破壊王の双子には兄が居るらしい。 (プリンは固め派)
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兄は初期勢らしい。

原作は読破してますが圧倒的に文才がありません...。
ご了承の上お読みください。


 穏やかな昼下がり。午後イチの授業中にくあ、と大きなあくびをする生徒が一人いた。

浅霧魁―――それがこの男の名前である。

 成績優秀、品行方正、しかしコミュ力も忘れない。その上顔面も良ときたものだから(中性的な顔つきのため、本人的には微妙)、普通は僻み妬みの格好の餌食となるだろう。しかしそうならないのはやはり彼の人当たりの良さ故であった。若干、「敵に回したら怖いから」という理由も含まれているようではあるが。

 普段なかなか彼がしないその気怠げな態度に周囲の人間が注目する中、魁は考え事をしていた。

 

 (はやく帰ってNWOがしたい。)

 

 じつはこの男、これだけ生真面目にすまして振る舞っているが根っからのゲーマーであり、今日珍しくあくびを漏らしたのも、本日発売のVRMMO「New World Online」を手に入れるために早朝から店頭に並んでいたためである。もちろん徹ゲー後の状態のまま。今日くらいは徹夜をやめておけばよかったと絶賛後悔中である。

 

 

 そんなこんなで授業をやりすごし、帰宅の時間となった。すばやく荷物をまとめた魁は学校を飛び出した。とたん、顔が緩む。

 

「つっかれたぁ。ガチで寝ると思ったわ、あぶねー。」

 

 いまので彼がどれだけ猫を被っていたかがわかるだろう。そういうことだ。学校のみんなは騙されているんだと、彼の友人はいつもため息をつく。まあその話はおいておこう。

 

 

 家につき、早めの風呂と夕飯を済ませた魁は初期設定をはじめながら独り言をこぼす。

 

 「いや〜、今日課題なくてよかったわ〜。っと接続完了かな。じゃあ、はじめるか」

 

 慣れた手付きでVRゴーグルをつけると、魁はベッドに寝転んだまま意識をゲームに飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 目を開けると、そこはすでに電脳世界の中。とはいっても最初なので多分ここは設定等をするための場であった。

 

 「えーっとなになに、プレイヤーネームか...。いつもどおりそのまま【カイ】でいいか。よし、決定っ、次は......」

 

 撚ることも何もせず、ゴーイング・マイ・ウェイ。性格がでるものである。

 流れるように目を通した次の項目には「武器選択」と書かれていた。

 

 「やっぱファンタジー特有の魔法使いか?いや、刀も厨二心的に捨てがたい....。サポーターもいいけどやっぱり攻撃職のが面白そうだしなぁ。うーん......」

 

 長考しているうちに、カイの頭の中では段々と希望が絞られていく。そして、

 

 「よし、やっぱり剣士にするか!」

 

 ジョブの中でも王道の【片手剣】を選んだカイは、次項目であったステータスの振り分けに取り掛かる。

 

 「となると必要不可欠になるのはSTRとAGI、強いスキルとかもぶっ放したいしMPとINTにも振っとくか。うーん、流石に攻撃は剣で受け流せたりするはずだしVITとHPはとりあえずいいとして、DEXは軽く振っておこう。完璧っ、じゃあこれではじめるか!」

 

 

 

 

 

 

 

 再び目の前の景色が切り替わる。するとそこはすでにファンタジーの要素が溢れるような街の中であった。

 

 「おおっ!すげーー!こんな感じなのか〜。あっそうだ、ステータス!」

 

 自身を包み込むこの環境に興奮しつつ、カイはステータス画面を開く。

 

カイ

Lv1

 

HP 40/40

MP 25/25

 

STR 40(+25)

VIT 0

AGI 30

DEX 20

INT 10

 

頭装備 (空欄)

 

体装備 (空欄)

 

右手装備 初心者の剣 【STR+25】

 

左手装備 (装備不可)

 

足装備 (空欄)

 

靴装備 (空欄)

 

装飾品 (空欄)

 

    (空欄)

 

    (空欄)

 

スキル 

 

なし

 

 

 

 「うん、多分特にミスはないはず。」

 

 そう言いカイは画面を閉じる。

 街を歩くものの殆どが初期装備であるが、それは当たり前のことであり、カイは少しまだ味気ないなと感じた。

  

 

 ある程度操作の確認をしたところで、カイはLv上げのためにフィールドへ向かう。

 西の方へ進んでいくと、モンスターの代表でもあるゴブリンに会敵した。

 

 「ゴブリンか、よかった物理攻撃通りそうで。よし、せーのっっ」

 

 先手必勝とばかりに駆け出し、軽い跳躍を経て斬りつける。他ゲーで築いたプレイヤースキルは当然このゲームでも発揮できるようで、カイは安堵の表情を顔に灯していた。

 ゴブリンが消滅したあと、ゲーム特有の通知音が流れた。

 

 「お、ランクアップ。」

 

 ゴブリンはしっかりカイの糧になっていたようだ。

 

 

 その後もコツを掴んだカイはモンスターをバタバタと斬り伏せていく。身につけたPSやもともとの身体能力が高いため、一時間後にはLv7となっていた。

 

 「えっと手に入れたスキルが、【片手剣の心得Ⅰ】【体術Ⅰ】【攻撃逸し】【跳躍Ⅰ】まあどれも基本的なものだろうな」

 

 カイの言う通りそれらはすべて基礎的なスキルで、一定のアクションを起こせば誰でも取れるようなものだった。

 

 「んー、今日はあと少しやったら切り上げるか。」

 

 そう言いながら森を奥の方へ進んでいくと、一匹の蟻のモンスターを見つけた。蟻と言っても中型犬くらいはあるが。

 

 「きっしょ...。さっさと倒したろ」

 

 幸いまだ気づかれていなかったのでカイはそのまま突っ込む。死界に回り込み、刺突。

ダメージは通るがあいにく一発で葬りきれなかった。僅かなHPを残した蟻に、もう一度襲いかかろうとしたとき―――

 

 『キイイイイイイィィィィィィ』

 

 蟻が絶叫した。

  

 

 反撃はしてこなかったため、カイの持つ片手剣にそのまま屠られた。だが、カイの中で先程のきかかいな叫び声が木霊する。

 

 (攻撃...?いや、こっちは何もなっていない。モンスターとしての咆哮、ただのシステムか?いや、違う。あれはもっとこう.......)

 

 

 

 

 

 「仲間を呼ぶ声、か」

 

 カイの導き出した答えに正解と言うように、周囲の茂みから先程の蟻がでてくる。それも何十匹と。

 

 「これは死にゲーか?鬼畜だろ......。でも、さっきよりよっぽど燃えるよ。」

 

 一匹の咆哮を皮切りに、戦闘が始まる。

 

 

 本気を出さねば死ぬ。たかがゲームだと揶揄するものはここにはいなかった。

 切っては薙ぎ倒し、切っては薙ぎ倒し、立ち回りを常に考えながら状況を捌く。それでもカイにダメージがでないのは偏に彼の潜在能力(プレイヤースキル)故だろう。常人離れの動きで一匹一匹を屠っていく。

 

 

 そして最後の一匹に刃を傾け、戦闘は終わる。

 

 「うあーっっ、疲れた......。」

 

 彼の勝利を告げるように通知音が鳴り響く。

 

 「みっつLvアップ...。みっつ?もうちょいあってもよくね?お、スキルが。【挑発】と......【四面楚歌】?」

 

 

【四面楚歌】

   半径15メートル内に敵がいれば居るほどステータスが補正される。

   一体につき各ステータス+10% 

 <取得条件>

   20体以上の敵のヘイトを集め、一定時間内にノーダメージでそれらの敵を倒しき       る。アイテム使用不可。

 

 

 「こーれは...結構強いんでは?」

 

 否、結構ではなく超の間違いである。周りに敵が十体居るだけでステータスはすべて二倍なのだ。弱いわけがない。

 

 「ここまで来ると素直に喜んでいいのかわかんねーけど......まあいっか!強くなれるし!つかそろそろログアウトだな...」

 

 

 カイは伸びをしてメニューを操作し、ログアウトする。

 

 ベッドで目を覚ました魁は時計を見て、まだ11時台なのを確認する。少しのどが渇いたので部屋をでた。

 キッチンに入ると、自分より小柄な人影を見つける。

 

 「まだ起きてたのか?ゆい。」

 

 「あっ、お兄ちゃん!ううん、もう寝るところだよ。まいはもうベッドに入ってる」

 

 自身の二人いる妹のうちの片割れであるゆいはこちらを見つけると花が咲いたかのように微笑む。魁はつい顔を綻ばせながらも軽く、そうかと返事をした。

 

 

 水を飲んだあと、ゆいを送り届けるために部屋まで行くと、先にベッドに入っていた姉の方のまいと目が合う。 

 

 「あれ、お兄ちゃんもうゲーム終わったの?」

 

 「ああ、結構楽しかったぞ。」

 

 いいなあ、と二人は口を揃えて言う。二人にはまだゲームをプレイする許可が降りてないらしい。時間も時間なので軽くなだめたが、うちの両親のことなら許可が降りるのはそう遠くはないだろう。

 

 

 おやすみを告げると魁は自室に戻る。「やっぱりうちの妹たちが一番だな」と考えているあたり、シスコンなのだろう。

 ベッドに寝転び、電気を消す。

 

 「割と楽しかったし、今回のは長続きしそうだな。あっ、ネッ友にも話しておくか。」

 

 魁が寝るには早い時間だが、流石に今朝のことが体は堪えたのだろう。

 つぶやきを残し、彼の意識は段々と薄れていった。

 

   

 

 




いかがでしたか?
主人公かってに名字「浅霧」にしました。てなるとマイユイもそうなっちゃうんですよね...。ご都合設定ばかりですので、本当にご了承ください......。


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兄の情報が出始めたらしい。

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本当にありがたいですっっっ......!!


 時は丁度魁たちが寝静まったあたり、掲示板ではこんなスレがたてられていたらしい。

 

 

 【NWO】 姫を見つけた  ーーーーーーーーーー

 

1名前:名無しの魔法使い

誰か話を聞いてくれ

 

2名前:名無しの弓使い

おう 聞きに来たぞ

 

3名前:名無しの槍使い

>1

とりまkwsk

 

4名前:名無しの魔法使い

端的に言うと.......姫がっ 居たんだっ、、、

 

5名前:名無しの大剣使い

情報の進展0すぎたww

 

6名前:名無しの弓使い

>4

どうした 語彙が足んねえのか

 

7名前:名無しの大盾使い

>4

とりまゲーム内に美少女がいたって認識でおk?

 

8名前:名無しの魔法使い

そういう感じ

 

9名前:名無しの槍使い

>7

解読感謝

 

10名前:名無しの大剣使い

にしても美少女か

 

11名前:名無しの弓使い

気になるよな どんな感じなん?

 

12名前:名無しの魔法使い

ショートの中性系で武器は多分片手剣 初見ビビる

 

13名前:名無しの大盾使い

ほう

 

14名前:名無しの槍使い

>12

二次元かよ

 

15名前:名無しの弓使い

それな

 

16名前:名無しの大剣使い

>12

それ実は男でしたーとか言う展開にならない?

 

17名前:名無しの魔法使い

その時は俺の性癖を曲げてでも追っかけ続ける

 

18名前:名無しの弓使い

ガチかよwww

 

19名前:名無しの槍使い

そうとうだなこれwwww

 

20名前:名無しの短剣使い

>12

俺その子の戦闘見たかもしれん

 

21名前:名無しの大盾使い

マ?!

 

22名前:名無しの大剣使い

>20

kwskオナシャス

 

23名前:名無しの短剣使い

西の森の方に大群でリンチ仕掛けてくる蟻のモンスターがいるのしってるか?多分その子だと思うんだけど、30体位いたそいつらをソロで片付けてた。ちなノーダメで

 

24名前:名無しの弓使い

?????

 

25名前:名無しの槍使い

情報が出回ってなかったのも相まってめっちゃ犠牲者だしたやつだよねそれ

 

26名前:名無しの大盾使い

俺もリンチ食らったやつですねそれ

 

27名前:名無しの魔法使い

>23

ひめじゃなくてきしだった......?

 

28名前:名無しの大剣使い

あ スペキャ入ったなこいつ

 

29名前:名無しの槍使い

>23

つかノーダメってどゆこと?盾職じゃないんだろ?

 

30名前:名無しの短剣使い

それは俺もわからん でもダメージエフェクエト一切出てなかったんだよ

 

31名前:名無しの大盾使い

スキルとかか?初日でそんなチート見つけられんだろ

 

32名前:名無しの弓使い

純粋なPSかも

 

33名前:名無しの短剣使い

それはシンプルに人外

 

34名前:名無しの大剣使い

まあなんにせよ見守ってく方向でいいんじゃね?

 

35名前:名無しの槍使い

賛成 つか俺も見たいし

 

36名前:名無しの弓使い

それな

 

37名前:名無しの大盾使い

>35

それな

 

38名前:名無しの大剣使い

>35

それな

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 自分が話題に上がっていることなど露知らずに熟眠していた魁は、翌日の授業ではあくびの素振りすら見せず、いつも通りの猫かぶりをかましていた。睡眠の重要性をしっかりと再認識させられたらしい。良いことである。

 そんな彼は昨日と同じように帰宅してすぐ、夜ゲームをするための準備を整えていた。唯一違うのは課題が出たところであったが、呆れるべきか流石というべきか30分足らずで終わらせていた。

 

 

 午後8時すぎ。ようやくゲームにダイブをする事ができる彼は、昨晩のようにギアをつけベッドに寝転ぶ。

 「今日は長時間できるぞ」と意気揚々な彼は電脳世界へ意識を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 昨日も見た街の風景が視界に入る。周りを一瞥したあと軽く伸びをしたカイは、今日はどこへ行こうかと考える。

 

 「うーん、Lv上げ目的は変わらないとしてどこに行くか...。昨日は西の方へ行ったんだし、北の方にでも行ってみるか。あ、でもその前にポーション買っとこう。」

 

 

 

 

 NPCの店でポーションを買ったカイは北の方のフィールドを目指して歩く。視界に入った大盾の人に店の場所を聞こうとして驚かれていたのはまた別の話である。

 

 

 1〜2時間ほどの間カイはLv上げに勤しんでいた。子兎、大ムカデ、狼などなど、多様なモンスターを見つけ次第撃破した結果、彼の現在のレベルは昨日から5上がりLv15である。

 街からもだいぶ遠い地点に来てしまったためカイが一度引き返そうとした時であった。

 

 モンスターの咆哮と、それに似つかわしくない鈴のような音が聞こえてきたのだ。

 

 疑問に思ったカイは音の発生源へと急ぐ。

 彼を待っていたのは一匹の図体の大きな熊と――――――

 

 

                         ―――小さな妖精であった。

 

 熊の方は見たところ中ボスくらいの立ち位置なのだろう。しかしもう片方は明らかにこのあたりのモンスターたちと毛色が違った。

 観察して分かったのは、熊のほうが明らかに妖精を攻撃していたことだ。カイは今まで、と言ってもまだ初めて2日だが見たことのない「モンスターがモンスターを攻撃している図」にとても驚いた。

 しかし、いつまでも見ているだけでは駄目そうなのである。

 着々と減り続ける妖精のHPバーを見たカイは、二匹の間に割って入り熊を攻撃する。初心者装備とはいえ、レベルを上げステータスが上がった彼にとってはそこまで苦戦を強いられる相手ではなかった。

 切り上げ、【体術】で相手のバランスを崩しもう一度一閃。振りかざされた鋭い爪はカイには容易に避けられる。

 

 「っと。これで最後だっっっ!!」

 

 【跳躍】で高さを稼ぎ、その手にある剣を振り下ろす。

 HPが0になった相手は、パリンと小綺麗な音を残して居なくなった。その分、カイにとって大幅な経験値になったらしく今度はゲームの通知音がなる。

 ステータスの確認をする彼の腕を、後ろにいた小さき者が軽く引く。

 

 「あ、そうだった。えっとお前は結局......」

 

 妖精は、こっちに来てと言わんばかりに光を強め、そのまま動きだす。

 それに引かれ、カイも動きだす。妖精が喋れはしないことを察したため、特に声をかけることもなくただついて行った。

 

 

 やがて妖精が止まった場所は、一本の大木の下であった。

 

 「あれ、ここで終了か?」

 

 カイがそんなふうにつぶやきを漏らした瞬間、地面が光る。

 妖精が展開したと思われる魔法陣はすっぽりとカイまで包み込み、次第に光量を強めていった。

 カイは一瞬逃げようかとも考えたが、妖精の温厚な雰囲気を感じ取り、その案を破棄する。視界は段々と純白に染められていった―――

 

 

 

 



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兄、初の装備品をゲットするらしい。

どうやったら上手な文が作れるのでしょう......。
きっと一生謎のままですね、ええ。


 

 カイが飛ばされた場所は、一層の街には見られなかった絢爛豪華な城の大広間であった。ヨーロピアン調の作りといいたいところだが、あいにく満天の星空の見えるガラス作りの天井が目に入り、やはりファンタジーなのだと再認識する。

 周りを見ていると、カイの視線は自ずと中央に鎮座する荘厳たる玉座へと動く。見る限りその席の主はまだ居ないようだ。

 隣には先程の妖精。そして左右端にはまるで騎士のように堂々とする他の妖精たちがずらりと並んでいた。残念ながら見た目のせいもあり、カイの目には「可愛いもの」として写ってしまったようではあるが。

 

 

 少しの間待っていると右奥の幕が優雅に開き、その間から一匹の妖精が現れた。周りの妖精たちの何倍も大きく、おまけに豪華な装飾の施されたティアラとドレスを身に纏っているので女王的な立ち位置なのは目に見えてわかる。

 玉座に腰を下ろすと、彼女は口を開く。

 

 「そなたが我が眷属を助けてくれた者であるな?私はこの子らを統べる言わば女王。優しきものよ、名を聞いても良いだろうか。」

 

 「俺はカイと言います。お初にお目にかかり光栄です、女王様。」

 

 まさかここまで流暢に話すと思っていなかったカイは少し驚いたが、すぐにいつもの調子に戻す。カイの態度が気に入ったのか、女王は口角を上げる。

 

 「さようか。此度の件、誠に感謝する。女王として皆に代わって言わせてもらおう。ありがとう。」

 

 まさかここまで感謝されると思っていなかったカイは心のなかで少し狼狽える。

 

 「いえ、滅相もない。自分はそこまでのことはしていません。ですので大丈夫です。」

 

 「ほう、優しく、強くありながらそれでいて謙虚でもあるとは。見事な心構えである。では、そんなそなたに礼として我が種族の力を授けよう。」

 

 そんな女王にカイは、

 

 (よっしゃっ!!これレアスキルとか来るだろ、ラッキー♪)

 

 通常運転だった。

 心を踊らせているカイ、もちろん一切顔に出してないあたりは普段の猫かぶりが板についているからであろう。

 しかし、そんなカイをよそ目に女王が一言つぶやく。

 

 

 「もちろん、我が試練を突破できたらな。」

 

 

 「え、」

 

 今日初にしてカイの皮が剥がれかける。

 

 「私も心苦しいがな、流石に外部の者になんの苦労もなく渡せるものでもないのだ。なに、大丈夫。試練と言っても簡単なものだ。」

 

 軽く緊張していたカイだが、最後の言葉を聞いて安心した。次の瞬間、

 

 

 

 

 広間中央に大きくドーム状のバリアが施された。もちろん彼は中に閉じ込められてしまっている状態である。

 カイの前に大きな魔法陣が現れた。

 

 「いまからそなたには私の召喚獣と戦ってもらう。この場を存分に使い、自身の強さを証明してみせよ!」

 

 

 

 

 

 そして、魔法陣から召喚されたのは明らかにボス級の、黒曜石のような鱗に身を包んだドラゴンであった。

 カイは思った。

 

 (この女、好きじゃねえええ!!!)

 

 と。

 しかしドラゴンはそんな彼の憤怒に塗れた叫びなど知る由もない。つまり躊躇なく攻撃してくる。その巨大な体躯を生かしての地揺らし。尻尾を振り回し牽制。すべてが規格外のサイズであるのだから、ダメージだってそこらのモンスターと比べ物にならないほどであろう。

 

 (今の俺のVITとHPじゃよくて瀕死、最悪ワンパンだな。さて、どうするか......)

 

 近づき、また避ける。いわゆる一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)。カイはしばらく様子見を続ける。

 ドラゴンはVITが低めのステータスなのか、初めたばかりでまだ拙いカイのステータスでもダメージは通った。

 

 「ってなるとやっぱSTR高いんだろうなぁ。はあ、きつ」

 

 愚痴をこぼせるあたりまだ追い詰められてはいないらしいが、それでもまだ確証の成立仕切っていないこの勝負に油断は一切できない。

 カイは四十分ほど先の戦法のままドラゴンを叩くと、HPの約5割を削ることができた。

 

 

 ただ、簡単には終わらせてくれないのがボス戦というものである。

 「攻撃パターンの変化」。カイの頭の中にも予想されていた文字が現実となった。

 ドラゴンの黒い鱗は剥げ落ち、代わりに見えてきたのは白銀の強者を更に引き立たせるような鱗。

 

 (大丈夫、さっきまで近距離攻撃ばっかだったから今度はその逆!ドラゴンなんだからブレス系だろう......。一度距離を取って様子見してから口を塞ぐ!!)

 

 カイは冷静さを欠かないように集中し、軽い作戦をたてる。ただ、世の中には「取らぬ狸の皮算用」とかいう感じの言葉があることを彼は忘れていたらしい。

 ドラゴンは自身の気を貯め、頭上に集束させる。曖昧だった形は段々と具体的になり―――

   

 

 強者が放ったのは幅は優に4〜5メートルあるような隕石。〜大量の星屑を添えて〜

 

 「口から吐けやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 ドラゴンにとっても無理な頼みである。

 予想外の攻撃手段に若干のタイムラグを作ってしまったカイは、隕石にこそ当たらなかったものの、星屑の攻撃を少し受ける。

 

 「げ、掠っただけでこのザマかよ。くそっ」

 

 自身のHPバーが3割ほど減り、カイは悪態をつく。しかし同時に気づいた。自身のステータスが一瞬、凄まじく上がっていたことに。そしてそれは星屑の消滅とともに元に戻ったことにも。

 

 (これは......。運がいいな、俺は)

 

 カイの脳内で即座に今後の行動予定が組み立てられる。

 

 (さっきの攻撃のあと、ドラゴンは疲弊しているように見えた。ということはしばらくの間は撃たないはず。ならその間に削れるだけ慎重に削って......)

 

 つい先程も計画をたて即座に折られた筈なのに、彼はまた懲りずに同じことをする。それが蛮勇となるか、愚鈍となるかはまだ誰もわからなかった。

 それからは、序盤と同じように相手のHPをじわりじわりと削る。ただ最初と違うのはそれを意図的にやっているか否かであった。

 形態変化を経て攻撃パターンが変わったとはいえ、先程の大規模攻撃ほどの変化は見られなかった。となればカイの動きにもあまり大きな変化はない。一、二撃入れたら一度離脱。攻撃を避け次第また反撃。

 

 そうして戦況が進まっていくと、時は自ずと来る。

 ドラゴンの残りHPは二割。

 先程のときと同じような構えを相手は取った。隕石を生成、特大サービスと言わんばかりの星屑も。青年は悟る。

 

 

 

 ――――――来る。

 

 第一線が発射されたと同時に駆け出し、ドラゴンの長躯を駆け上がる。

 避けれるものは自身の能力(ステータス)を駆使し避け、不可能だと判断したら剣で切り裂く。

 常人離れした彼は、瞬く間にドラゴンの眼前まで迫った。上昇したステータスの数値は過去最高。だがここで逃したらまた不確定要素を生んだままお互い残ってしまう。

 ここが正念場なのだ。そんなカイはドラゴンに告げる。

 

 「そいつを待っていたんだ」と。

 

 手に持つ刃を振り上げ、振り下げ、左右に薙ぐ。短剣よりも刃渡りの長いそれは、確実に一閃一閃ダメージを叩き込む。

 高度が落ちかけたら、【体術】でダメージを稼ぎながら【跳躍】も平行運用し、再び己の刃を持って刻む。

 二割など、あっけないものであった。

 今回、あの大量の星屑が【四面楚歌】の範囲内であったことがドラゴンの敗因であろう。

 

 

 ドラゴンは無惨な音を残し消える。

 青年の、彼の、カイの勝利なのだ。

 

 

 

 

 ドームが解除されると、女王の声が響き渡る。

 

 「見事!そなたは我が試練を無事突破することができた。称賛に値する。よって、心ばかりの物を贈らせていただこう。」

 

 悪態をつきたくなったカイであったが、やっと報酬にありつけると分かり、多少は溜飲が下がった。

 彼女が従者に持ってこさせたのは、濃紺と白で彩られた宝箱だった。

 近づくカイに女王は、帰ってから開けろというので仕方なくインベントリにしまい込む。「うらしまたろうか」というなんともベタな彼のツッコミはNPCの彼女には届かなかった。

 

 「では、此度そなたと出会えたことを私は嬉しく思う。そなたの今後の旅に、星々による幸あれ。」

 

 女王が手を軽く振ると、煌煌たる粉のようなものがカイに降りかかる。足元に展開された魔法陣は、そのまま彼の視界を行きと同じく純白に包みこんでいった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 あのあと、町の広場で目を覚ました彼はそのまま宿屋へと向かい一室を借りた。

 今回手に入るものを大多数の人の前で披露してしまった場合、今後の主にPvPの要素で損をしてしまう可能性もあるからだ。

 まあそんなことはさておき、カイは目をワクワクとさせながらインベントリから宝箱を出し、開ける。

 

 「ゴールドが.......えっ?200万!?奮発しすぎだろあの女王サマ。それと剣、いやレイピアか。良かった装備できる.......。と、あとは.........ん?石?」

 

 黒がベースでちらほらと白銀が輝いて見える、見方によっては宝石とも捉えることができる石が一つ、高そうな内箱とクッションに包まれていた。

 そちらも気になるが、先にレイピアの性能を調べる。

 

 

  

導星の一閃 【STR+50 AGI+25】

【十二星座の加護】

 自身から半径15メートルの範囲にドームを設置する。ドーム内での自身のステータス+100%、敵のステータス−50%。ドームは1分後消滅。1日一回のみ使用可能。

 

内包スキル 

【群羊の王】

 自身に最も近い敵10体を操る。効果持続時間は3分。

 

【雄牛の守り】

 対象のVIT+30% AGI−25% 効果持続時間は5分。

 

【神託の代行者】

 自律行動可能なドッペルゲンガーを一体作成する。ステータスは対象の2倍。 スキルは使用不可。解除、または耐久値が0になると消滅。

 

【潮招きの刃】

 対象の通常攻撃に水の追加ダメージが入る。ダメージ量は自身のSTRの約7割。効果持続時間は5分。

 

【獅子の矜持】

 対象のSTR+50% 効果持続時間は2分。

 

【乙女の祈り】

 対象のHPを全回復させ、受ける回復効果+20% 効果持続時間は15分。

 

【蠍毒の一突き】

 対象の通常攻撃に状態異常の追加ダメージが入る。ダメージ量は最大で自身のSTRの約7割。

 

【天秤の釣り合い】

 対象2名の各ステータスを高い方に合わせる。効果持続時間は3分。

 

【撃手の器量】

 対象が遠距離攻撃時、その攻撃は自動追尾弾となり、敵に当たるまで残る。30発分効果持続。

 

【崖の王者】

 対象の通常のジャンプが3倍まで可能となる。効果持続時間は5分。

 

【泡沫の水盤】

 自身を中心とし、半径10メートルに水盤を生成。水に触れた敵はAGI−25% また、2秒に1つ起爆性のある泡を生成。敵に触れると自身のSTRの約5割のダメージが入る。効果持続時間は30秒。水盤は3分後消滅。

 

【幻魚の尾鰭】

 AGI+50% 水中の場合更に+20% 効果持続時間は3分

 

 ※内包スキルは重ねがけ不可。すべて一時間に一回使用可能。

 

 

 

 

 「っすー.......。欲張りセットかよ......。」

 

 ただの強武器ならカイは純粋に喜んでいたかもしれない。だが度合いが違いすぎたのだ。彼は一周回って冷静になる。

 

 「エグいだろ、シンプルに。バフ系ばっかだけど...、まあ加護って言ってるしな。うん、よし。あとはこの石か」

 

 カイは切り替えて、あと一つ残った謎の石を手に取る。しかし説明文を見ると......

 

 

輝石:共鳴

   武器、装備作成に使用可能

 

 

 「......えっ、それだけ?!」

 

 それだけである。実にシンプルな物だった。ここまで行くと内容すら分からなくなるが。

 

 「うーん、じゃあ明日とか生産職の人とか探してみるか。いや、リリースまだ2日なのにそんな凄腕とかいるのか?まあいいか」

 

 カイは明日の予定を立てると、ログアウトのボタンを押し、現実に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、運営陣では一つの叫びがあがっていた。

 

 「ああああああああ!!星の剣もってかれたああああ!!!」

 

 「は?あそこ入れるのリリースから一週間の間だけでしかも超低確率だから〜とかほざいてなかったかお前」

 

 「そうだよ!!しかもその奥には試練と謳っておいてボス級のドラゴン。初心者ステータスじゃ返り討ちに会う予定だったんだぞ!!」

 

 「どんなやつだよ取ってったの......」

 

 「こちらを御覧ください」

 

 そうして一人がスクリーンに動画を映す。そこには一匹のドラゴンと一人の男性プレイヤーの姿があった。

 

 「あー、はいはい。ここに入れた運以外は割と普通......は?おいなんでこいつ急にこんな強くなったんだ......?」

 

 「あっ!!このプレイヤー【四面楚歌】所持者だ!!」

 

 「どしたらあのスキルとれんの??」

 

 「つかこの動きスキルだけじゃないだろもう」

 

 「え、ただのPS?鬼畜すぎんよ......」

 

 「星の剣ってことは、あのスキル持ってったってことだよな...?」

 

 つぶやかれた誰かの一言により、その場の全員が青ざめる。

 

 「やばいやばいやばいって!!!」

 

 「バトルスタイルに完璧マッチしてんじゃね!?」

 

 「おいお前ら!!今後こいつは要注意人物だ!よく見とけ!!あとスキルもっぺん見直せええええ!!!」

 

 「「「「「はい!!!」」」」」

 

 

 その日から3日間ほど、運営会社では理不尽な残業ラッシュがおこったらしい。







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兄は将来有望な生産職に会ったらしい。

原作ももちろん好きなんですけど、コミカライズのあの絵好きなんですよね。
ゆるくて可愛い感じ。それだけです。


 

 例の装備品制作専用の石を手に入れてから早一週間。カイは今日こそは、と生産職系のプレイヤーを求めて街を練り歩いていた。

 カイがすぐにこの行動に出ていなかったのには理由がある。それは単純に、リリース直後すぎてオーダーメイドまで担っている生産職が中々いなかったことにあった。

 そのためこの一週間をカイは新しく手に入ったスキルの操作慣れも兼ねてスキル集め、レベル上げに費やしていた。因みに、永遠の0を決め込んだVITへのバフが、パーセンテージの足し算だったことに対し彼は最初嘆いていた。「0は何掛けても0なんだから100%だって0なんだわ!!!」と言う叫びは周囲のフィールドに響き渡ったとかなんとか。

 ということで、現在のカイのステータスは以下の通りであった。

 

カイ

 

Lv26

 

HP 40/40

 

MP 85/85

 

STR 115(+50)

 

VIT 0

 

AGI 70(+25)

 

DEX 50

 

INT 45

 

 

頭装備 (空欄)

 

体装備 (空欄)

 

右手装備 導星の一閃 【STR+50 AGI+25】【十二星座の加護】

 

左手装備 (装備不可)

 

足装備 (空欄)

 

靴装備 (空欄)

 

装飾品 (空欄)

 

    (空欄)

 

    (空欄)

 

スキル 

 【片手剣の心得Ⅲ】【体術Ⅱ】【攻撃逸し】【跳躍Ⅰ】【四面楚歌】【パワーオーラ】【MP強化小】【MP回復速度強化小】【MPカット小】【魔法威力強化小】【水泳Ⅳ】【潜水Ⅳ】【投擲】【しのび足Ⅱ】【遠見】【魔法の心得Ⅱ】【ファイアボール】【ウォーターボール】【ウィンドカッター】【ウォーターウォール】【ウィンドウォール】【ファイアウォール】【リフレッシュ】【ヒール】【火魔法Ⅱ】【水魔法Ⅱ】【風魔法Ⅱ】【光魔法Ⅱ】

 

 

 レベルは中盤くらいから上がりにくくなったとはいえ、スキルに関しては本人も頑張った方ではあった。抜かりがないとは言えないが、最初のうちはこんなもんで通用するだろう、と踏んでいる。

 そこでやはり目につくのは武器以外初心者装備のままなことであった。リリースから一週間もたてば、性能に差はあれ初心者装備はなかなか見かけなくなる。もちろん、まだ始めたての人は別だが。

 ということで、装備が欲しくなったカイは生産職者探しに繰り出すことになり、冒頭へ戻る。

 

 

 街を歩いていると一週間前よりはマシでも、賑わっているような店や工房はまだ少ない。ショーウィンドウを眺めていて、良い質のものがあっても後衛職専門だったりもする。こう言う所を見る度カイは、「奥が深いゲームだよなあ」と感じる。

 なにか良いところはないかとキョロキョロしていると、ある一枚のチラシに目が留まる。「オーダーメイド承ります」と書かれた張り紙は一発で貼り主がセンスのあるものだと分かるものであった。

 貼られていた工房のウィンドウにはあいにく商品はなく、参考にできるものがない。開店はしているようなので入ろうか否か迷っていたところ、軽やかな音とともにドアが開けられた。

 

 「ごめんなさい、気になっちゃってつい。私の工房になにかご用かしら?」

 

 出てきたのは爽やかな水色の長髪にレザーのゴーグルがよく映える、THE生産職とでも言うような女性だった。

 

 「あ、すみません。この、オーダーメイドってできますか?」

 

 「ええ。じゃあ続きは中ででもいいかしら?せっかくのお客様だもの。」

 

 カイは頷くと、女性の後についていき中に入っていく。

 そのまま彼女はカウンターの奥へ行き、カイと台を挟んだ形をとる。

 

 「まず最初に、はじめましてイズよ。生産職の中でも主に鍛冶を専門でやっているわ。」

 

 イズと名乗った女性は、装備が作れるらしくそれはカイにとっても良い情報だった。

 

 「あ、カイって言います。職業は剣士、ですかね?今回は装備を作ってほしいんですけど......」

 

 「もちろん大丈夫よ。ただ、そうね......。」

 

 イズはカイを一瞥し、心配そうに眉を下げる。

 

 「あなた、見たところ剣以外初心者装備よね。オーダーメイドって大体100万Gぐらいするけど、お金の方はたりるかしら?」

 

 「ああ、大丈夫です。多少はあるので。で、オーダーメイドを二件申し込むのってできますかね?」

 

 カイの言葉に、彼女の表情は一転しとても驚いたような顔つきになる。が、もともと冷静ではあるのかすぐに飲み込み、依頼の準備をしていく。

 

 「わかったわ、作る装備は体装備と足装備かしら?」

 

 「はい、それでお願いしたいです。」

 

 「うんうん。ちなみに、素材は一応持ちよりもできるけどどうする?」

 

 カイは「素材」という言葉に反応し、インベントリから例の石をそそくさと出す。

 輝きは色あせてはおらず、その分もちろん説明文にも変化はなかった。

 

 「あの、これって使えますかね...?」

 

 カイから石を渡されたイズは、しばらく見つめていた後口を開けた。

 

 「こんな石、見たことないわ。素材には使えそうだけどそれ以外が全くわからない。私の【観察眼】でもだめだわ。」

 

 残念そうな顔をしてカウンターに石を置いたイズは、カイにこの石の入手場所を問う。

 カイは彼女ならば問題ないと思い、例の件について詳しく語った。

 

 「妖精の女王に豪華な城......うーん、聞いたことがないわね。とりあえず素材に組み込んでみるけど、それで大丈夫かしら?」

 

