【悲報】私氏、小学生妹ちゃんのヒモになりそう (おねロリのおね)
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ヒモ姉スレッドが立った。立ったよ!

【悲報】私氏、小学生妹ちゃんのヒモになりそう

 

1:小学生妹のヒモ姉

誰か助けて

 

2:仰げば名無し

妄想乙

 

3:仰げば名無し

キモっ

また脳内妹モノかよ

近親相姦モノなんて今日び流行らねーんだよ

って、お姉さん?

姉妹百合ってこと?

……詳しく話を聞かせてもらおうか

 

4:仰げば名無し

おまえのスペックを教えろ

話はそれからだ

 

5:小学生妹のヒモ姉

ゴミクズのような私のスペック

20歳メス

美大生

成績中の下

身長は普通

体重も普通

性格陰キャ

彼氏いない

友人少ない

中学生の時はトイレでご飯食べてた

  

 

6:仰げば名無し

スリーサイズは?

 

7:仰げば名無し

>>6 メスと聞いた瞬間に身を乗り出し始めるのワロタw

 

8:仰げば名無し

20歳のお姉さんか……

オラ、わくわくしてきたぞ

 

9:小学生妹のヒモ姉

スリーサイズは

上から89 56 85です

 

10:仰げば名無し

ふーん、エッチじゃん

 

11:仰げば名無し

オレは信じないぞ!

画像アップされるまではな!

 

12:小学生妹のヒモ姉

画像アップとか怖いです

 

13:仰げば名無し

のっぺらゲンガー使えばいいじゃん

おまえが真のメスか否かが今後の議論の成否に関わってくる

早急に画像アップを求める所存

 

14:仰げば名無し

説明しよう

のっぺらゲンガーとは、のっぺらぼうとドッペルゲンガーを合わせた造語で

任意の場所をのっぺらぼうみたいに加工できる高性能アプリだぞ

例えば、顔だけとか、全身とか、あるいは部屋まるごととか、いろいろ設定できるんだわ

無料で即使えて、静止画、動画もカンタンに撮影できる

ちなみに、棒きれみたいなキャラにもなれるんで、即席のVチューバーになるようなもん

 

15:仰げば名無し

おまえらうら若き女性のお姿を見るのに必死すぎやせんか

正直、スレ民のほうがきもいわw

 

16:仰げば名無し

>>15

でもヒモ姉ちゃんがマジでヒモ姉ちゃんなのかが重要じゃないか?

野郎の妄想につきあうほど暇じゃないんでな

 

17:仰げば名無し

こんなゴミ箱みたいなスレで暇人がなにか言ってる

 

18:小学生妹のヒモ姉

こんな感じでいいですか?

https://hentaionetyann.net/sister/24789438…….jpg

 

19:仰げば名無し

おっぱいデッカ!!!!!

ふとももムッチ!!!!!

顔はモザイクでわからんが、スタイルの点数だけで80点いくだろこれ

 

20:仰げば名無し

ふーん、エッチじゃん

 

21:仰げば名無し

ヒモ姉いい匂いしそう

オーラでなんとなく美人だってわかるわ

 

22:仰げば名無し

ゆるふわコーデに少し前かがみな姿勢

髪の毛が顔にかからないように、少しあげる仕草

近所にこんな姉ちゃん住んでたら

まちがいなく性癖破壊マシーンになっていただろう

ぶっちゃけ、オレがヒモ姉のヒモになりたい

 

23:仰げば名無し

妹ちゃんの性癖を破壊しちゃった可能性がワンチャンでてきただろこれ

 

24:仰げば名無し

なんでモザイク設定にしちゃったんだよ

仮面とか動物とかいろいろあっただろ!

文化的日本人はモザイク=エロという認識が刷り込まれちまってるんだよ

もうこんなのAVじゃん

これからヒモ姉のこと公然わいせつお姉さんって呼ぶぞ

 

25:小学生妹のヒモ姉

あの、そろそろ話を進めてよろしいでしょうか?

 

26:仰げば名無し

かまわんやれ

 

27:仰げば名無し

これから濃厚な姉妹百合の実体験が聞けるってことか

 

28:仰げば名無し

妹ちゃんのスペックもよろ

 

29:小学生妹のヒモ姉

妹ちゃんと私は血がつながってません

片親どうしが再婚した連れ子どうしです

妹ちゃんは小学五年生の女の子

外国の血が混ざっているのか、銀髪翠眼の色素薄い系で

天使みたいな女の子なんです

容姿が天使ってだけじゃなくて

心も清らかで、ゴミスペックな私によく懐いてくれてます

 

30:仰げば名無し

ゴミスペっていうところに自己肯定感の低さが見えるけど

妹ちゃんにとってはそうでもなかったってだけじゃない?

 

31:仰げば名無し

小学五年生……今が4月半ばだから、推定10歳ということになるな

そろそろ狩るか…♠

 

32:仰げば名無し

学年から小学生女児の年齢がスッとでてくる事案発生

ついでに言えば、小学五年女児の平均身長は142センチ

オレ、ロリコンじゃないけどなんとなくわかるよ

 

33:仰げば名無し

ここはロリコンだらけのインターネッツですね

しかし、銀髪グリーンアイの小学生妹とか、おまえなろう小説の主人公かよ

さすがにファンタジーだとしても盛りすぎだぞ

まあ既にムチエロお姉さんって時点で、だいぶんファンタジーだが

 

34:仰げば名無し

慕われてるっていうのがヒモっていう言葉と結びつかないな

なんとなく、察してしまったが、ヒモ姉は言いにくいなら言わなくていいぞ

ここは誰もが仮面をかぶって生息している

岩に隠れたダンゴムシみたいな存在のたまり場だからな

 

35:小学生妹のヒモ姉

>>34

ありがとうございます

実をいうと、両親は一年前にともに他界しまして

妹ちゃんと私は残されました

両親が再婚したのが五年前ですから、

妹ちゃんと姉妹になったのは五年前になります

二人暮らしを始めたのは一年前からです……

 

36:仰げば名無し

あー、マジでそういう系か

両親不在ってのも、わりとラノベ設定だよな

 

37:仰げば名無し

ラノベっつーか、エロゲ設定つーか

まあ同性じゃなかったらという話だが

 

38:仰げば名無し

水星ってお固いのね

こっちじゃ全然アリよ

 

39:仰げば名無し

ガイアっ!(姉妹百合尊い)

 

40:仰げば名無し

いくら同性婚とか珍しくないっつっても限度があるだろw

相手は小学生だぞ、少しは自重しろ

 

41:仰げば名無し

ヒモになるって、お姉ちゃん好き好きビーム打たれて

精神的に堕ちそうって感じ?

たった二人きりになってしまった妹ちゃんが

義理とはいえ、お姉ちゃんと離れたくないから

けなげに振る舞っているって考えると

なんか……心の奥がくるしい……

無限に甘やかしたくなる気持ちわかるわ

 

42:小学生妹のヒモ姉

ヒモになるというのは、本当の意味でというかそんな感じなんです

前にも述べたように、一年前に両親が他界して

私と妹ちゃんは二人きりになってしまいました

葬儀のとき、妹ちゃんが手を伸ばしてきて指先でつながりました

そのとき、わたしが妹ちゃんを守らなきゃって思ったんです

幸いなことに両親が遺してくれたお金があるから

すぐには美大をやめなくてもよかったんですが、

それでも両親の貯金を切り崩して、ふたりで生きていくというのは

なんというか、心苦しくもありました

本当に依存していたのは私の方だったのかなって

 

43:仰げば名無し

妹ちゃんを親族に預けて別々に暮らすという選択肢が端から無いのが尊いわ

 

44:仰げば名無し

ヒモ姉も20歳で大人だけど、正直まだ若いし

自分が守らなきゃって思ったのはマジで偉いと思うよ

つーか、普通に考えて、小学生の妹ちゃんが義理とはいえ残った家族に依存するのは当たり前

ヒモ姉は自分が美大に通ってるのに罪悪感かんじてるみたいだけど

事実上、両親の財産に手をつけてるからって、妹ちゃんの財産を食いつぶしているってことにはならんのでは?

ふたり暮らしを続けるための投資だろ

 

45:仰げば名無し

ほんそれ!

妹ちゃんにとってお姉ちゃんは必要だったんだよ

 

46:小学生妹のヒモ姉

あの……そういうことではなくてですね……

すごく言いにくいことなんですが

少し前に妹ちゃんから百万円の札束を渡されちゃいました……

 

47:仰げば名無し

は?

 

48:仰げば名無し

さすが妹ちゃんだな。百万円ポンとくれたぜ

 

49:仰げば名無し

どういうことー?

 

50:仰げば名無し

ヒモってマジなヒモか

これはさすがに想像できない

 

51:仰げば名無し

どういう経緯でそうなったのか説明しろよヒモ姉

コミュ障ってる場合じゃねーぞ

妹ちゃんが危険な橋をわたってる可能性もあるぞ

 

52:小学生妹のヒモ姉

はい、ごめんなさい……

説明下手ですが時系列に沿って説明してみます

1、五年前妹ちゃんと姉妹関係になる

2、一年前、私氏美大に合格

3、同年、両親他界

4、同年、妹ちゃんと二人暮らし開始

5、数日前、私が美大やめようかな発言を妹ちゃんにする

6、妹ちゃんから百万円渡される←いまここ

 

53:仰げば名無し

いまここじゃねーよw

いやまあ、時系列はわかったけど、妹ちゃんの存在が謎すぎるな

 

54:仰げば名無し

ヒモ姉はなんで妹ちゃんに美大やめようかな発言したの?

妹ちゃんと共有している両親の財産が減ってくから?

 

55:小学生妹のヒモ姉

>>54

そのとおりです

正直なところ、美大での成績もあんまりよくないし

私、才能ないし

それだったら、いますぐバイトか就職先探したほうがいいかなって

 

56:仰げば名無し

妹ちゃん視点だと、自分が重荷になって大好きなお姉ちゃんが苦しんでいるように見えたのでは?

 

57:仰げば名無し

ヒモ姉マジでコミュ障だったんだな

両親の遺産がどれくらいなのかはわからんが、

美大卒業くらいまで余裕があるなら無理に関係変えようとするなよ

相手は両親なくしてマジ凹みしてる小学生だぞ

下手すると、自分のせいで夢を諦めさせちゃったとかでトラウマになる

 

58:仰げば名無し

おまえら少しはヒモ姉に優しくしようぜ

オレが20歳だったときは正直、世の中なんとかなるぜウェーイとか考えてたからな

妹ちゃんを守るという覚悟ガンギマリな姉心がちょっと先走りしただけだろ

 

59:仰げば名無し

いや……これは普通の小学生という枠組みを越えてないか

オレ、高校生の実妹いるけど、買ってきたプリンを簒奪されて

兄ちゃんは道端のコオロギでも食ってろって言われたことあるぞ

ぶっちゃけ、妹ちゃんが化け物スペックの可能性のほうが高い

 

60:仰げば名無し

妹ちゃん「ヒモ姉。大人のくせに情けなーい♡ 経済力よわよわ♡ わたしが飼ってあげるね♡」

 

61:仰げば名無し

それはそれで興奮するシナリオ

 

62:仰げば名無し

ここで浮上する妹ちゃん=MSGK説

 

63:仰げば名無し

小学生女児のヒモになるという可能性が現実味を帯びてきて

にわかに興奮するスレ民たち

ここはもうだめみたいですね

 

64:仰げば名無し

つーか、ヒモ姉にそこらへんの事情聞けばいいじゃん

どうせ、片親のほうの隠し財産があったとかだろ

 

65:仰げば名無し

ヒモ姉は百万円渡された時の状況の詳細を頼む

 

66:小学生妹のヒモ姉

はい、わかりました

数日前に、私の中のモヤモヤとした罪悪感がつい漏れ出てしまって

妹ちゃんに「大学やめようかな……」って軽い感じで言ってみたんです。

そのとき、私と妹ちゃんはお夕飯を食べていて

あ、お夕飯はいつも妹ちゃんがつくってくれるんですけど

その日は、私の好きなハンバーグでした

チーズが中に入ってるハンバーグでお箸で切り分けた時に濃厚な肉汁といっしょに

とろとろのチーズが溢れ出してきて、すごくおいしかったです

 

67:仰げば名無し

すごくおいしかったですじゃねーよw

おまえの頭ン中、小学生かよww

 

68:仰げば名無し

すごくおいしかったです(小並感)

 

69:仰げば名無し

わたしが守る(キリっ)

って言ってるそばから実のところ既に胃袋を掴まれていたという衝撃の事実

というか、小学生の妹がなんで飯つくってんだよ

なんか毎日つくってもらってる感じだよなぁ

 

70:仰げば名無し

もうすでにヒモ姉はヒモ姉だった?

 

71:仰げば名無し

うんそうだね

もうヒモ姉は立派な小学生妹のヒモだよ

あきらめよ?

 

72:小学生妹のヒモ姉

ひーん

できるだけ詳細に述べようとしただけなんです

続けます……

えっと、ハンバーグがおいしくて、

つい心の中に溜めこんでいた気持ちが緩んだんです

それが「やめようかな」発言に至った理由なんですが、

妹ちゃんはその瞬間、ナイフとフォークをガシャンと落として

暗いひずんだ瞳で、わたしを見ていたんです

そして次の瞬間には、心をとろかすような天使のほほえみを浮かべながら

「どうしてそんなこと思ったの?」と聞いてきたんです

私は「両親の遺産が減っちゃうから」と言いました

そしたら「お姉ちゃんはわたしといっしょに暮らすの嫌?」とか聞いてきて

「嫌じゃないよ」と言いました

そしたら、「じゃあお金のことが心配なの?」って聞いてきたんで

私は焦りながら「うん。美大って結構お金使うからね」って答えて、

「そうなんだ」って感じで、それからはいつもどおりの食事を続けました。

あ、そのあと、「お姉ちゃんお醤油とって」って小首を傾げながらお願いしてくる妹ちゃんが

本当にかわいらしくて、なんていうか子猫がふにふに動くときみたいに胸がきゅんきゅんしてくるんです

それで、私の中ではさっきの問答は終わったものとして考えていたのでした……

 

73:仰げば名無し

闇深案件なのでは?

 

74:仰げば名無し

ヒモ姉、ちょっとポンコツすぎて草

妹ちゃんのほうがかしこく見えるのワイだけ?

 

75:仰げば名無し

もうこれは妹ちゃんの手のひらのうえで転がされまくってるな

 

76:仰げば名無し

ヒモカスがどうしようもないんで、

しかたねえなあと妹ちゃんが本気を見せた説あるわな

 

77:仰げば名無し

いくら本気を出すって言っても

小学生だから限界はあると思うぞ

焦らしているわけじゃないと思うんだが、

ヒモ姉の語りが下手くそすぎてジリジリするわ

 

78:仰げば名無し

まあいよいよ核心部分って感じだな

当然、ヒモ姉は百万円の出どころを聞いたんだよな?

 

79:仰げば名無し

いくらポンコツだからって聞かないとかいう選択はないだろ

相手はバイトもできない年齢だぞ

 

80:小学生妹のヒモ姉

はい。聞きました。

そしたら、「ちゃんとしたお金だよ」って教えてくれました……

 

81:仰げば名無し

そうなんだーって納得したわけじゃないよな!?

なぁ!? 大人の威厳ってやつを見せてくれよ。なあ!?

 

82:仰げば名無し

ヒモカスのここまでの言動を思い出すと、

一抹の不安がぬぐえない

 

83:仰げば名無し

それでもヒモ姉なら……ヒモ姉ならやってくれる

 

84:小学生妹のヒモ姉

いくら聞いても教えてくれませんでした……

 

85:仰げば名無し

ダメだこいつ……はやくなんとかしないと

 

86:仰げば名無し

なあ、おっちゃんが父親役として、家族になろうか?

 

87:仰げば名無し

キモいの湧いてくるから、ヒモ姉はしっかりしてくれ!

 

88:仰げば名無し

悲報。小学生にはぐらかされる大人がいるらしい

 

89:仰げば名無し

本当にヒモ姉はブレねえな

普通は妹ちゃんが犯罪に手を出してないかとか

あんまいいたかないが、パパ活とかしてないかとか

そんな想像をして必死になるだろ

戦わなきゃ現実と!

 

90:小学生妹のヒモ姉

やりました!やったんですよ!必死に!

その結果がこれなんですよ!

妹ちゃんに百万円もらって、話し合いをして、今はこうしてスレ立てしている。

これ以上何をどうしろって言うんです?

何と戦えって言うんですか!

 

91:仰げば名無し

ごめんて

妹ちゃんが悪いことしたかもって言ったワイが悪かったから

そんなにキレんといて

 

92:仰げば名無し

コミュ障レベルMAX

 

93:仰げば名無し

するってーと、なにかい?

ヒモの姉ちゃんは妹に百万円もらったけど

その出どころを知りたいってわけか

 

94:小学生妹のヒモ姉

そういう感じです

 

95:仰げば名無し

ハッキリさせておきたいんだが、

ヒモの姉ちゃんが知りたいのは「お金の出どころ」であって

「どうしたら妹がお金の出どころを教えてくれるか」じゃないんだな?

 

96:仰げば名無し

いっしょだろ?

お金の出どころを教えてくれれば、お金の出どころはハッキリするんだし

 

97:仰げば名無し

いや、いっしょじゃない

お金の出どころは、周辺の調査で明らかになる可能性もある

この場合は、通帳とかを調べるのがてっとり早いだろう

小学生が現金を出金するというのは窓口ではできないから

必然的にATMを使ったということになる

ヒモの姉ちゃんが通帳とキャッシュカードをすべて把握しているならそんなことは起こらない

つまり、ヒモの姉ちゃんが知らない通帳・カードがあるってこった

おそらくは妹の部屋が怪しいだろうから、妹が不在のときに徹底的に調べればいい

逆に妹ちゃんが教えてくれる方法を探るってんなら、

物理的な調査より妹ちゃんのプロファイルのほうが重要になってくる

こっちはヒモの姉ちゃんの伝聞ばっかだから情報が足りねえな

ヒモの姉ちゃんにはもうひと働きしてもらわねーと無理だろう

 

98:仰げば名無し

なるほどそうなるか

 

99:小学生妹のヒモ姉

妹ちゃんのお部屋を漁るなんてできません

そんなことしたら妹ちゃんに嫌われちゃうかもしれないじゃないですか!

先程の発言は撤回します

私は妹ちゃんが何を考えているかを知りたいんです!

 

100:仰げば名無し

だったらさ……リビングルームあたりに、

のっぺらゲンガーつきのカメラ仕掛けてもらって

妹ちゃんとのラブラブ生活をオレたちにお伝えしてもらおうぜ

 

101:仰げば名無し

それって盗撮なのでは?

 

102:仰げば名無し

でも妹ちゃんのお部屋に仕掛けるわけじゃないし

プライベートを確保しつつ、妹ちゃんの心の内を探るには最適だべ

 

103:仰げば名無し

まあ確かに、ヒモ姉のふわっふわな伝聞情報だけだと

いくら待っても真実は明らかにならなさそう

 

104:仰げば名無し

まあ監視じみてるような気はするが、

小学生という庇護しなければならない存在が

なにか危ういことに手をだしていないか調べるためにはやむをえん感じもする

ヒモ姉の絶望的なコミュニケーション能力に期待するよりはマシかもしれんし

 

105:仰げば名無し

スレ民からの信頼度がたった数レスで地の底なの草

 

106:仰げば名無し

のっぺらゲンガーさんは初期でもプライバシーは完璧だから

ネットリテラシー的にはちょいアウト気味ではあるが、

それは掲示板で語るのとほぼ同義ではある

要するに、掲示板に書きこんでいる時点で、いまさら感あるわ

 

107:仰げば名無し

正直、妹ちゃんとの尊い生活を眺めていたい

 

108:仰げば名無し

それなw ヒモ姉はまあ自由に決めてもらってもいいよ

カメラ通した直接的なデータのほうが真実明らかになるが

身バレする可能性はあるわけだしな

 

109:小学生妹のヒモ姉

はい。考えてみます。

 

110:仰げば名無し

ヒモ姉にまともに話せる友人がいればこんなことにはならんかったのになw

 

111:仰げば名無し

おいやめろ……その技はワイに効く

 

112:仰げば名無し

オレも小学生妹に養われてぇ……



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妹:スガキ・イソラ

 部屋の姿見の前で、わたしはくるりと一回転する。

 

 うん! 今日もベリィグッドにかわいいぜ!

 

 生まれ変わって10年も経過すると、さすがに女の子も板についてきたかな。

 

 うん。()()なんだ。すまない。

 

 いったい誰に向けて喋ってるのかって話だが、わたし須垣異空(スガキイソラ)は人生を二度経験している。

 

 一度目は社会人のニュービーまではいったんだが、なんやかんやあってあえなく昇天。いま流行りの神様転生ってわけでもなく、ふと気づいたらクソかわ女の子に生まれ変わっていた。

 

 ちょっとかわいいとか、もしかしたらかわいいとか、そんなレベルじゃない。

 もうアホかっていうくらいかわいい。

 

 男の視線っていうのが少し残留しているのか、この異空ちゃんという個体は天使とか妖精とかいう言葉が似合う。色素薄い系女の子だ。

 

 性転換少女の栄えある人気第一位の髪の色――白銀の髪。

 身長が低いせいもあるが、腰のあたりまで伸びていて、少し毛先がピンク色に染まっている。

 そして、エメラルドを思わせるような瞳。光の加減では宝石のように輝いて見える。

 キズひとつない肌はなめらかで、幼いながらも色香をまとっているかのよう。

 

 といっても赤ん坊の頃はよくわからなかったけどな。

 

 どうも外国ぽかったし、母親は日本人とどこかの国籍とのハーフらしかったけど、わたしを生んでからすぐに亡くなったみたいだし。パッパのほうは純日本人だったわたしから見れば完璧に外国人だったわけで、状況を把握するのに必死だったというのが実情だ。

 

 それで転機が訪れたのが五歳の頃。

 

 うちのパッパが日本人の奥さんをゲットした。

 もともとパッパは日本人に縁があったんだろうな。

 そのあたりの事情はよくわからないが、片親で育てる限界のようなものを感じてたんだろう。

 わたしも、できるだけ迷惑にならんように、パッパの言うことはすべて素直に聞く良い子ちゃんだったんだが、それがよくなかったのか、ワガママのひとつも言えない環境を強いているとか思っていたのかもしれない。

 

 もちろん、愛はあったよ。それは断言できる。

 両親たちはわたしが五歳の時から九歳になるくらいまで、本当に仲睦まじく暮らしていた。

 

 事故は不運だった。そうとしか言いようがない。

 

 たぶん、わたしがだいぶん育ってきて、一週間くらいなら大丈夫だと思ったのが理由だろうな。わたしがパッパの母国にいっしょに連れていかれなかったのは、遅かりし新婚旅行だったのかもしれない。

 

 幸いなことにという言い方をするのはよくないかもしれないが、新婚旅行に行くと言い出したのは、両親たちからだった。それで、わたしたちは学校があるからという理由で、ほんのわずかな間だけお留守番することになったんだ。

 

 誰も悪くない、と言い切れるのが幸いな理由だな。

 ただ、不幸な因果があっただけだ。

 

 正直、めっちゃ哀しかったのは事実だよ。

 でもさ、()()()()()()()()があるんだから、来世で幸せになってることを願うのが建設的じゃねって思った。だから、心を切り替えていこうって思ったんよ。

 

 実際、わたしには両親の死よりも考えるべきことがあった。

 

 葬儀のとき。両親を亡くして、小さく震えているお姉ちゃんを見て、

 

――あれ、これってエロゲ設定じゃね?

 

 って、思ってしまったんだ。

 

 エロゲではよくある設定なのだが、両親は不在であることが多い。しかも、両親を亡くした連れ子どうしというパターンもわりとありがちだ。親という良くも悪くも秩序をつかさどる存在がいなくなってしまい、より強い結びつきを求めて、劣情を燃えあがらせてしまうという仕組みなのだろう。

 

 つまり、つまり……そう。

 この状況はエロゲと近似する!

 いやまあ、わたし小学生女児だけど、そこは考えても仕方ないところ。

 わたしはお姉ちゃんとのふたり暮らしを夢想して、ひそかに興奮していたのである。

 

 しかし、そのときはまだ、わたしとお姉ちゃんをつなぐ絆に自信がなかったのも事実だ。

 過ごしてきた年月は嘘ではないが、血縁ではないからな。血は水よりも濃い。

 このまま万が一にでもわたしが見限られたら、児童養護施設ルートまっしぐらだ。

 

 いやまあ児童養護施設がダメってわけじゃないよ。前世も孤児だったし、そんなに悪くない生活なのは知ってる。だけど、生まれ変わって十年。わたしにも本当の家族ができて、それは得がたい経験だった。

 

――ありがたい。

 

 という言葉の本質的な意味がわかったよ。()()()()から、奇跡のようだから、感謝する。家族っていいなって思ったのは本当だ。

 

 それに、お姉ちゃんが心細そうにしていて、なんとかその壊れそうな心を守らなきゃって思ったんだ。家族がいないという経験をしているわたしと違って、お姉ちゃんにとっては家族がいることが当たり前だったわけだからな。

 

 人は最初から持ってないことには耐えられるが、一度手に入れたものを失うのは耐えがたい。

 

 空っぽの世界に放り出されたような気分だったのではないかと推察できる。

 

 なにか――、そう、なにか決定的な絆が欲しかった。

 

――ひとりぼっちはさみしいもんな。

 

 とっさに指を伸ばしたわたし超ナイス!

 

 お姉ちゃんの震えは止まって、わたしに向かって天使のほほえみを浮かべてくれた。視線は母親のように優しく、わたしは慈愛の聖母に守られている。そのとき、わたしとお姉ちゃんとの間に、本当の意味で家族の絆が生まれたように感じたんだ。

 

 もうお姉ちゃんという存在が尊すぎて、わたしは脳汁がでまくっていたんだが、普通に考えて、親が死んでるのに『お姉ちゃんとふたり暮らしだヒャッホーイ』と喜んでいる小学生がいたらクレイジーガールであることは論をまたない。

 

 いやなに。表情をコントロールするなんてたやすい。

 こちとら生まれた時からほぼ演技しどおしの人生だからな。

 

 わたしはしかめっ面をして、涙をこらえているふうを装いながら、お姉ちゃんのすべすべな指先を堪能していたのだった。

 

 持論だが、百合とは指先でちゅっちゅするのが至高である。唇でちゅっちゅするなんて所詮は二流よ。まあ、唇が悪いとは言わんがな。キスしてると顔が見えないじゃん。

 

 わたしは思ったんだ。

 

 ああ、これからわたしというお荷物を抱えて生きていくことに重責を感じて、曇らせ顔をしているお姉ちゃんがマジかわいい、ってな。

 

――度し難い。

 

 本当にマジ一回死んだほうがいいくらい度し難い。

 あ、すでに一回死んでるか。

 閻魔さまがいるのなら、お叱りはうけます。

 来世にご案内された両親にも土下座して謝ります。

 

 でも、言い訳をさせてもらえるなら、お姉ちゃんはわたしの推しだったんだよ。出逢った瞬間から推し活が始まったと言ってもいい。

 

 お姉ちゃんと出逢ったのは、両親が再婚した時。

 つまり今から五年前だ。

 わたしは当たり前ながら、当時五歳児で、お姉ちゃんは十五歳のうら若き乙女だった。いまも乙女だけどな。断言してもいい。処女膜から声でてる。

 

 そんなお姉ちゃんはわたしのことを最初は恐る恐る見ていたように思う。なんというか、未知の存在に対する恐怖というか、そのような感覚を受けた。お姉ちゃんはこわがりなのだ。わずか五歳の幼女に対しても、慣れてない子猫のように距離をとろうとする。そこがまたかわいいんだ。

 

 わたしはお姉ちゃんのかわいいところを百以上あげることができるけど、一番かわいいのは、その心性――こころのかたちであると断言できる。

 

 もちろんさ、身体も最高だよ。

 

 最初の最初。いちばん始めに出逢った頃は、そのとき既に超高校生級にお育ちあそばれてたお胸様を見て、清楚系なゆるふわな感覚とは裏腹にホントはドスケベなんじゃないのと夢見たものだ。

 

 いまでは立派に育ちきって、シャレになってないレベルでクッソエロい。

 もう、このごろは見ているだけで猥褻物を眺めている気分だよ。

 社会に対して申し訳なくないの?

 おっぱいが自白してるだろ、オラッ!

 と、言いたい気分だったが、わたしのキャラ的にどう考えてもあわないので、姉を慕う妹として、おっぱいに顔をうずめるにとどめている。卑猥なことは一切していない。

 

 外形的に見れば、小学生の幼い妹が姉に甘えるのはむしろ推奨される行為といえるだろう。特に両親がいなくなったばかりでまだまだ幼い見た目のわたしは、誰かに甘えられていると見えることが重要なのである。それで、周りも安心する。つまり客観的かつ正当な理由があって、わたしはお姉ちゃんのその豊満なおっぱいを堪能できるって寸法だ。

 もうね、人をダメにするおっぱいだよ。

 必ず一日一回はおっぱいダイブを決めにいく。基本イク。

 そんなわけで、お姉ちゃんは心も身体もわたし好み。

 わたしに家族を与えてくれた神様に感謝の祈りを捧げながら、わたしは毎日誓っている。

 お姉ちゃんのことは、ぜ~~~~~ったいに逃さないってね。

 わたしは手に入れたいものは全存在を賭してでも手に入れる主義なんだ。

 

 

 

 ※

 

 

 

 さて、そんなわけでお姉ちゃんと結婚することを決意したわたしだったが、難しい点がふたつほどあるのは誰にでもわかるよな。

 

 そう、性別と年齢だ。

 

 お姉ちゃんは性癖的にはたぶんノーマルだろうと思う。

 ただ、わたしが幼いから今はいっしょに住んでいるだけかもしれない。

 残された時間は、わたしが成人するまでと考えれば、あと八年かそこらか。

 

 年齢っていうのは、わたしが幼すぎて本気だと思われない可能性だ。

 しかし、これは逆に言えば、年齢を重ねれば重ねるほど払拭されていくともいえる。

 

 タイムリミットが迫るに連れて、お姉ちゃんに告白が通る可能性も高まる。

 

 泣いても笑ってもあと八年。だが、そこまで待つ必要もない。

 わたしが高校生になるくらいで十分だろう。

 JKは子どもと大人の中間存在だからな。

 そのときこそは、わたしのお姉ちゃん攻略と、わたしの年齢が最も調律の取れる時と判断した。

 

 それまでは雌伏の時。そう思っていたんだ。

 

 お姉ちゃんが誰か男の人をひっつかまえてというのは、ちょっと考えにくいし、わたしというストッパーがあるため、誰かとつきあうのは確率的に低いだろう。

 

 正直、お姉ちゃんの人生を破壊していることに罪悪感を覚えたりもするが、責任とるから! 絶対幸せにするから許して! と、内心で思いつつ、

 

――余裕かましていた。

 

 言うまでもないが、わたしは毎日のようにお姉ちゃんに尽くしている。

 朝に弱いお姉ちゃんを起こして、着替えを用意して、朝食をつくっておき、お昼のお弁当をもたせて、先に小学校から帰宅したわたしが買い物その他を済ませ、帰ってきたら軽くスキンシップ、おゆはんもつくって、いっしょにお風呂に入る。いっしょにお風呂入るのは五歳の頃から続けているので、惰性であるともいえるだろうか。

 ともかく、わたしに躊躇というものはない。

 常に全力全開。

 どっろどろになるまで甘やかして、わたしに依存させるよう仕向けている。

 お姉ちゃんが指一本動かさなくても、生活できるようにはしているつもりだ。

 

――それがよくなかったのだろうか。

 

 お姉ちゃんが先日、「大学やめようかな」という旨の発言をしてきた。

 どちらかといえば、石の下に隠れ住んでいるダンゴムシのような心性をもっているお姉ちゃんのことだ。

 今までも、わたしに負担をかけているとでも思っていたのだろう。

 いやいや、血もつながってないのに小学生といっしょに住むとか、それだけでも聖女様クラスだからね。

 わたしも、それなりに絆ストックしてきたから、まあそこは妹と住むという選択もありえるところだと思っていたけど、普通に考えれば、依存しているのはこっちであって、お姉ちゃんじゃない。

 それなのに、両親のお金を食いつぶしているとか考えちゃってたらしい。

 

 正直なところ、わたしは混乱していた。

 

 お姉ちゃんの聖女っぷりが、四の五の言わずにメチャクチャ好きって思ったのと同時に、同じくらい、わたしとは考え方が違うんだなって思ったから。

 

 ともかくこのままだと、お姉ちゃんが大学をやめてしまう。

 そうすると、その後はどうなるのかわからない。計画の練り直しが必要になる。

 

 おそらくは、仕事を始める気だろうと考えた。

 

 わたしといっしょに暮らさなくなるという線は「わたしのことが嫌になったの?」と聞いたら「違う」と言っていたから消えて、心底ほっとしたんだが、仕事を始めたらどうなるのかわからなかった。

 

 お姉ちゃんが経済的に自立してしまう。

 そうするとどうなるだろうか。

 

――わたしへの依存度が下がる。

 

 そう考えたら、血の気がサァっと引いた。いやマジでサァって感じ。

 脳みそから熱が奪われて、目の前がクラクラした。

 無意識のレベルで取り繕える微笑を浮かべて、なんとかバレないですんだが、わたしは嵐のような混乱のさなかにあったんだ。

 

 気づくと、わたしは次の日から数日かけてお金を引き出し、お姉ちゃんに差し出していた。

 幸いなことにお金はあった。お姉ちゃんに課金したいという仄暗い欲望を満たせて、少しだけ下腹部がうずいた。

 

 しかし、困惑するお姉ちゃんの顔を見て、さすがにまずったなとも思ったのも事実だ。

 

 いくらわたしに依存心を抱くように仕向けていたとはいえ、やりすぎがよくないことはわかっていたはずだ。

 人は誰かに甘やかされすぎると、逆に一念発起して、自立を目指す性質がある。

 お姉ちゃんがそういうタイプだってことは、大学をやめようかな発言で気づいていたはずだ。

 本当に迂闊だった。

 

 幸いなことに、お姉ちゃんは押しに弱い。

 わたしが聞くなという空気感を全開にすれば、あまり強くは聞いてこない。

 

 でも、いずれは明らかにしないといけないんだろうな。

 

 わたしがブイチューバーやってるってこと。

 



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妹はMSGKブイチューバー

 わたしがブイチューバーを始めたきっかけは両親の死だ。

 なぜ始めたのかは、正体を隠して小学生でも稼げる手段がそれしかなかったからとも言える。

 

 たぶん、小学生というアドバンテージを活かせば、顔出ししたほうがよかったかもしれんが、それをすると、どうしてもお姉ちゃんにバレてしまうからな。当然、個人勢だし、企業勢とコラボしたこともない。

 

 ここ一年でお金をそこそこ稼げるようになったのは、単純に運がよかったからだろう。

 実の両親がどちらともアーティストだったため、それなりに歌や楽器の演奏やイラスト描いたりするのとかにも素養はあるが、いまどきそんな才能のあるブイチューバーなんてごろごろしてるからな。単体要素でわたしがプロに勝てる道理はない。

 

 お姉ちゃんにバレてはいけない理由は、なかなか言葉にするのが難しい。

 わたしがお姉ちゃんと添い遂げるためには、お姉ちゃんをその気にさせなければならない。

 お姉ちゃんのわたしへの依存心を高めるというのは、基本的な方向性としては間違っていない。

 お姉ちゃんは引っ張っていくタイプというより、引っ張られる方を望むタイプだしな。

 

 しかし、いまの外形的状況をかんがみるに、お姉ちゃんとわたしの絆というのは、小学生の妹である()()()()()()()()()()()()()()()()()成り立っている。

 

 この理論はわかるよな?

 

 つまり、わたしには、「お姉ちゃんがいないと生きられない」と主張することで、お姉ちゃんと結婚するという戦略もありえたわけだ。

 

 しかし、その戦略がとりえないのは、お姉ちゃんの性格からして明らか。

 

 いずれ、お姉ちゃんがわたしという重荷に耐えかねて、離れていくことが予想された。

 お姉ちゃんはさみしがりやだが、孤独耐性はそれなりに強い。

 ひとりでいるのはイヤなくせに、群れたいとは思わないタイプだ。

 

 お姉ちゃんとわたしを繋ぐ紐帯は、依存心と自立心のギリギリの綱引きの上に成り立っている。

 

 だから、わたしの計画の最終フェーズは、高校生にあがったくらいに、わたし実はお金を稼げますが、それでもお姉ちゃんといっしょに暮らし続けたいですと主張するつもりだったんだ。

 

 既に計画は破綻してしまったも同然だが、お姉ちゃんに渡した百万円はタンスの中に大切にしまわれていて、今は宙に浮いている状態だ。伝え方次第では、まだ望みはあるだろう。

 

 しかし、どう伝えるのが正解なんだ。まったくわからん。

 

 しかたがないので、わたしはリスナーたちに聞いてみることにした。

 

 

 

 ※

 

 

 

「あ、また来たんだ。雑魚お兄ちゃんたち♡ こんな日曜の真昼間から小学生のわたしとお話したいなんて、彼女とかいないのぉ♡ 人生敗北者ぁ♡」

 

 はい。メスガキです。

 容姿は一言でいえばロリサキュバスって感じかな。

 特徴的なのは、ちっちゃな羽にハート形のしっぽ。

 ほっぺたに☆マークついてて、紅い瞳の奥にはハートマークが浮かんでる。

 おなか丸出しの短めなトップに太ももまるだしの短パン。やたら肌色率が高い恰好だ。

 黒髪が短めのツインテールになっていて、幼く生意気そうな印象を抱かせる。

 ブイではイラストレーターのことをママと呼称したりするが、このキャラのママはわたしだ。

 なお、小学生という設定だが、まさか中身がリアル小学生だとは思っていないだろう。

 中身クォーターで、声質もいくらかか変えられるわたしは、幼いながらも聞き取りやすい声もそれなりに出せる。

 

『くそおおお』

『初手罵倒が疲れたこころに効く』

『イソラたんでしか摂れない栄養素がある』

『男を手玉にとる術を知っている小学生』

『ハァ……ハァ……敗北者?』

『取り消せよ。今の言葉』

『もはや様式美ですらあるな』

 

 ちな、わたしのブイチューバ―ネームは、メスガキ・イソラという。イソラは本名だが、まあわりとキラキラしているから、本名だとバレることはないだろう。

 

 さて、今日はリスナーたちに話を聞きたいわけだが、いきなり話を聞くというのもぶしつけな感じがした。

 まあ、なにをしゃべってもいいとは思うんだが、リスナーも一枚岩ではないからな。

 ここは選別が必要になるだろう。

 

「あのさぁ。今日はわたし暇だからお兄ちゃんたちとゲームしてあげるね♡」

 

『ゲームだと?』

『イソラちゃんとゲーム……むふふ』

『お膝に乗せてゲームかな。いいよ?』

『唇に指を持っていってゲームに誘うのほんとエッチ』

『おまえさん、少々エッチすぎやせんか』

 

「ゲームの内容はぁ……人狼ゲームです♡ 知ってるよね人狼♡」

 

『宇宙じゃないほうの人狼?』

『メスガキちゃんに人狼ゲームとかできるの?』

『小学生に負けるかよ』

『人狼ゲーム自体を理解していない輩がいる』

『男は狼なのよ。気をつけなさい』

『イソラちゃんが涙目で食べられる姿を想像して捗る』

 

「ふうん。だいたいみんな知ってるみたいだね♡ じゃあ今回は上級者村ってことで村建てするから、自信のあるお兄ちゃんだけ来てね♡ 雑魚お兄ちゃんがきたら容赦なく罵倒するから覚悟してね」

 

 とはいえ――、本当に強いリスナーが来るかは五分五分だろう。

 ただひとりふたりでも論理的思考能力が高いやつが来てくれると望ましい。

 集合知ってやつはマジで侮れんからな。

 少なくとも、AIに聞いてもらうよりも、ずっと正確な答えを出してもらえると思う。

 試しにAIちゃんに聞いてみたら、初っ端に法律的かつ倫理的に小学生妹がお姉ちゃんと結婚するのはダメって言われたからな。

 連れ子だから大丈夫だよって言っても、結局のところ結論はお姉ちゃんとよく話し合って決めろだ。はー、つっかえ。丸い回答なんてこちとら求めてないんだよ。

 ほんとAIちゃんはイイ子すぎて使えん。メスガキを舐めるなと言いたい。

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで人狼ゲームは始まった。

 

 いちおう、マジで人狼ゲームを知らないクソ雑魚お兄ちゃんのために説明すると、人狼ゲームとは、村人陣営と人狼陣営に別れて、推理を戦わせるゲームだ。村の中に人狼がまぎれこんでいて、一夜にひとり噛まれる。村人は人狼を昼時間にひとり吊ることで村の平和を取り戻す。

 

 なんの能力も持たない村人――素村は村民が人狼か村人なのかの区別がつかない。

 まあ、そこで能力持ちの占い師とか、霊能力者とか、狼の襲撃から守れる狩人とかいるわけだが、セオリーはあるものの、最後にモノを言うのは論理的思考力と発言の説得力だと思う。

 

 村の構成は、わりと標準的な12B。

 

 この村には村人にも人狼にも属さない狐という役職が存在する。狐については、人狼が過半数を越えたときに生存していれば勝利という役職だ。

 

 なお、罵倒は禁止だが、メスガキにおいてはこの限りではない。メスガキは煽り、煽られるのがお仕事だからな。ふふん。

 

 で、今回わたしは村人か。

 

 正直なところ、リスナーたちはわたしの活躍を見たがっているから、なるべく最後まで吊らない方向でいくとは思うが、忖度されて生き残るなんて正直ごめんだ。

 

 意見噛みといって、発言が鋭い村人は人狼に噛み殺される可能性もあるが、わたしは有能アピして生き残っていくぞ。

 

 で、生き残りました。いまは4日目。

 

 よっぽどのレアケースでなければ、狐は吊れたと思う。

 でも、狼については吊れていない。ひとり目星はついたけど、誰も指摘しないな。

 しゃーねえ。ここはバッチリ決めてやりますよ。

 

「あは♡ マジで雑魚狼見つけちゃった♡ よわよわだね♡」

 

メスガキスキー『ほう』

おねロリのおね『今の時点でわかるの?』

MSGK泣かし隊『メスガキちゃん意外にも賢くてワイ震える』

萌えるお兄さん『ざこざこ狼さんでてらっしゃい』

腹パン大魔王『イソラを感情吊りしたい』

わからせマン『イソラちゃんが真っ白すぎて、ここ盲信で村勝てそう』

 

「ねえ、萌えるお兄さん♡ メチャクチャな発言は見せかけで、本当は狼なんでしょ♡」

 

 萌えるお兄さんは初日からカスみたいな発言しかしてこなかった。

 普通に見れば、ここは村人でありながら狼陣営である狂人の線が濃い。

 しかしながら……、

 

「萌えるお兄さんが吊り縄をいま逃れられているのは、ニート兄ぃが真占いではなくて狂人だったから。つまり狂人ムーヴをしていた萌えるお兄さんが村視されるからだよね♡」

 

MSGK泣かし隊『いやまあ普通に考えてそうじゃないか? 萌えるお兄さんの行動は初日から臭かったが、言動に一貫性がなくてフラフラしているように見えたぞ。思考力よわよわの残念村人のほうが可能性として高いような気がする』

 

萌えるお兄さん『はぁ。こりゃ狼すけちまったな。どう考えてもイソラちゃんが狼じゃん』

 

「くっさぁぁぁ~♡ それが演技だって言ってんだよ。雑魚狼さん♡」

 

メスガキスキー『お口わるわる……芸術点高いな』

腹パン大魔王『メスガキ吊って、この村燃やそうぜw』

わからせマン『なにげに言葉しゃべって、瞬間的に打鍵されるソフトつえーな』

おねロリのおね『キーボードぽちぽちするのお姉さんにはちょっとツライわ』

メスガキスキー『個人的には、打鍵するほうが思考をまとめるにはよいな』

MSGK泣かし隊『オレもその線だわ。コミュ障だからな……』

おねロリのおね『わかる』

腹パン大魔王『わかる』

わからせマン『わかる』

 

「だぁ! 議論時間短縮するために、主張するね。萌えるお兄さんを狼視する理由は、致命的なミスがあったからだよ♡」

 

萌えるお兄さん『致命的なミス……、そんなの……』

 

「あるんだよこれが♡ ねえ、教えてほしいな。どうして、萌えるお兄さんは三日目に『呪殺かぁ。吊り余裕ないなった~』って言ってるの?」

 

萌えるお兄さん『あ?(威圧)』

メスガキスキー『あ、マジだ』

腹パン大魔王『あーなるほどそういうことか完璧に理解した』

おねロリのおね『あの日の時点で、狼狼狂生存が見えていたってことね』

MSGK泣かし隊『ムカチャッカ半島とニート兄ぃが両偽占いだとわかってた?』

 

「そういうことだよ。ついでに言えば、今日、霊能がニート兄ぃに白出しする前に、萌えるお兄さんは、『吊り余裕孕めって願ったかいがあったな』とか、ぬかしてるわけだけど、孕むっていうのは、要するに0が1になったことを示しているわけだよね? ねえどうして吊り余裕が1になったのを知ってるのかなぁ♡ なにか反論ある? 萌えるお兄さん♡」

 

萌えるお兄さん『うぐぐ……』

 

「ないよねえ? だって、それって真占い師が嫉妬マスク三世だって知ってなきゃできない発言だもの。あの時点で、それを知っているのは、真占い師である嫉妬マスク三世本人か、さもなくば、失言しちゃったクソ雑魚狼さんってわけ♡」

 

萌えるお兄さん『でも、オレが狂人って線もあるじゃん』

 

「ははっ。お兄さん語るに落ちるってのはこのことだよ♡ ほんとよわよわ雑魚狼さんだったんだぁ♡ 小学生に負けて悔しいですかぁ♡ はい、以上証明終了でぇす♡ 真狩のMSGK泣かし隊お兄さん、指定お願いしまぁす♡」

 

MSGK泣かし隊『わかった。指定:メスガキ』

 

「はぁ????」

 

 いみふなんだが。

 ちょっと泣きそう。

 

腹パン大魔王『感情吊りワロタwwww』

メスガキスキー『お前の言う権利は全力で守るが、お前の言うことは気にくわないw』

おねロリのおね『ちょっと男子ぃ。イソラちゃん泣きそうじゃない』

わからせマン『でも、そこがよくない?』

おねロリのおね『まあそうねえ』

 

「ちょ、ちょっとまってよ。どう考えてもおかしいでしょ!」

 

MSGK泣かし隊『ごめんごめん。ちょっとした冗談だよ。指定:萌えるお兄さん』

 

「ふぅ。ひやひやさせないでよ」

 

腹パン大魔王『いつも思うんだけど、イソラってメスガキっぽくないよな』

メスガキスキー『まあそこがよくもあり、悪くもあり』

わからせマン『演技にしても、わからせの理論を理解してそうで、オレ的には良い』

 

萌えるお兄さん『こんなはずでは……。あとで絶対わからせてやるからな!』

 

「ちっちゃい遠吠えだね♡ これじゃお兄さん、狼じゃなくてチワワだよ♡ 負け犬おっつ~~♡」

 

萌えるお兄さん『くそおおおおおおおおっ!!(微興奮)』

 

 ともあれ、萌えるお兄さんは吊られて、あとはラストウルフだ。

 

 そのあと、紆余曲折合って、結局わたしとラストウルフであるわからせマン、そして判定役のメスガキスキーが残されることになった。

 

 わからせマンは狼とのラインは切れているが、わたしの白要素は十分なはず、負ける要素はたぶんない。

 

「そういうわけで、わからせマンは黒いってわけ」

 

 わからせマンの黒要素も十分に拾えたし、わたしには萌えるお兄さんを吊ったという実績もある。これで負けるわけがない。

 

メスガキスキー『ううう……わからん。マジでわからん。確かにイソラは死ぬほど白いが……』

 

「ちょっとは脳みその回転数あげていこうよ。メスガキスキーお兄さん。少し考えればわたしが村人なのはわかるでしょ? これでわからなかったら、お兄さんのことさげすんじゃうよ♡」

 

メスガキスキー『正直なところ、オレにはメスガキとわからせマンのどちらが狼かはわからない。単体の黒要素白要素はほとんどメスガキが村人であることを告げているからな』

 

「だって、わたし村人だもん。当然でしょ」

 

メスガキスキー『けどな、萌えるお兄さんが死に際に言った言葉を思い出すとわかるぜ』

 

「はあ?」

 

メスガキスキー『あいつは、最期に『こんなはずでは……』と言っていた。こんなはずではなかった。つまり、ラストウルフであるメスガキから、相談もなく裏切られたからとっさに出た言葉だったんだ」

 

「いやいやいやいやおかしいでしょ!? メスガキスキーは普通に考えるってことを覚えよ? 順当に考えれば、こんなはずじゃなかったって、メスガキごときに見破られるとはって意味じゃん。わたしが身内切りしたとか考えすぎだから」

 

