫がガラリと音を立てる。

 彼女が目を向けた先にあったのは、荒い呼吸でふらつきながら立ち上がる緑谷の姿。

 閃光走る拳を握った彼が視線を上げると共に、泥に塗れ破れたフードがその頭から零れ落ちた。

 

『その手……さっき使ってた三代目の"個性"とやらかしら? 限定的なOFAの全力を可能にする。必要なのは溜め時間、といったところね』

「……っ」

「……デクくん」

 

 聞こえた見立てにビクリと身体を震わせた緑谷は、微かな逡巡の後で腕を掲げる。

 一撃を放つ寸前の彼の手を視界の正面に入れながら、麗日は一歩、彼に近付いた。

 

 

「来……ないで、よ……っ! 僕、は―――」

 

「置いてかれたんは、辛かったんよ?」

 

 

 麗日の言葉に、緑谷の手が止まる。

 そのままゆっくりと彼に近付きながら、彼女の吐露は続いた。

 

 

「やっとキミの……キミと同じ物を見えてると思っとったから」

 

「キミの隣に立ててるって、思っとったから」

 

「これからはキミと……すぐにどこかへ駆け抜けて行ってまうキミと、並んで走ってけるって」

 

 

 一歩、また一歩。

 距離が縮まる毎に、露わになった緑谷の頬が歪んでいく。

 

 

「私達は、キミに守られたいんやない」

 

「キミを、否定したいわけでもないんよ」

 

「ただ、私達は…………私は―――」

 

 

「僕、だって……」

 

 構えた手に震わせながら、緑谷もまた乾き切った喉からその想いを絞り出す。

 

 

「皆が……大切だから」

 

「傷付いて欲しく、ないから……!」

 

「奪われたく、ないんだ……! 皆が…………キミが……ッ!」

 

 

 己を罰するかのように、嗚咽を噛み殺した彼の手から緑の電光が迸る。

 その様に麗日は一瞬、息を呑み―――けれど正面を見据えたまま走り出した。

 

「疑似……100%……ッ!」

『お茶子さん! 私を「信じるっ!」……ッ、そのまま飛び込んでっ!』

 

 ぶれる視界の中、勢いを落とさず迫る麗日の姿に、緑谷の思考は高速で自問自答を繰り返す。

 

(吹き、飛ばすだけだ……! 直撃、しないように……! 怪我しない……させない……ッ!)

 

 

 

 

「デクく―――」

デラウェア(DELAWARE)スマッシュ(SMAAAAASH)ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………さて、復習しましょうか、緑谷さん?』

 

 どこか遠くから聞こえたそんな声が、緑谷の頭を通り過ぎて行った。

 

(なに、が……起こっ……た……?)

 

 背中にも、四肢の先にも、何かにぶつかる感触は無く。

 数秒以上の空白を経て、ようやく彼は自身が空を漂っていることに気付く。

 

『かつて、私と対峙した爆豪さんが何故、私の身体を掴むことに固執する必要があったか』

(……反、射……衝撃、波……!?)

 

 自身の放った渾身の一撃(デコピン)

 それがもたらすはずの結果を、鈍く回る頭に注ぎ込んで、緑谷はようやく答えに辿り着く。

 

『……とはいえ私の全力でも、返せたのは凡そ四割程。本気の勝負だったら【反射】を()()ことにされてたわ。本当に呆れた威力よね』

「あ……」

 

『けれどあなたは直撃を避ける為に向きを逸らした、これでおよそ三割減。残り七割の内から四割を私が貰って、相殺。残った一割があなたを吹き飛ばしたわけだけど』

 

 ふう、と。

 無線越しに彼の耳に届いた吐息は、呆れを多分に含んでいて。

 

『ほら見てみなさい、緑谷さん。……綺麗な茜色の空よ』

「……!!」

 

 自らの意思と、彼女の"個性"。

 二つの力で空へと向かった"力"は、暗雲に包まれた空を裂き、天候を変えていた。

 見開いた彼の瞳を、地平線に沈まんとする夕日が朱く照らし出す。

 

『……さぁて! 復習が済んだなら、次は()()が行くわよ、緑谷さん?』

「っ、ぁ……!」

 

 遅れに遅れて再起動した頭で、緑谷は姿勢を取り戻すべく空をもがく。

 視線の先、度重なる衝撃に崩れた廃ビルから、飛び出してくる影を彼は見た。

 

「デクくん!」

「っ、『浮遊(7th)』!」

《……そうだね、出久君。この空間で彼女に抗えるのは『浮遊(ソレ)』くらいだ》

 

 頭の片隅から届いた七代目の声に微かに驚きを感じつつも、最早逃れられない距離にまで迫った麗日を前に、緑谷は縋るように己が身の内の"力"を探る。

 

 

(……『煙幕(6th)』―――)

《駄目だよ、九代目。『煙幕(ソレ)』は彼女達と特に相性が悪い》

 

(『黒鞭(5th)』……)

《無理だなぁ、小僧。今のお前さんの『黒鞭(ソレ)』じゃ、あの娘には対抗出来ねぇ》

 

(『危機感知(4th)』……!)

《無駄だ。……アレは君の『危機』では決してない》

 

 

 優しく響く否定の雨に、緑谷はそれでも、となけなしの気力で拳を握る。

 再び四肢に弱々しく緑の閃光を走らせたその時、二つの声が彼の耳に届いた。

 

『……分かっている筈よ? 緑谷さん。私達が弱みを晒し続けていることが』

《……気付いているんだろう? 九代目。彼女達が弱点を隠していないことに》

 

(……初代……?)

 

 入らない力を振り絞る緑谷に、二つの声はどこか示し合わせたように紡がれる。

 

『私達の弱みはどこまで行っても力押し。殊更不得手は"増強系"よ』

僕達(OFA)の強みは結局のところ力押し。培われた究極の"増強系"だ》

 

(……っ!)

 

 聞こえた声はどちらも、頭の片隅には()()()()()『答え』。

 

『振り払えばいいのよ、力尽くで。あなたへ伸ばされる彼女の手を』

《振り払えばいいんだ、力尽くで。君に差し伸べられる彼女の手を》

 

(そんな、の……!)

「……っ、デクくん! 私は―――」

 

 ただ茫然と開かれていく緑谷の瞳に、それを真っ直ぐに見上げる麗日の瞳が映る。

 見開かれたそれを見つめ返した彼女は、喉よ裂けよと叫びを上げた。

 

 

「キミがっ! いなくなるんはっ! イヤやぁーーーーッ!!」

 

 

『《―――それを(あなた)が、本当に望むなら》』

 

(できる、わけ……っ)

 

 振り絞った意志が、その身体から迸る緑光が。

 徐々に、徐々に、薄れて―――消える。

 

 

 

 

 ―――二つの影が、重なった。

 

 

 

 

『……詰みよ、緑谷さん。そうしてお茶子さんに触れられた(抱き着かれた)以上、あなた自身も私の【掌握】下』

 

 耳のすぐ傍にまで来た無線から、溢される声が緑谷の思考に沁みていく。

 

(ふりほどかなきゃ、いけないのに……力が入らない……)

 

 未だ燻る使命感と、敗北を理解する諦念とが、沈みゆく心の中で重なり合い。

 四肢から力が抜けていく感覚の中、呼気を伴う囁きが彼の耳朶を叩く。

 

 

「帰ろうよ、デクくん? 私達の、雄英に」

「……麗日、さん……っ」

 

 

 背中に回される手の平から、鼻腔をくすぐる香りから、伝わる温度に意思を溶かされて。

 彼がようやく()()()涙に向けられたのは、頬に触れんばかりのうららかな微笑み。

 

 

 

 

「帰ろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………出番無かったな、3rdプラン(オレたち)

「……緑谷ちゃん一人で架空(そっち)には行かせない……そう言うつもりだったのだけど」

「完っ全にそういう映画のワンシーンよなあ、アレ」

「ほら見ろよ、こっちからみると丁度夕日に重なるぜ?」

「うわ、本当だ。すっごい綺麗……」

「……そういえば発狂しねえのな、峰田」

「だからオイラを何だと思ってんだ! 空気ぐらい読むっつってんだろ!?」

「「「じゃあその血涙止めろよ」」」

 





 "個性"『干渉』が苦手とする最たるものは近距離肉弾戦。
 ならば遠距離ならどうかと言えば、100%のデコピンに対し四割反射が限界。
 要するに緑谷くんがその気なら近距離だろうが遠距離だろうがワンパンで決着でした。
 繋げられた想いの結晶は伊達じゃないんよ。


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C5-4 秘匿通信


※皆様沢山のご意見感想誠にありがとうございます。
 作者の中で答えは出せました。お騒がせして申し訳ありません。

※書き忘れていましたが、前々話の仕掛けは他では一度も使っていません。またこの先使う予定もありません。念のため。


 Q. ディクテイターは?
 A. 画面外でA組面子+エンデヴァーが対処しました。

 オリキャラ名注意報。
 それから今話は考察関係で後書きがちょっと長いです。



 

「…………ハッ! おい、腹黒女」

 

 夕日を背景にゆるゆると回る影を眺めながら、集まっていたのはA組生徒十七名。

 その中から一人、小さな悪態と共に抜け出した爆豪が、やや距離を離して佇む『彼女』達の元へと歩み寄る。

 

「何を言ったか知らねえが……1stプランで七割いけるんじゃなかったのか?」

「……私が知ってる緑谷さんなら、ね」

 

 問われた干河……否、『干渉』は、僅かに目を逸らしながらそう呟いた。

 

「男子、三日会わざれば……とさえ言うのに、半年だものねえ」

 

 言いながら、向けられた彼女の視線に、クラスメイト達も気付いて各々振り返る。

 一同の姿を改めて視界に収めた上で、彼女はどこか寂し気に口を開いた。

 

「……すっかり置いて行かれちゃったわ」

「…………」

「干河……」

「い、いや、でも……これでまたA組二十人揃うんだよね!?」

 

「え、それは無理よ?」

「「「え」」」

 

 沈んだ空気を入れ替えようと、喜色を滲ませて声を上げた芦戸に対し、バッサリと返されたのは『干渉』による否定の一言。

 硬直する面々に一転、呆れ混じりの表情を作った彼女は手近にいた上鳴を指差して問いかける。

 

「あのねえ……干河歩()の休学理由、その期間は何て言われてた? さあ答えて」

「え、俺!? あ、えっと確か、社会情勢が落ち着くまで、だったよな?」

 

「……落ち着いてる?」

「いやぁ……ははは……」

 

 背後の廃墟じみた住宅街に目線を向けつつ尋ねる彼女に、したくは無い納得を浮かべる一同。

 再度、溜息を吐いて見せた『干渉』は、傍らの『少女』に目配せしつつ言葉を続けた。

 

「こうなったどさくさに紛れて抜け出したのよ。この子の力を借りて、ね」

「え、あ、そういえばその子は?」

 

「親戚の子よ。……通子ちゃん、十歳。見ての通り液体の"異形系"よ」

「通子でス、初めマシて! オ兄ちゃん、お姉チャん達!」

 

 紹介され、液体状の片手を上げて元気よく挨拶する『少女』。

 異形由来と思しき舌足らずな声に、A組の面々の頬が緩む。

 

「お、おう……初めまして!」

「親戚……」

「カワイイ……」

「スライムボディJS(女子小学生)……」

「……なあ、峰田(コイツ)縛っとくべきか?」

「教育に悪いし隔離しておきたいけど……」

 

「……抜け出していると知れたら私もこの子も連れ戻されちゃうわ。無暗に誰かに話さないようにお願いね? ……ああ、先生方には話を通してあるからそこは心配無用よ」

 

 一部(峰田)の反応に物言いたげな表情を浮かべつつ、『干渉』はA組一同にそう頼み込む。

 そういうことならと―――特に付け加えられた一言で―――納得した彼らは各々了承を示した。

 

「……そうだ、折角だしヒーロー科の寮とやらを見せてあげてもらえない? この子、こう見えてヒーロー科志望なのよ」

「えっ、それは……大丈夫なのかな?」

 

「先生方はきっと許可を出してくれるはずよ。……私も同行できれば良かったんだけど、この後ちょっと……寄る所があってね」

 

 微かに苦笑を浮かべながら、『干渉』の視線がどこか遠くへと向けられる。

 そんな彼女に対し、集団の中から一歩、歩み寄る影が一つ。

 

「戻ってくるんだよね? ……干河」

「耳郎さん……ええ、そのつもりよ。何日も掛けはしないわ」

 

「……分かった、待ってるから。それじゃ行こっか、えっと……通子ちゃん?」

「ウン、耳郎お姉ちゃン!」

 

 それだけの言葉を交わし、『少女』の手を引いて集団に戻った耳郎は、一同を急かすようにしてその場を離れていく。

 数人が不思議そうに振り返りつつも、少しずつ地上に向かい高度を落としていく緑谷達の元へと向かっていく中で、『干渉』の傍らには爆豪の姿が残っていた。

 

「あいつらにはそれで良いとして……麗日には全部話すんだろな?」

「ええ……緑谷さんを連れ戻すにあたって、そう約束したからね」

 

 爆豪の問いにそう返答した後で、しかし『干渉』は先とはまた違った様子で顔を背ける。

 その様子に眦を吊り上げつつ、それでも背中を向けた後で……彼は口を開いた。

 

 

「―――()()()()()?」

「……っ!」

 

 

 投げかけられたその一言に、『干渉』は一度その総身を震わせた。

 振り返った彼女の視線を感じつつも、そのままの姿勢で爆豪は続ける。

 

「何をビクビク怯えてっかは知ったこっちゃねェがな。ここで逃げる気ならブッ殺した上で麗日の前に叩き出してやるからそう思っとけ」

「あ…………あなたこそ! ……緑谷さんに、伝えることがあるんでしょう?」

 

「……ああ。だから俺はてめェの先に行く」

「…………」

 

 それだけを言い切り、爆豪は視界の先に居るクラスメイト達の元へと歩き去っていく。

 その背中をじっと視界に映していた彼女は、やがて小さな呼気と共にその場から飛び立った。

 

 

「…………ありがとう、爆豪さん」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ―――ビルの影から影へと、音も無く空を滑る一つの人影。

 夜闇と風の音の中、彼女の手に握られているのは、手のひらほどの無骨な端末が一つ。

 

「緑谷出久の連れ戻し……無事、成功しました。じきに級友達と共に雄英に辿り着くでしょう」

 

 端末を耳元に、その先にいる人物へと彼女は朴訥とした声音でそれを呟く。

 

 

「それにしても……よくまあ私にこんなことをやらせようと思いましたね―――根津校長?」

『君ならやってくれると思っていたからね! 『干渉』君!』

 

 

 『秘匿通信デバイス』。

 その名の通り、傍受不可能な電波に乗って届くHAHAHAの声に、彼女は今一度、辟易を込めて息を吐いた。

 

「こちらとしては願ったり、ではありましたが……この機に一つ、聞いても良いでしょうか?」

『HAHA……おや、何かな?』

 

 

「通子ちゃんを介して私と連絡(コンタクト)が取れる―――こんなこと、どうやって確信に至ったんです?」

 

 

 『干渉』の頭を過るのは、彼方より半身から伝えられた、予想だにしていなかった申し出。

 対外的には脱獄者という立場で、どうやって接触するかと思案していた身として、渡りに船、と認識できれば気楽で良かったのだが。

 

「接触を図って来たのが雄英校長(あなた)だった以上、私に否やは無かった……けれど不気味に思ったのは確かだったわ」

『ああ、そのことかい? 要因は様々あるが……まず第一に、肉体から離れた"個性"を介した連絡はキミ達の専売特許では無いのさ』

 

「…………えっ」

 

 かつての肉体と"個性"の間に発生した同調(シンクロ)現象。

 悍ましい悪意の果てに生まれた奇跡、という認識の中へ飛び込んできた事実に、さしもの彼女も思考を止めた。

 

『OFAにも同じ現象が確認出来ていたのさ。時期としては三月の決戦のすぐ後だね』

「…………既知の現象だった。それは理解したわ。……けれどそれじゃ、まだ足りない」

 

 自分達だけだと思っていた『症例』が他に存在していたことに少なからず衝撃を受けながらも、『干渉』は尚も疑問を言い募る。

 

 

「結局、私と通子ちゃんをどうやって結び付けたというの? あの子は―――」

『反射ヒーロー リフレクションこと、反向(そりむき)射子(いるこ)の娘、だろう?』

 

 

 端末の向こうで息を呑んだ『干渉』に、根津の返答は続く。

 

『本人の申告した名前にヒーローの母を持つという証言。それに国内一のヒーロー輩出校校長たる私の伝手を活用すれば特定は容易だったさ』

「…………」

 

『物証が揃えば後は組み立てさ。幼くして脳無へと改造された少女に指示や知識を与え得る手段、その知識の範囲、そして"個性"の類似性……キミ達二人が意識の同調(シンクロ)を行っているという結論は、ごく自然な思考の流れだったのさ。……私にとっては、と枕に付くけどね』

「……根津校長」

 

『何かな?』

「私はあなたが恐ろしい」

 

『これは参ったね! HAHAHA!』

 

 始めの内とは違った方向に疲労を滲ませる『干渉』に、根津は一段高くなった笑い声を返す。

 しかし暫しの喜色から一転、重みを増した口調が同じ声で紡がれた。

 

『……私の方こそ君を恐れているところはあるのさ。約十一万立方メートル空間内の物体を自在に操る"個性"……敵に回れば対抗し得る手段は限りなく乏しい。奴より先に君を押さえられたのは、紛れもない幸運だったと思っているよ』

「……そこは、通子ちゃんに感謝してください」

 

 根津の言葉に対し、『干渉』が声音に乗せたのは、それに酷似すらした畏怖の色。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だなんて、私にだって想像の遥か彼方でしたよ」

 

 

 時間と肉体、両方に余裕が無かったが故か、はたまた流石の巨悪も()()は頭に無かったか。

 死柄木と共に決戦場から逃れたニア・ハイエンド達を追う形で、『少女』はあたかも遅れて合流したかのように最後尾に付き、そのまま疑われることもなく潜入に成功していた。

 

 そうして巨悪当人が自身の肉体と合流する僅かの隙を付き、『少女』もまた肉体と"個性"の再会を果たしていたのである。……構図は逆だったが。

 監視体制の強化により、眼前にするまでそれを感知出来なかった彼女は、目を白黒させながらも『少女』と共に脱獄を果たしたのだった。

 

『……それでいて、戻った後はシレっとミルコ君と合流していたし……何とも肝の太い子なのさ』

「……あれを見ると、やっぱり私は記憶を僅か継いだだけの"個性"なんだと実感するわよ……」

 

 今頃はA組ヒーロー科の中で無邪気な十歳児をしているだろう『少女』を思い浮かべて、彼女は薄く苦笑いを浮かべる。

 端末越しにそれを感じた根津も、乾いたHAHAHA……の一声でそれに応えた。

 

 

『―――さて、時間的にそろそろ目的地に着く頃じゃないのかな?』

「……本当にどんな頭脳をしているんですか、あなたは」

 

『そうだねえ、私も気になるよ! 私を私足らしめているのはこのネズミの小さな脳味噌なのか、はたまた"個性"『ハイスペック』君なのか! 君の時間が取れれば確かめてみたいところだね!』

「……まあ、私は、構いませんけど」

 

 反応し辛い返答に目頭を押さえつつ、『干渉』は眼前に佇む()()へと目を向ける。

 彼女にとっては馴染み深い、そして馴染みたいとはただの一度も思わなかった()()()()()へと。

 

『……しかし、頼んだ身で言うのもなんだが、本当に可能なのかい? 警備室にて囚われた当人の生体認証による停止作業を行わない限り、入る事も出る事も不可能だと聞いているのさ』

「ああ……それなら問題無いわ。何せ、前例があるもの」

 

『……前例?』

 

 彼方で首を傾げた根津へと、彼女―――"個性"『干渉』は静かに言い放つ。

 

 

「おかあ……母が父を(たす)け出す時に通った道だもの。母の"個性"『反射』の上位互換である"私"に出来ない道理はないわ」

 





 『増力』(+N)+『反射』(×M :: -1 <= M < 0)=『干渉』

 【加速】:+N
 【減速】:+N × M(-1 = M)
 【反射】:×M(-1 <= M < 0)
 ※イメージです。

 反向(そりむき)射子(いるこ)さんはオリキャラです。ただし『反射』さんは原作キャラです。
 具体的には原作333話に一コマだけ出演していますね。


 今話およびC4-12話は急なプロット修正により生まれた回でした。
 原作において当人曰く何のエビデンスもない勘によって超々大規模改装をやれちゃう根津校長は辻褄合わせに便利過ぎるのです。

 そして修正のしわ寄せを受けるAFOさん。微妙に間抜けになっちゃいました。すまぬぇ……
 でも流石に全個体を把握してるとは思えないんよ。特に(ニア)ハイエンド達は当人の投獄中に完成した(完成したとは言ってない)個体の筈ですし。
 原作より生き延びた個体数が増えて一体の価値が相対的に下がったのも一因ということで。

 またもう一つ本作での解釈としまして、

Q. 合宿でラグドールに『視』られた記憶が残ってるはずだし、タルタロス襲撃時に『干河歩』が獄中に居たことAFO側にバレてない?
A. 『サーチ』に100人までという制約があること、および原作343話のAFOの台詞からして病院跡より撤退する際に追い縋ったヒーローを記憶していたということなので、そのタイミングで多少の取捨選択があっただろうことが想定出来ます。
 そうなると40人分の枠を埋める雄英1年生の情報など、緑谷くん以外は一人残しておけば十分と考えたとしてもおかしくはありません。
 それなら内通者の記録を残すのでは? というのもありますが、原作青山くん一家が内通者バレした後で一度セントラル病院にて精密検査を受けていますし、短期間にしろ拘置所にも入れられていたようなので、彼の記録が残っていたならその辺りで違和感を与えた筈です。即ち残してあった記録は彼以外の誰かのものである可能性が高い。
 その中でも隠密能力に優れた葉隠さんの記録を残していたというのが原作335話の描写である、ということで一つ。




 原作では頑張る緑谷()の邪魔になりたくない、という理由からしまっとくちゃんになる麗日さんですが、本作ではオリキャラの影響で早い段階から隣に立つことを望むようになっていました。
 秘密の共有、OFA制御と、積極的に彼に協力し、同じ景色を見ることが出来ている、という認識でいたところに蛇腔決戦及びその後の緑谷失踪です。
 これで色々と情緒が爆発した結果が、本作の河原で決闘ルートでした。
 原作でも頭に沸いた雑念への対処が己にグーパンだし、変なところで漢らしいんよね、この子。

 この後、例の麗日さん見開きページです。止まらないヒロインの歩み。
 本作では変化が無いのでカットしますが。


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C5-5 十三階段


 それは『彼女』が想い焦がれた―――



 

 

《―――どうしてこんな事をするの?》

 

《あなたはあの子の力、あの子の"個性"でしょう?》

 

《今まで育てて貰ってきた恩まで忘れてしまったというの?》

 

 

《―――それが今、何の関係があると言うの?》

 

《ああ、そうだわ、あの人は? 増太(そうた)さんは今どこに?》

 

《あの人に何かあったら、絶対に許さないわよ!》

 

 

《―――何? あの女がどうかしたの?》

 

《ええ、そうよ。あの女は『叔父様』が退()()してくれたわ》

 

《それは当然の報いというのよ。愛し合う二人を引き裂こうとしたんだから》

 

 

《―――あの人を愛しているのは私、あの人が()()()()()も私なの》

 

《あの女のせいで、あの人は一度だけ間違えてしまったみたいだけど》

 

《それぐらいは許してあげないとね。ちょっとした間違いぐらい、誰にでもある事だもの》

 

 

《―――大丈夫よ。あの人はちょっと疲れて眠ってしまっているだけ》

 

《清く正しく生きてさえいれば、人は必ず報われるの》

 

《最後には必ず、愛は勝つんだから!》

 

 

 

 

「もう、いい」

 

「もう何も、考えるな」

 

「何も、『伝えて』くるな」

 

 

「お前には、もう何も…………期待しないから」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――干河心美の、護送。……完了したわ」

 

 どこか疲れ切った少女の声色が、秘匿された電波に乗せて彼方へと向かう。

 

「しかしあの女を何に使うご予定なんです? 根津校長」

『そこは仕上げを御覧じろ、というヤツさ!』

 

 彼女の眼前にそびえる壁の向こう、雄英校長室に座る白鼠はその送り先でHAHAHAと笑った。

 

『身内に"個性社会の闇"に繋がる存在が居た、などと喧伝するわけにいかなかった干河家は彼女を全力で()()()()()()にしたのさ。当主の代替わりも恙無く……いやぁ、良いタイミングだったね』

「……それで?」

 

『シェルターじみた屋敷に囚われた彼女を誰も救助出来ず、また干河家の意向によってそれ自体も瞬く間に打ち切られ、隠蔽された。その去就を知る人間は極端に少なかったというわけさ』

「……まさか、まだAFOと繋がる可能性があると?」

 

『……細い筋であることは否めないのさ』

 

 採れる手段は採る、とばかりの意思を声に込め、『個性社会の偉人』は言葉を続ける。

 

『君が奪った干河心美の端末に()()()通話記録は一つも無かった。常に連絡は()()()だったことの証なのさ。そして奴自身もここ暫くは監獄の中、連絡を出来た筈は無い』

「…………」

 

『そして奴最大の目的であるOFA継承者(緑谷出久)が雄英の守りの中に戻った。これまでは何度か彼に刺客を差し向けていた訳だが、こうなれば次に持ち出す手は容易に想像出来るのさ』

「……分かっていて、なのね」

 

『ああ……避難民の中にも相応の信奉者が居るのは調べるまでもなく明らか。そして我々に彼らに対して起こせる行動は何も無いのさ』

 

 一段落とした声音で、しかし決然と彼は語る。

 彼女もまた、無言のまま続きを促した。

 

『……干河家の要望に応える形で、干河歩の現状についても事実を知る人間は限定していたのさ。外からどのように調べようとも、干河歩(キミ)は級友達と共に雄英に通っていたことになっている』

「えっ」

 

『奴は今まで何度か母親を通して娘に指示を送り、必要な情報を得ることに成功している。手段の一つとして再び採用したとしても不思議はないのさ』

「……成程。利用価値が残っている可能性は理解したわ」

 

 根津の理屈には頷いた上で―――やや戦慄しつつ―――しかし、と『干渉』は問い返す。

 

「話してみれば……いえ、対峙してみれば分かるでしょうけど、あの女は心からAFOの信奉者よ? 接触があったとして、こちらに協力させられるとは思えないのだけど」

『それも問題無いのさ! 既に手段は確保済み。それも奴にも恐らく判別不可能な手段をね!』

 

「…………だったら、良いですけど」

 

 思わず目頭を押さえて俯く『干渉』の耳に、再びHAHAHAの笑い声が届く。

 そのまましばし哄笑を聞いていた彼女は、その声音に重い響きを乗せて呟いた。

 

「……根津校長」

『何かな?』

 

 

「何故あなたは……そこまで私を信用出来るんですか?」

 

 

 問いかける声に滲んでいたのは、隠し切れない懇願の響き。

 しばしの沈黙で彼女(生徒)の想いを受け止めた後で、根津(教師)はゆっくりと口を開く。

 

『……そもそも方向性を問わなければ、全く信用の置けない人間などそうはいないのさ』

「方向……?」

 

『金銭、命、誇り……何か一つでも大切に想うものさえ分かっていれば、それに対する行動原理は信用を置くに値する。人間とはそういう生物なのさ』

 

 ―――ヒト(人間)以上。

 その肩書を与えられた背景に、黒々とした過去を持つネズミ(根津)は、どこか厭世的にそう語る。

 

 

『君が何よりも大切にしたいもの。それは現在、私の手中にある』

「……っ!?」

 

『そうである限り、君は私を裏切らない。そう判断しただけなのさ』

「…………偽悪的な」

 

『大人の義務さ! ……それに、甘い言葉が欲しかったわけじゃないんだろう?』

「…………」

 

 

 黙り込む『干渉』に向け、根津は尚も言葉を紡ぐ。

 傍から見れば突き放すようで、それでいて行く道を見失った子供を諭すかのように。

 

『……話は既に通してあるのさ。君も帰っておいで、雄英(我が校)に』

「あ……」

 

『そして行くと良いのさ。遠慮せずに』

 

 

『君が望み、君が選んだ―――()()()()へ』

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ―――ノックの音がした。

 機嫌を窺うような、逃げ出したがっているような、そんな小さな音が、トントン、と。

 

 

「歩ちゃん……じゃないね。『干渉』さんだよね、やっぱり」

「…………ええ、私よ。お茶子さん」

 

 

 扉一枚を挟んで行われる、どこか張り詰めた空気を含んだ会話。

 部屋の中から幾らか物を動かす音が立てられた後で、再度部屋主の声が静かに響いた。

 

「……ん、入ってええよ」

「……お邪魔します」

 

 扉を開け、部屋に足を踏み入れた『干渉』を迎えたのは、飾り気に乏しく質実な居住空間。

 見覚えのある家具が多少配置を変えているだけだと気付いた彼女は、一瞬息を詰まらせた後で、ゆっくりと後ろ手に扉を閉めた。

 

「「…………」」

 

 彼方、机を挟んで座椅子に座り、此方、閉じた扉を背に立ち尽くす。

 やがて部屋主の無言の目配せに頷き、訪問者は机を挟んだ正面へと腰を下ろした。

 

 

「……あの、お茶子さ―――」

「心配したんよ?」

 

 沈黙に耐えかね彼女が出しかけた声に、被せるようにして麗日は言い募る。

 

 

「あんなメール一つで、いきなりお別れやなんて言うて。それからいっこも返事くれんくなって」

 

「どこにおるん? 何をしてるん? ……って、どんだけ調べても嫌な情報ばっかり入ってきて」

 

「かと思とったらいきなりあんな電話……デクくんの為やからって聞くんは後にしたけどやなぁ」

 

 

 問い掛け毎に視線を落とし、『干渉』は次第に項垂れていく。

 下げられていく彼女の頭を、麗日は憮然とした表情で見下ろした。

 

「……ねえ、歩ちゃんは今、そこに居るん? いつかみたいに、眠ってるんやんね?」

「っ……ええ。眠らせて……いるわ」

 

「それなら、歩ちゃんとも話させてよ」

「そう……そうよね。分かってるわ……」

 

 惑うように、迷うように、視線を左右に泳がせて。

 おずおずと麗日の前に差し出されたのは、右腕の手の平。

 

「……!」

 

 意図の理解に、麗日が掛けた時間は一瞬。

 今にも逃げ出しそうなその手を、彼女は引っ張るように手に取った。

 

「…………ねえ、お茶子さん」

「! 『干渉』さん?」

 

 身構えていた言葉と異なる響きに、麗日は小さな驚きと共に視線を上げる。

 そんな彼女に手を握られたまま、『干渉』はポツリポツリとこぼれ落ちるような呟きを続けた。

 

 

「……この世は悪意で満ちていて、それ以上に悍ましい善意に溢れてる」

 

「真実を知ることは必ずしも良いことではないし……あなたに後悔もして欲しくない」

 

「それに、私は……あなたに…………っ」

 

 

「『干渉』さん」

 

 握った手を見つめ、次に逸らされる『干渉』の顔をじっと見据えて。

 やがて麗日は、まるで迷子の子供にそうするかのように、グッと握るその手に力を込める。

 

「覚悟は、してるから」

「…………そう」

 

 握られたその手に、向けられるうららかな微笑みに、『干渉』は唇を引き結ぶ。

 もう一度、何秒にもならない時間、瞼を閉じた彼女は声を震わせながら囁いた。

 

 

「誰にも……今日まで誰にも話せなかった、私の秘密。……聞いて、くれる?」

「……うん」

 

 

 

 

「―――【面会(ディグアウト)】」

 





 二度目。


 以前、感想欄でも要望を頂いていましたね。ようやく応えられます。


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C5-6 まちがい


 答え合わせ、その三。



 

「―――これが、私から見た、全てよ」

 

「……何もかも事実よ。少なくとも、私にとっては」

 

「…………」

 

「……ええ、少し時間を置きましょう、お茶子さん」

 

「それから『無重力(ゼログラビティ)』さんは……そう、分かったわ」

 

 

 

 

「―――ねえ、お茶子さん。本当に、聞くつもりなの?」

 

「……ええ、まあ……そうなのだけど……」

 

「…………」

 

「……もう、良いんじゃないかしら? お茶子さんだって、そんな顔で……」

 

「…………そう。そっか……」

 

 

 

 

「―――私は……諦めて、見限ったわ」

 

「それに、変わらないと思うわよ? たとえあなたの言葉であっても」

 

「…………」

 

「……それでも? ……分かったわ」

 

「それじゃ、少し待っていて」

 

 

 

 

「―――今、(あゆみ)を起こすから」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「ぁ……?」

 

 ゆっくりと、開かれた瞳に映し出される真っ白な部屋。

 パチパチと繰り返された瞬きの後、眼前でその顔を覗き込む人物に、黒い瞳が見開かれる。

 

 

「お……お茶子ちゃぁぁんッ!?」

「……歩、ちゃん」

 

 

 縋るように飛びついて来た親友を、麗日は支えるように受け止める。

 数秒、そのまま親友に縋りついていた彼女は、ふと何かに気付いたように辺りを見渡した。

 

「ここ……【面会(ディグアウト)】の……それじゃ―――ひぅ!?」

「…………」

 

 そうして視界に入った『干渉』の姿に、彼女は悲鳴と共に身を強張らせる。

 その様子を冷めた瞳で一瞥した『彼女』は、何を喋ることもなく視線を背けた。

 

 

「……歩ちゃん」

「お、お茶子ちゃん! 聞いてください! 『干渉』がひどいんです!」

 

「歩ちゃん」

「お母様の事とか、おじ……お父様や、わたしの……それに、相澤先生も―――」

 

「歩ちゃん!」

「っ!?」

 

 

 肩を掴み、揺さぶる様な呼び掛けを受けて、彼女は驚いたように口を閉ざす。

 そうして向けられた不思議そうな顔へと、麗日は痛みすら感じさせる表情で問いかけた。

 

 

「『干渉』さんが……お義姉(ねえ)さんの"個性"やったっていうのは……本当なん?」

「…………え」

 

 

 激情を必死に抑え込む麗日の瞳を、彼女はどこかぼんやりと見つめ返した。

 眼前に露わになったそんな様子に、やがて麗日の口から堰を切ったような叫びが溢れ出す。

 

 

「助けてくれた『叔父様』いうんが、オール……っ、"個性"をくれたっていうのは本当なん!?」

「お、お茶子ちゃ……」

 

「お父さんが、"個性"を使ってる姿を見て倒れたって……それを……っ!!」

「え、あの……」

 

「お義姉さん、が……生まれたのを間違いやなんて……本当に、そんなこと言うたん!?」

「…………」

 

 

 降り注ぐ問い掛けに返されるのは、()()()()()()()()()

 数度、答えを求めるように彷徨った視線が、再び『彼女』の姿をそこに映す。

 

 

「…………『干渉』!? お茶子ちゃんに何を―――」

「ッ! 私は! 歩ちゃんに聞いてるんよっ!!」

 

 

 

 

「―――だから、無駄だって言ったのよ」

「っ!」

 

 小さく、小さく、口の中で溢された呟きを聞いたのは、傍らに座るもう一人の"個性"。

 

「私だって……最初から恨んでいたわけじゃない。憎んでいた、わけじゃない」

「『干渉』ちゃん……?」

 

 持ち主とよく似たうららかな眉を下げ、『無重力』は『干渉』の声をただ受け止める。

 

「歩は……何も知らなかった。何も、悪いと思えるはずがなかった。分かっては、いたの」

「…………」

 

「でも……それでも……っ!」

 

 

 

 

「……なあ、歩ちゃん……? 嘘やって、言うてぇな……」

「お茶子、ちゃん?」

 

 瞳に涙を滲ませながら、麗日は諦められない思いで尚も問いかける。

 絵に描いたような無理解を宿す表情には、嘆く親友への困惑ばかりが浮かんでいた。

 

「本当に……ほんまに歩ちゃんは、分からへんの……?」

「分か、る……? 何を……」

 

「『干渉』さんが! 怒ってる理由が! ほんまに分からへんのって聞いてるんよぉ!?」

 

 

 

 

「……歩の中で、『お母様』は絶対なのよ。どこまでも」

 

「『お母様』から教えられたことこそ、世界の真理。世界の真実」

 

「どんな価値観に触れさせようとも……自尊心を傷付けて、歩の中の私の優先順位を上げさせようともしたけれど、そこだけは変えられなかった」

 

「だから…………だから、私は―――」

 

 

 

 

他人(ひと)の命を、意思を! 踏み付けにしてたお母さんが! それでも正しいって思ってたん!? 一度でも間違ってるんじゃないかって、歩ちゃんが思ったことは、ほんまに無かったんッ!?」

 

 

 

 

「…………お母様は、間違ってなんか、いないです」

 

 

「ッ!?」

「! おちゃこっ!」

「…………」

 

 一歩、二歩。

 後退り、へたりこむように崩れ落ちた麗日の元へ、『無重力』が駆け寄っていく。

 双方にそれぞれ一度だけ目を向けた『干渉』は、ただ黙って顔を背けた。

 

「間違って、ないです。だって、間違いなのは、お義姉様で、だって、だから、だって―――」

 

「歩、ちゃん……」

「……ここまで、ね」

 

 今一度、瞳を揺らし彼女を見上げる麗日の様子を見遣り、『干渉』はゆっくりと席を立つ。

 諦観、侮蔑、憎悪を混ぜ込んだ表情のまま、『彼女』は呟き続ける彼女に手を伸ばし―――

 

「だって、お母様が、間違いなら。お義姉様が、間違いじゃない、なら」

 

「「っ!? 待って!」」

「……っ」

 

 麗日と『無重力』、声を揃えた制止の言葉に、『干渉』の足が止まる。

 『彼女』もまた、その口から漏れた聞いた覚えのない思考の流れに疑問を抱き―――

 

 

 

 

「それじゃあ…………わたしが生まれてきたことが、()()()()()()じゃないですか」

 

 

 

 

「…………ぁ」

 

 金髪の少女が、その黒い瞳を見開く。

 

「あ゛、あぁ……」

 

 何も知らず、何の咎も無かった少女へと、突き付けていた事実に。

 

「なんで、わた、し……きづ、ぁな……!?」

 

 

 受け入れろ、気付けと、その心の臓に宛がい続けていた絶死の刃に。

 

 

「これ、じゃ……わたし……あのおんなと、おな、じ……っ」

「か……『干渉』さ―――」

 

 

「ねえ、お茶子ちゃん?」

 

 

 糸の切れた人形の如く椅子に崩れ落ちた『彼女』に、麗日が駆け寄ろうとしたその瞬間。

 温度の一切が排された呟きが、彼女の口からも溢れ出す。

 

 

「わたしが、生まれたこと……わたしの何もかも全部……間違い、だったの……?」

 

「ぜんぶ……わたし、さいしょからぜんぶ、まちがえ、て……!?」

 

 

 擦り硝子の如き瞳から、滂沱の涙を流す青髪の少女。

 覆った瞳の下から、呆然と嗚咽を漏らす金髪の少女。

 二人の友人の、砕け散る寸前のような姿に、麗日の思考は真っ白に染まる。

 

(あ、歩ちゃん……! 『干渉』さん……!)

