Pinkdama-is-awesome (てふてふぼうず)
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プロローグ/遭遇

プロローグですので、
世界観を伝えるやつですので、
許してカービィ



 

『ロボトミーコーポレーション』

 危険なアブノーマリティを管理し、エネルギーを生産する会社。

 

 その施設で、真っ赤なランプが点灯し、一段階目の警報が鳴る。

  ──アブノーマリティの脱走だ。

 

 

「メア!そっちへ行ったぞ!」

「……っ!先輩、こいつはこちらで引きつけます、その間に攻撃をっ!」

「わかった。全員、今のうちに全力で奴へダメージを与えろ!削り切るぞ!」

「「了解!」」

 

 叫び声と警報の響く廊下で、歪な影と武装した職員たちが交戦していた。

 

 職員は全員、腕に『 N 』の文字が入った腕章を身につけ、武器を携えている。しかし、持っている武器は剣、槍、大砲と、形も大きさも多種多様。

 そして彼らが戦うのは生き物とは思えない奇妙な体をした怪物。丸い胴体から4本の長い触手と真っ赤な頭が生えている。しかし、なにより奇妙なのは、その全身がまるで()()()()()()のような様相をしているということだ。

 

 彼らは真っ赤に染まった廊下で、怪物と戦っていた。

 

 

 

 

 

 

 不意に、怪物は動きを止め、触手を地面へと下ろす。そして頭を上げると、口を大きく開いた。

 

「あの構えは…っ!、みんな、耳を塞げ!」

 

 動きの意味に気がついた職員が、大声で仲間に呼びかける。

  …しかし、遅かった

 

 怪物は頭、体、触手の全てを震わせ、不可解な音で構成された『唄』を響かせる。『唄』は黒い波動を伴い、廊下にいた職員全員の耳へと届く。

『彼方からのエコー』と呼ばれたこの唄は、聞いた職員の脳を侵し、精神へ甚大なダメージを与える。

 

 この場にいるのはランクIIや、Ⅲの職員ばかり。まだあまり装備の充実してない、耐性のない者から次々と倒れていく。

 

「くそっ、まだ…こっちだ、化け物が!」

 

 1人の職員が、頭を押さえながら起き上がり、マッチの突き刺さった灰色の大砲を構えた。

 しかし足はふらつき、立っているのでやっとという状態だ。

 それに気づいたのか、怪物は歌うのをやめ、まだ動く敵を仕留めようと触手を伸ばした。

 

「…っ!」

 

 間一髪、頭を横へ振って触手の攻撃を躱す。

 

 頭のすぐ横を通り過ぎた触手は、後ろの壁にぶつかる。

 

 職員は全員満身創痍。一度は避けたものの、もう一度は難しいだろう。対して怪物はまだ余裕がありそうだ。先ほどとは違う触手で、ゆっくりと攻撃の準備をする。

 

 

 そのとき、

 

『みんな、よく耐えた!増援が来たぞ!』

 

 廊下に備え付けられたスピーカーから、音声が発せられる。それは職員たちにとって、救いの言葉に他ならなかった。

 

 廊下からエレベーターへとつながる扉が開き、()()シルエットが浮かび上がる。

 

 

「ぽよ」

「「………は?」」

 

 

 職員たちは困惑を隠せないようだ。丸い──つまり人間ではない。

 職員たちは次に絶望に暮れた。管理人からの言葉は嘘だったのか…生存は絶望的になった…と。

 

 そんな思いを他所に、丸いシルエットはどんどん近づいてくる。

 シルエットの主はやはり、人間ではなかった。ピンク色の肌に、丸いボディ。

 

 落書きの怪物はそれに気づいた途端、先ほどとは比べ物にならないスピードで触手を動かし始める。まるで、何かを恐れるように。

 

 怪物が触手を突き出す。しかし、ピンク玉はそれを難なく躱す。そして、大口を開けると……

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 続いてそれを飲み込む。その瞬間、あたりが光に包まれた。

 光が晴れると、そこにいたのは茶色の帽子、小さな銃を携えたピンク玉だった。

 ピンク玉は怪物の触手を華麗に避け、星を撃ち出し反撃すらしてみせる。

 

 落書きの怪物は触手での攻撃はダメだと悟ったのだろうか。口を大きく開き、歌う姿勢になる。

 

 しかし、その隙をピンク玉は見逃さなかった。高く跳び、銃口を怪物へと向ける。そして…

 

 

 特大の星を撃ち出した。

 

 

 星は、怪物へと当たり、吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた怪物は大きな音をたて、廊下の壁へとぶつかった。

 

 怪物の動きが止まり、施設に響いていた警報が止まる。赤いランプも消え、施設は落ち着きを取り戻す。

 

 

 

 

 

 

「大丈夫でしたか⁈おい、すぐに重傷者をメインルームに運べ!投与するエンケファリンの濃度を間違えるなよ!」

 

 危険が無くなったのが確認できると、すぐにオフィサーが駆けつけ、負傷者を運び出した。

 動けないものは治療に、動けるものは、次の作業へと向かう。

 

 

 こうして、命を懸けた鎮圧が幕を閉じた。

 

 

 





拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。


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1話/観察

最初の管理情報は飛ばしても構わないです
感想、お気に入り登録、本当にありがとうございました。


 

 

O-02-k20 「星のカービィ」

 

『あしたはあしたのかぜがふく』

 

リスクレベル TETH

 

攻撃タイプ RED(1〜2)

 

クリフォトカウンター 2

 

管理方法ーー

 

1.アブノーマリティの脱走や試練の際には、星のカービィに『おねがい』することを考えてもいい。ただし、『おねがい』の達成後に必ず対価が支払われる。

 

2. Cost : 3 PE Boxes

 

3. Cost : 3 PE Boxes

 

 

「…はぁ」

 

つい、ため息がこぼれてしまう。

 

 俺の名前はダニエル。この施設の安全部門に所属していて、今はチーフ、その部門のリーダーのようなものを担当している。

 なので、後輩からも頼られるようになって来たんだが……

 

「先輩、どうしたんですか?浮かない顔して…もしかして、まだ昨日のことを引きずってるんですか?」

 

 彼女はメア。紫と黒を基調とした防護服に、複雑な色をした槍を装備した職員だ。俺の後輩でもあり、明るい性格をしている。昨日の鎮圧で、『O-03-60(宇宙の欠片)』の攻撃を引きつけてくれていたのも彼女だ。

 

「まぁ、そんなところだ」

 

 そして彼女の言う通り、俺は昨日のことで悩んでいた。あのあと、『唄』を聞いてしまった職員が唄を口ずさみ始めたり、叫び出したりと少なくない被害が出てしまった。

 管理マニュアルは読んでいた。

 あの時、もう少し早く奴の行動に気付けていれば…と後悔は止まない。

 

「…でも先輩、あんまり気にしててもダメですよ。ここでは職員の死なんて日常茶飯事。いちいち気にしてたら心が持ちません」

「でもなぁ……」

 

 確かに、彼女の言う通りだ …が。同じチームの仲間がいなくなるのはやはり辛い。

 

「おいおい、また落ち込んでんのかよ、ダニエルは。いい加減慣れろよな、この会社に」

 

 こいつはジョシュアと言って、俺の同僚だ。暗い色の防護服に、柄の長い丸鋸を装備している。俺と同じ頃に入社した職員で、よく(人間関係で)トラブルを起こす。

 

「…そしてバカだ」

「あ"?! おいダニエル、声に出てるぞ」

 

 おっとしまった。

 

 それにしても…やはり、仕方ないことだと割り切ることは俺にはできない。そう言った甘い考えを持っていると、この施設では長生きできないだろうが。

 

「ていうか、ダニエル。そんなのに悩む暇があったらアブノマの管理してこい。一応、チーフなんだし」

「そうですよ先輩。こう考えましょう、一つでも多く自分が作業することで、そのアブノーマリティに関するたくさんの情報が集まる。そして、新人職員の事故率も下がる」

 