メスガキスキー『舐めるなよメスガキ。オレが……オレたちがわからせてやる!』

 

「思考がロックすぎるでしょおおおおおおお!」

 

 見事なまでの逆噴射である。

 あえなくわたしは吊られ、狼陣営の勝利とあいなった。

 




すみません。
矮小ながら、作者は承認欲求に飢えております
どうか感想評価なんでもよいので
お恵みをいただければ幸いです
そこまで壮大なお話ではないですが、楽しんでいただけるようがんばります


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感想戦と百万円の行方

「ま、負けちゃった。なんで、なんでなんで、なんで?」

 

『イソラわからせ達成』

『負けたことで得るものもある』

『岡目八目だが、イソラは白すぎて黒かったな』

『ほんと、白すぎて盤面操作した狼に見えるよな』

『メスガキスキーだが、本当にすまなかった。かなり悩んだんだが』

『わからせマンです。いやぁ。なんか知らんが勝ったわw』

 

「うぐぐ。メスガキスキーお兄さんは後でお仕置きね」

 

『やったぜ』

『度し難いな』

『メスガキスキーはワンチャン、わざとイソラに投票した説あるで』

『メスガキはわからせるものだからな』

『ほんそれ。狼わかってても、わざとイソラに入れるかもわからんで』

『いやそれはないって。マジでちゃんと考えたから許し亭許して』

 

「ううう。許すよ。みんな、イソラのゲームの心得を復唱!」

 

『エンジョイ&エキサイティング!』

『エンジョイ&エキサイティング!』

『エンジョイ&エキサイティング!』

『メスガキ&わからせ!』

『ここでメスガキスキーを必要以上に攻撃しないところがイイ子なんだよなぁ』

『隠しきれない非メスガキ要素あるよな。どちらかと言えばポンコツぎみな』

『小学生ですよ。ポンコツなのではなく、順当なのです!』

『いわば真のメスガキ』

 

「さて……、人狼のことはこれでおしまい。切り替えていこうかぁ♡」

 

『話題変えるの早いな』

『まあええで。人狼おもしろかった』

『いつものメスガキ雑談か』

『リアル小学校の話でもする?』

『おじさん小学生女児の生活に興味があるな』

『通報ボタンはどこかなっと』

『言うて、ストゼロ飲んで、半ニート生活やろ』

『夢のない話はやめろ』

『イソラは小学生だとオレは信じてる』

 

「今日の雑談は~♡ ちょっと真面目な人生相談なんだぁ♡」

 

『人生ちょろいとか考えてそうなメスガキが人生相談だと?』

『人生相談するのはいいが、オレたちが相手で本当にいいのか?』

『お兄さんが人生をわからせてあげよう』

『いいよ。オレとしては、子どもはふたりがベストかな』

『メスガキちゃん、ついに企業勢になるとか?』

 

「実はぁ~~♡ わたしには大大大好きな人がいるのです♡」

 

『はぁ?』

『イソラちゃんのファンやめるわ』

『メスガキが色気づきやがってよぉ』

『小学生が恋とか早くない? おっさんは40でまだだよ』

『おっさんがかわいそうすぎる』

『おおおおおおちちちちつけ』

 

 やはり、ブイチューバーは実質恋愛禁止な感じではあるよな。

 どう伝えるにしろ、ある程度の衝撃があるのは予想していた。

 わたしは、みんなが落ち着くまで、少し間をとる。

 

 小悪魔っぽく、ニヤぁと笑って。

 

「お姉ちゃんのことだよ♡」

 

『ほ』

『なーんだ。姉かよ』

『姉妹百合? やだ興奮しちゃう』

『さきほどのおねロリのおねですが、詳しくお願いします』

『お姉ちゃんのことが大好きなメスガキ』

『メスガキという概念が壊れる』

『ワイにもイソラちゃんみたいに大好きって言ってくれる妹ほしかった』

『イソラちゃんのお姉ちゃんもメスガキだったりするのかね』

 

「背景事情を説明するね。まず、わたしとお姉ちゃんは片親どうしが結婚した連れ子なんだ。それで、両親は死んじゃって、いまはお姉ちゃんとふたり暮らししてる」

 

『いきなり激重案件』

『義姉妹百合ですか。実質スールやんけ』

『これって、イソラが男だったり、あるいは姉ちゃんが男だったりすると、エロゲ設定よな』

『まあ、マジで両親亡くなってるなら茶化すのはよくないが……』

『小学生の姉が何歳なのかはわからんが、ふたり暮らしってできるもんなの?』

『年齢にもよるんじゃないか?』

 

「お姉ちゃんはいま大学に通ってる20才の美少女だよ♡」

 

『20歳で美少女……、少女という概念が壊れる』

『大人のお姉さんだな!』

『ちょっと頭冷やそうか』

『つい最近、似たような話をどっかで聞いたぞ』

『うーん、イソラちゃんがリアルJKくらいの可能性もあるのかこれ』

『お姉さんは20歳(28)かもしれんし、そのあたりはなんとも』

 

「問題はさぁ。わたしの大好きなお姉ちゃんが大学やめようかなって言い始めちゃったの。正直焦ったわ。わたしと暮らすのがイヤになったんかなって思ったからね。でも、そうじゃないみたいで、大学通うのってお金かかるじゃん。両親の遺してくれたお金は、わたしとお姉ちゃんが均等に相続してるから、いわば共有状態なんだよね。それで、その共有財産を減らしてるって意識で罪悪感を抱いたとかそういう感じかなぁ」

 

『お姉さんは責任感あったわけだな』

『両親が死んだあとに血のつながってない妹と暮らす姉とか聖人かよ』

『まあ、たぶん共依存』

『イソラがお姉ちゃん大好きな理由がわかった気がする』

『ふーむ……』

『片親どうしなら、片親の財産は片親の子に引き継ぐってこともあるだろうが……』

『法定相続したんだろ』

『イソラが親族に引き取られなかったのは、お姉ちゃんが偉かったから?』

 

「そうだね。お姉ちゃんは本当に天使みたいな人なんよ。もうメッチャ好き♡ 結婚したい♡ 言っとくけど、これマジだかんね。わたしはお姉ちゃんと結婚する♡」

 

『結婚したのか……オレ以外のやつと』

『さっきとは違った意味で激重案件』

『これ、イソラはメスガキじゃなくてヤンデレなのでは?』

『姉が出てったらワンチャン監禁閉じこめあるで』

『……いやまさかそんなことがあるのか』

 

「それで、ざこざこお兄さんたちに考えてもらいたいのはぁ♡ わたしがみんなからもらったスパチャを、お姉ちゃんに課金しちゃった件についてなんだ。具体的には百万円くらいね」

 

『いいはなしだなー』

『ワイらのお布施がお姉ちゃんの進学に使われていただと』

『これイソラも聖女じゃん。もう二度とメスガキできないねぇ……』

『いや大好きなものに課金する。私利私欲の行動だ。メスガキはメスガキでありつづける』

『オレのスパチャが有意義に使われたようでなにより。\50000』

『ナイスパチャ』

『ナイスパパ』

『これは足長おじさん』

『お姉さまのプロフィール教えてください。\10000』

『お姉ちゃんゲットしようとすんなw』

『しかし、大学辞めようとした姉君が百万受け取るか?』

 

「んー。腹パン大魔王お兄ちゃんスパチャありがとうございます。おねロリのおねお兄ちゃんもありがと♡ お姉ちゃんは一言であらわすとエッチな感じです。それと、ちょっと頭のいい雑魚お兄さんの言う通り、百万円はいま宙に浮いてる状態かな」

 

『おねロリのおねって、おね兄ぃさまみたいな概念になってるな』

『えっちなお姉さん』

『エッロいお姉さんに情緒を破壊された小学生の妹がいるらしい』

『イソラってマジで小学生だったんだな……』

『まあ、それはそれとして百万円をどうするかが問題か』

 

「そうなんだよね。この百万円なんだけど、もうなかったことにはできない。じゃあ出所はって話になるけど……これブイチューバーでスパチャ投げてもらったって言っていいのかなって」

 

『そりゃええやろ』

『なにを悩んでいるのかよくわからん』

『半ニートないし義務教育なメスガキが実は自立可能ってことの何か問題が?』

『マジ小学生だからだろw』

 

「わたしが稼げる女とか言っちゃうのって、お姉ちゃんがわたしを見限ってもいい理由になっちゃうじゃん。そりゃまだわたしが小学生だから保護者としてお姉ちゃんは自分のことが必要だと考えてくれるかもしれんけど、それだとわたしが自立できる年頃になったときに、お姉ちゃんの保護が必要なくなったって判断されて、最後に結婚できないじゃん」

 

『結婚前提なんだなw』

『小学生の段階で結婚を考えるなんてイソラちゃん早熟よな』

『お姉ちゃんにガチ恋してる時点で、かなり特殊性癖』

『いや、結婚したいっていうのは、あれやろ思春期特有のあれ』

『小学五年生という設定で考えると、恋慕というより母性を感じてるのでは?』

『うーん。残された家族ということで言えば、普通に考えれば母親が恋しいのかな』

 

「ム。違いまぁす! わたしはお姉ちゃんに母親的な思慕を向けてないよ。なぜなら、わたしはお姉ちゃんに対して欲情しているから。お姉ちゃんガチ恋勢だからね♡」

 

『姉に欲情する小学生妹っているか?』

『そこにいるんだよなぁ』

『まあ、メスガキがガチで小学生でなくても、義姉に性欲を覚える義妹っておるんか?』

『ン~、家族愛とブレンドされているようで、よくわからんよな』

『残された家族と別れたくないってのはわかるよ』

『義理というのは逃げだわ。実の姉に欲情してこそ真の百合だと思う』

『おまえも今日からファミリーだ!』

 

「ねえ。話が脱線してるよ。いままでのわたしの思考でわかりにくいところあったかな。わたしはけっこう思考開示するタイプだから、質問があったら答えるけど、みんなには百万円の出所をどう表現したらいいか考えてほしいな♡」

 

『うーん。イソラは姉の保護者的立場を保持したいわけか』

『もうこれ無自覚百合なんじゃね? オレは既に尊さを感じはじめてる』

『姉は妹を想い、妹は姉を想うか。確かにてぇてぇ』

『百万円の出所を考える前にメスガキは姉ちゃんをどうしたいんだ?』

 

「えーっと、MSGK泣かし隊お兄ちゃんの質問だね。さっきのゲームではかっこよかったよ♡ で、質問内容だけど、わたしはお姉ちゃんを伴侶にしたいって言っても、回答にならないかな?」

 

『そうだな。メスガキは姉ちゃんを自分に依存させたいのか?』

 

「そうだね。基本戦略としては依存させたいって思ってるよ。わたしなしじゃ生きられないようにしたい♡ でも、いまお金まで渡すのは時期尚早だったかなと思う。小学生のわたしがお金を渡しても、お姉ちゃんの被保護者としての立場を維持したいからって思われかねないから」

 

『はい今月の家族料だよお姉ちゃん \10000』

『スパチャになんてこと書くんだよw』

『まあ、そうなりたくないって話だよな』

『イソラは、自分が保護者になりたいタイプなのか』

『愛されるよりも愛したいマジで』

『ヤンデレさんならそう考えても不思議じゃない』

『愛したいってのも依存心だよな。クソデカ感情クラスの』

 

「そうだね。お姉ちゃんなしじゃ生きられないのはわたし。それは知ってる。結婚っていうのもべつに法的な制度での結婚って意味じゃなくて、死ぬまでずっといっしょにいたいってこと。でも被保護者の立場から保護者の立場に切り替わるって、すごくタイミングが重要じゃない?」

 

『ふむ。これって客観的に見て百万円を受け取ったら、姉は小学生妹のヒモになるわけだよな』

『小学生妹のヒモかよwww』

『プライドがちょっとでもあったら、恥ずかしいってレベルじゃねーな』

『それがマジの事態だからオレ氏ちょっと混乱してる』

『家族愛コースだと、お姉ちゃん無しでは生きられないって言えばいいんじゃ』

 

『家族愛を利用して求婚を迫ると、最終的に家族は離れ離れになると思っているわけだな』

 

「うん。そうだよ。MSGK泣かし隊お兄ちゃんの言うとおり。保護―被保護の関係だとどうしても保護者側が選択肢を持つわけじゃん。わたしが保護者ならお姉ちゃんをずーーーーーーっと甘やかすことができるでしょ♡ ずーーーーーと逃がさないこともできるわけでしょ♡」

 

『ひえっ』

『小学生が怖い』

『ヤンデレメスガキとか、新しいジャンルを開拓していってるな』

『家族はバラバラになってしまうという確信は、両親が死んだトラウマのせいなのか……』

『イソラちゃん、ワイが家族になろうか?』

『小学生だもんね。しかたないよね』

 

「だーかーらー! 違うって言ってるでしょ。頭わるわるなの? お兄ちゃんたち。両親が死んだのは悲しかったけど、それとこれとは話が別。わたしもそういうふうにお姉ちゃんに誤解されるのがイヤだから困ってるんじゃん」

 

『わかってるわかってる』

『ワイらは全部わかってるで』

『お姉ちゃんとずっといっしょに暮らしたいんだもんな』

『イソラのメスガキ設定がガタガタなんですがそれは』

 

「ともかくさ。百万円を渡しちゃったら被保護者の立場はむしろ強まっちゃうと思うわけ」

 

『まあそりゃそうよ』

『小学生が自分のお金を渡して、これでお姉ちゃんは自分の夢を追ってとか言ってるわけだろ』

『愛だよ愛』

『けなげに見えるんじゃね?』

『家族を失いたくないけなげな小学生。絶対守らなきゃって思うと思うよ』

『あー、だから家族愛コースだと、最終的には離れていくって考えなのか』

『依存させてきた姉が、けなげな妹の姿に心をいれかえて逆に自立心発揮というパターンか』

『コツコツ依存させてきたのが全部無駄になっちゃったね?』

 

「そうなんだよなぁ。いままで朝昼晩の食事作って、掃除して、お姉ちゃんをキレイに見せる服をコーディネイトして、疲れてそうだったらマッサージしたり、お風呂にいっしょに入ってスキンシップしたり、いろいろしてきたのに! あと五年もすればわたしなしじゃ生きていけないって言わせる自信あったのに! 計画が全部無駄に終わりそうで頭を抱えているんだよ!」

 

『すげえwww』

『おまえさん、本当は小学生じゃないだろ。いやまあ知ってたが』

『どんだけ姉を甘やかせば気が済むんだ』

『ご奉仕することに喜びを覚えるタイプか』

『奉仕系メスガキとかなにそれ新しい』

『まあ、メスガキはやっぱ偽設定だよな』

『いまどきの小学生の超スペックにオレ氏絶賛大混乱中』

『でもこれだけ依存させてれば今でもワンチャン通りそうな気もするが』

『チャレするのも悪くないかもしれんな』

 

「うーん。そう思う? わたしがお姉ちゃんを飼いたいって言ったら、お姉ちゃん受け入れてくれると思う?」

 

『飼いたい言っちゃったよw』

『いま脳内で、小学生の妹から飼いたいって言われる様を想像してみた。ねーわww』

『オレはメスガキちゃんなら飼われてみたいかも』

『特殊性癖だからなぁ。こじらせてない限りは、普通は拒否ると思う』

『あのさぁ。メスガキをわからせちゃうのもなんだが、お姉ちゃんの気持ちが第一じゃね?』

 

「まあ、お姉ちゃんの気持ちは大事だよ。わたしも自分勝手なだけじゃないから、お姉ちゃんがどうしてもひとりで暮らしたいなら……なら……いや、やっぱダメ。絶対ダメ。想像しただけで吐きそう」

 

『悲報。イソラ壊れる』

『頼むから事件だけは起こさんといて』

『んー。イソラは姉ちゃんが卒業した後のことはどう考えていたんだ』

 

「あ、お姉ちゃんが卒業後の計画ね。うーん、お姉ちゃんが卒業したあとは、独立起業するかそれとも就職するかはわからないけど、仕事をしようとするんじゃないかって思ってたよ」

 

 ぶっちゃけ美大の卒業後のプランはわたしもよくわかっていない。

 アーティストとして大成するかは運しだいだと思うし、普通はどこかの企業のデザイナーとかそういうのが多いんじゃないか。

 

「まあ、お姉ちゃんが仕事を始めるとして、自尊心と自立心が芽生えてくるなら、それも悪くないと思ったよ」

 

『その心は?』

 

「その心は、お姉ちゃんに自尊心とか自立心がないわけじゃないからね。わたしはお姉ちゃんの保護者的立場におさまりたいわけだけど、甘やかすのも限界がある。お姉ちゃんが自尊心とか自立心を満足している状態なら、お姉ちゃんがわたしに甘える言い訳になるかなって♡」

 

『この子、小悪魔だわ』

『堕ちろ堕ちろって言いながら、必死こいてご奉仕しているメスガキがいるらしい』

『なんか言ってることが無茶苦茶な気が……ワイの頭が悪いんやろか』

『今の段階で大学やめようとしているのって、その仕事が早まっただけなんじゃね?』

 

『盤面整理。メスガキ=姉の保護者になりたい。そのために、姉のメスガキへの依存心を調整したい。現状、メスガキが小学生なので姉の保護者になるのは無理。ここで姉を飼いたいといっても通る可能性は低い。メスガキの計画では五年も経てば、メスガキへの依存が完成していたが、当初の目論見よりも姉の自立心は強かった。このままでは姉をヒモにするという計画が破綻してしまう。苦肉の策としてとっさに百万円を差し出したが、今、姉をヒモにしたいと言っても通らない。どうしましょって感じか。\10000』

 

 盤面整理おつ。

 まあ、そんな感じだ。

 百万円の議題は続く。

 

「さっき、盤面整理してもらったけど、本当そんな感じなんよ。だって、突然お姉ちゃんが大学辞めるとか言い出すから、わたしも混乱しちゃって、どうしたらいいかわからないからとりあえず百万円をおろしてきたの」

 

『どうもこうもないんじゃない? 姉が受け取る気ないなら受け取らせるのは無理だろ』

『いまさら遅いが、百万円を渡さないほうがよかったかもな』

『姉の立場で見ると、突然小学生の妹から百万円渡されて絶賛大混乱中だと思うw』

『まさか妹が姉と結婚したいがために、混乱して繰り出された一手だとは……』

『そんなの誰にも予想できんわなw』

『うん。まさにそんな感じ。普通は妹ちゃんがけなげさ見せてると思われちゃう』

 

『素直にブイで稼いだって言うのがいいんじゃないか。それで、自分は稼ぐ能力があるからお金のことは心配しないで、お姉ちゃんは自身の夢を追ってほしいと言う。ついでに両親のお金はわたしとお姉ちゃんのものだから、お姉ちゃんもちゃんと自分のために使ってと媚び媚びで言う。これでメスガキの株は爆上がりって寸法よ。\500』

 

「嫉妬マスク三世お兄ちゃん。スパチャありがとう♡ うーん、難しいのは今という時間なんだよね。今、わたしがそんなふうに説得してお姉ちゃんが大学に通い続けたとしても、わたしへの依存心じゃなくて負い目になっちゃわないかな」

 

『負い目になったらなにかまずいんか?』

 

「負い目を払拭するために、しゃかりきになって自立しようとしないかな?」

 

『そして自立したあとに、無事姉に棄てられると』

 

「ヤダヤダヤダーーーーーーーーーーーーーー!」

 

『うるせえw』

『メスガキ発狂する』

『しかし、やはり遅かれ早かれなんだと思うぞ』

『姉ちゃんは自立したかったから、大学辞めて仕事しようと思ってるわけやしな』

『さっきから、このメスガキわめきまくってるが、お姉ちゃんにばれへんの?』

『そういやそうだな。いっしょに暮らしてるのに大丈夫なのか?』

 

「あ、うん。この部屋もお姉ちゃんの部屋も完全防音仕様だから大丈夫だよ。親が音楽関係の仕事だったから、子どもにもそういう環境を与えたいって言ってたから」

 

 ついでに言えば、部屋の前に呼び鈴がついているんだよな。

 互いに部屋の鍵は持ってるけど、勝手に入ったりはしていない。

 お姉ちゃんの許可をもらって、部屋の掃除くらいはするけどね。

 

『金持ちの子って感じだなー』

『しかし、結局姉ちゃんの気持ち次第じゃないか』

『ブイだろうがなんだろうが、お金を渡した時点で、どう伝えたとしてもな……』

『依存させたいという依存症』

『でも負い目になるかどうかも、正直姉次第じゃね?』

『それに大学卒業したあとはどうあがいても仕事始めるわけだしな』

『メスガキとしては、姉が仕事するのはイヤなんか?』

 

「お姉ちゃんが仕事を始めること自体はイヤじゃないよ。仕事をして自立心が()()()()()()、わたしがいなくてもよくなるのがイヤなんだ」

 

『しかし、それは我儘ってやつだろ』

『お姉ちゃんもひとりの人間なんだしさ』

『メスガキにこう言うのもなんだが、大人になれよw』

『小学生に大人になれっていうのも酷だなw』

『ほんとそれw』

 

 くそお。みんな好き勝手言いやがって。

 これじゃ、わたしが本当にわからせられているみたいじゃないか。

 結局のところ、集合知を用いても結論が出るような問題じゃなかったってことか。

 

『時期ということに着目するなら、姉に対して大学じゃないといっしょにいる時間が少なくなるからイヤだって説得するのも手かもしれんな』

 

 ン? どういうこと?

 

「MSGK泣かし隊の兄貴。いまの発言詳しく」

 

『いやたいしたことないけどさ、時間が経つにつれてメスガキは有利になっていくって考えなわけだろ。つまり、それまで現状維持したいってことだから、姉ちゃんには大学に通い続けてもらいたいわけだ。\100』

 

「うん。まあそうだね♡」

 

『だったら、自分はお姉ちゃんといっしょにいる時間が短くなるのがイヤだから、大学に通い続けてと主張する。これなら、姉ちゃんは負い目を感じずに済むし、現状維持できるぞ。\100』

 

「おお、確かに。じゃあ、その場合は百万円の出所は?」

 

『正直なんでもいいんじゃないか。片親の遺産でも、ブイで稼いだでも。まあ、メスガキが稼ぐ能力があるのを伏しておきたいなら、片親の遺産を提示して、さっき嫉妬マスク三世が言ったように、遺産はふたりのものだからという線が丸いんじゃないか』

 

「ありがとぉお兄ちゃん♡ その線でいってみるね♡」

 

 わたしはパソコンのカメラに近づいて、近づいて……。

 はい、キスもどきです。

 カメラに接触する必要はない。ガチ恋距離になるだけだ。

 

『メスガキ臭というより、小悪魔臭?』

『急にガチ恋距離になるのやめろ』

『QMK(急にメスガキがきたので)』

『でもこれも確実な手ではないよな。姉の気持ちはわからんし』

『ベタ甘やかされ状態に嫌気がさしているという線もなくはないだろうしな』

『正直、メスガキの印象がかなり童貞くさいわw』

『あ、それ思ったw』

『メスガキヤンデレ童貞ブイチューバーか。新しいな』

『おまえら小学生だぞ』

 

 コメント欄はあいかわらず慌ただしかったが、求めていた答えを得られて、わたしは舞い上がっていた。だから、そのとき、わたしはそのコメントを拾うことができなかった。

 

 

 

『リビングルームに気をつけたほうがいいよ。マジで小学生バレしちゃうかも……』

 




はい


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ラブラブ姉妹生活配信中

 配信が終わって、わたしは謎の充実感に支配されていた。

 お姉ちゃんに『()()()()在学を希望している』という最終回答を引き渡すこと。

 それで、一定の効果が見込めたし、百万円については純粋なミスだが、今からでも取り繕える。

 

「さーって、あとはどのタイミングで伝えるかかぁ……」

 

 まあ、家族団らんの時がいいだろう。

 つまり、夕飯時。

 食べ始めでも食べ終わり頃でもなく、ちょうど中間地点くらいが最も効果的か。

 お姉ちゃんは好きなものだと口が軽くなる傾向にあるから、今日はお姉ちゃんが好きなものをつくろうかな。

 

 なお、お姉ちゃんはわりとなんでも食べてくれる。

 好物もけっこう多くて、ハンバーグとか唐揚げとか、けっこうカロリー多めのが好きなみたいだ。でも、油っぽいものをいくら食べても太らない体質らしく、そのエネルギーは特定部位に吸われているように思う。おっぱいの神秘。おっぱいとは宇宙の心だったんですね。

 

 そう考えると、わたしはお姉ちゃんのおっぱいを育てているんだなぁってしみじみ思えて幸せ脳汁がドバドバでてくるから不思議だ。

 

 などと思っていたら。

 

――リンゴーン。リンゴーン。

 

 部屋のベルが鳴った。

 珍しい。お姉ちゃんだ。

 わたしはジェット機のような勢いでドアを開け、お姉ちゃんを迎え入れる。

 ドアを開けた瞬間に、お姉ちゃんのいい匂いが胸いっぱいに広がり、ほんとダメになる。

 愛おしい。

 とりあえず、抱いた。

 いや、とりあえずというより反射的に抱き着いたといったほうが正しいか。

 もはや本能レベルでお姉ちゃんを求めている。

 

「お姉ちゃん。どうしたの?」

 

 おっぱいに顔をうずめながら、わたしはお姉ちゃんのご尊顔をみあげる。

 お姉ちゃんはワタワタしながら、わたしのことを抱きしめ返してくれる。

 あ。あ。お姉ちゃん!

 お姉ちゃんがいる世界は美しい。

 お姉ちゃん、生まれてきてくれてありがとう!

 

「あのね。お姉ちゃんちょっとだけチャレンジしてみようと思うの」

 

「へ? チャレンジ?」

 

 告白チャレですか? ま、まさか?

 ふわふわになっちゃうわたし。

 でも、お姉ちゃんの答えは違った。

 

「お姉ちゃん料理苦手でしょう。今日は私が料理作るから、見ていてほしいなーって」

 

「え、お、お姉ちゃんが料理……だと……」

 

 な、なぜだ。

 そんな、わたしの楽しみがおっぱいのお育てが……あばばばばばばば。

 

 またお姉ちゃんだ。またお姉ちゃんはわたしの想像を越えていく。

 そんなお姉ちゃんがこころの底から愛おしくもあるのだが、わたしはさっきまでのウキウキ気分がぶっとんで、混乱のさなかにあった。

 

 ()()お姉ちゃんが料理をする?

 じ、自立の前準備とかじゃないよね。

 誰か助けて! こんな状況どうすればいいの。

 MSGK泣かし隊の兄貴。メスガキスキーお兄ちゃん。リスナーの誰か!

 

「えっと、異空ちゃんはわたしが料理するのイヤかな?」

 

「い、イヤじゃないよ。お姉ちゃんの手料理わたしも食べてみたいな♡」

 

 そんなふうに言ったら、お姉ちゃんに頭を撫でられる。

 でへへ。ダメだよお姉ちゃん。

 お姉ちゃん特攻のついているわたしは撫でポされたら二コマで即落ちしちゃう。

 

 まあ結局のところ、お姉ちゃんに激甘なわたしがお姉ちゃんの願いを断れるはずもない。

 そのまま、リビングルームに連れだって、いっしょに料理を作ることにあいなった。

 

 

 

 ※

 

 

 

 須垣家のキッチンは、リビングルームと直結している。

 キッチンはかなり間取りをとったスペースを有しており、小学生の矮躯でも使いやすい。

 ぶっちゃけ、この家はふたりで住むにはかなり広いんだよな。

 

 そう、つまりはお金持ちです。

 

 正直なところ、この家を売ればそれなりのお金にはなると思うし、そうでなくても遺産だけでも節約すればふたりが生きていけるくらいのお金はある。

 

 お姉ちゃんは無理して就職しなくてもいいんだけど、そこはまあお金を稼ぐだけが仕事をする意味ではないから、わたしとしては何も言えない。ほんとはお姉ちゃんがニートになってくれたら一番いいんだけどね。

 

 わたしのお嫁さんとして永久就職してくれないかな。

 

「えっと、妹ちゃん。エプロンはこれでいいのかな?」

 

 エプロンの装備確認もできないお姉ちゃんがかわいい!

 って、思ったのもつかのま。

 ものすごい違和感をかんじる。

 

「ねえ、お姉ちゃん。なんで妹ちゃんなんて言うの?」

 

 媚び媚びビーム発射。

 お姉ちゃんに名前を呼ばれるのは、妹の特権だ。

 妹は姉のことをお姉ちゃんと呼ぶのが正しいが、姉は妹を名前を呼ぶべきであるというのがわたしの宗教だ。なお、呼び捨てのほうが本当は望ましい。

 異空って呼んでほしい。

 妹ちゃんなんて距離があいたみたいでイヤだ。

 

「い、妹ちゃんはわたしのことお姉ちゃんって呼ぶでしょう。だ、だからわたしも妹ちゃんって呼んでみようかなって」

 

「えー、イヤだよ。ちゃんと異空って呼んでよぉ♡」

 

「あわわわわわわわわ」

 

 なぜかお姉ちゃんに口を塞がれました。

 は、これって事案なのでは?

 お姉ちゃんのしなやかな指先を感じて、わたしは絶頂しそうになる。

 ああ、いま脳汁でまくってるんだろうなってハッキリ自覚できた。

 

「おねえひゃぁん。異空って呼んでぇ♡」

 

「異空ちゃん。えっと、今日だけは妹ちゃんじゃダメかな」

 

 にゃ。にゃーん。

 耳元でささやかれるとか、こんなんセックスじゃん。

 わたしは力なくコクリとうなづいた。

 

「じゃ、じゃあ料理作ろうかな」

 

「うん。異空が手伝ってあげるね♡」

 

「妹ちゃん!?」

 

 ちょっとした意趣返しだ。

 お姉ちゃんがわたしを妹呼びするなら、わたしは異空を自称する。

 お姉ちゃんわからせってやつだ。

 なぜだかお姉ちゃんは焦っているようだけど、いつもおどおどしているのはお姉ちゃん的にはノーマルな状態だ。ちょっと素直さが足りなかったかな。でもお姉ちゃんが悪いんだよ。

 

「さあ、夕飯まで時間がないから巻いていこ? お姉ちゃんはお米の研ぎ方わかる? 洗剤で研いじゃダメだからね」

 

「うん、さすがにお米の研ぎ方くらいわかるかな」

 

 お姉ちゃんがお米を研ぎ始める。

 白くて優雅なちょうちょが舞っているみたいで、その様を眺めるのは案外たのしい。

 腰を入れて、ギュッギュッっとお米を研いでると、わたしはお米になりたいと思ってしまった。

 

 まあ家事全般が潰滅的に苦手なお姉ちゃんではあるが、べつに食べられないものができるというようなラノベ設定はない。

 

 料理に手慣れた人間なら、複数の作業を同時並行的におこなうことで時間短縮できたりするが、お姉ちゃんは素人同然として考えればいい。今日は単線で、ひとつずつの作業を確実にこなしてもらうほうがいいだろう。

 

 あ、あと油モノはやめたほうがいいかな。

 フライパンで簡単に炒められるものにしたほうがいいか。

 それとも、煮込み系。そうだな。カレーあたりが妥当か。

 あれは材料切ってぶちこむだけだからな。本当の意味で小学生でもできる料理だ。

 

――いや、そもそもの話。

 

「ねえ、お姉ちゃん」

 

 お米研ぎをずっと続けているお姉ちゃんに声をかける。

 まあ……、研ぎすぎて死ぬことはないから、それはべつにいい。

 

「ん。どうしたの?」

 

「今日、お姉ちゃんはなんの料理をつくるつもりなの?」

 

「そうね。えっと……そうね……」

 

 きょどりはじめるお姉ちゃん。

 子ウサギみたいでかわいいけど、さすがにジト目だよ。

 

「考えてなかったんだ」

 

 ざこざこお姉ちゃんという言葉はのみこんだ。

 さすがにメスガキ設定は現実では持ちこめない。

 わたしは従順でお姉ちゃんのことを慕っている一介の小娘ですよ。

 

「考えてませんでした」

 

 ガックリとうなだれるお姉ちゃん。

 ああもう、お姉ちゃんが料理しなくてもわたしがずぅぅぅっと作ってあげるのに。

 なんなら、お口に料理を運んであげるのに。

 でもまあ、そんなことより料理だ。お姉ちゃんにも成功体験は必要だろうしな。

 ここは順当なアドバイスでもするか。

 

「いつもはわたしが買い物しているから把握してないと思うけど、本当は料理の前に何を作るか考えないといけないからね。料理は準備が九割みたいな話だよ。今回は冷蔵庫の中を確認するところから始めるといいよ」

 

「そ、そうね。そうする」

 

 とりあえずお米を研ぎ終わったと判断したのか、わたしのアドバイス通りに冷蔵庫を開けにいくお姉ちゃん。ふたりで使うにはかなり巨大な冷蔵庫が壁際に設置されている。わたしはお米を炊飯器にセットしてボタンを押す。うーむ、3合炊いてるけど、残りはパックに詰めて冷凍庫にでもぶちこんでおくか。大は小をかねるって言うしな。必ずしもまちがった判断とはいえない。

 

 横目でお姉ちゃんを見ていると、お姉ちゃんは挙動不審ぎみに冷蔵庫に近づいていた。

 

 パカっ。開ける。

 そして、そっ閉じ。

 そして、また開ける。今度はおそるおそる。

 謎の行動だ。いやまあ予想はつくけど。

 

「えっと、お姉ちゃん?」

 

「あ、あのね。けっこういろんなモノがあるんだなって思って」

 

「うん。そうだね。お姉ちゃんが今日なに食べたいのって聞いてから作るときもあるでしょ。いざというときのためにけっこう買いだめしてるんだぁ」

 

「そうなのね。いつもありがとう妹ちゃん」

 

「うん。お姉ちゃんはがんばって美術の勉強しているんだもんね。こんなことくらいでお姉ちゃんの助けになれるならうれしいよ♡」

 

「妹ちゃん……」

 

「とりあえず!」わたしは湿っぽくなってしまった空気を入れ替えるように明るい声をあげる。「今日のところは、カレーつくろ。カレー」

 

「そ、そうね。カレーいいわね。カレーつくりましょう」

 

「まず材料だけど、お姉ちゃんわかる?」

 

「そうね。ジャガイモと人参とお肉……カレーのルーとか、かな?」

 

 なんだそのテストの答えを先生に聞くような態度は。

 でも、そんなお姉ちゃんがかわいすぎて思わず微笑が漏れてしまう。

 

「あとは玉ねぎとかかな。とりあえず、冷蔵庫から出して。あ、全部出さなくていいからね」

 

 多く作るほうが簡単かもしれないが、食卓にずっとカレーが並ぶのもどうかと思うしな。

 

 お姉ちゃんが材料を取り出してくれたので、わたしはピーラーをお姉ちゃんに渡す。

 

「はい。皮剥いて」

 

「あの、妹ちゃん、にんじんって皮あるの?」

 

「その発想はなかった。あるよ」

 

「牛肉にも皮あるの?」

 

「皮は既に剥いでると思うよ……」

 

 どうしよう。お姉ちゃんの発想がわたしを越えていく……。

 

 そして、お姉ちゃんの横にわたしは待機。さすがにピーラーで皮を剥くなんて素人でも簡単にできる。わりとゴッソリいってるが、ご愛敬だ。

 

 さて、包丁のほうはわたしがしますかね。

 

 踏み台に乗って、適当な大きさに乱切りする。

 

「妹ちゃん。今日はわたしが……」

 

「うん。手伝うよ。見ているだけじゃつまらないんだもん」

 

「そうよね。いっしょにつくろうね」

 

「うん。あ、よそ見しながらピーラーつかったら危ないよ」

 

 指の皮ごとゴッソリってなったら、死ぬほど痛い。

 お姉ちゃんならやりそうだからな。正直冷や冷やしてるんだ。

 包丁も持たせてもいいんだけど、ちょっと怖いんだよな。

 やっぱりわたしがやるのが安牌か。

 

 お姉ちゃんから、スゲエ小さくなってしまったジャガイモを受け取る。

 うーん。これだともっと用意してもらったほうがよかったか。

 とりあえず、切る。

 お姉ちゃんが皮を剥くよりわたしが切るほうが早いが、まあ皮剥くのもけっこう手間だったりするしな。このあたりは、必ずしもわたしの料理スキルが上ということにはならないだろう。

 で、それと同時に、厚手の鍋を用意して、サラダ油をひいておく。

 火をかけて、サラダ油を熱しておき、切った具材をどんどん入れていく。

 ほんとは火の通りにくい順番から入れたほうがいいけど、素人料理なんでそこはガバガバでも問題ない。こまけぇこたぁいいんだよ。

 

「妹ちゃん。ちょっとペース早くないかな」

 

「ん。焦らないでも大丈夫だよ。最終的にぜんぶ鍋のなかに入れるから、そんなに味は変わらないと思うし、料理屋さんの料理じゃないんだし、時短してもいいんじゃない。気軽にいこ?」

 

「そ、そうなんだ」

 

 とりあえず納得してくれたのか、お姉ちゃんはまた皮剥きに専心しはじめる。

 皮を剥く必要のない肉を適当な大きさにぶつ切りにして、鍋のなかにぶちこむ。

 にんじんひとつで手こずってるお姉ちゃんに愛しさを感じながら、玉ねぎはちょっと難易度が高すぎるかなということで、皮剥きから芯の取り除きまでわたしがやることにした。

 

 お姉ちゃんはにんじんをまだ剥いている。

 

――もしかして皮と身の境界がわからないのでは?

 

「えーっと、そろそろ剥けてるんじゃないかな」

 

「そうなのね。じゃあ、はい」

 

 うわぁ……ほっそ♡

 にんじんスティックみたい。

 

 まあいいさ。にんじんが嫌いな派閥もあるだろうしな。

 適当に切って、鍋にぶちこむ。

 

 あとは炒めるわけだが、まあここはお姉ちゃんに任せてもいいだろう。

 インハイターだし、そこまで危険ってわけでもない。

 

「適当に炒めるだけでいいよ」

 

「適当ってどうすればいいの?」

 

「うーん、具体的に言えば、玉ねぎがふにゃふにゃになったかなってところ?」

 

「時間という概念で教えてください……」

 

「うーん。玉ねぎは火が通りにくいからちょっと時間がかかるんだよね。でも、全体的には十分くらいあればいいんじゃないかな」

 

「わかった。測るわ」

 

「お姉ちゃん、鍋見ようよ」

 

 完全に焦げつくってことはないと思うけどさ。

 ストップウォッチを片手にガン見しているお姉ちゃんは真剣そのものだ。

 料理してるお姉ちゃんってなんだかいいな。

 うん、これも悪くない。

 そんなこんなで十分経過。

 それから、水を加えて煮こむわけだが、あとはまあ特にすることはない。

 いつもわたしが作っているときは根性出して灰汁という灰汁を取り除いているが、そこまで執拗にしなくても十分うまいしな。たぶん、わたしが自分で食べるぶんを作るだけだったらそこまでしない。

 

「灰汁とりは、まあ適当でいいよ」

 

「また適当……適当って、要するに適切かつ順当ってことよね」

 

 すごい勢いで問いかけてくるお姉ちゃん。

 いかん。曖昧な言葉はよくなかった。

 

「う、うん。そうだけど」

 

「どれくらいすれば適当なのかわかんないの」

 

「そだね……、まあ、五分に一回くらいのペースで見えてる灰汁の八割くらい取り除けばいいんじゃないかな」

 

 お姉ちゃんが今後料理を続けるかは謎だが、ひとまずの回答だ。

 おねえちゃんは「わかった」と言って、わたしの言ったとおりに時間を測り、そして灰汁とりを実行する。お姉ちゃん素直! 素直すぎて逆に怖い。変な人に騙されないか心配。

 

 でも――、妹に対する信頼だと捉えると、なんだかうれしくもある。

 精神的に重労働をしているのか、額の汗を手でぬぐうお姉ちゃん。

 オタマを握りしめているお姉ちゃん。

 真剣なまなざしのお姉ちゃん。

 すごく応援したくなる。

 赤ちゃんがハイハイして近づいてくるときに生じるような、そんな気持ちだ。

 何時間見てたって見飽きない。

 

 おっと、本当にいつのまにか時間が経過していたぞ。

 

「じゃあ、あとはルーを入れて、再度煮込むだけだね」

 

「どうやって入れればいいの?」

 

「うん? 普通に割って適当に配置して……だけど」

 

「普通ってなに?」

 

「哲学だね」

 

「適当ってなに? 私にはもうなにもわからない」

 

 いかん。お姉ちゃんがテンパってる。

 慣れないことの連続で精神がもたないんだろう。

 

「まず、カレーのルーは割るんだよ。チョコレートみたいに切れ込みがあるから割りやすいよね。それで、割ったルーを適当に……、等間隔に配置したらいいんじゃないかな。それから、だんだんルーが溶けていくから、オタマで混ぜていったらいいよ」

 

「わかったわ!」

 

 うん、がんばれ! お姉ちゃん。

 

 

 

 ※

 

 

 

 完成したカレーをわたしは絶賛していた。

 もうそりゃ全肯定妹マシーンですよ。お姉ちゃんを称賛するのに余念がない。

 強いて言えば、具材がちっちゃくなりすぎているが、そんなことは関係ねえ。

 これはお姉ちゃんがわたしのために作ってくれたファースト手作り料理だ。

 わたしはカレーを食べているんじゃない。

 お姉ちゃんがわたしのために作ってくれたという概念を食べている。

 うま。うま。うま。うま。

 

「本当においしいよ。お姉ちゃんは料理の天才だね!」

 

「え、ええ、そうかな」

 

 照れているお姉ちゃんが愛おしい。

 世界が輝いて見える。

 そんなわけで、わたしはすっかり忘れていた。

 お姉ちゃんに伝えるべきことを。

 百万円の出所を。



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ヒモ姉スレッド:生配信と反省会

144:小学生妹のヒモ姉

決めました!

やっぱり、私じゃ妹ちゃんの真意は探れないと思うから

みんなのお力を借りたいと思います

それでは逝ってまいります

https://www.anetube.com/watch?v=xxxxxxxxxxxxx/channel=himonee.live

 

145:仰げば名無し

ん。なんで生配信なん?

 

146:仰げば名無し

え? え?

ひさしぶりに書きこんだと思ったらなんで突撃してるの?

ワイ困惑しちゃう

 

147:仰げば名無し

悲報

ヒモのお姉ちゃん突然なにをとち狂ったのか生配信を始める

 

148:仰げば名無し

これはたぶん設定がわからなかったのだ

動画編集とか、そういう考えにいたらなかったのだ

説明責任を果たせなかった我々に責任の一端がある

 

149:仰げば名無し

いますぐやめろっても無駄か

ヒモ姉スマホで撮影してやがる

ここの掲示板もスマホで見てたのか

まったく気づいている様子がない

背景加工設定もなし

音声加工設定もなし

ヒモ姉のご尊顔にはなんと黒目線だー!

ていうかエッッッッッッ!

 

150:仰げば名無し

これは反省会まったなし

 

151:仰げば名無し

これって、百合姉妹の尊い生活が赤裸々に語られることになるのか

なんだかオラわくわくすっぞ

 

152:仰げば名無し

上でURL張ってから、すぐに突貫しにいったしな

あいつ人の話を聞かないからな

もうだめだこの姉……

 

153:仰げば名無し

もうあきらめて生暖かく視聴しようぜ

ヒモ姉のおっぱいに抱かれて移動していると考えればわりと嬉しいオレがいるw

それにしてもリビング広いな~

ヒモ姉いいとこのお嬢さん説でてきたな

カメラに向かってヨシッ!とか言ってるのかわいいw

ヨシじゃないがw

 

154:仰げば名無し

どこか物陰に設置したのか

ふむなんか説明が始まったぞ

 

155:仰げば名無し

なるほど、今日は自分が料理を作ると

その過程でさりげなく百万円の出どころを聞き出してみると

なあ、ヒモ姉って料理できるんか?

 

156:仰げば名無し

料理できるんなら、小学生妹に毎日つくってもらったりしないのでは?

 

157:仰げば名無し

ぐぅ正論

 

158:仰げば名無し

ていうかさぁ

なんで今度は黒目線なんだよ

モザイクの次は黒目線とかこれぜったい狙ってるだろ

せめて棒人間にしてくれ

これだと妹ちゃんも顔バレ寸前だろw

 

159:仰げば名無し

モザイクから黒目線になって

よりヒモ姉美人説が明確になっている感

でも、中身が残念なのでなんか興奮しない

 

160:仰げば名無し

あのヒモ姉だからな

 

161:仰げば名無し

お、ヒモ姉がいよいよ妹ちゃんを呼びにいくぞ

 

162:仰げば名無し

 

163:仰げば名無し

おお!

妹ちゃんと手つなぎ登場!!!

ナカヨシスギテトウトイ

 

164:仰げば名無し

キタ―――(゚∀゚)―――― !!

やべえ、小学生妹ちゃんほんまかわいい

黒目線入っててもこいつはマジでアイドル狙えるのがわかる

 

165:仰げば名無し

キターとか久しぶり聞いたぞ

でも興奮するのわかる

すっごい綺麗な髪の毛

なんかピンク色の毛先が幻想的

ピンで止めて、おでこまるだしエッロ

ちょこちょこ動くあんよがかわいい

指ちっちゃい

お姉ちゃんに顔を向けて慕ってるのがよくわかる

 

166:仰げば名無し

こんなかわいい妹に百万円めぐんでもらえるとか、ヒモ姉勝ち組すぎるだろ

前世でどんな徳を積めば、ヒモ姉みたいになれるんだ

 

167:仰げば名無し

ヒモ姉、エプロン着たことすらないんか?

 

168:仰げば名無し

案外、妹ちゃんにお着換えも手伝ってもらってたりして

 

169:仰げば名無し

それあるかもな

生活周りは全部妹ちゃんの力で成り立っているのだ

 

170:仰げば名無し

ふーん、妹ちゃんはイソラちゃんっていうのか

外国人っぽい容姿だからそんなに違和感ねーな

 

171:仰げば名無し

姉があわててお口をふさぎにいって

ちょっと抵抗する妹ちゃんカワヨ

黒目線だからわからんけど、すっごいジト目してるんだろうなぁ

 

172:仰げば名無し

さっそく生配信の弊害が起こってるな

 

173:仰げば名無し

イソラちゃんwwwwww

「イソラが手伝ってあげるね?」って自ら名乗っていくスタイル

でもこれって、義姉から妹ちゃんって呼ばれ慣れない言い方されて

抗議の意味もこめてるんだろうな

そう考えると、てぇてぇ

 

174:仰げば名無し

イソラか……

まさかとは思っていたが本当にそうだったとは

 

175:仰げば名無し

思わせぶりなこと言ってるがなんか知ってるんか?

 

176:仰げば名無し

あ、いや知ってるというか

妹ちゃんが本当に小学生だったんだなって思っただけさ

 

177:仰げば名無し

低身長な高校生って説も考えられなくはない

 

178:仰げば名無し

いくつもの疑似炉理を鑑賞してきたオレから言わせれば

幼女と大人とは骨格からして違う

 

179:仰げば名無し

AIさんに聞いてみたらわかるんじゃねーの

最近のAIさん分析すごいじゃん

 

180:仰げば名無し

最近のAIさんはなんでも答えてくれるからな

 

181:仰げば名無し

オレにかわいい彼女ができる方法を教えてください!

 

182:仰げば名無し

AI「今世は無理です。来世に期待しましょう」

 

183:仰げば名無し

うわあああああああああ

 

184:仰げば名無し

そんなことより姉妹実況に戻ろうぜ

小学生の妹から、お米のとぎ方大丈夫って聞かれるって

やっぱ、妹ちゃんからの信頼度も低いよな

 

185:仰げば名無し

でも妹ちゃんがヒモ姉を慕ってるのはわかるわ

声がすごい優しいもん

なんか赤ちゃんに言い聞かせるママって感じだし

 

186:仰げば名無し

ヒモ姉赤ちゃんかよw

うん。赤ちゃんだったねw

 

187:仰げば名無し

いつまで研いでるんだ

こいつ、米のとぎ方も知らんだろ

 

188:仰げば名無し

妹ちゃん、なにか言いたそうなのをグッとこらえてる

 

189:仰げば名無し

全米が泣いた

 

190:仰げば名無し

妹ちゃん「今日はなんの料理つくるつもりなの?」

あ~あ、言っちゃった

妹ちゃんはひどいこと言ったよね

ヒモ姉ちゃんが何も考えてない赤ちゃんなのを薄々知りながら

真実をつまびらかにしちゃったよね

 

191:仰げば名無し

おいたわしやお姉さま

 

192:仰げば名無し

脳みそからっぽで突貫したのが丸わかりで草

 

193:仰げば名無し

料理は魔法みたいにポンってできると思ってた説

脳みそからっぽのほうが夢つめこめるもんな

 

194:仰げば名無し

いままでは妹ちゃんが魔法みたいにポンって出してたんだろ

 

195:仰げば名無し

カレーか

まあ妥当だろうな

素人がつくってもそれなりにうまいし

超簡単だしな

 

196:仰げば名無し

妹ちゃんはピーラーで皮むき指示か

やっぱ手慣れてるな

 

197:仰げば名無し

さりげなく包丁をもたせない妹ちゃんの気遣いよ

もう尊さがほとばしってる

ヒモ姉はずっと妹ちゃんのヒモでいいよ

 

198:仰げば名無し

要 介 護 認 定 w

 

199:仰げば名無し

人参は皮がないwwwwwwwww

牛肉に皮があるwwwwwwwww

 

200:仰げば名無し

でも人参の皮ってわかりにくくね?

