崩壊の帝国 (東海鯰)
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第二戦線

気長にお付き合い頂ければと思います。


202X年6月 ロシア連邦 モスクワ クレムリン

 

 

 

「パトソール君、ウクライナでの特別軍事作戦の状況はどうなっているかね?」

 

自身の部下から作戦の報告を求めているこの男の名前は「ウラディミール・プーチンチン」。言わずと知れたロシア連邦大統領であり、同国の元首であり、独裁者であり、今や西側の敵となった男である。

 

「はっ、軍から上がって来ました情報をまとめたものがこちらになります。」

 

パトソールと呼ばれた大統領の秘書官は軍から上がって来た膨大な資料の束を大統領に見せる。

 

「そうか。そこに置きたまえ。」

「はっ!」

 

今にも目の前にいる秘書官すら食ってしまいそうな威圧感を放つ大統領に資料が渡される。無論全て読む訳ではなく、秘書官であるパトソールが要約した資料のみを大統領が読み、思考を巡らすのである。

 

「・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」

 

この国は狂っている。今目の前に座っているこの国のトップ、プーチンチンの秘書のパトソールは胸の奥でそう思った。今思えばこの国は始めからまともではなかった。ロシア帝国の崩壊から始まった共産主義革命、スターリンによる粛清、フィンランドとの冬戦争にポーランド侵攻を端に発した第二次世界大戦、ナチスドイツとの死闘に次ぐ死闘、日ソ不可侵条約の破棄と満州、樺太、千島侵攻、朝鮮戦争、アメリカとの宇宙開発競争とキューバ危機、ベレンコの亡命による西側への軍事機密の漏洩、ゴルバチョフによる冷戦終結、ソ連崩壊、チェチェン、ナゴルノ・カラバフ、ジョージア、シリア、そしてウクライナ。この国はまともだったことが一度たりともない。それは何故なのか。強い指導者を求める国民のせいか? この狂った独裁者のせいか? オリガルヒのせいか? アメリカを始めとした西側のせいか? いや、違う。どれも正しいが正しくない。

 

 

 

「? パトソール君、どうしたのかね? 難しい顔をしているな。」

「・・・・い、いえ。」

 

何とかその場を取り繕うとしたが、そんな思惑は大統領には通じなかった。

 

「何も考えもなしにそんな顔を人はしない。君は私を誰だと思っている。」

「・・・・その、如何にすればこのせ・・・特別軍事作戦を終結させられるのかを思案しておりまして。」

「・・・ほう。」

 

怒らせずに済んだ。そう思ったのもつかの間だった。いや、こうなるくらいなら怒らせた方がまだましだったかもしれない。

 

「パトソール君、君ならどのようにすれば終結させられると思うのかね? 最早軍の人間は信用ならん。私に正しい情報を上げず、あまつさえ物資の横流しで私腹を肥やしていた連中の言うことを信じられん。君のような修羅場という修羅場を私と共に潜ってきた、信用できる人間しか解決法を考えることは出来ないだろう。」

 

 おいおいおい、軍の知識もかじった程度の私に何を言うんですか大統領! そう思ったが、私も大統領の秘書官。彼の言うように修羅場という修羅場をくぐって来た。考えられる思考をフル投入して考える。

 

 「・・・・申し上げにくいのですが、今のままではウクライナを屈服させることは不可能かと存じます。」

「・・・・ほう。」

 

 ピクリと眉が動く。肝を冷やしながら秘書官は話を続ける。

 

「原因は明らかであります。我が軍の闘い方の問題もありますが、それはこの特別軍事作戦遂行における本質的な要因ではないと考えます。一番の原因はアメリカです。」

「・・・・・続けたまえ。」

「はっ。如何に我が軍の闘い方が稚拙であったとしても、我がロシアとウクライナではそもそも国力差がけた違いであります。如何にゼレンスキスキーが大量の戦車を破壊しようとも、弾が無ければ意味がありません。」

「成程、君はその弾を供給し続けるアメリカ、その供給を断つべきだと言うのだな。だがそれは誰でも分かることだ。何も目新しいことではない。」

 

がっかりだ、と言わんばかりの表情の大統領。しかし、秘書官は言葉を続ける。否、続けなければ命がない。

 

「はい。されど、そのアメリカを交渉のテーブルに引きずり出すことが出来れば話は違うかと。」

「引きずり出す・・・か。しかしどのようにして引きずり出す。我がロシアとウクライナの戦闘では奴らは出て来はしない。」

「大統領の言う通りであります。このままでは交渉など不可能であります。ですが。」

 

 秘書官は世界地図を大統領の前に広げる。

 

「この国を攻撃します。」

「・・・・・君は博打が好きなのかね?」

「ははは、他国に対して平気な顔して武力を振りかざす閣下には及びませんよ。されど、この博打は間違いなくアメリカも交渉のテーブルに出ざるを得なくなるでしょう。」

「・・・・・パトソール君。」

「は、閣下。」

 

流石に言い過ぎたか? と冷や汗をかいたパトソールだったが、

 

「速やかに軍に対し、作戦の立案を急がせろ。君の案を採用する。」

「承知致しました。では、私はこれで。」

 

パトソールはそう言うと足早にクレムリンを後にした。

 

(良かった、閣下を怒らせずに済んだ・・・だが、上手く行くかは覇権国の頭次第か・・・)

 

軍のトップらの元へ急ぐパトソールはそんなことを考えながら車を走らせるのである。

 

 

「・・・・・第二戦線か。だが、未だに自らの手を縛り、空想の世界に生きる国ならば容易に倒せるか。いや、倒す必要はないか。むしろ国内にいる不穏分子の始末先にでもなって貰うとしようか。」

 

先ほど秘書官が指さした国。そこにはこう記されていた

 

 

 

「Япония」

 

 

 

と。

 

 



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無視された予兆

同年 7月 日本国 皇居宮殿松の間

 

「・・・・・・・・・。」

 

この日、皇居宮殿松の間では新任の防衛相の親任式が行われていた。前任の大臣は失言に次ぐ失言を重ねた結果非難轟轟となり更迭、その前任者は病気の為にやむを得ず議員辞職しており、内閣支持率が低迷する中、総理大臣である西田文雄(ふみかず)は支持率向上を図り当選一回ながらも選挙区から人気が高く、クリーンな印象を持たれていた若手のホープを指名した。一部ではやけくそ人事とも言われた。

 

(やけくそ人事と内外の人間は思うのだろうな。だけど、僕は国会議員の端くれ。全力でやりきる以外にないよ)

 

彼の名は「若葉響」。参議院静岡選挙区選出の議員であり、まだ三十代の超若手議員だった。

 

「さて、結果で示すしかないよな。駄目なら政治家を辞めて地元に帰るしかない。」

 

 

翌日 日本国 市ヶ谷 防衛省

 

「僕が新たに防衛大臣となった若葉響です。頼りないと思うのが正直なところであるとは承知している。だが、僕達は運命共同体。国民の生命と財産を守る為に共に頑張って行く所存です。」

 

簡単な訓示をして執務室へ入る。

 

「さて、仕事をしないとな。まずはこの報告書に目を通すか。」

 

彼は上がって来た報告書に目を通す。

 

「・・・・・これは・・・・・これを前任者は官邸に情報を上げていたのか?」

 

誰もいない執務室で大臣はそう呟いた。

 

「僕は副大臣として国交省にいたが、こんな話は聞いたことがない。というか、何でこんな重要な情報を官邸に知らせていないんだ? こ、こんなことをしている場合ではない!!」

 

そう言うと彼は資料をまとめると官邸に公用車を走らせる。

 

 

日本国 首相官邸

 

「しかし、任命したばかりの君がいきなり会談を要請してくるとは思わなかったよ。いきなりはりきり過ぎじゃないかな?」

「総理!! そんなことを言っている場合ではありません!!」

 

若葉防衛相は資料を西田総理に差し出す。

 

「どれどれ・・・・・え?」

 

総理の眼が点になる。

 

 

「・・・・若葉大臣、これは本当なのかな? こんな情報は聞いたことがないが。」

「僕も任命された後、前任者が残していたと思われる資料を見て初めて知りました。この資料にはロシアが北海道や青森へ軍事攻撃を今年中に行う可能性が高いと記されており、またそれを裏付けるかのようにロシア軍の部隊が極東に移動中であると連日報道されております。」

「しかし、この資料が作成されたのは見る限り6月中。それにアメリカからそんな情報は入ってない。どこまで信用出来るかは分からないんじゃないかな?」

「ですが、事実としてロシア軍が極東地域に集まっていることは報道でも軍事衛星からの情報でも明らかです。それにアメリカといえど完ぺきではありません。絶対に察知できるわけではないでしょう。恐らくロシアのことですから演習と言うでしょうが、それは欺瞞かと。ウクライナへ侵略する前にベラルーシで演習をしていましたし。」

「だがなあ・・・我が国はアメリカと同盟関係にあるんだ。云わば核の傘に入っているし、安保もあるんだ。流石に戦争は考えすぎじゃないかな? とはいえ、極東に軍を集めていることは好ましいことではないのは事実だ。外交ルートを通じて遺憾の意を伝えると共に、米国と緊密に連携する、これで良いだろう。」

「総理!! それでは何の意味も!!」

「若葉大臣はちょっと張り切り過ぎているようだ。一回頭を冷やすためにも今日は早く帰って寝た方が良いよ。」

 

そういうと西田総理は話を切り上げてしまった。やむなく若葉大臣も防衛省へ戻る。

 

「・・・・どうした響、随分と機嫌が悪いじゃねえか。」

 

執務室でイライラしていた彼に会いに来たのは副大臣の常磐銀地。響からはシルバーと呼ばれている、彼と同じく当選一回の議員である。選挙区は全国比例区であり、選挙では響と二人三脚で闘い、見事党内順位四位で初当選を決めている。

 

「・・・・・遺憾の意遺憾の意!! この国はこの言葉が大好きだなと思ってね。」

「ああ、そう分じゃあの報告書の中身が無視されたんだな。分かってたことだけどな。」

 

そう言うとシルバーはそこら辺から椅子を持ってきて響に向き合うように座る。

 

「で、響お前はどう思うんだ? 本当にロシアが攻めて来るって思うのか?」

 

からかい半分、真剣半分に聞く副大臣。

 

「普通の神経してたら攻めては来ない。我が国は米国と安保条約を結んでおり、国内各地に米軍基地が点在している。日本に手を出せば米国が待ってましたと言わんばかりに反撃する。」

「でも、お前は攻めて来ると思ってるんだろ?」

「ああ。ロシアの大統領は普通の神経をしていない。誰もがしないと思っていたウクライナへ侵略戦争を仕掛け、米国は覚書を共に履行せずウクライナを見捨てた。武器援助はするが、それは在庫処分や実地試験を自らの手を汚すことなく行っているだけ。状況が変われば米国はあっさりとウクライナを見捨てる。それは日本とて同じ。如何に安保条約を結び、同盟国であったとしても、ロシアが核保有国であり、真っ向から戦争することは絶対に避けようとする。そうなれば同盟は有名無実となり、日本は見捨てられる。自衛隊は単独で侵略者を追い返し、逆に敵国を殲滅する力は持っていない。盾を自衛隊、鉾を米軍が担う。それがこの国の安保だ。しかしその鉾が錆びついている以上、ロシアの障害は存在しない。それどころか日本はロシアによる米国への窓口に使われる。それでは防衛省自衛隊は国民の生命財産を守るという使命を果たすことは出来ない!!」

 

一気に喋ったためか、喉がおかしくなる響。

 

「俺も同感だ。米国は日本を助けないだろう。今の大統領を見ていたら分かる。しかし、これなら前任のスペード大統領の方がましだったかもな。それこそ、貿易赤字解消を名目に核武装も出来たかもな。」

 

シルバーはそう言いながら冷たい水の入ったグラスを響に手渡す。響は一瞬でその水を飲みほした。

 

「しかし、どうするんだ? 防衛省独自で出来ることなんてあるのか?」

「・・・・演習という名目で北海道や青森の部隊を南に下げるのはどうかな?」

「はあ?! お、お前何を言ってんだ?! 北海道や青森が攻撃されるんだろう?! なのになんで部隊を下げるんだ!?」

「違うよシルバー。攻撃されるからこそ下げるんだよ。」

「?」

 

一体何を考えているのかが理解出来ないシルバー。

 

「取り敢えず、明日にも三自の幕僚長を集めて緊急会議を開催するよ。そこで僕の考えを聞いて欲しい。」

「あ、ああ。」

 

この時若葉大臣の考えた秘策は翌日の緊急会議で発表された。始めは難色を示していた彼らだったが、若葉大臣の気迫と熱意に圧されると共に、同日会議中に米国から寄せられた極秘情報を受け、一部を修正した上で大臣の策は採用されることとなった。後にこの会議に参加した背広組は、

 

「大臣の発案がなければ自衛隊は開戦と同時に戦闘能力を失っていた。」

 

と話したとか。その間にもロシアは極東地域に部隊を集結。一部をウクライナ戦線から引き抜いてでも集めてきており、各国では一部の人間を除いてその意図が計り知れなかった。

 

 

「取れる手は全て打った。後は神のみぞが知る、か。しかし、まさか新たに目を疑うような情報が入ってくるなんて・・・。」

「なあ響。」

「何だいシルバー。」

「総理には伝えなくて良かったのか? 仮にも同盟国や友好国からもたらされた情報なんだろ?」

「良いんだよシルバー。あの総理のことだ。どうせ遺憾の意しか言わないよ。」

「ここまで勝手に決めちゃう防衛大臣もどうかと思うけどな。」

「思ったけどシルバー。僕は大臣、君は副大臣なんだよ。たまにで良いから立場をわきまえて欲しいかな。あとシルバー。」

「へいへい、で何だ?」

「僕、この戦争が終わったら、総理大臣になるよ。」

 

(続く)



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東京事変

202X年 8月6日 日本国 市ヶ谷 防衛省 

 

 「今日は何度目か数えるのも飽きた広島への原爆投下の日か。」

 

憂鬱な表情を浮かべながら大臣執務室で資料を閲覧する若葉大臣。

 

「総理は広島へ向かい、来日したアメリカ副大統領と原爆ドームや資料館を視察されるそうね。」

 

彼に独り言に応じたのは西田内閣の外務副大臣であり、彼の従姉の若葉栗栖。

 

「らしいな。官邸の奴らから聞いた。しかし、かつては大統領自らが来ていたのも、今思えば凄いことだったのだな。しかし、良いのかい姉さん。外務省の副大臣がこんなところで油を売っていて。」

「勿論良くはないわ。」

 

そう言うと栗栖は響の隣に椅子を持ってきて座る。

 

「しかし、総理もレガシー作りに躍起よね。来日した米国副大統領を原爆資料館に自らご案内するのだもの。」

「どう見る? あの行動。」

「どうもこうもないわよ。あんなパフォーマンスをするくらいなら少しは私達の声を聞いて欲しいわね。自称聞く力なんだからさ。」

「おっと、これ以上はいけないよ。」

 

響は機密資料を裏返し、栗栖には見えないようにする。

 

「そう言えば、響はシルバーに総理になるって言ったんだって?」

「ああ、そうだ。あんな検討以外に脳のない奴よりはまだましだなって思ってね。」

「ははは、違いなわね。もし響が総理になったら防衛大臣はシルバー、外務大臣は私ね。」

「そればかりは何とも言えないね。だけど、状況次第ではあり得ない話ではない。」

 

そう言うと響は真剣な表情になる。

 

「栗栖副大臣、今から話すことは防衛省の一握りしか知らないことだ。口外することは許されない内容だ。」

「・・・・・・・続けて。」

「実は極東地域に展開しているロシア軍の動きがここ数日より活発になってきている。」

 

響は裏返していた資料を再び表にする。

 

「こ、これは・・・!!」

 

栗栖が顔面蒼白になり、言葉を続けようとした、その時だった。血相を変えた自衛官が入って来たのは。

 

「若葉大臣!! 失礼いたします!!」

「・・・・・如何した。」

 

自衛官は響に耳打ちする。

 

「遂に動きやがったか。」

 

響は拳で机を強く叩き、悔しそうな表情を浮かべた。

 

「大至急陸海空全幕僚を緊急招集しろ!! 今後の対応を検討する!! 君は急ぎこのことを官邸に上げろ!! とにかく直ぐにだ!!」

「はっ!!」

 

自衛官は逃げるかのように走り去っていく。それを確認した響は栗栖に見せていた資料を破り捨てる。

 

「栗栖、どうやらこの資料は意味がないようだね。ロシアは遂に我が国に対して武力侵攻を行った!!」

 

武力侵攻。その現実を前に立ち尽くす栗栖。

 

「姉さん、直ぐに外務省に戻ってくれ。万が一に備え、僕の公用車を出す。腕利きの自衛官を完全武装で護衛に付ける。時間がない!! 急いで!!」

「・・・・わ、分かったわ!!」

 

突然の事態に防衛省は大混乱となる。制服組背広組問わずありとあらゆる人間が慌ただしく動き始める。敷地内に展開しているPAC3には急ぎ戦闘態勢を整えた自衛官が乗り込み、出入り口には通常の警備員に代わり完全武装した自衛官が固め、通常とは明らかに異なる態勢となっているのは外の通行人から見ても明らかだった。

 

「何だ? 急に慌ただしくなってねえか?」

「どう見ても戦争するぞ、って動きだよなありゃ?」

「一体何があったんだ?」

「俺に聞かれても分かるかよ。」

 

 

日本国 広島県 広島市 原爆資料館

 

「このような悲劇を繰り返さない為にも」

 

防衛省が大慌てになっていたその時、総理は来日ハリハリスアメリカ副大統領と共に原爆資料館を視察し、自ら核の悲惨さについて力説していた。しかし、その説明は重大な情報を持った日米の関係筋によって遮られることとなる。

 

「総理!! 大変です!!」

 

新井秘書官が総理に急ぎ耳打ちする。また同時に米軍の関係者もハリハリス副大統領に同様の情報を耳打ちする。その後程なくして慰霊祭が急遽中止となり、総理は官邸へ、副大統領は横田基地へとヘリコプターで移動することとなった。そして副大統領搭乗のヘリコプターには岩国のステルス戦闘機部隊による重厚な護衛を伴っていた。

 

「何故だ・・・どうしてこんなことになるんだ・・・。」

 

急ぎ移動するヘリコプターの中で総理は力なくそう呟いた。しかし、総理の思考はその後訪れた轟音と共に永遠に途切れることとなるのである。

 

 

日本国 北海道 稚内市

 

 

「畜生! 何なんだあれは!!」

「泣き言を言っている暇があれば撃て!!」

 

各地で銃声と爆発音が鳴り響く稚内。第二次世界大戦終結以降、平和を享受していた日本国。この平和が何時までもの続くことを願い、広島での悲劇を忘れない日である8月6日。昨年まではそれが当たり前の日であった。そう、昨年までは。

 

「しかし、あれはどう見ても一般人じゃねえっすよ!! あれはどう見てもロシア軍ですよ!!」

 

ロシアが実効支配している樺太と目と鼻の先にある稚内市。今や敵国と隣接する市となったこの稚内は血で血を争う戦場と化していた。突如稚内市役所に完全武装した謎の武装集団が襲撃。これに端を発し、各地で国籍不明の武装集団が蜂起し、駅や空港、港など市内の主要拠点で爆発や銃撃が相次いでいた。市民からの通報を受け、警察が出動するも、武装集団の保有する装甲車や戦車によりあっけなく蹂躙され、偵察の為に飛来した北海道警のヘリコプターは地対空ミサイルで撃墜され、今生き残っているのは彼らのみであるという状況であった。

 

「んなこと言われなくても分かってる!! 我々は市民を守る警察官だ!! 例え相手がテロリストだろうが軍隊だろうが。」

 

先輩警察官が放った銃弾が謎の武装集団の一人の眉間をぶち抜き絶命させる。

 

「Меня сбил один! !」

「Разорвите на куски тех, кто убил ваших братьев! !」

「Ешьте гранаты! ! "Обезьяна!" !」

 

警察署に立てこもる彼らは机やロッカーを即席のバリケードとし、応戦していたがそこに手榴弾が投げ込まれる。

 

「「手榴弾!!」」

 

彼らの眼前で手榴弾が炸裂。警察官は全滅し、抵抗する市民も掃討。こうして稚内は謎の武装集団の手に落ちることとなった。

 

 

同時刻 日本国 北海道 根室市

 

「・・・・あれは・・・明らかに・・・ロシア軍・・・だ。まさか露助の野郎が、日本にも手を・・・」

 

稚内と同時にロシアとほど近い根室市も謎の武装集団により制圧され、戦後長らく戦争を他人事と考えていた日本は再び戦争というものに引き戻されようとしていた。

 

 

日本国 東京都 首相官邸付近上空

 

「総理!! 間もなく官邸に到着します!!」

「そうか。新井君、到着し次第急ぎ国家安全保障会議を開催する。関係者は!!」

「既に総理執務室で待機するように指示を出しております! 若葉防衛相は自衛隊への対応に専念するとのことで常磐副大臣を派遣していますが、それ以外は関係閣僚全てが集結しております!! また他の閣僚にも急ぎ参集するように指示を出しており、明日にも全ての閣僚を集めて閣議を行うことも可能です!!」

「分かった。では到着した閣僚には都内での待機を命じよ。また全ての閣僚への護衛を最大レベルとするように! 我が国は戦時下にある!!」

 

一方、官邸では官房長官、外相、副総理、総務大臣、財務大臣、国交大臣、経産大臣、国家公安委員長、そして、防衛副大臣、更には陸海空の幕僚長や海上保安庁の関係者が既に待機していた。

 

「もうすぐ総理が参られます。」

 

官邸職員が参集した閣僚達に間もなく緊急会議が始まることを伝える。その直後、

 

「何だこの轟音は!!」

 

突然官邸の真上で爆発音としか思えない轟音が響いた。

 

「この音・・・まさか!!」

 

常磐副大臣は最悪の事態を想像した。

 

「と、常磐副大臣!! どこへ行くのだ!!」

「轟音の原因を確かめに行くだけだ!!」

 

制止する他の閣僚や職員を振り切り、シルバーは官邸を飛び出す。

 

「こ、これは・・・・!!」

 

シルバーの眼前には機体が爆散・炎上しているヘリコプターが映し出されていた。

 

「・・・・これは助からないな。それに、奴らの事だ。」

 

シルバーは炎上している機体の周辺を走り回る。そして死亡した自衛官が装備していた拳銃等武器を手に取ると急ぎ物陰に隠れながら官邸の外へと脱出を図った。

 

「不味い・・・不味いぞ!!」

 

 

同時刻 日本国 市ヶ谷 防衛省 

 

「本日8時15分頃、稚内市及び根室市の市役所を謎の武装集団が襲撃。これを皮切りに両市では駅や空港を始めとした主要インフラへの銃撃や爆発が相次ぎました。それを受け宇宙航空自衛隊三沢基地所属のグローバルホーク二機を離陸させ、稚内、根室で偵察飛行を実施致しました。また公安と共に事前に潜り込ませた偵察員でも確認を行っており、その時撮られた画像が次の資料になります。」

 

緊急招集された幕僚らと共に響は資料を確認していた。 そこには明らかにロシア製の戦車としか見えない軍用車両や覆面の戦闘員が映し出されていた。

 

「これは明らかにロシアの侵略行為だな?」

「現時点ではロシア政府からの公式発表はありませんが、大臣の憶測通りかと。」

「まあ、こんな戦車を我が国は保有していないし、流石に修羅の国の暴力団だって持ってないからな。奴らは稚内や根室に自称国家を建国させるつもりなのか?!」

「静粛に!! 皆さん静粛に!!」

 

汗でだらだらな背広を着た職員が入って来る。

 

「どうした? 何かあったのだろう? 続けたまえ。」

「はっ!! 先ほど入った情報ですが、総理が登場していたヘリコプターが何者かによって撃墜されました!!」

 

一瞬静寂が会議室を漂う。だがその静寂はすぐに破られる。

 

