一夏のくせになまいきだ (シシカバブP)
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原作開始前
プロローグ


初投稿です。

タグにある通り、一夏アンチしたくなって勢いで書いてます。

駄文になる可能性大ですが、生暖かい目で見て頂けると。



一面真っ白で、見渡す限り何もない世界。

正確には、紺のスーツを着込んだ、短髪の男が1人。

 

その男の目の前が突然光りだした。

しばらくして光が消えると、そこには2人の男女が立っていた。

 

 

 

 

ーside???ー

 

「お疲れさーん。というわけで、次は一夏ラヴァーズ寝取ってき(ドゴッ)痛った!」

 

開口一番、阿保なことを抜かす目の前の男を、とりあえずローキックで黙らせる。

 

「ショウちゃん、開幕ローキックはどうかと思うなー」

 

「そうか?」

 

「ロキちゃん相手なら、最初はアイアンクローぐらいにしとかないとー」

 

「もしもしミナミさん? さすがにそれは無いよね? ねぇ?」

 

(すね)にローキックを食らったスーツの男・ロキの顔は、見事に引きつっていた。

 

「で、まずは次の外史について説明してくれるんだよなぁ?」

 

「ハイ、説明させていただきます・・・」

 

ーside??? outー

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ローキックを食らう少し前・・・・

 

ーsideロキー

 

「おっ、また新しい外史が出来た」

 

報告書作成(めんどうなおしごと)をしていた僕は、新しい外史が生まれたことに気付いた。

 

外史、それは現実世界で創造された創作世界だ。

「もし~だったら」「この時~があったら」という想像から生まれ、そこからまた枝分かれするように、無数の外史、並行世界が生まれていく。

そんな外史の一部管理を任された神、それが僕というわけだ。

最初は面倒そうだったんだけど、主神(オーディン)から「少しは働け!」と言われて、やむなく引き受けた。まぁ今はそれなりに楽しんでやってるけど。

 

「さてさて、今回はどんな世界かなぁ?」

 

視界の右斜め上、両手サイズのふよふよ浮いている水球・外史を引き寄せると、顔を近づけて覗きこんでみた。

 

この外史はインフィニット・ストラトス、通称ISと呼ばれる、女性しか扱えない飛行パワードスーツが開発された世界で、そんなISをなぜか主人公・織斑一夏が起動させてしまったことから、ほぼ女子校とも言えるIS操縦者育成機関『IS学園』に強制入学させられることになると。

 

「ほうほう。いわゆる学園ラブコメ・ハーレム系の世界か。王道だねぇ」

 

僕個神としては、ハーレム系は嫌いじゃない。むしろいいと思います。

 

「で、そんな主人公の一夏くんは、どんな人間なのかな?」

 

今度は詳細な情報を見たくて、再度水球に顔を近づけて色々確認を・・・・えーっと・・・・確認を・・・・

 

「えっ? 何この主人公」

 

たぶん、今の僕はすごい(しか)めっ面をしてると思う。

 

正義感を持つのはいい。でもそれを振り回して好き勝手しちゃダメだろ。

結果的にうまくいっただけで、めっちゃ周りに迷惑を(こさ)えてるじゃん。

さらにヒロイン勢の想いもまったく意に介さない、すさまじいまでの朴念仁。

「え?なんだって?」じゃねぇよ!ドリフかっ!

 

「う~ん・・・・この外史、どうしたものか・・・・」

 

この主人公、出来ればどうにかしたいけど、神である僕が外史に過度の干渉をするのは禁じられている。

主人公除去とか精神操作とか、過干渉なんだよなぁ・・・・あっ!

 

「そうだっ! オリ主送り込んでシナリオ弄ったろ!」

 

ちょうどショウとミナミが『外史・ゼムリア』から戻ってくるし、あの2人に行ってもらおうそうしよう。

 

ーsideロキ outー

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ーsideショウー

 

「よし分かった・・・・歯ぁ食いしばれ! そんな神、修正してやる!」

 

「アイエエエ!?グーパン!?グーパンナンデ!?」

 

「なんでじゃねぇよ! 思いっきり過介入じゃねぇか!」

 

 

 

 

こんな阿保なことを言ってる(ロキ)が、名目上俺とミナミの上司になるわけだ。不本意だが。

ちなみに俺もミナミも神じゃないし、天使でもない。"元"人間と言うべきか。

 

きっかけは元の世界で、俺とミナミの乗った飛行機が墜落したことだ。

俺とミナミの関係は・・・・まぁ、男女の関係ってやつだ。

大学卒業後、2人で海外旅行を計画、意気揚々とアメリカ行きの飛行機に乗ったものの、太平洋のど真ん中で真っ逆さま。

墜落の衝撃で意識を失って、気付いたらミナミと一緒にこの真っ白空間にいた。

そして間髪入れずに現れたのがロキだったわけだ。

 

ロキ曰く、自身が管理している世界、外史に入って、物語を円滑に進める現地作業員を募集している。ついては俺とミナミにそれを頼みたいと。

もちろん強制ではなく、嫌なら断ってもいいし、その場合は通常の手続き通り天国か地獄行きの後、記憶消去からの元の世界で転生らしい。

 

正直悩みはしたが、ミナミが乗り気だったし、俺もミナミと一緒ならいいかと思い、その頼みを引き受けた。

それから今に至るまで、様々な世界、外史を巡ってきたわけだが、ここでは割愛しておく。

ちなみに外史で死ぬ可能性は当然ある。そうなった場合はこの空間に戻されることになっている。

戦死したこともあれば天寿を全うしたこともあり、それらを加算すると、実年齢はキリスト教を軽く超えていたりする。

 

 

 

 

「う~ん・・・・でも、この織斑君?結構ひどいねー」

 

「でしょでしょ!?」

 

「ミナミも賛同するようなこと言うなよ・・・・そもそも、外史の流れを変えるのはご法度じゃなかったのか?」

 

「だいじょーぶ! 主神(オーディン)から許可もらってきた!」

 

「ファッ!?」

 

おい待て主神! なんで許可してんの!?

 

「『こんな主人公、修正してやれ! 最悪亡き者にしてもかまわん!』だってさ」

 

「もうやだこの神々・・・・」

 

つまり、どうあっても介入確定じゃん。

 

ーsideショウ outー

 

 

 

 

ーsideミナミー

 

ISかー。宇宙作業用→兵器→競技用と、コロコロ立ち位置が変わってるみたいだけど、この前行った世界のAC(アーマードコア)みたいに強いのかなー?

 

「それでロキちゃん、もうすぐ行くの?」

 

「うん、こっちの準備が整い次第行ってほしいかなーって、そうだそうだ」

 

そう言って思い出したかのように、ロキちゃんがスーツの胸ポケットからメモ帳を取り出した。

 

「とりあえず介入に必要だから、2人のIS適性をAにしておくよ」

 

「IS特性?」

 

「ISを扱う能力、先天的な才能みたいなものだね」

 

「へぇ、そうなんだー」

 

「ちょっと待った」

 

ショウちゃんがシュバッと手を挙げた。

 

「"2人"ってことは、俺も含まれるのか?」

 

「もちろん」

 

「ということは、俺もIS学園に――」

 

「じゃないと介入できないじゃん」

 

「ガッテム!」

 

そう叫ぶと、ショウちゃんは頭を抱えたまま(うずく)まっちゃった。

 

「IS学園ってほぼ女子校なんだろ?客寄せパンダ扱い確定じゃねぇか・・・・」

 

「ミナミもいるだろ?がんばれ」

 

そう言ってサムズアップをかますロキちゃん。さっきのローキックの仕返しかな?

 

って言ってたら、ロキちゃんの右隣が、私達がここに来た時みたいに光りだした。

 

「おっ、準備完了みたいだよ」

 

「はぁ、覚悟を決めるか・・・・」

 

orzしていたショウちゃんだったけど、ため息をつきつつ立ち上がった。

 

「それじゃあロキちゃん、行ってくるねー」

 

「いってらー。2人が向こうに行ってしばらくしたら、こっちから連絡入れるよ」

 

「りょうかーい。ほらほらショウちゃん、行こう」

 

「分かったよ」

 

ロキちゃんが見送る中、私とショウちゃんは光の中に入っていった。

 

 

光に入ると、徐々に意識が遠くなっていく。

次に目が覚めたら、ISの世界にいるのだろう。今までの外史に入った時と同じように。

 

どんな世界か、楽しみだなー。

 

ーsideミナミ outー

 



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第1話 接触

はい。IS学園入学まで、だいーぶ掛かりそうです。

一夏アンチに期待されてた方々、もうしばらくお待ちください。

そして束さんが原作から遠のくよー・・・


ショウとミナミが介入することになった『外史・IS』。

しかし現時点ではISは開発されておらず、表面上は2人が元いた世界と変わらぬ日常を送っていた。

 

ーsideショウー

 

この世界に来て、早5年が経った。

 

(まさか、"転生"することになるとは思わなかったが・・・)

 

そう、今までは20代(元の世界と同じ)見た目で外史に入っていたが、今回は学園に入る都合上、赤ん坊に転生しての介入となった。

 

・・・意識はちゃんとあるのに言葉が話せないって、結構きつかったなぁ・・・

 

そんな俺は北山という家の長男として生まれ、『北山翔』を名乗ることになった。

元の名前と読みが同じなのは有難い。

 

そうして俺は、周りに怪しまれない(転生がバレない)よう、色々気を付けながら生活し、小学校入学1か月前に差し掛かったわけだ。

 

ちなみにミナミはどうなったかというと・・・

 

「翔ちゃーん!」

 

階下から階段を上がってくる音とともに聞こえてくる声。そして

 

「翔ちゃん開けるよー」

 

言うが否や、ミナミは俺の返事を待たず部屋のドアを開けた。

 

 

 

 

どういう因果か、ミナミも同じ北山家に生まれることになった。

しかも、俺と二卵性の双子として。

生まれたのが10分早かったとかで俺が兄となっているが、ほぼ差なんて無いようなもんだ。

そういったわけで、俺は妹である『北山美波』から「お兄ちゃん」系統で呼ばれることはなく、"今まで"通り「翔ちゃん」呼びなのである。

 

 

 

 

「返事するまで開けるなと、何度言えば分かるんだ?(ほっぺぎゅー)」

 

「ご、ごふぇんなひゃーい・・・」

 

「まったく・・・で、何の用だ?」

 

「いたた・・・、お父さんが篠ノ之道場に行くけど、一緒に行くかって」

 

「篠ノ之、か・・・」

 

その名前を聞いて、俺は勉強机の引き出しから4つ折りにされた紙を取り出した。

 

「あ、ロキちゃんからの手紙だね」

 

「ああ」

 

先日、俺と美波が5回目の誕生日を迎えた夜、いつの間にか俺の机の上に置かれていた、ロキからの連絡だった。

 

 

『ショウとミナミへ

5歳の誕生日おめでとう。うまくその世界に溶け込めてるようで何よりだよ。

そっちじゃまだISは表舞台に出てきてないだろうけど、そろそろ開発者の篠ノ之束が動き出すだろうから、時間の問題かな?

ちなみに君達が生まれた北山家と篠ノ之家は、親同士で縁があるらしいから、接触するなら有効活用してよ。ただ、人付き合いが壊滅的みたいだから、その辺は気を付けてね。

それじゃ、今度はIS学園入学辺りに連絡するから。アデュー!』

 

 

「さて、どうしたもんか・・・」

 

「とりあえず、行くだけ行ってみる?」

 

「だな」

 

美波の提案に頷くと、俺は手紙をまた引き出しにしまって椅子から立ち上がった。

 

 

ーside翔 outー

 

 

ーside美波ー

 

篠ノ之道場に付いていくことを伝えて、お父さんが運転する車に揺られること小1時間、篠ノ之道場に着いた。

その道場が――

 

「ふわぁ、大きい道場だねー」

 

「確かに、でかいな」

 

「そうだろう」

 

私達のセリフに、腕を組んだお父さんがうんうん頷く。

神社の境内にあるって聞いてたから、もっとこじんまりとしてると思ってたよ。

 

 

そうしていると、道場の正面から誰かが出てきた。

紺色の剣道着を着た、お父さんより少し年上っぽい人だ。

 

「おお(みのる)、久しぶりだな」

 

「先輩もお元気そうで」

 

「おうよ。で、そっちの子達が?」

 

剣道着の人が私と翔ちゃんの方に体を向けた。

 

「北山翔です」

 

「美波です」

 

「篠ノ之道場の主、篠ノ之柳韻(りゅういん)だ」

 

私達に名乗り返すと、柳韻さんはニヤリと笑いながらお父さんの肩を叩き

 

「ちゃんと礼儀作法がなってる、いい子達じゃないか」

 

「ははは、ありがとうございます」

 

満更でもなさそうな顔をしながら、お父さんはポリポリを頭を搔いた。

車の中で聞いた話だと、お父さんは学生時代剣道部で、柳韻さんとはその時の先輩・後輩の仲らしく、その仲が今でも続いているらしい。

 

「それで? 2人を連れて来たのは私に紹介するためか?」

 

「それもありますが、道場を見学させようと思いまして。構いませんか?」

 

「見学か」

 

柳韻さんは少し考えるように顎を触ったものの、

 

「構わんよ。付いてきなさい」

 

そう言って、道場に戻っていった。

その後ろを追うように、私達3人も付いていった。

 

それから道場の中で、門下生の人達の素振りや型練習、柳韻さんとの練習試合("流し"と言うらしい)を見学した。

あ、ちなみに今回は幸か不幸か、織斑一夏君や篠ノ之箒ちゃんとは会わなかったよ。

 

ーside美波 outー

 

 

ーside翔ー

 

あれから1時間ほど見学したが、正直あまりぱっとしなかった。

恐らく、今日見ていたのは『剣道』の枠内だからだろう。

あくまで精神修練が主であり、戦闘技術の向上、ましてや命の奪い合いとは縁遠いもの。

仕方ないことだ。むしろいいことだ。それだけこの世界が平和だってことなんだから。

地球外工作機械(BETA)に食い殺されることも無ければ、超巨大兵器(アームズ・フォート)の物量に磨り潰されることも無い・・・

 

(と、いけないな。前に行った外史に引っ張られてる)

 

血生臭い考えを払おうと正座した状態で頭を振ると、視界に道場を通り過ぎる何か、いや誰かが映った。

俺や美波より年上、中学生ぐらいの女の子だ。

その子はちらっとこちらを見たが、すぐに視線を戻すと、紙束を抱えながら走っていった。

 

「どうした翔、飽きて来たか?」

 

剣道着を着て、他の門下生の人達と一緒に素振りをしていた父さんが、手を止めてこちらに歩いてきた。

あぁ、頭を振ったのを見られて、退屈していると思われたか。

 

「ちょっと外の空気を吸ってきていいかな?」

 

「あ、私もー」

 

肯定も否定もせず、一旦頭を冷やそうと言ったんだけど、隣で同じく正座して見学していた美波が手を挙げていた。

 

「仕方ないなぁ。先輩、すみませんが2人を中座させます」

 

「ああ。むしろ小学校に入る前の子が、1時間近く正座で見学してたんだろ? 持った方だ」

 

父さんの声掛けに柳韻さんは一旦手を止めて頷くと、再び門下生との練習試合に戻っていった。

 

「それじゃあ父さんはもう少し続けるから、車の前で集合な」

 

「分かった」

 

「りょうかーい!」

 

返事を返して、俺と美波は立ち上がると、道場の出入口に――

 

「あれ? 翔ちゃん何か落ちてる」

 

美波が指さす方を見ると、B4ぐらいの紙が1枚、出入り口前の地面に落ちていた。

紙・・・あの時見えた女の子が落としたのだろうか。

 

拾ってみると、その紙には細かい図と文字がびっしり書き込まれていた。

 

「何かの――」

 

設計図か? と言おうとした俺の口は、紙の上部に書かれていた文言を見て固まった。

 

「翔ちゃん、これって・・・」

 

「ああ・・・」

 

美波も思ったであろう推測に頷きつつ、俺は再度文言に視線を移した。

 

 

『宇宙開発用マルチフォームスーツ 仮称:インフィニット・ストラトス』

 

 

ーside翔 outー

 

 

ーside束ー

 

(どこにいった!? 私の設計図!)

 

やらかした、そう思いながら、私は地下のラボから大慌てで外に出た。

 

宇宙に行きたい。そう思い、寝る間も惜しんで描いた、宇宙開発用マルチフォームスーツの設計図。

やっとうまくいきそうだと、ハイテンションだったのがいけなかった。

よもや、その大事な設計図をどこかに落とすとは――!

 

(部屋からラボまでの間・・・道場の前!?)

 

そういえば、出入り口の前で一度立ち止まった記憶がある。あそこで落としたんだとしたら――

 

そう思って道場まで戻ってみると、そこには箒ちゃんぐらいの子供が2人いた。

その2人は何かを見るように――ってあれは!

 

(私の設計図!)

 

「それ返してっ!」

 

私が上げた大声に、2人は一瞬ビクッとしたが、こちらの向くと

 

「この紙は貴方のですか?」

 

「そうだよっ!だから早く返してっ!」

 

ああもうっ、早く返せよっ!

 

「そうですか。はいどうぞ」

 

男の方が差し出した設計図をひったくると、図面を隅々まで確認。

良かった、擦れて消えたりしてない・・・

 

「それにしても、宇宙開発用マルチフォームスーツかー」

 

恐らく中身を見たんだろう、女の方がそう呟いた。

 

「そうだよ、文句ある?」

 

 

まただ。また言うのだろう。「そんなの出来っこない」と。

 

うんざりだ。

どいつもこいつも、私のことを否定する。

万一もあり得ないが、私の理論に不備があるというならまだいい。そんな奴、今まで誰もいやしなかったが。

私の理論が理解できない。だから否定する。ことの正否じゃない。自分達大人が理解できないから、「子供の戯言」と切って捨てる。

ふざけるな!

学校の連中だってそうだ。理解できないから関わろうとしない。こっちから願い下げだ! ちーちゃんだけで十分だ!

 

 

「面白そうだよねー」「いつかは必要なものだよな」

 

 

「・・・は?」

 

 

全く想定していなかった2人の返答に、私のオーバースペックな脳細胞は、確かに一瞬停止した――

 

ーside束 outー

 

 

ーside美波ー

 

ふわー、ビックリしたー。

まさか落とし主が、大声上げながら猛ダッシュしてくるとは思わなかったよー。

とりあえず返せてよかったよかったー

 

「ちょっと待ちなよ」

 

「ふぇ?」「なんですか?」

 

紙を返したお姉さんに睨まれてる。なんで?

 

「さっき言ったの、どういうこと?」

 

「さっきというのは?」

 

「面白そうだとか、いつかは必要だとか!」

 

そう怒鳴らなくてもー・・・目の下すっごい隈になってるし、寝不足でイライラしてるのかな?

 

「だって、宇宙でぷかぷか浮かぶのって、面白そうじゃないですかー」

 

「は?」

 

「それに、知らない場所に行くのって、ワクワクしませんー?」

 

ちょっぴり怖いなーとも感じるけど。

 

「・・・」

 

さっきまで睨んでいたお姉さんの視線が、翔ちゃんの方に向く。

 

「このまま人類が増え続けるなら、いつか地球だけでは支え切れなくなるのは自明です。であれば当然、宇宙進出が必須になってくる。そこでこのマルチフォームスーツがあれば、従来の宇宙服に比べて安全性や作業効率の向上が見込めますし、延いては宇宙開発を加速させる起爆剤になり得ます」

 

おおー、翔ちゃんかっこいー。

つらつらとISの利便性と将来性を並べていってるよ。

 

「貴方もそう思ったから、作ろうとしたんじゃないですか? 面白そうだから、必要だから」

 

「・・・」

 

ありゃ、お姉さん俯いて黙り込んじゃった。

 

(何か声かけた方がいいのかなー・・・ってええっ!?)

 

あまりの出来事に、私も翔ちゃんも固まってしまった。

 

 

 

 

「あれ? なんで・・・」

 

そこには、驚いたような顔をしながら涙を流す、お姉さんがいた。

まるで、どうして泣いているのか分からないかのように――

 

ーside美波 outー

 

 

ーside束ー

 

「だって、宇宙でぷかぷか浮かぶのって、面白そうじゃないですかー」

 

「それに、知らない場所に行くのって、ワクワクしませんー?」

 

「このまま人類が増え続けるなら、いつか地球だけでは支え切れなくなるのは自明です。であれば当然、宇宙進出が必須になってくる。そこでこのマルチフォームスーツがあれば、従来の宇宙服に比べて安全性や作業効率の向上が見込めますし、延いては宇宙開発を加速させる起爆剤になり得ます」

 

それを聞いた時、今まで感じたことのないものがこみ上げてきた。

 

 

私と同じように、宇宙への、未知への興味を持っている。

 

私と同じように、宇宙進出が必要という認識を持っている。

 

私と、同じように――

 

 

「貴方もそう思ったから、作ろうとしたんじゃないですか? 面白そうだから、必要だから」

 

(ああそうか、そうなんだ・・・)

 

男の子の言葉で、私は"今まで感じたことのないもの"の正体を理解した。

 

 

嬉しかったんだ。

私と同じ頭脳じゃなくてもいい。

私と同じ身体能力じゃなくてもいい。

私と同じ考えを、同じ気持ちを持てる人間に出会えたことが。

 

私は得られたのかもしれないんだ。

ちーちゃんですらたどり着けなかった、私を"理解"してくれる人に。

 

 

ああそうだ、私の理解者になってくれる人なら、名前をちゃんと聞いて覚えないと!

それならまずは、2人を束さん謹製秘密ラボに招待しよう!そうしよう!

 

 

 

 

そんな考えをあれこれ巡らせてる今の私は、涙をポロポロこぼしていたけど、すごくいい笑顔なんだと思う。

 

ーside束 outー

 



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第2話 白騎士事件

プロローグと第1話が長々としすぎたので、以降は少し速足でお話を進めていこうと思います。

もうあと2~3話ぐらいで学園入学(原作開始)にたどり着けると思います。


ーside翔ー

 

本当に、色々ありすぎた。

俺はあの日、篠ノ之道場であったことを思い返していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

マルチフォームスーツ(後にISと呼ばれるであろうもの)の感想を言った。

それだけだったはずが、なぜか目の前の女性――恐らくこの人が、篠ノ之束なのだろう――に泣かれ、かと思えば、突然笑顔になって俺と美波の手を引いて歩き出してしまった。

 

「さぁさぁこっちだよ!」

 

そうして案内されたのは、どこぞの開発室かと言わんばかりの部屋だった。

ちなみに、篠ノ之神社の境内、その隅っこに隠されていた地下への階段を通って。

…完全に秘密基地だなこりゃ。

 

「おおー!翔ちゃん翔ちゃん、すっごいよここ!」

 

「でしょでしょ!?」

 

美波は美波で、なんか普通に意気投合してるし。

 

「ええっと…」

 

「おっと私としたことが、自己紹介がまだだったね。私は篠ノ之束だよ」

 

「は、はい。北山翔です」

 

「北山美波でーす!」

 

「しょーちゃんとなーちゃんだね、よろしくねー」

 

――ロキの手紙には『人付き合いが壊滅的』と書いてあったし、初対面時もすごい睨まれてたから、接点なしで終わると思っていたんだが…

まさか、その篠ノ之束から自己紹介+握手を求められるとは、俺も美波も思ってなかったぞ。

 

 

 

その後は2,30分ほど他愛のない話をしていた。

とはいえ、束さんの話に付いていくのはなかなか大変だった。

なぜなら話の内容が

 

「最初はね、ISの動力源は融合炉を使おうと思ってたんだよ。でもそれだとねぇ」

 

「原子炉ほどじゃないけど、デブリとかぶつかって壊れた時危なそうだねー」

 

「そう、そうなんだよ! さすがなーちゃん、分かってるぅ!」

 

めっちゃ技術的な話だったからだ。

恐らく普通の人が聞いてれば『そもそも融合炉自体が研究段階の技術であって、空想の域を出ないだろ』とツッコミを入れるだろう。

ただ、俺と美波の場合は、束さんの技術力を(物語開始時点――これから10年ほど先の話――ではあるが)知っているため、『近いうちにやるだろう』ぐらいに思っている。

 

「それで、融合炉の代案に目途はついてるんですか?」

 

「もちのろん! それっていうのはね――」

 

 

I'm a thinker I could break it down~~♪

 

 

美波のポケットから音楽が鳴りだした。確か携帯電話に登録した着うたなんだろうが、なぜその曲にした…

 

「もしもし? あ、お父さん? ごめんごめん、今束さんの一緒にいるの。…うん、翔ちゃんも一緒だよ」

 

どうやら父さんかららしい。そういえば、外の空気を吸うとか言ってから、結構な時間になるのか。

 

 

「翔ちゃん、お父さんがもう帰るからって」

 

「分かった。それじゃあ束さん、俺達はこの辺で」

 

「う~、名残惜しいけど仕方ないかぁ」

 

そう言って、束さんはスマホ?(市販っぽくない形状してるんだが)を取り出し、何やらポチポチし始めた。

 

「これでよぉし! しょーちゃん、自分のスマホ見てみて」

 

「はい?」

 

言われるがままスマホを取り出すと、何やら通知が1件…って、何か知らないアドレスと電話番号が登録されてるんですけど!?

 

「私の連絡先を入れたから、またお話しようね! あ、もちろんなーちゃんのスマホにも登録済みだよ!」

 

「おー! しゅげー!」

 

「りょ、りょうかいです」

 

さすが篠ノ之束。この時期からすでに、ハッキングの腕は一流だったのか…

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

そんなこんなで、気付けば篠ノ之束との初接触から早数か月が経っていた。

 

俺も美波も近所の小学校に入学し、平和な生活を続けている。

 

ただ、その平和も長くは続かないだろうと思い始めてもいる。

 

それは昨日、(あの日から)月1で来るようになった、束さんからの電話だった。

 

 

『しょーちゃん、なーちゃん! ついに! ついに完成したんだよ!』

 

『完成って、あのマルチフォームスーツがですか?』

 

『確か、インフィニット・ストラトスでしたよねー?』

 

『そうそう! 論文もさっきまとめ終わってね! 来週学会に持っていくんだ!』

 

通話口から聞こえる束さんの声から、明らかに舞い上がっているのがよく分かる。

そして、俺や美波からすれば『ついに来たか…』という感想でもあった。

 

 

今日、今この時間にも、束さんはISの有用性と、将来性を懸命に発表しているのだろう。

そして、束さんはまた全てを否定されるだろう。

 

 

 

 

それから数日後だった。

 

各国の軍事基地が何者かのハッキングを受け、日本に向けて何千というミサイルが飛来するというニュースが流れたのは。

そしてそのミサイルを、正体不明の人型が一切の被害を出さずに迎撃したと伝えられたのは。

 

この一件は、後に『白騎士事件』と呼ばれることになる。

そして、本来宇宙を目指すはずだったISに、『兵器』という業を背負わせることにも。

 

 

 

 

それは、篠ノ之束の、世界にISを認めさせたいという『希望』が、宇宙進出という『未来』を焼き尽くしたことを意味していた――

 

 

 

 

ーside翔 outー

 



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第3話 理解者

ーside束ー

 

「やった……ついにやった……! 認められたんだ。私が、私のISが……!」

 

棚はなぎ倒され、ガラスが割れ、中身が床に散乱した研究室で、私は笑っていた。

 

 

ISを発表した日、私は頑張った。

今まで散々否定してきた連中にしたくもない作り笑いをして。どんな阿呆にでも理解できるよう、事細かな論文を用意して。万全の状態で臨んだんだ。

 

その結果が――最初で最後のセリフが、『子供の戯言』って、何さ……?

 

理解できないだけじゃなく、理解すらしようとしないのか……!

くそがっ!

 

その日、私は荒れに荒れた。

そしてサンプルの入った棚を力任せに倒した辺りで、あることを思いついた。

 

(そうだ、言って理解できないなら、見せてやればいい……ISのすごさを……!)

 

それから数日後、私はその計画を実行に移した。

 

ちーちゃんに頼み込んで、私が渾身を込めたIS『白騎士』を操縦してもらった。

そして、各国にハッキングをしてミサイルを飛ばし、それをちーちゃんに迎撃してもらった。

 

予想外だったのは、『白騎士』を脅威に感じた各国が、戦闘機やら軍艦やらを持ち出してきたことだ。

まぁ、『白騎士』とちーちゃんの前には路傍の石も同然だったけど。

 

世間は謎の人型で持ちきりになった。

そのタイミングで、人型――『白騎士』――を作ったのが自分であると公表したのだ。

 

今まで見向きもしなかった連中が、こぞって私に会いに来るのだ。

ISのことを教えてほしいと。ISは素晴らしいと。

 

~~♪

 

 

(っ! この着信音は!)

 

「もしもし、なーちゃん!?」

 

「束さん」

 

「なーちゃん! 束さんやったよ! やっとみんながISのことを認めて――」

 

「束さん」

 

え……なーちゃん、どうして、そんな怒った声出してるの……?

 

「あの『白騎士事件』、束さんが起こしたんですね?」

 

「う、うん。ISの有用性をあの馬鹿共に理解させるには――」

 

「どうしてそんなことしたの?」

 

「えっ……?」

 

どうしてって、だからISの有用性を……

 

「確かにISの有用性は広まったと思う」

 

「なら!」

 

「でもそれは『兵器』として」

 

「へい、き?」

 

なんで? 私が作ったISは――

 

「2000を超えるミサイルを単騎で迎撃、各国の海上・航空戦力を返り討ちにする飛行パワードスーツ。それが『兵器』でなくて何?」

 

「あっ……」

 

なーちゃんの言葉に、私に達成感と高揚感を与えていた熱が一気に冷めた。それと同時に、スマホを持つ手がカタカタと震え始めた。

 

「これでISは『兵器』としてしか見られなくなった。もう、宇宙(そら)を飛ぶことはない」

 

「……っ!」

 

何で……? だって、私は宇宙(そら)を飛びたかっただけで……!

 

「ねぇ束さん……どうして、私や翔ちゃんを頼ってくれなかったの?」

 

「たよ、る……?」

 

「私も翔ちゃんも、束さんのことを理解しようとしてるつもりだよ?」

 

さっきの声から打って変わって、優しい、母親が子供を諭すような、それでいて、今にも泣きそうな声色で

 

「辛い時、悲しい時、悩んでる時。愚痴でもいい、束さんが思ってることを話してほしかった。解決できないかもしれないけど、理解させてほしかった。……でも、束さんは一度も話してくれなかった」

 

「なー、ちゃん……」

 

 

 

「私も翔ちゃんも、束さんの"理解者"には、なれなかったのかな……」

 

 

 

プッ ツー、ツー……

 

 

「あぁ……ぁ……ああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

通話が切れた瞬間。持っていたスマホが手から滑り落ちた瞬間。私は慟哭した。

 

理解させてほしかったと、なーちゃんは言った。なのに私は、2人に何も言わなかった。理解してもらおうとしなかった。

それどころか、"理解者"と抜かしておきながら、私から(・・・)2人を理解しようとはしなかったじゃないか…

 

 

そして理解してしまった。

全てを喪った、いや、自ら壊してしまったことを。

 

 

宇宙(そら)を飛ぶという『夢』を。ISの『未来」を。しょーちゃんとなーちゃんという"理解者"を――

 

ーside束 outー

 

 

ーside美波ー

 

「美波」

 

「翔ちゃん……」

 

通話の内容が内容だったから、翔ちゃんにも私の部屋に来てもらっていたんだけど、失敗だったかな?

まさか、最後の最後に泣いちゃうとは思わなかったよー……

 

「分かってたはずなのにね。束さんは必ず『白騎士事件』を起こすって」

 

「……」

 

「それでも、ちょっぴりは思ってたんだー。 『土壇場で束ちゃんが、私や翔ちゃんを頼ってくれる』って……」

 

「そっか……」

 

そう短く答えると、翔ちゃんは私の頭をポンポンと撫でてくれた。

『元気出せ』という、昔からのサインなんだよねー。――うん、これで泣くのおしまいっ!

 

ーside美波 outー

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside翔ー

 

また時は流れ、『白騎士事件』から9年が経った。

 

あれから世界は想定通り、歪な形になっていた。

現行の兵器を凌駕するISの登場と、女性にしか動かせないという欠陥が、男女平等という建前を破壊し、女尊男卑の風潮が強まった。

各国はIS運用条約、通称『アラスカ条約』を締結。建前上はISの軍事利用を禁止し、ISは一種の競技、スポーツになった。

 

そして肝心のISだが、全世界に普及することはなかった。

なぜなら、最重要機関であるISコアが完全なブラックボックスで束さんにしか作れなかったから。そして何より、その束さんがある日突然失踪してしまったからだ。467個のISコアを残して。

 

こうして各国は残されたコアを分配・やり繰りしながら、スポーツ競技となったISを研究・開発し、ISの世界大会『モンド・グロッソ』の優勝カップを奪い合うという、ある種の代理戦争を続けていた。

 

 

ザーッ……

 

 

「中学生生活も今年で最後かー、早いよねー」

 

「そうだな」

 

中学3年の6月。梅雨特有の雨の中、俺と美波はそれぞれ傘を差しながら家への帰り道を歩いていた。

 

「美波は進路、IS学園で決まりなんだろ?」

 

「IS適正Aだからねー。それを言ったら翔ちゃんだって」

 

「ああまぁ、この世界に来た理由がそれなのは理解してるんだが…」

 

未だ世界初のIS操縦者・織斑一夏が登場していない中で、実質女子校のIS学園を志望とは口にできない。したら社会的に死ぬ。

 

 

「追々どうするか決めれば――?」

 

話しながら十字路を左に曲がると、この雨の中、傘もささずに立ち尽くしている人がいた。

 

「あのー、どうしたんです… っ!」

 

その人の声をかけながら近づいた美波がはっとした顔をした。

俺もその人に近づいた。そして美波と同じようにはっとした。

 

不思議の国のアリスみたいな服装に見覚えはない。だが、紫色の髪、そしてやや血走っているが、あの眼は間違いなく――

 

 

 

「しょーちゃん、なーちゃん……」

 

「「束さん……」」

 

「しょーちゃん、なーちゃん……もう分からないよ……私はただ、ISで宇宙(そら)を飛びたかっただけなのに……それなのに、どうしてこうなっちゃうの……?」

 

途中で膝から崩れ落ちながらも、束さんの口から出た言葉は、まるで呪詛のようで、それでいて懺悔のように聞こえた。

 

「「……」」

 

ちらっと美波の方を見ると、美波が頷いてみせたので、2人でさらに束さんに近づいていく。

そして束さんのすぐ目の前まで行くと、そこでしゃがみ込んで束さんと視線を合わせた。

 

「もう嫌だよぉ……どうすればよかったのさぁ……」

 

「束さん」

 

美波が傘を手放すと、束さんを包み込むように抱きしめた。

 

「やっと、話してくれたねー。束さんの思っていることー」

 

「なーちゃん……」

 

「9年もか…抱え込み過ぎだろう、まったく…」

 

そう言いつつ俺も、いつも美波にやっているように、束さんの頭を左手でポンポンと撫でた。

 

「しょーちゃん……なーちゃん……っ!」

 

美波の一緒に、束さんに抱き着かれた。その拍子に俺も傘を落としたが、そのまま束さんの背中をポンポンと叩いた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ……!!」

 

 

 

その日、俺達と束さんは、やっと"理解者になれた"(わかりあえた)んだと思う。

 

ーside翔ー

 




はい、これにて束さんが味方に(+精神正常化)なりました。

これによって今後のシナリオがどうなるかお楽しみに。

(確実に一夏は酷い目に遭います)


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第4話 専用機

気の向くままに書いていた本作ですが、予想以上のUAやお気に入り登録数に驚いております。今後ともご贔屓願えればと思います。

また、感想もいただきまして、その内容をフィードバックした結果、
「原作崩壊」「一夏ハーレム崩壊」「胸糞展開(予定)」「オリ主無双」の4タグを追加しました。
これで上記の類が嫌いな方が、誤って閲覧してしまうことが無くなると思います。
配慮と対応が足りませんでしたことを、心よりお詫び申し上げます。


ーside翔ー

 

「じゃーん! 束さんのラボ『吾輩は猫である(名前はまだ無い)』にようこそ~!」

 

 

 

あの雨の中で抱き締めあっていた俺達は、あの後どこか吹っ切れたような顔の束さんに連れられて、失踪してから今まで拠点にしているらしいラボに来ていた。

――ここに来るまでに、デフォルメされた人参のようなロケットに乗せられたりしたわけだが。

 

 

 

「おおーっ! すごいよ束ちゃん! ISのパーツがいっぱいだーって、ややっ!これって最新型ではー!?」

 

ラボに案内されてから、ずっとあちこちを見て回っていた美波が、奥に懸架されている赤いISを見つけて声を上げた。

ちなみに、美波が束さんを「ちゃん」付けで呼んでいるが、それには理由がある。

 

「さすがナミママ、相変わらず目の付け所が違うねぇ! ほらほらショウママもこっちこっち!」

 

美波の後ろを歩いていた束さんが、俺の方を向いておいでおいでした。

 

 

…そう、なぜか束さんが俺と美波のことを「ママ」と言い始めたのだ。

『2人のおかげで、束さんは生まれ変わりました! なので新しい束さんを生んでくれた2人はママなのです!』

という謎理論によって。

その関係で、美波も呼び方を「束ちゃん」に変えたというわけだ。ちなみに俺は変えんよ。

 

「これは『紅椿』って言ってね! 今世の中の凡人共が第3世代機を作ろうと躍起になっている中、この『紅椿』なんと第4世代機なのです!」

 

「えっ? もう第4世代機を?」

 

それには俺も驚いた。

ISには世代がある。

束さんが残したISコアを元に、とにかく動く機体の完成を目指した第1世代。

後付武装(イコライザ)によって、用途の多様化を求めた第2世代。

そして操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵装の搭載を目標としている第3世代だ。

ただし、その特殊兵装の制御が難しいらしく、第3世代機はまだ試験機がほとんどと聞いている。(情報源はIS学園志望で色々勉強している美波)

そんな中、第4世代機とは恐れ入る。

 

「まぁまだ試作段階なんだけどね」

 

そう言って、束さんはペロッと舌を出しながらおどけて見せた。

 

「ちなみに兵装は雨月(あまづき)空裂(からわれ)って言ってね、レーザーやビームの帯を発生させるんだ」

 

「つまりエネルギー兵器ってこと?」

 

「そうだよー。ちなみに、なんで実体弾系の装備じゃないかって言うとねぇ――」

 

 

「――スペースデブリの除去で使用する時、新たなデブリを作らないように、でしたよね?」

 

「……さすがショウママ、正解だよ。覚えてたんだね」

 

「あの頃の話してた中で、結構印象に残ってますからね」

 

 

 

まだ『白騎士事件』が起こる前。今のように3人で他愛なく話が出来ていた時に話題に上がった内容だった。

 

『スペースデブリかー、確かに難しい問題ですねー』

 

『ミサイルとか使っちゃうとさ、そのミサイルの残骸が新たなデブリになっちゃうんだよねぇ』

 

『新たなデブリを作らない除去方法ですか……』

 

『昔ありませんでしたー? 薬莢も含め、弾頭以外全部火薬で出来た銃ってー』

 

『あったねぇ。でも全部燃焼薬のミサイルとか、作るの大変そうだよぉ。しかもなんか美しくない』

 

『美しくないって……いっそビーム兵器でも作ります? それならデブリ(ごみ)なんて出ようがないですし……なーんて』

 

『『それだぁ!』』

 

『ファッ!?』

 

 

 

「あはははっ、懐かしいなぁ」

 

「9年も経ってますからねぇ」

 

「そっか。あれから9年も経つんだ」

 

そう言って束さんは、『紅椿』の肩部装甲を、愛おしそうに撫でた。

 

「9年、色んなものを見て来たよ。その度にうんざりしたし、失望もした。そして悟ったよ、ISは兵器になったんだって。ううん違う、束さんが兵器に『してしまった』んだって」

 

『紅椿』を撫でる手を止めて、束さんは天井を仰ぎ見るように顔を上げた。

 

「それでも……それでも、宇宙(そら)を飛びたいって想いだけは、捨てられなかったよ…」

 

「そうですか……」

 

そして何気なしに、俺も『紅椿』の肩部装甲を撫でた。

 

 

 

そう、俺は特に意識せず『紅椿』を撫でた。

撫でてしまったのだ。

俺自身、完全に油断していたとしか言いようがない。

 

『紅椿』はISであり、女性にしか起動できない。

だが例外も存在する。

世界初の男性操縦者(予定)の織斑一夏。

そして、外史介入のためにIS適正を意図的に付与された――

 

キィィィィ……!

 

俺が我に返ろうが、美波が俺のミスに気付こうがもう遅い。

気付いた時には――

 

「う……そ……」

 

『紅椿』を纏った俺と、「あーあ」みたいな顔をした美波、そして俺がISを起動させたことで唖然としている束さんがいた。

 

ーside翔 outー

 

 

ーside美波ー

 

翔ちゃんがやらかした。

よりにもよって、束ちゃんの目の前でISを動かしちゃったのだ。

あーあ、束ちゃん目が点だよー。

 

「検査……」

 

「束ちゃん?」

 

「ショウママ、今すぐ検査しよう!」

 

「えっちょっま」

 

 

そんな感じで、ラボの奥に翔ちゃんが引きずられていって30分ほど。

難しい顔をした束ちゃんと、気持ちげっそりしている翔ちゃんが戻ってきた。

 

「むむむ~、まさかショウママがIS適正Aとは……」

 

「ちなみに私もAだよー。学校で受けた簡易検査だけどー」

 

「えっそうなの? でもIS適正は遺伝するもんじゃないしなぁ…例え男女の双子でも、男はISを起動できないのは凡人共が実証済みだし……」

 

そういえば『白騎士事件』の直後は、そんな検証をしてた研究機関もあったねー。

 

 

「――よしっ! それならショウママとナミママには、束さんから専用機を贈呈しよう!」

 

「「専用機!?」」

 

「せっかく2人ともIS適正があるんだし、もらって損はないよ?」

 

「いやいや、美波はともかく、俺が専用機を持ってたらダメだろ」

 

あー…確かに危ないかなー。

 

「どうして?」

 

「専用機を持ってる=IS動かせる。で、それがバレた場合、最悪どこぞの研究所に送られて、検体扱いされた後、ホルマリン漬けの未来が待ってるんですが」

 

あり得そう。というか、『ISを動かせるのは女だけ=女は偉くて男はゴミ』なんてアンポンタン思想の女性権利団体に知られたら……うわぁ……

 

「でもでも、待機状態にしておけば問題ないと思うんだよね。それに最悪バレても、IS学園に逃げ込むって手段があるし」

 

あっ、そうか。専用機って待機状態にするとIS自体の形状が変わって、アクセサリーみたいになるんだっけ。

それにどうせ、織斑君がISを起動させたら翔ちゃんもIS学園行きが確定するんだし、今持つか後で持つかの違いなだけかも。

 

「でもなぁ…」

 

「ダメかなぁ?(上目遣い)」

 

「うっ……いやでも、分かってるんですか? 俺達にIS学園で使える専用機を渡すってことは、『兵器』を載せるってことですよ?」

 

「うん。正直ISを兵器扱いされるのは腹立たしいけど、ショウママとナミママのため、自衛の一環って考えたらまだ許容できるかなぁって。一応名目上は"競技用"とも言ってるけどね」

 

「はぁ……分かりました。有難くいただきます」

 

束ちゃんにそこまで言われて、とうとう翔ちゃんも折れたみたい。

 

「イエーイ! それじゃあ張り切って作るよー!」

 

「あっ束さん、ちなみにその専用機って形状や装備について注文付けられます?」

 

「いいよ? どんなの?」

 

「そうですねぇ……口で説明するのも難しいんで、書くものもらえます?」

 

「いいよー。ほいこれ」

 

束ちゃんから紙と鉛筆を渡された翔ちゃんは、迷う仕草もなく、さらさらの紙に何かを描いていく。

 

「こんな感じにしてほしいんですが、可能ですか?」

 

「どれどれ~……」

 

翔ちゃんから渡された紙を受け取って中身を確認する束ちゃん。

私も気になって、横から覗き込んで――って、これって!

