レ級に転生したんだけどどうすりゃいいですか? (ウィルキンソンタンサン)
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一撃目 転生

 

 

 

 

 

空気を切り裂く様なブレーキの音と、つんざくような悲鳴。

最後に聞いた音はその2つで、俺の人生は終わった。

 

簡単に言おう、事故った。訴訟も辞さない。

ちゃんと歩道信号は青だったのだ。それなのにあのトラックめ、突っ込んで来やがった。

「信号は、青だった。」ってか?どこの迷い牛だよ。

 

走馬灯見る暇も無かったよね、一瞬でドガンだったよ。この世界がギャグ漫画なら次の日には完全復活なんだがまぁそう甘くは無く。哀れ、高校生俺氏は死んでしまったとさ。

 

あと今気付いたけどここどこよ。死んでんのに俺はどうやって思考してるんすかね。

 

目から見える瞼は、光が透かして淡いオレンジ色になっている。

痛みが無い、だが意識はある。そんな状態だ。

 

もしかしてまだ生きてるとか?目を覚ますと病院で、母やらなんやらが泣きながら飛び付いてくるとか?

……無いな。自分の事は自分が1番分かるのだ。あの時俺は確かに死んだ、これは間違いない。

 

ならここはどこか。良い事をした人が行く天国か?悪い事をした人が行く地獄か?それとも中くらいの事をした人が行く中国か?

まず音を聞こう。音で大体分かるやろ(適当)

 

『ゴポ……ゴポ…』

 

…泡?まるで水の中みたいな音…

 

匂いは……

 

「──ッ!!」

 

水!?しかも塩水だ!!

ここは海なのか!

…やっぱり視覚だよな。百聞は一見にしかずと言うし、見りゃ分かるな。

 

恐る恐る瞼を開く。

 

目に映る景色は、ゆらゆらと揺れる白い光の線。よく分からないカラフルな海藻たち。あと名前が分からん魚。

 

…どう見ても海の中です本当にありがとうございました。

 

なんだ?俺海に捨てられたんか?海葬?

それともアレか、魚に転生したんか?

 

ヒレでは無い事を祈って腕を顔の前に動かす。

 

腕あった。どうやら魚では無いようだ。

あー良かった。

黒い袖を纏った腕は自分の腕にしては細いな。そう思った。

 

ひとまず魚では無いことに安堵し、とりあえず海面に出ようとする。

このままじゃ浸透圧に負けちゃうよ☆

 

…んお?俺泳ぐの上手くね?

 

泳ぎの心得はあるが、そこまで上手い訳では無い。海ならばプールとは泳ぎ方が違うため尚更なハズだが、何故か泳ぎやすい。泳ぐというか浮上するというか……少し違和感。

 

…あと今気付いたけどなんで呼吸してないのに平気なんだ?

 

なんだか色々な疑問点があるが、とりあえず後回しだ。

今は海面に上がる事を優先しよう。

 

ザパン、と音を立てて海面に上がると、お暑い太陽が俺を出迎える。

 

シャバの空気は美味いねぇ。

 

キョロキョロと辺りを見回すと、近くに島を発見した。

乗り込むか。

 

 

ふいー、着いた着いた。

海岸に到着し、砂浜に足を着いて上陸しようとすると、

 

ズデン。

 

転んでしまった。

疑問に思って足を見るとアラびっくり。足首から先が無く、黒い模様が入っている。靴か?これ。

まるでディフォルメキャラの足の様な形だ。

 

しかし、それよりも驚く物を発見した。

 

『ググ…ガ…』

 

蛇の様な生物だ。いや、これ生物なのか?歯は鋭く口内から飛び出しており、戦艦の武装の様な物を着けている。なんなら顔自体が船の様な形になっている。

 

しかもコイツは俺の尻と繋がって尻尾のようになっている。

 

……頬を一筋の水が伝う。これは海水ではなく汗なのだろう。俺は今焦っているから。

 

何故焦っているのか。そりゃあバケモノが自分の尻に付いていたら誰だって焦る。

だが俺が焦っているのはそこじゃない。

 

俺はこのバケモノに見覚えがある。

 

コイツは俺が昔からやっているブラウザゲーム、またはアーケードゲームの《艦隊これくしょん》…通称艦これと呼ばれるゲームの敵キャラの尻尾だ。

 

…なら、そんな尻尾が付いている俺は?

這いずって海面に映った自分の顔を見る。

 

そこに映っているのは、いつもの見飽きた自分の顔ではなく、最早トラウマになっているあの白い頭髪に黒いフードを被り、大きな目に青白い肌の幼女。

 

間違いない。通称「ぼくのかんがえたさいきょうのせんかん」。もしくは「戦艦の皮を被ったなにか」。または「超弩級重雷装航空巡洋戦艦」。

 

忘れもしない、こいつに俺は何回負けたことか。何回「お前のような戦艦がいるか」と言ったことか。

 

 

 

 

『戦艦レ級』

 

 

 

 

俺はどうやら、最恐の『深海棲艦』に転生してしまったようだ。

 

さて、ここまで気付いて何故俺が死ぬほど(もう死んでるけど)焦ってるのか教えよう。

それは単純明快、『深海棲艦』がいるなら『艦娘』もいるだろう。

深海棲艦は人類の敵、艦娘と戦う運命なのだ。

俺は呆れ返るほど平和な国、日本に住むただの高校生だ。

 

戦いなんて…出来るわけないよォ!(30%シンジ)

 

まあ現実は非情なので戦わなかったら艦娘に殺されるだけなんすけどね。

 

死んだばっかってのに、なーんでまた死にそうになるんすかね。

 

ま、いつまでも地面に這いつくばってる訳にも行かないんで、立つ練習をしましょうね。

 

 

-30分後-

 

 

 

た、立った!クララが立った!

 

しばらく練習し、遂に尻尾を駆使して立って歩けるようになった。

いやー、長かった。

 

そういえば、と思いふと自分の身体を見る。

胸から臍までぱっくりと空いている黒いコートを身につけており、黒いビキニが胸を覆っている。

臍の下辺りを指圧すると、元の身体の時には感じられなかった弾力が指に伝わる。

子宮だろうか?深海棲艦ってそういうこともできるんか…性とかいう概念無いと思ってた。

チャックを上げてしっかり身体を隠す。

 

首元は白い縦線が入った…アフガンストール?みたいな物を巻いている。

 

いや、分かってたけどね?やっぱりレ級なんだな。

最悪なTSだなぁ、せめてするんなら普通の世界でTSしたかった。

 

あとさっき気付いたけど声が出ない。

 

「──ッ、──ッ!」

 

ね?何かが引っかかったようになって声が出ないのだ。

しかし喋れないのは凄い弊害だな。意思疎通が出来ない。二次創作では「レレレレレ」とか喋ってたのに。

 

…なんかバカボンに居そう。

喋れなくて良かった。いや良くは無いが。

 

ひとまず人里に上がってみる。

 

これで誰かと遭遇したら双方発狂もんだが、悩んでる時間が勿体ないのでさっさと行く。

もう夕方なのだ、急がないと。

 

 

案外居ないもんだな。

海辺は危険だからだろうか?避難要請とか出てんのかな。

そう思ってしまう程に人気が無い。

 

まぁいないなら好都合だけどさ。

ふと目に付いた家のドアに近づき、試しにドアノブを捻る。

ガチ、と音を立ててノブが止まる。

どうやら鍵がかかっている様だ、当然と言えば当然か。

 

少し力を入れると、ガキンと鈍い音を立ててドアが開く。

 

…え、壊れた?嘘でしょ、そんなアッサリ?

自分と深海棲艦の力のギャップに驚きつつ、おずおずと家に入る。

普通に不法侵入だが、今晩の寝床がないのだ。許せ家主、これが最後だ。

 

部屋に入ると少し埃っぽい。どうやらかなりの間ここには人がいないようだ。

いい感じのソファがあったので寝転ぶ。仰向けには構造上なれないので横向きに。

 

しばらく脱力していると、そういえばレ級ってナップサック背負ってたよな。と思い、立ち上がって背中からカバンを下ろす。

 

さて、中身はなんじゃらほい。

 

 

 

 

〜レ級のカバンの中身〜

・弾薬のようなもの

・赤い炎のような謎の塊

・非常食のようなもの

〜以上〜

 

…なに?これ…てっきりゴチゴチのエンジンとか入ってんのかと思ってたんだけど……

弾薬みたいなのは…まぁ、攻撃のための予備だろう。

赤い炎みたいなやつは何となく分かる。某サンドボックスゲームの深海棲艦育てるmodで見たことがある。

怨念だ。まぁ燃料のようなもんか?これが無いと動けないのだろう…知らんけど。

 

非常食のようなものは…本当に分からん。缶詰めのようだが、レーションでもなく…そもそも人の食うもんでは無いことは確かだ。

 

先が果てしなく不安になってきた。俺は人の食べ物を食えるのだろうか。この残りの怨念が切れたらどうなるのだろうか。

 

『グゥガ…』

 

俺の不安が伝わったのか、尻尾の艤装も不安そうに鳴く。

…なんか愛着が湧いてきたな。

 

ま、考えてもしょうがないか。

 

そうして俺は眠りに着いた。

この先、どんな大変な事が待ち受けているのかも知らずに。

 

 




ウィルキンソンタンサンと申します。
レ級ちゃんへの愛が爆発して書きました。後悔はしてません。


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二撃目 交戦?

その昔、右も左も分からない新米提督がいた。
その提督は《轟沈》の意味を勘違いしており、いわゆる《ひんし》のような戦闘不能に陥るだけだと思っていた。
そうした結果、大破した電を夜戦に送り出してしまい、轟沈させてしまった。

そう、その提督とは──



_人人人人人人人人人人_
> かつての俺である <
 ̄YYYYYYYYYY ̄


本当にごめんよ電……



誤りの修正をしました。
睦月型8番艦、長門。→長門型戦艦、一番艦、長門。
なんでこんなゴミみたいな間違いしたのか本当に不思議。当時の自分を正座させて小一時間程説教したい。
提督→司令官 四姉妹は司令官呼びなの忘れてました。


「ア…ガ…ガ…」

 

レ級になってから2日目。俺は声を出す練習をしていた。

喉を触診したところ声帯はちゃんとある様なので声は出るはずなのだが、いかんせん何かがつっかえて上手く出ない。

 

「ア、イ、ウ、エ、オ」

 

お、いい感じじゃないか?

なんか行ける気がする。

 

多分、深海棲艦は言葉を喋る事が出来ないのでは無く、喋る習慣が無いのだろう。だから喉が凝り固まってしまっているのだ。

どうやら「じゃあほぐせば出る」、という仮説は正しかったようだ。

だんだんつっかえも無くなってきている気がする。

 

 

カタコトだが声が出るようになった俺は、少し試したいことがあった為海に来た。

 

その試したいこととは…

 

「ア、ヤッパリウクノネ。」

 

海を走れるかどうかだ。

結果は浮く、なんなら滑れる。

 

前に行こうとすると、そのまま進み出す。

これはかなり速い。風が凄いがとても気持ちいい。

アニメの主人公は転んでいたが、俺にとっては地上で立って歩くほうが難しかったな。

 

あっという間に沖に着いた。やばい、楽しい。

もーちょっと走ってみるか。

 

と、海面を走っていると、遠くにいくつかの人影が見えた。

 

 

 

戦慄。

今の心情を2文字で表すとしたらこの言葉が最適だろう。先程までの楽しいという感情はまさしく深海に沈み、今は恐怖と激しい焦りが俺に取り憑く。

普通に考えて、こんな海の沖に人影なんかある訳が無い……

 

普通…は。

 

いるとしたら…そう、艦娘だ。

艦これ好きとして会えたらこの上ない幸運だが、今は違う。

俺は深海棲艦で、出会ったら戦うしかない。

沈めるか、沈められるか。それしかないのだ。

 

よって、逃げる。

幸いな事に彼女達はまだ俺に気付いていないようだ。

くるりと旋回し、逃げるんだよー!

 

すると、ダァンという轟音と共に俺の腰の横を風が通過していった。

 

 

 

 

 

身体がサァ、と冷えていくのが分かる。

撃たれた。気付かれた。

遠くから声が聞こえる。

 

「あ、外しちゃったのです…」

 

「ちょっと!何やってるのよ!」

 

「ま、遠いからしょうがないよ。」

 

「私はレディーだから許してあげるわ!」

 

ゆっくりと振り向くと、4人の艦娘が近付いてくるのが分かる。

あの4人は…

 

「ダイロク…クチクタイ…」

 

第六駆逐隊。「雷」「電」「暁」「響」で構成される隊の事であり、その中の「響」は俺の推しだ。

 

しかし、そんな相手は俺に砲を向けている。

俺はこれから推しの艦隊と戦わなければいけない。

しかもこの第六駆逐隊、多分全員が改か改2。暁はⅡのマークが付いてるし、響に至ってはヴェールヌイの姿だ。

 

響だけ他の3人より大人びた姿してんの…あかん、涙出る。

…いや、そんな事を言ってる場合じゃない。今の砲撃は開戦の合図、賽は投げられたのだ。

 

しかし戦いたくはない。なんとか和解出来ないだろうか…

と、意思疎通を図る。

 

「アノ…ヤメナイ?」

 

「ひっ…レ級よ、あの深海棲艦、レ級よ!」

 

「ほ、本当…ッ!司令官!レ級よ、レ級が出たわ!」

 

「レ級はサーモン海域北方にしか出現しないはず…なんで…?」

 

あ、聞いてないですね。あとレ級だと気付いて無かったんかい。

 

『グ…ガガ…』

 

尻尾も威嚇してるし。

どうするか思案していると、耳が何やら雑音混じりの男の声を捉えた。

 

『レ級だと!?何故この海域に……とにかく、4人は極力被弾を()けつつレ級が他の海域に行かないように牽制してくれ。今から長門、大和、武蔵の3人を送る。無理はしないでくれよ。』

 

提督の声だろうか?何故聞こえるのか。

 

「聞いた?応援が来るまで耐えるわよ!」

 

「耐えれるかな…」

 

『─! すまん、レ級に無線が傍受されているようだ。切るぞ。幸運を祈る。』

 

傍受?俺が?どうやって?まさか尻尾か。ハイスペックだなお前。

 

「し、司令官!?…切られた…」

 

「最近は鹵獲した深海棲艦が人の言葉を理解した話もあるからね。あのレ級がもし人の言葉が分かるなら作戦が筒抜けだよ。」

 

おう。理解してるぜ。

 

しっかし、長門と大和と武蔵?やべー、死ぬじゃん。

しかも全員改2だったらもっとやばいぞ、また死ぬぞ。いやマジで。

 

とはいえ、だ。相手はみんな改以上だとしても今の俺はあのレ級。

1人連合艦隊は伊達では無いのだ。大和改2でもなんでも倒せる筈だ。大和持ってなかったし知らんけど。

懸念すべきは砲撃の命中率の悪さ位だろうか。

 

これで負けたら俺のサーモン海域北方(あそこ)での苦労はなんだったんだ。

 

っていやいや、何を戦おうとしているんだ。俺はできる限り平和に生きたいんだよ。

 

とりあえずもう一度意思疎通を…

 

と、艦娘達を目に戻すと。

 

「ちょっと電!大丈夫!?」

 

「はわわ…恥ずかしいよぉ…」

 

電が中破していた。

 

 

 

 

 

 

 

WTF!?

あ、あるぇー?俺何もしてないぞ?

もしや、と思い尻尾を見ると、やはり艤装の口から煙が出ている。

 

 

 

《先制雷撃》。

 

レ級が開戦でする先制攻撃。命中率は砲撃とは打って変わってほぼ当たる。んで威力も中々だ。

あー、ガチガチに装備積まなきゃそりゃ改でも駆逐艦はそうなりますよ。大破しなくて良かったな。つか提督やる気あんのか?

 

というか、先制雷撃したってことは俺……elite?危険度eliteですか?やべー、まんま俺の苦戦したレ級に転生したんやなー。

 

「やってくれたわね…反撃するわよ!」

 

「もちろん、信頼の名は伊達じゃない。」

 

あるぇー?殺気立ってるんすけど…

まぁ、姉妹艦を目の前で中破させたらそうなるわな。

艤装の頭を叩いて叱る。

 

「ギソウ、オマエヤッテクレタナ。」

 

『ガ…ガギ……』

 

うん、艤装も反省したようだ。今から一緒にごめんなさいだからな。

 

瞬間、頬を風が殴りつける。また撃たれた。

しかも距離を詰めているせいか、狙いも正確になってきている。

やばいな……それこそレ級は熟練の提督からも恐れられている程に強い。だが本体はそんな強い訳では無いのだ。姫クラスによくある様な「当てても装甲を貫けないので効かない」なんてことは無く、当てれば普通に倒せてしまうのだ。

 

つまり何が言いたいのかと言うと、このまま何もしないと普通に死ぬ。

 

「アノ…ワザトジャナインダ、ユルシテクレ。」

 

「ほら!もっと撃って!」

 

「電の本気を見るのです!」

 

「ちょっと待ちなさい電!あなた中破してるんだからさがって!」

 

「変だ、あのレ級雷撃以降全く反撃してこない。」

 

あ、聞く耳持ってないですね。

なんだろう、泣いていいですか?

 

「チョットコウゲキヤメテ……」

 

制止の言葉をかけた刹那、ダガァンと鈍い音が顔中を巡り鼓膜を叩く。

体は大きく仰け反り、その姿はさながらマトリックス。

あまりの衝撃に脳が頭の中でバウンドし、視界がチカチカする。

 

遂に砲撃が顔面に当たったようだ。おめでとう、顔に命中は100点あげよう。

 

ここで俺の意識は、深い海の底に沈んだ。

 

 

 

 

 

「!命中なのです!」

 

「でも相手はレ級よ、油断しないで。」

 

「後は大和さん達に任せて、帰投した方がいいかも…」

 

「ねぇ、あのレ級ちょっと変だと思うんだけど。」

 

ヴェールヌイは姉妹達にそう言う。

 

「え?なんでよひび……ヴェールヌイ?」

 

「だってさ、レ級を相手にしてなんで誰も大破してないのかな。」

 

「でも、電は中破したのです。」

 

「中破なんてよくあることだよ。でもレ級を相手にしたら大破なんて当然のハズ。それなのに誰もそうなってないって事は……」

 

「つまり……?」

 

「レ級は攻撃をしなかった。」

 

ハッとする3人。

 

「そういえば、あのレ級は先制雷撃以降、攻撃をしてこなかった…」

 

「それに、レ級は攻撃した後に驚いた顔をして自分の尻尾の頭を叩いてた。まるで叱る様にね。」

 

「波の音と砲撃の音で気の所為かと思っていたのですけど、なにか喋っていた気も……」

 

「え?深海棲艦が喋る訳無いでしょう……?」

 

電の言葉に首を傾げる暁。もう少し話を聞こうとすると、

 

「大和型戦艦、一番艦、大和。応援に参りました!皆さん大丈夫ですか?」

 

「同じく二番艦、武蔵だ。待たせたな。怪我は無いか?」

 

「長門型戦艦、一番艦、長門。応援に来たぞ。レ級がいるというのは本当か?」

 

「あ、どうもありがとうございます!はい、あそこに……」

 

「砲撃が頭部に直撃したので、今の内なのです。」

 

「おぉ、そうか……ッ!構えろ、起き上がるぞ。」

 

「え?」

 

ふと倒れている筈のレ級へと目を向けると、そこには先程とは打って変わって、図鑑で見た通りのにこやかな反面、不気味な雰囲気を含んだ笑みを浮かべた深海棲艦がいた。

 

その深海棲艦は、首元に手を伸ばしたかと思うと、チャックを臍まで下げた。

その次に、右の肘を横に広げて手の平が見える角度に構える、いわゆる陸軍式の敬礼をし、頭を少し上に傾けてこちらを見下すような姿勢をとる。

 

そう、正真正銘そこには、『鎮守府を破滅へと導く、小さくも強大なる悪魔』

 

《戦艦レ級》

 

が立っていた。

 

戦艦レ級は目の前に並ぶ艦娘を確認し、満面の笑みを浮かべた(のち)こう口を動かした。

 

 

『ミナゴロシ。』

 

 




敵キャラに転生した主人公がふとした理由で敵キャラとしての人格が出る展開、とても好きです。
分かる人いますか?


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三撃目 戦艦レ級

事前に考えていた構想が尽きました。
更新が著しく落ちるかもです。その分沢山書いたので許して下さい。


陸軍式の敬礼。それは海軍に配属される艦娘達には決してしてはいけない敬礼。

これが、レ級の挑発だ。

 

「あのレ級…雰囲気が変わった。」

 

レ級は艦娘達を指差していく。

 

「イカヅチ」

 

「イナヅマ」

 

「アカツキ」

 

「ヒビキ……ヴェールヌイ」

 

「ヤマト」

 

「ムサシ」

 

「ナガト」

 

「あのレ級……喋れるのか?しかも私達の名前を……!」

 

「アテテソノママ……ツメガアマイ……」

 

そして、その後に放った言葉は、ここにいる全艦娘達を戦慄させた。

 

「ミナゴロシダ。」

 

 

 

一撃で電改を中破させる程の攻撃力を持ったレ級の皆殺し宣言。

それはただの雑魚の戯言などではなく、本当に出来てしまう程の実力を持った戦艦レ級の言葉。

熟練の艦娘を戦慄させるには十分過ぎた。

 

 

レ級は、自分の中に宿る青年の記憶を辿っていく。

本能で生きる怪物が知性を持ったのだ。

皮肉な事に、その知性を与えたのは人間だった。

 

(ワカル…メノマエニイルヤツラノナマエガ、ジャクテンガ。)

 

(ワタシノソウビハ……)

 

再び青年の記憶を辿り、見つける。

 

1、16inch三連装砲

2、12.5inch連装副砲

3、深海烏賊魚雷

4、飛び魚艦爆

 

そして、その装備でやられたら嫌な事を

知る。

 

(カリョクハ……ナンポウセイセンキヨリウエ……)

 

南方棲戦鬼とは?と首を傾げるが、青年の記憶により直ぐに問題は解決する。

もうひとつ気になる情報を拾う。

 

(カンサイキ……?アア、コレカ。)

 

レ級は艤装から黒く平たい、俗に言うしいたけ艦載機を何体か出す。

 

「艦載機……!制空権は渡しません!」

 

レ級が艦載機を出したのを確認したのか、大和も艦載機を射出する。

 

(ヤマトガカンサイキヲ……コウクウセンカンガタ?)