「…確かに、そう考えれば作業にしっかり集中できるかもしれないな」

 

「でしょう!、そうと決まれば善は急げ!です。さぁ、作業に行きましょう!」

 

「あぁ、ありがとう2人とも」

 

 俺は2人に礼を伝え、次のアブノーマリティの作業へと向かう。この安全部門チーフとして、後輩たちに不安を与えないように、手本となるようにしなければ。

 

 

「ふぅ、やっと先輩に元気が戻りました」

「あいつはお人好しすぎるんだよなぁ。自分が生き残ることだけ考えてればいいのによ」

「…でも、それで助かった人も多いですよ。昨日だってO-03-60(宇宙の欠片)がこれ以上歌わないように、注意を引きつけて被害を抑えてくれたし……そういうところがかっこいい、んですけどね」

 

 

O-02-k03 『星のカービィ』 

 昨日の鎮圧で助けてくれたアブノーマリティーだ。(理解できるかどうかは別として)お礼を伝えたいと思っていたが、こんなに早く再び出会えるとは。

 

「…よし、」

 

 こいつは最近入って来たばかりで、まだ情報が少ない。気を引き締めていかないと。

 

 覚悟を決めて収容室の扉を開ける。そこにいたのは…

 

「くぅー、すぅ〜」

 

 爆睡するピンク玉だった。

…うん、なんだこの愛らしい生物は。頭に黄色い水玉模様の入った紫の帽子、黄色い三日月模様の枕、そして鼻提灯を作りながら幸せそうに眠る姿。これに心を奪われない人間はいないだろう。

 

 恐る恐る近づいてみるが、起きる気配はない。それどころか、いびきすらたてて熟睡する始末。すぐに逃げれるように集中していたが、拍子抜けだ。

 

「うーん…まぁ、仕方がないか」

 

 お礼を伝えるのはまた今度にし、洞察作業を開始する。

 洞察といってもすることは簡単。部屋の掃除だ。持ち込んできた箒で、収容室を清潔にする。

 

 

 ふと、アブノーマリティの方をみる。…さっきと変わらない

  ……いや、鼻提灯が大きくなっている気が…

 そうしている間もどんどん鼻提灯は大きくなっていき、ついにピンク玉の大きさを超えてしまった。

 

「…まずくないか?」

 

 あの鼻提灯が破裂したらどうなるのだろう。アブノーマリティが起き、こちらに危害を加えてくるかもしれないし、何も起こらないかもしれない。

 

 一応、部屋の端っこを掃除しておこう。いつでも、扉に手が届く位置を。

 

 しばらくして、鼻提灯はあり得ないほどの大きさになった。しかも、心なしか震えている気がする。

 

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ…」

 

 一刻も早くここから出たい。だが、まだ清掃は終わってないのだろうか。収容室の扉はまだ開く気配がない。

 

「頼む、早く終わってくれ、」

 

 祈りを口にしながら収容室の中を駆け回る。隅から隅までピカピカにし、これ以上ないほどきれいにしたはずだ。…なのに何故扉は開かないんだ?

 

 

 …いやなことを思い出してしまった。部屋を掃除するのはすべて、アブノーマリティの機嫌を良くするため。しかし、このピンク玉は熟睡中だ。辺りの変化には気づかないし、エネルギーの生産もゆっくりだろう。──つまり、扉が開くのにはまだ時間がかかる。

 

「マジかよ…」

 

 とりあえず、扉の前を掃いておこう。そう思って移動したとき…

 

 

パァン

 

 

 小気味よい音と共に、()()()()()()()()

 

「くっ、」

 

 慌ててアブノーマリティの方へと向く。顔を庇い、受け身をとれるようにして。

 視界に映ったのは、目を丸にして、辺りを見回すピンク玉。…まさか、自分の鼻提灯に驚いて起きたとでもいうのだろうか。

 

「むー?」

「あ…」

 

 目が合ってしまった。こちらをみて首を傾げるその姿は…

 

「かわいい…、じゃなくて!」

 

 思わず声が出てしまった。確かにかわいい。だが、警戒は解かない。こちらへと近づいてくるピンク玉をしっかりと見据え、扉を背にして立つ。そのとき、

 

ガッ

 

 収容室の扉が開いた。俺はすぐに収容室から飛び出し、振り向く。

 

 閉まる扉の先には、こちらへと手を振るピンク玉の姿があった。

 

 

「はぁー…」

 

 またもやため息が出てしまう。アブノーマリティの作業には常に命の危険が伴う。そしてこの作業をこれからもずっと繰り返していくのだ。

 …ストレスが半端じゃない。

 

「おい、どうしたダニエル。作業結果が悪かったりしたのか?」

「先輩……この仕事が辛いんです」

 

 この人はミラベル先輩。この施設に初日から勤務している職員で、数少ないランクⅤの1人でもある。装備は赤い扇とピンクの防護服。どちらにも桜の花びらの模様が描かれている。今は新しく解放された教育部門にいるはずだが…

 

「ていうか、なんでここにいるんですか…?」

「なに?私がここに存在してちゃいけないって言うのか?」

「いや、そこまではいってないです」

 

 教育部門から安全部門までは少し距離があるはずだ。なにか用事でもあったのだろうか?

 

「いやなに、昨日の鎮圧の時に駆けつけれなかったから、被害にあった職員に申し訳なくてな。新人職員らに、アブノーマリティの安全な鎮圧方法でも伝受しに行こうかとおもって」

 

「はぁ…その安全な鎮圧方法ってなんですか?」

 

 鎮圧は最も危険な作業だといっても過言ではないのだが、それを安全に行えるのは魅力的だ。

 

「簡単なことさ、

   攻撃される前に倒す」

「それができれば死人は出ないんだよなぁ」

「それか、攻撃を全部よける」

「無理です」

 

 新人職員たちを先輩と一緒にしないでほしい。あんなふざけた芸当ができるのは、前にも後にもこの人だけだ。…いや、都市にはたくさんいるか。『赤い霧』とか『赤い霧』とか『赤い霧』とか

 

「伝授するだけなら業務終了後でもできるでしよう。本当はなんでここに来たんですか?」

「あー、実はな、もうすぐ『試練』が始まるらしい」

「…!『試練』が?!」

 

 『試練』、前回発生した時は大量の収容違反が発生し、施設に甚大な被害を与えた。

 

「しかも、今回のは『白昼』。前回の『黎明』より手強いらしい。だからどこに出現しても対応できるように、ランクの高い職員がいろんな部門に散らばってるわけだ」

「そうだったんですか。で、それはいつ発生すr

 

 

 

 

我々は時に行進し、喜びを分かち合う。

 

 

 

 

……っ!」

 

突如頭の中に言葉が浮かび上がり、陽気で不気味な音楽が流れ出す。

 

『安全部門に『肉体の調和』が出現しました。付近のエージェントは、至急鎮圧に向かってください』

 

 部屋の赤いランプが灯り、スピーカーから音声が流れた。

 

「噂をすれば、なんとやら…だ。みんな、警戒しろ!試練が来るぞ!」

 

『深紅の白昼』が始まった。

 

 




わかりやすいように攻略WIKIにそろえました。
ロボトミ解説

リスクレベル…そのアブノマの危険度
ZAYIN→TETH→HE→WAW→ALEPH
の順に強く、厄介になる。

攻撃タイプ…そのアブノマのしてくる攻撃

REDー物理 WHITEー精神攻撃
BLACKー物理+精神
PALEー死属性(割合ダメージ)

試練…業務時間中に起こるイベント

黎明→白昼→夕暮→深夜
の順で強く、厄介になる。


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2話/試練


カービィ要素を増やしたいと思う今日この頃

プロットと名前が間違えていて、急いで修正しました。皆様、本当に申し訳ございませんでした。

マキ→メア


 『試練』

 ロボトミーコーポレーションでは、危険なアブノーマリティたちを特定の場所(主に収容室)に固定している。しかし、それにも限界があり、時間が経てば経つほど固定する力が弱くなる。

