先行実装転生ゾロアニキ (アマモ)
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あまいのが好きで苦いのが嫌い


来る前に……来る前に……
投げておきたかったんです……



 

 

 目が覚めたらゾロアになっていた。

 何を言っ(ry) トラックが突っ込んできたとか足元に魔法陣がとかした覚えは無いが、確かにおれはふわもこまんまるちいさなゾロアだった。意識した通り動くふわふわの尾。ようく聞こえる大きな耳。

 ゾロアがいるならここはポケットモンスターの世界で、それなら世界の神はアルセウスなんだろう。

 

 つまりこれは全部アルセウスのせい。

 

 ならしゃーないか。奴は冒涜的な神の要素も含む、全ての神をモチーフとして生み出されたポケモン。しゃーない。

 はー、何だこの丸っこい手は。かわいいじゃねぇか。

 

 いや仕方なくねぇのよ。

 

 無断転生とかまるで意味がわからんぞ。おれの身になにがあったっていうんだ。

 そもそも自分は人だった気はするが、じゃあどんな人だったか?となるとこれが全然思い出せない。ゾロアになったことはわかっても、ゾロアになる前の記憶がない。けど、こうしてものを考えられる程度には知識がある。普通のポケモンとは違うのだろう。ホントに人だったの?と言われたら、悩むことかもしれないが。

 

 せめて何か説明しろ!何させるつもりだったんだ!

 

 ……ただまぁ、そんな神への文句も目が覚めて三日ほどで薄れてしまった。というのも、きょうだいのゾロアと、育ててくれてるパパさんがまたとても優しいのである。パパさんは毎日二食ながらお腹いっぱいご飯をくれるし、きょうだいはちょっとイタズラっ子だが見た目がゾロアなもんでかわいくてなんでも許せてしまう。

 そして合法的にこのゾロアのもふもふの毛に鼻先埋もれても許される。

 まぁ……ね。ちょっとよ。ちょっとくらいなら、こういうのも悪くない。

 夢だと思って堪能しよっかなー、なんて。

 

 と、思っていた矢先。パパさんからとくせいのイリュージョン……幻影の使い方を教わっていた最中のこと。

 突然住処に大嵐のぼうふうが吹き込んで、全部が全部めちゃくちゃになってしまった。ゾロアの軽い体が宙を浮き、泣きそうなきょうだいの手を掴みたくてもまるっともっちり獣足ではどうしようもなく。なすすべもなく、おれは嵐に巻き込まれ吹き飛ばされてしまったのである。

 

 おのれアルセウス。よくわからんけどいつかのどこかの人間たちにボコスカようわからん粉なり玉なり投げつけられてしまえ。

 怨嗟の声はきゅうと鳴き声で漏れ、おれは体と共に意識を飛ばしたのである。

 

――――――

 

 そうしてまた目が覚めてみると、これまた知らん場所であった。今度はどこかの建物の中らしい。ふかふかお布団とリネンのシーツ。そして文明の香り。人の気配。

 声がするのでちらと目線をずらすと、やや離れた辺りで男性がスマホ片手に小さく会釈している。あれは……くたびれたどこにでもいる一般サラリーマンおじさん……!

 つまりはすわ現実かと飛び起きようとして、自分のまるっこい手が動いたのを見てがっくりきた。期待した分ダメおし二倍だ。夢だけど、夢じゃなかった!

 

「気づきましたか」

 

 フカフカのまくらにきょうだいの尾を思い出し、倍率ドンで更に落ち込んでいるところに男性の声。主はくたびれサラリーマン殿。電話が終わったのか、おれの横たわるベッド脇に立つ。でっ……かいな、この人。おれが小さいのかも知れないけど。

 にしてもこんなかわいいゾロアを前にして無表情とは、心が動かんものかね。現代社会の疲れ切ったサラリーマンじゃあるまいし。

 え?マジのそれなの?いよいよポケモン世界にも社畜の波が来たの?

 ニューキンセツ?ゾロアくんの知らない場所ですね……

 

「状況がわからないかと思いますので、説明をさせていただきます。まず……私は、ポケモンリーグ勤務、チャンプルタウン配属、アオキと申します」

 

 これはこれはご丁寧にどうも。ちょっと色の違う悪いキツネのゾロアです。ぷるぷる。

 あの、椅子ありますし、ぜひ座って下さい……見下されてるとちょっと……でっかい……おじさんでっかいよ……

 その前にチャンプルタウンってどこ?

 

「二日前になりますが、そらとぶタクシーにて移動中、チャンプルタウン近郊で倒れているあなたを私のムクホークが見つけました。小さくなることもなく、空から大型の鳥ポケモンが見つけられるほど無防備な様子。そして一般的なゾロアより小柄でしたので、保護に踏み切らせていただきました」

 

 パパンから大型のポケモンには気をつけろよと言われていたのを思い出す。いじめられるならまだしも、最悪美味しくいただかれてしまうからだ。

ウォーグルとかにな!

 ポケモンって世知辛いんだなと夢がぶち壊されたのでよく覚えている。

 で、ムクホーク?出会ったことなかったが、確かにあれも大きな鳥ポケモン。きっとゾロアなんてゴリゴリのポキンだろう。

 

 つまり……このアオキのおじさんは命の恩人……ってコト!?

 

「腹部の裂傷、頭部の打撲、他擦過傷複数と、大変な大怪我でありましたので、こちらのテーブルシティ中央病院まで連れて来ました。怪我が治るまでこちらにて治療に専念していただきたいのですが、よろしいでしょうか」

 

 ポケモン相手に丁寧だな〜と思ったが、これ、もしかしなくてもポケモン相手に説明の内容変えるの面倒ってだけか?普通の野生ポケモンがこの説明でわかるわけねーだろがい。

 ま、おれは普通のポケモンとはひとあじふたあじ違うんで理解できるんですけどね!…………裂傷?切り傷?

 のそと布団から動こうとすると、確かに頭にガンガン腹に熱、あと全身の痛み。体をひねることも難しい。あいててて

 

「無理に動くと傷に障ります。現在、ポケモンレンジャーや有志の方があなたのおやを捜索中ですので、直に連絡が来るでしょう。無事治療が終わり次第、元の生息域へと戻しますのでどうか安静に」

 

 なるほど。つまり寝てろってコトだな。パパさんのことは心配してないが、きょうだいの方は心配だ。おれと同じくらい小さかったからな。

 ……むしろパパさんもある意味心配かもしれない。暴れてたりしないか的な意味で。

 

「あなたが目を覚ました事を医師に伝えてきますが、辛いようであれば寝ていても構いません。検査や確認等ありますが、乱暴には扱いません……ので、大人しく受けていただけますか?」

「…………」

「ありがとうございます」

 

 頷いて見せると、アオキも会釈して部屋を出ていった。先程動いて痛みに気づいてしまった後は目を閉じると意識してしまって……ちょっと寝るにはツライ。

 寝かされていたベッドはよく見たらガラス張り……の、カプセル?保育器みたいな感じだった。メカメカしい。山奥に居たから、久しぶりに文明社会に打ち込まれて、UFOに連れ去られた気分になる。それとも、タイムマシンかな? ……やっぱアルセウスがなんかしてんじゃないか?ゾロアは訝しむぞ。

 しかしまぁ、終始無表情ながら丁寧なおじさんだったな。ポケモンリーグ勤務ってことは、ジムとかの前にいる「オーッス ! みらい の チャンピオン!」って言ってるおじさんとかボールガイの中の人、みたいな?ボールガイに中の人なんかいねーよと。

 ポケモンリーグの仕事に野生ポケモンの管理とか、無いだろうし……関係ないことさせちゃったかな。なのに側でみててくれたの?じゃあ優しい命の恩人じゃん。

 …………あの見た目で病院って、ご本人の胃とかの治療じゃないかなって感じだな。

 

 白衣のお兄さんやピンクの髪の……たぶん、ジョーイさん、あとラッキーと、アオキさんがやってきて、横の機械なりなんなりガチャポチしてざわざわと。なんかスキャンされたりしたが、直接触ってはこない。頭に響かないようにか声を潜めてくれている。うーん、人間が優しい……

 でも逆に聞かせないように、ってことかもしれない。おれの耳は見た目通りようく聞こえるから、「ID登録無し、図鑑もやはり未登録」ってのは聞こえている。ゾロアのいない地方……カントー、ジョウト、シンオウかな?チャンプルタウンなんて聞いたことないから、知らない地方かも。

 でもそうなると、きょうだいやパパさんを探すには苦労するかもしれないってことになる。

あの大嵐でおれが無事だったんだ。きっときょうだいたちも無事だろう。

 ひと通り調べ終わったのか、おそらくジョーイさんが「食べられそうな物を用意してきますね」と出ていった。ラッキーが優しい微笑みとひと声鳴いて、着いていった。お兄さんとアオキさんが残る。

 

「言葉を、理解したんですかあ?」

「ええ。ゾロア、痛くはありませんでしたか?」

「…………」

アオキさんの言葉に頷いて見せると、横のお兄さんが感心した声を上げた。

 

「おお、頷いてますねえ。 ……なるほどお…………ゾロアさん、撫でさせてもらってもいいですかあ?」

 

 白衣のお兄さん……頭のボリュームと眼鏡が独特……がベッド脇に身を屈ませて聞いてくる。いいけど、お兄さん何者?

 すると、お兄さんは上から手を、手の甲をおれの鼻先に垂らしてきた。匂いを嗅がせてくれるらしい。これはポケモンの扱いに馴れてる? 白衣といい、さては博士の方です?

 

「ぼくは ジニア。ポケモン図鑑アプリを作りましたあ。あと、アカデミーで先生させてもらってるんですよお」

 

 ほう。なるほど、この地方の子どもたちの冒険の始まりか。間延びした口調もあいまって、優しげでいいと思います。匂いも覚えたし、いいよと込めて鼻先で手を押すと、ゆっくりと毛並みにそって指を、手をと順に滑らせてくる。手付きは優しい。手があったけぇ。思わず頭を手のひらにすり寄せちゃうよこんなの。

 

「わあ。ふふ、かわいいですねえ。ケガが治るまで、一緒にがんばりましょお」

 

 うんうん。ほら、やっぱゾロアのかわいさには男性でも思わずにっこりするもんなんだよな。わかるか?そこのアオキさんよぉ。

 

「 人慣れもしてますねえ。敵意もない。……人にひどいことされたわけじゃあないようです」

「なるほど」

「でもID登録無しですかあ……ゾロアさんはあ、人と一緒に暮らしたりしてましたかあ?」

「……」

 

 人と暮らしたことは……ゾロアになってからはない。首を横に振る。

 

「どうして怪我をしたのか、覚えていますかあ?」

「……」

 

 覚えは無い。首を横に振る。大嵐で物が沢山吹き飛んでいたから、吹き飛ばされてる最中にそれとぶつかったりしたのかも、という予想はできるが。

 

「なるほどお……ああ、ごはんが用意できたみたいですねえ。たべられるもの、あるといいですねえ」

 

 たぶんジョーイさんとラッキーが手押し車に色々載せて来た。別にきのみでいいのだけど。ゴスかモモンがいいなぁ。

 出されたのはペースト状のなんかあったかいものだった。離乳食……みたいな……。やわこい。きのみとミルク風味。あ、でも五味で分けてある。どれもちょっと薄味だが、食べれないことないな。寝ながらで行儀が悪いけど。

 

「わあ。いい食いつき。ごはんは大丈夫そうですねえ。…………ぜんぜん警戒してませんし、やっぱり、人に飼われてたポケモンみたいですがあ…………捕まえられていた、というよりは、餌付けされていた……ですかねえ?」

「なるほど」

「少なくとも、わるいひとには関係ないんじゃないかなあと思います。それに、この子も素直ないい子みたいですよお」

「……なるほど」

「では、先ほどのお話どおり確認のため、各研究所に写真を共有させてもらいますがあ、出来ればこの子のケガが治ったら、また調べさせてもらえるとお、うれしいなあって思います」

「はい。……一応、規制の方をしっかりと」

「はあい。この子が珍しい子なのは皆わかると思いますのでえ、ご安心くださいねえ」

 

 男二人の話を半分聞きながら、てちてちと辛めのペーストを舐めていると、ぱしゃりと、音がした。見ればスマホが浮いている。え、う、浮いている……!

 なんか顔みたいなのみえたが、あれもしかしてロトムか?なんだっけ、ロトム図鑑?小型化進んだのか?

 

「ああ、この音は初めて聴いたみたいですねえ。なるほど、なるほどお……ちゃんと警戒はできるみたいですねえ。へえ…………

 あ、たぶん、目星はついてるので、早めにご連絡できるんじゃないかなあと」

「ありがとうございます」

「ただ、ぼくの予想が正しいとするとお…………ちょおっとたいへんなことかも知れません。

 今、各地の委員会の人に、監視をお願いしてるんでしたよねえ? 見かけないポケモンの情報があったら、ぼくに共有してもらうことって可能ですかあ?」

「トップに確認してみます」

「お願いしますねえ」

 

 けっぷ。手が使えない、首をがっつり伸ばせない状態でペースト状のものって、食べるの疲れるな。それでもしっかり皿に出されたのは食べられた。メイビージョーイさんが食べられたこと程度を偉い偉いと褒めてくれる。なんだよ、生きてるだけで褒めてくれるタイプか?

 

 腹に温かいものを入れたからか、ほっかりして眠くなってきた。

 

 あっちはあっちで色々調べてくれるみたいだし、この人ら優しいっぽいし、色々任せてしまおうか。

 やっぱ、人に色々してもらえるって良いな。パパさんからひとり立ちしたら、自分でなんとかしなきゃいけなかったところを考えると、人と一緒に暮らしたりってのもいい考えに思えてくる。

 

 ま、なんとかなるだろ、きっとな!

 

 





のうてんきミントかのんきミントが落ちていたとかいないとか


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食べるのがすきで輝かないのは苦手


視点別、一より前の話です



 

 

今期のアカデミーの課外授業が始まる為、リーグ実行委員会での定例会兼打ち合わせの会議があった。四天王……ポピーは所用のため来れず、チリとハッサク、私と、彼の三人での会議。

 いつも、会議待ち合わせの時間の15分前には何があっても到着している彼が、その電話では一言。『遅れます』と。

 

 何事かと思えば、衰弱状態の野生のポケモンを保護した為、病院に預けてから向かうという。それについては問題ない。むしろ、見捨てて来ていたらドドゲザンに頼むところだった。

 遅れること30分……それでもたった30分の遅れだが、深々とアオキは頭を下げた。珍しく背広を脱ぎ、腕に掛けている。

 

「前期までと変更点は多くありません。事前資料は確認していますね?」

「ええ。今どこまで進みましたか?」

「もうほぼ終わりやな。大穴周辺の警備について……やけど、あの岩山、素で登らんと大穴にゃ行けへんし、これもゲート封鎖と監視カメラ、あとハッサクセンセとポピーの巡回でええやろ。

 んなことより、や。衰弱した野生のポケモン見っけた……て、何があったん?」

「私も気になります。説明いただけますか?アオキさん」

「…………はい」

 

 彼もポケモンリーグに所属する以上、ポケモンを無為に扱う人間でないのは確か。しかし、見つけたのは彼だとしても、仕事を押してまで彼自身がその野生ポケモンを保護する必要があったのか、ということ。他の人物には任せられないような案件であるか、もしくは……

 アオキはスマホロトムに何事か頼む。私たちの前まで飛んできたスマホロトムには、籠の中で横たわる、小さなポケモンが写っている。

 

「おぉ、こらあかんわ」

「ひどい怪我ですね……」

 

 画面を見た皆が一様に眉を顰める。柔らかそうな体毛はどす黒い血に染まり、アオキが応急処置したのであろう、体に巻かれたハンカチも変色している。頭の横に置かれたオボンの実よりも小さな頭。

 わるぎつねポケモンのゾロアに見えるが、ずいぶんと小さいサイズだ。

 そして、かろうじて見える毛先の方。特に、尾の先。普通のゾロアは赤い筈だが、この写真のゾロアは青く見える。なるほど、あまり人目に晒せない理由はこれだろう。

 

「色違いのゾロアですか」

「一部の好事家なら大金を出してでも手に入れたい人気のポケモンですね」

 

 ポケモンどころか人間をも騙す性質から、かつては忌み嫌われていたポケモンだが、現代となっては生態も解明されてきた為か、外見と種族特性で非常に人気が高いポケモンとなったゾロア。

 ただでさえ個体数はあまり多い種類ではないのに、更にその色違いともなると、狙う者は多い。悪い者の目に入れてはならないもの。

 

「この、敷いてあるのは……あなたの背広ですか?」

「はい。籠はタクシーのドライバーが持っていたものをお借りしました。体はゾロアの形でしたが、見ての通り……とても小さく。ポケモンの習性である小さくなる事すらも上手く出来ないのか……まだ幼体ではないか、と医師も」

 

 彼が広げて見せた背広にはべっとりとポケモンの血が染み付き、クリーニングでも落ちるかどうか。新しいものを買わねばですね、と嘆息する。

 

「これ……ホンマに色違いのゾロアなん?汚れとかやないの?」

「私が見た限りでは、ゾロアのように見えました。ムクホークも、ゾロアの姿で見えていたはずです」

「イリュージョンすら使えない状態ですか。……この怪我では無理もありませんね。近くに “おや” や、群れのリーダーは?」

「確認できていません。イリュージョンで見えなかっただけかもしれませんが、少なくとも私のムクホークの警戒には引っかかりませんでした」

 

 アオキのムクホークの視界は広い。異常があれば気付くだろう。近くにはいなかった、もしくは……言う通り、イリュージョンで隠れていたか。だが、そちらは可能性としては低いはず。群れの仲間を放っておく種類では無い。

 子を奪われたおやポケモンは大変危険であり、人が襲われる事故もある。非常に気の立ったおやポケモンがいるだけでも、その一帯の野生ポケモンにその緊張感は伝わる。

 しかもゾロア、ゾロアークは種族間の繋がりが強く、特にゾロアを連れたゾロアークなど仲間に手を出そうものなら、烈火の如く怒り、大暴れする危険なポケモン。万が一もありえる、危険な状態となるだろう。

 何より、この怪我が事故でなく……凶暴なポケモン、もしくは……考えたくはないが、その他の理由であったなら。その原因が、人間に手を出さない保証はない。

 アカデミーの課外授業も控えている。早急な解決が求められる。

 

「……そうですね。では、アオキ。その子の発見地点を。レンジャーに協力を要請して、“おや”の捜索と、原因の調査をしなければ」

「チャンプルタウン近郊、プルピケ登山道西側です。スマホロトム、マップを……こちらですね。

 発見した際、ポケモンレンジャーには私個人からの調査の連絡はしてあります。移動中に私のポケモンも数匹、捜索に出しました。正式なリーグ委員会からの依頼という形に、改めてご連絡させていただいても?」

 

 話が早い、こういった所だけは信頼出来る男だ。

 

「いいでしょう。他に何か原因に繋がるような異変はありましたか?」

「…………はい。心当たりが」

「ほう」

 

 その発言まで。いつもどおりの無表情だが、その瞬間、僅かに視線が動く。瞬きのうちに視線は戻ったものの、確かに何かを考えたのだろう。

 

「ハッコウシティから、ナッペ山ジム経由のルートでの移動中でしたが、ナッペ山の麓付近で突然天候が悪化しました。

 多少の荒れにも耐えられる、そらとぶタクシーのイキリンコたちですら混乱し、ムクホークの補助もつけてようやく、なんとか不時着出来たほどの大嵐でした。タクシードライバーも、『あんないきなり天気が崩れたのは初めてだ』と」

「天候の悪化……大嵐、ですか」

「太陽が翳るほどの分厚い雲、雨を伴わない猛烈な暴風と、……地鳴りです。…………それと、もう一つ。

あの近辺では見かけたことのないポケモンが、一斉に動き出していました。レントラー、レアコイル、……カイリキーに、ポリゴンなど」

「ポリゴンやと? それに、カイリキー……パルデアにはおらんはずやんなぁ?」

「ええ、ジニア先生の図鑑でも登録無しです。生息は確認されてませんね」

 

 普段見かけない、生息しないポケモン。アオキの見間違いでなければ、何かが起きているのは間違いない。

 それが自然現象か、はたまた人災か、の問題。幸い、このパルデアでは他地方のような過激な団体の活動は見られないが……いつだって、些細な芽はどこにでも生えるものだろう。

 

「そう……ですね。やはり、一度アカデミーの教師陣、ジムリーダーとまとまって話をするべきでしょう。大嵐について調査がまとまり次第、オンラインで会議を行います。

 調査にジニア先生の協力があると良いですね。ハッサク、頼めますか?」

「了解ですよ。クラベル校長にお伝えしても?」

「お願いします。新任の先生方には苦労をかけてしまいますが、致し方ないでしょう」

 

 昨年度のアカデミー人員総入れ替えは痛かったが、クラベル以下クセはあれど皆信用できるメンバーになったのはありがたい。ハッサクも教員となってくれたおかげでアカデミーへの連絡が早くなった。学生への対応は彼らに任せられる。あとは……

 

「チリ」

「はいな」

「ポピーと共に、各ジムリーダーへの連絡と、それぞれの街周辺の出現ポケモンの生息域調査を頼めますか?」

「ポケモンレンジャーと協力してええやんな?」

「もちろんです。ジムのある街の付近については、ジムリーダーが詳しいでしょう。また、予期せぬ強力なポケモンが居た場合、対応もお願いします」

「了解や。チリちゃんとポピーに任しとき」

 

 頼もしい限りだ。彼女らならば、強力な野生ポケモンにも対応できるだろう。

 

「アオキ」

「はい」

「……ゾロアの容体は、分かり次第連絡を。ゾロアは賢く、人への警戒心が強い種類ですが、その子は特に、何があるかわかりません。目が覚めた際、対応できる範囲にいるように」

「はい」

「プルピケ山道周辺の調査はレンジャーが先行しているのでしたね。そのままオージャの湖近辺まで範囲を広げてください。あちらは人の立ち入りが少なく、強い野生のポケモンも多い。ですが確か、ゾロアークの生息域があちらにあったはず。確認をしてもらった方が良さそうですね。レンジャーの護衛もお願いします」

「……はい」

「ゾロアの生息域は、しるしの木立の方にもありましたね。近いのはピケタウン……ジムのない町ですか。アオキ、こちらもお願いできますか?」

「……はい」

 

 私は他地方のリーグと連絡を。人の不自然な動き、謎の大嵐、見かけないポケモン。ひとまずはウルトラホールなる現象のあるアローラ、それにホウエン、カロス辺りから当たってみるか。

 ようやくアカデミーの件が落ち着いてきた頃だというのに……大きな事件につながることが無いと良いが。

 一野生ポケモンの怪我。それだけなら、自然界ではよくあることながら、今回は不可解な出来事が連なっている。偶然か、人災か、はたまた。

 全て杞憂ならばそれでよい。パルデアの地は安全である。その確認となるだけ。

 

「アカデミーの課外授業前に、人々とポケモンの安全が確認できれば一番です。

 それでは、各員よろしくお願いします」

 

――――――――――――――

 

 ナッペ山から見下ろした裾野の非常に低い位置に、禍々しい暗雲が見えた。新顔の白羽のイキリンコの捕獲エピソードを軽快に語っていたタクシードライバーの口が止まる。

「……お客さん、ありゃあ……オレも初めて見ますが、ちょっと避けて通ってもいいですかい?」

「ええ。……大穴付近まで回り込みましょう。あれは避けた方が良さそうだ」

「了解! イキリンコ、左に進路を取ってくれ。……イキリンコ?」

 

 ドライバーの声にタクシーが一度、ぐらりと揺れるが、何やら屋根の上が騒がしい。スマホロトムに暗雲を撮らせようとしていたが、何かあったのかとドライバーを見る。困惑した表情。

 

「どうしましたか?」

「それが、イキリンコたちの様子が……まずいぞ……風向きが、どうもよくないみたいです」

 

 吹き込む風は確かに強い。いや、先ほど大穴側へと頼んだ時より、幾分か強くなっている。

 むしろ、

 

「雲の方に向かって吹いている……?」

「こりゃいかん……! 揺れます!落ちそうなものはしまって、しっかり掴まって!」

 

 出ようとしていたスマホロトムをカバンに押し込み、足元のそれと、手すりを掴む。途端、徐々に傾く車体。間違いなく、たつまきのようなとてつもない強風が、暗雲に向かって吹き下ろしている。そのおいかぜに乗ってしまったのだろう。落ちるような速さで、プルピケ登山道を眼下に斜面を下る。必死で風を捉えようとイキリンコが一丸となって羽ばたいているが、個々の力では足りていない。

 ならば、もっと大きな羽を。

 

「ムクホーク、手伝って下さい」

 

 手すりから手を離し、外へとムクホークを出す。ぼうふうの中、力強い羽ばたきで車体に並ぶと、気付いたタクシードライバーが身を屈ませて運転席の背もたれを指した。

 

「ムクホーク、あちらを。どこでもいいので、安全に着陸させてください」

 

 もう暗雲は目の前だ。風の動きはポケモンの方がはるかに詳しい。車体の後ろを吊られ尻上がりに傾いたまま、辺りの様子を見る。吹き飛ばされているヒノヤコマ。転がって壁側で目を回しているビリリダマ。ひとかたまりに固まって耐えているマフィティフとその群れ。土埃に踏ん張るペルシアン……暗雲に突っ込む。

 ムクホークが大きな翼で風を捉え、幾らかイキリンコたちも楽になったのか、ドライバーの指示で細かく左右に微調整を加えていく。しかし、距離が足りない。速度が乗りすぎている。やむをえないか。

 

「カラミンゴ」

 

 斜めではあるが揺れはそう大きくない。前方へと出した華奢な体躯のカラミンゴは、ムクホーク程ではないがしっかりと風に切り込み前方に回り込む。

 

「車体へけたぐり」

「エッ」

 

 人間が二人乗っているが、他はひこうタイプ。車体は軽く作られている。後ろで息を詰まらせたドライバーには悪いが、命よりは安いだろう。

 進路と反対方向に首を翻し、風に乗ったカラミンゴの細く力強い足が車体に文字通り突き刺さる。バンパーを貫通し、座席を蹴り抜いた衝撃で大きく揺れるが、かなり速度は落ちた。

 

「おわあ、ああお客さん頭守って下さいああい」

 カラミンゴをボールに戻し、万一の衝撃に備える。ドライバーが悲鳴をあげているが、この速度と高度ならムクホークとイキリンコたちで十分制御できるだろう。

 

 ズズンと、突き刺さる形で斜めに着地。

 

「……お、お客さん、生きてます?」

「私は大丈夫です。……が、運転席は危険ですね。イキリンコたちをボールへ戻し、あなたも中へ」

 

 ポケモンバトルが出来る人間は、こういう時に前に立つ必要がある。仕方のないことながら、増えていく仕事に溜息が溢れるのは、今更か。ドライバーと入れ替わりに外へ。

 

「ムクホーク、ふきとばしです」

 

 空は暗雲に覆われて暗く、紫電も走り、風は依然強いまま。雨はなく、地鳴りが止まない。天変地異のごとき有様だが、チャンプルタウンへの被害が出ていないか。仕事が増える。面倒な。

 ……囲まれている。

 先ほど外から見た時は、居なかったポケモンたち。鈍く光る鋼の体。筋骨隆々な大柄の巨体。鋭く赤い眼光。様子のおかしい野生ポケモンたちは、敵意を剥き出しにしてこちらを囲んでいる。ムクホークの先ほどのふきとばしといかくで飛びかかってくるには至らないが、時間の問題か。

 公式戦でもないなら、一対一は決まりではない。

「……ウォーグル、ノココッチ、パフュートン。頼みます」

 ジム戦では使えない、本来の手持ちたち。見たところ、レベルはそこまで高くはないが、正気とは思えない様子の野生ポケモンを制圧するには必要か。

 

「お、お客さん!危ないですって!」

 

周りの様子にこちらを止めようとしているドライバー。危なくとも、やらねばならない。

 

「これも仕事ですから」

 

 民間人と一緒になって縮こまっていた、で済ませられるなら、それが一番いいのだが。

 

――――――

 

 やはりレベルはそこまで高くはない。が、容赦なく、躊躇いなくこちらに攻撃してくる野生ポケモンを蹴散らしていると、ムクホークが鋭い声を上げた。そちらに目をやると、地面に赤黒い何かが落ちている。……

 

「ノココッチ、ドリルライナー……あれの回収を」

 

 ムクホークが報せるような物だ。この野生ポケモンとは違う物なのだろう。ノココッチの抜けた穴をカラミンゴで抑え、猛攻を凌ぐ……時。

 唐突に重苦しい地鳴りも、風も収まる。あまりにも唐突で、指示を出そうとしていた体制のまま止まってしまった。空を見上げれば何事もなかったかのような青空。同時に、相手取っていた筈の野生ポケモンの姿が忽然と消えている。

 

「な、何だったんですかい……?」

「さあ……ただの自然現象、とは言い難いところですね。みなさん、お疲れ様ですがもう一仕事。周囲の安全確認をお願いします」

 少し消耗した手持ちたちを散開させ、ノココッチの戻りを待つ。地上を這うより穴を掘りながら進む方が早いノココッチが、赤黒い何かを咥えて穴から飛び出してきた。

 ……これは

 

「ヒェッ! お客さん!そいつ、大丈夫ですか?!」

 

 ドロドロに汚れているが、今尚血の流れ出ている小さな塊はまだ微かに温かい。患部にハンカチを押し当てるが、出血は酷いらしい。全然足りない。背広を脱ぎ、強く巻き付けて抑える。

 

「わかりません。急いで……いえ、自分で行く方が速そうですね。あなたはタクシーを起こせるか試して下さい。ポケモンセンターに行ってきます」

「ああ! ならお客さん、コイツ使いな!サンドイッチ入れてたんだが、抱えてくよりは静かに運べるだろ」

「……ありがとうございます」

 

 いい角度で刺さってしまったタクシーから、ドライバーの差し出したピクニックバスケットを受け取る。背広のかたまりを慎重に中に入れ、一番安定して飛べる手持ちを呼び出す。

 

「トロピウス。ポケモンセンターまで頼みます。……後で戻ります。鞄と手持ちを置いていきますので、保証として下さい。みなさんは彼を手伝って」

 

 高度は必要ない。屈んだトロピウスの背に乗り、できるだけ静かに飛ぶよう指示する。

 

 ……ああ、トップに遅れる旨を連絡をしないと。

 

 





アオキさんとオモダカさんお互い苦手そう


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人は好きでポケモンも好き


オモダカさんのリボンタイかわいい




 

 

 おれが病院で目が覚めてからかれこれ三日目。

 アオキさんはあれから毎日様子を見にきてくれる。

 くたびれ顔の覇気のない姿だけど、存外フットワークが軽いのか、ようけこの病院に寄ってくれている。……営業のついで、らしいけど。無表情だからどんな感情なのかわかりにくいのなんの。

 昼に来るのはジニア先生。「元気ですかあ?いい子にしてましたかあ?」と、ごはんのタイミングでやって来ては、おれの頭を撫でていく。ぽかぽかの手が気持ちええんじゃ。

 

 そんで本日はアオキさんに連れられて、カツカツと、革靴鳴らして現れたモンジャラ……スーツの着こなしと毛量のすんごい人。

 

「こんにちは、ゾロア。私はオモダカ。このパルデアのポケモンリーグ委員長を勤めています」

 

 にこ…とオモダカさんが目を細めるが、近寄りがたいオーラがすごい。リーグ委員長……偉い人だな? これが……権力か……。

 やっぱアオキさんの親近感とジニア先生の懐っこさがよかですたい。

 この人もかわいいこのゾロアを見てもかわいいって思わないタイプっぽいじゃん?ゾロアちゃんを愛でろよな。スレンダーだけど、オモダカさん声的に女性だろ?

 ……かわいさならジニア先生のが勝ってない?かわりにかっこよさはオモダカさんのがあるね。アオキさん?…………親近感があるよ、うん。

 

「はわあ! ちいちゃくって、かわいいポケモンさんなのです! おじちゃんのお写真で見た時より元気になってるみたいで、よかったですねぇ。

 ポピーはポピーです!こんにちはゾロアちゃん」

 

 んで、幼女。素直にかわいさが認められて嬉しい限りである。

 

 律儀に二人ともおれに自己紹介してくれてるが、これはジニア先生の案。

 

『この子はきちんと人の話を聞ける子ですねえ。ポケモンへの興味より、人の違いを気にしてる様子がありましたあ。「自分はこういう人ですよお」って、教えてあげると安心するんじゃないかなあ』

 

 とのこと。まあね、確かにラッキーより人の顔のが見分けがつく。匂いを嗅がせてもらうと、ちゃんと個々で違うもんだが、それでも病院のラッキーはみんな似てるんだよ。あと個体の名前ないのって、やっぱりちょっと不便だ。呼びかける時とかな。

 

「あなたの様子を聞いて、みなさん興味がある、とのことでした」

「でも、ほんとのほんとにかわいいですよ!白くって、ふわふわで!」

「ええ、白とグレーの毛並みが美しいですね。……本当に珍しい」

 

 いやオモダカさんの目つきが怖えのよ。

 

 だいぶ動けるくらいには傷はマシになった。まだくっついてはいないんだけど、頭とかはぶちめくらいなもんになってね。包帯も取れたのだ。

 だいぶドロドロに汚れてたおれを、ちょっとでも清潔に、といくらかは温タオルで拭き取られても、ゴワゴワとこびりついてた汚れまでは取れてなかった。それが昨日、ついに洗ってもらえることになったのである。

 傷口を防水テープで止めたあと、全身こざっぱりと洗われたのだが、すると周りの人らがみんなしてざわざわして、ジニア先生が大慌てで駆けつけパシャリ。

 

『ああ、やっぱりでしたかあ。すこおしだけ見えてる毛の色が白かったので、そうじゃないかなあって、研究仲間のみんなと話してたんですよお。わあー、ホントに白いんですねえ』

 

 らしい。色違いゾロアがそんなに珍しいのだろうか。いやそりゃ珍しいか。おれは見たことないもんな。

 台に乗ったポピーちゃんの大きな目に覗き込まれ、しげしげと眺められている。ここ数日でちゃんと起き上がれるまで回復したので、上体を起こす。鼻先を近付けてみせると、きゃー なんて、高い歓声をあげてポピーちゃんもぺっとりとでこをガラスに押し付けて来た。

 なんだぁ?かわいいじゃねえか……

 ポピーちゃんの無邪気な様子のうしろで、アオキさんとオモダカさんが何やら喋っている。心なしかアオキさんの肩がいつもより下がっているが、あんまり良い雰囲気ではなさげ。

 

 ふーん、なるほどね? ここでティンときちゃったねぇ。おれってば悪いキツネだから、こういう昼ドラの気配を勘繰ってしまうのだ。

 片や、くたびれたうだつのあがらない、あんまり営業成績よろしくなさそうな、不器用かつ人に愛想ふりまけない系サラリーマン。

 片や、バリバリのキャリアウーマン臭のする出来る女。withめちゃんこ可愛い幼女……がなんらかの繋がりを持っている。

 なお男性と女性の仲は良くないものであり、この名前のある人物は髪型が独特なポケモン世界で三人とも髪色が黒、とする場合、導き出される答えは一つ――

 

 ――オモダカさんはアオキさんの、元嫁……ってことだな……!

 そしてポピーちゃんは親権取られた愛娘……!

 これがアンサー!

 

 だとすると、このポピーちゃんにかわいいおれを見せてやろうと呼び出して、ポケモンで釣るとか恥を知れとオモダカさんに怒られてるんかな?

 やだ、アオキさんかわいそう……

 てかパパじゃなくて、おじちゃん呼びなの?知り合いのオッサン扱いなの?

 やだ、アオキさんかわいそう……

 

「アオキ。この子の治療の目処は?」

「あと一週間ほどで退院は出来るかと。ただ、野生に戻すには経過を見てから、というのが医師とジニア先生の見解です」

「でしたら!ぜひぜひ、ポピーがお預かりしたいです!」

「それは……今後、検査や確認の為、たくさん動いてもらう事になるこの子のお世話は大変でしょうから、あなたが四天王をやりながらこの子の面倒を見るのは難しいでしょう」

「むむ〜……ポピー、ちゃんとお世話出来ますのに……では、おじちゃんにお任せするんですの?」

「…………」

「個人での移動だけならアオキが一番速いですし、どうやらゾロアも彼に懐いているらしいですからね。

 何より、拾ったのは彼です」

「…………ええ、責任もって面倒見させていただきますよ」

 

 めっちゃ不本意極まりないって返事と顔(無表情)じゃんアオキさん……。

 てかポピーちゃん、今何て?キミ、四天王?

 それってリーグのある地方において上位五人の中に入ってるってコト?めっちゃ強いってコト?

 こんなにかわいくて、強いのか……

 

 野生生活は嫌だし、もしパパさんやきょうだいの元に戻れないってなったら、放流されるくらいなら捕まえられたい。そして一緒に暮らすとなれば、おれはポピーちゃんみたいなかわいい子と一緒に育っていきたい。あわよくばその成長を見守りつつ、悠々自適にぐうたらして生きていきたい。

 でも今の会話、なーんかこのくたびれたおじちゃんに連れていかれそうなんですけど……

 嫌いじゃないけど……もっと若くてかわいい人が好きっすねぇ……

 だってホラ、おれは悪くてかわいくて、ちょっと珍しいキツネだからね? かわいいものを抱っこすべきは、かわいいであるべきって考えなんだわ。

 それに、できれば苦労と痛い目にあいたくないおれなので、バトルとかは別のポケモンを使ってくれるとうれしい。既に四天王って言われてるポピーちゃんは、手持ちが完成されてるんだろう。

 優良物件じゃん! おれポピーちゃんちの子になりてぇ!

 

「あらあらあら? ゾロアちゃん、頭かゆかゆですか?」

「…………ポピーさんに撫でてほしいのでは?」

「まぁまぁ! でも、ポピー、おててがゾロアちゃんに届きませんの……」

「……失礼します」

 

 ガラスに頭を押し付けて、おれはポピーちゃんがお気に入りですよアッピルを試みる。気を利かせたのか(オモダカさんに視線を送られたからか)アオキさんがおれの傷にさわらないよう、優しくそっと抱き上げ、ポピーちゃんの前に下ろしてくれた。すぐさま、わざわざ手袋を外し、小さな、熱いくらい温かい手がおれの頭をもさもさと撫でてくる。

 うーん…? 思ったより手つきが豪快!

 

「はわわぁ……!ふわっふわですの!」

「ポピー、ゾロアは頭を打ってもいますから、もう少し優しく撫でてあげるといいかもしれませんね」

「あら、そうでしたわ!ポピーのポケモンちゃんたちとおんなじではないのですよね……どうですか?これくらい?」

 

 オモダカさんに言われて、ポピーちゃんの手つきが触ってるか触ってないかわからないくらい、そっ と、したものになる。うむむ、もうちょい強くても良いんだが。

 顔を上げると、こちらを見ていたアオキさんと目が合った。

 

「ゾロア、満足しましたか?」

「……」

 

 ふむ。

 ……うむ、ポピーちゃんとの交流はこんなもんで大丈夫だろう。怪我がもう少し治った頃にまた来てくれた時、もっとアピールしていけばいいか。

 ……そうか、幼女に怪我を考慮した上で「撫でてー!」って行ったら、遠慮しちゃうよな。確かに。

 

「……失礼します」

「またポピーとあそびましょうね」

 

 アオキさんに抱えられ、まんまる足先をポピーちゃんににぎにぎ握手されて、また保育器みたいな……治療器らしい……に戻された。やっぱポピーちゃん、ちょっと力加減が……なんか幼女にしては…………強くない?

 

「……おつかれさまです」

 

 ふわ、と。大きな手が背中を撫でていった。ふむ。悪くない。

 ………………おお?今の手、アオキさん?

 

「では、今日は帰ります。また後日会いましょう」

「ゾロアちゃん、またお会いしましょう!ですの!」

「……失礼します」

 

 元気にぴょこぴょこと飛びながら手を振るポピーちゃん以下三人が退室。結局、オモダカさんは一度もおれに触れなかったな。そもそも近寄ることもしなかった。

 あの人、おれみたいなかわいいキツネちゃんが苦手なのか?それとも、仕事熱心?

 

 ……しかし………………デカい手で撫でられるの、悪くなかったな……

 

――――――――――

 

 さてその日の昼。

 固形物食べてみる?と出された、オレンのみの小さくカットされたやつ。おみかん的な見た目で判断してたが、存外硬めのそれをかりぽりとしていたら、からりと開く病室の扉。

 おお、ジニア先生。と、おまけが二人。

 

「こんにちはあ。今日は、おともだちを連れてきましたがあ……大丈夫ですかねえ?」

「……」

 

 ジニア先生が、にっこり笑いかけながら、ゆっくりと指を伸ばして鼻先にくれる。うむ、ジニア先生だ。よかろうもん。

 

「ホンマに白いんやなぁ。灰色んトコも、結構白っぽく見えとるし……おお、自己紹介しとくんがええんやったか。

まいど! チリちゃんやで〜」

 

 夜の森の木ノ葉みたいな緑の髪がひょんと尾っぽみたいに伸びている。おれでもわかる、タレ目つり眉の笑って可愛いイケメン。ジョウトの方の方言で、黒手袋と三角アクセサリーがアクセント。

 は?イケメンで陽の者とか……そんなんもう、好きじゃん。

 ジニア先生に倣ってか、ついと差し出された手を嗅がせてもらうが、ほのかに雨の日の森の匂い。ええやん。

 

「お、チリちゃんに興味あるん? こら確かに人懐っこいやっちゃな」

「……」

 

 快活そうな見た目に反して、頭を押し当てた手は細く、薄く、そしてちょうどいい具合に撫でてくれる。少しだけ冷たい手。心があったかいってことですか?!

 細い指に耳裏顎下こしょこしょくすぐられるとこそばいのだが、悪くないぞ!

 

「なんや、ポピーが言うとった通り、ホンマにかわいいえー子やないの。なるほどなぁ」

「確かに、不思議な程人慣れしているようですね」

 

 チリちゃんの手が離れる。おっと、もう一人いたのだったか。………………でっ

 

「小生はハッサク。アカデミーでは美術を担当する教職についているのですよ」

 

 でっ、けえ……、今まで見た人の中で一番デカいな。でも教師です!って感じはある。

 ジニア先生と、ハッサク先生と一緒に来た、ビジネスカジュアルな気のいいチリちゃん。

 なるほど、先生だな? 

 

 ……子供の初恋奪っちゃう系先生じゃん!

 

 ひらめいた!

 

 チリちゃん先生に、地理教わっちゃう……って?

 

「なんやろ。今猛烈に何か言わなアカン気ぃした」

「……」

 

 ね。サムくなっちゃったね。ごめんなさい。

 ハッサク先生は自分の大きさを判ってる様で、おれを怖がらせない様にか、わざわざしゃがんで、手袋を外し、挨拶してくれた。ツンとくる嗅ぎ慣れない匂い。たぶん、美術で使う画材の何かかな?

 

「……男性でも怖がる様子はないですねえ」

「せやな。ポケモンはあんまし見せてへんのやったっけ」

「ええ。とりあえず許可はもらってるのでえ、ウパーからお願いしてもいいですかあ?」

「ヨシ来た。任せたりぃ」

 

 ジニア先生とチリちゃん先生、何の話?ハッサク先生が、大きな手で頭をぽんぽんと。強くもなく、弱いくらい。ポケモンの触り方慣れてる人達だな。流石に先生ともなると、ポケモンと接する機会も多いんだろう。

 お? ハッサク先生の大きな手で掬い上げる様に持ち上げられ、ジニア先生の胸に預けられた。

 両脇に片手を入れて、上半身を。同時にもう片方の手でお尻をしっかり支えられ、紫のシャツにぺっそりと抱えられる。ド安定する。

 

「いいですかあ?今から、チリさんとハッサク先生におともだちを呼んでもらいまあす。ちゃあんとおふたりがおさえてくれますし、もしもの時もぼくが守りますからあ……怖かったら、言ってくださいねえ」

 

 えへらと笑ってそんなん言われたら、もう、ねぇ?

 あれかな。いろんな人とのお話は試したから、今度はポケモンとはどうかな?と試したいって事なんだろう。野生に返すにしても、しばらく人と過ごすにしても、ポケモンと出会わないのは難しいもんな。

 よっしゃどんと来い!

 

「ほな行くでぇ〜。ウパー」

「ウパッ」

 

 一番手はチリちゃんのウパー。でもおれの知ってるウパーと違う。なんか茶色だ。

 ジニア先生がしゃがみ、茶色のウパーのそばににじり寄っていく。

 

「ウパ」

 

 おう、こんにちは、だ。あんころもちみたいだなきみ。

「ウパパ」

 そう言うきみはろうそく立てたケーキみたいだって?さては食べたコトあるな?

「ウーパー」

 甘かったか、そうかそうか。可愛がられてるみたいでなにより。

 

「どうですか? ……大丈夫そうですね」

「ほな、ドオーも大丈夫やな」

「えー?あわわ」

 

 ウパーの横にボールが投げられ、ジニア先生がサンダル鳴らして後退り。

 現れたのは、ヌオーのような顔をしたアザラシみたいな茶色の丸いの。大きいが、威圧感はない。とんがってるパーツが無いし、気の抜ける顔だからかな?

 

「ドオぉん」

 間延びした鳴き声。はいこんにちは。ドオーってのな。

「ンドオ」「ウパパ」

 へえ、いや、おれもドオーさんは見かけないや。パルデアはおれの知らない場所だと思うんだよねえ。

「ドオ」

 パパとはぐれちゃったのかって?そうそう。あときょうだいともはぐれてさぁ。

 

「大丈夫そうですね。では、次は私から。キバゴ、お願いします」

 

「キッバ!」

 

 ハッサク先生のボールから、大きな牙のポケモン。床に着地。よちよち歩いてドオーたちの横に並び、大きな目でキュルンと見てくる。

 爪や牙、怖くないか、って?大丈夫大丈夫。

「キャッブ」

 もっと大きくても大丈夫かって、大丈夫だけども、部屋狭くない?

 

「では……この子はどうですかね」

「あ」

 

 陽の光が遮られた。ジニア先生が窓を向き、胸に抱かれたおれも必然そっちを向く。窓を背に立つハッサク先生の背後。窓の外に、大きな翼のポケモン。

 

「こちらは、オンバーンです」

 

 羽ばたく翼はとても大きく、力強い。コウモリみたいなポケモンだ。

「ギィ……」

 あ、これはこれはご丁寧に……大きい声は攻撃になっちゃうんだ?ちょうおんぱとか出せそうだもん。

 

 小さくてかわいいのから、大きくて爪のあるものまで。色々なポケモンを見せられたが、みんな丁寧なやつらでおれを心配するようなことを言ってくれるので、怖いとかは無かった。チリちゃん先生とハッサク先生が、それぞれのポケモンをボールに戻す。

 おれもジニア先生の胸から降ろされた。

 

「よくがんばりましたねえ。おともだち、怖くなかったですかあ?」

「……」

 全然大丈夫、の意を込めて頷いて見せると、ジニア先生はにこにこで撫でてくれた。

 

「ふむふむ。数にも大きさにも、ぜんぜん怖がりませんねえ。人の言うことを聞いているポケモンのことを判ってるようです」

「人間のことを……我々の事を信頼してくれているのですかね?」

「そら、いよいよ野生とは思われへんなぁ。……誰かが逃したポケモンなんやない?」

「ああ!それは、案外あり得るかもしれませんねえ」

「色違いを逃がすって、あんま考えられへんけど」

 

 人が三人、首を捻っている。

 なんかおれのせいで人に色々考えてもらっちゃってるみたいで悪い気がするなぁ。

 

 ……………………そういやおれ、悪いキツネだったわ!