 

大和は言わずもがな戦艦であり、空母ではない。その大和が艦載機を出したのであればその艦載機はなんなのか。答えは1つ、水上戦闘機。

レ級は青年の記憶により、形から水上戦闘機が強風改であると断定した。

 

水上戦闘機は対空装備で撃ち落とすことが出来ないのは周知の事実だろう。

ならいかようにしてアレを堕とすか。

 

(スイジョウセントウキ……オトス……)

 

レ級も艤装の口からおびただしい数の艦載機を射出する。

そしてあろう事かその艦載機を、大和の水上戦闘機にぶつけたのだ。

絡み合いながら堕ちていく艦載機と水上戦闘機たち。

 

「!?……何を…」

 

(コノアイダニ…ツメル!)

 

次々と衝突で堕ちていく艦載機に艦娘達が気を取られている隙に、レ級は爆発的な推進力で距離を詰める。

 

「ッ!?いつの間に──ウッ!」

 

懐に入り、尻尾を振って艤装を大和に叩きつける。

その圧倒的質量の暴力により、大和は横へ吹き飛ぶ。

 

「大和!ッの野郎!」

 

武蔵がレ級に機銃を向けるが、弾を撃つよりも早くレ級は尻尾を機銃に叩きつける。

いとも簡単にひしゃげる機銃。が、武蔵はそれに目もくれずに迷わずレ級の頭に鉄拳を打ち込む。さらに腕を掴み、そのまま放り投げる。

 

水面に叩きつけられ、バッシャァン!!と大きな水しぶきが上がる。が、その水しぶきの中から弾丸が武蔵目がけて発砲される。

 

「いいぞ!当ててこい!私はここだ!!」

 

魚雷と共に薄気味悪い笑顔で突っ込んでくるレ級。

それを待ってましたと言わんばかりに構える武蔵。

魚雷により大きな水しぶきが上がる。それが合図かのように、レ級と武蔵による機銃もへったくれも無い単純な殴り合いが始まった。

 

「うわぁ…あいつマジかい…?深海棲艦と殴り合いたぁ世も末だねぇ…」

 

「前にテレビでこんなシーン見たことがあるのです。雪山で黒いのと白いのが殴り合いしてたのです。」

 

「それよりも、このままでいいのですか!?相手はレ級です!いくら武蔵さんと言えども……」

 

「とは言ってもねぇ…どう介入すればいいんだい?機銃を撃っても武蔵に当たりかねん…」

 

「このまま艦娘と深海棲艦のインファイトを見物するのもいいかもな。」

 

「ちょっと!響まで!」

 

「ヴェールヌイだよ。」

 

「あの…どういう状況ですか…?」

 

「お、大和。大丈夫かい?どういうって……見れば分かるだろ?」

 

レ級に吹き飛ばされた大和がおずおずと戻ってくる。流石の耐久力で、小破に留まっている様だ。

 

「み、見れば分かると言っても……」

 

時折、雄叫びや激しい水飛沫が飛ぶ方を横目に見る大和。その仕草で「見ても分からない」ということが手に取るように分かった。

基本、艦娘と深海棲艦の戦闘は遠距離〜中距離だ。近接戦闘が起きることは滅多に無い。あったとしても、せいぜい距離を詰めてきた深海棲艦を軍刀で薙ぎ払う程度である。

故に。殴り合いの応酬となっているこの状況が理解不能なのだ。

 

「説明ねぇ…生憎だが、こっちもよく分からない。とりあえずこの長門、ちょっと混ざってくる!!」

 

「えぇ!?」

 

私も混ぜろ! と、勢い良く突っ込んで行く長門。

 

「血気盛んだな、長門さんは。」

 

「どうするのよアレ!もう訳が分かんない状況になっているんだけど!」

 

「どうするもなにも……もう下手に撃てないのです。」

 

「そうですね、ほぼ確実に誤射します……」

 

戦艦の2人を前にして互角の戦いをするレ級。四肢と尻尾を巧みに使い、2人を相手にしている。

 

かといって援護射撃をしても2人の方が体が大きい分、小さいレ級には全くと言って良いほど当たらないだろう。

まぁそもそも動きが速すぎてかすりもしないだろうが。

 

「どうした!動きが鈍ってきたのではないか!?」

 

ガン、ゴンと鈍い音が響く。

武蔵の煽りにレ級は笑顔を崩さずに

 

「ソれハコッちのセりフカもナ。」

 

と煽り返す。

 

「おっと、私を忘れてもらっては困るね!」

 

「オッとアブなイ」

 

長門の右ストレートをヒョイと躱す。

 

「不味いな……このままではジリ貧だ。」

 

「おや?もうギブアップかい?」

 

「まさか。ここからが本番だろう?」

 

武蔵と長門が構え直し、まさに今ラウンド2が始まろうとしたその時。

 

2人の間を高速でなにかが通過し、レ級の腹を叩いた。

 

「長門!大丈夫!?」

 

「陸奥!?」

 

「雪風もいます!」

 

「ゲホッゲホッ……陸ツ……ユき風……」

 

腹の衝撃に顔を歪めながら、新手か?と記憶を探る。

その隙を突くように、海中から肩へと砲撃が飛びこみバランスを崩す。

更に海中からスク水の艦娘が飛び出した。

 

「ぷはー!海の中はいいよね。やっぱ潜水してなんぼよねー!」

 

「スク水……潜スい艦?──イゴーやカ……」

 

「喋った!?てかゴーヤのこと知ってる!?じ、じゃあ改めて……海の中からこんにちはー!ゴーヤだよ!」

 

「陸奥に雪風、そして伊58……何故ここに?」

 

「私が呼びました。」

 

「暁が?いつだ?」

 

「お2人がレ級と戦っている間です。秘匿回線で。それとレ級……」

 

「……」

 

「先程ツメが甘いと言ったけど、詰めが甘いのはそっちの方ね!回線を繋いでいることに気付かないなんて……慢心したのかしら?」

 

「ヒュー、レディーみたいだよ暁。」

 

「みたいじゃなくて私はレディーよ響!」

 

「ヴェールヌイだよ。」

 

ポリポリとレ級は頭を搔く。

 

「アあマッたクいッ本取らレたナ……面倒ナコとニなっタ……」

 

どうしたものか。と首を捻る。

 

「まア良いカ。ゼん員コロす。」

 

「そうはさせないさ!行くぞ陸奥!」

 

「あらあら、アレやるのね!」

 

「ああ!──久しぶりの一斉射撃かッ……胸が熱いな!」

 

「長門、いい?いくわよ!主砲一斉射ッ!!」

 

「グウ……こノッ!」

 

再び、艤装から艦載機を出すが

 

「遅いです!本当に詰めが甘いですね、後ろです!」

 

後ろには、大和の水上戦闘機が。

 

「全テオとシタはズじゃ……」

 

「だから詰めが甘いんです、弾着観測射撃!」

 

そして、大和から砲撃された弾丸はレ級の頭へ。

 

「ガハッ」

 

揺れる脳、眩む視界。

そして、レ級の意識は再び深い海の底へ沈んでいった。




挿絵も描いてみました。
線画で力尽たので後は脳内で補完してくださいでち。


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四撃目 鹵獲

短めです。
更新が遅くなると言ったな、あれは嘘だ。
風呂食ってたら急に構想が浮かびました。シャワーって偉大。


「やっ…た……?」

 

目の前にはうつ伏せに大の字で倒れ、ピクリとも動かないレ級。彼女の身を包んでいた赤い瘴気は消え失せ、重苦しい雰囲気もどこかへ消えていった様だ。

恐る恐る、といった仕草で雪風が近付く。

 

「……ふん、ふん。気絶してるみたいですね。──どーしますか?」

 

沈めてしまうのならば簡単だ。しかしながら、このレ級は普通の深海棲艦とはわけが違う。

人語を理解し喋る。そして何故か、艦娘達の詳細を知っている。

武蔵はこう言っていた。本能的では無く、理性的な戦い方をしていたと。ただの単純な殴り合いではなかったと。

深海棲艦と思えなかったと。

それは、長門も感じていた。

 

その上での選択肢の提示。『沈めるか、連れ帰るか。』

 

「はぁ……鹵獲、か。胸が熱いなー……。」

 

「ため息つかないの長門。私が運ぶから、暁ちゃんは提督に連絡を、ゴーヤちゃんは周囲の警戒を。長門を帆艦に、他のみんなは護衛をお願いね。」

 

そう言ってレ級を小慣れた手つきで拘束していく陸奥。

 

「了解です!──司令官!聞こえる?」

 

「はいでち!ゴーヤ、潜りまーす!」

 

「分かった。では帰投するぞ!続け!」

 

 

「……ん…」

 

どこだここ?俺は……寝てたのか?

目覚めた、というには何かがおかしい。沼のようなものから這い出てやっと息を吸ったみたいな……あと身体の節々が痛むし、後頭部や肩、腹などがジクジクと痛む。

しかしさっきまで何してたんだったか……あぁそうだ、接敵して……被弾して……

──うん、そっから覚えてない。

 

とりあえず現状把握。俺はどうやら海ではなく地面に座っている状態だ。目の前には鉄格子があり、尚且つ腕が動かない。いわゆるバンザイのように腕が上がったまま動かないのだ。

動かそうとすると、ジャラ、という音と共に何かに阻害される。

足も同様、多少動くものの長座から姿勢を変えることは叶わない。

うん…まぁ…拘束…されてるねぇ……。

手足を鎖に繋いだ枷で拘束されている。艤装もそうだ。砲を外され、鎖でガチガチに拘束されている。

 

つまりこうだ。

俺気絶→確保→拘束←今ココ

って感じだろ。どうせ。

 

薄暗い檻の中で鎖に繋がれた美少女(尚中身)って……同人誌じゃないんだから。

 

ほーりょほーりょほりょつかまった♪

って、ポニョの替え歌作っとる場合か。

 

「誰かいなイっすカー?」

 

……返答無しっと。

というか、よく分からんが声がだいぶ出やすくなっている。何故?分からん。まぁ良いか。

 

『よう、新入り。』

 

「ッ!?」

 

声が聞こえる。どこからだ?

 

『目の前だよ、目の前。』

 

言葉通り、目の前……通路を挟んだ向かいの牢屋を凝視するとそこには。

見覚えのある大きな角を生やした白髪頭が。

 

「重巡ネ級……!」

 

『あァ、そうとも言うな。1回イジったから改って言うらしいぜ。』

 

なんてことだ、ネ級改がいる。しかも喋ってる。

こいつもこいつで悩まされたな……某ダイソンより厄介なんだもんなぁ、懐かしい。

と、懐かしき記憶に思いを馳せていると。

 

『オマエはいわゆる戦艦レ級か…珍しいな。実物を見るのは初めてだ。』

 

しみじみとそんな事を言ってくる。

俺はお前のことはn回見たよ。

 

『しかし、オマエは喋れるンだなァ、レの字?』

 

「まあナ。てかオ前も喋ってんじゃんカ。」

 

『喋ってねェよ、テレパシーだ。なんだオマエ他の奴と話したこと無いのか?』

 

テレパシーか。確かに脳内に声が響く感覚がある。

こいつ……直接脳内にッ!……ってやつだ。

 

「そうだナ。会わなかったかラ。」

 

『ほーん。じャあテレパシーのやり方は?』

 

「分からン。」

 

『そうか……そンならここの連中としか話せないな、レの字は。』

 

「? どういう事ダ?」

 

『ここに囚われてる奴らは人語が分かる。それが理由で鹵獲とやらをされたからな。アタシもそうだ。

──そしてテレパシーの使えないレの字、オマエサンが話しているのは人語だ。……もう分かったろ?』

 

なるほど、大体分かった。

つまりあれだ。深海棲艦のコミュニケーションはテレパシーを使うから、テレパシーが使えず人語しか使えない俺は、人語が分かるここの連中以外の深海棲艦と話せない……ってことだ。

 

「1つ聞いてもいいカ?」

 

『なんだ』

 

「ここに北方棲姫はいるカ?」

 

『いないぞ。』

 

クソがぁぁぁぁぁぁ!!!!

ほっぽちゃんと話すのが夢だったのに!!!!!!

 

『……っと、お客さんが来たようだ。』

 

カツン、カツンと靴の音が通路に響くのを耳が捉える。

誰だろうか。

 

「──人語を理解し、喋る……接敵時は大人しかったのが確認されるが、1度倒れた(のち)に凶暴化……ふゥン… あ、ここね。」

 

そんな独り言と共に、鉄格子の外から帽子をかぶった金髪の女性が現れる。

 

Guten Tag(こんにちは). 私はビスマルク型戦艦のネームシップ、ビスマルク。あなたが例のレ級ね?」

 

ビス子……だと!?生ビス子だ、感動……

 

「あ、どうモ。」

 

「あら、本当に喋ったわ。面白いわね、どうなってるのかしら?」

 

「声帯はあるんだヨ、みんな使わないだけデ。」

 

「そう……っと、聞くことがあるんだったわ。あなた、撃たれた後の記憶はある?」

 

「撃たれたアト……いヤ、気付いたらここニ。」

 

「本当?暴れたような記憶は?」

 

「あばれ…?いや、無いナ。そもそも暴れテなんかいないんだガ?」

 

「ふん……そう。」

 

そう言ってビス子は手に持っていた書類に何かを書き込む。その後、牢屋の扉を開け、俺の手足に嵌められた枷を外し始めた。

 

「ええと……釈放かイ?」

 

そんな問いかけを無慈悲に両手首へ手錠をかけることで返答するビス子。

あ、全然釈放じゃないですね──

 

「ついて来なさい。Admiral(提督)があなたと話したいらしいわ。それと、逃げようなんてことは思わない方が良いわよ。

なんたって私はドイツの誇るビスマルク級超弩級戦艦のネームシップなのだから。あなたなんか恐るるに足りないわ。」

 

「そんな事はしないサ。むしろ大人しくここにいれば艦娘から攻撃される事も無いだろうし……うん、逃げる理由が無いナ。」

 

ここはおそらく鎮守府。ならば!安全に艦娘が見放題なのだ!

ウェヘヒwwウォホホはハww すまんなみんな……俺はここで艦娘ちゃん達を堪能させてもらいますわwww(激キモ笑い)

 

「そう、変わってるわね。まぁ良いわ。早くついて来なさい。」

 

「はいヨ」

 

そうして俺はぐったりとしている艤装を抱え、ネ級に『気を付けて行けよ、レの字。』という言葉と共に見送られながらビス子の後を追うのだった。

 

 




ビス子はドロップで複数いるので欧州で雑に使ってます。zweiにする余裕は無いです。
見た目的に戦艦棲姫はダイソンというよりはiRobotだと思います。


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五撃目 執務室

感想、評価等いつもありがとうございます。大変励みになってます。
あとローソン前段作戦、クリアファイルとタペストリーを全て確保しました。タルトがどこにもないです。ほっぽちゃん欲しいお……


薄暗い留置所のような場所を抜けて、階段を上りドアを開ける。するとそこには赤いカーペットの引かれた明るい洋風な廊下があった。

 

「ここを右よ。ほら、着いてきなさい。」

 

「はいヨ」

 

廊下の右を曲がろうとすると──

 

「左だ、ビスマルクさん。」

 

「えっ」

 

「えッ」

 

後ろから声がする。この聞き覚えのあるイケボは!

 

「長門ッ!」

 

「……やはり知っているか、レ級。」

 

「あっいやそノ」

 

しまった、初対面なのに名前知ってるとか怖すぎるわやってもーた。

 

「…雰囲気が違うな、やはり響の仮説はあっているのか……?」

 

「ン?なんか言っタ?」

 

「いや、別に大したことではない。それよりビスマルクさん、執務室はあっちだと何度言ったら……!この鎮守府に来て何年経ってると思っているんだ!」

 

「う、悪かったわね。どうにも慣れないのよ。」

 

「はぁ…あぁそういえば、提督が『間宮さんのところに昼ごはん置いといた』と。」

 

「本当!?Danke.(ありがとう)すぐ行くわ!」

 

「えっちょ!」

 

「うわっト」

 

俺の手錠に繋がっている鎖を長門に押し付け、どこかへと走り去っていくビス子。反動でふらつく俺。勘弁してくれ、艤装がダウンしてるからバランスが取りにくいんだ。

てかビス子、ここでも提督に飯作らせてんのか……

 

「しょうがないな。レ級、私に着いてこい。」

 

 

「ここが執務室だ。私達の提督がここにいる。──いいか?提督に何かしようものなら、命は無いと思え。」

 

「怖いナ……そんな事しないヨ。」

 

コンコンとノックをし、扉を開ける。

大きな本棚が壁に立ち、部屋の中央には長いテーブル。それを挟む形でソファが置かれている。なにより、その奥。大きな窓の前にある机。立派な椅子。そこに座する軍帽を被った若々しい男。

あれが提督だろう。

 

「ようこそ、戦艦レ級。よく来たね、まぁ座ってくれ。ビスは…やはり間宮さんの所か。ありがとう長門、ここまで連れてきてくれて。」

 

「いや、なんてことはない。気にしないでくれ。」

 

「それは助かるよ。さて、レ級。」

 

にこりと笑った後、提督は軍帽を被り直してからこう言った。

 

「……君は何者だい?」

 

瞬間、執務室を包んでいた雰囲気が一変する。彼のあの鋭い眼光は、見た目が若くとも間違いなく熟練のものだった。

 

「オレが、何者なのカ?」

 

「そうだ。」

 

「戦艦レ級…皆さんご存知深海棲艦…と言えば納得すル?」

 

頭を振る。

 

「ノーだ。人語を理解するはまだしもそこまで流暢に喋り……理性的な人格も形成している。これは深海棲艦とは呼ばないさ。

それは最早、艦娘だよ。」

 

そうだろうか?あのネ級も普通に人の人格があったが。

あ、分かんねぇのか。

 

「深海棲艦が艦娘……?提督、それは流石に」

 

「──オレが艦娘?やめてくレ。こんなのが艦娘なんてものになれる訳無いだろウ。」

 

俺が艦娘なんかになったらもう理性持たんよ。ただえさえいっぱいいっぱいなのに。

 

「ふむ……長門、済まないが一旦出てくれないか?」

 

「提督!?それは……いや、分かった。レ級、くれぐれも間違いを犯してくれるなよ。」

 

部屋から出る長門。なんか凄くいい匂いがした気がする。

 

「さて、これで僕以外に君の話を聞くものはいない。改めて聞かせて貰おうか。──なんで君は、そんなに我々に似ているのかな?」

 

「1部の艦娘しか知らない事だが、喋る深海棲艦は存在する。だが、そこまで流暢に、極めて人間的に喋る個体はいなかった。」

 

「……」

 

うん…そういえばそうだねぇ。知ってるよ。

 

「結果には過程がある。必ず。」

 

「……」

 

「教えてくれ、何故だ?何故君は"そう"なんだ?」

 

全てを見透かすような目で俺を見てくる。

別に言ってもいいんだけどな……性別がなぁ、前世男だと知られたらもう完全に危険な奴だもんな。間違いなく艦娘達から遠ざけられるだろう。言えない。俺は艦娘達を堪能するんだ。

 

「ふむ…仕方がない。使うか、最終兵器。」

 

最終兵器だと……?痛いのは嫌だぞ俺は。

 

提督はおもむろに席を立ち、冷蔵庫に手を伸ばす。

 

「これを喰らって口を割らなかった者はいない……」

 

「……!」

 

ガチャリ、と冷凍室を開け、中から謎のカップを取り出す。

 

「それは……」

 

間違いない、それは数多の艦娘を骨抜きにした究極の兵器。

発するエネルギーは間違いなく、最終兵器の名にふさわしいだろう。

 

「──間宮さんのアイスだ。」

 

「──全て……話そウ!」

 

 

「なるほど、君は1度死亡しており、目が覚めたら海の中に。」

 

「うン。だから深海棲艦の細かい秘密とかはよく分からなイ。」

 

話しちゃったZE‪☆

しょうがねぇじゃん、あれは抗えないわ。無理無理。

え?味?…やべぇよあれは。犯罪だよ。

 

ちなみに話した内容だが、記憶があやふやだと伝えた。あと性別も分からないって言ったぜ。全部嘘だけどな!!!記憶バッチリだけどな!!!!あぁ!!!間宮さんのアイス美味かった!!!!!!!

 

「そうか、元人間。では艦娘達の名前を知っていたのも?」

 

「そういう事なんじゃないカ?オレもよく分からン。まぁとりあえずさ、オレは危害を加えるようなことはしないし、極めて人畜無害ダ。だからさ、解放してクレヨ。」

 

「それはダメだ。」

 

「くそウ。」

 

「人間が深海棲艦になる?これは漫画やアニメの世界ではない。おいそれと、手放しに納得出来る話ではないのだよ。

僕の判断にこの鎮守府の命運が託されている。もし君の言っていることがでまかせで、心は邪悪そのものなのだとしたら?気付いた頃には最悪、ここは更地だ。」

 

犠牲になるのが僕だけならまだ良い。だが僕は大事な艦娘達の命を背負っているものでね。と、目を伏せる。

 

「うーン……言わんとすることは分かるゼ?なんたってオレは"あの"レ級だからナ。」

 

レ級は1人連合艦隊と呼ばれる程だ。壊滅とまでは行かずとも、この鎮守府に多大なダメージを負わせる事は可能だろう。

だからこその、躊躇。聞けば今の俺は鹵獲され、妖精とやらに力を抑制されている状態(鎖をちぎれなかったのもそれが原因だろう)。

しかしながら俺を解放してしまうと、それは驚異的な力と知性を持ったバケモノを野放しにすることに他ならない。

そんなのが鎮守府を自由に徘徊してるとか、艦娘達のストレスもマッハだろうなぁ。悲しいけど。

 

「じゃあさ、枷付けたままでいいかラ。」

 

「それも難しい。たとえ枷が付いていたとしても、我々への攻撃方法はザラにある。」

 

そうだよなぁ……

 

「うーン……他の深海棲艦の情報を教えてもナァ…」

 

「え?」

 

「え?」

 

提督は鳩が豆鉄砲でも撃たれたみたいな顔で俺の事を見てくる。

 

「…分かるのか?」

 

「まぁ…大体?──でも、あんたらも知っている様な情報かもしれんガ……」

 

「構わない、教えてみてくれ。そうだな…では、コイツの情報を。」

 

そう言って1体のゴスロリ風の服を着た深海棲艦の絵を見せてくる。

あれは…離島棲鬼?

