スキマに愛された大尉という人間について (回忌)
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月下の下
さよならを言え


この作品の主人公ズの名前はほぼコードネームです
しかし、主役の大尉とその親友2人には名前があります
なぜ名前がそいつらだけあるか?さぁ?


「ぐ…あ、あぁ…」

 

口の奥からとめどなく嗚咽が漏れる

視界は半分が赤い血に染まり、半分は泥で見えない

サーサーと振る雨が倒れたこの身を叩く

 

辺りはクレーターだらけだった

 

主武器であるアンツィオ20mm対物ライフルは持ち主の手を離れ、今は地面に倒れていた

 

副武器のマテバ・カスタムは左手にある

だが、それを撃つ気力も無い

 

俺は、目の前の女を睨む

 

 

金髪

ゴスロリの様な厳かで…紫を基調とした服

その手を傘に置き、その傘は肩にスっと置かれている

その佇まいは淑女のようにおとしやかだ

 

雨のおかげで体が悲鳴を上げる

 

死闘は、圧倒的だった

 

俺の2つの能力を女の能力で意味の無いような戦闘になった

そもそもの相性も悪い

 

そいつは、ずっと笑ったままだった

 

強者の、余裕の笑い顔

 

ああ、俺達はなんて奴に戦争を吹っかけたんだ

ここで終わってしまうなんて

 

…母さん、俺はアンタの所に行くよ

 

その死、その死の気配が俺に安心感をもたらす

 

…これで少しは楽になるかな

 

そう思っていると、体が楽になってきた

あれほどの痛みももう無くなっていた

これが、死ぬ前か

 

本で見たのと違う

 

暖かい

 

暖かい

 

冷たい訳でも、暗い訳でもない

体を温もりが包んでくる

 

…いや、違う

 

これは、これは

 

「死ねると、思って?」

 

女の

 

八雲、紫の

 

温かさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら、俺は簡単には死なせて貰えないらしい

 

 

「ふ、はっ」

 

2人で畑を耕す

横で鍬を振るは俺の母

力が強くて、並の妖怪なら拳で飛ばしてしまう、凄いヒト

俺達2人は里から少し出てすぐの所に住んでいる

 

理由は、畑仕事がやりやすいからだろうか

 

里の土地を買おうとしたらそれで家が買える

それも、ボロ屋じゃなくて結構いいのが

稗田家みたいな御大層なものじゃない

 

それでも、貧乏人にとって一生使えるものだ

 

買えないからこそ、外で暮らしているのだ

 

誰にも所有権が無い、この土地で

 

…正確に言うなら、幻想郷の作成者の物だろうか

 

「ふ、疲れたか?腕が止まってるぞ」

 

「あ、ごめん…少し考え事を」

 

「してる場合か?全くウチの息子は…」

 

ふっと笑いながら母はこちらを見ていた

優しい笑みだ、呆れも混じっているだろうけど

 

そんな母はまた鍬をふった

 

自分は刀を腰に携えながら、同じく鍬を振る

この刀は無縁塚から拾ってきた捨て物だ

刀身は研いだとはいえガタガタなのが目立つ

もはやなまくらと化しているそれを腰に付けていた

ほぼ、意味は無い

 

ただ自衛手段を持っている、と誇示しているだけだ

 

そんなの、意志を持たない下級妖怪に意味は成さないのだけれど

 

 

その日も、同じように畑を耕していたのだ

 

 

「…母さんは」

 

何処、という言葉は続かなかった

最近こういう事が多くて少し困っている

いつの間にか母さんが居なくなって、帰ってくる

何をしていたのか聞いても、はぐらかす

 

凄く心配だ

いつの間にか、死んでいるかもしれなくて

 

夢で、数回見てしまうのだ

 

母が腸をばらまいて、その体から赤い血が飛び散るのを

その死に様は時に無様で、時に勇敢で、

 

時に、幻想的で

 

そう思う自分を嫌悪したこともあった

 

それをいつの間にか受け入れていた自分を嫌悪していた

 

そうして、囲炉裏の前で座っていた

 

パチパチと火が散る音

鶏肉を使った山賊焼きを作っている

今日は母が帰ってきたら、少し豪華に祝おうと思ったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…、……

 

 

 

 

 

 

 

………、…、…

 

 

 

「遅い」

 

口からあくびが出る

俺は立ち上がると玄関を開ける

 

そこには、闇が広がっていた

 

何も見えぬ、闇

 

それに少し恐怖する

だが、ここで止まる訳にもいかないだろう

カンデラという照明器具を持ち、歩き始める

 

柄に手を置き、何時でも襲撃に対応出来るようにする

 

かさり、かさりと自分が土と草を踏みしめる音が辺りに響く

光に照らされた森は、暗い

何かがこちらを見ている、そんな気がした

 

やがて、広いところに出た

 

とても広い、野原だ

 

そこには季節外れの筈である彼岸花がさいていた

なんだろう、例の花が咲きほこる異変が再発したのか

 

と、思っていたのもつかの間

 

その彼岸花の海に立つ1人の人物に目が行った

 

そこに、居た

 

あの背中、間違いなかった

 

「…母さん?」

 

質素な和服を着た、母

そんな母が背を向けて立っていた

カンデラの明かりに照らされ、浮き上がっている

 

月の光が、妖々しい

 

酷く、哀しい背中だった

 

あの大きい背中は、何処に行ったのか

 

俺はその背中に手を伸ばす

ここから見る背中はどう見ても幻覚では無い

母との距離が何故だかとても遠く感じた

 

「…ごめんね」

 

「…え」

 

母さんが振り返って、そう言った

何故そんなことを言ったのか分からなかった

ただ、涙を流して、別れを惜しんでいた

 

どうして?

 

それが分からなかった

 

 

 

 

 

 

 

そして、その次に起きた現象も意味がわからなかった

 

「こんばんは」

 

透き通る声

母の横におぞましい空間が現れ、その中から1人の女が現れる

ソイツはどう見ても人間じゃない、敵だ

母さんに触れ、そのおぞましい空間にねじ込もうとする

 

「触れるなぁ!!!」

 

叫ぶ

錆び付いた意味の無い刀を抜き、振り上げながら走り出す

風を感じるが、今この瞬間では全く認識もされない

距離はもうすぐ刃の届く範囲にまで縮まっている

 

斬り殺してやる――そう思った時には、2人の姿はなかった

 

 

「…!?」

 

俺は一瞬、何かされたのかと辺りを警戒した

 

何も無い

 

草を嬲る風以外、そこには何も無かった

そう、何も無かった

 

あの不気味な女も

 

俺の、ただ1人の家族である母さんも

 

何も、無かった

 

「母さん?」

 

自分の声は頼りなく、か細い物だった

恐らく今、それを聞き直せば自分のものと分からないほどに

それ程俺の心は動転していたと思う、いや…していた

 

「…」

 

膝が崩れ落ちる音がする

夜の原っぱ、どことも分からない草むらの中で絶望する

 

これからどうする?

はっきり言って母がいないと俺は生きていけない

野生の動物なら狩れるが妖怪を殺す力なんて無い

 

「…いや」

 

必要無い

妖怪を殺す力なんて必要無い

 

この胸の中で湧き上がるこの感情に流されてしまいたい

 

がさり、と草むらから音がした

 

俺は錆びた刀をそちらに向ける

 

「グルルルァ…」

 

現れたのは、黒い何か

強いて言うなら獣の形をした黒い煙

ただ、その口らしき場所から垂れる涎はちゃんとした液体だ

 

「…」

 

刀を顔の横に両手で構える

 

この心で湧き上がる感情

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怒り

 

報復の怒り、復讐の怒り

心をドロドロに溶かし、更にこの都を溶かし尽くさんばかりの怒り

 

最初の矛先は、運悪くそこに居た一匹の妖怪となった

 

その妖怪は一番の痛みと苦しみを味わいながら死ぬ事になる

 

それは仕方ない、仕方の無いことなのだ

なぜなら、後に妖怪達に最も恐れられる男に殺されるのだから

 

 

 

ただ、これさえも彼女の計算の範囲内とは、彼も知らないことだろう




怒りとはその時限りのものだ

報復心、復讐心、憤怒

しかし、彼にとっては怒りはその時限りのものでは無かった
報復心という感情は彼の中で、特別なものとなったのだ

そして、それだけは彼女の計算違いであった


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恐怖の権化

 

ある森、ある広場

 

そこは地獄絵図だった

血が舞い散り、肉片が吹っ飛ぶ

人ならざる者の叫び声が辺りに木霊する

 

一人の人間が犠牲者を大量に生み出していた

 

ただ、男は敵を叩き切っていた

サビサビの刃はろくに斬撃の傷も残すことは出来ない

しかしそのガタガタの刃は妙な模様を敵に刻む

人間なら裂傷であるため血が止まらず、酷い傷になるだろう

妖怪も変わらず、人間より軽い怪我程度になる

ただ酷い傷であるのは変わらないことだ

 

醜い奇声をずっと敵は上げている

何故か?それは奴らが死ねていないからだ

こんなボロっちい刀で死ねるわけがない

 

というか、死なす気もない

苦しんで死ねばいい

 

こいつら全員、苦しんで死ねばいいんだ

妖怪なんて生きていい訳が無い、生きる意味もない

倒れたヤツの脳天に刀を突き刺す

錆びた刃故に絶命することは無く、ただ、もがき苦しむ

苦しめ、どうせ生き返るんだろう?

その化け物らしい生命力で生き長らえるのだろう?

 

だったら苦しめ

 

苦しんでしまえ

どすり、どすりと刃を突き立てる

 

 

「わ、凄いね」

 

ふと、そんな声が聞こえた

俺はそんな今にも忘れそうな声に目をくれず敵を裂く

腕を、足を、角を、目玉を

死にそうに無いものは全部斬り、引き摺り、心臓らしき物を砕く

 

あの妖怪はどいつだ

こいつか、それともあいつか

 

あぁどいつもこいつも同じ顔に見える

 

「その報復心、いや、奪われた怒りかな?凄まじい炎だね」

 

その言葉に少しだけ意識が向いた

しかし、直ぐに意識は妖怪に向く

彼女の言葉が数個聞こえた気がするが、もう聞こえなくなる

ただ錆びた刃を妖怪に入れるだけ

 

気付けば己の体は赤色だった

赤色以外の場所は無く、全身が血に塗れていた

 

「あなたのその怒りがアイツに届くのかな?多分無理じゃないかな」

 

俺はその声がする方にサビサビの刀を向けていた

そろそろ、その声がうざったくて仕方ない

そこには1人の少女が居た、意識しなければ今にも消えそうな少女が

つばに目が隠れてよく見えないが、姿はよく見える

オレンジっぽい服に緑のスカート

彼女から伸びたコードには1つの目があった

しかし固く閉じられた上、糸で縫われてしまっている

 

亡き母が言ってた妖怪の特徴で一致するやつは…

 

 

覚か

 

しかし、まぁ

 

「…自らのアイデンティティを無くしている奴よりマシだ」

 

「そう?私達結構似てると思うけど」

 

似てるだと?

 

「気の所為だろ、おまえの親だか兄弟だかは生きてるだろ

 俺は死んだ、どっかに連れ去られて死んだんだよ」

 

「どうして分かるの?」

 

俺は刃をそいつの首に這わせる

ガタガタの刃が少し、数回引っかかる

 

 

 

 

「神隠しってんので帰ってきたヤツを知らないからだ」

 

 

 

 

「…そう」

 

彼女は悲しそうに笑うとすっと後ろに下がる

かと思えば視界の端に彼女の姿が映る

あはは、あははと森の四方八方から笑い声がする

 

「人間と妖怪って不思議、相互依存なのにお互いを殺しあってる」

 

「それなのに共存を願った馬鹿がいるらしい」

 

「らしいね、本当に馬鹿だと私は思うよ」

 

それっきり、同じ声がすることは無かった

俺は辺りを見渡す

 

なんの音もしない、小枝をふむ音、枯葉をふむ音もしない

森はいつの間にか森らしい虫のメロディを奏でていた

恐らく妖怪は殺し尽くしたのだろう

サビサビの刀を俺は眺める

血に濡れたそれはさらに錆びていつしか折れるのは目に見えた

 

そろそろ交換しなければな

 

俺はそう思いながら川に向かった

交換をしにいくのも、この血を洗い流さなければ

 

行く場所はもう決まってる

明日の夜、あの場所に行って刀を拝借しよう

なんせ社会的な妖怪の住処だ、いい刀の一本はある

 

 

「最近は妖怪がかなり少なくなっているんだ」

 

「人間にとっていいことじゃないか?それ」

 

「それはそれでも困るんだよ、色々な…」

 

2人の人物が会話をしていた

片方は美しい青髪を持つ、先生のような女性。

帽子を被り青を基調とした服を着ている

片方は落ち着いた雰囲気の女性。

紅白の和服を綺麗に着ている

青髪の女性の名は上白沢慧音、この人里で寺子屋を営んでいる

また、この里の守護者のような人物で人里の人間から信頼されている人物だ

 

黒髪の女性は今第博麗の巫女

最近博麗の巫女となったもので、先代の後を継いでいる

その詳細は不明でその過去を知るものは少ない

知っているのは彼女を連れてきた妖怪の賢者

それに、彼女の過去は彼女しか知らないことだろう

 

「何にせよ、原因が分からないんだ」

 

「それを私に依頼するってことか?他の奴らでいいんじゃないか?」

 

「…他の奴らに任せられない」

 

「どうしてだ?」

 

彼女がそう聞くと、慧音は目を逸らした

何か言いたくない事情が彼女にはあるらしい

 

「…深く聞かれたくない事か?」

 

「いや、些細なことだ」

 

慧音は顔に反してそんなことを言った

女性は些細なことでも聞いた方がいいと思った

後々それが役に立つこともあるのだ

 

「なんなんた?その些細なことって」

 

「…嫌な予感がする」

 

「嫌な予感?」

 

それはかなり些細なことだった

もっと深刻なことかと思えば、本当に些細なことだった

でも、何故それが他の奴らを呼ばない理由になるのだろうか

 

「他の奴らを呼べない理由ってそれか」

 

「いや、軒並み怪我をしてるのもある」

 

「…そうか、取り敢えず行ってくるよ」

 

「あぁ、気を付けてな」

 

慧音に手を振られながら魔理沙は慧音の家を飛び出す

そのまま人里の外を目指す

長髪が風に揺らめく

 

そのまま、彼女は森に向かった

妖怪が多そうな場所と言えば森くらいしか無かったからだった

 

 

「…はぁ――」

 

チャプンと己の体から落ちた水滴が川に落ちる

あらかた体に付いた血は流し終えた

流れがあるおかげか、血は留まることなく下流に流れていく

服を流すのが早かったからか、血は全て流すことが出来た

サビサビの刀も申し訳程度に綺麗になる

所々錆びてないところもあるが、もうそろ使い物にならなくなる

 

早めに離脱しよう、血の匂いに引かれて妖怪共が集まる

流石にこの刀じゃ長くやってられない

 

「…ん?」

 

俺は視界の隅に何かあるのに気づいた

そこを見ると、そこには1つの死体があった

なるほど、ここで力尽きた奴がいるらしい

 

俺はそいつに近付いていく

仰向けの死体だ

顔は苦しそうな顔でもなく、至って普通の死に顔だった

ぱっと見た感じ損傷した部位は特にない

 

「…腹を割かれた訳でもないか…ん?」

 

そこで気づいた

頭に綺麗に1つの穴が空いている

俺が頭の後ろを確認すると、そこはぐちゃぐちゃに砕けていた

どうやら何か玉のような物が貫通したらしい

 

「…妖怪が?」

 

俺はそう呟きながら持ち物を確認する

そいつの装備はなんとも見たことの無いものばかりだ

古いものでは無いので恐らく外の世界のもの

胸や腰やらに四角いものが着いている

 

俺はそれらを漁りに漁る

 

そして数分後

 

「これくらいか…このナイフ以外はよぅわからんものばかりだ」

 

鋭利な紋章付きナイフを仕舞い、並べた装備品を見る

長細い箱の様なものに黄金色の筒が詰まったものが多数

そしてL字型の鉄の物体がひとつある

他は四角い…言うならポーチの様なものばかりだ

 

「問題はこいつか…」

 

L字型の物体を手に取る

結構重い、鉄製の物質だ

横に「M1911」の文字が彫られている

色々いじって分かったことだがあの細長い箱のようなものがこれに入る

 

「…この引き金を引けばいいのか?」

 

説明書は無い

だから色々いじって確かめなくてはならない

だから軽々と引き金を引くことが出来た

 

後悔した

 

「うわっ!?」

 

いきなりの爆音

そして現れる火炎

俺は反動で思わずそれを取りこぼす

その音には少しだけ聞き覚えがあった

 

「これって、最近使われてる火薬を使う飛び道具か?」

 

多分、合ってる

最近の狩人…特に元外の世界の人間はそのようなものを使うらしい

木の持ち手に鉄の筒が付いていると…亡き母は言っていた

カチカチとそれを弄り、大体の使い方を覚えようとする

どうも撃てるときと撃てないときがあるらしい

その時はスライドを引いてしまえば撃てるようになった

 

「…うん、うん、大丈夫そうだ」

 

太ももに入れ物らしいポーチを付け、銃を入れる

その後に身体中に死体と同じように装備を装着する

水面を見てみると、そこには和服に現代の装備という似合わない格好の男がいた

 

「…こんなの、ただの不審者だな」

 

俺はそう思ってしまう、そう思うともう頭から離れない

俺は放置された死体を見た、まだ服は汚れていない

草っぽい色合い、迷彩柄で遠目からではよく分からない

 

「…死人に口なし」

 

俺はそう言って、そいつの服を剥ぎ始めた

元はと言えばこんなところで死んでしまったお前が悪い

肩にある紋章…「E.E.F.」、なんだろう意味がわからない

にしても、この死に顔…どこかで見たような

記憶にない訳ではなく、記憶の端に…どこだっけ…

顔には1つのホクロ、でもホクロ付きなんて普通に居る

でもまぁ、いいか

 

 

俺はそう思いながらこの場所を後にする

その川にはただ1つ、十字の墓標が立っているだけだった

 

そこには「名も無き者、ここに眠る」とだけ刻まれていた



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減る妖怪共

探索3時間目、なにも見つからない

森の中を探索しているが血痕ひとつも無い

本当に普通の森、強いて言うなら静かすぎる森だろうか

小鳥がさえずりや所々鹿やらの動物が闊歩している

ここまで来たのに何故か妖怪の一体も出会わない

 

「…おかしい」

 

それがおかしいのだ

普通の森でありすぎておかしいのだ

本当ならあの鹿はもう少し怯えていいはずだろう

この小鳥のハーモニーはもう少し小さいものだろう

 

なのに、普通だ

 

この普通はこの世界(幻想郷)では異常だった

妖怪が一匹、たった一匹入ればこんな事にはならない

鹿やらはその場から逃げ出し、小鳥はその声を潜める

しかしそんな気配はどこにも感じられない

妖怪なんて居ないという顔で鹿は闊歩している

なんとも、見たことがあまりない光景だ

旦那を持ち子をさずかった程の年月が流れようともこのような光景はなかった

 

「…警戒しないとな」

 

こきりと拳を鳴らなす

昔からこぶしだけには自信がある

どんな妖怪も拳でぶっ飛ばしてきた

アイツの結界もぶち壊す位、強い

奴曰く「無意識に霊力を纏ってる」らしい、どういう事だか…

 

警戒しないとなと言ったものだが言うてそんなにだ

低級妖怪程度なら拳で良いし若干長く生きてるのは足が出てしまえば良い

今も尚妖怪への認識が変わりに変わらないがアイツは変えるように言っている

 

「…どいつもこいつもなぁ」

 

――どうやって認識を変えろと?

それは恐怖の対象を友人のように見れと言っているような物だ

何をどうしたら奴らを友人のように見ることが出来る?

ハッキリ言ってしまえばアイツでさえ敵だと思っている

こんな形で親子を分断させて…

 

私はまだ許せていない

あの子の顔を思い出す度に死にたくなる

この役目を放り投げて探しに行きたくなる

なにもかも嫌になってしまう

 

これ以上やるなら私は…

 

「…はぁ」

 

そんな、ネガティブな思考はそこまでにしようと私は思った

嫌な思考に行っても嫌な気持ちになるだけだ

少しはマシな方に向けよう

人間的にこの状況は万々歳と思うだろう

人間でも少数の人間はおかしいと思う、特に妖怪退治の人間は

 

妖怪なら不思議に思う

このような住処、どうして住まないのか、と

このような森、暮らすには最適すぎるくらいである

 

その原因はすぐそこにあった

 

「…この匂い」

 

錆びた鉄のような匂い

嗅ぎなれた匂い、血だ

それもかなり濃い…ますますおかしい

妖怪というのは食に貪欲だ、特に低級妖怪は

血は大体人間が流す物なので火につられた蛾のようにやってくる

血を辿ればいつしか獲物にありつくことが出来るからだ

 

警戒しながらその場所を見る

 

「これは…!」

 

そこは異変の中心だった

辺りに血肉が飛び散っている

内蔵という内臓がばら撒かれ、辺りに酷い汚臭が満ち溢れる

既にハエが集り始めていて物凄く不潔だ

 

そして、驚きなのが死体が残っているということ

大抵の妖怪はやられてしまえば塵となって消えてしまう

恐が強すぎる場合は死体が残ってしまう時があるが…

見たところこいつらは襲う妖怪と言えばこいつらみたいな風潮がある

それ故に大抵塵となって消えていくのだが…

 

死体が残っている、いや、血肉が残っているということは…

 

 

まだこいつら、生きている

 

 

そのことに私は鳥肌が立った

今まで、このような自体に遭遇したことが無いからかもしれない

しかし、それ以前にこのような行為に行くことが出来る意思に恐怖した

確実に妖怪にある殺意と憎悪、それを行うほどの手腕

 

人間がやったのか?

 

私は脳内でそれを否定した

いくら殺意が強いとはいえそれが出来るのは少ない

最近生まれた危険分子達であろうとそこまでの戦闘能力は無い

だとすれば人間以外の何者かということになる

 

確実に、人間では無いやつの仕業

 

「早く慧音に伝えないと…!」

 

私の意識は里を守ることに集中され、その場から急いで走り出す

早く伝えた方がいい、こいつは完全に質が悪い

今の所妖怪にだけ殺意が向いているから良いだろう

しかし、いつしかその矛先は私たちに向かう

 

その前に、その前にソイツを止めないといけない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし、それが息子の亡霊だったとしても

 

 

現在時刻、大体八時半程

天候、大雨

目標、妖怪の山

目的、新しい装備と敵の威力偵察

 

以上の事を実行するために現在川の中を進んでいる

母から聞いた話だが白狼天狗は鼻が聞くらしい

その嗅覚と獣らしい聴覚で敵を探る

現在嗅覚を欺く為、雨の日に加えて川の中を泳いでいる

雨の日なら大体の匂いを欺くことが出来るだろう

聴覚については…この大雨であっても警戒する必要がある

 

M1911の薬室を確認、こいつを使うのは最終手段だ

基本は背中にあるサビサビの刀であるが…

木端天狗とはいえ天狗は天狗である、通用するか?

 

「そろそろ岸に上がろう」

 

妖怪の山には河童が住むとも聞く

ならばこのまま登り続ければ奴らに見つかってしまうだろう

それは勘弁願いたいものである

冷たい川から身を引っ張り出し、近くの林に身を隠す

ここからは身を低くしながら行くことにする

本当なら匍匐がいいと思うが雨だから多少甘えてもいいだろう

 

そう思いながら雨中行軍していると何か物音が聞こえた気がした

身体を更に低くし、その方向を見る

そこには2人の白狼がいた

濡れたくないのか両方とも編笠をしていて目元がよく見えない

しかしまぁ、体付きで嫌という程分かる

 

 

片方は女、片方男のツーペアだ

あの女の方、着痩せするタイプだな、見てわかる

男の服が真っ黒になっているのを女の方が聞いているようだった

聞き耳を立てる限り塗料を頭から被ってしまったらしい

…あの大剣、なかなか良さそうだ

さて、1人なら何とかできるだろうが2人は無理だ

あっという間にバラバラ死体にされてしまう

ここから少しだけ観察する

出来れば女の方はどっか行って欲しいんだが…

 

 

神は居たのか、女は呆れたようにどこかに立ち去って行った

さて、ここで喜んでブチコロムーブに行く訳には行かない

なんて聴覚がいいのだから喜んで殺しに行けばすぐにトンボ帰りしてくる

騒音を立てないためにさっと殺す必要がある

 

さっと殺したくても耐久が高すぎて殺すのが面倒くさい

とはいえあの男に関してはさっさと死んでもらおうか

きっちり2分待ち、やつに近づく

とはいえただ近づくだけではバレるかもしれなかったのでやつの近くに石を投げた

編笠を被ってるとは言えだ、念入りに行かないと

それは草むらの中に入り、がさりと音を立てる

 

「なんだ…?おい?誰かいるのか?」

 

彼はそう言って近づいていく

誰もいない場所に勝手に歩いていく姿は間抜けだ

後ろから足音と息を死ぬ気で殺して近づく

 

やがて彼の真後ろについた

奴は草むらを大剣でいじくっていたがやがて誰もいないと判断したのかため息をついた

ネズミか、と悪態をついた彼は草むらを睨みながらその場を立ち去ろうと後ろをむく

 

「よう、まぬけ」

 

「なっ―」

 

まず喉元に思い切り錆びた刃を突き刺す

油断していた奴の喉元に簡単に刃が突き刺さる

そこからみぞおちに肘を食らわせ、足払いの要領で後ろにこかしてやる

 

いきなり侵入者からの不意打ちを食らった哀れな哨戒はその大剣を手放した

俺はそれを手に取り、思い切り振りかぶる

 

「――!!!、アぁ――!―かぁ―!!」

 

かすれた人語でない呻き声で何かを言おうとする

しかしそれは声帯にささった刃のせいでどうすることも出来ない

それに命乞いなんて意味が無い

 

俺はなにも躊躇うことなく刃を振り下ろした

 

それは脳天をかち割り、更に大地に突き刺さった

彼の体はみるみるうちに灰となり、その場には衣服と持ち物が残された

俺は地面にささった大剣を無理やり引き抜いた

 

さて、物色の時間だ

 

端的に言えば持ち物は哨戒中の食べ物と盾と大剣と服だけだった

あとは雨を防ぐための被る傘、それだけだ

哨戒任務中の装備はまぁ、この程度か…

幸運なことといえば食べ物にあまり手が付けられていなかったこと

そして、もうひとつが誰も来なかったことだ

かなり早く終わらすことが出来て良かった

 

俺はそう思いながら大剣を背負い、衣服を燃やししておく

火がついた衣服はやがて森を燃やしていくだろう

この雨だから全てを燃やし尽くすことは出来ない

それでも、やることに意味があるんだ…そっと編笠で目元を隠す

 

あとはタダ帰るだけだ、俺はそう思いながらその場をあとにしようとした

 

 

「…!」

 

 

その瞬間、後ろから大きな遠吠えがした

明らかにこの山全体に聞こえるであろう遠吠えが

方向としては先程戦闘があった場所

何か、女の方が気づいたのだろう…運が悪い

ここにいる意味もない、いても死ぬだけだ

そう思った俺は駆け出した、全力で、死ぬ気で

この雨なら恐らく大体の音はかき消される

相手が相当いい目と耳を持っていないと分からないだろうな

 

嘲笑が口から漏れる

俺は抑えきれない歓喜を抑えながら山を下山するのだった

 



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御間抜け

「何をどうしたらペンキなんか頭から被るんですか」

 

「いやな、河童んところ行ったら頭にバケツが落ちてきた」

 

「避けれなかったんですか?」

 

「だってよ、会話中だぜ?」

 

「知りませんよ、んな事」

 

「そうかよ…なぁ、火ないか?」

 

「ありますけど濡れて使えませんよ、それと禁煙しなさい」

 

妖怪の山某所

2人の白狼天狗が会話をしていた

怒られ気味の白狼はあははと軽く笑う

それを見て笑い事じゃないでしょと怒っている白狼は言う

男の白狼と女の白狼のペア、と言ってもカップルでは無い

この2人は巡回ルートが重なっただけである

故に恋人のような関係でも、ましてや夫婦の関係でも無い

ただの仕事仲間のような関係だ

 

「貴方が地面に転がっていてもこの雨じゃ分かりませんよ」

 

「そんときはそのご自慢のおめ目を使って探してくれ」

 

「上が探せと言うなら探しましょう」

 

「つれないねぇ」

 

男がそういうと女ははぁ、とため息を着く

編笠を深く被り、背を向ける

 

「私はルートに戻ります、死んでも私は知りませんよ」

 

「分かってるよ犬走、俺は死なんから大丈夫だ

 帰ったらお前に一杯奢ってやる」

 

音がそうにッと笑うのを横目に女はどこかに歩き去る

彼女と会話するのは男にとって良いものだった

 

なぜなら、彼女のことを彼が好いていたからだろう

 

分隊長でありながら頭は大隊長レベル

それでいてその剣の腕前も見劣りしないものだ

そんな彼女を見ていてどこか自分は惚れていたのだろう

帰って一杯やるといったが、その時に告白するつもりだった

これで玉砕しても良い、1度でも失恋は経験すべきだ…

 

「…腹減ったな、何処かで食うか」

 

そんなことを思っているとがさり、と物音がした

あわてて大剣を構え、そちらを向く

そこには草むらがあった、木下にあるのに揺れている

雨粒がそこに落ちていないのは乾いた地面を見ればわかる

 

――雨の音が嫌という程耳に入ってくる

こういう時の雨というのは面倒くさい

 

自然とドクンドクンと心拍数が上がる

緊張感で手が汗で滲む

 

「…なんだ?おい?誰かいるのか?」

 

そう草むらに問いかけても何も帰ってこない

それはそうだろう、草むらに何かがいるわけが無いのだ

あまりにも緊張しすぎで雨の降った音を敵の音と勘違いしたのだろう

 

もしくは…

 

「鼠か…」

 

安堵のため息が口から漏れる

早く別のところで飯でも食べよう

 

そう思って後ろを振り返って――

 

一瞬動きが止まった

その一瞬の内に喉元に何かが入ろうとしていた

止まったその時に見えたのは暗い、暗い、黒曜石の様な瞳

もはや美しいと感じさせる黒さを持った瞳の男が居た

 

「よう、まぬけ」

 

「なっ――」

 

声を上げようとした瞬間、喉元に何かが突き刺さる

あまりにガタガタとしていて喉の中をぐちゃぐちゃにして行く

いきなりの奇襲に手から大剣を離してしまった

それを男はさっと拾い上げて俺に向けて振りかぶる

その顔は復讐に満ちた顔でも、憤怒に満ちた顔でも無い

 

 

 

 

 

 

 

――無

 

 

 

圧倒的な無に満ち溢れていた

今から生命を断つというのに顔色一つすら変えず、目の色も変わらない

まるで河童の作っていた機械の様だ

 

悲鳴を上げる間もない、出ても出るのは乾いた声

 

「――!!!、アぁ――!―かぁ―!!」

 

痰が詰まった時、それを吐き出すかのような声しか出ない

未だに刺さった刃は抜けず、それが声の邪魔をしていた

男は哀れみの感情を一寸も出さずに大剣を振り下ろす

 

 

 

 

 

 

 

頭がかち割られる直前、俺に見えていたのは1人の家族

 

美しい夫婦と1人の娘の家族

 

慈母の様な優しい顔をした女と眼帯をした凛々しい男

それの真ん中に居たのは、俺には見覚えのある女

 

 

――椛

 

声が届いたのか分からない

しかし、彼女は確かに俺の方を見てくれた

 

少し、こちらを見た後に踵を返して歩き出す

 

 

待って

 

 

 

待ってくれ

 

 

 

そう思った瞬間に、意識は現実から切り離されたのだった

 

 

 

「…?」

 

ふと、何かの気配を感じた

何かが私を引き止めたかのような気配

それは先程彼と別れた方向からした

 

「…何かあったのか」

 

面倒臭いと思いながら先程の場所に行く

行っても、彼の姿はある訳が無いだろう

さっさと仕事を終わらせるつもりがあるなら、いないはずだ

大剣を肩にあてながら、歩く

彼の事ははっきりいってそこらの哨戒と同じ奴らと思っている

一緒に戦えと言えば戦うし、書物に励めと言われれば励む

ビジネスパートナー、同僚、その程度の仲、だと思う

 

「あちらはどうか知らないけど」

 

相手の気持ちなぞ知ったことでは無い

そんなことより仕事に集中してもらいたいところだ

死んでいても困るだけだから、見に行くだけ

 

「おーい、生きてるー?飯奢ってくれるよねー?」

 

あと飯代が浮く

たどり着いたそこで声を上げても、帰ってくる声は無い

はぁ、とため息をついて下を見る

 

「…ん?」

 

やけに、地面がぐちゅぐちゅだった

足で踏み鳴らしたにしては広範囲、走り回ったにしても深い

何かあったのか…?私は地面をジロジロ見て、何かを探す

 

「…足跡」

 

それは哨戒で支給される物と同じものだ

踵の辺りに大きな三角があるため判別しやすい

よく見てみればそれ以外の足跡もある

 

「…ブーツ?」

 

見た限り足跡はそれだった

なぜ、ブーツなのか…意味がわからない

よく良く考えれば不審である、先程の地面…まさか

 

「ここで戦闘があった?」

 

私は千里眼を使う

大雑把に辺りを見渡し、状況を把握する

すると、すぐ近くの森の中が火災になっていた

それに気づいた私は急いで遠吠えを発する

すると、雨に紛れて走る音と空から翼のはためく音がする

 

「…まさかな」

 

私は最悪を想定しながら大剣を構えるのだった

 

 

「危ないところだった」

 

まさかあんなにも早く駆けつけるとは、甘くみていた

どうもかなり白狼は耳がいいらしい

耳が良いとなると1部の個体は目も良さそうだ

…ともあれ、もうこの山に入ることは無いだろう

目的は達成することが出来た

背中にある大剣が今回の大きな収穫だ

 

…白狼でこれだと、「――鴉天狗はもっと面倒臭そうだ」

 

「そう、思いましたね」

 

「…――」

 

大剣を振る

その刃は何にも当たることなく、宙を斬る

後ろに…下山する側に数歩下がる

顔を上げると、木の上に1人の影が見えた

 

「何もいきなり斬り掛かるのは無いでしょうよ?」

 

「…」

 

何も言わず、大剣を霞の構えに持っていく

その背中にある黒い翼が彼女を鴉天狗であることを証明している

木の上で、笑顔絶やさずに彼女はこちらを見下ろす

持った扇子をパタパタとあおっている

 

 

「いやー、椛の遠吠えが聞こえたから帰ってきてみれば侵入者とは、いやはや驚いたものです」

 

「…」

 

雨の音に紛れてそんな声が聞こえてくる

俺は構えを解くことなく、待つ

 

「…侵入者があなただったとして、ただ薬草と取り来たとは思えませんね

 その大剣、私らの支給品ですし…

 

 …直球ですけど、1人殺りましたよね」

 

「…だったら、何が悪い」

 

俺は疑問を女にぶつけた

そう返されるとは思っていなかったのか、彼女はため息を着く

 

「いえ、見逃せるには見逃せたのですが仲間を殺られたからには逃せないわけで」

 

「へぇ、どうするつもりだ?」

 

「どうするも」

 

彼女がそう呟いた瞬間だった

俺は思い切り大剣を振り回す

その場で二回転、大剣の刃渡りはかなりある

 

「おっと、そう来ましたか…

 悪いですけど、"抵抗"者の生死は現場に委ねられているんですよ」

 

俺のすぐ後ろから奴の声がした

どうもそのスピードを活かして後ろから殺るつもりだったらしい

この瞬間分かった、こいつはスピードで攻めてくる

 

予想は運悪く当たる

 

「じゃあ、この射命丸文の神速で死に腐れ!」

 

俺はその瞬間、風が吹いてきたのかと思った

そう思った時には肌の出ていた部分に傷が大量に生まれていた

身体中に激痛が走る、歯を食いしばって何とかそれを耐える

一瞬で気絶しそうだったが、服が耐えてくれていた

恐らく普段着にしていた和服だと俺はもう死んでいた

 

「ちっ、仕留めきれなかったか…"奴ら"の服を着ているのか?

 まぁ、次で終わらせてやる」

 

口の中に溜まる血を吐き出しながら

大剣を腰だめに構える

今の俺に出来るのは遊撃的な姿勢では無い、耐えるだけだ

どんな攻撃であるとも耐える精神力、それを付ける

それが人間一人では勝ち目のない鴉天狗であろうとも

 

「無謀だな」

 

一陣の風が吹いたかと思えば奴の気配が消える

いや、飛び立ったのだ、風の音がそう伝えてくれる

空からの奇襲で一気に刈り取るつもりらしい

だったら、好都合だ

 

鞘のない大剣を構える

地面と水平になるくらい、腰だめに構える

先程のかまいたちが付けた傷から血が吹き出す

ただ、それを歯を食いしばって耐える

 

 

 

 

 

 

 

――さぁ、来い

 

 

 

 

 

 

 

「…そこ」

 

一瞬の音、刹那の見切り

俺の耳と心は確かに空から襲来する鴉天狗を捉えた

こちらに愚直なまでに真っ直ぐ突っ込んでくるそれに大剣を横に構える

 

そして、顔面前まで来たそれの腹に大剣を当てる

後は全力で抑えるだけだ

 

すると、勝手に相手から切れてくれる

 

 

「ぐがっ!?」

 

 

「うつっ、あっ」

 

しかし余りの神速に手首から妙な音がした

いや、指の何本からも同じ音がした

一秒ほどの間を開けて腕からミシリと嫌な音がする

畜生おそらく折れたしヒビも入った

 

 

しかしその程度の骨折じゃあ止まれない

 

俺は次の攻撃に備え、構える

しかし、地面に倒れたやつは動かない、仰向けのままだ

 

「見事…と言っておくわよ、人間」

 

「クソ野郎に褒められたくない」

 

俺が大剣の血を拭い去りながらそれを言うと奴は軽く笑った

その瞳は俺の瞳を眺めた

奴の瞳は紅、真っ赤な紅色だ

そして、ある種の納得をしたらしい

 

「そう、妖怪に恨みがあるのね、何かしら?

 家族でも殺されてしまったかしら」

 

「…お前に語ることも無い」

 

俺はそう言うと奴の翼から一枚の羽を奪う

それと持っていた扇子もだ

扇子をとる時にとらないでくださーいとか言ってるが知らんわ

負ける方が悪い、「本気」を出してもない癖に負けた振りをするな

 

「…次は本気でやれよ」

 

「…そうですか…くふふ」

 

俺の言葉に彼女は軽く笑った

 

俺はそれ以上何も言わずに山から降りた

ここから少し、行動が出来ない

あまりにもダメージを負いすぎた

俺は悪態をつきながら己の小屋に向かった

 

これ以上ここに居たくなかった

敵にバレたくなかったのも理由のひとつだが…

なにかに見られていた気がするのだ

 

酷く監視するような視線だった…

 

 

そう思いながらこの場を離脱する

 

 

その視線はいつの間にか無くなっていたが、胸騒ぎが消えることは無かった

 



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腕前もまずは

「…」

 

小屋の中で刃の先端を見やる

中級妖怪と呼べる白狼を切った刃は全く刃こぼれしていなかった

それどころか、鴉天狗を切り裂こうとも刃こぼれをしなかった

どうも良いものを当てたらしい、思った以上に使える

 

カーカー

 

あの白狼が研ぎの道具を持ってないのが悔やまれる

…まぁ巡回中に研ぐ方がおかしいか

刃に異変を感じたならささっと終わらせて修繕に出せばいい

あの山だったら恐らくそれ程時間はかからない

どうにかして砥石を探さないといけない

一応幾つか手段はあるのだが…

 

カーカー

 

「そろそろ羽もぎ取るぞコノヤロウ」

 

「カー」

 

肩に図々しく乗ってかーかー鳴きやがる鴉を睨む

どうも飼い主と似たのか反省した素振りがない

ああ、本当に面倒なのがついてきた

 

…あの天狗、射命丸文の鴉

 

家に付いて中に入ったら囲炉裏の真ん前にある座布団に座っていやがった

母の残した物に触んなと外に出したらいつの間にか中に居た

どうも彼女仕込のやべーからすらしい、面倒くさい

仕込元が元だからかそれが伝授されて本当に面倒な鴉になっている

 

「カー、カー、カー」

 

「飯?自分で作っ…あいたっ」

 

コイツ、自分で作れって言おうとしたらつつきやがった

ああ本当に図々しい奴だよこんちくしょう

俺は鴉…"彼女"らしい…の半分住処となっている棚の上にある巣に木の実を置く

一番のいい所は餌代がかからない所である

基本なんでも食うから残飯処理は楽勝だし、それ程手間もかからない

時折羽の手入れをねだってくるのは…自分でやれ

鴉の単語を理解するのに手間取ったが、何とか覚えた

あの射命丸とかいう天狗次会ったらはっ倒してやる…

 

「カー」

 

「なんだ、遊びたいなら外いけよ」

 

木の実を食べた彼女は俺の肩に乗ってきて体を擦り寄せて来る

俺は何も言わずにその体を撫でてやった

 

…嬉しそうだった

 

「…ふん、遊んでる訳にもいかんな」

 

俺は息を鳴らして立ち上がる

肩に乗った鴉は立ち上がった反動を使って飛んで行った

立ち上がる時に支えにした両手はどちらともぎこちない包帯が巻かれていた

死体が持っていた「応急キット」というものを使った

しっかりと説明書があったのでそれに合わせた

注射器等を使用すると痛みがスーッと引いていくのがわかった

動かせない訳じゃないが腕までヒビが入っていたら戦闘に支障が出る

動けなくなる前に1週間は耐えられる物資を確保した

死体が持っていた食料とそこらの猪の肉、大根。

それに加えて少しの贅沢品達だ

 

後はこの腕でどう調理するかである

無理やりにでも動かしていいが長引いてしまう

 

…最小限の動きでやるしかない

 

「ふぅぅ…――ッ!」

 

猪の肉を加工する時は腕が死ぬかと思ったが加工出来ればこちらのものだ

後は適当な棒に刺して囲炉裏の周りに置けばいい

これで今日はどうにか出来る

後は若干焼いた大根やらをかじればどうにかなる

 

「…火をつけるか」

 

これまた死体が持っていた四角いものを使う

手のひらサイズの長方形、しかし使用すると簡単に火が付けられる

「ZIPPO」と刻まれたそれを懐に仕舞う

 

「外の世界は余程便利なんだろうな」

 

寝床で横になりながらそう思う

多分、あちらの医療技術はこちらを遥かに上回る

この医療キットがいい証拠である

これがなかったら指が歪んだ形で修復されただろう

…それでなくても、霊力をどうにかすればいいのだが

 

霊力の使い方はよく分からない

先の戦いでもどうもただ斬ったわけではなく、霊力を纏っていたらしい

指先を見ると、白い包帯の下に薄い白が見えた

恐らくこれが霊力だろう

よく分からないが使い方によれば攻撃、回復、身体能力の向上…

ともかく使うことが出来れば便利なのは間違いない

 

 

 

…前述した通り、俺は使えないのだが

使えるのは使えるのだが、こう…勝手にやっているのだ

自分がやるかーと見てみたら既になっている

一番の謎がそれである、素質ねぇのかな

 

ただ、この謎の霊力のおかげで早く治りそうではある

どうも今気づいたが使用すれば痛みも少しマシになるらしい…

今、少し料理して気づいたことだがな…

 

 

もう今日は疲れた

それに、お腹もあまり減っていない

減ってない時なら消費は抑えるべきだろう

そう思いながら目を瞑る

 

 

 

 

ただ、囲炉裏で燃える炎が弾ける音が響くのみ

 

 

それと、1人の男の呼吸音だけだ

 

 

 

 

 

闇の中、俺はただ、1人っきりだった

この自分だけハッキリとした…影が無くなったような感じで歩いていた

時折走り、時折得物を振り、時折座り込んだり…

 

俺が持っているのは剣ではなく、"大砲"だった

見た目は雑に書かれた、大根のような砲身

それを俺は背中に背負っていた

 

それと体の"違和感"

俺の体が俺の体で無い何かになった気分だ

…実際、俺が良しとしないものが三つ程着いていた

そのついていかない体と大剣を使って敵を潰していた

いつの間にか俺は俺の戦いに他人を巻き込んでいたらしい

 

夫婦喧嘩ってか?

 

 

 

 

そして、最後に俺は…

 

 

 

 

確か…刺されて…?

 

 

 

 

 

「あの人間、あんな所に住んでいるのねぇ」

 

木の上で足を揺らし、腕に止まった鴉の情報を聴きながら扇を扇ぐ

彼女が言うにはどうやら彼は里の外れにあるボロ小屋に住んでいるらしい

なるほど見た目を聞けばそれは人が住んでいるとは思えない

どちらかと言えば妖怪が住んでいそうなくらいだ

 

「人間より妖怪よりねぇ、言ってたら殺されますかねぇ」

 

己に刻まれた傷をなぞる

なぞられた後からじーんとした痛みが続いていく

少し前の自分ならこれが人間に斬られたとは言わないだろう

博麗の巫女でもここまで出来るとは思わない、思う筈がない

彼がまだ"一匹狼"であるのが妖怪達の救いだろうか

 

「…最初はE.E.F.の人間かと思ったけど」

 

全く違うらしい

腰の自動拳銃も使う素振りが無かった

多分、死体から剥いだ装備類なのだろう

しかしそれにしては…

私は懐から"ある人物"の写真を取り出す

E.E.F.で危険視されている人物の1人だ

…もう生きていないだろうな

 

というか

 

「似すぎでは?」

 

私はあの時この人物が現れたと思った

だから殺す気で彼に突っ込んだ訳だ

しかし、よく見てみるとこの写真の人物と彼は違うところが多い

顔のハリ、髭、目のたわみ、老いが写真からは感じられた

しかし…彼はそれらが一切無い

今思い出すだけでも体が疼く

 

 

 

 

 

 

――攫ってやりたいと

 

 

 

 

 

 

…少し、気に入った

 

「…っは、危ない危ない」

 

頬をツネって正気に戻る

彼を攫ったところでなにもいい事は無い

多分捕まえたところで喉掻っ切られて逃げられるだけだ

それを実行する程の決意と気力が彼にはある

私にはわかる、輪切りにされた私になら

 

「…もう少し、楽しみますかぁ!

 ほら、いっておいで」

 

鴉を飛び立たせる

私仕込みの優秀な鴉、飼っている中では1番優秀かもしれない

もう100年ほどかもう少しで鴉天狗となるだろう、あの様子なら

それを楽しみにして待つのも中々乙なものである

 

「ふふ、楽しくなりそうね」

 

未来を思い描き、不思議と口角が上がる

刺激が少な過ぎる最近に現れた人間の反乱軍

人間が妖怪を退治するという至極当然な集団

退屈で死にそうなところだった、有難い

 

 

 

 

 

そう思いながら、また足をブラブラと揺らすのだった

 

 

 

 

 

「あんたは大尉だ、今日からそう呼ぶ」

 

「階級なんざどうでもいい、さっさと立て」

 

「研究成功…キヒヒヒ…」

 

「空はな、鳥だけのものじゃないんだよ」

 

「総司令が?どうしてくれるんだよ、貴様!」

 

「貴方のことを好いているのは私だけじゃない」

 

様々な声が頭に練り込んでくる

これが夢ならどれだけ良かったか、そもそもこれは夢なのか

誰かの走馬灯をただ見せられているだけだ、強制的に

なんなんだ?これはなんなんだ?

 

誰の物語だ?

 

「敵襲!敵襲ッー!」

 

「ウワァァアアァアアッ!死ねッ、お前らなんか、お前らなんか!」

 

「母さん…母さんー…」

 

「おい、俺の目玉を知らないか?どこかで落としちまったらしいんだ…

 あれがないと前が見えないじゃないか…」

 

 

 

「やめろ、あいつはもう助からない」

 

 

 

戦場?それとも地獄?俺は見分けのつかないところにいた

 

「恐怖から妖怪が作り出されるんだろ…?

 だったら全員死ぬしかないじゃないか!」

 

「悪夢だよ、悪夢、生きる悪夢

 ここに希望なんてないんだよ」

 

「あれば良かったよね、でも全部奪われていくんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「「「「お前のせいで」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

誰が?誰のせいで?

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたくし達が、ね?」

 

それは唐突に、後ろから響いた

ねっとりとした言葉が俺の耳を這いずって鼓膜をゆする

俺は何もせず動かずに下を向いていた

 

 

 

 

「ゴミ共の幸せなんてどうでもいい、私は貴方

 あなたへの幸せしかないのよ」

 

 

 

呪詛のようなそれにウンザリしながらただ下を向いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで、俺は前を向く資格がないかのように、下をじっと見つめていたのだ




アンケート終了


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立地調査

山でドタバタが起こってから二週間が経過した頃だろうか

これ程時間が経てば必然的に傷は全快していった

最早邪魔になった包帯を千切る様に剥いでいく

長く貼っていたせいか毛と張り付いていてとても痛い

毛が強制的に抜かれる感覚に苛立ちを覚えながら剥いでいく

 

そこには傷を負う前と同じくらいに治った腕があった

他の箇所も同様に、ほぼ全てが回復していた

要らなくなった包帯を囲炉裏にほおりこむ

これでも炎を絶やさない大切な燃料となる

世の中も同じだ、どこも同じだ、使えないゴミなんてない

ゴミにはゴミらしい使い方がありそれを使えるやつが使うのだ

 

そう思いながら装備を確認していく

大剣は鴉天狗を切り裂こうとも折れはしなかった

しかし、このまま使えばいつしか折れてしまう

そう思いながら横に置き、拳銃を持ち上げる

 

ずっしりとしている

母が言うにはコレを人に向けて引き金を引けばその人は死ぬんだとか

…大体の原理を見るに、火薬の爆発で弾を押し出し、発射する機構らしい

今まで見たこともない機構だ、いや、見る筈が無い機構だ

平和な暮らしにこんなもの必要が無いからな

あの頃の暮らしにこれがあれば大分楽になったんだが

 

「…さて」

 

俺は立ち上がり、大剣を背負う

この服はかなり便利で大剣を仕舞うベルトのようなものがあったのだ

どうも大体の武器種

そう思った時、背中の重みとは違う違和感を感じる

 

「…何かあるな」

 

背中をまさぐると、指先が無い手袋があった

両方ある、どうも幸運らしい

手を保護するもののようだが…何故指先がないんだ?

保護するなら指先があると思うが

 

「まぁ気にする程でも無いか」

 

些細なことだった

あっても無くても変わらないようなものなのだ

あればほつれて破れる、無ければ指先が汚れる

そんな事を考える程暇ではない

服や顔がどんなに汚れようとも気にする程の余裕は無い

そんなもの水洗いで十分だ、それ以上は無い

今までも同じような思考でやってきた、問題は無い

 

そう思いながら外に出る

あれから何回か狩りには出ていたがここらに何があるなど分かっていない

 

というか今までどうでもよかった、ほんとうに

 

運が良ければ妖怪と鉢合わせる事は無い

…が、この妖怪まみれの幻想郷でそれは無理だろう

祈れるのは「どうか雑魚共でお願いします」くらいだ

むしろそれ以外に何を祈れと、マジで

 

 

 

俺が他に祈るとすればいい飯にありつけますように、だろうか

 

 

 

 

 

「…思い通りになっているのですか?」

 

〇時某所にて、1人の女がそういった

大陸の大きな服に九つの大きな金の尻尾

それは伝説に語られる"九尾"という妖怪と同じ尻尾の数だった

見た目から分かる通りその女は九尾だった

 

その九尾は目の前の女にひざまづき、そういった

言われた女は首を傾げた

 

「どうしたのかしら?何かあったのかしら」

 

その女はそう聞き返した

思い通りになっていない、なんて返さない

絶対に思い通りにならないことは無いのだから

九尾は少し顔を逸らしたが、話に戻る

 

「あの男、天狗を襲撃しましたが」

 

「えぇ、思い通り…天狗達は人間が殺ったと思ってないでしょうけど

 ましてやそこにあるのは錆びて折れた刀、嗚呼哀れね」

 

彼女は哀れんだ

あの場で最初に犠牲になったあの天狗を

そして、逆に羨ましいとも思った

 

「…そうですか」

 

「他に何かあるかしら?」

 

目的の回答と違う言葉を送られたのか九尾は顔を俯けていた

そんな九尾に女はそのような質問を飛ばす

なんら気にしてない様子で質問を飛ばしたのだ

 

「一つだけ」

 

「言ってみなさい」

 

…九尾、藍には一つだけ理解できないことがあった

この方に主として使えている中理解できないことがあるなんて恥だ、死んだ方がいい

式として生きている彼女の仕事のノウハウはとても優れている

この女をして良い部下を持っていると思う程だ

頭脳としては女には届かないがそれでも十分過ぎる程だ

 

「あの男は一体?現博麗巫女の…」

 

「えぇ、貴方が思っている通りの"人間"よ」

 

「人間が天狗を、到底信じられたものでは無い」

 

「でも、貴方は見たでしょう?」

 

確かに、藍は見た

油断している白狼の喉に錆びた刀を突き刺し、倒れたところに間髪入れずに奪った大剣を振り下ろす

その早業はまるで暗殺者のそれだった…彼は妖怪退治屋でもないのに

その次に射命丸文との戦闘

光速とも呼べるスピードで迫り来る文を大剣で真っ二つに切り裂いた

これが天狗達に見つかって割と大騒ぎしているらしい

見たところ彼もかなり甚大な被害を被ったようだが…

それでも死なない程度の様だった

甚大と言っても腕やらが落ちていない程度だからか

 

それに…

 

「どうも彼は私の視線に気付いていた様なのです」

 

「どうして?」

 

「辺りを何度も見回して…最終的に私の方を見ました」

 

「成程成程…ふふふ」

 

女の肩が揺れる、笑っているのだ

最近主はずっと笑っている気がする、藍はそう思った

なにかいいことがあったのかと思えば…どうもその男のことらしい

確かにあの男が気になるのは分かる、初めて見たが引き込まれる様な戦い方だった

…どちらかと言えば関心を寄せる、というのが正しいだろう

 

「思ってた以上よ、うふふ、やっぱり彼は計り知れない」

 

「…楽しそうですね」

 

藍はそういった

主が自分を見ていない訳が無い

ただ、最近のこのお方はあの男にご執心の様だ

目付きが違いすぎる、獲物を狙う目だ

 

確かに博麗の子ならあの魅力は理解出来る

名家に生まれた子はとても美味と言われている

そう言われているだけで実際問題は分からない

そんな噂を信じ切って、その名家の子を食えば確かに美味だろう

 

しかし、博麗の子は紛れも無い美味である

 

幻想郷の調律者兼要として生きている人物の子供

ただでさえ霊力が高いのが次世代の子は更に凝縮されている

そんな旨味の塊を喉元に通せば…

 

どんな味がするというのか

 

考えるだけでも身が震える

 

「あの子は私のよ」

 

そう思っていると前からそんな声がした

どうやら顔に出ていたらしい、慌てて顔を下げる、

 

「狙ってなどございませんよ」

 

「うふふ、分かるわよ、その気持ち、でも、彼は私のものだから」

 

主の笑い声が響く

最近良く聞く、楽しそうな笑い声

こんな笑い声を聞くのはいつぶりだったろうか

幻想郷を作る、その時以来だったか

 

 

 

 

 

 

 

 

「…主のためにも、お前には生きていてもらうぞ…双星」

 

 

かの男の名前を

 

誰も知りはしない名前を呟いたのだった

 

 

 

 

現在時刻、大体12時半

天候、晴

目標、特に無し

目的、立地調査

 

季節柄かとても暑そうだ、陽炎が見える

梅雨の季節に時折元の夏が混じってきている

しかしこの服はなんと暑さを冷たさに変換してくれるらしい

調節も可能という天国で作られたような服だ

なにかを載せている訳では無いらしい、とても軽い

コレを作ったのは妖怪だと思っているが着ていたのは人間だった

 

 

「適当にブラブラするか」

 

自宅の方向は叩きつけてある

というより妖怪の山に行き、そこから人里が見えるという条件の合う場所に行けば自宅がある

そしてかの山は幻想郷で1番高いので何処からでも帰れる、便利だ

今回の目的としては周辺の立地調査だが…もしかしたら幻想郷の立地調査になるかもしれない

その資料を人里に出したら少しは金になるのか

なったところでその金は使わないのだが

適当に彷徨うのもアレなので目標を決めることにした

 

「…なにか持ち帰る、だな」

 

なにかそれっぽいものを持ち帰ろう

手ぶらで帰ると立地調査完了しても虚しいだけだ

…俺も一端の人間だよそんな目をするな

そう思いながら俺は足を運ぶ

今回の旅はこの時、楽なものだろうと思っていた

天狗があんな簡単に切れてしまったから勘違いをしていたのかもしれない

思い上がりは程々にしておいた方がいい…

 

 

 

 

 

今回の旅は楽だ

 

 

 

 

それが間違いだと思うのに時間はかからなかったが



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都会っぽい魔法使い

調査と意気込んだもののやることはただ歩くことである

この歳だとまだ足腰に負担がかかろうと無茶を通せる

若さというのはとても良い、母は若さ関係無かったけど

30前半か後半だと言うのにハリの失われない肌、たるまない目、不老不死かな?

 

それよりもここらの呼吸のしずらさである

適当に歩いているとどこかの森に入ったようである

そこまでの過程を何も覚えていない

幸運にも妖怪が来なかった程度にしか、本当にそれだけ

俺が不味いとでも思ったのか、もしくは他に要因があるのか

ただ幸運としか思っていなかった

 

「…でかいキノコだ」

 

この森に入って暫くすると大きなキノコが現れた

何かを放っている様子には見えないがこれだけ苦しいと何かを放っているように見える

色はケバケバしく、見た目から食えたものでは無いと察せられる

あまりにキモイ、今腹が減ってなくてよかったよ

俺はそのキノコの胴体を人差し指でなぞり、舐める

 

「…ちっ、やっぱり毒だな」

 

ピリピリとした感覚が舌を汚染していく

どうも麻痺系の毒がこのキノコの成分に含まれているらしい

そう思ってもう一度、今回は指全体で撫でるように触る

そしてナイフを使い破片を切り取る…破片はポケットにしまった

ふむ、これで問題は無いだろう

 

「な、…あぁ?」

 

また歩き出そうとすると体が倒れる

人差し指から足の先に至るまで何も動かせない

畜生、やらかしてしまった…俺は一瞬で理解した

あのキノコ思いのほか毒の回りが強く、毒自体もかなり強い

 

それこそ、ひと舐めすれば倒れる程に

 

もし一口でも食べてしまえば…

そう思うと体がぶるりと震える、麻痺して震えないけど

今回幸運だったのは倒れた場所が草むらであったこと

それと服がこの奪ったものであることだ

 

 

そして…意識が消えるように無くなった事か

 

 

もし妖怪に見つかって食い殺されるなら、それは良い

苦しまずに死ねるんだったら、死んでやる

 

そう思いながら、俺は消える意識に全てを託した

 

 

 

「…?」

 

俺はどこかで目覚めた

起きた瞬間伝わってきたのは柔らかい感触

俺が倒れた場所は草むらだ、ベッドじゃない

しかし、自分はベッドに寝て…否、寝かされていた

どうも誰かに助けられたらしい

 

…魔法の森に助けなんて来るんだな

そう思いながらため息をついた

 

「あぁ、起きたのね」

 

ため息をついた瞬間、横から声がした

俺は瞬間的に太腿のホルスターにあるM1911を取り出す

そして何も躊躇いもなく引き金を引いた

 

…弾けた

 

いや、どちらかと言えば外れたの方が正しい

スライドが宙を舞い、地面に落ちる

俺は何をされたのか分からなかった

 

「自壊の魔法よ、よく使われるから対策代わりのね」

 

「…そうかよ」

 

見たところマガジンは刺さったままだった

どうも俺が寝ていた間に魔法を仕込んでいたらしい

俺はふんと少し悪態をついた

 

「助けれてくれた恩人にそんな態度をとるのかしら?」

 

その金髪はそんなことを言い出した

そんなことを言う割にはずっと手元で人形を弄っている

お前だろと俺は軽くため息をついた

 

「…しるか、妖怪に言う礼も無い」

 

俺はそう言った

実際その通りのことだった、言う礼なんて無かった

そう俺が黙りこくっていると彼女が口を開く

 

「私は魔法使い、元々は人間よ、妖怪とはまた違った存在」

 

彼女はそう言った

とても信頼したくない言い分だがどうも妖怪では無いらしい

なんだがそうじゃないと言いたい部分はあるが。

とは言えど皮肉を言いたくなるのは己の性か

 

「…態々人間を捨てるとはな」

 

「魔法使いになるには人間を捨てるしかないのよ」

 

「そうかよ」

 

そう言って俺ベッドから足を出し、地に足を着く

そのまま落ちたスライドを取り上げる

どこも破損した箇所は無い、本当に自壊の魔法の様だ

 

「…どうして俺を助けた」

 

俺は銃のスライドを戻すのに悪戦苦闘しながら問いかける

実際問題、あそこで俺を助ける意味はどこにも無い

なぜならこの服装からして妖怪の敵だとわかる筈だ

それなのにこいつは俺を助けた、何故?

 

そう問いかけると彼女は答えを返す

 

「どうしてって、人が倒れていたら普通助けるでしょう?」

 

「そうか?この服装で?」

 

鎌をかける

こいつが文の言っていた反乱軍を知っているのか

そう思っての質問だった

 

「ええ、"その服装で"」

 

ここでようやく彼女は俺を見た

青い碧眼が俺のことを見る

どうやら知っていたらしい

そうすれば更に疑問が湧いてくるわけで…

 

「じゃあなんで尚更俺を助けた、敵だろうが」

 

「貴方がそいつらの人間じゃないからよ」

 

そう彼女は言った

どうやら俺が奪った服というのはバレていたらしい

彼女は何かを懐から取り出した、鉄の糸に2枚の鉄板がある

その鉄板には何かの文字が彫られていた、日本語だ

 

「これは認識票、ドッグタグね」

 

「どっぐたぐ?なんだそりゃ」

 

「外じゃ犬にこれと同じようなのを付けるらしいわよ」

 

「はぁ、それを人間に付けたと」

 

「正確には同じようなのを付けたら皮肉られたって話しね」

 

そんな雑学を俺に並べられても困る

こちらの教育はクソ程に等しい

どっぐだぐという単語しても恐らく英語と呼ばれる奴だ

母がサノバウ"ィ"ッ"チ"とか言ってたけど意味は分からない

というか分からなくてもいい気がする

 

「で、それがどうした」

 

「これは奴らの…まぁ身元確認証みたいなもの、自分が誰か示す為にある」

 

「で?お前はそれと名前が違うからあの組織の人間では無いとか思ったわけか?」

 

「その通りだし、それに…銃の扱いも慣れて居ない様だしねぇ」

 

ようやく銃を復元できた俺に彼女はそう言った

 

「ふん」

 

実際俺はその組織の人間では無い

これは適当に死体から剥ぎ取った物だ

これに関しては隠す意味も何も無い

俺はそう思った

 

「…確かに俺は組織の人間じゃない」

 

スライドを引いて薬室に弾があるのを確認するとホルスターの戻す

彼女が敵では無いことが分かったが、それきりだ

それ以上は何ない

 

「世話になった、じゃあ――」

 

そう言って立ち上がり、歩こうとした時だった

急に足から力が失われて体が地面に打ち付けられる

疑問の声は口から零れることは無かった

 

…少しは予想をしていたからだ

 

「麻痺毒があのキノコにはかなり含まれてるの、しかも数分で効く即効性」

 

「…先に言いやがれ」

 

「言おうとしたら出ていこうとしたじゃない」

 

彼女は不満げにそう言った

俺は両腕で立ち上がろうとする

しかしまあ、どうも少し筋肉が麻痺しているらしい

思いどおりに力が入らないのだ

 

「全く、少しは信用しなさい」

 

そう言いながら彼女は俺を抱え上げた

ひょいと言う擬音が入りそうなくらい簡単に

上半身は動かせたので会話は難なく出来た

 

「俺は重いか?」

 

「どうでしょうね」

 

そう言って彼女は俺をベッドに乗せた

抵抗しても意味が無いのは分かりきっていたので俺は何もしなかった

出来れば振り払いたかったが、出来なかった

 

「安静にしなさい、私から言えるのはそれだけよ」

 

彼女はそう言って人形弄りにもどる

俺はそれを少し眺めて、外を見つめた

魔法の森らしく、瘴気が蔓延している

よくもまぁ自分はこの中を平気で歩けたものだ

あのキノコさえなければ普通に進んでいたことだろう

既に日は沈んでいた

 

「どのくらい経った」

 

「半日、凄いわよ…妖怪ですら一舐めで一日中動けなくなるもの」

 

「そうか」

 

俺はそう言われて手のひらを眺める

既に体の汚れはなくなっていた

病人だからってここまでやってもらう必要は無い

落胆のようなため息が漏れ出た

俺は少し悩んだ後にまた外を見始めた

 

その片手間のように、会話をする

 

「俺の体を拭いたりはしてないよな」

 

「ええ、拭かせてもらったわ」

 

 

 

 

 

彼女は手も止めずにそう答える

そんな彼女に対して、俺は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか…同居人が居るみたいだな?」

 

 

彼女対して何も思うことなく、そういった

 



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白色の同居人

空気が凍った気がした

明らかに彼女の様子が変わった

先程まで忙しなく動いていた指は動くのを止めている

 

静寂の中、彼女が先に口を開いた

 

「なんの事かしら」

 

「どうも落ち着かなくてな」

 

先程から俺はおちつけない

こう見えて頭の中はごちゃごちゃとしている

面白いくらい何も分からない、分かりきっているが

 

「さっきから何かが動いてるんだよ、ガタガタと」

 

「…気の所為じゃない?」

 

「気の所為?バカかお前は」

 

先程から物音がする

 

それだけで落ち着かなかった

それももうわざとと言うくらいうるさいこと

どんどんと腹が立ってくる、動けないのが腹立たしい

 

「…紅茶の匂いもするしな」

 

ついでの感想だった

先程から濃い香りが漂ってくる

それにアリスも今気づいたらしい

 

…何気に嫌そうな顔をした

 

「紅茶くらい飲むわ、私を誰だと?」

 

「ずっと俺の横に居たのに、いつの間に作ったんだ?」

 

「…えぇ」

 

俺の質問に対する答えは何かの返答

しかしその答えは俺の求めていたものだ

それに対してオレが何かを言おうとすると…

 

 

 

 

 

「もぅ、分かってるなら最初から「出てこいー!」とか言いなさいよ」

 

「母さん…なんで帰ってなかったの…」

 

ドアを開けて、白髪の女性が入ってきた

それに対してもう目に見えて嫌そうな顔をして彼女…名前しらないな、そういえば…が迎える

その女性はとても柔らかい笑みをしてこちらに歩いてくる

 

「こんにちは、人間」

 

「…そう言うお前は人間じゃないな」

 

俺は笑みを向けてくる女に明らかな警戒をしていた

恐ろしく強い何かの力…恐らく…魔力

少しだけ聞いたことのある話だ、母から少しだけ

 

確か幻想郷のどこかに魔界があって、そこには人が住んでいるのだとか

 

「…魔界人か?」

 

「あら知っているのね、わりと魔界人って知られているのかしら」

 

「そうでも無いと思うが」

 

本当にそうでも無いと思う

俺は村から外れて育ったから里の事情をよく知らない

それ故に母が情報の全てだったため知られているとかよく分からないのだ

事実だ、嘘は述べていない

 

「…それで、なんでここに留まっているんだ」

 

「私は元からこの家に住んでるわよ」

 

「そんな訳ないだろう、あんたみたいなんが普通住んでたら幻想郷が崩壊しちまう」

 

この魔力、そこがしれない

こんな奴が普通に隠居してるかのように幻想郷に居る?