 

 






アオキさんのよくわからないけど一応セットしてあるらしい髪かわいいっす


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晴天は好きで嵐は嫌い


転生ゾロアが定期的に陰が薄い…



 

 

 「本日はみなさまお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」

 

 校長室で教師陣が見つめるモニターの中、オモダカ委員長が映っている。ワイプ画面では各地のジムリーダー。パルデア地方の実力者を集めた、緊急会議だ。

 

 議題は、先日プルピケ山道で起こった災害と、そこで見られた現象について。

 

 チャンプルタウンジムリーダーのアオキさんが、自身の遭遇した一件を一通り説明する。教員は既にクラベル校長から聞いているため、確認程度にさらっと流された。

 

「この異常な気象現象を、以降“大嵐”と呼称します。大嵐の発生後の現場での調査結果を報告します。

 まず、調査により確認できたことですが、

 プルピケ山道西の一地点を中心に、丁度円を描く範囲においてのみ、大嵐の痕跡が見られたことから、大嵐は非常に局地的な現象であったこと。暗雲、暴風、地鳴り、落雷が目撃されていますが、痕跡としては竜巻のように巻き込む形の暴風の跡が現場に残されていたことが確認されています。

 これら現象が気圧との関係が無く、通常の気象現象では起こり得ないことから、自然に発生したものではないこと。

 人為的なものの可能性を考えましたが、人の手が加わった痕跡は見られないことから……この大嵐は、なんらかのポケモンが起こしたものではないか、と調査隊が見ております」

 

 調査のためチャンプルタウンまで同行した上でぼく自身が見た範囲でだけにはなるけれど。機械が使われた痕跡もなく、様々な計測機器の数値も特に問題は無く。生息しないポケモンがいたという話だったものの、探す範囲ではそういった見かけないポケモンの姿もなく、本当に、草が薙ぎ倒された跡が残るばかり。変わらず自然豊かなパルデアの大地がそこにはあって、ポケモン達も変わらぬ様子でそこにいた。

 しかし実際に体験した証言が、アオキさんとタクシードライバーから。他、街道を移動中のポケモントレーナー、ポケモンセンターの業務に当たっていた数名から「低い位置にあった黒い雲と、強烈な風」の目撃証言が聞かれている。

 

「大嵐内で見られたポケモンは非常に凶暴で、正常な状態にはないように思えました。これまでにこの現象に出会った者がいないためデータがありませんが、もし同じ現象が発生し、戦う力の無い者が遭遇した場合、大きな事故に繋がる恐れがあります。急な天候の変化に警戒を呼びかけて下さい。

 現在原因究明と共に、過去に似たような現象が無かったか、目撃情報を集めております。報告は各地ポケモンセンターで受け付けておりますので、ご協力よろしくお願いします。

 …………ここまでで、何か質問がありましたら…………はい、グルーシャさん」

 

「急な天候変化、って話だけど、そもそもパルデアはよく天気が変わるよ。それに、山の天気だってもっとずっと変わりやすいし、荒れやすい。具体的に、黒い雲と強い風、って特徴の他に、何か無いの?」

「…………ドーム状に渦巻く雲、でしょうか。こちらに……はい、お願いします。

 ……こちらにチャンプルタウンにて民間の方からお借りした映像があります。参考にしてください」

 

 自分は一度見せてもらった映像だから、まだ余裕をもって見ていられる。しかし初めて見たジムリーダーや先生達が驚くのも無理はない。

 アオキさんの代わりに流される映像の中には、分厚い雲に覆われた空と、鳥ポケモンが吹き飛ばされるような強風。そして、渦巻く黒い雲と時折走る紫電が映っている。いくら天候の変わりやすいパルデアでも、ここまで酷い天気はそうそう無い。言われなくても、近寄りたくて寄る人間はあまりいないだろうと思える禍々しさ。

 

「……確かに、これと比べればわかりやすいかもね」

「すっごい映像! コレって配信とかに流してもいいヤツ?大バズり確実だよ!」

「流すとしたら注意喚起としてでしょうね」

「アオキはこの嵐にそらとぶタクシーで突っ込んだんだったか……フッ。中々にアヴァンギャルドだ」

「いやいや危険でしょ……」

 

 ジムリーダーが好きに話しているけれど、宝探しを控えている学校側はみんな神妙な顔。学生達が巻き込まれた場合を考えてしまう。

 

「そういえば、保護したポケモンはどうなったんですか?」

「ああ……それは」

「それについてはボクからご説明しますねえ」

 

 手を挙げると、オモダカ委員長がボクのモニターの画面権限を寄越してくれたので、資料を画面に表示していく。あの子が保護されたばかりの頃の画像を出すと、痛々しいその姿に皆んなが顔を顰めた。

 

「アオキさんの保護した、大怪我していたポケモンですがあ、“ゾロア”で間違いなかったんですけどもお……生息域が違うんですよねえ」

「ゾロアはしるしの木立と西3番エリアにいるんだったか」

「そおです、レホール先生。西3番エリアとプルピケ山道は近いですが、山道側にはゾロアは見られません。なのでこの子も、恐らく“大嵐”で現れたポケモンなのかなあ、と思われたんですがあ……アオキさんの見た大嵐の中の凶暴なポケモンと違って、とても人懐っこいいい子だったんですよねえ」

 

 次の画像。治療され、体をきれいに洗って、やや元気になったゾロアの映像を表示する。チリさんの手に自ら擦り寄る姿は、凶暴という言葉にはとても当て嵌まらない。

 けれど、その写真でみんなが思うのは別のことだろう。

 

「……え」

「白いゾロア?」

「色違い?」

「はあい。体毛が黒に、頭や尾の先が赤いのがぼくらの知るゾロアですねえ。でも、この子はほとんど白いと言っても遜色ないほど、体色が薄く、先の色は青いんですよお。

 参考までに、こちら。イッシュのアララギ博士からお借りしてきた、色違いのゾロアの映像ですねえ」

 

 記録映像を並べる。アカデミーの生徒に撮らせてもらった、サンドイッチの生ハムを抜き取ろうとしているところの、黒毛と、その毛先が赤いゾロア。

 そしてイッシュから借りた、とあるトレーナーの赤いシューズにじゃれつく、黒毛の、毛先が青いゾロアの映像。

 

「ゾロアの色違いは、赤い毛が青くなるそうでえ……白いゾロア、という個体は、現在ゾロアの生息するどの地方でも見つかっていないんですよねえ。なので各地方の研究者の皆さんと首をひねっていたんですがあ、ひとつ。数ヶ月前に見つかった、古い、……ふる〜い、映像がありまあす。出しますねえ」

 

 それは、ガラルの若い研究者が心当たりを思い出した、と連絡を繋いでくれた先で手に入った映像。シンオウ地方のコウキという、ナナカマド博士の助手の青年が、快く提供してくれた。

 映像も音声もノイズが酷く、最後の方の解析に少し時間がかかったものの、無事復元できたもの。

 

 暗い、夜の雪山での野生ポケモンの観察映像。

 ユキワラシの群れを離れ、撮影者が見つけた「ガーディやロコンっぽい何か」の容姿に言及し、……何か、恐ろしいものがカメラに向かって襲いかかり、悲鳴を上げた撮影者がカメラを放り出して離れた音。

 投げ捨てられたカメラの画面を覗き込むように現れたそのポケモンは、まさしく、話題の『白いゾロア』とそっくりな姿をしていた。毛先が赤いか青いかという違いはあるものの、少し困った様な目や、普通のゾロアより長い毛足はまさにそのまま。

 

「これはシンオウ地方の、ミオ図書館奥に死蔵されていた、とても……とてもふる〜い、資料映像ですがあ……これが撮られたのは、恐らくは大昔のシンオウ地方であると思われまあす。 レホール先生、質問は後でお聞きしますねえ。

 ここに映っているポケモンは、かつてシンオウ地方にいた、シンオウ地方のゾロアではないかと研究中だったんですねえ。

……ですが、今シンオウ地方ではゾロアは見られないんです。理由は多々考えられますが……、一番はやはり、気候が合わなかったんでしょうねえ……」

 

 映像のゾロアは、似た毛色のゾロアークのようなポケモンと共に去っていった。今現在、この映像の他に彼らの記録は、発見されていない。

 外見が似ている、というだけならば、ディグダとウミディグダのような、似た形態に辿り着いた説や、ホエルコとアルクジラのような進化の過程で分かれた近い種などあるだろう。しかしこのゾロア達で当て嵌まるのは、恐らく。

 

「リージョンフォーム……ですか?」

「はあい。オモダカ委員長、その可能性が高いです。シンオウの豪雪地帯に合わせ、雪に紛れる白色と、豊富な体毛を獲得したのではないかと。とはいえ、この幻影の使い方など、わからない点は多いので、まあだまだ調べることは多いんですがあ…………それはまた今度ですねえ」

 

 鼻息荒いレホール先生を、キハダ先生とセイジ先生が取り押さえている間に別の資料を並べて行く。現在のパルデア地方における、ゾロア、ゾロアークの目撃された地点のまとめや、大量発生等で普段はそこにいないポケモンが現れる場所や時期のまとめ。

 合わせて、アローラ地方で見られるウルトラホール現象と、ガラル地方で見られるダイマックス、及び数年前のマクロコスモス事件を並べていく。

 ここからは、オモダカ委員長に話を任せる。

 

「かつて、別の地方に存在していたとされるポケモン。今は見かけなくなったポケモン。……シンオウ、アローラ、ジョウトでは時間も、空間も超える力を持つポケモンが、伝説で伝えられています。ポケモンの中には、それだけの力を持つものがいる。パルデアにおいて、そのような伝承はありませんが……今はどんな手掛かりでも欲しい。

 考えられる可能性は、いつでも受け付けます。みなさんの知恵をお借りできれば幸いです。」

 

 オモダカ委員長はそう頭を下げると、最後に改めて、情報提供を呼びかけて会議を閉じた。途端に、通信画面を閉じるより先にレホール先生に襲撃……突撃された。

 

「ジニア先生!!古き昔のシンオウ地方の、映像……とは具体的にはどれぐらい前のものなのだ!」

「あのお、れ、レホール、せん、あた、あたまがあ、ゆ、ゆ、ゆれるう、ああ」

「シンオウ地方は永く語り継がれる神話と歴史の根付くロマンに溢れた土地!“映像”記録というのがやや不満だが、未だに未発表、未研究の文献が死蔵されているというのは問題、大問題、由々しき問題!!それらの調査中の人物と連絡が取れたのか?!どこまで調べた?!何がわかった!?かつてのパルデアと何か繋がりは!!?」

「あああああ」

 

 肩を、肩を掴まれ激しく揺さぶられていて、頭がぐわんぐわんと揺れている。レホール先生にあまりこの話をしなかったのも、レホール先生に話せるほどの情報が無いからでえええ。

 

「レホール先生、その辺にしておかねば、そろそろジニア先生がバターになってしまう」

「はにゃあ……」

「何を……寝ている場合ではないぞジニア先生!」

 

 サワロ先生が止めてくれなければ、本当にバターになっていたかもしれない。

 落ち着いた……一応席に座り直したくらいには落ち着いたレホール先生が、ぼくの話を一通り聞いてくれる。……聞いてくれ は した。

 

「まだ調査中だと? 発見されたばかりの資料?……ラベン博士の手記?!…………〜〜ッ!クラベル校長!!!!」

「申し訳ありませんがレホール先生。旅行は長期休暇期間にお願いします」

「まだ保存修理も済んでませんからあ、今行っても作業の手伝いは出来ませんよお。

 その代わりと言ってはなんですがあ、今回協力していただいた分、力を貸せる時には存分に使って欲しいと伝えてあるのでえ、呼ばれた時には是非お手伝いに行きましょう?」

「……成程。確かにこちらもパルデアの調査は不十分……片手間などで来られても、彼の地の先人に失礼か。いいだろう、ここは……………………………………こらえよう」

「ありがとうございますー」

 

 セイジ先生やミモザさんが「あちら、ホントにこらえてるかー?」「でも今飛び出して行かれたら困っちゃいますし……」とコソコソ話している。

 クラベル校長が席を立ち、みんなの視線を集める。

 

「では、アカデミーの方針です。

 今学期の宝探しは中止……とも考えましたが、今のところ大嵐の発生は確認されておりません。今回の大嵐はレアケースだったのではないか、と委員会でも見ております。

 もちろん、調査は続けますが……、映像や周辺の聞き込みで、自分から、または空から近寄らない限りは巻き込まれる事もない筈である、とのこと。

 ですので、宝探し期間中はポケモンリーグ委員会と連絡を密に取り合い、異常発生に備える事。また学生達にも各々異常気象への十分な注意と対応を呼びかけ、雨天、荒天、嵐の際はなるべく安全な場所で待機を心掛けてもらう事。改めて、これらを徹底することで、安全に備えることとします。

 教職員の皆様には、仕事を増やしてしまうことになりますが……何卒ご協力、よろしくお願いします……!」

 

 深く頭を下げる姿。

 本音を言えば、中止でも仕方ないと思う。大嵐が原因で、小さなポケモンが酷い怪我を負っている。ならばそれが人間への被害に変わる恐れはある。

 ただ同時に、これまで一度も確認されていない現象に、遭遇したのが手練れだったお陰かそのせいか、人的被害は無く、タクシー一台への被害のみ。

 再発の確証はないが、もう起こらないとは決して言えない。そして、防ぐ方法は未だ不明。

 

 なれば、人の方が対応していくしかない。

 

 なにも難しいことでは無い。危ないことには近寄らないというだけで、パルデアの大自然を、野生ポケモンの中を旅をするのはそもそも危ないことには変わりない。

 

 人以上の力をもったポケットモンスターたちと暮らしていくんだから。

 

「――クラベル校長。ぼくたちみんなで今学期、安全で、素敵な……、楽しい学期にしましょうー」

「……ええ、よろしくお願いします」

 

 誰が言ったか。

 ポケモンは、ふしぎな生き物で。

 そして、ポケモンは こわい 生き物。

 

 でも、彼らは優しくて強い。ボクらの大事なともだちでもある。

 生涯の友人との出会い。素敵なものにするお手伝いこそが、ぼくたちの仕事だろう。

 

――――――――――――

 

 特定の場所で、普段は見かけないポケモンが突然大量に増え始め、またしばらく後に姿を消す。これは大量発生として、このパルデア地方でも、他の地方でも周知されている。原因は不明だが、出現するポケモンとその場所には一定の法則はあり、少なくともゾロアがプルピケ山道に現れた事はこれまでない。そして、集まるポケモンに凶暴性や暴走する様子はない。よって、これは関連性が薄い、と考えられる。

 続いてウルトラホール。こちらは未だに調査中、かつ、アローラ以外では見られていないが、他の地方のポケモンや、見たことのないポケモン……のようなものが現れる現象。ただし、これはアローラ特有の力場の影響であるため、離れたこのパルデアでは考えにくい。

 そしてガラルのダイマックス。原因は『ムゲンダイナ』というポケモンではあったが、調査によるとそれより遥かに大昔にも、ポケモンが巨大化する似た様な現象はあったという。

 あとは……そうだな、ホウエンか。姿を現すだけで、洪水のような大雨、悪夢の如し日照りを発する伝説のポケモンに、宇宙から来たというポケモン、どんな願いでも叶えるポケモン……ポケモンの持つ力には、想像もつかない程の代物がある。

 だが、ポケモンばかりではなく、人も進化はしている。今回の大嵐内で人に造られたポケモン……ポリゴンが確認されたのだったな。

 伝説上のポケモンを、再現しようとした人間の話は、いくつかある。

 時を超え、空間を超え、天候を操り、力を与え…………そして知恵を持つ、…………かもしれないポケモンか」

 

 画面の向こうで、女性がクツと喉を鳴らす。送った資料の数時間後に返ってきた通信は、現在オモダカ委員長と私だけの校長室で受けた。

 パルデアで起きた異常気象。テラスタルとは違う現象ながら、原因がわからない以上、その見解を聞くべくオーリム博士に連絡を取るのは必然。磁場の影響か、少し映像に乱れはあるが、余程急いで調べてくれたらしいオーリムは、やや乱れた髪を手で撫で付けている。

 

「ポケモンが原因、であると?」

「その通り。だが、そのポケモンが……人の手で用意された可能性は否定できない。……パルデアに伝わる伝承、そしてエリアゼロにおいて、その大嵐を起こせるような能力を持つポケモンは見られない。それに、我々の用意したバリアでエリアゼロからポケモンが外に出てしまうことも無いからね。よって、何が原因かはわからないが、少なくともそれは外から持ち込まれたものではないだろうか、とワタシは考える。

 …………そこでひとつ、考えたのだが」

 

 オーリムは、癖でもあるこめかみに指を当てる動作をした。彼女が何か考える時の仕草。

 

「発見されたポケモンだが、シンオウ地方にかつていた、ゾロアのリージョンフォームに酷似した特徴があったのだったね。シンオウは神話と非常に強く関係する地。その昔、太陽……いや、神と呼ばれたポケモンが、人々に崇められていたと聞く。

 シンオウの地にも、嵐を起こし、時と空間を操り、人に知恵や勇気を与え……神と崇められた伝説のポケモンがいるだろう。

 そちらの資料を集めてみてはどうだろう。

 残念だがワタシはそちらにはあまり明るくはない。エリアゼロとテラスタルがあまり関わらないと考えられる以上、今回の件、ワタシから協力できることは……すまないが、これぐらいだ。作業のついでに資料を見た限りでの見解ではあるが……」

「いえ。こちらこそ忙しいところをすいません」

「ああ。もしもまた同じ現象、見たことのないポケモン、テラスタル反応など、何でもいい。関係ありそうな情報があれば、連絡はいつでも。……必ず折り返して連絡しよう。

 では、失礼する」

 

 にこと笑い、手を振って、彼女は通信を切った。オモダカ委員長は考えている様子。

 シンオウについて、ですか……

 レホール先生に却下を告げた上で、パルデアとかつてのシンオウ地方がもしかしたら何か繋がりがあるかもしれない、それについての情報を集めている……と知られては……。

 いけませんね。彼女が授業を放り出して空港に走る未来が見えた気がします。引き続き、ジニア先生に研究者の皆さんとの連絡をお願いするしかないでしょう。

 

 





感想ありがとうございます!



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景色は好きで賑わいも好き


実はチャンプルタウン東側のポケセンから出て、オージャの湖第2物見塔方面に進んですぐの木陰、そうぐうパワー:あくつけた状態でぐるっと見ると、ゾロアわんさか湧くんですよねっていう。
そもそもシルシュルー、パフュートン、タマゲタケ等、しるしの木立と生態系は似ているのに、タギングルはしるしの木立にしかいないんですねえ。
いやあ、ふしぎだなあ〜。



 

おんもである!!!!

 

 はい。外です。

 縫合の糸も取れて、暴れる子でも無いし聞き分けも良いので、静かに動くよう言ってあげれば大丈夫。とのきっとジョーイさんのお墨付きで、晴れて晴天お外に出してもらえている。

 とはいえ病院の中庭だけどね。

 中央に立つ木の下の木陰に、おれを見守るジニア先生と、黒いジャージと黒い髪の女性と、もう一人はお肌の黒いなんかごつ……って感じの髪のおばちゃん。二人ともアカデミーの先生で、キハダさんとタイムさんというらしい。それぞれ体育と、数学教師だそうな。

 

 何を隠そう、おれは数学は苦手である!

 

 流石に九九くらいは覚えてますやい。んでも数字ってのはこう……頭こんがらがっちゃうよね。素数?3で馬鹿になるみたいなあれでしょ。

 

 タイム先生のイシヘンジンと、キハダ先生のチャーレム、ジニア先生のラランテスがおれの相手してくれているが、離れていてもこの大きな耳はようく聞こえている。

 

 つまりはおれの退院後、そのまま放すのではなく、経過観察に誰かが引き取るべきだがさて、誰が引き取るかなって話。っぽい。

 

 アオキのおじちゃんは、おれを拾ったご本人の為一番責任があるのだけど、彼は仕事で忙しく、各地を転々と移動する彼にボールに入れない状態でついていくのはちとまだ難しい。

 

 ほんならお前ボールに入る……ってか、アオキさんに捕まえてもらって、正式にアオキさんちの子になればよかろうもんだが、そういう話の流れになった時の彼の表情たるや。

 

 あれは顔に書いてあったもん。無表情の頬にしっかりと。

 

『普通な所が何一つない、特例まみれのこのポケモンを、私が?』って。

 

 おれは知ってるのだ。あれは、上司にめんどくさいこと押し付けられて断るに断れないんだけど心の中では如何にしてどこまで手を抜こうか考えてる、そういう顔だった。

 

 ので、彼が差し出したヒールボールは丁寧に押し返しておいた。

 

 いや、アオキのおじちゃんは悪い人じゃないのは知ってるけど、それとこれとは話は別よ。だってあの人くたびれたおじちゃんじゃn……うにゃむにゃ

 あの人おれのことかわいいって思ってないし、むしろめんどくさ……って思ってるのがようく分かる。それでも義務感で世話はしっかりしてくれそうだけど、他に良い貰い手がいたら速攻で預けるに決まってる。そういう男だよあれは。そういう所がオモダカさんに三行半突きつけられる所なんだよな。

 ……悪い人じゃなさそうなんだけども。

 

 そんなわけで、嫌々手持ちに入れる人なぞはこちらからノーセンキューなのである。おれが断ったってんなら、アオキさんのせいばかりにはなるまいよ。

 あわよくばポピーちゃんにとも思ったが、かわいいあの子は幼女なのでポケモンがちゃんと管理できるのか、一抹の不安。四天王とは聞いたけど、いやでも、言うて幼女じゃん?

 オモダカさんはなんか怖いし。

 チリちゃん先生は……イケメン陽キャオーラにおれが耐えられなくなりそう。

 ハッサク先生は、うん。でけぇ。あとアオキさんくらい忙しいらしい。

 

 となるとジニア先生あたり優しいし、かっこいいし若いし可愛いしおれのことかわいがってくれるし優しいし、とってもよろしおすなのだが、何と悲しい事に当の本人から断られている。

 曰く、ポケモンバトルはそれほど上手くない自分は、一度ならば守れるが、守り切れる自信は無いのでえ、すいません。だとか。

 うるせえ!行こう!とばかりに彼のズボンの裾を引っ張ったのだが、糸ほつれボソボソにしてしまうまでガッチャとおれからしがみついても、へらりと笑って変わらず「すいません」である。

 ジニア先生、実は頑固ちゃんか?

 

 それならアカデミーの先生方に頼んではどうだろう。

 ということで、顔合わせに本日この二人がやってきた。

タイム先生、初めにキョジオーンとやらのでっかい岩の塊ポケモンを出してくれたのだが、猛烈な嫌な気配と塩っ辛い粉にきけんよちでも無いのに身震いしてしまったのが初対面。ジニア先生のうっすいシャツに隠れて聞いた話によると、キョジオーンの塩は傷に良く効くのだそうで、心優しきタイム先生は気を利かせておれに差し向けたらしい。

 

 “傷口に塩を塗る”って諺知ってるか?

 おれは知ってる。んなもん全力でお断りである。

 

 やや落ち込ませてしまったキョジオーンの代わりに出された、アスレチック石組みポケモンパート2のイシヘンジンさん曰く、タイム先生は昔、ジムリーダーをやっていた事もある凄腕トレーナー。もしもの時も、おれの身も守れるだろう。だそう。

 ははぁ、このオモダカさんを薄めて熟成しておばちゃんの皮被せた感じの、怒らせたら絶対怖いおばちゃん感はジムリーダーの気配かあ、と納得した。優しそうなんだけど、ちょっと怖い。

 

 で、イシヘンジンさんに乗せてくれたり、ストレッチのごとしヨガを教えてくれた、キハダ先生のチャーレムさん。曰く、キハダ先生もそこまでポケモンバトルが上手い程ではない、が、本人が鍛えているので、体力には自信があるとのこと。

 

 駆け抜け飛んでけ、頭をよぎるは、スーパーマサラ人がひとり。

 

 流石にあそこまでのフィジカルは無いだろうが、フィジカルは確かにありそうな方。パワーこそ力、勢いで乗り切れ!なまさしく体育会系な素振り。

 …………なんでかな。

 ……………………スタイル抜群で顔もかわいくて、若くて(本人が)強そう、なのだけど……

 

 チャーレムさんには悪いが、なんだろう。

 この、彼女からほのかに漂う残念臭は。

 

 お二人の差し出したボールも、丁重にお断りしておいた。だって、なんか……クセ強くて……

 

 ジニア先生のラランテス曰く。

 アカデミーの先生、クセ強揃いらしい。

 

 これは前途多難な気配がしてきた。

 

――――――――――――

 

 引き続き、おんもである。

 

 やっぱオメェしかいねぇんだよォ!とばかりにジニア先生の裾に噛み付いたが、やんわりと引っペがされてしまった。いや、ジニア先生のズボンが欲しい訳では無いです脱がなくて良いです脱ぐ……脱ぐな!

 キハダ先生とタイム先生は、次の授業のコマがあるのでとアカデミーに帰って行った。

 ここに先生がひとりいるのだが?と思い顔を見上げると、バッチリ目が合ったジニア先生がにこりと微笑む。

 

「後で別のズボン、持ってきますねえ」

 

 いらねえってば。

 

 病院の待合室ではなく、裏口から。ジニア先生の白衣を頭っから被せられ、胸に抱かれていざ街へ。

 太陽サンサン、午後のやや傾いた位置からの光が照らす、異国情緒溢れる街並み。陰影と白い石組み、色とりどりのタイルや旗が光に風にと揺らいでキラキラと輝く。チルットが歌うように鳴き、どこからかギターの音色も聞こえる。鼻を効かせりゃ甘いも辛いも、香辛料だのの良い香り。昼ごはん食べたでしょおれ。

 

 諸々含めて、おれの見た事ない、全く初見な知らない景色だ。やっぱり全然別の所なんだな。いきなりですが、な弾丸海外旅行気分。

 ……人も多いようだけど、どこか似た格好の人が多い印象。そういやアカデミー、学校があるんだっけ?ほんなら、あれは制服か。

 周りを見渡しているおれが上を見上げると、またもやジニア先生と目が合った。行かねえんすかいと声をかけると、おれをひとなで、白衣を更にしっかりと被せて、ジニア先生は歩き出した。

 

 あれ?思ってたお出かけと違う。おれは自分で、ジニア先生の横を歩って行くんだとばっかり。

 

「今日は調子が良いようなので、少し先のバトルコート辺りまで行ってみますかあ。……ウインディ、お願いしますねえ」

 

 ラランテスの代わりにジニア先生の出したどデカいもふもふが付いてくる。キミははじめましてちゃんだな?

 ほほう、護衛?警戒は任せなさいとな。……何に警戒してんの?

 ………………警戒必要な街なの?!

 違う?鳥ポケモン?……ああ、もしもデカい鳥に襲われたら、もしかしたら怪我が響いておれが避けれないかもしれないからね?

 ……………………何か隠してるな?慌て方がジニア先生のそれなのよ。でんせつポケモンが飼い主とへんにゃりした所まで似るもんじゃない。頭の毛量は似てるけどね。

 

「テーブルシティは、アカデミーの側に、発展した街です。歴史は長いですが、人の入れ替わりも多いのでえ……新しいものも入って来やすいんですよお。パルデアで一番人が多い街でもあります。…………人が多いのは、怖くないですかあ?」

 

 人の多さ、か。いうておれの知ってる駅前だの有名観光地だの某テーマパークよりは遥かに少ないし、あまり気にはならない。

 確かにゾロアとしてこの雑踏と喧騒を行くと、鼻と耳が味わった事のない刺激がびりっびりだが、風の抜けも良いし、飯の匂いはいい匂いだし、ゲーセンよりはマシ。

 

「そおですか。これにも驚かない……やっぱり、人の暮らしの側に居たとしか考えられないんですがねえ……あ、ミツハニー」

 

 羽音に良く似た鳴き声。噴水脇の花壇に、数匹の蜂のポケモンが群れて飛んでいた。かわいいですねえ、なんてにっこりしているジニア先生。

 おれを抱きながら、おれ以外に「かわいい」だって……?

 いや別にいいけどさ。おれはヤンデレじゃねーのよ。……やっぱりこの人、ポケモンそのものが好きらしい。良い事だ。

 

 建物と建物の間を抜け、大きな広場の大きな階段の前でジニア先生が立ち止まる。風がちょっと強い。吹き降ろすタイプのやつ。

 

「あれが、ぼくが先生をやっているオレンジアカデミーです。どうですか?」

 

 すごく……デカいです……

 あのとんがり尖塔の連なった形、見た事ある気はするが、中央にでっっっかいボールが付いているインパクトが強すぎて全部吹き飛びそう。日光を反射して一際輝いて、これぞまさしく街のシンボル。

 

「うんうん、ちょっとまぶしいですねえ。行きましょおか」

 

 立ち止まっているジニア先生だったが、制服を着た子供たちから手を振られ、手を振り返してそそくさと歩き出す。おれを学生と会わせるつもりは、まだないようだ。

 

 バトルコートでは、丁度知らんおじさんと学生服の少年がバトル中だった。おじさんのドーミラーに、大きく口を開けた、赤い小さなワニが果敢にひのこを吹き付けている。

 

「丁度バトル中ですかあ。あれがせいどうポケモンのドーミラー、そちらは、ほのおワニポケモンのホゲータですねえ」

 

 流石はポケモン博士ポジション。ポケモンの分類までソラで言えるとは。だからはがねタイプとほのおタイプだってのが、すぐに判る。相性有利!

 宙を回転しながらひのこを避けたドーミラーのねんりきで、ホゲータが目をぐるぐるにしてふらつき始めた。こんらんしたか?

 

「ポケモンバトル。人がポケモンにお願いして、お互い競い合う勝負ですねえ。トレーナーとポケモン、状況を見て指示を出し、指示を聞いてその通りに動き、力を合わせて困難に立ち向かう。

 ……ふたりの間に信頼があってこそ成立します。ほら、ホゲータ側を見て下さい」

 

 ドーミラーがグルグルと回転しながら、ホゲータに突っ込む。フラフラのホゲータは避けられない。かと思えたが、学生の少年が声をはりあげ、その掛け声に合わせてホゲータが横に跳び、見事躱した。

 こんらんが解けたわけではないらしく、自分で出したひのこに突っ込んでいるが、なるほど、あれが信頼ってぇやつですか。

 

 ほのおも電撃も受けても平気な顔したマサラ人が頭をよぎった。かわせコマンド搭載されたんだなぁって。

 

 実際なら、そりゃ「かわせ!」って言われんでも躱すわそんなんと思うんだが、どっちに躱せば?!みたいな混乱を、トレーナーさんがサポートしてくれるってことかな?

 

 ひのこで目の前が弾けたのか、こんらんを振り払ったホゲータが地面から浮き上がろうとしているドーミラーへ、ひのこをやきつくすぐらいの勢いで吹き付け……そのまま、ドーミラーは地面から浮く力も無くなり、甲高い金属音を立てて落ちた。

 ドーミラーをボールに戻しながら、がっくりと肩を落とすおじさんと対照的に、お互いに走り寄り、抱き着きあってはしゃぐホゲータと少年。

 

「どうでしょう。ポケモンバトル……好きですかあ?」

「…………」

 

 …………んまぁ…………痛いのは嫌いなんだが……

 信頼とか言われちゃうと……嫌いとは言えなくなっちゃうよねえ。

 

 

 

――――――――――――――

 

 視界から人がゴッソリ減った。授業開始の時間だからでしょうねえとジニア先生。

 

 授業開始の時間に先生、ここにいていいの?

 

 屋台のお姉さんも、お昼過ぎて人も減った今のうちに休憩に行き、先程負けたおじさんや、何の仕事のお兄さんだか知らないが、ベンチや芝生でポケモン達とスヤスヤお昼寝タイムらしい。

 

 先生お昼寝タイムじゃないの?

 

「せっかくなので、キミも少しバトルコートに立ってみますかあ」

「……」

 

 何がせっかくなのかと。

 

 硬いゴムを砕いて固めたような感触のバトルコートに降ろされる。白衣を羽織り直したジニア先生が、ウインディに何か指示を出しているのを横目に、ちょっと踏み締めてみたり、跳ねてみたりしてみた。うん、腹に痛みは無い。

 ジニア先生は、筋力がどれくらい落ちているのか見たいのだろう。一応はなるべく体を動かしてはみたものの、やっぱ寝たきりってのはよくないよね。

 

「スマホロトム。撮影お願いしますねえ。

 ゾロアさん。何か技は出せますかあ?」

 

 スマホロトムが周りを飛ぶ。技? わざ…………

 技?

 

 「……きゅぬん!きゅぬぬ!きゅきゅ……きゅあんぬ!」

 もしかしなくても今、授業の時間のはずなのにおれのために時間割いてるな?!なんでジニア先生ボール出さないんです?!

 って意味を込めてみる。

 

「なきごえ……いや、いちゃもんですかねえ?」

 

 通じないよなあ。知ってた。

 でも他の技なんて、にらんでみたり……つめといでみたり、悪いキツネらしく悪だくみしてみたり……それっぽいことはしてみるが、ジニア先生が首を傾げている。離れた所で待機していたウインディに、来い来いと手招き。

 

「……ふむ。ウインディ、ちょっと我慢しててくださいねえ。

 胸を借りるつもりで、ウインディに攻撃してみてください。キミのできる範囲で構いませんが、ちょっと手加減してもらえると助かりますねえ」

 

 キズぐすりもありますので、とのこと。ウインディもぎゃおんぬと頷いております。

 

 ええ?攻撃……攻撃の技?

 

 どいっとえいや、気合い込めてひっかいてみる。

 

 毛繕いかな?とかウインディに言われた。

 はぁ?

 

「あはは。もう少し強めにでも大丈夫ですよお」

 

 ジニア先生にも笑顔で煽られたんだが?! なにこれ、ちょうはつ……ってコト?!

 

 受けてたってやらぁ!

「きゅ……あんぬ!」

 

 悪いキツネをバカにすると痛い目見るのである!くらえケツアタック!

 

 ぐあん、と、予期せぬ位置からケツを殴られたウインディが驚きの声。

「ええっ?」

 ジニア先生も驚きの声。ふはは。なんか気合い込めたら出たけど、これがポケモンの技、なのかな? ちょうはつのお陰で出た気がするけど。

 

「────────『かげうち』?

 …………いやあ、リージョンフォームならあるいは……確かに…………」

 

 ジニア先生が難しい顔。なんだなんだ?タマゴ技でも出しちゃったか?ゾロアの技、正直パパさんの使ってたいくつかの技しか知らないんだよなあ。今何かで殴ったつもりはあるんだけども。

 ジニア先生が、宙を飛ぶスマホロトムを捕まえて、ポツポツと首を傾げながら呟いている。

 

「あくタイプの他に…………ゴースト複合の可能性……?……ノーマル技を当ててみても無効化されれば…………いや、それはまだ流石に……

 ……いえ。

 よくがんばりましたあ。キミのことが、少しわかりましたよお。じゃあ、戻りましょうかあ」

 

 おれの毛並みに沿って大きく撫でて、そのまま抱き上げてくれる。今度は白衣の懐に挟まれた。ウインディがおつかれさま、と顔を舐めて来るが、それついでにジニア先生も舐めてるよな。メガネびちゃびちゃだぞ。

 ひゅいんと、目の前に飛んでくるスマホロトム。

 

「データはあっちに送っておくロト?」

「まだボクのパソコンで大丈夫です。編集してから送りましょう」

「了解ロト〜」

 

「……あれ、どうかしましたかあ?」

 

 ────今、ポケモンのロトムが、人間に通じる言葉喋ってなかった??

 

 





ライムとタイム、間違えまくって何度確認したことか。

西3番エリアのプルピケ山道側では見かけないんですけど、確かにそちらにも出現するらしいんですよ。
書いた話が破綻するので、ワクワクしながら探してるんですが、一応出現場所ってちゃんとしてるんだなぁって

見てたらストックなくなりました。正月休みも無くなりました。
更新速度遅くなりますが、エタらないよう頑張っていきたいと思います。
どっとはらい


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聞くのは好きで訊くのは苦手

見てくれてる方多くてびっくらしました
ありがとうございます

口調わからないよセイジ先生……ベリベリしとけば良き?



 

 

 バトルコートからの帰り道。それは突然だった。

 すぽんと腕から飛び出したゾロアが、飛んでいるスマホロトムに飛びかかり、きゅぬあんきゅあんぬと激しく吠えたてる。初めてスマホを見た時も、先ほどまでも落ち着いて、いつもと変わらない様子だったのに、本当に突然に。

 

「ゾロア!ロトム!……ウインディ、ゾロアを押さえて下さい」

 

 ウインディに、ゾロアの豊富な首根っこの毛を咥えて引き離して貰う。スマホロトムは……大丈夫。画面も、ケースも割れてない。

 

「ゾロア、どうしたんですかあ?」

 

 ぷらんと、ウインディに吊り下げられ、されるがままに固まっている、困ったような顔のゾロア。よくない事をして止められた事はわかっている様子で、フラフラと不安定に飛び上がったスマホロトムを見て、更に申し訳なさそうに足も尾も畳んで縮こまっている。

 そもそも、あまり鳴かない子のようだったのに今日は随分とよく鳴いていた。何か伝えようとしてくれていたのだろうか。

 

「ゾロア。落ち着いたならば、一度戻りましょう。大丈夫ですかあ?」

「…………」

 

 ああ、また鳴かなくなってしまった。

 靴下を履いたような毛色の前足を手のひらに乗せ、暴れる様子が無いのを確認してから、そっと付け根に手を滑らせる。ウインディが口を離すと、大人しく抱き上げられたまま。

 顔の高さまで持ち上げ、覗き込むように俯いた顔を見る。実に表情豊かなゾロアは、それはもう酷くばつの悪そうな顔で落ち込んでいた。

 

「……スマホロトムに何かあったんでしょうか……」

「……」

 

 これにもだんまり。撫でてみると、耳の先がぴるぴると震える。ウインディも首を傾げ、ロトムはウインディを挟んで様子を見ている。ぼくのポケットに戻ろうにも、ゾロアを抱き上げているため戻れないのだろう。

 足早に病院までの道を急ぐ。歩きながら、考える。

 カメラの音には驚いていたけれど、ロトムには驚いていなかった。そういうポケモンだと理解したんだろう。

 驚いたのも最初だけで、気に留める様子もなかった。

 何がこの子を怒らせて……違うな。

 

「……怒っては、いないんですかあ?」

「……」

 

 無言でも、いつも以上に下がった眉と丸めた尾が語る。むしろ、ぼくが怒っているかどうかを窺っている様子。考えているうちに顔が少し強張っていたか。

 

「大丈夫。だいじょうぶですよお。ロトムにケガはありませんからね」

「……」

 

 笑顔で撫でる。「ホントにぃ?」って言ってそうな、上目遣い。本当に表情豊かな子だ。

 やっぱりロトムが気になるらしい。飛びかかる前、何があっただろう。

 撮影した記録をどこに送るか、という話をしていたのだったか。この子は自分について調査されているのは知っているようだったから、内容は関係ない…………となると?

 

「スマホロトムとぼくが、話をしてたこと、そのもの?」

「!」

 

 耳と、尾と、ついでに襟巻きのような毛までピンと延びた。ビンゴらしい。

 

 自分にこの子が懐いてくれているのは知っている。慣れないところに突然連れてこられた彼が、少しでも安心できる場所を増やすため、見知った顔を増やすため……なるべく顔を見せていたから。人の手は怖いものじゃないし、食べているときに邪魔をする人は居ないと。

 とはいえ最初から、あまり警戒はしてなかったようではあったけど。

 他のポケモンを気にかけるのを、嫉妬する子でも無いだろう。手持ち以外に声をかけても、手持ちを構っても、少し寂しそうにしているだけだった。

 

 それが、スマホロトムと自分が話をしていたところに飛びかかり、人ではなくポケモンの方に、吠えていた。

 ……吠えていた?

 つい先程、わざを見せてもらった時の様子を思い出す。ひと声鳴くのではなくって、小さく、続けた、音の抑揚があった鳴き声。それと同じ鳴き方。いちゃもんをつけるかのような。

 

「……きみは、ぼくと……いえ。ニンゲンとお話したいんですかあ?」

「……きゅぬ」

 

 ゾロアはちゃんと、コクリと小さく頷いた。

 

 ははあ。

 ちょっとだけわかったかもしれない。

 この子は賢くて、ちゃんと周りで何を言っているか、言われているか、言葉をわかっている。頷いたり、首を振ったり、嫌そうにしていたりと、表情豊かに反応してくれる。

 けれど、それで充分。鳴いて返事しても無駄だと思ってしまっている……のかな?

 鳴けないわけじゃないのに。

 

 それは……ちょっと解決の難しい話だ。

 

――――――――――――――

 

「と、いうことがありまして。ポケモンとお話する方法を絶賛募集中です」

 

「………………それはまた、困った話ですね」

 

 クラベル校長が視線を彷徨わせ、眼鏡をかけ直した。校長室……の研究設備を、少し拝借している間、作業ついでに近況報告。

 

「ゾロアが、ちょっと落ち込んじゃってるんですよお。外に行けると知ったら、あんなにはしゃいでいたのに……

 彼はどうやら、人だけでなく他のポケモンの言いたいこともだいたいは理解できるみたいです。でも、彼の言うことは、どうもポケモンには通じてないみたいですねえ。もちろんぼくら人もわかりません。

 そんなの、寂しいじゃあないですか」

「他のポケモンの……ポケモンとポケモンで、意思疎通が出来ない? ……それは」

「鳴き声の調子と、恐らくは……表情とか、仕草でしょうか。とにかく、周りの感情を察する事にはとても優れているのでしょうねえ。でも、言葉で伝えるのは苦手みたいです」

 

 それはあの種のゾロアとしての能力なのか、それともあの個体特有の個性なのか。

 もしもそれがとくせいだとしたら、彼はイリュージョンではなくシンクロやトレースのような、エスパータイプの持つようなとくせいなのかもしれない。

 だとしたら、エスパータイプもありえる?

 関心は尽きない。ディグダとウミディグダが全く違う種だと判明した時にも似た、高揚感。好奇心。

 既知のポケモンとよく似た、その実未知のポケモン。エリアゼロについての資料に似たようなものが居たような?

 研究しがいがある…………けども。

 頭に浮かぶよくない考えを振り払う。資料があるかもしれないなら、その解析を待つべきだ。

 

「それでしたら、我が校に適任がいるではありませんか」

「適任、ですかあ?」

 

 クラベル校長が、授業の予定表を示す。数学、家庭科、美術、……ああなるほど。確かに。

 

 授業終わりに生物室前を通りがかったセイジ先生を引き止め、協力を頼むと、彼は弾ける笑顔で快く引き受けてくれた。

 

「巷で噂のゾロアさん!ワシもベリベリ気になってたので、ここはこのセイジ、一肌脱衣して参ります!大船ライドの気持ちで、任せろちょーだい! 」

「助かります〜」

「早速の相談なのだけど、ものはためしにキッズ用のグッズ使てもモウマンタイ? やってみたいコミュニケーションがあるのです」

「わあ!良いかもしれないですねえ。使っていない貸出のものがあったと思うのでえ、お借りしてみましょおか」

 

 幼児クラス用の知育玩具などもあったはずだ。知能の高いポケモンにも使えるそれらは、ぼくもよく借りていた。

 いっそ文字の表でも持っていこうか。きっと、体ももう動かせるのに閉じ込められているから塞ぎ込みがちになってしまっているに違いない。体の代わりに頭を動かすのは、賢いあの子は好きだろうか。

 

 幼児クラスの備品で、何か使えるものは無いかと用具室を探していると、一緒に探してくれていたセイジ先生の視線に気付いた。

 

「どうしましたかあ?」

「ジニア先生、オヌシ……実に楽しそうな顔してた? 今にも自分で玩具で遊びだしそうな!」

「ええ? ……そうですねえ、興味は尽きませんねえ」

 

 ポケモンとポケモンで、違う種族でも鳴き声は違うのに話をしている様子は、至って普通の光景だ。手持ちのポケモンとピクニックでもしていれば、自然と見られるありふれたもの。

 人間と同じように言葉があるのか、ニュアンスだけで会話しているのか、種族での知能の差は、個体でのかしこさの差は。

 他の地方や他の土地から来たポケモンは、言語が違うのか、言葉が、文化が違うのか。

 あの子が、そもそも普通のポケモンと違うのか。

 

「……図鑑アプリに鳴き声録音機能もつけてみようかなあ」

「なにそれベリベリグッドな予感!」

 

 セイジ先生曰く、動きも欲しいよ!とのこと。色んな人に色んなポケモンの鳴き声や動きを撮って貰えば、比較は出来るかな。でも、資料は既に探せばある?

 パルデアのポケモンの資料は少ない。うん、追加も…………図鑑に検索機能をせっつかれてるの忘れていた。個人ごとの図鑑進行度に合わせて検索かけるの、中々どうして難しいんだけども。

 

――――――――――――――

 

 一通りの用具は用意出来た。貸出帳にも記録した。ではいざ、ゾロアの元へ。

 と、扉を開け、

 

 

「時は来た!」

 

 

 扉を閉めた。何故ここに……

 

 

 しかし無常にもスパンと扉が開き、メガネと瞳をギラつかせたレホール先生が乗り込んでくる。

 

「まぁ待て。そう警戒することは無いさ、ジニア先生」

「いやあ、突然いらっしゃったので、驚いてしまいましたあ。……どうしたんですかあ?レホール先生。なんでここがわかったんですかあ?」

「ハッハッハ……それは愚問だろう。セイジ先生を連れて、教師二人がこの付近を歩くのは中々目に付く、という事だ。

 これから例の絶滅したとされたポケモンの調査……いや、見舞い、だろう?

 ワタシもかの地からの使者の見舞いに行ってみたくてね。声をかけさせて貰ったのだ」

「それは見舞いの顔ではないな、レホール先生……」

 

 セイジ先生でなくてもわかる。何かしら企んでいそうな隠しきれないギラつき……

 あのゾロアは人の表情や言葉でなんとなく人となりを察するのに。いくら人慣れしたあの子でも、この彼女を連れて行っては、流石に怯えてしまわないだろうか。

 

「む?……大義名分が必要か。ならば、良い売り文句がある。

 ワタシはゾロアークを連れている。

 更に、そのゾロアークをゾロアから育て上げたのはこのワタシだ。築いた経験から来る視点での比較は、ジニア先生も興味はあるだろう?……何より、毛色は違えど同族。鳴き声がそう大きくは変わるまい。ゾロアークとの出会いは、そのゾロアの新たな反応を見せるのでは?」

「……なるほどお」

 

 一理ある……あってしまう。彼女のゾロアークは、しっかりと育てられているし彼女の言うこともちゃんと聞く。提案自体は悪くないどころか、こちらから頼みたい、的確な点を突いていた。

 ただ、ひとつふたつ疑問と問題が。

 

 ゾロアと同じゾロア、ゾロアークを会わせてみたいとは常々考えていたものの、些か躊躇って踏み出せないでいた。

 あのゾロアがいくら人にもポケモンにも慣れ、今となってはコロコロとベッドで暇を持て余しているほど場所にも慣れているけれど、他の土地から本人の予期せぬ出来事によって知らない場所に連れてこられ、知らない人間に囲まれている状態なのは事実。

 そして、元の住処や元の仲間を思い出させるような同種との出会いは、あの子に何を思わせるのか。

 何より、最近の彼は元気いっぱいだったが、つい先日からの塞ぎ込み様。上手くいけば、元気になるかもしれない。けれど、上手くいかなかったら。

 

「吉と出るか、凶と出るか。毒か薬か……おみくじ、託宣、フォーチュンクッキー?」

「ですねえ。上手くいくなら、それに越したことはありませんがあ……」

「ふむ……イリュージョンで他のポケモンに化けて会わせて、そのゾロアの鳴き声をゾロアークが理解出来たかの確認では? ピカチュウに成り切るなど容易だろう、ゾロアーク」

「くぁん」

「部屋の中ではポケモンを出さないでくださいねえ」

 

 セイジ先生のアシスタントのピカチュウのことだろう。姿がわからない状態ならば大丈夫?

 

「それはそうと、レホール先生。どこから話聞いてましたあ?」

「フ……人払いはしておいたさ。学生の目はどこにでもある、という事だ」

「それは、ありがとうございますねえ。……ちゃんと訊いて貰えば、わかっていることは答えますから、盗み聞きしないでくださいねえ」

「ああ、善処しよう。だが許せよジニア先生。聞こえてしまったものは、仕方あるまい」

「まあ……聞いてしまったのが先生なら、まだ……いいですが」

 

 盗み聞きしていたのがレホール先生で良かった、とも言える。彼女が居て人払いしてくれていなければ、学生に話を聞かれ、ゾロアの件が広まってしまっていたかもしれない。そこは感謝できるのだけど。

 

「時間は有限だ。決断は早い方が良いだろうな」

 

 授業の空き時間。それほど長い時間ではない。協力してくれる彼らと、時間が合うなら早いうちに済ませた方がいい。

 

「……とりあえず、行きましょうか」

 

――――

 

「そうだ、ジニア先生。セイジ先生も……恐らくだが皆、勘違いをしているだろうから訂正しておきたい」

 

 長い階段を降りながら、先行していたレホール先生が振り向いた。

 

「別にワタシは、そのゾロアに差程、興味は無い」

「嘘だあ」「ダウトゲーム始まってた?」

「まぁ聞け。

 ……そもそも、ワタシは歴史をこよなく愛しているが、特に知りたいのはこの地……パルデアの歴史だ。先人たちの築き上げたこの街も、未だ謎多き大穴も……語られるべきロマンはごまんと遺っている。

 そのパルデアの歴史に、白いゾロアなど存在しない。よって、ワタシが興味を抱いた理由はそこには無いのだ。ここまではいいな?」

「ええまあ……」

 

 階段は長い。進む間聞く分には、踏み外さないで貰えればそれでいいのだけど。

 

「ワタシの興味はそのゾロアが記録に現れた、シンオウの……古い!死蔵された!資料にある!!」

「ああ……」「そっちか……」

 

 突然の大声に、すれ違った宅配のおじさんが驚いて振り返った。ズンズン進む彼女の代わりに、頭を下げる。荷物を落とさなくて良かった。

 

「そもそも……死蔵だと!!!永き歴史の証拠を……ッ!

 …………ッ……いや。ここで怒りをぶり返していても進まんな。

 ジニア先生。あの映像の公開と同時期に、同じ場所で見つかったシンオウの伝承のメモもあっただろう。そちらだ」

 

 そう。死蔵された資料は、雑多に積まれた山の中から偶然見つかったもの。同じ時期の未発見の物がある可能性があるからと、現在調査されているが、元々見つかったのはあの映像だけではない。

 

「かの地、シンオウの伝承。そこには太陽を求めた民の記述があったという。この太陽が、神か、ポケモンか、はたまた人か……資料が少なく、謎に満ちているが、少なくとも、在ったのだろう。在ったと、歴史は語った。

 では太陽の恩恵とは。それを崇め、追った人々とは?追ったとある以上、追う前に居た場所があったはずだ。かつて太陽と称される何かがあり、それは失われた場所が。

 その資料は未だ暗き場に眠るのか……

 それが見つからない限りは、その地がパルデアでない可能性が否定されない!そして、それがこの地だったとしたら!それは他の地方から見たパルデア地方の歴史に他ならない!!」

「ああ、そういう……」

「ロマンをイマジネーションしてたのね……」

 

 丁度階段が降り終わって、広場の中央に差し掛かる。不意に立ち止まったレホール先生が、上、下、そしてぐるりと、ぐるりと……ぐるぐると回り出す。ああもう……

 

「セイジ先生!!」

「ホワッツ?!」

「太陽じゃないか?!」

「えぇーと……何が?」

 

「この広場……太陽では?!」

 

 屋台のお客さんの視線を浴びながら、暴れるレホール先生を回収。いつもはもう少し冷静な人なのに……

 

 

 





レホール先生は隠さないけどジニア先生を隠す人だと思っているフシがあるのでジニア先生の好感度イベントとゾロアくんちゃんの実装が待たれております


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辛いのは嫌いで酸っぱいのは苦手


なんか日間ランキングの一位にゾロアニキ…おったな…
まいどまいど、閲覧や誤字報告やら感想やら閲覧やら、お世話になりましてありがとうございます…

甘い頑張れ!




 

 

 

っぱ辛ぇわ……

 

 ごろごろり、ベッドに転がる。

 今日のお昼はついにまともな食事だった。

 いよいよおれの退院も近いということか。

 現状、引き取り手決まってないけど、このまま野に放されるとかないよね? 今のままひとり立ちしたらビッパにも負ける自信あるぞ。

 おれ、バトルとか無理だもん。自分の使えるわざ知らないもん。たいあたりで謎のエフェクト出ないもん。見てて後ろではげましてくれるジニア先生とかポピーちゃんとかいないと無理だもん。もう悶々よ!

 

 あれ以降ポピーちゃんぜんっぜん来ねえけど、おれは諦めねぇからよ…!

 

 まともな昼ごはんは、体格に合わせたのか、一口サイズの小さな串刺しのサラダ的なサンドイッチ的な何かだった。なんか横文字でシャレオツな大層な料理名言ってたが、おれの耳には要約された小さいサンドイッチとしか残っちゃいないので、これは小さいサンドイッチなのである。横文字なんざ知らんのだ。かっちょいいけどね。

 で、そん中のBLTサンドみたいなカラーリングのやつが美味そうだったわけですよ。

 トマトだ!とよろこんで齧ったわけですよ。

 

 マトマのみでしたとか、なんの詐欺だよ……

 今なら火炎放射も出来ると思ったね。辛いのは嫌い。甘いのを所望。刺激なんていらんのですよ。

 

 悪いキツネなのに騙されたなんて、きょうだいに顔見せできねぇわ。

 

 辛い辛いと気持ちはじたばた、体力減ってもいないので勢いだけのちたぱた。やや疲れてきたのでねんごろり。おくちのおやすみしていたら、お昼の顔なじみ、ジニア先生の声が扉の向こうから聞こえてきた。

 今日は彼の顔を見る前に心の準備が必要だ。

 

 先日、ジニア先生のスマホロトムをついつい勢い余ってはたきおとしてしまい、割れはないけどキズをつけてしまった件。大変に申し訳なく思っている。

 ロトムのやつめ、めっちゃ流暢に人間語喋るから、おれの言葉を翻訳してジニア先生に伝えて欲しいってまくしたててたら、ロトロト言いながら目を白黒させるばかりで…………

 そこで思い出したが、スマホ落とすと性能一気に落ちるよね。通信速度とか。

 ありゃあたぶん中身やっちゃったんだわ。精密機械がよぉ。白黒画面と鈍器を見習え。

 あのときはジニア先生、いいよ〜って笑って許してくれたけど、はたきおとしたときの顔はマジだったからな。その後も真剣な顔してたし。

 もうめっっっちゃ反省してる。反省した。反省してた。がんばって受付の花瓶のお花くすねてきた。かわいいゾロアパワーと反省してるムービングお花プレゼントでどうにか許してもらおうと画策している。

 

 

 扉が開く。

 

 お花準備、ヨシ!

 足の調子確認、ヨシ!

 扉の開閉方向確認、ヨシ!

 いざ、レッツゴー!

 

「ハロー!ゾロアさ」「きゅぬ!?」

 

 誰ぇ?!

 

 ジニア先生の紫シマシマシャツに飛びかかったつもりが、扉を開けたのは全然別の格好の全くの別の人だった。

 突然飛び込んできたおれに、その人は驚いた顔のまま体勢を整えると、抱えるように優しくキャッチ。膝も使ってのクッションのごとし抱かれ心地。

 判定……此奴、出来る!