 

「離島棲鬼カ?えっと、ソイツは唯一の「棲鬼」の陸上型だナ。

特性自体は他の陸上型と一緒だけど、いつも行動を共にする深海棲艦が厄介だナ。制空値も高くて、一時期深海棲艦の中でもトップだったナァ。あと中部海域のピーコック島沖では姫クラスになったナ。

姫になるともう硬いし型が変わるし艦爆だしで、だいぶ厄介だヨ。」

 

アイツには苦労したなぁ…懐かしいな。

 

「なるほど、では…こちらは?」

 

「ソイツは港湾棲姫だナ。深海棲艦の中でも比較的穏やかで、戦いは好まない印象があル。

北方棲姫の姉的存在で、北方棲姫に何かあるとブチギレる事があるナ。

最終形態は徹甲弾を持ってるカラ、大型艦への命中補正があるゾ。

あぁそれと、ソフトスキン型だから三式弾系列がよく効くナ。他の対地装備も組合せ次第でよく効くゾ。」

 

「そうか、そうか…」

 

提督は眉間を指で押さえ、こう言う。

 

「所々我々の知らない情報があったぞ…君、本当に何者だ?」

 

「あれっマジでカ」

 

「マジだよ。いや性能云々はおおよそこちらも把握している。だが、そんな内部情報は知らないぞ…」

 

マズったな、調子に乗りすぎた気がする。

 

「い、いやぁ…捕まる前に色々見聞きしててサ。それのせいかナ?」

 

「そうなのか?でもさっき細かいことは分からない、と。」

 

「細かいことってのはアレだヨ、えーとえーと…そう、なんで戦うのかーとか、どこから来たのかーとカ。そういうやつだヨ!」

 

「そうか…そうか?」

 

「そうだヨ!ほら、もういいだろロ?解放してくレ!あの間宮さんのアイスもっかい食わせロ!!あと純粋に艦娘見たい!!!」

 

「いやしかし…」

 

「あぁ分かったヨ!じゃあ他の鹵獲されてる深海棲艦の通訳やるヨ!!!なんだったら一緒に戦ってやるヨォ!!!!」

 

「なんだってーー!??!!!」

 

ヒートアップしていた所、突如として勢いよく扉が開く。

 

「提督!外にも声が聞こえたがどうした!!何をしたレ級!!!」

 

「長門待て!そのレ級とんでもないぞ!!」

 

「とんでもない!?一体どういうことだ!!!」

 

「深海棲艦の通訳が出来る!!らしい!!!」

 

「な、なんだってーー!???!?!」

 

 

 

 

 




催促されるとちょっとだけ執筆速度が上がります。
放置されると1ヶ月くらい書かないのでどんどん催促してください。


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六撃目 報告会

催促されたのでスピード更新です。
私事ですが、明日から高校で旅行があるためしばらく更新、並びにコメントの返信が途絶えます。その分多めに書きました。
よろしくお願いします。

ちょっとした誤字の修正をしました。


『──で?なんでアタシはここに連れてこられたんだ、レの字?』

 

「まァ待てっテ。今食べてるだロ?」

 

現在、間宮食堂。

先程のネ級を連れて、食事中である。何故こうなっているのか?それは数分前に遡る。

 

 

長門、提督と共に留置所へ連れてこられた。

 

「えーっと……まぁ色々聞きたいことはあるけど、とりあえず通訳とやらをしてみてくれないか?」

 

「あいわかっタ。おーいネ級、さっきぶり。」

 

先程囚われていた檻の目の前、つまり重巡ネ級改がいる檻へ声をかける。

 

『…んあ?あァレの字か。随分とお早いお帰りだな。』

 

「なんダ?おねむだッたカ?」

 

『いやいや…こんな所じャ寝るしかやる事が無いんだよ。』

 

「なるほど、確かにそうダ。」

 

『それで?そんな大層な艦娘サンを連れてどうした?ってか、そのニンゲンは提督サンか?やっぱあれか、敬礼とかしなきャダメか?』

 

「腕動かないだろ、オマエ。」

 

『ごもっともだネ。』

 

ヒエッヒエッと不気味な笑いを漏らすネ級。顔は良いのにしわがれた笑い声で全てを台無しにしている。

ちなみに長門さんは驚き半分、残り半分は苦虫を噛んだような顔をしている。提督は…なんだその顔。どういう表情?

 

「提督、奴ら本当になにか話してるみたいだが……」

 

「ネ級は喋ってないが…会話は成立してるようだ。念話の類か?」

 

「おっ、提督サン流石。鋭いネ。ご察しの通りテレパシーだヨ。」

 

『よく分かるな。ワタシだったら気でも狂ってるんだと思うかもやしれん。』

 

2人は意外そうな顔をして、俺に問う。

 

「本当か?結構適当に言ったんだが…?」

 

「私は気でも狂って虚空に話しかけてるんだと思ったが。」

 

「ハハッ、ネーちャんと同じこと言ってラ!」

 

『おい、ネーちャんってなんだよ。』

 

「ん?いやオマエ、オレのことレの字って言うだロ?だからオレもなんかあだ名付けようと思ってだナ…」

 

『センスねぇナ、レの字は。』

 

「んだとコラァ!お前よりはマシじゃあ!」

 

『ケッケッケ!まァいいさ。あだ名を付けられるなんざ初めてだが、随分と気分がいいナ!』

 

再び不気味な笑い声を零す。

ネ級が笑う度、2人の顔が引き攣るのは少し面白い。

 

「そんじゃま、ちョっと通訳やんなきャなんないからヨ。なんか適当に喋ってくれヤ。」

 

『あー?めんどいなァ……。まま、ええわ。じャあしっかりやれよ?』

 

「はいヨ。──お2人サン、待たせたネ。それじゃあ通訳するゾ。」

 

「…あぁ、よろしく頼む。」

 

「そんじャあ行くゼ?」

 

提督と長門は目を瞑り、耳に全神経を集中させる。これから発せられる言葉を一語一句聞き漏らさないように。

 

「えっと…『そこの美人サン、アンタさてはワタシを大破させやがった艦娘だな?いやァ、また会えて嬉しいよ。是非ともまた手合わせ願いたいね』。」

 

「……」

 

「『ソレと、ソッチは提督サンかな?あの時ワタシ達との戦いで陣形を組んだり作戦を立てたりしたのはアンタだな。いやはや、してやられたよ。誇って良いぜ?アンタすげーよ、ネーちャんのお墨付きだ。って、こりャ逆に不名誉か?

まァともかく、そこの美人サンともっかい戦わしてくんねーかな、いやでも沈むと困るナ…』

ってネーちャん、そんな戦いたいのカ?なら鎮守府には演習弾があるから、それでやると良いゼ。」

 

『マジでか。』

 

「マジだゼ。」

 

「…どうやら、本当に通訳出来てるみたいだな、提督。」

 

「そうみたいだな……。しかし、重巡ネ級改のお墨付きの提督か…。」

 

「提督?まさか"悪くない"とか思ってるんじゃ無いだろうな?」

 

「いやぁ…その……」

 

俺はネ級から2人の方に向き直って、言う。

 

「まァそんな訳でサ。見ての通りオレは深海棲艦と意思疎通が可能ダ。日本語が分かるヤツ限定だけどナ。

…どうだ?役に立つダロ?」

 

そう言うと、提督は顎に手を当て少し思案する。そして顔を上げたと思うと。

 

「深海棲艦と話せると言うのは分かった。それも十分ね。他の深海棲艦も自己を確立しているとは驚いたよ……」

 

「じゃあ解放してくれるカイ?ちなみに、ネーちャんも『ワタシは悪い深海棲艦じゃないよー』って言ってるぜ。」

 

『えっいや言ってないけど』

 

「そうか…そうだな。ネ級もどうやら敵性は無いようだし……」

 

「提督…まさか……」

 

「うん、うん。──よし、とりあえず2人とも、ご飯でも食べないか!?」

 

「えッ」

 

「なッ」

 

『は?』

 

 

って感じだ。ネ級はただ単純に良い奴だと思ったから、あそこから少しでもいいから出してあげたかったのだ。

 

「美味いダロ?間宮さんのご飯ハ。」

 

『いや美味いけどさ。それとこれとは話が別っつーかってホントに美味いなコレ!』

 

俺はオムライス。ネーちゃんはカレーだ。

提督と長門は用事があると言ってどこかへと消えていった。まぁ監視はいるみたいだけども。

 

「しかしまァ…あれで気付かれてないと思ってんのかねェ…。」

 

『そーだな。なんだったら一緒に食えば良いのに。』

 

「やめとけ、オレらただえさえ避けられてんのに。」

 

いや、別にあの監視が下手という訳では無い。だかまぁ、俺達は深海棲艦だしねぇ……。何となく分かるのよ。

あとやはり事情は知っていても俺達が恐ろしいのか、座っているテーブルの近くには誰も座らない。

遠巻きにチラチラと見られる感覚があり、少し恥ずかしかったり。ネーちゃんは別に気にしていないみたいだが。

 

「あれッ、ネーちャん福神漬け使わねーのカ?」

 

『フクジンズケ?この赤いのか?』

 

そう言ってテーブルに置かれた瓶を手に取る。

 

「そウ。カレーにはソイツが良く合うんダ。」

 

『ほーん…』

 

蓋を開け、備え付けのミニトングで一掴みカレーに入れる。

スプーンにカレーと一緒に乗せ、口の中へ。

 

『…!コレは良いな!素晴らしい!』

 

と、なんとも素敵な笑みを浮かべる。

こうしてれば普通に可愛いんだけどなぁ…。とか思いながら、オムライスを口に運ぶのであった。

 

 

同時刻、執務室。

 

「さて、あのレ級についてだが…」

 

「その顔からして、当たりだったかな?司令官?」

 

「…そうだね。」

 

 

執務室では暁、雷、ヴェールヌイ、電、長門、大和、陸奥、雪風、伊58、ビスマルクが自分の赴くままに立ったり座ったりしながら、提督に注目していた。

 

「ベルが提出した資料。これにはレ級に関しての様々な考察があったが…その中のいくつかが大当たりだ。流石だな。」

 

「それ程でもない。」

 

「えーと…なんだっけ?」

 

「はい、資料!」

 

「ありがとう雪風!」

 

「どういたしましてっ!それで司令官、そのいくつかってのは何ですか?」

 

「そうだな、主なのは…[二重人格]、[切り替わりのキッカケ]、[極めて理性的]ってところだな。」

 

Хорошо.(素晴らしい)思った通りだ。」

 

「二重人格…確かに、大人しかったのが急に凶暴になったのです。」

 

「ですが、武蔵も大破寄りの中破でまだ修復中です…あのレ級、本当に理性的なのですか?とてもそうとは…」

 

怪訝な顔をする大和。大和だけではなく、第六駆逐隊以外の艦娘も同じような顔をしている。レ級が理性的な時にはいなかったから仕方がないだろう。

 

「…理性的なのは、間違いない。私がこの目で見てきた。」

 

「そうだな。敵対しているような素振りもなく、それにどこか…艦娘を上の存在として見ているような発言もあった。」

 

すかさず長門がフォローを入れ、提督が肯定する。

 

「つまり、あのレ級は友好的人格と、敵対的人格が存在している。私が思うに恐らく、友好的人格が主人格(マスター)だと思う。」

 

ヴェールヌイが言う。

 

「えっ?なんでかしら?」

 

と雷が問う。

 

「暴れた事を把握してなかったから、かな。そうだよね、ビスマルクさん?」

 

「えぇそうね。確かに、『オレは暴れてない』と言っていたわ。」

 

「…ビスちゃん、食べかす付いてるわよ。」

 

「えっ」

 

慌てて口元を拭うビスマルク。「私が取ってあげようと思ったのに」と残念がる陸奥。

 

「えぇと、それでね。敵対的人格の方はこう言ったんだよ、『アテテソノママ……ツメガアマイ……』って。これは友好的人格の記憶も持っているって事に他ならない。基本的に多重人格の主人格は他の人格の記憶を持ってないからね。」

 

「へー!響って物知りだね!」

 

「ヴェールヌイだよ、野菜や豆腐などを炒めた沖縄料理ちゃん。」

 

「チャンプルーじゃないよぉ!」

 

流石だと思う反面、まぁそうだろうなと思う提督。元人間だと言うのが本当だとすればそれは必然だろう。

あのレ級が元人間だということは彼女らには決して言わないが。約束したし。

しかし、あれは男なのだろうか?女なのだろうか?一人称はオレだが、それだけでは特定は難しい。

 

もし元男なのだとしたら、対応を考えなければな。まぁ思い出せないくらい記憶が曖昧なのだとすれば、特に問題は無いか。

提督は、そう腹の中で考える。

と、同時に。彼女らに報告すべきことがあることを思い出す。

 

「…それと、ひとつ想定外だったものが。」

 

「なに?司令官。」

 

「あのレ級は、深海棲艦の通訳ができる。」

 

一瞬、静寂。その次に、

 

「「「「な、なんだってー!!!」」」」

 

驚愕。

 

「ここまで綺麗に驚いてくれると、逆に清々しいな。」

 

と長門。

 

「ちょっと司令官!通訳ってどういうこと!?」

 

「えぇっと…ちょっと脳が追いつかないでち!」

 

「深海棲艦とお話出来るのです?」

 

「呑気なこと言ってる場合じゃないわよ電!深海棲艦と喋れるなんて、歴史が変わるわよ!」

 

「そうです!それってつまり、他の深海棲艦も会話が成立する程の知能があるってことになりますよっ!どういう事なの!?し・れ・え!!」

 

「深海棲艦の通訳…?ちょっと待ってくれ、О, Боже мой.(なんて事だ)完全に予想外だ。」

 

「あらあら、それって結構とんでもない事なんじゃないの?」

 

「とんでもないどころじゃないですよ!永きに渡るこの戦争を終わらせる大きな手がかりになりえますよ!?」

 

「そういえば確かに喋ってたわね…。ただの独り言かと思ったけれど、もしかしてアレって前の奴と話してたのかしら?」

 

一気に騒がしくなる執務室。

 

「まぁ落ち着いてくれ。ここからはレ級本人が言っていた事なんだが──」

 

提督は、深海棲艦はテレパシーで意思疎通をすること、人の言葉が分かる個体としか話せないことなどを話した。

 

「いや…それでもかなりとんでもないですよ…。」

 

様々な情報を聞いた艦娘達は、驚きを通り越してもはや引き気味と言ったところ。

 

「…あ、アレってそういう事だったのね。なるほど。」

 

ふと納得したように呟くビスマルク。

 

「どうした、ビス?」

 

「…いや、なんで話せるのか聞いたら『使わないだけで声帯はあるから』と言ってて。テレパシーを使うから喋る習慣が無いって事だったのね。」

 

「「「「えっ」」」」

 

「えっ」

 

総員、困惑。

 

「えっと、それって……」

 

「教育次第で、みんな喋れるようになれるってことでは……?」

 

「ビスゥ……!」

 

「な、なによ。」

 

提督は、大きく息を吸い込み、叫ぶ。

 

「そういう大事なことは早く言えー!!!!」

 

 

「──なんか今聞こえなかっタ?」

 

『気の所為だろ。』

 

「そうかァ…」

 

『てか、このぷりんとやら美味すぎやしないかい?』

 

「このアイスも絶品ダゾ。」

 

『なんだと、1口よこせ。』

 

 

 




レ級「もしもオレが元人間だってこと艦娘さん達に言ったらどうなるか分かってるな?」
提督「……どうなるんだ?」
レ級「間宮さんのデザートを食い尽くしてやる。」
提督「勘弁して下さい。」


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七撃目 河梁之吟

帰りました。
書いてる途中、物語の進行速度が亀より遅いと気付いたので次回から加速します。
今回ちょっとテイストを変えてみました。


「お疲れ、夕立。どんな感じだ?」

 

報告会を終えた提督は、レ級とネ級の様子を見るため間宮食堂に来ていた。

 

「あ、提督さん。お疲れ様っぽい!えっと、今のところ何も問題は無いっぽい。ご飯食べて、デザート食べてる。ぽい。」

 

離れている間監視をして貰っていた夕立に話かける。

どうやら、特に怪しいことは起きていないらしい。

奥にいる2人に目をやると、確かにデザートを食べている。というか、既に何度もおかわりをした形跡がある。

室内は閑散としており、間宮さんもいない。どうやらあそこにはあの2人以外誰もいない様だ。

 

今後の方針を伝えるため、夕立と共に2人に近付く。

 

「…んお?提督サンか。」

 

話しかけるよりも先に、レ級は首をこちらに向ける。ネ級は軽く会釈。

 

「あぁ。どうだい?ここの食事は。気に入ったかな?」

 

「いやぁ、凄いよこレ。飛ぶヨ。」

 

こくこくと頷くネ級。

 

「それは良かった。間宮さんにも伝えておくよ。」

 

あぁそれと、と言葉を繋ぐ。

 

「こっちは夕立。駆逐艦だ。」

 

「よ、よろしくっぽい…」

 

やはり安全だと思っていても恐ろしいのか、いつもの元気のある挨拶が出来ない夕立。

 

「ん、よろしク。レ級だヨ。君ずっと見てたでしョー。」

 

「え!?バレてたっぽい!?」

 

「バレてたっぽイ。」

 

驚く夕立に、ニヤニヤと笑うレ級とネ級。夕立の特徴的な語尾に合わせて返答する辺り、かなりノリは良いのかもしれない。

 

「これは驚いたな…夕立はこの鎮守府でも隠密能力は優れている方なんだが……」

 

「いや、下手とかじャないゾ?オレらは深海棲艦だからナ。何となく察するってだけダ。」

 

「うぅ……自信無くすっぽい…」

 

「大丈夫だって、普通に上手かったヨ。ジャパニーズニンジャだネ。」

 

そう笑うレ級に、肯定のジェスチャーをするネ級。

 

さて、と転換接続。

 

「何をするんだい、提督サン?」

 

「そうだな、まずは…うん。そうだな。定例会で報告しなきゃならない。」

 

「ほう、定例会。」

 

「そう、定例会。月イチで各鎮守府の提督と本部の人が集まる会議だ。来週末にあるんだが…それまでは自由かな。仕事してもらうのはその後だ。」

 

「自由!解放カ!?」

 

「まぁ、他の提督達と本部の判断次第ではあるが…一時的にそうなるな。」

 

「でもどっちにしろ鎮守府の中だけっぽいかも。」

 

と、レ級の枷を外しながらの夕立の補足。

 

「そうかもな、流石に深海棲艦を外に出す訳には……」

 

「問題無いヨ。全く、枷があると食いにくいんダ。ただ、聞きたいことがあル。演習とかはアリなのカ?」

 

「そうだな、深海棲艦と演習が出来るとこちらとしても得るものが大きいからな…アリかな。」

 

レ級はおぉ、と声を漏らす。

 

「やったなァネーちャん!長門と一戦いけるんじゃないか?」

 

こくこく、と興奮気味に頷くネ級。

 

「いやネ級は無理だが……」

 

「エ?」

 

からん、と手に持っていたスプーンを落とすレ級。

 

「──ワケを聞いてモ?」

 

「レ級はまだしも、ネ級は難しい。敵性は無いにしろ、君とは大きな戦いをしている。こちらも決して少なくない犠牲者が出たんだ。──とにかく、こちらにも事情があるんだ。すまない、分かってくれ。」

 

それを聞いて、レ級はネ級に一瞬目配せをして…少し躊躇ったような素振りをみせてから、ゆっくりと口を開く。

 

「『こちらはワタシ以外のほぼ総員が沈められたんだがな……まぁ、だからと言ってどっちが正しいかなんて事は無いし、ワタシ達としてもそちら側のセンユウを沈めたのは事実だからな。そういうことなら仕方がない。

素直に諦めるよ。関係の艦娘にも謝罪する。』……だとサ。まぁ、風あたりは強いよナ。」

 

それを聞いて、うっと言葉が詰まる。それもそうだ、犠牲の数はこちらは数名であちらは数百にも及ぶ。むしろこんなに友好的な方がおかしい。

 

「それと……本当に申し訳ないが、プライベートで他の深海棲艦と話すことも原則、禁じなければならない。」

 

レ級とネ級の瞳に、明らかな動揺が映る。当然だ。友人と自由に話すことを禁じられ、話す事を許可されるのは尋問時のみ。

こんな事を伝えられた2人の心情は察するに余りある。

 

「──まぁ、理由は聞かずとも分かるヨ。気にスルナ。」

 

「……すまない、ありがとう。」

 

そんな当たり障りのない言葉しか、出なかった。

 

 

『ワタシの発言から静かになったな。なんかまずいこと言ったか?』

 

──いやぁ、なるよそりゃあ……

え、なに?そんな闇深かったん?提督さんと夕立ちゃんめっちゃ気まずそうな顔で行っちゃったよ。

 

「いや、いやいヤ。なんでそんな飄々としてられんだヨー……」

 

『昨日同じ釜の飯を食ったヤツが次の日には沈んでるなんてことはワタシ達にとってそんな珍しい事じャ無いんだよ。

それにあの戦いは、艦娘サンらは海の自由を取り戻すため。私らは住処を、ナカマを守るための戦いだった。そこに善も悪も無いダロ?』

 

「ホーン、強いなァ。ネーちャんハ。」

 

正義の反対は、また別の正義である。そんな言葉をふと思い出した。

 

『カッカッカッ、冷たいとも言うけどな!あぁ、別にみんなこんな考え方な訳じゃないぜ?ナカマをやられたら怨むヤツもいる。ワタシのナカマだったクウボスイキはそうだった。夜戦で沈んだけどな。』

 

なんか連撃で凄まじい威力出す艦娘が3人いてさ、それでやられたんだよ。と笑う。

…その艦娘、覚えがあるなぁ。

 

『辛うじて撤退出来てた奴らはどうしてるんだろうなァ。ここに来てからどれくらい経ってるのかも分からん。最後に深海を見たのはいつだったかな?またあの変な顔したサカナを食べたいものだ。』

 

そう懐かしむような目をしながら言う。だよなぁ……ここにいる深海棲艦はあくまで捕虜だ。ネーちゃんより長い間囚われている深海棲艦もいるだろう。

それら全てがこのネ級のような性格だとは限らない。艦娘を酷く怨んでる者もいるのではないか?