「な、なにぃ!! 撃墜だと!! ということは西田総理は・・・」

「察しの通りです・・・」

「さ、更に新たな情報です!!」

 

別の職員が入り、響たちに緊急報告を行う。

 

「官邸に覆面の武装集団が出現し、銃声が鳴り響いている模様!! 周辺の通行人や官邸からの緊急通報を受けて警察が出動するも、全滅したとのこと!! 警視庁より防衛省に協力の要請が来ております!!」

「SATは出したのか?」

「いえ、出していない模様です。警視庁側からは自衛隊でなければ手が負えない集団であると判断したと。」

 

若葉大臣は目をつむる。

 

「・・・・・・・・・出動命令だ。」

「は?」

 

幕僚達は気の抜けた返事をする。

 

「習志野のSを出せ。東京のど真ん中で白昼堂々と総理の乗るヘリコプターを撃墜し、関係閣僚の殺害を謀った。明らかに敵国の正規軍が入り込んでいる。速やかにこれを成敗しなければ都民の命を守ることはおろか、稚内や根室を助けることも出来ない!!」

「し、しかし敵の素性は明らかになっていません!! ここでSを出すのは性急過ぎます!!」

「責任は僕が取る!! とういうか、総理も副総理も官房長官もこの世にはおらんのだ!! 僕以外にこの内閣で責任を取れる人間はいない!! また警視庁には協力と引き換えにロシア大使館を徹底的に包囲させろ!! 間違いなくロシア大使館が一枚かんでいる!! どうせ外交官特権か何かで合法的に侵入させたんだろう!! 難しいとは思うが、証拠を掴め!!」

「追加の情報です!!」

「今度は何だ!!」

「ち、地下鉄で・・・東京メトロ・都営地下鉄の各線で異臭騒ぎです!! それと同時に多数の都民に死傷者が発生し、各地の病院は患者で溢れかえっているとのこと!!」

「異臭・・・まさかサリンか!! ロシアめ、ここまでやるか!! これが同じ、人間のすることか!! プーチンチン!!!」

 

怒りに任せ座っていた椅子を壁にぶん投げる若葉大臣。

 

「ふー、ふー、ふー、冷静にならないと、だな。」

 

響は椅子を拾い直すと地図を広げ、作戦会議を開始する。

 

「まずは至急官邸にいる敵を排除する。習志野のSを派遣し、敵勢力の排除。可能なら捕縛し、徹底的に拷問してでも情報を吐かせろ。また奴らが陛下に危害を加える可能性もある。第一師団を皇居に派遣し、絶対に陛下を傷つけさせるな。また同時に並行して異臭による負傷者の救護を行うが、敵が追加の軍事行動を起こす可能性がある。ロシア大使館を徹底して監視し、周辺の県の部隊を総動員し、警察と協力して厳重な警備を敷く。そして敵勢力の排除を確認した後に地下鉄の除染に取り掛かる。また横須賀の海自の艦隊は全艦出撃し、東京湾の警備と封鎖に当たれ。海上からの侵入と逃走を阻止せよ!!」

「しかし大臣。治安出動では使用できる武器が限られてしまいます。」

「治安出動? たわけたことを。これは戦争だ。僕の責任を以てあらゆる武器の使用制限を解除する。後は君達の訓練の成果次第だ。頼んだぞ。」

「はっ!!」

「では作戦を実行する! 時が経てば経つほど我々は不利になる。」

 

こうして日本の長い一日が始まった。そして後の世にこれら一連の出来事は東京事変と呼ばれ、若葉響はその名を歴史に残すこととなるのである。

 

(続く)



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首相官邸の闘い

日本国 東京都 首相官邸

 

「У тебя были враги?」

「Я не здесь. Был ли министр обороны Японии, кроме этого?」

 

日本の政治の中枢である首相官邸。しかし、西田総理の搭乗するヘリコプター撃墜から始まり、謎の覆面の武装集団の襲撃により、今や官邸、いや日本国は政治の中枢としての機能を喪失していた。

 

「・・・あれは明らかにロシア語・・・やはりヘリを撃墜したのはロシアか。」

 

官邸の屋根裏に張り巡らされた通気口から下を伺うシルバー。撃墜されたヘリを確認する為に外を飛び出し、他の閣僚や幕僚らとは別行動をしていたシルバーは幸運にも最初の難を逃れていた。それと同時に覆面の武装集団の最後のターゲットとなっていたのである。

 

「仮に俺を殺したとしても、当の大臣は存命なんだがな。」

 

ロシアの致命的なミス、それは若葉防衛相が不在であることを全く把握出来ていなかったことである。

 

「どうやら、作戦を立案した奴はそれなりには頭が切れるみたいだな。まさか東京で総理が爆殺されるなんて誰も想定してないだろうからな。」

 

独り言をつぶやきながら下を伺うシルバー。

 

「・・・・俺も死を覚悟しないとな。」

 

シルバーは懐からスマートフォンを取り出すと響宛にメールを送信する。

 

「・・・・さて、あとは侵略者共を一人でも多く道連れにしてやるとするか。」

 

 

響へ

 

桜咲く

散り行く姿

常磐の美

 

常磐銀地

 

 

日本国 千葉県 習志野市 陸上自衛隊習志野駐屯地

 

「総員集合!!」

 

特殊作戦群長の号令を受け、出動待機をしていた隊員30名が規律よく整列する。

 

「敬礼!!」

 

群長は招集した隊員達を前に防衛相からの指示を伝える。

 

「防衛省より連絡があり、首相官邸に着陸寸前の総理が搭乗したヘリが撃墜され、時間差で覆面の武装集団、否ロシア軍による襲撃を受けた! 更に都内の地下鉄にサリンがばらまかれ、都内は大混乱となっている!! 官邸内の要人の生死は絶望的であるが、これを排除しなければ日本国は完全に崩壊し、我々も明日はないだろう!! 聡明な若葉響防衛相は決断された。我々特殊作戦群の精鋭にロシア軍の排除をセヨと!!」

 

一呼吸おいて更に続ける。

 

「また若葉大臣はこれは訓練ではなく戦争である。如何に自衛官と言えど、愛すべき家族のいる、帰るところのある一人の人間である。決して死ねとは言えない。ロシア軍がどのような罠を仕掛けているか判断出来ない。死地に送るような命令を強要出来ないと。特殊作戦群長より命ずる!! 己の使命を全うし、仮に死することとなっても良い!! その覚悟のある者は前に出よ!! なき者は右手を上げよ!!」

 

次の瞬間、30名の隊員全員が一寸も乱れることなく前に大きく一歩歩み出た。

 

「群長、我々は日本国民の生命と財産を守る自衛官であります!! 入隊した時より、死ぬ覚悟は出来ております!!」

「相手が例え米軍であったとしても、我々はこれを排除する実力と覚悟を持っております!!」

「若葉大臣にお伝えください。気遣い感謝致すと!」

「既に亡くなった同胞の敵を討たせてください!! 直ぐにも出動命令を!!」

 

隊員は口々に出動を懇願する。彼らは自衛官の中でもエリート中のエリート。他の自衛官とは覚悟と士気が全く違う。

 

「では命じよう。速やかに官邸に向かい、敵を排除せよ!!」

 

彼らはヘリコプターに乗り込むと一斉に飛び立っていった。また、これに先立つ形で百里基地よりF15J戦闘機二機が離陸。官邸上空を飛び回り、対空火器の有無を確認していた。

 

 

日本国 市ヶ谷 防衛省

 

「・・・・・おそらくヘリを撃墜したのは歩兵用の対空火器か。」

 

偵察を行った戦闘機からの画像を確認する若葉大臣。

 

「常時首都上空に戦闘機を展開させる。もしかするとロシアが爆撃機を飛ばしてくるやもしれん。」

 

矢継ぎ早に指示を出す若葉大臣であるが、正直都内のことで手一杯であった。

 

(こんなことをしている間にもロシアは稚内と根室の実効支配を進めている。出来ることなら直ぐにでも奪還の指示を出したいところだが、まずは足元の敵を排除しないことには何も出来ない。それこそ、この防衛省に直接攻撃してくる可能性も否定できない。それと西田総理が死亡した以上、臨時内閣を発足させなくてはならない。それに僕は本来総理の代行役には選ばれていない。選ばれていた大臣が皆官邸で消息不明であるからこそ指示を出しているが、法的には色々とアウトだ。野党やマスコミ、市民団体や工作員共が騒ぎまくるだろう。何なら今まさに騒ぎまわっているかもしれない。一刻も早く都内を安定させなくては・・・)

 

 

日本国 東京都 首相官邸

 

「Этот выглядит как золото! !」

 

残された最後のターゲットを探し回っているロシア兵は広い官邸を縦横無尽に走り回っており、また統率が取れていないのか、中には官邸内の金になりそうなものを物色している者までいる始末であった。

 

「どこまで行ってもロシア人は野蛮な蛮族だな!! ウクライナでやったことをそのままやりやがって!!」

「!?」

 

物色に夢中になり、完全に背後への警戒を怠っていたロシア兵は人影に気付き振り向くも、

 

「!!」

 

声を出す暇もなく眉間を拳銃でシルバーに撃ち抜かれ絶命する。銃声が木霊したものの、各地で手当たり次第に破壊している為か、金目のものを物色しているか、あるいは広い官邸に対して突入した兵士が少なすぎるのか、反撃にやってくるロシア兵は皆無であった。

 

「お前の装備品、ありがたく使わせてもらうぜ。」

 

シルバーはそう言うとスーツを脱ぎ捨て、倒したロシア兵の武装を根こそぎはぎ取る。その後裸になったロシア兵に先程まで来ていたスーツを丁寧に着せて差し上げ、あたかも要人か何かが死んだかのように装ったのである。

 

「腐っても俺は元自衛官だ。そこら辺の大臣連中とは違う。残念だったな。」

 

そう言うとシルバーは武装を確認し、部屋から飛び出す。

 

「!! 響からか? どれどれ・・・そうか。何とかなりそうだな。」

 

そう言うとシルバーはスマホを懐にしまい、敵を探す。

 

 

シルバーへ

 

シルバー

仲間が今

習志野から

行くから死ぬことは

出来ないはずだよ

 

 

 

「官邸に突入します!!」

 

官邸屋上のヘリポートより特殊作戦群の隊員が降り立つ。反撃を予想し、事前に戦闘機による機銃掃射などが行われていた為穴だらけであったが、何の抵抗を受けることなく隊員達は官邸へ突入することとなった。

 

「突撃!! 突撃!!」

 

隊長の号令により隊員が一斉にドアを破壊し官邸へ突入する。

 

「!?」

 

突然の敵襲に慌てたロシア兵はまともに撃ち返すことが出来ないままその場で射殺される。

 

「クリア!! クリア!!」

「敵兵三名確認!!」

「フラッシュバンを使う。その後拘束しろ!!」

 

固まって物色していたロシア兵はどうやって本国へ持ち帰るかにふけっており、完全に慢心していた。そこに特殊作戦群のフラッシュバンをまともに食らってしまう。

 

「Что! ?」

 

手際よく無言で特殊作戦群はロシア兵三名を拘束。その後同様に各地を回り、敵兵を射殺していく。そして武装して抵抗していた唯一の生き残り常磐銀地副大臣を保護し、官邸内の敵の排除に成功するのであった。

 

「Пожалуйста, помогите мне! ! "Это чудовище!" ! "Ну, я все еще не хочу умирать!" !」

 

運よく命からがら官邸から脱出に成功したロシア兵が一名だけいたが、既に官邸の周辺は自衛隊と警察により包囲されており、ロシア大使館に逃げ帰る前に警察に見つかり、拳銃を向けられると両手を上げ降伏した。どうも、銃弾を討ち尽くしてしまい、更に同胞が無言で撃ち殺されていくのを目の当たりにし、脱糞してしまってもいたという。その後警察と合同で立ち入り調査が行われ、敵勢力の排除を確認。またサリンの除染も進められ、都内の混乱も少しづつ安定へ向かっていた。

 

 

(続く)



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動き出す大国達

稚内・根室に謎の武装勢力が蜂起して約10分後

 

アメリカ合衆国 ホワイトハウス

 

「何度も私に同じことを言わせないでください大統領!! もしここでジャパンを見捨てれば取り返しのつかないことになります!!」

「くどいぞオースティン!! ならぬものはならぬのだ!!」

 

第二次世界大戦で大日本帝国とナチスドイツを倒し、冷戦ではソビエトに勝利した超大国アメリカ。その権力の象徴たるホワイトハウスではジョー・バイデンデン大統領とロート・オースティン国防長官による激しい口論が行われていた。無論その原因は日本に現れた謎の武装集団についてであった。

 

「現地に潜り込ませているCIAの工作員やジャパンの防衛省、更にはUKからの情報を精査した結果、あれはロシア軍の正規兵による侵略行為であるとペンタゴンでは判断しています!!」

「それはあくまでペンタゴンが勝手にそう判断しただけのことだろう!! 現時点ではロシアからは何も出ていないし、我が国とジャパンは同盟国だ。そんな愚を犯すわけないだろう!!」

「しかし、ロシアはその愚を犯しているのです!! 既に我が合衆国軍は総動員体制に移っています!! ジャパンやコリアの部隊に加え、アラスカやハワイ、グアム、カルフォルニアの部隊も出動準備に移っています!! 後は大統領の決断と議会の賛成があればホッカイドウのロシア軍を排除するにとどまらず、アラスカからカムチャッカに上陸し、背後から挟み撃ちとし・・・」

 

言葉を続けようとしたオースティン国防長官であったが、それをそれよりもでかい声量でバイデンデン大統領がかき消す。

 

「君はあれをロシア軍だと言うが、仮にそうならより一層我々は介入するべきではないだろう!! 君達ペンタゴンは核戦争がしたいのか!? この自殺願望の集まりの愚か者が!!」

「大統領!! 流石に言葉が過ぎますぞ!!」

「黙れ!! 若造が私に意見するな!! 良いか!! とにかく我がアメリカ合衆国はジャパンとロシアの争いごとには一切介入しない!! そしてあらゆる手段を用いて停戦させるのだ!! 良いな!!」

 

そう言うと大統領は国防長官を部屋から追い出してしまう。その際に国防長官は大統領にこう捨て台詞を吐いた。

 

「この決断、我が合衆国の、帝国の崩壊に繋がるでしょうな。」

 

 

英国 ダウニング街10番地

 

首都ロンドンの中心部、シティ・オブ・ウェストミンスターのダウニング街の一角に位置するダウニング街10番地。300年以上の歴史があり、英国首相の住処である。ここではアメリカの動向を秘書から報告を受ける英国首相、リシ・スナックの姿があった。

 

「それでルーク君、ヤンキー共は動かないと。」

「はい。先程米国から極秘回線で連絡がありました。核戦争という人類史上最大の愚行を犯さない為、何より平和的外交的解決を目指す為に最善の手をとった、と。」

「最善の手? あのヤンキーも落ちたものだな。一昔前なら適当な理由を付けて戦争を吹っかけていたのだがな。イラクとかアフガンとかな。」

「しかし、同盟国。それもどの国よりも親米国であるニッポンを見捨てるとは・・・。これでは我が英国も有事には見捨てられてしまうのではないでしょうか? わが国だけではカナダやオーストラリア、ニュージーランドを防衛する事は不可能です。もしアメリカが出てこないとなれば、それらの国々を見捨てなくてはなりません。」

「ルーク君、君の懸念は痛い程分かる。何より私自身もそう思っているのだからな。同盟という言葉の意味をあの痴呆爺に教育してやりたいぐらいだ。」

 

スナック首相は紅茶を一口口に付ける。

 

「喉が渇いただろう。ルーク君、君も一口飲んで落ち着くんだ。話はそれからだ。」

「はっ、失礼いたします。」

「さて、あのプーチンチンが第二戦線を構築した訳だが、ルーク君はこの意味を理解出来るかい?」

「はあ・・・無学な自分には全く。ここは他の英国人にはない視点をお持ちの聡明な閣下の私見を拝見したく存じますが。」

「ははは、そうやって君はいつも私を立ててくれるよな。皮肉なのかもしれないがな。」

 

スナック首相は世界地図を広げる。

 

「まずはロシアがワッカナイとネムロを抑える意味から解説していこう。ワッカナイの北にはサハリン、ネムロの東にはクナシリがある。ロシアから見て対岸はニッポン、実質的にヤンキーが支配している。これではそれらの地域の安全が担保されないこと、そしてそれぞれの海峡を仮に機雷で封鎖されるとロシアにとって大打撃となる。間宮海峡は冬季に凍結し、更に狭く軍艦の移動にはあまり適していない。一方でもう一つの出口である対馬海峡にはニッポンとコリアがあり、宗谷海峡以上に守りが固く、更にロシアから離れすぎている。だがワッカナイとネムロを抑えれば話は別だ。両岸は自身の支配領域となり、ロシアは自由に軍艦を太平洋に進出させられる。」

「しかし、それではウクライナ戦線が手薄になりはしませんか? 実際にウクライナ戦線は若干手薄とのことですが。」

「それが二つ目の・・・実際の狙いだ。プーチンチンの目的はヤンキーを交渉の席に引きずり出すことだ。」

「アメリカを交渉の席に・・・ですか?」

「ああ。ニッポンとヤンキーは同盟国だ。少なからず出てくる余地がある。それこそ、長引けば長引くほど参戦への圧力が高まり、参戦せざるを得なくなる。だがそれは同時に核戦争を意味する。ロシアは核戦争を回避したくて仕方ない痴呆爺の心理を突いて動いている。一発ニッポンを大きく殴りつけ、核戦争回避の譲歩を引き出させようとしている。」

「・・・・まさか、その譲歩はウクライナへの支援の停止と自国とベラルーシへの経済制裁解除なのでは?」

「イグザクトリー、その通りだ。どの国が仲介するのかは分からないが、停戦及び核戦争回避と引き換えに譲歩を引き出し終戦する。それが熊の描いている筋書きだ。ここまでは計画通りと言ったところか。」

「では、我が国はどうするので?」

「我が国は当然ニッポンを支援する。限定的ではあるが、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドと共に軍を派兵する。諜報部の知らせではホッカイドウ・アオモリの重要拠点に対してロシアが空挺部隊を降下させ、占拠する予定らしい。これがその証だ。」

「こ・・・これは!!」

 

ルークはその内容を見て絶句する。

 

「しかし、アメリカが動かないのであれば我が国は何故動くのですか? 首相は一体何をお考えなのですか?」

「うむ、実はニッポンのミスター・ワカバから提案を受けていたのだ。この戦争が終わった後の世界についてな。」

「ミスター・ワカバ・・・ニッポンの防衛大臣ですか?」

「ああ。あの男は本当に恐ろしい男よ。若いのにも関わらず先を読む力がある。私はこの提案に乗ろうと思う。ここでニッポンに味方することはEUを離脱し、影響力が低下している我が国の復権、更には戦後の新たな秩序を我が国が構築し、更にヤンキーに支配されているニッポン市場への参入、TPP加盟に向けた斡旋、そしてニッポンの持つ高い技術力。それを手に入れることが出来るのだ。既に議会の招集は決まっている。明日には緊急開催される。そこで我らがユニオンジャックを極東の島国に翻すことを議決する!!」

 

翌日英国議会が緊急招集され、ロシアによる日本侵略に対して全会一致で糾弾する決議案を可決。また同時に英国軍の日本派遣を賛成多数で可決し、偶然にもオーストラリアで訓練中だった部隊が日本へ派遣されることになり、カナダ・オーストラリア・ニュージーランドの部隊と共に一路横田基地を目指し空路で向かうこととなった。

 

「・・・・首相、オーストラリアで訓練していたのは偶然ですか?」

「流石にそれは偶然さ。不幸中の幸いって奴だよ。」

 

 

中華人民共和国 中南海

 

「それでプーチンチンは本当にやっちまったアルか?」

 

今や米国と肩を並べる大国となった中華人民共和国。その中国の国家主席を勤める習金平は部下からロシアの稚内・根室侵略の報告を受けていた。

 

「はい。北海道に潜り込ませていたスパイによれば突然ロシアの戦車や覆面の武装集団が現れ日本人を手当たり次第に射殺または女を○○○する為に拉致していたと。またその連絡を最後に連絡がつかなくなっております。」

「ああ、あいつら日本人と中国人の区別がつかなかったアルね。おそらくもうそいつはこの世にいないアル。しかし、北海道は中国が支配するはずだったアル。ロシアに先越されたアル。」

「では、我が国も北海道に。」

「それは無理アル。それに実行する意味もないアル。我が国も動いたら流石にアメリカが重い腰をあげてしまうアル。それは全くよくないアル。ここはウクライナの時のように両者に配慮して中立にいるべきアル。まあ・・・そうアルね・・・台湾海峡周辺で軍事演習ぐらいならしてやるアル。そうすればアメリカもロシアばかり見てはいられないはずアル。それ即ちロシアの助けにはなるアル。」

「では、直ぐにも演習を行わせます。」

「それだけではないアル。中露国境付近にも軍を配置するアル。ありとあらゆる事態に対処出来るようにしないといけないアルよ。」

「了解致しました。では早速にも。」

「それとアメリカには我が同胞を可能な限り送り込むアルよ。何なら日本にいる奴らも行かせるアル。この戦争がどう終わるかは分からないアルが、先に手を打つべきアル。」

 

中国はロシア寄りの姿勢を見せつつも、基本的には中立の姿勢を取った。台湾海峡に軍を展開してアメリカを牽制しつつも、中露国境にも大軍を展開。一体何を考えているのかを各国は探りを入れるのである。

 

「どう転んでも我が国が負けることはないアルよ。むふふふ・・・・」

 

(続く)

 

 

 

 



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ネット上の闘い

その頃の日本のSNSでは今回の自衛隊出動や稚内・根室・東京でのロシア軍による軍事侵攻を受けて様々な議論がなされていた。

 

 

「前々からロシアが日本に攻めて来るとか言われてたけど、マジで来やがったな。」

「第二戦線構築って、ロシア勝ち目あるんか?」

「アメリカは動くんか? 動いたら第三次世界大戦まったなしやんけ。」

「動かないに一ペリカ。核戦争になるからってウクライナに軍を送らないアメリカ様やぞ。」

「思いやり予算を払っているのに見捨てられるジャップ涙目WWWWWWWW」

「それより東京で毒ガス(多分サリン)がばらまかれたらしい。自衛隊の車両が俺ん家近くの駐屯地から一斉に出て行ってたぞ。」

「官邸近くで俺は何か覆面の人間が見たんだが。たまたまあっちが気付いてなかったから逃げ切れたけどあの後ヘリが落ちて来たわ・・・もう終わりだよこの国・・・」

「これもう戦争だろ。買いだめしないとダメな感じ?」

「日本に参戦する国はあるんか? アメリカは動かん感じがするが。」

「↑イギリスは動くらしいぞ。BBCが速報で伝えてた。」

「ブリカスが何出来んだよWWW 来てくれるのは凄くありがたいがWWWW」

 

そんな中、SNS内で有名な左派系知識人Dr.カッター氏の発言が注目され、賛否が巻き起こる騒ぎとなっていた。

 

Dr.カッター

今回ロシアが軍事行動したとか防衛省が主張していますが、全く証拠のない言いがかりです。外部の恐怖をあおることで政権の失策を隠そうとする自国民党と公正党の陰謀であることが明らかです。今こそ、軍拡より暮らし、武力ではなく対話を訴えていきましょう。

#軍拡より暮らし

#武力ではなく対話

#自国民党に殺される

#若葉響大臣の議員辞職を求めます

 

また、このカッター氏が活動しているSNSの特性上、左派系の主張が目立ちやすい構造となっていたこともあり、ネット上では若葉大臣を糾弾する発言が相次ぎ、それに左派政党が乗っかり政権批判や防衛省批判を展開していた。

 

 

志位和汚(日本コミンテルン委員長)

今こそ憲法9条の掲げる平和の精神に基づいて話し合いで解決するべきです。自衛隊がある、米国追従外交の失敗の結果が今出ています。明日招集される臨時国会では政府の姿勢を問いただし、一刻も早い停戦を実現するよう働きかけます!! 今必要なのは武力ではなく対話です!!