皮って感じしないし

トーシロならしゃーないわ

 

201:仰げば名無し

ジャガイモさんが哀れな姿になってる

 

202:仰げば名無し

すっげえ薄くなってんぜ

 

203:仰げば名無し

妹ちゃんの包丁さばきよ

踏み台にのって、ちっちゃなおててで握ってる

きゃわわ

 

204:仰げば名無し

お姉ちゃんのペース早すぎ宣言

おまえがノロマなんだよw

 

205:仰げば名無し

妹ちゃんほんま優しいな

言葉の端々からお姉ちゃんのことを心の底から敬愛してるのがわかるわ

 

206:仰げば名無し

しかし、それも残された家族であるヒモ姉の関心をひくためと考えると泣けるぜ

 

207:仰げば名無し

いや、そういうわけでもなさそうなんだが……オレ氏どうするべきか悩み中

 

208:仰げば名無し

人参が棒になってるwwwwww

 

209:仰げば名無し

ほっそwwwwww

 

210:仰げば名無し

さすがに妹ちゃんも困惑しながら受け取ってるな

 

211:仰げば名無し

はいじゃないんだよ

おめえは普段こんな細い人参しか食ってねえのか

 

212:仰げば名無し

時間という概念で教えてくださいw

 

213:仰げば名無し

コミュ障だもんな

客観的な指標が必要だよな

適当とか普通という言葉は禁句

 

214:仰げば名無し

普通って何とか聞かれても妹ちゃんも苦笑するしかないだろ

人生経験二倍なんだから少しは自分で考えろよヒモ姉

 

215:仰げば名無し

うわぁぁうわぁぁ

妹ちゃんがちっちゃく「がんばれお姉ちゃん」って言ってるのがクリティカルすぎる

なんだよこの妹ちゃん天使か

 

216:仰げば名無し

真剣に作ってるのは伝わるからヒモ姉もがんばってるよな

 

217:仰げば名無し

これは普段ダメな子ががんばってると、

常にがんばってる子よりもすごくがんばって見えるという例の現象なのでは?

 

218:仰げば名無し

あー、不良が猫を助けたらってやつか

 

219:仰げば名無し

もう妹ちゃんが完全にお母さんなんよ

 

220:仰げば名無し

ママは小学五年生

 

221:仰げば名無し

完成ー! 88888888

 

222:仰げば名無し

パチパチする妹ちゃんかわいい

そして、始まる大絶賛

ヒモ姉全肯定妹マシーンが完成してしまった

 

223:仰げば名無し

お姉ちゃんは天才だねって言葉には一ミリも嘘は含まれてない

もうさ、結婚しろよ

 

224:仰げば名無し

妹に称賛されて照れてるヒモ姉もかわいいぜw

なんか腹立つけどw

 

225:仰げば名無し

家族団らんって感じだな

 

226:仰げば名無し

姉妹百合の理想を見ている感じがする

 

227:仰げば名無し

ん……あれ、ちょっと待てよ

例の百万円の件はどうなってるんだ

いつヒモ姉は聞くつもりだ

 

228:仰げば名無し

 

229:仰げば名無し

 

230:仰げば名無し

 

231:仰げば名無し

ヒモ姉がそんなこと覚えてるわけないだろ!

もう精神的に疲れ切ってるんだよ

許せカツオ

 

232:仰げば名無し

まあオレらも姉妹百合のあまりの尊さに我を忘れていたからな

この件に関してはなにも言えないわ

 

233:仰げば名無し

で、オレたちのヒモ姉はいつ帰ってくるんだろうな……

 

234:仰げば名無し

あ、お皿かたづけるのは妹ちゃんがするのね

 

235:仰げば名無し

いいよいいよ

今日はお姉ちゃんががんばったんだから

あとはゆっくり休んでて

ほんとほっこりするわ

お姉ちゃんラブ勢だよな妹ちゃん

 

236:仰げば名無し

ママぁ

 

237:仰げば名無し

バブみという概念をはじめて実感した

 

238:仰げば名無し

オレの妹と交換してくれ

今日妹からは百円やるから千円くれという謎のトレードを持ちかけられたぞ

しゃーないから交換したけど

 

239:仰げば名無し

>>238

おまえ実は妹のこと好きだろ

 

240:仰げば名無し

妹のことが嫌いな兄はいない

 

241:仰げば名無し

で、この妖精みたいな妹ちゃんが百万円をくれたわけか

 

242:仰げば名無し

やっぱ片親の遺産あたりが順当じゃね?

相続するときに均等相続するかどうかっていうのは、

たぶん弁護士に聞かれると思うけど、

個人資産と共有資産に分けてる可能性もある

 

243:仰げば名無し

まあヒモ姉からすると、どうせ弁護士の話もわかっていなかったかもしれんしな

適当に聞き流したんじゃね?

で、妹のほうがちゃんと聞いてると

 

244:仰げば名無し

妹ちゃんのプロファイリングとかできそうか?

 

245:仰げば名無し

うーん、姉ちゃんのことが大好きってことしかわからなかったな

 

246:仰げば名無し

お姉ちゃんのこと好き好き大好き超愛してるって感じなのは伝わったが……

 

247:仰げば名無し

お姉ちゃんと暮らせるなら全財産捧げられるかって聞かれたら

捧げると速攻宣言しそう

 

248:仰げば名無し

お、妹ちゃんの片付け終わったか

で、ヒモ姉のほうはソファに座って溶けている、と

 

249:仰げば名無し

働かずに食う飯はうまいか?

 

250:仰げば名無し

まあそれがふたりの距離感なんだろう

オレは肯定するよ

ヒモ姉もリラックスしてるみたいだし

妹ちゃんも幸せオーラだしてるしな

 

251:仰げば名無し

ん。妹ちゃんがヒモ姉のところに近づいてきて

疲れてるみたいだからマッサージしようかだとぉ!

なんなんだ。なんなんだよもう。

誘惑してるのか。小悪魔ちゃんなのか?

 

252:仰げば名無し

案外メスガキだったりして

 

253:仰げば名無し

うーん、正解

 

254:仰げば名無し

我らがヒモ姉、普通に肩もまれる

あ、体重軽いからっておみ足で踏んでもらうとか

なにこのごほうび

ずっこい。ヒモ姉ずっこい

 

255:仰げば名無し

妹ちゃん身体軽そうだもんな

 

256:仰げば名無し

靴下ぬぐところ小学生なのにエッッッ

 

257:仰げば名無し

小学生に欲情してはいけない(ガチ)

 

258:仰げば名無し

ヒモ姉もえっちな嬌声出すし、オレらは何を見せられてるんだ

 

259:仰げば名無し

ふみふみ「お姉ちゃん気持ちいーい♡」

「あ♡ う、うん。気持ちいいよ♡」

ふみふみ「もっと、わたしの足で気持ちよくなってね♡」

 

260:仰げば名無し

ハートマーク以外は現実での乳繰り合いなんだよなぁ

 

261:仰げば名無し

おまえがヒモになるんだよ!

 

262:仰げば名無し

そしてクタっとなるヒモ姉

これはもうだめかもわからんね

 

263:仰げば名無し

かわいすぎるよヒモ姉

 

264:仰げば名無し

お姉ちゃんを愛欲で溺れさせてご満悦な妹ちゃん

 

265:仰げば名無し

「お姉ちゃん、いっしょにお風呂入ろ?」

 

266:仰げば名無し

妹ちゃんにマッサージされて意識朦朧としている姉

そのまま、いっしょにお風呂に行ってしまう

 

267:仰げば名無し

ちょっと、SEさん

画面切り替えは?

切り替えボタンないよ

バグってる?

 

268:仰げば名無し

バグってるのはおまえの頭だよ

 

269:仰げば名無し

これはもしや妹ちゃんに手とり足取り洗われてるな

 

270:仰げば名無し

もはや妹ちゃんに百万円貰ったこと完璧に忘れてるだろうな

 

271:仰げば名無し

そりゃそうよ

 

272:仰げば名無し

この妹ちゃん、淫魔の類じゃねえの?

正直、戦慄すら覚える

 

273:仰げば名無し

あ、妹ちゃんとヒモ姉がお風呂上り……

上気したピンク色の肌とエロエロな薄着状態

下着自体はギリ見えてないけど

ヒモ姉はなんでリビングに戻ってきてるのかな? かな?

あ、わかっちゃった

これってもしかしてAVだな?

 

274:仰げば名無し

はぁぁぁぁ、ベビードールとかエロすぎて規制されそう

小学生妹ちゃんも同じような感じだし、これマジでヤバくね?

下手すると消される類なんじゃ

下着見えた瞬間に消されるという爆弾状態なんで

べつの意味で冷や冷やするわ

 

275:仰げば名無し

「お姉ちゃん今日はお料理がんばったね偉かったよ」

そして、背伸びしながらヒモ姉を撫でる妹ちゃん

まんざらでもなさそうなヒモ姉

腕だっこしてくる妹ちゃん

まんざらでもなさそうなヒモ姉

これ、今日はもう無理かもな

 

 

 

276:小学生妹のヒモ姉

はい

 

277:仰げば名無し

はいじゃないが……

っていうか、帰ってきただけ偉いわ

よく、妹ちゃんの「いっしょに寝ていーい?」

という誘惑に耐えきれたな

 

278:仰げば名無し

黒目線入ってたが、妹ちゃんウルウルした瞳で

ヒモ姉を篭絡しようとしていただろうしな

オレが兄の立場でその場にいたら、即死してたわ

 

279:仰げば名無し

あのさぁ

過去ログ見ればわかると思うが

まず、のっぺらゲンガーの使い方を覚えてから

突貫しようぜ、ヒモ姉は

妹ちゃんの名前も明らかになっちまったし

ギリギリセーフなベビードール姿さらしてるし

顔バレ寸前じゃねーか

小学生に生活全般お世話されといてこの仕打ち。

妹ちゃんに申し訳ないとか思わないの?

 

280:小学生妹のヒモ姉

はい……

 

281:仰げば名無し

はいじゃないがw

 

282:仰げば名無し

結局、百万円の出所はなにひとつ明らかにならず

ただひたすら姉妹のイチャイチャっぷりを見せつけられただけだったな

 

283:仰げば名無し

ヒモ姉、ちょっと赤ちゃんすぎるよー

 

284:仰げば名無し

もうさ、ヒモ姉は妹ちゃんのことを盲信して

ヒモになって生きていけばいいんじゃね?

 

285:小学生妹のヒモ姉

すみません

ちょっと私が料理苦手なせいで

妹ちゃんのペースについていけませんでした

 

286:仰げば名無し

ちょっと?

ふうん。ヒモカスの認識じゃ「ちょっと」なんだ

じゃあ逆にヒモカスが妹に勝ってる点ってなに?

 

287:小学生妹のヒモ姉

年齢とか……?

 

288:仰げば名無し

 

289:仰げば名無し

才能ではなくて

能力ではなくて

年齢でしか勝てないことを悟った

ヒモ姉のことがせつなくてかわいい

 

290:仰げば名無し

妹が家族愛欲しさにおまえに愛されようと必死になっとるかもしれんのに

その状況を甘受しちゃったらダメだろ

大人になれよ大人なんだから

 

291:仰げば名無し

いや、これ妹のほうも姉を甘やかすことに喜びを感じてるっぽいから

ウインウインの関係じゃね?

今のままでもべつにいいんじゃないか

たぶんだが百万円は犯罪で得たものじゃないと思うぞ

 

292:仰げば名無し

五年間で培われた姉妹の距離感だしなぁ

他人からはなんとも言えんのは確かに

でも大人としての威厳というか

なんというか、恥ずかしくないの?

 

293:小学生妹のヒモ姉

ベストは尽くしました

 

294:仰げば名無し

ベストか

まあヒモ姉的には頑張った感はあったわな

 

295:仰げば名無し

しかし、百万円の出所は一切わからないし、

ヒモ姉がもはや取返しがつかないレベルで

小学生妹のヒモと化しているのは伝わったわけだが

 

296:仰げば名無し

具体的に何かをしようという流れで聞くんじゃなくて

いつもの生活のなかで、さりげなく聞くのがいいんじゃないか?

 

297:仰げば名無し

ヒモ姉には妹ちゃんに勝てる分野少なそうだしな

それが順当な気がする

 

298:仰げば名無し

もしくは、美大に通ってるんだったら

妹ちゃんにモデルになってもらうとかどうだろうか

エスパーマミみたいな感じで

 

299:仰げば名無し

お姉ちゃんラブ勢の妹ちゃんからしてみれば

いいよって言って、すぐに全裸になってくれそうな感じもする

肉欲が一切ない清らかな眼で、お姉ちゃんを信頼しきった瞳で

清らかな裸身をさらす妹ちゃん

……ンー。芸術無罪

 

300:仰げば名無し

垢バン不可避じゃねーか

 

301:仰げば名無し

妹ちゃんは愛に飢えてるんだよ

汚らしい妄想で穢すんじゃねえ

 

302:仰げば名無し

ロリコンは死ね。詩ねじゃなく死ね。

 

303:仰げば名無し

妹ちゃんはマジでお姉ちゃんのこと大好きだと思うぞ

それはスレ民のみんなも感じたんじゃないか?

オレとしては無理に百万円の出どころを聞き出すより

妹ちゃんが語ってくれるまで待った方がいいような気もするんだが

 

304:仰げば名無し

それは賛成

妹ちゃんはヒモ姉のことを第一に考えてるだろこれ

だったらヒモ姉も信じてあげるべきでは

 

305:小学生妹のヒモ姉

そうですね……

妹ちゃんのことを信じてないわけじゃないです

私も妹ちゃんのことが大好きですし

べつに疑ってるわけじゃありません

百万円のことは気になりますが

我慢することもできます

でも黙ってることで妹ちゃんが傷つかないかが心配なんです!

 

306:仰げば名無し

両想いの片想いなんじゃ……

 

307:仰げば名無し

妹ちゃんから、もしお姉ちゃんと結婚したいから

尽くしてますとか言われたらどうするつもりなんだ?

 

308:仰げば名無し

小学生からガチ恋されてるお姉さんとか、妄想がすぎますぞw

 

309:仰げば名無し

普通に考えれば、家族愛だろ

 

310:仰げば名無し

性欲をもてあます小学生か……

ありだな

現実的にはありえんが

 

311:小学生妹のヒモ姉

妹ちゃんに恋愛感情はないです

 

312:仰げば名無し

あー

 

313:仰げば名無し

現実は非情である

 

314:仰げば名無し

これは妹ちゃんヤンデレ化まったなし

 

315:仰げば名無し

妹ちゃん「これはお仕置きが必要ですね」

 

316:仰げば名無し

妹ちゃん「これはわからせる必要がありますね」

 

317:仰げば名無し

妹ちゃん「まずは手足が動かないようにして監禁しましょうか」

 

318:小学生妹のヒモ姉

ひえ

でも、妹ちゃんのことは本当にかわいいです

妹ちゃんがいるから、私もだいぶん人間らしく生きられてる気がします……

 

319:仰げば名無し

あーね

介護されてるからね

 

320:仰げば名無し

そりゃそうよ

誰だってそうなる

オレだってそうなる

 

321:仰げば名無し

妹ちゃんの献身っぷりがすごかったからな

初見のワイもクラっときたで

 

322:仰げば名無し

愛にできることはまだありますか?

 

323:仰げば名無し

難しい判断だな

ヒモ姉もだいぶんイソラに堕とされてる気がするし

普通に考えて、家事代行のお金を払うべきでは?

 

324:仰げば名無し

しばらく様子見が無難だと思う

 

325:仰げば名無し

妹ちゃんに危険な要素はないと思うぞ

ヒモ姉の貞操の危機を除けばだが

 

326:仰げば名無し

姉の貞操狙ってるとしたら

ヒモ姉人生最大の危機じゃねーか?

 

327:仰げば名無し

そのときはあきらメロン

どう見ても妹ちゃんのが上位存在

ヒモ姉は喰われる運命しか残されていない

 

328:仰げば名無し

そうだよな

どう見ても、ヒモ姉はクソ雑魚なめくじだしな

妹ちゃんにごめんなさいして生きていくのがハッピーエンド

 

329:仰げば名無し

おまえが小学生妹のヒモになるんだよ!

 

330:小学生妹のヒモ姉

ヤダーーーーーーーーー!

 

331:仰げば名無し

なんか似たもの姉妹って感じがしてワロタw




あれぇおかしいなぁ。ストックないなった。
ないなったよ……。
今後の予定では深夜から早朝にかけて更新します。
あと、感想・評価ありがとうございます。
全部大切に読ませていただいております。


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メスガキわからせ生配信

 くそッ。どうしてこうなった。どうしてこうなった!

 

 今日はお姉ちゃんの初めての手料理を食べることができて、人生って本当に素晴らしいと思っていたのに、なぜか最後の最後でお姉ちゃんのお部屋でいっしょに寝るのは拒否されてしまった。

 

 いつも寝てるわけではない。たまに、なにかしらお姉ちゃんがかわいい行動をしたときに、ぬいぐるみを持って、いっしょに寝たいって主張するだけだ。わたしの中のお姉ちゃん愛はゲージマックスで常に溢れているが、重い女とか思われたくないしな。

 

 けど、いままでの行動パターンからして、お姉ちゃんはわたしの願いを拒否ったことはない。

 いっしょに寝たいが通らなかったことは、数えるほどしかなかったんだ。

 

 チクショウ。なぜだ。なぜなんだ。

 慢心……環境の違い……。

 

 いや、知っている。わかっているはずだ。

 お姉ちゃんはおそらくだが、自立しようと目論んでいるのではないか。

 だから、わたしへの依存心を少しずつ切り離そうとしているのではないか。

 それってつまり、わたしが切り離されるも同然なのではないか。

 

――あ。

 

 ヤダッ! ヤダッ! ヤダッ!

 お姉ちゃんに切り離されるくらいなら、自分で心臓もぎとったほうがマシだ。

 そんな結末、否定してやる!

 いますぐお姉ちゃんのお部屋に突貫して、貞操を奪ってやる。

 

 そんな気持ちがフツフツと湧いたものの、すんでのところでわたしは我慢した。

 おそらくだが今日お姉ちゃんは慣れないことをして精神的に疲れていたんだろう。

 小学生のわたしと応対するのは、わたしに依存させているとはいえ、精神力を使うことなのかもしれない。お姉ちゃんは()()()()()()()()()()()()()()()()からな。わたしも例外ではない。だから、お姉ちゃんはひとりになりたかったんだ。

 

 たぶんそう。きっとそう。

 お姉ちゃんにはわたしが必要!

 わたしにはお姉ちゃんが必要!

 これはもう夫婦。

 

――でも。

 

 不安と妄執が暗がりから襲ってくる。

 どうしてもお姉ちゃんがわたしから走り去っていくイメージが消えない。

 闇の力に浸食されていくよぉ……。

 

「いや、まだだ!」

 

 小学生女児のわたし、ピョンっとベッドから飛び起きる。

 ベビードールがめくれあがり真っ白いショーツが見えようが関係ない。

 どうせ誰も見てないしな。

 

 そしてお決まりの混乱鎮静ルーチンを発動した。

 

――まずお姉ちゃんの愛くるしい御姿をこころのなかに思い描く。

 

――そしてゆっくりこう唱えるんだ。

 

――「お姉ちゃんかわいい」と。

 

 疑いを捨ててかかれ。信じるものは救われる。

 わたしは念仏のように「お姉ちゃんかわいい」を唱える。

 

「お姉ちゃんかわいい。お姉ちゃんかわいい。お姉ちゃんかわいい」

 

 うん、大丈夫だ。だいぶ落ち着いてきた。

 地獄に仏、現世にお姉ちゃんとはこのことだぜ。

 

 しかし、機を逸してしまったな。

 ベッドに腰かけなおしながら、わたしは本日の出来事を反省する。

 

 物事には機というものがあると思う。

 今日は突然のお姉ちゃんの料理する宣言に機先を制されてしまった。

 イクゾー! と気合を入れていたから、出鼻をくじかれた形だ。

 

――いやはや、まったく。

 

 お姉ちゃんは本当にわたしのこころをもてあそぶのが上手いな。

 これ絶対お姉ちゃんは小悪魔属性あるだろ。

 天然っぽさもわたしを惑わす誘いの一手に違いない。

 ちくしょう。淫魔みたいなおっぱいしやがってよぉ!

 

 わたしはお姉ちゃんに対して、例の『大学をやめないで宣言』をするつもりだったんだが、どうにもそんな気分ではなくなってしまった。当然、付録である百万円のことも伝え損ねた。

 

 いや、それどころか、なんというか……、

 本当にそれでいいのかという疑念も生じてしまったんだ。

 他の選択肢は本当にないのか、もう少し考えを煮つめる必要がある。

 

 もちろん、ただただ時間を経過させるのはよくない結果を生みそうだ。

 わたしにはどれだけの猶予が残されているのだろう。

 時間はわたしに有利に働くはずだった。

 しかし、今では時間こそがわたしを裏切っている。

 

 ふと冷静になってみると、なんで人生の斜陽に入る前の小学生が時の流れに残酷さを感じてるんだろうと思わなくもない。

 

 家族という閉じられたトリカゴだからだろうか。

 わたしがずっと前から欲しかった宝物。

 わたしとお姉ちゃんという固定された(フェイズ)

 できることなら、そっと仕舞っておきたかった。

 でもそれだと、きっといつかは破綻するだろう。

 

――やっぱ、配信しかないか。

 

 わたしはそう結論づける。

 しかし、今日の配信はもう既に済ませてある。

 いくらなんでも、一日に二回も配信するとか、リスナーに対しても失礼だろう。

 突発的なイベントとかあれば別だが、今日はもう寝るほかない。

 

 はぁ……、お姉ちゃんといっしょに寝たかったな。

 わたしはモンモンとしながら、朝を迎えるのでした。

 

 

 

 

 

 

 さて、小学校から帰宅。

 今日は買い物に行く必要もなかったし、お姉ちゃんはまだ大学にいる時間帯だ。

 

 まあ例によって配信については、お姉ちゃんが在宅中でも防音されているから問題ないといえるが、生活全般をわたしが取り仕切っている以上、家事をおろそかにはできない。

 

 家事はわたしにとってのアイデンティティでもあるからな。

 

 平日はお姉ちゃんとお風呂に入ったあとくらいに配信するのが常であるが、今日は少しでも早くアドバイスをもらいたい。

 

 とりあえず、夕飯前にパパっと配信しますか。

 

「まだ平日の三時くらいなのに、お兄ちゃんたち仕事はぁ♡ 学校は行ってないのぉ♡」

 

『くそおおおおおお!』

『ニートでごめんなさい』

『学費を全部親に出してもらいながらメスガキ配信見てる背徳感がクセになってんだ』

『父さん。母さん。ごめんオレ……(仕事に)行くよ』

『テレワーク中にメスガキ配信見ててごめんなさい』

『私は大学生だから。大学はわりと時間があるのよ』

『今日は有給ですが何か?』

『メスガキさんが今日もイキイキイキっていてえらい』

『初手罵倒様式美』

『メスガキのニヤついたほっぺたつぶして、変な音ださせたい』

 

「あはは。雑魚なお兄さんたちがかわいそうだから、イソラがお相手してあげるね♡ うれしいよね。小学生とお話できる機会なんて早々ないよ?」

 

『よく考えたらそうだな(冷静な自己分析)』

『小学生がいるキャバクラみたいなもんだしなw』

『そう考えたら犯罪臭すげえw』

『くそおおおおおおおおおお(興奮)』

『オレ氏……少し様子見中』

『メスガキどころかコンビニのお姉さんにお釣りですって言われたのが今日のMVP』

『でもメスガキも同じようなもんじゃん。平日配信してるんだし』

『個人勢で平日の三時に配信。あ(察し)』

 

「なぁに勘違いしてるのぉ♡ わたしは小学生だから学校が早く終わったんでーす♡ さあて、今日の雑談は前回の続きだね。わたしにアドバイスくれたMSGK泣かし隊のお兄さんはいないみたいだけど、あとでアーカイブで見るだろうからいいかな」

 

 アドバイスくれたMSGK泣かし隊の兄貴に申し訳ないが、ここは拙速を尊ぶことにする。

 お兄ちゃんたち、わたしに力を貸してくれ!

 メスガキを愛する者たちよ、つどれ!

 

「あ、初見さんのために軽く説明しておくと、お姉ちゃんに大学をやめてほしくないわたしがスパチャでみんなからもらった百万円を学費として渡しちゃったんだけど、それをどう説明するかって件だよ。お姉ちゃんは百万円を受け取りたくないっぽいし、人を甘やかすのって難しいね♡」

 

『お姉ちゃんにクソデカ感情向けてた件か』

『小学生のくせに、義姉に性的興味を抑えられない子がいるらしい』

『初見ですが、メスガキって本当に小学生なん? \100』

『小学生がブイチューバーしてるとか、世も末だろ』

『まあリアル小学生配信とかもないわけじゃないが』

『いまどきブイはほとんど企業勢だしな』

『メスガキも仕事っぽいキャラづくり味あるわ』

『普通に考えれば、こんだけキャラ立ちまくってるの小学生じゃ無理』

 

「あはっ♡ 初見のお兄ちゃんに言っておくけど、わたしは本当に小学生だよ♡ ほらほら幼女と話せてうれしいでしょ♡ 喜べよロリコンお兄さんたち♡」

 

『くそおおおおお(なんか嬉しい。これがメスガキの魅力?)\100』

『くそおおおおお(わかる。言葉は棘だがなんかあったかい)\100』

『くそおおおおお(いっしょにこのメスガキわからせようぜ)\100』

『くそおおおおお(かつてない連帯感。オレたちナカーマ!)\100』

 

「お兄ちゃんたちキモーい♡ そんなんじゃわたしが普通の小学生なら引かれちゃうよぉ♡」

 

『ち、メスガキがいきがりやがって』

『いつかわからせてやるからな!』

『オレ氏、この状況がとてもおもしろい』

『まあ、メスガキって名前な時点で小学生に興味あるのは自白しているようなもんだし』

『お、オレはメスガキってキャラづけに興味があるだけだ \1000』

『イソラちゃん声かわいいから好き \5000』

『赤スパ告白ナイス』

『ナイスパパ』

『いかしてるぜ。あんた』

 

「ん。消臭絶対必要おじさんお兄ちゃん、声が好きって言ってくれてありがとう。さてさて、じゃあ話のほうに移っていくけど、いいかなぁ」

 

『いいとも』

『いいですとも』

『かまわんやれ』

『確か姉ちゃんに大学にやめないでって言う話だったよな』

『自分の願望として大学やめないでという話』

 

「そうです。わたしがイヤだからお姉ちゃんに大学に通っててほしいって伝えるというお話だったよね。それで結果なんだけど――――」

 

 わたしは少し間を置いた。

 それからスっと頭を下げた。

 このメスガキ・イソラというキャラの稼働域は案外広い。

 キレイなつむじだって見せることができるぞ。

 まあ、普段メスガキのキャラと合わないからやってないけどな。

 そして、ちょっと強い声を意識して口を開く。

 

「なんの成果も得られませんでした!」

 

『今日時間早いなと思ったら謝罪動画だったのかよw』

『さんざんイキっておいて謝罪すんなw』

『いや待て。どうしてそうなった?』

『メスガキは姉へのクソデカ感情以外はコミュ力つよつよのはずだろ?』

『なにがあったんだ、いったい』

『ンー。メスガキって案外童貞くさいところがあるからな』

『お姉ちゃんに誘惑でもされちゃった?』

 

「お姉ちゃんに誘惑されちゃったってコメントあるけど、まさにそんな感じなんだよね。わたしが話を伝える前にお姉ちゃんが料理するって言ってきたからさぁ。わたしもお姉ちゃんの料理を手伝ってあげたの。これってもう結婚だよね?」

 

『ああそうだな(目そらし)』

『確か姉ちゃん20歳だっけ。姉妹百合てぇてぇじゃん』

『姉ちゃんって料理一回もしたことないんだっけ?』

『イソラの策謀によって、お姉ちゃんは既に餌付けされているらしい』

『姉の手料理を食べさせてもらって舞いあがってたんだなw』

『うーん。依存させたい依存症』

『お姉ちゃんが自立しちゃうとか勘違いして、盛大に混乱してたんじゃねーのw』

 

「まあ……そうね。うん、実はちょっと混乱してた。またお姉ちゃんが自立心を高めてるんじゃないかって思ったからね。だから、百万円の件はもう一回棚あげして、頭がよくて人生経験豊富なお兄ちゃんたちに聞こうかなって思ったんだよ。ねえ、わかるよね。お兄ちゃんたちって女性とつきあった経験も豊富なんでしょ♡」

 

『くそおおおおおおおおお』

『ああ女性と邂逅した回数なら何十回もあるぞ』

『毎日コンビニで会ってる』

『まあ普通に彼女くらいいるが』

『学校の先生は女性としてカウントされますよね?』

『メスガキごときが舐めるなよ』

『なんか上のほうで彼女いるくせにメスガキ動画見てるやつがいたぞ』

『あ?(威圧)』

『ちくしょうめ!』

 

「あ、ごめーん。少し煽りすぎちゃったぁ♡ 雑魚雑魚お兄ちゃんたちはわたしが相手してあげるだけじゃ不満なのかな♡ わたしのこと好きじゃないの? わたしはぁお兄ちゃんたちのこと好きなんだけどなぁ♡ もちろんオモチャとしてね♡」

 

『オレも好き』

『オモチャとしてもてあそばれちゃった』

『時々、非メスガキ要素を出してくるよな』

『メスガキ否定要素CO』

『彼女いる発言をしたやつをさりげにかばうムーブがもうね』

『でも、姉に欲情してる妹なのはまちがいないんだよな』

『もうイソラのキャラ設定グチャグチャ丸だよ』

『お姉ちゃんのことが好きってことは確か』

 

「そーだね。わたしはお姉ちゃんが好き♡ これはもう絶対的な世界運命だよ♡」

 

『世界運命?』

『そ、そうですか。よかったですね』

『オレ氏、人狼ゲームを観戦しているみたいだ』

『瞳の中にハートマークが見えるぞ』

『まあロリサキュバスだし……』

 

「ほらほら、お兄ちゃんたちなんか意見はないの? 恥ずかしがってないで出しちゃえよ♡ スカスカのノーミソ使って考えろ♡ ロリが困ってるのに、ロリコンのお兄さんたちがまともな意見ひとつも出せないなんて情けなぁい」

 

『罵倒加速装置入りました』

『しかし聞かれていることは昨日と同じだからなぁ……』

『下半身に血流が集まって何も考えられなくなりました』

『そうか。オレは髪の毛じゃなくて脳みそスカスカだったのか』

『メスガキのクソデカ感情の処し方とか誰も答えられねーよw』

 

『ちょっとオレ氏の発言を聞いてもらっていいか? \10000』

 

 赤スパが飛んできた。

 よっぽどわたしに聞いてもらいたいんだろう。

 その意見、自信ありとみた。

 

「カフェ・オレお兄ちゃん。スパチャありがとう。いいよ。言っちゃえ♡」

 

『つい先日のことなんだが匿名掲示板にあるスレッドが立った。そこでは、いまメスガキが言ってるのとほぼソックリな内容が流れていたんだ。要素をあげてもキリがないと思うが、両親が早世したこととか、姉の年齢が20歳とか、百万円を妹に渡されたとかな。ただメスガキの話と違うのは視点だ。つまり、このスレッドは姉が立てたやつなんだよ。\1000』

 

『ん?』

『カフェ・オレ氏。なんか語るやん』

『掲示板?』

 

 んあ?

 えっと。

 えーっと、うまく頭が回らない。

 

「すごく似通った事例があったから、その掲示板を参考にすればいいって話かな?」

 

『似た事例じゃない。ほぼ間違いなく『この事例』だ。あまり詳しく書きすぎると個人情報上マズイと思ったので伏せているが、メスガキはDMを解放していないからここに書くしかなかった。\1000』

 

『なんやなんや。メスガキが身バレしたって話か?』

『姉のほうが百万渡されて混乱して板立てたってこと?』

『カフェ・オレは何がしたいんや』

『板名とか書いてくれないとさすがにわからんな。星の数ほどあるんだし』

『試しに百万円で検索しても出なかったわw』

『メスガキちゃん動き止まってんよ』

 

「……」

 

 DMは確かに解放していない。

 そもそもわたしは個人勢をつらぬくしかなかったからな。

 企業勢とコラボでもしたあかつきには、秒で小学生だとバレる。

 そんな危ない橋は渡れなかったんだ。

 わたしがみんなとコミュニケートする窓は配信しかなかった。

 しかし、あのお姉ちゃんが匿名掲示板に板とか立てるか?

 ハッキリ言って想像できない。

 これブラフじゃない?

 そうだよ。きっとそうだ。

 

「証拠とか……あるのかなぁ?」

 

『声ひきつってる定期』

『なんだ? わからせか?』

『カフェ・オレ氏のわからせが始まるのか?』

『ブイで身バレは致命的だからやめてほしい。もしメスガキが配信やめたら怨むぞ』

 

『すまん。ビビらせるつもりはなかった。最初に赤スパ投げたのは、オレがメスガキの味方であると示したかったからだ。証拠は存在する。実を言うと、姉が妹の真意がわからんとかで、妹の心の内を探るために動画を撮影してスレ民に判断してもらおうって流れになったんだよ。\100』

 

 動画?

 お姉ちゃんが動画を撮影?

 ますます信じられない。

 

『姉が絶望的なまでにコミュ障だったために動画は生配信という形で流れてしまった。一応、のっぺらゲンガーをつかって最低限の個人情報保護はされているが、声までは加工されていない。AIに分析してもらったらビンゴ。メスガキの声と完全一致という結果が出た。\100』

 

『へえ……?』

『最近のAIさんはなんでも教えてくれるからな』

『オレがメスガキとつきあう方法を教えてください』

『AI:そんなのねーよ。顔見て出直してこい』

『くそおおおおおおお』

『つまりその動画を見つけられれば、メスガキの生身の姿がおがめてるってことだよな』

『のっぺらさんは棒人間にもなれるから、生身が見れるとは限らんぞ』

『ちょっと興味あるわ。メスガキの中身w』

『従順な羊の皮をかぶった狼だろw』

『ンー。カフェ・オレ氏が言及していないメスガキの属性を考えると、これって……』

 

 ヤバい……。

 まるで喉元に刃をつきつけられているような気分だ。

 動画の内容はわからんが、お姉ちゃんが()()()()()()()()()()()()()()が苦しい。

 身バレとかぶっちゃけどうでもいい。

 配信をやめなきゃいけないリスクは小学生だから常にあった。

 でもそれはお姉ちゃんを養うための手段であり目的ではない。

 だから、ちょっと未練はあるけど、べつにそれは問題ではない。

 カフェ・オレが何を思ってこんな発言をしたかは知らんが、それもどうでもいい。

 さきほどからカフェ・オレの発言にはわたしが小学生であるという情報を落してなかった。

 おそらく意図的な発言コントロールだろう。

 

 だとすれば、おそらく動画ではわたしが小学生らしい矮躯であることもバッチリ映っていたと推測できる。小学生のわたしを保護しようとしてくれてるのかは知らんが、もしそうだとすれば、彼は紳士だ。

 

 が――、だからどうした?

 

 わたしの生きる目的はなんだ?

 お姉ちゃんという宝物を得るということだ。

 いまの状況で何をすべきか。

 

「そっかぁ。そんなことになってたんだぁ♡ カフェ・オレお兄ちゃんは()()()()()()()()()()()と思っているの?」

 

『さっきも言ったが、オレはメスガキの味方のつもりだ。オレは掲示板で姉にメスガキがブイをやってることを知らせることもできたんだが、そういったことはしていない。どう考えても妹が姉に恋情を抱いているという状況のほうが特殊だからな。メスガキのほうに情報を渡すほうが第三者的な立場からはフェアだって思ったんだよ。\100』

 

「そりゃそうだよね。お姉ちゃんにガチ恋抱いている小学生とか、よっぽど戦略を練らないとうまくいかないからね。お兄ちゃんのお心遣い感謝いたします」

 

 わたしはまた頭をさげた。

 これはマジでそう思っている。

 カフェ・オレはやっぱりいいやつだ。

 わたしのことが小学生だとわかっていても、わたしのお姉ちゃんの想いまでは否定していない。

 

『だったらDMか、あるいはオレが捨てアド晒すから、そこにメッセージ送ってくれ。スレ名とか、動画アーカイブのURLとか渡すからさ。\100』

 

『なんだなんだ。いい話か?』

『カフェ・オレ氏がなんかかっこよくてむかつくわ』

『カフェ・オレの中、あったかいナリィ』

『こりゃ、メスガキもわからせられちゃったかな』

 

 カフェ・オレ氏のことは信頼できるだろう。

 それでお姉ちゃんがどんなスレを立てて、どんな発言をしているかがわかれば、お姉ちゃんを篭絡する一手になれる。

 

 だが――、足りない。

 圧倒的に足りないのは、そのスレッドをコントロールする術だ。

 いまはたまたまカフェ・オレ氏だけが、スレッドと配信を行き交い、両者を結びつけることができた。でも、第二・第三のカフェ・オレ氏が出てこないとも限らない。

 

 悪意のある者だって、出てくる可能性がある。

 

 わたしにとっての一番のリスクは、お姉ちゃんにわたしの腐れきった激重な愛情を知られてしまうこと。いまは家族愛を隠れ蓑にしているが、本心が知られてしまったら、お姉ちゃんはきっと受け入れてくれない。今の段階では――。

 

 当たり前だ。

 小学生女児には誰かと添い遂げたいという判断能力すら社会的に否定されてしまうから。

 

「ふふ……」

 

『メスガキ、不敵に笑う』

『カフェ・オレ氏にわからせられてしまってかわいそう』

『かわいそうかわいい』

『いざわからせを達成してしまうと、これはこれでむなしさを感じるな』

『すまん。急に話をしてしまって。今日は考えとくだけでもいいから。\100』

 

 わたしは、配信用のノートパソコンに小さな指を伸ばす。

 

――フェイルセーフ解除。

 

――第二セーフティ解除。

 

――キャラ・マスカレイドソフトの停止。

 

――本当に解除しますか。

 

――イエス。

 

――現在配信中です。本当に?

 

――答えはイエスだ。

 

「あーあ♡ カフェ・オレお兄ちゃんにわからせられちゃった♡ 責任とってよね♡」

 

 わたしはブイチューバーという仮面を投げ捨てて、みんなの前に小学生の矮躯を差し出していた。途端に広がるのは爆流のようなコメントの嵐だ。正直、ブイにとってリアル顔出しは自殺めいたところがあるからな。この混乱は予想された。

 

 でも、わたしにとってはそんなことは二の次だ。

 

『ええぇ……なにやってんのイソラちゃん。\100』

 

『ふわぁぁ……、メスガキちゃんがあらわれた』

『白髪にグリーンアイ。バチクソかわええ』

『え、メスガキマジの小学生?』

『メスガキというよりはビスクドールみたいな出で立ちだが、これはこれで……』

『これってワイらガチ小学生相手にメスガキプレイしてたってこと?』

『マジかよ。小学生のメスガキ演技能力の高さがスゲェ……』

『リアルメスガキだったとは』

『これもうメスガキをメスガキ呼びできる自信ねーわ』

『禿げになったら禿げを笑えなくなるようなもんよな』

 

 まあ、顔出しはちょっと思うところはある。

 みんなに対しての裏切りみたいなもんだからな。

 次回を許してもらえるなら、ちゃんとブイの皮をまとうよ。

 

 でもさぁ。

 わたしは、お姉ちゃんが一番大事なんだ。

 顔出し身バレとか、正直どうでもいい。

 

「カフェ・オレのお兄ちゃん。どうしたの? わたしのこの姿も知ってたんだよね。お兄ちゃんがわたしにこの姿を晒させたんじゃん」

 

『いやいや、まさか自分から晒しにいくとは思わんて。\100』

 

「でも、いたいけな小学生だよ。判断力ゆるゆるなわたしが大人のお兄ちゃんに追求されて、自爆しちゃうってことも考えられることじゃない?」

 

『それを自分で言ってる時点で草なんだがw』

『くそ。リアルかわいい小学生だとなんだか責めきれないぜ』

『ブイの仮面ってほんと大事だったんだなぁ』

『正直、カフェ・オレ氏は悪くないと思うぞ』

 

「でも、カフェ・オレお兄ちゃんはわたしのお姉ちゃんへの気持ちが本気なのもわかっていたはずなんだよ。そして、カフェ・オレお兄ちゃんにバレたんなら、お姉ちゃんにバレるのも時間の問題かもしれない。そう思ったら怖くなっちゃった……」

 

『シュンとした顔を見せるな』

『かわいいけど、かわいいって書いたら事案になりそうで書きこみづれぇ……』

『メスガキがシュンとすると、なんというか心にクルものがあるな』

『全部演技という線も捨てがたいのが恐ろしい』

『本当におまえ小学生か? いや見えてる現実とキャラで脳がバグるんだが』

『姉への恋情を打ち明けた回のアーカイブ消せば、とりあえずは大丈夫じゃないか?』

 

『いや配慮が足りなかったと言われればそうかもしれん。すまなかった。\100』

 

「ん。じゃあまずスレッドのURL張って♡」

 

『え、でもそれってリスナーにもバレちゃうんじゃ。\100』

 

「いいよ。だって顔出ししてるんだし、それに比べればいまさらじゃん♡」

 

『わかったよ。https://syosetu.org/novel/312293/1.html ここだよ。\100』

 

「わぁ。カフェ・オレのお兄ちゃんありがとう♡ さっきは悪く言ってごめんね♡♡♡」

 

『これってイソラのメスガキ度増してないか』

『もうこれイソラちゃん覚醒モード入ってる』

『なんとなくだが、イソラがしたいことがわかった気がする』

『小悪魔な羽が幻視される』

『イソラちゃん、天使みたいな容姿だけど小悪魔の羽ついてない?』

 

「じゃあ、みんなでスレを監視してて。わたしがブイしていることバレそうになったら教えてね♡ あと、こっちで都合がいい情報を流したくなったら伝えるからみんな協力してね♡ 最低でもカフェ・オレのお兄ちゃんはこうなった原因つくったんだから協力してくれるよね? 絶対逃がさないからね♡」

 

『うえええええええ』

『えげつねええええ』

『この少女、小悪魔につき』

『メスガキ力が急激にあがっていってる』

『情報操作入りました。情報操作入りました。情報操作入りました』

『ケテ……タスケテ……\100』

『カフェ・オレ氏が真っ白になって燃え尽きてやがる』

『わからせられているのはオレらだった?』

 

 そうだよ。雑魚お兄さんたち。

 わたしがわからせられるんじゃない。

 わたしがお兄ちゃんたちをわからせるんだ。




あなたがメスガキをわからせているとき
メスガキはあなたをわからせているのだ


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悲報。カフェ・オレ氏逮捕される

 わたしは思いがけなく顔出し配信をすることになってしまった。

 

 しかし、生の小学生が顔出しすることによって、リスナーのお兄ちゃん諸氏には、わたしの本気が伝わり、ある程度わたしの言うことを聞いてくれるだろう。なんだかんだ言っても、配信を見に来てくれる以上、わたしのファンであることは間違いないからな。

 

 それに、まあわたしってカワイイですし?

 外に出れば、老若男女問わずに微笑ましいものを見るような視線を投げかけられる。

 なかには、ねちっこい視線を投げかけてくる人もいるけど、そういうロリコンの視線は正直見られてるほうからすればバレバレなんだよな。こっちが見返すと、すぐに視線逸らしたりするし、むしろカワイイのはおまえらだぞ。

 

 カワイイわたしのお願いを、雑魚なお兄さんたちが拒否できないのは当然の理。世の中の真理と言ってもいい。要するに、

 

――手玉にとるっていう感覚ですかねぇ(ロリサキュバス目線)。

 

 人形遣いが人形を操るように、メスガキは雑魚お兄さんたちを操るのが宿命なんだよ。

 

 こういうふうにわたしがファンを動かして、盤面を有利に進める方法を俗に『ファンネルを飛ばす』と表現したりする。ファンネルっていうのは、ガンダムの兵器のことで、小さなビットからビームとか飛ばしたりする例のアレだ。あるいは、『伝書鳩』といって、わたしの意図を配信外にお届けすることも、これに含まれるかもしれない。

 

 いずれにしろ、わたしが直接的に掲示板を操作するというのは、いくら匿名掲示板でも歪みが生じてしまうと思う。人狼ゲームで狼が噛みによって盤面操作をすると、どうしても狼の意図が透けてしまうことがあるからな。同じように、匿名性のなかで特定の個人の発言が目立ちすぎると、わたしの存在がバレる可能性があるってことだ。

 

「だからぁ♡ お兄ちゃんたち、まずは読書の時間だよ♡ いきなり向こうに書きこんだりしたらダメだからね。いくら頭よわよわでも『待て』くらいできるよね? お兄ちゃんたち♡」

 

『はいわかりました』

『わんわーん』

『わかりましたw』

『リアル小学生の身バレのリスクを考えると、そうそう書きこめんて』

『掲示板いま読んでるけど、これお姉ちゃんがかわいすぎるw』

『小学生の指示に従うオレら』

『メスガキに飼われたい』

 

「よしよし♡ 待てができてえらいね♡」

 

『クゥーン』

『小学生にヨシヨシされる事案』

『しかし、イソラもこれ掲示板読みながら配信とかできるんかね? \2000』

 

「エル・オーお兄ちゃん、スパチャありがとう。お姉ちゃん活動資金に使わせてもらうね♡ 配信しながら掲示板見るのはちょっとキツイかもしれないかなぁ♡」

 

 配信は見られながら見るといった芸当をこなしているわけで、素の状態でも常にマルチタスクをしているわけだからな。これにもうひとつの作業が加わると、わりと厳しい。

 

『お姉ちゃん活動資金というパワーワード』

『イソラに課金しちゃって大丈夫? パパ活になったりしない? \3000』

『お姉ちゃん活動資金だから大丈夫だろw』

『みなさんにいただいたお金はお姉ちゃん活動資金として使わせていただきます』

『いくらハイスペックな小学生でも、さすがに厳しいか』

 

「ニート兄ぃスパチャありがと。パパ活ってなんのこと? パパみたいに活動することかな?」

 

『いやいやおまえ知ってるだろw』

『カマトトぶりやがってよう』

『もうね。小悪魔ちゃんなんよ』

『リアル小学生の容姿に騙されてはいけない』

 

「わたし小学生だからわかんなぁい♡」

 

『ぐぅ正論』

『これ以上なく正論』

『あんまり言いすぎると事案になってしまうという罠』

『くそおおおお。メスガキめ。わから……いやなんでもない』

『もう二度とわからせできないねぇ』

 

「それはそうと、今いるお兄ちゃんたちだけじゃなくて、夜にいるお仕事してたり学校にいってるお兄ちゃんたちに説明するために、今日はもう一回配信するね。あと少しで休憩しようかな」

 

 今は突発的な昼配信をしちゃってるわけだけど、わたしのリスナー層は夜に参加してる方が多いしな。いったん配信切ってから、夜にもう一回配信するほうがいい。

 

 それにわたし自身の予習も必要だ。

 勝手にお姉ちゃんの日記を盗み見るような背徳感もあるけど、実は少しだけ――いやおおいに興味がある。お姉ちゃんって思考隠しするタイプだからな。わたしにも、というか人間全般に対してこころを開かないタイプ。そこが愛おしいところなんだけどね。

 

 そろそろお姉ちゃんが帰ってくる時間だし、お姉ちゃん成分が切れてきた。

 夕飯の準備もしなくちゃいけないから、残り時間はあと少しってところか。

 

 少ない時間でできることは――っと。

 

「あ、そうだ。カフェ・オレのお兄ちゃんに報告してもらおうかな♡ まずは掲示板の流れをざっとわたしに説明してみて。お兄ちゃん頭いいからできるよね♡ あとスパチャは無理しないでいいよ♡」

 

『見てこいカフェ・オレ』

『これはロックされてます』

『小学生に狙われてます』

『ひえ』

『カフェ・オレ死』

『スパチャは無理しないでってところがもうね。飴と鞭なんよ』

『スパチャ無理しないでのところだけスゲエ優しげな声なのが怖い』

『掲示板、まだそんなに進んでないからすぐ読み終わったぞ』

『首輪つけられちゃったね♥』

 

『伝聞になるからメスガキが自分で読んだほうがいいと思うが、ざっと説明すると、姉が妹のヒモになりそうってことで自分をヒモ姉と自称して助けを求めている。その後は、ヒモ姉のダメっぷりが速攻で明らかになり、メスガキとの生活を生配信で流すといった感じか。\100』

 

「ふぅん。お姉ちゃんわたしから百万円渡されて、自分のこと小学生妹のヒモになりそうって思っちゃったんだ。かわいいね。ほんとかわいい♡」

 

『ヒモ姉www』

『そりゃ(小学生から百万渡されたら)そう(ヒモになるの怖い)よ』

『掲示板的には、無難に見守る派が多そうではある』

『ヒモ姉が情けなさすぎて相対的に妹ちゃんが優秀って感じか』

『小学生に生活全般をお世話されまくってる時点でもうね』

 

「わたしのスレ民の評価はどんな感じ?」

 

『そうだな。一概には言えんが姉への愛情を抱いているってのはスレ民も感じてるんじゃないか。ただそれは家族愛だと思うし、中には姉妹百合てぇてぇとかで茶化してるやつもいるが、背景事情を考えるとどうしてもなぁ。\100』

 

「そりゃそうだね。わたしもそう思う」

 

 両親を失って、お姉ちゃんとふたりきりになった小学生だからな。

 姉への思慕の情は、家族愛だと解釈するのが一般的だろう。

 それがわかってるからこそ、わたしも悩んでいたんだしな。

 

『ちな、ヒモ姉にメスガキへの恋愛感情はないそうだ。\100』

 

「はあああああああああああああぁぁぁぁ!? なんでええええええええええぇぇ!?」

 

 ふざ、フザけんなよ! ちくしょう。

 こんなの、こんなのまちがってやがる。

 わたしのお姉ちゃんはそんなこと言わない!