んなこと信じられるわけも無い、当たり前だ

 

「それと、お前はこいつに嫌われているようだが?」

 

この白髪のことを言う度彼女の顔が歪む

まるで彼女のことが嫌かのようだ

 

「…こいつ、なんて名前じゃないわ

 私の名前はアリス・マーガトロイド、アリスよ」

 

「アリスか、アリスに嫌われているようだが?」

 

「アーンヒドイ、私何もしてないのに」

 

「過保護なのよ!母さんは!」

 

アリスは声を荒らげる

わりと落ち着いた性格と思っていたので少し驚いた

都会系とか言ってたか?これが外の世界か…

 

「…誰だ、あんた」

 

それはそれとして俺は質問することにした

彼女達の言い争いについて俺はほぼどうでもよかった

それよりも魔界人であることに興味が言った

 

あ?魔法使い?知らん知らん

 

「ああ、私かしら?

 神綺っていうのよ、アリスの母親よ」

 

「厳密に言えば全ての魔界人の母親、この人魔界作った神様よ」

 

アリスがとんでもないことを言った

目の前のたくましいサイドテールを持ったこの女性は魔界の創造神というのだ

そんな人物がただひとりの創造物のためにわざわざ幻想郷に来ている

 

そんなことに勿論ただの人間であるこの男は恐怖して――

 

 

「へー、親がいるってのはいいな」

 

全く別のことを言った、なんなら恐怖すらしてなかった

 

「そうそう!そう私を称え崇めな…――えぇ?」

 

この男にとって生まれはどうでもよかった

たとえ神あろうとも態度を変える気はサラサラなかった

どんな荒魂でも、彼は屈する気はなかった

 

 

尚これが妖怪が相手となると話が変わる

 

一気に妖怪首置いてけになる

 

「親とはまた違う存在だけどね」

 

「まぁ、血の繋がった親子には見えんな」

 

男から見れば神綺がアリスに依存しているように見える

というか何故か知らんがとても大切にされている?何故?

まぁ、気にすることでもないけど

 

「いやねぇ、久しぶりにアリスの家に来たら男がベッドに寝てたからねぇ

 もしかしたらこいつアリスの夫!?こいつが!?って」

 

「母さん!」

 

「過程が吹っ飛んでやがる」

 

なんともまぁ酷い方に思想が飛んでいっている

何をどうしたらそんな反応に…普通保護とか何か思わないのか

彼はそう思った…彼は"そちら"の知識はあまり無かった

ただ正常な反応として、ヤバいやつだと思った

 

…ただ、"そちら"の知識がなかった故に

 

 

 

 

「だからそのベッドで"ズッコンバッコン"ヤッたあとだと思ってー」

 

「母さん!!!」

 

神綺の言う冗談に何も気付けず

 

「俺も(戦闘をこんな場所で)"や"るわけないだろ」

 

しかしも言い方も悪かったようで

 

「へぇ?ここじゃなかったら(アレを)やるのかしら?」

 

とても卑しい瞳をした彼女はそんな質問をした

彼女の質問に彼は当たり前のように

 

「あぁ、(戦闘を)するとも」

 

と、答えた、大事な所が全て抜けていた

2人とも「ここまで言えば察するだろ」という気持ちが強く、結果これである

2人の勘違いも甚だしいというところだろう

 

…そもそも彼が"そういう"ことを知らないのも問題だとは思うが

 

 

(ふふ、中々面白い男じゃない)

 

 

そんな彼の前で神綺は目の前の男に興味を持った

初めて見る人間…中々の逸材とも思った

この見なくてもわかる霊力の奔流、そしてそれを制御する意識

それ全てを加味すると、アリスの嫁でも納得する人物

 

…が、しかし

 

(…んん…?)

 

突然、妙な感情が浮き上がってる

なぜだか分からないが、ゾワゾワとした嫌な感覚がする

とても感じたくない、もう離れていたい、そんな感覚がした

 

それはアリスも同じだったらしい

 

いや、軽めだった

 

「…、…」

 

少しだけ顔が無表情になる

何か嫌なものを近くにしたような…

 

あぁ、そうか

 

「ふん、嫉妬深い奴め」

 

この感情を久しぶりに思い出した

 

そして、あいつも

 

嫌味、憎しみ、拒否、皮肉

 

負の感情、生きていればいくらでも感じる感情

嫌い、簡単に言えばそんな感情が彼に対して湧いていた

今すぐにでも殴って帰りたくなる程の嫌な感情が溜まっていく

 

(…が、まぁ、脅し程度か)

 

まだ抑えられる程度の感情

しかしこれ以上大きくなると神綺とて耐えられない

アリスの夫候補をこの場で潰したくない、それが神綺の中の感情だった

 

 

 

「今夜っきりの付き合いだ、直ぐに居なくなる」

 

彼はそういった

彼女達の顔の陰りを見ての発言だった

ずっと、顔を見られていたらしい

 

「私はもう帰るから、あなたより直ぐに居なくるわ」

 

「どうせ直ぐに来るくせに?」

 

人形作りをしていたアリスが同時進行しながらそんなことを言った

それに関しては男も同じことを思っていたところだった

ただ、当たり前か分からなかった為言うのを躊躇っただけだ

 

「ええ、どうせ来るわ、この人は」

 

「えーんひどい、じゃあ帰るわ」

 

そう言うとすぅっと消えるようにどこかに行ってしまった

薄く円が見えた、恐らく魔法陣…ということは魔法だろうか

魔法に関しては全く知らないので本当にどうでもいい

霊力関係ならまだ興味を示すが、それ以外は知らん死ね

 

ここはいいところとはいえない

 

男は率直にそう思った

 

鬱蒼とした草木が生い茂り、何もかもがどんよりとしている

やる気を無くす濃霧に人体に影響を与える瘴気

これに加えて妖怪と変なキノコ達だ

 

故に人がここに来ることはあまりない

ていうかあって欲しくないことだ

 

そんな嫌われた森に居る男は瞼を閉じた

あれだけ話を続けると、眠気も迫ってくる

 

故に、彼は瞳を休めることにしたのだ

 

 

 

 

寝静まったとある家

家主である魔法使いも既に人形を置き、休眠に入った

魔法使いと化した彼女にとって不必要であるそれをやっている

先に生まれた魔法使い、魔女が見たらなんと言うことか

 

そんな家の一室、保護された客人

 

魔女の善意にとある人物は感謝を送る

 

「ありがとう、貴女が魔法使いを偽ってくれて」

 

その顔横に小さな謝礼を置いて、彼女はあの部屋に向かう

己の意中の男、手のひらで踊り狂う男

自分自身の意思で進んでいる、確かにそんな男

 

「ふふふ」

 

顔を撫でる

人差し指が顔の輪郭をなぞり、ピッと切り裂く

鋭い爪が頬に切り傷を生じさせる、血が流れる

 

 

赤い、紅い、紅い、あかい…

 

キラキラとした反射が思わず唾を飲み込む程の妖艶さ

人間の血が放つとは思えないカガヤキ

 

それを零れないように綺麗に指で掬い、口の中に運び込む

 

「あぁ…、……」

 

思わず感嘆の声が零れる

震える体を抑えることが出来ず、快感で足がガクガクと震える

この魅惑の味を何度口に運びたいと思ったか

彼が無意識に結界を張っているおかげで今まで近付けなかった

 

しかし、この魔女のおかげで彼は少しだけ警戒を解いた

 

その少し、結界が緩めば簡単に入れる

強引な手段を使わずとも、簡単に

 

「ああ、美味しい、とても甘美だわ、貴方の血」

 

彼の鼻先と私の鼻先が触れそうなくらいに近づく

彼は静かな寝息を立て、その瞼が開くことは無い

今までになく深い眠りに彼はついていた

 

「彼女がいるから?ああもう嫉妬しちゃうじゃない」

 

別の部屋で寝ている魔女に嫉妬を飛ばしながら彼女は空間を切り裂く

切り裂かれた空間は瞳となり、無数の瞳を生み出す

その禍々しい空間に身体を入れ込み、少し振り返ったかと思えば、空間はいつの間にか消える

 

 

この部屋には、最初から何も無かったかのようだった

 

 

ただ、彼の頬にある切り傷を除けば、の話だった

 




現在約1986年

彼はまだ16歳


ただ、それだけ


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危険信号

「――…」

 

目を開けるとまず太陽の光が瞼に入ってくる

遠慮なく一点に集まった光が瞳を貫通する

それはまるで何も配慮無しに入ってくる友人のようであった

 

ただ、今の彼に友人と言える人物は居ないのだが

 

「シャンハーイ」

 

「…?」

 

ふと、声がした

寝ぼけていたのもあり、彼はそちらに顔を向けた

そこには空中浮遊する小さな人形のような奴がいた

 

彼にとってそこまでの脅威にならなさそうだったので銃は抜かなかった

その人形は口の前でわしゃわしゃすると、扉を指さす

 

「…あぁ」

 

一瞬意味がわからなかったが数秒したら理解することが出来た

簡単な事だった、今からご飯を食べるからリビングに来いということだろう

何ともまぁ、病人を労る心は無いのか…彼はそう思った

 

「えいえい…」

 

適当に返しながらベッドから下りる

いつの間にか体調が全快し、不自由な所はどこもなかった

痺れたところはどこもなかったし、傷も無かった

壁にかけられた大剣を背中に背負ってリビングに向かう

 

人形が先に扉を開けてくれた

 

その瞬間目に写り込むのは大量の人形、人形、人形

あるのはもはや不気味とも思える数の人形

ここまで来ると、ある種の執念すら感じる

それと同時に美味しそうな焼けた匂いがした

 

見てみれば机の上に平べったい白の板に乗せられた"ナニカ"があった

 

「あら、起きたの」

 

数体の先程話しかけてきた奴と同型の人形を操りながらアリスが声をかける

彼女が指を動かす度にどれかの人形が動く、どんな技なのか

興味はあるが聞く程でも無い

 

「今起きたところだ」

 

彼はそう言って大剣を横に立てかけて椅子に座る

彼なりに配慮して、できるだけ礼儀正しい…っぽい感じで座った

形だけでもそれにしてみると、割と効果はあるらしい

 

「割と礼儀はあるのね、どこから習ったのかしら」

 

「さぁ?体が勝手にね」

 

この場で即興でやったとは言い難いので適当に言い逃れる

面倒なことだ、変に追求されても困る

彼はこれ以上言うつもりは無かったので食事に移ろうとした

 

「…して、これは?」

 

「パンよ、パン」

 

「ぱ、ぱん?」

 

初めて聞いた食べ物の名前に首を傾げる

目の前の白い板に乗った四角いモノ、これがパン?

そのパンとやらの上には卵が乗っている

 

焼けた香ばしい匂いが漂っている、不味くは無さそうだ

 

「…?…、……」

 

注意深くそれを持ち上げ、左右上下から見る

卵が乗っていない、横の面は焼けたように茶色だ

卵には黒の粉のようなものが掛けられている

恐らく胡椒だろう、ウチはあまり使ってなかったが

 

「見てないで食べなさい、冷めるわよ」

 

アリスはそう言うとパンを食べ始めた

黄身が割れて、黄色の液体が広がっている

 

見ているだけでは失礼か、彼はそう思いながら恐る恐る食べることにした

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んんっ!」

 

久しぶりに感情的な声が出た

特にこういうものに関して、久しぶりに

 

そんな声が出るほど、このパンは美味しかった

まずパリッとした茶色の部分で既に美味しい

白い部分はふわっとしていて、これも良い

 

そしてそれらをさらに美味しくするのが胡椒付きの卵

よく見えなかっただけでも塩もついていたらしいとても美味い

 

「…美味しい」

 

その言葉は思わず零れた言葉だった

最近はやれ猪だのやれ鶏肉をただ焼いたものだの野性的なものが多かった

野性的な美味しさもそれだったが同じようなものが多かった

 

そんな時に食べた真新しい食感、味

 

気に入らない筈がなかった

あっという間に彼は卵乗せパンを食べ終わった

久しぶりに美味しいものを食べへた気がする、そんな気がした

 

「もう1つあるけど要るか――「いる」…分かったわ」

 

もう1つあるという単語に反応し、彼女が言い切る前に食い気味に言う

このような美味な食べ物がもうひとつある?なら寄越せ

この味がとても美味しいのだ、本当に

 

アリスは食い気味に答えた彼に対して少し驚きながらパンを焼き始める

思いの外彼とは上手くやって行けるだろうと思った

 

多分、食べ物で釣れる

 

何となく、アリスは彼の扱い方を知った

来た時は美味しいもので歓迎してあげようかな、と思うくらい

ついでに彼女は彼がパンを知らないことにも驚いていた

幻想郷でパンがまだ普及してないはずがない

人里の一部では食べるところもあると聞く

人里住なら知らないはずが無いのだ

 

(…もしかして、別の村かしら)

 

そう思いながら焼けたパンを取り出す

そしてその上に予め焼いておいた目玉焼きを乗せる

その後にいつもの分量で塩と胡椒を振りかける

 

それを持ち上げ、彼の皿の前に置く

 

彼は直ぐに手に取り、美味しそうに頬張る

その様子にアリスは思わず声を掛けていた

 

「とても美味しそうに食べるのね」

 

「あぁ、美味しいからな」

 

久しぶりにできた気がしたまともな会話

あれだけ殺気立っていた彼もいつの間にか大人しくなっていた

もしかしたら食べ物を上げたら殺気は少なくなるのかもしれない

 

そんな考察をしていたらいつの間にか彼は完食していた

ちゃんとご馳走様は言っていた、礼儀はある家の生まれらしい

椅子から立ち上がり、大剣を背負いアリスに背を向ける

 

「世話になった」

 

「えぇ…面白い暇潰しになったわ」

 

彼女は相変わらず人形を弄っていた

彼はあまり気にしないで扉を開く

 

そのまま、彼はアリスの家から出て行ったのだ

 

 

 

「やれやれ、道草を食ってしまった」

 

アリスの家から出て、男はまず最初にそう呟いた

彼女に対しての感謝の言葉を述べた後にである

この言葉は聞こえなかったのか、何かが飛んでくることは無かった

 

アリスに何も感謝していない訳では無い

しかし、己の心は裏でずっと思っていた

 

彼にとってはこの出来事は"生きてて良かった"では無い

 

 

 

 

 

"有益な情報はあまり無かった"の方が正しい

 

 

毒性を確かめるために俺は舐めた

しかしまぁ、保護されるとは思わなかった

そこで死ぬとばかり思っていたものだから…

生きるとは思っていなかった、この森に人がいるとも思わなかった

 

運が良かったか、はたまた運命か

 

「くだらない」

 

運命という言葉に思わず彼はそんな言葉を呟いた

この男はそういう単語が大っ嫌いである

既に決められた物語を歩むのも癪に障る

 

そういうのは自分で選ぶからこそ、生きる価値がある

 

選び突き進めるからこそ人間だ

 

 

 

そう思いながら森から出るべく歩き出す

 

一刻も早くこんな薄暗く湿った空間から出たかった

彼はそれほど根黒では無いし、こういう空間は好きじゃない

キノコの件もあって一息つけないあまり良くないところだ

 

まぁいい、早いところ移動しよう

 

 

「原因はよく分からないのか?」

 

慧音は博麗巫女にそう言った

人里を心配してゆえの言葉だったが、どこか棘があった

何かピリピリしている、そう博麗巫女は思った

 

「よく分からない、ただ、妖怪とは別の方向で不味い奴がいる気がする」

 

「不味い奴?」

 

博麗巫女が言ったことに慧音は眉をひそめた

原因らしき物が特定出来ているのでは?と彼女は思った

それに対して博麗巫女はため息をつく

 

「妖怪のやられた場所かどんどん移動してる」

 

「移動してる?」

 

移動しているという奇妙な事実に慧音は首を傾げた

どういうことだろうか、死体が移動しているのか?

 

そう疑問に思っている慧音を察してか、彼女は言い方を変える

 

 

「いや、加害者が移動しながら殺してるんだ」

 

「…!!なるほどな、そういう事か」

 

 

慧音はすぐに理解した

妖怪というのはめっぽう強いのも居れば弱いのもいる

ただ、何が何であろうと人間が勝てるのは少ない

 

そんな妖怪を皆殺しにしようとする

 

「幻想郷の調律者として見逃せないだろう?」

 

「ああ、そらそうだ」

 

慧音の質問に博麗巫女は当たり前と答える

それもそうだろう、今までそうしてきたんだから

こういうのは"博麗の巫女"の仕事である

 

いつも通りだ、いつも通り

 

「じゃあ、君はソイツを殺すのか?」

 

「…あぁ、多分な」

 

幻想郷の人間が妖怪を殺して回っている

それは妖怪と人間の関係の縮図である為何も言う必要は無い

人間と妖怪は殺し殺される、そんな関係なのだから

 

しかし、外の人間がやっているならばまた話は別だ

この世界の生まれではない人間が幻想郷に関わることは出来ない

 

特例を除き、そんなのは誰にもできない

 

「頑張れよ、ちゃんと生きて帰るんだ」

 

「安心しろ、私はこの程度の妖怪殺しには死なん」

 

軽く笑いながら博麗巫女は歩き始める

ゆったりと、解決に向かっているとは思えない足取り

 

しかし、それはちゃんと事件現場の方へ向いていた

 

ちゃんと、解決への道をたどっていた



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足は止まらない

「幻想郷に竹林なんてあったのか」

 

目の前の広大な竹林を見ながらそんな事をこぼす

母はこんなところがあるなんて言ってなかった

初めて見る、こんな広大な竹林は

 

あれから数時間歩き、着いた場所がここだった

遠目から見た時に鮮やかな緑が見えたので気になったのだ

 

近くで見ても分かるほどの大量に生えた竹

竹と竹が重なり合い、奥の景色を見ることは出来なかった

これ程広く、密集して生える竹林も珍しいだろう

 

というか、見た感じここ以外の竹林は無いのだが

 

 

道らしい道はある、土肌が見えたところ

自然にそんな道が出来るはずがないので、恐らく誰かが歩いているんだろう

旅人か、それとも盗賊か、獣か

 

 

もしくは妖怪か

 

「…」

 

無意識に拳を握る

ぎりぎりと奥歯も鳴るくらい食いしばる

 

やはり、奴らは死ぬべきだ

奴らのことを考えると頭が殺意に支配される

どうせろくでもない奴ら、それが奴らだ

 

「カーカー」

 

実際面倒なことを押し付けられたものだ

押しつけというより無理矢理か、野郎しばく

 

そんな事を思いながら竹林の中に入る

かなり密集して生えた竹林ではあるが魔法の森よりはマシだった

あれほどジメジメしてないし、あれほど憂鬱でも無い

かなり入り組んでいるが、まぁ特に問題は無いだろう

 

割と進みやすい道でもあることだ

 

「…」

 

ふと、空を見上げる

竹林に邪魔されて見えにくかったが、日が傾いている

まだ太陽は留まっているがもうそろそろ真っ暗になるだろう

 

生憎、ZIPPO程度の火で進む気は毛頭ない

そもそも、このZIPPOを付ける原料が分からないのだ

 

無闇矢鱈に使えない

 

 

「何か雨風凌げるものがありゃあなぁ」

 

 

文句のように呟いて竹林の中を進む

無闇矢鱈に進むのもどうかと思うが、それでも仕方ない

進むところまで進んでみよう、そうしよう

 

謎の決意を固めながら進んでいく

時折石造りの明かりがあり、その人工物はまだ火をともしていなかった

ただ、行先の目印とはなったのでそれらをつたうように歩いていく

 

 

ぴちゅん

 

その瞬間だった

何かが切れる音がした

 

「ん――」

 

反応する前に上からタライが落ちてくる

避け切れないと予測した男は背中の大剣で叩き切る

大岩は真っ二つになって地面に落ちる

 

「なんなんだ――」

 

ぴちゅん

また何かが切れる音がした

男は動いてずるいなかった、足で切ることは無い

それとなると想像するのは2つのことだけだった

 

 

連動装置か、それとも手動か

 

 

ただ、予想する前にグウィンと風切り音がする

すぐ横の竹が限界までしなっていて、それが解除されたのだ

ただ、作った素材が素材だったのか凄まじい勢いで倒れてくる

 

いや、打ってくる

 

見ることは出来たが腕が追いつかない

すぐさま横に回避をする、バチィンッと酷い音がする

 

「危な――」

 

かった、と言おうとしたら急に浮遊感に襲われる

下を見る前に、どすんと鈍い音がした

 

落とし穴だった

 

 

「うさうさ、人間がかかったねぇ」

 

竹林の隙間からそれを見ていたのが一人…いや、一匹いた

その人物はピンクのワンピースに人参の首飾りをした女…

いわゆるロリというのがそこにいた、凄く悪い顔で。

 

頭に着いたうさ耳を揺らしながらお落とし穴に近づいて行く

かなりの手練だとあのスピードで分かるが落とし穴に入った今じゃカモネギだ

 

「楽勝ー楽勝〜」

 

どう抵抗されても簡単にいなせる

とても油断しながらそのロリ…てゐは穴の中を覗き込む

 

どうせ、穴の中で立ち往生してるものだと思った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見て最初に見えたのは、黄色とオレンジの光だった

そしてそれと同時に聞こえる爆音

 

「え」

 

あまりの閃光と爆音に驚く声が出た

その瞬間、肩を何かが貫いて行った

 

「あがっ…?」

 

激痛

削るような痛みが肩を突き抜けていく

 

あまり痛さに膝を崩し、穴の中に落ちてしまった

 

そこで、穴の中の様子が鮮明に見える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「外したか」

 

無機質な声

 

その先には1人の男がいた

大剣をつっかえ棒のように穴の端と端に引っ掛け、峰の部分を掴んだ男

その男が片手で金属の筒のようなものを持っていた

 

その筒の先から煙が上がっていた

 

そこから、何かが音速で肩を貫通したらしかった

てゐが落ちて横を通り過ぎると、彼は身軽に大剣を使い、飛んでいく

まるで穴に落ちるのが計算のうちのような動きだった

 

 

そう思って入れば、穴の奥底にたどり着いた

 

頭から激突したものだから、即座に意識は無くなった

 

 

 

「全く、イタズラ野郎が」

 

穴から脱出し、体についた土を叩き落とす

先程から視線を感じだが、まさか妖怪とは

男はこのイタズラに憤慨するのでなく、この罠について驚愕していた

なにせ、何かを作るとかをするのは河童とかだと思っていたからだ

 

低級の妖怪がまさか罠を作る…しかもかなり巧妙な罠だ

この先に避けると考えて作り、そしてそれを避けるとかかるなどの罠

 

どう考えても低知能な妖怪が巧妙な罠を作っている

 

そんな事実に男は驚愕していた

 

 

「中級上級がやることだと思ってたんだがなぁ」

 

軽いため息をついてその場を離れる

"無駄弾"を使ったものだ、よく良く考えればナイフで十分だ

発砲音も出してしまったことだからさっさと離れることにしよう

 

そう思いながら彼はそそくさとこの場から立ち去ったのだ

 

 

「…」

 

「どうしたの?」

 

ピンと頭の"うさ耳"が立つ

それに気づいた1人の銀髪女性が声をかけた

しかし、その声に気づいていないかのようにじっと窓の外を見つめている

 

「…どうしたの?うどんげ」

 

少しおかしいと感じた彼女はもう一度、彼女の名前もつけて呼んだ

しかし、それでも彼女はずっと窓の外を見たままだった

 

数秒した後、銀髪が首を振り立ち上がる

そして肩に手を当てようとした時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

「…銃声がした」

 

うどんげは突拍子も無くそう言った

その言葉に肩に置こうとした手が止まってしまう

こちらが止まったのを他所に、彼女の口が動く

 

「.45ACP弾…M1911…」

 

「うどんげ、待ちなさ――」

 

彼女は止めるよりも先にかけ出す

薬の師匠である彼女の制止も聞かず、屋敷を飛び出す

そのまま竹林の中を凄まじいスピードで走る

 

彼女には聞き覚えのある銃声だった

 

かつての故郷、かつての場所

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもの訓練場

 

そこで何度も聞いた、間近に、とても耳に残る程

何度も繰り返し"撃った"、あの銃を

 

「…はぁっ、はぁっ、」

 

全力で、その銃声が聞こえた場所に走る

もしかしたら、もしかしたら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

己の考えた最悪は、当たっていた

 

 

「…もうそろそろ何にも見えなくなるな」

 

もはや太陽が沈みかける時、そんな言葉が口から盛れる

月の光と太陽の光、それが端と端から現れる

しかし、それらであろうと夜の闇は消せない

 

どんどん、辺りが暗くなっていく

 

もう辺りは目を凝らさないと見えないほどだった

 

「…まだ、進める」

 

進んでいるのか戻っているのか分からないが、まぁ良い

そんなのは些細な問題だ、どっちに転んでも良い

そう思いながらずんずんと進んでいく

 

夜に慣れたからか分からないが、既に瞳は夜目の状態だった

 

この状態なら割と進められる

竹の性質上根が盛り上がり、コケるということは無いだろう

 

ある種の確信を持って進んでいるときだった

 

 

 

「…廃屋?」

 

 

暗い闇の中、確かにそんなものを見た

あったのは自宅と五分五分な見た目をした一軒家

ボロッボロで人が済みそうにもない、行ってみるか

そろそろ腰を落ち着けたかったのもあるので、男は行くことにした

 

扉の前に立ち、少しだけ聞き耳を立てる

中から物音ひとつせず、不気味な静けさが耳に入っていた

 

「……、居ない?」

 

中を見るが、囲炉裏に塵となった木炭があるばかりで誰もいない

奇妙なことに使用痕が所々に残っている

食器に埃は被っていないが、床全体に埃が付いていた

 

何故そんなに奇妙なのか

 

何も音がしない理由は、すぐそこに"居た"

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおっと…先客が居たか」

 

 

 

 

横を見てみると壁にもたれ掛かる1人の女性が居た

 

白髪の、赤いモンペを着た、女だった



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死ねないと死なない

「全く、餓死か?」

 

白髪の女性に近寄り、体を調べる

かなり体が痩せ細り腹はかなり凹んでいる

顔も頬が痩せて骨がくっきりと見えるくらいだった

 

かなり若い女だ、死ぬには惜しいくらい、若い

 

「こんなところで死ぬなんてついてないな、お前」

 

死人に口なし、死ねば誰もおなじ

そんな理論に元ずいて俺は彼女を調べることにした

胸から鼠径部にあたるまで調べたが気になるものは無い

強いて言うならば持ち物は着ているものと煙草、それくらいだった

 

なんで煙草一本なんだろうか

火をつける道具を持ってなかったのか

 

最後の一服でもさせてやるか

 

「ほらよ」

 

ZIPPOで火をつけ、煙草に着火する

それだけで煙草特有の匂いが辺りに広まった

 

「うぅ、やっぱり嫌いだぜ、コレ」

 

自身の顔に漂ってくる煙を手ではらいながら彼女の口に煙草を咥えさせる

瞳孔に瞳が戻ることなく、煙草が吸われた様な形跡は無い

 

それでも、何処か"さま"になっているような気がした

 

 

 

 

 

「これで救われるだろう――」

 

そう思って、立ち上がった時だった

ふと、辺りが明るくなった

日が照ってきたのかとも思ったが、今は真夜中だ

 

そうして、後ろを見た

 

「何――!?」

 

女が、岩のようになっていた

岩の間にオレンジ色の線が走り、脈動している

 

まるで、女が溶岩になったかのようだ

不思議と恐怖は感じず、逆に畏敬の念のような物が芽生えてくる

 

それに不安を感じながら、大剣を構える

 

オレンジ色が広がり、あたりの気温がどんどんと高まっていく

あまりの熱気に目を瞑りそうだが、何とか耐え切る

 

こちらの意志を汲み取るかのように、熱くなる

火山の火口にいるかのような暑さ

 

瞳の乾燥がさらに加速していく

 

 

そうこうしているとパリッとヒビが入った

それと同時に、急速冷凍されていくかのようにオレンジ色がしぼんで行く

 

何か、生命の誕生を見ているような気分だ

そんな気高く、恐ろしいものが目の前で起こっている

大剣を構える裏で、なぜだかそう思った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、彼女は"生まれた"

セミが羽化する様に彼女は岩肌から現れる

四肢が出てくる度にガラガラと岩が崩れ、消えていく

生まれたような彼女は何故か服を着ており、燃えてもいなかった

 

その神々しさすら感じる光景を、美しいとも思った

 

「あーっ…また腹のすきすぎで死ぬかと思った…いや死んだか」

 

彼女はくーっと背伸びをしてそんなことを言った

まるで何度も死んだような言い草だ、気持ち悪い

若干不快感を隠せずに居ると、彼女は俺に気づいたらしい

 

「あー…見たか?」

「逆にどう思うか?」

 

質問に質問で返す

分かりきったことを聞くなということだ、察せ

どんな言い逃れも出来ないと思った彼女は言葉を続ける

 

「まぁ…なんだ、忘れてくれよ」

「忘れられるかあんなもん」

 

どうやって忘れろと言うんだあんな光景

少なくとも死にかけるレベルじゃないと忘れはしない

まぁ、ポックリ忘れてしまっていることもあるかもしれないが

 

「…ともかく、"ソレ"を下ろしてくれよ」

 

彼女ははにかみながら大剣を指さす

先程から向けられている大剣を下ろしてくれ、ということか?

 

「嫌だろう、そんなこと」

 

俺はほぼ、即答した

というか元より下ろす気が無かった

目の前の危険人物、生き返った化け物の正体を知らないと話にならない

 

「…その目、そういう事かい?」

 

どうやら彼女は俺の目で察したらしい

生き返るということは同じような目で見られたことは何度もあるはずだ

だから、それで分かったはず…憶測だが

 

そんなことを思っていると、彼女はため息をついて囲炉裏の周りに座る

 

「ほら、座んな…立って話すのも趣がないだろ」

「死人が趣を言うか」

 

大剣を何時でも振れる感じで置き、座る

彼女は指先から炎を出すと、それで囲炉裏に火をつけた

霊力か何かか分からない、多分霊力とは思う

 

「そうだなぁ、何を最初に言えばいいか…」

 

囲炉裏に火をつけ、彼女を俺に向き直る

とはいえ、どうも言うことが多いらしく首を傾ける

 

ならばこちらから質問させてもらおう

月光が窓や板のスキマから入ってくるのに少し高揚を感じながら質問する

 

「何故蘇った」

 

1番の疑問だった、そして一番の警戒点だった

人が蘇るなんて聞いたことがない

"大陸"と呼ばれる場所ではキョンシーと呼ばれる死人がいるらしい

とはいえ、そのキョンシーも頭に札を貼らないといけないらしい

その上両腕はずっと突き出している、不便過ぎんかソレ

 

「わたしゃ死ねないんだよ、昔から」

 

蘇ったかの答えはコレだった

原理とか、そういうのでは無い…別の答えだった

少しだけ求めているものと違ったがいつからとかの追求はやめた

 

「どうして死ねない」

 

一種の不快感を向けながら俺は言う

構造、もとい特異な体をしていればそりゃ不快感も出てしまう

死ねないなんて人間の人生を台無しにしているようなものだ

 

永遠の命を得る機会なんてありゃ、捨ててしまうだろうな

そんなもの得ても何も得をしない

 

「とある薬を飲んでねぇ、経緯は省くがそれで死ねなくなってるんだ」

「薬ねぇ、何とも愚かな選択をしたんじゃないか?」

 

俺は少しの嘲笑を混ぜながらそんなことを言った

相手次第では今から殺し合いが始まってもおかしくないレベルの嘲笑だ

 

だがまぁ、相手にも理性はあるらしい

 

「面向かって言われると来るものがあるな…」

「今まで言われてこなかったのか?面向かって」

 

彼女がまるで陰口を叩かれていたかの様な口に対して疑問を唱える

そんなのまるで昔のやつらは根性が無いみてぇだ

まぁ、昔のやつらは今と同じくらい…

 

「怖いんだよ、周りと違うだろ?」

 

彼女は己の髪を指さした

確かに、あの頃にこんな銀髪は居ないことだろう

そりゃハブられても何もおかしくなかったという訳か

 

「あぁ、そうだ

 それで?面向かい合わせて言われた感想は?」

「…悲しくもないな、なんとも疲れる気持ちだ」

 

彼女はため息をついた

顔を合わせて言われると少なくとも傷つくだろうな

まぁ、俺にとってはどうでもいいが…

 

「陰口を言われるのが嫌でここにいるのか?」

「いんや?ただ生きる目的がないからここでぼぅっとしてるのさ」

 

彼女はそう答えた

そう言われてみれば生きることに必要なものに手がつけられてなかった

食事なんて、食器が埃を被っていたくらいだ

 

「他になんか聞きたいことはあるかい?」

「そうだな…」

 

彼女は質問をしてきた

俺は近くの棒で囲炉裏を続きながら考える

幻想郷の立地を知りたいが、この引きこもりが知っているとも思えない

生きる希望を無くして毎回餓死して蘇る毎日とか糞でしかない

 

…だったら

 

「この竹林にはなんかあるか?」

「あー…あぁ、この中かぁ…」

 

彼女は竹林の方向を見た

どうも彼女の様子からして何かあるらしい

それがやべー封印とかなら俺は見るだけとして、建造物とかなら行くしかない

割と問い詰めるような目をしていたからだろう

 

まぁ、アイツにならいい迷惑か…

「何か言ったか?」

「いやなんでもない…それで、何があるかだったか」

「ああそうだ」

 

俺が頷くと、彼女は消えかけた囲炉裏に炎を付け足す

何か燃料がある訳でもないのに囲炉裏は火力を取り戻した

小さな火花の向こうで彼女の紅い瞳が光る

 

「永遠亭っていう…あー、薬屋?取り敢えず病院みたいなんがあるんだ」

「なんでそれがこんな竹林にあるんだよ」

 

己の口からもっともな疑問が出てきた

んな人に役立つ仕事なら人里の方でやればいいのに

こんな不便なところにいるなんて損してやがる、バカかな?

 

「なんか月に追い回されて隠れているらしい」

「月に追い回されるって…なんともまぁ…」

 

スケールがデカすぎる

あまりに大きすぎてはっきりいって関わりたくない

月の技術は恐ろしいと母から聞いたが、それから逃げ回っている連中なんて相当の強さだ

敵対するとかしたら痛い目を見そうだ…

 

そんなことを思っていると、彼女はなにかに気づいた

 

「…?アンタタバコ吸うのか?」

「吸わねぇ、あんな煙たいもん…」

「じゃあ吸わせてもらうわ」

 

そう言って彼女は転がっていた煙草を持ち上げる

"誰か"が踏んづけたのか少し歪んでいた

いや、それに言えば少しだけ燃えかけていた

彼女は口に咥え、直ぐに吸い始める

 

「…ふぅー…いいねぇ、この味」

「苦いだけだろ、そんなの」

「分かってないなぁ…あー、あー?」

 

彼女は口に煙草を咥えながら指さし…止まる

何かに悩んでいるようだった

 

「なんだ?人様指差して」

「いやなぁ…あんたの名前を聞いてなかったからさ」

「…あぁ」

 

そういえば双方名前を名乗ってすらいなかった

今の今まで名前を言う質問も無かった

とてもどうでもよかったんでな、名前なんて

 

「名乗る必要は無い、あんただけ言えばいい」

「つれないなぁ…妹紅だ、藤原妹紅」

 

割といい氏名をしているものだ

いつしかの貴族の名前をしているとは…

 

――氏名を言う時、口を歪めている

何か、苗字を言うのが嫌なことでもあるのか

ここに関しては何も聞かないことにしよう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、本当に名前を教えてくれないのか?」

「そんなに聞きたいのか?」

「ああ、教えてくれよ」

「無貌の神とでも言おうか?」

「嘘こけ、彼女とは違うだろ」

 

…その後、割と名前で言い争ったのは別の話

本日一番平和な時とでも言おうか



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「妖怪死すべし慈悲は無い」

妖怪と人間は対立する存在である
それは未来永劫変わることの無い事実であり
変わってはいけないことでもあるのだ



故に、双方が手加減する理由はどこにも無い


「全く、名前に対しての質問が酷いやつだった」

 

俺は本当にため息をつきながら竹林を歩いていた

あの後の妹紅は本当に面倒な奴だった

こちらが名前を言わないのをアホ程弄りまわしやがる

 

『おいー、早く言えよー』

『なんで言わなきゃいけないんだよ、お前に』

『礼儀だろう?なぁ?』

『悪いが人外に礼をする趣味は無いんでね』

『ひどいこというじゃないか、なぁ!?…早くさぁ』

『…あんた会話長引かせたいだけだろ』

『何故バレた!?』

『人肌寒くて死にそうな顔してたんでな、あ、死んでたか』

 

 

…弄ってたのこっちか?

まぁどうでもいいか、直ぐに忘れることだろう

 

それよりも、彼女が言っていた病院についてだ

月から逃げてここに住み着いた月人なんて興味の対象すぎる

少しだけ、すこーしだけ覗くだけだ

 

…その病院、どこにあるんだろうか

 

こうやって灯篭のある竹林の道を進んでいるがたどり着く気配がない

場所を聞くのも忘れたし、どんな月人がいるとか聞いていない

野郎共だったらとても幻滅ものだが、女共なら…

 

 

 

 

 

ねぇな、どちみち見た目は人でも中身は人ならざるものなんだから

この幻想郷で人に擬態する妖怪はごまんといる

人里ですれ違った奴が天狗だというのも珍しい話では無い…らしい

母が言うに人里には巧妙に力を隠す妖怪がいると聞く

 

んな姑息な手段使わずに真正面から来い真正面から

そうしたらいくつでもぶち殺す口実ができる

 

…まぁ人里の人間じゃないからあまり人里に興味はないんだが

半妖が教師をしているとか割と気になることはあるんだがわざわざ行くほどでは無い

そんなのいつか人里に行く時に会うだろう

 

「…にしても、なぁ」

 

少し、開けたところに出てきた

割と奥の方に進んできたと思っている、まぁどこか分からないがね

竹林にかこまれているが、日はどこからが明かりを照らす

 

「そんなにじっと見られるとこっちも来るもんがあるんだ…よ」

 

ホルスターからM1911を引き抜き、瞬時に引き金を引く

45ACP弾の大きく濃厚な発砲音…その音通りに反動も高い

竹林の一つ…竹の後ろにいる"誰か"に発砲する

 

そいつはぐりんと横に回避し、歩み出てくる

どう見ても訓練された避け方だろう、素人じゃない

 

現れたそいつは何とも珍重な格好だった

少なくとも幻想郷のセンスの服では無い

多分月のセンスの服だ、きっちりとしている

どことなくこの剥ぎ取った服と同じ感じがする

まぁ似ているのはどことなく雰囲気だけなのだけれど

 

「…お前か」

 

彼女は俺の手元にある銃を見るとそんなことを呟いた

何か心当たりがあるらしい、面倒くさいことになったな

奴の目がキラリと赤く光る…なんとも妖しい光だな

カチリと俺は銃を向けながら大剣を引き抜く

 

 

彼女が何の心当たりがあるか…

少しだけ頭の中を探る、何かあったか?

 

 

「…あぁ、お前あの兎の仲間か

 通りで見たことがあるわけだ」

 

 

全く同じ種族なのだろう

ヨレヨレのうさ耳のおかげで何も分からなかった

そして相手は俺の一言で全てを察したらしい

 

「殺しかけたのもお前か…!」

「はは、そうかもな

 それにな…」

 

俺はグリンと大剣を回すと銃をホルスターに仕舞い、両手で逃げる

そのまま霞の構えを取り、ギッと奴を睨む

 

そして、あたかも当たり前かのように嘘を作る

 

 

 

「こっちも仕事なんでな、死んでもらおう」

 

できる限りの神速でやつの懐に入り込み、そのままかち上げるのだった

 

 

「…」

 

やった

確かに俺の大剣は奴の顎をかち割り、その場に転げさせている

未だにやつは悶え苦しんでいる

 

しかし、なんとも腑に落ちない

あまりにも斬った感触が無かったからだ

 

まるで霞でも斬っているかのような感覚

俺は懐に指をぬすくりつけると大剣を構え直す

 

「幻術だが何だか知らんが、姑息な手を使うな」

 

検討はついてはいる

恐らく何か幻術の類なのだろうと思われる

俺がそんなことを言うと、奴の死体が消える

 

そして、目の前に現れる

悠々と余裕そうにやつは近づいてきた

 

「舐めた真似を」

 

斬るのも面倒臭いので、M1911を取り出し即座に引き金を引く

その弾丸は確実に奴を捉え貫くはずだった

 

いや、貫いた

しかし何故か血も吹き出さずにこちらに歩いてくる

6発放ったが同じだ、実態じゃない

幻術なんだ、こいつは

 

「幻術だと思ったかしら、これは幻術ではない」

「じゃあなんだってんだ?」

 

そう質問すると、大量に奴の姿が増え、消え、増える

何か凄まじく鳥肌が立つ、気持ち悪いヤツだ

こうも正体不明だと腹が立ってしまう

 

「あんたの波長は元から狂いかけだけど、狂ったらもっと酷いものね!」

 

そう言ってやつは勢いを付けて殴りかかってきた

単純に、一斉に幻影共が殴りかかってくる

咄嗟に大剣を盾のように構える

 

しかし、前からの衝撃は一切ない

疑問に思った瞬間、横から鈍い一撃が叩き込まれる

完全に前を警戒していたのでろくに受け流しは出来なかった

 

「ツッ…」

 

苦痛に耐え、視線を戻すが今度は大量の弾幕が放たれる

くらくらするほどの閃光に目を瞑りそうになるが耐える

 

「この…!」

 

また幻影か、そう思いながら突っ込む

ちゃんと避けながら…時折ミスもするが運のいいことに幻影だった

半透明になったりする弾幕がとてもうざったい、タイミングが掴みにくい

 

「さぁ!さぁ!後が無くなってきたねぇ!」

 

どこからともなくそんな声が木霊する

恐らくどこかに悠々と立っているのだが狂わされて何も見えない

こうもこれだと腹が立ってしまう

 

本当に、腹が立つ

 

「コノヤロウ…」

 

何もかも狂わされて攻撃が予測できない

あちらからと思えばこちらから攻撃がとんでくる

ワンパターンな弾幕に関しては防ぐことが出来るが近接攻撃は不可避に近い

幸いか、または"わざと"か分からないが聴覚は耳鳴りがする程度だ

 

幻影があちらで殴れば、恐らく同じ形で殴っている

幻影と本体が同じ動きをしているのは理解出来る

しかし、判断はとてもしにくい

 

目の前の幻影に頭が振り回される

 

 

 

 

 

 

 

 

だから

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああっ、邪魔だ」

 

低く腰を構え、背中で大剣を構える

そこから回転するように大剣を切り上げる

 

大剣から豪炎が吹き上げる

それは実体を持たない大きな剣となり、奴に襲いかかる

あまりに大きいそれは辺りの竹林を切り捌く

 

「何…!?」

 

奴の驚く声がどこからともなく聞こえる

しかし、俺はすぐその場所を察した

 

殆ど勘だった、しかし俺はその勘で今まで生きてきた

信じない筈がないのだ

 

思いのほか、とても近いところだった

豪炎で刃を伸ばさなくても良いほどの近さ

そして、相手が驚愕し体ががら空きであろう今が攻めどきだった

 

「そこにいるな」

 

グッと一歩引いて大剣を構える

そこから一歩大きく踏み出し、突き刺すように大剣を刺す

そのあまりに大きい大剣からは有り得ないような鋭い突きが放たれる

 

 

それは勿論避けられるはずも無く

 

 

「あぎぃっ」

「とった」

 

確かに、奴に突き刺すことを成功した

これだけは幻影でもなく、実体を大剣で貫いたと俺は言える

 

何せいつまでも奴は大剣に突き刺さっているのだから

 

「何もかも狂わされたが、勝てなかったな」

 

俺は大剣でブランブランになっている奴に言う

俺ははははと笑いながらやつを見ていた

 

やつは悶えた顔だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリキリと弦が絞め上がる音がした

俺はそれが瞬時に弓の類だと察した

そして俺が大剣を防御に回そうとした瞬間、放たれる

 

ひやうなんて生ぬるいものじゃない

音速を超えた神速、それが向かってきていた

大剣で防御した場合…確実に折れる

そんな確信を持てるほどの威力

 

即座に受け流しの体勢に入る

 

その瞬間大剣をガリガリと矢が削っていく

もう少し…それこそ5°程傾ければ、大剣が折れる

俺としては一瞬でなかったがそれはちゃんと受け流せることが出来た

 

そして、俺は先程突き刺したうさ耳の奴を持ち上げる

その胸元…大体心臓の辺りに銃を突きつける

刃物の方が速度は早いが如何せん大剣だ、どうにもならない

ナイフが靴の横にあるが取ろうもんなら狙撃してくるだろう

 

「…次構えたら撃つ」

 

恐らく移動していないであろうソイツに向かって静かに言う

こいつが気絶したからか謎の幻術はとうの昔に剥がれている

この静かすぎる竹林の中で如何に静かに弦を引こうとも撃つことが出来る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――…ギリ

 

「1」

「あぐあっ」

 

硝煙の匂いが鼻腔をくすぐる

弦が軋んだ瞬間、俺は引き金を引いた

一発目はわざと外した、二発目もその予定だ

 

「後二発だ、二発目で殺す」

 

俺はうさ耳に突き付けた銃を強く押し込む

狙撃されて頭が飛ばされないようにちゃんとこいつの体全体を盾にしている

身長大体165程なので俺が少し…ほんの少し屈めば良い

身長は大体167だ、本当にほんの少しだ

 

 

 

…静寂が辺りを支配する

 

 

 

痛いくらい、静かだ

恐らく奴はこいつを貫いて俺を殺すか、それとも僅かにはみ出た足を貫いて殺すかで迷っているだろう

 

しかし、俺は既に撃っている

ということはこいつを殺すという意思は確定だと相手は思うだろう

あと二発、それだけあればこんなに弱った妖怪を殺すのに十分だ

 

相手が誰だか知らないが、やってやる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十秒構えていると、茂みが揺れる

矢が放たれた竹林の隙間から、弓矢を携えた女が出てきた

 

あまりにも、特徴的で月の光と全く合わない服装だと俺は覚えている



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隠れた薬師

出てきた女は半分が青、半分が赤という変な服装をした奴だった

アホらしい見た目をしているが、先程凄まじい矢を放ったのは事実だ

人を見かけで判断してはならない

 

その上、俺の勘がこいつを舐めてはならないと言っている

 

俺は銃を彼女に突きつける

それに対して彼女はあまり興味を持ってないようだ

 

「その子を殺して、私も殺すの?」

「どうだろうな」

 

俺は銃を突きつけながら歩み寄る

彼女は弓も構えず、その様子をじっと見ているだけだった

 

やがて、両者の腕が届くくらいの距離に到達する

銃はずっと突きつけられたままで外されたことは無い

うさ耳は片方の腕で引き摺られていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虫の音が聞こえないほどの静寂

 

 

 

 

数秒の睨み合いの後、カチリ、と金属音が鳴った

奇抜な女は辺りを見回すが何も無い

 

「そっちじゃないな」

「…ああ、そういうこと」

 

彼女は俺の手元を見た

そこにはM1911がスライドを開ききった状態で存在していた

この状態は弾が無くなった時におこる事だ

 

つまるところ…

 

「殺す気は無いって事?」

「無益な殺生は好まないんでね」

 

ゴミのようにうさ耳を捨てると、俺はマガジンを交換しスライドを引く

M1911は発射可能状態になった、と言ってももう撃つ気も無いが

俺のリロードを見ながら彼女は鼻で笑う

 

「無益な殺生が嫌いなクセしててゐは殺そうとするのね」

「てゐ?誰のことだ?」

「貴方道中で兎の妖怪を撃ったでしょ」

「あぁ…妖怪は別だ、当たり前だろ?」

 

俺はホルスターに拳銃を仕舞った

彼女はある種の興味を俺に示したらしい

目が少しだけ危ない目付きになった、ありゃ"医者"だな

 

「まぁいいわ、そこのうさぎを持ってきてくれる?」

「あん?自分で歩けるだろ?」

 

俺はうつ伏せになっているうさ耳を見る

口から血の混じったヨダレが垂れ出ている

四肢は痙攣して全く動いてはくれなさそうだ

 

「貴方が投与したんでしょ?毒を」

「したと思うか?」

「妖怪が嫌いなら尚更」

「いつ?」

 

俺はしなかったとは言わなかった

妖怪嫌いなら確実にやると言われれば仕方ない

と言うより実際にやったし、HAHAHA

 

「抱えてる時に口ん中に親指を突っ込んだ」

「最初から毒を塗ったのかしら?」

 

俺はクルクルと指を回す

 

「見てたなら分かるだろ?」

「懐に指をぬすくりつけた時ね?」

「その通り」

 

そう言って懐からキノコの切れ端を取り出す

ちゃんと袋に包んである、安心したまえ

 

というよりこいつ、その時から見ていたのか

恐らくこの兎の飼い主とかそんな所だろう

そのでっかい耳で俺の銃声を聞きつけ、来たんだろうな

てゐとかいう兎がやられたのを助けただろうからあんなに殺気立っていたのだろう

 

まぁ、その頭に返り討ちの文字は無かったようだが

 

俺はため息を着きながらうさ耳を担ぎあげる

 

「重ッ」

「後で殺されかけても知らないわよ」

「事実を言ったまでだ」

 

このアマ割と重いんだが?

見た目的に割と軽い女だと思っていたが…やはり妖怪か

どこかしら構造が違うのだろうな

 

そう思いながら奇抜な女の後をついて行ったのだった

 

 

鬱蒼とした竹林の中に明かりが見えてくる

目は既に闇夜に慣れていてそれが何かハッキリと分かる

 

今まで見た事のないほど豪華な屋敷だった

豪華なだけであってそれほど大きくは無い

ただ、俺の家よりは確実に大きかった

 

「ようこそ、永遠亭へ」

「…不死人かお前ら?」

「あら?なんでそう思うのかしら」

「いや、さっき死なない奴にあったし」

 

根拠は全くない

ただ、類は友を呼ぶという単語が頭を過ぎったので聞いてみた

憶測の域を出ないのであまり言うことは無い

 

「ああ、妹紅ね…」

「知り合いか?」

「私の…お姫様が知り合いね」

「仕えているのか」

 

この見た目して仕えているとは

凄いな、アンタ…従者がこれとか俺はシバキ倒しそうだ

多分月の服センスはこれが普通だったりするのだろう…

恐らく月にはこの女みたいな奴が大量にいるんだろう

 

まぁ月の壊滅的なセンスに関しては置いておこう

 

「…」

 

永琳に続き、永遠亭に入る

見た目通りの木製の廊下が3人を迎えた

木のいい匂いが鼻腔をくすぐる、割と慣れない匂いだ…

少しくらいかび臭い方が雰囲気があっていい

 

もちろんこれも雰囲気があるからいいのだが

 

「さ、こっちよ」

「指図するな」

「誘導じゃない」

「どちみちにしろ腹が立つ」

 

冗談の押しつけあいをしながら彼女について行く

抱えたうさ耳からはずっとうーあー言っている声が聞こえる

多分涎が垂れたままなんだろうなぁ…

それが服にかからないのを祈る、普通に汚い

 

「あなたって応急処置とかあまりしなさそうね」

「唾付けとけんなもん」

「言うと思ったわ」

 

呆れながら彼女は一室に入っていった

言うと思ったってこっちの衛生情報舐めてんな?

流石に洗い流すわ唾と汚れは

 

そうぶつくさ言いながら入るとスンとした空気が鼻に入る

薬物の様な、割と不快感のある匂いがする

その方向を見れば、当たり前のようにガラスの入れ物に液体が入っている

青かったり透明だったり、毒々しい液体があったりもした

 

…中には馴染みある液体もあった

 

「…血か」

 

それを見てしまった瞬間、俺は棚に近づいていた

戸がある訳でもないので直ぐに手に取ることが出来た

手に持ったビンの中には血液が突っ込まれていた

 

ラベルには 「被検者05、TUKIYA YAE」とある

この棒が多用された文字は一体…?

まぁ、いいや、被検者とかどうせろくなものじゃない

 

「…貴方ひとつの事に集中すると他のことを忘れるのね

 もしくはそれが妖怪だとそれが顕著になるのかしら」

「…あぁ、そうかもしれない」

 

永琳指摘されて気付いたがこの兎を落としてしまっていた

棚の瓶に夢中になって一切気付かなかった

お姫様抱っこのように抱えあげる

 

「こいつはそこの寝床に置けばいいのか?」

「ええ、よろしく」

 

俺はぺっと投げるようにうさ耳を置く

そんなところで気づいたが、この部屋やけに進んでいる気がする

木製とかでは無い別の素材で作られている気がするのだ

壁が木ではなく、ほかの物質で作られている

少し触ったくらいの感覚だと石系の素材だと思う…

 

「さてまぁ、俺的にはもう全ての用が終わった様なものなんだがな」

「私的にはとても興味があるわ、もう少しだけ居て頂戴」

 

そう言うと彼女は椅子に座り、何かをし始める

瓶の中の液体と他の瓶の液体を混ぜたりしている

何をしているかよく分からない、恐らく薬作っているのだろうか

病院と…妹紅?が言っていたから間違いない筈だ

 

…これ本当に薬剤か?

 

彼女は液体を混ぜこぜした後に注射器にそれを入れる

少し針先を突いた後にうさ耳の横によっていく

そして何も躊躇うことも無く首元にぶっ刺す

 

「…」

「これでいいわね、次はあなたよ」

 

いや、いいです

そんな言葉が口から漏れかけた

何故ならそこのうさ耳が入れられた薬剤はケバケバしく発光した液体だったから…

そんなことを思っているのを察せられたのだろうか

 

「アレを入れる訳じゃないわよ、軽い検査よ、検査」

「"アレ"て…」

 

自分でも引いているじゃないか…

まぁいいか、そんな事

にしても、検査か…

 

「何故?」

「面白そうなのもあるけど、単純にサンプルが少ないのよ」

「さんぷるだぁ?なんだそりゃ」

「材料と言った方が分かるかしら?ここ来る人少ないし、彼からは同じものしか取れないし

 ともかく多い方が良いのよ、サンプルは」

「…そうかい」

 

彼女は椅子を指さした

座れば彼女と対面になれるだろう

…ここで立つのもなんだ、座るとしよう

俺が座ると、彼女は板に紙を敷いたものを持ち、こちらに向き直る

 

「簡単な質問、血液検査、X線、その他諸々ね」

「…軽い検査って?えぇ?」

「まずは名前をお願い」

「話聞けよ!」

 

ダメだこのアマ、検査しか頭にねぇ

いくら言っても無駄なヤツの目をしている…

 

「…というかそれって答えなきゃダメか?」

「任意と言いたいけど、面倒だから名前を頼むわ」

「…あー、俺は権兵衛ってな…」

「弓で打つわよ?」

 

おおすっごい笑顔、その笑顔攻撃力持ってるよ

簡単に人殺せそうな笑顔してる、アハハ怖い

 

「本当に言わなきゃならんのか?」

「言わなかったら…どうなるかしらね」

 

下手な殺害予告より怖いんだがソレ

何をするか伝えないだけでこれだけ怖いのか…

まぁ、言うも言わないもどっちもどうでもいいんだが

 

「…村斬双星、双星だ」

「村、斬、双星…、ね、分かったわ」

 

カリカリと鉛筆の音が響く

俺は質問については全て聞き流す体制に入った

殆どどうでもいいからである、本当に

 

「性別は…男ね?年齢は?」

「…大体16?だと思う」

「若いのね」

 

カリカリとまた鉛筆を走らせる

目がキラキラとしていて綺麗だ…ちょっと狂気入ってる気がするが

 

「身長体重は…後でいいわ、恋愛経験は?交尾は?」

「ひっでぇ質問してくるなアンタ」

 

あまりに受け流せない質問が時折流れてきたが、問題でもない

俺はところどころ虚偽を交えて彼女に話したのだった

 

…骨が折れる



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じゃれ合い

「…これ何してんだ?」

「レントゲンを撮っているのよ」

 

…んだそれ

ベッドに寝かされた状態で俺はそう思った

寝台の上に大きな箱のようなものがあり、そこから長方形の箱のようなものが伸びている

それが今胸に当てられているところだ

 

「レントゲンってなんだよ」

「骨とかが写った写真のようなものよ」

 

 

…この他にも割と変な検査をした

 

 

「はいじっといてね」

「…眩しいわ、いきなりなんだよ」

「いえね、瞳孔収縮してないかなーって思ったから」

「…勝手に死人にしないでして貰えるか」

「あら、そのくらいの知識はあるのね?」

 

……本当に、変な検査だ

 

「1+1は?」

「2」

「2×5は?」

「…んだそりゃ」

「ふむふむ、小学2、3程度の知能指数…」

「なんかバカにされた気がする」

「じゃあこれは?フェルマーの最終定理って言うんだけど」

「ああ、簡単だなこれ」

「え」

 

…簡単ってなんだっけ

取り敢えず簡単では無いとは思う

ただ、アホらしいことをしていたような気がする

 

「…取り敢えず、今日はこれでいいわね」

「いやもう来ねぇよ」

「そう言いながらそっちから来るんじゃない?」

「…はぁ」

 

んなわけないだろうと俺は立ち上がる

こういう質問系は嫌いだ

その上血を取られていくのはもっと嫌だ

 

「血やらなんやらを取っていく必要あったか?特に髪の毛一本二本」

「重大な意味を持つのよ、人のそういう破片は」

「…俺には一生縁が無さそうだ」

 

そっち側に縁が無いことを祈りたい

どうせろくなことでは無いのだ、どうせ

そう思いながらこの場を後にしようとしたところだった

 

「永琳ー、お腹すいたぁー」

「…?」

 

間伸びした気の抜けた声が響く

恐ろしく間抜けな声だ、この声の隙に二三発はぶち込める

そんなことを思っているとこの部屋に一人の女が入ってくる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美しい

 

正直に言うと、そう思った

全てが完璧に整えられた顔に全てが完璧に配置されたパーツ

そこから綺麗に流された長髪に素晴らしい着物

これは美しい、人間国宝だ

 

「…こいつは?」

「蓬莱山輝夜、私の…主のような存在ね」

「えーりん…あれ?あなたは一体だれよ」

「輝夜…輝夜姫?」

「あの?無視しないでもらえる」

 

輝夜と言ったら輝夜姫が思いつく

母が子持ちらしく昔話として言い聞かせてくれたものだ

たしか…時代は平安だっけ、そこくらいだった

 

「ええ、本人よ」

「ということは蓬莱人か、キッショ」

「ヘェッ!?」

 

キッショ、お前も蓬莱人かよ

今まで美しいと思えていたそれが獲物を誘う美貌にしか見えなくなったわ

今すぐ死んでくれねぇかな、いや死んでも蘇るか

 

「今私のことキッショって言ったわよね?」

「あ?もう口塞いでてくれねぇかな頭が痛くなる」

「ハァァァァ!?永琳何こいつ美しいとか何もいわないんだけど!」

「あら、気持ち悪いとかおもってるんじゃないかしら」

 

すごいうるさい

もう黙っててもらえるかなお前

よし帰ろうすぐ帰ろうもう帰って寝よう…

 

「待ちなさいよアンタ帰す訳には行かないわこんな無礼者」

「あーひめよーわっしのぶれいをおゆるしくださいー」

「殺すぞ!」

 

そのままぶん殴ってきた

コイツ姫か?姫らしい攻撃しろよ、小刀とか

そう思いながら軽く輝夜の攻撃をいなす

 

…すっげぇ怪力

 

こんな華奢な見た目して怪力とかシャレにならない

見たところろくに鍛えてすらなさそうだ、はぁ…

 

「キィッー!!なんなのよアンタ!」

「通りすがりの放浪者だ、覚えておく必要は無い」

「いいや!無理ね!絶対に忘れないわ!」

「あっそ」

 

俺はもう疲れたので部屋を後にした

後ろから輝夜の叫ぶ声とあの女医の宥める声がする

なんとも仲がいいらしい、主と従者の関係じゃ当たり前か

 

俺は懐から輝かしい光を放つ七色の実を宿す枝を取り出す

ただの木の枝と思われるそれに七色の七つの実が実った物

質感からして本物の枝に何かの実がついているっぽい

あの姫様が無防備過ぎたのと割と頭に来たので盗んでしまった

 

それはどうでもいいのだ

本題はこの盗むことが出来た医療薬品類と外科セット

もう2、3回戦闘してもなんら問題無い程度の量だ

割とポケットに入らなさそうだが、ウエストバッグに入れた

量が多いのでこれ以上のものは拾うことは出来ない

なのでとっとこ帰ることにしよう

 

 

 

 

俺が盗んだことは知られている

盗もうと思った物は全て分けられていた

まるでこちらは持っていっても構いませんよと言わんばかりに。

蓬莱の枝の方を彼女が認識しているかどうかは知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、まぁ

 

 

 

「危ないな」

 

俺は放たれた火球を避ける

背中を大剣を構える

 

刃を向けたその先には妹紅が立っていた

憎悪とも取れる表情を俺に向けていた

 

「アイツからの興味を買うな、私が薄れるだろうが」

「あん?お前はあいつが好きなのか?だったら邪魔をしたな」

「ああ、好きさ…」

 

 

 

 

 

 

 

彼女は豪炎を両腕に纏わせる

2、3回地面に拳を打ち付けると辺りが炎に覆われる

その中で俺は注射器が折れないかなと全く見当違いのことを考えていた

 

 

 

 

 

 

「殺したくなるくらいになぁ!!」

「殺し愛か?物騒だな」

 

 

 

 

 

どうも、お相手は俺が目障りになったらしい

輝夜の興味を引いてしまったからか、いや俺も引きたかねでよ

ただあの美貌で引きつかないと興味を引いてしまうのだろうか…

 

まぁ、良いさ

 

 

 

 

 

 

「軽いじゃれあいと行こうか」

 

 

異能との戦闘もこれで2、3回…さてどんな"その程度の能力"を持っている?