 

俺がやる予定の、深海棲艦の通訳。並びに情報提供。これはかなり難航しそうだな……

 

最初こそ、好きなゲームに転生してラッキーと思った。

けどなぁ……全然ラッキーじゃない。闇深過ぎる。そりゃあ、人造人間(ホムンクルス)とか、亜人とか、アビス教団とか、原生生物とか、そういうがいないだけマシだけども。それとこれとはベクトルが違う。

 

『なァ、レの字。』

 

「ン?」

 

『無理してワタシを解放しなくていいんだぜ?』

 

呟くように、言った。

無意識に、無自覚に目を逸らしていた、最大の壁。

 

「──なんデ?自由になりたくないノ?」

 

『そりゃあなりたいさ。できることなら、また深海に潜って海の冷たさを肌で感じたい。あとアノ艦娘─ナガトと戦いたい。』

 

けどナ、と言葉を紡ぐ。

 

『無理なんだよ。ワタシが艦娘達に敵意を向けなくても、友好な関係を持つことは出来ない。ワタシが深海棲艦である限りはね。』

 

「……」

 

『その顔、どうせ何とかして自由にしようと考えてるダロ?』

 

「……なんで分かっタ?」

 

『分かるさ。数時間前からの長い付き合いダロ?』

 

「……たった数時間前ダゼ?」

 

ワタシ達にとっては、数時間前から一緒なのはもう長い付き合いなんだよ。と笑う。

 

『ワタシにとっちャ、1日だけでも檻から出れたのは奇跡に等しいンだよ。それだけでも十分だってのにな。ちョっと夢見ちまったかな。

思えば、ワタシは初めてあんなに美味い飯を食べた。初めてニンゲン達と話せたし──』

 

そこで1呼吸置いて、絞り出すように言う。

 

『──初めて、初めてこんなに長い時間、誰かと話せた。こんな事を言っても迷惑かもしれないけど……コレからも、仲良くしてくれたらワタシはとても嬉しいな。』

 

目尻に水滴を浮かべながら、そう言った。

答え?そんなの、決まってるだろ。

 

「もちろんダヨ、オレ達もう"友達"……ダロ?」

 

そして、笑みを浮かべる。重巡ネ級(ネーちゃん)という友達に向けた、とびっきりのヤツを。

 

『"トモダチ"か……これも、初めてだな…』

 

そう彼女は、へにゃりと笑った。水滴を、涙を零しながら。

 

『オカシイな、別に今生の別れって訳でも無いのに。水が溢れてくる。コレも、初めてだ。もっとオマエと一緒にいたいって、喋りたいって思っちまう。ハハ……今日は随分と、初めての事が多い。』

 

「おかしくなイ。普通だヨ。それが、普通なんダ。」

 

そう、普通だ。普通なんだ。

深海棲艦も、普通だ。人となんら違いの無い、普通の心。

 

「いつか、いつか必ず、あそこから出す。出してみせル。それまで待っててくれヨ。ネーちャん?」

 

そう言うと、彼女は目をゴシゴシと擦ってから、素敵な笑みを。本当に、本当に心の底から素敵な笑顔を浮かべ、こう言った。

 

『あァ。待ってるよ、戦艦レ級(レの字)。』

 

 

「……」

 

間宮食堂の出口前廊下。壁にもたれて立っている艦娘が1人。

 

「あのネ級さんは何言ってるか分かんないっぽいけど……ココロで、タマシイで伝わったっぽい。」

 

壁から離れ、廊下を歩く。行先は、きっと彼女にしか分からない。

 

「提督さんはああ言ってたっぽいけど、夕立は……夕立は。」

 

夕立は1歩1歩、確かな歩で進む。

 

「たとえハンモックを張ってでも…やらなきゃいけないこと、あるっぽい!」

 

段々と、歩く速度は速くなっていく。夕立の心情に比例するように。

街もとうに営みを止め、月も傾いてきている時刻に。薄暗い廊下に、一筋の光が差し込んだ。

それはまるで、最高にステキなパーティの開始を合図するかのように。

 

 




夕立「Every Body!!!シャッフルしよう世代!!連鎖!する!スマイル!!!!Let’s Party!!!!エンジョイ!しなきゃもったいない!!だって!人生は1回!!!レインボー!は!空だけじゃない!胸にも架かるぜ!!!どんなミラクルも起き放題!!ユニバース・フェスティバル!!!!!!(PARTY P.A.R.T.Y. )」
春雨「ゆ、夕立姉さん?どうしたんですか急に?」
夕立「ステキなパーティの歌っぽい!いい曲でしょ?っぽい!」
春雨「えっと…そうですね。はい」
夕立「心がこもってないっぽい!ぽーい!!」





ハーメルンさん絵文字非対応でしたのでエクスクラメーションでゴリ押しました。
完全体を見たい方は「P.A.R.T.Y.コピペ」で調べて下さい。


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八撃目 団結

ニコニコ超会議に行ってきました。楽しかったです。ためおじとマン氏を生で見れました。未成年なのでZUNビール飲めないのが悔しい。悔しいついでに今回長めです。あといつも以上に駄文極めてます。

関係ないですが、レ級のセリフで夕立と打つと、口調の都合上カタカナが混ざるのも相まって夕がタに見えます。ミスったか?って錯覚する。
というわけで夕立が1部タ立になってます。見つからなかったら私の勝ちです。

追記:ちょいと修正しました (2023/05/20)


ご機嫌よう皆さま。レ級です。

本日はお日柄もよく。晴れ時々鉛雨、と言っところでしょうか。

とは言えども、今私に向かって放たれている弾丸は鉛では無くペイント弾ですが。

あ、そうそう。これです。今私の脇腹当たりに飛んできた弾丸。捻って避けますが。

 

「あっぶナ!このォやったナ!」

 

「そんな攻撃当たんないわよ?」

 

すかさず反撃するが……クソ、当たらん。

え?さっきの口調はなんなんだって?ノリだよ。ノリ。違う海苔じゃない。違う黒海苔じゃない!それはなんだか卑猥だ!

 

と、言い忘れたが、今は演習中だ。俺の命運を分かつ決戦たる定例会を明後日に控えているのに、一体何をしているのかという気持ちは分かる。俺も思った。

夕立ちゃんにやろうと言われたから脳死で受けたんだが……まぁ狙いはあれだろうな。

艦娘との親睦を深めるためだろう。

ネ級と別れた後、俺は一応この鎮守府の人員の前で軽く挨拶をしたのだが……ほとんどの子は顔が引き攣っていた。

当たり前田のクラッカー(古い)、あちらからしてみれば敵を拠点に迎え入れている事になるのだから、いくら安全だと言われても警戒するだろう。

むしろ警戒されなかったらそれはそれでこの鎮守府のセキュリティを疑う。

 

だから、仲良くとまでは言わないが、とりあえず警戒は解いてもらうために色々やったんだが……

 

 

─────────

以下回想……

─────────

 

「よォ那珂チャン、よろしくネ。」

 

「ッ……」

 

「?震えテ……寒いのカ?」

 

「ハァーッ!ハァーッ!」

 

「──那珂ちゃん!?……ごめんレ級、那珂ちゃんコッチ!」

 

「えェ....(困惑)」

 

─────────

 

「アノー、言ってから多分3時間は経ったと思うんだけどサ。掃除しなきゃだから一旦部屋出て貰っても良いかナ?」

 

『キャプテン・ファルコン! サムゥス!』

 

「大乱闘しないデ?」

 

『秋山凛子、参る!』

 

「誰だアクション対魔忍やってるノ!」

 

─────────

現在へ戻ル……

─────────

 

と、まぁ。こんな感じで。

無視されるし。

那珂ちゃんに至っては話しかけたら過呼吸されたし、泣かれたし。那珂ちゃんのファンやめます。

(後で聞いたが、那珂は以前別個体のレ級に轟沈1歩手前まで追い詰められた上、友人が自分を庇って沈められたらしい。何それひどい。そりゃそーなるよね。那珂ちゃんのファンになります。)

 

と、打ち解けるのを半ば諦めていた時だ。タ立ちゃんから「提督さんから演習の許可貰ったっぽい!レ級ちゃんもやろ!っぽい!」と言われたのは。

で、今。5対6で戦っている訳なのだ。

が。

 

「今やる事だったノカ……?」

 

そう、タイミングだ。こちとら今後の人?生が懸かっているんだけど。

俺が鎮守府での艦娘見物ライフが送れるかどうかの大一番。それがいよいよ明後日に迫る中、自身の有用性の証明(保身のための言い訳)の言葉くらい考えた方がいいのではないのか?

 

「今やる事って……演習の事っぽい?」

 

「おわァビックリしたァ!突然後ろから話しかけるなヨ夕立!」

 

「えへへー、ごめんっぽい!」

 

敵艦隊からの魚雷を避けつつ器用に会話する。

 

「あんなんに当たりたかねーからな、艤装クンよ……魚雷射出。」

 

『ガウ!』

 

尻尾の頭が水中に潜り、口から魚雷を発射する。

離れで水飛沫が起きる。どうやら当たったようだ。やるじゃねぇか。

あの終始虫の息だった艤装も、緑色のバケツの中身をぶっかけてから中々調子が良い。

先制雷撃も相手の武蔵に見事命中したからな。

 

「ははっ!やってくれるじゃないか!だが、まだ温い。あの時のお前はもっとギラギラしていたぞ!」

 

と、武蔵の主砲から弾丸が腹めがけて射出される。それをエンジンを噴射させて、自身の軌道を無理やり横にずらすことで回避。

少し体勢を崩したせいか、肩にペイント弾のインクが少量付いた。

ちなみにエンジンはナップザックのように背負って装備している。重い。

 

「危ナッ!だから、あの時ってなんだヨ!」

 

「体勢を直すのが遅いな!」

 

「ウグッ!」

 

重いエンジンに気を取られて体勢が崩れたままな所を副砲で狙われ、数発が脇腹に当たる。

 

《レ級、中破》

 

そんなアナウンスが海に響く。さすが武蔵、火力がエグい。

 

「っの野郎!お返しダ!」

 

『ガゥギャ!』

 

素早く艤装の砲の照準を合わせ、放つ。

 

「グ……」

 

《武蔵、小破》

 

数発当たったようだ。なんだよ……結構当たんじゃねぇか……

 

「最後にこれでも喰らっとけ!」

 

そして主砲を武蔵の顔面へシュゥゥゥ!!!

 

「アウッ」

 

《武蔵、中破》

 

「超!エクサイティン!!」

 

「め、メガネがインクで!」

 

インクまみれになったメガネを取る武蔵。あとで謝っとこう。

 

「お見事っぽい!次は航空戦っぽい!」

 

「航空戦艦の異名が伊達では無いことを見せてやれ、レ級!」

 

「ん、頑張れ。」

 

「制空権、また取れなかったらダメなのです!」

 

「そうよ、使い方分からないとかお話にならないわ!」

 

仲間から檄を飛ばされ、野次を飛ばされ。

1ターン目の航空戦は艦載機の操作が分からずアッサリ制空権を取られてしまうという失態をやらかしているため、致し方無し。

あと俺がクソエイム過ぎてた。恥ずい。

 

「あーあー皆まで言うナ!モウ大丈夫!」

 

さっき一通り理解したため、もう大丈夫だろう。恐らく。多分。Maybe。

そもそもね?俺は戦争なんざとは無縁の日本生まれ日本育ちなんですよ。艦載機の使い方やら戦い方やら、分かるわけ無いやろって。

深海棲艦としての本能的感覚が無かったら間違いなく俺は詰んでた。

 

「──さテ、妖精サン。深海棲艦の言うこと聞くのは癪だろうケド、まァ頑張レ。」

 

『────!』

 

頭に艦載機を操縦する複数の「妖精」の声が響く。

どれも好意的な声音。これは信頼出来そうだ。

 

「ヨシ、んじゃ行こうか。艤装も準備は良いな?全機離陸、さァ飛び立テ!」

 

艤装が開けた口から艦載機が複数飛び出す。深海棲艦特有のものでは無く、艦娘の。

 

衝突、砲撃の末、制空権を握ったのは……

 

「──っし、オマエラ良くやっタ!」

 

こちら陣営。やったぜ。

 

「さてここからが本番ダ、みんな気を引き締めて行けヨ?」

 

「「「おー!」」」

 

「……旗艦(リーダー)は私なんだが……」

 

 

「だーッ!負けター!」

 

「勝ったわ!」

 

演習終了。ギリ負けで終わった。くやしい(小並感)

砲を返却し、談話室のソファーに飛び込む。

 

「あそこで私が砲撃を当てていれば……すまない」

 

「私があそこで避けてればなー……」

 

「反省は後だよ。とりあえず講評を聞こう。」

 

初めての演習だったが、まぁ健闘した方だろう。

提督が部屋の扉を開ける。

 

「とりあえず皆、お疲れ様だな。」

 

「司令官!私勝ったわ!」

 

「ああ、見たよ。じゃあ講評を始めようか。」

 

───

 

「──だな。ビスはこんな感じかな。」

 

「分かったわ。」

 

「金剛も旗艦としてだいぶ良くなってきたけど、スグに感情的になる癖は直そう。そこが金剛のいい所ではあるけどね。」

 

「デース……」

 

「でも、制空権を取られた時の咄嗟の判断はとても良かった。成長したな。」

 

「提督!…バーニングラァァァァアーブ!!!!!!」

 

「さて、Aチームはこんなところかな。次はBチームだ。まずは長門──」

 

────なんて言うか……ガチだな。

いや、分かってるよ?軍ですからね。長年にわたる海戦の前線ですから。

ただね?オニーサンちょっとついていけないかなーって。

ほらもう、こんな話誰も興味無いから皆ブラウザバックしてるもん。

 

「さて、次はレ級だね。」

 

「あ、はイ。」

 

「まず、艦載機。最初使い方が分からず制空権を取られても、慌てず使い方を確認してきちんと取り戻したのは良かった。けど、その後。せっかく取った制空権をあまり生かせてなかった。制空権があるだけでできることはかなり多くなる。良く周りを見ることだ。」

 

「ウス……」

 

簡単なこと言ってくれるねぇ……。純日本人に器用な戦いを求めるんじゃないよ。そもそも前線に出ることなんかないんだから。誤射されるがな。

 

「あ、そういえばレ級。」

 

「ン?」

 

「定例会で君が認められたら、軍から制服が支給される。期待しててくれ。」

 

誤射の可能性が無くなった!?

 

───

 

「──うん、こんな所かな。皆お疲れ。」

 

っっっ終わったーー!長かった……

 

「レ級、間宮さんが演習終わったら来てくれって言ってたぞ。」

 

「マジ?行ってくるわ。サイナラー!」

 

もしかしたら新スイーツとかあるかもしれん、急がねば!

 

 

バタン、と扉が閉まる。バタバタバタと壁越しに足音が聞こえ、やがて遠のいていく。

完全に音が聞こえなくなると……

 

「「「「っハァァァーー!!」」」」

 

大きなため息が部屋に響く。

 

「緊張したぁー……」

 

「緊張したのはコッチデース!ヒヤヒヤしたデース!」

 

「ん、金剛さんずっとソワソワしてた。」

 

「武蔵さん、再三言うけどアレはあの時対峙したレ級とは別人格だから。なんならアレが主人格だから。」

 

「あぁ、あいつからは例の禍々しい瘴気も出てないし、何よりあの時に感じたギラギラが無い。やっと納得したよ。」

 

「でも無事で良かったっぽい!」

 

「いや、本当にお疲れ様。何とか平穏に終わったね。」

 

彼女らがこんなにも気を張り詰めていた理由。それは、例のレ級の『裏』

にある。

 

「『深海棲艦の人格』──仮にウラと呼んでるが、出てこなくて良かった。」

 

「ウラが出る条件……《脳への大きな衝撃》はほとんど間違いないな。」

 

「そうだな。まぁペイント弾ごときが当たったところで出てこないと思うが……」

 

「それでも疲れたデース……」

 

まぁ何事もなくて良かった。とお疲れ様ムードが漂う。

そこへ話を切り出したのは、響。いやヴェールヌイだった。

 

「……司令官。言い出したのは私だけど、ウラが出るスイッチが脳の衝撃はちょっと怪しいと思うんだ。」

 

「どういうこと?」

 

と雷。

 

「脳への衝撃はあくまで1つの過程に過ぎない。言わば間接的原因。問題はその脳への衝撃が引き起こした結果、それが答えだと思う。それは──」

 

「──なるほど。《気絶》か。」

 

とビスマルク。

 

「そう、それだ。何らかの要因であのレ級の意識が消えるとウラが代わりに出る。私はそう思ってる。」

 

「じゃあ、寝てる時は?ウラは出ないのです?」

 

そう電が言うと、ヴェールヌイは待ってましたと言わんばかりに口を開く。

 

「いい質問だな電。そう、そこだ。睡眠も一種の気絶なのに、ウラが出ないのはおかしい……

だから、私はこう仮説を立てた。《自身に脅威が迫り尚且つ主人格の意識が無い場合》だ。つまり、ウラは一種の防衛本能……とでも言おうか。」

 

「……なるほど、確かに充分ありえる話だ。その仮説が本当なら、あのレ級はここを安全な場所だと思ってくれているという事になる。なんだか嬉しいな。」

 

だからこそ。だからこと何とかしなければ。と提督は胸の内にそう考える。

生前がどうとか、性別がどうとかそんなことはもはやどうでも良い。あんなに良い子が頭の硬い上の連中のせいで悲劇に逢うなどあってはならない。と。

 

わけも分からないまま命を狙われ、檻に入れられ、あまつさえ親しくなった友人と離れ離れにされ。

今度は軍に利用されようとしている。こんなことがあっていいのか?