 「ええ、鍛冶についてはさっぱりなのでおまかせします。できるならばSTR、AGlが伸びると嬉しいですね。」

 

 それからも、見た目の希望や追加の素材の確認、受け渡しの予定期日などについて二人は話した。

 ただ、カイが「この剣に合う、厨ニ心くすぐられる見た目がいいです。」と迷わず言ったことに対してはイズはより彼に興味を持ったらしい。

 粗方話をつけ終わった後、カイはイズの工房を後にした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 3日後、カイのもとにイズから依頼品完成の通知が届いた。本来は後2日後の予定だったので不思議に思った彼だが、生産職についてはからっきしなので特に疑問を持たずに工房へ向かった。

 

 「イズー、居るかー?」

 

 今回、依頼云々があったためフレンドになった二人はそのまま仲良くなっていた。

 名前を呼ばれた張本人は工房の奥から出てくる。

 

 「よかった、ログインしてて。例の装備のことなんだけれど......」

 

 「え?完成したんじゃなかったのか?」

 

 「もちろん、完成はしてるのよ。ただちょっと性能の方に異例が起きてね...」

 

 尋ねるカイにイズは困り顔で答えた。そしてそのままインベントリから今回作成した装備品を取り出す。

 見てみて、と言わんばかりに彼女はカイにそれを渡した。

 

 目一杯の装飾が施された黒のスーツに、両肩から片手までを包み込むマント。中にはピンと伸ばされシワひとつない白シャツと、首元にはそれとコントラストがとれた黒のネクタイ。下ももちろん、少々ピチッとしたタイプのスタイリッシュなズボンであった。金色と青系統のものでまとめられた装飾の数々は、美しさだけでなく力強さまでもをあらわしており、U字に垂れた金のロープの先のサファイアのブローチが強く主張する。

 

 「これってさ......」

 

 「ええ、軍服を参考にさせてもらったわ。レイピアにはやっぱりこれよね!執事服と迷ったけれど......どうかしら?」

 

 「ああ、予想以上。ありがとうイズ」

 

 正直ここまで出来の良いものがゲーム内で作れると思っていなかった彼は、今度はこれをきっちり着こなせるか心配になってきたがそんな贅沢な悩みなど言えるはずもない。

 ある程度見た目を確認した彼は、問題の性能面を見る。それは、予想などできるものではなかった。

 

 

ノーネーム 【共鳴:空欄】

 

 上も下もこの通り。一体誰が、スキルだけでなくステータスも名前もないと想像できただろうか。

 開いた口が直らないまま、カイはイズの方へ目をやる。

 

 イズは「実はね、」と事の経緯を話し始めてくれた。

 初め、イズの所持していた鉱石等の素材をベースに作ろうと思っていたらしいのだが、なんとその状態では例の石を組み込めないことが分かり一時中断。今度はそれをベースに作ろうとしたら逆に他の素材が使えなくなったらしい。仕方なく、デザインを決めてからその石のみで作ったらこうなったらしい。石から布が作れるなど、神もびっくりの設定である。

 

 「で、作成中に出た説明なんだけれどその【共鳴】っていうもの、好きな武器を登録することができるらしいの。それ以上は何もわからないから、下手に触らなかったと言う感じよ。」

 

 「一通りはわかった。【共鳴】ってやつ、登録してもその武器がなくなったりしないよな」

 

 「流石にないと思うわよ。そんな匂わせもなかったし」

 

 その言葉を聞けたカイは、早速その【共鳴】とやらをやるため、一度軍服を身にまとう。スクリーンショットの音がカイの耳には届いたが、それはまた別の話である。

 詳細欄を開き、空欄のところをタップする。「導星の一閃」と言う文字をドラッグし、【共鳴】を発動させた。

 次の瞬間、カイの目には先程までなかった様々な数値が目に入る。

 

 

 

御影の上衣 【STR+20 MP+40】

【破壊不可】

【賢者の秘法】

 ランダムで倒した敵の50%〜100%分のHPをMPに変換し、吸収。常時発動。

 

玉屑の洋袴 【AGI+30 INT+30】

【破壊不可】

【雪獄の罪人】

 水系統のスキルで攻撃した敵に5秒間の移動阻害を施す。常時発動。

【宿雪】

 致死ダメージを受けたとき、HP1で耐えきる。その後1分間、魔法攻撃系のスキル威力を上げる。

 

 

 「一体急に何があった.........」

 

 状況を飲み込めずカイはそう溢す。興味津々で彼を見ていたイズも、その数値を見てひどく驚いた。

 しかし、彼女はとある単語に気づく。

 

 「あら?ユニークシリーズ?」

 

 そうつぶやかれ、カイの意識はそちらに行く。

 

【ユニークシリーズ】

 単独でかつボスを初回戦闘で撃破しダンジョンを攻略したものに贈られる、攻略者だけの為の唯一無二の装備。

 一ダンジョンに一つきり。取得したものはこの装備を譲渡出来ない。

 

 「ダンジョン...ええ、あれってダンジョンカウントなの?しかもこれだって出た石から作ったし...」

 

 「でも、こっちの剣にもその表記出てるわよ?【共鳴】の件もあってこれをベースにした装備だし、いいじゃない。損するわけじゃないんだもの。」

 

 イズが指したところを見ると、確かにレイピアにもその単語があった。

 

 「それもそうか。よしっ、考えるのやめ!せっかくゲットできたんだしな。」

 

 頭を振り無理やり切り替える。

 着ている装備はカイの外見にも丁度合っているが、いかんせん靴は初心者装備のままなので若干ちぐはぐ感はある。少し凹んだカイを見て、イズは「少し待ってて」と言いインベントリをいじる。

 彼女が取り出したのは、固めに見える黒の編み上げブーツと軍帽。まるでカイの装備に合わせて作ったかと言うようなものであった。実際、そうであるが。

 

 「これ、あなた用に作っておいたのよ。よかったら使って?」

 

 「え?いや、それはいくらなんでもサービス過多だ。お金とかもあるし」

 

 「カイにすでに支払ってもらった金額には私が後で使うはずだった素材の代金も含まれてるのよ。だからむしろこれでとんとんな位。補足されるステータスもあなた向きのはずだわ。」

 

宵闇のブーツⅧ 【AGI+20】

 

猛者の象徴Ⅹ 【DEX+10 MP+10】

 

 2つの装備は確かに、カイのステータスにはちょうどよいものである。

 結局、イズの押しに負けたカイは装備をそのままもらうことになった。

 

 「とはいえ、やっぱりただじゃ悪いからたまに素材の現物とか情報とか持ってくるよ」

 

 「別にいいのに。まあそれは有り難いわね」

 

 「俺が気にするんだよ。靴と帽子の整備にも定期的に来るんだしついでだよ」

 

 そんな戯言をかわしながら、カイはイズの工房を後にする。

 もちろん新しい装備を前に我慢などできるわけもなかった彼は、軽くモンスターをしばいてログアウトをした。その時カイの装備は当然目を引くわけで―――

 

 

 

 

47名前:名無しの魔法使い

お前ら姫の軍服見たか???

 

48名前:名無しの大剣使い

なんそれ知らんkwsk

 

49名前:名無しの槍使い

>47

知ってるしスクショ済み

http.photo....

 

50名前:名無しの弓使い

それシンプルに盗撮だけど最高

 

51名前:名無しの短剣使い

けどこれで余計野郎か女の子かわかんなくなったよな

 

52名前:名無しの大剣使い

あーね 結局どっちだろ

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

60名前:名無しの大盾使い

すまん しゃべったら...めっちゃ男だった......

 

61名前:名無しの魔法使い

はああああああああ

 

62名前:名無しの弓使い

なんっだと........

 

63名前:名無しの槍使い

>60

つかいつ喋ったん?

 

64名前:名無しの大盾使い

一週間前にNPCの店聞かれた

声低い(イケボ)で仕草、言葉遣いも完全に野郎のそれです

 

65名前:名無しの大剣使い

俺たちの姫がああああああ

 

 

 

 

 

 

 

 

スレは一時期低浮上になったらしい。



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近い将来、歩く要塞になる少女にあったらしい。

個人的には主人公の装備執事服にしたかったんですけど、後半のウィルバートと被っちゃうんですよね......。


 

 イズから装備を受け取り数週間、カイは再びレベル上げや探索に勤しんでいた。装備による大幅強化もあり、彼は一般的に難易度が高いと称されているフィールドにもちょくちょく赴いていた。よって現在のレベルはLv34と、順当に上がりにくくはなっているが良い進度である。

 そんなカイは、今日は先日洞窟で見つけた比較的レア度の高い鉱石をイズの工房へ持っていこうとしていた。

 

 (イズからDEX補正のピッケル借りておいて正解だったな。)

 

 青い軍服をまとうカイはそのまま、町中を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、時同じにして彼以外に工房へ向かう者たちがいた。

 黒髪の少女と体格のいい男。両者とも装備は大盾である。少女の方は初期装備であるが。

 会話を弾ませながらついた先は、先程も言ったようにイズの工房であった。

 

 カラン、と軽快な音とともに二人が入店するや否や、ここの主人である生産師が声をかける。

 

 「あら、いらっしゃいクロム。どうしたの?」

 

 クロムと呼ばれた男性は、彼女に今回の経緯の説明と少女の紹介をした。その時、クロムがイズにからかわれたのはまた別の話である。

 

 「メイプルちゃんね。大盾を選んだのはなぜかしら?」

 

 「えっと......あの痛いのは嫌だったので、防御力をあげようと思ったんです」

 

 そんな感じで会話を進めていく。もともと少女もといメイプルはコミュ力が高いのか、すぐに場に馴染んでいる。

 そしてメイプルがオーダーメイドの金額に打ちひしがれた時、店内に新たな客を告げる音が鳴り響いた。

 

 「イズー。レアなやつ持ってきたぞーって、あれ先客がいたか」

 

 三人の視線は、入ってきたカイへ向けられる。

 

 「カイじゃない。もしかしてまた素材持ってきてくれたの?」

 

 「ああ、これ。そろそろ枯渇しそうとか言ってなかったか?」

 

 そう彼は言い、インベントリから鉱石とその他の素材も出す。

 

 「有り難いわ。地味に採取量が少ない上、採れる場所も限られてるのよね」

 

 「なら良かった。で、そっちの二人は?」

 

 カイは気になっていた者たちの方へ視線を移す。少女と壮年の男性、正確には男の方は一度会話を交えたことはあるが、ものの1、2ターン程度なのでカイは初対面を装う。

 

 「私のフレンドの一人と将来的にお得意さんになって貰う予定の子、かしら」

 

 イズがそう言い終えると二人がカイに向かって話しかける。

 

 「メイプルです。よろしくおねがいします!」

 

 「クロムって名前でやってる。よろしく頼む」

 

 思っていたよりも友好的な二人にカイは同じように返す。

 

 「カイだ。よろしくな」

 

 ある程度の自己紹介を終えると、メイプルはカイのことをキラキラとした表情で見つめる。まあ、彼の着ている装備を、だが。

 

 「カイのもすごくかっこ良い装備だよね!!どこで手に入れたの?」

 

 「俺の?俺のは、武器はダンジョンでだけど着てるのはイズに作ってもらったんだ」

 

 「へー!ダンジョンでもそんな武器が手に入るんだなぁ...」

 

 「確か、今情報が上がってるのは3つだったよな」

 

 メイプルのつぶやきにクロムが返す。

 

 「ていっても、実質割と最近上がった妖精の城とか言うとこはまだ情報提供者以外入れてすらいないらしいが」

 

 「え、あれまだ見つかってないのか」

 

 「じゃあやっぱりカイはラッキーだったのね」

 

 知っている単語にカイとイズが反応する。当然、クロムは戸惑っていた。

 

 「え?あれ見つけたのカイなのか?」

 

 「うん」とカイは答える。クロムはまたスレでのネタができたと内心思っていた。

 

 それから4人はフレンドになり、イズ以外は工房を後にした。これからダンジョンに戻るつもりであろうメイプルに、カイはポーション類を渡している。こんなに年は近くないが、自身にも居る天真爛漫な妹たちに少し重ねてしまったのだろう。後ろでクロムが呟いた「兄属性...」と言う言葉は二人には届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー 

 

241名前:名無しの大盾

大盾の少女と姫と遭遇したと言うかフレンド登録したw

 

242名前:名無しの槍使い

は?

 

243名前:名無しの魔法使い

ギルティ!!

 

244名前:名無しの大剣使い

姫ガチ勢の叫びwww

 

245名前:名無しの弓使い

つかどうやって?

 

246名前:名無しの大盾使い

少女の方はログインしたら目あって話しかけられた。装備についての話になって、そのまま生産職の人紹介した。んで、AGIは俺にもついてこれなかったから低そう

 

247名前:名無しの短剣使い

大盾少女コミュ力たけーなおい

 

248名前:名無しの大剣使い

>246

お前のAGIいくつ?

 

249名前:名無しの大盾使い

20ぐらい

 

250名前:名無しの弓使い

んじゃまじで極振りかもな

 

251名前:名無しの槍使い

姫の方は?

 

252名前:名無しの大盾使い

行った先で鉢合わせた。なんかその専門職のやつに装備作ってもらったっぽい。軍服のやつ。武器の方は妖精の城のダンジョンで獲得したらしい

 

253名前:名無しの魔法使い

その人に感謝

 

254名前:名無しの短剣使い

え 妖精の城って、今んとこ情報提供者しか見つけられてないっていうやつ?

 

255名前:名無しの大剣使い

あれ見つけたの姫だったのか......

 

256名前:名無しの大盾使い

とりままとめるぞ

大盾少女の方は

 

パーティーは組んでない

大盾を選んだのは攻撃受けて痛いのが嫌だから

超素直で活発系美少女

 

総評 めっちゃいい子

 

姫の方は

 

見た目とかオーラからして結構なランカー

武器は情報通り片手剣

安定のイケメン(兄属性持ち)

 

総評 もう姫より王子だと思う

 

257名前:名無しの弓使い

何だふたりとも。設定盛りすぎか

 

258名前:名無しの大剣使い

それな思った

 

259名前:名無しの大盾使い

つか多分みんなそう思ってると思うが、見守っていく方向性でおk?

 

260名前:名無しの魔法使い

いいともー!

 

261名前:名無しの槍使い

>259

いいともー!

 

262名前:名無しの短剣使い

>259

いいともー!

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 翌日、カイにメイプルからの通知がとぶ。バナーを開くとそこには新しい装備が手に入ったから一緒に探索しない?的なことが書かれていた。

 ちょうどカイの方も区切りがついたところだったので彼は了承のメッセージを送り、メイプルの待つ広場の方へ駆けていった。

 

 

 広場につくと、待っていた彼女はカイが気づくよう大きく手を振った。カイに気づかれる分周りの注目も集めるわけで、彼は居心地の悪さを感じながらメイプルの方へ向かう。

 

 「よかった〜カイがログインしてて。イズさんとクロムさんは今日はまだログインしてないみたいだったから」

 

 

 するとメイプルは見てみてと言わんばかりにくるりと一回転をする。

 彼女が身にまとうのは、黒を基調とし所々に赤い装飾の施された鎧と大盾、それに短刀。重厚感のある鎧の胸の位置には赤いバラのレリーフが刻まれている。

 正直な所、カイの厨ニ心に刺さった見た目であった。

 

 「めっっちゃかっこいいじゃん!」

 

 「でしょー!!私も気に入っちゃったんだ〜!似合ってる?」

 

 「ああ、もちろん」

 

 そう言うと彼女は照れくさそうに微笑んだ。メイプルの黒髪によく合っている装備だとカイは思う。

 

 それから街を出て、フィールドに向かった二人はお互い話に花を咲かせながらも順調に探索を続けた。

 メイプルがVIT極振りなこと、装備がふたりともユニークシリーズであること、カイの昔やっていたゲームについてなどなど、話題が途切れることはなかった。

 

 「そういえば、メイプルはVIT極振りならどうやってボスとか倒したんだ?いくら装備の分の補正があるとはいえ攻撃手段少ないだろ」

 

 カイはメイプルにそう問う。次にメイプルから発された言葉は、常人では考えもしないものであった。

 

 「えっとね、食べたんだ!」

 

 カイが聞き返す。しかし答えは変わらず「食べた」の三文字である。

 

 (あれ、俺何について聞いてたんだっけ?食関係だったっけ?)

 

 ついにカイは一種の自問自答をしだす。大丈夫、普通はそういう反応をするはずだ。

 

 「なんかね、途中から【毒無効】ゲットしたから死にはしなくなったんだけど攻撃手段がお互いなくなっちゃって...。あ、でもでもHPドレインで倒したみたいな判定でスキルの【毒竜】が取れたんだ!これが詳細だよー」

 

 カイはメイプルに見せられたスキルの詳細を知り、また固まる。因みに先程の話のおかげで「食べる」という行動は「HPドレイン」に分類されるのだとカイの頭に刻み込まれた。

 そこでカイの中に一つの考えが浮かび上がった。

 (ボスじゃなくていいから、俺もなんか食っとくか。氷系の!)

 考えることをやめたのか、はたまた良い情報として受け取ったのか。後者の場合、彼のネッ友はしない選択だろう。

 それはさておき、そう考えたカイは一応メイプルに了承をとる。彼女は快く頷いてくれた。

 

 

 数時間の間二人は共闘し、その後別れた。

 一人になったカイはスキルについて一つ考え込む。

 

 (んー。俺の手持ちのスキルと合わせて氷系統のスキルがほしいし...。あっそういえば氷のスライム的なのが西の森の湖の方にいたっけか......よし)

 

 

 

 

 

 

 後日、かき氷機とシロップを持って森に入るカイが目撃されたらしい。

 氷スライムに冥福あれ。

 

 

 

 



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第一回イベントが来たらしい。

感想、評価等とてもありがたいです!
めちゃめちゃやる気でます!!


 

 『それで?もうそろそろ第一回のイベントだっけ?』

 

 「ああ。バトルロイヤル形式らしい」

 

 カイの部屋は現在、話し声が響いていた。

 電話口の相手はカイが数年前にゲームで出会い、仲良くなった相手。所謂ネッ友と言うやつである。

 

 『あ~...、いいなあ。私も早くやりたいよ』

 

 「まあまあ、テスト終わったらゲーム解禁されるんだろ―――

 

                                ―――理沙。」

 

 

 その名の少女は電話越しでも分かる程の歯がゆさを見せていた。その様子を感じ取った魁はくすりと笑うが。

 

 『私がログインできる頃にはもうイベントは終わってるかあ。残念』

 

 「そしたら俺先輩じゃん。レベリング頑張っておこう」

 

 『うー...。すぐ追いついてやるんだから!』

 

 この二人、ホラゲを除けばどんなゲームでも同じような高成績を残すのだ。つまりはお互い良き好敵手(ライバル)といったところであろう。それ故軽い小突きあいをするが、基本的には仲はいい。

 

 『あ、そういえば私の友達もNWO始めたんだよね』

 

 「へー、その子ゲーム好きなの?」

 

 『いや、私がおすすめし通した』

 

 (それは最早押し売りなのでは......?)

 

 彼女の押しの強さを知っている魁はそう思ったが、口には出さない。

 

 「じゃあ俺もその子に会えるかなー。インしたら紹介よろ」

 

 『了解。じゃあそろそろ勉強戻るから切るね?』

 

 「おう。あっ、そうだ忘れてた」

 

 魁はいい忘れていたことを思い出したのか理沙を止める。

 

 『どうしたの?』

 

 「あのさ、今度新作のゾンb『やんないからっっ!!』

 

 

 

 

 「......やっぱだめか」

 

 もう一度言っておこう。仲はいいのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後、ついに第一回イベントの日となった。やはり皆楽しみにしていたのか広場に集まる人の数は尋常じゃない。

 カイは周りを気にしながらもステータスの最終確認を始める。

 

カイ

 

Lv38

 

HP 40/40(+100)

 

MP 85/85(+50)

 

STR 195(+70)

 

VIT 0

 

AGI 145(+75)

 

DEX 60(+10)

 

INT 65(+30)

 

頭装備 猛者の象徴Ⅹ 【DEX+10 MP+10】

 

体装備 御影の上衣 【STR+20 MP+40】【破壊不可】【賢者の秘法】

 

右手装備 導星の一閃 【STR+50 AGI+25】【破壊不可】【十二星座の加護】

 

左手装備 (装備不可)

 

足装備 玉屑の洋袴 【AGI+30 INT+30】【破壊不可】【雪獄の罪人】【宿雪】

 

靴装備 宵闇のブーツⅧ 【AGI+20】

 

装飾品 黒の手套Ⅶ 【HP+100】

 

    (空欄)

 

    (空欄)

 

スキル 

 

 【片手剣の心得Ⅳ】【体術Ⅲ】【攻撃逸し】【跳躍Ⅱ】【四面楚歌】【パワーオーラ】【MP強化小】【MP回復速度強化中】【MPカット小】【魔法威力強化中】【水泳Ⅳ】【潜水Ⅳ】【投擲】【しのび足Ⅱ】【気配察知Ⅰ】【遠見】【氷雪喰らい】【魔法の心得Ⅲ】【ファイアボール】【ウォーターボール】【ウィンドカッター】【ダークボール】【サンドカッター】【ファイアウォール】【ウォーターウォール】【ウィンドウォール】【リフレッシュ】【ヒール】【炎弾】【水弾】【光線】【火魔法Ⅲ】【水魔法Ⅲ】【風魔法Ⅱ】【光魔法Ⅲ】【闇魔法Ⅰ】【土魔法Ⅰ】

 

 

 

 

 装飾の枠を一つ取った黒いグローブはイズに依頼し、作ってもらったものである。火、水、光の魔法は先日Ⅲまで伸びたので【炎弾】【水弾】【光線】が使えるようになった。因みに氷雪喰らい(アイスイーター)は例の氷スライムの犠牲によって獲得したものであり、氷系のダメージを50%軽減するという内容だった。攻撃には関係なかったのでカイは少し落ち込んだのである。

 

 メニューを手早く閉じると視界の右端にメイプルを見つける。声をかけようとしたが、それは運営からのアナウンスによって止まった。

 小型のドラゴンのような形をしたNWOの公式キャラクターがルールを説明し始める。

 新たなフィールドで競い合い、敵撃破数、自身の撃破数、与ダメ、被ダメの4つの観点から点数を算出するらしい。イベントの形式はすでに発表されていたため想定から大幅に逸れることはなかった。

 

 (死んでも即ゲームオーバーじゃないのは助かるな)

 

 むしろイージーだとカイは考える。普通の人ならば大法螺であったりもするが、彼の場合は態度に相応の実力のついたものだった。

 

 そうして考え頃をしているうちについにカウントダウンが始まり、人々の待ちきれないと言わんばかりの期待感がより膨らむ。

 

 

 「それではー!3!2!1!スタートどらー!!!」

 

 

 

 

 

 

 カイが飛ばされたところは、広く果てしなく感じるような荒野だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【NWO】イベント観戦席その3

 

241

やっぱ優勝はペインか?ゲーム内最高レベルだし無双してる

 

242

あれはやばい

動きが人間やめてるw

 

243

でもやっぱ順当に勝ちを重ねていくのはよく聞く名前ばっかだな

 

244

トッププレイヤーが強いのはそりゃ当然よ

 

245

あ、王子写った って え??

 

246

え、今何が起きた?

 

247

何あの動き 頭おかしいやろ

 

248

全部攻撃弾くか避けるか受け流してない?まだ被ダメ0かよ

 

249

つかやっぱ顔整ってんな

 

250

顔にしか目がいかん

 

251

と思ったらなんか凄いの撃ってね!?

 

252

ドーム?プラネタリウムか?

 

253

やっぱかっけえなおい

 

254

イケメンはやることもスマートだな

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 数分前に戻し、バトルフィールドに目を向けよう。

 荒野にいたカイは時間は有限とばかりに動き出し、かかってきた、見つけたプレイヤーをバッサバッサと斬り伏せていた。おかげでMPはいくらスキルを撃っても変わりない。

 

 「賢者さまさまだなっと」

 

 カイはこのバトルスタイルを可能にした例のスキルに感謝し、そうつぶやいた。

 暫くフィールドを駆け巡りながらキル数を稼いでいく。もちろん今のところは被ダメは0であり、カイ自身も重畳の滑り出しと感じていた。

 

 走っている途中、10人ほどのパーティーがカイの前に現れた。

 

 (あー、このイベントパーティー組めたんだっけ)

 

 カイが一人だと気づくと、敵のリーダーであろう一人の男は威勢よく言葉を投げる。

 

 「はっ、兄ちゃんも一人か。随分きれいな顔してるけど、頂いたぜっ!!」

 

 男は剣で切りつけようとする。が、カイの手腕によってそれは流されてしまった。

 

 「「【ファイアボール】【ウィンドカッター】!」」

 

 カイに向かって火球と風の刃が飛んでくる。

 

 (ふむ、魔法使いが2〜3人か。装備から見た時、重装も同じくらいいたから後衛を先にやるのは得策ではないか......)

 

 勝利の確信が持てたように感じた相手は、一瞬攻撃の手を緩めてしまう。

 瞬間、カイはパーティーの中心に陣取った。

 

 

 「【十二星座の加護】」

 

 展開されたドームは全員を容赦なく包み込み、混乱に導く。視界が暗闇に染まる、逃げたくとも自身の動きが明らかに遅くなる。どれもが恐怖を煽る要素となった。

 

 「リンチなんて舐めた真似してくれてんじゃん。まあ別に倒せなくはないんだけど、ちょっと面倒かなそういうの」

 

 カイのステータスは【四面楚歌】で大幅補正されている。有り体に言えばカイは様子見同然と手を抜いていたのだ。

 周りに聞こえるようにそう呟いたカイは、剣を構え疾走の準備をする。

 

 「ま、上でも見てなよ。さっさと終わらすから」

 

 

 カイの牙にかかった彼らは、目の前が白く染まった後、初期位置にてひどく後悔した。標的を間違えた、と。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

255

やべえ ドーム消えて中見えたと思ったら王子以外消えてるってどゆこと

 

256

王子のおかしい所その1 攻撃を全て弾く 魔法は避けるか対の属性ぶつけてる 150人弱潰して被ダメ0

 

257

なんか当たり前のように弾くんだよなあ 攻撃速度とか走力からしてAGIがメインっぽくないのに

 

258

その2 スキル多分使いまくってるはずなのにMP切れない

その3 バフの底が尽きない

 

258

エフェクトでてるし何かしらやってんのは確かなんだが...

 

259

王子自強型かあ

 

260

でもあの大盾よりマシっぽくね?

 

261

お前さてはさっきのプラネタリウム見てないだろ

 

262

その前はなんかプレイヤー操って相討ちさせてたぞ

 

263

もう恐怖なんだよなあ

 

264

つか絶対そもそものPS高いだろ

 

267

それな

 

268

あのバフスキルも不明すぎるしステも一線級とか......

 

269

おかしいな、俺も初期勢のはずなのに

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 カイは荒野を抜け、岩場のエリアに入る。

 

 「げ、足場悪...。早めに抜けるか」

 

 

 

 そう呟いた瞬間、自身の脇腹に短剣の鋒が迫っているのを見る。慌てて剣で軌道修正するも、軽く掠ってしまいカイのHPの一割を削った。

 

 ノーダメを維持していたカイはわかりやすくショックを受けるも、目の前の敵に集中する。

 

 (褐色の肌に暗殺者(アサシン)装備。AGI寄りの短剣の...ドレッドだったか?)

 

 事前に得た情報と照らし合わせ、考えていた攻略法を思い出す。

 ドレッドとの戦闘は苛烈を極めるものであった。短剣ならではの2つの刃、自身の上を行くAGI、そして一般人より抜きん出たその判断力と瞬発力(プレイヤースキル)。どれもがカイの事を焦らせる一因になる。

 

 (せめて一瞬隙ができれば......よし、いける)

 

 少し考え込んだカイは、すぐさま目を開け行動に移る。

 

 

 

 ドレッドの上に、ウォーターボールが撃たれた。頭上に、だ。

 

 「おいおい、どこに撃ってんだよ」と発された言葉は無慈悲にもカイの放った言葉にせき止められた。

 

 

 

 「【ファイアボール】!」

 

 頭上の水球を標的とした火球はそのままものの見事に着弾し、大きな破裂音を出して小さな煙幕になりうる水蒸気を出した。

 

 「!?」

 

 動揺し、一瞬の隙を与えてしまったのがいけなかったのだ。ドレッドはカイに接近される。

 刃が当たるほどの距離で、カイは発する。

 

 「【雄牛の守り】」

 

 放つスキルはバフであるにもかかわらず、対象はカイではなかった。

 

 「は?ステータスが...チッ」

 

 ドレッドのステータスはAGIが大幅に下がり、代わりにVITが少し上昇していた。

 

 【雄牛の守り】

 

 対象のVIT+30% AGI−25% 効果持続時間は5分。

 

 今回の作戦の味噌は、「味方」ではなく「対象」と書かれていること。事前の確認によりカイはこれが敵にも味方にも当てはまるのを知っていた。

 相手のAGIが自分より低くなったと確信したカイは、躊躇なくその刃を振るった。

 

 「終わりだよ」

 

 守りが固くなったとはいえ、その数値はもともと低いから当然バフがあっても十分に攻撃は通る。

 ドレッドはあっけなく光に消えていった。

 

 

 達成感に浸っているカイに、運営からのアナウンスが響く。

 

 「途中経過どらー!現在の上位3名はこちら!!」

 

 2位の項目にカイは自身の名前があるのを見つけ、内心喜ぶ。

 

 (2位か、よっしゃっ)

 

 今からの30分は回を含めた三人を倒すと得られるポイントが増価するらしい。

 

 「んー、じゃああれだしとくか」

 

 カイは周りに誰もいないか【気配察知】で確認した後、岩陰に隠れた。

 

 「【神託の代行者】」

 

 

 

 それから終了まで、カイに注目していたすべてのプレイヤーが混乱に陥ったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

―――――――――

 

――――――

 

 

 「しゅうりょーう!!1位から3位までの順位変動は無しどら〜!」

 

 その声を聞き、納刀したカイは光に包まれていった。

 

 

 目を開けると、彼は2位と書かれた台の上にいる。即座に状況を判断したカイは冷静になった。

 

 (あ、メイプル3位なのか。......めっちゃ噛んでるしめっちゃどもってる。気をつけよ)

 

 一言を求められていたメイプルはそれはもう盛大にやらかしていた。その様子を多くのプレイヤーに記録されていたことに彼女は気づいていなかったが。

 そうこうしているうちに、カイの番になる。

 

 「えーっと、対人戦の感覚を掴めたので重畳です。次は一位を目指します。あと......」

 

 カイはいうかどうか悩んだ末、言葉を続けた。

 

 「......町中で会ったら、仲良くしてくれると嬉しい、かな」

 

 照れ隠しゆえのはにかみはこの上なくカイの美形を引き立てる。このときほぼ全員の人がメイプルに続けてカイも可愛いと判断してしまっていた。因みにこの後結局姫か王子かでスレが過去一盛り上がったのはまた別の話である。

 

 

 魁はその日、嬉々とした気持ちのままベッドに入った。

 

 



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ネッ友がついに参戦してくるらしい。

 

 これは、第一回イベントがあった日の夜のことである。

 

 

【NWO】姫(王子)の謎【考察】

 

1名前:名無しの大剣使い

メイプルちゃんに引き続きスレ立てたぞー

 

2名前:名無しの魔法使い

次は我らが姫についてだな

 

3名前:名無しの槍使い

お前姫呼び派なんか

俺ぜってー王子のがあってると思う

 

4名前:名無しの魔法使い

これは譲れん

 

5名前:名無しの大盾使い

もうそれを掘り返すな

さっきまで十分その手の話でスレ消化したろ

 

6名前:名無しの短剣使い

つかぶっちゃけペインとかメイプルちゃんに比べて目立つような大技はなかったよな

 

7名前:名無しの大剣使い

比較対象間違えてるだけだと思うぞ

 

8名前:名無しの大盾使い

冷静になってみろ

あれ(プラネタリウムとかプレイヤー操るやつとか)目の前で起こってもお前は恐怖を感じずにいられるか?俺はくっそビビると思う

 

9名前:名無しの短剣使い

俺が悪かったです

 

10名前:名無しの槍使い

草www

 

11名前:名無しの魔法使い

まあ普通に考えてあれはやばいよなあ

 

12名前:名無しの大剣使い

同じ初期勢と思えんのだが

 

13名前:名無しの短剣使い

やっぱ第一線組は違うよ...うん...

 

14名前:名無しの槍使い

んじゃ今回の王子(姫)まとめだ

第一回イベント

カイ二位

死亡回数0

被ダメージ確か20くらい

撃破数2987

 

装備は馬鹿みたいな攻撃手段ととんでもないバフ?を与え続ける片手剣+撃破時にMPだかなんだかを相手から刈り取る軍服

正直常時発動系が多いのかスキルの数とか威力はまだ謎

高いPSとステータスで1対多数を得意としてるっぽい

 

後途中から二体に増えてた

 

15名前:名無しの魔法使い

なんだろう確かにメイプルちゃんよりパワーワードは少ないはずなのだが......

 

16名前:名無しの大盾使い

バフの数がもう後衛のそれなんだよな

 

17名前:名無しの大剣使い

ドレッド倒した後ちゃっかりHP回復もしてたし

 

18名前:名無しの槍使い

回復はメイプルちゃんじゃなくてそっちだったか...

 

19名前:名無しの短剣使い

にしたって後半の分身は誰も予想できんわ!

 

20名前:名無しの魔法使い

まあ、姫だから......

 

21名前:名無しの大剣使い

もう最近その一言で「あ、じゃあしょうがないか」ってなってきてる自分がいる

 

22名前:名無しの大盾使い

まじでそれだわ

つか多分今後も強化されてくんだろ

どうする1位と3位の二人みたいな大技放つようになったら

 

23名前:名無しの槍使い

まじでありえるんだよなあそれ

メイプルちゃんと違って確実な弱点もいまなさそうだし

 

24名前:名無しの大盾使い

多分ステ的にVITにはあんま振ってなさそうだけどそれでも基本弾いちゃうんだもんなあ...

 

25名前:名無しの魔法使い

ステ→第一線級つか実質もうトッププレイヤーの一人

中身→多分めっちゃゲーム上手

性格→それらを上回る可愛さ+イケメン力

 

これもうやばいって

 

26名前:名無しの短剣使い

いずれファンクラブできたりして

 

27名前:名無しの大剣使い

ありそうだわ

 

28名前:名無しの大盾使い

王子も各自調査してくか

 

29名前:名無しの魔法使い

>28

ラジャ!

 

30名前:名無しの槍使い

>28

ラジャ!

 

31名前:名無しの短剣使い

>28

ラジャ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一回イベントから数日、魁は以前通りNWOでレベリングに励みながらも日常生活をきっちり送っていた。

 その日も学校の予習を終わらせた後、深夜までログインしているつもりだった。自室の勉強机に向かい、集中力を保ち続けながらノートを埋めていく。

 

 「ふー、よし。そろそろ終わりでいいか」

 

 なんてつぶやきノートと教科書類をかたす。その時、廊下の方から2人分の足音がドタドタと響いてきた。バン!、と開けられた扉の先には嬉々とした表情の彼の妹二人がいた。

 

 「お兄ちゃん!私達もゲームできるって!!」

 

 白髪の方の少女、ユイが先に口を開いた。

 

 「おっ、本当か!良かったなふたりとも」

 

 「うん!今度買ってもらえる事になったんだ!」

 

 魁の言葉に返答するのは黒髪の少女、マイの方であった。

 普段ユイに比べおとなしいマイも嬉しさのあまり興奮を抑えきれていない。そのさまを見た兄の頬はしっかり緩みきっていた。彼のシスコンは健在である。

 

 「それでね、いいたい事があるの......」

 

 急に神妙な顔つきになった二人に合わせ、魁も切り替えた。もちろん外面だけ。

 

 「どうした?ああ、ゲーム内でレベリングとか手伝ってh―――

 

 

 「「私達!ゲーム内ではお兄ちゃんに頼らないようにするから!!」」

 

 

 

 

 

 

 「へ」

 

 確実に魁の心が折れた音がした。ゲーム内で傷をつけることすら難しいと言われている彼に双子は精神的ダメージを大盤振る舞いしたのだ。流石、次期破壊王たちである。まあそんな与太話は置いておこう。

 

 「えっと......?因みになんでか聞いてもいいか......?」

 

 ボロボロのまま魁は妹たちに疑問を投げる。言葉の端々から瀕死のオーラが漂いまくっていた。

 

 「えっとね、私達現実ではお兄ちゃんに頼りっぱなしだから」

 

 「ゲームでも同じようなことしたら、ちょっとズルかなぁって思ったんだ」

 

 マイの言葉にユイが続く。そして魁もこころの中でそれに続く。

 

 (いや、俺の妹たち良いこすぎる!かわいすぎる!でもそれは俺が死ぬ!避けられるの??俺??無理だわ馬鹿っっ!!!)

