編集版 転生特典はガチャ~最高で最強のチームを作る~ (ドラゴンネスト)
しおりを挟む

一話目『転生初日とパートナー』

「なんと言うか、不思議な感覚だよな」

 

己が転生者と言う存在であるとは自覚はしているが、実感の方は全く湧かない。そんな事を考えてしまう。

 

そう、彼、『天地 四季』は転生者であると言う自覚は有っても、前世のことが殆ど思い出せないため、転生したと言う実感が湧いて来ないのだ。

 

序でに言えば神様とかに出会ったかどうかも覚えていないが、目の前にあるのが自身の転生特典というのはなんとなく理解はできる。

 

「しかし、我ながら不安定な力だな。リマセラも出来そうに無いし」

 

その転生特典は拠点となる家の地下に置かれたガチャと呼んで居る機械によって武器や仲間を召喚できる事で、四季の手にはそのために必要な三枚のチケット、『武器ガチャ二連確定チケット』、『キャラクターガチャ確定チケット』、『能力ガチャ二連確定チケット』の三枚がある。

 

能力ガチャは技術や知識の他に戦闘技術等の能力にあたるものが得られる。

武器ガチャはその名の通り武器、または武器に分類されるものが出てくる。

最後にキャラクターガチャは漫画やアニメなどの登場人物(主人公以外)をこの世界に存在する者として召喚できるガチャだ。

本来ならば三種類の内容からランダムで選ばれたものが出てくるのが本来の特典にあたる。

 

彼の手の中にある三枚は転生前のチュートリアルを終えた記念の品らしく、予め記憶を消される前の自分が選んだモノが出てくるそうだ。

武器や能力はこれからの運命を決定づける。少なくとも、カードゲームで運命が決まる世界ならば最高の力と言えるドロー運もそれ以外の世界では大して役に立たない。

キャラクターガチャの方は下手したら命に関わる。敵役や味方になったとしても最初は主人公を殺そうとする者もいる。

最初に出てくるのが自分が選んだ物や相手と言うのは都合がいい事この上ない。

 

「取り敢えず、マトモなものを選んでてくれよ、オレ」

 

真っ先に回すのは二連の能力ガチャ、目の前の機械の中にチケットを入れると機械が起動して動き出し、能力の書かれた球が二つ出てくる。強制的に付与されるのではないことに安堵しつつ、キャラクターガチャの方で呼び出された者にも付与可能らしいことが理解できた。

なので、下手に身につけたら危険な能力を手に入れたら、厳重に封印しようと心に誓いつつ手に入れた能力を確認する。

 

 

 

『仮面ライダービルドの桐生戦兎の開発能力』

『東京魔人学園の主人公(デフォルト名:緋勇龍麻)の戦闘能力』

 

 

 

技術と身体能力関連を選んだ事に何となく武器ガチャの内容も理解できた。早速、手に入れた二つの能力を自分に付与させ、次の二連の武器ガチャを回す。

 

出てきたのはお約束のガチャのカプセルで、カプセルのまま中身の確認もできる。

 

 

 

『ビルドドライバーと各種フルボトル』

『VSチェンジャーとルパンレンジャーのVSビークル』

 

 

両方共特撮ヒーロー関連だった。ビルドドライバーの方は予想していたが、もう一つのVSチェンジャーの方は予想外だった。

カプセルの中にはそれぞれビルドドライバーとVSチェンジャーが入っているのが見て取れる。能力と同様に呼び出されたキャラクターにも使用可能なものだが、ノーリスクで使えるのは四季だけで他の人間が使用するには原作通りの条件がいるらしい(単純に選ばれると言うのが条件の場合は無条件で使用可能)。要するに、他の誰かに使わせるには能力のガチャの方で使う為の能力を入手する必要がある。

その手の条件が薄い傾向にある戦隊ヒーローの物は仲間用、仮面ライダービルドのドライバーは自分用という事だろう。自身が変身しても良いだろうし。

なお、ドライバーとフルボトルだけで封入されてないビルドの武器は最悪能力で自分で作れるように、と言う事なのだろう。

 

装備の方もカプセルのままなら安全な様子だ。最悪危険な武器はカプセルのままで厳重に保管しておける。

 

「最後はこれか」

 

キャラクターの確定ガチャ。キャラクターの初期好感度はそのキャラクターが登場する作品で初登場した時に主人公向けている感情となり、このチケットで初期好感度は通常よりも高く設定されて呼び出されるようであり、一番信頼できる仲間になる様子だ。

なお、同一人物が被ることはなく、その人物の別の可能性、または別の武器を使っている状態を呼び出すと元からいる者の強化に繋がるらしい。

 

(大丈夫なんだろうか?)

 

そう思わずにはいられない。好感度が通常よりも高いとは言っても、その感情が好意的とは言えない場合もある。

記憶には無いが、流石に自分が選んだのだから問題のある相手は選ばないだろう。

 

一抹の不安を覚えつつ、最後のチケットを使い出てきたのはガチャを開けると目を閉じた青い髪の少女が映る宝石だった。

 

 

 

『シノン(GGO)』

 

 

 

それが彼女の名前だ。少なくとも呼び出して早々に敵対される相手では無い事に安堵しつつ、早速彼女を呼び出す事に決める。

呼び出す方法は特別なことはなく少しだけ石に呼び出すと言う意思を持って力を加えるだけで済む。

 

手の中から宝石が消えていく感覚を感じながら、ふとした疑問を思い浮かべる。

 

(待て、なんで能力と武器が二連なんて中途半端なんだ?)

 

十連や五連なら兎も角二連とは結構中途半端な数だ。下手したら単純に二枚同じチケットがあれば良いだろう。

そして、キャラクターだけ一回のみと言う点。何かの為に回数を犠牲にした可能性もある。

 

 

 

《ピンポン! ピンポン!》

 

 

 

なんか妙な音が頭の中に響いた。その瞬間、ガチャの回数が変化した理由を理解する。

 

予め10段階で表されたキャラクターの感情を5まで上げていたらしい。その結果、本来五連のキャラクターのガチャが4回分が犠牲になったらしい。同じく本来は東都、北都、西都と別になっている六十のフルボトルをドライバーとセットにしたりした結果武器の方も二回に減ったらしい。(その為に武器は最悪自分で開発するように、と言う事らしい)

ついでに言うとVSチェンジャーと変身用のビークルの方は普通にワンセットだった。まあ、当然と言えば当然だが。

 

なお、同時に理解したことだが、召喚されたキャラは地上部分の居住エリアに当人の部屋ごと追加されるので、例外を除いてこの場に召喚されるとかは無いそうである。

 

「次は、と」

 

チュートリアル(自覚はないが転生前の説明とかと推測している)突破記念でもらえたガチャのポイントは合計11回分とガチャには表示されているので、早速記念に一度回してみる。

 

出てきたカプセルの中の一つには変わった形の戦艦の様な物体。

 

 

 

『ナデシコC』

 

 

 

それがその戦艦の名前だ。機動戦艦ナデシコの劇場版に出てくる三番目のナデシコ。運用するのに必要なIFSとか、ナノマシンとか、A級ジャンパーの存在とか、どうすべきかと迷い暫くお蔵入りかと思ったが、AIでの単独運用もフルスペックは無理だが通常運用は可能らしい。

それならば問題はないかとカプセルを開けると今いる部屋の壁が開き地下につながる階段が出てきた。地下格納庫という事だろう。

 

(自分の家ながら、この家ってどうなってるんだ?)

 

この先何人になるか分からない同居人達を収容する部屋に、地下の格納庫には宇宙戦艦まで入っている。下手しなくても怪しげな家で有る。

 

「考えるだけ無駄か」

 

そう思って考えを切り替える。少なくとも、自動で動いてくれる戦艦が有れば行動の幅も増えると言うものだ。

 

 

 

『ガチャ初回記念プレゼント『アイテムストレージ』』

 

 

新たに表示された文字に驚いていると腕時計の様な物が現れ、同時に真後ろの壁が開く。

 

『アイテムストレージ』、腕時計型の端末を通してガチャ室の奥に設置された武器庫から繋がる武器庫の中の装備を取り出せるそうだ。また、バイクや戦艦の様な大型の物は武器庫ではなく地下格納庫という別の場所に置かれているので取り出せない。

 

「まあ、やっぱり何も入ってないか」

 

武器庫という言葉に不安を覚えながら入ってみたが、何も入っていなかった。折角なのでフルボトルとビルドドライバー、VSチェンジャーとビークルを置いて置く。

 

「それにしても」

 

通常のフルボトルだけでなく、レジェンドライダーの力を借りる為のフルボトル、例えばエグゼイドならばドクターとゲームのフルボトルが必要になるが、それまで存在している。

だが、スパークリングになる為に必要なスパークリングフルボトルやハザードトリガーの様な強化変身用のアイテムに、仮面ライダークローズに変身する為のパーツであるクローズドラゴンは当然ながらフルボトルとは認定されなかったらしくここには無い。

 

(まあ、良いか。それと、お蔵入りの決まったものもここに隠して置くか)

 

安全そうだからと考え、あとで三つほど金庫でも用意するかと考えつつ、最後に残りの10回分のガチャポイントで十連の方を回してみることにした。

 

「来てくれよ、当たり!」

 

少なくとも狙っているものが二つ。通信用の道具と移動用の道具だ。ナデシコCは移動用に使うには大き過ぎ、あれははっきり言って、仮の拠点とでも言うべきレベルの代物だ。

 

「良し!」

 

出て来た十個のカプセルを確認しながら、その中に目的の物がある事に気付く。

 

 

 

『ビルドフォン』×2

 

 

 

ダブってしまったが、ビルドフォンはスマホの機能だけでなく、ライオンフルボトルを差し込んでマシンビルダーと言うビルドの専用マシンに変形する機能がある。それが二つ出て来てくれた事は幸運と言って良い。

 

「っと、他にビルドの強化アイテムは無いか」

 

残りの八個のカプセルをどうするべきか、そんなことを考えながら一つ一つ確認していくと、その中の一つが目にとまる。

 

 

 

『パトレンジャーのVSビークル三種類』

 

 

 

初期の二つの戦隊の変身アイテムが揃った事は幸運と考えるべきだろう。他は“一応”危険な物は無いが、アイテムと能力のみで幸か不幸か仲間は増えなかった様子だ。そんな事を考えて居ると新たに表示される文字が視界に入る。

 

 

 

『ガチャ10回突破記念『保管用金庫』』

 

 

 

武器庫の奥に何かが設置される音が聞こえる。表記を信じるならば、保管用の金庫が設置されたのだろう。買いに行く必要がないのは助かるが、それでも初回記念に比べると、かなり道具としての格が下がる。

 

確認してみると、武器庫の奥に扉に液晶画面が付いた金庫が三つ設置されて居るが、それは一般的な大きさの金庫だった。武器庫に残りのVSビークルを置いて、金庫の中にカプセルを入れようとすると、勝手に吸い込まれていった。

 

「見たとおりの容量じゃなさそうだな」

 

扉の所にある液晶画面を操作すると中にある物の名前と数が表示されて居る。容量は不明だが、中に入って居るものが一目で分かるのは助かる。

 

「しかし、勢いで戦艦呼び出しちゃったけど、そっちは本気でどうするかな?」

 

地下の格納庫の様子も見に行くべきかと思いながら、残りのカプセルの中の一つに視線を送る。

 

 

 

『アメイジングストライクフリーダム』

 

 

 

これ、ガンプラだろ? と心の中でツッコミを入れる。確かにプラモを使って戦うビルドファイターズの漫画版のメイジンカワグチの愛機だ。そんな事を考えながら呼び出してみると格納庫に何かが追加された音が聞こえた。

間違いなく、本物のMSになったアメイジングストライクフリーダムが追加された様子だ。

 

戦艦に続いてMSまで置かれた地下の格納庫を一度見に行くべきか、そんな事を考えて居ると、上の方から足音が聞こえてくる。

 

***

 

【挿絵表示】

 

「ねえ、いつまで待たせる気なの?」

 

地上部分に繋がる階段から出てきたのは『朝田 詩乃』という少女。先程呼び出したシノンの現実での姿だ。

しかも、呼び出されてから結構待たされた為にかなりお怒りのご様子だった。

 

(しまった)

 

まさか待っているとは思って居なかったとは言え、呼び出してそのままと言うのは本当にまずい事をしてしまったと思う。

 

性格も良く、GGO(ガンゲイル・オンライン)のゲームの中のスキルが現実で使えるならば十分に頼りになる相手。寧ろ、友好的な関係を築くためにも、さっさと挨拶くらいしておくべきだったと思う。

 

「えーと、ごめん」

 

「反省してるなら、良いわよ」

 

謝る四季に対して何処か拗ねたようにそう答える詩乃。

 

「改めて、天地四季だ。これから宜しく」

 

「え!? ええ、『朝田 詩乃』よ。これから宜しくお願いするわ」

 

「オレのことは好きに呼んでくれて良い」

 

「じゃあ、四季って呼ばせてもらうわ。私のことはシノンで良いわ」

 

互いに挨拶して握手をする。

 

「ところで、四季は私達が居るのが如何いう場所か知ってる?」

 

「いや、その辺は全然」

 

転生前の記憶は殆どないためにどんな世界に転生したのかは分かってないが、最低限仮面ライダーの力が身を守る為に必要な危険はあると言うのは大体理解して居る。

 

「私も、この世界に召喚された時に貰った簡単な知識くらいしか」

 

続けて告げられた『天使と悪魔と堕天使とか、その他の神様とかがいる』と言う言葉で候補が絞られた上に、ある種の核心が得られる。

 

 

ハイスクールD×Dの世界だろう、と。

 

 

ぶっちゃけ、他に思い付いた世界、主にメガテンとかだと生き残れる気がしないので、これであってくれと心から願う。

 

「そう言えば、ここで何をすればいいのかって聞いてる?」

 

「何も」

 

首を振りながらそう答える詩乃。転生したのはいいが何をすれば良いのか分かっていない現状だ。

仮面ライダーやスーパー戦隊の力があるとは言え目的もなく無闇に行動するのは危険極まりない。

ぶっちゃけてしまえば、原作介入など、しなくていいならば関わらない方が良いだろう。

 

そんな会話を交わしていると式の持っているビルドフォンに振動する。

 

「メール?」

 

詩乃に対して見ても良いかと問い掛けると、見ても良いという返事が返ってくる。

先ほど届いたメールを開くと、

 

 

『賞金リスト』

 

 

と言うタイトルのメールが届いていた。怪しいとは思いながらメールを開くと、はぐれ悪魔の等級とそれに対する報奨金の幅、そしてガチャをするためのポイントなどが書かれていた。

 

更に注意書きのように、『リストに無い相手などと戦い、勝利した際にもガチャポイントは発生します。また、不定期に発生するイベントを攻略することでガチャポイントや賞金を大きく入手することが可能です』と書かれている。

 

「なるほど、オレ達は賞金稼ぎ兼傭兵みたいだな」

 

時にはぐれ悪魔を倒して、時にどこかの勢力に味方して賞金やガチャポイントを稼いで行く。確かに、賞金稼ぎであり傭兵でもある。

 

「そこはせめて、バウンティハンターにしない?」

 

「そっちの方が聞こえが良いか」

 

詩乃の言葉にそう返しながら自分の手に入れた能力を思い出しつつ二つ目のビルドフォンを詩乃へと差し出す。

 

「渡すのが遅れたけど、これはシノンの分のビルドフォン」

 

渡されたビルドフォンを見ると、どこか嬉しそうな微笑みを浮かべながら、

 

「ありがとう、四季」

 

渡されたビルドフォンを抱きしめながら嬉しそうに告げる詩乃。まあ、その後でライオンフルボトル差し込めばバイクになる事を教えた時には、通常のスマホよりも高性能な機能に流石に絶句していたが。

 

互いに番号とメールアドレスを交換した後、先ほどのメールに続けて届いていた二通目のメールを開くと、そこには。

 

「明日から駒王学園に入学、か」

 

「四季が新しい子を召喚しても其処に通う事になるらしいわよ」

 

どこか『新しい子』と言う部分の、言葉に棘がある気がするがそこはスルーしておく事にした四季だった。

まあ、先ほどの十連の中にも無かったので暫く新しい仲間の召喚はできないだろうし。

 

仮面ライダービルド兼徒手空拳技《陽》の使い手として前衛を自分が、スナイパーとして詩乃が後衛を担当して暫くは二人でやっていく事になるだろう。

 

そんなことを考えていると、詩乃は思い出したように告げる。

 

「ところで、冷蔵庫の中に何も無かったんだけど」

 

「寧ろ、今のオレ達にはそっちの方が重要だよな」

 

ここに来る前にキッチンによってらしい詩乃は冷蔵庫の中を確認していた。その結果、分かったのは何一つ食材の入っていない冷蔵庫。寧ろ、空っぽのため、今は電気代の無駄と言ったところだろう。

まあ、昨日まで無人だった家に食料がある方が変なのだろうが、早めに買い物に行かなくては店が閉まってしまう。

最悪はコンビニに行けば、今日の夕飯と明日の朝食はまだ何とかなるが、明日は学校なので昼食が拙い。

 

「取り敢えず、通帳とカード探して買い物に行こうか」

 

「あ、私も行くわよ」

 

「いや、ビルドフォンが有るから一人でも大丈夫だけど」

 

「四季、この辺のお店の値段は知ってるの?」

 

「え? い、いや、全然」

 

必要な物以外は行ってみて安い物を買えば良いかと思っていたのだが、詩乃からはジト目で睨まれてしまう。

 

「幾ら入ってるか知らないけど、少しでも節約しないとダメよ」

 

「ごもっともです」

 

賞金首のはぐれ悪魔を狩れる機会はそうないと思うのだから、今は少しでも節約するべきであろう。

そもそも、ゲームではないのだから、相手も隠れ潜んでいるだろうし、そんな相手に簡単にエンカウントは出来ない。どう考えも節約は大切である。

 

冷蔵庫の中が空であった時に近所の店の情報を確認してくれていたのだろう。

なお、交通費についてはビルドフォンという強い味方がある。フルボトルのエネルギーで走ってくれるようだ。

序でに地下にあるAストライクフリーダムとナデシコCに付いては完全に放置の構えだ。一応、彼女を艦長と登録しておいたが、完全に人員不足なのだ。

 

 

 

 

・ナデシコC

艦長:朝田詩乃

パイロット:天地四季

艦載機

・アメイジングストライクフリーダムガンダム

 

 

 

 

コレが現在のナデシコCの状況である。

すぐに運用する気はないが、人員不足だといざという時に使えない。艦長とオペレーターの兼任については、流石に無理と言われた。一応パイロットなしも問題なので、現状では四季がアメイジングストライクフリーダムガンダムのパイロットになっている。

いくら高性能な戦艦と言えど、運用出来なければ単なる空飛ぶホテルだ。

 

「買い物が終わったらナデシコの中を確認して見るか」

 

「私もそれが良いと思うわ。使う必要がある時に慌てるのは良くないと思うから」

 

まあ、改めてナデシコCの中を確認して広さは兎も角、ホテルにも負けてない設備に驚いたのは二人だけの秘密だ。まあ、何ヶ月もの間船員が生活するのだから、ある程度ストレスの無い設備も当然だろう。

 

通帳を探してる間に詩乃が銀行と買い物に行く店の道筋を確認、家の敷地内の外から見えない位置でビルドファンにライオンフルボトルを装填すると、手のひらサイズのスマホから人が乗れるサイズのバイク『マシンビルダー』へと変形して行った。

 

「改めて見るとすごいな」

 

「どうなってるのよ、これ?」

 

恐るべし天才物理学者、と心の中で呟きつつマシンビルダーに乗り、詩乃も後部座席に座る。

 

「じゃあ、しっかり掴まってろよ」

 

「うん」

 

幸か不幸か何事もなく買い物は終えたのだが、通帳の中には百万ほどの金額があった事を追記しておく。

 

さて、問題なく買い物は終わったのだが、荷物を置いた時に改めてビルドフォンにメールが届いた。

 

 

『賞金首情報』

 

 

そう表されたメールを見て四季は夕飯の支度を任せた詩乃を残してはぐれ悪魔の出現地点へと向かった。

 

(これが初めての戦闘。一人でどこまでやれるかも今のうちに確かめておきたいからな)

 

廃墟を一瞥し、ビルドドライバーを装着し、取り出すのはラビットフルボトルとタンクフルボトル。

 

「……早速この力を試してみるか」

 

赤いラビットフルボトルと、青いタンクフルボトルを振りながらビルドドライバーへと装填する。

 

 

『ラビット! タンク!』

『ベストマッチ!』

『Are you ready?』

 

 

(この場合、ビルドアップと言うべきか、変身って言うべきかは分からないけど、やっぱり)

 

そう考えながらベルトの右側のレバーに触れ、

 

「ビルドアップ!」

 

そう叫びながらそれを回転させる。

 

 

『鋼のムーンサルト! ラビットタンク! イェーイ!』

 

 

兎の赤の半身、戦車の青の半身を持った仮面ライダー、『仮面ライダービルド ラビットタンクフォーム』へと変身する。

 

「さてと、それじゃあ早速……お邪魔します!」

 

そう叫びながらビルドに変身した四季は回し蹴りを廃墟の扉の部分に叩き込み。

 

廃墟となった工場の跡地、あのメールの内容が事実ならばここにはぐれ悪魔がいる様子だが。

 

フルボトルは全種類使えるが武器は無い。いっそ、武器がなくても戦えるボトルを選ぼうかとも思ったが、何があるかわからない為、最初は安定性の高いラビットタンクを選んだ訳だ。

 

そうして廃工場の中に踏み込んだビルドの前に異形の影が現れる。下半身は蜘蛛の様に成っており、人間の上半身だが眼球が昆虫の複眼の様になっている異形の怪物。

 

「なんだお前は~人間か~」

 

相手の言葉を聞き流しながら足に力を込める。緋勇龍麻のそれは彼の操る異形を討つための古武術であり、その身に纏う力もまた異形を討つための力である仮面ライダーの力。

 

片や呪術などの超常的な力で生まれたもの、片や火星で発見された地球外生物由来の超常的な科学で生まれたもの乃違いは有れど、この二つの力を同時に扱って、

 

「負ける気はしない!」

 

目の前の相手に負ける理由などないのだから。

 

床が割れるほどと言う比喩をでは無く、本当に床を踏み砕くほどの踏み込みで床を蹴り、はぐれ悪魔とか距離を詰め掌打を打ち込む。

 

「破ぁ!」

 

続け様に放つのは上段蹴り、徒手空拳拳技の技の一つである《龍星脚》。

ウサギと戦車の力を借りた姿で龍の星を名に持つ技を放つのも洒落が効いてるかと思いながら蹴り飛ばされたはぐれ悪魔に視線を向ける。

 

「ガァ、ガガ」

 

「早速で悪いが、はぐれ悪魔」

 

ラビットハーフボディの脚力を活かして蹴り飛ばしたはぐれ悪魔へと肉薄し、

 

「オレとビルドの、実戦テストの相手になってもらう!」

 

そう宣言しながら上空で一回転しながらタンクハーフボディの踵部分を頭へと叩きつけ、動きが止まったところに掌打を叩きつけ、

 

「破ぁ!」

 

徒手空拳技《陽》の基本技の一つである発勁を撃ち込む。

気を使った技は生身でも仮面ライダーの姿でも大して変わりはないだろう、そう考えて居たが、

 

「グギャァ!」

 

「あれ?」

 

必殺技を使うまでもなく体に大穴を開けて絶命したはぐれ悪魔を見て、

 

「……加減間違えて中位技使っちゃったけど、これは威力あり過ぎじゃないか?」

 

その理由も先ほどの感覚で何となくだが、理解した。タンクハーフボディが原因だろう。

 

変身後のボトルの影響か、何故かは分からないが、遠距離技、主に発勁の系統の技が砲弾の様な破壊力が与えられている。

 

「うわぁー」

 

この上の上位の技に位置する奥義級の技になると、人に向ける事自体が間違ってくる、確実に相手を葬るための技、文字通り必殺技になってしまう為に使えないが、ライダーに変身した後は遠距離技は人には使うまいと心に決めたのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

間話01

「さて!」

 

手の中に有るのは先ほどのはぐれ悪魔との戦闘の報酬の三枚のガチャチケット。

『目指せ、ハーレム!』等と考えているわけでは無いので別に女の子を狙ってるわけでは無い。寧ろ今はビルドの強化アイテムが、先ずは順当にスパークリングフルボトルが欲しい。

 

「来てくれ! ビルドの強化アイテム!」

 

1枚目のチケットを使い、そんな願いを込めてガチャを回した結果、

 

「こ、これは!?」

 

“ある意味で”彼の願いは叶った。カプセルの中に入っているのはビルドドライバーの拡張アイテムだ。

 

 

ドラゴン型の機械。

 

 

 

『クローズドラゴン』

 

 

 

 

だった。

 

「た、確かにビルドドライバーの拡張アイテムだけど、さぁ!?」

 

クローズドラゴン、ビルドドライバーとドラゴンフルボトルと共に使用する事でビルド系二号ライダーである『仮面ライダークローズ』に変身する事の出来る拡張アイテムである。

戦力強化としては強化にはなったが、大きな戦力の増強にはならなかった。

まあ、ドラゴンフルボトルさえ有れば、単体で変身できるというのは強みにはなるだろうが。

 

討伐ミッションの初回特典の結果などそんな物だろうと割り切ってしまえば良いのだろうが、それはそれ。

 

「何やってるのよ?」

 

頭を抱えている四季をジト目で見ながら響くのは詩乃さんの一言だった。

 

「気にしないでくれ」

 

「気持ちは分かるし、何があったかは分かるけど、あと二回はどうするのよ?」

 

「一度、やってみるか?」

 

「……うん」

 

そう言って渡されたチケットを受け取る詩乃。心なしか嬉しそうなのは、彼女もちょっとだけ興味があったからなのかも知れない。

 

先ほどの四季と同じ様にチケットを使い装置を起動させると、出て来たのは

 

 

 

『シノン(SAO)』

 

 

 

彼女本人だった。

 

「え? わ、私?」

 

「可能性はあると思ってたけど、本当に有るとは」

 

出て来たものに戸惑いを浮かべる詩乃と、何となくだがその可能性も考えていた四季の図。

ガチャで有る以上はこういう可能性も想像していたが、目の当たりにすると戸惑いを覚える。

 

目を閉じた詩乃の姿が映る宝石を彼女が手に取るとゆっくりとそれは彼女の中に消えて行く。

 

「これって?」

 

彼女の手の中に現れる弓。元々GGOのゲーム内での能力を持っていた彼女の中にSAOでのゲーム内での彼女の能力が上乗せされたのを理解した。

 

まあ、他にも上乗せされたものも有るのだが、それはそれ、今はまだ深く触れないでおこう。

 

四季も四季で別のゲームでの彼女なので、二人に増えたら姉妹みたいでそれはそれで良いかも、なんて思ってもいたが、そんな内心を気付かれない様に三枚目、最後のチケットを使う。

 

最後に出て来たカプセル、今度こそビルドの強化変身のアイテムを、と思っていたが、予想を大きく外れていた。

 

 

 

 

『北山 雫(魔法科高校の劣等生/魔法科高校の優等生)』

 

 

 

カプセルの中に有ったのは目を閉じたショートカットの少女の映った宝石。

北山雫、魔法科高校の劣等生のヒロインの一人で魔法師。実は外見に似合わないパワーファイターだが、魔法の概念が違うこの世界でどこまで通用するかは不明、だ。

 

「こ、これは、当たりなんだろうけど」

 

確率がどれほどの物かは分からないが、これまでで確定だった詩乃を除けば僅か2回しか出なかったことを考えるとかなり低い確率である事は間違いないだろう。まあ、

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「別に。何でもないわ」

 

妙に彼女からの視線が痛い気がするのは決して気のせいでは無いだろう。

四季は知らない事だが、同キャラ同士が統合された場合、好感度も上がる。当人同士は全く気付いてないが、彼女の中に好感度の急な上昇により四季への独占欲が芽生えたことによる物だ。

 

暫く詩乃からの視線に痛かったが、こうして、四季達に新たな仲間が加わったのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二話目

初戦闘を終えた翌日、駒王学園に転校してから数日が過ぎていった。なお、新しく呼び出した雫も無事転校することが出来た。

文字にして仕舞えばその程度で片付けられる事だが、学年が一つ下の詩乃と雫とは違うクラスになったが、一緒に登校する姿を注目されたり、ビルドフォンに来るメールの賞金首情報からはぐれ悪魔を狩って過ごす数日だった。

 

一番の問題は一つ。

 

「十連一回引くまで約30体のはぐれ悪魔討伐、か」

 

「先は長いわね」

 

そう、初回特典がない通常エンカウントするはぐれ悪魔では約三体倒す事で一回ガチャが引ける訳である。

流石にそこまでガチャを引きたいと思ってるわけでは無いので必死に集めているわけでは無いが、戦力強化の面から考えるとビルドの強化アイテムは早めに入手しておきたい。

科学的な技術で作られたビルドドライバー等の本体や武器は兎も角、ネビュラガスなどの成分が関係している部分は、ネビュラガスの無いこの世界では作れないのだ。

 

だが、

 

(スクラッシュドライバーは出来たけどさ!)

 

桐生戦兎の技能は伊達ではなかった様子で、無事スクラッシュドライバーは完成した。

まあ、使う予定の者もいない為、スクラッシュドライバーは完成してから即刻お蔵入りが決定したので、まだスクラッシュゼリーは作っていないが。

ドラゴンもロボットも所持しているフルボトルから摘出した成分からスクラッシュゼリーを作れば良いので、飽くまで優先順位は自分がメインで使用するビルドの強化と割り切り今のところ本体のみの製作に留めて放置している。

 

ぶっちゃけ、現状では後衛二人と前衛一人なので結局、作った所でスクラッシュドライバーも四季が使うしかないのだ。

 

 

 

 

 

ないのだが、

 

 

 

 

 

当の四季には既にビルドドライバーが有り、性能はビルドドライバーより高いとは言え拡張性の低いスクラッシュドライバーは使う必要も無く、ハザードトリガーなどの強化アイテムが手に入れば有用性は更に下がってくる。

 

それでも、ベルト自体はいざという時の為の備えの一環として作っておいた。他のボトルから新たにスクラッシュゼリーを作ってオリジナルの仮面ライダーを作るのも悪くは無いのだし。

 

そんな事をオレンジフルボトル等を眺めながら考えて居たこともあった。

仮にオレンジやパーカー等のレジェンドライダーの成分から生まれたフルボトルから更にスクラッシュゼリーを作ればどうなるのか? それは非常に興味ある問いだったが、自身や詩乃、雫の装備の作成等の優先事項に追われた結果研究には入れていない。

 

まあ、

 

「「「リア充は死ねぇえええ!」」」

 

毎朝詩乃と雫と一緒に登校していると、襲いかかってくる三人組の撃退が今は最優先であろう。

 

最初に突っ込んできた坊主頭を踏み台にしてメガネの頭を軸に平均台の要領で一回転しながら『兵藤 一誠』を蹴り飛ばし、メガネを蹴り飛ばした一誠へと投げつける。

流れるような動作で撃退を終えると、四季は坊主頭を踏み台にした際に真上に投げた鞄を受け止める。

 

この学校には有名な者が数人ほどいる。高が学園という程度の小さな村社会の有名人など大したことないと言う無かれ、学園中の生徒から名前を知られている有名な者がいる。

 

先程四季に鎮圧された三人組、兵藤一誠、松田、元浜の三人もその有名な部類に入る三人組だ。通称『変態三人組』。学校中の女子から蛇蝎の如く嫌われている変態行為の常習犯である。一説にはこの三人の変態行為が全て表沙汰になれば町の年間の犯罪件数が一気に1000件ほど増えるとも噂されている。

 

「懲りないわね」

 

「何時もの光景」

 

「こいつらに付き合ってたら遅刻するから早く行こうぜ」

 

地面に倒れふす三人を一瞥してさっさと校舎へと向かう三人だった。

 

「ちくしょ~、イケメンは敵だ~」

 

「リア充爆発しろ!」

 

「毎朝美少女二人を侍らせて登校しやがって!」

 

変態三人からの憎しみというよりも嫉妬のこもった声を聞き流しながら。

まあ、片手で詩乃と腕を組んで、片手で雫と手を繋いでの登校なのだから普通に恨みを買っても不思議ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れ放課後

 

ラビットフルボトルを手の中で弄びながら、四季は変態三人が剣道着の集団に追いかけられている姿を眺めていた。何があったかは大体想像はできる。また覗きが見つかったのだろう。

 

(帰ったら次の武器の開発に入るか)

 

そんな彼らの事を思考の片隅に放置して次の研究へと意識を向ける。

スクラッシュドライバーの時も思ったが材料の入手やそれを加工する機材の揃った施設についてはナデシコCが有って良かったと思う。

幸いにもナデシコCの中にはある程度の機材や材料は揃っていて場合によっては知識の中にある物よりも優れた物も使用できる。

例外となるのはビルドの世界特有の品であるフルボトルとその中の成分、ネビュラガスだろう。

 

オレンジなどの原作では登場しなかったり、スクラッシュドライバー開発時に手元に無かったフルボトルから生み出す新たな仮面ライダーと言うのは結構魅力的に感じてしまう。

だが、応用を試す前に先ずは確実に作れるドラゴンとロボットのスクラッシュゼリーを試作品として作るべきかと、考えを改める。

 

「試しにドラゴンのスクラッシュゼリーを作ってみるか」

 

試作品の第一号はドラゴンと決める。何度か試作を繰り返し、十分なデータが揃った所で正式な完成品のドラゴンを、次にロボットを作り、第三号以降をオリジナルから選んで行こうと思う。

 

「さて。そろそろ、二人が待ってる頃か」

 

其処で時間潰しの思考を終えると、一緒に帰る約束をして居た詩乃と雫との待ち合わせの時間もそろそろなので校門の方へ行こうとした時、何故か変態三人が居て何が話していた。

 

「ホント、懲りないな、お前ら」

 

「「「天地!?」」」

 

「邪魔すんじゃねえ!」

 

「そうだそうだ!」

 

「帰れ帰れ!」

 

「ああ、そうさせて貰う」

 

呆れた様にそう呟く四季の言葉に噛み付いてくる三人組。そんな三人に付き合ってられない、と言うよりも巻き込まれたく無いとばかりに立ち去って行こうとした時、何処からか視線を感じる。

 

「いいな~、あの赤い髪」

 

「『リアス・グレモリー』。オカルト研究部の部長。出身は北欧って噂だ!」

 

(グレモリーのお姫様、か)

 

あれだけ騒いでいれば当然だろうが、上から感じた視線の主はリアスだった。

自分達の力のことを考えるとあまり関わらない方が良いだろう相手。この学園に通う現魔王の一人の妹であり、二大お姉様と呼ばれるこの学園の有名人一人だ。

 

なお、詩乃と雫の二人も学園一年の二大美少女として有名になっていたりする。

 

そして、彼女が部長を務めるオカルト研究部の副部長である『姫島 朱乃』が件の二大お姉様の片割れである。

 

急がないと二人を待たせると思い、四季は三人組を残して足早にその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜

 

ナデシコCの格納庫の中に作ったビルドの関連の技術を研究するための簡易ラボ。

現在格納庫に置かれているのがMSサイズとは言え、アメイジングストライクフリーダム一機だけなのでかなり格納庫のスペースには余裕がある。

 

そんな格納庫の余剰スペースに簡易の倉庫を作り、簡単なベッドと空調などを整えた簡易ラボ。その中で、

 

「完ッ成!」

 

四季が高々と掲げているのは剣型の武器『ビートクローザー』。

仮面ライダークローズの専用武器だがビルドのキードラゴンの姿でも使用できる武器でもある。

最初に作ったのがドリル型のビルド専用の武装のドリルスマッシャーなので、それに続く第2弾と言うところだろう。

 

キードラゴンとクローズ。クローズドラゴンを入手した事もあり、二人のライダーの専用武装という事で二つ目の武器として制作してみたのだが、問題なく完成に至ったというわけだ。

 

「でも、作れるって分かっていてもこうして完成させられるのは嬉しいものがあるよな」

 

出来たばかりのビートクローザーを眺めながら感慨深げに頷く四季。伸びをしながら、ビートクローザーを持ってナデシコCの格納庫から出ると武器庫の中の、先に完成させたドリルスマッシャーの隣に置く。他にもそこには詩乃に頼まれたヘカートや雫に頼まれたCAD等の装備品も置かれている。

 

何時の間にか一般家庭の家の地下には似つかわしくない物騒な施設が出来上がっているが、その辺は深くは考えないことにした。……戦艦の格納庫と武器庫の時点で今更だが。

 

「そう言えば、最近街に堕天使が出入りしてる様子だな」

 

今のところ四季達が堕天使を倒したところで利益はないので、一般市民に被害が無いなら、と放置して居たが。

今更ながら、この世界の中心人物である兵藤一誠が悪魔へ転生する切っ掛けは堕天使に殺されたことではなかったかと思い返す。

 

「まあ良いか」

 

自分たちと言うイレギュラーを内包している以上、世界が知識通りに進むわけもないだろうし、倒した後に間違いでした、では済まないのだから。

 

そんな訳で堕天使達に対しては完全に自分たちに対して火の粉が降りかかるまでは無視を決め込む事にした四季だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「理由はわからないけど、どうもこの街に堕天使が数人入り込んでる様子だから、二人も気をつけてくれ」

 

夕食後の席で堕天使側の勢力が街に入り込んでいる事と、暫く様子見することを告げる。

 

「放っておいても良いの?」

 

「相手の目的が分からないからな」

 

詩乃の言葉に、だから相手の目的が分からない現状では様子見だと告げる。

この街の裏側が悪魔勢力の傘下ということは知っている。

少なくとも堕天使も表向きは悪魔と敵対関係だが共に冥界に居点を置く聖書勢力の一部である以上、裏で繋がっていても不思議はない。

 

「多少後手に回るかもしれないけど、相手が動いたら堕天使の監視をするって事で」

 

そう言って四季が取り出したのはVSチェンジャーと三つのダイヤルファイター。

巨大化する相手もいないので、その面ではグッドストライカーは必要ないだろうが、必殺技が使えないのはちょっとマイナスだろう。

 

「ライダーじゃ無くて、怪盗で、な」

 

既に三人分の正体を隠す為の赤、青、黄の三着の礼服とシルクハット、アイマスクも用意している。

 

「この服って、前から用意してたけど」

 

「ルパンレンジャーに変身するときの変装用だ」

 

詩乃の言葉にそう返す四季。礼服とシルクハットにアイマスクは変装用兼ルパンレンジャー時の正装として用意している。

 

「でも、なんだか格好いい」

 

「そうだろ」

 

「私も悪くないとは思うけど」

 

好意的な意見の雫にちょっとだけ気分の良さそうな四季。詩乃も詩乃で満更でもない様子だった。

 

「それじゃ、怪盗として鮮やかに、な」

 

楽しそうな笑みを浮かべながら告げる四季の言葉に頷く二人。そしてハイタッチを交わす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方、丁度三人が今後の行動を決めていた頃、一誠は項垂れていた。

 

「暗い青春だ~。オレの学園生活は花も実も無く終わっちまうのか~」

 

そして、忌々しげに思い浮かべるのは美少女二人を連れた四季の姿。

 

「チクショー! オレも天地の野郎みたいに両手に花が当たり前の! 薔薇色の! 薔薇色の学園生活を楽しみたいぜ!」

 

「あの……駒王学園の兵藤一誠くん……ですよね」

 

他の学園の制服を着た黒髪の女子高生が一誠に声を掛ける。

その場で彼女から告白された一誠は歓喜とともにそれを了承。翌日には変態仲間の松田と元浜にも彼女として紹介して、次の日曜日にデートをする約束をした。

 

「あの子、堕天使だな」

 

「堕天使よね」

 

「うん、堕天使で間違いない」

 

四季、詩乃、雫の三人が一誠の彼女になったと言う少女『天野 夕麻』を見ながらそう呟く。

ルパンレンジャーへの変身の訓練も兼ねて堕天使の拠点を調べた時に堕天使達の顔は確認しているし、何より一誠達の変態行動は学園の中のみならず町全体に轟いているのだ。彼女ができるとしたら町から離れて行動を自重するしかないだろう。そう確信している。(詩乃と雫の女子視点からの意見)

案外、人外の種族からなら欲望に忠実なのが純粋として好意的に見られているのかも知れないが、それはそれ。

 

そして日曜日、デート当日、ショッピングに食事、水族館デートと定番的なデートをした後、一誠と夕麻は公園を歩いていた。

 

「今日の初デート記念に一つお願いがあるの。いい?」

 

「な、何かな?」

 

内心『初デート記念のお願い!?』と興奮している姿を表に出さず微笑みを浮かべる夕麻に聞き返す。

 

「死んでくれないかな?」

 

彼女からの突然の言葉に戸惑いを隠せない一誠に光の槍を突き刺そうとした瞬間、

 

 

 

『そこまでだ、堕天使!』

 

 

 

夕麻の腕に一枚のカードが突き刺さる。

 

「ぐっ!? だ、誰だ!?」

 

夕麻の叫びに答えるように現れる三つの人影。

それぞれが赤、青、黄の礼服を身に纏い、シルクハットを被り、顔をアイマスクで隠した三人組。

 

「貴様ら、人間風情が邪魔をするな!」

 

「おっと、残念ながら邪魔をさせて貰うぜ」

 

そう言って取り出すのはVSチェンジャーとレッド、ブルー、イエローの各々のダイヤルファイター。

 

「「「快盗チェンジ!」」」

 

『レッド』『ブルー』『イエロー』

 

『0・1・0』『マスカレイズ!』『快盗チェンジ!』

 

その言葉と共に三人がVSチェンジャーを上空に向けて引き金を引き、溢れた光に包まれた三人が姿を変えるのは、シルクハット型のゴーグルをしたそれぞれのパーソナルカラーのスーツ。

 

「ルパンレッド」

 

「ルパンブルー」

 

「ルパンイエロー」

 

『快盗戦隊! ルパンレンジャー!』

 

そして、ルパンレッドは夕麻と名乗っていた堕天使へと指差し、

 

「予告する。お前のお宝、頂くぜ!」

 

そう宣言するのだった。

 

***

 

「っ!? に、人間風情が、生意気な!」

 

改めて光の槍を出して投げつけてくるが、それは堕天使の手を離れた瞬間破裂して消え去る。

手を離れたその直後にルパンブルーがVSチェンジャーで撃ち落としていたのだ。

 

「っ!?」

 

「ナイス、ブルー」

 

「ええ」

 

軽く会話を交わすと、続いてレッドがベルトのバックル部分を外してそこからワイヤーを伸ばし槍を投げた直後の堕天使の腕を絡みとる。

 

「なっ!? こんな物!」

 

「私もいる」

 

小型の光の槍を作り出して片腕に巻きついたワイヤーを切ろうとするがそれよりも先にルパンイエローのワイヤーが自由に動かせていた腕を拘束、続けざまにブルーもイエローと共に片腕を拘束する。

 

「じゃ、落ちて貰おうか、堕天使らしく、地面に、な!」

 

「ひっ!」

 

レッドの言葉と共に三人が同時にワイヤーを振り回す。なんとか抵抗しようとするが、それも虚しくそのまま地面に叩きつけられる堕天使。

 

「ぐべっ!」

 

女として出してはいけないカエルの潰れたような声を上げて、顔面から地面に落ちた堕天使の女。強く打ち付けた顔には殴打の痕と、血と土に汚れて屈辱からか鬼のような形相を浮かべていた。

堕天使の女の血と土に汚れた鬼の形相は百年の恋も冷める程の恐ろしい物だったのだろう、先ほどまでデレデレとしていたイッセーが完全に怯えている。

 

「よくも! よくも、至高の堕天使である私を!」

 

「おいおい、堕天使って天使からの落後者の集まりだろ? それが至高って」

 

堕天使の女の言葉に笑いながら言葉を返すレッド。

 

「至高の落後者? つまり、万年留年生?」

 

レッドの言葉に何気なくそう呟いたイエローの言葉に他の2人は思わず吹き出してしまう。

 

「ぷっ! ハハハハハ! イエロー、ナイス!」

 

「し……っ、レッド、笑っちゃダメよ」

 

「くっくっくっ……つまり、天使の落伍者の、堕天使界の、落第生って訳か?」

 

イエローの言葉に爆笑してるレッドと笑いを堪えてるブルーの姿に百年の恋も冷めるほどの鬼の形相を浮かべている女堕天使。

 

「ふざけるなぁ!!!」

 

見下していた人間からの侮辱に耐えきれなくなったのか、堕天使の女は怒りに震えながら光の槍を振りかざして三人へと襲い掛かろうとする。

 

「っと」

 

だが、ブルーとイエローは素早く散開し、レッドがそれを避けながら蹴りを放つ。

 

「ぐはっ!」

 

それに吹き飛ばされ、血を吐きながらレッドを睨む堕天使の女だが、何かに気が付いたのか翼を広げ、

 

「ここは一旦引くしかないけど、そこの人間ども! この至高の堕天使レイナーレをコケにした事を必ず後悔させてやる!」

 

堕天使の女、改めレイナーレは、そんな捨て台詞を残して飛び去っていく。

 

「おっと、オレ達も長居は無用か」

 

レイナーレと名乗った堕天使が逃げた理由、赤い魔法陣の出現に気が付いて、レッド達も真上へとワイヤーを投げ、

 

「それじゃあ、オ・ルボワール(ごきげんよう)

 

低空を飛んでいた三機の飛行機にワイヤーを巻きつけそう言い残して飛び去って行く。

後に残された目の前に巻き起こった光景に唖然としていた一誠の前に赤い魔法陣から現れる赤髪の女の子。

こうして、赤の悪魔と赤き龍の物語は本来の運命とは少しだけ違う流れで始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、三人組の怪盗、ね」

 

彼女、リアス・グレモリーは新たに眷属となった一誠からの話を聞いてそんな言葉をつぶやく。

赤、青、黄の三人組の快盗戦隊ルパンレンジャーと名乗る自称怪盗達に彼が助けられた事を聞いた彼女は、彼らが最近この街ではぐれ悪魔を狩っている何者かと関係あるのでは、と考えていた。

 

堕天使と戦える力を持って、互いをレッド、ブルー、イエローとコードネームで呼び合い、そのコードネームに合わせた色の礼服とシルクハット、目元をアイマスクで隠して居ただけなのに不思議と服装以外が思い出せない謎の男女の三人組。

これを怪しむなと言う方が無理があるだろう。

 

「中々興味深いわね」

 

面白そうな笑みを浮かべて彼女はそう呟く。彼女の手元には未使用の騎士、僧侶、戦車の悪魔の駒が三つ残されている。手持ちの駒には先程までは更に兵士の駒が八個残っていたが、予想を超える数を一誠を転生させるのに使ってしまった為に残るは三種一つずつだけになってしまったそれを一瞥しながら。

 

丁度怪盗の三人組と同じ数だ。自分の領地で断りもなく好き放題してくれているのだ。それを抜きにしてでもこの地の管理を任されてる者として怪盗達に落とし前は着けさせる。

だが、ちょうど三つ駒が空いているのだ、落とし前をつけた後は見所が有れば三人とも眷属に勧誘してみようとも考えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、件の怪盗三人組こと四季達三人はと言うと、

 

「さっき言ってたお宝って何のことなの?」

 

「なんとなく、その場のノリで言ってみた」

 

自宅に戻った後、怪盗用のコスチュームから私服に着替えてからそんな会話を交わす四季と詩乃。序でにオ・ルボワール(ごきげんよう)と言ったのも殆どその場のノリである。

 

「残念ながら監視に向いたガジェットは手元に無いから、オレ達の正体隠蔽がうまく行ったかは分からないけど、バレてたら監視なり接触なりして来るだろう」

 

受身にはなるが相手の動きでそれは推測するしかない。正体がバレた場合の対応とバレていない場合の対応もそれぞれ考えているので、状況を見て計画の修正が当面の予定だ。

 

「私達に先に接触して来たらどうするの?」

 