 

「翔ちゃん、これってもしかして」

 

「俺達が乗る機体って言ったら、これがピッタリだろ」

 

ーside美波 outー

 

 



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閑話 ここまでの主要な登場人物説明

読まなくても問題ないですが、読んでおくと今後「オリ主なんであんなキレてんの?」などの疑問が出た時に解消されるかと思います。

……本文中で説明しきれない可能性があるからです。文才不足で申し訳ない……


ショウ→北山翔(きたやま しょう)

 

年齢:15歳(外史・ISでの話で、現実世界からの通算では2000歳以上)

 

出身:現実世界の日本

 

来歴:

ミナミと一緒に飛行機事故で死ぬはずが、外史に介入して物語を円滑に進める現地作業員になる。

外史の管理を行っている神・ロキの「一夏が気に食わん」の一言で、ミナミとともにISが存在する世界に送り込まれることに。

北山家の長男として転生し、妹として転生した美波とともに『原作』のシナリオに介入していく。

当初は介入の一環として、IS開発者の篠ノ之束と交流を持つが、元々情が無いわけでない(むしろ人並み以上にある)ため、紆余曲折あり束の"理解者"となる。

外史を渡り歩く中で、"戦士の誇りや矜持"に拘りを持つ。特にとある外史で受けた『為すべきことを為せ』という教えに強く影響を受けており、『何かを為すべき場面(いくさば)では、それを為すもの(せんし)の性別に意味はない』という、ある意味男女平等の考えを持っている。

なお、ナデポを標準装備している。

 

―――――――――――――――――――――

 

ミナミ→北山美波(きたやま みなみ)

 

年齢:15歳(翔の10分後に生まれる)

 

出身:現実世界の日本

 

来歴:

ショウと同じく、外史介入の現地作業員になる。

北山家の長女として転生し、翔とともにシナリオに介入していく。

翔以上に情に脆いところがあり、束の"理解者"になることを望み、実際にそれを叶えた。

外史への介入については、仕事というよりは『旅行』のようなものと感じており、基本的にはその時その時を楽しもうとしている(ロキの軽いノリにも便乗したりする)。ただしショウに命の危険が加わりそうな場合は、その外史の重要人物に危害を加えてでもショウの安全を選択する(実際それで介入失敗となったケースもある)。

間延びした喋り方や癒し系の雰囲気から、IS原作の「布仏本音」にイメージが近いともいえる。

ショウほどの出力はないが、ナデポ標準装備である。さらにこちらはハグポ(ハグをしてポッと相手のママになる)を装備している。

 

―――――――――――――――――――――

 

篠ノ之束(しののの たばね)

 

年齢:20代(女性の年齢に言及するもんじゃないよ♪ by束)

 

出身:外史・ISの日本

 

来歴:

言わずと知れた、大天才(天災)のIS開発者。篠ノ之箒の実姉。

原作通り、天才過ぎて周囲とのギャップを埋められず人間不信になっていたが、翔と美波という"理解者"を得て、多少はマシになる。

その際、翔と美波のことを"ショウママ、ナミママ"と呼ぶようになる。……束は犠牲になったのだ。美波が持つハグポ……その犠牲にな。

IS学園入学(原作開始)までは、2人の専用機を作ったり、『紅椿』を完成させるべく設計を繰り返したりして過ごしている。

原作よりはマシになったものの、むしろマシになったせいで、妹の箒に対する罪悪感が大きくなり、なかなか自分から接点を持てずにいる。

 

―――――――――――――――――――――

 

ロキ

 

年齢:神様

 

出身:ヨトゥンヘイム生まれのアースガルズ育ち

 

来歴:

ご存知、北欧神話に出てくる悪戯好きの神。

本作では、主神(オーディン)に働くよう叱責され、外史の管理業務をやらされている。『ニートになれなかった僕はしぶしぶ就職を決意しました』

その後は管理の一環として、現地作業員として雇い入れたショウとミナミを外史に介入させている。

新しく出来た外史・ISの主人公、織斑一夏が気に食わないがために、ショウとミナミを介入させた張本人。史実通りのトラブルメーカーである。

ロキ曰く、「何やってもご都合主義なシナリオで『一夏すごーい』って流れになるし、あんだけ朴念仁なのに5人?もっと?からの好意を受け続けるとかうらやまけしからん!」とのこと。完全にただの嫉妬です、本当にありがとうございました。



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原作開始~クラス代表決定戦
第5話 入学


前回から時間をすっ飛ばして、今回ようやっと入学編です。

皆様お待たせ致しました、一夏アンチ開幕です!

今回から地の文が出てきますが、その際人物は名前表記です。(ただし一夏は除く)


――IS学園

 

IS運用協定、通称「アラスカ条約」に基づいて設置された、IS操縦者やメカニックを養成する国立高等学校である。

 

東京湾沿岸にある人工島に存在し、本土からの出入りは海上モノレールのみ。

国際規約により、建前上はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されないという、地理的にも法的にも『孤島の要塞』と呼べる場所である。

 

そしてISは女にしか動かすことが出来ないため、その操縦者養成機関であるIS学園は、女子校と言って差し支えない。

当然、生徒は全て女子であり、男はごく一部の職員しかいない、まさに女の園であった。

 

 

そう、ISを起動させられる"男"が見つかるまでは。

その報を受けた各国が緊急の適正検査をした結果、"さらにもう1人"男性操縦者が見つかるまでは――

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

IS学園、1年1組の教室――

 

学園生活最初のSHRで、クラス中の視線が、ある一点に集中していた。

 

「えー、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

「「「「……」」」」

 

名前を言うだけの自己紹介をする"ただ1人"の男・織斑一夏に、さらに視線が集まる。

 

(((まだあるよね? あるよねぇ?))))

 

「以上です!」 ガタンッ! ドン!

 

期待のいう梯子を外されて、クラスの大半がコケたり机に頭をぶつけたりしていた。

 

 

――ガンッ!

 

「痛ってぇ!」

 

「自己紹介もまともに出来ないのか、お前というやつは」

 

「げっ、千冬姉!」

 

――ガンッ!

 

「学校では織斑先生だ」

 

2度目の拳骨で織斑を撃沈させると、千冬が教壇に立つ。

 

「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君達新人を1年で使い物にするのが仕事だ」

 

「「「「きゃああああああっ!!」」」」

 

女子生徒達の(黄色い)絶叫が教室中に響き渡った。

 

「千冬様! 本物の千冬様よー!」

 

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」

 

「はぁ……毎年よくこれだけバカモノが集まるものだ…」

 

我先にとアピールを行う女子生徒達に、千冬は額に手を当ててため息をついた。

とはいえ、本人も口にした通り、彼女がIS学園に赴任してから恒例となっているわけだが。

 

「さて、SHRを続けたいところだが……入ってこい」

 

ウィィィン――

 

「えっ?」「どういうこと?」

 

教室のドア(自動)が開くと、騒がしかった教室内が一瞬で静かになった。

 

 

 

 

 

ーside翔ー

 

「急遽この学園に入学することになった北山翔だ。自己紹介を」

 

「2週間前の緊急適性検査で適性が見つかってIS学園入学になりました、北山翔です。これからよろしくお願いします」

 

…予想はしていたが、本当に『IS起動→拉致られてホテルに軟禁→受験していた高校の合格取り消し→IS学園に強制入学』のコンボを決められるとは思わんかったわ。

 

 

 

「「「「えええぇぇぇ!!」」」」

 

うるさっ! 廊下にいた時もうるさかったけど、それ以上だろ!

 

「男!? 2人目の男性操縦者!?」

 

「マジで!?」

 

「ああ、お母様私を産んでくれてありがとう!今度の母の日はちょっと奮発するね!」

 

最後の人、君は一体何を言ってるのかな?

 

――バンバンッ

 

「静まれお前達! 何度もうるさくされたら敵わん!」

 

織斑先生が出席簿を教壇に叩き付ける音で、ようやっと静かになる。

 

「さて、北山の席だが、後ろから2番目だ。ではここでHRを終わりとする」

 

そう言うと、織斑先生ともう一人の先生(実技試験を受けた時の試験官で、確か山田真耶先生だったか)は教室を出て行った。

 

 

 

「翔ちゃーん、こっちこっちー」

 

そして最後列の席から、美波がブンブン手を振っていた。

 

自分の席(苗字が同じだから、必然的に名前順で美波の前)に座ると、わらわらと周りの女子生徒達が集まってきた。

 

ちなみに織斑の方にも集まっているようで、教室の前と後ろで、人口密度が偏っている。

 

と思ったら、織斑の方に集まっていた人達もなんかこっち来た。

 

「あれ? 織斑君の方に行ったんじゃないの?」

 

「そうなんだけど、なんか篠ノ之さんに連れていかれちゃったのよ」

 

「そうなの?」

 

「うん。なんでも2人は幼なじみなんだって」

 

「へ~」

 

という女子達の話を横で、俺は適性検査を受ける前に美波から聞いていた内容を思い出した。

 

 

 

突然だが外史とは、現実世界で創造された創作世界だ。

創作。つまり前提として、その世界を作り出すための原点、『原作』と呼べるものがあり、当然この外史にも『原作』が存在する。

 

あいにく俺は知らなかったが、美波がその『原作』の内容を知っていた。とはいえ、最後に見てから長い時間が経っているから、うろ覚え程度らしいが。

その中で、織斑一夏の周りには様々な女子が引き寄せられるそうだ。ざっと挙げると

 

篠ノ之箒        :IS開発者である篠ノ之束の妹、後に専用機持ち

セシリア・オルコット  :イギリス代表候補生、専用機持ち

鳳鈴音         :中国代表候補生、専用機持ち

シャルロット・デュノア :フランス代表候補生、専用機持ち

ラウラ・ボーデヴィッヒ :ドイツ代表候補生、専用機持ち

 

なぁにこれぇ。専用機持ちバーゲンセールしすぎだろ。

こいつらを織斑から引き離すのがロキ(あのやろう)からの指示なわけだが…マジかよぉ…

 

 

 

「ところで、北山君ってナミママと……」

 

「兄妹だよー」

 

「えっ!そうなの!」

 

というか美波…どうしてすでにクラスメイトから『ママ』呼ばわりされてるんだ…?

 

 

「──ちょっとよろしくて?」

 

振り返れば(金髪縦ロール)がいた。

 

そして集まっていた面々は、危険を察知したのか美波以外は撤収済みだった。

 

―――――――――――――――――――――

 「セシリア・オルコットさん、だったか?」

 

 「ええっと……どちら様?」

―――――――――――――――――――――

 

いやいや、これ間違いなく下は地雷だろ?

 

―――――――――――――――――――――

⇒「セシリア・オルコットさん、だったか?」

 

 「ええっと……どちら様?」

―――――――――――――――――――――

 

「セシリア・オルコットさん、だったか?」

 

「あら、ちゃんとわたくしのことをご存じですのね」

 

「一応、専用機持ちについては調べたからな。それで何か用か?」

 

「世界で2人しか居ない男性IS操縦者がどのような人物であるか見に来たんですわ。北山さんでよろしくて? 」

 

「ああ。こっちもオルコットさんで?」

 

「ええ、構いませんわ」

 

 

 

その後は特に当たり障りのない会話が続き、チャイムとともにオルコットは引き上げていった。

 

あの時選択を間違えてたら、きっとすげぇ面倒なことになってただろうな…

 

ーside翔 outー

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

入学早々の授業は、真耶によるISの基礎項目についてだった。

 

一般に知られている内容もあるにはあるが、ほとんどが専門的な内容だ。

 

とはいえ、IS学園を志望し、なおかつ入学試験に合格するだけの実力があるなら、そこまで難解でも無いのだろう。

 

事前に勉強していれば(・・・・・・・・・・)

 

 

「――ではここまでで、質問のある人ー」

 

板書を終えた真耶が見回すが、誰一人手を上げない。

 

「えーっと…それじゃあ織斑君?」

 

とりあえず目の前の生徒を指名するが、

 

「……」

 

「織斑君?」

 

「っ!? は、はいっ!」

 

体をビクンッとさせながら、織斑は慌てて返事を返す。

 

「分からないところがあったら、遠慮なく言ってくださいねー」

 

「えぇっと……」

 

「はい」

 

「ほとんど全部わかりません!」 ガタンッ! ドン!

 

あまりにもなカミングアウトに、SHRの時のようにクラス全員(織斑除く)がコケた。

 

「……はい?」

 

『お前の授業分からん』と言われた形の真耶は、ほぼ半泣き状態。

 

「……織斑、入学前の参考書はどうした? 『必読』と書いてあったはずだが」

 

「あぁ~……間違えて捨てました」

 

――ガンッ!

 

「ぐはっ!」

 

「再発行してやるから、1週間で覚えろ」

 

「い、いや、1週間であの分厚さは…」

 

「1週間だ、やれ」

 

「はい…」

 

 

ちなみに織斑は、翔も自分と同じだと思っていたようだが、真耶に当てられた問題をすらすらと答えているのを見て絶句していた。

『原作知識+適性検査前に受けたIS開発者直々の授業』は伊達ではないのだ。

 

なお、休み時間は箒に連れ出され、授業中は席が離れていることもあり、織斑と北山兄妹のファーストコンタクトは未だ果たされていない。

セシリアからの接触はあったものの

 

「いや、君誰か知らないし」「代表候補生って何?」「教官?それなら俺も倒したぞ?」

 

と、セシリアの地雷を尽く踏み抜いていた。

 

 




・セシリアのことを知っている:
セシリア→翔の好感度up(微小)

・授業で当てられても答えられる:
クラス全員→翔の好感度up(微小)

・参考書を間違って捨てる:
クラス全員→織斑の好感度down(小)

・「君誰か知らないし」他3点セット:
セシリア→織斑の好感度down(小~中)




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第6話 クラス代表

「原作崩壊」タグ付けた途端、セシリアのキャラが原作から乖離し始めたよー


3限目は、授業ではなく千冬の

 

「クラス対抗戦に出る代表者を決める!」

 

という一言から始まった。

 

 

 

「クラス代表者とは、対抗戦だけでなく、生徒会の会議へ出席したり……つまりクラス委員長みたいなものだ。自薦他薦は問わない、誰かいないか?」

 

「はい! 織斑君を推薦します!」

 

「私も織斑君が良いと思います」

 

1人上げると、ぞくぞくと織斑を推薦する声が上がっていく。

 

「お、俺ぇ!? 俺はクラス代表なんて……」

 

「推薦された者に拒否権などない!」

 

「ぐっ……」

 

バッサリ切られた織斑だったが、なぜか後ろ――翔の方――を向いて

 

「な、なら! 俺は翔を推薦するぞ!」

 

「は?」

 

「なら私は北山君を推薦します!」

 

「私も!」

 

今度は翔への推薦がぱらぱらと上がっていく。

 

――バンッ!

 

「待って下さい、納得いきませんわ!」

 

机を叩いて立ち上がると、セシリアは織斑と翔の方へ視線を向ける。

 

「クラス代表はISの実力がトップの人間がなるべきですわ!イギリスの代表候補生であるわたくし、セシリア・オルコットを差し置いて、ただ珍しいというだけで男なんかが代表になるなんて認められませんわ!」

 

さらにボルテージが上がったのか、セシリアの演説は続き、

 

「大体、文化としても──」

 

 

「そこまでにしておけ、オルコット」

 

 

「「「「っ!?」」」」

 

突然翔から出た言葉と圧に、セシリアだけでなく、教室にいた全員が固まった。

 

「オルコット、それ以上口にすれば大きな問題になることは、()()()()()のお前なら理解できるだろう?」

 

「……っ!」

 

そう言われてセシリアは、先ほど口にしようとしていた言葉を思い出し、背筋が冷たくなるのを感じた。

『文化としても後進的な国』、もしそれを口に出していたらどうなっていたか。

候補生とは言え、()()()()()がそのような発言をしたら――最悪、日英間の国際問題に発展していたかもしれない――

 

どんどん顔が青ざめていくセシリアを見て、翔は織斑の方を向いた。

 

「それと織斑、なんでお前は人のこと勝手に呼び捨てにしてんだよ」

 

「な、なんでだよ!? 男同士なんだし呼び捨てでいいだろ!」

 

「男同士なら初対面の相手にも呼び捨てでいいと? んなわけないだろ」

 

「良いじゃねぇか! 細かい奴だな!」

 

「……はぁ、もういい」

 

織斑のアンポンタンな回答に、今度は千冬の方を見て

 

「それで織斑先生、一応他薦2、自薦1なわけですが、どうします?」

 

すると千冬は予め決めていたかのように

 

「1週間後、第3アリーナで織斑、北山、オルコットの3人で三つ巴の模擬戦を行い、一番勝率の高い者をクラス代表とする!」

 

と、代表決定戦の開催を宣言した。

 

その際、IS初心者の織斑がセシリアに対して『ハンデはいるか?』『男が女に対してハンデを付けるのは当然だろう』的なニュアンスのことを言って、クラスメイト達から失笑を買ったのはほぼ原作通りである。

 

 

ーside翔ー

 

なぜか代表決定戦に巻き込まれた。

 

まぁそれはいい。織斑がクラス代表をやりたくないばかりに誰かを巻き込むのは目に見えていた。それが俺だっただけだ。

 

むしろ問題なのは、オルコットを黙らせるために軽くとはいえ、殺気を叩きこんでしまったことだ。

"男なんか"のくだりはちょっと腹が立ったがまだいい。男が珍しいからって理由で代表に選ばれるのが気に食わないという気持ちも分かる。ただ、自分の立ち位置を弁えないセリフは許容できなかったというか……

――はい、やりすぎました。

ちなみに織斑に関してはむしろもっと叩けばよかったと思ってる。あまりにお話にならなくて、自分から切り上げたわけだが。

 

そして放課後、山田先生から寮の鍵を渡され、美波と一緒に下校。割り当てられた1210号室で2人して茶を飲んでいる。

……お察しの通り、美波と同室だ。

 

寮の部屋は意外と広くて、小さな台所もあって割と満足している。

……当初1週間は実家から登校のはずが、セキュリティの関係だなんだで急遽入寮させられたのはやや不満だが。

ある程度荷物をまとめてボストンバッグに詰めていて助かった。

『手際が良すぎないか』だって? そりゃ原作知識持ち(美波から又聞き)だし、多少はね?

 

 

「翔ちゃん、代表決定戦は専用機を使うのー?」

 

「いや、出来ればそれは避けたいな」

 

美波が左腕に付けた腕輪――待機状態の専用機――を振るのを見て、俺も胸元からドッグタグ状の専用機を取り出した。

 

確かに俺と美波は専用機を持っている。束さんお手製、完全フルオーダーの、この世に2つとない代物だ。

だが、まだ使うわけにはいかない。

ただでさえ出処不明かつ学園にも知られていない専用機、しかも他に類を見ないこれを不用意に表に出してしまえば、確実に怪しまれる。

『その専用機はどこから来たのか』と。

そうなれば、芋づる式に束さんとの関係が露呈するかもしれないし、IS開発者・篠ノ之束を狙う各国の陰謀に巻き込まれかねない。

 

「でも、当日までに訓練機を借りられるかなー?」

 

「最悪ぶっつけ本番かもな」

 

「こういう時、束ちゃんのラボで練習してて良かったよねー」

 

「だな」

 

 

あの日、やらかしで紅椿を起動させてからIS学園入学までの間、束さんのラボでISの操縦訓練を積んできたのだ。しかも休日はほぼ1日中。

ぶっちゃけ、某代表候補生(オルコット)程では無いにしても、和製ミ〇トさん(織斑一夏)よりはまともに動かせる自信がある。

 

 

――コンコン

 

 

「どちらさまー?」

 

「せ、セシリア・オルコットですわ」

 

「セシリアちゃんー?」

 

美波がドアを開けると、そこには確かにオルコットがいた。

とりあえず廊下に立たせておくのもあれだと、美波が部屋に招き入れた。

 

「それでどうしたのー?」

 

「あ、あの……北山さん……」

 

「俺?」

 

なんだ? クラス代表決めるときに殺気ぶつけた件で抗議しに来たか?

 

「その……」

 

 

「あ、ありがとうございました!!」

 

 

「へ?」「ほ?」

 

え?お礼?お礼ナンデ?

 

「北山さんがあの時わたくしの話を遮って下さらなかったら、とんでもないことになっていました」

 

まぁ確かに、少なくともクラスの大半(日本人)から顰蹙(ひんしゅく)を買ってたのは間違いないだろう。それにあのままエスカレートしていったら、もう1人の失言発生器(織斑一夏)も加わって、収拾が付かなくなってたろうし。

 

「で、ですから、わたくしの立場と言いますか、誇りを守ってくださった北山さんに感謝をと……」

 

「お、おぅ……」

 

「ですが!」

 

「お、おぅ!」

 

「代表決定戦とは話が別ですわ! 当日は学園の訓練機で出られるのでしょうが、わたくしは専用機『ブルー・ティアーズ』で出場させていただきますわ!」

 

ビシッと指さして、オルコットは高らかに宣言した。

 

「模擬戦とはいえ真剣勝負だ。その時使えるものを最大限利用するのは当然だろう」

 

「それと何処かの誰かさんのように、『男ならハンデを』なんて口になさいませんよう」

 

「何を言ってんだ、そんなの当たり前だろう。それに――」

 

ああ、まずい。こんな場所で言うセリフじゃないのは分かってるんだがなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

戦場(いくさば)で矛を交える戦士に対して、男だ女だと(のたま)うのは無粋の極みだ」

 

 

 

 

 

 

 

ーside翔 outー

 

 

 

ーside美波ー

 

「で? 翔ちゃんは賢者タイム終わったー?」

 

「賢者タイム言うな……」

 

セシリアちゃんが部屋に戻ってから、翔ちゃんはずっとフローリングの上でorzしている。

学園ラブコメの世界で、ポロッと『フロム脳』っぽいのが出てきちゃったようなものだからねー。仕方ないねー。

 

「ぐぅぅぅ! いっそ殺せぇぇぇ!」

 

「それはできない相談だねー」

 

それからしばらくorzってたけど、やっと心の整理がついたのか、ベットの上に座り直した。

 

「とりあえず、明日山田先生に訓練機を借りられないか聞いてみるか」

 

「そうだねー。ちなみに借りられるとしたら『打鉄』と『ラファール』、どっちがいいー?」

 

「そうだなぁ……機動力が欲しいから、出来ればラファールを使いたいな」

 

確かに2つを比較したら、打鉄は防御力重視でラファールは機動性重視だもんねー。

 

「あれ? でも入学試験の実技じゃ打鉄使ってなかったー?」

 

「だからってのもある。試験の時には目立たないように全力は出してなかったからな。それで代表決定戦で全力機動したら、色々疑われるだろ? だからラファールを使って『こっちの方が相性いいっぽいです』って言って誤魔化す」

 

「えぇ~……」

 

まーやん(山田先生)ならともかく、織斑先生は誤魔化しきれないと思うけどなー……

 

「まぁ、なるようにしかならないだろうさ。とにかく明日次第だ」

 

「それもそうだねー。それじゃあ今日はもう寝よっかー」

 

「ああ。明かり切るぞー」

 

「ほーい。おやすみー」

 

 

ーside美波 outー

 

 




・セシリアの失言を止める:
セシリア→翔の好感度up(中)

・織斑からの呼び捨てされる:
翔→織斑の好感度down(中)

・織斑からの呼び捨てを拒否:
織斑→翔の好感度down(小)

・ハンデを付けると言い出す:
セシリア→織斑の好感度down(小)


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第7話 訓練機貸し出し

11/6追記
まーやん(山田先生)の名前が誤字っていたのを修正(ご指摘thanks)


「織斑、来週の代表決定戦についてだが、政府から専用機が手配されることになった」

 

 

翌日のSHR、伝達事項を言い終えた千冬は、織斑の方を向いて言った。

 

「織斑君に専用機……?」

 

「1年のこの時期に専用機って……」

 

クラスメイト達も、突然のことに動揺が隠せないでいた。

 

「それを聞いて安心しましたわ。訓練機程度では、わたくしの『ブルー・ティアーズ』の相手なんて無理でしょうから」

 

横からセシリアも話に入ってくる。

 

「専用機……」

 

「そうだ」

 

 

 

「……専用機って、そんなに凄いのか?」  ガターンッ!

 

 

 

教室内全員(織斑本人と千冬を除く)総ズッコケである。

 

「織斑……貴様しっかりと授業を聞いていなかったのか……」

 

「おりむ~、ISのコアは世界中で467個しかないんだよ~? その貴重な467個の内の1つを、おりむー用に貸してくれるって言ってるんだよ~?」

 

「おおっ、そうなのか」

 

近くの席の生徒(布仏)の説明を聞いて、織斑はポンと手を打った。

 

「で、だ。北山については……」

 

千冬は言い淀むが、

 

「当然無いでしょうね」

 

翔はやれやれというジェスチャーで、さも当然のように言った。

 

「当然って、なんでだよ?」

 

「織斑、布仏さんの話を聞いてたか? ISコアは貴重なんだ。本来1つ捻出するのも大変な代物なんだよ」

 

「だからなんで……」

 

「あのなぁ……もしISコアが1つしか無い場合、織斑千冬(ブリュンヒルデ)の弟と何の後ろ盾もない男、どっちに渡すかなんて決まり切ってるだろ」

 

「なっ! 千冬姉は関係ないだろ!」

 

織斑が翔を睨みつけるが、

 

「やっぱり、千冬様の弟君だから……」

 

「そりゃそうなるよね……」

 

女子達の中では、『やはりか』というヒソヒソ声が聞こえてくる。

織斑は千冬の方を見るが、千冬は躊躇いの顔をして目を逸らした。

 

「すまないが、北山には訓練機で出場してもらうことになる」

 

「分かりました。予想通りではあるんで、問題ありません」

 

「ちょっと待ってくれよ千冬姉――!」

 

――スパーンッ

 

「ぐぁっ!」

 

「織斑先生と呼べ。そして今言ったことに変更はない」

 

出席簿アタックで織斑を黙らせたところで、SHRは終了した。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside真耶ー

 

「訓練機の貸し出しですか?」

 

お昼休み。職員室の私の席に、北山君と北山さんがやって来ました。

代表決定戦までの間、訓練機を借りられないかという相談のようです。

 

「基本訓練機は予約制で、来週いっぱい予約済みなんです」

 

「ああ、やっぱりですか……」

 

「で・す・が!」

 

そう言ってタメを作りながら、私は机の上にある書類の内の1枚を取り出しました。

 

「学園上層部から、男性操縦者に機体を融通するように通達が来てるんです」

 

「融通、ですか?」

 

「はい! 代表決定戦までの間、訓練機の内1機を貸し出すことになってます!」

 

「おおっ、それはありがたいです! 最悪ぶっつけ本番になると思ってましたから」

 

北山君が喜ぶのも分かります。ただでさえ1人だけ訓練機で試合をしなければならないのに、その訓練機が借りられずに練習もできないでは酷すぎますからね。

 

 

 

「あのー、質問なんですがー」

 

「? 北山さん、なんですか?」

 

「織斑君の専用機って、まだ完成してないですよねー?」

 

「そうですね、確か、政府から委託された企業で開発中のはずですよ?」

 

聞いた話では、倉持技研が第3世代機として開発中とか。

 

「それと、さっき"男性操縦者に機体を融通"ってことは、織斑君も対象なんですよねー?」

 

「ええ、そうですよ」

 

「……織斑君本人、もしくは織斑先生経由で、貸し出しについて質問されましたかー?」

 

「え゛……?」

 

そういえば、織斑君から訓練機貸し出しに関して聞かれていないし、他の先生方からも連絡は受けていないような……

 

「おい美波、それってつまり……」

 

北山君が口元を引きつらせています。もしかしたら、私も引きつってるかもしれません……

 

 

「織斑君の方がぶっつけ本番になるんじゃないかなー?」

 

 

 

 

放課後に訓練機貸し出しを行うということで、北山君達が職員室を出て行った後、入れ替わりで入ってきた織斑先生に先ほどの話を確認したところ

 

「一夏ぁぁぁ! お前というやつはぁぁぁぁ……!!」

 

と、呪詛の様な声を上げながら腹部を押さえていました。

その後織斑先生と話し合った結果、不公平にならないよう、こちらから織斑君には訓練機貸し出しについては話をしないことになりました。

 

……北山さんの予想が当たりそうな気がしますぅ……

 

ーside真耶 outー

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside翔ー

 

放課後。訓練機を借りるため、俺と美波は整備室(指定された場所)に来ていた。

そこには訓練機である『打鉄』と『ラファール』が並んでおり、そこに山田先生が待っていた。

 

「これだけズラッと並んでると、ある意味壮観だな」

 

「だねー」

 

「はい! この学園はIS保有数だけを見れば、大国にも匹敵しますからね!」

 

山田先生の言にも納得ができる。

なにせ、目に入る範囲でも打鉄とラファールが5機ずつ、計10機鎮座しているのだ。

今貸し出されてる分や教員用も含めれば、20~30機ぐらいはある計算になる。

 

「それじゃあ早速ですが、北山君は打鉄とラファール、どっちにしますか?」

 

「ラファールでお願いします」

 

昨日から決めていた通り、ラファールを選択する。

 

「分かりました。それじゃあ初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)を始めましょう!」

 

「え?」

 

ちょっと待った。山田先生今『初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)』って言った?

 

「あの先生、訓練機の貸し出しなんですよね?」

 

「そうですよ? 北山君には訓練機を一時的に"専用機"にして貸し出します」

 

「ファッ!?」

 

「しゅげー」

 

いや美波さん? しゅげーじゃないんだが。

 

「ほらほら、ささっとやっちゃいますよー!」

 

急かされるように、俺は並んでいた内の1機に乗せられた。

そして山田先生がISに接続されたPCで各種設定を行い、

 

「はい!初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)完了です!」

 

30分ほどして調整が完了したようで、ISからケーブルを抜いた。

 

「それじゃあ北山君、ISを待機状態にするためには――」

 

シュパァァァ――

 

「……あ」

 

ごめん山田先生、説明される前にやっちゃった……束さんのところで何度もやってたから、ついうっかり……

 

「ええっと……『解除ー』って念じたら出来まして……」

 

「そ、そうなんですかー……」

 

俺と先生の間に冷たい風が吹いた気がした……。

 

あ、ちなみにラファールの待機状態は、美波の専用機と同じ腕輪タイプだった。

美波のカラフルなトリコロールと違い、黒ベースに白いラインが1本入ったシンプルなものだが。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

こうして、訓練機(期間限定専用機)の貸し出しは終了した。

 

山田先生曰く、訓練機と違い、アリーナの予約には比較的空きがあるとのこと。

今日もこれから閉場までの間で空きがあるらしいから、動作確認も兼ねて行ってみるか。

 

「でも翔ちゃん良かったねー。ラファールと翔ちゃんの専用機が変な干渉しないでー」

 

あ゛……その可能性もあったのか……

 

 

