ブラック・ブレット 転生者の花道 (キラン)
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プロローグ
第一話 転生 花道


「君は死んだ」

 

 見知らぬ場所。見知らぬ男に言われた言葉は何故か、すんなりと受け入れる事が出来た。それが何故なのか俺には分からない。だが、思考を停止させるような事はしないようにしよう。

 

「何故?」

 

「私が殺したからだ。私の為にね」

 

 ニィッと愉悦に歪めた笑みを前に俺は確信した。コイツは危険だと。

 

「俺みたいな一般人を自分の為に殺すか。それにこの空間。アンタが何なのかはこの際どうでもいい。俺に何をさせたい?」

 

「話が早くて助かる。前の人間は質問が多くて困ってたからね。君のようにすんなり受け入れてくれれば良いんだが」

 

「俺だって出来れば満足いく説明を聞きたい。だが、アンタが悠長に説明してくれるとは思えない」

 

「あぁ、その通り。面倒だからね。さて、君にして貰いたいのは私の道楽。いわば暇潰しだ」

 

「成る程。随分と愉快な趣味だ」

 

「褒めるな。照れる」

 

 くつくつと笑いながら告げる男は右手に持つ二つの物を俺に渡す。

 

「君は転生というのを知っているかい?」

 

「詳しい事は知らないさ。とはいえ、ネット小説である程度は」

 

「その知識で充分さ。君には君が見たソレと同じ事をして貰う。特典はソレのみ。向かう世界は行ってからのお楽しみ」

 

「拒否権は……言うだけ無駄か。それで?どうすればアンタの暇は潰せるんだ?」

 

「好きに生きていいさ。あぁ、それとその特典は君の今後に於いて強くなる。上手く使いこなす事だね」

 

 勝手な事をとは思いつつも憧れはあった。

 

「一ついいか?俺以外にアンタの道楽に付き合っている人間はいるのか?」

 

「いる。正確には居たと言った方がいいかな」

 

 成る程、既に居ないという訳か。

 

「質問は以上かい?それなら直ぐに君を転生させるけど」

 

「あぁ、頼む」

 

 そう告げると同時に意識が遠のく。

 

「では、精々足掻いて私を楽しませてくれ人間」

 

 その言葉と共に俺の意識は光に呑まれて消える。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「流石にコレは無いな」

 

 意識が戻った俺が周囲を見回して呟く。俺の周りにはボロボロの廃墟に綺麗に舗装された道路という状況が広がっている。

 

「世紀末臭が凄いな。指先一つであの世行きの世界とか嫌だぞ、俺は」

 

 だが、俺のこの考えは否定される。とても嫌な形で。

 

「うわぁ……」

 

 視界が暗くなり、背後から生温かい風が吹いていると気付いた時、俺は後ろを見て、直ぐに前に跳んだ。そしてコンクリートが砕ける音の方向に目を向ければそんな声を上げていた。

 

「廃墟に巨大化した虫。大分絞られたけど、まだ分からないな」

 

 目の前には体長三メートルほどの蜘蛛がいる。八つの眼があり、その内四つが正面。更に二つがとても巨大な眼を持っている。

 

「……確か、ハエトリグモだったか?」

 

 かつて見た昆虫図鑑の知識を引っ張りだしながら小さく呟いた言葉と同時にハエトリグモが襲いかかる。

 

「うわぁっ!?」

 

 巨大な蜘蛛という生理的に嫌悪感を齎すソレが襲いかかる。その恐怖に悲鳴を上げながら横に跳んで避ければ蜘蛛は勢い余って廃墟に突っ込み、崩れた廃墟の下敷きになる。

 

「絶対、死んでないよな」

 

 元々昆虫はあの姿だからあのような生態を持っているのだ。だが、それが目の前で覆っている。人間サイズの昆虫なんて脅威どころの話ではない。ならば、あれだけ巨大な蜘蛛がコンクリートの下敷きになった位で死ぬなど有り得ない。

 

「此処は逃げるか?」

 

 選択肢は選べるほどある訳じゃない。逃げてもいいが、ハエトリグモは巣を張る一般的な蜘蛛と違い、獲物を探し求める徘徊性の蜘蛛だ。更に視力も良い為、俺の足では直ぐに捕捉されるだろう。

 

「なら、コレしかないか」

 

 そう呟き、俺はあの男から受け取った二つの内一つを取り出す。ソレはバックルだ。中央に何かを嵌め込む窪みがあり、右側には刀をイメージしたパーツがある。そのバックルを腰に当てるとベルト部が伸びて腰に巻きつく。

 

「全く、転生もそうだが。本当に憧れてたモノが叶うなんてな」

 

 顔には苦笑に近い笑み。そして取り出したのは受け取ったもう一つ。ロックシードと呼ばれる果物を模した錠前だ。オレンジを模した錠前の左側。解錠スイッチを押しこむ。

 

【オレンジ!!】

 

 合成音声と共に俺の頭上にクラックが円を作る様に出現する。そして空間が剥がれると巨大なオレンジが降りて来る。

 

「変身!!」

 

 左手に持つロックシードを上空に掲げて、バックルの窪みに嵌める。その後に掛金を閉じる。

 

【ロック・オン!】

 

 合戦の合図のような法螺貝の音が響く中、俺はブレード部分に軽く手を添えて、ロックシードを斬る様に動かす。すると、オレンジロックシードの果実を現す面、キャストパッドが展開される。

 

【ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

 頭上にある果実、アーマーパーツを頭に被り、身体を青いスーツが包み込む。視線の先、廃墟からハエトリグモが這い出て来る。そんな光景を尻目に被った果実が展開、武士の様な甲冑が出来あがる。

 

「さて、と」

 

 左腰には剣、無双セイバー。右手にはミカンの果実のような太刀、大橙丸を握っている。その姿は【仮面ライダー鎧武】そのもの。俺は大橙丸を肩に掛け、見得を切る。さぁ、あの神様にも聞こえるように高らかに告げようか。

 

「ここからは俺のステージだ!!!」

 

 俺の言葉が合図のようにハエトリグモが突撃してくる。

 

「ハッ!!」

 

 タイミングを合わせてジャンプ。ハエトリグモの尻に着地した俺は大橙丸を振るって、近くにある脚を斬る。悲鳴と共にその場に倒れる蜘蛛を跳んで離れ、着地と共に近づく。

 

「オラァッ!!」

 

 そう叫び、倒れている蜘蛛に近づき、今度は脚を二本斬り飛ばす。流石に素人である俺では上手く使いこなせない。だが、それでも斬れるのはこの大橙丸の切れ味が凄まじい所為だろう。

 

「もういっちょ!!」

 

 身体を回転させて残った脚を斬れば、蜘蛛の片方の脚を全て斬り飛ばす。

 

「とっとと、終わらせる!!」

 

 大橙丸を左手に持ち替え、ブレード部分を一回、斬る様に動かす。

 

【オレンジスカッシュ!!】

 

 音声と共に大橙丸にエネルギーが集まる。

 

「セイヤー!!!」

 

 刀身が輝いた大橙丸を振り下ろす。その一撃は蜘蛛の頭部どころか胴体を両断するほどの威力だった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「疲れた……」

 

 あの後、変身を解除してその場を離れた俺はコンクリートに腰を下ろして一息吐いていた。命の遣り取りなんてやった事ない素人の俺ではさっきの楽勝だった戦闘でも精神的に参る。

 

「それにしても……【ブラック・ブレット】か」

 

 呟き、見上げる先には巨大な黒い建造物【モノリス】がある。そして視線を巡らせばその【モノリス】は等間隔で円を描く様に設置されている。この建造物とあの化け物の赤い瞳から考えて此処は俺が知っている【ブラック・ブレット】の世界で間違いないだろう。

 

「確かにコレならガストレア相手でも大丈夫だろうな。とはいえ、これからどうするかな~」

 

 先程持ち物検査したが、身分証明書等、自分を証明する物が一切ない。更に財布もない。そして分かった事だが、変身しての戦闘はかなり体力を消費するようだ。先程から胃が空腹を訴えている。

 

「取り敢えず、此処が【ブラック・ブレット】の世界だとすれば近くに街がある筈だ」

 

 流石に日本がどうかは分からない。コレで外国だったら泣く自信はある。そう考えながら足を動かす。目指すは視線の先、我先にと競うように乱立するビル群。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 歩き始めて十分くらいだろうか。目の前の方で人だかりが出来ている。どいつもコイツもギラギラと危ない目つきだ。

 

「ん~?あ、そうか。ここって【ブラック・ブレット】だったな」

 

 思い出すと同時に彼等が今行っている事にも気付く。さて、どうしたものか。確かに子供をリンチするのは見てて気持ちのいい物ではない。それに結局は赤の他人なのだが。

 

「見ちゃった以上は放っとけないよな」

 

 昔からの癖だから仕方ない。俺は走り出す。

 

「……には」

 

 走りながら俺は男達に誰かが必死に訴えている声を聞いた。

 

「ですから、この子に罪は無いんです!!!」

 

 必死に訴えているのは白い服にフードを目深に被った少女だ。誰か分からないが、やっぱり勇気がある人はいるようだ。

 

「お嬢さん。俺達はそっちの化け物を退治するだけなんだ。退いてくれないか」

 

「いいえ、退きません。それにこの子は人間です。化け物などではありません」

 

 大勢に、それも自分よりも年が上の男達に囲まれているにも関わらず、彼女はとても気高い。その言葉を聞いて、周囲の男たちの雰囲気が変わる。

 

(これは……拙いか?)

 

 そう思った瞬間、誰か分からないが、ため息が聞こえた。

 

「じゃあ、仕方ないな」

 

「分かってくれましたか?」

 

 いや、アレは違う諦めだろうな。そう思いつつ、俺は人垣の中へ入る。

 

「あぁ、その化け物を庇うアンタも化け物だってのがなァッ!!!!」

 

 その叫びと共に振り下ろされる瓶とフードの少女の間に入った俺は額に衝撃と鋭い痛みが奔る。同時にブレる視界にキラキラと破片が舞う。恐らく正常であろう耳が瓶が砕ける音を拾っている。

 

(砕けやすい瓶で良かった。これがビール瓶だったら今頃砕けているの俺の頭だろうな)

 

 そんな事を考えながらも俺は視線を上げて、男を見る。男はいきなり割って入った俺に驚いている。

 

「貴方は……?」

 

「通りすがりの……ヒーローって事で」

 

 上手い言葉が見付からなかったのでそう告げると少女がフード越しに驚いている。まぁ、そりゃそうだろうな。

 

「おい、ガキ。何の用だ?」

 

「いや別に?いい年こいたおっさん共が寄ってたかって女子供をリンチしてるから止めようとしてるんだけど?」

 

 何言ってるんだ、と云う風な顔で告げるが、さて、痛みの所為で上手く表情を作れたかは微妙だ。

 

「コイツはガストレアだぞ?」

 

「ん?人型のガストレアなんて凄いな。てっきり俺は【呪われし子供たち】だと思ったが」

 

 とぼけた様に告げればおっさん達からの圧力が増す。俺はため息を吐いて額に手を置く。ジクジクと痛むものの、裂けてはいないようだ。代わりにこぶができている。とはいえ、頭に攻撃されたのだ。病院で検査は受けた方がいいだろう。

 

「ていうかさ、アンタ達って何がしたくてこの子苛めんの?」

 

「っ!?コイツはガストレアだ!!人類の敵なんだよ!!!」

 

 周りからそうだ、そうだと声が上がる。

 

「んじゃ、アンタ達はガストレアに対する恨みをこの子で発散させようとしている訳だ。馬鹿じゃねえの?」

 

「なっ!?」

 

 つくづく思う。作品世界の事だからとか考えていたがやっぱりコイツ等の行動原理はよく分からない。

 

「そんなにガストレアが憎いなら武器貰って外行けばいいだろ?外にはアンタ等が嫌うガストレアがわんさかいるし。そいつ等を相手に戦えばいいじゃん。そうやってガストレアが減れば文句ないだろ?それとも、そんな度胸もないのか?」

 

 そういって、即座にあぁ、とわざとらしく声を上げる。

 

「そんな度胸もないからこんな子供を襲ってるのか。成る程ね……最低だな」

 

 そう吐き捨てる。自分よりも弱い者がいれば、それに当たるのは当然だ。それに大勢の同じ思いの人間がいれば、罪悪感も薄れる。何も痛い思いをして、死ぬような眼に遭う必要なんてないのだから。楽が出来るのならばそれでいい。

 

「お前等が本当にガストレアを憎んでいるなら民警にでもなればいい。それが出来ないって事はアンタ達が抱えている憎しみはその程度って事だ。結局のところ、アンタ達は世の中の不満やストレスを解消する為に弱いこの子たちを甚振る事でストレス解消してるだけのクズって事だ」

 

 一息にそう告げる俺の内心はかなりビビっている。だって、おっさん達から怒り通り越して殺気が飛んでくるし。これからマジでどうしよう。そう思った時だ。

 

「■■■■■■ッ!!!!!!!」

 

 上空からそんな形容できない叫び声が聞こえたと同時に目の前のおっさんが潰れた。

 

「またかよ!!!」

 

 潰れた後、血を噴き出す前に俺は悪態を吐いて、少女の手を引いてそこから逃げる。少女は襲われていた女の子を抱えていた為、一緒に逃げられた。そして背後から悲鳴が上がる。

 

「ま、待って下さい!!あの人たちを助けないと」

 

「アンタ、阿呆だろ!!人間の手ってのは頑張っても一人か二人しか救えないんだ!!!俺はアンタ達だけで定員オーバーだよ!!!」

 

「では、私が救います!!」

 

「ハイ!?」

 

 振り向けば少女は抱えていた女の子を俺に抱かせると踵を返した。

 

「あの子、もしかして俺よりお人好しなんじゃ……」

 

 そう呟きつつも、視線の先には蝙蝠のガストレアがおっさん達を貪っている。

 

「蜘蛛の次は蝙蝠。セオリー通りだな」

 

 最近のライダー物では見かけないが、それでも運命を感じてしまう。

 

「はぁ、仕方ないな。君は物陰に隠れてろよ」

 

 下ろした女の子にそういって、俺は走り出す。バックル、戦極ドライバーを装着し、オレンジロックシードを掲げる。

 

【オレンジ!!】

 

「早く逃げてください!!」

 

 腰が抜けて失禁している男の手を引っ張る少女の背後にコウモリがゆっくりと近づく。間に合うかどうかは賭けだな。

 

「変身!!」

 

【ロック・オン!!】

 

 音声と共に俺の視界が一瞬、暗くなるが構わず走る。

 

【ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

 走る勢いのまま、跳び。口を開けた蝙蝠に跳び蹴りを叩きこむ。

 

「え?」

 

「早く逃げろ!!」

 

「その声、もしかして」

 

「あぁ、ったくもう!!」

 

「え?きゃあ!?」

 

 一刻も早く彼女を退かす為に小脇に抱える。野郎は抱える気ないので、蹴り飛ばす。既に気絶していたので罪悪感とか欠片もありません。

 

「無茶し過ぎだ。死んだらどうする気だ!!」

 

「で、でも見捨てられません!!」

 

「俺よりお人好しな人間なんているもんだ、な!!」

 

「きゃあ!?」

 

 後ろから迫る蝙蝠に対して俺が行ったのは凄く簡単。先ず最初にその場で止まり、抱えていた少女を出来るだけ優しく放り投げ、振り向きながら引き抜いた大橙丸で迫っていた蝙蝠の顔を斬りつける。悲鳴と血飛沫を上げて、仰け反る蝙蝠に対して俺は走る。

 

「時間は掛けねえ。直ぐに終わらせる!!」

 

【オレンジスカッシュ!!】

 

 仰け反った蝙蝠の身体を掛け上がり、大橙丸を大上段に構える。

 

「セイヤー!!!!」

 

 全力で叫びながら大橙丸でガストレアを両断する。

 

「これで終わり……なわけないか」

 

 そう呟く視線の先。先程腕を喰いちぎられた筈の男性が立ち上がり、痙攣している。

 

「他にはいないな」

 

 俺は周りを確認する。人の原形を留めない死体があるだけで他にはなし。周囲の確認を終えて向き直れば男性は身体の半分を膨張させて既に人の姿を捨てている。

 

「因果応報ってのは少し可哀想か。ま、直ぐに終わらせてやるのが慈悲って奴なのかな」

 

【オレンジスカッシュ!!】

 

 大橙丸を仕舞い、跳び上がる。同時に俺と男性の間にオレンジの断面が現れる。

 

「セイヤー!!!」

 

 そのオレンジを蹴り抜きながら加速した俺は蝙蝠になりかけた男性を蹴り飛ばす。男性は遠くに吹き飛び、地面に激突すると同時に爆発を起こした。

 

「終わったな」

 

 変身を解除して少女の方へ向かう。どうやら怪我は無い様だ。

 

「さっきは投げて悪かった。怪我とかは?」

 

「あ、大丈夫です。あの子は?」

 

「あぁ、あの子ならっ!?」

 

 いきなり後ろから抱きつかれる。

 

「お兄ちゃん、凄いね!!」

 

 先程の女の子だ。キラキラした目で俺を見ている。

 

「アナタは一体?」

 

「それは俺も知りたいよ」

 

 反射的にそう告げると、彼女はハッと自分の口元に手を当てる。

 

「すみません、デリカシーの無い事を聞いてしまって」

 

「え?あ、あぁ、いや気にするな。誰だって気になるモノはあるし。俺は気にしてないから」

 

 慌ててそうフォローする。どうやら彼女は俺の事を勘違いしている様だ。

 

(とはいえ、どう説明しようか。転生しましただの。貴女達は創作物なのですとか正気を疑われるからな)

 

 う~ん、と内心首を捻っていると何処からかローター音が聞こえた。

 

「ん?」

 

「あ……」

 

 見上げればヘリコプターが降りてきている。そして目の前に降りたヘリコプターから数人の武装した男がガタガタとやってくる。

 

「御無事ですか、聖天子様!!」

 

 その中の一人が少女に向かってそう叫ぶ。うん?今、聖天子って言った?少女に声を掛けようとした瞬間、地面に抑えつけられる。同時に右腕も捻られる。一応、ロックシードは左手に持っているので、落としてはいないが。

 

「痛ってえな!!」

 

「黙ってろ。隊長、この男はどうします?」

 

「大方、ガストレア襲撃から生き残ったのだろう。だが、何故こんな外周区にいたのか気になる。拘束しろ」

 

 これはヤバいのでは?

 

「お止めなさい!!」

 

 凛とした声が響く。その声はヘリのローター音が響いていても聞こえるほどによく通る声だった。

 

「その人は私をガストレアから救った命の恩人です。直ぐに彼を解放しなさい!!」

 

「は、はい!!」

 

 俺を抑えつけていた男はすぐさま、俺から離れる。俺は立ち上がって服に付いた埃を祓う。

 

「済みません、恩人の貴方にこんな仕打ちを……」

 

「いや、見ず知らずの男が近くにいたら誰だって怪しいだろう?少し強引過ぎるけど、まぁ、コイツ等は間違ってないさ」

 

 これで、その見下した眼が無けりゃ及第点なんだがな~。

 

「あの、助けてくれたお礼をしたいのですが」

 

「お礼……?いや、別に……」

 

 グラ、と視線がブレる。二回の変身と戦闘でコレか、前途多難だ。そう思った時にはもう俺は地面に向かって倒れていた。

 




読んで頂き、ありがとうございます。投稿者のキランです。この小説はブラック・ブレットで仮面ライダーとのクロスが見当たらず、無ければ書けばいいじゃないかという殆どノリで書き始めた作品です。しかし、途中で投げ出す気はありませんので、暖かい目で見ていただければ幸いです。

次回の転生者の花道は……

「貴様が変わったあの姿。そして貴様が現れてから都合よく現れたガストレア。偶然とは考えにくい」

「貴方のあの力を借りたいのです」

「さぁ!!此処がワテクシの城!!その名も【シャルモン】!!さぁ、遠慮せずお入りなさい!!」

 転生した少年は何を考え、そして何を想うのか


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第二話 記憶喪失 契約

 眼を覚ませば、白い天井。薬品の臭いが鼻腔を擽る。風に揺れる清潔そうなカーテンを見て、此処が医療関係の一室なのが、分かる。

 

「生きてるんだよな……?」

 

 誰に告げる訳もなく、俺は呟く。取り敢えず、起きるか。そう思って身体を起こそうとしたが、左腕が妙に重い。

 

「スゥ……」

 

 何とも平和そうに俺の左腕を枕に寝ている女の子が見えた。

 

「どうするよ?」

 

 そう呟いた時、扉が静かに開かれ、そこから一人の少女が現れた。

 

「あ……気が付かれましたか?」

 

「ん?あぁ、今さっきね」

 

 そういって、なんとか女の子を起こさないように起きようとしたが。

 

「そのまま、寝ていて構いません。先生の話では特に異常は無いと言っていましたが、今は寝ていてください」

 

 慌てて、駆け寄った少女に手で抑えられる。心配されているのでそのまま横になる。窓からの風がとても気持ちいい。

 

「俺って、どらくらい寝てた?」

 

「丸一日ですね。先生が言うには極度の過労だそうです」

 

 成る程。仮面ライダーになるのも楽じゃないようだ。

 

「それで、君の事なんだけど」

 

「う~ん……?」

 

 俺がそう聞くと寝ていた女の子が起きる。眠そうに瞼を何度か擦り。

 

「あ、お兄ちゃん。起きたの!!」

 

「あぁ、今さっきね」

 

 そういって、離れた女の子のお陰で上半身だけ起こす。

 

「話を戻すけど、やっぱり、君は」

 

「はい、私は聖天子。この東京エリアの最高責任者です」

 

 そう告げた少女は確かに原作の挿絵に描かれた聖天子だ。間違いはないだろう。

 

「けど、なんでそんな人が護衛の一人も付けないで、あんな所に?」

 

「昨日は偶然取れた休日でして……お忍びで街を探索していたのですが」

 

 そういって、彼女の隣に座る女の子の頭を撫でる。それで、納得する。

 

「成る程ね。それで連れ去られたその子を追って止めようとしたらあぁなったと」

 

「はい、本当は正体を隠さないほうが穏便に済むのですが。私は色々と利用価値があるので」

 

「まぁ、それは仕方ないな。有名税って奴だ」

 

 苦笑して告げる。

 

「それで貴方の事なんですが」

 

「ん?あぁ、俺か」

 

「はい、恩人の名前を聞いていないので」

 

 恩人か。改めて言われるとむず痒いな。けど、名前か。転生した以上、昔の名前を捨てる。そんな、薄情な事はできない。けど、偶然か、俺の名前は鎧武の主人公と同じだったりする。だから悪いけど、苗字も借りよう。

 

「……コウタ。俺は葛葉コウタだ」

 

「コウタさん……」

 

 噛みしめるように呟いた聖天子は居住まいを正し、背筋を伸ばして俺を真っ直ぐ見つめる。

 

「昨日は私の命を助けていただき有難うございました。その、本来ならば私の命を救ったお礼をしたいのですが」

 

「気にしなくていいさ。昨日はお忍びだったんだろ?だったら俺が助けた事は公にしない方がアンタの為だ」

 

「済みません」

 

 謝る必要なんて無いのだが。だが、それが彼女なのだろう。

 

「貴女が謝る必要はありません」

 

 そう高圧的な声が扉から聞こえる。そこに視線を向ければ数人の男が立っていた。

 

「貴方達、外で待っている様に命じた筈ですが?」

 

「失礼。聖天子様にそこの男の素性が分かったので、お知らせをと思いまして」

 

 そういって、男は俺の前にやってくる。

 

「聖天子様の指示に従い、この男の指紋及び、毛髪からのDNA鑑定を行いました。結果はエラー。この男は東京エリアどころか、他のエリアの住民登録データに存在しない人間という事になります」

 

「なっ!?」

 

 聖天子が絶句するが、俺は特に驚かない。そもそも俺自体がイレギュラーなのだ。これくらいは当然だろう。もしこれで、戸籍何かがちゃんとあったならば逆に驚く。

 

「貴様は何者だ?」

 

「葛葉コウタだけど?」

 

「ふざけているのか?」

 

「コッチは至って真面目だ。名前以外覚えていないんでね」

 

「記憶喪失だとでも?」

 

 訝しむような視線が俺に集中する。

 

「きおくそうしつってなに?」

 

 そんな中、女の子が声を上げる。男は女の子を一瞥すると舌打ちして。

 

「摘まみ出せ」

 

「おいおい、子供の質問には答えるのが年長者の役目だろう?随分と余裕のない奴だな」

 

 ため息を吐きつつ告げれば睨まれる。

 

「ねぇ、きおくそうしつってな~に~?」

 

「何も覚えてない事だよ。俺は名前以外、両親の顔も覚えていないんだ」

 

「なら、コウタはボクと一緒!!ボクも色々忘れて覚えてないよ」

 

「そうか、なら君と俺は仲間だな」

 

「仲間~♪あ、でも、大事な事は覚えてるから仲間じゃないのかな?」

 

 うん、子供は無邪気で和む。

 

「我々はお前を危険視している」

 

 そう男が告げる。さて、危険視とは仮面ライダーの事だろうか?

 

「貴様が変わったあの姿。そして貴様が現れてから都合よく現れたガストレア。偶然とは考えにくい」

 

「おいおい、随分と都合の良い妄想だな。アンタ達は俺がガストレアを連れて来たとでも?」

 

「可能性の話だ」

 

「その眼で?俺を犯人に仕立てる気満々じゃん」

 

 というか、コイツ等もしかして聖天子を護衛出来なかった責任から俺を利用して逃げる気か?まぁ、記憶喪失でしかも戸籍が無い人間だからどうとでも出来るし。

 

「可能性の話だ!!」

 

「本音は俺みたいに素性が分からない奴がアンタ達の仕事を奪ったのが気に入らないんだろ?」

 

「っ!?これ以上の会話は別所で行う!!」

 

「待ちなさい!!」

 

 このまま、俺を連行しようとする連中を聖天子が止める。その表情には明らかに怒りが含まれている。

 

「貴方達は何の権限があって私の恩人を犯罪者のように扱うのですか?」

 

「せ、聖天子様!?しかし、コイツは戸籍もない人間で……」

 

「戸籍が無い人間など、今の時代では珍しいのですか?」

 

 あぁ、そっか。この世界って十年位前にガストレアとの戦争で大打撃受けたんだっけ。その所為で、戸籍関連も有耶無耶になっているのか。

 

「そ、それは……」

 

 俺の推測が正しいのか、男が口ごもる。それだけならいいが、何故か俺を親の仇のように睨む。

 

「彼の今後は私が請け負います。貴方達は今後一切、彼に干渉しないように」

 

「しかし、聖天子様!?」

 

「私に同じ事を二度言わせるのですか?」

 

「……承知しました」

 

 そういって、男達は静かに立ち去る。ソレを見送った聖天子がほう、と息を吐く。

 

「緊張しました。あのように声を荒げたのは初めてでしたから」

 

「いや、結構凄かったよ。それに助かった。あそこで君が助けてくれなかったら今頃、牢屋か土の下の筈だし」

 

「済みません。彼等も私の事を想っての事でしょうし」

 

「いや、俺には自分の保身に走っている様に見えたけど。まぁ、それはいいさ。けど、あんな事言ってよかったの?組織のトップが一個人の為に力を使うのは拙いんじゃない」

 

 俺の言葉に彼女は少し困ったような笑みを浮かべて。

 

「私は純粋に貴方に恩を返したいだけなんです。ですけど、私に出来る事は貴方に戸籍と住民票。そして住居を与えるだけ」

 

「私に、か。つまり、君達は条件さえ揃えば俺の面倒を見てくれると?」

 

 何か引っかかったのでそう聞くと、彼女は俯き。

 

「はい、大変厚かましい事なのですが、貴方の【あの力】を借りたいのです」

 

 やはり、と思う。まぁ、仮面ライダーの力は確かに強力だ。戦力として欲しいのは仕方ないだろう。

 

「構わないよ」

 

「え?」

 

 俺の言葉に聖天子が目を見開く。

 

「けど、条件があるんだけど」

 

「は、はい!!どんな条件でしょうか?」

 

 俺は先ず、居住まいを正し、聖天子と正面から向き合う。彼女も同じように俺を見る。

 

「先ずは俺の他に彼女、えっと……?」

 

「ボク?ボクはレヴィだよ」

 

「レヴィも一緒に暮らせる場所を提供してほしい」

 

「それなら最初からそのつもりです」

 

「なら、次だ。俺の力は君の依頼と俺の意志のみで使う。だから例え、君からの依頼でも君の言葉からじゃないと俺は動かない。それと、報酬も出してくれると嬉しいかな」

 

 これは彼女の人柄を信用しての保険だ。無いとは思うが、私利私欲で俺の力を使う輩は素人の俺には見分けが付かない。報酬は二の次だが、やはり先立つモノがあるならあった方が良い。

 

「分かりました。ですが、その条件だと。コウタさんは私の私兵として動く事になるのですが?」

 

「別にいいさ。それにその方が君も俺の動向とか監視しやすいだろ?」

 

「……はい、御免なさい」

 

「別に謝んなくていいんだって。俺だって記憶喪失で戸籍ない奴は怪しいと思うんだから」

 

 そう言って、ため息を吐いた後、俺は右手を差し出す。

 

「俺が出す条件はコレで全部だ。問題ないなら契約といこう」

 

 そういって、笑うと彼女も小さく笑い、俺の手を握る。思った以上に小さくて、けれど力強い手だ。

 

「では、葛葉コウタさん。東京エリアの為に共に頑張りましょう」

 

「あぁ、宜しく。聖天子様」

 

 そう告げた後、握手の上にもう一人の手が乗せられる。俺と聖天子がそこに目を向けると。

 

「ボクもこれからよろしく~♪」

 

 楽しそうなレヴィの顔があり、俺達は同時に噴き出して笑う。そして同時に俺の腹が鳴る。

 

「あ、いや~、腹減ったな」

 

 格好付かねえな。と俺は内心で、腹を叱る。聖天子はクスクスと笑い。

 

「では、詳しい話は食事の後にでもしましょうか」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 私は目の前に置かれている素敵なパフェの一角をスプーンで崩し、一口食べる。後に残らないクリームの甘みと果実の甘みが口の中で合わさり、身体の奥底から幸福感がこみ上げる。

 

「美味しいです。凰蓮さん」

 

「ふふ、いい顔してるじゃない。ガストレアに襲われたって聞いた時はハラハラしたけど、いいリフレッシュになったかしら」

 

「はい、とても」

 

 目の前には鍛えられた肉体にスキンヘッド、そしてバサバサの付け睫毛と一見、近寄りがたい雰囲気の男性が何処か暖かな笑みでそう聞いてきた。そう、今日の外出はこの人、私の専属パティシエである凰蓮・ピエール・アルフォンゾさんの言葉が原因だった。

 

「それにしても、予想以上に良い顔してるわね。もしかして男でも見付けたの?」

 

「っ!?な、何を言っているんですか!!」

 

「ふふ、残念。今ので確定ね。さぁ!!キリキリ吐きなさい!!」

 

 ズイッと近付く彼女(彼?)に私は視線で助けを求める。けど、侍女の皆さんは視線を外している。けど、気になるのか。私達をチラチラと見ている。

 

「ワテクシの前でシラを切るなんていい度胸ね!」

 

「シラを切るなんて、とんでもない。私とコウタさんはそんな関係じゃ……あっ」

 

「ふ~ん、コウタ君ね。さぁ、その調子で行きましょうか」

 

 とてもイイ笑顔で先を促されてはもう、隠し通せない。やはり、凰蓮さんには敵いません。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁるほど。吊り橋効果って奴ね~」

 

「いえ、別に私はコウタさんにそういう感情は……」

 

「でも、貴女。コウタ君の事を話している間、ずっとニヤニヤしていたけど?」

 

「えっ!?」

 

「冗談よ。分かりやすい子ね、ホントに」

 

 そういって、クスクスと笑う凰蓮さんに私はカァッと顔が熱くなった。

 

「まぁ、でも。良かったじゃない。私以外でも貴女を支えられそうな子が出来て」

 

「そう思いたいです」

 

 コウタさんに支えてもらう。何故か、そう思うと胸が温かくなるのは不思議です。

 

「フフ、吊り橋もあるけど、コウタ君は聖天子の理想の王子様に近かったようね。そうじゃなければ、一目惚れなんて難しいもの」

 

「で、ですから!!私は別に」

 

「あぁ、はいはい。そうね、そういう事にしておきましょうか」

 

 やっぱり苦手です。

 

「あぁ、そうだ。折角だし、コウタ君とレヴィちゃんだっけ?二人とも、ワテクシの店に居候させましょうか?」

 

「え?……確かに凰蓮さんなら信用できますが、大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫に決まってるでしょ?ワテクシを誰だと思っているの?」

 

 自信満々に告げられた言葉に苦笑する。

 

「それならお願いしてもいいですか?この後、彼と会うので、その時に自己紹介を済ませるということで」

 

「分かったわ。それじゃ、貴女の王子様に会うためにお色直しをしなくちゃ」

 

「お、凰蓮さん!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「さぁ!!此処がワテクシの城!!その名も【シャルモン】!!遠慮せずお入りなさい!!」

 

「おぉ、コウタ!!なんか、凄いぞ!!」

 

「あ、あぁそうだな」

 

 レヴィのハイテンションもそうだが、俺が一番驚いているのは目の前で楽しそうな笑顔を浮かべているオカマ。もといこの【シャルモン】の店主兼聖天子の専属パティシエだという凰蓮・ピエール・アルフォンゾだ。まさか、本物(?)に会えるとは思わなかった。

 

「うわ、美味しそうない~匂い」

 

 スンスンと鼻を鳴らすレヴィに苦笑する。確かにとても良い匂いだ。

 

「フフ、これから住むアナタ達にプレゼントがあるわ。少し待っててね」

 

 そういって、凰蓮は厨房に入っていく。流石に立っているのは変なので、レヴィを連れて、厨房近くに座る。

 

「ねぇ、此処ってお料理屋さんかな?」

 

「いや、この甘い匂いは多分、ケーキ屋とかデザート専門の店だろう」

 

「C'est vrai.」

 

 背後からそんな声が聞こえる。振り返った俺の視界を二つのケーキが遮る。

 

「此処はワテクシが辛いパティシエ修行の後に建てた至高の店!!さぁ、好きなほうを選びなさい」

 

「ボクこっち♪」

 

 嬉しそうに二つのうち、一つを取ったレヴィに続いて俺もケーキを取る。

 

「きれ~♪」

 

「確かに。このままにして写真でも撮りたいな」

 

「忌憚なき意見ありがとう。でも、作り手はお客に食べて欲しくて作っているわ。だからBon appétit!」

 

 だから、遠慮せず食べなさい。そう視線で語る凰蓮に頷き、俺とレヴィはフォークでケーキを一切れ、掬って口に運ぶ。

 

「美味しい~!!」

 

「美味い……」

 

「Merci 気に入ってくれたみたいね。さて、今日からアナタ達を此処に住まわせるのだけど。コウタ君、君料理は?」

 

「ある程度は出来ますけど」

 

「そう、じゃあ、アナタは我が家の炊事、洗濯、掃除を一手に引き受けて貰いましょうか」

 

 その言葉に思わず、紅茶を噴出しかけたが、よく考えれば当然だ。俺は凰蓮さんに住居を与えてもらう側、凰蓮さんは与える側。そしてもう一人はまだ子供のレヴィ。ならば、総てを引き受けるのは当然だろう。

 

「分かりました。レヴィはどう―――」

 

「ししょう!!ボクにケーキを教えて!!」

 

 俺の言葉を遮るように叫んだのは既にケーキを完食し、瞳をキラキラさせたレヴィだ。

 

「あら、憧れてくれるのは嬉しいけど、生半可な気持ちじゃ教えられないわ」

 

「ボクもこんな美味しいケーキ作ってみたい!!」

 

 ズイッと身を乗り出すレヴィに凰蓮は急に真剣な表情を作る。

 

「レヴィちゃん。料理っていうのはね。誰かに食べてもらう為にするものなの。貴女は理解していて?」

 

 その真剣な表情と口調にレヴィは一瞬、怯んだ後、直ぐに顔を上げる。

 

「ボク、美味しいケーキ作って他の皆に食べてもらうんだ」

 

「他の皆?」

 

「ボク、マンホールの下に住んでたんだ。それでさ、外を見たくて飛び出してそれ以来、帰ってないんだ」

 

 だから、と彼女は続ける。

 

「美味しいケーキ作って皆を驚かせたいんだ」

 

 そういった直後、レヴィの頭を凰蓮が撫でる。その顔はとても優しい表情だった。

 

「成る程、その思いは合格よ。けど、その思いが何処まで続くかしら?」

 

 そういって、凰蓮は立ち上がり、ビシッとレヴィに指を突きつける。

 

「先ずは一週間!!アナタにパティシエのいろはを叩き込むわ!!泣き言も弱音も受け付けないわよ!!それでもやる覚悟はあるかしら?」

 

「勿論!!」

 

「結構、では基本的な事を教えましょう。分からない事があれば直ぐに聞きなさい。分からないで終わらせないようにね」

 

「分かった、ししょう!!」

 

「店長!!とお呼びなさい!!」

 

 なんだか、大変なことになった気がした。ふと、レヴィが思い出したように俺を見た。

 

「ねぇ、コウタ。あの時のオレンジって奴できる?」

 

「いきなり、どうした?」

 

 俺の言葉にレヴィは腕を組んで。

 

「ボクの最初のケーキをソレにしたいんだ。友達にね、オレンジが好きな子がいるから」

 

「あらあら、もう一人前気取りなんて余裕じゃない。言っておくけど、ワテクシの特訓はキツイわよ?」

 

「望むところだよ」

 

 そういって、笑い会う師弟に苦笑しながら俺は立ち上がって二人から離れる。

 

「んじゃ、レヴィの注文だからやるかな」

 

「やった~♪」

 

 コイツ、もしかして変身が見たいだけなんじゃ。そう思いながら俺はベルトを巻き、オレンジのロックシードを構える。

 

【オレンジ!!】

 

 俺の頭上にクラックが円を描き、空間が剥がれると巨大なオレンジが現れる。

 

「変身!!」

 

【ロック・オン】

 

 法螺貝が店内を響き渡る。レヴィはワクワクとした表情で、何故か凰蓮は真剣な表情でこっちを見ている。その視線を不思議に思いながら俺は変身する。

 

【ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!!】

 

 変身を終えた俺に対してレヴィは嬉しそうにはしゃぐ。だが、対する凰蓮はといえば。

 

「très bien!!!」

 

 そう叫んだ。

 

「なんて、斬新なデザイン!!果物を使ったその発想!!素晴らしいわ。ちょっと待ってて。そのまま動いちゃ駄目よ!!」

 

 そういうと、凰蓮はスケッチブックを開いて一心不乱にデッサンを始める。

 

「あぁ、凄い!!これまでにないアイディアが浮かんでくるわ!!何てことでしょう!!聖天子だけでなく、私にまでこんな祝福をしてくれるなんて!!何してるの、ほらポーズ取りなさい!!」

 

「え!?あ、あぁ。こうか?」

 

 大橙丸を肩に担いで、見得を切れば、凰蓮が歓喜の声を上げる。

 

「他には!?ほら、決めポーズといったら決め台詞でしょう?」

 

 何だろう、この異様なテンションは。催促する凰蓮の横ではキラキラした瞳のレヴィが期待している。ヒーローショーって、こんな感じなんだな。

 

「ここからは俺たちのステージだァッ!!!!」

 

「おぉ、格好いい!!」

 

「très bien!!!!」

 

 そんなこんなで俺はその日一日。凰蓮がデザインを固めるまで変身を強いられていた。

 




第二話投稿完了!!というわけで、聖天子との出会いと鎧武でお馴染のデンジャラスさんの登場です。凰蓮は仮面ライダーのオカマキャラで二番目に好きなキャラなので、初めの段階からこの組み合わせは考えてました。え?一番は誰だって?ほら、あのLUNAの人ですよ。
次回の投稿ですが、作者は基本的に一話分のストックを貯めるので、投稿にバラつきがあります。ご了承ください。まぁ、既に四話まではストックしているので、速めに投稿できるでしょうけど。あぁ、それと、原作開始まではもう二、三話挟むので、そのつもりでいてください。


次回の転生者の花道は……



「ガストレアの調査?」


「コウタさんには護衛隊が一枚岩ではないことを知って欲しいのです」


「貴様が神だろうと悪魔だろうと関係ない!!目の前に力があるのならば俺に迷いはない。俺は俺の信念の為にこの力を振るう!!」


「バナナ?バナナ!?バナナァ!?」


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第三話 初仕事 親衛隊

投稿です。今回の話でオリキャラ、というかクロスキャラを出します。まぁ、予告で既にバレバレなんですけどね


「ガストレアが出たって、こんな場所でか?」

 

 俺は周囲で遊ぶ子供たちとソレを見守る大人たちがいる公園と外回りだろう、サラリーマンが行き交う道路の真ん中で呟く。

 

「ソレを確認するのが、私たちの役目だ」

 

 そういって、後ろから声を掛けたのは俺より年上の青年。その後ろには同い年くらいの少年がいる。

 

「聖天子様の聖室護衛隊、実働部隊隊長の呉島貴虎だ」

 

「隊長補佐の駆紋戒斗だ」

 

「葛葉コウタだ。ていうか、実働部隊って二人だけなのか?」

 

 素朴な疑問を告げれば呉島さんは苦笑して頬を掻き、戒斗は明らかに不機嫌となって歩き出してしまう。

 

「あ、おい?」

 

「俺たちの仕事はガストレアがいるかどうかだ。喋っている暇はない」

 

 そういって、ガストレアを探し出す機械を弄り始める。

 

「済まない。戒斗も悪気があったわけじゃないんだ」

 

 呉島さんが小さく告げてくるが、俺は首を横に振る。

 

「いや、きっと俺の所為だろうな。依頼されたときに言われた言葉を思い出したよ」

 

「まぁな。護衛隊長率いる本隊は皆エリート組みだ。私や戒斗は他の部署や職場から引き抜かれて護衛隊になったが」

 

「成る程ね。エリートの奴らが一方的に嫌っていると」

 

「あぁ、アイツ等は事務仕事が優秀なのはいいが、戦闘経験は素人に毛が生えた程度でな。だが、エリート意識が強い所為で、私たちは格下扱い。この任務も私たちが聖天子様から直々に任命された事が気に食わないようだ」

 

「ま、それをチャンスと見ているアイツは凄いよ」

 

 そういって、俺は呉島さんを見て、頷く。

 

「それじゃ、始めましょうか。このまま何もしないってのは格好悪いですし」

 

「その意気だ」

 

 お互いに笑みを浮かべて俺たちは戒斗の両隣に移動して手伝う。

 

「なぁ、ガストレアが出た場合なんだけどさ」

 

「俺たちも戦う。元々俺たちはその為の部隊だからな」

 

 そういって、掲げるのは小型の槍だ。隣の呉島さんも銃の確認を行っている。

 

「心強いな」

 

 俺がそういうと、戒斗が小さく笑みを浮かべ。

 

「お前の出番はないかもな。鎧武者」

 

 そういって、歩き始める。ていうか、今変な単語が聞こえたんだが。

 

「待った、鎧武者って俺のことか!?」

 

「当たり前だろう?お前の資料を見たが、それがピッタリだ」

 

「せめて、もう少し格好いい名前にしねえか?ほら、子供たちが覚え易いようなさ」

 

 俺はそう文句を言いながら二人の後を歩き始める。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ガストレアの調査?」

 

「はい、ここ最近、市街地でガストレアを見たという報告があるのです」

 

 その日、凰蓮さん経由で聖天子に呼ばれた俺はそんな依頼を頼まれた。

 

「報告だけなのか?被害は?」

 

「それが不思議なんですが、目撃情報だけで被害については全く無いんです」

 

「【呪われた子供たち】の線は?」

 

「信頼できる部下に確認させましたが。違いました」

 

「もし、ガストレアだったら変だな」

 

「えぇ、妙です」

 

 凰蓮さんの店に居候してから三日。ネットや図書館で調べた情報を思い出しながら俺は呟く。

 

「通常、ガストレアは本能で動き、人間を見ると、捕食又はガストレアウイルスを注入して数を増やすんだよな?」

 

「えぇ、その通りです。ですが、襲われた人もいなければ【感染爆発】の報告もありません。正直、誤報だと信じたいですが」

 

「決め付けるには情報が足りなさ過ぎるか。そこで、俺の出番か」

 

 そう俺が告げると聖天子は申し訳無さそうに俯く。

 

「すみません。私自身の権限で動かせる人員は限られていますし。民警に依頼したほうがいいでしょうが」

 

「まぁ、対処できるなら身近な人間のほうが信頼できるわな。それに民警に頼んで、失敗したら大きな損失だ」

 

 そういうと、彼女は小さく頷く。

 

「まぁ、頼られて悪い気はしないさ。調査は俺だけなのか?」

 

「いえ、貴方の補佐として聖室護衛隊を動員します」

 

「アイツ等か……」

 

 あの人を見下しきった偏見の塊のような奴ら。ソイツ等と一緒に仕事というだけで気が滅入る。

 

「あ、いえ。今回同行するのは実働部隊の方なんです」

 

「実働部隊……?」

 

「はい、そのコウタさんには護衛隊が一枚岩ではないことを知って欲しいのです」

 

「……そんな身内の話を俺にしていいのか?」

 

「コウタさんは信用できますから」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「目撃情報はこの近くだ」

 

 依頼当時の事を思い出していると目的地に着いたようだ。軽く見回すが、路地裏が近いだけで特に変わったところは見当たらない。

 

「ガストレアの反応は無しか?」

 

「地下に隠れてるとかは?」

 

「推測としては悪くない。だが、地下に隠れようとしてもガストレアの体長は数メートル。そんな大きさの怪物がどうやって地下に潜る?」

 

 俺の推測を戒斗が否定する。

 

「いや、否定するのは早い」

 

 呉島さんがそう告げる。彼は工事に使う看板を叩く。

 

「見ろ。地下水道の拡張工事だ。現場が近い」

 

「大きさは?」

 

「普通ダンプトラックが余裕で入れる大きさだ。行ってみる価値はある」

 

 そう言った呉島さんに俺たちは顔を見合わせて頷く。

 

「行くぞ」

 

 呉島さんの言葉に俺達は走り出す。だが、一瞬、視線を感じた俺は周囲を見回す。

 

「おい、何してる?」

 

「何か気になる事でもあったのか?」

 

 前を走っていた二人が聞いてくるが、視線らしき気配は消えていた。その事に俺は首を傾げながら。

 

「いや、多分勘違いだ。今行く」

 

 

 

 

 

「ヒヒヒ、この距離で勘付くとは中々素質があるのかな?」

 

「でも、弱そうだよ。あの人たち」

 

 コウタ達から1km程離れた所に立つビルの屋上で燕尾服にシルクハット。顔にはマスケラと舞踏会にでも出るのか、と思う程の姿の人物とその隣にはヒラヒラと可愛らしい衣装の少女が会話していた。

 

「こらこら、人を見た目で判断すると痛い目に遭うのだよ?覚えておきなさい」

 

「はぁい♪」

 

「さて、どうやらあの三人は例の場所に行くようだ。フフ、意外と察しが良いじゃないか。だが、君達でアレは対処できるのかな?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「おぉ、デカイな」

 

 工事現場の入り口。巨大なトンネルの前で俺が呟く。

 

「どうやら先客がいるようだ」

 

 トンネルの入り口で屈んでいた呉島さんがそう呟く。

 

「民警ですか?」

 

「恐らくな。靴跡は三人分、内二つは子供用だな。子供の肝試しに大人が付いて行く事は先ずないだろう。なら民警だな」

 

「ガキ共を戦わせて、大人は高みの見物か。気に入らないな」

 

 呉島さんの推測に戒斗が吐き捨てる。

 

「だが、此処で立ち止まっていても事態は変わらん。用心は怠るな」

 

「協力は出来ないんですかね?」

 

 そう俺が聞くと、呉島さんは首を横に振る。

 

「難しいな。君も知っている通り、IP序列優先で此方を妨害する輩かもしれない。それに俺達は聖室護衛隊。聖天子に個人的なパイプが欲しい企業は幾らでもいる」

 

「戦闘は避けられないか」

 

「誰であろうと邪魔するなら倒すまでだ」

 

 そういって、戒斗が歩き出す。俺も顔を上げて歩き出す。

 

 

 

 

 

「それにしても、此処って工事現場ですよね?人がいないのはどうなんでしょうか……?」

 

「二週間ほど前、此処で行方不明者が出たらしい。それ以来、原因究明として工事現場は封鎖しているようだ」

 

 トンネル内を歩きながら俺が呟くと呉島さんが懐中電灯で先を照らしながら答えてくれた。

 

「封鎖?その割にはそういった人はいませんけど」

 

「封鎖は建前だろう。言ったはいいが、そこに割ける人員も費用も出せず、政府にも報告はしなかった。聖天子様もこの事件がなければ封鎖の事も知る事はなかっただろうしな」

 

 何と言うか、嫌な現実を教えられた。

 

「それにしても、この臭い……」

 

 先程から鼻腔を刺激するこの臭いは。

 

「糞尿と……血、そしてナニカが腐った臭いだな」

 

「どうやらビンゴの様だ」

 

 俺の言葉に戒斗が顔を歪めて呟くと、懐中電灯を斜め上へ掲げた呉島さんが引き攣った顔でそう告げる。俺と戒斗も同じように顔を上げれば。

 

「っ!?」

 

 巨大な口があった。いや、穴と言うべきか。巨大な穴がゆっくりと広がり、閉じている。そしてそこから生温かい腐臭が定期的に吐き出され、粘着性のある液体が俺達の足下に落ちる。

 

「こっちに気付いていると思います?」

 

「まだ、の様だな。恐らくは条件がある筈だ。音と光は除外していいだろう」

 

「アレは芋虫……なのか?」

 

「全体像を見ないとどうにもな。だが、こんなガストレアがいるんですか?」

 

 ゆっくりと後退しながら俺達は言葉を交わす。

 

「分からん。だが、ガストレアは理論上、全ての動植物のDNAを内包する化け物だ。ならば、そういった物に進化する物もいるのだろう」

 

 ある程度の距離を取り、俺達は一度、大きく息を吐く。

 

「あぁ、くそ。落ち付いたら臭いが鼻に付くな」

 

「煩いぞ、皆同じなんだこれぐらい我慢しろ」

 

「臭い……?いや、まさかな」

 

 俺達の会話に呉島さんが呟く。ふと、視界の端でナニカが動いたのに気付く。俺は慌ててベルトを装着して何時でも変身できるようにロックシードを取り出す。

 

「どうした?」

 

 呉島さんの声に俺はジェスチャーで屈むように指示した。思いの外、二人とも素直に応じてくれた。俺はゆっくりとソレに近づく。

 

(段ボール……?)

 

 暗闇に慣れた目は目の前のソレが積まれた段ボールだと分かる。俺はゆっくりと段ボールを剥ぎ取る。どうやら幾つもの段ボールを重ねていたようだ。

 

「ひっ!?」

 

「あっ……!?」

 

 そこにいたのは双子なのか、瓜二つの女の子だ。質素な服を着て、腰には大きな鉈とリボルバー1丁。とてもじゃないが、ガストレア相手には分が悪過ぎる。

 

「た……助けて」

 

 恐怖に顔を歪ませた二人の女の子の内、サイドテールの子が消え入りそうな声で呟く。

 

「どうやらイニシエーターの様だな」

 

「だが、装備が軽すぎる。プロモーターは何を考えて……」

 

 後ろで呉島さんと戒斗が話しこんでいる中、俺はゆっくりと双子の頭を撫でる。

 

「良く頑張ったな。偉いぞ」

 

 小さく、それでも二人に聞こえるようにそう告げる。二人は俺の言葉に強張った表情を和らげる。

 

「取り敢えず、二人を保護だ。アレは後にしよう」

 

「あぁ、今の装備じゃアレには勝てない」

 

 二人の言葉に俺は頷き、後ろを振り向く。

 

「戒斗!!呉島さん!!!」

 

 俺の叫びに二人は同時に左右へ跳ぶ。瞬間、二人が居た位置に巨大でブヨブヨしたナニカが落ちる。

 

「嫌ぁぁっ!?」

 

「来ないでぇぇっ!?」

 

 その光景を見た双子が狂ったように泣き叫ぶ。

 

「コイツは!?」

 

「やはり、このガストレア。獲物を臭いで付き止めるのか!?コウタ、君はその子を連れて先に逃げるんだ!!戒斗は私と共にコウタの援護!!間違っても変な欲は出すな!!」

 

「「了解!!」」

 

 返事と共に泣き叫ぶ二人を小脇に抱えて、走り出す。背後で銃声が聞こえる。咄嗟に後ろを振り向いた俺が見たのは。

 

(マジかよ!?ミミズのガストレアだと!?)

 

 幾重の体節にマフラーの様に太くなった白い帯状が確認出来る。

 

「嫌、嫌嫌嫌イヤイヤイヤいやァッ!!」

 

「御免なさい、御免なさい、ゴメンナサイ、ゴめんナサい!!」

 

「おい、しっかりしろ!!」

 

 声を掛けても、二人は一向に大人しくならない。

 

(まぁ、当然か。あんな奴の近く、腐臭がして、しかも暗闇の最悪な環境だ。どれだけの時間いたのか知らないが、相当なストレスだったんだろうな)

 

 だからという訳ではないが、俺は走る速度を速めて、二人を落とさないように強く抱きしめる。

 

『■■■■■■■■ッ!!!!!!!!!!!!!』

 

 背後からトンネルのコンクリートに罅を入れながら形容しがたい声が聞こえる。その声に抱えていた二人が暴れ出す。同時にグラリとバランスが崩れる。

 

「マジか!?アイツ、声帯も持ってるのかよ!?」

 

 驚くと同時に囮の二人の事を思い出し、歯噛みする。離れていてこっちも三半規管を揺らされたんだ。最悪、二人ともショック死。良くても鼓膜が破れてる。

 

「糞!!」

 

 悪態を吐くと同時に外に出た。暗闇に慣れた目では昼の太陽は眩し過ぎる。

 

「いいか、二人とも。ここでジッとしてろよ!!」

 

 下ろした二人に半ば怒鳴りつけるように告げながら内心で自分の余裕の無さに舌打ちする。

 

【オレンジ!!】

 

「変身!!」

 

【ロック・オン!!】

 

 空にオレンジが出たが、俺は無視して走り出す。人二人を抱えて全力疾走した後で、また走り出した所為か、脇腹が痛いが、構っていられない。

 

【ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!!!】

 

「間に合ってくれ!!」

 

【メロン!!】

 

【バナナ!!】

 

 そう叫んだ瞬間、有り得ない音を聞いた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ミミズのガストレアとは恐れ入る」

 

 こちらに口を向け、退化したであろう窪んだ赤い瞳を見返しながら私は小さく呟く。

 

「ふん、殺し甲斐がありそうだ」

 

「目的を間違えるなよ、戒斗」

 

「分かっているさ。それで、あの双子をどう見る?」

 

「あの怯えよう。恐らくは目の前でプロモーターを喰われたんだろう。そして私達が来る間、あの段ボールで身を隠していた。息を殺し、恐怖に震えながらな」

 

「……今すぐ殺してやりたいな」

 

 静かに怒りを露わにする戒斗に何処か安心を感じつつ、違和感を覚える。

 

「先程の捕食行動から今までにマガジン一つ分、バラニウム弾を叩きこんだが、依然として動かないな」

 

「もう死んだんじゃないのか?」

 

「笑えない冗談だ。いいか?ミミズはあらゆる汚染物質に対して高い耐性を誇っている。そして奴がそのままミミズとしてDNAを引き継いでいるのならばバラニウムなど当の昔に克服している筈だ。それに奴の捕食方法は丸のみ。ならば、先に食われたプロモーターが所持していたバラニウム製の武装も奴の胃袋に入った筈だ」

 

「ハッ!!つまり手詰まりか」

 

 吐き捨てる戒斗に悔しいが同意する。私の推測が正しければ奴はバラニウムに対して強い耐性を持っている。もし、コイツがこんなノンビリとしたガストレアでなかったら今頃、東京エリアは終わっていた。

 

「ゆっくりと後退し、戻ってくるコウタと合流する。それまで刺激するなよ?」

 

「分かっている」

 

 戒斗の言葉を聞き、後ろに下がった時、背中から風が吹いた。

 

(外からか……?いや、これは!?)

 

「戒斗!!!耳を――――」

 

『■■■■■■■■ッ!!!!!!!!!!!!!』

 

 ソレは最早、音でなく衝撃となって俺達を吹き飛ばした。耳を塞いだかどうかは問題ではない。今の衝撃で確実にアバラが折れ、叩きつけられた拍子で臓器を傷付けたのだろう。吐き出したのはドス黒い血だった。

 

(これほどとは……戒斗は?)

 

 視線を巡らせれば壁際に蹲っている戒斗がいる。意識はあるようで、苦悶の顔を浮かべていた。そして視線を前へ巡らせればゆっくりと顔を近づけるミミズのガストレア。体は動かない。どれだけ力を入れ、その反動で激痛が奔ろうとも指が動かない。

 

(ここまで……なのか?光実……私は……)

 

 思い浮かべるのは戦争によって唯一残った幼い弟の笑顔だ。今度、アイツの勉強を見る約束をしていたのに。

 

(済まない、光実。約束は守れそうにない)

 

 だが、最後の瞬間までは屈しない。ソレは戒斗も同じだろう。視界の端で槍を杖代わりとして起き上がろうとしている。

 

(あぁ、そうだ。絶対に屈指はしない!!)

 

 強い決意を込めて、近付くガストレアを睨んだその時、声が聞こえた。

 

「いい覚悟だ。此処で死なすのは惜しいな」

 

 瞬間、時が停まった。比喩ではない。近づくガストレアも先程の雄叫びで罅が入り、そこから落ちるコンクリート片がその場で止まっている。そして私達の前には一人の男が立っていた。

 

「初めましてかな、人間」

 

 誰だ。そう問おうとした瞬間、血を吐く。吐血の量が明らかに多い。

 

「ふむ、やはり人間は脆いな。しかし、このまま死なす訳にはいかないか」

 

 そんな事を呟いた直後。身体を支配していた痛みと倦怠感が消える。

 

「なに……?」

 

「これで、マトモに話が出来るな。全く、脆い人間を直すのは苦ではないが、もう少し堅く創れないものかな。まぁ、そういう所が愛おしいと感じるのだろうが」

 

「貴様、何者だ」

 

 見れば戒斗もまた、傷が治ったのか、男に向かって声を放っている。

 

「ふむ、人間よ。その問いは今必要な問いかな?」

 

「なに?」

 

「今お前達が優先しなければならないのは私への質問かと聞いている」

 

 違う。今俺達が優先しなければならないのはガストレアの殲滅だ。だが、それでも男への興味は尽きない。

 

「しかし、人間とは面白い物だ。他の生物よりも脆く、弱々しいのに幼い同族には身を呈してまでも守ろうとする。己が血族でもないのに」

 

「それが人間というものだ」

 

「だが、逆にその幼い同族すらも手に掛ける。矛盾した生き物だな」

 

「何が言いたい?」

 

 やや苛立った戒斗が男の言葉を遮る様に強く問いかける。

 

「いや、何。私も考えたのだよ。この世界は既に滅亡へと片足を突っ込んでいる。今更、異分子を一つ放り込んだ所で世界は何も変わらない。ならば増やしてみようとな」

 

 そう呟いた途端、私と戒斗の前にバックルと錠前が現れた。

 

「これは……コウタが持っていた」

 

「成る程、あの少年はコウタと言うのか。まぁ、呼び名など私にはどうでもいいが」

 

「俺達に何をさせたい?」

 

「御自由に」

 

 男の言葉に私達は言葉を失くす。

 

「人とは選ぶ生き物だ。ならば、君達も選ぶがいい。力か死か」

 

 大仰に手を開いた男に私は彼の目的が分からない。

 

「お前は一体誰だ?」

 

「君達を救う神。または人類を滅亡へと付き落とす悪魔。好きな解釈を選びたまえ」

 

 彼の答えに私は益々分からなくなった。

 

「フン、貴様が神だろうと悪魔だろうと関係ない」

 

 そんな私の背から力強い言葉が聞こえる。

 

「目の前に力があるのならば俺に迷いはない。俺は俺の信念の為にこの力を振るう!!」

 

「ハレルヤ!!見事な覚悟だ、人間。その強靭な意志は力を授けるに相応しい」

 

(そうか。そうだったな、戒斗。お前は何時も真っ直ぐだ。その槍の様に)

 

 心の中で小さく笑いながら私はバックルを見る。そしてその奥に弟の光実の顔を見た。

 

(そうだ。私はこんな所で死ねない。アイツを一人ぼっちにする訳にはいかない)

 

「君はどうする?」

 

「決まっている」

 

 答え、私はバックルと錠前を手に取る。

 

「私は死ぬわけにはいかない。私には守らなければならない者がいる!!その為ならば、悪魔であろうと利用するまでだ!!」

 

「では、君達の健闘を祈ろうか。足掻くがいい人間よ。お前達が希望を捨てない限り、その生は眩き太陽の様に輝くだろう」

 

 その言葉を最後に時間が戻る。

 

「戒斗!!」

 

 叫び、後ろに跳ぶ。ミミズは突然の出来事に動きが止まっている。

 

「やるぞ……」

 

「あぁ……」

 

 バックルを腰に当てる。同時にベルトが巻かれる。私達は錠前、ロックシードを掲げる。

 

【メロン!!】

 

【バナナ!!】

 

「「変身!!」」

 

【ロック・オン】

 

 法螺貝の響きと洋風のファンファーレが鳴り響くと私にメロン、隣の戒斗にバナンが降りる。

 

【ソイヤッ!!メロンアームズ!!天・下・御免!!】

 

【カモンッ!!バナナアームズ!!Knight of Spear!!】

 

「バナナ?バナナ!?バナナァ!?」

 

「バナナじゃない!!バロンだ!!!」

 

 後ろの声に振り向けば既に変身を終えたコウタが立っていた。

 

「ふ、二人とも。その姿は?」

 

「ふん、よく分からん男から受け取った物だ。正直お節介だが、この力は確かに強力な様だ」

 

「これで、君と対等だ。行くぞ!!コウタ、戒斗!!」

 

「あぁ!!」

 

「よっしゃ!!ここからは俺達のステージだぁっ!!!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 走り出した俺達に対して、目の前のミミズはその巨体から想像できない早さで突撃してくる。

 

「舐めるなァッ!!」

 

 コンクリートを踏み砕きながら戒斗が持つ槍、バナスピアーの突きがミミズの頭部を粉々に砕く。

 

「ハァッ!!」

 

「おりゃ!!」

 

 その間に側面へと回っていた俺の大橙丸と呉島さんの無双セイバーがミミズの身体を刻みながら前へと進む。

 

「コイツ、斬った傍から再生してるぞ!?」

 

「ならば、再生できない程の攻撃を与えればいいだけだ!!」

 

【バナナスカッシュ!!!】

 

 戒斗の言葉と共に彼のベルトから音声が鳴る。呉島さんもベルトの刀を斬る様に倒す。

 

【メロンスカッシュ!!!】

 

「了解!!」

 

 俺は大橙丸を左手に持ち替え、右手で無双セイバーを抜いた後、両方の柄を合わせてナギナタモードへと切り替える。

 

「んで、これだったな!!」

 

【ロック・オフ】

 

 ベルトのロックシードを外し、無双セイバーへ取りつけ、掛金を押し込む。

 

【ロック・オン!!イチ・ジュウ・ヒャク・セン・マン・オレンジチャージ!!!】

 

 その音声が合図のように俺達は一斉に動き出す。

 

「オラァッ!!」

 

 先ずは俺が最初にナギナタを思いっきり振る。振るった刃からオレンジ色のエネルギーがミミズを巨大なオレンジが拘束する。

 

「これでぇ!!!!」

 

 バナナのエネルギーを纏わせたバナスピアーを構えて、叫びながら突撃する戒斗。

 

「終わりだぁっ!!!!」

 

 左手に装備した緑色の盾、メロンディフェンダーにメロンの様なエネルギーを纏わせた呉島さんがメロンディフェンダーを投げつける。

 

「セイヤー!!!!!」

 

 突撃する戒斗と擦れ違うように俺が走り抜け、ナギナタモードで一閃。ほぼ同時に決まった三人の必殺のエネルギーが爆発して、トンネルが閃光と轟音が包み込まれる。

 

「やったか!?」

 

「戒斗。それ、やってないフラグなんだが」

 

「いや、どうやら倒したらしい」

 

 呉島さんの言葉に目を向ければ確かにミミズガストレアは細かな肉片となって焼け焦げて散らばっている。

 

「フン、こんなものか……」

 

「うっしゃあ!!俺達の初勝利だ!!!」

 

 余裕綽々といった態度の戒斗の肩を抱いてそう叫ぶ。ていうか、めっちゃ興奮する。やっぱ、仮面ライダーの同時必殺技はガチだわ。

 

「離れろ。それよりも、保護したイニシエーターはどうした?」

 

「あ、ヤベ。忘れてた!!!」

 

 そういった直後、パラパラと上からコンクリートの破片が降ってくる。

 

「ガストレアの咆哮に加えて、先程の爆発。逃げた方がいいな」

 

「冷静に言ってる場合か!!走れ!!」

 

 戒斗の叫びに俺達が走り出した直後、トンネルが崩落し始めた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「戒斗~……生きてるか~?」

 

「誰に……向かって……言っている」

 

 息も絶え絶えに俺は仰向けに倒れて声を掛ける。対する戒斗は地面に座りながら同じく息も絶え絶えに言葉を返す。

 

「あぁ、今日ほどお天道様の下に居られる事を嬉しく思った事はないぜ」

 

「不本意だが、同意してやる」

 

 そういって俺達は大きく息を吐いて、空を見上げる。あぁ、青空が綺麗だ。

 

「戒斗。お前と呉島さんが会ったって奴はこう……偉そうな奴だったか?」

 

「なんだ、いきなり?……あぁ、行け好かない程に尊大な奴だった」

 

「やっぱり……か」

 

 俺だけでは力不足だと思ったか、単に気紛れか。それは分からないが、正直助かる。

 

「コウタ、君は彼を知っているのか?」

 

「俺にも分かりません。突然現れて、このベルトとロックシードを渡して消えた奴ですから」

 

 取り敢えず誤魔化そう。転生とか異世界とか頭が痛いし、これ以上此処にいたくない。

 

「聖天子様への説明はどうするべきか」

 

「有りのままを伝えるしかないよな~」

 

 そういって、俺は救急車の担架に乗せられて、運ばれる双子を見る。

 

「報告で分かった事だが、彼女達は昨日、あのトンネルに入ったらしい。恐らくは俺達と同じく調査だったのだろう」

 

「丸一日……か」

 

 呉島さんの言葉に俺は小さく呟く。

 

「私達も報告に戻るぞ」

 

「俺としてはその前にシャワーを浴びたい。汗と腐臭の所為で鼻が曲がりそうだ」

 

「同感だ」

 

 そういって立ち上がる戒斗の後に続く様に俺も立ち上がる。その時、ベルトでカチャリと音が鳴った。

 

「ん……?」

 

 見れば、ベルトの横に知らないロックシードが繋がっていた。

 

「何時の間に……?」

 

 手に取ってみれば、ソレはパイナップルを模した錠前だ。そしてベルトを良く見れば、小さいロックシードが生っている。

 

(これって、ベルトからロックシードが生まれてるのか……?)