まあ、それが一番な問題点である。四季がビルドに変身して派手に活動して来たから、接触するのなら四季だけにだろうと考えて計画を立てていたが、今回の事で三人組と相手に認識されてしまっているのだ、正体がバレたとしたら二人のところにも接触があっても不思議は無い。

 

「一応、その時の対応も考えて居るけど、これの認識阻害機能が効果発揮してくれていれば、考えすぎで済むんだよな」

 

アイマスクを手に取りながらそう答える。ぶっちゃけ、アイマスクの認識阻害の機能が効いているのならば、それが一番である。

 

そんな訳で認識阻害効果が効いた場合と効かなかった場合の2パターンでの対応を決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、

 

その日は何時もの様に四季のベッドに潜り込んで寝ていた二人を起こし、二人と一緒に通学していると学園の前に人集りが見える。

何事かと思って人集りに近づくが、残念ながら何を見ているのかは其処からでは分からなかった。

 

「嘘だろう、あの変態の兵藤がグレモリー先輩と」

 

そんな時、偶然聞こえた信じられない物を見たとでも言う様な誰かの呟きが状況を物語ってくれていた。

 

「朝田さんや、北山さんが、天地の野郎と一緒に登校しているのも、心底憎いのに!」

 

一部四季への恨み節が混ざっているが、それは完全にスルーしておく事にした。

 

先日の女堕天使の一件の後、この世界の本来の流れ通りに一誠は悪魔へと転生したのだろう。

あの時に女堕天使の手で死ななかった分、イッセーが最悪の初恋と言うトラウマを背負わない事が良かったのか悪かったのか定かではないが、提示されたメリットに自分から食いついたのだろう。

その辺については自分達に迷惑さえ掛からなければ、頑張れ、と気の無い応援でもしておこうと思う四季だった。

 

リアスと一緒に登校するイッセーの姿を遠巻きに眺めている生徒を放置してさっさと学園に向かう四季達3人。

男女問わず向けられている殺意の渦の中にいるとも知らない一誠を無視して。普段は美少女二人を連れて通学しているのだから、四季の方に殺意が向けられているがこの日は静かに通学できることに内心良かったと思う四季だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠が松田と元浜にリアスと一緒に登校してきたことを問い詰められてた事を除けば、特に特筆する事なく普段の授業が終わり放課後。

部活に行く者、帰り支度をする者といつもと変わらない放課後の光景だ。だが、其処に、

 

「やあ、兵藤くんは居るかな?」

 

そんな言葉と共に教室に入って来たのは同学年の別のクラスの生徒である『木場 裕斗』。リアス・グレモリーの眷属の騎士である。

 

荷物を纏めながら多少の警戒を込めて其方へと視線を向けると、木場がイッセーを呼びに来た姿が見える。

 

「グレモリー先輩の使いなんだ、一緒に来てもらえるかな?」

 

「あ、ああ」

 

周囲の女子から上がる意味不明な悲鳴と絶叫を聞き流しているのか、気にしていないのか分からない態度でイッセーを連れて教室を出て行く木場。

 

そんな二人の様子を窺いながら、監視に使えるガジェットが無いことを惜しむ。

 

(まっ、ここで態々オカ研の部室のある旧校舎に忍び込んで会話を盗み聞きするなんて真似をしなくても良いだろう)

 

ルパンレンジャーの変装用の礼服とアイマスクもVSチェンジャーはいつでも取り出せるが、此処で相手の拠点に飛び込むのも正体を自分から教える愚行だと考える。

そんなリスクに対してリターンも少なく行動する利点は無いだろう。

 

「なんで、あいつがグレモリー先輩に!?」などと絶叫している変態三男組の残り二人を一瞥しつつ、さっさと荷物を纏めて教室を後にする。詩乃と雫の二人と待ち合わせているのだ。

 

桐生戦兎の能力があれば科学寄りの他の仮面ライダーのガジェットも作れるだろうかと考える。ダブルの擬似メモリなら上手くいけば再現も可能かも知れないが、セルメダルなどに由来するエネルギー部分の再現は少し難しいかも知れない。

 

(他の技術で補えるかは未知数だし、セルメダルとライドベンダーが当たれば手っ取り早いんだけどな)

 

そんなことを思いつつ、四季は詩乃と雫のいる一年の教室に向かう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三話目

イッセーがオカ研に呼ばれてから数日。リアスの眷属悪魔となったイッセーがオカ研に入部し、契約のチラシ配りなどの眷属悪魔の下積みを始めた。

 

残念ながらその時の会話の内容は知らないが、此処数日のイッセーの行動から考えても、何時転生したかは知らないが、彼が悪魔に転生して正式にリアスの眷属になったのは間違いはないだろう。

 

そんな中、四季は一人ではぐれ悪魔退治にやってきていた。何時もの様に怪盗の変装セット一式を身につけ、今回はビルドドライバーを装着している。

 

ルパンレンジャーの怪盗衣装でビルドドライバーと言うのは不思議な取り合わせだと感じる。

 

「さあ、実験を始めようか」

 

そんな感想を感じながら、両手に取り出したラビットフルボトルとタンクフルボトルを振り、ビルドドライバーに装填、

 

 

 

 

『ラビット! タンク!』

『ベストマッチ!』

『Are you ready?』

 

 

 

 

「OK! ビルドアップ!」

 

 

 

 

『鋼のムーンサルト! ラビットタンク! イェーイ!』

 

 

 

 

その姿を変えるのは仮面ライダービルド・ラビットタンクフォーム。

 

「オリャ!」

 

ビルドに変身すると、バイザーと言う名のはぐれ悪魔が潜んでいるらしき廃墟の入り口を蹴破り、ビルドへと変身した四季はそこへ飛び込む。

 

 

 

『ケタケタケタケタ』

 

 

 

廃墟の中に飛び込んだ瞬間、何処からか狂った様な笑い声が聞こえて来る。

 

『うまそうな匂いがするぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?』

 

暗闇の中から聞こえて来る声、探そうと思えば探せるのだがそれでも、

 

(あんまり時間はかけたく無いし、さっさと終わらせるか)

 

余計な来客が来る前に倒すと、そう思って新たに二つのフルボトルを取り出す。取り出したのは黄色のライオンフルボトル、青緑色の掃除機フルボトル。

新たに取り出した二つのフルボトルを振り、ビルドドライバーに装填していたものと入れ替える。

 

 

 

『ライオン!』

 

 

 

 

ラビットからライオンへ、

 

 

 

『掃除機!』

 

 

 

 

タンクから掃除機へ、

 

 

 

『ベストマッチ!』

『Are you ready?』

 

 

 

「ビルドアップ!」

 

 

 

『たてがみサイクロン! ライオンクリーナー! イェーイ!』

 

 

 

赤と青のラビットタンクから黄色と青緑のライオンクリーナーへと変身すると、声の聞こえた大まかな方向へと左腕のロングレンジクリーナーを向けて、

 

「さあ、掃除を始めようか」

 

その吸引力を全開にし、其処にいるであろう、はぐれ悪魔、バイザーを無理矢理引き寄せる。

 

『う、うがぁ!』

 

突然物凄い吸引力で引き寄せられた事に驚愕しているバイサーを他所に、ライオンクリーナーは右腕のライオンの頭部を模した、ゴルドライオンガントレットを構え、

 

「せいっ!」

 

射程距離に無理矢理引き寄せられたバイサーに放ったライオンアームの一撃によって地面に叩きつける。

 

「さあ、出てきて貰ったところで改めて、実験を始めようか」

 

「に、人間風情がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

強烈な一撃によって地面を転がり激昂したバイサーはライオンクリーナーを踏みつぶそうとして襲い掛かる。

見上げるほどの巨体、四作の獣を思わせる下半身の頭の部分に人間の女性の上半身が生えたと言う異形の姿の怪物だが、

 

(発勁の要領と、ライオンフルボトルのボディのエネルギー弾を撃ち出せる能力)

 

ライオンレフトボディの能力を思い出しつつ、先日のことを再現する方法をイメージして、

 

「破っ!」

 

ゴルドライオンガントレットから撃ち出されたエネルギー弾が踏みつぶそうと向かってきていたバイサーを吹き飛ばす。

 

「がっ、がぁっ……」

 

(加減がわからないから手加減して撃ったけど、貫通力よりも吹き飛ばすって言う面に特化してるな、これは。これはこれで役に立ちそうだな)

 

そんな事を考えながらクリナーによる吸引からの殴り飛ばしのコンボを何度もバイサーへと叩き込む。

 

ライオンボディは強力だとは思うが、ライオンフルボトルはマシンビルダーを使うためにも使用するので、あまり気軽に変身には使えないだろう。

だが、それでも手札として持っている以上は使い勝手の確認をしておいた方が良いだろうと考えてのライオンクリーナーの選択だったが、思いの外使い勝手が良い。

 

(ライオンフルボトル、フォームとしても使えるし、バイクの起動にも必要。結構重要度が高いボトルだな、これは)

 

「貴様ぁ!」

 

高が人間だと言う侮りはバイサーの中から消えていた。目の前の相手は確実に始末しなければ自分の命が危ない相手。

かつての主人を殺して逃げ出して、やっと自由になれたと言うのに、目の前の訳の分からない人間に殺されたくは無い。

だが、その判断はすでに遅かった。

 

「これで終わりだ!」

 

 

『ボルテックフィニッシュ!』

 

 

ビルドドライバーから響き渡る電子音声。クリーナーの吸引力でバイサーを拘束し、ゴルドライオンガントレットからライオン型のエネルギー弾を放つ。

 

「はぐれ悪魔のバイ「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」」

 

 

 

叫び声をあげながら、ライオン型のエネルギー弾に飲み込まれ、そのままバイザーは跡形も爆散する。

序でに爆発音とバイサーの断末魔の叫びで誰かの声がかき消された。

 

(分身とかじゃ無く、間違いなく奴の本体だな)

 

周囲にバイサーらしき気配は無い、そうバイサーらしき気配は、だ。間違い無く先ほどバイサーを倒した事を確信すると廃屋の出入り口へと向き直る。

 

「貴方は何者なのかしら?」

 

そんな声と共にライオンクリーナーが確認出来たのは数人の男女の姿。

それを確認すると、ビルドドライバーを外し、元の赤い怪盗姿に戻る。

 

「そうだな、最近売り出し中の怪盗って所だな」

 

振り返りながらそう名乗った四季の前にいるのは、上級悪魔で有る赤い髪の女リアス・グレモリーを王とした彼女の眷属達。金髪のイケメンが騎士の『木場 祐斗』、黒いポニーテールの女性が女王の『姫島 朱乃』、白い髪の小柄な少女が戦車の『搭城 小猫』。最後に堕天使に襲われた事をキッカケに眷属になったであろう、イッセーの計五人だ。

恐らく、彼女達もはぐれ悪魔のバイサーの討伐に来たのだろう。

 

「怪盗? 随分とふざけた答えね」

 

「さあてね、本当に怪盗なんだから仕方ないだろ」

 

怒気を孕んだリアスの言葉を受け流す様に四季は飄々とした言葉で返す。

 

「他にも二人、青と黄色の怪盗がいるってこの子から聞いたんだけど、お仲間は何処にいるの?」

 

「三人揃ったオレ達に会いたかったなら残念だけど、今回はオレ一人しかいないぜ」

 

「まあ良いわ。貴方は何者? 何が目的で私の領地で好き勝手しているのかしら? 先ずは、そうね。その仮面を外して、腹を割って話してもらおうかしら」

 

リアスの言葉に臨戦態勢に入るイッセーを除いた彼女の眷属達。リアスからの命が有れば直ぐにでも動ける態勢だろう。

実戦経験のないイッセーだけは戸惑っている様子だが。

 

「腹を割って、ね」

 

彼女の言葉に不敵に笑いながら四季は、

 

「悪いがそれは……お断りだ!」

 

『ライオン! 掃除機! ベストマッチ!』

『Are you ready?』

『たてがみサイクロン! ライオンクリーナー! イェーイ!』

 

再びライオンと掃除機フルボトル装填済みのビルドドライバーを装着し、ビルド・ライオンクリーナーへと変身する。

 

「さあ、実験を始めようか」

 

変身を完了した後に発したその言葉が第二ラウンドの開始のゴングとなった。

 

***

 

「裕斗!」

 

「はい!」

 

リアスの言葉に従い、最初に彼女の眷属の騎士である木場が自身の神器(セイクリッド・ギア)の力で作り出した剣を構え、人では視認できない速さで駆ける。

 

「祐斗の役割は『騎士(ナイト)』。特性はスピード。『騎士』となった者は速さが増すの。そして、祐斗の最大の武器は剣。それが祐斗の力。目では捉えられない速力と、達人級の剣捌き。二つが合わさる事で、祐斗は最速の騎士となる」

 

リアスの言葉に『おぉー』とでも言うような表情を浮かべているイッセー。

確かにビルドでもフォームによれば木場の速さを視認するのは難しいだろう。だが、

 

「今のオレとの相性は悪すぎたな」

 

「っ!?」

 

左腕のクリーナーを上げて無理矢理引き寄せる。元々パワータイプではなく、スピードタイプの木場がクリーナーの吸引力に抗う事などできる訳は無い。

どんなに素早く動こうとも動けなくして仕舞えば意味は無く、体勢が崩れていれば達人級の剣の腕前も発揮出来ない。クリーナーボディと木場の相性は最悪と言って良いだろう。

 

「……吹っ飛べ」

 

だが、別の声が響く。リアスの眷属の戦車である小猫。彼女は小柄ながら木場とは正反対の純然なパワータイプ。その小柄さとパワーで吸引力にも抗えるのなら、クリーナーの吸引力の影響の少ない側からなら十分に接近できる。

木場へと意識が向いていた隙にライオンクリーナーの懐へと飛び込み、拳を放つ。

 

「ま、待った!」

 

慌てて彼女を止めようとするライオンクリーナー。だが、彼女の拳はライオンボディの胸部分に直撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は小猫ね。あの子の駒は『戦車』。『戦車』の特性は到ってシンプル。バカげた力と、屈強なまでの防御。あの慌てようなら……」

 

リアスの説明とビルドの慌て様から、これならと言う表情を浮かべるイッセーとリアス。だが、彼が心配していたのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くっ! な、なんで……」

 

「いや、このボディってかなりの強度だから、素手で殴ったら危ないって言おうとしたんだけど」

 

ビルド・ライオンクリーナーを殴った小猫は拳を押さえながらしゃがみ込む。彼女の拳の骨にはヒビが入り血が吹き出ていた。一方、拳を受けた側のライオンクリーナーは仮面で表情こそ分からないが、寧ろ殴った側を心配してさえいる。

 

ライオンクリーナーのライアチェストアーマーは武器を使った物理攻撃をほぼ通さない、ダメージを与えられるのは自身の爪ライアメタルクローのみと言うトンデモ性能なのだ。そんなボディに対して、生身の相手が素手で殴れば怪我をするのは相手の方だろう。

ライオンクリーナーとしては全力で、しかも素手で、そんな自分のボディを殴ろうとしたから慌てたのだ。

 

「小猫ちゃん!」

 

「っ!」

 

木場の言葉に反応して拳の痛みをこらえながらライオンクリーナーから離れる小猫。

新たに作り出した2本目の魔剣と合わせて両手に持った魔剣を地面に突き刺して吸引力に耐えていた木場だが。

 

魔剣創造(ソードバース)ゥ!!!」

 

意を決して両手の剣を手放して地面に手を触れてライオンクリーナーへと向けて大量の魔剣を作り出す。

剣と言うよりも刃の草原とでも表すべき物が作り出されたライオンクリーナーを飲み込んでいく。

 

(そもそも、連中と戦う理由ってのも無いんだよな。丁度いい、向こうが目眩ししてくれたんだ、これを利用して……退かせてもらうか)

 

自身の周囲に現れた魔剣をライオガントレットを振るって安全地帯を作ると素早く新しいフルボトルを二つ取り出す。

 

 

『オクトパス!』

 

 

最初はライオンから桃色をしたタコのオクトパスフルボトルへ、

 

 

『ライト!』

 

 

掃除機から薄黄色のライトフルボトルへと変え、

 

 

『ベストマッチ!』

『Are you ready?』

 

 

「変身!」

 

 

『稲妻テクニシャン! オクトパスライト! イェーイ!』

 

新たに変身するのはタコとライト、墨を吐く生物と発光するツールの、一見ミスマッチなベストマッチの組み合わせによる桃色と薄黄色のフォーム、『仮面ライダービルド・オクトパスライト』。

 

「それでは皆さん」

 

左肩の発光装置「BLDライトバルブショルダー」から光を放ち一瞬視界を奪うと、墨でリアス達を包み完全に視界を閉ざす。

 

オ・ルボワール(ごきげんよう)

 

視界を奪ってそのままさっさと廃墟から逃げ去っていくオクトパスライト。ご丁寧に入り口から、だ。

 

そして、廃墟から出るとライオンフルボトルを取り出しビルドフォンを変形させたマシンビルダーを使って走り去る。

 

聞こえてきたバイクのエンジン音と、取り戻した視界でビルドに逃げられた事に苛立ちと悔しさを覚えるリアス達が残されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くマシンビルダーを走らせた所でビルドドライバーを外して変身を解除し、礼服とシルクハットから私服に着替え、アイマスクを外す。派手な変装を解けば目立つ事もないだろう。

 

(手札の幾つかは見られたけど、フォームの多さには平成ライダートップ級のビルドだから、それは問題ないか)

 

ライオンクリーナーとオクトパスライトの力を知られたとしても、たった二つ程度知られた所で問題はない。

 

(それよりも)

 

マシンビルダーのスマホの画面(巨大)に映し出された『原作イベント遭遇特典、ガチャ十一連(10回+オマケの一回)チケット』の文字。

 

(アイツらに関わり合いになるメリットはあるって事か)

 

深く関わるのには、はぐれ悪魔の30体分の価値はあるというのは分かるが、正体を知られると言うデメリットはある。

 

(まあ、上手くそこは調整してみるか)

 

面白い考えが浮かんだと言う笑みを浮かべる四季。

 

思い浮かべるのは以前作って見たスクラッシュドライバーの事だ。それの実験も兼ねた使い道が出来た。

 

帰宅後、既に寝ているであろう二人を起こさない様に地下格納庫の中のナデシコCの中にあるラボに行くと、新しいスクラッシュドライバーの設計図を引き最後に『(弱)』の文字を綴る。

意図的にドライバー全体のスペックを大きく引き下げ、更に一度変身解除すれば再生不可能なレベルで内部がスクラッシュゼリーを巻き込んで自壊する様に調整した代物だ。

 

正規の開発者の桐生戦兎の能力のおかげで性能の改悪は簡単に出来た。自壊機能は苦労したが、其方も比較的早く終わる。

 

「良し」

 

次にドラゴンフルボトルの成分をゼリー状にする準備をする。意図的な劣化を加えて通常は青のドラゴンスクラッシュゼリーが、劣化版では赤くなるだろう。

正規版を作った場合取り違えたくないので色などのすぐに分かる違いを持たせておきたいのだ。

 

「劣化版スクラッシュドライバーと、劣化型スクラッシュゼリーの設計完成」

 

通常のフルボトルよりも強力な筈のスクラッシュゼリーでありながら、これなら通常のフルボトルでも対応できる程度のスペックに抑えられる。

 

「これをイッセーに渡して、その程度の干渉で原作への介入ってことになるか試すのも良いだろう」

 

フルスペックのスクラッシュドライバーとスクラッシュゼリーをイッセーに渡して、後々敵対する事になったら困るので、一度だけの使用が終われば勝手にスクラッシュゼリーを巻き込んで自壊してくれる様にしておいたので、万が一の事は少ないだろう。

 

“悪魔側に自分の技術が渡る”と言う点が問題だが、この世界ではフルボトルの成分を入手できるのも、生成出来るのも自分だけなのでそれも問題はない。

スクラッシュドライバーだけでは駄目なのだ、スクラッシュゼリーと両方があってこそ初めて仮面ライダーには変身できる。

 

一通り作業を終えると今更になるが眠気を思い出し、自室に戻るのも、ナデシコCの居住エリアに行くのも面倒になったのでそのままナデシコCのラボに置いておいたベッドを利用して就寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、朝食を取った後、休日を利用して詩乃と雫の二人とともにガチャ部屋に佇む四季の姿があった。

 

「それで戦力の底上げになるから、早速貰ったチケットを使う訳ね」

 

「ああ、せっかくのチケットだからな」

 

「ちょっと楽しみ」

 

初めての光景にワクワクとした様子の雫と、楽しみと言う様子の詩乃。希望があれば自分の代わりに回しても良いと言ったが、今回は四季に譲るそうだ。

 

「じゃあ」

 

十一連ガチャを回して機械から排出される11個のカプセル。手に手に入ったのは、

 

 

 

『ビルドのハザードレベル1』×5

 

 

 

先ず、その内五つは見事にダブった。しかし、一つ使用する事にハザードレベルの取得と一上昇する便利なアイテム。しかも、ノーリスクでだ。

この場にブラッドスターク(エボルト)が居るなら絶対に欲しがるだろう。これだけでハザードレベル5は確定する。

そして、次の二つは、

 

 

『桜井小蒔の技』

『美里葵の術』

 

 

これだった。共に今四季がお世話になっている龍麻の力と同じ魔人学園シリーズのヒロインの二人の力だ。弓術の技と回復の術の二つ。

 

「じゃあ、こっちは詩乃に」

 

「ええ。でも、こんなに簡単に貰うのはちょっと気が引けるわね」

 

詩乃が手に入れたのは純粋な技だけでは無く、桜井小蒔自身がそれまで磨いて来た技術も含まれている。そんな技術までも簡単に貰ってしまうのには思う所が有るのだろう。

 

「なら、私はこっち。良い?」

 

「ああ」

 

雫が希望したのは残された術の方。科学が関係していない純粋な魔法と言っても良い力に微笑みを浮かべる。

 

そして残りの三つは、

 

 

 

『ハザードトリガー』

 

 

 

「ヤッベーイのが来た!?」

 

スパークリングを飛び越えて、危険な品物が出てしまった。

当然それはビルドに変身できる四季の物だが、ラビラビタンタンになれない限りは、ビルドの戦力強化ではあるが使うに使えないのが出てしまった。ビルドの暴走スイッチである。

 

そして、残念ながら残りの二つはラビラビタンタンのフルボトルでは無かった。

 

「えっと、これって」

 

「悪い、オレもなんって言って良いか分からない」

 

「ドンマイ?」

 

「ああ、それで合ってるかもしれない……」

 

カプセルの中身に対してなんと言って良いか分からないと言う表情の詩乃と、納得したと言う様子の四季、そんな四季を励ましている雫。

カプセルの中身は、

 

 

 

『天之麻迦古の弓(東京魔人学園)』

 

 

 

ガチでヤバイのがまた来た。日本神話に登場する弓である。こんな物持ってて日本神話にケンカを売ってしまわないかと不安になるし、神話に出て来るような武器が二つある事になるが、一応は魔人学園に登場する武器になるので、この世界のものとは違うが。

 

「一応、詩乃に使って貰うしかないけど」

 

この中で弓が使えるのは詩乃だけだが、

 

「あ、ありがとう。でも、こんな貴重な物簡単には使えないんだけど」

 

女の子に送るには色気のないプレゼントになってしまった。取り敢えず、お蔵入りが決まった瞬間だった。

 

そして最後は、

 

 

 

『天叢雲(魔人学園)』

 

 

 

「「「………………」」」

 

またまたヤッベーイのが来た。この世界にも存在している武器で誰も剣、それも誰もこの剣が分類されている日本刀は使えない。

即座に使用者が決まらない内にお蔵入りが決まった瞬間だった。

 

そして、最後の一個に四季は視線を向ける。

ある意味危険物との連続エンカウントのトドメとしては妥当なものだろう。

その中に有るのは微妙に形の違うビルドドライバーとハザードトリガーの色違いのセットアイテム。

 

 

『エボルドライバー+エボルトリガーセット』

 

 

セット販売されたエボルドライバーとエボルトリガーだった。エボルボトルはないが、十分に危険な品物だった。

 

「エボルトでも現れる予兆なのか、これ?」

 

思わずそう呟いてしまう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四話目

武器は兎も角、ビルドの強化アイテムであるスパークリングとフルフルラビットタンクフルボトルは必要な成分を入手する方法がないため、事実上四季には作り出せない代物で有る。

パンドラパネルが必須なジーニアスボトルなどその最たる物だ。

つまり、

 

「制御出来ない強力な力は危険でしか無いからな」

 

手に入れたばかりのハザードトリガーは、現状、それを制御する方法が無いと言うわけで使わない事を決めた。

だが、せっかく手に入れたのだからと、ハザードトリガーを倉庫の一角に置き、念の為にいつでも扱えるようになってしておく。

次に専用の変身用のボトルは無いとは言え、現状最大の問題のエボルドライバーとエボルトリガーだが……

 

「このまま二度と見ないことを祈ろう」

 

変身用のボトルは通常のフルボトルで代用できるが、そう言って問答無用で金庫の中に押し込む。

変な物、主にエボルトとかその他のブラッド族の意思が宿ってても困るので問答無用での封印処置だ。

 

見つかったら問題はあるが、剣と弓に関してはいつでも使えるように倉庫内に置かれているのでそれは良いとして、

 

自分のビルドドライバーの隣に置かれたハザードトリガーについては、このままお蔵入りにするには強力なカードなのでいつでも使えるようにしておいた。

 

当面はチームではVSチェンジャーを、個人ではビルドドライバーで戦うつもりだが、使える手札はあって困る事は無い。

……流石に使えても宇宙戦艦は簡単に使う気は無いが。いくら何でも、宇宙戦艦持ち出すのは普通にオーバーキル過ぎる。当然ながら巨大なMSサイズのアメイジングストライクフリーダムの方は使えるかもしれないが。

 

そして、其れが目出度いかどうかは疑問だがイッセーが原作通り悪魔に転生したので、多少前倒しに物語が進んでいく程度で世界の流れは安全に進んでいくことだろう。

……超常的な力を扱うテロ組織なんて物が存在している時点で、其れが安全かどうかは別として。

 

(さて、エクスカリバーの一件までは全部イッセー達オカ研に丸投げで良いか)

 

レイナーレの一件はアーシア・アルジェントという少女の今後に関わる為あまり干渉する気は無く、フェニックス家の三男(ライザー・フェニックス)との婚約については悪魔の貴族のお家騒動には完全に無関係なのだから、下手に首を突っ込まなければ巻き込まれる事は無いだろう。

精々することと言えば、後者の時に実験を兼ねて使い捨てのスクラッシュドライバーを貸す程度。飽くまで予定ではあるが、当面はその程度の動きだけの予定だ。

万が一の場合、街全体が危険に晒されるエクスカリバーの一件には関わらないと言う選択肢はない。

 

「まあ、オレ達と言う異物がある以上は本来の流れ通りには行かない、か」

 

四季達がルパンレンジャーとしてレイナーレの行動の邪魔をした事でイッセーが殺されず、その場で事情を聞いて本人の合意の上で悪魔に転生した事は良い例だ。

初恋の相手が碌でもない悪女で、その初めての彼女に殺されると言う最悪の初恋をしなかった事で物語が原作と言う流れよりも良い流れに乗れれば、この世界に紛れ込んだ異物である自分の価値も有るのではと思いたい。

 

「ん? よく考えたら、あの変態が女関係にトラウマ抱かないことで……。早まったか、オレ?」

 

一瞬変な方向に思考が向かってしまう。女関係にトラウマと言うほどではないにせよ、最悪の初恋がある程度今後イッセーの犯す性犯罪の抑止になっていたのではと思ってしまう。

外見は悪く無いだろうし、多少変態行為が収まれば、女子からの評価も上がりそうな物だが。

 

「ひ、否定できないのが辛い」

 

実はイッセーの成長、と言うほどではないにしろ、其れなりに大事なフラグを善意でへし折ってしまったような不安が集ってしまうのだった。

 

「ま、まあ、それはそれとして……」

 

詩乃と雫の二人と別行動して倉庫に一人で居るのには訳もある。

思考の中に浮かんだ不安を振り払うように、その訳とも言うべきそれへと視線を向ける。

 

いつの間にか倉庫の片隅に出来た小部屋に存在していた小型の装置だが、起動していないそれの機能はシンフォギアXDに出て来る完全聖遺物ギャラルフォルンと近い性質、機能を持って居るのが分かった。

 

(異世界への移動装置は良いとして、行ける世界が)

 

 

 

・ソードアートオンライン

・魔法科高校の劣等生

 

 

 

自分と関わった二人の存在している、若しくは存在していたであろう世界の名前だけがリストに浮かんでいる。

そして、それを送った張本人であろうものからのメッセージ。

 

(それぞれの世界でBADENDを迎えた選定事象で命を落とした彼女達本人の転生したのが今の二人、か)

 

詩乃の方はその原因には、すぐに見当がつくが、実は雫の方は中々想像が出来ない。

ガチャから出て来るのは本来の世界での選定事象となる終わりを迎えた世界で死んだ者達の転生した者。だが同時にそこには元の世界に幾つかの未練を残している。

この装置は未練を残した世界に於いて残された未練を解決するための品物らしい。

 

(彼女たちの生きた世界を救う為の、ヒーローの出張サービスって所か?)

 

BADENDを迎えた世界を少しは良い方向に持って行くためのヒーローの出張サービス。ヒーロー……仮面ライダーとスーパー戦隊に変身できるのだからそれでも間違いはないだろうが。

持って行けるかは別として、向こうでの拠点と考えるとナデシコCの存在はありがたいのかもしれない。

 

「まあ、直ぐに何か起こるって訳でも無さそうだし、暫くは保留か」

 

関係者がいないと起動できないかもしれないが、それはそれ。正式にそれが起動しない以上は考えても仕方ないだろう。

 

ハザードレベル上昇のスキルについては完全に放置だ。自分のハザードレベルがいくつかは分からないが、ビルドドライバーは問題なく使えるのだから、今の所は問題無いだろう。……ハザードトリガーを使う時には不安だが、フルフルラビットタンクフルボトルが無いのなら、危険なのは大して変わらないだろう。

 

当面の目的であるレイナーレ一味への対処として影で動くとしても、全面的に放置するにしても、イッセーの成長フラグを潰すのは今後のことを考えるとどうかと思い、暫くは裏方として動こうと考える。

 

そう考えをまとめ、この時点で町一つなら制圧できそうな代物が多々有る武器庫を閉めて部屋の中から立ち去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四季が手に入れたエボルドライバーセットの扱いに頭を悩ませていた頃、イッセーが契約で向かった先の家ではぐれエクソシストと遭遇したと言う事件が起こっていた事を追記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、これは?」

 

イッセーがはぐれエクソシストと遭遇していた夜、四季は詩乃がテーブルの上に置いた3枚のチケットに視線を落としていた。

 

「ええ、買い物に行ったら貰ったんだけど」

 

詩乃曰く、買い物に行ったら福引をやっていて、丁度一回分出来たのでやってみたら、その景品として貰ったそうだ。

 

ちょうど三人分の食事券、かなり高級なレストランの物だ。だが、問題はその店が有る地名で有る。

 

 

 

『米花町』

 

 

 

とあった。一年の間に何度も殺人事件が起こるとネタにされている名探偵コナンの舞台で有る。

考えてみれば自分達がいる世界はハイスクールD×Dの世界とは思っていたし、実際にその通りに起こっているが、他の世界の要素が混ざっていないとは限らない。

 

「まあ良いか」

 

人間相手なら問題無いだろうと考えてスルーする。やろうと思えば銃弾を素手で掴むことも出来るのだし。

ビルの爆破は春の風物詩、犯罪が横行し人が死に、ほぼ数日で殺人事件の犯人を逮捕できる警察の最精鋭部隊がいる日本の犯罪都市(ギャグ的なイメージで)、米花町。

 

怪物がいないだけで下手な仮面ライダーの舞台並みの危険地帯である。

場合によっては風都と危険度は良い勝負だ。……ドーパントが居ないだけの差で。

 

風都よりはマシだが、米花町にある高級レストランの食事券、どう見ても殺人事件の招待状にしか見えない。

風都タワーのイベントに行って蟹のドーパントと戦う二人の仮面ライダーに加勢する方がまだ安全かもしれない。

まあ食事券に期限は書いてないので、すぐに行かなければ安全だろう。

 

「今回の事件が終わったら三人で行こうか」

 

「ええ」

 

「うん」

 

まあ、それはそれで嫌な予感もするが、事件に巻き込まれたら、最悪ルパンレンジャーなり仮面ライダービルドなりに変身して問答無用でボコボコにして犯人を捕まえれば良い。

そんな事を考えていた。そう、全力全開の力技である。

 

 

 

 

まあ、この判断が後に一騒動の原因となるのだが、この時の三人には知る由もなかった。

 

***

 

入手したアイテムとスキルの分配が行われた後、四季たちにとっては何事も無く数日が過ぎた。

 

その間にイッセー達にはイッセーが契約者の所に向かった際にはぐれエクソシストに遭遇したり、アーシアと再会したり、アーシアが悪魔に転生したりとそれなりに濃厚な日々を過ごしていた様子だった。

 

なお、自分の邪魔をして散々コケにしてくれた三人組、四季達の変身したルパンレンジャーに一矢報いる事なく、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が覚醒したイッセーに吹き飛ばされ、リアスの滅びの魔力によって消滅させられた最後は無念であった様子だ。

 

そんな平和な日々が続く中、四季は妙な噂が気になっていた。

 

 

『正体不明のコウモリ男』

 

 

と言う噂だ。

夜な夜な町を飛び回るコウモリのような翼を着けた男がいる。近くでその顔を見た時、暗くてよく見えなかったが顔が羽根を広げた蝙蝠の様に黄色く輝いていたと言う噂だ。

最近流れ始めた噂だが、妙にその特徴が一つの、自分の持つ力と関わりのあるヴィランをイメージさせる。それは、

 

 

『ナイトローグ』

 

 

だ。トランスチームガンもバットロストボトルも無いので、ナイトローグだったとしても自分の所からの流出ではない事は確かだったが、妙に引っかかるものを覚えた。

 

(仮面ライダービルドはこの世界には、本物も特撮も存在していないはずなのに)

 

と言う疑問だった。そんな疑問も抱くのも当然だろう。

バットフルボトルは手持ちにも存在しているが、飽くまでそれはベストマッチ用のフルボトルで、成分は同じなのでトランスチームガンで使えば変身することも可能だろう。

だが、それだけだ。手元にあるフルボトルの有無は確認済みであるし、肝心の変身アイテムであるトランスチームガンは存在していないし、作った覚えもない。

故に、この世界にはナイトローグが四季と関係なく誕生する事などあり得ない筈なのだ。

 

そんな訳で、今の段階では単にナイトローグに似ているだけのコスプレした悪魔という可能性もあるので、今はまだ放置しておく事を決めた。

 

もうすぐ調べるには丁度良い、グレモリー眷属が町を離れる時期が来てくれているのだから。

ナイトローグ(仮)の調査はその時期に合わせて行おうと考える。最悪の場合には危険な賭けだが、非常手段のハザードトリガーもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、イッセー達オカ研メンバーが学園を休み始めた。

こっそりとイッセーにつけておいた蜘蛛型の監視メカでオカ研の情報は仕入れていたので四季の予想通り、原作通りに事態は動いてくれていると言って良いだろう。

 

なお、実は蜘蛛型監視メカに着いては意外と簡単に作ることが出来た。流石は天才物理学者の能力、と言ったところだろう。武器製造だけでなく自力でガジェットを作れると言うのは有り難かった。一定時間の録画、録音を行なった後に帰ってくる簡単なものだが、逆に気付かれ難いだろう。

 

会話の内容によれば、オカ研の部室にリアスの婚約者の『ライザー・フェニックス』が現れ、リアスの兄の女王が持ってきた両家からの提案により、リアスの婚約解消を賭けたレーディングゲームの開催が10日後決まったのだが、

 

「ねえ、悪魔の流行って何年も続くの?」

 

「普通に人間並みとは思うけど、怠惰も悪魔の性質らしいからな」

 

「じゃあ、その分流行も長続きするのかも」

 

リアスの大学卒業まで結婚しないと言うのに、何年も前から式場やドレスを選んでどうするのかと思う三人であった。

 

特に結婚式に於いて主役となる女性である詩乃と雫にしてみれば、そんなに早くドレスを決めても結婚式をあげる頃には既に時代遅れになっていると言う意見だ。

 

「まあ、今も貴族制が続いていて、悪魔の駒の問題点の改善や、それに対する最低限の法改正もしない連中だ、人間の1日が連中の一年なんだろ」

 

四季のその一言で納得する二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアスの婚約解消を賭けたレーディングゲームの開催が決まった翌日。猶予期間の十日間の間、グレモリー家所有の人間界の山の中で特訓が行なわれる事となった。

 

非公式とは言え多くの魔王を始め貴族が観戦する中でのデビュー戦。

しかも、相手は高い勝率を持ち間違い無く未経験者のデビュー戦には相応しくないカードだ。

練習試合でも無く、リアスの結婚を賭けた試合だが、同時に勝利した場合に得る物は大きい。

格上の相手に対して騎士と戦車の二つも無く、僧侶の眷属も新たに入ったアーシア以外のもう一人は封印されていると言うハンデ戦。不利に不利を重ねた悪条件による試合だが、勝利できたのならリアスの夢への大きな第一歩となる。

 

それだけではない。魔王や貴族達からの賞賛と大きな評価と期待。まだ下級の彼女の眷属達の昇級の機会に、それに伴うそれぞれの望みを叶える機会を掴む可能性を得られる。

 

己のためだけで無く、眷属達の願いや望みのためにも負けられないと告げるリアス。特に、上級悪魔になり、自分の眷属を持つ事でハーレム王になると言う夢を持つイッセーは、

 

「って事は、このゲームに勝てば部長の結婚が無くなるだけじゃ無くて、オレが長年夢見た『ハーレム王』になるって言う願いにも近づけるんですね!?」

 

「ええ、その通りよイッセー。眷属の願いが叶うのは主人である私も望んでる事なの」

 

神を殺す可能性を秘めた力を持つイッセー。彼が今回のゲームにおける切り札となり得る存在だ。

神器は持つ者の想いによって力を発揮する。イッセーが強く勝利を望むのならば、レイナーレの時のように大きな力を発揮する事が出来るかもしれない。

神を殺す滅神具(ロンギヌス)の一角は数で負けているリアス達にとって最強の切り札となる。だからこそ、より強く勝利を望むであろう言葉を告げる。

 

「もし、貴方が今回のゲームで功績を残せたら……貴方のお願いを何でも叶えてあげるわ」

 

「な、なんでも? なんでもっすか!? い、よっしゃぁあっ! だったら尚のこと、あんなイケすかねえ金髪ホスト野郎に、部長を渡すわけにはいかねぇ!!! リアス部長、オレ、やって見せます! 今回のレーディングゲーム、部長の為に必ず勝って見せます!!!」

 

隣で可愛く膨れてるアーシアを他所にリアスからの発破に一人やる気を燃え上がらせていた。

リアス自身も勝てたとしたら一番活躍するのはイッセーだと思っているので彼の活躍を心から期待している。

 

(オレが勝ったら詩乃ちゃんや雫ちゃんも眷属に加えて貰って、オレが眷属を持てるようになったらアーシアと一緒に交換して貰えば……)

 

自分が眷属を持てるようになればハーレムに加わって貰いたいと思ってた二人が同僚になった時の事を妄想している様子のイッセー。

 

(それだけじゃない、先輩悪魔として、手取り足取り、あんな事とかそんな事とかも出来るかも……。よっしゃ! あのホスト野郎だけじゃねえ! 四季の野郎にも絶対に負けられねえぜ!!)

 

その時のことを妄想しながらイッセーがグヘヘと笑っていた時、二人は寒気を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、グレモリー眷属の居ない駒王町ではもう一つの事件が起こって居た。

 

「がっ!」

 

「君達の百害しかない夢では無く、僕等の為にその命を使ってもらいましょうか」

 

廃墟に倒れる、この町にいるもう一人の魔王の妹であるソーナ・シトリーの兵士『匙 元士郎』の胸を踏みつける、噂の蝙蝠の怪人ナイトローグ。

蝙蝠の仮面の奥で怒りとも憎悪とも取れる感情を抱きながら冷酷に言葉を告げる。

 

「精々僕等の手駒として僕等の望む未来の為に活躍してください」

 

 

『リュウガ』

 

 

禍々しい声がナイトローグの取り出した時計のようなものが響くと、ナイトローグはそれを匙へと向けて落とす。

 

彼の中に消えて行ったそれはゆっくりと彼を変える。

 

「君は今日から、紛い物の仮面ライダー……リュウガです」

 

『あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』

 

アナザーライダーリュウガへと。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

ライザーとのレーティングゲームに向けて、山籠りに行ったイッセー達の特訓については放置する一方で、四季はナイトローグ(仮)に対する調査で動き回って居た。

 

現在は町の管理はソーナ・シトリーが行なっているそうなので気をつける事には変わりないが、それでも以前よりは動きやすくなっている。

 

(それにしても、何でナイトローグなんだ?)

 

そんな疑問が沸く。トランスチームガンの他にもネビュラスチームガンが存在し、二つのスチームガンにはナイトローグの他にもブラッドスタークにブロスシリーズとカイザーシリーズが存在している。

元々トランスチームガンがネビュラスチームガンを元に開発されたものと考えれば、パワーアップの余地のあるカイザーやその発展系のブロスの方を選択することも出来たはずだ。

単純に技術的に其処まで行ってないだけかも知れないが、それでも……。

 

(まあ、コウモリ男を捕まえてから聞けば良いか)

 

己の中の疑問にそう決着をつけ、意識をナイトローグを探す方へと向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちわー、契約に参りましたー」

 

とある廃墟に契約のチラシから呼び出されたのは、ソーナの眷属である『匙 元士郎』。

呼び出された場所の不気味さに身震いするも、自分を呼んだであろう契約者に声を掛ける。

 

「た、助けて!」

 

そんな彼の言葉に答えるように一人の青年が助けを求めながら、廃墟の中から飛び出してくる。

 

「ちょっ、一体何があったんですか!?」

 

「わ、分からない、友達と一緒に肝試しに来て……」

 

己とそれ程変わらないであろう年齢の青年が言うには、友人達と一緒に肝試しに廃墟に来て、その余興に契約のチラシを使って悪魔を呼び出そうとしたらしい。だが、その最中に怪人が現れて彼らを襲ったそうだ。

 

「分かりました、あなたはここに居てください」

 

そう言って青年をその場に残し、カメレオンのオモチャを思わせる自身の神器を出現させ廃墟の中に入り込む。

 

町に入り込んだはぐれ悪魔かと考え、自分一人では拙いかと主人であるソーナにも連絡を入れ、応援を頼んだ時、ゆっくりと廃墟の中の光景を視界に入れる。

 

「あれ?」

 

廃墟の中には誰も居なかった。襲われたと言う人達も、現れたと言う怪物も、だ。

 

思わず惚けてしまいそうになりながらも周囲を注意しながら廃墟の中に入るが、拍子抜けするほど何も無い。

思わず先ほど自分に助けを求めた青年の方を向いて、すっかり警戒を解いた様子で問いかける。

 

「あの、だれも居ませんけど」

 

「そんな事はない」

 

匙の問いに青年はボトルの様なものを振りながら取り出した銃にそれを装填する。

 

 

『バット!』

 

 

「その怪物なら、ここに居るのだからね」

 

青年は眼鏡を上げながら引き金を引く。

 

「蒸血」

 

 

『ミストマッチ!』

『バット・バッ・バット… ファイヤー!』

 

 

青年は、その姿を異形のダークヒーローへと変える。

 

「な、何なんだよ、あんたは!?」

 

「初めまして、匙元士郎君。ぼくは、ナイトローグ。そう名乗っておきましょう。今は、ね」

 

青年……否、ナイトローグの言葉に疑問を抱く事なく目の前の相手の放つ威圧感に声も出なくなってしまう。

 

「ふっ!」

 

「がっ!」

 

一瞬で距離を詰めたナイトローグの拳が匙の下腹部に突き刺さり、焼けた鉄を飲まされた様な痛みと嘔吐感に言葉を失う。

 

「この程度ですか」

 

黄色く輝くバイザーを通して膝をつく匙を見下ろしながら、ナイトローグは呆れた様に呟く。

先ほどまでは明らかに荒事、喧嘩とさえ無縁そうな青年だったとは思えないほどの拳。

 

(こ、この、野郎……。見てろ……)

 

油断して居るであろうナイトローグの死角から自身の神器である『黒い龍脈(アブソーション・ライン)』を伸ばす。

相手に巻きつけ力を奪う己の神器の力なら油断して居る相手になら通用するはずと、反撃の機会を伺う匙だが。

 

「がぁ!」

 

それよりも先に、ナイトローグは彼の神器ごと手を踏み砕く様に匙の手に足を踏み下ろし踏み躙る。

 

「油断して居ると思いましたか? 君の神器(セイクリッド・ギア)黒い龍脈(アブソーション・ライン)。通常のロープとしても扱え、最大の特徴は相手を拘束し力を奪うテクニックタイプの神器。現状では、ぼくに突き刺して血液でも奪えば貧血で戦闘不能にする事も出来る、使い方によっては、格上相手にも通用する危険な武器」

 

神器ごと踏みにじる足に力を込めて更に言葉を続けていく。

 

「ある意味においては、バカ正直に正面からしか戦えない、脳筋な二天龍の神器よりも強力と言えるでしょうね」

 

スラスラと自分の持って居る神器の事を、自分には思いつかなかった応用的な使い方も交えて話して行くナイトローグに、匙は得体の知れない不気味さを覚える。

 

「成長すれば赤龍帝と白龍皇の能力の一部の合わせ技の様な使い方も出来るでしょうね。今の時点ではできない事ですが」

 

そこまで話すと思い切り匙の腹を蹴り上げて地面に倒すと、そのまま動かない様に胸の部分を踏みつけて動きを止める。

 

手際の良い痛めつけ方に咳込む匙を一瞥すると、

 

「な、何なんだよ、お前は?」

 

「聞けば何でも答えてくれるとでも? ぼくは君の母親では有りませんよ。まあ、特別に答えて上げましょう」

 

彼の言葉にそう答えた後、『知られた所で困る事は有りませんし』と呟き、一呼吸起き、

 

禍の団(カオス・ブリゲート)、改変派の一人、ナイトローグ。それ以上でも以下でも有りませんよ。今は、ね」

 

そう言うと何処からか時計の様なものを取り出し、それを匙へと向ける。

 

「本当に、君と君の主人の夢は害しかない」

 

「て、テメェ!」

 

突然のナイトローグの呟きに匙が激昂するが当のナイトローグは言葉を続けていく。

 

「だから、そんな百害しかない夢では無く、この先君が無駄に削る事になる命を、ぼく達のために使ってもらいましょう」

 

そう呟いたナイトローグは手の中にある時計の様なもののスイッチを押す。

 

 

 

『リュウガ』

 

 

 

禍々しい声が時計から響くとナイトローグはそれを匙へと向かって落とす。

匙へと向かって落とされたそれは彼の中へと消えて行く。

 

「がぁ! ああああああああああああああああああああああああああああぁ!」

 

全身が何かに作り変えられる不快感に絶叫を上げる匙。

 

「オ、オレに何をした!?」

 

「喜びなさい。今日から君はただの転生悪魔ではなく、紛い物の、仮面ライダーリュウガです」

 

匙の言葉を無視して嘲笑する様な口調でそう告げると、蹴り飛ばす様に匙の体を遠ざける。

 

「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

絶叫と共に立ち上がった匙はその姿を黒い龍の意匠を持った怪人《アナザーライダーリュウガ》へとその姿を変えていた。

 

「まあ、所詮は紛い物、本物はおろか原典(オリジナル)のアナザーリュウガ以下の性能しかないでしょうが、仮面ライダーリュウガも仮面ライダー龍騎もいないこの世界なら、その程度でも十分でしょうね」

 

(オ、オレに何をしやがった!?)