 

 一般人の皆さん、ドン引きするなら今のうちです。共感してしまった方々、最後までご同行お願いします。

 

 「もちろん、意識して避けたりはしないよ。それにこれは私達がある程度強くなるまでなの!」

 

 魁に希望の光が見え始める。

 

 「初心者のうちは、お兄ちゃんといたら足引っ張っちゃいそうで...。だから!私達が強くなるまで待ってて!」

 

 「「お兄ちゃんと一緒に戦いたいの!!」」

 

 魁の中で言葉がエコーする。が、そんな内面は一切感じさせないまま言葉をかける。

 

 「俺は気にしないけど、そうだよな。二人がやりたいんだもんな。じゃあ、俺もレベリング頑張ってるからふたりも頑張れ!」

 

 ユイとマイが顔を見合う。

 

 「「うん!」」

 

 その言葉を残し、二人は部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うん、ウチの妹達が大優勝」

 

 彼は一切ブレなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、魁は昼休みにメッセージが届いていたことに気づいた。

 

 「ん?だれだろ...」

 

 昼食のメロンパンを頬張りながらカイはアプリを開く。差出人は彼のネッ友である理沙だった。

 

 「ええっとなになに......お!」

 

 魁が見たメッセージの内容は、理沙がようやくNWOにログインできるようになった報告だった。

 「よかったな」と返すと1分もしないうちに返信が来る。

 

  何本かのやり取りの末、早速今日ゲーム内で会うことになった。彼女のリア友もその時紹介してくれるらしい。魁としては待ちわびていた彼女の参戦と、ちょくちょく話題に出て気になっていたそのリア友とやらにも会えるので内心楽しみでいた。

 

 

 

 帰宅後、約束の時間に間に合うように学校の準備と夕飯等を終わらせた魁は、NWOにログインした。

 

 待ち合わせはログインしてすぐの広場。「少し早かったか」とつぶやくカイはすることも特にないのでインベントリの整理をしていた。カイは理沙に自身の装備の特徴を伝えただけなので、彼の方から探すのは不可能であったからだ。

 

 待つこと数分後、彼の横にポリゴンが発生し、淡い色の髪をポニーテールにまとめた少女が現れた。彼女は隣でパネルを操作していたカイに気がつくと「あ」と声を漏らす。

 

 「もしかして...魁?」

 

 名前を呼ばれた彼は馴染みにある声にその少女が誰なのか理解する。

 

 「ああ、理沙だったのか」

 

 「あー...ここではサリーって呼んで。そっちのプレイヤーネームは?」

 

 「いや、俺はまんまカイだ」

 

 そういいながらカイはステータスに表示された己の名前を見せる。

 

 「うわっほんとじゃん。安直だなぁ」

 

 「文句あるんですかぁ?」

 

 最初はぎくしゃくしていた二人も次第に態度をいつもの調子に戻す。

 サリーは自身のステータス等を確認した後、「そういえば」と口を開いた。

 

 「そろそろ私のリア友も来ると思うんだけど...」

 

 「言ってた子?もうご対面か」

 

 「...あんまり変なこと言わないでしょうね」

 

 「言わない言わない。サリー相手じゃあるまいし」

 

 「ちょっと!」と言うサリーを横目にカイはそろそろ来るという子を待つ。

 

 (俺の知ってるやつだったりして...いや、ないか)

 

 残念ながらその思い込みは打ち破られることになった。

 少し離れたところに発生したポリゴンはカイのよく知っている姿へ形を変える。

 

 「「「メイプルじゃん/楓〜/理沙!と...」」」

 

 

 

 

 

 「「「え?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「いや〜、まさかサリーとカイが知り合いなんてびっくりしたよ」

 

 「それは俺も。まあ、今思うと言ってた人物像メイプルっぽいしな」

 

 あれからカイを含めた3人とも一度落ち着き、全員何かしらの関係だったことが判明した。話しながらフィールドの方へ移動する。

 

 「今更だけど、俺ここいてよかったの?二人でプレイするつもりだったんでしょ?」

 

 カイは少し申し訳無さそうにそう言う。

 

 「うーん、でも私とカイもう友達だったわけだし」

 

 「そういうこと。私だってNWOでカイと遊ぶ気でいたし、いいんじゃない?」

 

 「そうか。じゃあ改めてよろしくな」

 

 二人の言葉にカイはほっこりする。が、内心焦っていた。

 

 (さっきからなぁ!視線が凄いんだよなぁ周りの人からの!そうだよねごめんなさいふたりとも美少女だもんね!!)

 

 残念ながらその視線は妬みのものではなく、3人全員を可愛いものとして見るものであったが、カイは当然気づかない。

 

 「それで?パーティー組んだけど今からどこ行くの?」

 

 メイプルは二人に今の目的は地底湖に行くことだけということを続けて伝えた。二人はそれを快く承諾する。

 サリーは少し考える素振りをを見せた後、考えがある、と話した。

 

 

 

 

 

 

 

 「わーー!!すごいはやーい!!」

 

 「サリー、落とすなよ?いや、落ちてもノーダメか...」

 

 「いや落とさないから!言ってるそばからモンスター来てるよー、カイー」

 

 「おけ」

 

 

 メイプル一行は街を出て、地底湖のある洞窟の方へ向かっていた。

 サリーがメイプルを背負いながら、と言う普通ならなかなかない状況だが。

 しかし、サリーが思いついたこの体制。なかなか理にかなっているのも事実であった。サリーがメイプルを背負い、カイが道中のモンスターを流れるように倒す。

 

 地底湖についたときにはメイプルは、以前7分の1でついたと言っていた。

 

 「おおおお!すっごい速かった!」

 

 メイプルは目を輝かせながらカイとサリーの方を見る。

 

 「まあ、流石にAGI0に比べたらな」

 

 「ふふふ...崇めたまえ〜!」

 

 「サリー様〜、カイ様〜」

 

 「俺もかw」

 

 そんな茶番を見たカイは改めて二人の仲の良さを認識する。

 その後3人はそれぞれ地底湖の周りに腰を下ろし、釣りを始める。もちろんカイとサリーの分の釣り竿は街で購入していた。

 一時間後。

 

 「や、やっと3匹目!」

 

 「お、またかかった!」

 

 「っと、えーっと何匹目だっけこれ」

 

 メイプルは3匹、サリーは12匹、そしてカイは27匹という釣果である。

 自身の数倍ひょいひょい釣っていく二人にメイプルは「むむむ」と顔をしかめていた。

 

 「まあまあ、釣りにはやっぱDEXが関わってくるわけだし」

 

 「そうそう、ていうかレベル1でここ来たから魚刺すだけでもう6まで来たよ。あ、【釣り】スキルゲット」

 

 そんなふうに会話をしながら進めていく。

 更に1時間後、【釣り】を手に入れたカイとサリーの二人によって鱗の枚数は計60まで登っていた。

 

 「どう?これで足りそう?」

 

 「うーん...もう一時間だけ...いい?」

 

 「いいよ!カイも大丈夫でしょ?」

 

 「ああ、ちょっと楽しくなってきてるからまだ全然いけるぞ」

 

 「ふたりとも本当にありがとう!」

 

 「そのかわり、ちょっと方法変えてきていいかな?」

 

 「?」

 

 

 

 

 二人に(主にメイプルに)説明したサリーは、地底湖に飛び込んだ。カイも【水泳Ⅵ】と【潜水Ⅵ】を持っているので水中探索はできるのだが、本人は不覚にも釣りにハマってしまっていた。

 

 サリーが飛び込んでから丁度1時間後、水面に彼女が戻ってきた。

 

 「【水泳Ⅰ】と【潜水Ⅰ】が手に入ってからは簡単になったかなー」

 

 「俺も【釣り】のおかげでだいぶ手に入ったぞ」

 

 サリーからは80枚。カイからは50枚。それぞれ白い鱗が出される。

 

 「こ、これ貰っていいの?」

 

 そうわかりやすく動揺するようにメイプルは言う。サリーもカイもいつか手伝ってもらうことを引き換えにすべて彼女に渡していた。

 

 「あ、あとちょっとふたりとも見てくれる?」

 

 サリーはそう言うとインベントリからきれいな青味がかった透明の輪っかを取り出した。

 

 「これ湖底で見つけたんだけどなんか装備できなくて。それどころか性能の詳細も見れないんだよね」

 

 「へ〜。初めてみたよそんな装備品。腕輪?」

 

 メイプルはのんきにそう返すが、カイはデジャブを感じていた。

 

 (ん?性能が見れない?んんん??)

 

 「サイズ的にアンクレットとかかも?でもメイプルもわかんないかー...。じゃあカイ、これ預けておくから上で釣りしてるならその間に調べておいてくれない?」

 

 「おお。わ、わかった」

 

 少し狼狽えながらカイはそう返す。

 そしてそんなカイを横目にサリーはまた話しだした。

 

 要約すると、地底湖の底にダンジョンらしき横穴を発見したらしい。

 それを話すとメイプルは自分はダンジョンには入れないことを察し、少ししゅんとする。

 

 「だから、慎重に攻略しようと思ってる。カイやメイプルと同じユニークシリーズが手に入るかもしれないし......だから」

 

 「ああ、ここまで来るのは当然手伝うよ」

 

 「もっちろん!借りは即返すってね!!」

 

 二人から快諾を得て、サリーは満面の笑みを浮かべる。「素直にしてれば可愛いのにな」とカイが思ったのはサリーは知る由もない。

 

 帰りはログアウトをすればいいので、サリーは再び【潜水】と【水泳】のレベル上げに勤しむ。

 その間カイとメイプルの二人は例の装備品を見ていた。

 改めて詳細を見ると、確かに補正されるステータス等の情報は見られない。その代わり、気になる一文が記されていた。

 

 「「【水瓶の力を持つ者のみ、身につけることが許される】」」

 

 「うーん、水瓶ってなんのことだろう?スキルとかかな...」

 

 メイプルが頭を捻らせている横で、カイはこう思っていた。

 

 (これ、確定だろ........)と。

 

 そして二人には見えてなかったのであろう【装備する】と言うボタンをクリックする。輪っかは足に付くものだったらしく、黒のブーツの上からゆったりとかかっていた。

 

 「あれっ??さっきのは?」

 

 カイはメイプルに「ここ」、と足を指すと同時に自分のスキルのことも含めた説明をし始めた。

 

 

 「そんなユニークシリーズもあるんだぁ」

 

 「いや、正直これはまだ俺の分しか情報は入ってないから本当に少数なんだと思う」

 

 「そっかあ。あ!じゃあ装備できたし詳細見れるようになったんじゃない?」

 

 メイプルの言葉でカイもそれを思い出す。ステータス欄より見れたそれはこう記されていた。

 

 

水巫女のアンクレット

 装備条件:【泡沫の水盤】所持者

【水面の舞台】

 10分間水上を移動可能。30分後再使用可。

 

 

 カイはメイプルの方をちらりと見る。彼の予想通り、そこには目をキラキラさせたメイプルがいた。

 

 「カイ水の上歩けるの!?凄い!!かっこいい!!」

 

 カイはその目にまんまと負けた。

 

 「じゃ、じゃあメイプル一緒にやってみる......?」

 

 

 

 

 数十分後、テンションの高いメイプルを姫抱きしながら地底湖の水面を歩くカイを目撃したサリーに、彼はメイプルのときと同じように一から説明することになった。




作者が、水の上を歩かせたかっただけなんですっっっ.......
おかげで主人公に星座のシリーズの装飾品を集めさせる事になってしまったのには目をつむってください......。


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短剣少女の成長と二層進出の話らしい。

いつかこの物語を恋愛に持ち込めることを夢見ている作者です。
サリーかフレデリカがいいなぁ、とかなんとか戯言です。お気になさらず。


 

 地底湖にてダンジョンが見つかった日から数日。メイプル、サリー、カイの三人でいる時はそのログイン中の時間の殆どを地底湖探索や釣りに費やしていた。サリーが潜っている間、カイはサリーの邪魔にならない範囲で探索や釣りを、メイプルは飽きたら外に寝っ転がって【挑発】を使ったり、カイに水上歩行をせがんでいたりした。最も、その要塞並のステータス(メイプル)ではないと出来ない謎行動にカイは最初困惑していたが、数日もすればしっかりと慣れていた。

 カイ達はログイン時間を無理やり合わせているわけではないので、当然彼もこの数日間ソロの時はレベリングに励んでいる。プレイ日数のまだ浅い二人はともかく、初期勢であるカイとも成れば必要経験値も大幅に増えるので、こまめな精鋭狩りは欠かせないのだ。まあ、昨晩は徹夜でサリーのスキル集めに連れ回されたらしいが。

 

 「ぷはぁっ......!はぁ......はぁっ......何分潜ってた?」

 

 先程まで水中を悠々と泳いでいたサリーが帰ってくる。

 

 「す、凄いよ!40分!!」

 

 「確か【水泳】と【潜水】どっちもⅩになったんだろ?俺もそれ以降上がんないし......やっぱそれが限界かな」

 

 「うーん...片道20分で奥まで辿り着けないと溺死か......]

 

 スキルによる限界値が二人の頭を悩ませる。

 

 「じゃあじゃあ!20分経ったら私かカイがメッセージ送るのはどう?」

 

 「ナイスアイデアメイプル!!じゃあふたりとも、お願いしていい?」

 

 サリーは眉を下げ、二人に頼む。当然そんな事を断る理由など二人にはないため、二人は彼女に鼓舞をする。

 

 「任せといて!充分に潜ってきてね!」

 

 「良い戦果を期待してるぞ」

 

 「行ってきます!」

 

 仲間二人の心地よい返事に口角を上げたサリーは、勢いよく飛び込んでそのまま湖底の横穴へ向かっていった。

 

 

 

 「行ったな。さて、俺たちは何してる?」

 

 「うーん...。カイ達のおかげで鱗はもう大丈夫そうだから......あ!これ街で買ってきたんだ!!」

 

 そう言ってメイプルが出したのは、真夏の海によく似合うファンシーな色合いの浮き輪であった。

 

 「おー......なるほどね、俺が泳いで引っ張れば良いのか」

 

 「そう!だからお願いします!!!」

 

 「しゃーないな」

 

 

 サリーがいない間、基本的にカイの話し相手はメイプルだけである。もちろんそれはお互い様だが。なので、カイはもう十分すぎるくらい彼女の奔放さと無邪気さを知っていたのだ。よってカイの中でのメイプルの立ち位置はもうほぼ妹的存在。しかし彼の本当の妹達への対応(シスコン)ほどまで行かなかったのは流石というべきだった。

 

 

 40分後、サリーが二人の元へ戻ってくる。

 

 「はぁっ......はぁっ......」

 

 肩で息をしている彼女にメイプルは声をかけた。

 

 「どうだった?」

 

 「何本にも道別れしてて......今日はあと一回で止める。どれくらい深いか分からないし」

 

 「そうか。じゃあまた通知送っとくな」

 

 

 その言葉を聞き終えたサリーは再び水の中へ戻っていった。

 

 一方、メイプルの方は水遊びはもう飽きたようなので外で昼寝兼スキル探し、カイは意外とハマってしまった釣りと水中探索を始めていた。

 

 「おっ、レア素材。後でイズんとこ持ってくか」

 

 

 

 そして更に40分後。戻ってきた彼女は先程見せていた疲労感など1ミリもない様子だった。

 

 「ボス部屋!見つけたっ......はぁ......はぁ......」

 

 サリーはカイ、メイプルのそれぞれとハイタッチをする。

 

 「私はちょっと休憩したらボス部屋に突っ込む!二人は?」

 

 「私は、今日はそろそろログアウトかな」

 

 「俺はまだ大丈夫」

 

 「そっか。ごめんね、付き合わせちゃって」

 

 「気にしてないよ!」

 

 「フレンドは助け合いだろ」

 

 そんな言葉に彼女は顔を綻ばす。

 その後メイプルは「頑張って勝ってね!」と残しログアウトしていった。

 

 

 「カイはほんとに良いの?別に他のことがやりたいなら付き合わなくていいからね?」

 

 「え、まだそんなこと思ってたの?」

 

 サリーの遠慮にカイは少々刺々しく返す。しかしその後に綴られた内容は温かみに満ちていた。

 

 「毎回いろんなゲームで助け合ってきたじゃん。昨日だってスキル集めやったし、この後も通知送ったほうが多分いいし」

 

 「あー......」

 

 「ていうか、俺も早く3人でボス戦とかしたいからさ。まあ頑張って強いの手に入れてきてくださいよ」

 

 「!......うん!当たり前!!」

 

 

 その後ステータスの最終確認を終えたサリーは、彼女を待つのであろうこの地底湖の主の元へ向かった。

 

 

 

 数十分後、カイのもとに通知が届く。

 

 『ダンジョン無事クリア!!街まで転移で戻っちゃったからきてくれる?』

 

 その文字を見て、カイは安堵の笑みを漏らした。そもそも彼はサリーの能力をしっかり知っていたためそこまで心配はしてなかったが、ある程度のイレギュラーが起こるNWOでは完全な安心はできなかったのだ。

 

 「っし、んじゃ行くか」

 

 カイは立ち上がり釣具をしまうと洞窟を抜け、地上へ戻る。すっかり慣れたゲーム内特有の「明るいけど熱くならない日差し」を浴びながらカイは街まで全速力で戻っていった。

 

 

 カイは街につくと彼を待つ人を探す。彼女は先の戦いで得たのであろう装備を身にまとい、カイのことを待っていた。

 

 「お、いた。ダンジョン踏破おつかれ」

 

 「ありがとう。見てこれ、めちゃくちゃいいでしょ。見た目も性能も私好み!ただ靴だけは手に入らなかったんだよね〜」

 

 白と青で形成されたコートとインナーを締める濃紺のショートパンツ。首元からはやや長めな青いマフラーが垂れ下がり、その先端の透明感のある材質は水を連想させるのにぴったりであった。しかし確かに、彼女の足元だけは初心者のそれのままである。

 

 「わー......そのちぐはぐ感なつかし......。俺もそーだったわ」

 

 カイは昔を思い出すように遠くを見つめるが、いかんせんまだ2ヶ月も経ってないのである。めんどくさい懐古厨と言うか先輩風はサリーに軽く流された。

 

 「でさ、カイまだ時間ある?」

 

 「ん?おう。今日はまだな」

 

 「んじゃ、私のブーツ探しにショッピングに付き合ってもらいまーす」

 

 「え、」とカイはサリーに色々と目で訴える、がそれも意味はない。

 

 「私より街は詳しいだろうし、よろしく」

 

 「おま、さっきの謙虚さはどこに......ああいいよ。じゃ、かっこいいやつ探すか」

 

 「そうこなくっちゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、時間を合わせてログインしたカイ達3人はサリーの新スキルお披露目の後、そのまま二層へ続くダンジョンへと向かっていた。 

 因みに、スキルを破棄できることについて知らなかったメイプルに対してサリーとカイの二人がため息をついたのは通常通りである。

 

 「ちょっと、絶対メイプルのこと落とさないでよね?!」

 

 「だいじょぶ落ちてもきっとこの子はノーダメージ」

 

 「なんか雑な運び方だなぁ」

 

 サリーも充分すぎるほどダメージを与えられるようになった今、最も合理的だと採用された移動方法はカイがメイプルを小脇に抱え、メイプルは大盾を突き出し、サリーが雑魚敵を蹴散らしていくスタイルであった。これだとカイは何かあった時反対の手にある剣で対応ができ、かつメイプルの【悪食】のついた盾とサリーの小敵へは過剰な殲滅力もあり、常に相当なスピードで移動することが可能になるのだ。まあ当然、これを見たプレイヤーの手によって掲示板はまた動くのだがそれは別の話である。

 ともかく、前までとは比べ物にならないスピードで移動した3人はあっという間にダンジョン前につくことが出来た。

 

 「カイってバフ掛けと回復もできるんだっけ?」

 

 サリーにそう問われた彼は肯定の返事をするとともに自身のステータスを確認する。

 

 

カイ  Lv42

 

 

HP 40/40(+100)

 

MP 90/90(+50)

 

STR 217(+70)

 

VIT 0

 

AGI 156(+75)

 

DEX 70(+10)

 

INT 80(+30)

 

 

 

頭装備 猛者の象徴Ⅹ 【DEX+10 MP+10】

 

体装備 御影の上衣 【STR+20 MP+40】【破壊不可】【賢者の秘法】

 

右手装備 導星の一閃 【STR+50 AGI+25】【破壊不可】【十二星座の加護】

 

左手装備 (装備不可)

 

足装備 玉屑の洋袴 【AGI+30 INT+30】【破壊不可】【雪獄の罪人】【宿雪】

 

靴装備 宵闇のブーツⅧ 【AGI+20】

 

装飾品 黒の手套Ⅶ 【HP+100】

 

    水巫女のアンクレット 【水面の舞台】

 

    (空欄)

 

スキル

 

【片手剣の心得Ⅵ】【体術Ⅳ】【攻撃逸し】【跳躍Ⅱ】【四面楚歌】【パワーオーラ】【MP強化中】【MP回復速度強化中】【MPカット中】【魔法威力強化中】【水泳Ⅹ】【潜水Ⅹ】【投擲】【釣り】【しのび足Ⅱ】【気配察知Ⅱ】【気配遮断Ⅱ】【料理ⅴ】【遠見】【氷雪喰らい】【魔法の心得Ⅲ】【ファイアボール】【ウォーターボール】【ウィンドカッター】【ダークボール】【サンドカッター】【ファイアウォール】【ウォーターウォール】【ウィンドウォール】【サンドウォール】【リフレッシュ】【ヒール】【炎弾】【水弾】【光線】【石弾】【火魔法Ⅲ】【水魔法Ⅲ】【風魔法Ⅱ】【光魔法Ⅲ】【闇魔法Ⅰ】【土魔法Ⅲ】

 

 

 釣りと水中探索を経て思わぬ収穫であった【気配遮断】を抜かせば順調な成長である。

 最終確認を終えると3人は目の前にあった扉からその先へ押し入った。

 

 

 ボス部屋へと続く通路は比較的狭く、もし通常のパーティならば敵一体に対しいちいち留まって対処するよう仕向けられたようなものだった。しかし、それはあくまで普通のプレイヤー。この3人はいずれもどこかしらが突出した悪い言い方をすれば異常ステータスまたはバトルスタイルのため(主に盾役が)そんなことは敵が突進タイプな限り必要なかった。

 

 「この猪、自分から突進してくるから楽だね」

 

 「らくちんらくちん〜」

 

 「それ、メイプルがいる時限定な」

 

 相手を討ち滅ばさんと突進してくる猪は、無慈悲なくメイプルの自慢の黒盾に収まっていく。

 しかし、遠距離攻撃を持つ相手となれば話は別だ。

 

 「わわっ!」

 

 「あー、サリーの情報にあった熊か。どうする?俺やろっか?」

 

 カイは懐に刺していたレイピアを構え、その鋒を光らせる。しかしサリーの囁いた作戦を聞き、その腕を下げた。

 メイプルに大盾を構えて立っているように指示すると、彼女は小さく言葉を紡ぐ。次の瞬間、大盾は地面にすっと吸い込まれたように3人の目に写った。しかしそれは相手も同じようでチャンスが出来たとばかりに熊はその大爪を振るう。

 

 「えっ、あれ?!盾ちゃんと持ってって、、ひっ!ひょええええ!!」

 

 しかしもちろんそんな安直な結果にはならない。本来止まるはずのない位置で爪は止まり、【悪食】のエフェクトと共に姿を消す。

 

 「【蜃気楼】の実験は成功かな?」

 

 「し、【蜃気楼】か〜!いきなり大盾が消えてびっくりしたよ」

 

 「意外と綺麗に見えなくなるもんだな。これ対人戦で大活躍じゃね?」

 

 「うん。内容次第だけど次のイベントでも使えそうかなー」

 

 

 その後も順調に一行は通路を進んでいく。そしてついに、最奥の扉を眼前にした。

 開く。その先には大樹がそびえ立っていた。

 

 

 「それじゃ、作戦通りで!」

 

 「「了解!」」

 

 サリーの掛け声にほか二人も武器を構える。と、同時に目の前の青々と壮大な大樹が鹿のボスに形を変えた。

 しかしそれは3人の中では想定内。サリーによる情報収集の賜である。

 

 戦線は鹿の攻撃によって動きだす。しかしその広範囲攻撃はメイプルは持ち前の盾とVITで、サリーはその回避術で、カイは自慢の反射速度とレイピア(得物)を駆使して、それぞれ戦況を乗り切る。

 

 「メイプル!」

 

 カイの声がかかり、大盾の少女が生み出すは三首の毒竜。

 しかし、普段ならば膨大なダメージを与えるはずのそれは鹿に届くぎりぎりで障壁に阻まれた。

 

 三人はコンタクトを取りつつ作戦を変更。メイプルが攻撃を受けながらカイは阻まれない程度の攻撃を入れ削り続ける。その間に、サリーは偵察という名目で鹿の頭部へと近づく。

 程なくしてサリーが帰ってくると、彼女はメイプルに情報を伝えた。

 

 「角と林檎だね!おっけー!まとめて吹き飛ばすよー!!」

 

 メイプルが再び【毒竜】を発動し角には攻撃を、障壁の基の林檎は吹き飛ばした。 

 

 「「【ウィンドカッター】」」

 

 剣士二人が攻撃が通るのを確認する。

 

 「っし、んじゃ行くぞ!【十二星座の加護】」

 

 カイがボスに近づき、ドームを展開するとボスの視界は暗闇に染まった。瞬間、数多の連撃がHPバーをガリガリと削っていく。

 星星をまとうその半球が消えた頃には、ボスのHPバーの残ゲージは極細だった。が、その後キラキラとした光を発しボスはHPをⅡ割ほど回復した。

 しかし、3人には無駄なのであった。

 

 「メイプル!」

 

 「うん!【毒竜】!!」

 

 

 彼女の大盾がボス部屋までと今までの戦闘で貯めに貯めたMPを出し切る。容赦のない毒がボスを襲う。

 

 これにより、メイプル、サリー、カイの3人は二層進出の権利を手に入れた。

 

 



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イベ準備中にフレが増えたらしい。

更新遅くなり申し訳ないです.........。ちょっと別界隈の小説を漁り始めたら止まらなくなったとかなってないとか...ホントごめんなさい.......。



 

 二層進出へのダンジョンを無事踏破したカイ達は、あの後運営からのメンテナンス通知を確認したためそれぞれログアウトしていった。そしてその翌日のことである。

 

 「イベ前にこんなん来るとか......」

 

 いつも道理学校から直帰後夜にログイン、と言う流れで二層の広場についたカイはベンチの上で、彼の眼前にあるメンテナンスの内容について書かれた通知を見て溜息を零した。

 一部スキルの修正とフィールドモンスターのAI強化、防御力貫通スキルの実装に一部ダンジョンボスの認識変更と大きく4つある項目のうち、彼はスキル修正の欄を見ている。

 

 (【四面楚歌】のステータス補正が一体につき10%から5%に減少。その分上昇ステータスは15秒継続か。強かったしなぁ、やっぱ)

 

 対象スキルは所持者にしかその修正内容は知らされていない。カイは自身の弱体化されたスキルを読み上げると残念そうに、はたまた案の定とでも言いたげな表情になる。

 上昇値継続の恩恵を貰えたとて、仮に以前同様に戦わねばいけない時があれば今までの倍の数の敵の中で戦わなければいけなくなったのだ。

 

 「まあしゃあない、他のスキルでなんとか補っていくか。で、こっちはメイプルどんまいだよなあ」

 

 そう言ってカイが開くのは貫通スキルの詳細欄。どうやら各役職ごとに3〜5種ほど実装されたそれらは、今ここにはいない大盾の少女を悩ますには十分すぎる情報であった。

 しかし、この男(カイ)にはそこまで影響のある代物ではなかった。なにせもともとのVITがすでに「0」を示している。貫通も何も無いのだ。寧ろ重装への強力な攻撃手段が増えたため喜ばしいくらいだ。

 

 

 メンテ内容に一通り目を通したカイは「どっこいしょ」となんともその顔面に似つかない爺臭い声を漏らして立ち上がる。

 

 「さて、じゃあ貫通スキルの情報収集とイベ準備に取り掛かるか。つかスキル系の情報以外あんまピンとこなかったしな」

 

 そうつぶやくとカイは掲示板の方へ歩を進めた。

 彼は知る由もない。そのメンテナンス時、運営陣では多くの悲鳴が上がっていたこと。メイプルとともに修正内容で運営の頭を悩ませる大きな一因になっていたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後。日々移り変わるインターネットの片隅にて、NWOのスレがまたたてられていた。

 

 

1名前:名無しの槍使い

イベに向けて皆どんな感じすか?

 

2名前:名無しの大剣使い

めっちゃ張り切ってるよ

 

3名前:名無しの短剣使い

そりゃもうやっぱあれだろ

 

4名前:名無しの魔法使い

メイプルちゃんのお友達のお披露目会だからな

 

5名前:名無しの弓使い

メイプルちゃんの友達だしなあ 

 

6名前:名無しの大盾使い

あ 俺この前みたぞ友達ちゃん

 

7名前:名無しの短剣使い

おーどんな感じだった?

 

8名前:名無しの大盾使い

なんか装備めっちゃ変わってたよ

しかも多分そこらのショップでは見かけないようなやつ

 

9名前:名無しの槍使い

......ま??

 

10名前:名無しの魔法使い

まあ割と日にちは経ったし運が良ければ装備もゲットできるか

 

11名前:名無しの大剣使い

でも話からしてどうせ高レアの匂いがするのはなんでだろうなあ

 

12名前:名無しの弓使い

もうメイプルちゃんっていう単語でてる時点でなあ

 

13名前:名無しの大盾使い

王子とも仲いいしな

 

14名前:名無しの槍使い

王子なあ あいつもぶっ飛んでんだよなあ

ふたりとも今回のメンテで何かしら修正食らってるに一票

 

15名前:名無しの魔法使い

姫この前毒沼でメイプルちゃんと戯れてたよ

 

16名前:名無しの弓使い

???

 

17名前:名無しの短剣使い

死ぬやん

 

18名前:名無しの魔法使い

死にかけになる度ポーションとかスキルとかで回復してたし耐性獲得のためじゃね

因みにメイプルちゃんお手性の猛毒でした ポーション湯水の如く乱用してたわ

 

19名前:名無しの大剣使い

あーじゃあこの前見た焚き火に足突っ込んでるやつも池にわざわざ氷スライム持って飛び込んでたのもそれのためか

 

20名前:名無しの大盾使い

......もう何も驚かない

 

21名前:名無しの短剣使い

同じく

 

22名前:名無しの弓使い

一周回ってサイコだよ

 

23名前:名無しの魔法使い

イベ準備に精がでますな......

 

24名前:名無しの槍使い

俺 ちょっとスキル集め頑張ってくるわ......

 

25名前:名無しの大剣使い

おう......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 耐性獲得のために東奔西走して早数日。カイは掲示板の前で少し考え込む素振りを見せていた。

 

 「んー、多分これのことだよな。結構取得者も増えてるみたいだし......行くか」

 

 カイが前々から聞いていたスキル【超加速】。AGIを一定時間大幅に上昇させるものらしく、すでに情報はちらほらとではあるが上がり始めていたものであった。取得条件が70以上のAGIを持つ者に限るそれをカイは今日取りに行こうと決断していた。

 

 

 【超加速】はとあるクエストの達成報酬に貰える物となっており、そのクエストも指定の場所に行けばいつでも受注できるようなものであった。

 森の中にあるであろう一軒のログハウスを目的地にカイは走る。ゲーム内時間が早朝時のため、森の中は静けさとともに清々しさを感じさせる仕様になっていた。

 

 「お、あれか。......ん?誰かいるな」

 

 ようやく木のぬくもりを継ぎ合わせたようなその目的地の小屋がカイの視界に入ると同時に、見知らぬプレイヤーの姿が映り込む。

 カイは一瞬隠れようとしたが、相手の外見からの情報を彼の頭が処理した途端その気は失せた。なにせ、下手なごまかしが効く相手ではないから。

 光を弾くような金髪に澄んだ碧眼。凛々しい目つきの美丈夫は青と白銀の全身甲冑(フルプレート)に包み込まれていた。その出で立ちは二つ名にふさわしいものである。

 

 「【聖剣】......」

 

 カイのつぶやきはその男にもしっかり届いたようで、二人はお互い目を合わせる。

 双方同じタイミングで着いたのか、ドアの前で言葉は交わされ始めた。

 

 「君は確か第一回イベント2位の......」

 

 「ああ、こんちは【聖剣】さん。カイです。戦う意志はないよ」

 

 なるべく不穏にはしたくない、とカイは飄々とした態度で自己紹介をする。が、もちろん内心の緊張感はそのままである。

 

 「分かった。こちらももとよりそのつもりさ。ペインだ。よろしく」

 

 「ん」

 

 差し出された手にカイは応えた。

 

 「ここにいると言うことは、君もスキルを取りに来たのか」

 

 「ええ、そろそろ次のイベントも来ますしね」

 

 思っていたよりも物腰柔らかなペインの言葉にカイは毒気を抜かれつつも、会話のボールを投げ返す。

 

 「じゃあペインさんもですよね。お先にどーぞ」

 

 カイは彼にそのクエストの順を譲る。そもそもこれは早いもの勝ちなどのルールもなければ複数人で行うものでもない。順番の先後などカイに関係があるわけでもないのだ。まあそれは相手も同じだが。

 

 「いいのか?じゃあ遠慮なく先に行かせてもらう。その分早く終わらせないとだな。」

 

 「【聖剣】サマの全速力でお願いしますね」

 

 少しいじりも込めたカイの軽い激励にペインは苦笑を漏らしつつも、小屋の中へ入っていった。

 

 

 残されたカイが、さてどう時間を潰したものかと考える。しかし特にやることもないのでカイは小屋のすぐとなりで仰向けになって寝転がった。クエスト受注の小屋の近くにいるせいかまったくもってモンスターは来ない。

 朝露の水気をまとったそよ風が木々の合間を駆け抜けカイにハリボテの清涼感を与える。しかし徹夜続きの彼に睡魔をけしかけるには十分すぎたようで、数分後に小屋を飛び出していったペインをよそ目にカイはいつの間にか意識を落とした。

      

 

 

 

 

 

 

 およそ半刻と少し後。カイは体を揺すぶられる感覚に瞼を開ける。目の前には先程彼が先鋒を譲った男が立っていた。

 

 「お......終わりましたか」

 

 あくびと伸びが混じえたその言葉はペインの耳に届く。

 

 「ああ、今度は君の番だ。君のそのAGIならそこまで時間はかからないよ」

 

 「そうですか。ありがとうございます」

 

 その安心感を生み出す情報にカイは感謝を送りながら小屋へ向かう。

 

 「んじゃ、行ってきますね」

 

 「ああ。応援しておくよ」

 

 カイは目の前にある木製のどっしりした作りのドアを軽くノックした。でてきたのは白いひげを伸ばした一人の老人であった。

 

 「こんなところに人が来るとは珍しい......とりあえずあがっていきなさい。このあたりは厄介なモンスターも多い」

 

 そんな言葉とともにカイは招かれる。和やかな雰囲気でクエストは始まっていった。

 

 

 【超加速】を取得するこのクエストは、先程の老人の代わりにとある泉へ【魔力水】なるものを汲みに行くというもの。ただしそれが制限時間付きとなっているのだ。その水は1時間でインベントリから消えてしまう。泉まではAGI70のプレイヤーが走って30分の場所にある。しかしこれはただ単に「走る」と言う行為のみをした場合だけであって実際には多数のモンスターを倒しながら行かなければならない。

 が、やはりペインの見立ては合っていたのかカイも水を汲んでから大体半刻ほどで老人の待つ小屋に戻ることが出来た。

 

 「あー......トレントが一番面倒くさかったか。地味にHP削られたな」

 

 カイはそうぼやきながら小屋の戸をノックし入る。

 

 「汲んできましたー」

 

 「おお!待っていたぞ、無事そうで何より何より......。ふむ、お礼をせねばならんな......どれ、少し待っていると良い」

 

 老人がそう言い引き出しから持ってきたものはカイのお目当ての巻物であった。

 

 「スキル【超加速】が覚えられる。役に立つはずだ......遠慮はいらんぞ」

 

 カイがその巻物を受け取ると老人は急に姿を消す。

 

 「え?」、という間抜けな声を上げた瞬間、彼の背後に老人が姿を現す。

 普段の癖も相まってか、カイは突然現れた気配を頼りに腰にある剣の柄を握りしめ急速に振り返る。

 しかしそこにはまるでイタズラ大成功とでも言わんばかりの満面の笑みを浮かべる老人が立っていた。

 

 「ふふ......精進すると良い」

 

 「あ、はぁ...」

 

 驚き、締まりのない返事を返してしまったカイは早急に小屋を出た。

 戸を開けるとゲーム内の時間が日中になったのか、木々の隙間から感じる陽の光が先程より強く感じた。といってもやはり電脳世界なことに変わりはないため温度などが変わったわけではない。

 

 「っし、今日はあとなにやろうか...って、まだいたんですか」

 

 小屋の裏手側から身を現したのは、クエスト前にカイが出会った【聖剣】の名を持つ男であった。

 まさかまた会うとは一ミリも思っていなかったカイは無意識に眉を顰める。

 

 「え、何ペインさん暇なんですか?まさかずっとそこにいたとか......?」

 

 とっさのことにより少々言葉がきつくなるが彼は気づかない。

 

 「気を悪くしたんならすまない。ところで君、いやカイ」

 

 「ん?」

 

 「この後予定はあったりするか?」

 

 「んん??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「君があの王子君?情報通りすっごい美形だねー」

 

 「ペインについで二位だったんだろ?やっぱ方針とか決めてんのか?」

 

 「イベント以来だな」

 

 (助けて、誰か.........)