 いや、お姉ちゃんを否定してるんじゃない。

 お姉ちゃんは絶対正義だから、お姉ちゃんの言葉は正しい。

 けれど、脳みそが焼き切れそうなくらい熱くて、現実を受けいれられない。

 

『うるせえwww』

『悲報。メスガキ発狂するwww』

『イソラちゃん、ツライ現実に耐えられない』

『小学生だもんな』

『そりゃそうよ……。小学生妹から言い寄られても困惑しか湧かない』

『怒っててもかわいいのがバグるんだよなぁ』

 

「スゥ―――、ハァ。えへへ、取り乱しちゃってごめんね♡ そっか。そうだよね。()()()()()()お姉ちゃんがわたしに堕ちきってないのは、わたしにもわかってたんだ」

 

『だからこそ時間を求めたわけだからな』

『妹から恋愛感情向けられてるとか普通思わんて』

『家族愛と勘違いされちゃうだろうしな』

『いまでも家族愛かもしれないなって思うぞ。自分自身もわかってないだけで』

『今の時点ではって、必死に抗弁する姿がいじらしいわw』

 

「じゃあさ、カフェ・オレのお兄ちゃんとしては、今後どんな対策をするのがいいと思う? もちろん、わたしがあきらめるって線はなしね。お姉ちゃんをその気にさせるプランを考えてみて♡」

 

『いや、そんな方法があるのか疑問なんだが。今のメスガキは小学生なんだし、ヒモ姉がそれに応えたら、ぶっちゃけ児童虐待だろ。メスガキ自身が考えたとおり時間経過を待つのが無難だと思うぞ。\100』

 

「そうだね。時間経過は超大事。今の時点で告白するって線は、カフェ・オレお兄ちゃんのもたらした情報によって消えたって言ってもいいと思う。けれど、時間が過ぎるのを漫然と待つだけじゃなくてさ、盤面が有利になるように今という時間をどんなふうに活用したらいいかって話なんだけど。ねぇ、お兄ちゃんがんばって考えて♡」

 

『この小学生天才か?』

『ねえ、イソラちゃん本当に小学生?』

『他力本願寺だが』

『カフェ・オレ氏、顔出しの原因作ったから逃げられない』

『この小学生、転生して人生二度目なんじゃない?』

『ギフテッドか……』

『グリーンアイドモンスター……』

『お姉ちゃん逃げて。超逃げて。ついでにカフェオレも逃げろ』

 

『そうだな。さきほどの発言の焼き直しになってしまうが、掲示板ではメスガキの気持ちが確定しないように情報操作しつつ、家族愛で偽装するって線が丸そうではあるかな。\100』

 

「せっかく、わたしが情報を握ってる立場なんだから、もう少し積極的に動きたいなぁ♡」

 

『積極的?』

『もう十分に積極的だと思うが』

『押して押して押しまくってるよな』

『たまには引くことも覚えたほうがいい』

『ヒモ姉は陰キャっぽいから引いたほうがいいかもな』

 

「えー、お兄ちゃんたち消極的ぃ♡ そんなんじゃ満足できなーい♡」

 

『積極的に動くといっても限度があるだろう。掲示板の情報操作もやりすぎるとかえって逆効果じゃないか。\100』

 

「んー。そうかもね♡ でもリアル方面だったらどうかな♡」

 

『リアル方面?』

 

 それには答えず、わたしはおもむろに立ち上がる。そう()()()()動く。

 

 配信は、ローテーブルにパソコンを配置して、リラックスした状態で進めているが、今日のわたしはメスガキ度200%アップだからな。

 

 カメラの位置を微調整して、後方にあるベッドに腰かける。

 

 そして、足をくみ、みんなに見せつけるようにした。

 なお、今日の服装はワンピースというか子どもドレスというか、黒くてひらひらしているやつ。

 前のほうには大きめのリボンが垂れ下がっていてかわいらしい。

 当然、わたしが自分で選んで自分で買った一品である。

 パンツが見えそうな服装なので、少し気をつけなければならない。

 なお、靴下は履いてない。

 実のところ、陶器みたいななめらかな足が自分でもお気に入りだったりするんだよな。

 男目線で考えても、すごくキレイだし。触るとすべすべしてて気持ちいい。

 だから、みんなに宝物を見せるようにして悦にいるという感情が少しはある。

 

『ふあああああ。やめろ』

『やめなされ。やめなされ』

『メスガキさん、生足を見せつける暴挙』

『かわいいけど興奮しないな』

『これはいけません』

『小学生がはしたないですぞ』

 

 はしたなくても目的のためならキッチリやるのが真のメスガキなんだよ。

 

「今さっき思いついちゃったんだけどぉ♡ 例えば、カフェ・オレのお兄ちゃんのことはわたし視点信頼できるから。リアルで会ってもいいと思うんだよ♡」

 

『小学生から会っていいと言われる事案が発生してます』

『これはロリサキュバス』

『えぇぇ……\100』

『カフェ・オレ氏困惑』

『そりゃ困惑するでしょ』

 

「で、わたしがお姉ちゃんとどこかで待ち合わせをしているところに、カフェ・オレお兄ちゃんが声かけしてくるの。『ねえ君ひとり。かわいいね?』。そこで駆けつけたお姉ちゃんが颯爽と登場して、わたしは無事に守られる♡ カフェ・オレお兄ちゃんは『ち、強そうな姉ちゃんがついてやがったか』と言って逃げていく。これで、わたしがお姉ちゃんのことを好きになっちゃったというストーリーができあがるってのはどうかな♡ 未来への伏線になるね!」

 

『悲報。カフェ・オレ氏逮捕される』

『強そうな姉ちゃん。どう考えてもその時点で破綻なんですがそれは』

『メスガキはこう言ってる。お姉ちゃんのために死んでくれカフェ・オレ』

『はは、こんなになっちゃった。(手錠を見せながら)』

『わ……………ワァ…………\100』

『カフェ・オレちゃん。泣いちゃった』

 

「まあ今のは冗談だけどね♡ ごめんねカフェ・オレお兄ちゃん♡ ただ、こんなふうにリアルを利用するってこともできるかなって思ったんだよ。お兄ちゃんを信頼してるからこそできる一手だけどね」

 

 人はストーリーを求めるものだからな。

 なんか漠然と好きになりましたというんじゃ説得力がない。

 ただでさえ、家族愛だと誤解されやすい今の状況だと、お姉ちゃんを納得させることはできないんじゃないかという懸念がある。

 わたしはお姉ちゃんのことが好きになったというストーリーが欲しいんだ。

 

『ねえカフェ・オレ氏がさっきから息してないの』

『小学生にイジメられちゃったカフェ・オレちゃんがかわいそう』

『リアルで小学生と会うのはリスク高すぎだろうな』

『声かけるどころか道ですれちがっただけで事案だからな』

『世知辛い世の中だ』

 

「ほ、本当にごめんね。えっと嘘だよ。あんまり考えないで喋っちゃったの。お兄ちゃんたちが不利益を被るようなことは絶対にしないから安心して!」

 

 わたしはパソコンに近づいて平謝りした。

 どうやらやりすぎたようだ。

 

『メスガキなのか非メスガキなのか。それが問題だ』

『ガチ焦りしてるな。やっぱ小学生だしなぁ』

『近づいてこられると、緑の目に吸いこまれそうになる』

『ば、バブぅ……\100』

『カフェ・オレが幼児退行してやがる』

 

「さてさて、そろそろ時間かな。カフェ・オレお兄ちゃんをわからせちゃったし、リアルでの活動方法は問題が多そうだからナシの方向でいこうかなと思います。ただ、よかったらお姉ちゃんのことをわたしが好きになってもおかしくないようなストーリーを考えてみてね」

 

『みんなの力を結集して、妹が姉を堕とす方法を考えるか』

『しかも、小学生妹が姉に恋愛感情を向けてもおかしくないストーリーか』

『いやそんなのねーだろw』

 

『ばぶばぶぅ(悩みがあるなら顔の見えないネットの連中ではなくて、誰か信頼できる大人に相談してみたほうがいいと思うぞ。姉に恋するなとは言わんから、少しだけ周りに目を向けてみろ。それがオレのリアル方面でのアドバイスだ。\100』

 

「うん、カフェ・オレお兄ちゃんありがとう♡♡♡」

 

 でも――、カフェ・オレお兄ちゃんのことも信頼できる大人だよ。

 

 と、リンリーンとわたしのスマホに通知が入る。

 玄関先の遠隔カメラが起動。お姉ちゃんが帰ってきたみたいだ。

 

「あ、お姉ちゃんが帰ってきたからもう行くね♡」

 

『すげえ嬉しそうな声』

『いってらー』

『いってらー』

『今日の夜の枠ってリアル顔出しするのかな?』

『リアル顔出しはリスクだからしないほうがいいだろ』

『正直、リアル小学生と応対するのは緊張感で疲れる』

『ブイだからこそ気楽だったとも言えるかもな』

『バブぅ。\100』



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真メスガキわからせ生配信

 いつもの時間になった――。

 わたしは黙っている。

 一分、ニ分と無常の時間だけが流れていく。

 

『しかし、なかなか始まらないな』

『今日はなんか重大発表があるらしいが……』

『夕方頃に配信があったみたいだが、アーカイブも残ってないしな』

『なーんか静かですねえ』

『みんな自粛してメスガキの属性を言わないでいる。スゲェ自制心だ』

『メスガキに優しいお兄ちゃんばっかだよなここは』

『バブぅ(オレはここにいるぞ!)\100』

『カフェ・オレ兄貴、生きてたんかワレェ』

『だが、どう考えてもこれから先は暗雲しかないような気がするが……\100』

『オレも配信見た口だが、それ思ったわ。\100』

『暗雲?』

 

 わたしはしばらくコメントが流れるままに任せていた。

 なかなかエンターキーを押せないでいる。

 みんな優しすぎる。その優しさにわたしは打ちのめされそうになる。

 

――わたしは反省した。本当に本当にこころの底から反省した。

 

 正直なところ、顔見せしたのはやっぱりまずかったかなと思う。

 だから、今のわたしはブイの仮面をまたまとっている。

 裸身の異空ではなくて、メスガキのイソラとして、ここにいる。

 あとはエンターキーを押しさえすればいい。

 その最後の一押しの勇気さえ持てない。

 

 最後にリスナーのお兄ちゃんが言ってたけど、リアル小学生がメスガキ配信しているというヤバさがあるから、みんなはわたしの()()()を赦してくれた。

 

 小学生という被保護対象に遠慮した結果だ。

 

 あれじゃあリスナーさんたちも気まずかっただろうと思う次第。

 

 わたしにとっての最終目標はお姉ちゃんと結婚することであって、いたずらに顔見せしたわけじゃないけれど、わたしはブイとしての価値を――ひいてはリスナーのお兄ちゃんたちを犠牲にしたんだ。

 

 わたしはお姉ちゃんのためなら、自分のすべてを捧げられると思っている。

 ブイだってやめてしまってもべつにかまわない。

 けれど、リスナーたちのメスガキへの想いをないがしろにしたのは、()()()()()()だった。

 

 特にカフェ・オレのお兄ちゃん。

 

 途中で、お姉ちゃんがわたしに恋愛感情を向けてないって言われて、メスガキ度を急激にあげてしまい、あんな態度をとってしまったが、それでも彼は大人としての振る舞いを一切崩さなかった。

 

 周りの大人に相談しろと言われたのが、クリティカルだったな。

 

 あのときはなんでもないふうに対応したけど、パッパもマッマもいなくなって、わたしは誰に相談したらいいか、よくわからなかったんだ。

 

 もちろんお姉ちゃんに相談するのも無し。

 

 学校の先生は?

 

 正直なところ、よくわからない。

 担任は優しい女の先生だけど、優しさが誰かにとっての毒になることはあるだろう。

 

 下手したら、両親の死によって心因性の強迫神経症を患っているとか思われて、カウンセリング一直線ということも考えられる。そんなリスクの高いことは負えなかった。

 

 つまり周りに信頼できる大人がいないんだ。

 無条件に信じてもいい大人はみんないなくなってしまったから。

 それだったら、リスナーのほうがまだ信頼できる。

 だから、配信でリスナーのお兄ちゃんたちの考えを聞きたかった。

 

 それなのに、わたしは心の底では、()()意見も聞いていなかったんだ。

 

 ただ自分の気持ちを突っ走ってきただけだった。

 

 それが今度のことでよくわかった。

 

 わたしは断頭台にのぼる死刑囚のような気持ちで、エンターキーを押す。

 

「……あ、聞こえますか……」

 

『メスガキ……どうした?』

『今日のメスガキちゃんは元気がないわねぇ』

『食あたりでも起こしたんじゃないか』

『お腹冷えたんじゃね? おなか丸出しだしなww』

『腹パンでも喰らったんじゃね?』

『メスガキは生意気なくらいがちょうどいい』

『あ、うん(察し)』

『バブゥ(どうしたメスガキ。例の配信はなかったことにしてもいいんだぞ)\100』

『みんな奇跡的な結束を見せてるからな。マジこいつらスゲェって思ったよ』

『なんか昼配信見てた連中と空気差がすごいな? いったいなんなんだ?』

 

「ありがとうございます。昼のお兄ちゃんたち。こんなわたしを気遣ってくれてうれしいよ。でもちゃんと言います」

 

『ばーぶ(本当にそれでいいのか?)\100』

『昼配信の時ですらイキイキしてたのに、なんかあったんか?』

『メスガキが弱ってると調子狂うぜ。あ、昼の時はオレ的にはありよりのありなw』

『むしろメスガキ度は昼のときのほうが芸術点高かった』

『でもカフェ・オレみたいに精神崩壊させられるのは勘弁なw』

 

 こんなクソみたいな状態のわたしでも、みんな庇ってくれている。

 そのことに少しだけ勇気づけられた。

 一度目のような爽快感は微塵も感じない。

 自分で自分の死刑ボタンを押すような、そんな気持ちだ。

 

「ここのスレッドを見てください」

 

 わたしはリンクボタンを発生させる。

 最初は漣が起こるようにゆっくりと。

 でも反応は次第に大きくなっていく。

 

『え? どういうこと?』

『イソラってマジモンの小学生だったのかよ』

『昼配信の時、顔出しでもしたんか?』

『昼の時は、まだイキってたんよ。\1000』

『うーん、これって姉ちゃんにバレて配信やめろって言われたとか?』

『てか、イソラちゃんかわいいwwwもうメスガキしてもかわいいとしか言えないわ』

『ヒモ姉なんで生配信しちゃってるのってスレ民と心一体になってるオレがいる』

『オレはブイじゃなくてもいいと思うけどな。\200』

『オレはブイじゃないと抜けない派』

『なにがあった? \100』

 

 幼児退行プレイを脱ぎ捨てて聞いてくれたのは、カフェ・オレお兄ちゃんだ。

 

「あ、カフェ・オレのお兄ちゃん。お昼は失礼な態度とってごめんなさい」

 

『いや、それはべつにいい。どうしたんだ。聞いて楽になるなら聞くぞ。\100』

『カフェ・オレ兄貴のかっこよさに濡れる!』

『さっきまで幼児プレイしてたけどなw』

『出遅れたのが悔しい自分がいる。メスガキスキーの名折れだ。\2000』

 

 なんか、泣きそうになる。

 情緒ぐちゃぐちゃ丸。

 お兄ちゃんたちに慰められながら、わたしは残酷なシンジツを告げる。

 

「今日ね。お姉ちゃんが帰ってきたら―――、退()()()の用紙を大学からもらってきてた」

 

 

 

 

 

 

 わたしが大学から帰ってきたお姉ちゃんに意気揚々と抱き着くと、いつもは優しく抱きしめ返してくれるはずのお姉ちゃんが、少しだけ目をそらして、きまずそうにわたしを見ていたんだ。

 

 どうしたのって聞くと、おずおずと差し出されたのは退学届の用紙。

 

 わたしにはそれが最後通牒のように見えた。

 それに署名をして提出すれば、死刑が執行される。

 死体になるのはもちろんわたし。

 

 信じていたんだ。お姉ちゃんを神様みたいに。

 それなのに、わたしにつきつけられたのは、そんな気持ちは自分勝手なワガママだという宣告。

 神様に叱られたように感じた。

 わたしは、お姉ちゃんの気持ちをぜんぜん考えてこなかったんだ。

 それどころか、誰の気持ちも考えてこなかった。

 ただ自分の気持ちを押しつけることしか考えてこなかった。

 そのことが身に染みて、わたしはその場でお姉ちゃんを突き放して、部屋に閉じこもった。

 

 そのあと見たのは、答え合わせのようなスレッドでのお姉ちゃんの本心。

 わたしがお姉ちゃんに尽くしてきたのは、ぜんぶぜんぶ、わたしがそうしたいってだけのワガママだった。わたしの行為/好意はお姉ちゃんにとっては迷惑だった。

 

――そう、お姉ちゃんに言われたみたいだった。

 

 実際にそうなんだから救いようがない。

 わたしはお姉ちゃんにとって要らない存在だったんだ。

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんに嫌われちゃったから、もうおしまいなんだよ……」

 

『なんかイソラもコミュ障だなw』

『メスガキ曇らせはジャンルとして妥当なのかねえ』

『ちょっと男子ぃ。小学生の超絶カワイイ女の子が悩んでいるのよ。茶化さないの。\500』

『おねロリのおねさんはあいかわらずカワイイ女の子びいきだなw』

『マイナス方向での姉妹百合か? とりあえずてぇてぇしとくか。\200』

『スレ違いの純情だろ?』

『単純に考えるとヒモ姉が危機感かんじて退学届をゲットしてきただけのような気が』

『メスガキ。まず、自分が何をしたいか考えろ。周りのことは二の次でいい。\100』

 

「二の次?」

 

 カフェ・オレお兄ちゃんはわたしの想いを最初から否定しなかった。

 わたしが小学生だから、そう思ってくれるのかもしれないが、その想いは嘘じゃない。

 

『メスガキはかなり大人っぽいから抱えこんでしまうんだろうが、本当は大人のほうが感情という荷物を受け持ってやるべきなんだよ。まあ、そうなるとヒモ姉がきちんとしろって話になっちまうがw おまえは何がしたいか考えるだけでいい。\100』

 

『さりげにヒモ姉全否定で草』

『いやまあヒモ姉もがんばったからこそ退学届をもらってきたんじゃねーのw』

『これが……これが大人の真のわからせってやつか』

『オレ、なんか感動してるw』

『真メスガキわからせ配信がここに完成する』

 

「わたしは……お姉ちゃんに大学辞めてほしくない!」

 

 それが本心だ。

 わたしを重荷に感じて、お姉ちゃんが大学をやめなきゃいけないなんてイヤだ。

 それはわたしのワガママだけど。でも、わたしはワガママでいていいって言ってくれてる。

 

『今日は腹パンなしで勘弁してやるぜw \200』

『なんか萌えてきたぜ。\200』

『お姉さんはイソラちゃんのこと全肯定よぉ。\300』

『泣かすのは明日にしてやる……。\200』

『嫉妬するくらい熱い想いだな。\100』

『おまえをわからせるのは最後にしてやる。¥300』

『そろそろ。オレ氏の今月のお小遣い。尽きそうだわw \100』

『いけえええええええっ!』

『いや、小学生が配信中に姉に突貫してる図がおもしろすぎるんだがw』

『最初の理知的なメスガキはどこにいったんだろうなぁ』

 

 わたしはお姉ちゃんのもとへ走った!

 

 

 

 

 

 

『で、配信者がいなくなっちまったんだが、この状況どうすんのw』

『イソラが人生に勝負賭けてるって思うと、なんか出歯亀だよなオレらw』

『恋する小学生は最強だと思うオレがいる』

『実際、イソラが説得に成功する確率ってどうよ? \100』

『いや、普通に通るだろ。生活全般お世話している妹がお願いするんだぞ。\100』

『そういやそうだったわw \100』

『おまえらスパチャで会話すんなw \100』

『おまえもしてるやろがい。\100』

『これがホモソーシャルってやつです。\200』

『オレおまえらのこと好き。¥100』

『オレも。¥100』

『ワイもww。¥100』

『なんで、野郎どもでイチャイチャしてるんやw』

 

「ただいま!」

 わたしはみんなに挨拶する。

 配信中にいきなり離席するなんてブイ失格だけど、みんな待っててくれたらしい。

 

『キタ! マッテタ!』

『なんか晴れやかな笑顔やな』

『うまくいったんか? ¥100』

 

「うん。お姉ちゃんわかってくれた。わたしがお姉ちゃんに大学やめてほしくないって言ったら、その場で退学届を破り捨ててくれたよ。わたしがお姉ちゃんに抱き着いたら、お姉ちゃんはいつもどおりわたしを優しく抱きしめてくれたんだ」

 

『ふむ。姉妹百合てぇてぇな』

『もしかすると、逃げられんと悟ったヒモ姉の悲痛な叫び説w』

『まあ、普通にメスガキの想いを感じ取ったんだろう』

『どうだ。これが大人の力だ。舐めるなよメスガキ!』

『今月のカフェオレ買う金もなくなっちまったが、丸く収まったようでなによりだよ。¥100』

 

「うん!」

 

 本当に()()()()()()()()()()

 わたしが本当に信頼できる大人のお兄さんたち。

 

「みんなありがとう。大好きだよ♡ お兄ちゃんたち♡」

 

『あ……』

『これはいけない』

『小学生がしちゃいけない表情しちゃってる』

『単体尊い』

『なあ、イソラのこと撫でまわしたいんだがいいか? 性的な意味は一切ないんだが』

『ほんまそれオレも思ったわ』

『イソラ、かわいいな……』

『なあ、メスガキのくせにかわいすぎるんだがっ!』

 

「あ、お兄ちゃんたち。ちょっとわたしが甘い顔見せたら、すーぐ欲情するんだね♡ ほんと変態ロリコンなんだぁ♡ ざこざーこ♡ もひとつざーこ♡」

 

『ヨシヨシしてあげたい」

『あーあ、メスガキはお兄さんたちを怒らせちゃったね!』

『ほほえまーw』

『もう、ほんとかわいい』

『AIちゃん、メスガキを妹にする方法ありますか?』

『そんなもんねーよ』

 

「じゃあ、今度はぁ♡ お姉ちゃんを堕とすための方策を考えようかぁ♡ お兄ちゃんたちならできるよね♡ わたしをわからせちゃったお兄ちゃんたちなら簡単だよね♡」

 

『オレらはいったい何をさせられてるんだ』

『爆弾持って姉ちゃんに特攻しろってことだよ。言わせんな』

『メスガキちゃんが楽しそうでなにより』

『メスガキはわからせられて真に輝くからな』

『ちくしょうううううううう』



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メスガキの朝は早い

 メスガキの朝は早い。

 

 時間は早朝の朝六時。スマホがプルプルと震えて、お姉ちゃんがわたしを呼ぶ(ささや)き声とともに、わたしは覚醒する。

 

――大好きな異空ちゃん。起きて朝だよ。

 

 残念ながら機械音声だ。

 

 しかし、わたしのお姉ちゃんボイスコレクションのなかでも至高の一品であり、天上の声といって差し支えない。録音わたし。編集わたし。演者お姉ちゃん。

 

 ちなみに『大好きな』の部分は、お姉ちゃんに大好きな料理は何かを聞いたときに答えてくれたものである。違和感がないように編集するのは苦労したぜ。その甲斐はあったというべきだろう。

 

 脳内に快楽物質が溢れだし当社比3000倍で興奮して、一気に目覚めるという寸法さ。

 

 姿見の前で、わたしはファと小さくあくびする。

 パジャマ脱ぎ脱ぎ。

 とりあえず、タンスの中から今日着る服を取り出す。

 今日はクリーム色のスウェットに、チェック柄のスカートという出で立ちにしよう。

 スカートにはドラえもんみたいな白くてデカいポケットが両サイドについている。

 スウェットはあえてスカートの中に入れる。

 こうすることでスカートから覗くほっそりとした足を強調する仕様。

 靴下は黒色で、白くぼやけた印象を引き締める効果を与える。

 最後に少し乱れた髪を整えれば完成だ。

 うん、今日もビックリするくらいかわいい。

 

 脱いだパジャマを持って、わたしは軽やかなステップで、階段を降りる。

 洗濯機の中にパジャマを放り込んで顔を洗ったら、次にやるのはお弁当作りだ。

 

 誰のかはもちろん決まっている。お姉ちゃんのである。

 小学生のわたしには給食があるから、お弁当はいらない。

 お姉ちゃんには外食の選択肢もあるが、一回でも多くわたしの料理を食べてほしい。

 ていうか、わたしを食べてほしい。

 

 朝食といっしょに作るからそんなに手間は変わらないとか、外食だとお金がかかるから、節約するためとかいろいろ言ってるが、実際のところ、朝食は具材的にはまったく違うし、被らせたことはない。そりゃ、卵とかごはんとかは被る時はあるがね。余計な手間がかかっているのは確かだ。お姉ちゃんはぽややんとしているから気づいた様子はない。かわいすぎる。

 

 ちなみに大学の学食ってけっこう安いから、わたしの作るお弁当とどっちが安いかというと、けっこう微妙だ。だけど、これも気づいた様子はない。お弁当がある状況でわざわざ学食には行かないだろうし、食材費とかのことを知らないからわからないんだろう。お姉ちゃんはどこでお弁当食べているんだろうなぁ。フードコートかな。

 

「ふーん♪ ふーん♪」

 

 お姉ちゃんの好きなウィンナーを焼きながら、わたしは喜びに包まれる。

 

 わたしの作った料理がお姉ちゃんの薄紅色した唇に触って、お姉ちゃんの胃のなかにおさまって、お姉ちゃんに吸収されていくって想像しただけで、正直ゾクゾクする。

 

 焼きあがったウインナーを見て、わたしは満足した。

 

「これは()()()()()()だ」

 

 つまり、わたしがお姉ちゃんに食べられるも同然!

 

 ウインナーをかわいく着飾るのも当然の理と言えるだろう。ただ焼いただけのノーマルウインナーなんてお呼びではない。視覚的に楽しませてこそ真の料理といえる。だって、食べられるのはわたしなんだからね。

 

 うん、今日はうさちゃんウインナーにしよう。

 

 お姉ちゃんは女の人にしてはよく食べる方なので、二段式のお弁当箱にしている。

 一段目はごはん。そして二段目はおかず。おかずにはさっきのウインナーのほか、キリンさんにした卵焼きとか、ミートボールに顔張りつけてお猿さんとかを配置した。

 

 今回のコンセプトは動物園ということでどうだろう。お野菜については動物ふうに加工するのは難しいので、森な感じをイメージする。プチトマトは太陽ということにでもするか。

 

 ヨシ! 完成!

 

 ちなみにいつもデコ弁とかキャラ弁を作っているわけじゃない。小学生もいろいろ忙しいからな。時間と気力が充実したときに、時折作るって感じだ。家事は日常との折り合いで成り立っているから、手を抜くということも覚えなくちゃならない。むしろ、お姉ちゃんへの過剰な愛が溢れすぎてしまうのを抑制するほうが大変だ。まあこれでもやりすぎって意見はあるかもしれんが、わたしの楽しみでもあるんだよ。

 

 ごはんのほうは、刻みノリとゴマでも配置しとくか……。

 ゴマ。ノリ。ゴマ。ゴマ。ゴマ。

 ノリ。ノリ。ゴマ。ノリ。

 ノリ。ゴマ。ノリ。ノリ。ノリ。

 白い盤面を黒く染めあげていくというのは、見ていて楽しいものだ。

 わたしの欲望がお姉ちゃんを染めていくようで愉しい。

 

 お姉ちゃんおいしいって言ってくれるかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 わたしは合鍵を使って、お姉ちゃんのお部屋のドアを開けた。

 合鍵持ってるとか、これもう同棲じゃね? ていうか同棲だった!

 もちろん、お姉ちゃんには事前の許可をもらっている。

 カーテンを開けて、暗がりに一気に光がさしこむ。

 そして、ベッドの中でモゾモゾと動くこの世界でいちばんカワイイ生命体。

 お姉ちゃんは手をWの形にして寝ていた。毛布をつまんでいるみたいで超カワイイ。

 こんなカワイイ生命体が存在しちゃっていいの?

 この世界が生み出したバグじゃない?

 

「お姉ちゃん。朝だよ。起きて♡」

 

「ううん……」

 

 お姉ちゃんの朝は遅い。

 というか、たぶん朝に弱いんだろう。低血圧ってやつなのかな。

 抵抗感のほとんどないお姉ちゃんは垂涎ものの可愛さ。

 いつまでも眺めていたいくらいだ。

 でも、姉を起こすのは妹の使命でもあるからな。

 ここはこころを鬼にして、お姉ちゃんの身体を揺り動かす。

 合法接触。

 

「おねえちゃぁん♡ 起きなきゃダメだよぉ♡」

 

「あ……、うん、おはよう……ふぁぁ。異空ちゃん」

 

 ようやく起きてくれた。

 わたしはお姉ちゃんの腕をとって、ゆっくりと上半身を起こす。

 化粧台のところに座らせて、まずは軽く髪をセット。

 今日のお姉ちゃんは、大学に行くのが二限目だったはず。わたしが小学校に向かってから、だいぶん経ってからだ。本当はもう少し寝かせておいてもいいのかもしれないけど、お姉ちゃんがそのまま寝坊して大学に遅れたら、わたしの責任だ。

 

 今日のコーディネイトはどうしよう。

 

――やはり、リンクコーデ、か。

 

 お姉ちゃんとお揃いがいい。

 

 ただし、わたしがルックス的に硬い印象なのに対して、お姉ちゃんはゆるふわな感じだから、なかなか両者に合う服装というのはないのだが、今日みたいな恰好ならお姉ちゃんにも合うだろう。

 

「はーい。お姉ちゃん。バンザイして♡」

 

「んー」

 

 ハッ。このバインバインの果実はなんだ。

 楽園に咲く魅惑の果実かな。食べたらどんな味がするんだろう。

 

 いつまでも眺めていたいところだけど、下着姿でいさせるわけにもいかないから、断腸の想いでわたしが着ているのと似たようなスウェットを着せる。

 

 しかし、下についてはお姉ちゃんの雰囲気的にはロングスカートがいいかなぁ。

 足が完全に隠れるくらいのロングスカートを着てもらって、あえてスウェットは肘のあたりまであげてもらおう。

 

 はい、清楚でかわいいお姉ちゃんが完成だよ。顔はいまでも眠たそうだけど。

 

 と、そのとき奇跡が起こった。

 なんの因果か、まったく不明だが、お姉ちゃんにいきなり抱き着かれていたのだ。

 

「な、なななななに、お姉ちゃん!」

「ン~。なんとなく……。異空ちゃんカワイイし……なんか安心する……」

「そ、そですか」

 

 顔が熱い。お姉ちゃんの柔らかな肢体があますところなく密着している。

 特におっぱいは、その暴力的なまでの柔軟性をもって、わたしの顔を覆っていた。

 

――あ、暴力! 暴力ですよ、これ!

 

 でも、お姉ちゃんはわたしの混乱とは裏腹に立ったまま半分寝ていた。

 寝ぼけているお姉ちゃんは反則級の強さだ。

 

 

 

 

 

 

 顔を洗ってもらったら、だいぶんシャッキリしてきたみたいで、お姉ちゃんはわたしが焼いたトーストを食べている。添え物はベーコンエッグに、レトルトのコーンスープ。うん普通だな!

 

 もちろん、和食というか、納豆にご飯みたいな日常系の日本食を作ったりもするんだけど、今日はお弁当を凝った作りにしたんで、朝食は簡単に作れるものにしたんだ。

 

「異空ちゃん。今日もご飯おいしいよ。ありがとうね」

 

 お姉ちゃんはそんな手抜き料理にも必ずお礼を言ってくれる。

 報われる――というより、救われた気分になる。

 もう、お姉ちゃん好きすぎる。

 お姉ちゃんに抱き着いて頭をすりつけたい。

 

「お姉ちゃんがおいしいならよかった。お弁当も用意してるから食べてね♡」

 

「あー、異空ちゃんがお嫁さんになってくれたら、毎日幸せだろうなぁ」

 

「お゛っ♡」

 

 ぽやんぽやんな声で爆弾を投下するお姉ちゃん。

 危うくすすっていたコーンスープをブッパするところだった。

 

 しかし、なんだこの感覚。

 思ったよりも平然としているわたしがいる。

 一瞬の衝撃が過ぎ去れば、こころは凪のように静かだ。

 

 嬉しさがゲージを割ってしまうと、人間って逆に平静になってしまうんだね。

 人間のこころの不思議さを体感したよ。

 

 とりあえず返事は決まっている。

 

「うんいいよ♡」

 

 お姉ちゃんがそんなこと言うなら、普通に結婚するけど?

 そんな意味をこめて、わたしはニッコリ笑った。

 

 はい、もう一発おかわり。

 

「お姉ちゃんと結婚してもいいよ♡」

 

 本気にとられても困るだろうから、がっついたりはしない。

 あくまで、お姉ちゃんがわたしを選んでくれるなら、わたしは受け入れるというスタンスだ。

 

「あは、あはは。ありがとうね。こんなダメ姉のお世話をしてくれて」

 

 お姉ちゃんはなぜか焦っているようだった。

 

 あの掲示板でのスレ民たちの指摘で、わたしがもしかしてお姉ちゃんに恋心を抱いているのではないかと考えてもおかしくはない。

 

 まあ――、正解なんだけどな!

 

 お姉ちゃんからしてみれば、妹のこころを試す意味合いもあったのかもしれない。それか、何も考えずに発言してしまって、あとから掲示板でのスレ民諸氏の言葉を思い出して焦ったとかそんなところだろう。

 

 わたしとしては、お姉ちゃんと結婚できるんなら、今すぐにでも結婚したいが、お姉ちゃんのほうにその気がないのなら恋心は伏せておくほうが無難。忍ぶこころこそ肝要だ。

 

 だから――――、この会話はこのあたりで打ち切ろう。

 

「お姉ちゃんはダメじゃないよ。お姉ちゃんと家族になれてうれしかったから」

 

「異空ちゃん……」

 

 お姉ちゃんはわたしを優しく包んでくれた。

 でも、その意味はわたしが求めているものとは違っていて、わたしは少し悲しかった。

 

 

 

 

 

 

 しめっぽくなっちまったが、まあしゃーない。切り替えていこう。

 

 だいたい小学生がそんなに簡単に事を成せるなんてことは考えていない。

 配信のお兄ちゃんたちにもさんざん指摘されていることだが、普通に考えて、お姉ちゃんがわたしと結婚したいとか言い出したら、犯罪だからな。

 

 まあ、仮にだ。

 仮に――、わたしが男でお姉ちゃんが女という状況なら。

 あるいは、わたしが女でお姉ちゃんが男という状況なら。

 お姉ちゃんを犯罪者にしてしまうというのも戦略としてはありだったと思う。

 

――考えてみればいい。

 

 わたしがメスガキでお姉ちゃん♂にわからせられるとする。

 お姉ちゃんはところどころぶっとんだ宇宙人的なところはあるが、良識的で善良な人間なのはまちがいないから、小学生に手をだしたら、罪悪感を抱くだろうことは想像にかたくない。

 

 保護被保護の関係が加害被害の関係に転嫁し、わたしは被害者面してお姉ちゃんに結婚を迫ることができる。俗にいう『責任をとってね』というやつだ。

 

 ただこれがメスどうしだと事情が異なる。

 

 なんというか、女の子って()()()()加害者になれない気がしないだろうか。

 

 いやもちろん、前時代的な発想なのはわかっている。女性も強姦の主体になれることは判例の積み重ねからも明らかだからな。ただ、メスガキが迫っていったときに、相手方女性は完全な加害者にはなり切れず、どこかメスガキの想いを受け入れたという事情が残留するように思うんよ。

 

 そう考えるのは、女の子がやっぱり性欲をぶっぱなす存在じゃなくて、性欲を受け入れる側だからだろうな。わたしがお姉ちゃんのお世話をするのは性欲の代償行為なのかもしれない。

 

 そこんところ教えてフロイト先生!

 

 

 

 

 

 

 さて、朝食のあとかたづけも終わった。

 あとすべきは、お姉ちゃんの身だしなみチェックだ。

 

 まず最初に言っておくが、お姉ちゃんは美人だ。

 わたしがお姉ちゃんのことを大好きだからひいき目に見てるとかではなく、客観的に見ても美人だといえる。

 ただ、美人だからといってお化粧をまったくしないのはやっぱりダメダメだろうと思う。

 お姉ちゃんは美人だったせいか、中高ともにほとんどお化粧をしないで過ごしてきてしまった。

 

 中高だとケバイ化粧は推奨されないってところもあるだろうから、そのあたりは学校にもよるんだろうけど、おそらくそういう環境をこれ幸いにと、自分を着飾ってこなかったのだと思う。

 

 普通なら、年頃になればお化粧とかにもそれなりに興味を持つと思うんだけど、まあ普通じゃなかったというか。自分の容姿にそれほど関心を払ってこなかったんだろう。

 

 べつにそれが悪いわけじゃない。大学になってから急にお化粧が解禁されても困惑するってこともありえるだろうし、お姉ちゃんはたまたまそういうタイプだっただけだ。

 

 わたしとしては素材がいいのにもったいないという精神が強い。

 せっかくかわいいんだから、よりかわいくしたい。

 お姉ちゃんの価値を高めていきたい。

 お姉ちゃんが自分にちょっとだけ自信をもってもらったら嬉しい。

 

 もっとも、お姉ちゃんをかわいくするというのは、変な虫が寄りついてしまう可能性がある。

 その危険性はお姉ちゃんがかわいすぎるせいで常にあるわけだけど、落書きみたいなお化粧を施して、わざと変な顔に見せるなんてことは、お姉ちゃんかわいい教信者のわたしとしては、とても許容できるものではない。お姉ちゃんのご尊顔を穢すとか絶対に無理。

 

 なので、いざそういうときがきたら、妹バリアを発動させるしかないと思っている。

 わたしが小学生の今はおそらくほぼ無敵だ。

 

 だからわたしは安心して、お姉ちゃんに毎日お化粧を施してるってわけ。

 

 なお、これはわたしが用意したカヴァーストーリーということになるが、お姉ちゃんがいくぶんか気楽にわたしにお化粧されてもいいように、わたしの将来の夢は『メイクアップアーティスト』ということになっている。要するにお姉ちゃんにはわたしの練習台になってもらっているという言い訳を用意したんだ。言うまでもなく、わたしの本当の夢はお姉ちゃんのお嫁さんになることなんだが、そんなことを将来の夢の欄に書けるわけもない。

 

 リビングルームのローテーブルに化粧道具を揃えて、お姉ちゃんにはジッとしてもらう。

 瞳に映るのは白いかんばせ/キャンバス。

 そこにわたしという意思を乗せるのは、このうえない享楽であるといえる。

 ほら、わたしってアーティストの娘だからさ。

 こういう芸術的行為に対する感応性が高いんだよ。

 

「ン……」

 

 お姉ちゃんがキス顔で待っている。

 なんだろう。かわいさで人を狂わすのやめてもらっていいですか。

 

 何度も言うが、お姉ちゃんは美人なので厚塗りは似合わない。

 素材の持ち味を活かしたナチュラルメイクのほうがいい。

 

 それでわたしの恣意をほんの少しだけ混ぜていく。

 化粧下地とかファンデーションでお肌のきめを整えたり、ビューラー使ってまつ毛をカールさせたりするのは基本だけど、今回のこだわりは口紅かな。

 

「お姉ちゃん。唇をちょっとつきだしてみて」

 

「ンン」

 

「ムパムパして」

 

「ムパムパ」

 

 全体のバランスに気をつけながら、プックリとした唇を演出ですよ。

 あ、もちろん色気がつけすぎないように、さりげなさが大事。

 少女のスカートがめくりあがって、見えそうで見えないような、そんな媚態を演出してみた。

 お姉ちゃんという芸術作品が完成して、わたしは大変満足です。

 まあ最初から神的芸術品ではあるんだけどな。

 

「はい。お姉ちゃん。終わったよ。どうかな?」

 

 鏡を見せてお姉ちゃんに確認してもらう。

 

 お姉ちゃんはキョトンとした顔をしている。またわたし何かやっちゃいましたかというような意味ではなく、これが私? というような意味でもなく、なんといえばいいか、

 

――本当に私が化粧なんてする必要があるのかなぁ。

 

 とでも、考えてそうな顔だ。

 

 でも、妹から頼まれたから練習台になってるんだよね。

 お姉ちゃんって本当に神的にいい人だよな。

 

「異空ちゃんありがとう。いますぐにでもプロになれそうな腕前よ」

 

「ほんとぉ? お姉ちゃんに褒められてうれしーな♡」

 

 お世辞だろうけど、お姉ちゃんに褒められて嬉しいのは確かだ。

 今日も晴れやかな気分で登校できる。

 

「じゃあ、そろそろ小学校にいってくるね。お姉ちゃんもお勉強がんばってね♡」

 

 お姉ちゃんに見送られ、わたしは家を後にした。



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ヒモ姉スレッド:メスガキの祈り

350:小学生妹のヒモ姉

みなさんに途中経過のご報告です!

確実に一歩進んだ感があります!

事態の完全解決まであと少しなはずです!

 

351:仰げば名無し

ふーん、そう(鼻くそほじ)

 

352:仰げば名無し

今回は何をしでかした?

いや何をしでかすつもりだよ

 

353:仰げば名無し

ヒモ姉の信頼度がなさすぎて泣けるぜ

 

354:仰げば名無し

妹様との尊い生活をまたご開陳あそばされるのですか?

ええ、姉妹百合は貴重ですからね

もちろんかまいませんとも

 

355:小学生妹のヒモ姉

ええと、つい先日のことなんですが

わたしは大学から退学届の用紙をもらってきたんです

 

356:仰げば名無し

ハァ?

なんで退学届とかもらってきてるんだ?

 

357:仰げば名無し

いきなりイミフなんだが

 

358:仰げば名無し

ちょっと待てよ盤面整理する

まず、ヒモ姉は両親の財産を食いつぶしていることに罪悪感を覚えていた

それで、大学をやめようとしたところ妹が百万円をくれたから大混乱

百万円の出どころを知りたいと思い、妹の心の内を知るために生配信した

結局、百万円の出どころは不明のまま

ただし、妹の献身っぷりからすると、姉への家族愛が強く推定されることから

百万円については聞かず、自然な流れのまま待ったほうがいいという空気だった

こんな感じだよな?

あれ? おかしいな? なんで退学届なんて話になるんだ?

 

359:仰げば名無し

あー盤面整理おつw

そういう感じだわな

なんでそっとしとこうという流れだったのに

ヒモ姉は退学届をもらってきたん?

 

360:仰げば名無し

そっとしとこうというより

生活全般を妹に完膚なきまでにお世話されている以上

もはやヒモ姉が小学生妹のヒモであることは確定的に明らかだから

みんなあきらめたんだろw 投了だよ投了w

 

361:仰げば名無し

メスガキ妹ちゃんにクソ雑魚お姉ちゃんが勝てるわけないんだよなぁ

妹「悔しかったら家事のひとつでもしてみればぁ♡ まあ無理だろうけどね♡」

 

362:仰げば名無し

なんかそのメスガキ設定興奮するw

 

363:仰げば名無し

まったく小学生は最高だぜw

 

364:仰げば名無し

まあ妹ちゃんの真意はともかくとして

お姉ちゃんのことが大好きってことはまちがいないからな

まずは妹ちゃんのことを信じることが大事だわ

 

365:仰げば名無し

両親がなくなってトラウマになってるかもしれんのに

姉は妹の気持ちを一ミクロンも考えず

大学を出て、離れ離れになる準備をしているかの行為

うーん、これは鬼畜の所業ですな

 

366:小学生妹のヒモ姉

私は妹ちゃんと離れ離れで暮らしたいなんて思ってません!

なんというか、みなさんのご指摘をうけて

自分が思った以上にダメダメなんだなって思って

危機感がつのった結果なんです

妹ちゃんの気持ちをないがしろにしちゃったのは確かです

そこは反省してます……

 

367:仰げば名無し

ヒモ姉は反省できるところが偉いな

 

368:仰げば名無し

まあもともとちゃんと小学生妹から自立しようとしているのはえらいよ

 

369:仰げば名無し

小学生妹から自立というパワーワード

普通は小学生妹に生活全般をまかせきりにならないんだよなぁ

 

370:仰げば名無し

姉上、家事をおこなうというのはそれ程たいそうなことではない

長い長い人の生活のほんの一欠けら

バランスの良い食事を作り、ゴミ屋敷にならない程度に掃除をし

身だしなみに気をつけ、小学生の妹が無理をしないように見守る

たったこれだけでよいのだ

 

371:仰げば名無し

まあまあ、ヒモ姉も反省してるんだから話を聞こうぜ

なんか進展があったってことなんだろ

 

372:小学生妹のヒモ姉

進展がありました!

わたしが退学届を妹ちゃんに見せたら

妹ちゃんはわたしを突き放してお部屋の中にこもっちゃたんです

それで、わたしも妹ちゃんに嫌われたかと思って

お部屋のなかでモンモンとしてました

そうしたら部屋の呼び鈴がなったんで、扉を開けたら妹ちゃんが立ってました

開口一番に「大学をやめないで」と妹ちゃんは言いました

わたしは妹ちゃんを抱きしめて、同時に安心感のようなものも覚えたんです

ああ、妹ちゃんはわたしのことを嫌わないでくれたんだって

そして、妹ちゃんの話を聞くと大学をやめてほしくないというのは

自分のワガママだって言うんです

私との時間が少なくなるのがイヤだから、いっしょに過ごす時間が減るのがイヤだから

お姉ちゃんには大学をやめないでほしいって言うんです

めまいがするほどにかわいらしくて、私はその場で退学届を破り捨てて

ごめんねごめんねって謝りました

それで妹ちゃんはニッコリと天使みたいに笑ってくれたんです

 

373:仰げば名無し

ふーん、てぇてぇじゃん

 

374:仰げば名無し

妹ちゃんのセリフだが

姉の心理的負担を軽くするためのものとも考えられるな

 

375:仰げば名無し

普通、自分のワガママだからやめないでとか言えるか?

小学生だろ

 

376:仰げば名無し

家事全般をとりしきっている超ハイスペック小学生だからな

 

377:仰げば名無し

オレの妹ととりかえてほしいわw

前に母の日に今日くらい母親の家事分担しようぜって話をしたら

自分も将来はママになるんだから敬われるべきって謎理論を持ち出してきたんだぜw

 

378:仰げば名無し

おまえの妹も将来有望そうだな

 

379:仰げば名無し

えっと

あのですね

ヒモのお姉さんの話だと結局、先走って退学届をもらってきて

妹さんにやめてと言われて、とりやめたって話なんだと思うんですが

これだと、百万円についてはまた聞きそびれてるんじゃ……

 

380:仰げば名無し

ほんまやね

でもそこは焦点なのかねえ?

今回、妹ちゃんの真意の一部が明らかになった

要するに、なにがなんでも大学に通っててほしい

お姉ちゃんといっしょに暮らしたいってことだろ

メスガキ……もとい妹ちゃんが子どもらしく喚き散らしたってのは、

まあオレ氏的には安心できる要素だと思うぜ

 

381:仰げば名無し

わ……ワァ………

 

382:仰げば名無し

ば……バブぅ……

 

383:仰げば名無し

おまえらマジでやめろw

 

384:小学生妹のヒモ姉

>>379

百万円については結局聞きそびれてしまいました……

 

385:仰げば名無し

OH……

 

386:仰げば名無し

だからなんでそこで詰め切れないんや

妹ちゃんの真意はほぼ明らかになったんやから、

いま聞けばたぶん教えてくれるやろ

 

387:小学生妹のヒモ姉

言葉にしづらいんですが

機ってあるじゃないですか

妹ちゃんとの会話の間合いというか

言葉で切り結ぶときの間というか

機を逸しちゃったんです

もうだめなんです

 

388:仰げば名無し

もうだめなんですとか言ってると

一生、妹ちゃんのヒモなのでは?