 

 二人それぞれに対して、掛けたい言葉は自身の中に確かにある。

 されど今、どちらかに対して自分が動けば、残された方は()()すると直感は彼女に訴える。

 

(ど、どうしたら……どっちも、見捨てるなんて出来るわけ―――)

 

 

「おちゃこ!!」

 

 

 掛けられた声に振り向けば、そこには強く光を放つ眼差しを向ける己が半身。

 大きく目を見開いた麗日は、しかし迷いを断ち切るように口を開く。

 

「……お願い!」

「まかせて!」

 

 駆け出した二人それぞれが、涙を流す二人の肩を掴む。

 微かに顔を上げた友人へと、麗日は、『無重力』は、声を張り上げた。

 

 

 

 

「―――私は、歩ちゃんに会えて良かった!」

「―――『干渉』ちゃんが、おちゃこと出会ってくれて良かった!」

 

 

 

 

「一緒に雄英に通えて楽しかった! 同じ悩みを話し合えて嬉しかった!」

「おちゃことお話出来て嬉しかった! 一緒に頑張れるようになって楽しかった!」

 

「歩ちゃんと一緒やったから! どんな苦労をするんも、辛くなかった!」

「『干渉』ちゃんがいてくれたから! わたしがおちゃこを苦しませてたの、なくなった!」

 

「いつも一緒に笑い合って! 一緒に泣いて……! 一緒に頑張れるんが幸せやった!」

「今までよりずっとおちゃこの役に立てるようになって……ずっとずっと幸せだった!」

 

「歩ちゃんが生まれてきたこと、全部が―――」

「『干渉』ちゃんが頑張ってきたこと、全部が―――」

 

 

 

 

「「間違いやったわけ、あらへんよッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………『干渉』」

「……歩…………?」

 

 

 ポツリ、と。

 溢された呼び掛けに、『彼女』もまた呆然と応える。

 歩と『干渉』、双方の()()宿()()()瞳が視線を重ね―――

 

 

 

 

「…………ごめん、ね?」

 

「っ、ぁ」

 

 

 

 

 金髪の少女の姿が、靄を纏うように崩れ始める。

 

「わた、し、は…………」

 

 開かれた黒瞳は微かに震え、冷めていた声音は一段高く。

 

「ずっと……私は、ずっと…………っ」

 

 

 響き渡ったのは、血を吐かんばかりの叫び。

 

 

「謝り、たかった……ずっとあなたに謝りたかった! あなたが悪いんだって言い訳して……先に謝るもんかって、意地張って!!」

 

「気付いて欲しくて……わたしにこれだけひどい事したんだって、あなたに気付いて欲しくて!! 始めはただそれだけだったのに……なのに、わたしは……っ!」

 

「あなたの人生をグチャグチャにした!! あなたが気付かないのを良いことに、見えないところばかり傷付けた! 全部、何もかも……取り返しが付かなくなるまで!!」

 

 

 靄が晴れたそこに座り込んでいたのは、傍らで寄り添う"個性"にも似た一人の幼女。

 

 

「わたしがまちがえてた……はじめから、なにもかも……! ……ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……っ」

 

 

 

 

「ごめんなさい…………あゆみ、おねえちゃん」

 





 求めたのは、ただ一言。




 伏線的なヤツのコーナー……は、要らないですね。

 それでは皆様、良いお年を。


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C5-7 "歩"寄り


 決戦前の真意表明回。



 

《―――正直に言うと、まだよく分からないんです》

 

《お母様が、本当に間違っていたのか。わたしが……何を間違えていたのかって》

 

《でも……わたしが見ていたモノが、どこかズレていたんだなって》

 

《わたしがずっと、『干渉』を怒らせていたんだって》

 

《『干渉』が……ずっと、苦しんでいたんだってことだけは……分かった、気がします》

 

 

《だから…………もう少しこうして、後ろで見ていても良いかな?》

 

《わたしの、何がおかしかったのか。どうするべきだったのか……ゆっくり考えていたいから》

 

《これから当分は……わたしが『干渉』の"個性"だよ? なんて……えへへ》

 

 

 

 

「…………分かった、わ」

 

「あなたが……それで良いなら、もう暫くは……」

 

 

「…………何よ、その目は?」

 

「可愛かった? あ、あのねぇ……」

 

「……う、うるさいわね!? そう簡単に剥がれる外面じゃないんだから!」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――今、時間あるかしら? 緑谷さん」

『かんっ……干河さん? じ、時間ならあるけど……』

 

 雄英敷地内の一角、各種カメラ類の死角となる林の中。

 携帯電話を片手に、同じ敷地内にいる級友へと通話を掛ける『干渉』の姿がそこにあった。

 

「ああ、周りに……まあいいわ。そこに耳郎さんや爆豪さんが居るならついでに伝えてもらえる? 私達の全部、お茶子さんには聞いてもらったって」

『っ!? う、麗日さん、は……』

 

「……特に口止めはしていないわ。お茶子さんが話してもいいと思った相手には……とだけ。言うまでも無いだろうけど、無理矢理は聞かないであげてよね」

『…………』

 

 電話の向こうで絶句する緑谷に対し、彼女が初めに浮かべたのはその憂いを払拭する一言。

 しかしそれを伝える直前になって、ふと思い立った彼女は薄い笑みと共に別の言葉を口にした。

 

「……勿論相当に衝撃を受けていたわ。時間があるなら、お茶子さんの部屋に向かってもらえる? 今、彼女を支えられるのは緑谷さんだけだと思うのよ」

『え!? そ、それは……』

 

「女子棟に踏み入るのが不味いというなら、耳郎さんに事情を話せばきっと協力してもらえるわ。あなたが辛いときに手を引いてもらった分を返せるいい機会よ」

『い、いやそれは……ええっと……!?』

 

「……何よ? 煮え切らないわね。まさかあなた、この期に及んで―――」

 

 先日までの行動力は何処へやら、迷うような呟きを漏らす緑谷に、『干渉』が眉を吊り上げる。

 今一度、発破の一つもかけようかと彼女が口を開きかけた瞬間、彼の返答は届いた。

 

『干河さんは、大丈夫なの……? その、さっきからずっと声が震えて……』

「……っ」

 

『もしかして今、泣いて―――』

 

 驚きと共に視線を上げた『干渉』の頬から、幾筋もの雫がほろほろと落ちる。

 羞恥に近い感情から口元を一度歪めた彼女が、眦を上げて選んだのは―――

 

 

「そういうことは気付いても口にはしないものでしょうが! 男なら!!」

『うえぇ!?』

 

 

 泣きギレであった。

 そして割と理不尽な八つ当たりであった。

 

 

「この際、言ってしまうけどね! あれから半年も経ってるのに何で一ミリも進展してないの!? お茶子さんに何か不満でもあるって言うの!? あんな分かり易い矢印をどうして見逃せるのよ、この鈍感! 朴念仁っ! クソナードッ!!」

『ク……!? な、何で干河さんまでそれを……!?』

 

「やっぱり他からも言われてるんじゃない!? 爆豪さんだろうけど! そんなんじゃ、いつまで経ってもお茶子さんを……ええい、いいからさっさと行ってきなさい!」

『ちょ、ちょっと干河さ―――』

 

 

 ブツン、と。彼女の指で通話が切られる。

 目元を拭いながら荒れた息を整える彼女を、()()()()()()が迎えた。

 

《……『干渉』?》

「……待ってごめん違う、これは参考にしちゃダメ」

 

《あはは……難しいなあ》

 

 ばつの悪い表情で目元を覆う彼女を、その『内』から苦笑いでつつく『()()』。

 実に賑やかなその『内面』を隠すが如く、彼女は林の中に蹲った。

 

 

 

 

「……っ」

《! 何の音?》

 

「秘匿通信デバイスによる連絡よ。……根津校長から、ね」

《えぇ……何でそんなもの……》

 

 携帯電話を仕舞い込み、代わりに取り出された無骨な端末に目を剥く『彼女』。

 そんな『彼女』を余所に、彼女は呼び出し(コール)に応え、端末を耳に当てる。

 

「何か進展がありましたか? 根津校長」

『あぁ、()()()()()()()()()のさ』

 

 根津の口から語られたのは、全てが彼の描いた通りになったという報告。

 強固な守り(雄英)の内へと戻った緑谷出久(OFA継承者)を誘き出すべく、伸ばされた『魔王』の手が健在であるはずの信奉者へと届いたという報せであった。

 

 例によって指令は、同じく機能しているはずの内通者へと向けたものであり。

 万全を期すべく、と銘打ってその当人の連絡先を所望され。

 結果として何の違和感を持たせる事も無く、()()()()()()()()ことに成功したと根津は言う。

 

『―――そんなわけで君には、急ぎ指定した場所で心操君と合流してもらいたいのさ!』

「心操……確か体育祭で……成程、タネはそういうことでしたか」

 

 最後の『詰め』に関する打ち合わせを言葉少なに行い、『干渉』は了承を返す。

 それで要件は終わりかと彼女が思っていたところで、根津の呟きがその耳朶を叩いた。

 

 

『……時に質問なんだが、君に復学の意思はあるかい?』

「……そもそも籍が残っていたことこそ予想外だったんですが?」

 

 

 投げられた問いに『干渉』が返したのは、やや胡乱な響きを含んだ応答。

 心外とまでは言わないものの、想定と異なる立場を与えられていたことに対する懐疑を、彼女はこの機にとばかりに吐露していく。

 

「今は緊急時だからと目溢しされていますが、事が済めば私は再び監獄行きでしょう。おそらくは崩壊したタルタロスに代わって建造される新たな牢獄に。そんな人間が復学など可能だと?」

『だとしても、そう長い期間にはならないと思うよ?』

 

 対して根津は例によってHAHAHAの笑い混じりに、己が見解を述べていく。

 

『そもそも干河歩(キミ)の罪過はそう重いモノでもないのさ。最初の取り調べで判明した思想から危険と判断されたのは確かだが、減刑酌量の余地は十分にあった』

「……ええ、ですが……」

 

『そして、二回目以降は取り調べが成立しなかったと聞いているのさ。肉体が覚醒状態であるにも関わらず意識が確認出来ない、と。……これは君が彼女の意識を封じていたからなのだろう?』

《……!》

「……ええ、そうです」

 

『当時の彼女の答弁によって、それ以上の罪過が確定する事を防ぐ為。君の操り人形という印象を強化する事による心証回復。加えて牢獄における(なが)(いとま)()()()()()()()()()()()()()()()()。……この辺りが君の真意だったと私は見ているのさ』

《あ……っ》

「……買い被り過ぎですよ。それに、結局は……」

 

『脱獄向きな"個性"の持ち主であること、奴の残党にも近い扱いだった(ヴィラン)連合の隆盛と、拘留を長引かせざるを得ない理由が重なったのも不幸だったね。確定もしていない罪に対して随分な扱いを受けることになってしまった』

「…………それでも、私は……」

 

『意思持つ"個性"の反逆……それこそ立証など不可能さ。君が背負おうとした十字架は、そもそも君にしか見ることも触れることも出来ない代物だったんだよ』

「…………」

《『干渉』……》

 

 

『それに、だ。……和解出来たんだろう? 干河歩君と』

《……わぁ》

「……幾ら何でもそれが分かるのはおかしくありません……?」

 

『そうでもないさ! 私にとってはね!』

 

 

 耳に響くHAHAHAの哄笑に、いよいよ『干渉』は頭を抱える。

 再度、《わぁ……》と呆気に取られたような呟きが、抱えたその頭の中で響いた。

 

『―――さて、質問に戻るが、どうだい? 復学の予定はあるのかな?』

「…………いえ、少なくともヒーロー科に戻る意思はありません」

 

 投げられた問いを改めて思案し、『干渉』はゆるく首を振る。

 一瞬、頭の中へと思考を飛ばした後で、やはり()()()は迷い無く返答した。

 

 

「《―――私達にヒーロー(彼ら)は遠過ぎますから》」

 

 

 

 

『では、普通科への転科希望ということだね!』

《えっ》

「…………そう、なります?」

 

『まあ、どのみち出席日数が足りないから再び一年生からだけどね! HAHAHA―――』

 

 

 

 

《……切って良かったの?》

「今のは大丈夫よ」

 

《……難しいなあ》

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

『―――お姉ちゃン?』

《!? この声……》

「ああ、歩にも聞こえるのね。……どうかした? 通子ちゃん」

 

『ンーン。ドうしてるかなっテ。……今の声ガ、歩ちゃン?』

《通子……お義姉様?》

「…………ええ、そうよ、歩? 彼女が……」

 

『お姉ちゃン? ワタシが()()ナッタことについテ、歩チャんは何も悪くナイでしょ?』

「そう、ね。……そうだったのよ。……そうだった、のにね」

《『干渉』……》

 

『それよりモ、聞いテ? オ姉ちゃん。ワタシ、A組の皆に、遊んでもらっテたんダよ?』

「そっか……楽しかった?」

 

『ウン、楽しかったヨ! エっとね―――』

 

 

『芦戸お姉ちゃンと葉隠お姉ちゃンはネ? プニプニしてて面白いッテ、代わり番こに抱き上げてクれたの。寮の中に水が散っちゃッテ、チョっと怒られてタよ』

 

『デも梅雨お姉ちゃんは……ア、そう呼んでッテ言われたんだケドね? 湿気が肌に合うわっテ、喜ンデくれたノ』

 

『それカラ飯田お兄ちゃんが肩に乗せテ寮の周りを走ってくレタの。景色がビュンビュン変わってトッテモ楽しかったなァ』

 

『尾白オ兄ちゃんには、尻尾を触らセテってお願いしたンダけど……びしょびしょにしちゃっテ。でもゴメンなさいしたラ笑って許してくれたんダよ』

 

『上鳴お兄チャンは大きくナッたらなんとか……って言って耳郎お姉ちゃんニ叩かれテタの。アトでんかいはんのう? したら危ないかラ近付かない方がイイって八百万お姉ちゃンが』

 

『峰田? って人は取り敢エズ危ないから近付くなって……瀬呂お兄ちゃンがグルグル巻きにして持っていっチャッタ。……ドういう意味だっタンだろ?』

 

『爆豪って人もヤメタ方がいいぞッテ、切島お兄ちゃんが……そう言った途端、ドカンってされてたケド、全然平気だぞって笑っテタの』

 

『そシタら砂藤お兄チャんが、オいしそうなケーキを持ってきてくれたノ。ワタシ、食べられるのカナって思ったけド……』

 

 

『……おいシかった、気がする。味なんてモウ感じないんだケド、ね』

 

 

『…………ネえ、お姉ちゃン』

 

『ワタシ、生きてタラ……あの人達と同い年ダッたんだよね』

 

『アのままヒーローを目指しテたら、ワタシ……この学校に居たかモ、しれないよネ』

 

 

『ワタシも、あの人達と……クラスメイト、だったかも―――』

 

 

「そう、ね」

 

「他よりちょっと、おしゃべりな"個性"と一緒にヒーローを……そんな物語(未来)も、どこかには……」

 

 

 

 

《…………ねえ、『干渉』? 一つだけ、お願いしても良いかな?》

 

《わたし……一度で良いの》

 

 

《『叔父様』と、話がしてみたい》

 





 共にヒーローを目指す『女の子』。


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C5-8 本音


 (ポジション)青山くん最大の見せ場。



 

 ―――雄英高校からおよそ30キロ地点、『仮設要塞トロイア』。

 迫る決戦を前に、敷地内へと避難した人々とヒーロー達を遠ざけるべく建造された仮の棲家。

 

 終の棲家にならなければいいが―――誰かが苦笑混じりにそんなことを溢しもしたその建物の、付近に存在する打ち捨てられた駐車場。

 そこに彼、緑谷出久は()()()()に呼び出される形で姿を見せていた。

 

 

「―――来てくれたんですね、デクさん」

「……干河さん、こんな所で何を……」

 

 軽い疑問を顔に浮かべながら、彼は立ち尽くすクラスメイトと対峙する。

 彼女もまた、仮設要塞に()()()()()()()()()()のだから、自分に用事があるのならばその内部で行えば良い筈だろう、とでも()()()()()表情で。

 

「今日はデクさんに、大事なお話があったんですよ」

「大事な話……?」

 

「そうです。滅多な人に話すわけにいかない、大事な大事なお話が」

 

 青髪黒目に柔らかな表情を浮かべた彼女は、どこか()()()()()()()素振りを見せつつそう囁く。

 その言葉に頬を引き締めた緑谷に対し、彼女は静かに語り始めた。

 

「いつだったか、お話しましたよね。わたしがヒーローを目指すようになった理由」

「……うん。ご両親を(たす)けてくれた人に憧れたんだった、よね?」

 

「あのときわたし、一つ嘘を吐いていたんです」

「嘘……?」

 

「その人の名前や何処のヒーローかは知らない、というのは本当だったんですけどね? その人の持つ"個性"―――どんな"力"の持ち主かだけなら、ずっと昔から知っていたんですよ」

 

 一度小首を傾げ小さく謝った後で、彼女は言葉を続ける。

 

 

「その人は……『叔父様』は、わたし達母娘(おやこ)にとってのヒーローでした」

 

「だから、叔父様からの頼み事と聞いて、わたしは特に疑問も持たずに協力していたんです」

 

「その想いは今も……今でもわたしにとっては、変わらないんですよ」

 

 

「干河、さん……?」

 

 不意に彼女の視線が、周囲に見える住宅地へと向けられる。

 小高い丘の上に建設されたこの場所からは、人通りの無くなった町の一角が一望できた。

 

 

「叔父様は、すごい人なんです」

 

「この国が……世界中がこんな風になったとしても、叔父様ならきっと立て直せます」

 

「叔父様が世界を統べるようになったなら、きっとそれは素晴らしい世界になると思うんです」

 

 

「な……にを、言って……ッ!?」

 

 級友の口から語られた異様な言葉に、緑谷が開こうとした口が、更なる驚愕に閉じられる。

 彼の視界に入ってきたからだ。―――彼女の背後に悠然と浮かぶ、頭部を特徴的な黒いマスクで覆った一人の男の姿が。

 

 

「オール・フォー・ワン……!!」

 

「よくやってくれたね、干河歩君」

 

 

 パチ、パチと緩く拍手の音を立てながら、『彼』は眼下の彼女へと労いの言葉を掛ける。

 その声音には年の離れた姪にでも接するかのような、親しみすら込められていた。

 

「……しかし正直言って僕も驚かされたよ? まさか君がここに至って、未だ彼らに一縷の疑いも持たせていなかったとはね」

「ありがとうございます。そして、お久し振りです、叔父様」

「干河さん……っ、どういう……何で……っ!?」

 

「……そうだなあ。何も知らないままというのは、あまりにも哀れだ。折角の機会、彼に説明してあげたらどうだい?」

「いいのですか? では……」

 

 言の葉に明らかな『笑い』を乗せて、『魔王』は演目を楽しむかのように彼女を促す。

 一言、その指示に微笑んで頷いた彼女は、動揺に瞳を揺らす緑谷へと一歩近付き―――

 

 

「わたしと一緒にみんなに謝りましょう、叔父様!」

 

 

 くるりと振り返り、快活な声でそう宣った。

 

「…………は?」

「…………へ?」

 

 漏らされた二つの声は奇しくも同じ響きを宿していた。

 『魔王(AFO)』と『勇者(緑谷)』、双方の意識を遥か彼方へと置き去りにしたまま、彼女の独演は続く。

 

 

「わたしは叔父様を尊敬しています。とってもすごい力を持った、とっても親切な人なんだって」

 

「だからきっと皆、叔父様の事を誤解してるんだと思うんです」

 

「叔父様は良かれと思ってやったことが、誰かを怒らせてしまったんじゃないですか? わたしもつい最近いっぱい怒られて、やっとそれに気付けたところなんです」

 

 

「「…………」」

 

 停止、という意味で彼らの思考は一致していた。

 明後日どころか数十年先へと飛ばされた理論に、彼らの身体は大きな隙を晒したまま動かない。

 

 

「自分が悪い事をしたと思っていなくても、誰かを傷付けていることはあるんです」

 

「悪い事をしたら、ごめんなさい、ですよ、叔父様?」

 

「そうすればきっとみんな、叔父様の事を分かって―――」

 

 

「参ったなぁ」

 

 途切れない独白に割り込んだのは、極寒の響きを含んだ『魔王』の呟き。

 殺気が放たれるまでに数秒の間があったのは戯れか、はたまた本気の辟易だったのか。

 

「君、こんなに……気持ち悪い()だったのかい?」

「っ、干河さん!?」

 

 鷹揚に掲げられた『魔王』の指先が、無数の顔のような悍ましい姿へと変形した。

 致死をもたらす『何か』が放たれる気配に、身を乗り出さんとした緑谷の前で―――

 

「安心してください、叔父様」

 

 彼女は薄く微笑み、そう口にする。

 緑谷が、『魔王』が、その態度に微かな疑問を頭の端に上らせた時、()()は放たれた。

 

 

「―――"私"は、ちゃんと貴方を恨んでる」

 

 

「……っ!?」

 

 更なる困惑に止まったその手に襲い掛かったのは、彼方より降り注いだ巨大な瓦礫。

 視界に差した影に直前で気付いたか、抗うように腕を上げた姿勢で、その姿は瓦礫に隠される。

 

 所有する何らかの"個性"により直撃は防がれたのだろう。

 天より降り注いだ大質量が、辺りに粉塵を撒き散らし砕けていった。

 

 

「……根津校長の見立て通り嘘を判定する"個性"をお持ちのようね。いやはや見事な困惑振りよ」

「イヤ困惑したのは僕もだよ!? 誘き出す為とはいえ、あんな……!」

 

「歩にどうしてもと言われてねえ……まあ、ひきつけるには良いかと思ったのよ」

「それにしたって……!? 演技……だったんだよね、干河さん!?」

 

「生憎あれは歩の本音よ。……苦労したんだから、私だって」

 

 

(……どういうことだ)

 

 視界を包み込む粉塵の中、届く二人のやり取りを前に『魔王』の思考は空転する。

 

(直前の連絡、母親の返答、そしてこの場での言葉にも最後の一言を除けば一切の嘘や害意は……しかし周囲に他のヒーローの姿が無い以上、今の攻撃はおそらく彼女に与えた"個性"……)

 

 "個性"を与え、目を掛けてきた少女は、果たして罠を仕掛けた獅子身中の虫であったのか。

 それとも『嘘』を見抜く"個性"が示す通り、芯から花畑と呼ぶべき思考の持ち主だったのか。

 いやしかし、だとすれば今の攻撃は、いつから、()()―――

 

「……いや、どうでもいい。どのような思考からの行動だったにせよ、重要なのは今、この距離にOFAがある事実―――」

 

 無意義な思考を断ち切るように、『魔王』は応手を弾き出す。

 動作の要らぬ"個性"により現れたのは、虚空に広がる無数の『泥』。

 

「先の戦いで弔が『視た』ヒーローは散開し各地に居る。救援は間に合わない。今この状況こそが手遅れというやつさ、緑谷出久!」

 

 虚空を埋めた『泥』から現れたのは、脳無を含めた大量の(ヴィラン)

 タルタロスを含む各地刑務所の囚人、(ヴィラン)連合、そして『次なる彼』こと死柄木弔(マスターピース)

 

 明らかな多勢無勢。

 比較も馬鹿らしい戦力差。

 そんな絶望に晒された継承者(緑谷)の表情を拝もうとした『魔王』の動きが、再々度停止する。

 

 

「―――話を聞いてなかったんですか、叔父様?」

 

「わたしは、()()()()謝りましょうって、言ったじゃないですか」

 

「ちゃんと呼んでありますよ。……みんなを、ここに!」

 

 

 ふんわりと微笑んだ青髪の少女の背後で、黒の靄が渦を巻く。

 瞬く間に作り上げられた無数の『ゲート』から、姿を見せたのは散開していた筈のヒーロー達。

 

 

 ―――『魔王』は知らない。

 

 それが他者の"個性"を『コピー』する"個性"を持つ生徒によるものであること。

 『魔王』の保持する"個性"『サーチ』―――ヒーローの居場所を特定する"個性"の裏をかく為の行動であったこと。

 そして、結果的に彼をこの場に誘き出した青髪の少女の言動全てが―――

 

 

「これがわたしが用意した謝罪の場です! ―――処刑場よ」

 

「きっとみんな許してくれますよ! ―――貴方は決して許されない」

 

「だから今日、この場で! ―――故にこの日、この場で」

 

 

「《貴方を捕まえます(殺してやる)》!」

 

 

 心の底からの本音であることを。

 





 『(仮称)嘘感知』さん「 ( ゚д゚)」

 『(仮称)嘘感知』さん「 ( ゚д゚ )」


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C5-9 感謝


 実はプロットを練っていた時点で作者の手元にあったのは単行本35巻までだったりします。
 そしてジャンプ本誌の情報は殆ど見てません。辛うじて二代目の"個性"名を知ってるぐらい。
 ついでに36巻を読んだのは、実際に今話を書き始める直前です。
 そんなわけで作者は原作がここから先どうなるかを9割知らない状態で書いてきました。



 

 ―――『コピー』した"転移系個性"による敵戦力の分断。

 

 伝播する『崩壊』による超広範囲破壊手段を所持する、敵最大戦力と目される死柄木弔を、雄英上空に建設された天空の棺に。

 狂気じみた出力の『蒼炎』により戦域を大きく制限し得る荼毘を、かつての戦いにより建造物の大半が更地となったままの現場、神野区に。

 最も動向の読めない渡我被身子を、太平洋沖合約200km地点のリゾート島、奥渡島に。

 

 そして―――

 

「群牙山荘……なるほど」

 

 ()()の『魔王』―――AFO本体を人里離れた山岳地帯に建つ、かつての敵拠点跡へと転送。

 その身の内に存在する"個性"『転送』の射程範囲外へと隔離し、敵戦力合流の可能性を断つ。

 さらに現ヒーローNo.1およびNo.2。最小かつ最高戦力による連携攻撃。

 "個性"強奪の可能性を加味されたそれは、ヒーロー側が現状打つことの出来る最大限の策。

 

「―――しかしホークスよ……微妙にタイミングが合っていない。エンデヴァーが精彩を欠いているんじゃないか?」

 

 『炎』と『剛翼』、反撃の機会を潰し続ける連携に生じる綻び。

 別の戦場にて相打つ息子達を意識し、悲鳴を上げるNo.1の心に『魔王』の口撃(囁き)が忍び寄る。

 

 

「燈矢君の身体……見つからなかったろ」

「……ッ、オール・フォー・ワ―――!!」

 

 

 怒りから晒された一瞬の隙が、エンデヴァーの胸部に深手を刻む。

 共に戦うホークスが、落下していく彼の補助(サポート)に動かんとしたその矢先。

 

「エンデヴァ―――」

「君は、この距離で避けられるのかな? ナガンの代替品よ」

 

 エンデヴァーの身を抉った手指を変形させ、『魔王』が構えたのはかつて神野区を更地に変えた衝撃波の予備動作。

 回避の目が消えた事を悟ったホークスが、その思考に()()()()選択肢を浮かばせたその瞬間。

 

 

「【心音壁(ハートビートウォール)】!」

「ピクシーボブリスペクト……【土石自在(アースマニピュレイト)】!」

 

 

 音波の壁が衝撃波を、噴き上げた土石流が『魔王』の進行を妨げる。

 驚愕と共に仰ぎ見たホークスの視界に映るのは、この戦場に居合わせた三人の学生。

 

「ちょ待っ、あんま揺れないで!! ウチ飛ぶのそんな慣れてないから!! けっこー今、必死だから!!」

「こらえろイヤホンジャック!!」

「多少はフォローするけど気を付けなさいよ!? 二人とも"私"の対象外なんだから!」

 

「……あと出来ればあまりアレだ! お尻を動かさないでドギマギする」

「純情!?」

「バカじゃん!!」

 

 それぞれの"個性"により空を駆ける干河と常闇、そして後者の背に跨る耳郎。

 守るべき学生達に救われた事実と、そんな彼らを死地に踏み込ませてしまった焦燥に晒されたホークスが、目を見開き必死に叫ぶ。

 

「とこ……常闇(ツクヨミ)! 干河(アクセラ)! と、A組の―――」

「『イヤホンジャック』よ、ホークス!」

 

「……! ダメだ!! 君らの出る幕じゃない!! 死ぬぞ!!」

「エンデヴァーの代わりにはなれんが! あなたとの連携なら我々が取れる!!」

 

 

「いやはや……参るね」

 

 何らかの"個性"により防いだ土石及び舞い散った土煙を払いながら、『魔王』は言葉こそ軽く、しかし重い響きを込めてそう呟く。

 その視線……生命維持装置(マスク)に覆われた頭部が向けられるのは、眼下に広がる戦場の様相。

 

 『魔王』と共にこの地に送られた、無数の(ヴィラン)に数体の脳無。

 対峙するのは同様に『ゲート』を潜り駆けつけた数十名のヒーロー達。

 トップ2による『魔王』迎撃のもう一つの狙い―――広範囲衝撃波の封殺に成功してなお、戦力を忌憚なく計れば前者に傾くだろうその戦いは、されど今―――

 

 

『―――ッ!?』

 

「聞いていた通りだ! 動きが鈍いぞ、肉人形め!」

「パワーもな! "増強系"や"防御系"なら受け止められねぇ威力じゃねぇ!」

「頭部を破壊すればそれ以上再生はしない! 押し込めぇ!!」

 

 

「―――あァ!? てめぇ今俺を狙っ……ガッ!?」

「違ェよ!? 急に"個性"が逸れ……ぐぁっ!?」

 

「仲間割れ……じゃないんだよな!?」

「体育祭以来だがやっぱとんでもないな!」

「ははっ……学生にここまでされてちゃ、大人(プロ)の立つ瀬が無えなぁ!!」

 

 

 凡百のヒーローを容易く蹴散らす力と"個性"を与えられた筈の脳無達が、その力量の六割程度も発揮できないまま抑え込まれる。

 名うての(ヴィラン)であるはずのダツゴク達が、互いの"個性"をぶつけられて浮足立つ。

 有り得べからざるその光景を、音も気配も無く作り出すは、『魔王』の眼前に佇む元信徒(刺客)

 

 

「君がここまで僕を苛立たせてくれるとは夢にも思わなかったよ……干河歩」

「ありがとうございます、叔父様! ―――過分な評価痛み入りますわ、叔父様?」

 

 

 快活な返答、直後に放たれる極寒の囁き。

 狂ったとしか思えない()()()"()()"の反応も相まり、さしもの『魔王』も未だ思考の大部分に、疑問の占有を避けられず。

 

(……やはり『嘘』は無く『害意』の有無も乱高下……まるで人格が……しかしそれにしては切り替わりがあまりにも……うん?)

 

 空転の果てに辿り着いたのは、ひどく奇矯な可能性。

 しかし瞬間、当人にも説明できない『納得』を介して、()()は『魔王』の口を衝いた。

 

「君は…………()()()()()?」

「……問いを返すようですが、お答え願いましょう」

 

 場にそぐわぬ笑顔を排し、薄笑いに表情を定めて彼女は囁く。

 

 

「死柄木弔、"個性"『AFO』…………貴方は『彼』をどちらとお呼びに?」

 

「…………は」

 

 

 返されたのは、一見して関連性の見えない問いかけ。

 しかし『魔王』の頭の中では、直前に浮かんだ謎の理解から一本の糸が()()へと繋がった。

 

「―――ハ、ハハハハハッ!? そうか! そういうことかっ!? 成程やっと合点がいったよ、そうだなあ! ()()可能性を僕が否定するわけにはいかない! いやはや参ったぜ!」

 

 マスクの下、呆けたように空いた口を吊り上げ、『魔王』は高く哄笑を上げる。

 それはまるで、バラバラに散ったパズルが突如ピタリと嵌った感覚に酔うかのように。

 

「ああ覚えているよ、その"個性"……そうか、『君』かあ!! (AFO)(OFA)に次ぐ三つ目……いやいやしかし待ってくれよ? そうなると君……ははっ、まさか……冗談だろう!?」

「ええ本当に……出来の悪い冗談よッ!」

 

 その言葉を最後に、再度地面から吹き上げた土石が『魔王』へと襲い掛かる。

 やはり容易く防がれるそれは、されど確かに『魔王』から防御に割く時間をもぎ取っていた。

 

「……ツクヨミ! アクセラ! こっちは―――」

「無駄だぞホークス! 俺がここに配置されたのは"上がこう着した場合の更なるサポート"! そうだろう!?」

「手出し不要と言うなら結果で見せてくれないかしら、ホークス(No.2)!」

 

「……ごもっとも! また助けてくれ、ヒーロー」

 

 戦場全体における最大の懸念、『魔王(ジョーカー)』を釘付けにするのがトップ2に割り振られた仕事。

 すなわち己の失態を指摘されたホークスは、苦笑いでそれに応えた。

 

「……昔読んだコミックにあったな。魔王の引き立て役に充てられる脇役の話」

「そーゆーの倒してから言った方が良くない? AFO! ……なんつって」

 

「フゥム……」

 

 冷や汗を流しながらも己を奮い立たせ、うそぶいてみせる耳郎。

 そんな彼女に『魔王』から返ったのは、思案を示す微かな呟き。

 

 

「え―――?」

 

 

 瞬間、耳郎は自身の浮かぶ身体を意識して。

 その浮力の源、衣服の脇下に添えられた()()()()()に目を向けた。

 

(干河、の……『銀翼(シルバーフェザー)』……!?)

 

 数秒にも満たぬ飛行を経て、再び耳郎の身体は常闇の背へと跨った。

 視界の端、亡者の顔が如く変形した『魔王の手指』が虚空を喰い破っていく様を呆然と見つめるその頭の中で、直前の一瞬に対する反芻が始まる。

 

「自由に動けツクヨミ!! 合わせる!!」

『ジロ! 大丈夫カ!?』

「……ん!」

 

 『黒影』の呼び掛けに答えた耳郎を遅れて襲ったのは、毛筋一本まで迫っていた死への恐怖。

 向けられていた殺意にすら遅れて総毛立ち、鳥肌を浮かべる我が身を彼女は掻き抱く。

 

(今、ウチ、死ん……っ!? 緑谷……!! あんた、これに晒され続けてきたんだね……!)

 

 震える身体を抑え、耳郎が仰ぎ見たのは、すぐ傍に浮かぶ()()()()背中。

 耳郎の視線に気付いたのか、それとも偶然か、彼女の視線はほんの一瞬、耳郎へと向けられる。

 

(あ……!)

 

 ―――無事で良かった。

 薄く、しかし温かな微笑みを浮かべた眼差しから、耳郎は確かにそんな声を聞いた。

 

(また助けられ……やっぱりあんたは、いつだって……!)