 

 あの後ペインに捕まり連行されたカイは、彼に仲の良い奴らを紹介したいと言われまんまと囲まれていた。学校では慣れと日々の積み重ねもあってか滞りないコミュ力を猫かぶりとともに発動しているが、本来カイはそこまで人付き合いが得意なわけではない。普段取り繕っているそれも集中砲火と「イツメンの中にぽつんと部外者」と言う状況下に置いてあっさりと崩れてしまうのだ。絶賛どもり中である。

 

 「そんな一気に言われれば彼も困るんじゃないか?」

 

 ペインから救いの手を伸ばされる。が、

 

 (そもそもお前のせいなんだよなあぁ!)

 

 カイはもう一周回ってキレているくらいだった。しかし流石に取り繕える余裕を取り戻したのか言葉を発し始める。

 

 「えっと、因みになんで今日俺呼ばれたか聞いてもいいですか......?」

 

 一番気になっていることをカイは口に出した。その問いには、先程助け舟を出したペインが答える。

 

 「もともと第一回イベントの表彰式以来こちらが気にかけていたんだ。それで今日丁度会えたからぜひ話してみたいなと思ったんだよ。ドレッドに至っては既に戦闘で相対したようだし」

 

 「はあ、なるほど」

 

 「実力も話題性もペインと同じくらいあるからね〜。やっぱり気になっちゃうでしょ」

 

 ペインの言葉に同意を見せるのは、暖色系等の戦闘服(バトルコスチューム)の上から純白の魔導使用ローブを羽織った金髪の少女、フレデリカ。ペインほど情報は聞かないが、彼と汲んでいる時点で実力者なのだろうとカイは踏んだ。もっともそれは他の二人にも言えることであって、屈強な見た目によく映える大斧を持った強面のドラグ、黒ベースの装備に迷彩柄のマントとバンダナをまとったドレッド、どちらもカイの目には高ランカーに見えていた。

 カイが思考に浸っていると、ドラグの一言によって呼び戻される。

 

 「んじゃ、今日はカイも混じえて探索行こーぜ」

 

 「え」

 

 「あー、いいねぇ!マップの西側進めようって言ってたし!」

 

 「えっ」

 

 「丁度いい。久々に戦闘が見れるな」

 

 「......」

 

 「カイはそれでいいか?」

 

 「......ダイジョブです」

 

 今日の彼は運が悪いようだ。

 

 

 フィールドに入って5人は一度隊列を整える。カイは中衛兼火力補助のような位置づけになった。もともと第一回イベントのときにスキルの殆どを惜しみなく使ってしまっているので、今更この4人の前で出し惜しむ意味もないのだ。

 カイは一度メイプルとサリーに連絡を入れた後、新たにパーティに加入した。恐らく現NWOでは最強格とも言える一つの集団ができてしまった瞬間である。

 なのでもちろん彼らはそこらのモンスターに進行を止められることなど全くもって無かった。

 

 「ペイン!今タゲ取ってるの任せた!右のやつ潰してくる。【獅子の矜持】【幻魚の尾鰭】!」

 

 カイは自身にAGIのバフを、ペインにSTRの物をかけてから疾走する。共闘を重ねることによって調子を取り戻し、彼らに対して敷いていた緊張感を払拭した彼はもう呼びタメが可能なほどに回復していた。

 最初こそ粗さを見せたその戦闘面も既にいつも道理のトッププレイヤーたる実力を発揮する。その手並みにはペインを含めた4人も表には出さないが目を見張っていた。

 

 「後続の所に突っ込む!カイ、フレデリカ!頼んだ!!」

 

 パーティ内一白兵向きのドラグは、名を呼んだ二人の人物の返事も待たずに走り出し、その身程ある大斧を振りかぶる。

 

 「え、ちょまっ!【雄牛の守り】!フレデリカ!!【撃手の器量】!!」

 

 「分かってるってー!【多重障壁】!【多重炎弾】!ドレッド〜」

 

 「もう片付けてる」

 

 想定より数の多いモンスターに遭遇し最初こそ焦るが、そこは彼らの実力の高さと言うか、戦況は着実に好転していく。

 

 「ドラグ!退いてくれ!【壊滅の聖剣】!!」

 

 殲滅と足止めを行っていたドラグを一時引かせ、ペインがその手にある長剣を振り下ろす。らしいと言えばらしい締めくくりであった。

 

 

 「結構数多かったな。ここらへんは掲示板に情報上げとくか。下手すりゃリンチになりかねない」

 

 うち漏らしや面倒な敵の迅速な処理に当たり、戦場を駆け回っていたドレッドが一息ついて先程の戦闘の感触を話す。

 彼の言葉には皆同意なようで、それぞれ賛同的な言葉を返していた。

 

 「それにしてもカイはやはりソロでもパーティでもオールラウンダーな動きだな。いつもよりも安定感があったぐらいだ」

 

 「ねー。ドラグも見習ってほしいんですけどー」

 

 「流石に俺にあれは無理だな」

 

 「でも俺、こうドッカーン!みたいな大技がほしいんだよね。一撃必殺的なやつ」

 

 「確かにそういう面ではうちのペインのほうが目立つな」

 

 「いや、カイがイベントで見せていたドーム状のあの技も大分目を引くと思うのだがな...」

 

 街の方に戻りながらそんな和やかな話を交わす。

 着いたら今日はそのまま解散となったが、カイはもう一度くらい一緒にプレイしたいとも考えていた。

 因みに、フレデリカがカイのバフスキルの一つである【撃手の器量】の追尾弾に惹かれたのは言うまでもない。

 

 

 そんなこんなで、カイのフレンド欄には今日新たに4つのバーが追加された。

 マルチプレイの良さを改めて実感したカイは、再び第二回イベントへ気持ちを切り替えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二回イベントが来たらしい。《前編》

10000UA行きました!感謝感激ですほんとに......。



 

 カイがペイン達と共闘を経てから数日後。ついにNWO第二回イベントが開催されることとなった。

 今回のイベント内容は第一回のバトルロイヤル式とは全く異なるもので、所謂「探索型」に当たるものらしい。プレイヤー達は転移先の広大なマップに散りばめられた銀のメダルを集める。そのメダルは10枚集めるとイベント後に好きなスキルと交換できると言う仕様のものであった。

 しかもその銀のメダル10枚分に換算される金のメダルを、カイやメイプルを含めた第一回イベント10位内の人間に既に配られていると言う情報がアナウンスによって広場に集まった全プレイヤーに届く。案の定カイは「うげ、」と声を漏らし顔を顰めていた。

 

 「こうなるとやっぱ今回の判断は正解だったかもね」

 

 「そうだな。金メダル所持者が二人いるとなれば馬鹿みたいに狙われるだろうし......」

 

 「残念だけど仕方ないかぁ」

 

 そう、今回のイベントが始まる前にカイは二人に「今回のイベントはソロでやらせてほしい」と話していたのだ。理由はそこまで由々しいものでは無く、単に彼が久々にソロプレイがしたかったことと、本来ならば彼女ら二人でプレイをするつもりでいたメイプルとサリーにささやかな気遣いをしたかっただけである。もちろん二人はカイのその理由を聞いてはいないが二つ返事で了承していた。

 

 「パーティーメンバーは同じ場所に転移するのと......一度ログアウトするとイベントに参加できなくなるって」

 

 「時間加速下の中でのだしな。気ぃ付けとかないと」

 

 「そうだね!」

 

 説明を聞きながら傍らで三人はそんな話をする。

 

 「説明は以上どら!それじゃあ皆、頑張れどら〜!!」

 

 すっかりこのゲームのキャラクターとして定着している小型のドラゴンを模した「ドラぞう」がアナウンスの終わりを告げる。

 カウントダウンは第一回イベントのそれをも上回る熱気をプレイヤーに宿らせた。

 

 「二人分のメダルとれるといいな」

 

 「うん!カイも頑張ってね!!」

 

 「そっちの倍以上集めちゃうから!」

 

 0が告げられると三人を含めた多くのプレイヤーの姿が二層の街から消える。

 メイプル、サリーの二人は広大な草原から。カイは冷え冷えとした針葉樹林から、第二回イベントを歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プレイヤーが各地点に転移させられてから数分。針葉樹が等間隔でそびえ立つ森の中をカイはひたすら歩き回っていた。幸いこのあたりでたまに遭遇するモンスターはそこまでレベルが高い設定ではないのかカイは特に足止めさせられることもないまま探索に励む。

 

 (んー。この森結構広いか?初日からハイペースだとソロだし後々に響くな......。粗方見終わったらさっさと出るか)

 

 ある程度の行動指針をたてたカイは、先程見つけた崖に沿って移動し始める。当初はこの崖を登ろうかとも考えたが、想像以上に高さがあったためその案は潰えた。

 足元に注意し、ときに木登りをしながら前進し続ける。PKの要素も濃くさせるためか、メダルが見つかる気配は全くと言っていいほどない。それでもカイは先程サリーに言われた言葉にまんまと焚き付けられたのか、周囲の様々なものに神経を張り巡らせるように留意し続けた。

 

 

 暫く進むと、カイは崖に横穴のようなものが開いているのを見つけた。慎重に覗いてみるとそれは洞窟型のダンジョンになっているらしく、奥から複数のモンスターの気配が彼に伝わった。

  

 「メダルあるかもだし、行くか」

 

 ダンジョンに入り分かったのは、そこがスライムの根城になっているということ。ただそのスライムたちは以前からカイがお世話になっている氷属性のスライムの様な輪郭がまあまあくっきりしているようなものではなく、どちらかと言うとアメーバに近いような見た目をしていた。

 

 (物理は効きにくそうか?じゃあ、)

 

 「【炎弾】【光線】」

 

 ボス部屋までの道中は炎の塊とレーザーじみた光によってやり過ごす。【賢者の秘法】によってMP切れも中々起きないため、十分通用どころかオーバーキルしていた。彼が通った後は無慈悲にも灰燼と化していた。

 時々床に残った粘液に足を取られコケかけながらもカイはボス部屋へたどり着く。

 重々しい扉の向こうには数十匹のスライムたちとそれと同じくらいを合わせたんじゃないかと言う巨大な親玉が居た。

 

 「おおう......。誰だよこれ考案したの......」

 

 粘液とスライムで埋め尽くされたその部屋は謎に明かりに桃色が混じっていた。大きな声では言えないがあまりよろしくないやつみたいである。

 

 「ネタに振りすぎだろこのゲーム......」

 

 そうため息を溢すとカイは自慢の細剣を抜刀し、駆け出す。

 ボスの繰り出す攻撃とぬめりのある床を器用に避けながらダッシュすると、数十メートルあったボスとの距離は後ほんの数メートル程度になった。

 

 「【潮招きの刃】【獅子の矜持】!【跳躍】!!」

 

 カイはレイピアに水のエフェクトをまとわせ、攻撃力を上昇させる。【跳躍】によって宙にあがった彼はレイピアを瞬速で突き刺せるよう構える。

 

 「悪いけど俺、同人誌展開地雷なんで」

 

 特殊性癖でもない限り自分から粘液まみれになるやつなど中々居ないであろう。バフ掛けを行った彼の細剣は目の前にあった巨体を切り刻む。

 カイはしっかりその戦いを勝利で収めた。残念ながらメダルの獲得はなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 所変わってここは運営陣。イベントの行方を皆見守っているところであった。

 突然、一人の人間がタブレットとモニターを交互に見、声を上げる。

 

 「あ、俺の考案したスライムダンジョンに誰か入りました!」

 

 「え、まじで。ちょ、モニター回せー」

 

 「あれよく上許したよなあ」

 

 気づけばフロアに散っていた者たちが大型スクリーンの前に集まる。

 そこに写ったのは先程踏破したばかりのカイであった。しかし運営陣は最初の部分から戻して追っかけ再生をしているため、まさかもうクリアされているなど知ってるはずもなく画面を凝視する。

 

 「あー!これがあの剣持ってったやつか」

 

 「あれは無念だった......。くっそ、転ばねーかなそのへんで」

 

 「でもこいつ物理職ならここ相性悪......くない??」

 

 「魔法系スキルに抜かりがねぇ。あっ、こいつ【賢者の秘法】持ってるわ」

 

 「でもほら、まだボスが居るし!な!」

 

 「そのボス今切り刻まれたけど」

 

 「え」

 

 考案者とレイピアのダンジョン開発者はその後上司に早退を希望したらしい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 ダンジョン踏破後に現れた転移陣に乗ったカイは、氷海のエリアで目を覚ました。先程の樹林を抜けた先の地点だったのか、後ろを振り返ると背の高い木が何本も連なっている。

 

 「寒くないのか。すげー」

 

 少し歩いた先で氷に触れてみるも寒くも冷たくもない。カイの目の前に広がるのはリアルと大差のない景色であったが、あらためてここがゲームの中であると実感する。

 先程までのエリアとは異なり、ここは遠くまで見渡せる。特に目を引くオブジェクトなどは見つからなかったのか、カイは水中探索に乗り出そうとする。

 

 (結構遠海まで行けそうだな......。よし)

 

 氷の縁まで歩き、装備の最終確認を終えたカイは静かにその暗い海へ飛び込む。

 氷上と同様に冷たさは一切感じさせないその水中は代わりに不気味なほどの静けさを与える。ひとかき進むたびに日の光が薄れていくのがカイには伝わり、緊張感がほとばしる。

 

 (見えなくはないけど反応遅れるなコレ。暗視系のスキルとか無いんかな)

 

 時折やってくる魚形のモンスターは一層の地底湖で見たようなものよりも幾分もいかつさを増していた。

 【潜水】と【水泳】を持つ彼にとっては水中探索などお手の物であった。最もそれは今は居ない短剣の少女にも当てはまるのだが。

 

 

 四十分後。カイは海から上がり、最寄りの氷塊へ体を預ける。

 普段より視界が開けていない分集中力をつかったらしいが、彼も伊達にVRゲームを長く続けていないため数分でものの見事に回復していた。

 

 「あんまスキル持ってる人が少ないのか俺が一番乗りだっただけか、ともかくラッキーだな」

 

 そうぼやく彼の手には二枚のメダルが握りしめられている。初日から重畳な結果だ。

 

 「んじゃー今度は奥の方から探索していくか。【水面の舞台】」

 

 カイは指にはめられている装飾品のスキルを発動させる。このスキルで【水泳】や【潜水】の時間を消費せずに粗方遠海まで行ってから潜り始めようと言う算段なのだ。 

 周りに人が居ないことを確認してからカイはその水面に足を落とす。水は彼を弾いてそのまま直立させることを可能にした。

 

 「やっぱこれ楽しーわー。よし、んじゃ効果が切れないうちにっと」

 

 そう言いカイは走り出す。町中等で使えば十割人目を集めるが、このエリアは人気が少なく、爆走することが可能であった。

 十分後。スキルの効果が切れることを確認した彼はそのまま海へ沈み込む。

 やはり遠海だからなのか底が全くと言っていいほど見えない。

 

 (んー、近海であれだけ見つかったし何かあってもおかしくないんだよなぁ。もうちょっと深くまで潜るか)

 

 水を蹴る勢いを強くしてカイはより深いところを目指す。

 海底付近でカイは探索を続けるが、これと言ってなにか目立つものなどは見つからない。

 

 

 30分ほど海中を遊々と泳いでいると、ふと遠くに淡い光を発している物を彼は見つけた。

 一応【遠見】を使いながら慎重に行く。すると見えてきたのは白く薄っすらと輝く半球状のベールに包まれた小さな祠と転移用の魔法陣。

 敵襲はなさそうだと判断したカイはそのベールに近づき中に入る。

 

 「お、中は水中じゃないんだ」

 

 久々に吸える空気を目一杯肺に流し込み、カイは軽く伸びをする。

 すこし脱力した後、ちらりと彼は足元に光る魔法陣を見やった。

 

 「これはダンジョンか......?んー、ぶっちゃけ道中そこまで強敵居なかったからボス居る可能性もあるのか......。」

 

 そう。カイがこの祠の周囲を探索しいているとき、全くと言っていいほど骨のあるモンスターがいなかった。近海と比べても遠海のほうが強い敵がいてもおかしくないはずなのにだ。

 正直な話、転移系のダンジョンは何があるか事前に全く把握できない。これはカイを渋らせる一因の一つに大きくなった。彼だって先程入手したメダルをデスペナルティで落としたくはないのだ。

 しかし、名付けるのならばゲーマーの性というべき物がカイの背中を後押しする。

 

 「ま、もしただ宝箱とかがあるだけだったらもったいないし行くか!」

 

 カイは最終確認のためにステータスとポーション類の残量を確認した。

 

 

 

 カイ  Lv45

 

 

 

 

 

HP 40/40(+115)

 

 

 

MP 90/90(+50)

 

 

 

STR 220(+70)

 

 

 

VIT 0

 

 

 

AGI 161(+75)

 

 

 

DEX 70(+10)

 

 

 

INT 80(+30)

 

 

 

 

 

 

 

頭装備 猛者の象徴Ⅹ 【DEX+10 MP+10】

 

 

 

体装備 御影の上衣 【STR+20 MP+40】【破壊不可】【賢者の秘法】

 

 

 

右手装備 導星の一閃 【STR+50 AGI+25】【破壊不可】【十二星座の加護】

 

 

 

左手装備 (装備不可)

 

 

 

足装備 玉屑の洋袴 【AGI+30 INT+30】【破壊不可】【雪獄の罪人】【宿雪】

 

 

 

靴装備 宵闇のブーツⅧ 【AGI+20】

 

 

 

装飾品 黒の手套Ⅶ 【HP+100】

 

 

 

    水巫女のアンクレット 【水面の舞台】

 

 

 

    (空欄)

 

 

 

スキル

 

 

 

【片手剣の心得Ⅶ】【体術ⅴ】【攻撃逸し】【跳躍Ⅱ】【四面楚歌】【パワーオーラ】【鎧砕き】【HP強化小】【MP強化中】【MP回復速度強化中】【MPカット中】【魔法威力強化中】【毒無効】【氷結耐性大】【炎上耐性中】【水泳Ⅹ】【潜水Ⅹ】【投擲】【釣り】【採掘Ⅰ】【採取Ⅰ】【料理Ⅹ】【しのび足Ⅱ】【気配察知Ⅲ】【気配遮断Ⅱ】【遠見】【氷雪喰らい】【超加速】【魔法の心得Ⅳ】【ファイアボール】【ウォーターボール】【ウィンドカッター】【ダークボール】【サンドカッター】【ファイアウォール】【ウォーターウォール】【ウィンドウォール】【サンドウォール】【リフレッシュ】【ヒール】【炎弾】【水弾】【光線】【石弾】【火魔法Ⅲ】【水魔法Ⅲ】【風魔法Ⅱ】【光魔法Ⅲ】【闇魔法Ⅰ】【土魔法Ⅲ】

 

 

 

 レベルは必要経験値量の増加のせいであまり上がらなかったが、数日間に渡る奇行の数々はしっかり実を結んでいたらしい。

 

 「最悪メダル失ったら後半までペース上げるか。よし!」

 

 決心を付けた彼はその足を今もなを光り続ける円の中に入れた。

 

 

 転移陣がカイを指定のエリアまで飛ばす。彼が目を開ける前に感じたのは身を包む冷淡感と浮力。そして――――――

 

 

 

 

 

 

 確かな殺気。

 

 

 瞬間カイはレイピアを抜き、それを感じ取った方へ鋒を向ける。

 見ると、黒い巨大なモンスターがこちらに突進してきているのがわかった。近づいたときに見えたギラリと光る鋭利な何かを支点にカイは剣を使ってモンスターの勢いをいなす。

 カイは旋回していった方向を見やった。薄紫がかったここは先程の遠海よりも視界が開けている。彼の目に映るのは赤い双眸と黒い体皮。そして白の大きな斑点と凶暴な牙。海のギャングとも言われるその生き物がカイをじっと見据えていた。

 

 (あれは......シャチか!)

 

 カイとモンスターの視線が交わる。

 それを確認したかのような間のあと、再びシャチは彼めがけてその獰猛な牙を向ける。が、

 

 (【蠍毒の一突き】!よっ!!)

 

 カイにとって二度目の攻撃ほど避けられて、反撃可能なものはない。毒を帯びたその刀身がシャチの外皮を容赦なく襲った。

 

 (んあ?毒の追加ダメージ入んねえな。耐性持ちか?)

 

 彼は気づかなかったが、実はこの薄紫がかった海自体が少量の毒を含んでいるのである。カイが現在思うように動けているのは【毒無効】のおかげであった。

 モンスターが自陣の効果のせいで命を落とすなんて不備を起こしてはいけない。シャチが【毒無効】を持っているのはある意味当たり前であった。

 

 (水中だしさっさと終わらせたい。タイムリミットは40分か......。なら、【神託の代行者】【天秤の釣り合い】!!)

 

 カイは自身の鏡合わせとも言える分身体を作り出す。それは対象のステータスの二倍の数値を持つため、カイはスキルを重ねがけし、3分間のみ自身もそのステータスを写した。

 

 (出し惜しみはしない。速戦即決で!!)

 

 今度はこっちの番だとでも言わん限りの迫力とスピードでカイと分身体はシャチに接近する。

 近づき、一閃。尾びれの軽い反撃をいなし又、一閃。バトルスタイルこそカイの愛剣を手に入れたあの対ドラゴン戦を思い出す風貌だが、その技術は大幅に上昇している。

 

 (ふっ!!)

 

 黙っていられるかとシャチは再び突進を繰り返すがそれはカイに簡単に避けられてしまう。しかもあまつさえその速度を利用され体皮に長く深いキズを付けられる始末だ。

 一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)ならぬ二撃離脱。無論それは二連に留まることもないだろう。

 カイのステータスがもとに戻るまでの3分間で、彼らはなんとボスの7割もの体力を削ってしまっていた。

 

 (HP、VITが低めで良かった......。でもそろそろ攻撃パターンの変化かな)

 

 魔法攻撃か、はたまた形態変化か。今に来るであろうそのボスの变化をカイは待っていた。

 しかし駄目だったのだ。予想外すぎた。

 

 

 後ろからの殺気。反射的にカイは振り向き、近づくその物体を避ける。分身体の方も一度戦況から離脱するように避けた。

 赤き双眸が倍に増えて彼らを睨むように凝視する。

 ボスの増加。それがこの戦いの最大の難関だったのだ。

 

 (そうだよねシャチって基本群れでリンチだもんね!!クソじゃねえか!!)

 

 波もカイの心も荒れ狂う。この仕様を発案した者をカイはこの時死ぬほど恨んだ。

 とはいえもちろんそんな事をずっとやっている時間をシャチ達がくれるわけもない。

 形勢逆転。そんな言葉が似合うような戦況にカイは陥ってしまった。

 

 

 避けて、避けて。たまに出来る隙に反撃。単純に1対1になったわけではないため、攻撃がいつどこから飛んでくるか予測が追いつきにくい。それでもまだHPは削られていないカイが常人離れしているのだ。普通はそもそもこの仕様まで辿り着けない。耐性がなければ毒の海でぽっくりと、そうでなくてもあの獰猛なモンスターに押されてしまう。

 ある程度観察をしたカイは、途中から乱入してきた方のシャチにHPバーが無いことに気づいた。

 良く言えば倒す必要がない。悪く言えば倒せない。まさに表裏一体となる情報だが何もないよりマシだ。

 カイは少し考え込んでからすぐに実行に移し始めた。

 

 (【獅子の矜持】【幻魚の尾鰭】!)

 

 STR、AGIバフを自身にかけ、疾走もとい遊泳する。その姿はまるで勇ましき猛者にも、美しき人魚にも例えられそうなものであった。

 分身体に片方の足止めを命令し、彼は本命の方へと急いだ。

 切りつけ、避ける。もちろん傍らで尽力してくれているもう一人の自分への注意も欠かさない。

 ダメージを入れれるだけ入れる。まさに連撃、猛攻、トッププレイヤーの名に恥じぬ戦い様。

 時々【撃手の器量】によって追尾が可能になった炎球や風刃もシャチを襲う。

 

 

 そして最後の時、ついにシャチのゲージが一割をきる。

 カイは刃を振り上げるが、相手もそうはさせないと尾をしならせ、牙を向く。

 だがカイにはそれは既に想定内の動きであり、

 

 (もう分かるんだよ。【十二星座の加護】)

 

 ドームが彼と一匹の大魚を覆う。行く十にも渡る閃光が輝いた後、カイは勝利を手にした。

 

 

 転移様魔法陣の出現とともに薄紫がかっていた海が元の冷淡だが、美しさのある群青に戻る。

 

 (あー......つっかれた.........。さくっと報酬回収して地上に戻ろう......)

 

 カイは周りを見回ると二本の牙と黒い外皮4枚、それとスキルの巻物を見つける。それらを慣れた手付きでインベントリに戻すと、視界の端で何やらキラリと光るものを見つけた。

 近づいて手に取ったそれは銀のメダルであった。それが五枚。思わぬ大豊作にカイは喜ぶ。

 そして当然、隣に鎮座していた“それ”にも気がつく。

 

 (これは......卵か?)

 

 青と白のグラデーションで彩られた人の顔ほどのサイズの卵。カイは来たこともないようなアイテムに驚くが、早く上に戻りたいと言う意思が主張を激化させたため、特に深くは考えずにその卵を持ち帰ることに決めた。

 取り忘れがないことを確認した彼は、その光る陣に身を預けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やばい!!【黒鯱(こくこ)】やられた!!!」

 

 「え、あれのエリア確か毒入れてたよな?」

 

 「そうだよ!最後のダメ押しで入れたんだよ!!仮に毒耐性持っててもうまく動けない水の中でシャチに襲われて何も出来ずに死亡。みたいな流れだったはずなんだ!!」

 

 「因みにどこのどいつ?」

 

 「......スライムの所の、あいつです......」

 

 「またか!」

 

 「え、あいつソロで倒したってことだよな。じゃあ卵どっち持ってった?!」

 

 「んー、あ、これか。」

 

 「まあ【鳥】と【狼】に比べたらマシか......?」

 

 「ソロクリアの場合卵一つとスキルじゃなかったか?」

 

 「別にそっちは大丈夫なんだが。......そうか、あれをソロでか.........。俺の残業は意味あったのか......?」

 

 「イベント終わりに飲み行こうぜ...。奢るわ......」

 

 彼らは知らない。この後、彼のフレンド二人が今回のカイが倒したものに並ぶモンスターを撃破し、再び阿鼻叫喚に包まれることを。




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第二回イベントが来たらしい。《後編》

カイくんお兄ちゃんのはずなのに肝心の双子が出せません......。
ごめんなさい、作者だってちょっぱやで第4回前まで行きたいです......。


 

 対【黒鯱】戦の後、カイは転移陣によって地上に無事帰還し大地を求めて歩いた。その時の時間は1日目が終わり2日目を軽く過ぎたぐらい。彼とて人間なのでそろそろ休める安寧の地を見つけるためであった。

 しかしそうは簡単に行かないのがこのNWO。

 時にPK目的のプレイヤー数名に囲まれ襲われる。が、もちろんオーバーキル気味にカウンターで全滅させた。

 時にペンギンの大規模な群れにも遭遇した。しかし一対多は寧ろ彼の得意分野なため無傷でしっかりメダルも回収している。

 「その後もう一回PK来たんだよなぁ。いい思い出」と言えてしまうぐらいカイの疲労はピークに来ていた。

 そんな容赦のない異常事態(イレギュラー)を跳ね返すことに時間を食われまた半日強。現在の時刻はもうとっくに2日目の夕刻である。

 

 「もう無理だ。休もう」

 

 カイは氷河の近くでついに休憩を取ることを決めた。本来は拠点を作る際、洞窟などの方が良いのだがそんな余裕は今の彼にはない。

 

 「とはいえ無防備にまんま寝るなんて出来ねぇし、やっぱあれだけ作るか」

 

 そうつぶやくと彼は氷河のほとりへ向かい、ある程度厚さのある直方体の氷をいくつも切り出す。それも常軌を逸するスピードで。

 一定量の氷材を手にした彼はそれを積み上げ、組み立て......。5分後にできたそれは一人用のアイスドームのようなものであった。

 

 「んじゃ、【神託の代行者】。頼んだよ」

 

 スキルで分身体を作り出した彼は、未だ謎のアイテムである卵を抱えたまま基地の中へ入り横になった。少々硬いのは難点だが、ゲーム故冷たく凍ることはない。寧ろカイの火照りを含めた疲労感を涼しく包み込んでいくようなものである。

 カイは意識が暗がりの中へ引っ張られていくように、スムーズな入眠を果たしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイはつん、と顎を突かれるような感覚に気づき、目が覚める。普段は敵に対する察知能力の高い彼がその行動に事後になるまで気づかなかった理由。それはその者に一ミリも敵意がなかったことである。

 驚いて飛び起きた彼が見たものは自身の腕の中に収まる角を生やした魚。その位置が卵と代わって居るものだと気づいたのは数十秒後である。必死に寝ぼけ眼をこすりながら状況を確認しようとしていた。

 

 「お前、一角のモンスターだったのか!」

 

 体の横にあるヒレを腕に見立てながら高い高いをするカイはそう言った。

 しかしその体は、本物ほど覇気を感じるかと言われれば十割十分いいえと言えるし、本物ほどその角は鋭利かと言われてもいいえと答える。

 もっちりとした体に先がある程度丸みを帯びた角、そして何よりそのくりっとした可愛げのある目を見れば、カイの母性本能だの加護欲だのは一発KOである。意外と可愛いものに弱いのである。頭の容量に余裕のある人は覚えておくとよいだろう。なにせ弱点になりかねない。

 まあそんな話は置いておくとして、さっそく可愛がっているカイはその一角に名前をつけられることに気づいた。ついでに指に嵌る新たなリングにも。

 

 「名前か、どうしよう......。んー、シンプルに【クロ】でいいか。よし決定!」

 

 体皮が闇に溶け込むような黒色をしているためか命名されたそれは、彼自身のプレイヤーネームを決めるときと思考はほぼ成長していない。この男にはネーミングセンス云々の前に名前を凝るという考えを持っていないのであろうか。

 しかし当人であるクロはその名前を気に入ったのかカイにするりとすり寄る。

 名付けられたことによりステータスの閲覧が可能になったため、カイはその手に抱く生き物の詳細を見る。

 

クロ Lv1

 

 

HP 80/80

 

MP 110/110

 

STR 80

 

VIT 10

 

AGI 65

 

DEX 40

 

INT 35

 

スキル

 

 【角突き】

 

 

 

 「これ、名付け親のステータスに粗方似るのか?俺とお揃いで紙防御なんだな、クロは」

 

 カイはまるでクロに確認を取るように呼びかけると、クロも彼の方向を向いてその角を揺らす。

 その仕草にまた盛り上がるを見せるカイであったが、唐突に決断をしたような表情になった。

 

 「よし、クロの育成をしよう!どうせ後半分以上も日数あるわけだしな!」

 

 そう、カイは1、2日目の連日をとてもハードに過ごしたためか、メダルは既に目標の十枚中八枚は集まっているのだ。これからジェットコースター並に運が撃落しない限りは充分余裕のある状況と言える。

 

 

 行動指針をたてたカイはテキパキと行動に移していく。

 その際、彼は先のボス戦でスキルの巻物を手に入れていたことを思い出した。インベントリからそれを取り出すと、カイはその封を解く。幻想的な光が彼を包んだ。

 一時的な霊光を浴びたカイはステータスの画面を開き、その見覚えのないスキルの詳細欄を読む。

 

【海の覇者】

 水中の潜水可能時間:1時間。水中での攻撃速度UP、HP自動回復、MP回復速度UP。

 取得条件・・・【水泳】【潜水】共にスキルレベルⅩ到達。

 

 「また強化系か!弱くはないしありがたいけども!!」

 

 大規模なスキルを望んでいるカイにとっては希望が打ち砕かれたようなものである。最も、一般プレイヤーからしたら喉から手が出るほど欲しい代物だが。

 落ち込んでいた彼も気持ちを切り替え立ち上がる。

 アイスドームは誰かがもし自分と同じ状況に陥ったときのために残しておくことにしたようだ。単に片付けるなんて面倒くさい行動をしたくなかっただけにもとれるが。

 分身体をスキルの解除によって一度消失させ、一度伸びをする。凍てつく氷河の空気はカイの肺に入り込み、彼に清涼感のような物を与える。

 一度クロの方を見やると、それは空中をすい、と遊泳していた。

 

 「え、お前飛べるのか。あー......でも確かに足は無いしな」

 

 カイは目の前の新事実に目を丸くさせたが、「それもそうか」と言うように一人納得した。

 しかしだからといってこれからの移動方法が決まったわけではない。このままクロと一緒に歩んだとてカイのほうが圧倒的にAGIは上である。普通に考えてペースが格段に落ちるし、緊急事態に陥ったときも危険である。

 

 「どうするのが一番効率的だ......?」

 

 ふむ、とカイは考え込む。自身のペースにあわせられて、かつクロの姿が他のプレイヤーに直視されない方法。

 しばし唸った後、カイの脳内に昔日の絵が浮かび上がった。

 

 「そうか、これだ......!」

 

 NPCのショップで勝った特段変わった性質のないただの布。本当はこれを纏ってPKに望むつもりでカイはいたが、それを背中側に袋を作るように肩と腰にまわす。

 クロをその出来た袋に入れた。どこからどう見てもおんぶ紐の完成である。

 

 「懐かしいな、二人もこうしてたわ。あれは可愛すぎた」

 

 少々年の離れた二人の妹も昔はこうしてこの男(シスコン)におぶられていたらしい。目を細めながら昔の思い出に浸るカイをクロが角でつついて現実に戻す。

 「わかったわかった」と許しを請えたカイはゲームにしては異質なその姿のまま走り出す。

 

 「んー、小・中型のモンスターとか勝てそうなプレイヤーが居次第仕掛けるかな。流石にこれのままボス戦とかはきちい」

 

 そうしてカイはクロの育成を促すための行動に出た。ただ、彼にとっての「勝てそうなプレイヤー」とは大体九割の者たちを指すため、PKにおいては無差別強襲と言っても過言ではなかった。