 

389:仰げば名無し

もう助からないぞ♡

 

390:小学生妹のヒモ姉

や、ヤダー!!

でも、わたしも少しは進化しているんですよ

今日はちゃんと『動画編集』してきましたから

https://www.anetube.com/watch?v=xxxxxxxxxxxxx/channel=himonee

見てください!

そして、妹ちゃんの心の内をみなさん推理してください!

 

 

391:仰げば名無し

妹ちゃん毎回盗撮されてかわいそう

でもまあ、百万円が危険なことして手に入れたって説もまだあるか

ヒモ姉に直接聞きだすという能力はどうもないみたいだし

やむをえないのかなぁ……?

 

392:仰げば名無し

メスガキのほうもきちんと伝えればいいのにな

このあたりはマジで似たもの姉妹って感じだよ

 

393:仰げば名無し

で、今回は……、なんか暗いな?

あ、鍵を開けて妹ちゃんがお部屋に侵入か?

うお、まぶしッ!

カーテンが開け放たれたら、妹ちゃんの全容が明らかに

なんかスゲーかわいい服着てるな

でさぁ……何度も言うけど、なんで今回はネコミミオンリーなんだよ

もはや顔を隠してるってレベルじゃねえぞ

 

394:小学生妹のヒモ姉

前に動物とか選べって言いましたよね?

 

395:仰げば名無し

これじゃねええええええ!

小学生並みの言い訳じゃねえか

 

396:仰げば名無し

もういまさら感あるからどうでもいいが……

そういや、過去の動画もこれもいちおう消しておいたほうがいいんじゃないか

顔出しして配信者として売っていくとかでもない限りはそのほうがいいと思うぞ

 

397:小学生妹のヒモ姉

確かにそうですね

三日くらい経過したら消します

 

398:仰げば名無し

ふむ……

で、なんで妹ちゃんに起こされてるんだ?

 

399:仰げば名無し

お姉♡ おっきして♡

 

400:仰げば名無し

朝起こしてくれる妹とかほぼエロゲ設定

 

401:仰げば名無し

そもそも、これって通常のルーチンなのか?

妹が鍵を開けて夜這いしにきたとかじゃないよな?

 

402:小学生妹のヒモ姉

違います。私が朝に弱いので妹ちゃんに起こしてもらってるだけです

鍵についてはいつもかけて寝てます

ふたり暮らしなんでセキュリティ上そうしてるんです

 

403:仰げば名無し

なるほどねえ

自室がセーフルームでもあるのか

 

404:仰げば名無し

あ……お姉さんもしかして今からベビードールをお脱ぎになるのですか

垢BANされませんか

大丈夫ですか

それにしてもエロいですね

うひひ

 

405:仰げば名無し

しかし、なんと海苔である!

 

406:仰げば名無し

でっかwwwwwwwww

海苔で身体全部を覆う雑編集すなwwwwwwwwww

 

407:仰げば名無し

うわぁ、動画編集がんばったねw

ヒモ姉が黒塗りされていてどこにいるのかぜんぜんわからないよw

 

408:仰げば名無し

そして、妹ちゃんに服のコーディネイトを任せているという衝撃の事実

 

409:仰げば名無し

おお……さすが妹ちゃん。選んでる服のセンスもいいな

袖のところをあげるというのがポイント高い

 

410:仰げば名無し

ヒモ姉眠そう

 

411:小学生妹のヒモ姉

>>408

妹ちゃんの将来の夢がスタイリストとか、メイクアップアーティストとか

そういう系統なんです

だから、私を練習台にしたいって言って、いつも服とか選んでくれるんですよ

 

412:仰げば名無し

あ(察し)

 

413:仰げば名無し

え、ちょっと待って

これって、ヒモ姉の着ている服と妹ちゃんの服って

ペアルック(死語)じゃね?

なにこれてぇてぇが溢れちゃう

 

414:仰げば名無し

お揃いにしたかったんだな

妹の姉愛がすごい

そして、ヒモ姉はそんなさりげなさに気づく様子もなく

 

415:仰げば名無し

あれ唐突にお姉ちゃんが妹ちゃんを抱きしめてるんだけど

なにこれえっちなビデオを見せられてるんですか

ここノーカットで大丈夫なんですか?

 

416:小学生妹のヒモ姉

妹ちゃんの身体はあったかくてなんか安心するんです

小学生を抱っこするのが、なんでえっちなんですか?

 

417:仰げば名無し

うーん、これはメスガキ嬉しかっただろうな

メチャクチャテンパってるじゃねえか

 

418:仰げば名無し

そして雑な場面転換である

 

419:仰げば名無し

「〇〇(ピー)ちゃん。今日もご飯おいしいよ。ありがとうね」

あの、そこ編集に力入れるとこっすか?

前回すでに明らかになっちゃってるところなんですがそれは

 

420:仰げば名無し

まあいちおう配慮した結果なんだろうさ

それにしても、ヒモ姉、おまえほんまに小学生に朝昼晩のメシ作ってもらってるんやな

 

421:仰げば名無し

妹ちゃんオカンやん

お弁当まで作るとかマジ最強すぎる

頭おかしくなるでほんま

 

422:仰げば名無し

姉「あー、〇(ピー)ちゃんがお嫁さんになってくれたら、毎日幸せだろうなぁ」

これはwwwww

メスガキ死んでない?

 

423:仰げば名無し

これって発言のとりようによっては

小学生妹から無限に労働力を搾取する大人の図なのでは……

 

424:仰げば名無し

そう考えると闇深案件だが、

でも見てみろ、妹ちゃんのにっこにこな笑顔を

「お姉ちゃんと結婚してもいい」発言を

どう考えても両想いです

本当にありがとうございました

 

425:小学生妹のヒモ姉

この発言は、いつか妹ちゃんに好きな人ができたとき

その人は幸せだろうなぁって、あたたかい気持ちが少しせつなくて

自然に出た言葉なんです

 

426:仰げば名無し

それはそれでせつないな……

誰がせつないかって話だが

 

427:仰げば名無し

ん……まだ続きがあるのか

 

428:仰げば名無し

はえー、まさかまさかでございますな

妹ちゃんはお姉さんの化粧までなさっておられる

 

429:仰げば名無し

やっぱり赤ちゃんなんよなぁ

 

430:仰げば名無し

バ……バブゥ

 

431:仰げば名無し

ごめん、その字面はオレに効く

 

432:小学生妹のヒモ姉

練習台になってるだけです

さっきも書きましたが、妹ちゃんはメイクアップアーティストになりたいって

将来の夢に向かってがんばってるんですよ

小学生の自分はお化粧はまだ早いからって

お姉ちゃんにお化粧の練習させてって頼んでくるんです

 

433:仰げば名無し

ヒモ姉でっかい赤ちゃんだから

妹ちゃんが化粧させてって言ってくれなかったら

すっぴんで暮らしそう

 

434:仰げば名無し

すっぴんでも美人だしな

ヒモ姉のあまりのだらしなさにかなりの部分かきけされているが

まあ美人w

で、いままでのプロファイリングからすれば

ヒモ姉は絶対にひとりでは化粧とかしないタイプと見た

 

435:小学生妹のヒモ姉

否定はできない……

 

436:仰げば名無し

そこは否定しろよw

 

437:仰げば名無し

もしかすると、妹ちゃんは人をダメにする妹ちゃんなのでは

 

438:仰げば名無し

ムパムパ

 

439:仰げば名無し

ムパムパかわいいw

 

440:仰げば名無し

なんかところどころの行動が小学生だからかわいいんだよな妹ちゃん

やってることはすごすぎるんだけど、そういう細部にこそ幼女成分は宿る

 

441:仰げば名無し

さて、小学生は普通に小学校に登校か……

 

442:仰げば名無し

ここで再び場面転換というより時間経過か?

同じリビングルームだが、これはいったい?

 

443:仰げば名無し

良く見ろ雷電。壁際にかかっている時計の時間が経過してお昼になっている

 

444:仰げば名無し

そ、そうかわかったぞ!

ヒモ姉はお弁当を食べにわざわざお家に帰ってきたんだ

大学まで何分かとかはわからんが

フードコートとかなかったんかワレェ

 

445:仰げば名無し

悲報。ヒモ姉ぼっち飯継続中

 

446:小学生妹のヒモ姉

いつもそうしてるわけじゃないです

今回は二コマめと四コマめをとっていて

間があくから帰ってきただけです

誤解しないでください!

ひとりじゃないもん……

 

447:仰げば名無し

ごめんて

ヒモ姉泣かんといて

 

448:仰げば名無し

まあ今回は情報収集のために帰ってきたんだろう

わざわざ、妹ちゃんのお弁当の中身をワイらに開陳してくれるんやで

感謝感謝や

 

449:仰げば名無し

ヒモ姉の弁当箱けっこうデカいな

健啖家やね

 

450:仰げば名無し

「それでは今から妹ちゃんのお弁当を検めたいと思います」

いよいよ妹ちゃんの真の実力が明らかになる?

 

451:仰げば名無し

うひゃあ、スゲェ……

なにこのカワイイのカタマリ

ヒモ姉も「うわぁぁ」って目を輝かしてるの子どもやんけ

 

452:仰げば名無し

これはすごいな

このレベルを作るとなるとかなり早起きしなきゃダメだろうしな

 

453:仰げば名無し

うん、動物園的なコンセプトか

なにげにいままでの妹ちゃんの一連の行為を見ていると

センスという意味でズバ抜けているな

 

454:仰げば名無し

オカズの配置の仕方がもはや芸術域だしな

 

455:仰げば名無し

そして一段目は、これは普通のご飯か?

 

456:仰げば名無し

まあそこまで凝ってたら時間がいくらかかっても足りないだろうしな

 

457:仰げば名無し

あ、でもおかしいぜ……

 

458:仰げば名無し

なにがだ雷電?

 

459:仰げば名無し

考えてみてくれ大佐

一見すると、ご飯のうえにゴマと刻み海苔という組み合わせ

これはおかしくない

だが……、いくらなんでもおかしな点がひとつだけある

 

460:仰げば名無し

(なんか推理ものが始まった?)

 

461:仰げば名無し

(ヒモ姉がウマウマしているシーンに移ってるんだが巻き戻したほうがいい?)

 

462:仰げば名無し

うーん何が変なんだ雷電

 

463:仰げば名無し

配置だよ大佐

刻み海苔が完全に平行に配置されている

 

464:仰げば名無し

見た目を綺麗にしたかったんじゃねーの?

 

465:仰げば名無し

いや、そしてゴマが海苔と被らないように配置していることからすれば

答えはひとつ……

 

466:仰げば名無し

な、まさか

 

467:仰げば名無し

そんなことがあるのかよ

 

468:仰げば名無し

(ン。これってメスガキ的にちょっとヤバくね)

 

469:仰げば名無し

オレ氏に通達

いま解析した

たぶん問題ナシ

 

470:仰げば名無し

なんかスレの流れがドラマっぽくなってるんだがなんなんw

 

471:小学生妹のヒモ姉

いったいなんなんでしょうか

妹ちゃんのメッセージが隠されていたとかですか?

 

472:仰げば名無し

そのまさかなんだよヒモ姉

これは海苔「―」とゴマ「・」を使ったモールス信号なんだ

 

473:仰げば名無し

げぇぇぇぇぇ天才児

 

474:仰げば名無し

まあ今時、そのくらいは検索すればすぐに出るしな

スマホ片手に配置するくらい天才でなくても簡単だわ

でも、妹ちゃんなら鼻歌でも歌いながら配置してた説のほうが有力だけどなw

 

475:小学生妹のヒモ姉

なんて書いてあるんですか?

 

476:仰げば名無し

>>475

お・-・・・

ね--・-

え-・---

ちゃ・・-・

ん・-・-・

か・-・・

゛・・

お・-・・・

へ・

゛・・

ん・-・-・

きょ-・-・・

う・・-

か・-・・

゛・・

ん・-・-・

は-・・・

゛・・

れ---

ま-・・-

す---・-

よ--

う・・-

に-・-・

 

おねえちゃんがおべんきょうがんばれますように

 

 

477:仰げば名無し

う……ウァ……

 

478:仰げば名無し

ワイ、涙が出ちゃう

 

479:仰げば名無し

もしかして妹ちゃんって天使だった?

 

480:仰げば名無し

愛情激重の可能性もあるわけですが

 

481:仰げば名無し

家族を失うのが怖くて大学やめないでって言って

それにこたえてくれたお姉ちゃんのことが

今までよりもずっと好きになった妹ちゃん

祈りを言葉にして、気づかれなくてもいいメッセージを隠す

ああ、いじらしい……もう本当にいじらしいわ……

 

482:仰げば名無し

家族は離れ離れになっちゃダメだ

たとえ血はつながってなくても

本当の家族以上に家族だよ

 

483:仰げば名無し

メスガキちゃん「お姉ちゃんと合体したいw」とか書いてなくてよかったなw

 

484:仰げば名無し

涙が笑いに変わるからやめろw

 

485:仰げば名無し

しかしこれって妹ちゃんが思ったよりも追い詰められてたってことだよな?

ヒモ姉が退学届を破り捨てたのは結果的にはファインプレイだったのかもしれんなぁ

 

486:仰げば名無し

あれ? ヒモ姉は?

 

487:仰げば名無し

ヒモ姉の霊圧が消えた

 

488:小学生妹のヒモ姉

すみません

号泣してて

画面にうちこめませんでした

 

489:仰げば名無し

お、よかった

生きてる

 

490:仰げば名無し

妹ちゃん大事にしてあげなよ

 

491:仰げば名無し

やはり妹様を盲信して生きていけばよいのだ

妹様を疑うことなどあってはならぬ

 

492:小学生妹のヒモ姉

>>490

はい

私の大事な家族です

ずっとずっと大事にします

 

493:仰げば名無し

よし結婚だな

 

494:仰げば名無し

おまえは即物すぎてよくない

 

495:仰げば名無し

せっかく世界がてぇてぇで包まれたのに茶化すのよくない

 

496:仰げば名無し

でも>>493が妹の可能性が微レ存

 

497:仰げば名無し

そんなことあったら世も末だわw

 

498:493

メスガキですが何か?

 

499:仰げば名無し

wwwww

 

500:仰げば名無し

妹ちゃんを穢すな

 

501:仰げば名無し

勝手にメスガキ設定されて妹ちゃんかわいそう

 

502:小学生妹のヒモ姉

私、妹ちゃんを抱きしめにいってもいいですか!?

 

503:493

よっしゃー!!!!!!!

 

504:仰げば名無し

抱けぇー! 抱けぇー! 抱けぇー!

 

505:仰げば名無し

ちょっと男子ぃ

騒がしいわよ

姉妹百合を鑑賞する時はね、

誰にも邪魔されず、

自由でなんというか救われてなきゃあダメなのよ

独りで静かで豊かで……

 

506:仰げば名無し

とりあえず、お弁当のことは気づかないふりをして

単にスキンシップをとりたくなったから程度にとどめておくべきだろうな

 

507:仰げば名無し

ヒモ姉のスペックでメッセージに気づけるはずもないもんなw

 

508:仰げば名無し

残当

 

509:仰げば名無し

まあねそれはね(目そらし)

 

510:仰げば名無し

ヒモ姉だってがんばってるんだぞ

オレらに聞いたからこそ真実の一端が明らかになったんじゃないか

 

511:小学生妹のヒモ姉

みなさんに聞いて本当によかったです

それじゃあ、妹ちゃんのお部屋にいってきます

 

512:仰げば名無し

うぇるかむかもーん♡

 

513:仰げば名無し

ほんまおまえw

 




このスレッドは既に「狂人」と「人狼」に盤面操作されている……


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眠れる狼を起こしちゃったお姉ちゃんが悪いんだよ

 とある晴れた昼下がり。

 

 あたたかな春の日差しが降り注ぎ、夏の香りと混じり始める頃。

 わたしはリビングのソファでうとうとしていた。

 テレビはつけっぱなしで、コメンテーターが益体もない話をしている。

 人間の声をBGMがわりにすると、なんか眠たくなってくるよね。

 マッマのお腹のなかにいたころを思い出すからだろうか。

 

 今日はメスガキもおやすみだ。

 まあ、ぶっちゃけた話をすると――だ。

 わたしのメスガキって演技が八割くらいは入ってるからな。

 ブイを始めるにあたって、小学生の素が出てもさほど違和感がないのがもしかするとメスガキなんじゃないかって思いつきで始めただけだし、特に深い思い入れがあって始めたわけでもない。ただ、一年間もメスガキやってると、骨の髄まで染みてきたところはあるかな。イソラというキャラクターにも思い入れは当然ある。

 

 でも、わたしの素ってやっぱメスガキっぽくないよな。

 

 配信でのお兄ちゃんたちへの態度も、べつに生意気に見せたいわけじゃないし。普段のわたしは実をいうとかなり品行方正の良い子ちゃんで通っていて、ご近所のおばちゃんとかにはよく撫でられたりするんだぜ。買い物いつもえらいわねーとか言われてな。

 

 ちな、男の人は超絶カワイイわたしにビビッて近づいてすらこないが、べつにそこはフランクに接してくれてもかまわんと思っている。『ビビってるの? かわいいー♡ こっちおいでよ♡』って呼びたいくらいだ。警戒心が薄いと思われるかもしれんが、TSでよくありがちな野郎は要らねえとか思っているタイプじゃない。人に撫でられるのわりと好きなんだよ。ただそれだけ。

 

――やっぱ、わたしってメスガキなのか?

 

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 ひとつだけ確かなことは、わたしには演技をしているという気持ちがある。

 仮面をずっと被っていると、その仮面(ペルソナ)は皮膚に張りついてくる気がする。

 剥がれなくなって、いずれは仮面が顔になるんだ。それって怖くね?

 

 まあ、要するに――、

 

 四六時中メスガキしてると疲れるんだよ。だから今日は休憩。配信もお休み。

 

 ちなみに、姉狂いのわたしにしても、いつもお姉ちゃんのことばっかり話しているわけじゃないよ。ブイチューバーは言ってみればサービス業だからな。人を楽しませてナンボのもんよ。飽きないようにゲーム配信とか、普通の雑談とか、歌うたったりとか、ギター弾いたりとかもちゃんとしている。クッサい♡ギターソロを弾くのが好みなんだ。フロストのブラックライトマシーンみたいなやつね。

 

 特にわたしがリアル小学生だとバレてからは、小学校生活について聞かれたりもするな。更衣室は男女わかれてるのかとか、タブレットやパソコンは使っているのかとか、スマホの持ちこみはOKなのかとか、水着はユニセックスタイプなのかとか。そんな他愛もない話。

 

 下心もちょっとはあるんだろうけど、まあ小学生に対してちょっぴり卑猥なことを言っても、わたしなら耐久力があると思われているんだろうな。だって、メスガキで一年近く配信して小学生だとバレなかったわけだから、その実績は確かなものだ。飲み屋の姉ちゃんみたいに、お兄ちゃんたちの会話をうまくかわすのなんてワケないぜ。

 

 なお、カフェ・オレのお兄ちゃんの場合はかわす必要すらない。『お兄ちゃんは一生スレ監視員してろ♡お前が始めたことだろ』と言い渡してやったら、また幼児退行起こしてた。かわいいね♡

 

 ふぅ。いかんいかん。すぐにメスガキになっちゃうのはわたしの悪い癖だ。

 今日のメスガキは封印しとこ……。

 

 

 

 

 

 

「……むにゃ?」

 

 なんかムチってしてて、それでいてしなやかな弾力があって、とてつもなく心地よい物体のうえにわたしの頭が乗っている。ほっぺたで感触を確かめると、ますます気持ちいい。なんかすべすべしてて、わたしの動きに反応してモゾモゾ動くのが楽しい。なんですべすべさんはモゾモゾさんになるの? 半覚醒の状態で、わたしはうっすらと目を開ける。

 

 すると思いがけず、

 

――お姉ちゃんのご尊顔。

 

 が視界に飛びこんできた。

 

 え、あ、あれ? な、な、にゃんで。

 お姉ちゃんにお膝枕されちゃってるのでせうか!?

 

「あ、起きた? 異空ちゃん。なんか疲れて寝ちゃってたよ」

 

「お姉ちゃん膝枕してくれてたの?」

 

 上半身を起こし目をごしごしこすりながら、わたしは平静を装う。

 いきなり鼻息荒く飛びこんだりはしない。

 でも、ちょっとお胸様にダイブするくらいは許されるよな。

 ちょっと頭を揺らして、ポスンとさりげなく落とす。

 お姉ちゃんはわたしを抱きとめてくれる。

 ああ、このままおっぱい枕で眠れたら、わたしは今日死んでもいい。

 

「枕代わりだよ。硬かったかな?」

 

「ううん。お姉ちゃんの太もも柔らかかったぁ♡」

 

 まず、無邪気を装います。

 太ももという言葉も、若干のエロさを含ませていていいですね。

 これは、メスガキ選手、芸術点が高い。

 ほら、お姉ちゃんの顔を見てください。顔が赤いですよ。

 

「そっか……」

 

 ちょっと恥ずかしそうにスカート部分を伸ばそうとするお姉ちゃん。

 こんなの興奮しちまうだろ。メスガキを誘惑してる悪いお姉ちゃんだね。

 家から一歩も出る気がないのか、お姉ちゃんはストッキングすら履いていない。

 つまりエロい肉感のある生足を露出させているのである。

 それでいまだ義務教育の域をでない幼気な小学生妹の頭を乗せるのである。

 ねえ、太ももは猥褻物だよね?

 猥褻物陳列罪適用されたりしない? 大丈夫?

 そんな妄想が脳内をかけめぐったが、身体の力は半分抜けている。

 寝起きはさすがに行動的になれないからな。

 客観的に見れば、半分ぼーっとした妹が、姉に安心しきって身をまかせてる状況だ。

 

「ねえ、異空ちゃん」

 

 お姉ちゃんは優しげに問いかけてきた。

 

「ん?」

 

「お耳。掃除してあげようか?」

 

「!」

 

 なん……だと!?

 わたしは驚愕していた。

 わたしはお姉ちゃんに毎日ご奉仕している。

 逆に言えば、わたしがお姉ちゃんからご奉仕を受けるということはほとんどない。

 日常の家事は有限であり、わたしはそのほとんどすべてを担っているからな。

 

――どうして急に。

 

 当然のように疑問が湧いたが、もしかしたら例のお弁当モールス信号の件の影響かもしれない。あのあと、お姉ちゃんはわたしの部屋にやってきて、ギュっと抱きしめてくれた。理由は知っていたが理由は知らないことになっているわたしは、どうしたのって聞いたが、そうしたら、わたしがここにいてくれてうれしいと言ってくれたんだ。

 

 わたしは恥ずかしながら泣いちゃって、そしたらお姉ちゃんがオロオロしちゃって……、まあそれでふたりの距離はグッと縮まったのかもしれない。

 

――計画通り。

 

 いやいや、そんな邪悪な考えはしてませんよ。

 お姉ちゃんが少しだけ歩み寄ってくれて単純にうれしいだけ。

 

 今回の耳かきも、お姉ちゃんとわたしが少しだけ仲良くなった結果なのかもしれないからな。

 

 もちろん、どうしてとか、なぜとか聞くのは悪手。

 寝起きに耳かきとか危なくね? などという言葉は絶対に言ってはならない。

 

 お姉ちゃんの言葉を疑ってはならぬ。

 お姉ちゃんが白と言えば、たとえカラスでも白だ。

 お姉ちゃんが黒と言えば、たとえあわ雪でも黒だ。

 

 一瞬でそこまで考え、出力された答えはごく単純。

 

「お姉ちゃんがお耳掃除してくれるの? うれしいな♡」

 

 姉の言葉を素直に受け取る妹を演じたのみだ。

 ついでに、自然なかたちで倒れこみ、再びお姉ちゃんの太ももを堪能する。

 

「じゃあ動かないでね」

 

「うん♡」

 

 なお、ここでリスナーのお兄ちゃんたちが見ていたら、カイジの耳孔貫通マシーンを想起するかもしれない。お姉ちゃんは、客観的に見たら家事全般ができないダメ姉だからな。

 

 でも、それは知らないから――()()()()()()()()()()()()()――できないだけであって、べつに潰滅的に不器用だからとか、そういう物理的な原因があるわけじゃないんだ。

 

 何が言いたいかというと、わたしの鼓膜に穴があくというような事態にはならないってこと。

 

「どうかな。気持ちいい?」

 

「うん。ASMRだよね……お姉ちゃんのお膝のうえで、お姉ちゃんに耳かきしてもらえて……」

 

 お姉ちゃんの指さばきはやはり恐怖成分多め。おそるおそるといった感じだ。

 わたしを傷つけないように、ごくごく小さな力で耳掃除してる。

 すこしもどかしいくらいだ。

 わたしはもっともっとお姉ちゃんに()()()()()()()()()のにな。

 

 

 

 

 

 

 お姉ちゃんの耳掃除をたっぷり20分も堪能してしまった。

 こんなのプロでもかからねえぞってくらい、ねぶるように耳かきされたが、もちろんわたしに不満の気持ちは一切ない。むしろかつてないほど喜びに満ち溢れている。

 

「お姉ちゃん。今度はわたしがしてあげるね?」

 

 お姉ちゃんへのお礼で合法イチャイチャ。今日も優勝だ! ビール持ってこい。

 そんなふうに思っていたらお姉ちゃんの反応はかんばしくなかった。

 

「あ、いや――その……」と言葉を濁している。

 

「うん?」

 

「昨日、自分でやったからいいかなぁ」

 

「ふうん……」

 

 お姉ちゃんは恥ずかしがってるのかもしれない。

 あるいはもしかすると信頼ポイントが足りなかったのかもしれない。

 

 考えてみれば、お耳という自分の脳みそに近い場所を異物を投入されてかき乱されるというのは、本能的には恐怖でしかないだろう。それこそ家族でもない限り怖いだろう。

 

 もしまったく知らない人から、商売でもないのに、耳掃除しましょうかとか言われたらどうだ。死ぬほど怖くないだろうか。もちろん妹であるわたしが言うのだから、そこまではないにしろ、お姉ちゃんは他者を受け入れないタイプなのは見ていてわかる。

 

 少しずつ少しずつお姉ちゃんの心の壁は溶かしているが、本性が変わるわけではないからね。

 こればっかりは、お姉ちゃんのキャラだと思って受け入れるしかない。

 それよか、わたしは代償行為を探す。抑圧されたエネルギーは変換されるのが常なんだ。

 

「あ、お姉ちゃん。爪伸びてるよ」

 

 さっそく見つけた。

 お姉ちゃんは自分にすら興味がないから、こういうところを見つけるのはわりと簡単だ。

 

「あ、そうだね」

 

 お姉ちゃんは指を丸めて自分の爪を見ている。

 うーん、と悩んでいるのは、いつものお姉ちゃんだ。

 切ったほうがいいとは思っているものの面倒くさいとも思っている感じか。

 

「お姉ちゃん。わたしに切らせて?」

 

「え、異空ちゃんに?」

 

「うん。お姉ちゃんの爪ってキレイだから、わたしにお世話させて?」

 

「爪にキレイとかあるのかなぁ」

 

「うん。形がキレイだし、つやもあるし。磨けばもっと光るよ。お姉ちゃんの爪はかわいい♡」

 

「そ、そうかなー」

 

「うん、お姉ちゃんの爪はかわいいよ。でもそのままにしておいたらダメ。他が良くても爪がキタナイとお姉ちゃんもイヤでしょ?」

 

「まあ確かに……」

 

「だから、わたしに爪を切らせてください。お願いします」

 

 わたしは頭を下げる。

 なぜか丁寧語も使う。

 お姉ちゃんはわたしの夢をメイクアップアーティストだと思っているから、断りにくいはずだ。

 

「じゃあ、お願いしようかな」

 

「うん。じゃあ、どうしようかな。左手……右手。うん、左手からにしようかな」

 

「関係あるの?」

 

「ないよ。でも好きなオカズがあるときにどれから手をつけようかなって考えるじゃない。それに近い感じだよ♡」

 

 実際に、お姉ちゃんという至高の一品を味わうのだ。

 左手か右手か、これはわたしにとって選択の楽しみがある。

 それに、どの指から始めるかも重要だ。

 

「お姉ちゃんはどの指から切る派?」

 

「ンー。わたしは人差し指派かなぁ」

 

「そうなんだ」

 

「異空ちゃんは?」

 

「小指派」

 

「へえ、珍しいね」

 

「そうかなぁ」

 

「お姉ちゃんはなんで人差し指派なの?」

 

「うーん、なんとなくかな。異空ちゃんは?」

 

「ちっちゃい方から切っていったほうが精神力持つかなって」

 

「考えて切ってるんだね」

 

「うん。わたしはいつだって計画的なんだ♡」

 

 他愛のない会話をかわしながら、お姉ちゃんの爪を切っていく。

 少しずつ整えられていく指先。

 対象がキレイになっていくのは、宝物を磨き上げるような快感を伴う。

 わたしのお姉ちゃんが、わたしの手で、どんどんキレイにカワイクなっていく。嬉しい!

 でも、まあヤスリとかにかけるのは傷つくのでナシだ。

 マニキュアとか塗ってもいいんだけど、今日のお姉ちゃんは外に行く様子はないからこれもナシ。どうせ、お風呂で落ちちゃうだろうしな。

 

「おしまい」

 

「ありがとう、異空ちゃ――」

 

「じゃあ、次は足のほうだよ♡」

 

 遮るように言葉をかぶせる。

 終わったと思わせてからの強襲だ。

 相手に心理的防壁をまとう暇を与えない。

 

「え、ええぇ。さすがに足のほうは恥ずかしいかな」

 

 あ、お姉ちゃん。

 ソファの上で生足をクロスさせて膝抱えとか可愛いね。淫魔がよ。

 本当ムラムラする。おっぱいが膝に潰されて横にはみ出ちゃってるじゃねーか。

 

 わたしはニッコリ笑う。

 

「そんなことないよお姉ちゃん。プロのモデルさんは足の爪にもお化粧したりしてるでしょ?」

 

「そうだけど、私はモデルさんじゃないし」

 

「でも、お姉ちゃんはモデルさんみたいにキレイだよ」

 

「えー」

 

「お姉ちゃんに練習台になってほしいな♡」

 

「……はい」

 

 なんで罪人みたいな顔をするんだろう。

 うつむいているお姉ちゃんは襲われるのを震えて待つ赤ずきんちゃんみたいだ。

 ゾク……。

 ぞくぞくぞく――。

 背筋に電流が昇りあがるような感覚。

 抑えきれない獣欲。

 わたしはいま小学生らしく笑えているか自信がない。

 

「フフ。じゃあ、するね♡」

 

 お姉ちゃんのえっちな足を自分の膝に乗せて固定した。

 さすがに持ち上げたままだと、小学生の力じゃ無理だしな。

 ああ、それにしてもお姉ちゃんの足ってえっち。

 断頭台に固定された真っ白な首みたい。

 

「い、異空ちゃん。なんだか目が怖いんだけど」

 

――グリーンアイ。

 

 まあ、たぶん爛々と光ってたりするのかもな。

 お姉ちゃんごめん。わたし狼なんだ。

 

「ねえ、お姉ちゃん知ってる?」

 

「え?」

 

 お姉ちゃんは手で目を覆って見ないようにしてた。

 

「爪ってさ、骨じゃないんだよ」

 

「そうなの?」

 

「うん。本当は皮膚なんだって」

 

 だから、これが意味するところはただひとつ。

 答えなど明確すぎるくらいに明確だ。

 

 鋼のアギトを振り上げて――、

 わたしは少女の()()を食い破った。




ヨシ! 仲の良い姉妹のほのぼのとした日常風景を書けたぞ!


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狐がいたぞ、いたぞおおおおぉぉぉぉ!

 わたしはご都合主義という言葉が嫌いだ。

 

――デウス・エクス・マキナ。

 

 解決困難な事案を絶対的な力でねじふせる機械仕掛けの神。

 そんなものに頼るのは雑魚のお兄ちゃんたちだけで十分だと考えている。

 

 必要なのは、出来事の因果連鎖を読み解く能力。

 予測可能性を最大射程まで伸ばして、起こりうる未来に対して備えることだ。

 

――だってそうだろう。

 

 死は待ってはくれない。

 突然の終わりなんていつでも起こりうる。

 わたしにはそれを止める術はないのだから。

 

 そりゃ、神様っぽい何かが突然現れて、わたしにお姉ちゃんを洗脳催眠する能力でも与えてくれたら楽かもしれないなと思ったことはあるよ。お姉ちゃんのこころが欲しいわたしからしてみれば邪道ではあるが、催眠してからの凌辱、そして催眠解除してからの曇らせ顔はもはや様式美だからね。もう一回催眠して尊厳破壊がおかわりされる展開も一粒で二度おいしい。

 

 お姉ちゃんはマゾいところがあるような気もするし、わたしは言うまでもなくサディスティックなところがある。メスガキは攻めの姿勢だから当然だ。お姉ちゃんのグチャグチャになった顔を見たいのは確か。お姉ちゃんを落したら絶対にそうする。でもまあ、そこは理性を働かせて我慢してるけどな。お姉ちゃんに嫌われるなんてノーサンキューだ。自分から宝物を壊す馬鹿がいるかよって話でもある。

 

 ともあれ、何の因果か転生してしまったわたしだが、神様に会ったこともなければ、チート能力もないわたしは、自力で欲しいものを手に入れるしかない。

 

 しかし、わたしが小学生女児であるという環境は、あまりよろしいものではないのは、わたし自身だけでなく、もはやリスナーのみんなもよくよく理解しているところだろう。

 

 でも誰だって与えられた環境でがんばるべきだ。

 状況に満足できないなら抗うべきだ。

 わたしがご都合主義という言葉を嫌いな理由は――、

 それを理由に努力をしなくなってしまうのが怖いからだ。

 なにもしないで漫然と死ぬのはイヤなんだよ。

 

「ヨシッ!……完成したゾ……」

 

 わたしの努力がついに実を結ぶ。

 半月ほどかけてようやく完成した。

 

 あのときの『耳かき&爪切り』動画である。

 

 ふぅ、マジで苦労したぜ。

 神は細部に宿ると言われているとおり、わたしのこだわりが発揮されてしまった。

 

 お姉ちゃんに耳かきを提案されたとき、わたしがとっさに取った行動は、甘えるように抱き着きながら、お姉ちゃんの背中でスマホの録音ボタンを押すことだった。お姉ちゃんが隠れて撮影でもしてくれて、またスレに投下してくれたらそれでもよかったんだが、もはやわたしどころかリスナーのみんなにもお姉ちゃんのカメラ配置はモロバレであるし、お姉ちゃんがあのとき撮影していないことは一瞬でわかったんだ。

 

 欲を言えば動画を撮影したかったよ。でも、上手い具合にわたしとお姉ちゃんをどちらも撮影できるように配置できる暇はなかった。ついでに言えば、お姉ちゃんのASMRを完成させるために、わたしはヘッドマイクになりたかった。残念ながらメスガキにはヘッドマイクになる機能はついてないので、わたしにできることは限られていた。

 

 とりうる最善の行動。

 十全とは言えない状況。

 しかし、むしろそういう不自由さこそが創作には重要じゃないか。

 

 わたしがそれからとった行動は、動画の作成だ。

 

 もちろん、わたしはメスガキとして。

 お姉ちゃんは、ゆるふわなお姉さんキャラとして。

 要するに、3Dアニメ動画を創ったんだよ。

 

 こだわり抜いたのはお姉ちゃんの造形な。

 

 お姉ちゃんから後光のように放射し、かもしだされるふわふわピンクの空気感とか、この世の輝きみたいなものを表現するのに時間を喰った。なぜならお姉ちゃんはカミサマだからです。

 

 正直、自分のあまりの表現力のなさにあきれかえるばかりだが、たとえ一流アーティストでも、お姉ちゃんを十全に表現できるやつはいないと思うから、妥協はしかたがないことだ。まったく、わたしが真のアーティストだったら筆を折ってるところだったぜ。お姉ちゃん恐ろしい子。

 

 さて、そんなわけで、3Dお姉ちゃんはわたしの性癖全開で創っている。

 

 お姉ちゃんのエロエロなおっぱい。

 すべすべなお肌、

 プックリとした唇、

 たぬき似のかわいいゆるふわなお顔。

 ぷにぷにの二の腕。

 ムチムチなおみあし。

 そして、勝手ながらつけ足してしまったのは天使の羽とわっか。

 わたしのなかのお姉ちゃんはこういうイメージ。

 無垢で穢れの無いお姉ちゃんが、無自覚にエロいって最高じゃね?

 ヒュー、我ながらスゲェもんを創っちまった。むしゃぶりつきたくなるな。

 

 もちろん自分専用にしてもよかったが、お兄ちゃん達に見せびらかしたいという欲求もあった。

 なにしろ、お兄ちゃんたちはわたしにとってのパートナーでもあるからな。

 仲間うちに自分の好きなものを語りたいって気持ちわかるだろ。ていうかわかれ。

 それにまあ、いままでお兄ちゃんたちにはさんざんつきあってもらってるしな。

 慰労の意味も兼ねて、ネタを提供するのはありだろう。

 

 さて、配信スタートだ。

 

 

 

 ※

 

 

 

「あ――」

 

 わたしが配信で惹句を述べようとした瞬間。

 

『くそおおおおおおお!』

『くそおおおおおおお!』

『くそおおおおおおお!』

『くそおおおおおおお!』

『くそおおおおおおお!』

 

 コメントがなぜか悔しがりはじめた。

 な、なんぞ?

 

「な、なにかな。お、お兄ちゃんたち。まだわたし何も言ってないよ」

 

『いや、イソラが来たら初手で悔しがろうって話になってな』

『ここの紳士たちは連帯感すげえよな』

『いつもの意趣返しってやつよw』

『メスガキやっぱり困惑する』

『またお兄さんたちを罵倒しようとしただろ』

『初手わからせ達成w』

 

「くそおおおおおおおお♡ お兄ちゃんのくせにいいいいい♡」

 

『なんかメスガキが悔しがってるのは珍しい』

『あいかわらずうるせえガキだなw』

『ちなみにどんな罵倒お通しをするつもりだったんだ? \100』

『罵倒=お通しという概念』

『なんか罵倒されないと、しっくりこない感はあるな』

『メスガキに罵倒されないと、なんかルーの入ってないカレーみたいだ \100』

『それって、もはやただのご飯なのでは』

 

「メスガキスキーお兄ちゃん。スパチャありがとう♡ 今日はお兄ちゃんたちにわたしみたいな小さな子の配信見るくらいしか趣味ないの? って言うつもりだったよ♡ わからせマンお兄ちゃんもありがとー♡ そんなにわたしに罵倒されたいんだ。変態♡」

 

『まあ、ぶっちゃけメスガキ要素以外も多才だと思ってるよw』

『姉狂い以外は、メスガキは良い子』

『縁があるならわが研究所に迎え入れたい。\10000』

『なんか研究所のおっさんがまぎれこんでる件』

『これは足長おじさんじゃなく、わからせおじさんなのでは?』

『赤スパ乙と言いたいが、イソラの属性を知ってるとイエローカードでもあるような』

『でも天才児なのは確かだろ。語彙力が小学生のソレじゃねえ』

『オレの妹なんて、ウンコ兄ぃ呼びだぜ。イソラはスゲェよw』

 

「えっと、グランドファーザーお兄ちゃん、赤スパありがとー。でも、わたしって小学生だから働けませーん。ごめんね♡」

 

『そういやイソラって確定申告どうしてるんだ? \200』

『あ、気づいちゃったか』

『兄ちゃん、消されるぜ』

『たらりたーらりたーら』

『ひえ、怖いオバサンがキタ!』

 

「確定申告は知り合いの弁護士にお願いしているから大丈夫だよ♡」

 

『ふーん(あまり深堀すると何かが湧いてきそうで聞けない)』

『ヒモ姉が後見人だったら普通にバレるんじゃないかと思うが』

『その知り合いの弁護士あたりが未成年後見人なのかなぁ』

『遠縁が書類上だけ後見人になってるんだろ。そのあたりは察しろ』

『詮索しすぎはよくないぜ。メスガキにだって触れられたくないことはあるだろ』

『考えるな感じろってやつですね』

 

「そんなにわたしのプライベート情報を知りたいんだぁ♡ 本当、お兄ちゃんたちはわたしのことが好きすぎるんだから♡ ロリコン犯罪者予備軍♡ 社会不適合者~♡」

 

『けッ。誰がメスガキのことが好きかよ』

『まんざらでもない感が絶妙な塩梅でメスガキなんだよな』

『クソ、腹パンしてえ』

『メスガキわからせマン。はやく来い。間に合わなくなっても知らんぞ!』

『でも、メスガキちゃん、それって確定申告兄貴をかばってるよね? \100』

 

「それ言われると弱い♡」

 

『素直かよw』

『かわいいかよw』

『これだからメスガキは』

『魔性の女』

『ほんと根はイイ子なんだわ。お姉ちゃんが好きすぎる以外は』

 

「ははッ♡ 雑魚のお兄ちゃんたちはすーぐわたしの演技に騙されるんだから♡」

 

『ちくしょうううう』

『また騙された』

『この女狐めッ!』

『どっちかというと狐じゃなくてオオカミなんだよなぁ』

『オレ氏もそう思います』

『ヒモ姉がいまだ食べられていないのが不思議w』

 

「さて、お話が脱線してばっかりで進めないから、そろそろ強引に話題を変えるよ。今日はいつもみたいに二段階配信じゃなくて、お姉ちゃん配信だからアーカイブには残さないからね♡」

 

 最近は枠を二つ取ってるんだよな。

 まずは通常の配信。雑談とかゲームとかそういう普通のやつ。

 そして、お姉ちゃんについての話題は、二番目の枠として配信枠を分けている。

 こうすることで、アーカイブに残すやつと残さないやつを明確にしているんだよな。

 

 お姉ちゃんへのわたしの恋心は絶対的に伏せておくべき事柄。

 これにまつわる記録は絶対に残さないほうがいい。

 でも、お兄ちゃんたちにスレッドを監視してもらっている以上、お兄ちゃんたちと情報共有できる場も必要だ。痛しかゆしってやつだな。

 

 そういうわけで、この動画もストリーミング内ストリーミングということで流すようにするぜ。

 ドヤっ。見ろこのすばらしいお姉ちゃんの造形を。

 

 

 

 ※

 

 

 

「さて、まずは本編前にお姉ちゃんをごかいちーん♡ あ、ここでいったん停止するね♡」

 

『本人によるコメンタリーつきかよw』

『イソラ。ついにお姉ちゃんを3D化してしまう』

『ちょっとお姉さんの造形がエロすぎませんかねぇ』

『リアルでのヒモ姉と雰囲気は似てるな。なんか天使の羽ついてるが』

『イソラの中のお姉ちゃんって天使なイメージなんだな』

『エロ天使w 穢しちゃいけない存在を穢すことに興奮してそう』

『これもメスガキが描いたんか。執念がすごいなぁ』

『このイラストデータからの描き起こし、3D化って、どんだけ化け物なんだよw』

『最近の小学生はすごいなー(棒読み)』

『AIちゃんに創ってもらったんじゃね?』

『AI特有の書き割り感はないな』

 

「ふふーっ。すごいでしょ♡ もちろんわたしが描いたんだよ♡ あー、お姉ちゃんカワイイ!」

 

『動画内の姉にすりすりすんなw』

『イソラちゃん猛烈にスゥハァしている。姉は吸うものだった?』

『これって、セルフ供給なのでは?』

『メスガキはヒモ姉という概念そのものを愛してるんだよ』

『なにを見せられてるんだろうなオレら……』

 

「じゃあ次に進むね。これは実際に起こったこと――世界のシンジツなんだよ♡」

 

『世界のシンジツ。すごいなー(棒)』

『深淵に触れてしまったか』

『中二病はまだ早い』

 

 動画を進めると、まずはイソラがお姉ちゃんのふとももに頭を預けている様子が映る。

 ちなみにいつもと違って、今回映っているイソラは白いワンピースを着た清純そうな恰好だ。

 天使のような羽の代わりに蝙蝠のような羽がついているが、見た目的には幼くかわいらしいものなので、お姉ちゃんとのミスマッチは生じないようにした。

 

「ある日、わたしがリビングでうとうとしていると天上の声が聞こえたんだ」

 

『なんか語りだす』

『お姉ちゃんに膝枕してもらってうれしかったんだね』

『たぶん脳内リピートで脳汁だしまくってるな』

 

――「枕代わりだよ。硬かったかな?」

 

『て、ヒモ姉のリアル音声やんw』

『姉は盗撮。妹は無断録音。似たもの姉妹で草』

『ヒモ姉。オオカミの口の中にとびこむがごとき暴挙』

『妹が姉に欲情してるとも知らずに……』

 

――「ううん。お姉ちゃんの太もも柔らかかったぁ♡」

 

『ほら、ハートマークが見えるぞ』

『子宮から声出すのホンマ草』

『小学生だぞ。おまえら少しは自重しろ』

『太ももっていうところが小学生らしくていいな』

 

 はい、ポーズ。

 

「うん、ここではあえて太ももが柔らかいというえっちなセリフを小学生が言うことによって逆に無垢さを演出しているわけですね」

 

『それはすごいですね。さすがイソラ選手』

『姉を堕とすのに余念がないな』

『ここまで一瞬で読み切って、あの太もも柔らかいって言ったんか』

『単純に、メスガキはそこまで考えておらず本能のおもむくまま言った説もありうる』

 

 次のシーンは耳かきだ。

 

「ほらほら、お姉ちゃんがわたしの耳かきしてくれたの♡ もうこれって求婚だよね♡ お姉ちゃんの耳かきがまちがって鼓膜を突き破っちゃったらよかったのに」

 

『物騒なことを言うメスガキがいる』

『ヒモ姉だったらありえそうで怖いわw』

『ここにメスガキがいるからこそ安心して見れるが』

『オレもなー、えっちなお姉さんに耳かきしてもらいたかったわ』

『オレ氏もそう思います』

『おまえは黙ってスレ監視してろw』

『ば、バブゥ……\100』

 

「あ、カフェ・オレお兄ちゃんスパチャありがとう♡ 今日もお仕事がんばってねー」

 

『お仕事(隠語)』

『泣けるぜ』

『まあしゃーない。これが大人の責任の取り方ってやつだ』

『ば……バブぅ』

 

 とりあえず動画は続くが、いくらなんでも3Dのキャラでも耳の造形には限界がある。

 わたしとお姉ちゃんの耳かきはこれからたっぷり20分も続いたが、さすがにお兄ちゃんたちにとっては退屈だろうからカットした。

 

「お次は爪切りだよ。お姉ちゃんがわたしに何かしてくれるのは嬉しいんだけど、わたしはどちらかと言えば、お姉ちゃんに何かをしたいタイプだからね」

 

『耳かきを拒否られたら速攻で切り替えるの草』

『もうなんでもいいからお姉ちゃんに合法接触したかったんだな』

『ブイで爪切りか……新しいな』

『(外形上は)姉妹百合てぇてぇ。\100』

『その外形上ってのがクセモンなんだよな』

『どこの指から切るか聞くのは、てぇてぇよ』

『目の前でメスガキがドヤ顔解説キメてなければなw』

 

 そして、さらなる展開。

 お姉ちゃんのえっちな足の爪を切るという暴挙。

 当然、リスナーのお兄ちゃんたちも沸いた。

 

『足の爪だとぉぉぉ。えっろwwwww』

『小学生の妹に足の指を切ってもらう姉がいるらしい』

『これはもう……』

『爪は骨ではなく皮膚か……』

『ああ、爪切りがオオカミの口に見えてきた』

『悲報。ヒモ姉食べられる』

『うん。非常に健全で微笑ましいエピソードだな』

 

「お姉ちゃんの爪を切れて嬉しかったって話でーす♡ なに興奮しているのぉ?わたしのお耳を掃除してくれたお礼に爪を切ってあげただけだよ。おかしな話じゃないよね♡」

 

『まあ完璧に言い訳は成り立ってる』

『お姉ちゃんが全部悪いんだよ。耳かきとかするから』

『そうだな。ヒモ姉が悪いよな』

『妹はこのときのために、将来の夢をメイクアップアーティストと設定していた』

『いつごろからなんだろうな。メスガキの計画ができたのって』

 

 ふっ。

 今日は何を言われても余裕だ。

 なにしろ、シンジツは――そこにある。

 動画のなかでお姉ちゃんとイチャイチャしたのは現実として起こったことだからな。

 わたしは勝利の余韻に酔いしれる。

 

――と。

 

――――、慢心したのがよくなかったのかもしれない。

 

『メーデー。メーデー。メーデー!!!!! \10000』

 

 突然の赤スパは、危険を知らせるレッドアラート。

 カフェ・オレお兄ちゃんのスパチャだ。

 

「どうしたの?」

 

『スレで、メスガキの配信がさらされている! \100』

 

『マジかよ』

『やべえw どうすんだイソラ』

『まあ、いつかは誰かが辿り着くとは思っていたが』

『いやこの配信内に裏切者がでたのかもしれんぞ?』

 

 チャットのスピードが車のエンジンみたいに高速回転する。

 混乱と困惑。

 そして猜疑心。

 わたしは無意識に奥歯をかみしめた。

 

 やはり隠れていやがったのか――。

 

 村人陣営でも狼陣営でもない第三の陣営。

 

 自分の生存のみが目的の快楽主義者。

 

 ――()が。




いや、お姉ちゃん喰われた時点で狐生存なら狐勝利やん(自己ツッコミ)


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狐を吊るせ! 超絶限界レスバトル!