 

「ワオ!パッション溢れて元気いっぱい!そんな姿見れて、ワシもハッピーだな!ノウ ウォリィズ!」

 

 ぽふぽふと背中を軽く叩いてくる。何やつ?一人称のクセ強いけど。見上げる。煌めく白い歯。

 

「せっかくだからこのまま自己紹介。

 マイネーム イズ セイジ!マイネームイズセイジだよ!是非是非憶えてちょーだいな、ゾロアさん!」

 

 咥えていた花をおれから持っていって、おれの鼻先に花弁をちょんとつけて、キレイなウインク。

 が、外人だ……震える程の外人だ……

 健康的な色黒、バッキバキのソリコミにキメッキメのスーツにテッカテカのサングラスをあえてポケットにかけるというオシャレポイント二億八千万点加算ぐらいファッショナブルな、横文字使ってくる外人が現れた。しかも振り撒かれる陽の気配。おれの陰気が消し飛ばされる輝く笑顔。

 道端で声掛けられたらキョドっちゃうタイプの人ベスト3に入る……はげしく元気な感じのまばゆいイケメンだった。これはパッション!Mr.パッション!

 

「んー……、ゾロアさん、戸惑っちゃってるな? ソーリー、パルドン、ゴメンなさいね。ほら、ジニア先生もちゃんとおるので、do not worry 、心配しなくて大丈夫よ。このお花さん、for、ジニア先生な? ほな一緒に渡そかね!」

 

 背後のこんにちは〜なんて、手を振るジニア先生を視界に入れてくれる。For You!って、おれの花を渡しながら。

 気遣いのできるタイプの陽の者……!社会人三年目くらいの先輩にいたら嬉しみがありますね。

 

 ……いや、誰ぇ?

 

「セイジ先生は、アカデミーの言語学の先生なんですよお」

「Esatto! そのとおり!」

 

 受け取った花をスマホロトムの横に差しながら、ジニア先生の紹介。ホー……言語学。国語、英語、みたいなの全部括った科目かな?

 だからこの小気味良いルー語? 聞いてて楽しくはあるね。

 

「で、コチラは歴史学のレホール先生ですねえ」

「ああ。こんにちは……、だ」

 

 ……もう一人いた。

 こちらも色黒。扉にやや寄りかかるようにして立っていた、すらっとした女性。これまたメガネが特徴……いやアクセサリーも特徴的だな。フリーザーかそれ。

 んで、扉から覗き込むのはピカチュウ。…………………………………………ピカチュウ?

 ピカチュウ…………ホントにピカチュウ?

 個体差は確かにあるとは思うけど、天下のピカチュウが、あんな引っ込み思案なわけある?教師の連れてるピカチュウが?

 

 ………………別の部屋のお泊まり中とかの子かな? 騒がしくてすまんね。

 

「レホール先生は、今日は見学に来てくれたんですよお。本題は、セイジ先生の方です」

「本題のセイジだよ!」

 

 レホール先生は、結構静かな人なのかな。

 ……いや、あの、陽のセイジ先生から離れて、観察する目で眺める姿、喉の奥だけ鳴らす高等テクに、含み笑い。斜に構えた態度…………陰の者に違いない。あれは中学二年にも患ったのに追加で高校二年生辺りに患うものを大学まで引き摺った上でそのまま大学二年の病も併発した面倒臭い人間の顔だ。毛嫌いするものは毛嫌いするし、好みのものは高みから賞賛するし、大好きなものは語りだしたら止められないほど称賛する系列。

 ……うん。ジニア先生が触れないみたいだから。静かだし、このままそっとしておこう。

 たぶん、下手に絡むと火傷する。黒歴史的な意味で。

 うまく噛み合うと、無二の親友レベルに仲良くなれるタイプでもあるけど………………歴史学て。絶対に厄介ヲタクの気配がする。今のおれ、悪いキツネだからなぁ。

 

 とはいえ振り仰ぎ見ればセイジ先生。笑顔がマブいんじゃあ!

 おれをカーペットに降ろしての膝立ちすしざんまいは、それはもう聖人の像そのものなのよ。聖人のセイジなのよ。

 服装シャレオツパリピだけど。

 

「Today、今日はね、ゾロアさんがどういうコミュニケーションしてるのかなっていうのを、watching! 見せてもらいにワシは来たんだな。

 オヌシ、人とお話してみたいって聞いて、セイジ、ベリベリハッピー!嬉しくなっちゃった。 ポケモンたちにも、そういう子は居ると思ってたのね」

 

 夜の似合う風体のイケメンから、太陽みたいな輝き煌めき振りまく笑顔でジェスチャー交えて軽妙に語られている。

 

 その後の説明を聞いて大体わかったけど、ちょっとわかんないな。

 

 

 おれが、人も、ポケモンの言葉も理解してるって?

 

 HAHAHA ……んなわけあんめぇよ。

 

 おれは、ポケモンの鳴き声は鳴き声としか聞こえない。

 セイジ先生の言い方を真似すると、ミブリム、テブリム。

 ジェスチャーや、鳴き声の高さや、なんとなくの表情で大体を推測して、察することしか出来ない。

 種族とか違っててもあいつら、さも我々会話してますみたいな顔で鳴き合ってたりする。なんでアギャとプルピャで通じてんのよ?言語から違うじゃん。

 だからパパさんときょうだいとの意思疎通、それなりに苦労したのだ。おかげさまでポケモンの表情と、鳴き声のトーンの聞き分けはできるようになったが、あとはもうニュアンスの話でしかない。それっぽいアテレコして、察してみれば五割は当たる。

 

 つまりは、例えばぐうかわ猫動画を見るとする。お座りして尻尾振って、小首かしげてか〜わいいって絵面の、おすまし気取ったあまえんぼさんだのってぇ動画タイトルだとしても、それはそのカメラの反射と撮影者の声がややうぜえんだけど奥の方で飼い主の声が大人しくしてろって言ってるっぽいから我慢してやるか……って顔なのねって話。

 それだって勝手な解釈だし。

 

 でもポケモンってのはみんな案外かしこいもんで、犬猫と違ってかなり色々伝えてくれるから、意外とおれのアテレコも合ってるんじゃないかな。

 先日のジニア先生のラランテスが、キハダ先生達を示した後、(後から分かったけど)学校の方を指して、ムキムキポーズやガッツポーズ、両手を広げ、足を交差して中腰で振り返るポーズ、両手で頭を後ろから前に、しなをつけながら撫で付ける動作などとやってたから、ああ、この動作を真似できるほどしょっちゅうやってるクセ強え人間がいるんだろうなと察せたし。

 事実、だいぶほら……目の前のカガヤキサマとかね?

 

 流石に伝説のピカ様のたった三文字で彼の親友の名前と判るレベルの表情豊かな鳴き声とは会ったことないけど。

 ニャース?彼はもう、たぶんポケモン語学とかあったら博士号の権威なのよ。テレパシーもないのに一から人間の言葉を習得て。頭おかしい(褒め言葉)。

 

 ま、ホントにそうなのかは、こっちはもうわからんのだ。それは人間だっておんなじだから、かわらんかわらん。

 

 

 

 で。

 

「じゃあ、このカード。赤いのをワシにプリーズ!」

 

 ほなダイヤのエースよ。セイジ先生にゃ煌めきのダイヤがお似合いなのよ。

 

「グッド!NEXT……今度は……絵の描いてある物を下さいな!」

 

 ならダイヤのジャックだ。キングって柄では無さそうな。いや、使いっ走りって意味じゃないぞ?

 

「OK、OK……ワンモア!同じものを、ジニア先生に!」

 

 ふむ。色替えていいのか、それとも残り全部か?

 拡げられた束から、スペード、ひっくり返って見えなくなっていた束をずらして、そこからハートとクローバーのジャックを取り出し、引っ張ってきて、ジニア先生の前に。

 見えるところに無いなら、伏せてる方にあるんだよ。マジックじゃなければね。

 この場合、わざわざ二色、二対にするためにハートとクローバーを予め離しといたんだろうけどな。

 

 興味深そうな表情で褒められた。ふふん。それぐらいはわかるのだ。

 向こうでレホール先生も、おもしれー女見た男のスチルみたいな顔してるけど、手前二人の素直な表情見習って?

 

 

 セイジ先生はトランプをパラパラと動かしている。うーん、このベガスのネオンの似合う男。でも中身はハワイアンズ。ちょっとアローラ!って言ってみ?

 ……外連も衒いもなく純粋に現地のイントネーションとテンション再現してくれそうだ。

 そういうところやぞ。

 

 トランプの前にも、色んな形の積み木を選ばされたり、絵本の登場人物ポケモン当てクイズされたり、発声練習きゅあんぬきゅあんぬさせられたり。

 鳴けないわけじゃないのだよ?現状、そんなに鳴く必要がないだけで。

 そんな感じで、人様の言ってる事の理解度を測るなどされている。理解はできますよお。おれだって人だった気がするし。

 これから居場所が変わるから、どれぐらい言う事聞けるかの確認ってところかな?

 

 ………………もしかして、スマホロトムはたき落とし押し倒しの件が原因ですかぁ?

 

 ありゃあホントについうっかりなのだ。ちょうはつと久々の運動でテンション上がってた矢先だったから。スマホロトムくん、きっと衝撃で頭クラクラしてるところに、悪いキツネの片鱗のバークアウトモドキ食らわせちゃったのかなって思ってる。

 いや、ホントにその件はすまんかったって思ってるんですってえ。

 

 わ、悪いキツネだけど、おれ悪いキツネじゃないよ!ぷるぷる!

 

 

――――――――――――

 

 

 ほなまたね!シーユーアゲイン!とぞ、セイジ先生が締めて、ジニア先生一行は帰っていった。長い時間では無かったな。授業の合間に来てくれたんだろうか。

 

 あの物陰メイビーピカチュウ、ずっと居たな。なんかすげえ悲しい顔でこっち見てくるの。

 

 ……ここはポケモンセンターで治しきれない大怪我や病気のポケモンの、治療のための病院。

 おれは治ったけど、………………

 ここでティンと来tいやいやいやないやいない。なんにもおれは気付いてなあい。怖くなーい!全然わかんねぇなぁ!!退院まで何も起きませんよーに!!!

 ……普通に幽霊とか存在する世界だからなぁ。さっさと病院出たいなぁ。

 

 レホール先生は終始無言。無言で含み笑いしてた。それもそれで怖えわ。生きてる人間が一番怖いって、怪談モノのオチで言われるやつじゃん。

 

 ジニア先生はジニア先生で、おれが視線を向けるとへんにゃりにっこりしてくれるけど、視界の端で見てるとき、時折真剣な顔してたし。

 …………あれか。ちゃんと言うことは理解できてるし、スマホロトムの件はマジのうっかりミスだって納得しようとしてくれてたのか。ソウダヨ!

 

 …………そういや謝ってねぇ!

 

 

 

 

 

 

 





オフレコとアテレコ間違えたりキバナさんとキハダさん間違えたりシルシュルーとシュシュプ混同したりしてるのは勘違いと間違いなので容赦無く指摘してもらえたら助かります。
たまに変な言語してるのは仕様の場合が微レ存なので、直してやったのに直ってねぇじゃねえかクソが!ってときはそういう仕様のところかもしれないのかとリズムとノリで大目に見てやってください。

それはそうと、閲覧ありがとうございますー!



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調べるのは好きで階段は嫌い


最初で最後にしたい我ながら解釈違いなのですが、くらーいこと考えてると暗くなりがちな人間なので許して欲しいです。
ヒスイのゾロアとガラルサニーゴめちゃくちゃかわいそうで、逆にドラメシア族の緩さが一周回ってノイズになるバグ



 

 

白いゾロアの鳴き声を聞いてもらった、レホール先生のゾロアーク。彼女によく育てられている筈のゾロアークには、まずは声だけ聞いてもらって、しかるのちにピカチュウの姿で実際会ってみてもらおうとしていた。同族のイリュージョンを見分ける目も、コミュニケーションに必要な要素だから。

 けれど授業一コマ分のその間、ゾロアークは物陰から一歩も出ることは無く。病室から離れたと同時に、解けたイリュージョンから酷く取り乱した、悔しそうな、悲しそうなゾロアークが現れてこちらも困惑。

 セイジ先生、レホール先生曰く、とても悲しい、という鳴き声。ぼくの資料によれば、それこそ親が子のゾロアを想っている時の、暴れる前のような、悲しさを堪えている姿によく似ていた。

 

「どうした、ゾロアーク。何をそんなに……ああわかったわかった。少し落ち着け」

 

 レホール先生も見たことがないというゾロアークの動揺ぶりに、優しい手つきで宥める。このまま病院で騒いでいては迷惑になる。レホール先生はゾロアークをボールに戻して、ぼくたちは、ひとけの無い路地に集まった。

 改めてゾロアークに訊いていく。

 ゾロアの鳴き声は、うまく聞き取ることはできなかった。

 あの子は鳴き声を出しているだけで、鳴き方を知らない……少なくとも、このパルデアのどのゾロア種にも、彼の鳴き声の意図を理解することはできない。喜びや悲しみはわかるだろうが、そこに込められた詳しい情報は何も、伝わらなかった。

 あの子を見ているのは、悲しかった。

 あれはゾロア種ではある。

 けれどゾロア種ではない。

 

 あの子はゾロア、ゾロアークの種族の仲間かと訊くと、ゾロアークは逡巡して、大きく頷いた後に小さく首を横に振った。

 やはりただ毛色が違うだけではない。

 

「……パルデアに、同じ毛色のゾロアは確認されていません。図鑑も、あの子をパルデアに生息するポケモンだと、認識しませんでしたあ」

 パルデアに、彼の仲間はいない。

 

 ともすれば、他所から連れて来られた、もしくは何かに紛れてやってきた可能性が濃厚となるが…………

 それはともかく、このゾロアークの動揺ぶりはいったい何故?

 

 あの子が親から逸れた様子だから、ではなく。

 親があの子を迎えに来ないから、でもなく。

 親が死んでしまったから……には、こたえない。

 

「ままならんな。アレが人間と話をしたくなる気持ちもわからないでもない。

 ……ゾロアーク。オマエはあの子が群れから逸れたわけでも、親を亡くしたわけでもないと見た。その根拠はあるのか? 何を感じて、何故そう悲しむ」

 

 レホール先生の言葉に、視線に、ゾロアークは正面から向き合うと、小さく、本当に小さく鳴いて、胸に手を当てた。心臓の位置に。

 人間が、そこに心があると考えているのをゾロアークも知っているんだろう。

 

「……そうか。……オマエはそうか。ならば、あとは我々の考える事だろう。

 ご苦労だった。ゾロアーク」

 

 レホール先生が、ゾロアークの手と、鬣を撫でて労い……ボールへと戻した。

 

 セイジ先生も、腕を組み目を伏せ、何も言わない。ぼくも、何も言えない。

 同族を目にしただけで、悲しさが溢れるなんて。

 

「少しは何か分かるかと思ったが……謎が深まっただけだな。すまないな、ジニア先生」

「いえ。色々な反応が見れましたし、……今後に重要なこともわかりましたあ」

「……ゾロアさんは、can't go home……野生にも帰してあげられないね」

「……ええ」

 

 セイジ先生の言う通り。あのゾロアが同種……近似種と思われる通常のゾロア、ゾロアークの仲間として打ち解けることは出来ないだろう。よしんば憐れまれて群れに混ぜてもらえたとしても、外から来た、上手く物事を正確に伝えられない彼を他の野生のポケモン達が見逃すはずがない。

 

 あれほど人に慣れている、身体の小さなポケモンが、野生でこれまで誰の世話にもならずやってこれたと思えない。親なり、群れの仲間なり、……人間なり。何らかの、誰かの力は借りていただろう。

 彼の元々暮らしていた場所も、彼の親もわからない以上、ここで新たな、彼を混ぜてくれる強い群れを探すより……人の集団に混ぜてやった方が、彼にとって良いのでは?

 

「……せめてもう少し、ぼくに力があればなあ。お世話してあげられたんですけどねえ」

「それだ。何故ジニア先生が引き取らないんだ? あれほど懐いているのに」

「Right. ゾロアさん、ジニア先生といるときベリベリスマイリー!楽しそうだったよな。力って、パワー? ポケモンバトルセンス?或いは……authority?」

「……あはは。腕力もセンスも、体力もありませんからねえ〜」

 

 階段を上がる今ですら、先をいくセイジ先生とレホール先生に、息を切らしながらやっとついていっている程度の体力。

 

 人気のポケモン、珍しいポケモンという事実だけで、その希少性を考えずに乱獲し、売り捌く悪い集団は、どれだけ捕まえても後を断つことは無く現れる。規模は小さくても、パルデアでも何度か誌面を飾った事もある。それらを未然に、または早期に解決してきたのはこのパルデアのリーグ委員会。彼らのおかげで、今現在はそういった集団は確認されていない。

 

 けれど、確認されていないものが存在しないとはかぎらない。人間は欲が絡むと暴走してしまう生き物だからだ。

 そうして暴走してしまったひとを、止めきれる自信はない。

 

「ジニア先生?」

 

 レホール先生が声をかけてくれるけれど、疲れてしまって足が止まりがちだ。最近、往復する事が増えて筋肉に疲労が溜まっているらしい。

 

「オー!オヌシお疲れさまでござるな? OK、ワシがてだすけするですよ!」

「わあ。ありがとうございまあす」

 

 レホール先生は止まって待っててくれて、セイジ先生が下まで来て、腕を引いてくれる。

 今も、いつも、ぼくはみんなに助けてもらってばっかりだ。

 

………………ああ、

「ああ、そっかあ。うんうん……そうですねえ」

「What's happen?」

 

 腕を引いて貰い、背中を押してもらって。

 各地の研究会の皆に、調査をお願いしていて。

 レンジャーさんや、リーグ委員会の方に頑張ってもらっている。

 あの子のため、だけじゃなく、このアカデミーの生徒を含む、パルデアで暮らす人々のためでもある。

 きっとそのためならば

 

「みなさんに、手伝って貰えば良かったんですね」

 

 協力を頼むことを、躊躇う必要はないはずだ。

 

――――――――

 

 きっかけは、意外な所から。

 

「いっそ……バズらせちゃえば良いのでは?」

 

 動画撮影の為にアカデミーを訪れていたナンジャモさん。「せっかくだから噂のゾロアが見たい!」と言う彼女に、資料として撮影していた動画を見せながら、退院後に協力してくれる人を探している旨を話すと、そんなことを言う。

 

「動画で撮って、ネットに上げるんですかあ?」

「それもいいけど、その子が、“ドコ”の“ダレ”にお世話されてるのかってみんなに知っててもらうの。

 例えばジニア氏がゾロアくんを、アカデミーで授業に連れてくでしょ?生徒さんはゾロアくんを見て、『ジニア先生がお世話してる、珍しいゾロア』って、覚えるじゃん。

 同じ毛色のゾロアを他の場所で見かけたら、ジニア氏に伝えてくれたりするんじゃないカナ?

 それがみーんなに知っててもらえたらぁ、もーっと範囲は拡がるよね?」

 

 有名人の彼女だから、見えた事なのだと思う。いつも観られている、観られている事を意識している彼女。

 

 ナンジャモさんを見送って直ぐにクラベル校長の元へ駆けたし、彼女からの話を聞いて考えた事を提案した。

 

「アカデミーで、ゾロアを保護するのはどうですかねえ」

 

 今まで身動きが取れなかったゾロアも元気になり、多少の移動にも耐えられそうな健康状態だと分かった。

 リーグ委員会と一緒に、可能な限り内密に話を進めてきたこの件。ゾロアがどんな性格のどんなポケモンで、何に関わっているかを調べて来たけれど、あの子自体は凶暴でも、危険でもない。人にもポケモンにも親しく接せる、優しいポケモン。

 

 今後、あの子がどうしたいかはあの子次第。

 それでも、「人と一緒にいたい」と思ってくれたなら。

 今のように、彼を隠して特定の相手だけと接するような狭い世界じゃなくて……色んな人やポケモンと出会って、一緒にいたい人を見つけてもらいたい。

 

「“アカデミーで保護されている、毛色の変わったゾロア”が知られれば、下手に手を出してくる人も、いないのでは無いでしょうか」

「他には見たことがない……唯一の珍しいポケモンだからこそ、ですか」

「そうですねえ。特に目立つ目印がある彼が、知らない人と歩いていたり、アカデミーと関係のない場所にいたら…」

 

 受付のコダックや、生物室のヤミカラス……ボウルタウンのキマワリのように、普段はそこにいるポケモン。ライムさんのボチのように、人と一緒にいるポケモン。いつもいる子が居なければ、不思議に思うし、同じものを見た時に「あの場所にいた子かもしれない」と考える切っ掛けになる。

 

「見守る防犯、ですか……よいかもしれませんね。リーグ委員会と相談してみましょう」

「わあ!よろしくお願いしますー!」

「ですが」

 

 眼鏡をかけ直したクラベル校長が、言葉を切った。

 

「ゾロアさんがどうしたいか。これは考えてありますか?」

「……はあい。もちろんですよお。訊いてみてから、ちゃんと」

「では、あなたはどうしたいか。考えてありますか?」

「────ぼく、ですかあ?」

「調べてみたいのでしょう?どの地方の図鑑にも載っていない、あの子を」

「………………」

 

 図鑑は、一から作った物。たくさんの資料や、アプリ使用者からの提供で成り立っている。

 データの現物があって、その発見を自分で発表できる。リージョンフォームや、地方毎の生態系、栄枯盛衰を調べられる機会だ。

 それも、その調査対象が自分に懐いている。チャンスだと思ってしまう。

 

「一緒にいれば、少しずつ彼のことがわかるかもしれませんねえ」

「一緒にいたいのではないんですか?」

 

「…………アカデミーで保護してあげられるよう、よろしくお願いしますー」

 

 仲良くなれるほどに、気を許される度に、どこまで許して貰えるか、一瞬でも考えてしまうのは、あまりいいことではない。

 ゆっくり、急がなくてもいいはずだ。少しずつ分かっていければ、それでいい。

 

――――――――――

 

 ゾロアの体力も充分ついて、諸々の手続きも準備も終えた今日。アカデミーの校舎に、あの子を連れていく。

 

 大勢の目に触れる事になる。当然反対意見もあった。

 だけど、一人より複数の目で見ていればその分、ゾロアを守る事に繋がる筈。

 

 本当は、安心できるいいトレーナーと会わせてあげることができれば良かったのだけれど。人懐っこいのに気難しいところがあるのか。

 アオキさんの差し出したボールは鼻先で押し返し。

 キハダ先生とタイム先生のボールには近寄ることもない。

 モンスターボールがどういうものかを知っている。モンスターボールを毛嫌いしている様子はない。

 

 きっと、彼の気にいる人はどこかにいる筈だ。

 

 リーグ委員会との話し合いで可決した後すぐに、彼の元へ赴き、アカデミーでしばらく過ごして貰いたい旨を伝えると、彼は一瞬きょとんと首を傾げて目をぱちくり。その後こくりと頷いてくれた。

 

「アカデミーでは、なるべく先生の誰かと一緒にいてくださいねえ。キミを攫おうとする人がいないか、先生達で目を光らせますから」

「……きゅぬ」

 

 もう痛々しさなんてどこにも無い、すっかり元気になった様子で彼はとてとてとぼくの足の周りを回っている。歩き出せば、ちゃんと顔を見上げながらついてくる。病室を出ようとして、思い出した。籠を持ってきたのだったっけ。

 

「建物の中は、ポケモンを連れて歩くのは原則禁止なので……抱っこと籠、どっちが良いですかあ?」

 

 アオキさんがあの後新しいものを購入して返却したという、彼が入っても充分な広さがあるピクニックバスケット。

 訊ねれば、ひょいとぼくの胸へと飛びついてくる。

 本当に、よく懐いてくれた。確かに懐かせようとはしていたけれど、これほど素直に懐かれて、信頼されていると、なんだか悪い気がしてくる。

 

 結局、パルデア中を捜索しても、彼と似た毛色のゾロアークもゾロアも、子を探して暴れるポケモンも、この子を探す人間も見つからなかった。

 レンジャーさんたちには引き続き、普段のパトロール中の注意を頼んである。ニュースでも危険な野生ポケモン特集を組んで放送する事で、一般の人々にも自然と警戒感を持ってもらった。

 世話になった医師の先生やジョーイさん、ラッキーたちに見送られ、ついに病院の外に出る。晴天の空は、いい門出の日だろう。

 

「きゅぬ……ん?」

 

 外だからか、張り切って飛び出したゾロアが周りを見渡して首を傾げている。促して歩き出しても、キョロキョロと周りを見渡してはきゅーきゅーと悩んでるみたいな唸り声。

 以前街に出た時より、視界に入る人の数が少ないことに気付いたのかもしれない。

 アカデミーは伝統の課外授業……“宝探し”が始まり、学生たちがパルデア中に旅立って行ったのは昨日のこと。下手したら学生の方が多いとも言えるこのテーブルシティは、長期休暇の次に人が少ない時期となっている。

 退院の日をわざわざこの日まで待ったのは、そのためでもある。

 

 それでも、人が居なくなるわけじゃない。今も、アカデミーの教師のぼくが連れている、毛色の違ったゾロアの彼を見ている視線をそこかしこから感じる。

 

「きゅ……」

「うんうん。階段ですねえ……アカデミー、この上なんです」

 

 見上げる、最上段の門も見えないような長い階段。

 上がれば、アカデミーだ。みんなが待っている。

 病み上がりに段差を上がるのは辛いだろうかと手を差し出すと、戸惑っていた顔から伺うような顔……そして、手から目を逸らして軽やかに飛び上がった。二段飛ばしで軽く上っていってしまう。

 

「……はは。

 あんまり急ぐと疲れてしまいますから、ゆっくり行きましょー」

「きゅぬ」

 

 声をかければ、ちゃんと立ち止まって待っていてくれる。うん。元気でなにより。

 

『ゾロアさん。オヌシはちゃんと言葉の意味も分かってて、とってもグレート!エラいのな!ジェスチャー、身振り手振りでワシに伝えてくれたり、お顔も表情ハッキリで、言葉要らずは解るのだが…………

 でもノンノン!それじゃダメなんだ! 声っての、実はとーってもvery important、大事ね!』

 

 セイジ先生に言われていた事を意識してか、なるべくぼく達にも鳴いて知らせてくれるようになった。きゅーきゅーと、小さい声だけどご機嫌な時に鳴いている姿も見られている。

 

「……よし。ぼくもがんばりますよお」

 

 この階段も、これから先も。

 

 

 





のうてんき「ジニア先生がボール出してくれたらなぁ〜なんでも許しちゃうんだけどなぁ」



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写真は好きで絵は苦手


感想、評価、誤字報告毎度ありがとうございます
やっと学校に辿り着きました長いな~




 

 

 

 でけえ!

 

 本棚が!!

 

 たくさんある!!!

 

 右も左も、階段の上も奥まで壁一面に本がギチギチに並んでいる。ここらで一番の図書館!って蔵書量だが、これで学校のエントランスホールらしい。屋根あるのに中に街灯立ってるやんけ。高い天井は三階分ぶち抜いて、ムックルも悠々と天井近くを飛んでいる。

 まるで外のような広さだけど、本特有の紙と糊と防虫剤の匂い。臭いけどクセになる。これ、おれは結構好き。

 

 子供ばかりの学校をイメージしていたから、似た服装で老若男女、幼いからしわしわまで色々な人がいて、全員学生だって言うから驚いた。しかもこれでも、今学校内には生徒は少ないって言う。

 みんな集まったらとんでもねー数になりそうね。

 

「若い学生はもちろん、学びたい意欲があれば大人でも通えます。働きながら夜に授業に、なんて学生もいらっしゃるんですよ」

 

 ふむふむ。定時制的な?

 

 そう説明するのはジニア先生……ではなく、顎髭がチャーミングな背筋の伸びた老人。橙色のジャケットに、それはアクセサリーか何かか?なプレミアボールをゴロゴロ六つも引っ提げた、特徴無いから特徴付けときますねみたいな方。

 お名前はクラベルさん。

 このパルデア……というかおそらくポケモン世界で一番大きな学校であるオレンジアカデミーの、当代の校長らしい。とっても偉い人だ。

 

 新任ホヤホヤのピッカピカ一年生らしいけどな。

 

 そのプレミアムなボール、覚えてもらおうって魂胆か?プレミアボール六つってモンボ六十個で一万と二千円……実はそんな高くないな。

 

 学校まで案内してくれたジニア先生は、でっかいでっかい玄関前で待機していた、このクラベル校長におれを紹介して、眉をとんがらせたタイム先生に連行されてってしまった。なので、今おれはクラベル校長と二人だ。校長直々に校舎内を案内してもらっているってわけね。

 

 学校の来歴から現在の生徒数やら授業やらなんやらと、説明しながらちらちらと、おれの様子を見ぃ見ぃゆっくりと歩いてくれている。普通のポケモンなら、そんな話されても理解も興味も無いぞ。

 おれは普通じゃないけど、……あんまり興味は………………

 あ、これってもしかして各地の朝礼の校長や社長の話と同じやつ?

 そんなら、真面目に聞いてたら寝ちゃうじゃん……

 

「ゾロアさん?」

 

 はっ

 

 すれ違った、今階段を下りていった幼い学生の後ろを、フワンテがぷわわ〜っとついて行くの見てたら、足が止まっていたらしい。大丈夫かあの子。手持ちなら良い……のかぁ?

 で、何このゲート。学生証で開くシステム?やだ、本は時代を感じるのにそういうとこ文明的……

 スライドして開いたガラス戸をすり抜け、大きな扉を潜る。語り始めるクラベル校長。

 あ、まだ話続くのね?

 

 ゲートの先の扉をくぐり、辿り着いたのはでっ……かくもない扉。他の扉と変わらない。

 

「こちらが校長室です。ゾロアさんには、こちらで普段は生活してもらいます」

 

 案内されたのは校長室。らしい。これが校長室?

 変な機材がズラズラっと並ぶ部屋に、顕微鏡やらなんかのファイル、貴重そうな石が置いてあったり飾られた壁。

 まるで研究室みたい。

 校長室らしいものなんて、奥のスペースの大きな窓の前に置いてある重厚な長机とカッチョイイ椅子辺りかな。トロフィーも?

 

 一応リノリウムっぽい貼ったみたいな、やわぺったらな掃除しやすそうな床の模様の境が、とりあえずここは校長室です感がある。そんな境のスレスレ、ギリギリ機材スペース側の床の方。ふかふかのカーペットの引かれた、低い柵で囲まれたスペースがあった。かまくらみたいなベッドもある。青の陶器の皿には水。

 

「居心地は如何でしょうか。…………急いで用意したので、最低限だけなのですが。こちら、プレゼントです」

 

 ちり、とクラベル校長が手にした……羽と鈴のついた棒をかまくらベッドに添える。じゃれませんよそんなのには……もらいますけどね!

 んで、ここがおれの寝床……ってこと?

 ひとっとびで越えられる柵を乗り越えて、かまくらベッドと玩具を確認。

 入り口狭いけど、感触、広さはよきよき。

 ただ……うん。新品くせえ。袋から出したての、工場な空気。ジニア先生がおれの使ってた毛布持ってっちゃってたっけな。こりゃ、あれ敷いてもらわんと寝れないぞ。

 

「セキュリティはここが一番高いのです。ゾロアさんが人の目の無い所でお休みになりたい時には、お手数ですが必ず、ここに戻ってきてもらえますか?」

 

 ふむ。それはよかろうもん。

 まぁね。そりゃ一軒家とは違うのだし、暗くて落ち着けるから隠れて休もうかな〜なんてして、無駄に人を、例えばこのご老体を働かせちゃうのは良くないもんね。

 エントランスからここに来るまででも広かったのに、外観ではその十倍は広そうな感じだったし。このジェントルマン校長を、使いっ走りにするのは気が引ける。いくら悪いキツネのおれでも躊躇っちゃうよ。

 

「ありがとうございます。……ここまで歩いていただきましたが、お疲れでしたらひとまず休憩しましょうか?行けるのであれば、まだお会いしていない職員と顔合わせに参りたいと」

 

 職員……先生とかか。あれっぽっちしかいないわけ、ないもんね。

 大丈夫大丈夫、さすけねのよ。いくらでもいけますぜ校長。ポケモンの体力、結構あるのだよ。

 ぴょいひょい跳んで校長の元に戻る。

 

「……ここに扉がありますので、出入りはそちらからお願いしますね」

 

 ワ!

 側面の柵に、申し訳程度の留め具と引き戸の扉。開けっ放しにしといてくれるらしいけど……気付かなかった。

 そうか、そうか。低くても、これ柵か。柵は乗り越えるもんじゃないよな。

 おれの自らの身体能力をひけらかしちゃったな……。

 

――――――――――

 

 二階に降りては職員室。なんとびっくり、普通のおじさんおばさんおにいさんおねえさん先生がいた。普通……めちゃんこに普通。アオキさんくらい普通。ベストのおにいさんとか、パーカーのおにいさんとか、ちょっと丸いおじさんとか、スーツのおねえさん……はリーグの方?へえ、提携してるんすね。受付の、事務のおばちゃん達は顔そっくり。姉妹の方?へえ。

 

 普通普通、と来て……でもいたぞ。クセがある人。

 

「吾輩はサワロ。家庭科を担当している」

 

 逆三……!ダンディズム!丸太のような腕!

引っ越しダンボール担いでんのかい!って筋肉と、ストライプのピンクシャツと前掛けのアップリケの可愛さがアンバランスな……ムーディな、色気ムンムン(褒めてる)の男性。肩と胸と脇腹を強調するベルトがこれまた……。

 

 家庭科???

 

 バトル学のキハダ先生と外見交換してもいいんじゃないかな。いやこれはこれでアリ……?

 オッサンのカワイイからしか摂取できない栄養素あるもんな。アリっちゃアリか。

 

 あと、もう一人。

 

「医務室勤務のミモザよ。先生ではないんだけど……よろしくね、ゾロアちゃん」

 

 こちらがぐうかわギャル……いや、おねいさん。女性にこういうのはなんだか失礼な気がするのだけど、キハダ先生の素材感と違って外見にとても気を使っている感じ。

 でもちゃんとびったりキレカワっすわ。色気というか、きゃぴきゃぴ感がある。正統派カワイイだね。

 いやサワロ先生が正統派じゃないとは言ってないんで。

 

「職員室では先生方が居ない時はほとんどありませんので、こちらに来てもらえば、手の空いた教師が相手になります。気軽に遊びに来てくださいね」

 

 もちろん、この校長も手が空いた時はお相手しますよと校長ニッコリ。ジジイの笑顔からしか取れない栄養素か……あるな。

 

 なるべく誰かしらの先生と一緒にいてねとジニア先生が言っていたのを鑑みるに、とりまここ来て暇な人見繕って構ってもらえってぇ事だろう。

 可愛がってくれんならありありのアリです。病院は一人部屋だったから、ようけ一人の時間が多くてな。

 

「それでは、校内案内の続きです。次は…………食堂にでも行ってみましょうか」

 

 引き続きクラベル校長。おれの腹の音を耳聡く聞いて、食堂へと案内してくれる。昼前だけど、昼だろう!

 

 校舎は、エントランスホールを中心に虫の脚……喩えがキモいな。

 猫のヒゲ!みたいに左右に棟が三本ずつ伸びている。これが効率いいのか知らないが、正面とか斜めから見ても中央の塔が目立ってでっかく見えるね。効率いいか知らないけど。

 で、エントランスホール横切って反対の棟。自由によそって食べれる形式な食堂だった。奥にはキッチン直通。料理人さん常駐。食いたいものありゃあ注文してもいいとかなんとか。

 学食に力入れてます?

 

 ポケモン用のクッションを置いた椅子の上に上がり、テーブルの上に用意してもらったカリカリふわふわドライフルーツの入ったパンと、コンソメともろこしとなんかの草のスープもらって、黙々と食べる……んだが。

 

 めっっっちゃ視線を感じる。

 見られてるフゥ!

 

「校長先生、その子はだあれ?」

「クラベル校長の新しい手持ちですか?」

「えー、図鑑が反応しなーい!」

 

 小さい子たちは無邪気に、でかいお友達は興味津々に訊ねている。許可も取らずに図鑑使うんじゃないよまったく。

 何?まだおれ登録されてないの?ジニア先生。

 

「アカデミーの新しいお友達ですよ。このゾロアさんは、チャンプルタウンの近くで保護された子です。まだ誰のポケモンでもありませんが、人には慣れています……が、驚かせてしまいますから、触らないように。

 ゾロアさん、彼らにご挨拶してさしあげてください」

 

 ふむ?まぁ……よかろうもん。

 

 マナーも知ってるおれなので、テーブルに上がるなんて真似はしない。ちゃんと椅子の上でお座りして、面々の方を向き、胸を張ってご挨拶。

 

 はい、

  おはこんハロチャオ〜

 

「「「かわいいー!」」」

 

 ふはは。そうだろうそうだろう。

 なんか全然面識はないけど、ジニア先生の発想の手助けしてくれた人ってぇ派手なナリした動画配信者の女性の動画見せられたからな。流行りらしいから、そんな流行りにノッてみた。

 

 たぶん、きゅきゅぬんきゅあきゅぬって言ったからそう聞こえてるはず。でも頑張ってご挨拶してるように見えるだろう、聞こえるだろう!!おれのかわいさにひれ伏すがよい。

 餌食ってうみゃいうみゃい言ってる(ように聞こえる)猫理論。九割親バカから来る、耳ツンポだから。

 動画投稿とかすると皆が助かるぞ。

 

「よくできました」

 

 クラベル校長がもさもさと撫でてくれる。学生たちには、まだ触らないように言ってたくせに〜。

 仲良しマウントか?

 別にいいけどね。おれは長いものには積極的に巻かれていくタイプの悪いキツネ。

 

 ふと、スマホロトムを取り出そうとしている学生が目に留まる。なんだ、写真か?毛にスープ付いてない?

 

「ああ、彼の写真はまだ撮らないで下さいね」

 

 しかし、耳だけじゃなく目も敏いクラベル校長が先にそれを止めた。なんでや、おれもバズりたい。

 

「彼は、あまりスマホロトムが好きではないようですから。音に驚いて、叩いてしまうかも」

 

 ホァッ?!

 

 言われて、彼のスマホロトムが自分から慌てて彼のケツポッケに引っ込んでしまった。

 

 お、おれそんな暴れないよ!!

 ……ジニア先生のスマホロトムの件、まだ引き摺ってんの?!

 

 いや、慌てるおれや学生諸君を見て、クラベル校長はクスクス笑いだ。冗談か?!冗談なのか?!

 

「冗談です」

 

 冗談か〜!このお茶目さんめ!

 

「……ですが、突然写真を撮られると驚いてしまう子も実際いますからね。近くに人がいるときは、ちゃんと撮ってもいいか、確認してからにしましょう」

「「「はーい」」」

 

 おっと、真面目な教訓挟んできた。それは結構大事。ポケモンが驚くかもってのもそうだが、飼い主の気分が悪くなる時だってあるしね。

 ま、わざわざ写真で撮りたい!なんて、気になっちゃう程素敵なポケモンだったんだろうから、褒め言葉のひとつでもつければ飼い主もポケモンも悪い気はしないっしょ。

 あーあ、おれは全然気にしなかったのになぁ!!バズチャンスが!

 

 ……クラベル校長側に、おれを学生に撮られると困る要素があった、ってことか?

 

 んー……?

「ゾロアさん。せっかく温かいのに、冷めてしまいますよ」

 おっと。

 残っているパンとスープを急いで食べる。

 

 ちなみにクラベル校長先生はお紅茶でティータイム。 ッカァー、お優雅ですわ〜

 かんきつ系のあまいかおりだったので惑わされたが、一口貰ったらしぶにがとほのかなすっぱみなオトナの味だった。しわしわに顔を歪めたおれを見て、ふふと小さくクラベル校長が笑いよる。わかってて何も言わずに飲ませたな?!

 この……お茶目さんめ!!

 

――――――――――

 

 ひとやすみして午後である。

 

 引き続き校内探検。しつつ、授業も少し見学しましょうかとクラベル校長。

 いきなり校長来たら緊張しちゃうんじゃないの?と見つめれば、なんと扉に隙間ちょっぴり開けての家政婦は見たスタイルで覗き出した。

 バレるて。もうそれはバレてるて。セイジ先生がちらちら見とるて。

 

「Ah……OK.

 海外の人も、ワシもみんなも!自分の国の食べ物褒めて貰えるの、誰だってハッピー!嬉しいことだもんね!」

 

 見なかったことにしてる!

 

「良い笑顔です。飽きさせないテンポの良い講義……流石です、セイジ先生。

 しかし、やはりまだ緊張が見えますね。集中が乱れています」

 

 そりゃ……乱してる人がいるからじゃない?おれは頑張ってる方だと思うよ。

 頑張って生徒と向き合うんだ、セイジ先生!見ちゃダメ!こっち見ちゃダメ!ノンノン!

 

 そんなセイジ先生の言語学見学に味をしめたクラベル校長(家政婦のすがた)は、順調に家庭科、バトル学、数学の授業を見学。

 順調に、家庭科でバレかけて人差し指で『シー……』の形でもって無言のアイコンタクトによりダンディームーディなおじさん達による目線だけなら真剣なやりとりして。

 バトル学で見つかってキハダ先生が50m5秒台で駆け寄ってきたから退散し。

 タイム先生に秒速で見つかって怒られていた。

 

 この学校、もしかして一番偉いのタイム先生なのでは……?

 

 授業は基本、時間割などはなく、この時間にやる、という決まりもない。学生の方から希望者を集め、人数が一定数集まったら時間を調整して、授業を行うらしい。まだ今年度上半期開始したてで、どの授業も初回や第二回ぐらいが多いんだそう。

 急ぎ駆け足で基本授業を駆け抜けて、さっさと専門分野の授業に行っちゃう人も居るそうで、そういう人は先に集中講義でまとめてやっつけちゃうそうな。進み具合に応じて、そこまでまだ進んでない人たち待ってるよりは良いよね。頭詰め込み式なっちゃいそうだけど。んでもある意味、こんな早期に基本を駆け抜けてしまいたい人ってのは二極化されるらしく。

 単位だけ目的で、一夜漬けでも合格だけ欲しい人か。

 真剣になりすぎて、基本なんて予習復習終わってるから今更やる意味もない人か。

 

 あと僅かながらジニア先生を一目見たいのが一定数いる……とかなんとか。そいつらだけ怖いな。何しに学校来てるんだ?

 ああいや、ジニア先生見に来てるのか。……いや怖ぇよ。わからないでもないけど。各先生にそういうのいそう。推し活じゃん。

 

 で。その集中講義希望者。生物学……つまりジニア先生の担当なんだが、溜め込んでたそうな。

 

「ゾロアさんの様子を見ていただいていましたから、仕方のないことではありますが……元々人気の授業です。

 特に彼はパルデアに生息するポケモンについてのスペシャリスト。宝探しでパルデアを旅するなら、一通りの話を聞いておいて間違いはありません。

 …………時々脱線してしまいがちなので、少し心配なのですが……どれどれ」

 

 懲りないねぇ。

 ここまで全部、おれも興味あるんで一緒に覗いてるんだけどね。人のこと言えない!

 

「──リージョンフォームはフォルムチェンジとはちがうんです。個体差、一時的な変化ではなく先天的な違いなので、そもそも色や形、タイプも違います。こちらの画像はパルデアのケンタロス。みなさんの見慣れてる黒い姿ですが……一般的にはこちらの、茶色の毛並みのケンタロスが本来の姿なんですよねえ。どっちもカッコイイですよね〜。

 でも実は、パルデアのケンタロスにはさらに違う姿がありまして──」

 

 すごいちゃんと授業してる……黒いケンタロスなんているんだなぁ。

「ほう……ちゃんと授業してますね……しかもかなりいいペースです。早すぎるぐらいです」

 

 まさか。おれでもジニア先生の間延びした口調で授業時間に間に合わなさそうだって思うのに。

 ……あれ?それってまさか。

 恐る恐る、生徒の中で手が伸びる。

 

「ジニア先生。あの、タマゴの話は……」

「ああ! すいません、また脱線してしまいましたあ」

 

 ああんやっぱり!

 学生のおねえさんのおかげで止まったけど、なんでタマゴがそんなよくわからん話になっちゃうんだ。

 

「今日中に彼等の集中講義、テスト分終わりますかね……」

 

 どうだろ。難しそうじゃない?

 

 

 





こちら今のところだと一番仲良くやれてる方のざっくりそれあれです

【挿絵表示】

3馬身差ですねえ…


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待つのは好きで放置は嫌い


パルデア文字わかんないのですわ〜

ぽっと出のオリキャラが出ますがそんなに関係ない人です

あとハッサク先生がコレジャナイ感



 

 

 

 アカデミーの小さな新たな仲間。

 

 怪我でボロボロだった姿は、すっかり治ってこまめにブラシがけされ、美しい白とグレーに青が輝く、手触りの良い毛並みに。

 うずくまったまま動かなかった体は、今や元気にひょいひょいと駆け回っている。

 クラベル校長先生や、先生職員方と一緒に行動するうちに、最初は珍しげにしていた学生たちも、普通のちょっと珍しいポケモンであるという認識に落ち着いてきました。

 振り撒く愛嬌とかしこい行動の数々で、アカデミー内でのマスコット的地位を確立しつつある、アオキの保護した白いゾロア。

 

 病院以来の久しぶりに見た姿は、以前にも増して元気いっぱい。人の歩幅に合わせて軽快に跳ねる脚も、物怖じせず大きなポケモンに近付いていく度胸もある。見ているこちらがハラハラしてしまうぐらいに。

 

「今日は小生が担当なのですよ! よろしくお願いしますね、ゾロアさん」

「きゅぬ」

 

 色々な人と会わせてあげてくださいというジニア先生の希望で、当日の授業の少ない教員や、移動の少ない事務員からローテーションで組まれたお世話担当。決してその日一日担当になった者だけが相手をするのではなく、担当の目の届く範囲でゾロアが行動するという程度の決まりごと。

 ちゃんとゾロアも分かっているのか、朝に担当を伝えると、一日ついてきてくれると聞きます。

 体格の大きな私にも、目を合わせて大きく頷いてくれる。初対面の時には驚いていた様子だったのに、もうとっくに慣れたのでしょう。

 

「本日はゾロアさんとまだ会っていなかった先生方も勢揃いしたのです。これで、アカデミーの職員は皆さんゾロアさんとお会いできたはずで……ゾロアさん?」

 

 先日はリーグ業務や学生の見守りに出ていて居なかった教師、職員とも顔を合わせることができました。しかし、本人は何やら首を傾げています。

 

「きゅあ、きゅんぬ?」

 

 地質学担当のデンファ先生のそばまでいくと、彼女と小生とを交互に見て、また首を傾げました。頭のてっぺんに伸びていた毛が、しょんぼりと垂れているのは残念がっているからでしょうか。

 何か悲しませてしまったかと、困惑している彼女に気付いたゾロアが励ますように、元気に鳴いて前足で彼女の足をトントンと触れています。

 

「ウッ」

 

 デンファ先生は胸を抑えて辛そうな、しかしどこか幸せそうな顔。

 そうですね、上目遣いが大変かわいらしいですね。

 

 『優しくしてあげるのは大事ですが、あまり甘やかさないように』、とクラベル校長から告げられていても、小さな姿で愛嬌たっぷり振り撒く姿についつい甘やかしてしまいます。無理もありません、我々は人を教え導く仕事。教員一同、いけないことは叱るべきですが、良い行いには誉めて伸ばすのが癖のようなもので。

 

「ハッサク先生、ほらほら、見て下さいな」

 

 デンファ先生の声に呼ばれて行くと、彼女の膝の上に乗って、机に足をかけたゾロアが熱心に何かを見ていました。

 歪なドーナツのようなものが、小さなメモ紙に描かれており、端に書かれた文字に成る程と思う。

 この地に住むものならお馴染み、パルデア地方のごく簡単な地図です。

 

「地図に凄く興味があったみたいで、汚してもいいように紙に描き出してみたの。そしたら、この通りで」

「地図。なるほど、パルデア地方に興味が?」

「きゅぬ」

 

 返事をするように頷いたゾロア。

 

「でしたら、もう少し大きな紙に描いてあげましょうか。この大きさでは、街も、道か川かもわかりませんよ」

「そうね。手伝ってくださる?」

「へえ、なら俺も手伝うよ。どうせ待機だし」

「ほう、面白そうだな。ワタシも混ぜろ」

 

 提案に続々と、今日の授業もない教員が集まってくる……レホール先生は午後に授業があるはずですが。

 元より凝り性なきらいのある面々。紙は何に、縮尺は、等と話す内に、どうせなら色まで塗ろう、という話になり、であれば美術室にと、ぞろぞろと連れ立って行く。

 

 今日の授業がないから暇なのかと言われれば、小生は四天王としてリーグの方の仕事もあり、他の職員も各地との連絡や宝探し中の生徒が困っていないか、見回り等することはあるのです。

 あるの、ですが。

 如何せん、前期に大勢受け持つことのない、専門的な学科の……新任かつ元々研究者気質な、専門的な学科の教員ばかりが残っていたのもあり。

 そして小生も、皆さんも、ゾロアが嬉しそうに意気揚揚とついてくるのに少しばかり、舞い上がってしまい。

 

 気付いたときには、A2方眼紙に緻密、かつ精密に描かれた、パルデア全土マップが完成していました。

 

「イイ……素晴らしいわ!」

「色がつくと、途端に見映えが変わりますね」

「フム……やはり物見塔跡はこうして見ると……フ、興味深いな」

「ただ、まぁ…………

 

 詰め込みすぎましたね」

 

「うん」「まぁ……」「西……西か……」

「きゅう……」

 

 皆さんがやりきった顔で出来上がった地図を見る中、ゾロアだけは困った顔で地図を見ていました。カンペキな縮尺で区分けされたエリア、道、川、湖や草原、山や砂漠を色分けされ、高低差も色の濃さを使って表現。

 

 ここまでは、ゾロアも楽しそうに目を輝かせていました。

 

 地名を入れようと誰かが言い始め、各々持ち寄ったメモ帳や付箋で好き勝手始めたら最後、皆さん歯止めが効かなくなり。

 地名、までならゾロアも首を傾げるくらいだったのでしょう。

 地盤の強度からなる危険箇所、植物学の観点から分けられた植生、文化的遺産の配置に、パルデア十景と、それに準ずる景色の良いオススメスポット、良い釣り場、町ごとの料理提供店舗と、コスパの良い店……などなど。

 

 各々自分の分野と趣味を好き勝手に詰め込みすぎて、重なった付箋はまるで歪な虹色の鱗のよう。

 

「なんでしょう……なんですかね、これ」

「楽しくなっちゃったので、つい……」「あの」「誰だよ、“星の綺麗な丘”とか書いたの」「テラスタルポケモンの目撃情報なんて、不確定じゃないのか?」「おい、この“謎の祠”は誰が書いた?」「こんな所にパルデア十景あったんですね」「南エリアに危険地帯が?」

「コレクレーって何?」「写真だせ写真!」

 

「なんか……人、増えてませんか?」

 

 顔をあげると、教員が集まっていました。時刻も正午を過ぎており、午前中に授業があった先生方も参加していたようです。

 

「面白そうなことしてるって聞いたので……」

「ゾロアちゃんがパルデアについて知りたいって聞いたから……」

「怪しい杭の目撃情報があるだと?!」

「自分の知識出せるの、ちょっと楽しくて……」

「これこの間の騒動の時に出せば良かったのに」

 

「これはいったいなんの騒ぎですか?!」

 

 クラベル校長とタイム先生が飛び込んで来るほどまでに、収拾が付かなくなっていました

 

 クラベル校長とタイム先生にみっちり説教され、それぞれの業務に戻される。

 レホール先生は『フィールドワークは授業の裏付けに必要な調査である』と強く主張し、そのまま授業へとタイム先生が連行して行き……

 

「はい。」

「アオキ……?いつからアカデミーに?!ついに貴方、教師業まで……?!」

「やりません。先程からです」

 

 教師の中に紛れていた、アオキと小生だけが残りました。説教の最中に既に紛れ込んでいたとのこと。

 

「……トップがあなたのスマホロトムにご連絡差し上げていたのですが、お出にならなかったので私が派遣されました。ハッサクさん……定例会、三時からでしたが、お願いしてあった資料はご用意頂けてますでしょうか」

「定例会の資料……アッ!!」

 

 凶暴なポケモンについて、特に危険なドラゴンタイプの強力な個体が散見される地点。そのピックアップを頼まれていたのでした。

 