 

「なぁ皆、聞いておきたいことがあるんだが。」

 

なんだなんだと全員が提督に注目する。

 

「あのレ級のことなんだが。ほとんどドックにいて会ってない武蔵と、あまり接点のなかった金剛はいいとして、皆はここ数日過ごしてどう思った?」

 

「……私は、笑顔でスイーツを食べている姿を見た時、不覚にもときめいてしまった。悪魔とも呼ばれる深海棲艦であるということも忘れ、ただの愛らしい少女にしか見えなくなってしまった。」

 

と長もん。間違えた、長門。

 

「私は……そうね。提督がいなかった時、ご飯を作ってくれたのよ。生姜焼きを作ってくれたわ。

そりゃあ初めはさすがに警戒したけど、あまりにもいい香りに負けて食べてみたらね。もうとっても美味しくて。

また作ってと言ったら、笑顔で『いいヨ』って。あの時感じたあれが俗に言う"バブみ"って奴なのかしら……」

 

とビスマルク。

 

「どうって……私達姉妹はだいたい同じ感じだと思うのです。」

 

「そう、『真のレディー』とは何なのか……一緒に考えてくれたの。それに、子供扱いもしないし。」

 

「背丈はそんなに変わらないけど、あれはまた違う種類の『レディー』ね。深海棲艦とはとても思えないわ。」

 

「あぁ。そして何より、こんなことになった元凶とも言える私達を快く許してくれた。それだけじゃない。戦闘のアドバイスまでしてくれた。」

 

と第六駆逐隊4人。

 

「レ級ちゃん、いつも笑ってるっぽい。人当たりも良くて、根っから善なんだって分かるっぽい。

……今までレ級ちゃんが何をしてきたのは知らないっぽい。けど、あんなに優しくて良い子が不幸な目に逢うなんて、私は許せないっぽい!」

 

と、最後に夕立。彼女の言葉に、皆頷く。

 

「うん、そうだね。その通りだ。笑ったり、怒ったり、驚いたり。そんなの、もう人と、艦娘と変わらないじゃないか。いくら深海棲艦だとしても、あそこまで酷な思いをさせるなんてあんまりだ。」

 

今のあの子が常に浮かべている笑顔は、きっと偽物だ。色々な感情を押し込んで、見えないようにして。悟られぬように、人あたりの良さそうな笑顔を貼り付けている。

そんなの、悲劇以外ほかあるだろうか。

 

「……助けたい。」

 

誰かがそう小さい声で言葉を零す。

 

その言葉は、全員の思いが重なった故なのか。

 

「──あぁ、助けよう。救おう。それ以外に、選択肢があるか?」

 

Нет.(無いな)皆も知ってるだろ?彼女のいつもの空虚な笑みじゃない、本当の笑顔を。アレは、とても綺麗だ。」

 

「…そうだな。あの笑顔を見ると、胸が苦しくなるような感覚を覚える。あんな笑顔をいつも見られるのなら、これ以上の幸福は無いだろう。」

 

そんな長門の言葉に、全員が深く頷く。

 

偽物じゃない。ここにいる全員が、あのレ級の『本物』の断片を見ている。知っている。

 

「やるぞ。目指すはレ級の人権の確保。並びに友人のネ級の解放だ。」

 

「ネ級は解放までとは行かずとも、何時でも会えるようにはしたいな。」

 

「同感ね。結局あの子はネ級と話している時が1番幸せそうよ。」

 

「ネ級のこともレ級のこともまだ良く分からないデスけど……でも、演習の前にご飯を食べた時、ネ級について話すレ級の顔は素敵デシタ!いつも雑務をしてくれていてとても助かってマスし、私も何か手伝いたいデース!」

 

「……私はまだ彼女がどんなものなのか、正直よく分からないが……演習のあとメガネについて謝られた時、少なくとも悪いやつでは無いのだと思った。おそらく、皆の言う通りあのレ級はとても素晴らしいのだろうな。

この武蔵、微力ながら協力しよう。」

 

「……決まりだな。それじゃあ、やるぞ。ビス、ドックの大和と雪風と陸奥に繋いでくれ。」

 

「分かったわ。」

 

執務室近くの談話室。後世の教科書に載る伝説の作戦が、幕を開けた瞬間の場所だった。




大和「妖精さん、あとどのくらいで修復が終わりますか……?」
妖精『あと4時間ってところだね。』
大和「はぁ……高速修復は出来ないのでしょうか?」
雪風「大和さん、司令も言ってたでしょ?
大和は高速修復剤を使い過ぎてる、そろそろ副作用が無視できない規模になってくるからダメだって。……私あとどのくらい?」
妖精『あと2時間半かな』
大和「それは分かってはいるのですが……演習したかったです」
陸奥「あら、それは私も同じよ?ちなみに私は?」
妖精『あと6時間だね』
陸奥「高速修復剤を」
妖精『駄目。使い過ぎ。』
陸奥「(絶句)」
大和「そろそろ演習が終わった頃でしょうか……はぁ。」

女衛兵「失礼します!3名全員に提督より架電です!」
大和雪風陸奥「……え?」


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九撃目 決戦

タ立発見報告として多くの誤字報告が送られてくる中、マジの誤字報告がありました。誤字報告ありがとうございます。
今回の勝負は皆さんの勝ちです。定期的にやります。

なんか今回長くなった……読みにくいかも。
投稿が遅れたのはコミックシティと例大祭に行ってたからです。あと五月病のせいです。あとDOLCE&GABBANAの香水のせi(((((


今回の内容についてですが、提督とかあんまりいると主に私が逝くので史実通り4つの鎮守府の提督だけにしました。
基地とかが沢山あってその地方ごとの総括?代表?みたいな…要は中間管理職みたいなイメージです。
鎮守府は名前だけお借りしているだけなので、所属艦とかそういうことは考えてません。


「酔った…っぽい…」

 

「オイオイ、水上の方が酔いやすいだろ普通。なんで車で酔うんダ。」

 

「ごめんレ級ちゃん、しっぽさんの口開けて欲しいっぽい…」

 

『ギャウ!?』

 

「口の中に出すつもりカお前!!」

 

今日はいよいよ決戦の定例会の日。

提督、俺、夕立、ビスマルクを乗せた車は新宿へと向かっていた。

 

「座席のポケットに酔い止め薬があるわよ。たしか酔ってからも効いたハズ。レ級、取ってあげなさい。」

 

助手席に座るビス子が言う。

 

「ハイヨ。」

 

「うぅ…ありがとうっぽい…」

 

舐めるタイプの酔い止めを座席ポケットを取り出し、夕立に手渡す。

 

「ところで…何ダ?この音楽。」

 

と、車内にかかる音楽について問いかける。

モニターには惑星、宇宙船、宇宙空間が表示され、曲調は少し古めといった感じだ。

 

「なにって……ガンダムでしょ?」

 

「違うぞアイマスだぞ。俺は詳しいんだ。」

 

「いや、エヴァだと思うけどナァ……」

 

そして、モニターにアニメのタイトルらしき文字が表示された瞬間、3人とも口を揃えて言う。

 

「「「コブラじゃねーか!」」」

 

『街をつつむ (ワッカメウドーン) …Midnight fog…(メンターイコ)……』

 

「…フフ」

 

「「「アッハッハッハッハッ!」」」

 

「……????」

 

謎の一体感により爆笑する3人+何も分かっていない1人を乗せ、車は新宿へと進んで行った。

 

 

「それでは、定例会を始めます。本日進行担当であった、大本営元帥が不在となりますので、秘書艦の加賀が進行を務めさせていただきます。ではまずは近況報告から……」

 

『市ヶ谷大本營』と腕章を着けた加賀が言い、定例会が始まった。

元帥さんいないのか。車でめっちゃ凄い人って聞いたから期待してたんだが。

 

本部…つまり東京都新宿区に位置する、陸海軍最高統帥機関である大本営に着き、会議室へと案内された後。椅子に座った提督の後ろで俺、ビス子、夕立が立つ。

 

室内は長机が置かれ、囲うように椅子が配置されており、そこに各鎮守府の提督が座っている。

BLEACHの十刃のアレと言えば分かるだろうか。

 

各提督の後ろには秘書艦が1人立っており、3人なのは俺達だけである。

 

(オレは本題だからだろ?ビス子は秘書艦で……夕立はナンデで来たんダ?)

 

と囁く。

 

(夕立は必要なのよ。あとビス子は止めなさい。)

 

と、何やらそれなりの量の資料らしき紙を持ったビス子が言う。

 

必要、ね…。まぁビス子がそう言うのならそうなんだろう。普段はアレだが仕事はバチバチにできる女なのだ。多分。

 

「──呉鎮守府、異常無しです。」

 

「はい、近況報告は以上となります。では本題に入ります。」

 

と、加賀が言った瞬間、部屋の雰囲気が明らかに変わった。

案外朗らであった空気が一瞬で張りつめたモノに変わり、肌がピリつく感覚を覚える。

まるで大量の刃物を突きつけられてるように、背中から冷や汗が吹き出る。

 

軍人の本気モードといったところだろうか。普通に怖い(小並感)

殺気の1つ先を行った、本場のプレッシャー。なにより恐ろしいのは、ソレがおそらく俺に向かって発せられていることである。

 

「若狭湾北部にて、舞鶴鎮守府所属の第六駆逐隊が遠征中に戦艦レ級を発見、その後増援により鹵獲されました。そのレ級に関してですが……舞鶴鎮守府提督、説明を。」

 

「はい。ビス、資料を。」

 

「了解。」

 

ビス子が資料を提督達に配る。

やはりビス子が持っていたのは資料のようだ。

 

「さて、今回鹵獲されたレ級…私の後ろにいるこの子ですね。」

 

「ドーモ、レ級デース。」

 

震えを極力抑えて、恐怖の感情を感じ取らせないように軽く挨拶をすると、提督達がざわつき始める。

加賀は澄まし顔。もうちょい驚けお前。深海棲艦が喋ってんだぞ?慌てふためけもっと。

 

「はい、ご覧の通り喋ることが出来るため、意思疎通が可能です。」

 

我が提督は俺の事を他の提督達に資料を使い、説明を始める。

主には、俺に敵性が無いこと、それにより深海棲艦の翻訳が出来ること、エトセトラエトセトラ…

 

「という事を踏まえ、戦艦レ級を捕虜では無く人員の1人として迎え入れる事を所望します。」

 

そう言った瞬間、提督達のざわめきは1層大きくなる。

 

「僕は賛成ですね。確かに深海棲艦ですけど、逆に言えばそれだけですし。そもそもレ級一体如きなんとでもなりますし。ねー、ネルソン?」

 

と、『横須賀鎮守府』の腕章を着けた小柄な男性はそう軽く言う。

後ろに控えた金髪碧眼の艦娘、nelsonは彼の言葉に対して自信たっぷりに、まるで「当然だな。」とでも言うように。しかし無言で大きく頷いた。

さすがビックセブンっす。マジパネェっす。

 

「いいんじゃないですか?1週間置いて何事も無かったのなら安全性はとりあえず証明出来ている訳ですし。それに、舞鶴提督さんが安全だって言うなら本当なのでしょうから。」

 

と、『呉鎮守府』と腕章を着けた女性の提督。

ウチの提督へのその絶大な信頼はなんだ。何をしたんだ。

 

「…いや、儂は認められんな。大体1週間何もしなかったからと言って安全だと認定するのが甘すぎる。深海棲艦なんぞ信頼できん。」

 

そう言うのは『佐世保鎮守府』の腕章を着けた白髪の爺さん。

 

「それも一理あるけど…他の深海棲艦の通訳よ?サラッと言ったけどとんでもないわよこれ?」

 

「ふん、深海の鉄クズ共がまともな発言ができるとはとても思えんな。」

 

「それに関しては資料にネ級との通訳事例があるじゃない。」

 

「それが本当だと証明出来るのか?あいつのでまかせじゃないのか?」

 

「うーん…舞鶴提督さん、本当だと証明出来る物ある?」

 

「そうですね…ネ級とは翻訳能力の確認後も積極的に喋っていましたね。」

 

ここの写真にあります。と資料を指さす。

 

「これは…間宮んとこか?野放しにしてたのか?」

 

「まさか、監視は付けていますよ。」

 

「監視、ね…レ級とネ級…しかも改じゃないか。その程度で止められるのか?」

 

「問題ありません。」

 

「ストップ2人とも。本題からズレてるわ。」

 

口悪いけど、別に間違ったこと言ってる訳では無いんだよなぁ。あのジジイ。

うーん、しかしなんというか……

飽きたな。ずっと喋ってる光景を眺めているだけとか、退屈の極みだろ。

いや分かってるよ?この会議に俺の命運がかかってるのは。

けどねぇ?集中力がね……

 

「そもそも『有益な情報』とか書いてるが、本当に役に立ってるのか?」

 

「…例えば、少し前に『対空母ヲ級編成と装備例』が出たじゃないですか。」

 

「あぁ、あれね。凄く助かってるわ。」

 

「僕の所もです。ヲ級と抱き合わせの深海棲艦の対策も凄く役に立ってます。」

 

「──待て、まさか…」

 

「そのまさかです。あれはそのレ級の考案です。」

 

「「!?」」

 

「はは、凄いですねー。」

 

「凄いどころじゃ無いわよ!他の情報は!?」

 

「それは…着任が認められてからですかね。」

 

「待て、儂は知らぬ間に深海の力を借りたというのか…?」

 

ワナワナと震える佐世保提督。

 

「私の頭ではもう有用性と言う文字がカーニバルしてるわ。」

 

「その子がいたら作戦が凄くスムーズになりそうですねぇ。」

 

ここで掴んで…上げて空N!外に出して、地面でちょっと溜めて…ここで膝!!

決まったァ!ッフゥゥーー!夜は焼肉ッショォォォ!!!

 

※レ級は飽きた為脳内でスマブラしてます。スマブラしてる人はみんな脳内でスマブラ出来るという特殊能力があります。

 

「…もう認めるしか無いんじゃない?佐世保提督?」

 

「…ならん、ならん!我々誇り高き軍人があんな深海のクソの手を借りるなど、あってはならん!!ましてや、そんな得体の知れない"人間ごっこ"をしているやつのはな!」

 

「ちょっと!別に深海棲艦の事を擁護するつもりはないけれど、この子にそんな言い草は無いじゃない!ねぇレ級?」

 

「えっあァ…そっスネ…」

 

やべえ何の話だ。何も聞いてなかった。

 

「ふん、そんな事しったものか。なんならもっと言ってやろうか!」

 

「……このままじゃキリが無いね…レ級ちゃん?ごめんだけどちょっと席を外して貰って良いかい?」

 

横須賀の提督が言う。

確かに俺がいたら話しにくいよな。主題もズレてく可能性もあるし、一旦外に出よう。

 

「わかっタ。廊下にいるヨ。」

 

そうして俺はドアを開け、会議室の外に出た。

 

 

バタン、とドアが閉まる。

 

「不安になる歩き方をするねぇ。着任したら技術開発部に義足でも造らせようか。」

 

「良いわねそれ。じゃあ私は制服でもデザインしてあげようかしら?」

 

「呉提督はセーラーしかやらないじゃん。」

 

「何が悪いのよ。あの子きっとセーラー似合うわ。」

 

「季節の着替えはどうしようか──」

 

と、レ級に着せる服の話に花を咲かせていると、突如として大きな音が部屋に鳴り響く。

 

「…何故あの深海棲艦を受け入れようとしているのだ?奴らに受けた屈辱を忘れたか?」

 

「台パンやめてくれます?」

 

「軍に入り、提督として着任した時にした誓いはどうした?『深海棲艦を殲滅し、海の平穏を取り戻す』という誓いを!」

 

「そんな誓いした覚えは無いわねぇ…」

 

「深海棲艦に沈められた艦娘達の想いを踏みにじるのか!!」

 

「あの子はその深海棲艦じゃ無いよ。それにもし彼女達が海の平穏を望んでいるのだとしたら、あのレ級はその重要な足掛かりになるしね。」

 

「軍人として、提督としての誇りはどうした!?」

 

「作戦を迅速かつ、最小限の被害で遂行出来る情報を得る事より重い誇りは持ち合わせてないかな。」

 

「同感ね。私達の艦娘達が無事に任務を遂行できるのなら誇りなんか捨てるわよ。」

 

「貴様らッ!!──加賀、お前はどうなんだ!」

 

「私は発言出来るような立場ではありませんので。」

 

「儂が許可する!早く言え!」

 

「そうですか。では言わせて頂きますと、軍が有利になるのであれば推し進めるべきかと。」

 

「……この…」

 

 

「──白熱してんナァ。」

 

壁越しに声が響く。まぁ防音性能はまあまああるようなので内容までは分からないが。

あのじーさんの言わんとすることは分かるけどね。

しかしあの横須賀の提督の言った「レ級一体如きなんとでもなる」って……虚勢じゃない本物の余裕からくる発言だった。さては相当強いな、あの人の艦隊。

 

「それにしてもアッツいナ…」

 

俺の今の服装としては、いつもの黒いフードジャケットなのだが…常にチャックを1番上まで上げているため地味に暑い。

 

「かと言ってチャックを下げると痴女みたいな格好になるシナ…」

 

とりあえずフードを脱いで、首に装着しているアフガンストール的な布を取る。

 

「…で、いつまでオレを見てるンダ?こっち来いヨ。」

 

と、虚空に向かって言う。

違う、厨二病じゃない。なんか見られてるんだ、深海棲艦だから視線とか敏感なだけなんだ。違う、厨二病じゃねえって。

 

「あちゃー…古鷹、気付かれたわ。終わったぁー。」

 

「えぇ!?ちょ、ちょっと!そんな軽率に……」

 

と言いながら物陰から出てきたのは、加古と古鷹の水族館コンビ。

腕には『市ヶ谷大本營』の腕章。

 

「ドーモ、お勤めご苦労サン。深海棲艦、戦艦レ級ダ。よろしク。」

 

「古鷹型重巡洋艦の2番艦、加古だよぉ。よろしくぅ!」

 

「お、同じく1番艦の古鷹です。私はどうなっても良いから加古だけは…」

 

古鷹の態度がおかしい。命乞いみたいなこと言ってる。

 

「エット……何もしないヨ〜?ボクは悪いレ級じャないヨ〜。そもそも装備もなんも無いから〜…」

 

「…本当ですか?覗いてた事については?怒ってないんですか…?」

 

「そんなの慣れてるシ。どうせ命令ダロ?お互い苦労するネェ。泣けてくるヨ。」

 

「…アッハッハッハッハッ!!古鷹、心配いらねーって!このレ級、マジで何ともねーって顔してるから!」

 

「…え?」

 

爆笑する加古。

俯いていた頭を上げる古鷹。

 

「いやぁ、話にゃ聞いてたけどホントーに面白いな!普通に喋ってるし!まったく、ウチのも心配性だねぇ。」

 

「大本営が警戒しないのもそれはそれでヤバイけどナ。」

 

「違いない!」

 

「な、馴染んでる…」

 

再び爆笑する加古とレ級。

まったくついていけていない古鷹。

 

「いやしかし…今オレ、今際の際って感じなんダけど助けちャくんネーカ…ナ…」

 

気楽な口調が段々と重くなるレ級。

加古と古鷹は最初は不思議そうにしていたが、すぐに理解したかのように直立不動となる。

 

「ハハ…本当にイヤだね…こういうのにいち早く気付いちまウ…」

 

こめかみ辺りを指で抑え、顔を顰める。

肌がピリ付き、全身の毛が逆立つ。人間としての、深海棲艦としての。どちらの本能も「逃げろ」と警告してくる。

 

そんな大きなプレッシャーを放つ大男がカツン、カツンと革靴を鳴らして歩いてきている。

左目は眼帯に覆われ、いくつもの傷を抱えており、胸に引っ下げられた勲章の数が彼がなんたるかを物語っている。

そしてなにより目が行くのはその大きな肩に冠された星の数。

 

「五ツ星…ってことハ…」

 

元帥。

軍隊における最上級の称号を象徴した数の星が鎮座している。

そんな男は、その重苦しい口を開き、言った。

 

「君が例の……なるほど。」

 

「アッ…ドウモ……」

 

「……ふむ。」

 

「…?」

 

レ級の全身をじっくりと観察する元帥。その真意は果たしてどのようなものなのだろうか。

 

「……いい。」

 

「ハイ?」

 

「か〜わ〜いいじゃな〜い!!!」

 

「ハ?」

 

「「はぁ……」」

 

厳粛な顔を破顔させ、高いトーンでレ級を賞賛する元帥。先程までの雰囲気から一変、辺りはお花畑である。

あっけに取られるレ級。ため息を吐きながら軽く頭を抑える水族館組。

 

「オネエッ…アッ(天地明察)」

 

レ級の脳内で今起きたことを整理し理解するまでおよそ0.25秒。

脳内CPUが弾き出した結論は、『オネエさん』!!!

 

「どうモ!舞鶴鎮守府で絶賛鹵獲中!戦艦レ級でス!」

 

そうと決まれば話は別だ。筋肉モリモリマッチョマンのオネエに悪いヤツなどいないのがこの世の真理。オネエ以上に信頼出来る人間なぞそうそういない!(当社調べ)

 

「会議室の外にいるってことは〜…んもう、佐世保のせいね?いけず。こんな可愛い子を追い出すなんて!行くわよレ級ちゃん、ついてらっしゃい!」

 

「いえすまむ!」

 

ガチャリ、と扉を開ける元帥。その瞬間、室内で行われていたであろう口論が一瞬で止み、全員が立つ音が聞こえた。

 

「あら…あらあらあらぁ……」

 

と謎の声を出す元帥。不思議に思いひょっこりと元帥の懐から顔を出し、室内を観察すると……

 

「……ッ!?」

 

「あれ、レ級?どうしたー?」

 

「…フリーズ?」

 

固まった。

 

「…ッ!?!?ッッッ!!!??」

 

「お、今度は赤くなった。解凍か?」

 

「後ろからでも分かるくらい赤い……」

 

何故レ級が赤くなったか?それは会議室のスクリーンを見れば分かるだろう。

正確には、プロジェクターでスクリーンに投影された写真を。

何が映っていたか?それは……

 

「…なん…で…?」

 

レ級が満面の笑みでアイスを食べている写真である。

 




提督「定例会は新宿の大本営で行われます。」
レ級「おう、ここは京都だよナ?新幹線カ?」
提督「車です。」
レ級「エ?」
提督「車。」
レ級「車。」
提督「車で行きます。」
レ級「()」
提督「静岡で1泊します。」
レ級「バカなノ?ねェバカなノ?正気?いつそんなにSAN削られタ?狂気ロールファンブルしたノ?」
夕立「諦めるっぽいレ級ちゃん……」
ビス「大人の事情ってやつね…世知辛いわ。」
レ級「そんなに長時間座ったら……尻ガガガ…」


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十撃目 決着

試験期間中+燃え尽き症候群で投稿サボってました。申し訳ナス。

お気に入り数が1000件行ってました。感謝感激雨あられ、ありがとうございます。
応援コメント、評価コメントもありがとうございます。読んで頂けるだけでも、評価して頂けるだけでも有難いのにコメントまで……!全て余すことなく目を通させて頂いておりますッ!

お知らせですが、少し投稿頻度が下がります。理由は雑絵から解読して下さい。

【挿絵表示】



「なン……コレ……」

 

!?

レ級ちゃん!?

 

今日は欠席だったはずの元帥さんの足元から、レ級ちゃんがひょっこりと顔を出した。

辺りを見回すように目を動かすレ級ちゃんが、スクリーンの写真を発見するのにそう時間は必要とせず、羞恥からか動かなくなってしまった。

 

それとは対照的に元帥さんはどんどんテンションが高くなっていく。

 

「みんな敬礼は下ろして良いわよ…それより!ねえコレ、このレ級ちゃん?ちょっと舞鶴ちゃん、どうしてもっと早く見せてくれなかったのよ!」

 

「…はぁ、すみません。」

 

「あんな無骨な証明写真なんかじゃなくてこっちの方が良いわ!書類写真コレにしましょ!」

 

「!?」

 

勢いよくレ級ちゃんが元帥さんの方を向く。真っ赤な顔には「何言ってんだこいつ」と書かれているのが見て取れた。

 

「それは本人が羞恥心で爆発してしまうのでやめた方が……」

 

「──ビスマルクさん、どうするっぽい?このまま継続はちょっと……」

 

「……そうね。はぁ、まさかこんな事になるなんて。」

 

そうため息を吐いて帽子を被り直すビスマルクさん。

 

「アノ……」

 

と、今にも消えそうな声でレ級ちゃんが言う。

 

「セメテ…コウナッタケイイヲ……」

 

「経緯ね。ワタシも聞きたいわ、大まかでいいからこんな国宝みたいな写真を投影することになった経緯を教えて頂戴?ほら、アンタらも座りなさい!」

 

「「「はッ!失礼します!」」」

 

立っていた提督達が座るのを確認し、ビスマルクさんが喋り始める。

 

「……分かりました。説明させて頂きます。」

 

そうそれは、数十分前の事だった……

 

─────

数十分前

─────

 

「とにかく、儂は深海棲艦を仲間にするなぞ認めんからな!」

 

「はぁー、話が平行線ですねぇ……」

 

「全くよ。佐世保、あなたの身内の不幸は知ってるわ。深海棲艦絡みだってことも、それがきっかけでここの門を叩いたのも。だけどね、あの子はその深海棲艦じゃないのよ。しっかりと自己を確立している"個"なの。」

 

「それでも奴は深海棲艦だ。人を殺し、不幸の渦中へ放り込む。それが奴らなのだ!」

 

「それを言ったら人間の方が人間を殺してるし、不幸にしているわ。いい事?佐世保。不幸な人や苦労した人がいつだって正しいなんて、そんな事ある訳が無いわ! 」

 

「大体、当時は圧倒的に深海棲艦の情報がなかったみたいだからねぇ……

佐世保さんも戦いは情報が命なのは当然知ってるでしょ?