#軍拡より暮らし

#武力ではなく対話

#自国民党に殺される

#若葉響大臣の議員辞職を求めます

 

 

福嶋ミズホ(社会国民党党首)

憲法違反法律違反の若葉防衛相の行動を看過することは出来ません!! 一刻も早くこの大臣を辞めさせないことには和平なんてできません!! 憲法を生かした政治の出来ない若葉防衛相は辞任を!! 頑固に平和!! 軍拡より暮らしが優先です!!

#軍拡より暮らし

#武力ではなく対話

#自国民党に殺される

#若葉響大臣の議員辞職を求めます

 

 

一方、自国民党と公正党の幹部はオンラインで緊急会合を開催。唯一生き残った主要閣僚の若葉響防衛相を次の総理とすることを正式に決定。明日に緊急招集される臨時国会で正式に選出することを決定。これを各種報道機関が報じた。これを受けてSNS上では更に議論が過熱。

 

「誰だ此奴?」

「↑西田内閣の防衛相。一番若い。」

「参議院議員が総理になってええんか?」

「↑ダメな決まりはない。ぶっちゃけ誰もやりたがらないからピンチヒッターみたいなもんでしょ。」

「俺は衆議院に鞍替えすると思う。30そこそこで顔が良くて総理とか強いやん。こんな状況誰が総理やっても変わらんだろうし。」

「ぶっちゃけ有能なん? この若葉って奴。」

「暗殺された安倍川総理が地方議員時代から目にかけてたらしいよ。」

「自衛隊法とか法律ガン無視で自衛隊を動かした奴で草。」

「↑ほかに指揮できる奴がいないからしゃーない。まあ、野党は批判するだろうが」

「↑総理や官房長官が人事不詳な中ようやっとるやろ。俺なら怖くて自衛隊を動かせん。」

「そうなると英雄やんけ。どこまでやれるんかな。まあ、アメリカ次第だろうけど。」

「そう言えばDr.カッターがまた何か言ってたな。」

 

Dr.カッター

こんな法律無視の行動しか出来ない男が次の総理とかこの国の民主主義は終わってますね。法治国家としての矜持をかなぐり捨てる自国民党と公正党を武装勢力より一刻も早く日本から追い出さないといけませんね。こうなると稚内や根室の武装勢力は解放軍として受け入れるべきなのではないかと思いますね。

#軍拡より暮らし

#武力ではなく対話

#自国民党に殺される

#若葉響大臣の議員辞職を求めます

 

「武装勢力の排除が先だろWWWWW」

「武装勢力(ロシア軍)」

「此奴ロシアのスパイか何かか?」

「外患誘致罪キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」

「↑浪速維新の鈴木宗生やオリンピック会長だった森義朗も逮捕オナシャス!! あいつらあからさまにスパイやろWWWWW」

 

SNSでは右派と左派による煽り合戦となっており、こっちはこっちで混とんと化していた。そんな中、ウクライナ大使館がDr.カッター氏の発言を引用してこれを批判。

 

 

在日本ウクライナ大使館

ロシア軍を追い出すのが先に決まってると思います。

 

単純明快な反論にSNS上大盛り上がり。

 

「一瞬で論破されてて竹。」

「マジでカッター外患誘致罪適用されろよWWW言論の自由でも許されないだろうWWW」

「遂にこの目で外患誘致罪適用を見る時が来るとは・・・」

「明日の国会大荒れ確定やな。どうするんや?」

「↑防衛出動を強行採決待ったなしやな。」

「↑むしろ採決する暇あんなら今すぐやれや。」

「流石に若葉総理も議会のお墨付きは欲しいから議決はやるだろ。強行採決だと思うけど。」

「ここで野党に内閣不信任案提出されたら笑う(笑えない)」

「マジで出しそうなのがやばい。」

「不信任に賛成した奴は逮捕不可避やな。」

 

一方で、一部のネット民では古の兵器田代砲が持ち出されロシアの政府機関のサイトへ攻撃を行っていたのだが、それは全く目立つことなく臨時国会召集の日を迎えることとなるのである。

 

(続く)

 



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機能不全

8月7日 日本国 国会議事堂

 

先の大戦で軍民合わせ多数の死者を出し、戦後は米国の従属化の元で平和を謳歌していた日本国であったが、昨日の稚内・根室での武装蜂起、総理搭乗の自衛隊機撃墜、直後に発生した首相官邸襲撃と地下鉄への毒ガス散布等後の世に東京事変と称される戦後の日本のあらゆる政策の大転換点となる日を今迎えようとしていた。

 

「・・・・厳重な警備だな、姉さんそう思わない?」

「厳重って、敷いたのは防衛相でしょうに。」

 

この日響はシルバーや栗栖と共に同じ黒塗りの高級車で国会へと移動していた。一昨日に東京が戦場になったばかりということもあり、国会周辺は完全武装した自衛隊員で固められ、それらに繋がる地下鉄駅や幹線道路には警視庁や応援でやって来た神奈川県警や埼玉県警を始めとする関東の警察組織が多数の警備車両を用いて厳重警戒していた。また羽田や成田の民間機の乗り入れが無期限中止され、首都上空は自衛隊、警察、海保、更に同盟国アメリカの航空機が飛び交い、空からの攻撃に備える体制が取られていた。また基本的には戦闘機部隊の配置がない横田・入間の空自の基地に緊急的に戦闘機部隊が配置され、百里と合わせ鉄壁の守りを作り出していた。昨日は全ての艦艇を出動させていた海自は規模を縮小しつつも、海保が穴埋めする体制を取り、引き続き東京湾を封鎖していた。

 

「おいおい良いのかよあれ? 無許可なんじゃないのか?」

 

シルバーが指さした先には何やら物騒な旗や横断幕を掲げた団体がデモを行っていた。

 

「軍国主義を復活させようとするアベカワ政治の亡霊、若葉ヒビキを許すなー!!」

「政府は戦争ではなく暮らしを大切にしろー!!」

「アメリカと共に戦争できる国造りを我々は許さないぞー!!」

「お前の代わりはいくらでもいるぞー!! 今すぐ辞職しろー!!」

 

無論それは毎度おなじみの左翼勢力によるデモ行進である。事実上の戦時下にある東京では右派左派問わず全てのデモ活動に対して許可を出さない方針を臨時総理として命じていたが、活動家には関係のないことだった。

 

「無許可のデモ活動は許されません!! 今すぐに解散しなさい!!」

 

警察が拡声器を用いてデモ隊に解散を指示する。しかし彼らにはどこ吹く風と言わんばかりにデモを続ける。

 

「貴方方のデモ活動を始め、右派左派全てのデモ活動は許可されていません!! 今すぐに解散しなさい!! 解散しない場合は実力行使もあり得ます!! 今すぐに解散しなさい!!」

「言論の自由を侵害する自国民政権を打倒せよ!!」

「稚内・根室の解放軍と協力して自国民党の人間を追放しよう!!」

 

 

「・・・・・ろくでもない奴らだね。」

 

国会へと向かう車の中で響はそう呟いた。

 

「国会の中もそんな奴らばかりだけどな。」

「それは言わないのシルバー! 仮にも貴方はこれから防衛相になるのよ。言葉遣いには気を付けなさい。」

「へいへい。」

「二人とも、もうすぐ入口に横付けされるよ。」

 

自衛隊・警察の厳重警備の元三人は国会へと降り立つ。

 

「・・・・日本の歴史が変わる。今僕はその最前線に立つ。」

 

響達は国会へと入場。その後自国民党の控室へと案内される。

 

 

国会内自国民党控室

 

「若葉総理!! お待ちしておりました!!」

「その呼び方は止めてくれ。今はまだ防衛大臣だ。なるのはこれからだよ。」

 

響は自国民党の幹事長を務める茂木俊三と会談した。

 

「閣僚だけど、僕の意向を反映させてもらう。不服ではあるとは思うけど、今は国家の危機だ。無用な混乱を生じさせるべきではない。」

「無論です。何よりこの緊急事態では火中の栗を拾う覚悟のある政治家等いないでしょうから・・・。」

「何なら幹事長、貴方が総理をやりますか?」

「な、何を申されます!!」

「冗談だよ。」

「し、心臓に悪いです・・・総理。」

「それじゃあ、僕は公正党の人と会いに行って来るから。」

 

 

国会内公正党控室

 

「山口夏雄代表、一昨日の貴党の斎藤鐡夫大臣が亡くなられましたこと、我が党としましても万感の胸に障る物であります。」

「お気遣い感謝致します。それで、引き続き我が党と自国民党は連立政権を組み続ける、それで構いませんな?」

「無論です。公正党も我が党もベテラン閣僚が無残にも殺され、否が応でも世代交代を迫られております。この者であれば自公政権は維持されるでしょう。」

「それはありがたい。それと以前から言われておりました憲法改正の件ですが。」

「公正党は九条の改正には消極的なのでは?」

「それが、どうも我が党の支持者の中からも改正に前向きの声が出てきておりまして。」

「・・・・・・・そうですか。」

 

 

国会廊下

 

「それで、山口はなんて?」

「憲法改正に今後は応じたいとさ。」

「意外だな。公正党のことだからこんな事態でも渋りそうだと思ったんだが。」

「シルバー、公正党は権力に対しては貪欲な政党だよ。今の世論で改正反対なんて訴えれば後ろから刺されるよ。冗談じゃなくてね。まあ、そんなことよりまずは総理になることからだけど。」

 

 

衆議院本会議

 

「・・・・投票の結果、若葉響君を内閣総理大臣に指名することに決まりました!!」

 

戦時下という緊急事態。誰も拾いたくない火中の栗。唯一生き残った主要閣僚。様々な要因が積み重なり、防衛相であり、参議院議員である若葉響は日本の憲政史上初の参議院の総理大臣となった。また同日参議院でも投票が行われ両院で選出され、速やかに組閣が行われることとなった。

 

衆議院本会議

 

「それでは閣僚名簿を発表致します。」

 

普段であれば総理官邸で行われる閣僚名簿の発表。しかし、昨日武装勢力に襲撃されたばかりであること、緊急事態であり移動にはリスクがあること、また速やかに自衛隊出動の議決を取りたい若葉政権の思惑もあり、与野党の国会議員の眼前で閣僚名簿を発表することとなり、その光景が全国に生放送されるのであった。総理大臣には若葉響参議院議員、空白となる防衛相には副大臣だった常磐銀地が昇格する形で就任、外務相も同じく副大臣で総理の従姉の若葉栗栖が就任、副総理には安倍川内閣で最強の官房長官と恐れられた菅義秀氏が就任、官房長官には大臣経験0のイケメン、京都選出の松葉鳳氏が就任、国家公安委員会委員長には警察官の経験のある奈良選出の若手桔梗隼人氏が就任、経産大臣には東花満氏、そして公正党が閣僚を出す国交相には期待の若手黄金勇気が就任。総理と同じ年齢、同じく当選一回目という一番のサプライズ人事であった。またそれ以外の閣僚は全て留任し、本当にいなくなった閣僚を穴埋めした臨時内閣となった。また就任式や写真撮影は省略され、速やかに国会に自衛隊の出動を認める議決を若葉内閣は提出するのだが・・・

 

 

立憲国民党 和泉ケンタ

 

「若葉総理、貴方は話し合いで解決するという考えは脳にはないのでしょうか!! 戦争を指示する貴方は安全地帯にいるかもしれませんが、実際に戦場に行く自衛隊員のことを考えたことはあるのでしょうか!!」

 

 

日本コミンテルン 志位和汚

 

「自国民党はロシアからの侵略に対抗すると称して軍国主義を推進しようとしているのは明らかです!! 今すぐにでも退陣して、憲法九条の精神に則った外交的に解決することが日本のとるべき道です!! 自衛隊の出動は元より、その存在が憲法違反です!! また総理は防衛相時代に法を無視して自衛隊を出動させるなど、総理どころか政治家としての資質に欠ける憲政史上最低最悪の総理です!! 絶対に賛成してはなりません!!」

 

 

令和新撰組 大石アキ子

 

「戦争よりも、暮らしが第一です。暮らしより戦争を重視する若葉政権は今すぐにでも退場して頂き、国民の為に働く政治家が総理になるべきです!! 消費税の減税が出来ない自国民党政治!! 話し合いより武力の自国民党政権!! 法令無視の若葉響とかいう屑!! 絶対に許されない存在です!!」

 

左派政党から猛反発を受け、更に議決は性急だとして議長に野党議員が群がり、暴力で以て採決阻止を謀った。

 

「この反日野郎が!! 外患誘致罪で捕まっちまえ!!」

 

常磐銀地防衛相が群がる野党議員目掛けて指を指すと共に野次を飛ばす。これに野党議員が反応。更に国会が荒れに荒れまくってしまう。

 

「内閣不信任だ!!」

「速記を止めろ!!」

「問責決議だ!!」

 

この日は国会が荒れすぎて議決どころではなくなってしまう。この日は散会となったが、野党側は国会軽視の若葉内閣は信用できないとして翌日に若葉内閣への内閣不信任案と常磐銀地防衛相に対する問責決議案を提出すると宣言。この動きは若葉総理に対して早くも総理としての重大な決断を強いることとなるのである。

 

(続く)



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反撃の太陽

アメリカ合衆国 ワシントンD.C. 日本大使館

 

「自国民党はロシアからの侵略に対抗すると称して軍国主義を推進しようとしているのは明らかです!! 今すぐにでも退陣して、憲法九条の精神に則った外交的に解決することが日本のとるべき道です!! 自衛隊の出動は元より、その存在が憲法違反です!! また総理は防衛相時代に法を無視して自衛隊を出動させるなど、総理どころか政治家としての資質に欠ける憲政史上最低最悪の総理です!! 絶対に賛成してはなりません!!」

 

日本国内では自衛隊の出動を巡り早期に出動の議決を採りたい与党及び維新・国民党と断固阻止を謀る野党側の乱闘騒ぎが発生。戦時下にあるにも関わらず軍の出動を決定出来ない、主権国家としてあり得ない醜態を世界に晒していた。

 

「・・・・・一体反対する奴らはどんな神経をしているんだ・・・。」

 

駐米日本大使を務める檜扇響平は共産主義を掲げる政党、日本コミンテルン委員長の国会における発言に不快感を露にしていた。

 

「君のお爺様はどうしてあんな輩を根絶やしにしておかなかったのだろうか・・・どうせ独裁をやるのであればあんな奴らから消すべきだろうに・・・」

 

彼の傍らに控えているのは彼の秘書にして妻の檜扇鳴。彼女の御爺さんに当たる人物は太平洋戦争中に総理大臣を務めた東条英機である。

 

「あまりそう過激なことは言わない方が良いですよ。」

「分かってる、分かってるさ。だがあれを見て君は何も思わないのかね?」

 

彼が指さした先には日本の国会中継を映したテレビがあった。

 

「話し合いでの解決が第一であり、憲法に定められた戦力の不保持、武力を行使しないと言った日本が世界に誇る素晴らしい憲法九条の精神に則り平和的な外交で解決することが必要です!! 総理!! 貴方にはその気はありますか!! 安全な後方地帯で自衛隊員に死ねと言うことが仕事ですか!! それが為政者のすることですか!! 更には横田と入間に自衛隊の戦闘機を事前通告や協議なしに強行配備する等地元自治体や住民の理解なしに進めるその姿勢は当に!!」

「この反日野郎が!! 外患誘致罪で捕まっちまえ!!」

「議長!! 常磐大臣に注意してください!!」

 

そこには荒れまくっている醜い国会が映し出されていた。

 

「君のお爺様が残してしまったアカの残党がこうして日本を蝕んでいる。僕はあれを何とかしたいとずっと思っているんだ。君の為にも。」

「・・・・あのお爺様の孫であるにも関わらず結婚してくれた、それだけで満足よ。」

「その血を恥じることはないさ。イタリアではムッソリーニの末裔が選挙でトップ当選したりするしね。しかし、案の定米国は卑怯だよ。同盟国とは名ばかりの従属を強いたのにも関わらず非常事態になればあっさり見捨てるのだからね。」

「核戦争を避けたいのでしょうけど、無情よね。」

「核か・・・我が国にもあればこうはならないのだろうけどね。」

 

響平はそう言うと机の引き出しを開ける。

 

「これは?」

「外務省からの極秘命令だ。今この茶封筒の開封時間になった。」

 

そう言うと彼は茶封筒の開封に移る。

 

「どれどれ・・・。」

 

二人は極秘命令の中身を見る。

 

「・・・・どうやらあの総理、結構前から暗躍してたみたいだね。さて、こうしちゃいられないね鳴。直ぐにオースティン国防長官に会談の要請をしないとね。」

 

二人は封筒の中身をシュレッターに入れ処分する。その文書に書かれていたのは、

 

「崩壊の帝国」

 

と。

 

 

東京都 市ヶ谷 防衛省

 

「しかし、ここは落ち着くね。警備もしっかりしてるし、アカの奴らもいない。」

「首相官邸代わりに防衛省を使うのはどうかと思うけどね。」

「松葉官房長官、そうも言ってられませんよ。官邸はロシアの攻撃で機能不全。国会は野党により同じく機能不全。下手すりゃ僕の命も危ないですよ。かと言って立川じゃ遠いし、また撃墜されるかもしれない。それならなじみのある防衛省の方が良いですよ。さて。」

 

若葉総理は桔梗隼人、東花満、黄金勇気の三人を呼び出していた。彼らを前にある茶封筒を手渡した。

 

「総理、これは?」

「今は何も答えられない。ただ言えるのはそれを持って桔梗隼人国家公安委員会委員長にはカナダ、東花満経産大臣にはオーストラリア、黄金勇気国交大臣にはニュージーランドに行ってもらう。」

「「「へ?」」」

「気の抜けた返事になってしまうのも無理は無い。だけど、これは必要なことなんだ。各国に分散することで内閣の機能不全は回避出来るし。」

「ですが、中身も分からずに行って何になるのですか?」

「東花大臣、既に各国の日本大使は動いている。後は僕の特使として君達が行くだけで良い。カナダへは僕の従姉が英国に行くから同乗して途中で降ろして貰え。オーストラリアへは輸送機が横田から離陸するからそれに同乗、ニュージーランドへは同じ輸送機で一度オーストラリアへ行った後に乗り換えて行ってくれ。既にオーストラリア、ニュージーランド両政府の了解は出ている。」

 

三人はよく分からないまま総理の特使としてそれぞれの目的地へと向かった。

 

「松葉官房長官。」

「何だい響君・・・若葉総理。」

「もしかすると僕はこの戦争で死ぬかもしれない。その時は松葉さん、貴方が総理ですよ。」

「縁起でもないことを。」

「そうならないと良いけどね。さて官房長官、例のあれを実行したい。準備は出来ているね?」

「うん。8/9には実行可能さ。」

「そうか。本当は明日にでもやりたいところだけど、それは出来ない相談だね。」

「お前ら、俺の防衛省で好き勝手してんじゃねえぞ!!」

「あ、シルバーいたんだ。」

「いて悪いか!! 俺は防衛相だぞ!!」

「だって官邸はボロボロじゃん。シルバーもボロボロにした一人だし。」

「君は国会でも失言してボロボロだし。」

「うっせえ!!」

「それで、ロシアの動きは?」

「話を無理やり変えるな!! まあいい。英国からの知らせでは北海道・青森の重要拠点に精鋭による空挺作戦の可能性だそうだ。」

「重要拠点? 具体的には?」

「それは分からないそうだ。それと英国を中心とした援軍が間もなく横田に到着する見込みだ。」

「そうか。」

 

英国からもたらされた重要拠点。それが一体どこなのか。若葉総理はひたすらにその場所を思案していた。

 

(重要拠点・・・制空権を確保するのであれば千歳や三沢、制海権を確保するなら大湊や哨戒機部隊のある八戸・・・しかしレーダーサイトや戦車部隊の駐屯地もあり得るか)

 

「守るところが多すぎるね、シルバー。」

「ああ。だが良いのか?」

「何が?」

「三沢からF2やF35を引き上げて横田や入間、松島に配置。代わりにF15を配置。これでは上陸前の敵を叩くことは出来ないぞ。」

「うん、叩くことは出来ないよ。」

「なら何故!!」

「シルバー。」

 

若葉総理は悲しげな笑みを見せる。

 

「我が国は撃たれて、誰かが死ななきゃ自衛隊を動かすことは出来ないんだ。上陸前の敵を叩くことはそもそも憲法的に出来ないんだよ。」

 

 

 

アメリカ合衆国 ホワイトハウス

 

「プーチンチン大統領、我がアメリカとしてロシアとの核戦争は絶対に避けたいのですよ。」

 

日本が英国を始めとした英連邦国家に調略の手を伸ばしている一方でアメリカはロシアと電話会談を行っていた。

 

 

ロシア連邦 モスクワ クレムリン

 

「バイデンデン大統領、我が国と友邦ベラルーシへの経済制裁解除とウクライナ支援の終了、稚内・根室両人民共和国の独立を承認。それらを飲んで頂けるのでしたら即刻兵を引きましょう。」

 

完全にアメリカを手玉に取っているロシアのプーチンチン大統領はアメリカ側に無理難題な要求を突きつける。

 

「・・・・そうですか。受け入れて貰えませんか。それは残念ですな。もしかしたら貴国と核戦争になってしまうかもしれませんな。ですがそれは貴国が望んだことですから仕方ありませんな。では。」

 

そう言うとプーチンチン大統領は電話を一方的に切る。

 

「さて、パトソール君。」

「はっ! ここに!」

「私は明日協定の調印を行う。君は明後日の作戦に向けた準備の最終段階に移るように指示を出したまえ。」

「了解致しました。」

「それとパトソール君。」

「何でしょうか?」

「もしこの特別軍事作戦が成功した暁には君をウクライナ大統領にする。良いな?」

「私が一国の大統領ですか? それは身に余る光栄でございます! 必ずやこの作戦を成功させます!!」

「うむ、今の私には君だけが頼りだ。頼むぞ。」

 

(今頃ホワイトハウスの連中は大喧嘩になっているだろうな。稚内・根室の領土化等最初から期待していない。というか、パトソール君の立案でもそうなっていたしな。あくまで米国の譲歩を引き出すための釣り餌でしかないからな。だが、受け入れないのであれば受け入れざるを得ない状況とするまで。バイデンデンよ、この私を甘く見ないことだな)

 

 

アメリカ合衆国 ホワイトハウス

 

「大統領!! プーチンチンが無理難題を突き付けて来たとのことですが?」

「ブリブリケン国務長官、奴らは本気でジャパンを攻撃するつもりだ。」

「お言葉ですが大統領、既にロシアはジャパンを攻撃しております。本気も何もありません! 前にも申し上げましたがペンタゴンではジャパンへの援軍を何時でも送れる用意をしております!! 既にブリティッシュやオージーは軍を派遣しております。我が合衆国も続くべきです!!」

「私も国防長官に全面同意致します。もしここで我が合衆国が軍を出さなければ同盟国から不信感を持たれ、NATOを始めとする軍事同盟は瓦解してしまいます。あとは閣下の決断次第ですぞ!!」

「駄目だ駄目だ!! それでは人類が滅亡する!! 核戦争は避けなくてはならない!! 我が合衆国は引き続きロシアとの話し合いを続ける!! どうにかしてでもロシアとの戦争を避けるのだ!! 核戦争回避の為なら経済制裁の段階的解除、ウクライナへの軍事支援の停止を認めると伝えよ!!」

「大統領!! それでは国民が納得しません!!」

「軍の反発も避けられませんぞ!!」

「うるさいうるさい!! 人類の滅亡とジャパン、君達はどっちが大切なのだ!!」

 

 

英国 ダウニング街10番地

 

「それで首相、ニッポンの大使からは何を言われたのですか?」

「ああ、実にエキセントリックな内容だ。」

「と、言いますと?」

「新たな世界秩序構築の為、協力しようとのことだ。同じ内容はカナダ、オーストラリア、ニュージーランドにも伝えられているとのことだ。」

「こ、これは・・・!! これは世界が変わりますな!!」

「ああ。我が英国の影響力強化をこのような形で実現出来るようになるとは思わなかった。だが、我が国にも意地がある。フィンランド、スウェーデンの首脳と電話会談を行いたい。この同盟に彼らも引き込むのだ。大陸の奴らに盗られる前にな。」