666:FOX2

おまえらがメスガキメスガキ連呼する理由が今日ようやくわかったわw

https://www.imoutotube.com/@mesugaki_isola

妹はメスガキブイチューバーやってる

今もライブ配信やってるみたいだな

百万円の出どころは小学生妹がブイのスパチャで稼いだからやろ

 

667:仰げば名無し

妹ちゃん=メスガキだったってこと?

いやまあ小学生なんだからメスガキなんだろうが

 

668:仰げば名無し

どういうことなんかよくわからんのだが

ヒモ姉は問題解決してよかったねって話?

百万円は合法だったってことだろ?

 

669:仰げば名無し

小学生でもブイ配信は可能っちゃー可能だろうが

でもなんで妹ちゃんはメスガキなんてキャラづけしてんだよw

いやマジでリアルメスガキだから可能なのか?

しかしブイチューバーなんて何万人もいるのに

百万円も稼げるもんなん?

メスガキちゃん小学生なのにスゴーイ!

 

670:仰げば名無し

よかったな

ヒモ姉は小学生妹ちゃんのヒモになれるぞ!

 

671:FOX2

いやいやお前ら能天気すぎるだろ

それともおまえらメスガキのリスナーか?

いいかメスガキリスナーじゃないやつらに言っておくが

このスレは既にやつらに監視されてるんだよ

 

672:仰げば名無し

監視? またまたご無体な

 

673:仰げば名無し

お、陰謀論者か?

妄想がすぎますぞ

 

674:仰げば名無し

ん-。今ライブ配信見てみたけど

三分前に始まったばっかりみたいだぞ?

 

675:仰げば名無し

メチャクチャ焦ってる妹ちゃんを期待して配信見たのに

メスガキの曇り顔は見られんかった。残念だ

それにしても、アーカイブをつらつらと見てみると

メスガキちゃんの声は確かに妹ちゃんっぽいな

 

676:FOX2

スレ監視員がいるから

オレの発言を見てから配信即切りしたんだよ。察しが悪いやっちゃなー

それともとぼけてるふりしたリスナーか?

いつからかスレの中で『オレ氏』とか書きこんでるやつがいただろ

そいつが筆頭になって、このスレをコントロールしてたんだよ

 

677:仰げば名無し

オレ氏困惑する

 

678:仰げば名無し

オレ氏わけがわからない

 

679:仰げば名無し

オレ氏「ば……バブゥ」

 

680:FOX2

おまえら増えすぎw

でもこれでわかっただろ

このスレは既にメスガキの手中にあるってこった

 

681:仰げば名無し

ざわ……ざわざわ……

 

682:仰げば名無し

なんか証拠でもあるんすか?

 

683:仰げば名無し

そうだよ証拠だせよ証拠w

 

684:仰げば名無し

正直、FOX2がなにをしたいかわからん

愉快犯か?

 

 

 

 

 

 

 わたしが最初にしたことは速やかに配信を終了させることだった。

 そして、すぐに対策本部を設置した。

 つまりもともと用意してある二枠めで配信を再開させた。

 

 このこと自体は、さほど有効とは言えないかもしれない。

 

 お姉ちゃんにまつわる配信は全部削除しているとはいえ、狐がいつから潜んでいたかはわからないからな。それに今日の配信にしたって、少し知識があれば、動画としてローカルに保存しているということは考えられる。配信した動画をそのまま他人が流すのは著作権的にアウトだが、アカウントが死ぬことを覚悟して動画をあげ続けるということは可能だろう。小学生のプライバシーを赤裸々に語るやつが、社会的に死ぬリスクをとってまであげるかという問題はあるが、まあ人間誰しも自分のやりたいようにやるからな。

 

 頭のゆるい狐なら自爆同然に、そういった戦略をとることも考えられる。

 

 もし、そうなれば――。

 

 動画削除と垢バンは時間経過で可能になるが、それまでの間にどうしても動画を拡散されてしまう可能性はあった。だからこれは無駄なあがきかもしれない。

 

 けれど、狼にとって最も必要なことは、どんなに不利な盤面になってもあきらめないことだ。

 みっともなくても、地の底を這ってでも、足掻き続け、最後まで勝利をあきらめないこと。

 それが、狼に求められる資質だろ?

 

 幸いなことにわたしはひとりじゃない。

 

 リスナーのお兄ちゃんたちは、わたしが狼だとすれば狼陣営の狂人――。

 もっと言えば、狼の遠吠えを聞ける聴狂人だ。

 直接的にお兄ちゃんたちに指示を出すのは危険だからできないが、いまお兄ちゃんたちは一丸となって狐を吊るしあげようとしてくれている。

 

「……」

 

 わたしは無言のまま流れるコメントを見ている。

 本当にお兄ちゃん達は、メスガキなんかのために必死になってて……。

 胸の奥が熱くなる。

 

「……」

 

 時間は――、

 ()()()()()()はわたしの有利に働いていた。

 

 お姉ちゃんはこの時間、『のーあーと、のーらいふ』という美術番組を見ている。

 この時間は絶対にパソコンもスマホも見たりしない。美大に通うお姉ちゃんは美術に対する態度は真摯で、絶対にそこだけはゆるがせにしたことはない。

 

『しかしこうなっちまうと、コメントを全部コントロールするのは無理だろうな ¥200』

『掲示板もこっちのコメントも完全に統制するのは無理ね。¥200』

『おねロリのおねさん。いたんかワレェ』

『まあ、みんなメスガキの配信を見ているわけだが、共通項があるわけじゃないからなぁ』

『おもしろ半分に見ている層というか、ライト層というか……そういうやつはいるわけで』

『メスガキのことは好きだけど、この状況をどうしのぐのか興味深いオレみたいなのもいるw』

『必然的にスレのやつらにここの連中がまぎれこんでいるのはバレるよな』

『いえーい。みんな見てるー? ¥1000』

『狐のやつもここにまぎれている以上、まあそりゃそうなるよ』

『ヒモ姉がスレ見たら終了か。なんかハラハラするな』

 

「お姉ちゃんはこの時間は絶対にスレを見ないよ。美術の番組を見てるからね。しかも今日は特番で、あと80分くらいは大丈夫だから、みんなもっと議論して♡」

 

『メスガキは本当にお姉ちゃんのことが好きすぎだよな』

『お姉ちゃんに対する熱い信頼がてぇてぇよ……』

『マジ狐は空気読めないカス野郎』

『なあ。みんなで書きこんでスレを全員で落とすとかどうよ。¥100』

『DAT落ちするには数日かかるし、専ブラ使ってたら捕捉されると思うがなぁ。¥200』

『仮にそれがうまくいっても、ヒモ姉がまたスレ建てしたら同じな気も』

『狐が同じことを書きこむ可能性はあるからなぁ』

 

 

 

 

 

685:FOX2

証拠とかメンドウくさくてあげてられっかよ

まあやろうと思えばできるけどな

それに、いま動画見てるやつはわかっただろ

いえーい。リスナーのロリコンお兄さんたち見てるー?

 

686:仰げば名無し

マジで配信でそんなコメント流れててワロタw

 

687:仰げば名無し

はえー、うちらいつのまにか監視されとったんか

姉妹のラブラブ配信をウキウキ顔で見てたワイが監視されとるとはw

見るものは見られるものってホンマやったんやなぁ

 

688:MSGK泣かし隊

ちょっといいか

オレはリスナーのひとりなんだが

>>685

狐に聞きたいことがある

 

689:仰げば名無し

うお、なんか現れたw

 

690:仰げば名無し

MSGK泣かし隊の兄貴じゃないかwww

スレに突貫するとか、そこにしびれるあこがれる!

 

691:仰げば名無し

すげえファンネル飛び交ってるぜ

オレもしかしたら歴史の生き証人になってるのかもしれないw

 

692:仰げば名無し

MSGK泣かし隊兄貴VS狐、ファイ!

 

693:FOX2

>>688

なんだいってみろ?

 

694:MSGK泣かし隊

おまえはいったい何がしたいんだ?

 

695:FOX2

は?

何が言いたいのかわからないんだが

日本語しゃべれよおまえ

 

696:MSGK泣かし隊

おまえこそ日本語読解能力がないな

メスガキがヒモ姉のたてたスレッドを覗いていた

それは事実だが

それを明らかにして

『お前に得られるもの』

はあるのかって聞いてんだよ!

 

697:仰げば名無し

これはMSGK泣かし隊。ぶち切れてるw

 

698:FOX2

おまえ以外に泣かされるのは許さねえってか

はー、ほんとロリコンばっかだなリスナーの連中

オレがメスガキをわからせたのは『楽しい』からだよ

それ以外にあるか?

 

699:MSGK泣かし隊

ふーん、じゃあお前は愉快犯だったと認めるわけだな

お前がもしもメスガキの動画の一つでも転載してみろ

リアル小学生の個人情報と著作権を

『故意』に侵害した犯罪者になるってわけだ

みんなも聞いたよな

 

700:メスガキスキー

確かに聞いたわw

 

701:萌えるお兄さん

お、通報案件か?

 

702:仰げば名無し

ひええ、ワラワラと現れるメスガキ親衛隊の皆様たちw

おまえらどこに潜んどったんや

 

703:仰げば名無し

直接的に動画を転載したりすれば、

メスガキから開示請求くらう可能性はあるわな

開示請求されて小学生の大事な部分を明らかにしちゃった狐さんは殺処分されると

 

704:FOX2

アホみたいな誘導してんじゃねーよ

オレが『楽しい』って言ったのはお前らを揶揄した言葉だよ

お前らだって、このスレを誘導して楽しんでたんじゃねーか?

このスレで悪ノリしてたじゃねーかよ

してねえとか言わせねえぞ

 

705:仰げば名無し

まあ確かに

 

706:仰げば名無し

オレ氏もちょっとはそれあったわ

 

707:仰げば名無し

カフェ・オレのお兄ちゃんしっかりしてw

 

708:FOX2

なあお前ら、ヒモ姉にちょっとは申し訳ないとか思わなかったのか?

ヒモ姉はメスガキのことを心配してスレ建てしたんだろうがよ

なのにお前らときたら、メスガキの言うことに唯々諾々と従って

スレを誘導してたわけだ

こっちのほうがずっと重罪じゃねえかよ

 

709:わからせマン

常識的に考えると、小学生の保護を優先するだろ

スレ進行も、メスガキの言葉に従ってたというより

メスガキが必要以上に傷つかないようにしていたという意識が強い

逆におまえがやってることは単なるテロだろうが

 

710:MSGK泣かし隊

そりゃそうよ

こいつは最初から愉快犯COしちまってるからな

指定:狐。

 

 

 

 ※

 

 

 

 

「フフフ。MSGK泣かし隊の兄貴も、他のみんなもすごいね。特に動画を転載したら犯罪者になるっていうのはクリティカルだったんじゃないかな。あ、ちなみにマジで狐さんがそんなことしたら訴えまーす♡ 小学生だから訴えないと思ったぁ? 頭わるわるー?」

 

『安全な場所から攻撃したいだけの狐カスにとってはそうだろうな』

『これには狐くんもタジタジ』

『ちょっと論調変わってるしな』

『だがヒモ姉の件については半分くらいは当たってると思ったわ』

『まあ、ヒモ姉がかわいそうかわいい状態だったのは確か』

 

「うん。お兄ちゃんたちを巻きこんじゃってごめんね♡」

 

 巻きこまないと、わたしはお姉ちゃんを得られないと思ったからそうせざるをえなかったわけだけど、狐が言う通り、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というみんなの良識を利用してしまっているのは確かだ。そのことは申し訳なく思う。

 

『それにしても狐はここにもいるんだよな?』

『誰が狐かわかったやついるか?』

『んー。狐が今日初めて見たって言ってるから、それが真なら初見なんじゃね? ¥100』

『初見かぁ……。書きこんでないかもしれんし、それだけじゃなんとも言えんな』

『なんとなぁく、心当たりはあるんだが。¥1000』

『お、腹パン大魔王が狐の居場所を知っている?』

 

「へえ、なんか心当たりあるの?」

 

『しかし、吊るしあげになるのもよくない気がするし今のは忘れてくれ。¥1000』

 

「うん、わかった♡」

 

『メスガキ素直』

『狐とかどうでもいいって感じだな』

『まあアンチを完全シャットアウトするのは無理よ』

 

「そうだね。みんなにボコボコにされてるクソ雑魚な狐さんがどこにいるのかなんて、わたしぜんぜん興味ないんだぁ♡」

 

 いや本当にね。

 

 

 

 ※

 

 

 

711:FOX2

おまえらは小学生は保護しなければならないとか言ってるが

オレはぜんぜんそんなふうには思わんね

邪悪なんだよなぁ、このメスガキ

ヒモ姉がガチで心配してるのを知りながら

こいつ、それを利用しようとしてるんだぜ

自分のリスナーまで利用してな

オレが言いたいのはそこだよ

この妹は、ヒモ姉のことも嘲笑ってるわけだ

自分の昏い欲望を満たすためにな

 

712:仰げば名無し

いや普通に姉のことを慕ってるだけじゃないか?

 

713:仰げば名無し

両親が亡くなって最後の家族なんだぞ

その前提忘れてる

 

714:仰げば名無し

配信で雑魚扱いされてキレちゃったんですかー?

 

715:FOX2

ああもういいわ

おまえらに話しても、どうせ狂信者が混じってるしな

ヒモ姉が見てくれたら、後から判断してくれるだろ

いいかヒモ姉、おまえの妹はおまえに欲情してる

ワケがわからんかもしれないが、おまえとガチで結婚したがってるんだよ

クソ生意気なことにおまえをヒモにしたいわけだ

ふざけてると思わないか?

 

 

 

 

 ※

 

 

 

「ふーん……」

 

『やべ。イソラが怖ええ』

『悲しみの向こう案件か?』

『どうすんだこれ』

『スレッドの発言は消せないしな』

『動画は転載できないから証拠はないともいえるが』

『ヒモ姉はどう判断するのか。まったく読めないな』

 

「さっきは狐さんの在り処とかどうでもいいって言ったけど、やっぱり取り消すね。腹パン大魔王お兄ちゃんは誰がアヤシイと思ってるの?」

 

『ひえっ』

『こええ』

『イソラちゃん激おこ』

『盤面整理するまでもなく、姉への恋心だけは絶対に知られてはいけない案件だからな』

 

『あー、たいしたことじゃないんだが、スレ内でいくつか妹がいることをにおわせていたやつがいるだろ。こいつは、スレ専民なんだが、今日の配信で妹からウンコ兄ぃ呼ばわりされてるという発言があったような気がするんだわ。まあ、こんなんで証拠になるかって話ではあるが。¥100』

 

「なるほど一理ある♡」

 

 ちょっとログを探ってみる。

 アーカイブにはあげてないが、ログは手元にあるしな。

 検索してみると、いたわ確かに。

 

「最初から尻尾だしてたんだね。狐さんのふさふさ尻尾♡」

 

『妖艶』

『メスガキ』

『君がイキると僕が嬉しい』

『いやいや単に似ていただけだってw』

『おやおやこれはかわいい尻尾ですね』

『よっこらフォックス』

 

「クソ兄貴呼ばわれお兄ちゃんが狐さんでいいのかな。COある?」

 

『そんなもんねーよ。だいたい妹がいるって発言だけで結びつけるとかおかしいだろ』

 

「たしかにね♡」

 

 そんなことは百も承知だ。

 配信から追い出したところで、スレから追い出すことはできないからな。

 匿名掲示板はわたしが建てた領域じゃない。

 管理権限もないし、完全なコントロールは端から不可能だ。

 だけど、ここなら――この配信ならわたしがルール。

 それもまた疑いようのない事実なわけで。

 ま、残念ながら、配信でブロックしたところでコメントが消えるだけだ。

 視聴自体はできるわけだし、なんなら別のアカウントを作ればしれっと参加することもできないわけじゃない。だけど、わたしのお姉ちゃんへの気持ちを踏みにじったことは

 

――絶対に許さない♡

 

「ねえ。狐さん。まちがっちゃいけないのは、お兄さんは今疑われてて、その証明をみんなに対してしなくちゃいけない立場なんだよ。わかるぅ? わたしはお兄さんを狐さんだと証明する必要はないの♡」

 

『そんなの不可能に決まってるだろ! オレは今日はじめて配信見たばっかりなんだぞ』

 

「わからないかなぁ。お兄ちゃんが狐さんじゃないなら黙って追放されてよ。まちがっていたら後から謝るからさぁ♡ ね、おねがーい♡」

 

『イヤだよ。なんでなんもしてないのにブロックされなきゃなんねーんだよ』

 

『だったら証明して?』

 

『無理だって言ってるだろ』

 

『だったら吊られて?』

 

『イヤだよ。こんな無法が許されてたら配信なんか見るやついなくなるだろ』

 

『はい♡ 生存意欲♡』

 

『こんなんスケープゴートだろ。やっぱり邪悪じゃねえか』

 

『ん。それってCO?』

 

『あ』

 

 まあ、どうせ自己顕示欲だとは思っていたよ。

 なんで追放されるかなんて、わたしが不快に思ったからで十分だ。

 指定:クソ兄貴呼ばわれお兄ちゃん。

 

「じゃあね。ばいばーい♡」

 

『くそがあああああああああああああ。こんな配信もう見ねえよ!!!!!!!』

 

 

<クソ兄貴呼ばわれさんは追放されました>

 

 

「本当に最後の捨て台詞まで雑魚だったね♡」

 

 さて、あとはスレのほうか。

 こっちはお兄ちゃんたちに任せておけばなんとかなるかな。

 

 

 

 

 

 

 

716:仰げば名無し

狐死亡w

 

717:仰げば名無し

ざーこ♡ ざーこ♡

 

718:FOX2

二窓が面倒くさいから吊られてやっただけだよ

もうオレの言いたいことは言っちまったからな

あとはロリコンどもで楽しくやっとけ

 

719:MSGK泣かし隊

おまえマジなんでこんなことしたんだよ

おまえも生意気ざかりな妹のことが好きな兄貴なんだろう?

 

720:仰げば名無し

確かに妹のことを語っているときの狐は妙にうれしそうだった気がする

 

721:仰げば名無し

妹のことが嫌いな兄貴はいないんだろ?

 

722:FOX2

たいしたことじゃねえよ……

 

723:仰げば名無し

見てるじぇねえかw

 

724:仰げば名無し

狐さん。吊られたあとはわびしいものだしな……

 

725:仰げば名無し

背徳いないと、狐は孤独な陣営だからなぁ……

 

726:FOX2

今日、妹がさ……

家に彼氏連れてきたんだ

で、オレのことは家から追い出して

帰ってこなくていいよって言われたんだ

 

727:嫉妬マスク三世

ふむ、つまり狐くんは嫉妬したというわけだな

この場合の嫉妬というのは、彼氏くんに対して

というのもそうだが、メスガキに対してもそうだ

家族を離したくないという想いを叶え続けている

メスガキに嫉妬した

そんなところじゃないかな?

 

728:仰げば名無し

終わったあとに湧いてくんじゃねえよ

嫉妬マスク三世おつかれ♡

 

729:仰げば名無し

これって、ヒモ姉あとで見返したら意味不明状態なんじゃね?

もうスレが汚染されてて腐海に沈みそうだよw

 

730:FOX2

>>727 そうかもしれないな

妹はオレを家から追い出すときに

あの百円で千円をゲットしようとした妹が

あのオレからプリンを強奪してオレにはコオロギ食ってろと言ってた妹が

オレに協力しろって言ってきて、500円を渡してきたんだ……

手のひらの中に500円玉の冷たい感触が伝わって

オレ、なんかどうでもよくなっちまった

 

731:仰げば名無し

あー、それは脳みそぐちゃぐちゃになる展開

 

732:仰げば名無し

ヒモ姉スレッドが狐きゅんのかわいそうかわいい話になる

 

733:仰げば名無し

どんなマジックだよw

 

734:仰げば名無し

曇らせられちゃったねええええええ!!

もっと聞かせてくれよその話!!!!!

 

735:おねロリのおね

かわいがってた妹さんが自分から離れていくようでつらかったのね

でも、ちゃんと話せて偉いと思うわ

 

736:仰げば名無し

言えたじゃねえか案件で草

 

737:仰げば名無し

けど、やっぱメスガキ相手にイキるのは間違ってるぜ

おまえの事情もわかったけどメスガキ関係ないだろw

 

738:嫉妬マスク三世

諸君、嫉妬の心というものは、隔絶ではなく近接によりもたらされるものだ

つまり、まったくかけ離れた存在に対しては嫉妬心すら起こらない

この場合、メスガキと狐の立場が似ていたからこそ、狐の嫉妬心は暴走してしまったのだろう

 

739:仰げば名無し

なんか後方腕組で訳知り顔している嫉妬マスク三世がむかつくわw

 

740:仰げば名無し

メスガキ殴られ損じゃねえかw

 

741:仰げば名無し

メスガキは十倍返しで殴り返してきたけどなw

 

742:FOX2

本当、今になって思えばなんであんな書きこみしちまったんだって思ってるよ

メスガキにもスマンって言いたい

 

743:仰げば名無し

うん、許す

 

744:仰げば名無し

め、メスガキ?

 

745:仰げば名無し

いや違うだろ

 

746:仰げば名無し

配信でもちゃんと言ってる……

 

747:仰げば名無し

メスガキってなんでこう非メスガキなんだろうな

オレの情緒をかきみだす術を知っている

やっぱ天使なんよなぁ

 

748:FOX2

ハハ……わりぃ

なんかメスガキが妹の姿とダブったわ

 

749:仰げば名無し

お涙頂戴ものみたいでクッサ♡

 

750:仰げば名無し

秒でブロック解除するメスガキがいるらしい

 

751:FOX2

いいのか

ここまでやらかしたオレが許されても

 

752:仰げば名無し

おめでとう

 

753:仰げば名無し

おめでとう♡

 

754:仰げば名無し

888888

 

755:仰げば名無し

おめでとう♡

 

756:仰げば名無し

おめでとう♡(なんなんだこの空気w)

 

757:FOX2

ありがとう

 

758:仰げば名無し

終劇

 

759:仰げば名無し

ヒモ姉スレッドの次回作にご期待ください

 

760:仰げば名無し

勝手に終わるなよwww

どうすんだよこの惨状

 

761:仰げば名無し

とはいっても、スレッドは消せないわけだし

過去を変えることはできないわけだしな

 

762:仰げば名無し

配信でも言われてたが、1000まで埋めて

ワンチャン賭けてみるか?

 

763:仰げば名無し

うーん、それって意味あるのかねえ

 

764:仰げば名無し

盤面整理をしすぎるとよくないかもしれんが念のため

現状、メスガキがブイをしていることは明らかになっている

百万円の出どころもまあほぼ明らかになったといえるだろう

そして、メスガキがスレを見ていたのも明らかになっている

うん。詰んでないか。これ……。

 

765:仰げば名無し

うーんどうしたらいいんだろうな

 

766:仰げば名無し

オレがヒモ姉を養う!

それで万事解決だ!

 

767:仰げば名無し

姉妹百合の間に挟まる男は無条件吊りだろ

 

768:仰げば名無し

こいつはノイズ吊り

 

769:仰げば名無し

ラストウルフが狐を吊らせようとしすぎて

最終的に狼くささを爆発させて敗北するっていうのは

わりとありがちなミスだからなぁ

 

770:仰げば名無し

まあ狐みたいな例は特殊だが

メスガキ配信を誰かがバラすという展開は普通にありえたことだよ

遅かれ早かれだったといえる

 

771:仰げば名無し

じゃあ、もうお姉ちゃんは狼さんに食べられるしかないな

 

772:仰げば名無し

刺し違えても食べきるしかないだろうな

 

773:仰げば名無し

おまえら不時着させようという気はないんか?

人の心っちゅーもんはないんか?

 

774:仰げば名無し

そろそろ番組が終わるな……

クラシックな優雅な時間とともに

終焉へと至る

芸術点高い

 

775:仰げば名無し

ほんと、パッフェルベルのカノンに癒されるわぁ

あ、メスガキちゃんがバイオリン?で併奏してる

すごーい(現実逃避)

 

776:仰げば名無し

さて、ヒモ姉の投票はいかに。

 

777:小学生妹のヒモ姉

え? え??

ヤダナニコレ怖い……




感想と評価。
村人の皆様の清き一票をお待ちしております。
あ、狼陣営の可能性もあるか……。


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シャイニング。明るいお姉ちゃん計画。

778:小学生妹のヒモ姉

なにか急にスレが伸びてると思ったら

ワケのわからない書きこみばかりで

いったいなんなんです!?

荒らしかなにかですか

 

779:仰げば名無し

荒らしというかなんというか

 

780:仰げば名無し

その、なんというか、なあ(目そらし)

 

781:仰げば名無し

ヒモ姉はよくがんばったよここまで

 

782:仰げば名無し

おめでとう♡

 

783:仰げば名無し

妹ちゃんと末永くお幸せにな

 

784:仰げば名無し

よかったじゃないか百万円の件はほぼ解決したみたいだぞ

妹ちゃんはブイチューバーやっててスパチャで稼いでたみたいだ

 

785:小学生妹のヒモ姉

妹ちゃんがブイチューバー?

メスガキ……?

よくわからないんですけどメスガキってなんですか?

 

786:仰げば名無し

メスガキとは宇宙の心である

 

787:仰げば名無し

普通にメスのガキのことじゃね?

 

788:仰げば名無し

メスガキとは……、

生意気な言動で煽って場合によってはガチで怒られたりして

『わからせられる』というところまで様式美なキャラクター造形かなぁ

ある種のツンデレ的な側面もあり、

心の底ではお兄ちゃんを慕っているが、うまくその心を表せられない

その「幼さ」がたまらないという見方がある

そして、マゾヒズムという面も見過ごせない

メスガキはお兄ちゃんを煽ったりするわけだが

そのときメスガキに責められて敗北者になるのがうれしいんだ

ウィン――ルーザーの関係こそが至高といえる

一部のお兄ちゃんたちにクリティカルヒットする特殊性癖さ

もちろん、オレもメスガキちゃん大好き勢のひとりだよ(隙自語)

 

789:FOX2

いや、マジでオレが荒らしだっただけで

オレが悪いんだ

ヒモ姉、ごめん

 

790:仰げば名無し

狐は謝れてえらい♡

 

791:仰げば名無し

>>790

いや茶化してあげるなよ

ガチでヒモ姉困惑案件だろ

誰かうまく説明してさしあげろ

 

792:仰げば名無し

それこそうまい説明が思いつかないわ

 

793:小学生妹のヒモ姉

FOX2さん?

あなた誰なんですか

だいたいFOX「2」ってことは

FOX1さんもいるってことですか???

 

794:仰げば名無し

狐は二匹いた?

 

795:仰げば名無し

いやまさかそんな展開があるのか

 

796:仰げば名無し

ざわ……ざわ……

 

797:FOX2

いや戦闘機とかで、ミサイルちゅどーんするときに

コールサインでフォックス・ツーって言うだろ

このスレに対してミサイルぶっぱなしてやんよの精神でつけただけで

べつに深い意味はないんだ

 

798:仰げば名無し

うん、知ってた

 

799:仰げば名無し

ワンチャン、狐は二匹いるって誤認させるためだって思ってたよ

 

800:仰げば名無し

まぎらわしい名前書くなよな

ヒモ姉さんが困惑してらっしゃるじゃないか

 

801:FOX2

本当にすまなかった

『タンスにゴン』とか名乗ればよかったかもな

 

802:仰げば名無し

ごんぎつねかよw

 

803:仰げば名無し

それはそれでわかりにくいだろw

 

804:小学生妹のヒモ姉

ワケが分かりません……

誰か説明してください……

 

805:仰げば名無し

そういわれてもなぁ

説明責任って点では、妹ちゃんが適してるだろうが

当の本人はさっき配信やめちゃったからなぁ

このスレも当然見ているんだろうが、

オレたちもどこまで説明していいもんか

頭抱えてるんよ

説明しすぎてもよくないだろうしな

 

806:仰げば名無し

そういやヒモ姉は妹ちゃんの配信は確認したんか?

アーカイブは残ってるから、声は確認できるだろ

 

807:小学生妹のヒモ姉

確認はしました

なんか小悪魔ちゃんなキャラクターから

妹ちゃんの天使みたいな声が流れてて

違和感がすごいんですが

まちがいなく、妹ちゃんの声です

 

808:カフェ・オレ氏

オレ氏にも原因の一端があるから説明させてもらう

スレを丹念に拾えばいずれわかることだろうからな

まずオレはヒモ姉スレッドの住人だったわけだが

ヒモ姉がメスガキもとい妹ちゃんとの生活を

生配信で流しちゃっただろ

それで、オレ氏は妹ちゃんのリスナーでもあったから

名前と声がいっしょだって気づいたんだ

告白するが狐が言ってるように、ちょっと興奮しちまったよ

オレだけが盤面を知ってておもしれーって思ったんだ

ただ、まあ……相手はメスガキもとい小学生だからな

ヒモ姉に伝えるよか、妹ちゃんに伝えたほうがよいと判断した

それで、妹ちゃんにこのスレの存在がバレたんだ

オレがバラしたということだ

ヒモ姉、本当にすまんかった

 

809:仰げば名無し

カフェ・オレ氏はついに赤ちゃんの擬態を脱ぎ捨てて語る

 

810:仰げば名無し

ばぶばぶ言ってた頃のおまえが懐かしいよw

 

811:仰げば名無し

妹ちゃんに『スレ監視してろ役目でしょっ』て言われてたおまえが懐かしいw

 

812:カフェ・オレ氏

うるせーw

 

813:小学生妹の姉

じゃあ、妹ちゃんはだいぶん前から

このスレのことを知っていたということですか?

 

814:カフェ・オレ氏

そういうことだな

 

815:小学生妹の姉

じゃあ妹ちゃんは

私が妹ちゃんから突然百万円渡されて

頭パニックになっておろおろしているのを

楽しんでいたってことですか?

 

816:カフェ・オレ氏

いやそういうわけじゃないと思うぞ

オレ氏はメスガキじゃないから

メスガキの考えは完璧には読めんが

もともと配信でヒモ姉が大学やめそうだから百万渡したけど

どうしたらいいか聞かれたのが発端だからな

 

817:仰げば名無し

小学生妹に百万円を渡されて困惑するのは当然

困惑した姉を見て、妹も焦っていたということか

 

818:仰げば名無し

ヒモ姉は普通に考えればいいと思うぜ

小学生妹が百万円を渡すなんて善意以外の何物でもないだろ

ヒモ姉が困惑しているのを見て愉悦ってたかどうかは知らんが

そもそもの話、ヒモ姉のことが好きじゃなければ百万渡したりはしない

 

819:FOX2

オレもそう思うよ……

妹のことが嫌いな兄がいないように

姉のことが嫌いな妹もいないだろう

今はそう信じたい

 

820:仰げば名無し

狐は妹に500円玉渡されて消えろって言われただけに発言の重みが違うなw

 

821:FOX2

わ………ワぁ……

 

822:仰げば名無し

泣いちゃったw

 

823:仰げば名無し

かわいそうはかわいいという真理に到達

性別は関係なかったんだな

初めて知ったよw

 

824:仰げば名無し

妹ちゃんが百万円を渡したことを黙ってたのはなんでなん?

オレは純粋なスレ民勢だからよくわからんのだが

狐が言ってたみたいに、お姉ちゃんガチ恋勢だったとかにわかに信じがたいんだが

 

825:仰げば名無し

小学生が金稼げたら姉が自立心発揮してますます大学やめちゃうかもだろ?

そしたら、ヒモ姉といっしょに過ごせる時間が減っちゃうかもだろ?

だから百万円のことはグレーに置いておきたかったんだろ?

すごく、姉妹百合てぇてぇだろ?

 

826:仰げば名無し

まあ確かにてぇてぇな……

でも、片親の隠し財産だったとしても、

ヒモ姉は心理的負担を感じちゃってたわけだから

あまり意味がないような気がするな

 

827:小学生妹のヒモ姉

FOX2さんが711で書いてますが

妹ちゃんが私と結婚したいとかいうのは本当なんですか?

配信で妹ちゃんが言ってたってことですよね?

 

828:仰げば名無し

いやさすがにそれはないだろ

さっきの妹ちゃんの配信を見てたが、

狐に煽られてガチ切れしてる感じしかしなかったなぁ

 

829:仰げば名無し

ここにリスナーが突撃してる状況や

さっきの配信がアーカイブとして残ってない状況からすると

お姉ちゃんを食べたい狼の可能性あるでw

 

830:仰げば名無し

さっきワラワラいたやつらも全員身を潜めてるからな

どうやらヒモ姉の貞操も風前の灯の模様

 

831:小学生妹のヒモ姉

怖いこと言わないでください!

 

832:FOX2

オレ視点ではそういうふうに見えたってだけで

本当にそうだとは限らない

妹ちゃんの配信を見たのは今日が初めてだったからな

所詮、オレはニワカなんだよ

で、結婚したいんじゃねーのとか言ったのは

だいぶんオレ自身の属性が関わってると思ってる

 

833:仰げば名無し

狐は妹ラブ勢だもんなw

 

834:仰げば名無し

妹を彼氏にNTRて脳みそぐちゃぐちゃ丸になった結果だからなw

 

835:FOX2

わ……ワぁ……

 

836:仰げば名無し

また泣くw

 

837:仰げば名無し

ぶしつけなこと聞くが

ヒモ姉は妹ちゃんがガチで結婚したいとか言ってきたらどうするんだ?

 

838:仰げば名無し

それ聞いちゃうかおまえ……

 

839:仰げば名無し

スレ民も一枚岩ではないからな

当然、メスガキ配信を見ていない勢も多い

コメントに配慮を求めるのも酷ではある

 

840:小学生妹のヒモ姉

私は……わかりません

妹ちゃんのことはかわいいし

本当の家族だと思っています

でも家族以上の気持ちがあるかと言われると

正直わからないんです

妹ちゃんが見ていたらお姉ちゃんに教えてほしい

お姉ちゃんもちゃんと考えるから……

 

841:仰げば名無し

姉妹百合はやっぱてぇてぇよ……

 

842:仰げば名無し

尊すぎて胸が苦しい

せつない

 

843:仰げば名無し

でも妹ちゃんがヤンデレだったら

この姉の発言聞いて、監禁√一直線っていうことも考えられるなw

 

844:仰げば名無し

その後、ヒモ姉の姿を見た者はいなかった……

 

845:小学生妹のヒモ姉

や、ヤダー!

やめてください変なこと言うの

妹ちゃんは天使なんですよ

 

846:仰げば名無し

そう思ってるなら今すぐ扉を開けて

妹ちゃんに聞きに行けばいいじゃないか

 

847:仰げば名無し

オレとしては小学生だからって過剰に保護する必要はない派だな

みんなヒモ姉がクソ雑魚なめくじってことを忘れてないか?

むしろ、小学生妹よりヒモ姉のほうが赤ちゃんなんだぞ

 

848:仰げば名無し

そういやそうだったなw

既にヒモ姉は妹ちゃんに生活全般をお世話されているヒモ状態だったわw

 

849:小学生妹のヒモ姉

みぎゃああああああああ!!!!

 

850:仰げば名無し

どうした突然?

 

851:仰げば名無し

悲報。ヒモ姉……いや何も言うまい

 

852:仰げば名無し

お姉ちゃん貞操破壊RTA始まっちゃう?

この際、棒人間でもかまわんから配信しよ?

 

853:仰げば名無し

おまえら落ち落ち落ちおつけけけけ

 

854:小学生妹のヒモ姉

いま部屋のベルが鳴ってるんですが

妹ちゃんが「お姉ちゃん開けてー」って言ってきてるんですが

ジャック・ニコルソンがドアから顔を出すシーン状態なんですが!?

 

855:仰げば名無し

全米が恐怖した

 

856:仰げば名無し

もう村にはお姉ちゃんと狂人と狼しか残ってないんよ

PPが成立しちゃってるんよ

 

857:仰げば名無し

残念、ヒモ姉の冒険は終わってしまった

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 わたしはスマホ片手にスレを見ながら、お姉ちゃんの部屋のベルを鳴らしている。

 お姉ちゃんは本当にかわいいな。小学生妹に襲われるって、そんなん無理に決まってるじゃん。

 そもそも、いくらお姉ちゃんが生活全般にだらしなくても、わたしは十歳児だぞ。

 体格も体力も根本からして違う。

 お姉ちゃんがわたしを襲うということは物理的にありえても、その逆は無理なんだよ。

 要するに『本気で抵抗すればできるのにしないんだぁ♡』状態じゃないと、わたしがお姉ちゃんを襲うということは成功しない。まあ、ロープで縛ったりすれば別だろうがな。今の警戒心バリバリのお姉ちゃんだと無理だろう。

 

――それにしても。

 

 やっぱ、ダメなのか。

 スレでのお姉ちゃんの発言を見てみると、お姉ちゃんがわたしとの結婚を考えてくれる確率はやはり低い。最終的にそういう流れになるのはわかっていたから、いままで潜んでいたが、お姉ちゃんの口から直接聞けて確信した。

 

 残念だが、ここは勇気ある撤退をするほかない。

 お姉ちゃんとの結婚をあきらめるって意味じゃないぞ。

 最初の計画通り、モラトリアムの時間を引き伸ばしてなにもかも灰の中に置いておきながら、わたしの成長を待つほかないってことだ。

 

「お姉ちゃん。開けてよぉ」

 

 ふふふ。お姉ちゃんって怖がりだからウサギみたいに震えてるのかな。

 どうにも嗜虐欲が刺激されてよくない。わたしが狼だからねしかたないね。

 

 いくらお姉ちゃんが恐怖に震えていても、わたしとお姉ちゃんしかお家のなかにいないんだから、いずれは部屋の外にでなくちゃならない。誰も助けに来てはくれないし、狩人が赤ずきんちゃんを颯爽と助けにくるなんてご都合主義は発生するはずもない。

 

 まあ、合鍵持ってるから無理やり開けることもできるが、お姉ちゃんが開けるという選択をするまで待つことにする。わたしは待つことには慣れているから。

 

 やがてドアはおそるおそる、音も無くゆっくりと開かれた。

 お姉ちゃんの双眸には過剰なまでのわたしに対する恐れが見える。

 

「な、なにかなぁ。妹ちゃん……」

 

 スマホを片手に、お姉ちゃんはわたしを見ていた。

 そう――、スマホを片手に。

 スマホのカメラはわたしに向いている。

 いつもみたいにのっぺらゲンガーを使った配信をしているのだろうか。

 それで、みんなから見守ってもらってるなら、多少は安全と考えたのだろうか。

 

――ふーん、かわいいね♡

 

 お姉ちゃんってどうしてそんなにかわいいんだろう。

 本当にメチャクチャにしたくなっちゃう。

 仔羊が必死に身を守ろうとして全然守れてない様が、逆に狼の嗜虐趣味を刺激しちゃうって、お姉ちゃんは知らないのかなぁ。

 

「ねえ、お姉ちゃん。いつもみたいに動画とってるの?」

 

「え、ええ、うん。そうだよ」

 

「どうして?」

 

「え?」

 

「どうして動画とってるの? わたしに襲われちゃうとか考えた?」

 

「それは……、妹ちゃんが何を考えているか、お姉ちゃんはよくわからないの」

 

「じゃあ本心を言うから、配信止めてよ」

 

「襲ったりしない?」

 

 あ、お姉ちゃんがかわいすぎてヤバい。

 脳みそから出ちゃいけない汁が出ちゃってる感じがする。

 

「しないよ♡」

 

 わたしのグリーンアイがモノアイみたいに光ってないか心配だ。

 瞑想するときのように、落ち着くように努める。

 呼吸もきわめて静かに深く――。森のなかで深呼吸するみたいにゆっくりと――。

 

 お姉ちゃんはまるで銃口を下ろすみたいに、ゆっくりとスマホを下ろした。

 あは。すぐに信じちゃうんだ♡

 どうしよう。このまま襲っちゃおうかなー。

 脳みそとろとろになるまで、グチュグチュのドロドロにしちゃって。

 わたしなしじゃいられない身体にしちゃおうかな。

 

――なんて考えたりもしたけれど。

 

 さきほども言ったとおり、お姉ちゃんはわたしに襲われることを望んではいない。

 考えてくれるとは言ってたが……、()()()()()()()()()()()の体裁だ。

 そんな建前なんか欲しくない。

 

 だから。

 

 だから――、

 

 だから、わたしは本心を、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――述べる/述べない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん、わたしはお姉ちゃんのこと大好きだよ」

 

「異空ちゃん……」

 

「お姉ちゃんが最後の家族だからってだけじゃない。恋人みたいになりたいって思ってる。いっしょにどこかにデートしたりして、他愛のない会話をして、ずっとずっといっしょにいたいって思ってる。お姉ちゃんと結婚したい。お姉ちゃんと添い遂げたい。こんなの変だよね。でもそれがわたしなんだ」

 

「異空ちゃん。私は……」

 

 お姉ちゃんは何を言おうとしたんだろう。

 おそらくだが、ありがとうとか、でも自分はとか、まだそういうのはとか、私にはとか、そういう感じなんじゃないだろうか。いずれにしろ、黒か白かは数瞬後には確定する。

 

 けれど、そうはならなかった。

 

 すべてはグレー。すべては灰色。真偽不明の状態に据え置かれた。

 お姉ちゃんの言葉は虚空へと消えてしまった。

 

 わたしが遮ったからだ。

 わたしが()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「イソラはそういうキャラクターなんだよ」

 

 と、わたしはなんでもないふうに言った。

 

「え?」

 

「わたしが配信してるのはお姉ちゃんも知ってるよね」

 

「う、うん。さっき知ったばかりだけど」

 

「ブイチューバーってさ、演者って呼ばれたりもするんだよ。わたしも当然演じてるし、キャラクターと自分は乖離してる部分もあるんだぁ♡」

 

「そう、なのね?」

 

 お姉ちゃんの顔にはまたハテナマークがたくさん張りついているようだった。

 

 まあ、当然だろう。いきなり配信について語りだすんだから、素人さんには何がなんだかわからなくて当然だ。お姉ちゃんは芸術家志向だが、演技とかドラマとかの動的なものではなくて、どちらかといえば絵画とか美術品とか、そういった静的なベクトルだからな。

 

「お姉ちゃんはわたしがメスガキじゃないのは知ってるよね?」

 

「メスガキというのがよくわからないのだけど……」

 

「生意気なガキって感じかな? ちょっとエッチな感じの」

 

「異空ちゃんはぜんぜんそんなことないよ」

 

「へへ、ありがと。でまあ――そういうわけで、素のわたしとは違う部分でのメスガキを演じるのは自分が拡張されるようで楽しくもあったんだよね」

 

「ふぅん?」

 

「それで、お姉ちゃんの大学やめようかな発言があって、虚構(イソラ)現実(異空)が混ざっちゃったの」

 

――虚構と現実。

 

――嘘と真実。

 

――イソラと異空。

 

 それらは容易に混ざるものだ。

 だって、わたしの人生なんてほとんど演技で構築されているのだから。

 経験に裏打ちされている実感ほど強力なものはない。

 わたし自身でさえもそうなら、他者であるお姉ちゃんからはなおさらそうだろう。

 

「わたしがお姉ちゃんのことを大好きなのは本当だよ。それで大学をやめてほしくないのも本当。ただひとつ拡張しなくちゃならなかったのは、お姉ちゃんという存在かな」

 

「私が嘘?」

 

「だって、メスガキから見たお姉ちゃんだよ。リスナーにとってリアリティを与えるのって難しくない?」

 

「うーん? よくわからないんだけど」

 

「メスガキって、お兄ちゃんの嗜虐欲を煽るような存在だから、いわば生意気な妹みたいな存在なんだよ。だったら、そんなキャラがお姉ちゃんを大好きっていうのは設定からして結構無理があるよね」

 

「言われてみれば……確かにそうかもしれない……かな?」

 

 スレの内容を思い出しながらなのか、少しずつお姉ちゃんのなかにもわたしが言いたいことが染みてきたみたいだ。

 

「わたしはイソラというキャラクターを守るために過剰な情報を――キャラを与えるしかなかったの。リスナーのみんなに受け入れられるために」

 

――お姉ちゃんのことが大好きで大好きでたまらない妹という設定を。

 

「そう……なのね? お姉ちゃんと結婚したいとか考えてるわけじゃないのね?」

 

 いやふつうに結婚したいが?

 

 と思ったが、もちろんニッコリ笑顔。

 

 ここはあえて何も言わない。

 

「お姉ちゃんのことは大好きだよ。その想いの拡張――延長線上の話かなぁ」

 

 そう、すべてはグラデーション。

 すべては灰色の中なんだ。

 それでいい。それがいい。

 

「だから、お姉ちゃんにはイソラのために一仕事してもらいたいんだよ。これまでの配信でキャラクターの地固めはできてるからさ」

 

「え、どういうこと?」

 

「お姉ちゃんに()()()()()()()()()()()()()()な♡」




姉の3Dモデルをシコシコ作ってたんはこれが理由だったり
ついでにFOX2のくだりは、そんな読まれ方するんやなって反省しました
とりあえずお手当してみたんですが、うまくいったかは謎です


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灰色のセカイ

 わたしの計画は――、つまり、お姉ちゃんブイチューバー化計画は、お姉ちゃんとわたしの私生活が漏れていることを知った時には既に始まっていた。

 

 ()()()()()()という攻勢防壁によって、リスナーを一時的に掌握することはできても、人という集合体を完璧に掌握することは土台無理な話。

 

――たったひとり。

 

 お姉ちゃんという最愛の人のこころすら動かせないのだから、人のこころを変えるのは容易じゃないってことは、骨の髄まで染みている。

 

――たったひとり。

 

 お姉ちゃんに膨大な時間と思考リソースを費やしても、お姉ちゃんはある日突然大学をやめようとするし、ある日突然退学届をもらってくる。いちばん身近にいる人でさえもこれだ。いくらわたしがお姉ちゃんに離れないで欲しいといっても、人のこころは見えないのだから。いつか不意打ちのようにいなくなるかもしれない。

 

 そもそも、配信もスレッドも、いろんな考えを持つ人たちがサラダボウルがごとく詰めこまれているのだから、いつかは狐みたいなやつがでてくることは予想された。むしろ、今回の狐さんはまだ優しい方だろう。

 

 じゃあどうするか――。

 

 人の善意を信じるふりをして漫然と処刑されるのを待つのか?

 そんなのはただの怠惰な豚だ。それよりわたしは飢えた狼でいたいと考えた。

 

 リスナーたち――お兄ちゃんたちのことが嫌いってわけじゃない。いつ裏切られるかと思って裏でこっそり牙を研いでいるかと言われればそういうのとはちょっと違う。

 

 お姉ちゃんにもさっき伝えたが、ブイチューバーは演者だ。

 キャラクターという仮面(ペルソナ)をかぶってお兄ちゃんたちと相対している。

 それはお兄ちゃんたちもそうだろう。スレ民もそう。お姉ちゃんもそう。みんなそうだ。

 

 みんな灰色の世界にいる。

 みんな顔のない世界にいる。

 わたしなんか特にそうだろう。

 わたしというキャラを特徴づける銀髪も、たぶん本当は灰色と評するのが正しい。

 そんなセカイが存外に心地よくて、わたしはいまここにいる。

 

――何が言いたいかって言うとだ。

 

 お姉ちゃんをブイとして擁立しコラボしてしまえば、そういうキャラクターとして認知される。つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()、わたし=狼を証明できないってこと。

 

 いつか狐さんみたいな人がひょっこり現れて、お姉ちゃんに対してわたしがどす黒い狂愛を抱いていると主張しても、それが虚構か真実か明らかになることはない。そういうキャラなんだよって反論できるから。

 

 もちろん、これまでの経緯をつぶさに見てきたお兄ちゃんたちにとっては、わたしのシンジツの顔がどこを向いているかくらいはわかっているだろうが、べつにそれはどうでもいい。お兄ちゃんたちはメスガキに興味があるだけのただの変態雑魚お兄さんだからね♡

 

 まあ理由の九十九割くらいはお姉ちゃんと合法イチャイチャしたかったというのもある。

 イソラならいくらでもセクハラし放題だからな。

 そういうキャラなんだからしかたないよね♡

 

「ねえ、お姉ちゃんどうかな。わたしといっしょに出演してくれる?」

 

「え、ええ……、でもわたし、たくさんの人の前で喋ったりするのは苦手で……」

 

「でも、お姉ちゃんもスレ建てしてみんなの前でヒモ姉として喋ってたわけでしょ?」

 

「それは……そうだけど、異空ちゃんのことが心配でがんばったの……」

 

 なんだこのかわいい生物。いますぐ結婚したい。

 

「わたしのために無理してくれたんだ。お姉ちゃん優しい。ありがと♡」

 

「ううん。私がコミュ障だから、匿名掲示板くらいしか方法が思いつかなくて」

 

「その結果、わたしとお姉ちゃんの私生活が明らかになっちゃった、と――」

 

「うっ……ごめんなさい……」

 

「いいよ♡ わたしのことを思ってのことだったんだよね♡」

 

「そうなんだけど……わたしがいろいろとダメダメなせいで異空ちゃんに迷惑かけちゃった」

 

 お姉ちゃんは罪悪感にさいなまれている。

 少しだけわたしも罪悪感を覚える。そう思うように誘導したのはわたしだからだ。

 でも、それに倍する喜びも感じていた。

 罪という絆でつながり、罪という紐でお姉ちゃんを縛る喜びだ。

 

「ねえ、お姉ちゃん。今のままだとイソラはリスナーさんたちの中で浮いちゃってるんだよ」

 

 わたしは困り顔で告げる。

 

「さっき言ったメスガキ? とかいう属性のせいで?」

 

「うん♡ だって、メスガキが好きなのはお兄ちゃんじゃないといけないからね。メスガキイソラはアイドルみたいなものなんだ。アイドルって恋愛禁止なところあるでしょ」

 

「うん。あるね」

 

 お姉ちゃんは胸のあたりで腕を組んで頷いてくれた。

 おっぱいを強調する仕草。あふれ出るお肉♡

 これは天然小悪魔成分だ!