 

 

 標的を見つけ、気づかれないよう忍び寄りその刃を光らせる。HPをほんの数ミリ残してダメージを与えるその手腕は、回数を重ねるごとに正確さが増していく。それをクロが自身のスキルを使って倒し、経験値を稼ぐ。

 数時間狩っては休憩のルーティーンで効率的に進めていったため、現在クロのレベルは既に既9である。最初こそ伸びが悪いと頭をかしげたものでもあったが、その分にしては重畳だろう。

 

 「よし、残りHP3!もーちょいいけないかな......。クロ、【閃光】!」

 

 カイが最後の一撃をクロに指示する。新しく覚えたそれは、ほんの一瞬自身のAGIを二倍に上げ相手に貫通攻撃をするものである。

 

 「よーし。クロ、背中に戻ってくれ」

 

 柔らかにそう話すが、彼は周囲にプレイヤーが数名居ることに気づいていた。幸い向こうはまだ彼のことに気づいていない。ましてやその小さな相棒にも。

 が、クロを隠しても彼は自分も隠れはしなかった。理由は簡単、余裕の相手だと判断したためである。

 ザッザッ、と聞こえていた足音が止んだのを皮切りにガタイの良い男三人衆が姿を現す。

 

 「ごめんなぁ、坊主。メダル持ってんなら寄越して、って...........【姫】!?」

 

 そいつらはカイのことを知っていたようで、その二つ名を口走ってしまっていた。当然全くその事を知らない彼は「は?姫?誰それ?」と訝しげに睨む。

 

 「す、すまん。お前だと知らなかったんだ!!見逃してくれないか........」

 

 3人揃って平身低頭の勢いで許しを請う。自分より明らかに格上だと判断したためであろう。

 しかしカイはそれに応じない。

 

 「お前らメダル何枚持ってるー?」

 

 予想できなかった快活な声でそう聞かれたため、呆けながらも彼らは2枚だと告げる。答えてしまったのだ、彼の今欲しいメダルの枚数を。

 

 「【超加速】【鎧砕き】」

 

 一瞬で男たちの真ん中まで移動し、重装備の一人を貫通攻撃によって一振りで倒す。ほか二人が「え、」と情けない声を漏らすがそれはカイの声によって打ち消された。

 

 「あ、やっぱこいつが持ってたんだ。まあ一番死ににくいしね」

 

 彼の手にあるのは銀のコインが二枚。キン、と指でコイントスなどをして弄ぶ。

 

 「許してね、俺あと丁度二枚だったんだ」

 

 その言葉をすべて聞き終える前に残っていた二人も倒される。この一件によりなんとカイの二つ名が今後【暴君】に統一されるのだが、その話はまた今度にしよう。

 

 「よーし十枚ゲットー!あとはクロの育成しながらのんびり過ごすか」

 

 張り詰めていた緊張が解けたのが原因か、カイはくあ、とあくびを漏らす。

 時間はそろそろ四日目が夜に染まる頃。今夜の拠点を探し始めねばならない。

 

 「ま、最悪森には入ったんだしそこらの木の上で寝るか。ハンモックとか買ってればよかったな」

 

 背中に居る相棒を同意を求めるように見る。【休眠】と【覚醒】は覚えたのだが、いちいち最後を任せるためだけに出して休ませてを繰り返すのも面倒なため、おんぶ紐継続中である。

 結局木の上で寝ることになった彼は、警戒を分身体に任せ、クロを腕に抱いて眠った。曰く、「もちひんやり最高!」らしい。

 

 

 そして五日目。急ぐ必要もないため充分な休息を取ったカイは太陽がしっかりのぼり始めている時間帯に起きた。大方9時ぐらいであろう。

 

 「今日も雑魚狩りとPKやってくか」

 

 事前に買ってあった林檎をかじり、寝ぼけた身体を強制的に起こす。別に食事を摂る必要はないのだが、何かを口にしたほうが調子がいいらしい。

 食べ終わると彼は慣れたように木を降り、動きだす。

 今日は何人の、何匹の断末魔が上がるのか。それを知るものはまだここには居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、先程までずっとクロの育成を続けていたカイは木の上からある人物を観察していた。

 真紅に染まった髪と双眸。さらに赤系統の装備と、周囲が森の緑で埋まる中とても目立っている。カイはその人物の噂をよく耳にしていた。

 

 「【炎帝】のミィ、か」

 

 先程まで4人のパーティで行動していたのだが、効率さを求めてかそれぞれ単独行動を始めていた。カイはそのうち一番の実力者であろう彼女の後を追った、と言う流れであった。

 彼女はプレイヤーを見つけては焼き、見つけては焼き、時に炎の槍で消し去っていく。しかしそのどれもが外れというべきか全くもってメダルがドロップする気配がなかった。

 カイは自分が運が良かっただけだったんだな、と強く思った。

 すると突然、彼女は地面にへたり込む。どうしたものかとカイは目を凝らし耳をすませた。聞こえてきたのはなんと泣きじゃくるような声。

 

 「ううう......なんでメダル誰も持ってないわけぇ?!このままだと4人分の枚数稼げない、もうやだぁ!!」

 

 突然の変貌にカイはぎょっとする。人間誰しも色んな面を持つ。カイだって素と学校では言葉遣いを筆頭に雰囲気も何もかも違う。その自覚は優にあったのだが、それでもここまでの豹変っぷりを見せるような人は中々見ない。しかも泣き出してしまっている所を見る限り普段随分無理しているのだろう。

 同族と分かってか、カイはよしみも兼ねて静かにその場を去る。

 その後盛大な爆炎が空に伸びたのを見る限り、誰かがストレス発散の犠牲になったのだろうとカイは考えた。

 

 

 

 その後も探索を続け、夜になれば休憩取る。特段カイも冒険を冒すことはしなかったため、初日に比べてゆるりとした時間が過ぎていく。

 そして6日目の午前に見つけたそれは、通路が毒で埋められた一つの洞窟であった。

 

 「クロ、【休眠】。えぐいなーこれ。まあ一応入るか」

 

 ざぶざぶと猛毒の中をかき分けて進んでいくと、思いの外早く出ることが出来た。どうやら球体になっていたらしい。

 周りを見渡しても宝箱は無い。カイは歩みを進めた。

 

 

 数秒後、奥の部屋からガチャリと金属の擦れる音がした。敵がいる可能性が高まり、カイは腰の剣を抜いて構える。

 じりじりと、両者の距離が近づいているのであろうが壁によりまだお互いの姿は見えない。

 

 (知能が高かったら面倒だな。【超加速】か【幻魚の尾鰭】使って速攻かけるか)

 

 一歩ずつ、警戒を強め近づいていく。そして壁からちらりとその物体が見えた瞬間、カイは駆け出す。

 

 「【超加速】【獅子の矜持】!」

 

 相手の装甲のない部分を狙おうと目を凝らしていたカイは、その見覚えのある黒い盾を前に急ブレーキを掛けた。

 

 「メイプル!?」

 

 「その声は、カイ!?!?」

 

 ちらりと大盾から覗かせるその顔はカイの友人で間違いなかった。

 

 「ここを拠点にしてたのか」

 

 「うん!サリーが今外でメダル探してきてくれてるんだー。......はっ!もしかして偽物じゃないよね?!」

 

 「え、どゆこと?」

 

 メイプルはこの六日間のうちにあった冒険譚をカイに話し出す。ここに居続ける許可を得たカイは、ちゃんとした拠点ができたことにまず安堵を覚えた。

 

 

 

 

 

  

 「それでカイも居るってわけね」

 

 「お世話になってまーす」

 

 PKから帰ってきたサリーが目にしたのは親友の他にもうひとりの友人であった。

 現在はそのサリーに説明を終わらせたばかりである。

 

 「そうだサリー!カイも私達みたいなモンスター手に入れてたんだよ!ほら!」

 

 そう言ってメイプルが掲げるのはカイの相棒であるクロ。胸鰭を手をふるように動かす姿はしっかり二人のハートを射止めた。

 

 「じゃあ私は見張りも兼ねてこっちに居るよ。引き続き朧とシロップは頼んでた良い?」

 

 「あ、じゃあ俺も行くわ」

 

 立ち上がったサリーに彼は自分もと声をかける。

 

 「え、休んでていいよ」

 

 「んー、家賃代的な意味も含めて......な」

 

 「そっか」と了承の返事を返したサリーにカイは着いていく。もちろんクロはメイプルに預けてある。

 侵入者が来たら問答無用で潰し、それ以外の時間は互いがこのイベント中にあったことを話していく。【黒鯱】や【銀翼】のこと、ドッペルゲンガーにペンギンの群れに......。意外と話すネタは突きず、まさに話に花が咲く状態であった。

 

 

 その後、メイプルとサリーの知り合いである剣士が一人やってきたが、それ以外は特筆することはない。

 カイは序盤に比べ平和なままイベントの終わりを仲間たちと迎えた。



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《閑話》兄の趣味とバイトの話らしい。

あれだけ先進めるって言ってたのに、ごめんなさい......番外編です......。



 

 これは、近々理沙がログインし始めるであろう頃の話。

 リアルでの自宅にて、魁は包丁片手に料理を夕飯の支度をしていた。

 トントンとリズミカルな音が響くキッチンに彼の妹の片割れであるマイが入ってくる。

 

 「お兄ちゃん、もしかして今日シチュー?」

 

 鼻をヒクヒクとさせ今晩の夕飯のメニューを推理した彼女は、兄の肯定の返事を聞き「やったぁ」と年相応な笑みを浮かべた。

 

 「ユイも呼んでくるね!せっかくお兄ちゃんのシチューなんだもん」

 

 マイは自室に居るであろう片割れの妹に先の事を伝えるため「走るなよー」と言う魁の言葉を横目に足早にキッチンを去っていく。もちろんその様子を見て終始顔がにやけていた兄だが、最早通常運転なので触れないでおこう。

 

 

 

 話は戻るが魁は両親の仕事が極端に忙しかった一時期、一家の竈を牛耳っていただけあって料理が上手い。しかも女性のほうが多い家庭もあってか、その腕は料理だけには留まらずスイーツも絶品である。最初は甘いものを前に喜ぶ妹たちの姿を思って作っていたが、途中からそれはゲームに次いで魁の二番目の趣味となっていた。

 その手腕を学校の調理実習にて発揮した時は女子の黄色い声とともに男子の血涙が観測された。「これだから顔がいいやつは......!!」と。

 手際もよく、あっという間に完成してしまったそれは、見栄えも栄養も熟考して作られたものであった。

 ダイニングに彼が溺愛する妹たちが入ってくる音が聞こえる。

 

 「今日お母さんたちは仕事遅いの?」

 

 「ああ、先食べてだって」

 

 食卓についた彼らは「いただきます」とともに食べ始める。3人の食事姿は両親の質のいい躾が行き届いているように感じられるものであった。

 

 「今日はデザート作ったけどいる?」

 

 「えっ、なになにー?」

 

 兄のスイーツの味を十二分に知っているマイとユイはその言葉にしっかり食いついていた。

 

 「アップルパイ」

 

 先に食事を終わらせた魁が食器を片付けながらそう答える。しかもその傍らには既に菓子皿が用意されていた。有無を聞かずとも二人は食べるだろうと踏んだ行動は的を得ているものだった。

 

 「「食べるー!」」

 

 魁は「やっぱりか、」と言う苦笑にも自慢げにもとれる顔つきのまま二人分のパイを切り分けていく。

 

 

 

 食後、夕飯のメニューのどれもに舌鼓をうっていたマイが不意にこんな言葉を漏らした。

 

 「お兄ちゃんって、ゲームでもお料理とかしてるの?」

 

 「え?してないけど......」

 

 魁の頭にはまったくなかった発想らしく、「鳩が豆鉄砲を食らったような顔」の代表例としてあげてもいいぐらい唖然とした表情である。

 姉の言葉に賛同するようにユイも続けて話した。

 

 「NWOは自由なアクションを売りにしてるし......あ!ゲームの中だったら普段作れないようなものとかも作れるんじゃない?!」

 

 「確かに......」と魁は感嘆の意を溢す。原材料が高価なものだったり希少なもの、作る手順が困難を極めるもの、そもそも家庭にはなかなか無いような調理器具を使用するもの。現に魁にもリアルではそう作れそうにないものはある。もちろんそれらは毎回しぶしぶ諦めていた。ゲーム内とはいえ、それらを作れるのは彼にとっても朗報だろう。

 

 「でも今更【料理】取得するのもなぁ。ステータスも大分決まってきたし......」

 

 「そっかぁ。ゲームの中でもお兄ちゃんの料理が食べられたら良いなって思ったんだけど......」

 

 可愛い妹の頼み×上目遣い(二人分)=魁に10000のダメージ!!

 

 (え?つまりは俺がゲーム内でも色々作ったら二人は前の「俺のこと避ける」とか言うの無しにしてくれるんかな?いや多分そうだよねこれうん)

 

 ほんの数秒の間に魁は今得た情報を整理し、少々都合のいい解釈をする。まあ彼の料理を食すと言う時点で必然的に会わなければならないため、あながち間違ったことでもないはずなのだが、いかんせん変態臭がにじみ出すぎていた。

 

 「やっぱやるわ」

 

 とんでもない掌返し。流石シスコンを地で行く男であった。

 そうと決まったら即行動。喜ぶ妹たちを横目に自室へ直行した彼は、ベッドに寝転び慣れた手付きでゴーグルを装着する。

 暫くの間の彼の目標が決まった瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「確かスキルで【料理】ってのがあるってイズが言ってた気が......。でも明らかにDEX使うしな。あ、なら専用装備作ってもらうか」

 

 ということでカイが手を付け始めたのは装備代を稼ぐこと。既に生産界の中でも頭一つ飛び抜けているイズの作る装備は、そのあたりのショップで購入できるものとは天と地の差がある。彼女なら自身の願望を叶える作品を作ることが可能だとカイは踏んでいた。

 ゲーム内外の掲示板で情報収集。割の良いクエストを片っ端から進めていく。時に完徹で進めた金策は、たった数日で150万ゴールドのラインまで行っていた。因みに「王子兼姫がめっちゃ金集めてんだけど誰か理由知ってる猛者おる?」と言う急遽立てられたスレはここ最近で最も人が集まったとか。

 

 「絶対こんなゴールド要らなかった気がするわ。まあいいや、スキルのことも兼ねてイズに話してみよう」

 

 カイのインベントリにはその大金と、優先的に作ってもらえないかという意を込めたレア素材(賄賂)が詰まっている。まさにとんでもない行動力であった。

 一層の街を足早に進み、目的地へ着く。柔和な笑みの彼女はいつも通りそこに居た。

 

 「カイじゃない。もう整備だったかしら?」

 

 「いや、ちょっと頼みがあってな」

 

 そう言ってカウンターに近づきながらカイは麻の大袋を2つ取り出す。

 ダン、と天板にそれは置かれ、それを置いた当人は乾いた音を弾き出しながら両の手を眼前で合わせた。

 

 「装備作るのと、【料理】について教えて下さい!!」

 

 その光景を受けたイズは最初こそポカンとしていたが、段々と意図が飲み込めてきたらしい。彼女も聡い者ではあるのだ。

 

 「わかったわ、両方とも任せてちょうだい。これって代金よね?それにしてはちょっと多いような......」

 

 待ってましたと言わんばかりにカイの目が開く。手早く彼が開けた方は、金策と並行して集めた素材が入っていた。

 

 「これって......!!」

 

 「足りない、とか欲しいとか言ってたっしょ?俺の誠意的なやつです」

 

 採取量が極端に少ない鉱石に、ドロップには相当な運が絡むレアモンスターの爪や牙。それに未だ採取条件が謎の植物などなど。イズはまるでプレゼントを貰った子供のように目を輝かせていた。

 

 「良いの!?本当に!?」

 

 「ああ、その代わりといってはなんだが頑張ってほしいなと......」

 

 「もちろんよ!過去最高の強化数値を更新してみせるわ!!」

 

 「おお......」

 

 思った数倍の着火燃料になったらしく、頼んだ側であるはずのカイは少し気圧されていた。

 貰った素材をしっかりと倉庫に収納したイズは、「こほん」と咳払いをして話を切り替える。

 

 「装備については分かるのだけど、【料理】は習得したいってことかしら?」

 

 「ああ、実はだな......」

 

 カイは家であった妹たちとの内容を伝えた。もちろんカイが話したのは事実を少し脚色したものだったので、イズはまだ彼がシスコンなことは知らない。せいぜい「妹ちゃん思いのお兄ちゃんね〜」くらいであった。

 

 「よく分かったわ。じゃあ装備はDEX重視のものとして......。提案なんだけれど、見た目は私服に近い軽装系でどうかしら?」

 

 「ああ、デザインは正直イズに任せるつもりで居たから大丈夫。因みになんで?」

 

 「シンプルに今回は目的が目的だから重装は論外でしょう。もしカイが今後街歩きとかしたくなった時用にってことで。それ、かっこいいけど目立つものね」

 

 イズが指差すのはカイの通常装備である軍服。デザインも見た目から出るオーラもイズがこだわって考え抜いただけあってとても目を引くのだ。

 

 「それめっちゃありがたい。視線浴びるのは慣れてても好きじゃないんだ」

 

 カイは生まれつきのその顔面故、元から注目を浴びやすい。それが「軍服」と言うリアルならレイヤーじゃない限りだいぶ痛い服装がベストマッチしてしまっているため、まあ後は言わずもがなだろう。

 

 「じゃあ装備はこんなものかしら。スキルなんだけど、別に【料理】を持ってなくとも食べ物を作れはするわ。ただ回数を重ねることによってスキル取得や熟練度の向上につながるの」

 

 ふむ、とカイは内容を理解する。「難易度が高ければ高いほどある程度のDEXは必須になるけどね」と言うイズの付け足しも加えて、やはり装備の生産を頼んで正解だったと彼は思う。

 

 「で、私はさっき充分なほどの報酬をもらった訳なのでもう少しカイのお手伝いをしようかと思います」

 

 「はぁ、と言うと?」

 

 カイがそう聞き返すと、イズは腰に手を当てドヤ顔で言い放つ。

 

 「私の工房のキッチンを常時開放するわ!」

 

 「なるほど、崇めろと」

 

 イズのポーズにノッてカイは真顔のまま頭を下げる。こう言う時なんやかんやふたりともノリが良いため、お互い良好な関係なのだと読み取れる。

 まあそんなこともあり、カイは早速カウンターの奥の制作室のようなところへ入ることが可能となった。

 

 「キッチンは奥の方よ。流石に私が料理系にそこまで力を入れてないのもあってあんまり道具とかは無いけれど、それでも最初のうちは大丈夫なはずだわ」

 

 「ああ、ほんとに何から何までありがとうな」

 

 そうして詳細を伝えたイズはカイの装備品を作るために、工房中央に腰を据える鍛冶、被服関係の作業部屋へ向かった。

 

 

 キッチンに着いたカイは、道具の方の確認と事前に用意していた材料とを照らし合わせてメニューを決めていく。とはいえまだ凝ったものは全く作れないと考えても良いものなので始めはシンプルなものから。

 

 「どれくらいのなら作れんかな?とりあえずじゃあ目玉焼きとかから......」

 

 インベントリから生卵1つと油を出し、壁にかかっていた小さめのフライパンを手に取る。

 

 「もうこれテフロン加工とかそう言うレベルじゃないだろ」

 

 種類は少ないとはいえ、彼女のキッチンに備え付けられているものはほとんど心血を注いで作られたのであろう業物ばかりであった。

 

 「よし、じゃあ始めるか」

 

 愛する妹たちのため、カイの料理修行が始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 数日後。時期的に言えば理沙もといサリーが昨晩からログインし始めた日であった。

 

 「私の今生の運を使い果たしたかもしれないわ......」

 

 そうつぶやくイズの前には、彼女が作ったのであろう服を纏ったカイが居た。

 淡い茶色のゆったりとしたカットソーにアイボリーカラーなアランニットのカーディガン。下は暗めの色のフレアパンツと、全体的にゆったりとしているが圧倒的に軍服よりは料理がしやすそうであった。

 

 「なんかちょっと女々しくない?気の所為?」

 

 「大丈夫、似合ってるわ」

 

 実は少々故意的に仕組まれた気の所為ではないものだったのだが、イズに軽く流された結果カイは「まあいっか」となる。同じく渡されたくすんだような赤のスニーカーが白のニットに良く映えていた。

 

 「それと、装飾品枠に入るエプロンも作っておいたわ」

 

 「いたれりつくせりじゃん。また素材持ってくるわ」

 

 「それじゃあ遠慮なく。カイが持ってくるもの全体的に質がいいから助かるのよね」

 

 会話を交わしながらカイは自身が今装備しているものの数値を見る。なんとそれは中々お目にかかれないようなものであった。

 

 「強化数値全部【Ⅹ】!?なにやったの!?」

 

 「見合う働きをしただけよ。もちろん頑張ったことに変わりはないけどね」

 

 強化されたDEXの数値を合計すると125。現在のカイの地のステータスも足せば充分【料理】には支障のないはレベルである。因みに彼の今のスキル熟練度は【料理ⅴ】にまで上がっていた。

 カイがイズにお礼を言う。その直後、店内に誰かが入ってきた音がした。

 

 「イズー。頼んでたのできたー??ってあれ、先客が」

 

 どうやらその人は最近街でスイーツメインのカフェを開いた人だそうで、イズには新作に使う調理器具の作成を頼んで居たらしい。

 

 「順調らしいじゃない、お店の方」

 

 「見た目だけね。NPC居るとはいえ一人でまわすには不可能に近いよ。誰か【料理】の熟練度上げてる子が入れば良いんだけど......」

 

 「あら、」とイズが声を溢してカイの方を向く。「え、」とその人も反応してしまい、カイの事情はあっけなくバラされてしまった。

 

 「うちで働かない?バイト代出すし空いてる日でいいし勤務時間外うちの本格キッチン使い放題よ!!」

 

 「ぜひとも」

 

 やはり現金なやつであった。

 

 

 

 それから更に数日後、カイも持ち前の能力によって仕事が板についてきた頃である。

 彼のおかげかは真偽の詰まるところだが、連日客入りは大きかった。

 キッチンでものを用意しつつホールも滞り無く回るよう接客も完璧。まさに例の店長にとっては天使のような存在であった。

 カラン、と客の入店を告げるベルが又鳴り響く。

 

 「いらっしゃいま、せ......」

 

 不意に彼の動きが止まった。

 

 「「カイ!?」」

 

 目の前には彼の友人兼パーティーメンバー。二人との邂逅である。いつかはバレるだろうと思ってはいたがこんなにも早くとは思ってもいなかったようだ。

 結局この日、仕事終わりに二人に質問攻めにあってそのままケーキをご馳走する流れにまでなったのは言うまでもなかった。 

 

 

 

 

 




次こそは第三回入ります......。
あと、近々落ち決めアンケを取りたいと思います。第四回ってやっぱりヒロイン決まってないと動きづらいと思ったので。
スキルの【料理】は各時間軸に入れておいたのでご承知おきください。


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イベ後のあれこれとギルド創設らしい。

今話の話ではないんですが、今後の物語でラピッドファイアやthunder stormの面々が今作で早めの登場をする可能性があります。アニメ勢の方などがいましたら、ネタバレになってしまうのでご了承下さい。


 

 第二回イベントが終わった後、メイプル達はメダルによる新スキルお披露目会をやっていたらしいが、カイは疲労と課題を思い出し即刻ログアウトをしていた。

 現在時刻はその翌日の夕刻。室内故脱いでいたブレザーを羽織り、重たい教科書が詰め込まれたリュックを背負う。丁度下校の時間帯であった。

 階段を降り、昇降口へ向かっていた彼は胸ポケットにある端末からの通知音に意識を向ける。

 それはNWOの運営が発表した新要素について。

 一つは大盾が貫通攻撃に対応するスキルが新たに実装されたこと。ぶっちゃけ魁にはあまり関係のないもののため流し読みで次の項目までたどり着く。

 

 「ギルドホーム......。てなるとこれから団体戦が増えるか?」

 

 二つ目の内容は、ギルドを創設する際あったほうが良い拠点のことであった。今後ステータスアップの恩恵などが貰える仕組みになっているらしい。

 しかしこれの懸念点がギルドホームは現段階で街にある入れない建物の数のみになっているらしい。しかもなんとそれらを手に入れるには前段階が必要で【光虫】夜飛ばれるものを捕まえないといけない。つまり早い者勝ちである。

 

 「ん?理沙からメールだ」

 

 友人からのメッセージに再び歩くことを開始する。内容は魁もたった今考えていたものについてであった。

 

 『運営からの通知見た?あれって多分日をおけばおくほど大規模ギルドが有利になると思うんだ。今日空いてるなら一緒に探さない?』

 

 既に自分と同じギルドに入ることが決定しているような文面に彼は苦笑を漏らした。だがその顔には否定の意など一切含まれていないように見えるため、彼も又然りである。

 

 「多分メイプルも居るだろうし、3人で動けばなんとかなるだろ」

 

 残念ながらその予想は砕け散るのであったが、それを知るのはログイン後にサリーから話された時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それで?結局メダルスキルはどんなのにしたの?」

 

 青い衣を纏う彼女は、隣を歩くカイを覗き込むようにして言った。

 それを待ってましたと言わんばかりのカイは自身のステータス欄からそれを見せる。

 因みに彼は先程本日のメイプル失敗談を聞かされていた。遠い目をしながら彼が放った言葉は「どんまい」のみである。まあ、それ以外言いようがなかったという方があっているだろうが。

 

 「【魔力増強】と......なにこれ、【リフレクト】?」

 

 「ああ、【魔力増強】はその名の通りINTが1.5倍になって魔法系スキルの威力が上がるやつ」

 

 「メイプルの【フォートレス】みたいな感じだね」

 

 「やっぱ取ったんだあれ......。どんだけ固くなるつもりかな」

 

 二人してここには居ないあの鉄壁少女を思い浮かべる。正直二人にとって現在一番対人戦で当たりたくないメンツの一人であるので、「はは...」と声を揃えて乾いた笑いを溢した。

 

 「で、【リフレクト】ってどう考えても盾職用じゃないの?」

 

 「んー、そうなんだけど......あ」

 

 スキル運営について問われたカイは、何かを思いついたようにサリーの方に向き直る。当然彼女は疑問を浮かべていた。

 

 「ちょっと付き合ってくんない?」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「あー!カイがログインしてますよ」

 

 「本当か!あいつ昨日スキル選ぶだけ選んでログアウトしちゃったからな」

 

 「やっぱ気になるのは【リフレクト】の使い方だよな」

 

 そう言って運営陣はわらわらとスクリーンの前に集まり、その話題の中心人物であるカイを映した。

 

 「お、決闘中か?」

 

 「相手はサリー、でもガチって感じじゃないぞ?」

 

 「何やってるんだ?」

 

 次の瞬間、運営陣が見たものはサリーが放った火球やら風刃やらを足で蹴り返すカイの姿であった。

 

 「「「「はぁ?!?!?!?!?!」」」」

 

 「え、どゆことどゆこと???」

 

 「あー!!もしかして【リフレクト】って......」

 

 「このためだったのか......」

 

 「こういう少年漫画あったよな......」

 

 「まさかMMORPGで見るとは思わなかったけどな......」

 

 まさに死屍累々のようにされた運営陣であった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「これがさっきのタネってわけね」

 

 「結構いい案だろ?」

 

 そう言って二人が見るのは一つのパネル。

 

【リフレクト】

 

 10秒間すべての遠距離攻撃を弾く。相手に跳ね返る速度は自身のAGIに依存。なお、事前に登録した装備品のみ効果発動。30分後再使用可。

 

 

 「多分大盾かプロテクターとかバックラー持ちの剣士職用に考えられたものな気がする」

 

 「ソロで動く時近距離相手しながら魔法職潰すの面倒だったからさー」

 

 サリーはじとりとした視線をカイに向ける。「どうせ避けられるくせにな」とでも言いたげな目つきであった。同時に彼の突飛な発想をメイプルに重ねてしまったが、それは似て非なるものである。ざっくりと考えればメイプルの行動基は好きか嫌いか、楽しいか否か。それに対して彼は基本損得。「それを楽しんでいる」と言えば確かに同じとも言えてしまうかもしれないが、少なくともサリーは前者のほうだろうと考えた。

 

 「じゃあお披露目も終わったことだしそろそろ探し始めるか?」

 

 「うん!情報だとあっちのエリアが多いみたいでね.........」

 

 そうして彼らは動きだす。その後の普段どおり息のあったプレイはまるでお手本のようなものであり、周囲に居た者が羨望の眼差しを向けたのはまた別の話であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三日後、現実での失敗を修正したメイプルはやっとのことでログインを果たした。

 

 「お、メイプル復帰?」

 

 「カイ!久しぶり〜。サリーは?」

 

 二人が会話を交わしていると、途中から急いでサリーがやってきて話に加わる。

 メイプルはこの三日間NWOの情報にすら触れていなかったらしく、まずはその新実装内容について説明し始めるところだった。

 

 「ええ?!じゃあ急いで探しに行かないと!!ゴールドも集めなきゃだよね......」

 

 ギルドホーム関連について話すと、彼女は案の定焦りを見せていた。しかしカイとサリーの二人が口を挟む。

 

 「「メイプル」」

 

 「え?」

 

 「「もう取ってある」」

 

 ドヤ顔の二人が見せたのはゴールドの数値が「7000000(七百万)」と示されているパネルと、ランク付けすれば上から二番目の光虫のメダル。

 それを眼前に突きつけられた彼女は「ほわああぁぁぁぁぁぁ」と言う情けない声とともに目を丸くしていた。

 三人はギルドホーム探しに乗り出した。その間、メイプルは二人に「なにかお礼がしたい」と申し出たのだが、

 

 「私に合った装備品とかで返してくれると嬉しいかな?」

 

 「俺は良いよ。ほら、剣とスキルの巻物貰ったし」

 

 カイはサリー伝いで第二回イベント中に二人が手に入れていた【ゴブリンキングサーベル】と【古代ノ海】のスキルを貰っていた。

 それらを引き合いに出され、あっさりメイプルは丸められてしまう。けれども三人の雰囲気は和気あいあいとしたものに戻っていた。

 

 

 市街地に近いものはデザインが気に食わない。すでに別のギルドに買われている。対象が大規模ギルド向きのもの。

 意外と、条件に合致しかつ三人の感性にストライクを決める建物が見つからない。気づけば街の中心近くにも買えるはずなのにリアルで言えば郊外の方にまで来てしまっていた。

 

 「ここも登録済みかー。結構埋まってるなぁ」

 

 サリーが付近の建物の扉を確認するが、やはり先着がいるらしい。

 

 「あ、ここいいかも......」

 

 声を上げたメイプルのもとに他の二人も集まる。

 木々に囲まれ少々奥まった場所に建てられていたのは大樹を形どった未登録の建物であった。

 

 「結構いい感じじゃん?」

 

 「メイプルもこういうの好きだもんね。私もいいよ。隠れ家みたいで面白いし」

 

 「じゃあここで!!」

 

 サリーとカイも同意したため、長かったギルドホーム選びも終了となる。

 はめられたメダルはその金色で陽光を充分に跳ね返していた。

 

 

 早速開けられた扉の先は、外見からも想像の出来るログハウス調の内装。

 

 「おおー!結構広いねー」

 

 「でもこれでも最下級の広さらしいな。大規模ギルドとかは何百人といるって聞くし......」

 

 メイプルの率直な感想に、一番にロッキングチェアを見つけうきうきとそこに座したカイが答える。

 

 「ギルドマスターはメイプルかな?」

 

 「もち」

 

 「ええっ!わ、分かった」

 

 ここの長が決まったところで、三人は他のメンバーの勧誘の話に移る。

 その後、今までの三人の人脈も活用して四人のプレイヤーが集められた。

 大盾使いのクロム、生産界不動のトップであるイズ、それから先のイベントにて交流があったカスミとカナデ。カナデは初心者とはいえ、それぞれ抜きん出た実力をもつメンツであった。

 

 「メイプル、ギルド名は?」

 

 書記と言う名の入力係であるサリーがギルマスに問う。

 

 「えっ、私が決めるの?」

 

 そんなメイプルの戸惑いを含む言葉に他のメンバーは各々の賛成を伝えた。

 

 「だってギルドマスターだし」

 

 「ネーミングセンス良さそう」

 

 「異議なーし」

 

 「私もそれが良いと思うぞ」

 

 「俺も賛成だ」

 

 たじたじになるメイプルも「それなら」、と意を決したようにその名を告げた。

 

 

 

 

 

 「【楓の木】」

 

 今後、人外魔境だのなんだのとと言われつつも大規模ギルドに対抗可能な個性派小規模ギルドの誕生の瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「あー!ちょっとー、カイもうギルド入っちゃったみたいなんですけどー!」

 

 自身のフレンド欄からその情報を知ったフレデリカは同じギルドに属す男三人衆にごねた。ローブの裾をくしゅりと掴みながら「一足遅かったかー......」と愚痴をこぼす。コロコロと変わるその表情は悔しさを塗りたくったような物になっていた。

 当然、以外そうなものを見る目でペイン達は彼女を見やるが彼らも分からないわけではない。

 技量、判断力、そして人柄。メイプルたちと比較すれば接する回数が少ない彼らもその男がどれほどの強さを持つかなんてとっくのとうに知っていた。

 

 「逃した魚は大きい、か。でもライバルが強いほど燃えるのも間違いではないだろう?」

 

 士気を上げるためか自分に言い聞かせるためか。その言葉の裏は分からないものであったが、少なくとも彼ら彼女らは発破をかけられたには違いない。

 

 「団体戦が楽しみだぜ」

 

 「次こそは、勝つ」

 

 「ま、しょーがないよね」

 

 それぞれ成長するために、その豪勢なギルドホームを出てフィールドに向かう。

 ただ一人、フレデリカだけは傍目から見ればその吹っ切れたような顔の下に、未だ本の一握りの後悔と嫉妬の色を残していた。

 

 

 




アンケ追加します。
因みに作者の一存でフレデリカ落ちても当て馬に抜擢されます。許して下さい。
長くて一週間ほどできります。数値固まってきたら早まるかもしれません。
ご協力お願いします。


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ギルドの日常と毛刈りについてらしい。

アンケート締め切らせていただきました。結果はサリー派の勝利です。
ただ意外とフレデリカ派が多かったことが嬉しかったですね。
今後の恋愛模様にもご注目下さい。


 

 これはカイが所属しているギルド【楓の木】が創設されて少し経った頃。ホームにはメンバー全員が集まっていた。無論、このギルドは少人数かつ毎日ログインを欠かさない者ばかりなので全員集合の光景は幾度も目撃されているのだが。

 

 「おお!それがイズに頼んでた新しい装備か?俺も新しい装備が欲しくなってくるな......。」

 

 クロムがそう呟いた。彼らの目の前には純白がベースになった新装備を身に纏ったメイプルが居る。

 

 「メイプルが装備欲しがるとか、何があったのか聞くのが怖い......」

 

 「ああ、本当にその通りだな......」

 

 「逆にあの要塞に今更足りないものってなんだよ」

 

 「メイプル、白も似合ってるよ!」

 

 サリー、カスミ、カイは我らがギルドマスターがまた何かとんでもないことをするのか、と戦慄いているが、カナデは至って通常運転と持ち前の冷静さもといマイペースを発揮していた。

 

 「この装備作ってもらった理由説明するね!とりあえずモンスターにいっぱい囲まれる系のところ行こう!」

 

 メイプルは意気揚々に、新たに取得したスキルの説明も兼ねて他のメンバーをフィールドへ引き連れていった。

 

 

 着いた場所は以前カイが【集う聖剣】の幹部たちとの探索の際に行った所。

 余談ではあるが、カイは彼らが大規模ギルドを設立したことを知っていた。のため彼は紅一点のプレイヤーであるフレデリカに「宣戦布告(よろしくな)メール」を送ったのだが、案の定そんなもの関係ないと言わんばかりに勧誘されていた。

 

 「よし、そろそろ数十体が来始めるぞ」

 

 「あっ、スキル発動したら攻撃受けていいよ!」

 

 腰に掛けられている剣をカイは抜くが、そんな彼を尻目にメイプルは全員に言葉をかける。もちろんその内容にイズを除く誰もがポカンとした顔を晒した。

 

 「じゃあ行くよー!【身捧ぐ慈愛】」

 

 彼女がその短剣を天に突き刺すと、ダメージエフェクトが弾けると同時に身体を淡い光が包んでいく。金髪に碧眼、背中の雄々たる翼と頭上に金の輪っかというどんな者が見ても間違いなく「天使」を想像するであろう格好にメイプルは早変わりしていた。

 ふとカイが足元を見ると、地面もなんと淡く明るい光を発していた。

 

 「それじゃあ私が行くわね」

 

 身体を硬直させたままの周りを見てイズがモンスターの群れへ飛び出した。しかし、待っていた光景はあっさりと跳ね返される獣の数々。

 

 「は?どういうことだ?」

 

 真っ先に疑問を上げたクロムを見て、メイプルとイズの二人は種明かしという名の説明を行う。 

 要約すると、この光る円の中にいる味方は全員メイプルと同じVITになるのだとか。

 

 「うわぁ......」

 

 誰かがあげたその言葉はまさにこの場にいる者の意思を代表したものと言えよう。場にいるものを倒すためにはメイプルを、メイプルを倒すためには場にいるものに貫通攻撃を。しかし被弾を回避することができないのは強いて言ってカナデくらい。これがRPGの敵陣営に居るとしたら、それはどこの無理ゲーであろうか。全人類がコントローラーを液晶に投げつけ放心する未来すらありえなくないのだ。

 

 「でもメイプルは今装備変えてるでしょ?僕らへの攻撃受けきれるほどのVITは......」

 

 「だいじょーぶ!何も装備しなくてもVIT1000超えてるから!」

 

 イズ・カスミ・カナデ→2桁

 サリー・カイ→数値0

 

 「因みにクロムって今VITどのくらい......?」

 

 「聞かないでくれ......」

 

 そんな虚しい会話がフィールドに木霊した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

126名前:名無しの大盾使い

やあ    

 

127名前:名無しの槍使い

おう

メイプルちゃんと王子のギルドに入るとは......