「は!」

「それと、ミスター・ワカバにある提案をしてくれ。例の同盟の名前をな。既に考えてある。」

 

その後英国から送られた名称を若葉総理が同意し、各国は密かに詰めの協議を開始することになった。

 

 

「そう言えば、僕がまだ防衛大臣だった7月に出港させた護衛艦「あしがら」、「あきづき」、「あさひ」、「もがみ」、補給艦「おうみ」は順調に英国に向けて航海中かい?」

「8月中には英国に着く予定だ。しかし、何故主力の護衛艦をわざわざ大西洋まで持って行くんだ?」

「シルバー、これはロシアに対する圧力の為なんだ。分かってくれ。」

「よく分からねえがお前が言うならそうなんだろうな。」

「ふふふ、もう響君が防衛大臣と総理大臣の二刀流だね。」

 

(続く)



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いつも通りの国連安全保障理事会

8/8 国連安全保障理事会

 

ロシアによる稚内・根室侵略、総理搭乗のヘリ撃墜・首相官邸襲撃・地下鉄での毒ガス散布等を受けて緊急開催が決まった国連安全保障理事会。当初は8/7までに開催予定であったが、米露電話会談や日本国内の米軍基地からの報告のとりまとめ等があり、今日の開催となった。

 

「直ちにロシアは稚内・根室から軍を引き上げ、東京での一連の軍事行動も含めた行為によって生じた我が国の損失に対し、真摯に謝罪すると共に、賠償を求めます。」

 

ロシアの軍事行動を非難する提案の提出国であり、被害国である日本の国連大使「真砂光」は強い口調でロシア側に行動を求めた。

 

「我が国ロシアが一連の行動を行った事実は存在しない。全て我が国の品位を貶めたいが為のネオナチによる謀略である。ネオナチのウクライナ現政権を支持するがあまりに自身までネオナチとなってしまったことに気付けない日本に対し、深く残念な思いである。」

 

ロシア側の国連大使バシリー・ネベンシアは日本側の要求の一切を一蹴。それどころか日本をネオナチと事実錯誤も甚だしい発言を行った。

 

「むしろ日本に軍を派遣している英国こそが侵略者であり、我が国のせいだとすることで日本を植民地支配しようとしている。英国が帝国主義に回帰している証拠である。日本の同盟国米国は軍を出動させておらず、これこそがロシアが関わっていないという揺るぎのない証拠である。」

 

それどころか英国を帝国主義の侵略者だと罵倒した。これには流石の三枚舌も激怒した。

 

「我が国はニッポンと基本的価値観を共有し、友好国にある島国である!! ロシアの言う帝国主義の侵略者だという発言こそ根拠のないものである! 厳重に抗議し、即時撤回を求める!!」

 

英国のウッドワート国連大使が猛烈に反論。これを遮るように中国の国連大使が発言する。

 

「我が国としては極東地域が不安定化することは全く望まないアル。中国から見て日本とロシアは重要な国家アル。その二か国がいがみ合うのは好ましくないアルよ。両国だけでは話し合いにはならないアル。我が国は両国の仲介をする用意があるアルよ。冷静な対応を関係国に求めるアル。」

 

中国の張軍国連大使はどの口で言うとんねんという発言をかましながら両国に対話を促した。一方、米国は・・・

 

「我々USAは日本の主権内におけるロシアによる一連の軍事行動を最も強い言葉で非難する。軍事行動ではなく、話し合いでの解決を希求する。」

 

世界の警察はどこへと言わんばかりの弱腰であった。その後白旗野郎が発言したのだが、米英に同調する発言であったため目立つことはなかった。

 

「ロシアによる日本での軍事行動を非難し、即時撤退を求める決議に賛成の国々の挙手を求めます!」

 

採決では常任理事国では米国、英国、仏国は賛成。中国は棄権し、ロシアは反対。また拒否権をロシアがお約束通り行使したため安保理はいつも通りの機能不全に終わった。

 

「これでは安保理は何の意味がないじゃないの!!」

 

国連総会で日本の国連大使は唇を噛んだ。

 

「今頃私の故郷北海道は戦場となり、いつ日本という国がなくなるかも分からないのに私はこのニューヨークという安全地帯にいる・・・」

「大使・・・」

 

真砂国連大使に諸々の資料を提供する為に参加していた駐米大使の檜扇共平は悔しがる彼女に言葉をかけることが出来なかった。否、かける言葉がなかったのだ。

 

「・・・・檜扇大使、本当に米軍は・・・米国は安保条約を発動しないんですか?」

「・・・・そうだよ。昨日オースティン国防長官と会談したんだけど・・・それがホワイトハウスの総意だそうだよ。」

「さっきの安保理での弱腰態度はその現れですか?」

「だけど、ロシアがこれで終わるわけがない。おそらくロシアはまだ米国から得る物をまだ得てない。それを得るために行動を過激化させる。」

「そうなれば・・・沢山の日本人が死にます・・・よね?」

「間違いない。」

「なのに私達は安全地帯にいる。いるにも関わらず何の力になれていない。」

「真砂大使、自分を追い詰め過ぎですよ。鳴、ちょっと真砂大使を連れて外へ。少し頭をクールダウンさせてあげて。」

「は、はい!!」

 

泣きながら駐米大使の秘書に連れられ退室する国連大使を見送った彼は演説する他国の国連大使を見つめる。

 

「しかし、ウクライナ戦線を打破する為に我が国を窓口にしやがるとは・・・どうやら今回のロシアは相当優秀な参謀がいるみたいだな。しかし、安保条約が紙切れになった以上、どうなることやら。一応外務省からの指示は国防長官に伝えたけど、これもう分かんねえな。」

 

その後の国連総会では西側諸国にウクライナが非難決議に賛成。中国やインドは棄権、ロシア・ベラルーシ・北朝鮮・エリトリア等が反対した。

 

「もしかすると、今回のロシアの侵略は日本を普通の国にして、米国を解体するかもしれないな。その代わり、犠牲はデカすぎるが・・・。」

 

そう独り言を呟くと彼も退室し、日本大使館へと戻った。そして一連の出来事を本国に報告するのである。その時に野党が内閣不信任決議案や防衛相に対する問責決議案を提出し、この日の国会は完全に空転したことを知らされ怒りのあまり電話の受話器をテレビに投げつけ両方破壊したのだが、完全に揉み消されるのであった。

 

 

米国 ホワイトハウス

 

「大統領!! 何度も同じことは言わせないでください!! ジャパンを守らなければ合衆国は完全に瓦解してしまいます!! 既に世論ではロシアとの戦争はやむなしとする意見が増えてきております!! それも無視できないほどです!! ウクライナと違いジャパンは同盟国なのです!! ジャパンがあってこそのコリアであり、タイワンなのです!!」

「既に各機関からの知らせでは明日にもロシア軍が大規模な軍事作戦を行う可能性が高いと報告が入っております!! オースティン国防長官の言うようにジャパンは我が国の革新的利益を担う同盟国です。絶対に守らなくては!!」

「貴様らはどうしても核戦争がしたいのか!! したいなら勝手に独立でもなんでもしてからやれ! とにかく私はロシアとの戦争は支持しない!! 明日にも再度電話会談を行い、話し合いで決着させる!!」

「「なりませんぞ!!」」

 

一方のホワイトハウスでは大統領と国務長官・国防長官の押し問答が繰り返され、日露への回答が先送りとなっていた。

 

 

ロシア連邦 モスクワ クレムリン

 

「パトソール君、アメリカはなかなか回答を寄越さないな。」

「おそらく揉めに揉めているのでしょうね。であらば、奴らの現実をみて貰わなくてはなりませんね。とてつもなく強い目覚めを。」

 

そう言うと彼は一枚の書類を取り出し、大統領に署名を求めた。

 

「・・・・やれやれ、君は本当に恐ろしい奴だよ。」

「閣下には遠く及びませんよ。では、作戦を発動致します。」

「ああ。これでウクライナは我々の物となる。多大な犠牲は払うがな。」

「これも、愚かにもNATOを選んだウクライナ国民が負うべき責任でしょう。閣下が負い目を感じる必要はありません。もし追うのでしたら私パトソールが負います故。」

 

(続く)



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欠席の総理と防衛相

8/8 日本国 市ヶ谷 防衛省

 

「今頃国会は荒れてるんだろうなあ。」

 

防衛省の作戦会議室で防衛相の常磐銀地に機能不全の国会を揶揄する若葉総理。

 

「お前が半ば荒らしたんだろうが。」

「まあね。僕達への不信任だ問責に対して本人たちが出席しないんだからね。そんなことより作戦会議が重要だよ。」

「国会の議決を待たずに出動させる気か?」

「当然だよ。あんなどうしようもない奴らと遊んでる時間がもったいないよ。・・・まあ身内にもいるけどさ。最悪事後承認で強行採決だよ。そもそも国家の危機に政争するような連中を国民は支持するのかな?」

「・・・ヒビキ、お前の考えるゴールはどこにある?」

「ゴール? そうだね・・・アメリカをぶっ壊す、かな?」

「それは御恐れたことを言うな。」

「シルバー、君は平家物語を少しは勉強したよね。」

「国語の授業であったな。だがそれがどうした?」

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。

 おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者もつひには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。」

「暗記させられたなあ。あまり好きではなかったがな。」

「そうなんだ。まあいい。「諸行無常」は仏教の教えの一つ。「諸行」=全ての物事、この世にある全てのもの、それは「無常」である。「無常」は字のとおり、常ではない。固定したものではない。変化する。この世の全ての物事は変化している。人は年老いていくし、物質も古くなる。宇宙も膨張を続けている。全てのものは変化している。それが真理だ。おごり高ぶっている人も長くは続かない。春の夜の夢のようだ。春の夜は短い。冬は夜が長かったが、春になると昼が長くなり、夜が短くなる。だから春の夜の夢はすぐに覚めてしまう。はかないものの象徴なのだ。猛々しく力を持った者も最後は滅んでしまう。風の前のチリのようなものだ。一吹きで吹き飛んでしまう、はかないものだ。僕はアメリカという世界最強の覇権国家と平家は似ているんじゃないかなと思う。平清盛の元で栄華を誇った平家であってもはかなく滅びてしまった。更にかつて世界の海を支配した大英帝国も今となっては植民地を失っている。社会主義国家の中心だったソ連も崩壊した。太平洋を席巻した大日本帝国も今や牙を抜かれた狼。たけき者はいずれ滅びる。それが世界の真理だ。」

「つまり、次滅びるのはアメリカの番だって言いたいのか?」

「ああ。それも、回避出来るのに自ら滅びの道へと進んでしまっている。核戦争を回避したい。自国民が無事ならいい。例え同盟国であっても見捨てる。それが意味するのはアメリカは約束を守らない。信用出来ない国という事実だけが残る。今のアメリカの覇権は同盟国との絆と従属によって成り立っている。」

 

響は腕時計を見つめる。

 

「説法はここまでだシルバー。もうすぐ各自衛隊の幹部が集まる。席に着いて。」

「へいへい。」

 

その後陸海空三自に加え、英国を中心とする日本派遣軍の幹部が集まり、作戦会議が開始された。

 

「まず状況を整理する。現在ロシアは稚内・根室を不法占拠している。先程外務省から入った情報によればそれぞれ稚内人民共和国、根室人民共和国を名乗り独立を宣言。ロシアはそれぞれを国家承認し、安全保障条約を締結したとのことだ。」

 

北海道・青森を拡大した地図にロシア軍を示す駒をシルバーは稚内・根室に置いた。

 

「また稚内空港にロシアは戦闘機を配置したことが衛星画像で判明しました。解析の結果、配置された機体はMiG-31と確認されました。」

「また揚陸艦や輸送機が多数の戦車や装甲車、兵員を揚陸しており、旭川を目指し進撃する可能性があります。」

「一方根室は比較的静かです。国後島や択捉島から補給を得ているようですが、大規模な部隊展開は確認出来ていません。」

 

陸海空の幹部が集めた情報を元に駒を置いていく。

 

「となると根室の部隊は半ば囮か。だがあそこをロシアに抑えられたままだと稚内へ向かうのにロシアにかなり近いところを通らなくてはならないな。だが、下手に旭川に部隊を集めれば釧路が手薄になりかねないな・・・」

「そうなると少ない兵数ながらも、よくできた牽制だな。流石だ。」

「ヒビキ、敵を褒めてどうする。」

「シルバー、これは逆に好機かもしれない。」

 

好機。この言葉に会議室の全員が?になる。

 

「稚内を奪還するには敵の背後を封鎖しないといけない。そうなると根室の敵は排除しなくてはならない。しかし、それを阻止するかのように国後島や択捉島に敵は地対艦ミサイルを配置している。」

 

響は国後島と択捉島敵を示す駒を配置する。

 

「この二島は我が国の固有の領土。ここを我が国が攻撃したとしても此方からすれば過去に不当に奪われた固有の領土の奪還であり、かつ根室奪還の橋頭保となる。」

「な、なんと・・・。」

 

これを聞いた自衛隊幹部は言葉が出なかった。総理は根室奪還作戦の前段階として北方領土の奪還を提案したのだ。

 

「しかし、それを実現するには航空優勢の確保が必須です。総理が防衛相時代に千歳と三沢の航空隊の一部を入間や横田に下げています。これでは航空優勢は取れません。」

「ああ。航空優勢は取れないな。だが、それは開戦序盤の話だ。ウクライナ侵攻の際、ロシアは大量の巡航ミサイルで攻撃した。今回も同じように無数の巡航ミサイルで千歳、三沢、八戸、大湊他レーダーサイト群を攻撃するだろう。そうなれば如何に航空自衛隊の対空ミサイル部隊でも全てを撃ち落とせないだろう。」

「それは・・・そうですが・・・。」

「であれば、開戦序盤の航空優勢はあちらに差し上げてしまえばいい。敵に可能な限りミサイルを撃たせ、更に戦闘機部隊が全く迎撃に上がらないことで損害を減らしつつ反撃に移る。」

 

若葉総理の作戦は大まかにこうだった。

 

①8/9午前0時を以て千歳・三沢・八戸の戦闘機・哨戒機部隊は可能な機体は全機離陸し、哨戒飛行部隊を除き、戦闘機部隊は松島基地、哨戒機部隊は仙台空港へ退避する。舞鶴、横須賀の護衛艦隊・潜水艦隊は出撃し津軽海峡へ向かう。

②開戦と同時にロシアは巡航ミサイルによる軍事民間問わずミサイル攻撃が行われる。

③可能な限り千歳・三沢は迎撃ミサイルで撃ち落とし、敵の降下部隊に備える。

④ミサイル攻撃が止んだタイミングで松島基地より戦闘機部隊が出撃し、三沢周辺の航空優勢を回復

⑤舞鶴ないし横須賀の艦隊を津軽海峡に展開させ、周辺のエアカバーを実施。

⑥復旧した三沢を拠点に千歳を復旧させ、航空優勢を回復させる。

⑦千歳の復旧完了後、千歳と三沢から航空隊を国後島・択捉島に差し向け徹底的な空爆を実施。根室にも空爆を行うが、控えめとする。

⑧釧路から地上軍を進撃させると共に空挺部隊を国後島・択捉島に降下し奪回する。

⑨その後陸上、海上、北方領土で根室を包囲し、根室を解放する。

⑩部隊を道央に結集し、稚内奪還作戦を行う。

 

「国後島や択捉島に空挺降下か・・・一種の博打だな。」

 

自衛隊幹部は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

「それに、総理は英国の援軍はどうするのですか?」

「あくまでこの戦争は我が国の防衛戦だ。英国軍の援軍は予備軍として待機し、不測の事態に備えたい。ロシアのハゲのことだ。ろくでもない作戦を考えている可能性がある。その時は頼もしい英国軍の腕の見せ所となろう。」

 

総理の言葉に英国軍を中心とした派遣軍はニヤリという笑みを浮かべる。

 

「ミスター・ワカバ、ご期待に沿えるよう努力致しますよ。」

「ああ、よろしく頼む。」

 

若葉総理は派遣軍の司令官と固く強い握手を交わす。その後、細かい作戦の立案や煮詰めが行われることとなる。

 

「それと、対馬海峡の封鎖を行うべきだと思うが。」

「しかし、隣国韓国がどう反応するか・・・。」

「それなら事前に外務省から韓国に通告させるように指示を出そう。あと念のため中国にも出しておこう。変に中国の潜水艦が日本海に居られては困るし、仮に攻撃してしまったとしても事前通告しておけば言い訳も出来よう。」

「では、対馬海峡の封鎖には呉の潜水艦を向かわせます。総理は各国に海峡の封鎖と制限海域の通告をお願いいたします。制限海域につきましては此方に。」

 

海自の幕僚は総理に他国の船舶の航行の制限を要請する海域を示した地図を手渡した。

 

「手が早いな。では、各々、抜かりなく。」

 

こうして日本は国会の議決を待たずに大規模な軍事作戦を行うことに決定し、各々準備を開始した。

 

一方の国会では

 

国会議事堂 衆議院本会議

 

立憲国民党 原口一裕

 

「今日は若葉内閣に対する不信任決議案の議論であるにも関わらず等の総理本人は無断欠席し、防衛省に居座っている!! これは明らかな民主主義に対する冒とくであり、独裁主義、帝国主義、軍国主義、更にはネオナチに染まっている動かぬ証拠です!! 与党野党の垣根を越えてこの不信任に賛同し、日本の民主主義を取り戻そうではありませんか!!」

 

日本コミンテルン 穀田恵次

 

「防衛相時代から法令違反を繰り返し、自身の従姉や友達を閣僚に起用し、国会には出席せずに代わりの人間を寄越す。誰がどう見ても国会軽視、そして若葉独裁政治の始まりではないでしょうか!! 更に新たに任命した閣僚をイギリスを始めとした外国に逃がすことで仮に自身の政権を国民に倒されても海外に政権を立てられるようにしている。はっきり言いましょう!! 若葉総理!! あなたほどの売国奴はこの国にはいません!! 即刻議員辞職と内閣総辞職、そして解散総選挙で国民の民意を問うべきではないでしょうか!! 本日総理の代理で出席されている松葉官房長官、貴方からも総理に議員辞職を働きけて頂きたい!! しないのであれば貴方に対する問責決議案を提出することを検討しなくてはなりません!! 賢明な判断に期待します!!」

 

令和新撰組 山木太郎

 

「出席すらしない総理に防衛大臣。不登校で出席出来ない子なら仕方ない。でも彼らは出席出来るのにしない。それは何故か。それは簡単。国民の皆さんの視線が痛いから。国民に皆さんからの批判が怖くて怖くて仕方ないから。だからこそ国会に出ようとしない。説明責任や任命責任から逃げて逃げて、逃げ続ける。ブレーキ役の公正党も完全に壊れてしまっている。最早若葉内閣はブレーキがそもそも存在しない暴走機関車。それを止められるのは誰か。それは国民から選ばれた国会議員であり、国民の皆さんです。国民の声の代弁者である我々国会議員が取るべきはたった一つ。若葉内閣、ひいては自国民・公正政権を終わらせる事。その為にも国会議員一人一人が党の垣根を越えて協力する。それが必要です。今こそ、不信任に賛成しましょう。そして政治を変えましょう。それが国民に尽くす、政治家の使命です!!」

 

浪速維新の会 安達康史

 

「はっきり言って、この立憲、コミンテルン、社会、令和提出の若葉内閣に対する不信任決議案。茶番以外の何でもありません。我々浪速維新の会はこの不信任決議案に断固反対の立場であるということをはっきりさせて頂きます。反対の理由ですが、まずは日本コミンテルンと同じ道を取りたくなんてないということ。それに加え、若葉内閣に対して不信任をする理由が存在しないことです。ロシアによる北海道侵略により、我が国は約80年ぶりに戦争状態に突入しています。そんな状況では迅速な判断が求められ、時には法を無視しなくては国民の生命財産が守れないという事態が起こることは容易に想像できます。我々がするべきは悪戯に政争することではなく、今後同じように戦争となった場合、迅速な対応を法的に保障する為にどう改正するべきなのか、そして一致団結して侵略者に立ち向かうことではないのでしょうか? 立憲やコミンテルンは国民の敵、売国奴だ!!」

 

この間、総理の代理として出席した松葉官房長官は終始うんざりとした顔で聞いていた。その後採決が行われ、自国民・公正・維新・国民の反対多数で否決。また参議院で審議されていた常磐銀地防衛相に対する問責決議案は自国民・公正・維新。国民・政参党・NHKを粉砕玉砕大喝采する党の反対で否決。

 

 

「無事否決されましたが、今のお気持ちを教えてください。」

 

マスコミの囲みを受けた松葉官房長官は記者団に一言こう告げた。

 

「最悪です。」

 

と。しかし立憲ら野党側は松葉官房長官、若葉栗栖外務相に対する問責決議案を提出することで合意。一方その裏では若葉内閣の秘策発動に向けて着々と準備が進められていた。

 

「どうでした? 松葉さん?」

「最悪です、総理。」

 

(続く)



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開戦前夜

米国 ホワイトハウス前

 

「バイデンデン政権と議会は!! 速やかにジャパンに合衆国軍派遣を決定しろー!!」

「これ以上ハゲの好きにさせるなー!!」

「腰抜けのホワイトハウスと議会は何をしている!! 同盟国を見捨てるなー!!」

「ウクライナとジャパンに兵を送れ!!」

 

ロシアによる日本侵攻を受け、アメリカ国内では反ロシア感情が高まっていた。先のウクライナ侵攻を受け元々高まっていたこと、更にバイデンデン政権が有効な対応が出来ていないことに退役軍人を中心とする勢力が猛抗議。更にそこに前大統領のドナルド・スペード氏が援護。

 

「私が大統領であったならば、ロシアは既に滅んでいただろう。だがバイデンデンは腰抜けだ。それこそロシアと内通しているかもしれない。だからこそプーチンチンの指示で私を亡き者にしようと家宅捜索を行い、難癖をつけて逮捕しようとしている。我々はホワイトハウスを目指すのだ!!」

 

ドナルド・スペード氏の支持者がこれを受けてホワイトハウスへ殺到。中へ入れまいとする警察と支持者が衝突し大混乱。この様子は全世界に報道され、混乱する合衆国としてその醜態をさらすことになる。

 

「バイデンデン大統領はロシアとの和平をウクライナとジャップに働きかけろー!!」

「戦争をして私腹を肥やそうとするペンタゴンとドナルド・スペードに負けるなー!!」

「戦争反対ー!!」

 

一方で反スペード派やバイデンデン政権支持者がロシアとの戦争に反対し、経済制裁解除を主張し50の州から成る合衆国は分裂の兆しを見せ始めていた。

 

 

在米ロシア大使館前

 

「これでも食らえこのハゲども!!」

 

同じころ在米ロシア大使館前では同じくロシアによる日本侵攻に抗議するデモ集会が行われていた。そんな中、一部のデモ隊がプロジェクターを用意。ロシア大使館をスクリーンに見立てて日本の国旗でライトアップするという鬼畜の所業に打って出る等割と好き勝手なことをやっていた。

 

 

在アイルランドロシア大使館門前

 

「ブラボー!!」

「いええええええい!!」

 

かつてウクライナ侵攻を受け抗議するデモ隊のトラックによって門を破壊されたアイルランドのロシア大使館。今回の日本侵攻へのデモでもトラックに突っ込まれ折角修理した門が再び大破。

 

「出てけ侵略者共!!」

 

更に一部のデモ隊が爆竹を中へ投げ入れる等過激化。しかも見張っている警察が全く咎めない上に政府が、

 

「ロシアが日本やウクライナに侵略しなければ起こらなかったことだ。我が国は貴方と違って民衆の意見によって政治が行われる成熟した民主主義国家である。民衆の民意を我々が弾圧することは出来ない。嫌ならアイルランドから出て行けばよいだけの話。彼らは大使が本国へ帰れるように人道回廊を構築し、お目覚めの目覚ましを鳴らしたに過ぎないのだ。」