 

自由に動かせない怪物へと変わった体、その中で唯一自由になる意識の中でナイトローグへと絶叫する。

 

「さて、アナザーリュウガ、君にはぼくの手駒として動いてもらいます。彼らでも君は止められないと思いますが」

 

ナイトローグが言葉を続けようとした瞬間、シルクハットの様なマークが描かれた一枚の真っ赤なカードが投げつけられる。

 

「っ!?」

 

「そこまでだ!」

 

次の瞬間、ナイトローグの目の前でカードが爆発し赤い煙幕がナイトローグの視界を奪う。次の瞬間、赤い怪盗衣装に身を包んだ四季がナイトローグの前に現れる。

 

「まさか、本当にナイトローグがいるなんてな。しかも、ナイトローグがアナザーライダーまで作るなんて、予想外すぎるだろう」

 

内心で、そこはスマッシュにしとけと言うツッコミを入れながら正体隠蔽用の仮面の奥からナイトローグとアナザーリュウガ を睨みつける。

 

「此れは此れは、中々に奇術めいたアイテムを開発した様子ですね。それにしても、お早いお着きですね、快盗さん。それとも、仮面ライダービルドと、お呼びした方が宜しいですか?」

 

「好きに呼べ。そんな事より、なんでお前はナイトローグの力を使って、アナザーライダーを作れる?」

 

目の前にいる相手は自分の同類なのかと言う疑問が沸く。だが、

 

「いえ、ぼくは貴方の同類では有りませんよ」

 

そんな四季の考えを読んだ様に、ナイトローグは四季の問いに返答してみせる。

だとしたら、余計に疑問は深まる。何故ナイトローグの力を使えるのか? 何故アナザーライダーを作り出せるのか? と。

 

「さて、ビルドのシステムを考えると万が一のことが有りますからね。アナザーリュウガ !」

 

ナイトローグが指示を出すとアナザーリュウガは廃工場の中の鏡へと走り出す。

 

「っ!? 待て!」

 

「そうはさせませんよ」

 

その行動の意味を理解していた四季はビルドドライバーを装着して、アナザーリュウガを止めようとするが、それを妨害するため、ナイトローグは四季の足元へと向けてトランスチームガンを撃つ。

 

「っ!?」

 

ナイトローグの思惑通り、足元への銃撃に四季は思わず足を止めてしまう。

 

「まずい!」

 

その一瞬の隙にナイトローグの指示に従ったアナザーリュウガは鏡へと飛び込む。いや、鏡を介して己のホームグラウンドであるミラーワールドへと姿を消していった。

 

「安心してください、彼もアナザーリュウガである内はミラーモンスターと同様にミラーワールドで無制限での活動は可能です」

 

何も安心できはしないが、匙が変身したアナザーリュウガも、ミラーワールドの性質で消滅することはないと告げるナイトローグ。

 

「さて、ぼくも貴方と敵対する理由はないので、この辺で退かせて貰いたいのですが」

 

「させると思うか?」

 

両手にラビットとタンクのフルボトルを持ってビルドに変身しようとする四季だが、ナイトローグはそんな彼に構わず言葉を続ける。

 

「ああ、実は彼は先ほどぼくが彼を誘き寄せる為の嘘で、彼ははぐれ悪魔がいると推測して、主人達に応援を頼んだ様子ですよ」

 

そう告げながら『くっくく』と笑いながら、

 

「中々、自分の実力や能力を、冷静に判断できているとは思いませんか? 先ずは、味方からの応援を要請すると言う判断は」

 

「それで、ソーナ・シトリーとその眷属が来るから、悪魔側に接触したくないオレにとって、お前と戦ったら損だとでも言いたいのか?」

 

「そう言うことです。それに長々と話していたおかげで、既に時間切れの様子です」

 

ナイトローグと四季が言葉を交わしている間にシトリーの魔法陣が現れる。

 

「どうしますか?」

 

「良いだろう。次に会った時は容赦しない」

 

「貴方の賢明な判断に感謝します、天地四季さん」

 

名前まで知っている時点で本当に、ナイトローグは何者なのかと疑問に思う。

間違いなく原典のナイトローグとは別の何者か。それだけは先ほどの接触で分かったが、情報はそれだけだ。

 

四季に背を向けて無防備に立ち去っていくナイトローグを一瞥すると、蜘蛛型監視メカを一つ魔法陣の近くに投げて四季もまた廃工場を後にする。

 

「匙!」

 

ソーナの声と共に、ナイトローグと四季の二人が去った後の廃工場にソーナとその眷属達が現れるが、そこには争った形跡は有ったものの誰の姿も無かった。

匙の無事は確認されないもののはぐれ悪魔が存在した形跡もない為、しばらくの間匙は行方不明とされる事になる。

 

これが四季とナイトローグ達との初会合だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

五話目①

リアス・グレモリーの婚約騒動に合わせて起こったナイトローグとナイトローグの生み出したアナザーリュウガと言う、本来ならば存在しない上にあり得ない組み合わせと出会った最初の夜が終わった。

 

「厄介だな」

 

現状を考え、手持ちのフルボトルを一つ一つ手に取りながらそう呟いてしまう四季。

 

残念ながら、アナザーリュウガへの対抗策になり得る龍騎フォームになれるフルボトルは手元には無い。

オレンジやライダーカード、モモタロスのフルボトルは有ってもだ。

ナイトローグはビルドドライバーの特殊なベストマッチ、レジェンドミックスと呼ばれるベストマッチを警戒していたが、手持ちにそれが無い以上は、事実上四季にはアナザーリュウガを倒す術は無い。

 

「あとは、これか?」

 

次に考えた方法はライダーとは違うスーパー戦隊の力であるダイヤルファイターだ。

原典のダイヤルファイターはギャングラーからルパンコレクションを盗む為に使っていたことから、その力の応用でアナザーリュウガのウォッチを取り出せないかと考えた。

全く異質な力なので不可能と断じる事が出来ないだけで、可能性があるかは分からない。実践して試すしか無いが、ぶっつけ本番では危険な相手だ。

 

「つまり、完全にお手上げってわけね?」

 

「そうなる」

 

ナデシコC内の会議室のテーブルの上に広げられたフルボトルを眺めながら詩乃の言葉にそう返す。

 

そもそも、アナザーライダーを正面から倒せるのは同じ力を持った仮面ライダーだけ。本人か、ライドウォッチという形で力を受け継ぐしか無い。

例外なのがジオウⅡやゲイツリバイブ、ジオウトリニティなどの一部のライダーだけだ。それに、ジオウやゲイツはライドウォッチの力を借りれば倒せるのだから、ライドウォッチを手に入れさえすれば良いと言える。

 

だが、四季が変身できるライダーはビルドのみ。レジェンドミックスが出来ない以上対抗手段など無いに等しい。

 

だが、何も収穫がなかった訳ではない。

 

「アナザーリュウガを生み出したナイトローグも、オレの手の内を完全に把握している訳じゃないという事か」

 

奴は四季にアナザーリュウガに対する対抗策が完全にない事を知らず、ビルドのレジェンドのミックスの事を把握して居た。

そもそも、レジェンドミックスはまだ一度も使って居なかった筈なのに、だ。

其れだけならば完全に手の内を把握されていることになるが、同時に手札には存在しないレジェンドミックスを警戒して居たと言う事実。

 

「どっちにしても、アナザーリュウガを倒すための手札がないのが厄介だな」

 

考えるまでもなく、ビルドでアナザーライダーを倒す為の唯一の可能性はレジェンドミックスだけで、其れがない以上は完全に倒すことは出来ない。

 

ならば、後はダメージを与えて強制的に変身解除させてアナザーライドウォッチを排出させるしか手はない。

そして、再起動される前に回収して破壊してしまうだけだ。

 

「と言うわけで、アナザーリュウガの対処は基本、叩きのめしてライドウォッチの回収で」

 

「ええ」

 

「うん」

 

四季の言葉に賛同する詩乃と雫の二人。二人にはアナザーライダーに対する知識が無いので四季の判断に対する意見はない。

 

「っと、念の為にあいつの主人に会ったらこれを渡しておいてやるか」

 

匙がアナザーリュウガに変えられる瞬間の映像を見せれば、有る程度納得してくれるだろうと考える。

まあ、敵の狙いは分からないので飽くまで、会ったら、だ。態々自分達から会いに行く理由はない。

 

「それじゃあ、今回は手分けしてアナザーリュウガ、若しくはナイトローグ探しだ。どちらかを見つけたらオレに連絡をくれ」

 

メインの戦力はビルドで有る自分と割り切って詩乃と雫の二人と、自分一人という組み合わせになる。

流石に昼間から怪盗服では目立つので私服での行動だが。

 

「お兄さんと二人きりでも良かったのに、残念」

 

「いや、遊びに行くんじゃないから」

 

雫の言葉にそう返す四季。

 

「デートという雰囲気じゃないけど、二人きりが良かったって言うのは私も同意見よ」

 

「一応、戦力的に考えた訳だから」

 

単独で戦えるビルドで有る自分が一人での行動を選んだのだ、他意はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩乃と雫の二人と別れて家を出ると最初に駒王学園へと足を向ける。

相手は態々匙を狙ったのだ。単にドラグブラッカーとヴリトラ、黒いドラゴン繋がりで選んだのでなければ、生徒会に属するソーナ達が狙いと考えるのが合理的だと判断したのだ。

 

ナイトローグはシトリー眷属が狙いだから匙を狙い、彼を彼に見合ったアナザーライダーであるアナザーリュウガに変えた。

そう推理していた。

 

そんな訳で、先ずは生徒会の様子を見に行こうと誰かが居るであろう可能性の高い学園に足を運んだのだが、全員が出払っている様子で見事に無駄足を踏んでしまった。

 

「こっちは無駄足だったみたいだな」

 

恐らく行方不明になった匙や、彼から連絡のあったはぐれ悪魔探し(実際はいないが)に出ているのだろう。

 

(ミラーワールドから奇襲し放題のアナザーリュウガの能力を考えると、各個撃破のチャンスだな)

 

ミラーワールドの移動を自在に行えるアナザーリュウガは、アナザーライダーであると同時に新種のミラーモンスターと言ったところだろう。

自我の有無は分からないが、ナイトローグのコントロール下に有ると考えれば、現代社会において無い場所を探すのが難しい鏡面から、自在に襲撃可能の能力と相まって、現状ではバラバラに動いているであろうシトリー眷属を各個撃破するのには最適なアナザーライダーだ。

 

逆に考えれば生徒会のメンバーを探せばアナザーリュウガもそこに現れるだろうが、当の生徒会メンバーは別行動中の自分達よりも多いのだから、全員はフォローしきれない。

 

 

 

『ふう。ここに現れたと言うことは、流石に私達の狙いの推測は出来ていたと言う事ですか?』

 

 

 

「っ!?」

 

「先日振りですね、天地四季さん」

 

何処からか聞こえる声。その声に反応して其方を振り向くと、そこにはナイトローグの姿があった。

 

「ナイトローグ!?」

 

素早く引き抜いたVSチェンジャーをナイトローグへと向ける。

 

「残念ながら、私には君と戦う意思は有りませんよ」

 

「どう言う意味だ?」

 

「言葉どおりですよ」

 

戦う意思が無いと言われて『はい、そうですか』などと納得出来る相手では無い。

 

「今回の狙いは、消し易いソーナ・シトリーとその眷属達とでも言っておけば安心していただけますか?」

 

何一つ安心できない。そんな言葉を呑み込んで四季はVSチェンジャーを突き付けながらナイトローグを無言で睨みつける。

 

「下手に赤龍帝を覚醒させても面倒ですからね。迂闊に刺激して訳の分からない亜種形態になられるよりも、正当に禁手(バランス・ブレイク)してくれた直後に手を出した方が、寧ろ始末し易いんですよ」

 

「何で態々そんな事を教えてくれるんだ?」

 

「君に信用してもらうためですね。私の目的は悪魔でリアス・グレモリーと赤龍帝とソーナ・シトリー、及びその眷属達。人間側で有る君達と敵対する意思は無いと」

 

そう言って優雅とも言える仕草で一礼してみせるナイトローグ。

 

「ですが、君達が今回の様に私達の手駒と戦って怪我をするのは、其方の責任ですよ」

 

「そうかよ」

 

引き金から手を離してVSチェンジャーを下ろすとナイトローグの姿が消える。

敵対の意思は無いと言う為だけに現れたのかは疑問だが、今学園にはリアス・グレモリーのもう1人の僧侶がいたはずだ。

狙いは其方かとも思ったが学園に戦闘があった様子はない。……時間停止能力があるとは言え、ナイトローグなら簡単に始末できるだろうが、流石に旧校舎にくらい戦闘痕が残っていても良いだろう。

 

其方の様子も確認するべきかと考えていると、ビルドフォンの着信音が鳴る。

 

「詩乃か?」

 

『ううん、私』

 

ディスプレイの番号から詩乃かと思ったが、聞こえてきたのは雫の声。

 

『そんな事より、今こっちに』

 

「アナザーライダーか?」

 

『うん。生徒会の人達が襲われてたから助けたんだけど……』

 

「意識は?」

 

『ある』

 

その言葉で察した。アナザーリュウガに襲われているところを見つけて、とっさに助けに入ったが、意識があるので変身できないのだと。目の前で変身したら認識阻害効果も意味はない。

 

「場所は?」

 

雫から場所を聞くとそのまま全身を強化。ライオンフルボトルを取り出そうとするが、バイクを使うよりも気によって強化した上で最短ルートを言った方が早いと判断する。

パルクールの要領で塀から屋根、屋根から電柱へと飛び移ると、電柱の上を飛び移って一直線に伝えられた場所へと急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(このっ! どうしろってのよ!?)

 

思わずそう思ってしまう詩乃。はっきり言って、アナザーリュウガの能力は相打ち覚悟の上で戦うしかない厄介なものがある。

仮面ライダー龍騎、仮面ライダーリュウガ共有のドラグクローを模したであろうドラゴン状の腕と、ドラグセイバーを模したであろう剣状の腕による攻撃はまだ良い。

元々の変身者が変身して己の意思で扱っていたアナザーライダーという、龍騎系ライダー三強の一角という純粋な実力は変身者が違うために考慮する必要はない。

 

だが、アナザーリュウガとしての能力である攻撃の反射だけは厄介なのだ。

ジオウの劇中でも、圧倒的なスペックの高さによる理由でジオウⅡの攻撃は跳ね返せなかったが、それ以外の攻撃は全て反射していた。ゲイツが相打ちを覚悟して倒すと言う選択を選ぶほどに危険な相手だ。

そのために二人は四季から見つけたら牽制に留めて絶対に攻撃を当てるなとも言われていた。

 

少なくとも生身で反射を受けるのは当たりどころが悪ければ命に関わる。

 

ルパンレンジャーへの変身は雫が治療している生徒会メンバーでソーナの眷属の二人、戦車である『由良 翼紗』と騎士の『巡 巴柄』の二人が大怪我を負ったものの意識がある為に出来ない。

その為、攻撃能力のある詩乃はアナザーリュウガに攻撃を当てる訳には行かないのだ。

 

「このっ」

 

牽制のためとはいえ当てられない攻撃で確実にアナザーリュウガの動きを止めているのは、与えられた桜井小蒔の弓術の技だけでなく、彼女自身の射撃の技術によるものだろう。

 

だが、攻撃を当てずに相手の動きを止めるなどと言う芸当を長時間繰り返しているのだ、何れ綻びは出る。

 

 

 

だが、

 

 

 

「詩乃っ! 雫っ!」

 

 

幸いにも詩乃の限界よりも先に救援が来た。

真上から四季の声が響くと、アナザーリュウガの頭に四季の掌打が叩きつけられる。

それによって一瞬頭部への打撃によるダメージからアナザーリュウガの動きが止まり、その隙に四季は詩乃とアナザーリュウガの間に立つ。

 

次の瞬間、龍の顔を象った紋章らしきものが現れ、そこに映った四季の鏡像が先ほどの本人と同じ動きで四季へと襲い掛かる。

 

「ぐっ!」

 

能力を知っている以上予想はしていたので、それを防御する事には成功した。

鏡像での反射が避けれないのなら身体能力の強化による防御、それならばうまく防げるかと考え攻撃が直撃した後から行なっていたのだ。

 

「うまく行ったな」

 

「風よ、お願い」

 

同時に雫の声が響くと痛みが消えていく。回復能力のある雫の存在を考えれば反射能力も回復でダメージをゼロにすれば良いと考えたのだが、うまく行った様子だ。

 

(そう何度も試したく無い手だけどな)

 

流石に、アナザーリュウガの防御力を上回るダメージを与えられ無い代わりに選んだ苦肉の策だが、それは対処療法的な手段でしかない。

ライダーキックも跳ね返してくる原典の能力の事を考えると、根本的な解決にすらなっていない。

 

「四季、大丈夫なの?」

 

「取り敢えず、何度も試したく無いけど、今のところ一応は大丈夫」

 

下手したら自分の攻撃が雫の回復力を上回ってもアウトな上に、そんな攻撃では絶対にアナザーリュウガの防御力は上回れ無い。

 

「詩乃、お前はそのまま倒れてる二人と雫を守っててくれ」

 

「それは良いけど、何をする気なの?」

 

「かなり危険な賭け(ギャンブル)

 

そう伝えると地面を踏み砕くほどの震脚でアナザーリュウガに接近し、

 

「破ぁ!」

 

掌打の乱撃をアナザーリュウガへと浴びせる。少なくとも、それが変身でき無いのだと現状では四季の使える最強の徒手空拳技《陽》の技。

アナザーリュウガの体勢が崩れた瞬間、気を最大限まで高めた一撃を放つ、

 

「八雲っ!」

 

八重の雲のごとく神速の乱撃を浴びせ最大の一撃でトドメを刺す技、八雲。

 

だが、直ぐにアナザーリュウガの真横に鏡像が現れ四季へと襲いかかる。

 

「っ!」

 

技の直後で無防備なところに鏡像の己が襲いかかる。先程のアナザーリュウガと同様に神速の掌打の嵐が四季へと襲いかかる。

 

「お兄さんっ! 守護を!」

 

敢えて自分の技に吹き飛ばされ様とするが鏡像も同じように付いてくる。だが、最後の一撃が当たる前に雫の防御技が間に合った。

 

「がはぁっ!」

 

だが、それでもダメージは大きい。吹き飛ばされて近くにあった木に叩き付けられる。

意識が飛びそうな痛みに、流石は自分の現時点の最高の技だと思ってしまう。

 

「がぁ、がぁ……か、会長……」

 

相手の動きを警戒していると、一瞬だけアナザーリュウガの姿が匙の物に変わり、そのまま近くにあった鏡面からミラーワールドへと退散していく。

 

「なんとか、助かった、な」

 

そのアナザーリュウガの姿を見て気が緩んだのがいけなかったのか、そのまま意識を失ってしまう。

 

******

 

「……知らない天井だ」

 

意識を取り戻した時、なんとなくそう呟いて見たくなった。こんな発想が出来る時点で、五体満足で無事だろうと思う。

 

(っ……くっ。それにしても、自分の技で気絶するなんて、我ながら情け無い)

 

それでも考えてみれば技を放った直後に同じ技を打ち込まれるのだから、技を放った直後の隙が大きい大技であればあるほど自分の受けるダメージは大きいのも当然だ。

 

(ホント、あれを倒したって、どれだけチートなんだよ、ジオウⅡって?)

 

ジオウⅡ、アナザーリュウガを圧倒できる基礎能力に未来予知に時間操作に未来創造、しかも、これでまだ上のフォームのある中間フォームと言うチート振りである。

 

まあ、原典のアナザーリュウガはアナザーライダーでありながら、本物の仮面ライダーリュウガとの相違点は一つ、本物ではない事だけだ。素のスペックもあの時点のアナザーライダー達の中では最強と言って良いだろう(アナザーオーズも変身者は仮面ライダーだった者だが、そちらは歴史が失われて経験を失っている上にオーズではなくゲンムの変身者である)

 

アナザーライダー対策になりそうなジクウドライバー等のジオウの装備がガチャの中に入ってないかな、と思いつつも、現在の手札でのアナザーリュウガ撃退の手段へと思考を向ける。

 

(下手な大技じゃ回復が間に合わないだけか。やっぱり、一番必要なのは……奴の、アナザーリュウガの防御を超える程の攻撃力)

 

最後の手段としてハザードトリガーが頭に浮かぶ。

暴走の危険があるとはいえ、ハザードフォームはビルドの中間フォームの中ではスパークリングよりも強力な力を持ったフォームだ。それを使えばアナザーリュウガの防御力を上回れるかもしれない。

飽く迄仮定の域を出て居ない話だが、手持ちの札でアナザーリュウガに対抗できるのは此れだけだろう。

 

理想を言えば、龍騎系ライダーのカードデッキを入手して、確実にアナザーリュウガを倒せる力が欲しいが、それは現時点では無理だろう。

 

「(それよりも今は)ここは?」

 

ベッドの上で体を起こし周囲を見回す。明らかに駒王学園の保健室だ。

体に痛みはない為に雫が治癒してくれたのだろうという事がわかる。

最初の不意打ちから終始自分からしか攻撃してない為に、自分の攻撃を跳ね返されただけで済んでいるが、はっきり言って生身でアナザーライダーの攻撃など受けたくない。

 

(そう言えば、二人は?)

 

詩乃と雫の姿が見えない事を疑問に思いながらベッドから出ようとした時、保健室のドアが開くと、

 

「四季!」

「お兄さん!」

 

詩乃と雫の二人が保健室の中に飛び込んでくる。

 

「詩乃、雫。二人とも怪我は」

 

「私達なら大丈夫よ。それより、私達のことより今は自分の心配をしなさいよ!」

 

「オレも大丈夫。反射される事が分かってたから、無意識に加減していたんだと思う」

 

そう、最初から攻撃を反射される事が分かっていたから、生身での攻撃では変身解除に繋がらないと分かっていたからこそ、無意識のうちに加減してしまっていた。

だからこうして、雫の回復の術の効果範囲のダメージで留められたのだろう。

それでも、心配したのだと言う表情で詩乃からは睨まれている。

 

「天地さん、気が付いたようで何よりです」

 

二人に続いて新しい人物が入ってくる。この学園の生徒会長の『支取 蒼那(しとり そうな)』、本名はソーナ・シトリー。

現魔王の一人、セラフォルー・レヴィアタンの妹である駒王学園のもう一人の上級悪魔だ。

 

「この度は貴方達には私の眷属の二人を助けていただいた上に、匙の事も……」

 

彼女はそう言って頭を下げる。ふと詩乃と雫の方に視線を向けるとどこか申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 

「あの、あの映像はどちらで?」

 

「ルパンレッドと名乗ってた自称怪盗から渡されたんだ。オレも映像を見せてもらったけど、匙だっけ? 生徒会役員で、コウモリ男に変な時計みたいなものを埋め込まれて、あの黒い怪物に変えられたのは」

 

ナイトローグやアナザーリュウガの名前を出さずにそう問いかける。

 

「ええ、先日から行方不明になって居ます。これであの子の無事は確認できましたが」

 

「このままだと、はぐれ悪魔にされてしまう。ですか?」

 

「はい」

 

仮面ライダーを歪めた怪人の姿。しかも、黒い人型のドラゴンなどはぐれ悪魔になった匙と言われても納得できるだろう。

 

「えーと、ルパンレッドから、強いダメージを受ければ体内の時計のような物が排除されて元に戻るとか言っていたから」

 

「ですが、そこの二人から、今の匙には匙の神器(セイクリッド・ギア)にも無かった能力があると」

 

アナザーリュウガの反射能力がある為に迂闊に攻撃できないと言いたいことはよく分かる。

反射能力と鏡面を介しての神出鬼没な移動能力と、下手したら魔王の眷属を動かしても被害は出るような能力だ。

 

火力に劣るソーナの眷属たちには打つ手がないのが現状だろう。まあ、リアスの眷属も含めて当たったとしても勝ち目はないだろうが。

 

「だから、それを知っても何もできない。そう言うことか?」

 

「はい。ですが、このまま匙の事を放ってはおけません。早急にあの子を助けないといけませんから」

 

そう言った後、ソーナは四季達へと一礼し、

 

「後日、貴方達の力の事も詳しく聞きに行くと思いますが」

 

「オッケー、話せる事なら話そう」

 

そんな会話を交わすとソーナは保健室を出て行く。後に残された四季達は、

 

「いいの?」

 

詩乃が四季へと問いかけてくる。色々な意味の篭った『いいの?』と言う問いだろう。

 

「オレ達の力についてなら、な」

 

彼女の問いに言外にそれ以外の事は黙っていると告げる。飽く迄今回見せた力についてなら、見せてしまった以上は話したところで問題はない。

まあ、四季の力については伏せておく部分は多いが。

 

「とは言え、現状だとオレ達にも、アナザーリュウガに対抗する手段は……何一つ無いんだよな」

 

「もう絶対にあんな無茶はやらないでよ」

 

「うん、あれはもうダメ」

 

「分かってる。流石に、相打ち前提での作戦はもうやらない」

 

二人に泣きそうな目で睨まれればもう無茶は出来ない。そんな事を考えていると四季のビルドフォンにメールの着信がなる。

 

何かと思って確認してみると、其処には

 

「っ!? これは……」

 

 

 

『ドラゴンナイト系ライダー確定チケット一枚配布』

 

 

 

そこに書かれていた、そんなタイトルのメールに思わず黙り込み四季。そんな四季の様子を不思議に思ったのか、詩乃と雫もビルドフォンの画面を覗き込む。

 

「「ドラゴンナイト?」」

 

「設定を変えて、海外でリメイクされた海外版の仮面ライダー龍騎のタイトルだけど……」

 

変身システムは変わらない。いや、龍騎の並行世界の存在こそがドラゴンナイトだとすれば、それでアナザーリュウガに対抗できるのかと言う疑問はあるが、一応の希望は出来た。

 

「賭ける価値はあるな」

 

外れたところで可哀想だが、匙がはぐれ悪魔になるだけである。非常な選択だがこのチケットから出てきたものを見なかったことにして対抗手段なしとして。

主にインサイザー(シザース)とかセイレーン(ファム)とか。

最弱の蟹ではリュウガには勝てず、女装する羽目になるセイレーンは精神的に耐えられない上に詩乃や雫に正面からの戦闘を任せるには気がひけるし、ファムの死因はそもそもリュウガなので相手が悪すぎる。

 

「しかも、この場で引けるか」

 

態々家に帰らずにメールに添付された画像に触れるだけで引くことが出来る様子だ。

内心この状況で外れたら精神的に耐えられそうもないので、このまま見なかったことにしたい。

 

「引かないの、それ?」

 

「13分の2で最弱を引いた場合の絶望感と、オリジナルのリュウガが直接の死因になったライダーを引く可能性を考えると、ちょっと悩む」

 

「それは、確かに悩むわね」

 

使っても負ける可能性が高すぎるものが二つもあると言われると流石に四季の態度も納得してしまう詩乃さんでした。

 

ラスやウイングナイト、ドラゴンナイトなら対抗も容易いだろうが、逆に弱い部類のライダーを引き当てたら勝ち目など無い。アナザーだがリュウガはリュウガなのだ。龍騎系ライダーの中ではオーディンに次ぐ最強格だ。

 

「じゃあ、3人でやる?」

 

不安を感じていると、そんな意見を上げるのは雫だった。引かないで放置もあれなので彼女の意見を採用。メールに添付されているチケットを使うと書かれた画像に三人で触れる。

 

 

 

 

 

ビルドフォンから光の球体が現れメールに添付されていた画像が消える。ゆっくりとその光に触れると、四季の手の中にカードデッキが現れる。

 

その表面に書かれていたライダークレストに思わず笑みを浮かべる。

それはガチャのラインナップの中から、間違いなくアタリを引き当てることができたと確信出来る。

 

「オレ達が幸運なのか、それとも匙が幸運なのかは分からないけど、これなら行ける」

 

新たに手にした力に笑みを浮かべる。相手に対抗できるだけのカードを手にしたのなら勝ち目はある。

一人でわずかに及ばないのなら、三人でなら超えられる。

 

「匙を助ける事のリスクは、悪魔側に目を付けられる。態々今まで怪盗姿で正体を隠してた意味がなくなる」

 

「でも、それは今更じゃ無い?」

 

四季の言葉に既にソーナの眷属の二人を助けた時点で力の事は知られている。見捨てなかった時点で今更だと詩乃は答える。

 

「正体を隠すのにも意味はあると思う」

 

「なら、怪盗と素顔。バトルスタイルは変えるのは丁度良いか」

 

続いて雫の言葉に四季は答える。

 

 

 

 

 

三人の考えは最初から決まっている。

ここまで関わった以上は、助けないなどという選択肢など、有り得ない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頷きあうと三人でハイタッチを決める。

 

「行こう」

 

「ええ」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああぁ!!!」

 

絶叫を上げて暴れ回るアナザーリュウガ。アナザーリュウガに変えた匙へとナイトローグが下した最優先の命令は一つ。眷属の仲間と主人を始末しろと言うもの。

最初は自分の意思に反して命令を実行しようとする体に抵抗していたものの、アナザーリュウガと言う大きな力の濁流に匙と言う意識は時間と共に飲み込まれていく。

 

「さ、匙……」

 

「ガアァ!」

 

ソーナ達の警戒を嘲笑うように、ミラーワールドの中を悠々と移動しながら再度襲撃してきたアナザーリュウガ。

今回は四季が気絶している内に詩乃からアナザーリュウガに変えられた匙が襲撃してくる危険性を伝えられていた事で、動ける生徒会役員の眷属全員で揃っていたと言うのに成すすべなく全員が地に伏していた。

 

反射能力で自分達の攻撃は撃ち返される上に相手の戦闘力は高い。しかも、何者かに操られている自分達の仲間と言う悪条件が重なっているのだ。

 

全員がアナザーリュウガの攻撃で一方的にボロボロにされたわけでは無い、自分達の攻撃を撃ち返されて負った傷もある。

アナザーリュウガの能力に似た能力を持った神器(セイクリッド・ギア)を宿した眷属の女王で生徒会副会長の椿姫、彼女が一番傷が酷い。

 

「匙、目を覚まして下さい!」

 

「ガァア!」

 

ソーナからの説得の言葉も匙を支配しているアナザーリュウガの力には届かない。右腕のドラゴンを模した手甲から青い炎を撃ち出す。

心の中で匙の意思は必死にやめろと絶叫するが、アナザーリュウガは止まらない。ドラグクローを模した手甲から撃ち出された青い炎がソーナと倒れた彼女の眷属を飲み込もうとするが、

 

 

 

「精霊の燃える盾よ、守護を!」

 

 

 

雫の声と共に現れた守護の壁が青い炎の余波を防ぐ。爆発音と共に上空を泳ぐ一匹の東洋龍の放つ炎がアナザーリュウガの炎を相殺させたのだ。

 

「間に合ったか」

 

ソーナ達に駆け寄る四季と詩乃と雫の三人。

 

「天地くん、朝田さん、北山さん、貴方達どうしてここに?」

 

「話は後。今は匙を止める事が先決だ」

 

そう言って取り出したのは先ほど手に入れたカードデッキ。それを翳すと腰にベルトが出現する。

 

「詩乃、雫。会長達のことは任せた」

 

「うん、任せて」

 

「そっちは任せたわよ」

 

「ああ」

 

雫がソーナ達の治癒をしているのでもう大丈夫だろう。後はするべきことは一つ。

 

「KAMEN RIDER!」

 

そう叫んでベルトへと黒いドラゴンのエンブレムの刻まれた黒いカードデッキを装填すると、四季の姿がアナザーリュウガと似た姿に変わる。

 

 

 

 

 

『仮面ライダーオニキス』

 

 

 

 

 

ドラゴンナイトに登場するリュウガを元にして誕生した十三人目の仮面ライダーであり、原典の仮面ライダー龍騎では主人公の影として登場したリュウガとは対照的に、主人公が変身したドラゴンナイトの後継機とも言える存在だ。

 

方やダークライダーのリュウガを歪めた存在であるアナザーリュウガ。

方や別の世界でリュウガを元に誕生した本物の仮面ライダーとして生まれて、ダークライダーではなく仮面ライダーとして戦ったオニキス。

 

奇しくも仮面ライダーリュウガから派生して誕生したアナザーライダーと仮面ライダーが対峙した瞬間である。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

五話目②

先に動いたのはオニキスの方だ。

 

『SWORD VENT』

 

素早くカードデッキからカードを抜き出し、それをブラックドラグバイザーへと装填、ドラグセイバーを召喚する。

 

召喚されたドラグセイバーを構え、アナザーリュウガへと斬りかかる。

 

「はぁ!」

 

「ガァ!」

 

互いにドラグセイバーとドラグセイバーを模した剣を切り結ぶ。

だが、力任せに振るうだけのアナザーリュウガの剣をオニキスは斬り払い、そのまま斬撃を浴びせ、蹴り飛ばすことで距離を取る。

 

地面を転がり立ち上がるアナザーリュウガの横にリュウガのライダークレストの形をしたオニキスを写した鏡面が現れるが、それはオニキスの攻撃を反射する事なく砕け散る。

 

「反射されない?」

 

「今の四季の攻撃が強過ぎて、反射できないのね」

 

「やった」

 

反射能力が不発に終わった事に驚くソーナを他所に、詩乃と雫は四季の狙いが当たっていたことに納得する。

 

これでアナザーリュウガの反射能力による戦闘での不利は無くなった。

後は正面から打倒する。それだけだ。

 

そう考えてドラグセイバーを構えながら、オニキスはゆっくりとアナザーリュウガとの距離を詰める。

 

「グゥ……」

 

己の不利を感じて逃げようと鏡面に向かって走るアナザーリュウガだが、飛び込んだ瞬間に鏡面から弾き出される。

 

「グガァ!」

 

鏡面の中で一匹の黒龍がアナザーリュウガを威嚇する様に咆哮を上げる。

オニキスのアドベントビースト『ドラグブラッカー』が鏡面に陣取っているのた。

 

龍騎はミラーワールドで、ドラゴンナイトは異世界ベンタラで戦うのだが、そのどちらも鏡面を移動に利用している。

その二種のライダーの特性を利用し、ベンタラへのゲートに変えた鏡面からアナザーリュウガを逃さない為にドラグブラッカーを配置していた。

 

戦闘面で優位を取られる反射能力、そしてミラーモンスター特有の鏡面世界への移動を封じる事に成功する。

 

「反射能力は封じた。逃走経路は潰した。後は……お前を倒すだけだ」

 

「ガァア!」

 

その存在を歪められたアナザーリュウガを仮面ライダーとして人々を守ったオニキスの力を持って倒す。

元がダークライダーなだけに在り方はアナザーリュウガの方がリュウガに近いのだろうと思うと内心苦笑してしまう。

 

 

『STRIKE VENT』

 

 

オニキスの腕にブラックドラグクローが装着されるとアナザーリュウガもドラグブラッカーを模した片腕を向けてパンチモーションを取る。

 

「はぁ!」

 

「ガァ!」

 

ドラゴンの咆哮の様な音が二つ同時に重なり、同時に打ち出された炎が両者の中央でぶつかり合う。

 

「っ!?」

 

押し返されては居ないが、二つの炎が拮抗している為にオニキスもまた動けない。

 

ならば取る手段は一つだ。

 

「詩乃っ、頼んだ!」

 

「ええ」

 

オニキスの言葉に応えるのは詩乃。弓に矢を番えアナザーリュウガを狙う。

技の記憶の中から使うべき技を選択する。

 

「任せて、絶対に外さないから」

 

体内の気を鏃へと集め、矢を放つ。長距離を射抜く『通し矢』。

 

「ガァッ!?」

 

アナザーリュウガに直撃した矢によって一瞬だけ拮抗が崩れる。

アナザーリュウガの能力で鏡が出現し、詩乃の矢が反射されるが、その前に続け様に直撃するオニキスの炎によって鏡は砕け散る。

 

「オラっ!」

 

その隙を逃さずオニキスはアナザーリュウガに肉薄するとブラックドラグクローを装着した腕でパンチを叩きつける。

 

「ガァッ!」

 

その攻撃でヨロヨロと後退させられたアナザーリュウガは、オニキスを近付けさせまいと滅茶苦茶に剣を振りながらオニキスから離れようとする。

 

一瞬動きを止めて後退させられたオニキスを他所に、アナザーリュウガのドラグブラッカーの頭を模した腕から何かが伸びる。

アナザーライダーに変えられた匙の持って居た神器(セイクリッド・ギア)黒い龍脈(アブソーション・ライン)がアナザーリュウガに変えられた事で変化したのだろう。

力に支配されて暴れている状況では細かい使い方はできなかったのだろうが、それでも大味な応用は出来る。

単純に遠くに巻きつけての逃走などの応用技は可能だという事だろう。

 

「悪いけど、逃さないわよ」

 

その狙いに気付いた詩乃が巻き付けた先にある枝を狙い撃つ。神器の側は壊さなくても、それ以外の物ならば壊す事は簡単に出来る。

 

黒い龍脈(アブソーション・ライン)が巻き付いて居た先が無くなりそのまま地面に落ちるアナザーリュウガ。

立ち上がった瞬間に接近したオニキスの掌打が叩き付けられる。

 

「一人で互角でも、三人なら余裕で超えられる」

 

僅かにアナザーリュウガの動きが鈍った隙に上段蹴り、そのままブラックドラグクローを装着した腕でのパンチを叩き込む。

 

「はあ!」

 

トドメとばかりに放たれた『龍星脚』に吹き飛ばされるアナザーリュウガ。

更に近づくオニキスの『八雲』による掌打の連続攻撃で動きが鈍っていくアナザーリュウガは、トドメの一撃により殴り飛ばされた衝撃で距離を取ると、ヨロヨロとした様子で立ち上がるとドラグブラッカーを模した腕を振り上げ、振り上げた腕から吐き出した黒炎を全身に纏う。

 

「っ!? まさか其れ迄使えるのか」

 

だが考えてみれば、原典のアナザーゴーストはディケイドゴーストと共にゲイツゴーストアーマーに対してダブルライダーキックを使っているのだから、他のアナザーライダーがオリジナルの仮面ライダーの必殺技に対応する技を持って居ないわけがなかった。

 

そうなれば次に取るべき行動は一つしかない。

 

「だったら、迎え撃つまでだ!」

 

 

『FINAL VENT』

 

 

アナザーリュウガに応じるように、オニキスもブラックドラグバイザーに新たにカードを装填する。

 

オニキスの背後に現れるドラグブラッカーを背に中国拳法のようなポーズをとり、そのままドラグブラッカーと共に上空に舞い上がり、一回転しながら飛び蹴りの体制を取る。

同時に黒煙に包まれたアナザーリュウガの体がゆっくりと浮かび上がり上空で飛び蹴りの体制を取る。

 

「ドラゴン、ライダァー……キィィック!」

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!」

 

オニキスはドラグブラッガーが吐き出した黒炎を纏いながら、アナザーリュウガは己の吐き出した黒炎を纏いながら、同時に放たれた二人のキックがぶつかり合う。

 

「ガッ! ガァア!」

 

黒炎を纏いながら二つの必殺技を撃ち合った結果、その二つの必殺技は、拮抗する事もなく押し勝ったのはオニキスの方だった。

 

ドラゴンライダーキックがアナザーリュウガを打ち抜き爆散する中、オニキスは地面へと着地する。

それに遅れて気絶した匙とアナザーリュウガウォッチが地面に落ちる。

 

「匙!」

 

慌てて匙に駆け寄るソーナ。アナザーリュウガに変えられる前にナイトローグに暴行を受けた傷や、先ほどのオニキスとの戦いでボロボロになっているが命に別状はない様子だ。

 

「雫、匙の治療を」

 

「うん、分かった」

 

ベルトからカードデッキを外しながら雫に匙の治療を頼むと、それに答えて匙に駆け寄って治療の術をかける。

 

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

ソーナの感謝の言葉を受けながら雫は匙へと治癒の術を施す。

ボロボロになって居た匙の体は雫の治療の術を受けた影響で、表面的な傷は無くなっていく。

 

「うん、骨折とかが無くて良かった」

 

骨折した状態では、今彼女の使える術では正しく嵌めた後ではないと歪な形に固定されてしまう恐れがある為だ。

また使えない最上位の術ならば文字通りの完全回復をさせることの出来る奇跡に近い物であるのでその心配もないのだが、今の雫には使えないので、それは幸いだった。

 

匙だけで無く他の眷属も治癒してくれた雫に何度も感謝しているソーナを他所に四季はアナザーリュウガのライドウォッチへと視線を向ける。

 

「どうしたの?」

 

そんな四季の姿を怪訝に思った詩乃が問いかけてくる。

 

「いや、アナザーリュウガのウォッチが」

 

『完全に破壊されて居ない』と言葉を続ける四季の視線の先には、罅こそ入っているが砕ける様子もなく転がっているアナザーリュウガのウォッチが有った。

 

「っ!?」

 

念の為に回収しようとそれに触れた瞬間、アナザーリュウガのウォッチは輝きと共に砕け散る。

 

 

 

『龍騎!』

『リュウガ!』

 

 

 

アナザーライドウォッチが砕けた後には先ほどまでの怪物然とした姿では無く、騎士甲冑を思わせる赤い仮面ライダーの顔の描かれたライドウォッチと、オニキスによく似た仮面ライダーの顔の描かれた二つのウォッチが落ちて居た。

 

その二つのウォッチは龍騎ウォッチとリュウガウォッチだ。

両方ともアナザーライダーの物では無く、正式なライドウォッチの方である。

 

その二つを手に取った瞬間、黒い影が四季を襲う。

 

「っ!?」

 

「四季!」

 

突き飛ばされた自分を支えてくれた詩乃に感謝しつつ、襲いかかって来た影へと視線を向ける。

 

「ナイトローグ!」

 

「ふう、奪えたのはリュウガウォッチの方だけでしたか」

 

影の正体ナイトローグを睨みつけながらその名を叫ぶ四季を他所に、ナイトローグは手にしたリュウガウォッチを眺めながらそう呟く。

 

「まあ良いでしょう。暫くその龍騎ウォッチは貴方に預けておきましょう」

 

手の中にあるリュウガウォッチに触れるとウォッチの形が変形して『2002』の数字とリュウガのクラストが現れる。

 

それを確認すると四季へとその言葉を残して背中から羽を広げ、ナイトローグは飛び去っていく。

 

「あいつ、ライドウォッチが目的だったのか?」

 

四季の手の中にあるのは龍騎のライドウォッチとオニキスのカードデッキの二つ。

敵の狙いは二つのライドウォッチだった、そう考えるとそれ以外に選択肢はなかったとはいえ敵の思惑通りに動いてしまった感がある。

 

例えようのない不安を感じてしまうが、それでも何とかなったことは素直に喜ぶべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この度は本当にありがとうございました」

 

雫に治療されたが、念の為にと匙を含めた眷属が病院に運ばれた後、ソーナは改めて四季たちへと感謝の言葉を述べる。

 

「別に気にしなくても良い。今回は偶々オレの手元に解決させる手段があっただけだ」

 

「いえ、それでも私たちが助けられたのは事実です。それと、申し訳ないのですが」

 

ナイトローグやアナザーリュウガの危険性を考えて姉に報告する為、後日四季たちの持っているナイトローグの事について教えてもらいたいと言ってソーナは立ち去っていった。

 

生徒会役員である眷属全員が入院する羽目になったのだから、暫くは悪魔の活動だけでなく生徒会の仕事もソーナ一人で回していく必要がある為、大変だろう。

 

こうして、多くの謎を残しながらも、ナイトローグとの初遭遇になった一件は、新たにオニキスの力を手に入れ、敵が残した龍騎ウォッチを入手した結果でアナザーリュウガの事件は解決したのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

六話目

四季SIDE

 

さて、アナザーリュウガの一件が終わっても日々は続く。と言うよりも今回の一件はまだ終わっても居ない。

 

先ず、ソーナ以外の生徒会のメンバーである彼女の眷属達は、アナザーリュウガに変えられていた匙も含めて全員が大きな怪我を負ったものの、雫の癒しの術の力で早めに完治した為、一日で全員が無事に復帰出来た。

 

そんな訳で、早めにナイトローグについての質問でもされるかと思ったが、魔王……外交担当の会長の姉のセラフォルー・レヴィアタンではなく、内政担当のサーゼクス・ルシファーの方が、妹のリアスの結婚を賭けたレーディングゲームとその後の婚約披露パーティと忙しいらしい。

 

完全に身内関連だが、私情ではなく一応は内政に関わる事なのでそう疎かにも出来ないのだろう。

そもそも、庶民と違い貴族同士の結婚には家同士の繋がりもある。他家からの乗っ取りを嫌うならば庶民から結婚相手を迎えると言うのもあるだろうが、悪魔側の現状を考えると純潔な悪魔同士の結婚と言うのにも意味はあるのだろう。

……そんなに出生に困っているのなら、人間を転生させる手段よりも、人工授精などの手段でも講じろと思うのは、四季が科学者的な思考をしているからだろうか。

 

 

 

で、そのリアス・グレモリーのレーディングゲームの開催が明日の夜に迫っているらしいのだが、その辺は興味ないので完全に放置していた。

 

 

 

アナザーリュウガを倒した現在は、劣化版自壊機能付きスクラッシュドライバーの制作とドラゴンスクラッシュゼリーの生成に勤しんでいる訳である。

 

一度は制作するのは劣化版と銘打ったが、通常のドラゴンスクラッシュゼリーにスクラッシュドライバーの破壊時のエネルギーが加われば、クローズマグマ用のフルボトルのベースが手に入るかもしれないから、こうして通常版を生成していた。

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナザーリュウガの一件が終わった後、蜘蛛型の監視メカをオカ研の部室のある旧校舎に放って確認していたが、レーディングゲーム開催の時が来た様子だった。

 

内容には興味も湧かないと割り切って結果だけ確認したところ、健闘虚しくイッセー達は見事に負けたらしい。

 

この世界についての原作知識と言う名の一種の未来予知が正しければ、リアス・グレモリーの投了によって勝負がついたはずだが、結果として負けたのならば試合内容の細部が変わっていても問題はないだろう。

 

現在、ライザーから嬲り殺しにされたイッセーは自宅でゲームのダメージのための療養中でアーシアはその治療。

二人と封印中の一人以外の他の眷属達は式の為に冥界に帰ったリアスに付き添って冥界に向かったらしい。

 

「実行するなら今だけど、治療とかはどうする?」

 

「あれを治療するのは嫌」

 

動かなければ困るが、即座にイッセーの治療は雫から拒絶された。

 

「そ、そうか。まあ、予定は決まっているけど、オレはイッセーの様子見も兼ねて、その下準備に行ってくる」

 

目撃された時の事を考えて、怪盗用のシルクハットとアイマスクを身に付け手にはガチャで手に入れた、エボルト垂涎の五つのハザードレベル上昇アイテム。

……本当にエボルトが居たら時期によってはくれと言われたかもしれない。

 

「それじゃ、ちょっと行ってくる」

 

二人に見送られて怪盗姿で家を出る四季。目指すは兵藤家のイッセーの部屋だ。

 

窓から外に出て、屋根の上を走りながら人目を避けて目的の場所に着くと、イッセーの部屋が有るであろう位置へと視線を向ける。

 

アーシアの姿がなく意識の無いイッセー一人である事を確認すると物音を立てずに鍵のかかった窓を開け、部屋の中に忍び込むと簡単にイッセーの容体を確認する。

 

(こいつの乱入がいつかは知らないが、間に合いそうだな)

 

間に合ってくれなかったら、せっかく設計して急いで開発した劣化版スクラッシュドライバーが無駄になる。そんな事を考えながら、四季はハザードレベル上昇アイテムをイッセーに使う。

 

これで、ハザードレベルを持っていなかったイッセーがハザードレベルを会得して一気にレベル5まで上昇してくれた事だろう。

 

ガチャ産アイテムの機能は自分達以外にも働く事は知っているが、自分達以外に使うのはこれが初めてなのでどうなるかは分からないが。

 

(これで良し)

 

準備は終わり、あとはイッセーが目を覚ました頃合いに接触してスクラッシュドライバーを渡すだけだ。

 

(そうだ、試してみるか)

 

ふと、思い付いた事があるのでイッセーの胸にレッドダイヤルファイターを乗せる。

 

 

『1・2・1』

 

 

イッセーに乗せたレッドダイヤルファイターを中心に金庫のようなものが出現すると、その中には赤い籠手の様なものと、赤いチェスの兵士の駒が八つと、先ほど使ったハザードレベル上昇の特典が一つに統合されていた。

他の二つはイッセーの宿した神器(セイクリッド・ギア)赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)、彼を転生させるために使った悪魔の駒(イーヴィルピース)なのだろう。

 

神器(セイクリッド・ギア)まで抜き取れるのか。下手したら特殊能力とかも奪えるんじゃ無いのか?)