 

~~~♪

 

「? 誰からだ?」

 

スマホのディスプレイを見ると、登録されていない番号。

 

「もしもし?」

 

『神界のアイドル、ロキちゃんだよー!』

 

「……KA〇OKAWAに謝れ」

 

ロキ(ウチのバカ上司)からだった。

とりあえず美波にも聞こえるように、周りに人がいないことを確認してからスピーカーモードにする。

 

「ロキちゃんやっほー」

 

『やっほーい! いやぁ、次の連絡は入学辺りでって言ってたんだけど、なかなかタイミングが合わなくてねー』

 

ああそうだったな。もう9年も前の話だったから、すっかり忘れてたわ。

 

「で、連絡事項は?」

 

『つれないなぁ。まあいいや、大したことじゃないんだけどね。どうも2人が介入した影響が、こっちの予想よりも大きくなりそうでねぇ』

 

「……いや、大したことだろ」

 

「でも、束ちゃんと接触した時点で今更だよねー」

 

それはそうだ。美波曰く、『原作』の束さんは物語のラスボス的立ち位置らしいからな。そりゃ影響もデカいだろうよ。

 

『織斑一夏とその周辺は、間違いなく『原作』から大きく乖離すると思うから、気ぃ付けてって話』

 

「それこそ今更だな……」

 

というか、お前はそのために俺達を介入させたんだろうが。

 

『そんじゃまた、次は年単位で間空かないように連絡するよ。アデュー!』

 

プッ ツー、ツー……

 

ホント今更なことばかり話して、ロキからの通話は切れた。

 

ーside翔 outー

 

 




・専用機について知らない:
クラス全員→織斑の好感度down(微小)

・訓練機を借りに来ない:
千冬→織斑の好感度down(小)

山田先生なら、この程度じゃ生徒に悪感情持ったりしないだろなーと。


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第8話 代表決定戦~vs セシリア・オルコット~

バトル描写とか書いたことなかったんで、すごい難産でした。


クラス代表決定戦当日。

3人がぞれぞれ2戦ずつ、計3試合が行われることになり、抽選の結果、対戦順は以下のようになった。

 

第1試合 織斑一夏 vs セシリア・オルコット

第2試合 織斑一夏 vs 北山翔

第3試合 北山翔 vs セシリア・オルコット

 

そして現在、翔は第3アリーナのピットで、美波の手を借りながらラファールの最終チェックをしており、翔と同じピット内に織斑も居るのだが……

 

ーside翔ー

 

「なぁ箒」

 

「何だ、一夏」

 

織斑の横には、幼なじみらしい篠ノ之がいた。

本来ピットには関係者以外立ち入り禁止だが、それを指摘する気はない。それを言ってしまえば、美波も関係者外ってことになるからな。

 

「俺さ、1週間前ISについて教えてくれって言ったよな?」

 

「ああ」

 

ほう、訓練機も借りずに何をしていたのかと思えば、ISの勉強をしていたわけか。

参考書を間違って捨てた、事前知識0なやつだったから、そこを先に補完するって考えは無しではない。あれ全部覚える期限(織斑先生からの執行猶予)も1週間だったし。

……昨日用事があって職員室に行った時、山田先生が「やっぱり北山さんの予想通りになっちゃいました~!!」って涙目だったが。

 

「俺、今日まで剣道しかやって無かった気がするんだが……」

 

「……」

 

「目・を・そ・ら・す・な」

 

ええー……ないわー……

確かにISは操縦者の身体能力や技術も無関係じゃないけど、そっちに全振りってどういうことだよ?

織斑に手配されるISって、どういうものかも知らされてないんだろ?それで近接装備に刀剣類が含まれてなかったらどうすんだ?というか、今気づいたけど、専用機まだ届いてないのか?マジで?

ふと視線をずらすと、美波も「まぁ織斑君だしー」って顔をしていた。ああそうか、「織斑だから」で全部片付くのか。

 

「織斑くーん! 来ましたよ! 織斑君の専用機!!」

 

そんなことを考えていると、山田先生と織斑先生がピットに入ってきた。

 

「織斑、大至急初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)を行う」

 

「織斑君、こっちに来て下さい」

 

「は、はいっ!」

 

「それでだが……北山」

 

「はい」

 

「織斑機の準備に時間がかかる。なので予定を変更して、お前とオルコットの試合を先に始めたい」

 

まあ、そうなりますよね。

こいつ(ラファール)の場合も30分はかかってる。それが第3世代機ともなれば、もっとかかってもおかしくはない。

 

「美波」

 

「だいじょーぶ! すぐに動かせるよー」

 

美波からのVサインが返ってきた。

 

「――とのことなので、先に出ることについては了解しました」

 

「そうか」

 

「ただし」

 

「ん?」

 

「織斑機の準備が完了するまでの時間が稼げなくても、文句はなしでお願いします」

 

先に言質を取っとかないと、あとでグダグダ言われたくないからな。

 

「当たり前だ。お前は全力で戦えばそれでいい」

 

「分かりました――それでは」

 

 

ーside翔 outー

 

 

ーsideセシリアー

 

『間もなく第1試合を始めます』

 

(やっとですか……)

 

『尚、予定を変更して第1試合は北山翔対セシリア・オルコットになります』

 

「ふぇ!?」

 

て、てっきりあの織斑一夏と対戦すると思っていたせいで、く、口から変な声がでてしまいましたわ!

 

『両者、アリーナへ入場してください』

 

アナウンスに従って、ブルー・ティアーズを纏った状態でカタパルトから射出、アリーナに入場。

一瞬眩しさ感じると、反対側から北山さんも入場していました。

 

「あーっと、オルコット、聞こえてるか」

 

プライベート・チャネルから、北山さんの声が聞こえてきます。

 

「ええ、聞こえてますわ。まさか貴方と先に戦うことになるとは思いませんでしたが」

 

「織斑の専用機を用意してた連中が、なかなか時間にルーズだったようでな」

 

「あら、いけない方々ですわね」

 

軽い雑談が終わると、わたくしは改めて北山さんの機体を観察しました。

 

「やはり訓練機、ですか……」

 

「まぁな。だからって手加減いらないぞ」

 

「分かっておりますわ」

 

そうしてわたくしがスターライトmkIII(レーザーライフル)を展開。北山さんもラファールの標準装備であるヴェント(アサルトライフル)を展開したところで

 

 

壮絶な撃ち合いが始まりました

 

 

ーsideセシリア outー

 

 

ーside千冬ー

 

「なんだよ、ぐるぐる回って撃ち合ってるだけじゃないか」

 

調整のために『白式』に乗ったままモニターを見ていた一夏が呑気なことを言っているが、私と山田君はそれどころではなかった。

 

ぐるぐる回って撃ち合う、何も知らなければそう見えるだろう。

だがあれは円状制御飛翔(サークル・ロンド)と呼ばれるもの。

互いに円軌道を描きながら射撃を行い、それを不定期な加速をすることで回避する、高度な機体制御が要求される代物だ。

代表候補生であるオルコットはともかく、1週間ラファールに乗っただけの北山が出来るものではない、はずなのだが……

 

「山田君」

 

「い、いいえ、入学試験の時にはまったく……それにあの時は、打鉄を使ってましたし……」

 

作業の手は止めていないものの、山田君の顔も気持ち青褪めている。

 

(あいつは一体、何者なんだ……?)

 

ーside千冬 outー

 

 

ーside翔ー

 

(やっぱり、こちらが押されてるか……)

 

射撃と回避を続けながら、俺は手詰まりを感じていた。

いくらラファールが機動性重視の機体とはいえ、未改修で第3世代機のブルー・ティアーズを相手にするのは荷が重い。

バイザーからの情報を見ると、ラファールのSE(シールド・エネルギー)が3割、ブルー・ティアーズが6割になっていた。むしろオルコット相手によく4割も削れたもんだ。

しかも、これはまだ前哨戦だ。なぜならブルー・ティアーズには――

 

「流石ですわ、北山さん」

 

そう言って、オルコットは射撃と高速機動を止めた。

 

「手を抜いていたわけではありませんが、ここで奥の手を出させていただきます。お行きなさい、『ブルー・ティアーズ』!!」

 

オルコットから離れた4機のBT、レーザービットが俺の周りを囲む。

絶体絶命……本来なら。だがもし、事前に美波から聞いた情報が正しければ――

 

――バララララッ!

 

「そんな攻撃にあた――えっ!?」

 

やったことは単純。右手にガルム(アサルトカノン)を展開してオルコット本人を攻撃。向こうが回避している間にビットに接近、左手にレイン・オブ・サタディ(ショットガン)を展開してビットをハチの巣に。

事前情報通り、オルコットは『自分が回避行動をしている間はビットを操作できない』!

 

「くっ! ですがまだっ!」

 

オルコットの方も、隠し玉だったであろう2機のミサイルポッドを展開して応戦する。

そしてビットを全て撃墜した時には、ブルー・ティアーズのSEは3割、ラファールは1割を切っていた。

 

「はぁ……はぁ……そろそろ、降参なさいますか?」

 

「降参、降参ねぇ……」

 

SEの残りは1撃圏内。その上、ビットを潰すために撃ちまくったから、装備のほぼ全てが弾切れ。

う~ん、これは勝ち目ないかもなぁ。けど、

 

「ちなみに、もしオルコットが俺の立場だったらどうする?」

 

その問いに、オルコットは一瞬虚を突かれたような顔をしたが、

 

「フフッ……SEが尽きるまで、戦うのみですわ」

 

「だよなぁ」

 

 

「なら、最後まで戦おうか!」

 

残っていたブレッド・スライサー(近接ブレード)を展開すると、俺はオルコットに向かって

 

――ドンッ!

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)!?」

 

ここまで使わずにとっておいた瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使って、真正面から一気に距離を詰める。

そしてオルコットの装甲外部分を狙って

 

「さ、せませんわっ!」

 

咄嗟にライフルで庇われるが、そのライフルはオルコットの手から弾かれた。これで――

 

「まだ……っ! 『インターセプター』!」

 

オルコットの手にもショートブレードが展開される。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

「はあぁぁぁぁぁ!!」

 

俺はオルコットの首を、オルコットは俺の胴体を切り裂くように得物を振り上げ、そして――

 

 

 

『両者、SEエンプティ。よってこの試合は引き分けとなります』

 

 

 

ーside翔 outー

 




う~む……一夏アンチものなのに、ただのバトルものになってしまった……

そして、翔がセシリアと引き分けられた理由については
最適化(フィッティング)されたラファールを使用
・束のラボでの訓練
・これまで渡ってきた外史での戦闘経験
ということでひとつお願いします。


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第9話 代表決定戦~vs 織斑一夏~

一夏が本来受験する予定だった藍越学園って、学費が安くて就職率の高い以外の詳細が原作で書かれていないからあれですが、たぶんそこそこ優良校だと思うんですよね。
そんな学校を受験しようとするぐらいのオツムはあるはずなのに、どうしてIS学園に入ってからはあんなにPONなのか……


――第3アリーナ、観客席

 

第1試合を終えて、観戦していた1組の生徒は先ほどの試合内容について盛り上がっていた。

 

「まさか、オルコットさんと引き分けるなんてねぇ」

 

クラスの下馬評ではセシリアが圧勝だった。

それが蓋を開けてみれば、善戦どころかドローにまで持ち込んでいたのだ。驚かない方がおかしい。

 

「特に最後の瞬時加速(イグニッション・ブースト)、すごかったよねぇ!」

 

「あれって、普通2,3年生になってから習うんじゃなかったっけ?」

 

「そうなのっ!?」

 

「北山君すごいなー」

 

クラスメイト達が翔を賞賛する中、美波は腕を組んでうんうんと頷いていた。

 

(翔ちゃん、ラボの壁に何度も突っ込んだ甲斐があったねー)

 

翔は入学前の間、束のラボでISの操縦訓練をすると同時に、瞬時加速(イグニッション・ブースト)の練習もしていたのである。

無論、いくつもの世界を渡り歩いてきた翔とはいえ、いきなりうまくいくはずもなく、制御をしくじりラボの壁に激突した回数は1度や2度ではない。

 

「こうなって来ると、次の試合も楽しみだねー!」

 

「私は北山君が勝つと思うなぁ」

 

「私は織斑君ー」

 

彼女達の話題は、次の試合に移っていた。

 

「ところでナミママ、北山君がアリーナで練習してるのはよく見かけてたんだけど、織斑君って見かけたことないんだよねぇ。何か知ってる?」

 

「あ~……それはねー……」

 

美波は一瞬、言っていいのかどうか悩んだが

 

「試合前のピットにいた時に聞いたんだけどー……」

 

「「「「うんうん!」」」」

 

「織斑君って、いっつも箒ちゃんと一緒だったでしょー?」

 

「箒ちゃん……ああ、篠ノ之さんのことね」

 

「「「「それでそれで!?」」」」

 

「1週間、ずっと剣道ばっかりやってたんだってー……」

 

「「「「え゛……?」」」」

 

美波の話を聞いていた全員が絶句した。

 

 

ーside千冬ー

 

北山には驚かされたが、ともあれ、あいつが時間を稼いでくれたおかげで、一夏の白式は最適化(フィッティング)が完了した。

 

「織斑、準備は出来たな?」

 

「ああ」

 

そう返事を返す一夏の目には、闘志が宿っているように感じる。

先ほどの試合を見ていた時には反応が薄くてあれだったが、やる気になったようで――

 

「あんな卑怯なマネ、俺は許さねぇ!」

 

「は?」

 

卑怯? 何を言っているんだ?

 

『間もなく第2試合を始めます。両者、アリーナへ入場してください』

 

「行ってくるぜ、千冬姉! 俺があいつの間違いを正してやるっ!」

 

「ちょっと待て一夏――!」

 

どういうことか問いただす前に、一夏はピットから飛び出して行ってしまった――

 

ーside千冬 outー

 

 

ーside翔ー

 

相打ちになった俺とオルコットは、同じピットに引き上げて機体の修理と補給を行っていた。

ちなみに修理と補給は、整備科(2年以降に作られる、ISの開発や研究、整備に特化したクラス)志望の生徒がやってくれるらしい。すごく助かる。

 

「しょーちゃ~ん、修理と補給終わったよ~」

 

「はいよー」

 

だぼだぼの袖で手を振る布仏さんに、俺も手を振って合図する。

なぜか知らんが、初対面の時に「しょーちゃんって呼ぶね~」と突然宣言されたのだ。

そして肯定も否定もする前に居なくなってしまい、そのままずっとなのである。

というか布仏さん、整備科志望だったのか。確かにISを乗り回す姿は想像出来ないが……

 

 

『間もなく第2試合を始めます。両者、アリーナへ入場してください』

 

「行くとしますか」

 

「ご武運を、と言っておきますわ」

 

ラファールに乗り込んでいると、補給待ちのオルコットが声をかけてきた。

 

「なんだ、応援してくれるのか?」

 

「ええ。共に全力を尽くした仲です、それくらいはいたしますわ」

 

「そうか。なら、ありがたく受け取っておく」

 

 

 

と、オルコットとの会話を終えてアリーナに入場したら、目の前に西洋鎧のような、真っ白い機体に乗った織斑がいた。

どうやら、初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)の時間はきっちり稼げたようだ。

 

そして試合開始のブザーが鳴ったと同時に――

 

 

 

 

 

「翔! 俺はお前みたいな卑怯者、絶対に許さねぇ!」

 

 

 

 

 

 

いきなり織斑がよく分からんこと言い出したんですが? しかもオープン・チャネルで。

 

先程まで歓声に沸いていたアリーナが、水を打ったようになった。そりゃそうだ。オープン・チャネルってことは、俺は当然、管制室やピット、観客席にも音声が送られてんだから。

えーっと、とりあえず俺もオープン・チャネルで……

 

「北山から管制室」

 

「はい。管制室山田です」

 

山田先生、調整が終わって移動してたのか。

 

「先ほどの試合で、俺はオルコットに対して何か卑怯と呼ばれるような行為や違反行為をしましたか?」

 

「いいえ、公式レギュレーションに準拠した、クリーンな戦いでしたよ」

 

との回答が返ってきた。

 

「ありがとうございます……で、織斑。お前は何をもって俺が卑怯だと?」

 

「何をだと!? 最後のあれは何なんだよ! オルコットさんの首を狙ったあれは!」

 

いや、何だも何も、相手の弱点を攻めるのは戦いの常識だろうが。過信しすぎるのも問題だが、絶対防御だってあるんだぞ?

 

「卑怯なマネしやがって! あれが男のやる事かよ! 女相手にそんなことして!」 

 

「なら、弱点にある部分なんか狙わず、ただただ装甲を狙ってろと?」

 

「そうだ!」

 

ほう……?

 

「……つまり、互いに全力を尽くして戦っていたオルコットに対して、手を抜くべきだったと?」

 

「そうだよ! 女は守るべきものだろ! 女相手に本気出してんじゃねーよ、男として恥ずかしくないのか!」

 

なるほど、男は女と戦うなら本気を出すべきじゃない、手加減して然るべきだと。言い換えれば『女には本気で戦う価値はない』と。

ああ、なんだろうな。今までで出会った人達を思い出してきたわ……

 

――為すべきことを為せ、と後進を導き、自らも為すべきことを為して散っていったとある世界での上官(伊隅大尉)

――父祖の地と、そこに住む民を守るため、その身を毒に冒されながらも、命を賭して曹魏の軍勢と戦い退けた孫呉の英雄(雪蓮)

――愛した男の魂を守るため、不死者となって250年もの間戦い続け、最後は輪廻に還っていった鋼の聖女(リアンヌ・サンドロット)

 

皆すごい人達だった。自分の使命や信念、誇りのために最後まで戦い抜いた、尊敬できる女性達(戦士)だった。

そんな女性達(戦士)を、『本気で戦う価値はない』と言うのか……

 

 

 

 

 

戦士の誇りを……矜持を踏みにじるか……っ!!

 

 

 

 

 

「もういい……それ以上(さえず)るな」

 

――ドンッ!

 

「なっ!」

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)で急接近した俺に、織斑が怯む。

その間左腕に展開するのは灰色の鱗殻(パイルバンカー)、通称『盾殺し(シールド・ピアース)』。

セシリアの機動力が相手では当てられないと使わなかったそれを――

 

――ドガンッ!ドガンッ!ドガンッ!ドガンッ!ドガンッ!ドガンッ!

 

「ぐあぁぁぁぁ!?」

 

織斑に向けて、装填された6発全て叩き込む――!

 

 

 

『白式、SEエンプティ。勝者、北山翔』

 

 

 

やっと勝ち星が付いたが、ただただ不完全燃焼感だけが残った――

 

ーside翔 outー




・全力を尽くして戦う:
セシリア⇔翔の好感度up(中)

・セシリアと引き分ける:
クラス女子→翔の好感度up(微小)

・剣道の練習しかしてない:
クラス女子→織斑の好感度down(微小)

・女相手に手加減しない:
織斑→翔の好感度down(大)

・女に本気を出す必要はない:
翔→織斑の好感度down(極大) 一時的に下限カンスト
クラス女子(一部除く)→織斑の好感度down(大)


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第10話 代表決定戦~全試合終了後~

代表決定戦の第3試合は前の試合同様、短期間で決着した。それというのも

 

「いやぁ、オルコットさん、激おこだったねぇ」

 

「そりゃあねぇ、あんな事の後だもん」

 

開幕からレーザーライフルで織斑を撃ち続け、近付かれる前にSEを空にして完封したのである。しかも執拗に頭狙い(ヘッドショット)胸狙い(ハートショット)を仕掛けて。

どう見ても、「男が女の装甲外を狙うのは卑怯」と抜かした織斑に対する意趣返しである。

しかもセシリアの顔が、試合終了までただただ虚無だったのが、余計に彼女の怒りを物語っていた。

 

「正直さぁ、ちょっと織斑君には幻滅しちゃったかなぁ」

 

そう言った女子生徒──相川清香に、周りの視線が集まる。

 

「最初は女性に優しい人だなぁって思ってたんだけど、今日のを見ちゃったらさぁ……」

 

「う~ん……『女は守るべきもの』って言ってたけど、単純な優しさから言ってるのか、私達女を自分より下に見てるのか分かんなくなるよね……」

 

「ナミママはどう思う?」

 

清香に話を振られた美波は、そうだねぇと考える素振りを見せると

 

「織斑君は、1世紀ぐらい生まれるのが遅かったんだと思うな―」

 

「い、1世紀?」

 

「うん。第2次大戦より前に生まれていれば、男尊女卑が世界の常識だっただろうから、真意はどうあれ『男は女を守って当然』って考えで全く問題なかったんだと思うんだー」

 

「それって、今の時代では異端だと?」

 

「そう思うよー。翔ちゃんは比較的男女平等って考えだけど、それでも今の時世だと良く思われないこともあるから―」

 

「「「「……」」」」

 

美波の感想に、1組の面々は黙り込むしかなかった……

 

 

ーside美波ー

 

「翔ちゃん、お疲れさまー」

 

「ああ……」

 

第2試合の後、翔ちゃんはすぐに寮に戻っていたらしい。

私が寮の部屋に戻ると、翔ちゃんはベッドに座り、組んだ手の上に頭を載せていた。これは今までの経験から、かなり自己嫌悪に陥ってるなー。

 

「ホント、自分ではもっと自制できると思ってたんだけどなぁ……」

 

「うん」

 

頷きながら、翔ちゃんの隣に座る。

 

「この外史とは別の話だってのも、分かってるつもりなんだ……」

 

「うん」

 

「それでも……大尉や雪蓮の矜持が、献身が全て否定されたような気がして……」

 

「うん」

 

翔ちゃんの頭をポンポン撫ぜる。いつも私にやってくれる、『元気出せ』というサイン。

しばらくそうしていると、翔ちゃんが顔を上げた。うん、切り替えられたっぽいねー。

 

「とりあえず食堂にいこー。観戦中に飲んでたシュワシュワ(炭酸飲料)がお腹の中から無くなって、ペコペコなんだよー」

 

「観戦中にシュワシュワって……ビール片手に野球観戦してたおっさんみたいなこと言うなよ」

 

うんうん、ツッコミが出来るぐらい元気になったねー。

 

 

――コンコン

 

 

「ん~? どちらさまー?」

 

「わたくしですわ」

 

「ありゃ、セシリアちゃんー?」

 

ドアを開けると、ほんのり湯気の上がったセシリアちゃんがいた。

シャワー浴びたんだろうねー。今日の試合でいっぱい汗かいただろうしー。

 

「北山さん、この度はお礼を申し上げたく参上しましたわ」

 

「お礼? いったい何の?」

 

「わたくし……いえ、わたくしを含めた女性操縦者の誇りを守って下さったことについてですわ」

 

おおー。何か話が大きくなってきたぞー。

 

「あの時、織斑さんの言葉に貴方が怒りを向けてくださったこと、『女に本気で戦う価値はない』という主張を否定してくださったことで、わたくし達女性操縦者の誇りは守られました」

 

「そんな影響力、あの行動には無いと思うんだが……」

 

「いいえ、男性操縦者である織斑さんの主張を、"同じ男性操縦者"である北山さんが否定されることに意味があるのです」

 

「同じ男なら、か」

 

ごめんねーセシリアちゃん、たぶん翔ちゃんが否定してもダメだと思うんだー。言い方が悪いけど、織斑君って『自分の正義、自分の理想』の中だけで生きてるっぽいからねー……

もしかしたら「翔は間違ってる!なのにみんな翔のことを肯定する!みんな騙されてるんだ!俺がみんなを助けないと!」とか言い出す日が来たり……しそうだなー……

 

「それと、ですね……実はお願いがありまして……」

 

「お願い?」

 

 

 

 

「その……わたくしのことを『セシリア』と、よ、よよ、呼んでいただきたいのです……」

 

 

 

 

「え?」

 

翔ちゃんにセシリアルートの確変キタ━(゚∀゚)━!

 

「その代わりと言ってはなんですが、北山さんのことを『翔さん』とお呼びしても、よ、よろしいでしょうか……?」

 

「あ、ああ、構わない」

 

「そ、それでは……これからもよろしくお願いします……翔さん」

 

「分かった……セシリア」

 

「はいっ!」

 

初々しい、初々しいぞ2人とも―! ていうか翔ちゃんが初々しいのはダメでは?

別の外史でも、女の子にアプローチ受けてたでしょー。ACのオペレーター(フィオナちゃん)とかー、剣仙の孫娘(アネラスちゃん)とかー。

 

「それではっ、明日またお会いしましょう!」

 

そう言って、セシリアちゃんはルンルンで帰っていった。

 

「……翔ちゃんってさー」

 

「なんだよ……」

 

「もしかしてちょろインー?」

 

「止めてくれ美波、その言葉は俺に効く」

 

ーside美波 outー

 

 

ーsideセシリアー

 

わたくしにとって、男性には悪い印象しかありませんでした。

 

オルコット家の発展に尽力し、常に堂々としていた母と比較して、婿養子として入ってきた引け目からか、あまり前に立つことのなかった父。

ISが登場し、女尊男卑の風潮が強まると、両親の関係はさらに悪化していきました。

その頃からでしょうか。父の瞳に、卑屈さが混ざるようになったのは……。

 

その後両親が列車事故で亡くなると、わたくしの周りには、親族という名の汚らわしい方々がオルコット家の遺産を狙って群がってきました。

そんな方々から両親の遺産を守るために、わたくしは努力と勉強を重ね、ISの代表候補生という後ろ盾を得たのです。

 

そして代表候補生としてIS学園に入学した時、わたくしが出会ったのは2人の男性操縦者でした。

織斑一夏さんと北山翔さん。どちらも昨今の女尊男卑に染まらず、自分の意志を持った方達でした。

けれど、お二人には決定的に違うものがありました。

 

北山さんは、わたくしを『セシリア・オルコット』として見ておりました。

わたくしの強さも、努力も、誇りも。全てをご存知のようで、その上で全力を尽くして戦ってくださいました。……自分と『対等の相手』として。

 

織斑さんは、わたくしを『女』として見ておりました。

『女は守るべきもの』と言えば聞こえはいいですが、そこに、わたくしが血の滲むような努力の末に得た強さは、代表候補生としての、オルコット家としての誇りがあったのでしょうか――

 

だからこそ、わたくしは北山さんを……しょ、翔さんのことを……。

 

(あ~!やってしまいましたわ~!)

 

「セシリア~、いい加減うざいから寝てくんない? そんなベッドの上でエビみたいに飛び跳ねてないで」

 

ルームメイトの如月さんが何か言っていますが、今のわたくしには聞こえませんわー!

 

「……ねぇセシリア」

 

「何ですの?」

 

 

「北山君に告白でもした?」

 

「ごっふっ!!」

 

 

如月さんってば、なんてことをおっしゃるんですの!? しゅ、淑女にあるまじき声が出てしまったではないですか!!

 

「で、どうなの?」

 

「べ、別に、告白だなんてそんな……」

 

「ふーん……」

 

如月さんは寝袋から出てくると(原因はわたくしの私物が多くてベッドが置けないからなのですが……今度いくつか本国に戻しましょうか)、わたくしの肩を掴むと

 

「で、何したの?」

 

「い、いえ、別に……」

 

「な・に・し・た・の?」

 

満面の笑みで問いかけて来ないでください、怖いですわ。

 

「別に……下の名前で呼ばせていただいただけで……」

 

「ほぉ~それで?」

 

「それと翔さんにも、せ、セシリアと呼んでほしいと……」

 

「……よし。セシリア、赤飯炊こう」

 

はいぃ!? 赤飯ってあの赤いライスのことですわよね!? しかも今から炊くんですの!? どうしてですの!? WHY JAPANESE PEOPLE!?

 

「大丈夫、飯盒でおこわを炊いたことはある。たぶん赤飯もいけるはず」

 

「全然安心できませんわー!」

 

――結局、寮長の織斑先生から「こちとら残業で疲れてるんだ、さっさと寝ろ!」と寝かし付け(鉄拳制裁)を受けてしまいましたわ……痛い……

 

 

ーsideセシリア outー

 




・操縦者としての誇りを守る:
セシリア→翔の好感度up(大)


原作でも出番があまり無いどころか、アニメ版は未登場な如月さんに御出座いただきました。もしかしたら原作より喋ってるのでは?


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第11話 代表就任~そしてパーティへ~

本作の一夏の頭の中では
(A:一夏、B:千冬、C:世界、D:翔)

「俺は千冬姉みたいに(強く)なるんだ!」(A=B)
        ↓
「千冬姉は(俺の中で)絶対の存在、世界そのものなんだ!」(B=C)
        ↓
「俺の『女は守るもの』って考えは世界の考え、当然のことなんだ!」(A=C)
        ↓
「だから俺の考えを否定する翔は世界の、みんなの思いを踏みにじる卑怯者だ!」(D≠A→D≠C)

みたいなとんでも理論が展開されています。



代表決定戦翌日のSHR。教壇には千冬が立っていた。

 

「さて、代表決定戦の結果、北山とオルコットが1勝1分けで同率となったわけだが「織斑先生」ん?なんだ?」

 

手を挙げていたセシリアが、席から立ち上がる。

 

「わたくしセシリア・オルコットは、クラス代表を辞退いたします」

 

「ほう?なぜだ?」

 

「『クラス代表はISの実力がトップの人間がなるべき』、あの時わたくしはそう言いました。であれば、訓練機でありながらあれだけの実力を発揮した翔さんが代表になるべきだと思います」

 

「なるほど……」

 

千冬は少し考え込む格好をしたが、すぐに

 

「オルコットはこう言っているが、北山から反対意見はあるか?」

 

「いいえ。どこまでやれるかは分かりませんが、引き受けようと思います」

 

「そうか……では、クラス代表は北山とする!」

 

――パチパチパチ!

 

クラスメイトからの拍手により、1年1組のクラス代表は翔に決まった。

もちろん拍手した者の中に、織斑は含まれていない。

むしろ、昨日あれだけ暴言を吐いたにも拘らず平然と出席している織斑に、女子生徒たちは逆に問題追及するタイミングを失ってしまっていた。千冬も指摘しないところを見ると、大事にしたくないのだろう。

 

 

「ところでさ、さっきオルコットさん、北山君のこと『翔さん』って呼んでなかった?」

 

「そういえば……」

 

クラスメイト達の視線がセシリアに向いた。

 

「え……あの……」

 

視線に耐えられなくなったのか、顔を真っ赤にして髪を弄り始めたセシリアを見た面々は察した。

 

 

((((セシリアさんマジちょろイン!))))

 

 

そうしてSHRが終わるかと思われたが、

 

「ああそうだ。北山、昨日の試合結果に対して、お前にも専用機が手配されることになった。午後は公休にしてやるから受け取りに行くように」

 

「「「「北山君の専用機ぃ!?」」」」

 

最後に、千冬が特大の爆弾を落としていった――

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――IS学園、整備室に続く廊下

 

ーside翔ー

 

専用機が手配されるらしい。

いや、もうすでに持ってるし。複数持ってても同時展開とかできないから、持ち腐らすの確定だし。

しかしあの試合の後ねぇ……織斑千冬(ブリュンヒルデ)の弟ってネームバリューばっか見てた連中が、俺の方が有用なデータを取れると踏んで手のひら返して来たか。

 

とりあえず、受取先である整備室に移動しているわけだが――

 

「翔ちゃんの専用機、どんなのだろうねー」

 

さも当然のごとく、美波も隣を付いてきていた。

おかしいな……午後の授業を抜ける形で教室を出て来たのに、どうして全員、美波が一緒に出て行ったのに当然のように見送ったよ?

 

 

 

そんな疑問が頭の中をぐるぐる回ってるうちに、整備室に着いてしまった。

 

「お待ちしてました」

 

部屋の中には、黒髪ロングで眼鏡をかけたスーツ姿の女性がいた。

 

「私、北山翔さんの専用機の開発を委託されました、スター・ラビット・カンパニー(SRC)の担当でございます」

 

「SRC?」

 

困った。失礼な話だが、知らない社名だ。

そう思っていると、担当さんも苦笑して

 

「ご存じないのも仕方ありません。我が社は最近になってIS事業に参入した、いわゆる新興企業となりますので」

 

「顔に出てましたか。申し訳ありません」

 

しかしそんな新興企業が、専用機を作れるんだろうか? 実際それに乗る身としては、少々じゃないくらい心配なんだが……

 

「御心配には及びません。なぜなら――」

 

そう言って、担当さんは肩にかけていたバッグからリモコンのようなものを取り出して、ボタンを押した。

すると、まるで映像にノイズが入ったかのように担当さんの姿が一瞬歪み――

 

 

「へーーーい!! ショウママ、ナミママ、会いたかったよ~~~!!」

 

 

担当さん――もとい、束さんに美波ごと抱きしめられていた。

 

「た、束さん!?」

 

「おー束ちゃん、久しぶりー」

 

「2人に会いたくて、ホロで変装して来ちゃった!……くんかくんか」

 

おいばかやめろ。

 

「そ、それで、SRCっていうのは……」

 

いい加減ハグから抜け出すと、束さんは「もうちょっと~」みたいな顔をしていたが

 

「束さんが新しく作った会社です!(ドンッ)」

 

「会社作っちゃったのー?」

 

「うん。もともと隠れ蓑兼資金調達のために建てたんだ。束さんが表に出なくていい様に、人材とか手続き(ハッキング)とか色々準備してね。で、そこでショウママに専用機をって話を聞きつけて……」

 

「参入したと?」

 

「ピンポ~ン♪ こうやって専用機を手配した体にすれば、2人に渡してある専用機を気兼ねなく使えるでしょ?」

 

確かに、入学時から持っている専用機は、出処の関係でまったく使えないでいた。それが解消されるわけか。仮に問いただされても『SRCって企業から貸与されたものです』で言い逃れできるもんな。

 

「あ……でもそれだと、美波の専用機はどうします? 俺の専用機を手配したって名目なんですよね?」

 

「え~、私もこの子を使ってあげたかったのになー」

 

「だいじょーぶ!」

 

束さんはバッグの中をゴソゴソ探し始めると、中身の入ったクリアファイルを渡してきた。

 

「これをちーちゃんに渡せば問題ないよ」

 

「ちーちゃん……織斑先生にですか?」

 

「うん。ショウママの専用機を渡したよーって書類と、ナミママにも専用機作ったよーって書類」

 

「おおー、やったぜー」

 

美波、嬉しいのは分かったからコロンビアはやめろ。

 

「さて……名残惜しいけど、監視カメラのハッキングがバレる前に、束さんは退散するよ」

 

あ、やっぱりそうですか。ホログラムの変装を解いたから、何となく予感はしてましたが。

束さんがまたホログラム発生装置(リモコンもどき)のボタンを押すと

 

「それでは、今後とも当社とよしなに」

 

黒髪スーツの女性がお辞儀をしていた。

 

 

 

教室に戻った後(授業の途中だった)、束さんに持たされたクリアファイルを織斑先生に渡すと、中の書類を見た先生は

 

「なんだこれはぁぁぁぁ!」

 

と、腹部を押さえながら叫んでいた。ストレスの多い(手のかかる弟がいる)職場だからね。仕方ないね。

書類の内容はというと『双子での対比検証もしたいから、妹の方にも専用機渡すね』的なことが書いてあったそうな。

 

ちなみに、織斑先生の胃は授業終了までは持ちこたえた。その後SHRを山田先生に任せると、保健室へ薬をもらいに教室を出て行ったが……

 

ーside翔 outー

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――その日の夜、学生寮内の食堂

 

「それでは、北山君のクラス代表就任を祝して、かんぱーいっ!!」

 

「「「「かんぱーいっ!」」」」

 

 

食堂の一画で、1組有志が企画した「北山翔 クラス代表就任記念パーティ」が開かれた。

もちろんそれが主目的であるが、クラス内の親睦会も兼用の催しである。

幸い、1組には女尊男卑主義者はおらず、欠席者は織斑と箒だけである。

 

テーブルには購買で買ってきたお菓子やジュースの入った紙コップが置かれ、立食形式で皆思い思いに談笑していた。

するとそこへ

 

「新聞部でーす! 話題の男性操縦者を取材に来ましたー!」

 

1人の女子生徒が乱入して来た。

 

「私、新聞部副部長の黛薫子(まゆずみ かおるこ)よ、はいこれ」

 

と言って、翔に名刺を渡す。

 

「あれ? もう1人男性操縦者がいるって聞いてたんだけど」

 

「ええっと……」

 

織斑のことを聞かれ、皆が言い淀むが

 

「織斑君は欠席なんですよー。急な計画だったから都合がつかなかったみたいでー」

 

「あ、そうなんだ」

 

美波のファインプレーに、何人かがサムズアップした。

実際、今朝計画されたパーティだから急だったのは事実な上、『都合がつかなかった()()()』と断定はしていないので、嘘は言っていない。

 

「では北山君、クラス代表となった感想を一言!!」

 

「そうですねぇ……クラス対抗戦も含め、自分が『為すべきこと』をしますよ」

 

「おっ、何かぐっとくるフレーズ入れて来たね!」

 

翔に向けて突き出していたボイスレコーダーを引っ込めると、今度はセシリアに向けて

 

「それじゃあ次にオルコットさん、北山君と同じ勝率だったのに、クラス代表を辞退した理由について!!」

 

「翔さんは代表候補生であるわたくしと引き分けましたわ。その実力、そして将来性を加味した結果、翔さんがクラス代表に相応しいと思ったのですわ」

 

「う~ん、固い、固いなぁ。もうちょっと読者を引き付ける部分が欲しいなぁ」

 

薫子は頭を掻くと

 

「いいや、『北山君に惚れたから』って捏造しておこう」

 

 

ボンッ!

 

 

「惚れた……とか、そんな……その……」

 

真っ赤な顔を両手で押さえるセシリアが誕生した。

 

 

「え?マジで?――北山君!」

 

再度翔にボイスレコーダーを向ける薫子。

 

「オルコットさんに対して一言!!」

 

「いや、一言って……」

 

「いいから!」

 

翔の後ろでは、美波が「いけー翔ちゃーん!ナデポだナデポー!」とヤジを飛ばしている。

 

「これじゃあ公開処刑じゃねぇかよ……だぁもう!」

 

観念したのか、翔はセシリアの前に立った。

セシリアの方も、両手で覆っていた顔を上げる。

 

「セシリア……」

 

((((ドキドキ……!))))

 

 

 

「ごめん」

 

 

 

「えっ……」

 

「「「「ええっ!?」」」」

 

セシリアの目からハイライトが消えかける。

 

 

 

「セシリアが俺に好意を向けてくれてることは理解してるつもりだし、嬉しい。それは間違いない」

 

「……」

 

「でもな、俺にとってセシリアは、互いに切磋琢磨する相手なんだよ。戦友、が一番しっくりくるか」

 

「戦、友……」

 

「だから……まだ俺は、セシリアを異性として見ることはできない」

 

それは、自分の想いが定まらないうちに半端な返事をしたくない、翔なりのけじめだった。

 

 

 

「……翔さんは先ほど、"まだ"とおっしゃいました。ならばわたくし、諦めませんわ」

 

「セシリア……」

 

 

 

「これはわたくしと翔さんの真剣勝負! 想い敗れるその時まで、全力を持って翔さんを振り向かせて見せますわ!」

 

 

 

「……はははは!」

 

突然翔が笑い出したかと思うと、セシリアに向かって右手を差し出した。

 

「分かった。ならこれから教えてくれ。セシリア、お前のことを」

 

「ええ、承りましたわ」

 

セシリアも右手を出して、握手を交わす。

 

 

「「「「セシリア、頑張ってー!!」」」」「ちょろインだと思ってごめーん」

 

「これはすごいスクープよ!明日の一面間違いなしよっ!」

 

 

クラスメイトから祝福(一部違うものが混ざっているが)を受けて、自分が公衆の面前で翔に(ほぼ)告白した事に今更気付いたセシリアは、また顔を真っ赤にすると、手で顔を覆って蹲ってしまうのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――同時刻、学生寮1025号室

 

自分のベッドに座りながら、織斑は頭を抱えていた。

 

「なんでだ俺が正しいはずだ男が女を守るのは当然のはずだなのにどうして翔の言葉をみんな肯定して俺を否定するんだおかしいじゃないか絶対おかしいだろ」

 

織斑は自分の世界に篭ってしまった。

 

彼にとって、"守る"というのは特別な意味を持っていた。

かつて自身が異国の地で誘拐された時、ISを纏って駆け付けた姉の姿を見て、"誰かを守ること"に憧れを抱いた。

そして幼なじみを助けた過去の経験から、『女=守るもの』という元々彼の中にあった構図が、さらに強固なものになったのである。

それだけであれば、ただの『正義感の強い人』だけで済んだのだが、彼の考えには問題があった。

 

彼からすれば、女は全て守るべき、守られるべき対象であり、そこに一切の例外はない。例えその女が自らを守る術を持っていても、例え自力でどうにかしようと考えていても。

相手の能力や思いを顧みない、見方によっては行き過ぎたお節介、大きなお世話とも言える行為。"相手にとって本当に必要かどうか"、その線引きが出来ないという重大な問題。

さらに『意思を曲げない強さ』という、本来美徳とも思える織斑の特性が、問題を致命的なものに変えてしまう。

 

「そうだ翔に負けたからだあいつに負けたからみんなあいつに騙されてるんだもっと力を手に入れなきゃ力を手に入れて俺が正しいと証明するんだそうすればみんな目を覚ますはずだ」

 

意思を曲げない。言い換えればそれは、自分が変わることが出来ないということ。だから織斑は周囲を、他者を変えることしかできないし、思考が及ばない。

例えそれが誰からも賛同されない力を持って、誰も求めていない行為であったとしても――

 

 

 

「一夏……」

 

そんな織斑を箒は心配そうな、そして不安な顔で見続けるしか出来なかった……

 




・想い敗れるまで諦めない:
翔→セシリアの好感度up(中)



これにて、セシリアは正式に一夏ハーレムから離脱となりました。

それでは皆様、よろしければご唱和ください。


「一夏に!ハーレムは!おとずれなぁい!!」


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クラス対抗戦
第12話 中国娘到来


凰鈴音(ふぁん りんいん)というのかい?
(なかなか文字変換で出てこない)贅沢な名だね。
今からお前の名前は鈴音(すずね)だ。いいかい、鈴音(すずね)だよ。分かったら返事をするんだ、鈴音(すずね)!


というわけで、新章開始でございます。


「おはよー北山君。転校生の噂聞いた?」

 

翔と美波が教室に入ると、クラスメイトの相川清香が声をかけてきた。

 

「転校生? この時期に?」

 

「そう、なんでも中国から来るんだってさ」

 

「2組に編入されるらしいよ」

 

「へー」

 

話を合わせるが、中国という単語で、2人はそれが誰かを察した。

凰鈴音(ふぁん りんいん)。中国の代表候補生で、織斑一夏の幼なじみその2である。

 

「あら、わたくしの存在を危ぶんでの転入かしら」

 

「はいはい」

 

「せめて流さずに何か返してくださいません!?」

 

清香とセシリアの掛け合いをよそに、クラスの話題は別の内容に移る。

 

「そういえば、クラス対抗戦の優勝クラスには賞品があるんだって!」

 

「知ってる! 学食デザートの半年フリーパス!」

 

「「翔(しょー)ちゃん、頑張ってねー!」」

 

賞品内容を聞いた途端、美波と本音が翔の左右からキラキラした視線を送る。

 

「1年のクラス代表で専用機持ちはうちと4組だけだし、セシリアと引き分けた北山君なら勝てるよ!」

 

 

「その情報、古いよ」

 

 

聞き覚えの無い声に、皆が教室の入り口を向くと

 

「鈴……? お前、鈴か?」

 

織斑が驚いたように立ち上がる。

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

少女――鈴音と名乗っていた――が腕を組み、片膝を立ててドアにもたれ掛かっていた。

 

「何格好つけてるんだ? すげえ似合わないぞ」

 

「んなっ……!? なんてことを言うのよアンタは!」

 

((((うわー、織斑君……))))

 

 

 

「おい」

 

「何よ!?」

 

後ろから突然声を掛けられた鈴音は、振り向き様に文句を言おうとして――

 

――スパーンッ!!

 

「もうSHRの時間だ。自分の教室に戻れ」

 

「ち、千冬さん……」

 

――スパーンッ!!

 

「織斑先生だ」

 