 

 なんて、無駄に高性能な。いや、ロックシードが増えるのは有難いが。

 

「まぁ、有難く使わせて貰うさ」

 

 小さく呟いた俺は声を掛けて来た戒斗に返事をしながら歩き出す。

 




【朗報】この世界の光実は延珠と同年代、同じ学校、同じクラスです!!そして新たな仮面ライダー登場。正直、主人公だけだと戦力不足ですし、原作主人公も仮面ライダーに……難しいかな。また、ここで新たに登場した主人公の戦極ドライバーの新能力。ロックシードに関しては最初は神様が一々持ってくるという事を考えたんですけど、それだとなんか面白くないなと思いまして。神様の気紛れはこれっきりです。では、次回の更新をお楽しみに

次回の転生者の花道は……



「あぁ、成る程。お前、ロリコンか」


「蓮太郎、妾は夢でも見ているのか?」


「では、続けましょう。次は隊長である呉島貴虎と此処に集まった方々から我こそは、という方と戦って貰います。誰か、おられますか?」


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第四話 お披露目 勝負

 時刻は早朝。空は雲一つない青空で今日一日は快晴だろう。

 

「ほらほら、ペース落ちてるわよ?ダッシュ、ダッシュ!!」

 

「やっほ~♪」

 

 前を走る迷彩服姿の凰蓮さんの声にレヴィは嬉しそうな声と共に凄まじい速度で俺を追い抜く。因みに俺はもう既に息が上がっている。それもそうだ。朝も早くというより日の出前に叩き起こされ、店から今まで休憩なしの走り込みだ。

 

「……もう少し……体力付けるんだった」

 

 転生する前の怠惰な生活を初めて呪った。せめて、帰宅部ではなく運動部に入れば良かった。

 

「ほら、コウタ二等兵!!もっと、腕を振って走りなさい」

 

「コウタ、頑張れ~」

 

 視線の先、ベンチに座って水筒片手に手を振っているレヴィとそのベンチに片足を乗せ、ビシッと俺を指さす凰蓮さんに俺はラストスパートとして一気に駆け、ベンチを通り過ぎてからゆっくりと歩いて止まる。

 

「今どきの若者としては上々ね。でも、満足に戦いたいならこれくらいで息を乱しては駄目よ!!」

 

「駄目だぞ~?」

 

 何が面白いのか、レヴィが嬉しそうに告げる。俺は呼吸を落ちつける。

 

「それにしても、いきなり特訓なんてどうしたんですか?」

 

「あぁ、そういえば言ってなかったわね。ほら、この前、貴方の隊長さんが来たでしょ?」

 

「え?あぁ、呉島さんですか。そういえば、俺って実働部隊に入る事になったんだっけ」

 

 一週間前、ミミズのガストレアを倒した後、増えた戦極ドライバーと謎の男について聖天子と彼女の補佐官でその時まで海外に出張していた天童菊之丞という人に話した。二人は謎の男について気になっていたが、同時に増えた戦極ドライバーとロックシードにも興味を持ったようだ。

 

「それにしても、聖天子も思い切るわね~」

 

 凰蓮さんが嬉しそうに呟く中、俺はレヴィから受け取った水筒の中身を飲む。。

 ドライバーに興味を持った菊之丞に呉島さんは研究用として自身のドライバーを俺は何時の間にかドライバーに生っていたヒマワリとクルミのロックシードを渡す。また、戦極ドライバーは、装着者以外は使えないという制約の為、研究する為には必然的に呉島さんが研究に付き合う事になり、本人は弟との時間が少なくなってしまったと苦笑していた。

 

「元々、二人だけの隊でしたからね。俺が入るのは確定だったんでしょう?」

 

「まぁ、貴方さえ良ければ、という事前提だけどね。それでも聖天子が菊之丞さんを説き伏せたのは驚いたわぁ。まぁ、そんな話は置いといて、その隊長さんに頼まれたのよ。貴方はまだまだ素人だし、体力面も危ないしね。ある程度の体力や力を付けて貰わなくちゃ困るのよ。だから、頼まれたの」

 

 そう言って、笑う凰蓮さん。驚くべき事にこの人、補佐官である菊之丞さんとはかつて知り合っているらしく、楽しげに会話しているらしい。

 

「さて、休憩は終わりよ!!」

 

 そう凰蓮さんが告げると俺達の視界の先に一台のトラックが止まる。

 

「やぁ、今日も早いね。凰蓮さん」

 

「Bonjour!当然よ。プロは下準備を怠らないの。今日はどんなのが入ったかしら?」

 

「あぁ!!新鮮なバナナとメロンが入ってるよ!!」

 

 どうやら店の仕入れの様だ。ものの数分で買い物を終わらせた凰蓮さんは大きめの段ボールを両肩に乗せ、大きな紙袋を逞しい両腕に吊るして満面の笑みで帰ってくる。

 

「てんちょー、美味しそうなの入った?」

 

「馬鹿ね。これから美味しく作るのよ。さぁ、早く帰らないと。あ、コウタ君、これお願いね」

 

「うぉっ!?これ、何入ってるんですか!?」

 

 受け取った段ボールはかなり重い。かすかに土の匂いと混じって嗅いだ事のある匂いが混ざっている。

 

「もしかして、スイカですか?まだ早いんじゃ?」

 

「馬鹿ね。旬の物なんて関係ないわ。如何にお客に満足してもらうか、ソレが問題なのよ。他にもバナナにメロン、マンゴーにブドウと色々と買ったわ。さぁ、走って戻るわよ!!」

 

「おぉ~!!」

 

 紙袋を掲げたレヴィの嬉しそうな声が勢いよく遠のく。残されたのは俺一人。

 

「マジか……!?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「だぁ!!着いたぁ~!!」

 

 あれから全力で走り、店に着いた。店の事で凰蓮さんに逆らう事は出来ない為、行きよりも速く帰ってこれた自分を内心で褒める。

 

「コウタ君、その段ボールはこっちに持ってきて」

 

「了解」

 

「コウタ~、お腹減った~」

 

「お前、走りながらオニギリ食ってなかったか?」

 

 バンバンと机を叩いて朝食を催促するレヴィに小さくため息を吐きながら俺は食パンと卵、ハチミツ等を用意する。

 

「今日の朝食はフレンチトーストね」

 

「あ、流石に分かりますか。手抜きじゃないんですけどね」

 

「いいのよ。食べる相手の事を想って作るのならどんな料理だって最高の物になるわ」

 

 そういって、ウィンクする凰蓮さん。最初は背筋が寒くなる感覚に襲われたが、今はもう慣れた。慣れっていうのは本当に凄いな。

 

「うし、完成」

 

「はやく、はやく~」

 

 フォークとナイフを持って、催促するレヴィの前に出来あがったフレンチトーストを置く。

 

「おぉ~」

 

 キラキラと瞳を輝かせて、レヴィが食べ始める。俺の分の朝食を作ろうとした時、携帯が鳴る。

 

「はい」

 

『おはようございます。コウタさん、今大丈夫ですか?』

 

 相手は聖天子だ。そういえば、携帯を凰蓮さんから貰った時に聖天子だけしか登録されてなかったな。

 

「大丈夫だけど、どうしたんだ?」

 

『いえ、今日のご予定を戒斗さんに伝えたのですが、コウタさんの連絡先を知らないそうで……』

 

「あぁ、そっか。アイツの連絡先聞いてなかったっけ」

 

 タイミングが悪くて聞けず仕舞いだった。まぁ、登録した所で、俺の携帯には聖天子、呉島さん、凰蓮さんに戒斗と見事に寂しいのだが。

 

「それで、伝言って言うのは?」

 

『はい、先日のベルトとロックシードに関して、プロフェッサーからデータを取りたいと言われたんです。そしたら折角なので、民警の方々も呼んで大々的にアピールしようと菊之丞さんが提案して来たんです』

 

「成る程ね。分かった、今からそっち行くよ。けど、聖居でするのか?」

 

 疑問の言葉に電話越しに小さく笑いが聞こえた。

 

『流石にソレは不味いですよ。場所は外周区に近い自衛隊駐屯地です。場所は凰蓮さんに聞けば教えてくれます』

 

「分かった。それと、聖天子以外に誰が来るんだ?」

 

『そうですね。私と菊之丞さん。それと護衛部隊の方々と民警で都合が付く方たちですね。とはいえ、私の呼びかけですから』

 

「つまり、全てと思っていいと?大丈夫なのか?」

 

『ふふ、コウタさんがいますから』

 

 ストレートに告げられて顔が赤くなる。不思議そうに近づくレヴィの額を手で押さえる。凰蓮さんがサムズアップ。

 

「分かった。じゃあ、これからそっちに向かうよ」

 

『はい、お待ちしています』

 

 携帯を切って、立ち上がれば凰蓮さんがメモ紙を渡してくれた。

 

「場所は此処よ。少し迷うけど、モノリスを目印にすれば分かるわ」

 

「助かります。んじゃ、行ってきます」

 

 そういって、俺は扉を開ける。

 

「あぁ、それと」

 

「はい?」

 

 呼び止められ、振り向く。そこには何処か楽しそうな凰蓮さんがいる。

 

「次に携帯を使う時はちゃんとモードを切り替えなさい。通話ダダ漏れよ」

 

「……はい」

 

 全部聞かれていた。そう思うととても恥ずかしくなる。俺は熱くなった顔を冷ます為に走り出す。そういえば、朝飯食い損ねたな。まぁ、コンビニ寄ればいいか。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「青春してるわね~」

 

「せいしゅん~?」

 

「レヴィにはまだ早いわね。さぁ、ご飯が終わったら掃除からよ!!今日も稼ぐわよ~」

 

「おぉ~!!」

 

「お待ちなさい!!」

 

 入口で放たれた言葉にワテクシは視線を扉に映す。

 

「あ、アナタは……!?」

 

「久しぶりね、凰蓮・ピエール・アルフォンゾ!!!」

 

 クイッと腰を捻らせてポーズを取る相手。ふふ、動きに無駄が消えたわね。そしてあの目。

 

「随分と腕を上げたようね」

 

「勿論、あの時の雪辱……晴らしに来たわ!!」

 

「勝負って事ね。それならワテクシとアナタ、どちらが上か。お客に決めて貰おうじゃないの。レヴィ!!」

 

 パンパンと手を叩けばレヴィがこっちにやってくる。

 

「十三番の看板を表に出しなさい。今日はお店の営業ではなくてよ!!」

 

「おぉ~!!」

 

「そう!!今日は私とアナタの!!」

 

 お互いにポーズを取る。ふふ、やるじゃない。

 

「「決闘よ!!!」」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「うっは~、凄い人だな」

 

「民警の社長とプロモーター、イニシエーターだからな。しかし、こんなに多いと流れ弾が危ないな」

 

「ふん、それくらいは奴等が何とかするさ。それよりもこの服はどういう事だ?」

 

 戒斗の言葉に俺と呉島さんが苦笑する。

 

「仕方ないだろ。これが俺達実働部隊の正式な制服だ」

 

「お前、あんな笑顔の聖天子に手渡されて文句言うのか?」

 

「ぐっ!?だが、白一色は落ち着かん」

 

 そう、俺達は白一色の服を纏っている。デザインは和で統一されており、何処か侍が着る和服に近い。とはいえ、戦闘も視野に入れている為、動きやすく丈夫で更に軽いとかなり質の良いモノになっている。

 

「正直、変身できる俺達に必要なのかな?」

 

「こればかりは仕方ない。腐っても聖天子様の護衛だ。半端な服では示しが付かん」

 

 そういって、苦笑する呉島さんの言葉に戒斗は鼻を鳴らす。

 

「あ、そうだ。二人に渡す物があるんだった」

 

 そういって、戒斗と呉島さんに二つずつ、ロックシードを渡す。

 

「俺だけじゃ使いきれないし。二人も状況に応じて使えれば戦闘が楽になるでしょう?」

 

「ほう、面白い」

 

「助かる。それにしても、ロックシードを生成するベルトか。君のだけは特別製の様だな」

 

 興味深そうに俺のベルトを見る呉島さん。

 

「そういえば、あのミミズのガストレア。肉片を拾ってたんですね」

 

「ん?そういえば、報告してなかったな。あのガストレアについては後で聖天子様から伝えられるだろうから我々は待っていればいい」

 

「葛葉」

 

 戒斗が真剣な表情で問いかける。

 

「挨拶の後、俺達は民警達の前で模擬戦を行う事になっている。先ずは俺とお前、そして呉島隊長と民警の中から名乗り出たイニシエーターとの試合だ」

 

「最初に俺達か」

 

 なんだか、緊張するな。

 

「言っておくが、手は抜かない」

 

「俺もだ、お互いに全力で行こう」

 

 そういって、俺は拳を向ける。一瞬、眼を見開いた戒斗は小さく笑い、拳を合わせ。

 

「言っておくが、勝つのは俺だ」

 

「ほう、聞いた通り、お若い様ですね」

 

 そんな時、廊下の奥から声が聞こえた。振り向けば、そこには白い外套に制帽、腰に指した拳銃が特徴の男がやってくる。護衛隊の人間だが、見覚えが無い。

 

「失礼だけど、アンタは?」

 

「僕は保脇卓人。護衛隊の隊長を務めています。君には先日、部下が迷惑を掛けたようで、詫びようと思っていたのですよ」

 

「そうだったのか。まぁ、気にしてないよ。俺はほら、記憶も無いし、戸籍も無いから疑うのも仕方ないと思ってるし」

 

「そう言って頂けると嬉しい。今日は君達のお披露目だ。その前に、君達へ伝えなければならない事があったんです」

 

 そういって、浮かべていた笑みが消え、弱者を甚振る蛇の様な顔つきに変わる。同時に後ろの戒斗が舌打ちする。

 

(成る程、類は友をって奴ね)

 

 内心でため息を吐く。

 

「あまり、調子に乗らない事だね。聖天子様を救い、そしてガストレアを倒した君の【幸運】は称賛に値する。だが、それは全て君が持っているその力だ。君自身の力じゃない」

 

 まぁ、当然だ。俺自身は撃たれれば死ぬような脆い人間だ。

 

「それで?俺みたいな運の良い奴に手柄を横取りされた無能共の隊長が何の用だ?」

 

 朝っぱらから面倒な奴に絡まれた、という事を隠さずに告げれば、隣の呉島さんは苦笑。後ろの戒斗に至っては笑うのを我慢する。対する保脇は顔を怒りで引き攣らせる。

 

「黙れ!!聖天子様を守るのは本来僕達の役目だ。貴様等のような馬の骨がしゃしゃり出るな!!!」

 

「なら精々、その馬の骨よりも働くんだな」

 

 戒斗がそう告げる。うわ、今凄くスッキリしたよ。

 

「それにしても、嫌われるのはいいんだけど、アンタは随分と俺を嫌うね。なんでだ?」

 

「それは貴様が聖天子様から信頼を寄せられているからだ。僕よりもな!!」

 

 そういって、腰からナイフを取り出して、俺の首に突き付ける。

 

「今からでも遅くは無い。この後の模擬戦で無様に負けろ」

 

「それはまた、面白い冗談だ。アンタ、護衛なんかよりもそっち系の方がウケルかもな」

 

「いいか!!僕は貴様が気に入らない!!聖天子様に信頼を寄せられるのは護衛隊長の僕だけでいいんだ!!」

 

「なんで、そこまで拘るんだ?」

 

 俺の疑問に呉島さんは額に手を置き、後ろの戒斗は大きくため息を吐いた。あれ?ひょっとして俺が間違っている。だが、対する保脇は厭らしい笑みを浮かべて舌なめずりする。

 

「聖天子様はお美しく成長なされ、今年で十六歳となられた。ならば、そろそろ国家元首の世継ぎも必要だろう?」

 

「あぁ、成る程。お前、ロリコンか」

 

 納得して、告げた言葉に戒斗が腹を抱えて笑いだし、呉島さんも必死に堪えている。

 

「止めとけって。アンタじゃ釣り合わねえよ」

 

「なっ!?貴様!!!」

 

 突き付けたナイフに力を込められる直前、聖天子の講演開始を告げるアナウンスが流れた。

 

「くっ」

 

「ほら、アンタも早く行きなよ。隊長が遅れちゃ、聖天子様もがっかりするぜ?」

 

 俺の言葉に保脇は恨みがましく俺を見ながら俺達の横を通り過ぎる。やれやれ、面倒なことだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「一週間前に現れたガストレアの資料は既に皆さまの許へ送りました。その資料に載っているデータは全て事実です。今回は発見が速かった事、そしてそのガストレア事態が東京エリアに来た事により衰弱していた事で被害は最小限で済みました。しかし、資料にある通りそのガストレアはステージⅠでしたが発見時、バラニウムを克服するほどの進化を遂げていました」

 

 壇上に立つ聖天子が駐屯地に集まった民警に説明している。

 

「流石に演説は堂に入ってるな」

 

「聖天子様は【ガストレア新法】を掲げているからな、講演の機会は多い。それ以外でも、取材やテレビ出演などもやっておられる」

 

 呉島さんが壁に背中を預けて答える。何処か、眠そうだ。

 

「呉島さん、何時に寝ました?」

 

「四時半だな」

 

「俺が叩き起こされたのと同時?」

 

「今日は三時間も寝れたんだが?」

 

 うん、ブラックだな研究チーム。

 

「出番までは時間がありますし、仮眠でもしてきたらどうですか?」

 

「いや、それには及ばない」

 

 そういって、呉島さんはベルトに嵌まっているヒマワリロックシードを見せる。

 

「コレのお陰で大分楽なんだ」

 

「なら、良いんですけど」

 

「では、そのガストレアを倒した新兵器をご覧に入れましょう」

 

 演説が終わったのか、聖天子が此方を見る。俺は小さく手を振って答えると呉島さんが肩に手を置いた。

 

「ベルトとロックシードは研究チームが開発した事になっている。詳しい事が分かるまでは黙秘してくれ」

 

「分かりました」

 

 そう答えて、俺は歩き出す。同時に俺と対面するように歩いてくる戒斗に視線が集中する。

 

(これならガストレア相手の方がストレス少ないかな?)

 

 どうも、慣れていない為、緊張する。まぁ、戦い始めれば気にならないだろう。

 

「彼等は私の護衛隊に所属する実働部隊の隊員です。プロモーターでもイニシエーターでもない彼らの実力に疑問を持つのは当然でしょう。新兵器のお披露目と共に彼らの実力をお見せします」

 

 その言葉と共に俺達はベルトを装着する。そして注目の中、お互いにロックシードを掲げる。

 

【オレンジ!!】

 

【バナナ!!】

 

「「変身!!」」

 

 俺達の頭上にオレンジとバナナが現れる。俺はロックシードを掲げた腕を引き、その動きと共に身体を捻った後、戻す動きでベルトに装着する。戒斗は錠前に指を掛けて、ロックシードを回転させながらベルトに装着させる。

 

【ロック・オン!!】

 

 法螺貝とファンファーレが鳴り響く中、【客席】からどよめきの声が上がる。

 

【ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

【カモンッ!!バナナアームズ!! Knight of Spear!!】

 

 オレンジとバナナを被り、ソレが変形して鎧となる。俺は大橙丸を肩に担ぎ、戒斗はバナスピアーを構える。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「蓮太郎、妾は夢でも見ているのか?」

 

「いや、俺も同じ光景見てるだろうから、夢じゃないと思う」

 

「まさか、あんな物を開発していたなんて」

 

 民警用の客席の一番後ろ。必然的に一番高い場所で立ち見をしていた俺達は目の前の光景に唖然としていた。俺と同じ年の奴が二人迎い合っていたと思ったら上からバナナとオレンジが降って来て特撮ヒーロー物のバトルを繰り広げた。

 

「頭が痛くなってきた……なんだ、あの格好いいの!!」

 

「蓮太郎……」

 

「里見くん……」

 

 隣で女性二人が若干、憐れんだ目をしているが、気にしない。バナナが持つ槍が高速で繰り出されるが、オレンジが手に持った二刀でソレを受け、弾き、逸らし、反撃する。ソレは舞いの様であり、男と男の全力のぶつかり合いだ。

 

「やっぱ、変身ヒーローは男の夢だったのか……」

 

 なんだか、自分の事の様に嬉しい。

 

「ま、まぁ、新兵器の名前に偽りはなさそうね。あの強さに頑強さ。装備の類にバラニウムが使われていないのは気になるけど、それでも充分に強いわ」

 

「うむ、妾たちも負けてはおれんな、蓮太郎!!」

 

「え?あ、そうか。アイツ等って競争相手になるのか、テンション下がるな~」

 

 出来れば、仲良くしていきたいがどうだろうか。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ハァッ!!」

 

「フッ!!」

 

 目の前でコウタさんと戒斗君が戦っている。本当は応援なんかしてはいけないだろうが、何時の間にか私は闘うコウタさんを目で追っている。

 

「あ……!?」

 

 思わず声を上げてしまう。けど、ソレはコウタさんが危うく槍の一撃を貰いそうになったからだ。多分、私の所為ではない。後ろに立つ菊之丞さんの視線が一瞬だけ鋭くなった。……後で、コウタさんに文句を言いましょう。

 

「そろそろ、趣向を変えてみるか?」

 

【マツボックリ!!】

 

「ふん、いいだろう!!」

 

【イチゴ!!】

 

【ロック・オン!!】

 

 コウタさんの言葉に二人は違うロックシードを取り出し、ベルトに嵌め直す。そして二人の鎧が消え、代わりに彼らの頭上にマツボックリとイチゴが現れた。マツボックリとは随分場違いな感じがするのですが。

 

【ソイヤッ!!マツボックリアームズ!!一撃!!インザシャドウ!!!】

 

【カモンッ!!イチゴアームズ!!シュシュッと・スパーク!!】

 

 何処か忍者を思わせる黒い姿となったコウタさんと赤一色になった戒斗君が武器を構える。

 

「行くぜ!!」

 

 コウタさんが手に持った新たな武器、槍を一回転させて、構えながら走る。

 

「成る程、こういう武器か!!」

 

 戒斗君が両手に持ったクナイを投げる。投げていいんでしょうか?

 

「うおっ!?結構派手だな」

 

 クナイを槍で払った瞬間、小さな爆発が起きる。そして戒斗君の手には新しいクナイが。凄いですね。何本あるんでしょうか。

 

「ハァッ!!」

 

「くっ!?」

 

 突き、払い、振り下ろす。槍の特徴である遠い間合いでの戦いにクナイでは分が悪いですね。代わりにスピードがさっきのバナナよりも段違いですけど、スピードが変わっているのはコウタさんも同じ様ですが、やはりリーチの差は歴然。

 

「ちっ」

 

【マンゴー!!】

 

「おっと、それじゃ!!」

 

【パイン!!】

 

 鎧が消え、今度はパイナップルとマンゴーが。ロックシードは幾つあるんでしょうか?

 

【ロック・オン!!】

 

 マンゴーとパイナップルを被るシュールな二人になんというか、慣れてしまいました。

 

【ソイヤッ!!パインアームズ!!粉砕・デストロイ!!】

 

【カモンッ!!マンゴーアームズ!!Fight of Hammer!!】

 

 コウタさんは右手にパイナップルを模した鎖付きのハンマー。恐らくはフレイルを。戒斗君はメイスと呼ばれる武器を構えている。

 

「最終ラウンドと行こうか」

 

「いいだろう!!」

 

 鎖が擦れる音と、重いモノが風を切る音が聞こえた瞬間、戒斗君の両手が振り上げられる。同時にガァン、という重いモノがぶつかった音が響いた。

 

「っと、とと」

 

「ふん、どうやら使い慣れていないようだな!!」

 

「そうでもない、さ!!」

 

 メイスを構えて、突撃する戒斗君を前にコウタさんは腰の刀を引き抜き、その柄にフレイルの取っ手を連結させる。

 

「行くぜ!!」

 

 刀を振り、身体全体を回転させた勢いでフレイルが戒斗君に襲いかかる。

 

「舐めるな!!」

 

 だけど、その一撃もメイスの一撃によって弾かれる。そして戒斗さんが腰の刀部分を持った。

 

【カモンッ!!マンゴー・オーレ!!】

 

 その音声が響くと同時に戒斗君がメイスで円を描く様に振り回す。

 

【ソイヤッ!!パイン・スカッシュ!!】

 

 今度はコウタさんが跳び上がり、手に持ったパインを蹴る。同時に蹴られたパインは巨大化した。

 

「ダァッ!!!」

 

 ハンマー投げの要領で振り上げたメイスから巨大なマンゴーが飛び出してパインと激突した。そして蹴ったコウタさんが跳び蹴りの姿勢に変わっていた。

 

【ソイヤッ!!パイン・スカッシュ!!】

 

 

音声が聞こえる。コウタさんを見れば伸ばした脚の先には爆発へと進むパインの輪切りがある。

 

「セイヤー!!」

 

 その叫びと共に輪切りのパインを一枚一枚蹴破りながらコウタさんが爆発の中を抜ける。

 

【カモンッ!!マンゴー・スカッシュ!!】

 

 だが、その音声が聞こえると共に爆発の中で更に爆発が起きる。

 

「うお!?」

 

「ぐあっ!?」

 

 爆発の中からコウタさんと戒斗君が吹き飛んで地面を転がる。思わず立ち上がってしまう。

 

「本気でやるとこうなるのか……」

 

「フン、ベルトの力を試すのに丁度良かったな」

 

【バナナ!!】

 

 バナナのロックシードを取り出した戒斗さんに私は驚く。まさか、まだやるのだろうか。

 

「おい、戒斗。お前、まだやる気なのか?」

 

「当然だろう?俺とお前、まだ立てる力は残っている。それに俺は負けを認めるほど潔くはない。お前はどうだ、葛葉?」

 

【ロック・オン!!】

 

 既にマンゴーの鎧は消えた戒斗さんの頭上にはバナナが浮かんでいる。

 

「そうだな、この際だ。白黒ハッキリするのも良いか!!」

 

【オレンジ!!】

 

 立ち上がり、オレンジのロックシードを構える。

 

【ロック・オン!!】

 

「お、お待ちなさい。これ以上は――」

 

「男同士の戦いに口を挟まないで頂きたい」

 

 戒斗さんの言葉は丁寧だけど、有無を言わさぬ迫力があり、気圧された私は椅子に力無く座ってしまう。

 

「大丈夫だって、酷い怪我はしないから」

 

 そう、私を安心させるように手を振って、告げるのはコウタさんだ。でも、それでも、私は心配なんです。そう言いたいのに。今日ほど、自分の地位を恨んだ事はないかもしれません。

 

【ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

【カモンッ!!バナナアームズ!! Knight of Spear!!】

 

 音声と一瞬の閃光を背中に残して二人が駆ける。二人が武器を振り被ったその瞬間。

 

【ソイヤッ!!メロンアームズ!!天・下・御免!!】

 

 二人の間に割って入った呉島隊長が盾と刀で二人の武器を防いだ。

 

「二人ともそこまでだ。これ以上やるのならば、せめて人がいない所でやれ」

 

 冷静な言葉に二人は暫く黙る。

 

「……そうだな。これ以上は止めるか」

 

「……フン、確かにこれ以上【観客】を怯えさせるのも不味いか」

 

本当は数秒の沈黙だった筈なのに私には何時間もの間黙っていたように見えた二人が構えを崩し、変身を解いた。

 

「済まない、隊長。少し浮かれていたようだ」

 

「だな……少し頭に血が昇ってたわ。ごめん、呉島さん」

 

「気にするな。だが、次からは気を付けろ。私から言うのはそれだけだ」

 

 素直に自分の非を認めさせる呉島隊長に感心しつつ、そんなアッサリと納得させる彼の人柄に少しだけ嫉妬してしまう自分がいる事に苦笑する。

 

「き、貴様等!!聖天子様に万が一があったらどうする気だ!?」

 

 そんな私の思いを吹き飛ばす様な大声が横から聞こえ、思わず身体が跳ね上がる。見れば、保脇隊長がコウタさん達、どちらかというとコウタさんに対して、怒鳴っている。

 

「そんな素人がするようなミスをすると思っているのか?」

 

「我々が使うこの力は我々が一番理解しています。その為に聖天子様から離れて戦うように指示していました。この距離ならば万が一聖天子様に被害が及んでもアナタ方、護衛隊が身を呈して聖天子様を守れるでしょう?」

 

「確かにそうですね」

 

 思わず呉島隊長の言葉に同意してしまう。そして私の言葉に保脇隊長が狼狽し、俯く。これは、私の所為でしょうか?

 

「しかし、私が自身の部下同士の戦いと彼らの気持ちを理解出来なかったのは私のミスです。聖天子様、お望みとあらば、この呉島貴虎。どのような罰をも受ける所存です」

 

 そういって、頭を下げる呉島隊長にコウタさん達も同じように頭を下げる。

 

「そ、そうだ!!貴様には聖天子様から罰が―――」

 

「いえ、罰を与える必要はありません」

 

 私の言葉に隣の保脇隊長が絶句する。本当はこんな風に他人の言葉を遮る事はしたくありませんでしたが、これ以上彼を喋らせれば護衛隊の醜態を……もう手遅れでしたね。そんな事実に内心でため息を吐く。

 

「お二人の戦いぶりは確かに危険な物ですが、逆にこの場に集まる皆さまには十分に伝わったでしょう。その為、今回の事は不問とします。呉島一尉、この決定に不満があるのならば今度はこの様な事が無い様に部下のお二人を指導しなさい」

 

「寛大なお言葉、有難うございます」

 

 そう告げた呉島隊長は後ろの二人に目配せする。二人は小さく頷いて壇上近くに歩き始める。

 

「では、続けましょう。次は隊長である呉島貴虎と此処に集まった方々から我こそは、という方と戦って貰います。誰か、おられますか?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「なぁ、蓮太郎」

 

「ダメだ」

 

「ダメよ。延珠ちゃんじゃ、分が悪いわ」

 

 声を上げた延珠に俺達が同時に告げる。あの二人の攻撃を片手で止めたアイツは強い。

 

「いや、別に妾は戦おうとは思っておらんぞ?だが、あれほどの力を見せて尚、戦おうとする者がおるのか?」

 

「いるでしょうね。自分達の実力に少なからずプライドを持った人間なら特に反応するわ。そういった者達を倒してあの兵器がどれだけ有用か見せつけるのかが、この戦いの目的よ」

 

 個人的には気に食わない。けど、そうする事で政府は民警全てに言外に伝える事が出来る。お前達に頼らずとも、我々は戦えるという事を。

 

「上手い手ね。此処で誰かが名乗りを上げて、戦ってもさっきの戦いで充分過ぎる力を見せつけた。相手に勝てば更にその力を誇示し、負けてもその実用性は確か。どちらに転んでもアッチにとっては問題ないという事かしら」

 

「気に食わねえ」

 

「こらこら……」

 

 口から勝手に出た言葉に木更さんが苦笑する。すると、会場でどよめきが上がった。

 

「おぉ、一人出て来たぞ!!」

 

「イニシエーターね。プロモーターか、会社の指示かしら」

 

 俺も声に釣られて、随分と荒れた訓練場を見る。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 呉島さんの前に建ったのはフリルが可愛らしい服を着た少女だ。十歳前後に加えて、腰の二刀、そして爛々と輝く赤い瞳を見れば、彼女が【呪われし子供】だというのが分かる。

 

「強いな……」

 

 隣の戒斗が呟く。俺は頷きつつも、驚き逆に納得する。それもそうか、此処が【ブラック・ブレット】の世界なら当然だろう。

 

「戒斗、嫌な予感がする。何時でも聖天子を守れるように準備した方が良い」

 

「……分かった」

 

 戒斗は少しだけ訝しげな表情を見せたが、同意してくれた。どうやらテロの危険性を考えたのだろう。

 

「済まないが、名前を聞いてもいいかな?」

 

 歩き出した俺の視線の先、呉島さんが少女に問いかけた。少女は腰の二刀を引き抜き、笑顔を浮かべた。

 

「蛭子小比奈。十歳です」

 




投稿完了!!どうも、作者です。今回はこんな感じ。原作キャラもチラホラ出して、クロスオーバーらしさが出てれば嬉しいです。そして保脇のキャラを地味に悩んでいる作者なのである。こんな感じかな?それとも、もっと変態チックな方がいいかな?とか、考えながらセリフを書いています。何かご意見があれば、保脇だけじゃなくても構いませんので書いてくれると嬉しいかな(チラ)では、次回もお楽しみに



次回の転生者の花道は……



「死んじゃえ♪」



「あれ?呉島さんから聞いてなかった?俺達のコードネームだよ。ほら、こんな風に全身隠してんだし、個人名も隠した方が良いと思ってさ」



「戦極凌馬だ。君には感謝している。とても興味深い研究資料を提供してくれた事にね」


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第五話 仮面ライダー 新たな協力者

只今、原作を一巻から読み直し中。バトライド・ウォーの長いロード時間がこんな所で役に立つとはww極アームズ超楽しい!!では、本編をお楽しみください。


「ふむ、強いな」

 

「も~、やり辛い!!!」

 

 可愛らしい言葉とは裏腹に高速で繰り出される斬撃を呉島さんは冷静に固定装備の盾、メロンディフェンダーと俺と同じ刀、無双セイバーで捌いている。

 

「凄いな、俺だったら何回か斬られてる」

 

「フン、あの人は俺達なんかよりもずっと強い。確かにあのイニシエーターの実力は高いだろう。だが、守りの剣である隊長の前では徒に体力を消費するだけだ。尤も、アイツ等の体力は底無しだがな」

 

 戒斗の言葉を聞きながらも目の前では高速で動き、斬りかかる彼女を事もなげにあしらう。

 

「う~ん、大丈夫かな?」

 

「嫌な予感がするんだろ?なら、気を抜くな」

 

 言われ、俺も頷く。小比奈が居るという事はあの仮面の男も近くでこの戦いを見ている筈だ。

 

(それにしても、俺は本当に【ブラック・ブレット】の世界に居るんだよな。なんか、身近な人物が鎧武の登場人物だから勘違いしてた)

 

 まぁ、これからは気を引き締めよう。そう思った時だ。視線の先、小比奈が聖天子を見て、小さく笑う。その笑みに俺は無意識に走り出していた。

 

【オレンジ!!】

 

「変身!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 戦いは終始、呉島隊長が圧倒していた。イニシエーターの少女もかなりの使い手らしく、その戦いは私にとって、まるで特撮やアニメの様な物に見えた。だけど、一瞬、イニシエーターの少女が私を見て、笑ったのだ。

 

(今のは?)

 

 気の所為だろうか、そう思った瞬間、イニシエーターの少女が消える。

 

「しまった!?」

 

「え?」

 

 呉島隊長の言葉を聞いた瞬間、先程の少女が私の目の前で跪いていた。そして顔を上げ、彼女の真っ赤な瞳と眼が合う。

 

「死んじゃえ♪」

 

 無邪気な言葉とは裏腹に瞳に映った狂気。そして突然の言葉に私は動けず、彼女が振るう刃が太陽の光を反射して。

 

【ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

「今だ、戒斗!!!」

 

「あぁ!!」

 

【カモンッ!!バナナアームズ!! Knight of Spear!!】

 

 その刃は私の前に現れたコウタさんの刀で防がれる。火花が散る中、聞こえたコウタさんの叫びに上から声が降って来る。

 

「バレてた!?」

 

 何処か嬉しそうな声と共にもう片方の刃で槍を防ぐ。

 

「せ、聖天子様を守れぇっ!!?」

 

 慌てた声と共に私とコウタさんの間に護衛隊の方が割って入り、私の四方を囲む。

 

「撃てぇっ!!!!」

 

 最早、悲鳴と変わらない保脇隊長の号令の下、彼と同じく恐怖と驚愕に歪んだ隊員達が構えた銃から弾丸を吐きだす。その先にはまだ少女と対峙しているコウタさん達がいるにも関わらず。

 

「待ち―――」

 

 私の声は幾重もの発砲音で掻き消される。驚くべき事に拳銃だけでなく、自衛隊の機銃掃射も混じったらしく、私の目の前は砂塵で覆い尽くされる。

 

「よし、やったぞ!!」

 

「赤目の化け物め!!これでは一溜まりもないだろ!!」

 

「あ、貴方達!!あそこにはまだ呉島隊長達がいたのですよ!?」

 

 私の声に保脇隊長は思い出したかのように眼を見開き、次いで小さく笑う。

 

「残念ですが、彼らのお陰で賊を討伐出来たのです。彼等は尊い犠牲となりました」

 

「なっ!?」

 

 沈痛な表情の中、その瞳は愉悦に歪んでいる。嘘だと思いたい。けど、この男は間違いなく、コウタさん達ごとあの少女を殺そうとしたのだ。

 

(確かに、理屈は分かります。けど……)

 

 胸の内から込み上げる悔しさの原因が分からず、視線を砂塵へと戻せば、砂塵の中から飛び出した楽しそうな笑顔の少女が刃を振り上げていた。

 

「え……?」

 

 その場にいた私達が固まる。ゆっくりと動く風景の中、私は目の前まで近づく刃を見つめて。

 

「させねえぞ、コラァッ!!!!」

 

 その後ろからやってきたコウタさんの叫び声が聞こえ、振り向いた少女に回し蹴りを叩きこんだ。

 

「コウタさん!?」

 

「おう、全員生きてるぜ?目論見が外れたな、無能隊長さん?」

 

 私に背を向けながら、元気よく返してくれるコウタさんに安心する。

 

「き、貴様……!!!」

 

「何をしている、保脇三尉!!直ぐに聖天子様を連れて此処から離れろ!!」

 

「く、呉島!!誰に向かって命令している!!そもそも、貴様があの小娘を殺していればこんな事にはならなかったんだ!!」

 

 煙の中から現れた呉島隊長が保脇隊長に命令する。けれど、彼は一向に動かず、ただただ、彼等を罵倒するだけだ。

 

「責任の擦り付けは後にしろ!!今貴様がやるべき事はなんだ!!!」

 

「それとも、そんな事を放棄して本当の無能になるか?」

 

 呉島隊長の叱責と続く戒斗さんの挑発に保脇さんが噛み付く。

 

「いやはや、そろそろ終わりにしようと思っていたのだが、この茶番は何時まで続くのかね?」

 

 その言葉と共にコウタさんと睨み合っていた少女の横に奇妙な格好の男性が何時の間にか、現れて声を上げる。

 

「何処の誰か聞いていいかな?それと悪いんだけど、舞踏会の予定はないぜ」

 

「おや、それは残念。気合いを入れて一張羅にしてきたのだが、踊れないとは残念だ」

 

 刀を突き付けて、一歩下がったコウタさんの言葉に男性はおどけた仕草と声でそう告げる。

 

「いや、なに。今日はほんの御挨拶だ。近い内にちゃんとした挨拶をしにいくから、待っていてくれ」

 

「今度来るときは穏便にお願いしたいもんだ。あぁ、後菓子折りの一つでも持ってきてくれると聖天子様も喜ぶかな」

 

 何言ってるんですか!?そんな私の心の叫びを余所に男性は顎に手を当て。

 

「ふむ、承知した。次は君達も驚く様な菓子折りを持って挨拶に来るとしよう。では、小比奈行くよ」

 

「そこのオレンジ、名前教えて。後、メロンとバナナも」

 

 今まで、黙っていた少女が唐突に聞いてくる。コウタさんは少しだけ考えた後。

 

「俺は鎧武。仮面ライダー鎧武だ。んで、バナナは仮面ライダーバロン。メロンは仮面ライダー斬月だ」

 

「鎧武、バロン、斬月。うん、覚えた。次は絶対に斬って食べる!!」

 

「おやおや、小比奈は食いしん坊だな。それにしても、仮面ライダーとは不思議な名前だね」

 

「覚えやすいだろう?悪を倒すヒーローだ!!【天誅ガールズ】と同じ位人気が出ると思うぜ?」

 

「そちらは私も知らないが、ふむ、覚えておこう」

 

 そういって、男性と少女が逃げる。逸早く事態を察知した民警のプロモーターとイニシエーターの何組かが後を追う。

 

「おい、葛葉。さっきのはどういう事だ?」

 

「あれ?呉島さんから聞いてなかった?俺達のコードネームだよ。ほら、こんな風に全身隠してんだし、個人名も隠した方が良いと思ってさ」

 

「まぁ、民警の前であれほどの大立ち回りをした状態で必要かと問われればそこまでだがな」

 

 そういって、変身を解いた呉島隊長が二人の間に入る。三人が無事だった事で胸の奥から安堵が広がっていく。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「それにしても、アイツ等何だったんでしょうね?」

 

「テロリスト、という言葉だけで片付けるには難しいな」

 

「あぁ、アイツ等は挨拶と言っていた。そして近い内にまたやってくるとな」

 

 あの後、聖居に戻った俺達は呉島さんの案内で廊下を歩いている。

 

「それにしても、一緒に来て大丈夫だった……んですか、聖天子様?」

 

「ふふ、敬語が苦手なら無理しなくていいんですよ?」

 

「そう言われても、菊之丞さんがいる手前だし」

 

 そういって、俺は隣を歩く聖天子の斜め後ろを歩いている菊之丞さんを見る。原作一巻までの知識を持っている俺にとって彼はあの場に現れた蛭子影胤の協力者であり、聖天子にとって無くてはならない存在と言う俺にとってはどう接していいかわからない男だ。

 

(コレが主人公の里見だったら構わず噛み付くんだろうけどな)

 

 原作を読んだ人間としての主人公への感想は無自覚に事態を引っ掻き回した後、自分で解決する厄介な人間だ。更にそれら全て丸く収まっているから性質が悪い。まぁ、俺達がいることである程度抑制できればいいのだけれど。ふと、前を歩く呉島さんが扉の前で止まる。

 

「そういえば、研究棟って何処にあるんですか?」

 

「地下だ。戦極ドライバーもロックシードも機密扱いだからな。普通の研究施設では警護が難しい」

 

 そういって、呉島さんは扉の横にある機械にカードをスライドさせて扉を開かせる。地下と言う事で、エレベーターのようだ。最初に呉島さんが入り、菊之丞さん。聖天子。俺と戒斗が入る順番になる。

 

「そういえば、まだお礼を言っていませんでしたね」

 

 エレベーターが動き始めた時、聖天子が告げる。

 

「私を守ってくれて有難うございます」

 

「勿体なきお言葉です」

 

 呉島さんは粛々と受け取り。

 

「護衛隊の奴等があまりに無能だったからな。もう少しマシな奴がいないのか?」

 

 戒斗が腕を組んで、やれやれと文句を垂れる。

 

「聖天子が無事ならそれでいいさ。俺も何ともないしな」

 

 俺は笑みでそう告げる。だが、その言葉を受けた彼女は直ぐに視線を逸らした。何故!?そう思った俺の思考を遮る様にエレベーターが止まり、扉が開かれる。

 

「呉島君、彼はガストレアと戦極ドライバー、ロックシードの解析を行っていたそうだが、どちらの用件で私達を呼んだのだね?」

 

「彼の言葉が本当ならば両方かと」

 

 そういって、大きな扉の前でエレベーターとは違うカードを装置にスライドさせ、その上にあるタッチ式の装置に掌を乗せる。

 

【ソイヤッ!!】

 

 何故かそんな電子音声と共に扉が開く。瞬間、パァンと軽快な音が連続で鳴った。

 

「ようこそ、我が城へ。歓迎するよ。仮面ライダー鎧武君」

 

 先頭に立つ呉島さんや聖天子を無視して一人の青年が俺に対して、そう告げる。突然の事に驚き、固まっている俺を見て呉島さんは苦笑して。

 

「紹介しよう。戦極ドライバー及びロックシードの解析を行っている」

 

「戦極凌馬だ。君には感謝している。とても興味深い研究資料を提供してくれた事にね」

 

「は、はぁ……」

 

 そう返した途端、俺の右手が素早く戦極に掴まれ、ブンブンと振り回される。

 

「いやはや、貴虎から聞いていたが、まさか駆紋君と同い年とはね。まぁ、年齢はこの際、どうだっていいか。さぁ、立ち話も何だ、入ってくれ」

 

 そういって、招き入れる戦極凌馬は原作のプロフェッサー凌馬その人である。違う点を上げれば白のメッシュが無く、完璧な黒髪な点だけだろうか。

 

「安物のコーヒーしかないけど、どうする?」

 

「そうだな、私はいるが、聖天子様と菊之丞様は?」

 

「私は結構だ」

 

「私は……一杯もらいましょう。あ、砂糖とミルクがあれば欲しいです」

 

「分かりました。残り二人もいるみたいだね」

 

 そういって、手際良くコーヒーを作る凌馬から眼を離して、室内を見る。見た事もない、使い方も分からない機械が並んでいる。だが、その反面、整理はされており、部屋自体は綺麗だ。そして視線の先、透明なシリンダーの中に幾本ものチューブに繋がれたクルミのロックシードが置かれている。

 

「ふふ、気になるかい?」

 

「え?あ、あぁ、そりゃ気になるさ。俺としてもロックシードとかこのドライバーだって良く分かってないんだし」

 

「そうだな、便利な力だが。未知の技術で出来ている以上、不安は残る」

 

「確かにそうだろう。そしてその未知を解明するのは科学者である私の役目だ。いやいや、ロックシードとその力を引き出す戦極ドライバー。とても興味深い。【機械化兵士計画】なんてものより面白い研究テーマだよ」

 

 そういいながら、彼は俺達の前にコーヒーを置いて行く。聖天子の前にはきっちりと角砂糖とミルクの容器を置く。

 

「聖天子様も先刻は大変でしたね。飛び入りのイニシエーターに襲われかけたみたいで」

 

「えぇ、ですが彼らのお陰で助かりました」

 

「彼ら、ね。先日も言いましたが、この際護衛隊長とその近くの物を解雇して貴虎達を護衛にしてみては?私としてはその方が戦極ドライバーのデータが多く取れますし、聖天子様の身も今よりは格段に安全になりますが」

 

「それは出来ません。彼らとて努力はしているでしょうし」

 

「……大変だね、貴虎」

 

「私に振るな。それと、報告で聞いたが、解析は出来たんだろうな?」

 

 呉島さんの言葉に彼は勿論、と両手を広げる。

 

「ガストレアの方、運ばれてきた肉片は解析完了済みだ。まぁ、ロックシードに関しては未だ解析中ですが、ある程度分かっていますし。さて……どちらから聞きます?」

 

 嬉しそうに聞いてくる戦極さんに聖天子は少しだけ考えた後。

 

「先ずはガストレアの方をお願いします」

 

「なんだ、そっちか。まぁ、楽しみを最後に取っておく心情も頷けますから異存はありませんよ」

 

 いや、そんな感じじゃないと思うんだけど。これは気にしない方がいいのか?そんな事を考えている間に戦極さんはコーヒーを持って立ち上がり、映写機のスイッチを押す。スクリーンに映し出されたのは焦げた肉片とソレに関するデータだ。

 

「さて、先ずは貴虎が持ってきたモデルワームのガストレア、その解析結果だ。先ず最初に資料で渡した通り、このガストレアはミミズの性質を持っている為、汚染物質。それも自身にとって有害な毒物に対して強い耐性を持っている。そして貴虎の証言を聞き、その前に現れた民警を襲った事を鑑みれば、このガストレアはプロモーターをバラニウム製の武装ごと丸飲みし、体内でバラニウムを分解、克服するほどの性質を持った。

しかし、問題はそのガストレア自身が東京エリアに来るまでに弱ってしまった事。捕食したソレを分解するまでに時間が掛かる事で発見が早く済み、貴虎率いる実働部隊に倒された事で最悪のシナリオは回避できた。ここまでは資料にある通りだ。そしてその後、とても興味深いモノを見付けた」

 

 そこで一端区切り、コーヒーを一口飲んだ彼は映写機を操作する。次に現れたのは細かな細胞の写真と薬品の資料だ。

 

「コレは非常に強い催眠効果を与える薬だ。ソレがこの肉片から出て来た」

 

「催眠効果……ですか?」

 

 聞き返す聖天子に戦極は頷く。

 

「催眠と言っても、そこまで高度な物じゃない。単に【条件付け】する類のようだ。例えば、東京エリアに向かえ、とね」

 

「では、プロフェッサーはこのガストレアが人為的に操作されたと?」

 

「私はその可能性が高いと思っている。この催眠薬の成分は自然界でも珍しくミミズのように地中から己の養分を接種するタイプでは全くといっていいほど無縁の存在だ。しかも、肉片一つから得られた量はかなりの物。恐らくは何処かでガストレアを利用するプロジェクトが立ち上がっているんだろう」

 

「そんな……」

 

 その言葉に絶句する聖天子。ガストレアは不倶戴天の敵であり、殲滅する物だというのは彼女にも分かっているのだろう。だけど、ソレを利用するという思考に彼女が驚き、固まっている。

 

「プロフェッサー凌馬。君はこのガストレアが兵器として運用されたと考えているかね?」

 

「いいえ」

 

 まさか、という感じに返した凌馬は続ける。

 

「私の意見としてコイツは試作でしょうね。データを取る為にわざと分かりやすい場所に向かわせ、潜伏期間、捕食回数、感染爆発を起こしたか否か、撃破された時のデータを取る為の捨て駒でしょう。恐らくですが、他のエリアでも確認されているでしょうね。そして少なからず、彼等も気が付き始めている」

 

「市民には伝えた方がいいでしょうか?」

 

「止めた方が良いでしょう」

 

 聖天子の呟きに戦極さんが即答する。

 

「人為的にガストレアを操れる。ソレは市民にとって悪夢でしかない。それでは余計に混乱が広がってしまう。更に言えば、その情報によって一番に被害が集まるのは【呪われし子供たち】だ。恐らくは今以上に暴走した市民によって今まで静かに暮らしていた子たちがリンチ、若しくはモノリスの外に追いやられてしまうでしょう。コレは公表しない方が彼女達の為ですよ」

 

 そういって、戦極さんは映写機の電源を切る。

 

「ガストレア自体は自然発生した個体ですから。恐らくは捕獲されてこの催眠薬を投与された後、放たれたのでしょうね。まぁ、これ以上は何とも。このガストレア一体で分かる範囲の情報は必要とあらば後で資料として提出しますが?」

 

「……私と菊之丞さんのみにお願いします」

 

「分かりました。では、この後、早急に作成しましょう。さて!!」

 

 パン、と手を叩いた彼は笑みを浮かべ。

 

「次はロックシードについてですね♪」

 

 そういって、笑顔を見せる彼はとても活き活きしている。放っておけばそのまま小躍りする位に上機嫌だ。

 

「最初に分かった事は、このロックシードは人の手によって加工されたという事です」

 

「人の手によって?」

 

「えぇ、何のためかは分かりませんが。戦極ドライバーを使う事でこのロックシードを加工するようです。流石にロックシードの許等は私にも分かりませんが。他にも面白い事にこのロックシード。ガストレアの再生能力を著しく阻害する効果があるんですよ。いやいや、冗談ではないですからね?しかも、その阻害効果は一般的に流通しているバラニウム製の武装の約数十倍。これは大発見だ!!直ぐにでも量産した方がいいでしょう。尤も、そのロックシードもその力を引き出す戦極ドライバーも製造法は不明なんですが。その事について葛葉君、君は何か知っているんじゃないかい?」

 

「え?俺ですか?」

 

「そう、君だ。貴虎の話では君のドライバーは他の二人と明らかに違う。ロックシードを加工せず、そのまま実として作り出すなんて、明らかにおかしい。だが、ソレを君に聞いても恐らくは私達が望む回答は得られないだろう。しかし、私は君がロックシードの謎の一端を知っていると考えている」

 

「根拠はあるのですか?」

 

「こればかりは科学者の勘としか答えられません」

 

 鋭い。やっぱり原作でドライバーを作り出した人だけはある。これは……隠さない方が面倒にならずに済むか?

 

「……俺としても突拍子もない事なんで言えなかったんですけど」

 

「ほう!!やっぱり、知っていたんだね?」

 

「いえ、知っているというより、教えられたんです」

 

「教えられた?成る程、貴虎達にドライバーを与えた謎の人物だね。それで?教えられた内容というのは?」

 

「……戦極さんって異世界信じます?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「成る程、ヘルヘイムの森の果実を人間にとって無害な物、ロックシードにするのが戦極ドライバーである……か。俄かには信じられない。それに君も見た事が無いのだろう?」

 

「はい、あの男はもう、この世界にヘルヘイムと繋がる場所はないそうです」

 

「実に興味深い。とはいえ、ヘルヘイムにはその実を食用としている生物、インベスがいる……か」

 

 コウタさんから語られたその言葉に私達は驚いて言葉が出ない。コウタさんを疑う様な事はしたくありませんが、やはり信じがたいです。

 

「しかし、何故、あの男はその事を君に?」

 

「自分の使う力の出自位は知っておいた方が面白いだろう?と言われました」

 

「君達が会った人物は愉快犯のようだな」

 

 やや硬い表情の菊之丞さんが呟く。その言葉にプロフェッサーが頷く。

 

「でしょうね。それも人間が無様に地を這い、踊るのを楽しむ高位の存在でしょう。貴虎の報告からの推測ですけど。まぁ、こちらとしては謎がある程度解けたからいいが、ヘルヘイムか~……」

 

「言っておくが、その未知の世界に対しての調査は無理だぞ?」

 

「分かっている。私も単なる興味でパンドラの箱を開ける様な愚かな真似はしないさ」

 

 そういって、プロフェッサーはコーヒーを飲み干す。

 

「さて、次に葛葉君、君の戦極ドライバーを調べてもいいかな?他の二人とは違うと思うから良いデータが取れると思うんだ」

 

「まぁ、構いませんけど」

 

 そういって、コウタさんは自分のドライバーをプロフェッサーに渡す。

 

「ふむ、見た目の違いは殆ど無いな。だとすると中身か」

 

「あの、壊さないようにお願いしますね」

 

 何だか、心配になってきた私がそう声を掛けるとプロフェッサーは人懐っこい笑みを浮かべて。

 

「御安心を。そんな事はありませんよ」

 

 そういって、早速空いているシリンダーにドライバーを入れて、機械を弄り始める。

 

「聖天子様」

 

 菊之丞さんが私に声を掛ける。彼は腕時計を指して、頷く。私も同じように頷く。

 

「済みません、この後会議があるので」

 

「では、私と戒斗が送りましょう」

 

「では、聖天子様。また後で資料を持ってくるので」

 

 そう告げるプロフェッサーは機械の方を向いていて、その姿が何処か新しい玩具に夢中になる子供の様で面白かった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ふむふむ、中々面白いね。取り敢えず、君のベルトからロックシードが生まれる理屈が分かったよ」

 

「早っ!?」

 

 調べ始めてまだ数分と経ってないというのに。恐るべし、戦極凌馬。

 

「簡単に言えば、君のベルトはヘルヘイムと繋がっている。まぁ、こっちから干渉が出来ないみたいだけどね。つまり一方通行だ」

 

「じゃあ、ロックシードはヘルヘイムからそのベルトを通して俺達の世界に?」

 

「その通り、原理は不明。恐らく同じ物を作って効率よくロックシードを得る様な事も不可能。とはいえ、これは面白い。悪いけど、幾つかロックシードを貰っていいかな?」

 

「え?あぁ、それは構いませんけど」

 

 さて、何を渡したらいいのか。今のところ、使わないコイツ等にするか。

 

「ふむ、面白いね。それに重複している物もある」

 

 そういって、受け取ったロックシードを机に置いた後、ベルトを持ってくる。

 

「ロックシード関連以外は他のベルトと変わらなかった。だから、コレは君に返そう」

 

「今のだけで大丈夫なんですか?」

 

「個人的にはもっと調べたい。けど、君達には大事な仕事がある。そしてその仕事を完遂する為にはこのベルトが必要だろう?なら、コレは君達の手にあった方がいいんだ。なに、調べたいときは貴虎を呼ぶから心配しなくていいよ」

 

 言われ、俺は頷きつつベルトを受け取る。

 

「じゃあ、俺はこれで失礼します」

 

「あぁ、気を付けてね。護衛隊が君の事を毛嫌いしている話はこっちにも届いている。精々、後ろには気を付けるように。君みたいな人間を死なせるのは私達にとって大きな損失だ」

 

「……分かりました」

 

 楽しそうな笑顔と共に告げられた忠告に思わず頬が引き攣る。そのまま、俺は聖居を出て、凰蓮さんの店に戻る。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ただいま……って、レヴィ!?」

 

 時刻は既に夕方、営業時間を過ぎた【シャルモン】の扉を開いて、中に入ると。そこにはソファーで寝ているレヴィがいた。

 

「どうしたんだ?」

 

「あら、お帰り。レヴィは疲れたから寝てるだけよ」

 

「凰蓮さん?疲れたって、あのレヴィが?」

 

「えぇ、今日は負けられない戦いだったのよ。その為にレヴィには接客を任せっきりだったの。そっとしておいてくれない?」

 

「それは構いませんけど、後ろの人は?」

 

「あぁ、そうね。紹介がまだだったわね」

 

 そういって、凰蓮さんはこっちに背を向けている男性の肩を叩く。

 

「ほら、京水。昼間話していたコウタ君が帰って来たわよ」

 

 京水?その名前を聞いて、俺の背中に冷や汗が伝う。そしてその男性が振り向く。

 

「あら、イケメン!!」

 

 あぁ、作品が違うのにこの二人が並ぶと違和感が無いのは何故だろうな。

 

 

 

 

 

 

「リベンジですか?」

 

「そう、かつて私は完膚なきまでにカノジョ、凰蓮に負けたわ」

 

「あら?大袈裟ね。私は単に長くなった天狗の鼻を折っただけよ?」

 

 テーブルを挟んで俺の前には屈強な男性が二人、オネエ言葉で話している。そして俺の膝の上では寝息を立てている少女一人。凄い状況だな。

 

「それで、今日はレヴィが疲れるほど繁盛したんですか」

 

「えぇ、出血大サービス。九割引きで店を開いたのよ」

 

「赤字覚悟ですね。だとするならかなり入ったんじゃ」

 

「えぇ、驚いたわ。あそこまで人気があるなんて。私でも最初は驚いて固まってしまったもの」

 

 そういって、頬に手を当てる京水。

 

「それで、勝負の結果は?」

 

「ワテクシの勝ち。といっても、僅差だけど」

 

「僅差だろうと関係ないわ。私はまた負けた。けど、以前は届かなかったアナタの足下にまでは辿りつけた。次は負けないわ」

 

「ふふ、いい気迫じゃない。このままフリーにしておくのは勿体ないわね。どうかしら、京水。アナタさえ良ければウチで働かない?」

 

「私を……この【シャルモン】で……?いいの?」

 

「俺は別に構いませんよ。レヴィにとってもいい事だと思いますし」

 

 そういって、俺は指でレヴィの頬を撫でる。京水はレヴィを見て、頷く。

 

「そうね。小さな後輩に先輩として色々と教えるのも悪くないわね」

 

「あら、レヴィはワテクシの弟子よ。横取りなんて無粋ね」

 

「そんな事はしないわ。単に後輩が欲しいだけ。序でにか・れ・し・も♡」

 

 ウィンクされ、顔が引き攣る。

 

「ダメよ、京水。残念ながら彼はもう既にキープされてるわ」

 

「なんですって!?」

 

 野太い悲鳴が上がる。取り敢えず、俺は素早くレヴィを背負って自室へ逃げる。

 




この作品の保脇さんはとことん無能で行きます。まぁ、自分的にそのほうが書きやすいわけなんですけどww取り敢えず、戦極さんは原作同様マッドではありません。えぇ、ヘルヘイムに興味持っていますが、ガストレア優先です。ガストレアの問題が片付いた後は保障できませんがww後、ロックシードに独自の設定を盛り込ませました。考えてみたらステージⅣ辺りから魔人ブウ並の再生能力なためで、これくらいしないと、この後の展開で力不足になるのが目に見えているからです。では、次回もお楽しみに



次回の転生者の花道は……



「いいですか?お、女の人と二人乗りなんてダメですからね?」



「それはウチの店長のお陰かな。この店はさ、主に【呪われし子供たち】を養っている親子や保護者を対象に商売してる店なんだ」



「えんちゅ……?」
「え・ん・じゅ!!」


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神を目指した者たち
第六話 意外な客 思わぬ接触


原作一巻突入!!基本的に一巻はややオリジナルを混ぜつつ、聖天子側ですので主人公との絡みは少ないと思ってください。まぁ、主人公の見せ場はしっかりと作ってありますが。


「ふむ、新しいロックシードか」

 

「まぁ、見て貰った方が早いんですけどね」

 

 戦極さんと出会ってから三日目の昼前。俺は新しく手に入ったロックシードを戦極さんに見せる。

 

「面白いのかい?」

 

 そういう彼の表情は親から新しい玩具を貰う前の子供みたいで面白い。

 

「えぇ、驚くと思いますよ」

 

 そういって、俺は錠前を開けて、投げる。投げられた錠前は巨大化しながら変形して一台のバイクになった。

 

「ほう!!確かに面白い!!」

 

 そういって、サクラをモチーフとしたバイク、サクラハリケーンに齧りつく様に近づく。

 

「ロックシードにこんな種類があるとは!!」

 

 そう嬉々として語りながらもパイプやケーブルを繋いで、機械を弄る早さは凄まじく、残像が見えるほどだ。

 

「ふむ、これなら移動用の足としても充分だろう」

 

「いや、戦極さん。呉島さんならまだしも、俺と戒斗は免許持ってませんよ?」

 

「ん?それなら別に問題ないだろ。君が直に聖天子様に言えば、一発だ」

 

 そう確信した笑みで告げられ、そのまま背中を押されて、歩き出す。

 

「善は急げ、だ。さぁ、行こう!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「……ロックシードにはそんな種類があるんですね」

 

「えぇ、私も驚きました。それで、どうでしょう?実働部隊の皆にコレを支給してテス……いえ、実用させては?」

 

 今、完全にテストしようとか言ったよな?