 

と半ば公認。無論ロシア大使館は抗議したが完璧にスルーされ先の米国と比較するように全世界に報道。ブリカスと殴り合ってきた奴らは違う、アイリッシュジョークの神髄と言われるようになる。

 

 

日本国 北海道 札幌駅前

 

「戦争するなら今すぐ退陣!!」

「独裁の若葉響を引きずりおろせ!!」

「憲法違反を許すな!!」

「ロシアとは今すぐ停戦!!」

「憲法違反の自衛隊は今すぐ解散!!」

「軍事費は全額教育費に変換!!」

「戦争するなら殺される方がまし!!」

「憲法九条の精神で今すぐ降伏!!」

 

等の侵攻されている当事者日本では左翼勢力が若葉政権に猛抗議。更に許可されていない公道を占拠し、北海道警に余計な負担をかけさせるなどロシアの侵略を手助け。全世界に米国と同じように醜態をさらす結果となる。一方で若葉総理は防衛省からテレビ番組に出演。近いうちにロシアによる大規模侵攻がある可能性があるとし、いつJアラートが鳴ってもおかしくないとして、全国民に警戒を呼び掛けた。しかし、左翼勢力にはその想いが届くことはなく国会では野党側が松葉官房長官に対する問責決議案を提出することで正式に合意。どこまで行っても左翼は左翼であった。

 

 

日本国 市ヶ谷 防衛省

 

「どこまで行っても左翼は左翼か。松葉さん、例の策を実行します。関係者に周知を。」

「本当にやるのかい?」

「こうでもしないとあらゆる手を使って奴らは妨害してくる。先手を打たないと闘わずして負けるよ。」

「先手を打つ。そう言えば総理は防衛相時代に護衛艦隊の英国派遣、航空自衛隊戦闘機部隊の入間・横田後退、総理になってからは関係閣僚の派遣。常に先手を打ってきてたね。」

「ああ。だからこそやる。」

「それじゃあ、行って来るよ。」

「頼みますよ松葉さん。」

 

退室した官房長官と入れ替わりで外務省の官僚が入って来る。

 

「総理! カナダ、オーストラリア、ニュージーランドに派遣した閣僚達からの報告書が届いております。」

「うむ、では拝見するとしよう。」

 

官僚から報告書を受け取った総理は内容に目を通す。

 

「中々好感触だな。カナダ、オーストラリア、ニュージーランドはイギリスの従属国。宗主国の英国が受け入れれば自ずと彼らも賛同するだろうな。」

「左様ですな。」

「それで、姉さんからはまだ報告はないのか?」

「それにつきましては此方を。」

「どれどれ・・・はははは、これは一本取られたな。僕からの案に北欧の二か国を加え、七か国体制でスタートしたい、更に名称案も示してくるとはな。それも受け入れればこれら以外の国々にも根回しをすると来たか。」

「如何するので?」

「ここは英国の顔を立てるべきだろう。何なら提案国は英国とし、我が国はそれに招待されたという形にしよう。早急に返答せよ。君達は文章を作るのは得意だろう。無礼のないようにな。」

「かしこまりました。」

 

外務省の官僚と入れ替わりに防衛相が入室する。

 

「おお、シルバー。ロシアに動きがあったのか?」

「ああ。諜報部や米英からの機密情報だ。ロシアは明日8時15分に北海道・青森に大規模な軍事攻撃を行うとのことだ。」

「8時15分・・・明らかに狙った数字だな。そんなことはまあいい。明日の0時には上がれる航空隊は全て離陸し、松島や仙台空港に退避する。それと、作戦を煮詰めるときに決まった給油機や空中管制機は百里に到着したな?」

「それは問題ない。また松島や百里の防空体制を強化。JRには自衛隊の物資輸送を最優先とし、明日は始発から全列車を運休にするとの確約も得ている。また札幌市交通局からは駅をシェルターとして開放するとも。」

「そこまで手を回してくれたか。核シェルターがない以上は地下鉄の駅を使う他ないからな。それとアメリカはどうだ? やはり動かないか?」

「横田の司令官から本国から回答が来ない故動けないとのことだ。だが。」

「だが?」

「一部の兵士が米軍を装備品ごと脱走・・・除隊し、義勇兵として参戦したいとの申し出が相次いでいるとのことだ。その中には第七艦隊も含まれていると・・・」

「何?! 第七艦隊が?! まさか丸ごととは言わないよな!?」

「そのまさかだ。何なら横田の司令官自ら除隊して日本と共に闘わせて欲しいと言ってきてる。」

「そうか。どうやら彼らも腹を決めたんだな。核戦争を回避しようとロシアに譲歩しようとして同盟国を見捨てようとする本国に完全に見切りをつけた、ということか。」

「だが、扱いをどうする? 自衛隊に編入するのか?」

「・・・・・・・・。」

 

暫し思案する総理。

 

(まさか在日米軍が丸ごと本国を見捨てるとは思っても見なかったんだ。戦力不足や弾薬不足にあえぐ我が国としては一騎当千の兵であるアメリカ軍が味方に付くことは非常にありがたい。だが、本国の命令を無視した、シビリアンコントロールから完全に逸脱した行動。この戦争に勝利出来たとしても、戦後に米国との関係が悪化するのは避けられない。ただでさえ英国との間で交渉を進めているのだ。当初の想定以上に関係が悪化することになろう。それに核兵器を搭載した原子力潜水艦は実質的に使えないだろう。あくまで発射ボタンを握っているのは大統領だしな。物理的には使えてもリスクが大きすぎる。だが、ここで彼らの熱意を見捨ててしまえば我が国の国民が多数殺される。回避できたのにそれを取らなかったのでは僕は西田以上の無能として後世に名を遺すことになろう。しかし、姉さんにお願いして駐米大使宛に送ったアレがここで効力を発揮するとは。となればあの人も一枚噛んでいるとみるべきか・・・)

 

「自衛隊には編入しない。指揮系統や言語が異なる以上、受け入れに時間がかかろう。」

「じゃあ日本単独で戦うって言うのかよ!?」

「彼らは一時的に日本に派遣されている英国軍の指揮下に入れる。同じ英語圏の国家同士の方が気持ち的に楽だろう。その後については追々考える。横田の司令官、そして英国軍の日本派遣軍司令官、更に英国本国に伝えよ。」

「おお!!」

「そして第七艦隊も北海道へ向け出撃させる。日英連合艦隊はこれより北海道を目指す!!」

 

 

米国 ペンタゴン

 

「国防長官、よろしいのでしょうか? ジャパンの部隊が勝手に動いていますが?」

「ああ。これも決断出来ない大統領が負うべき責任だ。ここでジャパンを見捨てることは合衆国の完全なる崩壊を意味する。ここで彼らを動かすことで完全な崩壊は回避出来る。崩壊そのものは避けられないが。」

「・・・・国防長官、あまり意味がよく分からないのですが。」

「分からなくていい。今は水面下で動いているのだからな。そんなことよりも彼らへの情報提供を欠かすなよ!!」

 

様々な思惑が渦巻きながら日露両国は開戦の日を迎えようとしていた。

 

(続く)



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開戦の時

202X年 8月9日 ロシア連邦 モスクワ クレムリン

 

「親愛なるロシア国民の皆さん、親愛なる友人の皆さん。今日は、今極東の島国日本で起きている悲劇的な事態、そしてロシアの重要な安全保障問題に、改めて立ち返る必要があると思う。」

 

大多数の日本人が寝静まっておる時間帯にロシアは大統領ウラディミール・プーチンチンによる特別放送を実施した。放送は全世界に同時配信され、第三国経由で日本やアメリカの動画投稿サイトでも中継されていた。

 

「ウクライナやグルジアを篭絡し、かつて約束したNATOの東方不拡大を反故にし、その軍備がロシア国境へ接近していることについては周知の事実である。その結果、我々はロシアを守り、ナチズムに染まったゼレンスキスキー政権を打倒し、同胞の命を救い、世界平和実現の為にウクライナで特別軍事作戦を実行し、多大な成果をあげることとなった。だが西側は、特にアメリカはあろうことがナチズム政権を徹底的に支援し、我々に多大な損害を与え続けて来た。奴らは先の大戦でナチズムを倒すために我々と協力していたにも関わらず、今となってはナチズムと手を組む。その結果NATOは、私たちのあらゆる抗議や懸念にもかかわらず、絶えず拡大している。更にアメリカは日本を焚き付け、我々の息の根を止めようと画策している。中には日本をNATOに加盟させようという動きもある。軍事機構は動いている。繰り返すが、それはロシアの国境のすぐ近くまで迫っている。西側諸国が打ち立てようとした“秩序”は混乱をもたらした。なぜ、このようなことが起きているのか。自分が優位であり、絶対的に正しく、なんでもしたい放題できるという、その厚かましい態度はどこから来ているのか。私たちの国益や至極当然な要求に対する、無配慮かつ軽蔑的な態度はどこから来ているのか。答えは明白。すべては簡単で明瞭だ。1980年代末、ソビエト連邦は弱体化し、その後、完全に崩壊した。当時起きたことの一連の流れは、今でも私たちにとってよい教訓となっている。それは、権力や意志のまひというものが、完全なる退廃と忘却への第一歩であるということをはっきりと示した。当時、私たちはしばらく自信を喪失し、あっという間に世界のパワーバランスが崩れたのだ。これにより、従来の条約や協定には、事実上、効力がないという事態になった。説得や懇願ではどうにもならない。覇権、権力者が気に入らないことは、古風で、時代遅れで、必要ないと言われる。それと反対に、彼らが有益だと思うことはすべて、最後の審判の真実かのように持ち上げられ、どんな代償を払ってでも、粗暴に、あらゆる手を使って押しつけてくる。賛同しない者は、ひざを折られる。私が今話しているのは、ロシアに限ったことではないし、懸念を感じているのは私たちだけではない。これは国際関係のシステム全体、時にアメリカの同盟諸国にまでも関わってくるものだ。ソビエト連邦の崩壊後、事実上の世界の再分割が始まり、これまで培われてきた国際法の規範が、そのうち最も重要で基本的なものは、第二次世界大戦の結果採択され、その結果を定着させてきたものであるが、それが、みずからを冷戦の勝者であると宣言した者たちにとって邪魔になるようになってきた。もちろん、実務において、国際関係において、また、それを規定するルールにおいては、世界情勢やパワーバランスそのものの変化も考慮しなければならなかった。しかしそれは、プロフェッショナルに、よどみなく、忍耐強く、そしてすべての国の国益を考慮し、尊重し、みずからの責任を理解したうえで実行すべきだった。しかしそうはいかなかった。あったのは絶対的な優位性と現代版専制主義からくる陶酔状態であり、さらに、一般教養のレベルの低さや、自分にとってだけ有益な解決策を準備し、採択し、押しつけてきた者たちの高慢さが背景にあった。事態は違う方向へと展開し始めた。例を挙げるのに遠くさかのぼる必要はない。まず、国連安保理の承認なしに、ベオグラードに対する流血の軍事作戦を行い、ヨーロッパの中心で戦闘機やミサイルを使った。数週間にわたり、民間の都市や生活インフラを、絶え間なく爆撃した。この事実を思い起こさなければならない。というのも、西側には、あの出来事を思い出したがらない者たちがいるからだ。私たちがこのことに言及すると、彼らは国際法の規範について指摘するのではなく、そのような必要性があると思われる状況だったのだと指摘したがる。その後、イラク、リビア、シリアの番が回ってきた。リビアに対して軍事力を不法に使い、リビア問題に関する国連安保理のあらゆる決定を曲解した結果、国家は完全に崩壊し、国際テロリズムの巨大な温床が生まれ、国は人道的大惨事にみまわれ、いまだに止まらない長年にわたる内戦の沼にはまっていった。リビアだけでなく、この地域全体の数十万人、数百万人もの人々が陥った悲劇は、北アフリカや中東からヨーロッパへ難民の大規模流出を引き起こした。シリアにもまた、同じような運命が用意されていた。シリア政府の同意と国連安保理の承認が無いまま、この国で西側の連合が行った軍事活動は、侵略、介入にほかならない。ただ、中でも特別なのは、もちろん、これもまた何の法的根拠もなく行われたイラク侵攻だ。その口実とされたのは、イラクに大量破壊兵器が存在するという信頼性の高い情報をアメリカが持っているとされていることだった。それを公の場で証明するために、アメリカの国務長官が、全世界を前にして、白い粉が入った試験管を振って見せ、これこそがイラクで開発されている化学兵器だと断言した。後になって、それはすべて、デマであり、はったりであることが判明した。イラクに化学兵器など存在しなかったのだ。信じがたい驚くべきことだが、事実は事実だ。国家の最上層で、国連の壇上からも、うそをついたのだ。その結果、大きな犠牲、破壊がもたらされ、テロリズムが一気に広がった。世界の多くの地域で、西側が自分の秩序を打ち立てようとやってきたところでは、ほとんどどこでも、結果として、流血の癒えない傷と、国際テロリズムと過激主義の温床が残されたという印象がある。私が話したことはすべて、最もひどい例のいくつかであり、国際法を軽視した例はこのかぎりではない。」

 

プーチンチンはアメリカ国旗を取り出すとその場で火をつけた。

 

「アメリカは“うその帝国”である。NATOが1インチも東に拡大しないと我が国に約束したこともそうだ。繰り返すが、だまされたのだ。俗に言う「見捨てられた」ということだ。確かに、政治とは汚れたものだとよく言われる。そうかもしれないが、私はここまでではない。ここまで汚くはない。ここまで人の心を捨ててはいない。だからこそ、日本の最も優れた指導者、アベノ・シンゾーと友になれたのだ。アメリカによる、これだけのいかさま行為は、国際関係の原則に反するだけでなく、何よりもまず、一般的に認められている道徳と倫理の規範に反するものだ。正義と真実はどこにあるのだ?あるのはうそと偽善だけだ。ちなみに、アメリカの政治家、政治学者、ジャーナリストたち自身、ここ数年で、アメリカ国内で真の「うその帝国」ができあがっていると伝え、語っている。これに同意しないわけにはいかない。まさにそのとおりだ。しかし謙遜する必要はない。アメリカは依然として偉大な国であり、システムを作り出す大国だ。その衛星国はすべて、おとなしく従順に言うことを聞き、どんなことにでも同調するだけではない。それどころか行動をまねし、提示されたルールを熱狂的に受け入れてもいる。だから、アメリカが自分のイメージどおりに形成した、いわゆる西側陣営全体が、特に日本がまさに「うその帝国」であると、確信を持って言えるのには、それなりの理由があるのだ。我が国について言えば、ソビエト連邦崩壊後、新生ロシアが先例のないほど胸襟を開き、アメリカや他の西側諸国と誠実に向き合う用意があることを示したにもかかわらず、事実上一方的に軍縮を進めるという条件のもと、彼らは我々を最後の一滴まで搾り切り、とどめを刺し、完全に壊滅させようとした。まさに90年代、2000年代初頭がそうで、いわゆる集団的西側諸国が最も積極的に、ロシア南部の分離主義者や傭兵集団を支援していた時だ。当時、最終的にコーカサス地方の国際テロリズムを断ち切るまでの間に、私たちはどれだけの犠牲を払い、どれだけの損失を被ったことか。どれだけの試練を乗り越えなければならなかったか。そして今まさにウクライナでナチズムを倒すと言う試練を乗り越えようとしている。私たちはそれを覚えているし、決して忘れはしない。そしてこれから新たに日本でのナチズムを倒すという試練に挑もうとしている。実際のところ、つい最近まで、私たちを自分の利益のために利用しようとする試み、私たちの伝統的な価値観を破壊しようとする試み、私たちロシア国民を内側からむしばむであろう偽りの価値観や、すでに彼らが自分たち側の国々に乱暴に植え付けている志向を私たちに押しつけようとする試みが続いていた。それは、人間の本性そのものに反するゆえ、退廃と退化に直接つながるものだ。こんなことはありえないし、これまで誰も上手くいった試しがない。そして今も、成功しないだろう。色々あったものの、2021年12月、私たちは、改めて、アメリカやその同盟諸国と、ヨーロッパの安全保障の原則とNATO不拡大について合意を成立させようと試みた。すべては無駄だった。アメリカの立場は変わらない。彼らは、ロシアにとって極めて重要なこの問題について私たちと合意する必要があるとは考えていない。自国の目標を追い求め、私たちの国益を無視している。そしてもちろん、こうした状況下では、私たちは疑問を抱くことになる。」

 

プーチンチンは少し呼吸を整える。

 

「今後どうするべきか。何が起きるだろうか、と。私たちは、1940年から1941年初頭にかけて、ソビエト連邦がなんとか戦争を止めようとしていたこと、少なくとも戦争が始まるのを遅らせようとしていたことを歴史的によく知っている。そのために、文字どおりギリギリまで潜在的な侵略者を挑発しないよう努め、避けられない攻撃を撃退するための準備に必要な、最も必須で明白な行動を実行に移さない、あるいは先延ばしにした。最後の最後で講じた措置は、すでに壊滅的なまでに時宜を逸したものだった。その結果、1941年6月22日、宣戦布告なしに我が国を攻撃したナチス・ドイツの侵攻に、十分対応する準備ができていなかった。敵をくい止め、その後潰すことはできたが、その代償はとてつもなく大きかった。大祖国戦争を前に、侵略者に取り入ろうとしたことは、国民に大きな犠牲を強いる過ちであった。最初の数か月の戦闘で、私たちは、戦略的に重要な広大な領土と数百万人の人々を失った。私たちは同じ失敗を2度は繰り返さないし、その権利もない。世界覇権を求める者たちは、公然と、平然と、そしてここを強調したいのだが、何の根拠もなく、私たちロシアを敵国と呼ぶ。確かに彼らは現在、金融、科学技術、軍事において大きな力を有している。それを私たちは知っているし、経済分野において常に私たちに対して向けられている脅威を客観的に評価している。そしてまた、こうした厚かましい恒久的な恐喝に対抗する自国の力についても。繰り返すが、私たちはそうしたことを、幻想を抱くことなく、極めて現実的に見ている。軍事分野に関しては、現代のロシアは、ソビエトが崩壊し、その国力の大半を失った後の今でも、世界で最大の核保有国の1つだ。そしてさらに、最新鋭兵器においても一定の優位性を有している。この点で、我が国への直接攻撃は、どんな潜在的な侵略者に対しても、壊滅と悲惨な結果をもたらすであろうことに、疑いの余地はない。また、防衛技術などのテクノロジーは急速に変化している。この分野における主導権は、今もこれからも、目まぐるしく変わっていくだろう。しかし、私たちの国境に隣接する地域での軍事開発を許すならば、それは何十年も先まで、もしかしたら永遠に続くことになるかもしれないし、ロシアにとって増大し続ける、絶対に受け入れられない脅威を作り出すことになるだろう。NATOによるウクライナ領土の軍事開発は受け入れがたい。そしてうその帝国アメリカによる日本の軍拡も受け入れがたい。すでに今、NATOは東へ東へと拡大し、我が国を飛び越え日本にも手を伸ばしている。我が国にとって状況は年を追うごとにどんどん悪化し、危険になってきている。しかも、ここ数日、日本の指導部は、我が国を挑発する発言を繰り返し、北海道の先住民であるアイヌ民族への迫害を強化している。言いかえれば、彼らは強硬化している。起きていることをただ傍観し続けることは、私たちにはもはやできない。私たちからすれば、それは全く無責任な話だ。我々の同胞であるアイヌを迫害し、ネオナチのウクライナと手を結ぶ日本を放置することは、私たちにとって受け入れがたいことだ。もちろん、問題はNATOや日本の傀儡政権等の組織自体にあるのではない。それはアメリカの対外政策の道具にすぎない。問題なのは、私たちと隣接する土地を脅かすように、私たちに敵対的な「反ロシア」が作られようとしていることだ。それは、完全に外からのコントロール下に置かれ、NATO諸国の軍によって強化され、最新の武器が次々と供給されている。アメリカとその同盟諸国にとって、これはいわゆるロシア封じ込め政策であり、明らかな地政学的配当だ。

一方、我が国にとっては、それは結局のところ、生死を分ける問題であり、民族としての歴史的な未来に関わる問題である。誇張しているわけではなく、実際そうなのだ。これは、私たちの国益に対してだけでなく、我が国家の存在、主権そのものに対する現実の脅威だ。それこそ、何度も言ってきた、レッドラインなのだ。彼らはそれを超えた。そんな中、稚内の情勢がある。遥か昔、江戸時代に北海道に進出した日本人はアイヌ民族に一方的に不利な条件で交易をおこなわせ、それに反旗を翻し、クーデターを起こした同胞を弾圧し、やがて北海道全体を支配下に置き、アイヌの同胞を僻地に追いやり、我が物顔で土地を占領し、弾圧し、迫害し、搾取してきた。数百年間、終わりの見えない長い長い時間、彼らは苦しめられてきた。それに対して私たちは、事態が平和的・政治的手段によって解決されるよう、あらゆる手を尽くしてきた。だが、すべては徒労に帰した。先の演説でもすでに述べたように、現地で起きていることを同情の念なくして見ることはできない。今やもう、そんなことは到底無理だ。この悪夢を、ロシアしか頼る先がなく、私たちにしか希望を託すことのできない数百万人の住民に対するジェノサイド、これを直ちに止める必要があったのだ。まさに人々のそうした願望、感情、痛みが、稚内人民共和国、根室人民共和国を承認する決定を下す主要な動機となった。さらに強調しておくべきことがある。NATO主要諸国は、みずからの目的を達成するために、ウクライナの極右民族主義者やネオナチをあらゆる面で支援している。そしてそれに飽き足らず日本の指導者たちを先導し、ウクライナによってネオナチ化した日本政府はアイヌに対する迫害を強化した。そしてそれをウクライナと共に支援し、運命を共にしている。彼らは、稚内と根室の住民が、自由な選択としてロシアとの再統合を選んだことを決して許さないだろう。当然、彼らはロシアに潜り込むだろう。それこそ稚内や根室と同じように。戦争を仕掛け、殺すために。大祖国戦争の際、ヒトラーの片棒を担いだウクライナ民族主義一味の虐殺者たちが、無防備な人々を殺したのと同じように。彼らは公然と、ロシアの他の数々の領土も狙っていると言っている。全体的な状況の流れや、入ってくる情報の分析の結果が示しているのは、ロシアとこうした勢力との衝突が不可避だということだ。それはもう時間の問題だ。彼らは準備を整え、タイミングをうかがっている。今やさらに、核兵器保有までも求めている。そんなことは絶対に許さない。前にも述べたとおり、ロシアは、ソビエト連邦の崩壊後、新たな地政学的現実を受け入れた。私たちは、旧ソビエトの空間に新たに誕生したすべての国々を尊重しているし、また今後もそのようにふるまうだろう。それらの主権を尊重しているし、今後も尊重していく。その例として挙げられるのが、悲劇的な事態、国家としての一体性への挑戦に直面したカザフスタンに対して、私たちが行った支援だ。しかしロシアは、今のウクライナから常に脅威が発せられる中では、安全だと感じることはできないし、発展することも、存在することもできない。2000年から2005年にかけ、私たちは、コーカサス地方のテロリストたちに反撃を加え、自国の一体性を守り抜き、ロシアを守ったことを思い出してほしい。2014年には、クリミアとセバストポリの住民を支援した。2015年、シリアからロシアにテロリストが入り込んでくるのを確実に防ぐため、軍を使った。それ以外、私たちにはみずからを守るすべがなかった。