 

 

お前はどうやって俺を殺そうとする

 

 

やつの能力は恐らく"火"系

私と同じ…術だ、おそらくのところだが

今はあの燃えさかる炎から考えた憶測に過ぎない

 

もしかすれば炎はただの術であるかもしれないからだ

 

「…」

「ただの大剣で来るか」

 

大振りな大剣をぐるりと振るう

その見た目にそぐわず俊敏な動きをしている

右から左へ、大剣をそう振り回す

 

「能力はひとつか?それともまだ"応用"で本質を隠しているか」

「あんたが死なない程度、どうとでもなる」

 

会話が成り立たなかった

戦闘中の戯言とも言える会話自体が成立しない

今見てみれば彼の瞳には一切の光は無かった

 

あの時会話してのと今対面して分かった事だが余程"人外"が嫌いらしい

こちらとの対話が不可能な程に"怒り狂っている"

…少しでも会話出来る(出来てない)限り、まだ私はマシなのだろうか

 

「けれど、ねぇ」

「―――ッ!?」

 

ゴゥンゴゥンと身軽に大剣を振るう彼の大剣を意図も容易く食らう

自身からくらいに行ったことに少し驚いたらしい

どサリと体が落ちる、綺麗に体を真っ二つ、しかも次いでに頭を持っていかれた

 

でも、関係ない

 

蓬莱人にこんな傷、かすり傷ですらないのだから

 

炎を纏いながらゆっくりと歩き始める

彼は少し驚いた様子だったが直ぐに大剣を構え直す

 

久しく、輝夜以外と殺し合っている気がする

しかも割と強いヤツだ、ちょっぴり嬉しい

 

「さぁ、かかってきなよ…いくらでも相手になってやる」

「死因は関係ないか、いくらでも殺してやるとしよう」

 

 

 

まだスペルカードが無かった時代、人間達は炎の術や近接武器を使用した

妖怪との近接戦闘、それは死だけを示していた

余程の強さで無ければ妖怪との近接戦闘なんぞ出来ることは無い

 

何も出来ずに殺されてしまうだけだ

 

だからこそ、彼らは博麗の巫女を頼った

腕の立つ妖怪退治屋は数人居るがたかが数人だ

 

それに故に博麗巫女は重宝され、称えられた

 

妖怪殺しの英雄、人里の守護者と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その裏で、人では無い人でなし、化け物と罵られた

博麗巫女の戦いぶりは人間が再現出来るものでは到底ない

だから、そう言われるのも時間の問題だった

しかしそうやって罵倒する奴ら、いや、称える奴らさえ忘れていることがある

 

 

 

 

 

 

博麗巫女の名前は、誰にも覚えられていなかった

 

 

 

 

 

 

ただ、今代は違った

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、

 

 

 

 

 

 

たった、1人

 

 

 

それだけが、彼女の名前を覚えていた



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不死人のキモ

何度でも殺すしかない

俺は彼女が生き返る様子を見ながらそう思った

永遠に、とまでは行かないが本当に何回でも殺すしかない

逃げるという手もあるがまだそこまで追い詰められた訳でもない

 

殺す手段はゴマンとある

 

尚、相手は無限に生き返るので意味が無い模様

 

まぁ、それに関しては置いておこう

 

「この業火は熱いだろう!?」

「熱気が凄まじいな、当たりゃ灰だ」

「軽々と避けながらよく言える!」

 

手からぽぽぽぽーんと火の玉が放たれる

それを避けた後に見てみれば着弾すると火をまき散らし、その場にクレーターを作る

当たれば体が砕けるとかそういう次元では無い、死ぬわ普通に

 

あヤツこちらが普通の人間だと分かった上でか…?

それ程までにこちらを殺したいんですかそうですか

 

ならばこちらもお返しするというのが礼儀というもの

 

手のひらに大きな火球をつくりだす

 

「返すぜ」

「要らん」

 

んな殺生な、受け取ってくれよ…

軽々と避けられたそれに落胆しながら大剣で切りかかる

こういう戦闘は慣れているのか分からないが、時折攻撃が当たる

 

戦闘スタイルがそういうものなのだろう

先程から拳に交えて炎を放ってくる

 

おそらく、あのお姫様との戦闘時には肉体攻撃しかないのだろう

己の体でボコボコにするのが1番か

 

なるほど分かった、それがお前の流儀か

 

「まぁ知らんがな」

「話にまとまりがネェ…」

 

なぜだか彼女は困惑した顔をしていた

どちらかと言えば諦観か?まぁいいや

何を諦観しようと俺には関係ない話なのだから

 

「アンタは本当に読めない奴だな!」

 

そう言いながら奴は火柱を地中から吹き上げてくる

熱い、先程の火球よりも凄まじい熱気だ

あちらも凄いがこちらは骨すら残らないことだろう

 

その中を突っ切る

時折ある岩場を足場とし、あちらこちらに飛来しながら接近する

その様子はやつから見れば人では無かったのだろう

 

「…ッ、お前本当に人間か…?」

「黙れ蓬莱人風情」

「なっ」

 

やつの懐に入り込み、そこからかちあげるように大剣を振るう

すると簡単に奴は上半身が縦に真っ二つにされる

そこからぐるりと体を回して横から大剣で叩き切る

簡単に奴は十時に切られた

 

天狗の大剣というのは見た目にそぐわず軽く、その上に斬る力は普通の大剣と変わらない

この軽さが俺が愛用している理由でもある

あまりに重いと長距離移動や持久戦で不利になるのがこっちだからだ

 

ただ、長引く系では大体こちらが負けるのだが

 

そう思うと妖怪の特筆すべき点として上げれるのが体力の多さだろう

化け物らしく、ほぼ無限の体力を持っている

デフォルトの状態で人間を遥かに上回るスピードで襲いかかる

そしてそのスピードを維持できるアホのような体力

 

この上当てても再生能力を普通に持っているのだからシャレにならない

本当に死ねばいいのに、妖怪が

 

「ふん」

 

ガァンと少し離れて大剣を地面に突き刺す

そのまま俺は少しだけ大剣によりかかった

 

どうせ蘇るのは分かっている

あのまま串刺しというのも良かった

ただこの大剣を使いたくは無いし氷はやつの炎の前には溶けてしまうだろう

 

何回かぶちのめしたら帰るか

どうもそんなに復活は早くないらしい

 

「まーた死んじゃった」

 

死体から炎が吹き上げ、そこから蛹から蝶が羽化するように奴が出てくる

何ともまぁ便利な体である、俺がつけた傷さえ治って出てくるなんてよ

これは確かにかの時代の人物は見た目だけであっても卑下するだろうな

 

「死に損ないって何回か言われたことあるだろ?」

「もう聞き飽きたね」

「じゃ、さっさと死ねよ死に損ない」

 

今死んでもこいつには「短い永遠の命」という皮肉は言えないだろう

輝夜と因縁をつけているのなら凄まじく昔から生きてきているということだ

そんな奴にそんな皮肉を言っても意味が無い

 

本当に、なんの意味もない

 

「こっちも死にたいんだよ!」

 

死ねないやつが死にたいと言いながら炎を纏って拳を振るう

見た目が酷い、どういうことになったらこうなる

こいつに銃を使えば何回でも二発三発で殺せるが蓬莱人となればそうはいかない

 

全てただの無駄弾と化してしまう

腐りきった死体に八つ当たりのように撃つだけになるだろう…

 

 

 

 

そう思うと、こいつはきっと中身は空っぽなのだろう

今までの人生を輝夜への復讐に使い、今も尚、ただ殺しあっている

そんな奴が空っぽじゃない訳が無い

 

そんな奴、全部、全部、空っぽだ

 

「実を言えば、俺はあんたの不老不死を羨ましく思っている」

 

やつの拳をいなし、脇腹に肘を打ち付ける

肋骨の折れる鈍い音が辺りに響く

 

それと、伽藍堂な声をした男の言葉も

 

「人間ってのは枷の中で生きている」

 

折られた恨みか、直ぐさま蹴りを放とうとする

しかし、それをするりと横に避けて今度は顔面に叩き込もうとする

蓬莱人と言えど痛みはあるのかそれを彼女は躱す

避けたところに足払いを放つ

 

奴はコケた

 

「寿命という枷の中で生きている」

 

大剣で思い切り胸を両断する

体を斜めに真っ二つ、血がどくどくと流れる

 

しかし、彼女はまたしても蘇る

切断面が炎を覆われ、消えればそこには柔軟な肌があった

いくら傷を付けようとも、殺せばまたそんな肌があった

無限に落ちていく石を同じ速度で追いかけているような気分だ

 

「俺は枷ってのが嫌いでな」

 

俺は枷というのが嫌いだ

制限というのもが嫌いで、縛られるのも嫌いだ

古くからの縛りに囚われるのも嫌いだ

 

そんな思いを込めながら降ってくる炎を両断する

彼女はこの演説のような会話を黙って聞いていた

 

特に何かを反論することも無く

 

「しかしそれでも寿命という枷は越えられない」

 

それを超えてしまうということはヒトを辞めてしまうということだ

200、300生きてしまえばそれは人間じゃない

 

 

妖怪(ひとでなし)

 

 

後ろに引きながら火炎を噴射する

いつの間にか開けた竹林から入り乱れた竹林の中へと戦闘は変わっていた

大量に生える竹を身隠しに使いながら戦闘を続行する

 

「そこを軽々と越えられたあんたに敬意すら覚えるよ」

 

無機質な声が響く

妹紅は手を横に振るう

すると火炎が竹林を薙ぎ払う

 

「かかった」

「!?」

 

彼女は足に違和感を感じたのもつかの間、その一瞬をつかれ、蹴飛ばされる

どうせ立ち直ると思っていた彼女は…

 

立ち上がることが出来なかった

 

「あぁ…?」

 

足が地につかない、ずっと浮いている

何が起こったのか?

 

ふと、腹を見るとそこから竹が生えていた

いや、己の体を後ろから貫通していたのだ

 

「いつの間に…?」

「俺がやった訳じゃねぇな、そんな"罠"を仕掛けた思いも無い」

「罠…だと…!?」

 

彼がガチャリと銃を取り出す

なんとかここから逃げようとするが足が届かないせいで上手く力が入らない

つま先立ちではどうやろうとも大きな力は出せなかった

 

「あばよ、久々に竹林探検でもするんだな」

 

ズガンとm1911が火を噴く

その弾丸は固定されていた留め具に寸分の狂い無く命中する

既に十分しなっていた竹は元の場所に戻ろうとグィンと曲がっていく

 

 

 

 

「ああああああああぁぁぁ!!!」

 

 

 

横からのフルスイング

すぽんと良い音がした後、竹林をなぎ倒す汚い音が次々に聞こえてくる

ごっしゃんがっしゃんももう聞くに絶えない音だった

暫くした後に聞こえてくるのは、元の位置に戻った竹から零れる血が地面に落ちる音だけだった

 

 

 

「先延ばしって言葉はいいよな、どんな言い訳にもできる」

 

 

そう呟きながら彼女が吹っ飛ばされた場所とは反対の方向に向かう

あっちは永遠亭だ、今からどうせ治療してもらえるだろう

 

もしくは、輝夜姫に構ってもらえるだろう

 

どちみちにしろ感謝して欲しいものだ

 

 

 

 

 

 

 

 

まったく、妖怪というのは…



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あほしね

Trpgを友達としてました

ゆるして


「ああぁいぃィィィィィ……」

 

ギリギリともはや砕けそうな歯軋りが辺りに響く

竹林から抜けた先、少しの原っぱが広がっている場所

とある木の下で一人の男が口を半開きにしたり、歯軋りをしていた

 

「畜生やっぱりなんか折れやがったな…フゥゥゥゥゥンンン!!!」

 

腕を少しでも曲げようとした瞬間、激痛が襲いかかってくる

かなりあった霊力も今やカラカラだ、もうなんも残ってねぇ

激痛を和らげるにも霊力がなくて無理だ

 

…あまり使いたくは無い

 

「使うしかないか…いだだだだだだだ」

 

ウエストポーチからひとつの薬品を取り出す

"モルヒネ"と紙が貼られた瓶だ、確かこれが痛み止めだった

記憶が正しければの話ではあるが…

 

「注射器は…折れてないな」

 

割れても折れてもない注射器を取り出し、モルヒネを抽出する

そしてそれを己の腕に射し込む

腕の中に液体が入っていく感覚がするのも束の間、その感覚は煙のように消えていく

 

「彼女が作ったものはどうも普通のものと違うらしい」

 

少なくともこの服の持ち主が持っていたキットのものとは違う

あの薬品はこれより効くのがずっと遅かった

もう効き始めている、腕が簡単に動かせる

 

…そういう能力持ちなのか

 

「この場所にはもっとヤバそうな能力持ちが居そうだ」

 

腕に包帯を巻き付け、添え木を付ける

このまま動かさず霊力が回復した時に一瞬で回復してみせよう

今は少し足らなさ過ぎる、スッカラカンにも程がある

 

 

 

 

…くらり、と頭が揺らぐ

 

「う…眠い」

 

そういえば最近ろくに寝れたのはアリスの家くらいだった

それと単純な霊力切れ、その上であの戦闘だ

もう疲労に疲労を重ねてもう何もする気がおきない

 

近くの木に背中を預ける

 

どうも小高い森の木だったらしく、当たりがよく見えた

眼科に広がっていたのは、季節通りか、太陽のような花が咲き誇っていた

皆綺麗だ、太陽のようにキラキラと輝き、己を誇っている

 

「…向日葵、だっけか」

 

海外からこちらに入ってきたらしい花

今よりかなり昔のことらしい、知らんけど

母がそう言っていたから、恐らくそうなのだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…?太陽のような向日葵?

 

 

 

 

『幻想郷には"太陽の畑"という場所があってな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁッ!」

 

俺は眠りかけていた脳をフル回転し、この場から離れようとした

そういえば母の話には続きがあった

 

世にも恐ろしい、聞くだけで震え上がってしまうような続きが

 

「畜生なんで忘れていたっ…」

 

俺は立ち上がる

 

そして、見てしまった

 

 

 

『太陽の畑にはこわーい妖怪がいてなぁ』

 

 

 

ゆっくりと、草をふむ音が聞こえる

優しく、草は花に配慮しているような優しく足音が

 

 

優雅なる影が近付いてくる

 

 

 

いや、今の俺に言わせれば、幽雅、か

 

 

 

片手にお洒落な傘を、片方の手に見覚えのある編笠を持っている

その影がずっと、こちらに歩いてくる

 

しかし、その優雅さに合わない暴力的な妖力

俺を簡単に殺せるくらいの圧倒的妖力

 

俺はモルヒネを1本丸ごと注射した

注射器1本程度の量で逃げ切れるとは思えない、思わない

足が震える、少しだけ右足が後ろに下がった

 

 

 

 

 

 

母の声がよく思い出せる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『名前を、風見幽香…彼女は良い奴だけれど…会わない方が良い』

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまして、これは貴方の編笠かしら?」

 

 

彼女が放ったのはその言葉、ただ、それだけでも恐ろしかった

 

 

 

母はよく話をしてくれた

囲炉裏を囲っている時、畑仕事をしている時、暇な時

幻想郷についての話を楽しそうに、時に悲しそうに語った

 

どれもこれも噂ではなく、本当の事だ

 

幻想郷ではよく有り得る事だ

 

 

『空の上には霊界があってな、一人の姫様が居るらしい』

 

『人里には人に協力する半妖が寺子屋を開いているらしい』

 

『妖怪の山には奴隷商売があるらしい…性的な方の』

 

『最近、変な屋敷が湖の近くに出来たらしいな』

 

『雲のさらに上には天界って場所あってな、暇を持て余した奴らが桃を食ってるらしい』

 

…とかとか、色んな話をしてくれた

こうやって探し回ってみれば実物を見なくとも現実にあると思える

 

だって、幻想郷だからな

 

ただ、どこに行くにも危険は付き纏う

そこら辺の野良妖怪が襲いかかってきたり、運悪く腹を壊すこともある

いい事をしてれば悪いことは無いと言うがそんなことは全然ない

 

なぜなら、悪い方からちょっかいをかけてくるからだ

いつもいつも、面倒くさい

こちらは平穏に生きていたいというのに奴らはいつも邪魔をする

 

まぁ、そんな世界に生まれた俺も悪いのかもしれない

 

 

 

運命とは奇なるものである

 

 

「…ああ、俺のかもしれねぇ、落としてしまったからな」

「そう、見つかって良かったじゃない」

 

彼女は優雅にこちらに投げ渡した

ふわりと軽く飛んだそれは俺に届く前に地面に落ちていく

 

しかし、いきなり地面から草が生えてきたかと思えば、落ちた帽子を支える

とても太い草だ、どちらかと言えば蔦なのだが

取りやすい位置まで来た編笠を取り、頭に被る

 

「わざわざありがとう」

「ええ、こちらこそ」

 

そう言うと彼女はこちらにまだ近づいてくる

ゆったりとした足取りで、笑顔のままで、だ

 

「…何か気になることでも?」

 

俺は気を逸らすようにそういった

こうでも言わなければこの妖気に耐えられる気がしない

あまりにも重い、重すぎるのだ

 

「うふふふ、ねぇ?聞きたいことがあるんだけど」

 

彼女は不気味に笑いながらこちらに歩みよってくる

俺は下がりたかった

 

今すぐ後ろにある森に逃げたかった

 

しかし、その無理だった

何かがギッチリと足を固定していて動かすことが出来ない

それどころか、その絡みついているものは俺の足に伸びていっている

 

 (…蔦か!こいつ、植物を操るのか?)

 

緑色の血管のようなもの

葉が生えているからそれが蔦だと分かる

 

ただ、獲物を逃さない、触手のように伸びてきているのだが

 

「最近、辺りで妖怪殺しが駆け回っているらしいわ」

「そうか、そら良い話だな」

「えぇ、うるさい奴らが消えていくのは清々するわ」

「ああ、俺もそう思――」

 

瞬間、腹を殴られた

あまりの衝撃に腹がちぎれると思った

胃が逆流しかける、喉が熱い、痛い

 

「うごっ、あがぁぁ…」

「五月蝿いハエねぇ、静かねして欲しいわ」

「ごぶっ」

 

顔面を傘の先端で殴られる

どうも妖怪殺しが俺だとバレているらしい

よりによって1番マズイやつに…

 

「人間がここまで来るものじゃない、わよ!」

「ぐあああっ、ああぁああ…!」

 

腹を傘で突かれる

パリン、と薬品がひとつ割れ、地面に液体がかかる

酷く鼻にツンと来る薬品臭だ

 

「人をいたぶるのも大概にしやがれ、クソッタレ」

 

唯一動かせる腕で音を鳴らす

すると、足元にぽうっと、火がつく

 

それは絡みついていた蔦を全て焼き払った

その上、あまりに激しく燃えて、まるで俺が火柱になっているかのようだった

ただ、己の霊力だから燃えることは無いんだけども

 

「あぁ、眩しい…やっぱり鬱陶しいハエねぇ」

 

人の事ハエ呼ばわりしやがってコノヤロウ

そう思いながら全力で森の中に飛び込んだ

飛び込んだ衝撃で腹が激痛に襲われる

 

腹がちぎれそうだ、風見が更に力を入れていたらもうこの世にはいなかった

 

そう思っていると、火が小さくなっていく

生命が生きていくために必要な火は、何も供給されることも無く、そのまま消えていった

 

そのような工程を見るのは、かなり時間を潰した

 

もはや、ここで寝るのもいいかとも思った

意識が、脳がもうお前は休めと言っていた

 

これ以上彼女対して何かすることは無い

 

できることも無い

 

ただ、じっとしておけ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、相手はそれを許さなかった

 

「…!!!」

 

俺はすぐさま霊力で自分を横に吹き飛ばす

意識がある、僅かな状態で耳を傾けていたのが命を救った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虹色の閃光

 

圧倒的な圧力、質量が突き抜けていく

 

これがなんなのか、それを考える暇もない

 

ただ、声を抑えるのが精一杯なのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が寝ていた地点は、跡形もなく、焦土と化していた

 

「さぁ、lets partyTime!」

 

彼女は俺に理解できない言語で、楽しそうに言った

子供が新しいおもちゃに触るような、楽しそうな顔で、声で

 

新しいおもちゃ()に、そう宣言したのだった



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死ぬかよアホウ

「れっつぱーてーたいむ って何だよあの野郎!」

 

文句を言おうとした瞬間、閃光が走る

霊力で自分をすっ飛ばして難を逃れる

あまりに光と火力がデカすぎるのか俺がどこに飛んでいるのかは理解できないようだった

 

いや、理解しなくていい

 

理解した瞬間、俺はしぬことになってしまうからな

そのまま一生閃光と遊んでおけ

そう心の中で悪態をつきながら固定器具を腕と腹に巻き付ける

腕はまだ動くものの腹に関してはもうボロボロにも程がある

先程の打撃でよくちぎれ飛ばなかったものだ

思いのほか俺の体は丈夫らしい

 

「さぁ、かくれんぼなら上手く隠れてみなさい」

 

閃光と爆音の中で途切れ途切れに聞こえる声

玩具で遊ぶ子供そのものの声をしている

 

流石妖怪、人を人だと思っていない

 

まぁ、良い

 

「かくれんぼなら得意さ」

 

大地を這いずりながらその場を移動する

閃光が巻き上げる土が体に降り掛かってくる

元々目立ちにくい服だったおかげか、さらに分かりにくくなった

 

ただ、相手は妖怪だ

 

嗅覚 聴覚 視覚において人間が勝てるものは無い

強いて言うなら頭の狡猾さくらいだろうか

それにおいては互角な種族やそれを超えてくる種族もいるが…

 

ともかく総合的に勝てる相手では無い

 

そもそも低級妖怪ですら常人は運が良ければ逃げられる程度なのだ

それに立ち向かえている俺達も人間では無いだろう

 

 

 

そう思うと、どちらが化け物なのだろうか

 

 

 

こんな、閃光迸る戦場にて俺はそんなことを思った

人間基準で見れば、妖怪は圧倒的に化け物と言える

人間のいかなる特徴より優れたものを持つ存在

嗅覚は人間の倍以上、聴覚も勿論それに匹敵する

 

しかも獣人となればその倍数は更に跳ね上がる

 

人間とは到底比べ物にならないのだ

 

 

だとすれば、その化け物を殺す人間はなんなのだろうか

人間の中には多大なる霊力や技術を持って生まれる者もいる

凄まじい術や汎用性の高い技を作り出す職人も居る

 

そんな人物がいるならば、妖殺しもちゃんといるのだ

 

過去の人物の殺った妖怪を見てみれば、その凄まじさが分かる

 

 

鬼、九尾の狐、吸血鬼、その他の犠牲者をあげて言ったらキリがない

そもそも、鬼を殺す時点で人間では無い

 

 

人間ながら、人間では無い

 

彼らは周りから何も思われていたのか

 

まぁ、彼らは戦いを良いものとは思わなかっただろうな

 

 

「さぁさぁ、パーティもクライマックスよ!」

 

彼女がそう言うと、閃光が更に強まる

頭を上げてられない、それどころか動くこともままならない

動けばこの極太ビームに触れてしまい、凄まじい激痛を伴うだろう

 

永琳の鎮痛剤はとても素晴らしい性能をしていた

これだけ体を酷使すればそろそろ効果が切れてもおかしくは無い

 

しかし、未だに切れるから雰囲気はどこにも無いのだ

 

ただ、そんな痛み無くて無敵ヒャッハー状態でも動くことは出来ない

鎮痛剤の効果があってもあんな極太ビーム食らいたくはない

当たれば痛みを上回って死が確定するだろう

 

彼女が地面を抉り飛ばそうと思わなかい限りしゆことはない、断じて無い

 

 

「これはどうかしら」

「…ッッ!!!」

 

俺は殺気を感じて横に回避する

すぐに目を俺のいた場所に戻すと、そこには傘が突き刺さっていた

 

バレていたのだ、居場所が

 

彼女は頭を人差し指でトントンとつつく

 

「編笠でバレバレよ、もう少し練習しなさいな」

「ああ、そうかよ…」

 

俺は大剣を背中から引き上げる

もうかくれんぼは終わりだ、そもそもすることも出来ない

見つかった状態から隠密に行くのは中々できることでは無い

 

こういう戦いに遊びを持ち込むやつは特に、だ

 

「へぇ?私に立ち向かうっていうの?噂を知らない訳では無いわよね?E.E.F.」

「どうだろうな?花の妖怪、俺は命を投げ出す準備は出来ている

 お前ごときに命乞いはしない」

「ほぅ、面白い男…でもどうかしら?男は最後の最後で根を上げる」

 

大剣を正眼に構える

彼女は優雅に傘を畳み、それをこちらに向けてくる

その先端に妖力が集まっていくのかよく見える

こいつを殺すことは出来ない、無理だ、確実に

 

ただ、退けることはできる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、死ね、人間」

「死ぬ訳には行かんな、妖怪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光が交差する

傘の先端から発射された極太ビームを横に避ける

そこから一気に足に力を込め、飛び出す

彼女との距離の差はそれほどに離れていない

 

つまり、勝負も早く終わる

 

「ウラぁぁぁぁぁああッ!!!」

「洒落臭い」

 

頭の後ろからかち割るように大剣を振り下ろす

風見は鬱陶しそうに傘でそれを受け止める

受け止めたそこに下から足でキックを放つ

しかし、当たっても彼女が怯む素振りもない

 

「無駄無駄、無駄でしかないわよ、あなたの攻撃は」

「ちぃっ」

 

軽く投げられる

やはり化け物だ、この妖怪は

 

能力もさぞかしやばいのだろうか

 

着地し、即座に連撃に入る

重いはずの大剣を何度も叩きつけるが軽く傘で受け流される

あの傘、妖力を纏っている…そのおかげで凄まじく硬い

あれを破壊し、一撃を加えるのいうのは不可能だろう

今の俺には無理だ、未来はどうか分からんが

 

そもそも今を生き延びねば未来は無い

 

「さ、私はかなり楽しめた、終わりにしましょう」

「終わりにするか?」

 

大剣を構える

素の大剣でどうにかなるとは思えない

 

「はァァァァッ……」

 

僅かに回復した霊力をふんだんに解放する

開放された霊力は俺の体を包み込み、そして大剣にまとわりつく

 

すると、大剣は業火をその刀身にまとい始めた

 

 

 

ガチャりと構える

全てが静かで、聞こえるのは草が風に揺れる音と炎が燃える音

 

 

 

 

「…ッッ」

 

 

 

 

先に動いたのは俺だった

天空に1発、風見に2発の弾丸を放つ

正確に頭に2発飛んでいくのがよく見える

 

「無駄よ」

 

しかし、それらは閃光にかき消される

風見は極太ビームを放ったのだ、消すつもりだ、弾丸ごと

弾丸がどうなったかは語るまでない、俺は空中に飛び出す

下には焼け野原がよく見える、綺麗では無い、太陽の畑は綺麗だが

 

「本当によく飛ぶ、本当に蝿のよう」

 

彼女は上記の言葉を言いながら、顔は笑っていた

弾幕が雨あられのように降り注ぐ…下から降るってのはおかしくないか?

右へ左へと音速で回避して弾幕の嵐の中を突き進む

 

愚直なまでに

 

「ああっ鬱陶しい弾幕だな!おい!」

「そういう弾幕だから、仕方ないわよね?」

「仕方なくねぇ!お前がそうしてるからこんな糞弾幕になってんだろうが!」

 

 

ドッジロール

空中で前転し、迫る閃光を避ける

 

奴までの距離はそう遠くなくなった

ここならやつの眉間を撃ち抜くのも容易くない

 

「脳味噌1回ブチまけろ」

 

左手で素早く拳銃を抜き、発砲する

正確に4回、今の弾倉に幾つ入っているかなんて気にはしない

もはや総力戦と同じような現状になっているのだ

弾数いくら気にしたって意味が無い、当たらなければ意味もない

 

数打ちゃ当たるなんて、ここには通用しない

 

 

放たれた弾丸は上手い具合に弾幕を掻い潜り、相手に向かっていく

しかし、彼女はまるで欠伸をするようにその弾丸を受け止めた

 

やろうと思えば出来るが…弾丸なんて一直線に飛ぶ物体、こうなるのも定めか

 

 

「そう?ぶちまけるのはあなたじゃない?」

「…――あがっがっ!?」

 

彼女がそういった

俺が真意を問おうとした時、謎の軽みを感じた

明るい閃光、細いビームが左肩と腹部を直撃する

凄まじい質量が込められたそれは簡単に左腕を弾き飛ばした

肩から先の感覚がごっそり無い、感覚を共有していた腕はもうどこかの地面だ

脇腹に命中したビームは綺麗な穴を開けて突きぬけて行った

一瞬開けられたことに気付かず、血を流すことを忘れていた様だ

 

次の瞬間、ドバっと血が流れでる

 

「ああ…」

 

動けない

その場に片膝立ちになり、大剣を取りこぼす

ふと、体を見てみればあちこちが血だらけになっていた

 

痛い

 

鎮痛剤が今更になって効果を切らしたのだ

激痛が、もはや呻き声を出すほどの力を激痛が奪っていく

 

目の中に血が入ってきて、視界を赤く濡らす

 

痛い

 

 

「もう少し骨があると思っていたんだけどねぇ

 彼女が優秀すぎたか…お前が弱すぎたかのどちらかしら」

 

いつの間にか目の前に風見がいた

ただ、顔を上げる気力はどこにもなかった

今の今まで、気力と鎮痛剤の力で剣を振るっていた

 

そのふたつはもう無い

 

「さようなら、彼女の…なんだったかしら」

 

頭に何かが当てられる

固くて、冷たくて、向けられるだけで寒気がする代物

 

…銃だ

 

俺の持っていたガバメント、あれ以外にない

こいつがあれを集める物好きならあるが、噂を聞くに花好き、それは無い

 

E.E.F.って奴らの最後はこれなのか?

これが誉なのか?俺はそうとは思えないな

 

ぼんやりする頭で、そんなことを考えた

 

 

彼女の言う通りだ、男は最後の最後で音を上げる

俺はねを上げた、もう、動けない…動きたくもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乾いた音が辺りに響いた

がちゃん、とスライドがフルオープンになる音も続いて響く

 

それが鳴ったあとは、恐ろしくその場は静かになった




死んだわ


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強者ってのいつもそう

「この程度、とは思ってないわ

 ただ、思っていたより手応えが無かった…」

 

あの人間の銃を投げる

弾も全て切れて、もう使えない

 

何もかもこの男には無い

 

目の前で膝を崩し、脳みそをぶちまけれている男には

 

「…あら?残り弾があったのね」

 

ふと、空中を見ると、鉛玉がひとつ見えた

落下速度を加算して凄まじいスピードで迫ってくる

 

ほぼ意味の無いスピードを眺める

 

悠々と、傘を地面に突き立ててその弾丸を見やる

それを手で受け止めるのは簡単だ

 

 

そうやって、彼女は楽観視していた

 

 

 

 

罠という可能性を考慮せずに

 

 

「鈍い弾丸ね…ッッ!?」

「くたばりやがれ、花の妖怪」

 

やつの背後からその腹部に大剣を貫き通す

油断しているのもあって簡単に皮膚を突き抜ける

 

ようやくだ

この時を嬉々として待っていたのだ

 

全て"ふり"に過ぎない

英語で言うならブラフっていうのだろうか

 

「いつの間に…!?」

「ようやく見えたぜ、あんたのその驚く顔」

「この…!?」

 

俺に掴みかかろうとした手に弾丸が突き抜ける

彼女は信じられないようなものを見る目で俺を見た

 

 

 

あぁ、確かにガードできていたな?傘で

 

 

片方の腕にあった傘で確かに防ぐことは出来た

しかしまぁ、よく見なかったのがお前のツケ、って所だろう

 

俺は良く見えていたぜ?この弾丸が「グニャアー」と曲がるところに

 

大剣を引き抜き、その傷口から手を思い切り突っ込む

人間と妖怪…特に人型の妖怪はほぼ体内構造は同じと呼ばれている

同じように、糞尿はするし、妊娠だってする…妊娠は知らんけど

 

白狼なんかはそこらの野生の狼が長く生きた結果なんて言われている…

長く生きた結果があんな縦社会なんてゴメンだ

しかも白狼は一番の下っ端に当たるらしい…もっと酷い

 

そんなことはどうでもいい

 

「――らっしゃァァァアアアッッ!!!」

「ぐぁうッ!?」

 

モツを確実に掴み、引き抜く

内部の痛みには慣れていないのか、彼女は初めての呻き声を上げた

 

ああ、ようやく聞けたよ、お前のその声

その余裕そうならツラからようやく、その声が

 

「汚ぇ」

 

モツを握りつぶし、投げ捨てる

彼女は片膝をついてその場に呻いていた

ぐちゃりと脇腹から内蔵が零れでる

 

彼女は俯いたまま、俺に質問を投げかけてきた

 

「いつ、後ろに回ったのかしら」

「最初からお前の背後だ、正確には、ビームをブッパしていた時だが

 お前が戦っていたのは俺の幻影なんだよ」

 

…とは言えどこの幻影、欠点しかない

確かに本体と別で行動して俺の意思どおりに身軽に動く

それだけ使い安ければ欠点の一つや二つある…ひとつしかないが

 

第1…というよりこれが無ければとても使えるのだ

 

…痛覚の共有

 

もう字ズラだけで欠点なのが分かる

痛みは全て俺と共有されるのだ、この糞幻影

一切の遅れ無く動く代償がこれ…強者にもバレない完璧な幻影の欠点

 

中途半端な覚悟で使えば激痛に身を悶えて動かす所では無い

幻影と本体が同じ形で間抜けに藻掻くだけだ

 

ああ、永琳のモルヒネがあって良かった

恐らく普通のモルヒネではこんなの耐え切れるわけが無い

 

確信できる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

にしても

 

 

 

「人間も妖怪も似た部分は多いのかもな、身体構造といい見た目…は1部例外か…」

「…余裕そうね?」

 

彼女は俯き、血反吐を吐きながらそんなことを言った

俺は身をかがめて彼女に言った

 

「ああ、余裕さ」

 

…実際は余裕もクソもありません

体のあちこちは折れてその上それ以上の場所にヒビが入っている

腕や足もろくに動かしたくないし頭も使いたくもない

もう何もしたくありません、たすけて

 

…ただの戯言でしかねぇ

余裕?余裕だぁ!?ふざけんなマヌケぇッッ!!

俺が今どんな思いでお前に向き合っているかわかるかコノヤロウ?風見幽香

もう今すぐ横になって寝てぇんだよこちとらァ!!!

 

「…終わりにしよう」

 

M1911を拾い上げ、弾倉を交換する

チャキッとスライドを元に戻し、彼女の頭に照正を定める

この距離では傘も無理な上に腕ももはや間に合わないだろう

 

引き金を引き絞る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程と真逆だった

ただし、違うところを上げれば…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだった、男は直ぐに勝ちを確信する、もあったわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相手が、妖怪だったところだろう

 

「――ッ!?」

 

反応が遅れた

首元に瞬時に風見の手が迫ってくる

引き金を引く、瞬時に、ほぼ誤差は無く放たれた

 

発射された弾丸は彼女の頬をかすめた

 

 

 

 

なんの狂いもなく、俺の首根っこを掴み、そのまま風見は持ち上げる

苦しい、痛い、息が続かない

 

 

「ぐぅっ…!!」

「捕まえた」

 

妙に艶のある声だった

どこかしら、風見の頬が紅潮している気がする

もしかして本当に戦いを楽しんでいたのか

 

これですら、彼女とって戦いなのか

 

「見事、本当に見事だわ…久しぶりよ、あのアマ…いや、巫女かしら

 彼女以来よ、こんなやり方」

「…、……あぁ」

 

それはその賞賛に対しての答えではなかった

ただ、この人生に対しての感想のようなものだった

意味もない旅をしてしまったものである、本当に

 

…あぁ、終わったか

 

俺の万策は尽きた

もうこれ以上俺には何も残っていない

霊力も、動かす力も、何もかも

 

…秘めたる力も何も無い

先程弾が曲がったのもそういう"事象"だったからだ

それ以上でも、それ以下でもないのだ

 

「人間こうも諦めると不味く見えるのね」

 

先程の紅潮した顔はどこへやら

もう人間を見下す顔へと変わってしまっていた

 

…やはり妖怪、か

 

俺は何度も思ったことをまた、思った

俺はどうして、こんな場所に産まれてきてしまったのか

外の世界ならもしかしたなら、平和に暮らしていたかもしれない

 

 

 

 

――それは無いでしょうね

 

どこからか、そんな声が響いてきた

ぼんやりと意識が遠のく頭がそれを聞くだけの力を振り絞る

痛い、頭が痛い…待て?俺はこの声をどこかで聞いた――

 

――貴方が外で生まれようと争いに巻き込まれるのは必然

  戦いに巻き込まれ、外の世界のやり方の戦いに呑まれるだけ

 

…なんだ

俺はこいつの声を知っている

そうさ、忘れることは絶対に無い、忘れるものか

 

貴様の声と姿は、確実に覚えている

 

金髪の紫妖怪

 

胡散臭いクソ野郎

 

あぁ、よく思い出せるぞ、お前との邂逅

本当に思い出せる、このクソ野郎が

 

――あらあら、そんなに殺気立たなくても?

  ほらほら?穏便に行きましょう?

 

「…この殺気、あいつかしら…」

「…、……」

 

彼女は少し辺りを見回した後に俺に鼻を近付けてきた

胸の辺りに鼻を寄せ、二…三回程俺の匂いを嗅いだ

その行為について咎める声も出なかった…心中じゃ出るが

 

「…お前、本当にあの女の」

 

風見は驚いた様子で顔を離した

何か、知ったらしい…知った?分かったじゃねぇのか?

どっちでもいいだろう…何かが分かったんだ

 

「…ふふふ、面白い、面白いわ

 お前、運が良いわね…気分がのってきたわ」

 

彼女はそう言うと、俺をその肩に担いだ

まるで銭湯でタオルを肩にかけるように、軽々と

…装備類を見て見りゃ割と重量がある筈なんだがな…

 

 

 

 

ゆらゆらと体が揺れる

小舟の上に乗っているかのように、心地の良い波が来る

 

 

 

 

…俺はそのまま、意識を揺れる波に任せることにした

もはやこれ以上瞳を開けている必要も無い

 

 

…もう、疲れた



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深いまどろみ

紫色の全域

 

いや、正確には違う、全く違う

紫色のそれは全てぎょろぎょろ動く目玉だ

視界の全ては目玉に埋まっていた、気持ち悪い

気を休めたいというのにこれでは休まらん――

 

「わけねーだろバーカー俺は寝るわ、寝る、寝るってったら寝るわ」

 

俺は視線を全部無視して横になる

もう、本当に鬱陶しい視線どもである、死ね

眠ったくでしょうがない…

 

「…なぁ、目は口ほどに物を言うとは言うがよ、そんな見られた流石に気にするんだよ

 あぁ?俺がそんなの気にするってか?するわ!するに決まってるだろうがよ!」

 

俺は怒号をあげる

しかし、この目玉達は嘲笑うように目を細めたり開くだけで閉じることは無い

…もう刺した方が早いんじゃねぇかなぁ。

 

「…鬱陶しい」

「あらあら、そう言わずに」

「…!?!?!?あぁぅあたあたたただだだ!?」

 

俺はすぐさま腰に張り付く奴から抜け出す

あまりの恐怖に人語を話せなくなっていた

…こいつ…コノヤロウ…ッッ!!!

 

「お前…!あの時のクソ野郎…!」

「あらあら、レディに使うことじゃないわね」

「うるせぇ死ね!」

 

直ぐに銃を取り出し、引き金を引く

しかと命中したはずの弾丸は彼女に当たることは無かった

命中する部分にあの忌々しい裂け目が生まれ、弾丸を吸い込んで行った

 

「大人しく死ねよ」

「まだまだ死ねないわ、それに殺したら貴方の母親の居場所は一生わからないわよ?」

「…ッッ!お前が母さんを語るなァァッッ!!!」

 

大剣を握ろうとするが、そんなものはどこにも無い

ブーツの横にある鞘から短刀を抜き取り、奴に突き刺す

 

…が、弾丸と同じように彼女には当たらない

何ともインチキな、ふざけた能力だ

 

「この腐れアマ野郎が!」

 

ならば肉弾戦だ

短刀を仕舞い、拳を握り込む

そのまま腹部に向けて短いストレートを叩き込んだ

 

「遅いわよ」

「早ッ…!?」

 

しかしそれは捕まれ、いつの間にか俺は"上下反転"していた

何を言っているか分からないと思うが、俺も分からない

現状はまるで映画の【E.T.】の様だ…こんなのと指を当てるとか嫌でしかない

 

 

「今の貴方じゃ私に指一本触れられない…逆に触れてあげる」

「…ああっあぅああっ!さ、触るなぁ!」

 

彼女の指先が、腕が、体に絡まってくる

ツタのように複雑に…かつ、早く絡まってくるのだ

 

「これ以上触るな!殺すぞ!」

「…殺せるのは、どちらかしらね?」

「…――はッ」

 

いつの間にか、喉元に傘の先端がさされていた

目玉だけを動かして見てみると、いつの間にか現れた裂け目の先から傘が伸びてきている

 

「…この裂け目はスキマ、スキマっていうの

 移動にも、攻撃にも便利なのよ」

「…攻撃なんてそのスキマとやらからものを出す程度だろ?

 その程度で何ができるって――」

「左腕をご覧なさいな」

「急に――ああぁぁったううっあだっあああッッ!、あああああああああああ!!??」

 

俺は何故気付かなかった

俺の左腕はいつ間にか存在していなかった

あるのはいつのまにか切り離された左腕の上腕二頭筋から上のみ

そこから下はどこを見渡しても存在は確認できなかった

 

「あああっあああ――俺のぉぉ…腕がぁぁああああああ!ー、!

 いたい!いたぃぃっああああああッッ!!!」

 

鎮痛剤なんて無い

痛みがモロに精神に直撃し、ズタボロに引き裂いていく

何かの手違い拷問かと勘違いしてしまう

 

何も聞かれてもいないし、何も言ってもいない

 

「ああっ、あああっあああいいいっィィィイっ!!!」

「ほらほら、まだ、終わらないわ…」

「はなれろぉぉオォ!来るなァ…!来るなぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黙って

 

凛とした声が辺りを支配した

俺は口がまるで塞がれたように声が出せなくなった

声を出そうとしても、何も出ない、舌も動かない

出来るのは呼吸しかできなかった

 

「ここは、夢の中

 あなたの考えはよく分かるし、なんでも出来る

 でも、今この夢を支配しているのは私、私が創造主(マスター)なの

 あなたはただの駒、登場人物でしかない」

 

彼女は俺の胸板に頭を置いた

本来、俺ならこの頭を叩き割る手段を豊富に持っている

 

しかし、銃も、ナイフも、大剣も無い

 

拳は通用する訳が無い

 

デッドエンド、詰みだ

 

…救いは、これが現実では無いこと

いつしか晴れる夢である事が、救いだろうか

 

 

「えぇ、もう時期この夢は晴れる

 しかしねぇ、夢の中でもこんな調子じゃあねぇ?」

 

 

 

彼女は体をずっと動かしてくる

胸板に彼女の胸にある柔らかさが押し付けられる

人間とは思えない白魚のような腕が頭を包み込む…

彼女の金髪が蜘蛛の巣のように覆いかぶさってくる

傍から見ればまるで俺は金のクモの巣にかかった蛾なのだろう

 

生暖かい吐息が耳元にかかる

 

興奮というよりは、寒気が体を支配していた

彼女の気分次第で俺の精神はズタボロにされる

 

そもそも、夢は精神世界だ

この俺の体は精神そのものに過ぎない

 

殺されれば、死んだも同然

 

そういう夢なら、悪夢で済ませられるんだけども

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次の責め、耐えられないわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…――」

 

 

意識が浮上する

恐ろしい悪夢を見ていた気分だ、吐き気がする

未だに何かが俺の体に張り付いている気がするのだ

気持ち悪い、汚い、不潔、妖怪…死ね

 

「…動けねぇ」

 

体が壊れすぎて動けないのでは無い

何かに拘束されていて動くことが出来ない

それが恐らく植物のツタなのは分かる、ツタの花が咲いている

 

霊力は半分程回復している

どうも誰かさんが普通の介護をしてくれたらしい

…普通?ツタで縛り付けるのは普通か?

まぁ、そこは個人の感性によるか…

 

霊力を消費して燃やすのも可能だ

ただまぁ、それだと花を燃やしてしまう…

 

「だから"容易に脱出は出来ない"、でしょう」

「…心を読むのが得意のようだな」

 

頭の横から声がした

見てみればツタをクルクルと回している風見の姿が見えた

彼女は俺の言ったことに関して首を振った

 

「いいえ、貴方の身体にツタを入れ込んでいるから分かるのよ

 …なんでそんなことをする必要がある…ですって?」

 

凄まじく恐ろしいことを言われた

ツタを注入された感覚はないのだが、どうもやられたらしい

意識を失っているうちだろうな…その時にツタを巻き付けたのだろう

 

「正解、お前の回復を早めるのと…監視をするため」

「…気持ち悪いな」

 

それは風見に対しての言葉ではなかった

ツタの一部が俺の中に寄生し、根を生やした感覚についての言葉だった

寄生って言うのは大体宿主にろくなことは無い

 

共生ならいいんだけれど

 

「あぁ、そんなこと」

 

風見は俺の言葉に対して面白そうなものを見る目だった

彼女は俺から視線を外して外の景色を見始めた

そのまま、どこかを見ながら会話を続ける

 

「その種は成長する

 しかし完全に成長しても大きさは1mmにもならない

 …えぇ?mmが分からないですってェ?」

 

彼女は大きくため息をついた

どうも初歩的なことを知らなくて呆れているらしい

いやだってこちとら幻想郷の僻地やねん、人里から離れてんねん

 

「そういう訳じゃなくてねぇ…まぁいいわ

 もう面倒だからあなたの記憶、少しいじるわ」

 

何かの怒号をあげようとしたが、その前にツタが頭にぶっ刺さる

不思議なことに意識がすっ飛ぶことは無く、新たな知識が植え付けられる

まるで何も無い花壇に予め咲いている花を植えていくような感覚だ

 

いきなり知識が追加されるというのは心理的なダメージを与える

しかしまぁ、俺はあらゆることに直面したせいかそれほど問題にとめなかった

 

「…はい、これで大体の基礎知識は入ったはずよ

 それじゃぁ、とりあえず会話の続きをしていくわね」

 

彼女はそう、続けて行った

ただ、その視線はずっと、窓の外に向いていた

まるで何かが外でこちらを見ているかのような、睨みつける目だった

 

「完全に成長しても1mmなら今はもう一マイクロレベルよ

 あなたには一切の害はない、本当よ、私がお前を操り人形にすることは出来ない」

 

…いやツタをやれば行けるだろうこれ

 

「私に何本ものツタを行使しろと?疲れるわよそんなの

 …兎も角ね、栄養は皮膚から投下してきた太陽光を頼る

 水分は空気を水蒸気化する特殊な品種だから考えなくて合い」

 

まぁ、あまり深く考えるなということだろう

俺は心の中で納得のいかない納得をし、あることにため息をついた

 

それは俺にとって嫌なことでもあったからだ

 

「"いつ、ここから出れる"…かしら」

 

そうねぇ、と彼女が顎に手を触れながら、考えた

少しだけ体に巻きついたツタが蠢く

 

「軽く見積って2日、多く見積って7日かしらねぇ

 お前、異常に治りが早いのよ」

 

幽香はそれだけを言うと

 

「私は花達に水を与えないとね、お前は大人しくしときなさい」

 

ジョウロを持って、この家屋から出ていった

俺は、こんな所で燻っていて意味が無いのでさっさと出ようとする

 

が、思いのほかこのツタの力が強い

俺から起きた時はそれ程の力だったはずだ

 

…風見め、逃がさないつもりか

 

「…仕方ないか」

 

俺はそう思いながら目を瞑る

悪夢を見るのはコリゴリだが、目を開けているよりかは良い

 

現実も現実で汚いものばっかりであるからなぁ



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あれから数日が経過した

体の傷はほとんど回復し、霊力もほとんど戻った

体を覆うツタの感覚には慣れたものだ

 

…慣れたものだが

 

「あまりいいもんじゃない」

 

悪態をつきながらツタを引きちぎる

体に異物をいれられるほど嫌なものは無いだろう…

足を床に着け、改めて部屋の中を見渡す

見た限り小綺麗な部屋…という印象を受ける

ものが散らかっているわけでもないし、必要以上に物がある訳でもない

 

家具であるのはタンスと机と椅子、そしてこのベッドくらいだ

殺風景とも言えるのだろうか、これほどものがないとそうとも言うのだろうか

 

「もう少し眠ってても良かったと思うわよ」

「そんな時間は無い」

 

入ってきた幽香に俺はそう言う

俺に残された時間は少ない

寿命だとか、命の危機だとかそういうのでは無い

 

ただ時間が無いのだ

 

「そんなの言って、何をするのよ」

「ただ帰る、それだけだ」

 

外を見てみれば夕焼けが綺麗である

俺が時間が少ないと言ったのはこの為である

わざわざ妖怪が跋扈する夜中に来る訳にはいかないのだ

 

なぜなら現在装備が銃しかないからである

ナイフは勿論あるが基本奴さんは複数で来ることが多い

超近距離戦では妖怪に分がある、俺達には無い

 

「そう、気をつける事ね」

「世話になった」

 

俺はそう言うと、幽香の家から踏み出した

久しぶりの外の空気というのはなんとも美味い

こんなに美味しかったか?外に出れていないからだろうか

 

赤い夕焼けに向けて走り出す

こんな時でも、人間というのは余裕綽々だ

太陽の畑が太陽の光を受けて、もはや神々しいまである風景を生み出す

人がどれだけ頑張ろうとも生まれることの無い景色に感動は…しない

 

そんなことより、早く帰ろう

俺はそう思いながら花を踏まないように駆け足でこの畑から抜けて行った

 

途中、何回か踏みそうになったが寸前で回避をすることが出来た

踏んでしまえば、今度こそ殺されてしまうだろう

ミンチにされて花の栄養にされてしまう

 

…余程の花好きでない限り、そんなそんなことは無いのだが

 

 

 

博麗の巫女の朝は早い

先日終わらせた妖怪退治の疲れを癒しきれて無い体に鞭を打って起き上がる

昨日は妖怪が思いの外抵抗をして傷を受けてしまった

 

最近の妖怪は骨が無いやつが多い…直球に言うなら弱い奴しか居ない

 

数年前くらいにはかなり骨のある奴らが多かった記憶がある

天狗の奴らも柔らかくなったし、下手くそになった。なんとも酷い

 

「さて」

 

私はぐいと背中を伸ばしながら境内に躍り出る

ピッチリとしたインナーはかなり動きやすくて良い

前まではただの和服を使っていたのだが、紫が支給しやがった

渋々着てみると思いの外使いやすかったので好んで使っている

 

…今見て見ても巫女が着る服じゃない

なんで太ももの一部が見えるんだよ、なんで腋が丸出しなんだよ

防御面とかなんも考えてないでしょうよ、コレ

このデザインを考えた奴は相当変態なのだろう、巫女さんにこんな服をして欲しいなど

 

私なら笑顔で殴る

 

「…やるか」

 

まず、体を起こす為の運動である

何もせずに妖怪退治に行くのとやってからでは結果が違う

やらないで後悔するよりやって死ぬ方がいい

 

――

 

「ふぅ…」

 

辺りがまるで灼熱のように熱い

鳥居の根元にある鉄が真っ赤になっている

夏だというのもあるが、私はどれだけ発熱しているのだろうか

 

人体というのは不思議な物で霊力で保護してないのにも関わらず全く支障は無かった

不思議なものである、やはり非常識

 

「相変わらずね、――」

「そっちも相変わらず神出鬼没だな、八雲」

 

いきなり現れた紫を気にする様子もなく装備を整える

あまりの熱気に紫は臭いを払うように手を振る

 

「よくもここまで体をイジメ抜けるわ

 しかも毎日、鬼でもしないわよこんなの」

「だからこそ人間は強いんだ、お前達暇人とは違う」

 

流れる汗を吹き払い、大幣を持ち上げる

気のせいか熱に大幣の紙がやられている気がした

クルクルと器用に回して境内から飛ぼうとする

 

 

 

「何処に?」

 

 

彼女は巫女の背中にそう言った

巫女はぴたりと止まった

振り向かずにその場に静止する

 

「…いつも通りだ」

「また"あの"調査に?」

 

彼女が言う'あの"は妖怪が無差別に殺されていることである

あれから回数は減ったもののそれでも犠牲は出ている

そこらの雑魚妖怪ではあるのだが、居なくなれば幻想郷に歪みが生じる

 

妖怪が少ない幻想郷など人間の住処に過ぎない

 

「答えは思いの外近くにあるかもしれませんわよ?」

「そうだといいな」

 

無理矢理話を止める為かのように彼女は飛翔した

空に紅一点というのは悪目立ちするものである

 

扇子をバサリと広げる

暑苦しい熱気はいつの間にか風に吹かれ、消えていた

 

 

「…親子そろって、似た者同士ね

 いや、親子だから似るのは当然かしら?」

 

少しのおかしさにからからと笑い声がもれてしまう

数十秒、笑っているとどこからともなく針が飛んできた

 

「あらまぁ、耳がとてもいい事で」

 

針を人差し指と中指で挟み込む

これといった術式は組み込まれていないようだ

ポイとそれを境内に投げ捨てる

 

この腕ほどの長さがあるのは博麗の巫女の武器だ

基本的にこれを妖怪にぶん投げて弱らせた所を殺すというのを基本戦術にしている

 

ただ、彼女はこういう精密なことは嫌いなのか肉弾戦を好んでいる

だから携行している針の数も少ないし、長さもあまり無い

基本的に拳で終わるのだから、持っていても意味が無いのだ

…大幣も型式なだけのものだ…なんで持っていくのだろう

 

「…後釜が心配ですわ、あんなゴリラが師匠なんて」

 

次の博麗巫女が可哀想である

博麗巫女の継ぎ方は代々教えていくという方式なので彼女が後釜に教えていくという感じだ

 

…霊力操作はほぼ拳やら脚やらに行ったり防御や攻撃に行っている

回復も…まぁ、人並みの術士くらいにはできる

基礎は確実に教えているのでどうにかしてくれるだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふふ、可哀想に」

 

空から消える紅に嘲笑が出てしまう

当たり前とも言えるかもしれなかった

彼女を傍から見れば、愚者でしかないのに

 

「息子を失ったとどこかで信じているのに…それを信じきれない

 息子は生きていると信じて…今日も虐殺をする」

 

どこかで咆哮が聞こえた

恐らく、調査中に中級妖怪に出会ってしまったのだろう

 

だとしたら、その妖怪は運が悪かったとしか言いようがない

 

 

「…本当に、可哀想」

 

右腕を閃かせる

すると、横に空間が切れるとそこからスキマが発生する

そこでは博麗巫女と中級妖怪が戦いあっている姿だった

 

しかし、それは戦いと言うには惨すぎるものだった

 

中級妖怪に片腕は無く、顔面らしきものは半分が抉れている

脇腹もぽっかりと空いておりそこから内蔵が零れ出ている

見てわかる通り、中級妖怪は怯えていた

 

目の前の圧倒的暴力の化身に

 

その化身と言えば体を真っ赤にして、幽鬼のように近付いている

瞳に光が無く、動きもどこか機械的に感じる

妖怪が投げる大岩を軽く弾き飛ばし、一瞬で妖怪に近づく

 

妖怪が気付けば、上半身と下半身は分断されていた

巫女は拳を振った状態で動いていない

 

拳を振った瞬間は私にも見えなかった

 

…どれだけ早かったのだろうか

 

そう思いながらスキマを閉じる

スキマから妖怪の叫び声が聞こえるが、特に気にしなかった

ああいう犠牲も付き物だろう、というよりあそこに居た妖怪が悪い

 

 

私はそう思いながら、布団の中に戻ることにした



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追跡

コマンダーヨリ

最近、妖怪ヲ虐殺シテイル者ガ居ルラシイ
恐ラク何カ妖怪二私怨ガアル者ガヤッテイルト思ワレル
見ツケ次第、仲間二ナルヨウ催促セヨ


ナオ、手段ハ問ワナイモノトスル


森の中を進んでいく

接近戦になってもどうにかなるようにナイフと銃を同時に構えている

ナイフ一本でどこまで行けるかと聞かれれば中級妖怪止まりだろう

そこから先はもはや壁が高すぎて何も見えない

 

「…」

 

己の規則正しい呼吸音の耳に聞こえてくる

それ以外は何も無く、森は静寂に包まれていた

囀る鳥も居らず、動き回る鹿すらここにはいない

 

…ならいるのはひとつしかないだろう

 

俺は直ぐにその場に匍匐する

妖怪は匂いやらなんやらで俺に気付くと言うが、この服にはそれらをせき止めるものがあるらしい

どうやってかというのは頭が痛くなるのであまり理解はしたくない

 

てか出来ないだろうな

 

「グルるるるる」

 

後ろを低級妖怪が通り過ぎる

先程まで獲物がいたのに瞬きすればいなくなっていた

恐らくずっとつけていたのだろう、じゃなければこんな様子では無い

その妖怪が通り過ぎるのじっと動かずに待つ

 

にしても不覚だ、いつの間にか付けられていたなんて

普段の俺ならあんな低級妖怪なんぞ簡単に回避していただろう

なのに今回は俺は何故かつけられたのだ

 

「…ッそういう事か」

 

俺はその場から立ち上がり、全力でダッシュする

先程の低級妖怪が涎を撒き散らしながらとんぼ返りしてくる

 

しかし、そんなのは気に止めるほどでも無い

 

それよりも不味いのが居るのだ

 

上から何かが飛び移る音がハッキリと聞こえてきた

枝から枝へ、人間離れした技を軽々とやってくる

俺は知らなかったが、幽香が記憶を入れてくれたからよく分かった

 

天狗のやり口だ、これは

 

「ここは妖怪の山の領域じゃない…

 野郎いつの間にかつけてやがったな?」

 

恐らく最初からつけていたのだろう

山で俺が襲撃した後、辺りを哨戒していた奴が発見したのだろう

その場で始末するより仲間を見つけ出して纏めて始末する気だ

 

…この服は死人から取ったものだから仲間がどなたか知らないが

 

『お前たちの仲間は死んだ、早く出てこい』

 

それを肯定するかのように上から声が降ってくる

聞く限り敵は3人と思われる、枝から飛び移る音が1人では無いのを確実にしている

…この音の鳴り具合からして三人で確定だろうか

姿を見ないと分からない

 

「クソッタレ」

 

先程から追い回していた低級妖怪はもう居ない

天狗に怯えて既に逃げていたのだ、危機察知が遅い

 

森を超えていく、少しだけ視界が晴れる

 

 

 

駆け回っていると、少し開けた場所に出た

それだけなら良かったのだが、そこには残骸が散らばっていた

 

装甲車両、テント類があるが全て破壊されている

装甲車両の前面はひしゃげ、機銃手は上半身が無い

地面には恐らく殺されたであろう人間達が転がっている

よく見ると2人程肩に見た事のあるエンブレムがあった

俺の服の肩にあるヤツと同じだ、…E.E.F.

黙祷する暇もない、その胸にあるスタングレネードを奪う

 

いつの間にか枝から飛び移る音は消えていた

俺は囲まれる前にまだ燃えきっていないテント内などを探し回る

見たところテント内には弾薬が少しばかりあった

ガバメントのマガジンがあるのに気付き、リグに入れる

その横に接近戦で役に立つショットガンの弾薬があるのに気付き、ポケットにぶち込む

本体に関しては外の死体が持っていたはずだ

そうして、俺が外に出た時だった

 

「動くな」

 

森の方向から、そんな声が聞こえてきた

俺は目だけをそちらに向ける

 

矢をつがえた白狼の兵士が1人、こちらに照準をつけていた

 

「そのまま動くな、動くと貫くぞ」

 

後ろから刀を抜く音が聞こえた

2つだ、足音も2人のものだ

やはり敵は三人だった、天狗3人だ

 

前から矢を引き絞ったまま白狼兵士が近付いてくる

 

「こいつ、ここで殺すべきだろ」

「そうだそうだ、こいつらも殺しただろう?」

 

俺の後ろからそんな声が聞こえた

勝ちを確信した、典型的な声だ、つまらない声だな

 

まるで俺が確実に負けるみたいじゃないか

 

「いや、こいつは用がある

 山の仲間を殺したって用が――」

「じゃ、俺がお前を殺してもいいわけだ」

 

もはや矢が意味の無いほど近づいた彼にはアホだろという言葉しかない

この距離なら妖怪の反応速度にしても、ナイフの方が有利なのだから

 

電撃的なスピードで奴の腹に五、六回突き刺す

白狼兵士は呻き声を上げながら殴りかかろうとする

俺はそのスピードを上手く生かし、俺が拘束するような形になる

 

「しねぇええええ!!」

「ぐわぁっ――」

「あ」

 

錯乱した2人は俺に対して刀を突き立てようとしたが、結果は違った

彼らはまんまと俺が拘束した白狼兵士の顔面と心臓に刀を突き刺したのだった

絶命し灰になろうとしているこいつを2人に向けて突き飛ばす

刀は刺さったままだったのでそのまま2人は体制を崩した

 

俺は近くの死体からショットガンを取り上げる

ウィンチェスターM1897、トレンチガンだ

見たところ12ゲージの30インチのものだ

 

俺はコッキングをし、即時に天狗兵の頭に狙いを定める

 

やつが何かを言う前に引き金を引いた

 

すると風船が破裂するように頭が砕け散る

顔に生暖かいものが付着するが関係ない、今度は心臓を撃った

生命力を無くした体が地面にばたりと倒れる、間もなくして灰化していく

 

「…」

「ひ、ひぃ!」

 

もう1人の生き残りに近づいていく

この生き残りからすれば同族の血を頭に付けた狂人だろう

弾倉を見ると、後1ゲージ残っている

ゆっくりと、しかし確実に銃口を向けた

 

妖怪の方が接近戦は有利というのにこいつはそれすら忘れているらしい

天狗らしくなく、人間な彼は媚びた

 

 

 

恥知らずと笑われるのも承知の上で

 

 

「ま、待て、お、俺はな――」

 

 

しかし、相手が悪かったとしか言いようがないだろう

相手は親を妖怪に奪われた人間なのだから

そんな命乞いを聞くに値する存在では無いのだ

 

俺が命乞いを聞くのは八雲だけだ

それ以外は絶対に聞いてなるものか

 

頭をぶち抜き、足でその心臓を貫いた

元々生命エネルギーが少なかったのか、即座に灰に帰した

 

トレンチガンを捨てる

接近戦において強いが、なにか物足りなかった

 

「…そういえば」

 

今思ったことだが、こいつらは何かを守っている配置をしている

よく見てみると真ん中に運搬車があるのが分かった

近づき、中を見ると大きな箱がある

 

蓋を蹴り開け、中身を見てみると大きな対物ライフルだった

 

「アンツィオ20mm対物ライフル…」

 

刻印に刻まれた名前を呟く

俺は少し迷った後それを拾い上げる

とても大きい、俺の身長以上ある…なんだこのアホ兵器

どうも特注の改造品のようで折りたたむことができるようだ

それをコンパクトに折りたたみ、背中に背負った

 

「収穫はあったな」

 

この同族の死体達には申し訳ないが、役に立った

こいつらも目指すところは同じなのだろう

 

そして、妖怪を殺す理由を同じ者も居るのだろう

 

しかし、俺は傷の舐め合いはしない

そんな惨めで慰めにもならないことをする意味は無い

せめて、せめて妖怪を殺せるくらいにはあって欲しい

 

…にしても

 

「やれやれ疲れた――」

 

俺がため息をつこうとした時、カチリ、と音がした

足元を見ると丸い、板状のものが敷かれていた

外の世界の知識に当てはまるものがひとつある

 

…地雷だ

 

「――ッ!!!」

 

身構えた俺を嘲笑うように黄色の煙が噴出する

俺はどうにかして鼻元を抑える

 

(マスタードガス!?いや、違うこれは――)

 

俺はがくりと膝を崩し、その場に四つん這いになる

足腰に力が入らない、まるで全身が眠ってしまったかのようだ

…睡眠ガスの類だ

 

(くそ…完全に見落としていた)

 

そこらの雑魚妖怪を近づけないために地雷くらいは敷設するはずだ

なぜそんな当たり前なことに気付かなかった

幸運なのは睡眠ガスな所だろうか

 

(い…しき、が…)

 

四肢に力が入らなくなり、そこにうつ伏せになる

 

僅かに残った視界に、何かが見えた

金、僅かなる金の輝き

 

(…あれは…尻尾…?)

 

黄金の美しい尻尾が見えた

ゆらり、ゆらりと揺れている

 

まるで火だ、始まりの火だ

 

(…いや、あ、あれ…は…)

 

俺は今気付いた、それは()()あり、それの真ん中に人型があることに

どうして初めから気づかなかったのだろうか

 

どうして、この妖力に今頃気づいたのか

この押し潰すような圧力の妖力に

 

妖怪の中で9つの尻尾などあの妖怪しか居ないのだ

 

 

 

 

 

 

 

「…九…尾」

 

それが限界だった

やがて俺は意識を完全に失い、闇に落ちたのだった



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組織のしがらみ
起きた先


「…」

 

目を開けた

急激に意識が浮上し、現実を俺に叩きつける

本当ならもう一度寝てしまいたいものだが、それは無理というものだ

 

なぜなら自分が横になっていたのは地面ではなくベッドの上だからだ

 

どこかの家屋の中らしい、小綺麗に整頓されている

風見の時よりも物が少ない…なにより花がない

それだけでここが風見の家ではないと確信した

 

体を見てみると、何かの管が腕に刺されそこから何かが注入されていた

その管の先を見てみると外の世界にある点滴のようだった

どうも俺は誰かに助けられたらしい、礼を言うべきなのだろうか

 

「動かない方がいい、下手に動くと怪我をする」

 

横からそんな声がかかった

男の声だ、妖怪の実力者で男というのを聞いたことがない

見てみるとミリタリーな服装をした軍人がいた

見た目だけでなく、太ももに銃の入ったホルスターが見える

赤十字の腕章があり、彼が軍医であることを示している

 

「どのくらい眠っていた」

「軽く一日、凄いことだ、あのガスは妖怪でも二日は寝るというのに」

 

彼は手に持ったカルテから目を離すことも無くそう言った

俺のことはどうでもいいような物言いだ

 

…俺はこの時意識が混濁していたのだろうか

もしくはまだ"この世"に立ってるというのを信じられなかったのか

 

「…ここは天国か?」

 

俺は突拍子も無くそんなことを言った

知らない天井を眺めながら、ぽつりとそんな言葉が出た

 

泣き言だったかもしれない

俺が生きていたくないと思ったのはこれが初めてだった

 

しかし彼はそれを切り捨てた

 

 

「地獄さ、妖怪が跋扈するクソッタレな地獄だ」

「…あぁ」

 

俺はため息をついた

どうしてまだ、俺はたっているのだろう

九尾に殺されたかと思えば、そうでも無い

 

…そういえば

 

「俺はどうやって発見された?」

「君がどうやってここに来たか?