 

「お姉ちゃんが大学やめちゃうのヤダって言うのは、メスガキ的には失点だったんだよ。わたしの視線が他の人に向いているっていうのはよくないよね」

 

「それは理解できるけど……、お姉ちゃんが好きって設定だけじゃダメなの? その……結婚したいとかじゃなくて。普通に家族として」

 

「うーん。足りない感じがしたんだよね。メスガキというキャラとお姉ちゃんが家族として好きっていうのは、ちょっとミスマッチなんだ。まあ、同性だからお兄ちゃんたちの嫉妬みたいなものは回避できると思うけど、そもそもメスガキが家族想いっていうのが、少し矛盾してるんだよね」

 

「そういうものなのね」

 

 お姉ちゃんはわたしの言葉をそのまま飲みこんでくれるようだ。

 あまりメスガキを知らないからだろう。

 

「うん、だから、違和感を違和感でなくすくらいの強烈なキャラづけが必要なんだよ。水と油を混ぜるような強力なやつが必要なんだ♡ わたしいっぱいいっぱい考えたよ。それで思いついたのがわたしがお姉ちゃんを好きで♡ 好きで♡ 好きすぎて♡ 愛してやまないヤンデレ属性持ちって設定だったの」

 

「なるほど……」

 

 お姉ちゃんは必死に理解しようとしてくれている。

 正直なところ、お姉ちゃんは陰キャではあるがオタク趣味というわけではない。

 いわゆる門外漢というやつで、わたしの言ってることは半分も伝わってないだろう。

 でも、お姉ちゃんはわたしのことを信頼してくれている。

 それくらいはうぬぼれてもいいよな。

 

「お姉ちゃん、わたし。イソラを棄てたくないよ」

 

 わたしはお姉ちゃんにすがるような視線を投げる。

 少しだけ涙を目に浮かべて。

 原因を作ったお姉ちゃんを責めるわけでもなく、ただただ悲しいと祈る小娘のように。

 

――お姉ちゃんに自責の念が生まれるように。

 

「がんばってここまでイソラというキャラを育ててきたの。このごろはみんなにも認められて、少しはお小遣いももらえるようになったんだよ。生意気なメスガキがかわいいって言ってくれるようになったんだよ」

 

「で、でも……お姉ちゃんには異空ちゃんを家族以上には見れないよ。リスナーの皆さんにもつたない演技を見せることになるんじゃないかな……たぶん」

 

「いいんだよそれで」わたしはニッコリ笑って答える。「お姉ちゃんは妹に迫られてタジタジとなっている。ノーマルなお姉さんでいいと思う」

 

「え? いいの?」

 

「うん。あたりまえだよ。今回問題になっているのはイソラというキャラクターのほうだからね。お姉ちゃんのことが好きすぎる妹だとみんなに知ってもらうのが目的なんだから、お姉ちゃんは特になにか演技する必要はないよ。いつもの素のままのお姉ちゃんで十分。ただ隣にいて、いつもみたいにおしゃべりしてくれるだけでいいから」

 

「隣にいて喋るだけなら……」

 

「やった♡ お姉ちゃん、ありがとー♡」

 

 お姉ちゃんが了承の意を示したのと同時に喰い気味で確定させた。

 それと同時にお姉ちゃんに抱き着くわたし。

 おっぱいに不時着……、わたし、おっぱいに不時着しました!

 事故って宇宙をさまよっていた宇宙飛行士が無事地球に帰還したみたいな気分だ。

 ヨシ! これで明るいお姉ちゃん計画は完結する!

 

 

 

 

 

 

 次の日の夜。

 

 

『あれからどうなったんだろうな』

『そりゃもうぐちょぐちょのどろどろよ』

『妹ちゃんがツヤツヤして現れたら確定w』

『悲報。ヒモ姉逮捕される』

『もしそうだったとしても、オレはヒモ姉擁護するぜw』

『妹にこんだけ想われてお姉ちゃんも大変だなー(棒)』

『妹にドア叩かれて、もうだめぽ状態なヒモ姉がかわいそうかわいかった』

『オレ氏もそう思います』

『おまえはスレ監視してろw』

『もうスレ監視とか意味ねえだろw』

 

「なぁにお兄ちゃんたち。そんなにメスガキとお姉ちゃんの行方が気になるのぉ♡」

 

『イソラキター!!』

『声の調子とかはいつもどおりだな』

『イソラちゃんが元気そうでなにより』

『相対的に姉は無惨された可能性も』

『お姉さんは安心したわ。とりあえず大丈夫そうね』

 

「うん、わたしは大丈夫だよ♡ あれからどうなったのかみんな気になるよね?」

 

『そりゃそうよ』

『気にならないわけがない』

『ぶっちゃけメスガキが配信やめる可能性もあったからな』

『もうおまえたち姉妹のことが気になって眠れねえよw』

『お姉ちゃんのこと食べちゃった? ¥10000』

『おまえ言いにくいことをズケズケと……w』

『これは赤スパ乙とはいいがたいな』

『これはひどいwww』

 

「あ、エル・オーお兄ちゃんスパチャありがとう♡ 残念ながらお姉ちゃんのことは食べられなかったよ……」

 

 わたしは視線を伏せて悲しげに言う。

 

『そりゃ残念……なのか?』

『残念ながら当たり前』

『本当にすまない……¥500』

『ふーむ? なんか匂うぜこりゃぁ』

『メスガキがあの程度で沈むタマか?』

 

「あ、狐のお兄ちゃんスパチャありがとー♡ ぜんぜん気にしなくていいよ」

 

『狐いたんかワレェ』

『ゴン、おまえだったのか』

『その五百円玉はもしかして妹君からもらったものなのではw』

『狐、おまえおもしろすぎるだろw』

『かわいそうかわいい狐きゅん』

 

「みんな狐さんのことかまいすぎ。もっとわたしのことちゃんと見てよ♡ えっとね。お姉ちゃんのことは食べられなかったけど、ちゃんと告白自体はしたよ。あ、初見さんのために一応説明しておくけど、わたしはお姉ちゃんのことが大好きで、いつか結婚したいと思っているお姉ちゃんガチ恋勢ヤンデレメスガキ小学生だからね。みんな覚えておいてね♡」

 

『情報大渋滞メスガキ』

『告白自体はしたんだ』

『つまり失恋したってこと?』

『失恋して小学生はひとつ大人になったってことか?』

『考えうるなかで最善ではあるが寂しいものだな。¥200』

 

「あ、MSGK泣かし隊の兄貴。おつかれさまー。みんな勘違いしてるけど、告白は失敗に終わったわけじゃないよ♡ 頭わるわるなお兄ちゃんたちのために説明してあげるね♡」

 

『ほう……』

『え、じゃあお姉ちゃんはどうなったの?』

『わかんねえな。なにか違和感が……』

『告白は成功したのか失敗したのか、どっちなんだい』

 

「結論から言うと、お姉ちゃんはわたしの告白を受け止めてはくれたけど、受け入れてはくれていないって状態かな。まあ当たり前と言えば当たり前なんだけどね」

 

『そりゃそうなる』

『だいたいはそう』

『ロリコンでもない限りはな』

『メスガキちゃんと姉妹百合してぇ』

『だったらなんでこんなにうれしそうなんだ』

 

「わたしの今の時点での最善は、お姉ちゃんに拒否されないってことだからね」

 

『拒否はされないか』

『小学生を拒否できるかって言われるとなあ』

『優しく諭すだろうからな』

『まあ、ヒモ姉は良識人ではあるわな。生活全般はクソ雑魚なめくじだが』

『考えてはくれたってことか。¥100』

 

「うんまあそういうこと。お姉ちゃんは前向きにわたしとの関係を考えてくれた。それだけで十分なんだよ。その証拠にね――、今日はお姉ちゃんをゲストとして呼ぼうと思ってます♡」

 

『ざわ……ざわ……』

『え、ヒモ姉くるんか?』

『マジで姉妹同時出演? 姉妹百合てぇてぇ?』

『なんだ。この盤面は……いったい何を狙ってる?』

『盤面整理兄貴がさっきからザワザワしてるな』

 

「さぁて、お姉ちゃんの登場でーす♡ はいみんなパチパチパチ♡」

 

『8888888』

『あれ、このキャラってあのとき創ってた天使ちゃん?』

『ヒモ姉がブイとして降臨するのか』

『天使降臨だと……馬鹿な』

『いったい何が始まるっていうんです?』

 

 そんなの決まっている。

 史上最大のお姉ちゃんラブラブ配信だよ!




今日はガチで寝過ごしたんで、ギリギリに提出
たぶん、ちょっと荒いかもです。すまない……


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狂人だらけの仲良し村

 お姉ちゃんの御姿は天使そのものだ。

 柔らかな翼でわたしを庇護してくれる。

 わたしの守護天使。

 わたしのお姉ちゃん。

 神様のことは信じられないわたしも、お姉ちゃんという存在は信じられる。

 

 メスガキは――、画面の中のロリサキュバスなわたしは天使なお姉ちゃんに包みこまれていた。

 そのご尊顔が重ならないように、メスガキの少し上方に配置。ちょうど後ろから抱きしめられているような形にする。

 

 魂はまだ入れていない。つまり、お姉ちゃんの動きに合わせてキャラが動く設定にはしておらず、ソシャゲのlive2Dのような、ふわふわした動きをしているのみだ。わたしに被ることで天使なお姉ちゃんの全身が見えなくなるのは少し残念だが、わたしは()()()()()を優先した。

 

 そう。リアリティ。

 リアルなイメージとでもいうだろうか。

 あるいは虚構の現実と言ったほうがより正確かもしれない。

 

――そして、わたしは振り返る。

 

 ぽにょん……。

 ほっぺたが柔らかな山脈を擦りきるように低空飛行する。

 ああ――――。

 こんなにもすばらしいことがあるだろうか。

 今後はなかなかにそんな機会には恵まれないかと思うが、わたしはお姉ちゃんと()()()()()既に配信していたのである。

 

 端的に言えば、お姉ちゃんに座っていた。

 ムチムチなふとももに小さく収まるようにして座っていた。

 わたしは小柄だから、お姉ちゃんのお膝のうえにちょこんと収まることができる。

 加えて、腕シートベルトも完備。ムチムチやわらかな太ももは不安定なんで、お姉ちゃんの両腕はわたしのおなかあたりにまわっている。えへ♡ わたし抱きしめられてる♡

 

 ローテーブルに配置したノートパソコンゆえに、カメラの広角度的な限界で、そうしなければならなかったとお姉ちゃんに伝えてあるが、もちろん大嘘である。

 

 お姉ちゃんが持っているノートパソコンに配信ソフトを入れて、お姉ちゃんはお姉ちゃんの自室で配信することもできたからな。だけど、

 

――演者の熱量って言うんですかねぇ。(上級者目線)

 

 吐息が伝わる距離だからこそ、わたしがメスガキに賭ける想いも伝わるってなもんだ。

 

 わたしとお姉ちゃんの身長差ゆえに、わたしの後頭部は必然的にお姉ちゃんのおっぱいにフィットする。わたしが振り返り動作をしたことで、脳みそをグチャグチャにかきまわすお姉ちゃんの匂いが肺のなかに満ち溢れる。これが天国の匂いですか!?

 

 お姉ちゃんは困惑しながらもわたしと視線を合わせてくれた。

 

 さきほどのメスガキムーブはそれなりにカルチャーショックだったらしく、お姉ちゃんはメスガキというキャラに翻弄されているようだ。

 

 なにしろ、お姉ちゃん好き好きな小悪魔ちゃんって、インパクトあるだろうからね。

 事前説明を受けているとはいえ、ビビりちらかしていてもしかたない。かわいいね♡

 

 一方、わたしはというと、普段抑えているメスガキキャラを発揮できて、ゾクゾクとした快感をかんじていた。自分をさらけだす爽快感。露出狂の仄暗い喜び。

 

 顔ナシのわたしは仮面を脱いでも()()()()()()みたいなつるりんとした顔面をさらすだけに違いないが、それでも普段の良い子ちゃんよりはずいぶんと素顔に近かったらしい。

 

 わたしってやっぱメスガキだわ♡

 

「お姉ちゃん始めていい?」

「……う、うん」

 

 お姉ちゃんの了承を得て、わたしはキャラに命を吹きこんだ。

 

「あ……あの、皆さま初めまして……でいいのかな。スレではお世話になりました。イソラちゃんの姉にあたりますヒモ姉と申します」

 

『ふ、ふわ。しゃべったああああああ!』

『ヒモ姉がリアルタイムに話しかけてくるなんてことがあるとは』

『スレ民としては感慨深いものがあるな』

『なあ、さっきメスガキが振り返り動作しなかったか?』

『もしかしてイソラちゃん、お姉ちゃんといっしょのお部屋にいる?』

 

「うらやましいでしょ♡ わたしはお姉ちゃんのお膝のうえに乗りながら配信してるんだ♡ 雑魚のお兄さんたちは、自分の指でもくわえて見てろ♡」

 

『うううう、なんてもの見せつけるんだよ』

『姉妹百合てぇてぇ』

『天使と悪魔の饗宴』

『さっきからメスガキが妙にうれしそうだった理由ってこれか』

『しかしそうなると、メスガキの告白に関してもそばで見ていたことになるが。¥100』

『ヒモ姉はメスガキの配信を知っているから、そばだろうが関係なくね? ¥100』

 

「ね、ねえイソラちゃん。すごい勢いでコメントが流れていくんだけど」

 

「ん、大丈夫だよ。適当に聞き流してればいいから。雑魚お兄ちゃんたちの言うことなんて話半分で聞いてればいいんだよ。まあスパチャのコメントは目立つところに配置されるからわかりやすいけどね。多少長文でも読み取れるよ」

 

「そうなんだ。でも、スパチャにはお礼? とか言わないといけないんじゃ……」

 

「うんそうだね。じゃあ、お姉ちゃんに代わりに言ってもらおうかな」

 

「え、ええ!? お姉ちゃん自信ないよ」

 

「大丈夫だよ。わたしが見ててあげるから」

 

 お姉ちゃんは恐る恐る――、しかしゆっくりと頭をさげる。

 そのとき、……背中に背中にとても良い感触ががが♡

 

「盤面整理兄貴さんスパチャありがとうございます。その――、イソラちゃんが私のことを家族以上に好きだっていうのは、配信が始まる前に聞いてます。そのときはショックではありましたけど、私はイソラちゃんのことをちゃんと受けとめようって思ったんです」

 

『姉妹百合完成系?』

『ヒモ姉、堕ちちゃった?』

『妹の想いを否定しない姉。尊いはここにあった』

『……そうなのか。わかったよ。¥100』

『盤面整理兄貴、いぶかしげ』

 

 ふふっ。

 お姉ちゃんには演技指導が入ってるからな。

 そんな簡単にわたしの策略がバレるわけもない。

 

 

 

 ※

 

 

 

 わたしはお姉ちゃんにひとつだけアドバイスをしていた。

 

 メスガキがお姉ちゃんにガチ恋しているという設定がスムーズに受け入れられるためには、お姉ちゃん側にも多少の演技が必要になる。細かいことを言うと、お姉ちゃんは混乱しちゃうから、たったひとつだけ。

 

 それは、ごくありふれた物語。

 みんながメスガキと同じくらい心の底で求めている幻想譚。すなわち、

 

――姉妹百合てぇてぇ。

 

 である。

 

 姉は妹のことが好きだし、妹は姉のことが好き。

 この単純な構造は、メスガキが本心ではお兄ちゃんのことを好きという構造と対置される。

 吊り天秤のように完璧に調和する。

 

 まあ要するにだ。

 

 お姉ちゃんには、姉妹が仲良しだということをみんなには意識して伝えてもらうようにした。

 

 もちろん、お姉ちゃんは「演技なんてできるわけないよー」って絶望顔してたが、「お姉ちゃんとわたしは()()()仲良し姉妹だから素のままでも大丈夫だよ」って伝えたら、少し安心してた。

 

 いま、お姉ちゃんの中には姉妹百合てぇてぇという概念がインストールされているのだ。

 

 小学生妹に言い寄られてあたふたしているのも装ってるはずだが、姉妹百合を匂わせるために、わたしたちが仲良しであることを印象づけようと努力しているはずだ。

 

 結果として出力されるのは、お姉ちゃんは妹に堕とされかけているという状況。――のように見える状況だ。

 

 わたしは合法的かつ合理的にお姉ちゃんに甘えることができる。普段の三倍増しでな。

 

 完璧だ。完璧すぎる!

 

 わたしってもしかして天才だった!?

 

 

 

 ※

 

 

 

 そんな裏話があるなんて、リスナーのお兄ちゃんたちにはバレるはずもない。

 まあ、バレてもいいんだけどね。お兄ちゃんたちはわたしに甘いから察してくれるだろう。

 

 お姉ちゃんは続けて、スパチャを読みあげる。

 

「わからせマンさんスパチャありがとうございます。そばにいるのは、えっとパソコンの機材の関係とかで、よくわからないんですけど、いっしょのお部屋じゃないと無理みたいです」

 

『ふーん?』

『キャラデータ入れて配信ソフトいれるだけなんじゃ?』

『まあいろいろあるんだよ。いろいろ』

『メスガキのてのひらのうえ説』

『ヒモ姉なんだぞ。介護されないと配信なんかできるわけねえだろうがっ!? ¥100』

『そりゃねw』

『小学生に手とり足取り教えてもらわないとヒモ姉はダメダメだもんなw』

 

「えっと、盤面整理兄貴さんありがとうございます。わかっていただいて助かります。ムカチャッカ半島さんスパチャありがとうございます。はい、ダメダメな姉で申しわけありません」

 

 お姉ちゃんは配信初心者にありがちな、スパチャを全部読みあげることをしちゃってる。

 

「お姉ちゃん全部のスパチャにお礼をしてたらお話の流れが止まっちゃうよ。適当にチョイスしていいからね」

 

「適当とは具体的にどういう判断基準なんでしょうか?」

 

 画面の中もリアルでもお姉ちゃんはおろおろしている。

 

『妹に敬語w』

『あ、料理配信のときと同じだ』

『コミュ障に適当とか普通とかの曖昧な言葉は禁句』

『あーあ、これは妹ちゃんが悪いわ』

『メスガキって本当お姉ちゃんに対しては優しいな』

 

「自分が興味を惹かれた発言だけとりあげたらいいからね。あとでまとめてお礼の言葉を述べてもいいんだし、そこらへんはわたしがフォローするよ♡」

 

「ありがとうイソラちゃん」

 

「いえいえどういたしまして♡」

 

 すでに報酬はいただいている。

 ありがとうの言葉とともに抱きしめられる感触。

 身近に感じられるお姉ちゃんの吐息。

 解像度の高いお姉ちゃんのお顔。

 百万じゃ足りませんかね? 一兆円くらい課金しちゃう?

 

『なんだよ。イチャイチャ配信かよ』

『すでにズボンは脱ぎました』

『姉監禁√じゃなくてよかったなw』

『おめでとう♡』

『ありがとう♡』

『ヒモ姉さんは、メスガキの想いを受け止めると言っていたが、具体的には今後どうするつもりなんだ。美大を卒業したあとは就職するだろうし、メスガキもいずれは自立できる年齢になるわけだが。¥1000』

 

「え、えっと、カフェ・オレ氏さんスパチャありがとうございます。そうですね……、どうだったかな」

 

「お姉ちゃんは卒業したら就職するつもりなんだよね?」

 

「う、うん。そうだよ」

 

「そのままわたしが卒業するまでお姉ちゃんのことを好きでい続けたら、そのときは改めて答えを返してくれるんだよね?」

 

「うん。そうするよ」

 

「約束したもんね♡」

 

「そう……だったね?」

 

 危ない危ない。

 

 お姉ちゃんはガチでわたしが恋しているとは思ってないから、将来についてなんて考えているはずもない。いちおう、お姉ちゃんには今後のことについて聞かれたら、今みたいに答えるようお願いしてはいたんだけど、そこまで細かく覚えてはいられなかったんだろう。

 

『ふうん。モラトリアム期間は確定されたわけか』

『マジでメスガキ大勝利じゃんw』

『当初の目標を完遂する小学生。末恐ろしい』

『なあ……今の発言。変じゃないか? ¥200』

『お?』

『MSGK泣かし隊兄貴、どうした?』

 

 あ、バレちゃったくさい?

 さすがMSGK泣かし隊兄貴だ。

 兄貴って狩人みたいに狼に対する嗅覚が鋭いんだよなぁ。

 まあ、面白いんでお手並み拝見といこうか。

 

『なあ、いまヒモ姉は「どうだったかな」と言ったよな。¥100』

 

「え、えと……なにか変でしたか?」

 

『日本語として変だな。「どうしようかな」ならわかるんだよ。将来については不確定なこと。心が定まっていないのであれば「どうしよう」となるのはわかる。そうではなく「どうだったかな」という発言は、既に起きたことに対する確認の意味合いだ。ヒモ姉の内心はヒモ姉自身知ってる。だからわざわざ確認する必要はない。じゃあ誰に確認したんだってことになる。¥100』

 

「ふ、ふええ……イソラちゃん」

 

 お姉ちゃんはわたしをギュっと抱きしめてきてる。

 ぬいぐるみみたいにわたしを抱っこすることで安心を求めているのかな。

 もっといっぱい抱っこしていいよ♡

 

「続けて?」

 

 わたしは不敵に笑う。

 

『その後のメスガキのフォローを考えると、その確認はまちがいなくメスガキによってもたらされたものだろう。ヒモ姉はメスガキから何かしらの教導を受け、その教導に基づいて発言していた。つまりヒモ姉の発言は「(設定は)どうだったかな」という意味合いだったんだよ。¥100』

 

「あわわ。えむえすじーけー兄貴さんスパチャありがとうございます。あわわ」

 

 お姉ちゃんはテンパりながらも律儀に感謝の言葉を言っててかわいかった。

 

 それにしてもお見事としか言いようがない。

 たった一言の失言で正体見破られちゃったか。

 残念だけど、お姉ちゃんの発言はコントロールできないからしょうがないね。

 

『悲報。ヒモ姉、妹ちゃんの洗脳を受けている』

『ヒモ姉は狼さんによって狂人化してたってこと?』

『どっちかというと村騙りだろ。許されざるよw』

『まさか……そんなことがありうるのかよ』

『め、メスガキおまえ……恐ろしい子w』

『どういうことなんか、いまだによくわからんのやが誰かわかりやすく解説してくれ』

 

『盤面整理するぞ。まず先ほどの流れで明らかになった事実だが、ヒモ姉はメスガキによってなんらかの設定を受けている。その設定とはおそらく「妹から愛の告白を受けた姉」というものだ。配信&スレでの狐騒ぎの後、メスガキが姉に対して家族愛を越えた想いを抱いていたことはほぼ透けてしまっていた。メスガキとしては、それでは都合が悪いので、その事実を覆い隠そうとした。たぶん「キャラ設定としてメスガキは姉を狂愛してる」とか言ってな。¥1000』

 

『続ける。この盤面での問題は、オレら視点でメスガキが狼だということはわかっているつもりだが、それを証明する手段はないってことだ。メスガキは「すべて演技でした。小学生にだまされちゃったの? お兄ちゃんたちざーこ♡」とでも言っておけばいいわけだからな。ヒモ姉に対して、あんた騙されてるぜと伝えたところで、騙されていたのはオレらということになる。くっそ、メスガキがよ。オレらをなめやがって。¥1000』

 

 盤面整理乙。

 さすがにここまでスッキリと説明されると痛快だな。

 お姉ちゃんの腕に加わる力が、強くなったり弱くなったり。

 わたしは画面のほうを向いているからわからないけど、お姉ちゃんの顔はいまどんなふうになっているんだろう。少し覗いてみたい。

 

『じゃあなにか? メスガキはオレらのことも騙そうとしていたってこと? ¥100』

『なんのために? ¥200』

『狐対策はあるだろうな。¥100』

『あー、妹の想いを勝手に晒しても、騙された無様なクソ雑魚扱いされるわけかw』

『でも、オレら視点で、メスガキは確実にお姉ちゃんのこと大好き勢だぜw』

『狼のために死ねと言われた狂人状態か、オレらw』

 

「え、ええと、みなさんどういうことなんですか。い、妹ちゃんはわたしを騙そうとしている?」

 

 わたしをぬいぐるみみたいに抱きしめながらお姉ちゃんは言う。

 そして、ふっと腕の力が緩む。わたしに対して狼疑惑を抱いちゃったかな。

 でも判断が遅い♡

 お姉ちゃんの腕をつかんで離さないわたし♡

 腰をおろしているわたしをどけようとしても無駄♡

 まあがんばってちょっと力をいれればすぐに逃げられるけどね。

 ぜっーーーたいに逃がさないよ♡

 わたしは振り返りながら無邪気に口を開く。

 

「騙してなんかないよ♡ お兄ちゃんたちが騙されてるだけ♡」

 

「ほんとに?」

 

「ほんとに♡」

 

『ひいいいいいい』

『メスガキおまえどこまで考えてこの盤面を創り出した』

『MSGK泣かし隊兄貴。早く来てくれ。間に合わなくなっても知らんぞ!』

『お姉ちゃん逃げられない。もうだめだ』

『いやまあ、それでもいい感じもするからなんともいえんよな』

『オレらを利用しようとしたのは、ちょっとばかり思うところはあるが、今回は狼に華を持たせてやるよ。まあメスガキがあえて続けるよう促したのも、オレらには知っておいて欲しかったんじゃないか。¥100』

 

――そうだね。

 

 MSGK泣かし隊の兄貴が言うとおりだよ。

 お兄ちゃんたちにはわたしの本心を伝えたかったんだ。

 お姉ちゃんのことが一番なのは変わらないけど、お兄ちゃんたちのことも好きだからね。

 でも、それをここで言ってしまうのも無粋かな。

 

『だめだ。MSGK泣かし隊兄貴も立派な狂人だったわw』

『お姉ちゃんも狂人だし、兄貴たちもほぼ全員狂人で構成されている。もうだめねこの村』

『素村いないとか、この村バグってんよw』

『いったい誰を吊ればいいんだよwww』

『狼でも吊っとけwww』

『黒特攻w』

『それこそまさに狂人の所業w』

 

 狂人たちの狂乱は続く。

 みんなが楽しそうでなにより♡




第一ゲームはそろそろ終わりそう


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ヒモ姉スレッド:ゲーム終了?

918:仰げば名無し

いよいよこのスレッドの役目も終わりだな

 

919:仰げば名無し

そうだな

最後はほぼ妹ちゃんの配信実況スレになっていたわけだしなw

 

920:仰げば名無し

なんか静かですねえ……

 

921:仰げば名無し

姉妹百合てぇてぇw

実質、喰うか喰われるかの殺伐とした百合w

お姉ちゃん涙目なんだけど傍から見てる分にはほんわかしてるし

まあいっかと思っているオレがいる

 

922:仰げば名無し

これ妹ちゃん的にはよかったんかな

最終的には狼COしちゃってるのと同じでしょ

MSGK泣かし隊の兄貴にバラされたみたいなもんだけど

隠してれば、合法イチャイチャ続けられたのに

 

923:仰げば名無し

お姉ちゃん視点お手元の妹様が狼か否か判別がつかずガクブルw

いやそれ以前に、自分の演技がバレちゃったせいもあるから

どうすりゃいいのかワケがわからないよ状態だよなぁ

 

924:仰げば名無し

姉「イソラちゃん。あの……お姉ちゃんよくわからなくなったんだけど」

妹「お姉ちゃんは何も心配しなくていいよ」

姉「でも、私の演技がへたくそで設定が破綻しちゃったんでしょ?」

妹「破綻はしてないよ。お姉ちゃんに演技させてたのはバレちゃったけど」

姉「えっと……」

妹「そこはお兄ちゃんたちのほうが一枚上手だったからね。しかたないよ」

姉「メスガキ? とかいう設定的には大丈夫なのかな?」

妹「うんいいよ。そういうプレイだから。お兄ちゃんたちもわかってるから♡」

 

見た目てぇてぇのはわかるが……

これってどういうことになるんだ?

頭こんがらがってきた

盤面整理兄貴、もう少しわかりやすく説明してくれ

 

925:盤面整理兄貴

 

妹視点(狼):姉を食べたい。小学生だから現時点では姉に拒否される。だから、姉を食べたがってると知られてはいけない。しかし狐の存在でそのことは透けてしまった。今後も第二第三の狐が現れないとも限らない。そこで『姉を狂愛しているメスガキ』というキャラ設定だと姉に伝えることにした。このキャラ設定の主張は、姉に対しては本心を隠す効果があり、狐に対しては牽制になる。ついでに言えば、妹が姉にいちゃついても合法になるという、一石三鳥の一手だった。

 

姉視点(村人):妹ちゃんに家族愛以上に思われてるかもしれない。でも小学生妹のヒモにはなりたくない。オレらがワンワン喚いているから、もしかしたら妹ちゃんは狼かも。その後、妹ちゃんにメスガキというキャラ設定だと伝えられて、村騙りの演技指導を受けるなかで、その主張が真であると誤認してしまう。

 

オレら視点(狂人):妹ちゃんもといメスガキが狼であることは知っている。姉妹配信で姉に村騙りをさせた悪いご主人だと判明したが、基本的にご主人に忠実なオレらはそのことを強くは糾弾できない。メスガキに腹パン喰らわせたいところだが、ここまで姉妹関係が無難に帰着することを見守ってきたわけだからな。オレらが利用されてたとしても許してやるさ。お兄ちゃんだからな。

 

初見視点(村&狐):リスナー総体としては、ここまでの経緯を知らないライトユーザーもいるし、メスガキやヒモ姉に対して悪意を持っている狐もいる。このスレッドもあとわずかで落ちるだろうが、それまでの間に情報収集する奇特なやつもいるかもしれない。ただ、そうなったとしても妹のキャラ設定だったという主張を突き崩せるだけの根拠がない。ヒモ姉関係の動画は最後を除いてすべて抹消済みだし、もともとブイはキャラを演じている側面があるからな。

 

926:仰げば名無し

盤面整理兄貴のメスガキ愛がすごいw

 

927:仰げば名無し

まあそこまではわかるけど

MSGK泣かし隊はどうして姉が村騙りしているって指摘したんだろ?

 

928:MSGK泣かし隊

メスガキが自分から姉に告白したって言ってきたからだよ

メスガキだろうが小学生だろうが自分の発言には責任を持たなくちゃなぁ

もとい、メスガキが告白したって言ってたけど、あまりにも軽い発言だったんで

これに違和感をかんじてたやつは多いはずだ

 

929:仰げば名無し

確かに違和感はあったな

でもMSGK泣かし隊の兄貴もメスガキ擁護派だろ

メスガキの計画を破綻させてよかったのか?

 

930:MSGK泣かし隊

メスガキには妙な余裕があっただろ

オレには誰かに指摘されてもいいと考えているように見えたぜ

いやむしろ、誰かに指摘されたいと思っていたんじゃないか

 

931:仰げば名無し

小生意気な言動でオレらを翻弄する

まさにメスガキの所業

 

932:仰げば名無し

客観的に見れば、ネットでの発言なんて全部灰色だからな

でもメスガキはオレらに対してだけは本心を明かしたかった

あれだけ大好きなお姉ちゃんとのイチャイチャを捨ててまで

黒塗りされて狼視されることを望んでいたってわけか

何だこのメスガキ……かわいがってやろうか……

 

933:仰げば名無し

まあメスガキとしてはオレらが指摘してもしなくても

どっちでもよかったんじゃないか

メスガキはオレらを信じて隙を見せた

それにオレらは応えた

ただそれだけのことだ

ただそれだけのことがなんかあったけぇんだよ……

 

934:仰げば名無し

もしかして、メスガキお兄ちゃんてぇてぇ作品だった?

 

935:仰げば名無し

でもメスガキには腹パンくらわせてえw

 

936:仰げば名無し

ていうか、それだとお姉ちゃん本当に涙目なんですがw

いや、そもそもこんだけ深い考察してて

お兄ちゃん勢のメスガキ愛がすごすぎると

メスガキの姉への想いも真だとみなされるんじゃね?

 

937:仰げば名無し

オレ氏もそう思います

 

938:仰げば名無し

おまえはバブってろw

 

939:仰げば名無し

ば……バブぅ(きっかけ作ったのはオレなんで、ちょっと気にかかるところなんだよ)

 

940:FOX2

オレにも責任があるから気にかかるところではあるな

妹は守るのが兄貴の勤めだからな……

 

941:MSGK泣かし隊

>>940 お兄ちゃんは大変だな(煽り)

 

オレらがメスガキ狼を主張することは

むしろ合法的にいちゃいちゃする理由になってると思うぞ

 

以下、姉視点だが

 

姉:妹の想いを知った姉を演じなくては

オレ:妹の想いは本心だぞ。ヒモ姉演技指導受けてるだろ

姉:演技がバレちゃったどうしよう

オレ:(いや妹狼を主張してるんだから問題ないだろw)

妹:全部演技でーす♡

 

つまり、配信が終わったあとにでもメスガキは

姉への本心を見抜かれた妹像を演じることで

メスガキとして定着できるとヒモ姉に対して主張する

 

お兄さんたちにわからせられたメスガキキャラとしてな

 

オレらもそういうプレイを楽しんでいるって言えばいいんだ

たぶんだが、>>924もそういう意図があっての発言だろう

 

942:仰げば名無し

すげー複雑なことしてて草

忘れそうになるけど、妹ちゃん小学生なんだよな

 

943:仰げば名無し

ほんとそれw

 

944:仰げば名無し

なるほど完璧に理解した

 

945:仰げば名無し

えーっと、つまりあれか

オレらがメスガキ狼を主張すればするほど

姉視点、メスガキ村を主張しなければならなくなるから

いよいよ姉妹のイチャイチャっぷりが見れるってこと?

 

946:仰げば名無し

妹ちゃんが本心を隠すためにヒモ姉に妹の本心を知ったという『演技』をさせて

それが『演技』だと指摘されると、

姉に演技させてまで本心を隠したがっているという『演技』だと主張する

それも本心を隠したがってるためという『この』主張もまた『演技』として回収されていく?

ワケがわからない……ワイの頭が悪いんやろうか

 

947:仰げば名無し

なんか頭ン中がドグラマグラってきた

 

948:仰げば名無し

ぶうううううううううううううううん

 

949:仰げば名無し

お兄様、お兄様!

 

950:仰げば名無し

ヒモ姉からすれば、オレらこそ仮面をかぶったモブに過ぎないからな

どっちの言葉を信じるかって話だよ

相手はヒモ姉は生活全般をお世話されて、

お姉ちゃんといっしょにいたいから大学やめないでって主張してくる幼子だぞ

勝てるわけないよぉ……

 

951:仰げば名無し

でもヒモ姉はもう少し自立したほうがいいと思うw

 

952:仰げば名無し

それなw

小学生妹が成長して襲ってくる前に

自分のことぐらい自分でできるようにならなきゃあかんで

 

953:仰げば名無し

貞操をかけた自立への疾走かよw

これはヒモ姉も必死にならざるをえない

 

954:仰げば名無し

まあそれもオレら視点の話であって

ヒモ姉からすれば、妹ちゃんはかわいい家族なんだよ

というかさ、いまだにオレは懐疑的なんだが

妹ちゃんが抱いているのは本当は家族愛なんじゃないか?

 

955:仰げば名無し

狼の意図は狂人には完璧には読めんよ

でも、両親を亡くした妹ちゃんが

どんな絆でもいいから姉をつなぎとめておきたい

っていう線はいつまでも消えないラインだな

 

956:仰げば名無し

結局、姉妹百合てぇてぇ話かよ

はー、マジもっとオレらにイチャイチャっぷりを見せつけてくれよ

メスガキネトラレで頭ン中がグチャグチャになるのがたまらねえぜ

 

957:仰げば名無し

業が深すぎるw

 

958:仰げば名無し

そろそろ会話のネタも尽きてきたようだし

スレ埋めようか

 

959:仰げば名無し

そうだな同村村建て乙

 

960:仰げば名無し

同村村建て乙

コテハンだけど匿名で失礼させてもらうぜ

 

961:仰げば名無し

同村村建て乙

 

962:仰げば名無し

村建て同村ありがとうございました

 

963:仰げば名無し

みんなありがとうな

向こう(配信)で待ってるぜ

 

964:仰げば名無し

同村ありがとう

オレ氏も楽しかったぜ

 

965:仰げば名無し

オレ氏は最後まで自己主張が激しいやっちゃなーw

 

966:仰げば名無し

いよいよスレが終わって

解放感が半端ねーんだよ。察しろw

 

967:仰げば名無し

オレ氏、スレ監視員のお仕事終わっちゃうね

次の仕事探さなきゃねw

 

968:仰げば名無し

ば……バブぅ……

 

969:仰げば名無し

wwww

 

970:仰げば名無し

上で待ってるぜ

 

971:仰げば名無し

埋め

埋めw埋めw埋めw 

 

972:仰げば名無し

狼は最後のお姉ちゃんを食べつくすと

次の村へと向かいました

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 新しい朝がきた。希望の朝だ。

 

 あのあと、お姉ちゃんに対しては、演技がバレちゃったのは残念だけど、お姉ちゃんに対してわたしが盲信的な愛情を抱いていることを、みんな信じちゃってるみたいだから結果オーライだよと伝えておいた。

 

「本当に?」って言われたんで、「前捌きが思った以上にうまくいっていたみたいで、思った以上にお姉ちゃん好き好きな妹に違和感がなかったみたい。メスガキは強かった。無敵♡ 最強♡」と言ったら、

 

「そうなんだ」ってよくわかっていないみたいだった。お姉ちゃんかわいい♡

 

 まあ、実際のところ――。

 

 わたしのこころは、わたし自身にとっても灰色なところはある。

 お姉ちゃんのことが大好きで大好きでたまらないのは間違いないところだけど、その成分要素に家族愛的なところが一切ないかと言われると、そんなことはない。

 

 わたしが欲しかった宝物。

 家族という絆。

 切れかかった糸。

 伸ばした指。

 絡まった指先。

 お姉ちゃんがつなぎとめてくれた関係。

 

――お姉ちゃんのことが好き。

 

 でも、それはどんな好きなんだろう。

 わたし自身にもわからないことだから、きっとみんなにもわかるはずもない。

 

 ただひとつだけ言えるのは、わたしには時間があるということだ。

 

 今日、わたしはお姉ちゃんといっしょに銀行に行くことにした。

 大学と家を正確に反復横跳びしているお姉ちゃんが、まともにおでかけするなんて珍しい。

 いっしょにおでかけできてうれしい。

 お姉ちゃんと手をつないで歩いていると、お姉ちゃんを所有しているみたいで優越感に浸れる。

 

 なにをしにいくかなんて決まっていた。

 タンスにしまわれていた百万円を口座に入れなおすんだ。

 

「今日はだいぶん暑いね」

 

「うん、そうだね。お姉ちゃん」

 

 今日のお姉ちゃんはノースリーブのエッチな服装だ。

 もうね。これはエッチなんですよ(哲学)。

 

 エッチなのがなぜエッチなのかは、エッチなのだからとしか言えない真理。

 これはお姉ちゃんを見た瞬間に悟ってしまうところ。

 ちょっとだけ脇チラするのが、すばらッ!

 もちろん、わたしが選んだ服です。いわゆる平常運転ってやつだ。

 

「ありがとうございましたー」

 

 銀行はつつがなく終了。

 

 百万円を入金するのはATMでもよかったんだけど、それだと分けていれないといけないから窓口にした。小学生がひとりで五十万円ずつ入金するなんて危険だと思われたのかもしれないし、家の中に置きっぱなしもよくないのは事実。いまどきタンス貯金なんて流行らんよ。

 

 そして、お姉ちゃんはわたしに同行することを選んでくれた。

 

 お姉ちゃんが代わりに行くってことも少しは考えてたみたいだけど、百万円の出どころはわたしの稼ぎだから、わたしの口座に入れるのが筋といって、自分で入金するように言ってくれたんだ。

 

 ちなみに口座については、両親が死んだときに弁護士の先生に作ってもらったもので、お姉ちゃんも知らない純然たるわたし専用の口座だ。

 

 クライアントの意向を保護するというのが先生の方針らしく、残された子が幼く血もつながっていない場合、一方的な財産搾取を防ぐために個人口座をこっそり作っておくということも稀によくあるらしい。

 

 ところでこれはわたし的に重要なところなんだけど、

 

――弁護士の先生は推定35歳の色気むんむん眼鏡女子。

 

 なんだよな。

 

 お姉ちゃんほどではないがエロくて好き。

 もうさ女弁護士って響きだけでエロいと思わない?

 団地妻に匹敵するレベルというか。概念だけでエロいっていうか。

 わたしたち姉妹の境遇にいたく心を痛めてくれたらしく、わたしが相談するといつも優しく手ほどきしてくれる。それで確定申告なんかもお願いしたって寸法だ。なお、余談が多くなるが弁護士資格は税理士資格も内包しているから確定申告も先生自身がやってくれたよ。本当は先生の時給から考えると割りに合わないところなんだろうけど、わたしのかわいさに篭絡されていたらしい。小悪魔すぎてすまんな。さてさて、

 

――お金周りのことがスッキリしたところで。

 

 お姉ちゃんは預金額を見て、びっくりしてた模様。

 

 お姉ちゃんはわたしの保護者だから預金額も当然知らされる。弁護士の先生にお願いして知られないようにすることもできたけど、わたしはあえてそうしなかった。

 

 わたしの稼ぎの額が判明してしまうと五年後の『わたし本当は稼いでますが計画』のインパクトが薄れてしまうことになるが、最低でも百万円については稼げることが証明されてしまっているわけだし、もはやお姉ちゃんと時々配信して、灰色のないまぜにしながら進んでいくプランBのほうがいいように思えた。

 

 順風満帆。未来は完全に開かれていて光り輝いている。

 

 もはやお姉ちゃんへの障害はなにひとつない。

 

 そのときのわたしはそう思っていたんだ。

 

 やつが現れるまでは――。

 

 村人陣営にありながら、唯一村人を狼の襲撃から守れる狩人。

 

 あるいは――。

 

 村人陣営にありながら、狼に喰われることで狼を道連れにする猫。

 

 そのいずれか――。

 

 

 

 

――()()()()()が襲来するまでは。

 




税理士じゃなくて弁護士なことのお手当いれときました
違和感マシマシだったらごめん


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妹Ⅱ襲来する

 

=====================================

 

――猫狩ギドラ――

 

猫狩ギドラとは人狼ゲームにおける戦法のひとつ。

猫は狼に噛まれれば狼を道連れにできるが、狩人は自分自身を守れない。

そこで猫か狩人のいずれかの役職であるというふうに複数の役職をCOする。

そうすることで、狼側に狩人の位置を透けさせず、

かつCOした人物を噛みにくくする効果がある。

 

=====================================

 

 

 

 その日は嵐のように突然訪れた。

 

 いつものようにお姉ちゃんの髪を梳かしながら、お姉ちゃんの匂いを肺胞いっぱいに吸いこんで悦にいっていると、急にお姉ちゃんの電話が鳴ったんだ。お姉ちゃんっていっぱい言えてわたし幸せ。それにしてもお姉ちゃん起きないのかな。そんなにわたしの指が気持ちよかったの? 

 

「お姉ちゃん電話だよ♡」

 

「ん……あ、そうだね」

 

 お姉ちゃんは少し眠たげだった。

 髪を梳かすといつもとろんとしちゃうんだよね。

 本当かわいい♡ 食べちゃいたいくらい♡

 

――しかし、お姉ちゃんに電話とはいったい誰だろう。

 

 お姉ちゃんはわたしの獲物だぞ! と憤慨する気持ちがないわけではないが、いくらなんでもお姉ちゃんを監禁凌辱しようとまでは思っていない。大学の先生とか、あるいは親戚とか、お姉ちゃんにもそれなりの交流はあるわけだから、ここは寛容の精神でもって迎えいれよう。

 

 もうね。余裕の態度ですよ。

 お姉ちゃんとわたしの仲は盤石。

 百万円の謎も消え、スレや配信も安定期(プラトー)へと到達した。

 誰もわたしを阻むことはできないはずだ。

 

「あ……ふ。ふぁい。須垣です」とお姉ちゃんが眠たげに言う。

 

「須垣さん。少しお時間よろしいでしょうか」

 

「あ、先生。お久しぶりです」

 

 静寂の空間だったから電話での向こう側の声も聞こえた。

 ああ、()()――だ。わたしも知っている。

 大学の先生とかではなく、両親が亡くなったときにお世話になった弁護士の先生。

 推定35歳のクールビューティ。

 いつもクソエロタイツを履いているクソエロ先生だ。

 

「お久しぶりです。少し会ってお話したいことがあります」

 

「電話口じゃダメなんですか?」

 

「そうですね……」

 

 悩んでいる素振り。

 わたしには伝えたくない系の話か。あるいはお姉ちゃんに専属する話か。

 いずれにしても気になる!

 お姉ちゃんの情報は逐一把握しておきたい系妹のわたしである。

 しかし、それをぶしつけに伝えると、あつかましい妹になってしまう。

 ここは小学生ムーブをかましてアドバンテージをとるべきだろう。

 

「先生、お久しぶりです」と、わたしはいくぶんか大きな声をあげた。

 

「あら、異空ちゃんもいたのね」

 

「はいそうです。お姉ちゃんとは仲良しですから♡」

 

 さりげなくお姉ちゃんの背中に手をあてて近づき、ほっぺどうしで接触。

 電話口に近づかなきゃ聞こえないからしかたないよね。

 

「仲良しさんなのね」

 

「はい。お姉ちゃんのこと大好きですから♡」

 

 お姉ちゃんは視線だけをこちらに向けて微笑んでいる。

 

 ああ、スリスリしたい。スリスリしたい。お姉ちゃんのお肌にわたしを擦りつけたい!