 

「コウタさんはどう思います?」

 

「え?あぁ、そうだな。あれば便利だし、それに救助した人も直ぐに運べるから。救助活動も円滑に進むんじゃないか?」

 

 ただ、バイクの免許がな~。そう思っていると、ニヤニヤと笑う戦極さんが聖天子に何事か耳打ちする。すると、彼女は音が出る位に顔を赤くした。そして顎に手を当てて、何かを考え始め、腕を組んでいる俺に気が付くとわざとらしく咳払いする。

 

「そ、そうですね。移動手段は必要です。ですので、戒斗さんとコウタさんには教習所で一通り運転を習って下さい。それと!!そのバイクに乗る時は仕事の時だけですので、勝手に乗り回してはダメですよ?」

 

「お、おう。了解」

 

「いいですか?お、女の人と二人乗りなんてダメですからね?」

 

「わ、分かりました」

 

 何故か、身を乗り出して告げる彼女に俺は首を縦に振って了承する。彼女は納得したのか、頷いて椅子に座り直す。

 

「では、勉強頑張って下さい」

 

「が、頑張ってきます」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ねぇ、パパ~」

 

「ふむ、困った子だ。我慢は大切なんだが?」

 

「お腹空いた~、イジワルなパパきら~い」

 

 後ろで足音が消える。やれやれ、そんなため息と共に振り向けば、我が娘は道端でしゃがんでおり、地面を歩く蟻の大群を眺めている。

 

「パパ~、蟻ってガストレアみたいだね~」

 

「……ふむ、確かに餌に向かって一心不乱に行軍する。確かにガストレアに似てなくもないな。進化した生物と言っても、既存のモノと似通っている。ソレは人やガストレアでも変わらないか」

 

 子供の着眼点は新鮮で面白い。とはいえ、あまりその場に留まれば要らぬ視線を集めるな。

 

「お腹空いたの?」

 

 そんな時だ。娘の後ろで声を掛けたのは長く青い髪をツインテールにした可愛らしい少女だ。赤い瞳を隠そうとせず、しゃがんだ娘を気遣う少女に私はらしくもなく、呆けてしまった。

 

「うん、お腹空いた。パパとずっと歩いて疲れた」

 

「ん~、それじゃ、ボク美味しいお店知ってるよ」

 

「ホント!?」

 

 嬉しそうに小比奈が立ち上がる。

 

「ね、パパ!!」

 

「……ふむ、お嬢さん。その店はここから近いのかね?」

 

「うん、すぐそこだよ。今日は親子デーで三割引き!!」

 

「おぉ~!!」

 

 ニッと笑って、三つ指を立てる少女に感嘆の声を上げる小比奈に自然と口角が上がる。しかし、三割引きか。先日の一件といい最近は良い事があるものだ。

 

「そうだね、これ以上は小比奈も我慢できそうにないだろうし、案内してくれないか?」

 

「はぁい、二名様ごあんな~い♪」

 

「パパ大好き!!」

 

 やれやれ、現金な子だ。だが、好きと言われて笑みが浮かぶのは仕方ない。まぁ、仮面で見えないんだがね。

 

「此処だよ~」

 

「し、【シャルモント】?」

 

「おや、フランス語を読めるようになったのか?凄いな、小比奈は」

 

「えへへ~♪」

 

 以前、基本的な事を教えたが、まさかこんな早くマスターするとは。我が娘は優秀のようだ。

 

「あ、ボクそういうの知ってる。親バカでしょ?」

 

「パパ、バカじゃないもん!!」

 

「え?親バカって子供を大切にする人だよね?」

 

「え?そうなの、パパ?」

 

「ん?ん~、そうなるかな?」

 

「ほら~」

 

 等と、会話しながら店の中に入る。中々、落ち着いた雰囲気だ。それにこの甘い香りは。

 

「ケーキの匂い?」

 

「どうやら此処はデザート専門店のようだ」

 

 まぁ、小比奈は食べられれば問題ないか。私は……内臓があれば良かったのだが。

 

「てんちょー、お客二名、ごあんな~い♪」

 

「二番テーブルに案内して頂戴」

 

 キッチンから聞こえた声は高く、且つ野太い。その声に首を傾げながら少女の後ろを付いて行く。何時の間にか、少女はお冷とお絞りが二つ乗ったお盆を持ち上げている。

 

「お冷とお絞り、後コレがメニューだよ」

 

「小比奈、好きなの頼んでいいよ」

 

「どれにしようかな……」

 

 瞳を輝かせて、メニューを見る彼女を見る。

 

「おじさんは?」

 

「私かい?私はそこまでお腹空いてないからね。コーヒーだけでいいさ」

 

「私、コレにする!!」

 

 そういって、見せたのはメニューの中心にある巨大なパフェ。オレンジとバナナ、メロンが特徴のジャンボパフェだ。

 

「おぉ、いいな。よし、後でボクもこれにしよう!!」

 

 そういって、メニューを聞いた少女はキッチンへと姿を消す。すると、キッチンの方で声が聞こえた。

 

「あ、コウタ!!今日は親子デーだから変身、お願い!!」

 

「またかよ。いや、意味分かんねえし。って、二人まで!?分かりましたよ」

 

 何処か面倒くさそうな少年の声。

 

【オレンジ!!】

 

「変身……」

 

【ロック・オン!!】

 

 やる気のない掛け声と共に店内に法螺貝の音が響き渡る。

 

「これ、なに?」

 

「さぁ、何だろうね」

 

 驚くべき事に店内の親子連れは驚いておらず、逆に今か今か、と期待している。

 

【ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

するとキッチンから巨大なオレンジを被った少年が現れる。

 

「は……?」

 

 知らず、口からは間抜けな声が出る。いや、何だアレは?というか、小比奈が身を乗り出して珍しがっているのが妙に可愛いが、今はあの少年が先だ。その少年の被ったオレンジは変形して、鎧となる。あの姿は……。

 

「鎧武!!」

 

 その叫びと共に跳び出す小比奈を斥力フィールドの壁で止める。勢いが強かったのか、壁にめり込むような勢いだ。かなり痛そうだが、仕方あるまい。

 

「小比奈。彼と戦ってはいけないよ」

 

「……どうして?」

 

 赤くなった鼻を擦り、涙目で聞いてくる小比奈は撫でてあげたい可愛さだが、ここは我慢だ。

 

「まだ菓子折りを用意してない。それにここで暴れたら折角のパフェを食べ損ねるよ?」

 

「じゃあ、止める」

 

 即答である。戦闘が大好きなこの子でも空腹には勝てないようだ。

 

「ん?アンタ!!」

 

「やぁ、鎧武君、今日はお客として来たんだ。だから、危ない事は無しにしよう」

 

 私の言葉に彼は暫し黙った後。

 

「……分かったよ。今ここではアンタはお客様だ」

 

 そういって、彼は渡されたデザートを運び、テーブルに座る子供たちと握手したり、肩車したりとサービスしている。

 

「はぁい、お待たせ~」

 

「わぁ!!」

 

「これはまた、美味しそうだ」

 

 色取り取りのクリーム、ジャム、チョコレートの層の頂点にオレンジとメロンが周りを飾り、バナナが添えられており、中々に食欲がそそられる。とはいえ、私は食べられないのが惜しい。

 

「頂きます♪」

 

 小比奈が嬉しそうに持ったスプーンで大きくパフェを切り崩し、掬って口の中に運ぶ。

 

「~~~~~~♡」

 

 頬に両手を当てて、美味しさと幸福感を身体全体で表現する小比奈を見て、こちらまで幸せになりそうだ。

 

「普通にしてると、唯の女の子なんだな」

 

「ふふ、確かにね。まぁ、少々言動が怪しいが。ところで、鎧武君」

 

 何時の間にか、此方に来ている鎧武君に声を掛け、私は客たちの間を笑顔で回る少女を指さす。

 

「彼女は【呪われた子供たち】だろ?何故、迫害されない?」

 

「この店の客は全員【呪われた子供たち】とその親だからな」

 

「なに?」

 

 言われ、よく見れば確かに。子供達は皆少女であり、その瞳は感情の昂りで赤く光っている少女もいる。

 

「何故、そのような子たちがこんなにも大勢……?」

 

「それはウチの店長のお陰かな。この店はさ、主に【呪われた子供たち】を養っている親子や保護者を対象に商売してる店なんだ」

 

 俺も驚いたよ、と彼は呟く。

 

「普通は捨てられるらしいけど、こうやって親として接する人がいるってだけで、少し嬉しい気がするんだ。やっぱり、子供には親が必要だからさ」

 

「……そうかもしれないね」

 

 視線を小比奈に向ける。彼女は嬉しそうにパフェを攻略中だ。今の彼女は血に濡れて笑顔を浮かべる【邪悪な天使】ではなく、単なる少女だ。

 

「君に懐いている少女、イニシエーターとして戦わせないのかね?」

 

 対極に位置するからだろうか、ああやって人と接して笑顔を浮かべる少女を見て、私はそう呟いていた。

 

「確かにその選択肢もあった。俺も聞いた事があるよ。けど、アイツはもう自分でやりたい事を決めていた。だから、俺はソレを尊重させたいんだ」

 

「世間が彼女を認めなくても?」

 

「……難しいよな。けど、だからって諦める奴じゃないんだ。好きな事には真っ直ぐ一直線、ソレがアイツのモットーらしいからな」

 

 そう告げる彼は何処か誇らしかった。だからだろうか。

 

「世界を壊してみないか?」

 

 そう呟く自分がいた。

 

「世界を……?」

 

「そうだ。彼女達が真に理解され、祝福される世界。そして君の力、私の力が必要とされる世界の為に仮初の世界を壊さないか?」

 

「……戦争。終わりのない闘争か?」

 

 やや沈んだ声に私は喉で笑う。

 

「そう、その通りだ」

 

 さぁ、君はどうする?青臭い正義を振りかざすか?それとも、私と共に来るか?

 

「悪いな。俺には無理だ」

 

「理由を聞いても?」

 

 問いを投げる。彼は忙しなく動き、けれど、笑みを絶やさない少女を見て。

 

「アンタはさ、幸福って何なのか考えた事があるか?」

 

「哲学だね。そして答えの曖昧な事を聞く。幸福とは万人が持つ無数の事柄であり、誰一人として同じ物はない」

 

「俺とアンタは違う。別にアンタのその願いを否定する気はない。俺だって、自分の力がどこまで通用するのか、ていう欲はある」

 

 ほう?

 

「きっと、アンタは悪を為そうとしてる。ソレは非難されて然るべきなのかもしれない。けど、あんたにとってソレは生き甲斐なんだろう?」

 

「無論だとも」

 

 なら、と彼は前置きする。

 

「俺にも新しい生き甲斐が出来た。今まで何をやっても中途半端で投げ出してきた俺が命を掛けてもやりたい事が」

 

 そういって、彼は自分の手を見る。

 

「俺の知ってる、俺を信頼してくれる人を守りたい」

 

「偽善だ。君の行いは後に君自身を蝕むだろう」

 

 かもな、と彼は呟く。

 

「俺の行いが偽善で。出来ると分かってやらないのが善だとすれば。偽善で結構、やらない善より、やる偽善の方が俺は好きだからな」

 

「……く、くひ、ヒハハハハハ!!」

 

 腹を抱えて笑う。人目など気にしない。いやはや、何とも嬉しい出会いだ。

 

「いいだろう、鎧武君。君が偽善を貫くならば私は悪を貫こう。そしてその道がぶつかった時を楽しみにしているよ」

 

 そういって、食べ終えた小比奈を連れて会計を済ませ、店を出る。

 

「パパ、何か嬉しそう」

 

「そうだね。私は今、最高に気分が良い」

 

 そういって、小比奈を見れば、彼女の口元にクリームが付いている。ナプキンを取り出し、綺麗に拭きとる。その際、小比奈とあの少女の笑顔が重なる。

 

「小比奈。お前は幸せかい?」

 

「?うん、幸せだよ。パパがいるし、美味しいパフェも食べれたし」

 

 そういって、彼女は笑う。

 

「あ、でもね」

 

 けど、彼女の言葉はそこで途切れない。小比奈はその赤い瞳を爛々と輝かせ。

 

「やっぱり、斬ってる時とか戦ってる時とかの方が幸せかも」

 

「そうか……」

 

 なんと愚かで無知な娘だろうか。こんな歪んだヒトに造り上げた自分はなんと罪深いのだろうか。

 

「パパもそうだよ。パパもね、戦っている時が一番楽しい」

 

 だが、だからこそ愛おしい。私の娘。正しく、私の理想を体現してくれるこの娘が私にとって全てだ。

 

「本当?私も嬉しいな」

 

「ふふ、さぁ行こうか。明日からお仕事の時間だ」

 

「一杯殺せる?」

 

「あぁ、一杯だ。小比奈がもう嫌って言う位ね」

 

 私の言葉に嬉しそうにはしゃぐ小比奈を見て思う。彼は小比奈を殺せるのだろうか、それとも。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「お買いもの、お買いもの~♪」

 

「分かったから、暴れるなって」

 

 蛭子親子の意外な出会いから二日。俺はレヴィと一緒に夕飯の買い物に出掛けていた。何時もは一人なのだが、今日は何故か、一緒に行くと言って肩車中だ。

 

「人がゴミのようだ~」

 

「指差すな!!本当にスンマセン!!」

 

 道行く人々を指さして笑うレヴィを叱りながら謝るが、道行く人は暖かな笑みで手を振っている。レヴィの瞳は赤く、夕日を反射して恐らくは妖しく光っている筈だ。それでも、道行く人が気にしていないのはレヴィの振舞いが自然なのと彼女が殆ど笑顔を浮かべている所為だろう。

 

「コウタ~、今日の夕飯はなに~?」

 

「ん~、そうだな。京水さんが魚が食べたいって無茶言ってたから今日はフライとか塩焼きかな」

 

「魚、サカナ~♪」

 

「頼むから骨を取れよ?」

 

 コイツの場合、小骨どころか魚の骨を気にせずムシャムシャと行くので、見てるこっちの喉が痛くなる。

 

「あれ?」

 

 ふと、レヴィが視線の先を見る。俺も視線を移せば。

 

「蓮・太・郎・の・薄・情・者・めぇぇぇッ!!!!!」

 

 遠くの方で何やら赤い髪の少女が大声を上げていた。

 

「誰だろうね~?どうしたんだろう?」

 

「保護者に放置されたのかな?」

 

 恐らくは原作の出来事だろう。少女の先には血だらけの男性が立っている。

 

「どうしたの~?」

 

 男性と話していた少女に近づいて行くと、レヴィが声を掛ける。少女はコッチを振りむいて、眼を見開く。

 

「お主ら、直ぐに逃げろ!!」

 

 叫びと奥に居る男性が変わるのは同時だった。

 

「みゃ!?」

 

「んにゃ!?」

 

 俺は即座にレヴィを右脇に少女を左脇に抱えて、反転。曲がり角まで逃げる。

 

「は、離せ!!妾はアレを倒さねばならぬのだ!!」

 

「その前に避難が先だろう?」

 

 自分でも驚くほどに冷静だ。毎日の訓練のお陰だろう。主に凰蓮さんのしごきと最近加わった京水さんの鞭が原因。

 

「レヴィ、お前は此処でジッとしてろよ?」

 

「覗いちゃ駄目?」

 

「その程度なら問題ない。危なくなったら逃げろよ?」

 

「りょうか~い♪」

 

「お主ら、緊張感なさすぎだ」

 

 俺とレヴィの会話に脱力する少女の後ろ、蜘蛛のガストレアが顔を出し、即座に銃声が聞こえ、ガストレアの眼が潰れる。

 

「モデルスパイダー・ステージⅠを確認。これより交戦に入る!!」

 

「蓮太郎!!」

 

「延珠、無事か!!」

 

 声に振り向けば学生服に拳銃を構えた少年、蓮太郎がいた。少女、延珠は蓮太郎に近づき、その股間を蹴りあげる。

 

「あぁ、あれは痛い」

 

 そういって、俺はガストレアの方を確認しながら近づく。会話を聞くにどうやら自転車から振り落とされた事に御立腹のようだ。

 

「レヴィ、そこの不幸そうな顔の兄ちゃんの後ろにいろ。多分、安全だから」

 

「りょうか~い♪大丈夫?背中トントンしようか?」

 

「た、頼む……」

 

「あ……」

 

 止めようと思ったが、もう無理だ。拳を握ったレヴィが蓮太郎の背中に満面の笑顔で振り下ろした。

 

「おぉ!?」

 

 メリ、とかゴス、とかそんな音が聞こえると共に立ち上がった蓮太郎が地面に沈む。俺は頭の上に?マークを浮かべているレヴィの額にデコピンを叩きこむ。

 

「お前な、やるならもっと加減しろって、前にも言ったろ?」

 

「ご、ごめん~」

 

「お前等、呑気に漫才やってる場合か!!!」

 

 隣の強面のおっさんの声に振り向けば蜘蛛のガストレアが妙に歯並びの良い口を開けて、突っ込んで来ていた。だが、その口は俺を噛み千切る前に閉じられる。

 

「ジャマ!!」

 

 下から掬い上げる様な蹴りを受けて、ガストレアの上半身が浮き上がり、逆さまに倒れ、もがいている。

 

「お前な、民警の仕事取るなよ」

 

「んじゃ、そこの赤いの、一緒にやろ?」

 

「誰が、赤いのか!!妾は藍原延珠だ、青いの!!」

 

「えんちゅ……?」

 

「え・ん・じゅ!!」

 

「だから、漫才は後にしろっての!!!」

 

 またもや、強面のおっさんの声と共に起き上がったガストレアが突っ込んでくる。だが、俺の後ろから響いた銃声と共にガストレアの眼が再度潰れる。

 

「やれ、延珠!!」

 

「応!!」

 

「ようし、やるぞ~!!」

 

 蓮太郎の叫びに応えた延珠が跳ぶ。その速度は余裕で車の速度を超える。その後から声を上げたレヴィがその場でしゃがんだと同時にアスファルトが砕け散る。一瞬でトップスピードに達したレヴィは延珠を易々と追い越す。

 

「んな!?」

 

「ライダァー!!キィック!!!!」

 

 叫びと共にガストレアの半身を抉り飛ばし、地面を滑りながら五メートル先で停止する。同時に延珠の蹴りがガストレアに止めを刺す。

 

「ぃやったぁ~!!」

 

 ピョンピョンと跳ねるレヴィの身体には汚れどころか返り血一つない。血が噴き出す前に通り過ぎた所為だ。冗談かと思われるが、それだけレヴィが速いのだ。

 

「立てるか?」

 

「あ、あぁ。あの子はイニシエーターなのか?」

 

「いや、唯のパティシエ見習いだよ」

 

「な、なんだと!?」

 

 絶句する蓮太郎の代わりに叫ぶのは延珠だ。

 

「お主、イニシエーターではないのか?」

 

「そだよ~。ボクはパティシエ見習いのレヴィ・ラッセル~♪」

 

 そういって、二カッと笑うレヴィの首根っこを捕まえて、釣り上げる。

 

「アンタ等、民警なんだろ?仕事横取りして悪かったな」

 

「いや、別にガストレア駆除に協力してくれてコッチは感謝するけど」

 

「あの程度のガストレアなど妾だけで充分だ」

 

「ボクより足遅いくせに~」

 

「お前は規格外だから比べるな」

 

 黙らせる為にレヴィを背負う。

 

「さてと、俺達も夕飯の買い出ししなくちゃな」

 

「今日はお魚~♪」

 

「夕飯……?あぁ?!タイムセール!?」

 

 そういって、走り出す蓮太郎が何やらもやしと叫んでいた。その後を延珠が追いかけて遠くなる。

 

「おいおい、アイツ等報酬どうするんだよ」

 

 封筒を持って途方に暮れている強面のおっさんがため息を吐いた。

 

「ボク達が届けようか~?」

 

「お前等が?……まぁ、大丈夫そうか」

 

「そんな簡単に信用していいのか?」

 

 封筒を渡してくるおっさんにそう声を掛ける。

 

「いいんだよ。どっちにしろ俺が持ってると厄介だしな。それに俺はこれでも人を見る目は良い方なんだよ」

 

「……分かったよ。んじゃ、アイツ等の事務所の場所とか分かる?」

 

 おっさんから彼らの事務所の住所を聞き出し、携帯で凰蓮さんに報告してから買い出しに向かう。

 

「お魚、あんまり無いね~」

 

「まぁ、水棲ガストレアがいるからな。魚もそう簡単に手に入らないだろ」

 

 当然だが、ガストレアは空にも海にも陸にも存在する。もしかすれば宇宙にも適応できるかもしれない。隕石サイズのガストレアが大気圏外から都市部に突入。衝突の被害に加えて、その隕石からうじゃうじゃとガストレアが出て来る。うん、悪夢だな。

まぁ、拙い妄想は置いといて。今日の夕飯は野菜サラダと冷しゃぶだ。

 

「また、野菜~?」

 

「お前ね、そろそろ野菜も食えるようになろうよ。大きくなれないぞ?」

 

「王さまみたいな事言い始めた~」

 

 王さまというのは分からないが、ソイツはどうやらかなり家庭的な性格のようだ。俺が小言を言う度に出て来る。

 

「んじゃ、帰るか」

 

「思い切り、振り切るぜ~」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ただいま~♪」

 

「戻りましたよ~」

 

「あぁ、二人ともお帰り。丁度良かったわ」

 

 そういって、凰蓮さんが出迎えてくれる。その手にはケーキを入れたであろう、箱を持って。

 

「これから御挨拶でしょう?これ、ウチの宣伝とお詫びに持って行ってくれない?」

 

「あぁ、それくらいなら構いませんよ。だとするなら、今日は外食の方がいいかな?」

 

「そうね。偶には外で食べて来るのもいいかもね」

 

「え!?外で夕飯!?やったぁ~!!!」

 

 そういって、背中の上ではしゃぐレヴィに苦笑しながら買い物袋とケーキ入れを交換した俺は外へ出る。

 

「えっと……?あぁ、意外と近いな。レヴィ、走るから持っててくれ」

 

「りょうか~い♪う~ん、いい匂い~」

 

「食べるなよ?」

 

 釘を刺しつつ、走り出す。出来るだけ背中のレヴィを揺らさないようにする。何故か、コイツ物を運ぶ時は頭上に掲げる癖があるので、もし落としたら悲惨な事になる。

 暫く走り、目的地の建物に着いた。目的の事務所は三階で看板も見える。

 

「帰りたい……」

 

「どうして?早く行こうよ~」

 

「そこのお兄さ~ん、安くするから寄ってかな~い?」

 

「ちょっと~、このお兄さんは最初に私が目を付けたのよ?勝手に取らないでよ」

 

 そういって、ゲイファッションの青年と派手なドレスを着たホステスの女性が口げんかする。そう、何故かこの建物。一階はゲイバーで、二階はキャバクラという立地なのだ。

 

「これで、客が来るのか?」

 

「さぁ~?」

 

 そう互いに喋っていると件の事務所。その扉の奥から少女の怒鳴り声が聞こえる。取り敢えず扉の前でノック。

 

「……どうぞ」

 

 私、怒ってますという感情を隠そうとしないその声にため息が出る。俺が扉を開けると。

 

「【シャルモン】デリバリーサービスで~す♪ケーキ送りに来たよ~♪」

 

「こら、レヴィ。何変な事言ってんだよ」

 

 いきなり大声を上げたレヴィの首根っこを捕まえて、注意する。

 

「えっと……どちらさま?」

 

「あぁ、今日アンタ等の仕事奪っちゃった通りすがりだ。お詫びとそっちのプロモーターにお届け物」

 

 そういって、取り出した封筒を無造作に投げる。慌てて受け取った蓮太郎が封筒の中を見て、驚く。

 

「これ、今日の収入!!」

 

「え、嘘!?」

 

「中身に手は出してないから安心しろ。んじゃ、俺達はこれで」

 

 テーブルの上にケーキを置いたレヴィと一緒に外へ出ようとしたら肩を掴まれる。

 

「ちょっと、個人的にお話があるんですけど、付き合ってくれますよね?仮面ライダーさん」

 

「……そういうのは色々と手順踏んで欲しいんだけどな」

 

 そういったが、彼女は満面の笑顔で肩を掴んだ腕に力を入れて来る。今日の帰りは遅くなりそうだ。

 




原作冒頭はこんな感じです。なんか、妙に長かったような短かったような。まぁ、何はともあれ原作始まります。サクラハリケーンなどのロックシードはこれからもしっかり活躍するので、ご期待ください。



次回の転生者の花道は……



「サイン貰えますか?」



「なんで、オレンジが浮かんでいるんだ!?」



「……驚いた。まさか、私のフィールドを抜けるとはね」



「あ、光実か」


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第七話 再会 一触即発

一巻は蓮太郎が主に活躍するので、結構駆け足で行きます!!今までで一番文字数が多くなりましたwwまぁ、これからさらに更新される可能性があるんですけどねww


「浮かない顔ですね。どうかしたんですか?」

 

「あぁ、いや。まぁ、昨日少しな」

 

 聖居の聖天子の私室でテーブルを挟んで俺は彼女と会話している。

 

「悩み事なら相談に乗りますよ?あ、でも……男の人特有の悩みごとは」

 

「いや、別にそっちじゃないから安心してくれ」

 

 顔を赤らめて、なにやら妄想している彼女を止めて、小さくため息を吐く。

 

「昨日、レヴィと一緒に夕飯の買い出しに行ってた時に。蜘蛛のガストレアと遭遇したんだ」

 

「っ!?それで、倒したん……ですよね」

 

「あぁ、近くに居合わせた民警の仕事を奪う様な感じでさ。んで、そのお詫びとしてその事務所にお邪魔したんだ。そしたら、そこの社長が俺達と同じ位の人でさ」

 

「……女性なんですか?」

 

 なんだか、聖天子のトーンが下がったが、頷く。

 

「それでお茶したんですか?」

 

「あぁ、そうなる……かな?」

 

 カチャン、と彼女がティーカップを置く。何故だか背中が寒い。

 

「その社長がな、俺が仮面ライダーだって事を知っててさ……勧誘された」

 

 ピク、と彼女が反応する。

 

「それで、返事は?」

 

「断った」

 

 そう告げると彼女が顔を上げる。何故だか分からないが嬉しそうだ。

 

「その……理由を聞いても?」

 

「そりゃ、今の仕事がいいからだな。こうやって聖天子と何気ない事で喋ったり、君を守ったり、それに俺に民警は合わない」

 

「合わない?」

 

 民警の事を調べたのだが、俺が仮面ライダーである限り、あの仕事は合わない。

 

「確かに仮面ライダーの力は折り紙つきだ。けど民警はほぼ、ガストレアとの戦闘だ。ソレはモノリスの外にまで及ぶだろ?」

 

「えぇ、外の状況を調査する場合の護衛として活躍するプロモーターやイニシエーターもいます……あっ!!」

 

「そう、俺が変身すると音が鳴るだろ?それもかなりの音量で、しかも夜間だと眼が光るし。これじゃ、目立ってしょうがない。それに引き換え、護衛ならあの姿も音も犯人の意識を聖天子から俺に変えられる。だから、俺はコッチの方が合ってるんだ。それに」

 

「それに?」

 

 俺は紅茶を飲んでから笑う。

 

「俺は聖天子を守りたいから、こっちが良いんだ」

 

 自分で言ってて恥ずかしいな、コレ。まぁ、本心でもあるし。コレで二度目だから別にいいのだが。告げた彼女が真っ赤になって俯いた。

 

「そ、そうですか……」

 

 そういって、彼女は深呼吸を二度ほど繰り返した後。

 

「私もコウタさんが私の護衛を止めないでくれて嬉しいです」

 

 そう、笑顔で言われれば頬が熱くなる。

 

「聖天子様」

 

 すると、扉を開けて菊之丞さんがやってきた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ステージⅤを呼び寄せる【七星の遺産】……か」

 

 制服に着替え終え、民警が揃う防衛省の一室へ向かって歩きながら呟いた言葉にため息を吐く。

 

「遂に原作が始まったか。というか、こっちにきてから何だかんだで一カ月近く経ってるんだよな。あっという間だったから気が付かなかったけど」

 

 何とか、原作の部分を思い出そうとして無駄だと分かる。原作は一巻までしか読んでいない為、これ以降の情勢が全く分からない。更に内容を殆ど忘れている。まぁ、当然だろう。死んだ事も理解できずに空想の世界に飛ばされ、これまた空想の力を手に入れてからは毎日をかなり騒がしく過ごしていたのだ。かつての記憶など霞んで覚えている事も少ない。その中にある本の内容などギリギリ覚えている事だけでも良い方だ。

 

(流れに沿ってなるようにしかならんか)

 

 かなり情けないが、自分一人で出来る事などたかが知れている。だからこそ、自分に出来る事は全力でやる。その為には自分の立ち位置をしっかり理解しなければならない。

 

「にしても、実働部隊ってのはこんな雑用もするんだな」

 

 聖天子の命令で防衛省にやってきた途端、俺に手渡される資料と民警に依頼する任務内容。コレについては聖天子本人から伝えられている為、俺が言う事はない。

 

「進行役か……俺、こういうの苦手なんだけどな~」

 

 気持ちを切り替える為に大きくため息を吐く。胸に抱えた靄をある程度吐き出せた俺は前を向く。

 

「おいクソアマ、いまなんつったよ!!」

 

「うわぁ……」

 

 目の前で見知った顔の男女が見知らぬ男に絡まれている。あぁ、確か原作に合ったな。とはいえ、入り口を塞がれるのはこっちとしても邪魔で仕方がない。

 

「部屋に入れないんですけど?」

 

「あら、貴方」

 

「あ、お前。なんで此処に?」

 

「あ?誰だテメエ?」

 

 三者三様の言葉に俺は小さくため息を吐く。

 

「取り敢えず部屋に入らせてくれ。入ったら自己紹介とかしてやるから」

 

「してやるだぁ?随分と偉そうなガキだな」

 

 そういって、標的を俺に変える男に俺は辟易する。何故こうも、面倒な奴がいるのか。

 

「偉そうではなく、偉いんですよ将監さん」

 

 そういって、男、将監の服を引っ張ったのは十歳位の少女だ。

 

「この人、先日のお披露目で変身したオレンジの人です」

 

「あ?あの仮面ライダーっていうふざけた奴か?」

 

 お前が?というような視線に俺はため息を吐き、ベルトを持ち上げる。

 

「何なら、お見せしようか?そろそろ俺も仕事しないといけないんだ。退くか退かないか、ハッキリしろ木偶の坊」

 

 告げた言葉に蓮太郎と木更の顔が引き攣り、少女が額に手を置く。

 

「ぶっ殺す!!」

 

 叫びと共に背中のバスターソードに手を掛ける将監の懐に一歩前に出る。

 

「がぁっ!?」

 

 左腕を取り、捻り上げつつ、足を払って地面に倒す。遅い、俺を鍛えてるのは元凄腕の傭兵二人。更に上司である呉島さんは元SPだ。対人戦の心得は身を持って教えられている。

 

「お前の序列がどれだけ高くても。得物を抜けなきゃ、少し鍛えただけのチンピラだろうが、あんまり騒ぐなよ」

 

 ミシ、と捻り上げた腕に力を込めれば、痛みに歪んだ顔の将監は俺を睨む。それはもう、視線だけで殺せるような勢いだ。

 

「もういいでしょう。彼を離してやってくれないか?」

 

 そう後ろから声を掛けるのは椅子に座った一人の男性。恐らく将監の上司だろう。

 

「コイツを離した途端、また襲われるかもしれないのに?」

 

「そうなれば、今度は私から彼に言い含めます」

 

「今の今まで何も言わなかったアンタがか?」

 

 軽く睨むも相手はどこ吹く風。まぁ、相手は大企業の社長。これ以上やって聖天子に迷惑が掛かるのは不味いか。小さくため息と共に足下の男から離れる。

 

「ぐっ!?このガキ!!」

 

「将監!!!」

 

 男の一喝で将監は舌打ちしてから男の方へと歩き出す。取り敢えず乱れた服を直していると裾を引っ張られる。

 

「私のプロモーターが迷惑を掛けてすいません」

 

「別に。気にしなくていいさ。こっちも仕事の邪魔されてイラついてたからな」

 

「そうですか。その……こんなタイミングでする話ではないのですが」

 

 そういって、彼女はモジモジと身を揺すった後、背負っているバッグからマジックペンと色紙を取り出す。

 

「サイン貰えますか?」

 

 驚いた。それも俺だけじゃなく、この場に集まった全員が。

 

「あ、あぁ。構わないけど。どんな風に書けばいいかな?」

 

「あ、夏世ちゃんへと」

 

 そう言われて頷くも、さてサインなんて初めてなんだが……まぁ、チーム鎧武のエンブレムを弄るか。前世で培った美術の才能がこんな所で役に立つとは。

 

「はい、どうぞ」

 

 ロゴはオレンジの中に鎧武の文字。その中央に刀を差しこんだ感じという、元との違いは外側の円がオレンジになっただけという手抜きだ。それでも、彼女が嬉しそうに色紙を抱いて、ペコリと一礼した後、そそくさと去っていく。うん、悪くないな。帰ったら、レヴィにも書いてやるか。

 

「それじゃ、依頼の話をしましょうか。まぁ、こんな若造の話じゃ、信用できないだろうから。それなりの人に話して貰うけど、その前に」

 

 そういって、俺は全員の視線を集める。好奇、奇異、驚愕、嘲笑、と多種多様な感情がそれぞれの視線に集まる。

 

「依頼を聞く前に退出したい人はどうぞ。コレは政府からの重要な依頼だ。聞いてから止めますは出来ないと思ってくれ」

 

 返事はなし、動きもなし。恐らくだが、子供の戯言だと思ったのだろう。先程から雰囲気が変わっていない。これで何人かは後悔するんだろうな。とはいえ、菊之丞さんもえげつない事を俺に頼む。

 

「退出は無しか。なら、依頼主から依頼を聞いてもらうか」

 

 そういって、俺は身を引く。同時に俺の後ろにあった巨大スクリーンに聖天子が映る。同時に集まった社長たちが泡を食ったように立ち上がる。

 

『皆さん、どうぞ楽にしてください。依頼は私からお話します』

 

 そうはいうが、誰も着席しようとしない。それは彼女も分かっているのだろう。彼女は全員を見渡した後、一つ頷く。

 

『依頼そのものはシンプルです。民警の皆さんに依頼するのは先日東京エリアに侵入し、感染者を一人出した感染源ガストレアの排除とそのガストレアの体内に取り込まれていると思われるケースを無傷で回収する事』

 

 その内容に質問が幾つか上がり、そして木更の質問により、室内がざわつく。

 

(まぁ、当然気になるわな。さて、どう答えるのやら)

 

 そんな事を想いながら会話に集中すればどうやら聖天子は答える気はないようだ。何故かは知らないが、木更に対して怒っている様な、いや木更が昨日俺を勧誘した事は伏せている筈なんだが。

 

「別に答えてもいいんじゃないか……?」

 

 聞こえないように呟いたつもりだが、部屋に集まった数人の少女に聞かれたらしく、視線が集中する。まぁ、無視しよう。そう思った瞬間、室内に笑い声が響き渡る。

 

『誰です?』

 

「私だ」

 

 ベルトを装着し、ロックシードを取り出した俺が睨むのはこの部屋で唯一の空席。そこには案の定、蛭子影胤が座っていた。そのあまりに自然な姿に部屋の人間が驚き。その中でも両隣に座っていた者達が椅子から転げ落ちる。

 

『貴方は……!?』

 

「先日の言葉通り、正式に挨拶に参りました。私は蛭子影胤。以後宜しく、無能な国家元首殿」

 

【オレンジ!!】

 

「変身!!」

 

 テーブルに上がった影胤の前、スクリーンの聖天子の前に立った俺の頭上にはクラックから現れたオレンジが浮かんでいる。

 

「なんで、オレンジが浮かんでいるんだ!?」

 

 社長の中には細かい事を気にする奴がいるようだ。

 

「数日ぶりだね、我が新しき敵よ」

 

「あぁ、そうだな」

 

【ロック・オン!!】

 

「私は挨拶と宣戦布告に来ただけだ。争う気はないよ」

 

「お前になくても俺にはあるさ」

 

【ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

 鎧を纏った俺は大橙丸の切っ先を影胤に向ける。

 

「俺は聖天子の護衛で、お前は聖天子の敵だ。なら、戦うのは必然だろう?」

 

「くく、それもそうだな。だが、今はまだ宣戦布告の途中なんだ。邪魔しないでくれるかね?」

 

 その言葉に俺は僅かに大橙丸を下ろす。それで意図が通じたのだろう。彼は視線を俺から聖天子へと変える。

 

「さて、聖天子と呼ばれ、崇められる愚かな娘よ。端的に言えば、私は君の敵だ」

 

 その言葉に室内から複数の殺意が影胤に集中する。だが、彼は変わらずそこにいる。まるで眼下の者達を敵とは見ていないかのように。

 

「お前、どっから……?」

 

 そう声を掛けたのは彼に銃を向けている蓮太郎だ。

 

「正面から堂々、と答えておこうか。あぁ、来る時に小うるさいハエがいたから潰してしまった。あまりにも呆気なさ過ぎてね、私も少々驚いた。おっと、忘れていたよ。皆さんにも紹介しよう。小比奈」

 

 そう影胤の言葉と同時に首筋がピリと静電気の様な物を感じ取る。

 

「っ!?」

 

「また防がれた!!」

 

 咄嗟に大橙丸を左に振り抜いた瞬間、甲高い音と共に嬉しそうな少女の声が聞こえた。

 

「チッ!!」

 

「わっ!?」

 

 空中に静止している刹那の瞬間、大橙丸から手を離し、無双セイバーを居合いの要領で抜くが、彼女は間一髪で避ける。カランという大橙丸が落ちた音が会議室に響く。

 

「今のは凄くドキドキした。鎧武って本当に面白い。弱いと思ったのに強いなんて初めて」

 

「それはどうも。なぁ、保護者さん。なんとかしてくれないか?」

 

「そうだね。こら、小比奈。最初に約束した事を忘れたのかい?」

 

「……分かった」

 

 渋々と小太刀を鞘に仕舞い、影胤の所に向かう小比奈を見て、俺は荒くなった呼吸を整える。幾ら、鎧武の装甲が厚いとはいえ、あそこまでストレートに殺気を向けられては生きた心地がしない。

 

「さて、話が逸れたね。これから私も彼らと同じレースにエントリーしようと思ってね」

 

「エントリー……?」

 

「おや?話していないのかい?なら、鎧武君。君も仕事なのだろう、しっかり果たしたまえよ?」

 

「何のことやら」

 

「おや?まさか、聖天子に一番信頼されている君が知らぬ筈はあるまい?【七星の遺産】だよ【大絶滅】を引き起こせる代物だ」

 

 やっぱり、知っていたか。そう思いつつ、周囲を見れば騒然としている。後ろへと視線を向ければ硬い表情の聖天子が映っている。

 

「民警の諸君、ルールを確認しよう。君と私達。どちらが先に感染源ガストレアを発見し【七星の遺産】を手に入れるか。なぁに、簡単なレースさ。生死を賭けた。この東京エリアを賭けたレース!!実に面白いと思わないかね?」

 

「ごちゃごちゃと!!」

 

 ダン、という踏み込みの音と共に将監が躍り出る。その手には彼の身の丈と同等のバスターソードが掲げられている。

 

「要はテメェを殺せば済む話だろうが!!!」

 

「残念♪」

 

 青い燐光と弾ける雷鳴の音と共にバスターソードが明後日の方向へ弾かれる。

 

「将監さん!!」

 

 彼の後ろにいた少女、夏世がフルオートタイプのショットガンを構えて叫ぶ。同時に将監は身を低くして、後退。その瞬間、部屋中に集った人間が発砲する。

 

(恐らく、これじゃ死なない)

 

 俺の考えを肯定するように煙の中には無傷の影胤と小比奈。そして二人の周りに浮かぶ銃弾がある。

 

「バリア……随分と面白い物を」

 

「君には負ける。とはいえ、コレは斥力フィールド。まぁ、私は【イマジナリー・ギミック】と呼んでいるがね」

 

「何者なんだ?」

 

 蓮太郎の震えた声に影胤は小さく頷く。

 

「私は元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊【新人類創造計画】蛭子影胤だ」

 

 長い。名乗りを聞いた瞬間の感想だ。しかも、ソレが何なのか、どんな組織なのか分からない。

 

「済まないが、俺はソレについての知識が無い。出来れば教えてほしいんだが」

 

「おや、そうだったのか。そうだな、簡単に言えば身体の一部を機械化して超人的な攻撃力、または防御力を持つ兵士を作り出す計画だ。私は後者だね」

 

「非効率だな。アンタをツクル金でどれだけの子供たちが鍛えられるんだ?」

 

「ヒヒ、確かに非効率だね。けど、コストに見合った戦果は上げられるさ。それに子供たちの有用性は私がツクラレタ後だからね。今更だ」

 

「そうか、それじゃ!!」

 

 足下に転がっている大橙丸を蹴り上げ、手に持つと同時に突進。斬りかかるも斥力フィールドに阻まれる。

 

「先程よりもいい攻撃だ。だが、私には届かないようだね」

 

「それはコイツを受けてから言いな!!」

 

【オレンジスカッシュ!!!】

 

 大橙丸が光ると同時に斥力フィールドごと切り裂く。

 

「……驚いた。まさか、私のフィールドを抜けるとはね」

 

「浅いな。まぁ、次はもっと深く斬れるさ」

 

 斥力フィールドは意外とあっさり斬れた。とはいえ、威力はかなり殺されたようで、影胤の手には小さな斬り傷が出来るに留まっている。

 

(これならスパーキングで行けるか?)

 

 刀に手を置いた俺がそう考えていると影胤は両手を上げる。

 

「此処は一端、退いた方がいいね。おっと、忘れる所だった」

 

 そういって、彼は右手にハンカチを持って、手品のように大きめの箱を取り出す。

 

「コレは里見君に。そしてこちらは以前言われた菓子折りだ。気に行ってくれれば幸いだけどね」

 

 そういって、影胤は俺と蓮太郎の前に箱を投げる。そのまま、彼は攻撃の余波で割れた窓に近寄る。

 

「では、ゲーム開始だ」

 

「待てっての!!」

 

「やぁだ♪」

 

 近づく俺に小比奈が刀で迎撃する。思わず弾いてしまい、その反動を利用して既に窓から飛び降りた影胤を小比奈が追いかけるように跳び下りる。

 

「こりゃ、追いかけても無駄だな」

 

 窓の外には既に二人の姿は無い。それに俺の攻撃が通用したとしても二対一。コッチが不利だ。

 

「そういえば、菓子折りって言ってたけど」

 

 テーブルに置かれた箱に目を移す。白い箱で赤いリボンで舗装されている。俺はリボンを取り外し、ゆっくりと箱を開ける。

 

「うわぁ……」

 

 そこにはガストレアの生首。そっと、俺は蓋をしてリボンを結び直した後、軽く放り投げる。

 

【オレンジスカッシュ!!】

 

「ライダーキック……」

 

 呟きと共に光が集まった右足の回し蹴りで箱を粉々に砕く。ガストレアの生首は蹴りに込められたエネルギーによって塵へと変える。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「待って!!」

 

 あれから聖天子の言葉で解散という流れとなり。俺も聖居に戻ろうとした所を木更に止められる。

 

「何だよ。勧誘は昨日断った筈だぞ?」

 

「えぇ、出来れば諦めたくないけど、今はいいわ」

 

 諦めてないのかよ。ていうか、何故か蓮太郎がこの場に居ないのは何故だ。

 

「アンタの護衛は何処行ったんだ?」

 

「蓮太郎君?彼なら先に帰ってるわよ。それよりも、聞かせて【七星の遺産】は一体どんな代物なの?どうやって【大絶滅】を引き起こすの?」

 

 近づき、聞いてくる彼女に内心、ため息を吐く。

 

「教えなきゃ、ダメか?」

 

「知っているのね?なら、教えて。私には知る義務があるわ」

 

 何処か懇願する様な声音。理由は恐らく蓮太郎だろう。

 

「ステージⅤ」

 

「……冗談よね?」

 

 聞き返す彼女に背を向けてサクラハリケーンのロックシードを放り投げる。

 

「信じたくなければそうすればいい。けど、あと数日の内に現実になるかもしれない。もし、アンタ達が失敗したら最後に何処で、誰と一緒に死ぬかくらいは考えておくといいんじゃないか?」

 

 そういって、俺はヘルメットを被って、サクラハリケーンに跨る。静止の声を振り切って、バイクを発進させる。

 

(なんで、教えたんだろう?)

 

 遅かれ早かれ知る事だが、今知らせる必要はない筈だ。なのに、なぜ教えてしまったのか。それはきっと、彼女の表情だろう。

 

「蓮太郎って案外幸せ者なのかもな」

 

 そのまま、警察に捕まらない速度で聖居に着く。サクラハリケーンをロックシードに戻して、聖天子の私室に入ると。そこには聖天子と菊之丞さんに加えて戦極さんがいた。

 

「おや、葛葉君。無事に戻ってきたようだね」

 

 出迎えたのは戦極さんだ。

 

「どうかしたんですか?」

 

「ん?あぁ、そうだ。君にも伝えなくちゃね」

 

 そういって、彼は嬉しそうに開いたアタッシュケースを俺にも見せる。

 

「え?戦極ドライバー?」

 

「といっても、変身機能はないがね。再現できたのは外見とロックシードから栄養を抽出する機能だけだ。このまま順調に行けば後数週間で量産可能さ」

 

 規格外すぎるなこの人。

 

「まぁ、今回の依頼が失敗すれば徒労に終わりそうだけどね」

 

「戦極さん。それは冗談でも性質が悪いですよ?」

 

「いやいや、あながち冗談でもないさ。私も先程の戦闘を見せて貰った。そこから考えて蛭子影胤には仮面ライダーを当てるしかない。まぁ、それでも勝算はあるかどうかは分からないけどね。それにどの道、彼を倒してもステージⅤを呼ばれてしまっては私達の生存は絶望的だ」

 

「そりゃ、そうだろうけど」

 

 言葉を濁しながら俺は聖天子を見る。彼女は膝の上で両手を強く握りしめて俯いている。

 

「俺もガストレア探しした方がいいですかね?」

 

「いや、君には聖天子様の護衛に着いて貰う」

 

 俺の言葉に答えたのは意外にも菊之丞さんだ。彼は俺を真っ直ぐ見て。

 

「ガストレア捜索は駆紋戒斗にやって貰う。君には聖天子様の傍に居てやってくれ」

 

 最後の言葉は俺の耳元で告げて菊之丞さんは戦極さんと一緒に部屋から出る。

 

(信頼されてるのか)

 

 取り敢えず今はそう思っておこう。それよりも今は聖天子だ。

 

「……」

 

 とはいえ、どうすべきか。聖天子の対面に座ったものの、どんな言葉を掛ければいいのか分からない。そんなもどかしい時間が随分と長く感じた。時計の針の音がやけに室内に響く。

 

「……無能な国家元首ですか」

 

 零れたような呟きに俺は彼女を見る。彼女は俯いたままだ。

 

「聖天子として今まで未熟ながら人々の為に尽くしてきました。それが全部正しいとは思っていません。きっと間違っていることだってあるだろうし、誰かに恨まれたりもしていたんでしょう。それでも、私はこの東京エリアの人々の為に努力してきました」

 

 ソレはまるで罪人が神父の前で全てを告白する懺悔のようで、正直聞きたくなかった。けど、聞きたくないからといって耳を塞ぐほど俺は身勝手にもなれない。

 

「でも、蛭子影胤の言葉で全てが否定された気分です。私は間違っていたんでしょうか……?」

 

 顔を上げた彼女は今すぐにでも泣きそうな顔だった。俺は彼女の瞳を見て、一度だけ深呼吸した後。

 

「それは……俺にも分からない」

 

 告げる。残酷な様だが、俺は彼女と出会ってまだ一カ月。彼女の公務なんて片手で数えるほどしか知らない。

 

「けど、そういうのってきっと誰にも分からないんじゃないか?」

 

「え……?」

 

 だから、俺は俺が思う事を告げようと思う。ソレが一番彼女に響くと思うから。

 

「正しいから、間違ってるからなんて線引きなんてさ。関係ないと思うんだ。だって、そんな線引き意味なんて無いんだから」

 

「意味が無いんですか?」

 

「あぁ、意味ないよ。聖天子ってさ。好き嫌いする人をどう思う?」

 

「え?」

 

 聖天子の目が点になった。あぁ、これは面白いかも。

 

「だから、好き嫌いする人だよ。食事でもいいし、趣味でもいい」

 

「えっと……好き嫌いはいけないと思いますけど」

 

「そっか、でも俺は誰だって好きな物、嫌いな物があるから。別にいいんじゃないかなって思うんだ」

 

「いいんですか、それで?」

 

「いいんだよ、所詮は他人事だし」

 

 そういって、笑う。

 

「今聞いて聖天子も分かっただろ?俺と君は細かい所で違う。良い事と悪い事の線引きが微妙に違うんだ」

 

「……それは分かりますが」

 

「だからさ、アイツの言葉なんて気にしないで、君は君の価値観で動けばいいんだ」

 

「でも、それは自分勝手ではありませんか?」

 

「別にいいじゃん、自分勝手?我が侭?大いに結構、国の舵取りをするやつなんて我が侭な方がいいんだよ」

 

「我が侭……ですか」

 

 元々、人間はそれぞれ違う価値観を持っている。魚が好きな人がいれば嫌いな人がいる。そういった線引きが常にある。そしてその線引きが幾つか似ている人はいれど、細かい線引きまで似ている人間はそうそういない。

 

「だからさ、聖天子。お前はお前がやりたい事を一生懸命やればいいんだ。他人の評価なんて放っておけ。そんな物。全部終わった後の評論家の仕事なんだから。大事なのは今この瞬間だ」

 

「……私がやりたい事」

 

 そういって、彼女は組んだ手をゆっくりと解く。

 

「……そうかもしれませんね。私は私のやりたい事をやる。でも、私は東京エリアの代表ですからそこまで個人的な事は出来ませんよ?」

 

「あ~、それもそうか。でも、そういう匙加減が腕の見せ所じゃないか?」

 

「ふふ、そうですね」

 

 そういって、彼女は大きく息を吐いた後、俺を真っ直ぐ見る。

 

「では、改めてこの件が終わる間、私の身辺警護をお願いします」

 

「了解しました」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「あれ?延珠さん」

 

「あ、光実か」

 

 蓮太郎から先に帰れと言われ、退け者にされた気分のまま歩いていると前から声が掛かった。見れば、最初の男友達である呉島光実がいる。

 

「どうかしたんですか?元気ないですけど」

 

「わ、妾は何時でも元気だぞ!!」

 

 胸を張ってそう答える。すると、光実は苦笑して、買い物袋からアイスを取り出した。

 

「一つ多く買ってしまったんです。一緒に食べませんか?」

 

 柔らかな笑みとその言葉につい妾も頷いてしまう。そのまま、二人で公園のベンチに座ってアイスを食べる。

 

「そういえば、さっき大通りで騒ぎがあったらしいんですけど」

 

「……いや、妾は知らないな」

 

 先程の事を思い出して、そう答えてしまう。

 

「御免なさい」

 

「光実は悪くないぞ?」

 

「いえ、その。実はその騒ぎ知っているんです。ちょっと話題作りに使ったんですけど、不謹慎でしたね」

 

 そういって、もう一度頭を下げる光実に困ってしまう。最初に会った時から素直で正直な光実は一緒に居て、とても安心する友人だ。勿論!!蓮太郎の方が万倍良いのだが、まぁ、それは置いといて。

 

「その……光実は【呪われた子供たち】をどう思っている?」

 

 ふと、そんな事を聞いていた。後から思えば、きっと光実なら妾達の事を悪く言わないだろう、とそう考えて口にしたんだと思うが、この時は殆ど無意識に口にしていた。

 

「そうですね……正直言って、よく分からないです」

 

「ん……?憎いとか怖いとかではなく、分からないのか?」

 

 はい、と光実はそう答えて、アイスを食べきる。

 

「僕の兄が言うには僕の両親は僕を生んだ後、ガストレアに殺されてしまったそうなんです」

 

 驚かない。光実に親がいないのは知っていたし、妾と光実が友人となった切っ掛けだ。

 

「兄さんはガストレア事態に恨みや憎しみを持っていますけど、僕は正直、怖いだけなんです」

 

「では、その子供達も怖いのではないか?」

 

「そんな訳ないじゃないですか」

 

 朗らかに笑って否定された。その表情、言葉に思わず呆けてしまう。

 

「だって、あの子たちは身体の中にソレを持っている以外は普通なんですよ?それに僕自身、そうやって皆がそうだから自分もそうだっていう考えは好きじゃないんです」

 

「そ、そうか?」

 

「先ずは話して、それからです。もしかしたら怖い目に遭ったりするかもしれないけど、先ずは知り合ってみないと分からないじゃないですか」

 

「そ、そうだな!!」

 

 妾は困惑していた。光実の言葉は真っ直ぐでキラキラした感じで、最初は嘘なんじゃないかと思っていた。けど、光実の声と表情が何時もと同じだと気付くと今の言葉が光実の本音だというのが分かった。ソレがとても嬉しかった。

 

「その、光実。妾は隠し事をしているのだ」

 

「僕や舞さんも知らない事?」

 

「舞ちゃんにも教えていない事だ。けど、ソレを教えるのが凄く怖い」

 

「嫌われるかもしれない?」

 

 頷く。光実の本音を聞いても口に出来そうにない。それだけ、自分の正体を教えるのが怖いのだ。

 

「じゃあ、無理に言わなくていいですよ」

 

 だからだろうか、何時ものように優しげな光実の言葉が毒のように身体に染み渡る。

 

「僕や舞さんは何時でも待ってます。だから、決心が付いたら僕達だけに言ってください」

 

 そういって、光実は笑顔を浮かべる。

 

「どんな事があっても僕達は友達なんですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと、失望する。きっと、怖がられる。きっと、騙されたと言われる。そんな思いが心を支配していた。

 あれから一日と経たずに学校中に妾が【呪われた子供たち】だという事が伝わった。最初、その事を確かめられた時は心臓が止まったと思った。そしてソレが致命的で否定する事が出来ずにクラスの皆の視線が変わった。怖い、気持ち悪い。昨日まであったクラスメイト達がいなくなった。

 

「延珠さん!!」

 

 だから逃げた。力を使って一気に走った。後ろから光実の声が聞こえたけど、気の所為だ。きっと、光実なら優しい言葉を掛けてくれる。そう思ったからこそ聞こえた声だ。そうに決まっている。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 周囲のクラスメイトは一日経って登校してきた延珠さんを遠目に見ている。そんな中、僕はなんで彼女に何時ものように声を掛けないんだろう。何故、僕は窓際の席で彼女を盗み見る様な真似をしているんだろう。

 

(きっと、彼女だって怖い筈なのに)

 

 このままじゃ、きっと延珠さんは耐えきれずにまた逃げてしまうのでは。そんな考えが浮かんだ。頭を振って、その考えを彼方に吹き飛ばす。そして、ふと尊敬する兄さんの言葉を思い出す。

 

『光実。お前はお前の思うように生きろ。どんな生き方を選んでも俺はお前の味方だ』

 

 その言葉を聞いた時はずっと、兄さんが一緒に居てくれるという事だと思って嬉しかった。その言葉を聞いてからまだ三年位しか経ってない。けど、今なら少しだけあの時の言葉の意味が分かる。兄さんはどんな事があっても僕の味方であってくれる。あの強くて、優しくて暖かな背中を持った兄さんが。

 

(馬鹿だな、僕は。もうとっくのとうに決めた筈なのに)

 

 あの時、苛められていた僕を助けてくれた彼女と友達になったあの時に。そう思った時、僕は席を立って、延珠さんの前に来ていた。

 

「光実……?」

 

「少し廊下で話しませんか?」

 

 何時ものように声を掛けた。ソレが一番驚いたんだろう。延珠さんは少しだけ驚いた後、頷いた。

 

「おい、呉島。お前、ガストレアと仲良くなってどうするんだ?」

 

 そんな野次が飛んできた。その言葉に立ち上がった延珠さんの顔が強張る。ソレを皮切りに周囲から非難、罵声の声が上がる。僕は首だけで振り向き、最初に声を上げた奴を睨んだ。

 

「黙ってろよ、クズ」

 

 口にした僕でも驚くほど平坦な声だった。その言葉に野次がピタリと止まる。それもそうだろう。何時もの僕だったら皆を落ち着かせようと丁寧な言葉を使った筈だ。ソレがこんな汚い言葉を口にしたんだ。驚かない方がおかしい。

 

「お前等、今まで延珠さんと仲良かったじゃないか?なんで、そんな言葉を平気で口に出来るんだよ?」

 

「ソイツは俺達を騙してたんだぞ!!お前だって騙されたんだろ!?」

 

「そうだよ。僕だって、延珠さんに騙されていたさ。けど、ソレが何なんだよ!!」

 

「光実……」

 

 僕は何時の間にか怒鳴っていた。きっと、心の中に溜まっていた色々な物を吐き出したかったんだろう。

 

「延珠さんは僕の友達だ!!ガストレアだからとか人間だからとかじゃない。僕は藍原延珠さんの友達だ!!」

 

 力一杯叫んだ。きっと、今までで一番叫んだと思う。そんな時、入り口で黒い制服の男の人がいるのに気付いた。一度だけ会った事がある。延珠さんの保護者で、彼女は【ふぃあんせ】って言っていた。その言葉の意味を兄さんに聞いた時は驚いた。だって、二人は恋人っていうより仲の良い兄妹に見えたのだから。

 

「ソイツは人間のフリをしてたんだぞ!!」

 

「違う!!延珠さんは人間だ!!【呪われた子供たち】は皆、僕達と同じ人間だ!!」

 

 殆ど、条件反射で叫んでいた。口がカラカラに渇いて、喉が痛い。けど、だからって止めるわけにもいかない。だって、僕が此処で止めたらこの学校で彼女の味方が誰もいなくなってしまう。

 

「もういい。もういいんだ、光実」

 

「良くない!!だって、このままじゃ延珠さん。また一人ぼっちじゃないか」

 

 彼女の肩に両手を置いて、そう告げる。

 

「一人ぼっちではない。今は光実がいる。それに蓮太郎もいるから妾は一人ぼっちじゃない」

 

「……延珠」

 

 後ろから声が聞こえた。振り向けば蓮太郎さんが立っていた。蓮太郎さんは僕の頭に手を置いて乱暴に撫でる。兄さんと違う撫で方に少しだけくすぐったい。

 

「有難うな、延珠の味方してくれて。でも、もういいんだ」

 

「でも、それじゃ延珠さんが」

 

「お前だけでも味方がいてくれた事が一番良かったんだ。御免な、辛い役やらせて、これじゃ、お前まで学校に居辛くなっちまうのに」

 

 もう、ダメなのだろう。でも、諦めたくなかった。そんな僕の気持に決心させるかのように延珠さんは涙で濡れた顔で精いっぱいの笑顔を浮かべていた。

 

「有難う、光実。今の光実は蓮太郎よりもずっとずっと、格好良かったぞ」

 

 そういって、もう一度有難うと言って、彼女は僕の手を離そうとする。けど、僕はその振り払おうとした手を強く握って、彼女に聞いた。

 

「また一緒に遊べますか?」

 

 その言葉に彼女はキョトンとした顔を作った後、何時もの様な笑顔を浮かべて。

 

「うむ、何時でもいいぞ」

 

 今度こそ、僕は手を離す。そして彼女達を昇降口まで見送った。

 

「これからどうしようかな」

 

 ため息と共に洩れた言葉。きっと、以前以上に僕の風当たりは強くなるだろう。ならば、いっそのこと、彼女達と同じように学校を移ろうか。

 

「悪くないかな」

 

 お互い、一度やり直す。それも悪くない。だから、直ぐに行動しよう。先ずは鞄を取りに行って、職員室で早退を告げないと。

 




ミツザネェ!?(感想用の挨拶)はい、今回は会議室での一幕と延珠と光実のお話です。原作とは違い、ショタなので自分が想うとおりに白く染めていった結果、何故か僅かに濁りました。おのれ、ディケイドぉぉ!!!
仮面ライダーのデメリット云々は投稿初期に貰った感想というより批判を基に考えてみました。興味があれば感想版を覗いてください。後、隠されている為に不快になる場合があるので、ご注意を。後、原作知識云々は作者の感覚です。作者自身が忘れやすいのもありますが、転生してから数年、又は数十年経っているのに小さい事を覚えているのが結構、謎だったので、この作品のコウタは原作知識を持っていますが、かなり虫食い状態です。
また、原作鎧武の小説を合間合間に書いています。ズバリ、赤心小林拳を使うスターフルーツとドラゴン繋がりで忍者なドラゴンフルーツの女性アーマードライダーです。まぁ、投稿するのはもっと先か、最悪お蔵入りしそうですがww
では、次回もお楽しみに



次回の転生者の花道は……



「任務失敗ですか……」



「大丈夫だ。俺はどんな事があってもお前を守るから」



「依頼の話をする前に言っておくべきだったな。もし、この任務までもが失敗し、この東京エリアにステージⅤが襲来した場合に備えて既に大阪、仙台エリアの両方から東京エリアの市民受け入れの準備が整っている」


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第八話 襲撃 パートナー

珍しく早起きして「ヒャッハー!!リアルタイムで鎧武見るぜ!!」と喜び勇んでテレビをつければ今日は休みだった。林先生ぜってぇ許さねえ!!!【カチドキィ】
そしてDX金のリンゴ、銀のリンゴを買いました。いやはや、デザインいいですね~


「任務失敗ですか……」

 

「その通り、思った以上に蛭子影胤のペアが強く。思った以上に民警が弱かったおかげで今この東京エリアはステージⅤガストレアの脅威に晒されている!!いやはや、絶望的状況かな?」

 

「プロフェッサー凌馬。聖天子様の御前だ。言葉は慎め」

 

 これは失礼、と大仰に頭を下げるプロフェッサーの言葉に私は静かに聞いている。菊之丞さんから受け取った里見蓮太郎の資料を見た時は何とかなると思っていた。けれど、見通しが甘かったとしか言えない。

 

「蛭子影胤のペアと戦った民警のペアは?」

 

「意識はまだ回復しておりませんが、命に別状はありません。医者も諦めかけた時に心臓が動き出したそうです」

 

「正に奇跡だ。とはいえ、人一人が生き返る奇跡よりステージⅤを消滅させる奇跡を私は望みたいが、奇跡は既に売り切れかな?」

 

 そういって、彼は何処か楽しそうに告げ、紅茶を啜る。その仕草が何時も通りで少しだけ腹立たしい。

 

「……楽しそうですね」

 

「おや、そう見えましたか?まぁ、否定はしませんよ。けど、少し不安もあるんですよ?」

 

 何だろう、と興味が顔を出す。

 

「私が死んだ場合、今まで保管していた私の研究データが誰かの手に渡ってしまう。その時、私のデータを手に入れた者は果たしてそのデータを理解出来るのか?そんな不安です」

 

 彼らしい言葉に頬が引き攣る。

 

「死ぬのが怖くないんですか?」

 

「全然」

 

 即答だった。彼は紅茶をテーブルに置くと、大仰に両手を広げる。

 

「人は何時か死にます。それは寿命であり、不慮の事故であり様々です。そもそも生まれたのならば必ず死ぬ。自然の摂理ですよ。ソレが遅いか早いかの違いです」

 

「けれど、未練は残りますよね?」

 

「それこそ、仕方がありません」

 

 肩を竦める。

 

「未練を残さないで死ぬ人間なんてそもそも存在しませんよ。私だって何時死ぬか分からない。ソレがこの後すぐだった場合、私にとっての未練はロックシードの解析と戦極ドライバーの開発が行えない事。しかし、ソレは仕方ありません。死は絶対であり、逃れられないモノ。抗う事は出来るでしょうが、所詮は問題の先延ばしです」

 

「そうかもしれませんね。でも、私は諦めたくありません」

 

 真っ直ぐ見つめて、告げればプロフェッサーは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「ふむ、ではこれからどうします?」