 

ダイヤルファイターが意外と便利である事に驚きながらも、ハザードレベルの回収の方法の目処がたった事には安堵する。

神器と悪魔の駒は流石にどちらも抜いてしまったら、イッセーの命に関わりそうなので、それには触れずに金庫を閉めてダイヤルファイターを外す。

 

流石にハザードレベル5のまま放置するのは危険であったし、ハザードレベルを下げれば万が一ビルドドライバーが奪われても使われる事はないだろう。

 

(これで破壊したスクラッシュドライバーを再生されても、使える奴は居なくなる)

 

あとはイッセーが目を覚ますのを待つだけ、と誰かが来る前に窓から出て行く。

………………出入りに使った窓を開けっ放しで。

 

数分後、窓が開けっ放しになって居たせいで体が冷えたのか、盛大なクシャミと共にイッセーが目を覚ますのだが、それは四季の知らない事で有った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアスの結婚式当日、イッセーの元に来たサーゼクスの女王(クイーン)のグレイフィアから伝えられたサーゼクスからの言伝。

『妹を助けたいなら会場に乗り込んで来なさい』

の言葉。力及ばずライザーに嬲り殺しにされるイッセーの姿にリアスは耐え切れず投了を宣言した。

 

(あんな野郎に部長を渡したく無い!)

 

その一心でイッセーはライザーとの再戦に挑む事を決める。奪還後に使うための魔法陣も渡され、イッセーは会場に乗り込む決意を決める。

 

 

 

 

『おいおい、一度負けた相手に直ぐに再戦して勝てる訳ないだろ』

 

 

 

 

そんなイッセーの決意に水を差す様に第三者の声が響く。

先ほどグレイフィアは帰ったので明らかに違うだろう。

誰かと思って声なき声多方向を振り向くと、其処には、窓の縁に腰掛けているレイナーレに襲われた時に助けられた赤い怪盗の姿があった。

 

「お前は!?」

 

「よう。レーディングゲームで大怪我したって聞いたけど、元気そうだな」

 

以前出会った時の事を思い出して睨みつけてくるイッセーだが、そんな彼に気を悪くした様子も見せずにヒラヒラと手を振っている。

 

「おいおい、俺はお前の命の恩人なんだぜ。そんなに睨むなよ」

 

「何の用だよ!? オレはこれから……」

 

「主人の結婚式……いや、婚約披露のパーティーか? まあ、どっちでも良いか。兎に角、それに乱入する、だろ? オレにはどうなろうと興味はないけど、お前にはもっと力が必要なんじゃないのか?」

 

そう言ってビルドドライバーを取り出してイッセーに見せつける。

 

「例えば、これとかな」

 

「っ!?」

 

『欲しい!』自分よりも強い木場や小猫を簡単に圧倒した目の前の相手の変身した姿、それがあればあんな鳥野郎には負けなかった。そんな考えが浮かんでくる。

 

「そんなお前に、オレ達のスポンサーからの贈り物だ」

 

そう言って何処からか取り出したスクラッシュドライバーを投げ渡す。

 

「な、なんだよ、これ?」

 

「オレのドライバーの後継機の試作品、名称は劣化版(プロトタイプ)スクラッシュドライバーだ」

 

何処かの嘘つき焼き殺すガールがいたら焼かれる程の大嘘である。

実際には試作品ではなく完成品をデチューンした使い捨て版のスクラッシュドライバーだ。

 

「こ、これが有れば……」

 

「それと、これが変身用のアイテムのスクラッシュゼリーだ」

 

新たに投げ渡すのはゼリー飲料を思わせる外見にドラゴンのマークの書かれたドラゴンスクラッシュゼリー。こちらはデチューン等はしておらず、ちゃんとした物だ。

 

「使い方は簡単。オレのビルドドライバーと違ってそれ一つで変身可能。中央部にそれ差し込んでドライバーのレバーを捻るだけ、だ」

 

早速試そうとするイッセーだが、

 

「おっと、それは試作品なんでそう何回も、それも長時間は戦えないから、本番まで使わない方がいい」

 

そう言って変身してみようとするイッセーを止める。

 

「おい、それって欠陥品じゃ無いのかよ!?」

 

「試作品に夢見すぎだって。普通は試作品なんて完成品より劣ってる物だろ?」

 

四季の注意に噛み付いてくるイッセーに飄々とした態度で返す四季。

 

「どっちにしても、一回だけは確実に使えるのは保証するし、それの性能も保証する」

 

心の中で通常のクローズ以上、クローズチャージ以下だが。と付け足しておく。

流石に通常のクローズ並みに性能は抑えられなかったのだ。

 

「それに、新型の完成品を渡してもらえるほど、親しい関係でも無いだろ? オレ達と」

 

だったらちゃんとした方を寄越せと色々と言いたくなるイッセーの心を読んだ様にそんな言葉を告げられる。

でも、と思うイッセーだったがそれでも手の中にある二つのアイテムは大事な勝利のカギの一つだ。余計なことを言ってこれを取り上げられたく無い。

 

「分かったよ、これは有難く使わせてもらう」

 

「オッケー。それじゃ、オ・ルボワール」

 

こんな奴の思い通りにするのは気に入らないと思いながらも、渡されたドライバーとスクラッシュゼリーは素直に受け取っておくことにしたイッセーだった。

 

変身できる確信は持っているし、ハザードレベルも強制的にあげたから問題ないだろうし、性能も劣化させたとはいえビルドライバーレベルの性能は保証済みだ。

 

ライザーとの再戦にてその力はイッセーも実感を持って知る事になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スクラッシュドライバー!』

『ドラゴンゼリー!』

『潰れる! 流れる! 溢れ出る!』

『ドラゴンインクローズドライグ!』

『ブラァ!』

 

 

 

赤いクローズチャージへの変身を持って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

七話目

「必ず、部長さんと一緒に帰って来て下さい」

 

「ああ、もちろんだ」

 

イッセーは笑顔でそう告げるアーシアに見送られて冥界へと向かう。

手の中に握るのは先程赤い怪盗から渡されたスクラッシュドライバー。それ以外にもライザーと戦うための切り札は用意した。

 

何処か不安を感じながらスクラッシュドライバーとスクラッシュゼリーの二つへと視線を向ける。

あの時にビルドに変身した赤い怪盗が使った物とは違うだけに、本当に大丈夫かと言う不安が湧いてくる。

 

(これだけじゃ無いんだ、だから大丈夫だ!)

 

前回、手も足も出なかった相手に自分一人で勝てるのかと言う不安が浮かぶ己を安心させるように心の中でそう叫ぶ。

 

不安を払拭させる様に強くそう叫び、イッセーは決意を込めて動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上手くいったみたいだな」

 

機能を下げるついでにスクラッシュドライバーに取り付けておいた盗聴器から聞こえて来た会話を聞いていた四季、詩乃、雫の三人。

場所はナデシコCの会議室、三人とも怪盗コスチュームで、だ。

 

盗聴器から聞こえる音が消えたことからイッセーは冥界へと転移したのだろう。流石に冥界と人間界を繋いでくれる程高性能な物は桐生戦兎の頭脳でも作れない。

 

「まあ、今回は結果待ちって所だな」

 

「大丈夫なの、四季の作ったスクラッシュドライバーを渡しちゃって」

 

「性能を抑えた劣化版だし、自壊する時にスクラッシュゼリーも破壊されるから、使い物にならなくなる……計算上は」

 

「最後の一言がちょっと余計」

 

「妙に最後の一言が不安になるんだけど」

 

「流石にこればっかりはな。実際に作って試すわけにはいかないからな」

 

そもそも、試すのに使うドライバーとスクラッシュゼリーを作る時間はなかったのだ。

自壊機能を試す為だけに作るのは勿体ないとも思っても居たのだし。

 

「だったら、念の為にスクラッシュゼリーの回収のためにオレ達も冥界に行くか?」

 

「行くって、見つからないで行く方法はあるの?」

 

詩乃の疑問はもっともだ。分かりやすく言えば完璧な密入国をするといっているのだから。

正面から堂々と移動するのは論外として、見つからない移動手段が理想的なのだが……

 

「一応、ダイヤルファイターとナデシコには冥界に移動する機能がついてるらしい」

 

思いっきりその手段は手元にあった。

まあ、冥界を舞台に大きな戦いがある事もあるのだから、そんな時に加勢したくても移動手段がありませんでした、では話にならないからなのだろう。

序でにナイトローグの時のように余計な敵まで参戦して居たら四季たちの加勢がなかったら危険過ぎるだろう。

 

そんな訳で今回は移動拠点となる宇宙戦艦のナデシコCの試運転、処女航海を兼ねての行動となった。

そもそも、この馬鹿でかい宇宙戦艦がどこから発進するのかも確かめておきたいし。

 

現在はオペレーターもいないので十全に機能を発揮できないが、艦長として登録されている詩乃が艦長席に立ち、空いた席に四季と雫が座って運航する事になった。

 

格納庫の前方が開くと何処かにそのまま格納庫から上昇して行く。

 

「「「ええっ!?」」」

 

ナデシコCのブリッジに外の光景が見えた瞬間三人から驚愕の声が溢れる。

それも無理はないだろう。街中の自宅の地下に有った地下格納庫だった筈が、何故か何処かの無人島から出撃していたのだから。

 

「いや、確かに街中、それも自分家の地下から発進させたら目立つだろうけど」

 

「あの格納庫はどこでもドアにでもなってるの?」

 

「でも、見つからないのは良い事だと思う」

 

既に何処ぞの猫型ロボットのひみつ道具レベルの施設だと改めて認識する三人で有った。

 

「兎も角、気を取り直して」

 

「ええ、目的地は冥界。ナデシコC。出撃」

 

こうして、前方に現れた魔法陣を潜りながらナデシコCは処女航海として冥界へと飛び立っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、冥界へと辿り着いて四季が貴族風の礼服に着替え、手持ちの隠しカメラを通じてナデシコCのモニターに映像を送りながら、貴族達の中に紛れ込むと丁度イッセーとライザーのゲームが始まろうとしていた。

 

イッセーの行動を警備の悪魔達が止めようとするのを他のリアスの眷属の木場、朱乃、小猫の三人が阻み、イッセーはリアス、ライザーとサーゼクスの三人がいる主賓席の前までたどり着く。

 

周囲の貴族がイッセーへと罵声を浴びせるのを魔王であるサーゼクスが静まらせると、婚約発表パーティーの余興としてドラゴンとフェニックスの一騎討ち、つまりイッセーとライザーの試合を提案する。

 

サーゼクスからは、既に最後のチャンスは逃してしまったと告げられるが、イッセーはそれを分かった上で強引に覆す為に来たのだと答える。

 

あの時、勝てなかった相手と今更再戦して勝てると思っているのかと問われると、

 

「ええ、あの時のオレじゃないって事を見せてやりますよ!」

 

普通は誰もがたった数日で何が変わったのだと思うだろう。まあ、神器(セイクリッド・ギア)の事を考えればそれの覚醒によっては大きなパワーアップは測れるだろうが。

そんな周囲からの呆れとも嘲笑とも言える視線を受けながら、スクラッシュドライバーを取り出す。

 

 

 

『スクラッシュドライバー!』

 

 

 

四季から渡されたドライバーを装着し、新たにドラゴンスクラッシュゼリーを取り出し、

 

「当てにしてるんだから、力を貸してくれよ……」

 

そんな事を呟きながらスクラッシュドライバーの装填スロットにスクラッシュゼリーを装填する。

 

 

 

『ドラゴンゼリー!』

 

 

 

「うおぉー! 変、身っ!」

 

 

 

『潰れる! 流れる! 溢れ出る!』

『ドラゴンインクローズドライグ!』

『ブラァ!』

 

 

 

気合の入った叫び声とともにイッセーは巨大なビーカーに包まれ、液体化した成分が全身を覆いスーツを形成し、最後に頭部から吹き出す液体が頭と腕の装甲を作り出し、その姿を多くの者の前で赤いクローズチャージ、否、『仮面ライダークローズD(ドライグ)』へと変身してみせたのだった。

 

吹き出した液体が本来の青と違うのはスクラッシュドライバー自体が劣化版であるが故かは分からないが、本来青くなる部分が赤龍帝の名に相応しい赤に染まっている。

 

(クローズドライグって適当に名付けたけど、やっぱりクローズヴェルシュの方が良かったかな~?)

 

イッセーの変身シーンを眺めながら、自身の作品の出来栄えに対して、そんな事を一人考えていた。なお、音声はイッセー用の為に特別に用意したものである。

 

「ハハハっ! おいおい、そんな玩具がなんの意味があるって言うんだ?」

 

変身という派手な真似をしたイッセーに、周囲が驚きのあまり静まり返る中、ライザーの嘲笑が沈黙を破る。

 

「なるほど、これはなかなか面白くなりそうだ」

 

そんな嘲笑を遮り、サーゼクスの言葉が響く。

 

「兵藤一誠君。君がライザー君に勝った時には相応の対価を支払うとしよう」

 

「サーゼクス様!? 下級悪魔に魔王様が対価などと!」

 

「例え下級であろうとも彼も悪魔だ。それに、こちらからの頼みなのに対価を支払わないとは悪魔としての理に敵わない。……さあ、君は何を望むのかな?」

 

イッセーの使ったスクラッシュドライバーとスクラッシュゼリーに興味を持ちながらも、今は妹の為と自身の予定通りに自体を進めて行く。

流石にイッセーもグレイフィアからの伝言やこの言葉からサーゼクスの意図ができないわけがない。

彼が、イッセーが望むべきなのは、金でも、絶対的な地位でも無い。

 

「それなら……」

 

リアスの方を指差すとイッセーは、

 

「リアス・グレモリー様を返して下さい!」

 

「良いだろう、それでは早速ゲームを始めよう!」

 

事前準備はできていると言った様子で試合会場に転移させられる。イッセーとライザーの二人。

急に試合を決められたライザーも相手が一度勝った相手なのだから、文句もないようだ。

 

先ほど使ったスクラッシュドライバーの事も甘く見ている様子で余裕そのものと言った態度だ。

 

「部長! オレには木場の様な剣技も無くて、小猫ちゃんの様な馬鹿力もないし、朱乃さんの様な魔力の才能もアーシアの様な治癒の力も」

 

そこで一度言葉を切って赤い怪盗の事を思い出す。

 

「あの赤いコソ泥野郎の様に強くも無い!」

 

 

 

 

 

 

 

(コソ泥じゃ無くて、オレ達は怪盗だ、怪盗!)

 

思わず叫んでイッセーの言葉を訂正したくなったが、此処は敵地と言葉を飲み込む四季であった。

 

(スクラッシュゼリー回収して帰るつもりだったけど、あの野郎、一発殴る)

 

 

 

 

 

 

 

 

「だけど、オレは貴女の最強の兵士(ポーン)になってみせます!」

 

本来ならば腕に専用武器のツインブレイカーが現れるはずだが、実は劣化版にはその機能は付けていない。その為に腕には彼の神器であるブーステッド・ギアが現れる。

 

「力を貸しやがれ! ドライグ!」

 

 

 

『Welsh Dragon over boostr!』

 

 

 

試合開始と同時に己の片手を対価にして可能にさせた禁手(バランス・ブレイク)を発動させた事で、クローズDのアンダースーツの一部、頭部と両腕が赤龍帝の鎧に変化する。

 

『凄いぞ! 10秒も持たないはずだったが、この鎧の力が有れば1分は持つ』

 

「1分か!? それだけあれば奴を殴り飛ばして、お釣りが出るぜ!」

 

『この鎧は持ってもそれ以上はお前の体持たない』

 

そう伝えながらも神器の中に宿る龍帝は理解していた。この鎧の力はドラゴンであっても、この世界のドラゴンのものでは無いと。

 

自分よりも強大な怪物の力の一部であると。

 

『(しかし、なんだこの力は? 初めてだぞ、鱗片だけで此処まで恐ろしいと感じた存在に触れるのは)』

 

この世界にはエボルトは居ませんが、フルボトルの成分を液化させた事による長時間の接触が原因なのかは定かでは無いが、ドライグはその力の持ち主の恐ろしさを正確に気がついて居た。

 

星を狩るエイリアン、ブラッド族のエボルト。宇宙レベルの消滅の力たるブラックホールを自在に操る怪物など、夢幻と無限ならば兎も角、それ以外の存在には太刀打ち出来る存在では無いだろう。

サーゼクス達魔王? 最悪、眷属諸共纏めて消されて終わりである。

 

何気にドライグの中での世界の強者ランキングに夢幻と無限の下にエボルト(想像態)がランクインした瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さて、フェニックス対ドラゴン、フルボトルとしたらドラゴンの方が上だけど、どんな対決になるかな?)

 

後でイッセーを殴ることを心に決めながら逃走用に用意したフルボトルの一部、フェニックスボトルとドラゴンボトルを手の中に握りしめながら、四季はそう心の中で呟くのだった。

 

(まあ、劣化品とは言えスクラッシュドライバーを使わせてやったんだから勝ってくれよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

(出来栄えはまあまあって所か)

 

クローズドライグに変身したイッセーとライザーのゲームを眺めながら、四季は心の中でそう呟く。

作った本人だからこそ分かる。禁手との上乗せにより今のクローズドライグのスペックはクローズチャージのスペックに大幅に近づいている、と。

 

(流石にこれは想像以上だな。ハザードレベル5ってのも有るだろうが……)

 

思えば正規の変身者で有る万丈龍我と近い面もある分クローズとの相性も悪く無いのだろう。ハザードレベルを高めたと言う点での強化も生きている。

 

元が一般人の為にオリジナルのクローズチャージに変身させたところで、本来の変身者には遠く及ばないが、それは自分も同じだと自覚しているので敢えて口には出さない。

 

(ラブ&ピースの為に戦う天才物理学者にはオレはなれないからな)

 

人から悪魔に成り上がったところで、女王にプロモーションしたところで、本当のクローズには届かないだろうが、ライザーに勝つには、それで十分だ。

 

なお、今は関係ないことだが渡す気が無かったので通常のフルボトルを使っての特殊能力は劣化版も使えたりする。

 

四季が観察する中、映像の中のクローズドライグは目にも留まらぬ速さでライザーに突っ込んでいくが、ライザーはそれを間一髪で回避する。

 

ライザーに回避されたクローズドライグはそのままの勢いのままに壁に激突する。

 

衝突のダメージもなく壁に激突した際に発生した土煙の中からゆっくりとクローズドライグが振り返る。

 

『……まだ力を制御できてないようだな』

 

その力に脅威を感じたのだろう、ライザーから余裕が消えたように見える。

 

『認めたくは無いが、今のお前は化け物だ! 赤龍帝の餓鬼! 悪いがもう手加減しないぜ! リアスの前で散れ!』

 

『テメエェのチンケな炎で俺が消えるわけねぇだろぉ!』

 

互いに顔面へと拳を叩きつけるが、クローズドライグにはダメージがある様子はない。

 

『へへへっ、凄いな、全然効かねえよ。今のオレは、お前なんかに……負ける気がしねぇ!』

 

そう叫びながらクローズドライグはお返しとばかりにライザーの顔を殴り返す。

 

(防御面は……上級悪魔レベルなら問題なし、とは言い切れないな。あいつは今禁手(バランス・ブレイク)との同時使用している訳だし)

 

そう思った後、再び映像へと視線を向ける前に、

 

(そう言えば、大半の神器(セイクリッド・ギア)、いや全部が本来は禁手(バランス・ブレイク)状態が本来の運用形態と言う可能性もあるよな)

 

目の前の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)のそれが良い例だ。能力は変わらず全身に鎧を纏うライダーの変身システムに近い。

故に、少なくとも赤と白の一対のそれはあの状態が基本形態、言わば籠手は能力が使える程度の変身アイテムと言うのが分かりやすいだろうか。

 

(亜種の形態は通常形態で所持者のデータを収集して最適化した形と捉えれば、所有者のデータを収集する機能もあるのかもな)

 

ライダーシステムの開発能力を有している四季の視点での神器についての考察だが、興味も無いのでその辺で辞めておく。

桐生戦兎のそれのお陰かエボルト由来のフルボトルの技術の方が神器よりも強力で使いやすいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フェニックスの炎は本来ならばドラゴンにも傷を残す。まともにくらうのは危険だったはずだ』

 

驚愕の感情とともにドライグはイッセーへとアドバイスを告げる。

 

『お前の体を包んでいる鎧がフェニックスの炎を防いでいるのか?』

 

「へっ、だったら、こいつが有れば俺は無敵って事だな」

 

「巫山戯るな! そのオモチャがなければオレが触れるまでも無く、お前は消失している! お前など、そのオモチャと神器(セイクリッド・ギア)が無ければただのクズだ!」

 

「その通りだ! だけどっ!」

 

再度互いの攻撃が相手に直撃するが、今度は一方的にクローズドライグが殴り飛ばす。

 

「ぐあぁっ!」

 

今まで目立ったダメージの無かったライザーが先ほどのクローズドライグの一撃で苦しみ始める。

 

「この痛みは……っ!? 貴様ぁ!?」

 

「アーシアから借りておいたんだ」

 

そう言ってクローズドライグが開いた手の中に有ったのは十字架。

悪魔に対して激しい痛みを与えるそれを握りしめての一撃なのだ、不死身のフェニックスとは言え、元の聖獣としての鳳凰、フェニックスならば無害であろうそれも、悪魔のフェニックスならば不死身の特性と関係のない痛みとなる。

 

「聖なる力をギフトで高めた一撃は、いくら不死身のあんたでも効くだろう?」

 

「バカな!? 十字架は悪魔の身を激しく痛め付ける! 如何にドラゴンの鎧を身につけようが……っ!?」

 

そこまで言った後に、十字架の影響を受けない理由と、イッセーが僅かな時間で禁手に至った理由に行き着いた。

 

「……ドラゴンに腕を支払ったのか……? それがその馬鹿げた力の理由か!?」

 

「それだけじゃないぜ」

 

そう言って対価として支払っていない筈の腕に十字架を身につけてみせる。

 

「さっきからアンタがオモチャ扱いしてたこのスーツを着てから、オレは十字架を握っても平気なんだよ!」

 

そのまま振りかぶった腕でライザーを殴り飛ばす。

 

『おい、このままではラチが開かん。この鎧のコア、そこに譲渡しろ』

 

「ああ! 行くぜ、赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

映像だけでもわかる。開発者と言うよりも製作者だからこそ分かる。

今、イッセーはドライバーではなく、スクラッシュゼリーの方に譲渡を行った。

……行ってしまった。

 

(幾ら何でも、それだけは想定していない、いや、想定出来なかったぞ!)

 

映像の中でクローズドライグの全身から吹き出す液化した成分が全身を包むと同時に、ギフトで倍加させられた膨大なエネルギーにより、膨大なエネルギーに耐えられなかったドライバーとスーツが火花を散らして行る。

元々組み込んでおいた自壊装置と合わせて、ドライバーの限界へのカウントダウンが始まってしまったのだろう。

 

(嘘だろ?)

 

全身から溢れ出した液化成分が限界を迎えつつあるスーツの発する熱に焼かれて急激に硬化していく。そこまでは良い。だが、問題はその形だ。

 

(クローズ……マグマ?)

 

それは、単なる偶然か、必然か、高温に焼かれたスクラッシュゼリーのエネルギーは硬化しその姿をクローズマグマの形へと変化して行った。

 

いや、焼け爛れた様な姿は何処かアナザーライダーを思わせるが、それでも、その姿はアナザーライダーの特徴など有して居ない姿は間違いなく仮面ライダーの物だと認識できる。

 

(急激にエネルギーが倍加された事による暴走、それに出口であるスクラッシュドライバーが耐えられなくなって決壊に近い形で全身から噴き出した上で、スクラッシュゼリーが突然変異を起こし始めている?)

 

一瞬だけ映ったスクラッシュゼリーに罅が入った所から推測してみたが真実は明らかではない。

 

(ってか、半ばハザードトリガー使ってる様なモンだよな、あれは。しかも、成分自体を強化した)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『チャージクラッシュ!』

 

「「オオオオオオオオッ!」」

 

クローズドライグが必殺技を発動させると同時にクローズドライグとライザーの拳がぶつかり合い、その衝撃が試合会場を吹き飛ばす。

 

「イッセー!」

 

「お兄様!」

 

リアスとライザーの妹のレイヴェルの悲痛な叫びが響く中、拳を振り切った状態で立って居たのはクローズドライグだった。

 

「があぁ!」

 

だが、立って居たはずのイッセーが全身を襲う激痛に悲鳴をあげる。

ドライバーを中心に全身に走る火花と同時にイッセーの全身に激痛が走る。ドライバーに起こった小規模な爆発と共にイッセーのクローズドライグへの変身が解除される。

 

「はぁ……はぁ……どう言う事だよ?」

 

『あの鎧の中心を勘違いして強化してしまった様だな。力の核そのものを強化してしまったせいで限界が来たんだろう』

 

「くそ、それじゃあ」

 

スクラッシュドライバーのパーツが小規模な爆発と共に砕け散っていく。そしてイッセーから離れると同時に地面に落ち、最後の爆発共に完全に破壊されてしまった。

 

そして、最後に残ったスクラッシュゼリーも完全に砕け散った。

後に残ったのは一つのボトルだけ。

 

もう一度と思ってスクラッシュゼリーの跡に残ったボトルを握り締めた瞬間、ボロボロになったライザーがイッセーの首を締め上げる。

 

「『兵士(ポーン)』の力で良くやったと褒めてやろう」

 

イッセーの首を締め上げる中、

 

「正直ここまでやれるとは思わなかった。強い悪魔になれると思うぜ、お前」

 

そう言って締め上げて居た力が抜けてライザーは崩れ落ちる。

既に限界だったのだろう。最後の行動は最後の意地だったと言うことか。寧ろ、フェニックスの生命力が有ればこそ命の方が助かったと言える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……あれ? もう出来てないか、マグマボトル)

 

四季は試合結果を見ながらそう思ってしまう。

 

(まあ良いか。これでクローズマグマナックルが作れそうだし)

 

認識阻害用のアイマスクを取り出してナデシコCの詩乃と雫の2人に撤収の合図を送る。

 

「この様な勝手な行いをお許しください。でも、部長を、オレの主人であるリアス・グレモリー様を返してもらいます」

 

リアスの両親も仕方ないと言う様子でそれを認める。リアスの手を取る。

 

「おめでとう、イッセー君。所で、君の使って居た道具だが」

 

そんなイッセーの勝利を祝福するサーゼクスの言葉にイッセーは最後に残ったボトルを見せて。

 

「それが壊れてしまって、これだけしか……」

 

「フム。では、それを預からせて貰えないかな? もしかしたら修復できるかもしれない」

 

「っ!? 本当ですか!? 是非お願いします」

 

そう言ってイッセーがサーゼクスに渡そうとした瞬間、

 

 

 

『おっと、そうは行かないぜ』

 

『0・1・0』『マスカレイズ!』『快盗チェンジ!』

 

 

 

 

そんな音が響きボトルにワイヤーが巻き付く。

 

「何者だ!?」

 

周囲の貴族たちから騒めきが広がる中、彼らの真上を飛び越え、バルコニーのある窓の元まで赤い影が飛び出す。

 

「お前は赤いコソ泥野郎!」

 

「ルパンレッドだ!」

 

そこに立ったルパンレッドを指差してイッセーが叫び声を上げるが、呼び名を訂正する。

そして、気を取り直して巻き付けたワイヤーを引いてボトルを回収しようとするが、

 

「すまないが、これは君には渡さないよ、ルパンレッド君」

 

ワイヤーの一部が消失し、ボトルはサーゼクスの手の中に納まってしまう。

 

「おいおい、魔王様。オレは奪いに来たわけじゃなくて、赤龍帝に渡した物を返して貰いに来ただけだぜ」

 

「ふざけんな、あの時お前、くれるって言ただろう」

 

「彼の言う通りだよ。贈り物の返品は良いことじゃないと思うね」

 

そんなやり取りをしている間に警備の兵士たちがルパンレッドの元に殺到しようとして居た。

自分の不利を悟ったルパンレッドはビルドドライバーを取り出し、

 

「仕方ない、それはあんた達に預けとくぜ」

 

それを装着して取り出した二つのボトルを装填、

 

 

 

 

 

『フェニックス! ロボット!』

『ベストマッチ!』

『Are you ready?』

 

 

 

 

「ビルドアップ!」

 

 

 

 

『不死身の兵器! フェニックスロボ! イェーイ!』

 

 

 

 

仮面ライダービルド・フェニックスロボに変身して取り囲み兵士達の前で背中の翼を広げ、

 

「御来賓の方々、お騒がせして申し訳有りませんでした。では、皆さま……オ・ルボワール」

 

背後に出現したナデシコCへと飛び去っていく。

そして、フェニックスロボを回収したナデシコCは反転し、飛び去っていく。

 

「「「宇宙戦艦!?」」」

 

駆けつけた一部の人間界について知っている貴族とイッセー達リアスの眷属達から驚愕の声が上がる中、宇宙戦艦の飛行高度に近づけない悪魔達はただ見送るしかなかった。

 

「せ、そ、空飛ぶ戦艦持ってる泥棒ってなんだよ……」

 

呆れを含むイッセーからのもっともな呟きが響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

「回収に失敗した様子ですね、彼は」

 

飛び去っていくナデシコCを見送りながらナイトローグはそう呟く。

 

「これは少しまずい事になりそうだな」

 

新たな声に気がついてそちらの方へと視線を向けると、そこには盾のようなものを持った金色の騎士の姿があった。

 

「貴方ですか、『マルス』」

 

「ああ、お前を迎えにな。ソーサラーも迎えに来ているぞ」

 

「彼女も来て居たんですか。それは助かります。冥界からの転移は面倒なので」

 

金色の騎士『仮面ライダーマルス』の指差す先には2人へと手を振っている金色の魔法使い『仮面ライダーソーサラー』の姿が有った。

ナイトローグの口ぶりからしてソーサラーの変身者は女なのだろう。そんなソーサラーの転移によってナイトローグ達三人姿は冥界からの消えたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

クローズドライグの、赤龍帝のスクラッシュドライバーの使用しての戦闘データと言う収穫はあったが、本命であったスクラッシュゼリーの回収に失敗したイッセー対ライザー戦は終わった。

 

 

原作とは違いライザーはドラゴン恐怖症にはならず、負けた悔しさをバネに一から鍛えなおしてるらしい。

 

 

そんな良いのか悪いのか分からない変化を持ってリアスの結婚騒動は終わった。

 

無事に帰って来たリアスもイッセー宅に同棲する事になり、増改築され豪邸となったと言う話だ。

 

「問題はあのボトルが悪魔側の手に渡った事だな……」

 

今回の成果に於ける大失敗を思い出しながら思わず頭を抱えてしまう。

後日豪邸となった兵藤宅に忍び込んでイッセーから『ハザードレベル5』を回収したので、今後彼が仮面ライダーに変身することはできないだろうが、それでも自分たちのアドバンテージであったフルボトルの技術が奪われてしまったと言うのは厄介だった。

 

あのボトルは、今はサーゼクスの元から四大魔王の1人のアジュカと言う技術担当の手元へ渡されたらしい。

 

「問題だよな」

 

悪魔の駒の開発者である以上、フルボトルの技術にも何か気がつくところがあるかもしれないと警戒している。

 

「そうよね」

 

「うん」

 

ネビュラガスやパンドラパネル、パンドラボックスが無い以上はハザードレベルと言う概念が無い。研究は難航してくれる事だろうが、早めに取り戻した方が良いだろう。

 

「まあ、今回の一件で多少なりとも協力してもガチャは出来ると言うことが分かったのだけは収穫だけどな」

 

今回の最大の収穫である新たに入手した十連ガチャのチケットを手に取りながら、今後の行動の方針を決める材料となる情報を挙げていく。

 

「でも、正体を明かして仲間になる気は無いんでしょう?」

 

「当然だろ」

 

少なくとも、アナザーリュウガの一件では自分達がルパンレンジャーや仮面ライダービルドとは明かして居ない。使ったのは魔人学園関連の力と仮面ライダーオニキスの力だけだ。

 

「当面は向こうの動きに注意した方が良いな」

 

序でに、手元にある十連ガチャ券は戦力増強のために使うと言うことに決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥界某所…

 

「それで、何か分かったかな?」

 

「研究対象としては中々に興味深いが、まだ何もわからないと言うのが現状だよ」

 

赤髪の男、サーゼクスが問いかけるのはアジュカ。彼の研究室にあるのはイッセーが使って完全に内部が破壊されたスクラッシュドライバーとスクラッシュゼリーが変異したボトルだ。

 

分解されたスクラッシュドライバーは内部構造が完全に焼けただれ、崩壊している。

 

「分かったのは二つ。一つはコチラのボトルの様なものの中の物を摘出してスーツに変える機能があると言う事だ」

 

「もう一つは?」

 

「開発者の名前らしきものが刻んで有った」

 

焼け残っていた『SENNTO.K』と刻まれて居た部分を見せる。

 

「SENNTO? セントと読めば良いのかな、これは?」

 

「単なるイニシャルだが、恐らくこれがお前の妹の眷属の言っていた」

 

「三人組の怪盗のスポンサーと言うことかい?」

 

実際には四季が本家……と言うよりも本当の製作者に敬意を評して『桐生戦兎』の名前を刻んでいただけなのだが、それが思わぬところで魔王二人に変な勘違いを生みつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、冥界で2人の魔王の間で謎の人物『SENNTO.K』が話題になっている頃四季達は、ガチャの装置の前に立っていた。

 

「取り敢えず、狙いとしてはスパークリング、フルフル、ジーニアスの三種だな」

 

「それって、もしかして」

 

「ビルドの強化アイテム」

 

「前にハザードトリガーって言うの手に入れてなかった?」

 

「……あれ、使うと暴走するんだよ。…………必ず」

 

「そ、それじゃあ仕方ないわね」

 

詩乃の問いに遠い目をしながら答えると納得してくれた様子だ。長時間使えないからこそ安定して使える強化フォームへの変身のためのアイテムが欲しいのだが、

 

「それじゃあ、十連やってみるか」

 

そんな願いを込めて十連ガチャチケットを使う。

 

目の前の装置の中から10個のカプセルが飛び出してくる。最初のカプセルには、

 

 

『蓬莱寺京一の力』

 

 

だった。

 

「便利と言えば便利だけど……」

 

神速の剣士。前衛が自分だけの現状では使えても意味はないかとも思うものが出た。緋勇龍麻の力を持ってるし。続いて、

 

 

『如月翡翠の力』

 

 

魔人学園シリーズ二連続。水の力を操る玄武の忍者である。ルパンレンジャー時に使えば便利かもしれないが、しばらくは保留だ。

 

 

『比良坂紗夜の力』

 

 

二連ではなく三連だった。三人目の魔人キャラの能力。『伊邪那美命』の宿星を宿す唄姫。

しかも、この三つのそれは四季のそれと同じく宿星さえも含めている。

 

「今度こそ……」

 

 

 

『仮面ライダーウィザードのウィザードライバー』

『ウィザードリング各種(インフィニティ除く)』

『ドラゴタイマー』

 

 

 

次の三つは最強フォーム除いて仮面ライダーウィザードコンプリートである。

 

「暫くオニキスとウィザードメインにしようかな、オレ」

 

「便利そうよね、物凄く」

 

「私もこの魔法、見てみたい」

 

いきなりウィザード関連が最強フォームのぞいて揃った。しかも、インフィニティが最強とあるが、時折さらにインフィニティは強化される。

手数の多さでのチートさは平成ライダー達の中でも基本フォームからチートに入るライダーである。

……はっきり言おう平成ジェネレーションでウィザードと戦った男は相手が悪かった。(鎧武とドライブと戦った2人にも言えるが)

 

続いて手に取ったカプセルの中には、

 

 

『グッドストライカー』

『シザー&ブレードダイヤルファイター』

 

 

「遂に、巨大戦も出来るようになったな、オレ達」

 

「巨大化する敵っているの?」

 

「居ないんじゃないかな~」

 

「あっ、こっちは綺麗」

 

過剰戦力なルパンカイザーは兎も角、シザーとブレードのダイヤルファイターはなぜか宝石の形をして居た。

劇中でもこの二つのダイヤルファイターは一対で宝石の姿になっていたのでガチャ産でも宝石として存在しているのだろう。

 

「VSチェンジャーに使えばダイヤルファイターになると思うから必要になれば使えば良いか」

 

最後の二つのうちの一つへと視線を向ける。

 

 

『風火輪(東京魔人学園)』

 

 

封神演義に出て来る宝貝の一つで東京魔人学園では便利な移動力上昇アイテムの一つである。

やはり、身に付ければゲームの効果と違って空を飛べる、飛ぶ様に走れるのだろう。

 

 

『オリハルコン(東京魔人学園)』

 

 

最後に出てきたカプセルの中には一対の手甲。魔人学園シリーズに於ける主人公の武器の一つで、かの伝説の金属オリハルコンで出来ている。

今までは未変身の状態では素手で戦っていたが便利になる事だろう。

 

「使えるのはオレだよな」

 

「ええ、私の場合、それを貰っても銃も弓も扱い難くなるし」

 

「私もそれはお兄さんが使うべきだと思う」

 

詩乃と雫の二人からも四季が使うべきと言う意見が出た為、自然とオリハルコンは四季の装備となった訳だが。

 

「所で、私はこれを貰っても良いかしら?」

 

そう言って詩乃が選んだのは比良坂の力だ。弓使いの彼女には余り相性が良いとは思えないが……

 

「元々私達は技だけだったし、強力なのは使えなかったのよね」

 

元々気や魔力の概念など無い世界の出身である詩乃にとって力を扱う感覚がうまく掴めなかったのだろう。

魔法と言う概念が、少し違う形とは言え存在していた上に魔法師だった雫には感覚も掴みやすかったが、詩乃にとっては難しかったのだろう。

 

そんな訳で四季としても、雫としても反対意見は無くその力は詩乃の物になったのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

八話目

さて、リアス・グレモリーの婚約騒動終結と、アナザーリュウガについて(怪盗としてではなく、前世の知識の関係ない所を)知った事をソーナに伝えてから数日。

球技大会が近づく中、特に部活に参加してない四季達三人は時にはぐれ悪魔退治をしながら過ごしていた。

 

そんな中で、数体のはぐれ悪魔の退治も終わり、そろそろガチャ券以外の手段でガチャが引ける時が近づいていた。

 

そんな中で彼等は厄介な事に巻き込まれてしまう事となった。

そもそもの原因はアナザーリュウガの事件とリアスの婚約の一件。

リアス自身、イッセーの頑張りで婚約はなかった事になったが、それでも非公式ながら初のレーディングゲームでの敗北は悔しさと同時に焦りを生んでいた。幾ら相手は何度もゲームの経験があるベテランで、リアス達が初参加の上に人数も揃っていない初心者達とは言え、だ。

 

そんな中でソーナから伝えられたアナザーリュウガの一件である。自分の眷属を怪物に変えられた謎の怪人に対する注意を促されたのだが、そんな中でリアスは目を付けてしまった。

……四季達に、目を付けちゃったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、そんな事が有ったのね」

 

「ええ、天地君達のお陰で犠牲者は出ずに、被害も最小限で済みましたが」

 

婚約騒動が落ち着いた頃、生徒会室に呼んだソーナが、リアスへとアナザーリュウガの一件の事を連絡していた。

四季からの情報を姉のセラフォルー・レヴィアタンへと伝えた結果、彼女から他の魔王達へ、ソーナからは警戒を促す為にリアスへと伝えるようにと言われた為に情報を共有の場が持たれた。

 

アナザーリュウガに変えられた匙からの目撃情報で、ナイトローグの姿は悪魔勢力の間で凶悪な指名手配犯として扱われる事にになったが、問題はそれが『変身』した姿と言う事も有って、警戒していても、ナイトローグの姿で活動していない限りは発見することも難しいだろう。

 

(それにしても、そんな力を持ってる子達が、三人も何処の勢力にも所属しないでこんな身近にいるなんて)

 

アーシアの神器とは違う癒しの力に、中距離型の弓使いに、近距離型の拳士。彼らを眷属に加えれば戦術にも幅が広がるだろう。手持ちの駒の残りがルークとナイトの二人分しかないのが残念な位だ。

 

弓使いは騎士の駒で機動力を強化してもよく、拳士は戦車の駒で突破力を高めても良いし、機動力を騎士の駒で高まるのも木場とは違ったタイプの騎士として有りだ。

アーシアとは違う癒しの力は戦車の駒で耐久力を高めた上で回復役に回ってもらって良いし、騎士の駒による機動力の強化で素早く回復に回って貰っても良い。

アーシア達二人を己の眷属に選んだ事は後悔などしていないが、ビショップの駒が既に二人分埋まってしまっているのが残念な位な程に、聞けば聞くほど優れた人材達だ。

そんな事を考える。

 

(もっと早く彼らの事を知っていれば、ライザーとのゲームも結果は違っていたかもしれないのに)

 

そう思うと、もっと早く知っていれば初出場のレーディングゲームにもっと善戦できたのでは、とも思う。

初のレーディングゲームでの敗北の悔しさからの感情だが、手札が増えればそれだけ出来ることは多くなるのだ。

 

「このナイトローグと名乗った相手には、貴女も気をつけて下さい」

 

「ええ、私の眷属達にも気をつけるように伝えておくわ」

 

そう言って渡されたのは匙の証言と四季経由で怪盗から渡された(という事に四季はしている)映像から書かれたナイトローグの手配書だが、肝心のナイトローグの写真がダークヒーローっぽい外見な為に特撮ヒーロー物の小道具にしか見えなかった。

 

直接的な被害を被っていないリアスにはナイトローグは、そんな外見から変なコスプレテロリストとしか捉えておらず、危機感を感じられていなかった。

寧ろ興味はソーナ達に加勢した四季達の方へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、私達が合宿で此処を離れている間にそんな事が有ったらしいから、貴女達も気を付けてね」

 

オカ研の部室、先程ソーナからの渡されたナイトローグと匙が変えられたアナザーリュウガの写真を見せながらリアスも己の眷属達に注意を促す。

 

「うげ、このコスプレ野郎が、悪魔をこんな怪物に変えたんですか?」

 

ナイトローグとアナザーリュウガの写真を見ながらイッセーはそんな声を上げる。

 

「ええ。それと、堕天使や天使とは関係は薄いと言うのが、お兄様達の見解らしいわ」

 

ナイトローグの姿はコウモリを模した姿。天使や堕天使が、そんな悪魔を連想させる蝙蝠をモチーフとした姿に化けるとは思えないと言うのが見解の様子だ。

悪魔を揶揄してコウモリと言うかも知れないが、態々自分達がそんな姿をするとは思えない。

匙を怪物(アナザーライダー)に変える時に使ったアナザーライドウォッチを人工神器の一種と推測されたため、堕天使が手下のはぐれエクソシストに仮装させて襲わせた可能性も捨てきれないそうだが、それもあり得ないと考えている。

 

「ええ、この学園のもう一人の上級悪魔の眷属を、この怪物に変えて主人を襲わせたそうなの」

 

一枚のプリントに纏められているナイトローグとアナザーリュウガの能力の資料、それを一人一人目を通していく。

 

「攻撃をしてもそのまま反射される、この能力は厄介ですね」

 

元々スピードを活かして手数で戦うスタイルの木場にとって、自分の防御力を下回る攻撃を反射できるアナザーリュウガの能力は厄介以外の何者でもない。

 

「それでも、もう退治されたから心配は要らないわ。それよりも大事なのは、その怪物に変えられてた眷属を助けてくれた、彼等よ」

 

そう言ってリアスは新たな資料を見せる。そこにあるのは四季達三人の顔写真だ。

 

「天地の奴に……おお! 一年の詩乃ちゃんと雫ちゃん!?」

 

四季の写真に微妙な表情を浮かべた後に詩乃と雫の二人の写真を見た瞬間、目を輝かせるイッセー。

 

「どこの勢力にも所属していない能力者が三人。キッカケも出来た事だし、同じ学園に所属する上級悪魔として私も一度話してみようと思ったのよ」

 

リアスも三人のうちの二人を空いた自分の眷属に誘いたいとも思ったが、流石にすぐには了承は得られないだろう。

先ずは一度会って三人の人となりを知るべきだと判断したわけだ。

他の眷属達を上手くやっていけるのか、それも助けなければならない。

 

「ちょうど駒は二つ空いているから、眷属に誘ってみようとは思っているけど、先ずは会って見ないことにはね」

 

声を掛けはするが、今はまだ飽く迄誘うだけ。命の危機と言う緊急時でもないのだから、先任の眷属達との相性もある。

 

新たに眷属に加えた者達の相性が悪く、変に眷属の間で派閥が出来て二つに分かれるなんて事になったら問題なのだ。実戦の最中に派閥が違う者同士で協力出来ないなんて事になったら困るのだから。

 

「詩乃ちゃんと雫ちゃんを眷属に!? オレは賛成です、部長!」(うおー! 良ぉしぃ! 部長から二人を眷属に加えたいって言ってくれるなんて、これってもう神様が……いや、オレは悪魔だから魔王様か? まあ良いや。どっちにしても、オレのハーレムに手を貸してくれてるとしか思えないぜ!)