 

 最凶最悪の『魔王』を前にした今でさえも、口の端を上げて見せるその姿。

 都合三度目となるその衝撃に、羨望と憧憬が入り混じった呟きが耳郎の口から漏れる。

 

「怖く、ないの?」

「……恐怖なら置いてきたわ。ずっと昔に」

 

「え……?」

 

 届くかどうか、期待もしていなかった呟きに返されたのは静かな言葉。

 しかし常闇の背に乗る耳郎に問い返す暇は無く、『魔王』の『手』から逃れるべく飛行する彼によって彼我の距離は離されていった。

 

 

 

 

(―――私はあの日、ただ見ていた)

 

 ()()()()()『魔王』と重なる姿を前に、彼女―――"個性"『干渉』は己が記憶を呼び覚ます。

 

(お母さんが……『魔王』に立ち向かったヒーローが()()()()いく様を、お父さんの腕の中から、ただただじっと……)

《……『干渉』……?》

 

 誰にも届かぬその呟きを聞いていたのは、()()()半身。

 意識の内にあるのか否か、溢されるその心中を『彼女』は確かに耳にした。

 

 

(腕が潰れて、足がひしゃげて、胴を裂かれて……"個性"を剥がれても)

 

(最期まで『魔王』を睨み続けていた、ヒーロー(お母さん)

 

(あの日の記憶で……私と通子ちゃんは()()()()()()

 

 

《……!》

 

 それは『彼女』が今まで尋ねたことの無かった、彼女の理由。

 

 

(あの記憶を()()()()()彼女は、今もヒーローに()()()()()()()

 

(けれど私には駄目だ、どうしても。……あれが真面な精神だとは思えない)

 

(私が……ああなれるとは、思えない)

 

 

《あ……》

 

 『彼女』が今まで知る由も無かった、彼女の抱く己への認識。

 

 

(正しい『私』は、あの日の願いを持ったままの通子ちゃん)

 

("私"は所詮、歪んでしまった『反向通子』の残滓でしかない)

 

(……耳郎さん、恐怖というのはね? ()()()()()()から生じるものなのよ)

 

 

 

 

「―――震えてるぞ、可哀想に。学生気分の延長で来てしまったんだね」

 

 『魔王』の左手が増殖し、変形と共に噛み付き合う。

 狙いを察して『剛翼』を飛ばしたホークスに対し、『鋲突』に変化した右手指が襲い掛かる。

 瞬く間に物量を、質量を膨らませた『左手の貌』が見せるのは、二度目になる衝撃波の兆し。

 

 

「……【反射】!」

「っ、ああ、そんなことも出来たね。やはりこの戦場において『君』の存在は看過出来ないな!」

 

 

 耳郎と常闇、二人を狙った一撃を再々度防いだのは、自身を守る『剛翼』をも用いて『左腕(砲身)』を逸らしたホークスと、砲口前に滑り込んだ『干渉』による、逸らしきれなかった衝撃の【反射】。

 それ故に自身を襲った『鋲突』を捌き切れずに血飛沫に塗れるホークスを一瞥した『魔王』は、彼に背を向ける形で宙を滑るように動き出した。

 

「"投射系"、"放射系"は全滅、"変形系"も速度と質量が伴わなければ容易く逸らされる。いやはや実に厄介だよ。―――君が、一人だったらの話だがね?」

 

「っ、ツクヨミ! ウチらが狙われて、足引っ張ってる!!」

「分かっている! だが経路を塞がれて……アクセラから離れられん!」

 

 伸ばされる無数の『手指』が『干渉』に逸らされつつも、逃れんとする常闇の進路を限定する。

 焦燥に身を焼かれる学生達へと、『魔王』は薄笑いすら乗せて『悪意』を囁いた。

 

「そうだねぇ……『彼女』には確かに僕の前に立つ資格があるよ。脇役の君達とは違ってね」

「「……!!」」

 

「僕が敵と認めるに足る"力"。刻まれた因縁。相当に手を焼いただろう……()()()()()()()()

「う……っ!?」

「ぎ……ぃ!?」

 

 眼前にまで迫った『魔王』に、向けられた『悪意』に、二人の身体は意志に反して凍り付く。

 されどその瞬間、彼らの脳裏にあったのは自身の死への恐怖ではなく―――

 

 

「ああ……やはりこの手に限るよ―――ヒーロー(君達)に対しては、ね」

「ぐ、あ……っ」

 

「「干河ッ!?」」

 

 

 彼らを背にしたまま、『魔王』の手に()()()()()()級友の姿だった。

 

 

 

 

「こうして彼女を捕まえることが出来たのは、君達が彼女に庇われてくれたお陰さ」

 

「自分も魔王に立ち向かって良い―――そんな錯覚をしてくれた君達のね」

 

「だから僕から君達に、この言葉を送らせてもらうよ」

 

 

「―――()()()()()

 





 真面な精神で目指す職じゃない。
 命を捨てるのが仕事じゃない。


 原作36巻を読んだのが今話を書き始める直前。
 つまり何かと言いますと、この場に耳郎ちゃんが居るとかマジで予想外だったんよ。


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C5-10 共感


 先の話になりますが、マスターピース死柄木戦を本作で描写する予定はありません。
 まだ世に出されていない原作様に投げる形でカット予定です。
 AFO本体戦に参加した面子がここからそちらに関わるとも思えませんし。
 ……無いよね?



 

(―――『次の僕』同様に意志を持ち、意識の表層に現れた"個性")

 

(ああ、興味は尽きないよ。直ちに隅々まで調べ尽くしたいほどさ)

 

(とはいえ今は少々立て込んでいる。……いやはや、もどかしいな)

 

 

(出来る事なら今すぐ、じっくりと『話し合い』たいところなんだが―――)

 

 

 

 

「…………おや?」

 

 何年も前に失くした筈の『視界』に映る、黒い空。

 荒野のような場所に立ち尽くす自分を、いつしか『彼』は知覚していた。

 

「……これは、まるで―――」

「OFAのようだ。……かしら、叔父様?」

 

 聞こえた声に視線を向ければ、小さな人影が二つ。

 半分を残して崩壊した部屋、とでも形容すべき白い壁を背後に、『彼』を見据える二人の少女。

 

「貴方が"私"に興味を持ったから」

「こんな機会があれば良いなと望んだから、この場は生まれたんですよ」

 

 朽ちかけた白い椅子に座る、青髪黒目の少女が。

 ひび割れた机に腰掛ける、金髪黒目の少女が。

 柔らかな微笑みと、寒々しい薄笑いで、声を揃える。

 

 

「「ようこそ、叔父様」」

 

「……へえ? こうなっていたんだね、君達の中は」

 

 

 どこか純粋な驚きを込めてそう呟いた『魔王』は、しかしすぐさま口角を吊り上げる。

 その『視線』を向ける先は、今も彼に対する敵意を隠さない"個性"。

 

「酷いじゃないか。『君』がこんな特異性を持っていたなんて知らなかったぜ? そうと分かっていれば、あんな()()()()()を受けさせやしなかったのに」

「……生憎と私の意思が『始まった』のは、あの日より後よ。それに"私"と歩、どちらに拠るものだったのかも、今となっては私にすら分からない」

 

「……そうかい。それなら仕方な―――」

 

 

「『干渉』と会わせてくれてありがとうございました! 叔父様!」

 

 

 『魔王』と『干渉』、双方の視線が形容しがたい熱を宿して『彼女』へと向けられた。

 それらに気付いているのかいないのか、『彼女』は長年の『恩人』へと自らの想いを言い募る。

 

 

「ずっとお礼を言いそびれていたんです。直接お会いできる機会が無かったので」

 

「ああ、でもその時のこと、『干渉』は凄く怒っているみたいなんです」

 

「きっと叔父様も悪気があったわけじゃないんですよね? まずはその事を謝って―――」

 

 

「君は。……後にしてくれないかな?」

 

 徐に、鷹揚に、『魔王』は孔の開いた掌を彼女らへと向ける。

 瞬間、ただ静かに凪いでいた荒野の中に、引き込むような風が吹き荒れた。

 

「っ!」

「『干渉』!」

 

 『奪い与える』"個性"『AFO』―――その複製品ではあるが―――による"個性"の吸引。

 『魔王』の足元から続く荒野が、彼女らの世界を侵食するように、その背後に残る白の調度品を徐々に崩壊させていく。

 迫るひび割れに崩れた椅子から、机から、風に髪を揺らす少女達が立ち上がり―――

 

「……っ、ハハハハハッ!? 抵抗(ソレ)まで出来るのかい!? 参ったなあ! 本当にあの強情な(OFA)のようじゃないか!」

「うう……お、叔父様……!?」

「っ、ぐ……原理は異なるんじゃない? "私"のはそちらの"力"に対する"干渉"と相殺だもの!」

 

「そうか! そういうことも出来たね! ああ、よくよく『君』は興味深い!」

 

 対抗するように片手をかざし、風に煽られながら荒野を踏みしめる"個性"。

 そんな彼女の空いた腕を掴み、風を堪えるように相方の身を引き寄せる宿主。

 手応えはあれど、彼の持つ"個性"への『権力』に抗うその様に、『魔王』は再度哄笑を上げた。

 

「しかしこんな『綱引き』に興じるつもりは無くってね……そうだなあ―――」

 

 嵐に揺れる木の枝にそうするかのように、『魔王』は抗う少女達を眺める。

 思考に割かれた時間は僅か、ふと気付いたといった調子でその口は開かれた。

 

 

「随分仲良くしているんだね? その娘と」

「……!」

 

 

 微かに、されど確かに目を伏せた金髪の少女へと、『魔王』は問い掛けを続ける。

 

「『君』が。()()なったのが誰のせいか、知らないわけじゃないんだろう?」

「…………」

 

「それとも『君』にとって、元の宿主やその家族の事は、忘れてしまえるほどに()()()()()()ことだったのかな?」

「……っ」

 

 伏せられた顔に浮かんだ感情の動きを、『魔王』は決して見逃さない。

 

「……憎い仇の娘の中で、その明確な意識に『君』は何を映してきたのかな?」

 

「それとも本当に仲良しこよしでその娘の"個性"をしていたと? いやいやそれこそ冗談だろ?」

 

「幾度となく思ったはずさ。その娘が手にした全ては、自分達から奪われたモノなんだ、とね?」

 

 

 そこにある種の『確信』を見出し、尚も火種を煽るように。

 

「まだ幼かったから理解出来ずとも仕方なかった? 恨むのは筋違い? いやいや考えてみなよ。当時の『君』だって同じようなものだろう? 『君』と同じ理解を、その娘に求めて何が悪い?」

 

「『君』を、君達家族を、踏みにじって得たモノで! その娘は能天気に笑っていたんだろう!? その幸福も、誉れも、本来は自分達のモノだったのだと叫びたかった筈さ!」

 

「誰にも聞かせられない怨嗟を抱きながら! その娘の笑顔を誰より特等席で見せつけられて!! ハハハ……聞かせてくれよ! どれ程の怨毒の日々だったか! いやはや想像も出来ないぜ!?」

 

 

「…………っ」

 

 下げられた視線、食いしばられる歯の根。

 投げかけた言葉のもたらした結果を『愉しみ』ながらも、しかし『魔王』は内心で首を傾げる。

 

(……動揺が薄い。まさか本当に恨みを飲み下して? やれやれ全くこれだから……)

 

 効果が無かったわけではないが、期待した程には弱まらない抵抗。

 僅かの思考の後、『魔王』はそれを散々辟易させられてきた()()と同種に位置付けた。

 

 

「―――干河歩。君にも良い事を教えてあげるよ」

「……叔父、様?」

 

 そうして『魔王』は、『次』に矛先を向ける。

 先の問いかけに、当人以上に()()()()()()()()『彼女』へと。

 

「当時幼かった君には理解出来なかったのだろうけどね? 君の父親に、その心にトドメを刺したのは他ならぬ君なんだぜ?」

「……!」

 

「おまけに君の母親は、そこに居る彼女の家族を丸ごと『間違い』と断じたんだ。あれには流石の僕も失笑を禁じ得なかったよ」

「あ……」

 

「そんな君に彼女がどんな思いを抱いていたか……僕が予想してあげるよ。違うと思ったなら後で彼女に聞いてごらん?」

「…………」

 

 "個性"の腕を掴む『彼女』の手から力が緩み、その表情に戸惑いが広がる。

 その姿に確かな『笑み』を刻んだ『魔王』は、あくまで親切心という声音を崩さずに呟いた。

 

「そうだなあ……きっと君が何かを得る度、同じだけの何かを失う心地だったんじゃないかな?」

 

「君の、君達母娘の幸福な姿を見る度に、何もかもズタズタに引き裂いてやりたい気持ちで一杯になっただろうね!」

 

「その幸せそうな目玉を抉り取って! 四肢を砕いて! 奈落の底まで叩き落としてやりたい! そんなドス黒い感情を抱いていなかったという方がおかしいぜ!?」

 

 

「…………『干渉』?」

 

 か細く呼んだその声に、"個性"の少女は押し黙ったまま反応を返さない。

 その沈黙こそが何よりの答えであり―――至高の味わいに『魔王』は舌鼓を打つ。

 

 

「さあ、その手を放しなさい、干河歩君。そんな恐ろしい"個性"に君が傷付けられないよう、僕がしっかりと仕舞っておいてあげるよ。……これは君の慕う優しい『叔父様』からの気遣いさ」

 

 

「……良いの? (あゆみ)

「っ、『干渉』?」

 

 

 『魔王』の言葉に瞳を揺らす『彼女』へと、彼女は振り向かないまま問いかける。

 

「自分に殺意を抱いた"個性"だなんて悪霊じみた存在を祓ってもらえる、またとない機会よ?」

「……っ!?」

 

「ああ……何で今まで、気付けなかったのかしら」

 

 息を呑む青髪の少女に、金髪の少女は自嘲を含んだ呟きを溢した。

 

 

「―――(あなた)の立場に立ってみれば。……どこまでも『親切な叔父様』でしかないじゃない」

 

 

 堪える力が弱まり、引き込む力が一際、強まる。

 少女達の背後で、既に残骸のようだった白い壁がベキリと崩れ去った。

 

「…………で、も……っ、違うん、でしょ?」

「っ、歩?」

 

 耳に届いたその言葉に、金髪の少女が振り返る。

 青髪の少女は迷いと焦りをその顔に同居させながらも、向けられた視線に胸の裡を返した。

 

 

「―――『干渉(あなた)』の立場に立ってみたら。悪いのは叔父様で……お母様、なんだよね?」

 

 

 金髪の少女が、目を見開いて。

 呆然と、口を開けて。

 二度、三度、瞬きを経た後で……歯を食いしばる。

 

「ああ……もう、本っ当にあなたは―――」

 

 青髪の少女―――現在()の半身へと、彼女が浮かべたのは()()()()

 

 

「スットロいんだから……っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――お別れは済んだかな?」

 

「っ!」

「ひゃうっ!?」

 

 "個性"の少女が、今や浮かび上がらんとばかりに引き寄せられる。

 宿主の少女が必死にその腕を手繰り寄せようとするも、じりじりとその足を滑らせつつあった。

 

「頑張っていたようだが、悪いね、年季が違う。どうやら"個性"の『支配力』は僕が上のようだ」

「ぐ……っ」

 

「だが嘆くことはないさ! さっきも言ったが粗雑な扱いはもうしないよ。何より"個性"の吸引にさえ抗うその力、OFAの奪取にも大いに役に立ってくれそうだ」

「お、叔父様……っ」

 

「僕には難しくとも、今の弔(次の僕)なら問題無く『君』を活かし切れるはずさ! さあ―――」

 

 その懸命な抵抗さえも愉しむように。

 少女達の歪む顔を睥睨しながら、『魔王』は悠然と声を上げる。

 

 

「僕に、従え」

 





 相手の立場で考える。

 簡単なようで、難しい。


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C5-11 成就


 作者的に本作において書きたかったシーントップ3、最後の一つです。……僅差で。

 仕方ないね。



 

 ―――太平洋沖合約200km、奥渡島。

 リゾート開発された、美しい水平線を描くその遠浅の海岸は、厄介な(ヴィラン)の隔離を目的として、『ワープ(コピー)』による決戦場に選ばれた場所の一つ。

 

 海岸を埋める無数の敵、そこに含まれるは数体の脳無およびタルタロス出のダツゴク達。

 迎撃に用意されたヒーロー側戦力の中にはしかし、予定と異なる人物が紛れてしまっていた。

 

「―――デクくん、先生は何て!?」

「自力で来いって! 『ワープ』が使えないってことは予断を許さないってことだ!」

 

 OFA九代目継承者、緑谷出久。

 超常社会の始まり以来、暗躍を続けてきた宿敵AFOが唯一執着する力の器であり、この戦いにおける最重要戦力。

 敵最大戦力である死柄木弔と同じ戦場に送られる筈だった彼は、転送の際に行われた一瞬の妨害により、この場所へと送られてしまっていた。

 

 とはいえ彼のOFAならば、本来の戦場である雄英上空へと向かうことは不可能ではない。

 遅れはそれだけ他への負担とはなるが、致命傷ではないはずである。

 ―――そんな祈るような想いで動き出そうとした彼へと、風を切る様に接近する人影が一つ。

 

 

「行かないでよ、出久くん!」

「うわっ」

 

「大好きだよ、ねぇだから行かないで!」

 

 その口から純粋な『好意』を叫びながら、手に握るナイフで彼を切りつけるは、渡我被身子。

 "個性"『変身』の厄介さ、当人の持つ対峙した相手を惑わす技術から、作戦の立案時点でも強く警戒されていた(ヴィラン)の一人。

 

「僕に、どうして欲しいんだよ……」

 

 焦燥の中、足を止めざるを得なくなった緑谷の口から、苛立ち混じりの問い掛けが漏れた。

 そんな彼に、渡我は朱く染めた頬で、はにかみながら返答する。

 

 

「私の恋人になって」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を言っているんだ!!」

 

 予想の遥か斜め上をいく返答に、緑谷もまた赤面と共にそう叫ぶ。

 

「私、君になりたいの。チウチウさせて?」

「こここ恋人っていうのは二人で遊園地に行って手をつないでクレープを半分こする事だろ!!」

 

 極度の動揺と混乱から飛び出したのは、戦場にそぐわぬ互いの恋愛観の暴露。

 俄かに緩みかけた空気はしかし、彼女の凄絶な想いを込めた独白に塗り潰される。

 

「私にとっては"同じ"になることが、()()なの」

 

「それでしか、満たされないの」

 

「ねぇヒーロー……君は私をどうしたい?」

 

 

「……僕は、好きな人を傷付けたいとは思わないよ」

 

 波立つ海に気配を隠し、瞬く間に視界から消える渡我へと、緑谷は静かに呼びかける。

 そうして視線を正面に向けていた彼は、徐に背中から十数の『黒鞭』を伸ばした。

 

「え……わっ」

 

 緑谷の死角でたたらを踏んだ渡我の足が、ざぱりと水音を立てた。

 瞬間、彼は目標を定めずに伸ばした『黒鞭』に、その音で見当付けた空間を掻き回させる。

 

 それは緑谷がつい先日味わった、()()()()()()()()への『慣れ』がもたらした選択。

 また彼が目的としたのは、常に死角を取り回り込む渡我に一瞬の躊躇を与えること。

 物理的に姿を消しているわけではない彼女の技術は、直接対峙していない人間になら見破れると分かっていたが故の判断であり―――

 

 

「トガヒミコ!」

「お茶子、ちゃん……?」

 

 

 自分は一人で戦っているわけではない、という意識の表れ。

 

「遅れてごめんなさい!」

「梅雨ちゃ……んッ!?」

 

 この場では致命の一撃となる麗日の手の平を避けるべく、体勢を崩した渡我を『黒鞭』が襲い。

 胴に巻かれた『黒鞭』に機動力を削がれた彼女を、『蛙』由来の脚力を活かした蹴撃が捉える。

 

蛙吹(あす)っ、()、『フロッピー』!!」

「行きなさい、デクちゃん。あなたがすべきは今ここで恋愛話じゃないでしょう」

 

 海面に叩きつけられ水飛沫を上げつつも、『黒鞭』の拘束をナイフで切り離し立ち上がる渡我。

 蛙吹と麗日は緑谷を庇うようにその間に立ち、彼の取るべき行動を促す。

 

「作戦通りトガヒミコは、接触数の多い麗日(ウラビティ)を中心に私たちで片を付けます」

「……っ」

「デクくん」

 

 未だ迷いを僅かに残す緑谷へと、振り向いた麗日は微笑みと共に呟いた。

 

 

 

 

「クレープ半分こ、しよね?」

 

「…………ぅん」

 

 

 

 

 彼女らに背中を向け、緑谷は征くべき戦場へとOFAを駆使し駆け出していく。

 その遠ざかっていく姿に、真っ赤に染まった耳に、麗日はうららかな笑みで彼を見送った。

 

 

「……お茶子ちゃんは、それでいいの?」

「デクくんは、あれでええのっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

《―――緑谷くん》

「……ハイっ!? 初代!? ななななな何でしょう!?」

 

《う、うん、なんかゴメンよ? ……僕の勘でしかないんだけどね》

 

 

《朗報だよ。……因縁がまた一つ、()()()()()()()らしい》

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――何を、した?」

 

 真黒の空の下、笑みを消した『魔王』の呟きが荒野に溢れ落ちた。

 その掌は未だ掲げられたまま、しかし吹き荒れていた風は、今や幻のように凪いでいる。

 

「……私達は、何も?」

 

 金髪の少女が、微かに息を切らしながらも悠然と立ち上がり、傍らへと手を差し出す。

 ぺたんと尻餅を付いていた青髪の少女は、やや惑いながらも彼女の手を引いて立ち上がった。

 

「けれどそうねえ……ひとつ、お話にお付き合い下さる?」

「……っ、何かな?」

 

 薄い笑みを浮かべ、一本の指を立てて鷹揚に問いかける『干渉』に、『魔王』は微かな苛立ちを隠し切れないまま相槌を打つ。

 そんな心中を見透かすように口端を上げた彼女は、殊更ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「この戦いに挑むにあたって……私は、緑谷さんと爆豪さん、両方から三月に起きた決戦について話を聞いておいたのよ」

「……それで?」

 

「そこで二人の話を擦り合わせたところ、ある面白い事が分かったのだけどね」

 

 立てた指を口元に添え、今一度笑みを深くした彼女は、静かに()()を告げた。

 

 

「AFOの吸引に対するOFAの抵抗―――傍からは()()()()()()()()()()そうよ?」

 

「…………ッ!?」

 

 

「いやはや羨ましいわ。何せ"私"の【面会(この技)】に、そんな便()()()()()()()()のだもの」

 

 

 告げられた言葉に、『魔王』が理解に要した時間は数秒。

 次の瞬間からその脳内に、焦燥に塗れた思考が駆け巡る。

 

 

 ―――彼女の言葉が()()()()意味だとすれば、現実の自分の身体は今どうなっている?

 ―――この空間での問答を何秒……否、何分続けた?

 ―――未だに致命傷には至っていなかったホークスが、エンデヴァーが……いや、それどころか無数のヒーローがまだ周囲に……

 

 

「ア……が、ぁ……ッ!?」

「……ああ、始まったみたいね?」

 

 されど思考が行動へ変わるより一手早く、事態は『致命的』から『手遅れ』へと進行していた。

 掲げた手が苦悶の声と共に下がっていくその姿に、尚も『干渉』は言葉を続ける。

 

「き、さま―――」

「あら、勘違いしないでくださいな。……強制力も無いのよ? 貴方の強奪と違って」

 

「っ!? ……ならば、何故……」

「何故って……()()()()()()()からに決まっているじゃない」

 

 肩を竦めた金髪の少女が、傍らの少女と目を合わせる。

 青髪の少女は頷きを返し、呆然と佇む『魔王』へと声を揃えた。

 

 

「願ったのでしょう? "私"と『話し合い』たいと」

「わたしも言いましたよ? 叔父様が望んだから、この場は生まれたんだ、って」

 

「な……ぁ……!?」

 

 

 ()()()を引き起こした最大の要因は、他ならぬ当人の成功体験(経験)

 吸引に抵抗する"個性"という前例(OFA)によりもたらされた、先入観。

 "個性"への干渉という、彼にとって呼吸にも等しい感覚へと忍ばされた、絶死の猛毒。

 

「こ……、ぉ……」

 

 激情から何事かを叫ぼうとした『魔王』は、しかし自らの喉元を押さえて膝を付く。

 

 

「……貴方と"個性"の『支配力』を競う? どうして私がそんな博打を打たなきゃいけないのよ」

 

 端から狭まっていく視界の中で。

 

 

「私は負ける戦いをする気はないの。いつだって、ね」

 

 降り注ぐ声すら、次第に遠く。

 

 

「……あなたも何か言う?」

「え、良いの? それじゃあ―――」

 

 己にすら届かぬ叫びを上げながら。

 

 

「これから頑張って罪を償ってくださいね、叔父様!」

 

 

 それが『魔王』と呼ばれた男が『聞いた』、最後の言葉だった。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――干河!?」

「っ……耳郎、さん」

 

「ああ、えっと…………ごめん、今どっち!?」

「……私よ。"個性"の方。……お茶子さんならすぐ見分けてくれるのだけど」

 

「イヤ麗日と一緒にすんなって……でもそっか、()()()()()んだ―――じゃなくて!」

 

 

「自分が『()()()()()()()()()()()()()って、まさか強奪使わせた隙とは思わないじゃん!! 一歩遅れてたらアンタも一緒に『破壊』されてたんじゃないの!?」

「……まあ、そうね」

 

「ッ!? ヒーローは命捨てる仕事じゃないって、ウチに言ったじゃんか!?」

「生憎、私はヒーロー志望でもなければ生きた人間でもないもの。嘘にはならないわ」

 

「…………」

「それに……()()なったとしても残るのは"私"から解放された歩よ。歩にとってもその方が都合が良いし、誰も困らない―――」

 

 

「ざっけんな」

「っ、……耳郎、さん?」

 

 

「……決めた。アンタにゃ今から説教だ。……常闇、手伝って」

「ああ……是非も無い」

「え、ちょ……耳郎さん? 常闇さんまで、何を―――」

 

「「いいから黙ってついてこい」」

「あ、はい」

 

 

 

 

「ははは……本当に、大人の立つ瀬が無いなぁ」

 

「俺とエンデヴァーさんが()()()()時の次善策、の筈が……全く、情けなか」

 

「…………」

 

 

「一介のヤクザから奪った物を殻木球大(ドクター)が複製、増産。脳無達のカプセル同様に『崩壊』対象から外されて……けど数が数だけにか、回収しきれずに病院跡に残ってました」

 

「後から回収する気だったんなら、思わぬダメージに余裕が無くなったってところですかね。まあ要は身から出たサビっすよ、AFO。……聞こえてないでしょうけど」

 

「目と耳、ついでに寿命も"個性"に肩代わりさせてたんですっけ? 刑が確定するまでは生きててもらえると面倒が少ないんですけどねえ」

 

 

「…………『自分はヒーローから程遠い』、か」

 

 

「俺はそれでも待ってるよ、『アクセラ』」

 





 本作における対AFO作戦。

1. "個性"『干渉』の特異性、有用性を意識させ、興味を煽る。
2. 関心を持たせた上で"個性"強奪を実行させ、OFA同様の抵抗に偽装した【面会】を仕掛ける。
3. 意識を【面会】空間に隔離している内に『個性破壊弾』(死柄木起床時の状況が変わったことで破壊されずに残っており、病院跡から回収されていた)を起きないように注意しつつ固め打ち。

4. たとえ失敗しても歩を解放出来るし、相手が"個性"『干渉』を扱いきれないことも知っている。ほら、無問題でしょ?(『干渉』さん談)

 ただし本編でも完璧に嵌められていた訳ではありません。部屋が侵食されていたのがその証左。
 なお作戦の仔細を知っていた&『個性破壊弾』を持っていたのはホークスだけでした。
 結果、耳郎ちゃん及び常闇くん檄おこ。そらそうよ。

 原作がどうなるかは分かりませんが、これなら『捨て身』も封殺出来るやろの精神。
 だから、死柄木の起床関連に改変を入れる必要があったんですね。


 その他の戦場には関わりませんし、死柄木戦他は原作様に投げる形で全カット。
 というわけで次回エピローグです。


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Epi おしゃべりな"個性"と共に歩む少女


 Q. 通子ちゃんは決戦に参加しなかったの?
 A. 実情はともかくメンタル十歳の女の子を戦闘に駆り出すことを許容するヒーローはいませんでした。学徒動員だってギリギリの許容でしたので。救助ならまだしも。

 Q. マスターピース死柄木戦に彼女達が参戦してたらどうなった?
 A. 極高防御の本体&増える大質量の()()に対して『干渉』が出来る事はマジで何も無いです。

 Q. 例の件を耳郎さん達から聞いただろう麗日さんの反応は?
 A.
  「『干渉』さん? ……いっぺんブン殴ったるから歯ぁくいしばれ?」
  「ふ、二人にも散々言われてもう分かってるから!? それに歩も巻き添えに―――」

  「あー……じゃあ【面会】使って。はよ」
  「殴られる為に!?」




 エピローグ+出し切れなかったオリキャラ設定紹介の場。



 

「―――二つ、伺ってもよろしいでしょうか」

 

「根津校長は予想通りと言うかもしれませんが、それでも早過ぎじゃありません?」

 

「生きている内にもう一度青空が拝めれば……と、までは流石に言いませんけれど」

 

 

「……ええ、まあ、そうですね。あの時同じ戦場に居たヒーローの中に減刑嘆願に動いている方が居るというぐらいの話は、私にも入ってきていました」

 

「だから……それを知ってからは刑期が増すような行動は控えましたよ、確かに」

 

「しかし、その……二つ目の質問に掛かってくるんですが」

 

 

「出所の迎えにあなたが来るということは、まだ籍を残してあるんですか? ……相澤先生」

「良いからさっさと出てきて車に乗れ。これ以上ここで問答するのは非合理だ」

 

 

 

 

「―――先に確認するが、お前は外での出来事をどれだけ把握している?」

「……殆ど何も。タルタロスよりは緩いとはいえ、甘い監視体制ではありませんでしたし」

 

「……あの『反向通子』と思考の共有が可能なのだと聞いていたが」

「具体的な思考まで受け取るには"個性"による増幅が必須なんですよ。刑期が増えるような真似は出来なかったと言ったでしょう?」

 

「……そういうことか」

「そういえば、その通子ちゃんはどうしてます? 何となくの感情ぐらいは伝わってきてますが」

 

「……セントラル病院の預かりになったそうだ。あの決戦、及び病院跡の戦いで大量に捕縛された脳無達と同様にな」

 

 

 

 

名前:反向(そりむき) 通子(とおこ)

"個性":『液体化』、『炸裂』、『超再生』

 

 "個性"『干渉』の元の持ち主。

 四歳の時分に『魔王』の手に落ち、以降五年間の『教育』を受けるも、生来の性根が影響してか思うような成果を得られなかったことで『ハイエンド』の素体へと回される。享年九歳。

 その際に組み込まれた記憶再設定のプログラムにより、彼女が()()()()()()()()()()以外は殆ど漂白されてしまっている。

 牢獄からそれらが破壊された際、かつてとは逆に『干渉』の記憶の一部が彼女に逆流していた。

 なお彼女達がそれを確認したのは、直接顔を合わせ、陥落するタルタロスを脱獄した後である。

 

 決戦の後、セントラル病院で行われる脳無の復元研究の()()に志願する。

 他の個体が脳波すら碌に検知出来ない中、友好的な応対が可能な彼女は哀れな犠牲者達を救える可能性を示す希望として大変に重宝されている。

 また、偶に某『兎』ヒーローに連れ出されているという噂があるが、真偽は不明である。

 

 

 

 

《……通子お義姉様》

「……良かった、というべきなのかしら?」

「さぁな。……一応聞くが、彼女に自我を取り戻させた方法は、他の脳無では実現不能なのか?」

 

「……望みは薄いですね。あれは"個性"と肉体(私たち)の繋がりを利用した手段ですから。……どなたか、気になる方がおられるんですか? 犠牲者の中に」

「…………いや、無理だというならそれでいい」

 

《セントラル病院……確か、お父様もそこに送られたんだよね?》

「お父……干河増太氏については、その後どうなりました?」

「……両親と干河家の人間、どちらが身元引受人になるかで揉めたという話を耳にした程度だな。双方の間でどう決着したかまでは、部外者が知れる情報じゃない」

 

 

 

 

名前:干河(ほしかわ) 増太(そうた)

"個性":『増力』

 

 干河歩および反向通子の父親。

 件の告発以後、セントラル病院に移送されるも、回復の見込み無しと診断される。

 その後、彼の扱いについて周囲で行われる議論の何れも、彼の耳は聞いてはいない。

 ただ時折、彼を訪ねに来る『液体の少女』の姿が、開かれたままの瞳に映るのみである。

 

 

 

 

「ああ、それと、だ……干河家はお前達母娘を絶縁した。二度と家の名を名乗るなとのことだ」

《……っ!?》

「……そう、なりましたか」

 

 

《…………》

(歩? 大丈夫?)

 

《ん……お母様がやっていたのは、そういうこと、なんだよね》

(……そうね。少なくとも彼女の親類はそう判断したということよ)

 

 

「……お前()は……」

「いえ、大丈夫ですよ。しかしそうなると……私、父方の親戚については何も知らないんですが」

 

「ああ…………そうか」

「……相澤先生?」

 

 

「―――干河増太の御両親は、お前達の受け入れを拒否している。生家を放逐された孫を哀れには思っても、息子を『壊した』女の娘を憎まずにいられる自信は無い、とのことだ」

 

 

《う、ぁ……か、『干渉』……っ》

「……そうですか。いえ、仕方ありませんね」

 

「……失った苗字の代わりは許容する。それが最大の譲歩、だそうだ」

「成程。ありがたい事です」

《…………》

 

 

(……歩? 私は気にしていないわよ? というか、あなたにとっても祖父母にあたるんだから、そう縮こまることもないじゃない)

《だ、だって、本当だったら……っ! わたしや、お母様のせいで……》

 

(……それよりもあなたは、そんな彼らの判断を酷いと思う?)

《…………う、ううん。お爺様達の立場なら……そう、なるよね?》

 

(ふふ……ええ、そうよ。彼らの心情からすれば自然なこと)

《『干渉』……》

 

 

「ついでにお聞きしますが、あの女……干河心美の刑はどの程度に?」

「ああ…………()()か」

 

「っ、ふふ……仮にも生徒の親をアレ呼ばわりはどうなんですか、相澤先生?」

「……すまん。だが、まあ……そうだな。ある意味、大物だったよ」

 

 

 

 

名前:干河(ほしかわ) 心美(ここみ)

"個性":『伝心』

 

 干河歩の母親。娘と違い豊満な身体の持ち主。

 何がとは言わないが三桁である。

 

 決戦後、作為の幇助者として起訴され罪過の判定が行われた。

 規定に従い正犯(AFO)の半分を基準に酌量の余地によって減刑が考慮される筈であったが、取り調べの場でも()()()()()()供述が行われた結果、その刑期は異例と呼べるほど早く決定した。

 何がとは言わないが三桁である。

 

 干河増太に出会った当初から、彼の心に別の女性が存在していることは理解していた。

 だが己の『嘘偽り無い愛』を『伝え』続ければいつか想いは双方向になると本気で信じていた。

 彼が自らの心を残滓すら残らぬ形で粉砕したのが、その"個性"から逃れる為だったということを彼女だけが今も理解していない。

 

 

 

 

「……そうですね、他に聞くべきことは―――あっ」

「どうした?」

 

 

「お茶子さんと緑谷さん! あれからどうなりました!?」

《そういえば! あの戦いのちょっと前から交際が始まったんでしたよね!》

 

 

「…………ああ、それについてなら、丁度あの二人から預かってる物がある」

《預かる?》

「これは……手紙?」

 

 

「…………」

《…………》

 

 

「……ば」

《……わぁ》

 

 

 

 

「ばかじゃないの!? ()鹿()じゃないの、あの二人!? 私達の出所がいつになると……第一、昨日今日監獄から出てきた人間を誘うどころか()()()()()()()だなんて正気の沙汰じゃ―――」

 

 

 

 

「ちなみにお前が断るなら代役は頼んであるらしいぞ。……爆豪に」

「それこそ馬鹿じゃないの!? ……もう、分かったわよ! やれば良いんでしょ、やれば!」

 

 

 

 

名前:反向(そりむき) 射子(いるこ)

"個性":『反射』

 

 反向通子の母親。

 地方ヒーローのサイドキックとしてデビューし、数年で活動が途絶えた彼女のヒーローとしての記録を知る者は殆どいない。

 彼女が抱き、貫き通した想いを知る者もまた僅かであり、その遺体の行方を知る者さえ、今となっては語る口を持たない。

 

 ただ、そんな彼女と長き時を過ごした"個性"『反射』が、太平洋上にて『新秩序(ニューオーダー)』の反発力にその身を差し出したという記録が残るのみである。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「―――ただいまご紹介にあずかりました……あ、皆様に馴染みのない名前だった為に混乱させてしまったこと、まずは謝罪させていただきますね」

 

 

「学友であった時分、お二人から歩ちゃん―――および『干渉』と呼ばれていた者です。それでは僭越ながら、お祝いの言葉を述べさせていただきます」

 

 

 

 

「出久さん―――お茶子ちゃん。このたびはご結婚、誠におめでとうございます!」

 

 

 

 

名前:一方(ひとほ) (あゆみ)

"個性":『干渉』

 

 生家より追放され、干河姓を名乗れなくなったことで、以降は父方の家名を使用するように。

 決戦から数年後、数々の情状酌量によって当人の予想を遥かに上回る早さで出所を果たす。

 その後、表向きには新入生として雄英高校普通科へと転科及び復学。在学中は特に余人の話題に上ることも無く学生期間を終えた。

 

 卒業後、新進気鋭のヒーロー デク事務所に事務員として就職。

 以来、独りでに書き込まれる書類、

 誰も居ないのにお茶を淹れだすキッチン、

 アナログなのに自動なドア等々が、この事務所の風物詩となる。

 

 その存在を知らずに他事務所から訪ねてきたヒーロー達の間で、「あの事務所は生きている」と密かに噂されるように。ついた異名は誰が呼んだか『生きた事務所(リビングオフィス)』。

 その名は正体を知る僅かな者達の間でひっそりと彼女の通名として使用されることになった。

 

 仲間内では彼女のヒーロー免許取得を希望する声もあったが、当人()はこれを固辞。

 以降、彼女が現場で"個性"を振るったのは、主に()()()()()においてプロヒーローの許可の下に活動する機会が多少存在したのみである。

 

 

 さらに数年後、双方を知る誰もが驚愕する人物と入籍を果たす。

 しかし、その時の彼女が果たして『どちら』であったのか、事実を知る人間は極めて少ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……歩」

「……『干渉』」

 

 

「…………ふふっ」

「…………えへへ」

 

 

 

 

「「―――ごめんね?」」

 





 最後に作中では触れる機会の無かった謎について。

 Q. 【面会】空間が白い部屋だった理由は?
 A. 原作OFA内会議の部屋が初代が(AFO)に囚われていた部屋だったように、『干渉』さんにとってその境遇の象徴となる部屋、すなわち干河増太(父親)が寝かされていた地下室が基になっていました。

 Q. 結局歩ちゃんに『与えられた』ときに『干渉』さんに意志が芽生えた理由は?
 A. 荼毘こと轟燈矢君が母方から氷系の"個性"は継がずに冷気に強い『体質』だけを得たように、 "無個性"ながら他者の心に影響を及ぼす『体質』だけを母親から継いだのが歩ちゃんでした。
 ゆえに"個性"を得た瞬間から対象とする選択肢に、『干渉』さんの心、が含まれていたのです。
 そんな歩ちゃん(四歳)が得たばかりの"個性"を()()()()()()()使()()()()ことが『干渉』さんの意識の始まりとなりました。

 Q. では『干渉』さんの見立ては誤りだった?
 A. "個性"『干渉』ひいては『増力』にそれを成す土台があったという彼女の見立ても間違ってはいません。
 要は選択肢を認識出来るかどうかであり、『干渉』さんは歩ちゃんの感覚経由で()()を理解したことで彼女一人でも【面会】を使えるようになっていました。

 なお彼女達がこれらを知る機会はこれまでもこれからもありません。




 互いが失わせたモノを『罪』、失ったモノを『罰』と捉えながら、
 その後の彼女達は共に歩んでいきました。

 夢を捨てた彼女達が幸福だったかどうか。
 それは当人達、そしてウラビティとその仲間達だけが知っています。




 これにて本編は終幕。

 明日の朝にifルートを一話投稿、同日夕方に活動報告を上げまして、本作は完結と致します。

 長い間のご愛顧、誠にありがとうございました。


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Another
A-n おしゃべりな"個性"とあるかもしれなかった物語



 たったひとつ、掛け違えられたボタンを正したならば。

※整合性さんがお亡くなりになられていますが、ifルートということで一つ。



 

《―――ねえ》

 

 声が、聞こえた。

 

 

《―――ねえったら》

 

 気のせいだと、思った。

 

 

《―――そうじゃないよ》

 

 あの時は、夢中だったから。

 

 

《―――そうじゃないったら》

 

 目の前に浮かぶボールに。それを浮かばせられる"力"に。

 

 

《―――使うなら、ちゃんと使いなさいよ》

 

 使えるようになったばかりの"個性"に、目を輝かせていて。

 

 

《―――仕方ないから、教えてあげる》

 

 これで自分もヒーローになれると、喜んでいた幼い私は。

 

 

 

《―――"私"はこうやって使うのよ》

 

 突然()()()()()()()()()に、呆然と漂った。

 

 

 

 

 ―――これは私が、ちょっとおしゃべりで……素直じゃない"個性"と一緒に、最高のヒーローを目指す物語。

 

 

 

 

《ヒーローになりたいのは、あなたであって私じゃあないからね》

 

《まあ、応援だけは、してあげるわよ?》

 

《…………通子(とおこ)お姉ちゃん》

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――ハイ スタート!」

 

 

「…………えっ?」

《……スタート、したみたいよ?》

 

 

 場所は雄英高校、入学実技試験。

 その会場となる模擬市街地へと集められ、どんな形で試験が始まるのだろうと身構えていた耳に届いたのは、あまりにも簡素な開始の合図。

 

「え、ま、【自己自在(マニピュレイション)】っ!」

《早速って次元じゃないわね……そりゃまあ、現実の事件に開始の号令があるわけないんだけど》

 

 慌てて自分自身に向けて"個性"を発動、私にかかる重力の向きをちょいと捻じ曲げ、増幅する。

 そうして浮かび上がった私の身体は、同時に動き出した受験生達の頭上をふわりと追い越した。

 

「え、うわ、あの女子、飛んでる!?」

「しかもどんどん加速してるぞ!」

 

 そんな声を背中に飛び出した私の視界に飛び込んできたのは、ぞわぞわと動く説明された通りの姿をした無数の仮想(ヴィラン)達。

 その光景を前に、ついさっきまで頭に描いていた筈のシミュレーションを現実にしようとして、ふと思い立った。

 

(……他の受験生が全くポイント取れなくなっちゃうけど良いのかなあ?)