 そしてアブノーマリティが不安定になることで、暴走したり、出来損ないが生まれてしまう。これがクリフォト暴走や試練だ。

 

 

 

 

 廊下に悲鳴が響いた。振り向くと、そこに在ったのは悍ましい見た目をしたカーニバルテント。

…さっきまでは無かったはずだ。おそらく、『深紅の白昼』関係のものだろう。

 その周辺では、腰を抜かしたオフィサーたちが座り込んでいる。

 

「みんな、急いで避難しろ!」

 

 辺りのオフィサーに避難を呼びかけ、マッチの突き刺さった大砲を構える。警報を聞いて集まった職員も、各々の武器を構えて、カーニバルテントと対峙する。

 

 オフィサーの姿が廊下から消えた、その時…

 

「…来たか!」

 

 カーニバルテントが開き、中からピエロが進み出る。この怪物が『肉体の調和』だ。さまざまな縫い目と、たくさんの白い顔が浮き出た赤い肉の塊。そこに4本の手足、3つの頭が生えている。ピエロのメイクを施された頭は正面から2つ、尻尾?から1つ生えていて、それぞれがどこかを虚な目で見つめている。

 

「『黎明』と全然違うな…」

 

 誰かがそう呟いた。

 確かに、『黎明』は小さなピエロの人形が数体いるだけだった。…それでもかなりの被害が出たが。それに比べて、このピエロは1体。しかもでかい。『黎明』のようにはいかなそうだ。

 

 ピエロはこちらに気がついたのだろうか。動きを止め、3つの頭をこちらへ向ける。あの不気味な顔が一斉にこちらへ向く様は、まるでホラー映画のワンシーンのようだ。

 

 

「全員、行くぞ!」

 

 ミラベル先輩が先陣をきり、ピエロへと駆ける。それを見て、他の職員も戦闘を始める。俺は大砲から火球を発射し、ピエロへと攻撃を開始した。

 

 奴はただやられるだけではなかった。巨大な体で押し潰し、頭で職員に齧り付き、棘のついた尻尾で突き刺す。

 それに対し俺たちは、槍で突き刺し、メイスで叩き、銃で貫く。ピエロに命懸けで応戦した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果から言えば、ピエロはあまり脅威ではなかった。体力は多くしぶとかったが、動きが遅く回避するのが容易で、精神攻撃も行わない。俺たちは『黎明』のような被害が出ずに済み、安堵していた。

 

「やったな!今回の試練は簡単で、」

「本当ですね!被害も少なかったですし、次に発生したとしても対策は簡単でしょう」

 

 ジョシュアやメアが、がそう言って喜ぶ。確かに…簡単だった。だが、今回は『白昼』だぞ?少し簡単すぎやしないか?

 

「おぉいダニエルぅ。お前ももっと喜べよ。だってこんなに被害が少なかったんだぜ?『白昼』って言っても大したことねーなぁ」

「うーん…まぁ、そうだな。よかったよ、簡単に終わって」

「だよな!よし、俺あのピエロに登ってみるわ」

「は?…おい、やめとけって」

 

 そんなことを言ってバカがピエロの死体へと駆け出す。

 

「おい、ジョシュ…え?」

 

 一瞬、()()()()()()()()()()。……いや、気のせいだろう。

 そう思ってもう一度見ると、……確かに動いている。

 

 辺りの職員もそれに気づいたのだろう。各々武器を構え出す。

 

 段々とピエロの動きは大きくなっていき、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『コントロール部門に『開始の歓声』が出現しました。付近のエージェントは、至急鎮圧に向かって下さい』

 

『安全部門に『開始の歓声』が出現しました。付近のエージェントは、至急鎮圧に向かって下さい』

 

『教育部門に『開始の歓声』が出現しました。付近のエージェントは、至急鎮圧に向かって下さい』

 

 スピーカーから音声が流れ、俺たちはようやく気づく。

──試練はまだ終わっていないと。

 

 

 

 

 

 

「いたぞ!『開始の歓声』だ!」

 

 俺は今、安全部門の『開始の歓声』と対峙していた。先端に鈴のついた2つの帽子、赤と白の縞模様の服、そして裂けた口から舌を伸ばす笑顔の人形。奴は収容室を見つめ、深い笑みを浮かべている。

 

「シシシシ!」

「急いで倒せ!アブノーマリティが脱走するぞ!」

 

 こいつらの厄介な点は規則性なく施設の廊下に現れ、E-Boxesを奪う。そして、奪うと同時にアブノーマリティのクリフォトカウンターを減らすという点だ。

 

 奴はこちらを少しだけ見ると、煙と共に消える。別の廊下へ移動したのだ。

 

「くっ、遅かったか」

 

 廊下に赤いランプが灯り、収容室の扉が開く。そして、キョロキョロと辺りを見回すピンク玉が出て来た。

 

『安全部門に『O-02-k20』が出現しました。付近のエージェントは、至急鎮圧に向かって下さい』

 

「まずい!被害が広まる前に急いで鎮圧するぞ!」

 

 武器を構え、ピンク玉へ攻撃を開始する。しかし、ピンク玉は何がなんだかわかっていないらしい。困惑した表情で、攻撃を避け続ける。それが何度か続いた時、

 

「なっ…!」

 

 突然ピンク玉が大口を開く。そして俺の打ち出した火球を吸い込んだ。そしてこちらを向くと口を開き…

 

 

キイィィィン

 

 

()()()()()()()

 

「……!」

 俺に当てる気はなかったらしい。星は俺の足元へ着弾した。だが、俺たちを怯ませるには十分だ。ピンク玉は、動きの止まった俺たちに背を向けるとエレベーターへと走り去った。

 

「……は、!みんな、はやく追いかけるぞ!」

 

 被害を広げるわけにはいかない。俺たちは武器を持ち、ピンク玉を追いかけた。

 





深紅の白昼<ハァイ、ジョージィ

クリフォトカウンター…アブノーマリティ脱走までのカウントダウンみたいなもの

クリフォト暴走…時間内に作業しないとクリフォトカウンターが減ったりペナルティーをくらう


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3話/サーカス


感想、お気に入り登録、本当にありがとうございました



 

 

ー教育部門ー

 

「いた!『開始の歓声』だ、何かを起こす前に速攻で片付けるぞ!」

「はい!」「了解!」

 

 

 

 

 

「早く…早く倒れろ…!」

「シシシシ!」

 

 

 

 

 

「…クソッ…間に合わなかったか。管理人!奴はどこへ…」

「ビ、ビ、ビルさん…この収容室って……」

「…!ははっ、マジかよ。よりによって…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして()()()なんだ」

 

 

 

『教育部門に『働き蜂』が出現しました。付近のエージェントは、至急鎮圧に向かって下さい』

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、速すぎるだろ…」

 

 俺たちは今、息を切らしながらあのピンク玉を追っていた。

 追いついたと思ったらすぐ振り切られ、回り込めば頭上を飛び越え、疲れる気配を見せずにずっと走り続ける。アブノーマリティと人間の違いを、いやというほどわからされる鬼ごっこだった。

 

…結局追いつけなかったが。

 

 廊下に座り込み、休憩する。

 それにしても不思議なものだ。あのピンク玉は俺たちが追いかけている間、ずっと反撃をしてこなかった。今日の作業でもそう。やはり、あのアブノーマリティは他とは少し違うのだろうか。

 

 

 …いや、『F-04-83(妖精の祭典)』のときに誓っただろ。惑わされるな。ここはロボトミーコーポレーション。少し気を抜けば、油断すれば命の保障はない。

 

「…よし、鬼ごっこ再開だ。管理人!『O-02-k20』の行き先を教えてくれ!」

 

 息を整え、仲間と共に再び追跡を再開する。…いや、()()()()()()()()