なら安心だ!最高の情報源がこの会議室の外にいるよ!」

 

「…貴様ら……人をあまりバカにするなよ……」

 

「佐世保さん、レ級は僕が保証します。だからどうか許諾を……」

 

 

「……全く、提案は全員からの賛成が必要なんて……ままならないものね。」

 

そう提督達に聞こえないように呟く。

レ級が部屋を出てからも全くもって話が進まない。そろそろお腹が空いてきた。

しかし困った。予定にあった話の流れから大きく脱線してしまっている。これでは"アレ"が使えない……

どうする?もう無理矢理にでも使うか?いや、流石に脈絡が無さすぎる……

 

「そもそもお前の所の他の艦娘はどうなんだ舞鶴!お前や秘書艦やらが納得していても、他の人員がレ級にストレスを感じていたらどうする!」

 

──その言葉を聞いた途端、ニヤリ、と提督が笑った。提督だけじゃない。私も、夕立も笑った。

 

『その言葉を待っていた。』

 

心情を表すとしたら、この一言だろう。

 

「ようやく軌道修正ね……。提督(Admiral)、これを。」

 

そう抱えていた書類を提督に手渡す。

 

「うん、コレを見て欲しい。僕の鎮守府人員の署名です。」

 

「……それがなんだ、義務感から書いてるやつもいる、そもそも上司の頼みを断れないだろう!」

 

「なるほど確かにその通りです。しかし……」

 

「夕立、お願いね。」

 

「やっと出番っぽい!」

 

「うん、タ立よろしく。」

 

「了解っぽい!」

 

夕立が虚空に合図を出す。すると、突然会議室のプロジェクターが作動し始めた。

 

「!リモコンが無くて、元帥くらいしか本体ボタンに届かない位置にあったプロジェクターが……」

 

これが夕立を連れてきた理由だ。

夕立は、私達の鎮守府で最も妖精の扱いに優れている。その結果、武器の操作だけでなくこんなこと……つまり機械の操作も出来る。

夕立がいなければ、この手段は出来なかっただろう。

 

「よし、じゃあ動画流すっぽい!」

 

スクリーンに投影された画面が、動画ヘと切り替わる。

 

『……ん?夕立か。どうした?』

 

投影されたのは、左目に眼帯をして動物耳のようなアンテナを付けた艦娘。

天龍だ。

 

『ん?あぁ、レ級か?…フフ、アイツは強いぞ。この鎮守府で負け無しだったオレに、唯一土を付けやがったんだ。』

 

と、不敵に笑う。

 

『奴のファルコンは凄まじいぞ、こちらの攻撃を素早い動きで回避し、怒涛の連撃を叩き込み場外に押し出して、タイミング良く膝を繰り出すんだ。万が一吹っ飛ばなかった時のリカバリも完璧だ。上Bで地上から遠ざけ、ジャンプを復活させてまた上Bを叩き込むんだよ。

オレはあの動きを自らファルコンを使うことでひたすら研究していたんだが……未だに勝利は掴めずにいる。……ふふ、怖いか?』

 

……大乱闘の話だこれ。

また動画が切り替わる。

──そろそろ分かった人もいるだろう。これは夕立が鎮守府内を駆け回って撮ってきた艦娘達のレ級に関してのインタビューだ。

 

書面では分からない、艦娘達の生の声。これはレ級の信頼性を保証するのと共に、艦娘達のレ級に対しての評価の証明に足り得るだろう。

 

ヤマトやナガトなどの顔馴染みを初めとした、様々な艦娘達がレ級への印象を語っていく。話の系統や方向は千差万別だが、その中に彼女のことを疑う等の旨を語ったものは無かった。

 

『最初こそ怖くてまともに話すどころか…目も合わせられなかったけど、ちょっとずつ触れ合ってる内に……悪い人じゃないって、怖くないって思えて…ライブにも来てくれるし…それでも、まだビクついちゃうけどね……』

 

『あの子、潜水艦じゃないのに潜水艦としての立ち回り方を良く教えてくれてるのよね……とっても参考になるけど、なんであんなに知識豊富なのか……気になるでち。』

 

『あの子、いつも私の作った食べ物を美味しそうに食べてくれるんです。特にスイーツね。あの子監修のスイーツはもう大人気でいつもすぐ売り切れちゃうの。』

 

などなど。

 

「……いかがでしょうか。こちらが我々鎮守府の総意となっています。」

 

「やるねぇ舞鶴さん。いや……この場合は夕立ちゃんかな?」

 

「これは顔や声音で分かるわ。嘘は100%ありえないわね。……約1週間一緒に過ごした艦娘達の証言……ふふ、これはもう疑う余地は無いわねぇ。」

 

そうケタケタと愉快そうに笑う。

 

「……ぬぅ……」

 

「あれ?まさか深海棲艦だけじゃあ飽き足らず、艦娘も疑うなんてことないよねぇ?」

 

「……それは、勿論だ!儂は艦娘を疑ったりなぞしない!……だが、深海棲艦だぞ!もしあのレ級が演技の達人だったらどうする!?」

 

「そうかしら?目に星は無かったけれど。」

 

「完璧で究極でも、正義の疾風(かぜ)が荒れる訳でもないね。」

 

「?」

 

「あ、いや何でもない。」

 

「──そうですね。その可能性も絶対無いとは言えません。……ですが。」

 

そこで提督は私を一瞥する。

 

しょうがないわね……

この手は、あまり使いたくは無かったのだけれど。

 

「夕立、プランCよ。アレを出しなさい。」

 

「分かったっぽい!妖精さん、GO!」

 

「…ッ!」

 

「あらあらあら……」

 

「おやおや……おやおやおや」

 

そうしてプロジェクターに投影されたのは1枚の写真。

間宮食堂にて、新作のスイーツを食べているレ級の隠し撮り写真であった。

 

 

───────

現在へ戻ル……

───────

 

「と、まぁこんな感じかしらね。」

 

「ぶち飛ばスゾ……と、言いたいとこだけド。はァ、まァそんならしょうがないカ。とりあえず元帥サン、写真撮るのを止めてくレ。コラ、連写しなイ。」

 

「そうね、確かにプロジェクター越しじゃ画質悪いものね……」

 

「そういう事じゃなくテ。」

 

「あの、よろしければ後で写真差し上げましょうか?」

 

「なに!?誠か舞鶴ちゃん!」

 

「え、ええ……」

 

「ッスゥーーーー……1億出そう。」

 

「ちょっと待テ。」

 

こんなんに1億出すなって。

てかそんな当たり前のようにポンと1億出すな。10万ドルかよ。

 

「これには某元コマ〇ドーもニッコリだね。」

 

「誰が分かるんダそレ。もう付き合いきれネェ、7時半に空手の稽古があるんダ。」

 

「今日は休め。」

 

「……」

 

「……」

 

((こいつ……出来るッ!))

 

「ほら横須賀、レ級ちゃん。何通じあってんの!それで?この写真を出したのはなんで?」

 

「あ、えとこれは……えーとその…あれだ…ビス!」

 

「この笑顔が嘘だと言うのでしょうか?」

 

「そうそれだ!彼女…レ級はこの1週間、非常に献身的に鎮守府に協力していました。この功績並びに、見て下さいこの屈託のない無邪気な笑顔を!こんな笑顔をしているこの子のどこが邪悪だと!?」

 

「ホント何コレ。国宝?」

 

「レ級は可愛いですね……」

 

「……イッソコロセ」

 

なんだろう。つい忘れてたけど…そうだよな。今の今までずっとデカデカと投影されてたんだよな。俺の生き恥。

どうした?今になってようやく恥の自覚が芽生えてきたか?ってか?

うるせーな某代理賢者みたいな事言いやがって!そうだよ!恥ず過ぎて死ぬわ!爆散しそう!

 

「ねぇ、他には無いの他には!」

 

黙れ筋肉ダルマァ!!!

 

「夕立、aの6を。」

 

「OK!ぽい!」

 

「ちョ待」

 

静止も虚しく、次々と投影されていく俺の写真集(生き恥)。マジでいつ撮ったんだよ。

 

「いかがでしょうか?まだ何か……申し開きはありますか?」

 

「私達は勿論無いけど……佐世保は?なんかずっと固まってるけど。」

 

「……くそ…」

 

「ん?」

 

「──どうなっても儂は知らんぞ。」

 

「お、ってことは?」

 

「えぇい!許可すると言っておるのだ!儂はこれで失礼する!!」

 

と、ダンダンと荒々しく足音を鳴らしながら部屋を出ていく。その後ろを申し訳なさそうな顔をした秘書艦が追いかけて行った。

 

「あぁちょ、まだ話は……はぁ。」

 

「なんか今日はいつも以上に荒れてたなー。深海棲艦絡みだから?」

 

「……佐世保ちゃん、もしかして妹ちゃんとレ級ちゃんを重ねちゃってたのかしら……」

 

「そこら辺に関しては私達には分からないわね……ところで佐世保の詳細を知ってるって元帥さん一体いくつ……」

 

「──乙女に年齢を聞くなんて良い度胸ね、呉ちゃん。」

 

「アッイエスミマセンデシタ」

 

──────

 

ガツンガツンと苛立ったような軍靴の音が廊下に鳴り響く。

 

(くそ……何故儂はあそこで反論出来なかった?しようと思えばいくらでも反論はあった。……一体、何故だ?)

 

佐世保である。

 

(一体何故だ?一体……)

 

頭にチラつくのは、例のレ級の写真。そして、既にほとんど記憶から薄れてしまっている……深海棲艦の被害に遭った、妹。

 

(……違う、あんな鉄クズと妹は容姿は全く似ていない!なら何故こんなに!)

 

その時、言語として形成して考えるよりも先にこんな思いが浮かんだ。

 

『確か妹もあれくらいの歳だった。』

 

(……そういえば、アイツも甘味が好きだったな。ひとたび口に含めばだらしない顔をして……)

 

「……そうか。」

 

(無意識に重ねて、しまっていたのか。)

 

佐世保はそれは、あの写真を見てからのことでは無いことにまた気付く。

 

(儂があそこまでレ級を仲間に迎えるのを拒んだ理由……深海棲艦だから?確かにそれもある……だがもしや、無意識にも妹と同じような歳の見た目をした少女に、こんな戦争に関わって欲しくなかったからだとでも?)

 

鹵獲、捕虜としてではなく、人員として。それはこの永きにわたる戦争に直接的に関与させることに他ならない。

 

(それが?嫌だったのか?この儂が、あんな得体の知れない深海棲艦に情を向けたと言うのか?)

 

「……はっ、儂も(ぬる)くなったものだ。」

 

そう、自虐的な笑いを浮かべる。

 

「……だが。」

 

そして1度立ち止まり、振り返って後方を歩く秘書艦の名を呼び、こう言葉を紡ぐ。

 

「とはいえ、やはり深海棲艦が我々の砦とも言える鎮守府に出入りするのは看過できん。奴をいつでも相対できるように我々も一層、演習に励むとしよう。特に、舞鶴とはな。」

 

そう言うと、秘書艦はクスリと笑ってこう返す。

 

「とか言って、本当はあの子に会う口実を作りたいだけでしょ?私は知ってますからね、提督がああいう子に弱いの。」

 

「う、うるさい!黙っておれ!」

 

「はーい」

 

(儂が?あんなのに会いに行きたいだけ?全く、忌々しい。そんな訳が無いだろう!大体、そもそもだ!あの舞鶴が儂に対してのリスペクトが足りないから少し懲らしめてやろうと……待て、それは横須賀のクソガキもそうだな。ここはやはり横須賀も懲らしめて儂の狙いはそんなものではないと証明してから──)

 

と、脳内でグルグルと言い訳のような事を呟きながら歩き出す。

 

佐世保の顔は相変わらず不機嫌だ。だが、足音に先程のような粗暴さはもはや、どこにも存在していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




レ級「ところで、結局完璧で究極なゲッターってなんなんダ?」
横須賀「エンペラーじゃないの?」
舞鶴「いや、ゲッペラーはあれでも進化の途上という設定のハズだ。」
元帥「現時点で完成形じゃなくても、進化をし続ける存在ならその意味で『完璧で究極』と表現してもいいんじゃないかしら?」
呉「ちょいちょいちょい、私らの分かんない話で盛り上がらないでよ!ほら、そこのビスと夕立と加賀を見なさい!飽きて指スマしてるわよ!」
加賀「いっせーのせ4……上がりです。」
ビス子「まったく、相変わらずカガは強いな。」
夕立「もういっかい!もういっかいやるっぽい!」


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十一撃目 コヨミ。

レ級の名前はもっと早く出すハズだった。

やる気が…吸われていく…投稿頻度が空く……
これはまさか、新手のスタンド使いの仕業!?


「色々あったけど、つまりオレは……」

 

「うん、正式に僕らの仲間入りだ。」

 

キタ────(゚∀゚)────!!!

これで俺は晴れて自由の身!鎮守府就職!内定!着任!!艦娘を拝みたい放題かつ、役に立つ事が出来る!! 僥☆倖!!!

 

「やったっぽい!!」

 

「まったく、ハラハラしたわ。」

 

「いやはやスマンスマン。ともあれ引き続きよろしくネ。」

 

「いやぁ良かったねレ級ちゃん。」

 

「仲間になるんだったら名前が欲しいわね……レ級はあくまで代名詞だし。これからも敵としてレ級と相見える事もあるし……」

 

うんうんと横須賀が頷く。

 

「ちゃんと我々陣営だって分かる個人の名前が欲しいよね。固有名詞。」

 

確かにタラバガニ、俺じゃないレ級が敵として現れたら名前が混同してグッチャグチャになるな。

 

『前方にレ級を確認!』

『ン?何?』

『お前じゃねぇ!』

『レ級か…レ級!あのレ級どうにかできる!?』

『このレ級に任せとけっテ!あんなレ級、このレ級の足元にも及ばんレ級よ…』

 

……国語の問題か?日本語って難しいね。

 

「じゃあ……レ級、何か思いつくか?」

 

「ふーム…そうだな…レ級、レキュウ、レキ、れき、歴……」

 

ん?歴?……!

 

その時、俺に電流走る─…!

 

「コヨミ。コヨミはどうダ!」

 

「連想ゲームみたいに思い付いたわね……」

 

「いいんじゃない?んじゃ、コヨミちゃんね。」

 

「ふむ、書類に書くなら(こよみ)かな?」

 

遂に新しい名前が出来たぜ!すまんな両親!改名したわ!

 

 

「えー、では佐世保提督がいませんが、このまま次に入らせて頂きます。尚、こちらは最高機密となりますので、艦娘の皆様は待機室へ移動をお願いします。あ、コヨミさんはそのままで。」

 

そう言って加賀が会議室の扉を開ける。

ぞろぞろと部屋を出ていく艦娘達。

 

「じゃあまた後でっぽい、コヨミちゃん!」

 

「ン、マタノ。」

 

夕立達も部屋を出ていき、最後に加賀が出て扉が閉まる。

 

「それで?最高機密…この話の流れ的に…ってことは?」

 

「うん。コヨミに関してだ。これは──本人から言った方がいいね。」

 

「アーー、えっとだナ…」

 

実は、舞鶴提督とは来る前に1つ約束をしている。その内容は、『俺が元人間な事を話す』。ちなみにこれは俺から持ちかけた事だ。

やっぱりここら辺話しとかなきゃ後々面倒だし、色々と楽になるだろうからな。

もちろん、舞鶴提督に話した内容と言うことは同じだけどな!!

 

─────

深海棲艦説明中……

─────

 

「コヨミちゃんが…元人間?」

 

「そんな事が…」

 

「いやでも、もしそれが本当なら今までの…妙に人間のことに詳しいのも辻褄が合う。」

 

「人間が深海棲艦になるってとこから辻褄が合ってないべ」

 

「そうね…二千歩譲って身体ごと変化した、ならまだ納得できるけど。」

 

懐疑、疑惑、不信。

いやまぁ、分かってたよ?分かってましたよ。皆さん軍人ですから。いくら朗らかと言えども、それはなんでも信じて受け入れてしまうような無能ということではないし。彼らは自らの功績により、今の座を獲得しているのだから。

 

「まァ、別にオレが元人間だとしてどうということはないし、なんなら信じてくれなくとも結構。ただ、一応言っておきたかったダケなんデ。」

 

それと、と言葉を紡ぐ。

 

「オレの口調はあくまで、今世で身についたモノダ。前世が男だったのか女だったのカ…それはワカラナイ。」

 

嘘だけどな。清々しいまでの大嘘だけどな。俺の演技力が光る──!

 

「じゃ、オレはこれデ。まだあるんデショ?最高機密の会議とやらハ。」

 

「あぁ、そうだな。」

 

「はいヨ。そんじゃ、まったのーウ」

 

 

パタン、と扉が閉まる。そのままガツンガツンと重厚な足音が聞こえなくなるまで待ったところで、話を切り出した。

 

「ええと、それでは続きなんですが──」

 

「おおう、ちょっと待て待て」

 

「いくらなんでも切り替えが早すぎるわ舞鶴。もうちょっと咀嚼する時間を頂戴。」

 

「早く飲み込んでくれませんかね」

 

「無茶言わないで…」

 

ぐでん、と机に突っ伏す呉提督。

 

「あのね、深海棲艦が普通に喋ってるってだけでもういっぱいいっぱいなのに、更にあんな特大情報流されても困る訳よ。キャパオーバー。」

 

「いくらなんでもファンタジー過ぎるって。そんな都合のいいことある?」

 

「そう言われてもね…」

 

チラリ、と流し目で元帥閣下を見る。

なにやら顎に手をつけて考え込んでいる。

 

「というか、元帥さんは何してらっしゃるんで?」

 

と横須賀提督。

 

「ん?あぁ…あれよ。元が男でも女でも…いいなって思ってたのよ。」

 

「何が!?」

 

「男ならそれはそれで唆るものが……」

 

「元帥!?アナタとうとう頭が──いや待って、やっぱり……」

 

「おーい2人ともー?」

 

「──ハッ!?危ない、戻って来れなくなるところだったわ。」

 

「もうだいぶ手遅れ」

 

「あははぶっ飛ばすわよ」

 

「突然声変わるの怖すぎ」

 

一見弛緩しているように見えるが、空気は張り詰めたまま。表面上、あんな風に振舞ってはいるが……

これは、言おうとしていたことを口に出すの躊躇うな……

 

「それで?舞鶴ちゃんはまだ何か爆弾があるわよね?言ってみなさい。」

 

「──やはり元帥閣下の目は誤魔化せませんね。」

 

仕方がない。覚悟を決めよう。

と、ため息を吐き、口を開く。

 

「レ級……もといコヨミの"別人格"の話です。」

 

「おう待てや舞鶴さん」

 

「こちとらもういっぱいいっぱいだってのに、更に投入してくるたァどう言うことや」

 

「お、落ち着いて落ち着いて。3人とも顔がヤのつく人みたいになってます」

 

「喧嘩なら買うわよ舞鶴ちゃん。」

 

「ええと…コヨミの別人格『ウラ』ですが、非常に凶暴極まりない性格をしています。恐らく深海棲艦『レ級』としてはこちらの人格が本来のものです。」

 

「おいおいおいおいおい」

 

「ですが、現在はあくまで彼女の防衛本能のような機能でして、我々が彼女の味方である限り心配はご無用です。」

 

「……あなたの所の艦娘ちゃん達が中破だかになってたのはソレが原因?」

 

「はい。恐れながら。」

 

「あの怪我、割と洒落にならないのよ。妖精ちゃんの防殻貫通して本人が怪我してるの。中破とは名ばかりの重症よ。」

 

……おそらく武蔵の事だ。

艦娘は普通、妖精の防殻によりダメージが服に行くようして本人が怪我を負わないようにされている。しかし、コヨミの別人格『ウラ』戦ではその防殻を無視して本人が重症を負った。

 

「それは、あの子が防殻では防ぎ切れない程の攻撃力を有している事になるのよ。コヨミちゃんにその気が無くとも、ウラは分からないわよ?」

 

「それは、承知しています。億が一ウラが暴走する事態があったならば、我が鎮守府の総力を持って鎮静化する所存です。」

 

「……本気?」

 

元帥の鋭い眼光が刺さる。

 

「……先程もご覧になられた通り、我々の総意です。」

 

一瞬、間を空けて元帥はフッと微笑む。

 

「そう言ってくれると思ったわ。実はそれ大体察してたのよ。」

 

「え?」

 

「最初廊下で会った時、試しに殺気出してみたらね、彼女の奥底に何かドス黒いものを感じたのよ。なるほどそれがウラなのね。本人はビビり散らかしてたけど。」

 

何してるんだこのカマは。

 

「防御貫通の攻撃……味方に付けれたら心強いわね!さぁ楽しくなってきたわよ!呉ちゃん、服新調するわよ!横須賀ちゃん、技術部に繋いで。義足作るわ!」

 

「えっちょっまだ飲み込めてな」

 

「デザインは任せたわよ!」

 

「デザイン……コヨミちゃん……セーラー───ッシャァァアァァ楽しくなってきたわァァァ!!!」

 

「コヨミの足ねぇ……どう設計したものか」

 

「そんなん技術部に任せときなさい!あの子らグチグチ言いながら結局期待以上のもん出してくるんだから!」

 

「─それもそうっすね!!おいゴラ技術部ゥゥッてここ横須賀鎮守府じゃねぇぇぇ!!!帰るぞネルソォォォォォン!!!!!」

 

「……エット…」

 

「ちょっと舞鶴!何呆けた顔してんのよ!」

 

バシン、と背中を叩かれる。

元帥、あなたの力で叩かれたら致命傷です。

 

「ほら、会議はお開き!各自仕事にかかりなさい!!佐世保は今度マジビンタするわ!!!!」

 

「「了解!!」」

 

……そうだ、元帥閣下が会議に来る時はいつも場を掻き乱して、皆を焚き付けて最後はこうなる。いつもの事だ。

何を恐れてたんだか……

 

「よし!それじゃあ皆さん!コヨミをよろしくお願いします!」

 

「「「応ッ!」」」

 

 

 

 

 

 

──────

物語もキリ良いんでちょいと主要な艦娘陣営紹介。長いので時間がある時に読んでみて下さい。各艦娘の近況とかあります。提督陣営はまた今度。

 

コヨミ

主人公。推しのためなら死ねるを地で行く元人間の深海棲艦。演技派。スイーツに目がないのは転生前からのもの。ネットスラングに強い。

最近の悩みは、今日のパンツがいつもの質感と違うことと、楽しみにしていた冷蔵庫のティラミスが無くなったこと。

 

ウラ

コヨミの別人格であり、防衛本能的存在。だがその他一切のことはわかりません!(チャージマン研感)

 

ネーちゃん

コヨミの親友であり、耐久力に定評のある重巡ネ級改。

とある鎮守府を襲った事件に関わった1人で、十年単位で捕らえられている。

最近の悩みは、コヨミが食べていたオムライスも食べたくなってきたこと。

 

夕立

いつの間にかコヨミ大好きになっていた艦娘。

コヨミが上着を脱いでいた際に、コヨミの胸が自分より大きいことに気付いたため、腹いせにコヨミが寝ている隙にパンツを熊さん柄にすり替えた。ついでにタンスの中もまとめて熊さんパンツにすり替えておいたのさ!(コッペパーントジャム!)