 あの輸送部隊から連絡が一切無くなったから捜索隊を出したんだ

 そうすりゃ睡眠地雷の上で眠りこける似非EEFを見つけたってことだ」

「…お前もそうらしいな」

 

彼の腕章の下にちらりとEEFのワッペンが見えた

どうも俺と違って本物らしいが

 

「…自己紹介がまだだったな

 EEF軍医、メディックの八重月夜だ」

「俺は…村斬双星だ…後、先に言うが名前で呼ばれるのは嫌いだ」

 

俺は名前で呼ばれたくは無い

名前というのは不便なもので、俺という個人を固めてしまうのだ

"俺"という存在は村斬双星として固定され、以降変えるのは難しい

 

だからこそ、俺はこの名前を忘却させたかった

 

彼は軍医らしく、それに反対することは無かった

そして別の提案を俺に持ちかけてきた

 

「…そうだな、大尉と呼ぶことにしよう」

「なぜだ?」

 

彼は俺の肩を指さした

そこにはなるほど、大尉という階級を示す章があった

だから大尉と呼ぶのだろう

 

「…いい響きだな、大尉というのは」

「一応上には伝えておこう、ま、聞かないやつもいるだろうが」

 

彼はそう言うと椅子から立ち上がり、部屋から出ていこうとする

部屋から出る直前、彼は少し立ち止まった

 

「…君の傷は割と深い、たが再生速度も早い

 運が良ければ明日でベッドから降りられる」

「そりゃ吉報だな」

「それはどちらの意味でだ?妖怪を殺せるからか?

 それとも…ただ単に傷が癒えたからか?」

 

…俺はその質問に答えることは無かった

妖怪を全員殺す、それだけの意思でここまで歩いてきた

ただ、あんな九尾の妖力を見ると少し怖気付いてしまうものだ

 

"妖怪を絶滅させる"

 

それだけの言葉がいえなかった

 

「…まぁ、答えは直ぐにとは言わない

 物事を急ぐのは愚者のすることだからな」

 

そう言って彼は部屋から退出した

残された部屋に響くのは、俺の心拍が送る、ピッピッという電子音だけだ

何故か俺の心拍は起きた時よりも安定していた

 

何か、俺は安心できたのだろうか

 

それとも、何か悟ったというのか

 

…どちらでもいいことだろう

 

明日にはそんなことを考えることも無くなるのだから

 

 

 

夢の中の俺はずっと海の中にいるような感覚だった

死にかけた局面は風見以外無いものの、それ以上に戦った気分だ

 

思うように体が動かず、ダル臭い

 

ただ海中の気泡が発するゴボゴボという音だけが無常に響いている

俺の上には水面があるし、下には海底があるはずだ

筈、というのはいくら見てみても海底は見えないからである

永遠の暗闇が下には広がっている、いくら光を灯そうとも何も見えないだろう

 

そうだろう、見えてはいけないのだから

 

 

時折、空薬莢や武器類が降ってくる

その黄金色の表面を煌めかせながら沈んでいく

アサルトライフル、サブマシンガン、ショットガン

あらゆる武器類が落ちてくる、種類を上げればキリがない

 

 

そして、また別の物が堕ちてくる

 

 

ゆっくりと海底に沈んでいく装甲車や家屋

ありとあらゆるものが海面に降り注ぎ、海底に落ちていく

恐らく海底は沈んだ都市のようになっているだろう

 

 

そして、挙句の果てには妖怪の山が降ってきていた

 

 

何故、俺はこんな夢を見ているのか

 

そう思っていると、腹に何かが引っかかる

何かと思う暇もなく海面に向けて引っ張られた

 

俺は、無意識にその海底に手を伸ばしていた

 

 

 

「危ないわ、深淵に助けを求めるなんて」

「助けを求めてたのにそれを邪魔するなんてな」

 

彼女はまるでワルツのような形で俺を支えていた

遠くに分厚い水平線が見える海面上に引っ張り出された

俺は彼女を押し返すように支えから離れた

 

「あら、そんな遠慮するものでもないわよ」

「遠慮しておく、"八雲紫"」

 

俺を引っ張り出したのは他でもない八雲紫本人だった

前の夢が嘘かのように、そして俺が妖怪嫌いなのが嘘のように接していた

 

ポケットに手を突っ込み、水平線を眺める

ここから見てもあまりに分厚く、彼方まで陸がないのを察せられる

 

そもそも、この世界に陸などあるのだろうか

 

「ここはあなたの深層心理、というヤツね」

「俺の心理の中に土足で入ってくんなよ」

「まぁまぁ、減るものじゃないんだから」

 

彼女はくつくつと笑いながらそんなことを言った

そういうことでは無いだろうと闖入者に腹を立てながら辺りを見渡す

海面の世界は透き通った色で囲まれていた

空には雲があまり存在せず、美しいと思えるくらいの数程雲があるくらいだった

太陽が白銀のように輝いている

 

俺の世界は透き通っていた

血で濡れた表とは対照的に中は幻想的で美しい風景が広がっていた

 

「静かな世界ね、私"達"の声が響いて聞こえる」

「俺をお前と同じように数えるなよ、全く持って違うんだから」

 

確かに俺たちの放つ声は響いて聞こえた

まるで洞窟の中にいるように、彼方遠くまで響いていく

 

「どこにいてもお前の声が聞こえるというのは吐き気を覚える」

「あら悲しい」

「そんなもんだからもっと吐き気を催す」

「そんなに言わなくてもいいじゃない?」

 

彼女と"背中合わせの状態"になりながら俺はそう言った

水面が時折俺"達"を中心として波を立てる

 

この美しい世界に紫は必要ない、要らない

 

「…本当にそうかしらね」

 

彼女は背中合わせの状態でそう言った

俺には彼女の顔が見えないから、何を思っているのかも分からない

 

彼女の扇子を開く音が鋭く響く

 

「あなたにとって妖怪って何かしら」

 

説明不要、殺すべき敵である

あの日お前に全てを奪われた時からそれは決まっている

俺は天に"足をつける"、彼女から見れば逆さまの人間がいる

空中に見えない足場を見て、そこに逆さまで立っている

 

「本当に?あなたは本当にそう思っているのかしら」

 

彼女はくるりくるりと傘を回しながらそう問いかけてきた

その扇子で口の隠れた顔は俺に真実を問うてくる

俺はなんのために妖怪を虐殺しているのか

 

それを聞いてきている

 

「本当は分かっているはず」

 

彼女の足元から波紋が広がる

その波紋はあっという間に水平線の向こうに消えていく

 

「貴方は分かっている」

 

それ以上喋るな

俺はそう言いたかった

しかし口はその言葉を放つことが出来なかった

何も言うことは出来なかった

 

まるでそれが真実のように

 

「そう、妖怪を■■ことが出来ない

 その事を貴方は誰よりも分かりきっている――」

「黙れ」

 

俺が"奴"に向けて指を指す

すると水面が鋭い槍となり、彼女を突き刺す

かえしがついた槍が容易に抜けるはずも無かった

 

「あら痛いわ、レディにこんなことするなんて」

「お前みたいなレディがいるかよ」

 

水の槍は奴を俺の顔前まで持ち上げる

俺の顔の前に奴の顔があった

その顔は恍惚な表情に染まっていた

 

「綺麗な顔だ…どこにも不満が無い、いい顔だ

 それに、美しい目をしている、綺麗な紫だ、おまえにピッタリだな」

「あら嬉しい、褒めてくれるのね

 それに、この水の槍は能力かしら」

 

俺は水の槍を消失させる

彼女はすたりと何事も無かったかのように着地する

 

「ここは俺の世界だ、なんだって出来る」

「ああ、そうだったわね、ここは貴方の夢の中だったわ――」

「んだからさっさと退場しろアホ、俺ははよ寝たいんだよ」

「ああぁぁ〜〜〜〜〜〜れえぇぇぇえええ〜〜〜〜〜」

 

指をさしてポーンと俺が呟くと彼女が等直線運動しながら水平線の彼方に消えていく

 

…完璧なTポーズだな、アレ

 

現実ならあのバカはスキマで帰ってくるだろうがさっき言った通りここは「俺の世界」だ

んな事俺が許可しない、当たり前だそんなインチキ能力

 

「はぁ」

 

俺はため息をついた後、その場に座り込んだ

彼女が居なくなった世界はより一層静かになり時折俺を中心として出てくる波紋以外音はなかった

ある意味として俺が望んだ世界だろうか

 

ひとりが落ち着くかもしれない

 

もしくは長い間1人ですごしたからだろうか

 

答えは一向に見えないばかりだった



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仲間

仲間という定義は複雑である

職としての"仲間"なのか

それとも、友情としての"仲間"なのか

ありとあらゆる定義が存在する


翌日には俺は歩行できるくらい回復していた

八重はお前妖怪かよとドン引きにしていた

取り敢えず彼は妖怪呼ばわりした刑としてシバいた

 

「…以外に普通の村と変わらなねぇな」

「流石に外面を近代化は出来ない、直ぐにバレるからな」

 

寝ていた平屋から出てみると、思いのほか普通の村が出てくる

建物が密集していて、外壁がある

建築様式はこの幻想郷らしいものだ…つまり古い

確かに八重の言う通り近代化すればそこが本拠地だとバレるだろうな

 

「にしてもこれだけか?仲間ってのは」

「いや、他にも点基地はある、意外と多いんだよ妖怪嫌いは」

 

あまりに基地の規模が小さかったので思わずそう言ってしまった

 

「あと、その発言は後で間違っていると分かるだろうな」

「そりゃ楽しみだ、想定外は好みでね」

 

実はほぼ全てが透明化していて今見えるのはその一部、とかだろうか

どうも外の世界より技術が進歩しているので光学迷彩なんかは既にあるだろう

 

「取り敢えずついてきてくれ、指揮官に案内する」

 

 

ここが本部か

俺は率直にそう思った

明らかに他の建物と大きさが違う

それに警備らしい兵士の人数が多い

 

彼らはいつか来る妖怪との戦闘が待ちきれないのだろうか

俺から見た兵士達は誰も彼もが浮き足立っている気がした

 

「少し待ってくれ」

 

中に入ると、俺は真ん中に立たされた

八重は壁に何かをする、何回か…何かを打ち込んだ

 

ガコンと床が下がっていく

 

「…成程、そら広い訳だ」

「納得しただろう?地上はただの飾りだ。」

 

人間の基地の真価は地下に隠されていた

カーゴの中に地図があったが相当な広さだった

その上地下に潜っていくというのになんら支障はない

 

「直ぐに会える、君と会うのを楽しみにしていた」

「…そりゃ光栄だな」

 

俺は司令官なる人物が腰抜けで無いことを祈った

…いや、この幻想郷でこんな組織を立ち上げられるなら腰抜けは無いか…

 

 

「助けてくれ…助けてくれ…」

「どうして俺がこんな…」

 

「…」

 

私はそいつらを無視した

ただ歩みを進める

 

この、壊滅しきった村を歩く

 

至る所で爆発が置き、家屋が燃えている

生き残りがいるのだろうか、時折短い銃声が聞こえてくる

 

決まって、その後に悲鳴が聞こえる

 

運が悪かった…と言えるのだろうか

山の方で何かがあって、その八つ当たりにここが襲撃されたと聞く

紫の情報であるから確定性はないが…この状況は火を見るより明らかだ

 

「哀れ、憐れね」

 

"同士"として彼らの死は心に傷を付ける

ただ、私にも今の立場と言うのがあるのだ

こんな時にそんなことは表立って言えない、絶対に

 

だからこそ

 

 

「仇だけは私が"獲る"」

「なんだァ…?見ねぇ顔だなぁ…」

 

 

この天狗達に 終止符を

 

 

「今殺したのは人里の者達も居る」

 

拳を握りしめる

 

「人里の人間を殺すのは締約違反となる」

 

強く握り締めすぎた拳からタラリと血が落ちる

 

「幻想郷の調律者として、お前たちを裁く」

 

多少の私怨を込めた拳を振りかざす

天狗達の顔が恐怖に染まる

 

当たり前だろう、相手は博麗の巫女なのだから

私がどのような戦法をするか、目敏い天狗なら知っているだろう

ただ、相手を本能のままに殴り殺す、時には拷問もする

 

そんな相手が死刑宣告をしているのだ、恐怖しない筈がない

恐怖に染まって動けない奴もいる

 

…関係ない

 

「…覇ッ」

 

勢いをつけその場で拳を思い切り振る

恐怖に染まって動けなかった白狼達は豪風に吹かれ、ちぎれ飛んでいく

辺りの家屋も巻き込んで、全てを薙ぎ倒していく

 

…歩く

 

「あ、ぁぁぁぁあああああ!!!」

 

もう既に正気を失った白狼の1人が大太刀を振り下ろす

それに対して私は避ける素振りもしない

 

なぜなら

 

「え?」

 

白狼は間抜けな声と顔をした

目の前のことが信じられないのではなく、理解出来ていないのだ

 

 

大太刀は折れていた

 

 

私は無傷だった

うんざりしてその白狼の首を掴む

あまりに呆然としていたものだからディレイを入れる必要も無かった

 

「ぐっ…がああっ…」

 

片手で白狼を軽々と持ち、そのまま歩みを進める

どうも天狗は数人だけだったらしい

死体の中に数体天狗がいるので舐めてかかったら手痛く反撃された所だろう

 

あと残るのはそこの2人だけだ

 

「あ」

 

掴んでいた白狼の首を折り、投げた瞬間に相手に音速で近づく

屋根から屋根へと飛び移るような面倒な動きはせず、直接そいつの懐に潜り込む

 

「待――」

 

制止の声など露知らず、思い切り昇龍拳をその顎にぶつける

行き場所の無くなったエネルギーが顎を粉砕し、辺りに小さな白い破片がばらまかれる

 

「ひ、ひぃいいいいい!!!」

 

武器である長槍を投げ捨て、空に飛び上がる

彼の目的は一刻も早く逃走し、この惨状を伝えること

恐怖に染った彼の頭にはこのことしか無かった

 

――この時、建物を上手く使えばもしかしたら逃げられたのかもしれない

しかし、逃げたとしても、意味は無いだろう

これは…これこそが、博麗巫女の仕事なのだから

 

「あぁ、そういえばこっちはあんまりやってなかったな」

 

投げ捨てた槍をひょいと拾うとそのまま大体の狙いを付けて投げつける

 

結果は見なかった

確実に当たったのだから、見る必要なんてないのだ

落ちていく蚊トンボの音を背中で聴きながら、この場を去る

 

後に残されたのは、ただ焼けこげた村だけだった

 

 

「…長いな」

「長いに決まっているだろう?司令官は重要人物だ」

 

重要人物で収まりきるのか…?

俺は狭い通路を歩きながらそう思った

洞窟をそのまま利用したのではなく、掘り進めたらしい

ただきちんと整備されていて近代SFにありそうな通路になっている

 

時折ある通路両側の部屋の中では通信や拷問が行われていたりした

武器庫と食料庫もきちんとあったので本当に妖怪とやり合う気なのだろう

 

…あ

 

「俺の装備類はどこにやった?」

 

今更だが、持っていた装備類、モルヒネ等がどこにも無かった

ウエストバッグも無ければアンツィオも無い

 

ナイフから銃火器に至るまで武器は無かった

 

「装備類は今鑑定班にまわしている

 聞くに風見とやりあったらしいじゃないか」

「…まぁな」

 

なぜ知られているという疑問は出ない

なぜならかなり派手にやり合ったからだ…地形が1つ2つ変わるくらいの派手なビームだった…

 

「その他天狗やなんやら…モルヒネ類は竹林奥の八意のだろうな…」

「貴重なのか?奪うくらい?」

 

俺の質問に対して八重は死ぬほど笑った

まるで有り得ない冗談を言われたかのような反応だ…てかお前そんなふうに笑うんだ

 

「じょ、冗談良してくれ…イヒッw、笑い死ぬウヒヒヒヒwww」

「1回殴っていいか?」

「良くねぇ良くねぇ、死んでしまうぞ」

 

少し笑いながら彼はコホンと席をした

流石に笑いすぎたと俺に謝ってきた

 

「妖怪のサンプルってのは俺たちにとって貴重だ

 どの妖怪が何に弱いのかよく分かるからな、抵抗もしないし」

「なるほどな…だから俺の装備類を」

 

人間側にとって振りを覆す鍵は恐らくそれらなのだろう

兵士を見る限り銃火器はかなり配置されていた

鉛弾じゃ強大な妖怪を倒すことはままならないことだろう

 

妖怪に対する特攻をもった弾丸なんかが欲しいだろうな

 

そんなことを思っていると、突き当たりの部屋につく

兵士が2人、守るように配置されていた

 

「…ついたぞ、後は自分でやれ」

「分かった」

 

俺はそう言って中に入る

自動ドアがガチャリと後ろで閉まる

 

目の前にはこちらに背を向ける人物が1人居た

デスク上にはなにかの報告書だろうか、大量の書類がある

 

 

 

 

 

 

「ようこそビジター、いや、大尉と言った方が良かったかな?

 私は君を歓迎するよ、心からね…同士よ」




え?アンツィオ使わねえんじゃないのかって?
あのアンケート実を言えば最下位以外使いますヨ

そして、メリークルシミマス、あけおめことよろ

(´・ω・)ノ⌒◎┃賽銭箱┃


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指揮をする者

「…思いの外言葉遣いは優しいんだな」

「よく言われるよ、とりあえず座りたまえ」

 

彼は俺の前にある椅子をさした

若い顔つきだ、恐らく年齢は――二十歳を超えないくらいだろうか

こんなナリで組織を引っ張ることが出来るのならかなり腕はある方なのだろう

 

「…ふむ、聞いていたよりもずっと若いな」

「若い?」

 

俺は思わず怪訝な顔をしてしまった

なんでまぁ、そんなこと言ってしまうのかなぁ…

 

年齢は気にしないタイプたが、言われれば気になる

 

俺の怪訝な顔に気分を損ねたと彼は思ったのだろう

直ぐに悪い悪いと訂正してくれた

 

「報告で聞いた顔よりもずっとマシな顔をしていると思ったからね」

「マシ?」

「いやね、まるで人修羅だと…」

 

そりゃなんとも酷い言葉だ

人を修羅呼ばわりするなんて…とち狂ってんじゃないのか

彼がそのあとに何かを言った気がしたが聞こえなかった

 

「人を人外呼ばわりとは不名誉な」

「妖怪を殲滅するにあたっては名誉じゃないかい?」

「…そういうものなのか?」

 

…まぁ一般人から見れば妖怪も俺達も変わらないのかもしれない

たしかにひょいひょい岩と岩を足場にしたり気を引っこ抜いたり…

その他をあげればキリがないが、もう人間じゃない

見てわかる、確かに気配は人間だが…力は人のそれじゃない

 

もはや人外のそれだろうな

 

「まぁ、それはどうでもいい事だ」

 

彼はさっさと本題に入りたいのかこの話を切り離した

俺としても早く本題に入って欲しかったところだ

コホンと彼は咳をして本題に入る

 

「ここから近くに点基地として使っていた補給拠点がある

 大尉、君の任務はこの補給拠点に潜入し破壊、もしくは奪取をしてくれ」

「――いきなり任務か?」

 

彼はいきなり任務を俺に手渡してきた

その事に違和感を覚え、反射的に質問してしまった

何かの入隊テストも無く…そのまま任務?

普通だったら有り得ない、俺に裏切りとか考えないのだろうか

 

「もしかしてテストでもすると思ったのかい?」

「…まぁ」

 

俺の答えに彼はくつくつと笑った

目が笑っていたので本当に笑っているらしい…

…え?そこまでおかしい事だったか?

 

「君、今そんなことをしている暇なんて無いぞ

 他のEEFの奴らも基本噂話を信じて雇った奴らだ

 そもそもいちいちテストなんてしてられないだろう?

 大尉、私達には時間が無いんだ」

 

…彼の言い分は最もだった

妖怪との戦闘に時間は死活問題だろう

あちらのやる気がほぼ無いおかげで今を生きていられるのだ

危険因子絶殺マンがあちらに居れば…何も言うまい

 

「まぁ、これが入隊テストの変わりだと思ってくれ

 いい戦果を期待しているよ」

「…分かった」

 

俺はそれだけ言うと、ブリーフィングを手に取った

軽く目を通した後霊力の炎で完全に焼き尽くし席から立ち上がる

 

 

 

 

 

そのまま武器を確保する為に武器庫に――

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、EEFは武器は現地調達だ

 彼に負担を掛けすぎる訳には行かないからね

 ナイフと拳銃程度しか持っていけないよ」

「…はい?」

 

 

 

天狗という社会は縦社会の体現であると言える

下っ端はいくら武功を上げようとも下っ端のままである

天魔はどうあがこうとも天魔のままである

 

傲慢な僧が成ったやら、とある人物の怨念やら…

元が人間説などもあるというなんとも複雑な種族である

どれもこれも、恐らく真実なのだろう

 

…ただ、ほかの妖怪と絶対的に違う点がある

 

 

 

 

それは、社会を形成していること

如何なる妖怪とも違うこと、これが一番だろう

どんな妖怪であっても社会を形成することはあまり無い

群れを形成したりするが、天狗のように一致団結はしない

同じ種族であっても協力することが少ないのが妖怪だ

 

ただ、天狗は違う

 

天狗と…鬼だけが社会を形成しているのだろう

ずっと前に鬼は居なくなってしまった

 

今やズル賢い天狗の天下だ

 

「…はぁー」

 

下っ端天狗である犬走椛はため息をついた

何をどうあがこうとも私はこの地位なんだと思うとやる気が失せる

大天狗とかにそろそろ慰み者にされそうで怖い

部隊内に被害者は"まだ"出ていないが…

 

最近の人間反乱軍の奴らが"代わり"を務めているからだろうか

まだ"出せる"活きのいい男を取引する場所なんてのもあるらしい

そんなものに手を出す気も――そもそも出せないし出される側だろうし…

 

敵側ながら憐れだ、助けを乞うんだったら殺した方が良いだろう

こっちでいいように使われて殺されるだけだ。

 

「なーに悩み事してるんですか」

「…なんでもないです」

 

いやそもそも山は攻めてこないかと納得していると、いきなり声がかかる

そちらの方向を向かずに素っ気なく椛は返した

 

「さっきからなにかに悩んでたようでしたよ?」

「…同僚を殺していたヤツをどうしてやろうかと」

 

変に返すのも面倒だったので片隅で思っていたことを言った

あの後調査して分かったことだったが、奢りを約束した同僚が殺されていた

あの山火事は残された服を燃やすためだったらしい

 

…最初からやる気だったというわけだろう

尚、彼女は"同僚を殺したから"その人間を殺すのでは無い

"奢り分が消え失せた"からその人間を殺すのだ

 

「だったら最近、いい任務が入ってるじゃない」

「…あぁ」

 

文が卑しく嗤いながらそういった

彼女が言っているのは殺された同僚の報復として人間の基地を殲滅している事だろう

人間側が銃火器やらを使って抵抗しているのを聞くが、おそらく無駄だろう

事実全て無駄になって全員殺されている

 

…その後博麗の巫女にボコボコにされている

 

反乱軍側にポツポツ人里の奴らがいるのが原因である

人里の人間は絶対殺すなというアレがある

 

「外に出りゃ関係ないだろ!殺す!」ってのが数人居る

 

…実を言えばそれはあまり関係ないという話だ

実は今、妖怪は弱体化の傾向が見られている

妖怪と人間が接するのが少なくなってきてしまったというのが大きいだろう

 

接触したとしても基本皆死んでしまっている

明日は我が身状態では無いため、それ程警戒心が無いのだ

 

…いや襲っても良くね?コレ

態々人里の人間を見分けるのは面倒だが襲わなくては強さを維持できない…

なんだこの負の連鎖、あまりヒドイ

 

…そろそろ賢者辺りが動くんだろうな

人里の外にいる人間は保護しない、とかだろうか

…まぁ、それが最善だろうな――

 

 

「嫌ですよ、私は博麗巫女に殺されたくありません」

「いやぁ、"そっち"の仕事じゃないですよ」

 

どうも点基地の襲撃では無いらしい

確かにあっちを襲撃したとて殺されるだけだから違うか

 

――違かったら無慈悲すぎんかこの人

 

「補給拠点というのを最近確保しまして、"捕虜"とともに今そのままなんですよね」

「兵を配置しただけ?鴉天狗も居ないんですか?」

 

彼女はこくりと頷き、こちらに提案してくる

 

「捕虜の移動を行いたいので、その護衛をしてほしいのです」

「捕虜?一体誰ですか?そもそも何人ですか?」

 

文はこのくらいなら教えていいかと呟くと、パタパタと羽を動かす

 

「"潜入者"、ですよ――捕虜は彼1人のみです」

「せ、"潜入者"ぁ!?」

 

あまりの驚きに声が出てしまった

コードネーム――潜入者…本名不明の男

"消える程度の能力"らしい能力の使い手

今までの被害は凄まじく、危うく天魔の行動表が奪われるところだった

 

人間ならばと近接戦闘は…高い

能力により、するりするりと消えるように避けられる

 

「…い、一大事じゃないですか」

「えぇ、ですので…失敗、挙句の果ての逃走なんてのは許されませんよ」

 

な、なんという任務…それ哨戒天狗にやらせるものじゃない…

もしかしてこの人私を使い捨てのパーツだと思ってる?

 

ただ、まぁ

 

「…やるしかないんでしょう?どうせ」

「おお!ありがとうございます!あと一人だったんですよねー」

 

そう言って彼女はバサリと飛び去っていった

どうせあのパパラッチのことだ

 

…何をしてでも私を任務に入れたがるだろうな




大体の路線は出来ています
あとはそれをどうやって上手く繋ぐか…ですねぇ


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サボタージュ

「位置に着いた、中に入る」
『外の歩哨はどうした?』
「地獄で仲良くやってるだろうよ」

時刻、真夜中
場所、補給拠点
目標、奪取、及び捕虜の解放
既に眠そうな歩哨は後ろから刺し殺し、服も近くのゴミ箱に突っ込んだ
殺したのは二人程度なので直ぐにバレはしないだろう
配置的にもこちらに他の奴らが来るのは有り得ない

…かかっていた鍵をピッキングし、中に入り込む
そのまま中を流れるように進んで行った


『ブリーフィングを直ぐに燃やしたようだが、ちゃんと読んだのか?』

 

無線からそんな声が聞こえる

俺はオペレーターを配置するように頼んだ覚えは無い

あちらが勝手に付け足したのだろう

 

「あんなの直ぐに覚えた」

 

嘘を着く意味も、黙る意味も無いため事実を話した

あんな長文でも無いものすぐに覚えることが出来る

 

僅かな配置と目的についてだけあったら分かるわ

 

「あともう黙っていてくれ、もう拠点内だ」

『…分かった、用があるときに頼む』

 

ガチャりと無線を自分から切る

ここから先に安全な場所はどこにも無い

全員を始末しないと安全は確保できないのだ

 

まず初めに捕虜を解放し、邪魔がいなくなったのを確認して殲滅する

どうも"潜入者"なる人物曰く、この夜に捕虜を回収に来る天狗共が居るらしい

 

――つまるところ先に拠点を確保すると後々面倒事が起きる訳だ

 

…その潜入者が捕虜らしいのだが

なんでこんなにも呆気なく掴まってんだソイツ…

 

「!」

 

角を曲がったところで天狗とばったりであった

天狗の大剣を横から直ぐに振ろうとしている

直ぐにその懐に入り込み、腹に一発叩き込む

 

吐き気に襲われているところに足で巧みに大剣を操り、首元に叩きつけた

 

灰がパラパラと舞い上がる

残った武器と服を近くのロッカーにぶち込もう――と思った時だった

 

「…ッ」

 

ガチャりとロッカーを開けると、腐敗臭が飛び込んできた

何かと思ってよく見てみると腐乱死体がロッカーに入っていた

着ている服などからして、恐らくここの防衛兵士だったんだろう

 

…可哀想にな

 

「…ニュゴイ、ベーケーバン」

 

安らかに眠れ

俺はポツリと呟いた

こんなところでは安らかに眠れないだろうが、せめて気が良くなるくらいには…

俺は大剣と装備を押し付けるようにロッカーに入れ、扉を閉ざした

 

…憎しみ

 

「…あぁ」

 

母を奪われた時も、こんな感情が湧いてきたな

 

報復心、怨嗟、怒り

 

言葉では言い表せない言葉が頭の中を埋めつくしていく

バサリと鴉が舞い降りて、俺の肩に留まる

 

仲間が奪われた怒りが、心を染めていく

 

あの時、あの場所では感じなかったのに

護衛兵士たちが死んでいたところを見ても何も思わなかったのに

 

何故だろう

 

何故、こっちの方が怒りが湧いてくるんだろう

 

 

「…任務だ」

 

これ以上、変な連鎖になる前に俺は思考を断ち切ることにした

鴉を軽く撫でながら施設の中を進んでいく

 

重要人物がいるというのに守りはそれ程固く無い

アイツらに危機意識というのは無いのだろうか

もしくは絶対に攻めてこないという確信でもあるのか…

 

――後者だろうな

 

地下室に行くための階段をみつけ、そう思った

階段の前に歩哨が誰もいないのだ

敵が来るとすればここがダクトしかないというのに

 

それなのに天狗が誰もいない

 

まぁ、こちらからすれば楽だからいいんだが

 

天狗というのは割とザルなのかもしれない

もしくは無能か…いや聞く限り大天狗は無能らしいのだが…

 

 

少しばかりの警戒をしながら階段を降りるが…

どうにも気配がひとつしか感じられない

 

…いや、これは1つと言うよりも――

 

「俺は必要だったか?これは」

「ああ、必要だぜ?」

 

こっちを見ずに見張りの白狼をボコボコにしている"潜入者"の姿だった――

その上、"檻から出た"状態で白狼をボコボコにしていた…

 

 

「悪い悪い、ちょっと火が入っちったぜ」

「よく気付けたな、俺が来たことに」

 

今だ灰となっていない白狼をゲシゲシと蹴っている潜入者

時折死ね死ね言っているので割と本気らしい

 

…ていうかなんで気付いたんだ?

 

「いや?予定通りだからさ

 思ってたより予定通りでちょっと怖いが…」

「そうかよ、さっさと逃げるぞ」

 

俺がさっさと任務を終わらす為に逃がそうとすると、彼は首を振った

何かまだやるべきことがあるらしい

 

というか監視室にある装備類すら取っていない

 

「…」

「俺は捕虜になった本拠地に輸送されるという任務がある」

「んじゃあそこで捕まってろ」

「あぁ、お前にもやって欲しいことがあるんだ」

 

そう言って彼は白狼天狗の服を渡してきた…え、マ?

これ着るだけで白狼なれるなら苦労しねぇよ?

 

「私にいい考えがある、そもそも捕虜になったのはわざとだ」

「…今はお前の考えに従っておく」

 

渋々俺は彼の考えに賛同することにした

本当はやりたくないが、こいつのやりたいことが分かってしまったのだ

 

…本当にやりたくない

 

 

「…静かだ」

「何がでしょうか?」

 

椛はふと呟く

その独り言を拾ったのか、四人連れてきた内の一人が聞いてきた

椛はなんでも無いというふうに首を振って補給拠点に向かうことにした

 

――いくらなんでも基地に動きがない

そう思ったのは自分だけか…そう思いながら飛翔する

 

実の所、既にこの四人は殺されており入れ替わっているのを彼女は知らない

そもそも知る由もないことだろう

 

…それより

 

「補給拠点の防衛はこんなにも少ないのか?」

 

防衛の白狼天狗はあまりにも少なかった

たかだが五、六人程度しか兵士がいなかったのだ

守りを固めるにはあまりにも薄すぎる…

 

もしくは人間を驚異として見ていないのだろうか

 

空から施設内部に入り込み、廊下を歩く

どこもかしこも血塗れだ…鉄の匂いが嫌でも鼻腔をつく

 

腸を抜きちぎられた人間の死体、地面に落ちている天狗の衣服

激しい戦闘があったことをそれらの痕跡が伝えてくれる

 

「…」

 

恐らく人間達は死ぬ気で抵抗したのだろう

"潜入者"が居る地下に近付くにつれ、戦闘が激化したのが分かる

二三人程、見覚えのあるエンブレムがある…EEFだ

 

恐らく名付きでは無く、無名のEEF兵士だろう

かの部隊の兵士は舐めれたものでは無い

1人で天狗十人はかっさらって行けるという化け物なのだ

そもそもあの部隊に人間らしい戦闘をするヤツが居るのが気になる

 

ただ、そんな奴らが居ても数の暴力には敵わなかったらしい

明らかに多い傷口、欠損した片腕、抉り取られた頭の半分

 

可哀想に

 

「…」

 

階段を降りる

戦闘は主に一階がメインだったのかここらの戦闘痕は少ない

ほぼ皆無と言っても良いのだろう、大半の兵士は一階で死んだ

 

そして、"潜入者"の牢屋にたどり着く

 

「お疲れ様です」

「あぁ、お疲れ様」

 

見張りらしい白狼がこちらに会釈をした

私は軽く会釈を返し、彼に話しかけることにした

 

「"潜入者"は?逃げてはいまいな?」

「こちらの中に」

 

彼の目線の先を辿ると、縄で括り付けられた"潜入者"が居た

成程、これなら逃げられることも無いだろう

 

「…やーっと迎えが来たか?」

 

顔がゴロリとこちらを向いた

酷く饐えた匂いが…そうとう惨い事をされたのが分かる

何か慰めの言葉をかけたくなるが、それは彼らが嫌うものだ

 

変に何か言うのは止めておこう

 

「今からお前を山に連れていく、変な抵抗はするな」

「する事なんて出来ないぜ」

 

牢屋を開け、中から"潜入者"を連れ出す

見た感じ変に装備類を持っているわけではなさそうだ

手持ちも何も無い、必要以上に警戒する必要は無さそうだ

 

「犬走隊長、私も同行します」

 

そして牢屋を後にしようとすると、先程の白狼がそういった

私は首を傾げた――こんなの聞いていないからだ

ブリーフィングで同行するものが現れるなんて聞いていない

 

まぁ、射命丸なら私に伝えていない情報くらいあるか…

多分何かしらの任務で別行動していたのだろう

 

椛はそう思って特に疑問を抱かなかった

 

「そうか、分かった」

 

それだけ言って、部下達の所に戻ることにした

私とその白狼天狗で"潜入者"を挟むようにして、進む

 

後は彼を連れて帰るだけで終わりだ

 

楽な仕事、楽な仕事だ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――椛は後に、その事実を大いに否定することになる




原作キャラが拷問受けるって嫌いですか皆さん

私は嫌いです






だが書かないとは言っていない(豹変)


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おや?白狼天狗の様子が…

「そういえば、なぜ頭に鴉を乗せているんだ…?」

「…あぁ」

 

外に出るまでの廊下、私はふと思ったことを青年に言った

先程会ってからずっと頭に鴉が乗っている…

どれだけ揺れようとも全くバランスを崩さず、乗っかっている

 

――どこかで見たことある気がする…どこだっけ?

 

「何故か懐かれてしまって…」

「…上と絡むとろくな事は無いぞ」

 

実体験である、上と絡むと本当にろくなことは無い

鶏みたいにこくこく頷き適当にしてたらそれもそれで後がない

どうにかして逃げるのも出来るが、山を離れた天狗にできることは少ない

 

…そもそもあるか?

 

「そんなにですか?」

「そうとも、だから上と仲良くするのは止めておけ

 …少なくとも私は関わりたくは無い」

 

あんな性根の腐った奴らと関わりたくない

先程も言ったが変に気にいられると後々面倒だったりする

 

んだこの組織、半端だな(半ギレ)

 

「しかと心に刻みます」

「いやそこまでしなくても…した方がいいか(脳死)」

 

何だか考えるのが億劫になった

割とそこまで心に刻む必要はないのだが…片隅程度で良いと思うんだが…

 

ま、まぁ、言ってしまったからには仕方ない

 

それに、そんな会話をしていると既に外に出ていた

冷たい夜風に吹かれて盾を持ち直す

 

そろそろ、秋に入り込む

 

その先の冬に向けて防寒対策はしっかりとしないとな…

 

「隊長、侵入者が四人…始末しました」

「わかった…直ぐに行こう、増援が来る」

 

護衛の兵士達が待ちくたびれたように立ち上がる

彼の言うとおり4人の死体がある、奴らの装備だ

見つかったのか、さっさと――

 

そこで、私は違和感に気付いた

 

「…待て?」

 

"潜入者"を守るように少し下がる

多少の違和感が線を繋ぎ、恐ろしい事実を伝えている

 

…なぜ、その服は"返り血に塗れている"?

 

…なぜ、その地面に"四人分の死体"がある?

 

これらはまだ、その侵入者を始末したから、で済む

しかし、どうあがこうともそれを否定する事実がある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何故、この四人は妖力では無く、"霊力"に満ちている?

 

 

「誰だ貴様ら――」

「お前ら大事なところで…」

 

後ろから拘束される

振りかざした大太刀が手をひねられ、簡単に地面に落ちる

ならばと肘打ちをしようとする…が相手の方が上手だった

 

「眠っとけ」

「――!、!!!」

 

鼻と口を覆うように布が被せられる

…ここで彼女ら特有の、獣人らしい嗅覚が仇を成した

あまりに鋭い嗅覚はそれをなにか理解し――吸引する

 

「――!…!…、………」

「流石獣人…直ぐに寝れるな」

 

即効性のある睡眠薬品をかけられたハンカチ

妖怪には効かないのが大半だが、1部の獣人はまた違う

 

知覚過敏、の類似的な現象が起きる

 

彼女は、それに抗うことは出来ずにまどろみの中に落ちていった

 

 

「やーれやれ…」

 

寄りかかってきた犬走椛…とか言う奴を壁に寝かせる

あそこで見抜かれるとは…いや、人目見た時からアレ?とは思ったが…

 

…さて

 

「お前らそんなので山行けるのかよ…」

「い、今のは"反転"の能力を使っていなかっただけです!」

 

若い兵士がそう言った

多分、こういう任務に慣れていないんだろう

肩が僅かに震えているのがわかる

 

…いや、今ここでやるべき事じゃないか

 

「分かった、取り敢えず仕事に取り掛かってくれ…」

「りょ、了解です!」

 

彼がそう言うと、急に「PON☆」と言い出す

すると4人の霊力があっという間に妖力に変わっていった

目の錯覚か、頭のケモ耳が動いているように見える

 

「では、"潜入者"さん」

「予定通りな」

 

四人に連れられ、"潜入者"が飛んでいく

月に照らされて天狗装束がよく見える――なんてことは無かった

あんな白い服装なのに直ぐに溶け込めるの凄いなぁ…

 

「…ふむ」

 

俺はふと、寝ている白狼天狗――椛を見た

安らかな顔でスースーと寝息を立てている

時折動く獣耳がなんとも言えない感情を現す

 

――どうしよう、こいつ

 

実を言えば今この敷地にいる敵性存在はこいつだけなのだ

こいつが捕虜を取りに来る時に天狗達は血祭りにされている

割と派手にやり合ったらしいので騒音が来なかったのは不幸中の幸いか…

 

「うぅー…――ガルルルル」

「犬かな?」

 

いやオオカミらしいんだが…

白"狼"ってつくくらいだからな…

 

「なーどうすればいいと思うー?ピー助」

「カー――カ"ーッ"ッ"ッ"!!!」

 

もう扱いに困ったのでピー助(現在命名)にきくことにした

"そうだわねぇー"と悩んでコンマ零秒、めっちゃつつかれた

痛い痛い!めっちゃ痛い!本当に痛いから!

"誰"が"ピ"ー"助"じ"ゃ"あ"あ"あ"あ"ッ"ッ"ッ"!!"って範〇勇次郎ボイスでキレてきた!

怖い!こんな声して女の子とか怖い!妖怪死ね!(責任転換)

 

「分かった!ピー助!ペットショ――痛い痛い!」

「カ"ー"ッ"!」

 

"WRYYYYYY!!!そいつはハヤブサだマヌケがァーッ!"

そいつはハヤブサだって?ご名答だよ!

ていうかまた声変わった!メイド…じゃなくて吸血鬼になった!

めっちゃ痛いから!凄い痛い!変に傷増える!

 

「分かったピー助!鵺とか…イダダダダダダダ!」

「カ"ア"ァ"ァ"ァ"ーッ"ツ"!!!」

 

"ぶち殺すぞクソガキィッ!!"って言われた!怖い!

確かにお前からしたらガキだよ俺ェェェェェ!!!

 

「わ、分かった…じゃあ!ブルートゥ――」

「(無言ガチタン)」

 

"様子のおかしい人"って!ひどいです!ご友人!お許しくださ――

 

 

「…う、ぅぅん」

 

起きると、見知らぬ天井だった

ベッドの感触が自分のものより固い、ここは自宅じゃない

 

――あ

 

「ここは――ッ!?」

 

飛び起きようとした瞬間、ガシャンと鎖の音が響いた

足と腕が引っ張られ、ジンジンとした痛みが響いた

 

「起きたか」

「!」

 

状況が把握出来ないでいると、横から声がした

こちらを向いての声ではなくどこかを向きながらの声らしい

 

そちらの方向を向くと、鴉に何かを伝えている男が居た

 

 

肩にあるエンブレム――EEF…

 

 

もしかして、ここは敵陣のど真ん中なのだろうか

そうとしか考えられない、他に可能性がない

点基地か、別の基地か――本拠地か?

 

「…射命丸にな、頼むぜ天城」

「…!?」

 

気になる名前を鴉に言ってその子を飛ばした

…今思い出したがあれは射命丸の天狗だ!

どうして今の今まで気づかなかったのだろうか…

 

「さて」

 

彼はこちらに向いた

その顔には見覚えがある、何せさっき見た顔だからだ

 

「…あの時、全員グルだったということか」

「そうだ…あー、風走椛?」

「犬走です」

「風走、お前は運がなかったんだ」

「犬走です」

「風走、あの時いたお前の中はいくつだと思う…ゼロだ」

「犬走です」

「風走」

「犬走」

「風」

「犬」

 

なんか気が合いそうな気がしてきた…

い、いやそれどころじゃない、これ遊ばれてる!

飼い主が犬をあやす時みたいに遊ばれてる!

 

「そうかぁ…犬かぁ」

「そうです、犬です」

 

私がそう言うと、彼は少しばかり悩んだ顔をした

数秒した後に彼は何かを思いついたのかこちらに顔を向ける

 

「わん!わん!がるるるー、わんわん!わーん!」

「…???」

 

何してるのこの人(大困惑)

急に真剣な顔で私にわんわん言ってきた…

え?私にそんな趣味は無いですよ…多分

 

いやいや急にどうした!?

 

「あ、あの」

「わん?」

「どうして急に犬語に…」

 

至極真っ当な質問

話し合っていたやつが急に犬になったらそりゃ聞くよね

 

――聞くよね!?

 

 

 

それに対して、彼はニッと笑う

 

 

 

「天魔の"犬"と喋っていますが何か?」

「――(プッツーーーン)」

 

殺すぞガキ(豹変)

まさかここまで遊ばれているとは思わなかった

殺意のあまり思い切り鎖をネジ切ろうとするが何かの術があるのかちぎることが出来ない

 

「…御託はここまでにしよう」

 

彼は今までの茶番を切り捨て、こちらに顔を近づけた

 

頬の切り傷が目立つ、抽象的な顔

私から見て右にある眉毛上のホクロさえなければ美顔だ…

 

 

 

 

 

 

「お話でもしようじゃないか、犬走椛」




とは言えど拷問したらしたで後々噛み合わないんですよね
可哀想は抜けないとも言うし?(逃避)

てか何気にピー助と大尉の下り原作通りだな
"レイヴン"と"スロー♡スロー♡クイック♡クイック♡スロー♡"、意図的じゃないんだがなぁ


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文通

「妖怪ってのはとても耐久がある」

 

彼はそんなところから話を切り出してきた

よく分からない顔をしていると最初見た時から思う

何を考えているか読みにくいし、表情も固い

 

先程のわんわんおの時といい、恐らく"普通"の人間らしい感情はあるのだろう

冗談を交えたりするくらいはあるのだろう…まさかそれを"楽しみ"にしてる訳が無い

 

「実を言えばお前にやったのは人間なら1ヶ月くらい昏倒する奴だ…

 全くもって憎たらしいね」

 

あの時眠らされた時の話だろうか

嗅覚が発達してる故に速攻性があり、直ぐに眠らされた

 

 

――と言ってもあと数秒あればどうにか出来たのだが

あとほんの数秒さえあれば肘打ちを食らわすことが出来た

何のあの体たらくである、おのれ嗅覚、お前を呪う

 

 

「お前達の耐久力が全くもって羨ましい――妬ましい

 あぁ、どうしてまぁ、神は何故人間にもっと耐久を持たせなかったんだか…」

 

とても大きなため息を彼はついた

そこら辺の匙加減は神次第だろう…

 

そうは言っても人間の中には大概な奴もいるが

 

見た中でもやばいのは鬼を殺したあの少数のヤツらと…博麗巫女

前者は酒に毒を入れるという卑怯な(鬼目線)手を使う

 

だが、後者は違う

 

博麗巫女の強さは舐めれたものでは無い

基本攻撃か全て妖怪特攻、どこまでも追ってくる持久力

人間とは思えない耐久性、頭脳明晰etc…

 

基本的に人間卒業した方々が大量に居る

 

今代はどうも遠距離とかいうみみっちい事は嫌いらしい

噂に聞く話では山ほどあるムカデを拳一つで殺したとか…

 

「…まぁそげな事どうでもいいんだわ

 お前はここで大人しくしとけばいいからな」

 

彼がそんなことを言ってきた

ここで大人しくしておけばいいって…

 

「するとでも…?私が――」

「「遠吠えをすれば仲間が来る」…だろ?」

 

私は絶句した

考えを完全に読まれていた

遠吠えをされて不味いのなら…次にされることは――

 

「だろうな、そう言うと思った」

 

金属の擦れる音がする

ナイフだ、ナイフの刃と鞘が擦り合う音だ

音のする方から顔を背ける、できるだけ彼から離れようとする

枷があるから、それ程離れることは出来なかった

 

「そんなに怖いことでは無い」

 

きつく目を閉じる

見たくない、感じたくも無い

妖怪なら喉を切られても死ぬ事は無い――死ぬ程苦しむだけだ

 

それが、嫌だった

本能的に体は痛みから逃げていた

 

「――"お前は目を開ける"」

 

そう言われると、不思議と目が開く

抵抗する気は起きず、その言葉通りにする

 

見上げる天井は知らないもの

 

そこにある顔も知らない顔だった

 

「よく見ておけよ、今からお前の喉を――」

『大尉、居るか?いるんだったら鍵を開けてくれ』

 

喉に向けられたナイフがぴたりと制止する

彼は睨みつけるような視線を鍵のかかった扉に向けた

 

「八重の野郎…」

 

ナイフを鞘に戻すと、彼は扉の前に歩いていく

そして天井だけが見える視界の中で響く声が一つだけある

 

 

 

 

 

「"お前は喋れない"」

 

 

「…何の用だ」

「野暮用だ、邪魔だったか?」

「死ぬ程」

 

彼は乾いた笑いを漏らしながら俺の椅子に座った、勝手に座るな

 

「そんな目をしなくていいじゃないか、な?」

 

くるくると注射器を回す彼を見てため息をつく

目がキラキラと輝いている、こいつ"も"狂人の類だ…

 

「誰かに言ったら一生サンプルはやらん」

「私の人生に関わるんだ、しないに決まっている」

 

何度目かのため息を付きながら

椛に指を指した、淡々と説明を挟む

 

「取引に使う用だ、白狼天狗、障害等は無い…ハズだ」

「白狼天狗!丁度欲しかったんだ」

「バカ声抑えろ!声ェ!」

 

いきなり大声を出すものだから反射的に大声を出してしまった…

もしかしたら誰か来るか…?鍵を閉めてこよう…

彼は俺の心配をよそに八重はウッキウキでサンプルを採取していく

 

…そこまでするん?

 

「サンプルってそこまで無いのか?」

「君が来る前から切れている、僥倖だよこれは!」

 

あれ聞いた話じゃ満々にあるって聞いたんだが…

え?大本営発表?あ、ふーん(察し)

もしこれが全てに言えることなら弾薬ももう無いのでは…?

 

「ふむふむ、色的に…型だな、カップ数は…デッッッッッ

 着痩せするタイプか、成程…髪は…ほほぅ」

 

…所々ブツブツと言っていて聞こえなかった

ただ、俺とはまた違った狂人だと思わされた…

 

小一時間が過ぎたくらいだろうか、満面の笑みをして俺の手を握りしめる

万力のような力だ、お前衛生兵だろ前線行け

 

「ありがとう!ありがとう!おかげで天狗の貴重ョーなサンプルが手に入った!」

「例は背後を警戒しなかったこの駄犬に言ってくれ」

 

椛の睨みつけるような視線が刺さる

捕虜がそんなに屈辱か?人間はそれ以下に扱っているらしいがね、天狗は

これでも丁寧に扱っているんだ、感謝してくれ

 

「これで攻撃力が幾分かマシになるだろうな」

「恐らくな、君が来てくれて助かることが多いな、ありがとう」

 

彼は笑顔で部屋を出ていった

八重の本当の笑顔は初めて見た気がする

愛想笑いくらいしか見た事がないからな…

 

「さて」

 

俺は椛の方を見た

…何もかもが終わったかのような目をしている

ひっでぇ目だ、基地内に何人か居るな、こんな目の奴

傷心している所悪いが仕事なんでな…悪く思わないでくれ

 

椛を死体袋の中に突っ込む

基本的にこの黒い袋が使われることは少ない

基地外に放り投げるか、戦死者はドックタグ以外放置だ

いちいち死人を連れてくる余裕は無い、必要も無いのだ

 

今の所これが"生かした上四肢欠損無しで"こいつを運べる方法だ

他の方法だと四肢欠損は免れられない

 

感謝して欲しいぜこいつには、"あっちから"の要求が無ければダルマにして渡していた

 

「行くか」

 

中に椛が入った袋を運ぶ

ささっと出て渡してしまおう

等価交換程度にはなる、有利になるとは思えんがね…

 

そう思いながら扉を開けたのだった

 

 

「全く彼も面倒なことをしますねぇ」

 

私の鴉…もとい"天城"を毛ずくろいを助けてやる

しかし何か気に入らないのかめっちゃつついてきた

前まで従順なカワイイヤツだったのに…あの野郎何教えたんだか

 

「まさか椛が取られるとは、思いのほかドジなんですかね」

 

彼女がやられるとは思わなかった

こちらが想定しているよりも相手はかなり実力はあるのかもしれない

前々から天狗二三人で制圧出来るという噂はうせやろと思っていたが…

 

最近の彼らは技術力が進歩している

精鋭に至っては河童とほぼ変わりない装備だ…光学迷彩持ちも居るらしい

 

なんという恐怖、人間はいつの間にそんなに進歩したのか

 

「…侮れなくなってきたわね」

 

パタンと手帳を閉じる

そろそろ日の入りだ

 

彼との約束の時間は日の入り後、その上でとある"滝の裏"…

 

 

「裏がある滝はひとつしかありませんね」

 

 

窓から飛び出す

彼がいるであろう場所に翼を広げる

 

風が彼への道を開けてくれる

 

光が消えたこの新月の夜…密会にはちょうどいい時期だ

あるのはポツポツとある館の光だけ

 

その他に光は存在しない

 

 

 

「…」

 

焚き木の前で腰を落ち着け、目を閉じる

この閉じた時間がいつまで続いたかなんて覚えていない

感じるのは秋の冷たい風が滝の隙間からすり抜けてくる

 

ただ、体は温かった

 

何かの感触が体にまとわりついていた

 

「――ゆ」

「早いですねぇ!いつの間にここに?」

 

ばしゃあ、と滝を突き破りながら文が現れる

俺は目を静かに開けて、立ち上がった

 

彼女の髪から雫が落ちるのが見える

 

 

踵で後ろに置いてある椛を軽く蹴った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――密告者について教えてもらおうか」

 

ポタリ、と透明な粒がまた落ちた




三月11…?位まで投稿が止まります
ヘマしたら永遠に投稿しないかもしれませんね


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疑惑

滝の中が静まり返る

文がニコニコとしたまま空中から動こうとしない

 

風が吹き、髪が揺れる

 

滝が巻き起こす轟音が静寂を常に破る

 

「…おやおや、なんの事やら」

「とぼけ無くてもいい、大体想像はついているからな」

 

わざとらしい声色で文がそんなことを言った

俺はカチャリとホルスターからSOCOMを取り出した

サプレッサーがとLAMが装着されたカスタム型だ

M1911よりデカいが威力はある

 

その銃口を椛の頭に向けた

 

「あやややや、野蛮ですねぇ」

「そう思うか?」

 

実を言えば大尉は若干キレている

組織の中に裏切り者が居るというのもそうである

ただ、まぁ、この天狗の一々のわざとらしさが腹立つのだ

 

なので、椛の腕に向けて一発撃った

 

「――ッ!?」

「密告者は?」

「あやッ…一旦落ち着き――」

「密告者は?」

 

片方の腕にもう1発発射する

どうせ妖怪なのだ、この程度勝手に再生することだろう

そろそろ眉間にぶち込んでも問題ないかもしれない

 

「わ、分かりました、分かりましたよ…言います」

「早く言え」

「分かりました!だから撃たな…撃つなって言ってるでしょーッ!?」

 

あまりに勿体ぶるので腹いせにもう1発腹にぶち込んだ

椛は俺の"能力"によって一切喋ることは出来ない

喋らせてもいいのだがここは敵地のど真ん中である

お得意の彷徨をされたら死ぬのはこちらである

 

…割と危険なことしてないか?俺

 

 

 

この男、危険だ

目の前の凶行に冷や汗が走る

 

椛がボロボロにされている

密告者から絶対喋るなと言われているのでどうにかして水に流そうとしたらこれである

 

彼からは「会って伝えたいことがある」と伝言があった

場所指定はその後にあったので来れた

 

――まさか椛か人質に取られているとは思わなかった

 

あちらで酷い拷問か慰み者にされているかと思っていた

そう思っていたのに大尉に人質にされていたのである

 

にしてもこの男、引き金が軽すぎないだろうか

簡単に何回でも撃つ…多分このまま受け流しを続けていたら殺される…

 

「密告者はですね、――という男です」

「…成程な、予想通りとも言うべきか…」

 

私が言ったことに対して、彼はある種の納得をしたようだった

聞いた限りの話ではその男は通信系の担当をしている

自然にどの場所に兵を配置するかなど、簡単に入ってくることだろう

 

「…何故密告者が分か――」

「嘘じゃないよな?」

「嘘じゃないですよー信用して――また撃ったーッ!」

 

うん、こいつと相手する時は自粛した方が良さそう

椛の周りが血だらけになってしまっている

失血死は体の数倍以上の血が出ないとありえない

 

「嘘じゃないなら良い」

 

椛から銃口を外すと、ホルスターに戻す

良かった…背中にある"馬鹿デカい大砲みたいな"銃で撃たれなくて

 

…あれ多分妖怪でも一発で死ぬぞ…?

 

「話は終わりだ」

「そ、そうですか、では…私はこれ――」

 

息が詰まった

この場所から逃げ出そうと翼を広げた瞬間だった

 

見てしまった、と言うより反射的だった

 

 

 

 

 

 

 

――胸に、背中にあった筈の大砲の"砲口"が向けられていたのだ

 

何を言う前に、引き金が引かれる

心臓の真横辺りを貫通し、滝に一瞬大穴を開けてどこかに弾丸が消えていく

 

一瞬の事だった

 

爆音が辺りに鳴り響く

その爆音に反応してか、白狼達の遠吠えが聞こえてくる

 

倒れた文にまるでその場に無いように何かを弄る

ピピッと電子的な音が響く

 

「…こうでもしないと背中から刺すだろ?扇子持ちやがって。

 さて、ついでに河童から奪った"コレ"も使うか――」

「――ま…て…」

 

文が制止しようとするが、大尉は次の瞬間――消えた

頭から指先に至るまで背景と同化した

 

それまるで河童の光学迷彩のような――

 

「ここから聞こえたぞ!」

「囲め!逃げれないようにしろ!」

『あばよ馬鹿鳥、地面と仲良くキスしてな』

 

天狗の聴覚が大尉が水中に入ったの知らせてくれる

しかし、外の白狼達には何も分からないだろう

このまま、文と椛しか居ない滝を包囲していく

 

――こりゃ、始末書は不可避かなぁ

 

 

現状から目をそらす様に、文はそう思ったのだった

 

 

「…」

 

水中を進む

上流から下流に向けて進んでいるので軽い力で進める

光学迷彩、そして日が沈んだ今ならほぼ分からないだろう

 

「…――」

 

息継ぎの為に上にあがり、少し滝の方を見てみる

 

…ありゃ過剰戦力過ぎんか?

 

見た限り三十…下手したらそれ以上かもしれない

どちみち時間が経てば椛の血が流れてバレる

思いのほかさっさと聞けて良かったかもしれない

 

「――…」

 

潜水

潜水の自己ベストというのは数えたこともない

そもそも川の中を進むのはこれが初めてなのだ

大体…10分くらいだろうか?進んだのは

途中止まっていたのでもう少しあるかもしれない

 

 

 

 

…あぁ、なんか凄いちょっかいかけたくなってきた

 

突拍子も無く俺はそう思ってしまった

死にかけた味方しか居ない滝裏を探そうとしているあのアホ共にちょっかいかけたくなった

 

「…――ふー」

 

良いポイントを探す

川から顔を出し、あの滝が見えるいい位置を探す

見たところ…あよ杉の木が1番狙いやすいだろう

 

「…良し」

 

匍匐し、川から抜ける

濡れた服に細かい小石が付くが、気にせずに進む

やがて小石から草木に変わり、付着するのは泥になった

 

そのまま進んでいくと、目的の木下にたどり着く

 

「さて」

 

まだ突入をしていないらしい、あの天狗共は

そろそろ出血多量で死ぬんじゃねぇかな…まぁ無いか、そんなこと

 

そう思いながら杉の木を登る

途中に生えている枝を足場にしながら登る

 

杉の木真ん中辺り…ちょうど狙える位置

 

背中からアンツィオ"41cm対艦"ライフルを取り出す

武器庫に取りに行った時凄まじい改造をされていた…

この小ささで出てくるのは41cm砲並の威力を持つライフル弾らしい

――威力が41cmなだけで口径は全く違う

流石にあんな馬鹿デカ砲を担げる訳が無いだろう

 

「…――」

 

息を止める

アホみたいな火力があるが、その分重量は凄まじい

そもそもは伏せ撃ちが基本らしい

 

…ま、知らんが

 

そう思いながら1番エラソーにしているアホの後ろ頭に引き金を引いたのだった

 

 

「あー疲れた」

 

基地に戻り、大尉はため息をついた

あの後速攻でバレて凄まじい追いかけっこをしていた

まさか伏兵が真横にいるとは思わないじゃないか…

無論ぶち殺してささっと逃げた、異論は認めない

 

「随分遅かったじゃないか?」

「八重か…なんだ?何かあったのか?」

 

部屋に入ると、俺の椅子に八重が座っていた…何座っとんねん

彼はくるりと回って立ち上がると俺に耳打ちする

 

 

「裏切り者が見つかった、通信士だ」

「…本当か」

 

 

…タイミングが良いな

"インタビュー(忍式)"したかったが、出来ないようだ

まぁ…良いか、どうせ1人だけじゃないんだから

 

「上は大変そうだな…"インタビュアー"が忙しそうだ」

「…"少佐"、だったか?」

 

俺たちが指しているのは拷問のプロフェッショナルの事だ

拷問の方式は某シャラシャーシカ方式らしい、おお怖い怖い

 

「他には?」

「今のところは居ない、今は、な」

 

彼は窓際に歩み寄り、新月を見る

寝静まり、哨戒しか居ない基地はとても静かである

 

「…お互い、秘密があるようだ」

「そうか?今まで秘密を作ったことは無いな」

 

ハハハと八重は軽く笑った

そして俺の横を通り過ぎていく

 

耳元で、彼は言った

 

「…あまりこんなことしていると勘違いされるぞ?