 

「ダニエル、ウィル、デイビット!今すぐ教育部門に()()()向かってくれ!厄介なアブノーマリティが脱走した!」

 

「……なっ!了解!」

 

 管理人からの連絡が入り、足を止める。追跡を中断してまで優先することだ。なにか良くないことが起こったのだろう。

 

「2人とも、急ぐぞ!」

 

 俺たちは武器を握り、教育部門へと向かう。

 

 

 

 

 

 

ーコントロール部門ー

 

 

「ふぅ、やっと仕留めました。本当にこの人形は厄介ですね」

「なに悠長に喋ってるのよ!こいつら、死んだ後に爆発することを忘れたの?」

「…!そ、そうでした!早く逃げましょう」

 

 

「ここまで離れれば…あ、誰か来ました」

「管理人の指示が届かないってことは、オフィサーかしら。おーい、ここは危ないわよー」

「……ん?あれ、アブノーマリティじゃないですか?しかもこっちに来てる…」

「え、嘘でしょ?!早く武器を構えて!」

「でもなんか立ち止まって……あ、人形を食べた…って、うわ、まぶし!」

 

「………あ、あれ?アブノーマリティは?……いない」

 

 

 

 

 

 

 俺たちが教育部門のメインルームに着くと、そこに広がっていたのは凄惨な光景だった。

 首から上のない裂けた死体と、真っ赤な部屋を我が物顔で歩く、巨大な蜂のような化け物。そして、その蜂と交戦する職員たち。

 俺たちは職員と合流すると武器を取り出し、その戦いに加わる。

 

「よう、ダニエル、また会ったな!お前と生きて会えれて嬉しいよ!」

「…そうだな、俺も嬉しいよ、ジョシュア」

 

 前線の方に、丸鋸を振り回すジョシュアがいた。他にも、人数は少ないが、『深紅の白昼』のときにいた顔ぶれが集まっている。

 エージェントの被害はあまり無いようだ。

 ということは、廊下の死体のほとんどはオフィサーたち。どうしてこんなに…逃げられなかったのだろうか。

 

「先輩!よかった、生きてて…」

「メア、お前も無事だったか。本当に良かった。…ところで、なんなんだ?この蜂どもは」

 

 俺がそう尋ねると、飛びかかってきた蜂の一匹を槍で貫きながら、メアが説明を始める。

 

「こいつらは『T-04-50(女王蜂)』の胞子から生まれたアブノーマリティ、『働き蜂』です。『T-04-50』のクリフォトカウンターが0になった瞬間、教育部門中に胞子が撒き散らされたらしくて……」

 

「…一瞬で、全滅したということか」

 

「先輩も気をつけて下さい。こいつらにやられると、その体を突き破って新たな『働き蜂』が生まれます」

「!わかった、ありがとう」

 

 蜂が人を襲い、そこからまた蜂が生まれ、人を襲う。急いで倒さなければどんどん被害は拡大していくだろう。

 

 そうはさせない。俺たちができる限り引きつける。

 

 

 

 

 蜂どもが羽音を響かせ、牙の生えた丸い口をガチガチと鳴らしながら行進する。

 8本の脚を斬る。頭を潰す。炎で包む。羽をもぐ。精神を狂わせる。

 だが、奴らの勢いは衰えを知らない

 

「クソッ、多すぎる。もしかして、繁殖してるのか…!」

 

 明らかに数がおかしい。職員1人で一体なら、とっくに鎮圧が終わっている。

 そのとき、奴らの内の一匹が職員の体を掴み、どこかへ飛んでいった。奴らは見た目からして、虫のような特徴をもっているのだろう。

 つまり、あの死体の行き先は、

 

  …奴らの親の元だ。

 

「管理人!『T-04-50(女王蜂)』の収容室はどうなってる!」

『……あー…そのことなんだが、ダニエル。奴の収容室は砂嵐がかかって見えない。だが、収容室の前の廊下に『働き蜂』が職員を積み上げてるのは見えるな』

「…ならきっと、それがこの大量発生の原因だ!」

 

 原因がわかれば、後は簡単だ。()()()()。そうすれば、この蜂どもの発生も抑えられる筈だ。

 

『ダニエル。俺が原因に気づいていない訳がないだろう?残念だが、おまえの考えていることは不可能だ。

 収容室の扉の前には、孵化したばかりの『働き蜂』が大量にいる。それに、胞子の濃度も高い。お前たちでは、たどり着くことはできない。そこで増援が来るまで耐えててくれ』

 

 そう言って通信が切れる。

 

 

 

  …なんだ、無理だって言うのか?

  俺たちにここで耐え続けろと?

 

 それこそ無理だ。奴らは無限に増え続ける疲れ知らずの兵。対してこちらは人間。みんな、疲労が溜まってきている。試練から今まで、動き続けたせいだ。

 

 

 

 

 

 

「…は?おいっ、ダニエル、何してんだ!」

「…!先輩、待ってください!」

 

…これ以上待つわけにはいかない。

 手前の蜂を大砲で殴り、奥の一体を炎で包む。そして、それに怯んだ蜂どもの間を駆ける。目指すはその先、エレベーターへの扉だ。

 

 こちらに気づいた蜂どもが、近づいてくる。

 床を滑り、噛みつきを回避すると、脚で捕らえようとしてきた奴に、大砲を撃つ。そして頭の吹き飛ばされた蜂を押し倒し、エレベーターに飛び込んだ。パネルに腕を叩きつける。行き先は上の階。『女王蜂』の収容室前だ。

 俺は到着までの短い時間で、息を整えた。

 

 

 

 

 扉が開くと、そこに広がっていたのは地獄絵図だった。積み上げられた職員の死体。その死体を運ぶ『働き蜂』。今生まれようと、死体の中で蠢く『働き蜂』。

 

 俺は『女王蜂』の収容室を探し…見つけた。

 

「……あそこか。」

 

 埋もれかけた収容室の扉に何匹もの働き蜂が挟まり、扉が閉まるのを阻止している。…予想が正しければ、あれを取り除いたとき、『女王蜂』は収容され、『働き蜂』の大量発生は収まるだろう。

 

 廊下に足を踏み入れると、無数の働き蜂の頭がこちらを向く。

 

「…ッ!」

 

 あまりにも悍ましい光景に、一瞬怯みそうになるが、歯を食いしばって踏ん張る。

 奴らは驚いたのか、それとも喜んだのだろうか。一瞬、蜂の動きがとまる。

 しかし、それも束の間、比較的近くにいた蜂の3匹が、気味の悪い羽音をたてながらこちらへと飛んできた。

 

「うおらああぁあぁぁぁ!」

 

 扉の蜂を吹き飛ばす。ただそれだけだ。

 覚悟を決めて、走り出す。

 

ダァンッ

 

 まず先頭の一匹を倒し、少し後ろに飛ぶ。目の前で、ガチンッ!と音を立てて、蜂の口が閉じる。そこに大砲を撃ち、左の蜂を燃やす。

 残りの一匹の攻撃は、腕のEGO(防護服)で受けとめる。そこを狙って…

 

ダァンッ

 

 最後の一匹を倒した。

 

「よし…これで…」

 

 大砲の照準を収容室の扉に合わせる。そして、

 

 大砲を撃った。

 

 

 が、射線に入り込んだ『働き蜂』によって、それは防がれる。

 

「っ!クソッ、ならもう一発…」

 

 大砲が再び発射可能になるまでに、『働き蜂』は次々と現れる。

そして奴らは1秒、2秒とまたずに廊下を埋め尽くす。

 

「…がっ!」

 

 大砲の照準をあわせようとした時、横から奴らに体当たりされ、吹き飛ばされる。

 

 

……失敗…か。

 

 

 『働き蜂』の開いた口が目の前まで迫り……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぽーよぉー!!」

 

 

 

 ()()()()()ピンク玉が、目の前の蜂の集団に突っ込む。

 

「……へ?」

 

 ピンク玉はそのままバウンドし、突如現れた火の輪をくぐって着地した。

 

 その頭には、カーニバルテントに、髭の生えた顔をイメージさせる飾りのついた、カラフルな帽子をかぶっている。

 

コピー能力《サーカス》

火のわくぐってトランポリン

アクロバティックに、ワザをきめろ!