「チリさん、ポピーさんからは既に頂いています。まとめた資料を製作する必要があるので……出来れば早めにお願いします」

「い、急ぎご用意致しますので!! 時間は掛けません、座ってお待ちください!」

「後でデータで頂ければ………………わかりました」

 

 大雑把に書き出したデータは既に用意してましたが、職員室に置きっぱなしでした。取りに少し離れますが、ゾロアは大丈夫でしょう。

 アオキに構って貰えてご満悦な様子です。そういえば、描いている間、本人を放ったらかしてしまっていました……重ねて申し訳ない。

 

――――――――――

 

 あの時、病院でボールを断られて以来の久しぶりの再会。覚えていた様子のゾロアは、気づいて直ぐに駆け寄って来た。

 

「きゅあん」

「……どうぞ」

「きゅ!」

 

 ガヤガヤと、いい大人がひとつのテーブルに集まって、紙に書き殴っている。巻き込まれないよう、離れたテーブルの椅子を借りて座ると、ゾロアが律儀に隣の椅子を示して訊くように鳴くので、頷いた。礼……のようなひと鳴きの後、椅子に跳んで大人しくしりを降ろす。

 こういうところが、あまり普通ではない。

 

 ゾロアとふたりで集団を遠巻きに眺める。

 とんでもない代物を、勢いだけで作ってしまっている自覚は、今の彼らにはないのだろう。後から冷静になって気付くんだろうが。

 

「きゅぬ?」

「……ハッサクさんへの用事で来ました。ご連絡差し上げても、返事が無かったので。普段はアカデミーにまで立ち入りませんよ」

「きゅっきゅ……きゅぬ?」

「……そうですね、声を掛ければ良いのでしょうが……

 あの、ハッサクさん」

 

 呼びかける。返事は無い。わかっていたが、声を張り上げてまで呼ぶ気力も……それほど無い。

 腕時計を確認する。まだ昼前だ。

 

「……まぁ、今は邪魔しなくても良いでしょう。まだ慌てる時間でもありません」

「きゅー……」

 

 ひとりごとにも、さも返事でもするかのように返してくる。

 このゾロアも、少し離れて見ているのは騒がしいからではなく……あの教師陣を邪魔したくないから、ではないかと思える。断片的な情報で聴く限り、どうやら教員たちで、地図に興味を持ったゾロアのために、汚しても良い、見やすい地図を描き出そう……というのが事の発端のようながら……どう見ても暴走している。

 何より、発端のゾロアが放置されている。そして当のゾロアは、自分のためにと始まったコレに口出ししにくいらしい。

 きちんと背筋を伸ばして、椅子に大人しく座る姿はまるでトリミング台の上のトリミアンのよう。サイズはまるで違うが。

 

 救いは、年度初めの今の時期、リーグ業務で忙しいハッサクが美術の受講募集を始めていないため美術室に学生が近寄らない事だろうか。

 それとも、見られていたなら逆にこの茶目っ気に親しみを感じて、人気が出るのかもしれない。

 生憎と、最近の流行りは、よくわからないが。

 

 隣の大人しいゾロアの静かさが気になる。

 

「……アカデミーは楽しいですか?」

「きゅ? きゅぬ!」

「学生は怖くありませんでしたか」

「きゅぬ。きゅあん……きゅあんぬ」

 

 喋るように鳴いて教えてくれるが、それを理解できる頭ではない。悪い意味の鳴き声ではないので良しとする。

 

「ジニア先生とあまり最近遊べていないのを寂しがっている、と聞きました」

「きゅ?!」

「ナンジャモさんに師事して……アカデミーのアカウントを作成してSNSで情報発信を始めているようです。あなたの仲間の情報を集める為に」

 

 スマホロトムに、ジニア先生のアカウントを表示してもらう。早くも公式に認定されているこのアカウントは、アカデミーの行事予定、パルデアに生息するポケモンの新たな情報や、パルデア地方で見られた大量発生中のポケモンの場所等を毎日アップしている。

 その中にある、白いゾロアの目撃情報を求める記事をゾロアに見せる。

 

「全国へ向けた研究発表や、研究者の集まりにも積極的に顔を出しているようです。が、私の見たところ、彼ははりきり過ぎると失敗してしまいやすい方だと思います」

「……きゅぬ」

 

 頷く。短い付き合いのポケモンにそう思われるだけの何かを既にしたのだろうか。

 

「ええ。彼は自分自身のペースで進めるのが、最も効率が良いのでしょう。今の彼は焦っているように見える。…………クラベル校長に伝えておきましょうか」

「きゅぬ!」

 

 今度は力強く頷いた。そして何度も小さく頷く、を繰り返す。話の内容を咀嚼する、人のような。

 

「…………私も、あなたを任せてしまった身ですから、何を言う資格なぞありませんが」

「きゅ、きゅう……」

 

 慌てたように首を振る。そんなことはない、とでも言いたげな目。なるほど、確かに表情豊かだ。

 

「保護した責任を放棄したつもりはありません。あなたが望めば、いつでも……とはいきませんが、可能な限り、私も対応します」

 

 律儀に相槌をうつゾロアの、柔らかな毛の温かい……芯に少しばかりの冷さの残る背中を撫でる。

 

「だから、あなたがそう寂しそうにしなくてもいい。管理できていない人間のせいにしなさい」

 

「……きゅぬ?」

 

 あれとか?とでも言いたげな、手で指し示された教員集団。あれは……

 

「誓って言いますが、彼らを責めるつもりではありませんからね。あれはひとに物を教えられる程の知識を蓄えた、並外れた知識欲と探究心の溢れた人間たちです。

 人に物を教える、なんて、よほど奇特な物好き……いえ、自分の好きな物事を、誰かに知ってもらえるのが嬉しいのでしょうが、……人を導けるというのは、大変に貴い事です。

 好んでやろうとは、私には思えませんが」

 

「きゅぬ」

 

 ひと声鳴いて頷く姿に、チリさんの「せやな」が聞こえた気がした。

 

 

「しかし……待てど暮らせど、中々気付きませんね。……完成まで気付かないかもしれません。なら、もうじきかかりそうですね。ゾロア、腹は減っていませんか? よろしければ、ご一緒にいかがでしょうか」

「きゅぬ」

「では行きましょうか」

 

 両手を差し出すと、ゾロアは黄色い目をぱちりと瞬き。……ああ、もう怪我は治ったのだったか。すっかり動けるのだと、聞いていた筈なのに記憶の中ではまだベッドで大人しくしていた姿につられてしまった。椅子の上で大人しかったからでもある。

 

「……失礼しました。もう動けるのでしたね、「きゅ」っ」

 

 手を下ろそうとした矢先、思いっきり跳び出してきた小さな姿。慌てて抱えたが、居心地が悪いのかもだもだと腕の中でもがいている。ああ、もう。

 

「私が抱えずとも、あなたもう動けるのでしょう?」

「きゅっ」

「……」

 

 わざととしか思えないが、ぷいと顔を背けてまで、人間のような聞こえないフリをしてみせる。

 聞こえるようにため息をつくと、小さくぴくりと大きな耳が動いた。聞こえてるじゃないか。

 あれだけ派手に跳び上がる元気があって、怪我も治っているなら多少雑でもいいのだろう。小脇に抱え、鞄を持ち直し、学生食堂へと歩き出した。人の歩くタイミングに合わせて機嫌良く鳴き声を上げている。

 

 ああ、しかし。

 

「腹が 、減りましたね」

「きゅあんぬっ」

 

 元気になったようで、何よりだ。

 そういうことにしておこう。

 

 

 

 





5000文字くらいを目安にしてるのに6000文字くらいになっちゃうのは無駄な言葉が多いんだよなぁって



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読むのは好きで覚えるのは苦手



ニキ視点何も考えず書いてるせいで人間側で辻褄合わせようと必死な奴いるらしいっすよ




 

 

 

 なんかねぇ。でっかいコトになってる。

 

 発端はおれに起因するんだが、おれは関与してないっていうか、見てただけっていうか。

 

 確かにね?「パルデアちほーの形ドーナツっぽいけど、真ん中のこれ何?」って顔したけど、みんなして大穴、穴、エリアゼロ、パルデアの大穴としか言わないんだもん、気になるじゃん。

 で描いてもらったらドーナツだし。バウムクーヘンだし。これがパルデアで、ここがテーブルシティ。我々のいる所。でここがエリアゼロ、通称パルデアの大穴ね……なんて地名書かれてもね。

 わかってるんですよ。

 

 おれに文字が読めないことは!

 

 ローマ字とかならワンチャンあったんだけどな。この……何?丸と折れ線グラフみたいなパルデアの文字?

 ぜんっぜんわからん。

 というか人の使ってる言葉をおれが理解できてるってぇことはおれの知ってる言葉だろ?なのに文字はわからんてなんなのさ。表音文字でもなさそうだし。いくつかの決まった形の文字で、アルファベットのような大文字小文字があり、同じ意味を持つときは同じ文字の並びなんだろうなってのは理解したけど、そもそも読み方も意味もわからない。

 一応アラビア数字は使ってるらしい。でもパルデア文字で表された文字列にはないので、簡単に数字を表したい時だけなんだろうか。oneとか、一、いちみたいな話?

 トランプの文字はちがっていたけど、あれは絵の個数で判断つくだろ?

 日本語のいろはかるたみたいなのないのかなぁ。んでも人に「かるたみたいなの欲しい」って、どう表現したものか。

 

 閑話休題。

 先生達がよってたかってやんややんや、大騒ぎしながら作った地図は、ふせんにまみれて何が何やら、って様相だ。テンション高かったなぁあれ。

 それでも、パルデアの大穴とやらに貼られたふせんは少なく、ここはなんなのか、何があるのかについての言及は、薄紫色のふせんに書かれた文字数枚のみ。

 

 おれにゃ読めないし、誰が書いたかもわかんないんだけどね!!!!

 貴重そうな情報あっても、なぁんもわからん!

 

 んでまぁ。アオキさんが構ってくれたり色々あったけど、最終的に先生方がみんなしてタイム先生のお説教をいただいてた。しゃーない。お仕事すっぽかすのはいかんよ、キミ。最後までねばってたレホール先生とかいたけどさ。あの人物静かな人じゃないよ。ヤベー方の人や。

 とはいえさすがの出来映えとなった地図は大変によろしいのでは?と思ったが、クラベル校長はこちらは没収しますとのことで。

 いいじゃん、プリントアウトして学生に配ればいいのに。校外学習とやらのお役立ちじゃなくて?

 

「校外学習は、各々で自分だけの宝物を探す"宝探し"です。学生がどのような宝を見つけるかは、学生次第。このパルデアを旅して、それを見つけ出す事が学習なのです。……しかし、ここには、ありとあらゆる情報が載っている。載ってしまっているのです。

 ……我々は、物を教える側です。

 ですが、時には。教えすぎるというのも、良いことではありません。

 皆さんには、おわかりいただけますね?」

 

 だ、そうな。

「なるほど」とぞアオキのおじちゃんは頷いてたが、おじちゃんホントにわかってる? おれと同類だと思ったのに。

 おれはゲームとかで攻略サイトとかに頼っちゃうほうの悪いキツネなのである。ネタバレはちょっと困るけど、気付けなかった事が残ってるの、嫌なのでね。

 みんなクラベル校長の言葉にしみじみと頷いてるけど、そういうもんなのか。そういうもんなんだろうな。

 

 ところでアオキさん、説教一緒に受けてる必要なくない?とも思うだろ?おれも思う。でも同時におれは知ってるぞ。こっそりありきたりな黄色のメモに、美味いもん出す店書いて貼ってたの見逃してねぇからな。

 食堂で甘いの酸っかいの塩っからいのサンドイッチ三つとスープとサラダとデザート平らげた時も思ったけど、アオキさんてばさては食欲全開ちゃんだな?

 

 

――――――

 

 そんな地図騒動のあった午後。

 

 アオキさんがハッサク先生から資料を受け取……ったあたりでそのハッサク先生が緊急事態だって呼び出しくらってオンバーンで飛んでったので、本日のおれ担当の先生がいなくなってしまった。

 しかもおれの甘やかし禁止条例がタイム先生から発令されてしまったので、いるなら丁度いいやとばかりに資料まとめにノーパソカタカタやってるアオキさんの膝の上に放り出されている、なう。フロム校長室。

 

 こやつ、パソコン充電しよる。盗電だ!!校長がオッケー出した?あ、そう。

 だいたいにして、今日は先生方がみんなしておれのことを気にしないのなんなの?!

 ってかそもそも、チリちゃん先生どこ?!学校の先生とは全員会ったって紹介されたのに、学校にチリちゃん全然おらんやん!チリちゃん先生の地理の授業どこですのん?!誰よあの女!バークムクーヘンレディって呼んでやる!

 

 

 …………………………

 おいおい、アオキさん構ってくれないんだが?!

 なんならこのかわいいゾロアに見向きもしねぇんだが?!?

 

 ずっと文句を言い続けてもなんの反応も無いの、つまんないよね。しかも文句の対象がそこに居ないときた。むん。

 ちょーーっとばかし不服ではあるが、悪いキツネながらもおれは作業の邪魔してまでの構ってちゃんではないのだ。

 なので箱座りでむっすりしてるなう。

 

 ……でも、たまには触ってくれてもええんやで?

 ちらりと見上げても、奴は画面から目を離さない。クソがよ……おっと、お口が悪いですわ!

 

 

 ……いや、まぁ。見てりゃわかったよ、ちょっと先生方が忙しそうなの。

 どうやら、校外学習中の学生に何かあったらしい。

 なんだろね?

 きゅんとぞ首を傾げて振り仰ぎ見て鳴けば、ちゃんとこちらを見たアオキさんがパソコン画面に目を戻して口を開く。

 

「北エリアで、強力なポケモンに襲われた、という学生がいたようです。その場に居合わせた、ポケモンバトルの得意な学生に助けられたそうですが、その強力なポケモンの気配にあてられて周辺の野生ポケモンの気が立っていると」

 

 すると教えてくれるじゃん。ほーん、強いポケモンねぇ。ハッサク先生は?何しに行ったの?

 

「ハッサクさんは、元々その付近に生息しているカイリューやオンバーンをなだめに行きました。群れのリーダーが落ち着けば、その下位の仲間も自ずと落ち着くでしょう。後々、調査のためまた人が派遣されるかと」

 

 つよーい野生のドラゴンタイプ?うむ、やばそう。

 でもさアオキさん。ハッサク先生、そういう強いポケモンどうにかできるくらい頼りになる人なのか?

 

「彼はドラゴンタイプのエキスパート。所謂、ドラゴン使いです。大変にお強い方ですよ」

 

 へぇー! 美術の先生だよ〜くらいにしか見てなかったが、そう言われてみるとなんか強そうな……気は…………し……しないな。やっぱぱっつぁんって感じだよ。

 人という字はぁ!って言い始めそうな。

 

 しかし、強力なポケモンねぇ。元々強いドラゴンタイプがいたってところに? ふーん……

 きな臭いじゃん。匂うぜぇ!

 こりゃ誰かが持ち込んだか……他のもっと強いポケモンがいるところから、追い立てられて来たんだ!モンスターをハントするゲームとかでやったやつ!大体この流れになりがち!

 

「…………これはひとりごとだと思って下さい」

 

 うん?おう。おれに話しかけてるのが恥ずかしいのか?いいぞいいぞ、黙って聞いてやるから、この聞き上手ゾロアくんに任せとけ。

 

「該当地点、及びその付近は、パルデアでも屈指の強力なポケモンが多く生息する地域です。そのため、自分のポケモンの強化にと、修行に赴くトレーナーも多い」

 

 ふむふむ。

 

「ですので、そこの野生のポケモンも、そこに自分から足を踏み入れたトレーナーも……相手が強い事はわかっていた筈。予習も下準備もしないトレーナーが居て良い場所ではない。…………となると現れたポケモンが相当強いか、もしくは」

 

 そのたまたま居合わせたポケモンバトルが得意な学生トレーナーとやらが、はちゃめちゃに強かったか、ってことです?

 

 ふーーむ……あれじゃね?

 いわゆる、主人公くんちゃん。

 

 この世界にも、ついにトレーナーにもポケモンにも暴虐の限りを尽くし大量のタマゴとポケモンを量産し健康を損なうレベルの人間性を披露して最後には全てをパソコンに預けて消滅してしまうような存在が現れたのでは?

 やだ、怖……

 ま、無いとは思うけどね。でもチャンピオンレベルのツワモノは、若い頃から頭角現しても不思議じゃない。そういう才能溢れる学生さんなんだろう。

 この学校、年齢制限無いから幾つの人か知らんけどね。

 

「……いえ。これは私の考えることではないですね。アカデミーの管轄の出来事であり、チャンプルタウンとは真逆の場所です」

 

 そうなの?

 そりゃそっか。めちゃ強主人公疑惑才能マントレーナーとドラゴン使いのハッサク先生が出動するような相手に、ポケモンリーグの一サラリーマンがなぁにするのって話だよな。知ら管だね。

 

 ん、ならアカデミーは管轄外のアオキさんが、なんでポケモンリーグじゃなくて今ここでハッサク先生待ってるんだ?そのパソコンカタカタも、ここでやらなきゃいけない作業じゃないよね。充電してるけどさ。それこそ、リーグ本部?に戻ってやれるだろうし。

 ……おれを任されたから、しゃーなしに居てやるかぁってこと!? そういや、なんかの連絡受けてたな。

 いやいや、いいよぉ?

 おれ別にそこのベッドで不貞寝してるし。ここに居ろって置かれたからここにいたけど、アオキさんにいなきゃいけない理由は無かろうもんだし……んじゃ退居しますね……とぞ立ちあがろうとしたら、やんわりと肩を押さえつけられた。そのまま撫でつけられる。なんやなんや、立つなって?

 

「……アカデミーが手薄になりますから、連絡と作業ついでに居るだけですので。画面から目を離すのも面倒です」

 

 あ、そう?

 おじちゃんの膝の上ってあんかにされてるみたいでちょっと……いやだけど、アオキさんが別にいいですってんなら、いいか。

 

 いやいや、別に膝の上ならそんなに構われんでも良いかなとかじゃないし?

 なんならジニア先生とかミモりんの膝の上の方がいいですげふんげふん。軽率に構ってくれるからよ。

 でもミモりん、怪我した生徒とやらの付き添いで、クラベル校長と病院にいってんのよね。

 ジニア先生は案の定、集中講義が延長戦入りました。がんばえー。

 

 

――――――――

 

 ロトロトロトロトしたスマホロトムの着信音から、出ていた面々が戻るという連絡を受けてアオキさんがスマホロトムと連絡の話を始めてしまい、まーたおれはヒマになってしまった。しかも今度は文句も言えない。ぐぬぬ。

 普通の人間ってのは、膝の上に生き物が居たら手持ち無沙汰に手慰みに撫ぜるもんだろ?!膝の上の生き物はみんなそれを待ってるんだよ!

 何故その手はパソコンを離れない!

 自慢だけど、毎朝クラベル校長がパフュートンの毛ブラシとやらでブラッシングしてくれてるから手触りは保証するぞ!自慢だけど!!

 毛を毟られたパフュートンくんさんには感謝しかないなぁ!

 

 ここまで無言で尾で抗議していたが、ついにアオキさんがおれに触れた。おっ、来たか?お手元温めましょうか?

 

「これからクラベル校長とハッサクさん、撃退した生徒の一人が戻ってくるそうです。上司への報告をまとめるため、聴取に私も同席しますが、あなたの会ったことのない学生が来ます。恐らくは、あなたの苦手な威勢の良い方です。

 このままここにいても、職員室に戻っても構いません。他の先生の元へ行くのでしたら、案内しますが」

 

 違うか。事務報告みたいな話だった。未来のチャンピオンねぇ……

 

 んー? アオキさんがおれの好みを知っている……?妙だな……

 当たってるか、確かめてやろうじゃねぇか。せっかくだから、おれはここに留まるを選ぶぜ!

 

 アオキさんの腿の上ですっくと立ち上がったら、あまり立たないで下さいねと腹掬われてやんわり降ろされた。なんでぇ?

 

「足、刺さって痛いんですよ」

 

 あ~、子どもとか痩せた人座らせたり乗せると、ケツの骨が刺さる現象?わからなくもないな。

 …………おれ、なんでわかるんだ?

 まぁいいや。知らんひとのひとりやふたり、今更どうってことはない。迎え撃ってやろう。

 

「……ここにいるんですか」

 

 アオキさんの足元で、パソコンしまったりなんなりしているのを眺めてたらそんなことを言う。居るって言ったじゃないですか!

 

「……」

 

 なんか考えておられる。この人、考え事してるとき全然動かなくなるよね。考え事してなくても動かないときあるから、ちょいちょいわかんないけどさ。今は間違いなくなんか考えてる。

 いきなりスイッチ切れたロボットみたいだ。

 

「まぁ……大丈夫でしょう。悪い人間では、ないですし」

 

 んでいきなりスイッチ入るのね。自分で納得して頷いている。

 もっとおれに解るように説明してぇ?

 

「……彼女は、強い人やポケモンに大変興味をお持ちですが、あなたは珍しいだけの……小さく、戦う力の無いポケモンです。そこまで強い興味は抱かない……のではと」

 

 ……え、おれ今、アオキさんにディスられた?

 

「そうショックを受けた顔をしないでください。むしろ、そうであってほしいという私の願望込みの推測です。出来れば、当たっていると……いいんですが」

 

 めちゃ深ため息。がっくり落ちた肩。至極面倒くさそうに下がって寄った眉。

 おおっと、これは……アオキさんもおれも、考えてるよりはるかにずっと、おれの苦手なタイプが正解の予感……!

 

 い、今からでもかまくらに避難してもいいか「失礼しまーす!!!!」おあああ元気なコきちゃあああ

 

 

 

 

 




ああああ
ゾロアくんちゃんさんの苦手なタイプってなんだ?


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幕間: バトルが大好き


お待たせ致しました。他の作者様の作品読んでると楽しくてつい…

主人公が出ないので無理やりねじ込んだら長くなりました。
モブクズのせいでネモたやが曇るの許せないんですけど出さざるおえなかったのでモブクズが出てますが許して……私が許さねぇ



 

 

︎ ︎ ︎ ︎ ︎パモがパモットに進化した。それがきっかけ。

 

「そうだ、チャンプルジムに行こう」

 

 チャンプルタウンのジムリーダーはノーマルタイプの使い手。手持ちには今、ケンタロスと、新たにかくとうタイプもついたパモット。つい先日、セルクルジムとボウルジムに行ったばかりだけど……ちょっとだけ足を伸ばして、行ってみたかった。

 

 カラフシティのポケモンセンターでマップを眺めて順路を考える。ここから砂漠を渡って大回り……道を素直に進むのも手持ちの強化に繋がるけれど、自分の体力では砂漠は少し時間が余計に取られてしまうだろうか。それとも、そらとぶタクシーにお願いして、チャンプルタウン近郊で育成に時間かけた方がいいだろうか。でもじめんタイプのポケモンも、何匹か育てておきたい。

 不意に空が翳る。東の空から、そらとぶタクシーが一台やってきた。「おーい、おーい」と、間延びした聞き覚えのある声に目を凝らすと、アカデミーで最近話題の、担任のジニア先生。へにゃりとしたいつもの笑顔で窓から身を乗り出して手を振っていて、すぐにタクシーの運転手さんに何か言われたのかぺこぺこと頭を下げて引っ込んだ。

 やがて降り立ったタクシーから出てきたのは、アカデミーでのおなじみの白衣にシャツにサンダルの、外を長く出歩くつもりの格好ではないジニア先生。

 

「やあやあ、間に合ってよかったあ。

 こんにちは、ネモさん。調子はいかがですかあ?」

「絶好調です! こんにちはジニア先生。どうされたんですか? 確か、集中講義でしばらく忙しいって聞きましたけど」

 

 今年度から稼働し始めた、SNSのアカデミーの公式アカウント。主にジニア先生が更新しているそれが、忙しくなるので、という文言の後は最近は他の先生方で更新されている。

 

「えへへ。きみが早くも二つ、ジムチャレンジをクリアしたって聞いて、応援に行ってもいいか聞いたら、クラベル校長が許してくれたんです。カラフジムで受付に居ると、連絡をもらったので、急いで飛んできちゃいましたー」

 

 カラフジム。本当は、そちらを目的としてここに来たのだけれど、ジムリーダーのハイダイさんが新作メニューの材料の競りに出ていて不在だった。戻ってくるまで待っていても良かったけれど、この周りは砂嵐が酷くなる天気が多く、昼夜の寒暖差も激しい。街で過ごすならともかく、野外でポケモンの育成に出ていると、無駄に体力を消耗してしまう……。

 チャンプルタウンを目指そうとしていた理由には、そんなところもあった。

 ジニア先生が「間に合った」と言ったのも、ジムで私がチャンプルタウンの方へ行く話をしていたのを知っているんだと思う。

 

「今は講義のみなさんが中間試験中なので、試験監督をクラベル校長が勤めて下さってる間だけ、ですがー……戻ったら採点をしないと……ああ、そうでした、そうでした。

 頑張っているネモさんに、担任のぼくから応援のプレゼントを、届けに来ましたあ。ぜひ、役立てて下さいね」

「え!わざわざありがとうございます!」

 

 受け取ったのは白く、丸いタマゴ。しあわせタマゴと呼ばれる、ポケモンの育成をより効率的に進める効果の期待できる もちもの。

 それはとても珍しいものだ。

 

「しあわせタマゴ!良いんですか?」

「はあい。ネモさんはポケモンの育成に力を入れていると聞いたので、使いこなせると思いましてー」

「ありがとうございます!すっごく助かります〜!」

 

 早速、進化したばかりのパモットに持たせる。これなら、他のポケモンとまとめて強化出来そう。やっぱりタクシーにお願いして、チャンプルタウンまで行ってしまおう。

 

 ふと、ジニア先生がパモットを見つめて首を傾げていることに気がついた。どうしたんだろうとそのまま問うと、「いえね、」と腕組み、そして頷く。

 

「ネモさんはあまり長く歩くのは苦手でしょうし、もしもの時の……ううん。

 ポケモンのタイプ相性を考えて、幅広く育成できる方ですから。うん。色々なポケモンを育てている人ほど気付けないかもしれませんので、もうひとつ、ぼくからアドバイスをしますねえ」

 

 人差し指をぴんと立てて、授業の時のような、ゆっくりと、小さな子にも聞き取れる優しい話し方。

 

「ネモさんは、レッツゴーは活用してますかあ?」

「はい!バッチリです!」

「それは良かったです。

 ポケモンの中にはレッツゴーで一緒に歩いていると、中には進化する子もいるんです」

「えっと、はい……あ」

 

 それは……一応、それこそジニア先生の授業で聞いたので知ってはいたけれど、どのポケモンがそうかまでは、まだ把握できていない。

 でも、この話をせっかくだからと、今教えてくれたってことは……

 進化したばかりの、私のパモットを見る。パモットも、はりきった顔で鳴いてくれる。

 

「ふふ。コツは、あまりポケモンを入れ替えない……でしょうか。この子はみんなの面倒をみてくれる、いいお兄さんになりそうですねえ。生態で考えると、わかりやすいかも……なんて。

 あとは……そうそう。ネモさんから届くポケモン図鑑のデータ、楽しみにしてますのでー、ぜひ捕獲も頑張って下さいねえ」

 

 パモットを撫でながらのジニア先生。付け加えられた一言は、応援……だったはず。

 あまり捕獲していないのは、ポケモン図鑑の管理人にはお見通しらしい。

 中々ボールが狙った所に当たらないから、捕獲は結構苦手分野だ。

 図鑑といえば、とアカデミーのアカウントを思い出した。

 

「そういえばジニア先生。あの子について何かわかったことってあるんですか?」

 

 頭に三角をふたつ、指で空に描いて見せると、ジニア先生もわかってくれたみたい。頷いた。

 

「あの子……ああ、ゾロアのことですね。……そうですねえ、わかったような、わからないような……」

「ええー? 」

 

 『今日のポケモン』 と題した、一日一枚は必ず更新される写真。アカデミーにいるコダックや、ヤミカラス、ミミッキュ、ホシガリスなどの写真に混ざって、青と白とグレーの、普通のゾロアと違う毛色のゾロアが最近の話題になっている。

 大怪我していたところをアカデミーで保護されたこのゾロアは、飼い主も生息地も、何もかも不明で巷の研究者たちがこぞって文献を読み漁っているとかいないとか。

 もちろん、私だって興味しんしんだ。なんたって、少なくとも見た目の形はゾロアそっくり。

 

「強さはどうなんですか?!ゾロアークみたいな進化とか……!」

「まだわかりませんねー」

 

 ゾロア、ゾロアークといえば、固有のとくせい、「イリュージョン」と、多彩な変化技でトリッキーに戦う、癖はあるけど上手くハマれば強いポケモン。テラスタイプも併せれば、使いかたは多種多様。

 おそらくはそのタイプ違いの、リージョンフォームではないかと噂されている白いゾロア。

 

「生息地は?!」

「まだわかりませんねー」

 

 アカデミーでは、彼の仲間がパルデアに生息しているのか、いないのならば、何故パルデアにたった一匹、大怪我した状態で放置されていたのか、その原因の解明に、情報を募っている。その集まる中心は、このジニア先生だ。あわよくば、特別なゾロアを私も捕まえたい。きっとバトルがもっと面白くなる。

 

「せめてタイプだけでも!」

「まだわかりませんねー」

 

 えへらと笑うジニア先生。きっと、私の聞いたようなことを色々な人達から聞かれてるんだろう。定型文みたいな返事。

 

「楽しみなのはわかりますが、あの子が個体数の少ない希少な種類の可能性も、病気や変異でああなってしまっただけのゾロアという可能性もありますからね。どうか、のんびり見守ってあげて下さいねえ」

「うう……はぁーい」

「はい、いいお返事です」

 

 各所、各地方で調査がされているのに、どこにも生息地が見付からない、というのは、きっと相当個体数が少ないか、ひっそりと、人里離れて静かに暮らしているポケモンだろう。

 それくらいはわかる。

 わかるけども。

 

 バトルしてみたい……!」

 

「口に出てますよー」

 

 おっと本音が。

 

――――――――――――――

 

 クラベル校長からの帰還の催促に、ひぇえと慌てて飛んでいったジニア先生。反対方向に、そらとぶタクシーで一本。川を渡った先にある、斜めの建物や高さもバラバラな、まとまりのない町が見えてくる。

 

 辿り着いたチャンプルタウンは、聞きしに勝るごちゃつきっぷり。大きな通りのそばに屋台やお店が後から後から出来て、そうして出来た町だと聞いた通り、旅の途中に休憩がてらついつい食べたくなるような、飲食店が多い印象は受ける。

 ジムの場所は、通りに面していて直ぐに見つかった。けれど、いくら探せど、街にひとつは必ずあるバトルコートが見付からない。ジムチャレンジの前に、少し見ておきたかったのだけれど。

 

 チャンプルジムは、どこでジムバトルを行うんだろう?

 

 しいて言うなら、大通りの造りがしっかりしていて、道幅も充分。ここでも戦えるだろうけれど、往来の邪魔にもなりそう。

 街の人に聞いてみても、大通りや周辺の平地でポケモンバトルが行われる事が多いらしい。

 あまり、バトルに関心のある町ではないのかな?

 

 ジムの受付で出会った学生が言うには、このジムのジムリーダー……アオキさんの顔を知らないらしい。

 たしかに、公式のプロフィールには彼だけ顔写真が無かった。恥ずかしがり屋?

 

「秘密のメニュー……ねぇ」

 

 ジムの受付で出会った学生が、ふむ、と考え込んでいる。ひとりひとりヒントをもらって、それを賭けさせることでジムチャレンジに来た人達にまずは競わせる。

 これまでのジムには無かった、他の人との競い合い。まだ宝探しの始まったばかりのこの頃に、ここまでこれるトレーナーなんて、きっと強いに違いない!と、私は俄然やる気が湧いたけれど、一緒に受付することになった彼はそうでもないみたい。

 

「だって、アンタ噂の生徒会長のネモだろ?」

「噂?」

「ポケモンバトルがめちゃくちゃ強い、破竹の勢いでジム制覇してってる……って、学校内外での噂の的だぜ。そんなのと一緒にジムテストって、元からやる気無かったのに、更にやる気無くなるだろ」

「やる前からやる気無くなる……ってか、元からやる気無かった……って?」

「どーせアンタも同じだろ?ハイダイさんがいないから、こっちまで回ってきただけのさ。

 オレのポケモン、まだ全然育ててないんだよなー」

 

 カラフジムのジムリーダー、ハイダイさんが、競りに出ていて不在だった、というのもきっかけのひとつにあったけれど。

 みずタイプ対策になるパモが進化した。しかもかくとうタイプ。ボウルタウンの周りで捕まえた、アママイコのローキックもある。ケンタロスはやる気十分。私のポケモンはみんなここまで、ちょっとずつ、でもしっかり育成できている。確かにレベルは足りないかもしれないけれど、チャンプルタウンの周りで少し調整すれば足りるはず。

 

「……ボウルタウンのジムには、行ったの?」

「行ってねーわ。オレは西から出てそのまま来てるぜ。何、生徒会長、わざわざ東に戻ったのか。そりゃジムもすぐに二つ、クリアできるよなー」

「…………リーグ委員会オススメのジム巡りの順番だからね!」

「そりゃ優等生だなー!オレはさ、時計回りにぐるって!で、最後にリップさんにオレのつよつよポケモン見せて、褒めてもらうんだ!……ったのにさー。ハイダイさん、忙しいんだとよ。あーあ」

 

 ポケモンを育成しながら、次のジムを考えながら、どんな手持ちで挑むか、明かされている情報で、どんな対策していくか……

 順番に、素直に進めていけば、このタイミングでもチャンプルジムでレベルが足りない、なんてことないと、思う、んだけど。

 ああ、そっか。戦ってみればわかるよね。

 

「……んじゃ、一回私とバトル、してみよっか!」

 

 何より、このジムテストはそういうルールのようだし。

 

――――――

 

 「くそ……使えねーな」

 

 ちゃんと彼もオコリザルを使いこなせれば、きっとこの町のジムもクリアできたと思う。少なくとも、オコリザルの強さは充分だった。一撃で、私のアママイコがフラフラになっちゃったし。

 バッチと、手持ちの数が足りないかも。

 

「……! うるせーな!いいよ、ハイダイさんのジムまで戻りゃいいんだろ!『青い鳥の声』だとよー!ケッ」

「いや、ボウルタウンの方が……ありゃりゃ、行っちゃった。……青い鳥?ああ、ヒントかぁ」

 

 彼が出してきたのは、この辺りで捕まえたばかりだろうオコリザル。ハイダイさんの前でも、言うこと聞いてくれないんじゃないかな。ココガラは頑張ってたけど、あのくらいならコルサさんのウソッキーで止まるかも。

 

 うん。

 

「今後に期待!」

 

 まけんき強そうだったから、きっとそのうちまた会えた時、強くなってそう!きっとそう!

 

 彼の言う『青い鳥の声』は、タクシードライバーさんのイキリンコのおしゃべりだった。何がヒントかわからないので一言一句全て覚えて、他のジムテスト中の人からもヒントを教えてもらう。階段に囲まれた暗闇、アイス屋台の仲間はずれ……

 私に出されたヒントは、常連さんの頼み方。

 

「いらっしゃいませ!ジムテストの学生さんだね?答えの注文かな?」

「いえ!聞き込みしにきました!」

「なるほどねー!奥の席が空いてるよ!」

「ありがとうございまーす!」

 

 昼過ぎの店内は、それでも賑やかだった。奥に、と案内されたカウンター席。先に会った、あのオコリザルのトレーナーと似た背格好の学生が座っていてちょっとだけ胸がもにゃっとしたけれど、その足元を見て全部吹き飛んだ。間違いなく別人だ。

 

 マフィティフ。

 

 この辺りでもオラチフを引き連れて群れで現れる。でも、あのトレーナーのマフィティフはここら辺で最近捕まえたものじゃない。

 小さな頃から、しっかりと育成されたんだろう。彼によく懐いて、彼の言う事もちゃんと聞いている。トレーナーの足元に伏せて大人しくしていても、トレーナーの知らない人間が近寄ると、視線を寄越して歯を剥くまではせずともいつでも動けるようにと体勢を整えている。

 そのマフィティフの目線を遮るように伸びてきた手。辿ると、マフィティフよりも剣呑な目。

 

「……なんだ、なんか用かよ」

「このマフィティフ、きみのだよね?!」

 

 訊ねると、眉を顰めて訊かれた事を考えて……

「は?……まぁ、そうだけど……」

 だそうで。うんうん、やっぱり!

 

「よし、じゃあバトルしよう!」

「は……ハァ?いや、オマエ、ジムテストで来たんじゃ……」

「ジムテスト!そうだ、ヒントもらわないと!私が勝ったらヒント、もらうよ!」

「いやいやいや、オレはジムテスト参加してねーし、バトルもやんねーよ」

「え!? なんで?!」

「なんでもかんでもねーっつーの。ジムテスト中のアンタは此処に、ヒントを聞いて、常連に話を聞きにきた。そうだろ?」

「うん!そう。……あれ?なんできみが知ってるの?……あ!もしかして、もうチャンプルジム、クリアしたの?!」

「だから……話聞け!生徒会長!」

 

 とりあえず座れと、となりの席をしめされたので大人しく座ると、カウンターの女性があたたかいお茶をくれた。サービスらしい。

 

「まず、オレはアンタとバトルしない」

「なんで?」

「オレがバトル苦手だからだよ!」

「でも、このマフィティフは強いよね?」

「あー……たしかに、コイツは結構バトル好きだからな。「じゃあ」でも、オレが苦手だから。とにかく。

 バトルは、しない。復唱!」

「えー……」

「えーじゃない!」

「……バトルは、しない」

「おう。……で。

 アンタはここに常連を探しにきた。その常連は、一応オレだ」

 ぼそりと、「今だけな」と付けたのは、カウンターの女性の笑顔で無かったことにされた。

「つまり、きみがヒントをくれるんだ?」

「その通り。ズバリ、『りんご』だ。この甘酸っぱさと食感が良いアクセント……ってな」

「へぇ……へぇ?」

 

 わかったらとっとと行けよ、とばかり手で払う仕草をして、カウンターの女性に嗜められている。聞いたヒントと集めた答え。注文すべき、秘密のメニューは……

 

「カレ「注文は入口の店員にお願いしまーす」」

 

 そういえばそういうシステム。

 

――――――

 

 カレーライスガラル風、レッドヘッド、大盛り、りんご添え。

 注文すると、あれよあれよと座敷席が片付けられて、立派なバトルコートが現れた。

 カレーで滲む汗を手のひらで仰ぎながら、カウンターの学生に話を聞く。

 

「つまり、臨時職員?」

「ってか、常連ではあるからな。ここがこういうシステムってのは知ってるから、説明の手間が省けて丁度いいって」

 

 いつもなら、常連としてシフトを入れているジムリーダーがしている役割。必ずチャレンジャーの様子を確認できる位置で、テスト中の学生たちを見ているのだとか。

 今日いないのは、理由は詳しくは彼も知らないとは言う。

 

「推測だけどな。オージャの湖の対岸……あっちでなんかあったらしい。物見塔跡からちびっとなんか見えたけど、遠くてわからなかった。あすこに、近場のジムリーダーが行ってるんじゃねーかな」

「なるほど。もしかして、ハイダイさんも?」

「かもな。知らないけど」

 

 喋りつつ、彼はスプーンで掬い取ったキウイの果肉を私のパモットに差し出す。受け取って、酸っぱい顔をしたパモットに思わず私たちも、カウンターの女性も笑ってしまう。

 お礼に付け合わせのりんごをマフィティフに差し出すと、彼、ペパーの顔を見て、頷いたのを確認してからわふと鳴いて、食べた。

 

「たまたま居合わせちまったせいで留守番やってるだけってワケ。だから職員でもなんでもない、ただの常連の学生だ。

 食べたらジムの受付に言えば、ジムリーダーが戻って来次第連絡くれるだろ。そんなにかかんねーだろうし」

「……美味しいんだけど、大盛りはちょっと……多いかな」

 

 切り崩しても切り崩しても、ライスが減らない。

 

「ほー。案外少食なのな生徒会長。食べるのも遅いし」

「えへ。意外でしょー?」

「ああ」

 

 良く噛んで、ゆっくり味わって。しっかり食べること。

 にしても量が多い。小分けにしてもらって、ペパーやマフィティフ、パモットたちに手伝ってもらって、それでも今、最後まで食べているのは私だけだ。

 「あの人がいれば、全部食ってくれんだけどな」とペパーが呟く。ジムリーダーのアオキさんのことかな?

 

 ペパーのくれたタッパー、ちゃんと洗って、今度会ったら返さないと。

 

 





丁度いいクズ具合のクズトレーナーのいい塩梅が分からない…でもやってることは作者のスカーレットの主人公なんですよね
今後この名無しのトレーナーの出番はほぼ無いです

お待たせいたしました。



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わざは好きで計算は苦手


タイム先生のテスト、下手な鉄砲戦法で合格もらったので未だに威力の計算出来ないです

雪やこんこ




 

 

「アオキさん。こんにちはー! っと、きみが例のゾロアだね? こんにちは!」

 

 おおう、こんにちは……圧がすごい。こりゃ確かにアオキのおじちゃんたじたじだろうなぁ。

 んでもってそれはおれもちょっぴり苦手なタイプ。

 

 ポニテ、緑メッシュの髪はきっと名のある者に違いない。そばかすはあるけど顔立ちは可愛い。スラッとしてて背も高い。見た目は満点運動部系お姉様ですわー!

 明るくて、元気で、腕のグローブと半袖短パンがスポーティーな印象の若い女の子。若い子ほどお肌を出すんですよ。半袖で雪山?死ぬ気?

 何はともあれ学生服が良く似合う。

 

 この……陽の者め!

 

「きみは……バトルは好き?」

 

 あ、そういうタイプの方ですか?

 

「ネモさん。ハッサクさんは?」

「ポケモンの回復してから来るそうです!いやー……つよかったなぁ、先生のセグレイブ……」

「そうですか」

 

 恋する乙女みたいな顔で、そんなことを言っている。強かったんだ?先生の……セグレイブってポケモンは知らないけど、きっとポケモン。ドラゴン使いってんなら、ドラゴンタイプなんだろうなぁ。名前からして強そう。

 そういえばオンバーンもドラゴンタイプだっけ?

 

「あ! アオキさん、あの時の私のパーモット、強くなりました!ぜひ、バトルして下さい!」

「……それはまた今度に」

「はい!」

 

 おもむろにボールを取り出そうとして、手のひらで壁を作ったアオキさんに止められている。パーモット。これも聞いた事のないポケモンだ。

 ひょっとして、パルデア地方のポケモンか?

 

「アオキさんが保護したんですよね、このゾロア。じゃあ、いずれはアオキさんが引き取るんですか?」

「……ゾロアが望むなら、そうなりますね」

 

 む、無表情〜!嫌も諦めも呆れもなんもない。好意もないけど!言葉でも読めないなあ。伊達にサラリーマンしてないね。

 言いぶり素振りはおれが嫌いとは言ってないし、……嫌いではないだろうけど、好んで好きでもあるまいて。いやいやおれもアオキさん好きだよ?お引き取りはお引き取りくださいだけど。ね、おじちゃん。

 

「もし引き取られたら、ノーマルタイプっぽいし……いずれはジムにも出ますかね?!」

「…………このゾロアのどこを見て、ノーマルタイプだと?」

「え、なんか……アオキさんが近くにいるし……白いトコとか!普通の犬ポケモンみたいにしてるところとか!」

「普通……?」

 「なにを言ってるんだ彼女は」というアオキさんの副音声が聞こえてくる声色は分かった。確かに、おれは普通のゾロアではないよねぇ。色違うし。

 てか、おれあくタイプですわよ?わるいキツネだし………………ジム?

 

「バトルしてみれば、わかるのでは?!」

「しません。ゾロアも望んでいないのでは?」

「きゅぬ?」

 

 すちゃりとグローブつけた右手を握り締める様子に、アオキさんは静かに首を振った。

 にしても、ジム……ジム?

 おいおい、アオキさんよお。ジムって、事務?

 違うよね、ジムだよね。この世界では戦いの場だよね?

 ネモちゃんの口振りでは、まるでアオキさんとネモちゃんがジムでバトったかのような…………まさか、リーグ委員会で働いてるって、アンタ、ジムトレーナーなの?!見た目こんなサラリーマンなのに?!てっきり営業の人かと……

 てことは……ちょっとは腕に自信あるんですか?!このナリで!?そんなの詐欺じゃん!

 

「あはは。なんかきゅぬきゅぬ言ってる」

「たぶん文句でしょう。よく喋るんです」

「きゅっ」

 

 喋れって言われたから喋ってやってるんだが?

 悪い笑われ方じゃないから、いいけどさぁ。おれは人に笑顔をお届けするわるいキツネですぞ。

 

 

――――――――――

 

 

 ハッサク先生とクラベル校長がやってきて、アオキさんがようやく一息ついた。おじちゃんたちのお話はさておき、おれは想像力を働かせる。

 アオキさんとネモちゃんのバトル、どんな感じだったんだろう。

 だってネモちゃんこれ……主人公級強者のバトル狂だろ?件の関連トレーナーとして呼び出されてるし、 おれのタイプとか、技なに使えるのかとか、いちいちアオキさんに訊ねるんだもの。そんなんアオキさん知らんて。おれも知らんのに。

 

 パーモットってのはどんなポケモンだろう。タイプもわからん。そもそもアオキさん何……ポケモン持ってるの?スマホと書類とパソコンと、持ってても一、二匹くらいしかポケモンいないんじゃないの?

 あー……病院にいた頃、オモダカさんが彼はフットワーク軽い的なこと言ってたっけ? んじゃ気軽に空を飛んでける…………そういえばおれを見つけたのはアオキさんのムクホークなんだっけか。

 そうか、そうか。ムクホークか。

 ぽくは……ないですねぇ! ノーマルタイプ……ひこうタイプ?んー……エアリーな頭と雲柄空色のネクタイ、スーツの襟が若干のひこうタイプ感?でも普通のサラリーマンだろ?ほなノーマルタイプか。

 …………都会のビルの屋上が似合う顔やめーや!

 

 ムクホークと戦ったパーモット……ムクホークは見るからにひこうタイプだし、初見でも知ってても、相性取るならきっとでんきかこおりかいわタイプだろ。

 ネモちゃんはこおりって感じしない。

 つまり……でんきかいわタイプ!

 そして良い勝負、てか負けたってんなら、かくとう、むし、くさタイプもあったのかな。ムクホークのノーマルタイプを見ておれをノーマルタイプ?って聞いたからにはアオキさんはきっとノーマルタイプのジムトレーナー。

 

 すなわち……選ばれたのはかくとうタイプ!

 いわ・かくとうタイプか、でんき・かくとうタイプと見た!

 

 いや、見た目わからんのだけどね。ムキムキのピカチュウが頭に浮かぶ。おまえは絶対違う。ミーム汚染やめろ。

 

 まぁ、知らないポケモン。しかも他に存在するかもわからない複合タイプ。きっとパルデア地方から出た新しいポケモンなんだろう。そりゃ主人公級トレーナーが使いそうなもんだ。そしてネモちゃんが使うんだから……かっこいいか、きゃわたんなんだろうなぁ。

 ……………………おれとかわいさが被っちゃうのはダメですよ!

 

 想像しようにもそんな推測しか出来ない。実際見て見ないと、わからないのだよ。

 

 つい先程もね。おれの使えるわざは何とか、とくせいはだのと聞かれたがね。おれも知らん。

 ゾロアのとくせいといえばイリュージョン。使ってみてよと言われたが、おれこれパパさんに教えて貰ってないのである。今まさに教えて貰うぞ〜ってベストタイミングでなんか災害に巻き込まれたもんでよ。

 でもパパさんがちょいちょいなんか使ってたのは見たことある。怪しいオーラ的なやつ。

 言われて請われて、ほならね と。

 なんか、出ろ〜!って試しにやってみたけど、おれの青い毛が青く光って何か出そう、で終わった。めっちゃ疲れた。何も出なかった。ネモちゃんのガッカリした顔が忘れられない。くそ、なんか出そうな気はしたのに……

 幻影とかでは、なさそうな気もしたけど。いやいや、へもミも出てないです。

 イメージ力が大事なんですかねぇ?

 

 『 想像力が 足りないよ』ってか?

 

 想像したムキムキのピカチュウがマッスルなポーズで煽ってきた。はっ飛ばすぞ暫定パーモットくん。

 

 

 おれがイメージの中の怪物に喧嘩売ってる間に、各々椅子に座って落ち着いたらしい。

 

「オンバーン、カイリュー共に今は落ち着きましたが、かなり気が立っている様子でしたね」

「なるほど……では、ネモさん。遭遇した、その見かけないポケモンと、あった出来事について説明をもう一度お願いできますか」

「はい。あれは……」

 

 とまぁ、おじちゃん二人おじいさん一人、ピチピチのかわいこちゃん二人(一匹)による説明会。

 

 さて、ネモちゃん曰くの事。

 

 アオキさんとの戦いで、まだまだ戦略も、経験も、鍛錬も足りないと痛感したネモちゃん。

(ここでアオキさんを見たら目を逸らされた。何……何?あれ?もしやおれの考えてるよりアオキさん……あれ?)

ㅤ 一念発起、パルデアをもう一度半周しながら鍛錬の旅へ。

 辿り着いた東北東は竹林にて、見たこともない大嵐と、巻き込まれたポケモンと……真っ赤な目で、とても大きなポケモンに襲われている学生を見つけたという。

 パルデア育ちのネモちゃんが見たことないというその大嵐、まるでアカデミーのボールのモニュメントみたいなドーム状の雲が一帯を覆い、中では様子のおかしなポケモンたちが、競い合うように大喧嘩していたそうな。

 以前他地方の特集番組で見たより、はるかにめちゃくちゃでっかいけど知る限りでは形状ゴルバットにパーモットで挑み、マヒでしびれさせた(脳内ムキムキピカチュウが巨大ゴルバットをホールドしてほっぺすりすりしてるイメージが浮かび、変な顔している所をハッサク先生に宥められた)スキに学生を救出。暗い雲の範囲から出ると、風は強いが周りはいつものポケモンが慌てている様子だけ。

 はてこれはいったいなんだろう、と考えている合間に、雲を突き抜けて件のでかいゴルバットが突っ込んできて……そこをまた別のトレーナーに助けられたそうな。

 

 コノヨザル(コノヨザル????)を使うそのトレーナーは、長身をフードとマントで覆い、雄叫びをあげてゴルバットの前に、ポケモンと並び立ちはだかり……ネモちゃんが学生を現場から離す間、時間稼ぎしてくれたそうな。近くのポケモンセンターに学生を預け、戻る合間にみるみるうちに黒い雲の大嵐のドームは掻き消えて、巨大なゴルバットも、間に入ったトレーナーも居なくなってしまった、と。

 だから、自分だけではなく、そのトレーナーも一緒に戦ってくれた人であり。

 

「ぜひもう一度会って、お礼を言いたい(バトルしたい)です!」

 

 ぜぇったい、今副音声流れてたって。表情の輝きも煌めいてるし。

 声と、ちらりと見えた下半身の逞しいけど滑らかな足は、きっと女性だろうとネモちゃん。近場には妙な旗とバリケード。きっとそこから来たに違いないと、遠目で見ていたら星柄ヘルメットに星型ゴーグルの学生(想像だけでダサいと言える。逆にオシャレならそれはそれですごい)にすげなく追い払われたそうな。

 

 

 そんなネモちゃんの、乙女心が止まらない煌めく笑顔でなされた強者話を聞いて、おじちゃん三人難しい顔。

 

「そのトレーナーは現在、レンジャーの皆さんと捜索中です。……にしても、またもやとは」

「ゴルバット……ですか」

「ネモさんが見たゴルバットの大きさは、どれぐらいだったかわかりますか?」

「はい! えーっと……その校長先生の机より大きいです!」

 

 言われて皆で机を見る。うん……分かりにくいねぇ。〜より大きい、小さいはイマイチ伝わらない。

ゴルバット、ゴルバット……どんくらいの大きさだったっけな。まず、この場、この地方にいないものの大きさが分からない説ない?