 

「無論、蛭子影胤を止めます」

 

「どうやって?彼は恐らくモノリスの外にいる筈。あれから一日とそろそろ三時間ですから、そう遠くまで彼等は動いていないでしょう。しかし、もう既にステージⅤが呼び出されているのでは?」

 

「いいえ、ソレはありません。蛭子影胤が【七星の遺産】でステージⅤを呼び出そうとしても、準備が必要です。その間に彼を倒せさえすれば」

 

「ほう?準備……ですか」

 

 彼の瞳が一瞬鋭くなる。

 

「やはり、聖天子様は我々に隠しごとをしておられましたか」

 

「……無論です。全てを知らせては混乱が生じます」

 

「えぇ、その通り。貴女のお考えは正しいでしょう。しかし、その言葉を彼に言えますか?」

 

 プロフェッサーの言葉に身体が金縛りに合った様に固まる。プロフェッサーの言う彼とはコウタさん以外に考えられない。

 

(コウタさんも同じです。言えばきっと、パニックを起こしてしまう)

 

 そう考えながらも頭の片隅では違う考えが浮かぶ。もし、その事を教え、結果的に彼を騙していた事が分かった時、果たしてコウタさんは私にどんな感情を向けるのか。怒りや悲しみなどはいい。けれど、侮蔑?軽蔑?嘲笑?憐れみ?頭の中で様々に表情を変えて、私を見るコウタさんを想像した瞬間、知らず私は自分自身を抱きしめていた。

 

「ふむ、少し苛め過ぎたか?」

 

「今戻りましたよ~」

 

 そんな時である。コウタさんがそんな呑気な声と共に部屋に入ってきた。

 

「市民の様子はどうだった?」

 

「何時も通りでしたよ。マスコミの方も気を使って何時も通りに動いていました。とはいえ、アナウンサーとかは緊張していたし、他の方も結構キテるみたいでしたから。不審に思う人間はいるでしょうね」

 

 そうか、と菊之丞さんの声がやけに遠く聞こえます。

 

「どうかしたのか?」

 

 そう俯いた私を見上げる為に片膝を突いたコウタさんが聞いてくる。

 

「い、いえ。その……」

 

「ねぇ、コウタ君。君は隠しごとをする人間をどう思う?」

 

 私の言葉を遮る様にプロフェッサーの楽しそうな声が部屋に響く。同時に私の肩が震える。

 

「どう思うって言われても、誰だって隠し事は一つ二つあるだろ?」

 

「そうだね。でも、真実を知る権利は誰にだってあるじゃないか」

 

「知らせる事でソイツにメリットがあるならいいけど。無駄に混乱させたらダメだろ?あぁ、俺の感想だったか……そうだな」

 

 そういって、彼は私の手をそっと握ってくれた。

 

「その隠し事が誰かを想う為に隠していたなら俺は仕方ないと思う。そりゃ、自分の為に隠し事するのは流石に不味いけど、自分以外の誰かの為に隠し事する奴は嫌いになれないさ」

 

 握った手を離して、私を安心させるように二、三度優しく叩く手は大きく、暖かい。

 

「成る程ね。よく分かった。君はお人好しだ」

 

「それくらいは自覚してるよ。手が伸ばせるのに伸ばさない様な生き方をしたくないって思ったからこうなったしな」

 

 そういって、彼は私を見て、何時ものように笑う。

 

「大丈夫だ。俺はどんな事があってもお前を守るから」

 

 きっと、コウタさんは私がステージⅤに怯えているのだと思ったのだろう。だけど、たとえ勘違いだとしてもその言葉に勇気づけられた私は笑って。

 

「頼りにしてます」

 

 そう答えた。何時もの笑顔が出来たか疑わしいけど、今はそんな事に構っていられない。

 

「直ぐに手を打ちましょう。菊之丞さん、直ぐに対策会議を開きます。あの、コウタさん。それまで私の手を離さないでくれますか?」

 

「それくらいはお安い御用だ」

 

 そういって、私の手を握る彼の手を握り返す。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ふん、民警の人間は随分としぶとい様だな」

 

 意識を取り戻し、木更さんから大体の経緯を聞いたその時、入口からそんな声が聞こえた。

 

「どなたかしら?」

 

「済まない、火急の案件なのでノックを忘れていた」

 

 小さく頭を下げた青年とその後ろにいるのは俺と同い年くらいの少年だ。

 

「我々は政府の使いだ」

 

「なんだよ、失敗した小言なら要らねえぞ」

 

「ふん、失敗した人間に説教した所で現状が変わるのか?そんな無駄な事よりもっと、事態を好転させる行動をするんだな」

 

 壁に背を預け、両手を組んだ奴の言葉に反論できない。もう一人は一つため息を吐くと俺達の前にやってくる。

 

「ステージⅤが来るという事は?」

 

「聞いてるよ。正直、冗談であって欲しいけどね」

 

「残念ながら事実だ。そこで政府から全ての民警に二つの依頼が出された。選ぶのはどちらか一つだ」

 

「二つの依頼……?」

 

 木更さんの疑問の言葉と共に俺は身体を起こす。隣に座る延珠が心配そうに見つめて来るが、頭を撫でて安心させる。余計に心配された。どうすりゃいいんだよ。

 

「一つは蛭子影胤ペアの追撃と【七星の遺産】奪取」

 

「もう一度、あのバケモノと戦えってか?」

 

「隊長、時間の無駄だ。そこの腰抜けは最早、戦う気力すら無い敗者だ。他の民警を当たった方が合理的だ」

 

「蓮太郎は腰抜けではない!!!」

 

 壁際の声に延珠が噛み付く。

 

「ほう?面白いな。無様に負けて、そして奇跡的に手放さかった命を賭けて、もう一度命懸けの戦いに挑むと?」

 

「今度は負けない!!」

 

「戒斗」

 

 男性の言葉に少年、戒斗は肩を竦めて黙る。

 

「この依頼を受けなければもう一つの依頼を受ける事になる」

 

「どっちも受けないって言ったら?」

 

「ならば、君は非難する市民を見捨てる事になる」

 

 無表情に告げられた言葉に一瞬、呼吸が止まる。

 

「依頼の話をする前に話しておくべきだったな。もし、この任務までもが失敗し、この東京エリアにステージⅤが襲来した場合に備えて既に大阪、仙台エリアの両方から東京エリアの市民受け入れの準備が整っている」

 

「……つまり、もう一つの依頼ってのは」

 

「非難する市民の護衛だ。陸海空の内、水棲ガストレアが存在する海は除外、空路である空は警備が困難な為これも除外し、民警は陸路を行く避難民の護衛をやってもらう」

 

「無茶だ!!」

 

 ほぼ無意識に叫び、男の胸倉を掴んでいた。

 

「お前、モノリスの外がどうなってるか知ってんのか!?あそこには大量のガストレアがいるんだぞ!!一体、どれくらいの人間が避難できると思っているんだ」

 

「多くて一割だ」

 

 即答の言葉に掴んでいた手の力が緩む。だが、相手は俺の手を掴み、引き寄せる。まるで、現実から目を逸らそうとする俺を逃がさないように。

 

「非難する市民はどれだけ護衛を付けようと辿りつくまでに九割が死に絶える。多くて、一割だ。最悪……いや、確実に陸路の避難民はガストレアになるか、奴等の食料に成り果てる」

 

「確か、シェルターがあった筈じゃ……」

 

「食料の備蓄は精々、二ヶ月が限界。収容できる人間も高が知れている。そんな短期間で助けが来ると思っているのか?」

 

 戒斗の言葉に木更さんが俯く。

 

「お前等のトップはコレを容認したのかよ?」

 

「当然だ。そして避難民の中に聖天子様は含まれていない」

 

 男の言葉を聞いて、俺は理解できなかった。

 

「……どういう事だ?」

 

「各エリアからの市民受け入れの際に条件が言い渡された」

 

「どんな……条件なのだ?」

 

 延珠の言葉に彼は一度、眼を伏せた後。

 

「聖天子を含む、東京エリアの重鎮全てを東京エリアに残る事が条件だ」

 

 血を吐く様に告げられた言葉に俺は身体から力が抜ける。つまり、他のエリアは東京エリアを見限ったのだ。市民を受け入れるのは建前。壊滅した後の東京エリアを手中に収める腹積もりなのだろう。

 

「貴方達はどうするの?見たところ、条件に当てはまらないようだけど」

 

「私達は聖天子様の護衛だ。あの方の傍を離れる気はない」

 

 毅然と告げられた言葉は見栄などではなく本気の言葉だ。きっと彼らは最後まで聖天子の盾となる気だ。

 

「選べ、里見蓮太郎。僅かな希望か光の無い絶望か。君が選べるのは二つに一つだ」

 

 その言葉に俺は震えた唇で。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「そうですか、里見蓮太郎は追跡任務の方を選びましたか」

 

 報告を聞いて、そう呟いた後、大きくため息を吐いて背もたれに体重を預ける。これで、小さいが希望の光が見えた。

 

「後はコウタさん達を向かわせられればいいのですが」

 

 恐らく、無理だろう。彼らの力は強力だ。理論上ならばステージⅣ相手でも十分通用する力を持っているらしい。それでも、コウタさん自身から聞いたリスクが彼らの足を引っ張ってしまう。

 

「はぁ……言い訳ですね」

 

 苦笑して呟く。そう、言い訳だ。コウタさんが言ったリスクを差し引いても彼らの一人を投入すれば作戦の成功確率は上がる。けれど、コウタさんには傍に居て欲しいという卑しい私がいる。

 

「我が侭ですね」

 

 ため息を吐いて、窓の外を見る。窓の外には綺麗な月が浮かび、ここ十年間ですっかり見通しが良くなった星空が浮かんでいる。

 

「母が子供の時はこれより綺麗な夜空だったんでしょうね」

 

 綺麗で、穏やかな夜空。けれど、今は綺麗なだけだ。眼を凝らして見れば、きっとおぞましいナニカが蠢いているのだろう。そんな事を考えていると扉がノックされる。きっと菊之丞さんだ。

 

「どうぞ」

 

 告げると共に扉が開かれ、菊之丞さんが入ってきた。

 

「そろそろ時間です」

 

「分かりました」

 

 これからきっと色んな困難が続くのだろう。それには先ずステージⅤを退けなければいけない。けれど、諦めなければきっと道は開かれる筈だ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「暇だな」

 

「あぁ、ガストレアでも降ってくればいいんだがな」

 

「戒斗、流石にソレは暇だからって求める物じゃないと思うんだが」

 

「ふん、此処で護衛をしている時点で俺達が出来る事は限られているんだ。これくらいの軽口はいいだろう?」

 

「まぁ、そうだけどな」

 

 そういって、俺は月を見上げる。場所は東京エリア第一区の作戦本部前。数十人の自衛隊に混じって俺達実働部隊は警護任務に着いていた。背中の建物の中にある会議室では内閣官房長官や防衛大臣など、主だったこの国のお偉いさんが集っている。その中には聖天子と菊之丞さんも含まれる。先程、木更さんが数人の男性を連れて建物に入っていったが、目立った事は特にない。

 

「しかし、拍子抜けだ。折角、大物が集っているのにテロリストの一人も来ないとは。本気でこの国を変えてやろうという革命家はいないようだね」

 

「凌馬、不謹慎だぞ」

 

 視界の端では白衣を纏って、呉島さんと談笑している戦極さんがいる。あの人も随分と自由な人だな。

 

「さて、暇だし。自衛隊のおっさんからコーヒーでも貰ってくるかな」

 

「俺はブラックだ」

 

 当然のように注文してくる戒斗に手を振って答えて、歩き出す。ふと、何気なく見上げた空を見て、違和感を覚える。

 

「ん……?」

 

 夜空はまばらな雲によって月が隠されており、やや暗い。だが、問題はそこではない。

 

「呉島さん、照明!!!!!」

 

 違和感の正体をほぼ掴んだ俺が叫べば呉島さんは即座に自衛隊へと指示を飛ばす。その直後に設置されたサーチライトが夜空を照らす。同時に自衛隊から悲鳴が上がる。

 

「ガストレア……」

 

 照明によって照らされた頭上には一頭のガストレアがいた。一体何処からやってきたのか、そのガストレアは眼下の俺達を嘲笑うように降りて、否、落ちて来た。

 

「アイツ、どういう神経してんだよ!?」

 

「ソレは直接奴に聞け!!」

 

 轟音と共に地面のコンクリートを陥没させながら俺達の目の前に降り立つ。

 

「総員、絶対にこの場でガストレアを駆逐しろ!!」

 

「ほう!!詰まらないと思っていたが、面白くなりそうだ!!」

 

 嬉しそうな声と共にビデオカメラを取り出す戦極さんを尻目に俺達は前に出る。

 

【オレンジ!!】

 

【バナナ!!】

 

【メロン!!】

 

 ロックシードの音声にガストレアは巡らしていた視線を俺達に向ける。一見すれば鷲の様だ。だが、その頭部はイヌ科のように細長く三対の赤い瞳が俺達を睨む。胴体も鳥とは随分違い、ライオンの胴に一対の翼が生えている。更に翼には凶悪な爪を持つ腕があり、爪をコンクリートにバンカーの如く突き立てている。明らかに単一の遺伝子ではない。ガストレア戦はこれで三度目。しかも、今度は明らかな格上。だとしても俺がやる事は変わらない。

 

「「「変身!!!」」」

 

【ロック・オン!!】

 

 法螺貝とファンファーレが鳴り響き、ガストレアが俺達を敵と判断して吼える。

 

【カモン!!バナナアームズ!! Knight of Spear!!】

 

【ソイヤッ!!メロンアームズ!!天・下・御免!!】

 

【ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

 変身が完了した瞬間、ガストレアが突っ込んでくる。戒斗は左へ呉島さんは右へ跳んで避け、俺は股下へと潜り込む。そして滑り込む勢いと相手の勢いを利用して股を大橙丸で斬りつける。手応えは硬いが、皮を斬り裂き、血が吹き出た。

 

「おっしゃ!!別に硬いって訳じゃなさそうだ!!」

 

「なら、問題ないな」

 

「総員、ガストレアを建物に近づけないように射撃しろ!!」

 

 呉島さんの号令の下、ガストレアへ向けて、バラニウム製の銃弾が殺到する。銃弾は抵抗なくガストレアの皮膚を破り、肉へと食いこむ。悲鳴を上げて、腕を乱雑に振り回すが、奴がいる場所はかなり広く作られている為、早々建物には当たりそうにない。

 

【カモンッ!!マンゴーアームズ!! Fight of Hammer!!!!】

 

【ソイヤッ!!ブドウアームズ!!龍・砲・ハッハッハッ!!】

 

 後ろで響く音を聞きながら無双セイバーの銃弾で牽制する。

 

「成る程、銃か」

 

「オォッ!!」

 

 呟きと共に紫色の弾丸がガストレアの肉を抉る。悲鳴を上げているガストレアに戒斗が近づき、マンゴーパニッシャーで殴る。骨と肉が潰れる音が辺りに響くと同時に俺は素早く近づき、右足を両手の剣でズタズタに切り裂く。

 

「まだまだ行くぜ!!」

 

 叫び、大橙丸と無双セイバーを合体させ、走り出す。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 眼の前でズラリと並んだ牙を見せつけるように開いた口に銃口を突っ込み、引き金を引く。眩いマズルフラッシュが視界を一瞬染める。同時に後ろに跳んで、木を足場に駆け上がる。頂上に着いた直後に昇っていた木がナニカ重いモノによってへし折られる。倒れる木を足場に走り、腰からグレネードを二つ取って一息にピンを抜き、追いかけるガストレアの足下に投げる。直後、背後で爆発。爆風に乗って跳躍。着地と同時に前へ転がって振り向けば着地地点に爪を突き立てたガストレアがいる。その顔に向かって発砲。グラリと倒れるガストレアに体当たりして後続を巻き込む。そして最後のグレネードを投げて後ろに跳ぶ。爆風が顔を撫でるが、眼は閉じない。そして炎の中からゴリラ程の大きな猿が躍り出る。横に跳ぼうとするが、何かに足を引っ掛ける。

 

「尻尾……!?」

 

 巻きついた先を見れば猫のガストレアが私を睨んでいた。逃げる事が不可能と判断した私が正面を向いたとき、私が見たのは振り下ろされる猿の拳と。

 

「オラァッ!!!!」

 

 この先に居る筈の、たった今猿を横からバスターソードで両断した将監さんがいた。

 

「な、なんで?」

 

「あん?そりゃ、お前が遅いからだよ!!ったく、お前一人で何やってんだ?」

 

「そ、それは時間稼ぎです!!」

 

 言葉を返しながら足に絡めている尻尾の持ち主を撃ち抜く。丁度弾切れだ。マガジンを装填し直し、前を見れば赤い瞳が最初の頃よりかは僅かに減っている……と思う。

 

「全く、プロモーターの俺を放っておいて、他のペアのお守りとはな」

 

「いけませんでしたか?」

 

「別に」

 

 素っ気なく答える。だがよ、と彼は続けた。拗ねているんでしょうか。

 

「俺のパートナーはお前だけだ。お前がいねえと、こう……しっくり来ねえんだよ」

 

「だから助けに来てくれたんですか?」

 

「あぁ?寝ぼけんじゃねえぞ?俺は単に襲撃間近に小便したくて待機場所から離れたんだよ。そしたらお前がガストレア相手に無双してたからな」

 

「成る程、心配になって助けに来てくれたんですね」

 

 だから、違えって。と叫ぶ彼の声を聞き流しつつ、私は緩む頬を制御できない。蓮太郎さん。私のパートナーも捨てたものじゃありませんよ。

 

「それなら直ぐに終わらせないといけませんね」

 

「あぁ、んでもって漁夫の利って奴だ」

 

「……ちょっと見直しました。そんな難しい言葉知ってたんですね」

 

「お前……後で覚えてろよ?」

 

 頬をピクピクと動かしている彼が何処か可笑しかった。そして同時に前へと視線を向ける。気力は回復、いいえ。先程よりも上だと判断できます。残弾は少ないですけど、将監さんがいるなら負けません。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

【ロック・オフ】

 

 ベルトからオレンジロックシードを取り外して、ナギナタモードの無双セイバーに取りつける。

 

【ブドウスカッシュ!!】

 

【マンゴーオーレ!!】

 

【ロック・オン!!イチ・ジュウ・ヒャク・セン・マン・オレンジチャージ!!!】

 

 戒斗がマンゴーパニッシャーを振りまわし、呉島さんがブドウ龍砲の銃口をガストレアへ向ける。俺は刀身にエネルギーが溜まったのを確認した後、ガストレアを睨む。

自衛隊の銃撃によって、ガストレアの羽根は穴だらけ、眼は半分潰れ、胴はブドウ龍砲の銃撃によって抉られ、マンゴーパニッシャーの攻撃によって骨が砕かれ、陥没している。他にも俺が斬りつけた場所からはダラダラと血が流れて、地面に池を作っている。見るも無残な姿で、何処か同情してしまう。

 

「ハァッ!!」

 

「行け!!」

 

「オラァ!!」

 

 斬撃によって生じたオレンジの檻に捕まったガストレアにブドウとマンゴーのエネルギーが加わる。そして俺が走り出し、跳び上がる。

 

「セイヤー!!」

 

 オレンジを斜めから斬り裂けば、エネルギーが膨張し、大爆発を起こして、夜闇を照らす。そして肉片となったガストレアが降り注ぐ。

 

「これで、終わりですか?」

 

「そのようだな」

 

 そういって、俺達が変身を解くと戦極さんが拍手をしてやってきた。その手にはビデオカメラがある。

 

「三人とも、良いデータが取れたよ。協力ありがとう」

 

 そういって、笑う戦極さんに俺は苦笑する。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「あのレールガンってお飾りじゃなかったんだな」

 

「稼働出来ても一度だけだろう」

 

 俺達は建物の上からモノリスの外。東京湾から迫りくるステージⅤとソレに狙いを定める巨大レールガン【天の梯子】を見ている。

 

「ほほう、これは素晴らしい!!ステージⅢとの戦闘に加えて、生のステージⅤ!!しかもあれは【スコーピオン】だ。いやいや、今日は素晴らしい日だ!!」

 

 ビデオカメラ片手に叫ぶのは満面の笑顔を浮かべている戦極さん。きっと、この人は世界最後の日でも変わらないだろうな。そう考えているとレールガンが淡く発光し始め、次いで砲身や施設の至るところから火花らしきモノが弾けているのが確認出来る。因みに俺達のいる場所とレールガンとは優に数十キロを超える距離だ。その距離をかなり正確に確認出来る仮面ライダーの視力は凄まじい。

 

「あれって、ヤバくないですか?」

 

「発射しなければ爆発するんじゃないか?」

 

 俺の言葉に戒斗が付け足す。

 

「今入った情報に寄ればレールガンの射出する弾丸が無いそうだ。代わりに里見蓮太郎の右手【超バラニウム】の義手を使うそうだよ」

 

 そう何処から聞いた情報なのか、パラボラアンテナを展開した謎装置から伸びるヘッドフォンを耳に当てた戦極さんがそう告げた瞬間、レールガンが爆発した。

 

「うおっ!?」

 

 爆発したのは錯覚で弾丸が発射されたのだ。その際の衝撃と閃光が爆発に見えただけのようだ。そして閃光とほぼ同時にステージⅤの胴体が一瞬膨らみ、弾け飛び。その姿を消滅させる。弾丸は限界まで加熱され、融解しながら空へと流星のように飛んで行き、消える。

 

「総員、耳を塞げ!!!」

 

 呉島さんの叫びとほぼ同時に大地を揺るがす程の轟音が大気を響かせる。ビリビリと震える大気を感じ、数秒後に消える。そして変わる様に聞こえたのは味方からの大歓声だ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「おい、夏世。生きてるか?」

 

「えぇ、生きてますよ。そんな事より早くシャワー浴びたいです」

 

 頭上から降ってきた何時もの声にスカーフの下で苦笑する。そして視界を夜から朝へと変わっていく空から戻せばそこには幾つものガストレアの死体が山となって積み上がっている。百を超えた頃から数えるのを止めた為、正確な数は分からないが、余裕で自己ベストは更新している筈だ。愛剣も最後の一体と相打つように根元から折れてしまったし、パートナーの銃はとっくのとうに折れて不慣れな接近戦をしていた。だが、結果的に俺達は生き残った。残念ながら無傷とはいかないが、それでも生き残った。

 

「おい、夏世。お前、今回の戦闘で侵食率どれくらいイッたと思う?」

 

「……恐らくは30%を超えたんじゃないでしょうか。計器で測らないと詳しくは分かりませんが、傷の数と咬まれた回数を考えれば」

 

「ハッ!!出撃前に確か測った筈だが、俺が見た時はお前、15%位じゃなかったか?」

 

「……凄いですね。将監さんは記憶力も良いみたいですね。もしかして、私が好きなんですか?」

 

「寝言は寝て言え、糞餓鬼。俺の気を引こうと思うんなら、後二倍は歳とってからにしろ」

 

「照れ隠しですね、分かります」

 

「よし、一度お前と拳で語り合うか?」

 

 そろそろ我慢の限界なので、起き上がり、夏世を見る。

 

「……将監さんのエッチ」

 

「どう見ても、冤罪だろうが」

 

 お気に入りと言っていた服が破れ、彼女の幼い肌が見え、未発達の肢体に大小の歯型が見え隠れしている。それらはゆっくりとだが、治癒し始めている。俺はため息を吐いて、ジャケットを投げる。

 

「朝方は冷える。とっとと隠せ」

 

「意外と紳士なんですね。てっきり、猛獣みたいに襲いかかると思ってました」

 

「ハッ!!俺様から理性を外させたかったら身長と胸を増やせっての」

 

「前言撤回です。やっぱり将監さんは変態です」

 

「おいこら、俺は成人男性を代表して言っただけだろうが」

 

「その言葉が未来ある幼女にとってどれほど残酷な言葉か考えた事あるんですか?」

 

「一度もねえよ。つうか、さっさと、回収ポイントに向かうぞ。レールガンの奴等も拾わなくちゃいけねえしよ」

 

「おや?優しいんですね。ガストレアウイルスに脳がやられたんですか?」

 

「よし、一発ぶん殴らせろ!!」

 

 あぁ、これからどうすっかな。

 




さぁ、原作一巻終了です!!あ、速すぎるからって石はやめてください!!果物はもったいないので投げてはいけません!!
まぁ、何はともあれ原作一巻終了です。えぇ、無駄に引っ張るつもりはなかったので後半は巻きました。後、コウタが戦ったガストレアのモデルはOOOの夏の映画に出てきたアレですね。ちょうど、映画を見返してたときにこれはイケルと思ったので。
後、皆さんがあまりにもプロフェッサーが綺麗と言うので、少し汚くしてみました。といっても、ちょっとした意地悪なんですけどね。
次回は原作一巻のエピローグに加えてオリジナルを幾つか、そして二巻の為にティナを原作より速く出します。そして皆さんお待ちかねの三人目のオネエさんも……次回もお楽しみに!!



次回の転生者の花道は……



「わ、私はアミティエ・フローリアン……です。コッチは妹のキリエ・フローリアンです」



「お前は正しい事をした。ソレはその延珠という子が感謝の言葉を述べたのが証拠だ。だから、お前は何も恥じる事はない。胸を張っていろ」



「こ、こら!!何を泣いておるか!!これでは我がお前を心配させたように見えるではないか!!心配したのは我の方なのだぞ!!分かっておるのか!!」


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大ショッカー襲来編
第九話 お見舞いと増える居候


どうも、作者です。コンパチヒーローシリーズ最新作【スーパーヒーロージェネレーション】というのが出るようですね。実に楽しみです。詳細は後書きに書くので興味が出た方は公式ホームページをチェック!!なんか、小説関係ないなww


「此処か、レヴィがいるという店は」

 

「はい、松崎さんの言葉なので、間違いないでしょう」

 

「いい匂いですね」

 

 お店から漂う甘い香りに思わず声が出てしまう。こんなお店にお世話になっているレヴィが羨ましい。

 

「先ずは挨拶だな。菓子折りは……諸事情で持って来れなかったが、まぁ、良かろう」

 

「えぇ、誠意が大事だと松崎さんが言っていましたから、それにレヴィがいると用意しても直ぐに食べられてしまうでしょう」

 

 私の横でディアーチェとシュテルが話しあっているが、私はレヴィが普段どんな物を食べているか考えている最中です。

 

「よし、出陣だ!!ユーリ、行くぞ?」

 

「え?はい、行きましょう。一杯食べますよ!!」

 

「待て!?何故そうなる!?あぁ、こら!!勝手に入るな!!一番は我だと最初に言っただろうが!!!」

 

「まぁ、こうなりますよね」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「お見舞い~♪お・見・舞・い~♪」

 

「分かったからはしゃぐなっての。病院は静かにする所だ」

 

 病院の廊下で俺は前を上機嫌に歩くレヴィを注意する。何故病院に来たのか、理由は二つだ。一つはレヴィのガストレアウイルスによる体内侵食率を知る為、これについてはかなりアッサリと終わり、少し拍子抜けした。もう少し仰々しい機械や検査が待っていると密かに期待していたのだが、出て来たのは血圧を測る様な機械で、計測した後、体内侵食率を聞かされるという事だ。

 

「それにしても、お前って侵食率低いんだな」

 

「ん~、そういうの良く分からな~い♪」

 

 顎に指を当て、考える仕草をした後、また何時もの笑顔に戻る。彼女の侵食率は18.9%平均よりやや高めだが、そこまで危険視するほどでもないらしい。その言葉に俺は少しだけホッとした。

 

「此処だな」

 

「おぉ、此処だ~♪」

 

 二つ目はこの病院に入院している少女のお見舞い。正直、面識は殆ど無い。というより、暗闇での出会いだった為、顔も覚えていないだろう。だが、彼女達には会わなければいけない。

 

「失礼しま~す♪」

 

 数度ノックをしてからドアを開ければ病室に入るレヴィにため息が出る。この少女は見るモノ全てが新鮮なので、外に連れ出せば何時もこうだ。まぁ、慣れたが。

 

「あ、あの誰ですか?」

 

「ボク?ボクはレヴィ・ラッセル。君は?」

 

「わ、私はアミティエ・フローリアン……です。コッチは妹のキリエ・フローリアン」

 

「アミティエにキリエだね。宜しく~♪」

 

 挨拶と共に二人の少女の手を握って、ブンブンと振り回すレヴィに苦笑しつつ、病室に入る。

 

「あ、貴方は……」

 

「や、随分久しぶりだね。というより、覚えてる?」

 

 結構、時間が経っているし。特にあの事は彼女達にとってトラウマだから忘れてるモノだと思ったが。

 

「私達を助けてくれた人ですよね。覚えてます」

 

 嬉しそうなアミティエの言葉に同調するようにキリエが頷く。

 

「そうか。改めて、自己紹介だ。俺は葛葉コウタ。君達にはお見舞いとこれからの話をしにきたんだ」

 

 そういって、お見舞い用に持ってきた果物を乗せた籠を窓際のテーブルに置く。その際、レヴィが籠を見ていたが、手は出さないだろう……多分、きっと。

 

「君達を調べさせてもらったけど、自営業の民警だったようだね。それで、社長兼プロモーターが以前の事件で……あんまり、気軽に話す話題じゃないな」

 

「いえ、その……私はあの人がいなくなって、良かったと思ってますから」

 

 そうアミティエが告げる。先日、彼女達の会社を訪れ、帰ってきた戒斗が不快感を隠そうとせず、珍しく荒れていたのを思い出す。それだけ酷かったのだろう。

 

「それでだ。君達はIISO預かりとなって次のプロモーターが見付かるまで施設に入る事になる」

 

「……やだ」

 

 今まで黙っていたキリエが呟いた。

 

「もうやだ……」

 

「キリエ……」

 

 ギュッと枕を抱く彼女を優しく抱きしめるアミティエを見て、俺はため息を吐く。

 

「それじゃ、もう一つ提案だ。イニシエーターを辞めないか?」

 

「え!?でも、私達イニシエーター辞めたら」

 

「その代わり、実はウチの店が住み込みのアルバイト募集してるんだ。年齢は関係なくて、熱意があれば大歓迎なんだけど」

 

 そういって、安心させるように笑う。

 

「もし、君達が良いなら歓迎するよ。それも嫌だって言うなら、そうだな。その時は俺の上司に頼ろう。一応、最終的な解決策は持ってるだろうし」

 

 別に独断ではない。見舞いに行く前に聖天子と凰蓮さん、京水さんに話をしたのだ。その時の答えは満場一致で保護だった。

 

『恐らく、彼女達は心身ともに疲れ切っています。そんな彼女達がまた戦いに赴くのは難しいでしょう』

 

『一度、恐怖を味わった兵士はね。そう簡単に戦場には戻れないの。大人でさえ全然ダメなのに。子供がそんな状態じゃ、兵隊としては期待できないわね』

 

『捨て駒か、下手すれば研究用としてモルモットが関の山ね。それだったらワテクシの店で雇おうかしら。レヴィだけだと大変だし。店も華やぐしね』

 

 三人の答えを思い出す。そして俺は二人に手を伸ばす。

 

「一緒に来ないか?」

 

「……ぶたない?」

 

「あぁ、叱る事はあっても絶対に手は上げない」

 

 しっかりと答えるとキリエは俺の事をジッと見た後、ゆっくりと俺の手を握る。その後、アミティエも握った手に自分の手を重ねる。

 

「あの、お兄さん」

 

「ん?」

 

「後ろ……」

 

 言われ、見ればシャリシャリとリンゴを咀嚼しているレヴィがいた。しかも、最後の一口を呑み込んだレヴィの膝の上には空になった籠がある。

 

「ん?どうかしたの?」

 

 小首を傾げる彼女の仕草はとても可愛いモノでこんな状況でなければ頭を撫でてやりたいが、取り敢えず今は置いておこう。

 

「なぁ、レヴィ。そのお見舞いの果物はこの二人の為に買った筈なんだけど?」

 

「うん、とね」

 

 そういって、レヴィは人差し指を顎に当てて少し考えた後。

 

「食べた時に果物とか腐ってたらダメだよね?だから味見♪」

 

「全部食べてるよな?」

 

 そう聞けば彼女は右手でコツンと頭を叩き、舌を出して、可愛くウィンクする。所謂【てへぺろ】だ。そしてその行動を取った彼女に対して俺は取り敢えず右手を振り上げる。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「そうか、学校からの連絡はそういうことだったのか」

 

 そういって、職場から帰ってきた兄さんは深々とソファーに座った。

 

「お前の言い分も分かる。お前は単に友達を助けたかっただけだろう?」

 

「うん、けど、僕は延珠さんを助けようとしたけど、無理だった」

 

「それは違う」

 

 遮る様に告げられた言葉に顔を上げる。そこには優しげな兄さんの笑みがあった。

 

「お前は自分が信じる正しい事をしたんだ。例え、それが無駄だった事でも卑下する様な事はするな。ソレはお前が助けたかった人までも裏切る事になる」

 

 そういって、兄さんは僕の頭を撫でる。

 

「お前は正しい事をした。ソレはその延珠という子が感謝の言葉を述べたのが証拠だ。だから、お前は何も恥じる事はない。胸を張っていろ」

 

「うん」

 

 兄さんのその言葉がとても嬉しかった。

 

「だが、これからどうするか。学校を変えても、噂は広まるからな」

 

 そういって、兄さんは顎に手を当てて、何かを考えた後。

 

「あまり行かせたくなかったが、仕方ないか」

 

 そういって、兄さんは一枚のパンフレットを持ってきた。東京エリアでも有数の進学校のパンフレットだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「うぅ~、殴るなんて酷いよ~」

 

「お見舞いの果物を勝手に食べる奴があるか」

 

 前を歩く、レヴィが頭を擦りながら呟くので、即座に返してやる。拳骨一発で済ませたのだからそれでいいだろう。

 

「にしても、今日は一段と繁盛してるな。どうしたんだ?」

 

「ボクがいないからてんちょー達大丈夫かな?」

 

 行列が出来ている店の前で俺とレヴィが呟きつつ、裏口から入ると、凰蓮さんの声が聞こえる。

 

「シュテルちゃん、二番テーブル出来たわ!!」

 

「分かりました」

 

「オーダー入りました!!五番テーブル、風都スペシャルパフェとアイスコーヒーのセットです!!」

 

「有難う、ユーリちゃん。接客も大分慣れたわね」

 

「有難うございます、京水さん」

 

「ユーリ!!一番テーブルが出来あがったぞ!!」

 

「はい、これですね。あ、いらっしゃいませ~♪」

 

 何やらかなり騒がしい、というより知らない声が三つも聞こえる。

 

「え?この声って、もしかして!!」

 

 驚き、厨房へと向かうレヴィを置いて、俺は背中で寝息を立てているキリエが落ちないように注意しながらアミティエの手を引く。

 

「今は忙しいから先に部屋に行くか」

 

「え?私たちなら外で待ってますけど」

 

「それはダメだ」

 

 裏口から出ようとするアミティエをそういって、止める。

 

「これから一緒に住むんだから外に出て待つ必要なんて無いよ。一段落するまで部屋で待ってるだけだから」

 

「王さま~!!!」

 

「む?レヴィ!?お前、今まで何処ほっつき歩いておったか!!!早く着替えろ!!えぇい、離さんかこの愚か者!!!」

 

「うわぁ、王さま~♪本物の王さまだ~!!!」

 

「こ、こら!!何を泣いておるか!!これでは我がお前を心配させたように見えるではないか!!心配したのは我の方なのだぞ!!分かっておるのか!!」

 

 厨房の方が更に騒がしくなる。すると入り口から顔だけだした京水さんが笑う。

 

「お帰り、コウタ君。早速だけどお願い出来る?」

 

「それじゃ、京水さん。この子たちお願いできます?」

 

「今は無理だから奥の個室に居て貰って。そこなら今日は予約入ってないし」

 

 言われ、二人を奥の間にある個室に迎え入れる。此処はほぼ、聖天子用の部屋であり、普段は此処でレヴィが仕事休みにパフェを食べている場所である。

 

「それじゃ、悪いけど、二人とも此処で待っててくれ。トイレはこっちにあるから」

 

「わ、分かりました」

 

 返事を聞いた俺はドライバーを装着する。

 

【オレンジ!!】

 

「変身」

 

【ロック・オン!!】

 

 頭上にクラックが開き、巨大なオレンジが降りて来る。

 

【ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

 変身を終えて、振り向けばアミティエが驚き、キリエが起きた。あぁ、店で変身するの慣れたけど、普通はこんな反応だよな。

 

「コウタくぅ~ん?」

 

「あぁ、はい。分かりました」

 

 京水さんの声に俺は厨房へ向かう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ぐっ!?俺達が何したってんだよ……」

 

 腹を押さえ、俺の服を掴んでいる男を払いのけて、俺は大きく息を吐いた。

 

「糞……」

 

 腹の底に溜まった黒い感情がまた昂りだす。全く、最悪な日だ。

 

「おい……」

 

「ひっ!?」

 

 声を掛ければそこには先程まで俺の周りに倒れ伏していた男達によってリンチに遭っていた少女が怯えた声を上げる。どうやら余計怖がられてしまったようだ。

 

「あ、あの……えと……」

 

 助けてくれたお礼を言おうか、それとも殺さないでと命乞いしようか悩んでいるようだ。いや、単にパニックになっているだけか。俺はため息を吐き、ポケットから財布を取り出して数枚の札を投げる。

 

「これで、暫くは大丈夫だろう。それと、暫くは都市部に近づかないようにしろ」

 

「え……?あ、ありがとうございます!!!」

 

 丁寧にお辞儀して地面に落ちた金を拾った後、もう一度お辞儀した少女は路地裏の先へと走っていく。

 

「八つ当たりとは……情けないな」

 

 壁に拳を叩きつける。強く打ちつけた所為か手の皮が破れて、血が流れる。だが、それも気にしない。寧ろ頭に昇った血が少しでも抜けるなら流した方が良い。

 

「あのプロモーター。せめて生きていたらな」

 

 迷わず殴って、この苛々を発散できただろうに。そう思いながら思い出すのはあのミミズの近くにいた双子の少女だ。先日、彼女達の会社の調査を思い出す。

場所はビルの一室でそれなりの広さがある事務所だった。室内も綺麗に掃除されていて、第一印象は良かった。そしてこんな場所で過ごしていた双子がこの後、どう生きるのか心配になったが、それは違う意味で深刻になった。

 

「……の~?」

 

 部屋の奥に向かうにつれて饐えた臭いが増したのだ。不審に思ってその先に向かった場所には動物園にあるような大きな檻があり、その中には二人分の毛布と食器。檻の端には用を足す為に置かれた簡易トイレが置いてあった。それだけで気分が悪くなったというのに随伴した捜査班の報告によれば檻はバラニウムで出来ているという。

 

「はぁ……」

 

「あ、あの~……?」

 

 ソレを聞いた瞬間、衝動的に変身して檻を壊した。流石にやり過ぎという事で隊長から謹慎を貰ってしまった。隊長には悪い事をした。だが、それでも俺が許容できる範囲を超えていた。なまじ俺が接触した民警のプロモーターとイニシエーターの仲が非常に良かった所為もある。だが、それでもペット同然の扱いなど許せる筈もない。更に言えば、俺が檻を破壊した原因を捜査班の誰一人として分かっていなかった事が更にイラつかせた。

 

(この世界にとってアイツ等は人ですらない……!!)

 

 なら、何のためにアイツは……ペコは死ななければならなかったんだ。アイツが必死に助けた命は今でも毎日を笑顔で過ごしている。だが、その裏側ではもっと多くの子供たちが理不尽の渦にいる。たった一人救った所でなんの慰めにもならない。

 

「あの!!!」

 

 ふと、隣からそんな声が響く。驚き、振り向けばそこには金髪の少女が立っていた。

 

「あ、えと。いきなり大声で済みません。先程から声を掛けても返事してくれなかったから」

 

「あ、あぁ。済まん」

 

 謝罪を述べながら心の内でため息を吐く。そんな事にも気付かなかったとは。

 

「それで、俺に何の用だ?」

 

「いえ、その……手怪我してますよね?」

 

 指差す手は先程壁を殴った手だ。

 

「これくらいは大丈夫だ。直ぐに治る」

 

「で、でも直ぐに治療しないと化膿しちゃいます」

 

 そういって、少女は強引に俺の手を取って、迷わず水筒の中身を懸ける。唯の水だろうか、冷えた水の感触と共にチクリと傷に染みる。

 

「え、と包帯は……」

 

「自分でやれる」

 

 そういって、俺はポケットからハンカチを取り出して傷口を縛る。

 

「これで、大丈夫ですよね?」

 

「あぁ、助かった」

 

 そういうと、彼女は何処か嬉しそうにはにかむ。普段ならコレで終わり。直ぐに立ち去るだろう。だが、俺の不注意で彼女の事を無視し続けていたのだとするならば。その謝罪が残っている。周囲を見れば、近くにドーナツの屋台がある。

 

「少し待ってろ」

 

「え?あの……?」

 

 少女をベンチに座らせて俺はドーナツの屋台に向かう。夜とはいえ、こんな時間まで営業しているのは珍しい。

 

「プレーンシュガーとフレンチクルーラー」

 

「はぁい、ありがとうございま~す♡」

 

 注文と共に出て来たのは化粧の濃い男。葛葉の店よりかはキャラが薄いからそこまでは驚かんが、それでも予想の斜め上を行ったな。代金を支払い、受け取った袋を片手にベンチに座ってこちらを興味深そうに眺めている少女を見る。まるで借りて来た猫だ。

 

「ほら」

 

「え?」

 

 俺はフレンチクルーラーを少女に手渡し、隣に座る。

 

「あ、あの……私、別にご飯が欲しくてそんなことしたんじゃ」

 

「そんな事は分かっている。コレはお前を無視した事の謝罪だ」

 

「で、でも―――」

 

 すると、少女の腹から可愛らしい音が鳴る。少女は顔を真っ赤にして俯いた。

 

「少ないかも知れんが、今は手持ちがない。それで我慢しろ」

 

「い、いえ。ありがとうございます」

 

 そういって、一口食べた彼女は眼を見開き、一心不乱に食べる。そしてものの数秒で食べ終えた彼女は次の標的として俺の持つプレーンシュガーを睨む。それはもう、獲物を狙う猛禽類のような凄味がある。

 

「……ほら」

 

「ありがとうございまふ」

 

 最後まで言わずにドーナツを食べる。よほど腹が減っていたのか、それともドーナツを食べたのが初めてなのか。彼女の服はパジャマのようだが、それでも汚れが無い。だとするなら前者だろう。

 

「んく……御馳走様でした」

 

 口の周りに食べかすが付いているが、それを気にせず彼女は笑って俺に礼を告げる。

 

「あぁ、気にするな。それと、あまり子供が夜道をうろつくな。親が心配する」

 

「え?あ、あぁ。そうですね。御免なさい」

 

 何処か驚いた少女が頭を下げる。そして彼女はベンチから降りる。

 

「それじゃ、お兄さんに言われたので私は帰ります。えと、ドーナツ美味しかったです」

 

「待て」

 

 歩き出そうとした彼女を呼び止める。

 

「子供一人で夜道を歩かせるつもりはない。送って行ってやる。家は何処だ?」

 

「い、いえ。大丈夫です!!家も近いですし、一人で帰れますから!!」

 

 必死な声に先程浮かんだ予想が当たった。恐らくはちょっとした冒険感覚で夜道を歩いていたのだろう。俺はベンチに深く座る。

 

「そうか、なら早く帰って親を安心させて来い」

 

「は、はい。あのありがとうございました」

 

 こう執拗に礼を言われたのは初めてだ。俺は立ち上がって彼女に背を向ける。

 

「あ、あの!!」

 

 背中から掛かる声に振り向く。彼女は小さく笑って。

 

「私、ティナって言います!!」

 

「……戒斗だ」

 

「かいとさん……戒斗さん、覚えました!!あの、また会えますか?」

 

「どうだろうな。此処に来たのは偶然だ」

 

 そういって、歩き出す。

 

「だが、お前が腹を空かしていたら分からんがな」

 

 何故、この様な事を言ったのかは今でも分からない。だが、その時は何故か口走っていた。

 

「……はい、お休みなさい」

 

 少女、ティナの声は風に乗って、俺の耳に届いた。気付けば、腹の底に溜まった黒い感情が消えていた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「という訳で、自己紹介からするか。俺は葛葉コウタ。凰蓮さんの店【シャルモン】の居候でレヴィの保護者だ」

 

「ワテクシはこの【シャルモン】の店主。凰蓮・ピエール・アルフォンゾ。宜しくね♪」

 

「私は泉京水。この店のパティシエよ。気軽にキョウちゃんでいいわ♡」

 

「はいは~い!!ボクはレヴィ・ラッセル!!モデル・チーターでパティシエ見習いだよ♪」

 

 俺と凰蓮さん、京水さん、レヴィの順で紹介した後、対面に座る少女の一人、蒼い瞳の少女が手を上げる。

 

「私はシュテル・スタークス。モデル・ホークです。レヴィとは友人というより家族でしょうか。まぁ、取り敢えずウチのレヴィが迷惑をおかけしたようで」

 

「気にしなくていいわ。子供は大人に迷惑を懸けるのが仕事なのよ」

 

「そうだな。別にレヴィ位腕白な方がこっちも楽しいから」

 

「えへへ~、シュテルん、ボク褒められてる~」

 

「はいはい、分かりました。では、次は」

 

「はい!!」

 

 勇ましく手を上げたのはウェーブがかった金髪が特徴の少女だ。

 

「ユーリ・エーベルヴァインです。モデルは……えっと……なんでしたっけ?」

 

「ベアーであろうが、忘れてどうするか?」

 

「あぅ……」

 

 コツンと頭にチョップされるユーリは朗らかに笑う。そしてチョップした少女は立ち上がり、腕を組んで胸を張る。

 

「我はディアーチェ・K・クローディア!!モデル・ライオンだ!!レヴィが世話になったな」

 

「ライオン?あぁ、だから王さまなのか。俺はてっきり相手にしてもらいたくてキャラ作ってんのかと」

 

「いえ、それで合っています。夜な夜なディアーチェは演技練習をしているので」

 

「こらぁ!!お前は何を言っているのだ!!」

 

 なにやら愉快な事になっている。

 

「それじゃ、次は二人だな」

 

「はい!!」

 

 そういって、アミティエが楽しそうに立ち上がる。店にやってきてから数時間で彼女は最初会った時よりもかなり明るくなった。恐らく、コレが彼女の素なのだろう。

 

「アミティエ・フローリアンです!!アミタって呼んで下さい!!モデル・ウルフなので、追跡はお手の物です!!」

 

「おう、宜しくなアミティエ……冗談だ、だから泣くな。俺が悪かったから」

 

 ちょっとしたジョークのつもりだったのだが、告げた瞬間、涙目になったので慌てて謝る。

 

「私はキリエ・フローリアン。モデル・コヨーテ……」

 

 元気一杯のアミタとは逆に妹のキリエは眠そうに眼を擦っている。そしてどうやら俺は懐かれたらしく、彼女は俺の膝の上から動こうとしない。これはこれで、ちょっと大変だ。

 

「うむ。では、レヴィの元気な姿も見れた事だし、我等は退散するとしようか」

 

 そういって、立ち上がるディアーチェは扉へ向かう。

 

「王さま……」

 

「そんな顔をするな。我等にこの街は危険すぎる。たまに顔を見に行くから楽しみにしていろ」

 

 そういって、彼女は見送った三人に笑顔を向けて、店の外に出て行く。

 

「って、ちょっと待てぇぇ!!!」

 

 だが、直ぐに怒鳴りながら店に戻ってくる。

 

「シュテル!!ユーリ!!何故お前達は共に来ぬのだ!?」

 

「え?帰るんですか?」

 

「あぁ、そういえば」

 

 首を傾げるユーリにシュテルはポン、と手を叩き。

 

「先程、此処に住む事を凰蓮オーナーに勧められました」

 

「それを早く言わんか!!」

 

「ま、まぁ、ディアーチェ。その事を言われたのは忙しかったし、シュテルも忘れてたんですよ」

 

 掴みかかろうとするディアーチェを諌めるように告げた言葉にディアーチェは腕を組む。

 

「ま、まぁそれなら別にいいが。本当に忘れておったのか?」

 

「えぇ、我が王に伝えるのを忘れていました」

 

「……ん?しかし、我と話す機会はコウタとレヴィが帰って来てからあった気がするが」

 

 そういうと、お約束の【てへぺろ】である。ただ、無表情なのが少々変だが。

 

「シュテル~!!!」

 

 今度こそ、掴みかかったディアーチェの叫びと嬉しそうに笑うレヴィ。あたふたするユーリととうとう寝始めたキリエをどうしようか考えているアミタ。そしてその光景を何処か嬉しそうに眺める凰蓮さんと京水さん。

 

「はは、凄いなコレ」

 

 俺は苦笑するしかない。でも、恐らくこれから楽しくなるだろう。

 




投稿完了です!!今回は日常部分ですね。紫天一家の残りメンバーとフローリアン姉妹(ロリ)の登場。そして皆さんお待ちかねのはんぐり~の店長です!!え?違う?いやいや、でも皆さんこの人来たら面白そうだなって思いましたよね?え?ティナの方がいい?まぁ、今回はちょっとした挨拶な感じですので次回以降、戒斗とティナのほのぼの日常編をお楽しみに

そして前書きでも紹介した【スーパーヒーロージェネレーション】の参戦作品をご紹介!!……大丈夫だよね?

先ずはガンダム勢

νガンダム:定番ですね。古谷さんのボイスもグッドです
ガンダムF91:何と言うか、凄く久しぶりな感じです「ゲームオーバーだド外道ーー!!」
ガンダムSEED:そろそろ違うのを呼ぼうよ……好きだけどさ
ガンダムOO:ダブルオー格好いいな~
ガンダムAGE MOE:スーパーガンダムAGE2の活躍に期待しよう。そして赤い奴は出てくるのか?
ガンダムUC:スパロボではちょっと物足りなかったので期待

続いてウルトラマン勢

ウルトラマン:シュワ!!
ウルトラセブン:デュア!!
ウルトラマンティガ:TV版の声だぁ~(泣)
ウルトラマンメビウス:未来君引退して代役悲しいです
ウルトラマンゼロ:やっぱり喋るな~ww
ウルトラマンギンガ:やった、ギンガだぁ~

そして期待の仮面ライダー勢

仮面ライダーBLACK RX:まさかのてつをご本人登場!!
仮面ライダー電王:まぁ、クロスさせやすいよね~
仮面ライダーW:やっぱりフィリップ君は出ないようです(泣)
仮面ライダーOOO:本人のセイヤーはやっぱり格好いい
仮面ライダーフォーゼ:まさかの代役!!でも、結構似てる
仮面ライダーウィザード:変身時の声エコー再現とはすばらしい

以上!!幾つか追加されるけど、おわかり頂けただろうか?この中に鎧武の名前が無い事を
えぇ、作者は参戦作品を見たときにリアルで( ゚д゚) ・・・(つд⊂)ゴシゴシ (;゚Д゚) …!?
な感じでした。
もしや、このまま出ないのか?いやいや、流石の財団Bも出してくれるでしょう。出さなかったら絶対許さないけど(極を握りしめながら)
ではでは次回もお楽しみに



次回の転生者の花道は……



「し、知らないよ!?昨日、コウタが寝てる隙にコウタの真似しようとして間違って洗剤の中に落としたなんて無いからね!!!」



「「「スイーツは別腹!!!」」」



「イケメンで強いのね!!嫌いじゃないわ!!!」


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第十話 錆びたロックシード 異世界からの侵略者

さぁ、二巻突入前に温めておいたオリジナル展開です。そして極とカチドキを出す為に必要な人物も出ます。ご期待ください


「嘘だろ!?」

 

 朝起きた俺はオレンジのロックシードを見て、思わず叫ぶ。

 

「錆びてる……!?」

 

 手に取ったオレンジのロックシードは見事に錆びている。一体何があったのか。

 

「おっはよ~……し、失礼しま~す」

 

「おう、待てやレヴィ」

 

 テンションMAXで部屋に入ったレヴィは錆びたロックシードを見た瞬間、一気にテンションを落として部屋を出ようとした。取り敢えず怪しいので首根っこを捕まえる。

 

「何か知ってるのか?」

 

「し、知らないよ!?昨日、コウタが寝てる隙にコウタの真似しようとして間違って洗剤の中に落としたなんて無いからね!!!」

 

 つまり、そういうことである。俺は大きくため息を吐いて、ロックシードをポケットに突っ込む。仕方ない、今日の式典はパインで行くか。

 

「取り敢えず、次からは気を付けろよ」

 

「う、うん。御免」

 

 シュンと項垂れるレヴィの頭を撫でながら居間へ向かう。

 

「む?どうしたのだ、レヴィ?」

 

「恐らく、昨日の件で怒られたのでしょう」

 

「あぁ、アレは怒られても仕方ないですね」

 

「お前等も知ってたのか」

 

 レヴィのお陰で怒るタイミングを逃した俺はそう苦笑して朝食を作る。まぁ、子供のやった事だ。大目に見てやろう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「いいえ、怒るべきです!!」

 

 身を乗り出して聖天子が強い口調で告げる。

 

「いや、でもさ。レヴィの奴も反省してるみたいだし、それなら大丈夫だろ?」

 

「ダメです!!そういうときはもっとキチンと怒るべきです。凰蓮さんから聞いていますけど、コウタさんはレヴィちゃんには甘すぎです」

 

 式典も終わり、今朝の事を話していた筈なのに何故俺は聖天子に怒られているのか。

 

「いや、相手は子供だろ?甘やかすのは普通じゃないか?」

 

「いいえ、子供だから叱るのは当然です。甘やかすな、とは言いませんが叱る所はしっかりと叱らなければいけません」

 

 そういって、紅茶を一口飲んだ彼女は一息つく。

 

「でもな~」

 

「でも、なんですか?」

 

「いえ、何でもないです」

 

 そう答えた瞬間、扉を開けて戦極さんが入ってきた。何がそんなに嬉しいのかスキップである。正直キモイ。

 

「いや~、実に清々しい気分だ。聖天子様、戦極ドライバー、量産に成功です」

 

 そういって、彼はテーブルに置かれた錆びたロックシードを見て、驚く。

 

「こ、これは一体……!?」

 

 また、面倒な事になった。そう思いながら俺は戦極さんに朝の事を伝える。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「それで、木更さん。俺はなんで此処に居るんだ?」

 

「あのね、里見君。女の子一人でスイーツ食べに行くってかなり悲惨なのよ?」

 

「だったら、延珠と二人でいけばいいじゃねえか」

 

「それだと、蓮太郎が寂しくて死んでしまうからな」

 

「誰も寂しがんねえよ」

 

 嬉しそうな延珠の言葉に力無く答える。

 

「ていうか、俺は今、疲れてんだよ。早く家に帰って寝たいんだけど?」

 

「でも、それは自業自得でしょ?」

 

「ぐっ!?」

 

 そう、今日の式典の際、両親の名前が出た時に驚き、聖天子に近寄った瞬間、あの仮面ライダーに間に入られた。しかも、バナナのライダーは俺の首元に槍を突き付けて。アレは流石に拙いと思った。そのお陰で今の俺は随分とローテンションなのだ。

 

「ほらほら、さっさと行くわよ」

 

 そういって、歩き出した木更さんの後に続く延珠。俺も歩き出そうとした時、背後でバイクのエンジン音が響いた。振り向けば桜をイメージしたバイクが停車していた。

 

「あら、バイクで二人乗りなんていいわね」

 

「む~、蓮太郎!!次は自転車ではなくバイクで移動だ」

 

「無茶言うな!!まだ免許取ってねえよ!!」

 

 そう言いながら視線を戻せばバイクが変形。大きめの錠前になった。

 

「はい?」

 

 俺の間抜けな声にバイクに乗っていた二人が振り向く。同い年くらい……というか、片方はオレンジの仮面ライダーじゃないか。そして隣の人物は。

 

「あら、先程ぶりですね。里見さん」

 

「聖天子様……?」

 

 カジュアルな服装に着替えた聖天子が立っていた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「どうでしょうか、相席しませんか?」

 

 聖天子のその言葉に俺を含めた天童民警のメンバーは店の奥。聖天子が使う個室に入る。

 

「メニューとお冷……」

 

「あぁ、ありがとう。キリエも偉いな」

 

「うん、皆で働くの楽しいから」

 

 そうはにかんで笑うキリエは凰蓮さんに呼ばれて厨房の方へと歩いて行く。

 

「なぁ、此処は労働基準法って言葉があるのか?」

 

「【呪われた子供たち】にソレが含まれんなら訴えられてるだろうな」

 

 何処か棘がある言葉に俺がそう返せば、里見が露骨に顔を歪める。

 

「お前、相手は子供だぞ?」

 

「おいおい、コッチは保護してるんだぞ?それに、アイツ等が嫌々接客やってる様に見えるのか?」

 

 そういって、親指で店内を示せばそこには笑顔で客と接するレヴィ達がいる。

 

「アイツ等が【呪われた子供たち】だってバレたらヤバいんじゃないのか?」

 

「もう知られてる。というか、此処は【呪われた子供たち】を養っている親子が主な客層だ。特にこの時間帯は普通の人間の方が少ない」

 

 そういって、メニューを開いて、女性陣に見えるようにする。俺は水を飲んで不思議そうな顔で接客をしている子たちを見ている蓮太郎を見る。

 

「式典の時も思ったけど、お前ってやたらめったら相手に噛み付くよな?そういう癖、治した方がいいと思うぞ?」

 

「余計な御世話だ」

 

「苦労してますね。木更社長」

 

「本当よ。里見君が甲斐性なしのお陰で我が社は何時もカツカツなのよ」

 

 ヨヨヨ、とハンカチで目元を拭う彼女に蓮太郎が頬を引き攣る。ふと、視線を聖天子に向ければオロオロとしていた。俺は小さくため息を吐く。

 

「まぁ、あんまり喧嘩腰なのも楽しくない。ある程度は答えられるけど、質問あるか?」

 

「此処は割引をやっておるのか?」

 

 すると、何か言おうとした蓮太郎を差し置いて、延珠が声を上げる。

 

「そうだな、今日はやってないけど来週はカップルデーで四割引きだな」

 

「蓮太郎!!」

 

「里見君!!」

 

 二人はほぼ同時に叫んでいた。呼ばれた蓮太郎は驚いている。あぁ、他人のこういうのを見るのは楽しいな。

 

「頑張れ、里見。男の見せ所だぞ?」

 

「……月に一回!!それ以上は無理だからな!!」

 

「ありがとう、里見君。やっぱり里見君は最高の社員ね!!」

 

「うむ、やはり蓮太郎は妾のふぃあんせだ!!」

 

「里見、お前ってやっぱりそういう趣味が……」

 

「ねえよ!!」

 

 テーブルを思わず叩いた蓮太郎に注文を聞きに来たユーリが小さく悲鳴を上げて俺の影に隠れる。

 

「あ~あ……」

 

「里見君、最低……」

 

「蓮太郎、今のはない」

 

「里見さんってそういう人なんですね」

 

「ま、待て!!誤解だ!!そんな目で俺を見るなぁ!!!」

 

 怯えているユーリの頭を優しく撫でながら落ち着かせる。

 

「あんまり、刺激してやるなよ?赤とピンクの子以外は外周区で育ったからコッチはまだ不慣れだし」

 

「そ、そうか。悪かった」

 

 そういって、頭を下げる蓮太郎にユーリも落ち着いたのか、何時もの笑みを浮かべて。

 

「御注文は決まりましたか?」

 

「俺はイマジンケーキとレモンティーだな。聖天子は?」

 

「そうですね。私はガイムオレンジと紅茶を」

 

「私と延珠ちゃんはキマイラケーキとミルクティーを二つずつ」

 

「俺はそうだな。インフィニティーケーキとアイスコーヒー一つ」

 

 メニューを聞き終えたユーリは厨房へと向かう。その後ろ姿を眺めている蓮太郎。

 

「里見、言っておくがウチは店員のお触り禁止だぞ?」

 

「蓮太郎!?妾というモノがありながら!?」

 

「さ、里見君!?それは流石に拙いわよ!?」

 

「さ、最低です!!」

 

「ま、待て!!今のはどう考えても冤罪だろうが!!!」

 

 疑う女性陣を相手に慌てた蓮太郎は咳払いをして俺を見る。

 

「お前に質問がある」

 

「答えられる範囲でなら?」

 

「先ず一つ。あの子たちはどうやって?」

 

「だから保護したって言ったろ?最初に会ったレヴィを成り行きで助けてその後、この店で居候している間にレヴィの友人がやってきたんだ。んで、それと同時に保護した双子を連れて来た」

 

「その双子というのは外周区の者ではないのか?」

 

「元民警だ。けど、プロモーターを目の前で殺されて、暗闇の中、丸一日過ごした事で戦線復帰はほぼ無理だと言われたんだ」

 

 そういうと、説明を聞いた三人が視線を外す。

 

「そうか……悪い、なんかお前の事、誤解してた」

 

「お互い様だ。まさか、少し生意気な奴だと思ってたけど、幼女に手を出す変態だったなんて」

 

「おいコラ!!!」

 

 冗談で言ったが、見事なまでに食い付いた。

 

「落ち付け、冗談だ。それと、質問はそれで終わりか?」

 

「待って、貴方達仮面ライダーの事だけど」

 

「それはお答えできません」

 

 毅然と告げたのは聖天子だ。木更は彼女へと視線を向ける。

 

「私は彼に質問をしたのですが?」

 

「葛葉コウタは私の護衛です。護衛の彼に代わって私が答えるという事の意味が分からない訳ではないでしょう?」

 

 つまり、それだけ重要かつ秘密の事だ。

 

「まぁ、そうだな。そっちの誰かがウチのプロフェッサーのモルモットに志願すれば嫌でも分かるぞ?」

 

「モルモットって……」

 

 露骨に嫌そうな顔をする三人を見て。

 

「他には?」

 

「コウタは聖天子と恋人同士なのか?」

 

 延珠の言葉に聖天子が咳き込む。俺はどう答えようか考えた後、告げる。

 

「想像にお任せする」

 

「おぉ、そうか。分かった。うむ、妾も他人のぷらいばしーに土足で踏み込むのは拙いな」

 

 うんうん、と頷く延珠を見て、隣で咳き込んでいる聖天子の背を撫でてやる。

 

「うん、でもお似合いよね。身分を越えた恋。王道だけど、やっぱり憧れるな~」

 

 そういって、チラリと蓮太郎を見る木更。

 

「お待たせしました~♪」

 

「レヴィ、落とさないように気を付けるのだぞ?」

 

 上機嫌のレヴィとやや心配そうにレヴィを見るディアーチェがやってきた。

 

「あれ、ディアーチェ。厨房離れて大丈夫なのか?」

 

「今日はそこまで混んではいないのでな。それに我が入った所で、二人のヘルプ程度だ」

 

 そういって、俺達の前にケーキを並べる。

 

「ごゆっくり~♪」

 

 そう言いつつも、ケーキに目を奪われているレヴィの耳を引っ張って、二人が部屋から出て行く。

 

「蛭子親子は死んだのか?」

 

 ふと、気になった事を聞く。蓮太郎は驚きつつ、頷く。

 

「あぁ、多分死んでる。海に落ちたから死体は確認してない。娘の方は茫然として海を見ていたからもしかしたら生きてるかもな」

 

「そっか……」

 

 思い出すのは嬉しそうにパフェを食べる娘の方だ。あの顔を見れないのは少しだけ寂しいが、奴等は敵だ。もしかしたら手を下していたのは俺だったかもしれないし、他の誰かだったかもしれない。不謹慎だが、俺が殺さなくて良かったと思っている。

 

「戦いたかったのか?」

 

「まさか。進んで人殺しをする気はないさ」

 

 そういって、俺は桃とブドウ、南津海が乗り、ハスカップのジャムでコーティングされたケーキを切り分ける。

 

「俺の力は守る為の力だ。切羽詰まってない限りは攻める気はないよ。尤も、力に守るも攻めるもないけどね」

 

 切り分けたケーキの一角を食べる。適度な酸味が口の中に甘さを残さない。やはり、凰蓮さんのケーキは格別だ。

 

「そうね。力とは使う人間によって色々と変わるわよね」

 

 ため息交じりに告げる木更はしかし、ケーキを食べた瞬間、目を見開く。

 

「え?何コレ!?本当にケーキ?ケーキに似た神様の食べ物じゃないの!?」

 

 大袈裟すぎる。先程まで漂っていた空気などブチ壊しである。視線を向ければ延珠も同じようにケーキを食べている。

 

「蓮太郎!!御代わりはダメか!?」

 

「ダメだ!!俺だって我慢するんだ。お前も我慢しろ」

 

「いえ、それは間違っていますよ。里見さん」

 

 何故か、聖天子が真摯な瞳で蓮太郎を見据える。

 

「いいですか?女生と男性では我慢の限界が違うんです。特にこういったスイーツ等は女性には我慢できない物なのです」

 

 うんうん、と木更、延珠が頷く。これは口を挟まない方が吉だな。

 

「ですので、しっかり食べさせないといけません」

 

「いや、けど太るだろ?」

 

 そう答えた瞬間、女性陣三名から殺気が滲み出る。

 

「「「スイーツは別腹!!!」」」

 

 静かに告げられた言葉に顔を青くした蓮太郎は暫く睨み続ける女性陣に対して謝り続けていた。

 

「あらあら、どうやら新規のお客様は当店のスイーツを気に入ってくれたようね」

 

 そういって、やってくるのは京水さんだ。突然現れた筋骨隆々の男性に蓮太郎達が固まる。当然だろう、可愛らしいピンクのエプロンを身に付けた角刈りの男性がオネエ言葉で喋っているのだ。

 

「あれ?厨房にいなくて大丈夫なんですか?」

 

「今は休憩中。所で、コウタ君。そちらのイケメンを紹介して貰っていいかしら?」

 

 そういって、蓮太郎にウィンクすれば蓮太郎の顔が引き攣る。

 

「里見蓮太郎。この前のステージⅤを倒した奴。詳しい事は本人から直に聞いた方がいいかも」

 

「イケメンで強いのね!!嫌いじゃないわ!!!」

 

 キャア、と黄色い声を上げて、熱い視線を蓮太郎に投げる京水さん。その視線の間に木更と延珠が割って入る。

 

「蓮太郎は妾のふぃあんせなのだぞ!?お、お前が入る余地などない!!」

 

「そ、そうよ!!里見君はノーマルよ……多分」

 

「ちょ!?木更さん!!最後のいらない!!」

 

 そういって、騒ぐ三人の中、尤もスタイルの良い木更を見た京水さんは顎に手を当てて。

 

「イイ身体してるじゃなぁい……でも、私の方がオッパイ大きいわ」

 

「え……?」

 

「私の方が!!オッパイ大きいわ!!!!」

 

 絶叫である。更に言えば、京水さんの場合は胸囲である。まぁ、広義的にはあってるかもしれないが、あんな暑苦しい胸板を俺は女性のと同一視したくない。

 

「コウタ~♪」

 

 そんなカオスな状況に清涼剤の様な笑顔と共にやってきたのはレヴィだ。掲げているアップルパイを見れば、休憩なのだと分かる。

 

「よいしょっと」

 

「お前な、別に構わねえけど、なんか断り入れて座れよ」

 

 当然のように俺の膝の上に座るレヴィに告げるも、目の前のアップルパイに瞳を輝かせているレヴィには届かない。

 

「む?レヴィのは美味しそうだな」

 

「まだ、お店で出せないけど、自信作~♪」

 

 そういって、パイを頬張るレヴィは嬉しそうに笑っている。

 

「本当にパティシエ見習いなのね。ちょっと驚いたわ」

 

「まぁ、この子が成功するのはもっと先でしょうし。評価されるなんてもっともっと先の事よね」

 

 京水さんがそう言って、部屋から出て行く。その際に蓮太郎へとウィンクして。

 

「レヴィ、お主は何故、パティシエを目指すのだ?」

 

「え?だって、ボク食べるの好きだから。パティシエになったら毎日美味しいモノ作って食べられるでしょ?」

 

 そう告げたレヴィは最後の一欠を口の中に放り込む。

 

「それにボクは身体を動かすのも好きだけど。皆の笑顔も好きだから」

 

「それで、パティシエか。レヴィは凄いな」

 

 どこか羨ましそうな目で告げられた言葉にレヴィは照れながらも。

 

「延珠も凄いよ~。あ、凄い同士ボク達は友達だね~」

 

 そういって、レヴィは両手の指を絡め、小指だけ立てたサインを出す。以前教えた物だ。

 

「?なんだ、ソレは?」

 

「これはね、友達の印♪」

 

「む?こ、こうか?」

 

「こうだよ~」

 

 そんな光景に思わず笑ってしまう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「やぁ、葛葉君。よく来たね!!」

 

 翌日、早朝に呼び出された俺は出勤するサラリーマンの波に揉まれながら聖居の地下室に来ていた。そこでとても爽やかな笑みを浮かべた戦極さんが迎えられる。

 

「何か良い事でもあったんですか?」

 

「勿論!!一つは助手が見付かった事。一つはデータ収集の為に実験体が見付かった事」

 

 もう隠そうともしねえよ、この人。

 

「そして君の錆びたロックシードについて幾つか分かった事が原因だね」

 

「流石に洗剤で錆びる訳ないですよね」

 

「まぁ、当然だね。恐らくは別の要因だろう。私はエネルギー切れだと踏んでいる」

 

 エネルギー切れ?確かにスイカのロックシードは使えば一日の間使用できない制限があるが、オレンジもそうなのだろうか。

 

「まぁ、私の推測だからまだ分かっていないがね。取り敢えず君から貰ったロックシードは研究に使っているから、他にロックシードないかな?」

 

「ん~、それじゃ、コレとコレ、後コレだな」

 

 重複したメロン、オレンジ、バナナのロックシードを渡す。他にも今まで集まったロックシードが入ったビニール袋をテーブルに置く。中に入っているのはクルミ、マツボックリ、ドングリが五個ずつだ。戦極さんは受け取ったソレをチューブやケーブルで繋ぎ合わせ、錆びたロックシードが入ったシリンダーに繋げる。

 

「では、夏世君。頼めるかな?」

 

「分かりました、プロフェッサー」

 

 そう返事したのは以前、先日サインを渡した夏世だ。彼女は軽快な音を立てながらキーボードを叩く。

 

【リキッド!!】

 

 そんなイケメンボイスと共に錆びたオレンジロックシードを入れたシリンダーに炭酸を

コップに注いだ音が響き、謎の液体が注がれる。まぁ、戦極さんの趣味だろう。視界の端にあるシリンダーに収められた【白いドライバー】はきっと気の所為だ。

 

「ていうか、助手ってこの子?」

 

「先日。民警をクビになったらしくてね。ちょっとした場所で出会って、そのまま流れで私の助手となったんだ」

 

「てことは、さっき言ってた協力者ってのは?」

 

「将監さんです」

 

 成る程。まぁ、戦極さんに優秀な協力者が出来たのならば安心だ。コレで、呉島さんの苦労も減るだろう。この前、あの人俺を戒斗と間違えてたし。

 

「おぉ!!見たまえ、葛葉君!!」

 

 嬉しそうな声に視線を向ければなにやら不思議な液体に浸かったオレンジロックシードの錆びが取れ、綺麗になっていく。

 

「ん?なんか、変じゃありません?前よりも色が綺麗っていうか」

 

「これは推測だが、三つのエネルギーを取りこんでロックシードそのものが進化しているのではないか?」

 

 そう言っているとシリンダーを満たしていた液体が無くなる。シリンダーを退かし、手に取ってみる。元々銀色だったベースカラーまでもがオレンジに変わり、所々クリアパーツで構成されている以外は特に変化はない。

 

「変身すれば分かるか」

 

 そう思い、ベルトを嵌めた瞬間、警告音が響いた。

 

「おや?何事かな?」

 

 戦極さんの言葉に夏世が直ぐに状況を確認する。

 

「第一、第二、第三地区で同時に爆発が発生。ソレに乗じて武装した集団が現れたそうです。警察が即座に動いていますが、まるで相手になっていないようですね」

 

 その言葉と共に警察の無線と繋がっているのだろう。男性の悲鳴と共に甲高い声が聞こえる。

 

(ん……?)