 

 

 

「ダニエエエェェル!!」

「せんぱぁーい!」

 

エレベーターから見知った声が聞こえる。

 

「ジョシュア!メア!どうしてここに…」

「メア、()()を頼む」

「了解!」

 

 2人はそう言うと、こちらを見て、

 

ドゴォ

 

 メアが槍の柄で殴ってきた。

「メア!パニックからの復帰は回数が大事だ!殴りまくれ!」

「はい!」

 

「イタイ、イタイイタイ!やめ、やめて本当に。その武器、BLACKだから!物理入ってるから!」

 

「…チッ、このバッカヤロォ!1人で突っ走りやがって!アブノマの大群に1人で乗り込むやつがいるか?!」

「そうですよ!先輩!私たちがどれだけ心配したか…」

「っぐ、…すまない、2人とも。()()…」

 

ドゴォ

 

「まだパニックなんですか?先輩」

「アッイエ、ダイジョウブデス」

 

 ウチの後輩ってこんなに怖かったっけ…

 

「……それにしても、どうしてここまで来れたんだ?『働き蜂』は…」

 

「あー…それなんだが…」

 

 ジョシュアの視線の先には玉乗りをするピンク玉が。

 

「あいつのおかげなんだ」

 

 

 

 後から知ったが、管理人の言っていた増援がこのアブノーマリティなんだとか。エレベーター(俺が使ったやつの反対側にある)から続々と蜂が降りてきて、やられそうになった所を助けてくれたらしい。

 

 俺もピンク玉を見る。

 

ピンク玉は、大玉から降りると風船を膨らませる。その風船はどんどん大きくなり…大きな衝撃波を伴って破裂。辺りの『働き蜂』を吹き飛ばした。

続いて火の輪を生み出し、炎を纏いながら廊下を跳ね回る。その炎は蜂の苗床へと燃え移り、卵や蛹を焼き尽くす。

 

 

 

「すごいな……」

 

 その言葉しか出なかった。いや、出せなかった。

 蜂を猛獣のように扱い、多彩なワザを駆使して炎の中で戦う様はまるでサーカスの芸の様に、危険で美しい。

 その動きを追うのに精一杯で、声を出そうとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 とうとう廊下から蜂の姿が消えた。

廊下の真ん中では、ピンク玉が不思議なダンスを踊り、(多分)勝利を祝っている。

 

 

 

 

 

T-04-50(女王蜂)』の鎮圧が、終了した。

 

 





困難に立ち向かうために必要なのは友情だって古事記(週刊)にも書いてあった。



※この物語は、他の方の考察、設定、独自解釈の引用が含まれております。
偉大な先人の功績に圧倒的感謝を。
※体力の偽造、攻撃方法の捏造をお許し下さい…
※カービィ成分が足りない?私もそう思いましたので、どうか次回にご期待下さい…


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4話/後日





蜂が鎮圧された後、俺たちは他のアブノーマリティの鎮圧に向かった。

 

だが、それほど苦戦はしなかった。

あのピンク玉が鎮圧を手伝ってくれたからだ。

 

サーカスのように跳ね、鳥のように飛び、強固な石となって職員を守った。…『O-02-56(罰鳥)』を丸呑みしたのは驚いたが。

 

鎮圧は順調に進み、遂に最後の一体が倒れる。

俺たちは波乱の一日を乗り越えたのだ。

 

 

 

 

 

 

「この前は助けてくれて、ありがとな。『O-02-k20』」

 

 一瞬でなくなる食事を横目に、俺は感謝を口にする。

 

俺はあの試練を乗り越えた次の日、再びピンク玉の部屋に訪れていた。

 この数日で2度も助けられたのだ。本能作業のついでにお菓子なんかも持ってきていたのだが、見せた瞬間手の上から消えていた。

 

 …まぁ、よく食べるのは良いことだ。

 

 その場でしゃがみ、ピンク玉の頭を撫でると彼?は目を細めながら、気持ちよさそうに頭を傾ける。

 

「そういえば、名前があったんだっけ。たしか…『星のカービィ』」

 

 名前を呼ばれて反応したのか、カービィがこちらを向く。

 

アブノーマリティは怪物だ。異常で異質、周囲に害を成す危険な存在。

そんな奴らにも、危険でないものが存在するのだろうか。俺は、目の前のピンク玉がそれに当てはまる、そう思った。

 

「なぁ、カービィ。…これからもよろしくな」

 

「…!ぽーよ!」

 

元気な声が返ってくる。俺はそれを肯定だと受け取った。

 

そろそろ作業が終わる頃合いだ。そう思って立ち上がると、

 

 

 

 

 

…カービィが巨大なハートを抱えた。

 

「えーい!」

 

そしてこちらへ投げつける。

 

「え、ちょ、」

 

抵抗虚しく、ハートは顔に直撃。そして、そのまま消えてしまった。

 

「いまのは…ギフト?」

 

そういえば、『F-01-02(マッチガール)』の時も突然だった。急にマッチを一本咥えさせられたのだ。

カービィを見ると、ニコニコと笑顔を浮かべている。

 

「…ありがとう、カービィ」

 

収容室の扉が開く。

俺はカービィに短く別れを告げると、収容室から出た。

 

「ハーイ!」

 

突然の声に振り返ると、カービィがこちらへと手を振っていた。

 

「ははっ、()()()

 

俺が手を振りかえした瞬間、扉が閉まる。

 

次の作業へ向かう俺の足取りは、いつもより軽かった。

 

 


 

 

O-02-k20 「星のカービィ」

 

『あしたはあしたのかぜがふく』

 

リスクレベル TETH

 

攻撃タイプ RED(1〜2)

 

クリフォトカウンター 2

 

『O-02-k20』はピンク色の丸い体と赤い足を持った生物です。

 

独自の言語を使用しますがこちらの言語を理解しているような素振りも見せます。

 

『O-02-k20』は、自身の口の大きさより小さいものを質量に関わらず飲み込むことができます。

 

『O-02-k20』は、飲み込んだものの性質を模倣することができます。

 

『O-02-k20』に飲み込まれたものの行方は、現在調査中[規制済み]です。

 

『O-02-k20』は、外郭付近に落下した流星と共に発見されました。

 

 

管理方法ーー

 

1.アブノーマリティの脱走や試練の際には、星のカービィに『おねがい』することを考えてもいい。ただし、『おねがい』の達成後に必ず対価が支払われる。

 

2.作業結果が悪いと、高確率でクリフォトカウンターが減少した。

 

3. 脱走した『星のカービィ』は、ランダムな収容室のE-Boxesを食べ歩いた。

 

4. 『星のカービィ』は、助けを求める者を見捨てはしない。

 

EGOーー

 

武器 『カービィ』

 

クラス WAW

 

攻撃タイプ RED(7〜14)

 

攻撃速度 普通

 

射程距離 長距離

 

*一定確率で貫通弾を発射する

 

口を開いたピンクの丸いぬいぐるみの大砲。撃ち出される星は、あらゆる障害を打ち壊す。持ち主の食事がいつのまにか消えてしまうという噂がある。

 

 

防具 『カービィ』

 

クラス WAW

 

RED 1

 

WHITE ×0.3

 

BLACK ×0.5

 

PALE ×0.7

 

スタイのついたピンク色の防護服。諦めないココロは、どんな敵も打ち破る。持ち主はいくら食べても太らないという噂がある。

 

 

ギフト 『カービィ』

 

装着部位 不明

 

全ステータス+5

 

大きなハートはトモダチの証。目には見えないけれど、確かな存在を感じる。

 

 


 

 

 

 

ー中央本部ー

 

「ダニエル、中央本部の仕事には慣れたか?」

「あ、先輩。俺は大丈夫ですよ。安全部門とやることはあんまり変わらないですし」

「そうか、なら良かった。…次の作業は?」

「次は…『O-02-k24』です。このアブノーマリティ、今日来たばかりの奴らしくて情報があまり揃ってないんですよ」

「おっと、それは大変だな。でも、お前ならできるさ」

「!ありがとうごさいます。…じゃあ、また」

「ああ、頑張れよ!」

 

 

 

O-02-k24 「デデデ大王」

 





大王と陛下。どっちが好きですか?