ウクライナ東部の親ロシア派の武装勢力からの支援要請、そして今日までに届いた稚内や根室の同胞からの支援要請。今もそれと同じことが起こっている。きょう、これから使わざるをえない方法の他に、ロシアを、そしてロシアの人々を守る方法は、私たちには1つも残されていない。この状況下では、断固とした素早い行動が求められている。稚内や根室の人民共和国はロシアに助けを求めてきた。これを受け、国連憲章第7章51条と、ロシア安全保障会議の承認に基づき、また、本年8月8日に連邦議会が批准した、稚内人民共和国と根室人民共和国との友好および協力に関する条約を履行するため、特別な軍事作戦を実施する決定を下した。その目的は、数百年間、日本政府によって虐げられ、ジェノサイドにさらされてきた人々を保護することだ。そしてそのために、私たちは日本の非軍事化と非ナチ化を目指していく。また、ロシア国民を含む民間人に対し、数多くの血生臭い犯罪を犯してきた者たちを裁判にかけるつもりだ。ただ、私たちの計画に日本の領土の占領は入っていない。私たちは誰のことも力で押さえつけるつもりはない。同時に、ソビエトの全体主義政権が署名した文書は、それは第二次世界大戦の結果を明記したものだが、もはや履行すべきではないという声を、最近、西側諸国から聞くことが多くなっている。さて、それにどう答えるべきだろうか。第二次世界大戦の結果は、ナチズムに対する勝利の祭壇に、我が国民が捧げた犠牲と同じように、神聖なものだ。

しかしそれは、戦後数十年の現実に基づいた、人権と自由という崇高な価値観と矛盾するものではない。また、国連憲章第1条に明記されている民族自決の権利を取り消すものでもない。ソビエト連邦が誕生した時も、第二次世界大戦後も、今の日本の領土に住んでいた人々に、どのような生活を送っていきたいかと聞いた人など1人もいなかったことを思い出してほしい。私たちの政治の根底にあるのは、自由、つまり、誰もが自分と自分の子どもたちの未来を自分で決めることのできる選択の自由だ。そして、今の日本の領土に住むすべての人々、希望するすべての人々が、この権利、つまり、選択の権利を行使できるようにすることが重要であると私たちは考えている。これに関し、日本の人々にも言いたい。2014年、ロシアは、あなた方自身が「ナチス」と呼ぶ者たちから、クリミアとセバストポリの住民を守らなければならなかった。

クリミアとセバストポリの住民は、自分たちの歴史的な祖国であるロシアと一緒になることを、自分たちで選択した。そして私たちはそれを支持した。繰り返すが、そのほかに道はなかった。目的はウクライナの“占領”ではなく、ロシアを守るため。現在北海道で起きていることは、日本国家や日本人の利益を侵害したいという思いによるものではない。クリミアやセバストポリの住民と同じ権利を与えようというだけのことである。だがそれは、日本を人質にとり、我が国と我が国民に対し利用しようとしている者たちから、ロシア自身を守るためなのだ。繰り返すが、私たちの行動は、我々に対して作り上げられた脅威、今起きていることよりも大きな災難に対する、自己防衛である。どんなにつらくとも、これだけは分かってほしい。

そして協力を呼びかけたい。できるだけ早くこの悲劇のページをめくり、一緒に前へ進むために。私たちの問題、私たちの関係を誰にも干渉させることなく、自分たちで作り上げ、それによって、あらゆる問題を克服するために必要な条件を生み出し、国境が存在するとしても、私たちが1つとなって内側から強くなれるように。私は、まさにそれが私たちの未来であると信じている。自衛隊の自衛官たちにも呼びかけなければならない。親愛なる同志の皆さん。あなたたちの父、祖父、曽祖父は、アメリカの、ネオナチを全面的に支援するうその帝国の従属国となる為に戦ったのではない。あなた方が忠誠を誓ったのは、日本国民に対してであり、自身と意見の合わない人々の生活や国を略奪し国民を虐げている反人民的な集団に対してではない。その犯罪的な命令に従わないでください。直ちに武器を置き、家に帰るよう、あなた方に呼びかける。はっきりさせておく。この要求に応じる自衛隊の自衛官はすべて、支障なく戦場を離れ、家族の元へ帰ることができる。もう一度、重ねて強調しておく。起こりうる流血のすべての責任は、全面的に、完全に、日本の領土を統治する政権の良心にかかっている。さて、今起きている事態に外から干渉したい思いに駆られているかもしれない者たちに対し、言っておきたい大変重要なことがある。私たちに干渉しようとする者は誰でも、ましてや我が国と国民に対して脅威を作り出そうとする者は、知っておくべきだ。ロシアは直ちに対応し、あなた方を、歴史上直面したことのないような事態に陥らせるだろうということを。私たちは、あらゆる事態の展開に対する準備ができている。そのために必要な決定はすべて下されている。私のことばが届くことを願う。親愛なるロシア国民の皆さん。国家や国民全体の幸福、存在そのもの、その成功と存続は、常に、文化、価値観、祖先の功績と伝統といった強力で根幹的なシステムを起源とするものだ。そしてもちろん、絶えず変化する生活環境に素早く順応する能力や、社会の団結力、前へ進むために力を1つに集結する用意ができているかどうかに直接依存するものだ。力は常に必要だ。どんな時も。しかし力と言っても色々な性質のものがある。冒頭で述べた「うその帝国」の政治の根底にあるのは、何よりもまず、強引で直接的な力だ。そんな時、ロシアではこう言う。「力があるなら知性は必要ない」と。私たちは皆、真の力とは、私たちの側にある正義と真実にこそあるのだということを知っている。もしそうだとしたら、まさに力および戦う意欲こそが独立と主権の基礎であり、その上にこそ私たちの未来、私たちの家、家族、祖国をしっかりと作り上げていくことができる。このことに同意しないわけにはいかない。親愛なる同胞の皆さん。自国に献身的なロシア軍の兵士および士官は、プロフェッショナルに勇敢にみずからの義務を果たすだろうと確信している。あらゆるレベルの政府、経済や金融システムや社会分野の安定に携わる専門家、企業のトップ、ロシア財界全体が、足並みをそろえ効果的に動くであろうことに疑いの念はない。すべての議会政党、社会勢力が団結し愛国的な立場をとることを期待する。結局のところ、歴史上常にそうであったように、ロシアの運命は、多民族からなる我が国民の信頼できる手に委ねられている。

それはつまり、下された決定が実行され、設定された目標が達成され、我が祖国の安全がしっかりと保証されるということだ。あなたたちからの支持と、祖国愛がもたらす無敵の力を信じている。」

 

 

同時刻 日本国 東京都 市ヶ谷 防衛省

 

「・・・・・・遂に来やがったか。」

 

防衛省の防衛大臣執務室に陣取る若葉総理は常磐防衛相と共にロシア大統領による特別放送を視聴していた。

 

「既に三沢や千歳、八戸の航空隊は退避しているな?」

「上がれる機体は全て上げたとのことだ。だがどうしても調子の悪い機体は滑走路で何機か止まったままだそうだ。」

「それでいい。奴らには最初の攻撃が成功したと勘違いしてもらわなくてはならない。基本的にこちらから攻めては行けないのが自衛隊。可能な限り敵を引き付け、殲滅する。」

「・・・・沢山の国民が犠牲になるだろうな。」

「それを選んだのは国民だ。それを人柱にこの国は変わるはずだ。これは必要な犠牲だよ。」

「週刊誌にすっぱ抜かれたらヤバそうだな、その発言。」

「盗聴器対策は実施済みさ。安心して良いよ。それと米軍だけど、英国傘下にしようと思ってたんだけど、どうしても星条旗を掲げたいということでね。日英ではない、第三の軍隊として星条旗を掲げる謎の義勇兵ってことにするよ。ただ、本国が派遣命令を出した場合に備えて離脱はさせず、あくまで訓練の名目で部隊を移動させているよ。ちなみに米国の反応は?」

「あくまで話し合いによる平和的な解決を望む、だそうだ。」

「そうか。まあ、あとは米国政府の正式声明待ちだね。」

 

若葉総理はタブレットの電源を落とす。

 

「本州の制空権は絶対に渡すなよ。三沢や八戸は攻撃されるだろうが、制空権だけは譲るな。松島と小松から戦闘機をローテーションして上げろ。三沢を復旧させた後に千歳を取り戻す。」

 

若葉総理は作戦内容を記された地図に拳を叩きつける。

 

「我が国は負ける訳には行かない。絶対に核の脅しには屈しない。」

 

(続く)



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青森沖での戦い

202X年 8月9日 日本海

 

「艦長、時間です。」

「うむ。いよいよアメリカの犬に制裁を下す時が来た。我が大統領、ウラディミール・プーチンチンは決断された。本艦はこれより巡航ミサイルにて三沢を攻撃する!!」

 

 

日本国 青森県 三沢基地 地下司令部

 

「敵の巡航ミサイルが接近しています!!」

「そんなことは分かっている。迎撃ミサイルを撃ち上げろ!!」

 

日米の共同使用基地である三沢基地では日米の対空ミサイル部隊が次々に迎撃ミサイルを撃ちあげた。米軍は本国の指示や許可が出ていない為に越権行為であるものの、自身の身を守るためには認められると判断して防衛戦に参加していた。しかし、全てを撃ち落とすことは叶わず、格納庫や滑走路に次々に着弾。一部が弾薬庫に直撃し誘爆。更に滑走路や格納庫に駐機していた戦闘機や民間の旅客機が被弾。三沢基地は一時的に基地としての機能を失ったが、事前に退避命令が出ていたことから人的被害は最小限に抑えられた。しかし、ウクライナでは民間インフラにも攻撃を行ったロシアのことである。三沢基地を狙った一部のミサイルが民間人居住地に着弾。市民にも多数の死傷者が発生した。その中には在日米軍の家族も含まれており、参戦を決断しないホワイトハウスに対して憎悪の念が在日米軍全体に蔓延していくことになる。

 

 

日本国 北海道 札幌駅

 

「せんそー反対!!」

「「「「「「「「「「「「せんそー反対!!」」」」」」」」」」」」

「勝手に戦争決めるな!!」

「「「「「「「「「「「「勝手に戦争決めるな!!」」」」」」」」」」」」

「戦争するなら今すぐヤメロ!!」

「「「「「「「「「「「「戦争するなら今すぐヤメロ!!」」」」」」」」」」」」

「戦争するなら今すぐ退陣!!」

「「「「「「「「「「「「戦争するなら今すぐ退陣!!」」」」」」」」」」」」

 

ロシアによって一方的に戦争状態に突入した日本ではこの日も相も変わらず左翼勢力は政府へのデモを行っていた。日本政府からは何時全国でJアラートが鳴ってもおかしくないとし、北海道と青森、東京には緊急事態宣言を発令。不要不急の外出を絶対に控える様に求め、必要最低限の業種以外の出社を控えさせるように緊急命令を出していた。また、ロシアが日本へミサイル攻撃を行う数時間前、

 

 

日本国 東京都 国会議事堂

 

「これより、採決に移ります!! 自衛隊の防衛出動に賛成の方の規律を求めます!!」

 

若葉政権は今の野党では何を話しても妨害工作しかしないと判断。見切りをつける形で朝の5時に国会を緊急招集。徹底的な秘匿により、自由国民党、公正党、浪速維新の会、国民党、政参党、NHKを粉砕玉砕大喝采する党等防衛出動に賛成する党だけによる採決を行った。無論結果は全会一致で自衛隊の防衛出動を衆議院で可決。参議院でも同様に可決し、これにより自衛隊は法的に問題なく動けることが確定することになった。可決された後、朝7時のニュース速報で知った野党四党は採決は無効であると主張したものの、賛成した各党は相手にせず、国会は閉会することに決定。これにより若葉総理は国会に縛られることなく思う存分作戦を行うことが出来るようになった。

 

 

日本国 東京都 市ヶ谷 防衛省

 

「取り敢えず国会でのいちゃもんは防げるな。さて、松島から航空隊を北海道へ向け進軍させるんだ。空中給油機を戦闘機の護衛で待機させ、途中で給油を行い一時的に喪失する北海道の制空権を確保。奴らのミサイル攻撃の後に行われる大規模侵攻を止めさせる。」

 

これを受け松島基地に進出していたKC-767が離陸。これに松島基地所属のF2戦闘機が護衛で、千歳から撤退したF15-Jが北海道の制空権奪還の為に離陸。一方、米空軍所属のF16は離陸していた機体を除き、大多数は三沢基地で待機しており、現在ロシアの大規模攻撃が確定的になったことを受けて上げれる機体を可能な限り上げる手配を進めているところであった。

 

 

日本国 北海道 札幌駅

 

「せんそー反対!!」

「「「「「「「「「「「「せんそー反対!!」」」」」」」」」」」」

「若葉響は卑劣な独裁者!!」

「「「「「「「「「「「「若葉響は卑劣な独裁者!!」」」」」」」」」」」」

「戦争する若葉は今すぐヤメロ!!」

「「「「「「「「「「「「戦争する若葉は今すぐヤメロ!!」」」」」」」」」」」」

「戦争する若葉は今すぐ退陣!!」

「「「「「「「「「「「「戦争する若葉は今すぐ退陣!!」」」

「んにゃ? なんだありゃ?」

 

戦争中にも関わらず退陣を要求する左翼勢力の頭上にロシアからの死の贈り物が届こうとしていた。一斉にJアラートが北海道・青森にて鳴り響き、市民たちは恐怖の渦中に引き込まれることになる。

 

「み、ミサイルだ!!」

「キャー!!」

 

大統領の命令に従い、8時15分に、一部は若干早くに発射してしまう些細なミスもあったものの、ロシアの先制攻撃は日本海に展開している原子力潜水艦や稚内・根室・樺太・国後島に展開している地上軍によって発射された多数の巡航ミサイルによって行われた。宇宙航空自衛隊の千歳、三沢。海上自衛隊の大湊、八戸、それに加えて日米のレーダーサイトが攻撃され、一部が京都の経ヶ岬へも発射され迎撃ミサイルが撃ち落とした物を除き次々と着弾。またロシアは日本人の戦意を削ぐために民間インフラへも攻撃を実施。北海道の中心であるJR札幌駅や小樽市の石狩湾新港火力発電所、道南の中心JR函館駅等にもミサイル攻撃を実施。多数の民間人の死傷者が発生。また発電所が攻撃されたことで北海道全体がブラックアウト。暑い八月に電気がなくなった北海道では電力不足によって多数の戦争関連の死者が発生することになる。

 

 

ロシア連邦 モスクワ クレムリン

 

「作戦の第一段階である日本へのミサイル攻撃は成功。千歳、三沢は機能を停止し、北海道の制空権を確保致しました。しかし、松島から航空隊が接近しているとの情報があり、本州の制空権確保は厳しいとのことです。」

 

クレムリンでは日本侵攻の途中経過を国防相であるショイゲから受けていた。

 

「そうか。ではショイゲ君、大間原発、六ヶ所村再処理工場への空挺降下作戦は中止するように。その部隊を北海道の空挺降下作戦に振り向けろ。」

「かしこまりました。」

「そう言えば、海軍は青函トンネルを破壊すると意気込んでいると聞いたが?」

「黒海ではモスクワを沈められており、ロシア軍における影響力が低下していますからね。挽回したいのでしょうね。」

「パトソール殿のおっしゃる通りです。私としては無謀だとして中止を要求したのですが・・・。」

「好きにさせてやりたまえ。成功すれば君の手柄、失敗すれば独断行動として関係者を私が粛清しよう。」

「ははっ。」

「では、作戦の第二段階へ移行する。稚内の空挺師団を急ぎ降下させよ。日本の航空戦力が舞い戻る前に都市を抑えてしまうのだ。」

 

 

日本海 青森県沖 ロシア太平洋艦隊旗艦ヴァリャーク

 

「いよいよ我々海軍の汚名返上の機会がやって参りましたな、艦長。」

「ああ。黒海の連中のせいで我々水上艦乗りはどこに行っても馬鹿にされる。見た目は強いが中身は張りぼてのロシア軍の恥さらしとな。だが、それも今日で終わりだ。本艦隊はまもなく津軽海峡へ差し掛かる。青森県側の青函トンネル関連施設にミサイル攻撃と艦砲射撃を加え、ヘリで特殊部隊を送り、青函トンネルを水没させる。そうすれば北海道と本州を完全に分断することが出来、北海道は孤立する。既に先の先制攻撃で大湊の艦隊は全滅したとのことだ。そして八戸には灰燼に帰す被害を与え、三沢は沈黙。我々の攻撃成功の後に潜水艦隊で津軽海峡を完全に封鎖する。副長、どうかね?」

「実に素晴らしい作戦であります!!」

「そうであろう! さあ、まもなく宴の時だ! 事前の祝杯と行こうではないか!! 士官下士官問わず全ての乗組員にウォッカを配る! 体を温めておくのだ!!」

「流石艦長!! 一生ついていきますぞ!!」

 

完全に慢心しているロシア太平洋艦隊であったが、一方で彼らの頭上へ復讐心に燃える航空機が迫りつつあった。

 

 

日本海 青森県沖 アメリカ空軍

 

「司令部からは松島へ向かえとの指示だが、俺達の基地が攻撃され、同胞を一方的に殺されたっていうのにおめおめと生きて帰れるかよ!!」

「戦争を未然に防ぐ。ジャパンを守ることがUSAの国民を守ることになる。それを果たせなかった俺達に生きて帰るなんて未来はねえ!! 行くぞ!! 相棒!!」

 

太平洋での訓練飛行の為に離陸していた三沢基地所属のF16戦闘機二機は帰還の為に三沢へと向かっていたがその道中でロシアによる三沢基地攻撃の知らせを受けた。基地からは空自の松島へ向かえと指示を受けていたが、彼らの眼下に移ったのは攻撃を受け穴の空いた滑走路や無残に破壊された格納庫や空港ターミナル、駐機したまま大破した民間機、そして基地を外れて市街地に着弾して炎を上げる民間人居住区であった。

 

「それに、俺の家族を殺した、ロシアのヤロウが悪いんだよ!! よくも民間人を! 俺の妻を!! 息子を!!」

 

この兵士は眼下に映った燃え盛る民間人居住区で無残にも崩れ落ちた自身の住宅のあるエリアを見てしまった。本当に自分の家族が亡くなったかは分からないものの、状況的に亡くなったと判断して良いものだった。

 

「あれか?!」

 

必死に大海の中で敵を探していた彼らは津軽海峡を目指すロシア太平洋艦隊を視認。

 

「巡洋艦1、駆逐艦3、か。それなりの艦隊だな!!」

「狙いはどこだが知らねえが、進路は津軽海峡。なら俺達の敵に決まってんだろうが!!」

 

最初から生きて帰ることを想定していない彼らは手持ちの武装だけでロシア太平洋艦隊に特攻を仕掛けることに決定。搭載していた武装は空対空ミサイルや機関砲のみであったが、後に続く者達の先駆者となる為、何より守りたいものを守れなかったことへの悔しさが彼らを突き動かしていた。

 

「狙うはあのでかぶつだ!!」

「行くぞ!!」

 

二機のF16は挟み込むように巡洋艦ヴァリャークへ突撃。空対空ミサイルを発射。本来航空機に向けて発射するミサイルであるが、半ばやけくそで使用。まっすぐ飛翔したミサイルの内1発が艦橋を直撃。ヴァリャークの司令部要員はウォッカに酔ったまま亡くなることとなり、指揮系統が大混乱。そしてそれに続くように前部主砲と煙突に向けて機関砲をばらまきながら特攻。まさか米軍機が攻撃してくるとは思わなかった護衛の駆逐艦は対応が遅れ、迎撃の暇がなく、肝心の巡洋艦は乗員が酔っ払っており迎撃の火器に電源すら入れていないと言う有様であった。

 

「アメリカ合衆国、バンザーイ!!」

「ジャパンと合衆国に栄光あれー!!」

 

残された機関砲の銃弾と航空燃料が引火し、ヴァリャークでは大規模な火災が発生。更に前部主砲の弾薬が誘爆し更に火の勢いが強まり、駆逐艦隊はヴァリャークの放棄を決定。旗艦であったヴァリャークを自沈させようとするも、乗員が酔っ払っており対応が出来ず、ミサイル攻撃で艦橋要員が全滅しており、やむなく生き残りの乗員を救出して撤退。その後、仙台空港を離陸して日本海の哨戒活動を行っていた八戸基地所属のP3-Cに発見され、舞鶴から北上中の護衛艦隊と第二管区海上保安部に通報。酒田、秋田海上保安部から巡視船・巡視艇が出動し、海自の哨戒機部隊や空自の戦闘機部隊の護衛の元で消火活動を実施。その後大湊から酒田港に退避させていた「しらぬい」、「まきなみ」に曳航され酒田港に入港。ロシアの巡洋艦を日本は鹵獲することになった。

 

 

「鹵獲ならぬ露獲ねえ。シルバー、あれどうするの? 酒田じゃ整備とか無理じゃん。舞鶴に持って行かないと。」

「まさか、あえて我々に鹵獲させることで戦力低下を狙った作戦・・・・なのか? まあ、事前に大湊の最新鋭艦の「しらぬい」やそれなりに新しい「まきなみ」を退避させていたのと、代わりに旧式の「あぶくま」、「とね」を停泊させていたから戦力低下は最低限に抑えられたが。」

「あぶくま型はもう使い物にならないおんぼろ艦だし、これを機に廃艦にしてもがみ型で置き換えちゃえば良いよ。むしろもがみ型増備の予算の理由付けに出来るし、事前に人員は退艦させてたから人的損失は皆無だし。まあ、退避させていた「しらぬい」と「まきなみ」も整備が必要だから整備がてら鹵獲した艦を曳航して舞鶴に向かって貰うよ。護衛には「せんだい」と厚木の哨戒機、小松の15を付けるよ。まあ、仕方ないね。」

「響、お前は悪魔か何かか? こうしている間にも国民に死者は出てんだぞ?」

「シルバー、これは戦争だよ。感情を殺さないと戦争なんて出来やしないよ。どうなったとしても僕の政治生命は終わりなんだ。なら、出来る最善の手を打って終わらせようじゃないか。その為に英国と手を組む用意を進めている。今頃各国で条文の検討を行っている頃かな? まあ、姉さんには頑張って貰わないと。」

「ところで何で松葉官房長官はいないんだ? 立川か?」

「そうだよ。この防衛省だって攻撃されてもおかしくないし、立川には災害関連の為の施設があるしね。僕に何かがあれば松葉さんが総理だし、それに。」

「?」

「敢えて僕と距離を置かせているんだ。」

「はあ・・・。」

「総理!! 大変です!!」

「どうやらおしゃべりは終わりみたいだね。」

 

(続く)



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北海道降下作戦

日本国 北海道 札幌市東区丘珠町 札幌飛行場

 

「被害状況知らせ!!」

「滑走路、装備に被害なし!! されど外部からの電源供給が途絶し停電しました!!」

「予備電源に切り替えろ!!」

「司令!! 周辺の民間人が保護を求めて押し寄せてきています!!」

「見捨てることは出来ん!! 入れてやれ!! だが建物の外には絶対に出すなよ!! いつこの飛行場がロシアに狙われるか分かったもんじゃない!!」

 

ロシア軍によるミサイル攻撃は北海道の防空を担う千歳基地には苛烈な程行われた一方でそこより北側にある札幌飛行場へは全くと言っていい程行われることはなかった。

 

「千歳がやられたか・・・これでは空からの支援は期待出来んな。もしここで奴らが来れば我々は玉砕してしまうだろう・・・」

 

しかし、その悪夢は現実となる。稚内空港を出撃したロシア軍の戦闘機と輸送機が札幌飛行場へ迫って来ていた。

 

「第七飛行隊のUH-1Jよりロシア軍と思わしき航空機を多数視認と報告! しかしそれを最後に通信が途絶えました!!」

「間違いなく撃墜されたな。全ての戦闘員に武器を配れ。会計隊にもだ。全員一回ぐらいは射撃訓練はしているだろう。それと援軍の戦車隊には機会を見て敵空挺部隊に攻撃を加える様に指示を出せ!! 我々の死場はここぞ!!」

「はっ!! されど民間人はどうしますか!?」

「・・・・やむを得んが見捨てるしかない。専守防衛にこだわった時点で犠牲になる運命にあったのだ、そう割り切るしかない。」

「・・・・司令・・・。」

「さあ、我々も行くぞ。ここは我々の死場であるからな!!」

 