憎い!羨ましい!

 

128名前:名無しの大剣使い

いいよなあ

サリーちゃんに接触してみてくれとか頼んだがそれ以上とは

 

129名前:名無しの魔法使い

俺は姫との同ギルドなんて許さない

つかそれ抜きにしてもあそこの女性陣顔面強いしな

 

130名前:名無しの短剣使い

まじSORENA

俺なんか姫のカフェにすら行けてないのに

 

131名前:名無しの大盾使い

この前作りすぎたとクッキーを頂きました

 

132名前:名無しの魔法使い

ギルティeeeeeeeeee

 

133名前:名無しの槍使い

あそこ女性ばっかで入りづらいよな

どうせほとんど王子のファンだぞ?

 

134名前:名無しの弓使い

そのモテっぷり見て【暴君】呼びのプレイヤー数が激増したらしい

主に男

 

135名前:名無しの魔法使い

あれを憎悪の対象になんてレベチ過ぎて無理があるだろ

俺1ヶ月も続かないに賭ける

 

136名前:名無しの大盾使い

>135

右に同じく

 

137名前:名無しの短剣使い

>135

同じく

 

138名前:名無しの槍使い

>135

同じく

 

139名前:名無しの大剣使い

頼むから賭けをしてくれよw

 

140名前:名無しの弓使い

つか情報くれ

どうせ色々あるんだろ

 

141名前:名無しの大盾使い

おう、まずはな......

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 とあるスレにて第二形態だの地獄絵図だのという単語が飛び交った日から数日。

 第二回イベントから再び己と自身のパートナーであるクロのレベリングを進めていた。

 連日の雑魚狩りやクエストのおかげでカイのステータスはぐんと伸びていた。

 

 

カイ  Lv54

 

 

HP 40/40(+115)

 

MP 110/110(+50)

 

STR 245(+70)

 

VIT 0

 

AGI 172(+75)

 

DEX 70(+10)

 

INT 80(+30)

 

 

頭装備 猛者の象徴Ⅹ 【DEX+10 MP+10】

 

体装備 御影の上衣 【STR+20 MP+40】【破壊不可】【賢者の秘法】

 

右手装備 導星の一閃 【STR+50 AGI+25】【破壊不可】【十二星座の加護】

 

左手装備 (装備不可)

 

足装備 玉屑の洋袴 【AGI+30 INT+30】【破壊不可】【雪獄の罪人】【宿雪】

 

靴装備 宵闇のブーツⅧ 【AGI+20】

 

装飾品 黒の手套Ⅶ 【HP+100】

 

  水巫女のアンクレット 【水面の舞台】

 

  絆の架け橋

 

 

スキル

 

【片手剣の心得Ⅸ】【体術ⅴ】【攻撃逸し】【跳躍Ⅱ】【四面楚歌】【海の覇者】【リフレクト】【パワーオーラ】【鎧砕き】【HP強化小】【MP強化中】【MP回復速度強化中】【MPカット中】【魔法威力強化中】【魔力増強】【毒無効】【氷結耐性大】【炎上耐性中】【水泳Ⅹ】【潜水Ⅹ】【投擲】【釣り】【採掘Ⅰ】【採取Ⅰ】【料理Ⅹ】【しのび足Ⅱ】【気配察知Ⅲ】【気配遮断Ⅱ】【遠見】【氷雪喰らい】【超加速】【魔法の心得Ⅳ】【ファイアボール】【ウォーターボール】【ウィンドカッター】【ダークボール】【サンドカッター】【ファイアウォール】【ウォーターウォール】【ウィンドウォール】【サンドウォール】【リフレッシュ】【ヒール】【炎弾】【水弾】【光線】【石弾】【火魔法Ⅲ】【水魔法Ⅲ】【風魔法Ⅱ】【光魔法Ⅲ】【闇魔法Ⅰ】【土魔法Ⅲ】

 

 

 「確かペインはイベント前で既に60超えてるし、やっぱ料理に専念しすぎたか」

 

 ここには居ない一人のライバルのことを思い浮かべ、彼は「ぐぬぬ......」とでも言うように悔しげな表情を見せる。だからといって愛する妹たちのため料理関連の手を抜くと言う考えには至らないのがこの男なのだ。

 クロはそんな主人を見かねてするりとすり寄る。

 

 「ああ、お前も昨日の分の確認してなかったな。えっと確か......」

 

 そこまで言ったところでカイはピタリと動きを止めた。そして数回自身の目の前のパネルと可愛らしいパートナーを交互に見る。

 

 「っ......マジ......?」

 

 

【急成長】

 体積増加。ステータスは変化なし。解除、または【休眠】をすることによってもとに戻る。

 

【大海原】

 半径20メートル。高さ15メートルに及ぶ円柱形の水塊を生成。半日に一度使用可能。解除しない限り物体としてその場に残る。

 

 

 カイは顔を醜曲させ―――まあそれでも充分整った顔なのだが、座っていた地面にゴロンと寝転ぶ。幸い周りに人は居なかった。

 

「あああああ!クロに先越された!!」

 

 彼が言ってるのは大規模範囲のスキルのこと。ただでさえカイはそんな物が少ないのに彼の持つ最大範囲の【十二星座の加護】15メートルまであっさりと抜かされてしまった。これによりカイはハートブレイク。似たステータスの(信じていた)相棒に裏切られた傷はなかなかに大きかった。

 そんなことなど分かるよしもないクロはカイの膝に乗り称賛をせがむ。淀みなき眼に当てられてしまった彼は溜息を零し立ち上がった。

 

 「とりあえず、ホームの訓練場で様子見だな」

 

 肩に乗るパートナーを撫でつつ、カイは歩みを始めた。

 その後、クロの期待を裏切らなかかった技にカイは明後日の方向を見、他のものは「お前もか」と言う眼差しを向け、クロムは新たなネタをしっかり拾っていた。

 「20×15って、結構広いんだなぁ。はは......」という数日前のクロムのような放心状態にギルドの面々はデジャブを感じたとさ。

 

 

 因みに【急成長】は成人男性一人ほどしか乗れない大きさと分かり、カイが安堵の息をついたのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「となるとやっぱ【毛刈り】を個々で進めていってイベントに望む感じだな」

 

 「【羊毛】が大分補助数値入るみたいだからね」

 

 サリーとカイは草原に散らばる白い毛の塊もとい羊を眺めながらそう会話を交わす。

 先日発表された第三回目のイベントは期間限定の牛型モンスターを倒し、アイテムを集めていくというものであった。当然収集率によって報酬は変わるらしく、その大半はギルドホームに設置し所属メンバーのステータスを上げるものらしい。

 現在は言わばその準備期間であり、イベント中に効果を発揮する装備を作成可能な素材を集めていた。

 

 「スキルは持ってるんだよな?んじゃ行くか」

 

 「イズさんが量産する気満々だったから頑張らないとね」

 

 「ああ、【神託の代行者】【幻魚の尾鰭】」

 

 「「【超加速】!!」」

 

 サリーにAGIバフを掛け二人は超スピードで草原を駆け出す。彼らのパートナーとカイの分身体は逃げ出す羊の足止めを、そこへ【毛刈り】を使える二人が飛び込んで素材を集めていく。相変わらずのコンビネーションと言うべきか相性の良さと言うべきか。ともかくお目当ての【羊毛】は数時間で相当の量が集まった。

 

 

 「イズー。羊毛集めてきたぞって......」

 

 「メイプル、何その量......」

 

 ギルドホームに戻ってきたカイとサリーは明らかに目の前の少女では不可能であろう量を目にし、唖然とする。それは二人が集めた【羊毛】の量を上回っていた。

 

 「一日ごとに【羊毛】作れるようになったから毎日刈れるよ!」

 

 数分前にイズに言った言葉をそっくり繰り返すが、二人は案の定「ん?」と聞き返す羽目になっていた。

 

 

 

 

 して二週間後。第三回イベント当日の日である。今日は割と早い時間から【楓の木】のメンツは集まり、そのホームでは性能確認という名の衣装お披露目会が行われてた。

 カナデは本人のメイン装備を作ってもらっていたようでその際に【羊毛】の使用。メイプル、サリー、カスミ、カイの四人はしっかりとイズのもこもこ装備の餌食になっていた。もちろん恥ずかしがっていたのはカスミとカイのみであったが。

 マフラーにボア素材のようなポンチョ。そして服の裾やら襟やらあ袖やらの至るところに付いているもこもことした【羊毛】。そんな可愛らしい装備になってしまったカイはその服装と正反対の怖怖しい顔つきで犠牲を免れたクロムに詰め寄った。

 

 「クロムてめぇ裏切ったな!!」

 

 「すまん。ちょっと圧力が、いや何でもない」

 

 「おい!」

 

 そんな光景を見て今回の黒幕であるイズは微笑む。

 

 「良いじゃない。イベントのためよ」

 

 「でもどうせ外見までもこもこにしないこともできたんだろーがよ......」

 

 イベントのため、と言われカイは反発はやめないがその意気はやや弱まる。

 

 ((チョロいな/わね))

 

 クロムとイズにはしっかりと彼の性質を見抜かれていた。

 

 

 その後のイベント期間中、カイは牛を狩り牛を狩り日々を過ごしていた。今回は専用スキルなど関係ないので分身体の活躍も凄まじい。単純計算で二人分の成果を叩き出す。もちろん分身体は休みなど必要ないため実際はそれ以上なのだが。

  

 『メイプルを見たか?』などというメッセージがしきりに飛んでくるあたり、大方年長者組は再びギルドマスターがなにかやらかすのではと考えているのであろう。

 

 が、そんなメッセージに逐一丁寧な返しはできないため、彼は『見てない』とそっけない返信をし、牛狩りに戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「......というわけで、第三回イベントお疲れ様ー!!」

 

 メイプルのそんな掛け声は、イベント後の慰安会のようなものの際に発せられた。

 

 「三人は疲労が凄そうね」

 

 「サリーとカスミとカイは個人ランキングも兼ねてたからな。カイなんか個人3位だし。ぶっちゃけ俺らが報酬取れたのも三人のおかげだ」

 

 名前のあげられた三人は頭から蒸気が出るんじゃないかという様子のままテーブルに盛大な突伏をかましている。

 それ以外のメンバーは今回の一位はどこだとかイベントのまとめのような会話を交わしていた。

 

 「報酬は【楓の木】に所属するプレイヤーのSTRが3%上昇ですって」

 

 イズは今回入手した牛を象った壁飾りをメイプルにわたしながらそう伝える。

 

 「STRかあ〜。私には関係ない......いや?そうだ!関係あるんだった!」

 

 STR0のハズのメイプルがなぜ。ギルド内に大きなざわめきが起こった瞬間である。

 

 「メイプル、お前イベントでなんかあったか......?」

 

 「んー。二層で色々やってたよ」

 

 沈黙が走る。次はどんな奇行を見せるのだろうか。そんな思いでギルドメンバーはいっぱいであった。

 その後、三層へのダンジョンの際にその力は発揮されるのだが、皆これだけは口外しないようにしようと暗黙の了解ができたのは言わずもがなである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「ねえお姉ちゃん、通知見た?今度は三層追加だって!」

 

 「見たけど私達まだ一層だよ?お兄ちゃんにも追いつかないと出し......」

 

 「お兄ちゃん、どれぐらい強いのかなぁ。あっ、見て強そうな武器!」

 

 「買うお金ないよ?」

 

 「見るだけー!」

 

 

 




きちゃああああああああああ!!
やっとですよ!がんばります!!


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兄と妹の奇跡的な邂逅らしい。

 

 それはもちろんカイにとっては願ってもないことで、

 

 

 いつその時が来るのかと待ちわびていた。

 

 

 彼にとってこの世で一番愛情を注いできたのであろう二人。

 

 

 彼女らが姿を表したのは、彼が気を抜いていたときでもあった。

 

 

 歓喜に打ち震えないはずがない。しかし彼の言葉を少し代弁させてもらおう。

 

 

 

 

 「もう少し心臓に優しい出会いが良かったな!!!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 プレイヤーからの期待が溢れんばかりとなった第三層。多くのものが既に足を踏み入れたその地に、カイ達【楓の木】も進出を果たしていた。

 実はこの階層に来るまでのダンジョンでギルマスもといメイプル以外のメンバーが彼女の変貌っぷりを見て口が閉じなくなった事もあったが、それは割愛させていただこう。

 

 「人が空を飛んでる......?」

 

 その言葉が誰によって呟かれたものかは最早重要ではなく、新しいシステムやクエスト、世界観などに彼ら彼女らは心を踊らせた。

 その次の日、カイは偶然クロムとログイン時間が重なったこともあって二人でメイプルの元へ赴いている。

 目当ての黒髪の少女の隣には、彼女の親友であるサリーもいた。

 

 「ふたりとも、今朝来た運営からの通知見たか?」

 

 メイプルとサリーはどちらともまだメールボックスは開いていないらしく、ふるふると頭を横に振ったあと確認していた。

 内容は時期に来る第四回イベントについて。カイが先日考察していたとおりそれはギルド対抗戦なるものだった。

 

 「時間加速があるらしい。当日欠員が出る可能性を考えるとギルドメンバーを増やすのも......まあ、アリだと思う」

 

 クロムは補足するように言葉を発したあと、ちらりとメイプルの方を見る。

 彼の言うことは決して間違ってはいないため、大方彼女の反応を伺っているのだろう。

 もちろん彼女を含めサリーもすぐに賛同した。今ここには居ない他のメンバーはもう既にそのことについて頷いた様子を見せたらしい。

 

 「俺のフレンドは大半がもうギルド加入してるし、クロムは?」

 

 「知り合いを呼ぶことは出来るが......ギルドマスターに任せるべきだからな」

 

 もともと聖剣のメンバーと自ギルドのメンツとしかフレンドになっていないカイはもちろん、クロムももとより無理を通すつもりはなかった。

 悩むメイプルに、サリーは「それなら、」と新メンバーの勧誘を明日やらないかと提案する。

 

 「カイも来る?」

 

 そう彼女らにカイは問われるが、「明日バ先で新作作るから」と断っていた。そのかわり店内で気になる会話を聞いたら顔を覚えておくつもりらしい。

 その言葉に一同は頷き、今日のところは一度解散となった。

 

 

 翌日。特に新メンバー関係の進展などないままカイは接客及び新作開発を行っていた。

 現に今も「もう少し甘みあったほうが良いか......」などと呟いている。因みにその言葉の真実は「もう少し甘みあったほうが(マイもユイも好みだと思うし比率変えて)良いか......」である。一ミリのブレもない男であった。

 

 泡だて、盛りつけ、ときに炙り。ちょうどゲーム内時間で言う所の正午を過ぎたあたりにカラン、と店内に入店のベルの音が響いた。

 日中の明るいうちに探索を進めようとするプレイヤーも多いのかこの時間帯は客足が他の時間帯に比べ少ない。ちょうど自身の手は空き、店長は手が離せなさそうと判断したカイはドアの方にメニューを持ちながら向かう。

 

 「いらっしゃいませ、何名様d......」

 

 「あっ、カイー!四名でー!!」

 

 彼のよく知るギルマスは、白髪と黒髪の少女を連れてやってきていた。彼女らにカイと何か関係があるとはつゆ知らずに。

 

 「「「マイにユイ!?!?/お兄ちゃん!?!?」」」

 

 少しの静寂。数秒後に響いたのはほか二人の「え?」という気の抜けた声であった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 「ほんとにメイプルすげえわ......」

 

 「こんな偶然があるとはねえ〜!」

 

 あの後色々とごたついた彼らは、店長の計らいにより休みとなったカイとともにケーキを口に運びながら会話を交わしている。

 溺愛する妹たちに会えた彼は嬉しい反面とてつもないほどの驚愕の色を浮かべた。それに対し今回の言わば仕掛け人(無自覚)に当たるメイプルはいつも道理のテンションである。

 なお、この時点でカイにとって二人がギルドに入ることは確定の様だ。

 

 「武器は大槌で、二人は極振りなんだよね?」

 

 「はい!私もお姉ちゃんもSTR極振りです」

 

 サリーの少々面接チックな質問に、妹の方のユイがハキハキと答える。

 その後もメイプルが極振りの成功者なことに二人が驚いたり、二人が極振りに決めた理由など穏やかの雰囲気のまま会話は進んでいった。

 双子がなにか答えるたびに兄のほうが瀕死なのは最早言わずもがなである。サリーの方はもうそれが何によって引き起こる発作なのか察していた。

 

 「どうかな、カイはともかくサリーもこの二人入れていいよね?」

 

 「うん。問題ないかな」

 

 テーブル下で彼はガッツポーズを決める。だがやはり妹たちにはそんなもの悟られたくないのかすぐに切り替えていた。

 

 「じゃあ俺たちが今居る三層まで来てもらったほうが良いよな」

 

 「そうだね。早速行こうか」

 

 「「はい!!って、ええ?!?!」」

 

 まさか自分たちの他三人でダンジョンに行くとは微塵も思っていなかったユイとマイは案の定驚きの音を上げた。

 

 

 一行はまず二層進出用のダンジョンに潜る。道中のモンスターはメイプルは【悪食】を温存したり二人の事を守るためにも基本サリーとカイによって倒されていった。

 そして特に時間もかからずボス部屋へ入室。いつの日かメイプル、サリー、カイによって葬られた鹿型のモンスターがそこに待ち構えていた。

 

 「うう......死んじゃったらごめんなさい......」

 

 「私達HPも低いし......」

 

 ユイとマイは情けなさそうに、申し訳無さそうに三人に声をかける。だが帰ってきたのは安堵を覚えさせるような言葉と鋼鉄の加護を与える純光であった。

 もちろん、その光によってこちらにダメージが入らなくなったと分かったとき、二人はまたしても驚愕していた。その時の顔つきにメイプルとサリーは双子の兄を重ね、やはり兄妹なのだなと思ったのは余談である。

 

 「じゃあカイ行くよ。メイプル、二人はよろしくね」

 

 「もっちろん!いってらっしゃーい!!」

 

 カイもサリーに返事を返し、二人は目の前の敵へ疾走していく。その後ろで「二人で大丈夫なんですか?!」などと双子が騒ぐが、スイッチの入った二人には聞こえていない。

 

 「俺にも見せ場ちょーだいね、サリー。【リフレクト】【獅子の矜持】!クロ!【閃光】【薙ぎ払い】!」

 

 「取れるものならね!朧!【影分身】!」

 

 カイは飛んできた魔法攻撃を蹴り返し、増強されたSTRを用いてその巨体をパートナーとともに切り裂いていく。

 サリーは神業とも取れる回避術で頭部付近までものの数秒でたどり着き、例の林檎のギミックなどを解除していく。その際に使った【影分身】にカイは一瞬目を引かれたがすぐに思考を元に戻す。

 作戦などない。声掛けもほぼない。彼らの連携はこのNWOに来る前からのものであってそれはもちろん一朝一夕で手に入るようなものでもない。

 

 双子は刮目した。兄の戦い様に。サリーの技に。そして何より―――彼ら二人の見事なる提携姿に。

 嫉妬をした。なぜ自分たちの兄とそんなにも息があっているのかと。なぜ同じ血を分かつ私達のようにお互いがわかりあえているのかと。

 

 だがそれ以上に羨望の意を持った。あんなふうになりたい、私もあれくらい貢献したい。いわば憧憬。非常に純粋な。

 このとき二人には、一つの目標ができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「というわけで、一層から連れてきたマイちゃんとユイちゃんです!」

 

 「妹たちをよろしくなー」

 

 異次元を見せつけられた双子は恐縮しまくり、ホームで出迎えた者たちは新たに投与される情報に数秒フリーズを強いられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 双子が新たに加入し数日間。【楓の木】は主にマイユイのレベリングや育成と平行に期間限定ドロップの【スイカ】を集めている。

 これは一定数集めるとギルドメンバーのSTR、AGI、INTのステータスが上がるらしく、皆塵積の思いでノルマに向けて進めていた。

 

 「まじこれほど大盾にしとけば良かったと思ったのは初めてだわ」

 

 「メイプルと大盾はもう別で考えたほうが良いけどね」

 

 「二人に会いたい......」

 

 マイとユイのレベリングは基本二人へのダメージを抑えられるメイプルが引く受けており、サリーが最低限の立ち回りや小技、カイがゲーム内の知識全般ということで、一番三人の中では双子への接触数が少ないのだ。

 既に予期せぬ彼のシスコンをカミングアウトされた周りは苦笑を漏らしていた。

 

 「そういやカナデは?」

 

 「なにやら最近図書館に入り浸っているらしい。カナデらしいといえばそうなのだが......」

 

 クロムの疑問にカスミが答える。後半言い淀んでいるのは、単にこのギルドメンバーの異色さ異端さを考慮していてのことだろう。「どのタイミングで強化されてんだか......」とクロムは他人事のように言うが、実際彼もすでにその異常組に足を突っ込んでいるのだ。カスミから見て説得力がないのだ。

 

 

 第四回イベントまで後少しである。

 




今回少し短めです。ごめんなさい......。


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兄妹のイベ準備らしい。

更新遅くなりました申し訳ないです。私生活が色々忙しくてですね......(言い訳)


 

 メイプルが機械神騒動に巻き込まれたり、カナデがその叡智を発揮したり、その他にも【楓の木】メンバーがそれぞれ自己研鑽に励んでいる中、ギルド内唯一の血の繋がりを持つその三人もフィールドに仲良く繰り出していた。

 

 「ユイ!そこは一度下がって体制を整えながらの反撃で......その分穴ができるからマイは二方向に攻撃してみてくれ!」

 

 白髪桃眼と黒髪翠眼の見目も背丈似た二人の少女が蔓延るモンスターたちに応戦し、まるで二人の中間色であるような鈍色碧眼の男がその二人に指示を出す。

 今現在はフィールドでの立ち回りを実践練習している時間である。二人の、愛しい妹たちの糧になるようにカイは軽い指導以外は全く手出しはしていない。“二人のため”だからだ。そうでもなければこの男がマイとユイに戦わせ後ろで傍観を決め込むなんてことは地球がひっくり返っても起こらないだろう。

 現に今も悔しげかつ心配な気持ちをその爽やかな仮面の下に隠している。

 

 (あーー、手伝いたいぃ!後ろからポーション渡すだけとかマヂ無理なんだが......。頑張れ、そうそこっ!)

 

 とかなんとか心のなかでのたまいながら足元によってきた昆虫型のモンスターを【体術】による【下段回し蹴り】で笑みを浮かべたまま葬る。

 事情を知るものにとっては最早恐怖でしかない。

 時偶二人にとって一発KOなモンスター(あの双子にとっては大体が当てはまるが)が忍び寄ってきたときだけカイは殺気を振りまきそのものを土へと還す。勿論それが見つかると双子に「なぜ手を出したのか」と怒られてしまうため秘密裏にだが。

 

 

 そんな事を続けてはや1時間強。集中力を欠いては身につく技能も無駄になってしまうためカイ達三人は比較的安全な地帯で休憩を取っていた。

 淡い水色の清潔感のあるレジャーシートの上には兄特製のスイーツがずらりと並んでいた。勿論ここがフィールドのことに変わりはないのでクッキーやスコーンなどの簡素なものが多いが。

 

 「そういえばお兄ちゃんはお菓子作りの方はどうなったの?」

 

 「あー、この前確か【菓子職人】と【ソムリエ】っていうスキル入手したから、今後も出来栄えは上がってくかも」

 

 「ほんと!?嬉しいな、お兄ちゃんのお菓子がゲームでも食べられるんだもん」

 

 スイーツの作成に特化した【菓子職人】に、紅茶やコーヒーなどの焙煎やワインなど飲料に対応する【ソムリエ】。どちらもカイがカフェでのアルバイトやギルメンへの差し入れなどによって得た経験値に反応したものであった。しかもどちらも“Ⅰ”というスキルレベル付きだ。今後も成長は見込めるのであろう。

 三人の美少女、美青年とスイーツというもので構成された憩いの場はたまたま通りかかった者たちの心まで温めた。ただ、運悪く近づいてきたモンスターを表情を崩さずに消し飛ばす彼の姿を見たものは畏怖を植え付けられたが。

 

 「じゃあこの後は、各階層の撃破済みダンジョンを巡ってレベリングします!」

 

 カイが人差し指をぴしっと立てておちゃめにそう告げる。すると兄のノリの分かる双子も便乗し、質問を返した。

 

 「はいっ、質問です!私達それぞれのマップ覚えてないんだけれど......」

 

 「ああ、それはもう俺が下見済みだから大丈夫。二人の力量に見合ったところに行くよ」

 

 ホッ、と二人は胸をなでおろす。その行動の根底にあるのは「難しくてお兄ちゃんに頼り切りになるのは嫌だから」なので双子も兄もそれぞれを慈しみ合っているのはおわかりであろう。

 

 「さて、」というカイの言葉を皮切りに三人は再び歩みを始める。

 氷のクマの待つ洞窟、炎雷を浴びた鳳の巣、水を纏って自在に姿を変える妖精など、NWOには既に開拓済みのダンジョンが至るところにあった。

 

 

 

―――――――――

 

――――――

 

―――

 

 片っ端にダンジョンというダンジョンに突撃をかまし続けた三人は、ようやく最後の箇所を眼前にする。

 【毒竜の迷宮】。メイプルが化け物になった原因の一つであり、双子がその持つ力を増幅させた場所。もうメイプルと回り続けたから一度候補からは外れたものの、やはりレベリングの周回には最適なためわざわざ三層から一層まではるばる来ていた。

 

 「ここは多分俺より二人のほうが詳しいだろうし、先行で進んでくれ。後ろから援護するよ」

 

 「わかったよ、お兄ちゃん」

 

 「でも今回はメイプルさんとの時みたいに早くなくてもいいから、道中のモンスターもしっかり倒していこう」

 

 双子間では一応姉であるマイの物言いにほか二人もうん、と頷く。

 して三人は、毒竜の待つ大きな洞窟へと入っていった。

 

 「序盤あたりはスライムが少し多めに来るくらいか?」

 

 「うん。物理攻撃は効きにくいんだっけ?」

 

 「ああ、でも今の二人なら大丈夫なんじゃないかな......」

 

 可愛い妹たちが成長することは兄として申し分ないのだが、いかんせんその成長具合がここには居ないギルマスのおかげもあり少々ぶっ飛んでいる。先に入って攻略していたダンジョンで中ボスの立ち位置のモンスターを一撃キルしていたことを思い出しながら言うカイは、しっかりと明後日の方向を向いていた。南無三。

 

 「お兄ちゃん、来たよ!」

 

 奥からのスライムの可愛らしい軍勢をいち早く見つけたユイは声を張り上げ己の兄に情報を伝える。

 

 「よし、じゃあ今まで通り二人で応戦して、ヤバそうなやつだけこっちで片していくよ」

 

 双子は返事を洞窟内に響かせ、とてとてとその心もとないAGIで進んでいく。そんな可愛らしい姿に兄は破顔して、数秒後にスライムの大半が弾け飛んでいくさまを見て今度は乾いた笑いを漏らす。

 

 「はは......最早一発一発が必殺技じゃねえか」

 

 二人の喜ばしい成長によりカイは手持ち無沙汰となってしまったため、双子の戦いっぷりを見ながら周りを探索する。

 サリーによって、カイとの実践によって鍛え抜かれたその対応力は日に日に上がっていき、つい指導の立場に熱が入りすぎてしまうほどであった。大槌のため短刀や剣に比べればリーチも長い。お互いがステータスを意識しあい、“足りない所の埋め合わせ”をさも当たり前のようにこなしていく。それでもやはり初心者であることに変わりはないので時偶拙いプレイも見受けられた。しかしそれはカイが紡ぐ冷静な指示によって少なく、少なくなっていった。

 

「ん?今なんか光るものがあったか?」

 

 毒沼の付近を通りかかったとき、ふとカイの瞳に一筋の反射光が差し込む。不思議に思った彼は、その身に宿す【毒無効】に感謝しつつ大して深さは無い「沼」と言うよりも「池」の方が正しいその毒に手を突っ込んだ。

 先程の記憶を頼りに手を動かすと指先にコン、と硬いものが当たる感覚を感じ、カイは躊躇なくその物体を掴み取る。

 

 「んん?これは......指輪か?」

 

 赤黒い宝珠のようなものが埋め込まれたリングは、台座の部分にも何やら仰々しい装飾が施されており、一目で有害そうなものと判断できてしまうようなものであった。

 そのままカイは詳細欄を見やる。そこには彼もよく知るような文字が浮かんでいた。

 

蠱毒の指輪

 装備条件:【蠍毒の一突き】所持者。

【螺蠃の猛毒】

 攻撃対象者を3分間毒状態にする。10秒に1回HPの5%を削り続ける。回復無効、耐性無効。

 

 「あーー、このシリーズか......」

 

 なんとなく話の全容を察したカイにモンスターの群れを片付けた双子たちが興味深そうに寄る。

 比較的好奇心旺盛な方の妹、ユイが己の兄の手のひらに転がるその装飾品を見つけた。

 

 「お兄ちゃん、それ装備品!?」

 

 「すごい、私達何回も来てたのに見つからなかったよ」

 

 純粋に眼を輝かせる二人にカイは少し迷いながらも「これの詳細見てみて」と頼む。双子は少しテンションを上げながらそれに手を伸ばしたが、帰ってきた言葉は懐疑的なものだった。

 

 「これ見れないよ?バグかな......」

 

 「え、お姉ちゃんも?」

 

 そんな様子に「やっぱりか」とカイは声を漏らす。首を傾げる妹たちに彼はその装飾品と自身の関係を簡潔に説明した。

 双子は自身の知らない情報と奥深いゲームの設定に驚きつつも、「私達もそんな特別な装備がほしいね」などと会話を交わしていた。勿論兄はその妹たちを見て天を仰いでいた。ブレない。

 粗方落ち着き、一行は再び迷宮攻略を再開させる。とは言っても特段危機的状況に陥るステータスでもないのでこれまたあっさりとクリアを果たした。

 

 

 ギルドホームに帰り、カイはたまたまその場に居たカナデと世間話等をしながら休憩をとる。彼は彼で最近新しい能力を手に入れたらしい。【楓の木】色にしっかり染まっていた。

 「そういえば、」とカイは先程入手した指輪の存在を思い出し、カナデにも伝える。

 

 「装備してみたら良いんじゃない?枠はまだ余ってるんでしょ?」

 

 「そのつもりかな。ギルド対抗戦までに使える手札は増やしておきたいし」

 

 そう言って彼は残り一つある装飾品の枠をタップして目的の物をセットする。瞬間、当然ながら彼の右手の人差し指に先程の指輪が嵌っていた。

 そのリングを眺めながら、カイは能力や使い方を熟考し始めた。

 

 (【蠍毒の一突き】とも継続ダメージか否かで差別化できる。何より回復が効かなくなるのも強いな。うちにはいないが他ギルドには回復専攻も居るだろうし......)