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5話/ D.D.D の大王


誤字報告、お気に入り登録、感想、そして評価。
読んでくれて、本当にありがとうございました。

1話、2話に矛盾があったので、変更しました。
剣→銃


 

 

「カービィはどこにいる」

 

出会って1秒で、胸ぐらを掴まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

O-02-k24 「デデデ大王」

 

『オレさまはDラックスで、Dンジャラス。Dイナミックな大王さまだ!』

 

リスクレベル WAW

 

攻撃タイプ RED(2〜3)

 

クリフォトカウンター 2

 

管理方法ーー

 

1.作業結果が悪いと、高確率でクリフォトカウンターが減少した。

 

2.Cost : 5 PE Boxes

 

3.Cost : 5 PE Boxes

 

 

 

「だから、カービィはどこにいるんだ!」

 

「だ、大王さま。少し落ち着いてください…」

 

「なにっ!今は緊急事態なんだぞ!のんびりしてられるか!」

 

 収容室の中で怒鳴り声が響く。

 

 今、俺の胸ぐらを掴んでいるのが新しく入って来たアブノーマリティ、『デデデ大王』だ。赤い帽子ともこもこしたガウン、そして大きな腹巻きをしたペンギンみたいな生物だ。

 そしてそれをなだめているのが、オレンジの体に…体に…形容し難い形の…まぁ、かわいい顔をした生物()()だ。

 

 

「それに答えることはできない」

 

 彼の質問には答えない。答えてはならない。アブノーマリティに施設の情報を与えると、脱走した時の被害が大きくなる可能性があるからだ。

 

「!…あいつがいないと、『奴』の被害が「それでも無理だ」…!」

 

「…大王さま。カービィなら絶対大丈夫ですよ。それに、きっと駆けつけてきてくれます」

 

 オレンジ色の生物がペンギンみたいな王様にそう言うと、俺を掴んでいた手が緩くなる。

 

「そうだな。あいつは絶対に負けないし、来るのは遅くても必ず最後には問題を解決してくれる」

 

 

 

 

 

 

「…ところで、お前たちは『O-02-k20(星のカービィ)』と面識があるのか?」

 

 アブノーマリティへの食事を用意しながら、気になっていたことを聞いてみる。あのカービィと、どういう関係なんだろうか。

 

「…あいつ、今はそんな名前で呼ばれてるのか……そうだ。オレさまは『デデデ大王』。プププランドの王様であり、カービィの永遠のライバルだ!そしてこいつらが『ワドルディ』。オレさまの部下だ」

 

「…ライバル、ねぇ」

 

『ライバル』

競争相手。同じ物事で、勝敗や優劣を争う者同士。

 

 あのカービィにライバルがいたことが驚きだ。あまり戦いを好みそうではない、あのカービィに。

 それに、このペンギンはカービィの3倍ほどの大きさ…まともな勝負になるのだろうか?

カービィが一方的にやられる姿しか想像できない。

挑戦してボロボロになるカービィ…

 うん、やはりこいつは危険なアブノーマリティなんだろう。

 

「大王さま。彼、いろいろ勘違いしてそうですよ」

 

 バンダナをしたオレンジの生き物がそう言い、こちらにじとっとした目を向けてくる。

 

「…もし、カービィになにかあったらオレさまが許さんぞ」

「……」

 

 ペンギンはそれだけ言うと食事をし始めた。それに続いて、オレンジのい…ワドルディ達も食事をする。

 

 

そうして無言の時間が過ぎた。

 

 

 食事が終わると収容室の扉が開く。

 俺は振り返らずに収容室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ていうことがあったんだよ」

 

「はー、珍しい…と言うこともないか。喋るアブノマは。ていうか、攻撃されなかったのか?人間に敵対的なのに。変わったアブノマが来たな」

 

「そうだな…ところで……ジョシュア、お前の頭の角はなんだ?w」

 

「…あー、今日、『T-02-99(空虚な夢)』って奴がきただろ?ちょっと撫でながらうとうとしてたら、いつのまにか生えてたんだ」

 

「そ、そうか…ふw。にw、似合ってるぞ(w w w w w w)w」

 

「ダニエル、てめぇの心の声がはっきりと分かるんだよ。管理人の許可がねぇと、EGO見た目かえれねえし…次笑ったら『T-09-85(何でも変えて差し上げます)』にぶち込むぞ」

 

「わ、わかったわかった。ww。…あ、ミラベル先輩」

 

「おーい、ダニエル、ジョシュ…ブw、あはははははw」

 

「…殺す」

 

 

 

 

 

 

「大王さま、カービィはいま、『安全部門』っていうのにいるらしいです。おふぃさー?っていう人たちも『安全部門のカービィなら…』って言ってましたし」

 

「そうか…ありがとな、お前たち」

 

「大王さま…やるんですか、」

 

「ああ、次の人間が来たら、そこで仕掛けるぞ。『奴』がもうすぐ復活する。急いでカービィをポップスターに連れ戻さないと」

 

「『悪夢』を再び倒すために」

 




むりよ!!
デデデ大王とわどちゃんたちを引き離すなんて!!

そんなことしたら、あの大王のお世話は誰がするっていうの?!


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6話/ライバル

投稿遅れましたああぁァァ
『生贄…いや、『懺悔』するのでお赦しを…


 

『泉から夢が溢れ、あなたは安らぎに包まれます』

 

 

 

 

 

「最近、職員の事故が多い?」

 

「はい、そうなんです。どうにも最近、職員たちの作業成功率が落ちてるみたいで…

だからリアクターの修理、改良が頻繁に行われてて、安全部門は大忙しなんですよ」

 

「そうか…」

 

 今、俺は中央本部。メアは安全部門と、別々の部門に配属されている。久しぶりに会ったので、少しの世間話と近況報告をしていたのだが…

 

「これじゃあ、死人が出るのも時間の問題です」

 

 聞けたのは、あまり良くない知らせばかりだった。

 

 職員の不注意による事故、職員同士の小さな喧嘩などが頻発しているらしい。どことなく、施設が(いつもより)ピリピリした空気に包まれているように感じる。

 

「確かに、だからこうして俺が上層にいるわけだしな…」

 

 俺が呼ばれたのもこの為だ。

 低ランク職員にとって、作業失敗=死。怪我をした状態で作業をするのはもってのほか。怪我をして回復して、また怪我をしての繰り返し。

 そんな中で、脱走なんて起きたら大変だ。

 俺はなぜか作業成功率に問題がなかったため、こうして他の部門のサポートをしていた。

 

「なにか、原因とかに心当たりはあるか?」

 

「さぁ……そういえば最近、多くのオフィサーや職員が()()()()()()と愚痴をこぼしますね」

 

「寝覚め?」

 

「はい、どうにも最近よく()()を見るらしくて」

 

「悪夢か…この会社ではしかたないだろう」

 

「でも、最近まではあまり悪夢がなくて…それどころか幸せな夢が続いてたそうです」

 

 そういえば俺も長い間、悪夢を見ていないな。見るのはなぜか、青空の下でカービィと遊ぶ夢ばかり。昼寝をして飯を食べて間違えて飲み込まれて

…やっぱり悪夢かもな。

 

「原因は悪夢…かぁ。対処しようがなくないか?」

 

 多分、エンケファリンを服用すれば改善するとは思う。だが、危険だし中毒になる危険性もある。流石にL社も投与の強要はしないだろう…

  …しないよな?