 皆が皆結束している訳じゃないんだ」

 

彼はそれだけ言うと、ガチャりと扉を閉めてどこかに行ってしまう

俺はため息をついてベッドに横たわった

 

あぁ、疲れた――

 

そんなことしか、思っていなかった

 

 




3月まで投稿できないと言ったな?あれは嘘だ(大嘘)

都合上投稿が遅れるだけですハイ


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観測

「…うーむ」

 

――はため息をついた

続く後から聞こえる"外来人の悲鳴"

低俗な妖怪が己の腹満たしにしようと"襲ってもいい"人物を襲っているのだ

 

さて、どうしよう

 

このままほうっておけば確実に死ぬ

何も知らない外来人が何も知らないまま死ぬ

 

この世界じゃそれが普通だ――あ、右腕が飛んだ

 

「助けるか」

 

過去の私もそうだったか

何も知らないまま連れ去られて、息子を奪われた

なぜ少しでも悩んだのだろうか…悩む意味などなかった

 

 

サッと木の上から飛び上がり、そのまま勢いを付けて妖怪にダイブした

 

 

「ヒィッ、ひいっ――!ッッ!!」

 

片腕の感覚がない

咄嗟に化け物の攻撃を避けたが片腕は犠牲になった

上腕二頭筋から先が無い、ダラダラと血が溢れ出る

 

…痛い

 

久方ぶりの獲物でも見つけたような荒い息をして化け物がゆっくり近づく

目から涙が止まらない、傍から見たから滑稽な様子で後ろに下がる

 

「来るな!来るなって!――来るなよぉおお!!!」

 

近くにある小石を投げるが、全く気にしていない

それどころか、口が三日月形にぱっくりと割れる

 

まるで、残虐に笑っているかのように

目の前の獲物が苦しんでいるのを楽しんでいるかのように

 

「畜生、畜生…!」

 

どうしてこうなった

俺は…俺はイランに居たはずだ

イラン・イラクで…戦っていたはずだ

 

本国で何も希望が無かったから――戦争に行った

 

家族も、親戚も、皆死んでいた

詐欺やら犯罪者や…不慮の事故に…皆殺された

何をどうして、生きる意味があるのだろうか

 

英語が喋れたから、アメリカ側についた

どっちでも良かった…死ねれば良かった

 

なのに、死ななかった

 

それどころかいつの間にかイラン・イラクには無い"日本"の樹海に来ている

その上…変な化け物もいる

 

…なぜ…

 

「…あぁ」

 

ここで終わりか

俺はここで死ぬんだろうな

 

心が諦めると、体も諦める

意識がどんどんと落ちていくのを感じる

久方ぶりの眠りにつけそうである、有難い

 

「ぐるるるァ…――」

 

獲物が恐怖しなくなったことが面白くなくなったのか、その無駄に大きい口を開ける

ヨダレのような液体がたらりと地面に落ちる

 

そしてその大きな牙が俺の首を突き刺そうと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほーらっ!頭がお留守だ!」

「ぐギャアアア――」

「…???」

 

ズガン、と酷い音がした

まるで何か大きいものが肉を貫いたような音だ…

そんな音聞いたことも無いが、そうとしか言いようが無かった

その音が聞こえた途中に俺の全身に大量の液体がかかる

口に少し入ったそれは、鉄の味を俺に教えてくれる…血だ

 

恐怖を全く感じずに、目をゆっくりと開ける

 

「....えぇ....(困惑)」

 

目を開けた俺がまず最初に発したのは、困惑の言葉だった

目の前にはまるでトマトが弾け飛んだかのような光景になっている

 

そして、その真ん中に1人の巫女さんが居た

と言っても黒いインナーやら太ももが見える袴やらで巫女さんには見えないが…

 

「大丈夫か?」

 

全身についた血を気にせず俺に手を差し伸べてくる

死んだ化け物から舞い上がる灰が、何故だか幻想的な雰囲気を醸し出す

 

 

そんな、俺は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――近づくんじゃねぇ!化け物が!!」

 

我に返って、そう叫んだのだった

今思えば…どれだけ失礼だったんだろうか…

 

 

「…」

「腕の調子は何よりそうだな…おい聞いてるか?」

 

右腕からカチャカチャと金属音が響く

目を開けて、右腕の"動作確認"をする

 

鈍く光る、真紅の義手

――"ギーク"と呼ばれる人物が作ったらしい義手だ

隠密の際にはアホ程目立つのであまり意味は無いが、気にする程でも無い

 

 

何故なら、自分は隠密をしないからだ

 

 

横に立てかけてあるM16バルカン砲を見る

こいつは仲間が"能力"によって外の世界から持ってきた物だ

この場所で改造され、携行品として生まれ変わったが持てる人物は俺だけだった

 

だから、俺が持つことにした

的になりやすいから装備もガチガチにしてもらっている

 

…"大尉"という人物はアンツィオを軽々持つらしい

弾薬込みと考えると相当だから、彼も持てるだろうな…

ただ、適所適材という言葉がある通り、彼の専門は"狙撃"

 

また、俺とは違う仕事なのだ

 

「また腕がおかしくなれば言ってくれ」

「分かっている」

 

バルカン砲を背負い、研究室をあとにする

 

そこから少し歩いたところで右腕が傷んだ

 

「――つ」

 

右腕を掴むが、その腕は金属の腕である

本来ならば全く痛みを感じることは無い

ならば何というべきなのだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…幻肢痛だ

 

 

 

本来存在せず、痛みを感じない部位が痛みを感じる

視覚的には無いが、感覚的には存在する

 

体が忘れられてない存在

 

時折そこが、痛むのだ

忘れそうな頃に痛んだり…続いて痛んだり…

鎮痛剤を投与してもその痛みは消えることは無い…"存在しないのだから"

 

仲間の数人にも、同じ症状を持つ奴は居る

あんな痛みで対処法も無いのだから、薬物に手を染める奴もいた

 

 

 

――それでも痛みは襲い来る

かつての仲間達が無い手と足を振るい、俺たちに掴みかかってくる

 

――どうしてお前が生きているのか

――どうして俺は死んでいるのか

――何故、お前が立っているのか

 

ありとあらゆる罵倒が亡者達から飛ばされる

いつであろうと、夢の中であろうとその悪夢は襲い来る

 

毎日血涙を流し、叫びながら飛び上がる

 

 

…そんな毎日だ

 

地獄でしかない

 

「…」

 

バルカン砲を構える

 

「おい?何をしている」

 

 

 

 

 

 

 

 

――これが、俺の仕事だ

僅かに建物からはみ出た漆黒の翼に向けて、トリガーを引いたのだった

 

 

「…まだ動かんのですか?」

「まだだ、まだ早い」

 

某所にて、玉座に座る"男"はそういった

純白の穢れのない燕尾服を着た紳士のように見える――が、本質は違う

穢れの無いという言葉の真反対を生きる男である、何故なら――吸血鬼であるから

 

手に持ったグラスを傾け、中のワインを軽く飲む

ゆらゆらと赤い液体が揺らいでいる

 

「今攻めたとて、得られるのはただの蹂躙のみ

 そんなの、面白くないであろう」

「それもその通り…」

 

玉座の横に居る男はそんなことを言った

座っている純白の燕尾服を着た男とは真反対の衣装

真っ黒な燕尾服を着た執事はコリコリと骨を鳴らす

 

「その時が楽しみでございますね」

「…うむ、"あの娘"も楽しめることだろうか」

 

夜の帝王は座して待つ

 

いつしか来たる、その時を待って

 

己が待ちわびた、全てを受け入れる地を支配する為に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あぁ、お父様は、ああいう運命なのね」

 

 

 

「大尉、あんたに新しい任務がある」

「拝見しよう」

 

指揮官室にて、大尉は指揮官と面を合わしていた

いや、正確には大尉は全く指揮官の方を見ていなかった

机の上に置いてある資料をじっと頭に叩き込んでいた

 

「君の任務はそこにある通り、マヨヒガ潜入だ」

「…よく分かったな」

 

マヨヒガといえば最強の妖怪、八雲紫の住処だった筈

そんな場所をよく人間ごときが探知できたものである

何か、俺のように裏で繋がっていたりするのだろうか

 

ここは平然とやってのける輩が多いからな

 

「単独か?」

「その通り、そもそも人手がいたところで邪魔なだけだろう?」

「それもそうだ」

 

俺は指先から火を出すと、資料を焼き尽くす

パラパラと灰が空調設備に入っていき、やがて見えなくなった

 

俺は命日は近いな、と独り言を飛ばしながら戦場に出るのだった




※事前情報としてこいつらには「マヨヒガis紫の家!確定!」
 ですが、設定として紫の家は別にあります

 そういうことです


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行きはよいよい

基地からの出撃にはあまり時間はかからない

何故なら一々時間をとるようなことをしていれば大切なチャンスを逃す可能性があるからだ

そんなことをするくらいなら、ささっと出撃した方が本人的にも楽である

 

 

 

 

――しかし、徒歩である

 

特に潜入任務等の兵士は移動用のバイクや四輪自動車を渡されることは滅多にない

何故なら爆音で潜入する前にバレるから――というのもあるが基地の守りが薄くなるからである

とある人物が定期的に外の世界から持ってきているが、それでも足りない

 

故に、移動手段は貴重である

 

 

「あほしね」

 

 

そのような"ンもったいねぇ…"精神を発動する上層部に悪態をつく

一旦この前線に出て、どんな状況か思い知ればいいのに

 

目の前の壊滅した前線基地がいい例だ

鴉や蛆が集った死体が何体も転がっている

こいつらが倒したであろう天狗の死体は…灰と装備していた物だけになるから風に吹かれたのだろう

 

可哀想にな

 

壊滅した前線基地を横目に指定された位置に移動する

妖怪の山の中腹…の上の方、頂上から下、なんとも言えない位置だ

その位置に行くと、自動的にマヨヒガに転送されるらしい、"潜入者"からの情報だ

 

何やら少し情報を集めようと東奔西走していたらいつの間にかマヨヒガにいたらしい

恐らく、何かしらの術がありそれに引っかかったら迷い込む仕組みなのだろう

 

「…」

 

匍匐で土まみれになりながら進む

時折、水たまりに入り込み泥水を啜ることもあった

土が歯にこびり付き、乾き、唾によって濡れる

 

今回の装備は近接戦を想定…していない

アンツィオ41cm対艦ライフル、マテバ・フルカスタム

んだこのアホ構成、お前潜入任務知らねぇな?(確信)

 

知ったことでは無いが

 

そう思っていると、雨が降り始める

どうも濡れていたのは前振りだったらしい、本降りだ

 

ザーザーと雨粒が体を叩きつける

 

僥倖だ、雨なら匂いや音を嗅ぎつけられない

 

白狼が鼻が良いというのは聞いた

故にこの雨は俺を奴らから隠してくれる

潜入時間は既に日が落ちた後だ…かなり有利だ

妖怪共の夜目がどれほど効くか分からない

しかしこちらはサーマル付きナイトビジョンを装備している

ある程度のアドバンテージはある…

…持ってきたスタングレネードを叩き込む機会が無いことを祈る

 

ただ…俺の心残りとして椛が頭にある

彼女の能力は「千里を見通す程度の能力」…厄介だ

ただ、基地で観察した感じそれ程生真面目では無いだろう

なので確実とは言えないが見逃してくれるかもしれない

 

んまぁ、敵ならどうとでもするが

 

それより、今回の任務はマヨヒガの潜入…では無かった

資料をよく見てみると「もしくは破壊」と書いてあった

 

俺としては個人的な恨みがある

…潜入調査は不可能だったとしておこう

 

だから、今回はC4を三つ持ってきた

数的にはこれが限界だ、多すぎても困るし少なくても困る

 

完全破壊はできなくとも損害を与えることは出来る

 

住処が破壊されたとなれば…奴も黙ってはいまい

 

「…ふぅ-…」

 

額についた雨を拭う

ナイトビジョンは目を覆うタイプだから雨水は入らない

ただ、感覚的に気持ち悪い感覚はあるので拭いとる…

 

そう思った時だった

 

「今日は雨が酷いな」

「あぁ、いつもより降っている」

 

俺は足を止める

声がしたのは前方の方だ

雨が激しくなってきている、雷が降りそうだ

敵が言うように天候は悪くなって行っている

 

良いタイミングだ

 

これなら奴らは俺を見つけられない可能性が高い

隠密性が高まるのは結構だが、こちらも相手を見つけにくい…

 

 

 

 

こういう時のサーマルだ

 

今回は奴らの服装が紅白の派手な天狗衣装だから要らない

ただ、奴らの中には迷彩をしているヤツらもいるかもしれない

面倒な場合はもうサーマルを使ってしまえばいい…

 

相手が体温を同化出来てしまえば話は違うのだが、そんなの聞いたことは無い

そんな能力持ちがいることを聞いたこともない

 

 

 

「…」

 

マテバを構える

頭にぶち込めば数秒は動けないはず

叫び声を上げるなんて以ての外だろう…

 

さて、雷が鳴るか…奴らが散るか

 

アイアンサイトでもこの距離なら十分狙える

殺気に気づけない馬鹿どもで良かった

 

「そろそろ引き上げよう」

「まだ早いだろ?怪しまれるぞ――」

 

片方がそう言い切った時だった

ピカッと辺りが白く包まれる

俺はそれが何なのかをすぐに察知し、引き金に力を込める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数秒もしないうちに辺りに轟音が響いた

近かったようだ、光から音までがとても早い

凄まじい轟音が辺りを穿つ

 

「…!」

「…!?…!!!」

 

奴らに向けてダブルタップ

放たれた2つの弾丸は奴らの脳天に命中した

周りを確認し、何も接近していかないことを確認する

 

倒れた2人に近づき、何度もナイフで刺した

 

「…!、!!」

「…ッはっ…!」

 

ぎょロリと目玉が俺を見る

脳天に穴が空いているというのに生きているのか

あまりの嫌悪感に俺は奴の首元を何度も突き刺した

 

やがて、灰になる

 

刺した回数は…大体30?25…程度だろうか

それ程刺さないとこいつらは死ぬ気配が全く無い

ライフルを使えば木っ端of微塵だが…

 

「…ふん」

 

片方も殺す

殺すと灰になるのはとてもいい事だ

隠すのが楽…というか後処理が楽なのだ

人間と違って死体が残らないのは好感が持てる…

服はそこらの草に紛れさせておけばいい

もしくは、埋めておくか

 

…霊力で燃やすのは疲れる、論外だ

 

「ささっと行くか」

 

中腰のまま山を登る

普通に移動しているとそこらの哨戒に見つかる

面倒ごとはできるだけ避けておきたい

戦闘するというのはこの山を相手にするということだ

流石に天狗全体と1人で戦い合うことは出来ない

 

雨に身を隠し、進む

途中に天狗の哨戒が居たが、やり過ごすことは出来た

鼻が効かないから雨は嫌いだとボヤいていた…

やはり運がいい、今日は恵まれている

平日の晴れとかだったら今頃全面戦争だ…

 

「…おっと」

 

そろそろ中腹だろうか

そう思っていると、目の前に崖が現れる

どうもこの先は崖を登るしかないらしい

他に道が見えない…横から回り道は出来そうか?

 

「…」

 

辺りを見回すが、どうもかなり広く崖があるようだ

登る以外の道はなさそうである

 

クライミングの訓練ややり方は知らない

ただ、登れそうなところから登るしかないだろう

 

上を見上げ、大体の経路を想像する

雨で滑りやすいかもしれないが、ブーツだし大丈夫だろう…

 

「…ふッ」

 

心を決め、手頃な岩に手をかける

それを支点としてどんどん足をかけていく

足が地面から離れ、壁の岩に足裏が触れる

 

「…行けそうだな」

 

手頃な割れ目もあるからかなり簡単に登れるだろう

時に割れ目、時に岩に手を伸ばして俺は昇っていく

 

天狗の里はこういう崖に多いらしい

崖をくり抜いて家を作ったりするようだ

人なら不便だと思うが、天狗は違う…飛べるからな

飛翔する翼があるというのはなんとも羨ましい

 

そのまま天まで上り、太陽に焼かれてしまえ

 

そう思った時だった

 

「…?」

 

カラリ、と雨音に紛れてそんな音がした

それの後にコロンコロンと俺の肩を石が叩く

 

どうも、誰かが上にいるらしい

あまりに端に行き過ぎて石が転げ落ちたか…

 

上を見てみると天狗らしき影が1人見える

天狗らしき、というのはどうも全体が真っ黒でよく分かりにくいのだ

 

「…」

 

ナイフを抜きやすいように調整する

立てる場所があるなら、そこが目的地だろう

恐らくそこには原っぱと森が拡がっている筈だ

ここで手を離せば一巻の終わり、転落して死んでしまう

 

奴はどうも景色を見ているらしい

なんでまぁ、こんな雷雨を見ているんだか

 

音を立てないように慎重に手と足を運ぶ

 

 

…やつの足元まで来た

 

暗闇に慣れていないのか、奴は俺を見つけられてないらしい

ずっとそこに立ち尽くしている

 

何がしたいんだ?こいつは

 

何か嫌なことでもあったのか?

それともここから身投げでもしようと思っているのか?

こんな高さじゃ妖怪だと死ねないと思うが…

 

 

それはそうと雨粒の感覚がない

先程までザーザー振りだったのに、全く当たる感覚がない

辺りにはかなり降っているようだから、局地的に曇ったのか?

 

「…まぁいい」

 

左手でナイフを抜く

まずは飛び上がって胸に一刺しだ

 

俺は呼吸を整える

 

数秒後、俺は飛び上がった

霊力を込めた一撃を致命的な箇所に与えようとする

 

 

 

 

そして、何故俺は雨が止んだかのように感じたのか理解した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そりゃ、上で傘をさしていれば雨なんて降らないはずだ

 

「ごきげんよう」

「…ッ!!!」

 

ナイフの突きが一瞬止まった

その人物は天狗なんかではなかった

むしろ、天狗というのが烏滸がましい奴だ

 

その紫色のワンピースと特徴的な傘は知っている

 

俺がそいつの名前を叫ぼうとした時、奴は俺の手首を掴んだ

ナイフを持った奴を突き刺そうとした左手…

そのまま、奴に引き寄せられる

 

「あぁ、冷たいわね…長く雨に打たれたからかしら」

「…!、!?…!!!」

 

口が開かなかった

生暖かい感触が体を包み込む

何かの術か分からないが言葉を発することが出来ない

 

動くことも同じくだった

 

目の前で、奴が人差し指を俺の口元に当てた

俺はその圧力に抗えず、何も出来なくなった

 

「静かに…辺りに空気の読めない奴らが居るわ

 殺しちゃったら…」

 

そこであぁ、と奴は何かを思いついた様だった

空気の読めないヤツら…こちらを視認できてない馬鹿どもが見えた

ここで視認出来ていたら俺としてもありがたかった

ただ、このクソ野郎は何かの術を使っているようだった

 

普通こんな目立つ傘や衣装をしていれば秒でバレる

 

俺は奴に抱き留められながら、それを聞くしか無かった

奴はあっけからんと言う感じに言った

 

まるで、当たり前の様に

 

 

 

「別にいいかしら、何をしても"反対勢力"のせいになるんだから」

 

 

 

パチン、とそういった空間でもないのに音が響く

 

瞬間、周りにいた哨戒天狗が一瞬で塵とかした

なんの例えでもなく、本当に一瞬で

 

ぱらぱらと塵が雨に濡れていき、消えていく

 

…致死量の妖力?やつの謎の能力?

いや、なんであっても俺には理解できない

 

俺はどうにかしてこの情報を打破することを考える

何か言い手はないか、幸いにも手は動かせる

 

ならば、ナイフか?マテバか?ナイフか?銃か?

 

頭の中をグルグルと策が巡る

考えつかないとここで俺はデッドエンドだ

 

「さぁ、舞えよ戦え…その怒りを存分にぶつけなさい」

「…ユゥゥカァアアアリィイイイッーッ!」

 

口が開放された

俺はその瞬間、右手でマテバをクイックドロウ

左手に握っていたナイフを突き立てようとする

 

即座に引き金を六回、六回発砲音が響き渡る

 

しかし、弾丸が命中する前に奴はいなくなっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やつを取り逃した…

俺はその場で膝を着いた

やつを殺し損ねたからじゃない

 

「…ぅう」

 

少し嘔吐く

 

そして、俺はその場で嘔吐した

 

「おぉううえええぇぇ……」

 

喉が焼けるように痛い

しかし、それ以上に奴に抱き締められたという事実が重くのしかかる

奴に、奴なんかに抱き締められるなんて

 

先程まで雨の冷たさなんて感じなかった

再び俺の体を打つ雨が冷たく感じる

 

とても、氷のように冷たい

 

俺が嘔吐いていると、僅かに草木の揺れる音が聞こえた

どうも耳のいいヤツらが集結してきたようだ

 

「…こんなことをしている暇は無い…」

 

その場から離脱する

帰るという選択肢は無い、進むだけだ

森の中に飛び込み、匍匐で前進する

 

草木を踏みつぶす音が辺りから聞こえる

ここからさっさと抜け出してマヨヒガに行った方がいい

俺は奴らにバレないように進んでいく

 

 

「…ここら辺なら」

 

カチリとマテバのシリンダーを開き、中に弾丸を入れる

使いやすいリボルバーだと俺は思う

当てやすいし、かなり正直に飛ぶ

 

俺は好みだ…威力がもう少し欲しいが

 

薬莢の匂いも雨ならそれほど問題じゃない

どうせ雨に全て覆い隠されるのだ

 

「あ」

 

からんと余分に取ったひとつの弾丸が転がる

そのまま転がっていき、何処かに消えていった

 

…まぁ、いいか

 

俺はそう思いながら進んでいく

そろそろ匍匐でなくてもいいだろう

中腰になって進んでいく、森は静かだ

先程から森は雨の音を奏でている

 

 

「…?」

 

俺はふと、妙な感覚を覚えた

何故か分からないが何かおかしい気がした

何かが居やがる気がする…おかしい気配だ

 

「…まさか…」

 

俺が草むらから顔を上げてその先を見る

 

 

しかし、その先は存在しなかった

あるのはモヤッとした嫌悪感を感じずには居られない景色だ

その景色の中に屋敷のようなものが見える

 

「…」

 

俺は"潜入者"との情報が違うことに違和感を感じた

これ程までに目立つ境界ならば普通そう言うだろう

何か、無理矢理改変でもされたのか?

 

俺はその境界に入ることにした

 

「ウォッチャー、こちら大尉…応答願う」

 

入りながら本部に連絡をかける

かかれば上々、駄目ならばそれまでである

これ次第で後々が変わるとまでは言わないが…

 

『こち……聞こえ……大……?……応答……』

「…ダメそうだ」

 

ガックリと肩を落として俺は境界を超えた

ここで無線がかけられれば…

俺はもはや使えない無線を投げ捨てる

持っていても重いだけだ、使えない

 

そう思っていると、俺はカチリとマテバを構える

 

俺が想像していた通りだ

何もかも、寸分狂わずな状況

 

「ごきげんよう」

 

奴は挨拶を変えずにそう言ってきた

俺はカチリとハンマーを上げる

 

「ごきげんよう、そしてさようなら」

 

引き金を引いたのだった

 

 

大尉とは、部隊内では異質な存在だ

"メディック"がどこかで救ってきたというのが通例だ

ぽっと出の奴がEEFという事実を受け入れられないやつも居る

 

しかし、大尉は許されている

それほどのことをしても、許されている

 

大尉…"シャドウ"が別段気に入られている訳では無い

 

当たり前に仕事をして、当たり前に特進したからEEFなのだ

 

もしくは、彼が能力持ちだったからだろうか

 

 

 

 

 

…それは彼をEEFにした司令官しか知らないだらう




訳あってハワイです


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境界の果て

文字数多め、後次から少し変わります


「あぁ怖い、引き金を引くのが早いわ」

「この程度で死ぬとは思ってない」

 

マテバの銃口を下に向ける

降参では無い、撃っても意味が無いと知っているからだ

意味が無いことをするのは…まぁ、この時の気分次第か

 

「ようこそマヨヒガへ、私の家では無いのだけれどね」

「…そうか」

 

俺はマテバをホルスターに戻す

そして、背中からアンツィオを取り出した

 

衝撃の事実じゃない

何せ大体分かっていたのだ、俺には

 

幻想郷を作った賢者…妖怪の賢者

人間との共存を望んだ素っ頓狂な野郎

それであっても長い年月を生きた人でなし

 

長い年月の間生きているならば、それなりに冴える

こいつは俺がちっぽけに見えるくらい頭が良い

 

 

…そんな奴が、自らの家を人間如きにみつかる?

 

 

 

有り得るわけが無いだろう

 

 

 

こいつが俺たちの情報を知っている理由は知らない

どうせインチキな力で俺たちの情報を知っているんだ

 

 

「ここがお前の住処でも無くていい…俺には関係ない︎︎」

 

ライフルを構える

 

言葉の通り、俺には関係ない

マヨヒガの破壊を必要としているのは俺では無いのだ

俺はこいつを殺す為にここに来た、マヨヒガの任務だから受けた

 

今から始めるのは、命と命のぶつかり合い

奪われた者と、奪った者の戦いでもあるのだ

 

「…母の仇は討つ」

「うふふ、さぁ、来なさい…"双星"」

 

引き金を引いた

 

 

「…」

「…どうかしたか?」

 

私は空を見た

雨が降り注ぐ、曇った天気模様

しかし、月から降り注ぐ月光は雲に遮られない

 

そもそも、月は雲に覆い隠されていない

 

「…なんでも無い」

「なんでも無い風じゃ無かったが」

 

横にいる人物はそういった

片足を曲げ、縁側に乗せている

 

古い仲じゃない、相手にとっては

私にとってはとても頼りにはなるのだが

 

「少し嫌な予感がした」

「uh-huh、博麗の勘ってやつかね?」

 

彼はそう言いながら煙草を吸い始めた

妖力の火によって煙草を着火し、一服し始める

 

…ここは禁煙じゃないか?

神社って神聖だし…

 

「あ、無礼講な」

「それ私が言うんだよ」

 

ふーっと煙を吐いた後に彼は言った

普通それは私が言うべき言葉だ…

私はお茶を啜りながら話を続ける

 

「ただ嫌な予感がしただけだ」

「さいで、嫌なことでなければいいがな」

 

煙草を指で挟み、彼は笑う

彼の言うとおり嫌なことでなければいいのだが

…大体こういう場合は私の勘は当たる

昔からずっとこうだった…生まれた時から…

 

「…シケた顔すんなよ、煙草が不味くなる」

「そりゃ悪かったな、勝手に顔がなってた」

「真に受けるなよ…まぁいいさ」

 

彼は煙草を何処かに仕舞うと足を崩す

どうやらもう立ち去るようだ、今日は早い

 

「じゃ、俺はそろそろ帰るぜ」

「あぁ…私は寝るよ」

 

彼は手を振りながら神社の鳥居の方に歩いていく

歩いていく彼の"紅白"の衣装が蒼い炎に包まれていく

前までスキマ野郎のようにワープホールみたいなのを使ってたのに…

見た目の問題か?前のも前で良かったが

 

「また会おう、━━、次は面白い話を頼むぜ」

「分かってるよ…斬鬼」

 

彼は、完全に炎に包まれた

 

 

2発で仕留められるとは思わなかった

少しくらいかすればいいのに、かすらない

持っているマガジンを加味して考えるとそれ程撃てない

 

このアンツィオは5発装填式だ

弾薬は専用の物、マガジンも叱りだ

 

「さぁ、舞えよ戦え戦士達」

 

紫がそう言うと、大量に空間が開いた

恐ろしい、というより本能的な恐怖が上がってくる

その空間からのぞく大量の目は、全て俺を見ている

ギョロギョロと、気持ち悪く動く

 

俺だってただの人間だ

 

恐怖は感じる、表に出さないだけで

 

「最初から潰す気、か」

 

俺がそう言った瞬間、絨毯爆撃が始まった

大量の弾幕が俺一人に対して放たれる

まだ俺に到達していないのに、もう消し飛ばされた気分だ

 

しかし、まぁ

 

「やれるだけはやるか」

 

弾幕に走り込む

後ろに逃げようとも背中から撃ち抜かれるだけ

そもそも、奴が逃走という手段を許してくれる訳が無い

何かしらを既に仕込んでいるだろう

 

大量の弾幕の中を駆ける

どうもこの雨霰の中に抜け道が存在しているようだ

奴もまだ本気じゃ無いのだろう

 

この距離でも当てられるが、どうせ避けられる

奴にとって必中は必中では無い

 

「まだ遊戯の段階か」

 

明らかに銃火器じゃ不利だ

奴には弾丸が当たる気がしない

俺の装備類に刃物はあるが、如何せん短い

有効打を与えるものが少ないのだ

 

…いや、待てよ

 

「関係ないか、そんなの」

 

不利とかどうでもいい

近づいてぶちかませば大体死ぬんだ、間違いない

奴がどの程度の生命力を有しているか分からない

 

ただ、大妖怪であろうと奴に致命傷は与えられる

 

マガジンは予備を含めて2個

既に装填されているものを含めれば14発だ

多くも少なくもない、ばら撒くならば少ないが…

マテバは予備を含めて5個

六発装填だから、割とばらまける

ただ、リボルバーだから大量にばら撒くことは出来ない…

 

「…ッーィイッ」

 

空を瞬駆けながら弾幕を避ける

隠れる場所はどこにも無い

 

あるのはもはや美しいと言える弾幕のみだ

 

「そろそろ、新しいルールを決めないといけない」

 

弾幕の奥からそんなふうな声が聞こえた

弾着の音にかき消されることなく、俺の耳に届く

 

アンツィオを2発放つ

弾幕が貫通、相殺されて一直線に消えていく

弾幕一つ一つの耐久力はアンツィオより低いようだ

 

"詰み"であっても、何とか出来るはずだ

 

「今までのように血を血で洗う戦闘では無い

 美しく、雅な戦闘を、遊びを︎︎」

 

奴の声が耳に入る

 

何をクソのようなことを言っているのか

何故、遊びにする必要があるのか

 

妖怪と人間が相入れることは無い

 

未来永劫、それは変わらない

 

「遊び?戦いを遊びっていうのか、お前は」

「戦い続けてもそのまま廃れていくだけ

 貴方でも、それは分かっていることでしょう︎︎」

 

彼女は弾幕の中、そういった

俺は放たれる弾幕を避けながら確実に近づいていく

 

「そもそもこれは遊びってか?」

「えぇ、これはその試験の様なものよ」

「…試験会場はここじゃねぇぞ」

 

一際大きく空間が開いたかと思えば

そこからとても大きな鉄の箱のようなものが現れる

 

確か、電車だったか?

 

それが俺に突っ込んできた

もしこれが遊戯ならば、どれだけ妖怪のお遊びなのか

というか、遊びならば人間もするということか?

 

人間をおもちゃにして?

 

「狂ってる」

「狂ってる?何を今更」

 

ふふふ、と笑い声が響く

廃電車が何両も走ってくる

畜生、日本中の廃電を使っているのか?

 

一両一両に弾は使えない…避けるしかない

 

「妖怪なんて狂い者の集まりでしょうに

 そこに少し、もっと狂った者が現れる︎︎」

「お前様な人間と共存を望む奴が、か?」

 

廃電車に紛れて標識が飛んでくる

俺は片手で「止まれ」とある標識を掴み取る

そのまま、投げ返してやるが当たる気はしなかった

 

「えぇ、えぇ、私のような者が、ね?

 それは貴方も変わらないと思うけど︎︎」

「俺とお前は違う、決定的にな」

 

俺はお前と違う━━━━━━

それは残酷な程決定的に違うのだ

 

投げられた標識が当たることは無かった

 

 

「俺はお前程頭が良くないし、体が頑丈でない」

 

 

優雅に空を舞い、1マガジン分のアンツィオを放つ

簡単に奴の弾幕を粉砕しながら弾丸は突き抜けていく

 

ただ、空間に入られる訳でも無く簡単に避けられる

 

奴が放つ弾幕に比べればこっちは赤さんのようなものだ

避けられて当たり前な話だろう…

 

「変な術も扱いにくいし、能力も無い」

 

奴とかなり近付けた

弾幕の密度が凄まじいが、避けられないことは無い

霊力を使いながら、空を駆ける

 

俺の言葉に、奴は━━━━紫は言葉を繋げる

 

「そうね、その通りよ

 比べてみれば大量の違いがあるわね︎︎」

「その中でも決定的な違いはな…」

 

奴の寸前まで思い切り近づく

下から回り込むように高度を下げ、突き上げるように奴の目の前に行く

 

高濃度の弾幕を針に糸を通すかのように突き進んだ

 

周りから見れば、神業としか言えない所業

 

 

 

ようやく、意外そうな顔をした奴の顔を見れた

 

「お前らと違って、希望を持って生き抜くこと…

 

 ︎︎俺の場合は、お前をこの世から抹消し、完全に消す事だ!」

 

俺の希望は、いつでも同じ

例え妖怪であろうとも、何であろうとも…

 

血が出るならば殺せる、摂理だ

 

妖怪を殺せるという事実があるならば、俺は喜んで地獄に身を落とす

例えどこに行こうとも、例えどこへ堕ちようとも

 

奴の体にアンツィオを叩きつけ、ゼロ距離の射撃

丁度、最後のマガジンだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、俺も最後の時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はだから人間が好きなの

 たかが70、60年を必死に生き、名を残す貴方達が︎︎」

「━━━━━━━ぐ、いぎっぁあああっッ!?」

 

顔面が、激痛を上げた

特に右目の方から酷い痛みを感じる

 

俺は激痛に晒されて奴から離れた

 

離れたと、思っていた

 

「…ぁ。?」

 

気付けば、俺は落ちていた

奴のいた空中から、地面へと落とされていた

 

視界には、叩き割られたアンツィオが見えた

それと、十字に切られたと思わしきナイトビジョン

 

 

 

それよりも、視界は半分しか存在していなかった

 

片方は何も映さず真っ黒なままだった

 

 

「あぁ…!」

 

 

ある事実に気づく前に、俺は地面に叩きつけられた

深く、俺の精神も叩きつけられた事だ

 

辺りに土煙が立ち込める

 

俺は、その中でゆっくりと目を閉じた

 

 

眠るように

この現実から逃げるように

永遠にこの夢から覚めぬように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからこそ、貴方達が…あなたが好きなの

 奪いたい程に、永遠に愛を誓いたい程に

 

 だから、堕ちていきましょう?アナタ

 ︎︎︎︎︎︎全てはアナタの為、我が身はアナタの為…」

 

暖かい感触が体を包む

母親のような感覚があるが、体は拒否を起こしていた

俺をそうしていいのは、母親だけだ

 

 

触るな、俺の体に

 

汚すな、俺の体を

 

何も、何もするな━━━━━━━

 

 

 

 

 

何も、見えなくなった



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温もりの中

「…」

 

起きると、そこは暗闇だった

正確に言えば蝋燭の明かりしかない、どこかの屋敷の中

椅子に縛られて置かれている

手足が椅子に括り付けられている、背もたれは存在している

蝋燭は俺から見て左右の柱に置かれていた

 

とはいえ、もう右目は見えないから右の蝋燭は僅かに見える明かりで判断しているのだが。

 

「…畜生」

 

装備類は何一つ無い

グレネードはおろかナイフ1本すらないのだ

抵抗も脱出もままならない

 

――このまま殺される

 

最悪の想像が頭をよぎる

こんな所で死ぬなんて、クソみたいだ

それはアイツ(八雲紫)の腹の中で死ぬようなものだ

 

それだけは許されない

 

俺が死ぬんじゃない、あいつが俺に殺されるんだ

 

 

「気張っているわね、アナタ

「っ」

 

生暖かい声が耳を擽る

体が反射的に殴りかかろうとするが、動けない

かなりキツく縛られているらしい

…こいつはかなり苦労しそうだ

 

畜生…!こいつを解け!今すぐ!

「それは出来ないと言うものですわ」

 

奴は俺の後ろに回る

姿が見えないというのが恐怖を煽る

これから何をされるか、想像したものでは無い

 

…したくも無い

 

湧き出る恐怖を抑えながら声を荒らげる

 

「今からをされるか、それが気になるのでしょう

こいつを解け、今すぐ!

 

こいつの言葉を聞きたくない

その汚らわしい口を今すぐ閉じろ

 

――そして二度と 喋るな

 

あらあら…良く吠えるわね」

「あぁ!?…うぐぁっ!?

 

煽りに乗り、後ろを向こうとすると、殴られた

頭が揺れる、口の中が簡単に切れて血(赤)が出る

 

奴はそれを恍惚とした顔で見ているようだった

 

「あぁ…美しい""ね、失礼して…」

「――…!!!」

 

くちゅり、と俺の唇を貪った

初めての経験だったのもあったのか、反応できなかった

反応が遅れたのと手足が縛られているのをいいことに、彼女は俺の中を蹂躙した

俺の目の前に恍惚とした目の紫が居る

最初こそ抵抗したものの、直ぐになすがままとなった…

 

 

 

…数分が経過した頃だろうか

俺は蹂躙から解放された、意思が朦朧とする

息継ぎの暇無く接吻をやらされたのだ、死んでない方がおかしい

 

「…あら――すぎたの――大丈――?」

 

紫の声が遠く聞こえる

頭がクラクラとする、世界が回っている

金属バットで殴られてもこんなくらみ方は無い

 

頭がオカシクなりそうだ

 

「仕方な――これ――しか――」

「――!」

 

グラグラしていると、何かを刺された

その瞬間、意識が鮮明に覚醒する

横流ししていた情報が頭に殴り込んでくる

 

1番言いたかった言葉が考える前に出てくる

 

お、お前…よ、よくも俺の…!」

「あら?初めて?それは良かったわ」

 

彼女は手のひらで注射器をクルクル回しながら答える

…見覚えがある、組織で使ってた覚醒剤だ

時折耐えきれなくなるやつがいるから、治療と称して麻薬を投与する

 

麻薬にも種類があるらしく、使ったら予知能力だの時が遅くなる戦闘用ドラッグがあるらしい

…ただ、副作用はシャレにならないらしいが

 

「人をヤク漬けにする気か?」

「えぇ?そんなまさか」

 

気分が高揚しているせいか、口がよく回る

世界がレインボーロードだ、レインボーだ

物が何重にも重なって見える…奴がこんなにも…

 

ヤク漬けアナタもいいですけれど…」

 

彼女は俺の顎を上げる

奴の顔面が目の前にあるが、頭がオカシクなったせいで何も分からない

グワングワンと世界が揺れている

 

「――やっぱり、私に抵抗するアナタが1番ね」

 

ぺろり、と頬の傷を舐められた

そして俺の見えなくなった右目をなぞる

 

「あぁ…ほくろまで削っちゃったわ。

 割と好きだったのよね、アナタのほくろ」

 

十字になぎ払われた際、ほくろと右目が逝った

ホクロは割とコンプレックスだったからいいのだがね

右目はどうしようもな――

 

「…だから」

「…は?」

 

彼女は何の脈絡も無く、自分の右目を抉った

あまりの突然のことに、あっけに取られた

何も無くなった右目の穴から血が溢れる

まるで血の涙を流しているようだ…にしては量が多いが

 

「こうするの」

「…うぐっ!?あああああああああ!!!

 

彼女は俺の右目をくり抜いた

右目が何かの管をプチプチ裂きながら引っこ抜かれる

くり抜く際、俺に垂れかかって来たせいで椅子が倒れ――

 

 

いや、椅子なんてそもそも無かった

 

 

俺は床にバタンと押し倒された

俺の何も無くなった右目の穴に彼女の手から血が垂れる

 

染みて痛い、なんてものじゃない

そもそも抉られているのだ

 

「…見てて」

 

彼女は、抉った俺の目を自分の眼孔に嵌め込んだ

縦に切り裂かれた痕があったそれは直ぐに再生し、茶色の、日本人特有の瞳になる

 

妖怪の再生力によって、俺の…いや、"紫の瞳"は直ぐに再生した

 

「アハ、アナタの瞳…貰っちゃった

 

彼女は嬉しそうにそう言うと、今度は俺の右の眼孔に抉りとった自分の目をはめ込む

 

激痛が走る

 

それは感覚的、というより感情的な拒否反応だった

 

「私が奪うだけなのはダメ、取り換えっこよ」

「う、ぐぐぐ、アアアアアッッッ!!!」

 

燃えるような痛みが顔の右側に広がる

本当に燃えているかのような痛みだ

現実では何も燃えていないと言うのに

 

痛い、アツイ、熱い

 

「…フフフ、アナタが私と一緒になっていく」

 

燃えるような激痛の中、そんな声が響く

前からじゃない、辺りから一斉に聞こえるようだ

 

「あれほど恋焦がれたアナタを手に入れて…一部が私と一緒」

 

嬉しそうな声が響く

恍惚とした声が響く

楽しそうな声が響く

 

どれも音色は違うが、放っているのは同一人物だった

俺は燃え尽きそうな激痛のなか、己が右目から紫に変わっているような感覚を覚えた

 

そんな中…ふと、俺は彼女の瞳を見た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そこには、怯えきった顔の紫が居た

 

 

「ひっ」

 

思わず、そんな声が出てしまった

今までこんな恐怖を感じたことは無い

それ故に出てしまった本当の…恐怖の声だった

反射的に両目を瞑る、これ以上何も見たくなかった

 

 

今起こっていることも、これから起こることも、何も見たくなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナタは目を開ける

 

しかし、それは許されなかった

闇の中への逃避は許可されなかった

 

 

 

俺は、"両目"を開けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

右目には、視力が戻っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、こちらの世界へ」

 

 

無数の、境界を映して

 

 

妖怪…に成りかけた時の感情は今も忘れられない

あの時ほど絶望したことも無かったはずだ

 

妖怪の山で殺されかけ、9年眠った時ですら、そこまでの絶望は無かった

 

俺にとって妖怪となるのは、それ程の絶望だった

 

俺は、今でも妖怪を憎んでいる

 

特に、俺の体をこうして妖怪へと変えた紫に

 

殺したい程の愛を

 

何もかも奪ってしまいたい程の憎しみを

 

 

 

 

 

ただ、ただ、一つだけ、許せるのは…

 

彼女がまだ、人の形をしていることだけだろうか?

それとも、あの時、助けてくれたからだろうか?

 

もしくは、母親を生かしていた事だろうか?

 

今でも、悩んでいる

 

 

…こうして、彼女の温かみを感じながら




もっと濃い赤無いんすかね()



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Man KIA

あれから何日経っただろう

柱に片腕だけ括り付けられ早数週間、と言ったところか

 

定期的に紫が来ては口移しで食料を与える

 

最初はあんな恥晒しな方法で俺に栄養を…

この話は止めておくべきだろう、少なくとも赤さん扱いは止めてくれた

 

食事が終わって少しすれば、蹂躙が始まる

完膚なきまでに俺を虐めて辱める

 

何回、彼女が俺の上に跨ったのだろうか

 

何回、彼女は俺に接吻したのだろうか

 

何回、何回俺は辱められたのだろうか

 

外の世界では戦争捕虜には国際法とか言うのが作動するらしい

作動しなくとも世界の批判を浴びるというのがあるだろう

 

 

ここにはそんなものは無い

 

天狗の捕虜になったやつの気持ちが痛いほど分かる

実体験してみると、こうもやる気が無くなると言うものだ

 

 

「そろそろ、完全に成るかしらね」

 

 

毎回、毎回同じことを言う

今日もまた同じことをコトが終わったあとに言った

 

俺は彼女をじろりと見た

殆ど諦めたような目に見えるだろう

 

しかし、彼女は甘く無い

 

「ふふ、その目…その目が好きなの」

 

俺の頬を撫でながらそんなことを彼女は言う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そう、俺は諦めていないのだ

ここから逃げ出し、八雲を殺すという事を

 

親を奪われた怒りを忘れたことは無い

 

親を妖怪の餌にされたことを忘れたことは無い

 

こいつを殺す、それの為だけに生きている

 

 

「お前、いつか殺してやる

「ふふ、熱烈な告白ね」

 

口が三日月かと錯覚する程に裂ける

笑っているのだ、この熱烈な告白に対して、嬉しすぎて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――明日もきっとその先も

地獄は続くのだろう、どこまでも

 

たが、どこかにボロがある筈

 

完璧な賢者サマでもそれは変わりない

 

それを、的確に突き、――脱出する

 

 

 

「…」

「いつもそっちを見てますよね、椛…何かあるんですか?」

 

妖怪の山、中腹にて2人の人物が話をしていた

いや、どちらかと言うと片方がウザ絡みしていると言った方がいいか

 

射命丸は最近、ようやく始末書の山から抜け出せた

その時の腹いせとして椛にウザ絡みしているのだ

 

「いえ…河童が怪しい動きをしてそうなので」

「ああ、あの河童の!…そんなに変な動きを?」

 

彼女達が言っているのは河童達がソワソワしていることである

普通に文が始末書を書いていると、突然怒号が響いたのだ

 

見に行ってみれば、河童は何故か怒られていた

白狼に囲まれて凄い可哀想だった…

怒られた原因は煙突から溢れる黒煙らしい

 

視認性が悪くなるから止めろコラとキレられていた

 

「…まぁいいでしょう」

 

椛はそんなことを呟いてため息をついた

能力を行使していたのだろう

 

「では私も気が晴れたので」

 

文も何かに満足したのか、翼をはためかせる

 

 

 

――そこで、彼女は空中に留まった

 

「そういえば、"潜入者"でしたっけ

 彼、割と上物らしいですよ、聞いた話ではね

 

 ――抵抗もしない、顔は良い、上物

 貴女は襲いに行かないんですか?」

 

「行く訳が無いでしょう?

 そんな下劣で低俗なことを」

 

椛は汚いものでも見たかのような目付きを文にぶつけた

彼女は少し怒っているようだった、尻尾が逆立っている

 

「ふふ、でしょうね

 いつからでしょうか、捕虜の辱めが許可されたのは」

 

 

そんな下劣なコトが正式に許可されるわけが無い

そもそも捕虜の扱いは、さっさと人里に送り飛ばして終わりなのだ

 

何日も、何年も拘束するものでは無い

 

 

 

 

――"死体を除いて"

死体を送り返してもなんの意味は無い

それどころか疫病が広がる可能性があるので止めた方がいい

 

…死体を送る訳が無いだろう

全員死亡していれば、送り返す必要は無い

 

 

それを利用して、大天狗は――

 

 

そう椛が考える前に、文は飛び去った

 

ため息をついて、また先程の方向を能力を使って見る

 

数週間前、ある人物が山に侵入したことを椛は知っている

ソイツが同僚を殺したのも知っている、全部"能力"で見ていたのだ

 

知っていて、通達しなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

だって、面倒ごとは嫌いだから

 

 

 

 

 

 

その人物とは違う人物がマヨヒガとかいう建物に向かっていく

あそこだけ、何故か"見えないのだ"

 

まるで見るなと言わんばかりにだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…抵抗しない?ハッ、とんだ嘘吐きですね

 ああも山を東奔西走されると隠すのが困難になりそうです」

 

山を駆ける黒い影を見ながら、椛は呟いた

 

 

「…大尉」

 

ぽつりとそんなことを呟いた

彼からの通信が一切無くなったのは数週間前だった

マヨヒガの爆破完了という無線の後、音沙汰無しとなった

 

組織の中では八雲の怒りを買って殺されたと噂されている

 

だが、俺は違うと思っている

彼の姿を見た時、絶対に死ぬ男ではないと確信した

 

あれは"好かれている"、間違いない

 

あんな噎せ返るほどの妖怪の臭気、何故誰も気にしないのだろう

 

もしかして、俺の鼻が良すぎるだけなのだろうか

 

それとも、この能力のおかげなのだろうか

 

 

『意識を操る程度の能力』

 

相手の意識を操り、思いのままに動かせる…

とまでは行ってないが恐らくそこまで行ける能力

意識を操り、俺の存在を意識させないことで俺は"潜入者"に成りえている

 

奴らは俺を収監し、辱めている気なのだろう

ただ何も無い場所に興奮していると思うと何か笑えてきた

 

ただ、能力の範囲は割と狭いのでこういう広い場所は苦手なのだ

 

「たしか、ここら辺だったか…?」

 

前回マヨヒガにたどり着いた場所にたどり着く

あの時はここに来た瞬間マヨヒガが見えたが…

 

 

「…確かに、任務は完了したらしい」

 

倒壊したマヨヒガが俺の目の前にあった

数週間前の筈だが、少し煙が上がっている

C4の威力ってこんなに高かったか…?

大尉は多めに持っていたのだろうな、恐らく

 

「天狗の情報もかなり得れた」

 

俺は残骸の中に座り込み、本部にデータを送信する

カセットテープに吹き込んだ音声を送り込むのだ

リアルタイムで会話をしてもいいが、もしかしたら聞き耳を立てている連中がいるかもしれない

 

データ送信が完了するまで少し探索でもしようか

 

 

「あん?」

 

俺はふと、気付いたことがあった

任務に持っていく物は厳重に管理されている

余分に持っていかれたら困るし、なんなら裏切り者も考えられるからだ

 

最近…とりわけ大尉の持ち込み物を思い出す

 

彼は、それほどのC4を持っていた記録は無い

たしか二三個ほどの量だった筈だ

 

だとしたら、この現状はおかしいのだ

 

明らかにそれ以上の爆薬を使い、破壊されている

根元から致命的な部分を爆破したとしてもこんなに倒壊しない

 

だとしたら、他になんの可能性があるか

 

 

…幻術

何者かが、幻術を俺に見せている

しかも俺の能力を貫通するほどの術式

 

そんなの、圧倒的な力量を持つやつに違いない

そして、ここはマヨヒガの跡地

 

つまり―――

 

俺はハッと顔を上げ、ホルスターから拳銃を抜こうとした

 

「まさか――」

「おやおや、気付かれるなんてね

 割とEEFには有能が多いようだ、嬉しいよ」

 

穏やかな声がした

 

俺は声が出なかった、抜けなかった

だそうしても、嘔吐くような断片的な言葉しか出ない

 

その原因は、少し視線を下にすれば見ることが出来た

 

 

 

 

 

 

 

左胸から、腕が突き出ていた

 

ゴフッ

「天狗共の情報はどうでもいいが、マヨヒガは少し問題がある」

 

腕が引き抜かれ、俺は地面に落とされた

地面にうつ伏せに這い蹲る

四肢に力が入らず、俺は呻くことしか出来なかった

 

視界の端に、金色が映る

それは、生物の物と言われれば違和感しかない金色だった

 

…だって、そんな黄金は生物が纏うはずがない毛色だ

 

「ふむ、丁度天狗のデータを送り終えたところか」

「…ッ、…ぅゥ」

 

顔を上げ、取り落とした拳銃にたどり着こうと這いずる

銃は丁度手前側に落ちていた

 

ここで、やつの姿を見ることが出来た

と言っても、見ることの出来たのはその金色の尻尾だけだった

 

あまりに、その尻尾が巨大なのだ

 

数は、数えるまでもなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――九本だ

 

「…きゅ、う…ビ…」

 

俺は、こんなやつと戦っていたのか

そんな絶望が一気に襲ってきた気がした

腕ひとつで簡単に俺たちを殺すことの出来る存在と

 

だが、ここで止まる訳には行かない

 

手を伸ばす

 

届かず、空を切る

 

体を捩り、何とか銃の近くに身体を持っていく

九尾が無線機をいじっているようだが巨大な尻尾のせいで見えない

ただ、妨害が入るのは時間の問題だ

 

「…これでいいだろう」

『0-5、データが途切れた、応答しろ

 繰り返す、データが途切れた、何があった』

 

無線機から声がした

それに応えるのも重要だが、今はそれどころじゃない

そんなことをしていられない…出来ない

 

手を伸ばす

 

届かず、空を切る

 

あともう少し、体を寄せれば届くだろう

やつは通信機に夢中だ、今なら1発叩き込める

 

身をよじる、体が銃に近づく

 

 

 

手を伸ばす、手が銃に━━━

 

「…ッア、ゥ」

「危ないな」

 

いつの間にか、こちらを向いていた九尾に銃を奪われた

かちりとマガジンを確認し、眺めているようだった

 

不味い、殺される

俺は直感的に感じた

直感は裏切ることはなかった

 

奴は、眺めるのを止めた

 

九尾がスライドを引いた

黄金の薬莢が宙を舞う

 

その瞬間が何故か遅く見えた

 

 

『0-5、こちらビッグピン

 何があった、応答しろ』

 

コマンダーだ、受話器は外れている

声を上げれば聞こえるはずだ

 

上半身を少しでも起こし、声を荒らげる

 

「コマンダンテ!マヨヒガは━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレンジと黄色の混ざった閃光が、先走った

 

 

『0-5?どうした応答しろ!?

 0-5?0-5━━━━』

「五月蝿いな」

 

引き金を3回ほど引き、無線機を黙らせる

火花を立てて無線機は音を立てなくなった

何も言わなくなった無線機を妖力の炎で灰も残らない程焼き尽くす

 

「死体は…ささっと処理しようか」

 

頭に1発受けた死体を適当な場所にスキマで送り込み、処理を済ませる

多分…行先は無縁塚だろう、誰とも縁は無い

 

にしても早めに戻ってきてよかったかもしれない

こうして縄張りに入る不届き者を消すことが出来た

 

確認だか知らないが、妖怪と出逢えばこうなることくらい知ってたはずだ

彼だって戦う人間だったはず、後悔はないだろう?

 

「さて、私も帰ろうかな

 夕餉はお揚げを沢山入れよう」

 

完璧な式神は、夕餉を何するか考えながら帰宅するのだった

 

その頃には、彼女の頭の中に彼のことなど一切存在していなかった



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安楽の時間

「最近はめっきり妖怪殺しのを効かなくなったな」

「確かに、最近は妖怪が虐殺されたことを聞かない」

 

博麗神社の縁側にて、2人の人物がをすすりながらそんなことを言っていた

 

上白沢慧音と先代巫女である

 

2人は妖怪殺しのことについて話していた

 

「それよりも妖怪と争っている組織の方が話題で上がっているよ」

「あぁ…共存反対勢力の事ね」

 

最近天狗とバチバチに殺り合っている連中だ

遠目から戦闘を見たことがあるが、割と善戦していた、結果はお察しだが

装備も割と充実している、伊達に反対派を名乗っていない

 

「人里からも賛成するヤツらがいるから、割と困っているんだ

「と言っても、私は動けないぞ」

「分かっているよ…相手に外来人が居ようと、始めたのは人里の連中だ」

 

そう、あれほど異様な組織であってもすぐには潰せない

相手に外来人がいるからと言っても無理なことには変わりない

 

始めたのが人里の連中だからというのも関係ない

 

…そもそも、反対派が現れるのは"恐怖"があるからなのだ

妖怪への恐怖、妖怪はそれで成り立っている

ある意味妖怪にとっては追い風なのだが…

 

人間が妖怪を滅ぼすなら、そもそも関わらなければいい

関わらなければ、妖怪の恐怖など知りえないのだ

 

「…苦労してるな、アンタ」

「君もだろう?」

 

ふたつのため息が、同時に溢れた

話題を変えるようにぽつりと巫女が言った

 

「…最近、養子を取った…ていうか貰った」

「…君がかい!?」

 

慧音は明らかに驚いていた

この博麗巫女がいつになったら跡継ぎ作るのかと思っていたが…

多分子育ては無理だろうと思っていたから意外だった

 

「そこまで驚かなくてもいいじゃないか?」

「君と子供というのがどうも思い浮かばなくてな…」

「…そうか」

 

巫女は、急に押し黙った

何か聞かれたくないことでもあるかのように

慧音は分かっていた、これが彼女の癖である

ことを

 

嫌なことでもあったのかい?」

「…ぇ?」

「子供に関して、嫌なことでもあったのかい?」

「………、…」

 

 

ただ、その時の気分だったとしか言いようがない

 

本当に、気分だった

 

彼の姿が脳裏に浮かんでしまったから

 

 

「…実は………息子が居たんだ」

「…え?」

 

慧音はありえないようなものを見たような顔をした

簡単に言えば、人を見るにはあまりに失礼と言える顔だろう

ゴホンと軽く咳をして意識を戻す

 

「紫に連れてこられる前に息子がいた…生きているか分からないけど

「君はどこから来たんだっけ?」

「ここから少し離れた場所…2人で暮らしてた」

 

ふと、懐かしい感情が芽生えた

こう人に話してみると少しは楽になるものである

 

「…今生きているとしたら?」

「…15、か16?だろう、霊夢と同じくらいだ」

「霊夢っていうのか?養子の名前は」

「そうだ、名前は紫が勝手に決めたがな、育てていたのもアイツだし」

 

言ってしまえば、紫はほぼ教育係だろう

本格的な技術は私が伝え、次の博巫女となる

 

そして、私はお払い箱、という訳だ

 

…そろそろ私も御役御免か

そんな感傷にひたろうとしていると、慧音が突然別の話題を話した

 

「…そういえば、霧の湖にある屋敷、知ってるよな?」

「あぁ、それがどうした?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近、そこら辺がおかしいんだ

 …なんていうか、紅い煙が溢れているというか…」

 

 

暗闇

深い暗闇の中に俺はいた

今日は新月だ、僅かに見える蝋燭の灯り以外に何も見えない

 

「…」

 

体が重い

ここ何日は楽に動けていないことだろう

 

そろそろ動かしたい

 

そう思いながら体を捩る

 

「…?」

 

その時、小さな違和感がした

縄で柱に括り付けられた右腕が、いつもより動くのだ

 

(…まさか)

 

体の細胞が活性化し、力が湧いてくる

抱いていた僅かな希望が大きな希望と化す

右腕を見てみると、思った通り、縄が緩んでいた

 

かなり緩い、簡単に解けそうだ

 

(…アイツ、締めるのを忘れていたな?)

 

忙しかったのかなんだったのかは知らない

ただ、このチャンスを無下にする必要は無い

俺はくるりと体を回し、縄を解く体制に入る

 

今まできつく締められていて出来なかったこの動きも簡単だ

あまりに簡単すぎて、少し拍子抜けである

 

床に縄が転がる、解くことが出来た

手首の感覚を確認しながら柱からゆっくり離れる

 

(さて…)

 

辺りをよく見回す

暗がりには慣れている、長すぎて目が慣れた

だからこそ、気になるものが見えた

 

(あれは)

 

あるものが見えたので、そちらにゆっくりと向かう

近づくと、それの形がよく見えた

 

(持っていた装備類か)

 

紫に負けるまでに持っていた装備類が無造作に置かれていた

何一つ変わっていない、手を付けられていないようだ

まさに剥いで置いておいた、という感じだ

 

(…壊れているままか)

 

破壊されたナイトビジョンが目に入る

この様子だとアンツィオも死んでいるはずだ

俺の予想を裏切らず、真っ二つに叩き割られたアンツィオが目に入る

 

(…まぁ、邪魔だし)

 

割と気に入っていたので傷心しながらマテバを拾い上げ…アレ?

 

(…これ、マテバじゃない?)

 

よく見てみると、フレームがシルバーに変わっている

グリップはブラックのラバー素材

そして明らかに延長されたバレル

 

刻印には、"M500"と無骨に彫ってある

 

(弾薬は…)

 

装備類にはもちろんないだろう

こんなもの持ってきた覚えは無いのだ

だから、シリンダーに入っているものしかないだろう

 

ガチャりとシリンダーを開く

 

(…五発、どれも新品だ)

 

カスタムが施された、新品

 

(…)

 

俺はそれをホルスターに収めた

これ以上ここにいる必要は無い

 

少し、ジャケットの首元を緩めた

新鮮な空気が俺の濡れた胸を冷やした

 

「…出よう」

 

出口に鍵は掛かっていなかった

静かに扉を開き、俺は暗闇に向かって飛び出した

 

誰も、何も、縛るものは無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、ずっと感じる、舐めつけるような視線を除いて

 

 

「…」

 

ある男が、テープを聞いていた

カセットウォークマンに入れられたテープを聞いていたのだ

時折、納得したような声を漏らしながら聞いていた

 

 

安楽椅子がギィギィ揺れる

 

 

男は無言で、ある武器を手に取った

大きな、大砲のようなスナイパーライフルだ

地雷処理などに使われる、強大なスナイパーライフル

かのバレットM82が通常サイズに見える程のビッグサイズ

 

人呼んで、アンツィオ20mm対物ライフル

 

ボルトを引き、薬室に直接実包を詰める

ガチャりとボルトを元に戻す

スコープに『Vipera-PILOT』と刻まれている

男は静かに、テープを聞いていた

 

 

安楽椅子がギィギィ揺れる

 

 

やがて、男は立ち上がりライフルを背負い外に出て行った

 

 

テープは回ったままだった

そのまま、終わりまで再生されるかと思われたテープは磁器のような白い手に止められる

白い手袋をしたその腕は、ウォークマンを掴む

 

そのまま目玉だらけの恐ろしい空間へと消えていった

 

部屋の中には、サプレッサーの付けられたデザートイーグル

それと、揺れる安楽椅子があるのみだった



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月明かりの下

月光が辺りを照らしている

どれほど歩いてきたのだろうか

体感的に数時間は歩いた記憶がある

 

「…はぁ」

 

辿り着いた先は、鈴蘭が咲き誇る丘

何故か分からないが鈴蘭が咲き誇っている

今の季節は…なんだったっけ?忘れてしまった

それほど長い間幽閉されていたのだろう

 

…体感2年くらいだ

外の世界だと成人出来るほどの年齢にはなっている

 

これだと、部隊から戦死扱いされてそうだ

 

新顔にこんにちわしたところで射殺されそうだ

八重とかが近くに入ればなんとかなるが…

 

「…はぁ」

 

ため息がまた漏れた

いつの間にか、小高い丘の上にある枯れた木下にまで来ていた

 

棒のようになった足を休める為、木に背中を預け、座り込む

新月だと言うのに、何故か月光が辺りを照らしていた

 

「…どういうことなんだ?」

 

不思議な光景である

ただ、幻想郷ならではの非常識な光景と言ったところか

生まれたばかりだったか覚えていないが、何でも様々な花々が咲いた時期があるらしい

100年周期だか、50年周期だか知らんがそれくらいに起こる現象だそうだ

 

 

「…まぁ、いいか…疲れた」

「ンッンー、アンタに休む時間はないわよん」

 

 

休もうとした時だった

どこからともなく女の声でそんなのが聞こえた

八雲ではない、別のだ、射命丸でも、椛でも無い

 

この木の後ろ側だ

だらけきっていた体を奮い立たせ、M500を抜く

慎重に辺りを探った後、木の裏に躍り出る

 

誰だ?まぁ、考えなくてもいいだろう

こんな所にか弱い女性が来るとは考えにくい

 

なら、化け物しかいないだろう、人の形をした化け物しか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…という考えが頭をよぎったのを、後々意味ないと思った

その人影は、何故か満月となった月を背にして浮かんでいた

 

その姿が視界に入る

 

俺が先ず発したのは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…えぇ....(困惑)」

 

 

 

その、『welcomeHell♡』とかいうクソダサTシャツへの困惑だった

 

 

 

「ただいま」

「おかえり」

 

帰宅した私を迎えてくれるのは、1人の少女

帰るべき場所に明かりがついていることにこんな安心感があったか?

久しぶりに感じる気持ちを抑えながら、居間に上がる

 

今には、霊夢がだらけた感じに横たわっていた

 

「寝てばっかじゃダメだぞ」

「やることないもーん」

「じゃ、宿題追加だな」

「ちょっと霊力の操作してくる」

 

私が笑顔で地獄を見せようとすると、彼女はそそくさと外に出ていった

少し、その様子が面白くて笑顔が漏れる

 

「ふふ…」

 

そこで、私は気づいたことがあった

いつぶりに心から笑うことが出来たのだろう

お世辞で慧音と笑い会うことはあった

 

しかし、そこに本当の笑顔は無かった

 

「…双星」

 

息子の顔が、脳裏に浮かぶ

彼がまだ生きているとすれば、私は何を言えばいい

恐らく、彼は妖怪を恨みながら死んだのだろう

生きているならば、十中八九あの虐殺は息子のものだ

 

そこまで、妖怪を恨んだ息子が私を見たらどう思うだろう

 

親であっても、裏切り者として殺されるのではないだろうか

誘拐されて人と妖怪の調律者をやってましたとか、私なら殴る

 

「…はは」

 

いや、彼なら許してくれる

こんな愚かな私を、許してくれるだろう

 

あの子は、優しい

 

妖怪と共存なんて、とか言ってるかもしれない

しかし、生きているならばいつしか気付くだろう

 

争いだけ無駄だと、争いは無意味と

 

気づいて、欲しい

 

私はそう、切に思った

 

 

母さん、今僕は頭おかしい奴と対面しています

妖怪の味方をしていても良いので助けてください

 

ていうかなんなんだ、その頭おかしいTシャツ

圧倒的にセンスが無さすぎるだろう

まだ迷彩の方がセンスある(確信)

 

「ちょっと?神に対してその反応はどうなのよん?

 地獄に落とすよん?えぇ?」

「…神かよ」

 

え?マ?神様の服装これマ?センス壊滅しすぎだろ…

幻想郷終わってんなぁ、ヒッドイ都よここも

 

こんなんが神とか

 

 

…ていうか何の神サマ?

 

「良くぞ聞いてくれた!私はこの幻想郷の地獄の神だわよん!」

「…」

 

さいで

なんだろう、不老不死になってでも地獄に行きたくない

え?こんなのが閻魔みたいなことしてんの?

 

無理だろ

 

最初にあった緊張感は消え失せ、呆れだけが浮かんできた

 

「アレ?反応無しぃ…?…あぁ!驚きすぎて声がでないのよねん?」

「…そう、ですね、ハイ」

 

なんか思ったこと言うとぷち殺されそうだから止めておこう

 

…この神、巧みに隠しているが凄まじい力を持っている

 

伊達に地獄の神を名乗っていない神力だ

八雲よりやばいかもしれない

あちらは姑息な手段大量だが、こちらは純粋な力だろうか

 

そもそもなんで俺はこんな奴と話しているんだろう

 

「…まぁ話を戻すわよん」

 (…話してたか?)

 

素朴な疑問が浮かんだがこれも沈めておくことにした

出る杭スプラッシュマウンテン、古事記にも書いてある

 

「ほぼ成りかけ…もとい"成っている"、貴方への提案よん」

「さいで」

 

成りかけ、成りかけねぇ

毎回思うがどこまで崖っぷちなのか教えて欲しい

スキマヤローは教えてくれないしこいつも曖昧だし

どいつもこいつも分かってるなら言えばいいのに

 

…ただ、もはや落ちているところまで言っているかもしれないが

 

 

「貴方に究極の一択を選ばせてあげるわよーん」

「はぁ…―――ッ!!!」

 

 

凄い気軽な感じな空気が氷と化す

すぐさまグリップを握り直し、腰からナイフを片手で抜く

 

俺は、この神を過小評価していたと言わざるを得ない

 

あの態度が騙すものなのかフレンドリーに話す為なのかは分からない

ただ、神と名乗るだけはある力を俺に示してきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やつが、増えた

 

3人に、頭に載せている球体がそれぞれ違う

 

1人は赤い惑星

1人は青い惑星

1人は灰の惑星

 

そのうちふたつは見た事のある

そもそも、灰の方に関しては今まさに"天"に浮かんでいる

 

 

そして、俺はこの神の正体をようやく理解したのだ

 

母から聞いたことがある

 

月に、恨みを持つ神がいるということを

フレンドリーに話したそうだが、まさに俺のような感じだったのだろう

 

 

名前を、確か

 

 

「…へカーティア・ラピスラズリ」

「おやん?母親はちゃんと伝えていたのねん」

「んな事いいから早く答え聞かせろやねん」

「えー、落ち着いてよーん、地球ちゃーん」

 

 

3人の、神が俺の前に降臨していた



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地獄の門

「…」

 

呼吸が短くなる

体が危機を察知しているのを嫌でも察する

 

圧倒的な存在が、3人にも増えた

 

1人ならまぁ片目やれてたかなぁくらいだった

ただ、それが3人となれば話が大きく違ってくる

 

…蹂躙とかいう話じゃないだろうな

 

「んーん、そんなに緊張しなくて大丈夫よん」

「さぁ頭を垂れて平伏しろよん、はようはよう」

「落ち着いてほしーよのねん」

 

うるせぇ奴らだなぁ…

ひとりが喋ると連動しているのか他2人も喋る出す

これが本当にうるせぇ、死んでくれねぇかな

 

「んー、死んでも魂は地獄にあるし、厳密に言えば私も本物じゃないのよねん」

「そうだよん、だからさっさと平伏しろんこのアホが!」

「地球ちゃーん、ちょっと黙ってよーん」

 

…さいで

つまるところ地獄にある魂をボコボコにしないとなんの効果もない、という話である

と言っても、地獄には冷たい炎だの神曲の最下層だな…色々あるんだろう

 

地獄の神なら最奥にあるのは不思議な話では無い

 

…最も死なないと地獄になんて…そもそも死後の裁判すら無縁なのだ

 

「いいや限界だ!殺るね!」

 

なんか吹っ切れたのか、地球のへカーティアが叫んだ

そして、俺に指を指す

 

「くらえん!スーパーアルティメットハイパー無限サイキョーアポカリプスアメイジングシャイニングサバイブブラスターキングソウコウハイパークライマックスエンペラー…

 

 

 

 略して隕石」

 

…が、何も起こらない

長ったらしい詠唱だと思っていたが、何も起こらない

文末的に…隕石降ってたのか?コレ

 

逆に、地球へカーティアの右腕が目玉に覆われ肘から先が消え失せる

 

「…へー、貴方愛されてるわねぇ、妬ましいわコンチクショウ!」

「…話を戻すが、究極の選択とは?」

「あー、そうだったわよん」

 

すっかり忘れていたのか、月のへカーティアは2人をどこかにも戻した

多分鬱陶しいかったのもあるのだろう

…そらあんなの鬱陶しいに決まっている

ていうかあれだけ大袈裟に言っておきながら忘れてたのか…

 

「いやねん、最近月でやべー力が見つかったのよん

 それこそ月の都30個くらいが壊滅するくらいのヤベーやつが」

「はぁ(月の都ってどんなのだよ…)」

「だから」

「ん?」

「貴方に預けようと思って」

「なんで?」

 

途中から嫌な予感がしたが、まさかそんなこととは

素朴にというか、反射的な疑問の言葉が出てしまった

なんだよその超危険な力、ヤベーやん

月の都がどのくらいか知らないが、母に聞けば相当だと帰ってくるだろう

確か、行ったことあるとか言ってた筈だし

 

…母何者?

 

「いやねぇ、封印するのもいいんだけどねん

 それじゃあ面白くないでしょう?