出席簿アタックを連続で受けた鈴音は、涙目になると

 

「また後で来るからね! 逃げないでよ! 一夏!」

 

そう言い残して逃げるように去っていった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside翔ー

 

今日は朝から騒がしい。

中国娘(凰鈴音)がエントリーしたと思ったら、織斑に関係を問いただそうとした篠ノ之が2人仲良く出席簿アタックを食らったり。

そして昼休み、美波とセシリアを連れて食堂に来たのだが――

 

「……」「……」

 

……何が楽しくて、篠ノ之と凰の睨み合いを見ながら飯を食わにゃならんのだ……。

 

「(い、いたたまれませんわ……)」

 

「(我慢だよセシリアちゃんー……)」

 

俺達3人だけでなく、食堂にいる人達全員、このギスギス空気の流れ弾をもらっていた。

唯一平気そうなのが、この空気の大元の原因である織斑だっていうのが余計腹立たしい。

 

「(とりあえず、さっさと食って出よう)」

 

「「(賛成ー(ですわ))」」

 

皿の上のものを急いで胃に入れて、トレーを持って下げようとしたところで

 

「ちょっと待ちなさいよ」

 

件の中国娘(凰鈴音)に呼び止められたんですが―。

 

「アンタがもう1人の男性操縦者?」

 

「そうだが?」

 

「知ってるだろうけど、もう1度名乗っておくわ。凰鈴音、中国代表候補生で、2組のクラス代表よ。鈴でいいわ」

 

「北山翔だ。北山と翔、どちらでも」

 

「なら翔って呼ぶわ。で、翔が1組のクラス代表なんでしょ?」

 

「ああそうだ」

 

「そっか。本当はクラス対抗戦では一夏と戦いたかったんだけど――」

 

そこまで言うと、鈴はビシッと指さすと

 

「もしあたしと当たっても手加減なんてしてあげないんだから、覚悟しておくことね!」

 

宣戦布告された。セシリアといい鈴といい、代表候補生はそうする規則でもあるのか?

 

「分かってる。こっちだって全力で戦うつもりだ」

 

トレーを返却すると、俺は一足先に片づけて入口で待っていた2人に合流した。

 

その際、俺と鈴のやり取りを見ていた織斑から睨みつけられていたが、そんなん知らん。

鈴と違って、お前は承諾も何もなく人のことを勝手に呼び捨てにしてただろうが。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

あっという間に放課後の帰り道。いやまぁ、さっきまでアリーナで訓練してたんだがな。

 

実は、俺は今も練習でラファールに乗っている。

本当は専用機に乗るべきなんだろうが、できればクラス対抗戦まで情報を伏せておきたいからだ。

データの欲しい政府やIS委員会の連中からしたら、面白くないだろうが。

山田先生も「クラス対抗戦では絶対に乗って下さいね? 絶対ですよ!?」って言ってたし。

 

そういえば、織斑も白式で練習していたのを見かけたな。自分の専用機が手に入ってようやっとらしい。

篠ノ之が横でアドバイスしていたが、「ガッとやってそこでグイッだ!」じゃ誰も分からんだろうよ。

 

 

 

さて、そんな寮への帰り道、美波と歩いていると

 

「あれ? 鈴ちゃんー?」

 

美波の視線の先には、道脇のベンチに座り、俯いている鈴がいた。

 

「アンタは……」

 

「北山美波だよー」

 

美波が鈴の正面に立つ。

 

「辛いことでもあったー?」

 

「別に……アンタには関係ないことよ」

 

「そっかー。でもねー」

 

美波は屈み込むと、鈴と目線を合わせた。

 

「辛い時は辛いって、言っていいと思うんだー」

 

「……本当に、アンタ達とは関係ないのよ?」

 

「それでもいいよー」

 

「……グスッ」

 

そして鈴は

 

「一夏の馬鹿ぁぁぁぁ!!」

 

美波に縋りつきながら泣きじゃくった。

 

ーside翔 outー

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――1210号室の前

 

ーsideセシリアー

 

Rome was not built in a day(ローマは一日にしてならず)』とある通り、翔さんに振り向いてもらうため、まずは手堅く、お茶に誘うことにしましょう。

茶葉良し。お茶請けのスコーン良し。完璧ですわ。

 

――コンコン

 

「どちら様ー?」

 

「セシリアですわ」

 

「はいはーい、ちょっと待ってねー」

 

いつもの様に美波さんの声が聞こえて来て、少しするとドアが開きました。

 

「今日はどうしたのー?」

 

「ええ、お2人とお茶をと思いまして」

 

わたくしが持っていたバスケット(紅茶缶とスコーン入り)を見せると、美波さんは少し悩むような顔をなさると

 

「実は先客がいるんだよねー。それでもいい?」

 

「先客ですの?」

 

どなたでしょう? 山田先生とかでしょうか?

 

「いいですわよ。お茶請けのスコーンも少し多めに用意しておりますし」

 

「分かったよー。それじゃあ入ってー」

 

美波さんに促されて中に入ると、そこには翔さんと

 

「あら? 貴女は――」

 

そう、確か中国代表候補生の凰鈴音さん、でしたか。

 

「アンタ確か、お昼に翔達と一緒にいた……」

 

「自己紹介をしていませんでしたわね。イギリス代表候補生、セシリア・オルコットですわ」

 

「セシリアね……あたしのことは鈴でいいわ」

 

「分かりましたわ。ところで……なぜ鈴さんが翔さん達のお部屋に?」

 

よく見ると、鈴さんの目は赤くなっていて、まるで泣いた後のようでした。

とはいえ、翔さんや美波さんが鈴さんを泣かせるとは思えませんし、もしかして――

 

「……織斑さんと、何かありまして?」

 

「……っ!」

 

ビクッと肩を震わせる鈴さんを見て、わたくしは何となく確信がついてしまいました。悪い方に。

 

「俺達も、詳しい話はまだ聞いてないんだ」

 

「それじゃあ鈴ちゃん、聞いていいかなー?」

 

「あの、わたくしが聞いてもいい話なのでしょうか?」

 

他人のプライベートを無断で聞くのはよろしくありませんわ。

 

「いいわよ……むしろあたしの愚痴に付き合ってよ」

 

「はぁ……」

 

そして鈴さんは、これまでの経緯を話し始めました――

 

 

鈴さんは小学5年の頃、日本にやってきたそうです。

当時は日本語があまり上手くなく、それが原因でいじめられており、その時手を差し伸べてくれたのが織斑さんだったと。

それがきっかけで彼に好意を抱いておりましたが、中学2年の時に両親の都合で中国へ帰国。

帰国後IS適正が見つかり、努力を重ねた結果代表候補生に。

そして、世界初の男性操縦者として織斑さんの名前が出た時、IS学園行きを希望したそうです。

 

そこまではただの美談なのですが、問題は帰国する前に鈴さんが織斑さんとした、とある約束なんだそうです。

 

「あたし、一夏に言ったの……『料理の腕が上達したら、毎日酢豚を食べてくれる?』って……」

 

「えーっと……」

 

どういうことでしょう?

 

「セシリアちゃんー、日本には『毎日味噌汁を作ってくれ』っていうのがあるんだよー。『毎日味噌汁を作るために、ずっと俺と一緒にいてくれ』っていう遠回しな言い方なんだー」

 

「なるほど」

 

美波さんの説明で納得出来ましたわ。つまり『毎日酢豚を食べてもらうために、ずっと貴方と一緒にいていいわよね?』という、鈴さんからのプロポーズだったと。

 

「それで放課後、一夏に聞いたの。『あの時の約束、覚えてる?』って。そしたら……」

 

まさか、覚えていなかったとか?

 

 

「『酢豚奢ってくれるんだろ?』だって!!」

 

 

「んんっ!?」

 

ちょっと待ってくださいまし。理解できませんわ。どうしてそうなりますの?

 

「……なぁ鈴」

 

「何よ」

 

()()()()に、そんな変化球が通じると思うか……?」

 

「うぐっ!」

 

……鈴さんの口から、まるで鳩尾を抉られたかのような声が出ましたわ。

 

けれど確かに、翔さんのおっしゃる通りですわ。あの織斑さんに婉曲表現が理解できるとは、到底思えませんわ……。

 

「そして『酢豚を食べさせる』って部分だけが残ったと―……」

 

切ないっ、切なすぎますわ……っ!

 

「そこに関しては、奴の鈍感力を見くびっていた鈴にも問題があったのかもな」

 

「そうね、あたしにも非があったのかもね……。勢いで引っぱたいちゃったし……」

 

鈴さんは紅茶(話を聞いている間に、わたくしと美波さんが用意したもの)を飲み干すと

 

「今度会ったら、引っぱたいたことは謝ってみる」

 

「そうだな。奴のことを諦めるにしろ諦めないにしろ、あとあと負い目になりそうなものは早い内に片付けとけ」

 

「分かってるわ。なんか言いたいこと言ったらスッキリしたわ。今日はありがとね」

 

そう言って、部屋を出て行きました。

 

 

鈴さんは大変ですわね。あの織斑さんを好きなってしまうなんて。正直、心配にもなってしまいますわ……。

 

「心配なのは分かるけど、今は鈴を信じてやろうじゃないか」

 

顔に出ていたのでしょうか。翔さんはわたくしの頭を、ポンポンと優しく撫でてくださいました。

 

「そう、ですわね」

 

――つくづく、わたくしが好きになった相手が翔さんで良かったと思いますわ。

 

ーsideセシリア outー




・鈴からの呼び捨てを許す:
織斑→翔の好感度down(小)

・泣きたい時に胸を貸してくれた:
鈴音→美波の好感度up(中)

・大切な約束を理解していなかった:
翔→織斑の好感度down(微小)
美波→織斑の好感度down(微小)
鈴音→織斑の好感度down(大)
セシリア→織斑の好感度down(中)


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第13話 束の計画

――クラス対抗戦2日前、スター・ラビット・カンパニー(SRC)

 

ーside翔ー

 

クラス対抗戦を明後日に控えた日曜日、俺と美波はSRCを訪れていた。

 

目的は俺の専用機の調整。何せ入学直前の3月末に受け取ってから、まともに起動してないのだ。それに、せっかく練習の時もラファールを使っていたのだ。出来れば対抗戦当日まで隠し通しておきたい。

そしてそれとは別に、束さんに直接会わなければならない理由があったからだ――

 

 

 

「2人とも、よく来たねぇ!」

 

SRC社屋の地下フロア。IS研究開発室で、束さんが俺達を出迎えてくれた。

 

「それじゃあショウママ、その子を預かるよ」

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

頷くと俺は、首から提げていたドッグ・タグ(待機状態の専用機)を外すと、束さんに渡した。

 

「どれくらいかかるのー?」

 

「損傷したわけじゃないから、30分くらいで終わるかな?」

 

束さんは部屋の中央にある装置のドアを開けると、ドッグ・タグを入れた。そして

 

「ポチッとな。はい、あとはシステムチェックが終わるまで全自動なのだー!」

 

「おーしゅげー! かんたーん!」

 

「むふふー! そうでしょうそうでしょう!」

 

美波の誉め言葉にどや顔。

 

「それじゃ、終わるまでお茶にしよう!」

 

そそくさと束さんは、部屋の隅にあった応接セットのテーブルから紙の山をどかし始めた。

 

「時間があるなら束さん、少し聞きたいことがあるんですが」

 

「なになに~?」

 

 

 

 

「明後日のクラス対抗戦、何かする気じゃありません?」

 

 

 

「……」

 

束さんの手が止まる。

 

「……どうしてそう思ったの?」

 

もちろん「原作知識が」などとは言わない。

 

「明後日の対抗戦には、各国から人が集まります。特に今年は、世界でも希少な男性操縦者(俺と織斑)を見るために」

 

「そうかもね。それで?」

 

「束さんは今のISの使われ方を是としていない。だから、それを伝えるために何かするんじゃないかなと」

 

「う~ん。でもそれなら、別に明後日じゃなくてもよくない? 例えば、今すぐ世界中の電波をジャックして演説を始めてもいいわけでしょ?」

 

面白そうだと顔に書いてありますよ、束さん。

 

「思ってもいないことを言わないでください。そもそも、各国政府やIS委員会の連中に言って聞かせて済むなら、今の世界はこんな歪んでませんよ」

 

「まぁねぇ。でも、言っても聞かないなら力尽くって、まるでちーちゃんみたいな発想だねぇ」

 

「違うよ束ちゃんー。織斑先生は口で言う前から実力行使(出席簿アタック)だよー」

 

「ブフッ!」

 

美波のツッコミ(しかもなんでこれが事実なんだよ……)に、束さんが吹いた。

 

「それで、いったい何をするつもりなんですか?」

 

「いやぁはははは、そこまでバレてるならしょうがないね」

 

束さんは壁に付いているボタンを押した。すると、壁の一部がシャッターのように上がっていく。上がった場所にはガラスが窓のようにはめ込まれていて、その先には――

 

 

 

「試作型無人IS『ゴーレムⅠ』だよ」

 

窓ガラスの向こうには、全身装甲型(フルスキン)のISが鎮座していた。

 

 

 

「無人機ですか……」

 

「本来は木星の高重力下みたいな、ISを使ってても有人じゃ危険な領域で作業をするために作ったんだけどね」

 

「危ない場所はロボットにやってもらおうってことー?」

 

「そうそう。しかも普通なら人が入るところに大容量コンデンサーとか付けられるから、高出力ビームを装備しても長時間稼働するってメリットもあるんだ。まぁ人間ほど柔軟な行動はできないけどね」

 

なるほど。宇宙進出の先、惑星開発も視野に入れてるわけか。

 

「で、このゴー君(ゴーレムⅠ)を対抗戦に乱入させるつもりだったんだ。『ISを兵器として使うことの意味』をもう1度考え直させるために」

 

ああうん、理由はともかく、そこは原作通りなのな。

 

「……それでショウママ、どうする? やめた方がいい?」

 

「そうですねぇ……」

 

「やった方がいいと思いまーす!」

 

シュバッと手を挙げて美波が言った。

 

「えーっと、ナミママ?」

 

「翔ちゃんも気付いてると思うけど、学園の授業内容には問題があるんだよー」

 

「問題?」

 

「そう、束ちゃんは嫌だろうけど、ISは兵器やスポーツとして見られてるよねー。なのに、それを扱う上での危険性について全然言及がないんだよー」

 

確かにそうだ。IS使用中の事故などによる負傷や死亡例と言った話が、教科書や参考書にまったくと言っていいほど載ってないのだ。

過度の恐怖心を与えないためとか言うのだろうが、舐めるなと言いたい。自動車免許を取る時ですら、教習所で事故映像を見るというのに。

 

「だからゴー君を乱入させて、『ISって、使い方を間違うと怖いものなんだ』ってみんなに思ってもらえばいいと思うんだー」

 

「ナミママ……」

 

「だけど美波、乱入させるのは良いが、そのあとどうするんだ?」

 

「え? 翔ちゃんが片付けるんだよー?」

 

「ファッ!?」

 

まさかの俺任せである。

 

「翔ちゃーん……」「ショウママぁ……」

 

2人してキラキラした目で見んな!

 

「はぁ……鈴との勝負はお預けになりそうだな……」

 

 

 

そんなこんなで束さんの『無人機によるIS学園襲撃計画(盛大なマッチポンプ)』が実行されることに決まった。

だが一応、俺からも注文は付けた。言ってしまえば脅かすのが目的であって死傷者を出したら意味が無いからな。

 

・乱入する時以外、ビームの出力を(アリーナのシールドバリアが破れない程度まで)落とすこと

・ISに乗ってる奴にしか攻撃しないこと

・ISに乗っていても、SEが切れて具現維持限界(リミット・ダウン)した奴は狙わないこと

 

これで最悪、俺が途中で力尽きて(SE切れになって)も、観客席に被害はいかないはずだ。

でもなぜだろう、まったく安心できる気がしないのは……。

 

ーside翔 outー

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside???ー

 

「ああもう! ホントに、あいつってば何なのよぉ!!」

 

「……」

 

いったい、私はいつまでルームメイト()の愚痴を聞き続ければいいんだろう。

 

「ちょっとティナ、聞いてるの!?」

 

「はいはい、聞いてる聞いてる」

 

「しかも言うに事欠いて『貧乳』ですってぇ!? ああもうああもう!」

 

そう言いながら地団駄を踏む鈴を見た。正確には、彼女の胸部。

そして視線を自分の胸部に移す。

 

「……フッ」

 

「ティィィナァァァ!! アンタ喧嘩売ってんの!?」

 

「はいはい、売ってる売ってる」

 

「むがー!!」

 

「で、結局その織斑君とはどうするつもりなの?」

 

最初は鈴が織斑君を引っぱたいちゃって、それに対して謝ったけど、その後またちょっとしたことから口論になってエスカレート、最後に織斑君が『この貧乳!』みたいなことを言ったんだっけ? 小学生か。

 

「……あいつが謝るまで、絶対に口利かない」

 

「ああそう……」

 

面倒だわー。

 

「とりあえず、明後日のクラス対抗戦に集中したら?」

 

私もスイーツのフリーパスは欲しいし。

 

「そ、そうね」

 

気を取り直したように見えた鈴だったけど、なんかまた萎れ始めた。

 

「今度はどうしたの?」

 

「いやあのね……1組に、北山って兄妹いるじゃない?」

 

「1組のクラス代表とその妹だっけ?」

 

「そう。で、一夏を引っぱたいた日に色々世話になってさ、その時に『あとあと負い目になりそうなものは早い内に片付けとけ』って言われたの……」

 

「ああ~……」

 

ダメじゃん。せっかく謝ったのに、また喧嘩して作ってるじゃん、負い目になりそうなもの。

 

「なんて言い訳すればいいのよ~……」

 

「知らないわよ……」

 

本当に、私のルームメイトは面倒臭いやつだわー……

 

ーsideティナ outー

 




貧乳発言:
鈴音→織斑の好感度down(大)


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第14話 クラス対抗戦~vs 凰鈴音~

「クラス対抗戦の対戦相手が決まるの、酢豚事件の翌日だろ」だって?
(∩゚д゚)アーアーきこえなーい


クラス対抗戦当日。

本来であればもっと前から発表されるはずの対戦カードが、今年は当日になって発表となった。

 

第1試合 1組 vs 2組

第2試合 3組 vs 4組

 

初戦から専用機同士の対戦となり、学園生徒達だけでなく、各国の政府やIS委員会の関係者もが、どちらが勝つかという話に花を咲かせながらアリーナの観客席(貴賓席)に集まっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――第2アリーナ、ピット内

 

ーside翔ー

 

「しっかし、すごい人の数だなぁ」

 

代表決定戦の観客が基本1組だけだったから、今回は単純に4倍。それに加えて各国からも人員が来てるわけか。

 

「クラス対抗戦は学年別個人トーナメントに次いで注目されてますからね!」

 

俺の独り言に山田先生が合いの手を入れてくれた。

 

「しかも今年は、男性操縦者の北山君が出場しますから」

 

「つまり、俺は客寄せパンダですか?」

 

「え~っと……」

 

言葉を濁して目を逸らすくらいなら、正直に言ってくださいよ。却って傷つきますって……。

 

『間もなく第1試合を始めます。両者、アリーナへ入場してください』

 

なんて話をしてる間に、アナウンスが入った。

 

「それじゃあ北山君、頑張ってくださいね!」

 

「はい」

 

山田先生の応援に頷くと、専用機の待機状態を解除した。

胸元のドッグ・タグが光り出し、俺の全身を包み込む。

しばらくして光が収まると――

 

「それが、北山君の専用機……」

 

 

 

 

 

「行くぞ、『ホワイト・グリント』」

 

かつての愛機に模した姿になっていた。

 

ーside翔 outー

 

 

ーside鈴音ー

 

全身装甲(フルスキン)のISですって?」

 

IS『甲龍(シェンロン)』を纏って先に入場していたあたしは、向かい側から出てきたISを見て眉をひそめた。

真っ白な全身に脚や肩の一部に黒色が見える、まるでアニメに出てくるロボットをサイズダウンしたかのような外見。

そして、大半のISにあるはずのカスタム・ウィング(翼型のスラスター)も見当たらない。まさか、背部にスラスターが付いてんの?

 

「今時全身装甲なんて、えらく時代遅れなものを使うのね、翔」

 

「そうかもな。まぁ、ロマン以外の目的もあるから期待しとけ」

 

「あっそ」

 

プライベート・チャネルで皮肉ると、翔からも反応が返ってきた。

 

全身装甲は第1世代機で主流だったけど、第2世代機以降SEの技術が発達するに従い廃れていった代物だ。装甲の重さ分、SEのコンデンサーを積んだ方が効率的ってわけね。

というか、今まで翔はラファール(第2世代機)に乗ってたって聞いてたんだけど? ある意味退化してない!?

 

「ま、時代遅れのISだろうと、手加減する気はさらさら無いんだけどね」

 

「それはもう聞いた」

 

「それもそうね」

 

そんな掛け合いをしながら、あたしは双天牙月(2基の青龍刀)を両手に展開した。それに合わせて翔も、両手に武器を展開する。

出てきたのは大型拳銃、しかも銃身下部にブレードのようなものが付いている。そんなものを2丁、両手に展開しているのだ。

 

「機体どころか、武器までロマンの塊なわけ?」

 

「そう言うなって」

 

「まぁいいわ。とりあえず……」

 

 

――試合開始のブザーが鳴った

 

 

「いっぱつ食らっときなさい!」

 

――ドォン!!

 

甲龍の特殊兵装・龍咆(衝撃砲)――空間に圧力をかけて砲身を成形、その時生じた衝撃を砲弾とする不可視の攻撃――を開幕叩き込んだ。

さぁ、翔がダメージを受けて怯んだ隙に――

 

「ダメだろ鈴、不意打ちなら御託を並べる前に撃たんと」

 

「っ!」

 

龍咆が……当たってない? 避けられた!?

 

「鈴の性格からして、その青龍刀で開幕切り掛かって来ると思ってたんだが、砲撃戦が好みだったか」

 

翔があたしに右手の銃を向けて――

 

「なら、俺もそれに付き合うとしようか」

 

――バララララッ!!

 

――ガンガンガンッ!!

 

「なっ!」

 

咄嗟に前面に出した肩部装甲を銃弾が叩く音に、あたしは背筋が冷えるのを感じた。あの連射速度、拳銃じゃない! アサルトライフルの類だ!

 

「勘がいいな。装甲外を狙ったつもりだったんだが」

 

「……上、等じゃない!!」

 

双天牙月を握る両手に力がこもる。肩部左右の龍咆を拡散衝撃砲に切り替え――

 

「全力で……ぶっ潰すっ!」

 

一斉射でぶっぱなした。

 

ーside鈴音 outー

 

 

――第2アリーナ、観客席

 

「しょーちゃん、相変わらず躱すのが上手いね~」

 

「ええ。わたくしとの時も、第2世代機とは思えない回避を見せておりましたから」

 

「専用機になって、さらに磨きがかかってるように感じるよ」

 

開幕の衝撃砲を躱した翔を見て、観客席は沸いていた。

 

「でも北山君、よく目に見えない砲撃を躱せるよね」

 

「ナミママ、その辺どうなの?」

 

「えー、私解説役じゃないんだけどなー」

 

そう言いながらも、美波は満更でもないようで

 

「翔ちゃん、ハイパーセンサーで空気の流れを見てるんじゃないかなー」

 

「空気?」

 

「あれって空気を圧縮して砲身とかを作ってると思うんだー。だから、空気の流れを見ていれば……」

 

「砲身の向きとかが分かる?」

 

「たぶんねー。砲身が見えても、それを躱せるかは別問題だけどー」

 

「「「「そりゃそうだ」」」」

 

美波の解説に、周りが一斉に頷く。

 

「でも、よく全身装甲であんな高速機動ができるよねぇ」

 

「そうだねー」

 

美波は相打ちを打つが、心では別のことを思っていた。

 

(あれで翔ちゃん、まだ全力機動してないんだけどねー)

 

そう、翔のホワイト・グリントは全力機動をしていないし、翔も極力しないようにしている。

なぜなら、全力機動するとPIC(慣性制御)最大でも7G近くかかるからだ。

7Gと言えば、戦闘機パイロットがドッグファイト(空中挌闘戦)中に気を抜くと『ブラックアウト』を起こすほどの圧力になる。

しかも、PICを最大稼働させてそれである。おいそれと全力を出すわけにはいかない。

 

「あっ、なんか近接戦に変わったみたいだよ!」

 

「ホントだ!」

 

衝撃砲が当たらないことに業を煮やしたのか、鈴音が青龍刀で翔に切り掛かっていくところだった。

観客が試合に熱中する中、美波だけが時計の針を気にしていた。

 

(そろそろかなー……?)

 

観客席の中で唯一、"これから何が起こるのか"を知っている人間だったから――

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside翔ー

 

「そこぉ!」

 

――カァンッ! ガキィィンッ!

 

「くっ……やっぱ鈴は接近戦の方が強いか」

 

「まだまだいくわよっ!」

 

 

戦いは龍咆と04-MARVE(突撃型ライフル)の撃ち合いから、青龍刀とライフル下部にマウントしたブレードの近接戦に移行していた。

 

「はっ! はっ!」

 

息をつかせぬ連撃に、時に受け流し、時に躱して対処していく。

ホワイト・グリントのSEはまだまだ残ってるが、むしろ俺の体力の方が切れないか心配になってくる。

それに対して、甲龍のSEは被弾数の割に5割近く残ってるし、鈴自身はまだまだ体力が有り余っているようだ。このフィジカルおばけめ。

 

「ああもう! いい加減当たりなさいよ!」

 

「無茶言うな……」

 

「それにアンタ、まだその銃しか出してないじゃない! それしか無いわけじゃないんでしょ!?」

 

「そりゃあ、まあ」

 

MARVE以外の武器も拡張領域(バススロット)に入ってはいる。02-DRAGONSLAYER(レーザーブレード)とか、SALINE05(分裂ミサイル)とか、EC-O307AB(レーザーキャノン)とか……。

 

「……すまん、まともに使えそうなのこれだけっぽいわ」

 

「はぁ!?」

 

うん、鈴が呆れるもの分かる。でもレーザーブレード以外、こんなところで使えんよ!

束さん! なんでこんなロマン(蹂躙)装備ばっかなんですか!

一昨日の俺! 束さんから返してもらった時に確認しとけよ! 04-MARVE(銃剣仕様)が入ってることに浮かれて忘れてたわチクショウめぇ!

 

「はぁ……いいわ。とにかく、まだ勝負は付いてないんだから――」

 

 

――バリィィィィィンッ!

 

 

「な、なにっ!?」

 

驚きながら轟音の発生源の方を向く鈴に倣うように、俺も上を向いた。

 

アリーナの周囲を覆っていたバリアに、ポッカリ穴が開いていた。

 

――チュィィィンッ!

 

「「っ!」」

 

咄嗟に俺と鈴が後退した正面に、赤い光が降り注ぐ。

その光に真下の地面が焼かれ、一部が高熱でガラス化する。

 

「ビーム兵器、ですって……?」

 

そしてバリアの穴を通り、こっちに向かって来たのは――

 

「なんだって言うのよ……!」

 

(とうとう来たか……!)

 

 

一昨日SRCの地下で見た、試作型無人IS『ゴーレムⅠ』、()()3()()がアリーナ上空に浮かんでいた。

 

ーside翔 outー




ホワイト・グリント:
翔がかつて搭乗していたネクスト機。
『Unknown』(=ラインアークでORCAに倒された人)とは別人。という設定。


ところで04-MARVEやAR-O700の下部に付いてるブレード、初見だと絶対銃剣と勘違いしそう。
……自分もあのOPに踊らされた1人でした。


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第15話 招かれざる咎人~帳尻合わせの対価~

一夏やらかしポイント



突然現れた正体不明のISに、観客席は騒然となっていた。

そしてそれは、管制室も同様であった。

 

――第2アリーナ、管制室

 

ーside千冬ー

 

「どうなっている!? 状況の報告を!!」

 

「アリーナ上空のバリア消失!」

 

「レーダーには何の反応がありませんでした! 恐らくステルスかと!」

 

学園の警戒網を突破するほどのステルス性能だと……!?

いや、それよりも生徒と来客の安全確保が先だ!

 

「アリーナ全域に避難警報! それと教師部隊に緊急出動(スクランブル)を掛けろ!!」

 

「了解! 第2アリーナ全域に避難けいほ……っ! 警報が鳴りません!」

 

「なんだと!?」

 

「それだけではありません! 観客席の扉がロックされた上、格納庫の隔壁も閉鎖! こちらのアクセスを受け付けません!」

 

(学生の避難も、教師部隊の出撃も封じられたのか……!)

 

「こちら管制室織斑だ。北山、凰、応答しろ」

 

私はアリーナ内にいる北山と凰をコールした。

 

『凰です。聞こえてます』

 

『北山です。こちらは現在謎のISと睨み合ってる状態です。そちらの状況は?』

 

「……正直芳しくない。現在何者かのハッキングを受けていて、教師部隊によるそちらの救援はおろか、観客席にいる生徒の避難すら出来ない状態だ」

 

『最悪な状態なのは分かりました。しばらくは俺と凰だけでどうにかしろってことですね?』

 

「すまない……。こちらでも、他の教師陣や3年生達にハッキングの解除を急がせて『Unknowmが動き出しました!』っ!」

 

くそっ!最悪だ!

 

「北山!凰!交戦を許可する! 生き残ることを最優先に、教師部隊の到着まで持ちこたえてくれ!」

 

『『了解!』』

 

通信が切れ、私はマイクを置いた。

 

「織斑先生……」

 

「山田君、手を止めている暇はない。一刻も早くハッキングを解除するんだ」

 

「はい!」

 

学園のセキュリティを抜くほどのハッキング……お前なのか、束……

 

ーside千冬 outー

 

 

ーside翔ー

 

「というわけだ。悪いが、襲撃された時にアリーナにいた自分の不幸を呪ってくれ」

 

「何言ってんのよ。それはお互い様でしょ」

 

そうこう言ってるうちに、3機のうち2機が俺達に向かって突っ込んでくる。

 

「1機は任せて構わないな?」

 

「当たり前でしょ? 先に倒して助けに行ってあげるわよ!」

 

「そりゃどうも!」

 

俺と鈴が左右に分かれると、それを追いかけるように向こうも2手に分かれた。

 

「さて、頑張って(盛大なマッチポンプの)相手しますか」

 

謎のIS(ゴーレム)と向かい合ったところで、俺は展開済みのMARVEの下部ブレードで切り掛かった。

 

――カキィィンッ!

 

固った! 首部分に当たったはずなのに、めちゃくちゃいい音したんですけど!?

 

「まぁそれならそれで、やりようはあるんだけどな」

 

右手をMARVEから02-DRAGONSLAYER(レーザーブレード)切り替え(ラピッドスイッチ)。形成したレーザー刃で再度切り掛かる!

 

――ズバンッ!

 

袈裟懸けに切られた敵の右腕部と頭部が宙を舞った。

然しものゴーレムも、高出力のレーザー刃は防ぎ切れないようだ。

 

「翔!? アンタ――!」

 

「鈴、こいつら無人機だ」

 

「無人機!? 噓でしょ!?」

 

「嘘じゃない」

 

そう言って、左手のMARVEで地面に落ちた部位を指した。

 

「……ホントだ、血が出てない」

 

こういう時に、ハイパーセンサーって便利だな。ここからでも地表に落ちたものがよく見える。

 

さて、鈴の方を援護するか。

 

俺は再度レーザー刃を作ると、鈴と対峙していたゴーレムを背後から切り捨てる。これで2機目か。

 

「誰も助けてなんて言ってないんだけど?」

 

「そんなこと言ってないで、さっさと最後を倒すぞ」

 

「分かってる――って、翔、アンタ――」

 

鈴が指さす方を見ると、レーザー刃がどんどん短くなっていって――消えた。

 

「エネルギー切れ!?」

 

「ちょっと! まだ1機残ってるのよ!?」

 

くそっ! てっきりSE依存の武器だと思い込んでたけど、武器固有のエネルギー使うのか! 装備の確認を怠ったツケが、こんなところで回ってくるなんて……!

 

と思ってたら、最後の1機がおもむろに腕を上げた。見えたのは、真っ黒い腕から生えている、砲口――

 

「まっず!」

 

――チュィィィンッ!

 

次の瞬間、高出力ビームがホワイト・グリントの右肩装甲を掠めた。

さらに、いくらかのSEを削ったビームはほぼ減衰なしで、観客席のシールドバリアに直撃する。

 

――パシィィィンッ!

 

バリアは……良かった、突破されてない。だけど……

 

「翔! 結構まずい状態かも!」

 

「ああ……今のビームがバリアに当たったことで、生徒達がパニックを起こし始めた」

 

眼前には、我先にと出入り口に殺到し、開かない扉を叩く生徒達が見えていた……

 

ーside翔 outー

 

 

ーside箒ー

 

「一夏! おい聞こえないのか、一夏!」

 

周りがパニックを起こしている中、席に座ったままの一夏を揺するが反応が無い。

 

「分かったよ、箒。分かったんだ……」

 

「一夏?」

 

「白式が、どうして千冬姉と同じ零落白夜を使えるのか……」

 

そう呟くと一夏は立ち上がり、出入口に殺到するクラスメイト達とは反対の、最前列の方に歩いて行く。

 

「そうさ……こんな時のためにあったんだ……」

 

「一夏……何を言っている……?」

 

「鈴や翔じゃあ、今戦ってるアイツを倒せない。アイツを倒すには、一撃必殺の強い力が必要なんだ……」

 

「いち、か……?」

 

「そうだ……!零落白夜を持った俺が!」

 

最前列まで来た一夏は、右腕をかざすと

 

「来い、白式!」

 

白式を纏い、雪片弍型を抜いて――

 

「っ! 止せ一夏! 止すん――!」

 

気付いて声を上げた時には、すでに手遅れだった。

 

バキィィィィィンッ!!

 

零落白夜で観客席のシールドバリアを、()()()()()()()()()()を斬り裂いていた――

 

「俺がアイツを倒す!そうだ!俺が倒して、みんなを守るんだ!」

 

そのまま一夏は上空へ、謎のISに向かって舞い上がっていった。

 

「なぜだ……なぜなんだ、一夏……」

 

残されたのは、自分達を守っていたものを失い、パニックが頂点に達したクラスメイト達。

そして、唖然とした顔で立ち尽くすしかない私だけだった……

 

ーside箒 outー

 

 

ーside セシリアー

 

(なんて事をしてくれましたの……っ!!)

 

美波さんと一緒に、パニックの中で怪我をした人の手当てをしていたわたくしは、心の中で思わず舌打ちしてしまいました。

敵の攻撃で破られたのならまだしも、自分からバリアを切り裂くなんて!

しかもここには、自衛できない方々が大勢いるんですのよ!?

 

「セシリアちゃんー。最悪、出入り口の扉を破壊してでもみんなを逃がすべきだと思うな―」

 

「ええ、確かにそうですわね……」

 

器物損壊だとか、もはやそんなことを言ってられる場合じゃないですわ。

 

「分かりました。ブルー・ティアーズの武装を一点集中すれば、扉を破れると思いますわ」

 

そう言って、ブルー・ティアーズを展開しようとした時、

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

クラスメイト達の悲鳴に顔を上げて見えたのは、

 

ただ闇雲に突撃をかける白いIS(白式)に対して攻撃を加える謎のISと、

 

()()()()()()()()()()()()()回避しようとして失敗し、攻撃が掠って墜落していくお馬鹿さん(織斑一夏)と、

 

 

迫りくる、ビームの赤い光――

 

 

「……っ!」

 

その瞬間、思わず目をつぶってしまいました。

ですが、待てどもビームの衝撃来ず、ゆっくり目を開けると

 

「あ……ああ……」

 

見えたのです。

謎のISとは違う、先ほどの白とも違う、白い閃光(ホワイト・グリント)の背部が――

 

ーside セシリア outー

 

 

ーside 翔ー

 

観客席にビームが迫った時、俺は半ば無意識にホワイト・グリントを全力機動で動かしていた。

 

「ぐッ……!」

 

全身装甲を耐Gスーツ代わりにしても、7Gもの圧力がかかる全力加速。

だがそのおかげで、何とかビームと観客席の間に割り込むことが出来た。

 

(盾になりそうな装備はない……これで何とかするしか……!)

 

展開したのはEC-O307AB(レーザーキャノン)。だがチャージするような時間はない。

だから、両肩3門ずつ6本の砲身を無理やり前面に展開して――!

 

「持ちこたえろぉぉぉぉ!」

 

 

ミシミシミシッ!!

ジジジジジジジ――ッ!!

 

 

ビームと接触し、砲身が圧壊する音と、高熱で溶解する異臭が立ち込めてくる――!

 

そして6本の砲身が砕け、咄嗟に胴体を隠すように構えたMARVEも破壊され――

 

 

SEを残り2割まで削ったところで止まった。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

「翔ちゃん!?」「翔さんっ!」

 

後ろから美波とセシリアの声が聞こえる。良かった、無事だったか……。

 

何とか防いだ……けど、次が来たら無理だな……。

MARVEを始め、装備のほとんどが全損やエネルギー切れで使えない状態だ。

 

……出来れば最後まで使いたくなかったが、そうも言ってられなくなったか。

 

(特攻紛いのマネだしなぁ……あとで絶対2人に泣かれそう……けど、こうなったら――!)

 

「覚悟を決めてやってやるよぉ!」

 

――ドンッ!

 

次弾を撃たれるより先に、瞬時加速(イグニッション・ブースト)でゴーレムに張り付く! そして羽交い絞めにした状態で上空のバリアの穴まで上昇して――

 

(残存SEを圧縮――)

 

同時に脚部、胸部、および肩部の整波装置を展開。頭部カメラアイの防護シャッターを閉鎖。

 

(圧縮エネルギー、臨界に到達――)

 

 

 

 

 

「――ぶちかませぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

防御用のSEを圧縮・解放することで、周囲の全てを閃光と衝撃で薙ぎ払う、AA(アサルト・アーマー)

最後のゴーレムが、その光と轟音の中に消えていくのを、ハイパーセンサーで確認して

 

 

 

 

 

 

 

俺の意識は落ちた。

 

ーside 翔 outー




バリアを破壊してみんなを危険に晒す:
女子生徒達→織斑の好感度down(特大)


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第16話 嵐が過ぎて

自分の認識としては、アリーナのシールドバリアって、穴を開けられると一度解除して再起動しないと張り直せないタイプかなーと思ってました。



――第2アリーナ、管制室

 

ーside真耶ー

 

「Unknown最後の1機、反応消失(シグナル・ロスト)!」

 

「終わった、のか……?」

 

私の報告に、織斑先生はそれしか呟くことが出来ませんでした。

 

「北山君、凰さん、聞こえ――」

 

とにかく状況を確認するため、北山君と凰さんに通信を繋いだ途端

 

『翔ぉぉぉぉ!!』

 

凰さんの悲痛な声に慌ててアリーナのカメラモニタを見ると、具現維持限界(リミット・ダウン)で展開解除された北山君が落下していくのが見えました。

 

『くっ!』

 

凰さんも追いかけようとしますが、落下スピードが速すぎます!

 

私は最悪の結末を覚悟しました。

……けれど、北山君が地面に叩き付けられることはありませんでした。なぜなら――

 

 

 

「別の……全身装甲……?」

 

 

 

映像の視界外から全身装甲のISが現れると、北山君を受け止めていたのです。

全身淡い青色で、両肩にどういう意味か『UN』と『14』のマーキングが施されている機体……。

 

「新手か!」

 

「サーチ開始……っ! 学園のデータベースに該当あり!」

 

「何!?」

 

「機体名『不知火』、操縦者は……北山さんです!」

 

「北山……北山妹か!」

 

対比検証としてお兄さんの北山君と共に貸与されて、これまで使用していませんでしたが……あれが……!

 

北山君を抱えた北山さんは、そのままピットへ移動していきました。 ……はっ、それどころじゃない!

 

「こちら管制室山田です! 第2アリーナWピットへ至急医療班を寄越して下さい!」

 

具現維持限界(リミット・ダウン)で展開解除するほどだったんです! 無傷なわけありません!

 

「織斑先生! ハッキングが止みました!」

 

「なんだと!?……教師部隊に出撃指示! アリーナ周辺を捜索、残敵がいないか確認させろ!」

 

「了解!」

 

タイミングが良すぎる気がします……けれど、今は一刻も早く事態を収拾するのが先決です。

 

「なぜあんなマネをした……一夏……!」

 

小声だったこともあり、織斑先生の悲痛な声は、私にしか聞こえていませんでした……。

 

ーside真耶 outー

 

 

――スター・ラビット・カンパニー(SRC)地下、研究開発室

 

ーside束ー

 

「ショウママ……」

 

ゴー君のカメラアイから送られてきた最後の映像には、展開解除されて宙に投げ出される、ショウママが映っていた。

 

「どう……して……」

 

ショウママの注文通り、ビームは観客席のバリアを破らないように調整していたのに。当初はそれで問題なかったのに。

だからこそ、ハッキングを仕掛けたのに。観客を逃げられないように、今起こってることをしっかり認識させるために。

 

 

まさか、バリアが()()()()破られるなんて想定していない。

 

 

「いっくん……! あそこには箒ちゃんだっていたのに……!」

 

今回の襲撃を計画したのは私だ。だからこれは逆恨みなのかもしれない。

でも……それでも、この事態を引き起こした"親友の弟"に、怒りを禁じえない。

 

もしショウママが身を挺して守ってくれなければ、他の観客もろとも、箒ちゃんも消し炭になっていたかもしれない。

私はまだ、箒ちゃんに、謝れてないのに……!

 

「――そうだ、お見舞いに行こう。束さん特製の医療用ナノマシンとか用意して!」

 

棚の中を引っ搔き回し、お目当てのものを拡張領域に放り込むと、私は大急ぎで研究室を出て行った。

 

ーside束 outー

 

 

――IS学園医務室、集中治療室

 

ーside美波ー

 

翔ちゃんは、まだ目を覚まさない。

ピットから担架でここ(集中治療室)に運ばれて、医療ポッドに入れられて、そのままだ。

 

「……」「……」

 

私もセシリアちゃんも、何を話すでもなく、ただただポッドの横で椅子に座って、ガラス部分から見える翔ちゃんの顔を見ていた。

 

内臓の損傷、全身の火傷、擦傷に至っては数えきれないほど。

いつ死んでもおかしくない重症だった。仮に峠を越えても、なにかしらの後遺症は残るかもしれないと、お医者さんからも言われた。

 

――ピコンッ

 

その音が、自分にメールが届いた音だと気付くのにしばらくかかった。

スマホを取り出してディスプレイを――

 

 

『差出人:束ちゃん  件名:そこの窓開けてー』

 

 

「っ! セシリアちゃん! そこの窓開けるよ!」

 

「は、はい!?」

 

セシリアちゃんの返事を聞く時間も惜しんで、私は部屋に1つだけある窓の鍵を外して開けた。すると

 

「束さん! 参、上!」

 

束ちゃんが、窓からスライディングで飛び込んできた。

 

「ナミママ! ショウママは!?」

 

「こっち!」

 

「えっあの……」

 

ごめんセシリアちゃん! 今は時間が惜しいから!

 

「容態は!?」

 

「お医者さんの話だと、内臓の損傷と火傷、それと無数の擦傷!」

 

「よしっ! それくらいならこれで……!」

 

そう言うと、束ちゃんは注射器を拡張領域から取り出して、一緒に出したアンプルの中身を詰め始めた。

 

「ナミママ、ポッドを開けて!」

 

「りょうかい!」

 

「ちょっ、勝手にそのような……!」

 

ええいっ、止めるなセシリアちゃん!

 

「これを血管注射でブスリと……これでよし!」

 

翔ちゃんの右腕に注射を打つと、ひと段落着いたとばかりに束ちゃんは額の汗を拭くような仕草をした。

 

「束ちゃん、これで翔ちゃんは大丈夫なんだよね……?」

 

「もち! 束さん特製の医療用ナノマシンを注射したから、2,3時間で元に戻るはずだよ」

 

「そっかー……」

 

それを聞いて気が緩んだのか、私は崩れ落ちるように椅子に座り込んだ。

 

「あ、あのー、美波さん?」

 

「あえ~?」

 

「こちらの方は……?」

 

あっそうか。セシリアちゃん面識なかったもんねー。

 

「篠ノ之束だよー」

 

軽ーい感じで束ちゃんが自己紹介をした。昔は私や翔ちゃん以外、相手の顔すら見ようとしなかったから、これでも成長したんだよねー。

 

「篠ノ之束!? あのIS開発者の!?」

 

「そだよー」

 

あ~、セシリアちゃんのテンプレな驚き方に、束ちゃん喜んじゃってるよー。

 

「それで、篠ノ之博士」

 