 

 そんなカイにつん、と小さな刺激が肩に加えられた。なにかと思ってみるとそこにはなぜか面白いものを見たような顔つきのカナデがいる。

 

 「カイ、それ......」

 

 彼が指さしたのはカイの臀部より少し上、腰に当たる部分。

 「ん?」と疑問に思いながらそこを見ると、生えていたのだ。蠍の尾が。

 

 「えっ......」

 

 思わず固まるカイに笑いを抑えきれずに居るカナデ。追加でちょうどホームに帰ってきたクロムとカスミも目を見開いて彼の方を向いていた。

 赤黒い甲殻に包まれた角張った楕円がずらりと繋がり、先端は鋭利な棘がついている。大体伸ばして彼の身長四分の三ほどの長さを持ったそれは、半肩に掛けられている軍服のマントの下から堂々と伸びていた。

 

 「これ、街歩くとき目立つかな......?」

 

 「「「100%目立つよ/ぞ」」」

 

 

 当然、連日スレは大盛りあがりに終わった。

 カイが「普段は外してればいいじゃん」と、気づいたのは残念ながらそれが見慣れてしまった頃のことであったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「シロップと飛んでる時に湖を見つけたんだー」

 

 「息抜きの誘いならそう言ってくれればよかったのに」

 

 「突然『空中散歩に行かない?』だもんなぁ。まあメイプルらしいか」

 

 地上より遥か上。一匹の大きな亀にメイプル、サリー、カイ、マイ、ユイの五人は鎮座していた。先程の会話からも分かるように、メイプルがギルド対抗戦への対策の息抜きに、と誘ったものであった。

 目的地までの間、一行は対抗戦に向けて身につけた技能やスキル、集めた情報を共有しながらも話に花を咲かせていた。

 

 「メイプルは何か収穫あったのか?」

 

 一番なにかやらかすであろう、と周囲から公式に認定されているメイプルにカイは問いかける。

 「んー、」と何やら考える素振りを見せた後、彼女が放った言葉は「神様のところ」であった。

 当然四人とも聞き返し、語弊が無いことが分かると言葉を失った。その後しっかりとそのスキルについて説明もとい実演も見せられたところでサリーとカイは「しょうがないか」と言う結論に早至った。因みに双子はまだ経験が少ないため固まっている。

 

 「どうかなサリー?」

 

 「あー......うん。ギルド戦では頼りにしてるよ」

 

 親友からのその言葉に彼女は純真な笑みを浮かべた。

 

 「まかせて!第三回イベントの分も頑張るよ!マイちゃんもユイちゃんもカイも頑張ろうね!」

 

 双子は「はいっ!」と快活な返事を返し、その兄も思うところはあるようだが一応「ああ、」と返す。

 ほんわかとした雰囲気の中、しかしカイとサリーだけは緊張を得様子が見受けられない。こそっと彼は彼女に耳打ちをした。

 

 「つけられてるよな」と。

 

 

 

 

 

 数分後、目的地である湖の畔にて。

 はしゃぐ三人と三匹、そして見守るもの二名(片方は拍手喝采)と言う絵面が出来上がっていた。

 

 「カイ、その拍手なんなの......」

 

 「うちの妹が可愛いことに対しての賛美。なんだあれ、天使か」

 

 呆れるサリーを横目にカイはそう当たり前であるかのような物言いで返した。

 しかし、彼女はそんな平和的空間を長く続ける気はないようだ。 

 「二人も入らないのか」と問いてきたメイプルとマイユイに対して、サリーとカイは空気を締めて返事をする。

 

 「私達を尾行しているプレイヤーが一人」

 

 「え......いつから?」

 

 「ホーム出てからずっとだな」

 

 二人は気配のする岩陰の方をちらりと見やる。カイの方に至ってはそれが誰なのかも察しているようであった。

 

 「居るんでしょ、出ておいでよ」

 

 「つか、フレデリカだろ?」

 

 名前を呼ばれた少女、もといフレデリカはひょい、と背の高い岩から乗り出しその姿を五人の前に晒した。

 悔しげに、しかしおどけているように口を開く。

 

 「あー......バレてたかぁ。頑張って地上から亀追ってたのになあ」

 

 「私達を尾行?なんのために?」

 

 未だ自身の強さに無自覚であるメイプルが心底わからないと言った表情で声を出す。

 それに対してもフレデリカはおどけたように、はぐらかすように回答するが、彼女の親友がそれを見逃すはずもなく「大方情報収集だろう」と言う結論を投げかけた。

 

 「ていうかカイはなんで分かってた訳?下なんか見てなかったよね」

 

 「ホーム出たときから誰かしらの気配は感じ取ってたからな。分身体にイズ特製連絡アイテムもたせて尾行させてた」

 

 そう淡々と返すカイの近くに彼と瓜二つの者が近寄る。それを一瞥すると彼は自身のスキルを解除して視線を元の方に向けた。

 フレデリカの「有能すぎでしょ......」と言う言葉は聞こえないふりをしている。

 

 「それで尾行してたあなたに相談があるんだけど......」

 

 顔つきを交渉者のそれに変えたサリーが持ちかけたのは、情報を賭けた決闘。当然フレデリカもそんなチャンスをみすみす辞退するはずがないので二人はそのまま何やら話し込んだ後、決闘場と思われる別次元へと転送されていった。

 

 「それじゃあ遊んで待ってようか!」

 

 「「はーい!」」

 

 残された者たちの空気は非常に温かいもので、カイはしばらく纏っていた緊張感を解きつつ、三人の遊び相手もこなすことになった。

 

 

 そして約十数分後。サリーとフレデリカの二人が決闘から戻ってくる。

 

 「フレデリカは?」

 

 「多分もうギルドホームに帰ってるんじゃないかな」

 

 そんなサリーの返答を聞いてカイは「ちょっと出かけてくる」と伝えた。

 当然四人はどこに行くのかと訝しげな顔を向ける。

 

 「尾行していいのは尾行される覚悟を持つやつだけって教えてくるだけ」

 

 その言葉に、サリーだけはくすりと笑みを浮かべるが、ほか三人は首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時折【遠見】や双眼鏡を使いながらカイは、上空で空中移動を可能にしたアイテムに乗るフレデリカを尾行する。三層の実装とともに解禁されたものだ。

 森を抜け、ある程度の平地にでる。そこからまた少し歩くと街につき、彼女の所属する【集う聖剣】のホームは中心部に近いところにそびえ立っていた。

 そこからカイは悪戯心を発動させたのか、フレデリカの数歩後ろまで近づき、周りには同じパーティーかと思われるような態度でつける。

 

 (最早ここまで来るとこいつが心配になるな)

 

 全く気づく気配のないフレデリカにカイは遠い目をするが、実は彼のPS所以とも言えるその技術が凄まじいだけであって、特に彼女が抜きん出てポンコツなわけではない。多少今は先のサリーとのやり取りもあって気を抜いているが。

 

 普通にホームに入ろうとするフレデリカとカイに、たまたまその状況に居合わせた面識のない一ギルメンが話しかける。

 

 「あの、フレデリカ様......。後ろの方は......?」

 

 「はえ?」と言う間抜けな声が響いた。恐る恐る振り返る彼女の目には、爽やかなスマイルを浮かべる美青年が映り込み、肩を持たれる。

 

 「やあフレデリカ。さっきぶりだな」

 

 彼女のまるで殺人鬼を目の当たりにしたかのような叫びに、ギルドホーム内部に居た者たちが玄関に駆けつけたのは言うまでもなかろう。

 

 「フレデリカ、どうした!って......カイじゃないか」

 

 ギルドマスターであるペインが足早に出てきて、彼女の隣りにいる者に目を向ける。

 

 「久しぶり。ちょっとさあ、オハナシしませんか?」

 

 にぃ、と笑顔を彼は作るが、それが食えない笑みであったことをペインは瞬時に悟った。

 

 

  




 冒頭で主人公くんの容姿軽く出ましたね。マイユイの中間で灰色に近い鈍色の髪に青いメッシュです。お目々もそう。
 今後も更新少々バラけるかもしれませんが申し訳ないです。
 そして厚かましいですが評価を......。まじでやる気出るし嬉しいんですよ......。


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第四回イベントが来たらしい。《前編》

前回からまた間が空き申し訳ないです......。気兼ねなく執筆出来る時間が欲しい......。
評価してくださった方々ありがとうございました!バーが赤くなったとき「え??」ってなりました。うれしす


 

 「よーし、やるぞー!!」

 

 そんな底抜けに明るい掛け声に応じて、とある集団は鬨の声を上げた。

 要塞少女を筆頭としたそのメンバーの中に居たカイは、己の小妹たちの肩に添えている両腕にグッと力を込める。

 今日は、今日のために、各々は日々研鑽に励んできた。

 

 

 ――――――第四回イベント。『ギルド対抗戦』が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「こっちは水場と休憩スペースになり得そうな小部屋しかなかったな」

 

 「じゃあやっぱり地上へのルートは一本だけだね」

 

 「一応少数ギルドに組み込まれるからな」

 

 転移させられた小さめの洞窟を各々隅々まで確認し、報告し合う。クロムが言ったように九人で構成される【楓の木】は少人数ギルドに組み分けられるため、比較的防衛がしやすい作りの拠点となっていた。

 

 「じゃあ私達は攻撃に」

 

 「ああ、防衛はメイプルが居る限りそうそうヤバくはならないだろ」

 

 「予定通り行くか」

 

 事前の打ち合わせに習ってサリー、カイ、クロム、それにカスミの四人の今の役割は攻撃組。

 飛び出した彼らは周りを警戒しつつも、身の隠せる森に颯爽と向かっていった。

 そして、それを見送るものが五名。先のメンバー以外のメイプル、マイ、ユイ、カナデ、イズは防衛組。もっと正確に言えばカナデとイズは拠点のバックアップなどを含めたサポートに回る位置づけであるが。

 

 「......大丈夫かな。練習はしてきたけど」

 

 「大丈夫だよお姉ちゃん!お兄ちゃんたちも頑張ってるんだし、メイプルさん達も居るから!」

 

 そんな会話を交わすのは先程身内である兄が攻撃組として拠点をでていった双子たち。彼女らにとってはイベントは初参加の代物であるため、他のメンバー達よりも緊張の色が読み取れる。並のプレイヤーならワンパンの威力を放てるとしてもだ。なんとも笑い話である。

 

 「とりあえず、四人がオーブを持って帰るのを待ちましょう」

 

 イズの声掛けに他四人も頷くのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 「んじゃ、作戦通りで」

 

 「うん。じゃあ軽く様子見てくるよ」

 

 そう言ってサリーは木々を身軽に渡っていく。

 作戦は彼女によっておびき寄せられた小グループを一人残してキルし、その最後の一人をも利用して目的地に案内してもらう、というものであった。

 「相変わらずゲームに関する頭の回転がエグい」とカイは声を漏らすが、有効打であることに変わりはないので勿論承諾している。

 

 「お、おい!待てっ!!」

 

 遠くから近づくその声に三人は目を合わせ、持ち場につく。

 声の主達がその場に近づき、「これが罠だ」と気づく頃には三本の刃物が既に戦場で舞っていた。

 鉈は己が宿敵と言わんばかりに首を断ち、刀には致命傷となるような大振りを食らう。自身の腹に剣が生えた光景を見た者たちも同様に、一瞬のうちにしてグループの半数以上の人数がやられていた。

 

「撤退よ......っあ」

 

 そして四人目。後ろからの【ファイアボール】に敢え無くバランスを崩され、刃物が降りかかる。

 

 「行こうか、サリー」

 

 「分かった。急ごう」

 

 逃げた一人を追うために、カイとサリーが飛び出す。先程こそ隠密系の動きが求められたためカイは待ち伏せに徹したが、ただ追うとなれば話は別。青と黒の衣装は暗がりの多い森林によく溶け込んだ。

 

 「二人はマーカーを追って来るんだよな?」

 

 「そう、これならAGIの差を気にする必要もないしね」

 

 ある程度の確認を終えた後は二人共口は閉ざし、ターゲットの追跡に専念する。

 潜って、飛んで、駆け抜けて。静寂を貫いているはずなのに二人の息は面白いほど合う。

 

 (やっぱり、サリー(理沙)とプレイしてるときが一番のめり込めるんだよなぁ)

 

 カイは思う。己の隣で走る少女について。やはり長年のゲーム仲間の隣は心地が良いのだと。

 息のしやすさに思わず、「ふ」と言う笑みが漏れたが、それは木々の呼吸とともに誰にも聞かれること無く霞んでいった。

 

 

 

 その後、後続できたカスミとクロムと合流した彼らは、自分らと同じであった小規模ギルドに突撃し、見事一つ目のオーブ奪取に成功した。若干戦力差が浮き彫りになりすぎて嬲った感を残したが、まあそれは置いておこう。

 とったオーブを拠点に持ち帰るカスミとクロムに別れを告げたカイはサリーと再度オーブ探しへ繰り出す。

 基本的に小規模、もしくは中規模の守りが薄そうなところ、と危険は冒さなかったため一時間ほど経った現在も二人はゲーム開始時と同じ状態であった。

 

 「お、これは川か......」

 

 あっという間に森を抜け、更に湿地帯を抜けた先には幅、深さともにそこそこの川に出た。

 

 「んー......。ねぇカイ、提案なんだけど」

 

 「どした」

 

 サリーの話した内容は、ここで一度別れ、別々にオーブ回収に向かうこと。そしてその移動方法としてカイはこの川を利用しないかということ。

 

 「俺は水の中のほうが機動力が上がるし、制限時間来たらクロが泳げる、って算段か?」

 

 「そのとおり。見たところここはマップで言う西地点で、この川は南に向かって伸びてるみたい。なら私は反対の北と東探索したほうがいいからね。マップ作成も早まるし」

 

 「そうだな。じゃあそれで行こう」

 

 そう言って彼らは分かれる。サリーは駆け出し、カイは目の前の水に飛び込んだ。

 バシャン、と言う音の後は周囲は淡い青色。いつの間にか真上まで上った日の光もあって随分と幻想的な空間である。

 

 (サリーより多めを目指すか)

 

 いつの間にか宿った友人兼ライバルへの闘志を燃料に、カイは水を勢いよく蹴って前進し始めた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 所変わって第四回イベント専用エリア【観戦場】。

 先程どこぞの要塞が長を務めるギルドの防衛戦と言うなの蹂躙を目の当たりにしてしまった彼らは、次はどこで火の手が上がるのかと待ちわび、穴が空くほどモニターを見ていた。

 時折大規模ギルドの戦闘やトップランカーの活躍が流れるたび、会場は盛り上がる。

 そんなとき、一人のプレイヤーが訝しげな声を上げた。

 

 「おい、こんなんアリか......?」

 

 他のものもその声が聞こえたのか、彼の視線の先にあるモニターに目を向ける。

 そこに映されたのは、一人のローブを被った男性プレイヤー。剣を片手に恐らく敵陣のであろうオーブを奪いながら一ギルドを潰していく。

 細剣特有の突きとそれを囮かのように繰り出される斬撃の数々。

 確かに実力者だ。中小規模とはいえ一人で事をすませてしまうのだから。

 

 しかし裏を返せばそれだけ(・・・・)なのだ。彼らはもうその目で獄炎や剣聖、魔王の如く姿をした者たちを見てしまっている。

 

 「そんな特別なやつか?確かにランカーの一人だとは思うが......」

 

 

 

 

 「あいつ、川から飛び出してきたんだ」

 

 証言者の声が響く。声に耳を傾けたせいか場は急に静かになった。

 

 「あのカメラは最初あの辺りの全体を見渡せる位置から徐々に徐々にズームして今の画角になったんだ。その間、川に飛び込むやつなんて誰ひとり居なかった。大体十分弱。最低でもその時間ずっとあいつは水の中に居たんだ」

 

 ヒュ、と誰かが息を飲む声が伝染したように彼らの顔を青く染めていく。

 現在既に【水泳】【潜水】のスキルは知れ渡っていた。勿論所持者も一定数いる。しかし上げる必要がなかったのだ。スキルレベルを。

 更にそれらのスキルには少なからずプレイヤースキルも関わってくる。ならどうなるか。水に潜伏しているやつがいるだなんて思いつくはずがない。合理的ではないから。

 加えて今回の地形。この場で見ていた者たちは分かっているのだが、川沿いには数個ギルドの拠点が置かれている。

 

 最悪のような、最凶のような掛け算。答えなんて嫌でも思いつく。

 

 『川沿いのギルドが軒並みやられる』

 

 更にそれに拍車をかけるあの戦闘力。

 最早あいつは止められないのだと多くの人が分かった頃、その顔が晒され誰もが納得の表情を作る。

 第一回イベント(バトルロイヤル)第二位。【楓の木】所属のカイ。

 人々は彼を【王子】とも、【姫】とも、【暴君】とも呼ぶのだ。

 

 

 

 

 

 

 カイが川をどんぶらこと流れながらプレイヤーを討滅し早数刻。

 彼はその成果であるオーブ五個を手に握りしめながら自陣の拠点に帰っていた。

 

 「「おかえり!お兄ちゃん!」」

 

 双子が満面の笑みで出迎えると、カイも張り詰めていた緊張が解け顔が緩む。

 

 「あ。サリーはいくつ持って帰ってきた?」

 

 「んー、カイは?」

 

 問われた彼女は少し考え込んだ後先手を譲る。その言葉にカイは胸を張って答えた。

 

 「俺ぇ?五個」

 

 少しもったいぶって言ったその言葉は、サリーの望んでたものではないらしく俯きがちに悔しさを浮かべて「一個負けた......」と呟いた。

 それを聞くと彼はニマ、と笑みを浮かべた。

 

 「俺の勝ちね」

 

 「別にこの後大量に稼いでくるから」

 

 「じゃあ楽しみにしとこうかな?」

 

 軽口を叩きながら二人は笑い合う。その光景を周りも温かい目で見守っていた。

 しかし現実に戻ろう。この数時間のうち奪ったオーブは計十個以上。

 

 「そろそろ取り返しに来る時間かもな」

 

 カスミは皆を見渡しながらそう言った。

 するとそれを待っていたかのような足音が洞窟に近づいてくる。

 

 「おっと、噂をすればってやつか」

 

 総勢五十名ほどのプレイヤー。しかし見たところ少数ギルドの連合だろうと誰かが判断した。

 彼らはこちらの状況を確認し、咀嚼した途端目を血走らせる勢いで突撃してくる。しかし対する九人は全く物怖じもしない。

 

 「九人全員で戦うのって初めてだっけ?」

 

 「まあそうかな?イズさんとか」

 

 そんな呑気な会話をしつつ、メイプルはクロムに頼まれ【身捧ぐ慈愛】(いつもの)を展開する。

 カナデが【ヒール】を使い、準備は万全。

 

 「「【ダブルスタンプ】!」」

 

 双子が発する轟音によって、戦いの火蓋は開けられた。

 

 初手で多数の人間が可愛らしい掛け声とともに葬り去られ、それを抜けてきた者は鉈と刀によって切り捨てられる。

 オーブに近づいたものは幾重にも降りかかる爆弾によってやられた。

 それすらも掻い潜ったらお次はカナデ御用達の蔵書によって沈められ、それをダガーが容赦なく襲う。

 先に最早災害レベルの例の双子をやってしまおうかと考えたものには、絶対零度の碧眼が嬲りにかかった。

 

 「くそっ、【ディフェンスブレイク】!」

 

 「【ピアースガード】」

 

 愚かにもその魔境の真ん中に立つ大盾を狙った者は弾き返された。そして大槌に沈められる。

 

 「メイプルかよ......ミスったな」

 

 そのプレイヤーは去り際、しっかりと自身の選択の間違いを身にしみて感じたのであった。

 九人は余裕の勝利を収める。しかし、洞窟の外はいつのまにか暗くなっていた。

 第四回イベント初の夜は、しっとりとした夜闇がフィールド全体を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「ただいまー。オーブ二個しか取れんかったよ」

 

 カイののんびりとした声が発せられる。

 今減税拠点に居るマイとユイ、そしてメイプルは彼の帰りに「おかえり」と応答する。

 サリーは単独で攻撃に。イズ、カスミ、クロムの三人も一緒になって外に繰り出していた。

 

 「あれ?カナデは?」

 

 「ええと、今は防衛大丈夫そうだからオーブ取りに行ったよ」

 

 カイは「そっか」と返しながら自身の稼いできたオーブを自軍のオーブに近づけ、片付けていた。

 彼も一応は攻撃組なのだが、集中疲れをしょっちゅうするようでこうして時偶拠点に帰ってきてた。

 充電とばかりにカイは双子を構い倒す。現在は防衛の方も何事も無いようで穏やかな空気が流れていた。

 

 

 メイプルがサリーからのメッセージを受信するまでは。

 

 

 

 

 「カイっ!サリーを助けて!!」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 彼は走った。とんでもなく頭を回転させながら。己にAGIバフを掛けながら。

 メッセージの内容は至ってシンプルだからこそ焦りが痛いほど読み取れた。

 『ごめん。多分足止め食らう』普段の彼女ならば送らないであろう、時間が遅くなるだけなんて。

 だから彼も焦った。己の友人を信用していたのだ。なのに危険が起きる可能性があるなんて最初は信じられなかった。

 

 そうこうしているうちにサリーのマーカーが点灯する座標までつく。ドーピングシードとバフによって得た瞬速で着いた場所では、青みがかった銀の兵士たちの中で一対一(・・・)で戦うサリーとフレデリカの姿。

 周りの兵たちは一切手を出していない。しかし我慢しているようにとれた。

 

 (なるほど、そういうことかよペイン......!)

 

 カイはここには居ない彼のライバルの一人に対して悪態をつく。そして―――彼も手出しをしなかった。

 

 

 数分後。苛烈な戦いを極めた二人の少女に決着がつく。

 サリーのダガーだ。その鋭利な刃がフレデリカに近づき、近づき......

 

 

 一人の兵士がサリーに手をあげようとした。

 勿論彼女は避ける。もう片方の者にいたっては目をむき、怒気を孕ませていた。

 

 「ちょっと!手を出しちゃ駄目って「かかれーーーー!!!」

 

 大量の兵士が鬨の声をあげ、それに続いて他の者達もサリーに襲いかかる。

 彼女は疲労困憊であるが、生き残るために応戦しようとした。ダガーを握りしめ、クッと唇を噛む。

 

 

 

 

 「駄目だろう」

 

 一言で言えば恐怖。その場に居たもの全員がその声を聞いて地面に縫い付けられた。

 人の群れを押しのけ、カイはフレデリカの元へ進む。

 

 「フレデリカ。お前は今回個人としてサリーにぶつかった。そうだな?」

 

 「う、うん......」

 

 気まずそうに、バツが悪そうに彼女は答える。

 その言葉に彼は内心安堵を覚えていた。

 

 「ペインに伝えとけ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

  協定は早めに解消(・・・・・・・・)だ」

 

 そう告げ、カイは一度背を向けた軍勢へと向き直る。その手には剣が。隣には漆黒の体皮の一角が居た。

 

 「悪いんだけど、お前らが先に手ぇ出したからな」

 

 巨大な水槽が展開され、其の場に居た兵士全員が飲み込まれる。彼はその水に近づき、潜り込んだ。

 そこからは一瞬。舞うように斬り殺されていく兵士はすべてポリゴンに包まれ、水中に残るは一人と一頭のみ。

 スキルを解除して地上に戻ったカイは、立ち尽くすサリーを無理やり抱きかかえ、再度フレデリカの方を向く。

 

 「フレデリカは今回悪くない。寧ろ俺とペインの約束をギリギリまでなんとか守ろうとしてくれたんだろ?だから、ありがとう」

 

 そう告げたカイは己の腕の中にいる少女への説明は二の次だと、拠点を目指して駆け始める。

 

 

 

 

 

 第四回イベントはまだ、始まったばかりなのだ。



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第四回イベントが来たらしい。《中編》

 

 第四回イベント二日目の深夜。時刻はまだ二時手前のため、辺りは静けさと宵闇を孕んでいた。

 そんな中、鬱蒼と木々が生い茂る夜の森林を駆け足で進む者たちが居た。と言っても足音は一人分だけ。鈍色の髪をなびかせる男は、自身の腕の中に収まる少女に猛抗議をされていた。

 

 「ねぇ、ちょっとカイ!さっきのどういうこと!?いやそれよりも、降ろしてよ!!」

 

 姫抱きされていることに多少の恥じらいがあるのか、彼女は頬を赤らめながら声を上げる。少女もといサリーは先程目の前の男と一人のプレイヤーの間で交わされていた言葉に多々の疑問を浮かべていたのだ。

 

 「んー、フレデリカとのことは拠点に帰ってから話すよ。他の皆にも言わなきゃだろうし」

 

 「そう......っじゃなくて降ろしてって言ってるの!」

 

 腕の中で暴れるサリーを抑えつけながらカイはため息を零す。それはどう考えても彼女に対しての不満気な何かを漏らすようなものであって、自覚のないサリーは頭に疑問符を掲げることになった。

 

 「お前なぁ、さっき野次馬にやられそうになったの覚えてるか?普段あんなん避けてカウンターかませるぐらい余裕だろ。それができなかったってことは、今お前大分疲れてんの!分かったら黙って運ばれてろよ」

 

 言葉の端々に鋭さを添付していたが、それよりもサリーは己のことを思った以上に気遣ってくれていたこの男に心底驚き、そして感謝した。

 

 (意外とバレてるもんなんだなぁ)

 

 言葉のみでは感じ取れないが、サリーは呆然と羞恥、嬉しさが混ざり混ざって一緒くたになったような感情を胸に抱え、それ以降は大人しくカイに運ばれることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 「もーーーっ!心配したんだよ!」

 

 「あはは、ごめんごめん......」

 

 気が抜けて疲労が見目に現れ始めたサリーを者一番に迎えたのは彼女の親友であった。満身創痍を体で表している彼女をひどく心配し、同時に嗜める。今回、最も心労を請け負ったのは他ならぬこのメイプルであろう。

 勿論双子も彼女らが騒ぐ声に一度起き、サリーへ色々と言葉をかけていた。二人にとってサリーはまだ技術の拙い自分らを戦えるようにしてくれた言わば姉貴分のような存在なので、心配を隠せずに居たのだ。

 

 して十数分後。一足先に限界の来たサリーを休憩用の部屋に寝かせた後、時間差で拠点に戻ってきたギルメンが皆でカイを囲うという絵面が出来上がっていた。

 

 「どういうこと?お兄ちゃん」

 

 普段は柔らかな声色のマイが、腰に手を当てカイの事を「むむむ」と睨みつけている。ユイも同様にだ。

 普段の彼ならば軽く誤りつつも脳内で「ギャンカワか!」と叫び散らしているが、生憎二人の後ろに構える他のメンバー(特に成人組)の威圧によって震え上がっていた。

 

 「カイ?簡潔にお願いね?」

 

 イズのまるで副音声が聞こえてきそうな黒い笑みに当の本人は「ヒッ」と声を漏らしながらも説明を始める。

 

 「えっと......数日前に【集う聖剣】のギルマスと「イベ開始から二日間はお互い不可侵でいこう」っていう協定を結びまして、はい......」

 

 話していくうちに彼は冷静さを取り戻し、「あれ?これ俺そんな悪いことしたっけ??」と言う状態になる。そしてそのまま口に出した。これ、ほんとに悪い事をしたときは言ってはいけない言葉ランキングトップ3に入るであろうものです。良い子は真似しないようにしましょう。

 

 「まあ、結局咎めることと言えば報告しなかったことぐらいだしな」

 

 先のカイの発言を聞いたクロムは彼を庇い、その隣に立つカスミもまた頷いていた。

 

 「次から絶対何かあったら言うんだよ!勿論他の皆もね!」

 

 しばらく傍観を決め込んでいたメイプルがギルマスとして締めくくり、話し合いは終わる。時偶カイが「俺の扱い対ちびっこェェ......」と呟いていたが、皆それに関してのみ知らぬ存ぜぬを突き通していた。

 

 

 

 

 少し締まりのない雰囲気ではあるが、日は昇り新たな戦いが今日も幕を開ける。

 第四回イベント二日目早朝。プランB『メイプル開放策』へ移行。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メイプルが本格的に他ギルドへ侵略を始めて早数時間。やはり彼女は居ないと分かっていても【楓の木】へは手を出しづらいのかカイを含めたメイプル以外のメンバーは皆拠点にて手持ち無沙汰を感じていた。

 

 「プレイヤー減らしに誰か一人くらい出るか?」

 

 「ふむ......なら私が行こう。防衛は十分だろうからな」

 

 「じゃー俺も出るよ」

 

 クロムの問いかけにカスミ、カイが続けて返す。

 ある程度イズからアイテムを譲り受けた二人は、仲間からの軽い激励を背に拠点を出ていった。

 

 「多分メイプルの反対側に行ったほうが良いよな?」

 

 「ああ、無事なプレイヤーが見つかるかも定かじゃないからな」

 

 二人は彼らの人外じみたギルマスの蹂躙劇を容易に思い浮かべ、くすりと笑う。作戦上あまり同行動を取ることは少ないが、両方とも片手剣の上ステータスも似たようなタイプなので足を引っ張り合うことはない。現に今も早速見つけた斥候の集団をいとも容易く葬っていた。

 

 「帰ったらイズに刀の耐久値を回復してもらわないとな」

 

 「結構やばい感じか?」

 

 「今回のイベントで大分消耗してしまったからな。先程メンテナンスしてもらっておけば良かったよ」

 

 そんな雑談を交わしながら森を進む。暫く歩いてようやく森林を抜けたと思えば、二人はとある男性プレイヤーに遭遇した。

 

 「............おっと、見覚えのある人が来たなぁ」

 

 「......帰るか」

 

 「待て待て待て」

 

 「え、めっちゃ止めて来るよこの人。知人?」

 

 「......知らないな」

 

 「酷いな!そしてその間は知ってるやつだろ!」

 

 いきなり来て騒ぐ目の前の男にカイは懐疑を、カスミは面倒くさそうな表情を露わにする。

 が、別にカイの頭にこの人物の情報が入ってない訳では無かった。

 

 「【崩剣】のシンさん、何か御用で?」

 

 対赤の他人用の爽やか笑顔を貼り付けた彼は、名前を当てられ一瞬目を丸めた男の方をジッと見つめる。

 

 「【王子】、【姫】それに【暴君】だったか?まあなんにせよ君に名前を覚えられてるとは光栄なこった」

 

 「え、なんですかその全く存じ無ぇやべー二つ名達」

 

 シンの口から流れるように出た己は知らない名の数々にカイはしっかり素を露呈させてしまっていた。「え、知らないのか?」とでも言うようにカスミとシンはカイの方を見るが、本当に彼は知らないのだ。どこぞの名無しの大盾が情報を器用にシャットアウトしてるせいで彼は情報通なのに自身の事柄のみ全く知らない。

 

 「何か驚いてるとこ悪いけど、俺が用事あるのはカスミの方なんだ」

 

 「あ、はあ。じゃあ俺先戻りながら雑魚潰してるわ」

 

 「置いてくのか!?この状況で!?」

 

 つい彼女は普段は中々見せない焦った表情になるが、カイは「じゃーな」と呑気に拠点の方へ歩み始める。正直今最も状況が読み込めていないのは、カイの情報とは違う自由人っぷりを見せつけられたシンなのだが、それは置いておくことにしよう。

 

 (まあ間違っても今のカスミは【崩剣】に負けると思えないし、別に大丈夫だろう)

 

 カイも別に冷徹無慈悲にデスの可能性のある場に仲間を残したわけではない。彼にだって仲間への親愛ぐらいもちろんあるのだ。

 

 「ま、相手方もガチだったしなぁ」

 

 シンのカスミを見るあの好戦的な目。先程は態度にこそ出さなかったが、カイはあれがなんというものか十分知っているしよく分かるモノであった。ゲーマーの性だとかプライドだとか、呼び方こそ三者三様であるが結局は皆同じ様なものである。それに彼はあれに似た瞳を少し前に目の当たりにしたばかりだ。

 

 「フレデリカ、サリーにそんな逆撫でされるようなことされたのか......」

 

 実際彼女がサリーに突っかかったのは別の理由もあるが、このときの彼はまだ知らないし、今後も気づくことはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お、起きたの?」

 

 カスミを置いて他ギルドの人員を潰しまわっていたカイは、拠点に戻るとサリーを含めたメンバーの数人が話し合っているところを見た。

 つい時間が経っていたことに気づかなかったのか、先に例の場を離れたカイよりもカスミのほうが先に戻っていたらしい。しかも彼女の手には見慣れない新しい刀が鎮座していた。大方耐久値が切れ、壊れた前代の代わりであろう。そう判断したカイは刀を見つめてうっとりとする彼女を横目にやった。

 

 「後半に向けてどれくらいトッププレイヤーが死ぬか......」

 

 「最終日は荒れそうですね.....。うちのギルドはまだ死に戻ったメンバーはいませんが......」

 

 今後の方針と現在の状況を照らし合わせながら話していると、そとから彼らのギルドマスターの快活な声が聞こえてきた。

 

 「ただいまー!オーブ九個手に入れてきたよ!」

 

 「「うわぁ」」

 

 実力はあるが彼女と違い大多数の人数を一掃出来る決定力は無いカイとサリーは、改めてメイプルの異常さを痛感させられている。因みにクロムは「リタイア組はメイプルちゃんの蹂躙劇について話してるんだろうな」と呑気に考えていた。

 オーブをセットし再び防衛に戻るメイプルに、サリー達は先程まで話されていた内容を伝えた。

 

 「今回の防衛が終わったら......マイとユイにも活躍してもらいたいな」

 

 彼女の意見は今奪ってきたオーブを守りきったら、メイプルには双子を連れて再び攻撃に戻って欲しいというものである。もう一度攻撃を担当するのは困難な彼女と、守りを捨てた代わりにとんでもないSTRを持つマイとユイをあわせて暴れてきてもらうという算段であった。

 

 「じゃあメイプル達がここに待ってる間は俺とサリーで外出るか?」

 

 「私もそれ考えてたんだ。三時間ならサクッと行ってサクッと帰ってこられる私達の方が良いと思うし」

 

 こうして、メイプルがオーブを守り切る間はカイとサリーが、それが終わったら交代で極振り組の三人が外に出ることが決定した。他のメンバーは柔軟に動けるのもあり、サポートや折を見て攻撃に出ることになる。

 途中メイプルはサリーの体力などを心配していたが、充分休憩は取れたようで大丈夫だと告げていた。

 そして善は急げ、と言わんばかりにイズから貰い受けたドーピングシードを服用した二人は拠点の洞窟から飛び出していく。彼らならば大丈夫だろう、と他のメンバーは二人の成果を待ちわびる時間になった。

 

 

 

 

 

 「基本は?」

 

 「オーブだけ奪取で!」

 「りょーかい」

 

 そんな軽い雰囲気だが、二人はサリーのトップスピードで疾走している。カイの全速力を出してしまうとレベル差でどうしても出てくるAGIの差が顕著になってしまうからだ。とは言っても彼女はAGI重視の短剣使いなため、STRの方に寄せているカイは「もうすぐ追いつかれそうだな」と考えていた。

 

 「確かここから南に数十メートル先の廃墟に中規模ギルドが一つだよな」

 

 「うん。まずはそこから行こう」

 

 二人はパートナーである朧とクロを呼び出しながら目的地へ駆けていく。足場は悪かったが、到着には一分とかからなかった。

 

 「【遠見】」

 

 一度木の上に隠れ、カイはスキルを使って全容を見渡す。廃墟に所々ある穴から内部まで見通すことは容易であった。

  

 「手前に前衛十人くらい。多分回り込めば後ろの方にも崩壊したところがあるからそこから入ったほうが良い」

 

 「分かった」

 

 彼の情報に従ってサリーは素早く木を降り、カイもその後を追った。

 【しのび足】と【気配遮断】を二人共取得しているのもあり、敵陣は未だ身に迫る危険に気付けないでいた。

 

 「中は後衛職と軽装の前衛がちょろっと。オーブ付近の奴らは仕留めることになるかな」

 

 「オッケー。じゃ、行くよ」

 

 サリーが中をこっそり確認し、合図を出す。二人は瓦礫の上を跳ねるように軽快に進んで内部に入りこんだ。

 

 「お、お前らどこかr」

 

 いち早く二人の存在に気づいた者をカイは万全を期すように貫通スキルの【鎧砕き】を用いて一閃する。

 が、音が多少漏れたようで不審に思ったプレイヤーたちが数名奥に駆け込んでくるのを【気配察知】で二人は知る。

 

 (そっちお願い)

 

 (おけ)

 

 アイコンタクトで方針を共有させた彼らは再び走り出す。

 サリーはオーブの待つ台座へ。カイは周囲にいるプレイヤーの注意が自分に行くように陽動と攻撃を始めた。

 

 「【獅子の矜持】【撃手の器量】!」

 

 近くに居た者には上げに上げたSTRを振り回し刀で直接。距離の合ったプレイヤーには【魔法威力強化】によって威力の上がった【ウィンドカッター】(自動追尾)をお見舞いする。

 ちらりとサリーの方を見やると、彼女の手にはオーブが握られていた。

 

 (次行くよ)

 

 (はいよ)

 

 再び言葉には出さぬコミュニケーションで意思疎通をした二人は、オーブがなくなったことに気づき慌てる集団をよそに次の場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「なんかさっきから色んなとこのギルドが慌ててないか?」

 

 「ほんとだ。大方どっかの奴らにこっそり盗られたんだろ」

 

 観戦エリアではイベント会場に流れる焦りを一様にして見ることができていた。

 モニターに映る様々なギルドの穏やかではない雰囲気に観戦者は「どこのどいつの仕業か」と面白がりながら犯人探しをしている。

 

 「あ、こいつらじゃね?」

 

 一人の男が指さしたのは画面いっぱいに映るオーブの周りに居る防衛者をサクサクと倒していくローブを被った二人組。

 一部のプレイヤーが「ああ、なんだあいつらか」と次々にやられていく者に同情の眼差しを向ける。彼らはイベント初期から観戦に徹底していた者たちだ。

 

 「え、お前らあいつら誰か分かるのか?」

 

 「あー、お前知らないのか。『恐怖!水辺の襲撃事件!』を」

 

 「なんだそれ」

 

 ぽかんとする何も知らないプレイヤーを前に、語った者たちは「あれは酷かったな」と遠い目をしていた。

 

 「まあそれは後で話すとして、あいつら【楓の木】の奴らだよ」

 

 彼の言葉と一瞬モニターに映ったローブの下の素顔を目にし、彼らは「ああ、なるほど」とすべてを理解したような顔つきになった。

 

 「なんだあれ、必殺仕事人かよ」

 

 「ほぼ一撃で仕留めてんな......。やっぱ【王子】のバフえぐい」

 

 「俺あそこのギルマスにやられたんだ......」

 

 後半から【楓の木】の面々にキルされた者たちの傷の舐め合いみたいになってしまったが、それもまた大型イベントの要素の一つだろう。

 観戦者達の熱は次々に繰り広げられる戦闘により、冷めることは殆ど無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その後、サリーとカイの二人は拠点に戻り、作戦通り攻撃はメイプルたちにバトンタッチした。

 今頃凶悪にも能力値の噛み合った三人がフィールドに舞い戻り、目撃した者に絶望を与えている頃だろう。

 

 「マイに渡したリスト見せてくれる?」

 

 そう言いカイはサリーから情報を受け取った。これは三人がオーブを狙うギルドをリストアップしたものである。

 

 「え、【炎帝ノ国】行かせたの?」

 

 彼はパネルに名前が載っている大規模ギルドに目を丸くした。

 

 「偵察中に見たけどあそこはトップの【炎帝】が常に攻撃に出てるみたいだからね」

 

 「さすがの情報網だな」

 

 途中から会話に混ざってきたクロムも彼女の情報収集能力に賛辞を送る。

 今はカスミとイズが再びコンビを組んで外に出ているようで、洞窟内にはカイ、サリー、クロム、それにカナデしか居なかった。最も防衛などそれで事足りてしまうのだが。

 

 「俺らは三人帰ってくるまで待機か。マイとユイ無事かなー」

 

 「メイプルが付いてるんだから大丈夫でしょ。寧ろあの三人が死に戻ったときのほうが僕は想像できないよ」

 

 「確かにね」

 

 油断大敵とは言うが、そうしてしまうほどに双子は殲滅力、メイプルはそれに加え防御力に箔が付いている。確かに納得してしまうものだろう。

 

 

 三人が攻撃に出てから数時間後。メイプル達はシロップの背中に乗って拠点に戻ってきた。

 真っ先にメイプルの元へ向かったサリーと彼女は何やら話し込むようにしている。

 

 「ごめんねサリー。結構探したんだけど見つからなくて」

 

 「【炎帝ノ国】がポイントを稼ぐために周りを襲ってくれたら良いんだけど......」

 

 その会話からカイは対【炎帝ノ国】では生還できたがオーブ奪取に破れたのだと察した。

 【楓の木】は現在4位。トップ10の他のギルドは大規模ギルドばかりなので少々浮いているなとカイは思ったようだ。

 

 「予想より高い順位......けどここから離されたくないんだ」

 

 

 

 そして移る次のフェーズ。防衛にはイズとカナデのみを残して他の人員は全員攻撃に参加することになった。

 カイはサリー、マイ、ユイとともに動いている。機動力に差が出る組分けだが、豊富なゲーム知識と経験を生かしたサリーとカイはもはや破壊神と化す双子を上手く扱った。

 

 「朧、【影分身】!」

 

 「「【ダブルスタンプ】!」」

 

 「【泡沫の水盤】!」

 

 三者三様に繰り広げられる蹂躙の数々に目の前のプレイヤーは尽く散っていく。

 

 「次はもう少し鉄球で行ってみようか」

 

 「イズから追加で貰っといたぞ」

 

 可愛く言い表わせば幼子と保護者達。だがそう言うにはあまりにも凶悪で強すぎた。

 この後、【撃手の器量】が実は投擲にも反映されることを四人は知り、再び数多のギルドに襲いかかったらしい。

 

 2日目も残り数分。彼らは後少しで眼前に立ちはだかる強敵と鎬を削り合うことになるが、それはまだ彼らには知り得ないことであった。

 

 

 

 

  




サリーちゃん出番多いな......