最近の悩みは、何とかして転売ヤーを合法的に射殺出来るようにしたいということ。

 

長門

最初はコヨミに警戒心むき出しだったが、その可愛さに気付いた。何とかして触りたいと思っているが、怖がられているんじゃないかと躊躇っている。

最近の悩みは、コヨミが誰かに似ている気がするが思い出せないこと。

 

陸奥

遠巻きにコヨミ達の事を後方お姉さん面で眺めている。

長門が大好きだが、長門からは若干ウザがられているため少し悲しい。

最近の悩みは、長門がコヨミばかり見ていること。

 

ビスマルク

提督の秘書艦。仕事は出来るがそれ以外が絶望的に出来ない。最近、ずっと食わず嫌いしていたティラミスをついに克服。

最近の悩みは、提督の料理もコヨミの料理も食べたいこと。

 

大和

武蔵がちゃんと重症で気が気でなかった人。最近駆逐艦達がコヨミの尻尾で寝ていたのを発見し、どんな感じなのか少し気になっている。

最近の悩みは、コヨミの艤装に叩かれた時の感覚を忘れられないこと。

 

武蔵

ウラと殴りあって怪我した。本人は大したこと無いと思っているが、普通に重症だった。

かなりのバトルジャンキーであり、コヨミとの演習を楽しみにしていたが少しガッカリした。

最近の悩みは、ウラ戦から地味に脱臼癖がついたこと。

 

金剛

演習の件からコヨミに絡み始めた。コヨミを捕まえては天龍とスマブラで数時間遊んでいたら榛名に正座させられた。

コヨミ曰く「ノリが大学生過ぎる。あと顔が良いから心臓に悪い。」

最近の悩みは、スマブラの技法"絶"を習得出来ないこと。

 

ヴェールヌイ

よく名前を間違えられる人。かなり頭がキレるが、そのせいで面倒な役柄になっている。よくロシア語が出るが、そのせいでドイツ艦と若干ギクシャクしている。

コヨミの尻尾の感想は「ビーズクッションみたい」

最近の悩みは、熊さんパンツが数枚姿を消したこと。

 

割と優秀だが、ちょっと抜けている半人前のレディー。

自分をレディーと認めてくれたコヨミに懐いている。

コヨミの尻尾の感想は「もちもちしている」

最近の悩みは、夕立が大人な黒パンツを持っていたこと。夕立は「自分のでは無い」と容疑を否認。

 

提督Love勢。最近密かにコヨミLove勢にもなってきている。

ヴェールヌイをしょっちゅう響と呼ぶが、それはうっかりなのかはたまた……

コヨミの尻尾の感想は「ジェル枕」

最近の悩みは、コヨミと見た目がなんか似ている気がすること。

 

天然でかなり無茶するタイプ。とりあえず「電の本気を見るのです!」する癖がある。提督側はこの癖を治すように要求。

コヨミの尻尾の感想は「つるつるすべすべですぐ寝れる」

最近の悩みは、熊さんパンツが数枚消えたこと。

 

雪風

しっかりした性格故にまとめ役になっている。

皆んなを励ましたり、喝を入れたりなどをしているため周りからは密かに「お母さん」とよばれている。

最近の悩みは、色んな艦娘に膝枕&耳かきを要求されること。

 

伊58

チャンプルー。作者持ってないシリーズ筆頭。とりあえず「でち」って言わせとけみたいになってる事が非常に遺憾。

最近の悩みは、地上でもスク水でいていいのかどうか。

 

 

以上です。

 

 

 

 

 




──一方その頃──
テレビ『右腕をやられた、お前でも勝てる。──来いよベネット……銃なんか捨てて、かかってこい』
一同「……ゴクリ」
テレビ『楽に殺しちゃつまらんだろう。ナイフを突き立て、俺が苦しみもがいて、死んでいく様を見るのが望みだったんだろう』
一同「……ハラハラ」
テレビ『さぁ、子供を放せ、一対一だ。楽しみをふいにしたくはないだろう』
ネルソン「Matrix……」
テレビ『来いよベネット。怖いのか?』
夕立「メイトリックス……」
テレビ『ぶっ殺してやる!ガキなんて必要ねぇ!……へへへへっ、ガキにはもう用はねぇ!』
ビス子「Jenny!……das verdammte!!」
テレビ『ハジキも必要ねぇや。へへへへっ……誰がてめぇなんか。てめぇなんか怖かねぇ!』
コヨミ「銃を捨てタ!」
テレビ『野郎、ぶっ殺してやぁぁる!!!』
一同「「来たァ!やれーメイトリックスゥゥゥ!!!!」」


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再装填《リロード》

お久しぶり大根ですわ。ちょっと入院したり崩壊スターレイルしたりブルアカしたりしてました。

久しぶりの更新なのにアレなんですが、今回は筆休めというか小噺というか書き散らしというかそういうssをまとめたやつです。三本立て。


 

 

──盗み食い──

 

「間宮さんが新作を出すっぽい。」

 

そう神妙な面持ちで夕立が言う。

……なに?新作?

あっ、あの間宮スペシャル親子丼のことか?看板に予告あったなそういや。

 

「……ウン。らしいネ。」

 

「そんなどうでも良さそうな顔しないで!っぽい!」

 

「だってスイーツじャ無いシ。」

 

間宮スペシャルバニラアイス、再販まだかなぁ。

 

「普通のご飯も美味しいじゃん!?っぽい!」

 

「それは否定しないけどモ。」

 

正味、この身体は食事が必要ないからねぇ。

 

「食べたい!絶対に!」

 

「販売を待てばいいんじャないノ?」

 

たしか販売は3日後だったか?待とうと思えば待てる日数だ。

 

「それじゃダメ!新作は戦争!すぐに売り切れちゃうっぽい!」

 

「あァそウ……。」

 

え、何?PS3?まぁ確かに間宮さんの新作はいつもこれモノ売るってレベルじゃねえぞおいって感じだけど。

 

「確実に!よく味わって食べたい!っぽい!」

 

「そうですカ。頑張レ。」

 

「協力して!」

 

「言うと思ったよチクショー。どうするんダ?」

 

「夜、間宮さんの厨房に忍び込むっぽい。」

 

……?

き、聞き間違いだろうか。忍び込む?

 

「おいおいおいおい、販売前のものをこっそり食べるってカ?それって"違法"って事だロウ!?」

 

「食べるのは私っぽい。コヨミちゃんはライトを照らしてくれるだけでいいっぽい。」

 

「ナアナアナアナア、ライトを照らすだけだっテ……。オレは初の鎮守府の深海棲艦ダゼ、海軍でも少しは有名なんダ。しかも!間宮スペシャルシリーズはどれも最高級の食材を使用して、何ヶ月もの研究の末に作られるモノダ!間宮サンの日々のご苦労は想像できナイ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「『盗み食い』するっぽい。」

 

 

 

「だから気に入った」

 

 

 

*この後、案の定バレて鎮守府中の艦娘からガチギレされた。

 

 

 

 

 

 

──レノ丸相撲──

 

「深海棲艦って艦娘とスペックどれだけ違うんだろうか……」

 

「ン?なんだって?」

 

昼下がりの鎮守府。やる事も大体片付き休憩をしていたところ、武蔵がそんなことを言い出した。

 

「いや、深海棲艦と艦娘ってどれくらい差があるんだろうなと。」

 

「差、とハ?」

 

「身体能力……みたいな。」

 

「ホーン……確かに、深海棲艦には妖精がいないからナ。それで十分渡り合っている事を考えると身体能力は高いんだろウネ。」

 

「ふむ……よし。コヨミ、私と相撲しよう。」

 

「何がよしナノ?何をどう考えたらそんな大物演出家が言いそうなことに着地しちゃったの?」

 

「こちらも妖精の力は借りずに自分の力で戦おう。全力で来い。」

 

「なんで構えてるノ?オレまだやるなんて言ってないヨネ?」

 

「さあ行くぞ。安心しろ、怪我してもすぐに治せる。」

 

「なーんだ安心とはならないヨネ?なんで怪我するの前提ナノ?ただの相撲ダヨネ?あとやるなんて一言モ……」

 

「はっけよーい……」

 

「あァもう聞く耳持ってないですネ。分かったよやればいいんでしョやれバ。まだ義足も無いってのに……。」

 

「のこったァ!!」

 

「グハァ!!」

 

「フッ、初手のぶちかましを耐えるとは流石だな!ならばこれはどうだぁ!!」

 

「アバババ!張り手!張り手エグいっス!!」

 

「これでも倒れないか!ならば……」

 

「ウワッ腕捕まれテ……足を内股に入れて!?相撲詳しくないから表現でキナイ!」

 

「これは掛け投げというものだ!」

 

「知らンッ!!ヌオオオオ!!」

 

「なんだとッ!?私ごと尻尾を巻き付け…!これでは道連れだッ!」

 

「この勝負!どっちが下敷きになるかで決まルッ!!!」

 

「だが軸足は依然としてこちらにあるッ!お前の負けだッ!!」

 

「そうはいかン!!尻尾で自分の位置を動かしてやルッ!」

 

「くッ!尻尾で自身をまるで惑星の周りを廻る衛星のように回転させ位置を変えるとは!!重心が…だがッこの武蔵!その程度では沈まん!!」

 

「何ィ!?常人ならば割と危険な倒れ方をするだろうこの無茶な3次元的運動でも動かざること山の如シ!!流石は『不沈艦』ッッ!!!ならバッ!」

 

「尻尾が…伸びている!?さては私を巻きつけにするつもりだな…ならば…一閃!!」

 

「グホァ!!…し、尻尾を殴るとハ……」

 

「フッ…堪らず素早く離れて尻尾を掃除機の電源コードのように引っ込めたか。流石の貴様でもこの拳は効いたようだな……。」

 

「ハハ……冗談!ラウンド2と行こウカ!?あとそのさっきからやってる説明口調ナニ!?」

 

「ふふ、やっと貴様もヤル気になったか…。ずっとこの時を待っていた……。さぁ、やり合おうじゃないか──」

 

今まさにガチバトルの火蓋が切って落とされるその時──

 

ガラガラガラ、と扉が開く。

 

「──武蔵、いるか?大和が……な、何してるんだ?ファイティングポーズなんか取って。」

 

「長門か。えーと……何してたんだったか?」

 

「アレだヨ、艦娘と深海棲艦の地の差を確かめようと相撲を……」

 

「あ、そういえばそうだったな。で、なんで2人揃って拳を構えてるんだ?」

 

「さァ……?」

 

「……。」

 

「待て、そのアスファルトにこびり付いたガムを見るような目で見るのはやめてくれないか。」

 

「あぁすまん、思わず…。」

 

「まったく……あ、そう言えばコヨミ、お前あまりにも細すぎないか?ちゃんと食べているのか?」

 

「ン?いやいや食べてるガ?」

 

「本当か?ならばその栄養は……おぉ胸か。通りで見た目に反して柔らかいと……」

 

「いつ触っタ!?」

 

「コヨミ……コシ…ムネ…?ッそうか、相撲ならば自然に触ることが…!───コヨミ、私と相撲しよう。」

 

「さて、オレはまだやる事があるからこの辺デ。武蔵サンも大和サンが呼んでるんダロ?早く行った方がいいんじャないカ?」

 

「そうだった。ではまたな。」

 

「ン。」

 

「………。」

 

 

 

 

 

*この後、長門は陸奥と酒を呑みながら静かに涙を零した。

 

 

 

 

──戦乙女とコマンドー──

 

「ビスマルクさん、いるか?」

 

ビスマルクに用があったため、居場所を提督に尋ねた後ビスマルクがいるらしい開発室の扉を開ける。

奥には、長く四角い箱のようなものを担いだビスマルクがいた。

 

「な、なんだそれはッ!?」

 

「あらナガト。いいでしょう?新しい艤装よ。」

 

「いやいや待ってくれビスマルク。それ艤装の範疇超えているだろう。」

 

「艤装よ。とある映画にInspirationを受けて作ってもらったのよ。」

 

(インスピレーションの発音が良すぎる!……いや、それは今は関係ない!)

 

「しかし……それ、まるでロケットランチャー……」

 

Genau so(その通り).正しくは"携行型多連装ロケットランチャー"よ。」

 

「えっ?」

 

「コヨミに教えてもらったのよ。Matrixの使っていたアレ、なんて言うか知らなかったのだけれど……」

 

「メイトリ……?って、コヨミ!?またあの子は……全く!とにかくその艤装、実戦投入だけはしないように!」

 

コヨミに文句を言いに行く為、開発室から出る長門。

 

「……私に用事があったんじゃないの……?」

 

 

「コヨミィ!!」

 

談話室の扉を勢いよく開けると、そこにはソファに座って映画を見ている第六駆逐隊とコヨミがいた。

 

「おう、どーしたんだい長門サン」

 

「どうしたもこうもあるか!ビスマルクがおかしな艤装を開発している!」

 

「えっマジカ。それってこんなヤツ?」

 

テレビを指さす。

そこには、筋骨隆々の大男が武装をし、『デェェェェェェン』という音と共に歩き出す映像。

その手にはビスマルクが担いでいたものと同じ物が──

 

「こ、これだ!」

 

「アチャー、急に名称聞いてきて変だと思ったんだヨ。戦艦があんな取り回しの悪いモン持っちゃダメでしョーガ!止めてくル。」

 

「あ、あぁ。開発室だ。」

 

伸びをしながら部屋を出ていくコヨミ。

視線を電に移し、聞く。

 

「……で、これは何なんだ?」

 

「コマンドーなのです。今この鎮守府でものすごく流行っているのです。」

 

「そうか……。どんな話なんだ?」

 

「元陸軍特殊部隊隊長の主人公、メイトリックスが拉致られた娘を取り戻す為に筋肉で全てを蹴散らす話だよ。」

 

ポップコーンを食べていた響が口を挟む。匂いからして食べているのはバター醤油か。

 

「面白いのか?それ。」

 

「もっちろん!レディーなら当然の嗜みですよ!」

 

と暁。

 

「ふむ。そこまで言うのなら私も一緒に見てもいいかな?」

 

「うん、じゃあ最初から見ようか。」

 

「いや、別にそこまでする必要は……」

 

「私達はもう3周してる。気にするな。」

 

「そうか……。」

 

ビデオを巻き戻しながら、「コヨミは6周程しているらしいが」と付け加える響。

TSUTAYAで借りたのだろうか、テレビ台には手提げ袋。

ディスクケースには『カカシ品質版』と書かれた付箋が貼られている。筆跡からしてコヨミのものだろうか。

 

(どういう意味なんだ……?)

 

首を傾げる。が、思考は無駄であると判断し、テレビへと目線を戻す。

 

「さ、見ようか。ようこそ、コマンドーの世界へ。」

 

 

 

 

 

*長門もハマった

 

 

 

 

 




はい終わり!解散解散!!!(自己肯定感爆上げ伏黒甚爾)

次話の構想は練ってるのであとは書くのみだ……!


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十二撃目 出撃準備

おひたしぶりです。気合いで書き上げました。

関係ないですが、私の先祖は戦艦大和のエンジンの設計やってたらしいです。ウケる。
設計図らしきものもあったらしいですが、おばあちゃんが間違えて捨てたらしいです。超ウケる。
……流石に原本では無いです。多分。

それはそれとして、そろそろ艦これ二次創作らしく誰か沈めようと思っているので近々誰かしら沈みます(暗黒微笑)。
よろしくお願いします。


 

 

 

「ヘイそこの潜水棲姫サン!やってるゥ!?」

 

『帰レボケカス』

 

「泣きそう」

 

定例会から数日後。俺に課せられた仕事は、深海棲艦の尋問だった。

まぁ、そうだろう。元々そう言う約束だ。

そこに全く不満は無い。いや、むしろウェルカムと言ってもいいだろう。

だがしかし、深海棲艦から情報を引き出すのはやはりと言うかなんと言うか……かなり難しいものだった。

 

何故か。

理由は単純明快、艦娘サイドへの敵意が強烈だからだ。

それはそう。深海棲艦だし。あの重巡ネ級改(ネーちゃん)が変なだけ。

しかも、こんな薄暗い上に居心地悪い所にずっと拘束して放置してるから更に印象悪いよねって感じよ。あの重巡ネ級改(ネーちゃん)が頭おかしいだけ。

湿度ヤバいよここ?超ベタベタするからね?地面海水流れてるし。

え?深海棲艦にはこれが適切?うるせぇな先制雷撃ぶつけんぞ。

 

ちなみに拘束に関しては(主に俺のせいで)深海棲艦の認識が根本から考え直され、割と緩くなったみたいだ。今どきそういうの厳しいからねしょうがないね。──その代わり、技術部が頑張って妖精の力をフルでぶん回せる新しい拘束具を開発したらしい。首輪型なんだって。能力を無効化する首輪……?何それX-MENで見た事ある。

 

閑話休題。

 

えぇと、なんの話だったか……あ、そうそう。尋問の話。

 

例えば、目の前にいるこのお方。

「白」の擬人化とでも言わんばかりに、髪も服も肌もどこもかしこも真っ白なこのお方。にも関わらず、俺の艤装Lv100みたいな巨大な艤装を横に携えている。(勿論、例に漏れず妖精の力が籠った首輪の力でダウンしてるが)

えぇ、はい。潜水棲姫さんですね。

 

『エモノ風情ニ魂ヲウッタ…裏切リ者ニ……ハナスコトハナイ……!』

 

「敵意つっよ」

 

とまぁ、こんな風に。大抵の深海棲艦は艦娘側にいる俺に対して敵意マシマシだ。家系ラーメンかよって感じ。胃もたれしそうだわ。誰か新ビオフェルミンS持ってきて!

 

「まぁ落ち着けっテ、そんなピリピリすんなヨ。ほら、間宮さんのプリン食べル?」

 

『イ………ラン!!』

 

「ちょっと迷うナヨ。じゃあオレが食べヨ。」

 

『…………』

 

「そんな顔すんなっテ。質問に答えてくれたらあげるカラ」

 

『……フン。』

 

 

「──って言う感じデ。」

 

結局、小一時間粘った結果こちら側根負けし、提督に報告をしに来た。

そういや昔親父が「六時間も粘れば相手は折れる。商談は体力と根気と精神力だ。お前も鍛えておけ」って言ってたな。それと同じなのだろうか。

ちくしょう、素直に鍛えておけばよかった。やはり焼酎と親の言うことは後から効いてくるな。

 

「一応、カマかけしてちょっと得られた情報はあるけド……ほぼ誤差ダネ。」

 

「なるほど……。いや、でもこの成果でも我々にはとても大きい。ありがとうね。」

 

「ハハ、気使わんでもイイヨ。しかしねェ、あそこまで敵意が高いのはこれまでの管理問題でもあるんだからちョっとくらい愚痴を言ってもいいヨネ?」

 

「それは本当にその通りだ。すまないね……」

 

そう言って軍帽を被り直す。

責めるつもりは無いんだけどね。

 

「ま、しょーがないけどネ。話は変わるけど、他の仕事は無いのカイ?流石に雇われてる身で成果ほぼゼロってのは申し訳が立たナイ。」

 

「ふむ、そうは言われてもな……。」

 

少し考えるような素振りをし、こう言った。

 

「それなら、艦隊指揮をしてみてくれないか?」

 

「……エ?」

 

「旗艦として艦隊のひとつを……」

 

「待っテ?前線に出ることは無いっテ…」

 

「ひとまず遠征から入ろうか。よし、早速組んでみようか。」

 

「いやいやいや、オレ無理ヨ?練度足りないし、最近まで艦載機の使い方も分かんなかったような奴ヨ?」

 

「他の基地との演習も随分やっただろう?言ってはなんだが、君はもう既にかなりの戦力になっているよ。」

 

「でもオレは深海棲艦ですしおすシ……」

 

「それでも我々は君を艦娘として見るよ。そろそろ"アレ"も届く頃合だし、遅かれ早かれ実戦投入しようとは思ってたから。」

 

軽く衝撃の事実を言う提督。なんでぇ…?