《……学校側が何か考えるでしょ。そんなの》

 

「それもそっか。……半径三十メートル、【掌握(スフィア)】、【反射】、からの―――」

 

「「「え……っ!?」」」

 

 感知範囲、射程範囲にぎっしり詰まった仮想敵をまとめて"個性"の対象化。

 それぞれに掛かっている重力を逆方向に【反射】すれば、全員中空へと浮き上がる。

 とはいえ流石にこの数この重量を長く滞空させるのは無理なので―――

 

「ロボ同士をぶつけて壊す! 【加速】ぅ!」

 

「ええぇぇっ!?」

「おい何かすげぇ数一気に倒されたぞ!?」

「同じ会場にあんなの居たらポイント取れねーよ!?」

 

 受験生(ライバル)の驚愕……というより悲鳴が聞こえて、やっぱりやっちゃったかなとちょっと不安に。

 そんな私の頭の中に《お姉ちゃんが気にすることないわ》と冷たい声が響いた。

 

《さっきも言ったけど、今のヒーロー業界は手柄の取り合い。後れを取る方が悪いのよ》

(う、うーん……確かにそうなんだけど……)

 

《それより射程圏外にもまだ仮想敵は残ってるはず。ここまできたら全滅を狙いましょ》

(うわーい容赦無い。まあヒーローとしてはそれが正しいよね。了解了解)

 

 この試験の想定も、受験生に求められるものとしてもその姿勢が最適解だとは思うけど、ドライ過ぎる妹がちょっとだけ心配だよ、お姉ちゃん。

 

 

 

 

「《……えっ》」

 

 ―――そうして模擬市街地を飛び回り、打ち漏らしを見付けては撃破すること数分後。

 耳に感じた轟音、よろける受験生と空気の振動で察した地震。

 彼方へ集まる視線に釣られ、振り返った先には、天を衝かんばかりの巨大な影。

 

「……0P(ヴィラン)

《……雄英ってひょっとしてバカしかいないのかしら》

 

「「「う、うわああああっっ!!?」」」

 

 ゆっくりとした前進。緩慢な動作で振られる腕。

 たったそれだけで模擬市街地に巻き起こされる絶望的な破壊。

 あまりに分かりやすい暴威に、一斉に逃げ出す受験生達が眼下に見えて。

 

《あーあーもう……仮にもヒーロー志望が揃って逃げ出すんじゃないわよ》

(いやあ……敵わないと思った相手から逃げるのは必ずしも間違ってはないんじゃないかなぁ)

 

《……それもそっか。現場においては『無能な働き者』が一番迷惑だもの》

(言い方ぁ)

 

 0P敵が振るった腕が仮想ビルを破壊する様が遠目に見える。

 破片が周囲にもたらす二次被害を避ける為、撒き散らされたそれらを一斉に【減速】。

 被害を抑えつつ、逃げていく人の流れを上空から遡って、荒れ狂う暴威に対峙した。

 

「この質量じゃ飛ばすのは無理。【減速】させて抑え込むのも難しい。……しょうがないよね」

《それでなくとも、市街地で暴れ回るヴィランに遠慮は無用でしょ》

 

「いやいや人間には使わないからね! ……右」

《まあ、使えないものね、出力的に。……左》

 

 イメージするのは一本の腕に一台のピアノ。

 使う指を二人で分けて、二つの曲を同時に爪弾く。

 

 

「《―――【反射断裂】っ!》」

 

 

 巨大な猛威が、聳え立つ絶望が、パカンと左右に割れた。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

『―――来いよ、一方(ひとほ)少女。雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ!』

 

 

「……良かったわね、通子ちゃん」

「……うん、お母さん」

《……ま、当然ね》

 

 

「そっかあ……通子もヒーロー科かぁ……そっかぁ……」

 

「うふふ……家庭内のヒエラルキーが大変なことになったわね、増太(そうた)さん?」

「勘弁してくれよ、射子(いるこ)……」

 

 悪戯っぽく笑うお母さんに、遠い目をして苦笑いを浮かべるお父さん。

 今日も仲がよろしいようで何よりです。

 

「それじゃ、なるべく雄英に近いアパートでも契約しなくちゃね」

「……えっ?」

「あ、そうだね。高校生になったら一人……二人? 暮らしをするって決めてたし」

 

「え、えっ、聞いてないぞ、射子? 通子?」

「「《そりゃあ、言ったら面倒くさいことになるし?》」」

 

「そ、そんな声を揃えて……年頃の女の子が一人暮らしだなんて危ないだろう?」

「そんなこと言ったって、いつまでも実家暮らしのヒーローなんて様にならないよ」

「娘が可愛いのは全面的に心の底からこれ以上なく同意するけど、過保護なのも良くないわ」

 

《……この人の説得もまあまあ苦労したわよね》

(一度納得してくれたら早いんだけどね……)

 

 笑顔でお父さんに詰め寄るお母さんを見ながら、頭の中で苦労の軌跡を呟き合う。

 情と正論の両方でどうにか説き伏せたけど、正直面ど……愛されているなあと実感したものだ。

 

「何よりこの子達は私の……元プロヒーロー『リフレクション』の娘なのよ? ちょっと親元から離れるくらいでどうにかなるような、やわな娘じゃないわ」

「そりゃまあ君に似て逞しく育ってくれたことは分かってるが……父親としてはそういう問題じゃなくてだなあ……」

 

《……これは、長引きそうね》

(今の内に部屋の整理でもしてよっか)

 

 

「―――あっ、ちょっと待って、通子ちゃん」

 

 今は口論のようになっているけど、気付けばキスの一つもしてくっついてるんだ。知ってる。

 流石にその現場にはそろそろ巻き込まれたくないと、部屋に引っ込もうとしたところでお母さんに呼び止められた。

 

「《……何ですか? ちょっと両親のイチャイチャをこれ以上見守りたくないんですけど》」

「あらもうこの子ったら……ごめんね、忘れていたことがあったの」

 

 そう言って、お母さんは私をぎゅっと抱き寄せた。

 ……こんな風に抱きしめられるのはちょっと久し振りで、何だか心が浮ついてしまう。

 

「よく頑張ったわね。……えらいわ、通子ちゃん、『干渉』ちゃん」

「……うん、ありがとう。お母さん」

《……お母、さん》

 

「これからも二人で仲良く、ね? あなた達二人ならきっと、何だって出来るわ」

「うん。……これからもよろしくね、『干渉』?」

《…………うん。よろしく……通子お姉ちゃん》

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」

「思わねーよ! てめーどこ(ちゅう)だよ端役が!」

 

 

《わぁお》

「ヒーロー志望も色々だなあ」

 

 入学式のその日、教室で繰り広げられたのは、これから級友になる男子生徒同士の言い争い。

 

《ああいう男には近付いちゃダメよ、お姉ちゃん》

「うん、まあ、言われなくても近付かないよ」

 

 幸い()()()()()()()()()、なるべく遠くから眺めていられる立場のままでいたいと思う。

 ……とはいえヒーローには他人と協力する場面なんて幾らでもあるだろうし、授業の中で関わる分には仕方ない―――

 

(……あれ?)

《どうしたの?》

 

(いや、人数足りなくない? 私達を一人と数えたら十九人しか来てないよ?)

《……いや、流石に二人カウントはしないでしょうよ。でも確かにそうね。そろそろ時間―――》

 

 

「―――間に合いましたぁ!」

 

 

 教室の大きな扉をガラッと開けて、時間ギリギリに滑り込んできたのは青髪の女子生徒。

 既に中に居た十九人の視線が集まる中、彼女は何かを見付けたようにハッと息を呑む。

 

 次の瞬間、彼女は目当ての人物に向けて駆け出して。

 その相手もまた、気持ちは同じだったのか手を伸ばして。

 

 

「干河歩!」

「麗日お茶子!」

 

 最低限の自己紹介と共に、がっちりと両手を取り合った。

 

「受かってたんや!」

「同じクラスですね!」

 

 手を繋いだまま、その場でぴょんぴょんと跳ねて互いの合格を祝い合う二人。

 そこに、先の言い争いに参加していた眼鏡の男子生徒が声を掛けにいく。

 

「その様子……同じ中学の出身なのかい?」

「ううん、入試の日が初対面」

「実技試験の会場が同じだったんです」

 

「そ、そうなのか……」

「その時に気付いたんよ、ねっ?」

「はい、わたし達は―――」

 

 そこで二人は顔を見合わせて、にっこりと笑い。

 

 

「「魂で通じ合った仲間だと!」」

 

 

 声を揃えてそう宣言した。

 

「あの十分で何があったらそうなるんだい!?」

《それはそう》

「賑やかなクラスになりそうだなあ」

 

 

「お友達ごっこがしたいなら余所へ行け。ここは……ヒーロー科だぞ」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――入学式もガイダンスも無しにジャージに着替えてグラウンドに集合って……」

《流石ヒーロー科。普通の学校とは比較にもならないわね》

 

 女子生徒全員で急かされるように飛び込んだ更衣室。

 用意されていた学校指定のジャージに着替えている途中、ふとさっきの二人が目に入った。

 

「しっかしまあ、ギリギリやったね……その後すぐここまで走らされたし……大丈夫?」

「ぜぇ……はぁ……な、何とか……」

 

 

「…………」

《……お姉ちゃん? あの二人がどうかしたの?》

 

「いや、何となく気になるというか……」

 

 既視感というか、違和感というか……あの二人が並んでいる姿に何か感じるものがあった。

 もやもやした気分を抱えたまま着替え終えた後で、思い切って二人に話しかけてみる。

 

「ねえ、えっと……干河さんに麗日さん、だよね?」

「え、うん、そうやけど……」

「えっと……」

 

「あ、ごめん、一方的に名前を知ってるのも良くないよね」

 

 振り返った二人を前に、こほんと咳払いを一つ。

 

「私の名前は一方(ひとほ)通子(とおこ)。"個性"は『干渉』。これからよろしくね?」

「ん……麗日お茶子。"個性"は『無重力(ゼログラビティ)』。こちらこそよろしく!」

「最後はわたしですね。干河(ほしかわ)(あゆみ)。わたしの"個性"は―――」

 

 

 

 

 ―――おしゃべりな"個性"と、共にヒーローを目指す女の子。

 

 

 

 

「『ネビルレーザー』です!」

 

 

 

 

 それは、あるかもしれなかった物語。

 





 それでは、またいつか。




※本編よりは早くハッピーエンドフラグを踏めます。多分。
 あと流石に女の子が下は不味いので上です。念のため。


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A-m あったかもしれない面会集


 毎日更新って急にやめると思ったより精神に悪いですね。
 綺麗に締めた直後で難ですが、書いちゃったものは仕方ないので。


 本編中に無かった【面会】がもし行われていたらな妄想集。
 またの名を The 蛇足 and 没ネタ供養集。

 整合性さん? ifの世界じゃ彼は留守だ。



 

Case1:『イヤホンジャック』 at 林間合宿二日目夜(C3-10)頃

 

 

「───Hey! Listener's! ウチのライブに来てくれてマジ Thank you very much!!」

 

「……わぁ」

「おおう……ロッキンガール」

「ちょ、ま……待って!? ウチの『イヤホンジャック』こういう感じだったの!?」

 

 

 事の発端は就寝前の話題に出た、明日の夜に予定された肝試し。

 当日は"個性"に替わってもらうつもりだと漏らした言葉を、耳聡く『聞き』つけた耳郎との押し問答の末に急遽開かれた【面会】の場。

 そこで待っていたのは、白い机をお立ち台にして元気良く呼び掛け(コール)を放つ一人の幼女であった。

 

 メッシュで区切られた逆立つ髪に、大胆なアイラインで飾られた三白眼。

 スピーカーの付いた両耳から軽快な音楽を発し、キレのある踊りを披露しながら三人の訪問者(リスナー)を弾ける笑顔で迎え入れるは、耳郎響香の身に宿りし"個性"『イヤホンジャック』。

 

「Yeah! 会えて嬉しいよ、キョウカ! アユミ達も Thank you! も一つ感謝の Hug を!」

「わ、わぁ……ありがとう……」

「……耳郎さん。就寝前にこのテンションはキツイんだけど」

「イヤ、ウチに言われても!?」

 

 一同に順番に抱き着いていく『イヤホンジャック』に応対しつつ、『干渉』から小さく溢された呟きに同じく潜めた声で叫ぶ耳郎。

 当の幼女はそんなやり取りに気付く素振りもなく、再び机を舞台に喜びを奏で始めた。

 

「ま、まあ……こういう感じなら逆に頼みやすいし良かったじゃないですか」

「……ああ、確かに『無重力』さんみたいに耳郎さん似の幼女に出てこられてたら、あんな頼みはとても出来なかったわよね」

「う……そう言われたら確かに……え、えっと、『イヤホンジャック』?」

「What? 何か頼み事かい、キョウカ!」

 

 一度は想定外のノリとテンションに圧倒されていた一同だったが、元々の目的を思い出し、今もニコニコと踊る幼女へと事の次第を説明する。

 それなりに切羽詰まった耳郎の懇願をふむふむと聞いていた彼女は、やがてグッと握った拳から親指を元気良く天に立てた。

 

「───No problem! そんなのお安い御用さ!」

「よ、良かったぁ……ありがとう、『イヤホンジャック』!」

 

「You are welcome! それにしても本当に怖がりだなあ、キョウカは!」

 

 ほっと安堵の息を吐いた耳郎に、先にも増して明るい音楽を流し始める『イヤホンジャック』。

 そんなそれぞれの元に、また合わせるかのように宿主と"個性"の二人が歩み寄る。

 

 

「……あの、でも耳郎さん? わたし、一つ問題に気付いたんですけど……」

「……え、干河? 問題って?」

 

「いえその……まずわたし達みたいに『イヤホンジャック』さんに替わってもらうことが出来るかどうかもそうなんですけどね? 仮にそれが出来るとしても、わたしが耳郎さんに触れていないと間違いなく無理だと思うんです」

「…………え?」

 

「"個性"への意思の増幅は、相手に触れた上で同意が無いと駄目なので……肝試しがどういう形式になるか分からないですし……流石に一人ずつ行かされることは無いとは思いますけど───」

 

 

 

 

「…………あれ、この曲……確か子供用の教育番組で良く聞く曲のような…………あっ」

「…………」

 

「ね、ねえ、本当に大丈夫なのかしら、『イヤホンジャック』さん? さっきから()()()()()()()()()()()()()()()があなたの耳から無限ループしてるんだけど……」

「……キョウカの」

 

 

「キョウカの、頼みだから……! だ、大丈夫……こ、ここここ怖くなんかないんだから……ッ」

「ただの強がりだったの!? それならそうと……ちょっと、耳郎さ───」

 

「ア、ま、待って!? キョウカの役に立つ、立てるなら……お、オバケなんて……オバケなんてオバケなんてオバケなんてオバケなんて───」

「……気持ちは買ってあげたいけど、どう見ても限界じゃない? その献身、誰も幸せになれないような……ああ、分かった、分かったから───」

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ヤオモモ! お願いクジ交換して、ヤオモモぉ!?」

「え、ど、どうしたんですの、耳郎さん!?」

 

「あ、あれぇ……そんなに私とペアなの嫌だったの……?」

「……違う、違うのよ、葉隠さん。耳郎さんにも色々と事情があって、その……」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

Case2:『ハイスペック』 at 本編終了後?

 

 

「───HAHAHA! 全く君のおかげで随分と苦労させられたよ、『ハイスペック』君?」

「hahaha! それなら実験用マウスの一生がお望みだったと言うのかい、『私』?」

 

「いやいやまさか! ()()()の百倍は謳歌させてもらったさ、泥濘に塗れた絢爛たる世界をね! 私に宿ったのが君であったこと、この小さな脳髄の奥から感謝しているよ!」

「いやいやこちらこそ! (ケージ)の外で『偉人』になってみせるなんて奇天烈な発想、この真っ白な腹の底をほじくり返したって"私"からは飛び出さなかったさ!」

 

 

(……ねえ、『干渉』? あの会話……)

(ええ……お互いに言葉の選び方が、何というか……)

 

 

「折角だから一つ聞いておきたいのさ! 宿ったのが私でなかったならば、やはり君はこの社会に仇なしたと思うかい?」

「おやおや、らしくもない無意味な仮定なのさ! 『私』に宿ったからこその"私"であり、"私"が宿ったからこその『私』なのだからね!」

 

「それもそうだね、HAHAHA! 私としたことが年甲斐も無く興奮してしまっているのさ!」

「それはお互い様さ、hahaha! "私"もこの奇矯な機会に平静ではいられそうにないのさ!」

 

 

(……仲が良い、のかなぁ……?)

(……うん、まあ、言い争いではないわよね。少なくとも)

 

 

「しかし疑問だね! この部屋に招かれた者は一部の例外を除き"個性"を使えないと聞いていたんだが……私の脳みそがネズミのソレに戻った気はしないのさ!」

「ああ、それなら簡単さ! "個性"と共に身体に顕れる『体質』というものがあるだろう?」

 

「成程! すると鶏が先か卵が先か……まあ、私はネズミなんだがね! HAHAHA───」

「違いないね! hahaha───」

 

 

(……会話の流れについていけないです)

(安心しなさい、歩。私もだから)

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

Case3:『OFA』二度目 at 救助訓練レース(C3-4)頃?

 

 

「───オール・フォー・ワン……?」

「"個性"を『奪い、与える』……ッ!?」

「……そう、なんだ。僕もついさっきオール……っ! 八木さんから、聞いて……」

 

 迫る期末テストの報せにクラス中が危機感を与えられたその日の放課後。

 思いつめた顔の緑谷に求められ、再び開かれた【面会】の場で()()情報は彼女達に語られた。

 

「…………」

「……まァ、仕方ねえよなあ。舞台だけ作って耳を塞いどいてくれは通らねぇ」

「……知らないままで居られたら、それが一番なんだけどね……」

 

 かつての和やかな気配が幻であったか如く、張り詰めた空気を纏う八対の瞳。

 使命感と罪悪感が入り混じった彼らの視線を浴びながら、二人の少女は対照的な反応を示した。

 

 青髪の少女は何かに思い当たるかのように、口を開きかけては戸惑い混じりに顔を伏せ。

 金髪の少女はその様子を横目に、口元を覆った手を白く震わせる。

 

「……その、それってもしかして……『叔父───っ?」

「え───」

 

 事が動いたのは、青髪の少女がさらに何事かを口にしようとした瞬間。

 目を剥く緑谷が見たのは、彼女の側頭部を押し倒す勢いで荒々しく掴む、金髪の少女の手。

 

「【減速】」

「っ、ぁ」

 

「【減速】、【減速】……【減速】!」

「どぉ……し、ぇ───?」

 

 もたらされたのは、糸の切れた人形の如くかくりと項垂れるクラスメイトの姿。

 突然の凶行に呆然とする緑谷を、その背後で固唾を呑み身構えた八人を前に、金髪の少女は僅かの沈黙の後で、ポツリと呟きを落とした。

 

「……今から、私が挙げていく特徴に心当たりがあればそう言って下さらない?」

「か、『干渉』さん? 何を───」

 

 問いかける緑谷の声を余所に、朴訥とした口調で彼女は話し出す。

 

 それは、()()()()の身体的特徴。

 髪の色、瞳の色、口調。

 そして───かつての彼女が目にした限りの()()

 

 

「な……っ!?」

「おい、そいつァ……!」

「……まさか、君は……!?」

 

 

 それは緑谷にとっては何も思い当たることなどない、謎でしかない情報。

 しかしその背後で、口々に動揺を漏らすは彼が並ならぬ敬意を抱くOFA歴代所有者達。

 

 何か……重大な何かが語られていると、彼が判断するには十分過ぎる光景。

 そしてそれは、この場で語り手に立った彼女にとっても同様であった。

 

 

「……"私"が『干河歩』へと『与えられた』のは、今より十一年の昔」

 

 

 言葉の意味を緑谷が理解したのは、おそらくこの場で一番最後。

 

 

「その恩を以て彼女の母、干河心美は……娘をAFOの手先として動かしている」

 

「『奪われた』持ち主は、おそらく疾うの昔にこの世には……」

 

「ああ、今確信したわ。……USJの(ヴィラン)襲撃、あれは歩が母親に送った授業予定が要因ね」

 

 

 口元にだけは笑みを作り、しかし瞳には絶望を湛えて、彼女は椅子の上に項垂れる。

 丁度、隣に佇む意思を封じられたもう一人の少女と、酷似した姿勢を作りながら。

 

 

「───ねえ、緑谷さん? 私は…………どうしたら、良いのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「───と、いう感じかしら? あの当時だと私もまだ碌な覚悟も出来ていないだろうし、どんな結論を出すかは私にもちょっと分からないわねぇ……」

 

「「…………」」

《…………》

 

 

「……ああ、でもこの時の私なら、まだ引き返す選択肢も……いえ、結局私が歩にしてきたことは変わらないし……いえ、それでも今とはもう少し違う未来があった可能性も……」

 

「「…………」」

《…………》

 

 

「あ…………ま、まぁ、少なくとも当時の緑谷さんやオールマイトが私達を巻き込む選択肢を取るはずが無いし、考えても仕方ないことよ。うん」

《そ、そうですね!》

「そ、そうやね!」

「そ、そうだね…………軽く振って良い話題じゃなかったなぁ……」

 





 本編中では計五回。その内訳は『無重力』、『OFA』、『黒影』、『無重力』、『AFO』。
 中々に盛大な独自設定を作っておいて、描写したオリキャラは『無重力』ちゃん唯一人。

 無暗にオリキャラを増やさないという狙い通りにまとめられたとはいえ、完結させた後になってちょっぴり勿体無かったかなー、という思いから生まれた蛇足集でした。

 しかしOFA二回目はルート分岐になり得るなぁ……


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A-k ありえなかった場面集


 完結後のifだからこそ許される(?)無茶なシーン集。

 整合性さんはぶん投げて飛距離を競う方向にシフトしてみました。



 

Case1:『ありえなかった接触』 at 体育祭第二種目、騎馬戦中(C2-3頃)

 

 

 

 

《―――ねえ》

 

 声が、聞こえた。

 

 

《―――ねえったら、聞こえてる?》

 

 気のせいだと、思った。

 

 

《―――そうじゃないよ》

 

 今は、それどころじゃないから。

 

 

《―――そうじゃないんだって》

 

 目の前の状況に、使える筈の"力"に集中していて。

 

 

《―――全く、仕方ないなあ》

 

 想定通りに動かせない身体に、焦っていた僕は。

 

 

 

 

《―――ボクが代わりにやってあげるよ。感謝してよね、()()()?》

 

 突然周囲から集まってきた()()()()()()()を、呆然と眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――物間ぁ!? あの1000万の騎馬(緑谷チーム)みたく飛ぶんじゃなか……っ、イヤ、ハチマキ取るのは良いけどこんな一気に集めちまったら―――」

 

 

「んだてめぇコラ返せ殺すぞ!!」

「あの"個性"……放置はできねぇな」

「そーくるならB組同士でも容赦しねぇぞ! 物間ァ!!」

 

 

「ほらぁ!? 超狙われてる!! 作戦どこいったんだよ、お前!?」

「ぅ、あ……ゆ、揺らさないでくれ、円場(つぶらば)……!? 今、頭が……おぇ―――」

 

「うわあぁ!? お前、人の頭の上で……!? ギ、棄権(ギブ)! ギブアップさせてくださぁい!?」

 

 

 

 

「……何が起きてるん、アレ?」

「干河に触れた途端に苦しみ出したようにみえたが……」

「え、わ、わたしは何も……?」

「周りの騎馬からハチマキが……周囲の物体を引き寄せる"個性"? でもそれにしては……」

 

《…………さっきの感覚、ひょっとして……そんな"個性"もあるのねえ……》

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

Case2:『ありえなかった下世話(げせわ)(ばなし)』 at 緑谷くん連れ戻し直後(C5-4頃)

 

 

 

 

「―――ずばり女性陣に、お聞きしたい!」

「……上鳴? 何さ、また唐突に」

 

「麗日は寮に戻ってきてすぐ自室で眠ってしまっている。これに間違いはないですか!」

「……まあ、そうだね」

 

「対する緑谷もまたこの通り、一連の話が終わってすぐ、ソファーの上で爆睡中です!」

「……見ての通りだね、うん」

 

 

「彼の連れ戻しに、避難民との軋轢解消の叫び……あれは麗日の『(LOVE)』が為せる奇跡だというのが男性陣大半の認識ですが如何(いかが)か!」

「……丁度、飯田が通子ちゃんを連れて外に出てるのと、同じく峰田が隔離されてるタイミングで話題に出した事との関連性は?」

 

「ノーコメントで!」

「ハイハイ……で、本題は?」

 

 

 

 

「この眠っている緑谷を、麗日のベッドに放り込むという案―――アリですかナシですか!?」

 

「…………イヤ、バカなの? 幾ら何でも悪ノリが過ぎ―――」

 

 

 

 

「詳しく聞こうじゃないか、上鳴くん」

「え、ちょ、芦戸? あんた何言って―――」

 

「エビデンス次第では検討に値するよ、上鳴くん」

「葉隠も!? ……いやいやそれはマジで冗談で済まないから!?」

 

 

「……三奈ちゃん、透ちゃん、上鳴ちゃん。響香ちゃんの言う通りよ。それは流石にいけないわ」

「いやまあ、本気でやる気はねーよ? けどもうそんぐらいの荒療治も辞さない勢いで背中押してやんねえと、こいつら進展しないんじゃないかって……」

「……分からなくはないけど、そっとしといてやりなよ。そのうち二人のペースで進み出すって、きっと」

 

「そうよ、それに……大事にしまっているものを暴かれるなんて、いたたまれないもの」

「そうだね、梅雨ちゃん。他人が隠してるものを勝手に曝け出すってのは人としてよろしくない。だけどその前に一つ、考えてみて欲しいんだ―――」

 

 

 

 

「そもそも麗日の恋心って、隠れてた?」

 

「…………」

「……いや、そこで目ぇ逸らしちゃ駄目でしょ、梅雨ちゃん……」

 

 

 

 

「ぶっちゃけ男性陣は、コレ隠す気無いだろ……早く応えてやれよ、緑谷……って思ってました。本人含めた素で気付いてないごく一部(飯田・轟)と、あと峰田以外は」

女性陣(こっち)も大体同じような感じだったよ……言質は取れてなかったけど」

「そんなんじゃないーって否定するんだよね。……真っ赤になって。そうかと思ったら、ぽーっとした目で緑谷くんのこと追ってるし……もう、ワザとやってない!? って感じだったよねえ」

「…………そ、それでも外野が口を出して良い理由にはならないわ。本人は隠しているつもり……いえ、隠していたんだから」

「……まあ、皆にもバレまくってて全然隠せてないよって話したことはあったけど」

 

 

「「「えっ」」」

「えっ? ……あっ」

 

 

「まさかの言及済み!? そ、それで麗日はそのとき何て言ってたの!?」

「い、いやほら、お互い大事な時期だし邪魔したくないって……」

 

「もう否定はしなくなってたんじゃん!? ……で、それに対して耳郎ちゃんは!?」

「あ、ああ、えっと……青春捨てることはないじゃん、ぐらいの軽い発破を……」

 

「……響香ちゃん。それ、いつ頃の話なの?」

「梅雨ちゃんまで!? あー……文化祭のちょい前ぐらい……?」

 

 

「文化祭前……」

「……そういえばそのぐらいの頃から、何となく二人で行動してることが多かったような……」

「そういやあ、訓練用の教室があの二人……と爆豪の名前で予約されてんの見た事あるぜ?」

「「「マジで!?」」」

 

「そん時は爆豪も居るならそういうのとは違うよなーって流してたけど……え、マジでか?」

「そ、そういえばその時期にどこかコソコソと出掛けていくことがあったような……」

「……えっ、もしかしてそういうこと!? そういうことなの!?」

 

「実は水面下でこっそり進展していたの!? で、でもお茶子ちゃんにそんな素振りは……」

「待て待て落ち着け! まずは爆豪に確認を―――アレ、居ねえ!? いつの間に!?」

「さっきまでそこに居たよね!? えっ、逃げた!?」

「ここにきて協力者発覚!? これは緊急事態だよ!? メーデー、メーデー!?」

 

 

 

 

「…………取り敢えず全員まとめて馬に蹴られろ」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

Case3:『ありえなかった嘆願成就』 at 二年A組文化祭(本編終了から約一年後)

 

 

 

 

「―――正気ですか?」

 

 一枚の冷たいガラスを越えて、そんな呟きが溢された。

 

「……教師に向かって開口一番それとは、良い度胸だな」

「いやいやそうもなりますよ……ご自分が何を仰ってるか分かってるんですか? ……相澤先生」

 

 以前のような拘束や機銃の備えは無くとも、それなりの警戒態勢を敷かれた部屋の中。

 囚人服に身を包んだ干河歩―――に宿りし"個性"『干渉』は面会に訪れたかつての担任教師へと胡乱な眼差しを向け、今一度言い放つ。

 

 

「―――『干河歩(私達)』を保護観察扱いで雄英文化祭に連れ出す? 正気の沙汰とは思えませんよ」

 

「俺も似たような台詞が怒号混じりに漏れてくるのを飽きる程聞いたよ。……校長室の前でな」

 

 

 返された言葉に息を呑んだ彼女に対し、相澤はただ事実を陳列するとばかりに言葉を続ける。

 

「前年にも()()はあったが、あの時は(ヴィラン)隆盛により、そもそも開催自体が危ぶまれていた状況。来場者制限を掛けての強行以上に無理を通せる余地など残されていなかった」

 

「対して今年は大きな事件も無く、校舎の安全性もこれ以上なく周知されてる。回復したヒーローへの信頼、ひいては社会への信頼は今、雄英を拠り所にしているのが実情だ」

 

「その辺りの事情で、今年は逆に校長の方が()()()()()()()立場にあるらしい。……俺の勘違いじゃなければ去年の鬱憤晴らしを兼ねてたな、あれは」

 

 

「……いち高校の校長が持ってて良い権力なんですか、それは……?」

 

 互いの脳裏に同じ哄笑の声を浮かべ、ガラスを挟んで遠い目になる二人。

 一度の咳払いを挟み、当初の問い掛けへと話題は戻された。

 

「……で、後はお前達の意思確認だけだ。……どうする?」

「…………」

 

 

《……ねえ、『干渉』?》

(……ええ、分かってるわ、歩)

 

 

「予想だにしていませんでしたが、可能だというならば」

「……そうか」

 

 その言葉に頷きを返した相澤は、面会を切り上げるべく動き出す。

 この場を見守っていた職員と二言三言交わした後で、彼は不意に呟きを落とした。

 

「そもそもAFO亡き今になって、未だにお前の拘留が続いていること自体が非合理なんだ」

「……それは仕方ないでしょう。どれだけ酌量を重ねたとしても元が元ですし……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――文化祭当日、舞台裏。開演三十分前。

 上がる時を待つ幕の裏、()()A()()の面々は今、観客より一足早く互いの衣装姿を披露していた。

 

 

「……どーお、デクくん? 似合っとる?」

「う、麗日さん!? う、うん、その……か、可愛い、よ?」

 

 

「……オイオイ、緑谷ぁ? もう一言ぐらいなんか無いの、『彼氏』としてさぁ?」

「こらこら、当の『彼女』が満足げにしてるんだから、つついてやるなっての」

「今年は衣装作りにも時間かけたからねー」

「タンスの角に小指ぶつけて爪割れろ……! そんで剥げろ……!」

「……峰田お前、言いたかねぇけどそういうとこだぞ」

 

 

「……お前ら去年から、あのヒーロー科の授業の合間にこんなことやってたんだよな……」

「まぁな! C組は去年は確か……お化け屋敷だったっけ?」

 

「ああ……それっぽいメイクして裏でスタンバイしてたぐらいさ。バンドの話は人づてに……足、引っ張らねぇように頑張るよ」

「そんな気負うなって! 大丈夫さ、心操!」

 

 

「今年は来場者制限が無いぶん、観客すっごいねぇ……会場も一回り大きいし」

「去年と大筋の演出は同じだけど……瀬呂くん轟くんの仕事量が増えてんだよね。大丈夫そう?」

「ああ、そこは問題ねぇ……けど良いのか?」

「ん? 何が?」

 

「打ち合わせ通りだと、()()()()()()()()()()()()と思うんだが……」

「ああ、それについては―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――『Aバンド・リターンズ』……?」

「関係者以外の立ち入りを禁止した去年の舞台の評判が口コミで広がったのを理由に、盛況の声に応えて……ってのが、あいつらが用意した表向きの説明だな」

 

《みんな……》

「……バカばっかりなんだから、もう……」

 

 開演間近の薄闇の中、座席は中央最後尾。

 パンフレットを片手に目を伏せる彼女の隣で、相澤は気怠げに周囲の観客を見渡す。

 

「内外から熱望する声があったのも事実……期待は天井知らずなわけだが、さて、どうかな」

「……それぐらい軽く越えていくでしょう。彼らなら」

 

 去年とは方向性の異なる『品定め』の意思を抱く観客の存在を確認しつつ、そんな呟きを返した彼女の横顔を、相澤は一瞬見下ろす。

 意識の内にあるのか否か、()()に共通する黒の瞳に滲む寂しげな光に、彼は黙って息を吐いた。

 

 

 

 

「……お」

「おお、始まるぞ」

「去年見れなかったからなー」

「噂は聞いてたけど、どんなモンだぁ」

 

 開演時間を告げるブザーと共に、ステージを仕切る幕が左右に開く。

 微かな期待(ガヤ)と拍手の中、浮かび上がるのはズラリと整列した黒い影。

 

 

「―――いくぞゴラアアア!!」

 

 火蓋を切るは、掛け声と共に爆豪(ドラマー)が鳴らした文字通りの『爆音』。

 ベース、ギター、シンセサイザーの音色がそれに続き、暗闇から一転、眩く照らされたステージの上を並んだ人影が一斉に動き出す。

 

「―――よろしくお願いしまァス!!」

 

 耳郎(ボーカル)の一声を合図に、始まったのは一糸乱れぬラインダンス。

 曲の歌い出しと同時にそこから前面に躍り出るは、揃いのポーズを決めた男女の二人組(緑谷と葉隠)

 

 自身に向かって軽やかに跳ねた葉隠の足を、組んだ手で受け止めた緑谷が、その腕に緑の閃光を走らせ、天井高くまで跳び上がらせる。

 俄かに空を舞う彼女を追うのは、数羽の鳥に操作される一基のスポットライト。

 

 

「お、きたきた!」

「開幕人間ミラーボール!」

 

 透明な四肢に照射された光は、あたかも回転する鏡面に当てられたかのように乱反射。

 人々の頭上に光の花を咲かせつつ徐々に高度を落としていく彼女を、同じくステージから尻尾で跳び上がった尾白が受け止める。

 

 観客の目がそちらに誘導される中、緑谷が舞台袖へと捌けると同時に、次に動くは峰田と障子。

 峰田当人はそのまま、障子は彼のグローブを用いて、"個性"『もぎもぎ』による球を観客頭上の空間へと広くばら撒いた。

 

 

「今度は何?」

「一発芸?」

「いやいや、上見ろって!」

 

 続いてフライギャラリーから放たれた瀬呂の『テープ』がそれらを繋ぎ、轟の氷が即座に覆う。

 そうして即席で作り上げられたのは、天井を所狭しと張り巡らされた氷のレール。

 

 去年の演出を記憶に残した人間が隣の誰かに掛ける声が聞こえる中で、ダンスの中で一度両手を合わせた麗日が、徐に観客席の方向へと跳躍する。

 直後、氷のレールから伸ばされた『黒鞭』が彼女の胴に巻きつき、その身体を吊り下げた。

 

「―――楽しみたい方ァア!! ハイタッチー!」

 

 

「きた! ウラビティタッチ!」

「え、何々!?」

「去年コレ楽しかったんだぁ!」

 

 知っている観客は笑顔で、知らない者もそれにつられて、空を滑る彼女へと諸手を上げた。

 そうして彼女の手に触れた者から順に、引力の軛を離れて客席から浮かび上がる。

 驚きと喜色に溢れた歓声が、演奏と歌声に紛れるその中で―――

 

 

《……お茶子ちゃんが、こっちに……!》

「っ……相澤先生?」

「さァな。俺はあいつらから渡された整理券に従っただけだ」

 

 澄まし顔でそう宣った相澤へと続けようとした彼女の言葉は、距離が埋められハッキリと見えた麗日の表情に、形を作らないまま喉奥へと落ちていく。

 明らかに自分達へと向けられた、差し伸べられた肉球付きの掌に、彼女は今一度目を見開いた。

 

 

《……か、『干渉』?》

「分か……ってるわよ!」

 

 半ば以上ヤケを起こした心持ちで伸ばされた『干河歩』の手が、麗日の手にぺしっと叩かれる。

 そうして浮かび上がる彼女の身体を、テープを手に駆け付けた芦戸が一瞬の驚きを見せつつも、微笑みながら他の観客同様に氷のレールへと固定した。

 

 

(観客の反応からして去年と同じ演出なんでしょうけど、全く無茶苦茶な…………ん?)