「ん?」

 

「翔さんに打ったナノマシン?ですが、副作用などは……」

 

「おいおい、この束さんが作ったものに、副作用なんてあるとでも?……Exactly(その通りです)

 

「ちょぉぉぉ!?」

 

セシリアちゃん、おちょくられてるから。

 

「それで束ちゃん、どんな副作用なのー?」

 

「このナノマシンは体の新陳代謝を活性化させることで、傷の治りをものすごーく早めるってものなのです」

 

「IS学園でも治療用ナノマシンはありますが、それ以上のものなのですの?」

 

「チッチッチッ、束さんの方が遥かに高性能なのだよ」

 

あれ? 学園のより高性能ってことは……

 

「もしかして、"治療のために、体中から大量のエネルギーを消費する"ってことー?」

 

「ナミママせいかーい! だから目が覚めたら、今度は空腹で動けなくなってると思うよ」

 

それなら、今度病室に来た時にいっぱい食べ物持ってくればいいねー。

 

「さて、あんまり長居するとちーちゃんに見つかりそうだから、今日はこれで帰るねー」

 

束ちゃんはそう言うと、来た時と同じように窓からスライディングで病室を出て行った。

 

ーside美波 outー

 

 

――???

 

ーside翔ー

 

辺り一面、真っ白な世界。

これはあれか? 死に戻った(ロキ部屋行き)か?

 

『いいえ、貴方はまだ生きています』

 

突然の声に振り向くと、そこには見知った奴がいた。本来、()()()()()()()奴が――

 

「これは一体、どういう仕組みなんだ? なぁ……フィオナ」

 

かつて別の外史で出会い、先代(Unknown)からホワイト・グリントを引き継ぎ、戦い、別れた時のままの姿で、彼女はそこにいた。

 

『正確には、私は貴方の知るフィオナ・イェルネフェルトではありません』

 

「どういうことだ?」

 

『貴方が()を操縦していく中で、貴方の記憶の中の『フィオナ・イェルネフェルト』が焼き付き、そして私が生まれました』

 

『私を操縦』って……おい、つまりそれって……

 

「まさか、お前は……」

 

『そう、私は――』

 

 

 

 

 

『私は、ホワイト・グリント。IS『ホワイト・グリント』の、コア人格です』

 

 

 

 

 

「ISコア……」

 

『だから、私はホワイト・グリントであると同時に、フィオナ・イェルネフェルトでもあります』

 

束さんから、ISコアの深層には独自の意識があるとは聞いていたが、まさかこんな風に相対することになるとは……。

 

「あ~……とりあえず、今はフィオナと呼んでおく」

 

『分かりました』

 

「それでフィオナ、俺はまだ生きてるんだな?」

 

『はい。QB(クイックブースト)による内傷、ビームを受けた際の熱による火傷、AA使用時の衝撃による外傷、および展開解除され落下した際の衝撃で気を失っている状態です』

 

うん。死んでないだけで、結構ボロボロだな。

 

『とはいえ、『ドクター』が訪れたようなので、心配はしなくてよいかと』

 

「ドクター……束さんか?」

 

俺の問いに、フィオナが首を縦に振る。

 

『さぁ、そろそろ意識が覚醒する頃です』

 

「そうか……」

 

心なしか、眠気のようなものを感じて来た。

 

『それではまた、いつかお会いしましょう……マイ・マスター』

 

「その顔で……マスターは……違和、感が……」

 

最後まで言い切ることが出来ずに、俺はまた意識を失った。

 

ーside翔 outー

 

 

――IS学園、理事長室

 

ーside千冬ー

 

私は理事長室で今回の顛末、その詳細を説明していた。

しかし今回は、轡木理事長だけでなく、IS委員会日本支部長の男も同席していた。

 

「なるほど、大筋の話は理解できました」

 

理事長は頷くと、向かいのソファに座っている支部長の方を向き

 

「IS委員会としては、今回の件をどう判断されていますか?」

 

「謎のISの侵入とハッキングを許した件については、警備プランの再考と提出を学園側に要求する旨で、各国とも意見が一致しています」

 

警備プランの再考だと? どれだけ強固にしようとあいつ()が相手では意味がないぞ……!

だが、あいつがやったという確証がない以上、やらざるを得ないか……

 

「そして各国はおろか、国内でも意見が割れているのが……()()()()()()()についてです」

 

「なっ! どういうことですか!?」

 

なぜ一夏の処遇などという話になる!?

 

「どういう? あれだけの問題を起こしたのですよ? 多くのIS操縦者の卵を死なせかねないマネを」

 

一夏がシールドバリアを破壊したことか……!

 

「……委員会の意見がまとまらないため、今回の彼の処遇については、学園側にお任せします」

 

「……分かりました」

 

理事長が頷いた。状況は良くないが、なんとか学園内で収めることができそうか……。

 

「それでは私はこれで」

 

そう言って支部長は立ち上がると、部屋のドアに向かって歩いていたが

 

「それとこれは独り言なのですが」

 

「? なんですか?」

 

「最初に今回の事件内容が知らされた時、『織斑一夏を研究所送りにしよう』という意見もあがっていました」

 

「なっ!」

 

一夏を……研究所送りだと!?

 

「委員会内で多数決を取った結果、ギリギリ規定数を満たさず流れましたがね」

 

「そうですか……」

 

「ただ、反対票を入れたメンバー全員が口にしていましたよ」

 

 

 

「『千冬様(ブリュンヒルデ)の弟でなければ、何の躊躇いもなく研究所(処刑台)送りにしたのに』、と」

 

 

 

「……っ!!」

 

「それでは、改めて失礼します」

 

「――待ってください」

 

「何ですか?」

 

「貴方は……貴方はどう思われているのですか?」

 

ドアノブを握ったまま

 

「……私には年の離れた従妹がいましてね。今はIS学園に在籍しています」

 

振り向いた支部長の目は

 

「北山翔。彼がいなければ、あの時、あの場所(対抗戦の観客席)で、死んでいたでしょうね……()()()()()()のやらかしの所為で」

 

怒りと憎悪がこもっていた――

 

ーside千冬 outー

 




一夏のやらかし:
束→織斑の好感度down(特大)

みんなの盾に:
美波→翔の好感度up(特大)
セシリア→翔の好感度up(特大)

観客のみんなは逃げるのに必死で、この時点では翔の活躍を認識してないです。
(前回入れ忘れた後付け設定)

不知火:
かつて美波が搭乗していた戦術歩行戦闘機。
淡い青の機体カラーと『UN』の文字は、つまりそういうこと。
『14』の数字は『1個中隊12機編成+2機』ということで、つまりそういうこと。


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第17話 目覚め

ーside翔ー

 

目が覚めると、病室らしい部屋のベッドの上だった。

 

「……知らない天井だ」

 

まさか、自分がこのセリフを言うことになるとは思わなかった。

 

とりあえず起き上がろうとして……うん、普通に上半身は上がるな。

どうやらフィオナが言ってた『ドクター(束さん)』がどうにかしたのだろう。

 

「翔ちゃん?」

 

声のする方を向くと、ちょうど部屋のドアを開けた美波だった。

 

「おう」

 

「翔ちゃん……」

 

美波はツカツカと俺の方に歩いてくると

 

――パチンッ!

 

「痛った!?」

 

不意打ちデコピンは卑怯じゃありません!?

 

「翔ちゃん無理しすぎー」

 

さらに追い打ちをかけるように、美波が俺の頬を両手でサンドして

 

「私も、セシリアちゃんも心配したんだよー?」

 

「……」

 

「も~、ちゃんと分かってるー?」

 

「分かってるって」

 

そりゃ、分からんわけないだろ。

 

 

そんな涙目で言われたらさ……。

 

 

「ただいま、美波」

 

いつものように、頭をポンポンと撫でる。

 

「うん。おかえり、翔ちゃん」

 

 

 

――グウゥゥーッ!

 

 

 

「……」

 

「……」

 

まぁ、何というか……

 

 

 

俺の腹の音だ。

 

 

 

「「……プッ! アハハハハハハッ!」」

 

もう、2人して笑うしかなかった。

 

「翔ちゃん、ロマンなさすぎー」

 

「しょうがねぇだろ、寝てたって腹は減るんだよ」

 

「それについては、束ちゃんが原因なんだけどねー」

 

そう言って、美波は昨晩のことを話し出した。

AAでゴーレムを撃破したものの、展開解除されて真っ逆さまに落ちたこと。

落下した俺を美波が不知火でキャッチしたこと。

そのまま学園内の集中治療室に運ばれたこと。

後遺症が残る可能性を伝えられたこと。

束さんがやってきて、医療用ナノマシンを注射したこと。

そのナノマシンの効果で、一般病室に移されるほどに回復したこと。

 

「で、翔ちゃんが空腹で仕方ないのは、ナノマシンの副作用なんだってー」

 

「まぁ、火傷と内傷で後遺症が残る可能性に比べたら、許容内のデメリットだな」

 

「だねー」

 

――コンコン

 

「美波、翔はまだ――って翔!?」

 

鈴だった。

 

「翔! アンタもう大丈夫なの!?」

 

「おう、見ての通りだ」

 

「そっか~……」

 

鈴はそう言うと、ベッドの横にあったパイプ椅子に座り込んだ。

 

「そうだ、結局クラス対抗戦はどうなったんだ?」

 

「あんなことがあったのよ? 中止よ中止」

 

「だよねー」

 

それもそうか。当たり前のことを聞いちまったな。

 

「それより、今回の件、箝口令が敷かれるらしいわよ」

 

「箝口令?」

 

「そう。『IS学園が襲撃されるなんて、IS神話に傷がつく』って、女性権利団体からIS委員会経由で圧力がね」

 

「そうか……」

 

ありもしない神話を守るために、事実を隠蔽するつもりか。

束さん。どうやら、言っても聞かないどころか、事を起こしても無視し続けるつもりらしいですよ。

 

「誰から聞いたのー?」

 

「箝口令のことを聞かされた時、千冬さんからチラッとね」

 

「鈴ちゃん、織斑君と幼なじみだから、織斑先生ともその頃から面識あるんだもんねー」

 

「う、うん……」

 

「? どうしたのー?」

 

美波が不思議そうな顔をすると、鈴は俺と美波の顔を見て

 

「2人に、言っておかなきゃならないことがあるの」

 

「「?」」

 

「あたし……」

 

 

「一夏のこと、諦めたから!」

 

 

「……そっかー」

 

「……理由を、聞いてもいいか?」

 

「転入すぐに、一夏を引っぱたいたことあったでしょ?」

 

あったな。色々勘違いされた酢豚の件。

 

「実はさ、あの後一夏に謝ったんだけど、別のことで喧嘩になっちゃってさ」

 

「あれほど負い目を残すなと言ったのに……」

 

「それ今は言わないでよ! で、あたしもその時は頭に血が上っててさ、口も利かなかったのよ」

 

何があったかは知らないが、かなりお冠だったんだな。

 

「でもホントはさ、仲直りする気はあったんだ。……その時はまだ、一夏のことが好きだったから……」

 

頑張って作り笑顔を作ろうとして失敗した鈴は、顔を俯かせて

 

「でも、一夏が観客席のバリアを破ったのを見た時……ダメになっちゃった」

 

「……」

 

「あいつ、昔から『俺が守る』って口癖のように言ってたのよ……でも、ホントは何も考えてないって、あれを見て、分かっちゃったから……あの時、あたしを助けてくれた時も、たぶん、何も考えて……何も思って……」

 

「鈴ちゃん……」

 

俯きながら、パタパタと涙を流す鈴を、美波がゆっくりと抱きしめた。

 

「だから、あたし……」

 

「うん」

 

 

 

 

 

「ナミママの子になる!」

 

 

 

 

 

「「んん!?」」

 

どうしてそうなった

 

ーside翔 outー

 

 

――学生寮1025号室

 

ーside千冬ー

 

「どうしてだよ千冬姉!」

 

先ほど決まった一夏の処遇について伝えに来たのだが、案の定か。

 

「どうして俺が懲罰房なんかに!」

 

2週間の懲罰房行き。それが一夏に科された処分だった。

だが、本来ならもっと厳罰に処されるはずだった。それを何とか減刑してもらい、2週間になったのだ。

 

「織斑、お前、自分が何をしたのか理解していないのか?」

 

「分かってるさ! みんなを守るために戦ったんだからな!」

 

守るだと?

 

「……観客席のシールドバリアを破ることがか?」

 

「それは……でも、みんなを一刻も早く助けるためには仕方なかったんだ。必要なことだったんだよ!」

 

「その結果、戦闘に参加、いや乱入したお前は敵機のビームを食らってあっさり撃墜、ビームはそのまま観客席を目指し、最悪生徒達が犠牲になっていたかもしれないわけだが?」

 

「わざとやった訳じゃない!……不可抗力、そう、不可抗力なんだよ!」

 

「……なるほど、不可抗力か」

 

「そう、不可抗力さ! それに、結局みんなに被害はなかったわけだし、結果良ければ全て良しだろ?」

 

「北山が被害を受けただろうが」

 

「翔? 別にあいつのことなんかどうでもいいだろ」

 

「……は?」

 

その言葉を聞いた時、私の頭の中は真っ白になった。

どうでも、いい……?

 

「あいつも俺の『女は守るべきもの』って考えを理解したからこそ、ああなっただけなんだし。男なら女を守って当然。その過程で傷つくのも当然、だろ?」

 

「……」

 

どうして……どうしてそんなことを言うんだ、一夏……

 

「だから俺がやったことは正しいし、懲罰房行きなんか何かの間違いさ」

 

もう、だめだ。これ以上、一夏に何かを口にさせたら――

 

「……一夏、右腕を出せ」

 

「? あ、ああ」

 

突然言われた一夏は、条件反射で右腕を出した。

私はその腕を掴むと、白式の待機形態である白い腕輪を外した。

 

「な、何するんだよ千冬姉!」

 

「警備員」

 

私の声に、部屋の外で待機していた偉丈夫な警備部員――数少ない男性職員――が4人、中に入ってきた。

 

「織斑を、懲罰房に」

 

「なっ!千冬姉!?」

 

驚く一夏をよそに、警備部員4人の内、2人が一夏の腕を左右から掴み、残り2人が前後を固める。

 

「くそっ!離せよっ!がふっ!うぅぅ~!!」

 

途中で他の生徒達に見つからないよう、口に猿轡をかまされ、さらに頭から麻袋を被せられて、一夏は連行されていった。

そんな一夏を、私はジッと見送ることしかできなかった。

 

 

「千冬さん……」

 

部屋の奥から、これまでのやり取りを見ていた篠ノ之が出て来た。

 

「織斑先生だ、篠ノ之。織斑の件に変更はないぞ」

 

「……」

 

こればかりは、私でもどうにもならない。

 

「なぁ、篠ノ之」

 

「何ですか?」

 

「お前は、今でも織斑を……一夏のことを想っているか?」

 

「……分かりません」

 

「そうか……」

 

それだけを聞くと、私は白い腕輪をスーツのポケットに仕舞うと、部屋を後にした。

 

ーside千冬 outー

 

 

ーside束ー

 

「だ~、やっぱりそうなるかぁ」

 

ネット上の情報を漁ってみた(サーバを片っ端からハッキングしてみた)けど、やっぱりIS学園襲撃について一切情報が無かった。

 

「箝口令……ちーちゃんか、はたまたIS委員会とかいう凡愚共か」

 

まあいいや、そっちがその気なら、こっちだって考えがあるもんね!

 

「ん? なんだろこれ」

 

情報漁りしてた時に出てきたのかな? IS学園編入者?

……ほほぅ、これは面白そうだ。

 

「ナミママに教えてあげよーっと!」

 

私は壁に貼り付けていたスマホを取ると、ナミママの番号をコールした。

 

「――あ、ナミママ? 束さんだよ~! うん……あっ、ショウママ目が覚めたんだ! 良かった~!」

 

ショウママもあれから目が覚めて、ナノマシンに持ってかれたエネルギーを補給するために食堂でドカ食いしてるんだって。

……私以外にナミママの子が出来た? ほぅ、それは一度顔合わせが必要そうですなぁ……。えーっと、セシリア、だっけ? あの金髪ドリル娘とも、ショウママとの関係についてOHANASHIが必要そうだしね……。

 

「っとそうだ。それでさぁ、今ネットサーフィン(ハッキング)してたら面白そうな情報があってね~。なんでも、1組に編入生が2人入ってくる予定みたいなんだけど――」

 

 

 

「そのうちの1人、"3人目の男性操縦者"なんだって~」

 

 

 

ーside束 outー




一夏は何も考えてなかった:
鈴音→織斑の好感度down(特大)

ナミママの子になる!:
鈴音→美波の好感度up(極大)


鈴も翔に走ると思った? 残念! ナミママでした!

あんまり翔ちゃんとばっかくっ付いちゃうとハーレムになって、ワンサマーになっちゃうからね。仕方ないね。



それでは皆様、今回もよろしければご唱和ください。


「一夏に!ハーレムは!おとずれなぁい!!」


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閑話 ここまでの主要な登場人物説明 その2

話数の嵩増しって言わないで! Σ(°△°|||)︴


織斑一夏(おりむら いちか)

 

年齢:15歳

 

出身:外史・ISの日本

 

来歴:

外史・ISの本来の主人公。ヒロイン勢の想いを全く意に介さない鈍感ボーイ。

本来、ご都合主義と言わんばかりに、どんな行動をしても『一夏すごーい』という流れになるはずだったが、本作では翔と美波が介入したため、原作ではなあなあで済まされていた彼の悪い部分がクローズアップされてしまい、本人の意志の強さ(自分から変わろうとしない姿勢)も相まって、自己中心的な言動が目立つようになってしまう。(本作が「改悪」や「原作リスペクトが無い」と言われる所以)

原作では『ワールド・パージ』を通じて心境が変化、ヒロイン達を意識し始めるのだが、本作ではここまで人間関係が拗れた以上、関係修復は絶望的と思われる。

そもそもこのお話、『ワールド・パージ』まで続くの?

 

―――――――――――――――――――――

 

篠ノ之箒(しののの ほうき)

 

年齢:15歳

 

出身:外史・ISの日本

 

来歴:

外史・ISのヒロインその1。篠ノ之束の実妹。

序盤はほぼほぼ原作通りで、一夏一筋。

剣の腕が鈍っていたからといって、代表決定戦までの1週間、一夏に剣道ばかりやらせていたダメっ子でもある。一夏も途中で断れよ。なに当日になってから言い出してんだ。

クラス代表決定戦での一夏の発言から、自分の心の中にあった一夏との間に齟齬を感じるようになるが、それでもまだまだ一夏Loveであり、代表決定戦で大敗し、精神的に追い詰められている一夏のことを心配している。

が、クラス対抗戦での出来事(バリア破壊事件)で、とうとう一夏への想いに(ひび)が入り始める。

 

―――――――――――――――――――――

 

セシリア・オルコット

 

年齢:15歳

 

出身:外史・ISのイギリス

 

来歴:

外史・ISのヒロインその2。イギリスの代表候補生。

元祖ちょろイン(アニメ版で一夏に惚れる理由を尺の都合でカットしたのが原因)だが、本作では理由があってもちょろかった。

原作と違い、本作ではPONは比較的少なく、英国貴族としての誇りは保てている模様。

オリ主の翔に惚れて「絶対に振り向かせて見せる」宣言をするなど、原作より積極的である。強い。(迫真)

また、本作とは全く関係ない余談だが、作者はオルコッ党員である。

 

―――――――――――――――――――――

 

凰鈴音(ふぁん りんいん)

 

年齢:15歳

 

出身:外史・ISの中国

 

来歴:

外史・ISのヒロインその3。中国の代表候補生。

一夏が昔の約束を誤って覚えていた件(酢豚事件)で落ち込んでいたところ、翔と美波に出会い、一夏が約束を理解していなかった悔しさと悲しさから、美波に縋りついて泣いてしまう。

そう、"美波に縋りついて"泣いてしまったのだ。

それが原因で美波のハグポが発動してしまうが、その時はまだ一夏への想いがあったため問題なかった。

しかし、クラス対抗戦後に一夏のことを諦めたことから、そのままハグポの浸食を受け、ナミママの子になってしまった。束さんとおそろ~。

 

―――――――――――――――――――――

 

織斑千冬(おりむら ちふゆ)

 

年齢:24歳(束と同ね (記述はここで終わっている))

 

出身:外史・ISの日本

 

来歴:

織斑一夏の姉。1年1組担任兼1年生寮長兼茶道部顧問という、長い肩書を持つ。さらにそこにブリュンヒルデ(モンド・グロッソ優勝者)という肩書も持っている。情報過多である。

(一夏)のことで頭を痛めているが、本作では頭どころか胃腸すら痛めるほどに苦労している。

そもそも千冬が一夏の保護者として、きちんと事態への介入、一夏への教育と矯正ができていれば、ここまで事態が悪化することは無かっただろうに。

とはいえ、一夏の意志の強さ(頑固さ)と、言動が突発的過ぎて気付いた時には手の施しようもないことが多々ある状況で、それは酷というものか。

 

―――――――――――――――――――――

 

山田真耶(やまだ まや)

 

年齢:22歳

 

出身:外史・ISの日本

 

来歴:

1年1組の副担任。通称まーやん。

苦労人なのは原作準拠。ただし、千冬が一夏に手一杯で真耶を弄る余裕が無いため、ダメージは原作より少なめ。(一夏からのダメージはきっちり入っているが)

ドジっ娘気質は消えておらず、第5話で一夏がセシリアに言った「教官?それなら俺も倒したぞ?」は、原作と同じ彼女の自滅である。

第17話時点で、一夏に対して悪感情を持っていない稀有な存在。

嫌なことがあると、酒飲んで寝て忘れようとするタイプ。

 

―――――――――――――――――――――

 

 



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インターミッション
第18話 対抗戦翌日~GWのご予定は?~


学年別トーナメント編開始までのつなぎ部分になります。(これと次回ぐらい)

一夏が懲罰房行きになって出番が無いので、一夏アンチは一時休業です。
翔への積極的なアタックを始めたセシリアと、失恋のショックと美波のハグポでトンじゃってる鈴をお楽しみください。

それと勝手ながら、感想受付設定を変更させていただきました。(ログインユーザーのみに戻しました)
それに併せて、非ログインユーザーの感想を全て削除させていただきました。(これに関しては単に作者の豆腐メンタルが原因です、申し訳ないです。こちらにとって耳触りの良い感想だけ残すのもフェアじゃないといいますか……)

「感想は見ないかも」なんて言いながら、ついつい見て勝手に凹む奴ですが、引き続きご愛顧いただければと思います。




クラス対抗戦中の翌日、SHRの時間。いつもより賑やかさに欠けた教室に、千冬と真耶が入ってくる。

 

「みなさーん、明日からGW(ゴールデン・ウィーク)に入ります。それが明けると本格的にIS実習が始まりますから、事故や病気に気を付けてくださいね!」

 

「「「「はーい」」」」

 

「それではSHRは終わり――」

 

「せんせー、織斑君はどうしたんですか?」

 

クラスを代表して、鏡ナギが自分の席の右隣――織斑の席――に視線を向けながら聞いた。

 

「それは……」

 

「織斑は授業には出ない」

 

と、千冬が代わりに答える。

 

「どういうことですか?」

 

「織斑は対抗戦で独断専行に走ったため、GW明けまで謹慎処分となった」

 

謹慎処分、ものは言い様である。

そしてこれが、千冬が織斑の減刑を願い出てまで2週間の懲罰房行きにして、すぐに執行した理由でもあった。

GWを挟めば、織斑だけが教室にいない時間が減る、孤立感を薄められるのではないかという考えからだった。

 

「それではSHRを終わる!」

 

有無を言わさないかのように話を切ると、千冬が教室を出て行き、慌てて真耶も後を追いかけて行った。

 

 

ーside翔ー

 

「シールドバリアを破って生徒達を危険に晒したことについて、織斑姉弟から謝罪も弁明も無し、か」

 

「何とも釈然としませんわね……」

 

「先生も、弟の織斑君を庇いたいのは分かるけどねぇ……」

 

「教師としてそこは分けてほしかったなー」

 

「そうだそうだ~」

 

SHRが終わり、俺の席に集まってきた面々。(俺、美波、セシリア、相川さん、布仏さん)

元凶は織斑だが、先生にもとばっちりが行った。いやむしろ、織斑の保護者として必要な処置を怠った先生が悪いのか。

 

「あの時北山君がいなかったらどうなってたことか……」

 

「命の恩人だね」

 

「ホントだよー」

 

周りのクラスメイトからの褒め殺しが恥ずい。

なんでも、謎のISが撃破されたのは知ってたが、それが俺の手によるものだと知ったのは今朝になってからだったとか。

 

 

「そういえば、GW明けにまた転校生が来るんだってー」

 

「えっ! ホント!?」

 

「どこ情報!?」

 

「それは秘密だよー」

 

「うわー、ナミママ教えてよ~」

 

美波が転校生の話をしだしたことで、他の女子達も美波の周り(つまり俺の周りにも)集まってきた。

 

「なんでも、フランスとドイツから2人来るんだってさー」

 

「2人も!? 今年は転校生がいっぱいだぁ!」

 

「例年ではあり得ないぐらいですね」

 

集まっていたクラスメイト達は、転校生の話題で盛り上がり始めた。

 

「翔さん」

 

「ん? どうした?」

 

「転校生というのは、昨晩の……?」

 

「ああ、そうだ」

 

そう、昨晩のことだ――

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――学生寮内の食堂

 

ガツガツ ムシャムシャ――

 

「あ、あのぉ翔さん? もう少し落ち着いて召し上がっても……」

 

「セシリアちゃん、それは無理だと思うな―」

 

ああ無理だ。なにせ死にかけの体を治すだけのエネルギーを持ってかれたんだ、とにかくカロリーを胃にぶち込むことしか考えられん。

 

いつも食う唐揚げ定食、ここまで空腹だと全然味の感じ方が違うな。それにミックスフライ定食、初めて頼んだけど結構美味いな。

そうこう考えているうちに、注文していたものは8割方胃袋の中に消えていた。

 

「それにしても、さすがは篠ノ之博士ですわね。あれだけの傷が、1日足らずで完治するなんて」

 

「確かに、すげぇ技術だよなぁ」

 

そう言いながら、勢いで注文していた『マカロン5種』とやらを食べようと手を……ありゃ、手が届かない。

 

「セシリア、すまんけどそれ取ってくれるか」

 

「それ……ああ、このマカロンですわね」

 

セシリアはマカロンの乗った皿を手に取ると、乗っていたマカロンを手に取って

 

「はい、あ~ん、ですわ」

 

「へ?」

 

ええっと、セシリアさん? つまりそれは、そういうことですか……?

 

「ささ、あ~ん」

 

マカロンを俺の口元に差し出した状態から、まったく動かないセシリア。

 

「あ、あーん……」

 

覚悟を決めて(ある意味諦めて)、マカロンを食べる。……味なんか分かんねぇよ。

というかセシリア、お前まで顔赤くしてどうすんだよ……。

今は周りに人がいないから良かったものの、前に会った新聞部の先輩とかがいたら大変な目に遭ってたぞ……。

 

 

「編入生ー?」

 

 

この恥ずかしい流れをぶった切ったのは、いつの間にか誰かと通話していた美波だった。

 

「そうなんだー。……うん、分かったー。翔ちゃん達にも伝えておくねー。それじゃまたねー」

 

通話を切ると、美波はスマホを仕舞いながら

 

「束ちゃんからだったよー。翔ちゃんが動けるようになって、喜んでたよー」

 

「そうか。今度会ったらお礼を言わないとな」

 

「そだねー」

 

とはいえ、ホワイト・グリントがほぼ全損状態だから、近いうちにSRC(束さんの所)に行って修理を頼まなきゃならんだろうな。

 

「それで美波さん、編入生というのは?」

 

「あ、そうそうー」

 

セシリアからの質問に、美波はポンと手を叩く。

 

「束ちゃんがネットサーフィンしてて知ったらしいんだけどー」

 

ネットサーフィン……ああ、ネットサーフィン(どこかにハッキング)ね。

 

「GW明けに、フランスとドイツの代表候補生がIS学園に転校してくるんだってー」

 

「それは……」

 

「言い方は悪いが、鈴のご同類(男性操縦者目当て)が遅ればせながら、ってところか」

 

「だろうねー」

 

確か、シャルル(シャルロット)・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒだったか。

美波から聞いてたが、どっちも専用機持ちなんだよなぁ。前も思ったが、専用機バーゲンセールしすぎなんだよ。

織斑入学まで、専用機持ちは3年1機、2年2機、1年2機(セシリア含む)の全5機だったのが、現時点ですでに9機だ。(5+織斑+俺+美波+鈴)

そこからさらに2機追加とか、1学年だけで元の全数を倍にしてるじゃねぇか。

 

「あ、それと束ちゃんが、鈴ちゃんとセシリアちゃんに会いたがってたよー」

 

唐突に思い出したかのように、美波が話題を変えた。

 

「篠ノ之博士が、わたくしと鈴さんにですの?」

 

「うん、セシリアちゃんとは『OHANASHIしたいなー』って言ってたよー」

 

「……セシリア?」

 

「なぜでしょう……『少し、頭冷やそうか……』という幻聴が……」

 

なんか、めっちゃ震えてるぞ……?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「お、思い出したらまた幻聴が……」

 

またセシリアが震えだしたよ……。

 

「それで翔ちゃん、GWはどうしよっかー」

 

「差し当たり、ホワイト・グリントを直してやりたいな」

 

「それじゃあ、初日はSRCに行こっかー」

 

「美波の予定はいいのか?」

 

「私は2日目に鈴ちゃんと買い物行く約束してるから、それ以外なら問題ないよー」

 

そういえば、SHRの前に鈴が来て約束してたな。

 

『ナミママ! GWのどっかでレゾナンス(駅前のショッピングモール)に買い物行こう!』

 

そう言って、美波にしがみついてたな。大昔流行っただっこちゃん人形かよ。

マジで束さんと同じように、ハグポにやられてるな……。

 

「あの、翔さん」

 

「おっ、幻聴からは解放されたか?」

 

さっきまで消えかけてた、目のハイライトは戻ってるみたいだな。

 

「そ、それはさておき……SRCですが、わたくしも同伴させていただけないでしょうか」

 

「束さんに会うためか?」

 

「ええ。どうせお会いするなら、早い内の方が良いと思いまして……」

 

「俺は構わないぞ」

 

「私もいいよー」

 

という軽い調子で、俺達3人のGW初日の予定は決まった。

 

ーside翔 outー

 

 

ーside真耶ー

 

「やっぱりダメですか……」

 

クラス対抗戦で襲撃してきたISの残骸を解析していた私は、すごく困ってしまいました。

だってこれは……

 

「山田君、解析の結果は出たか?」

 

織斑先生が部屋に入ってきました。

 

「一応出ました……凰さんや北山君の証言通り、人が搭乗する箇所に大型コンデンサーを搭載した無人機でした」

 

「……ISコアは?」

 

「無理ですね……コアの破損が酷すぎて、登録されているものかの判断もできません」

 

「そうか……」

 

そう、北山君が撃破した無人機のコアは、2機がレーザーブレードの直撃で大半が溶解。残った1機に至っては機体ごと粉々に粉砕、いいえ崩壊していました。これでは解析のしようがありません。

 

「ご苦労だったな。今日はもう上がるといい」

 

「いいんですか?」

 

「いいさ。山田君にはGW明けに頑張ってもらうからな」

 

「え……?」

 

GW明けに、頑張る?

 

「実は先ほど、IS委員会欧州支部から学園宛てに連絡が来てな」

 

そう言うと織斑先生は、ここに来てからからずっと持っていた大判封筒から紙を取り出すと、私に見せてきました。……え?

 

「GW明けに、フランスとドイツから2人、転校生が1組に入ってくることになった」

 

 

 

「しかも、片方は"男"だ」

 

 

 

「ええっと……それって……」

 

私が戸惑っていると、織斑先生は私の肩を叩き、

 

「寮の部屋割り、再調整を頼む」

 

……決めました。今日はもう帰って、お酒を浴びるように飲んで寝ましょう。

 

ーside真耶 outー




あれだけのことがあって説明なし:
女子生徒→千冬の好感度down(小)

命の恩人:
女子生徒→翔の好感度up(大)


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第19話 GW~SRCへ行こう~

――スター・ラビット・カンパニー(SRC)地下、研究開発室

 

ーsideセシリアー

 

「やあやあ、みんなよく来たねー!」

 

GW初日、わたくしと鈴さんは翔さんと美波さんに同伴する形でSRC、いえ篠ノ之博士の元を訪れました。

 

「し、篠ノ之博士!? IS開発者の!?」

 

「そだよー」

 

目を見開いて驚く鈴さんを、博士がニヤニヤした顔で見ています。

恐らく、わたくしが初めてお会いになった時も、こんな感じだったのでしょう。

 

そして開発室の機材を借りたいと、翔さんと美波さんが少し席を外した時でした。

 

「束さんも、2人には一度会わなきゃと思ってたんだよね」

 

「へ?」

 

驚いていた鈴さんの両肩に博士の手が乗り、

 

「お前もナミママの子なんだってねぇ……?」

 

「ひぃ!」

 

「そうなると、束さんとお前は"姉妹"ってことになるんだけど……」

 

博士、目が座ってますわ……。

 

「困ったなぁ……束さんの妹は、箒ちゃんだけで十分なんだよ……」

 

「あ、あの……」

 

「あん?」

 

いえですから博士、柄が悪いですわ……。

 

「だからさぁ……ナミママの子になるの、諦めてくんないかなぁ……?」

 

「そ、その……」

 

「なんだよ」

 

 

「義姉妹ってことじゃダメですか!?」

 

 

「「は?」」

 

り、鈴さん? 何をおっしゃっていますの?

 

「あ、あたしは、ナミママから離れる気、ありません! だ、だから、それで何とか……」

 

「……」

 

博士は鈴さんを睨みながらも、腕を組んで考えておりましたが……

 

 

(´∀`)b

 

 

許された―!?

 

「つまりだ。実妹は箒ちゃんで、義妹はお前ってことでいいんだ?」

 

「は、はい……先にナミママの子になったのは、博士ですし……」

 

ああ、鈴さん緊張と恐怖で肩がビクンビクンしてますわ。

 

「……お前、名前は?」

 

「ふぁ、凰鈴音です」

 

「……よし、今から君はりっちゃんだ!」

 

言うなり、博士は鈴さんをハグして――ハグですの!?

 

「え、ええええ!?」

 

「束さんの義妹になったんだ。つまりは身内なわけだね」

 

「は、博士……?」

 

「NON!義理とはいえ姉妹なんだから、名前か『お姉ちゃん』って呼ぶの!」

 

「ええ!? ええっと……束姉?」

 

「いっくんとちーちゃんみたいだけど……まぁよし!」

 

美波さんから聞いておりましたが、身内とそれ以外の差が激しいですわね。

 

そして博士は、鈴さんをハグから解放すると、こちらに向き直りました。

 

「それで、セシリアだったっけ?」

 

「え、ええ。先日はきちんとした挨拶も出来ませんで――」

 

「ああ、そういうのはいいよ」

 

博士は手を振って、話を遮りました。

 

「束さんが知りたいのは、『君はショウママの何なのか』ってこと」

 

「翔さんの?」

 

「うん」

 

「わたくしは……」

 

色々思い浮かびましたが、どれも博士の聞きたいことではないでしょう。だから――

 

「わたくしは、翔さんの"戦友"ですわ」

 

「戦友?」

 

博士が首を傾げました。

 

「『わたくしは翔さんの恋人ですわー!』みたいなこと言い出すと思ってたよ」

 

「本当はそう言えれば良かったのですが……今のわたくしは()()なりたくて、戦ってますのよ」

 

「戦うぅ?」

 

「ええ。翔さんはおっしゃいました。『互いに切磋琢磨する相手、戦友だ』と」

 

「……」

 

「だからまだ、わたくしを異性として見ることはできない、とも」

 

「それって、振られたってことじゃん」

 

「いいえ」

 

「え?」

 

わたくしがあっさり否定したからでしょうか、今度は博士が先ほどの鈴さんのように目を見開いておりますわ。

 

「翔さんは"まだ"とおっしゃいました。ですからわたくし、諦めないことにいたしましたの」

 

「……」

 

「今わたくしは、翔さんに振り向いていただくために、真剣勝負の真っ最中ですの」

 

「……はっ」

 

 

「あはははははははっ!!」

 

 

「いやぁ、まさかこの束さんが、そんな予想の斜め上なこと言われちゃうとはねぇ!」

 

「お気に召しまして?」

 

「いいよ、最っ高! ……でもね、これだけは言っておくよ」

 

大笑いしていた博士は、唐突に真顔になると、凍えるような瞳で

 

「ショウママもナミママ同様、束さんの"理解者"で、大切な存在だ。悲しませるような真似したら……分かってるね?」

 

「あり得ませんわ。わたくしにとっても翔さんは"大切な存在"ですので」

 

それは自信をもって……あらゆるものを賭けてでも言えますわ。

 

「言い切ったよ……まぁいいや、りっちゃんともども、仲良くしようか」

 

怯まず答えたわたくしに対して、博士はわたくしに右手を差し出しました。

 

「ええ、よろしくお願いしますわ、篠ノ之博士……いいえ、束さん」

 

ーsideセシリア outー

 

 

ーside美波ー

 

「やっぱりデュノア社の状況は切迫してたねー」

 

「そうだな……」

 

ここ(SRC)の機材を借りてデュノア社の情報を探して(ハッキングして)みたけど、かなり切羽詰まってたよー。

第3世代機の開発に出遅れたせいで、EUの次世代機選定計画(イグニッション・プラン)に参加できず、フランス政府からも援助金の打ち切りを予告されてるんだよねー。

そこから社長派と副社長派の派閥争いに発展、妾の娘であるシャルロットちゃんの暗殺計画を知った社長が、彼女を逃がそうとIS学園への編入を画策。

ところが、それを知った副社長派が女権団経由でIS委員会に横やりを入れて、男装をさせてスパイを命じたとー。

成功すれば良し、失敗してもIS学園への編入を進めたのは社長だからってことにして、罪を全部被せちゃえって寸法らしいねー。ドロドロだ―。

 

「それで翔ちゃん、これからどうするの?」

 

「何も」

 

「あれ?」

 

助けないのー?

 

「とりあえずは様子見だ。あとはデュノアがどう動くか次第だな」

 

「白馬の王子様になるチャンスだよー?」

 

原作通りなら、彼女はまさしく、白馬の王子様を待つお姫様だしねー。

 

「そんなものになる気はない」

 

「セシリアちゃんの王子様になるのが先だもんねー」

 

「そういうのはいいから。それにな……」

 

 

 

 

「自分の命運がかかってるのに、助けてくれる王子様をただ待つような、自分の足で歩く(自ら戦う)ことをやめた奴に、その先を生きる資格はない」

 

 

 

 

「……そだねー」

 

私達は神様じゃないからねー。(一応神の眷属(ロキちゃんの部下)扱いだけど)

『助けて』と声を上げず、手を伸ばしもしない子は、助けられないかなー。

それでも、出来る限りは助けたいなー。

 

 

 

 

「お待たせ――って、なんぞ……?」

 

先に部屋に入った翔ちゃんが怪訝そうな顔した。私も中を覗くと

 

「りっちゃ~~ん!!」

 

「束姉~~!!」

 

束ちゃんと鈴ちゃんがハグしあってて、それを虚無顔で眺めてるセシリアちゃん。シュールだねー。

 

「それでセシリア、どうしてこうなった?」

 

「一から説明いたしますわね……」

 

虚無顔から疲れ顔にクラスチェンジしたセシリアちゃんに、私達が席を外した後のことを聞いた。

束ちゃんと鈴ちゃんで義姉妹かー。桃園の誓いかなー?

 

ーside美波 outー

 

 

ーside翔ー

 

「束さん、ホワイト・グリントの修理と一緒に、お願いしたいことがあります」

 

「ん? 何かな~?」

 

「武装です。蹂躙兵器ばっかりで対人装備が少なすぎです。おかげでクラス対抗戦は、MARVEだけで鈴とやり合う羽目になりましたよ」

 

「ええ~、いいと思ったんだけどなぁ、天使砲」

 

天使砲って……確かに両肩に展開したら、翼っぽく見えるけど……。

 

「とにかく、近接武器とライフル系が欲しいです」

 

「む~、分かったよぉ。拡張領域(バススロット)にはまだ空きがあるはずだから、出来上がったら詰めておくね」

 

「頼みます」

 

いやホント、頼みますよ……。

 

「それと、1つ気になったことがあるんですけど」

 

「なに~?」

 

「織斑のIS、あれって……」

 

「零落白夜、だね?」

 

束さんは困ったような顔をしながら、頭を掻きつつ椅子に座った。

 

「正直、束さんも分からないんだよねぇ」

 

「織斑の白式って、束さんが用意したんじゃないんですか? 紅椿のプロトタイプとして」

 

原作では、束さんが倉持技研にあったものを弄ったって聞いてたけど。

 

「束さんが? ないない! 3月まではショウママとナミママの専用機作ってたし、4月からは会社建てた後ゴー君作ってたんだもん。そんな暇ないよ」

 

あ……そう言われればそうか。

 

「そもそもあれ(零落白夜)は、ちーちゃんの単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)なはずだし」

 

「ましてや、二次移行(セカンドシフト)していない機体で使えるはずもない、ですか」

 

「そうなんだよねぇ……。ショウママ、何か推測とかある?」

 

「そうですね……突拍子もないものですが」

 

「それは?」

 

「束さん、ちょっと……」

 

「え?」

 

推測を話す前に、束さんに顔を近づける。

 

「ちょ、ちょっとショウママ? 嬉しいけどこんなところで~」

 

 

 

「プロジェクト、モザイカ」

 

 

 

「……っ!?」

 

束さんの顔が、驚愕に染まる。

 

()()()()なら、何があってもおかしくないでしょう」

 

プロジェクト・モザイカ(織斑計画)。遺伝子操作により、究極の人類を人工的に作ろうとした、狂気の計画。あの織斑姉弟はその成功体だ。

どんな遺伝子の弄り方をしたかは分からないが、もしかしたら、通常の姉弟以上の一致率の可能性だってある。ISが『同一個体』と誤認するほどの。

 

「その計画のこと、箒ちゃんには……」

 

「言うわけないでしょう。恐らく学園内で知ってるのは俺と美波、あとは当事者の織斑先生だけだと思いますよ」

 

「そっか……」

 

気が抜けたのか、束さんは座っていた椅子にもたれ掛かっていたが、

 

「あ~、束さんでも結構心が疲れたから、ナミママに癒してもらお~って、りっちゃん! ナミママの右腕にべったりだっこちゃんとかうらやまけしからん!」

 

「束姉、まだ左腕が空いてるよ?」

 

「いやっふぅぅぅぅ!」

 

すぐに立ち上がると、美波に向かって突撃していった。

やれやれ……。

 

ーside翔 outー




束さんに新しい(義)妹が出来ましたー。

当たり前ですが、一夏がIS(白式)に乗れる理由は原作とは異なります。というか原作でも明言されてないはず。(12巻時点では)


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学年別トーナメント
第20話 2人の転校生


GWネタはささっと切り上げて、一夏アンチを再開しましょうか。(暗黒微笑)



GW明けの初日。誰1人欠けることなく、1組の生徒達は教室に揃っていた。そう、()1()()

 

 

GW明け、つまり織斑の謹慎(実際は懲罰房入り)が解かれた日でもあった。

 

「……」

 

周りは誰も、織斑に話しかけることをしない。

それも仕方ないことである。いくら罰が与えられたからと言って、身勝手な行動で自分達を危険に晒した事実は変わらないのだ。

しかし織斑本人は、まったく別のことを考えていた。

 

(どうして俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ俺はみんなを守るために助けるために戦ったんだぞそれなのになんでそんな目で見るんだよおかしいだろ)

 

懲罰房に入れられても、織斑は何も変わらなかった。

彼は悪意無く、むしろ善意で行動していた。

だからといって、その行動が常に正しいかは別問題であり、それが相手に求められているかもまた、別問題である。

織斑には、それが理解できない。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside翔ー

 

「皆さん、おはようございます」

 

SHRの時間になり、山田先生と織斑先生が教室に入ってくる。

全員が席に着いたのを確認すると、織斑先生がこちらを再度見回した。

 