 

 その聞き覚えのある声に首を傾げる。

 

「映像は出せるかい?」

 

「今だします」

 

 そういって、大きなディスプレイに映し出されたのは黒尽くめの集団と動物、昆虫を模した怪人達だ。

 

「聖天子に繋いでくれ!!」

 

「え?あ、はい!!」

 

 俺の声に夏世は直ぐに回線を繋ぐ。

 

(嘘だろ?いや、間違いない。アイツ等は……!!)

 

 ガストレアだけでも面倒なのに。そう思っているとディスプレイに聖天子が映し出される。

 

『緊急時です。要件は早くお願いします』

 

「俺と呉島さん、戒斗で時間を稼ぐ。許可をお願いします」

 

 そういって、頭を下げる。視線を下げた所為で、聖天子の顔は分からない。だが、彼女は一度小さく息を吐いて。

 

『許可します。それと、可能ならば彼らの捕獲して下さい』

 

「可能ならな。戦極さん。俺は第一区に向かう。ナビを頼む」

 

「分かった。夏世君、君は葛葉君のナビを頼む。私は貴虎達に連絡する」

 

「はい!!葛葉さん。コレを」

 

 投げ渡されたインカムを耳につけて、扉を抜け、エレベーターに乗り込む。地上に向かう間、何故アイツ等【ショッカー】が現れたのか考える。

 

(アイツ等は最初期の改造人間。いや、再生怪人を考えるとリサイクルされてる可能性もあるか。だが、変だ。アイツ等は何時でも世界に宣戦布告出来た筈。なのに何故こんな微妙な時期に仕掛けて来るんだ?)

 

 エレベーターの扉が開き、駆け出す。途中面倒な相手に絡まれそうだったが、無視してロックビートルのロックシードを放り投げ、飛び乗りバイクを発進させる。

 

『葛葉さん、聞こえますか?』

 

「あぁ、聞こえる。ナビを頼む」

 

『場所はショッピングモール近く。此処からはそう遠くはありません』

 

 言われ、角を曲がればそこから市民が雪崩れ込んできた。

 

「くそ!?」

 

 急停止して、バイクをロックシードに戻しつつ、走り出す。流れに逆らいながらの移動は困難だが、幸い、抜けるのは早かった。

 

「ほう?逃げ遅れか?それとも、コイツ等のように無謀にも挑む愚者か?」

 

 そこには数組の民警が虫の息で転がっていた。イニシエーターは無事だが、プロモーターがヤバい。俺は新しくなったオレンジロックシードを取り出す。

 

「俺が時間を稼ぐ、その内にそいつ等を病院に担ぎ込め」

 

「で、でも……!?」

 

「急げ!!早くしないとそいつ等本当に死ぬぞ!!」

 

 怒鳴れば少女達はプロモーターを担いだり、引き摺ったりしながら離れて行く。

 

「ほう?怪我人を下がらせるとはな。本当に愚か者だったとはな」

 

「お前等は何者だ?」

 

 俺が聞けば先頭にいる蜘蛛の怪人が両手を広げる。

 

「我等は【大ショッカー】!!そして我等は栄えある異世界侵略作戦の尖兵!!」

 

「大ショッカー……!?」

 

 冗談と思いたいが、コイツ等は確かに異世界侵略作戦といった。つまりこの世界ではなく、異世界からの侵略者という事なのだろう。全く面倒な。というか、もしかしたらディケイドとか来るんだろうか。嫌だな~、鳴滝がまたちょっかい出すんだろうな。まぁ、取り敢えず。

 

「簡単に言えば悪の組織か。だったら!!」

 

【フレッシュ!!オレンジ!!】

 

 音声と共に頭上のクラックから輝くオレンジが降りて来る。新しいロックシードを試すには丁度いいな。

 

「変身!!」

 

「なに!?」

 

 ロックシードを持った右腕を引き、左腕は身体を斜めに横切るように伸ばす。そして腕を戻す時にロックシードをセットし、引き戻した左手で掛金を閉じる。

 

【ロック・オン!!】

 

 法螺貝の音が周囲に響き渡る。逃げ遅れた市民が視界に入った。尚更、コイツ等から逃げるわけにはいかなくなった。

 

「行くぜ!!」

 

 カッティングブレードでオレンジを斬る。

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!!】

 

 オレンジを被り、鎧を纏った俺は二本に増えた大橙丸を構える。

 

「き、貴様はまさか!?」

 

「俺は鎧武!!仮面ライダー鎧武だ!!」

 

 この世界でも面倒なのに異世界からの侵略者とか。ヒーロー暇なしだな。

 

「ここからは俺のステージだ!!!」

 

 叫びと共に走り出す。

 

「殺せェェッ!!!!」

 

 蜘蛛男の叫びと共に戦闘員が襲いかかる。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「に、兄さん!?」

 

「光実。お前は直ぐに避難しろ。私はアイツ等の相手をする」

 

 表情を恐怖に歪めている光実を安心させるように撫でてから前へ出る。ベルトを装着し、ロックシードを掲げる。

 

【メロン!!】

 

 音声に気付いたのか、民警の相手をしていた奴等は私を見る。先程、凌馬経由で聞いたが、奴等は異世界からの侵略者らしい。

 

「【異世界からの侵略者対変身ヒーロー】か……ふ、子供が好きそうな話だ」

 

 ならば、仮初とはいえ、ヒーローを名乗っている身としては奴等の思惑を阻止しなければなるまい。

 

「変身!!」

 

【ロック・オン!!】

 

 法螺貝が響き渡り、光実が驚いたように私を見る。そういえば、コレを見せるのは初めてだったか。

 

【ソイヤッ!!メロンアームズ!!天・下・御免!!】

 

 変身を終えた私は無双セイバーを抜き、その切っ先を両手が鋭い刃となったジャガーの怪人へと向ける。

 

「貴様は何者だ!?」

 

「私は斬月。仮面ライダー斬月だ」

 

 ゆっくりと一歩目を歩む。すると相手は吼えるように叫ぶ。

 

「いざ、参る」

 

 静かに告げたその言葉が戦闘の合図だった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ふん、随分と面白いテロリストだ」

 

 眼前の集団に向かって、俺はそう告げる。ベルトを装着し、視線を後ろへと向ける。

 

「ザック、市民の避難を最優先しろ。アイツ等は俺が引き受ける」

 

「分かった。負けるなよ、戒斗」

 

「ふん、誰に言っている」

 

【バナナ!!】

 

 俺は視線を奴等に向ける。同じ服を着た、同じ体系の男達のその奥、蟹と蝙蝠を合体させたような怪人がいる。

 

「此処はペコのお気に入りのダンスステージだ。お前達が踊る場所じゃない」

 

【ロック・オン!!】

 

 ファンファーレが鳴り響き、集団の視線がステージの上に立つ俺に集まる。

 

「変身!!」

 

【カモンッ!!バナナアームズ!! Knight of Spear!!】

 

 変身を終えた俺はバナスピアーを構える。

 

「何者だ!?」

 

 聞かれ、俺はマスクの下で笑う。葛葉のアイディアも捨てた物じゃないな。

 

「バロン。仮面ライダーバロンだ!!」

 

 告げ、走り出す。さぁ、無法者には相応の罰を与えるとしよう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「異界からの異邦人か……」

 

 眼前に浮かびあがる映像を見ながら私はそう呟く。すると、背後の空間が灰色一色に染まる。

 

「よぉ、久しぶりだな」

 

 そういって、笑みを浮かべるのは捨てた故郷にいる筈の男。

 

「何用だ。此処は貴様が来るべき世界ではない」

 

「冷たい事言うなよ。元仲間だろう?」

 

「消えよ、蛇。貴様の満足する物などこの世界の何処にもありはしない」

 

「みたいだな~。すっげぇ、崖っぷちじゃねえか。こんなとこで何してるんだションエミュ?」

 

 隣にやってきた奴は眼前の映像を見て、奴は声を上げる。

 

「驚いた。此処にもアーマードライダーがいるのか」

 

「何だ、ソレは?彼等は自身を仮面ライダーと名乗っていたぞ?」

 

「あぁ、成る程。そういう世界か。それにしても、お前さんの行きついた世界は実に退屈しないな」

 

 そういって、奴は指を鳴らす。すると、私の後ろの空間が捻じれ、今は果実を求めるモノに変わった哀れな者達が現れる。

 

「戯れは止せ、蛇よ」

 

言葉と共にこのモノ達を消し去る。この場だけではない。蛇がこの世界に開いた場所から溢れたモノ達全てだ。

 

「流石はロシュオの片腕だ。力は鈍っていないようだな」

 

「ロシュオは王としての責務を放棄したのだ。故に彼等は造られた命に弄ばれた」

 

「ま、否定はしないさ。それで?お前さんはどうする?」

 

「あの者達に興味が出た」

 

「この世界のライダー達か。今から会いに行くか?」

 

「いや、破壊者が去ってからの方がいいだろう」

 

 そう告げれば、確かにと蛇が頷く。

 

「【世界の破壊者にして修復者】……か。先ずは【予言者】が来てからだな」

 

「あ奴は唯の哀れな男だ」

 

「容赦ないね。まぁ、確かに。本来【世界の破壊者】が世界から与えられた任務はほころびが生じた世界の入り口を一度開け放ち、後に自身が去る事で入り口を固く締める事だ。それが何の因果か、単なる悪者扱い。それもこれも【予言者】がある事ない事、吹聴するから困ったもんだ」

 

「奴も世界の救済を願った者だ。奴は世界に救世主の到来を予言し、崩壊する世界を見守っていた。破壊者が間に合わず、崩壊した世界もあるだろう。そういった、絶望や失望。悲しみ、怒りが今の奴を形作っている」

 

「アイツも苦労してるんだな」

 

 そういって、奴は木に生った実を手に取り、形を変え始める。

 

「お前が手を出さないなら、先ずは俺が手を出そうか?」

 

「構わん、だが、あまり出しゃばるな。此処では貴様が異邦人なのだからな」

 

「ソイツはお互いさまさ」

 

 そういって、奴が掲げるのは映像に映った人間が持っていた物と同じ波動を感じる実だ。

 

「それで?レプリカの知恵の実は持っているのか?」

 

「貴様がコレに興味を示すとはな」

 

 そういって、取り出すのは本物よりも幾分か、輝きを失った果実だ。私がこの世界に渡る際に作り出した。レプリカの実。オリジナルの十分の一しか力はないが、この世界では充分だろう。

 

「別に。単にこの世界のアイツにも渡す事があるかもしれないな、と思ってな。さて、俺は【予言者】が現れるまで姿を隠すかね」

 

 そういって蛇が消える。

 

「さて、これからお前達はどう動くのだ。人間よ」

 




投稿完了!!さて、出ました【大ショッカー】スペースやスーパーだと語呂が悪いので、こうなりました。えぇ、時系列的な物はガン無視です。そしてサガラとオリジナルのオーバーロードの登場です。このオーバーロードは以前、感想を貰ったカーキスさんからのアイディアを利用させてもらっています。また、ションエミュを人間の言葉に訳すと……
次回からは原作に突入しながら【大ショッカー】とのバトル。ご期待ください



次回の転生者の花道は……



「我が名は地獄大使!!大ショッカーの幹部よ。さぁ、トカゲロン!!やるがいい」



「私、コウタさんが居なくなった後なんて、想像できないんです」



「実はこのドライバー。戦極ドライバーよりも高い性能を引き出す代わりに少々、無茶な設計をしてね。そこら辺の調整をしない限り、正規のテスターに装備させる訳にはいかないんだ」


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第十一話 新たな敵 極秘会談

さぁ、先ずは前哨戦です。大ショッカーは尖兵。つまり、これ以降、戦力は強化、増加される事を念頭にご覧ください。取り敢えず、ムリゲー感を出しつつ仮面ライダーの活躍を書いてみましたが、上手く出来たか怪しいですww


「仮面ライダー斬月、バロン、鎧武の戦闘を確認しました」

 

「よし、私達は彼らの戦闘データを計測しよう」

 

「おいおい、市民の避難はしなくていいのかよ?」

 

 プロフェッサーの言葉に将監さんがそう聞いた。私も同じ意見です。

 

「それは既に聖天子様から民警へと依頼されているよ。彼等もステージⅤ襲来から間が空いてないから直ぐに動いてくれている」

 

 そういって、プロフェッサーは視線を画面へと向ける。

 

「しかし、異世界からの侵略者とは恐れ入る」

 

「信じてんのか?」

 

「では、君は今の我々にあのような怪人を作り出す技術と人材、資金的余裕があると?」

 

「んなもん、分かる訳ねえだろ」

 

 吐き捨てるように告げる将監さんの言葉を背中に受けて、思わず苦笑してしまう。

 

「夏世君、君はどう思う?」

 

「俄かには信じられませんが、恐らくは真実でしょう」

 

 ガストレアの脅威に怯える私達にあのような存在を作り出せる余裕はない。だが、それでも異世界というのは突拍子が無さ過ぎる。

 

「とはいえ、私達がここで考えても仕方ない。彼等が頑張って情報を引き出せればいいのだが」

 

 そういって、プロフェッサーは視線を画面へと向ける。私達も同じように画面へと視線を向ければ敵の雑兵らしき者達は既に倒されており、残るは怪人だけだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「コイツでラスト!!」

 

 そう叫んで、最後の戦闘員を斬り伏せる。武器が増えたのもそうだが、どうやらフレッシュになったお陰で戦闘能力が上がっているようだ。やっぱり食い物は鮮度が重要って事だな。

 

「ほほう、やるな。だが、この俺は倒せるかな?」

 

「なぁに、蜘蛛とはこれで二度目だからな、楽勝だ」

 

 奇声を上げて、跳びかかる蜘蛛男を避ける。着地と同時に奴は跳躍を何度も繰り返し、俺を撹乱しつつ、爪で攻撃してくる。

 

「くぅ!?」

 

「ハハハ、口だけではないか!!」

 

そう告げる蜘蛛男の攻撃する瞬間を見切って大橙丸を振り下ろす。

 

「おら!!」

 

 ガラ空きの背中に斬りつける。鮮血が舞い、悲鳴が上がるが、即座に繰り出された回し蹴りをガードして後ろに下がる。ダメージは殆どない。どうやら攻撃力だけではなく、防御力も強化されているようだ。

 

「取り敢えず……余裕だな」

 

「舐めるな!!」

 

 叫び、口から糸を吐き出す。すかさず大橙丸で斬りつけるが、逆に糸が絡め取り、動きを封じられる。

 

「くくく、俺の糸はそんな鈍じゃ、斬れねえぜ?」

 

「本人は斬れるみたいだがな!!」

 

 糸に絡まった大橙丸を上へ放り投げる。糸によって繋がった奴の頭が上へ向くと同時に残った大橙丸を両手で握って、一歩目を踏み出し。

 

「っ!?身体が……!?」

 

「くくく、糸がこれだけだと思ったのか?」

 

 一歩目を踏み出した途端、身体が金縛りのように動かない。

 

「俺が無意味に動きまわっていたと思っていたか?糸を出す場所が口だけだと思うなよ!!」

 

 よく見れば、俺の周囲には太陽を反射してキラキラと輝く糸の軌跡が見える。どうやら四方八方に動きながら糸の結界を張っていたようだ。

 

「そうら!!」

 

「ぐぅあ!?」

 

 ギチ、という嫌な音と共に身体が糸によって縛られる。

 

「仮面ライダーは抹殺する!!」

 

 そんな叫びと共に身体が凄い勢いで横に流され、ショッピングモールの壁を突き破る。

 

「痛ってぇな」

 

「ほほう?頑丈だな。ならば、どれだけ保つか試してみるのも一興!!」

 

 その言葉と共に俺の身体がまた勢いよく浮かび上がる。これって、結構ピンチなのでは?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ハァッ!!」

 

 叫びと共にバナスピアーで突き刺すも僅かな火花と共に一撃が逸れる。

 

「キイエェー!!」

 

 体勢が崩れたその隙を狙った鋏の一撃が俺を捉える。

 

「くっ!?」

 

 蟹とコウモリを合体させたような、そんなふざけた姿だが、その力は本物だ。更に奴の急所は固い殻によって守られている。

 

「なら、コレだ!!」

 

【マンゴー!!】

 

 俺の頭上にマンゴーが現れる。同時に奴が跳び上がり、自身の体重すら無視した速度で飛翔。こちらに突っ込んでくる。

 

「ふん、舐めるな!!」

 

【ロック・オン!!】

 

 ファンファーレが鳴り響く中、俺は跳び、突撃してきた奴の背を足場に更に跳び上がる。同時に奴はバランスを崩して地面とぶつかる。

 

【カモンッ!!マンゴーアームズ!! Fight of Hammer!!】

 

 バナスピアーから持ちかえたマンゴパニッシャーを振り被り、同時にカッティングブレードに手を当てる。

 

【カモンッ!!マンゴースカッシュ!!!】

 

「喰らえぇ!!!」

 

 エネルギーを纏ったマンゴパニッシャーを奴の後頭部に叩きつける。直後、爆発を起こし、敵が粉々に砕ける。

 

「ふん、他愛もない」

 

「ほほう?ガニコウモルを容易く破るとは。どうやらこの世界の仮面ライダーは中々歯応えがありそうだ」

 

 背後から聞こえた声に俺は即座に振り向く。

 

【カモンッ!!マンゴーオーレ!!!】

 

「つあぁ!!!」

 

 叫びと共に声が聞こえた場所に向かってエネルギーを纏ったマンゴパニッシャーを投げる。爆発を起こす瓦礫の上。そこには無傷の軍人が立っていた。

 

「そして油断もせず、即座に全力の攻撃。ふふ、面白い奴だ」

 

「貴様に評価される気はない。お前達の目的はなんだ?」

 

【バナナ!!】

 

 黒い軍服を纏った男は俺の言葉に口端を持ち上げる。

 

「当然、我等【大ショッカー】の目的は支配!!全ての仮面ライダーを根絶やしにし、世界を掌握する事だ!!」

 

【ロック・オン!!】

 

「つまり、世界征服か。下らんな、貴様に似合いな場所へ行くがいい」

 

【カモンッ!!バナナアームズ!! Knight of Spear!!】

 

 姿を変え、槍を奴に向かって放つが、奴は姿を消す。

 

「なに!?」

 

『ふははは!!今日は単なる挨拶よ。我が名はブラック将軍。仮面ライダーバロンとやら、また何れ貴様の前に現れよう。その時を楽しみに待っているがいい』

 

 高笑いと共に奴の声が遠ざかる。気配が完全に感じられなくなった事で俺は息を吐く。今回は相性が良かった為に勝てたが次はどうなるか分からない。

 

「ふん、望む所だ」

 

 そう呟き。駆け付けた自衛隊と共に救助作業に当たる。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「シザァーズ!!!」

 

 奇声と共に繰り出された刃をメロンディフェンダーと無双セイバーで弾き、蹴り飛ばす。

 

「非難はまだ完了していないか」

 

 私の背後では未だ市民の悲鳴が上がり、助けを呼ぶ声が聞こえる。民警の助けもあり、スムーズに行くかと思ったが。

 

「赤眼が俺の娘に近づくな!!」

 

「コイツ等も一緒に殺してよ!!」

 

 背後から聞こえる声に歯噛みする。今はそんな事を言っている場合ではないのに。これでは埒が明かない。

 

「シザァーズ!!」

 

 奴が叫び、身を屈める。瞬間、今までとは段違いの速度で懐に入られる。

 

(コイツ!!様子見をしていたのか!?)

 

 驚き、対処が遅れる。瞬間、身体に奔る鋭い痛みと共に吹き飛ばされ、コンクリートに身を打ち付ける。近くにいる市民が悲鳴を上げる。

 

「直ぐに避難しろ!!」

 

「で、でも赤眼がすぐそこに……」

 

「彼等は味方だ!!君達を命懸けで助ける人間だ。詰まらん意地を張るな!!!」

 

 以前までの私では決して口に出来なかった言葉が自然と出た。

 

「カカカ!!人間とはやはり、詰まらん物だ!!たかが、己よりも優れているからといって即座に排斥するその醜さ。やはり、人間は残らず我等のように改造するべきだな」

 

 嘲るように告げる奴に私は立ち上がり、武器を構える。

 

「ほほう?後ろの人間どもが如何に醜いか、確認した上で俺とまだ戦うのか?」

 

「無論だ。元より、この力は牙無き者達を守る為にある。此処からは一歩も通さん!!」

 

「ふん、ならば試してやろう!!」

 

 叫びと共に奴が駆ける。だが、その動きは既に見切っている。

 

「なに!?」

 

「様子見していたのはお前だけでない!!」

 

 刃を受け止めたメロンディフェンダーをはね上げ、万歳の姿勢になった奴の身体を十字に切り裂き、蹴り飛ばす。

 

「ぐぁ!?」

 

【ロック・オフ!!】

 

 ベルトから外したロックシードを無双セイバーに装着する。

 

【ロック・オン!!イチ・ジュウ・ヒャク・セン・メロンチャージ!!】

 

 刃に緑色のエネルギーが溜まると同時に持ち手の部分、バレットスライドを引く。そしてメロンディフェンダーを放り投げると同時に無双セイバーにある銃口を奴へと向ける。奴は叫びをあげて襲いかかってくるが、遅い。

 

「これで終わりだ」

 

 告げると同時にトリガーを引けば、緑色のエネルギーが奴にぶつかり、巨大なメロンとなって奴を拘束する。

 

「ハァァ……!!!」

 

 無双セイバーを両手で構え、走る。同時に投げたメロンディフェンダーが宙を舞い、奴へと襲いかかる。

 

「デヤァッ!!!」

 

 叫びと共に奴を擦れ違いざまに切り裂く。同時に斜め上からやってきたメロンディフェンダーの突起部分が奴の胸の中心を貫き、私の左手に戻る。同時に背後で爆発が起きる。

 

「成る程。この世界の仮面ラーイダも侮れんという訳か」

 

 突然、後ろから掛けられた声に振り向けば。そこには蠍を模した兜を被り、盾と斧を持った男が立っていた。

 

「何者だ?」

 

「我が名はドクトルG。ハサミジャガーを倒した事は褒めてやろう。だが、ハサミジャガーは我が配下の中でも弱者!!仮面ラーイダ。貴様が何処まで足掻けるか楽しみだ」

 

 そう告げた瞬間、ドクトルGが消える。まるで手品のようだ。

 

「戦闘は避けられただけマシか」

 

 そう考え、私は救助活動を手伝う為に歩き出す。視線の先には救助した子供達を安心させるように笑いかけている光実がいた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

【フレッシュ!!オレンジスカッシュ!!!】

 

「セイハー!!!」

 

 叫びと共に蝙蝠男を跳び蹴りで叩き落とし、下にいたサラセニアンを巻き込んで爆発する。

 

「シュシュシュッ!!!」

 

「うっさい!!!」

 

 背後から迫りくる蠍男を振り返りながら大橙丸と無双セイバーで切り裂いて蹴り飛ばす。蜘蛛男を倒して、落とした大橙丸を取りに行こうと思った矢先に何故か現れた怪人軍団。正直、疲れるのだが。コイツ等、個々の戦闘力が低い。つまりコイツ等は再生怪人。

 

「纏めて行くぞコラァ!!」

 

 投げやりに叫び、無双セイバーと大橙丸を合体させる。

 

【ロック・オフ】

 

「ギェギェッギェー!!」

 

「アァッアッアッアッ!!!」

 

「クワックワックワッ!!!」

 

「ウクククク」

 

 おわかり頂けだろうか?コイツ等、見事なまでに初期のショッカー怪人なのである。まぁ、蜂女にトカゲロン、ゲバコンドルが見当たらないが。前者二つは別にいいが、ゲバコンドルがいないのが有難い。アイツ確か旧一号と互角以上の力持ってる筈だったからな。

 

【ロック・オン!!イチ・ジュウ・ヒャク・セン・マン・フレッシュ!!オレンジチャージ!!!】

 

 音声と共に五体の怪人が襲いかかる。

 

「オラァッ!!!」

 

 その場で一回転。円を描く様に無双セイバーを振り、巨大なオレンジを作り出して怪人達を拘束する。回転を止めた俺は跳び上がり、地面の巨大なオレンジに向けて、足を伸ばす。同時に無双セイバーからロックシードをベルトに戻し、カッティングブレードを倒す。

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジオーレ!!!】

 

「セイハー!!!!」

 

 叫びと共に何時もより色が鮮やかなオレンジを突き進み、オレンジを蹴って爆発させる。

 

「ふぃ~、これで終わりか?」

 

「必殺シュートだ!!!」

 

 ですよね~。そう内心で愚痴りながら身体に衝撃が奔り、数メートル飛んで地面を転がる。凄く痛いです。

 

「油断大敵だな。仮面ライダー!!」

 

「やっぱり、伏兵がいたのかよ。勘弁してくれ」

 

 これで、更に追加とか泣ける自信があるぞ。

 

「くくく、苦戦しているようだな。仮面ライダー」

 

「今度こそ、詰んだか……?」

 

 視界の先、ショッピングモールの看板。その上に立つ人物を見て、俺は知らず呟いていた。

 

「再生怪人とはいえ、八体の怪人を倒したその力は素晴らしい物だ。だが、我等の計画遂行の為に散って貰うぞ」

 

「やなこった。ていうか、アンタ誰だよ?」

 

「我が名は地獄大使!!大ショッカーの幹部よ。さぁ、トカゲロン!!やるがいい」

 

「ウオォォォーッ!!!!」

 

 叫びと共に棘のボールを蹴る。避けるのは簡単だが、アレって確か爆弾だったよな。そして俺の後ろには逃げ遅れた市民。

 

「キャッチ!!!」

 

「なに!?」

 

 故に俺が取った行動は一つ。先ずは向かってきた爆弾を両手でキャッチ。京水さんの鞭によって鍛えられた俺の動体視力を舐めるなよ。

 

「&リリース!!!!」

 

 思いっきりブン投げる。だが相手も負けていない。返す様にシュートを決めて来る。しかし、それが狙いだ。

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジスパーキング!!!】

 

「うっしゃ、来~い!!」

 

 大橙丸を振り被る。片足を上げて、勢いを付ける。そして襲いかかる爆弾をエネルギーが溜まった大橙丸で打ち返す。甲高い音が響き、爆弾をオレンジのエネルギーが包み込んだ状態でトカゲロンの腹部に激突。大爆発を起こした。

 

「ホ~ムラ~ン、てか?」

 

「ふふふ、中々面白い男だ。今回はコレで退くとしよう」

 

「出来ればお前も今の内に倒しておきたいけどな」

 

 挑発の言葉と共に大橙丸を向けるが、地獄大使は口端を持ち上げる。

 

「そう焦るな。先ずはこの世界を調べ、そして手駒を増やした後、じっくりと相手してやろうぞ」

 

 そういって、奴が消える。

 

「あぁ、しんどい……」

 

 体中が痛い。そりゃ、怪人数体からの不意打ちや攻撃の中を立ち回って、その後、爆弾をモロに喰らったのだから当たり前か。

 

「お~い」

 

 声の方へ向けばそこには里見と延珠が走って来ていた。

 

「市民の救助を頼めるか?」

 

「あぁ、別にいいけど」

 

「葛葉は手伝わないのか?」

 

 その言葉に俺は変身を解く。すると、目の前の二人の顔が強張る。同時に視界がグラリと揺れた。あぁ、これは拙いわ。

 

「お、おい!?」

 

「悪い、後頼んだ」

 

 そのまま俺は倒れて意識を失う。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「さて、集まったようだな」

 

 とある場所。切れかけの電灯によって照らされた室内で我々は向かい合う。電球が点滅し、部屋が薄暗いが、元より我等にとってそんなもの瑣末に過ぎん。

 

「それにしても、杜撰な奴らよ。このような場所を放っておくとは。よほど、ガストレアが恐ろしいと見える」

 

 ゾル大佐が呆れたように告げる。ソレに対して、対面の死神博士が喉の奥で笑う。

 

「よいではないか、お陰で怪人製作が思ったより早く取り組める。このレールガンも我等の技術で修復すればよりよい侵略兵器になるだろう。施設の設備を上手く使えば量産プラントも問題ない」

 

「しかし、素材はどうするのだ?」

 

 ブラック将軍の言葉に私は鞭を振るう。地面を穿ち、部屋の片隅から悲鳴が上がった。

 

「今回の作戦は素材を回収する為の物だ。ソレに仮面ライダーと怪人共が戦ってくれていたお陰で戦闘員が役立った」

 

 部屋の隅では猛獣を入れる為の頑丈な檻の中に成人男性が五人ほど入っていた。

 

「ふむ、後はガストレアだったか……しかし、捕獲はしたがアレは扱いが難しいぞ?」

 

 モノリスと呼ばれる建造物の外で調査をしていたゾル大佐の言葉に死神博士が笑う。

 

「それこそ、腕の見せ所よ」

 

『頼もしいな、死神よ』

 

 瞬間、我等の頭上からあの方の声が響いた。我等は一斉に膝をつき、頭を垂れる。

 

『異世界の仮面ライダー。やはり、我が悲願を邪魔するは仮面ライダーだったか』

 

「はい、しかしこの世界の仮面ラーイダは我等が知る者たちよりも若く、未だ未熟と思われます」

 

 ドクトルGの言葉に内心で頷く。確かにあの鎧武という者は仮面ライダーを名乗る程の力を持っている。だが、その実力は未だ発展途上。アレならばかつての仮面ライダー一号よりも劣るだろう。

 

『だが、忘れるなドクトルよ。我等はその慢心で倒されたのだ。故に失敗は許されぬ』

 

「お任せ下さい、大首領。この死神、この世界で最強の怪人を作ってご覧にいれましょうぞ」

 

『その言葉、期待しているぞ。……地獄よ』

 

「はっ」

 

『貴様にはこの世界ではなく、外からのあ奴を任せる』

 

 その言葉に呼応して思い出すのは忌々しい男。

 

「ディケイド、ですな」

 

『そうだ。我等がこの世界に来たという事は遠からず奴もこの世界に来るだろう』

 

「仮面ラーイダディケイド。それほどの者なのか?」

 

「うむ。世界の破壊者という二つ名は伊達ではない」

 

 告げて、私は顔を上げる。頭上には巨大な一つ目が浮かんでいた。

 

「お任せを大首領。この地獄、見事にその任を全うしましょうぞ」

 

『では、後の事は任せる。この世界、必ずや我が手に献上せよ』

 

『ははぁ』

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 静かな病室の中、私の前にはベッドの上で規則正しい呼吸をしながらコウタさんが寝ている。その身体には包帯が巻かれ、不完全なミイラ男の様な外観だ。昼間の戦闘によって受けた怪我は街の破壊された光景からは軽く。全治一週間と医者は言っていた。その話を聞き、そして傷だらけのコウタさんを見た時、思わず悲鳴が出そうになった。

 

「コウタさん……」

 

 読んでいた本から視線をコウタさんの寝顔へ映す。菊之丞さんから受け取った本の内容が全く頭に入ってこない。きっと、この人の所為だと思う。

 

「コウタさんのバカ……」

 

 気付けばそんな言葉を呟いていた。そして言ってしまえば後は止められない。

 

「何時も笑って誤魔化して。それで隠しているつもりなんですか?私には全部お見通しなんですよ」

 

 ずっと、喉の奥で止まっていた言葉がどんどん溢れ出て来る。握った彼の手は何時もより冷たくて胸がチクリと痛む。

 

「アナタが昼間、どんな敵と戦ったのかは私も見ていました。アナタが転んだり、吹き飛ばされたりする度に私がどんな思いをしたのか、きっとアナタは気付いていないんでしょうね」

 

 傷ついて欲しくない。危険な目に遭って欲しくない。最初はお人好しな同年代の少年という印象だったというのに。何時の間にか、私の心を掴んでいるこの人がとても怖い。

 

「いなくならないで下さい……私を一人にしないで下さい」

 

 俯き、両手でコウタさんの手を握る。

 

「私、コウタさんが居なくなった後なんて、想像できないんです」

 

 だから、目を覚まして。そんな心の声に応えてくれたのだろうか。握った手がゆっくりと握り返された。

 

「……分かった。絶対に一人にさせない」

 

 薄く目を開けた彼はそう告げて、小さく笑った。

 

「本当ですか?」

 

「あぁ、絶対に破らない。だから笑ってくれると嬉しいんだけど」

 

「それは……心配させた罰です。甘んじて受けて下さい」

 

「参ったな……泣き顔は慣れてないんだけどな」

 

 苦笑した後、私達は小さく笑い合う。

 

「俺、どれくらい寝てた?」

 

「大体、五時間位でしょうか。全治一週間ですからね?」

 

「……了解。それと、アイツ等の事だけど」

 

 頷く。取り敢えずはこちらで纏めた情報を知らせよう。

 

「彼ら【大ショッカー】はテロリストとして扱う事にしました。異世界からの侵略などは誰も信じないでしょうし。一応【大ショッカー】の事を知っているのは私と菊之丞さん。そして実働部隊の皆さんだけです」

 

「そうか。他のエリアへの説明は?」

 

「情報が纏まり次第、先ずは大阪エリアの代表に映像通信で会談した後、各エリアの代表へ同じように連絡します」

 

「そうか……」

 

 そういって、視線を天井へと向けるコウタさん。

 

「彼ら【大ショッカー】はまた来ると思いますか?」

 

「来るだろうな。奴等、この世界を知る必要があるって言ってたからな。だから暫くは情報収集と俺達が倒した怪人の補充が主だろうな」

 

「それなら、此方も防備を固めた方が良いですね」

 

 そう告げてから内心で大きくため息を吐く。先日のステージⅤ襲来から漸く落ち着きを取り戻しつつあった東京エリアに新しい火種が舞い込んだ。しかも、その規模は下手すればガストレアと同等かそれ以上と見ていいだろう。

 

「勝てますか……?」

 

「勝つさ。絶対に守ってやる」

 

 そういって、しっかりと手を握り返してくれた彼に微笑む。

 

「コウタ~?」

 

 すると、入口の方で声が聞こえた。振り向けば入り口から心配そうに顔だけ覗かせたレヴィちゃんがおり、その後ろでは口に手を当てて驚いている凰蓮さんがいる。

 

「レヴィ。今は二人だけの時間よ。聖天子、頑張りなさい」

 

 サムズアップと笑顔を浮かべた凰蓮さんがレヴィちゃんを連れていく。思わず頬が熱くなる。

 

「二人だけの時間か。それじゃ、もう少し聖天子の手を触っていようかな」

 

「こ、コウタさん……」

 

 まさか追い打ちが来るとは思わなかった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「昼間の騒ぎはテロだったんですか~」

 

「らしい、詳しい事は俺にも分からんがな」

 

 何故、俺はまたこの少女、ティナと会っているのか。そして何故彼女にドーナツを与えているのか。いや、ドーナツの件はコイツが腹を空かしているという事なので与えているだけか。

 

「戒斗さん?」

 

「なんでもない。俺の分も食うか?」

 

「是非!!」

 

 夕日が空をオレンジに照らす中、ティナの笑顔を見る。偶然だった。救出活動を終えた俺は隊長に報告を済ませた後、この場所まで歩いていた。そんな俺を見付けたティナはまるで仔犬のようにじゃれついてきた。仕方ないので、ドーナツを買い与えているが。

 

「本当にドーナツでいいのか?」

 

「はい、このドーナツ凄く美味しいんです。それに……」

 

 頬を染めて、俯いたティナは俺を上目づかいで見ながらはにかむ。

 

「戒斗さんが最初に買ってくれた物ですから」

 

「そうか」

 

 そんな物か。そう思って告げると何故か、ティナは拗ねてしまう。

 

「あまり、急いで食うな。喉に詰まるぞ?」

 

「は、はい」

 

 だが、拗ねていようとも根は素直らしい。俺の言葉にも素直に頷く辺りが証拠だ。

 

「あの、戒斗さん」

 

「なんだ?」

 

 プレーンシュガーを半分ほど食べたティナが俺を見て、聞いてくる。

 

「どうして、何も聞かないんですか?」

 

 素朴な疑問であり、確信がある疑問だ。恐らくティナは俺が自身を【呪われた子供たち】である事を知っていると思っているのだろう。事実、俺は知っている。そもそも、あんな夜道を子供が一人で歩く事自体が有り得ないのだ。確かに東京エリアは他のエリアよりも治安が良いだろう。だが、それでもマトモな親なら子供をこんな夜に出歩かせたりはしない。

 

「聞いてほしいのか?」

 

 だが、俺にとってはどうでもいい事だ。ただ、コイツとは偶然会って、このような関係を持っているだけだ。そこにティナの出生は関係ない。

 

「え?そ、それは……」

 

「聞かれたくない事を聞くほどデリカシー無いと思われていた訳か」

 

「ち、違います!!で、でもいいんですか?その、私悪い子かも知れませんよ?」

 

 その言葉に反射的に拳で彼女の額を軽く小突く。

 

「馬鹿も休み休み言え」

 

「うぅ~」

 

 ため息を吐いて、空を見る。オレンジ色の夕日がゆっくりと夜の色へと変わっていく。

 

「手を出せ」

 

「え?」

 

 疑問の声を上げながらもティナは右手を差し出す。俺は懐から取り出した小さな箱を乗せる。

 

「これは……?」

 

「開けてみろ」

 

 視線を空へと向けながら告げる。ティナは首を傾げながらも箱を開けて、息を呑む。

 

「髪飾り……ですか?」

 

「まぁ、なんだ。お前も女の子だからな。少しはお洒落した方がいいだろう」

 

 本当は昼間にザックが無理矢理押し付けて来た物だ。全く、アイツにはティナの事を黙っていた方が良かったか。

 

「あの……どうでしょうか?」

 

 その声に視線を向ければ、向日葵の髪飾りを付け、照れたように笑うティナ。

 

「あぁ、似合っている」

 

「ありがとうございます。その……誰かにプレゼントを貰うのって初めてなので……凄く嬉しいです」

 

「そうか……」

 

 輝かんばかりの笑顔に気恥しくなった俺は視線を外す。

 

「でも、どうしていきなり?」

 

「気紛れだ。それに」

 

「それに?」

 

「いや、何でもない」

 

 そういって、俺はベンチから立ち上がる。

 

「明日も暇だったらここに来るかもしれないな」

 

「……じゃあ、私待ってます」

 

 嬉しそうな声に俺は手を上げて答える。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「いやしかし【大ショッカー】か。随分と面倒な相手が出て来たね」

 

「その割には深刻そうには見えませんけど?」

 

 【大ショッカー】の襲撃から今日で四日目の夜。地下研究所でプロフェッサーを横目で見た私は素直に感想を告げる。

 

「まぁね。彼らの技術力と兵力は確かに脅威だ。とはいえ、こちらには仮面ライダーがいるからある程度は大丈夫だろう」

 

「ある程度?」

 

 テーブルに足を乗せて、寛いでいる将監さんが問いを投げる。すると、プロフェッサーは徐に立ち上がる。

 

「そう、ある程度。彼らの会話を聞く限り、彼等は尖兵。つまり、彼らの本隊はまだこちらに来てはいない。異世界侵略という事はこの世界以外も進行している筈だ。正確な数は分からないが、相当な数だというのが推測できる」

 

 私と将監さんに近づいて来て、説明をしながら、元の場所まで戻ったプロフェッサーはパン、と手を叩いて将監さんを指さす。

 

「つまり!!彼等は無数の異世界を行き来できる技術力と攻略可能な兵士を持っている事となる」

 

「ハッ、随分と絶望的な戦力差だな」

 

「その通りだ。このままだと何れ此方が押し切られる。どう足掻いても彼らに対抗出来る仮面ライダーは現状三人だけ。まぁ、量産はしているので、それよりも増えるだろうが」

 

「新型ドライバーはどうなんですか?」

 

「そう、そこが問題だ。残念ながら新型ドライバーが難しくてね。一応、プロトタイプは完成したんだが、問題はテストする人間が居ないという事だ」

 

 私はその言葉を聞いて、迷わず将監さんを見る。すると、プロフェッサーは肩を竦める。

 

「実はこのドライバー。戦極ドライバーよりも高い性能を引き出す代わりに少々、無茶な設計をしてね。そこら辺の調整をしない限り、正規のテスターに装備させる訳にはいかないんだ」

 

「つまり、俺より先にモルモットが必要って訳か?」

 

「まぁ、その通りだ。それがまた問題でね。そんなモルモット役を引き受けてくれそうな人間がいないんだ」

 

 そう告げた時、扉が開いて呉島隊長が入ってきた。

 

「おや、貴虎。こんな夜更けにどうかしたのかい?」

 

「緊急の要件だ」

 

 その言葉と共に私達にも見えるように書類をテーブルに置く。

 

「大阪エリアの代表【斎武宗玄】と非公式に会合する事となった」

 

「菊之丞様がいない。更に先日の【大ショッカー】そしてネット上で広まった【仮面ライダー】の件だろうね」

 

 楽しそうに告げるプロフェッサーの言葉に私は頭痛がしてくる。先日の一件、何処かで野次馬が撮影していたのだろう。ネット上に呉島隊長さん達が変身する仮面ライダーが怪人達と戦っている動画が大量にアップされていた。

ネット上の物は仕方ない為、放置し、報道関係に圧力を掛けて、情報を拡散させないようにしたが、それでも水面下であらゆる憶測が飛び交っていた。私も一部の掲示板を覗いたが、何というか凄かった。

 

「しかし、ネット上の仮面ライダー人気は凄いじゃないか。ねぇ、正義の味方君」

 

「茶化すな」

 

 【正義の味方】【平和の使者】耳に良いお伽噺の存在と同一視する声や純粋に仮面ライダーのデザインの格好よさを述べる声、ガストレアを駆逐する新たな兵器。果ては【赤眼を滅ぼす戦士】逆に【人を滅ぼす悪魔】等と好き放題言われている。ネット上での言葉なので私にはどうする事も出来ませんが、それでもやっぱり嫌な気分になったりします。

 

(きっと、掲示板の人達は葛葉さんたちが人間だとも思っていないんでしょうね)

 

 小さくため息を吐く。

 

「それで?会談の日時は?」

 

「三日後だ。我々は聖天子様の護衛と斎武殿の要請で出動する事になる」

 

「まぁ、彼は軍の拡大を目指しているしね。無理もないか。葛葉君はどうする気だい?」

 

「無論、彼には辞退して貰おうと思ったが、断られたよ」

 

 何処か嬉しそうな口調と表情を見るに。恐らくは分かっていたのだろう。

 

「だが、彼も病み上がりだ。その為に彼には聖天子の護衛を民警と協力して行って貰う」

 

「ふむ、この前千番に上がった彼だね。しかし、そうすると例の護衛部隊が煩いんじゃないかい?」

 

「言うな……」

 

 疲れたような声に私は胸の内で合唱する。以前、彼らと擦れ違った際、露骨に舌打ちされたのを覚えている。その時、一緒に歩いていた将監さんが睨んであの人達を怖がらせた時はちょっと頼もしかったりしましたが。

 

「ふむ、襲撃の可能性は?」

 

「充分にあるだろうな」

 

「因みに元SPとして、護衛部隊がちゃんと犯人を捕まえられると思うかい?」

 

「……難しいな」

 

 ため息と共に呟く。不可能だ、と言わないのが呉島さんらしいです。

 

「アイツ等はプライドを優先する人間だ。一回目の襲撃は我々がいれば問題ないだろう。拙いのは二度目以降にアイツ等がこちらの邪魔をする事だ」

 

「あん?なんで、アイツ等がお前等の……あぁ、そういう事か」

 

 護衛部隊の事を鼻で笑った将監さんがソファーに深く沈みこむ。

 

「つまり、アイツ等。テメエ等が守れなかった責任をどっかの誰かが犯人、または犯人と繋がっているって事にして責任逃れしたい訳だ」

 

「あぁ、恐らくはその通りになるだろう」

 

「その人たち、バカなんですね」

 

「おいおい、そう言ってやるなよ。アイツ等にとって自分達の言葉が真実なんだからよ」

 

「そうなると、事前に彼等を何とかしないといけないね」

 

「だが、そんな時間はない」

 

 そういって、ため息を吐いた呉島さんの対面、プロフェッサーが嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「貴虎。少し協力してくれないか?」

 

 嫌な予感がします。

 




投稿完了!!そしてショッカー、ゲルショッカー、デストロンの幹部登場!!取り敢えずはこの人たちが【当面の】敵になります。それと、ドクトルGの口調なのですが、役者さんが言うには仮面ライダーの伸ばしは歌舞伎を意識したものらしく、発音的には【仮面ラ~イダ】な感じだと思うのです。しかし、文章に起こすと何と言うか間抜けな感じが否めないんですよね。ですので、威圧感とか迫力とかを出す為に【仮面ラーイダ】にしたわけですが、読者の皆さん的にはどうでしょうね。そこらへん、意見がほしいです。
また、地獄大使が登場した場面。実は最初の時はもっと深刻な感じになっていたんですよね。どれくらい深刻かと言うとゲームの難易度的に地獄大使がハード。ベリーハードではデルザー軍団の鋼鉄参謀辺り、更にその先ではジンドグマ以降の幹部とか特にヤバイのばっかです。
まぁ、取り敢えずは栄光の七人ライダー辺りの幹部位しか出しませんが、それでもデルザーは……ま、まぁ、次回もお楽しみにww



次回の転生者の花道は……



「もし、君が自身の復讐を完遂した後。君はどう生きるんだい?」



「誰だって従うならムサイおっさんより綺麗なお嬢さんの方がいいだろ?」



「コウタさんは私の護衛なんですよ。それなのにあの人は自分の部下にだなんて……コウタさんもコウタさんです!!」



「その通り、この世界の覇者であるガストレア。その解析は既に終わっている」


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VS神算鬼謀の狙撃兵
第十二話 護衛任務


さぁ、原作二巻突入です!!そして皆さん、お待ちかね。テレビでパワーアップした龍玄の登場と戦闘です。では、お楽しみを


「さて、この依頼を受けてくれたようで嬉しいよ。里見蓮太郎君」

 

「アンタ、誰だ?」

 

 目の前の白を着て、上機嫌の青年の握手を無視して問いを投げる。

 

「彼は戦極凌馬。戦極ドライバーとロックシード……簡単に言えば、仮面ライダーの研究、開発を行っている」

 

「つまり、貴方があの兵器を造り出したという事ね?」

 

 戦極と一緒にやってきた呉島貴虎の言葉に木更さんが問いを投げる。すると戦極は余裕の笑みを浮かべて、ソファーに深く座りこむ。

 

「さて、どうだろうね?」

 

「どういう意味かしら?」

 

「組織的には答える気はない。けれど、個人的には私の質問に答えてくれたら教えてあげても良いけど?」

 

 試すかのように告げる戦極の表情に苛立つ。

 

「質問?まぁ、答えられる範囲でなら答えるけど」

 

「いや、なに。素朴な疑問だよ。君はステージⅤ来襲時、菊之丞氏に【全ての天童は滅ぶべき】そう伝えたそうだね」

 

 その言葉に思わず、木更さんを見る。木更さんは眉を寄せながらも。

 

「そうだけど、それが?」

 

「君が滅ぼす天童には、まだ年端もいかない子供も含まれるのかい?」

 

 空気が凍った。そう表現するしか出来ない程、この事務所の空気が固まり、木更さんの表情も固まる。

 

「……いいえ、含まれないわ」

 

 痛いほどの沈黙の中、視線を外した木更さんが答える。その答えに俺はホッとする。だが、戦極は不思議そうに木更さんを見る。

 

「それでは君はどの天童ならいいんだい?」

 

「答える気はないわ」

 

「それはつまり、仮面ライダーについては諦めると?」

 

 木更さんの頷いた事によって、戦極は酷くつまらなさそうに息を吐く。

 

「お前……」

 

「里見くん、やめなさい」

 

 立ち上がろうと腰を浮かした俺を木更さんが止める。

 

「君は不思議な男だね。私はただ、気になった事を聞いただけだよ?君も親に教えられなかったのかい?知らない事を知らないままで済ませるのはダメだと」

 

「それでも、聞いていい事と悪い事があるだろ!!」

 

 胸倉を掴んで、睨みつける。だが、戦極は余裕の笑みを崩さない。

 

「それは君が決める事じゃないだろ?それに君も密かに疑問を感じていたんじゃないか?彼女の歪さに」

 

 耳元で告げられた言葉に奥歯を噛みしめる。

 

「まぁ、私とて君と喧嘩をする為に来た訳じゃない。取り敢えず本題に入りたいんだけど?」

 

 俺はわざと乱暴に戦極を突き離す。だが、コイツはソレも意に返さず、トランクをテーブルの上に置く。

 

「さて、今回依頼を受けてくれた里見蓮太郎君には特殊装備を贈ろう」

 

 そういって、ケースを開ければそこにはベルトのバックルとブドウを模した錠前が入っていた。

 

「おい、これって……」

 

「その通り、コレは戦極ドライバー。そしてこっちはロックシード。仮面ライダーになる為の必須アイテムだ。今回、護衛をするにあたってこちらの仮面ライダーと連携を取る為に必要な物だ」

 

「何が目的だ……?」

 

「おやおや、酷いな。単に君が足手纏いにならないようにしない為だよ」

 

 戦極の言葉に小さく舌打ちする。

 

「君の資料は見せて貰った。確かに君の瞬間的な火力は仮面ライダーのソレを上回る。だが、今回は護衛だ。ならば、その為にも必要な装備がある。あぁ、コレは前払いと思ってくれ。この仕事が終わればこの装備で悪事を働こうが、君の勝手だ」

 

「誰がするかよ」

 

 そういって、ベルトとロックシードを受け取る。すると、戦極は安心した様な笑みを浮かべる。

 

「いや、助かったよ。こっちもデータを多く取りたくてね。正直、君が受けなかったらどうしようかと思っていたんだ」

 

 それって、つまり暗に俺を実験動物と扱ってないか?そう思っていると話は終わりだと言うように戦極が立ち上がる。入れ替わるように呉島がやってきて数枚の資料を手渡した。

 

「明日の集合時間、集合場所。会談場所、そこへのルートが記載されている。目を通した後は処分してくれ」

 

「あぁ、分かった」

 

 受け取った後、呉島が部屋を出る。すると、開いたドアから戦極が顔を出した。まだいたのか、コイツ。

 

「そうだ。一つ忘れていた。天童木更君。君は復讐者だと聞くが、そんな君に一つ質問だ」

 

 木更さんがなにか言う前にソイツは告げた。

 

「もし、君が自身の復讐を完遂した後。君はどう生きるんだい?」

 

 その言葉に木更さんは完全に止まった。

 

「木更さん……?」

 

 俺の言葉にも反応せず、彼女は視線を泳がせ、口は半開きで声にならない声が漏れている。

 

「成る程。これは重症だ。まぁ、私が何か出来るとは思っていないし、何もしないけど、もし答えが出たら教えてくれ。君のその復讐には私も興味がある」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「戦極さんはフリーダムだな」

 

「お前な、今の話聞いてそれだけなのかよ」

 

 会談当日、リムジンに乗り込んだ蓮太郎があまりにも不機嫌を隠さない表情をしていた為、事情を聞けば、戦極さんが場を引っ掻き回したようだ。

 

「まぁ、戦極さんはああいう人だからな。そこは我慢するか、慣れろ」

 

「それでも常識位はあるだろ」

 

「科学者に常識を求めるなよ」

 

 苦笑交じりに告げると蓮太郎が頬を引き攣らせて、視線を泳がせる。

 

「常識から外れた思考を持つが故に科学者は科学を発展させていく。まぁ、話を聞く限り、戦極さんの質問は単に自分の疑問を解消させるだけだったんだろ。所で」

 

 身を乗り出して、蓮太郎を見る。

 

「復讐の件だけど。あの人は誰を殺すまで突き進むんだ?」

 

「……俺が知るかよ」

 

 反応を見る限り、本当に知らないようだ。共犯者と思いきや、蚊帳の外か。

 

「でも、参ったな。他の天童ならまだしも、菊之丞さんは今死なれると拙い」

 

「何故、その菊之丞が死ぬと拙いのだ?」

 

 俺の言葉に延珠が聞いてくる。

 

「菊之丞さんは聖天子に政治を教えている人だ。詳しくは分からねえけど、ソイツがかなり重要なのは俺も理解できる。聖天子は政治に関して圧倒的に不利だからな。特に今はステージⅤ襲来と先日のテロのお陰でこっちの自衛力はガタガタ。治安の方は回復しているけど、それでも結構危ない。そんな状況で菊之丞さんほどの人物がいなくなってみろ。あっという間にこの東京エリアはどっかのエリアに取りこまれちまう」

 

 ガストレアならまだしも、味方であろう人間が敵。ゾッとするな。すると、隣の聖天子が咳払いする。

 

「本人がいないとはいえ、不謹慎すぎるのでは?」

 

「それもそうだな。悪い」

 

 そういうと、彼女は小さく笑う。

 

「なんか、お前等仲いいな」

 

「こら、蓮太郎!!妾がいるのに彼氏持ちの者に反応するな!!」

 

「聖天子。コイツ、ロリコンの癖に略奪愛とか好きそうだぞ?やっぱ、護衛は他の奴に頼んだ方がいいんじゃないか?」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「おいこら!!」

 

 中々に賑やかな車内だ。これで、何事もなければいいんだが。

 

「まぁ、襲撃とか考えた方がいいよな」

 

「そうですね。ですからコウタさん。貴方は変身した状態で会談に臨んでくれませんか?」

 

「俺は構わないけど、いいのか?相手が警戒するんじゃ」

 

「年端もいかない小娘、と侮られる訳には行きませんので」

 

 真っ直ぐな目で見返され、俺は肩を竦める。

 

「了解、分かったよ」

 

 そういうと、車が止まる。どうやらホテルに着いたようだ。窓の外に見えるのは八十六階だかの超高層ビルだ。

 

「では、行きましょうか」

 

「蓮太郎、頑張って来るのだぞ」

 

 笑顔の延珠に見送られて俺が最初に車を出て、手を伸ばす。すると、自然な動作で俺の手を聖天子が握る。ゆっくりと手を引いて、聖天子を立ち上がらせた後、ベルトを装着する。

 

【フレッシュ!!オレンジ!!】

 

 頭上に現れたオレンジに従業員が驚く中、俺はロックシードをベルトに嵌める。

 

【ロック・オン!!】

 

「変身」

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

 変身が完了すると、聖天子が歩き出す。俺達も続いて歩き出す。ホテルの支配人に訝しげな視線を投げられたが、無視してエレベーターに乗る。

 

「にしても、仰々しいね」

 

「仕方ねえだろ?代表同士の会合だ。お互いの見栄ってモンがあるからな」

 

「ハッ、見栄張って狙われやすい場所を選ぶのもどうかと思うがな」

 

「この場所を選んだのは私ですけど?」

 

「同じ事だ。守る身にもなってほしいさ。まぁ、しっかりと守るけどよ」

 

 そういうと、聖天子は半分だけ振り向いた状態で小さく笑った。

 

「それで?これから会う奴に関しての情報とかないのか?」

 

「私は一度も会った事が無いので、里見さんは?」

 

「……一度だけな」

 

「どんな方なんですか?」

 

「アドルフ・ヒトラー」

 

 その言葉に聖天子が固まる。取り敢えず再起動させた方がいいか。

 

「ヒトデヒットラー?」

 

「アドルフ・ヒトラーだよ!!なんだ、その変な名前は!!」

 

 失礼な!!こんな名前の奴がいるんだぞ。悪の組織だけど。

 

「まぁ、冗談はさておき。第一印象とか抜きで、そういう人間なら独裁者って事でいいのか?」

 

「あぁ、斎武は大阪エリア市民に十七回も暗殺されかけている。まぁ、あんだけ重い税金かけたら誰だってブチ切れるだろうしな」

 

「因みに大阪エリアの生活水準は?」

 

「此処と然程変わらない筈ですけど?」

 

「軍備は?」

 

「そこは分かんねえよ。流石に自分の兵隊を見せる気はないだろ?」

 

 確かにそうだが、妙に引っ掛かるな。

 

「税金を使って裏で何かしてる、は何処の政治家も同じか」

 

 そう呟きながら、蓮太郎の説明を聞き、そして蓮太郎に注意する聖天子を見ているとエレベーターが止まり、扉が開く。最初に目にしたのが青空で、思わず声が出そうになった。どうやら展望台の様で、ソレを応接室に改造したようだ。ふと、横を見れば。エレベーターの脇に筋骨隆々の男が俺を少々驚いた顔で見ている。まぁ、確かに驚くよな。そして視線を前へ戻せば一人の男が背を向けて、椅子に座っていた。

 

「初めまして、聖天子様」

 

 そう告げ、此方を向いたのは鋭角的に跳ねた口ひげに顎ヒゲと髪が繋がり、さながら獅子のたてがみを彷彿させるその男は先ず最初に蓮太郎を見て、表情を歪める。そして始まるのは二人の罵声、というか怒鳴り合いというか、身内同士の会話だ。ただ、お互いに中々の迫力の為、聖天子が怯えている。

 

「あ……!?」

 

 だから、そっと横の護衛にも見えないように手を握る。安心させるように何度か優しく握り直せば彼女は一度だけ深呼吸して落ち着いた。そして会話に耳を傾ければ世間話へと変わっていた。

 

「……もうあんまり彫ってねーよ。出来の悪い弟子が逃げたからな」

 

「ん?確か、菊之丞さん。呉島さんに仏像の彫り方教えてなかったか?」

 

 確か、この前呉島さんが苦笑交じりに言ってたのを思い出す。まぁ、呉島さん自身、嫌そうじゃなかったのが印象的だったな。

 

「ほう?つまり、完全に捨てられた訳だな」

 

「ハッ!!清々するよ」

 

 その後、聖天子と斎武がソファーに座る。そして視線を聖天子ではなく、俺へ向けた。

 

「お前が仮面ライダーという奴か。ふ、中々面白いデザインだ」

 

「それはどうも」

 

 何と言うか、やり辛い相手だ。そして恐らくだが、今の言葉で俺の印象も伝わったのだろう。斎武はニヤリと笑う。

 

「貴様の戦闘記録は先日見させてもらった。まだまだ荒が目立つが、中々優秀だ。どこぞの小娘のお守りに使うのは勿体ない」

 

「おい、オッサン。何時の間にヒーローショーの趣味に目覚めたんだ?」

 

 蓮太郎の言葉に斎武は鼻で笑い、ソファーに深々と座る。

 

「お前はコイツの戦闘を見ていないから分からないだろうから教えてやろう。コイツ等仮面ライダーの基礎能力は序列千番内のイニシエーターと同等だ」

 

 その言葉に蓮太郎が絶句して、俺を見る。いや、初耳なんだけど?