 

既に四季のことは頭の中に無く、イッセーはリアスの言葉に賛同しつつ心の中でそう絶叫していた。

 

「所でこちらの黒い騎士みたいな方は?」

 

4枚目の写真、仮面ライダーオニキスの姿が目に入った朱乃が疑問の声を上げる。

 

「黒いドラゴン。なんだがこっちの怪物に似てる気がします」

 

アナザーリュウガと見比べながら小猫はそんな意見をこぼす。

鋭いとしか言いようが無いだろう。共に仮面ライダーリュウガを原点としてそれを歪めたアナザーリュウガと、全く同じ力を持ちながらダークライダーではなく仮面ライダーと、別のあり方となった仮面ライダーオニキス。

共に仮面ライダーリュウガから生まれた存在なのだ。

 

「ええ、天地君がこの姿に変身してこっちの怪物と戦って倒したそうよ」

 

「なら、凄いのはあいつじゃ無くて、変身した奴じゃ無いですか、オレが使ってたらもっと早く解決出来てましたよ」

 

『凄いのはオニキスの力だけ』と四季が眷属に加わらないように反対するイッセー。空いている席は二人分、可愛い女の子の代わりに男が眷属の仲間に入るのは大反対なのだ。

 

「そうね、この道具を使ってあの怪物に対抗できる位強くなったのなら、赤龍帝の貴方が使えばもっと強くなれるはずよ」

 

「はい!」

 

どんな武器でもただ使っただけで強くなれる訳はないとは思うが、そんなに反対するのならとイッセーの言葉に同意しつつ四季を眷属に誘うと言うのは諦めるリアス。

空いているのも二人なので、此処はイッセーの提案を聞いて詩乃と雫の2人を勧誘する事を決める。

 

「それに、こっちの二人ならアーシアとも良い友達になれる筈ですから!」

 

「イッセーさん……ありがとうございます」

 

アーシアの友達になれる。それは一応は本心からの言葉である。5割以上ハーレムに加えたい美少女二人が仲間になって貰いたいだけだとは思うが……。

 

「それじゃあ、次の放課後にでも二人には来てもらいましょう。ゆ「オレが呼んできます!」……ええ、それじゃあイッセー、お願いするわ」

 

テンション高めに二人を呼びに行く事に立候補するイッセーに任せる事にした。

 

二人を呼びに行くのを任されて、『ヒャッホー!』と言った様子で張り切っているイッセーの姿に、元々上級悪魔になって眷属を持てるようになったらハーレムを作りたいと言っていただけに、だからなんだろうなと苦笑するリアスの眷属一同(アーシアと小猫除く)。

 

「……変態先輩」

 

そんなイッセーはと向けられた、小猫の呆れたようなそんな呟きがオカ研の部室に響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「っ!?」」

 

さて、丁度その頃、地下に武器庫と戦艦の格納庫のある外見だけは一般的な邸宅の天地家のリビングにて詩乃と雫の二人が言い知れぬ悪寒を感じていた。

 

「ふ、二人とも、どうしたんだ?」

 

「う、うん、今、何だが」

 

「物凄い悪寒がした」

 

震えながら左右から四季に抱きついている二人。

 

「そ、そうか。それより、今週の末でも前に貰ったチケットを使うか?」

 

取り敢えず、そんな二人の様子に話題を変えた四季だった。

 

「チケット?」

 

「前に詩乃が当てたレストランの無料チケット。せっかくなんで使おうかなって思ってな。……次の事件が起こる前に」

 

今後の事を考えると、街が一つ壊滅するかもしれない状況で呑気に食事は楽しめないと思って、次の事件が起こる前に行く事に決めた。

 

「良いわね」

 

「うん、今から着て行く服とか決めないと」

 

四季の言葉に賛同する二人。まあ、悩みも有るのだが。

 

(このレストランのある地名って……米花町なんだよな)

 

調べてみたが、間違い無くこの世界は名探偵コナンの世界まで両立されているのだ。

 

(うん、取り敢えず、祈っとこうかな? 神様じゃ無くて、魔王(オーマジオウ)様とソウル様にでも、何事も起こらないように)

 

仮面ライダー世界の魔王とスーパー戦隊世界の神様に事件が起こらないように祈る四季だったのだが、

 

 

《無理だ》

 

 

祈った瞬間、二つほど声が重なって響いた気がしたのだった。

 

******

 

その日の放課後、イッセーは授業が終わると同時に教室から飛び出して行った。目指すは一年の詩乃と雫のいる教室。

 

その素早い行動は教室にいる人間全員を唖然とさせるほどだった。

 

イッセーの向かうその教室では一年の生徒達が帰宅の準備をして居た。

 

「おーい」

 

教室の扉を開けてイッセーが二人に声をかけようとするが、一瞬だけ教室から音が消えた。

まるで津波が起こる前に海が穏やかになる瞬間どころか、海岸線が大幅に下がるように。

 

そんな状況にイッセーが戸惑っていると……

 

「いっ……」

 

誰かの声が零れたのを合図にする様に、

 

 

『いやぁー!!!』

 

 

教室全体から悲鳴が上がる。以前木場がイッセーを呼びに来た時のとは違う恐怖の感情で、だ。

夜道で変質者に出会った様な叫びが教室中から上がる。

 

次の瞬間、

 

「変態三人組の兵藤一誠よ!」

 

誰かの叫びとともに椅子が投げつけられる。

ってか、相手は後輩なのに先輩の敬称すら付けられて居ない。

 

「おわぁ!」

 

そこは流石悪魔と言ったところか? ライザーとのレーディングゲームへ向けての特訓の成果か? 顔面に直撃しそうだった椅子を辛うじて回避する。

 

「な、なんな……痛え!」

 

突然の事に戸惑っていると頭を殴打される。其方の方を向くと箒を竹刀のように構えている女生徒が居た。

構えが様になっている姿は恐らく剣道部なのだろうが、恐怖に震えて涙目になっているが、必死に立ち向かおうとして居た。

…………イッセーに。

 

「え……えっと……」

 

さて、積み重ねた名声も一瞬で崩れることが有るが、積み重ねた汚名は寧ろ時間があっても中々消えない。

入学後から覗きなどの常習犯であったイッセー達三人。当然一年の中にも被害者はいる訳で。

 

教室の女生徒の何人かが武器になりそうなものをイッセーへと構えている。

 

 

 

はっきり言おう。オカ研に入部……と言うよりも悪魔に転生してから周りに美少女が多かったから教室での変態発言や行動は大分治まっていたが、過去の悪行は消える事は無い。

寧ろ、まだ卒業すればイッセーと関わらないで良い三年生よりも、今後イッセーが卒業するまで関わらなきゃならない一年生の生徒には一番嫌われている。

 

具体的には礼儀とは言え目上として扱わなきゃならないストレスやら、下手したら卒業するまで被害に合いそうな事とか(憐れにもイッセー達三人は一年の生徒の間では留年すると予想されている。本人の意図か、散々続けた変態行為の代償かと説は別れているが)。

 

余談だが、作者の原作でのイッセーの他の学年からの序盤での評価はこんな物だと推測している。(主に球技大会での殺意の向き方とか)

 

 

 

「ちょ、ちょっと待って……オレは……」

 

もう、恐ろしい悪魔に勇気を振り絞って立ち向かう勇者とその仲間達みたいな構図に本気でビビっているイッセーは説得を試みるが、イッセーは転生悪魔なので悪魔に立ち向かう構図というのは間違って居ない。

 

「出てけー!」

 

誰かの叫びとともに後ろに居た投擲組が一斉に持って居た物を投げつける。

 

「ぎゃー!」

 

投擲組からの一斉射撃に思わず頭を守って動きが止まった瞬間、前衛組が一斉に殴りかかる。

入学後から被害を受けた生徒達、序でにその中には変態三人が怖くて不登校になった生徒もいる。

被害者というつながりの元に正に以心伝心というチームワークでイッセーを袋叩きにしている。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ、オレは……ヒデブ!」

 

説得を試みて一人の手首を掴んで動きを止めて話を聞いて貰おうと、取り敢えず手を止めて貰おうと思った瞬間、イッセーの顔面にボールが直撃する。

 

足元に転がってきたボールを詩乃が投げつけたのだ。

正確な射撃では無くこの場合は、正確な投擲技術によって顔面のど真ん中へとヒットしていた。

 

「みんな、今の内に逃げるわよ」

 

「後ろから逃げて、生徒会か先生を呼んで来て」

 

イッセーが顔面へのボールの直撃に悶絶していると詩乃と雫がイッセーからの避難を促す。完全に襲撃して来た変質者への対応で有る。

……ってか、学園の生徒なのに教師を呼ばれるとは。

 

「待ってくれ、オレは……うわっ!」

 

「キャァー!」

 

真っ先に殴りかかって来た剣道部の子を呼び止めて話を聞いて貰おうと思うが、肩を掴んだ瞬間足元に投げ捨てられた武器に足を取られて彼女を巻き込んで倒れこむ。

……完全に押し倒した形だ。

 

「ひぃ……」

 

(おおぉ、事故とは言え夢みたいなシュチエーションに。うん、これは事故だ。事故なんだから仕方ないよな)

 

怯える押し倒された少女と自己弁護をしている押し倒したイッセーの図。

 

「逃げて! 今の内にみんな逃げてぇ!」

 

悲鳴に近い形でその少女が他の生徒に今の内に逃げる様に促す。

 

「おーい、一体なんの騒ぎだ!?」

 

「詩乃、雫迎えに……」

 

そんなタイミングが悪すぎる時に詩乃達を迎えに来た四季と、騒ぎを聞きつけた匙の二人が教室に入ってきた。

 

「「「……」」」

 

その瞬間、三人の男の間に沈黙が流れた。嫌な沈黙だった。『あの変態、白昼堂々女の子押し倒して何やってんだ?』そんな考えが四季と匙に浮かんでくる。そして、

 

「せい、やぁー!」

 

「ゲフゥ!」

 

四季の飛び蹴りがイッセーを蹴り飛ばし、少女から遠ざける。

 

「あ、天地、何しやがる!?」

 

「匙、今の内にその子を」

 

「おお、良くやった! こっちは任せろ!」

 

「ああ!」

 

突然蹴り飛ばされて四季に対して抗議の声を上げるが、そんなイッセーを他所に四季は押し倒されていた少女を逃す様に匙に指示を出して、匙もそれに応えて少女を立ち上がらせてイッセーから逃す。

四季と匙の対応に本格的にどういう状況か自覚したのか、顔色が悪くなるイッセー。

 

「オイコラ、兵藤! 白昼堂々と女生徒を襲うなんて何考えてやがる」

 

「ま、待ってくれ、それは事故なんだ!? オレはリアス部長の使いで詩乃ちゃんと雫ちゃんを呼びに……」

 

「取り敢えず、寝てろ!」

 

匙の言葉に慌てて弁明するイッセーだったが、場の鎮圧を優先した四季がイッセーの弁明を聞かずにイッセーの前に飛び出していく。

 

「ゲフゥ!」

 

彼の懐へと飛び込み腹部への掌打から始まり龍星脚へと流れる一連の連続攻撃が決まり、壁へと叩き付けられイッセーは気絶する。

 

「よーし、話は生徒会室で聞かせて貰うぞ。天地、今日は助かった」

 

「当然の事だ、気にするな」

 

女生徒達から歓声が上がる中、事情聴取の為に気絶したイッセーを引きずって生徒会室に連行する匙と、問題解決とばかりに詩乃達と帰宅する四季。

 

『駒王の皇帝(エンペラー)』そんな渾名が四季に着いた瞬間で有る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、イッセーが女生徒達に殴られたのは日頃の行いが原因なのは良いとして、リアスの使いだった事は早々に証明された。ソーナがリアスに確認をとったからだ。

流石にイッセーが今までの行いが原因で嫌われている事を忘れていたリアスにも非が有ったりする。そもそも、一年の生徒になんて悪いところしか知られていない。

その事についてはソーナは後で徹底的に注意すると心に誓ったのは余談として、イッセーが女生徒を襲っていたという状況だが……。

 

殆どが女子の生徒会メンバーからゴミを見る視線が向けられる中、必死にあれは事故だと弁明するイッセー。

最早彼が有罪となるのは時間の問題と思われる中、イッセーが女生徒を押し倒していたのは事故であることを証明してくれたのは小猫であった。

 

流石に一年生の小猫は一年の間でのイッセーの評判を知っていた為に、一抹の不安を覚え自身の使い魔に詩乃と雫の教室の様子を見て貰っていた。

 

……結果、教室に入った瞬間声をかけることもできずに袋叩きに合い、最終的にその中の一人を押し倒してしまった事を小猫経由でリアスに伝えられ、その事をソーナへと伝えられてイッセーは誤解だと証明できた。

 

当然ながら助けに入った四季にはお咎めなし。殴りかかったり一斉攻撃に参加した生徒達も普段の彼の行いからお咎めなし。普段の行いが悪い為に事故で押し倒してしまったイッセーも“今回は”お咎めなしとなった。

 

流石に何もしていないのに殴りかかった側がお咎め無しなのは彼の主人であるリアスは憤ったが、転生前に積み重ね続けた悪行が原因と言われれば納得するしか無かった。

 

 

 

 

……教訓、普段の行いには気をつけよう……。

 

 

 

 

 

『……オレ、変なのに宿っちゃったか?』

 

相棒であるドライグもイッセーの惨状に呆れたように呟くのだった。まあ、相棒である以上一蓮托生、覚醒後のイッセーの名声はドライグの名声にもなるだろうが、悪名もドライグに付属する。

後に呼ばれる事になる『乳龍帝おっぱいドラゴン』、それは邪竜にさえも恥と思われないか心配である。

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、イッセーの奴、詩乃と雫の事を呼んでたような……」

 

「四季、嫌な事言わないで」

 

「あの人には近づかれたくない」

 

取り敢えず、ルパンレンジャー時の怪盗衣装の時は正体知られないだけマシだが素顔の時は嫌なようだ。

 

最近洋服崩壊(ドレスブレイク)なんて技まで会得したせいで余計に近づかれたく無くなったそうだ。

 

「考えられる事は……アナザーリュウガの時の事か?」

 

「四季だけじゃ無くて私達も力を見せちゃったし」

 

「あれが原因だったら……」

 

一瞬見捨てた方が良かったかと思ってしまう詩乃と雫の二人だった。

 

「ま、まあ、助けたのは緊急時だったから」

 

「それは分かってるけど……その上でも近づかれたくないのよ」

 

詩乃の言葉に同意する雫。仕方ないと思いつつも、イッセーの行動には注意を払っておこうと思う四季だった。

 

(……万丈さん、貴方のボトルの成分、あんなのに使わせてすみませんでした)

 

序でに心の中で謝る四季であった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

九話目

「君はこれから、紛い物の仮面ライダーシザースです」

 

 

『シザース……』

 

 

「あぁぁぁあ!」

 

目の前でアナザーシザースに変貌させた男を見下ろしながらナイトローグは溜息を吐く。

 

「ふう。手駒のアナザーライダーの確保も大変ですね」

 

いくつかのブランクライドウォッチを取り出し、同じ異形の顔が浮かんだライドウォッチへと変化させる。

 

 

『『『メイジ……』』』

 

 

アナザーメイジウォッチに変えた複数のライドウォッチを仕舞うとナイトローグはアナザーシザースを連れて姿を消す。

 

「こう言う作業には向いていないとはいえ。聖剣を盗りに行っている彼が羨ましいですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無造作に持った鞘に納められた剣を持ちながらその仮面の戦士は二本目の剣を手に取る。教会が所有する聖剣……エクスカリバーの内の二本だ。

 

「これで良し」

 

彼、『仮面ライダールパン』は二本の聖剣を見事盗み出すことに成功し、教会を後にする。

あらゆるセキュリティを嘲笑い盗み出す様はまさに怪盗といった所だろう。

 

残りも盗み出しても良かったが、飽くまで任されていたのはそのうちの二本のみ。

予告状も出せず、盗み出した成果として己の名を名乗れないのは不満だが、今はその時では無いと任された役目に専念する。

 

「それでは……adieu」

 

誰に対して言ったのか定かでは無いが仮面ライダールパンは其処から姿を消して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソードブリンガーを振り回しながら何処かの研究所のような場所で暴れまわるのは、仮面ライダーマルス。

 

「もう逃げられんぞ」

 

その研究所の所有者らしい男が怯えながら尻餅をついている。

 

『人間兵器』、人間を薬品により強化して強力な兵士を作り出すことを目的とした違法な研究施設。目の前の男はこの研究施設の代表で有り、主任研究者でもある。

だが、それも表向きのものでしかない。その研究施設は楽に強力な眷属を得たい悪魔の貴族が自身と契約した権力者を利用してスポンサーとして運営されていた。

死んだ所で成功例は悪魔に転生させればそれなりに使える兵士となる、と。使い捨てであっても駒は戻るので新しい兵士に使い直せば良い、そんな考えの元に作られた研究施設だが、目の前の黄金の騎士の手によってその日壊滅した。

 

「さて、今度はお前の命をオレ達のために使って貰おうか」

 

 

『デューク……』

 

 

「ぎゃあぁぁぁ!」

 

絶叫を上げながら男はアナザーライダーデュークに姿を変える。

 

「序でだ」

 

 

『スイカ!』

 

 

マルスは自身のベルトのロックシードをスイカに入れ替える。スイカアームズの力を利用して破壊し尽くし、マルスはその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナイトローグ達がそんな暗躍する中、駒王では……

 

「すみません、朝田さんと北山さんはいますか?」

 

先日の反省からか、イッセーに変わって同じ一年生である小猫が二人を呼びに来た。

 

流石にソーナからイッセーの今までの行動について注意されてから判断を改めたのだろう。

今までの行動の全ては悪魔への転生前の行動であり、リアスには主人としての監督責任はないが、それでも今後は主人として見ておくようにとのことだ。

 

そんな訳で同じ一年の小猫が使いを任された訳で、二人の姿を確認して二人の前へと向かって行く。

 

「えっと……」

 

「お二人にリアス部長が用が有るそうですから、一緒に来てもらえませんか?」

 

「「あの変態に近づきたくないから、嫌」」

 

ほぼ声を揃えて告げられる拒否の言葉。小猫も小猫でやっぱりと顔に書いてある。

 

何のつもりかは分からないが、昨日イッセーが来たと言うことはリアスからの使いなのだろうと言うことは推測済みだった。

 

そもそも、一週間ちょっと程度で運動部の合宿の延長レベルの特訓でレーディングゲームでプロに勝てると考えてる時点で四季達の中でリアスの評価は低かったりする。

四季も外付けのガチャで力を貰った身の上ではあるが、それでも訓練場所には恵まれているのだ。それは、

 

 

『ダイオラマ球(in旧校舎&龍泉寺)』

 

 

があるためだ。外の一時間を中での1日にする機能のあるダイオラマ球に、東京魔人学園シリーズの二大訓練場所が付属したネギまに出て来る便利アイテムである。しかも、ダイオラマ球の中での活動中は老化しないと言う女性陣に配慮された高性能タイプと付属の説明書に書いてあった。

 

休憩所として旧校舎の教室の一つの設備を整えたり(何処から電力が入って来ているか不明だが)、寺とは言えそのまま使える休憩所があったりして、下準備を終えてから毎日実戦訓練として潜っている。

結果、現在では旧校舎と龍泉寺の内3部屋は四季達のナデシコCに続くプライベート空間に、一番大きな一部屋はミーティングルームになっている。

 

そんな四季達の特訓事情はさておき、二人の返答にやっぱりと思っても、小猫としてはそこで『はい、そうですか』とは行かないのだ。

 

「二人とも、迎えに……」

 

小猫、詩乃、雫の三人がそれぞれの事情でどうするかと思っていた時、ちょうど四季が入ってくる。小猫はちょうど良いとばかりに四季にも来て貰おうと思った訳だ。

イッセーが反対していたからリアスも彼は呼ばなかっただけで元々彼にも目は付けていた。呼んだとしても文句があるのはイッセーだけだろう。

 

「すみません、天地先輩にもリアス部長が用があるそうなので来て頂けませんか?」

 

そう告げられた小猫の言葉にどうすると言う視線を二人へと向けると、四季に任せると言う意思のこもった視線を返してくる。

 

イッセーや木場相手ならバッサリと断っても良い、場合によっては武力行使で黙らせても良いが、流石に小猫のような小柄な少女にお願いされると断り辛い。

 

「仕方ない、何度も来られても困るからな」

 

これは本音である。何度も来られても困るので小猫の頼みを聞いてオカ研に行く事を了承する。

 

「四季、良いの?」

 

「何度も来られても困るからな」

 

詩乃の言葉にそう返す四季。毎回来られては動き辛くなるのは避けたいのだし。

 

そんな四季の意見には二人も同意して小猫の先導の元にオカ研に向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オカ研の部室にある旧校舎。何度も利用しているダイオラマ球の中に設置されている旧校舎も似たようなものだが、掃除が行き届いていて誰にも利用されていないと言うのが不思議なほどに綺麗になっている。

 

(リアス・グレモリーが人間界での拠点に利用するから掃除も整備もしてあるって所か)

 

その点に関しては特に思う事はない。一応旧校舎と名のつく建物は似たような物を自分達も利用しているのだし、いずれは解体される建物なのだ、それまでの間利用するのも、自分の金や、自分の実家の金で改装したのなら文句は無い。

 

「部長、連れて来ました」

 

「入って良いわ」

 

オカ研の部室前に着くと子猫は軽くノックをして部室の中にいるリアスとそんな会話を交わしてドアを開ける。

 

「おお、一年の詩乃ちゃんに雫ちゃん!?  ……って天地まで何でいるんだよ?」

 

入った瞬間、二人に視線を向けた後四季の姿を見て不満そうな顔を浮かべるイッセーを無視してその部屋の主人であるリアスへと視線を向ける。

 

「こちらの呼び出しに応じてくれてありがとう、朝田さんに北山さん。それに、貴方も来てくれて嬉しいわ、天地四季くん」

 

リアスは微笑みながら次の言葉を告げる。

 

「私達、オカルト研究部はあなた達を歓迎するわ。悪魔としてね」

 

微笑みを浮かべながら告げられた言葉に警戒心を抱きながら促されるままにソファーに座る。

 

「粗茶です」

 

「どうも」

 

話をする前に朱乃が三人の前にカップに入ったお茶を出す。それに手を付けずに四季は目の前にいるリアスへと視線を向ける。

 

「それで、ご用件は何でしょうか、グレモリーのお嬢様? まさか仲良くお茶をする為に呼んだ訳じゃ無いでしょう」

 

「ええ、単刀直入に聞くわ。貴方達、『セント』と言う人物の名前に心当たりはある?」

 

「セント?」

 

何の事だと疑問を浮かべる中、聞き間違いに気が付く。

 

(そう言えば、ドライバーに刻んでおいたな、開発者の名前として)

 

葛城巧の名前では無く桐生戦兎の名前を刻んでおいたのだが、イッセーに渡したスクラッシュドライバーのその部分が残っていたのだろうと考える。

 

それが、この世界には存在しない仮面ライダーシリーズの中の登場人物の名前だなどと、知る術も無いだろう。

 

「知らない名前ですね」

 

「あら? 貴方が黒い騎士に変身するのに使った道具、あれの開発者の名前じゃ無いのかしら? あの黒い騎士と似た物を確認しているのよ」

 

リアスが語っているのはクローズドライグの事だろう。オニキスもクローズも共にドラゴンモチーフの仮面ライダーだ。特徴は似ているので同一の開発者と疑うのも無理はない。だが、

 

「残念ながら、オレのカードデッキ……ああ、これの呼び名ですけど、これを開発したのはユーブロンと言う人物です」

 

嘘は言っていない。四季の持っているオニキスのデッキはユーブロンの開発した物で間違い無い。

 

「っ!? そう、それで……そのユーブロンと言う人とはどこで出会ったの?」

 

残念ながら知りたがっていた情報とは違うかもしれない、そんな事実に表情を歪めるが、直ぐに表情を引き締め直す。

セントとユーブロン、別の名前を使っている同一人物と言う可能性もあるし、違ったとしてもその人物に接触して四季がカードデッキと呼んだ変身の道具を自分達も入手できればそれで良いのだから。

 

「オレが貰ったのは最初に生徒会の人達を助けた後ですね。鏡の中から現れた、異星人の科学者を名乗ったユーブロンさんから、ね」

 

THE大嘘。鏡の中、アナザーリュウガやオニキスだけしか移動手段がない場所にいるのだから接触も難しいと考える他ないだろうから、嘘だと知る方法は無いだろう。

 

(私達の分は諦めるしかないわね。でも)「そ、そうなの」

 

カードデッキの開発者のユーブロンと名乗った者が、異星人と名乗ったと言うのはツッコミどころだが、それよりも優先するのは勧誘と交渉だと考え直す。

……悪魔も天使も居るのだし、宇宙人がいても不思議では無いだろうし、いない事の証明などその場にいる誰にもできない。

 

「改めて、天地くん、そのカードデッキかしら? それを譲ってもらいたいの、赤龍帝の神器を宿したイッセーがそれを使えればもっと強くなれるはずなのよ」

 

「はあ?」

 

「金銭でも、願いでも、それに見合う対価は支払うわ。それと、朝田さんと北山さん、貴女達に私の眷属になって貰いたいのよ」

 

悪魔である以上欲しいと思ったものはどんな手を使っても手に入れたい。

そして、ライザーの時にイッセーが使った力はリアスも魅了された。それと似た強力な力が目の前にある。

悪魔という者の象徴的な色の一つである黒い色に、ドラゴンと言うモチーフ。イッセーが身に付ければ赤龍帝の籠手と合わせて、漆黒の鎧に赤の籠手、紅の殲滅姫と呼ばれた自分に仕える為に用意されたのではと思いたくなる程の取り合わせだとリアスは思う。

 

「残念ながらお断りだ。詐欺を働く気はないんでね」

 

「詐欺? どう言う意味かしら?」

 

「何でも、カードデッキには悪用防止の為に最初の使用者のDNA情報が登録され、それ以降は同じDNA情報を持つ者にしか使えない。つまり、売ったところでそっちは使えない道具に対価を支払っただけに終わる。だから、詐欺を働く気はないって言った訳だ」

 

使えないものを売るのは詐欺だと考える上に、大事な手札の一つを売るわけにはいかない。

開発者のユーブロンならば、DNA登録を書き換えることはできるだろうが、リアス達は四季の言葉に本当かどうか疑問に思う。

 

「そんなのやってみなきゃ分かんねえだろ!? オレだって使えるかもしれないのに!?」

 

「イッセーの言う通りよ! 試しても居ないのにわからないわ! それに、そうだとしてもアジュカ様なら解析することも……」

 

四季の言葉にイッセーが噛み付く。それに同調してリアスも技術担当の魔王ならば解析し、使用者情報を書き換えることも、量産する事も出来るだろうと叫ぶ。

 

「どっちにしても譲る気は無い。何より……アンタが支払うって言った対価、魔王のお兄さんなら兎も角、単なる次期当主ってだけのアンタに支払って貰えるとは思えないんでな」

 

「っ!?」

 

家を継いだわけでは無いのに払えるのかと言う言葉。その言葉に一度言葉を失ってしまうリアスだが、

 

「それなら此方が対価を支払ってからそれを渡して貰うと言う形にしても良いわ」

 

「そっちが支払えたとしても売る気はない」

 

「そう……。それで、貴女達の返事は…」

 

目の前の力は魅力的過ぎたが断られた以上は、もう一つ魅力的な力を持った彼女達への勧誘の方へと意識を切り替える。

 

「私は断るわ」

 

「私も嫌」

 

リアスの問いに返す形で詩乃と雫からの断りの言葉が響く。

 

***

 

「こ、これは……」

 

リアスの結婚式での赤い怪盗姿の四季の行動の映像は一部の貴族の間には流れていた。

まあ、逃走に宇宙戦艦を持ち出すなどと言うかなり派手な行動をしたので注目されるのは当然だが。

 

だが、彼女『シーグヴァイラ・アガレス』は四季の逃走に使ったナデシコCに目を輝かせていた。

 

「あれは……間違いなく宇宙戦艦!? では、あの中にはダンガムが有るはず!?」

 

妙なマニアの直感がナデシコの中にあるアメイジングストライクフリーダムの存在に気付いていた。…………親とセットで。

 

後にアメストフリを見た瞬間、「攻撃自由の改修機!? しかも、攻撃と同じ換装機能が……」とマニアックなマシンガントークを親子セットで魔王少女が聞かされることになるのだが、それはまだ未来の話。

 

「欲しい。いえ、せめて一度だけでも乗せてもらいたいですわ!」

 

「ああ、どんな対価を払ってでも……乗せてもらいたい!」

 

親子揃って怪盗に出会ったら土下座してでもナデシコに乗せて貰いたいと考えている辺りマニアの執念が渦を巻いていた。

輝かせた目を血走らせてナデシコの映像を見ているマニア二人の姿にアメストフリを見せたらどうなることかと、妙に未来への不安を募らせる光景である。

 

この親子、ナデシコCに乗る為に全財産を差し出さないか心配でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、悪魔になれば永遠に近い命や若さも手に入るわよ」

 

「いや、眷属悪魔の現状考えたら、場合によってはデメリットにしかならないだろ」

 

四季は、即座に断られた二人に対して悪魔に転生するメリットを示そうとするリアスの言葉にそう呟く。

 

「どう言う意味かしら?」

 

「いや、永遠に近い命が手に入るって言っても、相手に支えなきゃならないなら、永遠に近い命の対価は永遠に近い人生って事だろ?」

 

イッセーに視線を向けながら、この場合は嫌ってる相手と永遠に近い人生同僚をする羽目になると言う事だと思うが、敢えてそこは指摘しない。

 

別に悪魔が契約で人を騙すのは良い。寧ろそれが悪魔としては正しい姿だろう。契約を守りながら契約を利用して相手を騙すのは騙される側が悪いが、契約を破るのは単なる外道だ。

 

序でに領地を分けてもらえても領地の経営と言うのも面倒なものがあるのだ。

 

「そんな事はないわ! それに私は彼女達と話してるの、口を挟まないでちょうだい」

 

「私としてもそんなメリットには興味ないわ」

 

「私も興味ない」

 

四季に対して口を挟むなと叫ぶリアスだったが二人からの返事はまたしても拒絶の言葉。

お前が余計な事を言うからと言うような視線で四季を睨んで来るが、そんな視線を向けられている四季はリアスからの怒気を受け流している。

 

この世界についての知識を持つ四季の邪魔をしないように関係のないところでは口を出さなかった二人だが、二人としてはそれで良かった事に安堵していた。

 

「そう言う訳で、オレ達としてはアンタの交渉も勧誘も受ける理由はない」

 

「私としてはあなたのそれが本当にイッセーには使えないかも、確かめたかったのだけど」

 

リアスの視線は四季の持つカードデッキへと向かう。

 

「身内贔屓の評価も程々にした方がいい良いんじゃないのか、お嬢さま? アンタじゃオレ達には交渉する価値すらないしな」

 

そんなリアスの視線に気付いたのかは分からないが、四季は冷たく言い捨ててカードデッキを仕舞うと、

 

「試しに貸してやる理由もないし、売る気もないし、要件がそれで終わりならオレ達はこれで帰らせて貰おうか」

 

「テメェ!」

 

そう言って立ち上がった瞬間、殴りかかってきたイッセーの腕を受け止める。

 

「何のつもりだ?」

 

「五月蝿え! 黙って聞いてりゃ、部長を悪く言いやがって!」

 

「こっちの評価を言ったまでだ」

 

「巫山戯んな、部長ほど王に相応しい人は居ないんだよ!」

 

イッセーの叫びにそっちの部下なんだから何とかしてくれと言う視線をリアスへと向けるが、

 

「そうね、身内贔屓かどうか試して貰いましょうか」

 

「おい」

 

四季の思いとは逆にイッセーを煽ってくれるリアス。

 

「はい!!! 任せてください、部長! こいつだけはぶん殴らないと気が済まないんです!」

 

「ええ、頼んだわよ、イッセー」

 

「だから、何でそうなる?」

 

そもそも受けるとは言ってないのだ。此処でイッセーと戦うことに対するメリットも無い。

 

「あら、自信がないの?」

 

「無いのは自信じゃ無くて、こいつを殴り飛ばすメリットだ」

 

挑発する様に言ってくるリアスの言葉に呆れたような表情を浮かべながらそう返す。

これから先はまだわからないが、今のイッセーを半殺しにする自信は普通にあるが、態々半殺しにする理由もメリットも無い。

 

「それなら、貴方がイッセーに勝ったら望む対価を支払うわ。ただし、貴方が負けたらそのカードデッキを貰いましょうか?」

 

要するに負けたら好きな対価を支払うからオニキスの力を賭けてイッセーと戦え、と言う事だろう。

 

(折角オレ以外には使えないって忠告してやったのに)

 

最悪はカードデッキを取られた所でルパンレンジャーになって盗み出せば良いのだが、それでも面倒な物は面倒だ。

 

「そうか……なら、そっちが負けたら、悪魔勢力はオレ達に関わるな、だ」

 

明らかにリアスの権限を超えた事を対価に要求する。

 

「四季、それって悪魔勢力に対する対価になってない?」

 

「こう言っておけば後で何かしてきても、魔王の妹の名前を出して返り討ちにできる」

 

そんな対価を出した事に疑問を持った詩乃の問いに四季にはそう答える。

力を知られた以上は悪魔側からの接触がこれから出てくるかもしれない。それに対する対策の一つとして、リアスの名前を出した上で返り討ちにした場合の責任を彼女、延いてはその兄である魔王に押し付けるための伏線である。

 

「分かったわ」

 

そんな四季の考えに気付いていないのか、それとも気が付いていても、イッセーが負ける訳がないとでも思っているのかは分からないが、四季の条件を飲んだ。

 

「悪魔は自分の欲望に正直であるべきだと思ってるのよ。だから、欲しいと思った物はどんな手を使っても手に入れるわ」

 

「残念ながら、欲望に忠実な奴ほど破滅するぞ」

 

「忠告痛み入るわ。でも、私はどこまでも悪魔なのよ」

 

だからイッセーの言葉に乗る形で賭けに持ち込み手に入れる、と。

良い機会だから雫の力も自分の目で確認したいと言うのもあり得そうだ。

 

実際、リアスは四季からカードデッキを取り上げた上で、二人とは再度交渉すれば良いとも考えていた。

特に雫、最低でも強力な回復手段を持った彼女を眷属に出来れば、アーシアの存在と合わせて二人の回復役が居ればゲームにおける継戦能力は大きく上がるのだ。そういう意味では一番欲しい人材だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結界が張られた校庭で対峙する四季とイッセーの二人。周囲で観戦する形でお互いの仲間が二人の様子を眺めている。

 

互いに禁手やライダーへの変身は無し。飽く迄生身での一対一での模擬戦だ。

 

「行くぜ! 昨日のお返しにぶっ飛ばしてやる!」

 

「……」

 

自分の神器である赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を出現させるイッセーと、イッセーの言葉に応える事なく懐から取り出すような仕草で武器庫の端末からオリハルコンを取り出して身に付けている四季。

 

「って、天地! その籠手はどこから取り出したんだよ!?」

 

「見てただろ、取り出す所」

 

ポケットの中から取り出すところは見ていたが、明らかに懐に入っていたサイズの装備では無いだろう。

 

「大体片手だけでもお前だって付けてるだろ」

 

「うっ」

 

イッセーの言葉にそう告げて両手に装備したオリハルコンに僅かに気を流す。初めて使う武器なので多少扱いは慎重に行うが、

 

(うまく行ったな)

 

微かな雷気を纏う両手の手甲。輝きから行って普通に存在する金属では無いことには見るものが見れば気付くだろう。

オリハルコンの材料となった金属の特性なのか、この手甲は気を流すことによって雷気を纏う事ができる。実際やって見ないことにはできるかは分からなかったが、問題無いようだ。

 

「さあ、始めようか」

 

「へっ! 高々人間に何が出来る、こっちは悪魔だぜ! フェニックスにだって勝てたんだからな!」

 

ライザーに比べれば大したことはない、此処でカッコ良く四季をぶちのめして詩乃ちゃんと雫ちゃんを自分のものにしてやる、そんな考えを浮かべながらイッセーは殴りかかる。

 

それに合わせるように拳を放つ四季。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)とオリハルコンを纏った拳のぶつかり合いが、ゴングとなった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十話目

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を纏ったイッセーの拳とオリハルコンを纏った四季の拳がぶつかり合った瞬間、イッセーの腕が体ごと大きく後ろに弾かれた。

 

四季とイッセー、徒手空拳技を修めた四季の方が、格闘技の経験がライザーとのレーディングゲーム前の小猫との特訓程度しかないイッセーよりも高い為、出た結果だ。

 

「遅い。そして、甘いっ!」

 

その隙を逃さず、弾かれたイッセーとの距離を詰め、懐に飛び込むと顎を狙って掌打を打ち込む。

 

「がっ!」

 

悪魔と言っても元は人間。

純潔の悪魔と言っても肉体構造が人間と変わらないならば、元人間の転生悪魔も顎を狙い脳を揺らされればダメージは普通の人間と変わらない。

脳を揺らされれば意識はあっても体は立ってはいられないだろう。

 

予想通り顎を打たれたイッセーの体が崩れ様とする。そんな瞬間を逃さず龍星脚を放つ。

掌打を顎に打たれての体に力が入らない状態での上段蹴りの流れによってそのまま地面をバウンドしながら転がっていくイッセー。

 

「イッセー!」

 

「イッセーさん!」

 

そんなイッセーの姿に悲鳴をあげるリアスとアーシアの二人。

 

元々人一人吹き飛ばす程度の威力のある技である龍星脚を力が入らない状態で受けたのだからそれも当然の結果だろう。

 

先日の一件と同じ流れの技の組み合わせを選択したが、

 

「テ、テメェ……」

 

さすがは悪魔と言った所だろうか、フラフラとした様子で立ち上がってくる。

 

(天地の野郎、何もしないなんて余裕のつもりかよ。でもな、お前が余裕ぶってる間に、こっちはチャージする事が出来たんだ)

 

籠手から『boost』と言う音が聞こえてくる。既に何回か倍加に成功してるのだろう。

 

(倍加したオレの力は上級悪魔にも匹敵するって部長が言ってた! 当たったらあんな奴!)

 

一直線に殴りかかってくるイッセーの拳を紙一重で避け、四季は籠手に触らない様に腕を掴み、蹴り砕かんばかりの勢いで足を払い、腕を離してその場を離れる。

そして、当たれば上級悪魔にも通用する一撃はそのまま校庭へと直撃した。

 

「へー、それは地面を耕す為の神器だったのか? 初めて見たな、そんな神器」

 

校庭に大穴を開けて顔面から土に埋まってるイッセーに対してそう挑発する。

 

イッセーは気付いていない事だが、イッセーは悪魔になった事で肉体的な強度は上がってるだろうが、四季も気による身体能力の強化によって瞬間的な身体能力は人外にも負けてはいない。

それを差し引いても喧嘩の経験も無いイッセーと、徒手空拳技《陽》を操る四季の間には、大きな技量の差がある。

倍加された力に限ればイッセーの方が上だろうが、近接戦闘の技の面では四季の方が上だ。

 

「ふざけんじゃ、ねえ!」

 

埋まっていた土の中から抜け出すと赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)をつけた左手で再び殴りかかるが、先程と同じ様に僅かに体をずらして避けられてしまうが、

 

「この! さっきから! 余裕ぶってんじゃねえ!」

 

警戒されてるであろう赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の有る左手では無く右手で四季の顔面へと拳を振り抜く。

 

だが、

 

「いや、実際……」

 

「っ!?」

 

当の四季は割り込ませた右手を盾にしてイッセーの拳を防いでいた。しかも、片手にしかないイッセーとは違い、盾にした右腕にもオリハルコンは装着しているわけで……

 

「つい最近までケンカもした事ないお前の攻撃なんて、棒立ちしてなきゃ当たらないぞ」

 

「いっ……いってぇー!」

 

四季の言葉は聞こえていないのだろう。思いっきり素手で殴ってしまったため、オリハルコンを殴った手の痛みに悶えていた。全力で素手で金属を殴ればそうなるのも当然だろう。

イッセーは倍加が無ければ単なる下級悪魔。それもつい最近までケンカもした事のない素人だ。実戦経験と言えばレイナーレの一件とライザーとのレーディングゲームだけだろう。

四季も似た様な者だがガチャによる特典で天賦の才と言うべき高い資質を持ち、ダイオラマ球の中の旧校舎地下での怪物達との実戦訓練で戦闘経験はイッセーの比では無い。

 

「何だよ、それは!? なんで出来てるんだ!?」

 

悪魔であるが全力で殴っても凹み一つ無い手甲に対して文句も言いたくなるだろう。

まあ、そもそも兵士の駒八つとは言え自陣である駒王学園の真ん中で戦ってる以上、身体能力では子猫にも劣る今の彼の力では普通の手甲でも防ぐのには十分だろうが。

 

「まあ、特別製なのは認めるけどな。それじゃ、次は……こっちから行かせて貰おう、か!」

 

四季の右手が突然炎に包まれた事に驚くイッセーを始めとするグレモリー眷属の面々を他所に四季は炎気を纏った拳を振るう。

 

それは、体内で練った気を炎気へと変換。巫女に降る神の炎を模した炎気。

 

「巫炎!」

 

その炎を纏った掌打をイッセーへと打ち込む。

 

「ガハッ!」

 

その技のことを知っている詩乃と雫の二人は驚いていないが、四季の技のことを知らないリアス達グレモリー眷属は驚いている。

 

「がぁあ!」

 

炎を纏った掌打である巫炎を打ち込まれた打撃の痛みや炎の熱さに加えて、神の炎を模したが故に炎が僅かながらに持った聖属性による痛み。三重の痛みに晒されたイッセーが悲鳴を上げる中、今度は体内の気を冷気へと変換し、冷気を纏った掌打を撃ち込む。

 

「雪蓮掌っ!」

 

「あぐっ!」

 

痛みに耐えながらもなんとか防ぐ事ができたイッセーだったが、防いだ赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を纏った腕が冷気をによって凍り付く。そんなイッセーへと更に拳を握り、

 

「ふっ!」

 

「グハッ!」

 

心臓の位置を狙った拳を打ち込み、体勢が崩れた瞬間掌を腹部に添え、

 

「破ぁ!」

 

「ゲフッ!」

 

そのまま掌から練気法と呼吸法により高めた剄力を放つ気功術『掌底・発剄』をゼロ距離で撃ち込む。

 

腹部に打ち込まれた発剄によって吹き飛ばされ、力無くバウンドする様に地面に叩きつけられた後、校庭を転がるイッセー。

 

「で、オレの勝ちで良いのか?」

 

立ち上がる様子のないイッセーを眺めながら、一連の流れに言葉を失っていたリアスへと問いかける。

 

「イッセー!」

 

「イッセーさん!」

 

そんな彼の姿に再起動して慌てて駆け寄るリアスとアーシア、それに遅れて木場、朱乃、子猫の順で駆け寄っていく。

 

ゼロ距離では発頸を撃ち込んだのはやり過ぎたかとも思ったが、イッセーも駆け寄ったアーシアの神器(セイクリッド・ギア)聖女の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』で癒せているので死んではいないだろう。

 

「四季、グッジョブ」

 

「やったわね、四季」

 

雫と詩乃が駆け寄って来てそう祝福してくれる。まあ、二人も期間は短いとは言えイッセー達三人の被害を受けていたのだし、クラスメイトのことを考えると四季に叩きのめされても良かったと言う気持ちしか浮かんでこないのだろう。

 

「治療してるって事は、オレの勝ちって事で良いんだろうな」

 

「自分で回復できるなら別でしょうけど、仲間が回復させてるなら終わりでしょ」

 

グレモリー眷属側のイッセーの治療を眺めながら、四季の意見に詩乃も同意する。流石に治療有りでやるのなら本格的に殺し合いにしかならない。一対一の模擬戦と言うのならばこれで終わりだろう。

 

「んじゃ、オレの勝ちって事で、オレ達は帰らせて貰うぞ」

 

一応とばかりにリアス達にも聞こえる様な声でそう告げて帰ろうとするが、

 

「待ちなさい!」

 

リアスが四季達を呼び止める。

 

「何でしょうか、グレモリー先輩?」

 

「ここまでして置いてタダで帰すと思ってるのかしら?」

 

「いえいえ、そっちから挑んで来た賭けの対価で貰う物は無形の品なんで、もう貰ったと判断したんですけど、違いましたか?」

 

リアスの言葉にそう言葉を返す。契約書でも書いてくれますか?と続ける四季の言葉にリアスは悔しそうな表情を浮かべる。

 

「そうね、申し訳ないけど契約書を用意しておくから、受け取りに来てもらえるかしら。それを持って後日改めて契約として形にしましょう。でも、私が言ってるのはそれじゃ無いわ!」

 

リアスは気絶してるイッセーを指差す。アーシアが涙目になって治療しているが……

 

「治療くらい手伝って行きなさい」

 

「いや、お互いに一人回復役が居るんだから、そっちで回復させればいいだろ」

 

「私はちゃんと貴方も治療するつもりだったわ」

 

そう言われてしまうと無傷で勝利した以上は、リアスの言葉を嘘だと否定する事はできない。

実際事前に話してなくてもアーシアの性格上四季の事も治療していただろう。

 

「はぁ、仕方ないか……。雫、嫌だろうけど、頼む」

 

「……分かった」

 

嫌そうにしながらも、雫は四季の頼みに応えて仕方ないとばかりにイッセーへと手をかざす。

 

全身から浮かぶ青い陽の気。祈りによって形を成す癒しの術。

 

「風よ、お願い」

 

『癒しの風』。遠く離れた者も癒す癒しの術。

近づかなければ治療できない『癒しの光』では戦闘力の高く無い彼女にとって命取りだろうと考えた結果、その術の会得を雫の特訓の第一目標にしていた術だ。

 

近づく事なくアーシアからの治療を受けていたイッセーの傷が癒えていく。

 

「す、凄いです!」

 

その事に最初に反応したのはアーシアだった。遠距離での治療対象を選んでの治癒の力と言う点にだ。

 

「まあ」

 

「これは……」

 

続いて声を上げるのは朱乃だ。長距離での治癒の術。それも対象をある程度限定しての治癒も可能とする彼女の精密さにだ。

瞬間的な回復力に感嘆の声を上げるのは木場といった所だろう。

 

「あれは……」

 

そして、子猫だけはその力が魔力では無い事に気付いていた。四季も雫も、もしかしたら詩乃もそうだと。

 

(姉様が暴走したのと違って制御された気)

 

それだけでは無い。仙術という力の才を持つが故に気がついてしまっていた。四季の力の質に。

 

(金色のドラゴン……)

 

大地の気を受け入れられるが故にほぼ無限の気を操ることが出来るその力の鱗片に。

 

***

 

オカ研の部室にて、先ほどの模擬戦の結果に対してリアスは頭を抱えて居た。

 

なお、アーシアと小猫はイッセーを保健室に運んで行った為にこの場には居ない。アーシアが付き添い、小猫がイッセーの搬送である。

 

そんな訳で部室の中にはリアスと朱乃、木場の三人だけが居た。

 

「彼があんなに強かったなんて、予想外だったわ……」

 

神器(セイクリッド・ギア)も持たないただの人間である四季が滅神具(ロンギヌス)の一つである赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を持ったイッセーを相手に一方的に勝つと言う結果はリアスにとって予想外の結果であった。

 

「あの子の力は確認できたけど……」

 

「あれは魔力ではありませんでしたね」

 

リアスの言葉にそう返すのは朱乃だ。アーシアの神器の力とは異質な癒しの力。収穫と言えば雫の治癒の力を自分達の目で確認出来た程度の事だった。

確かにあれは魔力でも神器(セイクリッド・ギア)でも無い力による治癒術。しかも、アーシアの神器(セイクリッド・ギア)と同じく悪魔も癒せる力だ。

正に力の事を知らないリアス達にとっては奇跡の力とでも言うべき力だろう。

なお、雫の力の元の美里葵の異名が聖女なだけに厄介ごとが向こうからやってくる事にもなるが、それはそれ、まだ未来の話。

 

「是非とも眷属に欲しかったけど、今回は失敗しちゃったわね。それに」

 

四季が魔力も使わずに炎や冷気を操ったのも一度はあの手甲の力や何らかの神器(セイクリッド・ギア)の力かとも考えたが、小猫があれは気を炎や冷気に変換している事に気付いた。

 

「そうなると、あれは何かの技術……いえ、武術とでも言った方が良いと思います」

 

木場の言葉にリアスは考え込む。

 

「下手したら何人も同じことができる者が量産出来るという訳ね」

 

個人個人の才の差こそあれ、程度の違いは有るが、それが何らかの武術や技術で有る以上は、四季の行なったことの大半が誰にでも出来るというのは脅威になるだろう。

だが、

 

「逆に言えば、あれが神器じゃ無いなら、彼の技は私達も会得する事が出来るかもしれない、という訳ね」

 

彼の技を学べば素手で戦うタイプのイッセーや小猫ならば大きな戦力アップに繋がるだろう。四季の指摘も考えてみればもっともだ。

例え、どれだけ強力な武器を持っていても、素人が相手ならば鈍と変わらない。

 

それも含めてここで四季達との接点が切れると言うのは避けたい。

それに残骸を回収したスクラッシュドライバーも修復の目処は立っていない今、四季の持つカードデッキは魅力的すぎるのだ。

 

「接点は保っておきたいけど……」

 

彼らの眷属への勧誘やカードデッキの購入などまだ接点は保っておきたい。

ぶっちゃけ、殆ど自分個人では無く悪魔勢力全体との契約に近い事を約束してしまったことに今更ながら後悔していた。

 

あと一度此方に来てもらう理由はあるのだが、何とかその時に上手く交渉する材料は無いかと頭を悩ませるリアスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、オカ研の事はさておき、四季達はと言うと。

 

「イッセー、あいつ……レアエネミー扱いなのか?」

 

「レアエンアウントって訳ね」

 

滅多にエンカウントできないがドロップする物は多い希少な敵キャラ。

何故イッセーがゲームに詳しい四季と詩乃の二人からそんなレアエネミー扱いされて居るのかと言うと……。

 

「はぐれ悪魔の十倍のガチャポイントだったんだ」

 

雫の呟きが全てを物語っていた。イッセーとの模擬戦を四季が圧勝した後、四季のビルドフォンに届いたメール。それには獲得したガチャポイントがはぐれ悪魔の十倍も獲得出来たと有った。

 

流石に模擬戦も含めて正式な戦闘、初期ボーナスの様なものだった様だが。

 