丘珠駐屯地の隊員達は武器を手に取り、戦闘態勢を整える。援軍として派遣されていた普段は北恵庭駐屯地に駐屯する、陸上自衛隊第7師団隷下の機甲科部隊第72戦車連隊の5台の90式戦車はエンジンを唸らせ、闘いの時を待った。そして遂にロシア軍の空挺軍が滑走路へ降下し始めた。

 

「撃て撃て撃て!! 弾は使い切って構わん!!」

 

空挺降下するロシア軍の空挺軍に対し丘珠駐屯地の隊員が一斉に発砲。ロシア軍は戦闘機による護衛こそ伴っていたが、札幌占領の拠点にしたいとの思惑があり滑走路や空港ターミナルへの攻撃を行わなかった。それが結果として無傷で戦闘員や装備を残すこととなってしまい、第一波の降下部隊に大損害が発生。これに気付いたロシア軍の戦闘機部隊は支援の為に地上への機銃掃射を開始。駐機場で多数のヘリを撃破し、一部の戦闘機が携行していた爆弾を投下。滑走路や空港ターミナルに直撃し、自衛隊員や避難していた多数の民間人が犠牲となった。

 

「降下降下降下!!」

 

第二派の降下部隊が札幌飛行場へ空挺降下。日本側の抵抗は収まった。そう思ったロシア軍であったが、これまで姿を隠していた第72戦車連隊が突如として空挺部隊の眼の前に出現。戦車砲や機関銃を乱射し、並みいるロシア兵を轢き倒しロシア兵を恐怖の渦中に叩き落とした。肝心の戦闘機部隊は先の機銃掃射で弾薬を使い果たしており、戦車撃破を実施出来なかった。更に周辺の駐屯地から部隊が出撃・集結しつつあること、本州から空中給油を受けた日本側の戦闘機が急速接近中であるという情報が入ったことでロシア側は札幌飛行場占領を断念。追加の物資を投下予定であったロシア本国の輸送機部隊は転進。また空挺軍を輸送した攻撃隊も稚内へ撤退を開始。見放される形となったロシア兵は日本側の戦車や生き残りの隊員、更に闘うことを選択した一部の札幌市民や外国人観光客の攻撃を受け数を減らし、本州から飛来したF-15が空を舞い始めた頃には全て降伏するか、銃殺されるかの道を選ぶことになった。日本側は多数の自衛官や民間人の犠牲を払い、札幌占領を阻止。しかし、一方では・・・・

 

 

日本国 北海道 古宇郡泊村 北海道電力泊発電所

 

「戦争だって?! ふざけんじゃねえぞ!!」

「しかもうちの火力をやったらしいじゃねえか!! お陰様でこっちもブラックアウトだ!!」

「そんな無駄口叩いてる暇があれば急いで点検しろ!! こいつらがメルトダウンしたらそれこそ日本が終わるぞ!!」

 

ロシアによる北海道・青森・京都へのミサイル攻撃。民間インフラへも攻撃を行ったロシアは北海道全体を停電させることに成功。停電の影響は北海道電力の所有する原子力発電所である泊発電所にも及んでいた。

 

「ところで何か変な音がしねえか?」

「ヘリか? それもかなり近い。」

 

突然の接近するヘリの音に作業員たちは手を止めて音のする方角へ目を向ける。

 

「に、逃げろ! あれはロシア軍のヘリだぞ!!」

 

軍事に興味のある作業員の発言により作業員達が一斉に逃げ出し始める。そこへ上空の武装ヘリから機銃掃射の雨が浴びせられる。

 

「ぎゃあ!!」

「し、死にたく・・・!!」

「ぐふっ!!」

 

地上の脅威を排除したと判断したロシア軍は一気に空挺降下を実施。自衛隊の注意が札幌飛行場へと向けられていたこともあり、散発的に作業員や警備員が抵抗したものの、ロシア軍の空挺軍は何なく排除し泊発電所を占拠。札幌飛行場方面から転身した輸送機部隊が物資を投下し守備隊を増強。翌日には同行させていたロシアのメディアによって日本のネオナチ化の証拠を発見したとして原発施設の画像を全世界に放映し、また所長ら民間人をアイヌ民族に対する非人道的行為に加担したとしてロシア本国へと強制連行する様まで見せつけ、野蛮国家ぶりを世界に示すことになった。

 

 

日本国 東京都 市ヶ谷 防衛省

 

「・・・・・これは不味いな。」

「原発施設の占拠。これは明らかに我々への牽制。介入すれば北海道を汚染するぞ。そして日本へは降伏しないなら汚染するぞ、と。」

「・・・・・大使からは?」

「アメリカ政府は話し合いでの解決を希求している。我が国はその用意がある、と。」

「そうか。では予定通り例の策を実行に移す。」

「ああ。今すぐに。」

 

ロシアによる原発施設の占領、日米安保条約の不適用を通告した米国。若葉総理は遂にあることを決断することになった。その後、横田や横須賀、岩国や沖縄等日本全国の米軍基地で若葉総理のビデオメッセージが放映された。

 

「我が国日本はロシアからの不当な侵略行為を受け、非常に大きな被害を受けている。北海道や青森を始め四の都道府県で軍民問わず多数の人々が侵略者の犠牲となり、その中には在日米軍の兵士や家族も含まれている。自由と民主主義を愛し、大切にし、共通の価値観を持っているにも関わらず君達の本国は卑怯にも同盟国を、トモダチを見捨てる決断をした。これは同時に君達の同胞や家族が、更には君達自身が死んでも本国は一切助けない、見捨てる決断をしたということだ。プーチンチンは腐った政治家であるが、バイデンデンも同じく腐った政治家であった。そんな腐った政治家に従うか、それとも良心に従いトモダチを助けるか。君達は迷うことなく後者を選んでくれた。後者を選べば本国には二度と帰ることは出来ず、更に家族や友人とも離れ離れになることを承知で選んでくれた。響、心より礼を申す。無論、中には従いたくない者もいるだろう。そのような者に対して僕は戦場に行けとは命令できない。本国への帰還を望む者は参加しなくていい。それを咎めることは一切しないことを約束する。」

 

暫しの沈黙が流れる。横田基地ではその間に離脱する兵士は誰一人としていなかった。彼らは同盟国を見捨てた本国を見捨てたのだ。

 

「では、改めてここに宣言させて頂く。在日米軍を義勇軍として日本国内閣総理大臣、若葉響の指揮下に加えることをここに宣言する!! 日章旗と星条旗を北海道に掲げ、侵略者を一人残らず日本海に叩きだすのだ!! 日本と合衆国に栄光あれ!!」

 

演説が終わると各地の米軍基地ではボルテージが一斉に上がって行った。演習と称して太平洋に展開していた第七艦隊は独立第七艦隊と改称し北上を開始。岩国では海兵隊のF35Bが海上自衛隊の護衛艦「かが」に要員と共に乗艦と搭載を開始。沖縄にローテーション配備されていたF22が一斉に北へ向かい、原子力潜水艦が台湾海峡を航行。更に泊原発を奪還するべく日英米による奪還作戦の立案に移り、それに合わせ各地の部隊が移動を開始。駐日米大使からの報告で事の事実を知った米国大統領はこれに激怒。ペンタゴンに対して日本へのあらゆるデータリンクを途絶させるように命令。しかしペンタゴンは下手に切ろうとすれば本国にも大きな影響が出るとして拒否。更にCIAから軍がクーデターを行おうとしていると知らせが入り、バイデンデン政権は内部にも敵を抱える事態に。政権内は日本と共にロシアを叩くべきとする国務長官や国防長官を首班とするペンタゴン派と譲歩してでも核戦争を回避するべきだという大統領や副大統領、CIAによるホワイトハウス派に分裂。米国は内戦の危機が迫っていた。

 

「分裂するなら勝手にすればいい。味方する方を正式な米国政府として承認するだけの話だ。」

「響・・・お前。」

 

闇堕ちした響をシルバーはただ見ることしか出来なかった。正確には何を言えば良いのか分からなかったと後に彼は語ることになる。

 

(続く)



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崩壊の序曲

8月9日 ロシア連邦 モスクワ郊外

 

「・・・・ふう、昨日はとんでもない決断をしたものだな。」

 

この日の勤務を終え、モスクワ郊外の自宅へと帰っていたパトソールは夕食の準備を進めていた。

 

「妻には先立たれ、息子はウクライナへの特別軍事作戦を受けて海外に行ってしまった。今の私は独り身だ。」

 

ピロシキを揚げ、ボルシチを作るパトソールはどこか悲しげな表情を浮かべていた。

 

「よし、完成した。」

 

揚げたてサクサクのピロシキにかぶりつき、あっつあつのボルシチをすするパトソール。

 

「流石は我妻が教えてくれた味だ。その旨さは例えこの国が滅んだとしても変わることはない。だが・・・」

 

パトソールは目をつむり、これまで自国が辿って来た歴史を振り返る。

 

「欧州の国々は戦争ばかりだった。戦争、戦争、戦争。少し休んではまた戦争と。そして我がロシアも幾度となく戦争に巻き込まれてきた。そして思った。どうしてそんなに狂えるんだと。」

 

彼の脳裏には今までの歴史がよぎる。フランスによるロシア遠征、第一次世界大戦とロシア革命、それに続く列強国によるシベリア出兵。いずれの戦争においてもロシアは荒廃し、そのたびに国の立て直しを迫られた歴史を。

 

「そしてロシア革命によって我が国はソビエトになった。皆どの国も平等に愛されるべきなんだ、皆友達であり、同志なんだと。」

 

次によぎるのはナチスドイツによる侵略に対応した大祖国戦争。アメリカの支援を受け、何とか勝利したソ連は東欧を制圧。ソ連に言わせれば、友達を増やした結果になった。

 

「皆は俺にとっての家族なんだ。我が祖国はそう思っていた。だが、周辺諸国は違った。皆離れて行った。それも、戦争に次ぐ戦争を続ける狂った奴らに付いて行ってしまった。どうあがいても我が国は国際社会からのけ者にされ、孤立する。愛も、平等も、平和も、安定なんてそこにはない。それが我がロシアの運命なんだ!! 同志を増やそうとして、勢力を広げようとして結果としてベラルーシや北朝鮮を除いて皆いなくなった!! 独り身になってしまった私のように我が祖国は独り身なんだ!! ベラルーシも北朝鮮も心の底から従っている訳ではない!! もし我が国が崩壊することでもあれば簡単に裏切る!! 中国だって国境線に軍を貼り付け、我が国に牙を向こうとしている!! 戦争なんかしても意味ないんだ!! その結果フィンランドもスウェーデンもあっちに行った!! そして日本にも手を出した!! だが、日本に手を出したことでどう転んでも戦争は終わる。どう終わるかは大統領次第だ。ん? 何だ?」

 

パトソールの携帯電話が通知音を放つ。

 

「一体誰から・・・・!!」

 

パトソールは急ぎ服装を整え、自宅を飛び出す。

 

「・・・・こんな夜遅くに閣下はどんな要件で呼んだのだろうか?」

 

電話の通知の内容はクレムリンの職員からの呼び出しであった。大統領が直々に御呼びであると。

 

 

ロシア連邦 モスクワ クレムリン

 

「閣下!! こんな夜に一体何の御用でありますか?」

「おお、来たか。流石は私が唯一信頼する秘書だ。嫌な顔をせずに来てくれる。」

「それが私の役目でありますから。」

「相変わらず君は真面目な奴だな。まあいい。それより例の事なのだが。」

「・・・・昨日に署名を頂いた作戦の事でありますか?」

「ああ。一晩考えたのだがね、作戦の内容を変更することにしたのだ。」

「変更・・・ですか?」

「ああ、そうだ。当初の計画ではウクライナへ投下する予定だったのだがな、それでは戦争を終わらせられないと思ってね。」

「それで再検討をされたと。流石は閣下であります。我々の人智に及ばない存在でありますな。」

「人智に及ばない、か。確かに我が国には私以上に国を愛している政治家はいないからな。私が死ねばロシアの崩壊を意味する。そう考えれば人智の及ばない存在で間違いないな。」

 

プーチンチンは地図を広げると一点を指さした。

 

「ここに落とすことを決めた。さすれば戦争は終わり、我が国は望んだものを手に入れることが出来るだろう。」

「・・・・・・・・・。」

 

絶句したパトソール。大統領が指さした場所はパトソールが考えていた、戦争を終わらせる手段の一つだったからだ。だが、それは最悪の形でという条件付きであったが。

 

「・・・・・本当によろしいのですか? 私の考えを述べさせて頂きますと、最悪の形で終わってしまうかと。」

「構わぬ。パトソール君、君は分かっていよう。私の寿命はそう長くは残されていないことを。一刻も早く終わらせ、我が祖国の悲願を少しでも成し遂げた後に政権を禅譲しなくてはならないのだ。後継者の育成には時間を要する。」

「故に速やかに戦争を終わらせたいと?」

「その通りだ。そしてこれは決定事項だ。」

 

大統領は署名済みの命令書をパトソールに手渡す。

 

「同志よ、後は頼んだぞ。私は暫し休む。」

 

そう言うとプーチンチンは退室を促した。しかし、どこかその顔には哀愁が漂っていた。

 

「・・・・聡明な閣下なら私の考えていることを理解出来たはずだ。そんなことをすれば我が祖国は崩壊する。そして変わって指揮する者がいないことくらい、少し考えれば分かるはずだ。なのにどうして・・・・まさか閣下は!!」

 

大統領の胸の内を理解した彼は速やかにロシア軍の司令部へ向かい、ショイゲ国防相と会談した。

 

「・・・・という訳だ。ショイゲ君、君には私と共に来てもらう。」

「承知致しました。それが大統領閣下の本音であるのであれば逆らう理由などありませぬ。」

「ああ、頼んだぞ。これからの我が祖国は我々が担うのだ。」

「ですが、多数の市民が亡くなるでしょうな。敵味方問わず・・・・。」

「これも、それを選び、見過ごしてきた国民、ひいては変えられなかった我々の責任だ。墓場までその責任と罪を背負って生きていくのがせめてもの償いだ。理解してくれ。」

「それもそうですな。では行きましょう。既に関係部隊には指示を飛ばしております。また我々の移動手段も確保済みであります。」

「うむ、では行こう。そして・・・・。」

 

息の吸って二人は闇夜に向けて叫んだ。

 

「「Да здравствует Россия! !」」

 

その後、太平洋に展開していた原子力潜水艦から一発のミサイルが発射された。弾頭にはとある物が搭載されており、この行動を知ったペンタゴンは職員総員顔面蒼白となった。そして報告を受けたホワイトハウスも同じであった。

 

「・・・・まさか、奴らは本気でやるつもりなのか?!」

 

 

 

「核戦争を!!!」

 

 

(続く)

 



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復讐の炎

8月9日深夜 東京都 立川市 立川広域防災基地

 

「響君は防衛省で陣頭指揮にあたっている中、官房長官である僕はここでお留守番か。何か頼りにされてない感じがして嫌だな、そう思ってないか松葉?」

「水晶君・・・。」

 

東京都立川市に設けられた官邸の代替施設である立川広域防災基地。ここには若葉内閣の官房長官である松葉鳳氏、そして松葉の秘書であり、先の参院選ではギリギリで落選した比例区出馬の玉蟲水晶(みなき)氏がいた。それ以外の閣僚は各々省庁で待機するか、防衛省に出向いていた。

 

「ここにいることが僕の役目なんだ。不満なんてないよ。」

「なら良いけどな。けど、あの狂ったプーチンチンのことだぜ。この立川だって安全とは言い切れねえ。さっさとどこか地方都市に避難した方が良いんじゃねえのか?」

「水晶君、君は僕に逃げろというのかい?」

「そう怖い顔するなよ松葉。実はな。」

 

水晶はある一通の封筒を手渡した。

 

「これは?」

「昨日防衛省に呼び出されてな、そこで総理から渡されたんだ。」

「はあ?! 何で官房長官である僕は呼び出されないのにこんな落選したどうしようもない一般人は呼ばれるんだ!!」

「まあ、とにかく中に入ってる物を読んでくれよ。」

「ちっ、仕方ない。」

 

少々不機嫌になりながら松葉は封を切る。

 

「・・・・ひ、響君・・・そ、そこまでして君は!!」

 

響からの手紙を床に叩きつける松葉。

 

「ど、どうした松葉!!」

「うるさい!! 僕も防衛省に行く!! そして響君を連れて!!」

「それはならぬぞ!!」

「「!!」」

 

暴れる松葉の元に現れたのは副総理の菅義秀。

 

「これは総理からの命令だ。総理は我が国の未来の為に覚悟を決められている。我々に出来ることはその想いを汲み、その花を咲かせることだ!!」

「し、しかし!!」

「松葉君!! 君の想いはよく分かる!! だが、ここで我々が喧嘩しては総理の、響君の想いを踏みにじることになる!! 何故それが分からぬ!!」

「!!」

「君にとって彼は可愛い後輩であり、目に入れても痛くない存在だったのだろう。初出馬の時には彼の応援に積極的に入り、彼も君によく懐いた。そしてそんな彼に女房役の官房長官に任命され嬉しかったのだろう。故に別れたくないと。だが、その存在の頼みすら君は聞けないというのか!! この愚か者!!」

「・・・・う、うう・・・。」

 

大粒の涙を流す松葉。

 

「それに彼は一人ではない。常磐君は彼と運命を共にすると言っている。だが、松葉君。君にはこれからの日本を託したい。それが総理の願いなんだ。そして。」

 

菅副総理は小さな箱を手渡す。

 

「副総理、これは?」

「私には中身は分からない。伝令の自衛官に手渡されたのだ。」

「一体何が・・・。」

「松葉、中身を開けるのは後にしてくれ。もう間もなく我々は東京を、立川を脱出する。」

「既に我々以外の者は準備出来ている。陛下も軽井沢に脱出され、関係者や皇族関係の文化財も動かせるものは総理と防衛相の指示で搬出されている。後は我々が脱出するだけだ。」

「うう、響君・・・。」

 

泣きじゃくる松葉を引きずるようにして彼らは立川から脱出した。彼らを乗せたヘリが離陸し、護衛の戦闘機が横田や入間から離陸し仙台へ向かった。そして翌日の朝に松島基地に降り立った松葉官房長官は疲れと疲労から基地の仮眠施設で泥のように眠った。悲報が聞かされるその時まで。

 

 

東京都 市ヶ谷 防衛省

 

「それで、松葉さんは仙台に着いたんだね?」

「正確には松島だけどな。」

「まあ、誤差みたいなものだよ。仙台空港だって仙台市内にないじゃないか。それと、陛下は軽井沢に着かれたか?」

「ああ。上皇陛下と上皇后陛下は最後の最後まで離れることに反対されていたが、どうにかして説き伏せて避難して頂いた。」

「うむ。皇族の方々は我が国の柱。我々の代わりなどいくらでもいるが、陛下に代わりなどいない。避難が完了して安心したよ。さてシルバー。」

「・・・・なんだ響。」

 

響は執務室の押し入れから酒を取り出した。

 

「何時の間にいれてやがったんだお前・・・。」

「防衛相時代からかな? まだ大臣じゃなかった時にフランスを訪問しててね、その時買ったボージョレ・ヌーヴォーを寝かせておいたんだ。」

 

響は封を開け、コップに注ぎ始める。

 

「シルバー、僕らは我が国の発展の為の生贄になるだろう。国籍問わず多数の市民の命と共にね。」

「最後の晩餐、ってか?」

「そんなところだね。何か、僕の第六感が告げているんだ。僕らの命日は今日だってね。」

「ははは、お前の勘は外れた試しがねえからな。正確に決まってるな。」

 

彼らはワインを煽り、思い出話に花を咲かせた。そして省内でJアラートが鳴り響いた。

 

「・・・・まだ行けるよね?」

 

まだ残っている瓶を向ける響。

 

「・・・・勿論だ響。ありがたく頂くとするぜ。」

「ありがとうシルバー。僕は君と友になれて幸せだったよ。」

「そう言えば、琴音はどうしたんだ? 避難させたのか? どこにいるんだ?」

「彼女は僕の子を身籠っている。楽器ケースに入れて密かに姉さんと共に英国に行ってもらったよ。」

「ははは、まるでどこかの自動車メーカーのボスみたいだな。」

「それと姉さんには今イスラエルに行ってもらってるよ。」

「イスラエルか。米国に見捨てられた我々を見て一番危機感を持つ国だからな。何か思うことがお前にはあるんだろうな。まあ、答えを知ることは。」

「永遠にないんだけどね。」

 

その後、彼らの視界は真っ白になり、高温の炎に晒され、苦しむことなく一瞬で炭となった。

 

 

8月10日11時45分14秒。ロシアの原子力潜水艦が発射した核弾頭を搭載したミサイルが東京市ヶ谷の防衛省上空で爆発。一発は迎撃したものの、複数の弾頭で発射されたため、イージス艦は全て出払っていたことも重なり殆ど迎撃されることなく炸裂。東京都内は壊滅的被害を受け、神奈川、埼玉、千葉にもその影響は及んだ。結果、多数の市民が犠牲となり、更に各国の駐日大使も犠牲となった。その中にはロシアの大使も含まれており、祖国の核の炎で火葬されることになった。生き残った自衛隊や元在日米軍、そして英国を中心として日本派遣軍の生き残りは司令部を松島へ移動。

 

 

宮城県 東松島市 松島基地

 

「・・・・東京が核攻撃・・・響君が・・・消し炭に・・・。」

「松葉!! しっかりしろ!!」

「総理が亡くなった今、お前が最高司令官だ!! 我々の手には在日米軍が所有する核兵器がある。既に在日米軍からは指示があれば撃つと言っている!!」

「松葉! 決断を!!」

「・・・・決断、だね? 分かったよ。」

 

松葉は目から感情を消し、復讐の指示を出す。

 

「やられたらやり返す。倍返しだ。暗号を送れ。ツクバヤマハレ。繰り返すツクバヤマハレ、だ。」

 

その命令に基づき、沖縄周辺に展開していた元在日米軍の原子力潜水艦が二発の核ミサイルを発射。安定と信頼の米国製のミサイルは一切の狂いも迎撃も受けることなく飛翔。モスクワとサンクトペテルブルクに核が着弾。ロシアの最高指導者、ウラディミール・プーチンチン以下多数のロシア人やモスクワにいた各国の駐ロシア大使が犠牲となった。核による復讐の炎は世界を震撼させ、本格的な核戦争になるのではと危惧した。それと同時にそれを止められなかった米国に対する批判の声が巻き起こり、それに乗じて中国が日露両国に講和を斡旋。それぞれの指導者を失い、多数の国民が犠牲となった両国は戦争を終わらせるために、そしてそんな状況で中国に侵攻されては一たまりもない両国はこれを了承。中国東北部、旧満州で講和会議が開催されることになるのである。

 

(続く)

 



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停戦と新たな秩序

8月10日 福島県沖 元在日米軍原子力空母「ロナルド・レーガン」艦橋

 

「それは本当か?」

「間違いありません。ヨコスカの司令部からトウキョウは壊滅。周辺の都市も甚大な被害を受け、ミスター・ワカバは炎の中に散ったと。」

「それで、その後はどうなったのか。報復したのか?」

「はい。マツシマに移動していたミスター・マツバが核による報復を指示。それに伴いモスクワとサンクトペテルブルクは灰燼に帰したと。」

「・・・・そうか。これも核戦争を回避しようと考えるあまりにジャパンを見捨てたホワイトハウスの失態であるな。まあ、ホワイトハウスの連中なら報復すら出来なかっただろうが。」

「司令、我々はこれからどうするべきなのでしょうか?」

「直に指示が来るだろう。それまでは北に進路を向ければよい。」

 

その後、北海道へ向け北上中であった日米艦隊に対し、松島より戦闘停止と大湊への入港の指示が出されることになった。

 

「そうか。では、停戦ということだな。」

「しかし、合衆国は我々を許しましょうか? 脱走兵と化した我々の事を。」

「そんなことはジャパンの政府とペンタゴンに任せておけばよい。気にすることはないさ。」

 