 

「その力を護衛?そんな下らないモノに使うなど笑い話にもなりはしない。どうだ、鎧武」

 

 俺に向かって好戦的な笑みを向ける。

 

「俺の所に来る気はないか?」

 

「なっ!?」

 

 聖天子が絶句して、彼女は斎武を強く睨むが、相手はどこ吹く風だ。

 

「……俺にメリットは?」

 

「地位、権力、金、女。お前の働き次第で幾らでも手に入る。どうだ?」

 

「魅力的な提案だな」

 

「コ……鎧武!!」

 

 驚き、俺を見る聖天子は驚愕に染まっている。うん、次からは止めよう。コレは心臓に悪いわ。

 

「だが、断る」

 

「ほう?不満があるか?」

 

「当然だろ」

 

 そういって、俺はソファーに手を掛けて、身を乗り出す。

 

「誰だって従うならムサイおっさんより綺麗なお嬢さんの方がいいだろ?」

 

「はぁっ!?」

 

 その言葉に蓮太郎が素っ頓狂な声を上げ、聖天子は一瞬、呆けた後、顔を真っ赤にする。

 

「それにだ。俺はそんな分かりやすい餌で尻尾を振る様な男じゃない。別の奴を当たってくれ」

 

「くっ!!クハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 一本取られた、そんな感じの笑い声が部屋に響いた。

 

「面白い!!単なる小僧かと思えば、中々面白い奴じゃないか。益々お前が欲しくなったぞ鎧武!!!」

 

「だから、俺は聖天子の傍を離れる気はないって」

 

 そういうと、斎武はニィッと笑う。

 

「ならば、この東京エリアを丸ごと乗っ取り、聖天子を俺の部下にすればお前も文句あるまい?」

 

「つまり、聖天子の上にアンタが立つって事か?確かに俺の立ち位置は少しだけしか変わらないな。けど」

 

 そういって、俺はマスクの下で笑う。

 

「俺は政治とか全くの門外漢だ。だからそういった難しいので俺を縛りつけるとどっかで爆発するぞ?もし、俺を従わせたかったら」

 

 腰に提げた無双セイバーを軽くなぞる。

 

「力尽くで来てくれ。その方が分かりやすい」

 

「クク!!面白い奴だ。言質は取ったぞ?」

 

 俺と斎武との会話はこれっきり。後は蓮太郎にも同じように勧誘した後、漸く聖天子と本題に入った。内容は……まぁ【大ショッカー】については満場一致で排除が決定した事だけ二人の意見が一致したと言っておこう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「なぁ、そろそろ機嫌直さねえか?」

 

「直すも何も別に怒ってません。コウタさんが目を付けられた事なんてちっっとも関係ありませんから」

 

 そういって、拗ねたように顔を明後日の方へ向ける聖天子。原因は……まぁ、会談なんだが、終始平行線だった。結論は既に開始十分で出ていたので、中盤からは殆ど右から左に聞き流していた。その為、やっと終わった時に斎武が俺の肩を軽く叩き。

 

『必ず、お前を俺の部下にしてやる』

 

 そう、獰猛な笑みを浮かべて去っていったのを思い出す。

 

「コウタさんは私の護衛なんですよ。それなのにあの人は自分の部下にだなんて……コウタさんもコウタさんです!!」

 

 何やら矛先が身近な俺に向けられた。何と言うか先程の拗ねた顔や今の怒った顔も見ていて大変可愛らしい。

 

「コウタさんは私の護衛として自覚が足りません!!」

 

「あれ?俺そう見えたの?一応、あのおっさんの勧誘は断ったけど」

 

「断るならもっとハッキリと断って下さい!!一瞬、心臓が止まりかけたんですよ!!」

 

 掴みかかる様な事はしないが、それでも身を乗り出して近づく聖天子にどぎまぎしてしまう。

 

「いや、その。俺も反省してるから」

 

「してません。少なくとも私には反省している様には見えません。どうせ、格好いいから次もやってみよう、とか考えてませんか?」

 

 図星である。いや、だって格好いいじゃん?

 

「ソンナコトハカンガエテマセンヨ?」

 

「お~い、喋り方忘れてねえか?」

 

 おう、まさかの追い打ちだよ。お前は膝の上で幸せそうに寝てる延珠ちゃんの世話でもしてろペドフィリア。聖天子はふぅ、と息を吐く。

 

「い、一応確認します。コウタさんは私の護衛を止めたりは」

 

「しない。前にも言った通り、絶対に一人になんてさせない」

 

 そう真っ直ぐ告げれば聖天子は顔を真っ赤にして、小さく頷いた。

 

「そ、それならいいんです。安心しました」

 

 そういって、はにかむ聖天子に俺も笑う。

 

「……蓮太郎。妾もあんな風に言われてみたい」

 

「俺には無理そうだ。諦めろ」

 

「え?あ……!?」

 

 場所が車内であり、対面に据わった目で俺達を眺めている延珠がいたのに気付き、彼女は顔を更に真っ赤にさせる。

 

「まぁ、今回の会談で斎武のおっさんがどんな人物なのかはなんとなく分かったな。うん、確かに独裁者だ。しかも、筋が通っているってのが問題だな」

 

 話を変える為にそう告げれば蓮太郎は俺をジト目で睨みながらも頷く。

 

「そうだな。アイツは話し合いとかそういうのはするが、結局は力で従わせる奴だ」

 

「ま、分かりやすい奴だ。とはいえ、対処し辛いな。話し合いの余地はあるが、こちらの条件を呑ませる為に色んなリスクを呑まされそうだ」

 

 ため息を吐きつつ、足下の小型冷蔵庫からジュースを人数分取りだし皆に渡す。

 

「にしても、積極的だったな、あのおっさん。俺や聖天子、蓮太郎が口挟まなかったら確実に戦争起こせるような無理難題押し付けて来たし」

 

「そうですね。恐らくはバラニイウム鉱山の所有量を増やす為なのと自身の戦力拡大の為に東京エリアを手に入れる布石でしょう」

 

「それだけとは思えないけどな」

 

 りんごジュースを一口飲んで呟く。

 

「どういう事だよ?」

 

「確かにあのやり口なら十中八九聖天子の言う通りなんだろう。けど、アイツだって大阪エリアを統治する人間だ。ソイツが戦争なんてリスクを冒してまで東京エリアを手に入れた場合、本当に統治なんて出来るのか?」

 

「従わない奴等は公開処刑とかすんだろ?あのジジイならそれくらいやる」

 

「恐怖で支配するってのは尤も簡単だが、維持するのが最も難しいらしいぜ。人間ってのは慣れる生き物だからな。よく言うだろ?『赤信号、皆で渡れば怖くない』ってさ。単純に支配される人間が増えればそれだけ命を狙われる回数も増えるって事だ。そんな七面倒臭い方法を取るなら。逆に宥和政策で友好的に接した方が後々楽だ」

 

「なら、なんであんな無茶な条件出して来たんだ?」

 

「半分本気で、半分試して来てるんじゃねえか?聖天子は政治家一年目で、今回は菊之丞さんがいない。たった一人で何もかもを決めなくちゃいけない。だから敢えてあんな無茶な要求を出したってのは少し楽観し過ぎか」

 

 そういって、俺は窓の外を見る。夜空には星空が見え、月の光もあって、それなりに綺麗な夜景を楽しめる。

 

「斎武大統領は外国との関係が噂されているそうです」

 

 ふと、聖天子が告げると同時に車がカーブする。

 

「……続けてくれ」

 

「アメリカやその他の諸外国が密かに接触して資金面、武器などを供与しているそうです」

 

「見返りはバラニウムか……」

 

 俺の言葉に聖天子が頷く。日本はバラニウムの生産地でもある。それも他国が奪い取ってでも欲しい量だ。

 

「じゃあ、斎武が外国の力を借りてでもやりたいことって……」

 

「日本に存在する五つのエリアを統一。見返りとして外国にバラニウムを安定して供与すること」

 

「あのおっさんの事だ。大国に操られている様には見えない。きっと、バラニウムをこっちが有利になるような好条件で売り捌くつもりだったんだろう」

 

「けどよ、それでも相手は大国だ。武力で押し切られちゃ、こっちも……そうか」

 

 蓮太郎の言葉に俺が頷く。

 

「今までは分からないが、俺達仮面ライダーが表沙汰になった事で、動き始めたんだろう。既に戦極さんは戦極ドライバーの量産に成功してるし、ロックシードの数も揃ってる。戦力としては十分過ぎる」

 

 自分で告げながら胸糞が悪い。確かに仮面ライダーは強大な力であり、ソレを使うのは人間だ。だから、どう使おうと理解出来る。

 

(我が侭だよな)

 

 仮面ライダーは人類の自由と平和の為に戦う存在だ。ソレが守る筈の人間に振るわれる。考えるだけで嫌になる。

 

「これからきっと、各国が日本の各エリアに協力的、或いは敵対行動を取ってバラニウムを確保する為に動くでしょう。そしてこれからの戦争は強力な民警の暗殺や破壊工作が中心になってきます。そして今の東京エリアにはそれらに対抗出来る優秀な人材が不足しています。里見さん、どうかアナタ方の力を国家の力の為に使って貰いたいのです」

 

 そう告げると蓮太郎は苛立ちを隠そうとせずに。

 

「アンタは何でも自分の都合で決めるんだな」

 

「立場を持つモノとは得てしてそういう物です。アナタとて、自分の都合通りに事を運ばせようと考える事もあるでしょう?」

 

「アンタと一緒にすんじゃねえ」

 

「いえ、同じです。違うのはそこにある事の大きさのみです。私は東京エリアの統治者として動かなくてはいけません。聖天子という名を名乗った時に【私】個人は捨て去りました」

 

 けれど、と聖天子は自身の腹部に手を当てる。

 

「この地位を恨む事もあります。ですから、少しだけその意趣返しとして子供位は愛によって産みたいです」

 

 はにかむように告げれば蓮太郎は何処か寂しそうに顔を背ける。

 

「斎武さんは武力によって日本を統治すると言いました。ですが、私は東京エリアの領土を広げ、仙台や大阪、果ては五つのエリア全てを友好的に直結させるつもりです。そして全てのエリアを繋げた時、国民に思い出して頂きたいのです。かつて一つの国であり、同じ空を見上げていたという事を。その為にも私は死ぬわけにはいきません。侵略行為も暗殺も私は行いませんし、それらには屈しません」

 

「アンタの大切な奴が死んでもか?」

 

 その言葉に聖天子は表情を引き締め、横目で俺を盗み見た後。

 

「きっと、凄く悲しんで自暴自棄になってしまうでしょうね。けれど、死んでしまったその人の為に。今を生きる人の為に立ち上がります」

 

「早死にするタイプの理想主義者だな」

 

「理想を語る事はいけませんか?」

 

「悪いとは言ってねえよ。けど、もう少し上手く立ち回れって言ってるんだ」

 

 その言葉に聖天子は困った様に笑うだけだ。聖天子も分かっているんだろう。蓮太郎はため息を吐く。

 

「まぁ、結局は綺麗事か」

 

「そうです。だからこそ、現実にしたいじゃないですか。本当は綺麗事が一番いいんですから」

 

 その言葉に蓮太郎が呆気に取られる。思わず笑ってしまう。

 

「お前の負けだな、蓮太郎。聖天子はもう覚悟を決めてる。どう言ったって止められねえよ」

 

 俺の言葉に蓮太郎がムッとする。

 

「勝ち負けじゃねえだろ。それにお前は止めねえのかよ?」

 

「止めるかよ。言ったろ、聖天子は覚悟を決めたってさ。俺はそれを踏まえて、どんな事があろうと聖天子を守るって決めてるんだ。ソレがたとえ、何であろうとな」

 

 そういって、俺はジュースを飲み干す。

 

「お前だって、自分の命張って守りたい奴の一人くらいいるだろ?」

 

「……まぁ、な」

 

 誰を想ったのか分からないが、そう頷いて蓮太郎は窓の外へと視線を移す。

 

「蓮太郎、なんだろう、嫌な感じがする」

 

 そう告げたのは延珠ちゃんだ。彼女は俺達の後ろ。つまり、車の正面へと真剣な表情で眺めていた。同時に車が停車する。俺も同じように振り向けば視線の向こう、目算でおよそ、1km先にそびえるビルがある。イニシエーターである彼女は感覚器官を含めて、全てが人間を凌駕している。それは勿論、勘などの第六感も例外ではない。いや、動物の遺伝子を持つが故にそういったモノが鋭いのだろう。その彼女が前方のビルを警戒している。瞬間、首筋にピリとナニカが奔る。

 

「聖天子!!」

 

「え?」

 

 俺が叫び、彼女に覆いかぶさるのと、蓮太郎が延珠ちゃんと共にしゃがむのは同時だった。直後にガラスが破砕し、リムジンが急ブレーキで暴れまわる。悲鳴を上げる聖天子を抱きしめ、揺れるリムジンの壁や床から彼女を守る。

 

「蓮太郎!!」

 

 動きが止まったその時、延珠ちゃんの鋭い声が聞こえた。

 

「延珠!!ドライバーを連れて、でろ!!」

 

「蓮太郎!!聖天子を頼む!!」

 

 俺の言葉に蓮太郎は頷く前に聖天子の手を引いて、外に出る。出口には蓮太郎が近いし。

 

「くそ、運が悪いな」

 

 結構、無茶な体勢な為か、起き上がるのに時間が掛かる。だが、視線の端、ビルの屋上で、ナニカが光ったのを見た瞬間、俺はロックシードを取り出す。

 

「間に合えよ!!」

 

【フレッシュ!!オレンジ!!!】

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

聖天子を外に連れ出し、遮蔽物に隠れる為に周囲を見た瞬間、再びビルの屋上が光り、爆発音が背後から響く。燃料タンクを撃ち抜かれたリムジンが爆発し、その熱風でつんのめる。助け起こそうとしたが、聖天子は燃えるリムジンを見て、静かに首を振っている。

 

「……嘘ですよね……コウタさん……?」

 

 拙い、そう思った直後に三度目の光、この距離でリムジンを撃ち抜く弾丸。恐らくは対物ライフル。俺一人が盾になった程度では到底、聖天子は守れない。

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

「おらぁっ!!!!」

 

 だが、弾丸と俺達の間に割って入ったコウタがその頭に被った巨大オレンジで弾丸に頭突きをかまし、防ぐ。弾丸は明後日の方向へと飛んで行き、ビルの一角を砕く。

 

「コウタ……さん?」

 

「悪い、ちょっと遅れた」

 

 そういって、変身が完了したコウタが手を上げる。

 

【ソイヤッ!!メロンアームズ!!天・下・御免!!】

 

【カモンッ!!バナナアームズ!! Knight of Spear!!】

 

 瞬間、後ろを護衛していた二人が変身して走ってきた。

 

「戒斗、呉島さん!!コイツを!!」

 

 そういって、投げられた錠前は二人の前で変形する。それは車輪の無いバイクだった。代わりに飛行できるのか、二人の前で空中に浮かんでいる。

 

「よし、私達は犯人を追う。君達は聖天子様の護衛を頼む」

 

「気ぃ抜くなよ?俺達の装甲でも結構痛いぜ?」

 

「ふん、誰に向かって言っている!!」

 

 その言葉と共に二人が空へと飛び立つ。そして今まで何処にいたのか、保脇たち護衛官が聖天子を囲んで盾になりつつ、後退していく。

 

「きゃあぁ!?」

 

「うわあっ!?」

 

 だが、後退していく所から別の悲鳴が上がった。そこには。

 

「ほほう、死神博士から材料の調達を任された時は退屈な任務だと思ったが、中々面白い事になっているではないか」

 

 そういって、複数の覆面野郎と一緒に現れたのは随分と古い軍服に身を包んだ男だった。

 

「【大ショッカー】ですか?」

 

 震える声を必死に抑えながら聖天子が告げる。

 

「如何にも。お初にお目に掛かる。私は【大ショッカー】の幹部。ゾル大佐。以後お見知りおきを」

 

 そう仰々しく頭を下げたゾル大佐は顔を上げると指を鳴らす。

 

「折角です。暫く御歓談下さい」

 

 同時にゾル大佐の後ろからハチの衣装に身を包んだ女とコンドルの怪人が現れた。

 

「我がショッカー怪人の殺戮ショーをね」

 

 その言葉が合図かのように怪人が近くにいた男に襲いかかる。

 

「オラァッ!!!」

 

 寸前で、怪人は蹴り飛ばされる。

 

「おいこら!!そこの役立たず!!さっさと聖天子を連れてけ!!邪魔でしょうがねえ!!!」

 

「な、何だと!?」

 

 苛立ったようなコウタの声に保脇が噛み付く。今はそれどころじゃないだろ。

 

「ここは俺達で何とかする。お前等はとっとと尻尾を巻いて聖天子連れてけって言ってんだよ。それとも、こんな所で死ぬか?墓標には英雄って書いて貰えるかもな?」

 

「き、貴様ァ……!!」

 

 プルプルと拳を震わせながらも保脇達が後退していく。どうやら優先するべきか何かは分かっているようだ。

 

「コウタ、大丈夫なのか?」

 

「安心しろ。大丈夫だよ。それより、ベルトは持ってきてんのか?」

 

「あぁ」

 

 俺はベルトを装着する。正直、こんな場所で義手や義足を使うと被害が凄い事になる。なら、こいつがベストだ。

 

「延珠ちゃんはあの個性が全くない奴等を頼む」

 

「うむ、任せよ!!」

 

 ポケットからブドウのロックシードを取り出し、掲げる。

 

【ブドウ!!】

 

「変身!!」

 

 頭上にブドウが現れ、掲げた腕を斜め後ろに引き、ベルトにロックシードを装着する。

 

【ロック・オン!!】

 

 二胡の中華風な音楽が流れる中、カッティングブレードに手を当てて、ロックシードを斬る。

 

【ハイ~!!ブドウアームズ!!龍・砲・ハッハッハッ!!!】

 

 鎧を纏い、変身を完了した俺は即座に右手に持つ銃【ブドウ龍砲】で市民に襲いかかるハチ女を撃って、牽制する。

 

「ほほう、新たな仮面ライダーか、面白い。ゲバコンドル!!蜂女よ。仮面ライダーを抹殺せよ!!」

 

「龍玄。お前は蜂女を頼む。俺はコンドルをやる」

 

「り、龍玄?」

 

「お前の名前だよ。仮面ライダー龍玄」

 

「おぉ、格好いいな。蓮太郎!!」

 

 そういって、俺の肩を軽く叩いたコウタは太刀を構える。視界の端では瞳を輝かせて、俺を見る延珠が集団を蹴り飛ばしていた。

 

「ここからは俺達のステージだ!!」

 

 そういって、駆けだすコウタに俺は銃を構える。

 

「フルーツジュースにしてやるぜ!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「馬鹿な!?民警が仮面ライダーになっただと!?」

 

「何故、我々に支給されず、あんな薄汚い奴にあの力を……」

 

 護衛官の一人がそういうと、保脇隊長が忌々しそうに告げる。

 

「イーッ!!」

 

 甲高い叫びと共に現れたのは黒タイツに骨の入った姿の男性たち。私達は数十人の彼らに囲まれていた。

 

「ヒッ!?」

 

 保脇隊長が短く、悲鳴を上げた。

 

「御機嫌麗しゅう。聖天子殿」

 

 何時の間にか、街灯も消えた道路の先から白いスーツに黒のマントを羽織った壮年の男性が現れる。

 

「あ、貴方は……?」

 

「我が名は死神博士。【大ショッカー】の怪人を製作している科学者、と言っておきましょうか。今日は貴女を我が【大ショッカー】の基地へとご招待する為に馳せ参じました」

 

「う、撃てェッ!!!!」

 

 死神と呼ばれた男の声を遮って、銃声が耳に響く。あまりに近くで音が響いた為、一瞬、視界が揺らぎ、耳が痛くなる。そして平衡感覚も無くなってその場でへたり込んでしまう。

 

「やれやれ、無粋な者共よ」

 

 揺れた視界、音が反響する世界でその声だけがやけにハッキリと聞こえた。視線を向ければそこには無傷の死神が立っていた。

 

「ば、化け物!?」

 

「失礼な。私の作品は全てヒトを超越し、新たにこの地球を支配する生命体だ。誰一人として化け物ではない」

 

 まるで出来の悪い教え子に聞かせる様な声音と共に振るわれた鞭の一撃が化け物と告げた護衛官。確か芦名辰巳さんの胸から上を吹き飛ばした。ビシャリという音と、僅かな衝撃と共に私の視界、その左側が赤く染まった。

 

「おっと、失礼」

 

 雨に濡れたコンクリートに倒れる芦名だったヒトを一瞥した死神は私に向かってそう謝罪した。

 

「あ……あぁ……」

 

「聖天子様には少々、刺激が強過ぎましたか。いやいや、慣れるのも時には邪魔になりますな。貴婦人の扱いを誤ってしまう」

 

「き、貴様……」

 

「ふむ、まだ口を開く度胸があるようだ。素材は多い方がいいが、そうだな。継ぎ接ぎでも構わんか」

 

 そういって、彼が鞭を高く持ち上げる。それだけで護衛官が悲鳴を上げる。

 

「お、御待ちなさい!!!」

 

 震える声を、足を叱咤しながら立ち上がり、声を張り上げる。

 

「貴方の目的は私なのでしょう?ならば、護衛官に手を出すのは止めなさい」

 

 そう告げた時、死神と目が合う。その目は感心する様な目であり、何処か奈落に続く様な眼をしていた。

 

「……気丈な方だ。今すぐにでも悲鳴を上げて、自分を忘れてしまいたいのでしょう?」

 

 見透かすような言葉に私は小さく笑う。

 

「そんな事はありません。私には絶対に無くならない希望がありますから」

 

「仮面ライダーですな、これも因果か。我々の邪魔をするのは決まって仮面ライダー。そしてソレを支えるは人間。世界は変わろうとも、ヒトは変わらぬか」

 

 何処か感慨深くそう告げた後、彼は手を振るう。すると、近くに居た戦闘員が私達に近づき。

 

「ハァッ!!」

 

 突如、割り込んだ白いライダー。呉島隊長によって撃退される。

 

「御無事ですか、聖天子様?」

 

「助かりました呉島隊長。駆紋さんは?」

 

「犯人を追っています。先程、葛葉より【大ショッカー】が現れたと聞き、私だけ戻って来ました」

 

 そう告げて、盾と刀で戦闘員を薙ぎ払う呉島隊長のお陰で道が出来た。

 

「今の内です」

 

「ありがとうございます。気を付けて」

 

 礼を告げ、保脇隊長達と共に走り抜ける。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ふむ、中々の性能だ」

 

 私の目の前、そこに立つ壮年の男性が感心した様に告げる。

 

「これは少しデータが欲しいな。サボテグロン!!」

 

 男の声と共に暗闇の中から緑の怪人が現れる。

 

「ガストレアウイルスによって強化されたお前の力、存分に見せよ」

 

「リョウカイ……シマシタ」

 

 本来の体色は緑だったのだろう。だが、今は身体に幾つもの紫色の斑点模様が浮かび上がっており、闇に光る赤い瞳の所為で不気味な姿になる。だが、それ以上に気になる単語が聞こえた。

 

「ガストレアウイルスだと……!?」

 

「その通り、この世界の覇者であるガストレア。その解析は既に終わっている」

 

 そういって、彼は嬉しそうに喉を震わせる。

 

「ガストレア。貪欲に他者を喰らい、進化する生命体。素晴らしい素材じゃないか。しかも、そのウイルスには生物の限界を容易く越える事が出来る。では、実験といこう。私が作り上げた怪人がガストレアの力を手に入れた事でどれほど強化されたか」

 

 そこの言葉と共にサボテグロンが駆ける。咄嗟にメロンデシフェンダーで攻撃をガードする。

 

「ぐぅあ!?」

 

「素晴らしい。瞬発力、攻撃力は私の思い通り。しかも、肉体的に損傷が無いのが素晴らしいではないか。これは良い研究テーマだ」

 

 ガードは間に合っていた。だが、それでも私は背後のビルの壁を突き破り、ビルの中で転がっていた。

 

「……強い」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ハッ!!」

 

 鋭く吐き出した息と共にゲバコンドルを斬るが、咄嗟に避けられ傷は浅い。更にお返しと言わんばかりに蹴りが来るが、それはもう一本の大橙丸で防ぐ。

 

「チッ、やっぱ強いな」

 

「隠禅・黒天風!!」

 

 後ろでは蓮太郎の叫びと共に繰り出された鋭い回し蹴りが蜂女に叩きつけられ、吹き飛ぶ。

 

「おぉ、蓮太郎。やるな~」

 

「変身してなかったらヤバかったよ」

 

 そう言いつつ、既に仮面ライダーの力を使いこなしている蓮太郎に内心凹んでいる。

 

「取り敢えず、ソイツが終わったら次はコッチだ」

 

「お前ひとりじゃ無理なのか?」

 

「無理だな。コイツ、明らかにこの前戦った奴らよりも格上の怪人だからな」

 

 そういいながら、突撃してくるゲバコンドルを相手にする。

 

「分かった。少し待っててくれ」

 

 そう告げた蓮太郎はブドウ龍砲で飛び上がった蜂女の羽根を撃ち抜く。

 

【ブドウスカッシュ!!】

 

 空中でバランスを崩した蜂女の前に跳び上がった蓮太郎。

 

「隠禅・哭汀・逆鱗!!!」

 

 オーバーヘッドキックで繰り出された一撃は蜂女の頭部を砕き、爆発させる。

 

「ほほう、蜂女を倒したか。ゲバコンドルよ!!GV剤の使用を許可する!!」

 

「フゥエーッ!!」

 

 蹴り飛ばしたゲバコンドルがベルトから紫色の液体が入った注射器を取り出す。奴がその注射器を自身の胸に突き立て、ボタンを押す。空気が抜ける音が聞こえ、容器の液体がゲバコンドルの肉体に注入されると、ゲバコンドルの身体が変異する。

 

「こ、これは……!?」

 

「おい、ゾル大佐!!あの液体はなんだ!?」

 

 身体がボゴリ、という音と共に肥大し、骨が、肉が、翼がより強靭なモノへと変貌していく。そしてゲバコンドルの瞳が妖しく赤く光る。

 

「素晴らしい!!流石は死神博士だ。見事にガストレアウイルスを制御している」

 

「なん……だと……!?」

 

 蓮太郎が絶句するが、俺は内心で舌打ちし、納得する。死神博士にとってガストレアは新たな怪人製作の素材だ。そのウイルスを解析、利用する事などそう難しくないだろう。

 

「ククク、貴様等が手古摺っているガストレアと言ったか?あんなモノ達よりも我々が優れていただけの事。さぁ、ゲバコンドルよ。仮面ライダーを殺せぇ!!!」

 

「フゥゥエェェーーーッッッ!!!!!!!」

 

 甲高い雄叫びに近くのビルに張られた窓ガラスが全て割れる。ゲバコンドルは近くに居た戦闘員の頭を掴み、握りつぶし手に着いた脳漿を咀嚼する。

 

「ふぅむ、まだ調整が不十分のようだな。まぁ、これも死神博士の課題の一つだ。少しデータを取るのも良かろう」

 

 そういって、ゾル大佐は戦闘員と共にこの場から離れる。

 

「来るぞ、蓮太郎。言っとくが、さっきよりも手強くなってる筈だ」

 

「ガストレアウイルスを兵器利用かよ」

 

 苦々しく呟いた直後、ゲバコンドルが動く。大ぶりの一撃を避けて、ガラ空きの背中を大橙丸で切り裂く。確かな手応えと共に鮮血が舞い、ゲバコンドルの悲鳴が上がる。

 

「やっぱ、再生するか」

 

「だったら、畳みかけるだけだ!!」

 

 後ろの蓮太郎がそう告げると共にブドウ龍砲による追撃を行う。その攻撃に怯んだ瞬間に大橙丸で斬りつけ、蹴り飛ばす。

 

「ハァッ!!」

 

蹴り飛ばした先に居た延珠ちゃんがゲバコンドルを蹴りあげる。流石に重量も増している為、そこまで跳ばなかったが、それでもブドウ龍砲の追撃が充分に入る。悲鳴を上げながらゲバコンドルが地面に転がる。

 

「一気に決めるぞ!!」

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジスカッシュ!!!】

 

「分かった!!」

 

【ハイ~!!ブドウスカッシュ!!】

 

 ベルトからの音声が響くと同時にブドウ龍砲と大橙丸にエネルギーが溜まる。

 

「「セイハー!!」」

 

 大橙丸の斬撃とブドウ龍砲の銃撃がゲバコンドルの目の前で合わさり、奴を呑み込んで爆発した。

 

「ふむ、成る程。大したものだ。我が配下でこれほどの力を引き出すのならば他の組織の怪人ならばどれほどの力を得るか……ガストレアウイルス。中々面白いではないか」

 

 そう告げたゾル大佐は俺達に背を向ける。

 

「今回は此処で引き上げといこう。ではな、仮面ライダー。また会おう」

 

 その言葉を最後にゾル大佐が配下の戦闘員と共に暗闇に紛れて消える。

 

「終わったか……?」

 

「いや、呉島さんが気がかりだ」

 

 蓮太郎の言葉に俺が告げる。

 

「さっき、連絡が入ったんだが、逃げた聖天子の方にもう一人、幹部が現れたらしい」

 

「マジかよ……!?」

 

「呉島さんが間に合って、聖天子も逃げたが、呉島さんが心配だ」

 

「俺も行く」

 

「妾も行くぞ」

 

 何時の間にか、戦闘員を片付けた延珠ちゃんが胸を張って告げる。俺はマスクの下で小さく笑った。

 

「なら、直ぐに行くぞ」

 

 そういって、俺達は走り出した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「犯人は既に逃げた後か?」

 

 乗っていたダンデライナーをロックシードに戻した俺は周囲を見回す。

 

「誰かがいた形跡はあるようだな」

 

 先日、雨が降ったお陰だろう。狙撃ポイントであろう場所は、やや渇いている。そのような体勢で撃ったのかはよく分からないが、かなり小柄だと言うのが分かる。

 

「狙撃は1km彼方から。更にその距離でも充分に威力があるライフル。恐らくは対物ライフルか。ソレをこんな小柄な人物が使うと言う事は……」

 

 十中八九、犯人は【呪われた子供たち】だ。だとするなら、聖天子を殺すだけでなく、その後、犯人を捕まえさせ、世論を操作する気なのだろうか。

 

「誰だか知らんが、随分と不愉快な事を考える物だ」

 

 そんな事を呟きながらふと、視界の端に何かを見付ける。

 

「ん……?」

 

 ゆっくりと周囲に気を配りながら近づけば。それは髪飾りのようだ。

 

「……」

 

 ソレは新品の髪飾りで大切に扱われていたのが窺える。俺は茫然とソレを見た後、怒りが沸き起こる。

 

「ティナ……」

 

 ソレはティナにプレゼントした向日葵の髪飾りだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ふむ、流石に仮面ライダーが増えれば負けるか」

 

「大丈夫ですか、呉島さん」

 

「あぁ、助かった」

 

 呉島さんに肩を貸しながら前を向けばそこには顎に手を当てて思案している死神博士。そして俺達と死神博士のちょうど中間の位置には煙を上げている燃えカスがある。先程、不意打ちと共に三人で一気に倒したサボテグロンだ。

 

「お前達が此処に来たと言う事はゾル大佐の方は既に撤退していると言う事か」

 

「あぁ、GV剤だっけか?厄介な代物を造りやがって」

 

 蓮太郎がブドウ龍砲を向けながら詰問するが、死神博士は感心した様に表情を変えるだけだ。

 

「成る程な。アレを使ったか。ならば、私も直ぐに戻り、ゾル大佐から報告を受けねばな」

 

「あ、おい待て!!」

 

 その言葉と共に消えた死神博士に蓮太郎が叫ぶが、既にアイツは何処にもいない。

 

「一旦、戻った方がいいな」

 

「……そうだな」

 

 呉島さんの言葉に蓮太郎が頷く。俺は呉島さんに肩を貸しながら遠巻きに見ていた警察の方へと歩き出す。

 




投稿完了!!そして文字数が驚異の1万6千越え!!作者の自己ベスト更新!!正直、前後篇に分けようと思いましたが、そのまま投稿。変に引き伸ばしてもいい事ないしね!!今回で大ショッカーが新たな力を手に入れました。とはいえ、まだまだ実験段階。試験的な物です。取り敢えずティナの件は次で決着です。お楽しみに



次回の転生者の花道は……



「新型の【ゲネシスドライバー】及び【エナジーロックシード】の試作品だ。この装備は実働部隊が使っている【戦極ドライバー】のデータを基に造り出したモノでね。その性能は軽く見積もっても【戦極ドライバー】の数倍だ」



「俺の事など、どうだっていい。貴様の飼い犬は既に始末した。分かるか?貴様の計画はこれで破綻した」



「確かにアンタのやった事は間違った事かも知れない。けどさ、アイツ等が救うほんの一握りの人間よりもアンタが救った人間の方が遥かに多い筈なんだ。だから、そう自分を卑下しないでくれ」


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第十三話 幼き狙撃者 実験の前準備

今回でティナについては一応解決。打開策はなんというか、えぇ、ちょっとガッカリな感じですみません(泣)

それと、活動報告と言うのを書いてみました。内容は……まぁ、アンケートと言うか、意見を聞くような感じですね。もし、よければ覗いてみてください


「呉島さん。一つ聞いていいですか?」

 

「なんだ?」

 

 腕に包帯を巻き、資料へと視線を落としている呉島さんに俺は部屋に聞こえる声で告げる。

 

「俺、今日の会議は前回の反省と今後の対策会議って聞いたんですけど。何時まで自分の責任を他人に押し付けようとする汚い大人の茶番を見てればいいんですか?というか、コイツ等聖天子守る気あんの?」

 

 会議室で怒鳴り散らしている保脇を指さしながら告げれば奴は顔を真っ赤にして、俺を睨む。そう、あの狙撃事件を無事とは言えずとも切り抜けた俺を最初に待っていたのは……泣きながら俺を心配する聖天子だった。

 

(まぁ、確かに心配はさせたよな)

 

 あの時は仕方なかったとはいえ、変身が後少しでも遅れていたらあの世行きだ。そういった意味では運が良かったのだが、泣きながら俺を叱る聖天子を見てこれからはもう少し心配させないように気を付けようと思った。

 そしてその二日後、早速対策会議という事で会議室に蓮太郎と共に来たのだが、待っていたのは対策会議とは名ばかりの責任の押し付け合いだった。因みに会議が遅くなったのは【大ショッカー】の襲撃の際に殉職した隊員の書類関係に保脇が関わっていた為に遅れたという。呉島さんはお陰で冷静に情報を整理できたと言っていた。

 

「そもそも、責任を問われるべきは護衛官だろう?なんで、議題が何時の間にか犯人が誰かに変わってんの?」

 

「素人は黙っていろ!!」

 

「んじゃ、里見蓮太郎が犯人だって説明してくんない?素人にも分かりやすく証拠を出してさ」

 

「今まで一度として聖天子様が狙われる事はなかったのに、コイツが雇われた途端、先の事件が起き、テロリストまで現れた。コイツが犯人とテロリストに繋がっているのは明白だ!!証拠など、コイツを取り押さえれば自ずと出て来る!!!」

 

 そうドヤ顔と共に告げる。俺は思わず茫然としてしまい、更にその表情で論破したのだと勘違いした保脇は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

「馬鹿じゃねえの?」

 

「なっ!?」

 

 思わず告げてしまう。まぁ、俺が言わなくてもそろそろ呉島さんが声を出しそうだったので、先に俺の意見を言わせて貰おう。

 

「保脇さん。アンタ確か、内通者が出ないように計画書は自分達で作成するって言ってたよな?」

 

「そ、それがどうした?」

 

「そこが可笑しいだろ。俺達はその計画書を貰ってないし、当然俺達実働部隊預かりの里見蓮太郎にも情報が行き渡ってない。コイツは当日、事務官に聖居へと向かうように連絡されて、俺達と合流して、リムジンに乗ったんだ。その状況でどうやってその犯人と連絡できるんだ?」

 

「ぐ……」

 

 実は嘘である。確かに護衛ルートは教えられてないが、そこは戦極さんが頑張ってくれた。ものの数分で保脇のPCにハッキング。計画書をコピーした後、俺達が確認し、蓮太郎に渡して処分させた。因みに蓮太郎が計画書を処分したのは確認済み。既に会議室に向かう前に蓮太郎へ大体の経緯を話しているのでアイツもちゃんと空気を読んで黙っている。まぁ、その事を話した際に微妙な顔をされたが。

 

「さて、ではそろそろ対策会議へと移行しよう」

 

 そう告げて、立ち上がった呉島さんに護衛官以外の人物が期待する様な眼差しで呉島さんを見る。SPとしての実力を買われ、実績も確かに上げた人物の言葉である。期待は充分だろう。流石は呉島さんだ。

 

「く、呉島!!勝手なことを!!」

 

「保脇三尉……」

 

 決して強くはないが、静かな迫力を持って、呉島さんが保脇を呼ぶ。それだけで保脇は顔を青くして、黙りこむ。俺はいそいそと呉島さんの隣に座る。

 

「この場の会議は何のためにするものだ?」

 

「……そ、それは今後の為の」

 

「そう、起きてしまった事件の二度目を防ぐために行う会議だ。だが、貴方がやった事は議題をダラダラと長引かせるばかりか、全く関係の無い事を声高に主張し、場を混乱させているに過ぎない」

 

「そ、その男は犯人と内通しているんだぞ!!」

 

 まだ言うか、コイツは。

 

「仮に彼が犯人と内通していた場合、彼を捕縛すればそれで終わりなのか?」

 

「あ、当たり前だろう」

 

「私はそうは思えない。聖天子様を暗殺する様な輩だ。恐らくは今回限りという事はないだろう。彼を捕縛し、監禁した所で事態は好転しない。更に護衛が減った現在、同じように襲撃があった場合、どうするのだ?」

 

「そ、それは……」

 

「その襲撃で万が一にでも聖天子様が亡くなった場合、全ての責任は護衛計画を一人で練った貴方に集中する事になるが?」

 

 その言葉で保脇はもう何も言えない。

 

「里見蓮太郎の力は強力だ。その為に私は彼をこのまま聖天子様の護衛を任せたい。それは彼の身の潔白を証明する事と、私個人が彼を菊之丞閣下の身内として信頼しているからだ。無論!!彼がもし犯人と内通していたと発覚した場合、全ての責任は私が負う」

 

 静かに告げられた言葉には有無を言わさぬ迫力があり、この人ならば、と信じさせるに足る貫禄がある。戒斗が呉島さんを隊長と慕うのが良く分かった。視線を蓮太郎へと向ければ蓮太郎は何処か気恥しそうに頬を掻いている。

 

「また、先日の襲撃事件を菊之丞閣下に報告した」

 

 その言葉に会議室がざわめく。

 

「なっ!?き、貴様、何故そんな事を!!」

 

「何故?おかしなことを聞く。国家元首が狙われるような事案が発生したのだ。この東京エリアを離れているとはいえ、最高責任者である菊之丞閣下に報告するのは当然だろう」

 

 そういって、呉島さんは持っていた資料を保脇の目の前にまで投げる。

 

「そしてその報告により護衛官には特別任務が言い渡された」

 

「ば、バカな!?我々は聖天子付護衛官だぞ!?何故、我々が本来の職務ではなく、別の任務などと!!」

 

「その本来の職務がこなせていないからじゃないのかな?」

 

 そう告げたのは会議室にやってきた戦極さんだ。その横には聖天子がいる。

 

「その書類には菊之丞閣下と聖天子様のサインがあるだろう?」

 

「う、嘘だ……!?」

 

 書類の一部分を見た保脇が愕然とする。

 

「嘘ではありません。今回、保脇三尉率いる護衛官はテロリスト【大ショッカー】の捜査を行って貰います。プロフェッサー」

 

「仰せのままに」

 

 そういって、戦極さんは保脇の前にアタッシュケースを置き、開ける。

 

「新型の【ゲネシスドライバー】及び【エナジーロックシード】の試作品だ。この装備は実働部隊が使っている【戦極ドライバー】のデータを基に造り出したモノでね。その性能は軽く見積もっても【戦極ドライバー】の数倍だ」

 

 その言葉に保脇が顔を上げ、ドライバーとロックシードを見つめる。

 

「これなら【大ショッカー】相手でも問題ないだろう。いいデータを期待しているよ」

 

「テロリストの件、任せられますか?」

 

 聖天子の言葉に保脇は無言でケースを手に取る。

 

「お任せ下さい。必ずやご期待に応えましょう」

 

 そう、爽やかな笑みと共に保脇は部下を引き連れて会議室を去っていく。その際、俺を盗み見ていた。嫌な予感がするんだけど。

 

「では、早速対策会議を行う」

 

 呉島さんの一言で、本当の会議が開始された。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「保脇隊長。本当に宜しかったのですか?」

 

 部下の一人がそう聞いてくる。

 

「仕方ないだろう。あの書類にはお二方のサインが確かにあった。つまり、あの任務を拒否すれば我々に待っているのは除隊か左遷のどちらかだ」

 

 そう告げれば部下たちが沈み込む。

 

「まぁ、そう悲観するな。我々には新しい力が手に入った」

 

「しかし、ソレを使ってもアイツ等を倒せるかどうか」

 

 もう一人の声に僕は思わず笑ってしまう。

 

「何を勘違いしているんだ?起動実験も無しに実戦で使う訳ないだろう?」

 

 そういって、彼等を見渡す。

 

「丁度、この力を試すには打ってつけの相手がいるじゃないか」

 

 僕の言葉に彼等は笑う。そう、【新しい力】があるならば最早【古い力】に価値など無いのだから。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「はぁ……」

 

 夕焼け空の下、私はここ最近では日課になった行きつけのベンチで人を待っています。けれど、今の私はとてもではないが、その人と楽しく話せる気分ではなかった。

 

(失くしちゃった……初めてのプレゼントだったのに)

 

 僅か十年と少しの人生で初めて、戦いには無縁の贈り物。大切にして、大事にしようとしたそのプレゼントを先日、失くしてしまった。

 

(やっぱり、あの時、部屋に置いておくべきでした)

 

 きっと、舞い上がっていたのだろう。だから私は【任務】の時もその髪飾りを付けていた。初めてのプレゼントを片時でも手放したくなかったから。

 

(その結果がコレですか……戒斗さんにどう謝ればいいんでしょう)

 

 ため息を吐いた時、ここ最近、嗅ぎ慣れた匂いが鼻腔を擽る。

 

「今日も来てたのか」

 

「戒斗さん……」

 

「まぁいい。こっちも聞きたい事があったからな」

 

 そういうと、私にドーナツの袋を手渡し、何時ものように私の隣に座る。

 

「先日、とある場所でこんな物を拾った」

 

「え?」

 

 言われ、目の前に出されたモノを見て、今まで考えていた言い訳が真っ白に消えた。

 

「あ……ソレ……」

 

「その場所は一般人では入れない場所だ。更に言えば、出入り口は鍵が閉まっていて、開けられた形跡は見られなかった」

 

 淡々と告げられる言葉が罪状を読み上げる言葉の様で私からどんどん逃げ場をなくしていく。

 

「そしてその場所は先日、聖天子を狙撃したであろう人物がいたと思われる場所にあった」

 

 決定的だった。その言葉を聞いた瞬間、隠し持っていた拳銃を戒斗さんに向ける。

 

「……やはりか。お前であって欲しくなかったが」

 

 残念そうな戒斗さんの言葉に私はグッと拳銃を強く向ける。人通りは少なく、近くにはドーナツ屋の店員のみ。しかも、此処からでは死角となる。銃声を聞いて、反応する前に逃げれば何とかなる。

 

「……っ!?」

 

 筈なのに。今までの人生で数えるのも億劫になる程の回数を積み上げた動作で、今では目を瞑っていても出来るのに。私の手は言う事を聞かず震えている。

 

「撃たないのか?」

 

「……っ?!し、知られた以上は……い、生かしておく事は出来ません……」

 

「ならなぜ、直ぐに撃たない」

 

「それは……」

 

 分からない。理性では撃て、と叫んでいるのに。彼に銃を向ければ今までの事を思い出す。不器用だけど、私の話をちゃんと聞いてくれて、寂しい気分を紛らわせてくれる戒斗さん。初めて……生まれて初めて贈り物をくれた戒斗さん。両手で数えられるほどの回数しか会って、話していないのに。それなのに。

 

「……撃てません」

 

 気付けば、私は拳銃を地面に落し、泣いていた。溢れる涙と共に胸から大声で泣き出したい衝動が湧き上がってくる。

 

「それでいい。もう、お前は誰かを殺さなくていいんだ」

 

 そう呟き、戒斗さんは私を優しく抱きしめてくれた。初めての人の温もり。優しい言葉。私はもう、湧き上がる感情を止める事が出来なかった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ティナは【呪われた子供たち】という俺の推測は当たっていた。そして聖天子狙撃犯だという事も。だが、そうだとしても1km先の目標を正確に撃ち抜く技量は幾らなんでもおかしい。その疑問はティナの口から語られた。

 

「私は【呪われた子供たち】であり【機械化兵士】の改造を受けた【ハイブリット】なんです」

 

 思い切り泣いて、スッキリしたのだろう。思いつめた表情は消え、何処か晴れやかな表情の彼女が告げた内容は、あまり聞きたくない内容だった。

 

「お前を執刀したのは?」

 

「……エイン・ランド博士です。私以外にも多くの子が実験に使われて、私は上手く適合できましたけど」

 

 その言葉だけで、俺はゆっくりと息を吐く。彼女の身の上とセットで聞かされた内容だけで握った拳は赤く滲んでいた。

 

「今回の任務は聖天子を暗殺する事。そして適度に私という存在を知らせる事です」

 

「成る程な。【呪われた子供たち】が聖天子を殺し、完全に【ガストレア新法】を瓦解させる事で、安定して素材を供給する事が望みか」

 

 一度、大きく息を吐いて落ち着く。

 

「これから私はどうなりますか?」

 

「お前は未遂とはいえ、国家元首を殺そうとした。それだけで極刑は免れない」

 

「……そうですか」

 

「だが……」

 

 俺は告げる。俺にとって都合の良い事を。

 

「だが、もし犯人が他に居るならばお前は唯の一般人となる」

 

「何を……言っているんですか?」

 

 意味が分からない、という表情で告げるティナの眼は俺を真っ直ぐに見ていた。

 

「お前も恐らくは先日のテロリストについて知っているだろう?」

 

「……はい、博士も既に部下の人間で調査させたんですが、戻ってこなかった様です」

 

「そいつ等を犯人に仕立て上げる」

 

 俺の言葉にティナが驚く。

 

「お前がもし、死にたくないのならば俺はそう報告する。お前も含めてな」

 

 俺の言葉にティナは俯き、ゆっくりと首を横に振る。

 

「ダメです。私の身体はテクノロジーの塊です。生かしておけばきっと、追手が来ます」

 

「俺はお前の意見を聞いているんだ」

 

 ティナの肩に手を置いて、無理矢理視線を合わせる。

 

「お前はどうしたい?死にたいのか、生きたいのか?」

 

 ジッと彼女の瞳を見て、告げればティナはゆっくりと俯き、涙を流し始める。

 

「……たくない」

 

「聞こえないぞ」

 

「死にたくないです!!まだ私、戒斗さんの事全然知らないし、もっと戒斗さんと一緒にいたいです……」

 

 涙を流しながらもしっかりと自分の意思を告げる彼女のポケットから着信音が鳴り響く。

 

「あ……」

 

 俺は素早くそのポケットから携帯を取り出し、通話ボタンを押して耳に当てる。

 

『定時の報告をせよ』

 

 固く事務的な声だ。この男が、この男がティナを、名も知らぬ子供たちを殺す為の兵器に造り変え、そして失敗作として多くの子供たちを殺した張本人。

 

『どうした?報告をしろ』

 

「貴様がエイン・ランドだな」

 

『なっ!?だ、誰だ貴様は!?』

 

 俺の声に相手は酷く狼狽する。

 

「俺の事など、どうだっていい。貴様の飼い犬は既に始末した。分かるか?貴様の計画はこれで破綻した」

 

『貴様がティナを!?くっ、役立たずめ!!』

 

「……一つ聞く。貴様は一体何の為にティナを造り変えた?」

 

『ソレを知って、どうする―――』

 

「応えろ!!エイン・ランド!!!」

 

 エインという男の声を聞き、先程まで抑えていた怒りも込めて俺は電話越しの外道に叫ぶ。相手が息を呑む気配が伝わる。

 

『……何かと思えば下らない事を。貴様は科学の発展の為に犠牲が必要だという事を知らんようだな』

 

「犠牲だと?たかが、数十人分の兵士と同等の働きをする代替品を造った所で、貴様の科学は理解されないだろう?」

 

『貴様には分からんだろう。所詮は科学の一端も理解できぬ凡人にはな』

 

「あぁ、俺には貴様の様な狂人の考えは理解できん。貴様の科学の為の犠牲になった奴の事を考えれば尚更な」

 

『犠牲?あぁ、貴様はもしや私が執刀したアレ等を犠牲と勘違いしているのか?』

 

 その言葉に俺の頭は一気に冷えていく。これ以上、この男の狂言には付き合うな。そう思いながらも男は語る。まるで出来の悪い教え子を叱る教師のように。

 

『アレ等は私の理論を実証する為の道具に過ぎない。そもそも人ですらないのだ。君とて、積木を積み上げる際、不要と判断し、捨てた積木に何か思う事はあるのかね?』

 

「……もういい」

 

 もう既に燃え上がる様な怒りは無く。ただ静かに燃える怒りが俺を支配していた。

 

「貴様は俺の敵だ。殺すべき対象だ。今は見逃してやる。だが、覚えておけ。何時か俺の槍が貴様の心臓を貫く事を。ソレが貴様の最後だ」

 

 返事を聞かず、通話を切り。携帯を足下に落として踏み砕く。

 

「行くぞ、ティナ」

 

「え?あ、はい。でもその前に」

 

 俺は携帯を取り出そうとした手を優しく掴まれる。

 

「先ずは治療が先です」

 

 そう微笑むティナに俺も小さく笑みを浮かべた。

 

(アイツは……葛葉は守る者がいるから強くなれる、そう言っていたな)

 

 今なら何となく分かる気がする。ベンチに座り、手に着いた血を水で洗い流し、慣れない手つきで包帯を巻くティナを見て、俺はそう思う。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「という訳だ」

 

「いきなり携帯で犯人を見付けたって言われた時は驚いたけど。【ハイブリッド】ね……」

 

 会議を終えた俺達に戒斗から電話が来た。内容は狙撃事件の犯人を確保した。という内容。正直、驚いてその場で声を上げてしまった。その後、聖天子と呉島さん。戦極さん。序でに蓮太郎を連れて、研究室で待っていると戒斗が金髪幼女を連れて来て事情を説明した(その際、研究室の二人と少女に面識があった蓮太郎が随分と驚いていたが、ここは割愛しておこう)。

 

「成る程、事情は分かりました。しかし、私を狙った事に関しては事実ですから相応の罰は必要でしょう」

 

 何処か悲痛な表情で告げる聖天子。恐らくは少女、ティナの生い立ちに同乗しているのだろう。その上で国家元首としての言葉を告げなければならないのは【ガストレア新法】を掲げる彼女にとっては辛い選択なのは想像に難くない。

 

「その事で、相談がある」

 

「あぁ、なんとなく分かった。戒斗、お前【大ショッカー】を利用するつもりか?」

 

 戒斗がティナを見て、声を上げた時、俺が遮る。アイツが何の策もなく彼女を犯人として連れて来る筈が無い。案の定、俺の言葉に戒斗が頷く。

 

「あぁ、今回の狙撃事件の犯人は奴等の怪人、ないしは戦闘員の仕事として扱って貰いたい」

 

「確かに国家元首の命を【呪われた子供たち】が狙ったという事が公になれば、彼女達の地位はもう修復不可能になるな」

 

 呉島さんが目を閉じてそう告げる。聖天子は顎に手を当てて。

 

「しかし、そう都合よく事が運ぶと思いますか?」

 

「まぁ、アイツ等がコッチの行動を読んでくれれば助かるんだけどな。まぁ、そこらへんは大丈夫だと思うぜ?」

 

「根拠は?」

 

 蓮太郎が腕を組んで聞いてくる。ティナの生い立ちを聞いてからというものの、不機嫌気味だ。まぁ、気持ちは分かるが。

 

「アイツ等、怪人たちのテストとして街に放っているだろう?それに加えて、聖天子を狙った幹部がいる。次も同じように現れてくれるかどうかは分からないが、聖天子を狙ってくれれば犯人として周囲に信じさせる事ができる」

 

「ま、そういう情報戦は私に任せたまえ。君達は護衛に専念していればいい」

 

「そうだな。とはいえ、上手く行くかどうかは運次第だが」

 

 呉島さんの言葉に俺達が頷き、聖天子も頷く。

 

「では、その方向で行きましょう。それまではティナさんの身柄ですが」

 

「葛葉」

 

「了解、俺から凰蓮さんに頼んでみるよ。とはいえ、返事は明日以降だ。それまでは」

 

「あぁ、俺が責任を持つ」

 

「え?……えぇ!?」

 

 戒斗の言葉に今まで会話に参加できず、コーヒーをチビチビと飲んでいたティナが声を上げる。その顔は見事なまでに真っ赤だ。

 

「お前としては不本意だろうが、我慢してくれ」

 

「ふ、不本意なんて。そんな事ないです!!あの、えと……」

 

 そういって、ティナは居住まいを正した後、礼儀正しく頭を下げて。

 

「不束者ですが、よろしくお願いします」

 

「……待て、その言葉は何処で覚えた」

 

 ティナの爆弾発言に俺達は声こそ上げないが笑う。ティナはキョトンとした顔で。

 

「いえ、東京エリアに来る前に読んだ資料には女性が男性の家にお世話になる時に使う言葉だと書かれていたので」

 

「……いや、確かに間違ってはいないが」

 

 そう戒斗が額に手を当てて、ため息交じりに告げる。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「なんだか、凄い勢いで事件が収束しましたね」

 

 その言葉に俺は苦笑して頷く。

 

「確かに。対策会議開いた後に犯人が捕まったからな。まぁ、後は上手く【大ショッカー】が現れるのを待つだけだな」

 

「正直、出て来て欲しくありませんけど」

 

「まぁ、確かに」

 

 お互いに笑う。

 

「これから恐らく【大ショッカー】も動きだしますね」

 

「あぁ、全く迷惑な話だ。コッチはガストレアもいるし、最悪同じ人間で争わなくちゃいけないし」

 

「えぇ、ゾディアックも一体は倒しましたが、それだけ。残るゾディアックは八体。その全てを打倒し、そして地上からガストレアを駆逐する」

 

「その後に子供たちを認めさせて漸くガストレア問題は決着か。道は遠いな」

 

 本当に遠い。一体、どれほどの時間を使えば、どれほどの屍を築けばそこへ至れるのか。案外、簡単なのかもしれないし、そもそも不可能なのかもしれない。

 

「ですが、立ち止まっていてもどうしようもありません」

 

「だな。元から一本道だし、進むしかないよな」

 

「はい、ですからコウタさん。頼りにしますからね?」

 

 聖天子の言葉に俺は笑って頷く。けれど、聖天子は俯いて表情を暗くする。

 

「きっとこれからコウタさん。いえ【仮面ライダー】の力が必要な事が起きます。そしてその度にきっと危険なんて言葉では言い表せない様な困難にアナタを向かわせてしまう」

 

 そういって、聖天子は両手を強く握りしめる。

 

「我が侭なのは理解してます。無謀な事なのも。けれど、必ず生きて帰って来て下さいね」

 

「……あぁ、分かってる。改めて誓うよ。お前を独りになんてさせない」

 

 そう告げて、彼女の手を優しく握る。

 

「破ったら怒りますから」

 

「それは怖いな」

 

 そういって俺達は笑いだす。きっと大丈夫。そんな気がした。

 

「あ、そうでした」

 

 すると、聖天子は手を叩いてナニカを思い出す。

 

「実はコウタさんに伝えないといけない事があるんです」

 

「伝えないといけない事?」

 

 そう聞けば聖天子は悪戯を思い付いた様な無邪気な笑みを浮かべている。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「むぅ……」

 

「どうかしたんですか?延珠さん」

 

「済まないな、蓮太郎君。折角の休日を邪魔して」

 

「気にしなくていいさ。丁度、俺も暇だったし」

 

 対策会議から三日後の休日。昼下がりの午後の公園で私は光実の付き添いで出会った友人とその保護者に思わず苦笑してしまった。

 

「しかし、世間は狭い物だな」

 

「確かに。延珠の味方だった子の兄貴がアンタだったとは。俺も驚きだ」

 

 光実と延珠とは違うベンチで座った私と里見蓮太郎は缶コーヒー片手に談笑している。

 

「……なぁ、保脇の事だけどさ」

 

「彼か……まぁ、君が言いたい事も何となく分かっている。凌馬が渡した新型ドライバーだろう?」

 

 彼が頷く。彼はコーヒーを一口飲み。

 

「正直、不安だ。アイツはアンタ等の力に嫉妬しているぜ。俺を締め上げて来た時なんかは葛葉の奴も一緒に罵倒してたしな」

 

『貴様のみならず、葛葉コウタのように偶然手に入れた力で舞い上がる人間は聖天子様のおそばには相応しくない』

 

 依頼の話を聞いた時の会話を聞かせてくれた彼の表情には本当にいいのか、という疑問が浮かんでいた。

 

「君の危惧は理解できる。私もこの話を持ちかけて来た凌馬には同じ質問をしたからな」

 

「アンタの発案じゃなかったのか。いや、考えてみればそうか。アンタ、なんていうかそんな雰囲気が無いからな」

 

「そう思ってくれるなら嬉しい限りだ。とはいえ、私も善人という訳ではない。聖居にとってあまりにも不要な存在は必要ないからな。だから私は凌馬の考えに乗った」

 

「それが、新型ドライバーを渡す事か?」

 

「正確には新型ドライバーの力で暴走させる事だ。アイツの事だ。力を手にした所で【大ショッカー】の調査などしないだろう」

 

 私の言葉に彼は驚く。

 

「もしかして、わざとなのか?」

 

「あぁ、凌馬は新型ドライバーを完成させる為には実戦的なデータが必要だと言っていた。そのデータ取りに保脇が選ばれたという事だ」

 

「えげつないな。まぁ、他にアイツを退かす方法が無いからいいけどさ。アイツ、葛葉を襲うかもしれないぜ?」

 

「十中八九そうなるだろう。彼には伝えてないが、問題はない筈だ」

 

「信頼してるんだな」

 

 顎に手を乗せて、そう呟いた彼に私は苦笑する。

 

「無論だ。そして私以上に葛葉コウタは聖天子様に信頼されているからな」

 

「成る程ね。保脇が狙うのは確実という事か。筋書きとしてはこうか?新型ドライバーの力で襲いかかった保脇を聖天子が【偶然】目撃。責任問題として保脇と奴の部下をクビか左遷って所か?」

 

「大体はな。とはいえ、上手く行くとは思えないがな」

 

「例の【大ショッカー】か?」

 

「それもある」

 

 だが、問題は保脇個人だ。

 

「人間というのは力を手に入れれば変わる者だ。君も何となく理解出来るだろう?」

 

「まぁ、な……」

 

「奴はその力で逆恨みしている葛葉に襲いかかるだろう。だが、果たしてその時、保脇に聖天子様の静止の言葉が聞こえるかどうかは疑問だがな」

 

 だが、それすらも凌馬にとっては好都合なのだろう。私も保脇のやり方には不満があり、彼を今の地位から外せればと思った事は何度もある。

 

「保脇は自分が目に掛けた人間を配下にし、権力を笠に様々な事をやった」

 

 思い出すだけでも怒りが湧き上がる。

 

「単に威張って怒鳴り散らすならば可愛い物だ。だが、アイツ等は外周区で【狩り】をやっていたそうだ」

 

「それって、まさか……!?」

 

 恐らくは気付いたのだろう。彼の言葉に頷けば、彼もまた怒りに震えた表情で右手の缶コーヒーを握りつぶした。

 

「本来ならばこんな汚点を無関係の君に話す事は避けるべきなのだが、どうして凌馬の提案に私が乗ったか、その動機について話しておきたかった」

 

「あぁ、アンタの怒りも分かるさ。それにアンタも悪い奴じゃないってのが分かった」

 

 そういって、コーヒーをゴミ箱に投げ入れ、コーヒーに濡れた手を見て、渋い顔をした彼にハンカチを渡す。

 

「いや、私も善人ではない。もし、本物の善人だとするならば正当な手段で裁くべきだ」

 

「だけど、そういう奴に限って法で裁けない奴らばっかだ」

 

「だとしてもだ。今回のように私刑同然の行いをやってよいという免罪符にはならない。今回の行動は凌馬の研究によって東京エリアの軍備。保脇とその部下を天秤に測っただけでしかない。確かに彼等がやった行いの報いを与えるのは間違ってはいないだろう。だが、それでも正当な手段でなければいけない筈だ」

 

 それが出来ない。私は彼らの命と今後の生活よりも東京エリアの名も知らぬ市民とそして子供たちの未来を選んだ。

 

「確かに数の話で言えば、私は間違っていないのだろう」

 

「いや、アンタは正しいよ。呉島さん」

 

 そう彼は視線を下げて、告げる。

 

「確かにアンタのやった事は間違った事かも知れない。けどさ、アイツ等が救うほんの一握りの人間よりもアンタが救った人間の方が遥かに多い筈なんだ。だから、そう自分を卑下しないでくれ」

 

 そう言って、笑いかけてくれる彼に私も小さく笑う。

 

「そう言ってくれると気が楽になる」

 

「ソイツは良かった。所で、呉島さん。アンタはその【呪われた子供たち】に関しては」

 

「あぁ、そうだな。かつてはガストレアと同じように憎んでいたよ。だが、考えを変えた」

 

 そういって、私は延珠と談笑している光実を見る。

 

「私の考えを変えてくれたのは光実のお陰だ」

 

「そっか。俺もさ、最初はアンタと同じで子供たちも憎んでいたんだ。けど、延珠が俺のパートナーになって色々と喧嘩とかして、アイツ等も同じなんだなって気付いたんだ」

 

「だとするなら、光実と彼女が友人となったのは必然だったかもしれないな」

 

「かもな」

 

 そういって、私達は笑い合う。

 




投稿完了!!解決策は作者でももうちょっとひねった方が良かったかな?とか思った感じです。

全て【大ショッカー】の仕業なんだ!!
ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー!?