 

「襲われていた学生は、そもそも何故あのエリアに? バッジも持っていないのでしたね」

「ええ。治療中に話を聞いてもらいましたミモザさんが言うには、

『輝く竹と、タケノコを探しに来ていた』とのことです。輝く竹は小生わかりませんが、タケノコなら食べてよし、売ってよしの山の幸ですからね」

「それに、彼女もオンバーンは連れてましたよ!凄く飛ぶのが速くて、警戒心強い子!たぶん、あそこのポケモンなら囲まれでもしない限りは逃げられるんじゃないかな」

「……いつ見たんですか?」

「戦闘開始までは見守ってたんです」

 

 えへ。と頬を掻いて笑ってますけども。人が戦ってるところを、横取りするのはマナー違反って……どこぞのMMOか何か?

 つまりはネモちゃん。鍛錬中、嵐に遭遇。同時に近くで同じく巻き込まれたその学生も、ポケモンセンターへと向かおうと立ち上がったその時。襲われた学生が連れていたオンバーンが警戒の鳴き声を上げるも、回避は間に合わず交戦……一撃は耐えたが、その後の一撃は人間の方を狙っていた上、本人もこんらんしたオンバーンも防げそうに無かったので、助太刀致したと、詳しく話すとそういうことらしい。

 それなら最初から詳しく話してぇ?

 

「小生もポケモンセンターで様子を見せていただきましたが、トレーナーとは信頼関係はしっかりと。小柄で、速さに特化させた個体だったようですね。連戦や長期戦には不向きですが、戦闘目的での育成でないならば納得ですよ」

 

 ドラゴンタイプに詳しいらしいハッサク先生が言うならそうなんだろう。見抜いたネモちゃんの審美眼よ。

 

「やはり、その出現した巨大なゴルバットの方が異常だったのでしょう。ネモさん、他に何かありましたか?見かけないポケモンなどは?」

「あとはゴースト、オドシシ……あ、そうそう、ポニータ! 初めて見ました!」

「ポニータですって?」

 

 ハッサク先生がスマホロトムに検索させる。出てきたかわいらしい、ほのおのたてがみの仔馬のようなポケモンの画像を確認させ、ネモちゃんはコレコレ!と頷いている。

 ポニータねぇ。色違いが白くて青い炎で、ちょっぴりは親近感が湧くのだ。カッチョイイよねぇ。つまりおれもカッチョイイ……ってコト?!

 

「ネモさん。こちらの……このポケモンは見かけませんでしたか?」

「? どれですか?」

「この……ここです。この白い……」

 

 クラベル校長のスマホロトムが見せている……何?悲鳴聞こえてきたんだけど。動画?

 再生途中で止めた、静止画像。それを見て、ネモちゃんが一瞬おれと、クラベル校長と、画像を見比べる。

 ちょっと、それおれにも見してくださいよ。何ヒトだけで内緒話してるんだ。

 抗議のとびはねるを繰り出していたら、気を利かせたハッサク先生がキャッチしておれにも動画を再生して見せてくれた。ナイスーです。

 

 んでまあ。

 雪の降り積もった白く薄暗い森の中、振り返る白いもふもふ、カメラに襲いかかる何か、倒れたカメラを覗き込むきょうだいとパパさんのそっくりさん……

 

 ってかゾロアとゾロアークやないかい!

 

 

 

 





ネモちゃん捕獲苦手ってわりには珍しいの持ってるじゃん……ねぇ……みつふし……
オンバーンすこです

もうちょっとだけ校長室続きます



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相性は好きでとくせいは苦手


言語もリリックもタイプ相性も分からねぇ!
フェアリータイプわざがほのおタイプに効かないの未だにわかりません!!




 

 

 映像を見せた途端、賑やかではあれど、大人しくしていたゾロアが突然暴れだした。

 ハッサクさんの手から身を捻じるようにして抜け出すと、クラベル校長のスマホロトムへと飛びかかる。

 間一髪、ネモさんが指で引っ掛け天井へ弾いたお陰でスマホロトムが床に叩きつけられるのは防がれたが、天井近くで慌てるスマホロトムを床で跳ねながら見つめるゾロアの様子は、どこか必死だ。

 なるほど、これがジニア先生の言っていた、スマホロトムへの執着。

 

「ゾロア」

「きゅっ……」

 

 声をかけると、はたと止まって辺りを見回し、状況を理解したのかただでさえ下がった眉と目尻をいっそう下げて、すごすごと、姿勢も低くこちらの椅子の下まで戻ってきた。反省していると目に見える形で示してくる。

 

「……あの映像の彼らは、ゾロアさんの仲間ですか?」

「きゅぬ……」

 

 クラベル校長の声に返された小さな返事。肯定の時の鳴き方だが、首は横に振られている。

 

「同じゾロアではあれど、面識はない個体だった。ということですか?」

「きゅぬ……」

 

 今度は頷く。なるほど。

 

「…………あー、と。良いですか?」

「ああ、すいませんネモさん。ええ、大丈夫ですよ」

 

 確認の為、彼女に見せた映像が、何やらゾロアの琴線に触れたようではあるが、それはさておき。怖々と降りて来たスマホロトムを回収し、ポケットへと逃げ込んだロトムをポケットの外側から宥めながら、クラベル校長が話の続きを促す。

 

「さっきの……そのゾロアの仲間、ですか?

 あの嵐の中では見ていないです。でも風と土埃が凄くって目もほとんど開けてられないくらい、だったので、確認出来なかっただけかもしれません。ちらちら、何か居るのや落ちてるのとかは光って見えましたし」

「そうですか……ありがとうございます」

「……あの、どこかの地方のリージョンフォームみたいなゾロアの目撃情報が出てきたんですか?」

「いえ。あれはかつてのシンオウ地方に生息していた、ゾロアの生態調査記録です。今もそこにいるかはわかりません」

「そうですか……いったい、きみはどこから来たんだろうねー」

 

 椅子の下で縮こまるゾロアに、目線を合わせる様に屈みこみ話しかけているが、その上にいる人間の存在を忘れているのか、気にしてないのかどっちだろうか。

 

「他に、何か見つけたものや、気付いたことはありますか?」

「あ、そうそう……近いところにあった、その光ってたもの! こんなものなんですけど……拾いました!」

 

 バックを漁り、出てきたのは彼女の手のひらにぱらぱらと乗った赤、黄色の小さな何かの欠片。石のようにも、タイルのようにも、はたまた何かの甲羅のようにも見える。

 

「あかいかけらと、きいろいかけらです!」

「……ええ。見たまんまだとそうですよね」

「あと……何かのケーブル?も落ちてました。誰かの落し物かなあ?」

「!」

 

 続いて取り出されたのは、左右に端子のような金属の付いた黒いビニールで包まれたコード。かけらと違って、どう見ても人工物の、謎のケーブル。

 何者かが残したとして……何者かの痕跡には違いなく。

「失礼、そちらを良く見せていただけますか?」

「はい!どうぞ!」

 

 ネモさんから受け取ったケーブルを、クラベル校長がしげしげと眺める。

 

「やはり……これはつうしんケーブルですね」

「つうしんケーブル?」

「昔、私がまだ……それこそ、ノートに手書きで図鑑を作っていた頃に使われていた道具です。今でこそ、無線でいつでも気軽に遠くの人とやり取りができますが、当時は様々な道具を用意して、時には出向いて、あるいはわざわざ来てもらって、と……

 まぁとにかく、今でこそ使われなくなって久しい古い道具で」

 

「話は聞かせてもらった!!!!!!」

 

「……お聞かせしたつもりはないのですがね……レホール先生」

 

 話の途中、校長室の扉がだいばくはつでも受けたかのような勢いで開き、開けた本人であろうレホール先生が、腕を伸ばして立っていた。椅子の下で何かの衝撃があったが、どうやら勢いに驚いて飛び上がったゾロアが頭を打ったらしい。頭にたんこぶを作ってうずくまっている。

 

「古い道具と言ったが、それらはジョウトやシンオウ地方の方でかつて使われていたものではないか?校長」

「ええ、型はそうですが……レホール先生、授業はどうされたんですか?」

「やはりそうか……!ますます信憑性が増すばかりだ、ジニア先生!」

「……ジニア先生まで」

「はあい。えーっと……お邪魔しますねえ」

 

 すっかり話し込んでいたが、窓の外は薄暗く、西日が差していた。

 仁王立ちするレホール先生の後ろから、白衣とボサボサの頭と特徴的なメガネが顔を出す。悪びれもしない彼女と対照的に、申し訳なさそうにぺこりと頭を下げられるとこちらとしても会釈を返さざるをえない。

 

 ジニア先生は端末を、レホール先生は古そうな書物を手に、我々の元まで来た。他には聞いていた者は居ないらしい。

 

「急ぎ、クラベル校長とリーグ委員会に伝えたいことがありまして、テスト前ですし、ちょっとだけ自習時間にしてもらってきましたあ。

 大嵐が再度発生した、というお話、間違いありませんか?」

「ええ。ネモさんが遭遇したそうです」

「ネモさん……危なそうな所には近寄らない、って、宝探しの前にクラスでお話したと思うんですがー……」

「えへ」

「危ない所だった人を、助けたんですってねえ。受け持つ生徒が心優しい子で、ボクも嬉しいですが、……無理は禁物ですよ?」

「はーい!」

「お返事はいい子なんですけどねえ……」

 

 端末を操作しながら、生徒を心配する担任の教師と、奔放なその生徒の会話。クラベル校長が目を丸くして、次いで目を細めうんうんと、頷いている。

 

「とりあえずこちらを見て頂けますか?」

 

 校長室のモニターに、映像が繋げられる。ザワザワと、風に揺れて鳴る独特の葉と乾いた音。赤茶けた地面と、遠くに滝の流れる景色の中、ほっかむりに秋用のアカデミー制服を着た、ややふくよかな妙齢の女性が黙々と、竹の根元を掘っていた。これは……

 

「襲われた学生が撮っていた、配信動画だ。ちょいと拝借してきた」

「当時の視聴者はほとんど居なかったんですが、突然一部の生徒がアーカイブを見始めて、閲覧数が跳ね上がってましたあ。一応、現在は公開を一時止めて貰ってます。中々ショッキングですからねえ」

「まさか、まさに今襲われる……そんな光景が写っているのですか?」

 

 ジニア先生の言い方から、皆ハッサクさんの言うような光景を思い浮かべる。しかし、レホール先生はニヤリと笑い、ジニア先生は困った顔で頭を搔く。

 

「幸い、それはスマホロトムがカットしたようです。この動画には全編入ってますが、配信にはありませんよ」

「それよりはもっとずっと、……興味深いものだ」

 

 まぁ見ていろ、とレホール先生が画面を見るよう促してくる。採れたおおきなタケノコを誇らしげにオンバーンに見せ、カメラにも笑顔でそれを向けて、どういったところに生えやすいか、いかに自分の狙い通りだったかを説明している女性。

 

「この後襲われたんだよね……」

「きゅ、きゅぬ……」

 

 ネモさんが不穏な事を呟く。それはそうなんだが、編集されたホラー映像でもあるまいし。

 

――――――――――――

 

『テラスタルの結晶がありますね!リーグに報告して、LP貰っておきましょう!』

 

 動画の中で、女性が移動し、指差した先。結晶洞くつの入口があった。定期的に場所を変え、中に潜むポケモンも変わる結晶洞くつは、調査や管理のために見つけ次第報告してもらうと、リーグ委員会から報奨が支払われる。

 挑むとなると人を集めた方がいいのだが、こうして確認してLPを稼ぐだけなら一人でも問題は無い。結晶洞くつのポケモンは、基本的に中からは出てこないためだ。

 

『黒い結晶……あくかゴーストかな?中は……ひッ』

 

 黒く輝く結晶を女性が覗き込もうとした時、小さく息を飲む声の後、その体勢のまま動かない女性の襟を、オンバーンが足の爪で引っ掛け、結晶から引き離した。半ば引き摺るように女性を離すが、何やら映像の女性の様子がおかしい。靴が脱げてもお構いなく、身をすくませて真っ青な顔で……ただ目を見開いて洞窟の穴の奥を見つめている。

 ……何か、恐ろしいものを見てしまった、かのような。

 

「生配信での映像はここまでです。彼女のスマホロトムが記録は続けていてくれて、助かりましたあ」

「この後だ。よく、結晶を見ているといい」

 

 スマホロトムは主人の様子に困惑しつつも、明らかに主人がそうなった原因であろう、黒い結晶への警戒をわすれてはいないらしい。カメラはしきりに女性と、黒い結晶とを交互に映す。

 

 レホール先生に言われていた通り、ブレがひどいが画面を見つめる。

 パチリと、ノイズのような、光が走り。

 ゴウと、突如として。音を立てて猛烈な風が、スマホロトムとオンバーン達を襲った。

 枯葉や土を巻き上げて吹き付ける、その出処は……件の黒い結晶。渦を巻くたつまきのような勢いで、風の範囲が広がっていく。

 

 吹き飛ばされかけたスマホロトムをオンバーンが尾で抑え、鋭い警戒の鳴き声を上げる。黒い結晶の奥からは暴風が吹き荒れ、みるみるうちに太陽は暗雲で隠され空は暗く、まるで…………

 

「テラレイドバトルの時の、結晶洞くつの中みたい」

 

 ネモさんがぽつりと呟いた。それだ。

 

 バチバチと鳴る紫電に、ぐらつくオンバーンだが、それでも懸命に主人を黒い結晶から離そうと、固まって動かない主人に気付いて貰おうと鳴き声を上げている。

 

『……っあ、おん、ばーん?……えっ、エッ?!何この嵐!オンバーン、ポケモンセンターへ!逃げましょ!』

 

 ようやく気付いた主人が、周りの状況を知るや否や、慌てて立ち上がろうともがくが、あのエリアの地面は竹の枯葉とその根が所々絡み合っているため、場所によっては足場が悪い。もたついてる間に、オンバーンが一際甲高い、もはや悲鳴のような鳴き声。スマホロトムが自身の視界でもあるカメラを向ける。

 

 オンバーンより大きな翼と、あかい光が迫っていた。

 

 

「映像は、ここまでです。ここでゴルバットに襲われたのだと思われます。スマホロトムが弾き飛ばされて、衝撃でロトムが気絶したのか、スマホの電源が切れたようで。

 大嵐の原因は、どうも……あの黒い結晶にあるのではないか、というお話です」

 

 黒い結晶。あくタイプや、ゴーストタイプのテラスタルタイプを持つポケモンが中に居ると、よくそんな色に染まるが……映像の黒い結晶は、黒は黒でも、ゆらゆらと色とりどりに輝いていた。

 

「アオキ」

「……はい。現在報告されて、また攻略されている結晶どうくつのテラレイドポケモンの、指標として設定されている等級は星5までで充分表せます……が、これは。外まで影響を与える、テラレイド結晶となると」

「現在の等級では足りませんね。それどころか、6、7……それですらこの現象を表せるかは、いやはや」

 リーグに報告された事例に、この映像のようなものはない。

 

「……近年、地表に現れるテラレイド結晶からの放出エネルギーが徐々に強まっている見解もありまして、計測装置を準備、試験稼働中だったんですよねえ。

 それで、北エリアからの東……丁度、今回の大嵐のあった場所ですが、エネルギー数値が異常値を出していたので、そちらにフィールドワークに出ていたレホール先生についでに調査も頼んでいたんですよー」

「ああ。先日の地図の件で、興味深い情報提供があったからな。そういうわけだ」

「…………フィールドワークに出ると、私は聞いていないのですが?」

「出てきたぞ!」

「事後報告は受理しかねます」

 

 校長と歴史学教諭の争いは置いておいて。

 テラレイドエネルギーの件はリーグ委員会に報告が上がっている。マップアプリとの連動で、結晶の位置が常に更新される形になれば、テラレイドの調査も進むだろう。

 

「それで、アオキさん。ゾロアを見つけた時の大嵐と、オージャの湖で見られたもの、そして今回の映像だけではありますが、黒い結晶が原因と思われる大嵐……そのどれも、実際に目にしているのはあなただけなんです。何か、共通点や違いはわかりますか?」

「共通点……ですか…………

 まず、前提としてオージャの湖の嵐はカイリューの群れとギャラドスの群れの縄張り争いに、ヌメルゴンの群れが巻き込まれてそれぞれが天候変化わざの撃ち合いになった結果だったのでこれは除外します」

「ああ、なるほどー……了解です」

 

 ゾロアの時と、映像のもの。その違い。

 ジニア先生を見つけてから、足元から出てきてすました顔で座っているゾロアを見る。頭のたんこぶはあるが、すっかり毛並みも揃った元気な姿。

 風の強さも、体の軽いイキリンコやスマホロトムは飛ばされかけ、オンバーンやムクホーク、ついでに噂のゴルバットなどの大きな翼でならば何とか飛べるか、の程度は変わらないだろう。

 あの時、テラレイド結晶は見当たらなかったが……

 

「……この映像の嵐、中心にこの結晶があったのですか?」

「そこは……まだ未確認ですがー……何かわかりそうですか?」

「…………その前に、こちらからもひとつ。ゾロアの見つかったあの日も、そのテラレイドの……エネルギーの測定は行われていましたか?」

 

 クラベル校長たちも、ハッサクさんも口を閉じる。ジニア先生はメガネをかけ直し……頷いた。

 

「……流石です。はい、計測していましたあ。ただ、この時も試験運転でしたが、不具合かエラー吐きまくりで大変だったんですよねえ」

 

「………………なら、自分が見逃したわけではなく……

 あの大嵐の中に、そのようなテラレイド結晶は無かったのでは?」

 

 彼は当時の報告で、そのようなエネルギーの異常値などについて言及していない。だからこそ、オーリム博士も関係は無いと断言したのだし、今日のような事例が起きるまでわからなかったのでは?

 

「はあい。後ほど、そらとぶタクシーのドライバーさんにも確認してほしいんですが、こちらの計器の不具合でなかったのであれば……そんな結論になりまあす。…………ここら辺、詳しいところは後でまとめておきますねえ。

 つまり、あの大嵐と、今回の大嵐、別のもの……なのかも知れません」

 

 二例しか起きていない。計測装置も完成したものではない。しかし、彼が計測に使った機器に妥協があったとは思わない。

 すべては今回の大嵐について、これからの調査がどのような結果だったか、そのデータの差を比べてみないことには、推測の域はでないだろう。

 

 ただ一つだけ、懸念があるとすれば。

 

 あの大嵐のあと、後には暴風の痕跡以外何も残らなかった。ただ怪我したゾロアだけは、残っている。

 黒い結晶の大嵐のあとも、現在のところ、何か残っていた話はない。その黒い結晶も現場には残っていない。

 しかし、ネモさんの拾ったという、謎のかけらとケーブルは、今ここにある。

 

 あの大嵐は何も残さない。

 しかし、持ち出したものは、残ってしまうのでは?

 

 

 そういえば、その件の彼女。何の話か詳しいことはなにも伝えていないのではなかったか。顔を見ると、やけに輝かしい表情でそわそわしていた。クラベル校長とハッサクさんも気付いた。先程のレホール先生とどこか似た雰囲気の漂う彼女。

 まさか。

 

「……あ、全然!私にはお構いなく!!お話して下さって大丈夫ですよ!!聞いてるだけなので!!」

「は、ネモさん……お構いなくではなくて……まさかとは思いますが、黒い結晶を探して、挑んでこようなどとは……」

「アハハ!」

 

 あははで笑って済む話ではない。

 

 

 

 





星型ゴーグルの人達の間で密かに武勇伝のパーツとして再生されてたとかいないとか



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朝焼けが好きで夕焼けも好き


初めてパルデアの空を見た時、朝焼け、夕焼け、流星群たちを見る度にあまりにキレイで『これはきっとレアな天候に違いない』と確信していた頃がありました




 

 

 もしかしてだけどぉ!

 もしかしてだけどぉ!!

 あれってワンチャン

 パパさんなんじゃないのぉ?!

 

 って思いながら映像を見ていたが、周りの木の大きさ、ゾロアの大きさから逆算してみると、パパさんよりだいぶ小さいし……たぶん他のゾロアークなんだろう。

 勢い余って、またスマホロトムに飛び付いちゃったのはほんと、ごめんやで校長。そしてロトムくん。

 なんか、ただでさえウワサ広まってたのか、ロトム達から「うわきた」みたいな顔されてたのにこれじゃより一層遠巻きにされちゃうな。

 

 ようわからん話を人がみんなでやってたようだが、最終的に暴走特急ネモチャンはチャンピオンランクとやらに到達するまで黒くて怪しいテラレイドバトルとかいうの禁止令が出されていた。それってつまり殿堂入り後のクリア後要素……ってコト?

 まあね。危ないから……ネッ!

 

 …………いやテラレイドってなんぞや……?レイドバトル?そんなのあんの?ポケモンって進化したのね……

 ポケモンだけにね!

 

 さて。難しい話――固有名詞が多くていまいち理解しきれなかっただけだ――ちょっと難しい話は終わり、つまりはつまり、まぁたおれちゃんゾロアちゃんはお忙しい先生方の邪魔にならぬよう大人しくしてるべきってことなのだ。

 何言ってんだ、おれはいつだって大人しくしとるやろがい!

 ……だからスマホロトムの件は不可抗力なんですってぇ……

 

 代わりと言ってはなんだが、生徒達にもその他大勢にも、おれというアカデミーのちょ〜っぴめずらしいゾロアが周知されたとのことで、学校内、人目のあるところなら自由に移動して良いよと許可が下りた。

 朝に当直の先生にご挨拶して、何か困ったりしたら誰でもいいから教職員に何かしらで伝え、とにかく人目の無いとこには行っちゃダメだし休む時は校長室か教師の所でって細かいところは決まってるが、自由にお散歩していいってのは純粋にうれしい。

 今までが息苦しかったってわけじゃない。

 むしろ、みんな優しくて楽しい人たちだ。

 ただね。

 

 パッションがすんごいのよ……!

 

 おれはわるいキツネ。せいかくひかえめ根っこは卑屈な陰キャなもんで、向上心とか情熱とかないし、自己肯定感高めるのに「珍しくてかしこいおれかわいい!」としか言えないワケ。

 先生方にも、普段ふざけてたり大丈夫なのか心配になる言動してる人いるけど、ちゃんとホントはすっごい人だってのはわかるのだ。

 そのすっごい人らをかわいいおれのために煩わせてるの、なーんか忍びねぇっていいますか。

 

 筆頭はやっぱジニア先生だよねえ。あの人普段のんびりしてるから忘れがちだけど、学級担任に人気授業に研究に発表に図鑑まとめにって、何……何?ポケモン博士なの?

 ああ、いや。ポケモン博士だったわ。

 白衣の人はみんなそう。ポケモン世界における白衣は医師か博士か研究員だけ……おいおい結構いるじゃん。悪モンにもいるもんね。多分きっとからておうとスーツ人口より多い。

 ジニア博士ってなっても違和感ないし。舞台が学校になりそうだから、先生って肩書きなのだろうし。

 だいたい、他の地方のポケモン博士より仕事してるじゃん。ホウエンはオダのマキちゃんを見ろよ、フィールドワークすら子供に任せて……

 …………そういえば、ここって博士けっこういらっしゃるのね。学習機関……大学みたいなもんだからそうなるのも頷けるんだけど、先生達はみんな教授、助教授って考えられそう。クラベル校長も昔は研究者だったらしいし。大学の課程とか号とかさっぱりわかんないけど、そんなんでしょ?

 専門的に知識蓄えて詳しい有識者ったら、そりゃもう博士ちゃんなのよ。

 んで、ついでにさらにもう一人、オーリム?って博士が穴の底にいて研究を続けているらしい。

 穴って、例のバウムクーヘンの穴か?

 フゥン……

 怪しい。ぜぇったい何かあるに違ぇねぇよ。富、名声、力……この世全ての財宝をソコに…………に見せかけて、何らかの真実が眠ってるに違いない。

 深淵産まれの物語で予習してたおれには判る。

 ……そう考えるとなんだか寒気もしそうなおぞましい話になりそうだけど、ここはポケモン世界だからね!ハピネスでラッキーで福々なENDが待ってる世界さ、何も心配いらないに決まってる。

 だから、主人公くんちゃんさんが現れた日にゃあその穴の底の博士ってのを救出しに行く話かもしれないし、あるいは、……その博士こそが……いやいやぁ、まさかあ。

 写真をみたけど、ワイルドな野生み溢れる綺麗な女性だった。ちょっとタイプ。

 でも気が強そうね。

 

 居ない出会えない人の話は置いといて。

 兎にも角にも、みんなホントは忙しい方々なのである。授業とかも本格稼働始まってきたらしいし、朝も夜もとせわしない。

 むしろ休みある?

 おれなんかのために意識割かせるのが、とっても忍びない。と、きまして。

 

 結果、行くところといえばエントランスで読めもしない本の挿絵見せてもらうか、受付のおばちゃんに構ってもらうか、食堂でおこぼれいただくか……

 

「アンタ、最近良く来るねー。薬の匂いとか気にしないの?」

「きゅぬ」

「ふーん……まぁ、良いけど。たんこぶはもう大丈夫?」

「きゅあんぬ」

「はいはい。……うん、治ってるねー。はい、ヨシ、治療おわり!」

 

 陰キャの聖地、保健室に寝に来るか、だよね!

 正確には医務室だけどさ。

 

 そしてわれらがミモりん!ことミモザ先生。

 ミモりんって呼ぶと怒られる。生徒に呼ばれて怒ってた。んもーって。それほんとに怒ってる?

 初対面はうわケ……ギャ……綺麗に整えてる方だ!って思ったが、近寄ってみると化粧より薬品や薬草?薬の匂いの方が強いくらい。そしてかわいいもの好きそうな外見の割に、実はちょいサバサバ系の、ややダウナーでそんなに圧が無く、放任主義に近い感じ。世話焼きとか、そっと寄り添ってくれるって感じではなく、愚痴とかお話を聞いてくれる、たまに優しい歳の離れた近所のお姉ちゃんの一面を貼ってるみたいな人だった。

 屯してる生徒も、ガチ体調不良は病院送りか寮の自室で寝てろされるかなので、基本、言っちゃ悪いが課外授業も授業にも行かずにサボってる、向上心低めな……マイペース大事にしてる方々のゆっるい空気。

 

 アァ~親近感〜!

 これだよこれ、こういうのでいいんだよ。

 

 でもみんな、ミモザ先生も含めて、近寄ると撫でてくれたりおやつくれたり膝に乗せてくれたりするのです!ミモザ先生も若い学生ちゃんも、アオキさんの膝よりずっとやわっけぇぞ!

 下心なんてない。ないったら無いのだ。

 

 っぱ保健室の先生ってのは天使か女神かママなんだわ……

 

 

――――――――――――――

 

 

 そんなこんなで、授業見学したり授業見学中になんかお手伝いでご挨拶させられたり、数字の数え方学ばされたり、レホール先生が捕獲されて校長室でお話されてたり、絵を描けるポケモンだとほめそやされたりグラウンドに行く度に走らされたりサワロ先生のお菓子の虜になったりレホール先生がフィールドワークに出掛けて二日帰ってこなかったりなんなりしていたら、一週間だかそこらが過ぎた。たぶん。

 もうレホール先生椅子に縛り付けといた方がいいのでは?むしろ逆に一週間ぐらい、自由に放流…………させたら下手したら飛行機で遥かな旅に出るか、そっか……

 クラベル校長、どうやってあの人を教師にしたんだ?

 

 だいたい一週間ってのは、いつでもぐうたら寝れて、いつでも特にすること無くて、そんでいつでもきゅんと鳴けば飯が出てくる生活続けてると日付感覚狂っちゃうもんで、そんくらい夜が来たな〜って曖昧な記憶だからである。

 カレンダー読めないってのもあるけどね!

 ……ニートじゃないもん、ポケモンだもん。

 

 かわいいおれのファンたる学生から、ようけ遊んでもらえるのでおれとしては全然まったく困ってないのだが、どうにも先生方は頭を悩ませておられる。

 くだんでうわさのあの映像の黒い結晶、とそれで起きたらしい大嵐ってのが、あれ以来発生してないのだそうだ。

 ずっと警戒して緊張が続いているせいで、変に疲れちゃってるんだろうな。ジニア先生が『ハーどっこいせ』とか言って学生たちにからかわれていた。あの人、椅子に座ってるとこ見た事無いから結構体力ある人だと思うんだが…………休んでえ?

 よっこらしょういち、とかじゃないからまだ若い若い。とか言っとる場合かって。

 

 なーーーんか、皆さん疲れておられる。なんだろう。だいぶ、時間に無理がある……というか、あまりホントはこんなことする必要ない人たちなのに……警戒が良くないよ警戒が。

 出るなら出る、来るなら来る。

 そんで来ないなら、「もう来ないよ〜」って言っておけってのよ。

 

 なんて愚痴を、階段下で屯してたオンバットたちに語っていたら、何やら覗き込む輩。ふむ?

 

「コイツか?」「そうっす」

 

 学生服は着ているが、あまり見かけない顔。歳は十二分に大人な男性二人、一人はグラサン、一人はマスク。シルバーのアクセサリーが近寄りがたいヤンチャ感。

 普段は宝探しで外に出ずっぱりな連中かな?と思ったら、周囲を注意深く眺めている。

 

 ……怪しい。

 

 仕事帰りに夜通いの、疲れた顔したお姉さんが向こうの椅子でうつらうつら、天文学のおじさんは机に突っ伏して爆睡なう。

 あっちじゃセカセカ小走りのセイジ先生。やっほいと声をかけると、笑顔で手を振ってくれたが、やはり忙しそうだ。足を止めることなく、職員室のある棟の扉に向かっていった。

 

「今だな」

 

 あー……

 グラサンの方がクイックボールを放ると、中からキノコのカサに足生えたみたいな……シンプルなお顔のキノココが現れた。

 お部屋の中でポケモン連れ歩きは禁止って、ジニア先生が言ってるでしょーが!

 

 じゃなくてね。こりゃいかん。

 

 そのキノココのキノコのほうし、無効とか避けられるやつ今いな……

 

 

 

 ぐぅ。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 ゆらゆらと、真っ暗やみの中を、落ちているのか浮いているのか。

どこかで経験したような気もするし、初めてのような感じもある。

 ついさっきここに来たような、もうずっとここにいるような。

 

 あんまりに真っ暗すぎて、自分の身体すら見えない。

 あー……うん。

 

 

 これは夢だな!

 

 

 妙にフワフワしてる感じといい、自分の輪郭が曖昧な感覚といい、見てるのか見えてないのかもわからないのも含めてよく見る夢の感じとおんなじだ。この後ほら、少し待てば何か眩しい光がぶわぁ広がっていくはず。そして目が覚める。いつもの夢だ。

 ああほら。光ってきた光ってきた。なんかの5個か6個か、なんかの星座か、そのような光と、真ん中にどえらいでっかい輝きがあって……

 

 

――……ん……い

 

 うん?

 今なんか聞こえたか?

 

――…きに、…なた……か……あらわ……で

 

 いや不鮮明スギィ!もうちょいボリュームあげてぇ?

 どっから聞こえてるんだ?この夢の中で声が聞こえたことなんてないのに。ただ、聞いたことがあるような……気がするような、いやどうだろう。

 

――……はもう、と……こ…………でしょう。

――…からど……、か……や…………あげ……だ……

 

 だから聞こえねえってばよ!!

 言いたいことがあるならもうちょっとちゃきちゃき言えよな!

 

 

――それと、思い出させてもらえれば使えますよ。

 

 え、いきなり鮮明に聞こえたんだけど。は?

 おれのわざのこと?!技のことか?!思い出すって何?!

 

 あっ、ちょっ、光が遠ざかっていく!待て待て待て!何も伝わってねえぞ!そもそもこの夢なんなんだよ、なんで今までの夢ではなんもなかったのに今だけ?!なんか今までと違ったことあったっけ?

 

 あれ?寝る前、おれ何してたっけ?

 …………あ、そういえばあからさまに怪しい連中のキノコのほうし食らったんじゃなかったっけ?

 

 ワ……これ、やばおなのでは?

 

 ッべーわ、絶対べーよこれ……起きろ起きろ、起きろおれ!瞼が重い?振り払え!

 おまえ、ジニア先生やアオキさんより普段快眠してるだろうが!!

 

 

――――――――――

 

 

 んでバッチリ目が覚めたらぁ?

 

 視界めっちゃピンク!!!

 

 バッチリバチバチ、覚めた視界一杯に、ピンクピンクした世界。フゥン?なぁにこれえ。

 背景の淡いピンクはどうやら空らしい。朝焼け?夕焼け?すごく綺麗だけど……夕焼けだったら、おれ丸一日寝てたことになるんですけど……快眠じゃん。

 夢でもないのにフワッフワした感覚。地面に足が付いてない……ばかりか、下に地面がない。

 そもそも、おれがいるのがどこなのかと。

 

 網の細かい鉄格子に囲まれて。

 

 そ、空の上〜!

 

 上を見上げると、雄大な黒い大きな翼が陽の光を受けてキラキラしていやー、綺麗っすねぇ〜……

 

 じゃねぇのよ。

 バカでもわかる、おれでもわかる。

 

 こりゃ誘拐だぁ!ヒン!

 

 ただでさえ忙しい先生方に、余計な手間かけさせてるぅ……!辛……弱いおれを許せよ……

 

 

 「カヌ?」

 

 おっと、もう一つのピンクがいた。

 でっかい鳥ポケモンの足に吊り下げられたおれのいる、金網の檻の隣に、同じような檻に入れられた……全身ピンクの、赤ん坊のような……でも全身ピンクの人間は居ないだろうし、ポケモンだろう。カヌカヌ鳴いてる、かわいいお顔の小さなポケモン。

 おれよりでかいけどね。

 カヌカヌ言うとるし、カヌちゃんって呼ぶか。ほんで?カヌちゃんも捕まってんの?

 

「カヌゥ……」

 

 どうしたのかと顔を見てると、つぶらな瞳がどんどんうるうると潤い満ちて……涙目。あーあーあー、エケチンに泣かれるの一番困るんだよあーあーあー。んもー……こわくないこわくない。

なんで泣きよるかな。

 動物とおんなじように見えて、赤ん坊ってのは本人がそもそも何が言いたいかさっぱりわからないから読み取るのがむずいのだ。

 あれか?おやと逸れたかなんかした?怖いヤカラに襲われた?おれとおんなじで、キノココのキノコのほうしにやられたか?

 そのガラガラみたいなやつをブンブン振るのやめなされ、危なかろうよ。

 

「カヌ、カヌゥ……カヌ!」

 あー、なんか言いたいらしいが、泣きながらぶん回すのホント危ないからやめません?これマジで上空だから、万が一落ちてもヤバいんだって。

 カヌちゃんがはかはかと白い息を吐きながら泣きよる……鳴きよる……白い息?

 

 下を見る……白い大地。山?

 雪山か!

 ひょっとして、寒いので鳴いてる?

 

 カヌちゃんの檻に身を寄せると、はみ出したおれの毛に触れて目をまんまるに見開いた表情をしたカヌちゃんが擦り寄って来た。

これ、正解でいいの?

おれの体温、キツネ型にしては高い方ではないが、その金属製なガラガラとか、吹きっ晒しのスカスカ網よりかはマシだろう。

 おれってば雪山育ちで毛皮着込んでるから、寒いとか慣れっこだったわね。カヌちゃん、人間じみて体毛薄いからきっとちょっと……寒……寒い?のか?

わっかんねぇーー顔。

 

 徐々に赤くなりつつある空。どう見ても沈む陽の光。

 うーん、黄昏!

おれってばぐっすやしてたっぽい!疲れてたわけでもあるまいに……やっぱあの夢、なんかおかしかったよなぁ?

 

 さて、夕方の空は綺麗だが同時に、進路の先には雪山らしい霞む空。降雪、最悪吹雪いている。

 徐々に傾く。どうやら鳥ポケモンは迂回するようだ。少し、速さが落ちた。

 

「カヌカヌ」

 んあ?カヌちゃんが下を指差している。見ろって?

 

 見る。山の高いところを迂回しているんだろう、左右に高い山が見える間の、川の流れる側。雪に埋もれて、小さく、建物の跡……廃墟?……遺跡か何か?

 

 その白い中を、ピンク色が横切っていくのが見える。遠くからでもよく見えるが、カヌちゃんよりもきっと大きいあれは、ひょっとして……カヌちゃんの仲間か?

 雪の中疾走してるけど……元気やん……寒いんと違うの?

 ようく見ると、それより小さい、同じようなピンク色が先行している。てか、飛んでる。丁度、この檻を運んでいる黒い鳥ポケモンとピンクのカヌちゃんの仲間とを繋ぐ間を飛ぶ……あれは……鳥ポケモンか?サギとか、トキみたいな。………………フラミンゴ?

 

「カヌ」

 いててててて。カヌちゃんがぎゅっと、おれの毛をその小さな指で握り締めよる。右手で持ったガラガラをブルンブルン振り回しているが……、おい、待て。待て待て待て。檻に叩きつけてる音が、ガラガラとかのおもちゃの音じゃない。どんどんへしゃげる檻。一打一打に込められたパワーが見える見える。物理型?この見た目で?

 

 それそのガラガラ、もしかしてガラガラじゃなくて、棍棒か、ハンマーとかそういうものか?

 お前、ギモーとかのゴブリン系統の亜人がモチーフのポケモンか?!

 

 すぐそばのピンクがおれの毛を毟る勢いでわしづかみ、飛ぶピンクが大きく羽ばたき急上昇で高度を上げ……同時に下の大きなピンクが、巨大な黒い何かを振りかぶっているのが見えた。

 

 あーーー、これ、ひょっとしなくても……

 おだやかじゃないですねぇ!

 

 





掲示板形式をやってみようと思ったら掲示板ニワカなのでノリが分からず、結局ダイジェストでお送り致します事をここに後書きします



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寒いのは得意で暑いのは苦手


ほのぼのどこ……?
アマモはかわいいのとかわいいのがかわいいのに可愛くかわいかわいされてるところがかきたいのですが?

ルビわからんてぇ!




 

 

 引き続きおれです!

 現在北から吹き付ける猛烈な吹雪にみまわれています!!!

 おれは……おれは大丈夫なんだけど……!

 後、同行者もわりかし大丈夫なんだけど……!!

 

 人間さんがピンチですぅ……!

 

 

 あの後、簡単に言ってしまえば撃墜された。

 

 岩が飛んできて撃ち落とされたんだけど、墜ちたあとちょっとなんやかんやしてる間に、もう空の上で見たあの景色は幻かってくらいに天候が激変したのである。

 夜ってのも含めて、1m先も見えない雪山遭難と相成った。おれが頑張って踏ん張ると、なんか謎パワーで青い毛が光るんだけどものの足しにもならない。

 てかおれって光るのね?

 そんでもえっちらおっちら、一列に並んで進んでね、なんとか辿り着いた、岩肌に開いた洞穴にどかどかと滑り込んだのだ。

 ここでビバークとする!

 冷凍庫かってくらいカッチコチだけど、外よりはマシ!

 先住民の誰……1.5等身くらいの謎の灰色のポケモンには同行者のひと睨みでご退出いただいた。ゴメンやけど、氷タイプっぽかったからきっと外の銀世界でも大丈夫!だと思いたい!

 

 

 それじゃイカれたメンバーを紹介するぜ!

 

 まずおれ。おれです!

 雪の中で育ったから寒さにゃ強いけど、恒温動物だから寒いもんは寒いぞ!

 

 次!カヌチャン!ピンク!閉じ込められてた金網をわざわざ持ってきているぞ。吹雪も吹き込まない所で落ち着いたからか、今まさにガンゴンガチャンゴンと持ってた棍棒で檻を成形しておられる。自由落下の際、おれの入ってた檻をしっかり掴んではなさないようにしてたのは、おれを助けようとしてくれてたのか、それとも檻が欲しかったのか……考えても何も読み取れないのでわからん!自由だね!

 

 次!デカヌチャン!ピンク!カヌチャンを一歳児と見たら、三歳か四歳くらいになったかしら?なでっかくしたみたいなピンクの体と、その三倍はありそうなドドドデカいカッコイイハンマーをお持ちのこのパーティーのMVP!空を行く雄大な黒い翼に、よく似た光沢のハンマーから撃ち出された岩弾ぶち当てて撃墜した撃墜王だね。ハンマーの上で足を組んで、黒々とした大きな羽根を握りしめてすやぴぴしておられる。墜落したアーマーガアを襲撃して、ポケモンバトルじゃなくてバイオレンスアクションの末に尾羽根と翼の一部を勝ち取った辺りで人間さんがアーマーガアをボールに戻したから、実質あれ戦利品。モンスターのハントゲームじゃないのよ、この世界。

 顔がカヌチャンと同じなんですよね……自由だね!

 

 次!グラサンジャケットコーデの人間さん!

 つまり、おれの誘拐犯だ!寒さに一番弱いぞ!

 あと色々あって、心も身体も弱っているのでとても大変危険な状態だ!がんばって!生きて!

 

 次!なんか咲いてる青い花!でっかい!

 …………いや、なんか咲いてるとしか言いようが無い。キラフロルって名前らしい。今、顔面を……顔面を?岩壁に突き刺して……咲いてるんだが、さっきまでは流線型で空をプカプカ浮いていた。タイプもわからないけど、毒は扱えるのは間違いない。

 だって人間さんが危険な状態の理由の一端、コイツだもん。

 アーマーガアをボールにしまった後、逃げようとしていた人間さんを容赦なくステルスロックとどくびしで囲んで自主的な身動き取りにくくしていた。その後突破しようとしてどくびし踏んで今こんな感じなんだけどね。解毒出来ないの?って聞いたら、ポワァンって鳴き声……どこから出したかわからないけどたぶん鳴き声……出して黄色い目?をパッチリ、そしてばっさぁお花咲かせて、クルクル回っていた。どういう返事?

 無機物じみた表情と動き。ちったぁ分からないでもなかったけど、ただでさえあんまりわからないのにもう今なんか咲いてるから何もわからねえ!

 

 次!バクーダ!あったけぇ!人間さんの生命線!

 墜落現場からここまで人間さんを担いで来てくれて、今も冷凍庫みたいな洞穴をかまどの火のごとくじわじわ溶かしてあっためてくれている。

 頼れるゥ!

 おれと一緒に人間さんの心配してくれてると思ったが、なんだろ、おれが心配してるからしゃーなしに助けてくれてる感ある。でも擦り寄ると優しい顔してくれるのでママみを感じるぞ!

 

 次!でっかい大物、セグレイブさん!怪獣みたいな、恐竜みたいな見た目と、でっかい剣みたいな背鰭が特徴だ。

 さっき追い出した奴も背鰭あったな……もしや?

 氷タイプ入ってるらしく、行く道雪道をラッセルラッセルしてくれた。ついでに道中の野生ポケモンもラッセルしてた気がする。今も洞穴の入口で仁王立ちして警戒に当たってくれている。この短時間で信頼要素稼ぎまくりだ!

 ただちょっと……でっかくてね……吹雪も相俟って、表情が見える距離じゃ無くてね……も、文句とかないかしら……おれ心配……

 

 そしてラスト!フラミンゴ改め、カラミンゴ!ピンク!見た目はポケモンってか、普通のフラミンゴだろおまえ?って感じだけど、首セルフで絞めてたりこんな雪山で吹雪に巻き込まれても悠然と飛んでるあたりなんか普通じゃねえポケモン。

 今も片足立ちでぐりんぐりんと首を回している。

 さっぱり何考えてるか分からねえ…!

 でも、おれのパーティーがこんなに増えた原因であり、命の恩人でもある。

 

 落ちてくおれとカヌチャンを、檻ごとクチバシで空中キャッチして、安全に着地させてくれたのはこのカラミンゴだ。

 その後の檻蹴り壊した足はあの細さのどこにそのパワー詰まってるのかわからん。カヌチャンが掴んでてくれなかったら、きっと檻ごとおれも吹き飛んでた。

 さらに、固結びされた首に引っ掛けられた、まあまあ大きな黒革バック。

 見覚えしかない。

 遠目で見るとただのビジネスバックだが、よく見ると縫製でボールの模様……

 これアオキさんのカバンなんですよ!

 このカラミンゴ、そのカバンからポケモンボールを咥えて取り出すと、器用に足で押さえてクチバシでボタンポチって、出てきたのがキラフロルとバクーダとセグレイブ。

 この鳥、何も考えて無さそうな顔して何か考えてるめっちゃ賢くて器用な奴や……!

 まるでおれみたい!

 でもおれのほうがかわいいから、おれの勝ちな!!

 

 はい。

 

 そして最後に、カバンから飛び出して来たのは……スマホロトム。

 おれを見てちょっぴり遠巻きに飛ぶこの動き、そしてアンテナのテッペンのちょっぴり欠けた部分。間違いない、ジニア先生のスマホロトム。

 

 墜落現場で着信が来て、学校の先生たちとアオキさん、オモダカさん、チリちゃんポピーちゃんと揃い踏みの面々がむぎゅっと詰め込まれた通話を繋いでくれた。メンバーの種族名はここで教えてもらっている。

 充電的な意味で、落ち着ける場所に来たらまた連絡するとのことで今は連絡待ちなうの節電モード。

 寒いところでスマホ使うと、バッテリー表示バグるよね!

 

 

 人間さんは死にかけの敵しかいないけど、ポケモンは味方のポケモンに囲まれているこの状況。誘拐されたおれだが、案外何とかなったじゃん?と楽観視出来る程度には落ち着いている。

 惜しむらくは、おれ to 彼ら、彼ら to おれの意思疎通がちょっと上手くいってないことかな。

 

 

――――――――――――

 

 

『ああ、ちゃんとみんな無事ですねえ。よかった、よかった』

 

 着信アリ。んでロトムくんが勝手に出てくれたが、校長からのビデオ通話である。でも出たのはジニア先生。

 曰く、ジニア先生のスマホロトムからジニア先生の図鑑アプリシステムに直接位置情報を飛ばしてるから、一緒にいれば居場所がわかるって仕組みらしい。

 

『吹雪が止めばそらとぶタクシーが出せて、お迎えに行けますので……それまでひとかたまりで動かないでいてくださいねえ』

「きゅぬ」

 

 そうだ、人間さんの体調が悪い事伝えなきゃ。スマホロトムにこいこいして、バクーダに寄りかからせている青い顔の人間さんを映させる。ステロも刺さって出血あったり、毒と寒さでまぁ……やばお!

 

『これは……ミモザ先生』

『うわー……意識もなさそうね。あ、でも止血はしてあるのねー……雑だけど。寒さも、そこならまだ大丈夫かな。毒も入ってる?』

「きゅぬ」

『やっぱ入ってるかー。オモダカ委員長、キラフロルの毒って、解毒は普通のどくけしで大丈夫ですか?』

『ええ。幸い、一度しか受けていない様子。もうどくでもないはずです。……が』

『うん、時間おいちゃうとマズイかも。せめてポケモンが道具使えればなー……』

 

 道具?

 もしかして、カラミンゴの救援カバン、物資もなんか入ってるのか?

 

『……彼の止血したのは、誰なんですかあ?』

 

 お、ジニア先生ってば。そんなの決まってるじゃないですか。

 おれだよおれ!

 身動き取れなくなった人間さんの持ち物漁ってたら出てきた学生のネクタイつかって、口でなんとか結び目作ってバクーダに引っ張って締めてもらったのだ。

 ピンクたちは……こう……手加減とか知らなそうだし……花はなんか触るだけで障りそうだし……セグレイブくんも600族の風格あるし……ね!

 胸を張ってみせたら、そおでしたかと頷くジニア先生。えっへん。おれだってかしこいのだ。

 

『カラミンゴに持たせたカバンに、"なんでもなおし"という道具が入っているんですが、ゾロアさん。どれだかわかりますかあ?』

 

 そんなん入ってんのかい!

 ああいや、救援物資と考えたら、応急処置の道具ぐらい入れるか……

 カラミンゴに首を下げて貰い……届かねぇ!しゃがめ!!

 しゃがんでもらったカバンから、手当り次第の道具を出していく。モモンのみとか、きのみ入れときゃ良かったのに。

 ……愛用のカバンの中で、潰したくなかったか、そっかぁ。モモンやわらかいもんね。

 硬いからか、オボンのみはあった。

 同じ硬いなら、なんでもなおしよりラムの方が小さくないか?

 ああ、あったあった。黄色のケースに入った薬液。これじゃろがいと咥えてスマホロトムに見せると、画面の向こうで人がみんなでわぁと歓声を上げている。

 

『わあ!素晴らしいですー!ちゃんとどの道具が何か、わかっているんですねえ』

 

 手放しに褒められるとちょっと……照れますねぇ!

 

『使い方は――』

 

 それぐらいわからいでかよ。

 ただスプレーなぁ。四つ足真ん丸お手先ぼでぃのおれじゃ、上手く使えんのだ。

 よし、カラミンゴくん。その畳んでる翼をかしたまえ。動くなよ?絶対動くなよ?

 

『カラミンゴ、動かないでやってください。何か考えがあるようだ』

 

 アオキさん指示ナイスゥ! やっぱりこのカラミンゴ、アオキさんのポケモンなのね?

 この何も考えてなさそうな、ぼんやり突っ立ってる所良く似てるよ!色は圧倒的に派手だけどね。

 

 翼に挟んでもらったケースの、蓋の部分をえいやと噛み潰す。それがーじがじ。

 やだ、口の中切りそう。てか苦……苦い!これ、お子さんとかペットがイタズラしないようにぶん撒いとく苦味成分の苦味がする!

 

 でもなんとか砕けました。あくタイプ!かみくだく!タイプ一致で良い感じ!……絶大な苦味とほのかな血の味するけど、まぁいいのよ。あとで甘いの何かもらえりゃそれで。

 人間さんのどくびし踏み抜いた靴をカラミンゴに引っ張らせて脱がせ、患部に薬液をかける。あと……残りは人間さんに飲ませとくか。飲むタイプか知らんけど。

 傷口はグロくなくなったし、顔色も幾分和らいだから……ヨシ!

 

『のまっ……まぁいいか』

 

 通話先でミモザ先生が言いかけてたけど、まぁいいらしいので、ヨシ!

 ヨシったらヨシ!

 

 

――――――――

 

 

 さてさて。カヌチャンは金網を整形し直して棍棒みたいなものを作っては、納得いかないのか何度もガチャガチャ弄っている。デカヌチャンは羽根を抱きしめて夢見心地。カラミンゴとキラフロルは……不動でござい。セグレイブパイセンは入口を塞ぐように座って一休みしておいでで、おれと人間さんはバクーダの傍でぬっくぬく。

 たいへんに快適です。パパさんときょうだいとの住処に、バクーダちゃん連れてきてぇなぁ。あんかみたい。

 

 ジニア先生が不安にならないようにか、こまめに状況の連絡を繋いでくれているので、もうじきタクシーも飛ばせる程度に空も落ち着きそうって話が届いておりますのでこりゃ安心安心ですよ。

 プルピケ山道?ってとこのポケセンに、救援隊が待機してるそうな。

 で、雪山のスペシャリストが何名か、ルート取ってくれてるとかで……

 そもそもなんでおれの場所わかったのかと思ったら、おれの知らない間におれのこの豊富な首の毛に埋もれて、細い紐と迷子防止タグがかけられてたらしい。

 なんか最近もさもさすると思ってた。おれじゃなきゃ気にしちゃうね。

 信号飛ばしてるらしく、そのセンサー頼りにカラミンゴくん飛んできて、目撃情報から相手がアーマーガア使ってるって分かったから対空兵器……ことデカヌチャンをボールで輸送移動、射程圏内で出して、砲撃させたと。

 ……なんだその、マス目で移動高いヤツに移動させてから編成変えて攻撃仕掛けるみたいな……いつからポケモンは戦略的対戦ゲームになってたんです?