 

「そうなんですよねー。まぁ、十中八九アブノーマリティの仕業でしょう。最近この現象が始まったから、中央本部のどれかの。

 大丈夫ですよ。対処は管理人に任せましょう」

 

「…そうだな」

 

 管理人ならばすぐに原因を究明するだろう。それに俺たちが勝手に動いても、状況を悪化させかねない。あと少し、短い辛抱だ。

 それにしても、中央本部のアブノーマリティが原因か…どいつの仕業だ? 

夢繋がりで、『T-02-99(空虚な夢)』、あとは『F-09 ──

 

 

 

 

 

 

 

『中央本部に『O-02-k24(デデデ大王)』が出現しました。付近のエージェントは、至急鎮圧に向かってください』

 

 

 

 

 

 

「…!」

 

 

 あの攻撃的なペンギンが脱走したらしい。

 今、俺がいるのは情報部門。中央本部のことは先輩たちに任せ…

 

 

 

 

…ようと思ってたのだが

 

「おおおぉぉ!かーびいぃぃぃ!!」

 

 どこからか叫び声が聞こえ、廊下の赤いランプが点灯する。

 

「ワドルディ!安全部門はどっちだ!」

「こっちです!」

 

 すぐさま、エレベーターから人間ではない集団が飛び出してきた。

 声の主はやはり、デデデ大王。周囲にワドルディたちを従えて、職員を蹴散らしながら走っていた。

 俺は大砲を構え、撃つ。

 

 

 

ダァンッ

 

 

 大砲から火球が放たれ、爆発。

 

 だが、奴には当たらなかったらしい。

 目に映るのは、巨大な傘。オレンジと白の縞模様の傘を、ワドルディたちが構え、主人を守っていた。

 

 

「…は!オマエはさっきの!」

 

 

 こちらに気づいたらしい。奴が立ち止まり、こちらを睨む。

 

 

「そこを通させてもらうで」

 

 

 奴は巨大なハンマー握り、俺は大砲の照準を合わせる。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 廊下の音が消え…

 

 

 

 

 

 

「…!」

 

 

 ワドルディたちが一斉に傘を広げ、奴の姿が見えなくなる。

 そしてダンッという音が聞こえたと同時に、頭上をなにかが通過した。

 

 

「なっ!…」

 

 

 急いで振り向くと、()()()()()()()()()()()ペンギンが。

  …痛そう。

 

 

 同情をしていると、奴が顔を押さえながら起き上がり、次の廊下へと進んだ。

 

 

「…くそっ、邪魔だ!」

 

 追いかけようとするが、行手をワドルディたちが阻む。

 

 

 ワドルディたちに手間取っている間に、奴の姿は見えなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで…終わりだ」

 

 最後のワドルディを倒す。思ったより時間がかかった。

 

 彼らは弱い、それもたった一撃でやられてしまうほどに。だが、それを補うようにか、さまざまな道具を駆使してこちらと戦ってきた。

 傘で守り、後方から槍使いが攻撃する。力でではなく、工夫する。弱い彼らの生存戦略なのだろう。

 

「おーい、ダニエール。やっと追いついた」

 

「…ジョシュア、遅かったな」

 

「いやぁ、なんかめちゃくちゃ強い、バンダナを巻いたオレンジのアブノマがいて。エレベーターの前で皆、足止めされてたんだよ」

 

 前言撤回。

 彼らの中にも普通に強い奴がいるらしい。ランクⅤ職員(先輩)たちをこれほど長い間足止めするって、相当だぞ。

 彼らは弱くなかった。

 

「…とにかく、あいつを追いかけるか」

 

「、!そうだな」

 

 奴を見失ってから10分ほど。ただ、10分あれば部門を5回は往復できるし、新人職員による足止めはあまり期待できないだろう。

 

 奴が狙っているのは、恐らく『O-02-k20(星のカービィ)』だ。

 

アブノマ+アブノマ=クソノマ。

 そう管理人もぼやいていた。

 

 奴らが出会っても、碌なことにはならないだろう。

 

「…急ごう」

 

 俺たちは、安全部門を目指した。

 

 

 

 

 

 

『安全部門に『O-02-k20』が出現しました。付近のエージェントは、至急鎮圧に向かってください』

 

 

 

 

 

「…着いた!」

 

 俺たちは情報部門の廊下を駆け抜け、カービィの収容室のある廊下へと到着する。

 

「行きたくねぇなぁ…」

 

 ジョシュアが弱音をはく。

 それもそのはず、さっきから扉の向こうで、断続的な破裂音と衝撃が響いていた。

 …絶対入ったらヤバい。

 

「……よし!」

 

 意を決して扉を開けると、

 

 

キイイィィィ

 

 

 巨大な星が、顔の真横を通過する。

 

 

 

 

…こわ

 

 

 

 

 

「お、おい…大丈夫かダニえ……ぐばあっ」

「ジ、ジョシュアーッ!」

 

 続けて飛んできた小さな星がジョシュアへと当たり、弾ける。

 そして大きな衝撃が発生し、ジョシュアが後方へ吹き飛ばされた。

 

 俺は腕のEGO(防護服)で頭を庇いながら、慌てて立ち上がる。

 目の前の廊下では、

 

 

「えいっやぁ!」

「ぐっ…やるなカービィ。だが、これならどうだ!」

「!」

「……ッ!今のを躱すかっ!」

 

 カービィが廊下を跳ね回り、デデデ大王がハンマーを思いっきり振りかぶり、戦っていた。

 

 

 

ダァンッ

 

「!」

「ッ!」

 

 

 俺は彼らの間に火球を放ち、動きを止めさせる。

 

 

 

「…あっ!オマエはさっきの!」

 

 …なんか、さっきも聞いたような気がする。

 

「おい、カービィ!一旦ヤツを倒して逃げるぞ!」

 

 カービィもこちらに気づいたらしい。

 そして大王の言葉を聞くと、カービィは瓦礫を吸い込み…

 

 

 

 

 

 デデデ大王へと発射した。

 

「なんでえぇぇぇ!!!」

 

 星が弾け、大王を吹き飛ばす。

 デデデ大王は壁に叩きつけられ、目を丸くしてこちらを見ていた。

 

「カ、カービィ!どうして……!…そうか」

 

「…え、なんでだ?そんなに仲が悪かったのか?」

 

 意外な展開だ。まさか仲間割れを「いや、違う。…オマエ、カービィのトモダチなのか」

 

 

 

 その言葉を聞いてハッとする。

 そう、カービィは俺が傷つけられそうになったから、助けてくれたのだ。

 

「そう…なのか?カービィ」

 

 カービィは返事を返さない。だが、ニコニコの笑顔が答えている。

 

「…っ………ありが「でもカービィ!そんなことをしてる暇はな…ヒエ」

 

 ペンギンに大砲を突きつける。

 感動の場面を…

 お前、鎮圧してやろうか?

 

「お、オマエ達だって危険なんだぞ!オレさまは見たんだ。狭い部屋に『アレ』が放置されてるのを……このままじゃ、この施設に『悪夢』が──

 

 

ドガッ

 

 

 突然横から槍が、デデデ大王に叩きつけられる。

 

「先輩!助けにきました!」

 

 どうやら、メアが救援に来てくれたらしい。

 ……で、『悪夢』がどうしたって?