次話は休憩という感じに平和的なシャルモンの幼女たちが【この世界】のとある人たちとの交流する話です。人選は作者が思うこの子なら波長があう人はコイツだろうという考えなので、あの人がいたりいなかったり……お楽しみに



次回の転生者の花道は……




「おはようございます、湊さん。プロフェッサーは今どこに?」



「映司さんて【幸福な王子】に出て来る王子様の銅像みたいです」



「それよりも、晴人さん、バイトはいいんですか?」



「真司さんには以前の取材の時にキリエを守ってくれた恩がありますし。私も何か手伝いたいんです」



「飽きました。巧さんは見てて飽きないので面白いです」



「事務所の前で独り言をブツブツと。仕事はどうしたのだ、このハーフボイルド」



「「博物館……キタァーーーーッッ!!!!!!!」」


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第十四話 子供たちの休日

さて、間隔が速いですが次話投稿です。今回は長らく(?)お待たせした、幼女達のほのぼの話です。色々とネタを仕掛けていますが、楽しんで頂ければ幸いです


「朝か……」

 

 目覚ましを消しつつ、朝日に目を細めながら、ふと身体が重い事に気付く。

 

「にひひ~」

 

 見れば、そこにはパジャマ姿のレヴィが大の字で寝ていた。御丁寧に涎まで垂らしている。

 

「……またか」

 

 そう、レヴィが夜中に俺の部屋にやってくるのはよくあるのだ。恐らくは寝惚けているのだろう。しかも、何が気に入ったのか、最近やってくる事が多い気がする。

 

「きょうりゅう~、ちぇんじ~」

 

 寝言なのか、はたまた寝たフリなのか甚だ疑問だが、取り敢えず起こそう。そう思って、レヴィに手を伸ばせば彼女の特徴的な八重歯が朝日に反射してキラリと光る。

 

「ガブリンチョ♪」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

【カモンッ】

 

 今日はこっちか、等と内心で感想を述べつつ、自動で開いた扉を通り、研究室に入る。

 

「プロフェッサーは……奥の様ですね」

 

 研究室は意外と広く。先ず最初に部屋に入って見えるのは応接間と呼ばれる場所。来客を迎えたり、談笑したりする場所であり、そとの様子や外への連絡手段などが此処に詰まっている。

 そしてその奥、今度は網膜センサーでブロックされている扉を抜ければそこには数十人の白衣を纏った科学者が量産型の戦極ドライバーとコウタさんが持ってきた数が多い【ヒマワリ】【クルミ】【マツボックリ】【ドングリ】のロックシードを研究している。以前、ロックシードに何故木の実があるのか質問したが、コウタさんは苦笑して分からないと言っていたのを思い出す。

 

「あら、夏世ちゃん。今日も早いわね」

 

「おはようございます、湊さん。プロフェッサーは今どこに?」

 

 その中で私に声を掛けたのは黒のスーツを着込んだ女性、湊耀子さん。プロフェッサーの秘書で、綺麗な人です。湊さんは私の問いに困った様に笑って、奥を指さす。

 

『ほらほら、将監君。もっと大きな声で言わないと。もう一回行くよ、変身ってほら!!』

 

『だから、やらねえって、言ってんだろ』

 

 奥にあるガラスによって仕切られた室内を中継するスピーカーから元気なプロフェッサーの声と呆れ、疲れたような将監さんの声が聞こえる。

 

「ふむ、面白い物だな」

 

 ふと、聞き慣れない女性の声が聞こえ、そこに視線を向ければ変身した蓮太郎さんを興味深そうに見ている女性がいた。

 

「おはようございます。蓮太郎さん」

 

「あぁ、おはよう。夏世」

 

「此方の方は?」

 

「あぁ、室戸菫さん。昔、俺を執刀してくれた人で」

 

「【機械化兵士計画】の四人いる最高責任者の一人ですね。プロフェッサーから教えて貰いました」

 

「ほほう、中々賢い子だね。うんうん、ぶっきらぼうな里見君よりか好きだよ」

 

「どうせ、俺は口が悪いよ」

 

 拗ねるのはいいですけど、変身していると随分とシュールですね。

 

「菫先生がいるという事は怪人の解剖ですか?」

 

「そうだね。中々面白そうな死体だったから一度、見てみたかったんだ」

 

 そういうと、職員の一人が菫さんを呼ぶ。

 

「どうやら許可が下りたらしい。私はこれで失礼するよ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「あ、映司さん」

 

「やぁ、ユーリちゃん。おはよう」

 

 何時もの空き地に行くと、色々な人たちが入れ替わるように立ち去っていく。皆笑顔だ。その先には独特な民族衣装に身を包んだ青年、映司さんが封筒の中に残ったお金を計算している。

 

「今日もお裾わけですか?」

 

「そう。ゲン爺さんは家賃が足りなくて、ジン君は入院したお母さんのお見舞いの果物代。えっと、がんがんじいは鎧の修理代。今日はこんな所かな」

 

 そういって、笑顔を見せる映司さんに私も笑う。この街にやってきて、最初のお休みの日に探検と称して街を歩いたのだが、見事に迷子になってしまったのだ。その時に助けてもらったのがこの人。

 

「映司さん。皆にお金を上げるのは良い事だと思いますけど、やっぱり変じゃありません?映司さんだけ損してるみたいで」

 

「でも、皆困ってるし」

 

「私この間、がんがんじいさんが映司さんから貰ったお金で『今夜は焼き肉や~』って言ってましたよ?」

 

「嬉しそうで何よりじゃない」

 

 この通り、映司さんはコウタさんに負けず劣らずのお人好しで、そして凄く優しい方なんです。何時もお金を稼いでは困っている人に分け与えています。

 

「映司さんて【幸福な王子】に出て来る王子様の銅像みたいです」

 

「あぁ、あのお話か~。そう見える?」

 

「はい、いつか映司さん。全部剥がされて何処かに捨てられそうです」

 

 そう思えてしまうのがこの人。何とかしたいと思っているけど、子供の私じゃ、どうにもできない。そう思っていると私の前にアイスが現れる。

 

「はいコレ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 そういって、昼下がりの午後の穏やかな日差しを浴びながらアイスを食べる私達。

 

「じゃなくて!!ダメじゃないですか。皆に渡して、お金少ないんじゃ」

 

「大丈夫だって。ほら、こんなにあるじゃない」

 

「小銭しかありませんよ?」

 

 そういうと、映司さんは笑って。

 

「いけるよ。少しの小銭と明日のパンツさえあれば何とかなるって」

 

「そういう物でしょうか?」

 

 映司さんだけじゃないでしょうか?

 

「それにさ。人助けって気持ちいいじゃない」

 

 そう爽やかに笑う姿がどうしてもコウタさんと被ってしまう。やっぱり、何処か似てるんですね。

 

「でも、それで映司さんが苦しいのは間違ってると思います」

 

「そうかな?」

 

「そうです」

 

 何故だか、ムキになって言えば、映司さんは苦笑してしまう。

 

「でも、皆とは長い付き合いだからさ。手差し伸べたいじゃない?」

 

「長いって、どれくらいですか?」

 

 そう聞くと、映司さんは顎に手を当てて、考える。

 

「ゲン爺さんは一週間前から、ジン君は四日前から、がんがんじいは二週間前からの長い付き合い」

 

「それ、短いと思います」

 

「そうかな?でも、ユーリちゃんとは五日前からの長い付き合いだし」

 

 そういって、映司さんは大きく身体を伸ばす。

 

「散歩がてら、何処か行かない?ほら、今日はこんなに天気が良いしさ」

 

「そうですね」

 

 本当は私から誘いたかったのに。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「おや、晴人さん」

 

「あれ?シュテルちゃん」

 

 お昼時、公園にやってきた私は公園にある丘の頂上でよく会う人に出会った。

 

「今日もプレーンシュガーですか?」

 

「好きだからね」

 

 そういって、美味しそうにプレーンシュガーを頬張る青年、晴人さん。此処は周囲一帯を見回せる私のお気に入りなのだが、ちょっと前に晴人さんが声を掛けて来てからは待ち合わせの場所になってしまった。

 

「今日はお店の方、いいの?」

 

「今日は定休日ですから」

 

 これは嘘。本当は昨日の夜にちょっと羽目を外して材料をダメにしてしまった為に急遽、今日はお休みとなったのだ。

 

「ふぅん、そっか」

 

「それよりも、晴人さん、バイトはいいんですか?」

 

「それがさ、テロのお陰で客足が遠のいちゃってさ。輪島のおっちゃんが困ってたよ」

 

 参ったよ、と苦笑する晴人さん。晴人さんは骨董屋【面影堂】で店員のバイトをしているのですが、どうにもお客さんが来なくて暇な様だ。

 

「では、ウチのお店に来ますか?店長は男性の職員が欲しいと常々言ってますし」

 

「うぅん、どうしようかな」

 

 といいつつ、保留になるのが何時ものパターンです。

 

「それにしても最近は慌ただしいね。ちょっと前にはステージⅤの襲来。その次はテロリストの破壊活動。噂じゃ、そのテロリストも怪物だって聞いたし」

 

 そういって、ため息と共に晴人さんが告げる。

 

「まぁ、大丈夫ですよ」

 

「どうして?」

 

 私は晴人さんに笑みを見せて。

 

「不味い飯屋と悪の栄えた試しは無いそうですから」

 

「成る程ね。確かにそうだ」

 

 そう笑って晴人さんはドーナツを食べきる。

 

「さて、それじゃ、今日はどうしようか?」

 

「そうですね。では、図書館に行こうと思っていたので」

 

「図書館か……俺も偶には本読むかな」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「あ、真司さぁん!!」

 

「あれ?アミタちゃん。どうしたの?」

 

 今日はお店が休みなので、外へ出て散歩していると見知った人がメモ帳片手にため息を吐いていました。

 

「今日はお休みなので、散歩です。真司さんこそ、何してるんですか?」

 

「休み?あぁ、そっか。アミタちゃん達、民警止めたんだっけ。俺は編集長に特ダネ掴んで来いって言われてさ~」

 

 真司さんはとある事情で民警時代の私達と知り合ったのです。その際、元私達のプロモーターに本気で怒ってたのをよく覚えている。

 

「特ダネですか。何か見付かりました?」

 

「うぅん、そう簡単に見付からないからな~」

 

 真司さんはモバイルニュース配信会社【OREジャーナル】の見習いさんだそうで、出会った当初も民警に関してのインタビューでした。

 

「因みにどんな特ダネを探してたんですか?」

 

「【仮面ライダー】って知ってる?」

 

「ハイ!!凄く強くて優しい正義の味方です!!」

 

 そういってポーズを取れば真司さんも嬉しそうに笑う。

 

「そうそう、それそれ。その記事を書こうと思ったんだけどさ。ネットで漁ってもちょっと記事には書けない内容が多くてさ。だからこうやって脚で探してる訳」

 

 【OREジャーナル】は今のご時世では珍しく【呪われた子供たち】に関して肯定的な意見を書く会社として悪い意味で注目を浴びています。最近では無くなりましたが、会社が出来た当時は会社の前に人が集まって騒いだり、石を投げられたり、会社の名前を出したら取材を断られたりと大変だったみたいです。

 

「大変ですね」

 

「そうなんだよ~。それにこのネタで挽回しないと俺、給料カットされちゃうし」

 

 がっくりと肩を落とした真司さん。私でも出来る事があるだろうか。でも、コウタさん達が【仮面ライダー】だというのは内緒ですし。

 

「まぁ、頑張るしかないか」

 

「それじゃ、今日は一緒に特ダネを探しましょう!!」

 

「おぉ!!って、いいの?」

 

 相変わらずノリが良いですね。真司さんの言葉に私は笑顔で頷く。

 

「真司さんには以前の取材の時にキリエを守ってくれた恩がありますし。私も何か手伝いたいんです」

 

「アミタちゃん……」

 

 涙もろい真司さんは目元を潤わせて感動している。

 

「ようし!!そうと決まれば早速聞き込みだ!!」

 

「はい!!頑張りましょう!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「……じ~」

 

「…………」

 

 目の前で男性、巧さんがアイロンを掛けている。ちょっと暑いけど、我慢できる。

 

「……じ~」

 

「……なんだよ?」

 

 面倒くさそうな声と共に振り返った巧さんの言葉に気にしないでと首を横に振る。

 

「あのな、そうやって見つめられると気になってしょうがないんだよ」

 

「でも、お仕事終わるまで此処にいろって言ったの。巧さんです」

 

「他に見るモンあるだろ?」

 

「飽きました。巧さんは見てて飽きないので面白いです」

 

「……そうかよ」

 

 ぶっきらぼうに告げて巧さんが仕事を再開する。巧さんは不器用でちょっと怒りやすいけど、仕事はとても丁寧で評判が良いらしい。

 

「たっくん、お疲れ様」

 

「おぉ、他に仕事は?」

 

 仕事を終えた丁度その時、奥からこの店の店長であるケイタロウさんがやってきた。ケイタロウさんは私を横目で見た後。

 

「後は僕だけで出来るからたっくんはキリエちゃんとお昼行ってきなよ」

 

「でも、今日は結構な量あるんじゃなかったのか?」

 

「いいからいいから」

 

 そういって、ケイタロウさんは巧さんを押して店の外へと誘導する。

 

「じゃ、キリエちゃん、また後で」

 

「はい、ケイタロウさん。ありがとうございます」

 

 そういって、私は巧さんに近づく。巧さんは無言でヘルメットを渡してくるので、被る。そしてバイクに跨った巧さんの後ろに私も乗って、抱きつく。

 

「ラーメンでも食うか」

 

「猫舌なのに?」

 

「食いたいんだよ」

 

 私の言葉に巧さんがぶっきらぼうに答える。お姉ちゃんは少しぶっきらぼうな巧さんが苦手って言ってた。でも、私はそんな巧さんが好きだから別に構わない。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「男の冷たさと優しさを隠すのが帽子の仕事……」

 

「事務所の前で独り言をブツブツと。仕事はどうしたのだ、このハーフボイルド」

 

「誰が、ハーフボイルドだ!!」

 

 黒と緑という特徴的なバイクのバックミラーで帽子の調子を確かめていた男に何時もの挨拶をする。

 

「って、なんだ。ディアーチェか」

 

「なんだとはなんだ。折角我が暇潰しに会いに来てやったのだぞ?そこは地に頭を擦りつけて感謝するのが配下の役目であろうが?」

 

「誰が!!何時!!お前の部下になったんだよ!!」

 

「何を言うか、我はお前の為に仕事を手伝ってやったのだぞ?ならば我の臣下になるのは当然であろう?」

 

「いや、全然分からないから」

 

 そういって、ため息を吐く男、翔太郎は我の頭に手を置く。

 

「まぁいい。俺は今大きなヤマを抱えてんだ。子守りしてる時間なんてねえんだよ」

 

「何が大きなヤマか。荘吉殿がお前の様な半熟物にそんな大事を託す訳なかろう。どうせ、何時もの迷子犬探しであろう?」

 

「ふん、何時までも俺を半熟と思ってると痛い目見るぜ?いいか?俺の今回の仕事は本当にビッグなんだ」

 

「ぬ……?よもや、本当に認められたのか?いや、有り得ぬ!!」

 

 そう叫ぶが、奴は余裕の笑みで懐から手帳を取り出し、ページを開く。

 

「俺の今回の依頼は……迷子猫に迷子カメだ」

 

「……何処がビッグなのだ?」

 

「コイツを見ろ」

 

 そう言って取り出したのは二枚の写真。一枚目には大きな陸ガメ。カメの上に子供が乗っている事からかなり大きいのだと判断できる。もう一枚は見事なまでに太ったデブネコである。正直、ダイエットを真剣に考えさせるほどの大きさだ。

 

「ビッグだろ?」

 

「下らん!!!」

 

 つまりコイツの言うビッグとは大きさの事だ。少しだけ期待して見直した我がバカみたいではないか。

 

「全く……それで、目星は付いておるのか?」

 

「あぁ、カメックは知り合いが知ってるから直ぐに見付かる。ネコミはあの巨体だし、そう遠くまで行ってないだろ」

 

「名前に着いてはまぁよい。取り敢えず我はネコミとやらを受け持つぞ」

 

「って、お前もやるのかよ!?」

 

「何を言うか、臣下の為に身を粉にするのも王の務めだ」

 

「だ・か・ら!!俺はお前の部下じゃねえつってんだろ!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「「博物館……キタァーーーーッッ!!!!!!!」」

 

 今日はお店がお休み。だから、僕の一番の友達と博物館に来た。けど……。

 

「人、いないね」

 

「何時もはもっと賑やかなんだけどな。やっぱりこの前の騒ぎが原因かもな」

 

 学ランに格好いいリーゼントの弦太朗がそういうのだから多分そうなのだろう。

 

「じゃあ、今日は僕達だけの貸し切り~」

 

「おぉ、そうだな。よし!!早速、見学するか!!」

 

「こらこら、幾ら常連の君達でも静かに見れないなら追い出しますよ?」

 

 そう廊下の影からやってきたのはこの博物館の館長さん。ちょっと、目が赤かったのは気の所為だよね?

 

「おぉ、我望館長。今日も見周りか」

 

「えぇ、今日もですよ。綺麗な方が皆さんも良いですからね」

 

 この人はこの博物館【天の川博物館】の館長さん。会うのはこれで三回目だけど会う度にお菓子くれるから大好き。

 

「レヴィ君、メロンとラムネ味、どちらがいいかな?」

 

「ん~、じゃあ、ラムネ♪」

 

 そういうと、館長の手には何時の間にか飴玉が握られていて、ソレをくれた。

 

「う~ん、美味しい♪」

 

 飴は小さくなったら噛み砕いて食べるけど、この飴はずっと舐めたいと思う程に美味しい。

 

「そういえば、君達は何時もこの博物館に来ているけど、そんなに珍しいのかね?」

 

「珍しいって言うよりも楽しいぜ。だって、宇宙なんてワクワクするじゃねえか!!」

 

「うんうん、僕もね。何時もは本よりも漫画とか読むんだけど、宇宙の本とかは凄く面白いよ」

 

 二人してそういうと、館長さんは嬉しそうに笑う。

 

「ありがとう。でも、残念ですね。ガストレアが現れてから人類は宇宙への道から大きく遠ざかってしまった」

 

 展示してある小型のシャトルをガラスケースから取り出した館長さんが寂しそうに呟く。

 

「人類はいつか、この狭い母星を離れ、大いなる宇宙へと旅立ち。そして、何処か遠い場所で我々とは違う者達と出会う。そんな夢や希望が消えてしまったかと思うと少し哀しいです」

 

「もう宇宙へは行けないの?」

 

 僕が聞くと館長さんは難しそうな顔をして。

 

「無理ではないでしょう。一応はかつての宇宙開発データが残っていますし。今は兵器関連ですが、科学も進んでいる。恐らくは遠くない未来。人類はこの星を捨てて、月や他の惑星へと移住する事になるでしょうね」

 

「此処にはもういられないの?」

 

「旅立ちとはそういう物です。けれど、返る場所があるから旅立てるのですよ。弦太朗君は宇宙へ行く夢を持っていますが、レヴィ君は違うのでしょう?」

 

「うん、僕は世界一のパティシエになるんだ!!」

 

 僕の夢を言ったら館長さんは僕の頭を撫でてくれる。コウタよりも優しくて暖かい手だ。

 

「素晴らしい夢ですね。けれど、その夢を叶えるためには様々な場所へ行かなければなりません」

 

「そっか……でも、一人前になったら帰ってこれるよね?」

 

「それはレヴィ君次第ですよ」

 

 そういって、館長さんは立ち上がる。

 

「此処を見学した後は何処へ?」

 

「うん、この後は【ミュージアム】に行くんだ~」

 

「ほう、園崎君の所ですか。あそこはこの星の神秘を学べる場所ですからね。楽しむだけでなく、ちゃんと勉強するんですよ?」

 

「はぁい♪」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「光実。今日は何処まで行くのだ?」

 

「すぐそこですよ。もう舞さんも来てますから」

 

 その言葉に少しだけ怖くなる。この前、妾が【呪われた子供たち】と知られた時の事がフラッシュバックする。その時はあまり覚えてなかったけど、舞ちゃんは妾から逃げるように視線を合わせてくれなった筈だ。けれど、今日光実から言われた言葉を思い出す。

 

『舞さんが延珠さんと仲直りしたいって言ってましたから行きましょう』

 

 何時もより、少しだけ強引な光実に驚きつつも一緒に歩いている。やっぱり、心の何処かであの時みたいに皆で楽しく遊べると期待しているのだろうか。

 

「舞さん!!」

 

 光実の言葉に前を見れば、舞ちゃんがこっちに手を振っていた。少しだけ顔が強張っていた。

 

「じゃあ、僕は飲み物買ってきますね」

 

「え?あ、光実!?」

 

 そういって、光実が妾の手を離した瞬間、急に心細くなる。

 

「あ、舞ちゃん……」

 

「えっと、延珠ちゃん」

 

 お互いに名前を呼んで黙ってしまう。

 

「……延珠ちゃん。ごめん!!」

 

 いきなり舞ちゃんが謝り出した。

 

「な、何を謝るのだ舞ちゃん。舞ちゃんは何も悪いことしてないのだぞ?」

 

「うぅん、したよ。私、延珠ちゃんが【呪われた子供たち】って知った時、凄く驚いちゃって。一番辛かった延珠ちゃんを助けられなかったんだもん」

 

 そういって、何度も謝る舞ちゃんの手を握る。

 

「アレは……妾が黙っていた所為だ。一番の友達って言ったのに光実にも舞ちゃんにも言えなかった臆病な妾が悪かったのだ」

 

「そんな事ないよ。だって、友達だからって全部話せる訳ないもん」

 

 それを言われると何も言えなくなる。

 

「あの時、延珠ちゃんの味方になれなかった事凄く後悔してる。私に比べたらミッチは凄いよ。クラスの皆から延珠ちゃんを守って」

 

 確かに凄かった。何時も優しい光実が怒鳴ったり、汚い言葉使ったり、そうやって妾を守ってくれた姿は今でも色褪せない。それに……後で思いだしたら少しだけドキッ、とした。

 

「だから私、謝ろうと思ったの。ミッチみたいに勇気出して。それでミッチに相談したの」

 

「そうだったのか。舞ちゃんが凄く悩んで後悔してたのは分かった。だからもう謝らないで欲しい。何時も見たいに笑ってる舞ちゃんの方が妾は好きだからな」

 

「で、でも。私前みたいに友達として一緒にいる資格ないよ」

 

「そんな事ありませんよ」

 

 そういって、光実がやってきた。両手にはジュースの缶を持っている。

 

「延珠さんや僕は舞さんの事、今でも友達だって思ってます」

 

「でも、私は友達失格だって思ってる」

 

 それでも一緒にいたい。友達でいたい、そんな思いが嫌でも分かる。

 

「じゃあ、やり直しましょう」

 

「「え?」」

 

 思わず二人して声が上がった。

 

「先ずは一回、僕たちは友達を辞めます」

 

「え?ど、どういう事だ、光実?」

 

 意味が分からないのだが、そう思っていると光実は私と舞ちゃんの手を取って。

 

「そして改めて、三人で友達になりましょう」

 

 そう嬉しそうに笑う光実を見て、私と舞ちゃんが顔を合わせる。

 

「これなら舞さんも文句はありませんよね?」

 

 その言葉に思わず笑ってしまう。

 

「光実、それは屁理屈だぞ?」

 

「いいじゃないですか。子供は屁理屈な物ですよ?」

 

「ミッチは大人っぽいよ?」

 

「僕も偶には屁理屈を使いますよ」

 

 何だか、今まで悩んでいた妾達がバカみたいだ。けど、凄く簡単なことだった。

 

「僕たちは別に喧嘩してる訳じゃなかったんですから。仲直りという訳でもないですけど」

 

「ふふ、そうだな」

 

 そういって、皆で笑う。

 

「それじゃ、友達の記念にミッチが買ってきたジュース飲もっか」

 

 舞ちゃんの言葉と共に三人で乾杯する。瞬間、背後のビルが爆発した。

 

「な、なんだ!?」

 

 驚きつつも、視線を向ければ入り口から煙を吐き出すビルがある。あそこは確か、コンピューター関連の会社だった筈だ。そして煙の中からスーツ姿の男が這い出て来る。

 

「た、助げぇ!?」

 

 咄嗟に舞ちゃんの前へ盾になるように跳び出す。スーツ姿の男は胸から巨大な蟹の爪が飛び出し、男を両断した。その光景にやっと住民たちが悲鳴を上げた。

 

「我等は【大ショッカー】!!さぁ、怯えろ!!叫べ!!仮面ライダーを呼ぶがいい!!!」

 

 その雄叫びと共に煙から姿を現したのは蟹の怪人、ヒトデの怪人、よく分からないトカゲの様な怪人、蛾の怪人と黒尽くめの男達が現れる。

 

「な、何アレ?」

 

 先ずは逃げなくては。そう思った時、ヒトデの怪人が妾達を見る。

 

「仮面ライダーを呼ぶならば人質くらいは欲しい物だ。お前達!!その子供を捕まえろ!!」

 

 その言葉に近くの大人たちが妾達を見て、逃げて行く。そんな姿に少しだけ怒りが湧いた。だが、今はコイツ等が先だ。

 

(だが、ここで力を使っては……)

 

 友達を守る為にはこれしか方法が無い。そう覚悟を決めて、身を低くする。

 

「おりゃ!!」

 

 だが、近付いてきた戦闘員を横から蹴り飛ばした一人の青年に驚く。

 

「大丈夫?早く逃げて!!」

 

「え?あ、えっと」

 

「いいから速く!!」

 

「真司さん、後ろ!!」

 

 突然現れた青年の後ろから戦闘員が襲いかかる。

 

「ハァッ!!」

 

 だが、その戦闘員も新たに出て来た青年に殴り飛ばされる。

 

「おい、速くそいつ等連れてけ」

 

「あ、あぁ、サンキュ!!!」

 

「巧さん」

 

「お前はさっさと逃げろって」

 

 そういって、手首を振る青年の他にも四人の青年が戦闘員と戦っていた。

 

「この街を泣かせる奴はどんな奴だって許さねえ!!」

 

「ユーリちゃん、今の内に街の皆を避難させて!!」

 

「タイマン張らせて貰うぜ!!」

 

「さぁ、ショータイムだ」

 

 何と言うか、凄い光景だ。帽子を被った男は拳や蹴りで市民に襲いかかる奴を優先的に狙い、変わった服装の男は妾と同い年くらいの子に怪我した人を預けながら近づいてくる奴を倒し、リーゼントの男はまるで喧嘩の如く薙ぎ払って、特徴的な指輪を付けた男はアクロバティックな動きで相手を翻弄する。

 

「えぇい!!何をしておるか!!!」

 

「うお!?怪人キター!!」

 

 怪人の登場にリーゼントの男は何故かテンションを上げる。すると、怪人達に向かって三台のバイクが突撃する。

 

「おぉ、なんか凄いな」

 

「民間人が戦っているのか」

 

「ともかく、奴等を倒すぞ!!」

 

 バイクから降りた三人が口々に言いながらもベルトを装着して、錠前を取り出す。

 

【フレッシュ!!オレンジ!!】

 

【メロン!!】

 

【バナナ!!】

 

「延珠!!」

 

「延珠ちゃん!!」

 

「木更、蓮太郎!?」

 

 蓮太郎が銃を構えつつ、木更が刀を携えてやってきた。

 

「大丈夫か、怪我とかないか?」

 

「うむ、妾は何ともないぞ」

 

「良かったぁ」

 

 心底安心した様な木更は直ぐに真剣な目をして。

 

「里見くん、やってしまいなさい!!」

 

「なんか木更さん、キャラ違くない?まぁ、いいか」

 

 そういって、蓮太郎がベルトを装着して、錠前を取り出して走り出す。

 

「木更さんと延珠は市民の避難を頼む!!」

 

【ブドウ!!】

 

 蓮太郎の頭上にはブドウの果実が浮かんでおり、同じようにフルーツを頭上に浮かばせている三人の横に辿りつく。

 

「「「「変身!!!」」」」

 




投稿完了~。はい、今回はこんな感じです。因みにシュテル達が向かった図書館には本を読んではホワイトボードに書き込む不思議な少年がいたり、もう一つの博物館の恐竜コーナーにはブレイブなキングがいたりと、割とカオスだったりします。因みにこの世界ではおやっさんは健在です。えぇ、後々出す予定ですのでお楽しみに。
今回はこんな感じでしょうか、というより、二、三日で一気にお気に入りが増えてかなり驚いています。そんなに好かれている作品なんでしょうかね(汗)嬉しい半面、プレッシャーが(苦笑)じ、次回もお楽しみに!!



次回の転生者の花道は……



「変身を邪魔すんじゃねえ!!!」



「私の名は鳴滝。全てのライダーの味方だ」



「一々、ムカツク奴だ。葛葉コウタ!!君は僕にとって邪魔な存在だ!!!此処で君を殺し、聖天子を僕の物にする!!変身!!」


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第十五話 狂乱の変身 新たな鎧武

お待たせしました。さぁ、保脇の最初で最後の輝きをお楽しみください


【ハイ~!!ブドウアームズ!!龍・砲・ハッハッハッ!!】

 

【カモンッ!!バナナアームズ!! Knight of Spear!!】

 

【ソイヤッ!!メロンアームズ!!天・下・御免!!】

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

 変身完了と共に俺達は武器を手に走り出す。

 

「フルーツジュースにしてやるぜ!!!」

 

 叫びと共に蓮太郎はブドウ龍砲で蛾の怪人、ドクガンダーを撃つ。

 

「ふん、数を揃えた所で!!」

 

 続く戒斗はトカゲの怪人、ピラザウルスの胸部にバナスピアーを突き立て、蹴り飛ばす。

 

「民間人は直ぐに避難しろ!!」

 

 呉島さんは避難を呼びかけながら、市民に襲いかかる蟹の怪人、カニバブラーにメロンディフェンダーをぶつける。そして俺は。

 

「ここからは俺達のステージだ!!」

 

 目の前のヒトデの怪人、ヒトデグロンに斬りかかる。

 

「って、硬い!?」

 

「俺の皮膚は鋼鉄よりも硬い。更に俺達はガストレアウイルスを投与されてより強靭な肉体を手に入れたのだ!!」

 

 叫びと共に繰り出された一撃で後ろに吹き飛ぶ。咄嗟に防御の為に利用した大橙丸がものの見事に砕けている。

 

「相性が悪いか、ならコッチだ!!」

 

【フレッシュ!!パイン!!】

 

 壊れた大橙丸を放り投げて、取り出したのは色鮮やかになったパインロックシード。

 

「新鮮だぜ?しっかり味わいな!!」

 

【ロック・オン!!】

 

 法螺貝が鳴り響く中、走り出したヒトデグロンにイラッと来た。

 

「変身を邪魔すんじゃねえ!!!」

 

「ぬぉ!?」

 

 上半身を思い切り振り被って、頭のオレンジを飛ばし、ヒトデグロンに叩きつける。奴が怯んだ隙にカッティングブレードを下ろす。

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!パインアームズ!!粉砕・デストロイ!!】

 

 右手に持つフレイル、パインアイアンが一回り大きくなっている。ソレを除けばカラーリングが綺麗になっただけで大きな違いはない。

 

「おら!!」

 

「ぬお!?」

 

 遠心力の乗った一撃でヒトデグロンが大きく後退する。どうやら効き目抜群のようだ。

 

「パインパインにしてやるぜ!!」

 

 そう叫び、パインアイアンを振り下ろして、奴の脳天を砕く。

 

「舐ァめるなァッ!!!」

 

 爛々とサングラスの奥の瞳を赤く輝かせたヒトデグロンがパインアイアンを掴んで振り回す。

 

「うおっ!?」

 

 当然、持ち手の俺も一緒に振り回され、今度は公園の噴水にダイブ。

 

「ぷは!!おいおい、水浴びはちょっと早くないか」

 

「死ね、仮面ライダー!!!」

 

 襲いかかるヒトデグロンを見て、俺は慌てて立ち上がる。流石にこの状態での連続攻撃は拙い。

 

「ぬお!?」

 

「ん?」

 

 だが、ヒトデグロンはすぐさま、跳び退く。はて、何故だ?そう考え、俺は視線を奴の足下へ向ける。

 

「……なぁるほど」

 

 そういえば、そうだった。俺はすぐさま噴水から出て、パインアイアンを振りまわして投げる。

 

「ふん、何処を狙っている?」

 

 だが、その一撃は奴の横を通り過ぎる。

 

「ふはは、かかったな!!」

 

「なに!?こ、これは!?」

 

 俺はパインアイアンの鎖を利用して、奴の身体を雁字搦めに縛る。そう、最初からコレが狙いだったのだよ。

 

「お前、水浴びとか好きかぁ?」

 

「や、止めろ!!俺に水をかけるな!?」

 

「オッケー!!!」

 

 グイッと、鎖を引っ張り、思いっきりヒトデグロンを噴水に投げ込む。派手な水飛沫と共に奴が噴水へとダイブした。

 

「ぬ、ぬおぉ!?お、俺の身体がぁ!?」

 

 すると、ヒトデグロンの身体が見事にふにゃふにゃと柔らかくなる。弱点くらい克服してやれよ、死神博士。

 

「うっし、これで、準備は万端!!」

 

「ぬぉ!?」

 

 今度は脳天から地面にダイブさせ、鎖を解く。そしてカッティングブレードを倒して跳び上がる。

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!パインスカッシュ!!】

 

 光り輝くパインアイアンを蹴って、ヒトデグロンへぶつけると奴は巨大なパインの輪切りに身体を拘束される。そして俺は蹴りの体勢に入る。更に追加でカッティングブレードを倒す。

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!パインオーレ!!】

 

 俺とヒトデグロンの間にパインの輪切りが次々と浮かんでくる。

 

「大ショッカーに……栄光あれぇ!!!

 

「セイハー!!」

 

 蹴りを叩きこみ、断末魔の叫びと共に爆発するヒトデグロンを横目に見ながら俺は走り出す。

 

「加勢するぜ、龍玄!!!」

 

「こ……鎧武か、助かった」

 

 おぉ、意外とノリがいいな。そう思いながら飛翔するドグガンダーにパインアイアンを叩きつけて奴を地面に叩き落とす。

 

「色々と聞きたいが、今はブッ倒す!!」

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!パインスカッシュ!!】

 

「あぁ、死体から聞いた方が速いからな!!」

 

【ハイ~!!ブドウスカッシュ!!】

 

 何か凄く怖い事聞こえたけど、今は無視。俺達は助走を付けて跳び、立ち上がったドクガンダーへ向けて、俺は跳び蹴りを、蓮太郎は右の踵と左の蹴り上げで挟みこむような一撃を放つ。

 

「隠禅・上下花迷子・顎門!!!」

 

「セイハー!!」

 

 俺の一撃が先に決まり、怯んだドクガンダーの顔面を蓮太郎の両足が咬み砕く。

 

「うし、次!!」

 

「おぉ!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「終わった?」

 

「あぁ、終わったな。それで、この死体どうします?」

 

「それならそろそろ回収班が来るころだ」

 

 怪人達を殲滅した後、俺達は一カ所に集まって話しあっていた。

 

「しかし、大ショッカーの奴等もしつこいな。静観って言葉を知らないのか?」

 

「ふん、アイツ等の戦力を減らせるのならば望む所だ」

 

 腕を組んで、鼻を鳴らす戒斗に俺はため息を吐く。

 

「今回の奴らだけでも一人じゃ厳しかったんだぞ?」

 

「なら、諦めるか?」

 

「ソレを今聞くか?」

 

 そう返せば、戒斗は小さく笑う。

 

「あぁ、君達ちょっといい?」

 

 振り向けば何と、真司がいた。あ、いや真司さんか?一応、年上っぽいし。というか、凄いな。さっきは遠目で見ただけだけど、ここにいる人達が変身すれば大ショッカーも怖くないかも。まぁ、無理だろうけど。

 

「貴方は?」

 

「俺、城戸真司って言います。【OREジャーナル】で記者やってるんです」

 

「【OREジャーナル】か、拝見しているよ」

 

「あぁ、あの配信ニュースか」

 

 あれ?意外と有名なのか?

 

「確か、子供たちに対して結構友好的な記事を書く会社だよな」

 

 あぁ、成る程。確かに有名だわ。

 

「そうそう!!!んで、今日は【仮面ライダー】の皆にインタビューを―――」

 

「済まない、私は怪人の処理をするので、失礼する」

 

「隊長、俺も手伝います」

 

「あ、それなら俺も」

 

 何と言うか、一瞬で俺しかいなくなる。お互い、無言で見つめあった後。

 

「取り敢えず場所変えますか?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「どういう事ですか!!!」

 

「いや、どう、と言われても」

 

「なんで!!コウタさんが!!インタビューされてるんですか?」

 

「し、仕方ないだろ!?真司さん、給料カットが掛かってるんだし、それに……仮面ライダーについてアピールできるじゃないか」

 

「……それだけですか?」

 

 言えない。真司さんが原作と殆ど一緒で、尚且つアミタと知り合いで、彼女の話で盛り上がって仲良くなったなんて言ったらもう一度、雷が落ちる。

 

「……まぁ、仮面ライダーをアピールする為ならばこういった手段は悪くありません。しかし、一言欲しかったです」

 

「すみません」

 

 聖天子はため息と共に居住まいを正し、紅茶を一口飲む。

 

「まぁ、それはもういいです。それで、今日はコウタさんの意見を聞こうと思いまして」

 

「意見?」

 

「【大ショッカー】についてです。コウタさん、貴方は【大ショッカー】をどう思っていますか?」

 

 その問いに俺は腕を組んで、少し考える。

 

「強敵だな。奴等が現れたのは一週間と少し前。この短期間で奴等はガストレアウイルスを解析し、兵器利用した。異世界へ渡れるという事を踏まえて技術レベルなら俺達よりも数段、いや次元が違うだろうな」

 

「彼等は拠点に私を連れて行くと行っていました」

 

「拠点か。東京エリアの外で俺達が手を出しづらい場所。更に有る程度の機械が有る場所と来れば……」

 

「……【天の梯子】ですね。半壊したとはいえ、あそこはかつての英知が集った場所です。彼らの技術力ならば修復する事も出来るでしょう」

 

「問題はあのレールガンが撃てるかどうかだ」

 

 もし、撃てるのならば俺達は一方的に嬲られる。どう足掻いても俺達【仮面ライダー】は接近戦を強いられ、アイツ等は長距離からの正確且つ強力な狙撃という武器を持っている。

 

「恐らくだが、レールガンを使用する場合、降伏勧告はしてくるだろうな」

 

「根拠は?」

 

「アイツ等は【仮面ライダー】に固執している。だとするならば、俺達の手の届かない場所から俺達が悔しがる様を見たいはずだ。それに市民を恐怖で煽ってエリアの混乱を招く事も出来る筈だ」

 

「……有効な戦術ですね。今、そんな事をされたら」

 

「唯一つ、気になる点がある」

 

 これは俺が最初に思った疑問だ。

 

「なんで、アイツ等がこの世界にやって来たかという事だ」

 

「それは……偶然では?」

 

「確かにそうだろう。だが、異世界への侵略に運頼みは変じゃないか?」

 

「この世界に彼等が【引き寄せられた】と?」

 

「推測でしかないがな。ただ、そうなると原因がある筈だ」

 

 恐らくは……。

 

「全ての元凶は【ディケイド】だ」

 

 背後からの言葉に俺は素早く立ち上がり、聖天子を庇って、ベルトを装着する。

 

「私は争いに来た訳ではない。話を聞いてくれないか?仮面ライダー鎧武」

 

「……先に名乗ってくれないか?」

 

 チューリップハットにメガネとコートの中年が入り口に立っていた。外から開けたようには見えない。恐らくあの【灰色のオーロラ】からやってきたのだろう。ディケイドの所為にするこの中年。やっぱり来たか。

 

「私の名は鳴滝。全てのライダーの味方だ」

 

「……コウタさん」

 

 肩に手を置いた聖天子に頷き、俺は警戒を解く。とはいえ、ベルトはまだ装着したままだが。

 

「鳴滝さん。ディケイドとは……?」

 

「世界の破壊者。または仮面ライダーの敵、といっておこうか」

 

 また、誤解されやすいフレーズを。

 

「つまりディケイドは【大ショッカー】の仲間なのですか?」

 

「いや、奴は既に【大ショッカー】とは袂を分かっている。だが、奴は世界を破壊する者。味方とは思わない事だ」

 

「この世界に【大ショッカー】が現れたのはそのディケイドの所為だと?」

 

「ディケイドは世界と世界の境界に孔を空ける力を持っている。その孔が【大ショッカー】を呼び込んだのだろう」

 

「つまり奴は【大ショッカー】を招いた訳ではないのか?」

 

「だが、切っ掛けを作ったのはディケイドだ。頼む、鎧武。ディケイドを倒し、全ての世界を救ってくれ」

 

 懇願する鳴滝に俺はどうしようか迷う。ディケイドは十人のライダーの力を使う強力な仮面ライダーだ。敵として闘うよりも味方として共に戦った方が遥かに心強い。

 

(だが、問題はディケイドが味方になるという可能性を知っているのが俺だけという事だ)

 

 ただでさえ、厄介事が増えている今現在、あの傍若無人と生意気が同居して服を着ている人間がやってきた場合を考えれば頭が痛くなる。

 

「……そのディケイドは強いのか?」

 

「強い。だが、安心してくれ。心強い味方を近い内に送る。彼らと協力してディケイドを倒してくれ」

 

「【大ショッカー】には手を出さないのですね」

 

「それについては私も考えている」

 

 そういって、安心させるように笑う。すると、奴の後ろに【灰色のオーロラ】が現れる。

 

「奴は近い内に現れる。気を付けるんだ」

 

 そういって、鳴滝はオーロラの中に消えて行った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

『ディケイドか……その鳴滝という男の言葉が真実であれば厄介だな』

 

『だが、隊長。その鳴滝の言葉が本当と決まった訳じゃない』

 

「確かにな。全くの嘘って事もあるだろうし」

 

「しかし、現状。ディケイドが現れた場合、どう対処するのがベストなのか。それが問題です」

 

 斎武のおっさんとの三度目の会談場所へ向かう車内で俺達は鳴滝の情報で小さな会議を行っていた。

 

「先ずは対話だな。いきなり襲いかかってきた場合は仕方ないとしても普通に接してくるなら会話してみないと」

 

「悠長とは思うが、取れる手はそれしかないか」

 

 ため息交じりの蓮太郎に通信先の呉島さんや戒斗も異論はないようだ。

 

「ならば、その時は私も話してみたいですね」

 

「というか、聖天子が話した方が丸く収まりそうだけどな」

 

『危険だろう』

 

「まぁ、そうなんだけどさ」

 

 そう呟いていると車が止まる。信号による停車という感じではない。気になって、並走している呉島さんに声を懸ける。

 

「どうかしたんですか?」

 

『どうやらすんなりと聖居に帰らせてくれないようだ』

 

 その言葉に俺と蓮太郎は素早く車から降りる。俺達は道路に出ると即座にベルトを装着する。

 

「にしても、真正面からか」

 

「一体誰……あぁ、成る程」

 

 そこにいた一団を見て、妙に納得した。

 

「任務御苦労さま。保脇、何か用か?」

 

「あぁ、僕は君に用があるんだ、葛葉コウタ」

 

 そういって、目の前の保脇が手を上げた。瞬間、横の護衛官が発砲。銃弾は俺達の横を通り過ぎて車のタイヤを撃ち抜く。これで、逃げる事は出来なくなった。

 

「お前等……」

 

「蓮太郎。お前は聖天子の傍へ行け。コイツ等は俺が相手する」

 

【フレッシュ!!オレンジ!!】

 

 俺の言葉に蓮太郎は頷いて、車の方へ向かう。

 

「いい銃だな」

 

「あぁ、珍しいかい?まぁ、一般には流通していないだろうからね」

 

 誇らしげに自身の銃を見せびらかす保脇。

 

「当ててやろうか?その銃【大ショッカー】から貰ったんだろ?」

 

 ピタリ、と彼らの動きが止まる。あぁ、やっぱりか。

 

「試作のドライバーとエナジーロックシード。そしてその戦闘データの提供が組織に入る為の条件って所か?」

 

「少し足りないな。それに加えて、お前等【仮面ライダー】の始末が条件だ」

 

「ふぅん、随分と尻軽な事だ。忠誠心とやらはお前等の頭には無いようだな」

 

「当然だろう?私は聖天子様を敬愛するが、忠誠などしていない。元より彼女を伴侶とするのに忠誠心なんて必要ない」

 

「まぁだ、諦めてないのか。アイツの心はお前には向かねえって気付けよ」

 

「その心が貴様に向かっているからこその言葉だなぁ。だが、そんな物、後でどうとでも出来る。そう例えば【大ショッカー】の脳改造とかな」

 

 いい感じのゲスである。これなら心おきなくやれそうだ。

 

「まぁ、取り敢えずご愁傷様」

 

「なに?」

 

「お前、アイツ等が素直にお前等の条件を呑んで組織に入れると本気で思っているのか?アイツ等の事だ。お前等は任務達成の有無に関わらず率先して新しい怪人の素体行きだ」

 

「彼等が僕達を捨て駒に?有り得ないな」

 

 そこで、何故そう思えるのが不思議だ。

 

「僕は選ばれた人間だ!!ならば、僕をあんな醜い怪人にする事は無い」

 

【レモンエナジー!!】

 

 俺達の頭上には輝くオレンジとレモンが浮かんでいる。

 

「まぁ、いいさ。取り敢えずお前等全員倒す。話は後で聞いてやる」

 

「無理だね。君の戦極ドライバーよりも僕のゲネシスドライバーの方が遥かに上だ」

 

【ロック・オン!!】

 

「お前のじゃない、戦極さんのだ。それにスペックが全てなら苦労はしないさ。何事も経験だよ、新人君。変身!!」

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

「一々、ムカツク奴だ。葛葉コウタ!!君は僕にとって邪魔な存在だ!!!此処で君を殺し、聖天子を僕の物にする!!変身!!」

 

【ソーダァ!!レモンエナジーアームズ!!ファイトパワー!ファイトパワー!ファイファイファイファイファファファファファイト!!】

 

 変身が完了した俺は大橙丸を構え、保脇は灰色のソニックアローを構える。試作型というのは嘘ではなく、俺の知っている【アーマードライダーデューク】よりも姿が違う。色は白と青紫のツートンでバランスもやや悪い。加工途中という所だろうか。

 

「ハァッ!!」

 

 叫びと共に突撃する保脇を左の大橙丸で受け止める。思った以上に重い一撃だ。

 

(けど、大ショッカーの怪人と比べたら全然だ)

 

 ソニックアローを受け流し、ガラ空きの胴に右の大橙丸を滑り込ませ、斬る。火花と共に保脇の呻く声が聞こえる。

 

「く、マグレだ!!」

 

「んじゃ、どんどん行こうか」

 

 言葉と共に一歩踏み出せば保脇が一歩退く。だが、遅過ぎる。二歩目で大橙丸を振り、ソニックアローを明後日の方向へ弾いて、もう一本で斬る。

 

「ぐぅ!?」

 

 怯んだ奴の腹を蹴って、距離を開ける。そして跳び上がり、大橙丸を振り下ろす。

 

「セイハー!!」

 

「ぐぁあ!?」

 

 派手に火花を散らして倒れる保脇に対して、俺は油断なく構える。

 

「何故だ!?スペックでは圧倒している筈なのに!?」

 

「経験と、素の力の差だよ。デスクワークが仇になったんじゃないか?」

 

「このぉ!?」

 

 叫び、ソニックアローから光の矢が放たれるが、身体を捻って避ける。どれだけ初見の攻撃だろうと機能を知っている俺には通用しない。仮面ライダーを知っているからこそ、相手の行動が予測できるのはちょっと複雑だが、俺だけの特権だ。

 

「くそくそくそくそくそくそくそくそぉ!!!!!!!」

 

 子供の癇癪の様な声を上げながらソニックアローを放つ保脇に俺は呆れながらも聖天子の方へと向かう矢は率先して弾く。

 

【ロック・オン!!】

 

「おいおい、マジかよ……!?」

 

 俺の後ろでは遠巻きに見る聖天子がいる。避けても、蓮太郎達がいるから問題は無いだろうが、恐らくは周囲に大ショッカーが控えてる筈。

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジスパーキング!!】

 

「仕方ねえな!!」

 

「死ねェッ!!!!!」

 

【レモンエナジー!!!】

 

 両手の大橙丸を掲げ、迫りくる光の矢を見据える。

 

「セイハー!!!」

 

 閃光と同時に凄まじい衝撃によって、俺は吹き飛び、車にぶつかり、大きな音と共に車を凹ませる。そのままズルリと地面に倒れる。

 

「く、クハハハハハ!!そうだ、お前にはソレがお似合いだ。薄汚い鼠は地べたに這い蹲っていろ!!」

 

 そう笑いながら近づいてくる保脇をぶつかった衝撃で落ちたバックミラー越しに見る。身体を動かさず、声も出さないようにしている為、保脇は気絶しているか、若しくは死んでいるだろうと勘違いしているようだ。

 

「ククク、さっきの威勢はどうしたんだ?葛葉コウタ?」

 

 そういって、俺の頭をグリグリと踏みつける。

 

「コレが現実だ!!コレが!!!貴様は無様に這い蹲って死ぬ運命なんだ!!!」

 

 そういって、奴は脚を上げる。俺はその瞬間、跳び起きて大橙丸を振るう。奇襲の一撃は見事に決まり、奴は火花を上げる胸を抑えて後ろに下がる。

 

「なん……だと!?」

 

「そんな運命こっちから願い下げだね」

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジスカッシュ!!!】

 

「セイハー!!!」

 

 至近距離での斬撃に今度は保脇が吹き飛ぶ番となった。

 

「がはっ!?」

 

 これで大人しくなって欲しいが、難しそうだ。よろよろと立ち上がる保脇を見ながら、身体の痛みを確認する。

 

(取り敢えず問題なさそうだが、直撃は避けた方がいいな)

 

 出来れば防御力に優れた【フレッシュパイン】になりたいが、奴の事だ。下手すればアームズチェンジの最中に攻撃してくる可能性もある。

 

「「「変身!!」」」

 

【ソイヤッ!!メロンアームズ!!天・下・御免!!】

 

【カモンッ!!バナナアームズ!! Knight of Spear!!】

 

【ハイ~!!ブドウアームズ!!龍・砲・ハッハッハッ!!】

 

 振り向けば車を挟んで蓮太郎達が聖天子を庇いながら怪人と戦っている。

 

「勝手な事をして……!!全部、全部貴様の所為だ!!葛葉コウタァァッ!!!!!!!!」

 

【レモンエナジー!!】

 

「んなこと知るか!!」

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジオーレ!!】

 

 放たれた一撃を大橙丸で弾く。

 

【レモンエナジー!!】

 

「クソッタレ!!」

 

だが、続く二発目は対応できず、視界が閃光に支配され、身体がバラバラになったかと思う様な衝撃に見舞われる。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「コウタさん!?」

 

 聖天子の悲鳴に振り向けば爆発と共にコウタがリムジンを吹き飛ばして地面にぶつかった。

 

「ハハハハハ!!どうだ!!コレが僕の力だ!!!」

 

 そう高らかに笑いながら保脇が近付く。対するコウタは仰向けに転がってピクリとも動かない。そして奴がコウタの前に立つと脚を振り上げる。

 

「コレが現実だ!!コレが!!僕と!!貴様の!!実力の差だ!!」

 

 声を発しながらコウタの胸や腹に脚を振り下ろす。その度にコウタの身体から火花が生まれ、周囲に硬い音を響かせる。

 

「くそ!?」

 

 今すぐにでも奴の凶行を止めたいが。

 

「余所見とは余裕だな仮面ライダー!!!」

 

 ピラニアを模した怪人が襲いかかる。コイツ等が邪魔だ。

 

「もう止めて下さい!!」

 

 聖天子の声が聞こえる。ピラニアの怪人を蹴り飛ばし、そちらを見れば保脇の前に彼女が立っている。

 

(無茶だ!?)

 

 そう思ったが、現状奴を止めるにはそれしかない為に歯噛みする。

 

「おやおや、聖天子様。一体何を止めろと言うのですか?」

 

 そういって、おどけて告げる保脇の声を聞きながらも俺はブドウ龍砲でピラニア怪人を撃ち、弱らせる。先ずは目の前の奴を倒してからだ。

 

「決まっています。葛葉コウタへの攻撃を止めなさい」

 

「何を馬鹿な。コイツは貴女に集る害虫だ。貴女の傍に居るべき人間ではありません。故に僕が!!この僕が!!【大ショッカー】に選ばれ、貴女の隣に相応しい僕がこの害虫を駆除しているのです」

 

「コウタさんは害虫などではありません。私の護衛で……大切な人です」

 

 逡巡した後、紡がれた言葉に思わず固まってしまう。

 

「な、なにを馬鹿な事を!?貴女は国家元首です!!その貴女が想うべきはこんな!!こんな下等な人間ではありません!!」

 

「地位や名誉で人を測るなんて哀しい事です!!重要なのは……大事なのはその人と共にありたいと想う気持ちです」

 

 そういって、彼女は保脇に背を向けて、倒れているコウタの胸に手を当てる。

 

「私にとってコウタさんはどんな王族や聖人よりも価値のある人なんです」

 

 まるで祈るかのように告げられる言葉に俺はコウタに尊敬と小さな嫉妬を覚えた。たった一人の、大切な人に共にありたいと想わせる人柄と、共にありたいと想う素直な性格に。

 

(俺もお前みたいに素直だったら上手くいけるのか……?)

 

 自分でもバカみたいな考えだった。けど、考えずにはいられない。俺が素直に木更さんに好意を向けられれば、俺が彼女を幸せにすれば。

 

(今更か……?だけど、もしそれが出来るなら)

 

 一歩、前へ踏み込んでもいいのだろうか。

 

「私はコウタさんが好きです。他の誰でもない。葛葉コウタを好いています」

 

「馬鹿な……!?バカな!?バカな馬鹿なばかなバカナばかな馬鹿なァァァァッ!!!!!!!!」

 

 叫び、取り乱す保脇を横目に見ながら俺は違和感を覚える。何かおかしい。

 

(取り乱し方が異常だ。いや、それだけ聖天子に執着していると考えればいいのか?だが、そうだとしても)

 

「蓮太郎!!」

 

「っ!?」

 

 延珠の叫びに頭を下げる。同時にピラニア怪人の爪が通り過ぎる。

 

【ハイ~!!ブドウスカッシュ!!】

 

(考えるのは後だ!!今はコイツを倒す!!)

 

 ブドウ龍砲のレバーを引き、エネルギーが溜まった銃口をピラニア怪人の腹に押し当てる。

 

「くたばれ!!」

 

 トリガーを引くと同時に怪人の腹が爆発。背中から紫色の東洋龍が飛び出し、周囲の戦闘員を巻き込んで爆発する。

 

「認めない!!」

 

 悲痛な叫びに振り向けば保脇が聖天子と倒れるコウタに向けて弓を構えている。

 

「認めない!!葛葉もソレに汚されたお前も!!僕は認めないぃィッ!!!!」

 

 弓の先端に光が集まる。だが、聖天子は自分を盾にするように覆いかぶさる。その行動が決定的だった。

 

「消えろォォォッ!!!!!!」

 

 矢が放たれる。その瞬間、コウタの手が動いた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 靄が掛かった様な薄い覚醒の中、腕の中の温もりを感じ取る。

 

「コウタ……さん?」

 

 視界が晴れれば、聖天子が驚いたように目を見開いている。

 

「良く分からんが、大丈夫か?」

 

「それは……私の台詞です」

 

 涙交じりの声にまたか、と内心でため息を吐く。

 

「取り敢えず、アイツを倒す。聖天子は俺の後ろに」

 

「負けないで下さいね」

 

 その言葉に俺は頷いて立ち上がる。身体の至るところが痛い。これは……終わったらまた入院かな。

 

「葛葉コウタぁ……!!!」

 

 まるでこの世全てを呪うかのような声に辟易する。

 

「お前【大ショッカー】に何をされた?」

 

「貴様の所為だ……貴様のせいで……僕の聖天し様が汚れてシマッタ……」

 

 コレはヤバいな。

 

「葛葉君!!」

 

 声の方へ振り向けば満面の笑みを浮かべた戦極さんが走っていた。なんだろう、思いっきり殴りたい。

 

「君のお陰で【ゲネシスドライバー】と【エナジーロックシード】の調整が済んだよ。コレはそのお礼だ」

 

 そういって、投げ渡されたのはレモンエナジーのロックシードとゲネシスコア。あぁ、成る程そういう事か。

 

「先ずゲネシスコアを戦極ドライバーの左側に装着するんだ」

 

 言われた通りにバックルのプレートを取り外し、ゲネシスコアを取りつける。すると、ロックシードが閉じる。

 

「んで、コッチか!!」

 

【レモンエナジー!!】

 

「さぁ、どうなるかな?」

 

 実験してなかったのか!?そんな驚愕を余所に俺は躊躇するまでもなく、もう一つのロックシードをゲネシスコアに取りつけ、掛金を落とす。

 

【ロック・オン!!】

 

 法螺貝が鳴り響く中で、保脇が笑う。

 

「今更、ロックしーどが二つにフエた所デ!!」

 

「まぁ、見てのお楽しみさ」

 

【ソイヤッ!!ミックス!!フレッシュ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

 その音声と共にオレンジと頭上のレモンが合体して、新たな形となって俺に装着される。

 

【ジンバーレモン!!ハハーッ!!】

 

 音声が響く中、左肩に大橙丸を担ぎ、右手のソニックアローを保脇に向ける。

 

「ここからは……俺のステージだ!!」

 




投稿完了!!今回は前半戦。ジンバーの活躍は次回に持ち越しです。悔しいでしょうねぇ

Q なんか、保脇の様子おかしくね?

A 彼らは【大ショッカー】に接触しています

次回は皆さん、地味に気になっていたペコの話と前回の話で小さく出ていたアイツの話を出します。えぇ、別にギャグキャラとして出したわけではありません。ちゃんと彼にも役割があります。お楽しみに


それにしても、ヒーロー大戦の映画を見て思うのですが、近年のオールライダー物はそろそろライダー同士の戦いを止めた方がいいと思うのです。仮面ライダーは人類の希望であり、永遠のヒーロー。そのヒーローたちが手を取りあって闘うのではなく、互いに拳を向けて闘い合うのは見てて、何か切ないモノがあります。まぁ、所詮は作者の独りよがりなのですが、個人的には【MEGAMAX】の頃の様な作品が出てほしいな……自分で作ればいいのか?



次回の転生者の花道は……



「夏世君、もう少し待ってくれないか?今いい所なんだ。何故かって?此処まで複雑な乱戦は極めて稀だ。貴重なサンプルデータが取れるじゃないか」



「ええい、次から次へと!!この世界は仮面ライダーのバーゲンセールでもやっているのか!?」



「我等【大ショッカー】に失敗は許されない。本来ならば貴様等は此処で処分するのだが、今は少しでも素材が欲しいのでな」



「そうや。なんてったって、ワイはがんがんじい!!仮面ライダーの用心棒で最高の相棒やからな!!ガウトレアなんぞ、ワイに掛かればちょちょいのちょいやで!!」


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第十六話 決着 世界を越えた日本一のヒーロー!?