「まず連絡事項だ。来月から全員参加の学年別トーナメントが開催される。それに伴い、GWの前から予告していた通り、今日から本格的な実機訓練が開始される。そして、ISスーツの注文申し込みを今日から開始する。モノによっては注文しても届くのに時間が掛かる事もある、なるべく早く注文しておけ。購入し忘れたり、当日までに届かなかった者は、学園指定のスーツを使用するように。もしスーツ無しで来た奴は……学園指定の水着か下着で授業を受けて貰う」

 

((((うわぁ……))))

 

クラス全員ドン引きである。例年なら笑うところなのだろうが、今年は俺や織斑()がいるわけで……。

 

「私からは以上だ。山田先生」

 

「はい」

 

連絡事項を伝えると、織斑先生は山田先生と交代した。 

 

「今日はなんと! 転校生を紹介します! しかも一挙に2人です!」

 

 

 

「「「「知ってまーす!」」」」」

 

 

 

「ええっ!?」

 

タメた分、クラスからまさかの反応に驚く山田先生。

 

「フランスとドイツからなんですよね!?」

 

「ど、どうしてそれを!?」

 

追加情報に、山田先生はさらに慌てる。

すみません、うちの(美波)がフライングしました……。

 

「そ、それでは、2人共入ってください……」

 

どうにか気を持ち直した山田先生がそう言うと、扉が開き、噂の2人が入って来た。

 

 

「失礼します」

 

「……」

 

 

明るい笑顔を浮かべる金髪と、ムスッとした表情の銀髪。

情報通りなら、金髪がフランスで、銀髪がドイツの専用機持ちだったか。

そして金髪の方だが……

 

「え? 男……?」

 

クラスの誰かが呟いた。

まさか、"3人目"が来るとは誰も予想してなかっただろう。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。僕と同じ境遇の方がいると聞いて転校して来た──」

 

金髪の自己紹介を聞きつつ、ここからの流れを知っている俺と美波は、あらかじめ準備していた耳栓を装着。そして――

 

 

「「「「きゃああああーーーっ!」」」」

 

 

うわー……みんなの声で窓がビリビリいってるよ……

 

「男子!3人目の男子!!」

 

「しかも美形!守ってあげたくなる系の!」

 

「このクラスで良かったあ~~!」

 

自己紹介を途中で遮られたデュノアが、この状況に笑顔のまま固まっている。

それはいいんだが……

 

(どうしてみんな、デュノアが()だって気付かないんだ……?)

 

見た目は中性的と言えなくもないが、体格といい声といい、どうみても男装した女でしかないんだが。ちょっとは疑うぐらいしようや。

 

――バンバンッ

 

「騒ぐな。静かにしろ」

 

「そうですよ。それにまだ、自己紹介が終わってませんよ~」

 

入学日の時のように、出席簿を教壇に叩き付けて黙らせる織斑先生。

 

「挨拶しろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

促された銀髪の少女は、織斑先生に対して敬礼する。

 

「ここで敬礼はよせ。ここは軍ではないし、私ももう教官ではない。私の事は織斑先生と呼べ」

 

「はい、了解しました」

 

そしてまた敬礼する彼女に、織斑先生は諦めたかのようにため息をつくと、

 

「……もういい。自己紹介しろ」

 

「はい」

 

彼女はこちらを向いて休めの姿勢をする。

目を引くのは、長い銀髪と左目の眼帯、そして小柄な体格だろうか。ぱっと見、鈴と同じか低いぐらいか。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「あの……以上、ですか?」

 

名前だけのあっさりな自己紹介に、山田先生が確認を取るが、

 

「以上だ」 ガタンッ! ドン!

 

大半がコケたり机に頭をぶつけたりしていた。

みんなノリが良すぎやしないか。

 

「ムッ?」

 

みんながコケている間に、彼女──ボーデヴィッヒはとある1点に視線を止めると、そちらに向けて歩いていく。

織斑の方に。

 

「……貴様が、織斑一夏か?」

 

「そうだけど?」

 

織斑がいつものスマイルで答える。

謹慎帰りで、よくそんな顔ができるな。呆れを1周回って尊敬しそうだよ。

 

「……そうか」

 

それだけ言うと、ボーデヴィッヒは踵を返した。

おや? 美波から聞いてた話だと、ここで『私は貴様など認めない!』とか言って、織斑をひっぱたく流れなはずなんだが?

 

「朝のSHRを終わる。この後は2組と合同での実技授業だ。全員ISスーツに着替えて速やかに第2アリーナに集合しろ」

 

織斑先生の号令で、あっさり(あっさり?)SHRが終わった。

 

「織斑、同じ男子としてデュノアの面倒を見てやれ」

 

織斑先生はそう言うと、山田先生と教室を出ていった。

 

(ねぇねぇ翔ちゃん、どうしてデュノア君を織斑君に任せたんだろー?)

 

(たぶん、織斑を孤立させないためじゃないか?)

 

(ああ、なるほどー)

 

そう、織斑は今1組で孤立している。あの篠ノ之ですら、対抗戦前より接触が減ってる気がするしな。

だがデュノアは、あいつのこれまでの経緯(様々なやらかし)を知らないから、フラットな気持ちで付き合えると判断したのだろう。

 

「さて。俺もそろそろ行かないと、授業に遅れるな」

 

なんか、織斑とデュノアが他クラスの女子達と追いかけっこしてるけど……俺し~らね。

 

ーside翔 outー

 

 

ーside美波ー

 

翔ちゃん達が出て行った後、私達はISスーツに着替えてアリーナに……って、あれラウラちゃんー?

 

「ラウラちゃん、アリーナの場所分かるのー?」

 

「問題無い。学園内の地理は把握済みだ……それと、私をちゃん付けで呼ぶな」

 

ラウラちゃんに心底不満そうな顔で言われちゃったけど、やめる気はないかなー?

教室を出て行くラウラちゃんを、後ろから追いかける。

 

「それとね、ラウラちゃんに1つ聞きたいことがあるんだ」

 

「だから、ちゃん付けはやめろと」

 

「1つ、聞きたいことがあるんだ」

 

「……はぁ、なんだ?」

 

よし競り勝った!

 

「もしかしてなんだけど、ラウラちゃん、織斑君を引っぱたこうと思ってなかった?」

 

「ほぅ?」

 

私の質問に、ラウラちゃんが興味を持ったかのように声を上げた。

 

「なぜそう思った?」

 

「なんとなくが半分。あとは、ラウラちゃんの目かなー?」

 

「目だと?」

 

「うん。色んな感情の混ざった目だったよー。羨望と、怒りと、それに……失望かなー?」

 

「……」

 

私の話を聞いたラウラちゃんは、一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐに元に戻って

 

「ああ、正解だ。私は最初、織斑一夏を殴ろうと思っていた」

 

「やっぱりー」

 

「だがな、奴の目を見て、殴る気も失せた」

 

「どうしてー?」

 

するとラウラちゃんは、フンッと鼻を鳴らすと

 

 

 

「奴には、殴る価値すらないことが分かったからだ」

 

 

ーside美波 outー



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第21話 金と銀

――第2アリーナ

 

「来月に学年別トーナメントが開催される。これは諸君の現在の実力を見るためのもので、原則全員参加だ。よって、今日から実技の授業は実戦を想定した戦闘訓練を行う。訓練機とはいえ、ISである事実は変わらない。事故を起こさぬよう気を付けろ!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

「まず最初に、模擬戦を見学して貰う。凰とオルコット、前に出ろ」

 

千冬に名指しされ、並んでいた列から鈴音とセシリアが前に出る。

 

「織斑先生、わたくしと鈴さんで戦えばいいんですの?」

 

「いいや。対戦相手は───来たぞ」

 

千冬が視線の先を生徒達も追う。すると、こちらに向かって来るISの姿があった。

そのISは空中で急減速すると千冬の横、鈴音とセシリアの前で着地した。

 

「「や、山田先生!?」」

 

まさかの人物に、鈴音とセシリアが声をハモらせて驚く。

 

「凰、オルコット、お前達の相手は山田先生だ」

 

「分かりました。どちらが先にやりますか?」

 

「ああ、勘違いするな。お前達と山田先生、2対1の模擬戦だ」

 

その言葉に、2人が不満そうな顔をした。

 

「それはちょっと……」

 

「先生、いくら何でもそれは……」

 

いくら現役の学園教師とはいえ、代表候補生2人を相手取ることが可能なのだろうか。鈴音とセシリアの顔は、そう書かれているようだった。

 

「安心しろ。今のお前達ならすぐに負ける」

 

「「ほう……」」

 

千冬のその言葉には、2人も黙ってはいられなかった。

 

「そんな風に言われちゃあ」

 

「ええ、引き下がる訳には行きませんわね」

 

お互いを見て頷くと、2人は甲龍とブルー・ティアーズを展開する。

 

「では……始め!」

 

千冬の合図で、模擬戦が始まった。

 

 

ーside翔ー

 

やっぱりまーやん(山田先生)には勝てなかったよ……。

 

前衛の鈴に、後衛のセシリア。うまい具合に役割分担ができていたんだが、山田先生が一枚上手だった。

射撃で鈴をうまく誘導し、セシリアが気付いた時には、フレンドリーファイアを()()()()()()()

それによって甲龍はSE切れ。残ったブルー・ティアーズも狩られてしまった。

それでも、山田先生にもいくつか有効打を与えていたから、惨敗にはならなくて良かった良かった。ボロ負けしてたら慰めるのが大変だった。

 

「これで皆もIS学園教師の実力が分かっただろう。以後は敬意を持って接するように」

 

そう締めくくると、織斑先生は手を叩き、

 

「では、実習を始める……その前に、織斑、前に出ろ」

 

「は、はい」

 

織斑が織斑先生の前に出る。

 

「お前にこれを返しておく」

 

そう言って織斑先生が懐から取り出したのは白い腕輪。

それって白式? 懲罰明けたらさっそく返すの? 大丈夫なん?

 

「俺の白式!」

 

「いいか、本来ならお前に白式を返すのはまだ先だったが、『データ取りと自衛の為にも専用機は必要』という学園の判断で今回返すことになった。前回の様なマネは許さんからな」

 

「分かったぜ千冬姉!」

 

――スパーンッ!!

 

「織斑先生だ」

 

あかん、これ全然分かってないやつだ。

織斑先生、めっちゃ苦虫嚙み潰したような顔してるし。

 

「さて、改めて実習を始めるが、まず最初に班を作る。専用機持ちは全員前に出ろ」

 

そう言われて、俺達専用機持ちが前に出た。

俺、美波、織斑、セシリア、鈴、そしてデュノアとボーデヴィッヒ。7人もいるのか……。

 

「実習では、お前達が班のリーダーになる。7人の班を作るので、出席番号順にリーダーの前に並べ」

 

織斑先生の指示に従いみんなが動き始め、班が出来上がった。

俺の班は……相川さんと鏡さん、それに布仏さんか。

他の班はというと、デュノアの班になった娘は大喜び。

鈴とセシリアの班は、先ほどの模擬戦で善戦していたためか、そこそこ賑やか。

ボーデヴィッヒ班は、班員が話しかけても「ああ」とか「そうか」みたいな反応しか返って来ず、すごく取っ付きにくそうだった。

織斑の班に至っては、ほぼお通夜状態だ。奴自体が腫れ物のような扱いで、微妙な空気が流れていた。

 

この後、各班に1機ISが支給され(リーダーが専用機に乗って運び)、それを使って起動から歩行、停止までの一連の動きを1人ずつやることになった。

途中、ISを立ったまま停止させて、次の人が乗れなくなるアクシデントがあったが、何とか全員が時間内に終わったようだった。

ちなみに、一番早く終わったのは織斑班だった。そりゃ、和気藹々とした会話もなく、さっさと解散したくてもくもくとやってたらそうなるわな。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

授業が終わり、訓練機を片付けた後、俺、美波、セシリア、鈴の4人で学食に来たわけだが……

 

「相席いいか?」

 

「おー、ラウラちゃーん」

 

そう、まさか銀髪の方からこっちに来るとは思わなかった。

 

「だからちゃん付けはやめろと……いや、もういい」

 

どうやら何度も言ったらしいが、残念だが諦めてくれ。

 

「えっと……」

 

「ああ、自己紹介はいらん。この学園に来る際に、専用機持ちの情報は調査済みだ」

 

 

 

「それでラウラ、聞いてもいいか?」

 

とりあえず、ラウラ(話し合った結果、お互い呼び捨てにすることに決まった)には聞いておきたいことがある。

 

「なんだ?」

 

「お前がここ(IS学園)に来た理由、織斑の情報収集が目的じゃないのか?」

 

「知らん」

 

「は?」

 

知らんって……

 

「私は軍司令部から、IS学園へ行くように指令を受けただけだ。その目的までは知らされていない」

 

「『need to knowの原則』、というわけですか……」

 

「そういうことだ。私は指示に従えばいい。あとは軍の上層部が判断するだろう」

 

なるほどな。

 

「それにな……」

 

ラウラの視線を追うと、そこには織斑とデュノアがいた。正確には、デュノアにあれこれと話しかける織斑と、それを苦笑いで聞いているデュノアが。

 

()()の情報を持って帰っても、何の価値もないと思うがな」

 

「し、辛辣~……まぁ否定しないけど」

 

鈴、苦笑いはするが否定はしないのな。

 

「むしろ、私はお前の情報の方が有用ではないかと思っている」

 

「俺?」

 

「ああ、日本に来る前に調べた。入学して1週間でイギリスの代表候補生(セシリア)と引き分けたのは、賞賛に値する」

 

「お、おう……ありがとう」

 

「そうですわ、翔さんはすごいんですのよ」

 

「そうだよー」

 

「まぁ確かに、翔のIS操縦技術は大したものよね」

 

褒められるのは嬉しんだが、もうちょい人のいないところでお願いできないか……? 恥ずい。

 

「というわけで、しばらくお前のことを観察させてもらうぞ」

 

そう言って、ラウラはニヤリと笑った。

 

う~む……なんか小さい織斑先生みたいだと感じてしまった。

 

ーside翔 outー

 

ーsideシャルルー

 

放課後。山田先生に寮の鍵をもらった僕は、自分の部屋となる1025号室にいた。

僕が女だってバレてないみたいで安心したよ……。

 

この学園では生徒は寮暮らしで、他の生徒と相部屋になるらしい。

僕のルームメイトは――

 

「改めてよろしくな、シャルル」

 

「う、うん。よろしく、織斑君」

 

そう、1人目の男性操縦者である織斑君だった。

ある意味、僕の目的のためには都合が良かったといえるんだけど……

 

「シャルル、晩飯食いに行こうぜ」

 

「あ、先に荷物を片付けたいから、先に行っててよ」

 

「そうか? 分かった」

 

そう言って、織斑君は部屋を出て行った。

 

「はぁ……」

 

織斑君が部屋から離れたのを確認すると、僕はため息をついた。

 

実家のデュノア社から言われたのは、『男性操縦者・織斑一夏と、その使用機体のデータを盗んでくること』。

そのために、僕を男と偽ってIS学園に送り込んだ。

本当は、こんなことしたくない。けど、僕にはどうすることも……。

 

「そういえば……」

 

言われたのは織斑君だけだけど、もう1人、男性操縦者がいたっけ。確か名前は……

 

「北山、翔……」

 

ーsideシャルル outー




山田先生相手に善戦:
クラスメイト→セシリアの好感度up(微小)
クラスメイト→鈴音の好感度up(微小)


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第22話 叫び

ーside翔ー

 

2人の転校生(デュノアとラウラ)がやってきて、1週間が経った。

 

まず、織斑とデュノアが同室になった。気になったのは、元々同室だった篠ノ之がこれといった抵抗もせず部屋を出て行ったことだ。大丈夫だろうか?

織斑はクラス内で孤立していたし、仲良く出来そうな相手を見つけてご機嫌らしいが、どうなることやら……。

 

と思っていたら、昨日から織斑とデュノアの様子がおかしい。

あ、(男装が)バレたなこれ。

 

そのデュノアだが、時折考え事をしているのか、明後日の方向を向きながらため息をついている場面をよく見る。

原作で織斑が口にした『俺が守る!』という言葉を真に受けてのものなのか、はたまた――

 

一方、ボーデヴィッヒは孤立して

 

いなかった

 

ラウラは反応こそ薄いが、話し方に傲慢な感じはない。そのため、最初こそ取っ付きにくそうだったクラスメイト達だったが、『ああ、そういう人なんだ』と分かってしまえば、それなりにコミュニケーションが取れているらしい。

ロキが言っていた『原作との乖離』が、織斑の次に大きいのがこいつじゃないだろうか?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

と、そんなことを考えていた放課後。アリーナで自主練をしようと、更衣室で着替えていると

 

「あれ? 北山君?」

 

「デュノアか」

 

件のデュノアが、更衣室に入ってきた。

 

「デュノアもこれから自主練か?」

 

「うん。織斑君とね」

 

「そうか」

 

織斑がこの後来るのか……早めに出よう。

 

「ねぇ、北山君」

 

と思ってたら、デュノアに呼び止められた。

 

「なんだ?」

 

「もしもの話だけど……」

 

デュノアが目を細める。

 

「もし自分が鳥籠の中の鳥で、それでも大空を飛びたかったら……北山君ならどうするかな?」

 

「鳥籠を出て、大空を飛ぶだろうな」

 

「……即答なんだね」

 

俺の回答に対して羨ましそうにしているが、

 

「どうしてそんなことを聞いてきたかは聞かないけどな……」

 

 

 

「誰かが鳥籠の扉を開けてくれるのを待ってたら、飛べないまま終わっちまうぞ」

 

 

 

それだけ言うと、俺は更衣室を出て行こうとした。だが、

 

「え、それってどういう――」

 

少し離れたロッカーの陰で着替えていたデュノアが、俺に聞き返そうとして――

 

「……デュノア、とりあえず前を隠せ」

 

俺はそれだけ言うと、顔を背けた。

 

「え? き、きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」

 

そう、デュノアは着替えの途中……つまり、上半身裸の状態で――

俺は織斑じゃないんだがなぁ……。

 

ーside翔 outー

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――その夜、1210号室

 

ーside美波ー

 

「じとー……」

 

「あのー、美波さん?」

 

「翔ちゃん、いつから織斑君になったのー?」

 

「いや別に、そんなつもりじゃ……すまん」

 

はい、素直に謝ってよろしー。

 

「それで、シャルロットちゃんでいいんだよねー?」

 

「う、うん……でも、どうして僕のことを?」

 

「むふふー、私の情報網を甘く見ちゃいけないぜー」

 

とはいっても、束ちゃんとこの機材を借りてだけどねー。

 

「一応、こちらはデュノアのことをある程度は知ってる。デュノア社が追い込まれていること、情報を得るためにスパイを命じられたこと」

 

「ぜ、全部知ってたんだ……」

 

シャルロットちゃんが唖然とした顔をする。まぁ、最近知り合ったクラスメイトが、自分の事情を全て知ってたらそうもなるよねー。

 

「俺の予想だが、デュノアが女だってこと、織斑にもバレてんだろ」

 

「……うん」

 

シャルロットちゃんは一瞬驚いてたけど、翔ちゃんの問いに頷いた。

 

「で、だ。織斑のことだから、『俺が守る!』とか言いながら、IS学園特記事項第21項辺りを盾に時間を稼ごうとか言ったんだろ」

 

「ど、どうしてそこまで分かるの……?」

 

原作知識様様だねー。

 

「無意味だな」

 

「……っ!」

 

うわー、翔ちゃんばっさり切るねー。

 

「そもそも時間稼ぎ(籠城戦)なんて、問題解決(援軍)の当てがあって初めて意味がある。そうじゃなきゃジリ貧になるだけだ」

 

「……」

 

ダンマリってことは、シャルロットちゃんも思うところはあったわけだー。

 

「……なら、どうしろっていうのさ!」

 

俯いてたシャルロットちゃんが、顔を上げて叫ぶ。

 

「デュノア社って大企業が相手なんだよ!? しかも男装させて転校なんて無茶が通るってことは、フランス政府だって絡んでるかもしれないんだ! そんな状況で、どうしろっていうのさ!?」

 

涙を流しながら、それでもシャルロットちゃんは叫び続ける。やっぱり、シャルロットちゃんもそれぐらいは分かってたか―。

 

「それとも何!? 『助けて』って言えばいいの!?」

 

「そうだ」

 

「え……?」

 

翔ちゃんの言葉に、シャルロットちゃんが固まる。

 

「もちろん、助けを求めたからと言って、必ずしも助かるとは限らない」

 

「なら……!」

 

「けどな、助けも求めず、ただ自分の不運を嘆くだけの奴を、誰が助けるんだ? いや、織斑は守るんだったか。何の打開策もなく」

 

「……」

 

「翔ちゃん、いじめすぎだよー」

 

そろそろ止めに入るかなー?

 

「ねぇ、シャルロットちゃんー」

 

「北山、さん?」

 

まだ目に涙を溜めているシャルロットちゃんの頭を撫でる。

 

「辛い時は、誰かを頼ったっていいんだよー」

 

「たよ、る……」

 

「うん。だから、困った時は『助けてー』って言えばいいんだよー」

 

「だって、助けを求めても……」

 

「それでも、シャルロットちゃんが思ってること、話してほしいなー。解決できないかもしれないけど、理解したいからー」

 

「美波……」

 

だってもう、あの(束さんの)時のようなこと、嫌だもんー。

 

「……言って、いいのかな……?」

 

「いいんだよー」

 

「助けて、くれるの……?」

 

「少なくとも、私や翔ちゃんは出来る限り手を貸してあげるよー」

 

そう言って、シャルロットちゃんを撫でていた手をよける。

 

「……すけて」

 

最初は小さかった声。けれど

 

 

 

「誰か助けてよぉ! 僕は普通の女の子として生きたかったんだ! こんな、男装してスパイみたいなマネなんてしたくないんだぁ!!」

 

 

 

喉を枯らさんばかりに叫んだそれは、間違いなくシャルロットちゃんの本心だったんだと思う――

 

ーside美波 outー

 

 

ーsideシャルロットー

 

「さて、デュノアを助ける方法についてだが……」

 

「え? あ、あるの?」

 

だって、大企業や国が相手なんだよ? そんな簡単に……

 

「一番簡単なのは、学園に助けを求めることだ。『無理やりスパイにさせられました』ってな。そこから国際IS委員会に告発して、フランス政府とデュノア社――場合によってはIS委員会の欧州支部もだが――に強制査察が入れば、お前を縛るものはほぼほぼ無くなる」

 

「そうだねー。そのタイミングでフランスから亡命すれば、シャルロットちゃんは専用機を渡されるぐらい優秀なんだし、日本政府も亡命を受け入れるんじゃないかなー」

 

確かにそれなら……でも……

 

「ただしこの方法を取った場合、デュノアの父親はもちろん、今回の件に絡んだデュノア社の社員やフランス政府の人間も牢屋行きになるだろう」

 

「そう、だね……」

 

つまり僕は、自分とお父さん達、どちらかを取るしか――

 

「だからここでプランBだ」

 

「え?」

 

プラン、B?

 

「翔ちゃーん、それフラグだよー」

 

ふ、フラグ?

 

「まぁフラグはともかく、これを見てくれ」

 

そう言って、北山君は紙の束を渡してきた。

 

「これは……!」

 

そこに書いてあったのは、僕が聞いていた話とは違っていた。

社長派と副社長派の派閥争い。僕の暗殺計画。お父さんが、僕を逃がそうとIS学園への編入を決めたこと――

 

「でも、それならどうして……」

 

今まで、あんな冷たい態度で、僕を娘とも思わないようなことを……。

 

「シャルロットちゃんを守るためだろうねー」

 

僕を、守る?

 

「わざと不仲を演じることで、副社長派の標的から外そうとしたんだろうな。結局暗殺計画は立てられて、慌ててIS学園へ送ったわけだが」

 

「そん、な……」

 

それが本当なら、僕はそんなお父さんを……

 

「それを踏まえてだな……」

 

 

 

「これまでの罪、全部副社長派に押し付けちまおうか」

 

 

 

ニヤッと笑った北山君は、事も無げにそう言った。

 

ーsideシャルロット outー

 




自爆だけど見られた:
シャルロット→翔の好感度down(微小)

助けてあげよう:
シャルロット→美波の好感度up(大)


すまんなーショウママ。シャルとの繋がりを作るためには、こうするしかなかったんや……。


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第23話 それぞれの想い

今回は1人称がコロコロ変わる仕様です。見づらかったらすみません。




ーside美波ー

 

「それじゃあ、少しの間辛抱してねー」

 

「うん。よろしくお願いします」

 

最後に頭を下げると、シャルロットちゃんは部屋を出て行った。

 

「シャルロットちゃん、すぐに女の子に戻れないのは可哀想だけどー……」

 

「仕方ない、ちゃんと仕込みを済ませてからじゃないとな」

 

「……そうだねー。それじゃあ」

 

私はスマホを取り出すと、最近も掛けた番号をコールした。

 

『やっほーナミママ! どしたのー?』

 

掛けた先は束ちゃん。

 

「束ちゃん、ちょっとお願いがあるんだー」

 

そう言って、私は束ちゃんにこれまでのことを話した。

 

『う~ん……』

 

「あ、もしかして、忙しかったー?」

 

束ちゃんだって、いつも暇なわけじゃないもんねー。

 

『いやぁ、手は空いてるんだけどねぇ』

 

「?」

 

『ねぇ、ナミママ……』

 

束ちゃんは、いつもと違う真剣な声で

 

 

 

『どうして、その子(デュノアの娘)を助けようとするの?』

 

 

 

「どうして、かー……」

 

それらしい理由は色々言える。シャルロットちゃんに貸しを作るためとか、デュノア家に恩を売るためとか。

でも、束ちゃんには本心を伝えたいなー……。

 

「……"似てたから"、かなー?」

 

『似てた?』

 

「うんー」

 

そう、似てたんだー。

 

「周りに自分の境遇を理解してくれる人がいない。助けを、手を伸ばせる相手もいない。それって、すごく辛いことだよねー」

 

天才過ぎて周囲とのギャップを埋められずに孤立した、かつての()()のように……。

 

「だから、手を伸ばしてくれたなら、ちゃんと理解して、助けてあげたいんだー」

 

『……そっか』

 

そういう束ちゃんの声は、得心が行ったような感じだった。

 

『いいよ、そういうことなら束さんも協力しよう!』

 

「ありがとー」

 

『あ、でも最後に確認しときたいことがあるんだ』

 

「なにー?」

 

 

 

『その子、"ナミママの子"にならないよね?』

 

 

 

「ほ?」

 

えーっと、つまり、鈴ちゃんみたいになるかってことー?

 

「たぶん無いと思うな―」

 

『あっ、そうなんだ! 良かった良かった!』

 

そ、そんなに喜ぶことかなー……?

 

『それじゃあ、準備が出来るまですこーし……学年別トーナメント、だっけ? その辺りまで時間頂戴ねー』

 

「うん、分かったよー」

 

その後は少し雑談をして、束ちゃんとの通話を終えた。

 

ーside美波 outー

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーsideシャルロットー

 

北山さん達と話をした翌日。僕はいつも通り登校していた。

北山さん曰く、情報工作をするための時間が必要で、それまでは僕が女だってバレないようにしてほしいって。

だから、いつも通り……。

 

「シャルル、行こうぜ」

 

……こんな感じで、昨日から一夏がずっと付きっ切りなんだけど。

どうも、僕が昨日帰りが遅かったのが原因らしい。

 

「お前が女だってバレないように、俺が守ってみせる、な?」

 

「う、うん……」

 

一昨日までなら、その言葉にすごく安心できたと思う。でも……

 

(だけど、一夏。君は僕を()()()()()守るつもりなんだい……?)

 

問題解決(援軍)の当てがない時間稼ぎ(籠城戦)はジリ貧になるだけ』

 

北山君が昨日言っていた言葉だ。

今なら分かる。そうなる前に、僕は自分の足で足掻くべきだったんだ。

 

僕を助けようとしてくれたこと、守ると言ってくれたこと、それは本心からだと信じられる。だけど……

 

(ごめんね一夏……でも僕は、守られるだけのお姫様はやめるよ)

 

ーsideシャルロット outー

 

 

ーside翔ー

 

「今年の学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うため、2人組での参加とする。なお、ペアが出来なかった場合は抽選で選ばれた生徒同士で組んでもらう」

 

今日のSHRは、織斑先生のその言葉から始まり、それだけで終わった。

 

「トーナメントまであと2週間、いや、ペアの締切は6日後か」

 

「そうみたいだねー」

 

SHRの終わり際に配られた申込書を見ながら、締め切りまでの日数を逆算していた。

さて、誰と組むべきか……。

 

「翔さん?」

 

「ん?」

 

振り向くと、にっこにこ笑顔のセシリアが立っていた。

 

「わたくしと組んで、くださいますよね?」

 

「お、おう……」

 

思わず返事をしてしまったが、まぁセシリアならいいかな。

 

「あ、美波はどうす――」

 

 

「ナミママー!あたしと組もー!!」

 

 

……うん、パートナーには困らなさそうだな。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「失礼しました」

 

トーナメントの申込書を職員室に持って行った帰り道、曲がり角の先から

 

「それでは、ドイツで再びご指導いただくことは無い、と?」

 

「ああ。私には私の役目がある」

 

この声……織斑先生と、ラウラか?

 

「役目ですか……生徒の大半が危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている、この学園でですか?」

 

「そうだ。むしろ、そういった連中の勘違いを正すのが、私の役目だ」

 

「……分かりました」

 

それだけ言うと、ラウラは去っていった。

 

 

 

「それで? 盗み聞きは感心せんぞ」

 

「なら、こんな廊下でシリアスな話はしないでくださいよ」

 

別に気配を消してたわけじゃないが、やっぱり気付かれてたか。

 

「……北山」

 

「何ですか?」

 

織斑先生は真剣な顔をすると

 

「対抗戦の件、本当にすまなかった」

 

頭を下げた。いやいや、こんな廊下ですることじゃないでしょ!

 

「ちょ、織斑先生」

 

「大丈夫だ。次の授業は移動教室だから、こっちに来る生徒はいない」

 

「そういう意味では……」

 

いや、そういうのも心配はしてましたけど……。

 

「私の、現場指揮官としてのミスであり、あいつ(一夏)の姉としてのミスだ。それでお前に被害が……」

 

「……謝罪は受け取りました」

 

出来れば公の場でとも思ったが、織斑先生も立場があるのは理解できる。

 

「それで? 織斑はその件については何と?」

 

「いや、それは……」

 

織斑先生がどもる。ということは、まぁ、そういうことだろう。

 

「織斑先生、他人の家庭の事に口出しするべきでは無いとは思いますが、一度あいつと話し合うべきだと思いますよ」

 

「話し合う?」

 

「ええ」

 

首を捻られるが、そんな難しい話じゃない。ただ――

 

 

 

「言わなきゃ、伝わらないことだってありますから」

 

 

 

束さん然り、デュノア然り。たぶん、織斑姉弟も――

 

ーside翔 outー

 

 

ーside千冬ー

 

「言わなきゃ伝わらない、か……」

 

北山がいなくなった廊下で、私はあいつの言葉を呟いていた。

 

会話自体は今もしている。ただ、それは教師と生徒という枠内でだけだ。

思えば、最後に一夏と家族の会話というものをしたのは、いつだったろう?

少なくとも、IS学園の教師になってからは一度も無かったと思う。

 

(臨海学校が終われば、夏休みだ。それなら、まとまった時間が取れるはず……)

 

その時が来たら、一夏と腹を割って話そう。

あいつの本音を聞いて、私の本音を話して。お互いに、思っていることを全て吐き出そう。

今まであいつの保護者として、家族としてやれなかったことをしよう――

 

ーside千冬 outー

 

 

ーsideラウラー

 

(教官は、やはり動かないか……)

 

そう思いつつ、意外と冷静な自分に少し驚いている。

司令部から指令が来た時は、日本行きにかこつけて、教官にドイツへ戻ってもらおうとばかり考えていた。

だが日本に、IS学園に来てから、その考えに自分の中で待ったがかかった。

『生徒の大半が危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている』、それは私の本心だ。

だからこそ、こうも思ってしまう。『教官ほどの人でなければ、ここにいる連中を正せないのではないか』と。

かつてのモンド・グロッソ第2回大会での()()で、ISの光と闇の両方を身を持って体験した教官なら。

で、あれば……

 

(私自身が強くなるしかない……教官のように、もっと力を……)

 

ーsideラウラ outー

 




彼女もなんだね……:
束→美波の好感度up(小)

お姫様はやめる:
シャルロット→織斑の好感度down(中)

謝罪:
翔→千冬の好感度up(微小)


ちーちゃん、夏休みまで先延ばしにせず、さっさと話し合っていれば……(壮大なネタバレ)


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第24話 学年別トーナメント

キング・クリムゾン~

そして今回はいつもより短めです。



学年別トーナメント当日。

各国政府関係者、研究所員、企業エージェントなど、錚々たる来賓がIS学園へやってくる。

3年にはスカウト、2年には1年間の成果の確認、そして1年も上位入賞者にはチェックが入るとあって、生徒達も皆やる気に満ちていた。

 

そして開会式から少しして、対戦表がアリーナの電光掲示板に表示された。

 

 

ーside翔ー

 

「1回戦目からラウラか……」

 

「手強そうですわね……」

 

そう、Aブロック1回戦目から、ラウラ・篠ノ之ペアとやり合うことになった。

ラウラが強いのもそうだが、今まで篠ノ之がノーマークだったせいで、まったく情報が無いのが痛い。

 

「それで、作戦はどうしますの?」

 

「そうだなぁ……」

 

セシリアの問いに少し考えるが

 

「正直、ラウラ相手に1対1は避けたいな」

 

AIC(慣性停止結界)、ですわね?」

 

「ああ、俺は直接見たことが無いがな。セシリアは?」

 

「わたくしは欧州連合のトライアルで一度だけ」

 

慣性停止結界、対象を任意に停止させることが出来るんだったか。

 

「正直、実体弾が主武装の翔さんとは、相性が良くありませんわね」

 

「ああ、だからセシリアには悪いんだが……」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「来たか……」

 

俺達がアリーナに入ると、すでにラウラと篠ノ之が入場していた。

 

「まさか、1回戦目からぶつかるとは思わなかったがな」

 

「それは私も同じだ」

 

やる気満々だなぁ。それに釣られてなのか、篠ノ之も真剣な顔で打鉄の()を構えている。

 

「それじゃあセシリア、作戦通りに」

 

「ええ、承知しておりますわ」

 

俺達もMARVEとスターライトmkIIIを展開したところで

 

 

――試合開始のブザーが鳴った

 

 

「なっ!」

 

ラウラが驚く声が聞こえた気がした。

まぁ驚くだろう。なにせ俺はラウラを()()()()()して、篠ノ之に向かって吶喊してったんだから。

 

「待てっ! くっ!」

 

ラウラが俺を追いかけようとするが、そこをセシリアのブルー・ティアーズが牽制で押し留める。

 

「申し訳ありませんが、しばらくわたくしと踊っていただきますわよ!」

 

「くっ! 小癪な!」

 

 

「北山が相手か!」

 

「おう、我流剣術どころか、喧嘩殺法で申し訳ないがな」

 

俺達の作戦、それは簡単に言えば『篠ノ之から先に倒してしまって、1対2の状況にしてしまおう』ということだ。

そのために、セシリアにはしばらくの間、ラウラを引き付けてもらうことにしたのだ。

 

「別に構わん。いくぞ!」

 

言うが早いか、篠ノ之が上段の構えから突進してきた。

 

「そんな織斑みたいな突撃、当たるとで――っ!」

 

「甘いっ!」

 

唐竹割から刃を傾けての薙ぎ払いかよ! 少し装甲を掠っちまった。

 

「こんの!」

 

――バラララララッ!

 

引きながらMARVEの弾をばらまくが、篠ノ之の奴、うまく躱しやがる。

 

「はぁっ!」

 

――ガキィィィンッ!

 

下段切り上げからの上段振り下ろしの流れにもまったく淀みがなく、俺はMARVEを交差させて受け止めるしかなかった。完全な鍔迫り合いだ。

 

「篠ノ之流を舐めないでもらおうか」

 

「いやぁ、しくったかもなぁ」

 

当初の予定では、篠ノ之を速攻で倒すつもりだったが、そうもいかなくなりそうだ。

 

ーside翔 outー

 

 

ーsideセシリアー

 

「くぅっ!」

 

まさか、箒さんがあれほど戦えるとは計算外でしたわ!

本来であれば、すぐに翔さんと合流して、ラウラさんと1対2で戦う予定でしたのに。

 

「私もだが、そちらもあいつの強さは予想外だったようだな」

 

「ええ、正直一度も戦うところを見ていませんでしたから」

 

こうやって悠長に話しながら戦えるのも、武装の特性がわたくしに利があるから。

 

「ふっ!」

 

ラウラさんが距離を詰めてAICを使おうとしたところを高速移動で回避、そのままレーザーライフルで攻撃……やはり躱しますか。

 

「ちっ、やりずらい」

 

そう、AICは任意の物体を停止させる力を持っています。それは言い換えれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

ですが、それでラウラさんを攻略できたわけではありません。

 

「ならば!」

 

肩部に搭載されている複数のワイヤーブレードが、わたくしに襲い掛かります。

 

「っ!」

 

「そらそら!」

 

――ガィンッ!

 

「きゃう!」

 

1撃もらってしまいましたが……まだ、いけますわ!

 

(ここは使い時、ですわね……)

 

正直、こんな序盤で使いたくはありませんでしたが、背に腹は代えられません。

 

「お行きなさい、ブルー・ティアーズ!」

 

わたくしは4機のビットを展開、ラウラさんを取り囲みます。

 

「はっ! お得意の無線ビットか!」

 

周囲を取り囲まれているのも構わず、ラウラさんがわたくし目掛けて突撃してきました。

 

「知ってるぞセシリア! お前は自分が回避行動を取ってる間、ビットを操作できないとな!」

 

そう言いながら振り下ろしたプラズマ手刀を回避したわたくしを、ラウラさんが追撃しようとしたところで

 

――パシィィィィン!

 

「ぐあっ! なん、だと……!?」

 

『回避している間はビット操作できない』そう、()()()わたくしでしたら。

ですがわたくしも、いつまでも進歩が無いままじゃありませんのよ?

 

「……なるほど。あの篠ノ之だけでなく、お前も予想外だ」

 

「誉め言葉として受け取っておきますわ」

 

「誉めてるさ。だがな……」

 

 

「勝つのは私だ!」

 

 

そう言ってラウラさんが再度プラズマ手刀を展開したところで

 

 

――ラウラさんのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』に、異変が起こりました。

 

 

ーsideセシリア outー

 

 

ーsideラウラー

 

(まったく、世の中うまくいかないものだな)

 

当初の予定では、2人目の男性操縦者の翔と戦って、奴の情報を収集するはずだった。

だが蓋を開けてみれば、奴は篠ノ之とチャンバラを始め、私はセシリアとやり合うことに。

しかもセシリアめ、事前情報にあった弱点を克服していたか。

 

「……なるほど。あの篠ノ之だけでなく、お前も予想外だ」

 

「誉め言葉として受け取っておきますわ」

 

「誉めてるさ。だがな……」

 

ああ、確かにお前は強い。それは認めよう。だが――

 

「勝つのは私だ!」

 

プラズマ手刀を展開して、セシリアに肉薄しようとした瞬間だった。

 

Existence of Sho Kitayama Confirmed.(北山翔の存在を確認)

 

Eliminate the target.(ターゲットを排除します)

 

《 Valkyrie Trace System 》…… boot.

 

(な、なんだこれは!? ヴァルキリー・トレース・システム(VTS)だと!? なぜこんなものがレーゲンに――)

 

その疑問を口にすることも無く、私の意識は落ちた――

 

ーsideラウラ outー

 

 



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第25話 偽りの戦乙女

ーside翔ー

 

「な、なんだあれは……」

 

篠ノ之が唖然とした顔をしていた。

そうしている内に、ラウラがレーゲンごと、どす黒い粘土のようなものに飲み込まれていく。

 

「マジかよ……」

 

確かに原作通りではあった。が、()()ラウラがまさか、とも思っていた。

だが、あれはまちがいなく……。

 

「翔さん!」

 

「北山!」

 

――ヒュンッ!

 

「ぐあっ!」

 

セシリアと篠ノ之、2人の声が聞こえるか否かのタイミングで、俺の首少し手前を何かが通り過ぎる。

 

「っぁぁ、やっぱそうなるか……」

 

絶対防御があるとはいえ、首を飛ばされそうになって背筋が冷たくなった俺の目の前には、粘土細工のIS――いや、ブリュンヒルデがいた。

そのブリュンヒルデもどきが、同じく粘土細工のような刀を手に、ずっとこちらを睨んでるような気がした。

 

(ヴァルキリー・トレース・システム……というか、織斑先生の全盛期強すぎるんだが!?)

 

篠ノ之相手なら多少は見えてた剣筋が、全然見えなかった。

こりゃ、近接戦やったら勝ち目はねぇな。

 

なんて思ってたら

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 

……なーんか織斑さん家の一夏君が、零落白夜発動させながらブリュンヒルデもどきに向かって吶喊してったんだが。

 

 

――バキィィンッ!

 

「ぐはっ!」

 

あ、峰打ち食らって吹っ飛んでった。ついでに気絶でもしたのか、展開解除もされたようだ。 なんだかなー。

 

――ヒュンッ!

 

「って、やっぱ狙いは俺か!」

 

織斑が相手の時は、自衛程度の攻撃だったのが、俺相手だと絶対殺すマシーンになってやがる!

 

『緊急事態発生、緊急事態発生。トーナメントは一時中断します───』

 

避難アナウンス! クラス対抗戦の時と違って、今回は警報もちゃんと鳴ってるのか!

 

『管制室織斑だ。北山、オルコット、篠ノ之、今のアナウンスは聞いたな? 制圧の為の教師部隊を派遣する。お前達は何とかして離脱しろ』

 

「離脱したいのは山々なのですが、どうも奴さんの目的は俺のようでして」

 

『何だと?』

 

「さっき織斑が――」

 

『ちょっと待て。なぜそこで織斑が出てくる?』

 

なぜって……(ヒュンッ!)危なっ! せめて通信してる時ぐらい攻撃待ってくれません!?

 

「……織斑先生、先ほど一夏が、敵に吶喊をかけて返り討ちに遭いました」

 

『……』

 

通信越しでも、織斑先生が絶句してるのがよく分かる。

 

『それで、織斑は……』

 

「気絶しておりますわ」

 

『……分かった。篠ノ之は織斑を回収して離脱。北山とオルコットは篠ノ之の離脱を援護してくれ』

 

まぁそれが妥当か。まさか生身の織斑を放置するわけにもいかないだろうし。

 

「分かりました。それじゃあセシリア、篠ノ之」

 

「分かりましたわ」

 

「ああ、分かった」

 

それを合図に、俺達は3方に散った。

篠ノ之は織斑を回収に、俺とセシリアはブリュンヒルデもどきを左右から挟む位置に。

 

「それで翔さん、どうするつもりですの?」

 

「とりあえず、接近戦は絶対NGだ」

 

織斑じゃないが、絶対に返り討ちに遭う自信がある。

 

「では、アウトレンジから?」

 

「その通り。1対2で悪いが、チクチク叩かせてもらおう」

 