《……ね、ねえ『干渉』? お茶子ちゃん達が何か……》

 

 

 未だ吊り下げられたままの麗日が、吊り下げた緑谷が、何かを言いたげに指差しを見せる。

 片方が差す先は天井の梁の上、『硬化』した身体で抱えた氷を削り、客席に幻想的かつ涼し気な景色を提供している切島の姿。

 そしてもう一人が誘導する先は、不自然に演出から漏れたような空間を残す、演奏者達の頭上。

 

 

《……え、まさか、お茶子ちゃん……》

「ば…………っかじゃないの……!?」

 

 

 意図の理解、否、()()を終えた彼女が呆然と開けた口に、返されたのはどこか挑戦的な微笑み。

 緑谷が、切島が、確認出来た限りの全員が、同じ色の視線を彼女に向けていた。

 

 

《……『干渉』》

(……歩?)

 

 微かな戸惑いを残した彼女に、頭の中から届いたのは最後の一押し。

 

《……やっちゃって!》

(……了、解……っ!)

 

 

 

 

「……え、あれ、氷が……」

「形を……うっわ……!」

「氷の……竜!?」

 

 客席へと降り注いでいた氷の粒が、突如意志を持ったように捩れ集まり、形を造る。

 その予兆を見た切島が一層激しく、荒く砕いた氷が()()に加わり、やがて確かな威容を形作った氷竜が、一際大きな歓声の中で無音の咆哮を上げた。

 

「―――轟くん!」

「ああ、了解だ。……持ってけ!」

 

 

「うぉ、今度は炎も!?」

「演出レベルアップしてる!? そりゃそっかぁ!」

 

 

(っ、即興で要求することじゃないでしょうが!?)

《わぁ……》

 

 呼び掛けに応え、フライギャラリーより放たれた炎が、先の氷をなぞるように実像を造る。

 数秒後、鏡合わせのように誂えられた二頭の竜が、ステージの真上にて相対していた。

 

「―――サビだ! ここで全員、ブッ殺せ!!」

 

 

 より激しく転調した曲に引かれるように、それぞれの演出が佳境を迎える。

 砂藤の握るロープに吊り下げられ、再び光を花開かせる葉隠。

 音響機器ごと空を舞い、雷光と共に爪弾く上鳴(ギタリスト)

 氷のレールの上へと舞台を変え、滑りながら踊るダンス隊。

 

 そして演奏者達の頭上、曲に合わせて相打つように絡み合う紅白の竜。

 

 

「うっはは! 聞いてたよりすっげぇ!」

「あいつ今回もずっとロボットダンスだけしてる!?」

「……あれ、なんかあの竜だんだん降りてきて……!?」

 

 

 曲の終わりに向け、盛り上がりの絶頂にあった観客の目に映ったのは、演奏者達を呑み込まんとばかりに鎌首をもたげ、悠然と咢を開く二頭の竜。

 一拍の停止を経て、勢い良く動き出したそれらの衝突予測地点は、ステージ中央―――

 

 

「―――ッ!!」

 

 

 高らかに響き渡った耳郎(ボーカル)のシャウトに、襲い掛かった紅白の竜の身体が弾け飛ぶ。

 二色の光粒へと変わったそれらは、微かな暖と涼を運びながら、観客席を吹き抜けていった。

 

 

《わあぁ……!》

(全く……二度はやれないわよ、こんなこと……っ)

 

 観客席最後尾、集中状態から人知れず息を吐いた彼女は、ふとした拍子に周囲に目を向ける。

 彼女の瞳に映ったのは、未だ冷めない興奮に両腕を振り上げ歓声を上げる無数の観客の笑顔。

 

 

(あ…………)

 

 

 それに次いで気付いたのは、自身の中に残る意識の外に置いていた高揚感。

 かつて焦がした激情の何れとも似ても似つかぬ興奮に、彼女は知れず頬を引き締めた。

 

 

「……っ!」

(! ……お茶子、さん)

 

 

 故の分からぬ混乱の中、向けた視線に言葉は無く。

 しかし返ってきたうららかな笑みに、彼女は暫し逡巡し―――心の内で呟いた。

 

 

(……ごめんなさい。……ありがとう。あなた達のおかげで、やっと分かったわ)

《『干渉』?》

 

 

 

 

(私…………生きていて、良いのね? あなた達と同じ、この世界で……)

 

 

 

 

 

 

 

 

「……"個性"の使用にまで許可出てましたっけ?」

「……監視に俺を付けろとしか指示を受けた覚えはありませんね」

 

「あっはは……悪いお人っすね。イレイザー先生?」

「そちらこそ、いち高校の文化祭なんかで油売ってて良いんですか、ホークス(No.2)

 

「あー……ま、あれからそれなりには平和になりましたからね」

 

 

「……流れはまだ緩やかですが、自首にやってくる人間が相次いでます。どうやって聞きつけたか知りませんけど、『裏切者』が元気に生きてるってのが彼らにとっては重要事(マスト)みたいで」

「…………」

 

「『魔王』の消失に誰より敏なのが、元信徒ってのは皮肉なもんですね。……あ、これオフレコで頼みますよ?」

「……それで、何の話をしに来たんです?」

 

「……小耳に挟んだんですけど彼女、復学してもヒーロー科に戻る気は無いんですって? 色々と思うところがあるのは分かりますけど……勿体無いと思いません?」

「……それが本人の意思であり、選択です。それに、俺は―――」

 

 

 

 

「自身を犠牲にして事の解決を図るヤツに、ヒーローを名乗らせる気はありません」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――いつの間にか切り替わってるな? さっきまで表に出てた方はどうした」

「『後は(わたし)が楽しみなさい』って言って引っ込んじゃいました。……多分、泣き顔を見られたくなかったんですよ。……強情なんだから、もぉ」

 





 Case1:どうやって触ったんよ、物間くん。
 Case2:ヒーロー志望がここまで下世話な会話はせーへんやろ。
 Case3:もう色々とありえないのです。まともに考えれば。


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A-l あれと望まれた会話集


 誰かが望んだif世界線、今回も3本仕立て。
 とはいえ完結させた作品に延々と付け足していくのも難ですし、そろそろ打ち止め予定です。

 今回のCase1・2は『例の件』がもう少し先延ばしになっていたらのifルート。
 すなわち『干渉』さんが決断出来なかった世界線につき、ちょっと彼女の湿度高め。

 そしてCase3は……



 

Case1:『干河歩と部屋王決定戦』 at 入寮直後

 

 

 

 

「―――お部屋披露大会、しませんか!?」

 

 事の始まりは、芦戸さんのそんな言葉からだった。

 

 

 (ヴィラン)連合による合宿襲撃、その直後に起きた大事件『神野の悪夢』。

 社会全体に不安が広がる中、今年だけで二度も生徒が標的になった雄英高校が打ち出したのは、ヒーロー科のみならず全学科を対象にした全寮制への移行。

 

 その導入にあたって先生方は、生徒ひとりひとりに対して家庭訪問を行い、保護者の了承を得ていったのだとか。

 みんなの話を聞くと簡単には納得して貰えなかった家庭も多かったようだし、相澤先生の言った通り、A組一同が無事に集まれて何よりだと思うしかない。

 ……特に何を言うことも無く、わたしを送り出してくれたお母様には感謝です。《…………》

 

 

 そうして今日から始まった新生活の舞台がここ、1年A組専用の寮『ハイツアライアンス』。

 立地は雄英敷地内、校舎から徒歩五分、ついでに築三日。

 一人一部屋、先に送った荷物がそれぞれ割り当てられた部屋に運び込まれているということで、今日一日を使って部屋作りをするよう指示されたのが日中のこと。

 

 そして夜、芦戸さんに声を掛けられて女性陣みんなで―――気分が優れないという梅雨ちゃんを除いて―――やってきたのは寮の一階、ソファーも置かれた共同スペース。

 同じく部屋作りを終えてくつろいでいた男性陣に、掛けられた言葉が先の提案……宣言?

 

 

「わああダメダメちょっと待―――!!!」

 

 

 そしてそんな女性陣(わたし達)の最初の餌食となったのが、デクさんだった。

 

 

「……わぁ」

「オールマイトだらけだオタク部屋だ!!」

《……お茶子さん、それで良いの……?》

「憧れなんで…………恥ずかしい……」

 

 

 壁を埋めるポスターに、大小様々なフィギュア、果ては『ALLMIGHT』の刺繍輝く絨毯……

 どこに顔を向けてもオールマイトのスマイルが目に飛び込んでくる、見事なまでのオタク部屋。

 みんなの微妙な視線を浴びて背中に哀愁漂わせるデクさんに、お茶子ちゃんは、おぉ、と笑顔でこれを受け入れていた。

 

「やべえ何か始まりやがった……!」

「でもちょっと楽しいぞコレ……」

「というか麗日的にはアリなんだ、アレ……」

「やはり恋は盲目……!」

《いや、割と元からセンスが……いえ、許容範囲が広いから……》

 

 勢い任せの吶喊だったけれど、男性陣にも意外と乗り気な面子が多かったことで流れは続行。

 

 それから常闇さんの部屋―――「黒!! 怖!」「男子ってこういうの好きなんね」

 尾白さんの部屋―――「普通だァ! すごい!!」「これが普通ということなんだね……!」

 飯田さんの部屋―――「「メガネクソある!」」《……二人揃って注目するのはそこなのね》

 上鳴さん―――「チャラい!!」「手当たり次第って感じだナー」

 口田さん―――「ウサギいるー!! 可愛いいい!!」

 

 と、みんなで好き放題にガヤを飛ばしながら、男性陣の部屋披露大会は進んでいった。

 ……え、誰か飛ばした? 気のせいですよ。

 

(ところで『干渉』? ご自慢の部屋で物体移動現象(ポルターガイスト)にでも遭えば心を入れ替えるかな、峰田(アレ)

《…………やらないわよ? 流石に》

 

 ……チッ、運が良かったな。

 

 

 

 

「―――釈然としねえ」

「ああ……奇遇だね。俺もしないんだ、釈然……」

「そうだな」

 

「男子だけが言われっ放しってのはぁ変だよなァ? 『大会』つったよな? なら当然! 女子の部屋も見て決めるべきじゃねえのか?」

 

 

「いいじゃん」

《……まあ、そうなるわよね》

「「え」」

 

 風向きを変えたのは男性陣に便乗したブドウ(峰田)の発言―――に、まさかの承諾を与えた芦戸さん。

 『干渉』も否定する材料をくれず……思わず声が被った耳郎さんと顔を見合わせる。

 

《彼だけの意見というわけじゃないし……あれだけ好き放題言っていれば、ねえ》

「そ、そんなぁ……」

「……あっちはその辺マジで気にしないんだね……ハズいんだけど……」

 

 わたし達がそうして戸惑っている間に、全員の部屋の披露と品評……『部屋王決定戦』の開催は決まってしまっていた。

 明らかに違う目的に眼力を漲らせるブドウが気になるけれど……仕方ない、のかなあ。

 

 

 ―――その後、漢らしさ(?)満載の切島さんの部屋、

 意外にもエイジアン(Asian)なインテリアに彩られていた瀬呂さんの部屋、

 轟さんの……和室「《当日即リフォーム!?》」、

 余った時間でシフォンケーキを焼いていた(美味しかったです)という砂藤さんの部屋を経て、既に眠ってしまっている爆豪さんを除いた男性陣のお部屋披露は終了。

 

 男女別に二分された棟を移るため、一度そこから一階に移動。

 そうして女性陣の中で最初に披露されることになったのは、女子棟二階端の部屋―――

 

 

「……めっちゃ普通の部屋だ!?」

「いや、ちゃぶ台に床敷きの布団って、むしろ庶民より庶民してね!?」

「これがA組二大お嬢様の片割れの部屋なのかよ―――干河ぁ!?」

 

 

 ……わたしの部屋だった。

 驚く男性陣になんと答えようか悩んでいるうちに、横から耳郎さんによる補足が入る。

 

「ああ、そっか、タイミング的に男子は知らなかったんだ。……干河って、雄英に通うにあたって実家から離れて下宿してたんだってさ。……麗日と同じアパートに」

「それ自体は本当に偶然やったんやけどねえ」

「マジかよ!?」

「麗日と、ってことは……そういうアパートってことよな?」

「本当に意外過ぎんだろ……もっとこう、お嬢様的な部屋にツッコミ入れる準備してたのに……」

 

「あんたら……まあウチも家具までこう(、、)だとは思ってなかったけど……あ、もしかして……?」

「えっと、はい。家具を選んだのはわたしじゃなくて―――」

 

 向けられた耳郎さんの視線に、トトンと自分の頭を叩いて返答する。

 ……どうやら伝わったらしい。この部屋にある家具―――アパートで使っていたそれらを選ぶにあたり、『干渉』の意向が介在していたということが。

 

「実家の家具では主に大きさがアパートにはそぐわないと言われて……用意された予算から必要なだけの家具を選んだ結果なんです。元々、金銭感覚の齟齬の解消も兼ねての下宿だったので……」

「……すげぇちゃんとした考えからくる結果だった」

「でもそれまでは普通にお嬢様してたんでしょ? 大丈夫だったの?」

 

「始めの頃は戸惑いましたけど……そのうち、ああ確かにこの大きさで十分だなあって思うようになっていきましたね……椅子とか机とか食器とか寝具とか……」

「おお……お嬢様的なアレが見事に矯正されてってる……」

「まさに狙い通りって感じだなー」

「スーパーの特売の日とか付き合ってくれたりもしとったんよ? お一人様何個までって感じのセール品をシェアしたりとか」

 

「本当はそういう安い商品は避けなさいってお母様には言われてたんですけどね……内緒だって言ったじゃないですか、お茶子ちゃん?」

「おっとと……ごめんごめん、歩ちゃん」

《…………》

「……プライベートから超仲良しだったんだな、この二人」

「そういうとこで麗日と揉めたりしねえのかなと思ってたけど、こういう感じだったのか……」

 

 うんうん頷いてくれるみんなを前に、もう良いかなと部屋の扉を閉めようとしたその時。

 何やら不思議なモノが視界に入って、気付けば疑問が口を衝いて出ていた。

 

 

「……八百万さん、どうかしたんですか?」

 

「……ッ! い、いえ、何でもありませんわ!」

 

 

「えっ、ヤオモモ? どうし―――イヤ本当にどうした!?」

「かつてない勢いで目が泳いでっぞ!?」

 

 普段の凛とした立ち姿は何処へやら、一回り小さくなったように見える八百万さんに、わたしはみんなと一緒に驚きつつも首を傾げた。

 突然彼女はどうしたのか……という問いに、それらしい答えを見つけ出したのは上鳴さん。

 

「……なあ、もしかしてコレ、アレじゃね? 実家の超デッケェ家具とかそのまま持ち込んでて、干河の言葉がダイレクトにぶっ刺さったとか、そういう……」

「……!?」

「あ、あー……」

 

 その言葉に、ギクリと震えた八百万さんの反応は、まさしく答えそのもので。

 それを理解してしまった人から順に、発起人である芦戸さんに視線を向けていく。

 

「……どうすんだ、芦戸? コレ、このままお披露目続けたら死体蹴りになるんじゃね……?」

「え……あ、うーん……どうしよう?」

「まあ、俺達はここでお開きってことになっても別に―――」

 

 と、尾白さんを始めとした数人がイベントの打ち切りを匂わせる発言をした瞬間だった。

 

 

「ッ! い、いえっ、是非見ていって下さいまし! この失敗を胸に刻み込む為にも!!」

 

「もう失敗って言っちゃってるじゃん!?」

「そんな悲壮な覚悟決められても!?」

「そこまでマジなアレじゃねぇから落ち着けって!?」

 

 何に張り切ってしまっているのか、責任感の強い八百万さんは自分が原因で催しが中断される、という事態に耐えられなかったらしい。

 半開きの扉の取っ手を握ったまま、宥めに入る一同を前に、わたしは頭の中へと意識を向けた。

 

 

(あ、あはは……『干渉』の言う通りにしてて良かったです。……なんだか八百万さんには悪い事しちゃった気分ですけど……)

《…………そう》

 

 

 

 

「……あれ?」

「どうしたの、麗日?」

 

「ふと思ったんやけど……『干渉』さんのそういう感覚ってどっから来たんやろ? 小さい頃から歩ちゃんと全く同じ環境におったはずやんね……?」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

Case2:『干渉と理を壊す"個性"』 at AB組対抗戦後

 

 

 

 

「―――ごめん、なさい。……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……っ!」

 

 真っ白な部屋の中に、か細い謝罪の声が零れ落ちる。

 

 

「わたし、そんなつもりじゃ……だから……っ! いやだ、いやだよぉ……!」

 

 瘤のような小さな角を震わせ、くりくりとした赤い瞳からボロボロと涙を溢して。

 

 

「おねがい……おねがいだから……っ!」

 

 猫とも栗鼠とも判別できない白く小さな身体から、絞り出されるのは身を裂くような叫び。

 

 

 

 

「わたしをきらいにならないで、エリぃ……!!」

 

 

 

 

 ―――それは、B組との共同授業で鎬を削り合った日から数日後のこと。

 突然の呼び出しに何事かとドキドキしながら向かった教員寮で、わたしは申し訳なさ満点の顔を見せるデクさんと、それを呆れたように見下ろす相澤先生に迎えられた。

 

 話を聞けば事の中心は、先日から雄英で預かることになった女の子、エリちゃんについて。

 曰く、彼女の"個性"『巻き戻し』は、使いこなせればあらゆる傷病を治癒出来る可能性を秘めている一方で、使い方を誤れば人間を存在から『消失』させてしまう危険も孕んでいるという。

 

 長い時間を掛けて何らかのエネルギーを溜めて、放出するタイプの"個性"であり、現在は前者の期間にあるので使用は出来ないとのことだけれど、再び使えるようになったときに使い方が分からないままでは危険は避けられない。

 そこで先日は物間さん―――『コピー』の"個性"を持つB組男子―――の協力で、彼女に"個性"の使い方を教えられないかと試して、けれどそれが思うようにはいかなかったのだとか。

 

 そのときその場にいたデクさんが、思わずといった調子でわたし達の事を口に出してしまい……他に何か方法があるのかと周囲から、何よりエリちゃん本人から期待の目を向けられてしまって、黙秘を続ける訳にいかなくなったそうだ。

 

 それが相澤先生の呆れ顔と、デクさんの表情の理由というところ。

 ……まあ、わたしも躍起になって隠していることじゃないし、そういう事情ならむしろ明かしてくれて良かったと返答して、その場は納まった。

 

 

 そうしてデクさんと一緒に数日振りに会ったエリちゃんに、早速【面会(ディグアウト)】について説明。

 "個性"と話し合う、と聞いたところで少し怯えた様子だったけれど、何かあってもすぐに止めてあげられるから大丈夫というわたしの言葉と、それに強く頷いたデクさんを見て決心してくれて。

 

 その小さな手を握って、意識を飛ばした次の瞬間。

 わたし達が見たのは、部屋の隅に縮こまる小動物―――"個性"『巻き戻し』の姿だった。

 

 

 

 

「あれが……『巻き戻し』さん……?」

「う、うん……だよね、『干渉』?」

「ええ、間違いないわ。……少し、その子と一緒に待ってなさい、歩」

 

 そう言って席を立った『干渉』が、彼女(?)の元に歩み寄っていく。

 その背を見送りつつ対面席を見れば、赤い瞳をパチパチと瞬かせるエリちゃんと目が合った。

 

 

「……あの人が、『あくせら』さんの"個性"さん?」

「……うん、そうだよ。小さい頃からずっと、わたしの傍に居てくれた、わたしの"個性"」

 

「傍に……」

 

 座り込む『巻き戻し』の前で膝を付いて、小さな声で言葉を交わす『干渉』。

 エリちゃんはそんな様子をじっと見つめて、俯いて……それから不安気にわたしを見上げた。

 

「私が今まで考えてたこと……『巻き戻し』には伝わってたの?」

「え……えっと、多分? 普通はそこまでハッキリした意識じゃないはずだけど……」

 

「……私、いっぱいひどいこと言っちゃった」

「エリちゃん……?」

 

 ぺた、と。普段は"個性"由来の角があるおでこに手を当てて、エリちゃんが呟く。

 

 

「この"個性"があるから……皆、いっぱい怪我しちゃうんだって」

 

「そのせいで、皆を……困らせちゃうんだって」

 

「こんな力……無ければよかったなぁって……っ」

 

 

「あ……」

 

 ……この場を作るまえにデクさんから、この子が雄英に来るまでの経緯は軽く聞いていた。

 色々と()()()()その"個性"を巡って、大きな争いがあったことも。

 そんな中でこの子がどんな思いをしてきたのか、わたしには想像も出来ないけれど―――

 

 

「……そう、ね。あなたが"この子"を怖がる理由は分かるわ、エリちゃん」

 

 

「っ!」

「『干渉』?」

 

 そう言って振り向いた『干渉』の腕には、すんすんと鼻を鳴らす『巻き戻し』が抱かれていた。

 そのまま『彼女』はゆっくりとわたし達に歩み寄りながら、エリちゃんに向かって声を掛ける。

 

「"この子"が何をしたか……何をしてしまったか、"この子"から聞かせてもらったわ」

 

「"この子"が宿っていたことで、あなたの身に何が起きていたのかも」

 

「でも…………でもね、エリちゃん? これだけは知っていて欲しいの」

 

 手を伸ばせば届く距離まで近付いて、エリちゃんの目の前に『巻き戻し』を差し出した姿勢で『干渉』は、わたしが今まで見たことも無いような慈愛の滲んだ表情で言葉を続けた。

 

 

「"この子"はいつだって、あなたの為になりたかった」

 

「あなたの役に立ちたいという想いを抱いて、"この子"は生まれてきたの」

 

「怖いと思うのは当然……でも、私からもお願いよ」

 

 

「"この子"を―――せめてあなただけは"この子"を、嫌わないであげて」

 

「…………!」

 

 

 おずおずと、伸ばしたエリちゃんの手が『巻き戻し』を抱き上げた。

 その手が触れた瞬間、ぶるりと身体を震わせた『巻き戻し』が、恐る恐る顔を上げる。

 

「……『巻き戻し』さん?」

「エリ……ぃ」

 

 二対の赤い瞳が、じっとお互いを見つめ合う。

 そのまま身動ぎも憚られる長い沈黙が、白い部屋の中を過ぎていき―――

 

 

「…………困らせてばかりじゃ、ないんだって」

「……!」

 

 

 それを破ったのは、不意に溢されたエリちゃんの言葉だった。

 

「使い方なんだ、って……(たす)けられたって、でくさんが言ってたの、覚えてる?」

「……でく、さん」

 

 

 ぎこちなく、けれど横から見ていて分かるぐらいに口の端を上げて。

 

「すばらしい力……やさしい"個性"だ、って……ほんとだったんだね」

「っ、エリ……!」

 

 

 白く小さなフワフワの体躯を、両手でしっかりと抱きしめて。

 

「ずっと怖がっちゃって、ごめんね。……これからは―――」

 

 

 お互いの瞳に涙の粒を浮かべながら、エリちゃんは、笑った。

 

 

「いっしょにがんばろう? ……私の、"個性"さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ねえねえ、『干渉』?」

《……どうかしたの、歩?》

 

「さっきエリちゃんに言ってたこと……あれって『干渉』も、だったりするの?」

《…………まあ、そうね》

 

「そっかぁ……ふーん……」

《……うるさいわね》

 

「ごめんなさいっ。……えへへ」

《…………》

 

 

 

 

《ええ、私も…………()()()()()()()()のよ》

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

Case3:『????と???????』 at --------

 

 

 

 

「―――私があなたを笑う? まさか。そんなこと出来るわけないわよ」

 

「私は戦ってなんかいないわ。ただ何もかも捨てて、逃げ出してしまっただけ」

 

「それも散々傷付けてきた(あゆみ)を巻き添えに……彼ら(A組)から大切な友人を一人、奪い去る形で、ね」

 

 

「……ふふ、そんな殊勝な心掛けでもなかったのよ? 今、思えば」

 

「私は、ただ責められるのが怖くて……消えることで責任を取ったと思いたかったに過ぎない」

 

「何よりも……『友達』に嫌われてしまったら、もう立ち直れる気がしなかった。……それが私の偽らざる本音よ。……幻滅したでしょう?」

 

 

「……我が身かわいさに、動くべき機を逃し続けて」

 

「筋違いな恨みに目を曇らせ、託された想いを八つ当たりで穢して」

 

「あげく、友人を心から信じることも出来なかった。……そんな醜い精神の持ち主よ、私は」

 

 

 

 

「……あなたは、そんな私とは違ったわ」

 

「置かれた立場は似ていても、あなたは真摯にヒーローを目指し続けた」

 

「私が耐えようともせず逃げ出したモノと、あなたは向き合い続けた。……戦い続けた」

 

「それは守りたい人達の為であり、叶えたい(ヒーロー)の為……いつだって誰かの為だった」

 

「私からすれば、そんなあなたこそ『キラメいて』見えたわよ?」

 

 

「……私は、もうずっと昔から、それを遠いどこかに置いてきてしまっていたから」

 

「だからこそ、場違いだったと逃げ出して……二度と彼らの前に私が現れることが無いようにするつもりだったのよ? ……事が済んだ後にも」

 

「まあ、知っての通り……そんな私を()()()()()()()()しなかったのだけどね、彼らは」

 

「資格だなんだとくだらない事を言うな……なんて、滾々と説教されてしまったわ」

 

「ふふ……っ、ええ、そう。()()()()()でも彼らは変わらないのよ、きっと」

 

 

「……だから、ね? こんなの不毛な議論にも程があるわ」

 

「あなたも、私も、それぞれの世界で彼らと一緒に歩み続ける。……それで良いじゃない」

 

「ねえ―――()()()()()()()も、そう思うでしょう?」

 

 

 

 

『……ああ、そうだね』

 

『君と出会えたこと。それは私にとって紛れもなく幸運だった』

 

『その胸中を誰より知っていた者として、これだけは言わせてほしい』

 

 

 

 

『―――君と共にヒーローを目指せたこと、私は誇りに思っているよ』

 

 

 

 

 

 

 

「…………メルスィ(Merci)

 





 Case1:
 原作の寮部屋配置は生徒同士の関係を鑑みて決められていると思われますが、歩ちゃんの部屋については今回のifを書くに至るまで特に考えてなかったので、誰も居ない二階に放り込む形に。
 そして八百万さんを襲う流れ弾。……後で家具の入れ替えとかしたんだろうか、あの部屋。
 こうして周囲が少しずつ違和感に気付いていく、という展開もアリだったかなあ。

 『例の件』が無ければ、歩ちゃんが入寮に苦労することはありません。
 心美さんとAFOの繋がりを考えれば当然でもありますが……C5-5冒頭、心美さんの台詞の中に他人に身体を操られた娘、を案じる節が一言も無かったことにお気付きだったでしょうか。
 信奉か洗脳に近い教育を施し、更にはこの優先順位の低さ。
 そりゃ何の期待も出来なくなるってもんですよ。


 Case2:
 ルミリオン早期復活フラグ。
 『巻き戻し』のぶっ飛び具合から、神獣や幻獣といった架空存在を由来とする異形系という説も通りそう、ということで今回のようなイメージに。幼女と小動物の組み合わせ、いいですよね。
 ……壊理ちゃん6歳に対して『巻き戻し』ちゃん2歳に出てこられたのでは会話が描き辛かったというのが本当のところだったりしますが。
 このルートの場合、代わりに物語の転機になるのはここだったかなあ。

 "個性"は宿主の役に立ちたいという想いを抱いて生まれてくる。

 これは作者の独自解釈の中でも最たる部分であり、本作のサブテーマでもありました。
 注目してほしい物語の焦点が他にあったのであまり前面に出してはいませんでしたが、本編中の『無重力』ちゃんは勿論、ifの『イヤホンジャック』ちゃんの台詞にも名残が出ています。


 Case3:
 『干渉』さんが目を逸らしてしまったモノから逃げなかったのが『彼』なのです。

 不在ったら不在なのです。




 次回作はもっと取っつきやすい話を書かねば……


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A-r あってもよかった世界線


 次回作のプロットが固まった記念と同時に没になったプロットの供養を兼ねて。
 再度のヒロアカ二次だった没プロットを本作のif世界線になるように捏ねてみました。

 これにて本作への更新は本当の本当に最後。
 長い間お付き合い頂き誠にありがとうございました。



 

 ―――人は、生まれながらにして平等じゃない。

 これは、僕が四歳の時に世界から突き付けられた真実。

 

 

「―――諦めた方がいいね」

 

「この世代じゃ珍しい……何の"個性"も宿ってない型だよ」

 

 

 誰もが自分だけの"個性"を持つ社会に、僕は"無個性"として生まれてきた。

 

 

「デクって"個性"がないんだって」

「えー」

「ムコセーっていうんだって」

「ダッセー」

 

 

 何も出来ない、何にも成れない無能と、幼い頃から言われ続けて。

 それでも僕は、幼心に抱いた夢を諦め切れず。

 

 

「"無個性"のくせにヒーロー気取りか、デク!!」

 

 

 それでも本当は分かっていた。

 自分には全く縁の無い『未来』だという『現実』が。

 

 

「―――じゃ、今日から同じ教室で学んでいく仲間として、まずは順番に自己紹介していけー」

「えー? 大体みんな小学生からの付き合いですよ、先生?」

 

「そりゃ先生も分かってるが、何人か違う学区から来てる奴も居るんだよ。ほら、出席番号順!」

 

 

 そう分かっていたからこそ、見ないように、見ないように―――と。

 必死に現実から目を逸らし続けて。

 

 

「―――はい、ありがとう。それじゃ次は……」

「ハイっ」

 

 

 その実、自分が疾うの昔に『諦めていた』ことに気付いていなかったんだ。

 目の前にそびえ立つ『現実』と、本当の意味で戦おうとしたことすら無かったことにも。

 

 

 

 

「―――今年からこっちの学区に引っ越してきました、麗日お茶子です!」

 

 

 

 

 中学生になったあの日、うららかな彼女に出会うまでは。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 誰にでも好かれる人柄、とか。

 この人は違うぞ、って思わせるカリスマみたいなものを持つ人間は、現実として存在する。

 

 特に後者についてはずっと昔から間近に見ていたわけでもあったけど……両方を兼ね備えた人を目の当たりにしたのは、それが初めてだった。

 

 

 自己紹介を含めた入学初日のHR(ホームルーム)が終わって、新しいクラスメイト同士で自由に話せる時間を貰って暫くは、教室のあちこちで始まった楽し気な会話の中に彼女も何事も無く参加していた。

 前の学区の話や、こっちに移ってきた理由とか……次々と降り注ぐ質問に笑顔で応対する姿を、僕は少し集団から離れたところでぼんやりと眺めていて。

 

 そうして早くもクラスの中心人物になろうとしていた彼女は今、僕の目の前で―――

 

 

「―――どうなっとるんや!? こっちの学区はぁ!!?」

 

 

 ……キレていた。

 この上なく分かり易くキレていた。

 ついさっき教室に居たときまでのうららかさを彼方に投げ捨てる勢いでブチギレていた。

 

 

 風向きが変わったのは、輪の中に居た誰かが僕に気付いたとき。

 実際に何を言ったかは分からないけど、僕を指差しながらの耳打ちがされた瞬間、彼女の表情は能面のように凍り付いた。

 

 

「何なんや、口を開けば無個性無個性って……なんであんなんが放置されて許されとるんよッ!」

 

 

 急に雰囲気の変わった彼女に、みんなが戸惑っている隙に、というべきなのか……何故か彼女は僕の手を引いて教室から逃げるように飛び出した。

 後から理由を聞けば、実態を僕から聞こうにもあの場では到底不可能だと判断したとのこと。

 

 グイグイ来る彼女の質問に、つっかえながらの僕の答えを聞いて……すぐに彼女は爆発した。

 

「先生も先生や! 止めるどころかナアナアに……おかしいやんか、なあ『デク』くん!?」

「え、あ……『デク』……」

 

「……へ? あれ、皆『デク』って呼んで……あ、まさかコレも!? ごめん!?」

「う、うん……何も出来ない『木偶』って意味で……みんなからも……」

 

「そっかぁ……こう、『頑張れ!!』って感じで、何か好きな響きやってんけど―――」

「デクです」

 

「緑谷くん!?」

 

 蔑称を受け入れるような発言をした僕に、麗日さんは目を丸くして叫んだ。

 その様子にちょっとだけ笑いそうになりながら、驚く彼女に言葉を続ける。

 

「その……う、麗日さんにはむしろ、そう呼んでもらいたいかなって……」

「え、で、でも……キミをバカにしとるあだ名なんやろ……?」

 

「うん……けど麗日さんに呼ばれる分には僕の中でもあだ名の意味が変わりそうだし……」

 

 それは、紛れも無い僕の本心。

 『無能』な僕を象徴する忌々しい呼び名が、さっきの瞬間だけ清々しく聞こえたから。

 

 ……それに、何よりも―――

 

 

「何も出来ない僕のせいで、迷惑かけちゃいけないから」

 

「……っ」

 

 

 ()()()()()()

 クラスの輪に馴染めたはずの彼女に、()()()()()()()波風立てさせてしまったことが。

 

「さっきはみんな驚いてたけど、みんなと同じように『デク』って呼んでれば、あれぐらいすぐに忘れてくれるだろうし……」

「…………」

 

 別の学区から……誰も知り合いの居ない土地にやってきて、不安だったはずだ。

 皆から話しかけられて、無事に友達が出来そうだと、安心していたはずだ。

 それが僕に関わったせいで台無しになるなんて……心苦しくてたまらない。

 

 

「だから、気持ちは嬉しかったけど……麗日さんも、あんまり僕に関わらない方が―――」

 

「ヒーローを目指してるんよ、私」

 

 

 ……言いかけた僕の言葉を遮って、麗日さんはそう言った。

 

「困っとる人を(たす)けられるヒーローに」

 

「大変な思いをしとる人に、寄り添えるヒーローに」

 

「軽く思われるかも知らんけど、私は本気で…………それやのに!」

 

 僕を真っ直ぐ見据えた瞳は、有無を言わさない強い光を宿していて。

 

 

「そんな顔したキミをほっとける人間が! ヒーローになんかなれるわけないやんか!?」

 

 

 そうして眦を吊り上げた彼女は、そのまま()()()()()()()

 周囲に対して口にすることも出来ずに、僕の中に堪り続けてきた叫びを。

 

 

「"無個性"やから何なん!? 傷付けてええなんて誰が許したんよ!?」

 

「"個性"が無いから何も出来ひんなんて……いったい誰が決めたんさ!?」

 

「迷惑かけるやなんて……ッ! ()()()()()()()()()()()なんて、そんなんあるかいな!?」

 

 

 強く、強く、吠えるように言った後で、彼女は下を向いて大きく息を吐いた。

 それからゆっくりと上がったその顔に浮かんでいたのは、どこかほっとするうららかな微笑み。

 

 

「……ねえ教えてよ、デクくん? キミの将来の夢は……キミは、()()()()()人になりたいん?」

「将、来……僕は……」

 

 その時、僕は思い出したんだ。

 僕が抱いた最初の想い。一番強く願った、原点。

 

 

「僕、も……ヒーロー、に……」

 

 

 どんなに困ってる人でも、笑顔で救けちゃう、ヒーローに。

 

 

「……そっか。じゃあ、決まりやね―――」

 

 

 幼かったあの日、欲しかった言葉。

 たった一言、誰かに肯定して欲しかった、僕の、夢。

 

 

 

 

「一緒にヒーローになろうよ、デクくん?」

 