 凄いのは、このパーティー、それぞれトレーナーが違うらしいのだが、指示もロクなの出てないのに各々動けてるところか。臨機応変にも程がある。

 

『画像を送るので、先遣隊の皆さんが来た時に襲われないよう、みなさんに見せてあげて下さい』

 

 とぞジニア先生に送られた、青い髪の、もっこもこに厚着した美人さんの写真見て、面々頷いただけで終わった。いや、この美人みて反応それだけなん?!

 

 不意に、キラフロルが壁から離れる。ゆっくりと飛んで、今度は天井に移動してきて咲き直した。カラミンゴもゆっくりと歩み寄って来て、おれの……さっき確認したタグの紐にクチバシ引っ掛けて引っ張る。何?離れろってこと?

 見てると、人間さんが身じろぎしていた。毒が和らいで、体もあったまってきて少し回復したらしい。

 ………………キラフロルくんさぁ、君その咲いてるのって、もしかして銃口を常にこっちに向けてるのと同じ意味だったりする?

 

 人間さんの様子を、みんなで固唾をのんで見守っていたが、立ち上がる気力はないらしい。なんかぼそぼそ言ってるが聞こえねぇなぁ!

 何?「なんで俺を助けた」って?

 人が人を助けるのに、理由なんているのかよって、どっかの探偵が言ってたぜ!おれ今人じゃないけどね!

 カラミンゴくんに離してもらい、起き上がろうとする頭をどつくと抵抗せずバクーダの胴に倒れた。まだフラフラじゃねーのよ。寝てろい寝てろぃ。

 

 

 はてさて。セグレイブパイセンの股越しに外を見る。まだ吹雪いてはいるが、視界不良ではないね。ワイパー動かせば車で国道走れるくらいだ。高い雪山にして小康状態じゃない?

 

 ちょっと外見てきていい?OK?カラミンゴくん付いてくるの?了解了解。

 

 洞穴から顔を出してみる。ちょっと行ったらすぐ崖だ。視界不良で動き回らなくて良かった。

 と、カラミンゴくんの鳴き声。見てる方向?

 

『え?あれ? わ、あわわわ』

『ジニア先生?』

 

 まだ繋がってたのか。スマホロトムの通話の向こうで、ジニア先生の慌てた声。

 そんなことより……むしろ、きっと関係してるんだろう。こっちの様子をモニターしてたんだろうから。

 

 おれは映像でしか見てないけどさ。見てはいるんだよ。

 黒い、光り輝く結晶が、洞穴の横にて煌めいていた。

 

 うん。

 通話先のみなさんに、まず先遣隊の方々に連絡してもらおうか?

 そこで止まってろってね!

 

 やべーって、やべーって!!!

 これあれだろ?バトルジャンキー・チャンネモが、『危険だからって理由で』チャンピオンになるまで接近禁止令出てた、つまりクリア後要素レベルの高難易度クエストってことだろ?!

 

 しかもあの結晶、どんどん大きくなっている。映像の時みたいな紫電バチバチの今にもはち切れんばかりな様子。こいつはマジのガチで危険が危ない!

 

 とりま衰弱してる人間さんが一番あぶないだろう。次点で戦い方知らないおれと、戦えるかわからないカヌチャン。

 他のメンツは、たぶんだけどこいつら全員半端なくレベル高い強者の予感がするから大丈夫そう。

 洞穴の中で通話先のみんなと作戦会議だ!

 

 ………………と、戻ったのだが。

 

 バキリ、パキリと出てくるでてくる、輝かしい黒い……いや、紫色の結晶。成長期かな?

 一番風が入りにくい、奥まった所に人間さんとバクーダちゃん置いといたのアダになったかなぁ……バクーダちゃんが通れない位にまで入口が埋まってしまった。

 みんなをボールに戻せば、カヌチャンやおれ、カラミンゴくんなら通れるけど……な大きさ。

 

 つまり、あの身動き取れない人間さん見捨てればおれたちは逃げられるってワケ。

 

 おれをアカデミーから連れ去った、悪人だけどさぁ……でも羽根を毟られてるアーマーガアにかけてた声は、結構ポケモン可愛がってる方の人だと思っちゃうんだよねぇ……いや本心はわからんけど。

 

 洞穴の中が、一面キラキラの結晶に囲まれるのにそう時間はかからなかった。

 光が乱反射して眩しいのなんのって。地震みたいに揺れるし……ここ崩れないよね?

 そんなに広くなかった洞穴が、メキメキバキバキと結晶が裂けるようにして、地割れみたいに拡がっていく。ほんとに崩れないよね??

 他のみんなは?……OK、おれと人間さんの周りにあつまって、周りを警戒してくれてる。カヌチャンもやる気満々でカヌカヌと棍棒を二本振り回している。

 危ないから止めな?

 

 通話の切れたスマホロトム曰く、エネルギーが荒れ狂ってて通信が上手く繋がらないそう。

 カヌチャンとバクーダちゃんとおれで人間さんを結晶の壁際に押しやって、裂け目から離れる。外の吹雪よりも冷たい風が、裂け目の奥……地の底から吹き上げてきているのだ。

 

 その裂け目に……何かの手がかかる。

 キラフロルがポワと鳴いて、先手必勝、岩の塊を弾丸みたいに打ち出した。結晶が砕け、光が散らばり、いやもう全然なんも見えん。

 その散らばった結晶が渦を巻いて……

 

 黒々とした、巨大な翼が、煌めく洞窟の壁いっぱいに拡がった。

 うわ……いや……え?

 

 長く鋭い牙。

 巨大な口。

 

 ああ、確かにそれだけならゴルバットだろう。おれだって知ってる。

 でも違う。まだだ、まだある。

 

 真っ赤な目。

 触手のような腕。

 何でも切り裂けそうな爪。

 不格好なドラゴンみたいな、長く、大きな、とても大きな巨体。

 

 おれの知らない(あまりにおそろしい)未知のモンスター(ポケモンではない何か)が現れた。

 

 

 ……いやこんなん無理だってぇ……

 

 

 





※参考資料:アクジキング
拙者、アクジキングの見た目、デザインと戦闘BGMがDaisuke侍と申す。
アクジキング使うDJ悪事見たい……見たくない?

アローラと何かしらの関連してくれパルデア〜



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電車も好きで飛行機も好き



 話の都合上、ライムさんは絶対に出さなきゃいけないんですがこの作者はリズム感ちゃんとリリックさんとの仲が悪い為、結構考えてみましたが気持ちよくラップの語感を再現出来ず、ライムさんのパチモンにしかなりませんでした。
上手いこと脳内でラップに変換して下さいすいません。
 



 

 

 

 通信が途切れた。

 

 即座にオモダカ委員長がスマホロトムに指示を出して、先遣隊……ナッペ山とフリッジタウンのリーグ委員とジムリーダーに連絡をとる。

 

『……し……もしもし? トップ?……い ……』

「やはりノイズが酷いですね……グルーシャ?ライム?」

『はい、…ちらグ……シャ…そちらの声は聴こえて…るよ。ライムさんも、メン……も一緒にいる。件の大嵐……生して……。ただ…規模は今……観測されたものより小さいみたい。目の前だけど、行く?』

「データ上では、前回のものと同じエネルギーが検出されています。詳細はもう少しかかりますが」

 

 データ解析を手伝ってもらっているクラベル校長が、比較データをモニターに出す。通常のテラスタルエネルギーとは比べ物にならない、何倍にも伸びたエネルギー量。

 プルピケ山道のポケモンセンターに待機しているメンバーと繋がっている、クラベル校長のスマホロトムを呼ぶ。

 

「グルーシャは周囲の安全を確保してください。…………アオキ、チリ。行けますか?」

『……はい』

『了解。そらとぶタクシーはどないします?』

「近くに行くと連絡が取れなくなる可能性がありますので、そらとぶタクシーはそのまま待機で。北3番エリアのポケモンセンターにも、もう二台待機させます」

『はいな、了解やで。――アオキさん、チリちゃんも乗せたってな』

『はい。出発してよろしいでしょうか?』

「ええ、お願いします。……グルーシャ。アオキとチリと合流してください」

『了解』

 

 吹雪が少しでもおさまって来たタイミングでよかったというべきか、……近くに実力あるポケモントレーナーが集まっている時ではあれど、巻き込まれたのはトレーナーが近くにいないポケモン達と怪我人。

 悪いことは重なるものとはいえ、よりにもよって、何もこんなときに。

 

「ジニア先生。確認しますが、あのゾロアは戦闘は可能ですか?」

「ハッキリ言ってしまえば、ムリです。強いとか弱いではなくって……戦い方を知らないみたいですねえ」

 

 ポケモン達は、どんなに大人しいポケモンでも危険が迫ればわざを使って戦おうとする。コイキングですら、はねる勢いでたいあたりや、遮二無二になってじたばたと暴れる。

 けれどあのゾロアは、自分が使えるわざすらわかっていない様子だった。ウィンディの『ちょうはつ』によって、『かげうち』のようなわざは出たことから、何かしらのわざは使えるのは確かだが……出し方を知らないらしい。

 

「そうですか……。わかりました。こちらは引き続き、計測をお願いしますね」

「はあい。……ゾロアたちのこと、お願いしますー」

「ええ。お任せ下さい」

『うん。これ以上サムくなるのは……御免だよ』

『任せときぃ。ほれ、アオキさんも』

『……はい』

 

 どうか無事でいて欲しい。そう願わんばかりだ。

 

――――――

 

「アオキさん、なんで、あのゾロアちゃん、捕まえへんの?」

 

 ムクホークとウォーグルで近くの安全な位置まで送らせ、度々揺れる雪山を徒歩で先遣隊との合流を目指す最中。ジャケットごと身体を抱きしめ、自分の大きなブーツの踏み跡を付いてくるチリが口を開いた。細身の彼女には、この雪山は寒いのだろう。後ろから聞こえる歯の音が止まらない。今の彼女の手持ちには、ほのおタイプがいない。

 あのゾロアのためにと、送り出してしまった。

 ……それで気が紛れるなら、話に付き合うか。

 

「……と、いいますと」

「なんや、わかっとるクセに。あんなん、見た目がちぃーっと奇抜なだけの、普通のポケモンやん」

「普通のポケモンは、あれほど人気にはなりませんよ」

「ハハ、そらそーか。普通の、ごっつかーわいらしポケモン、やな」

 

 アカデミーのアカウントは、リーグ委員会でも話によく上がる。情報発信は大事であると、トップの機嫌は良くなり、我々も若い子らの頑張りや、新しい情報を手に入れやすくなっていた。

 その切っ掛けとなったゾロア。最初の姿を知っている我々からすると、元気な姿を見れるだけでも良い感情が湧いてくる。

 

「なら……せやな、どっから、来たとか……元々どんなやったとか、ハァ……関係なしに……かわいい、エエ子やないの。アオキさんのこと、エラい信頼しとる。おやが誰って、決まってへんから、こんなことになった、なんて言う訳やないで?

 やけどなぁ……『責任取る』って言ってたの、誰やったっけなァ〜?」

「………………」

「コラコラコラ〜チリちゃん置いてくな〜」

「……風が強くなってきましたね」

「うは、話逸らすの下手っぴやん」

 

 風が強くなってきたのは事実だ。元々そんなに長い距離を歩くつもりも、彼女に余分に体力を使わせる気も無い。

 巻き上げられた雪が吹雪となって吹き付ける中、スマホロトムの照らすライトを頼りに進む。

 やがて、まるで壁のように荒れている吹雪地帯を背にしたカラフルな服装の人影を見付けた。

 

「あ」

「来たようだね」

「お、ライムさんにグルーシャさんと、登山隊の皆さんか。おーきに………………アッレェ?なんや、おもろいのおるやん」

 

 厳重に着込んだナッペ山担当のリーグ委員とジムリーダーの中に、最近よく出会う、実にアグレッシブな見知った顔。

 

「アオキさん!チリさん!こんばんは!」

「ネモさん?何故ここに?」

 

 いつもの学生服ではなく、誰かに着せられたのか目立つレモンイエローのジャケットとフリースでモコモコと着膨れしている。鼻の頭や耳は赤いが、体調は悪くなさそうだ。

 

「ナッペ山ジム挑戦と、ポケモンの調整中に皆さんとお会いしました!」

「遭難中かと思ってヒヤヒヤしたさね。とはいえここで今放り出して、本当に遭難されても困る。余計な事もしないってんで、一緒に吹雪が収まるのを待ってたのさ」

「……なるほど」

 彼女のチャレンジが順調に進んでいる情報は聞いていた。確かに8つ目のジムに挑戦する頃合でもあっただろう。

 だが、なんでまたこのタイミングで……ため息は辛うじて飲み込んだ。

 

「ははぁ。あれ、もしかして……ジムバッチ、全部集めたん?」

「はい!今度リーグチャレンジ、伺いますね!」

 

 確実に早い。だが実力は以前より付いたのだろう。

 

「スマホロトムの通信、繋がったよ」

『合流できたようですね……ネモさん?何故そこに?』

「かくかくしかじか!」

『なるほど……』

 

 画面の向こうで、クラベル校長以下教師の面々も、『何故このタイミングでここに……』という表情をしている。

 

『以前より、発生している時間が長いようです。スマホロトム、ゾロアのタグどちらからも、信号は届いていますが場所は変わらず嵐の中。依然身動きが取れない状況が続いていると思われます』

『範囲は前回のものよりかなり狭いですー。地中の反応が強いので、内部で結晶洞くつが拡がっている可能性がありまあす。通常のレイドバトルとは勝手が違うと思われますねえ……位置情報をスマホロトムに送りますので、彼らのナビについて行ってください』

『……とのことです。今回ばかりは安全第一で、とにかくポケモンたちと、貴方たちの命を優先してください。調査も、勝利も二の次で』

 

「まぁなあ、今回は要救助者がぎょーさんおるワケやし。

 グルーシャさんとハルクジラは前。ライムさんのハカドッグとチリちゃんのドンファンで横な。他のみんなは各々自分の世話したってもろて……アオキさん、シンガリよろしゅう。

 ネモちゃんは無理せんと、何もしたらアカンよ。勝手に動いたら遭難してまうさかい。……これ、フリやないで? パーモット、マジで、この子掴んで離さんといてな。

 よし、準備ええな? ほな、スマホロトム。案内頼むでぇ」

「ケテ!」

 

 その順番だと、ネモさんを見るのも自分の仕事という事になるんだが。

 チリさんの采配で配置に付き、各々の雪山でも動けるポケモン達を出し、猛烈な風の壁を抜ける。

 すると、拍子抜けする程の無風と静寂が我々を迎えた。

 

「なんや、雪も降っとらんやん……ん?」

「……凶暴なポケモンもいないみたいだけど……ハルクジラが」

「パーモット?どうしたの?」

 

 それぞれの手持ちの足が止まる。みんな、先に進むのを躊躇っているような、戸惑っているような様子。

 少し進んでは立ち止まり、おずおずと足を出す。ここに居るのは、それなりの実力者ばかりだ。その手持ちならば相応に強力で、こんなにも……怖気付く事など、そうそう無い。

 ここまでずっと眉を顰め、怪訝そうに周囲を睨んでいたライムさんが、「止まりな」と硬い、緊張した声で皆を止めた。

 

「ライムさん?」

「……これは、アタイたちのポケモン……ハカドッグも感じてる。禍々しい気配……強い、怨みの気配さね。野生のポケモン達がみんな、この気配を怖がって、近寄らないんだろうねぇ」

「うらみの気配? 」

「何かを想ったり、怨んだりした……その強い念から強力なゴーストタイプのポケモンが生まれる事がある。

 念の力……特に、だれかに良くないことが起こるように、と不幸を願った末に得た力、ってのは、恐ろしいだろう?

 それを感じ取って、皆怖がってんのかもしれないね」

 

 ポケモンのもつ力。様々な由来がある……が、今必要なのは、今ここにいるそれがどれくらい危険か、ということ。

 ゴーストタイプのエキスパートが言う、強力なゴーストタイプのポケモン。本来の自分の手持ちは十全には戦えない相手、ということだ。ひこうタイプもいるし、やりようがないわけでは無いが。

 

「やはり、離れて待っていてもらうべきでは?」

「逆に離れるのは良くないね。散らされた、普段から生息しているポケモンたちが近くに逃げてるのは間違いない。それらがどう動くかわからない以上……」

「やっぱみんなで進むっきゃないワケやな。ほんなら……いっそ、ポケモンたちボールに戻して、ちゃっちゃか進むっきゃないんとちゃう?」

「……危険だけど、早く進むためには仕方ないか」

 

 野生も本能もなくした人間などよりずっと、気配に敏感なポケモンが進むのを躊躇い、先へいくのに時間がかかってしまっている。

 しかし、それでもたついていては、現場でトレーナーも近くにいないのに頑張っているであろうポケモン達への救援が遅くなるばかり。

 例え信頼の要となるトレーナーがいなくとも、このパルデアの上位に位置する実力者たる四天王の手持ち。怯えて動けなくなる、ことはないだろうが、動けない怪我人と、戦えないポケモンを守りながらで、どこまでやれるかと言われれば……

 あまり、時間はかけたくないとしか。

 

「スマホロトムも飛んでくれへんやんなぁ……せめて頑張って道は照らしたってぇな。ま、しゃーない。人の目しか無くなるけど、しっかり警戒したってな!いくでぇ!」

「……ネモさん、大丈夫ですか?」

「え? はい!むしろ体あったまってきました!」

「……無理はしないように」

「はい!」

 

 鼻を赤らめ、息が荒い様子の子供に声をかけたが、本当に言う通りなのか、それとも実は体調が悪いのか。ポケモンでもないその顔色は、自分ではわからない。

 

――――――

 

 入り口が無い。

 

 何ごともなく辿り着いた黒い結晶。普段見かけるテラスタルエネルギーの結晶より、はるかに大きなそれは、壁に張り付くように斜めに生えていた。映像から、充分に警戒したグルーシャさんが触れてみるが、変化なし。

 トップ達に連絡してみるが、また繋がらなくなっていた。

 ぐるりと周りを回っても、内部にあると思われる結晶洞くつへと侵入できる隙間がどこにもない。

 ナッペ山に詳しいリーグ委員とグルーシャさん曰く、ここは元々洞穴があり、セビエ達が貯蔵庫として利用していたらしい。

 

「ちょっと……アオキさん、お願い。上を見たいんだ」

「ああ、はい」

 

 グルーシャさんが、元々あった洞穴から生えているなら、上に隙間があるかもしれないと言う。

 ウォーグルを出そうと……この程度の高さならば自分が下から支えた方が早いか。

 結晶を触っても問題ないなら、手をついても大丈夫だろう。

 

「え、え。アオキさん?」

「上がるんですよね?持ち上げます」

「……せめて手袋してよ。そのコートも、素手も踏むのは……悪いから」

 

 そんなことを言いながら、リュックから取り出し渡されたのは厚手のグローブ。別に汚れることはこの際諦めているので、コートだろうが手だろうが、足をかけやすい方で選んでもらえばよかったのだが。

 グローブをはめた手を組み、乗せられた片足を支える。僅かな取っ掛かりと、腕の力で登った彼。結晶の上に消えて数秒後に、ひょこりと顔を出して見下ろしてきた。

 

「あったよ、入れそうな穴。……とてつもなくサムいけど」

 

 自分が足を支え、グルーシャさんが引き上げる形で結晶の上に女性陣を先に上げ、最後に自分が上がる。

 先に上がった彼の言う通り、穴からは芯から凍りそうな、凍えるような風が吹いていた。ライムさんの顔色も悪い。『うらみ』の念が凄まじいのだと。

 背筋からぞわりとくる感覚は、大変に不快なのは間違いない。

 結晶の上はメンバー全員が登れるほどの広さは無いし、同時に複数で入れる広さの隙間でも無い。

 ネモさんとリーグ委員メンバーには結晶の下で待っていて貰うしかない。彼らには引き続き、トップ達への連絡を取れないか試してもらう。

 

「一番手はチリちゃんの仕事やな。次アオキさんで」

「いえ。自分が先に行きます」

 

 年長の男性は自分。ゴーストポケモンの念とやらにやや調子を崩しているライムさんと、最も雪山の恐ろしさとその対処を理解して、もしもの時に皆を逃がせるグルーシャさんを先に入れるわけにはいかない。

 であれば、手持ちが中にいる事がわかっているチリさんか自分だが、いくら普段チャンピオンテストの先鋒は彼女の仕事とはいえ、奥に何があるかわからない場所に、若い女性を先に行かせるのは……いかがなものかと。

 ポケモンに普段どれだけ助けられているか、身に染みて感じてくる。

 

「なんや、やる気やなぁアオキさん」

「…………ライトを貸して下さい」

 

 ペンライトで隙間を照らして覗き込む。上背のある自分以外はしゃがめば入れそうな入り口だが、入ってすぐは急な段状の、結晶の坂らしい。

 足から入る。決して平坦ではないが、案外しっかりした足場。

 ペンライトの細い光だけでも、黒い結晶で覆われた壁はあちこちに反射して眩い。

 

 全身が洞くつに入って、途端にぞわりと、総毛立つような寒気と不快感。

 壁越しに、何十何百という目で見つめられているような、ここに立っている事すら咎められているような。

 ……ネモさんたちは下に置いて来て、正解だった。

 

 不快感と凄まじい寒気と怖気に身の震えが止まらないが、見える範囲にポケモンの姿は無い。さらに降った先にいるのだろうが、この感触ではあちらはとっくに我々が侵入している事に気付いているだろう。

 チリさん、ライムさん、グルーシャさんと次々潜り込んでくるが、皆一様に入り口の結晶を、潜った途端一瞬身を引いたり、顔色を青ざめさせたりと、感じたものは同じらしい。

 通路のような、下り坂。本当に、普通の結晶洞くつよりも広いらしい。

 

「アオキさん。……奴さんが来ぃひんのは、ポケモン達が足止めしてくれとるんやろうけど……なんか音、聞こえました?」

「…………いえ」

 

 そう。ここには、鈍い人間ですら感じ取れるほどの敵意を持つ強力なポケモンと、力無いものたちを守るように指示したはずのポケモンがいるはずなのに、なんの音も聞こえない。

 

 戦闘が起こっていれば、何かしらは聞こえるだろうに。

 

「……良くて状態異常……ひんしならまだマシ、……悪ければ」

「グルーシャさん。……後ろをお願いします。先程の逆で、今度は自分が前を行きます」

「……うん」

 

 余計な予想は立てずとも、実際に目にすればわかるはずだ。

 

――――――

 

 下り坂を一歩進むごとに、足が重くなる。これ以上進むなと、何かが警告している。それは自分の本能さねと、ライムさんが言うが……なるほど、ポケモン達はこれを感じていたのか。確かに進みたくもなくなる。

 失敗をしでかした後の、上司に報告に行くより胃が痛い気持ちだ。

 さほど長くもないのに、無用に時間をかけて進んだ先。一際輝く開けた広間。

 まず目に入ったのは、この入り口の通路側の壁際に一塊になっている、見覚えのあるポケモンたち。特に……倒れた巨体。

 

 倒れたセグレイブ、開いたまま落ちているキラフロル、立ち上がれないバクーダ。

 駆け寄ろうにも、少し降りて広間の全貌が見えて足を止めてしまった。

 

 巨体。目だけが爛々と赤く輝き、周囲の輝く結晶に照らされて尚黒々とした体は、どんなポケモンよりも奇妙で、醜く……生物らしくない。手当たり次第思いつく限りの奇妙と恐ろしさを詰め込んだような、正に怪物という言葉が適当な"何か"。

 ゾロアと大嵐の件で、様々な地方の伝承にあるような、伝説のポケモン達はざっとであるが目は通した。うろ覚えの、そのどれもを足したような、そのどれとも違う、混ぜ合わせるのを失敗した、訳の分からない風体。翼とも触手とも、角かも腕かも足かも見当もつかないパーツをごちゃごちゃと背負い、ただただ、なんでも噛み砕き飲み込んでしまいそうな巨大な口が大きく開いて、牙を見せてくる。ああ、まずい。小さなポケモン達が見えないのは、まさか、

 

 

 「……アオキさん!ライムさん!チリさん!……しっかりして!」

 

 

 不意に聞こえた声は、いつも控えめで、静かなグルーシャさんの、当時を思い出すような必死な……大きな掛け声。背中を叩かれ、ついつい咳き込む。

しかし、お蔭で知らずうちにこわばっていた体が動く。

 相対する相手を観察するのは大事だが、目が離せなくなるほどの集中は、不味かろう。

 倒れたポケモン達に駆け寄り、コートのポケットに突っ込んでいた、ふっかつそうとげんきのかたまりをセグレイブとキラフロルに使う。チリさんも、バクーダに救援の物資から取り出したかいふくのくすりを使っているようだ。

 ライムさんとグルーシャさんが繰り出したミミッキュとハルクジラは、やはり怯えたように身を強ばらせ、すぐには動けそうにない。

 

「セグレイブ、動けますか」

 

 漢方の強烈な苦味をきつけに、顰め顔で意識を取り戻したセグレイブに声をかける。なんとか頷き、再度立ち上がってくれてはいるが、震えは止まらない様子。

 キラフロルも拡げていた花弁を閉じてはいるが、再度飛び上がるのにはもう少しかかりそうだ。

 鉱物グループや、ましてやドラゴンタイプまでも恐怖するなど、……あの謎の怪物……わざか、もしくはとくせいだろうか。

 ………………で、あれば。

 

「カラミンゴ」

「ギャ」

「おっ」

 

 姿の見えない派手な羽の持ち主を呼ぶ。くぐもった声の後、チリさんの小さな驚いた声。

 振り返ると、バクーダの身体の下から、ピンクの頭が大、中、小と並んで突き出ている。あと、青い揺らめく火のような毛。

 

……何をしとるんですか、キミたちは。

 

 

 

 





言葉に不自由してるなら、ミブリムテブリムそして笑顔で何とかなるってニキが言ってた気がしてきたので未来は明るい




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辛いのは嫌いで苦いのも嫌い


さっさと事件は終わらせてほのぼのさせてやりたかったんですが、詰め込んだ結果ほぼほぼ二話分の長さです。
ゾロアを主役にする以上、しなきゃならない話ではあったんですが、ポケスペ参考にしてたら人間にダイレクトアタックも許される気がしてきました。
タグに追加した方が良いのかな…基本ゲーム基準のつもりだったんですが

めんどくさいところは読み飛ばした方がサクサク読めるかもしれません。なお2話前辺りから今話までがめんどくさいところに該当します。


文字装飾初めてだァ



 

 

 おれのきょうだいは、さみしがりで、イタズラ好きで、そんで、言葉もよくわからないおれの言いたい事を、うんうん唸り頭を捻りながらも、理解してくれたひとりだ。

 パパさんは野生の勘?年の功?のようなもので、たまに違ってても、ポケモンとしてあの厳しい自然で生活してくのには、パパさんのやること言うことに従っていれば間違いはなかった。

 意思の疎通は出来なくても、どうにかこうにか上手いこと、仲間としてやれていたと思う。

 寒いさむい吹雪の中も身を寄せ合えば、温かくてどこか冷たい体温も、芯から暖かくなるような心地になったもんだ。

 普通のポケモンや人の体温は、おれには温かくて、けれどじっとしてると熱いくらいで…………

 

 いや暑いな?

 

 

 とんでもない音と、衝撃と、ぐぇと鳴ったおれの内臓のビックリコンボで目が覚めた。

 目が覚めたんだが、真っ暗で何にも見えない。まだあの夢の続きかぁ?

 

 いや、いや。目は先程覚ました。全身を押し潰すかのような圧迫感が継続してある。体が痛い。

 こりゃ夢じゃない!

 頭も動かせない。辛うじて呼吸は出来るけど、息苦しい。満足いくもんじゃないぞ!

 

「バクーダ、戻れ……よう頑張った」

 

 誰かの声と共に、明るくなって、圧迫感がなくなった。呼吸が楽!足が伸ばせる!

 でも眩し過ぎて目がしぱしぱする。

 でもでも、なんかとんでもねぇ寒気だな!

 寒気というか……産毛がぶわわって立つみたいな、鳥肌モンのヤバいの見ちゃったときみたいな……

 

 あれ?何があったんだ?おれ、何してたんだ?

 

 

「無事ですか、ゾロア」

 

 あまりの眩しさに目を開けてられなかったが、少しばかり慣れてきた。この覇気のない薄らボンヤリくたびれ声、聞き覚えがあるぞ。我らがアオキのおじちゃんだ。

 ぼやけて霞んだ視界に、黒背景に色の違う黒いスーツのでっかい人。やはりこれはメイビーアオキさん。おれは無事だぜ!元気かと言われると、ちと節々が痛いけど。

 いったい、何があったんだ?

 顔を上げる。

 

 

 シルエットでわかるバケモンが居た。

 

 ?!?!?!?!?!?

 

 目を擦る。目を見張る。かすれてるけど、やっぱり霧の向こうに輝く背景背負った、ポケモンじゃないバケモンがいる。

 

 えっ、影絵か何か?

 

 

 ……あ、え?あ、あぁ、ああ!思い出した!

 

 そうじゃん、ピンチだったんじゃん!

 

 バケモンの翼からでてきたなんか黒い禍々しい炎を、ミミッキュがこのゆびとまれで呼んでは、いつぞやぶりのドオーさんと……白いキレイな……蛾?とで交互にこっちへ飛んでくる余波ごと、まもるやワイドガードで防いでいる。

 きらきらとした光が、薄いモヤと一緒に拡がって、バケモンがちょっとでも隠れたおかげか震えるほどの寒気と怖気とが、いくらか和らいだ。

 出処はチルタリス。しんぴのまもりと、先程からかかってるのはしろいきりか。……ってか指示出してるトレーナー、あの青髪厚着美人やんけ。

 救助隊(人間)到着したんですね!

 

 

 あのバケモンが現れて、その瞬間、強そうな見た目してた周りのポケモンの皆がガタガタ震えだしたんだ。恐ろしいもの見たみたいに。おれも、同じく恐ろしいもの見ちゃって発狂ロールのごとく……何してたっけ?健忘引いとる場合か!

 ……頭でも打ったかな?なんかクラクラする気がする。何回打ったかも覚えてねぇや。

 

 ええと……そう、記憶と知識を必死に漁って、あのポケットにゃ収まりそうもないモンスターの正体を思い出そうとしてた気がする。

 

 翼の形は見たことがあるんだ。触手みたいな、ずるりと長く伸びた、奇妙な太さ。ありゃ、ギラティナのオリジンフォルムのそれと似てる。トゲまで真っ黒だけど。

 牙の並んだ大口も、ゴルバットみたいに縦長だけどギザギザのフチと体に対しての比率はアクジキングのそれっぽい。口の中は燃えてるみたいに揺らめいて、中も外も全面真っ黒だけど。

 角はダイケンキやエンペルトみたいで、爪も、一本一本がガブリアスの腕のよう。足はクレベースの如くがっしりと。でも身体はギャラドスのように長い。

 どれもこれもがことごとく真っ黒で、頭と思しき場所にある目だけが二つ、爛々と真っ赤に燃えていて。

 

 「だ〜れだ?」なんて複数人の子供たちの声が聞こえてくるような……

 シルエットクイズにしても難易度高過ぎんだろ、なんだあのキメラ。

 おれの思いつく、でかくてかっちょよくてちょっと怖くて……そして好きなポケモン達の寄せ集めみたいな姿。

 わかるわけねぇだろ!

 デザインセンスが来い。もっとかっこよくてかわいいの寄越せ!

 

 セグレイブやキラフロル達が頑張ってたけど、見る限り彼らの攻撃はバケモンに効果がないようだった。すりぬけてる……みたいな?

 でも……そうだ、あいつが力を貯めていて、よくわからない波動みたいななんかのエネルギーでみんな吹っ飛ばされて、もみくちゃになった末におれの上に人間さんが吹っ飛んで……きた?

 いや、違うな。腕と全身で覆うようにして、こっち向いてた。衝撃に踏ん張れなかっただけで……

 人間さん、おれとカヌチャンのこと庇ったの?

 

 その人間さんは今……黒いジャケットと独特な髪型の、全体的にゴージャスな黒!って印象の、タイム先生っぽい女性が患部を包帯ぐるぐる巻いている。ちゃんと手当してもらったらしい。

 ほなカヌチャンは? ……グルグルされてる人間さんの周りを棍棒振り回しながらグルグル駆け回っている。心配……ではない……うん。何してんのかわかんねぇや。

 アオキさんが残りのピンク……カラミンゴとデカヌチャンの怪我をくすりで手当て中。あの時居たメンバー、みんな火傷が酷いらしく、しかもその火傷ってのがくすりの効きが悪いとかで……火傷治さないと、この二匹弱体化しちゃうもんなぁ。

 

 …………よくわからん衝撃で、何が起きたか、よくわかんねぇなぁ……あの衝撃またされたらヤバくない?おれもだけど、人間が。

 

「…………自分達の到着後にあったことでしたら、手短に説明しますが」

 アオキさんの提案。お、マジ?治療しながらの片手間でもありがたい。

 

 かくかくしかじか、簡単に説明されたが、おれが意識飛ばしてからそれほど時間は経ってないようだ。

 とりあえずセグレイブやキラフロル、あと先程までいたバクーダちゃんは、ひと足お先にボールで休んでるらしい。

 なんかあのバケモン相手にすると、ポケモン達みんなヒェッて怖がっちゃうとかで……チルタリスのしんぴのまもりでいくらか和らいだのは気の所為ではなく、確かにちょっと効果あり。しろいきりは、えんまくがてら、このおれを筆頭に戦えない連中の保護のめくらましに。さっきからゆきげしきなどを混じえて、視界不良で注意を逸らし続けてくれてるらしい。絶対ここから出ないようにと念押しされた。これフリ……じゃないですね、流石にわかります。

 つまり直視したらSAN値チェック入るって解釈でいい?いつからゲーム変わった?

 あのバケモンからの攻撃は、真っ黒な燃えてるように揺らめいてるでっかい翼の薙ぎ払いとか、とにかくあの禍々しい炎を飛ばしてくる。

 それが当たると、このピンク二匹や、先程ボールに戻されたバクーダちゃんみたいに、治りにくい火傷を負ってしまう。

 ……治りにくい、黒い炎?フーン、万華鏡写r……いやなんでもないです。

 でもオレオとは別に、なんか覚えがあるな。やっぱ冒涜的な神の話してる?

 

「アオキさん、やっぱアカンわ。攻撃が全然効いとらん!」

「このままじゃジリ貧なんだけど……モスノウ、ミラーコート!……っ、ダメか」

 

 前で耐えてくれているポケモン達に指示を出していた、チリちゃんと青髪厚着美人ことグルーシャちゃんの焦った怒声。ハスキーボイスでかわいいじゃん……言うとる場合か。

 

「もう少々かかります」

 

 他のポケモンはボールに戻しているが、この二匹は治療してでも戦ってもらう必要があるそうで。予想が確かならこのピンク達ならいけるはずとか、なんとか。

 あのバケモンとこちらの間に、なんか張られているバリア……あれが、どうやら割らなきゃいけないのに攻撃が通じないから割れないとかどうだとか。

 

 

「……終わりました、行けますね?カラミンゴ、デカヌチャン」

 

 ヤル気満々のダブルピンクが、首と槌とをブルンと回す。アオキさんの口から『チャン』とか出るのなんか……違和感あんなぁ。

 絶対に出ないように、と再度念押しされた。タイム先生似の女性、ライムさんに預けられ、霧から出ていくアオキさんとピンク達を見送る。が、がんばえー?

 

「デカヌチャンはひかりのかべ、カラミンゴ、つるぎのまい」

「今から?!時間大丈夫?!」

「わかりません。……現状、通常のテラレイドバトルではありませんので。こうして複数のポケモンを使えますし……。第一、アレがエネルギーを溜めている様子も無い……どころか、

 

 そもそも、アレはテラスタルしていない(・・・・・・・・・・・・・)

 

 …………ミミッキュや、……ゾロアのような特性であれば、あるいは」

「本体が、どこかにおるかも……ってコトなん?!」

 

 テラスタルとかレイドとか、きっとこの地方特有の話なんだろうが……とにかく普通ではないらしい。チリちゃんのちいかわ構文だ……

 おれのような特性?

 

 イリュージョン……ばけのかわ…………なんか、ティンと来そうな……

 …………………………あーーー、あー、

 

 あー!!!!

 

 

「チルタリス、もう一度しんぴのまもり。モスノウはオーロラベール」

「手始めに……やってみましょう。デカヌチャン、はいよるいちげき」

「ミミッキュ、デカヌチャンをてだすけ!」

 

 

 まてまてまて、あの炎っぽいの、見覚えあるって、そりゃあるよ!

 あのキメラみたいな化け物、おれの(・・・)思いつくようなカッチョイイやつら詰め合わせパックって、そりゃそうだ。

 いつかのどこか、恐ろしい夢を見て怯えるきょうだいに、世界にはもっとずっと恐ろしい姿のポケモン達が居るって……喩えて伝える時に身振り手振りと下っ手くそな絵と、実物を示したのを見て、それをきっと覚えてたんだ。伝説以外は、あの土地にいたポケモンばかりだもの。

 

 ライムさんの腕の中を大変申し訳なく思いつつ、じたばたしながら抜け出し、しろいきりを抜ける。

 大袈裟に、ばけのかわからまっくろな爪を出してバケモノの意識を誘うミミッキュの横を、でっかいハンマーごと、姿勢を引くして素早く駆けていったデカヌチャンにはとても追いつけないけど、でも。

 だけど。

 

 

「きゅあんぬ!!」

 

 

 腹の底から、声を出す。おれの、おれだけの鳴き声だ。

 ミミッキュに向けて振りかぶっていた、翼の動きが止まる。

 

 知ってるはずだ。覚えてるはずだ。

 おれは、さっきまで忘れてたけど。

 ごめん。悪いと思ってる。

 

 おれの大きな耳が、小さく、確かめるみたいに鳴く、懐かしい声を拾った。ああやっぱり。

 

 なんかこれタイミング的にだましうちみたいになっちゃってるな。それもあわせて、本当に、申し訳ない。

 

 巨体の中に(・・)突っ込んだド派手でピンクな小人(かたやぶりなデカヌチャン)が、その担いだどデカいハンマーを割れた結晶の床へと打ち込んだ。

 

 うわ殺意たっか……

 

 

――――――――

 

 

 現れた時、地割れの中からバケモンは這い出てきた。ならば本体はその根元に居る。

 ま、そりゃそうだ。

 

 かつてパパさんも、たてがみの先の赤い毛をくゆらせて、恐ろしいものを作って見せては身を守ったりするのに使っていた。

 おれはやり方わからなくて出来ないけど。

 きょうだいは、おれと違ってポケモンらしいポケモンだったから、きっとその不思議な力を使う感覚はわかってるだろうし、使えるはずだ。

 ゾロアの固有の能力……いわゆる、イリュージョンってやつ。

 

「このゾロア、なんで出てきて……まさか」

「コラ、近寄ったらアカンて!」

 

 崩れた結晶の向こうで、砕けた結晶の中に一際輝くものがある。ゆらゆらと揺れながら出てきた紫色に輝くもの。一歩一歩、ゆっくりと出てきたそのポケモンは、おれと同じ姿をして……

 ぱきり、ぱきりと音がする。

 

 

 ………………いや、あの。

 

 ……………………同じ姿……の、おれのきょうだいが出てくると思ってたんですけどぉ……

 

 なんか、全身ガチガチのビッカビカの紫水晶のごとく結晶化したクリスタルゾロアくんが出てきたんだけど!?回答に自信ある?!

 頭重そうなのなんやつけてるし……ぱきぱききらきら、キレイだなぁって?おれはこんなに陰キャなのに、都会デビューか?!

 

「ゾロアか……!テラスタル! あれが本体?!」

 

 テラスタル……あのキラキラが?クリスタルと語感が似てるけど、結晶化してるって意味だったの?

 

「だが……あれは、様子がおかしい」

「なんでテラスタルジュエルが……二つある(・・・・)ん?」

 

 テラスタルジュエル?ジュエル……わからんけど、ビカビカゾロアの頭の上と、その後ろに宙に浮いてる……あのドット絵でも一際怖い、シオンタウンのゆうれいそっくりのでっけぇ結晶のことか?キシキシ軋んでぱきぱきと……もろもろ重そうで見てらんないよ。

 

 てか後ろのゆうれい浮いてる……浮いてるって!ギラギラゾロアのまわりをキラキラと輝く欠片と、黒い炎と一緒に飛び回っている。ゆうれい二匹で倍怖い!

 

――ミ…………!

 

 なんか聞こえるし……

 

――ミツケタ……ミツケタ……!

 

 あれか、これきょうだいの思念的な?人にも聞こえてるっぽいけど……え、

 おれそんなの使えないのに!ずるい!

 

――カエセ……!

 

 宙に浮いてる方のゆうれいクリスタルが一際輝いた。黒い炎が、一瞬、何かを形作る。

 

「まずい、全員防御しな!」

 

 ライムさんの掛け声で、防御系のわざを使えるポケモン達が各々、人をまもるようにわざを使う。

 おれのことも、カラミンゴくんがくちばしで引っ掛けて……え、お前まもる使えるの?

 

 

――カエセ!!!!

 

 

 あの時の、よくわからん衝撃のやつ!!

 

 あいつ光りっぱなしだな!おれの目がそろそろやられそう!

 

 あの時と違って、何匹かはまもるが間に合ったのか吹き飛ばされてない。でもグルーシャちゃんとライムさんは間に合わなかったのか、ポケモンたちと壁際に弾かれてしまった。

 ……今まもる張ってなかったのに、カラミンゴくんはどうやって避けたんだい?みきり?みきりなの?

 

 チリちゃんやアオキさんが助けに行こうにも、しんぴのまもりも消えてしまって、みんなして青ざめた顔で震え出している。視線の先を見れば、宙に浮いてるゆうれいが、黒い炎の中に真っ赤な光を二つ灯して睨みつけて来ていた。

 凄まじい殺気……ってやつ?

 おれには向けられてない。

 

 うん、これあれだ、パパさんの使ってたイリュージョン。化かすのがキツネだけど、騙すというか、相手を怖がらせることに特化してる……そういうことか。

 

 ありゃ宙に浮いてるんじゃねえ、あそこにパパさんがおるんや!

 

 そしてふたりして、おれが人間に捕まってると思っちゃってるんだよ、たぶんきっと!

 

 カラミンゴくんに離してもらおうにも、あんな恐ろしい奴のとこに行かせるかと言わんばかりながっちり噛み合ったくちばしに掴まれてる首毛。アオキさんからの「まもれ」って指示をちゃんと守ろうとしてるんだろう。

 り、律儀〜!

 でも今はマズイよ〜!

 はわわ、見えないけど恐らくパパさんっぽい視線が、どんどん怒りのボルテージ上がってく……!

 きょうだいよ、パパさん止めて!おれは無事だから!ああん全然解ってくんないってか聞いてくれない!!

 

 

 まずいですってえ!

 

「パーモット、ねこだまし!」

 

 怒り心頭のふたりの前に、線香花火みたいなちいさな火花が、ばちりとひときわ大きな音を立てて弾けた。

 投げられたボールから飛び出して、そのまま眼前に出たオレンジ色のポケモンが手を叩いてたのか。

 

「パーモット、戻って!」

「っ、デカヌチャン、は、限界ですか。……ご苦労さまです。……ノココッチ、お願いします。へびにらみ」

「ナマズン、交代や!そんで、……ドわすれ」

 

 赤い光がひるんで閉じて、動けるようになった人達。ミミッキュが倒れたから、チリちゃんがナマズンを、アオキさんがデカヌチャンをボールに戻して、ノコッチ……いや、でっかくて長いノコ、コ、ッチ……?を出している。

 

「ネモちゃん!? なんで来てもうたかなぁ!!」

「すいません!なんか強……危なそうだったので!来ちゃいました!」

「〜〜〜ッ!助かったけども!!ありがとうなぁ!!」

 

 そう。出口の近くに立つのは……あれはネモちゃん!

 待ってろって言われたのに!

 でもおれも待てなかった奴なので、何も言えねぇ!

 

「すっごそうな相手!…………あれ、でも、……私、救助に回った方が良いですか?」

「おおきに!頼むで!」

「わかりました!サーナイト、いのちのしずく!パーモットも手伝って!」

 

 バッグから回復アイテムやら人間用の救急セットを取り出し、あちらの手助けに入ったネモちゃん。……あのゾロアに興味無いの?

 

「ゾロア」

 

 アオキさんに呼ばれ、カラミンゴごと振り返る。さっきからバッサバッサと羽ばたいたり小刻みに揺れたり、ソワソワしっぱなしなカラミンゴくん。おれを離せば戦いに参加できるのに……そうだそうだ。離して貰わなきゃならんのだ。これ以上戦う必要ないのである。トレーナーに直談判だ。ほら、おれたち通じ合ってるし?ね?

「彼らは、貴方の仲間ですね?」

「きゅぬ」

 せやで。弁解してくるからさ、離してクレメンス。

 なんだ?その……いつも以上の無表情は。

 

「…………良く、見てください。彼らはもう……限界です」

 限界?何がさ。

 

 カラミンゴが顔をきょうだいたちに向ける。よく見ろって、眩しいくらい輝いてるきょうだいと、パパさんだろ?

 チリちゃんのドオーのまもるのうしろで、なんか準備してるナマズンとかいるし、ノココッチはいやなおと出してるし……

 うん。いや、……まぁね。

 

 割れ目から上がって来てから、あのクリスタルゾロアは一歩も動いていない。

 攻撃してきてるのも、警戒してるのも、全部あの、イリュージョンパパさんだ。

 こちらからも、牽制はすれども攻撃している人はいない。あのネモちゃんのオレンジ色のポケモン……パーモットのねこだましで、みんなうっすら気付いたのかもしれない。

 

 だって、眩しいんだよあのクリスタルゾロア。あのゆうれい型の結晶。

 中で光が滅茶苦茶に乱反射してるんだ。少しづつ音が大きくなってる。

 ぱきぱきと、きしきし、きんきんと。どんどん、どんどん……

 

 あの結晶たちは、ひび割れて砕けてきている。

 もう、人が何もせずとも自壊しそうなほどに。

 

 ネモちゃんが残念そうにしている。そりゃそうだ。強そうなポケモンがいると思ったら、ただの耐久戦の、その消化試合だったのだから。

 

 

 ――――カエセ……!カエセ……!

 

 ずっと声は響いている。けれどゾロアークの鳴き声は聞こえない。

 クリスタルゾロアが、ずっともの悲しげな、はぐれたおれを呼ぶ鳴き声は聞こえる。でもきょうだいから近寄ってきてはくれない。おすわりの体勢なのは、もう後ろ足が無いからだ。

 宙を飛ぶ結晶のゆうれいは、腕も台座も、顔の半分程まで砕けてしまって粉々の破片が炎に巻かれている。

 きゅう、きゅうと、悲しい声よりもっとずっと大きな音を立てて、きょうだいの頭の上の結晶は砕けた。炎と紫の欠片が黒い洞窟の壁を照らして、それがあんまりにも眩しい。

 

 ようやくカラミンゴに降ろされたおれが、目の前に駆け寄っても、もう鼻も寄せてくれない。

 おれと同じおおきな耳が割れて、おれと同じ立派なしっぽが砕けて、カラミンゴに降ろされたおれを、おれと同じ黄色の目に写して。

 きゅうと、おれを呼ぶ時と同じ鳴き声で、さいごにきょうだいは鳴いて。

 

 ばきと、呆気ない音を立てて、結晶のきょうだいは縦に一文字、大きな罅を入れて、それきり動かなくなった。

 

 

 

 なんでこんなことに。

 

 

――――――――――――

 

 

 少し触れても割れてしまいそうで、触るに触れない。哀しそうな顔のまま、きょうだいの形の結晶はそこにあった。

 怪我の治療しながらの人間達の緊急会議が行われているなう。フロム黒い結晶洞窟。

 本来なら、結晶洞窟は中のテラスタルしたポケモン――今回はおれのきょうだいとたぶんパパさん――がレイドバトルで負けると、エネルギーの維持が出来なくなり、自然と無くなるらしい。

 でも今、目の前にクリスタルゾロアと、舞い続けている紫の破片は粉々でも残っている。だからこの結晶洞窟は壊れてないんだろうと。

 ただ、この結晶洞窟、あったらあったでポケモンを無差別に強化、暴走させる危険があるため、放置も出来ない。前回に引き続き、大嵐の原因とも目されてるってのもある。

 現状、この核となってるきょうだいとメイビーパパさんが、敗北を認めてない状態だからじゃないかって話。

 今も時折、黒い炎がチリチリとうらみの籠った念でも出してるのか、人間がみんな腕を摩ったり身震いしたりしている。

 

 そうかあ、放置は、できないよなぁ。

 

 

「ゾロア」

「きゅぬ」

 アオキさんに呼ばれた。振り返れば、人間達とポケモン達の、申し訳なさそうな、可哀想なものを見るような目。怪我してた頃にもしてたねぇそれ!

 アオキさんの無表情も、こころなしか眉根がより寄ってるような、しかめっつらのような。

 

「……」

 

 言いづらそうだね!

 つまりはあれだろう?このパパさんもどきと、クリスタルゾロアくんを砕きたいって事だろう?

 なぁに、簡単なことだ。悪いことじゃなくて良いように考えればすぐ答えはでる。

 

 このパパさんは、パパさんの生霊みたいなもんなんだろう。

 だってパパさん、なんか湖のエラいのを護る役目についてるほど大きくて賢くて長生きで、滅茶苦茶強いカッコイイ特別なゾロアークなのだ。

 こんなところで、こんなよくわからんふわっふわした光と火の粉なんかになってるわけがない。

 逆に、こんな所まであんなこと起こせる程の生霊飛ばして来たかもってほうが、まだ有り得そう。

 ……あとこんなお荷物いっぱい抱えた人間達に負けるパパさんではないだろう。

 

 そしてきょうだいだが、アオキさん曰く、「これぬけがらでは?」とな。

 本来、テラスタル状態ってのはテラスタル状態のポケモンの体力が少なくなると、維持できなくなり自然と……つまり結晶洞窟と同じ仕組みらしい。

 だから残ってるってのがおかしい。で、取り出してきたのはテラピースなるなんかの欠片。

 何らかの理由で、テラスタルエネルギーが固まったもの。強力なテラスタルエネルギーが多く集まると、これも出来やすいとか、どうとか。

 つまり?

 これ、テラピースで出来たクリスタルゾロアくん(ガチ)……ってコト?

 

 ……まぁ、なんでもいいのさ、理由とかは。

 人間はここを閉じたい。あの大嵐が、また起きないように可能性は潰したい。

 

 ここに、今、おれの仲間は似てる姿の……本体じゃないモノしかない。

 

 倒してしまっても、砕いてしまっても……断る理由は無いよ、うん。

 

 

 おれってば、仲間の似姿見るまで何にも気付けない、わるいキツネだからね!

 

 

 

 

 でも直視はしたくないので、ネモちゃんとライムさん、グルーシャちゃんと一緒に外に出てるね……

 

 

 

 





今作、わざを思い出させるの随分手軽になって、色々な場面でこの技に変えよう!とか気楽にやれて、確かに普通は使えてきたわざ忘れないよねって思い出しました。

どうしてもアクジキングを挟みたかった病が、余計な事をした気がしてなんだかとっても苦い心持ちです。
ありがとうございます。



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理想が好きで真実は苦手


ナッペ山普通に夏服で徒歩で登頂するしみんなの矢面になって逃げずに立ってるし不良と名高い連中のアジトにポケモン手に入れて数時間でカチコミに行く主人公はやっぱ何かしらおかしいと思い始めました




 

 

 朝日〜!

 洞窟の入り口に差し掛かったあたりで、壁や入り口を覆っていた結晶がサラサラとほどけるみたいに消えていった。これ、質量とかどうなってんの?

 出れた外は吹雪も収まり夜も明け、薄明るい空と海と、キラキラした雪が出迎えてくれる。

 一夜明けたな、って実感がすんごいね!