そんなイッセーの撃破ボーナスでガチャポイントが貯まった事を確認した三人は地下のガチャマシーンの前に立っていた。

もう少しで初のガチャポイントでの十連ガチャが出来る所まで来ていたので、今回のイッセーとの模擬戦は身入りは多かったのだ。……その分金銭的な賞金は無かったが。

 

「そう言うわけで十連ガチャだ!」

 

「「おー!」」

 

折角なのでと三人でそこにいたのだ。四季がガチャマシーンを起動させガチャを回すと10個のカプセルが落ちてくる。最初のカプセルから出て来たのは、

 

 

『アニールブレード(ソードアート・オンライン)』

 

 

今更いらない普通の剣だった。誰も剣を使える人間はいないし、もっと良い剣が有るし、初のポイントガチャでのドロップだっただけに拍子抜けした。

 

「剣だったらソードベントが有るし……使えるかは分からないけど、あれも有るしな」

 

「他の物に期待しましょう」

 

詩乃からの励ましを受けて残る九つのカプセルの中の一つを手に取ると、

 

 

『ラグーラビットの肉(ソードアート・オンライン)』

 

 

「食べ物?」

 

「食べ物、よね?」

 

「今夜の夕飯に使うか、これ」

 

二つ目のカプセルの中身は食料品だった。この世界には存在しないゲームの中の食材。これは今夜の夕飯にでもするとして、

 

 

『VF-31ジークフリード(マクロスΔ)』

 

 

三つ目のカプセルの中には戦闘機が入っていた。正確にはヴァリアブルファイター、最初の機体で有るVF-1の名に因んでバルキリーと呼ばれる機体だ。

 

カプセルを開けると中身ごと消えた。ナデシコCのある地下格納庫の中に出現したのだろう。

 

「バルキリーって、ナデシコの艦載機が増えたな……」

 

まあ、パイロットが四季だけな以上はアメストフリと合わせて二機とも四季が使うしか無い。

MSとVF、使う人間が一人だけなのに無駄に艦載機が増えてしまった。

……ナデシコCを使う時は基本怪盗であるから飛行手段ではダイヤルファイターもある。そして次のカプセルの中身は、

 

 

『タクティカルベスト(九龍妖魔学園紀)』

 

 

単なる服なのでハズレかと思ったが、何故かポケットの中にアニールブレードが収納できた上に余裕がある。

ゲーム中では銃や剣に果ては鍋料理まで持ち歩いて居る描写がタクティカルベストのポケットが四次元ポケットと言う扱いで再現されたのだろう。

 

「これは便利ね」

 

「うん」

 

回復役の雫や素手で戦える四季と違って詩乃の場合は弓は兎も角、この日本で銃は持ち歩き難いのだ。

取り出すのは良いが仕舞う時はどうするべきかと思っていたが、これで持ち帰る時は四季が預かれば良くなった。

 

 

『イチイバル(戦姫絶唱シンフォギア)』

 

 

次に出たのはそれ。前世の知識を持つ四季には理解出来るが、使用者がいない以上は武器庫の中でお蔵入りとなるだろう。単に歌に関する能力がある程度じゃ使えないだろうし。(魔人学園の某歌姫がシンフォギア纏えたらギャグでしか無いだろうし)

 

 

『アミュスフィア(ソードアート・オンライン)』×3

 

 

詩乃の良く知るゲーム機が人数分当たった。フルダイブ型のゲームと言うのには興味あるが、残念ながらゲームソフトが無い以上は意味のない代物だろう。

 

「ゲーム機だけでどうしろと?」

 

「ある意味一番使い道がない品物よね」

 

適当に解析してそのデータを適当なゲーム会社にキリュウセントの名義で売り捌こうかとも思うが、それは後回しにして残りは二つ。外見から見えるのはどちらも剣の様な物だが……

 

 

『エクスカリバー(fate)』

『エクスカリバー(プロトタイプ仕様)(fate)』

 

 

「おいっ!」

 

この時期に引き当てたのにはfateだけに運命を感じてしまう様な品物が二つ。別の世界の聖剣エクスカリバーが二本。別の世界線で別のアーサー王の使っていた同一の名を持つ聖剣だ。

 

それはこの世界で確認できる、7分割されて劣化品にされたエクスカリバー(笑)では無く二本とも正真正銘のエクスカリバー(真)だ。

 

「どうするのよ、これ」

 

「適当にこっちの世界の管理人に返すか?」

 

「それ、返すんじゃ無くて押し付けるって言わない?」

 

詩乃さんからのもっともなツッコミが入る。

他所の世界のエクスカリバーを新たに二本も押し付けられても、妖精郷も迷惑なだけだろう。

 

「これも武器庫の中に入れとくか」

 

「そうしておいた方が良いわよ」

 

使わなきゃ入れとけば目立たないだろうと二本のエクスカリバーはアニールブレードと合わせて武器庫の中に放り込んでおく。

隣に日本神話の神剣、隣に超有名な聖剣二本に囲まれた意思があるとすればアニールブレードはさぞ居心地が悪い事だろう。

誰も剣は使わないのだから暫くは埃をかぶって居てもらおうと思う。

 

「これからエクスカリバーに関係する事件が起きるのにエクスカリバーが出て来るか?」

 

特に見られたら木場が鬱陶しくなりそうだから絶対に見せない様にしようと心に誓う四季だった。

 

なお、夕食に食べたラグーラビットの肉は美味しかったそうだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10.5話目

「悪魔は人間と契約を結んでいる」

 

「急にどうしたの、四季?」

 

夕食後、ガチャで当てたラグーラビットの味を堪能した後で調べごとをして居た四季の呟きに詩乃がそんな言葉を返す。

 

なお、ラグーラビットはSAOのゲームの中でしか食べられない食材なだけに、かなり美味かったと言うのが感想で有る。

 

「いや、最近ナイトローグや、その仲間らしい連中の動きを調べてたら、どうも悪魔の……それも上位の貴族の連中と契約してる権力者を狙って動いてる様子なんだ」

 

ナイトローグの他にもブラッドスタークが居ても困るので敵の動きを探っていた。

その結果、明らかになった貴族の悪魔と契約した権力者を狙っての行動、それは悪魔側の人間界での動きを妨害するかの様な行動だ。

同時に相応の対価を得る為に、悪魔と契約した者達も相応の権力や財力のある権力者に関係している組織や施設。それらの施設への襲撃。

 

流石に先手を打たれたら、アナザーライダーと戦うのは厄介なのでナイトローグやその仲間と思われる者の動きの断片らしきものがないか調べて分かった結果だ。

手持ちのライダー以外のアナザーライダーは倒しにくいのだし。

 

色々と疑問が湧いて来るナイトローグ達の勢力だが、当面は情報収集しながら早いうちに対処する程度しかないのが現状だ。

 

「ナイトローグの目的が分からない以上は」

 

「せめて心構えくらいはしておいた方が良いって言う訳ね」

 

アナザーライダーはウォッチの破壊以外では強制的に変身を解除させたのち、ウォッチを回収するくらいしか四季には対処法がない。

まあ、それでも、手持ちのライダーシステムから考えてウィザード、龍騎、ビルドの三系統ライダーのアナザーライダーは難しい法則を考えずに倒せるのはアドバンテージだが。

……それでも、ビルドになる場合は一度怪盗に変装しなければならないが。

 

「息抜きは今のうちにしておくか」

 

つい最近アナザーライダーを倒したばかりで向こうも直ぐには動かないだろう。そう考えて今のうちに、出来る時に息抜きをしておこうと考える。

 

その息抜きで行く場所が、安全の保証は魔王(オーマジオウ)さえ匙を投げる危険地帯米花町なのが問題だが。

風都並に危険な街、寧ろ、その辺の通行人が犯罪者の可能性がある東都よりも、ガイアメモリの影響がある人間がある程度分かる風都の方が安全な可能性さえある。

 

以前入手した米花町にあるレストランの招待券を、球技大会前の今週中に使おうとは思ったのだが、心底場所(そこ)が不安な四季であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四季がイッセーを盛大にボコった翌日、木場から契約の書類については球技大会まで待って欲しいとのリアスからの伝言を受けたのだった。

 

四季としても明確に契約の証拠が残るのは都合はいいので多少遅れても構わない。

特に、町が危険にさらされる聖剣事件の発生に前後するだろうが、最悪授業参観の時期までに貰えれば問題ない。

 

そんな考えで週末を迎えたのだが……

 

念には念を、と更に時間をずらして。土曜日の夕食に三人で米花町のレストランに行ったのだが、

 

「被害者は……」

 

レストランの中に女子高生らしき娘とその父親に眼鏡の小学生くらいの少年の三人連れを見つけた時点で事件が起こるであろう事は半ば予想していたとはいえ、思いっきり事件に巻き込まれてしまった。

 

厨房の奥の方で何かが倒れる様な音と従業員の一人の悲鳴が響き、それに気がついた少年『江戸川コナン』と男性『毛利小五郎』が被害者を発見した事で事件が発覚し、国内最大の事件発生率の町に相応しい、大半の事件を(探偵のお陰とはいえ)二十四時間以内に解決している警察の最精鋭チームな目暮警部御一行が到着。

そして、毎回の事ながら事件にエンカウントした毛利探偵と「またか」と、呆れた様子で会話している姿を視界の端に捉えながらこう思った。

 

 

『あんたの力でも無理なのか、魔王様!?』

 

 

と。魔王(オーマジオウ)でさえ匙を投げる事件発生率の町、下手したら風都の方が安全かもしれない町、それが米花町である。何処からか『すまん』と言う威厳溢れる謝罪の声が聞こえた気がしたのは、気のせいだと思いたい。

 

(そう言えば……駅で降りる時に他の乗客に必死に呼び止められたり、赤ん坊が泣き出したりしてたよな)

 

「ところで、なんで私達こんな状況なのに冷静でいられるのかしら?」

 

「多分、魔人学園の能力の副作用なんだと思う」

 

詩乃が自分の精神状態に対する疑問を呟くと、推測混じりだがその理由となりそうな可能性を上げる。

 

東京魔人学園の主人公とその仲間たち。時に花見の最中に日本刀を持って暴れ回る男に立ち向かい、時に街のど真ん中で、突然首無し死体が出来上がっても、それを行った相手への怒りは感じても恐怖する事なく普通に行動でき、時にこんなもの有ったと栄光の手を普通に拾える、強靭なメンタルの高校生達である。

その強靱なメンタルが能力と共に得られたのなら殺人事件の現場で冷静なのにも納得である。

 

「それはちょっといらない」

 

雫の呟きに同感だと頷く二人。

 

だが、巻き込まれた以上はと、耳に気を集中させ警察の会話に意識を向ける。

会話によれば殺されたのはこの店のチーフ・シェフ。別室になっている奥の厨房でスープを作っていた際に何者かに襲われたとある。

 

(なるほど、店の味のベースになるスープはオーナーシェフか、信用があって任されるチーフシェフが調理するのは当然。他店のスパイに味を盗まれない為に別室での調理も納得だな)

 

スープは店の味のベースとなる。また、日本料理に主に使われる予め加工された鰹節や昆布などの材料と違い材料の品質を確認した上で店側で加工する必要さえある。

技術も含めて最も信頼の置ける者に調理を任せるのは当然だ。

 

それは良い。四季が気になっていたのはそこでは無い。

 

(奥に人って居たか?)

 

そこだ。半ば癖になりつつある気を使って周囲の気配を探る手順。四季自身それは悪い癖だとは思っているが、奇襲に会う危険性を少しでも減らすために旧校舎での修行の中で自然と身に付いたものだ。

そんな四季でさえ奥に人の気配は感じなかった。感じられた気配の数は店の従業員と四季たちが入店した時に居た客の人数分だけだ。

 

被害者のチーフ・シェフが気配を絶った上にその場の気配と同化するほどの武術の達人ならば話は別だが…………そんな達人が料理人やってる状況が分からないし、そんな達人が簡単に死ぬとは思えない。

 

探偵物に超常の力や超科学を持ち込むのは反則とは言うが、四季は今回そんな反則的な手段で探偵役よりも先に、事件発生よりも先に被害者は亡くなってしまって居たと言う事実に辿り着いてしまう。

 

(全面的に事件解決は名探偵に丸投げしたい所だけど……)

 

現場を動き回っている小学生のコナンを常識的な大人として止めている毛利探偵だけではなく今回は、

 

「邪魔したらダメ」

 

「すみません」

 

意外と運動神経の良い雫の手によっても止められて保護者の『毛利蘭』に引き渡されて居たりする。本人は奥の調理室に行きたい様子だが、悉く妨害されて居たりする。

その為に証拠集めもできずに推理も進んで居ない様子だ。

 

基本後衛のヒーラータイプの雫だが、運動神経は悪く無いどころか寧ろ良い方だ。

 

「さっきから黙ってるけど、どうしたの?」

 

「いや、結局スープと前菜だけしか食べられなかったから、解放されたら何処かに寄って帰ろうか、なんて思ってな」

 

そんな四季の返答に詩乃は訝しげな表情を浮かべるが、四季がそう言う時は考えている事を自分達以外に聞かれたく無いと言う事なのだろうと考えてそれ以上追求しないことにする。その程度のことはわかる程度には四季の事は信頼しているのだ。

 

そんな詩乃に心の中で感謝しつつ意識を推測から外す。

コナンが事件について調べれない状況で無事に事件解決に導かれるのか分からないが、そこはなんとかして貰おう。世の中には安楽椅子探偵なんてジャンルも存在するのだし。

 

「今回の事件は事故で片付きそうなで、もう帰ってもらっても構いませんよ」

 

事情聴取が終わり、留められていた他のお客に目暮警部がそう告げていた。

警察側は不審に思いながらも事故の線で捜査を進めるのだろう。

後ろに有った高い棚の上にある食材を取ろうとした際に足を滑らせて調理中の鍋に頭を打ち付けその中身を頭から浴びた。聴覚を強化して聞いた話では一応は状況も説明出来るそうだ。

 

「いや、他殺だろう」

 

当面此方に来る気は無いので後日名探偵が犯人を捕まえてくれればそれで良かったが、思わずそう呟いてしまう。

 

「そ、それはどう言うことかな、天地くん!?」

 

呟きが聞こえていたのか警察陣の視線が一斉に四季に向いてしまった。

 

(しまった、声に出てたか)

 

流石に気配とかそんなあやふやな物で行き着いたとは言えない。どう誤魔化すかと考えると、

 

「さあ、それを調べるのはあなた方の仕事でしょう?」

 

思わず声に出てしまったことに表向きは動揺を見せずに対応する。そもそも、論理等、一切関係ない所で気がついたのだから説明のしようがない。

 

適当にごまかしつつ視線を動かしていると視界の端にコナンの動きを捉える。ちょうど四季の近くのテーブルクロスに姿を隠して腕時計のような何かを向けていた。

 

一瞬それが光ると同時に…………無意識の内に針のような何かを受け止めていた。

 

(え……ええー!)

 

何かの絶叫のようなものが聞こえた気がしたが完全に無意識での行動なので許して欲しい。

 

(いや、何時もの探偵役が居るんだからそっちを選んでくれ)

 

内心彼の叫びにそう思って居るが、受け止めてしまった物は仕方ない。四季を選んだのも先ほどの呟きから事件の真相に気がついたと思って探偵役に選んだのだろう。

 

(あっ!?)

 

指弾の要領で本来の探偵役に(バトン)を渡そうと思った瞬間、力加減を間違えて折ってしまった。

 

「……」

 

やっちゃった事にどうしようかと思いながら、折ってしまった麻酔針を証拠隠滅とばかりに床に投げ捨てる。

 

「どうしたの、顔色が急に悪くなってるけど」

 

「あ、ああ、ちょっとな」

 

「表情も引きつってる」

 

「い、色々とな」

 

詩乃と雫が顔色が悪くなって表情が引きつって居る四季を心配して聞いて来るが本当の事など言える訳がないのでそう答えて置く。

 

名探偵の推理の邪魔をしてしまったなど言える訳がない。

視界の端には探偵役を作る事に失敗したコナンが小五郎の推理を誘導して居るのが見えるが、本当にこの事件は解決してくれるのか不安になってしまう。

 

「詩乃、雫、ちょっと手伝ってくれ」

 

「「?」」

 

疑問を浮かべる二人に耳打ちして簡単に現状を説明。

二人の協力の元さり気なく三人で思考を誘導する手伝いをする羽目になってしまった。

 

 

 

 

 

内心、問答無用に現行犯で殴り飛ばして解決できる分強盗にでも遭った方が楽だったと思ってしまう四季であった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十一話目

「イッセー、アーシア、改めて紹介するわ。こちらは支取蒼那、知っての通りこの学園の生徒会長よ」

 

「よろしく、イッセーくん、アーシアさん」

 

「こ、こちらこそ宜しくおねがいします!」

 

「あ……どうも!」

 

オカ研の部室にてリアスの紹介でこの学園のもう一人の上級悪魔であるソーナとその新人眷属同士の顔合わせが行われていた。その際に紹介された匙が資料にあった黒い龍人の様な怪物に変えられた被害者で有り、その際に四季に助けられたと言う話も明らかになった。

 

「ハハハ! オレのこともよろしくね、変なコウモリ男にバケモノにされた匙くん! つーか、アーシアに手を出したら殺すからね!」

 

「うん、よろしくね、訳の分からない怪盗から貰った道具のおかげでフェニックスに勝てた兵藤くん! 真昼間から女生徒襲うなんて本当にエロ鬼畜だよね、天罰に当たって死んでしまえ!」

 

互いの手を握りつぶさんばかりの勢いで握手をしている二人にリアスとソーナはため息をつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても……」

 

目の前で行われている球技大会の練習風景を眺めながら四季は呟く。

 

「下手に旅行したらまた事件に巻き込まれるんじゃないか?」

 

「それは同感ね」

 

「うん」

 

先日の一件の経験談からの四季の呟きに同意する詩乃と雫の二人。

夏休みに入ったらサッサとみんなで旅行にでも行って、冥界に連れて行かれる可能性を僅かにでも減らそうと考えたが、下手に何処かに出掛けたら、行った先で事件に巻き込まれるとなっては堪ったものではない。

 

いっそ、安全策をとってナデシコの性能テストも兼ねて宇宙旅行にでも行くかとも考えてしまうのも無理はない。

 

そんなぶっ飛んだ夏休みの旅行の計画を四季達が立てている中、三人の視線の先ではリアス達オカ研の一同が何故か野球の練習をしていた。

 

単なる学校の球技大会とは言え、先日のレーディングゲームで負けたリアスは勝利に飢えていた。なので今回の球技大会では是が非でも勝利が欲しいのだろう。

 

そんな勝利への飢えで力を狙われている側としては、なんとも迷惑な話だが……。

 

「それにしても、なんで野球の練習なんてしてるんだ?」

 

「球技大会の練習だと思う。けど、球技大会で野球はしないと思う」

 

「野球以外にも、球技大会の部活動対抗の試合って、普通は特定の部が有利になる競技って採用されないわよね」

 

主にサッカーと野球、バスケ、バレー等がそれに当たる。

 

「そうなるよな。やるならルールがシンプルな、みんな知ってる可能性が高い、ドッチボールとかだろうな」

 

まあ、その辺は四季の持つ未来に対する知識による物なので予測では無いが。

 

「まあ、帰宅部のオレ達はその時は見学だろうけどな」

 

「あと一人くらい居れば私達で部活を作れるのに」

 

学校内に自分達の拠点を得られると言うメリットから、以前から自分達で部活を作ろうと考えていた。

ある程度初期メンバーは顧問以外は全員が秘密を共有できるメンバーが望ましいと言う理由から、あと一人味方が増えてからと考えているが部活動の申請書は受け取っている。

 

なお、匙の一件で恩がある生徒会側としては四季達が部活を作ると言っても書類に不備さえなければ反対もし難いだろう。使えるものは最大限に利用するに限る。

 

(それにしても……)

 

そんな球技大会の練習に一人、木場だけが身が入っていない。既にイッセーの家で過去にこの街に存在していたエクスカリバーの存在を目撃したであろうことを想像するのは容易い。

 

今まで燻っていた復讐心が、復讐対象を再度目撃したことによって燃え上がってようと関係ないことだ。

他人の八つ当たりの復讐劇(笑)に巻き込まれたくは無いのだ。

 

(天界や教会じゃなくてエクスカリバーに復讐って、な)

 

復讐するべき相手は天界や教会といった、道具ではなく主導した組織では無いのかと疑問に思う。

 

そんな事を考えながら詩乃と雫の二人と連れ立って帰宅する。当面の悩みは前回米花町に行った時に巻き込まれた時間、そのお陰で貰ったガチャチケットだ。

 

 

『原作介入記念十連ガチャチケット』

 

 

とあるガチャチケットが届いた。間違いなく自分達が舞台のど真ん中にいる『ハイスクールD×D』ではなく『名探偵コナン』の方に介入したことが理由だろう。だが、何故かこのチケットのタイトルにはルビが見える気がする。

 

 

原作介入記念十連ガチャチケット(何やってんだ、お前は!)

 

 

と。まあ、介入と言うよりも予想外に事件解決の足を引っ張りかけたのでちょっと使う気になれないのだ。

 

このチケットは緊急時用に残しておくとして、現状は球技大会がのトラブルに遭遇しない事を祈るのみである。(自分達から介入する際は基本的に正体を隠したルパンレンジャーの怪盗コスチュームでなので)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、球技大会当日。女子はテニス、男子は元々女子校だった影響で人数が少ない為に複数の学年共同でのサッカーとなっていた。

 

ボールをキープしたまま相手のDFを躱しシュートを決める四季。

 

四季と一緒のチームに割り当てられたイッセーへのヘイトが集まっている為に、何故か彼を狙って一部超次元な技、ジャッジスルーシリーズが披露されている。

『死ね、兵藤!』やら叫び声が聞こえてくるが、周囲からイッセーに対してコロセコールが響いている上に、審判の教師(ジャッジ)も文字通りスルーしている。

 

イッセー達三人の変態行為に対する対応でストレス溜まったり、彼らの行動が原因で給料減らされたりして教師からイッセー達三人への怒りもあるのだろう。

まあ、そこは悪魔に転生した事による肉体的強度の強化も有り、多少鍛えているとは言え精々が運動部員程度の一般人の攻撃では多少痛い程度で済んでいるのだろう。

 

こんな時にも木場は心ここに在らずと言った様子を見せている。時折ボールが当たりそうになって危ないのだが本人は気にも止めていない様子だ。

 

そんな訳で実質2人が味方として機能しない状況での試合だったが、四季の所属チームの勝利に終わった。

試合終了後の対応が敵味方合わせて四季と木場を除いて、イッセーへの殺意を満たせなかった事に対する不満だらけだったのには内心、それで良いのかと言いたくなったが。最早、スポーツの持つ爽やかなイメージは存在していなかった。

 

「なんか、もうサッカーじゃ無いな」

 

敵味方揃って励まし合いながら『本番は部活動対抗の方だ』などと言ってる時点でスポーツでは無いと思う。

リアスを始めとして美少女揃いのオカルト研究部の中の男子に二人だけの男子の一人の上に、女子からの人気も無いどころか、痛い目に合わせても寧ろ女子から感謝されるかもしれないイッセーに対して、木場の分の敵意も向くのも当然と言える事だろう。

 

なお、普段から詩乃と雫と言う美少女二人と仲の良い四季に対しては木場と同じ理由で敵意を向ける者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、また元々は女子校なだけに人数の多い女子のテニスでは、現在一年の詩乃と雫の二人の試合が繰り広げられていた。

 

「これで!」

 

「負けない」

 

さて、詩乃の力は単純な身体能力ではなく視力を中心に強化している。前線で戦うタイプでは無い彼女にとって敵を狙い撃つための視力の強化が必須なのだ。

 

それに対して雫の力は回復系や味方や自分にバフを掛ける術が中心となっている。

 

だが、元々身体能力はそれなりに高い上に自身へのバフで強化している雫に対して、動体視力を強化した詩乃が物凄い精度で打ち返しにくい位置に打ち込んでいるというのが二人の試合の流れである。

 

「二人とも、なんか物凄いやる気だな」

 

そんな持てる手札を使った全力全開なテニスの試合を繰り広げている二人を応援しながらそう思ってしまう。

 

試合は最終的に詩乃が勝ったのだが、二人がやる気になっていた理由が判明するのは後日わかる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、三年生の部では、

 

「行くわよ、ソーナ!」

 

「良くってよ、リアス!」

 

リアスのサーブがソーナのコートに突き刺さり、バウンドしたボールをソーナが打ち返す。……此処までは普通のテニスだ。

 

「お喰らいなさい! 支取流スピンボール!」

 

「甘いわ! グレモリー流カウンターを喰らいなさい!」

 

高速回転を加えて打ち返されたボールはリアスのラケットに当たる事無く、ボールが軌道を変えて急速に落下して行った。

 

 

 

『15-30!』

 

 

 

 

 

 

「魔力込めてないか、あれ?」

 

「込めてるわね、あれ」

 

「うん、あれは込めてる」

 

魔力込みの派手な試合を始めた二人に呆れた視線を向ける四季と詩乃と雫。

流石に普通の人間相手に魔力を使うと言う大人気ないマネはしていないだろうから何も言う気は無いが、納得してやっているのなら、魔力を使おうが必殺技を使おうが、相手をKOしようが問題は無いだろう。

試合やってるのは悪魔同士なのだし。

 

 

 

 

 

 

「やるわね、ソーナ。さすが私のライバルだわ」

 

「うふふ、負けた方が小西屋のトッピング全部乗せたうどんを奢る約束、忘れていないわよね」

 

「ええ!  絶対に私が勝たせてもらうわ! 私の魔動球は百八式まであるのよ?」

 

「受けて立つわ、支取ゾーンに入った物は全て打ち返します!」

 

どこかのテニス漫画のようなことを言いながらやる気十分といった様子の駒王学園の悪魔のトップの二人。

 

「なんか、賭けの対象が庶民的過ぎないか、あのお嬢様方」

 

「なんでうどんなのかしら?」

 

「小西屋のうどんは美味しいけど」

 

「オレはトッピングの全乗せはしない派だからな」

 

「それで、四季はこの試合はどっちが勝つと思う?」

 

「引き分けだと思うな、オレは。あれ……二人とも、ラケットは強化してないし」

 

そんな二人の妙に庶民的な賭けにそんな感想を持つ三人。詩乃の問いに答える四季の目は二人の持つラケットを捉えていた。

賭けの内容とは打って変わって何処かのテニス漫画のような試合が続く中、最初に限界を迎えたのは四季の予想通り互いのラケットだった。

 

魔力を込めたパワーショットを強化していないラケットで打ち合っていればそれも道理だろう。それによって試合は両者優勝の引き分けに終わった。

 

***

 

「狙え! 兵藤を狙うんだ!」

 

「うおおおお! てめえら、オレばっかり狙いやがって、ふざけんな!」

 

さて、建前は生徒達が球技を通じて青春を謳歌しつつ、競い合う歓びを分かち合う大会なのだが、そんな建前など知らぬとばかりに、一誠は全男子から狙われていた。

いや、ドッチボールのはずなのにイッセーだけが狙われていた。

……少なくとも、アウェーで試合する国際大会の選手でさえ此処まで敵意は向けられないだろう。

 

まあ、

 

『学園の二大お姉様』と呼ばれている駒王学園のアイドルである、リアスと朱乃に投げる? その瞬間、味方さえも敵に廻る。今後の学園生活は恐ろしい事になるだろう。

 

小猫に投げる? 戦車の特性で簡単にキャッチできそうだが、学園のマスコットのロリっ子に投げるのは心理的に無理だろう。序でに上記の様に今後の学園生活は恐ろしいこととなる。

 

アーシアに投げる? 癒し系の美少女に投げたら、当てた瞬間罪悪感に苛まれた上に周囲から冷たい目で見られるのは覚悟すべきだろう。その後の学園生活は推して知るべし。

 

木場に投げる? 当てた瞬間、女子を敵に廻す事になる。その後の学園生活は推して知るべし。

 

なので、イッセー以外の相手に投げたら学園の大半を敵に回したり、罪悪感を背負ったりするので、怒りと共に全員の殺意がイッセーへと向くのは自然な事だろう。

 

「死ね野獣!」

 

「「「イッセーを殺せえええええ!」」」

 

周囲のギャラリーからは『イッセーを殺せぇぇぇぇぇ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!』とのコールが響き渡り、一誠が避けたりキャッチする度にギャラリーや選手からは舌打ちや残念そうな声が響く。

 

「イッセーにボールが集中しているわ! 戦術的には『犠牲(サクリファイス)』って事かしらね! チャンスよ、イッセー!」

 

「頑張りますぅぅ!」

 

正にヘイト集めまくりのイッセーが居るために勝手にサクリファイスが成立しちゃっている現状。チャンスと言えば確かにチャンスなのだが……。

 

ヘイトが勝手に集まったイッセーを狙って投げられるボールをイッセーがキャッチして、それを小猫にパスして戦車(ルーク)のパワーを活かした彼女が当てていく。

 

それなりに良いコンビネーションを見せながら試合を進めている中、やはり木場だけが心ここに在らずと言った様子でボーッとしている。

 

「クソォ! 恨まれても良いぃ! イケメンめぇぇぇえ!」

 

そんな試合の中で中々当てられない事に苛立った者が、自棄だとばかりにボーとしていた木場に向かってボールを投げる。

それに気付いた一誠が木場に声を掛けるも運悪くボールはイッセーに当たった上、ボールの当たり所が悪く、治療係のアーシアと運搬係の小猫と共に倒れた一誠が引き摺られて出て行く事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれって……」

 

「また新しい事件が始まるって所だな」

 

ボーッとした様子の木場の姿を眺めながら、詩乃の言葉に四季が答える。これから起こるのは木場の過去に関わる事件なのだ。

 

「血塗られた聖剣に纏わる因縁、か」

 

今回の事件に関わる話として詩乃と雫にも、この世界のエクスカリバーと認識されている剣の事を話しておいた。

 

エクスカリバーはかつての三大勢力間の戦争で砕かれ、砕かれた七つの欠片を核に七振りの聖剣として複製が作られた。

その七振りの剣はカトリック、プロテスタント、正教会の三つの教会で二本ずつ管理され、最後の一振りは行方不明とされている。だが、最後の一振りの所在を知る身としては三つの派閥に二本と言うのは、パワーバランス的に良いと考えるべきだろう。

 

だが、これも考えてみれば妙な話だ。そもそもアーサー王の逸話でエクスカリバーは返却されている筈だ。天界が所持しているとしたら、一番可能性が高いのは、自らの剣をエクスカリバーと呼んだリチャード1世が使ったそれなりに力を持った名もなき聖剣なのだろうが……。

 

「正真正銘の本物だった場合が一番不味いよな……」

 

天界による強盗か良くて借りパク。実際借りパクだとしたら、その行方不明扱いの一本がこの世界のアーサー王の子孫の元にあるのも頷ける。

 

「ん?」

 

丁度イッセーが運び出されて試合が中断された時だった。

頬に当たる冷たい水滴。空を見上げると黒い雲に覆われた空から雨が降り出していた。

 

「雨か」

 

屋外での球技大会が中断されて体育館で続行と言う放送を聴きながら、詩乃と雫と連れ立って四季は校舎側へと避難していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―パァンッ!―

 

球技大会の団体戦、それはオカ研の優勝に終わった。そんな体育館へと続く渡り廊下に出た時、其処に乾いた音が響く。

 

「どう? 少しは目が覚めたかしら」

 

体育館の渡り廊下、其処でリアスが木場の頬を平手で叩いていた。

 

「対抗戦、優勝は出来たけれど、チームが団結しないとならない場面で終始貴方は心此処に有らずだったわ。一体どうしたの?」

 

特に三人とも部活に参加しておらず、応援の立場で観戦していた四季達だが、外に出た時にタイミング悪く拙い所に出てしまったと思う中、治療を終えたらしい一誠とアーシアもその場面に出くわしてしまう。

 

「……木場」

 

死んだような目で項垂れている木場の姿を見て、そんな木場の様子に一誠が疑問に思う。

 

「大会では申し訳ありませんでした。調子が悪かったみたいです」

 

明らかに作り笑いと分かる笑顔で木場はリアスへと謝罪を告げる。

 

「もういいですか? 球技大会も終りましたし……。少し疲れましたし、暫く部活も休ませてください」

 

「おい、木場。お前、マジで最近変だぞ!?」

 

「君には関係ないよ」

 

肩を掴んで呼び止めるイッセーの手を払って木場は冷たく告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、ごめんなさい、見苦しい所を見せちゃったわね」

 

気付かれる前に立ち去ろうとした四季達の姿に気が付いたリアスが四季達へと声をかけてくる。

 

「いえ、此方も偶然聞いてしまっただけなので」

 

其方の事情に首を突っ込む気は無いと言う様子でリアスの言葉に返す。

 

「彼が聖剣計画の生き残り、程度の事情は知っていましたけど」

 

調べればわかる程度の事なのでその程度の情報は出しても良いだろうと言葉を続ける。

基本的に前世の事を記憶していない四季が転生者である事の証明の一つである『原作知識』と言う名の精度の高い未来予知によるものだ。

 

未来の事は兎も角原作前に確定している過去についての知識はその正確性も確かめ易い。

 

「っ!? そんな事まで知っているのね。本当にどうやって知ったのか教えてほしいわ」

 

「それは、企業秘密というやつですね、グレモリー先輩」

 

流石に原作知識となどとは言えないのでリアスの言葉にはそう言って誤魔化しておく。

流石に自分の情報の出所を教えるとは向こうも思っていないだろうし。

 

「そう」

 

素直に教えてくれるとは思っていなかったのだろう、リアスも四季の言葉にそう返す。

 

「あなた達の力といい、その情報網と言い、本当に興味深いわね」

 

「それはどうも」

 

簡潔にそう言い切って手を振って四季達は立ち去ろうとするが、

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は復讐の為に生きている。聖剣エクスカリバー、それを破壊するのが僕の戦う意味だ」

 

丁度木場とイッセーの会話が終わって居たのだろう。憎悪に染まった目でイッセーへとそう告げていた。

 

そう言って雨の中傘も差さずに濡れながら立ち去っていく木場の後ろ姿に四季は何処か冷たい感想を抱く。

 

(なんで、そこで道具に当たるかな)

 

仲間達を殺した研究者への復讐、計画を立てた教会への復讐ならば分かる。

だが、エクスカリバーは言ってしまえば所詮は道具、木場の言うエクスカリバーへの復讐は教会や天界という強大な組織に勝てないと諦めた上での代償行為にしか見えない。

四季に言わせれば、復讐とは名ばかりの道具への八つ当たりに過ぎない。

 

「そもそも、あいつの復讐の方向性もそうだけど、教会がエクスカリバーを持ってることも不自然だと思うけどな」

 

ガチャ産とは言え別世界のエクスカリバーを二本も入手してしまったからこそ、持ってしまった教会が所持するエクスカリバーに対する不自然さではあるが、

 

そんな呟きがこぼれた瞬間、イッセーにも聞こえたのだろう、四季の言葉に気が付いたイッセーが四季を呼び止める。

 

「待てよ、お前、木場の事情知ってるのかよ!?」

 

「ん? ああ、客観的にと言う点でだけどな。詳しい事は自分の所の王にでも聞いたらどうだ。部外者のオレには態々説明してやる理由はないからな」

 

そう簡潔に切って捨てる。

今回の事件は街の安全を考えて参戦する必要性は感じていたが、イッセー達に味方する必要は無いのだ。

 

同時にそれは、木場の復讐の手助けをしてやる必要もないと言うことにもなる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話目

まだ雨の降る中、暗い目をした木場は傘も刺さずに雨に濡れながら、一人歩いていた。

 

(聖剣エクスカリバーへの復讐を忘れたことなどなかった。ちょっと学園の空気に呆けてただけだ)

 

それはほんの僅かなキッカケで彼の中に蘇った……いや、再燃した復讐心、

 

(仲間も、生活も、名前も……主人であるリアス・グレモリーに貰った)

 

以前の人生を忘れて新しい人生を送ってもらいたいと言うリアスの願いでもあったのだろう。

それは確かに木場にとって幸せな物だった。

 

(これ以上の幸せを願うのは悪い事だ。想いを果たすまで、同志達の分を生きていて良いなどと思ったこと、っ!?)

 

どっさに感じた殺気に反応し、自身の神器から魔剣を創り出し、殺気が向けられた方へと振るう。

 

交差するのは二つの刃。襲撃者の刃を受け止めながら木場は襲撃者を一瞥する。

 

切りかかってきたのは白髮の同年代と思われる少年。互いに距離を取り狂気に満ちた笑みを浮かべる。

 

「やっほ、お久だね」

 

「『フリード・セルゼン』……まだこの街に潜伏していたのか」

 

「ありゃ? 御機嫌斜め? 俺っちは君との再会劇に涙ナミダでございますよ! しかも、こーんなスペシャルな武器とすんごーい、力まで貰っちゃって、もう! 超々ごっ機嫌でございます! って感じなのよ!」

 

「……その剣は!?」

 

フリードと呼んだ男の持っている剣に驚愕と同時に憎悪が宿る。その剣は、

 

「お前さんの魔剣とこの力を使った俺様のエクスカリバー、ちょーっと、どっちが上か試させてくれないかね? お礼は殺して返すからさぁ!」

 

聖剣エクスカリバー。木場にとって憎悪の対象である剣だ。

しかも、それに注意が向いているが故に気付いて居ない。フリードの片手に握られている時計のような物の存在に。

 

「そんじゃ、行くよー! 行くよー! 行っちゃうよー! へーんしん、とお!」

 

 

『ブレイブ……』

 

 

同時にそんな音が響くと、フリードは起動させたアナザーライドウォッチを己の中に埋め込む。

フリードだった男はエクスカリバーを片手に持ち、片手は剣が収められた盾と一体化している青い騎士を思わせる怪物へと姿を変えていた。

その名はアナザーライダーブレイブ。エグゼイドの世界に存在する仮面ライダーブレイブを歪め、誕生したアナザーライダーだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃四季達は、

 

「行って……火龍っ!」

 

「守護をっ」

 

「八雲っ!」

 

眼前の巨大な異形の怪物に詩乃の放った炎を纏った矢が突き刺さり、雫の防御術を受けた四季が攻撃を掻い潜りながら強烈な一撃を放つ。

 

現在進行形で旧校舎の中で修行中の三人であるが、今回は単純に修行だけでなく、新たな手札の実験でもある。

先ほどの攻撃で弱った異形に対して四季と雫は、

 

「行くぞ、雫」

 

「うん。私の力、四季に預ける」

 

そんな言葉を交わし、互いの気を共鳴させ、循環、そして増幅させる。

今は三人しかいないが相性によって二人以上の力を増幅させて放つ一種の合体必殺技である方陣技。

今使うのは、黄竜の器である四季と菩薩眼の力を持つ雫による方陣技。

 

「「破邪顕正っ、黄龍菩薩陣!!!」」

 

その実戦での試し撃ちも兼ねていた。

二人の光の柱の中に昇る黄竜に飲み込まれ、異形はその姿を消す。

 

「凄い技ね」

 

目の前のそれを見た詩乃の呟きが溢れる。二人の方陣技は対象になった異形を跡形も無く消し去り、その威力は十分である事を物語っていた。

 

「対コカビエル用のカードには丁度いいかな、これは?」

 

方陣技の破壊力では、比較的下位に入る技だが、それでも十分に強力な破壊力を秘めている。

現在、仮面ライダーへの変身を除けば一番強力な手札なのだ。

 

「流石にウィザードの太陽蹴りは、な」

 

ファントムの方のフェニックスに対する仮面ライダーウィザードの決め技である。再生と強化を繰り返す不死のファントムに対して太陽に蹴り飛ばす事で文字通り、不死のファントムに、無限の死と再生を贈ったわけだ。

 

コカビエル相手にそこまでする必要があるかは分からないが、太陽に蹴り飛ばせば大抵の敵は倒すことはできるだろう。

だが、付け加えるなら今のところウィザードの力は暫く切り札として隠しておきたいのだ。…………余計なトラブルさえ起こらなければ。

 

「それは……流石に、ちょっとやり過ぎじゃない?」

 

「オレも今そう思った」

 

まあ、考えてみるとそこまで確実に抹殺する必要が有るかと問われたら、やり過ぎでしかない。

 

取り敢えず、叩きのめして引き取りに来た白龍皇に引き渡せばコカビエルの一件は解決なのだから、態々太陽に放り込んでまで確実に始末しなくてもいいだろう。下手したらオニキスでも十分である可能性だってある。

 

だが、事件の規模としてはこの一件は一気に大きくなってしまうのも事実だ。

 

「だけど、今回ばかりは万が一の可能性も回避したいからな」

 

そもそも、自分達だけでなくアナザーライダーにナイトローグというイレギュラーまで居るのだから、何処でズレが生じるかは分からないのだ。

 

旧校舎地下での戦利品を拾い集めつつ、一度休憩のために地上部分に戻りながらそんな事を思う四季だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真神学園旧校舎。

其処が四季のダイオラマ球の中にある二つの建物の一つで、東京魔人学園剣風帖における主人公達の特訓場所である。

 

その中のミーティングルームとして利用している教室の一室。

どうやって此処に電気が通っているかは分からないが、本棚、冷蔵庫、ソファー、エアコンまで置かれた其処は一種のリビングルームとなっていた其処に特訓を終えた四季達三人の姿は有った。

本棚には各々の持ち込んだ雑誌や漫画本が詰め込まれている。学校の教室の面影は残っているが、完全にリビングルームだ。

 

「調理施設とか有れば良いんだけどな」

 

「電子レンジで冷凍食品とかを解凍するしか出来ないわね」

 

「あとは、お菓子くらい」

 

時間の流れが違うとは言え最低一日はここにいる必要があるので、ちゃんとした食事を用意する必要がある時は、もう一つの施設である龍泉寺に行くしか無い。そっちにはしっかりとした台所もある宿泊施設がある。

 

「取り敢えず、オレの知識が正しければ、この先に起こるのは木場に関係してくる」

 

前回のフェニックス家との御家騒動とは違い、今回の事件は失敗してしまったら街一つが消えて無くなってしまうという、大規模な被害が起こる。

その為に可能な限り情報は共有して置こうと判断した訳だ。

なお、この場所を選んだのはナデシコと並んで、間違っても誰かに聞かれる心配がないからである。

 

「敵は、先ずはぐれエクソシストのフリード。こいつはコカビエルが奪った聖剣を持っている」

 

「剣士なら私達が相手するのは不利ね」

 

「ああ。コカビエルを除いて唯一の戦闘要員だからこいつを倒せばあとはコカビエルだけだ。二人目は研究者のバルパー」

 

聖剣計画の首謀者でありこれから起こる事件の首謀者の一人としてその名を挙げる。

飽く迄原作ではコカビエルに始末されたので戦闘描写がなかった事から戦闘力は分からない。

だが、研究者が弱いなどと言う考えは持たないほうが吉だ。

主役ライダーの色違いに変身する神(仮面ライダーゲンム)とか、

レモン公爵なマッドドクターな戦極(仮面ライダーデューク)とか、

仮面ライダービルドの葛城親子とか、

他にも仮面ライダー世界には強い科学者は多い。

しかも、上げたのは仮面ライダーに変身できる連中に限定しているが、怪人まで入れたらキリが無い程に強い科学者は多い。

 

「そして、最後に敵の首魁のコカビエル」

 

バルパーは一応コカビエルに不意を突かれたとは言え始末されたから、強かったとしてもコカビエルよりは辛うじて下に位置しているだろう。

未知数としか言えないバルパーの実力はさておき、事前の情報で要警戒なのはやはり堕天使の幹部のコカビエルだろう。

 

「神話に名を刻む堕天使勢力の幹部の一人、好戦派の代表と言うこともあって、強敵であることは間違いない」

 

原作では白龍皇の鎧を纏ったヴァーリに倒されていたが、イッセー達の戦う相手とは下級から中級の堕天使からフェニックス家の三男と、戦った相手としてはその前の敵と比べて爆発的に敵のレベルが上がってるとしか思えない。

現にイッセーの禁手(バランスブレイク)が無いとは言え、全く手も足も出なかった相手だ。

 

だが、問題はそれだけでは無い。

 

「それに、問題は他にもあるでしょう?」

 

「ああ。ナイトローグの動きだよな」

 

詩乃の言葉にそう同意する。リアス・グレモリーとライザー・フェニックスとの婚約解消を賭けたレーティングゲームの特訓の最中に動いていた奴が今回は暗躍していないとは考え辛い。

 

寧ろ、奴が何らかの目的を持って動いているのなら、今回はグレモリー眷属もターゲットに入っている可能性さえある。

 

「上手く、コカビエル一味と共倒れにでもなってくれれば楽なんだけどな……」

 

「そう上手くは行かないわよね……」

 

「うん」

 

四季の言葉に同意する二人。実は既にナイトローグはコカビエル一味と接触しているのだが、そんなことを知るよしもない三人だった。

 

 

 

***

 

 

 

 

旧校舎地下

 

「こんな物か?」

 

仮面ライダーウィザードへの変身を解除すると、次は以前アナザーリュウガを倒した時に回収した龍騎ライドウォッチを取り出す。

 

「……アナザーライドウォチじゃ無いから、アナザーライダーになる事はないだろうけど……」

 

これを使えば、何か敵の狙いが分かるかも、そんな考えと共に龍騎ライドウォッチの起動スイッチを押す。

 

 

『龍騎!』

 

 

ライドウォッチを起動させた時、自身に何かの変化はない。だが、確かに変化は起こっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、四季達三人は何故かまたもオカルト研究部に連れてこられていた。いい加減、約束を果たして欲しいところだが、何やら『非常事態で大事な事』らしい。

 

「で?」

 

今にも斬りかからんばかりの憎悪のこもった表情を浮かべている木場。彼の視線の先にはテーブルを挟んで座っているリアスと朱乃のグレモリー眷属のトップの二人と、ロープ姿の今回のゲストの二人である青髪の少女とツインテールの少女の二人。

 

「何でオレ達は呼ばれたんだ?」

 

青髪の少女は『ゼノヴィア』、ツインテールの少女は『紫藤 イリナ』と言うらしい。

聞いた話によれば教会の関係者らしく、今回は悪魔側との交渉の為に此処に来たらしい。

 

「それは私も気になっていた」

 

ゼノヴィアと名乗った青髪の少女が四季の言葉に同意する。こんな場所に無関係な第三者がいれば当然な話だ。

 

「ええ、彼等は私達三大勢力に属していない裏の関係者よ。今回は中立の立場の立会人として此処に来てもらったわ」

 

悪魔と天界の下位組織の教会との交渉の場、その立会人に中立な立場の第三者の参加を望むのは当然だろう。

特に、今回の一件では堕天使サイドが敵側な以上、三大勢力の外から立会人を選ぶ必要があり、駒王学園にいるどこの勢力にも属していないフリーの異能者として四季達に立会人として白羽の矢が立った訳だ。

 

勝手に決められた四季達としては納得出来ないところもあるが、その辺の事情を知らない側は、それを聞いて納得したとばかりにイッセーの幼馴染らしいイリナが口を開く。

 

「先日、教会に保管、管理されていた聖剣エクスカリバー三本が奪われました」

 

彼女は真剣な表情でそう話を切り出した。

 

(相手が堕天使の幹部なら教会からの強奪も可能か)

 

聖剣の管理体制にもよるが、相手がコカビエルなら、奪われた事を責めるのは酷と言う物だろう。だが、次の言葉は四季の予想を外れていた。

 

「しかも、そのうちの二本は奪われた事に気付かれない様な鮮やかな手口で盗み出されていたことから、此方では少なくとも奪った犯人は2組と推測されています」

 

(盗み出した? 力技じゃなくて、か?)