 

 

 

 同い年の女の子の前で……なんて、考えていられる余地も残ってなくて。

 目から溢れる大粒の涙を抑える術を、僕は知らなかった。

 

 

 ―――言い忘れていたけど。

 これは僕が、世界一眩しくてうららかな彼女と一緒に、最高のヒーローになるまでの物語だ。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――ヒーローは身体が資本や! どんな"個性"持ちでもそれは変わらへんよ!」

 

「腕細っ!? 力弱っ!? デクくんほんまに男の子なん!?」

 

「……そんで体力も無いやん!? ああもう、まずはとにかく鍛えへんと!」

 

 

 ……麗日さん、まあまあスパルタだった。

 あと遠慮が無くなったのか、言葉の刃も割と鋭かった。……どれも正論でしかなかったけど。

 

 憧れは口にしていたくせに、今までちっとも身体づくりはしてこなかった、情けない奴。

 そんな僕の遅れに遅れた『歩き出し』に、彼女は嫌な顔一つせず付き合ってくれた。

 

「……あ、うん。私は小さい頃から毎日やってきたんよ? ……本気でヒーロー目指す気やったらこれぐらいはやらな、って母ちゃんに言われて……始めの頃は私も毎日グデグデやったけど」

 

「でも、駆けつけた先で疲れて動けなくなるヒーローなんて……って言われたらその通りやん?」

 

「どっちかいうと災害救助に活躍するヒーローが目標やってんけど……戦って強いヒーローだけが鍛えとるわけないやんかって言われて、そらそうやなとしか返せへんかったんよなぁ……」

 

 

 トレーニングに選んだ場所は、地元の人間が殆ど近寄らない海浜公園。

 人目を……特に見付かったら面倒事になりそうなクラスメイトを避けて鍛えられる場所として、海流の関係や不法投棄で集まったゴミに身を隠せるここを提案したのは、土地勘のある僕。

 

「……ゴミ掃除もしたいけど……父ちゃんにトラック出してもらうしかあらへんよなぁ……」

「トラック? 麗日さんのお父さんって……」

 

「ん? ああ、建設会社をやっとるんよ。でも、移転してきたばっかりでクソ忙しい筈やから……今度、暇がありそうやったら頼んでみるかなあ」

 

 

 そうして一見何の得にもならなそうな事に、麗日さんはうんうん唸っていて。

 どうしてそこまで、と聞いた僕に、彼女は「何を言っとるんだい!」と笑って、続けた。

 

 

「ヒーローいうんは元々『奉仕活動』やん。損得で動いとったらヒーローは名乗られへんよ」

 

 

 頬を赤らめて「母ちゃんの受け売りやけど」と頭を掻く彼女に、恥ずかしくなったのは僕の方。

 これまで僕が見てきた誰よりも―――僕自身も含めて―――『ヒーローを目指す』ということの意味を真剣に考えているのが、彼女だったんだと気付いてしまったから。

 

 きっと彼女は、将来すごいヒーローになる。

 沢山の人を救けて、誰しもに尊敬される、燦然と輝くヒーローに。

 

 そんな彼女の隣に立っていたい―――僕の中に芽生えた想いの、なんと分不相応なことか、と。

 沸き上がってきた羞恥心を、僕はひたすら身体を動かして誤魔化すことしか出来なかった。

 

 

 

 

「―――へぇ、あなたが『デクくん』なんだ」

「……えっ?」

 

 『彼女達』が僕の前に現れたのは、そんな日々が半年ほど続いたある日のこと。

 

 

「はじめまして、ですね。『デクくん』さん!」

「…………え」

「……いや違う、多分違うから。『デク』までが名前だから」

 

「あ、そうなんですか? それじゃ改めて、はじめましてデクさん!」

「あ、はい、こちらこそ……?」

 

 

 休日、いつものようにやってきた海浜公園に、一足早く訪れていたらしい二人の女の子。

 ちょっと天然な感じの青髪の女子に返答する僕に、苦笑いしたのは金髪の女子。

 

「……なんか、ごめんね? ぐだぐだになっちゃって……」

「い、いえそんな……ええっと、それで二人はいったい……?」

 

「あー……そうだね。ほら、自己紹介しよう?」

「あ、そうですね」

 

 

「わたしの名前は、干河歩」

「そして私は、一方通子。君に分かり易く言うと―――」

 

 

「「麗日お茶子の前の学区の友達で……幼馴染だよ」」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ―――麗日さんの家に前々から引っ越しの予定があったことは、この二人も知っていたらしい。

 なんでも、彼女のお母さんが昔からこの地域に移りたいと言っていたんだとか。

 

 学区が別れた今も三人で連絡は取り合っていて……けれど最近の彼女から出てくる話題が、ある一つの事にやけに集中し始めたと首を傾げていたのだそう。

 けれど詳しく聞こうとしてもはぐらかされてしまうことから、この休日を使って直接会いに行くことに決めたそうだ。

 

 

「「Hi(ハァイ)、久し振りだね、お茶子ちゃん?」」

「通子ちゃん!? 歩ちゃん!? えっ、何でここに!?」

 

 

 …………麗日さん本人にも内緒で。

 

 

「いやぁ、だってほら……『彼』について電話口で詳しく聞こうとしてもはぐらかされるし」

「仕方なく本人に直接聞きに来たんですよ。お茶子ちゃんの事、どう思ってるのか、とか」

「ど、どうって……!?」

「あ、あはは……」

 

 

 麗日さんが来るまでの間、僕は二人にひたすら質問……詰問されていた。

 こうして二人でトレーニングに励むようになった経緯から、目指すと決めた夢の話……そして、僕が彼女をどう思っているか、とかを。……最後の問いを特に強調して。

 

「いやはやなかなか……良いコト聞かせてもらったよ?」

「いやいやなかなか……情熱的でしたよねえ」

「え……で、デクくん!? この二人に何言うたん!?」

「い、いや、それはその……」

 

「まあまあ、それはなかなか本人には、ですよね?」

「そうそう、にしてもお茶子ちゃん……成程ねえ?」

「な、成程って……何の話なんよ、通子ちゃん!?」

 

 干河さんが僕に、一方さんが麗日さんにそれぞれ近付いて、同意を求めるように笑いかけた。

 僕は思わず目を逸らしてしまったけれど、そんな僕の耳に二人のやり取りが聞こえてくる。

 

 

「ヒーローになってからじゃ出会いは中々……でも今からなら……だもんね?」

「!? ちゃ、ちゃうよ!? デクくんはそういうのとちゃうから!?」

 

「……そうだね。そういうのは彼にも無さそうだったかな。私達としては安心したけど」

「え? …………あ、そっか……」

 

「……あらあらあら?」

「っ!? ちょ、ちょお!? 何なんその反応はぁ!?」

 

 

「あはは……通子ちゃんったら。もう少し加減してあげないと可哀想ですよ。ね、デクさん?」

「あ……えっと……」

 

 真っ赤になった麗日さんを楽しそうにつっつく一方さん。

 そんな様子を微笑んで見守る干河さんは、ふと真剣な顔になって僕を見た。

 

「……わたしも、通子ちゃんも、あなたの事は心から応援しますよ。色々な意味で」

「い、色々……?」

 

「ええ。だってわたし達は……お茶子ちゃんの()()()()()()()()()()()()から」

「……っ!」

 

 

 ……僕から話を聞きながら、二人は言った。

 

 干河さんは僕と同じ"無個性"に生まれて―――ずっとあの二人に、周囲から浴びる偏見の目から庇ってもらっていたんだ、と。

 誰から何を言われたとしても、二人は自分を認めてくれる。

 二人さえ居てくれればそれでいい……そんな風に思うことで、今までやり過ごしてきたそうだ。

 

 一方さんは……麗日さんには内緒にしてと言われたけど、そんな干河さんに対する周囲の対応を見ている内に、ヒーローに憧れる気持ちはすっかり擦り減ってしまったらしい。

 お茶子ちゃんには大した事も出来ない"個性"だからと説明してる、と言って見せてくれたのは、僕の母さんの"個性"にも似た『周りにある小さな物体を動かす』"個性"。

 "個性"のデメリットらしい頭痛にこめかみを押さえながら、彼女もまた寂しげに笑っていた。

 

 

「―――"無個性"なのに。冷たい社会をよく知っているのに。それでもヒーローを目指したいって思えるデクさんだから、わたし達は安心してお茶子ちゃんを任せられると思いました」

「あ……」

 

「いつかきっと、お茶子ちゃんと一緒に―――」

 

 一瞬、麗日さんと話す一方さんと目を合わせて、干河さんは言い放った。

 

 

「"無個性(わたし達)"を認めない社会を変えちゃってください、デクさん」

 

 

 ―――その日、僕は知ったんだ。

 僕が抱いた夢はいつのまにか、僕達四人が描いた夢へと変わっていたことを。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――今、何て言うた?」

 

 そして、僕らの出会いから二年と少し。

 それまで想像もできなかった底冷えするような彼女の声を、僕は聞いた。

 

 

「私には関係無い? ……ああ、せやなあ。オマエがどうなろうが私には関係あらへんわ」

 

 

 うららかな瞳に激情を湛え。

 うららかな頬を憤りに引き締め。

 うららかな拳で『彼』の胸倉を掴んで。

 

 

「……何? 今のが犯罪やってことすら分からへんの? ヒーロー目指しとる癖に?」

 

「模試じゃA判定っていうなら私も同じなんやけどなあ……こんなんと一緒に受けたないわ」

 

「はぁ……だったらハッキリ言ったるから、その役立たずの頭でもっぺん考えてみぃ」

 

 

 彼女の口から放たれたのは、僕と『彼』の因縁を断ち切る一言。

 

 

 

 

「たった今の自殺教唆……デクくんに謝れや―――爆豪勝己ッ!!」

 





 幼少期緑谷くんの苦難の原因は、同じ学区に麗日さんが居なかったことではなかろうか(暴論)
 自己肯定感皆無な初期緑谷くんが麗日さんに出会ったらどうなるか。これが結構難しい。
 しかし学校ぐるみの"無個性"差別、そして何より例の爆弾()発言を彼女が許すわけがない。

 何らかの要因で二人の出会いが早まるという二次を構想したものの、この先を真面目に考えるとアンチ・ヘイトタグが火を噴き上げる展開しか思いつかなくて没に。
 原作最初期の爆豪くんは本当に…………うん。
 かと言って下手に矯正しようとすると「誰だお前」になりかねないので難しいところ。

 衝動の赴くままに書いたら、緑谷くんの中で麗日さん > オールマイトにでもなりそうな流れに仕上がっちゃって大困惑。しかもこれだと出会ってもOFA受け継がないのでは。
 しかし麗日さんにクソデカ感情抱く緑谷くんというのも良いものですねぇ。

 ……上手く調理出来る人が続きを書いてくれたりしないかなあ。


※以下、この世界線におけるオリキャラ達。

・干河歩

 麗日お茶子の幼馴染その一。縁になったのは母親同士の交友関係。
 幼少期、裕福な家庭育ちの"無個性"である彼女を狙ったイジメが計画されていたことに、当初の彼女本人は気付いていなかった。
 自分が気付かないように幼馴染達が庇ってくれていたのだと知ったのは小学生に上がる頃。
 それまでは彼女なりに"無個性"ゆえの悩みに苛まれたことはあったのだが、それを知って以来、幼馴染の二人さえいれば"個性"なんてどうでもいいやと思えるように。

 ある日、母親から"個性"が手に入るとしたらどう? と聞かれるも、その旨を伝えてお断り。
 以降、これに類似する話を彼女が母親から尋ねられることは無かった。
 ヒーローを目指し日々努力する幼馴染を、自分にとっては既に最高のヒーローだと思っている。

 この世界線ではモブ。


・一方通子

 麗日お茶子の幼馴染その二。こちらも母親同士の関係から。
 幼少期はヒーローに憧れていたが、同じく()()()()()()()()()()()()母親から、女性ヒーローの未婚率と怪我率等々の実態についてじっくりしっかり教えられ、少々及び腰に。
 その後、ヒーローが救うべき『無辜の民衆』から幼馴染が受けた仕打ちが決定打となった。

 それでも一応"個性"を鍛えてみようかと思い立つも、()()()()使()()()()()()()()()()()ことからこちらも億劫に。
 今はちょっと抜けたところのある幼馴染のフォローと、自分と同じモノを目にしてなお、誰かを救けたいという夢を抱けるもう一人の幼馴染の応援で手一杯。

 この世界線ではモブ。


・"個性"『周りにある小さな物体を動かす(仮称)』

 ちょっと使うとすぐ()()()()()()()()困ったさん。《やめとこうよ、お姉ちゃん》

 この世界線ではモブ。




・麗日お茶子の母親

 この世界線における諸々の元凶。原作知識持ち転生者。

 "個性"の存在からヒロアカ世界に転生したことは分かっていたが、どの時期なのかが分からず、自身の"個性"も大したものではなかったので原作介入はほぼ諦めていた。
 メインキャラの親世代に転生したと気付いたのは、交際していた男性の実家に挨拶に行った時。

 その後、自身の立場から可能な原作介入手段として、折寺中を含む学区への引っ越しを計画。
 家計のやりくりに四苦八苦しつつも、娘が中学に上がるタイミングでこれを達成した。

 主目的は勿論、原作主人公の成長を早めて未来の安全を買う為だが……
 前世における彼女の最推しCP(カップリング)はデク茶だった。……つまりそういうことである。


 (旧姓)反向射子、干河心美と学生時代に知り合い、それぞれと友人になる。
 前世の価値観そのままに彼女達と接した結果、その人生観や至るはずだった未来を大きく変えてしまったのだが、当人には知る由も無い。……なんせ二人とも原作キャラじゃないので。
 現在では三人揃って同い年の娘を持つママ友仲間である。


 原作主人公の成長促進と推しCP早期成立の兆しにwktk。
 → 原作でも特に擁護不能な時期のボンバーマンに娘が突っ込んでいったと聞いて顔面蒼白。
 → やばい忘れてたそりゃそうなるよね原作が原作があばばばくぁwせdrftgyふじこlp―――
 → …………わたしのむすめはきょうもてんしです ←イマココ


 転生したのが原作から派生した二次創作の世界だとは露知らず。
 また、この世界における『正史』を既に跡形も無く粉砕しているなんて夢にも思っていない。




※明日から新作の投稿を開始します。ただしヒロアカ二次ではないです。


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A-s あったらいいねな後日談


 本作への更新は最後だと言ったな?

 …………いや、最後にするつもりだったんですよ? 本当に。
 いつまでたっても創作熱を冷まさせてくれない原作様が本当に偉大過ぎると言いますか(ry


 これまでのifとはちょっと趣向を変えて、本編に出せなかった彼らを書きたかったの回。

 ……整合性? んにゃぴ。



 

「───女子会しましょう!」

 

 

《…………》

「…………はあ」

 

 都内に構えられた、小振りながらも質実といった風情で佇む事務所の一室。

 気の無い呟きを溢す()()()に見下ろされながら、()()()()()()は再び声を上げる。

 

「女子会! しましょう!」

「いや聞こえなかったわけじゃなくてね? 突然やってきて何を───」

 

 

「私達、きっと仲良くなれるわ。あなたもそう思うでしょう───『()()()』さん?」

 

 

 ぴく、と。

 手元を止めた彼女───『一方(ひとほ)(あゆみ)』の見開かれる瞳を見上げ、訪問者は口角を上げる。

 

「……そんな名の人間は───もうどこにも存在しないですよ? わたしは『一方歩』ですから」

「ええ、知っているわ。だからこそ声を掛けに来たんだもの!」

 

 その向けるべき感情に迷うような視線に返ってきたのは、朗々と語られる言葉。

 

 

「元雄英ヒーロー科生徒『干河歩』と同普通科『一方歩』、これを繋げる情報は意外と少ないわ」

 

「かの決戦にて奮闘したヒーローの卵が一人『アクセラ』と、当時司法取引に応じたタルタロスの元囚人……これらを一致させる情報に至っては、言うに及ばずよ」

 

「そこまで全部を繋げられたなら、そのままその人物の現状にまで辿り着く。すなわち───」

 

 

「新たな『英雄』の監視下で従事していることに。上手くできてるわね、『()()()()?」

「───出戻りでもご希望なのかしら、()()()()()()?」

 

「失礼ね! アウトなルートは使ってないわ! 今回は!」

 

 

 目を吊り上げ、「またジェントルと離れ離れになるなんて耐えられないもの!」と宣う彼女に、毒気の抜かれた表情を浮かべる、一方歩───の身に宿されし"個性"『干渉』。

 そんな彼女達の元へ、奥の部屋から宙を滑るように現れるは、湯気立つ一組のティーセット。

 

「……あら、ありがとう! これが噂の『生きた事務所(リビングオフィス)』の所以ね!」

「ええ、まあ……と言っても、あんまりお高い茶葉じゃないわよ? なにせうちは所長も副所長も清貧に偏ってるものだからね……」

《お金の使い方が分からないって言ってましたね、二人とも。……もう結構稼いでるのになあ》

 

「事務所構えたてのヒーローにありがちな、自転車操業になるよりはマシじゃないの?」

「それはそうなのだけど。……今をときめく『英雄』が仕事に困ることなんか無いでしょうに」

 

 今は近辺のパトロールに出ているヒーロー達を瞼の裏に、『干渉』は気怠げに頬杖をつく。

 そんな彼女を前に、出された紅茶を一口啜ったラブラバは上機嫌に微笑みながら話を続けた。

 

「あなたに……いえ、()()()()()聞きたいのは、参加の意思と場所の提供についてよ。具体的にはこの事務所の一室を貸して欲しいの。そうすれば方々との折り合いも解決するのよね」

「……私の意思はともかく部屋の提供については所長に……()()()()に確認を取ることになるわ。それにしても、いったいどんな参加者を連れて来る気なのよ? ……ある程度予想は付いたけど」

 

「察しが良いわね! そう言うと思ってリストを作ってあるわ!」

 

 そう言ってラブラバが取り出したのは、一枚の小さな紙片。

 先のティーセットと同様に、ふわりと浮かんだそれが『干渉』の手の中に納まり、一拍。

 

 

《……わぁ》

「……ああ、うん、成程。出久さんなら喜んで許可するわね、間違いなく」

「そう言ってくれると思ってたわ!」

 

「ええ……でも、一つ言わせてもらって良いかしら?」

 

 笑っていいのか、困るべきなのか。再び苦慮を滲ませながら『干渉』は尋ねる。

 

 

()()()()()()()時点で『女子会』ではなくない?」

「ジェントルを仲間外れにする気!? そんなの許さないわよ!」

 

《むしろ肩身が狭い思いをさせるのでは?》

「出久さんから二人については聞いてたけど……『愛』が重いわねえ」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ―――数日後。

 同事務所内、一室。

 

 

「それでは第一回『クリミナルガー○ズの集い』開催を祝って! カンパーイ!」

 

 

「かんぱ……私達まで(ジェントル)の女みたいに聞こえるんだけど? やめてくれない?」

「そもそも祝うような集まりではねぇだろ」

『それに誰一人としてガールズって年齢じゃないのです』

(そしてクリミナル○ールズは不味いぞ、ラブラバよ!)

 

 ラブラバの音頭に合わせ、チンと鳴り合わされたコップの音は、たった一つ。

 ……物寂しく感じた『誰か』がそれぞれの前へと浮かせた杯に仕方なく応える形で、同様の音が二、三度遅れて響いた。

 

 

「というか、この面子を集めて何の会話をさせる気なのよ。……今更だけど」

「共通点と言われりゃ分からなくねぇけどな……『奈落』から這い出しといて河岸を変えた奴が、まさか私の他にも居たとは思わなかったが」

 

 『干渉』が溢した言葉に、同じく呆れに近い色を宿した呟きが返る。

 必然、向けられる数名の視線に、声の主は空いた手で頭を掻きつつ、軽く肩を竦めた。

 

 

 ───社会の闇の中に生き、一度は『魔王』の掌に自ら乗った元ヒーロー、レディ・ナガン。

 

 本来の罪状を隠したまま、最高最悪の監獄へと送られ十年以上。

 決戦の折、自身の心身を顧みない()()によってもたらされた『戦果』が撮影されていたことで、一転……とまではいかないまでも、陽の下を歩いて咎められぬ程度の立場を()()()()()()()人物。

 

 そんな彼女が今、感情を読み取らせない瞳で、ささやかなパーティ会場に席を並べていた。

 

 

「えっと……レディ・ナガン、で良いのよね? 元ダツゴク仲間……ってことになるのかしら?」

「……らしいね。しかしあんた、その若さであそこにぶち込まれるって、何やらかしたんだ?」

 

「ああ、まあ、色々と……あなたこそ何でまたこんな集まりに顔を出すことに?」

「そりゃ、あれだ。……緑谷出久の事務所ってのを、一回見ておくのも悪くねぇかって……」

 

「……なるほど、出久さんか」

「……それで納得されちまうのかよ」

 

「…………」

「…………」

 

 

(……空気が死んでいるのだが!? どうするのだラブラバよ!?)

 

 互いが集まった事情が事情だけに、盛り上がる、からは程遠い空気が部屋を埋め尽くす。

 重苦しい空気に堪えられなくなったこの場唯一の男は紳士の笑みを崩さぬまま……手元の紅茶を震わせながら、発起人(ラブラバ)へと目でSOSを送った。

 

 

 ───迷惑系動画配信者から何をまかり間違ったか、かの決戦にて『英雄』の次に世界中に名を刻んだ元ヴィラン、ジェントル・クリミナル。

 

 その元凶は、彼のパートナーであるスーパーハッカー、ラブラバによる決戦各所の配信映像。

 多分に恣意を含んだ()()により、文字通りに全世界のお茶の間へと届けられた彼の『活躍』は、彼が若き日に抱いた夢を形にしてなお余りあるものではあった。

 

 そんな彼が今、眼差しに込めた救援要請に返ってきたのは「頑張って、ジェントル!」という、口ほどに物を言う期待に満ち溢れた視線のみ。

 いわゆる『無茶振り』に頬をひくつかせつつ、かつて繰り返してきた生動画配信で培った経験を総動員し、この空気を打開せんと彼は思考を駆け巡らせる。

 

 

「し……しかしアレだ! 世間一般では刑務所の食事は『臭い飯』などと言われているが、実際のところはそうでもないものだな!」

 

 

「…………ああ、まあ、本当に臭い飯なんか出すと、人権団体とかうるさいらしいしな」

「え? ……私、最低限の点滴だけだったんだけど」

 

「……は? 何したらそんなことになるんだ?」

「その……意識がある限り脱獄しかねない"個性"持ちだから基本眠らされてたのよ。それに、一度抵抗するような素振り……に見えるだろうこともやっちゃったし」

 

「おいおい、どんな"個性"だよ。あの監獄を中からどうにかできちまったとでも?」

「…………わりと? 例の『魔王』様みたいにシステムダウンを起こすのも不可能じゃなかったと思うし……まあ、途中で物理的に潰されるか、深海に沈められただろうけどね」

 

「……冗談に聞こえねぇな。というか、深海に沈める?」

「ああ、脱獄の折に気付いたんだけどね? あの監獄の海底側、多分万が一に備えて丸ごと深海に投棄できる仕掛けがあったわよ。……一息に落とされたせいで起動できなかったみたいだけど」

 

「マジかよ……危うくAFOの身体と一緒に海の藻屑になるとこだったのか、私ら」

「強引に破壊してたら水圧でお陀仏でしょうし、中々どうして合理的に出来てたみたいね」

 

 

(……話題、広がってる)

 

 半ばヤケ混じりに投じた話の種が、思いのほか芽吹いている様に逆に困惑する男、ジェントル。

 にこにこと微笑む愛しき相棒(ラブラバ)に一度笑みを返した後で、彼は内心を包み隠すべく、震える紅茶に口を付けるのであった。

 

 

『───私もお話したいです。そっち、聞こえてます?』

「……ええ、電波は良好よ」

 

 会場に持ち込まれた一台のノートパソコンから、どこか気の抜けた声色が発される。

 今回唯一の遠隔(リモート)参加となった人物の、彼方からの呼び掛けが。

 

 

『良かったです。私、あなたとお話したいとずっと思ってたんですよ、『干渉』ちゃん?』

「……私は特にあなたに興味は無いわよ、()()()()()

 

 

 ───この場でも最も異質な存在。『元』の付かないヴィラン、渡我被身子。

 参加者の中に彼女の名前を見付けた際に、『干渉』が感じた驚愕は言うまでもなく。

 

「……あの戦場にあなたが現れた時、私は荼毘の炎から人々を守るのに注視していたし……後からお茶子さんに聞いた話の範囲でしか、あなたの事を知らないのよね」

『私はお茶子ちゃんからあなたの事もいっぱい聞きましたよ? お茶子ちゃんが大好きな人なら、きっと私も好きになれると思ってたのです」

 

「そう言われてもね。……そもそもあなた、あの後どうなって……どういう扱いになってるのよ? ねえ、ラブラバさん?」

「知らないわ! ホワイトな範囲では調べられなかったもの!」

 

 

 どのようなやり取りの末なのか、決戦の終わりには自ら身柄の拘束に応じたという彼女。

 そこに決戦に参加したヒーローの雛が一人、麗日お茶子(ウラビティ)の存在が深く関わっているという情報に限れば、同じ戦場に居合わせたヒーロー達の中での暗黙の了解ではあった。

 

 しかし、その後の渡我が如何なる経緯を辿り、今回の集いに遠隔にせよ参加できる程度の処遇を得たのか、その仔細を知る者はこの場にも居ない。

 また、そうした情報を収集する能力に最も長けているだろうラブラバの返答は、彼女が再度法を犯す事を避けようとしている限りは手の届かない場所にある、ということの証左でもあった。

 

 

「…………まあ、いいわ。それで、私と何の話をしようと言うの?」

『勿論、お茶子ちゃんの事です。同じお茶子ちゃんの友達として絶対に必要な話ですから』

 

「必要? あなたと話すべきことなんて、私には思いつかないのだけど───」

 

 

 ノートパソコンのモニターを、そこに映る相手の顔を見ながら『干渉』が首を傾げる。

 覗き込まれた画面の向こう、かつて狂気に染まっていた瞳を穏やかに緩めた渡我は、朱に染めた頬を吊り上げながら囁いた。

 

 

『お茶子ちゃんには、いっぱい友達がいますけど……その『一番』は、()()()()()って』

 

 

「……へえ、なるほど良い度胸だ表出ろ?」

《……『干渉』!?》

 

 イイ笑顔のまま流れるように親指で首を掻っ切るジェスチャーを行った彼女に、頭の中で悲鳴を上げた『彼女』の声は届かず。

 火種を投げ込んだ側はと言えば、『トガは許可なく外には出られないのです。残念でした』と、澄まし顔で尚も燃料をくべにかかる。

 

 

『え? それともまさか自分が『一番』だと思ってます? あなた、めちゃくちゃお茶子ちゃんに心配掛けたって聞いてますよ? 自意識過剰じゃないですか?』

「……それこそまさか、よ。私はそこまで自惚れてない。だからといってあなたの思い上がりには頷けないけどね」

 

『……ふーん? じゃあ、『干渉』ちゃんが思うお茶子ちゃんの『一番』は誰なんです?』

「そんなの決まってるわよ。いつも、いつでも、いつだって誰よりお茶子さんの傍に居て、彼女の為に頑張ってきた最高の相棒が居るじゃない」

 

『…………誰です、それ?』

《…………え、誰だろう?》

 

 

 その言葉に渡我だけでなく、頭の中で話を聞いていた『彼女』までもが疑問を溢す。

 そんな二人に眉根を寄せた『干渉』は、やれやれとばかりに肩を上げ、告げた。

 

 

「お茶子さんの一番の相棒、そんなの───『無重力(ゼログラビティ)』さんに決まってるでしょう?」

 

 

『いやそれずるくないです?』

《あー……》

 

 まさかの人物(?)の登場に、思わず遠い目になる渡我被身子。

 画面からも『確かにお茶子ちゃんから聞いてますけど……』という呟きが零れ落ちる。

 

 

『……えっと、じゃあ……トガは『二番』で良いです、ハイ』

「『二番』ですって? 何をバカなこと言ってるのよ」

 

『えー、これもダメなんです?』

「当然よ。あのねえ───」

 

 沈黙を破った渡我の妥協を、しかし『干渉』はにべも無く切り捨てる。

 そうして再び、何を当然の事を、とばかりの口調で()()は宣告された。

 

 

「お茶子さんが『友達』に順序を付けるわけないでしょう?」

 

 

『さてはあなためんどくさい人ですね?』

「もう限界オタクのそれじゃねぇか」

《お茶子ちゃんの事になると、すーぐ素が出るんだから『干渉』ったら、もぉ……》

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「───意外と、盛り上がっていたな」

「あら、ジェントルさん? ……そうね、思いの外……ラブラバさんには感謝しないとね」

 

「ああ……それで、なのだが……少し話に付き合ってもらえるかね?」

「……ええ、勿論。ラブラバさんも、そのつもりで()()()()()()()()()のでしょうし」

 

「……やはり、気付くかね」

「まあね。彼女がどこまで掴んだのかは知らないけど───」

 

 

「あなたにも、来たんでしょう? ()()()()()()()()()()という申し出が、公安から」

「……ああ、その通りだ」

 

 

「───おい待て、公安が? 元ヴィランを? 何の冗談だ、そりゃ」

「っ、レディ、これは……」

「……そう驚く事は無いと思うわよ、ナガンさん。何より、()()()()()()()()()でしょうから」

 

「ハ? ……私から、だと?」

「『つくられた正義』、『薄く脆い虚像の超人社会』だったわね。……出久さんから聞いてるわ」

 

「……何が言いたい?」

「……偽り(ハリボテ)の社会を実感して、実像を与えようともがいている。私に話を持って来た人間からは、そんな気配がしたのよ」

 

「それは……そんなもん、今更何の……」

「新しい超人社会、新しいヒーローの姿。……『躓いても立ち上がれる社会』の走りとして、私やジェントルさんは良い広告塔になる……そう考えた人が居たのだと思うわ」

 

「…………」

「……そう、いうことだった、のか」

 

 

「さて! あなたが聞きたいのは、私が『何故それを()()()()()()()()()()()?』、でしょう?」

「あ、ああ……そうなのだ。キミもまた、ヒーロー科に通っていた生徒なのだろう? ラブラバが調べてくれた限りでは収監の経緯も不本意なモノだったと……なのに何故、キミは───」

 

 

「それなら、簡単な話よ」

 

 

 

 

「私には、見知らぬ誰かを(たす)けたいという想いが欠けている」

 

「───わたしでは、誰かが(たす)けを求める声に気付けない」

 

「何よりわたし達は───誰より近くの『(たす)けて』から、ずっと耳を背け続けていた」

 

 

 

 

「だから、私達は───『ヒーローからは程遠い』んですよ」

 

 

 

 

「───あなたはどうかしら? ジェントル・クリミナル」

 

「あなたには……あなたの『始まり(オリジン)』には、誰かを(たす)けたいという想いが、あるかしら?」

 

「その心に従うことこそが、あなたにとっての最善の選択……なんて、他人がしたり顔で言うことじゃないけどね」

 

 

 

 

「……いいや、ありがとう。キミの……キミ達のお陰で、肚は決まったよ」

 

(たす)けたいという想いなら、ある。……あったんだ。私は……」

 

「…………うむ! そうと決まれば、少年に……いや、もう少年ではなかったか。緑谷出久くんに伝えておいてくれたまえ!」

 

「次に会う時は、肩を並べて……いいや! コラボ配信のオファーを出すと!」

 

「その際のタイトルは……ふむ、そうだな───」

 

 

 

 

「『デクとジェントル! コラボしてみた!』」

「《分かったタイトルはこっちで考えておくわね(きますね)》」

 





トガちゃん『やいのやいの』
 干渉さん「やいのやいの」
 歩ちゃん《……意外と楽しそうにしてるなあ》
 ラブラバ「企画は大成功ね!」
  ナガン「話題に出てるお茶子ってのは……へえ、緑谷の。……何とも眩しいご夫妻だことで」
ジェントル「……お互い良いパートナーに巡り会えたものだな、少年よ」

 緑谷夫妻の輝きに脳を焼かれた被害者(笑)の集い。
 元ヴィラン組が決戦後にどうなるか、原作で確定していないからこそ書けた話。特にナガン。
 ジェントルも立ち位置凄いことになりそうですし……こんな後日談が"あったらいいね"って。




Q. トガちゃん!?
A. 本作では最終決戦の対AFO戦がね。あーいう形になったからね。その後でまあ、色々ね?
 ホークス筆頭に、比較的余裕のあるヒーロー勢が対応して……それでも増えるトゥワイス群から本物のトガちゃんを探し出せるのは麗日さんだけなんで……ね?

Q. それでも生きてるのはご都合的過ぎない?
A. 原作と違ってヒーロー側に余力がある以上、むしろ死なせるわけがないのです。
 捕縛したヴィラン達すら荼毘の炎から避難させるヒーローの皆さんなら尚の事。
 本作の場合は『干渉』さんが黒霧ゲートを封鎖するので、他戦場への影響も防げますからね。

Q. それでもこの扱いは有り得なくね?
A. 有り得ないですね。温情が得られるような余地も無いですし。本作には。……本作には。
 ifとして出番捻じ込んだのは完全に作者の趣味です。
 彼女とオリ主達の対話を本編で描く機会が無かったのも心残りだったんよ。




Q. 出久さん?
A. だって両方『緑谷さん』なんですもん。


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幕間3 『おしゃべりな"個性"』連載世界線スレ


 オリ主入り二次名物(?)二次世界線読者掲示板ネタ。
 以前から案としては頭にありつつ、どうしても作者の「こう見て欲しい」が強く出てしまうので自重・敬遠していたのですが…………完結から一年以上経ってるし、そろそろ大丈夫かなって。

 ……あと単純に掲示板ネタ書くのにハマりました(小声)。


 オリキャラが深く関わる箇所以外は原作通りのシーンが描かれていたというイメージ。
 また一部シーンにはオリキャラ関連で追加コマがあった、という体で。

 連載当時読者の皆様から頂いていた感想を全力で参考にさせていただいております。
 読後感を大事にされる方はブラウザバック推奨、ということで。



 

 

※Chapter-1

(原作:入学からUSJ編)

 

 

421:名無しの読者 ID:jhkdEHzz0

 いやあダブル○ロインは新しいな!

 

422:名無しの読者 ID:jSpCI4z-0

 >>421 ちょっとそこ伏字ずらしてみようか?

 

423:名無しの読者 ID:jhkdEHzz0

 いやあダブルゲロインは○しいな!

 

424:名無しの読者 ID:smflfH3n0

 そっちを伏せていくのか……(困惑)

 

425:名無しの読者 ID:cI7Qal4y0

 >>423 楽しい、かな?