MARVEの弾丸を再装填して、両手に展開する。

 

「さて、と。ときにセシリア、ダンスは得意か?」

 

「は? ダンスですか? 上流階級の嗜みですから、当然踊れますが、突然なんですの?」

 

「いやなに、こちとらラファールから専用機になって、それなりに思い通りに動けるようになったと思ってな」

 

 

 

「代表決定戦の時のように、俺と輪舞(ロンド)を踊ってくれるか?」

 

 

「……ええ、翔さんがどれだけ上手くなったか、見せていただきますわ!」

 

セシリアがスターライトmkIIIを構えると同時に、俺達は踊り出した。

 

 

ブリュンヒルデもどきを中心に置いた、円状制御飛翔(サークル・ロンド)を――

 

 

ーside翔 outー

 

 

ーside箒ー

 

「す、すごい……」

 

気絶している一夏を回収して、ピットに移動しながらも、私の目はそちらに釘付けになっていた。

 

あの粘土細工の様なIS、間違いなく、かつての千冬さんだった。

私でも勝てないであろう、全盛期のブリュンヒルデ。

それを、あの2人は完全に抑え込んでいた。

 

敵がどちらかを攻撃をしようと動けば、もう片方が射撃して動きを止める。

それを円を描くように回りながら、徐々にダメージを蓄積させていく。

 

北山も、接近戦では勝てないと踏んで遠距離戦に切り替えたのだろう。

それでも、あの2人の息があった動きに、羨ましい気持ちを持つのはなぜだろう。

 

(私も、一夏とああなることができたら……)

 

無理だと分かっていながらも、私はそう考えずにはいられなかった。

 

ーside箒 outー

 

 

ーside千冬ー

 

「す、すごい……」

 

山田君の驚く声に、誰も反応できずにいた。

 

(北山とオルコット……代表決定戦の時より、精度が上がっているのか)

 

円状制御飛翔(サークル・ロンド)を使い、敵を事実上全方位から攻撃する。

口にすれば簡単だが、それを相手の反撃をも抑えながらとなれば、話は違ってくる。

本当にこれを、1年生がやっているというのか……?

 

「お、織斑先生!」

 

「どうした!?」

 

「敵が……いえ、ボーデヴィッヒさんが!」

 

山田君に言われてモニターを見ると、そこには、粘土細工の()がドロドロに溶けて、破損したシュヴァルツェア・レーゲンと、気を失っていると思われるボーデヴィッヒだけが残っていた。

 

「教師部隊、アリーナに到着しました」

 

「また後手に……いや、教師部隊でレーゲンを包囲。しばらく待って異常が無ければボーデヴィッヒを収容させろ」

 

「了解」

 

「それとWピットに医療班を待機させろ。映像で見えないだけで、北山やオルコットが無傷とは限らん」

 

「あの、織斑君は……」

 

「……ボーデヴィッヒと一緒に収容してくれ」

 

周りに被害を被らなかったとはいえ、今回もやらかした弟に、私は頭と胃が痛くなるのを感じた。

むしろ今回こそ、クラス対抗戦以上に来賓が多いイベントだったのだ。そんな場で、あのような行動を見られてしまったのだ。

おそらく、前回の対抗戦以上に、一夏の処遇について厳しい意見が出ることだろう。

 

(だが、一夏を研究所送りになどするわけにはいかない……!)

 

例えどんな罵詈雑言を投げかけられようと、それだけの圧力をかけられようと、それだけは絶対に防いでみせる。

一夏を、唯一の家族を守るために――!

 

ーside千冬 outー

 

 

ーside束ー

 

「あーもー! 誰だよこんなマネしたのー!」

 

さっきまでこっそり学年別トーナメントを覗き見してた私は、今すっごく不機嫌だった。

 

「VTS!? あんな不細工なもの、束さんのISに載せるなんて信じらんない!」

 

外部から強制的にISを操作するぅ? やってることが寄生虫じゃないか!

 

「まったく、今束さんが忙しくなかったらぶっ潰してやるところだよ」

 

今はナミママからのお願いを聞くためにあれこれやってるから時間が無いけど、これが終わって手が空いたらとっちめてやる!

まぁデュノア社の副社長派だっけ? こいつら元々真っ黒だったから、あとちょっとで全部の罪上乗せが完了するんだけどね。

っと、それよりも重要なことがあったんだっけ……。

 

「箒ちゃんに専用機、あげようかなぁ……」

 

今回の件も見てたけど、やっぱり箒ちゃんにもショウママやナミママと同じように、自衛のためにも専用機を持たせてあげたいと思っちゃうよ。

だって、このまま箒ちゃんに何かあったら……よしっ、決めた!

 

「やっぱり箒ちゃん用の専用機を用意しよう!」

 

まずは、ほぼほぼ完成した紅椿をベースに、防御性能を充実させて――

 

ーside束 outー

 




VTSの起動条件が、原作から変わっています。(束さんが仕掛けてない関係上)
誰があんな条件で仕掛けたのかは……今後の展開で。


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第26話 リヴァイヴ

かなりかっ飛ばしましたが、トーナメント編終了でございまーす。



ーsideラウラー

 

(ああ、これは夢だな……)

 

そう思えたのは、目の前に見えたのが、かつての私だったからだ。

 

試験体C-0037。私に『ラウラ・ボーデヴィッヒ』という名前がつく前の、識別上の記号。

そう、私は人工合成された遺伝子から作られた、いわゆる試験管ベビーだった。

思えば、生まれた時から私は、周りの目を見て育ってきたと言えるだろう。研究者共の、好奇や狂気の目を見て……。

 

そこからも、私の人生は波乱万丈だったといえるだろう。

戦うための技術や知識を体得し、好成績を収めてきた。

それが『ヴォーダン・オージェ』――疑似ハイパーセンサーとも呼ぶべき、視覚情報の伝達速度と、動体反射の強化を目的としたナノマシン移植処理――の事故により、『出来損ない』の烙印を押された。

そんな落ちぶれていった私を、教官が拾い上げてくださった。そして再び、部隊内で最強の座に返り咲いた。

 

私は教官を、織斑千冬を尊敬している。

自分を救い上げてくれた恩人として、1人の戦士として。

 

だからこそ、教官の弟・織斑一夏のことを知った時、私は奴を許せなかった。

クラス代表決定戦での暴言、クラス対抗戦での独断専行。どれも教官の顔に泥を塗る行為でしかない。

なぜ、自らの失態の責が姉、保護者である教官にも及ぶと気付かないのか。

 

だから、IS学園へ来た時、1組の教室で奴を見つけた時、1発殴らなければと思っていた。

 

「……貴様が、織斑一夏か?」

 

「そうだけど?」

 

だが、そんな考えすらも、奴の目を見た時に失せた。

 

(ああ……だから貴様は、あのような行動ばかり取ったのだな……)

 

世間一般では、笑顔の似合う好青年と言うのだろう。

だが、奴の目は、奴の目の奥には、狂気が混じっていた。奴は、現実を見ていない。

かつて研究所にいた、自分の理論を否定され、それを認められずに狂ってしまったとある研究員のような。

 

(これからあの男は、どうなるのだろうな……)

 

そんな意味もないだろうことを思いながら、私の意識は遠くなっていった――

 

ーsideラウラ outー

 

 

ーside千冬ー

 

「……報告は、以上です」

 

私は前回と同じく理事長室で、轡木理事長とIS委員会日本支部長に報告をしていた。

 

「そうですか……」

 

「VTS……アラスカ条約によって、研究・開発・運用が禁止されている技術ですが、まさかドイツが……」

 

理事長も支部長も、今回起こった事件には頭を抱えていた。

何せ、大国に数えられるドイツが国際条約破りと言える真似をしたのだ。

 

「とりあえず、ドイツ政府と研究機関に関しては、国際IS委員会が強制査察を行うよう調整中です」

 

「そちらはお願いします。それで織斑先生、VTSの詳細についてですが」

 

「はい」

 

私は頷くと、先ほど解析を終えた山田君の報告書の束をめくる。

 

「ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンに密かに仕組まれていたVTSですが……とある条件によって起動する仕組みだったようです」

 

「とある条件、ですか?」

 

「はい……」

 

 

「件のVTSは……『北山翔の存在を確認した時』を条件に起動、彼の殺害まで動き続けるというものでした」

 

 

「北山……"2人目"の?」

 

「はい」

 

「なるほど……織斑君が気絶した後放置されていたのは、殺害対象ではなかったから、というわけですか」

 

「恐らくは」

 

「そういえば、織斑一夏についてですが……」

 

来たか! だが、研究所送りには絶対に……!

 

 

「今回、IS委員会からは特にありません」

 

 

特に、ない?

 

「前回と違い、今回は彼が勝手に負傷しただけ、それ以外の被害はありませんでしたからね」

 

そう言うと、支部長は理事長に向き直り

 

「とはいえ、彼が勝手をしたのも事実ですから、今回も処遇は学園側にお任せします」

 

「分かりました」

 

良かった、これで……

 

「織斑先生、安心されては困ります」

 

「え?」

 

支部長からの指摘で、私は我に返った。

 

「今回彼が勝手をしたことで、私を含めた委員の大半が懸念しているのですよ。『織斑一夏は前回の失態を全く反省していないのではないか』とね」

 

「……っ!」

 

 

 

「『次に何か問題を起こした場合、織斑一夏は専用機剥奪の上、研究所送りとする』。これは国際IS委員会、および日本政府の決定事項です」

 

 

 

「そん、な……」

 

それは、一夏に対する最後通牒だった。

 

「ですので、しっかり手綱を握っていてください」

 

それだけを言うと、支部長は理事長室を出ていった。

 

ーside千冬 outー

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside美波ー

 

昨日のラウラちゃんのISが暴走した(VTSが発動した)事件で、トーナメントは中止になっちゃった。

一応、データ取りのために全員1回戦だけはやるらしいけどねー。

 

「ねぇナミママ、今日ってデュノア君とボーデヴィッヒさん、休みなのかなー?」

 

「そういえば、もう少しでSHRなのに、席にいないね」

 

「う~ん、私も分からないなー」

 

「そっか~、ナミママも知らないか~」

 

クラスのみんなに話を合わせているけど、シャルロットちゃんの理由は大体分かってる。

だって昨日の夜、束ちゃんから連絡があったんだよねー。『準備完了、明日の朝決行』ってー。

 

「み、みなさん、おはようございます……」

 

まーやんが教室に入ってきたけど、すっごいフラフラしてるー。ということは、たぶん()()なんだろうなー。

 

「連絡事項ですが……ボーデヴィッヒさんは昨日の怪我の様子見ということで、今日はお休みになります」

 

ありゃ、原作みたいに翌日復活とはならなかったかー。

 

 

「それと、今日はですね……みなさんに転校生を紹介します」

 

 

「「「「ええ~~~!?」」」」

 

 

「て、転校生ですか!?」

 

「この前、デュノア君とボーデヴィッヒさんが来たばかりですよ!?」

 

クラスのみんなも驚いてる。2人入って、翌月またとか普通ないもんねー、普通はー。

 

「転校生と言いますか、すでに転校していると言いますか……」

 

まーやん、どう説明したらいいかいろいろ悩んでたみたいだけど

 

「えっと、入ってきてください」

 

「失礼します」

 

 

「え……?」

 

 

誰かが漏らした声が、教室中に響いた気がした。それぐらい、みんな静まっちゃったよー。

昨日まで男子の恰好をしていたシャルロットちゃんが、スカート姿で出てきたら、ねぇ。

 

「シャルロット・デュノアです。改めてよろしくお願いします」

 

「『デュノア"君"はデュノア"さん"でした』ということです。はあ~、また部屋割りが~……」

 

 

「「「「ええ~~~!?」」」」

 

 

う~ん、みんな反応がいいねー。

 

「まずはみんなに謝罪します。騙していてごめんなさい。私が男としてIS学園に転校したのは、デュノア社から男の振りをするよう命令されていたからです。それも社内の派閥争いの結果そうなったもので、今朝その原因が無くなったため、女に戻る事が出来ました。

理由があったとはいえ、みんなを騙していたことに変わりはありません。それでも、私はこれからもこのクラスで学んでいきたいんです。どうかこのクラスにいさせてください。お願いします!」

 

そこまで言い切ると、シャルロットちゃんは深々と頭を下げた。

 

今頃、デュノア社副社長派の黒い秘密が暴露されて(ついでに今回の件の罪も全部被せられて)、次々に逮捕者が出ているんだろうなー。束ちゃんが国際IS委員会のサーバにハッキングして、直接情報を送ったらしいしー。

残ったデュノア社内部もいくらかは荒れちゃうだろうけど、そこまではカバーし切れないから勘弁してねー。

 

(あとは、クラスのみんながどう思うかかなー……)

 

私達は出来る限りのことはした。でも、それをクラスのみんなが認めてくれるかは別問題だからねー。

 

 

――パチパチパチ!

 

 

「私はデュノアさんが悪いとは思わないよ」

 

「そうだよ! そんな事情があったんじゃ仕方ないよ」

 

「大変だったねぇシャルロットさん」

 

「これからもよろしくね、シャルロットちゃん!」

 

シャルロットちゃんはポカンとした表情をしていたけど、しばらくすると目の端に涙を浮かべながら

 

 

「ありがとう、みんな! これからもよろしくね!」

 

 

最初に転校してきた時とは全く違う、飛び切りの笑顔をした。

 

ーside美波 outー




これで箒以外の第1期ヒロインは、一夏ハーレムから外れることとなりました。

シャルロットには(美波達のフォローがあったとはいえ)、自力でハーレムから外れてもらいました。
ちなみに、原作読んでた当時は「え? 何も問題解決してないのに男装やめんの?」と首を捻ってました。(後日11巻を読んでなんとなく自己解決したわけですが)

ラウラに関しては、『ちーちゃんへの妄執がなければ、こんな感じになっただろうなー』を書いてみたらこうなりました。う~ん、ただの優秀な軍人でしかないな。
これではクラリッサの間違った日本知識が入る隙間が無いじゃないか。(おい)


というわけで皆様、いつものを行いたいと思います。


「一夏に!ハーレムは!おとずれなぁい!!」


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臨海学校
第27話 臨海学校1日目


唐突ですが、臨海学校+αで完結にしようと考えております。

このまま日刊でいけるかは怪しいですが、お付き合いいただければと思います。



「海だぁっ!」

 

バスの中で、クラスの誰かが言った。

 

学年別トーナメントの事件があって数日。ラウラも回復(レーゲンも予備パーツを使って復旧が完了)した頃に、臨海学校の日となった。

バスの中では、隣同士の席で盛り上がる声が聞こえ、皆テンションが上がっているのがよく分かる。

 

「楽しみだなぁ!」

 

「いつもは北の海ばかりだったからな。私も楽しみだ」

 

フランスとドイツから来た2人(トーナメント後に部屋替えで同室になった者同士)は、その中でも特にはしゃいでいた。

 

「翔ちゃん、そろそろ起きなよー」

 

「んぁ……もう着いたのか」

 

「もうちょっとで着くよー」

 

「そうか……じゃあもうちょっと寝られるな……」

 

「あーもー、翔ちゃーん」

 

……若干名、眠気の方を優先している者もいるが、バスは順調に目的地へ向かっていった。

 

 

(どうしてだ俺がシャルを守るって言ったじゃないかなんで北山さんに助けてもらったって話になるんだ男の俺が守らなきゃならないはずじゃないか)

 

約1名、またもや自分の世界に嵌まり込んでしまったものも含めて――

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「ではみなさん、私に付いてきてくださいね~」

 

旅館の駐車場に到着し、バスから自分の荷物を持って降りる生徒達を、真耶が先導して旅館の玄関に向かう。

玄関まで着くと、そこには千冬と旅館の仲居達が待っていた。

 

「ここが今日から3日間お世話になる花月荘だ」

 

生徒達にそう言うと、今度は仲居の方を向いて

 

「ご迷惑になると思いますがよろしくお願いいたします」

 

 

「「「「よろしくおねがいします」」」」」

 

 

千冬に続いて、生徒達も挨拶する。

すると仲居の中から、女将と思われる和服の女性が出て来て「ようこそいらっしゃいました」と返事をする。

 

「それでは、お部屋に案内させていただきます」

 

班ごとに分かれた生徒達は、それぞれの仲居に案内された部屋へと向かっていく。

翔と美波はそのまま、同じ部屋に通された。……寮の部屋割りと全く変わらなかったわけである。

 

 

ーside翔ー

 

「「「「海だぁぁぁぁぁ!!」」」」

 

部屋で水着に着替えて海辺に出たら、同じく水着を着たクラスメイト達が海に向かって走っていった。

 

臨海学校では、1日目が自由時間、2日目が『ISの日限定空間における稼働試験』、言ってしまえばISの新型装備を学園以外で動かそうというわけだ。

 

そんなことを考えてるうちに、みんな海で泳ぎ始めたり、ビーチバレーでも始めるのか、ネットを張り始める人もいた。

 

「翔ちゃーん、私達も行こうよー」

 

後ろから手を引かれて振り向くと、そこには美波のほかに、セシリアと鈴の姿もあった。

 

美波は白のフレアビキニ。その水着で泳げるのか出発前に聞いたところ、「今回は泳ぐのは無しでいいかなー」とのことだった。

セシリアはブルーのビキニ。腰にパレオを巻いていて、ビーチパラソルを持っているところからして、こちらもあまり泳ぐ気はないのだろう。

鈴は白とオレンジのタンニキタイプ。こっちはセシリアと違い、動きやすさを優先したのか泳ぐ気満々のようだ。

 

さらに3人の後ろから、シャルロット(女に戻った後、ラウラと同じようにお互い呼び捨てにしようと決めた)とラウラがやってきた。

 

「あ、翔達もここにいたんだね」

 

「うむ。海なんて軍の訓練以来だから、今日は楽しませてもらおう」

 

シャルロットはオレンジのビキニで、ラウラが……。

 

「あ、あの……ラウラさん?」

 

「それはどうなのよ……」

 

セシリアと鈴がラウラを指さすが……

 

「別に問題なかろう。むしろ普通の水着より機能的だぞ?」

 

そう胸を張って答えるラウラの恰好は……学園指定のスクール水着だった。

いやまぁ確かに、機能面だけで言えばそうかもしれないが……。

 

「ま、まぁいいわ。とりあえずナミママ、私達も泳ぎましょう!」

 

「あ、あの、翔さん。実はわたくしにサンオイルをですね……」

 

「あ~! シャルロットちゃんとラウラちゃん! ビーチバレーの人数足りないんだけど、入ってくれないかなー!?」

 

「バレー? いいよー! ラウラはどうする?」

 

「ふむ、海に入る前の準備運動にちょうどいいかもな」

 

そんな感じで、俺はセシリアに、美波は鈴に連れていかれ、シャルロットとラウラはビーチバレー組に付いていったのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

サンオイルを塗った俺と塗られたセシリアが顔を真っ赤にしたり、準備運動をせずに海に飛び込もうとする鈴を美波が叱ったり、ビーチバレーでシャルロットとラウラのコンビを倒せず、最終兵器(織斑先生)が投入されたりと、あっという間に時間が過ぎて夜になった。

 

大広間をいくつか繋げた宴会場で、みんなは夕食を取っていた。

ただ、俺や美波、セシリアは別の部屋にいるのだが。

 

「すみません……お二人にはお気遣いを……」

 

「気にしなくてもいいよー」

 

「そうだぞ、無理しても飯が不味くなるだけだからな」

 

浴衣姿のセシリアを、俺と美波は慰めていた。

 

この旅館では『食事中は浴衣着用』、さらに座敷なので正座という決まりらしい。

ただ、そこは宿泊客がIS学園ということもあり、多国籍や多民族・他宗教というのを考慮して、宴会場の隣部屋にテーブル席も用意してもらっている。

で、正座が苦手なセシリアに付いていく形で、俺と美波もテーブル席にいるわけだ。

ちなみに鈴は2組なのでそもそも別部屋だし、シャルロットとラウラは「日本文化に挑戦してみよう」ということで、そのまま宴会場に残っている。

 

「それにしても、部屋も贅沢だったが、食事も贅沢だなぁ」

 

刺身に小鍋、山菜の和え物に、味噌汁と漬物。しかも刺身はカワハギ(肝付)というのだから、どれだけ金がかかっているのだろう。

 

「そういえば、セシリアは生魚は平気なのか?」

 

今でも欧米では苦手意識を持ってる人もいると思うんだが。

 

「昔は『魚を生で食べるなんて』と思っていましたが、日本に来てから考えが変わりましたわ」

 

魚のカルパッチョなどは時々食べますのよ、と付け加える。

 

 

 

「っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」

 

 

 

「な、何だ!?」

 

突然隣の部屋から、誰かの悲鳴というか、くぐもった大声が聞こえたんだが!?

俺達3人の他、同じく正座が出来ずにテーブル席を利用していたクラスメイト達が立ち上がると、部屋を仕切っていた襖が開いて

 

「だ、大丈夫だよー。シャルロットちゃんが誤ってワサビの山を食べちゃっただけだからー……」

 

ものすごく苦笑している相川さんがひょっこり顔を出して、そう伝えてきたのだった。

 

ーside翔 outー

 

 

ーside美波ー

 

「いやー、満腹満腹―」

 

夕食を食べた後、私は1人で部屋に戻っていた。

翔ちゃんは男の子だから、大浴場の利用時間が限られてるんだよねー。だから急いで入りに行ったんだー。

 

~~♪

 

「およ? 束ちゃんから?」

 

着うたからかけてきた相手が分かると、私はスマホをカバンから取り出して受信ボタンを押した。

 

「もしもしー?」

 

『ナミママ―、束さんだよー!』

 

「やっぱり束ちゃんかー。あ、そうそう。この前は色々手伝ってくれてありがとねー」

 

『デュノア社の事? 別に構わないよぉ。 あの後デュノアの社長って名乗る男と取引できたし』

 

「取引ー? 悪いことじゃないよねー?」

 

『全然! ちょっとした物々交換だよ』

 

「交換?」

 

なんだろう? 束ちゃんがわざわざ他の人と取引してまで欲しいものってー。

 

『束さんの要らなくなった第3世代機の情報と、あっちの倉庫に死蔵されてる機材を交換したんだよ。宇宙進出用の資材に再利用できそうだったからね』

 

「第3世代機? そんなのあげちゃっていいのー?」

 

『いいのいいの。どうせ紅椿を作り始めた時点で不要だったし、それにプラスして、将来SRCが宇宙進出した際には協賛するように密約も交わしたしね』

 

なるほどー。今回のことをきっかけに、地固めをしていったわけだー。

 

『で、今日連絡した本題なんだけど』

 

「あ、そうだったねー」

 

『実はナミママ達に、伝えておこうと思ってることがあってね』

 

「何かなー?」

 

 

 

『明日の臨海学校、束さんも行くから』

 

 

 

ーside美波 outー



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第28話 臨海学校2日目

ちーちゃんは一夏に、重要な事は何一つ話そうとしないってイメージがあります。(白騎士事件のこととか、プロジェクト・モザイカのこととか)


――ハワイ沖某所

 

(これでよし……)

 

整備員の恰好をした女は、細工を終えたISを見て満足げな笑みを浮かべた。

正規の整備員ではない。とある組織から送り込まれた、工作員と呼べる存在だった。

 

(この『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』を暴走したように見せかける……)

 

仕込んだのは、ある特定の人物を探し出し、抹殺するプログラム。

そしてその人物とは……

 

(これで北山翔を始末すれば、千冬様の弟君が"唯一"の男性操縦者となる……そう、それ以外の男なんて不要なのよ……!)

 

織斑千冬至上主義者の彼女にとって、織斑一夏以外の男がISを操縦できるなど許されることではなかった。

だからこそ、自分の上司――女性権利団体の幹部――から今回の話を聞いた時、我先に志願したのだ。

 

(ドイツの小娘を利用した連中は失敗したけど、今回こそは……!)

 

なにせ、今回は軍用ISを使うのだ。万が一にも仕損じることは無いだろう。

近い内にもたらされるであろう成功を妄想しながら、工作員の女はIS格納庫を後にした……

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside箒ー

 

臨海学校2日目。今日は丸一日、ISの各種装備試験運用とデータ取りをするらしい。まぁ、専用機持ちに比べ、私を含めたクラスメイト達はそこまで忙しくないだろうが。

 

「さて、それでは各班ごとにISの装備試験を行う。専用機持ちは専用パーツのテストだ」

 

ほら、各班で分担するなら、そこまで時間はかからないだろう。

そう思って、クラスメイト達の輪の中に入ろうとしたが

 

「篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」

 

「はい?」

 

なんだろう? 千冬さんが苦虫を嚙み潰したような顔をしている。それに……美波、だったか。彼女も苦笑いをしている。

 

「お前には今日から専――」

 

「ちーちゃ~~~~~~~~~~ん!!」

 

こ、この声は、まさか……!

 

「会いたかったよちーちゃん! さあハグを――ぶへっ」

 

「うるさいぞ、束」

 

砂煙を上げながら千冬さんに突撃、アイアンクローで迎撃されたのは……間違いなく、姉さんだった……。

 

「やあ箒ちゃん!」

 

「……どうも」

 

千冬さんのアイアンクローを受けたまま、こちらに向かって手を上げる姉さんに、私はそう返すしかなかった。

 

「おい束。自己紹介ぐらいしろ。うちの生徒達が困ってるだろ」

 

「うーん、それじゃあまずその手を放してくれるかなぁ」

 

「はぁ……」

 

ため息をひとつついて、千冬さんが姉さんを解放する。

 

「ISの生みの親、篠ノ之束だよー。身内以外に名前を呼ばれるのは許容しないから、適当に篠ノ之博士とでも呼んでー」

 

「「「……」」」

 

姉さんの自己紹介にクラスメイト達がぽかんとしていたが、私や一夏、千冬さんといった、()()()()姉さんを知ってる面子もぽかんとしていた。

 

(ね、姉さんが……普通の自己紹介をしている……!?)

 

身内と呼べる、私や織斑姉弟以外には、まっとうなやり取りをしなかった姉さんが!?

 

「えっと……こういう場合はどうしたら……」

 

山田先生もうろたえている。

 

「山田先生は各班のサポートをお願いします。ほら1年、手が止まってるぞ」

 

そう言って千冬さんが促すと、山田先生とクラスメイト達は自分達の担当装備がある場所に移動していった。

 

「それで、姉さんがなぜここに……?」

 

いや、姉さんなら『ちーちゃんに会いに来たんだよー!』だけで乱入してきそうではあるが。

 

「うっふっふっ。実は箒ちゃんにプレゼントがあるんだよ。 さあ、ご覧あれぇ!」

 

びしっと直上を指さす姉さんに、私や他のみんなも空を見上げた。

 

 

――ヒュゥゥゥゥゥ……ズズーンッ!!

 

 

「な、なな……!?」

 

激しい衝撃と轟音を伴って落ちてきたのは、銀色をした金属の塊だった。

その金属の塊の正面がぱたりと倒れると、中にあったのは……

 

「じゃじゃーん! 箒ちゃん専用機、『紅椿・改』! 箒ちゃんのことを思って、束さん、夜なべして作ったんだよ!」

 

この、赤い装甲のISが……私の、専用機……?

 

「ど、どういうことですか!? 私に専用機なんて……!」

 

「それはね……」

 

そう言うと、姉さんはいつもの顔から真剣な顔になって

 

「箒ちゃんを守るためだよ」

 

「私を、守る?」

 

「うん。箒ちゃん、IS学園に入ってから今まで、危険な目に何度も遭ってるよね?」

 

「……」

 

そんなことはない、と言いたかったが、思い返せばクラス対抗戦に学年別トーナメントと、危ない目には遭っているなと思った。

 

「だから、箒ちゃんにも自衛の手段が必要だと思ったんだ……余計なお世話だったかな?」

 

「それは……」

 

なんなのだ、これは。本当に、目の前にいるのは"私の姉さん"なのか?

勝手にISなんてものを作って、私達家族を離散させた諸悪の根源。そう、思っていたのに……

だが、これがあれば、あの時(学年別トーナメント)の北山とセシリアのように、私と一夏もなれるかもしれない。そうなれば、一夏もきっと、昔のように――

 

「いえ。有難く、もらいます」

 

「そっか! じゃあさっそくフィッティングとパーソナライズをしちゃおう!」

 

ーside箒 outー

 

 

ーside翔ー

 

「相変わらず、身内とそれ以外の差が激しいですわね……」

 

「そうね……あたし、箒に束姉のこと言うのが怖いんだけど……」

 

「タイミングが悪いと、修羅場りそうだねー」

 

などと、束さんのことを知ってる面子は、極力あちらに近づかないようにしていた。

あちらでは、篠ノ之が紅椿・改に乗って、試運転をしているようだ。ぱっと見、かつて研究室で見た紅椿と変わらなさそうだが……。

 

「美波、もしかしてお前、束さんが来るの知ってたのか?」

 

「あははー、バレてたかー」

 

そりゃ、織斑先生と一緒に苦笑いしてたからな。

 

「昨日連絡が来てねー、箒ちゃん用に防御重視の専用機を渡したいってー」

 

「あれ、防御重視なのか……」

 

その割には、空割のエネルギー帯でミサイルを迎撃してるんだが?

 

 

「た、大変です! 織斑先生っ!」

 

突然の声にみんなが振り向くと、いつも以上に慌てた山田先生が走ってくるのが見えた。

 

「どうした?」

 

「こ、これをっ!」

 

渡された小型端末の画面を見て、織斑先生の顔が曇った。

 

「匿名任務レベルA……」

 

「ハワイ沖で試験稼働を……」

 

「山田先生、機密事項を口にするな」

 

「す、すみませんっ」

 

2人は小声で話していたが、その後は手話なのか、口を閉じて手だけを動かしだした。

しばらくその手話が続いていたが、お互い頷くと、山田先生はまた走っていった。

 

「……全員、注目!」

 

織斑先生がパンパンと手を叩いてみんなを振り向かせる。

 

「諸事情により、今日のテスト稼働は中止になった。各班はISを片付けて旅館に戻ること。連絡あるまで各自室内待機とする。以上だ!」

 

「ちゅ、中止?」

 

「突然なんなの?」

 

先ほどまで装備のテストをしていたクラスメイト達は、訳が分からないと騒ぎ始める。

 

「さっさと戻れ! 以後、許可なく外へ出たものは身柄を拘束する!」

 

「「「「はっ、はい!」」」」

 

"拘束"という言葉に、非常事態であることを認識した全員が慌てて動き始める。

 

「専用機持ちは全員集合!――篠ノ之もだ!」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「では、現状を説明する」

 

旅館の一室に集められた俺達の目の前には、大型の空中投影ディスプレイと織斑先生。

 

「2時間前、ハワイ沖で試験稼働中だったアメリカ・イスラエル共同開発の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が暴走、監視空域より離脱したと連絡があった」

 

「……」

 

全員、厳しい顔をして黙り込む。

俺と美波は原作を知っているから。代表候補生の面々も、こういった事態に対して、自分達が何を期待されているのか理解しているからだろう。

織斑と篠ノ之だけが、なぜ自分達にそんなことを知らせるのかという顔をしている。これに関しては仕方ないだろう。

 

「その後、衛星による追跡と進路予測の結果、福音はこの花月荘上空を通過、本州内陸部を目指していることが分かった。学園上層部からの通達により、我々がこの事態の対処に当たることとなった」

 

()()、ね。

 

「教員は空域及び海域の封鎖を行う。よって、福音の迎撃は専用機持ちに行ってもらう」

 

織斑なんかは「なんで俺達が?」みたいな顔をしてるが、教師陣の訓練機と専用機を比較したら、スペック的には俺達の方が勝算があると思われたんだろうな。

 

「福音の詳細なスペックデータはありますか?」

 

セシリアが挙手しながら質問する。

 

「あるが、これらは2カ国の最重要軍事機密だ。口外するな。情報漏洩した場合、諸君には裁判と最低2年の監視が付けられる」

 

「了解しました」

 

話がどんどん進んでいき、代表候補生達が開示されたデータを元にあれこれ相談を始める。

 

「広域殲滅型……オールレンジ攻撃が行えるようですわね」

 

「攻撃と機動力特化ね。しかもスペック上ではあちらが上か……」

 

「この特殊武装が曲者だね……ちょうどリヴァイヴ用の防御パッケージが来てるけど、長くは防げないかな……」

 

「それにしても情報が少ない……教官、偵察は行えないのですか?」

 

「無理だな。この機体は現在超音速飛行を続けている。アプローチは1回か、多くても2回が限界だろう」

 

そう織斑先生が返すと、候補生達はう~んと唸り始める。

 

「1,2回だけのチャンス……ということはやはり、一撃必殺の能力を持った機体で当たるのが……」

 

そう山田先生が口にしたところで、今まで静かだった一角から手が上がり

 

 

「千冬姉! 俺にやらせてくれ! 俺なら、俺の零落白夜ならやれる!!」

 

 

ああ、やっぱりそうなるのか……。

 

ーside翔 outー



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第29話 vs 銀の福音~愚者の裏切り~

一夏やらかしポイント その2


ーside翔ー

 

昨日散々遊んでいた砂浜で、専用機持ち全員が集合していた。

 

「じゃあ、箒。よろしく頼む」

 

「本来なら女の上に男が乗るなど言語道断だが、今回は特別だぞ」

 

そう言いつつ、妙に機嫌がいい篠ノ之。まぁそうなるか。

 

「織斑君と箒ちゃんだけで終わればいいねー」

 

「そうですわね……」

 

「あたしとしては、出番がないのは微妙だけどねぇ」

 

「僕は出番が無い方がいいと思うけどなぁ」

 

「同感だな。後詰など、出番が無いに越したことは無いからな」

 

そんな2人のやり取りを見て、俺を含めた他の専用機持ち達が微妙顔をした。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――30分前

 

「千冬姉! 俺にやらせてくれ! 俺なら、俺の零落白夜ならやれる!!」

 

「織斑、これは訓練ではない。実戦だぞ」

 

「分かってるさ! チャンスが1,2回だけで、一撃必殺の攻撃が必要なら、零落白夜が最適なんだ!」

 

「うむ……」

 

織斑先生も、零落白夜がこの作戦に最適なのは否定できないだろう。織斑がそれを使いこなせるかは別として。

 

「だが、どうやってお前を福音まで運ぶ? 福音がこちらに来るまで待って迎撃は許可できんぞ」

 

「はいぃ、周囲の被害を考えると、できれば海上で迎撃したいところですね……」

 

山田先生も困った顔をして同意する。

 

「……姉さん」

 

「箒ちゃん?」

 

「この紅椿・改なら、一夏を目標ポイントに運ぶことは可能ですか?」

 

「……」

 

そう篠ノ之に聞かれ、束さんが困ったような、悲しそうな顔をする。

篠ノ之の望みは叶えたい、だけど危険な事をしてほしくもない。そんな気持ちなのだろう。

 

「束」

 

「……可能、だよ」

 

織斑先生に促されて、観念したように束さんは首を縦に振った。

 

「そうか……では、本作戦を伝える。篠ノ之が織斑を目標ポイントまで運搬。織斑の零落白夜による強襲により、対象を無力化させる」

 

「よし! 絶対やり切ろうぜ、箒!」

 

「あ、ああ!」

 

作戦は決まったが、これだと不安が残るな……。

 

「きょうか、織斑先生」

 

途中で言い直しながら、ラウラが挙手した。

 

「なんだ?」

 

「意見具申。不測の事態に備え、私を含めた残りの専用機持ちを後詰に付けるべきです」

 

「なるほど……」

 

「そんなのは必要ねぇよ! 俺と箒でやり切ってみせる!」

 

「いいだろう」「千冬姉!?」

 

――ゴンッ!

 

「織斑先生だ。実戦では何が起こるか分からん。不安の穴は出来る限り塞いでおくべきだろう」

 

織斑にいつもの鉄拳制裁を入れると、こちらに向き直り

 

「30分後に作戦を開始する。それまで各自ISの調整を行え。以上だ!」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そして現在、先ほど出発した織斑・篠ノ之組の後詰として、俺達も目標ポイントを目指していた。

 

『もう少しで目標ポイントだ。用意はいいか、一夏!』

 

『ああ! 絶対に成功させるぞ!』

 

オープン・チャネルで2人の会話も聞こえてくる。

 

『見えた! 一夏!』

 

もう接敵するのか!? 早すぎるだろ!

 

『いくぜぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

織斑の威勢のいい声が聞こえたと思ったが

 

『一夏!?』

 

篠ノ之の驚く声が被る。

 

「な、何があったの!?」

 

「不測の事態か!?」

 

後を追っていた俺達にも、動揺が走った。

 

『一夏! せっかくのチャンスになぜ――!?』

 

『船がいるんだ! 海上は先生達が封鎖したはずなのに――密漁船か!』

 

「密漁船!? なぜそのようなものが……!」

 

「ああもうっ! 段取り台無しじゃない!」

 

通信越しに何が起こったのか知ったセシリアと鈴が声を上げる。

そして目標ポイントに着いた俺達の前には、福音に追い回される織斑と篠ノ之、海上をのそのそと動く船があった。

 

「織斑君も箒ちゃんも、攻撃を避けるので精一杯みたいだよー」

 

「不味い状況だね……」

 

シャルロットの言うように、非常にまずい状況だ。

何より、まともな回避行動が取れない船が下にいるのが問題だ。篠ノ之はともかく、織斑は流れ弾を恐れてか、被弾が増えている。

 

「北山より織斑先生へ」

 

『こちら織斑だ』

 

こうなった以上、現場指揮官の指示を仰ぐしかない。

 

「緊急事態発生です」

 

『何があった?』

 

「作戦区域に密漁船が迷い込んだ模様。その船を織斑が庇ったため、強襲は失敗です」

 

『何だと!?』

 

通信越しで織斑先生が驚いているが、それより問題なのは――

 

「それで、どうしますか?」

 

『どうする、とは?』

 

「作戦を中断して船を助けますか? それとも、作戦を続行して福音撃破を優先しますか? 現場指揮官である織斑先生の指示を願います」

 

『……』

 

「おい翔! 船を見捨てるっていうのかよ!?」

 

通信を聞いていたであろう織斑が怒鳴り散らすが、実戦とはそういうものだ。

不測の事態に陥った時、何を優先させるのか。船と日本本土、どちらを危険に晒すのか。

それを決める権利と、それに伴う責任を持つのが指揮官というものだ。

 

「千冬姉! 俺達なら大丈夫だから――!」

 

『……作戦参加中の各員に通達』

 

 

 

『作戦を強襲から包囲戦へ変更する。各個で福音に対して攻撃を行え』

 

 

 

「「「「了解!」」」」

 

「そ、そんな……」

 

俺のホワイト・グリント、美波の不知火、セシリアのブルー・ティアーズ、鈴の甲龍、シャルロットのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲン。

呆然としている織斑と、その織斑を後退させる篠ノ之以外の専用機持ちは、福音を囲むように展開した。

そして攻撃を、と思った矢先に

 

「La……」

 

甲高いマシンボイスと共に、福音のウイングスラスターに付いた砲門から、エネルギー弾の一斉射が飛んできた――俺にだけ。

 

「なっ!?」

 

どういうことだよ!? なんで俺だけ!?

そう思いながらも、福音は他の連中には目もくれず、俺にだけ総攻撃を仕掛けてくる!

 

「どうして翔さんだけ……!?」

 

「あたしらは、眼中にないってこと!?」

 

そんな中、俺はこの状況に既視感 (デジャヴ)を感じていた。

そう、ほんの数日前。IS学園のアリーナで……

 

(まさか、ラウラのVTSの時と同じで、こいつの狙いは……!)

 

それと同時だった。

本来誰もいないはずの背後から、衝撃と激痛を感じたのは――

 

ーside翔 outー

 

 

ーside織斑ー

 

「そんな……千冬姉、どうして……」

 

どうして、あんな指示を出したんだ……。

あの船には人が乗ってるはずなんだ。それなのに、どうしてそれを見捨てるようなことを言うんだ……。

 

「一夏! しっかりしろ!」

 

「ほう、き?」

 

「お前の零落白夜も、あと1回が限度だろう!? なら、最後のチャンスを逃すな!」

 

「最後の、チャンス……?」

 

「そうだ! 北山達が福音を引き付けてくれてる間に、お前がとどめを刺すんだ!」

 

「俺が……とどめを……」

 

そうだ。俺はまだ戦えるんだ……なら、戦わないと……!

そう自分を奮い立たせて顔を上げると、

 

「……あれ?」

 

おかしなことに気付いた。

 

福音はなぜか、翔にしか攻撃をしていないのだ。

周りには他の専用機もいるのに、まったく意に介していないように。

 

(もしかして、福音の目的は翔なのか?)

 

その時、俺の中に妙案が思いついた。いや、これは天啓と言ってもいいかもしれない。

 

(もし福音の目的が翔を倒すことなら、あいつが()()()()()()……)

 

あいつは千冬姉に、船と作戦、どちらを取るかの選択をさせた。

どちらを見捨てるのかの選択を、()()()()()んだ。

でももし、俺の予想通りなら――

 

(()1()()()()で、みんなが救われるのなら――!!)

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

残っていたエネルギーで零落白夜を展開した俺は

 

「一夏!?」

 

その刃で、

 

 

――ザシュゥッ!!

 

 

「がっ……! おりむ、ら……お、まえ……!」

 

翔の背中を切り裂いた。

 

ーside織斑 outー




好感度? もう箒以外、一夏への好感度は0よ!


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第30話 オリ主なんて居なくても

福音についてですが、本作ではアニメ版(中身無し)としています。


ーsideラウラー

 

「翔ちゃーーーーーーーーんっ!!」

 

美波の悲鳴が海上に響き渡った。

織斑一夏、狂っているとは思っていたが、まさかこの期に及んで――!!

 

『どうした!? 誰か応答しろ!』

 

「ボーデヴィッヒです! 翔が撃墜されました!」

 

『何っ!? 福音の攻撃か!』

 

「いえ……織斑が裏切りました」

 

『なん、だと……ボーデヴィッヒ、何を言って――』

 

「繰り返します! 翔が織斑の零落白夜を背後から受けて撃墜されました!」

 

『そん、な……馬鹿な……』

 

くそっ! 教官もあまりの出来事に気が動転している! これでは指揮系統が……!

 

「美波さん! 翔さんの救助をお願いします!」

 

そんな中、いち早くこの状況から立ち直ったセシリアが、美波に声をかける。

 

「でも、セシリアちゃんは?」

 

「わたくしは……」

 

そこまで言うと、セシリアは今は動きを止めている福音の方を見て

 

「当初の予定通り、福音を無力化します」

 

「ちょっと待ちなさいよ」

 

「なんですの鈴さん。まさか止めようだなんて――」

 

「馬鹿言ってんじゃないわよ。あたしも混ぜなさいっての」

 

鈴も青龍刀を両手に持って、福音に眼を向けていた。

 

「まさか僕を仲間外れになんて、しないよね?」

 

シャルロットもライフルを展開して、鈴の横に並ぶ。

 

「それでラウラさん。貴女には後方からの砲撃支援と、指揮をお願いできますか」

 

「……私の指揮下に入ると?」

 

「ええ。この中で、部隊指揮を執ったことがあるのは、現役軍人であるラウラさんだけですから」

 

さも当然のようにセシリアが言う。ふっ、私も買い被られたものだ。……だが、悪くない。

 

「いいだろう。その役、引き受けよう」

 

「なので美波さん、一刻も早く翔さんを」

 

「うん……みんな、絶対無事でいてよー!」

 

セシリアに背中を押される形になった美波は少し悩んでいたが、顔を上げて頷くと、翔が墜ちたと思われる海域に向かって飛んで行った。

それを見送ると、私もブリッツ(レールカノン)を両肩に展開させて

 

 

「それでは……我々も始めようか!!」

 

 

「「ええっ!!」」「うんっ!!」

 

 

私の号令に、改めて福音を包囲した3人が応えた。

 

ーsideラウラ outー

 

 

ーside鈴音ー

 