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第四回イベントが来たらしい。《後編》

 

カイ  Lv63

 

 

HP 40/40(+115)

 

MP 110/110(+50)

 

STR 265(+70)

 

VIT 0

 

AGI 180(+75)

 

DEX 70(+10)

 

INT 95(+30)

 

 

頭装備 猛者の象徴Ⅹ 【DEX+10 MP+10】

 

体装備 御影の上衣 【STR+20 MP+40】【破壊不可】【賢者の秘法】

 

右手装備 導星の一閃 【STR+50 AGI+25】【破壊不可】【十二星座の加護】

 

左手装備 (装備不可)

 

足装備 玉屑の洋袴 【AGI+30 INT+30】【破壊不可】【雪獄の罪人】【宿雪】

 

靴装備 宵闇のブーツⅧ 【AGI+20】

 

装飾品 黒の手套Ⅶ 【HP+100】

 

 絆の架け橋

 

   蠱毒の指輪 【螺蠃の猛毒】

 

 

スキル

 

【片手剣の心得Ⅹ】【体術Ⅵ】【攻撃逸し】【跳躍Ⅲ】【海の覇者】【リフレクト】【四面楚歌】【パワーオーラ】【鎧砕き】【HP強化小】【MP強化中】【MP回復速度強化中】【MPカット中】【魔法威力強化中】【毒無効】【氷結耐性大】【炎上耐性中】【水泳Ⅹ】【潜水Ⅹ】【毛刈り】【投擲】【釣り】【採掘Ⅰ】【採取Ⅰ】【料理Ⅹ】【菓子職人Ⅱ】【ソムリエⅡ】【しのび足Ⅱ】【気配察知Ⅲ】【気配遮断Ⅱ】【遠見】【氷雪喰らい】【超加速】【魔法の心得Ⅳ】【ファイアボール】【ウォーターボール】【ウィンドカッター】【ダークボール】【サンドカッター】【ファイアウォール】【ウォーターウォール】【ウィンドウォール】【サンドウォール】【リフレッシュ】【ヒール】【炎弾】【水弾】【光線】【石弾】【火魔法Ⅲ】【水魔法Ⅲ】【風魔法Ⅱ】【光魔法Ⅲ】【闇魔法Ⅰ】【土魔法Ⅲ】

 

 

 

 「ふぅ......」

 

 一つのため息とともに、カイは最終確認を終えパネルを閉じる。クロのスキルも確認済み、装備だって先程まで付けていた【水巫女のアンクレット】から【蠱毒の指輪】に変え、準備は万端である。

 

 「【集う聖剣】待ち......かな」

 

 サリーのその言葉がギルド内の雰囲気を締めたのはつい先程の話であった。

 イズとカナデを残し、他のメンバーで二手に分かれて攻めに転じた後、彼らは一度拠点に戻って現状確認を含めた作戦会議のようなものを開いていたのだ。

 腫れ物のような扱いだった【楓の木】に連続して襲撃が入ったこと、攻撃組もなかなかオーブ奪取が上手く行かなかったこと。そして何より、カイより挙げられた「【集う聖剣】との元の協定に期限があったことから推測される彼らによる襲撃」について。どれもがメンバーの頭を悩ますものであった。

 

 (どうせペインのことだ。そんなに時間は空けずに来るはず。こっちの陣営の勝機はやっぱ.........メイプル次第か)

 

 これ以上考えても事に変化が出てくるわけではないと己に言い聞かせたカイは、ふるふると頭を振って休憩スペースへ向かった。

 

 

 

 

 そして、二日目の終わりが近づいてきた頃。彼らが待ち構えていた人物たちが、ついに拠点へ足を踏み込ませる。

 カイを含めた【楓の木】の面々は、各々が手に持つ武器を構えた。

 

 「数は......ペインたちを含めて十五だ」

 

 【気配察知】と己が視力に頼り、彼は敵の戦力を確認する。事前に考えていた範囲内らしく、味方は全員落ち着き払っていた。

 

 「やっほーまた会ったねー」

 

 フレデリカはいつものように軽い口調でそう話すが、彼女の瞳は実に好戦的なものであった。やはり、先のサリーとの一騎打ちが関わっているのだろう。カイは緊張を再度纏い直し、サリーはその手に握るダガーへ込める力を強くした。

 

 「緊張感がないな、今からやり合うんだぜ?」

 

 ドラグの言葉により、カイは「やはりオーブ目的なわけではないか」と一人結論を出す。彼らは己と同等もしくはそれ以上のライバルを求めている。するとやはり、個々の殲滅力の高い【楓の木】に矛先が向くのは仕方のないことだろう。

 

 

 それに、“彼”はカイをライバル視している。

 

 「メイプル、一度戦いたいと思っていた。勝てると判断して......倒しに来たよ」

 

 「私、負けませんから!」

 

 ペインの言葉に応じた彼女は、戦いの火蓋が切られるような【身捧ぐ慈愛】と【捕食者】(天使の羽と異形)を出した。

 

 「【多重加速】!」

 

 フレデリカはバフスキルを発動させ、彼ら四人の後ろにいた【集う聖剣】のメンバーも走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「だが、先にこちらとやらせてもらおう!」

 

 

 

 勇者(ペイン)の足が踏み出した先は、魔王(メイプル)ではなくその仲間。

 黒衣を身に着ける、好敵手(カイ)のもとであった。

 

 「ッチ......まぁ、お前はそういうやつだったな。ペイン」

 

 金髪の美丈夫が振りかぶった大剣は、その数倍細々とした体積のレイピアによって難なく阻まれる。

 細剣が突き、大剣が薙ぎ、盾は弾いて火球は舞う。今イベントの各地で行われた戦い達とは一線を画す、そんな戦闘がそこでは繰り広げられていた。

 

 「やはり数レベルの差ごときでは勝ち筋を簡単に見せてはくれないな」

 

 「言ってろ【聖剣】。そんなもんお前に見せる理由がないんだ」

 

 両者とも守りに入る素振りなど一切無く、彼らの目に映るのはらんらんと漏れ出す野心と、自分が“勝利”を手にするビジョンのみである。

 一度見たらそのまま見入ってしまう戦闘だが、生憎周りの人間はそれが許されてはいない。

 【身捧ぐ慈愛】が足を引っ張ると判断して解除するメイプルを含め、すでに洞窟内ではいくつもの戦いが始まっていた。

 

 「「【ダブルスタンプ】!!」

 

 「【地割れ】!」

 

 マイとユイが放つ暴力の権化は、同じくしたドラグのスキルによって相殺される。

 

 「【カバームーブ】!」

 

 「【カバー】」

 

 余力で飛んできた衝撃波から双子を庇うようにしてメイプルは移動を、クロムは防御の行動に移った。

 そして一方で、カイへ応戦に向かおうとした者が(ペイン)の影によって阻まれる事態になっている。

 

 「!【パワーアタック】」

 

 「あいつらのとこには行かせねーよ」

 

 ドレッドとサリー。こちらの戦闘も似通った者同士が鎬を削っていた。

 外でも、カスミやカナデ、イズの三人がフレデリカ率いる小隊ともやり合っている。

 一見すれば各地でそれぞれの戦いに没頭しているような規則性のある空間。しかしやはり皆思いは重なるわけで、ここから離れた観戦場にも熱気が伝わるような盛り上がりになっていた。

 

 が、そのある意味整然とした見てくれが剥がれ始めた。

 きっかけは洞窟内に響く甲高い叫び声。

 

 「っ......!きゃあっ!!」

 

 瞬間、カイは頭に冷水をぶっかけられたようにして意識と視界を広げた。

 前方に映るはドラグの斧刃がかすり、瀕死で倒れるマイの姿。

 

 ぷちり、と。彼の頭の中の何かが切れた音がした。

 

 「【超加速】【幻魚の尾鰭】【崖の王者】」

 

 

 

 何かが、とんでもないスピードで宙を駆けた。

 そう脳が認識するのにも時差が生まれるほどの超スピード。その者はマイに最後を迎えさせようとしていたドラグの眼前に迫る。

 

 「手前ぇ、なに人の妹傷つけてんだよ」

 

 超至近距離でそれを聞いた彼は震え上がった。ああこれが、こいつの本気なのだと。自分は眠れる獅子の尾を踏んだのだと(・・・・・・・・・・・・・・・)

 だがそんな思惑など関係ないと言わんばかりのカイは、ドラグのその巨躯な身体を切り裂くようにレイピアを走らせていく。もちろん当の本人であるドラグもそれを薙ぎ払おうとするが、いかんせんAGIの差が明白過ぎた。

 

 「マイ、舌噛むなよ」

 

 ある程度のダメージを与えたカイは、前方で振り回される大斧を易易と避け、後ろに控えていたマイを持ち上げ後退した。

 

 「【乙女の祈り】ごめんな、大丈夫か?」

 

 「うん。ありがとうお兄ちゃん!」

 

 殺気を振りまいたかと思えばこの有様だ。慈愛に満ちた、双子を見るその目はただの家族思いの青年にしか見えなかった。

 だが、それだって長く続くわけではない。

 

 「ペイン、すまないが決闘はまた今度にしよう。ここからは.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

                       ――――――全面対決だ」

 

 個別に戦っていたそれぞれの陣営が再びそれぞれ再結する。

 【楓の木】対【集う聖剣】。本当の意味でのギルド戦争は今、始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「うっ......あ......」

 

 あれからまだ、苛烈極まる戦いは続いたままであった。しかしここでメイプルが、【楓の木】にとって絶対的な象徴であったメイプルが【不屈の守護者】を発動させてHP1で食いしばる事案が発生した。

 彼女の仲間は動揺を隠せなかった。なにせ、あのメイプルなのだ。普段「歩く要塞」などと呼ばれている彼女が、瀕死になる姿など殆どのプレイヤーが想像しがたいものだろう。

 当然ながら、敵陣はその隙きを見逃すはずもなかった。

 

 「【パワーアックス】!」

 

 クロムの胴を狙ってドラグはスキルをぶつけようとする。だがそれを許さぬ刃がここに届いた。

 

 「俺、まだ許してないから」

 

 「こんっのっ......!!」

 

 ドラグの斧がカイのレイピアによって軌道が変わり、致死ダメージを負わすはずだった物は衝撃波のみを発して消えた。そのおかげでクロムはある程度のダメージを受けてしまったが、本体をそのまま食らうよりマシだろう。

 

 「クロム、ここ頼んだ」

 

 「ああ!おい、それなりにしぶといぞ、俺もな!」

 

 ユニーク装備のスキルによって延命を果たしたクロムが彼の前に立ちはだかり、カイはその場を離れてメイプルに応戦しようとする。

 

 「【多重炎弾】!」

 

 だが、敵陣の頼もしいバッファーがそれを許しはしなかった。

 カイの眼前に幾重もの火球が連なる。この火の大隊を避けるのは無理であろう。

 

 「【リフレクト】!!」

 

 ならば突破すれば良い。スキルの十秒間を有意義に過ごすように、カイはそのすべてをご丁寧に敵陣へ返した。

 

 「そんなの反則でしょ!!」

 

 そんなフレデリカの宣いを無視するように、カイは彼女へどんどんと近づいている。彼女を潰す方が優先と考えた彼の動きには迷いはない。しかしフレデリカだってトップランカーの一人。有象無象のその他の後衛と違って、ある程度近距離戦闘に陥っても抗うことを可能にできる彼女を撃破することは、カイにとっても容易なことではなかった。

 火に、水に、岩。時々それらに光砲も混じり、一緒くたに彼に襲いかかる。避ける事はできても、基本レイピアで弾き返しながら特攻をするタイプのカイは、既のところで毎回距離を離されていた。

 

 (AGIを上げるのはまだ再使用時間が抜けきってないから無理だ。なら......)

 

 剣を振りながら、彼は常に現在の得策を探り、更新し続ける。

 

 「【撃手の器量】【ウィンドカッター】【神託の代行者】!」

 

 カイは呼び出した。彼が意のままに操れる影武者を。しかもそれを悟られないように前菜を放り込んで。

 フレデリカが自動追尾と化した風の刃の処理に戸惑ったほんの一瞬の間に、代行者に中央突破を任せて【気配遮断】を利用した。

 

 「!?さっきより速い!まだバフスキルあったわけ?!」

 

 代行者(それ)本体(カイ)だと思っている彼女は、ステータスが倍増されているはずのその速さに驚く。あっという間に距離を詰められた彼女は、普段使い慣れたそれを発動して身を護る。

 

 「【多重障壁】!」

 

 「違うよ」

 

 偽物を文字通り踏み台にして飛び込んできたのは、本物の彼。フレデリカはたった今、先程までのカラクリを解明させたようだ。

 最も、もう遅いが。

 

 一枚、また一枚。貼られたガラスのような障壁が音を立てて割れていく。

 もう少しだ、とカイに希望の光が射した時、目の前の彼女がおもむろに口を開いた。

 

 「ねぇ、カイはサリーのことが大事なの?」

 

 「は?」

 

 間抜けに上がる彼の声。虚を突かれたようになるがあと残り枚数が一枚の障壁を前にして彼は止まらなかった。否、止まれなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私はね、カイ―――」

 

 

 

 「っ!」

 

 

 

 彼女の言葉に、カイは息を呑んだ。

 レイピアの鋒はもう相手の喉元。酷く、ゆったりとした時間が彼女たちを一瞬包み込む。が、次の瞬間

 

 「【神速】」

 

 サリーを筆頭としたメンバーと戦っていたはずのドレッドが、二人の空間に飛び込んで彼女を掻っ攫った。

 

 「うちの紅一点に死なれちゃ困るんだ」

 

 それはカイに吐かれた言葉だった。彼も共感できる、仲間への思いに溢れた行動。

 ならば彼女にはなんと言ったのか。それを聞くことはカイは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「戦えるか」

 

 「何いってんの、当たり前でしょ。うちのギルドの強さを見せつけてやるんだから」

 

 「はっ、なら安心したぜ」

 

 彼女は、フレデリカは、そのタレ目がちの目尻に水滴を浮かべながらも、威勢よくそう宣言する。

 ドレッドは彼女のその底抜けの精神力を、褒め称えるべきだと心から思ったのであった。

 

 

 

 

 

 そして数刻後。長かった戦いにようやく終止符は打たれ、それとともに一匹の化け物がイベントフィールドへと解き放たれたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 先の戦いでメイプルは【暴虐】状態となってしまったため、【楓の木】は急遽予定変更。まだ三日目に入った途中だと言うのに、最終フェーズとして考えていた“他ギルド”潰しに取り掛かることとなった。

 不幸にもメイプルという名の怪物に踏み荒らされたギルドは敢え無く撃沈し、オーブを奪われ取り返しにきた者たちも【楓の木】の全員から放たれる殲滅力の前に沈んでいた。これはこのギルドが未だ一人もデスを経験していないという点も多いだろう。デス数の溜まったプレイヤーたちにデバフ0、寧ろバフを添えた状態の彼らはオーバーキル過ぎたのだ。

 因みに、三日目に【炎帝ノ国】の周辺にいたプレイヤーとそれを観戦していた者たちの脳内に一番残っているのは、【暴虐】状態のメイプルがカナデ、サリー、カイの助力のおかげで合計八体になっていたことだろう。

 四日目の早朝にはもう順位など決まっているも当然のようなもので、残りギルド六つのうち、【楓の木】は順位を中盤から落とさず四位のままであった。

 

 かくして、第四回イベントは終りを迎える。それぞれに思うところもあるはずだが、これだけは全員考えていると断言できよう。

 

 「場を引っ掻き回した張本人は【楓の木】で間違いない」と。

 




 なんだか【集う聖剣】との話でいっぱいいっぱいになってしまいました......。

 それとお知らせです!この度BURNINGさんという方の「剣士として戦いたいので聖剣使いになったみました」とのコラボ作品が出ることが決定しました!!公開はコラボ先の作品様の200話記念として上げられるようで、私自身も設定について話し合いはしましたが内容は知らないのでとても楽しみとなっています。
 気になった方は、コラボ作品もとい本編の方もぜひご覧になってみて下さい!!
https://syosetu.org/novel/254728/
上記のURLからどうぞ!


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最後は『大団円』らしい。

 

 第四回イベントを終えた次の日。魁は今日はなんだかログインする気分にはなれず、自室の寝台の上で一人天井を見上げるようにぼーっとしていた。

 彼の頭の中を占めるのは、イベント二日目の終わり頃に起きた戦中の出来事。洞窟内の人工的な明かりを頼りにしたあの局面でフレデリカに言われた言葉。

 

 「わっかんねぇよ......くそ、」

 

 珍しく治安の悪くなっているその口調も気にならないぐらいだった。彼はただひたすら思考に耽る。

 

 

 

 

 自分の何か特別なことをしてあげていたのか?

 

   ―――否。特段扱いを他と変えた覚えは無い。

 

 

 

 ならばそもそも自分は人誑しとか言うやつか?

 

   ―――否。顔が整っている自覚はあるが、別に性格が八方美人だとは思えないし、たかがゲームのフレンド程度の者にまで勘違いされる愛想を振り撒く事もない。

 

 

 

 

 なら彼女がそういう女だからか?

 

   ―――否。そんな軽い奴じゃないと、接している身としても彼女の周りの好感度からもわかることだ。

 

 

 

 本当に分からない。こういうときだけ理論的思考の男性脳が面倒になる。そう彼は酷く感じた。

 

 (大体なぜあの前に『サリー』という言葉が出た?別に俺は彼女となにか関係を持っている訳でもない。だがあの時の雰囲気から邪推しても―――ああ、本当に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一体、どう行動を取るのが最適なんだ......」

 

 タワーディフェンスもの、パズルもの、謎解きもの、大規模レイドもの。彼はあらゆる戦略ゲーをクリアしてきた身であったが、「そこらのボス戦のほうがよっぽど楽だと」と残して、窓から見える沈みかけの夕日を凝視し続けた。つまるところ『現実逃避』というものであるが、それを言うのは無粋であるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日。カイはその前日もログインはなせていなかったが、サリーから第四回イベントの打ち上げパーティーをするとの連絡が入り、久々に電脳世界へと身を投じていた。

 数日ぶりに見る、現実と遜色のない世界観を持つそこは、彼を無意識に安心させるものでもある。そしてそれは、同じ時を過ごした彼の仲間たちも例外ではないのだ。

 

 「悪い、遅れたか?」

 

 ポリゴンと共に現れたカイを皆どうやら待ちわびていたようで、久々の彼にある者は安堵し、またある者は歓喜した。

 

 「いいや大丈夫だ。私もいま入ったばかりだからな」

 

 「メイプルも実はさっき買い物に出ていったばかりだから。それより久しぶり、カイ」

 

 「ああ、ていっても数日だけどな」

 

 やはり自分の性に合っている世界だと、彼は思った。

 参入したカイを囲んで数名のメンバーで話していると、奥のキッチンからリビングには居なかった【楓の木】お抱えの生産師の声が響く。

 

 「カイ!丁度いいところに来たわ。パーティーで出す料理を準備するのを手伝ってくれないかしら?」

 

 「今行くよ」

 

 端的に返事をした彼は、インベントリからイズ特製の軽装兼私服(お料理服)を装備の欄へ移動させ、キッチンへ向かう。

 彼の視界端では、兄の料理が食べられると喜んでいる双子の姿があった。勿論心の中は大騒乱である。

 

 「よーし、それじゃあ頑張りましょ。私はこっちの料理のラストに移り始めるから、デザートの方を任せたわ」

 

 「了解でーす」

 

 広めのキッチンに二人の影。双方が真剣さを醸し出しているせいもあって、この場に近づけるものは他には居なかった。

 皮を向く軽快な音。鍋底に火が当たる、少し重さを孕んだ音。

 

 数分経った位の時のことであろうか。声を除いた雑多音で溢れるこの空間で、イズが徐に口を開いた。

 

 「何かあったのかしら?」

 

 「!」

 

 彼は驚き、つい手元のペティナイフを落とす。「何が?」「なんの事?」そんな誤魔化しすら謳っている余裕は無かった。

 けれど、思えば目の前の彼女はいつもカイの良き相談相手であった事を彼は思う。だから、今回も悩みを垂れ流すのもそれに彼女が答えるのも時間の問題で―――

 

 

 

 彼はその脳内に立ち込める物事を粗方話す。その間イズは一切口は挟まず、相槌を打ちながらカイにどう返すのが最適解かをただひたすらに考えた。

 

 「そう、か......。ありがとなイズ」

 

 「いいえ。それでも結局はカイの問題なのだから、あなた次第よ」

 

 話しながらも料理を進め続けた数分間は、カイにやはり良い効果を与えた。

 もう、先程までの曇った顔は彼に映らない。

 

 「よし、じゃあこれ向こうに運ぶな」

 

 気持ちの晴れとともに手際の良さを取り戻したカイは出来上がった料理を運ぶため、リビングへ一度戻る。

 一人取り残されたイズは、微笑みとともに「まだまだ青春ね〜」などと溢したが、それを聞くものは居なかった。

 

 

 

 

 して数十分。帰宅を待たれていた他ならないこのギルドの長が、玄関の戸を開ける音がホーム内に響く。しかも数人の話し声とともに。

 

 「ただいまー!」

 

 「うん、おかえりメイプル。で、後ろの皆は?」

 

 笑顔のメイプルに、サリーはいつも通りため息と呆れを込めたなんとも言えぬ表情を返すが、慌てや焦りは一切見られない。それはどこからどう見ても、『慣れ』によって成されたものであった。

 要約すると、偶々会ってフレンド登録したから招待したのらしい。

 サリーから伝えられたカイも半分呆れ、半分ある意味尊敬のような気持ちに陥っていた。

 

 「料理って足りるかな?」

 

 「ええ。少し作りすぎちゃったかと考えてたところだったから全然大丈夫よ」

 

 「作り始めたら止まらなくなったんだよな」

 

 ゲストも優に座れるであろうダイニングテーブルを皆で立って囲い、いよいよ打ち上げは始まった。キンッという小気味よい乾杯の音が部屋に鳴り響く。

 

 「ここの飯は豪華だな」

 

 「ギルドお抱えのシェフが居るからね」

 

 「「お兄ちゃんたちが作った料理、今日のも美味しい!」」

 

 「そうか。嬉しい、良かったよ」

 

 「頑張った甲斐があるわ」

 

 各々が目の前ある絶品の数々に舌鼓を打つ。生産系のギルドなどでもない限り、やはり料理関係に労力を掛けている者も中々居ないため、大規模ギルドとは言えど皆美食に飢えているようであった。

 

 カイも自分の皿に料理をよそうとした時、不意に右斜前に居た人物と目があった。昨日のままの彼ならばここで逸していただろう。が、先程の頼れるカウンセラーの助言もあって、逸らさず、人目になるべく付かないように彼女に近寄った。

 

 「終わったら、ちょっと話せる?」

 

 少し肩をくすめながら彼はそう言う。

 目の前の人物のそのルビー染みた瞳が揺れ、表情が一時崩れた。だがその言葉を反芻したように落ち着いた彼女は、首を縦に振る。

 その動作を見届けたカイは、再び自分の元居た場所へ踵を返した。

 

 

 暫くの間、家族水入らずならぬ"戦友水入らず”な雰囲気でパーティーを楽しんでいると、運営から動画の添付された一通のメールが届く。

 それは先の第四回イベントの見所をかき集め、編集したものであった。

 

 「ギルドのモニターで映してみようか。皆同じ動画みたいだし」

 

 そう言ってメイプルが流し始めた動画には、この場に集っている者全員が何かしらの形で映っていた。理由は簡単。ここに居るものが皆全員『強者』であるから。この者たち抜きにしては第四回イベントは語れないのだ。

 

 「うわっ、これ何分潜ってるわけ?」

 

 「最大一時間」

 

 「えぐいな」

 

 「あー.....これあの夜の......私の失態がー!」

 

 「今度こそ横槍無しでもう一戦どう?」

 

 「いいよー!絶対当てるから!」

 

 「まだ人型なんだな」

 

 「七匹になるんだろ、知ってるぜ」

 

 「思い出すだけでつらい」

 

 水陸両用と化したカイのシーンや、フレデリカとサリーの決戦、更にイベント後半で起こる未曾有のボスモンスター(メイプル)放流など、話題のつきないものばかりであった。

 動画も終わりに近づいたあたり、ペインはメイプルに出直すと宣戦布告のようなものをした。そしてそのままカイの方にも彼は向く。

 

 「カイもだ。いつか君にも勝てるよう、鍛錬し直すよ」

 

 「え、俺も?まぁしょうがないか......」

 

 少々面倒くさいと思ってしまったが、彼にもまたゲーマーの血は流れているわけで、渋りながらも負けん気の方が勝ったというような返答である。 

 その後も会は続く。明日の敵は今日の友、と言わんばかりの盛り上がり用のまま彼らは時を過ごしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あのさ、あの時のことなんだけど......」

 

 喧騒に満ちたパーティーも終わり、カイと呼び出された彼女――――――

 フレデリカは人気のない喫茶店で机を挟んでいた。

 

 

 

 「フレデリカの思いには―「いいんだ」    え?」

 

 「いいの。分かってたから。それより、困らせちゃったみたいだね。ごめん、あんなこと言って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『私はね、カイ。キミが好きだよ』

 

 それは、あの戦渦の中で一人の乙女が勇気を糧に伝えた言葉。そして、カイが数日頭を悩ませたものでもあり、彼が応えられないものでもあった。

 カイの言葉を遮って止めた彼女は、どこか遠くを見つめるように、付き物の落ちた顔つきのまま口を開く。

 

 「最初はね、ペインが興味を持った子はどんな子なのかなって感じだったの。別にゲームに出会いを求めてる訳じゃないから何も考えてなかったし。会ってみたら思ったよりも案外普通の子人で、でもその分綺麗に戦うんだなって思った。剣の振り方とか、身のこなし方とか。思わず見惚れて、それで見てるうちにもっと見惚れて。しかも話すたび知らない一面を見せてくるもんだからさ、後衛気遣って戦ったり、仲間思いだったり、隠れ負けず嫌いだったり、シスコンだったり、全部ね。全部素敵に見えちゃうんだ。もっと一緒に居たかったし、何回もこっちのギルドに誘おうとしたの。でもさ、違う。だからこそ、嫌でも分かっちゃうんだよ。君が誰を見ているかくらい」

 

 カイは不思議でならなかった。なぜ彼女が自分を好いてくれるのか。純髄に不思議がっていた。しかし、この言葉で酷く身に沁みさせられたのだ。だからこそ、その言葉の続きを気になった。だってその先の予想が全く立たないから。

 

 

 

 「カイは気づいてないと思うけど、君はぼーっとしてる時大抵サリーを見つめてるんだよ。知らなかったでしょ?まぁ多分向こうも気づいてないと思うけど......」

 

 

 

 「は、嘘だ......」

 

 なぜフレデリカがあの時サリーという単語を出したか、なぜこれほどまでに彼女に固執していたのか、ようやく全てのピースが揃う。でも同時に、カイの中に新たな無視できぬ問題も生まれた。

 俺、サリーが好きなのか?いやでもあいつはただのネッ友だし、そんな自問自答を彼は繰り返す。

 

 「まぁ、カイが誰を好きになるかなんて自由だからどうでもいいんだけどねー。だから、この事は私も忘れるし、カイも忘れていいよ〜」

 

 急に、フレデリカは口調をいつもの軽快な雰囲気に戻した。そして席を立ち、考え込んでいた彼より先に店を出ようと動く。だが、見逃されなかった。否、見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 「どうでも良くはないんだろ?」

 

 「っ、え......」

 

 「どうでもいいなら、泣かねーんだわ」

 

 「あ、え?私泣いて......」

 

 彼女は指摘されてやっとその頬に流れる一筋の雫に気づいた。大方、気づく余裕もなかったのだろう。

 席に戻されたフレデリカは、感情とともに涙の防波堤が決壊し、その両目から大きな雫をぼろぼろと溢し始める。だがいまだに彼女はその涙をせき止めようと力を両手に込めていた。

 

 「ごめん。こんなの本当は俺の立場じゃやっちゃいけないことなんだけど、」

 

 彼の手が目の前に伸びる。彼女が気づいたときには、その頭の上には自分より大きく、かつ優しい手のひらが覆い被さっていた。

 

 「大丈夫、他に客居ないし。ここNPCの店だから」

 

 だから、泣いていいと。優しい声色のままそう告げた。

 フレデリカは泣いた。普段の彼女からは想像もつかないような涙で、それはカイのことも深くえぐった。もっとも、これは受け入れねばならない贖罪だと彼は割り切ったが。

 

 

 数分泣いた彼女は、カイから借りたハンカチで涙を拭き、ようやく落ち着いた。

 

 「ごめん、取り乱した」

 

 申し訳無さそうにそう彼女は言う。

 

 「気にすんな。俺にも分がある」

 

 彼は精一杯の慰めの言葉を探した。

 

 「酷いことを言うが、ちゃんと聞いてほしい。俺は、多分フレデリカの思いに応えられない。サリー云々を抜きにしてもだ。でも、忘れる忘れないは、フレデリカの勝手だろ」

 

 「え?」

 

 彼女の瞳に光と疑問が映った。

 

 「こんなの、俺が言うことじゃない。でも、俺はもう返事はした。だからフレデリカの感情をどうするかなんて、フレデリカで決めていいだろ」

 

 「なんで」と、目の前の彼女は顔に出した。傷ついたのか、呆然としてるのか、驚いているのか、なんとも言えない表情とともに。

 そして彼女は口を開く。

 

 「応えられないのに好きって、迷惑じゃないの......?」

 

 「お前に、次の恋が見つかるまでくらいなら、それくらい受け止めれるわ。まぁ、だから......好きにしていいよ」

 

 少し照れくさくなった彼は俯く。だから見なかった。彼女が目を見開き、驚愕とともにその優しさを噛み締めた。

 

 「私、カイを好きになってよかったのかもな」

 

 それはボソリと呟かれた言葉で、カイの耳には入っていない。

 

 「なんか言ったか?」

 

 「ううん。じゃあ私は、迷えるカイに恋バナもとい恋のアドバイスでもしてあげようかな〜」

 

 「え、でもそれは―――」

 

 酷なんじゃないか。そう言おうとしてカイはフレデリカに止められた。

 

 「好きにしていい、でしょ?好きにやってるだけだから大丈夫」

 

 精一杯、彼女ははにかむ。でもそれは目の前の彼を安心させるためのハリボテではなく、本当に心のうちから漏れ出したものであった。

 だから彼は口をつぐむ。

 

 「さてさて、先程私のおかげで恋心に気づけたカイくんは、何かやることがあるんじゃないかな?」

 

 伝票を持ったフレデリカはわざとらしくそういう。

 

 「ここの代金は全部俺が持ちます。いや持たせてください」

 

 「よーし、すいませーん!スペシャルパフェ3つ追加でー!」

 

 近くの店員を呼びつけた彼女は、この店で最も値の張るスイーツを所望した。だが、カイはさっきよりマシか、と割り切りインベントリの欄からゴールドの数を確認した。

 注文が通ったことを確認した彼女は、少し落ち着いた様子でもともとあった飲み物に口をつける。

 

 「因みに、今サリーはホームに居るらしいよ」

 

 「それは......」

 

 「何か、単独不可のクエスト請け負ったのにメイプルがログアウトしちゃって困ってるって」

 

 「!」

 

 「行ってきたら?一緒に居たいぐらいは思えるようになったんでしょ」

 

 すまし顔でフレデリカはそう告げる。

 彼女の意図を汲み取ったカイは、ここで断るのも得策ではないと判断したようだ。

 

 「ごめんフレデリカ、俺ちょっと用事できた。代金はここに置いとく」

 

 「はいはい。お釣りはネコババしちゃうからね」

 

 「余裕でくれてやるよ」

 

 軽口を交わしながらカイは店を出る。

 店内には、流れるBGMとフレデリカのため息だけが残った。

 

 「いい女ムーブもきついもんだなぁ」

 

 自嘲するような声色でそう呟いた彼女は、やがて運ばれてきた甘味を自棄食いするかのごとく口に運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、送り出された側の彼はその身に宿すステータスのAGIをフル稼働し、【楓の木】ギルドホームに着く。

 

 「サリー、居るか?」

 

 扉を開け、彼女がまだここにいるか確認する。

 

 「どうしたのカイ?そんな急いで」

 

 目当ての人物は居た。どうやら、今日は他のメンバーは出払っているようであった。

 

 「あ、いや......暇だから、手伝うことあるかなと......」

 

 全速力がバレた彼は必死に取り繕おうとして、失敗した。

 そしてサリーは少し吹き出す。

 

 「じゃあ、これから私のクエストに付き合ってくれない?」

 

 

 

 

 「ああ、そのつもりだよ」

 

 電脳世界の日に照らされ、二人はフィールドへ駆ける。

 情景はいつもどおり。だけど心持ちは、片方だけ変化していた。

 

 彼は思う。良いやつばかりに出会えたなと。そして今日もその手に握る細剣へ、込める力を強めたのであった。 

 





 これにて第一章?みたいな部分は完結です。
 そしてお知らせになります。この度私は一身上の都合でこの作品を連載し続けることが困難になりました。出せても短編程度だと考えています。 
 そのため、誠勝手ではありますが、一度執筆を止めることにさせていただきます。
 いままで読んできてくださった方々、本当にありがとうございました。
 もし今後長期連載ができる目処が立ったら、また第二章からという形で投稿させていただきます。もしかしたら時間を見つけて時偶短編を投下するかもですが、そのときはまたよろしくおねがいします。 
 ここまで共に読走してくださり、本当にありがとうございました。またいつか、お会いできることを願います。


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