 

426:名無しの読者 ID:Rb+jK1fx0

 >>423 姦しい、やな

 

427:名無しの読者 ID:ZQEJKhAs0

 >>426 女子二人、に見えて実は三人だからな

 

428:名無しの読者 ID:XhEf0CGo0

 >>427 無重力ちゃん忘れんなし

 

429:名無しの読者 ID:MBpsFMAP0

 >>427 俺の真ヒロイン無重力ちゃんハブるとか戦争やぞ

 

430:名無しの読者 ID:8YUFnxUI0

 >>429 このロリコンどもめ(AA略)

 

431:名無しの読者 ID:3rBAGERk0

 しかし毎回四肢粉砕する主人公をどうするのかと思ってたがこういう解決で来るとはなあ

 

432:名無しの読者 ID:NDYln3de0

 身体測定で指あぼん

 実習で腕あぼん

 こんな生徒授業に参加させてらんないからね仕方ないね

 

433:名無しの読者 ID:vVESm0SE0

 窮地でリミットぶっぱする主人公は王道なんだがな

 

434:名無しの読者 ID:DEX9W+sa0

 自傷ブッパしか択無いのは話が別なんよ

 

435:名無しの読者 ID:uWNzeF5f0

 しかし師匠の師匠でテコ入れの流れがこんな早いのも新しいな

 普通はもっと引っ張るネタだろうに

 

436:名無しの読者 ID:6v1Mxycq0

 あんまり引っ張ると後遺症残るレベルの傷になってもおかしくないししゃーない

 

437:名無しの読者 ID:MJ6Thonz0

 歩ちゃん&読者「「……思ってたより多い!?」」

 

438:名無しの読者 ID:zjLSz+gZ0

 >>437

 みどりや いず"く"

 "や"ぎ としのり

 だから後七人出る筈ってのはその前の週時点で考察されてたやで

 

439:名無しの読者 ID:QbbwwsXs0

 もう考察班いるのかヒロアカ

 

440:名無しの読者 ID:yxxu88BR0

 新連載でも考察に命懸ける人種は一定数いるからな

 

441:名無しの読者 ID:m5pm3gOa0

 『奴』とか『兄弟の因縁』とか見るからに今後の伏線モリモリな歴代'sの会話よ

 

442:名無しの読者 ID:sUy9Yvyu0

 『やり遂げた』←やってないフラグ

 

443:名無しの読者 ID:7pH3Yr7C0

 推定ラスボス:初代の兄

 

444:名無しの読者 ID:T9f2QWvQ0

 五代目「何だよケツの穴グッと閉めて叫べって、分かるかよそんなもんで」

 読者's「「「それな」」」

 

445:名無しの読者 ID:m/JLaZtt0

 ド直球な五代目さんで笑ったわw

 

446:名無しの読者 ID:t+E3pplA0

 そして微妙にフォローに入らない七代目

 

447:名無しの読者 ID:3szsj9eN0

 お前ら毎度フォローに入る六代目さんを見習えよ

 

448:名無しの読者 ID:fTvyG2L-0

 六代目さんも緑谷くんをフォローしてるだけなんだよなあ

 

449:名無しの読者 ID:fFR6Y1ap0

 歴代から総出でダメ出しくらうオールマイト

 

450:名無しの読者 ID:TfoI/nR40

 理屈屋の弟子に直感派の師匠は相性悪過ぎやししゃーない

 

451:名無しの読者 ID:HUudtGyL0

 二代目の時代は"個性"じゃなく"異能"だったんだな

 

452:名無しの読者 ID:Hh8Kmdto0

 一部だけ持ってたら"異"常な"能"力でも

 全員が持ってれば最早"個性"ってことじゃろ

 

 なお"無個性"

 

453:名無しの読者 ID:PEM7WW830

 "無い"方が逆に異常になっちゃったんやなって

 

454:名無しの読者 ID:Nzi9aKaa0

 ほのかに香る闇

 

455:名無しの読者 ID:ZGB2ekaD0

 四代目からほのかに香る厨二臭

 

456:名無しの読者 ID:G+mg6qrc0

 初代からほのかに香る中間管理職臭

 

457:名無しの読者 ID:5TIdaBOe0

 >>455, 456 お前らみんなが思ってても言わなかった事を……

 

 

 

 

308:名無しの読者 ID:Yjl0uGKV0

 遂に自傷無しで潜り抜けた初戦闘

 からのヒロインの為の自傷

 これは見事な主人公ムーブ

 

309:名無しの読者 ID:r6wQuxta0

 大活躍したヒロインが窮地に陥ったところに駆け付ける主人公

 これはヒーローですわ

 

310:名無しの読者 ID:gckFZDSs0

 こってこての王道よな

 

311:名無しの読者 ID:CBdN2B2l0

 王道には王道の良さがある

 

312:名無しの読者 ID:6DWhKBjQ0

 落ちたな(確信)

 

313:名無しの読者 ID:qPEDKOWR0

 そして安定のダブル○ロイン

 

314:名無しの読者 ID:wzkMlDOc0

 干渉「いますぐ回れ右して聞くな。大丈夫、道連れは置いておく」

 

315:名無しの読者 ID:kUZXyOjV0

 >>314 フォローの鬼

 

316:名無しの読者 ID:WTvcsbFc0

 >>314 控えめに言ってGJ

 

317:名無しの読者 ID:Ba9aBVRV0

 >>314 なお歩ちゃんの扱い

 

318:名無しの読者 ID:kIF+WMUC0

 毎回締めはアレになるのかねw

 

319:名無しの読者 ID:QoqqfGyB0

 誰もオールマイトの戦闘シーン話題にしてなくて草生える

 

320:名無しの読者 ID:YKZ2FU2V0

 相澤先生の方が奮闘してた感あるし……

 

321:名無しの読者 ID:047zHKVJ0

 そもそも遅刻(通勤途中に人助け)してなければ余裕やった筈やし……

 

322:名無しの読者 ID:ieNTOhfI0

 >>320

 生徒の為に不利な状況に敢えて飛び込み敵集団(ボス格含む)の足止め

 二重人格(誤解あり)の生徒を即座に見抜きつつ臨機応変に戦力に組み込む

 両腕折れた状態で敵ボスと戦闘、一撃与えて生徒を救出しつつ威圧

 

 これがプロヒーローですわよ

 

323:名無しの読者 ID:8veYIZi10

 >>322 ぐう有能

 

324:名無しの読者 ID:dd5ukgTu0

 >>322 自分の攻撃返されて一撃KOされた奴も見習うべき

 

325:名無しの読者 ID:pfcZC-8J0

 >>322 有利盤面でトドメだけ持ってった奴とは違うな!

 

326:名無しの読者 ID:pvcBUWen0

 >>324, 325 オールマイト&13号「「ぐぬぬ……」」

 

327:名無しの読者 ID:sqDvsGpm0

 13号は災害救助が本領らしいから……

 

328:名無しの読者 ID:m4uJfTis0

 何故か『干渉』の通りが良かった脳味噌剥き出しヴィラン

 生物には効きづらいはずなのになー? おっかしいなー?

 

329:名無しの読者 ID:eVEOLoAV0

 生物には(強調)

 

330:名無しの読者 ID:ryZrF5bg0

 動く死体フラグがビンビンだぜ

 

331:名無しの読者 ID:Nx+RaKFa0

 主人公の自傷パンチすら痛がっても無かったからなあ

 

332:名無しの読者 ID:JMPnD+m80

 先生とやらの"個性"がネクロマンサー的なアレなのかね

 

333:名無しの読者 ID:HBm+na9h0

 共作って言ってるから片方が強化した死体をもう片方が"個性"で動かしてるとかでは

 

334:名無しの読者 ID:ER4EkBaP0

 >>334

 ワンピのカゲカゲやん

 同誌でそこまでモロ被りのネタは出さんやろ

 

335:名無しの読者 ID:vaJmkEyb0

 意識してるとしてもミスリードやろな

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

※Chapter-2

(原作:~体育祭)

 

 

189:名無しの読者 ID:4t4u00Yj0

 お茶歩騎馬が無法過ぎて草w

 

190:名無しの読者 ID:TSa37QyQ0

 騎馬戦でやっていい動きじゃねえw

 

191:名無しの読者 ID:oNgdaRiG0

 これ騎馬戦じゃないから

 KIBASENだから

 

192:名無しの読者 ID:bFMU0Wt90

 これ鉢巻き持った騎手だけ飛ばすんじゃイカンのか?

 

193:名無しの読者 ID:cfnGJKRx0

 >>192 イカンでしょ

 

194:名無しの読者 ID:yikYCVpi0

 >>192 ミッドナイト「おい騎馬戦しろよ」

 

195:名無しの読者 ID:Y/f0SQHj0

 そしてエグ過ぎる逃げ切り策

 そうだねこちらを狙うという択を潰せば安泰だよね

 

196:名無しの読者 ID:NCw4/YVT0

 干渉「後はお前らで争え。勝ちたいんだろ? 勝てると分かってるだろ?」

 

197:名無しの読者 ID:vMR/WC4U0

 >>196 初手でやらないのが逆にエグいやーつ

 

198:名無しの読者 ID:y7A62r470

 >>196 そら(爆豪が)キレ散らかしますわ

 

199:名無しの読者 ID:fuAkvhuy0

 >>196 常闇「見事だ干河!」

 

200:名無しの読者 ID:Tvnob+qB0

 >>199 歩ちゃん「え、あ、はい」

 

201:名無しの読者 ID:EzDid++O0

 >>199 あそこ生暖かい目のデク茶で笑ったわw

 

202:名無しの読者 ID:aU-q+WIg0

 あれ物間のコピーで歩ちゃん触られたらどうなってたんやろな

 

203:名無しの読者 ID:RlQsdqWj0

 >>202 コピー「後は任せなよ、寧人」

 

204:名無しの読者 ID:s0VkoHYX0

 >>202 物間「ぉえ  ※しばらくお待ちください

 

205:名無しの読者 ID:9Km/Sew00

 >>204 大惨事で草

 

206:名無しの読者 ID:hNxGBc3Y0

 >>204 騎馬メンツ地獄じゃねえかw

 

 

 

 

347:名無しの読者 ID:uFYhokqt0

 耳郎ちゃんかわいいよかわいい

 

348:名無しの読者 ID:1SrZU5oZ0

 覗いたのは深淵でした

 

349:名無しの読者 ID:n7gixjHj0

 まさかのカミングアウトだったなー

 

350:名無しの読者 ID:eBtP6ccn0

 そら命懸けの仕事に付き合わされるとなったら複雑やろ

 

351:名無しの読者 ID:w7yXhMiE0

 内面ポワッポワなの誰より知ってるわけだしな

 

352:名無しの読者 ID:CXFVBWN+0

 確かに向いてないとは思ってた

 というか一人だけ意図的にそういう描かれ方してる感はあった

 

353:名無しの読者 ID:3hYNLdHF0

 でもヒーロー志望の基準に緑谷くん据えるのはどうかと思うの

 そいつ良い意味でも悪い意味でもハズレ値っすよ

 

354:名無しの読者 ID:KVkoITwV0

 干渉「ヒーローって……何?」

 

355:名無しの読者 ID:RDlFBp//0

 己の四肢粉砕を躊躇わない人間?

 

356:名無しの読者 ID:9neVomYM0

 >>355 一般ヒーロー's「「「おいバカやめろ」」」

 

357:名無しの読者 ID:Ry92p3py0

 >>355 一般プロヒーローのハードル天高く放り投げんのやめーやw

 

358:名無しの読者 ID:NmfiUl6z0

 相澤先生「帰って転職サイトでも見てろ」

 

359:名無しの読者 ID:jqJ3XDgJ0

 >>358 厳し過ぎィ!

 

360:名無しの読者 ID:GHTxW97+0

 >>358 両腕捩り折られても戦い続けた人が言うと説得力が違うなって

 

361:名無しの読者 ID:1ZuCNueP0

 一方ここに来て急激にイイキャラになってきた爆豪

 第一話の擁護不能なD○N姿は何処へ……

 

362:名無しの読者 ID:mo1xKPl/0

 才能マンが一回鼻っ柱折られて成長するのも王道だからな

 

363:名無しの読者 ID:fdVOsQ4B0

 基本王道は外さないよなヒロアカ

 

364:名無しの読者 ID:eWcu7Oqp0

 なおトーナメント二回戦敗退の主人公

 

365:名無しの読者 ID:1miaPt1U0

 代わりにヒロイン(の片割れ(の中の人))が優勝したから多少はね?

 

366:名無しの読者 ID:UlnTQ1hj0

 なお全力の初見殺し

 

367:名無しの読者 ID:wmyt4wl00

 ハメ技に次ぐハメ技

 

368:名無しの読者 ID:cwDlVJzf0

 勝つ為の『全力』出した結果だから

 

369:名無しの読者 ID:3gPTor0D0

 そして表彰台辞退

 

370:名無しの読者 ID:n66EUc5r0

 一位になったのは本人じゃないからね

 

371:名無しの読者 ID:pCo77U5N0

 ほんと面倒くさい女だなw

 

372:名無しの読者 ID:bX1lUzT-0

 耳郎ちゃん「うっわ、ややこし」

 

373:名無しの読者 ID:BQPeeJkg0

 腹黒女呼ばわりを喜んじゃうぐらいだし

 

374:名無しの読者 ID:pF0D70rw0

 もうちょっと友達選ぼうよお茶子ちゃん

 

375:名無しの読者 ID:vTK8muKF0

 これから面会シーンも増えてくのかなー

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

※Chapter-3

(原作:職場体験~林間合宿)

 

 

661:名無しの読者 ID:0FdqCbUv0

 常w闇wくwんw

 

662:名無しの読者 ID:q0NjJkh90

 正直黒影が喋ってた時点でこの発想はあったw

 

663:名無しの読者 ID:9PpDXTfc0

 定番シーンだもんねw

 テンション上がっちゃうよねw

 

664:名無しの読者 ID:zFVQEkPi0

 歩ちゃんドン引いてて草

 お前が連れてきたんやろとw

 

665:名無しの読者 ID:j8p1elYh0

 歩ちゃん「その……心外過ぎまして」

 

 お前そういうとこやぞ

 

666:名無しの読者 ID:Qcb/jrb70

 男心にクリティカル

 

667:名無しの読者 ID:hJIoYUB/0

 クリティカル(瀕死)

 

668:名無しの読者 ID:tI18G6IK0

 ちゃんと強化イベントにはなったから……

 

669:名無しの読者 ID:39C4okzR0

 干渉さんから若干不穏な空気漂ってる気がしたのは俺だけか?

 

670:名無しの読者 ID:fbwPRqF+0

 >>669 そのうち仲違いイベントありそうよな

 

671:名無しの読者 ID:cKgyv-dr0

 黒影と話してるときの顔に影差してたのそういうことだろうな

 

672:名無しの読者 ID:1P5WrMfk0

 ほぼ面会シーンでしか本人の顔映らないから何考えてるか分かり辛いんよなあ

 

673:名無しの読者 ID:oqctwrnr0

 まあよくある雨降って地固まる系エピのフラグ立てやろ

 

674:名無しの読者 ID:Ksd2jyZZ0

 現状ヤバくなったら代わってもらって解決ー、を繰り返してるからな

 歩ちゃん本人の意識改革回は必ず挟む筈

 

675:名無しの読者 ID:AOWYAidI0

 そこから本格的にヒーローを目指す物語になるんやなって

 

676:名無しの読者 ID:ohfMTsi20

 飛行・物体操作ヒーローの完成系としてお出しされたホークス

 学生があんだけできるんだからプロレベルだとこうなりますわな

 

677:名無しの読者 ID:EUgWUM0P0

 テ○ヌとは違うのだよ○ニヌとは!

 

678:名無しの読者 ID:0ea+4NQe0

 中学生がヤバ過ぎてプロのハードルが銀河に到達した漫画の話はやめるんだw

 

679:名無しの読者 ID:UuwXvOrk0

 それにしても人外過ぎんか

 というかコマの端でさらっと車止めてるし何で出来てんだよその羽根w

 

680:名無しの読者 ID:WjF0dwPE0

 明らかに並の金属より硬い羽根……羽根? 羽根とは

 

681:名無しの読者 ID:4NiZ0pJQ0

 も、燃えるっていう弱点はあるから……

 

 

 

 

90:名無しの読者 ID:bsv5YqGd0

 ここに来てちょいちょいギャグキャラ臭させてきた干渉さんの話する?

 

91:名無しの読者 ID:HrDAAjWM0

 ミステリアス路線のキャラだと思ってた俺

 わりとすっとぼけたツッコミ始められて困惑中

 

92:名無しの読者 ID:HYpfPJVf0

 まあ彼女も年頃の学生なわけで……

 

93:名無しの読者 ID:iLTaB4zF0

 そもそもメインキャラ達より四歳ちょい年下の筈だからな

 むしろ無重力ちゃんと同等のメンタルでもおかしくないって考察班が言ってた

 

94:名無しの読者 ID:Bx/Wb2200

 >>93 考察班の功績を横取りしない姿勢嫌いじゃないし好きだよ

 

95:名無しの読者 ID:7hCh//pX0

 誰かさんのせいで大人びざるを得なかったんやなって

 

96:名無しの読者 ID:ytlRTI8Y0

 誰なんやろなあ

 

97:名無しの読者 ID:mCYcN9NR0

 歩ちゃん「誰なんでしょうね?」

 

98:名無しの読者 ID:xyJfJ95g0

 >>97 ソウダネーダレナンダロウネー

 

99:名無しの読者 ID:ou-JYSVF0

 あの優等生口調で上鳴と同レベルの成績ってどういうことだってばよ

 

100:名無しの読者 ID:4Mz-81G90

 いうて上鳴くんも全国レベルだとトップ中のトップやぞ

 

101:名無しの読者 ID:mIj0X6lC0

 入試倍率300倍定期

 

102:名無しの読者 ID:ucnw2tbD0

 ところで歩ちゃんはその入試を誰に頼ってたんでしたっけ?

 

103:名無しの読者 ID:heQGQe/Q0

 こ、"個性"も本人には違いないから……

 

104:名無しの読者 ID:US/0Ahmu0

 そこはかとない裏口入学臭

 

105:名無しの読者 ID:gSFjlnOG0

 干渉「補習受けろ(ニッコリ)」

 

106:名無しの読者 ID:aMmv2I/50

 残念でもないし当然

 

107:名無しの読者 ID:QqXI0GiH0

 なお一晩経過後

 

108:名無しの読者 ID:tPvYBj-y0

 お茶子ちゃんを餌にしたら何でもやってくれそうで草なんよ

 

109:名無しの読者 ID:hVy3rMMe0

 歩ちゃん「お茶子ちゃんのこと好き過ぎません?」

 

110:名無しの読者 ID:1A0YK5m80

 >>109 まさしくキミが言う事じゃないんだよなあw

 

111:名無しの読者 ID:JHXA/0hg0

 なんでや対13号戦は頑張ってたやろ

 

112:名無しの読者 ID:JGNwtARh0

 頑張ってた(精神攻撃)

 

113:名無しの読者 ID:KjnB/hAn0

 頑張ってた(お披露目サポートアイテム初見殺し)

 

114:名無しの読者 ID:48QhWx560

 鬼コーチの薫陶をしっかり受け取ってますねクォレは……

 

115:名無しの読者 ID:82KbIk-F0

 一方推定ラスボス情報お披露目の緑谷くんサイド

 やっぱりやってなかったじゃないか(憤怒)

 

116:名無しの読者 ID:K40ct6p40

 回想コマ見る限り頭潰してるぽいしあれで生きてたラスボスさんがおかしいんやろ

 

117:名無しの読者 ID:IzY/fQdI0

 OFA初代の兄ラスボス説は外れなそうやな

 脳無達もラスボスに"個性"ぶちこまれた死体だったと

 

118:名無しの読者 ID:H8J/aEY70

 オールマイト視点ドクターの情報無いの気になるな

 脳無に驚いてた以上六年前時点では居なかったことになるし

 

119:名無しの読者 ID:mByN8xTN0

 オールマイトに頭潰されたAFOを死体動かす"個性"で動かしてるとか?

 

120:名無しの読者 ID:winsDDU-0

 ヴィラン側の会話見るに使役関係では無さそうだがな

 

121:名無しの読者 ID:YL-s1vXt0

 歴代と相談したいけどヤバ過ぎる情報を共有しなければいけなくなるジレンマ

 

122:名無しの読者 ID:mTLYaaSi0

 OFA関連話した時点で苦渋の決断っぽかったしそら話せんわな

 

123:名無しの読者 ID:dQmVW6z50

 そもそも歴代'sサイドにも現在のAFOについて有力な情報あるとは思えなくね

 

124:名無しの読者 ID:c/d6yKaX0

 基本全員オールマイト&緑谷くんが知り得た事しか知らんぽいしなあ

 

 

 

 

320:名無しの読者 ID:2GKsZ5uo0

 耳郎ちゃんかわいいよかわいい

 

321:名無しの読者 ID:-DUqqxiG0

 覗いたのは深淵でした(n週振り二回目)

 

322:名無しの読者 ID:MKaS0LxN0

 覗いたのはヤオモモなんだよなあ

 巻き込まれた耳郎ちゃんかわいそう

 

323:名無しの読者 ID:EzLrdx-10

 乙女トークが一瞬で猛吹雪になった耳郎ちゃんかわいそうかわいい

 

324:名無しの読者 ID:-NBXbVHd0

 完全にそういう役回りになってるの笑うんよね

 

325:名無しの読者 ID:tPB1opS-0

 すっかりヒロインサイドのレギュラー入りしてるし優遇されてるとも言える

 

326:名無しの読者 ID:LKF7P+Nh0

 なお話題はpiトークである

 

327:名無しの読者 ID:wMrBBrmt0

 ナーイチチ!

 

328:名無しの読者 ID:JdmTgHW60

 無ーいチチ!

 

329:名無しの読者 ID:K+wVIs/n0

 やめろぉ!(建前)ナイスゥ!(本音)

 

330:名無しの読者 ID:yqnB-0Sb0

 やwめwたwげwてwよwぉw

 

331:名無しの読者 ID:llWWlLxD0

 >>327 何かと思ったが >>328 で分かったわwやめれw

 

332:名無しの読者 ID:zMyDid-a0

 アンチ乙 耳郎ちゃんは「ある」側だから

 

333:名無しの読者 ID:OEYhpfrB0

 耳郎ちゃん「……どうしよう急に中学の頃の友達に謝りたくなってきた」

 

 ここほんま草

 

334:名無しの読者 ID:McCiPCCm0

 人の振り見てなんとやら

 

335:名無しの読者 ID:+2KSMRiA0

 ウザ絡みしてたんやろなあw

 

336:名無しの読者 ID:ZsRzb7gL0

 干渉さんが煽る側なのも笑う

 お前それお前の身体でもあるやろと

 

337:名無しの読者 ID:T4l/oLzI0

 身体は歩ちゃんのものって意識があるんやなあ

 

338:名無しの読者 ID:GErZW8gb0

 峰田にセクハラされるのもあんまり気にしてないくさいんよな

 

339:名無しの読者 ID:L0ISwemd0

 覗きにしても他の友人が見られるのはマズイからって理由で腰上げたっぽかったしな

 

340:名無しの読者 ID:GM2k8fiq0

 ヒーロー志望の学生が普通に犯罪してるのは良いのか

 

341:名無しの読者 ID:NVEORoK80

 まあ漫画のギャグ描写やし

 

342:名無しの読者 ID:jhmcKWGL0

 古き良きネタって奴よ

 

343:名無しの読者 ID:6oMrtnTV0

 なお一話の爆豪

 

344:名無しの読者 ID:2oS1HlPS0

 永遠に擦られる自サツ教唆

 

345:名無しの読者 ID:ltQ2GfPT0

 ……わかった この話はやめよう ハイ!! やめやめ(AA略)

 

346:名無しの読者 ID:8UnM/cCv0

 猫耳ヒーロー(三十代)は狙い過ぎだとおもうの

 

347:名無しの読者 ID:ren7vgba0

 誰がそこまで話のIQ下げろと言ったw

 

 

 

 

78:名無しの読者 ID:0+o9H3yu0

 耳郎ちゃんかわいい

 

79:名無しの読者 ID:DVastd-60

 ジロかわBOT定期

 

80:名無しの読者 ID:RpOhFi890

 三白眼サバサバ系女子がホラー駄目って……狙い過ぎだとおもうの

 

81:名無しの読者 ID:8ru1lVpE0

 誰もお前の性癖なんか狙ってねーんだよ

 

82:名無しの読者 ID:g8CF5Mek0

 追い詰められて奇行に走る耳郎ちゃんもかわいいよかわいい

 

83:名無しの読者 ID:STT/8r3z0

 自分の耳に語り掛け始めるのは草

 

84:名無しの読者 ID:5+ZIh-Z80

 もしイヤホンジャックに代わってもらえたら解決したんやろか

 

85:名無しの読者 ID:TPQB96BR0

 耳郎ちゃんと同レベルにホラー駄目女子な可能性が高いのでは(迷推理)

 

86:名無しの読者 ID:yYoKEsrh0

 出てくるのが干渉さん系なら良いが無重力ちゃん系だったら絵面がよりヒドイ事に……

 

87:名無しの読者 ID:vGQORffb0

 小さな妹に代わりに肝試し行かせる系お姉ちゃん

 

88:名無しの読者 ID:8/dK+SOx0

 >>87 これはひどい

 

89:名無しの読者 ID:PyYDNhwl0

 お茶子ちゃんに気を回すべきか悩む切島くんで笑ったわ

 漢らしさを求めるなら正解はどっちだろうねえw

 

90:名無しの読者 ID:Yfz7jh3S0

 結局男女ペアが一つも出来てないという地獄

 

91:名無しの読者 ID:+av-bvXy0

 峰田「何の為の肝試しだと思ってんすかあぁ!?」

 

92:名無しの読者 ID:LZQjHZ7e0

 >>91 言ってそうで草

 

93:名無しの読者 ID:pHX9M/Ie0

 >>91 これは絶対言ってるw

 

94:名無しの読者 ID:itAUz0PP0

 >>91 ピクシーボブ(3?)「クジは絶対」

 

95:名無しの読者 ID:2z+d/IkM0

 >>94 そのクジ本当に公平なんですかね……

 

96:名無しの読者 ID:HPUZvPiU0

 そしてお嬢様キャラ×2による突っ込み不在道中である

 

97:名無しの読者 ID:ibhaK5+X0

 別の地獄が誕生してて草

 「お疲れ様です」じゃないんですよお嬢様方w

 

98:名無しの読者 ID:/iJDMJsJ0

 パニクった耳郎ちゃんには目潰し攻撃されるし散々やな小大ちゃんw

 

99:名無しの読者 ID:mBOQC21O0

 耳郎ちゃん「うわーーー!!?」

 葉隠ちゃん「わぁー!!!」

 

100:名無しの読者 ID:QpdHA2Ww0

 葉隠ちゃん楽しそうw

 

101:名無しの読者 ID:LKvE02bz0

 単行本の幕間なw

 誰より満喫してて草なんよ

 

102:名無しの読者 ID:gYNu+0ks0

 なお襲撃

 

103:名無しの読者 ID:0mJ+slN/0

 平和なヒーロー科合宿にヴィランが攻め込んでくるなんて……

 

104:名無しの読者 ID:EHGTBi+T0

 B組生徒にも見せ場あるの良かったわ

 こっちもしっかりヒーロー科してるんやなって

 

105:名無しの読者 ID:th6+Y8eW0

 でも干渉さんがマスタードと戦ってたら瞬コロだったのでは?

 

106:名無しの読者 ID:gXSM3cAx0

 >>105 人命救助最優先よ

 

107:名無しの読者 ID:Yb9lqeks0

 >>105 10:0相性と分かるのは読者視点定期

 

108:名無しの読者 ID:3q2/e2iN0

 >>105 クラスメイトが推定有毒ガス内で倒れてる現状で他に択は無い

 

109:名無しの読者 ID:6yIOLt8Z0

 マスタードくん各所でバカにされてるけど普通にクソヤバ"個性"やぞ

 

110:名無しの読者 ID:/kit2duG0

 即座にガス除去&ガスマスク創造できたA組サイドがヤバ過ぎるだけやからな

 

111:名無しの読者 ID:s5Ba7dvi0

 動揺しつつも干渉さんを行かせた耳郎ちゃん格好良くて好き

 

112:名無しの読者 ID:UeiAarcS0

 これは戦力の仇遣いを避ける名采配

 

113:名無しの読者 ID:LbB9aNjb0

 なお散々深淵を覗かされた意趣返しでもある模様

 

114:名無しの読者 ID:4fZ9i5E10

 あそこで顔を背ける干渉さんに萌えたわ

 あざといだがそれがいい

 

115:名無しの読者 ID:lMhoGvpM0

 常闇救出は耳郎ちゃんの功績とも言えるよな

 

116:名無しの読者 ID:GDvMcFEn0

 しかし爆豪拉致か……

 この先どういう展開になるんやろ

 

117:名無しの読者 ID:YnJwf+XP0

 まさかダブル○ロイン差し置いて爆豪が○ーチ姫枠になるとはこの海の○ハクの目を(ry

 

118:名無しの読者 ID:uumH3rFJ0

 爆豪ピー○姫概念は草

 

 

 

 

211:名無しの読者 ID:AssRlBD20

 章の節目がお茶歩間のメールとは新しいな

 

212:名無しの読者 ID:7bjypuFT0

 緑谷くんサイドの神野の裏でこういうやり取りしてましたよ回

 メロンのくだりで笑わせてからの急転直下よ

 

213:名無しの読者 ID:RyGYuUe00

 緑谷母の嘆きが親側の意見として珍しいわけないよねって

 

214:名無しの読者 ID:uZbu-GUY0

 無事に爆豪救出できて良かったね、で終わる訳ないんよな

 

215:名無しの読者 ID:lTLYIne20

 記者会見のマスゴミといいヒロアカはその辺ほんとリアルよなあ

 

216:名無しの読者 ID:iAj-vNBG0

 死柄木「何故ヒーローが責められてる?」

 

 この上なくお前が言うなではあるんだけど「それな」しか言えないっていう

 

217:名無しの読者 ID:CYyRZP+u0

 被害者と被害抑える為に動いた人間叩くのほんま……

 

218:名無しの読者 ID:UKhI-xzJ0

 社会派漫画ヒロアカ

 

219:名無しの読者 ID:WiX2R68K0

 そして唯一の休学者歩ちゃん

 これは新章頭でお茶子ちゃん中心に歩母の説得に行く流れかな

 

220:名無しの読者 ID:LMVzbTVj0

 ヒーローになるという何より強い想いで親を説き伏せた緑谷&他クラスメイト

 その辺りの想いがブレブレで説き伏せられなかった歩ちゃん

 そこをお茶子ちゃんもしくは干渉が補う展開か

 

221:名無しの読者 ID:JCmsg/x00

 >>220 だとすると仲違いフラグの回収もありそうやな

 

222:名無しの読者 ID:37z3i+eP0

 まあ全ては新章に期待ということで

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※Chapter-4

(~干河歩:オリジン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

150:名無しの読者 ID:oC+0Oy5d0

 ……今週のお通夜会場はここですか?

 

151:名無しの読者 ID:5H+xYCIt0

 関連スレどこ見ても阿鼻叫喚で草

 ……草

 

152:名無しの読者 ID:9Dj6m-KH0

 ぺんぺん草も生えねえよ

 

153:名無しの読者 ID:0gZ+eD+c0

 教師陣が内通者云々の話を始めた時点で嫌な予感はしてたよ

 してたけどさぁ

 

154:名無しの読者 ID:nODC-q9N0

 遊○王一期女版的な目で見てたのになあ

 

155:名無しの読者 ID:ayTivunK0

 考察班が本格的な本部スレを建てたらしいぞ

 覗いてみたら猛烈な勢いで伏線挙げていってたわ

 

156:名無しの読者 ID:S0r8oXUk0

 今週の巻末コメントがな

 

 「緑谷くん"は"初めてワン・フォー・オールの話を聞いて

  そんな"個性"が有り得るのかと否定から入りましたね」

 

 これだもんな

 

157:名無しの読者 ID:UqhSsueF0

 "個性"を移動させる例を知ってた……んですねえ

 

158:名無しの読者 ID:Xv2yLCkA0

 気付くかよそんな伏線

 

159:名無しの読者 ID:1iCWqzzI0

 あれで他にも伏線あっただろって考察班が現在進行形で狂乱中やぞ

 

160:名無しの読者 ID:+L5h6BRi0

 キャラスレの方でも「歩ちゃんは悪くない」勢と「絶許」勢で大荒れだな

 何も知らなかったんだから当然論調と知らなかったで済むわけないだろ論調が対立してる

 

161:名無しの読者 ID:qhTVSZjV0

 当時ならともかく高校生までその認識ひきずってるのはなあ

 流石にちょっとは親を疑おう?

 

162:名無しの読者 ID:uEga76wW0

 >>161

 そういう話題出すと >>160 のスレ民がこっちまで流れてきて荒らされるぞ

 ここでは誰が悪いやら行動の是非に関する論争は無しだ 良いね??

 

163:名無しの読者 ID:BM4UmOZ20

 アッハイ

 

164:名無しの読者 ID:mrCyc3lr0

 おk把握

 しかし家庭訪問シーンに遡ってからのこれとはな……

 

165:名無しの読者 ID:D18-BR7F0

 お労わしや相澤先生……

 

166:名無しの読者 ID:KU+6h6lZ0

 尋問向けな"個性"を持ったばっかりに……

 

167:名無しの読者 ID:wSDIoOvo0

 なあ今気付いたんだが手紙の最後の追伸でだけ「相澤先生」って呼んでるな

 他は咎められて言い直した一回以外「イレイザーヘッド」って呼んでるんだよな

 

168:名無しの読者 ID:0pbnfFPt0

 >>167 どうしてそういうこと言うの?

 

169:名無しの読者 ID:PnOZ/b9k0

 >>167 その気付きは胸の中にしまっておいて欲しかった

 

170:名無しの読者 ID:7hfy7EAc0

 ……『抹消ヒーロー イレイザーヘッド』を求めてたんだね

 

171:名無しの読者 ID:SqtA7CIm0

 干渉「はやく私を抹消(ラクに)してください、先生」

 

172:名無しの読者 ID:R5nkiHTu0

 >>171 やめろぉ!(建前)やめろぉ!!(本音)

 

173:名無しの読者 ID:JhivhoHc0

 >>171 生徒を『抹消』する為に教師になったんじゃねーんだよぉ!

 

174:名無しの読者 ID:agjXBo1O0

 昨年の一年A組生徒一同「「「……」」」

 

175:名無しの読者 ID:/v7Fi4Iq0

 >>174 そ、そのうちフォロー入るやろ……入るよね?

 

176:名無しの読者 ID:hY8lx0xd0

 実際やけに他人行儀だとは思ってたんよな

 干渉目線では生まれた時から二人だった筈なんだからむしろ「『一人』な人は大変ね」ぐらいにトンチキ解釈でもおかしくないのに事ある毎に歩ちゃん一人に何かさせようとしてるみたいな

 

177:名無しの読者 ID:wqsUw5h50

 ああそこからもう伏線だったのか

 常闇くんの黒影みたいな価値観が本来の喋る"個性"のスタンダードってことかねえ

 

178:名無しの読者 ID:s1a1JyPV0

 あと気になるのは母親側だな

 ヤオモモ情報だと献身的な良妻だったが干渉から恨み買ってるのは間違いなさそうだし

 

179:名無しの読者 ID:h/DMX0TJ0

 義姉とやらが浮気でデキた子とかならワンチャン……

 いやどっちの方がマズいんだこれ……?

 

180:名無しの読者 ID:kZL8HWCP0

 浮気子だった → 両親共に倫理観ゴミ○ス

 浮気子じゃなかった → 母親が存在してはならないレベルのクリーチャー

 

181:名無しの読者 ID:6phB1fC80

 無○様レベルは草

 

182:名無しの読者 ID:2pHHFqdU0

 まあ今は粛々と来週の追加情報を待つとしようぜ

 流石にこれ以上の地獄は無いやろ

 

 

 

 

 

 

※Chapter-4

(『干渉』:オリジン~)

 

 

 

 

 

 

 

235:名無しの読者 ID:eMkW3Y6o0

 ……今週のお通夜会場はここですか?(一週振り二度目)

 

236:名無しの読者 ID:btWrZpdP0

 うわぁ…… うわぁ……

 

237:名無しの読者 ID:I6handS/0

 わぁ ぁ

 

238:名無しの読者 ID:x3j3DGEz0

 【急募】人の心

 

239:名無しの読者 ID:y5huf3dE0

 >>238 そこに無ければ無いですねー

 

240:名無しの読者 ID:N1AEti-I0

 思った以上の地獄で草

 草……

 

241:名無しの読者 ID:/tA5YlW40

 彼岸花も生えねえよ

 

242:名無しの読者 ID:s3feSjH40

 敢えてスレ名は出しませんが戦争っぷりが加速しています

 

243:名無しの読者 ID:unmw8Nw90

 何の報告だよ

 いや分かるけども

 

244:名無しの読者 ID:HtqdrkTL0

 今週のコレ読んだ後でさぁ……

 今までのジャンプ読み返すとさぁ……

 

245:名無しの読者 ID:r+-o/Yd60

 考察班が次々挙げていってるな

 これそういう意味の台詞だったのかって

 

246:名無しの読者 ID:9uqlvmI80

   干渉「……この人でも流石に一人娘の人生が掛かっているとなれば、こうなるのね」

 歩ちゃん「(……お母様を何だと思っていたんですか)」

 

 なんだと思ってたんだろうね……

 

247:名無しの読者 ID:9lCnv3IY0

 >>246 ク〇外道

 

248:名無しの読者 ID:Sw+7i7GE0

 >>246 人の心を持たぬ怪物

 

249:名無しの読者 ID:pBZGVIlX0

 >>246 怒り通り越した感心の台詞よな

 

250:名無しの読者 ID:XVTDuBjz0

 歩ちゃん「ちょっと口煩い最高の友人で、わたしの自慢の"個性"です」

   干渉「…………ああ、そう」

 モノローグ:今まで伝えられたことのないチクチクとした感情が微かに届いていた。

 

 エモ会話やと思うやん……

 

251:名無しの読者 ID:neDypiEL0

 チクチクとした感情(意味深)

 

252:名無しの読者 ID:ZndTi9MN0

 バチくそキレ散らかしてたんやろなあ……

 

253:名無しの読者 ID:OB6C1oFs0

 読み返すたびにSAN値が削れる漫画

 

254:名無しの読者 ID:P5LVy9ws0

 ルルイエ異本かな?

 

255:名無しの読者 ID:vh6772Gv0

 歩ちゃん「…………お茶子ちゃんに慰めてもらいたいです」

   干渉「駄目よ。家族団らんの邪魔は許さないわ」

 

 家族団らんの邪魔は許さない

 

256:名無しの読者 ID:okSI-AgU0

 >>255 そ こ も か

 

257:名無しの読者 ID:ZSMgQR0x0

 >>255 家族団らんの邪魔は(二度と)許さないわ

 

258:名無しの読者 ID:Vbfyl9aF0

 >>255 ギャグ描写やん……ギャグ描写やったやん……

 

259:名無しの読者 ID:UenyevLU0

 干渉(の持ち主)四歳 初めて会ったお父さんは

 

 心を壊して永遠の眠りに就きました

 

260:名無しの読者 ID:38Iy+pWO0

 >>259 もっと頑張れよ!