 

同時刻 北海道古宇郡泊村 北海道電力泊発電所

 

「同志、それは真かね?」

「はっ! 間違いありません!! またそれに加え、本国より直ちに武装解除し、日英軍に投降せよとも!!」

「・・・・そうか。同志、終わったのだな。この無意味な戦争がな。」

 

泊発電所を占領する部隊の司令官は麾下の部隊に本国からの指示を伝え、二時間後に包囲を開始した日英米の部隊に投降した。徹底抗戦を主張する一部の過激派が制御室に立て籠もり戦闘を継続したものの、殆どの兵は戦争から解放された事、また帰国までの衣食住を保証する事に満足しており、抵抗を続けた兵は僅かなものであった。

 

「ウラディミール・プーチンチン、バンザーイ!!」

 

そして程なくして抵抗していた最後の兵がカナダ軍の兵士に銃殺され、泊発電所は再び日本の統治下に戻ることになり、速やかに点検作業が連合軍の護衛の元で行われることになった。また投降した兵士はその日のうちに輸送機で百里基地に移送。その後医師による診断を受けた後に日本政府が借り受けたホテルに収容され、その清潔ぶりや本国にはないトイレの機能に驚いたという。また全ての兵士にカツ丼が用意され、久々の温かな食事に痛く感動したという。

 

 

8月15日 中華人民共和国 旧満州 哈爾浜

 

「では、調印に移りましょう。」

 

日本、英国、カナダ、、オーストラリア、ニュージーランド、ロシアの全権大使は中国の哈爾浜に集まり停戦協定に調印した。日本からはイスラエルに派遣中の若葉栗栖外務相が全権大使として参加し、その他の国は駐スイス大使が参加した。

 

「・・・・これで終わる・・・のよね。」

 

この日結ばれた停戦協定では両国軍による全ての戦闘停止と8月中にロシア軍は北海道からの全面撤退、それを日本側は一切妨害しないこと、9月以降にも居座っている兵がいた場合は脱走兵としてみなすこと、並行して講和条約を締結することが定められた。また講和会議は仲介を申し出た永世中立国スイスで行うことでも合意。また日露双方の捕虜も速やかに帰国させることになったが、日本側の捕虜の中にロシアに帰国したくないと抵抗する者がいて少し問題になったともいう。

 

 

9月2日 スイス ジュネーブ

 

「この条約を以て、日露両国の講和とし、また並行して両国の領土問題を完全かつ、不可逆的に解決したことに合意することになった、パトソール臨時大統領よろしいですか?」

「無論です、松葉臨時首相殿。このジュネーブ講和条約並びに平和友好条約により両国の関係を正常化することに合意、またウクライナからの完全な撤兵も行うことを約束いたします。」

 

この日、停戦協定以降進められていた日露での講和会議が妥結。戦争状態の解消を定めた「ジュネーブ講和条約」が締結。ロシアは稚内人民共和国、根室人民共和国の独立承認を完全に取り消すと共に日本側に凍結されているロシアの資産及び千島列島、樺太を賠償として日本側に、英国やカナダなど共同参戦国には凍結中の資産の80%を賠償として引き渡すこと、更にシベリア等極東地域開発において日英を優遇すること、そしてウクライナからの完全撤兵とそれに伴う交渉の仲介を日英が行うことを約束するというかなりロシア側には厳しい内容となっていた。しかし核攻撃により首都が灰燼に帰したロシアにとって、一刻も早い国家の立て直しが急務であり、また本国から離れすぎた地域の保持は困難であったこと、また中国が沖縄方面に向けていた部隊を中露国境付近に移動させつつあり、日英と講和することで中国に対する牽制としたいということ、そして何よりウクライナや日本で装備品を多数失った事から引き渡す地域の部隊や装備品を本国に戻し、戦力の集中をしたという事情があった。

そしてもう一つの条約は「日露平和友好条約」である。長らく平和友好条約が米国の妨害によって締結されていなかった両国にとって締結は悲願でもあった。しかし、日米安保を発動しないという米国の影響力低下と日本による在日米軍の核兵器使用もあって干渉を受けることがなくなり、条約の締結に至った。内容としては北方領土は日本古来の領土であることを認め、千島列島及び樺太は日本領であることを完全かつ不可逆的にロシアは認めるというものだった。これにより日本はロシアに不法占拠されていた北方領土を取り返すだけでなく、サンフランシスコ平和条約により領有権を放棄していた地域をロシアから譲り受ける形で再取得することになった。またこれらの地域には米軍基地を設置しないことも併せて明記。これに米国は抗議したものの、檜扇駐米日本大使から、

 

「黙れ。悔しかったら日米安保発動してから言えクソが。」

 

と一蹴されただけでなく、それだけ言って大使は去ってしまい抗議に来た米国側は黙るしかなかったという。

 

 

9月5日 英国 クライド海軍基地

 

「では、正式に調印とします。響君が生前進めて来た政策が実現することとなり、日英の関係が強化されることを誠に嬉しく思います。」

「ミスター・マツバ、それは此方も同じです。自由と民主主義を重んじる海洋国家が再び手を携えることに大きな意味があります。そしてこのことはアメリカを動かすことになるでしょう。」

 

日露の講和条約締結後に英国へ移動した松葉臨時首相は英国のリシ・スナック首相と会談し、同じく英国を訪れていたカナダ、オーストラリア、ニュージーランドの首相とも首脳会談を実施。その後到着したフィンランド、スウェーデン、イスラエルの首脳とも会談。その後8か国は「ユニオン条約」を締結した。この条約は北大西洋条約に習った軍事同盟に関する条約であり、それに伴い発足する組織の名前を英国の提案により、「自由と民主主義の連合」、通称「ユニオン」とするとも定められた。。基本的な内容は北大西洋条約とは変わらないが、活動範囲の制限がこれまでのNATOでは北回帰線より北側とされていたものが撤廃され、地球全体の加盟国の領土が防衛対象となった。また日本側の要望により、ユニオン条約第九条には

 

ユニオン条約第九条

「全締約国は、締約国の兵士及び軍属並びにこれに付随する者が締約国の国内で犯罪を犯した場合、引き渡しを求めることが出来、原則引き渡しを拒むことは出来ないことに合意する」

 

と定められた。これは日米地位協定により米軍兵士が犯した犯罪を日本側が裁けないという不平等条約を事前に是正しておきたいという日本側の想いであった。また同時に8か国は共同で声明を発表、米国に対してユニオン参加を呼びかけ、更にオーストラリアへの原子力潜水艦配備計画を改良し、日本を加えた上で日本とオーストラリアを英国の支援の下で核武装させることを併せて提唱した。また日本とオーストラリアが核武装するまでの間の防衛策として英国は3隻の原子力潜水艦を日本に配備し、代わりに日本側は護衛艦4隻と補給艦1隻を英国に配備。それぞれをそれぞれの指揮下に加えることに合意した。これまでの米国頼りの防衛政策からの大転換であり、全世界が日英に注目する中、米国は決断を迫られることになるのである。

 

 

日本へ帰国中の政府専用機の機内

 

「松葉総理、上手く行きましたね。」

「ああ、栗栖かい? 君もお疲れ様だね。この日まで響君にかなり働かされて大変だったんじゃない?」

「なんの、可愛い弟の願いですから。まあ、もうこの世にはいないのですけど。」

「・・・・そうだね。」

「それより、米国はどう動くでしょうか?」

「それは分からないね。僕は響君じゃないから米国を完全に敵に回すこと何かしたくない。ある程度は米国の要求は飲むつもりでいるよ。」

「しかし、イスラエルが参加したことで流れは此方にあるのではないですか?」

「そうだね。イスラエルは米国のパトロン。既にユダヤ人コミュニティが働きかけを行っているというし、駐米大使も工作活動に勤しんでるみたいだね。」

「米国が日本を見捨てる動きをしてしまったことでイスラエルは次は我が身と戦々恐々でしょうから、必死に働きかけを行うでしょうね。故にユニオンに参加するだけでなく、米国のユニオン加盟を全力で提唱。我が弟なら米国の加盟を認めなかったでしょうけど、これを認めるのが松葉さんらしくて良いですわね。どうなることか。」

「まあ、決めるのはホワイトハウスさ。僕らじゃない。」

 

帰国中の政府専用機ではその後英国に避難していた若葉前総理の妻、若葉琴音と会談し、彼の思い出話に花を咲かせるとともに、彼の葬儀について話し合った。そして各国に散っていた大臣達も国内に呼び戻し、日本の復興へ邁進することになるのである。

 

(続く)



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帝国の選択

20XX年 9月5日 アメリカ合衆国 ホワイトハウス

 

「・・・・君達はジャップの要求を受け入れるべきだと言うのかね?」

 

日英が旧植民地や北欧諸国、それに加え米国のパトロン、イスラエルを取り込む形で発足を発表した「自由と民主主義の連合・ユニオン」。条約調印後の記者会見で米国の参加を加盟国が求めたことを受け、ホワイトハウスでは対応を巡り緊急会議が開かれていた。

 

「無論です大統領。現時点では確かに日露は講和していますが、それは長くは続かないというのがペンタゴンの見解です。それこそ、ウクライナでの戦争も一時的な休戦はあっても、一定の期間を経た後に再開される可能性が高く、先のモスクワへの核攻撃を逃れたメドベージェブ氏を次のロシア大統領に担ぎ上げた上で日英との講和を破棄する動きがあると諜報部やイスラエルのモサドから報告が上がっています。また、先の日露の戦闘に我が国が参戦しなかったことで同盟各国からの心証が低下しており、いつ同盟国が反旗を翻し、日英の陣営に付くかも分からない状況です。既にパラオやツバルはユニオン加盟に向けた交渉を開始すると発表しており、特にパラオはジャパンの部隊の駐留を希望しているとも。このまま座していては我が合衆国の権威と地位の失墜に繋がるのは必定。更に世界地図で見ると日英は我が国を包み込むように立地しています。これにカナダ、オーストラリア、ニュージーランドが加わりじわじわと締め上げる様に圧力をかけてきています。西側陣営での内輪もめは中国を利することになり、ユニオンもそれを望んでいないはずです。」

「国務省としても我がアメリカがユニオンに参加することに賛成致します。そもそもこの軍事同盟が出来たのは我が国が的確かつ迅速な対応が出来なかったためです。日英は我が国が断れば我々をのけ者にして新たな国際秩序を築くことを計画しているはずです。そうなれば第二次世界大戦を乗り越え、世界の覇権国となった合衆国は見る影もなく瓦解することでしょう。大統領は合衆国を崩壊させた罪人として後世に名を残すことになります。それだけは我々閣僚としても避けたいのです。」

「しかしだね君達!! ジャップは我が国の軍を勝手に動かし、更には核を無断で使用したのだ!! それに加え何だあの九条という条文は!! 我が国が日本における利権を全て放棄し、対等な独立国として扱えというものではないか!! イエローモンキーがアングロサクソンと対等だと? ふざけるのもたいがいにしろと言いたいな!!」

 

怒りを露にする大統領。しかし、この場にいるのは白人だけではない。国防長官は黒人、そして副大統領はインド系なのだ。この大統領の言葉に全ての閣僚が怒りの声を上げた。

 

「大統領、その差別的発言の一切を速やかに撤回して頂きたい。」

 

静かに怒りを表明した副大統領。インド系初の副大統領であった彼女は更に言葉を続ける。

 

「バイデンデン大統領、貴方はかつて黒人初の大統領、オバマン政権で重要閣僚の地位にあったはずです。にも関わらず何故そのような言動が出来るのですか? はっきり言わせて頂きます。」

 

その時、その場にいた全ての閣僚や官僚、そして警備兵に至る全ての人間が大統領に向け銃口を向けた。

 

「この場には貴方の味方は一人足りともいない、それだけは言わせて頂きます。」

「き、きしゃまら!! この私、大統領に逆らうと言うのか!! そんなクーデターで政権を奪取できると思っているのか!!」

「大統領、貴方だけなんですよ。ユニオン加盟、そしてジャパンと対等な関係を築き、互いに利用して新たな秩序を築くことに反対しているのは。」

「ぐぬぬぬぬ、だが私は認めん!! ジャップと対等な同盟を組むと言うのは!! 私は大統領を辞任する!! 後はお前らで好きにやればいい!! だが後で私を辞めさせたことを後悔するだろう!!」

 

完全に四面楚歌となったバイデンデン大統領は周囲の圧力に屈する形で政権を投げ出し大統領の職を辞職。これに伴い副大統領のハリハリス氏が初の女性大統領に就任。議会ではバイデンデン前大統領が投げ出した日英との交渉を妥結させると宣誓。そして初の仕事としてユニオン加盟並びに日豪の核武装への賛否を議会に問うこととなる。

 

「しかし、これからが大変ですな。ハリハリス大統領。」

「ええ。けど国防長官、この難局を乗り越えない限り我が合衆国はマリアナ海溝の奥深くに沈むわ。勝手に動いてしまった米軍の件、それも含めてジャパンと交渉することになるわね。」

「そうですな。個人的な考えではありますが、現地部隊は自己の判断で行動し、それをホワイトハウスは承認しようとしたが、前大統領の我儘で承認出来なかった、とするのは如何で?」

「成程ね、責任の全てをバイデンデンに押し付けちゃおうと。」

「そういうことです。それに貴女も嫌々大統領に従っていたのでしょう?」

「そうね。だけど、イスラエルがユニオンに参加、ユダヤ人コミュニティーの働きかけ。これらを無視しては完全に帝国は崩壊する、そしてそれをヒオウギ大使が、ひいてはジャパンが煽っているということ。これらを踏まえて考えたら貴方たちに賛同する以外なかったわ。」

「大統領、国内の事は我々にお任せを。混乱する国内、国務長官として完遂してみせましょう。」

「頼もしい限りね。それじゃあ、ジャパンとの首脳会談の調整を頼むわ。ミスター・ワカバ・・・そう言えば亡くなっていたのね、ミスター・マツバとの会談、そしてその場でのユニオン加盟申請の表明を行えるよう諸々の対応もね。」

 

こうして西側の帝国アメリカ合衆国はギリギリのところで崩壊を回避した。その後ハリハリス大統領は議会でのユニオン加盟が賛成多数となった後に日本を訪問。臨時首都となっている仙台市で会談が行われ、共同記者会見で米国のユニオン加盟を正式に申請し、先に申請したパラオ、ツバルと共に加盟に向けた協議が行われることになると共に、日豪の核武装と新型の原子力潜水艦の研究を日英米豪で合同で行うことでも合意し、新たな日米関係の幕開けとなるのである。

 

(続く)



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変わる世界とその後

202X年 10月10日 日本国 宮城県仙台市 臨時衆議院(宮城県議会議場流用)

 

「先に英国で調印しました、ユニオン条約は我が国の安全保障強化に繋がるだけでなく、先のロシアとの戦争で露呈した日米安保の脆弱性と崩壊した日米関係の改善の為に必要不可欠なものです。限定的な集団的自衛権の行使を更に進め、普通の国となり、我が国と同盟国の国民を守り、平和と安定、法の支配による国際平和に貢献するべく、先の大戦で戦火を交えた英国と再び手を携えることを決意したのです!!」

 

東京がロシアによる核攻撃を受けた影響で宮城県議会を衆議院、仙台市議会を参議院の臨時議場として運用していた。そして松葉首相は議会に対してユニオン条約の批准を求めていた。世論では先のロシアによる北海道・青森・東京等への軍事攻撃、防衛省で核の炎に焼かれるまで指揮を執り続けた若葉前総理への評価から自由国民党への支持率が向上しており、ユニオン条約の批准や集団的自衛権の全面行使容認、更に核武装への賛成がいずれも60%を超えており、左派系のトンキン新聞でさえ60.1%を記録する等、松葉政権に追風が吹いていた。しかし、国会はそんな国民の声を聞くつもりなどどこにもなかった。

 

 

立憲国民党 原口一裕

 

「先のロシアとの戦争で改めて我が国は平和が大事であると実感したはずです。実際多数の国民の本当の声は政府の進める軍事力強化路線に大反対しています!! そのような政策を取るのは一重にイギリスやイスラエルと言った死の商人にそそのかされているからであり、国民を守るとか、国際貢献などと言った理由はとってつけただけの詭弁であり、復興に充てるべき税金を生産性のない軍事費に注ぐという行為は断じてあり得ません!! 更に安倍川内閣で行われた放送法への解釈変更により、真の国民の声が聞こえなくなっています!! 各報道機関では自国民党へ肯定的な意見ばかりですが、現実は違います!! 都合の良いことを書かなければ圧力をかけているから肯定しているかのように見えているのです!!」

 

 

日本コミンテルン 穀田恵次

 

「総理が進めるべき政策、そして国民が真に求めている政策はなんといっても非武装中立であす!! そもそも自衛隊などという、暴力装置があるからこそ、ロシアの怒りを買い、戦争になってしまったのです!! 総理!! 今こそ非武装中立、憲法9条を生かした平和外交に舵をきるべきではないでしょうか!!」

 

 

この他左派政党が一斉に政府与党に対して反発。更に中国に配慮したい公正党が自主投票に回るなど、国会は荒れていた。一方で浪速維新の会と国民党は賛成に回り、それに加え両党が合同で憲法改正の草案を提出。各党の思惑が入り交じり、採決が行われることになる。

 

 

公正党控室

 

「・・・・・いよいよ俺も腹を決める時が来たな。」

 

松葉内閣で国交大臣を勤めている黄金勇気は自身に従う意思を示した公正党議員を控室に集めていた。中国の機嫌を損ないたくない山口代表以下左派系の執行部と若葉前総理の盟友であり、右派系の黄金国交相や左派系から離反した議員による内部抗争が公正党内で起こっていた。

 

「響、お前の想い、俺は受け取ったぜ。・・・・行くぞ!!」

 

ユニオン条約採決の前日に黄金大臣以下公正党の一部議員が離党。そのまま自国民党に対して入党届を提出する事態が発生。それを受け自国民党執行部はこれを快く受理。先の東京への核攻撃で左派系議員の幹部が炎上する議員会館に呑まれて蒸発していたこともあり、止める者は存在していなかった。和歌山には左派系のドンがいたが、彼は総理に恩を売ることで自身の権益を認めさせるなどしたたかであったという。山口代表以下執行部は抗議したものの、松葉総理はこれを一蹴。そのまま連立解除と選挙への協力の終了を通告。これに呼応するように公正党が持っていた関西の6つの選挙区に擁立予定候補者を発表。これらの選挙区に離反した公正党議員がいなかったこともあり、このまま選挙をすれば自国民党の協力が受けられない公正党は議席喪失が確実な情勢となった。

 

 

自国民党総裁室

 

「今や宗教政党に頼る必要はなくなった。響君もこの結果に満足しているはずだ。」

「しかし総裁、条約は問題なく批准出来るかと思いますが、憲法改正事態は必要でしょう。」

「幹事長、そんなこともあろうかと既に草案を作っておいたんだ。と言っても、響君が書き残したメモにかなり近いけどね。」

「・・・・・成程。しかし、このまま成立とはならないかと。」

「だからこそ、内容の修正や維新や国民への根回し、そして・・・・。」

「・・・・・そういうことでしたか。私も腹をくくらなくてはなりませんなあ。」

 

その後、ユニオン条約は自国民党、浪速維新の会、国民党の賛成多数で衆参共に可決。またそれに加えて松葉内閣は東京の復興の政策を発表。核攻撃を受けた東京神奈川埼玉千葉の一部を各都道府県から切り離した上で日本政府直轄の経済特区東京(正式名称ヒビキワカバ特別区)を設立する経済特区東京法案を発表。世界各国からの投資を呼び込むだけでなく、経済特区東京を正式な日本の首都とし、大阪・仙台を副首都とする首都副首都法案も併せて公表した。企業にかかる税金が他の府県より安く設定される経済特区東京には米英やユダヤ人により多額のマネーが流れ込み、勤勉な日本人と合わせて急速な経済復興が進められることになる。またこれを受け経済界では日米台韓の半導体メーカーが合同で次世代の半導体の研究開発生産を行う拠点を設置することで合意。日本政府や米国政府がこれを全面的にバックアップし、西側の結束と技術力の強化が図られることになる。

 

「さて、行くとしようか。」

 

翌年の1月11日、任期も迫りつつあった衆議院を松葉内閣は解散。この頃には自国民、浪速維新、国民の三党は憲法改正の草案を取りまとめており、各党共通の政策として打ち出すことで合意。右派と左派の全面的なぶつかり合いとなった選挙戦は各地で左派政党の候補者が次々に落選。特に大阪と兵庫では公正党は全ての議席を失い完全に国政における力を失った。これにより抵抗勢力を排除した松葉内閣は若葉内閣がやり残した政策を次々に実行。戦後初の憲法改正発議、経済特区法・首都副首都法・スパイ防止法を次々に成立。この後松葉内閣は中国やロシア国内でくすぶるクーデターの機運等外部の脅威、北海道や青森の復興にむけた政策の策定などに追われることになる。

 

 

一方でユニオンは米国の加盟を受け、NATO加盟国の大半が次々に加盟を申請。トルコ、ギリシャ、ハンガリーは申請しなかったがそれ以外の加盟国がユニオンに加盟を申請。またドイツ・イタリアを新たな核保有国とすることをG7首脳は秘密裏に確約。もしロシアで政変が起き、再びウクライナや日本へ軍事侵攻する構えを見せた場合に発動することになった。またNATO加盟国以外ではなんとアイルランドが加盟を申請。どことも同盟を結んでいない同国は仮に他国に侵攻されてもウクライナのように見捨てられる可能性があった。英国嫌いというイデオロギーが現実の脅威に勝ったのである。

 

 

ウクライナではG7とイスラエルの仲介で講和会議がイスラエルのエルサレムで開催。ウクライナはクリミア軍港をロシアに租借する代わりにロシア軍の全面撤退及び各地の自称国家を承認しないこと、ロシアが勝手に架けたクリミア大橋の通行税はウクライナが徴税出来ること、そしてウクライナ国内にあるロシアの資産は全額没収などを認めたエルサレム条約に批准。またこの条約にはウクライナの武装中立が認められるだけでなく、再びロシアがウクライナに侵攻した場合にはウクライナはユニオンに自動的に加盟し、全加盟国への攻撃とみなすとも定められた。こうして暫くの間、ウクライナには平和な時間が流れることになる。そう、暫くは。

 

 

 

203X年 9月5日 ロシア連邦 モスクワ クレムリン

 

「我が国は立った今を以て、日英やウクライナと結んだ講和条約の破棄を通告する!!」

 

西側との融和を進めていたパトソール臨時大統領であったが、ショイゲ国防相と会談中に机の中に仕掛けられていた爆弾が爆発。政権の幹部が爆殺され、混乱に乗じてメドベージェブが政権を掌握。融和政策に不満を抱いていたロシア国民の心を掴み、西側との対決を宣言。一方の西側ではフランスで革命が発生。年金改革に端を発した民衆の動乱はロシアや中国による工作活動により武装したフランス国民が警察や軍に向けて発砲。一部の警察や軍が民衆側に離反。事前に援軍を要請していたドイツが欧州議会のあるストラスブールにポーランドやベネルクス三国、チェコを指揮下に加えた上で到着したという知らせを受けマカロン政権はパリを脱出。パリに設立されたフランス国民政権とストラスブールに設立されたマカロン政権という二つの政府が存在する分断国家となった。更にユニオン加盟国ではない台湾では中国が頻繁に周辺で軍事演習を実施。これを監視しているユニオン軍と小競り合いを起こすこともしばしばあった。そんな中、人民解放軍の末端が誤って沖縄周辺に派遣されていたユニオン極東方面軍所属のカナダのコルベット艦を攻撃。中国政府が即座に謝罪したことで事なきを得たものの、第三次世界大戦の引き金となりかねない事態であった。こうして世界は常にどこかで第三次世界大戦の火薬庫が存在することになり、殆どの国が何らかの陣営に加盟し、常に戦争とならないように絶妙なパワーバランスの元で世界が成り立つことになるである。

 

 

(完)



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