 アイツら速攻封印しようとしてたし」

「対応として当たり前ですよ姐さん」

 

普通そうなんだわ

自国の都30回滅ぼせる力なんて即封印するでしょうよ

逆に封印しない理由が分からないんだが

 

「ちょっとした私怨もあるかもねん」

「…ソウデスカ」

 

ハイライトが消え失せたへカーティアの瞳を見て、色々察した

確かこいつも月に恨みがあったはずだった

母から聞く話によれば相当月人はゴミクズらしい

良くもそんな人間性で都やって行ける…

 

 

 

 

というか

 

「…それが究極の選択?力を受け取ることが?」

「んー、まぁ、そうよねん」

 

凄い笑顔で言い切ったなこの神サマ

それだけの事を究極の選択の選択といったのか?

何?「その力の代わりに貴様の大事なものを奪うぜガハハ」みたいな感じなの?

場合によっちゃ今すぐ自分の頭撃ち抜くぞ?

俺は天国に行って逃げるぜ!あばよ神サマーッ!

 

「あ、死んで逃げようとしても無駄よん

 貴方今天国側だけど、私が地獄に引き摺り落とすわ」

「えぇ....(困惑)」

 

凄い私情で他人を地獄に落とすやん

というか、俺は天国行きだったのか…

割と妖怪を殺してきたはずだが、どうなんだそれは

 

「妖怪殺しは人間にとっては必然よん

 恐怖に打ち勝つ、という方法でもあるしねん」

「さいで」

「というか貴方続けないと地獄行きよん(真顔)」

「続けるさ、どこまで」

 

時折神の片鱗を見せないで欲しい、心臓に悪い

 

「まぁ、いいわ」

 

彼女は笑顔でそう言うと、手のひらをかざす

すると、青緑色の光が彼女の手から溢れた

 

「…月光?」

「そう、あらゆるものの中で1番神秘とされる月光

 それが凝縮されたもの

 

 …あとこの力は元々そちらのものだしねん」

「で、それをどう―――」

 

俺がいい切る前に、彼女が拳を握りこみ、俺に振り払った

こちらが構えようとする前に、月光が拡散する

 

「んじゃ、あとは頑張ってよーん」

「あぁ?どういう―――」

 

俺は、それを言う前にばたりと倒れてしまった

 

 

「大尉でしたか?彼は戦死扱いでしょうか」

「んむぅ、そこは少し悩んでいるんだよ八重君」

「早くしてくれませんかね」

 

急かす声と、のったりとした声

ただのったりとした方には人を従える圧力がある

心做しか急かす声には少し敬意が感じられる

 

「潜入者君は?」

「無縁塚にて死体を発見、除隊処分しているかと」

「そうか…死因は?」

 

のったりとした声に少し悲しみが入る

しかし、次の瞬間には人を従える声と変わっていた

はっと急かした声は返し

 

「左胸を恐らく腕で貫通され失血死…と思われます」

「…やれるのは妖怪だけだ」

「…こいつを見てください、彼の服に付着していました」

 

急かした声が何かを机に置いた音がする

それに対してのったりとした声の方は驚いた様子だった

 

「…まさか鉢合わせたのか?」

「恐らくは、任務が完了したのか確認する際にかと…」

「…確かに、最後の無線には女の声が聞こえた」

「…司令官、そろそろでは?」

 

急かす声はさらにまくし立てた

それに対して司令官と呼ばれた男は拒否をしたようだった

焦ったような声が響く

 

「…いつ?」

「大尉が戻ってから、それとも数ヶ月後かな」

「…それ割と面倒なことになりませんか?」

 

急かす声は呆れの声へと変わって行った

なんかもう、ねぇ?という感じの声である

見放すような声では無い、ただ呆れている様子だ

 

おや、とのったりした声は言った

 

「何か問題でも?」

「えぇ、少し大問題が」

 

少しで済む大問題では無いのですがと矛盾を平然と出しながら言う

そして、ピラピラと何枚かの写真が机に置かれる音がする

 

「…これはあの屋敷かい?」

「えぇ、近々襲撃が始まるでしょうね」

「ふむ」

 

恐らく、写真には興味をそそるものがあったのだろう

少し感心したような声がのったりした声の方から漏れる

 

 

そして

 

 

「…良いタイミングだ」

「…はい?」

 

彼は嬉しそうにそう呟いた

呆れた声はさらに呆れを加速させる

何言っているか分からないからだ

 

「全隊に装備を潤滑に回せ

 AC-130やRSI空挺兵の準備もするんだ」

「…まさか彼らのタイミングに合わせると…?」

「そうだ」

 

呆れの声にのったりとした声は嬉しそうに返す

はぁーっと呆れた声はため息をついた

 

「RSIじゃなくてヴァルキリー部隊で良くないですかソレ」

「…最初はRSIだ、その後にヴァルキリーで行く」

 

司令官は覚悟を決めたようだった

呆れた声はソウデスカと返しながら、ため息を吐く

どこか、楽しそうな言葉を残す

 

「言っておきますが吸血鬼に味方識別マークはありません

 AC-130でバラバラにしても知りませんよ」

「そもそも奴らは妖怪だろう?識別する必要が無いじゃないか」

「…確かに」

 

ハハハハと笑い声が響いた

 

後に、妖怪の山大襲撃事件として語られる戦争の前日談だった

 

後にも先にも、天狗と人間が真正面から総力戦をしたのは、これだけだった



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紅いマフラー

「―――きろて…―――て」

「…」

「起きろって言ってるだろこのスカタン!」

「アバーッ!?」

 

気持ちよく寝ていたら叩き起された

なんだ?なんだって言うんだよ

 

「…」

 

起き上がり、戦闘態勢に入る

俺を蹴飛ばした奴の正体は目の前にあった

身長は2m程、和服美顔の銀髪ロングだ、肘くらいまである

あとケモ耳尻尾を生やした獣人だ

 

 

ただ、尻尾の先や耳の先が月光に染まっている

どうも通常の獣人とは違うものらしい

 

「お、起きたなぁ、おい寝坊助!気分はどうだ!?」

「…十分だ」

ガハハと笑いそうな口調で彼女は言ってきた

それさえ無ければ割と良物件な気がする

 

…妖怪な点を除けばだが

 

「聞いてくれよー久しぶりに起きたらなぁ

 拘束されるわ変なTシャツヤローに拉致されるわで大変やったんやぞ

 ほら!私を褒めろ!褒め讃えろ!むしろ褒めて!」

「…ヨカッタネ」

 

成程そう言うタイプですか、姐さんですか

俺はお前よりかまだ紫かなぁ…

凄い残念美人だよこの人、えぇ?

 

…いや紫も無いが

 

「まぁ、さ?アンタ私を取り込んで力を得たいんだろ?

 そうだろ双星君?」

「…アンタを取り込むのか?あとなぜ名前を知っている」

 

俺の答えに対して、キョトンとした顔をしたが、その後大爆笑を始めた

なんだ?こいつの行動が予測出来ないぞ?

あまりに紫に慣れすぎたせいでこう言う単純なのに苦手になった…

 

「いw、いや何w、変Тから何も聞かされてないんだなってよぉ

 くくくく…笑っちまうぜ!」

「へカーティアが…?」

 

彼女は笑いを抑えながら言葉を続ける

俺は困惑しながらM500を向けていた

 

「わたしゃこの月光狼の相続者

 つまるところ受け継いだ女って感じだ

 

 私が他人に力を渡す術は無い

 

 そこで唯一ある渡す方法が決闘さ」

「なんで決闘なんだ?」

「…こいつはあんたが分かってないのか?

 それともお前らへの説明が必要か?」

 

まぁいいかと彼女はため息をついた

説明を彼女は続ける

 

「月光狼の使命は調律者であること

 歴代にゃ使命ホおってたヤツも居るしあんま関係ないかもね

 あたしゃ、ちゃんと守っていた

 

 …決闘しなきないけないのは先代より強くなきゃダメだからだ

 挑むやつを弱いって言ってる訳じゃないんだ

 

 決闘で負けた方が力を渡し、勝った方が受け継ぐ」

「…だから俺と決闘を?」

「おん、そういうことだ」

 

彼女が指を指すと上空から大量の武器が降り注いだ

見たことあるものから伝承のものまで、大量だ

武器マニアがいれば飛びつくような光景だろう

 

「…そういえば」

「んー、なんだい」

 

"既に決めた"武器を手に取り、俺は彼女に問いかけた

かなり手に馴染む、前に持ったものより手に馴染むんじゃなかろうか

 

 

「お前の名前が知りたくてな」

「今はグリーンだが、レッドフードとでも呼んでくれ

 この体は借り物じゃない、すぐにあんたとは別れそうだ」

 

彼女はそう言うと、バレットM82をがしりと握り、構えた

和服にバレットはあまり似合わないものである

 

「…真似か?」

「ん?アンタが真似したんじゃ無かったっけ」

 

緑の閃光と、銀の閃光が交差する

 

 

寒い

 

そんな感情が心を支配する

辺りにビュウビュウと雪が降り注ぐ

どこだか分からない説限で、俺は歩き続けていた

 

「…はーっ」

 

口から白い息が漏れ出る

体が動くのを拒否するが、それでも足を動かす

 

ここがどこか、分からない

 

いつも通り刀を振り、剣技に夢中になっていたらこんなところに来ていた

あの…妖忌の爺さんの姿も見えないのだ

完全に迷った、遭難した、雪山を舐めていた

 

「…はーっ」

 

白い息が漏れる

そろそろ、限界だ

これ以上何も無いと、凍え死んでしまう

 

「…あれは…?」

 

神は俺を救ってくれたと、今でも思っている

 

後に、EEFの"ロングソード"と言われることになる男

 

もしここが、人里ならば、また運命は違えたかもしれない

 

 

「…"マッドネス"?本当に成功するのかい?」

「勿論しますとも、私にミスなど一つもありません」

 

とある地下にて、2人の人物が話をしていた

片方は大尉に八重と言われていた男

片方は白衣を纏った研究者に見えた

 

そして、2人の前にはあるものが鎮座していた

 

「貴方の目に狂いは無いのですね?」

「勿論、あの子供は確実に天才だよ

 あんな天才は見たことがない、きっと、名を轟かせるだろうね」

 

八重はそうですか、と返す

そして、なにかのスイッチをカチカチと推していく

 

「失敗したら非難轟々ですよ?我々は」

「君も共犯だろう?ならば笑顔で協力したまえよ」

 

機械がゴウンゴウンと動く音が響く

がちゃんとライトがその物体に照らされる

 

それは、液体の満たされた水槽のようだった

SFや未来の映画でよく見る、培養のケースの様だ

 

その中には、ひとつの生物が居た

 

 

健康的な、人並みの肌色

年齢は凡そ16か17程と推測できる顔つき

少しだけ実った、若い女性らしい乳房

 

胎児のように、それは丸まっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

確認するように、八重は言った

ケースの中の彼女を、まるで実験のマウスのように見ながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…博麗霊夢の遺伝子で本当に最強の人間が作れるのですか?

 そもそも"デスストーム"に間に合うのですか?」

「間に合うとも、そして作れるとも

 何人でも、何体でも…

 大尉だったかな?彼が生きているならば、彼の遺伝子も欲しいね

 

 "ファイガ"が機械の兵士を作ったりしているが信用ならん

 機械人形や戦闘ロボより、こっちの方が確実じゃないか」

 

ヒヒヒ、と狂気的な笑いが響く

それをまるで日常のように八重は流したのだった



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墜ちる

「50口径を見きって切るなんてアンタ人間じゃねぇだろ?」

「ワンタップで五発飛ばすアホには言われたくない」

 

オレンジ色の光と銀の閃光が交差する

片方は銃、片方は大剣というなんとも結果が見える武器である

 

しかし、すぐに結果は出ない

 

2人の技術は卓越したものであり、拮抗したものでもあった

 

「良いねぇ、こんなに骨のあるやつは初めてだ」

「今まで雑魚と戦ってきたんじゃないのか?」

 

言うねぇ、と彼女は笑う

これ程公平な戦闘も久しぶりなものだ

相手は飛行もしないし、インチキなソレも無い

ただ実力が潰しに来ている

 

んむ、好ましい

 

「間違っては無いかもねぇ」

「さいで」

 

基本的に遠くから狙撃していたのだろうか?

それにしてはこの戦闘が長引きすぎな気がするが

 

切りつけようとするとバレットでそれを受け止める

少しの火花が散って刃は傷を付けることなく止まる

 

「…普通の奴じゃ無さそうだ」

「んー、市販とは違うよ、あたしにしか作られてない特別製だ」

 

カスタムも違う、恐らく弾も普通の物じゃない

というか明らかに50口径の重さでは無い

どうも威力が完璧に違うらしい

弾丸を切り裂きながらそんなことを思った

 

「そらよかったな」

 

後ろに下がり、M500をクイックドロウ

即座に三連射を叩き込む

 

それはやつの腹部に命中した

 

「っ、いったいなぁ!?」

「ただの銃創ですんでいるアンタは何もんだ…?」

 

レッドフードは痛そうな声を上げながらこちらをバレットでぶん殴ろうとしてくる

銃って殴打するために作られたものやないんやで

 

「armen armen Gospell armen」

「…くっぅ!?」

 

神の言葉のままになんていう馬鹿らしい言葉を吐きながら大剣を突き上げる

近接戦闘の経験が、差を産んだ

 

そもそも、彼女の分野が違うとしか言いようがない

 

 

だから、彼女は大剣に貫かれることになったのだ

 

 

「…やってくれるじゃねーか」

「そうか?その状態でよく喋れる」

 

目が紅くなっているレッドフードを見ながら俺はそういった

彼女は右腕と左足首が無い状態だった

腹には俺の刺した大剣の痕がある

 

気づけば辺りは元の幻想郷の風景に変わっていた

 

空には満月が浮かんでいる

 

月光が辺りを照らす

 

「後はトドメを刺すだけだよ、頼んだ」

「…自殺したら、力は何処に行くんだ?」

 

シリンダー内の弾薬を確認する

戦闘で使った弾は合計三発のみ

使える弾は2つ、使う弾は一つ

 

カチリとシリンダーを収め、彼女の頭に照準を定めた

 

「…知らないね、適当な奴にわたるんじゃないか?

 特にこの幻想郷のどこか、神秘は神秘に寄り添うからね」

「…ありがとう」

 

 

 

そしてさようなら

 

ガチりと引き金を引いた

 

 

どこからか、ここです、と聞こえた気がした

 

 

「…」

 

月光が散っていく

彼女の体がどんどん月光と化し、散らばる

行き場所のなさそうに見えた光はやがて俺に収束していく

 

「ん」

 

軽く擽ぐるような感覚が体を這いずり回る

 

それと同時に包帯が宙を舞う

それは四肢の関節の部分に巻きついた

両腕の肘、両脚の膝、クルクルと巻き付きヒラヒラと先端が揺れる

 

そして、俺の右目に包帯が巻きついた

 

少しした後に擽ぐるような感覚は収まった

首をグリグリ回す、手首をコリコリと鳴らす

あーっと背伸びをした

 

体が少し軽くなった気がした

 

月光を手に入れる前と今では全く違う

 

感覚も、何もかも違うのだ

 

 

「遂に、こちらの世界に来たわね」

 

後ろからそんな声がした

俺は大剣をぐるりと回し、片手で保持する

白狼が使っていたものと違い、細身の大剣だ

クレイモアと呼ばれる大剣が1番近いだろうか

もう少し刀身を太くして、持ち手を伸ばし、鍔やらに装飾を施せばそれだろう

 

「貴方も私も、同じようなもの

 今までひとりぼっちだったから…とても嬉しいわ」

 

くすりとその声の主が笑う

俺はなんの感情も持たずに声を出す

 

「お前とお仲間なのは勘弁願いたいな、死んでもゴメンだ」

「ふふ、そう誤魔化さなくてもいいじゃない?」

「なんだ?俺がお前と同じようになりたかったと?」

 

俺は切っ先を声の主に向ける

既に月は沈み、代わりに太陽が顔をのぞかせていた

日の出はもうすぐ、そして、明るくなるのももうすぐだ

 

「心では、ね?」

「俺はそんなの望まない」

「あらそう?あの時は願っていたじゃない

 『みーんななかよくなれますように』って」

 

月光が迸る

青緑の閃光が散り、辺りの木々を薙ぎ倒す

無論、背後にあった巨大な木も薙ぎ倒して行った

 

ただの人間や妖怪なら死んでいる

 

「そんなにカッカしないの、ね?アナタ」

「すぐに離れないと玉ねぎみたいにスライスするぞ」

 

耳元に聞こえる声にそう返す

俺は背中に大剣を収めた

 

「アナタの"月光狼"と化した姿も好きよ

 ただの混ざりものでは無いもの、その力は」

「…お前が作った力か…」

 

何となく、想像はしていた

何だか、馴染んでしまうのだ、この右目と

 

こうして、包帯で視力を封じているのに

 

無数の境界を写す右目と、馴染む

 

「ふふふ、聡明ね…そこも好き…」

「お前全部好きってそのうち言いそうだな」

 

ため息をつきながら、俺は帰ることにした

帰る先は勿論、新たな家となった、あの場所に

 

後ろから、声が響く

 

「ええ、ええ、好きですもの、アナタの全てが

 骨も灰も、血も涙も、全て…

 

 アナタも好きな癖に、そのプライドが唯一残念かも

 …私はそれすら大好きだけどね」

 

やがて、声は聞こえなくなった

あんな変人は置いておこう

 

俺は朝日を眺めながら歩みを続けた

最近の出来事でろくなことは無い

 

いい事は片手で数えられるくらいだ

 

その程度しか存在しないのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前のことを好きになりはしない…しないさ

 だが、もし母さんが生きているんだったら…見逃してもいいかもな」

 

俺は少し考えが変わった気がした

我ながら、単純な脳だと思った



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帰還

「大尉?生きていたのか」

「そうだとも、"メディック"」

 

八重が驚いた顔でこちらを見る

少し失礼だが、窓から入らせてもらった

 

「本当に君か?双星君なのか?」

 

余程生きているのが信じられないのか、俺の体を触って確かめてくる

やがて完璧に理解したのか、ふぅ、とため息をついた

 

「本当に君か…良かったよ」

「…そんなに心配だったのか?」

 

彼は俺の質問に当たり前のように答える

 

「勿論だとも!何せ"潜入者"は殺されたからね

 君も死んでいたと考えるのが妥当だろう?

 それにもう2年以上経っているんだ」

「…"潜入者"が死んだ、か」

 

声を荒らげる八重を置いておいて、俺は彼のことを思い出す

思い出すというほど彼との思い出は無い

ただ、仕事仲間としての意識しか無かった

 

「これでEEFのα隊は君を含めて11人…あ、でも今日から1人増えるかな」

「…増える?勧誘でも出来たのか?」

 

そもそもα隊は12人しかいなかったのか…

…そういえば聞き覚えのあるβ隊は何人いるのだろうか

 

ていうか増える?何?勧誘成功?

 

「あー…君はクローン技術について知ってるかい?」

「何となく」

 

クローン技術、生き物をそっくり復元…というか作り出す技術

外の世界じゃ羊のクローン、「ドリー」とかいう羊が居るらしい

色んなものに使えるらしく、恐らく人間にも出来るだろう…

 

…ん?

 

「ここでその話が出てくるということは…」

「そう、クローン人間第1号がEEFα隊に加わった

 "マッドネス"も嬉しそうだったよ」

「…"マッドネス"、か…狂気の博士と言ったところか」

 

"狂気"なんて物騒な物がコードネームなんて、ろくな奴では無い

俺と関わることは無いに等しいだろうな

 

そういえば、気になることがあった

答え次第ではかなりアレな話だが

 

「そのクローン人間、誰が素体なんだ?」

「あー…簡単に言えば子供ってか少女のものだ」

「…慰み者に使う気じゃあるまいな?」

 

え?何少女から遺伝子摘出したのか?

そんなの非人道的なこと許さへんで?

殺すぞ?おいコラどうなんやコラ

 

「まさか、そんなのには使えないよ

 生殖機能はカット出来なかったから出来るけども…」

「そこまで聞きたくなかった」

 

すごい生々しい話をするじゃないか

クローン技術はそこまで行けるのか…

幻想郷だからというのもあるが、外の世界なら割と奇跡だぞ

…多方面で活用されそうだ

 

「元の人物は…次代の博麗巫女のものだ」

「次代?今の巫女はどうなんだ?」

「"マッドネス"曰く、次代の方が強くなるらしい」

「だから次代…そういえば、今の巫女さんは誰なんだ?」

 

その質問に、八重は頭を悩ませたようだった

そんなに悩ませる質問だったろうか

 

「…情報が無さすぎるんだ

 名前も、生年月日も不明、ただ分かっているのは連れてこられたことしか」

「…いつ?」

 

俺は、何故か鼓動が早くなっていた

まさか、まさかそんなはずは無いだろう

 

連れてこられる、つまり誘拐

 

俺はただ1人、誘拐される姿を見た

 

自意識過剰かもしれない

ただ、可能性があるだけだし、別人かもしれない

 

「君が入隊する前なのは確実だ

 その頃は先代がやってたそうだ」

「…そうか」

 

何故かあったことも無い博麗巫女の姿が思い浮かぶ

もし、俺の仮説が大当たりだとしたら…

 

「そういえば、クローン…もといコードネーム"ミコ"に会いに行くかい?」

「あぁ、仲間は確認しておかないとな」

 

この想像はよそう

もし当たっていたなら、今までの行動を全否定することになる

なんの意味もない、無意味なことになるだけだ

 

 

「"シャドウ"?生きていたのか…?」

「噂じゃ死んだって話だろ?噂は嘘ってことか…」

「EEFが精鋭揃いってのは嘘じゃないらしい」

 

廊下を歩いていると、そんな声がすれ違った後に聞こえる

地下基地には組織の精鋭揃いだが、信じられなさそうな声ばっかりだ

 

「…"シャドウ"、ねぇ?」

「影に潜み、影から狙撃する君にはピッタリだろう?

 ただ、装備が変わっているからコードネームも変わるかもしれないけど」

「それもそうだ…こいつら一体?」

 

明らか一般兵と違う兵装のヤツらを横目に通り過ぎる

軍服が黒一色に統一され、明らかに凄腕と分かる手癖

肩には槍を構えた女神のエンブレムがある

持っているものは夜間奇襲様に塗装されたであろうSCAR

他にも、ヘルメットを被らず軽装な格好をしたスナイパー

持っているのはDMRやM8000等だ

 

「…上のやつらと明らか兵装が――」

「近代的だろ?RSI空挺兵や歩兵達には第二次世界大戦のものを持たせているからな」

 

地上にいる奴らはMAB38やAP38などを装備している

トレンチガンやThompson、もはやタイムスリップだ

 

「"ベクター"が装備を取り入れているんだが

 近代なもの程負荷がかかるるしくてな」

「…だから戦車とかも第二次世界大戦のものなのか」

 

ティーガーを見た時は博物館に来たのかと思った

ここは戦争博物館のようなものだろうか

 

「それより、着いたぞ」

 

八重は扉の前に立つとそう言った

俺は大剣の位置を直しながら後に続く

彼は俺の顔を見ると、何か考えついたようだ

 

「今度眼帯を作ってあげよう、病人と思ってしまう」

「有難いね」

 

そう言いながら、2人して部屋の中に入り込んだのだった

 

 

「うーん」

 

味が薄い

アリスは率直に感じた

作ってみたスープが思いのほか薄すぎるのだ

 

「…少し調味料をケチったからかしら」

 

最近調味料を買いに行けてない、と言うより作れてなかった

まぁ今でなくてもいいかなんて思っていたらこれである

人里に行くのは認識の魔法が面倒なところである

 

「まぁ、いいかしら」

 

今日取りに行く必要は無い

味が薄いのは少しあれだが…

まぁ、無いよりかのマシである

 

アリスはそう思いながら、人形作りに勤しむことにした

実を言えばこの時道の途中で反対勢力の歩兵がうろちょろしていたので

割と彼女は運がいいほうだったのかもしれない



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満ちる

「…」

「…?」

 

部屋の中に入ると、同年代…もしくは4歳くらい下程の少女がいた

服装は病人が来ている水色の服だ

カタンと首を傾けて俺を見ている

困惑、と言うより誰だろうかという純粋な目で見ている

 

「八重?コイツが?」

「そう…博麗霊夢のクローン…だな」

 

俺が彼女の前に椅子を置き、座る

ミコは傾けていた首を元に戻してこちらをジッと見た

八重は何も気にすることなく説明を続ける

 

「EEFα隊コードネーム"ミコ"…と名義では呼ばれている」

「そうか…名前は?」

「…なま…え?」

 

俺がそう聞くと、又しても首を傾げる

八重が呆れたように俺に言った

 

「名前なんて無い、被造物に名前なんてある訳ないだろう」

「…それもそうだったか…」

「なまえ…名前…名前ー?」

 

オウム返しのように言葉を続けると、"ミコ"は俺に顔を寄せてきた

目をキラキラとさせて、ワクワクとした目をしている

 

「…?これは…?」

「さぁ…クローンに感情をつけた覚えはないからな

 ただ、単語を繰り返しているだけじゃないか?」

「なーまーえー!」

 

構えーみたいな感じでミコは言ってくる

俺は少し考えた後、仕方ないと言った感じで与えることにした

 

「…じゃ、お前の名前は今日から"レイム"、だ」

「…レイム…?」

「双星…」

「皆まで言うなよ、八重

 どうせこいつをその名で呼ぶのは俺だけだ」

「いや、後で言語をローディングするからよ

 覚えているとは限らないんだよ」

「…いいさ、覚えて無くても」

「レイム…レイムレイム…うー!」

 

嬉しそうな"レイム"を横目に、俺は八重に向き合う

少しだけ、真剣な顔をしてやつの耳元で囁いた

 

「…EEFの隊員について知りたい」

「資料ならある、なんなら近いうちに紹介されるさ」

「情報程度は知っておきたい」

「…分かった」

 

俺の要求を彼は飲み、早足でどこかに行った

俺は"レイム"に向き直り、目線を合わせて言った

 

「またな、レイム」

「うー!そうせい、またー!」

 

屈託の無い笑顔して彼女は見送ってくれる

 

思考能力はどうも幼稚園児かそれくらいだ

どう見ても高い方では無いのが分かるだろう

 

…昔の俺も、こんなだったな

母さんにいつも擦り寄ってたっけ…

 

俺はその姿に少し、懐かしさを覚えながら外に出るのだった

 

 

「ねぇねぇ」

「ん?なんだい?」

「最近さ、"潜入者"?だっけ」

「あぁ、居たねそんなの」

 

妖怪の山、川の上流にて2人の妖怪が話していた

頭の皿は帽子で見えないが、れっきとした河童である2人

その2人はこそこそと噂話のように話していた

 

「なんか…消えたらしいよ」

「幽霊だったとか?怖いね」

「そうだよね、こう、煙のように消えたとか…」

「そうか―――」

 

片方の動きが突然止まった

ピタリと、空を見て全く動かない

不審に思った片方が声をかける

 

「どうしたの?にとり」

「いや…このプロペラ音は…!」

「ど、どこ行くのーっ!?」

 

にとりと呼ばれた河童は走り出した

それに負けじと追いかける片方の河童

 

もう少しで中流という所でにとりは止まった

ぜぇぜぇと後ろから片方の河童の声がする

 

「ど、どうしたのさ…」

「間違いない…AC-140…零戦…空挺戦闘機…」

 

ブツブツとにとりは独り言を言うかのように呟く

それに少し違和感を覚えながら声をかける

 

「ね、ねー…」

「くそっ、こうしてられないよ!」

「ひゃ!?どうしたの!?」

 

急ににとりは声を荒らげ、走り出す

あまりに体力の無い片方の河童はその音速について行くことは出来なかった

あまりに早く、すぐに見失う程のスピードにはついていけなかった

 

「ま、待ってー!にとりー!」

 

全力疾走でにとりを追いかける河童

しかし、すぐに息切れをしてへたりこんでしまう

 

「ま、負けるものかー!」

 

 

すぐに立ち上がり、ダッシュする

ぜぇぜぇと息を切らしながら、彼女はにとりを追うのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…尚、追いついた後に川を登ればよかったと気付くのはまた別のお話

 

 

「準備は整ったな?」

「はい、ヴラド公」

 

紅い館で男の声が響く

雄々しく、人を平服させ、統べる声だ

少しの震えの無い声で執事らしき男が返す

 

「娘達は別室に居るか?」

「えぇ、鍵も掛けてあります」

「上々」

 

ヴラド公は笑いながら言った

別に、娘たちが嫌いだから閉じ込めた訳では無い

 

逆だ、守る為だ

 

今、ヴラド公達に味方はこの館の者以外存在しない

出れば敵のみ、誰一人として信用出来る者はいない

もし負ければ、娘達が危険に侵される

それだけは何としても防がなければならない

 

「お前は山を攻めろ、私は人里を制す」

「仰せのままに」

 

他の吸血鬼仲間は居ない

吸血鬼はこのヴラド公と娘たちだけ

あとはゴブリン達やらのモンスターばっかりだ

 

だからこそ、ここで制さなければならない

 

ある意味、タイミングは良かった

 

ただ、それはこいつらではなかった



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運の良さ

「なぁ、聞いたか誠」

「なんだってさ」

 

幻想郷のある地域にて兵士が話し合っていた

小規模なキャンプで10数人が身を寄せあっていた

夜なのもあり、震えながら目を瞑る者もいる

 

その中の、ドラム缶焚き火にあたっていた2人だった

 

「吸血鬼ってのが近いうちに侵攻してくるらしい」

「侵攻?恐ろしいな…化け物同士の戦いか」

 

一般兵から見て吸血鬼なんて恐ろしいで片付くものでは無い

軽く腕を振るうだけで死んでしまうだろう

それが侵攻するなら、山の天狗と争うのな確実

とても恐ろしいことなのだ

 

MAB38を背負いながら兵士は言う

 

「あぁ、でもな、お偉方はそこをチャンスだと思っているんだ」

「チャンス…?なんでなんだ?」

 

人間が化け物同士の戦いには入れない

片方の兵士の声にはそんな恐怖が混じっていた

しかし、片方は笑いながら言う

 

「吸血鬼が山を攻めている時に一緒に攻めるらしい

 敵か味方かなんてスグ分かるだろ」

「ま、そらそうだ…にしても恐ろしいことを考えるな」

 

妖怪と人間の違いはその衣服にも現れる

外の世界がどんどんファッションが変わっているのに対して

妖怪のものはあまり変わっていない

時間の流れの感覚もあるが、その伝統性もあるだろう

 

「チャンスはそれ以外ないんだろ、攻撃チャンスは」

「そうか…家が恋しいよ」

 

Lee-Enfieldの薬室を確認しながら兵士はそう言った

それにああ、と兵士は反応した

 

「そういえば外の世界出身だったな」

「あぁ、懐かしい……?」

 

Lee-Enfieldを持った兵士は辺りを警戒し始める

それに不審感を持ったのか、MAB38を片方の兵士が構える

 

「…嵐の前の静けさってか?」

 

気付けばあたりは全くの無音になっていた

兵士達はいつの間にこんな静かになっていたのか?

 

俺たち以外は?

 

「まさか…」

「気付かれたぞ、やれ」

「敵だ、天狗だぞ!」

 

暗闇に慣れた目が白装束…天狗独特の衣装を見つける

それに対して発砲した時には彼の首は落ちていた

Lee-Enfieldが地面に落ちる

 

「伊藤誠ォーッ!貴様よくもぉ…ッ」

 

血を拭う天狗に照準を合わせる

 

「あぁっああああああっ!!!!」

 

叫びながら引き金を引く

高レートの弾丸がやつにとんで行く

しかし、どこまでも妖怪の能力は高いものである

 

「遅い」

「ァカポッ」

 

いつの間にか後ろに回り込まれていた天狗に突き刺される

口から何かが漏れたかと思えば、血を吐いて兵士は倒れた

 

「ここは終わりか」

「これ以上の兵士は居ない」

「つまらんな」

 

4人の天狗が口々に報告すると互いに頷き合い、飛ぶ

10体ほどの死体がキャンプ地には倒れていた

どこにも息をする者はいない

 

これが、本拠地から別の場所に配属された者の基本的な末路だった

余程遠くの場所か、太陽の畑近く以外、大抵この末路だった

 

 

「太陽の畑の近くって安全らしいですよね」

「言っている暇があるなら狙撃の続きをしろよ

 "大尉"さんも今資料を見ているところじゃないか」

「……ズズッ」

 

珈琲角砂糖3個の一分冷ましマウンテンブルーを飲みながら資料を読む

後ろから乾いた音が数発と話し声が聞こえる

司令官から狙撃隊の養成指示が出たので適当にやっている

というのもEEF隊員の資料を読もうとした時にズケズケとやってきて

「養成ヨロスク」って言ってどっか行ったからな

一応狙撃をしていたから教えられる…が、口径が違いすぎるだろう

 

…てか無いし、アンツィオ

こいつら使ってるの三八式とかモシン・ナガンとかだぞ?

口径の話じゃねぇ、時代が違う

 

「…はぁ」

「今確か独りだっけか?太陽畑とこのキャンプ」

「そそ、大抵が妖怪に殺されたとか

 その1人も狙われたけど花好きだったから救われたとか…」

 

どこに行こうとも話をしてサボるやつはいるものである

俺は関係ない話なので注意はしない

聞かれたら答えるがこれ以上はしない

こいつらが後悔するのは死ぬ手前だから知ったことは無い

 

「…ズズズ」

「あ?俺が聞いた話じゃ勇敢だったからとかだったが」

「…真偽は本人ぞ知る、かな…ここにゃ携帯無いし

 態々そんなの聞くために無線は使えん」

 

まぁ、どうでも良くなったので資料を読み漁る

EEF隊員は現在11名、すぐに一名追加されるだろうがそれ程話題にはならん

一名一名がかなりの戦闘力を持ち、反対勢力の中では最強とも言えるだろう…

 

"大尉"と"メディック"に関しては知っている

 

他の隊員達を知りたいのだ

 

「あ、霧の湖の方の館あるだろ?」

「あぁ、最近監視キャンプが作られた」

「あの趣味悪い館な、吸血鬼の住処だってよ」

「こえーな、それ…」

 

隊員については別々に専門がある

そこら辺はまた追々見ていくことにしよう

目次のような所に一応大体の説明がある

 

 

 

背丈を簡単に越える長刀を扱う剣士、"ロングソード"

 

表情を一切変えずに拷問を行うサディスト、"インタビュアー"

 

背丈程の双大剣を軽々しく扱う剣士、"ビッグソード"

 

戦闘機用バルカンを携帯用に改造したものを持つ機関銃手、"ミニミ"

 

 

あらゆる爆薬や爆発物に関してのプロフェッショナル、"ボムマン"

 

光学迷彩を身に付け暗殺を生業とする殺し屋、"プレデター"

 

変形するロボットに乗り込み戦う兵士、"バイパー"

 

銃器を他世界から運び込み、ありとあらゆる場所に運び込む運び屋、"ベクター"

 

ジェットパックを身に付け、ミサイルを乱射する戦士、"フライトマン"

 

 

目次に書いてあるのはあまり詳しくは無い

ただ、大体の能力は察することは出来る

だからこそEEFになれたのだろうが…

α隊はこいつらだけだろう

 

「…ズズズ」

 

なら、β隊はどのような感じなのだろうか

目次は同じような感じて書いてあるだろう

α隊は置いておいてこちらを調べてみるか…

 

「そろそろ昼飯の時間か?」

「今日はなんなんだ?またじゃがいもか?」

「いや、米は出るらしい」

「本当か!いやー、一週間ぶりに米が食えるぞ」

 

献立は気にしなくてもいいだろう

それ程腹が減っている訳でもない

…後単純に不味い、本当に不味い

紫のやつは嫌悪が入っている、本当に美味いのはアリスのやつくらいな気がする…

ササッと読んでしまおう

そして、部屋で読もう、ここじゃ後ろがうるさい

 

そう思いながら、β隊の資料を漁ろうとした時だった

 

ふと、違和感に気付いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いつから、こんな俺に合わせた珈琲出るようになったんだか」

 

空間からなんの前触れも無く、珈琲が零れた

 

 

その匂いは、コップに入っているものと何一つ変わりないものだった

 

 

「大尉に会いたい?」

「あぁ、俺は少し興味がある」

「…"ロングソード"、精神科なら受け付けるよ」

「病んで無い、軽く精神科行きにするな」

 

怒ったような声が響く

俺は何事かと思いそこに向かってみると、二人の男が向かい合っていた

 

――アーッ♂な展開ではない…多分

 

片方は背をゆうに越える長刀を持った男

片方はよく知っている八重の方だ…

 

…資料で見た、ロングソードだ

 

まさかこんな早く会えるとは思わなかった

 

「人と関わろうとしない君が大尉と…無理無理」

「…そうなのか?」

「聞きたいのはその幻肢痛か?それとも痛みか?どっちだい?」

 

なんだか、邪魔しちゃいけなさそうな雰囲気だ

あれは…あれだ、桃色のオーラってやつだな

適当に離れる理由を考え、俺はそっと離れることにした

 

「待て双星、その顔でどこに行く」

「いや、今日は赤飯と食当の奴らにな…」

「え?今アーッ♂なオーラ出てたのか俺たち?」

「…勘違いも甚だしいぞ、"大尉"」

 

ため息をついて"ロングソード"が言った

俺はHAHAHAと笑いながら向き直った

 

「悪いな、勘違いしそうな雰囲気はあった」

「全く…それを後々グチグチ言われる気持ちを考えてくれ」

「…"ロングソード"、田代桜だ」

 

彼はそう言うと、こちらに近づいてくる

口でのお遊びは嫌いなタイプか?そうか…(落胆)

 

「お前に話があって探してた」

「そうか、丁度俺はαの隊員を探していた」

「誰でも良かったか?」

「誰でも…とは言わんが話が通じる奴ならな」

 

"インタビュアー"とかヤバそう(小並感)

真顔で俺たちを拷問してきそうだ

その他もろもろは何か任務でいなさそうだし…

 

「付いてきてくれ」

 

彼はそういうとどこかに足を進めた

どうも無駄なことは省くことが多いらしい性格だ

口数も少ないし、ありゃ俺の得意分野じゃ無さそうだ

 

「言葉遊びが嫌いなタイプらしいな…」

「…君日に日に紫化してないか…」

「何か言ったか?」

「変わっているね君」

「殺すぞ」

 

 

「話ってのは?こんな所にまできて」

 

俺達はいつの間にか基地周辺の地雷原を抜け、原っぱにいた

崖の上にある、幻想郷の景色がよく見える原っぱだ

監視のポイントにはもってこい、なんて思いながら俺はそう言った

 

「…家族を奪われたと聞いて」

「…だから何だと言う、お前に何がわかる」

 

背中の大剣に手をかける

まさかとは思うが、母を侮辱する為だけにここに来たのか?

それとも母を奪われたことを嗤うためにきたのか?

それならば、仲間と言えど容赦はしない

 

彼は手を少し出しながら言う

 

「違う、俺も奪われた」

「そうか、だからどうした」

 

柄を持つ力が強くなる

まさか、俺に同情するとでも言うのだろうか

 

愚かなり

 

もしそうだと言うなら…

 

彼は俺の動きに感情を察したのか、腰の刀を抜いた

通常サイズの刀だが、長刀がある故短く見える

 

「親を、家族を妖怪に奪われた」

「それは悲惨だったな、同情したいのか?お前は」

 

大剣を抜いた

 

もはやこれ以上話し合う余地も無いはずだ

これは殆ど警告のようなものであった

 

しかし、彼は言葉を続ける

 

「登山を家族一緒にしていたら、密林に入った

 親が心配で、振り返ったらそこは血の海だった︎︎」

「…」

 

彼はその光景を思い出したのか、拳を握りこんだ

あまりに強く握りしめたのか、タパタパと血が地面に垂れる

 

 

俺は初めて、他人に同情した

 

 

「必死に走った、どこまでも、どこまでも

 皮肉なことに家族の死体に夢中だったから逃げれたよ︎」

「お前はそれからここに来たと?」

 

彼は頷いた

 

「少し、妖怪狩りをしていたんだが…妖忌…もとい師匠みたいな奴とあって…

 ︎︎剣技を教えてもらったけど、冬の夜に遭難した」

「…成程、それがお前、ね…」

 

俺は大剣を立てかけるように地面に突き刺す

桜はというと、刀を逆手に持っていた

 

「俺が語ったからお前も語れとは言わん

 ただ、誰かに言いたかっただけだ︎︎」

「境遇が似ているからか?」

「それもある…」

 

彼は長刀を抜いた

あまりに長すぎる故、鞘からどう出しているのか分からない

恐らく、鞘の背の部分がないのだろうか

 

「…へぇ、稽古か?」

「剣士と戦うことは少ない、皆銃に頼る」

「まぁ、戦闘の基本は格闘ともいうしな…」

 

接近戦は幻想郷における基本である

ルールは無い、殺られる前に殺れ

それがこの無法地帯の唯一の掟であるのだ

 

それこそが、問題でもあるのだが

 

桜は右手に長刀、左手に逆手に持った刀のスタイルになる

独特な構えだ、低く腰を落とし、左手の刀を地面と平行に

そして、長刀を上に構え地面と平行にした構えだ

 

「カッコつけか?」

「戯け、理由はある」

 

俺達はそう言いながら剣技を交わしたのだった



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被造物

…目が覚めた

 

眼球だけで辺りを見てみると、何かの装置の中らしい

やがて、カバーのようなものが開き冷たい空気が触れる

 

一人の男が近づいているのが分かった

白衣、肩には何かの部隊章がある

その男は横まで来ると私の顔を見た

そして、口を開く

 

「…おはよう…調子は?痛いところは?」

「…ありません」

「それは良かった」

 

白衣の男がそう言うと、カルテを取り出した

そこに何かを記入している様子だった

彼は途中でふと何かに気付いたらしく、私に問いかけてくる

 

「何か覚えていることは?些細なことでもいい」

「…何も…」

「…そうか…残念だな…」

「…あ、一つ…?2つだけ?」

「何かな」

 

その男がため息をつこうとした時、私はあることを思い出した

ただ、怖かったからでは無い…本当に思い出したからだ

 

 

 

…本当に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…大尉…と、双星…その人物の顔…」

「…他には?何か無いか?」

 

彼は興味を引いたのか、私に問いかけてきた

聞いた感じは優しい医師というイメージだ

ただ、狂気を孕んだ…ただの優しい医師では無い、腹に何か抱えている

 

「…レイム。私は…レイム…あの人がつけてくれた」

「ありがとう、丁度名前に困っていたんだ」

 

彼はにこやかにそう言うと、ペンで何かを書き消した

やっぱり、私に名前なんてなかったんだろう

どうせ役職名で呼ばれるのが運命だったんだ

 

…あの人は違う、大尉は…

 

「…レイム、これを着たまえ」

「―――巫女服?」

 

彼が差し出してきたのは青い巫女服

確か、私の元の人物が同じようなのを着ていたような…

 

「全裸はダメだろう?服はこれしか無かった」

「…ありがとうございます」

 

私は着ることにした

どうせ他に選択肢は無いのだ…全裸で出るのも倫理的にダメだろうし

 

服をササッと着る

それ程時間がかかる服の多さでは無い

 

「着替えたら司令官室に、場所は知っているだろう?」

「…はい」

 

 

「"ミコ"が配置されたか」

「…覚えていたよ、君のことも、名前も」

 

八重の部屋にてそんな会話をしていた

俺は、レイムの顔を思い出す…あの純粋な顔を

記憶改竄が入ったから、多分無機質になっているんだろうけど…

 

「双星、彼女がそれを覚えているのは非常に凄いことなんだ」

「それほどか」

 

彼は興奮気味に話している

元からマッドサイエンティストの才能はあったが、ここまでとは

なんか裏で妖怪をバラバラにしてたりしそうだ…

 

「非常に!ね、例えれば記憶を全て消されているようなものなんだ」

「なるほどな…」

 

そう思うとかなり凄いことなのだろう

ここまで嬉しそうに話すなら…

彼にとってはただのエラーでは無いということだ

要らないエラーではないということに少し安心を覚える

 

俺の反応に八重はため息をついた

 

「君はあんまりこういうのに興味無いよね…」

「俺はそういうの得意じゃないからな

 専門用語なんて覚えられるかよ︎︎」

 

これはこういうものという認識はある

ただ、それを覚えておくという気があまりない

とてもどうでもいいのである、OK?

 

月光で蝶を型どり、弄びながら俺は言う

 

「そういえば、そろそろ大掛かりな作戦があるらしいな」

「耳が早いな、君は」

 

大掛かりな作戦…通称"デスストーム"作戦

ありとあらゆる場所に吸血鬼と共に攻撃を開始する作戦

尚識別する者はないので吸血鬼を殺しても問題ないものとする(真顔)

特に重要視されているのは妖怪の山である

今回、そこを叩くのに総戦力が組み込まれているのだ

 

「トゥーデスシュトルム…デスストームねぇ

 なかなか粋な作戦じゃないか︎︎」

「空と陸、両方から攻め叩く」

「空から大量に降り注ぐ兵士と砲弾

 陸から襲い来る大量の兵器と兵士…恐ろしい」

 

人間が何も出来ないと思っているヤツらに示してやる

司令官はそう言っていた、かなり、燃えている瞳だった

 

多分、彼も奪われた人間なのだろう

 

ここには奪われた人間しかいない、もしくは、生粋の狂人か…

 

「EEFメンバーも大体確認できた

 本人に会ってないからどうとも言えないが…

 同士討ちは避けられる筈だ︎︎︎︎」

「それは良かった…作戦開始は明日だ」

「…は?」

 

あまりに自然に出てきたので驚いた…

え?明日?Tomorrow?Really?こマ?うせやろ?

一切聞いてないんですけどそんな話…

聞いた話によれば一週間とか

 

「あ、君にだけ情報言ってなかった?

 君どっか行くこと多もんね︎ぇ

 伝えに行ったけど本人いなかったパターンかな︎︎」

「それ程の準備は無いが事前情報は聞きたかった…」

 

俺ははぁとため息をついた

これだったら基地で大人しくしている場合じゃなかった

偶々湧いていた天然温泉で「あぁ^~生き返るわぁ^~」なんてしてるんじゃなかった…

 

八重がコホンと咳をして顔を真剣にさせる

 

「じゃ、"大尉"…改めて言うが、君の任務は狙撃師団を引き連れろ」

「引き連れろ…だけじゃないだろ」

 

こくりと八重は頷いた

そんなピクニックのようなこと、するわけが無いだろう

意味が無い、本当に意味が無い

 

「狙撃師団に的確な援護をさせ、君は敵を叩く

 指示は君待ちか、自由に撃て、か︎︎…」

「…あるいは司令官か?」

「そうとも言える…」

 

八重はそう言うと、拳銃の薬室を確認しカチリと叩く

妖怪と合わせ、天狗を叩く…

しかし妖怪は人間を襲うだろうから実質一対二…

 

それは…

 

「…勝ち目あるのか」

「あるだろう、…、……正直に言えば無い、1%も」

「やっぱりか」

 

俺は溜息をつきながら珈琲を飲む

いつものブレンドが身に染みる、美味い

…これが最後の味になることはないだろう

 

「戦力差は問題外、問題は吸血鬼がいること

 最初のうちはいいが…相手が体制を立て直せばそうはいかない︎︎」

「そこをどうにかしないとな…」

「司令官次第だ…でも彼は死ぬ気だと思うよ」

「…」

 

八重の発言を聞かなかったことにする

ここで最後になるとは思っていない

奴らの手では死なない、絶対に

俺はまだ死ぬ訳にはいかないのだ…

 

「出撃は日の出前、迫撃砲部隊や狙撃師団はもう展開している」

「足は?部隊の足は」

「軽装甲車や戦車もある、空には零戦もあるんだぞ」

 

貴重なものを軽々使ってんなぁ…

もしくは、"ベクター"が過去やらなんやらから取ってきているのだろうか

そうだとしたらあまり貴重では無いか…

 

「あ、そういえば忘れていたよ」

 

そう言うと、彼はポケットから何かを取りだした

俺としてはもう少し早く手に入れたかったものだ

 

「眼帯か、必要だったよそれ」

「あぁ、だろうね?」

 

俺はそれを受け取り、包帯を解いてすぐに眼帯をつける

顔を縛り付けるものが減るとこれ程楽なのか…

まぁ、カッコつけでは無いし大丈夫か…

 

俺が眼帯を装着するも、八重は口を開く

 

「さて…大尉」

 

 

八重は言葉を続ける

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に、八重はこう聞いてきた

 

「君はどこについて行く?」

「…そうだな」

 

…俺は軽く決心をして口を開いた



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43話

要る…?要る…?
一話だね刀ゼロ風の字幕をつけたりしましたが、差し支えありませんかね?


―――人物設定

 

村斬双星 コードネーム"大尉""シャドウ"

能力 事象を操る程度の能力(?)

   月光を操る程度の能力

 

今作主人公、幻想郷生まれの男

幼少期に母親を八雲紫に奪われ、復讐を誓う

ただ、最近は復讐(イタズラ)程度に認識が変わっている模様

それでも妖怪に対する嫌悪感は拭い切れていない

話の通じない奴に対しては容赦しないが話ができるならするタイプ(殺さないとは言っていない)

割と感情が出やすい

階級は大尉、本人曰く響きがいいので昇進する気は無い

 

能力は恐らく目に見える現象を引き起こす能力だろうか

運命など目に見えないものは操ることは出来ないようだ

現在、目を開けさせる、言葉を発するのを禁ずる、などの能力行使が見られる

月光を操る程度の能力に関しては八雲紫に対して月光波を放った程度である

 

服装はミリタリージャケットに地味な色のジーンズ

四肢の関節部分に包帯が巻きついている

太腿にホルスター、片方には小物入れがある

右目には黒い無骨な眼帯、体には小さなバック数個付きのハーネスをつけている

戦闘時には口元を隠す黒いバンダナをする

 

武器は月光の聖剣

見た目はブラボそのまんま、変形も変わらず通常時は普通の聖剣、月光を纏い更に力を増す

 

尚初期案はずっとアンツィオだった

 

 

夜桜八重 コードネーム"中尉""メディック"

能力 不明

 

EEFα隊のメディックを務める男、外の世界生まれ

様々な場所に出向いたりしているが、無傷で生還している

噂では外の世界で"蓬莱人"のようになったと言われている

妖怪等に興味が強く、研究者としての一面も強い

メディックと言われるように外科手術などの手腕は一流

無茶振りをしなければ必ず治してもらえると言われる程

階級は中尉、妖怪に関われれば良いのでさほど階級は気にしない

 

能力は一切不明

噂によればその神がかった医療技術が能力かと思われているようだ

 

服装は軍服、肩に赤十字の腕章がある

体にハーネスを付け、小物入れなどをつけている

そこにスタングレネードを2つ程装備している

太腿にホルスター、片方に医療器具を入れたバッグ

戦闘時には頭に赤十字が描かれたヘルメットを装着する

大尉と同じく…というよりEEF隊員は素顔が出ている組は口を覆う

 

武器は基本ハンドガン

あまりに大きな武器はニガテ

 

 

初期案では女だった、勇儀系の

 

 

田代桜 "ロングソード"︎︎"少尉"

能力 不明

 

︎EEFに唯一居る刀剣使いの一人

反対勢力で刀剣を使うものと言えば超全線の兵士か、彼らである

それ程近接攻撃手段は危険なことなのである

背丈を軽く超える長刀と普通の刀を愛用している

独特な構えから繰り出させる剣技は見切りを困難とさせるだろう

性格は黙々として生真面目、基本妖怪に復讐することしか考えていない

過去に家族を妖怪に惨殺されている為かなり憎悪が強い

妖怪に家族を殺される前は、かなり優しい性格だと噂である

それと"田代"という苗字は偽名説と結婚後説がある

あまりに"桜"と合っていないだろうからか

階級は少尉、割と最近入ってきて近接戦をしているので凄い特進している

 

能力は一切不明

噂ではその長刀を繰り出す技術に能力が使われていると言われている

 

服装は軍服

腰や右肩に鎧を付けている

黒い鉢巻をしているのが特徴

ウエストバッグを付け、体にハーネスを付けている

口を覆うバンダナは変わらずである

初期案ではEEFの中で唯一和服の男だった

 

武器は長刀と普通の刀

片方は楼観剣レベルでクソ長い、ネネギリマルよりかは短い

1番分かりやすく言えばモンハンの太刀、あれがサイズ比として1番合っている

片方の刀は基本イナシやパリィなどに使う

 

 

 

"潜入者" dead

能力 意識を操る程度の能力

 

EEFα隊の1人

生まれは不明だが、本人は外の世界と言っている

何でもそつなくこなすオールラウンダーなタイプ

特に潜入の腕に関しては右に上がるものがいないほど

ただ、そんな彼でも大妖怪にはかなわなかった

階級は中佐、危険地域に行く為か昇進がとても早かった

 

後八雲紫みたいな大妖怪が嫌いである

 

 

 

"インタビュアー""トークマスター"ALIVE

能力 不明

 

EEFの拷問担当で知られる男、今の所話にしか出てこない

妖怪の耐久がいい事にかなり調理しているという噂である

人物像は冷静沈着、拷問時にもそれは変わらず、加虐的に対象を扱う

通常復讐対象が目の前にいるなら少しは感情的になるのに彼はならない

ただの業務のように拷問を進めていく姿に敵味方問わず畏怖を集めている

基本的に生きて返すことが無く、情報を吐かせるだけ吐かす

情報を吐かすことに躊躇が無いので簡単に尊厳破壊を行う

薬物投与も当たり前、死なないギリギリの痛みを続ける毒薬を八重に依頼することもあるとか

故に最も戦っている天狗からは凄まじい怨念をぶつけられている

階級は少佐、SAAという骨董品を唯一EEFで使うとの事

 

能力は恐らくその拷問にあるとされる

何故ならば今までに情報を吐かなかった妖怪が"居ないからである"

大尉的にあまり敵にしたくない奴(痛いのキライ)

 

 

"運び屋""ベクター"ALIVE

能力 不明

 

今の所会話にしか出てこないEEF隊員

β隊に配属予定がかかっているα隊員でもある

反対勢力が持つ全ての銃器を配給している存在であり

こいつ一人居なくなると刀や鍬なんかで戦わなくてはならなくなる

故に妖怪達の最重要撃破目標であるが、彼らが姿を見たことは1度もない

 

能力は八雲紫のようにスキマのような異次元を操れるらしい

故に恐らく八雲紫と一回位は接触したことはある筈である…

別の世界から武器を持ってきたりもするとか

 

噂ではパラレルワールドから人物を持ってきて問題になったとか…

階級は少尉、重要人物でもそれ程階級は高くない

 

 

 

"ミコ""レイム"

 

見た目青霊夢のEEF隊員

この世界の博麗霊夢の完全なクローンであり、別人

記憶改良装置により大人らしい躾がついている

しかし、改良されようともレイム、という名前は覚えていた

性格はとても静か、タイプライターとも言える性格

言われたことをなんであっても遂行しようとする精神がある

階級は無し、被造物に人権無し

 

能力は今の所不明

 

 

 

司令官…"コマンダンテ""ビッグピン"

能力 不明 出身 不明

 

反対勢力の総司令…では無くEEFの司令官

あくまでEEFの司令官であり、反対勢力の総司令は別にいる模様

大尉はずっと総司令だと思っている

というより反対勢力に入っている奴らは基本そうだと思っている

総司令の代理として命令をしているせいだろうか

それとも総司令が"一度も"顔を出したことがないからだろうか

 

EEFを司令するだけあって戦闘力はかなりあるらしく

鬼を相手にしても勝てる程の戦闘力を有する

 

 

 

八雲紫

能力 境界を操る程度の能力

 

大 体 コ イ ツ の せ い

共存反対勢力の生誕にも関わってる主犯

幻想郷を愛する気持ちは誰にも負けない

見た目は16歳ほどの女性、見た目は紫のワンピース

そろそろ服を変えようかと考えているらしい

何千年も生きている大妖怪であり名前だけで人は恐るほど

妖怪の賢者として尊敬される一方、胡散臭いと煙たがられている

印象は胡散臭い、何考えているか分からない

ただ、本人はかなりの寂しがり屋で何をトチ狂ったか主人公の母を攫う

そして意識を自分に向けさせるとかいうアホみたいなことをする

余程気に入ったのか、目玉を交換するという凶行に走る

 

言えばただのカマッテ寂しがり屋、これに目をつけられた主人公が不憫でならない

 

能力は幻想郷の中でも反則級

何でもかんでも境界がどうのこうので解決出来る

心の境界やら体の境界やらなんでござレである

それに加え大妖怪らしい力もあるので尚更厄介

 

これで主人公を無理やり堕とさないのは反則だと思っているらしい

 

 

 

今代(先代になる)巫女

能力 拳で全部薙ぎ倒す程度の能力

 

察している方も多いが、今作主人公の母

見た目は二次創作でよくある黒インナーの奴

ていうか手の甲にセスタスを付けている以外はほぼそのまんま

子育てしていたら誘拐された中々可哀想な人

歳はそれほどだが、見た目は凄い若い

性格は割とお茶目な人、生真面目そうに見えるが言うてそうでは無い

主人公と再会したら殺されると思っているが主人公は割と母に関しては寛容になる

 

能力は文字通りそのまんまである

紫が手に霊力を宿すのが上手いとかほざいていたが全く違う

妖怪連中を基本殴り殺し、毎日血まみれで帰ってくるという

基本ワンパン、大妖怪ですらぶっ飛ぶ

ガードしようもんなら叩き壊すし、カウンターもそれごと殴る

幸いなことにこの効果が乗っているのは拳だけである

なので、どうにかして拳を使えなくしよう!(無茶ぶり)

 

 

 

博麗霊夢

能力 空を飛ぶ程度の能力

 

次代博麗巫女になる少女、外の世界から連れてこられた

紫から教育を受け、非常識な所はあるが普通の女の子

現在は今代巫女から技術を学んでいるところである

性格はかなりだらけていて、かなり気だるげ

しかしやる時はやる性格をしている…らしい

基本的に家事はしないが、料理は出来る

後にスペルカードルールを作り出す博麗巫女でもある

 

尚、今作で出番があるのは後半の原作開始の時である

もちろん、反対勢力が黙って見てるわけも無い(ゲス顔)

 

 

 

共存反対勢力

 

今作における主人公が居る勢力

基本的にいるのは妖怪に"奪われた"人間達である

親から子供まで様々なものを失った奴らである

男女比は半々程度、だが女性EEF隊員は存在しない

狙撃師団や機械化(文字通り)兵団、ロボットを操る者まで多種多様な部隊がある

その中でもEEFは異質な存在であり、畏敬の念を多く寄せる

基本的に妖怪に対する慈悲は無く、何をしてでも妖怪を殺すという意思がある

創設者は司令官と呼ばれる男だと言われている

しかし、ところどころ怪しい話もある為鵜呑みは危険である

 

 

 

反対勢力歩兵

Kar98KやThompsonで武装した兵士達

基本的な訓練は受けているが数十人居ないと妖怪一体に勝つのは難しい

群れとなると不可能である、つまるところ戦闘力は低い

それなのに護送任務や戦闘に駆り出されるのはもはや哀れである

武器は第二次世界大戦の物が多い、M4なんて以ての外である

時折ベトナム戦争のものなどもある

己の大切のものを奪われた者たちが多く

妖怪への憎悪は人一倍強い

 

 

E.E.F.

 

反対勢力最強の特殊部隊

彼らより腕の上がるものは勢力内に存在しない

一人一人が妖怪数十体を相手にしても無傷で生還する程の戦闘力を兼ね備えている

主人公が所属する部隊もこれである

α隊とβ隊が存在し、αが戦闘、βが支援となっている

過去にс隊があったが、壊滅したらしい

主人公が所属するのは勿論α隊である

本人は八雲紫にちょっかいかけれればいいのでそれ程部隊に思い入れは無い

 

 

 

RSI空挺兵

 

反対勢力の落下傘部隊の一つ

少しだけ時代が進んだ銃器を装備している

基本的な戦闘力は歩兵の少し上程度

群れの妖怪が相手となるとあまり役には立たない

通常歩兵と共に任務に駆り出されることがある

大体そういう任務じゃ生きて帰ってくるものは居ない

 

 

 

ヴァルキリー部隊

 

反対勢力の特殊部隊の一つ

RSI空挺兵から更に有能な兵士を集めた熱烈な部隊である

兵士達は極めて有能、冷静であり、残虐である

兵装は近代改修がされており、ほぼ現代特殊部隊

服装は基本的に黒一色が多い

三人ヴァルキリー部隊隊員がいれば妖怪は倒せる位の戦闘力を有する

群れとなれど、30程いればどうとでもなる

それ程のプロフェッショナルの集まりである

 

言うてしまえばRSI以上EEF以下



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死にゆくものに

パラリとページをめくる

俺が今読んでいるのは前にも読んだEEFの資料だ

今回は支援部隊であるβ隊について見ている

 

今の所、β隊は八人

 

EEF兵器開発担当、"ファイガ"

 

EEF建築担当、"ビルダー"

 

EEFの凄腕通信士、"コミュニ"

 

狂った天才、"マッドネス"

 

反対組織の台所、"コック"

 

EEF兵器発明担当、"ジーニアス"

 

反対組織の門番、"ガード"

 

索敵の天才、"スポッター"

 

 

…となる

基本的に前線に出ることはなく、拠点で働いていることが多い

何人か知っているが、顔見知りは居ない

 

そもそもあったことすらない

 

機会があれば会えるが…整備は基本自分でするし

壊れた時くらいか?それ以外に特にないが…

 

 

まぁ、言えるのはこいつらは援護の天才だろう

 

 

EEFの援護部隊なのだ、反対組織の飯作ってるやつもいるくらいだし…

 

あった時はよろしくやっていきたい

 

 

紅い月の下

紅い煙が溢れる屋敷の中で、ある男が立ち上がった

 

玉座より、その男は言葉を発する

 

「ついにこの日が来た」

 

彼の前には大量の化け物たちがいた

一言で言うならば、西洋妖怪

ゴブリンやスライム…ナイトゴーント等の代表的なものがいる

 

深きものども、様々な種族が集まっていた

 

その中には、日本の妖怪も居た

この男の圧やカリスマに惹かれ、集いし者たち

 

「満月の下、我々は此処を支配する」

 

男は手を騒々しく振り上げる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、お前達…地獄を作るぞ!」

 

妖怪達の歓声が上がる

 

地獄が始まる

 

幻想郷にとって、後でも先でも無い地獄が…

止めるものは何者も居ない

 

奴らは、進軍を開始した

 

 

『こちら5-6、奴らが動いた』

「夜間に動くか…狙撃師団は山に向けて照準

 迫撃砲部隊は砲弾を込めろ︎︎」

『既に装填済みです!いつでもやれます!』

 

司令官は前線にいた

妖怪の山の麓、ちょうど茂みの辺り

既に包囲は出来ているのだ、焦ることは無い

 

静かに、素早く終わらせる

 

「総員、吸血鬼の来ると思われる場所は離れているな?」

『イエスサー』

『既に』

「良し」

 

司令官は双眼鏡を取り出す

雪崩のように西洋妖怪が迫ってくるのが見えた

どうもお相手はここを潰してから全てに移るようだ

 

確かに、高いところは有利だ

 

それも、我々の狙いだ

 

「ぶつかり次第、攻撃開始だ…"大尉"?」

『…既に準備できている』

「了解、こちらの合図を待て」

 

司令官は刀を研ぎ直す

砥石を使い、月光に照らされ美しく光る刀を研ぐ

 

その間にも、無線には動きが入っていた

 

『敵が接触しました…見たところ状況は拮抗しています』

『地獄をあじあわせてやろうぜ』

 

司令官は研ぎ終わった刀を掲げた

ベレー帽に軍服の質素な姿が月光に照らされる

数秒、彼は刀を掲げていた

 

 

そして、それを振り下ろす

 

 

「…迫撃砲、発射!…空挺兵降下!」

 

 

遠方より、破裂音が響く

紅い月が照らす妖怪の山

 

文字通り、血祭りの時間だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『だんちゃーく…今!』

「総員攻撃開始…!」

 

弾着と共に、全隊が走り出す

妖怪の山を四方から襲う

奴らは敵は吸血鬼と雑魚妖怪だけだと思っている筈

 

故に背後の守りは薄い筈だ

 

今回はあらゆる方向から攻めた

 

後は、状況次第である

 

 

「天魔様!吸血鬼共が攻めてきました!」

「…数はいくらだ?」

 

山の頂上より少しした

天魔と呼ばれる天狗を統べる者の館がある

そこで、彼女は報告を受けていた

 

「はッ、おおよそ400程かと」

「本丸は?」

「確認できません、副将らしき者が見えます」

 

天魔は肘をつくと、顎で示した

大天狗はなんのことか分からず困惑した

察しの悪い部下にやんわりと教えてやる

 

「叩き潰せ、一匹残らず」

「は、はッ!」

 

少し、圧が出ていたのだろうか

怯えながら彼は逃げるように出て行った

天魔は溜息をつきながら背伸びをした

 

「やれやれ…スキマの言った通りか…」

 

面倒事が来たと溜息をつきながら仕事にかかることにした

 

やることはひとつ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…寝る

 

寝る、以上…私は寝る

最近結界やらなんやらの仕事で寝れていないのだ

寝不足にも程がある、三週間くらい寝てない

 

いざとなったら起こしに来るだろうという責任ぶん投げをかましながら彼女は布団に潜り込んだ

 

 

「…」

 

機内には緊張した雰囲気が漂っていた

 

全くリラックスできず、脂汗を浮かべている男

余裕綽々という感じで煙草を吹かす男

落ち着きがなく、ずっと貧乏ゆすりをしている男

 

様々な奴がいた

 

そんな中、ひとつのアナウンスが鳴る

 

『人里上空…後部ハッチ展開』

 

油圧の音が響き渡り、ハッチが開く

空気がどんどん吸われていき、風が涼しいと感じる

 

しかし、その言動に皆が困惑した

俺たちの任務は妖怪の山を攻めることだ

どうしてこんな所でハッチを開いているのだ?