 ……とは言えんわなあ

 

261:名無しの読者 ID:qUMKxrzG0

 >>259 やっと会えた妻子が目の前で『それ』は折れるわ

 

262:名無しの読者 ID:ex/xBKC30

 歩ちゃんの最期の言葉が「どうして?」なのもまた救いが無いというか

 

263:名無しの読者 ID:ewgwKjcm0

 ガチギレしながらでも解説してたのキレる理由を分かって欲しかったからよな

 

264:名無しの読者 ID:OH+t4b9o0

 結局最後まですれ違ってたという

 

265:名無しの読者 ID:N9KY4Wlk0

 なんて哀しい仇討ちなのか

 

266:名無しの読者 ID:fVMwcXU30

 これ最初っから全部歩ちゃんに暴露するわけにはいかんかったんやろか

 

267:名無しの読者 ID:7cUH/lC40

 >>266

 歩母「何だか娘が"個性"に変なこと吹き込まれてるみたいで……」

 AFO「へえ?」

 

268:名無しの読者 ID:l17XRWF60

 >>267  これ

 

269:名無しの読者 ID:rOkmComF0

 >>267  がめおべら不可避

 

270:名無しの読者 ID:oehLEuyQ0

 >>267  ラスボス即エンカはクソゲー過ぎるw

 

271:名無しの読者 ID:QtUFYz4f0

 というかここからどう話を展開させるんだ

 デクお茶は何とかオールマイトつっついて情報吐かせようとしてるけど

 

272:名無しの読者 ID:ozrvTvWE0

 こんなん言えるわけないんよオールマイトも

 

273:名無しの読者 ID:wI01U3-30

 秘密厳守頑張れと思う気持ちとポロッと溢せと思う気持ちが混在している

 

274:名無しの読者 ID:pbWMgCAQ0

 これ以上は針の筵じゃ済まないんだよなあ

 

 

 

 

343:名無しの読者 ID:0DRNB4f30

 耳郎ちゃん か っ こ い い

 

344:名無しの読者 ID:IWlc6v0c0

 根津校長との(間接)知恵比べに勝利する耳郎ちゃんGG

 

345:名無しの読者 ID:v4Z8PCNZ0

 なお勝因(敗因)はオールマイトの伝達不足な模様

 

346:名無しの読者 ID:MqZ5+OSD0

 オールマイトさぁ……

 そういうとこも好き(豹変)

 

347:名無しの読者 ID:S1YkhlGF0

 報連相できない大人

 

348:名無しの読者 ID:AwRBAL7t0

 どんだけハイスペックな頭(CPU)があっても情報(入力)が無い限り答えは出せないよね

 

349:名無しの読者 ID:YTogBZOm0

 デクお茶耳郎「「「AFO絶対許さない」」」

 

350:名無しの読者 ID:JvrN23y40

 >>349 冤罪、ではないんだけども……

 

351:名無しの読者 ID:DF9BWR/E0

 >>349 元凶っちゃ元凶なんだけどなあ

 

352:名無しの読者 ID:oxdTPdFg0

 AFOの利になると判断しなけりゃもっと時間あったはずだしな

 

353:名無しの読者 ID:Z57Mw4to0

 恨みはある

 仇も討ちたかった

 それでもメインは友達を危険から守る為だったわけで

 

354:名無しの読者 ID:eC4oXYXy0

 >>353 そこよな

 干渉さん的に復讐はメインの理由じゃなかったんよ

 色々不満は持ちつつも長~~い目で見てる真っ最中だったんよ

 

355:名無しの読者 ID:ebOu6eQU0

 デクお茶耳郎中心に真のヒーロー志望に触れて折れるも奮起するも良しなスタンスだったんよな

 まあ奮起してたら自分は消えるつもりだったらしいが

 

356:名無しの読者 ID:FklPEzNa0

 歩と干渉の両方が辿り着けるゴールは無かったんですかね……

 

357:名無しの読者 ID:mzcnRN100

 大丈夫だ

 

 どっちのゴールも既に無いから(ニッコリ)

 

358:名無しの読者 ID:h9FGEsIV0

 >>357 愉悦勢はその手のスレにお帰りやがれください

 

359:名無しの読者 ID:LkaQle1J0

 そっち方面の読者も開拓してたんだなヒロアカ……

 

 

 

 

624:名無しの読者 ID:/TDdX0FO0

 ひっさびさの干渉さんパート

 からの地獄の種明かし

 

625:名無しの読者 ID:opskTzja0

 暫く音沙汰無くてどこまで引っ張るのかとは思ってたがドクター関連とはな

 

626:名無しの読者 ID:RrOjPENm0

 推定"個性"事故に頭抱える干渉でちょっとワロタw

 怒鳴っちゃった後で自己嫌悪してるの年相応の子供感ある

 

627:名無しの読者 ID:BVlSBZa-0

 そして始まるほのぼのパート……だったらよかったね(沈痛)

 

628:名無しの読者 ID:GtFU8Iej0

 急激な闇深臭、からのガラス容器に浮かぶ脳無群+ドクターとかいう最悪の引きよ

 そして明かされる経緯と現状

 

629:名無しの読者 ID:JYrq7uYX0

 元の持ち主死んでると思ってたら死んでた方がマシだったという……

 

630:名無しの読者 ID:DDFdfQ+h0

 教育()できなかったから死体にして使うことにしました

 ク〇がよ(直球)

 

631:名無しの読者 ID:icLKcwet0

 勿体無いから再利用しました、レベルの認識なのがまた……

 

632:名無しの読者 ID:CLUd153L0

 干渉さんが通子ちゃんに記憶を取り戻させる流れがさぁ……

 推定幼い頃の思い出列挙していくのは反則なんよ

 

633:名無しの読者 ID:Xf5d7+EC0

 なおセーフティ()

 

634:名無しの読者 ID:y4TTGA-30

 ク〇がよ(直球)

 

635:名無しの読者 ID:BrGYDsWx0

 これが吐き気を催す邪悪か

 

636:名無しの読者 ID:5kXdJzor0

 ドクターの行いに憤りながら一コマだけ歩ちゃんを見る干渉さんがな……

 価値観の定まってない子供の思考を自分の都合の良いように誘導してたって部分が自分の行いと重なったんやなって

 

637:名無しの読者 ID:Tff967Wy0

 流石に自罰思考が過ぎる……とも言い難いんか

 やったことはやったことだからなあ

 

638:名無しの読者 ID:K0tLGE710

 歩ちゃん視点最悪の加害者なのは間違いないからな

 その目に当たり前に映すべきものを映してなかっただけで

 

639:名無しの読者 ID:AQDkQL/X0

 "個性"感知からの機銃掃射、を跳ね返しちゃう干渉さん

 狸寝入り(違)バレちゃったねえ……

 

640:名無しの読者 ID:ECtKRPPd0

 看守に向けた絶望の微笑みよ

 こんな悲しい笑顔初めて見たわ

 

641:名無しの読者 ID:SOkBIwsC0

 通子ちゃんに何か残ってれば良いんだけどなあ

 

 

 

 

82:名無しの読者 ID:ZkOUHVMA0

 大コマ見開き

 起床一歩目ワープ脳無粉砕

 

 コンビニで歓声上げちまったぜ

 

83:名無しの読者 ID:aHLCfMmH0

 立ち読みで歓声は草

 俺も職場の休憩所で叫んだけどもw

 

84:名無しの読者 ID:Ndha6Ss-0

 >>82「シャオラァ!!」

 

 コンビニ店員&客「「!?」」

 

85:名無しの読者 ID:NunuD2PR0

 >>84

 テラ迷惑w

 いやでも気持ちは分かるw

 

86:名無しの読者 ID:cVuxQ5V10

 >>84 むしろ店員&客と意気投合する流れ

 

87:名無しの読者 ID:ImXXWecq0

 初手で逃げ道潰した通子ちゃんとかいうMVP

 

88:名無しの読者 ID:PxFeQK8p0

 ぐう有能一般被害者ロリ

 

89:名無しの読者 ID:-kUd+aT50

 実質ラスボス撃破したジョ〇ョのショタといい

 ジャンプの一般ショタロリは有能率高いなあ

 

90:名無しの読者 ID:DaKLz5a90

 ドクター曰く頭の出来が違う(ガチ)やからな

 廃棄を惜しまれた脳は伊達じゃない

 

91:名無しの読者 ID:0Q87zV2/0

 でもあれ初手でドクターの頭カチ割ってたら完全勝利だったんじゃね?

 

92:名無しの読者 ID:NrHnzctS0

 >>91 ロリにやらせて良い事じゃない

 

93:名無しの読者 ID:FvMDgVul0

 >>91 味方側キャラが生きた人間カチ割る描写は色々問題がね

 

94:名無しの読者 ID:LjcE4Cdz0

 >>91

 マジレスすると

 モカちゃん(二倍脳無)の存在を知ってた通子ちゃん視点で

 目の前のドクターが本物である確証が無かった by 考察班

 

95:名無しの読者 ID:n3f4hbEq0

 はぇーなるほど

 

96:名無しの読者 ID:IFxfZIn-0

 考察班は今日も絶好調だな

 

97:名無しの読者 ID:dtbw5mkE0

 偽物が何人居ようがワープさえ潰せば袋のネズミだからな

 

98:名無しの読者 ID:EkmQGMAd0

 そらミルコさんも目ぇキラッキラになりますわ

 

99:名無しの読者 ID:amFVYGkp0

 なお通子ちゃんサイドはドン引きしてた模様

 

100:名無しの読者 ID:uLH9Rbk-0

 即座に再生したとはいえ他人の腕捩じ切られるとこ見て真っ直ぐ吶喊していくの控えめに言ってバーサーカー過ぎたからね仕方ないね

 

101:名無しの読者 ID:et5vo11n0

 千切られたのが自分の腕でも同じ事したんじゃないかって謎の信頼がある

 「痛ってぇなぁ!」とか言いながら相手の頭捩じ切ってそう

 

102:名無しの読者 ID:M-aW/Hr30

 >>101 その光景そのまま幻視したわw

 

103:名無しの読者 ID:x8OvBwWW0

 >>101 何故か違和感無くて笑うw

 

104:名無しの読者 ID:ZxAQIwwM0

 エンデヴァーの『名も無きヒーロー』呼びも素敵

 無線越しに「ヒーローに……母に憧れたヒーローの娘!」を聞いた上での呼び方なんだよなあれ

 

105:名無しの読者 ID:cLNnslAn0

 あの不器用親父いつの間にあんなエモ台詞言えるキャラになったんや好き

 

106:名無しの読者 ID:6cdsxWCN0

 ただイレイザー&プレマイ先生的には存在自体が割と地雷なんよな通子ちゃん

 

107:名無しの読者 ID:OE3F-rHo0

 絶対無線聞きながら黒霧=白雲のこと考えてたよな二人とも

 

108:名無しの読者 ID:F+cwLJIC0

 ブチギレマイク先生怒りのシャウト

 相手はチリになって死ぬ

 

109:名無しの読者 ID:pC/2-wgK0

 いっそドクター含めて全部チリになってればなあ

 

 

 

 

592:名無しの読者 ID:ENzFjsjn0

 日 本 壊 滅

 からの最終章突入

 の前に閑話が入るとのことですが

 

593:名無しの読者 ID:yfwTe7Gp0

 クライマックスだなあ色々と

 

594:名無しの読者 ID:x969g3Xw0

 遂にOFAカミングアウトしつつ雄英を去るデクくん

 バチクソキレ散らかすお茶子ちゃん

 を冷静に諭すボンバーマン

 からの謎の電話

 

595:名無しの読者 ID:QUMjvJGO0

 あれ干渉さんかね? それとも歩ちゃんかね?

 

596:名無しの読者 ID:xjxmvVZc0

 あの引きから脱獄したのかAFO側についたのか……

 

597:名無しの読者 ID:Ba5FjAQy0

 干渉さんなら前者一択だが歩ちゃんだと後者の可能性が高いのか

 

598:名無しの読者 ID:emu4XQQU0

 未だに「優しい叔父様」「わたし達のヒーロー」認識のはずだしな

 

599:名無しの読者 ID:7IlAaRn10

 考察班曰く干渉さん一択らしいぞ

 

600:名無しの読者 ID:quy1rzTG0

 適当言うなよと言いたいが考察班情報か

 そこに至る理由は?

 

601:名無しの読者 ID:7IlAaRn10

 激昂してた麗日さんが携帯見た瞬間クールダウンした

 → 着信表示に知っている名前が表示されていた

 → 干河歩の携帯からの発信である

 → この携帯は根津校長の手元にある

 → 既に根津校長と接触している

 → AFO側では有り得ない

 → 電話の主は干渉さん

 

 否定材料は「そもそも電話の相手が干河歩ではない可能性」くらいしかないとのこと

 

602:名無しの読者 ID:quy1rzTG0

 はぇー……

 

603:名無しの読者 ID:bwYv7x6I0

 でもそれだとどうやって脱出したんやあの状況から

 AFOから逃げられる精神状態じゃなかったやろ本人

 

604:名無しの読者 ID:kzBl7HlD0

 場面転換前に独房の扉を開けた誰かに助けられた説が濃厚になるわけだが……

 誰か居たか?

 

605:名無しの読者 ID:Dwce6TE40

 コマに映ったのはステイン、マスキュラー、ムーンフィッシュ、オーバーホール、黒霧

 あとオバホの独房開けた新キャラ女性だな

 

606:名無しの読者 ID:0Kkn3aQj0

 新キャラぐらいしか可能性が無いなその面子だと

 

607:名無しの読者 ID:a0SHkNvA0

 ステインはワンチャン……と言いたいが面識全く無いしなあ

 

608:名無しの読者 ID:7IlAaRn10

 考察班は通子ちゃんも候補に挙げてるぞ

 脳無の中にシレっと混ざってタルタロスまで行った説が出てる

 

609:名無しの読者 ID:rGXMhgQO0

 もしそうなら有能行動しか取らねえなこの一般被害者幼女w

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

※閑話

(悪夢の裏の、その裏で)

 

 

842:名無しの読者 ID:-yJeGPKd0

 ……今週のお通夜会場はここですか?(n週振りn度目)

 

843:名無しの読者 ID:ozv89/bS0

 【急募】人の心(n週振りn度目)

 

844:名無しの読者 ID:fyDeqLoU0

 満を持しての干渉視点が想像以上に地獄だった件について

 

845:名無しの読者 ID:huv5PYS30

 なんなんだこの八方塞がり感……

 

846:名無しの読者 ID:csXP6AkS0

 炭○郎「お前は存在してはならない生物だ」

 

847:名無しの読者 ID:JwmKa9hD0

 なにが『心美』だよ

 名が体を表して無さ過ぎるわ

 

848:名無しの読者 ID:WW-KQXjQ0

 いや『心』は確かに『美しい』ぞ?

 ここに至って悪意も悪気も全く持ってないんだからなw

 

849:名無しの読者 ID:CmRq4RlF0

 ウェ○ー「お前は自分が悪だと気づいていない最もドス黒い悪だ」

 

850:名無しの読者 ID:Dz7QD6170

 心が美しさしか残してない……

 汚い部分全部己の記憶からすら抹消してやがるぞコイツ

 

851:名無しの読者 ID:NBJ5IZbg0

 >>846, 849 そいつらの対象と違って物語的には黒幕でもなんでもないのがな

 

852:名無しの読者 ID:7UlNN4LO0

 >>851 AFOと比較したら小悪党ですらないのほんと虚無感酷い

 

853:名無しの読者 ID:LU1D5qcN0

 >>851 実際攻勢に出られたらアッサリだったしなあ

 

854:名無しの読者 ID:ozcgeHdF0

 干渉さんはよく耐えた

 よく耐えたよマジで

 

855:名無しの読者 ID:-x7vEPu/0

 むしろ何故恨まれてないと思ってたのか

 

856:名無しの読者 ID:5Fnh1FSM0

 × 恨まれてないと思ってた

 〇 恨まれるという発想そのものが無かった

 

857:名無しの読者 ID:I2MHE9GI0

 なんというクレイジーモンスター

 

858:名無しの読者 ID:/EP2Yehz0

 色々差し引いても発言全てがサイコパス過ぎる

 

859:名無しの読者 ID:SiwKexjL0

 コレへの恨みを抱えながら歩ちゃんを実質育ててた干渉さんよ

 堪忍袋の容量バグってません?

 

860:名無しの読者 ID:quyc5/7u0

 心神喪失状態の父親に声かけようとして息詰めるのがまた辛い

 そうだね……聞かせたくないよね……

 

861:名無しの読者 ID:jzjhPkrN0

 見た目や声は歩ちゃんやからなあ

 心を壊す直前に見た最後の光景を意識が無いにしても見聞きさせたくはないわな……

 

862:名無しの読者 ID:Gp40j-il0

 干渉「この人が愛した娘はもうどこにもいない」

 

 そんなことないよと言ってやりたいが……

 

863:名無しの読者 ID:GRmLIZiO0

 お茶子宛のメール全部干渉が書いてたのな

 

864:名無しの読者 ID:tQ2ER6wl0

 前々から内容に違和感あるとは言われてたけどな 考察班に

 

865:名無しの読者 ID:Gf6/VGDt0

 家庭訪問回読み返すとさぁ

 確かに笑ってるんだよ干渉さん

 最後まで

 抹消受ける瞬間まで

 ずっと

 

866:名無しの読者 ID:MAtM8-4o0

 >>865 やめろ……やめて……

 

867:名無しの読者 ID:ySNX+9AH0

 >>865 どうして今そういうこと言うの?

 

868:名無しの読者 ID:ociQPohE0

 >>865 言われて読み返しちまったじゃねーかク〇が!

 

869:名無しの読者 ID:PquOA3kK0

 というか人格の主導権手に入れてんだしそれこそ何もなかったことにしてもいいだろうに

 わざわざ自分から拘束されにいくあたりほんと律儀というか不器用というか…

 

870:名無しの読者 ID:jEQevFft0

 手を出した時点で自分はヴィランになったって言ってるからなあ

 その状態でヒーローを志す『友達』とは顔合わせられんかったんやろ

 

871:名無しの読者 ID:ZZDJ6pR+0

 アレに手を出してヴィラン扱いは無慈悲過ぎんか

 

872:名無しの読者 ID:iLLBLj6A0

 相手がどんな輩でも私刑に"個性"使ったら犯罪、は緑谷くんサイドで既にやってるからな

 

873:名無しの読者 ID:yMM+V/GS0

 マジで何もかも詰んでて草

 草……

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

※Chapter-5

(原作:最終章)

 

 

599:名無しの読者 ID:ZzZ6eVuB0

 まさかのデクvsハイエンド(通子ちゃん)

 見た瞬間何故ェ!? と思ったけど心を折りにいく策の一環だったというね

 

600:名無しの読者 ID:MztKS3ZU0

 言葉を尽くして止められないなら心を折って止める

 ……相変わらず考えることえげつねえのよ

 

601:名無しの読者 ID:tZdzV7ON0

 こうして見ると最初期の打撃無効脳無が地面に埋めて対処された反省だったのかもな液体化脳無

 

602:名無しの読者 ID:N5x8eHUT0

 なお拳圧(デコピン圧)で吹き飛ばされる模様

 

603:名無しの読者 ID:kXxVzwbn0

 脳筋は時に全てを無に還す

 

604:名無しの読者 ID:VEGofHS80

 デク vs お茶子+干渉

 ……ドリームマッチやな(錯乱)

 

605:名無しの読者 ID:hSxX/TeS0

 ドリーム(悪夢)

 

606:名無しの読者 ID:BkTsV2pi0

 デクくん視点完全に悪夢よなw

 心情的に戦いにくい以前に噛み合い振りが無法過ぎるw

 

607:名無しの読者 ID:/1tFv7B00

 お茶子ちゃん「往生せいやぁ!」

     干渉「あの……往生させちゃ駄目じゃない……?」

 

 お茶子ちゃん「あぁ?」

     干渉「あ、はい、なんでもないです」

 

 干渉さんwww弱いwww

 

608:名無しの読者 ID:Q3KndVPB0

 まあ途中挟まった回想からしてお茶子に対して負い目だらけやろうしな

 

609:名無しの読者 ID:p+AyHDCY0

 むしろお茶子ちゃんが強過ぎるw

 これはメインヒロインですわ

 

610:名無しの読者 ID:F5qm7aH60

 ここにきてヒロインぢから爆上げしてきたな

 

611:名無しの読者 ID:JdTl-XeC0

 お茶子「帰ろう?」

 

 まさに王道ヒロイン

 

612:名無しの読者 ID:qJFHPLeX0

 なお巻末コメント

 

 「緑谷くんがその気ならワンパンで決着でした」

 

613:名無しの読者 ID:HpskrMCR0

 まあ初代も干渉も同じようなこと言ってるし……

 

614:名無しの読者 ID:NWT6hgnQ0

 (差し伸べられた手に拳を返すなら)ワンパンで決着でした

 

615:名無しの読者 ID:KonL4U9/0

 デクくんに出来るわけないんだよなあ

 

 

 

 

112:名無しの読者 ID:OfXfbLo20

 わぁいひさびさの面会シーンだァ……

 

113:名無しの読者 ID:a/Ueh08S0

 連載開始当時こんな使い方されると誰が思ったやら

 

114:名無しの読者 ID:6h4l6zfS0

 やっと二人とも心から自分達を思ってくれる人に叱ってもらえるんだなって

 

115:名無しの読者 ID:HAn+vpBI0

 お茶子ちゃんの部屋に入るときの干渉さんの顔よ

 処刑台にでも上るのかと

 

116:名無しの読者 ID:3CEDEW+z0

 心情的にはそういう感じなんやろ

 詰められてどんどん顔が下がってくのがまた……

 

117:名無しの読者 ID:bjymTdOz0

 干渉「あなたに後悔もして欲しくない」

 

 結局これが一番の本音なんやろなあ

 

118:名無しの読者 ID:nU5RRgUN0

 歩ちゃんはどうなんだ……? お茶子ちゃんから言われたなら理解できるのか……?

 

119:名無しの読者 ID:U7iNQNHN0

 ブチギレ干渉の言葉はまるで通じた気配が無かったが果たして

 

120:名無しの読者 ID:cqeb4QCz0

 ところで牢獄(自家製)から引っ張り出された歩母の話する?

 

121:名無しの読者 ID:rhBGUVvy0

 >>120 くたばれ以外に何を言えと

 

122:名無しの読者 ID:LpQBvG8p0

 >>120 いっっっちミリも反省してなくて逆に安心したまである

 

123:名無しの読者 ID:KZnBq7R10

 >>120 "退治"で血管切れるかと思ったわ

 

124:名無しの読者 ID:6VPh68SK0

 歩母「清く正しく生きていれば人は必ず報われる」「最後に必ず愛は勝つ!」

 

 この世でお前だけは言っちゃダメな台詞だよ

 

125:名無しの読者 ID:UvkUUMfP0

 そうだな

 清く正しく生きている人は報われなきゃいけないし

 最後に必ず愛は勝たなきゃいけないんだよ

 

 だからこそお前は可及的速やかに地獄に落ちろ

 

126:名無しの読者 ID:VfLKdVdV0

 こいつだって歩父が心を壊す瞬間を見てるはずなんだよなあ

 いったいどういう世界に生きてるんだか

 

127:名無しの読者 ID:nGv11tUh0

 ある意味幸せな人なんだと思う

 ある意味

 

128:名無しの読者 ID:65UN9-L30

 なあ今気付いたんだがこいつ……

 歩ちゃん(乗っ取られた実娘)の心配全くしてなくね?

 

129:名無しの読者 ID:MV4GjAer0

 >>128 うわぁ……うわぁ……

 

130:名無しの読者 ID:Pt1RIjq00

 >>128 その気付きは最高に最悪だよク○が

 

131:名無しの読者 ID:Xn4vqiO40

 結局娘すら最愛の夫()と幸せな家庭()を彩る為のアクセでしかなかったんやなって

 

132:名無しの読者 ID:VZeWPq550

 口を開く度にギルティカウントを増やす女

 

133:名無しの読者 ID:PrM/g0kG0

 干渉「お前はもう何も考えるな。何も伝えてくるな」

 

134:名無しの読者 ID:CsGNhZEg0

 >>133 残当過ぎる

 

135:名無しの読者 ID:/ahACJP+0

 >>133 怒り越えて虚無も越えて思考にすら入れたくない感出てる

 

136:名無しの読者 ID:0j-Dq4xU0

 しかしこいつをどう使う気なんだろうな根津校長

 

 

 

 

456:名無しの読者 ID:jTZUcbL90

 ……今週のお通夜会場は(ry

 

457:名無しの読者 ID:yJMwFGoQ0

 そっか……

 あのクレイジーマザーの超理論を頭から信じる以外に己を肯定する術が無かったんか……

 そっかぁ……

 

458:名無しの読者 ID:xj8Jq-pb0

 クレイジーマザーのクレイジー振りをクレイジーと認めると自分の存在が『まちがい』になる

 ……こっちもこっちで詰んでたんやなって

 

459:名無しの読者 ID:TumEvwAO0

 すなわちその認識を手八丁口八丁で改めさせようとしていた干渉さんの行いは歩ちゃんの存在を『まちがい』と断じることだったわけで

 相手の存在を『まちがい』とするのはあのクリーチャーが通子ちゃん相手にやってた事なわけで

 

460:名無しの読者 ID:7TeS14nl0

 気付かない内に存在絶許クリーチャーと同じ事をしていた

 気付いてしまった干渉さんは100/100D6でSAN値チェックです

 

461:名無しの読者 ID:24yZ5Phn0

 >>460 -100~-600確定は無慈悲過ぎるw

 

462:名無しの読者 ID:-Yc1GG1H0

 >>460 発狂させる気しかなくて草

 

463:名無しの読者 ID:S3DThFKX0

 両親と元の宿主を奪った相手の娘の中で生きることにはギリ耐えられた

 両親と元の宿主を奪った相手と同じ存在になっていた事実には耐えられなかった

 

464:名無しの読者 ID:sn4N7+bX0

 発狂の理由が迫真過ぎるんよ

 

465:名無しの読者 ID:P-INgBSO0

 影の真ヒロイン無重力ちゃん

 

466:名無しの読者 ID:abQXwe350

 >>465 そんな間違ってないかもしれん

 

467:名無しの読者 ID:0WvoGy8Q0

 >>465 お茶子無重力居なかったら二人揃って発狂してたまであるからな

 

468:名無しの読者 ID:AUjT/vmC0

 敢えてスレ名は出しませんが

 数年に渡る戦争の中にあった某所にて和平条約が締結されました

 

 条文は「一緒に歩母(とAFO&ドクター)を埋めよう」です

 

469:名無しの読者 ID:qRmeoFip0

 >>468 ラスボスがおまけ扱いで草

 

470:名無しの読者 ID:bH7xlIJ20

 >>468 遂に平和が、来たんやなって

 

471:名無しの読者 ID:uP+D/zRw0

 >>468 誰が悪かったかハッキリしたからなあ

 

472:名無しの読者 ID:t0r6w4rz0

 干渉さんも本当はただ一言謝って欲しかっただけだったという

 

473:名無しの読者 ID:2wfxsjJ40

 長い……本当に長い回り道……

 

474:名無しの読者 ID:fSkX2TwY0

 干渉ちゃん(真)かわいいよかわいい

 

475:名無しの読者 ID:/jA3gCqt0

 本来の年齢的にはこっちが真の姿なのか

 

476:名無しの読者 ID:LdWPseF60

 今までの姿は肩肘張り続けてた結果だったんやな

 

477:名無しの読者 ID:TvSDRBZv0

 無重力ちゃんが最初から干渉ちゃん呼びなのってこっちの姿見えてたんかね?

 

478:名無しの読者 ID:EBk7n4eq0

 "個性"同士だしそういうこともあるのかもなあ

 

 

 

 

351:名無しの読者 ID:0ihxmZ680

 しかし緑谷くんw

 女の涙は男から指摘したらアカンやでw

 

352:名無しの読者 ID:veXH4B1B0

 対女性経験ゼロのデクくんにそんなん分かるわけないやろw

 

353:名無しの読者 ID:a1Hn5KeQ0

 干渉さん怒り(八つ当たり)の発破掛けw

 

354:名無しの読者 ID:jKTn0NK-0

 クソナード呼びで草生えるわw

 

355:名無しの読者 ID:NCg17XWM0

 結局暫くは干渉が表人格するのな

 

356:名無しの読者 ID:G+mf5nIc0

 まあ戦力的に見ても干渉の下位互換やからな歩ちゃん

 

357:名無しの読者 ID:CKf-Iyun0

 二人で力を合わせて、ができるなら別だがここまで念入りに否定されてるしな

 

358:名無しの読者 ID:1gqjW2b40

 「一本の腕を二つの意思で持っているようなもの」

 

 息さえ合えば処理能力は上げられそうな気はするが今からじゃなあ……

 

359:名無しの読者 ID:TuTtgcgV0

 そして通子ちゃんパートよ

 当の通子ちゃんは全く歩ちゃんを恨んでないっていうね

 

360:名無しの読者 ID:f86xIFlj0

 干渉「そう、ね。……そうだったのよ。……そうだった、のにね」

 

 ここ一コマなのに色々見えてつらい

 

361:名無しの読者 ID:PBEsASK10

 大好きな姉を奪われた妹の哀しい暴走でしかなかったんやなって

 

362:名無しの読者 ID:noParNKa0

 通子ちゃんがA組面子との交流一つずつ挙げていくのがさぁ……

 そうだよこの子も其処に居たはずなんだよな

 

363:名無しの読者 ID:RofdDruq0

 上鳴峰田で笑わせてからの砂藤よ

 味覚無いんか……

 

364:名無しの読者 ID:8XwZ7ske0

 そら他の五感はともかく脳無に味覚は要らんわなあ

 食事排泄するとは思えんし

 

365:名無しの読者 ID:88nwme0Y0

 拘留されてからもギルティカウントがガンガン回るドクターよ

 ラボぶっ潰されて泣いてたぐらいじゃ釣り合わねーぞオイ

 

366:名無しの読者 ID:LCpVzAiK0

 制作物に裏切られて涙+鼻水噴射……も焼け石に水がいいとこだな

 

367:名無しの読者 ID:FwNZ6yoc0

 歩ちゃんも遂に「叔父様」を敵認定したか

 

368:名無しの読者 ID:uB1IQj//0

 クレイジークリーチャー以外の価値観を受け入れられる姿勢になったからね

 

 

 

 

582:名無しの読者 ID:4i0QhWIf0

 【悲報?】歩ちゃんトゥワイス化

 

583:名無しの読者 ID:y3kHc-EV0

 歩wちwゃwんw

 シリアスさんが瀕死なんよw

 

584:名無しの読者 ID:tnopEk440

 AFOさん大困惑で草

 

585:名無しの読者 ID:46ceLkhm0

 緑谷くんも大困惑中やぞ

 

586:名無しの読者 ID:aU6sr1pd0

 か、攪乱作戦だから……

 

587:名無しの読者 ID:-Vz9tb9W0

 AFO「嘘が……無い……???」

 

588:名無しの読者 ID:/1SXH8/m0

 嘘感知逆利用でゆさぶりかけるの草

 

589:名無しの読者 ID:NCAwTYDx0

 緑谷AFOが声揃えるとこ笑ったわw

 マスク無かったら緑谷くんと同じようなギャグ顔晒してただろ魔王様w

 

590:名無しの読者 ID:qQTtr/bH0

 この悍ましいまでの悪意の無さよ

 和解して是正されたとはいえ血を感じるね

 

591:名無しの読者 ID:eyeOuf8J0

 つまり真の被害者は干渉と出会えなかった歩母……?

 

592:名無しの読者 ID:XzxSChEm0

 >>591 お茶子無重力も居ないと奈落の底ぞ

 

593:名無しの読者 ID:ytseTFVC0

 >>592 じゃあお茶子母も追加で

 

594:名無しの読者 ID:5ouB8v4o0

 >>593 歩母お茶子母がママ友になった世界線が存在する……?

 

595:名無しの読者 ID:Dq-q5L+h0

 干渉「私はちゃんと貴方を恨んでる」

 

 悪意が無いと思った瞬間殺意MAX人格に切り替わるのも混乱するわなあw

 

596:名無しの読者 ID:ZJmFns4A0

 ワープ(コピー)といい干渉といい"個性"を付け外しできる"個性"で好き勝手してきた"個性"に牙剥かれまくってるのまさに因果応報よな

 

597:名無しの読者 ID:ocTzBAcf0

 >>596 自ら新秩序に壊されにいった反射さんも追加で

 

598:名無しの読者 ID:2huJ-Aw30

 >>597 反射「私を壊せ! Ms.新秩序!!」

 

599:名無しの読者 ID:Sk1+ddsl0

 >>598 流石は干渉母(でいいのか?)

 

600:名無しの読者 ID:rPImQU-U0

 >>598 目的の為に躊躇いなく自分切り捨てるの最高に血筋よなあ

 

 

 

 

838:名無しの読者 ID:FYRM0fZk0

 耳 郎 ぢ ゃ ん゛ が わ゛ い゛ い゛

 

839:名無しの読者 ID:LpNC0cE80

 復活のジロかわBOT

 

840:名無しの読者 ID:8tz2kr7F0

 耳郎ちゃんに跨られてドキドキの常闇くんで笑うんよねw

 

841:名無しの読者 ID:MDDd0loO0

 こんな時に何言ってんだw

 とは思うけど背中に同級生女子のお尻が当たってたらそらなあw

 

842:名無しの読者 ID:+QQxPme+0

 男の子だからねw仕方ないねw

 

843:名無しの読者 ID:Bics+tLG0

 耳郎ちゃんに呆れながら「バカじゃん!!」と罵ってもらいたいだけの人生だった……

 

844:名無しの読者 ID:R2Cez+2J0

 >>843 干渉「不純」

 

845:名無しの読者 ID:2Mlway9j0

 >>843 干渉「死刑」

 

846:名無しの読者 ID:e3RRP/4o0

 純情な常闇くんだから許された

 純情な常闇くんじゃなかったら許されなかった

 

847:名無しの読者 ID:ire4g-F50

 さて今週は干渉さんがAFOさんに触られた状態での引きとなったわけですが

 ……何故だろう自分から触られに行ったんじゃね感が凄い

 

848:名無しの読者 ID:uud4ISGw0

 干渉「(でぃ)ぐ、あ……っ(うと)」

 

849:名無しの読者 ID:iID+J4Fq0

 >>848 これよな

 

850:名無しの読者 ID:FhETX9h70

 >>848 確実にこれ 面会空間で最終決戦とみた

 

851:名無しの読者 ID:/3TIzNO-0

 ……また自分ごと葬る策だったりしないよな?

 

852:名無しの読者 ID:k57FG9Ut0

 最終章のメガ○テラッシュは……ジャンプなら有り得るか

 

853:名無しの読者 ID:EUTRmPgS0

 今自爆したら歩ちゃんも巻き込まれるし流石に無いやろ

 ……無いよな?

 

 

 

 

686:名無しの読者 ID:hLXOxovg0

 や さ し い お じ さ ま ( わ ら )

 

687:名無しの読者 ID:MhNcBkSW0

 面会空間で最終決戦だと思った?

 残念飛び込んだ時点で決着です対戦ありがとうございました

 

688:名無しの読者 ID:b7r/G5AP0

 最後まで初見殺しのハメ技で草ァ!

 

689:名無しの読者 ID:ACmpga/G0

 OFAと似てる? いやいや私あなたの弟さんとは違うんで

 ちゃんと外の時間経ってるんで

 

690:名無しの読者 ID:0sXHWi3Z0

 そうだねえw今までもキッチリ時間経過してたねえw

 移動時間のヒマつぶしに使ったりしてたもんねえw

 

691:名無しの読者 ID:gVe+6niI0

 相手が勝負の舞台に立ったと認識したとき既に決着はついている

 これは理想の勝利ですわ

 

692:名無しの読者 ID:bqrX6RQD0

 心の勝負と思い込んで煽りに入った魔王様のなんと滑稽なことか……w

 

693:名無しの読者 ID:MJncq9yB0

 その煽りの内容もなあ……何も間違ってないんだけどなあw

 

694:名無しの読者 ID:Q2FRoV4n0

 AFO「仲良しこよしでその娘の"個性"をしていたと? いやいやそれこそ冗談だろ?」

 

  ……うん

 

 

 AFO「君達母娘の幸福な姿を見る度に、何もかもズタズタに引き裂いてやりたい気持ちで一杯になっただろうね!」

 

  ……せやなあ

 

 

 AFO「奈落の底まで叩き落としてやりたい! そんなドス黒い感情を抱いていなかったという方がおかしいぜ!?」

 

  すいませんそこ通り過ぎた後なんすよ

 

695:名無しの読者 ID:XTJydnrZ0

 まさか一回ガチで奈落に叩き落とした後だとは思うまい……

 

696:名無しの読者 ID:L9-6O78R0

 歩ちゃん側はまだ日も浅いしちょい動揺してたけど構図は同じよな

 既に諸々呑み込んだ後という

 

697:名無しの読者 ID:RT3sbI6z0

 今度こそちゃんと誰が悪か何が悪かを呑み込めた歩ちゃん

 まったく本当にスットロいなあ(祝い)

 

698:名無しの読者 ID:usNTThjY0

 干渉さんの険のとれた笑顔初公開よ

 こんなふうに笑えたんやなって

 

699:名無しの読者 ID:akTDcZzv0

 決着ついた後で一緒に魔王様煽るの草

 仲良しかよ

 

 ……仲良しかよ

 

700:名無しの読者 ID:qpyTuRv20

 歩ちゃん「これから頑張って罪を償ってくださいね、叔父様!」

 

 さぁ、お前の罪を数えろ!

 

701:名無しの読者 ID:KzrEY3NH0

 今さら数え切れるか!

 

702:名無しの読者 ID:XyCesZiw0

 数え切る前に寿命が来る(確信)

 

703:名無しの読者 ID:hiJOsycf0

 摂生(オリジナル)も消されたわけだからな

 マスクの下は抹消受けたドクター(複製)みたいにシワッシワよ

 

704:名無しの読者 ID:1JJJr4rG0

 その傍らで耳郎常闇に説教くらう干渉さんw

 ……やっぱり自爆(も視野に入れた)策だったじゃないか(呆れ)

 

705:名無しの読者 ID:p0zOLfzY0

 歩ちゃんからは洗脳思考が消えたのに干渉さんから自罰思考が消えてない……

 そろそろ楽になって良いのよ?

 

706:名無しの読者 ID:chLBA5GW0

 楽になる(消滅狙い)

 

707:名無しの読者 ID:+iI+ULwF0

 ちがうそうじゃない

 

708:名無しの読者 ID:+xpnqDVo0

 まあそこはお茶子ちゃんがガツンとやってくれるやろ

 

709:名無しの読者 ID:V+9xzJt00

 ガツンとやる(物理)ですね分かります

 

710:名無しの読者 ID:-T9uPgAu0

 >>709 まあまあ可能性高いなあw

 

711:名無しの読者 ID:W7PbdF6d0

 >>709 やるときはやる乙女やからなw

 

 

 

 

 

 





 掲示板回、またの名を忙しい人の為の『おしゃべりな"個性"』。
 あるいは紹介しきれなかったネタの掘り返し。

 振り返って一言。楽しかったなあ。


 『干渉』さん派と歩ちゃん派が罵り合ってレス削除祭り、なネタも入れようかと思いましたが、掲示板ネタに求めるリアルさと面白さは別物だろと判断し匂わせる程度にカット。
 連載当時、喧々諤々議論していただいたのも作者的には嬉しかったのですけどね。

 それでは改めて本作にお付き合いくださり誠にありがとうございました。
 現在連載中の作品もどうぞよろしくお願いいたします。



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