 

 大事なところを聞き逃した気がする。だが、肝心のデデデ大王はもう収容室。もう一回聞きに行こうかな…

 

「あっ!カービィだ!やっほー」

「ハァイ!」

 

 そんな俺の不安をつゆほども知らず、メアはカービィと楽しそうに戯れていた。

 

 

 

 

「も〜、先輩。アブノーマリティの言うことなんか、気にしたらいけませんよ!あいつらは、隙あらば精神汚染、洗脳、眷属化してくる奴等です。

 そもそも、耳を傾けてもいけません。まぁ、仕事なんでそこは仕方ないですけど…」

 

「うーん…確かに…」

 

 

 

 

『…あー、エージェントダニエルへ連絡する。今から、中央本部へ戻ってくれ」

 

「…?管理人から直接の連絡ですね。どうしたんでしょう」

「さぁ…」

 

『作業成功率低下の原因が判明した。アブノーマリティの作業を指示する。次のアブノーマリティは、『F-09-k21』だ』

 

 

「『F-09-k21』…最近入ってきたあれか」

「さすが、管理人ですね。仕事が早い」

「…と、いうわけで。じゃあ、またな」

「はい!また明日。…次は、一緒に食事とかどうです?」

「お、いいな。じゃぁ明日の朝、食堂で」

「…!はい!」

 

『おーい、ダニエル。早く中央本部へ移動しろ』

 

 

 

 

 

F-02-k21「夢の泉」

 

 

 




ロボトミ解説

層…L社の施設は縦に長いので、3つに分けられている。

上層→コントロール部門、情報部門、安全部門、教育部門

中層→中央本部、…


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7話/ナイトメア

誤字報告、感想、お気に入り登録、ありがとうございました。



 

 

 

ガッ

 

 

 

 分厚い扉がスライドする。

 

 行ってはならないと本能が告げる部屋へ、足を踏み入れる。

 

「『F-09-k21』…作業開始」

 

 俺は管理人の指示通り、アブノーマリティの作業を始めた。

 

 

 

 

 このアブノーマリティは、『F-09-k21(夢の泉)』と呼ばれている、ツール型のアブノーマリティだ。

 大理石で造られた噴水のような見た目をしており、きらきらと輝く水からは神聖さすらも感じる。

 

 

 管理人によれば、この泉が作業成功率低下の原因らしい。

 

 

 

「…綺麗だな」

 

 

 泉をじっくりと見ていると、その繊細な造りに目が向く。

 

 模様の描かれた、白く光沢のある台座。それが二段に重なり、上の段から透き通った水が溢れ、下の段へと注ぐ構造となっている。

 そして、先端に星の刺さった赤と白のマーブル模様の杖が、噴水の頂上に突き立てられていた。

 

 

「本当にこれが原因なのか…?」

 

 

 いや、管理人のことを疑うわけではないが、泉とこの現象がどう関係しているのか想像がつかない。

 …むしろ恩恵を与えてくれそうなものだが。

 

「……とりあえず、作業するか」

 

 グダグダ考えていても、答えは出なさそうだ。一旦今の考えは保留にして、俺は泉へと近づいた。

 

 

「…まずは水を汲んで…」

 

 

 作業方法は既に覚えている。泉の水を汲んで、少し飲むだけ。

 

 

 部屋に置いてあるバケツを手に持ち、泉を見たその時、

 

 

 

 

「ん…?」

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 

 

 それを疑問に思う前にはもう、俺の体は床を離れていた。

 

 

 

ダンッ

 

「があ…ぁ」

 

 

 

 

 

『中央本部に『ナイトメア』が出現しました。付近のエージェントは、至急鎮圧に向かってください』

 

 

 この放送を最後に、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!…ル…ん…

 

 

 

…エルさん!……

 

 

 

 

ダニエルさん!

 

「…!は、…え?」

 

「…やっと起きた…急いでください!メインルームでアブノーマリティが暴れてるんです!」

 

「お…おう。…そうか、俺は気を失って……助かった、Tela25」

 

「いえいえ、あなた方のサポートが、私たちオフィサーの役目ですので…」

 

「本当にありがとな。……よし…行くか」

 

「お気をつけて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は駆け足で廊下を進み、メインルームへとたどり着く。

 そこでは既に、職員たちとアブノーマリティによる激しい戦闘が行われていた。

 

 彼らがハンマーで殴り、銃を撃ち、槍で突き刺しているのは、星の模様をした青黒い球体──おそらく、こいつが『ナイトメア』だろう。

 

 その球体は宙に浮き、絶えず星形の弾を発射している。

 

「すまない、遅れた!」

「おせーぞダニエル!……っ!…すぐに加勢してくれ!あと少しでやれる!」

 

 ジョシュアたち職員に到着を告げると、俺は大砲を取り出し戦闘に参加する。

 

 改めて見ると、黒い球体の輪郭は既に揺らぎ始めていた。動きも、カクついているように思える。

 

 

もうすぐ鎮圧できる

 

 俺はそう確信した。

 

 

「よし、このまま…

「おい!攻撃くるぞ、避けろ!」

          …!」

 

 球体の動きが止まったかと思うと、次の瞬間。奴から三日月の形をした波動が放たれる。

 その波動は、何人もを巻き込みながら部屋を横切る。

 

「…絶対に最後まで気を抜けないな」

 

 どれだけ疲弊しようとも、相手はアブノーマリティ。一挙一動に注意しなければ、いつ命を落としてもおかしくない。

 

 俺たちは星弾と波動を躱し、球体へと攻撃をし続けた。

 

 

 

 

 

 

 攻撃を続け、奴の揺らぎが一段と大きくなったその時、

 

 

 

バババンッ

 

 

 

 突如球体が爆発したような音を出し、動きを止める。

 そしてフラフラと辺りを彷徨った後、

 

()()()()()()

 

 

「……なっ!」

 

 皆、鎮圧は完了したと思い警戒を解いていたが、この動きに気づくと再び武器を構え出す。

 

 

 球体は膨らみ続ける。

 

 星の模様は消え、球体は形を細長く変形させた。

 

 近づいていく。

 まるで、マントを身に纏った吸血鬼のような姿に。

 

 

 

 

 

 

「「…!」」

 

 突然、マントが開く。

 

 マントの中は、まさしく闇。ブラックホールのように一切の光のない闇が覗いていた。

 

「くるぞ、備えろおおぉ!」

 

 誰かが叫ぶ…と同時に、闇の中から無数の星弾が放たれる。

 

 星弾は壁、天井、床、人。辺りのもの全てに衝突し、破裂した。

 

 

 

 

 

 

「ぐ…ごほっ」

 

 俺は伏せていた顔を上げ、辺りの様子を見る。

 

 散乱した武器や瓦礫、大きくへこんだ壁や床。3階の通路は穴が開き、今にも崩れそうだ。

 

 

「…っ…あいつが…」

 

 上から俺たちを見下ろすのは、黒いサングラスに大きなマントを羽織った男のような姿をした怪物。

 

 奴はこちらを見たかと思うと、口角を吊り上げ…

 

 

 

パチンッ

 

 

 指を鳴らす。

 

 

 

『中央本部に『O-02-98(ポーキュバス)』が出現しました。付近のエージェントは、至急鎮圧に向かって下さい』

『中央本部に『T-02-99(空虚な夢)』が出現しました。付近のエージェントは、至急鎮圧に向かって下さい』

『中央本部に『O-02-k24(デデデ大王)』が出現しました。付近のエージェントは、至急鎮圧に向かって下さい』

『中央本部で『O-01-45(ペスト医師)』のクリフォトカウンターが0になりました。特殊能力に警戒して下さい』

『中央本部で・・・

 

 

 怒涛の勢いで流れる放送と共に、施設にけたたましいアラームが響く。

 

Second trumpet

 

 施設の危険を知らせるアラーム。その二段階目が発動している。

 

 

 

「……そんな…」

 

 

 この時、俺たちは初めて気がついた。『悪夢』との戦いは、まだ始まったばかりなのだと。

 

 

 




ロボトミ解説

オフィサーの名前…ランダムな文字と数字でつけられるらしい。大量に入社して、大量に(この世から)退社するから、気にしたことがある管理人は少ないんじゃない?

オフィサー…施設に大量にいる職員たち。大抵の管理人からの印象は、資源ゴミ以下。山田くんとか脱走したら、邪魔にしかならない。


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