 

そう思っていると誰かが走り出した

 

RSI空挺兵の1人だ

 

「━━おい…」

 

味方の声がかかる前にその男はハッチから飛び降りた

追いかけようとする兵士を塞ぐようにハッチが閉じる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、空の旅だ

 

幻想郷がほとんど見える

竹林から湖、妖怪の山まで至る所が見える

 

そんな中、俺は一直線に空を突き進む

 

全てから解き放たれた、鳥のように



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夜の覇者

「よし」

 

降下完了だ、木の下にてそんなことを思った

RSI空挺兵達に紛れても特に不審がられ無かった

普通、誰が仲間かくらいの判別はついているだろう

実はそれ程仲が良い訳では無いのかもしれない

 

RSI空挺兵の装備を脱いでいく

"いつもの"服装の上に着ているからとても暑い

ただ、今日はどうも雨が降りそうな予感だ

更に蒸し暑くなるともう嫌になりそうだ…

 

にしても、最近は雨が多い

 

「…ふぅ」

 

ここを見られたら敵前逃亡とか言われそうだ

…だが、俺にもやることはあるのだ

 

手のひらに"月光"を集め、形作る

それは見覚えしかない大剣の形となり、実態化する

柄を握りしめ、数回振った後に背中に回す

 

首をコキコキと鳴らし、軽く手を揉む

 

「"依頼"をこなすことにしよう」

 

足を踏み込む

行先は人里から少し離れたくらいの場所

 

俺は夜を駆けながらあの日の会話を思い出した

 

 

「…」

 

暇だ、最近は

兵士達がワッセワッセしているが、何かあるのだろうか

帰還して、偶にまた適当な所をうろついている

何か手紙…?があったらしいのだが、無かった

あんまり気にしてないし、いいか…

 

そう思っていると、俺は不意に金属音を聞いた

 

ドアの方向からだ

 

「…ふぅ」

 

珈琲を啜る

警戒なんてものはしない

 

敵が俺より格下だから?違う

敵が圧倒的に油断しているから?…違う

敵がそもそも来ていないのか?…もっと違う

 

警戒なんてする必要は無いのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんせそれは、ドアの"鍵"が掛かる音だから

そして、この基地は基本鍵は内側から掛けられる

外の世界のような鍵穴のようなやつでは無い

このドアは鍵穴がある、外の一般的なドアだ

鍵のかけ方は中にしろ外にしろ鍵が要る

 

…ただ、鍵は俺が持っているがな

 

だからこそ、おかしいのだ

 

鍵をかけるためには中からじゃないといけない

しかし、これまでに中に入った気配や音はあったか?

 

こんなことが出来るのは、俺は1人しか知らない

 

「何の用だ」

「会いたくて来たわ」

 

背中から手が回された

暖かい肌の感触が背中に柔らかく触れる

鏡を見てみると、スキマから上半身を出した紫の姿が見えた

紫色のワンピース、前あった時と変わらない

 

「余程暇なんだな」

「そう見える?」

 

そうは見えない

目のクマが素晴らしいことになっている

恐らくここ三週間は寝れなかったのだろうと推測できる隈だ

 

「疲れたから、心を癒しに逢いに来ちゃった」

「そうか、俺も疲れてるんだよ、じゃあな」

 

会話をブツ切りにしようとする

少し怨念が逸れたからって調子乗ってるとブチ殺すぞお前

あの時お前に"負けた"という雪辱はいつか晴らすからな…

 

俺は珈琲を飲んだ

 

「え?「あぁ^〜生き返るわぁ^〜」とか言いながら露天風呂入ってたの…

 誰でしたっけ?ねぇ?双星︎︎」

 

吹いた

 

いやなんでお前その現場見てるんだよ

妖怪の山中腹くらいのところだぞ、なんでお前…

天狗にも悟られずにウキウキしていた俺は馬鹿だったというわけか…

 

…そういえば、一生見てるって言ってたっけ…

 

ゴホゴホと咳をしながら俺は話を戻す

 

「ぁ"ー…で、何か用があるだろ、大体察せられるが」

「あら、話が早いわね」

「あの吸血鬼のことだろ、お前が忙しいなんてそれ以外は無いだろ」

 

こいつが何をしてるかなんて知ったことは無いが…

幻想郷の創造に関わった彼女が吸血鬼に関わっていないはずがない

…関わっているよね?

 

「勝手に他所から来て侵略宣言、もう五週間以上も寝れてない…」

「…そうか」

 

二週間追加されたわ

というかそもそも関わってすらなかったわ

彼女が疲れた様子で俺に枝垂れかかった

重くは無いが…その、当たってる…てか…あー

 

「凄く大きいな」

「何がかしら?」

「事が」

 

ナニとは言っていない

そもそも間違った発言では無いのでOK?イイネ?

ていうか、ここでその話題を出してくるということは…?

 

「えぇ、アナタに依頼がありましてね」

 

鏡の中の彼女の目が真剣になった

どうもここから仕事モードらしい

…隈のせいで台無しになってしまっているが…

 

「頼みたいのは…人里に迫る吸血鬼の撃退ね」

「…凄まじい事を頼むな」

 

おいおい、凄いことを頼みやがる

吸血鬼って…vampireの事だろ、バンパイア

人の生き血を吸い、生き延びる鬼の…劣化版?

心臓に杭を刺したら死ぬとか、十字架見せたら死ぬとか…色々あるらしい

 

「100程の雑魚を連れているらしいけど…ま、どうにかなるわ」

「期待で体がひしゃげる」

「実際、どうにかなるでしょう?

 幽香よりはマシな部類よ︎︎」

 

幽香…確か、太陽の畑に住むフラワーマスターだったか

凄まじい猛攻で死にそうになったのを覚えている

奴から植え込まれた種が体で疼く感覚がした気がした…

 

「事前情報はそれだけか?」

「あぁ、その日が満月な事くらいかしら?」

 

満月…満月ねぇ

吸血鬼は満月の下で真の力を発揮するとか…

 

それはこちらも同じことだ

 

「それだけなら良い」

「じゃ、お願いね」

「…終わったら妖怪の山に送れ、それだけだ」

 

俺はそう言うと、本を取り出した

EEFについての本だ…

 

β隊について、確認しておくか

 

 

事前情報によれば、人間どもは人里に引きこもっている

妖怪と関わることをせず、自分達のテリトリーを作っている

共存とは程遠い様子に見える、共存を掲げているのに

 

余程妖怪が恐ろしいのか、それとも…

 

「もうすぐ着くな」

 

部下達を100体程引き連れながら私は言った

これほどの化け物がいれば、制圧なんて容易い

妖怪ごときを恐れる人間程度ならば、少し力を見せるだけで怯えるだろう

 

そして、私に屈するのだ

 

そう思いながら、進軍しているときだった

 

 

 

 

「"よぅ、随分大掛かりだな"」

「何者だ」

 

道のど真ん中に座り込んだ男が居た

ジャケットの様なものの四肢に包帯が巻きついている

背中には大剣、太腿には銃がある

 

どう見ても、味方には見えなかった

 

「達者な日本語だな、英語で喋る必要もなかったか」

「お前の汚らしい口で我が言語を喋るなんてな

 …反吐が出るわ︎︎」

 

かなりの威圧をばらまく

部下たちから怯ような声が聞こえたが、男は態度を変えなかった

よっこらせと立ち上がるとため息をついた

 

「やれやれ、力が強くなると傲慢になっていくのは避けられないことか

 それとも、お前らにとってはそれがいいのかね︎︎」

「お前のような下民には理解出来ん事だ︎︎」

 

こいつと会話する意味は無い

首をやつに向けて振った

 

 

 

 

「やっていいぞ」

 

 

 

 

その瞬間、歓声のような声と共に部下達が飛びかかった

部下と言えど、中にはここに来てから部下になった者もいる

私はそれ程こいつらに情は持っていない

 

 

 

しかし、この時ばかりは情を寄せた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーおー、しゃらくせぇなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

その声と共に、部下達は灰になった

直ぐに飛びかからなかった者は警戒しながら武器を構える

聖水か?それとも何かの神の加護か?

 

 

 

否…ただの"妖力"放出だ

 

 

 

 

「"そこを動くな、一歩も動くんじゃ無い"」

 

 

 

やつがそう言うと、部下達は全く動かなくなった

目だけが忙しなく動いているのがわかる

「何が起こっている?」というのが見てわかる

 

「ほう、お前…中々やるな」

「お褒めに預かり光栄だ、ヴラド公?」

「知っている上であの態度…ますます気に入った」

 

槍を作り出す

真紅の、血より深い紅色の槍を

 

槍の先端から血のような妖力が零れた

 

「俺も頑張るか、別に里が滅びようがどうでもいいが」

 

奴が背中から大剣を抜き、振り払った

 

その瞬間、刃に月光が収束し…刃と化す

 

美しい青緑色の月光を放つ刀身だ

しかし、それが我が身を裂く刃であることも知っている

 

「月光で我を殺すと?」

「その通り、随分な皮肉とは思わないか?」

 

夜に生き、満月の夜に力を解放する吸血鬼

それを月光で殺すという皮肉

 

私は、この人間が気に入った

 

「いや、人間では無いな?」

 

奴の頭と腰から現れた物を見ながら私は言った

男はハッと笑いながら切っ先を向ける

 

「お前がどう思おうと俺は人間だ

 今も、これから先もな!︎︎」

 

「ほう、ならば見せてみるといい

 お前が人間であるということを!︎︎」

 

槍と大剣が交差する

激しい火花が辺りに飛び散った



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紅い光

(力の差は奴の方が上だな)

 

鍔迫り合いを直ぐに止める

満月の下では単純な力比べでは負けるようだ

月光狼とは言えど、満月吸血鬼には敵わんか…

 

まぁ、少しの誤差だ

 

(後々のリスクは消す…)

 

部下と思われる化け物共もきっちり始末しておく

戦闘が終わった後に後ろから刺されるなんてオチは感じたくない

 

 

「無防備な部下しか殺せないのか?人間よ」

 

 

上からそんな声が降ってきた

どうやら鍔迫り合いから離れた後空に移行したようだ

どこに行ったかと思ったが上に行っただけか…

 

「そう思うか?」

「我はそう思うがな」

 

そう言うと、奴は槍を回転させながら俺に突っ込んできた

俺はそれを受け流す体勢に入る

モロに食らう訳にはいかない、体が耐えれん

 

この状態でも普通に死ねる

…試したことは無いが、死ぬ筈だ

 

刃と矛先が触れる

 

「!?」

「愚かな」

 

月光の大剣が吹き飛ばされた

どうも回転のエネルギーで吹き飛ばされたようだ

先程の鍔迫り合いを引き摺った…

 

やつはそのまま槍を突こうとしている

 

 

いや、好都合

 

 

「こっちの方が早い」

「ぐぅ!?」

 

M500のクイックドロウ

ついでに今回は銀の弾丸に変えている

通じるかどうか分からないが、やつは苦しんでいるようだ

 

演技か効いているか…どっちか

 

「どこから我らの弱点を知ったのだか…

 事前に来ることは分かっていたようだな?︎︎」

 

どうも、アタリのようだ

銀は効く…この様子ならニンニクもか?

十字架はダメそうな気がする

それで済むなら最初からあーめんって言いながら十字架構える

 

いやそもそも、紫がスキマから十字架見せつけて終わりだ

 

「ん?逆に分からないとでも?」

 

 

今の俺は、"幻想郷の調律者"

 

課せられた仕事を終わらせるだけ

今回の仕事はこの吸血鬼を殺すだけ…

 

いつも通りじゃないか?

ただ、妖怪を殺すだけじゃないか

 

俺の言葉に、ヴラド公は目付きを変えた

 

「…舐めていたよ、人間

 まさかここまで"やれる"︎︎ものとは思っていなかった」

「この程度で認識変えてたらこの後死ぬ程後悔するぞ」

 

大剣を手の平に出現させる

かの大剣は月光で出来ているのだ、そして今宵は満月

いちいち取りに行く必要は無い、だろ?

 

奴との近接戦は可能

 

ただ、能力が不明だ

 

そもそもあるのか…それとも他に手段があるか…

 

「このヴラド・ツェッペリン…容赦はしない!」

「……"大尉"だ、この戦い情け無用。」

 

やれば分かる

死合えば敵の手札なんぞ零れ出てくる

 

やるしか道は無いのだ

大剣を持ち、翔ける

 

森の中を利用する

奴の身体能力はどの程度か…

 

「逃げるつもりか?」

 

後ろから全く離れない声が聞こえた

どうも、複雑な森の中でも距離を離さない機動力はあるようだ

 

今、奴は俺を追撃する形で動いている

後ろから定期的に飛んで来る槍がそれだ

 

「逃げるだけがお前の特技か?」

 

時折そんな挑発の言葉が飛んでくる

俺も振り向き、M500をぶちかます

 

当たるわけも無い

 

当てる気でやっている訳じゃないのだ

 

俺が森を駆けていると、後ろから声が上がった

 

 

「逃げるだけなら、こちらから行くぞ!」

「…!?」

 

前から何かが突っ込んできた

暗闇でよく見えないが、今の俺は感覚が研ぎ澄まされている

 

…ありゃコウモリだ

 

ただ、普通のコウモリと違う

翼の膜が赤く、目が赤く光っている

 

しかも1匹じゃない、群れだ

 

その全てに上記の特徴があるので…凄い怖い(小並感)

赤い流星群が目の前から迫っている、例えればそんな感じか

…んだその人生で1度も味わうことの無い現象

 

「畜生」

 

身体をひねり、その群れを躱す

ただ、こいつはこの群れだけじゃ無いはずだ

 

まだいるんだろう?えぇ?

 

「いつまでそうやって避けられるかな?」

「…嘘だろ」

 

俺が奴の言葉に視線を前に戻す

 

 

 

そこには、赤い星々が森の中に存在していた

 

 

あれが全部蝙蝠だと?

多すぎて天の川みたいになってるぞおい!

 

「ああクソッタレが!」

 

大剣の刃を"伸ばす"

月光の力を収縮し、それを刃に込める

込めた分だけ刃が大きく、伸びていく

 

邪魔ならば、全部落としてしまえ…

流石に蝙蝠が吸血鬼レベルの耐久力はないだろう?

 

「おぉ…らぁっ!!」

 

月光大剣をバットの様に振るう

今回だけは形とか技術とか、そういうのは無しにしてくれ

 

いや…考える脳も無い動物ごときに技術も要らんか…

 

大剣を振るった少し後に蝙蝠共が煙のように消えていく

どうも実体があるという訳では無いらしい

 

 

 

…そして、僅かに後ろからした"うめき声"を俺は逃さなかった

 

「なるほどなるほど…そういう事か」

「ぐぐ…貴様、正面からやらんか」

 

"切り刻まれた"胸を抑えながらヴラドは言った

どうも話題から逸らしたいようだな

 

分かり切ったことだが、言うか

 

 

 

「蝙蝠はお前の分身のようなもの

 その一つ一つにお前としての感覚がある

 …まぁ簡単に言えば小さくなったお前か︎︎︎」

「ふ、ふふふ…簡単に見破られる…」

 

つまるところ、蝙蝠を殺ればダメージが入る

1匹じゃそこまでのようだが、先程の蝙蝠は"天の川"の様に居た

 

そりゃ、そんなダメージ食らうだろうよ…

 

「んまぁ、逃げるのはどうでもいいんだが…

 ここは"幻想郷"︎︎流儀でいかせてもらう」

 

俺はそう言うと、己の"能力"を発動する

紫から初めて聞いた時…あまりに意味のわからなかった能力

 

腕をのばし、奴に向けて指を指す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺とお前、どちらかが死ぬまで逃げられない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはそういった"現象"

何人たりともこの"現象"を崩すことは出来ない

 

そして、ありえない

 

「…呪いか?」

「そういう類の物だと思え、"吸血鬼"」

 

大剣を構える

 

大体の事は分かった

やるべき事も分かった

 

…やることを果たそう

 

 

 

「すげえ、吸血鬼側が死ぬ程ボコボコにされてる」

 

"スポッター"はそう言った

画面を見てみると、吸血鬼の部下だろう化け物が天狗の風に巻き上げられている

安全な機内であっても落とされそうだと思うくらいの殺気だ

現場にいる奴らは可哀想だな…

 

「迫撃砲部隊は既に攻撃を開始している、やるぞ」

「「「イエッサー」」」

 

AC130はベトナム戦争の古臭い兵器だ?うるせぇ

この幻想郷は文化レベル明治とかやぞ、ベトコンとは違ぇよ

対空火器もそれ程なさそうである…河童を除けば

 

隊長が口を開いた

 

「攻撃開始!」

「全隊に通告、これより航空支援を開始する…デンジャークロース!」

 

無線にそう呼びかけ3秒くらい待つ

…3秒後、カチリとボタンを押した

 

サーモカメラに25mm砲の弾丸が一瞬見えた

 

その後、風を吹き上げていた天狗が一瞬で粉々になった

 

「oh......」

 

少し同情した

ただ、これで辞めるならここには居ない

情けを捨てて、25mm砲を連射する

 

地上部隊の援護

 

それが航空部隊の任務なのだ

 

『落下傘部隊到着!これより降下する!』

 

無線が忙しくなってきた

これは楽しくなりそうだ…

 

そう思いながら、ひたすらに25mmの雨を糞共に浴びせた

 

 

「…妖怪の山が騒がしいな」

 

私は思わずそう呟いてしまった

見てみれば、妖怪の山が凄いことになっている

あそこで誰か戦争でもしているんじゃないかってくらいだ

 

…実際してるんだろうけど

 

「これもお前の計算通りか?」

「さぁ?どうでしょう」

 

縁側から眺める私は、横の影にそう言った

いつの間にか座っていたその人物は問にそう答えた

 

紫だ

 

「見たところ天狗と人間の三つ巴か?

 それにしちゃ人間が押している感じがする︎︎」

「彼らにも彼らなりの事情というものがあるのでしょう」

 

まるで他人事のように話を進める

実際私たちには関係ないことである

天狗が押し負ける事なんて"決して"無いし、人間が勝つこともない

 

あるのは、結果を見て恐怖する人間のみ

 

「お前も残酷だな、生贄みたいなものじゃないか」

「あら、生贄なんて酷いことを言うわ」

 

何処吹く風、というふうに紫は言った

まるで自分が酷いことをしていないかの様に言う…

 

私はそんなことより聞きたいことがあった

 

「生きているんだろう?双星は」

「どうしてそう思うのかしら」

 

彼女はわざとらしくそう言った

おや、という風である…こんの性悪が

 

拳を握りこんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前からあの子の匂いがする、染み付いてやがるな…?

 何をした?……お前、︎︎あの子に何をした?」

 

こいつから"あの子"の匂いがする

いくら化粧や香水をしてもごまかせない匂いが

 

…何をどうしたらそんなにこびりつく?

意味がわからないくらい匂わせてやがる

 

 

私の質問に彼女は当たり前のように答える

 

カタン、と首を傾げて

 

「そんな酷いことはしていないわ

 ただ、跨って、辱めて、嬲っただけ︎︎」

「……一旦死ぬかそこに這いつくばれよ、クソ野郎」

 

何回か死んでもらおうかな、コノヤロウ

私の息子に対して何をしてやがる?

そもそも生きているのを知っているなら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで、私は気がついた

 

奴の瞳…右目

 

見覚えのある視線

 

 

「お前…!その目は!」

「あら、今気がついた?」

 

その瞳をよく知っている

"彼"はその目で私を見ていた

 

その"日本人特有"の瞳を私は知っている

 

「双星に何をした!?貴様ァ…!」

「とっても馴染みが良くて、私に合うの

 それに、人から奪うのは妖怪の性でなくて?︎︎」

「生きて帰れると思うなよ!ユカリィィィイッ!!」

 

奴に拳を振り上げた

容赦は無い、元々仲間とも思っていないのだ

 

死んでも、誰も文句は言わないだろう



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それぞれの

「シャッ!」

「来るか…!」

 

獣を優に超えるスピードで奴に斬撃を加える

槍で受け流されるが、何回かは当たった

とはいえ当たったのは切っ先程度、それ程でも無い

 

「洒落臭い!」

「うおっ」

 

槍によるなぎ払い

少し近付きすぎたのもあって当たりそうになる

それを大剣の刃で受け流す

 

「中々」

「言ってる場合か?」

 

ヴラドは己の手のひらを斬った

俺が不思議そうにそれを見つめていると、バッと腕を払う

 

血が飛び散る

 

俺は反射的に右腕を構えた

ぴちゃっと袖や右腕の根元に血が張り付く

 

俺は突然のことに困惑した

 

「なんだこれ───」

「"爆ぜろ"」

「え」

 

その言葉を理解する前に、服に着いた血が"爆ぜた"

 

鮮血が更に紅くなり、光ったかと思えば爆発していた

俺は体中にボコボコと弾丸を食らったような痛みを感じた

爆発の衝撃で後ろに少し下がる

 

いてぇ…割と痛い…

 

それによ…

 

「あーあ…割とお気にだったんだが…」

 

服がボロボロだ

血がついた箇所が穴ぼこになっている

かなりショックだ…気に入っていたのに

 

「どうかしたかね?」

 

わざとらしく、ヴラドは言ってきた

やれやれ…猿でもマシな挑発をするぞ?

尻軽女のように軽い挑発に乗ってやるか…

 

「あぁお前のせいで色々台無しだ

 さっさと終わらせるぞ︎︎」

「そうか…じゃあやれるか試してみるんだな!」

 

大剣を振るう

接戦を強いられているのが辛い

こいつに鍔迫り合いは敵わない

かと言って逃げると蝙蝠の追跡がウザイ

それにカラクリは見抜いたから別の手を使ってくる筈だ

 

(引き撃ち基本…か)

 

駆けながら月光を放つ

刃と化した青緑の閃光が夜を駆ける

 

「どうした?日本男児は大和魂を持ち、常に引くことは無いと聞いたぞ?」

「…多分それ違う、それは誤知識だ…」

 

んだその外国人が作った日本みたいな…

ていうかそっちの日本人の印象万歳突撃マンなんだ

…期待に応えられなくて悪かったなおい

 

「悪いがこれが真実だ」

「そうか…実に残念だ」

 

奴は翼をはためかせ、迫る

 

 

 

 

「…な」

 

 

 

 

俺はそれしか言葉が出なかった

 

 

片腕が…"無くなっていたのだ"

 

 

「ぐっ…あああああ…!」

「遅いぞ」

 

左腕がいつの間にか地に落ちている

射命丸には劣るが視認できない程の速度

 

…紫の瞳はちゃんと捉えていた

体が反応しなかった、見られたまま槍で切り飛ばされた

 

「貴様…両目が見えているのか…?」

「…見えん、勘と経験でどうにかしている」

 

その答えに嘲笑を混ぜてヴラドは笑った

男爵らしい笑い声だ、畜生腹立つ

 

「まぁどちらでもいい、まだ終わらんよ?」

「…チィッ!」

 

接近戦か、クソッタレ

槍を構えながら突っ込んでくるヴラドに悪態をつく

受け流し一方になってしまうから奴とは近接戦をしたくない

 

槍の乱れ突き

 

紫の瞳による動体視力により全てを受け流す

どの突きも確実に先頭に支障が出る部分を狙っている

 

一発でも食らったら次の瞬間には…串刺しだ

 

「…戦い慣れしているな」

「我を誰だと思っている?貴様よりは長く生きている」

「そりゃ悪かったな!」

 

月光を収束し、叩きつける

ヴラドは槍を構え…それを防ごうとする

 

「…悪いなヴラド」

「何──────」

 

本当に、悪いなヴラド・ツェッペリン

 

これ以上長く続けられない

仲間達が待っているし、これ以上死なせられない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あばよ、クソッタレ」

「馬鹿な…それは…!」

 

 

俺はそう言うと、奴の腹に"スキマ"を開く

そうして、そこから50口径の銀の弾丸を腹部に叩き込んでやったのだった

 

 

 

「結界や、小賢しい術なんぞ…意味無いんだよォ!」

「えぇ、まぁ貴女の前ではそうでしょうね…」

 

紫の生み出す結界を叩き壊しながら巫女は近づいて行く

この巫女の能力の前では最上級の結界を生み出す紫は手も足も出ない

実際ここまで彼女は巫女に何も出来ていなかった

 

 

弾幕も、術も、結界も…全て叩き壊される

 

 

紫自身、何をどうしたらこんな化け物が生まれるのかと困惑していた

人間の中には強大な妖怪を打ち倒すものが現れることがある

 

かつて大江山にて鬼を討ち取った武将しかり

紫の右腕であるかの九尾を封印した者しかり

 

ただ、この巫女はそのどちらにも当てはまらない

 

なぜなら、彼女は"単独"だから

 

上記のもの達は団体だった

僧に成りすましたり、追い詰めたり…

絶対に1人ではなし得ないことだ

 

それを、巫女は単独でやってのける

僧に成り済ます必要も、陰陽師の手助けも要らない

 

完璧に、ただ1人で「陣」なのである

 

「あぁっ、無駄無駄無駄!…何故こんな無駄な術を!」

「あら…?今の天魔でも解くのに一日はかかったのに…」

 

巫女は割ととんでもない術を拳1つで叩き壊した

尚、天魔の名誉の為に言うが彼女は人間ならば手も足も出ないどころか動きもできない

鬼との相性は悪いが…それでも一般的な妖怪とは一線を画する者である

 

断じて彼女が弱い訳じゃない、断じて

この巫女さんが本当にやばいだけなのだ

 

「息子の分の拳…一発喰らえッ!!!」

「えっ今貴女棒立ちゴブァアアア!?」

 

瞬間移動の様に紫の目の前に立つ

そのまま何かをする前に巫女はぶん殴った

天狗なら消し飛ぶレベルのパンチである

それを顔面にぶち当てた、酷い顔になってそうだ

 

「…痛いじゃないのよ…シクシク」

 

嘘泣しながら紫は立ち上がった

その顔にひとつの腫れは無い、赤くなってもない

 

「潰れたらどうするのよ、デリケートなのよ目玉って」

「ブチ殺すぞ」

 

殴られたことよりも、右目を気にしていた

殺意のあまりに博麗神社が倒壊しそうになる

そもそもまだ立っているのが奇跡な部類だ

最初の拳の時点で壊れてもおかしくなかった

 

さて、殺るか

 

巫女は決意を固め、拳を振りかぶった

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ねェェ!こんの性悪根腐れド畜生アメ公ブリカスビッチ─────」

 

 

 

 

 

巫女はその最後で、拳を振るうのを止めた

紫がスキマを作り出したからである

 

だからどうした

 

それがなんだと言うのだ、巫女はそう言い聞かせようとした

 

しかし、そこに写った光景が拳を止めさせた

 

 

 

 

 

「貴女が見たいのは、これかしら」

 

扇子で口元を隠しながら紫が卑しく笑う

 

「…あぁ…あ」

 

口から震えた声が漏れる

いつの間にか巫女はその場に膝を崩していた

 

見たいと望んでいた者

 

いつしか二度と見れないと思っていた顔

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そう…せい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吸血鬼の口にリボルバーを突っ込んだまま引き金を引いた愛しい息子の姿

鮮血が彼を更に目立たせている気がした

 

その顔は深い傷がある

 

ホクロがえぐれ、右目に眼帯をした───

 

 

「あぁ…あぁ…」

「これで満足?」

 

卑しく笑いながら"奴"はそう言ってきた

私は何も言わずにその場で頷いた

 

「…そう」

 

奴はそう言うと、姿を消した

どうやら、なにかの用事があるようだった

先程までの殺意は消え失せ、ただなにか妙な感覚が駆け巡った

 

 

 

 

 

安堵と、恐怖

 

彼が生きているという安堵

そして、彼が妖怪を殺している恐怖

 

同じ妖怪を相手にしていたはずなのに…

 

そもそも、その役目は私のはずなのに…

 

 

 

 

 

「…紫め…」

 

 

私はただ、彼女を妬んだ

 

 

 

「甘い、甘いぜヴラド…事前情報は必要なんだよ

 俺が"スキマ"︎︎︎︎を開けることくらいな」

「…な、…ぜ…お前が…あの妖怪と…同…じ」

 

俺はM500のシリンダーをアウトする

弾丸は一発撃っていないのがあるようだ

撃っていない弾丸を除いて空薬莢を落とす

 

 

それと同時進行で右腕のあった場所に月光が収束し、形作る

より一層収束すると、そこには元通りの腕があった

服は戻らないようだった…残念だ

 

 

簡単な理論だ

 

 

とても簡単な、赤ちゃんでも分かるようなこと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紫と何回も体重ねりゃそりゃ力は移るだろ

 何回、何回嬲られ、辱められたと思っている?︎︎」

 

彼女の力の一部が俺に移っている

流石に能力全てとは言わないが、スキマを開くくらいの力はある

 

「…そうか…あの…妖怪に好かれ…た…か…」

「そうだ、好かれた、厄介な奴にな」

 

俺はそう言うと、ヴラド膝立ちにさせた

どうも動く力すら無くなったようだ

銀の弾丸様々である、なかったらここまで出来てない

 

それと、スキマを開けるようになったのも

 

本当に不本意ではあるが、紫に感謝しておく

あのドクザレサイコパスに喜んで感謝なんて…

 

ああ吐き気がしてきた

 

「永い夜にはならなかったな」

「…ああ、そう、だな」

 

M500の銃口を口に押し当てた

奴の口内に銃身が入る

 

本来ならばろくに喋れないハズである

しかし、彼は当たり前のように喋り始める

 

「そう…か、娘が言っていたのはそういう事か」

「…娘?」

 

彼は感慨にふけっていた

これから死ぬというのが免れない、そう思っているようだ

 

ここで死ななくとも、紫が後始末をつける

 

人里を攻めようとした罪は重い

恐怖するものが居なくなれば、妖怪は本当の意味で死ぬ

だからこそ誰もしかし人里を攻められないし、壊せない

 

脳みそのない低級妖怪は知らないだろうけどな

 

「娘は…レミリアは…"そういう未来"、と言っていた」

「先をよく見る子なんだな、ソイツは」

 

彼はうむ、と肯定した

娘と言えど、かなりの年月を生きているだろう

100年?それとも…495年?

 

「よく見えるとも、"見えすぎる程に"

 あぁ…疲れたよ…もう︎︎」

 

彼は瞳を閉じた

どうやら、終わりにしたいようだ

ヴラド公の為にも…終わりにしてやろう

 

 

 

 

 

俺は無言で引き金を引いた

何か"それっぽい"台詞を言おうと思ったが趣が無いと思った

"じゃあな"だとか、"安らかに"とか…在り来りな表現じゃない…

 

ただ、今の俺には在り来りな表現しか思いつかなかった

だからこそ、何も言わずに引き金を引いた

 

「…」

 

ぴちゃり、と俺の顔に鮮血が散る

 

弾丸は奴の口内を貫通し、通り抜けた

力を無くした体が倒れた瞬間灰と化していく

 

宙に舞う灰が汗と血で濡れた肌に張り付く

袖や、髪にまでひりつく

 

そこで今一度服を見てみると、右腕のジャケットは消し飛んでいた

下着にも飛び火して右腕は素肌が出てしまっている

 

「お気に入りがボロボロね」

「お蔭さまでな」

 

そもそもこいつがこんな依頼をしなきゃ壊れてない

俺はため息をついた、こんな要求をしたくないが…

 

「替えの服、ないか?」

「勿論」

 

彼女は知っていたかのように新しい服を取り出した

少し緩い感じの服だ、パーカー…と言うよりフード付きのジャケットだ

青いフード付きのジャケット…ただ素材は柔らかい

確か前のやつはレザーだったか?

 

それを受け取り、着替え直す

ボロボロなジャケットは使わないから地面に捨てた

袖に腕を通し、ジッパーを閉じる

 

すると、四肢の関節に包帯が巻き付いた

 

これはどれにしても変わらないようだ

 

「お似合いね」

「そうか」

 

大剣を背に戻し、軽く背伸びをした

吸血鬼という有名な妖怪なだけあって…強い

人間を簡単に統べられる、偉大な妖怪

 

まぁ、来た場所が悪かったな

 

「よろしく」

「はいはい、どうぞ」

 

紫がそう言うとスキマが開く

そこからは怒号と悲鳴と銃声が響き渡っていた

 

戦争だ、天狗と人間同士による

 

「もう吸血鬼の部下は居ないわ」

「…そうか」

 

駆逐されたか

まぁ、いいだろう…もとより勝ち目は無いのだ

俺は溜息をつきながらスキマに入る

 

「また後でね、双星」

 

後ろからそんな声を聴きながら歩みを進めたのだった



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運命

「天狗共の出す風が厄介だな!」

「全部斬れば同じだ」

 

妖怪の山の麓

そこでは歴史に残るような戦争が起こっていた

 

長刀を振り、天狗共を裂く刃

嵐が吹まわり、木の葉のように飛ばされていく兵士達

 

現世に現れた地獄

 

それが今の状況だった

 

「撃て!」

 

迫撃砲による攻撃やAC130の支援攻撃で天狗共が木っ端微塵になっていく

しかし、相手もやられるだけでは無い

 

河童達の水圧カッターや近接戦で兵士がゴミのように蹴散らされる

 

しかし、それでも一瞬で戦闘は終わらない

 

「攻めろ!奴らとで無敵じゃない!」

「ァァァアアアア!!!」

 

人とは思えない怒号が響き渡る

皆恐怖が消え失せて、攻める気しか無いのだ

こいつらは無敵では無い…それだけ救いだった

 

「ま、待て!」

「しねぇえええー!、!」

「殺せ!ぐちゃぐちゃの肉片にしてやれ!」

 

囲んで、殴って、突き刺す

一体にそんな労力をかけていられない

ただ、殺すにはそんな手段くらいしかない

 

天狗達は少しづつ、着実に押されていた

 

彼らは信じられなかった

自分たちが人間に押されているなんて

 

「アイツらはただの人間だぞ!吹き飛ばしてしまえ!」

「伏せろ!」

「ぁああああああああああああ!!!」

 

人が簡単に死ぬ

四肢がもぎれて、ちぎれ飛んで…

 

しかし、それは"マシ"な方なのだ

 

1番惨いのは、死にかけの淵に立たされることである

 

「う、動けないんだ、だれか… だれかたすけて…」

「なぁ、俺のめだまをしらないか…おとしちまったんだ…」

 

内蔵を零れ出して、動けなくなった者

両目がえぐられたように無くなって、探し求める者

四肢がちぎれたまま放置された者

 

惨い事だが、これが戦争だった

 

 

また、多種多様な死に様もある

 

木の枝に突き刺さった者からバラバラにされたものまで…

人知の力では無い力が蹂躙してくる

 

恐怖が混み上がる

 

「あぁ畜生今回は仕事繁盛だよ!」

 

八重は助からない者は助けなかった

神がかった技術があるとはいえ目玉を接合は出来ない

ちぎれた腸を直して元に戻すなんて以ての外である

基地内なら出来るがこんな衛生最悪of自分も危ない中でやれるわけが無い

 

「全員皆殺しだ…!」

 

桜は修羅の如き戦闘を繰り返していた

長刀で奴らの首を裂き、刀で弾き返す

飛び交う嵐の中を駆け巡り奴らの首を刈り取る

これまでに天狗との戦闘は数回あったが、こうも全面戦争となるとキツイものがある

一体何体いるんだろうか、こいつら

 

 

他のEEF隊員も同じである

 

 

ただ天狗共を皆殺しにしていくのだ

こいつらを殺せばいい、その先の未来は見ない

 

 

 

 

 

 

 

ただ、それもここまでだ

 

 

「お前達の前に居るのは妖怪としての天狗だ!」

 

射命丸はそういいながら人間を吹き飛ばす

こうして人間を殺すのは何百年振りのことである

 

そもそも、妖怪としてならそんなに長い期間空くことは無い

 

天狗が保守的で縄張りに入られない限り人を殺すことは少ない

最近天狗が人を殺したのは大体反対勢力を潰すことくらいだ

 

射命丸はそれに参加していなかった

興味無かった、暇でもなかった

 

「お前、中々手練らしいな…厄介事は先に潰す︎︎」

「その言葉貴様にそのままそっくりかえしてやろう!」

 

この戦争でさえ茶番に過ぎないのだ

このくらい騒々しい口でも文句は無いだろう

天狗はこれくらい傲慢であってこそなのだ

 

「EEFの者か、見るに"ミニミ"か?」

「よく知ってやがるな、まぁどうでもいい!」

 

明らか人に向けるものでは無いバルカン砲が向けられる

良くもそんな人間の腕で保持できるものである

 

こいつが1番人間じゃないわ

 

 

 

 

 

 

「…次」

「た、助けてくれ…死にたく─────」

「なんで次代の博麗巫女がい…ぎゃあああ!!!」

 

レイムは機械のように天狗を処理していた

お祓い棒とその有り余る強大な霊力を使い、潰し、切り裂き、殺していた

 

そうしている時、変化はおこった

 

「ほう、博麗は反対組織に加わったのか…」

「…誰」

 

新たなる敵だ

青い天狗衣装、見たこともない奴

 

しかし、この圧は…大天狗か?

 

「龍田とだけ言っておく…にしても…」

 

鼻をわざとらしく突き出し、匂いを嗅いできた

そういう感情はないから、何をしているのか分からなかった

 

「…お前、博麗じゃない…しかし体は次代の者…

 一体どういうことだか?︎︎」

「話は終わり?」

 

お祓い棒を突きつける

彼女は豪快に笑うと太刀を構えた

 

「無論、終わりよ…お前の死でな」

「逆、お前の死で終わる」

 

 

 

 

ありとあらゆる所で戦闘が起きていた

 

 

 

 

 

しかし、押されていた盤面は既に消えかけていた

 

 

 

つまり、終わりが見えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間の敗北という未来が

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦車壊滅!歩兵は八割死亡!」

『こちらスポッター、天狗共に囲まれた…後は頼む』

「AC130撃墜されました!」

「相手が多すぎる!」

 

「…クソ」

 

司令官はいつもの態度を崩した

最初の勢いが無くなってきている

山への爆撃やらの効果が薄い

 

それに、河童共が対空火器やらを使いだしている

 

奇襲の被害を受けてから立て直すまでが早い

 

 

 

…これが、妖怪か

 

 

 

「…やるぞお前達」

「わかりました」

 

ヴァルキリー兵にそう言う

何をするのか察した兵士は近接武器を腰に携えた

 

周りの兵士達が着剣を始める

 

もう銃で遠くから打つ必要は無い

 

「コマンダンテ?」

「全隊突撃だ!怯むなよ、ここが正念場だ!」

 

最初に叫び、サーベル片手に走り出す

それに続いて皆が飛び出る

 

もう、逃げ隠れはしない

 

 

「人間共め…ここまでやるか」

「ただもう少しで終わりそうだぞ」

 

前線の少し後ろ

白狼達がブツブツとそんな会話をしていた

彼らは戦闘に参加したくない、言わばサボりたいヤツらである

 

私の個人的な倫理観だが、サボりは死ぬべきである

 

私はこの千里眼で敵の位置を知らせている

言わばこの山の目である存在なのだ

 

…ここにいるのはサボっているからでは無い

 

心の中で思ったことに答えるかのようにスキマがぽっかりと開いた

 

私はすぐさま地面に倒れた

理由はすぐ上を見ればわかった

 

「こんな所で会うなんてな」

「ぐ、ぐうあ…」

「お蔭さまで」

 

先程まで会話していた白狼全員を皆殺しにした男が居た

ただたいそう驚くことでは無い

 

…"大尉"だ

 

「何しにここへ?」

「吸血鬼を殺したからこっちに参戦しに来た」

 

なるほど簡単な事だった

多分本丸を潰すように誰かから依頼をされていたのだろう

スキマが閉じていくのを見ると、一体誰から依頼されたのか…分かるな

 

面倒事だな

 

そう思っていると、壁が吹き飛んだ

 

吹き飛んだ先には機械が見えた

人型の、三角翼が背中に着いた機械

 

ジェットパックを身につけた人間も見える

 

人間と機械だ、なんでそんな…

にとりの機械では無いのが分かる、あんな殺意マシマシにはならない

 

空を飛ぶ人間が声を上げる

 

「大尉、先に潜入しているとは」

「"フライトマン"と"バイパー"か、この白狼は内通者だ、殺すなよ」

 

何気に私にフォローを入れてくれる大尉に感謝する

何も言われなかったら多分殺されていた

 

コクリと"フライトマン"は頷いた

 

「了解、前線を後ろから叩く…司令官は突撃してるからな」

「分かった、"バイパー"乗せてくれ」

『コピー』

 

機械からそんな声が聞こえると、ガチャンガチャンと変形を始める

なんか外の映画にそんなものがあったような…

 

戦闘機に変形すると、大尉はそれに乗り込んだ

 

「後は自由に」

 

そう彼が言うと、戦闘機は発進していく

あっという間に見えなくなっていった

 

…さて

 

「どうしようかな」

 

自由にって言われても、これからどうしろと?

 

 

「バイパー、俺はもっと後ろから行く」

『アファーム、もう降下するか?』

「あと少しだ」

 

翼に捕まりながら俺はそう言った

戦闘機の翼に捕まりながら目標を確認するのは困難じゃない

言うてそれほど難しいことでは無いのだ

 

目視で確認できる、皆突撃しているようだ

後方から撹乱作戦と行こう

 

迫撃砲の援護が見えない…状況は同じか

 

「もういい、後でな!」

『10-4、幸運を祈る』

 

空を切り裂きながら銀の機体がすっ飛んでいく

俺はそれを見ながら上空から降下した

 

パラシュート?ねぇよんなもん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丁度いい天狗があるじゃないか?

 

「翼借りるぞ」

「え」

 

空中にたまたま居た鴉天狗に掴みかかる

何が起こったか分からないままのようだ

そのまま腕で心臓を貫く…まだ生きているだろうが

 

灰にならなかったので翼を利用し降下する

 

そのまま、天狗たちの前線から少し後ろを陣取ったのだった



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殿

「…なんか外煩いわね」

 

机に頭を置き、完全に寝る気の体勢

しかしその背中には鴉天狗あることを示す漆黒の翼がある

 

現在戦争中の妖怪の山のとある家

 

かなり変わり者と言われている者…姫海棠はたて

基本家から出ず、友人以外と会話した事なし

 

ただ、時折EEFの写真を撮って新聞に上げるのが話題になる

 

EEF関連の情報は少なすぎるのでかなり貴重なのだ

写真とか以ての外である、あるかよそんなもん

 

 

「…まぁいいや」

 

 

はたては二度寝することにした

今妖怪の山がどうなっていても関係無い

そもそも今までそれほど関わったことは無いのだ

 

どうなろうと変わらない

 

そう思いながら彼女は瞳を閉じた

 

 

「司令官!?」

「…」

 

動かない

いくら声をかけても動かない

 

「前線が突破されたぞ」

「相手が多すぎる!」

「これ以上攻められない!」

 

司令官が動かない

先程天狗からの一太刀を受けてから何も言わない

 

「司令官の分もくらいやがれ!」

 

誰かがそう言って天狗を撃った

奴はもんどおりうって倒れる

 

…いや、そんなことはどうでもいい

 

それよりも撃つ前に言った兵士の言葉

 

そんな台詞、まるで司令官が死んだみたいじゃないか

 

そんな、そんなはずが…

 

「怯む───」

 

怯むな、と誰かが言おうとして吹き飛ばされる

爆弾か、ロケットランチャーの類だ

 

奴らは勢いを取り戻している

 

このままじゃ…

 

「戦車は!?」

「もうない!」

「弾は!」

「これで最後だ!」

 

絶望的な会話が聞こえる

 

そこで、改めて辺りを見渡してみると一般兵は俺以外、誰もいなかった

 

「あれ」

 

さっきまで横で会話していたよな

そう思って横を見てみると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天狗が居た

 

 

 

会話していた友を串刺しにして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チクショオぉおおおぉおお!!!」

「甘い」

 

叫び、天狗を刺し殺そうとするが上手くいかない

いつの間にか倒され目の前に刀が突きつけられていた

 

 

 

「司令官とともに死ね、人間」

 

 

そう言って、奴は刀を振り下ろす

ここまでか…俺は覚悟を決め瞳を閉じる

神に祈ったことは無い、誓ってもいい

 

この時は神に祈った

 

もしかすれば救ってくれるかもしれないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神は居た

神は人外では無く、人だった

 

天狗の前線が吹っ飛ぶ

 

「なんだ────」

「くたばれ!」

「洒落臭──」

注意が逸れた瞬間に殺そうとするが、恐ろしい速度で刀が降られようとする

 

しかし、その時には奴の頭は無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら!退却戦だ!動けるものは逃げろよ!」

 

 

大剣を天に指し、仲間たちにそう呼びかける者

前線を吹き飛ばした中心にその人物はいた

 

 

 

 

 

 

 

 

…大尉だ

 

 

 

 

 

 

「…聞こえたな、退却だ!」

「逃げるぞ!機会を無駄にするな!」

「うわぁぁぁああああ!ー!!!」

 

 

多種多様な声が響き渡る

 

大尉は立ちすくんでいた

 

彼らが逃げるのを見届ける為では無い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ごぶっ…無理したぜ…」

「覚悟は出来てるんだろうなぁ!?」

 

彼は血を吐きながら振り返る

そこには数多の天狗が一斉に押しかけていた

 

刀の切っ先や矢が刺さった状態で彼は大剣を構える

 

構えている間にも矢が突き刺さる

しかし、重要な部分は"妖力"で防ぐ

 

 

やはり"人間態"じゃ無理がある

だからこそこんなボロボロになっているんだ

 

「ぺっ……覚悟するのはそっちだろうが」

「月光狼!?そんな!本当だったなんて!」

 

折れた歯を吐き出す、邪魔だ

俺は獣ような荒々しい息を吐きながら、獣のように飛びかかった

構えなど無い、頭と腰に生えた獣性の化身を体現して…

 

青緑の光が軌跡を作る

 

血肉が吹き飛び、混じり合う地獄を

 

 

 

 

「月光狼…力は彼に渡ったのね」

 

射命丸は安全地域から戦闘を見下ろしていた

月光狼である彼にはバレているだろうが、他の奴らには分からない

白狼程度じゃ気にしもしない、同族でもそうだ

 

「そろそろ終わりよねぇ、というか大尉で最後よね」

 

大尉は相手したくない

やれば死ぬのはこっちであるのだ、相手できない

 

する必要も無い

 

彼と戦っても意味は無いし、怪我をするだけだ

時間が来るまでここで高みの見物と行こう

 

「…そういえば椛はどこ行ったのかしら」

 

そろそろこっちに来てもおかしくないが…

山の目を勤めていて、相手は退却している

もう前線に駆り出されてもおかしくないが…

 

そう思いながら眼下で繰り広げられる死闘を見物した

 

 

「叩きのめしてくれるわ!」

「さっきからうるせぇんだよ!」

 

騒ぎながら殺しにくるアホ共を殺す

桜は苛立ちながら退却戦をしていた

天狗共は大体大尉の方に行っているが、こっちにも来ている

 

「止まるなよ!止まったら死ぬからな!」

「車両がある、引き止めてくれよ!」

 

後ろから兵士の声がした

ここで天狗を押し止めなければならない

怪我人や動ける者を逃がさなくては

 

奴らに大天狗の姿は見えない

大物は大尉の方に行ったようだ…

 

 

そこで俺は後ろを確認した

EEFの隊員の姿と兵士たちが見える

ヴァルキリー部隊が五六人、RSIが3人程

一般兵に至っては一人しかいない

 

 

 

あることに気付いた

 

 

「…八重は?」

「余所見する暇があるか!」

「うっ…邪魔だ!」

 

後ろを向いている間に斬られる

丁度鎧がある場所を斬られたからそれ程痛くは無い

 

…しかし本当に八重はどこに行った?

 

 

 

 

 

…まさか

 

「…ああ畜生全員殺してやる」

 

 

死体の中に姿は見なかった

けが人を放っておくことは性格上無い

 

…まさかまだ前線に…?

 

 

 

 

 

 

そう思っていると、凄まじい轟音が響いた

 

まるで隕石でも降ってきたような…

 

 

「お前達!早く逃げ────」

 

俺が振り向くと、既に車両の姿はなかった

どうやら既に準備が終わり、轟音のおかげで出発したようだ

 

「ああ…クソッタレ!大尉!今行く!」

 

俺は駆け出した

木々の間をすり抜けるようなことはせずに、足を使って

 

 

…月は、主が死のうと未だに天に登っていた



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「…」

 

意識が暗い

瞼が今にも閉じそうだ

あたまがいたい、からだじゅうがいたい…

 

「…!た…い!」

 

誰かが俺の肩を揺すった

意識は全く明瞭にならない

誰が来たのかも分からない

 

俺って、何をしていたっけ

 

紫を殺す為に反対勢力に行って…

そこから何をどうして、こうなったっけ

 

「ごめんなさい…貴方の……ならない」

 

なにかの声の応酬があったが、最後の言葉の後に口元に柔らかい感覚がした

それが離れると、少しだけ意識が晴れた

 

 

 

 

 

俺は抱えあげられていた

いわゆるお姫様抱っこと言うやつだ

 

意識が晴れたおかげであたりの様子が見える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

灰の山だ

 

天狗服と灰が積み重なっている

地面と服は血だらけの様子だった

 

「…双星」

 

声がした

 

懐かしい、声が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…かあ…さん?」

 

 

「大尉!起きろ!死ぬな!…双星!!」

 

俺は双星を揺する

彼は曇った瞳のまま、虚空を見つめていた

その瞳が薄くなっているのを見ると、ゾッとする

 

死ぬな、死なないでくれ

 

 

 

 

 

 

 

 

…お前だけには死んで欲しくない…

 

寿命でも、なんでもない、とにかく、今死なないでくれ

 

「…くそ、これしか…」

 

彼の容態は酷い

身体中がボロボロ、抉れて骨が見える箇所がある

これでは直しようが無いが、一つだけある

 

 

 

 

 

 

 

 

…この注射器を使えば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駄目よ」

 

後ろからそんな声がした

 

それと共に向かってきていたであろう天狗が爆散する

凄まじい轟音が鳴り響き、大地が揺れる

 

凄まじい量の服と灰が空から降り注いだ

死の灰…まぁ、死人の灰だから死の灰か…

まるで雨だ、少し前に止んだと言うのに今度は灰になった

 

俺は怯まずにM1911コンパクトを取り出した

その声の主が誰か俺は知っている

 

 

「八雲紫、お前は大尉を死なせたいのか?」

 

俺は銃を突きつけながらそう言った

紫のワンピースを着用し、おかしな傘を開いた妖怪

扇子を開き、目は憎悪の宿ったそれだ

 

「死にたいの?」

 

重圧が俺を襲う

あまりの殺意に腰が抜けそうになるが虚勢を貫く

口を開きたくもないが、ありもしないプライドを守る

 

「事実だ、死ぬ、大尉は何もしなかったら死ぬ」

「その注射器は駄目、私が、私が彼を護る」

「…あ」

 

いつの間にか俺は真っ二つになっていた

頭と体がいつの間にか飛んでいた

 

死んだ…か

 

俺はため息をついた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パタリと倒れていた体が起き上がり、歩き始める

 

それは俺に手を伸ばして…

 

 

「大尉、大尉…ねぇ、聞こえてる?」

 

虚ろな、感情のない声

その男の体を抱きとめ、抱える

もし何も知らない人が見れば悲劇的な光景に見える

 

そして、知る者ならばどれ程おぞましい事か

 

 

優しく、色のない声

 

「まだ、起きてるわよ…そう、死んでない…」

 

抱き寄せる

死は人を分てる、何があっても

 

人には死に対する抵抗は出来ないのだ

何をどうしようとも死んでしまう

 

だからこそ、弱い

 

 

 

 

 

しかし、彼女の目の前で死ぬのは人では無い

 

「…そうよね、その力は私が作った力」

 

彼女は妖力を込める

多くも少なくもない、同じ力を込める

口元に、そのピンク色の唇に妖力が宿る

 

「だとしたら、力をもっとあげれば…戻ってくるわよね?」

 

淡い口付け

戦場のど真ん中、凄惨な死体の中心

死者達の楽園(ネクロファンタジア)の中…式は上がる

 

 

 

「汝は我、我は汝

 

 ここをもって己を制する

 

 肉体と魂を別かつこと無く

 

 死と生と…全てを持って─────」

 

 

彼女は男の顎を貪り、術を詠唱する

辺りが結界に包まれ、月は堕ちる

 

紅い月は既に消え、古の月が君臨する

 

 

「…ここに、楔を」

 

 

彼女は口を離し、そう言った

男の傷がみるみる癒えていく

 

ボロボロで骨まで見えていた重症は既に無くなっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで、男は口を開く

 

「…かぁ、さん…」

「…えぇ、私は…貴方の──────」

「双星!」

 

巫女はその男を抱きとめた

男は巫女と紫から挟まれる格好になった

 

「ごめん、説明しなくて

 ごめんな、何も言わずに消えて

 

 …だから、死なないでくれ…︎︎︎」

 

「大尉!…妖怪の賢者に博麗巫女!?」

 

桜が駆け寄る

大妖怪と巫女に抱きしめられていることに困惑しているようだった

 

「桜、落ち着いて聞いてくれよ」

「や、八重?頭持ったまま落ち着けって言われても…」

 

そんな声が響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騒がしいなぁ…

 

 

 

…おやすみなさい、皆

 

俺は、少し寝るよ…本当に疲れた…

 

 

 

 

 

 

 

「…9年…2003年までに目覚める」

「…本当か?」

「永い、寝てるのがバレるぞ」

「天狗共は許さない、確実に探し出してくる」

 

4人は境界の中で話し合っていた

目玉だらけの空間、瞳は3人をじっと見ていた

 

「紫、仕方ないことなのか?」

「…仕方ないの、今起きたら反動で本当に死んでしまう

 それに治ったのは外面だけ…中はボロボロよ︎︎」

「仕方ない…か」

「…むぅ」

 

ため息が響く

空間感覚が狂う場所にいるからか、ため息が大きい気がした

 

「八重、貴方は…誰でもいい、"カバー"をして欲しいの」

「…分かった、"インタビュアー"にも頼まないと…」

「基地は天狗達の報復で破壊されているわ

 "ベクター"︎︎を探しなさい、人里にいるはず︎︎」

「分かった、巫女さんは?」

「私は…待つよ、手伝いが必要なら言ってくれ

 …"魂魄"︎︎桜君だっけ…君はどうするんだ」

「俺は…俺は人里に隠れる…その時が来るまで︎︎」

 

4人はそれぞれの事が確定すると、その場から消えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深い、眠りに落ちていく

 

深海の如く暗く、宇宙の如く美しい眠りに

 

俺はそこからでなければならない

 

「…」

 

しかし、出る…ことは…叶わない



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知らぬ天井

一人の男が眠りについた

 

その男は妖怪の賢者の心を満たす者であった

 

契を結び、結ばれた2人

 

男は妖怪の賢者だけではなく、数多の者から尊敬されたものだった

 

部下しかり、仲間しかり…敵しかり

 

 

故に、その悲しみは深く、重いものであった

 

 

 

 

 

 

 

その戦争は忘れられなかった

人里からも見えるその閃光と轟音の数々

幻想郷の歴史にも残る、凄まじい戦い

 

忘れるはずも無い

 

 

そんなの、出来るはずがないのだから

 

 

「んー…いい天気ねぇ」

 

縁側で背を伸ばす

"先代"から代を受け継ぎ、こうして巫女となった

彼女は人里に移り住んで…時折来たりしている

 

ただ、その顔は浮かばれないものだが

 

「…はぁー」

 

しかし、その虚ろな顔も最近はとても良くなっている

今までの撃沈具合が信じられないくらいだ

どのくらい酷いことがあったのかは知らないが…

 

まぁ、母と慕うそれもあったし…深く調べないでおこう

 

 

 

さて、今日は何をしようかな

 

そう思いながら"博麗霊夢"は縁側で背を伸ばした

先代がいた時はこんなにごろごろ出来なかった

やろうものなら地獄の課題が待っている

何素手ひとつで岩を割ろうって、人間か?

 

今日も今日とてお天道様を眺めながら目を細める

 

いつまでもこの平和が続けばいいのだが

 

 

「──────────」

 

目が覚めた

パッチリとしたものではなく、底なしの沼から浮かび上がるような覚醒

体の節々が悲鳴を上げ、動くのを拒否する

 

視界はぼやけているが、どこかの病室というのが分かった

俺は病人で、病院で寝かされているのだろう

 

ぼんやりとした視界がどんどんハッキリしていく

 

壁には新聞らしき紙が貼り付けられている

他にはめくれて左端が見えないが写真がある

戦闘機の写真のようだ、SFのそれに近い

 

そんな新聞や写真よりも別のものを貼るべきだと俺は思った

 

『先日──の区域にて行方不明者が発見されました』

 

ラジオからそんな放送が突然流れる

今まで音楽が流れていたらしい、全く聞こえなかった

それよりも外の雨音が耳に入る

 

外は雨模様らしい…らしいというのはカーテンが閉じきっているからだ

外の風景は分からないが、どうせ外も窮屈だろつ

空を見たい、開放的な、全てから解き放たれる空を

 

『発見された人の名前は──と呼ばれているそうで…』

 

ガチャリとドアの開く音がした

そちらに目線を向けると、看護師が入ってきたのが見えた

もう1人…真っ黒な戦闘服に身を包んだ男も

足取りはゆっくりであり、どうも警備兵らしい

キラリと証明に銃が照らされ眩しい思いをする

 

その看護師は俺を通り過ぎて行った

 

そこで気づいたがどうも厄介になっているのは俺だけでは無いようだ

もう1人が隣のベッドに寝かされている

頭を包帯でぐるぐる巻きされているのが見えた

 

『このような薄暗い話は止めましょう

 続いての曲はリクエスト、"千年幻想郷"︎︎です!』

 

「…もしもし?」

 

その曲が流れ始めた共に俺に声がかけられた

ふとそちらに目を向けると、看護師がかなり近くまで来ていた

 

何か言おうとするが声が出ない

 

辛うじて呻き声のような声を発することが出来た

今気付いたが、この看護師はどちらかと言えば医師に近い

 

…その赤と青の奇抜な服を除けば…普通の医者だ

いや、医者じゃないんだろう?コスプレイヤーか?

髪型もおかしい気がする、そんな髪型は見たことがない

 

「…なんてこと」

 

彼女はぽつりと呟くと、走り出した

後ろの警備兵が驚いた様子でこちらを見ているのが分かる

 

ここまでただ辺りを見渡しただけなのに、かなり疲れた

彼女が去ると、その疲労が一気に襲いかかってくる

 

 

 

 

 

 

俺が瞳を完全に閉じ切る前に、言葉が聞こえた

あの女医の声だ…恐ろしく凛とした声だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Vが目覚めた」

 

 

 

 

 

 

 

単語のそれは、俺の頭の中に響き渡る

V、それは数字なのか、それとも別の意味なのか

 

ただ、俺にはとても関係のある単語に思えた

 

 

それは、後にわかる事実だった



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寝台の上

「目が覚めましたか?」

 

瞳を開けると、そんな声が聞こえた

あのコスプレのような奴とは違う…また違う声だ

 

そもそも男らしい

 

見えた姿は普通の医者らしい格好をした…医者だ

年配者らしく白髪が生え、眼鏡をしている

優しい感じの医者、と言った感じである

 

「聞こえているなら、頷いて下さい」

 

彼は俺にそう言ってきた

従わない理由がないのでこくりと頷く

 

彼の後ろには前も居た黒い戦闘服の男が居た

どうもその注意はこちらに向いているようである

そんなに俺が気になるのか…?

 

「上を向いて下さい」

 

彼は天井を指さしながらそう言った

俺は頭を上にあげ、天井を見上げる

肩周りが硬い気がする、自由に動かない

視界には真っ白な知らない天井が映る

 

数秒後に元の状態に戻る

 

「…良いでしょう」

 

彼はなにかに納得したようだった

 

「今から貴方の状態を説明します

 いいですか?落ち着いて聞いて下さい︎︎」

 

身振り手振りで現しながらそう言った

そうしてくれるとありがたい、落ち着けないからな

 

俺は昨日よりはマシになった意識でそれを聞いていた

 

「貴方はずっと昏睡状態だった」

 

状況から見てそう考えられるだろう

じゃないと女医やそこの兵士があんな反応をする訳が無い

反応から見てかなり長い間眠っていたようだが…

 

「えぇ、えぇ…分かっています…どのくらい寝ていたか」

 

それを聞きたいのだ

口を開けて言おうとするが上手く喋れない

それを医師は察したのか手で抑えるような仕草をした

 

「落ち着いて…いいですか、あなたが眠っていたのは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────12年です

 

 

 

 

 

 

 

 

体が燃えるような感情に支配される

12年?12年も俺は眠っていたのか?

衝撃と驚愕が入り乱れ体が暴れる

 

医師が何かを言って落ち着かせようとするが全く聞こえない

 

 

俺の頭の裏にはずっと何かが壊れていく光景が見えた

 

黒い集団のような物が建物を破壊していく

破壊されている建物はとても大切なものだったはずだ

 

声に上がらない絶叫を上げていた俺は唐突に意識を落とす

 

俺の首元に注射器が刺さっていた

何かを入れられたようだった、恐らく…強制的に眠るものだろうか

 

それによって俺は落ちるように意識を失ったのだった

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

また行方不明者の話か

俺はラジオから流れてきた会話を耳に入れながら目を開ける

 

『その人によれば"俺は全てを殺した…殺したはずだ"と虚ろに喋っており…』

 

異常者の話でもしているのか?

気狂いだろう、そんな話をするのは

全てを殺した…一体何を殺したというのか

 

『更に、彼は"奴らを皆殺しに…げ──』

「"今すぐ顔を変えて、逃げなければならない"」

「"しかし…"」

「"患者が、危険だ"」

 

途中でラジオは遮られた

昨日の医者と普通の看護師だ

ただ、その髪は白髪のようだ…ストレスが溜まっているのかな

眠っていた期間を宣告された時に居た看護師とは違う

外の世界にまでこいつらは来ているのか?と不意に思った

 

医者は俺の方に来ると、そうだ、と言ってくる

理解できない言語で喋っていたから何を言ってるんだか…

 

「あなたを凄まじく憎む者達が居る」

 

彼はそう言って、俺を抱えあげた

どうやら移動するようだ…看護師が車椅子を持ってくる

俺は自分で立てると思い足に力を入れる

 

…立てない

 

そもそも少ししか動かないのだ

 

「力を貸します、早くここから─────」

 

医師がそういった途端、俺は地面に投げ出された

受身をまともに取れずに地面にたたきつけられる

呻きながら医師の方を見てみると、首根っこを誰かに掴まれていた

 

…先程の看護師だ

白では無く、銀色の髪に紅色の瞳

その頭と腰からは明らか人間のそれでは無いものがある

 

尻尾と、獣耳

 

「よくもここまで隠し通せたな」

「くっ…げぐぅぐ…!」

 

医師は慌てて懐から短銃を取り出した

しかし人外であるあちらの方が圧倒的に早い

引き金を引くどころか向ける前に首がへし折られる

片手で軽々持ち上げ、そして首をへし折る

 

明らか人間では無い

 

「重い」

 

医師の死体をほおり投げる

それは棚に激突し、派手な音を立てて薬品類が落ちていく

 

その大きな音に気付いたのか、バタンと勢いよく扉が開く

あの警備兵だ、物音を聞きつけて駆けつけたらしい

 

「動くな!」

「あぁ?」

「ぐぎゃ────」

 

ただの一振

腕を軽く煩わしそうに振るっただけ

 

それだけでその兵士は血塗れになっていた

 

胸元がバッサリと切り裂かれ、アーマーが割れている

何をどうしたらあんなことが出来るんだ?

人間なのか?あれは、人じゃない、なんだ?

 

「暑い」

 

そういうと彼女…いや、そいつは服を脱いだ

その下には独特な和風の衣装があった

方の繋ぎ目が紐というなんとも意味不明な物である

コスプレ?それとも未知の勢力?

 

奴はいつの間にか持っていた大太刀をこちらに向けた

何も出来ずに這いつくばり、殺し屋を見上げることしか出来ない

 

 

 

 

ここで死ぬのか

何も分からないまま未知の力に殺されるのか

 

 

「終わりだ、"大尉"」

 

 

そう思いながら見上げていた

奴が大太刀を振り下ろそうとした瞬間、何かが飛びかかる

 

 

獣のようだ

いや、人だ…隣で寝ていた患者らしい

そいつは獣のように飛びかかり、首を絞めていた

突然の襲撃に驚き、大太刀を振り払う女

 

「くっ…なんだお前…!」

 

それは彼に当たることなく、仕切りや医療機器を真っ二つにしていく

 

不覚を取ったからか首を絞められているか…顔を赤くしながら女は男を振り解き、投げ飛ばした

 

壁に激突し一瞬動かなかった彼は直ぐに立ち上がる

そして近くにあったガラス片を持ち上げる

丁度ナイフの様な形をしているのが見える

 

 

方や意味不明な衣装の大太刀を構えた女

方や病人の姿でガラス片を構えた男

 

戦いのそれとは全く違う筈なのに、死闘の緊張感が伝わってくる

 

 

俺はそれを見あげることしか出来なかった



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後は頼む

「…シイッ!」

 

女の方が先だ

大太刀を横から薙ぎ払うように振るう

それを男は見てから避けると、懐に入り込もうとする

 

「洒落臭い!」

「ぐっ」

 

それを女は蹴り飛ばした

男が吹っ飛ぶが、地面に叩きつけられる前に受身を取る

 

「死ね」

 

女がそこに追撃を入れる

大太刀による鋭い突きだ、受けたらひとたまりもない

 

男は冷静に受け流そうとする

 

「…!」

「愚かめ」

 

受け流しには成功したが、ガラス片が砕けた

流石にあの短さだと殺すには届かないだろう

 

これでは防戦一方になってしまう

 

俺はそう察すると、近くを見渡す

先程の医師が確か短銃を持っていたはずだ

銃弾なら確かなダメージを与えられるだろう

 

近くに転がっているのが見えた

手で届く範囲だ、俺は手を伸ばした

 

 

…鈍い

 

 

これ程までに俺の動きは鈍かったか?