「鈴、少しの間でいい。こちらの砲撃後、福音を正面から抑え込めるか?」

 

「誰に聞いてるのよ! やってやるわよ!」

 

はっ! ナミママを泣かせた罪、しっかり償わせてやるわよ!

 

「シャルロットは鈴の護衛、接近するまでうまく攻撃を凌いでくれ」

 

「了解! ガーデン・カーテンの力、見せてあげるよ!」

 

「セシリアは鈴が福音を抑え込んでいる間にスラスターを攻撃、まずは攻撃手段を奪うぞ」

 

「分かりましたわ!」

 

「よし……Angriff(攻撃)!」

 

 

――ドォゥゥゥゥッ!!

 

 

ラウラの両肩から砲撃が行われると同時に、あたしとシャルロットが福音に向かって突撃を開始した。

セシリアもスターダスト・シューター(遠距離レーザーライフル)を展開、あたし達に紛れる形で、福音の背後に迂回した。

 

『敵機を認識。排除行動に移る』

 

福音はラウラの砲撃をエネルギー弾で迎撃してるようね。だけど――

 

――ガキィィィン!

 

「そっちばっか気にしてたら、あたしがバッサリやっちゃうわよ!」

 

砲撃の陰から青龍刀を振り下ろして、福音のスラスターの一部をもらっていったわ。

それと同時に、福音も砲門をあたしに向けて……ってあぶな!

 

――ドドドドッ!

 

「おおっと!」

 

「ガーデン・カーテンは、そのくらいじゃ落ちないよ!」

 

あわや直撃しそうなところで、実体シールドを持ったシャルロットが割り込んで、攻撃を防ぎ切ってくれた。

さらに福音があたし達から距離を取ろうと下がったところで……

 

「そこですわっ!」

 

セシリアのスターダスト・シューターから放たれたレーザーが、福音の左スラスターに直撃。エネルギーの誘爆で片翼を潰せた!

 

「よしっ!この調子で――」

 

もう片翼も、そうラウラが言おうとしていた時だった。

 

銀の鐘(シルバー・ベル)、最大稼働、開始』

 

福音が、残った砲門をこちらに向けて一斉射を放ってきた。

 

「鈴、セシリア、僕の後ろに!」

 

 

――ドドドドドドドドドドドドドッ!

 

 

「ぐっ……!」

 

エネルギー弾の雨を何とか受け切れたけど、今のでシャルロットの実体シールド2枚とエネルギーシールドはボロボロね……。それもそうだけど……

 

「防御もそうだけど、エネルギーもそろそろ危なそうね……」

 

「確かにそうですわね……」

 

そう、ここまで飛行した分と、今戦闘を行っている分で、あたし達のSEは2割を切っている状態。もし次が来たら……

 

(それでも……!)

 

自分の中で覚悟を決めた、その時だった。

 

「なに……この光……」

 

あたしだけでなく、シャルロットも、そしてセシリアも……

 

 

自分達の周りに赤い光、そして金の粒子が舞っているのを、ただ眺めてた……。

 

 

ーside鈴音 outー

 

 

ーside箒ー

 

「何を……何をしているんだ一夏ぁ!」

 

一夏の暴挙に、私はあらん限りの声で怒鳴っていた。

 

「やっぱりだ!」

 

だが、一夏はそんな私が目に入らないのか、福音の方を見ている。

 

「やっぱりそうだ箒! 福音の狙いは翔だったんだ!」

 

「何を……」

 

私も福音に目を向けると……確かに、福音は攻撃の手を止めて、その場に佇んでいる。

まさか本当に……? だが……だからといって、味方を斬っていいことにはならんだろう……っ!

 

「とにかくこれで、船を助けることが出来る。箒、誘導を手伝ってくれ!」

 

「一夏……北山を……味方を斬って言うことが、それだけなのか……?」

 

「何言ってんだ? 翔と船、より多くを救える方を選んだんだ。あいつが千冬姉に選択を迫ったのと同じだよ」

 

「……」

 

そうか……つまり一夏、お前は()()()()奴なのだな……。

もう、昔のお前には……。

 

「織斑先生」

 

『織斑だ……』

 

先ほどのボーデヴィッヒの報告から立ち直り切っていない千冬さんだが、何とか応答はあった。

 

「紅椿・改はこれより……セシリア達と合流、福音との戦闘を再開します!」

 

『何だと!?』

 

「箒!? 何言ってんだよ! せっかく翔を墜として黙ってる奴を、わざわざ起こすような真似を――!」

 

「以上、通信終了!」

 

最後は怒鳴るように無理やり通信を切ると、セシリア達に合流すべく、一夏を置いて福音を目指してスラスターを全開にした。

 

 

そして私がたどり着いた時には、ボーデヴィッヒを除く全員が満身創痍だった。

そのボーデヴィッヒも、両肩のレールカノンで砲撃支援をしているが、限界が近い。

それでもみんな、諦めていない。まだ戦っているのだ。

 

(私も、共に戦いたい。戦う力があるのに、皆に任せて背を向けるなど、したくない――!)

 

強く、強く願った。

 

その時だった。紅椿・改の装甲から、赤い光が、そして黄金の粒子が溢れ出したのは。

 

「これは……!?」

 

――絢爛舞踏、発動――

 

ハイパーセンサーからの情報で、ここまでの飛行で減っていたSEが回復していくのが分かった。

正直何が何やら分からないが、どうだっていい。私も共に戦える、それだけ分かれば十分だ。

 

(ならば、行くぞ! 紅椿・改!)

 

その想いに応えるように、赤と金の帯がセシリア達を包み込んでいった――

 

ーside箒 outー

 

 

ーsideセシリアー

 

「みんな、これを受け取れ!」

 

「箒……?」

 

鈴さんの呟きに顔を上げると、箒さんのISから、赤い光と金の粒子が溢れ出ていました。これは、箒さんが……?

 

「これは……SEが……!」

 

「す、すごい……!」

 

そう、先ほどまで稼働限界が近かったわたくし達のエネルギーが、どんどん回復していくではないですか……!

 

「箒、これって……」

 

「説明は後だ! 今は福音を!」

 

「そ、そうね! まずはそれが先ね!」

 

鈴さんがそう言って青龍刀を構え直すと、シャルロットさんもショットガンを両手に展開して

 

「SEも満タンになったし、全力で行こうか!」

 

鈴さんと一緒に、福音に向かって再度突撃していきました。

そして、先ほどと同じく、シャルロットさんがシールドで攻撃を防ぎつつショットガンで牽制している間に、鈴さんが福音に肉薄し、

 

「食らいなさいっ! 崩山の零距離砲撃を!!」

 

 

――ドゴォォォォッ!!

 

 

 

2門から4門に増えていた衝撃砲から、炎を纏った砲弾が放たれ、福音の無事だったスラスターを焼き尽くします。

 

「セシリアァァァ!」

 

「お任せくださいまし!」

 

鈴さんの声に応えるように、わたくしもスターダスト・シューターを構え――

 

 

「これで、トドメですわっ!!」

 

 

――バシュゥゥゥゥゥゥッ!!

 

 

最大出力で放たれたレーザーが胴体部分を貫き、そして――

 

 

『La……』

 

 

こちらに手を伸ばそうとしていた福音が……動きを停止して、海へと墜ちていきました……。

 

「やった……のか……」

 

「やった、よね……?」

 

「やったわよ、ね?」

 

「ええ、おそらく……」

 

「ああ……」

 

 

 

 

「「「「「やったーーーっ!!」」」」」

 

 

 

 

ーsideセシリア outー

 

 

ーside翔ー

 

――ちゃ――しょ――ん――

 

何だ……どっかから声が聞こえる気が……

 

「翔ちゃん!」

 

「うわっ! 痛つつつ……!!」

 

跳び起きたものの、背中の痛みでそのままうつ伏せに倒れ込んだ。どっかの島にでも流れ着いたのか、倒れ込んだ拍子に顔が砂まみれに……。

 

「翔ちゃん、良かった生きてたよー!」

 

うつ伏せで顔は見えないが、俺の呼び方と声から、美波なのだろう。

 

「美波……あれからどれだけ経った?」

 

「20分くらいかなー」

 

「20分……なら、まだみんな戦ってるはずだな……」

 

墜ちる前の最後の推測通りなら、俺が墜ちたことで福音が役目を果たして撤退している可能性もあるが、もしそうでなければ……

 

「それは……あっ、もう心配しなくてもいいみたいだよー」

 

「何?」

 

福音は撤退したのか? いや、今『あっ』って……

 

「ほらー」

 

そう言って美波が指さす方に顔を向けると、そこには

 

 

 

 

海に向かって墜ちていく福音と、勝鬨を上げるセシリア達だった。

 

 

 

 

「マジかよ……」

 

「すごいよねー。原作じゃ織斑君の零落白夜任せだったのにー」

 

「ははは……マジかよ……」

 

もはや笑うしかなかった。

 

 

織斑(原作主人公)俺達(オリ主)も、今回ばかりは出番無しだな」

 

 

原作乖離も、ついにここまで来たか。

 

「それじゃあ、とりあえず……」

 

「とりあえず?」

 

 

「みんなのところに帰ろっか」

 

 

「……そうだな」

 

俺が頷くのと、美波が通信であいつら(セシリア達)を呼ぶのはほぼ同時だった。

 

ーside翔 outー




裏切り、昔の一夏には戻らない:
箒→織斑の好感度down(特大)

ヒロイン勢だけで福音退治とか、原作崩壊ここに極まれり。(元から崩壊しているとかは言いっこなしで)
セカンドシフト? (それやると零落白夜か天使砲でしか倒せなさそうなんで)ないです。

そしてとうとう、箒も一夏から離脱です。
本当は箒だけ残すことも考えましたが、今考えてる最終話的に、全員離脱が丸く収まりそうだな―と思ってこうなりました。


というわけで皆様、これで最後になりますが、やっていきたいと思います。


「一夏に!ハーレムは!おとずれなぁい!!」


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第31話 分かり合えなかった姉弟、分かり合えた姉妹

今回で臨海学校編終了です。
ただ、物語はもうちょっとだけ続きます。


翔を斬り、船の誘導を終え、意気揚々と帰還した織斑を待っていたのは、国際IS委員会の男と、武装した委員会直属のIS部隊だった。

 

「ど、どういうことだよ!?」

 

「どういう、とは?」

 

「俺は福音を止めて戻ってきたんだぞ!? なんで銃を突き付けられなきゃいけないんだ!」

 

そう怒鳴る織斑の言う通り、彼はIS部隊のラファール6機から、アサルトライフルの銃口を突き付けられていた。

 

「千冬姉を出してくれ! こんなの間違ってるって――」

 

「彼女は君とは別に移送中だ」

 

「移送……お前ら、千冬姉に何を……!」

 

――ドンッ!

 

「がっ!」

 

委員の男に襲い掛からんとした織斑だったが、正面にいたラファールのアサルトライフルの射撃を受けて仰け反った。

 

「はぁ……。織斑一夏、国際IS委員会及び日本政府の決定により、君の白式を剥奪する」

 

そう言って男が手に持った端末を操作すると、織斑の白式が強制的に展開解除された。

 

「なっ!?」

 

「そのISを手配したのは誰だと思っているんだね? このくらいの手段は用意しているよ」

 

男の言う通り倉持技研、ひいては日本政府は、クラス対抗戦での失態で織斑が懲罰房行きになった時、取り上げていた白式に対して、緊急用の解除手段を用意していたのだ。

 

「くそっ! 離せ!」

 

白式が解除された織斑に抵抗する手段などあるはずもなく、あっという間にラファール部隊に取り押さえられ、待機状態の白式を右腕から取り上げられる。

 

「そして同時に、君は研究所行きになることが決まっている」

 

「け、研究所!?」

 

「そう。君が帰る場所はもう、IS学園じゃない。国立IS研究所の隔離室だ」

 

「ふ、ふざけんな! なんで俺がそんなところに……!」

 

「『次に何か問題を起こした場合、織斑一夏は専用機剥奪の上、研究所送りとする』。君が先月の学年別トーナメントで馬鹿をやった折、国際IS委員会と日本政府でそう決定したのだよ。もちろん、織斑先生にも伝えて、きちんと手綱を握るよう要請していたのだがね」

 

「そ……そんな……千冬姉!」

 

「どうやら、彼女は何も説明していなかったようだな……愚かな」

 

重要なことは何一つ弟に話さなかった、千冬の悪癖が響いた形だった。そう、彼女は何も話さなかったのだ。今回のことも、何一つ……。

 

「そもそも、俺がどんな問題を起こしたっていうんだ!」

 

「ほう? 味方である北山翔を背後から斬った裏切り行為について、君はどんな言い訳をするつもりかね?」

 

「裏切ってなんかいない! 福音の狙いが翔だったから、あいつを墜とせば全て丸く収まるから、そうしただけだ!」

 

そんな織斑の言い訳を聞いて、男は頭が痛くなったのか、額を手で押さえた。

 

(何なのだ、こいつは。まるで支離滅裂ではないか……)

 

そもそもどうしたら、福音の狙いが北山翔だと状況証拠だけで断定し、彼を斬ろうという思考になるのか。男には目の前の織斑一夏が理解できなかった。

もはや、ため息しか出なかった。

 

「連行しろ。味方を背後から斬る愚か者とは言え、貴重なサンプルであることに変わりはない。自害などさせるな」

 

部隊長と思われるラファールが頷くと、6機の内4機が織斑を取り押さえながら、ミニバンに偽装した護送車に向かっていった。

 

 

 

「さて、篠ノ之博士。情報提供いただき、ありがとうございました」

 

「それはどーも」

 

委員の感謝の言葉に、束は適当に返事をした。

 

そう、織斑のやらかしが発生してから30分と経っていないのに、なぜ委員会の人間がこの花月荘にいたのか。

それは、美波の不知火から送られてきた映像を、束が国際IS委員会にリークしたからであった。

 

翔が織斑に斬られたあの時、彼女の中で織斑一夏は身内の対象外になった。

"親友の弟"から"討つべき敵"に変わったのだ。

 

「それでは私共もこれで」

 

そう言って頭を下げると、委員と護衛として残っていたラファールは引き揚げていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside箒ー

 

負傷した北山と、停止した福音の残骸を回収して花月荘に戻ってきた私達を、山田先生と姉さんが迎えてくれた。

 

「山田先生、織斑先生は?」

 

「それは……」

 

シャルロットの問いに、山田先生が口ごもってしまった。何かあったのか……?

 

「ちーちゃんは……連行されたよ」

 

「れ、連行!?」

 

「どういうことですの!?」

 

れん、こう? 千冬さんが……なぜ……

 

()()()()()が危険行為や裏切り行為を繰り返してね。姉であるちーちゃんも事情聴取を受けることになったんだよ」

 

「ゴミって……姉さん?」

 

姉さんは発言に、私は寒気を感じた。

千冬さんが姉……ということは、姉さんが言った『ゴミ』って……まさか……

 

「そう、かー」

 

そんな中で、北山兄妹だけが理解したような顔をしていた。

 

「ちょっとナミママ、どういうことなの……?」

 

「つまりねー……」

 

 

 

「織斑姉弟は、"見限られた"ってことだよー」

 

 

 

「見限、られた?」

 

千冬さんが……一夏が……見限られた? 一体誰に?

 

「ごめんね、箒ちゃん」

 

混乱している私を、いつの間にか姉さんが抱きしめていた。

 

「箒ちゃんが()()を好きだってことは知ってたよ。でも……それでも、許せなかったんだ」

 

「姉、さん?」

 

なんだ、その言い方は……それじゃあ、まるで、姉さんが一夏のことを……

 

「うん……福音との戦闘映像を国際IS委員会にリークしたのは、私だよ」

 

「っ!?」

 

姉さんが……姉さんが一夏達を……!?

 

「ずっと見てたんだ……クラス対抗戦からずっと。あの時から()()は、箒ちゃんを危険に巻き込んでた。私にはそれが許せなかった」

 

「……」

 

それは……否定できない。確かに一夏はクラス対抗戦の時、観客席のバリアを破って皆を危険に晒した。

だからと言って、どうして……

 

「だから、箒ちゃんの想いを無視して、ごめんね……」

 

「……なぜだ」

 

「箒ちゃん……?」

 

「なぜ貴女はそんな悲しそうな顔をする!」

 

そう一度口にしたら、もう止められなかった。

 

「いつものように堂々としていればいいだろう! 勝手にISを作って、勝手に家族を離散させて! いつも勝手していた頃のように!」

 

そんな姉さんだから、私は貴女を恨むことができた。憎むことができた。これまでの不幸を、貴女の所為にできた。なのに――!

 

「なぜ今更になってそんな顔をする!? 私に謝る!?」

 

「箒ちゃん……」

 

「ああ分かってるさ! 姉さんがISを認められず悩んでいたことも、本来の宇宙開発用ではなく兵器扱いされて苦しい思いをしていたことも!」

 

だからと言って、家族は離散し、私は要人保護の名目で各地を転々とすることを余儀なくされた事実は変わらないのだ。

 

「だから、そんな悲しそうな顔をしないでくれ……謝らないでくれ……」

 

そんなことをされたら、私は――

 

「そんなことをされたら、私は……貴女を憎めなくなってしまうではないか……」

 

ああ、そうか……ここまで口にして、私はやっと理解した。

 

 

 

きっと私は、心のどこかで、()()姉さんを許そうとしているのか……

一夏を切り捨てた姉さんの行動に、理解を示しているのか……

 

 

 

「……姉さん、お願いがあります」

 

「何、かな?」

 

「些細な事でもいいです。もっと私に思ったことを言ってください」

 

「箒ちゃん……?」

 

ああ、そうだ。あの頃の姉さんが相手では無理だったろう。でも、今の私なら、今の姉さんなら――

 

 

 

「今の私なら、今の姉さんを"理解"したいと思えるから……」

 

 

 

「箒、ちゃん……!」

 

姉さんが泣いた顔、初めて見た気がする。

 

「ごめんね、箒ちゃん……!」

 

そんな姉さんを、私も抱きしめた。そして泣いた。周りに皆がいるのも関係なく、姉さんと一緒になって泣いた。

 

 

その時、私と姉さんは、本当の意味で家族に、"姉妹になれた"(わかりあえた)のだと思う。

 

 

ーside箒 outー

 




やっと分かり合えた:
箒⇔束の好感度up(特大)

篠ノ之姉妹の和解、強引すぎないかって? 何の事かな~(明後日の方向を向きながら)


臨海学校編ラストと思い色々詰め込んだ結果、一夏と千冬(やらかし姉弟)箒と束(訳アリ姉妹)とをコンクリートミキサーにかけてブチまけた回になってしまいましたね。


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ENDING
第32話 爆弾発言


この章で、本作は完結となります。(この話を含めて、たぶん2,3話ぐらい)



臨海学校から数日後、1年1組では大きな変化と小さな変化があった。

 

大きな変化は、担任である千冬が休職したこと。

名目としては病欠で、夏休み明けまで自宅療養ということになっている。

そのため、副担任であった真耶が担任になるとともに、IS実習の教官も引き継ぐこととなった。

 

小さな変化としては、織斑一夏がIS学園を去ることになったこと。

こちらについては、理由も去った後のことも発表されず、生徒達の間で様々な憶測が飛び交った。

事実を知るのは真耶と専用機持ちだけだが、機密事項である福音暴走事件にも絡むため、誰も憶測はそのままとなった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「ところでみんな、夏休みはどうするのー?」

 

昼休みの食堂、いつもの面子+(箒、シャルロット、ラウラ)に、美波が問いかけた。

 

「わたくしは、一度本国に戻ろうと思っていますわ」

 

「あたしは日本に残ろうかなぁ。管理官にレポート出したら、戻らないといけない用事も無いし」

 

セシリアと鈴音はすでに予定を決めていたのか、美波の問いに即答した。

 

「僕はフランスに、デュノア社に戻ろうと思ってる」

 

「親父さんに、会うのか?」

 

「うん……もう一度、ううん、今度こそ、本当のことを聞きたいんだ。お父さんの口から」

 

「そっかー……」

 

シャルロットの決意に、北山兄妹を始め、そこにいた面子は、この親子の会話が上手くいくことを祈った。

 

「私は司令部から帰投命令が出ていないのだが……」

 

「VTSのこと、ですの……?」

 

「ああ。幸い、私や本国の部下達が詰め腹を切らされることは無いようなのだがな……」

 

そこは国際IS委員会の強制査察によって、研究機関の一部が独断でレーゲンにVTSを載せたことが発覚したためであった。

もっとも、査察が入った時点でVTSを載せた実行犯は行方を晦ませており、動機については不明のままなのだが……。

 

「私は、一度父さんに会おうと思っている。姉さんと一緒にな」

 

「そうなんだー……あれから、ちゃんとお話しできてるんだねー」

 

「そうだな……正直まだぎこちないが、昔よりも話す時間が長くなったな」

 

そういう箒の顔は、苦笑ではあるものの、入学時から険の取れたものだった。

 

「昨日の夜も話をしたのだが……姉さんがとんでもない事を言っててな……」

 

そこまで言って、箒は額に手を当てた。

 

「な、何よ? 何があったのよ?」

 

鈴音の問いに、箒は食堂に設置してあるテレビを指さした。

そのテレビでは、バラエティ番組後の星座占いが流れていた。

 

と、1位と12位が発表されるかと思われた瞬間、

 

 

 

『やっほー凡人共ー! 篠ノ之束さんだよー!』

 

 

 

「「「「ぶっ!」」」」

 

指をさしていた箒以外、テレビを見ていた全員が吹き出しそうになった。

 

そう、束は何を思ったか、各国の電波をジャックしたのだ。

 

『今日は凡人共に、面白いニュースを用意してきたよー!』

 

「な、何を言うつもりよ束姉は……」

 

「分かりませんわ……わたくしも、あの方の思考は読めませんもの……」

 

セシリアと鈴音が周りに、特に箒に聞こえないよう小声で話し合う。

 

『まず1つ目ー。IS学園で起こっていた事件についてだねー』

 

そう言うと、テレビの画面が2分割され、束が左側に、そして右側に――

 

 

「あ、あれ! 学年別トーナメントの時の!」

 

食堂にいた誰かが声を上げた。

 

画面の右側には、学年別トーナメントでVTSによって操られたラウラ、ブリュンヒルデもどきが映っていた。

 

『束さんのISにこんな不細工なもの載せた奴が許せなくってねー。どこの誰がやったか調べてたんだけど……』

 

そこでセリフを切った束は、

 

 

『女性権利団体だっけ? お前ら、何してくれてんの?』

 

 

「「「「っ!」」」」

 

画面越しでも分かる殺気と突然変わった束の口調に、食堂の生徒達は一瞬、心臓が止まった気がした。

 

『しかもお前ら、これだけじゃないよな?』

 

さらに画面が切り替わり――

 

「た、束さん……それは……」

 

翔も顔を引きつらせた。

切り替わった画面には、先日戦った銀の福音が――アメリカとイスラエルがアラスカ条約(ISを軍事利用しない約束)の裏で開発していた軍用IS――が映っていた。

 

『束さんは別に、アメ公達を責める気はないよ。意図してなかったとはいえ、白騎士事件でISの軍事的価値を仄めかしちゃった束さんにも非はあったし、アラスカ条約なんてこっちには関係ないし』

 

けどね、と束は先ほどよりも殺意を込めて

 

 

『てめぇら、これを使って束さんの"理解者"を殺すつもりだったな!?』

 

 

あまりの殺意と怒声に、何人から立っていられなくなって床に座り込む。

 

『お前らがこれらをやった証拠、あらゆる機関に流したからな。他人の作ったもの(IS)の、ありもしない威光に乗っかる……いや、()()()()()()()()のに威張り散らすお前らなんか消えちゃえよ』

 

そこまで言うと、

 

『さて! 次は2つ目の話だったね!』

 

さっきまでの殺意はなんだったのかというぐらいに、コロッと笑顔に変わる。

 

「ま、まだあるの……?」

 

シャルロットが口にしたセリフに、そこにいた全員が頷きそうになる。

 

『今まで女性しか扱えなかったISなんだけど……』

 

 

『なんと! 男も使えるようになりましたー! パチパチー』

 

 

「「「「はぁっ!?」」」」

 

 

これには皆の声がハモった。おそらく、世界中でこの放送を見ている人全員とハモったであろう。

なにせ、今まで開発者すら解明していなかったISの謎が、当の開発者によって解決してしまったのだから。

 

『いやー、まさか白騎士のコアが、男性を乗せないようにしてたなんて思わなかったよ。ま、束さんがコアネットワークに入って説得したらあっさり解除してくれたけど』

 

((((ええ~……))))

 

『嘘だと思うなら、実際に試してみればいいよ。 この世の男性全員とはいかないけど、数打てば当たると思うしー』

 

当の本人はあっけらかんと言っているが、今この瞬間、IS委員会を始めとした、実際にISコアを持っている機関や企業はてんてこ舞いになっているだろう。

 

『そして面白いニュース、ラスト3つ目ー』

 

「こ、これで最後か……」

 

聞いているだけのはずだが、翔を筆頭に皆くたくたになっていた。

 

『束さん、前々から会社を興してたんだけど、今日から本格始動しようと思ってまーす!』

 

「篠ノ之博士が、会社?」

 

「そんな話、一度も聞いたことが……」

 

動揺した声が辺りから聞こえてくるが、それは当然である。

確かに束は会社(SRC)を興しているが、それを知っているのは北山兄妹とセシリア、鈴音に、協賛を約束したデュノア社の社長(シャルパパ)だけだからだ。

 

『というわけで、スター・ラビット・カンパニーは、宇宙開発事業に参入します!』

 

それは束が、かつての夢に向かって再び歩き出したことを意味していた。

 

『あ、それとこれは業務連絡ね』

 

不意に何かを思いついた束は、ニヤリを笑うと

 

 

 

『ショウママとナミママ。宇宙開発を手伝ってほしいから、夏休みになったらSRCに顔出してねー!』

 

 

 

最後にとんでもない爆弾を落として、電波ジャックは終了した。

 

「た、束さん……」

 

「い、言っちゃったねー……」

 

この爆弾には翔はもちろん、美波も顔を引きつらせるしかなかった。

 

「今、ショウママとナミママって……」

 

「2人とも、篠ノ之博士と面識が!?」

 

「そうだよ! だってSRCって、2人の専用機を作った会社じゃん!」

 

どんどん騒動が食堂中に伝播していき、気付けば北山兄妹は生徒達に囲まれていた。

 

「北山君! 北山さん! 今の放送はどういうことですか~~!?」

 

終いには、先ほどの放送を見た真耶も突撃してきた。

 

「「だ、誰か助けて~!」」

 

兄妹揃って助けを求めるが、セシリアと鈴音は顔を逸らし、シャルロットとラウラは( ゚д゚)ポカーン()

残った箒は

 

「ふ、二人とも、姉さんとどういう関係なんだ!? なぜ最初に知り合った時に教えてくれなかった!?」

 

他の生徒達と同じだった(ブルータス、お前もか)

 

 

 

その後、北山兄妹は篠ノ之束と知り合ったきっかけから、これまでの経緯を(クラス対抗戦のこと以外)洗いざらい吐かされた。その結果、

 

「「「「ええ話や~……」」」」

 

生徒達+真耶は感動に涙し、

 

「ありがとう……姉さんが変われたのは、お前達のおかげだったんだな……」

 

箒から感謝されることとなった。

 




オール地の文、最終回直前にして初挑戦というね。


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最終話 宇宙(そら)

本作は今話で最終回となります。
10/30の初投稿から約1か月という、長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。



束の電波ジャックから数日。世界はまた、色々と変わっていった。

 

 

女性権利団体は消滅した。

福音事件を含めた様々な悪行の証拠、それらが束によってネット上にばら撒かれ、それによって世界規模の逮捕劇が繰り広げられたのだ。

これまで女権団の権力を笠に着た圧力によって、悪事を見逃すしかなかった警察および司法組織の熱意はすさまじく、とある国では『国内受刑者の大半が元・女権団関係者』という、冗談のような話もあった。

これによりIS学園でも、少なくない人数の女尊男卑主義者が姿を消す事態となったが、残った生徒達からは哀れみも同情も無かった。

 

ISが男でも乗れる。これも事実であった。

アメリカ合衆国が、『陸軍内で緊急検査を行ったところ、1個旅団約5000人中2人という、女性に比べ低い割合ではあったが、確かに起動させることが出来た』と、束の電波ジャックから2時間も経たずに発表したのだ。

その報を受けて、各国もアメリカに倣って軍内で緊急検査を実施。その結果、各国で最低1人は男性操縦者が見つかるという、1年前では想像もできない事態となった。

 

女性権利団体の消滅と男性操縦者。この2つによって、10年前の白騎士事件から続いていた女尊男卑思想は急速に廃れていくことになる。

 

IS学園もそれを受けて、方針の転換を行っていくことになった。

元々明記はされていなかったが、ISが女性しか乗れない以上、IS学園も実質女子校と呼べるものであったし、設備等もそのようになっていた。

しかし、今後男性操縦者が増えることを想定し、現在もIS委員会と協議しつつ、共学化および男子寮の建設を検討し始めていた。

 

スター・ラビット・カンパニー(SRC)の宇宙開発事業。これについては上記の2つほどではないが、やはり話題となった。

あのIS開発者・篠ノ之束がいつの間にか会社を設立していたこともだが、その発表とほぼ同時に、最近息を吹き返したフランスのデュノア社が、突然SRCと事業提携を結ぶことを発表したのだ。

さらに、IS学園に在籍している"2人目の男性操縦者"北山翔と、妹の北山美波を名指ししたことで、各国首脳、特に日本政府は混乱の極みにあった。

 

そんな北山兄妹が、今どこにいるかというと――

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside翔ー

 

真っ暗な世界。目は開いているのに、目の前に映るものが何もない、ロキ部屋(神界)とはまた別の世界。

 

宇宙空間。ISが、()()()()()()場所。

そんな世界に今、俺と美波はいる。

 

「翔ちゃん、こっちの準備は終わったよー」

 

「おう。こっちも終わりそうだ」

 

『ショウママ、ナミママ。こっちも2人が設置した装置の信号をキャッチしたよー!』

 

「了解です。そんじゃ、一旦離れるか」

 

「そうだねー」

 

俺達はISのスラスターを全開にして、今さっきまで立っていた場所――火星から離れていった。

 

 

 

そう、俺達は今、火星に来ているのだ。

夏休み初日にSRCに行くと、そこにはなぜかリュックサックを背負った束さんがいて

 

「さあ二人とも、さっそく出発だよ!」

 

と言い出し、何が何だか分からぬうちに人参型ロケットに乗せられ、気付けばほんの10分で地球の大気圏を突破していた。

そこからさらにロケットは、ISのPICを笠に着た加速を行って、半日もかからずに火星圏まで来てしまったのだ。

そして俺達はそのまま、束さんからロケット内で渡された装置を、火星の地表に設置したわけなのだが……。

 

「なぁ美波、あの装置って何だと思う?」

 

「うーん、そうだねぇ……」

 

俺の問いに、美波はIS・不知火に乗ったまま器用に腕を組んでいたが、

 

「翔ちゃん、『トータル・リコール』って映画見たことある?」

 

「何だよ突然。たぶん見たことないけど」

 

まっとうな人間だった頃の記憶も掘り返してみるが、今言われたタイトルは出てこない。

 

「火星が舞台の映画なんだけど、もし私の予想が合ってたらー――」

 

『二人ともー、こっちの準備が整ったよー! それじゃ、ポチッとな!』

 

「え、ちょ、束さん!?」

 

束さんからの唐突な開始コールに、変な声が出た。

 

 

――ゴゴゴゴゴゴゴ……!

 

 

「……おかしいな。宇宙空間なのに、変な音が聞こえてくる気が……」

 

「翔ちゃん、たぶん本当に聞こえてるんだと思うよー……」

 

 

――ゴゴゴゴゴゴゴ……!

 

 

「えーっと……」

 

 

――ゴゴゴゴゴゴゴッ!

 

 

「た、束さん!?」

 

『よーし、もうちょっとで……!』

 

だめだ、全然聞いてねぇ!

 

 

――ドゴォォォォォォォォンッ!

 

 

「うおっ!」「きゃっ!」

 

宇宙空間からでも分かる轟音に、俺と美波は身を竦ませた。

 

「翔ちゃん、あれ!」

 

美波が指さす方を見ると

 

「マジ、かよ……」

 

『やったーーーーーー!! 成功だよーーーーー!!』

 

ここから見えていた火星が、見えなくなった。いや違う、火星自体はある。だが……

 

 

 

「雲……?」

 

 

 

赤茶けた大地が見えるだけだった火星に、薄っすらとだが、雲のようなものがかかっていた。

 

「束ちゃん、これって空気ー?」

 

「空気って……まさか!?」

 

『そうだよ! 二人に設置してもらったリアクターで、火星の北極地下にある氷から、酸素を作ったんだ!』

 

まさか、火星で呼吸ができる、のか?

 

『あとは残った氷の層を順次溶かしていけば、地球ほどじゃないけど人の住める惑星になるはずだよ!』

 

「おおー! 夢が広がりんぐ」

 

「……」

 

「翔ちゃん?」

 

美波からの声に答えず、俺は再度火星に降りていった。

 

 

 

火星の地表に着いた時、最初あれだけ薄暗かった空が、気持ち青くなっている気がした。

 

「翔ちゃん、一体どうし――」

 

少しして追いついた美波を置いて、俺は

 

 

 

ISを、展開解除した。

 

 

 

「翔ちゃん!?」

 

「……はっ」

 

 

 

「美波! 普通に息が出来る! ちゃんと空気がある惑星だ!」

 

 

 

そう言った後、俺はただただ笑うしかなかった。

……そして当然、美波と束さんから怒られた。

 

「突然ISを解除するとか、何考えてるのかなー?」

 

『もー! 束さんもビックリだよぉ!』

 

「はい、すみません……」

 

あまりの感激に思考停止して動いてました、申し訳ありません。

 

『ま、まぁ、とにかく二人とも、一度ロケットに戻ってよ。今回の成功を祝して、盛大にパーリィしようぜい!』

 

「そうだね、一度地球に戻ろうー」

 

「パーティって、俺達3人だけでですか?」

 

『うーん、日本に残ってる箒ちゃんとか、りっちゃんを呼ぶ?』

 

「鈴か……呼べば来そうだな」

 

「箒ちゃんも、篠ノ之神社のお祭りはまだのはずだから、寮にいると思うなー」

 

「そういや、セシリアも帰国は来週って聞いてたから、まだ寮にいるかもな」

 

「シャルロットちゃんやラウラちゃんも、誘ったら文字通り欧州から飛んできたりしてー」

 

束さんの発言に、俺と美波はそれぞれのスケジュールを思い出す。

 

『まぁいいや。それは地球に戻ってから考えよう!』

 

「「異議なーし!」」

 

というやり取りをしている間に、俺達はロケット内部に戻ってドアロックを解除、出発時に座っていた席に戻ってきた。

 

『お客さーん、どちらまでー?』

 

「地球の日本のIS学園入口までー」

 

「タクシーかよ」

 

そんなしょうもないやり取りもしつつ、ロケットはバーニア噴射で向きを変え、地球に向かって加速を開始した――

 

ーside翔 outー

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside織斑ー

 

臨海学校のあの日、俺は国立IS研究所に送られ、それからは、ベッドに縛り付けられながら検査用の器具を取り付けられる日々を送っていた。

 

「どうして俺が、こんな目に遭うんだ!」

 

最初はそう叫んでいた。だけど、もう今はそんな気も起きない。

研究所の奴らから毎日のように浴びせかけられる、罵声と嘲笑。

 

「なぁこのモルモット、入学初っ端にやらかしたって奴だろ?」

 

「ええ。この女尊男卑の世の中で、堂々と男尊女卑な発言をして学園中から顰蹙買ったんですって」

 

「しかもこいつ、その後のクラス対抗戦で自分から観客席のシールドバリアを破ったんだってよ」

 

「マジかよ、観客を殺す気満々だったんじゃねぇか。とんだ疫病神だな」

 

「しかも終いにゃ、"2人目"を背後から闇討ちしたんだってよ」

 

「うわーさいてー」

 

(違う! 俺はそんなことを思ってやったわけじゃ……!)

 

何かを言われる度に、俺は否定した。だが、否定しても否定しても、あいつらは俺を責め続ける。そして……

 

 

突然、俺は解放された。

 

 

最初は喜んだ。やっと解放された、自由になった、間違いが正されたんだと。

だけど、違った。

 

「篠ノ之博士がISのバグを解消してな、世界中で少しずつだが、新しい男性操縦者が出てきたんだ。つまり、お前の希少性は無くなった。調べる()()が無くなったんだよ」

 

ただ、要らないから捨てられたのだ。

 

(もう、どうでもいい……)

 

もう、何も考えられない。ただただ、俺の足は研究所の出入口を目指していた。

そして、出入り口の自動ドアが開いた瞬間――

 

「一夏……」

 

懐かしい声が、聞こえた気がした。

いや、最後に聞いてから、10日やそこらしか経ってないはずなのに、妙に懐かしく感じた。

 

「一夏……!」

 

その懐かしい声が……千冬姉が、俺を抱きしめていた。

 

「千冬、姉……」

 

「すまない、一夏……私は、お前を、守る、ことが出来、なかった……」

 

言葉が切れ切れの千冬姉……もしかして、泣いてるのか?

 

「いや、違う……お前ともっと早く、ちゃんと話をしていれば……家族として、お前と向き合っていれば……」

 

「千冬姉……」

 

何だろう……前にも、こんなことがあった気が……。

 

(そうだ……モンドグロッソ……)

 

俺が誘拐されて、千冬姉が2連覇を逃した時と、同じだ……同じなんだ……。つまり俺は……

 

(あの時から俺は、何も変わってない、変われていない。千冬姉どころか……何も、守れてないじゃないか……!)

 

「お願いだ、千冬姉。泣かないでくれ……千冬姉が悪いんじゃない、悪いのは……」

 

 

 

 

悪いのは……俺だ。

 

 

 

 

「ごめん、千冬姉……俺、何も見えてなかった……理解できてなかった……」

 

やっと、俺は理解した。

今までの俺は全て、間違いだらけだったと。自分の中の正しさを否定されることを認められず、自分が変わることも出来ず、ただ喚き散らすだけのクソガキだったと。

それを、こんなになって……千冬姉を泣かせて、ようやく気付いた俺は……大馬鹿野郎だ。

 

「一夏……家に戻ろう。戻って、話をしよう」

 

「ああ。俺も千冬姉と話がしたいよ」

 

今まで自分のことばかりで、本当の千冬姉を……()()を、知ろうともしなかった分を、取り戻したいんだ……

 

ーside織斑 outー

 

 

一夏のくせになまいきだ END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『んんwww一夏氏にはBAD END以外ありえませんぞwww』

 




ここまで来て、綺麗に終わると思うてか!

一夏アンチが大好物の人達には、もうちょっとだけ続くんじゃ。


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おまけ(胸糞注意) Deus vult(神がそれを望まれる)

こっちが本作の正史ルートです。


注意

 

今話は『(改悪レベルの)一夏アンチを見たい人』『作者と同じぐらい性格のねじ曲がった人』の閲覧を想定しています。よって、

 

純粋なISファンや一夏ファン

アンチ・ヘイトものに対して少しでも嫌悪感がある

原作至上主義

原作リスペクトが無いのは許せない

 

のいずれかに当てはまる方は、閲覧せずブラウザバックすることを強く推奨します。

と言いますか、正直見るべきではありません

上記の警告を無視して閲覧した結果、不愉快な気分になったとしても当方は一切関知しません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当によろしいですね? 警告はしましたよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある時、突然織斑は研究所から解放された。

 

彼は喜んだ。やっと解放された、自由になった、間違いが正されたんだと。

だが、違ったのだ。

 

「篠ノ之博士がISのバグを解消してな、世界中で少しずつだが、新しい男性操縦者が出てきたんだ。つまり、お前の希少性は無くなった。調べる()()が無くなったんだよ」

 

ただ、要らないから捨てられたのだ。

 

(もう、どうでもいい……)

 

もう、何も考えられない。ただただ、彼の足は研究所の出入口を目指していた。

そして、出入り口の自動ドアが見えた瞬間、織斑の背後に女性がぶつかり

 

――ドンッ!

 

――ザシュッ!

 

「え……?」

 

背中にまず衝撃を、続けて痛みと熱を感じて、織斑はそのまま前のめりに倒れ込んだ。

 

「お前の……お前のせいで、私達は破滅よ!」

 

そう口にしながら、その女――先日消滅した、女性権利団体の残党――は織斑の背中に跨り、

 

「くそっ! くそっ! 千冬様の! 千冬様の弟のくせに! このっ! 出来損ないがぁっ!」

 

 

――ザシュッ!ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ!

 

 

何度も何度も、手に持ったナイフを突き立てる。

 

「がっ! あっ! ごっ!」

 

(な、なんでだよ……なんで俺が、こんな目に……!)

 

こんな事態になっても、守衛はおろか、誰もこの入口のホールにやって来ない。そう、女が手を回していたのだ。

 

「千冬様の弟だから目をかけていたのに! ポッと出の2人目に惨敗するわ! クラス対抗戦で醜態をさらすわ!」

 

 

――ザシュッ!ザシュッ! ザシュッ!

 

 

「おまけに、せっかく2人目を消してあげようと、ドイツ娘のISにVTSを仕掛けたにも関わらず、余計なマネをして、千冬様の顔に泥を塗り重ねるわ!」

 

 

――ザシュッ!ザシュッ! ザシュッ!

 

 

(俺が、千冬姉の顔に、泥をだと……? そんな……俺は……!)

 

この期に及んで、織斑はまだ自分のやらかした罪を理解していなかった。彼にとって、己の善意から為した事が時に罪なり得るとは、想像の埒外なのである。

 

「はぁ……はぁ……」

 

やがて、女が馬乗り状態から立ち上がる。そして、あらかじめ用意していたのか、通路の脇に置いていた小さなポリタンクを持ってくると

 

 

――バシャァァッ!

 

 

中身の液体を、織斑に向けてぶち撒けた。

 

「な……?」

 

「私達だけが破滅するなんて許せない。お前が生きているなんて許されない……!」

 

(なんで俺が、こんな目に……)

 

最後に織斑が見たのは、女が自分に向かって投げつけた、火のついたマッチだった――

 

 

 

 

 

続いてのニュースです。本日午前9時20分頃、国立IS研究所で火事がありました。

現場は研究所のエントランスホールで、当時、スプリンクラーが点検のため停止していたため、初期段階で鎮火がされず、被害が拡大したとのことです。

火は40分後に消防によって消し止められましたが、この火事で、エントランスホールにいたと思われる人物の焼死体が、消火後に発見されました。

遺体は完全に炭化・白骨化しており、警察ではDNA鑑定は不可能とし、残った歯型などから身元の判明を急いでいます。

現場にはガソリンが入っていたと思われるポリタンクが見つかっており、警察では殺人・放火事件の可能性を視野に入れて捜査しています――

 

 

 

 

 

『上手に焼けました~!』

 

どこかで、誰か(北欧神話の悪戯神)が叫んだ――

 

 

 

TRUE END 『織斑のロースト 無恥と逆恨みを添えて』

 




これが本当のラストです。
自分で言うのもなんですが、これ書いた奴、ホント頭イカレてんなぁ。

そもそも本作を書こうと思ったのは、一夏アンチものって大概が後々矯正されるものばかりで、どん底まで落ちるパターンが無かった(見つけられなかった)からなんですよ。
「1本ぐらい、思いっきり突き抜けたのがあってもいいんじゃね?」的な。
なぜに一夏をローストしたかと言えば、某アニメの三合会幹部が、事務所をヨルダン辺りまで吹っ飛ばされて、ケツをローストされかけたからです。(酷い風評被害)

で、ローストするにはそれなりの理由(本作では女権団に恨まれる)が必要ですから、一夏には作中で色々やらかしてもらうことにしました。
そうすると、ご都合主義とか主人公補正が邪魔なので抽出、再利用されないようにオリ主やヒロイン勢に分配したらこうなりました。
つまり、オリ主の翔や美波が、ざまぁ系なろう作品みたいな俺TUEEEEになっていたのは、おまけなんです。あくまで主目的は一夏をローストすることですから。

それでは改めまして、ここまで『一夏のくせになまいきな』を読んでいただき、ありがとうございました。

続編は……あったとしても、日刊は無理です。(もう懲りた)


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