お待たせしました。今回で一応は原作二巻は終了です。この後は間に数話挟んで三巻、四巻という感じです。では、本編をお楽しみください


「くっ!?次々とキリが無い!!」

 

 ブドウ龍砲で戦闘員を蹴散らす中、俺が叫ぶ。無数の戦闘員がまるで蟻の大群のように迫ってくる。一人一人は大したことはなく、数で押されても問題は無い。だが、そこに怪人が加われば話は別だ。

 

「蓮太郎!!」

 

 後ろの延珠が叫び、ある物を投げる。慌てて受け取ればそれはロックシードだ。

 

「お前、なんでコレを?」

 

「前にコウタにねだったら貰ったのだ」

 

 ドヤ顔で胸を張る事じゃないだろ。そう心の中で突っ込みをしつつ、錠前を掲げる。

 

【キウイ!!】

 

「サンキュ、延珠!!」

 

「もっと、感謝しても良いのだぞ?」

 

【ロック・オン!!】

 

 また後でな。

 

【ハイ~!!キウイアームズ!!撃・輪!!セイヤッハッ!!】

 

 ブドウとは違い、銃ではなく巨大な丸い刃。恐らくは【チャクラム】を両手に持つ。

 

「おら!!」

 

 気合いと共に投げればチャクラム、キウイ撃輪はエネルギーを纏って十数人の戦闘員を纏めて薙ぎ払う。

 

「これならやれる!!」

 

 戻ってきたキウイ撃輪を手に取り、回転しながら周囲の敵を攻撃、突撃する。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

【ソイヤッ!!スイカアームズ!!大玉・ビックバン!!】

 

 巨大なスイカの中に入り、まるで特撮のロボットを操作する様な感覚で腕を振るえば右手に装備した薙刀【スイカ双刃刀】を振るって戦闘員を薙ぎ倒し、その先に居るキノコの怪人へと突撃する。

 

「おのれ!!猪口才な!!」

 

 だが、対する怪人は素早く動き、こちらを撹乱するように移動する。そして背後に回った怪人が体当たりするも衝撃が全く来ない。

 

「な、なにぃ!?」

 

【ソイヤッ!!スイカスカッシュ!!】

 

「お前だけに構ってられないのでな!!」

 

 エネルギーを纏った薙刀で怪人を切り裂き、爆発させる。しかし、強力なのはいいが、取り回しが難しいな。

 

【レモン!!】

 

 巨大な鎧が消え、代わりに頭上にはレモンが現れる。

 

【ロック・オン!!】

 

「貰った!!」

 

 変身途中を好機と見たムササビの怪人が襲いかかる。

 

【カモンッ!!バナナスカッシュ!!】

 

「ハァッ!!」

 

 その怪人の頭上から奇襲した戒斗の一撃により、倒される。

 

【ソイヤッ!!レモンアームズ!!It’s Fighting Time!!】

 

「戒斗か、助かった」

 

「礼は後で纏めて貰います」

 

「ふ、そうだな」

 

 中世の騎士風の鎧を着た私はレイピアを構えながら、新たに取りだしたロックシードを戒斗に渡す。

 

「これは?」

 

「先日、凌馬経由で受け取った物だ」

 

【チェリー!!】

 

「ふん、渡すのなら直接渡せばいいものを」

 

【ロック・オン!!】

 

「仕方ないさ。彼には新しいロックシードを優先的に凌馬に渡す仕事がある」

 

【カモンッ!!チェリーアームズ!!The Immortal Hero!!】

 

 北欧のバイキングを模した様な鎧を纏った戒斗は専用武器である二本一対のモーニングスターを振りまわす。

 

「さぁ、片付けるぞ!!」

 

「了解だ!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「プロフェッサー!!此処は危険ですので、離れましょう」

 

「夏世君、もう少し待ってくれないか?今いい所なんだ。何故かって?此処まで複雑な乱戦は極めて稀だ。貴重なサンプルデータが取れるじゃないか」

 

 その言葉と共にプロフェッサーの頭上からムカデの怪人が襲いかかってくる。

 

「オラァッ!!」

 

【クルミアームズ!!Mister!!Knuckle Man!!】

 

 寸での所で変身した将監さんの一撃が怪人を吹き飛ばす。

 

「ブッ飛べ!!」

 

【クルミオーレ!!】

 

 両手の篭手に茶色のエネルギー溜まった瞬間、襲いかかる怪人にカウンターの拳を叩きこめば怪人が断末魔の悲鳴と共に爆発する。

 

「夏世!!援護しろ!!この変態はアッチの奴等が終わらない限り動かねえぞ?」

 

「……そうですね」

 

 認めたくないけど、その通りだ。私は先日、プロフェッサーから受け取った量産型戦極ドライバーを【二つ】取り出す。

 

「延珠さん!!」

 

「ん?おぉ!?」

 

 驚きつつも、受け取った延珠さんに更にロックシードを投げる。

 

「使い方は?」

 

「蓮太郎が家で変身ポーズの練習をしていたから覚えているぞ!!」

 

 何をしているんですかあの人は。軽く頭痛がするが、無視して自身のロックシードを掲げる。

 

【ピーチ!!】

 

【マスカット!!】

 

 私の頭上にピーチが、延珠さんの頭上にマスカットが現れる。

 

【ロック・オン!!】

 

 私達のベルトからエレキギターの音が響く。

 

「「変身!!」」

 

【ピーチアームズ!!推参・戦姫!!】

 

【マスカットアームズ!!見参・猛虎!!】

 

 お互いに中華風の鎧を装備し、私は弓を、延珠さんは虎の顔を模した篭手と脚甲を装備している。

 

「ええい、次から次へと!!この世界は仮面ライダーのバーゲンセールでもやっているのか!?」

 

 そんな意味不明の言葉を叫びながら蟻地獄とモグラの怪人が襲いかかる。

 

「オラオラ、どうした!!」

 

 背後ではクラゲ、三葉虫、アリクイの怪人三体を相手に立ち回る将監さんがいる。同じ量産型、それも私達よりランクが低いロックシードなのに凄い。

 

(というか、さっきからプロフェッサーの視線が……研究の為なのは分かりますけど訴えたら勝てるレベルですね)

 

 そんな事を考えながら私は後退し、攻撃を避ける。

 

「ハァッ!!」

 

 空いた間合いに滑り込むように入った延珠さんが虎のエネルギーを纏った蹴りで怪人を浮かせる。その時には既に私もエネルギーの矢を番えて、同じくエネルギーの弦を引き絞っている。

 

「行け……!!」

 

 告げると同時に矢が放たれ、怪人の胸で爆発する。そして爆風から跳び出した延珠さんがもう一方の怪人へと跳びかかる。

 

【マスカットスカッシュ!!】

 

「ダァッ!!」

 

 エネルギーが虎の顔となって延珠さんを包み、怪人へと突撃して爆発する。

 

【ピーチスカッシュ!!】

 

 右手の手甲から溢れ出たエネルギーは先程の倍以上の大きさの矢を作り出す。ソレを私は同じように巨大化した弓を地面に突き刺して矢を番え、弦を思いっきり引っ張る。

 

「これで……終わり!!」

 

 弦を離せば思わず転んでしまいそうだったが何とか踏ん張る。そして放たれた弓は怪人を貫き、背後の戦闘員を巻き込んで爆発する。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「オラッ!!」

 

「グあ!?」

 

 ソニックアローと大橙丸の連続攻撃に保脇が倒れる。

 

「くぅ……何なンだ!!そノ姿ハ!?」

 

「見て分からないか?ヒーロー物でよくある強化フォームだよ」

 

「ふザけるナぁ!!!」

 

 叫び、襲いかかるがその一撃をソニックアローで受け、大橙丸で反撃して、距離を離す。

 

「そろそろ終わりにしようぜ。これ以上は時間の無駄だからな」

 

【ロック・オン!!】

 

「殺しテやル……!!」

 

 レモンエナジーをソニックアローにセットしてカッティングブレートを倒す。

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジスカッシュ!!】

 

 大橙丸を放り投げ、弦を引く。俺と保脇の間にレモンとオレンジの輪切りが交互に浮かぶ。

 

「死ネ!!葛葉コウタァァッ!!!!」

 

「俺が死ぬと泣く人がいるからな。死ねないよ」

 

【レモンエナジー!!】

 

 放たれた矢はレモンとオレンジを通過し、もう一方の矢を砕いて保脇にぶつかり、爆発。

 

「ぐぅあぁ!?」

 

 爆発によって吹き飛び、その衝撃で奴のベルトとロックシードが砕け散った。

 

「がぁっ!?」

 

「た、隊長!?」

 

 倒れた保脇に今まで遠巻きで眺めていた奴の部下が悲鳴を上げる。

 

「まぁ、保った方かな」

 

 そういって、ビデオカメラ片手にやってきたのは戦極さんだ。

 

「やっぱり、何か仕込んでたんですね」

 

「仕込んだのはデータを収集する為の発信機だ。尤も、先程までで充分にデータは取れたからもう不要だよ。アレは試作品だからね。なら、それに使う素材も既存の物とは違うのは君も分かるだろう?」

 

「……わざと脆く作ったのか?」

 

「さぁ?それはどうだろうね」

 

 こちらの反応を楽しむ様な言葉に思わずため息を吐き、同時に身体から力が抜ける。

 

「コウタさん!?」

 

「だ、大丈夫だ。少し目眩がしただけだから」

 

 駆け寄る聖天子に声を掛ければ戦極さんが聖天子の腕を掴む。

 

「聖天子様、まだ終わってませんよ?」

 

「え?」

 

「ほら、本命がまだそこに居ますし」

 

「ふふふ、面白い物だな」

 

 ゾクリと背中に氷塊を当てられた様な悪寒が奔る。

 

「ハァッ!!」

 

【レモンエナジー!!】

 

 反射的に振り向くと同時に矢を放つ。だが、その矢はソイツに当たる瞬間に弾かれて、道路を破壊する。

 

「破壊力も申し分ないようだ。成る程、興味深い」

 

 そこに居たのは白いスーツに黒いマントを羽織った老人。

 

「お前は……死神博士」

 

「如何にも。こうやって直に話すのは二度目だな。とはいえ、今日の私は別の仕事があるのだよ」

 

 そういって、視線を向けるのは呻く保脇とその部下たち。そして完全に壊れたゲネシスドライバーとレモンエナジーロックシードだ。

 

「ふむ、君達の発明には興味があったのだが……使い手が悪かったようだな。正直、拍子抜けだ」

 

 そういって、指を鳴らせば戦闘員達が保脇の部下たちを拘束して無理矢理立たせる。

 

「な、何をする!?」

 

「何を?可笑しなことを聞くのだな。最初に言った筈だ」

 

 そういって、死神博士は部下に告げる。その眼はまるで奈落の底のように暗い。

 

「我等【大ショッカー】に失敗は許されない。本来ならば貴様等は此処で処分するのだが、今は少しでも素材が欲しいのでな」

 

「へぇ、随分と優しいんだな。何か良い事でもあったのか?」

 

 そう告げれば死神博士は口端を持ち上げる。

 

「まぁ、それなりにね。楽しみかね?」

 

「まぁ、少しはな。だが、何が来ようとブッ倒してやるさ」

 

 身体に渇を入れ、ソニックアローを杖代わりに立ち上がる。

 

「ふふふ、仮面ライダーはこうでなくてはな。ならば、最初は彼の相手をしてもらおうか」

 

 そういって、取り出したのは小型のリモコンだ。そのボタンをゆっくりと押し込む。

 

「う……!?ぐゥあア亜ぁ亞ァッ!!!!!!!!」

 

 今まで倒れ伏していた保脇が物理法則を無視したかのように立ち上がり【変形】し始める。

 

「聖天子!!」

 

 慌てて、聖天子を背中に隠す。コレを見せる訳にはいかない。

 

「成る程、既に改造済みか。まぁ、当然だね」

 

「その通り。仲間にするのはいいが、裏切られた場合は面倒なのでな。彼だけは寝ている間に改造しておいた。まぁ、突貫作業故に雑な仕事なのは許してくれ。私も歳には勝てないのだ」

 

 苦笑と共に告げられた言葉は【変形】を繰り返す保脇の潰れる肉の、砕ける骨の音がBGMとなって俺達に届く。

 

「プロフェッサー、聖天子を連れて下がってくれ」

 

「分かった。いいデータを頼むよ」

 

 その言葉と共に戦極さんと聖天子が下がる。そして【変形】を終えた保脇だったモノが立ち上がる。

 

「……蟹とは、随分と可哀想な姿になったな」

 

 三メートル近い巨躯。分厚く、ゴツイ装甲。そして両手には身体よりも巨大な鋏が地面に突き刺さっている。強いて例えるなら【ボルキャンサー】と【カニロイド】を合体させたような感じだ。

 

「さて、試作の性能を確かめるとしようか」

 

 言葉と共にコンクリートが鞭によって砕かれ、ソレが合図となって保脇が雄叫びを上げながら突進してくる。

 

「っと、危ない、な!!」

 

 振るわれた一撃を避け、脇腹に至近距離で矢を放つ。脇腹に当たった矢は爆発し、ダメージを与えるモノの、奴の装甲を削るだけに留まる。

 

「これは……面倒だな」

 

 ジンバー形態でも削る事しか出来ないその装甲に内心で舌打ちする。

 

「とはいえ、やらなくちゃ駄目だよな!!」

 

 叫びと共に振るわれた一撃を跳んで避け、奴の目に向けて矢を放つ。

 

「ほほう?やるな、確かに頭部は他の場所と違って装甲が薄い。だがな」

 

 瞬間、腹部に衝撃が来た。

 

「がっ!?」

 

「弱点をわざと晒しておくほど、私も愚かではないさ」

 

 だったら、ヒトデンジャーの弱点直してやれよ。そう言いたいが、余りの衝撃に身動きが取れない。

 

「それと、目に攻撃された場合、奴は私の制御下から外れ、独自に動きだす。気を付けたまえ」

 

「それを……早く言え!!」

 

 叫び、矢を放って俺に標的を絞らせる。振り向いた奴の腹の中心に連続で矢を放つ。

 

「ったく、やりにくいな」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ふむふむ、成る程ね~。ほほう?これは面白い」

 

「あ、あのプロフェッサー?コウタさんの援護はしなくていいんでしょうか?」

 

「え?いやいや、冷静に状況見ましょうよ。私は非戦闘要員。且つ貴女はこの場では一番に狙われてもおかしくない立場のお方だ。加えて、後方の彼等もまだ怪人達を一掃できていない。この状況では彼に頑張ってもらうしか方法はありませんよ」

 

「けれど……」

 

 そう呟き、視線を戻す。そこには怪人となった保脇の攻撃を紙一重で避けながらも攻撃を加えるコウタさんがいる。

 

「しかし、彼は何故、あれほどの連続攻撃を……?あぁ!!成る程。そういう事か。ふふ、やはり彼は面白いね」

 

「あの、一体何の話をしているのですか?」

 

 何か一人で盛り上がっているプロフェッサーに問いを投げる。

 

「おや?気付いていないのですか?まぁ、直ぐに分かりますよ」

 

 ニヤリ、と笑うプロフェッサーに思わずイラッと来ましたが、我慢です。

 

「しかし、そうなると決め手に欠けるね。どうするのだろうか」

 

 そんな事を呟きながら嬉々としてビデオカメラで戦っているコウタさんを撮っている。その横では良く分からない機械が音を鳴らしていたりする。

 

(あれ?録画……?)

 

 ふと、嫌な予感が頭を過る。

 

「あの……プロフェッサー?先程の私と保脇さんとの会話は……勿論、撮ってませんよね?」

 

 そう聞くと、プロフェッサーはキョトン、と不思議そうな顔をする。

 

「何を言っているんですか、聖天子様」

 

「そ、そうですよね!!撮ってませんよね!!」

 

 そう言うと、プロフェッサーは笑顔でサムズアップする。あぁ、良かった。プロフェッサーもちゃんと常識あるようだ。

 

「勿論、録画しているに決まってるじゃないですか。見たいのなら、高画質で見れますよ♪」

 

 今度こそ、私はプロフェッサーを張り倒した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「なんか、後ろが賑やかだな」

 

 後ろを盗み見れば、聖天子がいやに腰の入ったビンタを戦極さんにお見舞いしている。だがしかし、戦極さんは満更でもなさそうである。

 

(まぁ、ある意味ご褒美でもある……のか?)

 

 美少女というカテゴリより上位に位置する聖天子の一撃だ。痛いには痛いが、それでも一部の人間にはご褒美以外の何物でもないだろう。

 

「おっと、今のは危なかったな」

 

 そう告げるも相手は奇声を上げながら襲いかかる。あぁ、何と言うか、コイツはもうヒトじゃないんだな。

 

「仕込みは済んだし、とっとと、終わらせて楽にしてやるよ」

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジスカッシュ!!】

 

 充分に距離を取った後、弦を引く。相手は爪でコンクリートを抉りながら進んでくる。

 

「行け!!」

 

 言葉と共に矢を放つ。放たれた矢は寸分違わず、先程から続けざまに攻撃し、焦げた腹部にぶつかり、爆発する。

 

「戒斗!!」

 

「分かっている!!」

 

【カモンッ!!バナナスパーキング!!】

 

 俺の言葉にすぐ横で返事した戒斗がバナスピアーにエネルギーを蓄えながら突っ込む。その先には矢が当たった腹部に罅が入った奴の姿がある。

 

「今まで殺した子供たちの痛みを思い知れ!!」

 

 叫び、繰り出した一撃は罅を貫き、奴の腹部に深々と突き刺さる。同時に奴の背中から巨大なバナナが突き抜ける。

 

「葛葉!!」

 

【ロック・オン!!】

 

「了解!!」

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジオーレ!!】

 

「くたばれ!!」

 

 叫びと同時に矢を放つ。レモンとオレンジの輪切りを通過する度に加速する矢は奴の腹部、空いた穴にぶつかり、爆発。保脇を完全に倒す。

 

「ふぅ、助かったぜ、戒斗。まさか、本当に来てくれるとはな」

 

「ふん、俺を誰だと思っている」

 

 素でこういう台詞が出るのは一種の才能だと思う。

 

「大丈夫か?って、なんだ、その姿!?」

 

「ん?あぁ、蓮太郎か。こっちは終わったぞ」

 

 どうやら後ろの怪人軍団は全て片付いたらしい。そう思っていると拍手が響き渡る。

 

「お見事。やはり、仮面ライダーはこうでなくてはな。せめて、これくらいの能力が無ければ張り合いがない」

 

 そう上機嫌に告げる死神博士は手を振って、戦闘員を下がらせる。

 

「さて、私はこれでお暇しよう。ではな、仮面ライダー。また会おう」

 

 そういって、死神博士は高笑いと共に消えていった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「おぉ、戻ったか死神博士」

 

 暗闇の奥からライトに照らされて、死神博士が帰還した。

 

「今回と前回で随分と怪人が減らされてしまったな」

 

 私の言葉に博士は小さく頷く。

 

「しかしながら、収穫はあった」

 

「ほう、収穫とは?」

 

 ブラック将軍の言葉に博士は懐から二つの錠前と鎧武達の使うベルトを取り出す。

 

「鎧武のベルトに着いていた物と此方は施設に潜り込ませた者達が持ってきた物だ。尤も、潜り込ませたものは軒並み、誰かに倒されたようだがな。火事場泥棒の様な真似だが。まぁ、問題ないだろう」

 

「ふむ、ソレがロックシードか」

 

 血の様に紅いモノと骸骨状のモノ。

 

「コレを使うと?」

 

「無論、我々は必要ない。【新たな同志】に渡そうと思ってね」

 

「成る程、あの二人か。それで?あの二人の【修復】は終わったのかね?」

 

 ゾル大佐の言葉に戦闘員から端末を受け取った博士が頷く。

 

「うむ、どうやら終わったようだ。どうかね、地獄大使。彼らにこれらを渡してくれないかね?」

 

「構わんよ。私も彼等の真意を知りたいのでね」

 

 とはいえ、真意も何もないと思うがな。そう小さく笑い、私は受け取った物を戦闘員に渡し、廊下を歩く。そして一つの扉の前で止まる。

 

「開けろ」

 

「イーッ!!」

 

 戦闘員が扉を開ける。同時に戦闘員の首が跳び、鮮血が舞う。

 

「こらこら、お嬢さん。やんちゃはいけないな」

 

「あれ……?」

 

 流れる様な動作の斬撃を避け、襲撃者である幼き狂戦士の肩を優しく叩く。少女はその赤き瞳で不思議そうに私を見る。

 

「君のお父さんに話をしたいのだが?」

 

「小比奈、控えなさい」

 

「はい、パパ」

 

 部屋の奥から声が響く。その言葉に少女、小比奈が扉の奥へと消える。私はベルトとロックシードを消滅する戦闘員から回収してから部屋へと目を向ける。

 

「具合はどうかね?」

 

「あぁ、大分いい」

 

 そこにはマスケラを付け、簡素な服を着た男性が簡易ベッドに腰掛けている。

 

「瀕死の私を救い、あまつさえ更なる闘いへと踏み出せる【力】を与えてくれた事に感謝しよう」

 

「気にしなくて良い。永遠に戦い続ける。それはこの【大ショッカー】が掲げる【異世界侵略】の一助になるからと我々が考えた故だ。その考えは今も変わっていないかな?」

 

 私の言葉に彼はくつくつと喉の奥で笑う。

 

「無論ですとも。私はナニに成ろうとも闘いが出来ればそれで」

 

「宜しい。では、君達にコレを与えよう」

 

 そういって、私は小比奈にベルトとロックシードを渡す。彼女は瞳を輝かせる。

 

「パパ、パパ!!コレ、鎧武が使っているのと同じ!!」

 

「分かったから、落ち着きなさい。ふむ、コレを何処で?」

 

「奴等から奪って来たのだ。先ずはコレのデータが欲しい。それに君達も新たな力に慣れるまでの間は必要な物だろう」

 

「成る程……では、有難く使わせて貰おう」

 

「私、こっちの骸骨がいい!!」

 

「おやおや、ならば私はコッチだね」

 

 仲睦まじい親子のようでいて、爪を砥ぐ獣の様な二人に私は良い拾い物をしたのだと改めて実感した。

 

「では、私はこれで失礼しよう」

 

 そういって、私は部屋から出て行く。彼、蛭子影胤の肉体にはこの世界特有の技術が利用されていた。その技術は死神博士には古過ぎて興味がないようで、彼の肉体を強化する為に丸々改造したようだ。本来ならばその時点で精神が崩壊してもおかしいのだが、彼はソレに適応した。

 

「それにあの娘も見事な逸材だ」

 

 そして特筆すべきはあの少女。既に肉体の侵食率が30%を越えていた為に博士が実験中の技術を利用して新たに生まれ変わった。彼女は我々の予想を遥かに上回る程の性能を見せた。

 

「そして仮面ライダーの力。くくく、これからが楽しみだ」

 

 巨大な空間の前で私は告げる。

 

「ステージⅣ【アルデバラン】よ。お前もそう思うだろう?」

 

 視線の先に居る巨大なガストレアへと。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「それにしても、会談蹴って本当に良かったのか?」

 

「構いません。あの方と話す事はもうありませんでしたし。無用なストレスを抱える必要もありませんので」

 

 そう笑顔で言われては、こちらは何も言えない。俺は紅茶を一口飲む。

 

「しかし、死んだ奴に全部押し付けるのも何か、後味悪い様な」

 

「でも、保脇さんとその配下が【大ショッカー】と繋がっていたのは事実ですし」

 

「まぁ、そうなんだよな」

 

 今回の聖天子暗殺事件は全て【大ショッカー】と結託した保脇以下、護衛官の所為という事になった。驚くべき事にこの報告に異議を唱える者はおらず、逆に納得した者が多かった。どんだけ人望無いんだよ、アイツ等。

 

「まぁ、取り敢えずは一件落着か」

 

「そうですね。大本は片付いていませんし、新しい問題も出てきましたが、取り敢えずは解決です」

 

 お互いにため息を吐いて、そう告げる。ふと、身体に痛みが奔る。

 

「辛いですか?」

 

「まぁ、これくらいは大丈夫と強がってみる」

 

「辛いんじゃないですか……」

 

 ジト目で睨まれ、苦笑する。あの戦いで入院とはいかないまでも、それなりに治療を受けた。とはいえ、民警御用達の医療グッズを体中に張り付けて一日療養という、物凄く大雑把な物だったが。お陰であれだけ痛みを訴えていた身体が六割方回復した。

 

「まぁ、まだ本調子じゃないから。暫くは平和でいて欲しいけどな」

 

「そうですね。束の間の平和、とは言いたくありませんが、しっかり休んで下さい」

 

「あぁ、了解だ」

 

 そういって、お互いに笑う。ふと、聖天子が思い出したかのように聞いてくる。

 

「そういえば、ティナさんは結局何処で暮らす事になったんですか?」

 

「あぁ、それなら」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「それじゃ、ティナちゃんの引越祝いに乾杯!!」

 

「乾杯……」

 

「乾杯」

 

 そうザックの楽しげな言葉と共にコップの軽い音がリビングに響く。

 

「それにしても、まさか戒斗が女の子と同棲するなんてな」

 

「誤解を招く様な言葉は止めろ。単に保護者が俺になっただけだ」

 

「ティナちゃん。基本、戒斗はこんな奴だからな。覚えておけよ?」

 

「大丈夫です。私、戒斗さんのこういう不器用な所も含めて、大好きですから!!」

 

「……逃げ場が無くなったな、戒斗」

 

 ニヤニヤと俺のコップに炭酸を注ぐザックに俺は視線を外す。

 

「それにしても、戒斗さんって大きな家に住んでいるんですよね」

 

「まぁ、コイツの場合、あんまり周りに金を使わないからな。この家だって昔、チームメイトの溜まり場として買った様なモンだしな」

 

 そういって、ザックは苦笑する。確かに俺は身の回りの物は食料と最低限の衣服のみだ。お陰で貯金が凄い事になっている。

 

「あの、チームっていうのは?」

 

「ザック、果物があった筈だ。持ってきてくれ」

 

「……分かった。悪いけど、ティナちゃんも手伝ってくれない?」

 

「え?あ、はい」

 

 そういって、二人がリビングを出て、階段を上がっていく。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「あの、ザックさん」

 

「ん?どうかした?」

 

「私、失礼なこと聞いちゃいましたか?」

 

 戒斗さんの遮る様な言葉を思い出して聞く。

 

「ん~、そういう訳じゃないんだよね。チームの事になるとペコを思い出しちゃうからな」

 

「ペコ……さん?」

 

 ザックさんは頷き、廊下の一角で止まる。そこは戒斗さんの部屋だ。

 

「もう三年も前になるかな。俺達はさ、ダンスやってたんだよ」

 

「ダンス、ですか?」

 

「そう、といってもストリートで踊る様な感じだけどね。俺と戒斗とペコと、後二人。チームバロンって名前で踊ってたんだ」

 

 そういって、部屋に入ったザックさんが手招きする。ちょっと、ドキドキしながら入る。

 

「えっと……あ、あった」

 

 そういって、箪笥の上に置いてある写真立てを見せてくれた。今よりちょっと幼い感じのザックさんや戒斗さん。そして満面の笑顔で映っている男の人とその人に頭を撫でられ、照れている様に笑う眼帯の女の子が映っていた。

 

「この照れてるのがイヴ。んで、撫でてるのがペコだ」

 

「ペコさん……優しそうですね」

 

「あぁ、優しい奴だったよ」

 

 そういって、ザックさんはベッドに座る。

 

「イヴはさ、ペコが連れて来たんだ。俺達はそこまで【呪われた子供たち】を毛嫌いしてなかったからトラブルは無かったんだけど。周りは違った」

 

 やっぱり、この子は私と同じ子なのだ。

 

「イヴは眼帯している目、右目だけ赤くてさ。ソレを隠す為にペコが自分で眼帯を作ったりとか、色々と世話してたんだ。きっと、死んだ妹をイヴに重ねてたんだと思う。まぁ、取り敢えずロリコンとかシスコンとか言われても違和感ない位に猫可愛がりしてたって訳だ」

 

 ニッと笑って告げるザックさんはだけど、と続ける。

 

「周りの大人は皆、イヴを異分子として扱っていた。俺達は元々アウトローな感じだったけど、イヴは完全に人じゃなくてガストレアとして扱われていた。身内がそう扱われたのを見て、随分と腹が立ったな。何度、イヴを罵倒した奴を殴ろうと思ったか」

 

 パン、と自分の拳を掌に当てて、そう呟いたザックさん。

 

「けど、そんな中でペコだけは違ったんだ。一人でもいい。イヴの事を理解し、認めてくれるように色んな大人たちを説得し始めたんだ」

 

「……凄い人ですね」

 

「あぁ、凄い奴だ。大切な家族を失くしたからってのもある。だから、今度こそは失くさないように頑張ったんだ。その結果……」

 

 そういって、ザックさんは悪いと断ってから窓を開けた。夜の風が冷たくて、少しだけ部屋の温度が低くなる。

 

「アイツは……大人たちに殺された」

 

「え……?」

 

 ザックさんは懺悔するように呟いた。

 

「俺達が見付けた時はもう遅かった。息をして、話が出来たのが奇跡だったよ」

 

 信じて、言葉を伝えて、その結果が理不尽な暴力。

 

「アイツ等の言い分はこうだ。『ガストレアを飼っている裏切り者を粛清した。俺達は正義の行いをしたんだ』ってな。驚いたのが、そいつ等。殺人を犯したのに罪の意識が全くないんだ」

 

「そ、その人たちは?」

 

「今ものうのうと生きてるよ。警察にも届は出した。けど、アイツ等は【呪われた子供たち】の事を話したら直ぐに掌返してきやがった」

 

 そういって、大きくため息を吐いたザックさんは外を見る。

 

「それで気付いたんだ。今この世界は間違っている。こんな理不尽が罷り通るなんて絶対に間違ってるってさ。だから、戒斗と俺は聖天子様が掲げる【ガストレア新法】を指示しているし、絶対に成功させてやるって決めたんだ」

 

 そういって、ザックさんは自分の手を見る。

 

「結局は力が全てなんだ。力が無い奴は何をやっても認められない。悪と言われれば、ソレを受け入れるしかない。それでもアイツは、戒斗はその力で世界を変えてやるって言ったんだ」

 

「そう……だったんですか」

 

 この前、私を救ってくれた戒斗さんの為に自分の命を捧げる。そう告げた時に見た戒斗さんの怒りが少しだけ理解出来た。

 

「戒斗さんは優しい人なんですね」

 

「まぁ、不器用だけどな」

 

 そういって、ザックさんはベッドから立ち上がる。

 

「まぁ、ティナちゃんの気持ちも分かるさ。けど、一緒にいることだって大切なことだ」

 

 そういって、ザックさんは私の頭を撫でる。

 

「ティナちゃんは今まで戦う以外の事は知らなかったんだろ?」

 

「はい、私に出来る事なんてそれぐらいですから」

 

「そんな事ないよ。一緒に居るだけで、帰りを待ってくれているって感じるだけで随分と違うもんさ」

 

 そうなんだろうか。今まで、そんな事は思った事なかった。けど、もしそうなら。

 

「戦わなくてもその人を支えられるんでしょうか?」

 

「むしろ、戦う以外で支える方が多い様な気がするな。まぁ、やっぱりそこはティナちゃん自身が決めないといけないから。俺や戒斗は口出しできないな」

 

 そう困った様に笑うザックさんと共に、ベランダに生っている果物を適当に持って、下に降りる。

 

「戒斗さん……」

 

 私はどうすればいいんでしょうか?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「う~ん、やっぱり映司はんにこれ以上金貰うんは拙いな~」

 

 夜空を眺めながら呟いた言葉の主、手作り感MAXな鎧を身の纏った男性【がんがんじい】がバイクを走らせている。

 

「この世界に来てからというものの、映司はんの好意に甘えてばっか。この前なんてユーリはんに白い目で見られてワイはもう……」

 

 ず~ん、という効果音が聞こえそうな程に沈み込んだがんがんじいはふと、とある事に気付く。

 

「そういえば、此処何処や?」

 

 周囲を見れば、道路は舗装されているものの、何処からどう見ても廃墟が目の前に広がっている。

 

「あぁ、成る程。此処が外周区やな。しかし、本当に何もないんやな~」

 

 そうバイクを止めて、周囲を見回した時、彼はとある事に気付く。

 

「そういえば、外周区には夜な夜なガストレアが出るって話やったな」

 

 ガストレア。それはこの世界にとっての脅威。即ち悪、ならば退治するは正義の味方が順当だろうか。

 

「ま、まぁ、ワイならガストレアなんぞちょちょいのちょいやがな!!」

 

 ダッハッハッハ、と笑うがんがんじいの背後でコンクリート片が派手な音を立てて崩れ落ちた。

 

「ヒエ~!?ワイなんか食べたって腹壊すだけやで~!!」

 

 滂沱の涙を流し、情けなく近くのコンクリート片の壁に隠れるがんがんじい。何とも情けないが、彼は大体こんな感じだ。

 

「おじさん、だぁれ?」

 

「うひゃ~!?」

 

 突然、後ろから掛けられた声に素っ頓狂な声を上げて、崩れ落ちるがんがんじい。

 

「だいじょうぶ?」

 

「こ、子供……!?」

 

(あ、アカン!!完全に腰抜けてもうた)

 

 驚きつつも、自分の現状をしっかりと把握している辺り、中々肝が据わっているようだ。

 

「おじさん、どこから来たの?」

 

「ワイ?ワイはアッチの方からや」

 

「まちの人?ここは危ないよ?」

 

「それならお嬢ちゃんも同じやがな」

 

 そこまで話してふと気付く。

 

(もしかして、この子の迷子ちゃうんか?)

 

 こんな夜更けに子供が一人でこんな場所をうろついている。コレは間違いなく迷子だ。

 

「そういう事ならワイの出番や!!」

 

 そういって、立ち上がったがんがんじい。どうやら腰は治ったようだ。

 

「安心しい、お嬢ちゃん。ワイがいればもう安心やで!!」

 

「あんしんなの?」

 

「そうや。なんてったって、ワイはがんがんじい!!仮面ライダーの用心棒で最高の相棒やからな!!ガウトレアなんぞ、ワイに掛かればちょちょいのちょいやで!!」

 

 気分良く、自前の歌を披露するがんがんじいのテンションに呆気にとられていた少女は楽しげな歌を気に入ったのか、共に歌い始める。

 

「コラァ!!りん!!勝手にいなくなっちゃダメでしょ!!」

 

 そんな二人に怒声を掛けたのはコンクリート片の上に立った少女だ。りんと呼ばれた少女よりも年上で十代の中頃のようだ。

 

「って、そこの妙チクリンは誰よ!!」

 

「誰が、妙チクリンやねん。ワイはがんがんじいや!!」

 

 そういって、またもや自前の歌をりんと共に歌った後、少女にドロップキックを見舞われるがんがんじいであった。

 




スイカ「漸く俺の出番か。まぁ、出られただけで満足と言ってやるか」

マンゴー「新参者に出番取られた(´・ω・`)」

木の実組「俺たちの出番はしっかり取れてるから安心だな」

ドリアン「今後の出番次第だな」

大橙丸「やっぱり、俺はぞんざいに扱われるのか(´・ω・`)」

イチゴ「笑えよ」


Q影胤ってどんな改造受けたの?

Aライスピの三影みたいに全身の99%を大ショッカー由来の技術で改造な感じ。つまり魔改造♪



投稿完了!!今回で原作二巻は終了という感じですね。次回以降は徐々に戦力増強の部分を書きつつ、プロフェッサーの話や蓮太郎サイド等を加えつつ、アルデバランさんに頑張って貰いましょう。次回もお楽しみに




次回の転生者の花道は……



「……将監さんはチェリー」



「その通り、コレは【モデル・ヒューマン】のガストレアだ」



「その通りだ。どうやら里見蓮太郎君は私が君に実験と称してエッチな事をしていると考えたんだろう。しかし!!君を愛する彼はソレを許す筈もなく【延珠の身体を好きに出来るのは俺だけだ】と叫んで実験室に突入しようとしたんだろうね」


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幕間 異世界のライダーとの出会い
第十七話 プロフェッサーの研究


さぁ、皆さんお待たせしました!!今回からオリジナルを間に挟んで三巻へ突入します。そして新世代ライダーの登場と地味に気になっていたであろう菫さんとプロフェッサーとの関係。他にも前回の予告の真相など、楽しんで頂ければ幸いです。


「さて、それじゃ今日も元気に実験しようか!!」

 

「なんで、三日も徹夜してんのに元気なんだよ」

 

「プロフェッサーはそういう人よ。もう諦めなさい」

 

 声を張り上げるプロフェッサーに呆れる将監さん。その横でもう既に達観した表情を作った湊さんがため息を吐いている。

 因みに現在時刻朝の6時を回っています。私と湊さんは仮眠をとった後、聖居近くに新しく出来た健康ランドで汗を流し、湊さんと共にエステというのに挑戦してみました。まぁ、なんというか、不思議な感じです。

 

「では、将監君。コレ付けて、変身して」

 

「相変わらず唐突だな、おい」

 

 そう言いながら、将監さんはプロフェッサーから完成した【ゲネシスドライバー】と既存のロックシードを発展、改良した【エナジーロックシード】を受け取る。

 

「……将監さんはチェリー」

 

「おい、夏世。ぶっ飛ばすぞ」

 

 ジト目で睨まれるも私はそっぽを向く。しかし、視界に収めたロックシードでそう呟いてしまったのは仕方ない。だって、チェリーだし。

 

「夏世君。私は君の優秀な頭脳は高く評価しているけど、もう少し年齢相応に振る舞ってくれない物かな?」

 

「おい、湊。何があった?あのキ○○イが正論言いやがったぞ?」

 

「私は何も知らないわ。きっと、ナニカあったのよ」

 

 皆さん、容赦ないですよね。そんな事を考えていると将監さんが実験ルームに入って、ベルトを装着する。

 

「あ、ちゃんと変身って言うんだよ?」

 

 念を押すような言葉に将監さんは疲れた様にため息を吐く。

 

「変身……」

 

【チェリーエナジー!!】

 

 音声と共に将監さんの頭上にサクランボが空間に開いたジッパーから降りて来る。毎回、思いますが、コレは一体どういう原理なんでしょうか?

 

【ロック・オン!!】

 

 ロックシードを嵌めたベルトは果物ジューサーの様にも見える。将監さんは左手でベルトを押さえ、右手で取っ手を握り押し込む。

 

【ソーダァ!!チェリーエナジーアームズ!!】

 

 軽快な音楽が鳴り響くと共に頭上のサクランボが将監さんの頭に回転しながら突き刺さり、鎧となって装着される。

 

『変身完了。計器異常無し、装着者のバイタル異常無し。エナジーロックシードの暴走ありません』

 

「よし、そのまま計測状態を続けてくれたまえ。さて、将監君。気分はどうかね?」

 

『悪くねえな。にしても、武器が今までとは違って少し妙だ』

 

 そういって、左手で弓を弄ぶ将監さん。私が変身したピーチのライダーとは違い、接近戦もこなせるように改良した【創生弓ソニックアロー】だ。

 

「プロフェッサー。ゲネシスドライバーは幾つロールアウトしたんですか?」

 

「将監君のを含めて五つだ。それと、夏世君。ゲネシスドライバーは戦極ドライバーとは色々と違ってね。量産には向かないんだ」

 

 どういうことだろうか。そう思うとプロフェッサーは腕を組んで、いいかな、と前置きして。

 

「簡単に言えば、訓練や戦極ドライバーによる戦闘データを基に装着者の癖や戦闘方法を存分に引き出す調整を施したのがあのゲネシスドライバー。逆に量産した戦極ドライバーは誰もが一定以上の力を手に入れる事が出来る物だ。その為、里見蓮太郎君が持つコピー品ではなく、君が使う量産品では使える機能が減っている」

 

「それがジンバー形態……ですか?」

 

「その通り、アレは戦極ドライバーにゲネシスコアを接続する事で可能となる物。その機能をオミットしたのが量産型なんだ」

 

「成る程」

 

「それに、もし、夏世君にゲネシスドライバーが支給されても、私は使う事をお勧めしないな」

 

 それは何故だろうか?

 

「ロックシードのエネルギーがバラニウムの約二十倍の効力を発揮するのは君も知っているだろう?戦極ドライバーはそのエネルギーを【比較的】使いやすく鎧と武器として変化させているんだ。その為、仮面ライダーはガストレアに有効なダメージを与える事が出来る。まぁ、当然というべきか【呪われた子供たち】にもその効力は発揮されている。とはいえ、触れる程度では大したことは無いようだけどね。ふふ、この性能を他のエリアや諸外国に見せつけた時の顔が見ものだね。

まぁ、それはさておき。このゲネシスドライバーが使うエナジーロックシードはその能力が強力になっており、変身する際にはエナジーロックシードからエネルギーを絞って使うんだ。その分、消費も激しいけどね。聡明な君なら此処で気付くんじゃないかい?」

 

 試すような言葉とさぁ、答えてくれと言わんばかりの笑みに思わずイラッと来ましたが、此処は我慢です。それに答えも分かりました。

 

「つまり、ゲネシスドライバーの力は私達では耐えられないと言う事ですね」

 

「耐えられはするだろうね。計算では夏世君は三十分、延珠君は十分以上、エナジーロックシードの力を使うと身体機能に異常を来たし、更にそのまま使い続けた場合、延珠君は三分後、夏世君は五分後に力尽きる」

 

 ゾッとしない話だ。延珠さんが私より時間が少ないのは恐らく、体内侵食率の比率なのだろう。以前、彼女の【本当の】データを見せて貰った時は驚いて、暫く呆然としてしまった。

 

「だからまぁ、私としては君がゲネシスドライバーを使うのはお勧めしないな」

 

「そうですね。心遣い感謝します」

 

「いやいや、気にする事ないよ。私とて、君が私の作成した物で死ぬというのは考えるだけで、胸が張り裂けそうなんだ!!!!!!」

 

 何だろう、感謝した自分がとても恥ずかしくなった気がする。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ふむ、ナニカ忘れている様な……まぁ、忘れているのならどうでもいい事か」

 

「ほう?私との話し合いがどうでもいい事とは、随分と偉くなったな。えぇ?戦極君」

 

 女性の言葉に戦極が振り返る。そこには長い髪に隠れながらも分かる確かな美貌の女性が頬を引き攣らせて笑っていた。

 

「おぉ、そうでした。いや、忘れてました。そういえば、お久しぶりですね。室戸先輩」

 

「あぁ、久しぶりだ。一週間、君の研究所に居させてもらったが、まさか、今の今まで挨拶の一つもないとは……君もつくづく変わらないな」

 

 最後のため息と共に彼女は壁に背中を預ける。その顔には疲労が色濃く残っている。ソレを見て戦極はニヤリと笑い。

 

「それで、怪人の解剖の感想はどうでしたか?」

 

「そういう……自分に素直な所も変わってないな。まぁ、君も分かってるだろう。自分の才能が他のより劣っていると再確認させられたよ。全く、あそこまで高度に改造させられたのを見ると、自分が惨めに思えて来る」

 

「まぁまぁ、彼らの技術は我々とは次元が違う。それこそ、悪魔の研究を何十年、いえ下手すれば何百年と続けた事でああなったんでしょうし」

 

「初歩の初歩で突っかかっている私達に理解できないのも無理はないと?」

 

「その通り!!」

 

「……君に慰めの言葉を貰おうと思った私が馬鹿だったよ」

 

 なんというか、呆れを通り過ぎて苦笑を浮かべた女性、室戸菫は壁に設置された販売機からコーヒーを買う。

 

「しかしだ。彼らの技術力には驚いたが、どういう訳か私達が扱うものの延長線上にあるようだ」

 

「恐らくは発想が似通っていたんだろうね。ただ、貴方達はヒトと機械を、彼等はヒトと動植物を組み合わせるという違いだけなのでしょう」

 

「あぁ、生物学という点では【大ショッカー】には敵わない。恐らく彼等は我々の数世代先を行っているね」

 

「それくらいなら対処できるんだけど、問題は彼等がガストレアを兵器利用した事で更に技術が発展した事なんだよね」

 

「あぁ、報告にあった物か。驚いたよ、頭蓋がまるごとバラニウムで出来ていた。アレには思わず興奮してしまった」

 

 クツクツと笑いながらコーヒーを一口飲む。

 

「バラニウムの頭蓋に取りつけられた小さなチップが前頭葉に刺さっていた。恐らくアレが、怪人のガストレア因子を抑制している物だな」

 

「成る程ね。彼等を怪人として利用する為にはある程度の理性と知性が必要になる。ふむ、新しい技術を即実戦投入するほどの資金と技術力。技術に関しては彼らの自前があるから不要だけど、問題は……」

 

「あぁ、資金面だな。奴等に協力している組織又は国がいるんだろう」

 

「しかし、先日の暗殺事件の一件で【大ショッカー】について知っているのは大阪エリアのみ。なら、大阪の国家元首が怪しいが……恐らくは正解ではないだろうね」

 

「正解に限りなく近いがそうではないと……?」

 

 菫の言葉に戦極が頷く。

 

「もっと、深い所にいるんじゃないかと私は踏んでいる。まぁ、既に目星は付いているんだけどね♪」

 

「お前は……いや、昔からそうだったな。文句を言った教授のPCに潜り込んで、秘密を公開したり。大学のメインデータにハッキングして、大騒ぎを起こしたり。君のやる事にはもう、驚かなくなってきたよ」

 

「先輩の驚く顔を見れないのは酷く残念だ」

 

「なんだ?私に気があったのか?」

 

 試すような言葉と表情に戦極は肩を竦める。

 

「さぁて、どうでしょうね。少なくとも三十路過ぎてそろそろ危なくなってきた人には熱っ!?」

 

 余計な事を言った戦極は熱めのコーヒーを頭から被る事になった。その際、実行した菫の表情は晴れ晴れとしたイイ笑顔だった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「~~♪」

 

 薄暗い廊下を一人歩く。暗闇は好きだ。時折、奥の方からヒトと獣を出鱈目に繋ぎ合せたモノが出て来る。ハカセとタイシから斬っていいって言われてるから何時でも斬れるし。それにガストレアなんかよりもずっと斬り応えがあるから。私はこの場所が一番好きだ。

 

「アァアアァァアァッッ」

 

 ほら来た。目の前、暗闇から覗く三つの瞳を持ったソレは……何だろう、犬かな?それともジャッカル?

 

「どっちでもいっか♪」

 

 取り出すのは髑髏の小太刀を二本。あの【ろっくしーど】を手に入れて変身した後に出て来た物だ。何でも斬れるし、凄く軽いし、とても丈夫。

 

「アァッ!!」

 

「あはっ」

 

 ヒュン、という風切り音が耳を掠める。こういうヒトなのにヒトには出来そうにない闘いが凄く楽しい。小太刀を連続で振るえば、振るうだけ血が飛び散るし、傷の回復も早い。ガストレアよりも遅いけど、コイツ等はそれで十分らしい。

 

「ガァッ!!!」

 

 拳を避ける。その時、背後の壁が殴り壊される。壁の向こうにガストレアでもいたのだろうか。雪崩れ込むようにガストレアが溢れる。

 

「もう、もっと遊びたかったのに」

 

【フィフティーン!!】

 

 こういうのを【空気が読めない】っていうのかな?まぁ、どうでもいっか。

 

「変身♪」

 

【ロック・オン!!】

 

 ギターの激しい音が響き、一瞬だけ視界が暗くなった後、鮮明になる。

 

「やっぱり、頭が重い」

 

 あの【十五】はいらない。そう思いながらも小太刀を振るって、ガストレアを殺していく。

 

「あは♪見付けた」

 

 切り裂いた先にあのヒトがガストレアを食べていた。

 

「美味しいの?」

 

 聞いてみたけど、答えてくれない。そのヒトは最後のガストレアを食べ終えると身体が歪に大きくなる。

 

「おぉ~」

 

「おやおや、騒がしいと思えば、面白い事になっているね」

 

 後ろを見れば、パパが立っていた。何時もはハカセやタイシと話してるのに珍しい。

 

「パパ、ねぇ、斬っていいよね?」

 

「勿論だとも。とはいえ、小比奈だけでは少し大変かな?」

 

【ブラッドオレンジ!!】

 

「えぇ~、私だけでも大丈夫だよ」

 

【ロック・オン!!】

 

「ふふ、けれどこういった相手は初めてだろう?今回は我慢しなさい」

 

【ブラッドオレンジアームズ!!邪ノ道・オンステージ!!】

 

「変身……」

 

 帽子を押さえたパパの頭に赤いオレンジが降りて来た。鎧武と似ているけど、こっちはもっと血のように紅い。

 

「やっぱり、偽物だ~」

 

「ふふ、けれど、実力は本物だよ?」

 

 言葉と共にヒトが襲ってくる。けれど、問題ない。私が動きながら斬って、パパが撃って、穿って、削って。あっという間にヒトが崩れ落ちる。

 

「さぁ、小比奈。仕上げだ」

 

【ブラッドオレンジスカッシュ!!】

 

「はい、パパ」

 

【フィフティーンスカッシュ!!】

 

 小太刀に紫色の炎が灯る。瞬間、パパが赤い斬撃を放つ。

 

「あは♪」

 

 その斬撃によってヒトの両腕が面白いように飛ぶ。その腕を切り裂きながらヒトの目の前に降り立つ。

 

「死ネ♪」

 

 ×状にヒトを切り裂けば爆発して、消え失せる。変身を解くと後ろから拍手が聞こえる。

 

「お見事。ふむ、失敗作と決めつけていたが、中々に好い実験になったな」

 

「ハカセ♪」

 

 白と黒のハカセが立っていた。思わず抱きつく。

 

「おやおや、小比奈嬢。この老骨に無理をさせないでくれたまえ」

 

 頭を優しく撫でられ、地面に下ろされる。

 

「今回の【玩具】はどうだったかな?」

 

「うん!!今日のも面白かったよ。けど、もっと頑丈で強いのが欲しいな」

 

「小比奈、あまり我が侭は言う物ではないよ」

 

「でも、パパぁ~」

 

「構わんよ。今度は君の満足する相手を用意しよう」

 

「ホント?」

 

「勿論だ」

 

 笑いながら頷いたハカセに私はもう一度抱きつく。

 

「しかし、今回は前回とは趣が違いますね」

 

「あぁ、今回は新しく入った素材を使ったのだよ。まぁ、人間には変わらないが、組み合わせたモノが中々に面白くてね」

 

「ほう?アレは確か護衛官の一人だったと記憶していたが。まぁ、それはどうだっていいか」

 

 難しい話だろうか。そう考えているとハカセが私を見て笑う。

 

「小比奈嬢には難しかったかな?まぁ、積もる話は後で良いだろう。今回、君達にはとある物を見せてあげよう」

 

「ほう?それは楽しみですな」

 

「なになに?」

 

 ハカセの後に着いて行く。ハカセは廊下の奥にあるドアの前で止まる。ここから先は私も知らない所だ。

 

「驚くだろうが、気に入るだろう」

 

 そういって、扉を開けるとなんか、生臭い臭いが漂ってきた。

 

「暗いね」

 

「なら、少し明るくしようか」

 

 そういって指を鳴らせば、部屋に明りが灯る。

 

「ほう」

 

「おぉ~、何コレ~」

 

「これはね、この世界の科学者の脳髄を修めた生体コンピューターだ。先日、新たにこの世界の権威を加えたのだよ」

 

「……ふむ、もしかして四賢人と呼ばれる方々かな?」

 

 パパの言葉にハカセは笑って頷く。

 

「あぁ、その通りだ。彼等三人は快く我々【大ショッカー】の礎になって貰った。とはいえ、コンピューターの演算を二割ほど引き上げた程度だったがな。まぁ、そんな事はどうでもいいのだ。君達に見せたい物はこの先だ」

 

 そういって、ハカセが歩き出し、パパも続く。私も歩き出そうとしてふと、壁から風が吹いてきた。不思議に思って壁に手を当てる。

 

「ひゃ!?」

 

 瞬間、ヌメッとした感触に驚く。見れば、壁の一部からベロが出ていた。その上には目玉もある。

 

「アガガガ……コ、コロシテェクレェ……」

 

「あぁ、済まないね。何分、オリジナルとは少し違う為に、こうやって変なバグが出てしまう」

 

「小比奈、早く来なさい」

 

「はぁい。パパぁ、手がべとべとする」

 

 そういって、近付けばパパがハンカチをくれた。手を拭いて、歩くとまた扉が現れる。

 

「此処だ」

 

 扉が開き、明りが部屋を照らす。

 

「これはまた……」

 

「わぁ~」

 

「どうかね?中々上手く行ったと自負しているよ」

 

 そこには緑色の水と裸の人が入ったガラスケースが一杯あった。

 

「これは……ヒトではないね」

 

「その通り、コレは【モデル・ヒューマン】のガストレアだ」

 

「もでる・ひゅーまん?人間って事?」

 

「小比奈嬢は中々理解力がある。将来が楽しみだ」

 

「えへへ♪」

 

 頭を撫でられ、褒められて凄くうれしい。

 

「驚いた。ここまで肉体が安定しているなんて。自我や理性は?」

 

「勿論、抜かりない。そしてこれだけでも我々が使っている戦闘員よりも遥かに能力が高い。そして注目すべきはこの新しき戦闘服だ」

 

 そういって、見せてくれたのは一杯いるヒトが着ている服に似ている服だ。

 

「これにはバラニウムの磁場をある程度遮断する能力があってね。小比奈嬢の服にもコレと同じ素材を混ぜ込んでいる。故に彼女はモノリス間近で戦闘を行っても、影響は無い」

 

「素晴らしい。しかし、肝心の怪人はどうするのです?」

 

「ソレを解決するのが、この【モデル・ヒューマン】だ」

 

 そういって、パパとハカセが話始める。私は部屋を探索しよう。何かハッケンがあるかも。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「菫さん、頼まれた物持って来たぞ」

 

「あぁ、里見君。助かったよ」

 

「ていうか、エロゲーとか18禁のDVDとか俺に運ばせんなよ。持ってくる間、生きた心地しなかったんだけど?」

 

「いいじゃないか、若い男がそういった物を持って往来を歩く。良くある光景だ」

 

「それは昔の事だろうが、今じゃ、殆ど見ねえよ」

 

 そう告げながら紙袋を渡す。

 

「延珠さんも来たんですね」

 

「うむ、妾がいないと蓮太郎はなにもできないからな」

 

「幼女に養ってもらうなんてダメ人間の極ですね」

 

「全くだ、恥を知りたまえ」

 

「おいこら、そのダメ人間に面倒事を押しつけなきゃいけないアンタは何なんだよ」

 

「研究者だが?」

 

 ダメだ、この人。

 

「そうだ。延珠さん、プロフェッサーが新しい実験をしたいので、協力してほしいと」

 

「む?面白そうだな。良いぞ」

 

 そういって、延珠と夏世が部屋を出て行く。

 

「って!?大丈夫なのか?」

 

「さぁ?戦極君の事だからそこまで変な事はないだろう。とはいえ、気になるのなら行ってみるといい」

 

「……そうだな」

 

 大丈夫だと思うが、あの野郎は信用できないからな。そう考え、部屋を出て廊下を歩く。

 

「ん?おいこら、そっから先は関係者以外立ち入り禁止だ」

 

 後ろから声を掛けられ後ろを振り向く。

 

「なんだ、誰かと思えばブドウ野郎か」

 

「里見蓮太郎だ」

 

「知ってるよ」

 

 そういって奴、将監はため息を吐いて。

 

「悪いが、これから大事な実験なんだ。邪魔しないでくれよ」

 

「断る。あの変態野郎は信用できねえ」

 

「あのキ○○イ。本当に人間としての信用がねえな」

 

 そう小さく呟いた将監は白いベルトを取り出す。

 

「お前……!?」

 

「悪いな、今の俺は此処の護衛だからな。実験の邪魔するってんなら実力で排除するぜ?」

 

【チェリーエナジー!!】

 

 ベルトを装着し、頭上にサクランボが現れた将監の殺気に俺は一歩後ずさる。

 

「実験はそんなに時間は掛からねえ。それにお前のパートナーにも危害はねえんだが?」

 

「もう一度言ってやる。信用できっかよ!!」

 

【ブドウ!!】

 

「ったく、これだからガキは」

 

【ロック・オン!!】

 

 お互いにロックシードをベルトに装着する。

 

「「変身!!」」

 

【ハイ~!!ブドウアームズ!!龍・砲・ハッハッハッ!!】

 

【ソーダァ!!チェリーエナジーアームズ!!】

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「さて、延珠君。気分はどうかね?」

 

「うむ、問題ないぞ?」

 

 妾は今、ベッドの上に腰かけている。隣には夏世が座っており、目の前にはプロフェッサーが書類を見ていた。

 

「嘘は言わなくていいよ。こっちも戦極ドライバーを使用したイニシエーターのデータが欲しいんだ。正直に言って欲しい」

 

「む……確かに疲れはしているが、問題は無いぞ」

 

「ふむ、ある程度の疲労が溜まっているが、生活に支障なしか。まぁ、想定内だね」

 

 そういって、プロフェッサーは書類を机に置き、奥のジューサーに向かう。

 

「あぁ、そうだ。延珠君、ジュースはどうだい?」

 

「いいのか?」

 

「勿論だとも。メロンとチェリー、ピーチにレモンとあるけど、何が好いかな?」

 

「メロンだ!!」

 

「夏世君は?」

 

「私はピーチをお願いします」

 

 取り敢えず、普通に美味しい物を頼む。すると、変な音声と共にコップに注がれる綺麗なメロンソーダを視界に収める。なんというか、不思議な色だ。

 

「プロフェッサー、実験とは一体何ですか?」

 

「簡単に言えば、コレを飲んで感想が欲しいんだ」

 

 そういって、手渡されたジュースを見て、妾と夏世が顔を見合わせる。

 

「実はソレ、イニシエーター専用のジュースとして開発してね。彼女達の疲労回復を促進させる新薬なんだ。あぁ、薬といってもそこまで危ない物じゃない」

 

 そういって、ジュースを勧めるプロフェッサーに勧められ、妾達はジュースを飲む。程よく甘く、そして炭酸の独特な味わいが口の中に広がる。

 

『プロフェッサー。ゲネシスドライバー装着者と戦極ドライバー装着者が交戦を開始、現在トレーニングルームで戦闘中です』

 

「ふむ、想定内とはいえ、ここまで上手く事が運ぶとはね。引き続き、観測を頼むよ」

 

『分かりました』

 

「蓮太郎さんと将監さんが戦っているのですか?」

 

「うむ、どうやら君達を実験に突き合わせた事が彼には許容できない事だったようだ。今、彼は将監と模擬戦をしているよ」

 

「詳しい説明した方が良かったのでは?」

 

「それだと尚更、断られると思うのだが?」

 

 何やら二人で話し合っている。

 

「つまり、蓮太郎は妾を心配しているのか?」

 

 すると、プロフェッサーは笑みを浮かべて頷く。

 

「その通りだ。どうやら里見蓮太郎君は私が君に実験と称してエッチな事をしていると考えたんだろう。しかし!!君を愛する彼はソレを許す筈もなく【延珠の身体を好きに出来るのは俺だけだ】と叫んで実験室に突入しようとしたんだろうね」

 

 成る程。蓮太郎が妾をそこまで大事にしているとは。分かってはいたが、やっぱり嬉しい物だ。

 

「そしてこの実験はそんな事ではないと伝えようとした将監君を実力で排除しようとして彼等はお互いに戦い始めている、という感じだね」

 

「よくもまぁ、ペラペラと嘘を吐けますね」

 

 小声で聞きとれないが、夏世は呆れたように告げる。恐らくだが、蓮太郎の愛に感動しているのだろう。

 

「まぁ、取り敢えずトレーニングルームなら、此処からすぐだけど、見に行くかい?」

 

「無論だ。妾を想うツンデレ蓮太郎に真実を教えなければな」

 

「はぁ、もういいです」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「おら!!」

 

「ぐぁ!?」

 

 火花が散り、身体が吹き飛ぶ。転がりつつも受け身を取って、銃口を奴に向けながら連射。

 

「おいおい、馬鹿にしてんのか?」

 

 そんな言葉と共に銃弾を避けた奴が弓を引き絞る。咄嗟に横に跳べば、俺が居た地点に矢がぶつかり、爆発する。

 

【キウイ!!】

 

「糞っ!!」

 

【ロック・オン!!】

 

「あぁ?ある程度、データは必要だぁ?ったく、しょうがねえな」

 

【ハイ~!!キウイアームズ!!撃・輪・セイヤッハッ!!】

 

「オラァッ!!」

 

 叫びと共にキウイ撃輪を投げつける。変則的な機動を描きながら飛んでいく撃輪を奴の弓が弾くが、その間に距離を詰めた俺は自身の間合いに踏み込む。

 

【ハイ~!!キウイスカッシュ!!】

 

 天童式戦闘術二の型十六番。

 

「隠禅・黒天風・天嵐!!」

 

 翠色のエネルギーを纏った回し蹴りは狙い違わず奴の即頭部に向かい。

 

「分かり易いんだよ!!」

 

 弓を持っていない腕で防がれる。そして奴は弓を上空へ放り投げて、空いた手で取っ手を握り、押し込む。

 

【チェリーエナジースカッシュ!!】

 

 音声と共に落ちて来た弓を拾った瞬間、弓の刃に光が灯る。

 

「くっ!?」

 

 咄嗟に手元に戻った撃輪を盾にした瞬間、凄まじい衝撃が全身を襲った。

 

「ぐあ!?」

 

 床を二、三度跳ね、壁にぶつかって漸く止まる。

 

「ふぃ~、それでぇ。気は済んだか?これ以上はお前のイニシエーターとか社長に変な恨み持たれるからやりたくないんだけど?」

 

「ふ……ざけんな……!!」

 

 壁に手を掛けて、立ち上がる。

 

「アイツは信用できねえんだよ。平気で人の一番聞いて欲しくない所にズカズカと土足で上がり込んで、引っ掻き回して。アイツの所為で木更さんがどんな思いしたか」

 

「どんな思いね……そういうお前は理解してんのか?」

 

 その言葉に思わず固まる。奴はハッ、と笑う。

 

「正論並べるのはご立派だがな。お前にゃ、自分の言葉ってのが何処にもねえんだよ。そんなガキの戯言、一々聞いていられっか」

 

【ロック・オン!!】

 

 ロックシードを弓に嵌める。矢にエネルギーが溜まっていく。

 

「一応言っておくぜ。相打ち狙いならやめときな」

 

【ハイ~!!キウイスパーキング!!】

 

 忠告を無視して、撃輪にエネルギーを貯める。

 

「そうかい」

 

【チェリーエナジー!!】

 

「ハァッ!!」

 

 放たれた矢に撃輪を放つ。同時にではなく、間隔を開けて連続で投擲。矢が爆発し、余波で転がるが、なんとか防いだ。

 

【チェリーエナジー】

 

「がぁっ!?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「おぉ、起きたか、蓮太郎」

 

 目が覚めると同時に延珠の嬉しそうな笑顔が視界一杯に映る。

 

「延珠、痛!?」

 

 跳び起きた瞬間、全身に痛みが奔り、そのままベッドに倒れ込む。

 

「驚いたぞ、妾達が来た時には気絶した蓮太郎と欠伸していた将監がいたからな。全く、伴侶である妾を心配するのは良いが、もう少し冷静になるのだぞ?」

 

「誰が伴侶だよ」

 

「ふふん、蓮太郎は不器用でツンデレだからな。そう冷たく言うのも想定内だぞ」

 

「誰がツンデレだ!!」

 

 叫ぶと、身体が痛む。

 

「……何も無かったのか?」

 

「うん?何も無かったぞ。実験といってもジュース飲んだだけだしな」

 

「ジュース?」

 

「えぇ、そうです」

 

 そういって、やってきたのは夏世だ。

 

「ジュースが実験?どういう事だ?」

 

「その説明はプロフェッサーの役目ですが、まぁ、いいでしょう」

 

 そういって、夏世は新しく椅子を取り出して座る。

 

「なんで、そんなに離れてるんだ?」

 

「私なりにお二人に配慮しているんです。あぁ、気にせずどうぞ。私の事は喋る空気と思って構いません。私が喋っている最中に如何わしい事をしても気にしないので」

 

「そう言いながらなんでビデオ回してるんだよ!!撮るの止めろ!!」

 

「チッ」

 

「おい、今何で舌打ちした?」

 

「まぁまぁ、怒ると痛みますよ」

 

「一体誰の所為だと――――」

 

「勘違いした蓮太郎の所為だろう?」

 

 確かにその通りなので、反論できない。

 

「まぁ、そろそろ本題に戻りましょうか。私達が飲んだジュース。それはロックシードのエネルギーを液状にした新薬です」

 

「……大丈夫なのか?」

 

「まぁ、副作用として飲んだ後、三時間ほど身体能力が同年齢の子供と同じになる程度ですからそこまで危険視するほどでもありませんね」

 

「どういった効力なんだ?」

 

「簡単に言えば、体内のガストレアウイルスを相殺し、侵食率を【減らす】薬です」

 

 その言葉に俺は痛みを忘れて、跳び起きる。

 

「今、減らすって言ったのか?抑えるんじゃなくて?」

 

「えぇ、その通りです。今までは私達が持つウイルスを抑える物しかありませんでしたが、今回プロフェッサーが作った物は体内のガストレアウイルスを減らす効力があります。とはいえ、そこまで強い物でもありませんし、ガストレアウイルスが減少した細胞を取り戻す為に増殖するので、そこまで効果はありません。その為、先程計測しましたが私達の体内侵食率も1~2%程しか減っていませんので」

 

「けど、それでも凄いじゃないか」

 

 大発明だ。まさか、そんな発明をするなんて。そう感動していると夏世はため息を吐く。

 

「しかし、この新薬ですが、エネルギーを抽出し、液体に混ぜ込み、そしてイニシエーターが飲めるほどに調整したりと時間と人手とコストが掛かるので、実用化まではそれなりに時間は掛かります」

 

「そうなのか……」

 

「まぁしかし、延珠さんが引き続き、新薬の実験に付き合って頂けるのならば、という条件が出ています」

 

「……つまり、延珠をモルモットにしろって事か?」

 

 隣にいるにも関わらず、俺は低く唸るように告げる。俺の言葉と怒気に当てられたのか、夏世が顔を青くする。

 

「心外だな。私は君に選択肢を与えているだけだよ?」

 

 そういってやってきたのは白衣姿の戦極凌馬。

 

「お前……」

 

「おやおや、先程までの喜びぶりは何処に行ったんだい?君だって、延珠君の侵食率が減るなら万々歳だろう?何せ、彼女は―――」

 

「言うんじゃねえ!!!」

 

 ベッドから飛び出し、凌馬の襟首を掴んで、壁に叩きつける。

 

「それ以上、言うんじゃねえ……!!」

 

「怖い怖い、しかしいいのかい?君がそんな態度を取れば彼女はどんな反応をすると思う?」

 

 その言葉にハッとして振り向けば延珠はおろおろと俺と凌馬を交互に見ている。

 

「さっきも言ったが、私は選択肢を提示しているだけだ。選ぶのは君と延珠君だ」

 

 ギリッ、と奥歯を噛みしめる。

 

「……もし、延珠に危害を加えてみろ。考える限りの苦痛を与えて殺してやる」

 

「怖いな~、私がそんな酷い事をする鬼畜外道に見えるかい?」

 

「鬼畜ではなく、キ○○イには見えますね」

 

「夏世君。君は一体何を見ているんだい?ここまで人畜無害な研究者は他にいないよ?」

 

「鏡見ますか?」

 

「必要ないよ。毎朝チェックしているからね。それがどうかしたのかい?」

 

 二人の会話を聞き流しながら俺はベッドに戻る。

 

「蓮太郎、大丈夫か?」

 

「あぁ、悪いな。驚かせた」

 

「うむ、気にするな。それに妾はこの実験、付き合ってもいいと思うぞ」

 

「延珠……」

 

 俺が驚いていると延珠は笑い。

 

「あのジュース美味しいし。それに妾が関わる事で完成が近付くならそれだけ妾以外のイニシエーターも助かるのだろう?」

 

「……あぁ、そうだな」

 

 天使の様な笑顔で告げられた言葉に俺はただ頷くしか出来なかった。

 




投稿完了!!今回はこんな感じです。はい、ご都合主義と罵るならば罵るがいい(興奮しながら)
まぁ、個人的に考えたこの世界の子供たちの救い方って感じですね。政治的な意味ではもう少し後になりますが、イニシエーターの子供たちの為にそして一番救いたい延珠の為に付け加えた設定です。反対意見もあるかもしれませんが、どうかご容赦を
後、小比奈が随分と死神博士に懐いていましたが、まぁ、そこは話的に有効な感じを書こうとしたらどういう訳か、孫と祖父的な感じに……まぁ、内容はそんな和やかなモノじゃないんですけどねww
そして今回出てきた生体コンピューター。何に使うの?とか疑問に思うでしょうけど、彼らの拠点にはレールガンに加えて、怪人の製造プラントがあります。当然これらには作業を円滑に進める為のスーパーコンピューターが必要なわけで。えぇ、後はご想像の通りです。次回もお楽しみに


研究者A「小比奈たん、prpr」



次回の転生者の花道は……



「えっと【黒影部隊】初瀬亮二。【グリドン部隊】城乃内秀保。【ナックル部隊】ザック……成る程」



「その時は……俺も木更さんの復讐を手伝う」



「簡単に言えば、レヴィちゃん達に正義の味方をやって貰いたいのです」


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