 

「えっ? 伝説の聖剣のエクスカリバーって、そんな何本もあるのか?」

 

聖剣エクスカリバー。ある意味日本でも有名な聖剣。アーサー王の伝説は知らなくても、ゲームなどの知識くらその名前だけは知っていると言う者も多いだろう。

 

「イッセーくん、真のエクスカリバーは大昔の戦争で折れたの」

 

「折れた? チョー有名な剣なのにか?」

 

「いや、元々エクスカリバーは折れたカリバーンと言う聖剣を打ち直したと言う説もある。既に一度折れた以上、もう一度折れても不思議はないだろ?」

 

イッセーへと説明するイリナの言葉に続いて四季がそう補足する。

二天龍、特にドライグとエクスカリバーは縁があるだけに『勉強不足だな』と言う意思を込めた言葉だったが、当のイッセー本人もそう受け取ったのだろう、ムッとした表情を浮かべている。

そこまで言うと「更に」と前置きして、

 

「しかも、そのカリバーンが折れた状況が騎士道に反する行いをした使い手への、聖剣から抗議の様なものと言う説だってある」

 

聖剣(エクスカリバー)が折れたのは聖剣からの抗議、天界はよほど酷い使い方をした』と言う四季の言葉の意味も理解できたのだろう、イリナとゼノヴィアの二人もイッセーと同様にムッとした表情を浮かべていた。

 

「ついでに言うと本来ならばどの説でも最終的にエクスカリバーはアーサー王の名で部下の、円卓の騎士の手で湖の乙女に返還されている。その伝説が正しいとすれば、キリスト教の教会がエクスカリバーを管理しているのには疑問が湧く。まあ、それでも、管理している時点で考えられる可能性は三つ」

 

今から言うのは聖剣を憎悪している木場や教会関係者に対する特大の爆弾だが、後から真偽の程を確かめる気はないので単なる推理として聞いて貰おうと、挙げた握り拳から指を3つ伸ばす。

 

「1つは返還されたエクスカリバーを天界側が強盗、強奪した可能性。2つはアーサー王の子孫や縁者を経て湖の乙女から借り受けた物を未だ返還していないだけ。最後に3つ目は自らの剣をエクスカリバーと呼んでいたリチャード1世の持っていたそれなりの力の有った無銘の聖剣」

 

要するに四季のあげた可能性は……教会にあるエクスカリバーは盗品であるか、エクスカリバー(偽)で有るかの三択。

 

「「「っ!?」」」

 

その仮説に木場とイリナとゼノヴィアの三人の表情が変化する。

それでも、イリナとゼノヴィアは3つ目の可能性で納得したのだろう。リチャード1世の使っていたそれなりの力を持った無銘の聖剣ならば天界の手にある事も納得出来る。

だが、木場としては3つ目の選択肢は決して受け入れられる物ではない。それを受け入れてしまったら、自分や自分の仲間達はエクスカリバーどころか、単なる無銘の聖剣の犠牲になったと言うことになるのだから。

 

エクスカリバーどころか無銘の聖剣すら扱えなかったのが己や己の仲間達。そんな物が事実だとしたら、それは木場にとって、絶対に認められるものではない。

 

「……彼のあげた可能性は兎も角、今のエクスカリバーはこんな姿さ」

 

まだ四季の仮説に納得は行かないのだろうが、そう言ってゼノヴィアが巻き付けていた布を取り除いて背負っていたエクスカリバーの姿を見せる。

……それによって憎悪の対象であるエクスカリバーの姿を直視した木場の憎悪の視線が更に強くなる。

 

「折れたエクスカリバーの破片を集め、錬金術によって新たに七本が作られた。……私が持っているのがその一つ、『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』。これはカトリックが管理している」

 

そう言って彼女が再び聖剣を布で覆うとイリナが腕に巻きつけていた糸のような物が彼女の手の中で日本刀のような形にかわる。

 

「私の方は、『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』……の日本刀形態」

 

そして、今度は日本刀形態から再び糸状に変わり、ハートマークを作ってみせる。

 

「こんな風に形を自由に変えられるの。すごく便利なんだから」

 

「確かに便利そうだな」

 

「そうね、確かに便利ね」

 

「でしょでしょ」

 

何処か自慢気に言うイリナの言葉に同意する四季と詩乃。自分の聖剣が褒められたのが嬉しいのか、当のイリナもうれしそうだ。

まあ、四季は四季で『防具や手甲にもなりそうで便利だな』とか、詩乃は詩乃で『防具や弓に出来て便利かも』と思っているので、二人とも剣と言うよりも聖剣のオーラを持った扱い易い武具としてみている。

まあ、何処ぞの小説では日本刀の技術で作った銃や全身鎧すらも刀と言い張っているのだから、形状を変化させた剣を聖剣と扱っても問題は無いだろう。

 

刀剣程ではないが詩乃の弓矢も普段から持ち歩くのは手間なのだ。四季が側にいないと手持ち武器がVSチェンジャーしか使えない上に、VSチェンジャーはルパンレンジャーとしての活動用なので、事実上詩乃は四季の近くに居ないと戦えない事になる。

弓道部にでも入部して弓を持ち歩くべきかと一度は考えて見た事もある。

 

「なるほど、そうなると盗まれたのは、残りの聖剣の中から考えて、『天閃(ラピッドリィ)』、『夢幻(ナイトメア)』、『透明(トランスペアレンシー)』の三振りあたりか?」

 

「「なっ!?」」

 

「ん?」

 

何気なく呟いた四季の一言に二人が驚愕の声を上げる。

 

「いや、どうせどれを狙っても奪う手間は変わらないだろうから、狙うなら戦闘に使えるものを優先的に狙うと思っただけだけど……」

 

「そうじゃなくて、どうしてエクスカリバーの名前まで知ってるのか、それを知りたいんだと思う」

 

四季の言葉に雫が訂正の言葉を入れる。

 

「ああ、そっちか。オレ達にもそれなりの情報網がある。それだけだ」

 

正確には原作知識と言う名の情報源だが、そこまで説明する義理もなければ必要性もないのでそう言っておく。

 

「……それで、貴女達の要件は?」

 

今にも2人に斬りかからん様子の木場を真後ろにしてさっさと話を進めようとリアスがそう言葉を続ける。

……先ほどの四季の言葉を聞いて木場の殺気が倍加した気がするがそれは間違いではないだろう。

 

当然だ。自分やその仲間達はエクスカリバー処か、ただそう呼ばれていただけの無銘の剣の為に犠牲になった。そんな可能性さえも浮かび上がったのだから。

納得は出来ていない。だが、それがエクスカリバーだったなら、まだ良い。それなのに、此処に来て……自分達は、そう呼ばれているだけの無名の剣の犠牲になった。

そんなのは、無駄死にに等しいだろう。

 

「七本のエクスカリバーはカトリック、プロテスタント、正教会が各二本ずつ保有し、残りの一本は三つ巴の戦争の折に行方不明になっていた。」

 

(一本だけ行方不明って?)

 

(ああ、確か行方不明の聖剣は『支配の聖剣』だったか。それが行方不明になってるんだ)

 

詩乃の問いにそう答える。

まあ、各宗派のパワーバランスを考えると一本だけ行方不明なのは返って丁度良かったのかもしれないが。

パワーバランス的に何処かの宗派が一本だけ多く所有するのは問題だろう。

深読みまでしてしまえば、その行方不明の一振りがアーサー王の子孫に、借りたエクスカリバーを修復したとして、返却された可能性もある。

 

(どっちにしてもちょっと便利な特殊機能を追加して頑張って作り直したナマクラにしか見えないよな、二本の本物のエクスカリバーを見た後だと)

 

(そうよね)

 

(うん、あの二本に比べると)

 

聞こえないように注意しながらそんな言葉を交わす四季と詩乃と雫の三人。

比較対象は型月世界の聖剣エクスカリバーと言うのも相手が悪すぎるだろう。

 

「そのうち各宗派から一本ずつが奪われ、この地に持ち込まれたって話さ」

 

「まったく無用心ね……誰がそんな事を?」

 

「奪ったのは堕天使組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部、『コカビエル』だよ」

 

「堕天使の組織に!? それもコカビエルなんて、聖書にも記された者の名が出るとはね……」

 

(知識通りか……)

 

(そうね、勝てる?)

 

(勝てるさ、オレ達なら……って言いたいけど、不安はあるな。やっぱり使うか、ガチャチケ)

 

知識通りだが、問題がないわけはない。敵は堕天使の幹部、前大戦の生き残りだ。オニキスやウィザードの力だけで、本当に届くのかと言う不安はあるのだ。

 

「私達の依頼……いや、注文とは。私達とグレゴリのエクスカリバー争奪の戦いに一切悪魔が介入しない事。つまり、今回の事件に関わるな、と言いに来た」

 

「悪いけど、それは無理な注文だな」

 

「な、なんだと!?」

 

なるべく話しに入らない様にしていたが四季は此処で口を出す。

 

「流石にこの街に入り込んでいる以上、何を仕出かすか判らない。が、予想は出来る。……特にコカビエルはグレゴリの中でも過激派の筆頭、そっちが失敗……いや、行動が僅かに後手に廻っただけでも最低で…、この街にいる魔王の妹二人とその眷属の命、最悪は街そのものを危険に晒す事になる」

 

「四季」

 

「お前……」

 

四季が自分達の心配をしてくれていると思って感動を覚えるリアス達だったが……

 

「過激派の考えなんて、大抵戦争の再開だろ。要するに、ここに来たのは聖剣を使って魔王の妹二人を殺害、その首を魔王に送りつけて宣戦布告して堕天使と悪魔の戦争、そしてそれに聖剣を持ち出した事で、天界まで巻き込んでの第二次大戦の勃発」

 

教会組の二人へと視線を向け、

 

「そっちが関わるなと注文しているのは敵の最優先ターゲットだ。関わってるんだよ、もう既に、この街の悪魔はコカビエルが来た時点で全員今回の事件には、な」

 

更に笑みを浮かべて、

 

「悪魔にだって好戦派はいるだろう。天界の関係者が余計な要求をしたから、魔王様の妹君達は犠牲になってしまった! 聖剣を奪われて余計な要求をした天界も敵だ! なんて、叫んで悪魔側の好戦派にも戦争再開の理由を与える」

 

そもそも、原作に於ける今回の一件自体がコカビエルが主犯だが、実は裏で悪魔と天使の好戦派が協力していたのでは、なんて深読みさえできるのだから。

 

「その要求は万が一の場合、悪魔側からの天界への宣戦布告の理由になる可能性がある。主の名に殉じると言うのを美談と捉えるのは止めないが、結果的に失敗は新たな大戦へ直結している。それを分かっているのか?」

 

四季はゼノヴィアへとそう問いかける。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話目

目次に四季のai制作のイラストを掲載しました


「だが、協力は仰がない。悪魔側も神側と一時的にでも手を組んだら三竦みの関係に少なからず影響を与えるだろうからね……」

 

「そりゃそうだ。下手に手を組んだらそれはそれで、ある意味じゃコカビエルの思惑通り……と考えるべきだろう」

 

付け加えるならば天界側からは、悪魔側を刺激しないために聖剣を持たせた数人しか送れなかったと言うことなのだろう。

 

天界は悪魔側を刺激しすぎない程度の戦力しか送れない。

それはそうだ、コカビエル討伐のための十分な戦力など、悪魔側の領域では下手しなくても悪魔側を刺激するだけだ。

 

下手に天界と堕天使の問題で悪魔を刺激して、天界と堕天使が手を組んだとされて第二次大戦勃発の危険性さえある。ことの真意など関係無い。理由を与えること自体が危険なのだ。

 

一番ベストなのは堕天使側の上位の実力者が責任を持ってコカビエル討伐を果たすか、悪魔側の魔王が出張って直接コカビエルを倒すかだ。

そうなれば天界側の面目は兎も角、堕天使が責任を持ってコカビエルを討伐したということで済み、三つ巴の内乱の第二次の開始だけは免れる。

 

「それで、正教会はどう動くのかしら?」

 

「奴らは今回この件を保留した。残った一本を死守するつもりだろう」

 

「そりゃ、残ってるのが祝福じゃ下手に動いたら、相手に聖剣をプレゼントする様なものだからな」

 

ある意味においては正しい。十分な戦力を送ることもできない場所に行くよりは、対コカビエル用の戦力を備えた上で迎え撃つ構えの方が勝ち目はあるだろう。

 

単純な引き算、エクスカリバーという戦力の数で負けて、コカビエルと言う最大戦力に対しては相打ちにすら届かないであろう二人では勝ち目は薄い。

 

「二人だけでコカビエルから取り戻そうと言うの? 無謀ね……死ぬつもり?」

 

「そうよ」

 

四季としては二人の行動は、無謀と言うよりもコカビエルに残る聖剣のうちの二本をデリバリーする宅配便にしか見えないのだが、流石に其処は口にしない。

 

「用件は以上だ。イリナ、帰るぞ」

 

「そう、お茶は飲んでいかないの?」

 

「いらない」

 

朱乃がティーポットとカップを用意しているが、ゼノヴィアはそれを断ってイリナを促して帰ろうとする。

 

「ゴメンなさいね。それでは」

 

イリナがそう謝って立ち去ろうとするが、ゼノヴィアの視線が一人の……グレモリー眷属の中の一人に止まる。

 

「兵藤一誠の家で出合った時にもしやと思ったが、『魔女』アーシア・アルジェントか?」

 

アーシアに視線を向けながらゼノヴィアはそう問うが、それは問いと言うよりも既に確信を持っての言葉に聞こえた。

 

(魔女ってどう言うこと?)

 

(彼女……アーシア・アルジェントの過去に関わりがある事、彼女がグレモリー眷属になる切欠とでも言うべきかな、この場合?)

 

小声でそう問いかける詩乃の言葉に同じ様に小声でそう答える。

悪魔を癒やしてしまった事が彼女が魔女と呼ばれて教会を追放された理由なのだが、流石に無理はないとも思う。

 

(自分や仲間が命賭けで追い詰めた相手を、味方が癒して助けたんじゃ追放もされるだろう)

 

(それは、分かるわね)

 

(うん)

 

四季の言葉に同意する詩乃と雫の二人。彼らがそんな会話をしている間にゼノヴィアのアーシアへの魔女発言に怒った一誠がゼノヴィアへと戦う事となり……そこに既に、エクスカリバーへの憎悪で我慢の限界となった木場が参加したわけだが……

 

「そっちの私闘には興味ないから、要件が済んだなら帰って良いか?」

 

こっから先は本格的に無関係なのだから、要件が済んだならさっさと帰りたいと言うのが四季達の意志だったりする。

 

「あら、もう少しくらいなら良いじゃない? 治療出来る子がアーシア以外にも居た方が私達も安心なのよ」

 

リアスの弁としては私闘とは言え聖剣使いを相手にする以上、治癒の力を持つ雫には居て欲しいとのことだった。

神器と術、原理こそ違えど治療出来るのがアーシア一人では無い方が助かるのだろう。

 

「勿論、今回呼びつけたのとは別の対価も払うわ」

 

直接自分の目で見て以来、本格的に雫の力に目を付けている節のあるリアスに多少の警戒心は抱きつつも、言い分は最もなので渋々了承する。

 

「待て、アーシア・アルジェントと同じ神器を持った者が他にも居るのか?」

 

「いえ、彼女の力は先日……ちょっとした事情で確認させてもらう事になったけど、あれは神器では無かったわ」

 

「おい」

 

それは雫の力であるはずなのに何故かリアスが誇らしげに言って居るのは良いとして、思いっきりこっちの手の内を勝手に別の相手に明かして居るのには色々と言いたいところはあるが、それよりもこのタイミングで暴露されるのはどうかと思う。

 

「ま、まさかそんな者が居るわけがっ!?」

 

神の作り出した神器(セイクリッド・ギア)、その中でも希少な物であるそれに匹敵する力を持つ者の存在はゼノヴィア達にとっては衝撃的だったのだろう。彼女の中に動揺が浮かんで居る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結界によって隔離した校庭にて対峙する木場とゼノヴィアと……何故か四季とイリナの構図。

 

「どうしてこうなる?」

 

「私にもよく分からないけど……」

 

具体的にはイッセーから巻き込まれた。木場が自分も参加するとなりゼノヴィアと戦う事になった為、流石に幼馴染、それも女の子相手に拳を向けるのは気が引けたのだろう、結果的に四季にお鉢が回ってきた。

 

まあ、ドレスブレイクなんて言う技を持つイッセーに戦わせるのは気が引けるので別に構わないのだが……。

 

「まったく、魔剣創造(ソード・バース)聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)、異端の神器の多い土地だな」

 

「いや、それって全部お前達の所の神様の作品だろ?」

 

四季の言葉が刃となってイリナとゼノヴィアの心に突き刺さる。

 

「……何が言いたい?」

 

「元々神器は最初の神が作り出したんだろ? それも、自分の所の神話以外の原材料まで使って。そんな神器を異端と言うなら、聖書の神もまた異端と言うのが道理だろう」

 

そこで一旦言葉を切り、

 

「ゆえに、異端を作り出した者も異端ならば、お前達の神こそが最大の異端と言う事だ」

 

「「なっ!?」」

 

心理攻撃は基本である。ゼノヴィアだけでなくイリナにさえも効果のあるキツイ一撃にはなってくれただろう。

 

そもそも、雫の力の事を暴露されたのだ、雫の事も異端だなんだと言って手を出されたくはないので、しっかりと心をへし折っておくに限る。

 

だが、そんな状況も関係ないとばかりに木場は狂喜とも言うべき笑みを浮かべて居る。

 

「……笑っているのか?」

 

「壊したくて仕方なかった物が目の前に現れたんだ。嬉しくてさ」

 

既に試合で終るのか疑問な表情を浮べて笑っている木場に内心で不安を覚える一誠達グレモリー眷属。

 

「そんなに聖剣が憎いのか?」

 

「当然だろう」

 

木場は穏やかとも言える口調で、凪いだ海を思わせる口調で告げる。

 

「ああ、お前達の間じゃ『皆殺しの大司教』とか呼ばれてる、計画の主導者……『バイパー・ガリレイ』だったか? そいつを破門にした? 異端扱いした?  今じゃもう堕天使側の存在だから自分達には関係無いとでも言うつもりか?」

 

懐から(正確には武器庫の端末から)オリハルコンを取り出しながら四季はゼノヴィア達に向かって口を開く。

 

「随分と笑える冗談だな」

 

「何だと?」

 

「その程度の緩い処分で済ませたのも、お前達が聖剣を扱える理由に通じてるんじゃないのか? 関係ないなんて言い張るなら、その程度の緩い処分で済ませるんじゃなくて、首でも跳ねて処刑しておけ」

 

「しょ、処刑ってそこまで……」

 

「マッドサイエンティストなんて、大抵野放しにするのが一番危険なんだよ。大体、異端扱いしたからって教会に責任が無くなる訳じゃない。そいつが神の名の下に聖剣計画を行なった事実は覆らない。……お前達教会……いや、聖書の神はエクスカリバーと言う聖剣の名を汚した“邪悪”だ」

 

「貴様っ!」

 

「大体、お前達と言う聖剣使いが二人も量産されてる以上、聖剣計画は今も続行されてると言う証明だろ?」

 

四季の言葉に更に木場の憎悪が増して、二人の動揺が強くなる。

 

木場は自分の仲間が犠牲になったその時から何も変わっていない教会への憎悪を、

ゼノヴィアとイリナは誇りと思っていたものが寧ろ罪の証と、

そんな考えが浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか、お兄さんノリノリ」

 

「四季、本当に楽しそうに煽ってるわね」

 

そんな四季の様子に呆れた様子を浮かべている詩乃と雫の二人。

 

 

 

 

 

 

 

「人道を無視した実験のデータは技術の進歩に大きく帰依している。聖剣使いを量産できる技術は教会側にとっては正に魅力的……いや、言い方は悪いが悪魔の誘惑と言うことになるな。で、種族的な者ではなく精神的な悪魔の誘惑に負けて、罪と血に塗れた聖剣を振るう……異端者の力で生まれた聖剣使いさん達、どう思う?」

 

「「……」」

 

すっかり戦意は折れているのだろう二人からは何も反論は帰ってこない。

 

「無関係だと主張するなら、関係した研究者全員の首を跳ねて始末した上で、研究資料を焼き払って完全に抹消してから言え」

 

「だ、だけど、その計画のお陰で聖剣使いの研究は飛躍的に伸びたのもまた事実よ。だからこそ私やゼノヴィアみたいに、聖剣と呼応出来る使い手が誕生したの」

 

「うわー」

 

イリナの主張にドン引きと言う表情を浮かべながら、

 

「それ、『犠牲者の皆さん、ありがとー、お陰で自分達は犠牲にならないで済んだ上、聖剣も楽に扱えてラッキー』って言ってるようなものって分かってるか?」

 

「うっ、うっ……」

 

剣を落としてその場に崩れ落ちるイリナ。完全に戦意は折れている。

 

「はい、お終い」

 

悠々と勝利発言をする四季。精神攻撃だけでこの模擬戦に勝利したのだった。

 

「お、おい!?」

 

そんな中、ゼノヴィアから声がかかる。

 

「こ、こっちを何とかしてくれないか!?」

 

「聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス……」

 

精神攻撃の影響と、目の前の私闘じゃなくて死闘にシフトしているであろう殺意を纏った木場に若干涙目でなんとかしてくれと言ってきたゼノヴィアだが。

 

「頑張れ、そっちの相手は君だ」

 

若干やり過ぎたかと思いながらも木場の相手はゼノヴィアに丸投げするのだった。

 

***

 

「えーと」

 

予想以上を通り過ぎて予測の斜め上を行った影響が出ている木場の姿になんと言うべきかと悩んでしまう、四季。

 

完全に涙目ながら木場に勝利したゼノヴィアと地に伏せている敗北した木場の姿。

 

「まあ、最後に破壊力なんて余計な物に頼らなきゃ勝ててたかもな」

 

木場の最大の武器は速さ、一撃でダメなら十を、十でダメなら百の斬撃を与えること。それが木場が突き詰めるスタイルだろう。

例えるならば、アクセルトライアルがアギトバーニングファームのような戦い方をしても意味はないような物だ。

 

己の最大の武器を無視して、ゼノヴィアの破壊の聖剣の破壊力に対抗しようとして本来の戦闘スタイルとしては余計な物でしかない大剣を作り出すなど、間抜けでしかない。

 

聖剣への復讐心を暴走させた結果が、自身の力を見失った末の無様な敗北。強大な破壊力も当たらなければ意味がない、相手が振り下ろすよりも早く切り裂けば破壊力も意味は無い。彼が選択すべきは振り下ろされるよりも早く、全てを振り切る速さだったのだ。

 

(まあ、復讐に囚われてる上に、聖剣への八つ当たりしかしていない以上、何も振り切ることは出来ないだろうけどな)

 

彼が選んでしまったのは無意味な破壊力。聖剣への復讐と言う八つ当たりにに目が眩み、結果的に己の振るうべき剣を見失った。

 

「当然の結果だ。三流剣士」

 

リアスは木場の事を剣術と神器と騎士の駒の特色である速さを持った一流の剣士だと評した。

 

だが、四季の下した木場の剣士としての評価は三流。

剣術や神器の力は己の物だ、それは間違いない。悪魔の駒で得た力も己の物に出来たのならば問題ない。だが、問題は未熟な心。

中途半端な復讐に囚われた未熟な心。復讐したいのならば聖剣では無く、それを行なった研究者や教会、天界であるべきなのに、だ。

 

その上に敵……この場合は正確には模擬戦の相手であるゼノヴィアからそれを指摘され、その刃で斬られる事すらなかった。

 

木場のそれは心技体の心が低い歪なトライアングル。

ある意味、朱乃や子猫にも言える事だが、体は大幅に悪魔の駒の力で高まるだろう、技も体に引きずられ高まるスピードも上がるだろう。だが、心だけはそんなに直ぐには成長しない。

それを利用してイリナをK.O.した四季としては複雑な心境だが。

 

(体は強くても心は豆腐、か)

 

その精神面でグレモリー眷属の中で一番マシなのがイッセーと言うのが笑えない話だが、各々精神面で問題を抱えているイッセー加入以前のグレモリー眷属の中でメンタルケアが全くされていないと言うのも、グレモリー眷属の問題点だろう。

 

メタな発言をして仕舞えば原作主人公のイッセーの仕事だが、リアルな話をするならば彼らの王であるリアスの役割だ。

 

「それじゃ、オレ達は帰らせてもらって良いか?」

 

木場一人なら治療要員はアーシア一人で十分だろうと判断してそう言わせてもらう。

 

「ごめんなさい、治療お願いできるかしら」

 

「……はぁ。雫、頼む」

 

「うん、分かった」

 

恐らく神器ではないとは言え同じ治癒の力なのだから、それを見る事はアーシアにとっても参考になると思ってのことなのだろう。

後で治療費は請求するとして、面倒なのは教会関係者にそれを見られる事だ。

 

「っ!?」

 

予想通り雫の力にゼノヴィア達は驚いている。

 

「まさか、本当に神器(セイクリッド・ギア)でも無い治癒の力を持っているとは……」

 

「うそ……信じられない」

 

トリックでもなんでも無く、側から見たら、イリナとゼノヴィアから見ても奇跡とも言うべき力だろう。

 

まあ、彼女の力の本来の持ち主である美里葵の幕末の時代の先祖に当たる美里藍がキリシタンと言う事を考えれば全く無関係とは言えないが、雫の力は龍脈から与えられた物だ。聖書の神とは関係ない。

 

「……ところで、1つ聞きたい。彼女の力は私達にも効果はあるのか?」

 

「ん? ああ、雫の力はちゃんと人間にも効く。最初に恩恵を受けたのはオレ達だからな」

 

「正真正銘の神の奇跡と言われても頷けるな」

 

見られたのなら隠しても意味は無いと考えて四季はゼノヴィアの問いに答える。何でそんな事を聞いたのかも、大体理解出来た。

 

「彼女の力のことは気になるが、今は追求するのはやめておこう」

 

「そう判断してくれるのはありがたいな」

 

神の奇跡でも見せられているような光景。その対象が悪魔でなかったら本当の神の奇跡と言われても二人は疑わないだろう。

 

だが、今は聖剣奪還の任務が優先だと判断して、ゼノヴィアは意識を切り替える。

なにより後で対価は要求されるだろうが、治療手段の確保は任務の達成や生還の確立を大幅に上げる。

悪魔側とも関係の無い中立な立ち位置で呼ばれたのなら、友好的で無くとも敵対しないだけ得な相手だ。

 

「では、後で対価は支払おう。何かあった場合は私達の事も治療して貰えればありがたい」

 

「安心してくれ、その場合は味方と判断してちゃんと治療する」

 

対価の支払いに関しては状況にもよるが、敵と状況によっては無償での治療も考えている。

 

「天地四季だったな? その話、よろしく頼むよ」

 

「じゃあそう言う事で。教会に入りたくなったらいつでも言ってね。アーメン♪」

 

いつの間にか精神的にフルボッコにされたイリナも復活して四季達にそんな事を言っていた。

 

そんな会話を交わして校庭から立ち去っていく前にゼノヴィアはイッセーへと振り返り、

 

「1つだけ言おう、『白い龍(バニシング・ドラゴン)』は目覚めているぞ」

 

「ああ、アルビオンの事か」

 

「バニシング、ドラゴン? アルビオン?」

 

ゼノヴィアと四季の言葉に疑問を浮かべるイッセー。

 

「……一応、お前の相棒なんだから、少しはどう言うドラゴンなのか知ってやれ」

 

そんなイッセーの言葉に溜息を吐きながら四季はそう呟く。

 

「しかし……それの元が本物かは別にして、ドライグの神器がある街にエクスカリバーの名を持つ聖剣が集まるのも、運命的なのかもな」

 

「たしかに、そうかも知れないわね」

 

「コカビエルの仕業とは言え、か」

 

四季の言葉に同意する詩乃とゼノヴィア。

教会のエクスカリバーが本物(盗品)かリチャード1世由来の品かは別にしてもドライグの名を持つドラゴンの元にエクスカリバーが集まるのは何かの運命を感じてしまう。

三人の視線がイッセーへと向かうが、

 

「え? どう言う事だよ、運命とかって」

 

当の、ドライグの神器である赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を宿したイッセーは何も知らない様子だった。

 

「お前の神器のドラゴンは本物のエクスカリバーの持ち主のアーサー王とは縁があるんだ。……ってか、自分の宿した相手の事くらいは知っておいてやれ」

 

そんなイッセーの言葉に呆れた様子で最低限の事を教える四季。

 

「いずれ白い龍とも出会うだろうが、その調子では絶対に勝てないだろう」

 

ゼノヴィアはそんな言葉を残してイリナと共に立ち去って行く。

 

立会人の役目も、治療役の役割も終わったので四季達も帰ろうとした時、

 

 

 

「待ちなさい、裕斗!」

 

 

 

木場を呼び止めるリアスの声が響く。

 

「貴方はグレモリー眷属の騎士(ナイト)なのよ! はぐれになってもらっては困るわ!」

 

己を呼び止める主人の手を木場は振り払う。

 

「ぼくは同志達のお陰で彼処から逃げだせた」

 

その目に宿るのは何処までも暗い憎悪。

 

「だからこそ、彼らの恨みを魔剣に込めないといけないんだ……」

 

「裕斗……どうして……」

 

リアスもイッセーもそう言って立ち去っていく木場を見送るしか出来なかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十四話目

「さてと……次は」

 

その日、四季は詩乃から頼まれた夕飯の買い物のメモを開いてそれを確認していると視界の端に妙な物を捉えた。

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

 

「どうか天に変わって哀れな私たちにお慈悲をぉぉ!」

 

何処かで見たことのある二人組が本当に哀れな姿で物乞いをしていた。ってか、どこからどう見ても先日のゼノヴィアとイリナである。

 

「……何やってんだ?」

 

間違い無く先日教会から派遣された聖剣使いの二人組だ。

任務の最中なのにこんな所で何かの修行なのだろうか?

それとも、協会は清貧を旨とし過ぎて最低限の活動資金、主に現地での宿代と食事代すらも渡さないのだろうかと疑問に思う。

 

「なんて事だ」

 

ゼノヴィアの心境を物語るような空の箱の中に虚しく落ち葉が落ちる。

 

「これが経済大国日本の現実か。これだから信仰の匂いもしない国は嫌なんだ」

 

「毒付かないで、ゼノヴィア。路銀の尽きた私達はこうして異教徒の慈悲なしでは食事もとれないのよ? ああ、パン1つ買えない私達!」

 

「ふん、元はと言えばお前が詐欺まがいの変な絵画を買うからだ」

 

そんな二人の様子を呆れた目で暫く観察していると、どうやら聖人(?)を描いた絵をイリナが路銀を全部使って買ってしまったらしい。

 

エクスカリバーを使って大道芸をして少しでも稼ごうとしていたが、切る物が無く唯一切り刻める絵を切り刻もうとしていた。

 

「おーい」

 

心境的にはこの場で見なかった事にして帰りたい所だが、変に追い詰められた二人が人の道を踏み外す決断をされても困るので、意を決して言葉をかけた。

 

「お前は、天地四季」

 

「何があったかは知らないけど、食事くらいはご馳走してやる」

 

四季のその言葉に二人からは心底感謝を込めて祈られた四季であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、

 

「その明らかな、偽物の邪魔な絵を切り刻むのは賛成だけど」

 

「ああ、この絵を切り刻むのは良いとして、何だ?」

 

「大道芸をするなら、擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)の擬態能力を使えば良いんじゃないのか?」

 

「え!? 一般人の前で聖剣の力を見せるのは……」

 

「いや、手の平サイズの小物に変化させて、手品みたいにハンカチや布で隠して変化させれば、普通の人は単なる凄い手品と考えるんじゃないのか?」

 

四季の言葉になるほどと言う顔を浮かべる二人。序でにエクスカリバー(仮)強奪犯に対する囮にもなる。と言うアドバイスも加える。

四季とゼノヴィア達の間でそんな会話が交わされたそうだ。

……木場の仲間の仇のエクスカリバー(贋)、大道芸の道具に使われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現状を詩乃に連絡して、帰りが遅れると言う旨を連絡するとイリナとゼノヴィアの二人を連れて近くのファミレスに入る。

 

「うまい! 日本の食事は美味いぞ!」

 

「うんうん! これよ! これが故郷の味なのよ!」

 

ファミレスの食事が故郷の味となるのかは分からないが、朝から何も食べていなかった様子で凄い勢いで食べている二人に内心呆れてしまう。

 

「それにしても……何でわざわざ任務の最中にそんな邪魔になる絵なんて買ったんだ?」

 

「それはイリナに聞いてくれ……」

 

四季の問いにうなだれながら答えるゼノヴィア。

内心で、イリナ曰く多分ペテロだのと言っているよく分からない絵を買ってしまった相棒に路銀を預けた自分の迂闊さを呪っている事だろう。

 

そんな二人の視線が、メニューを見て『デザートからが本番よ!』と言っているイリナへと向かう。

 

何気に旧校舎の修行場では何故か金銭もドロップする。元々の魔人学園の仕様と言って仕舞えばそれまでだが現金がドロップするのかは謎である。……砂金とかの形で入手させられてもそれはそれで困るが。

そんな訳で日々の修行の副産物でそれなりに金はあるのだ。

 

「ゼノヴィアだったか?」

 

「なんだ?」

 

「……少し寄付させてもらうから、今後の路銀はお前が管理した方がいい」

 

「言われるまでもない。神に誓って! もう二度とイリナには財布は渡さない」

 

「賢明な判断だ」

 

どう考えてもゼノヴィアに渡しておいた方が安心だろう。財布の中から取り出した金を10万ほどゼノヴィアへと渡すと、

 

「それともう一つ……そっちに用がありそうな、珍しい組み合わせの三人組が居るぞ」

 

食事を終えて落ち着いた様子で四季から寄付された路銀を仕舞っているゼノヴィアと、いつのまにか追加で頼んだデザートのパフェを食べて居るイリナに対して自分の後ろを指差しながら四季はそう告げる。

 

「気付いてたのかよ」

 

「気配には敏感なんでね」

 

先程から四季から一度も視線を向けられていなかったので気付かれていなかったと思っていたのだろう。

三人組のイッセーはそんな四季の言葉に驚いた様子だが、当の四季は何でもないと言うような態度でコーヒーに口を付ける。

 

「それにしても、同じ主人の眷属の塔城は兎も角、生徒会長の眷属の匙が一緒なのは本当に珍しいな」

 

先日のイッセーが女生徒を押し倒した一件もあって仲は良く無いであろう匙までいるのは確かに意外だった。

 

ファミレスに入る前から三人の気を感じたのでそちらへと注意を向けていたと言うのが真実だが、そんな事はイッセー達は知る由もないだろう。

 

「……仙術?  いえ、似てるけど違う?」

 

唯一子猫だけが気付かれている事に僅かに気付いていた事を除いて。

 

「で、この事は生徒会長には許可もらってるのか?」

 

「兵藤に無理矢理連れてこられたんだよ……」

 

「御愁傷様」

 

貰っていないのだろう、許可は。後のことを考えているのか表情に暗い物が指している匙に同情しつつ、イッセーへと視線を向け。

 

「それで何の用なんだ?」

 

「ああ、単刀直入に言うと……聖剣(エクスカリバー)の破壊に協力したい」

 

四季の問いにそう答えると、イッセーはイリナとゼノヴィアへと向き直り、そう告げる。

そう言われたイリナとゼノヴィアの二人も驚いた様子だ。

 

「天地、すまないが」

 

「分かった。代金は支払っておく」

 

「助かる」

 

ゼノヴィアの言葉の意図に気がつくと四季はイッセー達と入れ替わるように伝票を持って席を立つ。

 

イリナの真意は分からないが、ゼノヴィアはこのイッセーからの提案を受ける気なのだろう。だが、天界側の彼女達がイッセー達悪魔側と協力すると言うことはなるべく知られたくないのだろう。

 

先日の会合で立会人にもなった、第三者の立場の四季には、今回はいて欲しくないと判断したゼノヴィアの意図に気付いた四季も、彼女の意思を尊重して立ち去る事を選んだ訳だ。

 

「食事や路銀の礼はいつかするぞ、天地四季。それと、迷惑ついでにもう一つ頼みたいのだが……」

 

「ああ、こっちでもコカビエルの動きを掴んだら連絡しよう」

 

「重ね重ね済まない。何かあったらここに連絡をくれ」

 

そう言ってゼノヴィアから連絡先を書かれたメモを渡される。

 

(少し怪盗として探ってみるか)

 

今回の事件はレイナーレの時や、グレモリー家のお家騒動だったフェニックスの件とは違い放置しておいて失敗したら大量の被害者が出る。

何より、

 

(コカビエルとフリード、バルパーの三人だけって言う所も原作じゃ気になっていたけど……)

 

鏡の方に視線を向けるとベンタラにいるドラグブラッカーが頷いている。

 

(敵の隠れ家は分からないか)

 

幾らコカビエルが強いとは言っても好戦派の堕天使はそれなりに多くいる事だろう。少なくとも、コカビエル一人だけと言う事は考えられない。

 

(好意的に見れば自分が犠牲になって禍の団に行く好戦派の堕天使を押さえたとも考えられるな)

 

幾らコカビエルが戦争狂と言っても、そこまで愚かではないだろう。

普通に考えて実の妹である以上は直通の連絡方法の一つもあるだろうし、サーゼクスとセラフォルーは揃って有名なシスコンなのだ。周りが止めても直に出てくるだろう。(相手が相手なだけに、下手な戦力では犠牲が出ると言う理由付けも出来る。サーゼクスかセラフォルーが出るのが考えてみれば最適解の一つとも言える)

 

そう考えると他の好戦派を抑えるために最小限の戦力で今回の事件を起こしたと考えても筋が通る。

 

先代の四大魔王と聖書の神が死んだ中で堕天使はほぼ無傷とは言え、悪魔側も先代以上の力を持つサーゼクス達の存在や、戦力的には天界側も他の天使は無傷で残っている。

ほぼ無傷の堕天使、次世代が育っていた悪魔、上を失ったとは言え十分な戦力のある天使。

ここから考えるに聖書勢力の戦力の内訳は精々拮抗状態といった所だろう。

 

(まあ、最終目標は推測できるし、まだ様子見をしておくか)

 

コカビエルのこの街での最終目標はリアスとソーナの命。

魔王の身内が堕天使の幹部に殺されたとなっては確実に悪魔側は戦争へ向けて止まらなくなる。

 

(内乱の続きがしたいなら好きにしてくれても良いけど、それに無関係な人間を巻き込むな)

 

阻止されること前提の計画であったとしても巻き込まれる側としてはそう思ってしまった。

 

***

 

飽く迄今回のコカビエルの事件における四季達の立ち位置は部外者だ。なので、イッセー達が聖剣(エクスカリバー)破壊団なんて言うのを結成した事も知らない。

 

いつもの様に友人二人と会話しているイッセーの姿からはどんな事が有ったのかは伺えなかった。

……が、壮絶な顔で号泣している坊主頭と殺意の篭った顔で凄んでいるメガネから大体想像できる。

 

「ねえ、天地クン、皆んなでボウリングとカラオケ行くんだけど、アンタも行かない」

 

「オレも?」

 

三人と話していた橙の髪を三つ編みにした眼鏡の少女『桐生藍華』がそう誘ってくる。

 

「ちょっと待てよ、なんでそいつまで誘うんだよ!」

 

「そうだ! 野郎は木場だけで十分だろう!」

 

「いや、待て! 天地がくると言う事は……一年の詩乃ちゃんと雫ちゃんも来るという事だぞ」

 

「はっ! そうか、あの二人のオプションと考えれば!」

 

「そうだ、アーシアちゃんと小猫ちゃんだけじゃなくて朝田詩乃ちゃんと北山雫ちゃんとも遊べるんだぞ!」

 

「うおおおおおぉぉぉぉ! そりゃ、テンション上がるぜ!」

 

絶叫して喜んでいる松田と元浜を呆れた視線で見ながら桐生の方に向き直る。

 

「まあ、あの三人が不安点だけど、二人も来るとは思う」

 

「それじゃあ、天地クンも来るのね?」

 

彼女からの誘いにオッケーの返事をする。一緒に遊びに行く相手がイッセー達三人、通称変態三人組なのが不安だが。それは諦めたほうがいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、

 

「収穫は無しか」

 

四次元ポケット級の収納力を持つタクティカルベストのポケットに怪盗衣装を仕舞いながら四季はそう呟く。

 

「分かってたけど、手掛かりが全然見つからないと、ちょっと気が滅入るわね」

 

「うん」

 

先程までの怪盗衣装から私服に着替えてビルの屋上で四季達三人はそんな会話を交わしていた。

 

コカビエルの動きを掴もうと探し回っていたが、今のところ収穫はゼロ。流石は歴戦の堕天使と言った所か、ギリギリまで魔王の妹とは言え未熟な者に動きを掴まれるマネはしないだろう。

 

「そうなると、予定通り部下の暴走を期待した方が良さそうだな」

 

少なくとも既にフリードは既に勝手なのか、コカビエルの指示なのかは分からないが割と目立つように動いてくれているので待っていれば動きはつかめるだろう。

言い方は悪いが囮も動いてくれている。

 

「詩乃、兵藤達の様子はどうだ?」

 

「特に変わりはないみたい」

 

詩乃の視線の先に居るのは、囮こと神父の格好をしたイッセー達三人とシスターの格好をした小猫。

 

詩乃の力、桜井小蒔のそれは主に視力を中心に強化される。その為に彼女に兵藤達の三人の様子を確認してもらったのだが、まだ食い付いてはいないようだ。

 

「……少し休ませて貰って良い」

 

「ああ、無理はしない方がいい」

 

力の扱いについての訓練も兼ねて詩乃に監視して貰っていたが、元々彼女のいた世界に特殊な力は存在していない以上、流石に慣れない力の行使は必要以上に消耗が激しいのだろう。

そんな彼女を気遣うようにスポーツドリンクを渡す。

 

「ありがとう。でも、少しは慣れてきたわ」

 

渡されたスポーツドリンクに口をつけながら、四季の言葉にそう返す。そして、短時間の休憩の後再び視力を強化する。

 

「っ!? 四季、向こうに動きがあったわ!」

 

「分かった!」

 

再度イッセー達の監視を行った詩乃がそう叫ぶ。詩乃の言葉いた四季はワイヤーを巻き付けてビルから近くの家の屋根に降りる。

 

「先に行く! 二人は後から来てくれ!」

 

二人にそう言い残して身体能力を強化し、パルクールの要領で屋根から屋根へと飛び移りながらイッセー達の居る場所へと向かう四季。

 

そんな四季の姿を見送ると詩乃と雫の二人も顔を見合わせると頷きあってビルから降りて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も収穫無しか……」

 

「神父のふりをしていればその内アイツと出会うと踏んでいたんだけどな……」

 

路地裏に一誠達三人のグレモリー眷属と匙の姿が在った。彼等の服装は駒王学園の制服では無く、男三人が神父の服で小猫だけがシスターの服。

 

イリナとゼノヴィアの二人と協力を取り付け、情報交換とエクスカリバーの破壊の許可をもらう事が出来た。

……正確には『出来るのなら破壊しても良い』と言う言葉だったが、一誠達にはそれで十分だった。

 

数日前、エクスカリバーの中の一振りを持ったフリードに木場が遭遇……その際にフリードが匙が変えられた怪物と似た、青い騎士のような怪物に姿を変えたと言う情報を伝えられたのだが、アナザーライダーのことを知らない教会組にとっては脅威と捉えていない様子だった。

フリードが教会関係者を襲撃して居ることから、ここ数日イッセー達はこうして神父のふりをしてフリードをおびき寄せようとしているのだが、未だに収穫は無かった。

 

「オレが変えられたって言う化け物の力に聖剣か……オレ達だけでホントに大丈夫か?」

 

アナザーリュウガに変えられていた時の記憶は無いのだろう匙が不安そうに呟く。

 

「ああ、対抗策に天地の奴からカードデッキを借りたかったんだけどな」

 

未だに四季から教えられたカードデッキのDNA認証のことは信じていない様子のイッセーが匙の言葉にそう返す。

だが、相手がアナザーリュウガでは無くアナザーブレイブなのでオニキスの力はあまり意味はないだろう。

 

「……裕斗先輩?」

 

彼等がそんな事を話しながら歩いたいると木場が足を止める。そんな木場の姿を怪訝に思ったのか小猫がそう声をかける。

 

「どうした、木場?」

 

「作戦は成功したようだね」

 

自分たちへと向けられている殺気の主に気が付きそちらへと視線を向ける。

 

「神父ご一行様、天国へご案内ってね! ……おや?」

 

「フリード!」

 

襲撃者の顔を見たイッセーがそう叫ぶ。レイナーレの一件でイッセー達との間に因縁が出来たはぐれエクソシストだ。

 

 

「おやおやおや? 誰かと思えば、イッセーくんかい? これまた珍妙な再会劇でござんすね!」

 

フリードと呼ばれた襲撃者の手にあるのは聖のオーラを纏った剣……恐らくはそれが盗まれたエクスカリバーの一振りだろう。

 

「どうだい? ドラゴンパゥワーはアレから増大してるのかい? そろそろ殺して良い?」

 

『狂喜』と呼べる笑みを浮かべながらフリードはエクスカリバーを持ってそう問いかける。

イッセーが己の神器(セイクリッド・ギア)赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を出現させたのを合図に、一同はフリードとの遭遇戦へと突入する。

 

「伸びろ、ラインよ!」

 

「うぜぇっす!」

 

匙が最初に腕に現れたカメレオンの様な神器からラインを伸ばすも、それはフリードに切り払われる。だが、ラインは切り裂かれる事なく足に巻きつく。

 

「そいつはちょっとやそっとじゃ斬れないぜ! やっちまえ、木場!」

 

「ありがたい!」

 

動きを封じた上で高速戦闘タイプの木場が仕掛ける。即席の連携としては良い物と言えるだろう。

 

「チッ! だが、俺様の持ってるエクスカリバーちゃんはそこらの安物の魔剣君では……相手になりはしませんぜ!」

 

そこは一応は七分の一になったエクスカリバー(疑)とは言え正規の聖剣と言ったところだろう。木場の魔剣を砕くどころか、切り結んだ瞬間、逆に切り裂いている。

 

「くっ!」

 

木場の魔剣ではフリードのエクスカリバー(?)には勝てない。そんな考えが木場の中に浮かぶ。

 

「木場! 譲渡するか!?」

 

「ハハハッ! 随分と聖剣を見る目が怖いねぇぃ! お友達でも殺されたのかぁい?」

 

そう言った後フリードは懐から時計のような物を取り出す。

 

「でもねぇ、俺様、もっと自由に殺し合う方が大好きなのよ!」

 

 

 

『ブレイブ……』

 

 

 

「だからさぁ、へーんしん、とう!」

 

アナザーライドウォッチをその身に取り込み、フリードはアナザーブレイブへとその姿を変える。

 

「な、何だよ、あの化け物は……? オレはあんなのに変えられてたのか!?」

 

匙は初めて直に見たアナザーライダーの姿に驚愕の声を上げる。

 

「おおぅ、俺様にこのスペシャルなパゥワァーをくれた人が言ってた実験体ってのはそっちの新顔の悪魔君でしたか? そんじゃ、第二ラウンドと……行きましょうかねぇ!」

 

「そんな姿に変わっても!」

 

「ハハハ! 随分と聖剣を見る目が怖いねぇ!」

 

木場が新たに作り出した魔剣を片手と一体化した盾によるシールドバッシュで砕く。

 

「死んじゃえよ!」

 

魔剣を砕くと同時に吹き飛ばした木場にトドメを刺そうとエクスカリバー(疑)による刺突で串刺しにしようとする。

 

 

 

「ハァァァァア!」

 

 

 

アナザーブレイブが木場にトドメを刺そうとした瞬間、アナザーブレイブの真横に有った鏡面から飛び出してきたドラグクローを装着したオニキスに殴り飛ばされる。

 

「ヒデブッ!」

 

「青い姿……騎士みたいな所から考えて、アナザーブレイブって所か」

 

四季の考えの正しさを証明するように殴り飛ばされ、先ほどまで背中に有るボロボロのマントの下に隠れて見えなかったアナザーブレイブの背中には『ブレイブ』と『2016』の文字があった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十五話目

「お前……まさか天地か?」

 

オニキスの姿を生で見せるのは匙以外のソーナの眷属だけだったということを思い出しながら、突然の事に呆然と呟いた匙へと視線を向ける。

 

「ああ。そしてこれが、仮面ライダーオニキスだ」

 

ベンタラとミラーワールドの違いは有るが鏡面を介した別世界への移動能力はこう言う奇襲にも便利だ。

 