 

 そんなこんなで、ネモちゃんと、オレンジ色のポケモンことでんき・かくとうタイプのパーモットくんと一緒にむっぎゅと身を寄せあって、事後処理中の大人達の横でそらとぶタクシーとやらを眺めてるなう。

 

 そらとぶタクシーなる乗り物。アオキさんの話に出ていたあれ。

 あれだね、屋根付きスクーターの屋根の部分ってか、一人乗りゴンドラというか。その屋根に、小さくてカラフルな鳥ポケモンがキチッと並んでとまっている。このオウムみたいなポケモン、イキリンコというらしい。

 

 イキリ?イキってんとちゃうぞワレ?

 カラミンゴとかいう名前も最近きいたけどさぁ。イキって、カラんで……リーゼント(ムクホーク)に、ウチの地元の風来坊(ウォーグル)に、噂では暴走族(ファイアロー)もいるんでしょう?

 

 パルデアの空、治安悪くなぁい?

 

 そんなカラフルイキリンコくんちゃん、小さいけど……これホントに飛ぶの?って思ったけど、ひと足先にライムさん乗せてマジですんなり離陸したので驚いた。これマジ?

 やっぱ ポケモン って スゲー !

 おれもポケモンだけどね。

 

 ライムさんは顔色が引き続き悪く、どうにもキツネの強い念ってやつが大変に良くなかったらしい。そらとぶタクシーの一番乗りで、病院に搬送されて行った。

 だいぶお歳をめしてらしたし、お体弱い方なのかしら。それなのに無理して来てもらって、悪いなぁ。

 イタコとか、そういうやつ?

 え?霊媒体質?霊能者……ラッパーでジムリーダー??普段はもっと気骨と怒りのタイム先生並の圧がある?

 いやいや、嘘だぁ。ちょっと見た目が派手な、優しいおばちゃんだったぜ。そんな詰め込んでる人なわけ……

 

 お急ぎ便は彼女だけで、他の面々は引き続き相談会してる。

 ネモちゃんは、おれを預けられてからずっとおれを撫でくりまわしつつ、ぶつぶつと……「やっぱりゴーストタイプなのかな〜あれ、おにびとは違ってるみたいだけど特別なわざかな…… 」などと、ちょっと見ただけのおれたちのタイプの考察をしておられる。

 その、ボールにちょいちょい手を伸ばすのやめてもろていい?叩きつける気でしょう!後頭部に!!

 パーモットくんも、彼女の手持ちになっちゃって大変だねぇ。想像だけでエセピカチュウだと思ってたら、何か想像してた倍はでかい、オシャレな髪型みたいな毛の素敵な、可愛い顔のポケモンだったね。一安心だがちょっと心配。この可愛さにやられる人はいそう。

 くやしい。でも可愛い。

 

 ん〜〜〜……折衷案だ。おれたち、マスコットキャラクターとしてがんばっていこうな!

 負けへんぞ!

 

 そして、彼も彼でおれにぽわぽわの手のひらの肉球押し当てながら撫でくりまわしてくる。

 ネモちゃん曰く、てあてポケモンとも呼ばれる習性で、「弱ってる子とか見るとほっとけないんだ〜」だそう。

 うそ、この見た目で、スパダリポケモンなの……!? あかん、パルデアのピカ様やん!

 

 てかおれ、別に弱ってないよ?むしろ元気溢れてきてるぐらいだ。誘拐から解放されたってのもあるし。

 

 あのきょうだい達はほら、ただのつよつよなつよーい念だから。キツネの祟りとか、うらみつらみとか……キツネってそういうトコあるから。だから妖怪的な逸話が多いんだよね。たぬきとニコイチ。

 

 きょうだいもパパさんも、どっかでまだおれのことを探してるかもしれないが、少なくともどっかには居るんだ。

 今度こそおれの方から探し出して、「おれは無事です!楽しくやってます!独立します!心配しないでください!そして探さないでください!」って伝えないと。

 それ家出人の書き置きじゃなくって?

 

 で、次に動き出したのはグルーシャちゃん。こおりタイプのジムリーダーで、この雪山の頂上近くにジムがあるらしい。そういえば確かにこおりタイプ使っ…………?チルタリス?

 雪山のエキスパートとして今回呼ばれたそうで、この騒動で滅茶苦茶になった雪山の野生ポケモンの調査しながら帰るから、と、ポケモンリーグ派遣の登山隊の方々を連れて徒歩で登って行った。

 クールビューティーな厚着美人だったなぁ。秋田出身な感じ。それ偏見じゃない?

 まぁ……体格までは厚着で見えなかったけど。きっと細身のスレンダーな……

 …………え?彼?……男?………………男???嘘……声低いなとは思ってたけど……

 

 んで、チリちゃん。おれを攫った人間さんを簀巻きにして、ドオーさんに担がせていらっしゃった。バクーダちゃんとか、ナマズンとか使ってたけどじめんタイプ使いなのね?

 ってことはもしかしてチリちゃんって、先生でも生徒でもなく、ジムリーダー?

 

「ネモちゃん、今回はありがとさん。でも危ないことはしたらアカンで?」

「はい!気をつけます!」

「ウンウン、気をつけて……気をつければ大丈夫って話やないで?アカンからね?フリとちゃうよ?」

「はい!」

「うん……?うん……クラベル先生(センセ)にちゃんと言うて貰わんと……危なっかしくてしゃーないわ。

 ま、ちゃぁんとポケモンも育てとるみたいやし……パーモットもしっかりものみたいやし、エエかぁ?

 ……今回の件でもうちょい処理とかあって、すぐには難しいんやけど……ポケモンリーグ、来るんやろ? 堪忍な。急いで面倒片してまうから、ちぃっとばかし待っとってね」

「はい!四天王のチリさんと本気で戦うの、私も楽しみにして……いつでも行けるよう準備しときます!!」

 

 以上、ネモちゃんとの会話。コガネ弁のカジュアル美人のその正体は、なんと四天王……!ポピーちゃんもそんなこと言ってた気がする!

「あー、せやった……ネモちゃんに手持ち見せてもうたわ〜アカンわ〜」なんて言いながら、おれを攫った人間さんを屈強なドライバーさんの乗るそらとぶタクシーに詰め込ませてるチリちゃんだが、リーグ関連でアオキさんとつるんでるんです? たしかになんか気安そうな関係……

 はっ、もしやアオキさんこき使ってる上司って、オモダカさんだけじゃなくって……!?

 

「ムクホークは借りてくな。委員会への報告はチリちゃんがやっとくわ。アオキさんは、ネモちゃんとゾロアのこと、ちゃあんとアカデミーまで連れてくんやで」

「ええ、わかっています」

「…………あと、それ(・・)についてもな。いい報告、待っとるで〜

 ほな。おつかれ〜」

 アオキさんのムクホークとタンデムで飛び立った、人間さんを載せたタクシー……護衛……監視かな? を追って、チリちゃんを乗せたタクシーも飛び上がる。

 頑張ってくれたハッサク先生のセグレイブ、オモダカ委員長のキラフロル、そして、ポピーちゃんのデカヌチャンのボールと、二本の棍棒を嬉しそうに振り回していたカヌチャンも一緒だ。

 

 ……あの三匹とチリちゃんのバクーダちゃん、トレーナーもいないのにめっちゃかしこくて、強かったよなぁ。そんだけ経験豊富ってことだろうし、四天王たる彼らが手放しで送り出せてる時点でトレーナーからも信頼されてるんだろう、って考えると……あんだけラッセルして、やけどでボロボロになりながらも人間来るまで耐えてくれてたらしいセグレイブのトレーナーの、ハッサク先生…………チリちゃんやポピーちゃんと並べて、四天王級のトレーナー……なのでは?

 アカデミーでも一番強いみたいな扱いされてたっけね、確かに。

 

 …………………………………………とっても器用でかしこいカラミンゴも、一緒になんの問題もなく行動してなかった?

 ……アオキさん?

 ジムリーダーと肩並べて戦ってなかった?

 どころか、何考えてるかおれでもわからない、四天王のポピーちゃんのデカヌチャンに指示出して……言う事ちゃんと聞いてもらってましたね?

 

 あ、あんたまさか……嘘だ、そんないかにも「上司に無茶ぶりされて常に仕事に追われて自分の事を考える暇すらないのにポケモンの事なんか考える余裕があるわけないしポケモン育成とか出来るわけないんだからポケモンバトルなんてもってのほかですよ」とか言いそうな顔してるのに……

 

「では、我々も行きましょうか」

「はい!」

 

 なんか裏切られた気分だが、気を取り直してまいりましょう。

 雪山に最後に残るは、おれと、おれを抱き締めてるネモちゃんとパーモット、そしてだいぶ汚れたコートがくたびれ感をいつも以上に演出しているアオキさん。

 ……と、アオキさんの馴染みだという、ドライバーさんのそらとぶタクシー。

 

「よろしくお願いします!」「きゅあんぬ」

「…………ッ、ゾロア〜!!ぶ、無事で、ホント、良かったよぉ〜!」

 

 ネモちゃんの快活な挨拶に合わせておれも挨拶したのだが、なにやらそれに震え出し、開口一番、全く知らんおじさんに一番豊かに無事を安堵された。

 

 何とも言えねぇや。何……何?

 

 髭面ゴーグルヘルメットのいい歳したおじさんが、涙と鼻水垂らしながら顔くしゃくしゃにしてヒンヒン言うておられる。

 微妙な顔してたら解説してくれたご本人曰く、この人も、おれが怪我してた時にアオキさんと一緒にいた人らしく……、あの怪我した姿以来会ってないけど、アカデミーの公式からお出しされる画像や映像の中のおれの元気な姿で元気をもらってたそうな。

 

 つまり……おれの恩人で古参ファン……ってコトだな!

 

 ならばヨシ!推し活は人生の潤いだもんね。

 顔は認知したからな!応援ありがとナス!

 

 で。

 そらとぶタクシーって基本一人乗りなんだよね。

 そして若い女学生と、くたびれサラリーマンのアオキさんが身を寄せあってそらとぶタクシーに乗るって選択肢が無いワケで。

 他にタクシーはない。呼べば来るらしいが……呼ばずとも良いでしょうとアオキさんは言う。

 

 結果、ウォーグルの脚に掴まり、かつ掴んで貰っての安全装置無しでパルデア最高峰(ドライバーさん談)の雪山越えするサラリーマンがそらをとぶ姿をリアルタイムで目撃することとなった。

 

 あんたもうアオキじゃなくてスズキじゃねーか!!

 

 いくら天気良いとはいえ、足が宙ぶらりんは相当ポケモン信頼してないと無理だって。ここポケモン世界で、トレーナーもポケモン世界の人間だってこと忘れてたよ。色々と普通の人間と同じと思わないほうがいい。

 そしてそんな力強い翼のウォーグル見て目を輝かせるなネモちゃん!

「うわぁ……!すごい、すごくいい!あの翼!あの足!寒さもものともしてない!!ああ、今すぐ戦ってみたい……」

 じゃないのよ、上でイキリンコくんちゃんたちとおじさんも頑張ってるでしょーが!運んでる重量もあってか、速さが段違いだけど!

 

――――――――

 

 雪山越えた後は、アオキさんもあんな危険ないつでもフリーフォールできそうなライドは止めて、トロピウスの安定した広い背中でのんびりと、そらとぶタクシーと一緒に飛んできた。

 こうして見てると、アオキさんの使うポケモン……ひこうタイプが多いんでないの?

 

 やっぱオメー……やってんな?

 

 普通のサラリーマンは仮の姿か……

 フゥン、おもしれー男……

 全然そうとは見えないけど、スーパーサラリーマンを考えると確かにそうかも〜!って思えてきた。アローラ地方にも似たような気怠げな人、居た気がするな。おまわりさんだっけ?

 何?つよつよおじちゃん、流行ってんの?

 

 しかし、ひこうタイプ……出張とか、そういう意味?まさか高飛びではないだろう。

 や、でも普通にノコッチのでっかいのとか使ってたっけ。考えたらノコッチも羽付いてる……!

 でかくなって、ひこうタイプになったのか?!

 

「ほら、ゾロア。あれがパルデアの大穴だよ!」

 

 トロピウスの上で何やらスマホロトムで通話して、こちらに視線も寄越さない擬態サラリーマンについて考えてたら、ネモちゃんがそんなことを言って、反対側の窓におれを誘う。

 灰色の岩山の奥に、地面と同じ高さに張った雲が立ち込めた、反対側から見えた湖と同じかそれ以上の広さの……あれが穴だと言うのだから、穴なんだろう。

 雲が出来るほどの高さの穴?めっちゃ深そう……深淵じゃん!

 

「で、あれがチャンプルタウン!

 アオキさんのジムがあるとこ!」

 

 ああん、直接的に答え合わせされちゃったぁ!

 

 アオキさんの、"務める"ジムじゃなくて、アオキさん"の"ジムかあ。なるほどなぁ。

 

 空から見た、チャンプルタウンなる町。道に沿って建物が並ぶ、こう……高速道路のパーキングエリアか、道の駅みたいな町だな。適当に必要になったものをその都度増設しました〜たみたいなごちゃごちゃ感。チャンプルってそういうこと?

 

 車内通話でドライバーのおじさんが、このまま大穴沿いにテーブルシティに向かうとのこと。

 窓から見える景色を、おじさんがあれはオージャの湖、あれがカラフシティ、ロースト砂漠……と解説してくれる。

 いつぞやの、先生達が作っていた文字も分からない地図を思い出す。山と、湖と砂漠と……が色で表されたあれが、北が上になった地図ならば、今おれたちは大体北から南に、パルデア地方の西側を飛んでるって事か。

 やー……こうして空から見てる範囲が、あの地図の四分の一にも満たないの?広いなぁ!

 平面でしか見えなかったあれが、あんな高い山や、広い湖、砂漠、町を収めた物だとは。

 文字読めるようなりてぇ〜!

 

 地上にいる、小さく見えてるポケモン達も見た事ないのから見た事あるのまで、時折興奮しながら、スマホロトムのポケモン図鑑も出しながらネモちゃんが楽しく紹介してくれる。

 パピモッチとか、知らない可愛いのからチルット、イワンコ、メリープとかの可愛いのとか……ケンタロス。

 

 おれの知ってるのとは色が違う、真っ黒なケンタロスが大規模な群れで駆け抜けてった。

 いつかだったかに、ジニア先生がリージョンフォームの授業で言ってたっけな。あれが、このパルデアのケンタロスなんだっけ?

 ……うむむ、そんなに前の話じゃないはずだけど、久しぶりな気がするな。元気だよってのは、元気な時に伝えなきゃいけないんだもんな。

 

「普通はかくとうタイプだけど、面白い技があるんだよー!」

 

 ここの普通は、普通のノーマルタイプじゃないのか……面白い技って、物理特殊関係なしの恐怖のはかいこうせん的な……?

 図鑑を見せてもらったら、炎と水と、タイプの違うのがいるらしいとな?そのタイプの違いで、同じ名前でも違う技になるのだとか。

 そりゃ確かに面白い。

 他にも、ネモちゃんの図鑑アプリは所々穴はあれど、色々なポケモンを電子書籍みたいにして確認出来た。

 へぇー、こりゃオサレ。

 ジニア先生に会えたら、できてるとこまでの図鑑見せてもらお……なんか、おれの知らない世界が広くなってそう……

 おれの図鑑とか、あるのかな?

 

――――――――――

 

 空から見たテーブルシティは、なんだか公園とか庭園みたいな、テーマパークみたいに見えた。学園都市みたいなもんなのかな。

 

 ドライバーのおじさんが、直接アカデミーの真ん前まで運んでくれた。

 大きなアカデミーの門の前では、事前に連絡が行ってたんだろう。ジニア先生とクラベル校長、タイム先生とセイジ先生が空を見上げて到着を待っていたらしい。

 他の方々は授業中かな?

 

 アオキさんが先に降り、クラベル校長と何か話してから、彼の合図を受けてタクシーが降下。

 ネモちゃんに促されてトロピウスやおじさん、先生達に見つめられながらタクシーの車体からおれが真っ先に降りる。

 

 やー……ただいま帰りま「ウェルカム、バァック!! おかえり、おかえりなさいませだよ、ゾロアさん!!!! ゾㇿ、う、うわぁあん!!!!」ぁあうわあ?!

 

 おれが着地するや否やなんか黒いのが、それこそパルデアのケンタロスのブレイジングブルな勢いで突撃してきたのでとてもビックリした。

 滑らかなこの小麦色のお肌……セイジニキ!

 悲しそうであり嬉しそうであり、でもやっぱり悔しそうに……せっかくのイケメンフェイスをしわくちゃに歪めたセイジ先生が、おれのことを抱き上げ、そのオシャレなスーツにおれの毛や汚れが付くのも厭わず力強く抱きしめて、ほっぺすりすりしてきたのである。

 でんきタイプでもないのに、ビックリしてまひっちゃうよこんなの。

 

「ワシが、ワシがあの時!忙しいからとプットオフ……後回しにしないで、ゾロアさんと職員室に戻っていれば!ゾロアさん、アブダクションされずに済んだのに!!ベリー……ベリー、ソーリー……マジで、かたじけないのね」

 

 あ、あー……そっか、おれがさらわれる前、最後に見たの、セイジ先生か……

 大丈夫大丈夫、あの時はおれも人気ない所に行くなとあれほど言われてたのに、気を抜いてたし……油断しちゃってたからね?

 むしろ、おれのほうが心配させちゃってゴメンでかたじけないのよ。

 かたじけないの使い方違くない?

 

「いやあ、本当に無事で帰ってこれて、良かった、良かったあ!」

 

 ジニア先生! その安心ほっこりほんわり笑顔見れて、おれも良かったです!

 セイジニキに抱っこされてるおれの頭をぽすりとひとなでして、ジニア先生はネモちゃんに向き直る。

 

「ネモさんも、無事で何よりですー」

「ジニア先生!」

 

 奥で何かを渡したり話していたアオキさんとかタイム先生とクラベル校長。タイム先生がおれに手を振ってにこりと笑い、足早にアカデミーへと戻って行った。クラベル校長とアオキさんはこっちに来る。何渡してたんだろ。今回の件の資料とかかな。

 

「さて、ネモさん。ナッペ山では偶然とはいえ、この度の騒ぎに巻き込み……危険な目に会わせてしまったこと、真に申し訳ございませんでした」

「いえ!貴重な経験ができましたし、ジムリーダーの皆さんが守って下さったので、危ないとかは全然!!」

「学生の皆さんをお預かりしているアカデミーはその身の健康と安全を任されている立場です。ナッペ山で何が起きても、助けに行けるようリーグ委員会との連携はありましたが、今回その穴を痛感致しました。

 今後は、より皆さんに安心と信頼頂けるよう、改善策を模索して参ります」

 

 相手が子供だろうがポケモンだろうが、しっかりした角度で頭下げる人なんだなぁ。ネモちゃんが恐縮して苦笑いだ。

 

「ネモさんには、我々も助けて頂きました。…………ですが、自分の身の安全も、もう少し考慮して頂ければと思います」

 アオキさんの遠回しな苦言。ここに居ろな!と言われてたのに、入ってきちゃったしね!

 

「気をつけます!」

「…………」

 

 なんて良い笑顔!

 危ないからと聞いても、でもポケモンいるし、強いポケモンと戦いたいから

とか言いながらまたやりそうな気しかしないなぁ。

 そのうち、立ち入り禁止の大穴に面白そう!とか言って突っ込んだりしないだろうな?

 

「何はともあれ……無事で何よりです。

 おかえりなさい、ゾロアさん」

 

 おう!ただいま帰りました、だ!クラベル校長!

 

 






アオキさんの手持ちのポケモンのほとんどがチャンプルタウン近郊で捕まえられると知ったぼく「ってことはさぁ…」

やっとパルデアをゾロアに見せられました…


おまけのこれはせっかくなので意外と小さくて意外とデカいカラミンゴくんとどう考えても色味が合わないひと達です
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幕間:米が好き



せめてまいど・さんどのメニューが店ごとにサンドイッチ一種類別なのあるとかあったりしたら嬉しかったなと思いながらテーブルシティの飲食店めぐりしてたら東の高台のまいど・さんどに客一人も居ないのにテーブルにはセットだけが置いてあってゾワゾワしちゃいました。
なんであそこサンドイッチおじさんすら居ないんだ

外にはいるけども

こちらはよくわからない話です!



 

 

 校長室の寝床まで来て安心したのか、ゾロアはすぐに丸くなって寝息を立て始めた。

 小さいながらに、あんな目にあっても気丈に振舞っていた様子だったが、やはり疲れてはいたのだろう。

 仲間……と思しき気配の、何とも難しい存在との出会いが、彼にとってどう働くか。現状ではわからない。

 

 そのうち腹でも空けば目覚めて出てくるだろうから、今は詰められるところを詰めてしまいたい。

 

「監視カメラの、手引きしたと見られる男は見つかりましたか?」

 

 クラベル校長の固い声。

 誘拐犯は、学生服まで用意してアカデミーに侵入していた。仮発行のIDは、発行した受付嬢曰く「確かに自分が発行したが、忘れ物を取りに来たのだと言っていたので、詳しく調べずに渡してしまった」とのこと。

 彼女は、自分のせいでこんな騒ぎになってしまったと、とても後悔していた。

 校内へ潜入した人物は二人。片方が誘拐犯で、もう一人はその手引きした者だと見られていた。

 

「ええ。ボウルタウンにて確保されました。『自分は元・アカデミー学生で、忘れ物を取りに行っただけだ』と、一貫して巻き込まれただけの無実を主張していますが」

 

 ハッサクさんが確保に向かい、現在コルサさんとリーグ委員とを交えて取り調べ中のはず。

 あの二人に詰め寄られるのは、自分は御免こうむる。本心から無実かはさておき、利用されたのは確かなのだろう。

 

「……確認しましたが……彼が在校していたという記録が無いんですよねえ……本当に、去年までアカデミーにいたんでしょうか?

 むしろ、去年の退学者人数が異様に多いのが気になりましたあ」

「それは恐らく……例の不良グループの彼らの」

「ああー……なるほどー……」

 

 退学者が多い、という発言。疑問に思ったが、アカデミーの運営関連の詳しい事まで首を突っ込みたくはない。不良集団……カラフ近くの星の意匠のテント群が頭に浮かんだが、そこは場所も含めて自分の管轄外だ。

 

「……取り調べ中ですが、どうやら犯人は他地方の人物で、依頼されてゾロアを攫いに来たようです」

 

 治療を受けながらでも話は出来るでしょう、とトップが背後にキラフロルを浮かべながら取り調べをしている姿を先程チリさんから送られている。自分を弱らせた相手が、そのトレーナーと一緒になってまた構えて来ているのだ。正直な答えであると思いたい。

 

「あのカヌチャンも、依頼されてたんですかあ?」

「ああ、そちらは……」

 

 これは正直な話。パルデアのルールに則った場合、今回の件で彼が犯した罪の中で最も重いとされるのは、無許可でのカヌチャンの他地方への持ち出しだ。

 カヌチャンはまだそれほど強くはないため、それこそかわいいものだが、ひとたびナカヌチャン以上に進化してしまえば管理方法や対処の仕方を知らないと、下手すれば生態系が一瞬で崩壊してしまう恐れがある。

 そんなカヌチャンの持ち出し。

 本人曰く。

 

「『休憩にと降り立った場所で、ゾロアを入れた檻に張り付いて剥がれなかったから、もう一つ用意したら自分で入ってきた』そうです。見た目も可愛らしいので、引き取り手は居るだろうからと、おまけで」

「…………ああ」

 

 ポケモンの習性に詳しい二人だ。これだけで分かってしまったのだろう。どこか遠い目をして頷いた。

 

「それは……知らなかったのでしょうね……」

「アーマーガアで空を飛んでいたと聞きますし、本当にパルデアは初めて来たんですねえ」

「問い合わせていますが、どうやら他の地方での犯罪歴も無いようです。様子を見ていた限りではどうも……何か事情がありそうでした」

 

 発見した時、意識の無いバクーダの下で潰されかけていたゾロアとカヌチャンは、カラミンゴとデカヌチャンと、死にかけの例の犯人の下で、辛うじて出来た空間にいた。

 病院に搬送され、目覚めた時には、ポケモン達や手持ちのアーマーガアの様子を真っ先に訊ねたと聞いている。

 ポケモンの事を、商売の為のモノや道具程度にしか思っていない人間では、なさそうである、と。

 トップが何やら愉快そうにしていたのが気掛かりだが、これ以上悪いようにはならないだろう。

 

 少なくとも、あの男のせいでひと騒動起きてしまったことは間違いない。まったく、無駄な労働ばかりが増える。

 

「犯人の方はこのまま委員会の方で調査を進めてまいります。……それで、アカデミーの方に調べて頂きたいことが幾つかございまして」

「ええ、ええ。あの黒い結晶や、あのポケモンたちについてですね」

「先程、タイム先生にお渡ししたものは」

「解析完了してますー。こちらはお返ししますねえ」

 

 校長室の機器の中から、ジニア先生が持ってきたのはテラスタルオーブ。自分のものだ。

 

「確かに、通常のテラスタルエネルギーと混ざって、微力ですが別のエネルギーが検知されましたあ。似ている反応は……アローラや……ホウエン、シンオウで観測された記録と……うーん、まぁ、これは要検証ですけどー……

 そもそもナッペ山からここまで、大気に混ざって散ってしまうはずのエネルギーが残っていた事すらも疑問なんですがー……」

「こちらはオーリム博士にもデータをお送りしても?」

「はい。お願いします」

 

 例の結晶洞くつで、テラスタルでとどめを……と考えていたものの、あんな最後だった為にその出番は無かった。

 何かの手掛かりになるかと、テラスタルエネルギーを集めるだけ集めて、ポケモンに投げずに保持したままのテラスタルオーブを持ってきたが、そう長時間保たないはずの結晶が、ギリギリ残っていたのである。

 あの洞くつで採れたテラピース・ゴーストとあわせて、テラスタルについて詳しい彼らに渡したが、彼らですら首を傾げることになった。

 テラスタルについて、誰よりも詳しいオーリム博士の見解を聞けるなら、それに越したことはない。

 

「スマホロトムが起動してくれなかったので、手動になりますが、チリさんが撮影していた動画も後程お送りします」

「動画があるんですかあ!? わあ、検証が捗りますー!」

 

 彼女のジャケットのポケットからの撮影だ。ひどい画角とブレで見れたものではないが、時折何かしらが映っているのは確認できる。

 特性:ねつこうかんのセグレイブにやけどを負わせたあの炎。受けた治りにくい火傷はやけどなおしで治らず、なんでもなおしでようやく効果があった。状態異常ではあったが、やけどでは無い。ではどくだった?はがねタイプのデカヌチャンも同じ症状だったはず。こおりタイプがこおりつくことはないし、まひや、ほかの何かだったのだろうか。

 そもそも攻撃が通じず、わざわざ きもったまのカラミンゴと かたやぶりのポピーさんのデカヌチャンに頑張らせたが、特性はしぜんかいふく らしいネモさんのパーモットの、ノーマルタイプの技、ねこだましが効果があったのはどういうことか。

 かたやぶりで本体にダメージが入ったあの時点で、もうゴーストタイプではなかったのか、そもそも何か別の理由があったのか……

 

 念の為に、やはりあれも渡しておくべきか。

 

「それと……これを調べてみて欲しいのですが」

 

 鞄から取り出した物。自分の手のひらに収まるそれを、二人とも研究者の目つきで眼鏡をかけ直しながらまじまじと見つめる。

 

「…………ヒールボールですかあ?」

「中にポケモンはいないようですが……」

 

 見た目は彼らの言う通り、ただの空のボール。自分が持つには似つかわしくない、薄い桃色のデザインのヒールボールだ。

 

「テラスタルしていたゾロアの、抜け殻のように残っていた結晶に向けて投げたボールです。何も入ってはいませんが、"何か"が入っています」

 

『普通のテラレイドのポケモン、倒したら捕獲の隙があるやん? 試してみぃひん?』

 

 とは、チリさんの悪ふざけなのか本気なのか分かりかねるトーンの発言。

 同じくチリさんが宙に浮いていた結晶の欠片の方に向けて投げたハイパーボールは、狙い目が分からず何も当たらないまま床に落ちたが、こちらのヒールボールは結晶に当たった後、確かに一度開き、"何か"が入ったような光と、動作を見せた。

 通常のような、中のポケモンの抵抗で揺れる事も無く、登録データもない。

 いったい、自分は何を捕まえたのか。

 

「一度、開いた……? お借りしますねえ」

「どうぞ」

 

 ジニア先生が慎重に自分の手からヒールボールを持っていき、それを何かの機器にセット。カタカタピコポコと、クラベル校長と二人で画面を覗いてあーではこーでは言っている。

 ここら辺は自分にはわからない。さっさと諸々終わらせて、食事に行きたい。

 

 ……ああ、考えてしまった。意識してしまうとダメだ。途端に疲れがどっと来た。

 自分はちゃんと、気を張っていたらしい。もうダメだが。

 

 腹が減っている。

 体がエネルギーを求めている。

 そういえば、空の上でトロピウスが心配そうに渡してきたフルーツぐらいしか食べていない。美味かったが、あれだけでは自分には足りない。

 ふご と情けない寝息に横を見ると、ぐーすかと、安心しきっているのか、喉を晒して腹も仰向けで、ベッドからはみ出ているゾロアが羨ましくなってきた。苦労したのはわかっているが、お前の野生はどこに行った。

 まったく……なんだって、こんな面倒事に。

 

 

――――――――

 

 

「確かに捕獲記録がありますねえ。でも、何もいないように見えますし、実際の数値でも、何もいません」

「"何か"はいるんですか?」

「ですから、何もいません。何かを捕まえた、という記録だけが残っているんです。う〜ん……どういうことでしょうかー…………ロトム、このデータを……いえ、やめておきましょうかあ。変なデータが伝染るとよくない。

 クラベル先生、廃棄の端末ありましたっけ?」

「ひとつ前の世代になりますが、そこの棚にありますよ。情報が見られれば良いのですね」

「お願いしまあす。こっちの調整はしときますねえ」

 

 ぱたぱたと、二人とも機器の間を行ったり来たり、手持ち無沙汰な自分は、と見ていると、コテと厚手の手袋を装備したクラベル校長がこちらに気付いた。

 

「少し、中を見てみますが、このボールが不具合を起こしている可能性もあります。可能であればボールの入れ替えで改善するかもしれませんので、アオキさんの空きボールを一つ貸していただけますか?」

「了解しました。……モンスターボールで良いですか?」

「捕獲率は変わりませんがー、一応同じヒールボールでお願いしまあす」

「……わかりました」

 

 棚からロトム用のモーターの入っていない端末を持ってきたジニア先生に渡す。丁度、タイミング悪くそこで腹が小さく鳴ってしまった。こんな時に。

 

「そういえば、アオキさん休憩されてませんよねえ? こちらで調べてる間時間ありますからあ……街で何か食べてきては?」

「……しかし……」

「では、よければついでにまいど・さんどのアボカドサンドを一つ……お願いできますか?」

「あ!ならぼくはジャムサンドでお願いしまあす」

 

 断る間もなく、現金とLPがそれぞれから送られてしまった。

 気遣われている……

 

「…………わかりました、では一度、休憩をとらせていただきます。何かあればすぐ、ご連絡ください」

「はあーい、いってらっしゃいです」

「……ぎゅぬー……」

「ふっ……ごゆっくり」

 

 にこりとした笑顔と、野生味のない寝息と朗らかな声に後押しされ、校長室を出る。

 

 とはいえ言葉通りにごゆっくりする訳にも行くまい。余計な道草食わぬよう、アカデミーを出るまでに目的地を定めねば。

 テーブルシティは西側、東側にそれぞれ複数店舗、まいど・さんどがある。さらにそれぞれの側に、飲食店があるが……まず西にするか、東にするか、上か、下か。それによってあの階段を下まで降りるか、降りないかが決まる。

 いつもなら、少し歩いて標的を見つけるが……スマホロトムにテーブルシティの飲食店を表示してもらう。

 軽食ならば降りてすぐの喫茶室なぎさで良いのだろうが、このカロリー消費量ではポテトやケサディーヤでは済まない。まいど・さんどでまとめて自分の分も買えばいい?いやいや、それは自分の腹と相談済みだ。今、パンは求めていないらしい。

 

 雪山で作業していたせいか、あたたかさを感じる物が欲しい。温かいもの、暖かい……むしろ暑いくらいの。そして塩。甘さじゃない。

 もっとガッツリ……そうだ、米だ。米がいい。

 途端にカラフシティの海の味やら、宝食堂のボリューム満点なメニューが浮かぶ。だからと言ってチャンプルタウンにとんぼがえりは、あまりに道草が過ぎるだろう。

 ならば二択。バル・キバルかバラト。

 アカデミーを出て階段に差し掛かる。決めねば。

 アカデミーから近いのは……バラトか。すぐそこだ。イチオシメニューはカレーライス……米だ。がっつりスパイスだ。テーブルシティの店舗は、学生向けで量も多い。まいど・さんども近くにある。

 ならばそれでいいか…………否!

 

 足早に降りた階段、更に広場への段も降りる。

 海産物だ。スマホロトムの表示したメニューの、パエジャ=パルデアの黄色に惹かれた。写真から漂うシーフードの香りとうまみ。学生達の仲の良さそうな自撮り写真とカレーライスも悪くないが、甘い可愛さは今求めていない。ガツンと利いたガーリックが欲しい。

 決まってしまった。腹もそうだそれだと言っている。

 まいど・さんども近い。完璧だ。

 

 

 ………………辿り着いた先で、マリナードからの直送を謳う鮮度一番!のシーフードパスタの本日の出来栄えがココ最近で1番という話を聞いてしまい、また迷う事になるのだが。

 

 

 

――――――――

 

 

 まいど・さんどでアボカドサンドとジャムサンドとスパイシーサンドを購入し、アカデミーに戻る。未だに作業中だった。

 

「いえ、移し替えてはみたのですが、やはり中は何もないんです。もう少し詳しく見てみたいので、こちらのボールも合わせて、もうしばらくお借りしていてもよろしいですか?」

「それは、ええ、お願いします」

 

 疲れた脳に糖分を補給してか、幸せそうにジャムサンドを頬張っていたジニア先生が、「そうでした」とジャムサンドを置いた。

 

「クラベル先生とお話してたんですがあ、ゾロアさんが目覚めたら、少し訊ねてみた方がいいんじゃないかなあってことがありましてー……」

 

 ころりと、見た目では分からない何かのヒールボールと普通のヒールボールとが転がる。

 

 

「やっぱり、一度捕まえておいたほうが、いいのかもしれない……っていう」

「…………はぁ」

 

 

 まぁ、そうなるだろう。

 

 





この妄想全開ゾロアニキのお話はハッキリとしたオチがあるわけではないのでふわふわエンドでも許して下さいと予防線を張っておきます



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憧れは好きでトレーナーも好き



ファッ




せ、先行実装ゾロ…アーク!
ゾロアーク…?ゾロア違うナンデ…?
あくタイプ?!悪いキツネや!
悪いキツネか…??
ハッピータイム!金策!!倍率ドン!更に倍!
……ヒスイゾロアーク(うらみつらみ搭載)が、ハッピータイム…?あらやだ解釈違い…


これじゃゾロアがハッピータイムうてないじゃないですかー!



それはそうとやったぜ└( ・´ー・`)┘


もうゴールして良くない?良くないか…

感想いつもありがとうございます。返信クソ遅(恥ずかしい時だけ早い)なのは許して下さい。




 

 

 騒がしいので目が覚めた。騒がしい……ってか、賑やかしぃ……

 

 天井に逆さまで張り付くこぎたない革靴と便所サンダルみたいな緩いつっかけと品のいいピッカピカの銀の靴!

 …………逆さまなのはおれじゃないか?!

 

 起き上がる。動きで体を捻ったからか、腹がぐぐるぅと鳴り始めた。

 腹が減りましたわ!

 

「わ、すごい音ですねえ。ゾロアさん、おはようございますー」

 

 いち早く気付いてくれたジニア先生がにこにこと寄ってきた。後ろにはアオキさんとクラベル校長。ここは校長室のおれの寝床!

 

「きゅぬ!」

 おはようやで!

 

「宜しければこちら、食べますか?」

 

 アオキさんの差し出してきたのは、固めの生地のパンに挟まれたサンドイッチ。間に挟まる……ソーセージ?ウインナー?が三本はみ出して見える見える。中々のボリュームだが、ぐーぐるごーなおれの腹には早急なエネルギーが必要だ!頂くのぜ!

 皿に置いてもらったものにかぶりつく。

 …………かっら!

 

 辛い!熱い!痛い!

 ばっ、これ、大変におスパイシーですわ?!

 敏感なポケモンのお口には刺激がつよつよで、ちょっと顔を顰めてしまったのが見えたのか、アオキさんが珍しく目元と眉を大きく動かして、素早く皿ごとおれのサンドイッチを奪い取ってしまった。

 べ、べつに食べれないわけじゃないよ?!

 

「ゾロア、あなた身体に傷は無いようでしたが……口の中、怪我してませんか?」

「きゅ?」

 

 口の中?もにょもにょと舌を動かして口の裏の壁を撫でてみる。……あいたっ

 下顎側の何ヶ所かが、確かに痛い。失礼しますねえ、とジニア先生がペンライトを持って鼻先をちょいちょい触ってくる。

 開けろって?はいな。

 

「ありがとうございまあす。…………あー…………下顎……丁度上顎の犬歯の位置が、ちょっと傷があるので、恐らく何かの弾みに自分で噛んでしまったんでしょう。アオキさん、きのみはお持ちですかあ?」

「いえ……」

「オボンならこちらに」

 

 おやまあ。あれかな、吹き飛ばされて、バクーダちゃんに押しつぶされたとき。

 クラベル校長がなんかの研究机っぽいとこで小さなナイフでオボンを食べやすく切り分けてくれている。ありがとナス!でもそことそのナイフ、食べていい物に使って良いとこなのかい……?

 まったく、ダメじゃないかアオキさんってば。ジムリーダーともあろうトレーナーがきのみも持ってないなんてぇ…

 ………んでも、見た感じあの時の汚れたコートは腕に掛けたままだし、髪や靴も裾も、鞄も薄らとなんかが染みてたり皺がある。

 いつもこんなんじゃない? いやいや、これまだあの後、休める所にどこにも寄れてないんだよ。きっとそうだ。

 道具とかも、補充してないに違いなひゃっはあオボンうめぇ!この……何味ともつかないけどオボンらしい"きのみ"って感じの……あれが……こう…………ね!

 

 がぷがぷと水を飲まされ、また口を開けさせられる。ゾロアの小さい牙をむいっと口吻弄られ見られてる。ちょっと恥ずかしい。

 

「うん、大丈夫ですねえ。でも刺激物は止めときましょうかあ。ぼくのジャムサンド、食べかけですがどうぞー」

 

 えっ! 間接……ああ、食べた部分もぎられて、三分の二の方を改めて皿に乗せて貰った。ぼくの、ってことはジニア先生の分は?

 

「? 大丈夫ですよお。ほら、甘くて美味しいです」

 

 もいだ食べかけの方を、目の前でひょいと口に放り込み、咀嚼して見せてくれてくれている。や、貰った食いもんにケチ付ける気は無いっすけどお……

 

「スパイシーサンドで宜しければ、食べますか?」

「はあい。ありがとうございます、頂きますねえ」

 

 あら、おれの食いかけを持っていった。えっ、甘いの欲しかったのにおれのために辛いの持ってったの……

 

 実際は絶対にペットとかと、食いかけを食べあったりなんなりはダメだからね!お互いに!

 

――――――

 

 さて。

 食べている間、チャカポコカタカタはいはいと、各自パソコンやらお電話やらなんかの機械やらを弄っていて、忙しなかった。時折タイム先生やサワロ先生なんかがやって来て、クラベル校長に報告して帰ってったりリーグ委員会のマーク付けたスーツの人が来てアオキさんになんか渡してったり。

 何かしら進めてるんだろう。おれにはわからんけど。ジャムサンドうめぇ!

 

 食い終わった頃に、皿のかわりに目の前にボールを並べられた。通常のボールから、スーパー、ハイパー、プレミア、ヒール、リピート…オシャボなどと呼ばれる一点物の特殊なボールは趣味ではないため持っていないと、置いてったアオキさんが言う。

 

「選んでください」

 

 ええ?

 

 細かい説明を聞くところによると。

 

「……今回、ボールで捕獲されなかったのは運が良かっただけです。今のあなたはアカデミーで生活していますが、野生のポケモン。ボールで捕獲された場合、そのボールを持っている相手に管理……所有の権利がある。

 一言戻れとボールを開かれたら、こちらで連れ去られぬよう対処していても意味がなくなってしまうでしょう。

 ……転送、交換の機能でも使われてしまえば、より一層連れ戻すのが困難になります。

 ……ですから、やはり仮にでも……保護者を決めておくべきだ。とは、……人間の考えですが」

「……ぎゅぬ……」

 

 チラチラ見てくる面々含めて、みんなしておれを心配そうに見てくる。

 おれもね?心配しただろうし、心配かけさせちゃったなぁって、セイジ先生に泣きつかれた辺りで思ったともよ。

 言うことに一理あるってか、百理しかねぇ。

 あの人間さん、ボールで捕獲しないでわざわざおれのこの、小柄とはいえ体をそのまま持ち出したって事だろ?

 そんな否ィ効率的な事、わざわざする理由があったんだろうし、今後もその理由が適用されるってのは考えにくい。

 

 おれはまぁ、かしこくてかわいくてとってもスペシャルだが、ポケモンだからなあ。

 どんな伝説ポケモンだって収まっちゃうボール投げられたら、おれなんて抵抗できなくて捕まって、そのまま…………ヒェッ

 

 しかし……しかしなぁ。ボール並べたのはアオキさんだ。つまり、このボールは彼ので、選んだらきっと彼がおれを捕まえるんだろう。

 何度だって言うけどね?嫌いじゃないのよ。むしろ、この現代人らしい空気が親近感あるし、基本陰キャのおれには、パルデアの陽な人々はちょっと眩しい。

 それに、初めもこの前もと、幾度となく助けられた。

 特に、この間の件で、ちゃんとこの人が皆から認められるだけの実力者だってこともわかってしまった。

 ただなぁ。

 

 面倒事を嫌っているんだよなぁ。わかるよ、おれも嫌いだもん。

 無表情で取り繕うのも隠すことが苦手なのか、迷惑面倒かったるいって気配。下手に取り繕うよりは、素直に見せるあたりは誠意見せてるじゃん。

 

「生活はこれまで通りで構いません。保護者が自分だと、触れ廻るつもりもない。

 自覚はあると思いますが、あなたはかなり希少な種類だ。特にこの地方では、あなたの仲間は見つかっていない。他の地方でも、今の所未発見です。どんな扱いをされるかもわからない者に捕まるよりかは、調査の名目で、このアカデミーに居るのが最も安全でしょう。

 しかし、あなたがこのパルデア地方で生活していくならば、人目につくのもまた事実。

 ……もし万が一、興味本位の学生に戯れにでもボールを当てられて、油断して捕獲されてしまった、なんて事になりたくはないでしょう?」

 

 あ、ああ〜!

 あるんだよなぁ……そんな目が。

 興味本位って顔に書いてある学生が、ハイパーボール構えてる所をタイム先生が朗らかにインターセプトしてくれた事がある。

 ホントにおれに投げつける気だったかはわからないが、何かしら誤魔化した様子で逃げてった学生。それでなくても、おれが人の言葉よく分からんと思ってなのか、平然とタマゴの話とかバトルで使えるかとか、生態は、とかなんとか……生々しいお話するもんだから、お前らにわか学生と違って、誰より詳しいジニア先生が頑張ってるでしょうが!ってぷりぷり怒っちゃったのも記憶に新しい。

 

 うん、誰か保護者か決める……うん、大事なのはわかるんだが…………

 

 アオキさんの無表情を見る。

 クラベル校長の眉を寄せた難しい顔を見る。

 ジニア先生の下がり眉と、目が合うとにこと笑いかけてくれる笑顔を見る。

 

 なんでおれと仲良いの、野郎ばっかなんですぅ?

 

 しかもジニア先生、ボールに手を伸ばす様子ないし……俺の前で、わざとボールに触らないようにしてない?

 クラベル校長は絶対に0:1000で良い人だしおもしれー男だし、ゴージャスだしパワフル……だけど、おじいちゃまなのよ。死に目には会いたくないのよ。悲し過ぎるから。

 

  アオキさん…………アオキさんなぁ………………

 ペットとかもね。仕方ないから飼いましたって人、責任感強いような人だとすごい、ちゃんと飼ってくれるんだよね。飼い方とか知らん!ってちゃんと勉強したりと、真剣に向き合ってくれたりするのよ。

 アオキさんは、多分ポケモンに関してならそういうタイプの人だ。人付き合い?ええー……苦手そう。

 面倒でも、やれることならちゃんとやれる人だ。

 

 でもさぁ、それって、疲れるじゃん。

 おれ見て溜息吐かれるのもいやだけど、おれが見てるの見て「気にしないで」って気ぃ使われんのもいやじゃん?

 

「ゾロアさん。アオキさんはこう見えて、ポケモンバトルの実力に間違いはありません。危ないことがあっても、必ず助けに来てくれるでしょう」

「…………」

 

 クラベル校長がフォローの言葉をくださる……のだが、おれならそういった保証も無いことに対して"必ず"、"絶対"にという言葉を使いたくはないなぁ。おれならね?

 今回はたまたま、助けて貰えたけども。

 

「ボールの識別機能や保護機能があると、ぼくらも安心なんですよお」

「あなたに自由でいて欲しい思いもありますが、そうもいかない事情もあります」

 

 ぬぁー……やっぱり?

 今回の件なぁ。あの……キラキラきょうだいとゆうれい結晶の根元のメイビーパパさんの念…………あのふたりが諦めるとは思えないから、また来るだろうし……おれ目当てだと考えても自惚れじゃないはずだ。

 そんな、恐らくは周囲に影響ありそうな事象を呼びそうなかわいいゾロアちゃんが、なんの保護もされていない状態で野放しってぇ訳にはいかないだろう。

 

 誤解を解くことが出来なかった以上、仕方ないことだが、おれの方から会いに行く!ってのも、人間側的には嬉しくはないんだろうなぁ。

 

「きゅ……ぐぬぅ……!」

 

 仕方ないよ?仕方ないけどさぁ……仕方ないじゃん!!!よくわからないけどよくわからない理由で知らない場所に来ちゃったのはおれのせいじゃないし………………

 ……そりゃ、おれみたいなかわいいゾロアちゃんが怪我して倒れてたら、助けたくもなるし…………助けちゃったらその後も責任取らなきゃ……!みたいな使命感は、まともなポケモントレーナーならあるだろうし…………

 

 となれば、そうなるんだろうけどさぁ……

 

 この、『君が決めるといいよ(暖かい目)』、な空気、小生やだあ!

 

「きゅぬぬあ!」

 

 ひとしきり悩んだ末、ベッドの穴に逃げ込んでしまった。

 優柔不断で不甲斐ないおれですまんめんみよ……

 

「私が見てる分には、アオキさんの事は彼も信頼してるように見えるのですが……」

 

 外からクラベル校長のそんな言葉が聞こえてくる。信頼してるよぉ、してるけどさぁ。

 だって、だって……ええ……

 

――――――――――――

 

 とっぷり夜である!!

 

 ………………夜まで籠城決め込んじゃった……

 

 モモンもんもん考えてみたんだが、どうも、たぶん、おれは人とポケモンの付き合い方ってのに、ちょっとキラキラし過ぎた理想を抱いてしまってるのかもしれない。

 下手に元の世界の動物なんかより頭が良いいきものであるせいか、それともゲームやアニメの物語上の感動があるせいか、そう…………うん。

 きっと憧れてるんだろうな。

 

 ゲームでも、ポケモン交換を気軽に持ち掛けてくるNPCは居ただろう。悪い軍団がポケモンのあれそれを売り捌いていたし、初期の頃のライバルトレーナーなんて、滅茶苦茶ポケモンの扱い悪かっただろう。

 それと比べたら、なんでもない。良い人ばっかりじゃないか?

 自分ってば高望みしてるのだろう、と自覚が湧き上がって来たのが夕方頃で、今、それを打ち消すように湧いてきてるのは普通に後悔だ。

 あの時アオキさんは、「過ごすのはアカデミーでいい」って言ってた。それをおれは、アオキさんがおれの世話面倒臭いからだと思ってたが……

 もしかしなくても、あれアオキさん自身が、「自分の事が嫌いであれば、一緒にいなきゃいけないわけじゃないぞ」って、言ってくれてただけでは?

 どことなく寂しそうな眉と目と額が浮かぶ…………ごめん、いつもの無表情だったわ。

 

 おれがアカデミーが好きだって、色んな人やものを自由に見たがってるって、そう判断して提案してくれてたんだろうに……

 と、ポジティブシンキングで後ろ向きに考えていたら、もうめっちゃ夜中だった。昼間ぐっすやしたせいで全然眠くない。

 

 

 

 もっと、ちゃんと意思疎通できるようになりっちぃなぁ。

 

 

 





予想では春頃にHOMEと一緒にレイド辺りで来るかなと思ってたんですけど八倍くらい早くてびっくりしました。
びっくりついでにオスとメス2匹貰わないと…

いつ来ても良いように本編開始前開始にしといて良かったです(震え声)



え、終わらないんですか?


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美術は好きで観戦も好き


おかしい…コイツまだゴネてる……

しかもさらにゴネる気だ……





 

 

 パーモットという、オシャレな頭の毛と可愛い顔ともちもちの肉球の、オレンジ色の毛並みで柑橘系のニックネームの似合う意外と体格のいいポケモンがいる。

 種族自体が世話焼き気質で、よく子供や、小さなポケモン、怪我したポケモンなどをお世話してあげたり、さいきのいのりという特別な技を扱えたりとタブンネみたいな優しさの塊みたいなポケモンだが、ひとたび闘いとなればその両手に電気を溜めて、格闘戦を仕掛けてくる、味方なら頼もしい……そんなポケモン。

 

「ぱもっと」

 

 ひとの顔を見る度に、わざわざあの足でのちのち歩いて寄ってきてはにっこり笑って撫でてくる、ネモちゃんのパーモットくんの図鑑説明を、そのトレーナーネモちゃんに読み上げてもらった。あらためて、エセパチピカチュウみたいな顔である。マスコット可愛い。こう……この……教育テレビ見てる気分になる。

 

「フカフカ」

 

 いつもにこにこなそのパーモットくんが、きゅっとかっこよく睨みつけ、バトルコート上で相対するのは……大きな口に大きなフカヒ……背鰭のずんぐりむっくりフカマル先輩。

 先輩って?

 

 進化してないじゃんと侮るなかれ、先程からのパーモットとのじゃれあいを見ている限りではこいつ、結構強そうである。じゃれつくみたいなじゃれあいという意味じゃない。素直なパーモットが突っ込んでって、組み合ったフカマル先輩が、次の瞬間にはその丸みを帯びた体格活かしてパーモットを投げ飛ばすとかいう、合気道の組手みたいなことだ。

 

 …………えっと……その技何……?

 これが熟練の技……ってやつなんです?

 

 

 

 というわけで、いつまでもくさくさしてても仕方ないので気分転換に朝のグラウンドである。

 あの後アオキさんとは会ってない。 おれもだけど、気まずいのかアオキさんもおれを避けてる気配ないか? アカデミーには来てるっぽいんだよなぁ。くたびれたサラリーマンの目撃証言が学生から聞こえるし。

 

 本日は晴天。ここ最近、四天王の仕事で忙しかったのか、あまり姿を見かけなかったハッサク先生が朝一の授業と課題の確認をしにやって来たので、彼に連れてきてもらって、グラウンドの畑への水やりのお手伝いなぞしていた。 草のお世話してるイメージ無かったや?忙しくてもこういう時間は大事だそうで。ほーん?