 

「君を艦娘として運用するのために元帥殿下、随分と上層で揉めたらしいんだ。5〜6時間言い争いしたみたいだ。」

 

何してんだあの人。上層ってことは将官クラスだろうか?良くもまぁそんな…

あ、でも元帥って最上級の高級将校か。忘れてたわ。

 

「どうしても決着が付かないから、最後は大将殿下と腕相撲で決着したんだと。」

 

腕相撲(アームレスリング)……だと!?──親父、どうやら真に必要なのは体力でも根気でも精神力でもなく、筋力だったらしいぞ。

 

「ちなみにこれがその時の写真ね。」

 

ピラリと見せられた写真は、画面いっぱいの筋肉。……失礼、つい本音が。

左に元帥さん、右に大将さんかな?どちらも上裸で汗まみれになりながら腕相撲してる。その2人を筋肉達が囲んでいる。

中央には少し離れて加賀さんが死んだ顔で旗持ってる。恐らく審判。

加賀さん苦労人だな……なむなむ。

 

しかしそれにしても…。

 

 

「──なんか仲良くナイ?」

 

めーーちゃいい笑顔。写ってる筋肉達みんなすっごい楽しそうなんだけど。加賀さん以外。

少なくとも揉めているような雰囲気は感じ取れない。

 

「うん…大本営の方々、みんな筋トレしてるから仲良いんだよね…。」

 

「あァ……。」

 

筋肉の仲間意識って凄いからな……。

 

話題を変えるためか、パンと手を叩いて言う。

 

「まぁそんな訳で、元帥殿下が勝ち取ってきた君の権利、使わない選択肢なんて無いだろう?」

 

「まぁ、うン……」

 

その言い方はズルいだろう。

 

「もちろん、タダでとは言わない。」

 

そう言って、コートの内ポケットから何やら長方形の紙を取り出す。

 

「それハ?」

 

「ふふ、これは"間宮食堂特別優待券"だ!!」

 

……なん、だって?

 

間宮食堂特別優待券……?

 

それはもしやこの前夕立が言っていたアレか、間宮スペシャルシリーズを使ったフルコースを食べられるというあの……!

 

「なるほどそう来たカ……」

 

「受けてくれるのなら、これをあげよう。」

 

たかが遠征の艦隊の旗艦をするだけで、古今東西様々な艦娘が求めて止まないそのチケットを手に入れられる。これは破格だ。非常に魅力的と言えるだろう。

 

しかし。

 

 

「だが断ル」

 

 

「!?」

 

別に俺は自分が圧倒的に優位な立場にいると思っているやつにNOと断ってやるのが好きな訳では無いが、これは流石にNOだ。

 

「な、何故だい?」

 

「あのねェ、オレはあくまで給料分の仕事ガ出来てないから他の仕事をくれッテ言ってるノヨ。そこに新たに報酬加えたら本末転倒でしョーガ。」

 

「……あー、あー…あーー。」

 

納得した様に、片手で両目を抑える仕草をする。

 

「じ、じゃあこうしよう。コレは追加報酬。君は給料相応だと思えるまで存分に遠征指揮をしてくれ。」

 

「むゥ……」

 

まいった。渋る理由が無くなった。

 

「分かっタ。でもあんまり期待はせんでくれヨ?」

 

そう言うと、提督は苦笑しながら手を差し出す。

自分も手を差し出し、その手を握ろうとしたその瞬間。

 

 

「お届け物でーす!!!!」

 

 

ガシャァァァン、と窓ガラスを突き破って大きめなダンボールが部屋の中へ飛び込んで来た。

そのままそのダンボールは机の表面を勢いよく滑り、縁の落ちるか落ちないかのすんでで止まる。

 

「「…………。」」

 

 

 

 

「島風ちゃん!?何をしてるんですか!?」

 

「島風運送だよ雪風ちゃんや!」

 

「なんで投げ入れるんですか──!?」

 

 

 

「「…………。」」

 

「えぇと。」

 

「はイ。」

 

切り替えよう。世の中切り替えが大事なのだ。

 

「言っていた荷物が届いたみたいだね。」

 

「……そっすネ」

 

嘘だ。切り替えられるか。一瞬にして執務室が潮の匂いで満ちやがった。なんなんだアイツ、窓を突き破ってくるとか恐怖新聞か?

 

ガチャガチャとガラスを払い、ビイィとダンボールの封を剥がして中身を取り出す。

中身は服とタートルネックと腕章と足。

……足?

 

「先ずコレ、制服1式だ。着てみてくれ。」

 

袋から服を取り出し、自分に差し出す。受け取って広げてみる。

 

ふむ。全体的には普段着用しているものと似た黒を基調としたデザインだ。裾等に赤いラインが引かれ、どことなくセーラー服のような雰囲気を醸し出していおり、左胸部には鎮守府の紋章が刺繍されている。そして、腕章。でかでかと『舞鶴鎮守府』と記載されている。これで俺は敵とは勘違いされなくなる訳だ。

 

次にタートルネック。普段使っているアフガンストール的首巻きは黒い生地に白い縦線が並んでいるというデザインだったが、このタートルネックは白に赤い縦線が並んでいる。上部には金色に輝く鎮守府のバッジが付けられている。

 

「うン、ぴったりダ。」

 

「そりゃ良かった。でも目の前で着替えるのはやめて欲しかったかな……いや、これは僕が悪いか。」

 

「あ、ごめン。」

 

普通に何も考えずに着替えてしまった。俺は常に黒ビキニの上から上着を着ているだけに過ぎない。それを脱ぐということは即ち、提督さんにビキニ姿を晒すという事である。

 

「ホントすまなイ。失念してタ。」

 

「い、いやいや。僕も配慮が欠けていたよ。」

 

……微妙な空気が流れる。

 

「つ、次だ!コチラ、横須賀鎮守府技術部謹製の義足だ!」

 

ほう、義足とな。確かに陸上生活においてこの足はかなり不便だ。これはかなりありがたい。

ソファに座り、義足を持つ。チャリチャリとガラスの破片を踏んでいる音がするが、気にしない。

 

えーと、装着方法は……。

 

同封されていた説明書を読みながら、義足を足の断面にあてがう。

 

ここと、ここのボタンを同時押しで……

 

『ピピ』

 

「い゙ぃ゙ッッッたくはなイ!!」

 

一瞬痛いような気がしたが、すぐにその感覚は無くなった。気を取り直し、もう片方の義足も装着する。

 

『ピピ』

 

「お゙ぉ゙っウ!?……なんなんこの感覚……」

 

この奇妙な感覚はさておき、ひとまず動作確認がてら立ち上がる。

 

「ふむ……ふむふム!」

 

いいな、これ。めっちゃ歩きやすい!安定自立した二足歩行ってこんなにも素晴らしい事だったんだな……。

 

「良さそうだね。それじゃあ、慣らしがてら遠征任務行こうか。」

 

「え、もウ?」

 

「善は急げと言うし、丁度空きがあったからね。」

 

「……分かっタ。」

 

思い立ったが吉日ならそれ以外は全て凶日──ってトリコも言ってたしな。

提督と共に執務室から出て、テクテクと歩いていく。

もうこれで床は傷付けなくて済むわけだし、足音による騒音も無くなる。やっぱちゃんとした二足歩行は……最高やな!

 

 

 

 

 




横須賀「舞鶴鎮守府まで行ってウチのと呉の荷物を届けろと言ったのは僕だ。」
島風「うん。」
横須賀「それに対して、任せろと言ったのは島風、君だ。」
島風「うん。」
横須賀「島風。なんかウチの鎮守府に請求書来てるんだけど。」
島風「うん。」
横須賀「うんじゃないが。窓ガラスの修繕費って何?」
島風「窓ガラスの修繕費だよ?」
横須賀「まさかのまさかだけどさ。もしかして荷物、投げ込んだ?」
島風「うん。」
横須賀「うんじゃないが。」


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十三撃目 初陣

この作品も気付けば公開から1年を越えていましたです。レ級への愛と皆様のご声援で続いています、これからもよろしくお願いします。
思えばこれまであんまり戦闘してなかったですね。もっとドンパチしようぜ、拳で。

どうでもいいですがSEEDFREEDOM見に行きました。2回普通に見て4DXで3回見ました。やべぇ。シリーズ通して最推しがズゴックなんですがめっちゃ良かったです。てかアスランがおもしれー男過ぎる。やべぇ。

コヨミの魚雷を変更しました。危うく妖精ちゃんに万歳特攻させるところでした。(2024/03/08)



 

「遠征にコヨミが?しかも旗艦!?大丈夫なの!?」

 

と雷が言う。

 

「ハッハッハ!オレもそう思ウ。」

 

「えぇ……」

 

やぁみんな、俺だ。今回の遠征は第六駆逐隊を率いる事になった。元々は旗艦に武蔵がアサインされていたが、脱臼して取り消しになったらしい。なぜゆえ……?

 

「何故か脱臼癖が着いてしまった様なのです。」

 

「へェ。そりャ大変。」

 

脱臼癖……はて?何かあったのだろうか。

 

とりあえず、演習で好んで使っている16inch三連装砲を艤装へ装着。側面には12.5inch連装副砲を取り付ける。

色々試してきたが……うん、やっぱりこの装備が1番しっくりくるな。それはそうと凄まじく潮の匂いがする。うーん、ナイススメル。嫌いじゃないわ!

 

艤装の口を開けさせ、中にボーキサイトで錬成した彗星(江草隊)をたらふく流し込む。あとAr196改。

開発出来ないし結構貴重なんじゃねぇの?とは思ったが、製造出来ない航空機なんかある訳ないしあったとしても解体して設計図作るだろいい加減にしろ!軍隊に運要素とか無いわボケ!ってことで、そこまで困ってはいないらしい。

 

……つまり、任務で取得してから二度と入手出来ない可能性に怯えて使わないとか、開発で九七式艦攻とか九九式艦爆の山を造らなくてもいいということだ。いいなぁおい!?優秀だな妖精!!カーッペ!!!

 

え?そもそも遠征にボーキサイトは消費しないだろって?うるせぇゲームじゃねぇんだぞそんな都合いい事ある訳ないだろ!

 

粗方飲み込ませたら、次に魚雷として533mm五連装魚雷(初期型)をセッティング&流し込み。

 

ちなみに、元から持っていた飛び魚艦爆や深海烏賊魚雷は上に献上した。是が非とも開発に役立ててくれ。

しっかし魚雷はともかく、艦爆はちょっとくらい残してくれても良かったのに。対潜補正+7だぜ?ちなみに彗星は+5。でも爆装が強力だしいいと思う。

あと何故か知らんが俺は素で装備ボーナスがある。火力が多分5くらい上がってる。俺、江草隊長と縁あったっけ。

 

はい、ゲームな話は終わり。これは現実です転生してもなおゲーム脳でいる様な転生者は死んで下さい。

 

「皆んな準備できたカイ?──今回、周りにちっこいのしかいなくてすみませんネ?赤城サン。」

 

「いえ。貴方がコヨミさん?話は聞いています。……素敵な装備ね。頼りにしていますよ?」

 

「ハハ、そりゃ光栄だネ。こっちも、空は任せたヨ?」

 

それと、もう1つ。今回の遠征には艦載機狂いこと赤城も同行する。俺も一応は艦載機出せるとはいえ、やはり本職の空母がいた方が安心だもんな。

……そうするくらいなら火力要員で戦艦が欲しいが……あ、俺が戦艦なのか。忘れてたぜ。

じゃあ雷撃兼夜戦要員で巡洋艦が欲しいな……あ、俺が巡洋艦なのか。

忘れてたぜ。

なら空戦の支援要員でもう1艦航空母艦が欲しい……あ、俺が空母なのか。

忘れてたぜ。

うーん、この超弩級重雷装航空巡洋戦艦。チート甚だしい。

 

「──てか、ちっちゃいって何よ!?舐められると困るんだけどッ!」

 

「へーへー、すまんすまン。」

 

「……ところでコヨミ。制服、支給されたんだな。」

 

「まぁ、似合ってるんじゃない?」

 

「ン、さっき届いたんダ。いやー、まさか窓を突き破って届けられるとは思わなかったヨ。」

 

「あぁ、あの騒ぎはそれだったのか……」

 

納得、というようにウンウンと頷くヴェールヌイ。

それでいいのか海軍。

 

「脚も生えてるのです!」

 

「ウン、そうなんだけどサ。言い方何とかならなかっタ?生えてるテ。」

 

 

「──じゃ、ブリーフィングは以上。皆出撃準備をして。」

 

遠征のブリーフィングを終えたところで、そろそろ作戦開始だ。それぞれ規定のドッグへ入り、着水する。

耳に着けた無線から提督さんの声。

 

『準備は出来たかな?そろそろ時間だ。……行ってらっしゃい。』

 

ランプが赤から青に点灯する。さっさと行けって事だ。

 

「分かったわ司令官!駆逐艦、雷改!抜錨するわ!」

 

「ま、待ちなさい雷!駆逐艦、暁改二……抜錨するわよ!」

 

「駆逐艦、電改!抜錨するのです!」

 

「……はぁ。駆逐艦、ヴェールヌイ。抜錨する。」

 

「空母、赤城。抜錨します!」

 

「航空戦艦、レ級ことコヨミ。抜錨しまース。」

 

そして、一同口を揃え──

 

「「「──遠征任務開始、出撃(いたします)(するわ)(するのです)(する)(しまッス)!!」」」

 

大きな水しぶきを上げ、鎮守府から飛び出した。全員語尾バラバラなのちょっとキモくない?え?別に?そうかぁ……*1

無線を繋ぎ、皆に連絡をとる。

 

「各位に伝達。友軍とは一定の距離を保ち、陣形を形成せヨ。」

 

『はいはい!』

 

Понял(了解した).単縦陣を形成する。』

 

『赤城さん、こっち!』

 

『はい!偵察隊、発艦してください!』

 

旗艦である俺を戦闘として直列……単縦陣で並び、海面を滑走する。

 

『ちょっとコヨミ!速いわ、速度下げて!』

 

「おっト、すまなイ。減速スル。」

 

雷に言われ、少し減速。

結構抑えていたつもりだったが、これでも速かったらしい。

巡航速度の調整は難しいな……

 

「うーん、演習だと大丈夫だったんだがナ……」

 

『広さが違いますからね。大丈夫、落ち着いていきましょう。』

 

ふう、と風を浴びながら深呼吸をしていると、また耳元でノイズ混じりの提督さんの声が聞こえてくる。

 

『無事に出撃出来たみたいだね。僕も支援したい所なんだけど、これは遠征だから……現場指揮はコヨミに一任する。初めてだから、皆んなサポートしてあげて。じゃあ通信を切るよ?何かあったら連絡して。』

 

そうして、ぶつりと音を立てて通信が切れる。

 

「海はいーナー!こっちを見ると青!あっちを見ても青!……あー一面のクソ海原。」

 

『何言ってんのよ……』

 

「いやぁ、何処行きャいいのかわかんねーなーッテ。」

 

『──はぁ?あんたバカァ!?』

 

『落ち着いて雷。そんなんじゃ1人前のレディーになれないわよ?』

 

『コヨミは初めての任務だ。航路が分からなくても仕方がない。』

 

『そもそもなんで未経験なのに旗艦なのよ……』

 

「ワイトもそう思いまス。」

 

『ワイトって誰よ。』

 

「あーいちいち噛み付くんじャないよ流しなさいヨ。」

 

『コヨミさん……』

 

「皆まで言うなァ!今航路確認しとんネン!」

 

宙に投影するタイプの近未来的ディスプレイを起動し、航路を確認する。

あーんな点と点が破線で繋がってるようなやつじゃないよ?マジな方の奴だ。

この近未来的ディスプレイに心が躍るけども、正直それどころではない。

今回の遠征任務は主にパトロール。領海内にいる敵艦隊は発見次第沈める。必見必殺(サーチアンドデストロイ)という訳だ。

 

『いえ、そうではなく……11時の方向、2マイル先に敵影があります!』

 

「おっと、分かっタ。総員速度そのまま、戦闘準備。」

 

『『『了解!!』』』

 

進行方向を微調整し、滑る。

えーと、確か1マイルが1.6kmだったはずだから……3.2km?マラソンかよ。

今の巡航速度が大体30km╱h……つまり16ノット。赤城の巡航速度に合わせている形だ。

このまま行けば6分程度で接敵するだろう。計算合ってる?きはじだよね?はじきだっけ?ごめんよく分かんねぇや!

どっかの塾講師のオッサンがきはじにブチギレてる動画とかあった気がする。なんでキレてんやろな。文理選択とか文一択だったからさっぱり分からん。

 

「──お、敵艦隊発見。先制雷撃すル。」

 

肉眼で鮮明に敵艦隊を視認した所で、艤装を水中に潜伏させ、雷撃を放つ。

 

「着弾を確認。戦闘開始!」

 

『『『了解!』』』

 

号令を皮切りに、陣形を維持したまま爆撃機による攻撃の後に砲撃を開始する。

敵艦隊は……イ級(エビ)が3艦、リ級が2艦、ル級が1艦。内リ級1艦とル級がeliteくさい。flagshipがいなくていいね。楽。改flagship?論外だろ遠征に出てくるな。

 

「おーい、急に攻撃仕掛けといてなんだけどサー?日本語分かルー?」

 

『▇▇▇▇▇!!!』

 

「ン?ン?何言っとるか分からんワ。日ノ本の言葉喋レ?」

 

『▇▇▇▇?▇▇▇▇!▇▇▇▇!』

 

言語が通じねー。俺も分からんしアッチも分かってないな。

あー、すんごい血走った目で睨まれてる。こりゃ模範的深海棲艦だわ。そうだ、舞鶴鎮守府トコの深海棲艦は皆あぁだけど、本来の深海棲艦とはこんなんなんだ。何気に深海棲艦(ガチ)と対面するの初じゃね?いやまぁ潜水棲姫とか敵意マシマシだったけど……

深海棲艦は艦娘と人間を殺すバケモノ。この世界の基本のキ、いろはのい。勘違いしてはならない。

 

さて、そうと決まればここは裏で練習していた成果の見せ所。砲撃を継続しつつ、艤装の口からAr196改を発艦させる。

水上偵察機、Ar196。そして主砲と副砲を携えた航空戦艦。これが意味するのは───!

 

「弾着観測射撃!」

 

偵察機から送られてくる情報を元に、イ級の壁を掻い潜り的確にリ級の顔面に砲弾をプレゼント。喜んでもらえたなら……素敵だ…♡

 

しかし、俺もエイムが良くなったものだ。腐っても身体は深海棲艦か。何かと飲み込みが早い。やはりバケモノはバケモノと戦うための形をしている……(例外(イレギュラー)有り)

 

「魚雷発射準備…………発射!」

 

一斉に魚雷を放つ。さて、これで敵艦隊はボロボロ。辛うじてル級が残っているが……。

腰に横向きで括り付けている()()の持ち手を軽く撫でる。

 

これは、着任祝いとして提督さんから貰った替えの無い虎の子。これを振るうのは……今ぞ!

 

ル級に向かって加速し、急接近。突然距離を詰めてきた事に驚いたのか、軽く後退するル級だが……遅い。

 

「逃げるナお前!首級(クビ)だ!首級(クビ)置いテケ!!」

 

逆手で腰にあるソレ…黒い鞘に収められた軍刀を抜刀。軽く投げて順手に持ち替え、大きく振り被る。

 

身体を回転させ、艤装で水面を叩いて目くらまし。

弾ける水の向こう。無防備に露出された首筋に向かって軍刀を振るう。

 

確かな重い感触の後、切る物が無くなったのか手応えが軽くなる。刀身に着いた青い血液のような液体を降って落とし、納刀。

パチンと音を鳴らして完全に納刀した後、止まった時間が動き出したかのように全ての事象事柄が動き出す。

 

壁のように反り立っていた水面は音を立てて元に戻り、頭を飛ばされたル級の首は青い血を吹き出しながら倒れ、炎や煙を出しながらそのまま沈んで行く。

 

残心。

 

『……うわぁ。』

 

「うわァとはなんダ。」

 

なぜそんな引く?待て、後ろに下がるな。

あれ、また俺なんかやっちゃいました?

 

『その軍刀は?私達の支給の物とは違うようですが……』

 

「提督さんから貰ったんダ。着任祝いだってねネ。」

 

『ふ〜〜〜〜ん?』

 

「なんだヨ…」

 

『司令官ってなんかコヨミに甘くない?』

 

「気の所為でショ。」

 

『──しかし、仮にも同族だというのに…良くもまぁそんな思い切りよく切れるものだね……』

 

「深海棲艦ってのは基本敵でしョ。何を今更…」

 

『いやぁ……うん、そうなんだけどさ……?』

 

「人だって人を殺すダロ?気にすんなってノ。…あー、でも確かに艦娘同士で殺し合いとか想像出来ねーヤ。」

 

てか、したくもない。提督の取り合いで血みどろの大戦争おっぱじめるのは良く見たけどな。二次創作で。

 

「ま、深海棲艦(オレら)は違うノヨ。バケモノだかラ。ハハ。」

 

『コヨミさん……』

 

中身は人間だし。例外はあれど俺目線でも深海棲艦は普通にバケモノだ。

え?身勝手だって?うるせぇこちとら元人間だぞ自分勝手の自分本位上等だっつの!

 

「じゃあそろそろ行くヨ?陣形整えテー!」

 

『う、うん……』

 

え?なんかテンション下がってね?なんでぇ…?

 

 

 

*1
文章に起こすとキモイ




雷「なんで剣術会得してんのよ」
コヨミ「いや…気合い?」
雷「??????」
響「私も学ぼうとは思ってるんだよな……しかしコヨミは一振入魂って感じだな、そんな後先考えない振り方で大丈夫か?外したらどうするんだ?」
コヨミ「外れたら?さぱっと死せい。黄泉路の先陣じゃ、誉ぞ。」
響「??????????」


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