「何なんですかい、イキナリぃ!?」

 

「どこからどう見ても、化け物退治に来たヒーローの構図だろ?」

 

鏡を見ろと言わんばかりの態度で、立ち上がったアナザーブレイブの言葉にオニキスは鏡を指差しながらそう答える。

 

「へっへっへっ、黒いヒーローくんが悪魔くん達の仲間かは知りませんがねぇ! 俺様の『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』の速さで勝てるかよ!」

 

アナザーブレイブはアナザーライダーに変身する前から持っていた聖剣を持ち、オニキスの視界から消える。

 

(あれがスピード系のバフを与える聖剣って所か。だったら……)

 

変身していても武器庫から武器を取り出す事はできる。ビルドの時にも出来ていたのだからオニキスに変身している今も取り出せない訳がない。

 

「死んじゃえよぉ!」

 

「奇襲はもっと静かにやれ」

 

殺気がダダ漏れな上にテンション高く叫んでいるのだ。早さに負けても対抗はしやすい。

聖剣には聖剣で対抗するまで、とアナザーブレイブが振るった聖剣を武器庫から取り出したエクスカリバー(fate)で受け止める。

 

その瞬間、

 

 

 

 

スパァーン

 

 

 

 

「「え?」」

 

剣と剣をぶつけ合ったオニキスとアナザーブレイブが呆けた声を上げる。

 

「「「へ?」」」

 

それを見ていたイッセー、木場、匙の三人がマヌケな声を上げる。

 

アナザーブレイブの振るった天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)の刀身はオニキスのエクスカリバー(fate)とぶつかり合った瞬間、綺麗に切れてしまっていた。

 

「「「「折れたぁ!?」」」」

 

敵味方関係無くアナザーブレイブ、イッセー、木場、匙の心が一つになった瞬間であった。

 

「いえ、折れていません、切れてます」

 

地面に落ちた刀身にトコトコと近づいて、天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)の末路を確認してそういったのは子猫だった。

 

「マジかよ!? 伝説のエクスカリバーちゃんが!?」

 

「エクスカリバーが……こんなに簡単に?」

 

天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)に起こった悲劇に絶叫するアナザーブレイブと、自分の仇で有ったエクスカリバーのうちの一振りの末路に呆然と呟く木場。

 

だが、その結果のある意味は当然とも言えるだろう。

所詮はその聖剣は折れた一部を核に再生された劣化品(デッドコピー)、それに対して四季の持つ聖剣は、完全な形で存在する異世界の真のエクスカリバー。どちらが剣として格上かなど、考えるまでもないだろう。

 

二つの剣がぶつかり合った結果、劣っていた剣が負けた。それだけだ。

 

「……まあ、ちゃんとした鍛治じゃなくて、錬金術で再生した剣としては当然の末路だな」

 

七分の一になった(恐らく偽物の)剣を鍛治ではなく錬金術で直した品物。異世界のと注釈は付くが完全な形で存在している本物のエクスカリバーの敵ではない。

使い手次第では互角以上に戦える場合もあるが、残念ながら今回はその事例には無いのだろう。

 

「っ!? 今だ、黒い龍脈(アブソリューション・ライン)!」

 

最初に正気に戻った匙がアナザーブレイブに変身前から巻き付けていたラインから己の神器(セイグリッド・ギア)の力を発動させる。

 

「……これは!? 俺っちの力を吸収するのかよ!?」

 

「どうだ! これがオレの神器だ! お前がぶっ倒れるまで力を吸い取ってやるぜ!」

 

「力を吸い取る神器!?」

 

「ドラゴン系神器(セイグリッド・ギア)か、忌々しい!」

 

必死にラインを刀身の半分を失った剣で切って逃れようとしているが、アナザーブレイブに巻きついたラインは切れる様子は無い。

 

「取り敢えず、今の内に変身解除には追い込ませてもらう」

 

大ダメージを与えて変身解除に追い込み、再起動される前にウォッチを回収する。

エグゼイドやブレイブ等の力が無い以上、目の前のアナザーライダーへの対処法はそれしかない。

 

そう考えながらエクスカリバー(fate)を地面に突き刺し、カードデッキからファイナルベントのカードを取り出しブラックドラグバイザーに装填しようとした瞬間、

 

 

 

「うわぁァァァァァァぁっあ!」

 

 

 

突然木場の絶叫が響き渡る。そちらへと視線を向けると彼の両手は何故か酷く焼けただれているが……

 

「木場!」

 

「裕斗先輩」

 

そんな彼に慌てて駆け寄るイッセーと子猫。

そして、木場の近くには先程地面に突き刺したエクスカリバー(fate)。それで何が有ったのかを正確に理解した。

 

仲間の仇と破壊する事を誓っていた教会のエクスカリバー。そして、地面に突き刺さっているのは、その聖剣でさえ簡単に破壊してみせた剣。

望みであったエクスカリバー(仮)を破壊できるだけの力を目の前にある剣に求めたのだろう。その望みの力と言うのが、異世界の物とはいえ真のエクスカリバーと言うのが何とも皮肉な話だ。

 

「その剣は一級品の聖剣だ。並みの悪魔じゃ持つことさえできないぞ」

 

敢えて一級品と誤魔化したが、間違いなく異世界のものとはいえ本物のエクスカリバーなのだ。一級品など優に超えて、間違い無くそれは超一級と言う言葉でさえ足りないの品だろう。

アナザーブレイブの対処が僅かに遅れてしまったが、改めてファイナルベントのカードを装填しようとする。

 

 

 

「ほう、魔剣創造(ソード・バース)か」

 

 

 

だが、その一瞬の隙に新たに響く声。その声の聞こえた声の方へと全員の視線が向かう。

 

ビルの上に立つ彼らを見下ろしている聖職者の様な格好の老人。

 

「……バルパーの爺さんか?」

 

それが誰なのか、その答えが敵……アナザーブレイブの言葉によって明らかになる。

 

「……バルパー、ガリレイッ!」

 

「皆殺しの大司教、聖剣計画の首謀者の聖剣マニアか」

 

「いかにも。フリード、聖剣を……バカな!」

 

ビルの上に立つ老人、バルパーの表情がエクスカリバー(fate)を見た瞬間驚愕に染まる。

 

「それは……その聖剣は……まさか……」

 

驚愕と歓喜、そして感動と驚きと喜びと疑惑の混ざった声を上げる。

 

「間違い無い。教会に有ったものとは格が違う。だが、何故そんなところに完全な物が存在しているのだ……」

 

バルパーの目からは感動の涙が流れその視線は地面に突き刺さったままのそれへと注がれている。

その男が今まで本心から神に祈っていたかは分からない。破門されてから神に祈ったかは分からない。たが、間違い無く言える。バルパー・ガリレイは今は間違い無く心から神に、運命に感謝を捧げている。

 

「こんなに早く、こんな所で目にすることが出来ようとは!? おお、エクスカリバーよ!」

 

絶叫にも似た感謝の声を上げる。

 

「マジですかい!? それってマジモンのエクスカリバー!? えっ、それじゃあオレッチのこれは何なの!? パチモンって事ですかぁ!?」

 

「さあ、そもそも、エクスカリバーと聖書勢力は最初から関係無いから、リチャード1世がそう呼んで使ってた聖剣なんじゃないのか」

 

アナザーブレイブの声に律儀にそう答えるオニキス。

 

「エクスカリバー!?」

 

さて、今も力を吸われているアナザーブレイブを放置して感動で泣いて今にも賛美歌でも歌わん勢いで歓喜の祈りを捧げているバルパーを他所に、木場が敵意に満ちた視線をオニキスに向ける。

その様子から、エクスカリバーの聖のオーラに両手が焼けただれてなければ今直ぐにでも切り掛かっていた所だろう。

 

「お、おい、何でお前がエクスカリバーを持ってるんだよ!?」

 

そんな木場の横に立つイッセーがそんな疑問の声を上げる。

 

「ああ……これは別世界のエクスカリバーだ。そこのエクスカリバーの名を持つ血塗られた聖剣を破壊してくれって頼まれたんだよ」

 

「頼まれた、誰にですか?」

 

どうも敵意全開の二人に変わってオニキスに問い掛けるのは子猫だ。

 

「……マーリンって名乗ってたな使いは、確か」

 

「で、では、依頼した者の名はアーサー王か!?」

 

the大嘘。流石に転生特典のガチャで引き当てましたなどとは言えないのでそう言って誤魔化しておく。

 

だが、その嘘を信じ込んでいるバルパーはオニキスの言葉に歓喜の意思を強めて叫ぶ。

 

「ちょっとちょっと、バルパーの爺さん、そんな事より、このトカゲ君のベロが邪魔なんですけど!?」

 

「そんな事の方がどうでも良いわ! 大体、お前の聖剣の使い方が未熟なのだ。お前に授けた“聖なる因子”を刀身に籠めろ! 折れたとは言えそれで十分に切断出来る!」

 

「へいへい! こうか?」

 

バルパーの言葉に従うとアナザーブレイブの聖剣は簡単にラインを切断する。

 

「もう少しそのエクスカリバーを見ていたい。……名残惜しいが、コカビエルの元に行くぞ」

 

名残浅そうにエクスカリバー(fate)から目を逸らさず、そう言ってバルパーは懐からライドウォッチを取り出し、それを起動させる。

 

 

『ワイズマン……』

 

 

バルパーはその姿を白い魔法使いを歪めたアナザーライダー、アナザーワイズマンへと姿を変える。

 

「チッ、分かったよ、ジイさん」

 

バルパーがアナザーワイズマンに姿を変えると、そう言ってアナザーブレイブはアナザーワイズマンの元へと飛ぶ。

 

「じゃ、行かせてもらうぜ! 次に会う時は最高のバトルだ!」

 

「小僧、次に会う時はお前の持つ異世界のエクスカリバーをワシの手に握らせて貰うぞ!」

 

『テレポート……ナウ……』

 

アナザーワイズマンとアナザーブレイブを魔法陣が飲み込み、二人のアナザーライダーの姿は消えて行った。

 

後に残されたのはオニキスと憎悪の視線をオニキスの持つエクスカリバーへと向ける木場と、イッセー達三人だけだった。

 

***

 

「叛逆の徒め! 神の名の下断罪してくれる! ……って、あれ」

 

ゼノヴィアとイリナがそこに駆けつけた瞬間、すでに事は終わっていた。

 

「四季、私達はちょっと遅かったみたいね」

 

ここに来る途中でゼノヴィアとイリナに連絡して合流したのだろう、詩乃と雫の二人もゼノヴィアとイリナに少し遅れて到着した。

 

「ああ、残念ながら逃げられた」

 

バックルからカードデッキを外すとオニキスへの変身が解除される。そして、タクティカルベストのポケットにエクスカリバーを仕舞う。

周囲は質量を無視した現象に驚いているが、そこはスルーしておく。

 

「くそ! 追うぞ、イリナ!」

 

「うん!」

 

「お、おい!」

 

先ほどの光景から正気に戻ると、呼び止める四季の言葉も聞かず踵を返して二人はその場を立ち去って行く……。

 

「走って逃げたんじゃないのに、どこ行ったか分かるのか?」

 

「僕も追わせて貰おう!」

 

そんな二人に続いて木場もバルパーとフリードを追跡する。

四季へと……正確には四季の持つエクスカリバーへと憎悪の視線をまだ向けていたが、それでもバルパーの方を優先する程度の理性は残っていたのだろう。

 

「お、おい! 木場! ……ったく、何なんだよ?!」

 

そんな木場の姿を見送りながらイッセーはそんな言葉を吐く。

その一方で四季達と子猫はある一方に視線が向いていた。

 

「なあ、匙と変態……今回の事は主には許可を貰ってたのか?」

 

「それが何だってんだよ、お前には関係ないだろう!」

 

「そうだな、オレには関係ないけど」

 

イッセーの言葉にそう返す四季の視線は彼と匙の後ろへと向けられていた。

 

 

 

 

「そうね。でも、私たちには関係有るわよね」

 

 

 

 

後ろから聞こえる聞き覚えのある声にイッセーと匙の思考がフリーズする。

 

「お前達の主、さっきから後ろにいたぞ」

 

「念の為に私から会長には報告済み」

 

四季の言葉に続いて雫の言葉も響く。今回の事は雫からソーナへ伝わり、それからリアスの耳に入ったと言う流れなのだろう。

 

錆びた歯車の様な動きでイッセーと匙が後ろを振り向くと明らかに怒っていると言う様子の二人の主がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の主に見つかりそのまま近くの公園へと連行され、逃げられない様に後ろから四季もついて行った結果、リアスとソーナの前でイッセー達三人は正座させられながら事の説明をしていた。

 

「エクスカリバー破壊って、あなた達ね……」

 

「本当に困った子達ですね」

 

「裕斗はそのバルパーを追って行ったのね?」

 

「はい、教会の二人も一緒です」

 

「それにしても貴方がよりにもよってエクスカリバーを持っているなんて……」

 

イッセー達の証言の中には四季の持っている型月世界のエクスカリバーの事も混ざっていた。

異世界の完全な形の聖剣の存在に頭痛を堪える様子で四季の方へと視線を向けてリアスはそう呟く。

 

「まあ、この世界の品じゃないですし、今回の一件が終われば、向こうから引き取りに来るとは思いますよ、グレモリー先輩」

 

大嘘である。この世界のものではないがガチャから当てたのだから、間違い無く引き取りになんて来ない。

天界相手には見つかった場合は最悪そう言って誤魔化す予定だったのだが、こんなに早く予定していた嘘を吐く事になるとは思わなかった四季だった。

 

最初は単なる一級品の聖剣で通す予定だったが、まさかバルパーに見破られるとは思わなかった。マニアの見る目を甘くみたいなのが敗因であった。

 

「そっちの事は未だ良いわ。それよりも今問題なのは裕斗の方ね」

 

「何か有ったら連絡を寄越すと思いますが……」

 

「変態、お前バカだろう?」

 

「復讐の権化となった祐斗が悠長に連絡よこすかしら?」

 

「ご、ごもっともです……。って、天地、バカって何だよ!?」

 

「何かあって連絡する程度の冷静さが有ったら、あそこで深追いはしなかっただろうが」

 

教会の聖剣使い二人が一緒とは言え、態々太刀打ち出来ない事が分かりきった相手(コカビエル)が待ち受けている場所に単騎で追撃するなど愚かにも程がある選択だ。

四季の持つ完全なエクスカリバーの前には木場の憎む教会のエクスカリバーは敵ではない事を理解してしまった故、急がなければ全てが四季の手で破壊される事が分かってしまったとしてもだ。

 

優先順位程度は分かる冷静さは残っていた様子だが、復讐の権化になった今の木場は自分一人で残りのエクスカリバーを破壊する事に拘っている事だろう。

 

(聖剣コンビ二人と頭に血が上った奴一人でコカビエルに挑む、か。負ける絵しか想像出来ないな)

 

連携が取れない二人と一人で強敵に挑む時点で敗北する絵しか浮かばない。

そもそも、剣としての機能は四季に切られて失っているとはいえ天閃(ラピッドリィ)の速度バフの機能は残っている為、敵のエクスカリバー(仮)の数でも負けているのだし。

 

「まあ、志半ばで倒れない事を祈っておこう」

 

内心で魔王様(オーマジオウ)にと付け加えて置くことを忘れずに。

気のせいか『管轄外だ』の言葉が聞こえた気もするが、スルーして置く事にする。

 

「小猫もどうしてこんな事を?」

 

「……祐斗先輩が居なくなるのは嫌です」

 

俯きながらリアスの問いに答える小猫。……純粋に眷族の仲間が……復讐に囚われた木場が自分達の前から居なくなるのを不安に思っての行動だったのだろう。

 

「ハァ……。過ぎた事をとやかく言っても仕方ないけど、あなた達の行動が世界に大きな影響を与えるかも知れなかったのよ? 分かるわよね?」

 

「すみません、部長……」

 

「……はい、御免なさい」

 

その横では、

 

「貴方には反省が必要です」

 

「うわぁぁぁぁぁん! ゴメンなさい、ゴメンなさい! 許してください、会長ぉ!」

 

良い感じで終わりそうになっているグレモリー側と違って眼鏡を怪しく光らせながらゴゴゴゴゴと擬音でも付きそうな怒りの空気を纏っているソーナと泣いて謝っている匙の姿。

 

「ダメです、お尻を千叩きです」

 

序でにいい感じで終わったように見えたイッセー側も同じく千叩きの刑が執行されていた。

 

「…………で、そろそろオレ達は帰って良いか?」

 

「ええ、色々と聞きたいことも増えたけど、今回は私達の眷属を助けてくれた事感謝するわ」

 

取り敢えず、変な追及を受ける前に帰る事を選択する。

元々何処の勢力にも属していないフリーの能力者と言う点に加えて、仮面ライダーのデッキ、更に今回は異世界のエクスカリバーまで追加されたのだからリアス側にしたら聞きたい事は山の様にあると言う事だろう。

木場やコカビエルのことを優先する必要がある為、その事を追求は後回しにするしか無いが。

 

「まあ、いつかの約束をそっちが守る気が有るなら、こちらはそっちの疑問に答える必要は無いわけですがね」

 

イッセーを殴り飛ばして以来、球技大会から今回のコカビエルの一件と続いているので今だに制約は交わされていないが。

 

「わ、分かってるわよ」

 

本当に分かっているのかはどうでも良い。必要なのは飽く迄魔王サーゼクスの妹との間での、悪魔側からの不干渉の契約の取り交わしである。

間接的にとは言え、何かあった場合の責任を押し付けるのは大物の後ろ盾がある奴に限るのだ。

 

匙とイッセーの悲鳴をBGMにヒラヒラと手を振りながら四季達三人は立ち去って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天地邸地下室……

 

ガチャ装置の前に立つ四季達三人。

 

「……そろそろ意を決して使うか……」

 

手に入れた経緯が問題なので今まで使っていなかったガチャ券を手にそう呟く。

 

「戦力強化になってくれれば良いんだけどな」

 

「そうね」

 

四季の言葉に詩乃も同意する。これから待ち受けているのは堕天使の幹部。負けた場合は街に住む者達の命が失われる負けられない戦いだ。

少しでも戦力の強化はしておきたい。幸運なのは現状ではウィザードの方が戦力的には上なので、ビルドを使わないでも戦力としては十分な点だろう。

 

「それじゃあ、早速」

 

ガチャ券を使って装置を起動させる。出てきたのは十のカプセル。

 

 

 

 

『エリクサー(FF)』

 

 

 

 

先ずは回復アイテム。強敵相手の回復手段の確保は良い。

 

 

 

 

『鋼の剣(ドラクエ)』

『銅の剣(ドラクエ)』

 

 

 

 

「……うん、今までが幸運だっただけだとは思うけど、これは……」

 

「ハズレ、よね」

 

そもそも、超一級品の聖剣や神剣があるのだから、今更こんな武器を出されても処分に困る。

 

 

 

 

 

『ビームサーベル(人間サイズ)(ガンダムシリーズ)』

『サイドバッシャー(仮面ライダーファイズ)』

 

 

 

 

物騒な物が二つほど出た。一つは仮面ライダーシリーズでも珍しいサイドカータイプのバイクのサイドバッシャーだ。

 

「これで三人で行動するのも楽になるな」

 

「そうね」

 

「うん」

 

「でも、こっちの方はどうするの?」

 

そう言って詩乃が指差すのはビームサーベルだ。もういっそ人間サイズならライトセーバーでも良いのでは無いかとも思う。

 

「まあ、使える事も有るだろうし、武器庫に入れておくか」

 

科学100%の武器が通じるか分からないが、安物の剣より有っても困る事はないだろう。

 

 

 

 

『シャイニングブレイクガンダム(ガンダムシリーズ)』

 

 

 

 

次に出てきたのはアメストフリに続くガンダムタイプのナデシコの艦載機だった。

パイロットが四季しか居ないので艦載機が増えるのも悩みどころだ。

ガンプラだった機体が本物サイズで乗れるのは使ってみたい気がするが。……操縦システムがMTシステムだった場合、変形機能はどうなるのかは気になるところだ。

 

 

 

 

『薬草(ドラクエ)』

 

 

 

 

次の中身はスルーすることにした。詩乃と雫の二人もその反応には同意してくれた。流石に回復アイテムなのは良いが、安過ぎるアイテムだ。

 

 

 

『機能拡張権』

 

 

 

「なんだこれ?」

 

スキルなのかとも思ったが、それとは違う初めて見る品。説明を見て見ると拠点となっている家か戦艦の機能を一つ自由に拡張出来る権利の様子だ。

 

「だったら、ナデシコの方に使って見たら良いんじゃないかしら」

 

その説明を見た詩乃はそう意見を出す。

流石に普段から使う家に使って何かあった場合大変な事になるが、ナデシコCならば最悪は長距離の移動手段兼移動拠点を失うだけで済む。

 

そんな判断だったが四季も雫も彼女の案に賛成して早速ナデシコCに使ったのだった。

 

 

 

 

決闘盤(デュエルディスク)(遊戯王)』

 

 

 

 

カードが無いのにゲーム機だけ手に入れてどうするのかと思う品の初期型の円盤タイプが出てきた。

 

「なんだか嬉しそうよ」

 

「そうか。実はかなり嬉しい」

 

詩乃の指摘で気が付いたが、無意識に嬉しさが顔に出て居たのだろう。

天才物理学者のそれの影響か、今からソリッドヴィジョンの技術を調べるのが楽しみになっている。

解析したデータはまた桐生戦兎の名で何処かのゲーム会社に流しても良い。フルダイブ型のゲームに実体化したカードゲーム。世界のゲーム業界の歴史を書き換える程の影響を与えるだろう。

 

そして、最後の一つは、

 

 

 

 

『雪音クリス(戦姫絶唱シンフォギアシリーズ)』

 

 

 

 

新しい仲間を呼び出すことが出来た。そう、出来たのだが……

 

「大丈夫か、彼女を呼び出して」

 

「何か問題でも有るの?」

 

彼女の人間性的には問題ない。最初から戦闘力もあり、これからコカビエル戦が待っている状況では頼りになるだろう。そう、彼女には問題はない……問題があるのは……

 

「あの変態の前に出して大丈夫かな、って」

 

「……まあ、それは諦めて貰うしか無いわね」

 

詩乃もその言葉に納得してくれた。だが、四季には確信がある。イッセー相手の被害は二人以上に酷くなりそうだ、と。

二人以上にイッセーの性癖に突き刺さる分、だ。

 

「……あとで事情を話して謝っておくか……」

 

流石にこのまま呼び出さないのも可哀想なので、この先に発生するであろうイッセーによる被害は我慢して貰うことにした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十六話目

蜘蛛型の監視メカからの映像が四季のビルドフォンの画面に映し出される。

其処には兵藤家にて予想通りコカビエルからの宣戦布告が行われていた。

 

「予想通りの戦争狂か」

 

聞こえてくる会話の内容によれば、アザゼルとシェムハザを始めとした他の堕天使の組織の幹部達は戦争に否定的であり、神器(セイクリッド・ギア)の研究に没頭しているそうだ。

 

(……そう言えば、グレモリーの女王の父親って堕天使の幹部のバラキエルだったな……。あのままライザーと婚約してたらバラキエルも好戦派に合流してたりして)

 

自分の派閥に幹部がもう一人加われば、好戦派も勢いよくなるだろう。そもそも、コカビエル自体好戦派とは言え相応の人望も有りそうなのだし。

 

そんな事を思ってしまうが、事前に防がれた事なので今更考えたところで意味はないと切り捨てる。

 

「まあ、予想通り今夜には動いたか」

 

返り討ちにしたイリナを宣戦布告の手土産にリアス達に対して宣戦布告を行っていた。

此処で予想外なのはゼノヴィアだけでなく木場も逃げきれていた事だ。

 

(あれが紛い物だったって分かって、余計に頭に血が上ったと思ったけど、予想外だったな)

 

イリナの持っていた擬態(ミミック)も奪われたが、どれも四季の持つ二本のエクスカリバー(fate)には及ばない品物だ。それについては問題ない。

 

問題があるとすれば、リアスとソーナ、二人揃って身内である魔王(サーゼクスとセラフォルー)に連絡しなかったという事には二人揃ってその正気を疑うレベルだ。

そもそも、ライザーとその眷属にすら試合で勝てないリアス達の『あとは私達がなんとかする』と言う言葉は何処からそんな自信が湧いてくるのか疑問に思う。イッセーの手にはスクラッシュドライバーも無ければ、彼の神器(セイクリッド・ギア)は禁手にも至らないのに。

 

だが、その辺はちゃんと実力差を理解していた朱乃がサーゼクスには連絡済みだった様子だ。その点の冷静さは評価しよう。

対コカビエルに対応できる者の到着までの時間稼ぎを自分達がすると言うのならば文句は無い。

それに加えてコカビエルの力を理解しているドライグが居るなら、イッセーの体の大半を対価に魔王到着までの時間稼ぎはしてくれるだろう。

 

「さて、準備はいいか? 此処からは正真正銘の命賭けの死闘だ。今からでも不参加でも良い。その場合は安全のためにこの街からなるべく遠く離れて貰うけど……」

 

不参加を決めた者はナデシコCを使って避難してもらう予定だと四季は自分の目の前に立つ三人の少女に問いかけるが、誰からも逃げると言う選択は出てこない。

 

「敵の目的は聖書勢力内の内乱の再開とその決着。戦争がしたいなら無関係な人間を巻き込むなって言いたい。奴の身勝手な欲望の為にこの街に住む人たちを犠牲にさせない為にも、オレ達は負けられない」

 

コカビエルの目的は悪魔側への宣戦布告。リアスとソーナの首と序でにその眷属の首はその為の道具。

流石に自分の陣営である堕天使内の内乱までは望んでいないであろうから、敵とは言えバラキエルの娘である朱乃だけは最低でも生かして連れ帰る程度には手加減するだろうが、リアスとソーナの首を取り、この街を吹き飛ばす事が本来の目的のための宣戦布告と言える。

 

「オレから言えるのは一つだけだ。全員生きてこの場に戻ろう」

 

今回は怪盗の正体を隠す為にVSチェンジャーは使えない。状況的に今は素顔での活動をすべきだ。

手甲オリハルコンを着け、オニキスのデッキとどちらでも使用していなかったウィザードライバーを四季は手に取る。

彼女達も各々の武装の確認を終えて、いつでも動ける状態だ。

頷き合い四季達は学園へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「当然ながら、結界はあるか」

 

「で、これはどうするのよ?」

 

学園の前、ソーナ達シトリー眷属が張っている結界を前に詩乃の言葉が響く。

詩乃の問い掛けには方法も考えてあるのだろうと言う信頼も困っている。

 

流石にその結界がどこまでコカビエル相手に耐えられるかは疑問だが、コカビエルの力を学園内で留める目的で貼られたそれを進入するために破る訳には行かず、その結界があっては四季達も学園の敷地内には入れない。

 

「生徒会長達を探して問答している時間もないし、これだけ近いなら問題ないな」

 

結界を張っている生徒会長を見つけても中に入れてくれるとは限らない以上は、余計な時間を取られる前に他の手段を取るべきだろう。

そう言って四季が取り出すのはウィザードライバーとウィザードリング。

 

「結界内にテレポートする。中に入ったらすぐに接敵するはずだから、油断するな」

 

《テレポート、プリーズ》

 

四季達四人の足元に魔法陣が現れて彼らの姿を飲み込んで行き、次の瞬間その姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結界内、駒王学園の校庭では木場を欠いたリアス達グレモリー眷属はコカビエルのペットのケルベロスと戦っていた。

 

ケルベロス。地獄の番犬として有名なギリシャ神話における冥府神ハーデスの元にある神獣。

四季の調査によれば、悪魔や堕天使の住む冥界に住むケルベロスと同じ特徴を持った上位の魔獣の様だ。

流石に本物のケルベロスなんて連れて来たら、ギリシャ神話にケンカを売る行為だろう。……聖書勢力全体としてはすでに手遅れかもしれないが……。

 

朱乃が攻撃を防ぎ、その隙をついてリアスと子猫がケルベロスを攻撃してイッセーが譲渡するための倍加の時間を稼ぐと言う作戦なのだろう。

 

そんな中で二匹目のケルベロスが後衛のアーシアとイッセーの背後に現れる。

 

「もう一匹いるのかよ!? アーシア!」

 

それに気がついた時、彼らの耳には戦場には似合わない歌声が響く。

 

 

 

 

~~♪

 

 

 

 

突然響く歌声に呆気にとられるその場にいる者達を他所に曲調が変わる。

《BGM:魔弓・イチイバル》

 

「キャウン!」

 

歌声共に何かがケルベロスを吹き飛ばす。

 

「な、なんだ、今の?」

 

歌声共にさらされた攻撃にケルベロスが吹き飛ばされた事に驚愕するイッセーだが、

 

 

 

 

「へっ、こんだけデカけりゃ、外しようがねえな」

 

「あら、それでも狙いどころはあるわよ」

 

「ギャウン!」

 

続けて聞こえるのは二人の少女の会話と、炎を纏った矢を三つの頭のうちの一つの眼球に受けて悲鳴をあげるケルベロス。

 

「今の声は詩乃ちゃん? もう一人は……」

 

「八雲っ!」

 

イッセーが自分たちを助けた声の主に気がついた時、動きを止めたケルベロスの三つの頭の中の中央の頭に四季の気を纏った拳が叩きつけられる。その脳天への一撃により意識が刈り取られる。

 

そして、左右の首へと

 

「火社っ!」

 

右の首は巫炎の、

 

「深雪!」

 

左の首へは雪蓮掌の八雲と同等の上位技を放ち、右の首を炎に包み焼き尽くし、左の首を凍結させ砕く。

 

三つの首の意識が途絶えたケルベロスが倒れた事で、頭の上から降りて背中を向ける四季。

 

「グルゥ……」

 

だが、打撃による衝撃だけだった中央の首は生き残っていた様子でヨロヨロとした動きで立ち上がる。

 

「トドメは任せた」

 

「ああ、任された」

 

一矢報いようとでも言うのか、最後の力を振り絞って自身に背中を向けている四季に襲いかかろうとした瞬間、新たに現れた影がケルベロスの首を切り落とす。

 

「遅くなった。加勢にきたぞ」

 

切り落とされたケルベロスの首の上に立つのはゼノヴィアだった。

 

「スゲェ……って、なんか一人増えてないか?」

 

詩乃と雫以外にも人影が一人増えている事に疑問を抱くイッセー。

 

「ああ、コカビエルなんて大物を相手にする訳だから、知り合いに助っ人に来てもらったんだ」

 

知り合いを助っ人に頼んだ。今はその程度の説明で十分だろう。

 

「彼女は『雪音クリス』。オレ達の知り合い「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」……って、おい」

 

クリスを紹介した瞬間、イッセーが急に雄叫びをあげる。

 

「お、おい、こいつ、どうしたんだよ!?」

 

「あ、ああ。困った事に正常なんだろうな、変態の」

 

クリスの姿を視界に捉えた瞬間絶叫をあげるイッセーに対して困惑するクリスと平常運転なんだろうなと思う四季。そして、

 

「でかぁい! 説明不要! 部長や朱乃さんにも匹敵する見事なおっぱい! しかも、小柄な分余計に際立ってる! 見事なロリ巨乳!」

 

「ひぃ!!! お、おい、本当にこれが普通なのか!?」

 

「いや、寧ろ予想通りの反応としか」

 

鼻血と歓喜の涙を流しながら絶叫するイッセーに、イッセーの舐め回すような視線に怯えて四季の後ろに隠れるクリスと、予想通りすぎる反応にドン引きな四季の構図であった。

 

 

 

 

 

 

『あれ、今一瞬至りそうになっちゃったけど、気のせいだよな、絶対』

 

 

 

 

 

人知れず禁手(バランス・ブレイク)に至りそうになった事に気がついたドライグがいたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精神世界の中で相棒(ドライグ)が現実逃避している事など露知らず、物凄く情けない理由で禁手になる一歩手前まで至っちゃったイッセーに対して完全に涙目のクリス。脳内保存と言わんばかりの視線に晒されているのだから当然だろう。

 

流石にイッセーレベルの変態に遭遇するのは初めてなのだろう、自分を呼び出すのに迷っていた理由を心底理解した。

 

「お、お、お、おい、もしかしてあたしを呼び出すのに迷ってたのって?」

 

「こいつが原因。付け加えるなら性癖にどストライク」

 

「ヒィッ」

 

そう、心底、身をもって理解してしまっていた。鼻の下を伸ばして胸部をガン見してくるイッセーの視線から逃れるべく四季の後ろに隠れている。

 

「クリスちゃんって言うんだ、オレは兵藤一誠、宜しくな」

 

「よ、宜しくしたくねえ!」

 

爽やかさ笑顔を浮かべて挨拶してくるが鼻血流しながらでは台無しである。

 

「変……兵藤、一つ良いか?」

 

「なんだよ?」

 

四季の言葉に、お前には用は無い寧ろよく見たいから退けと言わんばかりの態度で答えるイッセー。

 

「彼女は一つ上だぞ」

 

「ええ!? って事は部長や朱乃さんとタメ!? 年上のロリ巨乳ってのも……」

 

何か妄想の中にトリップしている様子のイッセーから距離を取りながら、後衛の詩乃と雫と合流する四季とクリス。

 

「おっと、こっちも溜まったぜ」

 

二人が離れた時、鼻血を抑えながら倍加が限界まで終わったのだろう。何故か色素が落ちているように見える赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を持って、

 

「部長! 朱乃さん! 譲渡いけます!」

 

そう二人を呼ぶ。……鼻血を抑えながら。リアスと朱乃の二人に倍加させた力を譲渡すると、その力の大きさを感じ取ったのか逃げ出すもう一匹のケルベロス。

 

そんな中、ゼノヴィアと同じく駆け付けた木場の魔剣創造(ソード・バース)によって足止めされたケルベロスが、イッセーの譲渡によって強化された朱乃の雷によって焼き尽くされる。

 

リアスもまた譲渡によって強化された全力の滅びの魔力をコカビエルへと放つが、等のコカビエルはそれを片手で弾く。

 

そんな中、

 

「あっ、完成だ」

 

興味無さげなバルパーの声が響くが、その視線が四季を捉えた瞬間狂喜の感情が浮かぶ。

 

「おお、来たか、真なるエクスカリバーよ! 今、四本の聖剣が一つとなり術式は完成した!」

 

四季の姿を、いや、正確には彼がこの場で使うであろうエクスカリバーに対して歓喜の感情を浮かべながら心からの歓迎の言葉を告げ、完成した聖剣をゴミでも投げるような態度でフリードに投げ渡す。

 

「あと二十分もしないうちにこの街は崩壊するだろう」

 

『なっ!?』

 

バルパーの言葉にグレモリー眷属だけでは無く四季達にも驚愕が浮かぶ。タイムリミットは20分。

どこぞの光の巨人の活動時間よりは遥かに長いが、短すぎる時間だ。

 

「術式を解除したくばコカビエルを倒すほかない。更に」

 

「ホイホイ」

 

そう言ってバルパーとフリードが取り出すのはアナザーライドウォッチ。

 

 

『ブレイブ……』

『ワイズマン……』

 

 

バルパーとフリードの姿がアナザーワイズマンとアナザーブレイブへと変わる。

 

「ワシらも邪魔させてもらうぞ」

 

笑みでも浮かべているかのような口調で告げるアナザーワイズマン。

その目的は一つ、間近で四季の持つ異世界のエクスカリバーの力をその目で見る事なのだろう。

 

「タイムリミットは二十分か。長々と戦う趣味は無いけどな」

 

「時間制限なんて聞かされると、ちょっと焦るわね」

 

「へっ、そんだけ有りゃ十分だろ」

 

「うん」

 

三大勢力の戦争を生き抜いた歴戦の勇士(コカビエル)と倒し難さではライダー怪人の中でもトップクラスのアナザーライダーが二体。その事実に僅かながらも焦りが見える四季。目の前の相手……コカビエルに僅かに気圧されている詩乃と雫。

焦りや気圧されているのが僅かで済んでいるのはこの場に置いて一人、コカビエル相手に気圧されている様子のないクリスの存在故だろう。

 

彼女だけはこの場に於いて……唯一コカビエル以上の強敵と何度も戦った経験があるのだ。今更強敵とは言えコカビエル相手に気圧される通りはない。

 

「さあ、小僧! 貴様の持つ真のエクスカリバーの力を見せてみろ!」

 

やたらとテンション高く宣言するアナザーワイズマン。そんなハイテンションなアナザーワイズマンの姿にコカビエルもちょっとドン引きである。

 

「……フリード」

 

「はいな、ボス」

 

「最後の余興だ。四本の力を得た聖剣で戦ってみせろ」

 

「そうだ! その四本統合の聖剣ならばエクスカリバーと打ち合っても簡単に折れる事は無い! さあ、存分に真のエクスカリバーの力を見せろ!」

 

コカビエルドン引きのハイテンションで叫ぶアナザーワイズマン。

 

「ヘイヘイ、まーったく、オレのボスは人使いが荒くてさぁ。でもでも、ちょー素敵仕様になった聖剣を使ってでマジモンエクスカリバーにリベンジマッチできるなんて、光栄の極み、みたいな?」

 

ケラケラと笑う様子でアナザーブレイブは四本統合された聖剣を振り回しながら四季へと聖剣を向け。

 

「さあ、リベンジマッチと行きましょうかねぇ!?」

 

そう宣言する。

 

***

 

「……一つ聞きたいんだが、何故バルパーは君に対して真のエクスカリバーと言っているんだ?」

 

「ああ、それか? 異世界の、と言う注釈は付くけど」

 

武器の中から型月世界仕様のエクスカリバーを取り出し、

 

「正真正銘の本物のエクスカリバーを借り受けてるからな」

 

『っ!?』

 

四季がエクスカリバーを構えながらそう告げた瞬間、イッセーと木場、子猫以外の全員に驚愕が浮かぶ。

リアスと朱乃もイッセーから話は聞いていたが、実物を前にしては気圧されてしまう。

 

「ま、まさか……本物のエクスカリバー、だと?」

 

呆然と呟くゼノヴィア。

質量的には優っているが、自分の手の中にある破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)とは比べ物にならない存在感を持った四季の持つ聖剣。

それだけでも真のエクスカリバーとは信じられなくとも、理解してしまう。その剣は聖剣としての格が違うと。

 

「エクス……カリバー……」

 

憎悪の困った視線で四季の持つ聖剣エクスカリバーを睨みつけるのは木場だ。

 

「同志の仇は僕が討つ!」

 

四季に砕かれる前に、そう考えたのか、そう叫び真っ先にアナザーブレイブへと向かっていこうとした木場だったが、

 

 

『バインド……ナウ……』

 

 

「ぐぁっ!」

 

光の鎖に全身を巻かれ、受け身もとれずにそのまま顔面から地面に倒れこんでしまう。

 

「黙れ、転生悪魔の小僧」

 

 

『エクスプロージョン……ナウ……』

 

 

「木場ぁ!」

 

続いて襲われた爆発に吹き飛ばされてイッセー達の元へと吹き飛ばされる。

 

「これから始まるのはエクスカリバーの名を与えられた聖剣に対して真のエクスカリバーの力を見せる戦いだ! 貴様の様な聖剣ですら無いナマクラを量産することしかできぬ者が入って良い戦いでは無い!」

 

狂気の困った叫び。それに同調する様にアナザーブレイブも、

 

「そう言う事っすよ悪魔くん。そんなに首チョンパして欲しかったら、エクスカリバーとのリベンジマッチ終わったらしてあげるから、邪魔しないでちょうだいよ」

 

ケラケラと笑いながら興味ないと告げるアナザーブレイブ。

 

「巫山戯るな! バルパー・ガリレイ! 僕は聖剣計画の生き残りだ!」

 

「……聖剣計画? ああ、懐かしい計画だな。ああ、全く、真のエクスカリバーに出会えた今となっては無意味な事をしていたと思うよ」

 

何かを懐かしむ様にシミジミと呟くアナザーワイズマン。

 

「紛い物と紛い物すら扱えん出来損ないどもに、ワシの貴重な時間を長々と割いたと思うとな」

 

「巫山戯るなぁ!」

 

激昂する木場だが、アナザーワイズマンはそんな木場へと興味を向ける事はなく、彼を拘束する魔力の鎖も解ける事はなかった。

 

「巫山戯るな、バルパー・ガリレイ。ぼくはあなたに殺された身だ、悪魔に転生して生きながらえている」

 

怒りに震えながら、木場はアナザーワイズマンへと問う。

それだけは聞かなければならない、死んだ同志達のためにも知らなければならない。

 

「何故、あんな事をした?」

 

「ん? ああ、肝心の聖剣が偽物である事を除いては一応は成功していたよ、あの計画は」

 

どうでも良いとばかりに投げやりな返事をして何処からか取り出した結晶のような物を足元に投げ捨て、踏み砕く。

 

「自分では使えないからこそ使える者に憧れた。そこの小僧の様にな」

 

四季を見るアナザーワイズマンの宝石を模した異形の仮面の奥には恍惚という表情が浮かんでいる事だろう。

 

「成功? 僕達を失敗作と断じて処分したじゃないか!!」

 

「聖剣を扱うには何らかの因子が必要であることに私は気が付いたのだよ。被験者はほぼ全員にその因子を確認できたものの聖剣を扱える数値に満たなかった」

 

呆れた様にため息を吐くアナザーワイズマン。そんな相手の表情に、

 

「……なるほどな。今回送られてきた、安全に作られた聖剣使い二人。なるほど、聖剣計画の成果は、天界側にとってお前を始末しない程度の功績にはなっていた、と言うわけか?」

 

「ほう、気がついた様だな、流石は真の聖剣の使い手だ」

 

四季の呟きに感心した様に応えるアナザーワイズマン。そして、四季の推測を採点する様に黙ることで続きを促す。

 

「一人分の因子で無理なら必要な分を足せばいい。お前は見つけ出したと言うことか? 『因子を抽出して集める方法』を」

 

四季にしてみればビルドドライバーやスクラッシュドライバーが使用可能になるハザードレベルのことを知っているからこその発想だ。

だが、そのレベルを一つあげるのにもビルド本編に於いてエボルトも苦労していた。短時間で楽に強化できる方法があるのならまずはその方法を模索するだろう。

 

それが推測の切っ掛けだったが、

 

「くくく……ハハハハハハハハハハ! 正解だ、満点をくれてやろう! 私の至った結論そのものだ!」

 

「なるほど読めてきたぞ、聖剣使いが祝福を受ける時体に入れられるのは……」

 

「他者から抜き取られた聖剣使いの因子を物質化した物だろうな」

 

四季の答えに狂笑しながら肯定するアナザーワイズマン。更にゼノヴィアの言葉から多くの犠牲の上になりたった研究のデータが今の聖剣使いの量産に繋がっているということが明らかになった。

それが天界側がバルパーを生かして追放した理由。バルパーの出した功績、と言う事だろう。

 

「その通りだ。先ほど砕いたのが、その聖剣計画で結晶化させた聖なる因子だ」

 

「っ!?」

 

アナザーワイズマンの言葉に木場の表情がこわばる。

 

「私の理論によって聖剣使いの研究は飛躍的に向上した。だが教会は研究資料だけを残し、私だけを異端として追放した」

 

医薬品の研究でも人体実験のデータは大きな発展をもたらす。非人道的な手段を持って行えば発展の速度は大きく違うだろう。

四季の中にある桐生戦兎のそれはバルパーの言葉の意味を理解し、同時に怒りに変える。

 

「貴殿を見るに私の研究は誰かに受け継がれていると様だな……。ミカエルめ、私を断罪しておいて……」

 

そう、研究は今も続いている。ゼノヴィアとイリナの存在こそがその証拠なのだ。

誇りのはずの聖剣使いの称号が、その真実は教会の罪そのもの。ゼノヴィアの心境としては穏やかではいられないだろう。

 

「……同志達を殺して因子を抜いたのか?」

 

「そうだ。3つほど使って、もう不要になった残った一つは先ほど砕いたがね」

 

「ヒャッハハハ! オレ以外の連中は因子に対応できず全員死んじまったがな!」

 

アナザーワイズマンの言葉を笑いながら補足するアナザーブレイブ。

 

「テメェ……」

 

「お前の身勝手な欲望のために、どれだけの命を弄んだ……?」

 

バルパーの言葉に怒りを露わにするクリスと四季。

 

「そんなモノ、もう全てどうでもいい事だ。当初の目的であった愚かな天使と信徒どもに私の研究を見せつける事も、今となってはもうどうでもいい」

 

不気味なほど穏やかな口調でアナザーワイズマンは言葉を続ける。

その心の中には既に新たな野望がうごめいていた。

 

「貴様だよ、真のエクスカリバーの使い手よ! お前の中にあるであろう聖なる因子を抜き取れば、私自身がなれるのだ! 憧れていた、聖剣の……エクスカリバーの使い手に!」

 

そう、アナザーワイズマンの……バルパーの目的は四季と出会った事で既に変わっていた。

真のエクスカリバーが目の前にある。自分が研究してきた聖剣など歯牙にもかけない完全な、本物の聖剣が。

伝説のアーサー王から四季に貸し与えられたと語られたそれも、自分に届けられるために渡された様にしか見えていない。否、既にそう思い込んでいる。

彼の頭の中にはエクスカリバー持った使い手となった己の姿しか無いだろう。

 

「バルパアアアアアアアアアアァー!」

 

バルパーの言葉に激昂する木場だがアーシアの治療も終わらず先ほどの爆発の傷は癒えておらず、全身に巻きつく光の鎖の拘束によって立つことさえままなら無い。

 

「ふん」

 

そんな木場を嘲笑う様にアナザーワイズマンは踏み砕いた結晶のカケラを木場の元に蹴り飛ばす。

 

「欲しければくれてやろう。それがお前の仲間の成れの果てだ。クズには似合いの末路だろう?」

 

 

ガンッ!

 

 

その瞬間、四季のエクスカリバーとアナザーブレイブの統合聖剣がぶつかり合った。

 

「おっと! 先ずはオレの相手してくれませんかね!?」

 

「詩乃、クリス先輩! バルパーを頼む!」

 

「ああ!」

 

「ええ!」

 

二人に指示を出すと切り結んでいたアナザーブレイブの体を蹴り飛ばし距離を取る。

 

「雫、二人の補助を頼んだ」

 

「うん」

 

四季の事はアナザーブレイブが離してはくれないだろう。だからこそ、アナザーワイズマンは詩乃達三人に任せるしか無い。

エクスカリバー(偽)に因縁がある木場が動けるのなら木場の望み通り丸投げして詩乃達と一緒にアナザーワイズマンを倒せばいい事だが動けない以上はそうもいかない。

 

「バルパー・ガリレイ。お前は聖剣の伝記を読んだ事が有るのか?」

 

「ん? ああ、聖剣の伝記に幼少の頃から心躍らせたものだよ」

 

「だとしたらとんだ笑い話だな」

 

「何?」

 

アナザーワイズマンの言葉に嘲笑を浮かべる。

 

「オレから因子を奪った所でお前が本物のエクスカリバーを使えるわけがないだろう」

 

そもそも、転生特典でガチャの中の型月世界のエクスカリバーを使っているだけなのだから聖なる因子なんて持っているのかも怪しい。

黄龍の器(陽)である事は確かな様だが……

 

「アーサー王の物語において、カリバーンは騎士道に反する行為をした主人に対する抗議の様に折れたと書かれている物もある」

 

「小僧、何が言いたい?」

 

震えながら告げられるアナザーワイズマンにエクスカリバーを突き付け、

 

「例えオレから因子とエクスカリバーを奪ったとしても、お前の様な外道に使われるくらいなら、エクスカリバーは自ら折れる事を望むはずだ!」

 

「っ!?」

 

「お前の心躍らせた伝記の中の悪役の様に、せめてエクスカリバーで斬られることを誇りに思え!」

 

四季の言葉に怒りに震えているアナザーワイズマン。

因子があったとしても、お前には使えないと言われたのだ。その怒りは推して知るべしだろう。

 

「小僧……言わせておけばぁ! フリード、あの小僧を殺せぇ!」

 

怒りに満ちたアナザーワイズマンの絶叫が響き渡る。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。