そう思わさざるを得ない程動きは鈍かった

 

「クソッタレ」

 

男がそういったのが聞こえた

そちらの方を見てないから何が起こっているのか分からない

 

もう少しで届く

 

後ろから銃声が響いた

どうやら男が警備兵の銃を取ったらしい

しかし、金属音共に鼻で笑う声が聞こえる

 

「遅いぞ」

「クソ、技術が上がってやがるな天狗め」

 

取れた

俺は体を捻り、天狗の方に向けた

奴が背中を向けているのが見える

 

引き金を引くだけだ

 

銃口を向け、俺はそう思った

 

「遅いぞ!このアホめ!」

 

女がそう言って男に対して大太刀を振りおろそうとする

 

…今だ

 

俺は男がこっちを見てそう口を開いたのが見えた

言われなくてもそうしてやる

 

 

 

 

 

「ぐあっ!?このクソ野郎─────」

「遅いのはお前だったな」

 

奴の背中に弾着

血が吹き出るが奴はそれほど気にした様子は無かった

それよりも傷を付けられたことにキレているようだ

 

しかし、そうやって振り返った時点で俺の勝ちだ

 

「あばよ」

「ぎゃ」

 

男が背中からライフル銃を突き刺した

そこから更に引き金を引き、全弾をぶち込む

合計38発程の弾丸を受けた女は頭から灰となり消えていった

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「さぁ、立て…ここを出るぞ」

 

男がそう言ったのが聞こえた

俺と似たような声色をしているようだ

先程よりは動けるようになったが、立てはしなかった

 

「…あの女は…」

「女?あれは…地獄に落ちたさ」

 

男は窓から外を見た後、こちらに近付いてきた

 

やはり、包帯でぐるぐる巻の顔だ

瞳だけが俺を見ているのが分かった

オッドアイらしい、外人の類か?

にしては流暢な日本語で体付きも日本人らしいが

 

「何が起きてる…」

「そんなの後回しだ、出るぞ」

 

男は扉を指さす

既に開け放たれた扉の前に男は移動した

俺もすぐに移動しようとするが、動けない

 

「足が動かないか…」

 

男が少し悩んだ仕草をすると、何かを取りだした

注射器のようだ、透明の液体が入っている

 

「八意印の増力剤だ…直ぐに歩けるようになる」

 

足に突き刺した

液体を注射した後注射器をほおり投げる

俺は感謝を言うために口を開いた

 

「有難う…えっと…お前は…」

 

そういえば、こいつはなんなんだ?

かなり手厚く支援してくれるが…

名前すら知らなかった…

 

「イシュメールと…これはテンプレート過ぎるか…

 そうだな、"カール︎︎"…"カール・フェアバーン"」

「それが本名か…カール?」

「そうかもな、行くぞ」

 

この数秒で、俺は軽く這いずることが出来るくらいになっていた

あの注射にあった薬は余程スゴイものなのだろう

 

カールは死んだ警備兵からナイフと拳銃を取り出した

オートマチックかと舌打ちしながら弾倉を確認する

 

「その様子じゃエレベーターでなくても良さそうだ」

 

カールはそういうと、階段があるであろう方向に歩いていった

体を壁に当てながらではあるが、歩けるようにはなった

これならエレベーターで降りる必要も無い

 

エレベーターの出入口に敵がいたら危険だ

 

「奴らは一体…」

「喋る余裕があるなら早く来い」

 

俺が疑問を投げようとするが、弾き飛ばされる

説明は逃げてから…ということだろうか

 

階段は開けた螺旋階段、と言った感じだ

どうやら割と大きい病院らしい

 

 

そう思っていると、上から短い悲鳴が聞こえた

 

 

見てみると、先程の女…の男バージョンみたいなのが居た

なんなんだ、あの化け物は…

 

「急げ、できるだけ足音は立てるな」

 

そう言って、カールは下に降りていく

いつの間にか普通に歩けるようになってきた

音を極力立てないようにして降りていく

 

上から化け物が降りてくる足音がする

 

「居たか」

「居ない」

 

降りていると、そんな声がした

足を反射的に止めてしまい耳を立てる

 

「ここに逃げてきたとあの"金髪の学生"は吐いた…良く探せ」

 

下にさらに降りてくる

しかもひとりじゃない、複数人だ

 

「飛ばないのか…?余程油断しているんだな」

 

カールがそう呟いたのが聞こえた

あの化け物共は飛ぶのか?そんな馬鹿な

どこにも翼は生えていないんだぞ

 

 

そう思った時だった

 

「そこの男!止まれ!」

「クソが!」

 

バタンと扉が開いたかと思えば化け物の男が入ってくる

カールは悪態をつくと、いつの間にか持っていた手榴弾を投げつける

 

化け物の男は爆散した

 

「早く!」

 

男が出てきた扉に入り込む

そしてそこから直ぐに扉を閉めた

鍵を閉め、近くにあった鉄製の棚を倒す

これで少しの間は入って来れないはず

 

荒い息を整える

 

「…ここか、運が良い…」

 

カールはそういうと、奥に進んだ

入って分かったがどうも普通の一室らしい

病室とは違う…なにかの管理室だ

 

カールはどこにも行くこと無く迷わず机に向かう

 

そして、置いてあった何かを手に取った

それをこちらに手渡してくる

銃のような…なんだろう、おもちゃのレーザーガンみたいな物だ

 

「使え」

「…これはなんだ」

「いいから!」

 

彼がそう叫んだ瞬間、ザクリと扉に大太刀が突き刺さる

どうやら強行突破してくるようだ

 

俺は引き金を引いた

 

その瞬間、体が引き摺られるような感覚に陥る

 

「…あとは頼んだぞ、"大尉"」

「逃げられ────」

「通すか!」

 

後ろ向きで滑り台に入ったような感覚を感じながら、俺はその場から飛ばされたのだった



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目を開け

「今宵、ここに紅い月を現せる」

 

その人物は玉座に腰掛け、そう言った

彼女の前には四人の人物がいた

 

騒々しく、玉座の王は言う

 

「恐怖を忘れきった幻想郷に再び恐怖を」

 

彼女がそういうと、紫のネグリジェを着た女が本を開いた

手のひらから自由に浮遊し、魔法陣を描く

 

魔法陣より、赤い煙が発せられる

 

ありとあらゆる場所から湧き出て、広がっていく

 

それは幻想郷に及び、ほぼ全ての場所を赤で埋めつくした

 

 

 

 

 

 

 

玉座に座す夜の王は盃を掲げる

 

 

「さぁ…紅魔異変の始まりだ!」

 

全ての始まり、グラウンド・ゼロ

幻想郷の"今"が始まり、共存が加速した時代

 

 

そして─────かの男が戻りし時代

 

 

 

 

「起きたか」

 

男の声がした

硬い地面の上…では無く布団の中にいた

敷布団だから地面の上だと勘違いしたのだろう

 

声の方向を見てみると、軍医が居た

軍服に迷彩のズボン…ホルスターには銃がある

赤十字の腕章、肩にはなにかの部隊のワッペンがある

 

「…八重だ、"大尉"」

 

八重…あぁ、そうか…八重か

その言葉を聞き、俺は全てを思い出した

まるで封じ込められていた物が一気に解き放たれたように

爆弾が爆発したかのように、思い出す

 

こいつが、"メディック"…俺は"大尉"

 

「思い出したか?」

「思い出した」

 

俺は体を起こし、そう言った

八重はこくりと頷くと椅子から立ち上がる

 

「あんたが眠っているあいだ、色々あった」

 

彼はそう言って、語り始めた

12年の年月…その間に何があったか

 

何が反対勢力に起こったか

 

「最新の異変は儚月抄…時間軸は気にするなよ

 彼女が色々弄ってるせいでおかしくなってるからな︎︎」

 

彼は言い訳のようにそう言った

何かから逃れるような発言だ

…とてもどうでもいいが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小分けで教える、まずは…"紅魔郷"だ」

 

 

 

 

 

 

紅い月が浮かぶ

夏というのに紅い霧に覆われどんよりとしている

 

…こんなの

 

「洗濯物が乾かないじゃない…」

 

霊夢はガッカリとしていた

外に出ていざ布団の洗濯でもしようかと言う時にこれである

そろそろやらないとパンドラボックスというのに…

 

「…シバキに行くか」

 

霊夢は陰陽玉とお祓い棒を持つと、大地から"浮く"

そのまま自然な動作で空を自由自在に飛び回る

空中で軽く準備運動をすると霧の発生源"らしい"ものを睨む

 

「"あっち"の準備運動はしなくていいわね」

 

赤い霧と言えば赤い舘

そういえばクソ程悪趣味な館ができていた筈だ

どうせ関連性はある、無くてもしらない

これをやったやつが悪いのだ

 

責任をぶん投げ、霊夢は気味の悪い館へと突っ込んで行ったのだった

 

 

丁度入れ替わるように、一人の少女が入る

 

「霊夢ー!異変だ異変だ…あれ?」

 

誰もが魔法使いとおもう服装をした少女

彼女は家主が居ないことに首を傾げながら縁側に座った

 

「まぁいっか!少し休んでから行くとするぜ」

 

そう言いながら神社のお茶を飲み始めたのだった

 

 

「共存はさせない」

「茶番に過ぎない異変なぞ」

 

虚ろな声が響く

まるで何もかもを失ったもの達の声のようだ

 

事実このもの達は己の仲間達を皆殺しにされている

なんの助けも無く死んで行った仲間達を知っている

 

銃が掲げられる

 

「妖怪は殺せ、皆殺しにしろ」

「「「ぉぉおおおおお!!!」」」

 

敵は敵なり

共存なぞ不可能なのである

恐怖から生まれる存在なぞ、敵だ

 

なぜ故恐怖そのものと仲良くする必要がある?

 

 

 

「…」

 

一人の男が立ち去った

彼は腕に装着された何かを操作した

幾何学模様が一瞬見えたかと思えば、そこに男の姿はなかった



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スタンバイ

空を飛ぶ

 

傍から聞けば魔法や不可思議な力に思うだろう

この幻想郷ではポンポン空を飛ぶ者が多い

人間は一部を除き飛ぶことは出来ない

そもそも人に翼は無い、飛べるはずも無い

 

人で飛べる者は、相当の霊力の使い手か…

それともそういった能力を持ったものか

 

霊夢は後者である

 

能力を応用し、空を飛んでいるのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"浮く"程度の能力

 

 

 

ありとあらゆるものから浮く能力

極端に言えば、現実や今からも浮くことが出来る

 

破格の、人にはあり余る能力である

 

彼女自身はあんまり気にしたことは無いが…

 

「ねー、貴方は食べれる人間?」

「違うわ、食えない人間よ」

 

霊夢が空を飛んでいると、1人の妖怪がでてきた

明らか弱小の名無しの妖怪に見える

 

赤いリボンをした、金髪の幼女

 

なんてまぁ人間ウケしそうな…

霊夢は何とそう思った、突発的に

外の人間はこういうのが好きなのがいる…

母が言っていた、多分間違いないはず

 

「じゃあ…勝ったら食べるのだ!」

「貴女が?精々頑張って」

 

構えもしなかった

相手の妖力は己の霊力の半分以下

それとて厄介な手建てを持っているようには見えない

 

陰陽玉が霊夢を守るように旋回する

この玉には意識に似た物があるらしい

使い手を選ぶのも意識モドキだし、自動で動くのも意識モドキのお陰だ

 

 

「落ちろー!」

 

妖怪がそう言って弾幕を放つのが見えた

やはり弱小と言ったところか、隙間が多い

 

……ただスペルカードルールを守っているのは賞賛しようか

 

数年前に発行されたルール…スペルカードルール

いわゆる弾幕ごっこという物、遊びだ

 

血を血で洗う戦闘より、美しく雅な遊びを…

"誰かが"決めた…その誰かについて記憶はあるがモヤがかかって見えない

まるで誰かが見るのを禁じているかのようだ

 

母に聞いても有耶無耶にされる

 

…知られたくないのだろうか

 

 

そう思いながらお祓い棒を振るい上げたのだった

 

 

「銃を構えろ!」

 

散発的な銃声が聞こえる

この屋敷の中に不法者が現れたようだ

 

ナイフや銃で武装した物騒な奴ら

 

…お嬢様の言われた通り、ここは物騒だ

 

「はぁ」

 

ゴミ掃除は朝に終わらせたはずなのに

メイドは頭を抱えてため息をついた

 

そして、その太もものホルスターからナイフを取り出す

 

 

 

時計を持ち、その針を見た

 

 

 

 

 

 

 

 

動きもしない、時計の針

 

ピタリと一時停止されたかのように止まった針

それは針だけに限らず、この世界にまで及んでいた

 

動かない、世界は止まっていた

 

 

 

 

動けるのは、彼女一人

 

「…お掃除と行きましょう」

 

 

 

銃を構えた男達

灰色の発火炎と灰色の空中に浮いた弾丸

 

それぞれが妖精メイドに向かっていた

 

 

止まった世界で動けるのはただ1人

 

 

 

──────そして、時は動き出す

 

 

「あの異変の時、あんたはアンツィオを構え、狙撃体制に入った」

 

カチリとボルトを戻し、スコープを除く

距離はそれなりだ、屋敷が横10cm位の大きさである

 

このスコープなら更に大きく見える

 

「完璧なポジションに着いた

 時が来たら狙撃する手筈だった︎︎」

 

夜なのに大地が赤く見える

空に浮かぶ紅い月が発する赤い光のせいだ

 

「その時に邪魔者が来たんだ、丁度博麗巫女に追い払われた闇妖怪にな」

 

「いてて…そこで何してるのだー?」

 

ふと声がした俺はアンツィオ持ち立ち上がって、そちらを向いた

 

幼女だ…凄い幼女、ロリだ

 

ただ、瞳の色は紅でこんな天気の時に人はここに来ない

迷ったとして既に妖怪に食い殺されているだろう

 

「観察だ」

「何のだー?」

 

「あんたはやり過ごすために'観察"と嘘をついた

 狙撃の邪魔だったろうからな︎︎」

 

妖怪は何のと聞いてきた

俺は面倒になり、アンツィオを館に構え直した

 

「あの館を…不気味と思わないのか」

「んー…分からないのだ」

 

分からないか

人間から見て悪趣味や気味悪と思われても妖怪はそうとは思わないのかもしれん

こいつと俺の感性は方向が全くと言うほど違うからな

 

「あんたはいつまで経っても襲わないことに疑問を感じた

 だからさりげなく、天気を聞くように言ったんだ︎︎」

 

「食わないのか?」

「ん…食えないのだ…」

 

がっかりとした様子で妖怪は言った

何か理由でもあるのか?能力に関係でもあるのか?

そうおもっていると、妖怪は更に言った

 

「れいむから今日は食うなって…負けたから」

「博麗巫女に…」

 

先程弾幕ごっこが見えた

あれはこいつと博麗巫女との戦闘だったらしい

うざったかったので途中狙撃しようと思ったが…早まらなくてよかった

 

「あんたは安心しきった訳じゃなかった

 口約束を妖怪が守るとは思わなかったからな︎︎」

 

「いつまでいる気だ」

「帰るのだ」

 

そういうと、妖怪は闇に包まれた

そのままふらふらしながらどこかに飛んで行ってしまった

 

…結局なんだったんだろうか

 

本当に気まぐれなんだな、妖怪ってのは

 

「…」

 

短い溜息をついたのち、スコープを覗いた

 

 

「あんたが使っているアンツィオは妖怪の賢者に破壊された物だ

 41cm砲と同じ威力を持つ…"ファイガ"︎︎に会うのは大変だった」

 

…そろそろだ

そろそろ…皆殺しにされる筈だろう…

 

紅魔館の屋根が吹き飛ぶのが見えた

あそこは確か玉座の間の…

 

ならば─────────

 

 

「ここはこれ以上通しません!」

「これ以上って通してるじゃない」

 

何矛盾を当たり前のように言ってるんだこいつ

霊夢は変なものを見るような目でそいつを見た

 

中華服に帽子をかぶった赤髪の女

拳法の構えをした様子だ…拳法て…

 

…というより

 

「貴方ここのルール知ってる?」

「弾幕ごっこですか?知ってます」

「ならこれらは何?」

 

霊夢が言いたかったのはこの惨状だった

五六人程の人間の兵士が死んでいた

 

人間の、だ

 

幻想郷で人を殺すのは御法度である

それを知っていて殺したのか?

 

「あちらから襲いかかってきたんです

 正当防衛は妖怪に適応されないと?︎︎」

「…そう」

 

母が言っていた反対勢力の奴らだろうか

数年前にあった"鉄嵐異変"…もとい人と天狗の戦争

バレットストームとも言われたそこはまさに現界に現れた地獄だったそうだ

 

人里から見える戦火、人を吹き飛ばす嵐

 

その勝敗は天狗の勝利だったのだが、残存勢力は居るらしい

その時に別のところに配属されていたか…又は地獄の生き残りか

 

「まぁいいわ、それより通して欲しいの」

「無理です、絶対に通すなと言われているので」

「…通してるじゃない」

 

霊夢がそういうと、彼女はダンッと地面を踏みしめた

まるでそれをこれ以上指摘されたくないようだ

 

「紅美鈴…参る!」

「そう」

 

肩苦しい名乗りを切り捨て、霊夢はお祓い棒を向けた

 

幼女でも大人でもやることは変わらない

妖怪相手なら、尚更それは変わらないのだ

 

 

「あんたは博麗巫女が吸血鬼を追い立てるのを待っていたはずだ

 狙撃のタイミングはそこしかないからな︎︎」

 

スコープを覗く

先程からずっとこれである

少し前に玄関とも呼べる門で凄まじい光が見えた

多分博麗巫女が門番をぶっ飛ばした音だろう

あの門番には五六人程仲間が殺されたから、できるだけ痛い思いをして欲しい

 

スコープを覗く

 

「あんたにゃ暇だったろうな

 だが、そんな所に邪魔者が現れた

 ルーミアよりも面倒な︎︎︎︎…盗人がな」

 

「おーい!そこで何してんだ?」

「…」

 

俺は闇妖怪の時とは違うようにアンツィオを置いて立ち上がった

声の方向は上だ、顔をそちらに向けた

 

そこには魔法使いが居た

見たまんまの魔法使いと言うやつだ

とんがりボウシに飛ぶ箒…正に魔法使い

 

…見た目だけじゃないといいんだが

 

「何も、眠たかっただけだ」

「そうか…?何か狙っていたような気がするが」

 

アンツィオはバレている

俺はストックを蹴り上げ、バレルを掴んだ

嘘は通じない…しかし本当のことを語る訳にもいかない

 

「気のせいだろ」

「そんなもんもっててよく言うぜ?」

 

人間…だろうか?

金髪に黄色の目というなんとも妖怪らしい見た目をしている

質問をして、答え次第では殺するか

 

「…人か?」

「何を当たり前なことを!普通の魔法使いだぜ!」

 

…人らしい

普通の魔法使いとはこれ如何に

魔法使いという存在は普通では無いのだ

なんだ?いつの間にか幻想郷では魔法使いは普通になったのか?

妖怪の方が普通である、全く

 

「館に行け、求めるものはそこにある」

 

「あんたはとにかくその魔法使いを行かせたかった

 物凄く面倒な予感がしたからな

 

 …それは当たってしまったが︎︎︎︎」

 

 

俺がそういうと、彼女はニィッと笑った

とても面倒な予感がしてきた、何故だ

 

「その前にお前を倒す」

 

…なんでだ

ここでただ狙撃銃持って館見てただけじゃないか

どこに怪しいことがあると?魔法使いとかほざくお前の方が怪しい

 

「…邪魔をする気か?」

「もちろん!お前が何かを殺す前に私が懲らしめる!」

 

そう言って彼女は六角形の物体をこちらに向けた

陰陽玉の印字がされた、何かのアイテムらしい

 

…魔力を感じる…マジックアイテムか?

 

俺がそう考えていると、全身が鳥肌を上げた

嫌な予感なんてものじゃない、消し炭にされる程の寒気

 

「クソ」

「恋符・マスタぁぁぁ………スパアァァアアク!」

 

俺が崖から飛んだ瞬間、俺のいた所を閃光が埋めつくした

あまりの眩しさに、そちらを見たくないほどだった

 

…クソッタレが

 

俺は悪態をつきながら空中に留まる

飛行のイロハは何とかこなした

…何時間でも飛べる自信はある

 

「あー、落ちなかったか…痛くなく済んだのに」

「後悔するなよ」

 

事実上の宣戦布告

そしてこちらは反対勢力の者

理から弾き飛ばされた居場所無き者達

 

無法者達の集団、時代遅れ

 

 

 

 

 

 

 

 

…ごっこ遊びが通用すると思うなよ?



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グッドナイト

館の中に入る

門番を死体の数だけ殴って放置した

少し後味が悪かったから…彼らの分をシバいた

…これで少しは報われてくれればいいのだが

 

「…中も中、ね」

 

壁に打ち付けられ、ナイフが無数に刺さった死体

ありとあらゆる場所に死体があった

こちらも五六人、しかしそれ以上に居そうである

 

「ああ、やっと博麗巫女が来たわ」

「遅れた気は無いのだけれど」

 

エントランスの上に誰かがいた

…メイドだ、人間っぽい見た目をした

こんなところに人間なんているんだ…少し驚いた

 

「あぁ、待ってなかったからいいわ

 丁度"掃除"︎︎も終了したし」

「人を殺すのに躊躇が無いのね」

 

彼女の服は血が一滴も付着していない

しかし、その腕には首元にナイフが刺さった死体がある

 

…なんだか面倒な能力持ちな気がしてきた

 

「…さて、最後の大掃除と行きましょうか」

「推し通るわ」

 

メイドだろうがなんだろうが関係ない

どうせ邪魔なのである、こいつは

 

…やることは変わらないのだ

 

 

「…忠告はした筈だ」

 

俺は銃を向けてそう言った

もはや虫の息となった魔法使いが倒れていた

服はボロボロで、その箒も滅茶苦茶である

 

「お…前…スペルカー…ルールを知らな…いのか?」

「通用すると?俺は…"大尉"…EEFの生き残り」

 

ホルスターに銃を戻して背を向けた

もうこいつに興味は無い…害を受けることは無い

狙撃地点からかなり離れてしまった

…あそこもかなり削れてしまったし、どうするべきか…

 

「…な、ぜ…」

 

ため息をつこうとすると、後ろからそんな声がした

俺はそちらを向かずに口を開く

 

「…忠告だ、無駄に首を突っ込まない方がいいと」

 

俺はその魔法使いに歩み寄った

落ちていたとんがりボウシの汚れを払う

 

片膝をつき、そいつに言った

 

「お前は凡夫で、ただの人間なんだよ

 少し魔術を使えて…妖精より弾幕ごっこが上手い"程度"︎︎の」

 

帽子を置き、転がっている六角形のものを手に取った

…魔力を感じる、かなり大きな魔力だ

そりゃあんなにバカスカ極太ビームを放てる訳だ

 

…納得しちった

 

裏面を見ると、隅に小さく「ミニ八卦炉」とある

誰かが識別のために書いたのだろうか

…知らなくてもいいか

 

「お前はこれからどうする?

 俺は帰った方が身のためだと思うが︎︎」

 

俺はミニ八卦炉を彼女の顔の横に置いた

これ以上会話する意味もないし、やることも無い

 

俺は霊力を展開すると、空を飛んだ

先程の狙撃地点…と同じような場所は何個かある

 

 

…ただ、近いものしかない

吸血鬼ならバレて避けられるし、なんなら殺しにくる

 

 

ならあそこしかないよなぁ…

 

 

 

 

 

他に問題は、邪魔者が入らないかである

 

 

「…うく…」

 

魔理沙は生まれて初めて挫折を味わった

これ以上動きたくなかったし、何もしたくなかった

 

…何も出来なかった

 

弾幕を放つ素振りをすると、弾丸が放たれる

当たったら死ぬから…死ぬ気で避けるのだ

どこにも攻める隙がなく、逃げ回ることしか出来なかった

彼も弾幕を放って来る、恐ろしい程の精度で…だ

 

恐怖を感じた

 

美しいとか雅とかでは無い

"アレ"にはそういった機能は無く…ただ敵を落とす為だけの物

 

そう言った感覚があった

 

 

何回も当たって、「終わりだろ!私の負けだ!」と言ってもやめてくれない

あの目は…まさに"どちらかが死ぬ迄続ける"という目

 

 

…最後には、急接近からの殴打

 

 

 

「…ぅぅうう…うぅ」

 

体を丸めた

恐怖が己を支配していた

霊夢を追って、途中で変なやつを見かけたからちょっかいをかけただけなのに

 

…怖い

 

涙が止まらない

こうしている間にもアイツが狙っているかもしれない

そう思うと、逃げなければならないという気持ちが湧いてくる

 

 

 

 

 

…同時に、逃げてはならないという気持ちもだ

 

今まで感じたことの無い程の悔しさ

恐怖と悔しさが混じり合い、解読不能の感情となっていた

 

 

 

「…いや、そうだよ、な」

 

魔理沙は立ち上がった

血の混じった唾を吐く

 

こんな所で蹲っても意味は無い

 

「………帰らねぇよ」

 

魔理沙は歯ぎしりをした

この悔しさを忘れることは無いだろう

…凡夫と言われたことも忘れることは無い

 

…絶対に

 

「…うぅ」

 

しかし、こう吹っ切れても恐怖はある

全くまだ挫折しているのだ、直ぐに再起はできない

 

…ただ、相手はアレでは無いのだ

 

 

 

「絶対…倒すぜ─────"大尉"」

 

目標が決まる

それはある意味精神的な柱にもなり得る物である

今は絶対届かないものであろうと…いつか届く

 

その日の為に────────

 

 

「あんたが驚くほど異変はスムーズに進んでいた

 魔理沙と一悶着終わってから屋敷を見れば既に霊夢とレミリアが接触していたからな︎︎」

 

「あんたがこの異変の主犯?」

「はぁい、こんにちは博麗の巫女さん」

 

悪趣味な屋敷のD…時止めメイドをシバいた先

荘厳な両扉を開くと大聖堂のような所に辿り着いた

 

ただ、そこには長椅子と聖母像は無く、玉座がポツンとあったが

 

玉座には幼い子供のような奴が座っている

その背中には翼が生えているし、目やら髪には色がついているから人じゃない

 

そもそも人はこんな気が狂ったような館に居ない

 

「この霧を消して欲しいのだけど、洗濯物の邪魔

 ︎︎てかなんで霧なんて出したのよ」

「外を闊歩し、ここを支配する為…あと消すの無理よ」

 

ため息をついた

まぁこれで消してくれるならこの異変はそもそも起こってないか…

まぁ一種の希望と言うやつである…多分

 

「…今日も長い月になりそうね」

 

霊夢がそう言って、窓を見た

ここの窓は色付きで…入る光は全て赤い

目に悪くて視力が簡単に落ちていきそうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そう思った時だった

 

 

 

 

 

音がした

 

…そう、例えるなら何かが破裂したような────

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ…月がこんなに紅いのだか…あら?今のは────」

「伏せて!」

「え─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…常人からすれば衝撃と音が5秒以上離れていると感じる程の遠距離

 次いでにレミリアは"狙撃は直ぐわかる"︎︎と高を括っていた

 あんたは"それ"じゃない、屋敷が米粒…いや砂粒に思える場所からの長距離狙撃

 

 多分レミリアには聞こえていたが狙撃とは思わなかったんだろうな︎︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 ︎そしてあんたの弾丸はキッカリ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"銀の光"を放つ弾丸は…吸血鬼の頭部を吹き飛ばした

 

赤いステンドグラスの破片を飛び散らしながら



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ヒットコール

「…」

 

双眼鏡を覗く

放った弾丸はキッカリ吸血鬼に命中したようだ

弾丸は41cmの"銀の弾丸"である…死んだ筈だ

吸血鬼にはニンニクは効くし銀も勿論効く

アーメン詠唱だけでは倒せない…聖水は普通に効くらしい

 

12年もの年月があれば吸血鬼の弱点くらい判明する

 

公的にはアーメンも効くらしいが…多分"逃げやすく"する為だろう

 

スコープを覗く

ボルトを操作し、空薬莢をはじき出す

次の弾を薬室に送り込み…息を整える

 

スコープの中には割れたガラスと薄暗い室内だけ

貫通したので向こう側のステンドグラスが割れているのが見える

にしても暗いな、外から入ってきた明かりのおかげで多少マシだが

 

「…ん」

 

窓際に人影が見えた

誰かと思ったが、どうやら今代の博麗巫女のようだ

恐らく狙撃地点でも探りに来たんだろうか?

 

まぁそこから何かができる訳でもない

超人と聞く博麗巫女もここまで針を投げられる訳では無い

 

…彼女も人間…の筈だからな

 

 

─────これ以上見ている必要も無いか

 

俺はアンツィオを背負い、帰路に着いた

帰ると言っても住処とは言えない、ボロ屋にだが

あそこは割と気に入っているのだ

 

懐からタバコを取り出し、火をつける

このクソみたいな仕事にはタバコの苦さが必須だ

 

これがないとやって行ける仕事じゃない

 

「ふぅ」

 

俺は煙を吹く

疲れたこの体にタバコは染みる

さっさと帰ってもう寝たいものである

 

次の任務はなんだろうか

 

 

いつの間にか霧は晴れ、太陽の光が覗くいつのもの幻想郷になっていた

 

 

 

 

「…大丈夫かしら」

 

目の前の死体に霊夢はそう言った

これから弾幕ごっこ、という所でこの吸血鬼は狙撃された

窓ガラスから弾丸が貫通し…吸血鬼の頭を吹っ飛ばした

 

「どのくらいの距離から?」

 

破壊された窓ガラスから外を覗く

見えるのは霧の湖と幻想郷の景色である

こちらの方向には妖怪の山は見えないようである

 

「…あら」

 

少しの間見ていると、キラリと銀の光が見えた

何かの反射光のようである…多分あれか?

3秒程輝いていたが見られたのを知られたか直ぐに消えてしまった

多分あれだろう、そのライフルの銃身か何かか知らないが…

 

 

「にしても」

 

 

 

─────遠すぎない?

 

霊夢は心の中で少しのため息をついた

 

多分あの狙撃手とは相手をする時が来るだろう

 

相手取る時には確定で相手の攻撃が先だろう

いつ狙撃してくるのか分からない、接近しても逃げられそうだ

用意周到か分からない…実際に戦ってみないと何も

 

そこで後ろから布切れが擦れる音がした

後ろを向かずに外の光景を見る

 

「…起きた?」

「…」

 

空気が通り抜けていくような声

…声と言うよりただの響く音と言ったところか…

 

数秒、ぐちゃぐちゃと肉がかき混ぜられるような音が響く

とても効いていて良い音では無い…それが"吸血鬼の体"から発せられているなら尚更である

 

音が止むと、くあーつと背伸びをするような声が聞こえた

 

「大した再生力ねぇ」

「ちょっとやりずらかったけどね」

 

レミリアは背を伸ばしながら霊夢にそう言った

狙撃されたのが嘘のような態度である

 

霊夢は当たり前のように聞いた

 

「なんで死んでないの?」

 

悪意がある訳でもない、本当に当たり前のように聞いた

事前情報として吸血鬼は銀に弱いと霊夢は効いている

先程の弾丸…もとい窓ガラスを突き抜け、反対のガラスも突き破って行った弾丸

 

あれは銀の光を持っていた

 

確実にこの吸血鬼は死んだと思っていた

 

レミリアはあー、と言った感じになった

 

「死ぬ程苦しんだわよ?頭が吹っ飛んで体が動かなかっただけで」

「ああそういう…」

 

そもそも動けなかったようである

多分耳が死ぬほどの絶叫でもしていたのだろうか

逆に動かなくて良かったのである、ありがとう狙撃の人

 

そのまま私は聞いた

 

「で?続きをするの?」

 

"何の"とは言わない

何を邪魔されたか相手も分かりきっていることだろう

吸血鬼は頭をぶっ飛ばされようとも覚えているようである

 

「霧も晴れちゃったし、もう寝るわ…お話はまた今度ね」

「負けたからにはそれなりの…いや私が手を下した訳じゃ無いんだけど…」

 

霊夢はため息をついた

何かの歯車が一気に狂った感じがする

特にあの狙撃の瞬間…あの時から全てが…

 

 

「…あら…来たのね」

 

「…来るに決まっているぞ、お前」

 

「何かあったのかしら?その様子だと」

 

「"何かあった"だと…?お前…何も分かってないのか?」

 

「あらあら、刀を抜かないでちょうだいよ…怖いわ」

 

「あれは…■■じゃない…あれは…あれは…!」

 

「んまぁ、長生きすればそのうち見られるわよ」

 

「あぁ?適当なこといいやがって…これだから妖怪は信じられない」

 

「ああ怖い、片手間で私を殺そうとするのね」

 

「少なくとも痛い目にはあってもらう…嘘をついたぶんな!このクソアマめ!」

 

 

「いい腕だ、大尉」

「ミギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

戻ると、"メディック"が居た

何かの薬剤を作っていた途中のようだ

偽装したボロ屋でよく薬剤なんて作れるものである

…俺は細かいのは出来るが、こんなところじゃ出来ない

 

かつての反対勢力の基地は天狗により破壊された

特定はもとよりされていた、タイミングが無かっただけだろう

報復もあってかほぼ更地と化してしまっている

一応建物は残っているが崩れたコンクリートと言ったところだ

 

いやはや妖怪を相手するのは怖い

 

「ヒッ…あっ…大尉さんか…ヨカッタ…」

「お前はビビりすぎだ…」

 

ほぼ涙目になった女の子…が居る

女の子といえど、舐めてはいけないのである

なぜなら、彼女…いや"彼"こそが反対勢力の要であったのだから

 

「"ベクター"、その癖は治らないのか?」

「む、むゅりぃ…」

 

ベクター…反対勢力にて武器や食料を運んでいた女の子…オトコの"娘"

彼がいなければ反対勢力は斧や鍬で戦う必要があるのだ

故に反対勢力ではかなり重宝されていたのである

 

…ビビりなのを除けば

 

この世で類をなさないレベルのビビり、これ以上を見たことが無い

戦闘なんて論外、彼は基地の奥でずっと縮こまっていた

初対面の時に目が合って「アギャアアアアアア(SAN値直葬)」と叫ばれてビビった

メディックから"変わり者"と聞いたが…まぁ確かに変わり者だ

 

…後彼は男である

見た目は幼女のような顔に158cm程の低身長であるが…男である

こんな可愛らしい見た目で"付いているのである"

1部の性癖が狂った、そこだけ死ねばいいと思う

 

「モウムリ寝る」

 

…尚俺が一番驚いたのはこの性格で"八雲"と話し合えていることである

能力は"ありとあらゆる物を運ぶ程度の能力"…まぁ予想通りじゃないか?

ありとあらゆる故に並行世界や過去未来…もう何でもアリだ

ただ負荷がそれなりにかかるのであまり能力は使いたくないらしい

 

何故八雲がこの能力に関係してくるかと言うと、八雲が使うスキマと同じ性質を持つのだ

厳密に言えばベクターが運送の際に開く"次元の狭間"だが…

こちらはあちらのリボンが付いたような空間の切れ目では無い

もう一文字に斬られた空間の切れ目である

 

…性質が似ているせいか何回か八雲と鉢合わせることがあったそうな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふー…これで今日は終わりかな…あー、生きてる…ヨカッ────』

『おや?こんな所に人が居るなんてね…君は一体─────』

『ブゥゥウル"ル"ル"ル"ル"ル"ル"ァァァァアアアアア!!!!イヤァアアアァアア!!!ヨウカイ!

 ︎︎アイェェエエ!!!アイェェエエヨウカイナンデ!?』

『ちょ!?きゅ、急にそんな驚かなくても…おーい大丈夫かい?』

『ゴボボー!!』

『ダメそう(諦観)』

 

 

 

 

「ヒイッ」

「慣れろよ、似たようなものなんだから」

「む、無理なものは無理なんです、1回ならまだしも…」

 

彼がそこまで言うと、ひっ、とまたか弱い少女のような声が出る

君そんな可愛らしい声出してるけどEEFの中じゃ一、二番を争う害悪だからな?(敵目線)

ヒステリー起こそうものならスゴイ=ヤッカイになるからな…

 

彼は窓のある方向を指差す

そしてもはや恐怖で原型を失った顔面

 

 

「あぁ…!!窓に!窓にィイイイイ!!!

 ︎︎アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

発狂(SAN値直葬)すると、彼はそのまま自分の部屋に走り込んだ

その走力とかをまた別の事に生かせないのか…

 

「大尉、気にするな。いつもの事だ」

「まぁその通りか…」

 

最初はもっと酷かった

仕事から戻ってドアを開けば叫び声がするのだ

1回それで妖怪にバレた、彼はしばいた

 

今後同じことがないように祈る




例えればベクター君はSAN値1しかありません
命綱無しの綱渡りどころじゃありません


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太陽燦々

あ、そうだ(唐突)
投稿ペースが週一に変わります

溜め込みは…全て……尽きました…ッ!


こんな小さな基地で暮らすのも慣れたものである

前迄は悲鳴とため息が交差するむさっ苦しい所だった

 

今じゃ増築もされていい具合である

 

 

…良い具合とは、前よりマシってだけの話である

あまり変わってない…部屋が増えたな程度である

β隊の生き残りによるささやかな支援で成り立っているのだ

 

彼らが生き延びてなかったら未だにこの基地はボロ屋ON悲鳴であったはずである

協力を得られて助かった…

 

「今日も資材を?」

「じゃないと何も進まないだろ」

 

ド正論

実を言えば今の俺達にはあらゆるものが欠けているのだ

…本当にあらゆるものが、である

 

銃弾も、薬も 、資材も、何もかもがないのだ

 

泣きたい

八重も薬は材料がなければ作れない

無から有を作る便利な能力は存在しない、当たり前体操だ

 

俺や他の仲間が集めてくれている

今やかの反対勢力は細々と運営されているものだった

強大な妖怪の力加減や気分で安安消し飛ばされる

見つからないように、細々と…泥を舐めながら生きている

 

それが嫌で抜けたやつもいた

かの妖怪の山での戦闘でPTSDを患い、抜けたヤツも居た

死んだやつも居た

 

ただ、それだけだ

 

それだけで俺が止まる理由にはならない

今すぐにでもカチコミに行きたい所だ

 

…しかし、共倒れや道半ばで潰えるなど論外だ

 

 

まずは力を蓄えなければならない

かつての反対組織のように、とは言わない

ただ……妖怪に対抗する術さえあれば…それだけあれば

 

それだけあれば、妖怪と戦える

銃という不完全な攻撃手段ではなく、完璧な攻撃を

 

 

……すぐに

 

 

資材を集めるのは"ビルダー"である俺にとって簡単だ

両腕が機械による義手だから、簡単に資材を持ち運べる

それを使って建築するなんておちゃのこさいさいだ

 

……ただ

 

「……」

 

ただ、個人的に……手伝ってくれる"大尉"が怖い

怖いというより気まずいというか、なんというか

 

彼、ずっと無言なのだ

 

聞いていた大尉と違う、フレンドリーと聞いたんだが?

どこぞのスキマ妖怪の如く言葉遊びがえげっちい奴と聞いたが…

俺の問答にただ「イエス」or「はい」で答えるだけだ

 

……機械か?

 

噂で戦時中には機械に人の肌を貼り付けた人造兵器があったらしい

その肌は腐らず、定期的な栄養分の補給により再生するとか。

 

彼もそれなのだろうか

 

「これだけ集まればいいだろう」

「帰投か?」

 

彼はこちらを見ずにそう言った

双眼鏡で辺りを偵察しているようだ

 

集めた資材を大体纏め、担ぎあげる

今回はこういう物を集めに来るだけだから武器は持っていない

だからこそ"大尉"に護衛を頼んだのだ、死にたくないから

 

一応名目上は"人里の資材を集める"ことにしている

 

変に疑われたくないからな

 

俺は大尉に言う

 

「あぁ、帰る……どうした?」

「……」

 

大尉がハンドサインを示す

そのサインは明らかに"止まれ"を表すものだ

俺は静かに、彼の近くに歩を進める

 

大尉がこちらに双眼鏡を手渡し、指を指した

 

「天狗だ」

 

見てみると、二三人程の天狗か槍を持って巡回していた

距離はそう離れていないが、下手に動けば捕捉されるだろう

肉眼でこの距離を捉えるという……やはり妖怪だな、奴らは

 

「どうする?」

 

戦闘に入れば間違いなく俺が足でまといになる

資材を放置すれば妨害として破壊されるし、持ちながら戦闘は出来ない

大尉は対物ライフルを持っている……3人を同時にやれるか?

 

「やっぱり逃げ─────」

 

3回の轟音

あまりの轟音に耳が死にそうだった

轟音の正体は1つ、真横で対物ライフルをぶちかましやがった大尉だ

 

「……事前に言ってくれよ」

「逃げるぞ、追っ手が来る」

「無視かよ!?」

 

文句をしれっと流して退却を提案する大尉

あまりに身勝手で疲れるぜ旦那……

 

……大尉って、こんな仲間を荒く使うっけな

 

大尉を追いかけながら、そう思ってしまった

 

 

「……死にそう」

 

霊夢は呟いた、石畳に半身を埋めながら

経緯は簡単なことで先代がいきなり来て稽古を始めたのだ

 

それも割とマジな稽古である

……いや、こちらがマジでやらないと死ぬレベルだった

 

多分あれは八つ当たりだ、己の勘がそう言っている

…いや当たって欲しくないなそんな……八つ当たりって……

 

それはそうとこの状況割と博麗巫女のピンチである

石畳にぶっ刺すレベルの攻撃とは、先代は一体何をしたんだか……

 

「よいしょ」

 

足を使い、何とか抜け出す

乙女がしてはいけない体制だったが……気にしてはいけない

 

どうせ誰も見ていないのだから

 

そうして抜け出した後、霊夢は髪を整えた

 

 

そして、横を見る

 

 

 

 

 

 

 

「…お前って親と仲悪いのか?」

「あんたには言われたくない」

 

魔理沙が引いた顔で霊夢を見ていた

恐らく先代との稽古を途中から見ていたのだろう

 

……だったらスープレックスで埋められたのも見てたよなぁ……

 

「娘を埋めるとかヤバいぜ……?」

「そらそうでしょうよ」

 

そんな親いたら普通にヤバい

虐待どころじゃないだろう……え?あの人はそれをポンポンやってた?

 

知らんわそんな事

 

霊夢はため息をつきながら本殿に上がる

喉が渇いたし、お腹が減ったので食事と行きたい

 

「私は食事を作るから、さっさと帰りなさい」

「嫌だね、私も食べる」

 

…言うと思った

霊夢は溜息をつきながらエプロンを探しに行ったのだった

 

 

 

 

 

 

 

「いただきまァーすっ!」

「頂きます」

 

居間に元気な声と質素な声が響く

霊夢が今回作ったのは質素な和風料理だった

米と塩鮭、味噌汁に五番煎じのお茶……いつも通りだった

 

しかし、魔理沙は美味しそうに食っていた

 

「あんた元気ねぇ、吹っ切れたみたい」

 

霊夢はその様子を見ながらそう言った

異変の帰りに会ったのだが、凄まじく憔悴していた

服も戦闘していないはずなのにボロボロだった

 

途中、彼女が地下に行ったのは知っている

ただ…時止めメイドの部下達の話によれば"来た時から"ボロボロだったそうだ

その上で弾幕ごっこを知らないようなマスパの連射だったとか……

 

「……霊夢」

 

彼女はらしくなく、かたんと持っていた箸と食器を置いた

珍しい真剣さに霊夢は食べる手を止めた

 

「何?」

「EEF…?の大尉って男をしらないか?」

 

彼女はそう聞いてきた

しらないか?と聞いていても、興味無いのだが

にしても"大尉"…どこかで聞き覚えのある単語のような…

 

……あぁ、そうだ

 

「先代が言ってた気がするわ

 ︎︎……反対勢力の中で最も危険とされた男らしいわ」

「最も危険……」

 

お茶をすすった

全くお茶の味がしない、何番煎じだコレ

 

「まぁ定かじゃないわよ?その……EEFとかいう特殊部隊が本当にあるかすら不明なのよ

 ︎︎あったとしても壊滅しているでしょうね」

「なんで分かるんだぜ?」

 

彼女は首を傾けて聞いてきた

いや、聞かなくても分かることだろう

余程のことがあったのか……?まぁいいや

 

茶を啜る

 

「今日に至るまでEEFの噂を1回でも聞いた?」

「いや……」

「そういうことよ」

「どういうこ…あぁ……」

 

噂がない、それは根拠がないということだ

火のない所に煙は立たないというように、原因がないと結果は起きない

 

EEFの噂がひとつもないということは、それに関連する原因がないという訳だ

妖怪がまるまる姿を消したとか、妖怪が頂上的な動きをする人間に襲われたとか……

 

人間が妖怪を圧倒すれば、どこにでも噂は出る

かつての反対勢力の現れだとか、特殊部隊だとか……

 

今に至るまで、そんなことを聞いたことは無い

 

「あんたが"大尉"に襲われたとか知らないわ

 ︎︎そいつがただ名乗っているだけのニセモノかもしれない」

「……そう、そうだよ、な!だな!ははは!」

 

魔理沙は笑うと、食器に手を伸ばした

あまりに無理をしている顔だったから、私は何も言わないことにした

 

余程、その"大尉"にはボコボコにされたのだろう

スペルカードも無い、昔の戦い方だったのか……

 

可哀想に

 

霊夢は人知れず、そう思ったのだった



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生き残り

人生とは波乱万丈である

人によってその物の捉え方はまた異なるが、さりとて違いはないと思う

 

誰にもぬるま湯に浸かるだけの人生は無く、逆に激温の湯に浸かるだけの人生は無い

 

常に人生は揺れ動き、変わっていくものなのだ

 

その大半は歴史だったり、自業自得だったり、環境に寄ったりする

 

 

 

 

 

 

私の場合は環境だと言えるだろう

 

死ぬために樹海に来れば、いつの間にか銃を握っていた

恩を返すために引き金を引いて幾つもの生命を奪っていた

 

仕方なかった、死にたくなかったから

 

組織の言い分なんて私からすればただの隠れ蓑だった

妖怪という化け物を絶滅させる、なんて名目の元に集まった訳じゃない

 

この幻想郷に誘われ、生きる為に入っただけなのだ

 

 

ありとあらゆる地獄に突入した

 

いつも、生きて帰るのは私だけだった

 

生きていたはずの中は誰もおらず、友と呼べるものも死んだ

笑顔で話し合っていたはずの友がいつの間にか物言わぬ死体と化しているのは恐怖を覚える

 

 

……ただ、私には愚かにも何回も仲間に話しかけた

 

いつか死ぬ、なんて思わずに……愚者のように笑顔で答えた

仲間を友と呼び…共に戦い、仲を深めていく……

 

しかし、誰も彼も死んでいく

 

やがて誰かが死神と呼んだ

生き残りすぎて、敵と疑われたりすることもあった

ただ……どうしようとも私は残される側だった

 

死神と呼ばれるのが嫌だった

RSI空挺部隊に招待されるのが嫌だった

ヴァルキリー部隊に招待されるのが嫌だった

 

だから私は何回か、名前を変えた

いちいち兵士の名前を覚えていたやつなんて居ないから、簡単だった

何回も失踪して、何度も死亡判定を作った

死んだ味方の顔を削り、ドッグタグだけを交換したこともあった

 

……私は、今人里に居る

荒んだ場所から離れ……平和の内側にいた

 

「アナタ?どうしたの?」

「いや、ただ考え事をしていただけだよ」

「とうさんのわるいくせ!」

 

妻も、子供もいる

あの頃とは全く違う風景である

 

無骨なライフルとコンクリートの建物はどこにも無い

タイムスリップしたような家に最高の伴侶と娘

 

あぁ、幸せだ

 

 

この幸せが老衰まで続けばいいのに

 

私はそう、切に祈った

 

 

幻想郷にある人里は幻想郷で最も安全な場所である

中に入れば妖怪に襲われる心配は無いし、惨めに死ぬことは無い

 

外来人で体力があれば、尚更死ぬことは無いだろう

人手は無いよりあった方がもしもの時に安心である

 

「兄ちゃん!いつもありがとな!」

「いえいえ、これしか取り柄は無いので……」

 

人里で主に力仕事を任されている彼が代表例だろう

"外の世界"で機械の義手したその腕はあらゆるものを運ぶことが出来る

時折河童のところに行って調整をしているらしい

 

能力と勘違いするものも居たが、今や人里の腕となっているようである

 

「また明日頼むぜ!」

「えぇ、もちろん」

 

笑顔で手を振り、彼は外来人が住まう家屋に帰ることにした

外来人用の家を大量に繋げたような場所があるのである

言ってしまえば寮生活、マンション(一階建て)のようなものである

 

彼は己の部屋に入り、ため息をついた

 

「慣れたもんだよなぁ」

 

キャリキャリと腕を回す

男なら憧れるロボットハンドである、羨ましいだろ

……といえば心地よいものの、現実は非情である

ここぞという時に壊れたらもう目も当てられない

わりかし雑に扱ってもそうそう壊れるものでは無い

 

 

"ジーニアス"と"ファイガ"に作ってもらった物だ、そうそう壊れない

 

 

戦闘以外でもキチンと役に立ってくれるあたり、彼らの技術力の高さが見て取れる……

そういう発明系は得意では無いのでよく分からないのだか

戦うことがもはや廃れている今じゃ、こういう地味な使い方の方がいいかもしれない

 

 

何かのために使う

 

 

軍用だったものが一般に使われることはよくある事だ

例えばGPS、あれは元は軍部の機密事項である

ものも使い方次第で平和にも、戦乱にも使えるのである

 

「……いやクソどうでも良いが」

 

結局今どう生きるか次第である

上記のような能書き垂れても死んでたらなんの意味もない

自分のやるべき事と科された役目を達するべきなのだ

 

 

……結局これに尽きる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、どう生きるべきか

 

 

 

 

 

見違えた物だ

 

椛は幻想郷全域に目をやり、そう思った

少し前な何処も彼処も血腥い殺し合いがあった

出かけた同僚が血まみれになってたり、人数が欠けていたりした

 

あの頃の血腥い幻想郷とは変わったのだと、心底思う

 

異変、スペルカードルール、博麗の巫女

全てが共存へと向かっていると思える

そのうち山にも人間が訪れることがあるのでは無いのだろうか

……それなりの理由がないと有り得ないか

 

共存反対派ももはや息して無いとしか言いようがないだろう

異変にて邪魔が入ったらしいが、致命的なものでは無かったらしい

 

 

 

……大尉も、衰えたのか

 

「はぁ」

 

平和というのは良い、仕事が楽になる

ただ、贅沢ではあるが暇すぎるのも良くない、暇だから

何も来ないのに常時目を光らせろと言われても……ねぇ?

 

上層部は必要以上にEEFを恐れている

 

……"シキガミ"

 

EEFの生き残りは少ないと言われているが、そもそも一人一人が大概なのである

基地を焼き払った報復に山を焼き払われるのではと必要以上に恐れているのだ

んだったら基地焼き払うなよと思うが、大天狗の会議は基本深夜テンションとその場の空気で決まる

 

これが上司か…?終わってない?

 

ノリで山の行く方向が決まると思うとヤバい(小並感)

例えれば帆船に舵が無いくらいヤバい、風の気分次第で行き先が決まる

 

早めに人里に籍を移した方がマシかもしれない

 

「……射命丸?」

「上司を呼び捨てとは、ダメでしょうに」

 

気配がしたので適当に言ってみると、当たっていた

声の方向に目を向けるとかなり焦っている様子の射命丸が居た

 

いつもはニタニタしている射命丸が、だ

 

「……面倒事ですか?」

 

こいつがこんな顔している時は面倒事か鬼……つまり面倒事じゃねぇか!

まぁ、なんだっていいや……

 

「えぇ、ちょっと……来て貰えると助かります」

「癪ですが」

 

仕方ないのでついて行くことにした

彼女の後をついて行くと、問題と場所に来た

 

私は、面倒事であると察した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何も覚えていないと、言っている」

「嘘を吐くな!"インタビュアー"!貴様のせいでどれ程の同胞が……!」

「その…インタビュアーとか言う奴に言ってくれないか……」

 

そこに居たのは、背中から"鴉のような羽根"が生えたロングコートを来た男

傍から見れば外来人をなにかの勘違いで攻めているように見える

 

しかし、その肩には見覚えのあるエンブレムがあった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────E.E.F.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかもEEFの中で最も怒りを買い、忌み嫌われている隊員……"インタビュアー"

 

え?どれくらい嫌われているかって?

 

 

 

 

ゴキブリくらい



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黒い翼

「取り敢えず経緯を聞きたいのですが」

「……起きたら山だった、それだけだ」

「それ以外は?」

「何も……記憶もあやふやだ……」

 

頭を抱えるように彼は言った

どうやらなにも覚えていないようである

 

自分が何をしたか、何者であるかさえも

 

 

……鴉天狗に成っていることさえ分からないのだろう

 

「……インタビュアー、もとい拷問官って奴だったんだ」

「俺はそんな仕事をしていたのか」

 

彼は信じられないような顔をしてこちらを見た

普通信じられないものだろう、自分が拷問官してたなんて言われても

 

そして、普通なら怒ることも当たり前だ

 

「初めてあったやつを拘束したかと思えば人のことを拷問官呼ばわりしやがって」

「はが─────」

 

ホルスターからリボルバーをクイックドロウ

そこから敵意を向けていた天狗の脳天に一発ぶち込んだ

 

「ちょっと!?」

「じゃあな!」

 

バサリと翼を広げると彼は飛翔した

その行動に迷いは無く、まるで生まれた時から天狗であるかのようだ

……まぁ大体あっているっちゃあっているんだが

 

「追え!逃がすな!」

「い、生け捕りにしてくださいよ!?」

「生死は構わん!」

「ちょっと!?」

 

天狗達が続々と現れる

同族が撃ち殺された……もとい少し動けなくなっただけだ

頭を撃たれたくらいで天狗は死ぬもんじゃない、弾丸一発じゃ尚更だ

 

ただまぁ、それでも敵討ちはやるだろう

 

「来いよ!捕まえられるもんならな!」

 

彼はそう叫んだ

その瞳には拷問官扱いされた怒りが宿っている

強い意志を感じられる顔だ

 

簡単には捕えられない

 

 

天狗たちは犠牲を覚悟しながら飛びかかる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後普通に犠牲も無く捕まった

 

 

「出せ!アホ!唐揚げ!肉じゃが!ド畜生!犬畜生!」

「うるせぇ!」

 

"成りたて"であるためそれほど苦労することなく捕らえることが出来た

危惧していた生死を問わないことについても心配なかった

やはり数、数は力、力は暴力、数は正義

 

抑留所にて椛はため息をついた

 

「さて、どうしたものでしょうか…」

 

元EEF隊員、その上インタビュアーという天狗からの恨みが1番高い役職

そのようなやつを捕虜にしたとすれば……やることは私刑だけだろうな

 

そういう犠牲も組織には必要なのである

 

「大天狗達は死刑にしたがるでしょうね」

 

いつの間にか現れた射命丸は椛にそう言った

そちらに顔を向けていないのでどういった顔をしているか分からない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼らに選択肢はありませんよ」

 

「─────」

 

椛は声が出なかった、否……"出すことは許されなかった"

その優しい声に込められた確実な圧は辺りに響く

 

椛は反射的にその人物に頭を垂れていた

それは横にいた射命丸もまた、同じだった

 

その人物は他の鴉天狗と違い、美しい長髪をしており、美しい翼をしている

服装は黒と赤と白を基調とする和服である

 

射命丸はできるだけ声を落ち着けながら

 

「……天魔様、いつの間に」

 

射命丸は膝立ちの状態で彼女に質問した

ふふふと笑う声が響く

 

「さっきから居たわ……そんなに固くしなくてもいいわ

 ︎︎こちらが気まずくなってしまうもの」

「ですが……」

「言うこと聞く、いい?」

「「はっ!」」

 

2人は立ち上がる

看守は天魔に向けて敬礼をしていた

 

「さて、彼に関しては決めておきました」

「早いですね、さすがです」

 

話も早い、スピード感が違う

 

彼女が"質問者"に向き直った

彼は彼女からの圧を濁ったような瞳でみていた

牢獄の中、檻を挟んだでいても手は届く……が、男は手を伸ばさなかった

 

 

 

天魔は口を開く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼をうちの部下にしようかと」

 

「「……え」」

 

2人は無意識のうちにそう言い漏らしていた

彼女は顔だけを2人に向け、笑顔で言う

 

「EEFの有能な隊員、記憶はないようですが役には立ちます」

「そ、そうなんですか……!」

 

彼女はええ、と言って"質問者"の方に顔を戻す

そこで、彼女は彼の顔を見ながら言った

 

「では看守も含め、皆さんでてって下さい

 ︎︎少しお話が彼としたいので」

 

「「「は、はいぃ!」」」

 

圧も何もないのに、その場にいたものは逃げるように牢獄から出ていく

がらんと静かになったのを天魔が確認すると、ため息をついた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お主、ちょいと身勝手が過ぎるのではないか?

 ︎︎あんな行動ワシには伝えられてなかったのじゃが」

「その場でのハプニングをアドリブで返す……こうでもしないと生きられないのさ」

 

 

「……」

「……」

「……」

 

奇怪なものを見る視線を受け流しながら自室に向かった

奇怪……というよりゴキブリを見るような汚ねぇ目だったが

余程俺はこいつらにひどいことをしたのだろう

 

拷問官、と呼ばれる仕事をしていたからだろうか

そんな記憶は全くないのだが……

 

「はー」

 

もしそれが本当なら殺したいものである、自分を

後の自分がこんなに苦しい目にあっているのは過去の俺のせいであるというわけである

仕事だとかその状況のせいでとかなら何も言えないが……

 

過去の俺のせいで今の俺が苦しめられている

 

「……でもなぁ」

 

なぜだか、これが当たり前だと思う自分がいてしまう

ロングコートの左肩にあるエンブレムをなぞる

 

俺が苦しめられている原因でもある物

 

例えるならば、ユダヤ人に付けられるダビデ星

 

 

レッテルとも言い取れる

 

「仕事したくねー」

 

同僚との連携は取れぬ、後ろから蹴られる

なんかもう働きたくない、ニートしたい

 

俺は溜息をつきながらベッドに潜り込んだ

鴉天狗という階級にあるらしいが、やることは白狼天狗と同じである

 

天魔曰く鴉天狗のような仕事はさせたかったらしい

が、その場合大天狗や普通の天狗からの文句が伊達ではないらしいので我慢しろとの事だった

まぁ所詮敗北者なのでどうということは無い

 

見回るなんて、役得な職業だからな

 

 

 

「さて」

 

 

 

 

俺はそう思いながら目を閉じたのだった



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SACRIFICE.FLP

「はー」

 

ため息、圧倒的ため息

あたりから響くのは凄まじい俺に対する怨嗟の声

 

「殺してしまえ!」

「殺しても誰も何も言わん!」

「くたばりやがれ!」

 

前職が圧倒的に足を引き摺ってやがる

マジで過去の俺覚えておけよ、あったらぶっ殺してやる

 

天狗の山では数回「大会」というのが開かれる

名目としては実力を争うというものだが、リンチが普通にある辺りストレス発散みたいなもんだろう

 

俺みたいなやつが巻き込まれるのも致し方無し

 

 

 

 

 

俺は妖怪の山では一個小隊を持っている

これでも小隊長なのだ、偉いんだぜ

 

……隊員誰もおらんけど

 

階級上は中の下、小隊を持っている(隊員ゼロ)

なんとも酷い所である、さっさと人里に行きたい

 

 

「さぁて」

 

グルグルと錫杖を回す

俺の武器はこれと腰にあるSAA二丁のみである

俺の戦闘力がどれくらいか試してみたが、妖怪化しているのでかなり高い

知識が人間のままなので割と頭がおかしくなる

 

「vanitas vanitatum, et omnia vanitas……」

 

ブツブツと、どこかの本でみた単語を呟く

どこからともなくパラパラと雨が降り始める

 

「全ては虚しく、終わりは訪れる」

 

ああ、空を仰いで息を吐いた

とても面倒くさいことしか最近起きないな

 

そう思いながら、奴に走り込んだ

 

 

 

「死にに来たか!?」

 

 

 

相手から、そんな声が響く

そんなことをするわけないだろ

 

相手の得物は槍だ

届く範囲は危険、離れても直ぐに距離を詰められる

ならば先に詰めてしまえばいいだろう

 

相手は俺を簡単に刺せると思っているだろう

なら奴がするのはあの行動しかないだろう

 

「死ね!」

 

ほらな、突きしかない

そんなんで俺を簡単に殺せるかよ

 

「よいせ」

「あ?」

 

巴投とまでは行かないが、するりと錫杖で拘束し投げ飛ばす

相手は投げられたことにすら気づいていないようだ

なんとも無防備なことである

 

「」

「うっ!?」

 

素早く六連射

早打ちなら誰よりも早い自信がある…拳銃に限るが

このシングルアクションアーミーはとても俺に馴染む

 

多分記憶が無くなる前はとても上手く使っていたのだろう

ただ、銃でただ脅すだけならここまで嫌われない

余程ひっでぇことをしたんだろうな

 

「やるよ」

「うげっ」

 

投げ飛ばす時に奪った槍を突き刺す

チェックメイトと言うやつであろう

 

奴に戦闘する力は無い

 

「じゃあな」

「クソが…クソがクソがクソが!」

 

実力は俺に遠く及ばなかったらしい

この体は俺が動かしているのではなく、勝手に動いている

戦闘が得意だとか、そんな思い出は一切ないのだ

 

記憶した体が、反射のまま動いているだけ

 

 

今回呼ばれたのはこれっきり

というかこれから先こんな遊戯に参加する気は無い

 

 

 

「…といいながら錫杖の練習はするんですね」

「誰だお前」

「え」

 

錫杖を振りまくっているとなんか変なのが現れた

しゃあしゃあとした態度の鴉天狗、キモイ(直球)

ろくに覚えていないので適当にそう返したら意外な反応をされた

そんなにショックかよ、おい

 

「わ、忘れました?私ですよ、私…射命丸文ですよ!」

「あぁ、【スキマ送りにされました】年処女で有名な射命丸か」

「ええそうですその射命丸…ってまてェェエエエい!!」

 

エッヘンという感じで言っていた射命丸が殴ろうしてきた

なんだコイツ、人を殴るなって人から教わらなかったのか?

 

「なんか問題あったか?俺は無いが」

「問題しかありませんよ?なんですかその噂!」

 

指を突きつけて彼女はそう言ってきた

もしかして【スキマ送りにされました】の事か?

いやなんですかと言われても…裏を見ても表を見ても事実ですが…

 

「い、いつから漏れて…いいですか!信じちゃダメですよ!」

「そうかい」

「…その暖かい目も止めてください!」

 

いや、なんというか…

妖怪とかいう種族にも"独身"って存在するんやなって

しかも【スキマ送りにre】年独身はやべーと思うぞ…

 

「妖怪ってモテないのか?それとも相手がいないだけか…」

「聞こえてますよ!」

「で、何の用だ」

 

錫杖を振るのをやめて射命丸を見た

そろそろ本題に付き合ってあげなければ可哀想である

 

「んん!…元EEFとしてのあなたに質問がありまして」

「そんな部隊は知らないし、記憶も無いぞ」

「いえいえ!もしかしたら単語で思い出すかもしれないじゃないですか!」

 

何を言っているんだこいつ

それはいわゆるフラッシュバックと言うやつだろうか

もし俺が元PTSDとかだったら割と嫌なんだが

 

なんで自らトラウマを思い出さなきゃならない

 

「…断る、嫌なことは思い出のままじっとしていて欲しい」

「うーん…そこをなんとか!」

「ん、帰れ」

「なんとか!」

 

錫杖を振る練習に戻る

こういうやつに関わるとろくなことにならない

 

「こんにちは」

 

そんな時、上から声が降ってくる

聞き覚えのある声だったのでそちらに目を向けた

 

「椛か、調子はどうだ」

「普通です、良いことも悪いこともありません」

「それは良かったな」

 

当たり前の、日常会話を繰り広げる

俺にとってはこれが普通である

 

「あれなんか扱い違う…」

「あ、射命丸か、何してるんだ」

「いや実はですね」

 

射命丸は事情を説明しようとする

俺は明日の天気を思い出したかのように椛に伝えた

 

「俺のない事あることでっち上げて晒しあげようとしてるらしい」

「へぇ…」

 

椛が大太刀を引き抜きながら射命丸に近づいていく

射命丸は手をブンブン振りながら弁明を図る

 

「待って!違う!私は彼の記憶を取り戻す手伝いをしようと!」

「殴っていいぞ」

「喜んで」

「いやぁああああ!?」

 

 

今日の山にも、烏天狗の間抜けな叫び声が響いた




霊夢がキヴォトスに行く小説書きたくなった

次回作そうしようかな…

もうひとつの幻想郷が外の世界に侵略するのも書きてえな…


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