 お手伝い、なんて言ったが、角とかに引っかかったホース外したり、水の掛かってない所知らせたりくらいなもんだが。

 

 雑談ながらに例の事件の進展を聞いた。

 犯人は無事命も助かり、元気に全部まるっと白状したらしい。

 曰く。

 家業で育て屋してたが、昨今のポケモン育成事情もあって仕事が上手くいかず、廃業とか土地がどうとか、抵当だ質だ一家離散だとかの紆余曲折を経て、その黒幕がかつてはイッシュだかどこだかの金持ちのわがままお嬢様の依頼だとかどうだかの……とにかく濁しに濁しまくったけど濁し切れてない人間の良くないところのお話。

 ヮ…………後日談があるとなんでか成功と失敗が目に見えて来ちゃうやつ……どこぞの菓子とか…………よく知らんけど。

 おれが戦々恐々してたらハッサク先生は、誤魔化すように話を変えて、アオキさんの良いとことちょっと悪いところと面白いところを聞かせてくれたり、そもそもの人間というのはぁ!の人生相談などして貰っていた。いや、ポケ生相談…?

 「小生も昔はヤンチャしてたのですよ」って、一体どんなヤンチャボーイだったんだろう。元ヤンって感じの印象は、少なくともセイジ先生よりは受けないけど。

 少し前に機会があって見せてもらったセイジ先生のドンカラス、中々の威圧感でござった。並ぶとあくタイプが見える見える……彼がにっこり笑うと霧散するけどね!

 

 とまあ、やけに前衛的なジョウロとホースの作者の、ハッサク先生のご友人の自慢話を聞きながら畑仕事していたそこに、朝練に来たネモちゃんが、おれたち……正確にはハッサク先生に目をつけて勝負を仕掛けてきたが断られ、代わりにとフカマル先輩の薫陶を受けるに至った。

 どういう話の流れぇ?

 詳しくどういう経路でそうなったかは、おれがモモンのみをつまみ食いしてるうちに決まっていたのでわからない。

 四天王に挑む前に、調整してるとネモちゃんは言うが、バトル前の調整って何すんの?

 

「戦う前に、手持ちのタイプ、技構成、受け方……etc…考えることは沢山あるんだよ! 実際組んでみて、ちょっと戦ってみて、比べてみたり……そういう細かい作業かな? もちろん、今の子達でもう大体決まってるけど、考えれば考えるほど新しい事や面白そうな事が思いついちゃって、もう、すっごく楽しいよ! あ、でもやっぱりバトル本番が何より楽しみだけどね!

 そして何より、挑む相手は格上!ならしっかりと予習!!しなきゃね!

 チャンピオンテストは言わば、試験の大詰めだもん。実際のバトルでの戦術ももちろんだけど、そこに至る準備がいかに出来ているかだって試験なら大事なんだよ!」

 

 とのこと。確かに?わざわざアカデミーに四天王置いてたり、チリちゃんポピーちゃんオモダカさんも、注目されてるトレーナーとかにわざわざ会いに行ったり噂聞いたりしてるらしい。

 アオキさんって、そういう噂話集めとかさせられてるのかな。こないだマジマジと見たけど、靴とか凄い(きっちゃな)いかったし。くたびれ感に拍車かかってんよ。

 

 で。

 ハッサク先生は四天王であり、教師であり、明言してされてのドラゴン使い。どんなポケモンを使うか、までは言わずとも、そもそも強いドラゴンタイプを使いこなせるのは間違いない。

 あわよくば一匹くらい何を使うか教えて貰えるかなと画策してみたが、そうは問屋が卸さない、と。

 かわりと言っちゃなんだろうが、どういうわけかこの受け身特訓が始まっていた。やっぱり何が起きたかわからん。

 ハッサク先生の手持ちなぁ。確かかっちょいいオンバーンくんちゃんとハイパーラッセルリーダーセグレイブさん使ってたぜ。

 

 ハッサク先生があのフカマルをフカマル先輩、と呼ぶから、自然とネモちゃんもフカマル先輩と呼んでいる様だけど、何があってあのフカマルが先輩になったんだろうか。

 先程聞いた話と学生達の囁かれた噂を合わせた想像によれば、ハッサク先生ってば若い頃に故郷を飛び出し、「俺は音楽で食っていく!」と二十歳前後に良くある何かへの反発と自分への絶対的な自信でもってヤンチャしてた時代に一緒に故郷を飛び出した破天荒先輩こそがフカマル先輩なんじゃないかという……先輩、何歳?

 

「指示もなしに、こんなに動けるなんて……!パーモットも何か掴めそう!あの子がフカマルでいるのには、何か理由があるんですか?」

「小生も、先輩には教えて頂いてばかりですからね。充分進化に足るだけの経験はありますですが、フカマル先輩なりに拘りがあるのでしょう」

 

 それも噂されてたな。"かわらずのいし" か "しんかのきせき" ……とかの石を、飲み込んじゃったかなんかしたんじゃないか、とか。

 なんにせよ、ドラゴンタイプのエキスパートと呼ばれるハッサク先生でも、決して強くなるためのポケモンばかりを連れてるわけじゃないらしい。

 トレーナーの相棒ってのは、どんな風に決まるんだろう。いやいや、そりゃ人それぞれか。

 ピカ様とか、ポッチャマとか、ニャース、グレッグル……トゲピー?

 強いトレーナーだって、小さくて可愛くて、それでいて強い相棒達を連れてるもんなぁ。

 

 グラウンドでのポケモンバトル、ちょいちょいみかけますけどね。

 指示に合わせて避けただの、気合いで状態異常治すだの、褒めてもらおうとしてみたり、かなしませまいともちこたえた!りと…………

 結局信頼か!!仲良きことは美しきかな、羨ましいぞ!

 

 

――――――――――

 

 

「そうだ、テラスタルの授業でフカマル先輩のテラスタイプが変わってたのって、チャンプルタウンの宝食堂で変えたんですよね?」

「ええ。ネモさんも利用の許可を貰っていたと伺っておりますよ」

「はい!…… でも欲しいタイプのテラピースが集まってないんです!何か、集めるコツとかって……ゾロア?どうかした?」

 その、今テラスタルとかテラスタイプ……っての聞こえたけども。こないだからテラと名の着く、妙な現象についてよく耳にするが、おれ、それ知らないのよね。

 それがあのきょうだいたちに起きていた事なのならば、説明を聞かせて貰いたい。

 という視線で、会話中のネモちゃんの靴をふみふみしたらシームレスで気付いて抱き上げてくれた。

 

「そうでしたね。ゾロアさんは他地方から来た可能性が大きいのだそうです。テラスタル、という現象がどんなものを指すのか、分からないのかもしれません。

 フカマル先輩!少しご協力お願い出来ますでしょうか!!」

「 パーモット!戻ってきて!!」

 

 うわ二人して声デカ……ハイパーボイスかよ……

 

「フカ」「ぱもも」

 

 ぱほぱほと、お互いの砂埃を払いながら目の前まで戻ってきた二匹。お疲れ様ですやで。

 朝一ご挨拶はしたが、改めて近くで見るとやっぱりパーモットがちょっと大きい。

 フカマル先輩の横に立ったハッサク先生が、作業用の手袋を外しながらコホンと一咳。授業中みたいな声に整えた。

 

「テラスタルというのは、このパルデア地方でのみ確認されている、ポケモンが光り輝く現象です。タイプの力を強化するもので、そのまま本来のタイプの力を強化したり、ポケモンのタイプを変更したりも出来るのですよ」

「ゾロア、ゾロア。これがテラスタルオーブっていうとっておきのアイテム!これでポケモンを"テラスタル"!するんだよ!」

 

 ネモちゃんが間近で見せてくれた、黒っぽい、モンスターボールっぽい形のそれ。中に何かの結晶が入っていて、底に穴が空いている。

 仕組みはハッサク先生曰く、大気からテラスタルエネルギーとやらを集めて、ポケモンに向けて投げつけることによりエネルギーをぶつける…………危なそうな言葉しか聞こえねぇな。

 

「フカマル先輩。ゾロアさんがテラスタルというものを見てみたいそうなので、ご協力お願いしますです」

「フカフカ」

 

 ちらりとネモちゃんの腕の中のおれを見上げ、両手を振って頷いてくれる。

 よろしくお願いしますですやで〜。

 

 グラウンドのバトルコートに移動したハッサク先生とフカマル先輩。行きますよとの声の後、両手でしっかりと持ったテラスタルオーブを起動したのか、風が突然吹き始めた。キラキラした光の欠片と、ハッサク先生の髪と服がはためいて、風がテラスタルオーブに集まっているのを目に見せてくれる。ものすごい風で、ネモちゃんがちょっとフラついたのをパーモットくんが支えるくらいの。

 ……比喩でもなんでもなく、あのキラキラした欠片ってマジで光なの? 吸い込まれた後、なんだか辺りが薄暗いような?

 

 ハッサク先生がヒョイと軽く左手で放った輝く玉を、コツンと額で受けたフカマル先輩。

 バキバキメキメキ、どこからともなく生えてきた六角柱の結晶がフカマル先輩を覆い、驚く間もなく砕け散った。

 

「キラフカ……」

 

 いつだかに見たような、スワロフスキー製ですみたいな、キラッキラのフカマル先輩が、砕けた結晶の欠片を散らしながら現れる。頭の上には、緑色と色とりどりのお花を象った、生け花みたいなでっかい結晶。

 

 ははぁ、これがテラスタルかぁ。

 テラ……照らすとクリスタル……ってこと?

 

「これが、テラスタルですね。この時、テラスタイプが頭の上で王冠のように輝くこちらのテラスジュエルで判別できるのですが……さぁネモさん、おさらいです。このフカマル先輩の素敵なテラスジュエル、何タイプでしょうか?」

「はい!くさタイプです!」

「正解です!流石はネモさん」

 

 草生えてるもんな、そうなるか。ドラゴン、じめんタイプのフカマル先輩がくさタイプ?

 タイプ相性とか変わって、そういうのを考える必要があるのか。バトルが好きな人は考えること増えてそう。ね、ネモちゃん。

 ドラゴンタイプとくさタイプ、こおりが効くのは変わらんね?

 

「テラスジュエルの形は、テラスタイプによって変わります。慣れるまでは形や色で判断してみるといいでしょう」

 

 ん?じゃああのゆうれいは、ゴーストタイプってことか?

 ゴーストタイプ……であのゆうれいって、わはぁ、ちょっと怖いなぁ。ガラガラのお母さん……シルフスコープってあるんだろうか。

 どういう基準で、そのテラスタイプってのは決まってるんだろう。

 

「ねぇ、ゾロアは自分のテラスタイプ、気にならない?」

「きゅっ?」

 

 自分のテラスタイプ?

 ネモちゃんが、テラスタルオーブをにぎにぎ上げ下げしている。それって、自分のポケモンじゃなくても使えるものなの?!

 いや、そうか。メガ進化だのZワザだのと違って、トレーナーとのキズナが大事とは一言も言ってないか。

 …………それはちょっと寂しいが、ともかく。

 

 テラスタイプかぁ。何で決まってるのか気になるね!確かにおれのはなんだろう?きょうだいと同じく、ゴーストタイプかな!

 やってみたいけど、痛かったりするなら嫌だ。

 フカマル先輩そこんところどうなんです?

 

「キラフカ」

 

 鳴き声どうしたんすかキラフカ先輩。パタパタと短い手を上げ下げして大丈夫ですと体を揺らしてくれている。大丈夫らしい。

 

「きゅぬ!」

「おお、やる気!!」

 

 じゃあ早速、とバトルコートに連れ込まれ、中心におれを置いて、ネモちゃんが少し離れた。パーモットくんがネモちゃんの前で気合い入れて…………いやおれ戦いませんよ?

 バトルコートの反対側に靴の音。そのハッサク先生の方をみると、何故かフカマル先輩とは違うボールを構えている。目と目が合うと、にこりと笑顔を向けられた。

 ……んん?

 

「行っくよ〜!」

 アッハイ

 

 ネモちゃんはしっかり突き出したテラスタルオーブと右腕を、左手で支え、オーブの起動で起こった風にフラつきながらも耐えている。ハッサク先生は顔を顰めるくらいだったが、ネモちゃん意外と体幹弱めか?

 あれって、起動中に手放したらどうなるんだろう。

 

 薄暗い中を、輝く玉が緩やかな山なりの軌道でおれに向けて飛んでくる。ボールで捕獲される時って、こういう景色なんだろうか。

 コツンと意外と軽い音と、額に衝撃。視界が光に包まれる。まぶしっ……

 

 ばきばきと、音を立てて結晶に包まれた。氷漬けな気分。

 むむ、確かに痛くは無いな。

 

 閉じた瞼を貫通して目映い。これいつ終わるの?

 

――……おーい、もう出ていいよー!

 

 くぐもったネモちゃんの声。あ、おれが動けば砕けるんですか?

 や、でもこれ……固……硬いんすけど……足とか動かないんすけど……

 

――……あれ?ゾロアー?

――出てきませんね、何かあったのでしょうか?

――え!たいへん!ゾロア、ゾロアー!出ておいでー!でないと砕いちゃうよー!

 

 ネモちゃんの声が慌てている。まーたおれってば誰かに心配かけてぇ……砕かれたくないですおれも出たい。

 ぐぬぬ……ぬぐぐ……最近専らぐーたらしてたが、卵から産まれたてでも戦えるのがポケモン……!踏ん張れ!がんばれおれ!

 

 

「きゅ……あんぬ!」

 

 

 がっしゃんばらりと砕けた音。

 気合いで足に力を込め、飛び上がったら、真っ白だった視界が開けて、目を腕でガードしたネモちゃんと、それを庇うように立っているパーモットくんとハッサク先生とキラフカ先輩。

 

「きゅぬっ」

 着地!

 無事出れましたやで!

 

「おー!おー!! ゴーストタイプじゃないんだ!」

「これは……あくタイプですか」

 

 二人しておれの頭上を見ている。おれも目を上に向けても、テラスジュエルは見えない。上を見るのに頭を上げたら、それはそう。

 

 でも、ハッサク先生いわくの……あくタイプ?………………ほな変わってないじゃん!!

 

 頭が別に重い訳じゃないが、足元に目を向ければ、おれのまんまるおててがきらめいている。オッヒョ

 しっぽも、胴体も、全部キラキラだ。硬そうな見た目のくせに、動く感触は変わらない。走ってみれば関節部分とか擦れた部分が、キラキラと欠片になって散っては消え散っては消え……どこに消えてんの?

 

「アハハ!クルクル回ってる!自分の尻尾がキラキラしてて、ビックリしたのかな?」

「嬉しそうでなによりですよ。わざが使えないと聞きましたが、何かやってみてはいかがですか?」

 

 そ、そんなリード見せられた散歩好きの犬でもあるまいし……テンションは上がったけど。

 バッチコイとキラフカ先輩が仁王立ちからの、片手をこちらに向けて構えを取った。ちょうはつ……?ではなさそうだが。

 何か……何か?えーと、えーと。あくタイプ……

 

「きゅ、ぎゅぬ!」

「フカ」

 

 精一杯のこわいかおでにらみつけてみたが、涼しい顔で首を振られた。何?変化技ではなく、攻撃して来いって?

 えーと……なら…………かみつく!「フカ」

 

 なんとか背後に回り込み、先輩のフカヒレに噛みついてみたが、即座に身震いだけでぷるんと呆気なくおれの口は離れ、さらに額に軽く頭突きされておれは地に沈んで呆気なく終了。

 二回攻撃とは卑怯なり……

 

 噛み跡くらいはあるかと思いきや、先輩の煌めくワサワサ花束の後ろで輝くフカヒレは、おれのヨダレでテカってるだけである。

 

 うーん、これはしょっぱい。気分的な意味で。

 

「フカ……」

「あー……そういう……」

「うん……、うん!勢いとガッツは満点ですね!伸び代充分でございますですよ!!」

「ぱもも」

 

 コラコラコラ!先輩はなんか申し訳なさそうな顔するな!凄く手加減したつもりだったんだけど…って顔するな!!

 人間達もかわいそうなものを見る目で見るんじゃない!

 パーモットくんは頭ぽんぽんして励ますな!

 

 

 だから、おれはわざなんて知らねぇって!!!!!

 

 

 





アマモの主人公くんちゃんのもとにジェネリックニキが来るまでゴネるという噂




応援よろしくお願いします(プルピケ山道ランニングフォルム)


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美人は好きで高尚は得意でない


は、春〜!(五日前に積雪)

春眠暁を覚えらんないし処処くしゃみが聞こえるし夜中に鼻が詰まって起きてるしオールウェイズ眠いですね

目の方に出るタイプです





 

 

 

 はわわ……

 

 揃えた細い指がおれの背中を撫でている。

 大変に丁度いい手つきで心地よいんですがね、それ以上に動いちゃいけない気配に身動き取れないまま、かれこれさてはて。

 夜に校長室ですやぴぴしてたら、ざわざわ賑やかになってきたので、なんやなんやと顔を出したらオモダカさんとばっちりばちばち目と目が合い……ガッチャと捕獲されたのである。

 はわわってかもう はっちゃれもへもへ……ポピーちゃん久しぶりに会いたいなぁ。

 

「フフ……やはり大人しいですね。いい子です」

 

 はい。オモダカ理事長の膝に抱かれてるなうです。

 手つきも声色も表情も、全てが優しさを感じるのに何故か怖い……オヌシ 特性 プレッシャーか?

 

 いや、たぶんおれがこういう意識高い系完璧美人成人女性が苦手なだけだと思われる。どう接していいかわからんのだ。

 キハダ先生やミモザ先生くらいの美人はノリが軽くて取っ付きやすいし気軽に行っても気軽に返してくれそうだからいいのよ。無邪気なポケモンのフリできるのよ。

 全てを見抜いてきそうで、オモダカ理事長にはどういう態度で行けば……ビジンにドギマギしてるわけじゃないもん。オモダカさんが怖いだけだもん。

 

 なんでアカデミーにオモダカさんが?と言えば、理事長たる彼女直々に、ここ最近の事件に伴うパルデア地方パトロール用人員にと新たに雇ったポケモンレンジャー達との連携の連絡を伝えに来たそうな。

 その他、ジニア先生が穴の底在住の博士と共同開発したレイドテラスタルの放出エネルギーの計測装置と、実際のマップとで組み合わせたリアルタイム更新されるレイドマップの実用試験だとか、アカデミーの本年度の学生の様子と新人教職員達の勤務状況…………と。

 

「無事、新チャンピオンも誕生しましたし、これから少しずつでも明るいニュースが増えると良いですね」

 

 一番はやっぱり、ネモちゃんのチャンピオンテスト合格の報せだろう。

 今朝に張り切ってそらとぶタクシーで飛んで行ったネモちゃんは、その日のうちにチャンピオンとなったらしい。

 知らせだけは一足先に届いていて、お祝いにと、サワロ先生のお手製ケーキとデザート祭りで夕方からアカデミー総出のお祝いムード満載。学生も先生方も巻き込んでのやんややんやに巻き込まれていたりする。

 気軽にぱーっと、軽くて楽しい空気にできるチャンスを窺ってたらしい。

 

 合格を知らせに飛んできたネモちゃんは、家族に吉報知らせてきますと飛び出して行ったので当人不在なのだが、パーティームードは継続し……感動に滂沱の滝を作り咽び泣くハッサク先生とちょっと悔しそうなチリちゃんとポピーちゃん、ややいつもよりくたびれたアオキさんを連れ立って現れたオモダカ理事長に先生方がみんなしてほんのちょっぴり動きを止めたのは……うん。驚き半分、苦手半分かな?

 

 酒も入って更にテンションと感情ぶっ壊れてんのかって勢いで泣いて笑って感動して喜んでを繰り返すようになったハッサク先生以下皆々様を連れて、教職員は飲み会に行き。(ポピーちゃんには労いの言葉とお菓子と与えてゆっくり休めと早々に帰宅)二次会組と別れて戻ってきた、校長と理事長お二人のお話…………ってワケ。

 

 先生たちがみんな結構若いってのもあるんだろうけど、ノリが……大学生なんだよなぁ…………お祝いにかこつけて呑む隙あらば呑め感。

 

「油断も加減もしていませんでしたが、負けてしまいました。見事な輝きで……これからに更なる期待ができます」

「入学前からずっと、バトルについて真剣に取り組んでいたそうです。ようやくの入学と来て、しっかりとした計画の元、努力したのでしょう。何よりあの情熱……決して才能だけではない。

 本当にネモさんはよく頑張りました」

 

 うんうんと、二人して頷きながら、オモダカさんはおれのこと捏ねながら。

 

 元気いっぱい天真爛漫溌剌爽快バトルマニア美少女の見た目に騙されたけど、実はネモちゃんちょっと結構体が弱くて、体力に不安なところがあったらしい。宝探しでこの広いパルデアを駆け回れるか、関係者一同みんなして心配してたそうな。

 そういえば、地元の子であんなにポケモン(バトル)が好きで、お金も心配ないのにあの年齢でアカデミー一年生、って、確かに考えてみれば何かしらの事情がありそうだった。

 年齢制限無しのアカデミーに騙されただわね。なおいまだにご高齢の方の学生制服(短パンのすがた)は慣れない。

 

「初年度前半は一先ずこれでひと段落ですね。長期休暇明けに、再度宝探し開始まで暫くありますが、その間に調査は間に合いそうですか?」

「対策アプリや対応マニュアルの周知は間に合うかと。ただ、痕跡が残らない以上、実物が出現、または実際に起こらなければ今わかる以上の事を調べられません」

「そうですね……起こらないに越したことはありませんが、状況を聞く限りでは……そういえば、ゾロアの情報は何か手がかりがあったのですか?」

「そちらはジニア先生がシンオウ地方の調査チームと一緒に調査を進めてくれています。やはり、当時のシンオウ地方に生息していたゾロアの、リージョンフォームではないかと……現在も、実際の個体はこのゾロア以外見つかっていないのですが。

 ああ、より詳しく調べるためにと、ジニア先生から長期休暇中にシンオウ地方への出張申請がされてます。意見交換会も行いたいとのことで、何人か希望者を連れ立って行きたいと」

「それはいいですね。許可します。費用も予算を出しましょう」

 

 ほう。っていうか、長期休暇?

 壁のカレンダーを見る。少し先の日付の所に赤い丸が、一週間強ほど続けて並んでいた。

 学校の夏休み的なやつ?

 長さ的にはどちらかと言えば、ゴールデンウィーク的な。

 そりゃ先生方も休み必要かぁ。でも話聞いてたらこれ、ジニア先生休みじゃなくて出張?

 休みはちゃんと休みなさい!

 

 

「…………ああ、ならば丁度いいですね。ゾロアも連れて行ってみてはいかがでしょう」

「きゅ?」

 ヒョッ?

 

 何が丁度いいんだ……?や、おれも故郷らしいと聞いてシンオウ地方気になるけど。

 住んでた所が何と呼ばれているかを、人と出会わなかったおれは知らないのだ。でも遠くの景色や匂いや住んでる他のポケモンは、見覚えがあるかもしれないしね。

 でも、そんな気軽にアカデミー……そしてパルデア地方出ちゃっていいの?

 

「ゾロアの生息地がそちらにあるなら、ゾロア本人に見せれば何か分かることもあるでしょうし。

 もしかしたら、おやが見つかるかも知れません。

 

 もちろん、保護下を離れるのであれば、相応の保護は必要ですが」

 

 と、にっこりとボールを示してくる。ひぇ

 何かと最近、みんなしてボールコワクナイヨー、トレーナーイイヒトヨー、お外タノシイヨーとボールに入るのを勧めてくる。いや、別に嫌じゃないんだって。嫌じゃないけどさぁ。

 トレーナー……というか人間様方、変にある意味選り取りみどりで、一長一短、びったりガッチャと嵌る方はおらんのである。

 そこまで推すなら、もういっそ無理にでも捕獲してくれれば諦めもするんだがなぁ。

 みんな優しいから、甘える余地があるのが悪い。うん。うん?そう。

 

「ジニア先生と一緒に行くメンバーが決まり次第、連絡を。詳細は後日、詰めていきましょう。

 今はもう暫し、新チャンピオンの誕生を喜びたいのです」

「ええ、ええ。もちろんです」

 

 最後におれの頭から背中まで、するりとなめらかに撫でて、オモダカ理事長はおれを降ろした。帰るらしい。

 

「ゾロア。あなたはボール嫌いというわけではないようですが、ニンゲンからアドバイスをひとつ……いえ、ふたつほど。

 信頼の形は様々です。目に見えるものは分かりやすいだけで、繋がること自体は誰とでも可能。例えボールの本来の持ち主が、誰であっても……最高の出会いはいつでも起こりうる。捕獲されたからその人の元に居なければならない決まりはありません。そう難しく考えなくともいい。

 そして、もうひとつは……これは意外なのですが、アオキはあなたのことを殊の外、気にかけているようなのです。個人的には、あなたが彼と接していく事で、あなたにもですが、アオキにもどう作用するのか楽しみである、というのがありまして。

 ちなみに、このオモダカでもいつでも大歓迎ですよ」

 

 最後は冗談めかしてにこりと……、一番自然に笑って帰っていった。

 クラベル校長も、「ちなみにこの校長も、いつでも大歓迎ですとも」とぞメガネをくいくいしながら言うておった。

 とはいえね?

 

 

――――――――――

 

 

「ゾロアちゃん!!」

 

 ポピーちゃん!

 

 広げられた腕に飛び込む。ポピーちゃんの小さい手と腕では、抱くというより抱えるといった感じ。

 クラベル校長にまでにブラッシングされた、つやつやもふもふのおれの毛に子ども特有の甲高い鳴き声じみた歓声を上げながら頬擦りしてくる。ふははは。存分に堪能するがよいさ! おれも子ども体温堪能しちゃるからな!

 おれから触るのはね、ノータッチのルールに違反するのでね、ダメです。

 ただ相変わらず、撫でくりやわさわってより、こう…………揉みこみ捏ねくりって力加減ね。

 

「おーおー、かわいーいやないの。仲良きことはええこと、かな!」

「美しい光景でございますですね」

 

 ネモちゃん新チャンピオンランク到達おめでとうパーティー翌日の、まだ空気がふわっふわしてるアカデミーに、チリちゃんとポピーちゃんが現れた。

 ハッサク先生と合わせて、これにて四分の三天王が校長室に集結である。

 

 四天王、あと一人とだけ会ってないんだよねぇ。いったい、どんな人なんだろうか。

 

「北側は改めてグルーシャさんとライムさんに監視をお願いしてあります。北の一部を含む東エリアはハッサクさんとチリさんに、南西エリアを自分とポピーさんが担当となりました」

 

 んであとオマケにいつものアオキさん。

 彼も来て早々におれをひとなでして以降、近付いて来ないが、目線だけは相変わらず物言いたげな目である。

 

 ええい、今はそれどころじゃない!おれは今、ポピーちゃんと鬼ごっこで忙しいんだ!

 

 キャッキャと校長室の研究スペース側で、机を障害物に鬼事なぞ。尚、室内なので速度控えめなスニーキングな隠れ鬼ごっこパターンね。

 大人たちがお金関連のむつかしい会話してる間、暇そうだったもので……へへ

 

 今回の宝探しでチャンピオンランクにチャレンジする、というネモちゃんと同じお宝の探求を選んだ学生達のデータのまとめと、四天王やジムリーダー、リーグスタッフから見た、今回の宝探しの良かった所と問題点や改善点の要望やらとを、委員会側でまとめて、持ってきたのだそう。

 事件のこともあって、ちょっと上手く回らなかった所とかもあったのがなぁとはチリちゃん。んでも、それは仕方なくない?

 

 いやしかし、リーグの営業って何するんだろうと最初は思ってたけど、ジムリーダーもやってるのにこんなに色々動かされるんだなぁ。

 人手不足からくるブラック待ったナシじゃん。

 

「次のジムチャレンジには、各ジムリーダー、職員毎にある程度自由にさせてもええんやないかなって思ったんが一個な。

 カラフジム、ハイダイさんに連絡取れんくてジムテストが滞った時あったらしいんよ。あとはボウルと、セルクルも初めの頃も?」

「セルクルジムもボウルジムも、宝探し開始に真っ先に皆さん向かいますからね。今回はリーグ委員をこちらの事件調査に回していたため、純粋に人手が足りなかったのでしょう。前半は、北側のジムから応援を回していてもいいのかもしれません」

「ハイダイのおじちゃん、よくスマホロトム忘れちゃうって言ってたのです!」

 

 おれを確保して戻ってきたポピーちゃん。おれを追いかけながらも、話を聞いていたとは……オヌシやりおる。

 

「………………調理中や接客中にスマホロトムを利用するのが難しい、というのも、わからなくもないですが……そもそも彼は度々、ミガルーサのごとき勢いで一点集中してしまいがちな方です。

 あそこは、職員にある程度自由な裁量を許してもいいと思います」

 

 結論:圧倒的、人手不足……!

 裏方から支えてくれる人って、やっぱり大事なんスねぇ。

 

「ふむ……今回は例年に比べて、ジム突破率が低いですね」

「せやなぁ。面接まで来れたん、覚えてるだけでも片手で足りるで」

「実際数が少ないです。毎年、チャンプルジム前後で脱落者が多いものですが、それにしても……」

 

 面接……面接?

 チャンピオンに挑戦するのに面接あるの?

 おれをもちもち捏ねていたポピーちゃん曰く、チャンピオンテストは三つの試験があり、一次面接、二次実技、最終でトップチャンピオンとのバトルとなってるそうな。

 面接……??

 

 レッドさんみたいな無口コミュ障バトルに才能極振り勢が、チャンピオンになることが許されない……ってコト?!

 

 や、まぁ、あの主人公だいぶやべー奴だったし、半袖で雪山登っちゃうような人だし……昨今の、実力派はメディアに出ましょうねぇの流れ狙ってるんです?

 

 そしてアオキさんよぉ、チャンプルジムってアオキさんのジムっておれ覚えてるんですが、それは。

 あんた学生達何人落としてるんです?

 

 ペラペラと、わざわざ紙面で渡された資料を読みながら話を聞いていた校長が、首を傾げる。

 

「…………テラスタルオーブの使用率が、あまり高くありませんね……?」

 

 テラスタルオーブ。ネモちゃんやハッサク先生がこないだ見せてくれたやつか。使用後は特定の場所でチャージが必要だとかで、大抵はひと試合に一回だけしか使えないらしい。

 切り札的な感覚だと思うのだが、ジムリーダーとのバトルでも使われてないの?

 ここぞ!って時の代名詞じゃない?

 

「そういえば、ジムでもあまり使う方がいませんでしたね。受講率は下がっていないんですか?」

「ええ、例年とほとんど同じです」

 

 受講……?

 

 これまたおれが首を傾げてるのを見たハッサク先生曰くのこと。

 

「テラスタルオーブは使い方や注意点などを、簡単にですが説明する授業を設けているのです。受講して頂いてから配布しているのですよ」

「通常であればアカデミーの基本授業として、誰でも受講可能です。希望者や推薦等で、学生以外でも受講できますからね。ジムチャレンジするにあたって、持っていないという方はそう居ないと思うのですが」

 

 ふぅん?

 使いどころが分からなかったとか、そんなんかな?

 

 テラスタルがバトルにどんな有利な状況を作れるのか、イメージが湧きにくかったのか?とか、もっと実践的な利用方法をバトル学でコマ取って貰おうかとか、なんとかかんとか。

 ポケモンバトルは大変奥が深いので、おれはちょっとそこら辺はようく詳しくないし、あんまり興味がない。技の構成〜とかタイプだ特性だ努力値だ〜ってのは、ロクに考えたことないからなぁ。

 面白い現象だとは思うけどね。結晶が体に付いてるように見えるのに、動くのには困らない、とか。ありゃ宝石なのか石なのか。

 石と言えば、どこぞのいちばんつよくてすごい御曹司が思い浮かんだけれど、彼は元気に過ごしている時間軸なのかな。

 他の地方の話を聞かないもんでよ。パソコンとかスマホとか、ネットで気軽にポケモン交換、なんてやってるからには、少なくともロケット団の話は終わってるんだろうけど。

 

 そういう意味では、シンオウ地方興味あるな。ギンガ団がやらかした後なのか、前なのか。

 やった後なら、ワンチャンディアパルたちが主人公くんちゃんに捕まってるかも?

 

 ………………いやいや、そもそもゲーム次元なのか?

 アニメ次元とか、マンガ次元だったらフィジカルも運命力もおかしい主人公くんちゃんなんて存在しなくなっちゃうが……

 

 

 悶々ぐるぐる、考え事していたら、おれの頭のぴるぴるした青い毛をむんずと掴まれ、ビックリして飛び上がってしまった。なんもしてなくても些細なことでゆらゆら揺れるので、興味本位の好奇心で掴みたくなるのはわかるけどね、いくらポピーちゃんでも鷲掴みは勘弁ですわ。

 いや、ひと言言ってからならいくらでもお触りくださいなんですけども。

 

 

 やってくれたなぁ!の気持ちも込めて、ぷるんと小さいもみじみたいな手をすり抜け、物陰に隠れる。

 

 そして再度始まる鬼ごっこ。机の下での攻防はどちらかと言えばモグラ叩きか。

 

 クラベル校長も、チリちゃんもハッサク先生も、あらあらうふふな暖かい目なのだが、一人疲れきった無感動な目がおってな。

 ゾロアのくせに俊敏性足りんとか言いたげな目だな、アオキさんよぉ。

 違う?騒がしいって?かわいいの間違いじゃろがい。

 

 

 とはいえそんなに大騒ぎするつもりもないので、ポピーちゃんの頬がちょっとだけ赤らんで来た頃見計らって少し動きを止めるなどしてみる。

 「捕まえましたの!」と、すかさず歓声を上げたポピーちゃんに捕まり、ぎゅうと抱きしめられた。

 これは速さを手加減してたのであってね?おれも疲れてきたしって訳じゃないのだよ。

 いやちょっと疲れたかもしれん。

 

 などと、きゃっきゃきゃいきゃいぷるぷるしていたら、不意に校長室の扉が開いた。

 

 

「アオキさんが来てると聞いたのですがアッ……ととと」

「きゃ」「きゅっ」

 

 

 いつも以上のボサボサ頭に、寝ぼけまなこのジニア先生が、開けた扉からそのまま入ろうとして、その真ん前に居たポピーちゃんとおれにぶつかりかけてたたらをふむ。

 

 そこまでは見えていたんだが、次の瞬間には、おれの視界は薄暗いどこかになっていた。パカとかコンコロとか音がした気がするが……

 

 

 …………………………はにゃ?

 

 

 






ニャオハさん、『はにゃ』はあざといが過ぎますよ。ほげわもくわぷるも可愛いけども。


そろそろパルデアを冒険したいけど同時に飛び出してみたくもあります



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便利なのは好きでも古いのも好き


サトシ〜!!!!お疲れ〜!!!!!!!!

タイムカプセルとかいうシステム久しぶりに見ました



 

 

 ころりと転がるヒールボール。

 

 ポピーさんの腕の中にいたはずのゾロアはいなくなった。

 

「え、え、ええええ」

 

 不自然に突き出した手が行き場のないまま固まっていたジニア先生だが、ボールの揺れが収まった辺りでようやく動き出し、抱えていた荷物を放り出して転がっているヒールボールに駆け寄る。クラベル校長も、チリさんとハッサクさんも顔を見合わせていた。

 

 ………………もう嫌な予感しかしない。

 

 

「……ゾロアさあん?」

 

 恐る恐ると言った様子で、ヒールボールへとジニア先生が声をかける。ぐらりと一度、ボールが揺れた。

 その場にいた全員が、ジニア先生を見る。大きく首を横に振るのは、自分が捕まえたわけではない、と言いたいんだろうが、その結果、彼に向けられていた視線が自分へとシフト。自然、肩が下がるのを自覚する。

 

「…………確認ですが。このヒールボール、例の『何か』のボールでしょうか?」

「はあい。何かを捕まえたと思われる、アオキさんのヒールボールですねえ……」

「ほーん? ほな、アオキさんが開けたったらええやないの」

「いえ、しかし……」

「もし『なんか』が出てきてしもうても、問題は部屋ん中やって事だけやし?」

 

 困ったように眉を下げて笑うジニア先生。チリさんに力強く背中を叩かれ、仕方なしに転がっていたヒールボールを自分が拾った。ボタン周りが光っている。

 

「…………」

 

 ジニア先生やポピーさんが避けたスペースに軽く放るが、コンと軽い音をたてて弾むだけで、ヒールボールはころりと転がった。

 再度拾い上げ、開閉ボタンを押しても、変わらず反応は無い。

 ぶるりと、手の中でボールが震えた。

 

 顔を上げると、その場の全員の顔色が悪い。

 自分の表情もきっとそうだろう。

 

 

 おかしな調子の、開かないボールに、あのゾロアが吸い込まれてしまった。

 

 

 一番早く再起動したのはやはりチリさん。わなわなと震え、血相変えて叫ぶ。

 

「アカンやん!」

「はぁ、開かないだけに」「言うとる場合か!!」

 

 ヒールボールをそのままチリさんに奪い取られ、別の意味で壊れそうな勢いでボタンを連打しているが、アカンボールはうんともすんともいわない。あわあわと戸惑っているポピーさんと、何か決心したようなハッサクさんがおもむろに取り出したセグレイブの……流石にそれは止めます。

 

「あのボール自体、開閉機能を含めて色々な機能が壊れてるので、中身を移し替えしても良いかを聞きに来たんですがねえ…………いやあ……

 ええ……どうしましょうねえ」

(はな)から壊れとんのかい!!ほな意味ないやないの」

「正確には、内部データの破損でボールの機能が正常に働いてないと言うか……結局壊れてますねえ」

「移し替えでどうにかなるなら、試してみては?」

 

 という訳で、ゾロア内包ヒールボールと空のヒールボールをジニア先生に預ける。同じ種類のボールなのは、念の為合わせた結果。

 機器を操作するジニア先生の後ろで、心配そうにウロウロと手元を覗き込もうとするポピーさんを回収。我々が見ていた所で、何も変わりはしない。

 

「ゾロアさん、大丈夫でしょうかー……心配ですの」

「大丈夫大丈夫。問題ないやろ。古いのが壊れとるんやら、新しいのに取り替えたったらええんやもん」

「ええ、ええ。きっと大丈夫ですよ。

 にしてもいやはや、小生、機械にはそれほどくわしくありませんが、モンスターボールの機能が壊れる、と聞くと、少々投げる力加減に困りますね」

「昔は本当にポケモンを捕獲するだけでしたが、最近はどんどん機能も増えて……、元々生半可な威力では壊れないようにもなってますがね。それでも一応機械ですから」

 

「…………」

 

 心配そうなポピーさんを安心させるように、各々で別の話題にすり替えて行く。……しかし、ボールを受け取ったジニア先生の苦い顔をを見る限りでは、あまり良い結果にはなりそうもない。

 中身のデータが破損している以上、それを移した所でその先も正常に作動するかは…………

 

「うん、やっぱり開きませんねえ」

 

 だろうなと。

 

 困った顔で笑うジニア先生の手にしたヒールボールに、薄々勘づいていたクラベル校長が首を振り、誰がついたかため息が。自分もさらに肩が下がった気がする。なで肩待ったナシである。

 

 さて、どうしたものかと改めて皆席に着く。

 

 新しいヒールボールに移されたゾロアも、以前『何か』を捕らえた、今は空のヒールボールも、チリさんやハッサクさん達の手の中で矯めつ眇めつ転がされているが、時折中でゾロアが何かしているのか、動いたり、光ったりするものの、開く気配がない。

 

「データ自体がおかしくなってしまっているのでしょう。一度外に出して、逃がした設定に直せばあるいは……」

「ボックスの方も、ただの空ボール認識なのか反応してくれなかったんですよねえ。今のこのボールを預けた場合、下手したらボールごと取り出せなくなる可能性があるので、試さない方が良いかもしれません」

「逃がすもなんも、そもそも外に出せないのが問題なんやろ?やっぱ、一旦ボール壊すっきゃないんやない?」

「なるほど……」「わかりましたの!」

 

 張り切ってそれぞれアップリューとデカヌチャンのボールを取り出した二人を座らせる。中のゾロアは小さいとはいえ、外からのボールの破壊はあまりにリスクが高い。

 そして中のゾロアのこれまでと普段の……鈍臭……暢気……あまり性格的に機敏でない様子を思い出させると、ああなるほどと二人とも大人しく着席した。もしもの際、避けろという指示を実行できている姿が想像できない。

 怪我をしたり、寝ていたり、気絶している姿が頭に浮かぶのは、やはり初めて目にした姿からだろうか。

 

「ほんなら、どないせいっちゅーねん」

「それは……」

 

 うむむと、大の大人と小さな子供一人とで頭を捻る。元々、正体不明の『何か』が絡んでいるため、何がアウトかわからないのが問題だ。

 

 こういう時、機械には我々リーグ側はそこまで詳しくない為、適当な案を捻り出すぐらいしかできない。幸か不幸か、現場に機械に特に強いジニア先生とクラベル校長が居たのは良いが…………

 

「そもそも問題、なんでこのボールに、ゾロアが入ってしまったんやろ?」

「そこは……まぁ推測でしかありませんが、実体のないデータのみの"捕獲"された『何か』と、データ上では似たような情報のポケモンがいたため…………これはぼくの不注意ですけどお…………弾みで開閉ボタンに触れてしまった際に、そのまま誤作動を起こし、"捕獲"された『何か』の実体とゾロアを誤認したまま、収めた結果かと……あ、そうでしたそうでしたあ」

 

 話で放り出した資料や荷物を思い出したジニア先生が、扉の前に散らばるファイルやら謎の箱やらを拾いに行く。それらの上に乗せて来て、そのまま弾みで転がって、飛び出したボールを掴んだ際にボタンに触れてしまった……ということらしい。

 

「ということは、中にいた『何か』は、ゾロアだったのでしょうか」

「あの時のゴーストタイプのテラスタルしていたゾロアに向けて投げたボールですから、捕まえたものがそうであったと考えるのは自然かと。

 ライムさん曰く、とても強い念だったそうですから、実体のない、念だけを…………捕らえていたことになりますが……」

「中のゾロアちゃん、体がありませんの?……ゴースちゃんみたいですの?」

「……あー」

 

 そっ と、首を傾げたポピーさんの耳を、チリさんが両手で覆った。声を潜めて、眉を顰めて。

 

「…………チリちゃん、オカルトじみた話あんまし詳しくないんやけど……んでこういう事考えたくも無いんやけどね?

 今このゾロア、怨念と一緒のボールに入ってる……ってコトなん?」

 

 生憎と、その話題(オカルト)に詳しい人間はいない。

 しかしなんだ。

 

「…………怨念とおんねん、とでもおっしゃるのかtッ」

 

 つい口から零れた呟きに、耳聰く拾い上げたのか長い足が飛んできた。腰が痛い。

 

「ゾロアの事、心配ちゃうんか!」

「いえ……見た感じ、中のゾロアがそう暴れていない様子なので、居心地は悪くないのかと思いまして」

 

 こちらの言葉に、返事のようにぐらりと動きはするが、それだけだ。中の居心地が悪かったり、『何か』が良くないようであれば、あのゾロアはもっと暴れるはず。

 ボールに捕らえられたことそのものは嫌ではないらしいのが、これまでの態度と比べて腑に落ちないところではある。

 

「あー……あー?確かに……」

「それに、ゾロアへの声かけで返事がありますねえ……ゾロアの意識はしっかりしている……?」

 

 チリさんの持つボールを、荷物を近くの机に置き直したジニア先生がこつりとつつくと、ぷるりと震えた。

 このゾロアは普通のポケモンと違って、時折予期しない行動を取る。出てこないのがこのゾロアの意志だとは思えないが……

 とにかく、あまり深刻に考えなくとも良いような、そんなどこか暢気な気配がボールから漂ってくるのである。まったくもって、鬼気迫った態度では無い。

 案外、腹が減ったら出て来るのでは?という、思考放棄してしまいそうな……外で人間ばかりが騒いでいるのが馬鹿らしくなるような……

 

「ゾロアちゃんゾロアちゃん、出て来れそうですの?」

 

 ポピーさんの質問に、チリさんの手の中でゆらゆらと二度揺れる。流石に、自力で出てこれないらしい。

 

「では、一刻も早く……具体的には、ボールを破壊してでも出たいですか?」

 

 ハッサクさんの言葉にはぐわんぐわんと大きく揺れた。ボールの中で小さくなった視点から見る、ポケモンの攻撃は恐ろしいようだ。

「穏便に出れるなら、一日二日程度の我慢はできますか?」

「それは流石に……いやええんかい」

 

 ゆらりと一度だけ揺れたボール。

 この状態でも、意志の疎通が可能とは、つくづく奇妙な所で器用な個体だ。

 

「……ちなみに、身の安全は大丈夫なんですね?」

 クラベル校長の確認にも、一度大きく揺れて見せる。何かがゾロアを脅かす、というわけでもないらしい。

 誰ともなく、ホッと一息。

 

 

「とはいえ、このボールの機能がおかしいのは今に始まったことじゃありませんからね。このままにしておくわけにもいきません。何か方法を考えねばなりません」

 

 それはそうだ。再度、沈黙が下りる。

 ふと、先程ジニア先生が机に置いた荷物が目に留まった。同じく気になったのか、ハッサクさんが問う。

 

「ああ、それは今度のシンオウ地方出張の話で、寄贈ついでにあちらから色々と資料が届きまして。でも、宛先をぼく宛にし忘れたとのことで、他の先生方の所にバラバラに届いちゃったんですよお。それで、集めて回っ……」

 

 言葉が不自然に途切れる。

 

「ジニア先生?」

「……そうか、アレも届いてるハズですねえ……データがおかしいのであれば、データを伴わないボールであればあるいは…………上手くいく可能性が?」

 

 一人何かに頷くと、そのままスマホロトムに呼び出しを頼み出した。

 なんだなんだとスマホロトムを覗き込む面々の横で、届く予定の品目のチェックリストらしき紙を見る。図鑑のコピー、写真、物品を何点か…………横に先生方の名前が小さくメモされている。これが届いた先だろう。

 チェックの付いていないものの中に、レホール先生の名前が多くあるのは、これは。

 

「あ、レホール先生。お忙しい中すみませえん。今朝の資料の中の、当時の…………いや、それは……レホール先生、今回の資料はアカデミーに寄贈されたもので、私物ではないですからねえ?……はい。そうですそうです…………例のゾロアのボールが……はい、はい。……お願いしますねえ。

 レホール先生が持ってきてくれるそうですー」

 

 通話先からやけにテンションの高い返事が聞こえてきたが、何故レホール先生の所に?

 

「当時の資料のうち、いくつかの使用されていた意匠や記述等に、当時のパルデア周辺の状況に繋がる情報であったり、当時の技術レベルが窺えるとして、歴史の方の資料としても調べさせて欲しい、だそうでしてえ。直ぐに全部には手が回りませんし、お手伝いを頼んでいたんですよお」

 

 こんなのとかです、とぞ渡されたのは、古いセピア色の写真。人の手の入っていない鬱蒼とした森や、平原、川、湿地など、様々な環境で、ポケモン達の様子が捉えられている。

 パルデア地方では見かけないポケモンの写真もあり、先程までゾロアの事でずっと心配そうにしていたポピーさんが楽しそうにしているのでそれはそれでよし。

 

「…………ジニア先生」

「え?はい、なんでしょうか、クラベル先生」

「…………寄贈してもらえる、とまでは聞いておりましたが、既に贈られている……とは、私聞いておりませんが?」

「あれ、そうでしたかあ?……あ、忘…………いや、…………全部届いてるか、確認してから報告しようかと……」

「手続き等あったでしょう!ちゃんと記録してあるのですか?」

「そこは流石に大丈夫ですよお。一応アカデミーには全部来てる……筈ですし」

「それに、他の先生方の所にバラけて届いてしまっている、といった配送事故等の情報も報告しなさい!ジニア先生の元まで持ってきてもらうよう、知らせることも出来たでしょうに」

「そうですねえ……自分で行けば良いかあと……えへ」

 

 手続きなどはきちんとしてほしいですよね、それはまったくもってそう。

 巡り巡って、自分の手に預けられたゾロア入りのボールが、一つ頷くように揺れる。

 

 

――――――――――

 

 

「まったく……順調に進めていた所だったというのに」

「すいませんねえ」

「ほお……四天王方も揃い踏みか。まぁいい。必要なのはこれだろう?」

「はあい。ありがとうございます、レホール先生」

 

 そう時間も経たずやってきたレホール先生が、小さな木箱をジニア先生に手渡した。中身は、見慣れた色のボールではある、が、どこか見慣れない。木目柄……ではなく、本当に植物で出来ているのだろう。

 

「ジニア先生、これは?」

「当時のシンオウ地方……そうですねえ……かつて実際に使用されていた、モンスターボールの原型となった物です。実物がこんなにキレイに、しかも未使用品で残ってるなんて、奇跡的ですよお「しかもだ!発見されたのはシンオウ地方ではあるが、同時に見つかった資料によれば、これは当時持ち込まれた物だとわかる!つまり!! これは当時、他の地方にもあった、いやむしろ、他の地方のものであったのだ!……順当に考えれば有力な来歴はジョウト地方。だが、その技術が未だに残っているのがジョウト地方なのであって、どこが発祥かはまだ断定されていない。ポケモントレーナー……いや、"ポケモン使い"達はパルデアの周辺にもいる……そして、災厄の宝にも見える通り、ポケモン使いの伝承も残っている……!ここに手がかりのひとつの可能性を」あー……」

 

 盛り上がっているレホール先生に圧されているジニア先生を呼び寄せ、ふむふむと真剣に聞いているのか適当に流しているのかイマイチわからないハッサクさんとチリさんにあちらは任せる。

 

「クラベル先生。以前、ネモさんから通信ケーブルを預かっていましたよね?まだありますかあ?」

「ああ、ええ。保管してあります。…………なるほど。規格の合う旧型のボールも必要ですね?」

「まだありましたかあ?」

「保管していた物がいくつか。少々時間を頂きますが……」

 

 クラベル校長がその旧型のボールとやらを取りに行く間、何をしようとしているのか説明してもらうことには。

 この……レホール先生垂涎の当時のボールには、電子的な機構は何も付いていない。開閉に不具合をもたらしているのがデータのバグであるならば、そのデータのバグそのものが関与しないボールに入れ替えてしまえば、不具合など起こりようもないのでは?……ということらしい。

 …………歴史的にも、大変価値が高いものでは?と思えば、そもそも保護機能も登録機能も、何もついていないため壊しさえしなければ再利用が可能、であるはずとの見解が返ってきた。ゾロアを安全に解放するための出口として利用できればいいのだ。

 

 あわよくば、実際にポケモンが捕獲出来ることを確認してみたいそうで。

 レホール先生曰く、赤い石の部分にあるキズなど、保管していただけではつかないようなキズから、これは既に、使われたものでは無いか?という推測だと言う。

 

 しかし、現在のボールとこのボールとを直接繋ぐ方法が無い。ただ、昔使用されていた通信ケーブルや旧型のモンスターボールならば、互換性が……あるのだろうか?

 

「機械部分や塗装等、変わった所もありますが、仕組み自体は、現在も職人によってきのみから作られているボールと、ほとんど同じのようです。中の小さくなった状態のポケモンを、そのままデータを介さずに移動出来ればいいので……」

「……待ってください。職人の作るボールとは、まさか」

 

 きょとと目を瞬かせ、へらりといつもと変わらない笑顔。

 

「はあい。ジョウト地方の、職人さんお手製の一点物のモンスターボールですねえ」

 

 よもやまさか、この専門家達は、成功するかもわからない事に一個ウン十万の値で取引されることもあるレアボールを、使い捨てようとしているのか?

 

 …………壊した方が早い気がしてきた。自分のカラミンゴなら、ピントレンズでも持たせれば行けるんじゃないだろうか。

 

「……」

 

 ガタガタと震え出すボールに、そのまま勢いで出てきてくれないかと願う。なんというか、本当に手間のかかるポケモンである。

 

 

 

 





昔の方がオーバーテクノロジーしてるって話あるますよね


ねっ、オーリム博士!



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