 でもさすがにそれは変態すぎる。わたしは無垢な小学生。ただでさえ人狼騒ぎでわたしを狼視する疑惑は残っているだろうし、お姉ちゃんに変態性欲を抱いていることを知られてしまってはマズイ。ここは我慢だ。

 

 お姉ちゃんはスピーカーに切り替えて鏡台に置いてくれた。

 

「聞かれてしまったならしかたないか……。いずれは逢うことになるんだし」

 

 小さく呟くような声が聞こえる。

 先生は少しばかり考えているようだ。

 

――会うって()にだろう。

 

 お姉ちゃんもきょとんとしているからまったく見当がついていない様子。

 幸いなことに、わたしの疑問は数秒後に解消された。

 

「実は、須垣さんに会いたいって人がいます」

 

「どなたでしょうか」とお姉ちゃん。

 

「クライアントの名前は鳳寿院恵子(ほうじゅいんえこ)さん。須垣さんもお会いしたことがあると思いますが、覚えてらっしゃいますか?」

 

――覚えている。

 

 両親が亡くなったあとに、わたしたち姉妹はまだ若かった。お姉ちゃんはギリギリ成人していたけれど、寄る辺のない少女といってもいい年齢だ。誰か保護者になってくれる人はいないかを探すのは当然の流れと言えた。

 

 鳳寿院家は名家といっても差し支えないだろう。

 いくつもの企業を束ね、須垣家がチリに見えるようなとびきりの金持ち。

 お姉ちゃんとの関係は遠縁も遠縁で、ほとんど血のつながりはないに等しいが、それでもまったく無いわけではない。私たちを受け入れるだけの経済的基盤はあるだろうし、両親を亡くしたわたしたちを憐れんでくれる可能性もあった。

 

 まあ、残念ながら結果はダメだったけどな。

 

 そもそもの話、金持ちっていうのは異分子を入れたがらないものだろうし、血のつながりのないわたしを抱え込むことはしたくなかったんだろう。

 

 万が一、億が一の確率で、娘が害される可能性を親は考えるものだし、あるいはお姉ちゃんに手を出してしまって、家の中がメチャクチャになってしまうことも無くはない。

 

 表向きの理由は――、そのくだんの少女。

 鳳寿院恵子がわたしとほとんど変わらない年齢であることを告げられた。

 

『後見人になるからには、実子と同じ愛情をもって育てなければならない』

『でも自分にはそうできるだけの自信がない』

 

 そんなふうに言われてな。

 申し訳なさそうな若当主は誠実そうに見えたし、悪印象はまったく抱いていない。

 家族になる重みを知っているからこそ、その言葉には共感したからだ。

 

 まあ、お姉ちゃんとのふたりきりのラブラブ生活が待っていると思えば、むしろ拒否られるのはわたし的に都合がよかったともいえる。お姉ちゃんが曇り顔しているのもポイント高かったし。かわいそうなお姉ちゃんかわいいって能天気に考えてたのは秘密だ。

 

 で、恵子に対しての印象だが、こちらも悪くない。

 恵子はわたしたちが姉妹になることをむしろ歓迎してくれていたように思う。

 若当主さん、つまりパパさんに対しても猛プッシュしてくれたしな。

 でも、いま言ったような理由で却下されたというのが実情だ。

 そこには哀しい因果があるだけで、劣悪な意志は混入されていなかったと断言できる。

 

 わたしがそんなふうに想起していると、

 

「えっと、誰でしたでしょうか?」

 

 と、お姉ちゃんは言った。

 

「…………」

 

 電話口から応答がない。

 

 これには先生も絶句しているのか、しばらく沈黙が場を満たした。

 

 お姉ちゃん、いくらなんでもお姉ちゃんだよ。

 鳳寿院ってスゲェキラキラしてるじゃん。一発で覚えられそうな名前じゃん。

 お屋敷バカでかくて、畳歩いて汚したら弁償かもってビビッてたじゃんかよー。

 もう♡ そんなダメなところも好き♡

 

「ほら、お姉ちゃん。いっしょに保護者になってほしいって頼みに行った家だよ」

 

「あ、そっか。そうだったね」

 

 ふぅ。なんとか思い出してもらえたようだ。

 お姉ちゃんの記憶野に問題がなさそうでなにより♡

 

 どうやらお姉ちゃんは都合の悪い記憶は抹消する傾向にあるらしい。

 コレは良くも悪くもって感じだな。

 わたしを狼視する考えも、都合よく消えてくれればいいんだけど。

 

 しかし、恵子がクライアントか。

 若当主ではなく小学生の恵子が?

 これは……きなくさいな。

 

 その疑問もまた数瞬後には氷解した。

 

「鳳寿院のご当主が亡くなりました」

 

 衝撃の事実をもって。

 

 

 

 ※

 

 

 

――カチコチと時計の音が響いている。

 

 というのは小気味よいジョークってやつで、スムーズ系なので音なんてしないのだが気分の問題だ。

 リビングルームのソファには先生と恵子が並んで座っていた。

 

 恵子はお人形のような子だ。

 おとなしく座っていると本当に人形とまちがえるくらい静的な印象を与える。

 黒髪ロングのウルトラお嬢様だからな。

 もうザ・日本人美少女って感じで、将来は和風美人になることまちがいなしだ。

 

 悲痛な表情をしているが無理もない。

 恵子の母親は早くに早世し、残っている父親がついこの間亡くなったばかりだという。

 これで落ちこんでないなら、そいつはサイコパスか何かだろう。

 

 わたしが明るめの思考をしているのは、あくまで()()()()という実体験から来るものだ。

 死ねば永劫の果てに会えるかもしれない。

 死んで終わりじゃないという思考は誰にも明かしていない最大の勘違いポイントだったりする。

 わたしって外形的にはけっこう悲劇のヒロイン要素あるよな。こりゃみんなも勘違いするわ。

 

 ともかく小学生の恵子が悲しんでいるのは同情に値する。

 心がメスガキのわたしにしても、前世の記憶も引き継いでいるからな。

 小学生女児が泣いているのを見て、何も思わないんだったらそいつは男じゃねえよ。

 ジェンダー的には男女平等だろうけど、大人の男性としてはそう思いたいね。

 

――沈黙。

 

 お姉ちゃんが何も言わないのでしかたなく、隣の弁護士先生を眺めてみると、ほほうこれは評価点高いな。灰色のタイトスカートから覗く黒タイツ。そして眼鏡。くぅ……。なんだろうこれ。エロすぎだろ。

 

 言うまでもないが先生は性的な印象を与える。メスガキがもしもオスガキだったら性癖を破壊されていたかもしれない。そのくらいえっち。

 

 もちろん、お姉ちゃんが一番なのは変わらない。

 

 でも、男は目移りするもんじゃん。わたし悪くない。心は一途なんで許してください。

 

「電話口でご説明さしあげましたが、クライアントはおふたりといっしょに住まわれることを希望されております。もちろん、おふたりの気持ちが優先されるのは恵子さんも理解しておりますし、選択権はおふたりにございます」

 

 眼鏡をクイっとあげる仕草、なんか誘ってる感じするよなぁ。

 わたしみだらなこと一切しませんって顔しやがってよぉ。

 こんなエロボディで弁護士名乗るとか、各方面に失礼だよね。

 

「異空ちゃんも緊張しなくてもいいのよ?」

 

「あ、はぁい♡」

 

 先生はわたしには優しげなお母さんって感じで接してくれる。

 家庭では優しいマッマなのかな。

 先生がもしマッマになってくれるなら、やぶさかではない♡

 

 それはともかく、おそらくだが――。

 

 先生がわたし抜きでお姉ちゃんと話したかったのはワンクッション置きたかったからだろう。わたしとお姉ちゃんで安定している家庭を、ひとりの異物が侵入していくことになる。それは、まさに一年前のわたしたち姉妹の行為の焼き直しとも言えたが、一番に保護すべきは小学生であるわたしと考えたのかもしれない。

 

 もちろん、先生からしてみればクライアントの依頼は尊重されるべきものだ。

 

 鳳寿院恵子も小学生なのだから保護しなくてはならないという意識は当然持っているものと思う。高い職業倫理と深い法律知識でクライアントの言いたいことを守るのが弁護士の仕事だろうし。先生はやり手だ。

 

「先生、わたくしから言わせていただいてもよろしいでしょうか」

 

 鈴鳴りの声が響く。

 

 恵子がこの場で初めて言葉を発した。

 

「ええ、もちろんかまいません。お二人もそれでよろしいでしょうか」

 

「はい」とお姉ちゃんは短く答える。

 

「わたしは大丈夫です」とわたしも追随する。

 

「おふたりにはご迷惑をおかけすることになりますが、どうかわたくしをこの家に住まわせていただけませんでしょうか!」

 

 齢十をようやく越えたくらいの小学生にしては、あまりにもキレイな所作。

 恵子は頭を九十度近くさげている。

 お嬢様感が半端ない。

 わたしのようなまがいものと違って、魂のパワーを感じた。

 

 わたしは正直、いろいろな気持ちが去来して灰色の気分だった。

 お姉ちゃんとのふたりきりの生活に誰かを加えるなんてことはしたくない。

 けれど、恵子の気持ちもわかる気がする。

 家族を失いひとりきりになるというのは、()()()()()()()()()()()()というのは、たぶん死ぬことよりもツラいことだと思うから。

 

 でも――予想を越えていたのは恵子の顔。

 

 顔をあげた恵子の顔つきは、悲壮というよりは強い意志を感じさせるものだった。

 

「正直なところを申しあげれば、お恥ずかしながら鳳寿院家の親族はまったく信用ならないというのが実情です。みんな鳳寿院の金と力にすり寄ってるように見えるのです」

 

 こいつマジで小学生か?

 金持ちならではの英才教育の結果、バケモンみたいな小学生が生まれてしまったということか。

 

「クライアントは、鳳寿院の影響が少ないところで過ごされることを望まれているのです」

 

 先生も説明を付け加える。

 

「使用人の人たちは?」

 

 わたしは疑問を投げかけた。

 

「家なんて形骸ですよ。使用人の人たちはもちろん雇ったままですが、それはあくまで使用人としてのことになります。わたくしが必要としているのは家族なんです」

 

「それは……えっと、私の名前を後見人として書いたらいいってことなのかな?」

 

 お姉ちゃんがおびえた羊みたいな目をして言った。

 言ってることは立派なんだけど、なんでそんなにおどおどしているんだろう。

 むしろ小学生並みなんですが…それは。

 

「いえ。できるなら()()()には家族になってほしいと思っております。もちろん、異空ちゃんにも家族になってほしい。あのときお二人を見捨てたわたくしが言える立場でないのは理解しております。ですが……」

 

 ぽろぽろと涙を流す恵子。

 宝石みたいに小粒の涙を流す技術。

 スゲェ……。

 いやもちろん、小学生の恵子ちゃんがそんなのを演技でしているとは思わない。

 間違いなく本心だろう。

 それにしても美少女が涙を流すと宝石のように結晶化するんだな。

 本当、わたしも演技力を高めるために学びたいところだ。

 

――鳳寿院恵子。小学六年生。

 

 末恐ろしい。あと何年もすれば、男なんか一撃悩殺まちがいなしだろう。

 いまでも、ロリコンのお兄さんたちなら、楽勝で篭絡できそうなレベルだ。

 

 それにしても――。

 どうするかな。

 

「会社はどうするの?」とわたしは聞いた。

 

 正確にはホールディングスだが、そんな聞き方はちょっと小学生の領分を越えている。

 でもまあ言いたいことは伝わるだろう。

 恵子の能力はたぶん超小学生級だろうし、普通に天才児だろ。

 強くてニューゲームなわたしと違って、マジなやつだし、あっさり理解できるだろう。

 

「使用人のひとりにお父さまの右腕だったものがいます。わたくしが大人になるくらいまでなら、モラトリアムの時間を引き伸ばすくらいはできるでしょう」

 

 ほら、意図を理解して、さっくり解決法を提示してきた。

 怖ッ。この小学生、底が知れないんですが。

 お兄ちゃんたち誰か助けて!

 

「恵子ちゃんは誰かといっしょにいたかったんだね」

 

 対してお姉ちゃんは天使みたいな声だ。

 いつものお姉ちゃんも優しげだけど、弱り切った小学生に対しての母性は半端ないものがある。

 でもこの小学生、本当は狼じゃない? マジで大丈夫?

 わたしは心配だ。

 

「お姉ちゃんじゃ家族になるには頼りないかもしれない。でも、恵子ちゃんがそうしたいなら、お姉ちゃんはいいよ」

 

「お姉様……」

 

 感極まってる恵子。

 

 そんなイケメンっぷりを発動したら、普通のメスガキは落ちちゃうんだからね。

 お姉ちゃんは節操なさすぎだと思います。

 

「あ、でも、異空ちゃんの気持ちも考えなくちゃいけないんだ。ごめんね恵子ちゃん。私たちは、一年前から、ううん五年前からずっと姉妹だったんだよ。私がよくても異空ちゃんがダメなら、私は許しちゃダメだと思うんだ」

 

 お姉ちゃん♡♡♡

 

 お姉ちゃんへの想いが溢れすぎて、わたし脳汁ブシャーってなってるよ。

 もう小学生がしちゃいけない顔しちゃってる自信があるよ。だけど――。

 

「異空ちゃん……どうかお願いします」

 

 祈るような趣の恵子の様子を見ていると、マジメに考えるべきだろう。

 お姉ちゃんとのふたり暮らしを維持したいのは確かだ。

 だけど、恵子の切実なワガママもまた理解できるところだ。

 

 お姉ちゃんとわたしとの関係は、ほんのちょっと因果が狂えば、恵子がわたしの位置に納まっていてもおかしくはなかったんだから。

 

――どうすれば正解なんだろうな。

 

 そのとき、頭を抱えたわたしは、小さな感触に思い出す。

 わたしのお気に入りのヘアピン。

 それは、恵子がわたしに贈ってくれたものだった。

 

『異空ちゃんと姉妹になれますように』

 

 そう言って、恵子はわたしにヘアピンをくれたんだ。

 正直、半ばママゴトみたいなイベントだった。

 本人も単に遊び相手ができる程度にしか思ってなかったのかもしれない。

 でも、その言葉もヘアピンも嘘じゃないのもまた確かな事実。

 

 結局、人間ってやつは、知らないうちに誰かを助け。

 

 そしてまた()()()()も助けているのかもな。

 

「恵子ちゃんが前に言ってくれたよね。そのとおりに言葉を返すよ。恵子ちゃんと姉妹になれますように。いっしょに暮らせたら嬉しいな」

 

 かくして二人だけの生活は終わりを告げ、三人での生活が始まることとなる。

 

 危機感の薄かったわたしの落ち度だ。

 

 まさか、鳳寿院恵子があんなやつだとは思いもしなかった。

 

 小学生を舐めすぎたツケはこのあとすぐに思い知らされることになる。

 

 

 

 

 

 

 

973:仰げば名無し

同村村建て乙

 

974:仰げば名無し

いよいよ最後だな

 

975:仰げば名無し

埋め立て作業中

ただいま埋め立て作業中

 

976:仰げば名無し

ヒモ姉スレッドもこれで終わりか

寂しいものだな

 

977:仰げば名無し

みんな楽しかったぜあばよ

 

978:仰げば名無し

普段ありえないシチュエーションだから楽しかったよな

小学生妹のヒモになるとか考えられんしなぁ

 

979:仰げば名無し

ヒモ姉も丸く収まってほっと一息じゃね?

まあ、妹狼説は消えないだろうが

いままでの経験から貞操の危機や監禁の危機はないって知ってるだろうしな

概ね世界は平和だよ

 

980:仰げば名無し

本当ヒモ姉はよかったな

すべては明らかになり

なべて世はこともなし

 

981:仰げば名無し

ヒモ姉恥ずかしがりやなのかあんまり配信出てくれないのが不満ではある

 

982:仰げば名無し

もともとリアルタイムで話すの苦手なんじゃね?

しかたないでしょ

 

983:小学生妹のヒモ姉

あ、ちょっと待ってください!

終わらないで終わらないで!

みなさんにご報告があります!

 

984:仰げば名無し

なんぞw

 

985:仰げば名無し

ヒモ姉乙

え、もしかして妹ちゃんに襲われたとか?w

 

986:仰げば名無し

ありうる話だからわらえねえw

 

987:仰げば名無し

わろうとるやんけw

 

988:小学生妹のヒモ姉

小学生の妹ちゃんが……

妹ちゃんが増えました!

 

989:仰げば名無し

はぁ?

 

990:仰げば名無し

増殖?

 

991:仰げば名無し

ヒモ姉ついに頭おかしくなっちゃった?

 

992:仰げば名無し

ヒモカスよう。少しは成長しろよ

説明するなら端的にわかりやすく

大人なら常識だろうが

 

993:小学生妹のヒモ姉

すみません

いろいろとたてこんでるせいでうまく説明できません

時系列で説明しますと

 

遠縁にあたる小学生の妹Ⅱちゃんが無縁状態になる

遠縁の私と妹ちゃんを頼ってくる

妹ちゃんが受け入れるならいいかなと思っていたら

妹ちゃんもOK出す。私も受け入れる。

妹Ⅱちゃんが妹ちゃんとともに朝起こしに来る。

朝ご飯と昼ご飯と夜ご飯を交互に作ってくる。

競争相手ができたみたいな感じで、ライバル心剥きだして

私をお世話してくるんです!

 

このままじゃ、私、小学生ツイン妹ズのヒモになっちゃう!

今ここ!!!!!!!!!!!

 

 

994:仰げば名無し

は、自虐風自慢かよ

 

995:仰げば名無し

んー。そうか。まあガンバレ♡

てか妹ⅡってザクⅡじゃないんだからさw

もう少し手心というか

なんとかならんかったのか

 

996:仰げば名無し

しかたねえな。オレが何もかもバシっと解決する方法を教えてやるよ

1001になったら教えてやるから座して待て

 

997:仰げば名無し

お、やったねヒモ姉

家族が増えるよw

ていうか家族増えたのかw

 

998:仰げば名無し

もう運命を受け入れるのがいいんじゃねーの?(鼻ほじ)

 

999:仰げば名無し

知らなかったのか?

妹ちゃんからは逃げられない

 

1000:小学生妹のヒモ姉

誰か助けて!

 

1001:仰げば名無し

このスレッドは1000を越えました。

新しいスレを立てるんだよ。さっさとしろ♡ 役目でしょ♡




ここで一巻終わりみたいなイメージでした


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ヒモ姉スレッドpart2が立ったよ!

 鳳寿院(ほうじゅいん)恵子(えこ)が家族に加わった。

 

 最初は使ってなかったお部屋の改造とか、お屋敷から必要な道具を持ちこむことに数日ほど費やしたが、それからいよいよ共に暮らし始めるにあたって、必然的に明らかになることがある。

 

――お姉ちゃん、家事しない。

 

 いや、はっきり言うが、お姉ちゃんはぜんぜんまったく悪くない。

 

 本当に一欠けらも悪くない。

 

 むしろお姉ちゃんをお世話することはわたしの喜びそのものであり、お姉ちゃんが下手に料理とか洗濯とか掃除とかし始めると、わたしの楽しみが失われてしまう。

 

 お姉ちゃんをヒモにしたいというのがわたしの本願だ。

 

 わたしがそうなるように仕向けてきたのだから、罪があるとしたら()()()

 

 しかしながら、普通に考えて小学生にお世話される大人というのは風聞が悪い。

 

 スレでもボロクソに言われてたからな。

 

 それもまた圧倒的社会常識ってやつで。

 

 下手をすれば、お姉ちゃんは社会的にダメダメなお姉ちゃんとして教育的指導が入ってしまうかもしれない。おそらく、わたしが()()()()()()()()()とか言えば、ネグレクトとまでは言われないだろうが、わたしのことを適切に保護できてないと評価されてしまう可能性はある。

 

 ただ、家族になった以上は、恵子には真実を知ってもらわなければならない。

 

 家族間でも秘密とかは当然ありうる話だが、日常生活にまつわる必要行為をどうこなしていくかについては、秘密にしておけるはずもないからな。

 

――わたしたち姉妹はそうすることで成り立ってきた。

 

 どうしても認められないんなら、家族契約も解除してもらえばいいさ。

 

 欲しかった家族(もの)が思ってたのと違ったからって失望するくらいなら、クーリングオフしてしまえばいい。また元のお姉ちゃんとのふたりきりの生活に戻るだけだから何も問題はない。

 

――恵子が関係の薄い他の大人に伝える可能性もあるか?

 

 まあ、それはあるかもしれんが、可能性として一番高いのは先生だろう。先生はわたしの味方だから、何も問題はない。わたしがお姉ちゃんと離れたくないと言えば、その希望は優先される。

 

 須垣家の生活は、客観的に見て平穏無事そのものだから、「誰も助けてくれなかったのにいまさらですか」とでも言っておけば、責任をとるのがイヤな他の大人たちは寄ってもこないだろう。事実、わたしたちを保護してくれる大人は誰一人いなかったわけだしな。

 

――そんなわけで。

 

 初めて恵子と夕食を共にした。

 配置については少し考えるところではあった。

 わたしとお姉ちゃんがいつもの対角に座る位置関係で、これは固定されている。

 いっぱい食べるお姉ちゃんの姿をいつまでも眺めていたいからな。

 

 あとは恵子をどうするかが問題だったが、わたしは恵子のことを知らないし、これからうまくやっていけるかを探るためにもお姉ちゃんの隣の席を譲ってあげた。

 

 部屋の片づけをしていた恵子が降りてきた時には、既にお皿を配置済み。

 恵子のお皿とお姉ちゃんのお皿はサイズ感からして異なる。

 察しのいい恵子ならと思っていたが、予想どおりわずかなやりとりで済んだ。

 実際に「こちらに座ってよろしいのですか」と軽く聞かれたのみだ。

 

――いただきます。

 

 声をあわせて食事が始まる。

 

 お姉ちゃんはわたしが先に述べたようなことは、なーんにも考えてないのか、天使そのものな無垢な笑顔でわたしの作ったコロッケにパクついている。

 

 ふふ。お姉ちゃんもっと食べて♡

 

 そして、恵子のほうは綺麗な箸使いでコロッケを小さく切り分けて口に運んでいる。

 あいかわらず静かな子だ。

 小学生なのに、まるで食べるという行為が芸術作品のように昇華されている。

 

 ふふ、庶民のメシはうまいか♡

 

 お嬢様だろうが超絶金持ちだろうが、食卓の主はわたしだ。ここではわたしがルールだ。

 もしもお口に合わないんだったら、フランス料理の出前でも頼んでろ。

 

 と、まあ――挑発的な意味もこめたコロッケチョイスだったのだが、意外にも恵子はおいしそうに食べている。余計なことを口にするわけでもない。ただ顔つきが雄弁に物語っている。

 わたしに対する視線に、お褒めの言葉が含まれているというか。

 品がよい食べ方のなかにも、顔をほころばして喜色がにじみでているというか。

 

――この子、もしかしてメッチャイイ子だったりする?

 

 自分の作った料理をおいしそうに食べてもらえるのは悪い気はしないな。

 

 ほどなくしてお食事終了。

 

「あー、おいしかった。異空ちゃんいつもありがとう」

 

「えへへ。お姉ちゃんがおいしいって言ってくれてよかった♡」

 

 ちょっとお腹をおさえているお姉ちゃん。

 お姉ちゃんのコロッケはわたしたちの倍の大きさはあるからな。

 いっぱい食べて、いっぱい大きくなってね♡ どことは言わないけれど♡

 

「ごちそうさまでした」

 

 ゆっくりとしたペースで食べ終わった後。

 恵子はナプキンで口をふきおわると定型的な語句を発した。

 

「お口にあった? 恵子ちゃんのお家みたいに豪華なものじゃなかったと思うけど」

 

「ええ、大変おいしかったです」

 

「ふふ、ありがとう♡」

 

 ええこやん。恵子(えこ)ちゃんだけに。

 我ながら寒いギャグが脳内に浮かんだが、わたしは半ば恵子を受け入れかけていた。

 

 次の瞬間までは――。

 

「しかし驚きました。()()()異空ちゃんが家事をなさっているのですね?」

 

「本当……に?」

 

「ええ、もちろん……。ここに来る前に少しばかり調()()したんです。悪く思わないでくださいませ。わたくしの立場としては、どうしても慎重にならざるをえなかった。鳳寿院の息がかかっていないか調べなければならなかったんです」

 

「ふぅん、そうなんだね」

 

 こいつ調べてやがったのか。

 わたしの中の警戒心が一段レベルをあげる。

 

 ただ――、無理もないことなのか?

 

 恵子がこの家に来た理由は、本当の家族が欲しかったためだろう。

 それはわたしの生きる理由にも似たところがあって理解できなくもない。

 言うても小学生だしな。いくら天才でもひとりきりになって寂しいって気持ちが過剰なまでの攻めの姿勢になるということも考えられる。自衛のためにそうせざるをえなかったのだろう。

 

「誤解しないでいただきたいのですが、お家の中まで調べたわけではございませんよ。ご近所さんに聞いてみたら、異空ちゃんがほとんど毎日のように食材を買いにいっているというじゃありませんか。もしかするとと思っていましたら本当のことだったので驚いたんです」

 

「そーだねぇ……、異空ちゃんはいつも私においしいご飯をつくってくれるんだよ」

 

 食べ終わって糖分が脳みそにまわっているのか、お姉ちゃんはトロンとした声をだす。

 そんなに無警戒で大丈夫なのか、わたしは心配だ。

 

「しかし、お姉様」恵子がたしなめるように続けた。「異空ちゃんはまだ小学五年生ですよ。いつもご飯を作ってもらうというのはいかがなものかと思います」

 

「そ、そだね……」

 

 ほらぁ。お姉ちゃんが責められちゃってる。

 

「わたしがしたいからしてるんだよ」

 

「そうかもしれませんが、世間がどう見るかという話です」

 

「世間がどう見るかなんて関係ないんじゃない? 家族の問題だし」

 

「ええそうですね。差し出がましいことを申し上げました」

 

 恵子が哀しそうに目を伏せる。

 そして頭を下げた。

 長い黒髪がはらりと肩を落ちる。

 どこからどう見ても、しおらしい姿。

 顔をあげた時には、少しばかり涙がまつげに乗っている。

 

――こ、こいつ。

 

 擬態じゃないよな。

 そんなかわいそうな姿を見せたら――。

 

「家族として迎えられたばかりの新顔が申し訳ございません」

 

 優しいお姉ちゃんが黙っているはずがない!

 

「恵子ちゃんはもう家族だよぉ!」

 

 たまらずお姉ちゃんは隣にいる恵子をかき抱いた。

 恵子はお姉ちゃんのおっぱいにつぶされている。

 

 ちょ、お姉ちゃんダメ!

 それ脳みそ破壊されちゃうやつだから。

 ネトラレとかやっちゃダメなやつだから!

 

「お姉様。ありがとうございます」

 

 ヒシっと抱き着く恵子。

 テーブルを挟んでいるわたしにはなすすべもない。

 

「ぐぬぬ……」

 

 こ、こいつ、もしかして清楚系メスガキなんじゃないか。

 まさか、お姉ちゃんを狙って!?

 いや、違う。そんなことはありえない。

 わたしみたいに特殊なキャラでもない限り、お姉ちゃんに言い寄る小学生とかいるはずない。

 家族を失って、自分の育ってきた環境と違いすぎて戸惑っているだけだろう。

 でも、お姉ちゃんのおっぱいに包まれる権利はわたしのだと主張したい。

 遺憾の意を唱えたい所存。

 でも、小学生のわたしがそんなことを言えるわけもない。

 黙って指をくわえているしかなかった。

 こんなのエサを横取りされた狼の気分だよ。

 

「異空ちゃんもごめんなさい。いきなりお姉様をとってしまい申し訳なかったです」

 

「う、うう……ううん。大丈夫だよ。恵子ちゃんも家族だもんね」

 

「はい。ありがとうございます。異空ちゃんが妹になってくれてわたくし、とても嬉しいですわ」

 

 とろけそうなほどの満面の笑みを浮かべる恵子に何も言えなくなってしまった。

 

 ここで拒絶するとお姉ちゃんに狭量な妹と思われてしまう。

 

 メスガキが同じメスガキにわからせられるとは不覚だ。

 

 

 

 ※

 

 

 

「それではお姉様は、異空ちゃんに朝起こしてもらって、朝昼晩のお食事をつくってもらい、果ては着るものからお化粧までしてもらって、さらにはいっしょにお風呂に入って背中をお流しされたり、足踏みマッサージまでしてもらっているというわけですか?」

 

 あれから、あれよあれよという間に、お姉ちゃんは自白させられていた。

 お姉ちゃんとのラブラブ生活は、白日のもとにさらされ、お姉ちゃんはうなだれている。

 

「はい……」

 

「小学生の妹ですよ。まだ十歳の女の子ですよ?」

 

「はい……誠におっしゃるとおりです。申し開きのしようもありません……」

 

「失礼ですが、それではまるで小学生妹のヒモではないですか」

 

「ヒモじゃないもん……」

 

 正しすぎてなんも言えねえ……。

 

 ただひとつだけ言わせてもらえば、お姉ちゃんはべつに率先してヒモになりたいわけじゃない。

 それはヒモ姉スレッドでの受け答えでも明らかになっている。

 初めて生の人間から指摘されて、罪の意識があらためて芽生えたのだろう。

 

――これはマズイ。

 

 お姉ちゃんのお世話ができなくなっちゃう。

 わたしとお姉ちゃんの約束された未来が壊れちゃう!

 

「あのね。恵子ちゃん。わたしが好きでやってるんだよ」

 

「異空ちゃんも異空ちゃんですよ」

 

「え、わたし?」

 

「お姉様を堕落させてしまってはいけません。妹は姉に庇護されるべき存在じゃありませんか」

 

「それはそうかもだけど……。お姉ちゃんは大学の勉強をがんばってるんだよ。お姉ちゃんのお仕事は勉強すること。わたしは小学生だからそんなに忙しくないし、家事をするのがわたしのお仕事なの」

 

「なるほど、家事をご自身のよりどころとしてらっしゃるのですね」

 

「うん、まあ……」

 

 むしろ人生的な?

 お姉ちゃんを無限に甘やかすことがわたしの存在意義的な?

 それとっちゃダメなやつだよ。

 わたしにとっては首をもがれるのといっしょだから。

 

「ご両親を亡くして、おつらかったのですね」

 

「ふ、ふやぁ」

 

 な、なんやなんや!?

 何でか知らんがいつのまにやら恵子に抱き着かれてる。

 たった一年の違いだが、わたしよりも大きな身体。

 残念ながらお胸様は薄いが、しかし女の子特有の柔らかさにわたしは混乱する。

 

「な、なにするの恵子ちゃん」

 

「わたくしも異空ちゃんの姉になりたいと思っていますの」

 

「姉?」

 

「姉は妹を保護するものでしょう」

 

「一般的にはそうかな」

 

「だから分担しましょう」

 

「なにを?」

 

「お姉様のお世話をです!」

 

 は?

 

「え!? ちょ、ちょっと待って! それはダメ!」

 

「あの~~」お姉ちゃんがそろりと手をあげた。「私ががんばるという線は」

 

「無理だよ」と即答するわたし。

 

「適材適所という言葉もありますしね」と恵子。

 

「お姉ちゃんは黙ってお世話されてるのが仕事なの」

 

「そ、そうだよね~。はは……、小学生の妹たちからの信頼がゼロの私って……」

 

「ともかく、わたくしとしましては異空ちゃんがひとりで生活全般を切り盛りするような状況を座してみていることはできません。お姉様の努力には追々期待するとして、今からわたくしと家事を分担しましょう」

 

「絶対ヤダ!」

 

「そこが異空ちゃんの居場所というのは理解したつもりですわ。ですけど、わたくしにもほんの少しだけ居場所を分け与えてくださいませんか」

 

 居場所――と言われると弱い。

 恵子は家族を失って、ここにやってきた異邦人。

 いま、もっとも所在ないのは恵子だ。

 お姉ちゃんは既に同情的な視線を向けている。

 でも、わたしの居場所ぉ……。

 

「何もわたくしに全部譲り渡せとは言いませんわ。おかずを作るときにわたくしも手伝うとか、買い物はわたくしが代わりにするとか、あるいは朝いっしょに起こしにいくとかでもいいじゃないですか」

 

「とらない?」

 

「ええとりませんよ。いっしょにお世話をしましょう」

 

「わかった……」

 

 小学生に言い負かされるなんて思いもしなかった。

 だけど、これもしかたないところかもしれない。

 小学生の弱さを利用して、無敵のメスガキと化し、お姉ちゃんをヒモにしようとしたのは他ならぬわたしの戦略そのものだからだ。

 恵子が弱みを強さに変えてしまったら、わたしに打てる手はもうない。

 それを認めないってことは、わたし自身を否定することにつながるからな。

 

 それにしても、この話の流れ。

 恵子が戦略的に組んだものじゃないよな?

 

 

 

 ※

 

 

 

 

1:小学生妹のヒモ姉

はい

 

2:仰げば名無し

はいじゃないが

 

3:仰げば名無し

おかえり♡

 

4:仰げば名無し

大団円を迎えたかと思ったら

まだ続いたw

 

5:仰げば名無し

で、いったい何があったんよ?

 

6:小学生妹のヒモ姉

話せば長くなるんですが……

 

7:仰げば名無し

その説明をする前に今の銀河の状況を理解する必要がある

少し長くなるぞ

 

8:仰げば名無し

いいからさっさと吐け

楽になっちまえよ

 

9:仰げば名無し

おまえらのヒモ姉の扱い雑すぎw

 

10:仰げば名無し

ていうか、メスガキもこのスレ見てるんだよな

そのあたりは大丈夫なのか?

いやまあオレらが言うことでもないかもしれんが

 

11:小学生妹のヒモ姉

妹ちゃんとはいざとなったら配信でも話せますし

特に問題はないと思います

問題なのは妹Ⅱちゃんのことです

 

12:仰げば名無し

妹Ⅱで固定なんだなw

 

13:仰げば名無し

妹Ⅱのスペックよろ

 

14:小学生妹のヒモ姉

妹Ⅱちゃんは小学六年生の女の子です。

和風のお人形さんみたいな子でお嬢様って感じの子です。

私と血のつながりがあって、両親が亡くなったときに

ちょっとだけ会いにいったことがあります

それで、その子の肉親が亡くなって

妹Ⅱちゃんは身寄りがいなくなってしまいました

親族はおそらくいるのでしょうが

たった一日過ごしただけの私のことを信頼してくれたのか

私を頼ってきてくれたという感じです

それからは前スレでも述べたように

妹ちゃんも受け入れてくれたし

私も守ってあげなきゃと思って受け入れました

 

15:仰げば名無し

いもにちゃんも天涯孤独の身か

ヒモ姉はわりと懐は深いよなw

 

16:仰げば名無し

確かに懐「は」深いよな

中身からっぽだけどなw

 

17:仰げば名無し

生活全般を妹ちゃんにお世話されている時点でな……

その受け入れるって、妹ちゃんが妹Ⅱちゃんをお世話すること前提になってませんかね

 

18:仰げば名無し

ちょっぴりだけどヒモ姉も成長してるよ

前は百万円がきっかけだったが

今回は妹Ⅱにお世話されることがきっかけだろ

つまり小学生妹にお世話されること自体が

ダメなんじゃないかって気づき始めてる

 

19:仰げば名無し

そう言われればそうだな

ヒモ姉えらいね♡

妹ちゃんにヨシヨシしてもらえるぞ

 

20:仰げば名無し

妹ちゃんはむしろお世話させろってタイプだろ

姉には座って呼吸だけしてろってタイプ

下手にお世話をとりあげると監禁√に入りかねない

 

21:仰げば名無し

寄る辺のない小学生妹が必死にすがった結果が

家事をやるってことだったんだよ

妹ちゃんは悪くねえ

 

22:仰げば名無し

いまだに目ん玉曇りまくってるやついるなw

どう考えても、妹狼だろ

 

23:仰げば名無し

今はどうしてダブルお世話状態になったのか

そこを詳しく聞きたくはあるな

なんで妹Ⅱちゃんもヒモ姉のお世話してるん?

おかしくね?

 

24:小学生妹のヒモ姉

私も変だなとは思ったんですが

よくわかりませんでした

だからスレ建てしたんです

 

25:仰げば名無し

まあ推理には慣れてるしな

 

26:仰げば名無し

匿名だがたぶん歴戦のツワモノたちが揃ってるだろうしなw

 

27:仰げば名無し

そのうち配信でメスガキが同じ事説明するだろうから

そっち見たほうが早い気がするw

 

28:仰げば名無し

ほんそれ

 

29:仰げば名無し

ヒモ姉はメスガキに直接聞いたほうが早くないか?

 

30:小学生妹のヒモ姉

妹ちゃんに生活全般をお世話されている私が

妹ちゃんに何を聞けって言うんですか!?

 

31:仰げば名無し

そ、そうだね

ヒモ姉はヒモになりたくないんだもんね

 

32:仰げば名無し

あいかわらずコミュ障すぎる

 

33:仰げば名無し

だがしかし

メスガキが家族愛を維持したいがゆえのいじらしい行動という線は消えないわけで

そのために、あえて乗っかってる(と思いたい)ヒモ姉は直接は聞けんだろ

妹ちゃんに聞いたとしても、はぐらかされるのは確定しているわけだし

灰色の回答しか返ってこないと思うぞ

 

34:仰げば名無し

こんなところでメスガキのすべては演技でした戦法が裏目ってる

 

35:仰げば名無し

因果応報ってやつでしょ

あたい知ってる

 

36:仰げば名無し

まあとりあえず話を聞こうや

今回は動画も音声録音もないんだろうから

ヒモ姉の言葉を聞くしかねーしな

 

37:小学生妹のヒモ姉

あ、今回も動画撮ってます

なんとなく撮っておかなきゃいけない予感がして

いつもの場所に設置しておきました

 

38:仰げば名無し

小学生妹を盗撮するのが趣味なお姉さんがいるらしい

 

39:仰げば名無し

ヒモ姉。マジで今回は大丈夫なんだろうな

妹ちゃんのほうはもうしょうがねえにしろ

妹Ⅱちゃんも小学生なんだろ

 

40:小学生妹のヒモ姉

今回は自信ありますよ(ドヤ)

名前のところはP音も入ってますし、大丈夫なはずです

https://www.anetube.com/watch?v=xxxxxxxxxxxxx/channel=himonee

 

41:仰げば名無し

なんと豆腐!!!!!!

 

42:仰げば名無し

豆腐かよw

まあ……確かにプライバシーは保たれるか

音声は加工していないがギリギリ……

 

43:仰げば名無し

ヒモ姉が白い豆腐

妹ちゃんがピンク豆腐

そして妹Ⅱちゃんが黒い豆腐かな

 

44:仰げば名無し

どうでもいいけどドヤ顔すんなよ

妹ちゃんとの生活をオープンにすることに

少しは罪悪感を覚えろ

 

45:仰げば名無し

ヒモになるかならないかの瀬戸際なんだぞ

ヒモ姉の立場だと既に妹ハザード起こってんだよ

しかたねえだろ

 

46:仰げば名無し

どんなにがんばってもヒモからの脱却は無理なんだよなぁ

 

47:仰げば名無し

そして当たり前のように妹ちゃんに夕飯つくってもらってる、と

 

48:仰げば名無し

コロッケか……うまそうだな

そしてお姉ちゃんのお皿だけおっきいねw

妹ちゃんの愛情が感じられるよ

 

49:仰げば名無し

豆腐のなかに吸収されていくコロッケに奇妙な風情を感じる

 

50:仰げば名無し

妹Ⅱちゃんキレイな所作やな

豆腐だけどお嬢様っていうのなんとなくわかるわ

 

51:仰げば名無し

家族の団らんって感じ

 

52:仰げば名無し

そして一瞬でバレる

ヒモ姉が小学生妹のヒモであるという事実

 

53:仰げば名無し

いっしょに住み始めれば遅かれ早かれではある

しかし、この妹Ⅱちゃん本当に小学生か?

メスガキもそうだが、スペックが高すぎる……

最近の小学生はどうなってんだいったい

 

54:仰げば名無し

事前調査する妹Ⅱちゃんっていったいなんなん?

良いところのお嬢様なのか

 

55:仰げば名無し

あー、権力争いに巻き込まれたくなくてってパターンか

 

56:仰げば名無し

親族とは名ばかりの金と権力を追い求める連中に嫌気がさして

本当の家族になってくれそうなヒモ姉を求めたと

 

57:仰げば名無し

ヒモ姉は不幸な少女をコレクトする趣味でもあるんか

 

58:仰げば名無し

ヒモ姉のスペックがわずかばかりでも高かったら

その線もあったんだがなw

残念ながらヒモ姉が意図してそうなったわけではないと思うぞ

 

59:仰げば名無し

妹Ⅱちゃんの生い立ちもかなり凄惨ではあるな

 

60:仰げば名無し

ヒモ姉が妹Ⅱちゃんを抱きしめる

これは……悲しみの向こうへと一歩近づいたな

 

61:仰げば名無し

メスガキが絶対ぐぬぬって顔してるぞw

豆腐だけど透けて見えるわ

 

62:仰げば名無し

妹ちゃんが妹になって嬉しいとのたまう妹Ⅱちゃん

三姉妹百合が展開されててオレ氏うれし

 

63:仰げば名無し

帰ってきたカフェ・オレ氏

 

64:仰げば名無し

スレ監視員のお仕事続いてよかったねw

 

65:仰げば名無し

もうバブったりはしない!

 

66:仰げば名無し

音速遅いんだよなぁ

 

67:仰げば名無し

そしてすべて自白させられるヒモ姉であった

ねえ、小学生に正論言われて恥ずかしくないの?

秒でヒモ扱いされてるじゃんw

 

68:小学生妹のヒモ姉

ヒモじゃないもん……

 

69:仰げば名無し

動画とシンクロすんなw

かわいいね♡

 

70:仰げば名無し

妹Ⅱちゃんが妹と抱き合う。

見た目豆腐だが、これって尊くないか?

 

71:仰げば名無し

しかし、メスガキにとってはこの状況はよろしくないだろうな

なにしろ、姉のお世話をするのは妹にとっての生命線みたいなもんだろ

 

72:仰げば名無し

妹Ⅱがヒモ姉のお世話を分担する

客観的に見れば、かわいい小学生の妹たちが先を争って

朝に起こしにくるんだよな

 

「お姉ちゃん起きて♡」「お姉様起きてください♡」

 

なんだこれ。なあ、なんだよこれ。

 

73:仰げば名無し

ヒモ姉ががんばって自立する線は端から妹ちゃんズの頭にはないんだな

妹ちゃんはわかるが、数日くらいしかいっしょに暮らしてないはずの妹Ⅱちゃんからも

適切な評価をくだされてヒモ姉涙目すぎるな

 

74:仰げば名無し

ここまで見る限りでは、妹Ⅱちゃんはヒモ姉を相当慕っているように見えるな

自立までのリハビリとして自分が妹ちゃんとともにお世話するってことじゃないか

 

75:仰げば名無し

いや、どっちかといえば妹Ⅱちゃんは妹保護を優先しているように思うけどな

姉になりたい言うとるし

 

76:仰げば名無し

家族になりたいから、自分の居場所を家事に求めたんだろ

メスガキと同じだよ

ヒモ姉はすべてを受け入れてヒモになるのが正解だろ

 

77:仰げば名無し

「とらない?」とか聞くメスガキが最高に小学生してるな

年相応なメスガキも珍しい……感慨深いものがある

 

78:仰げば名無し

ヒモ姉、助けを求めるふりして自慢してないかこれ

 

79:小学生妹のヒモ姉

してないです!

妹Ⅱちゃんがどんな気持ちなのか

無理していないのかが心配なだけです

親を失ったばかりの子なんですよ

気にして当然じゃないですか

ヒモになってるのが正解ならそうします

妹ちゃんたちの気持ちが一番ですから

 

80:仰げば名無し

あー、異世界もので奴隷少女にお世話されるご主人さまの言い訳だこれw

 

81:仰げば名無し

ヒモ姉の言い分もわかるが、普通に自立しろ

せめて妹たちと家事を分担しなさいよ

 

82:仰げば名無し

正論でぶんなぐっても何も解決しないぞ

ヒモ姉は自立できない

これを前提に考えるべきじゃないか

 

83:仰げば名無し

それもまた正論

 

84:仰げば名無し

ここまでを盤面整理すると

妹Ⅱの心の内は

1、ヒモ姉の自立を促すためにあえてお世話することにした

2、妹ちゃんを保護するためにヒモ姉のお世話をすることにした

3、自分の場所を創るためにヒモ姉のお世話をすることにした

という3つの説が有力だな

このうち、3が最有力ではあるが、しかし……どうなんだろうな

正直、今のところは初日ということもあって情報が少なすぎる

いずれにしろヒモ姉は布団かぶって震えてろくらいしかアドバイスできんがw

 

85:仰げば名無し

初日ですべてがわかるセンサー持ちなんていないだろうしなぁ

 

86:FOX2

少し気になったところがあるんだが

 

87:仰げば名無し

お、狐おるやんけ

 

88:仰げば名無し

妹寝取られ狐

 

89:FOX2

>>88 やめろw

 

オレが気になったのは前日譚はないのかってとこだな

メスガキとしては妹Ⅱを受け入れるのに悩みがあったはずだ

どうしてメスガキは妹Ⅱを受け入れたんだ

なにかきっかけがあったんじゃないか

 

90:仰げば名無し

自分と似たような境遇だからじゃないか?

 

91:仰げば名無し

妹のことになるとすぐ熱くなる狐きゅんが好き♡

 

92:小学生妹のヒモ姉

そういえば妹ちゃんが、

「あのとき言ってくれたとおりに言うよ」

みたいなことを言ってました

妹ちゃんと姉妹になりたいな……みたいな内容だったと思います。

 

93:仰げば名無し

あー、ふーん

(これってどういうことなんだろうな)

 

94:仰げば名無し

まだなんとも言えんが、

ちょっと恐ろしい仮説を思いついてしまった

 

95:仰げば名無し

このスレの住民はみんな訳知り顔なのがよくないねえ

はっきり言えよ

 

96:仰げば名無し

話半分で聞いてほしいんだが思いついたのは

妹Ⅱちゃんは妹ちゃんを狙っているという仮説だ

妹ちゃん視点……、つまり狼視点でみてみろ

妹Ⅱちゃんの言動はヒモ姉を保護しようとしているのか

それとも、妹ちゃんを保護しようとしているのかわからんだろ

ヒモ姉が好きなのかそれとも妹ちゃんが好きなのか

これまでのところ判然としない

その状況を維持しつつ、自分の有利なほうへ盤面を誘導しようとしている

とか考えられないか?

 

97:仰げば名無し

はぁ……また人狼ゲームかよw

 

98:仰げば名無し

姉を妹から守りたい狩人か

妹に襲わせて道連れを狙う猫か

ってとこか

 

99:仰げば名無し

そう、つまりは『猫狩ギドラ』

こいつは強敵あらわるだな

狼にとっては天敵といってもいい

メスガキの今後に期待しようじゃないか

 

100:小学生妹のヒモ姉

あの、何言ってるのか全然わからないんですけど……

 

 




わたしにもわからん


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猫狩ギドラ

 配信の夜時間。

 わたしは呆れていた。

 

「あのさぁ~。お兄ちゃんたち頭まで雑魚だったの? いくらなんでも猫狩ギドラって牽強付会もいいところだよ。漫画やアニメじゃないんだからさぁ♡」

 

 恵子のことは速やかにお姉ちゃんに暴露され――。

 まあそれはいいんだけど、スレでの評価は猫か狩人かということで盛り上がっている。

 いくらなんでも、そりゃないでしょって話だ。

 

『せやかて工藤』

『この罵倒はあまり響かないな』

『愛が足りない罵倒はダメだぞメスガキ』

『現実を見よう』

『妹Ⅱにお姉ちゃん盗られそうで焦ってるんだろ?』

 

「いや、普通に考えて――、小学生の妹Ⅱちゃんがお姉ちゃんやわたしに欲情すると思う?」

 

『おまいう』

『そこにお姉ちゃんに欲情している小学生がいるんだよなぁ』

『鏡見てから言えよw』

『狼さんが何か言ってる』

『がおー、食べちゃうぞー』

 

「がおー♡ わたしのことはいいんだよ。全力で棚にあげよ♡ まずさ、妹Ⅱちゃんは小学生の女の子なの。メンタルは確かに強そうだけど、親を亡くしたばかりの子が、お姉ちゃんやわたしにハァハァしてたら気持ち悪いでしょ?」

 

『親を亡くして一年と経たずにお姉ちゃんにハァハァしてたのは誰だよw』

『ほんとそれ考えると、親御さんカワイソス』

『おまえはまず親御さんたちに謝れよw』

『まあ、いまでもメスガキは家族愛を求めている説もあるけどな』

『方便としてのハァハァ……そんなのもあるのか』

 

「いやいや、だぁかぁらぁ♡ わたしのことは置いておいてよ。一般的に言えば小学生がお姉ちゃんゲットぉ!とか妹ゲットォ!とか言わないって。あと天国のお父さんお母さんごめんなさい」

 

『謝ってるメスガキ素直で草』

『謝ったら許さない』

『謝っても許されないんだよなぁ』

『実例が目の前にいるから仕方ないだろ』

『おまえがやってきたことを省みろ』

『考えるべき可能性を考えないで敗北しても知らんぞ。¥100』

 

 う。メスガキスキーお兄ちゃんにスパチャとともに正論を投げつけられてしまった。

 

「わかった。じゃあ少し考察してみようか。お兄ちゃんたちは考察得意だからわかるよね♡」

 

『任せろ!』

『少なくともヒモ姉よりは考えられるぞ!』

『ヒモ姉と比べたら小学生のほうがまだ考察力高そうだからなw』

『ヒモ姉がこの配信見てたらかわいそうかわいい』

 

「ああ……、お姉ちゃんは普段配信を見てないっぽいよ。特にお姉ちゃん配信についてはわたしとコラボするとき以外は見てないみたい。だから存分に夜時間を吠えて過ごそうね♡」

 

『わおーん』

『わんわーん』

『でもオレら狂人なんだよなぁ』

『とりま、考えるべきは――妹Ⅱの属性だな。¥100』

 

 ふむ。妹Ⅱの属性か。

 

「MSGK泣かし隊のお兄さん。頼りにしてるね♡ ええっと……それじゃあ、猫狩ギドラについて考えてみようか。まず、妹Ⅱが猫だった場合だけど、この線はおそらく無いだろうと思っています♡」

 

『そりゃ狙われる立場だと考えるのはこわかろーてw』

『猫=メスガキ狙いという考えだからな』

『嚙みしめろメスガキ。今の状況がおまえがお姉ちゃんにやってきたことだぞ!』

『メスガキはなによりもまずお姉ちゃんに謝るべき』

『戒メロン』

『仮説なんだから、まずは猫だと仮置きして考えてみな。¥200』

 

「ふむん♡」

 

 わたしは唇に手をあてる。

 確かに仮置きして考えないと始まらないか。

 もしも、恵子が猫だった場合、つまりわたしを狙っていたとしたらどうなるか。

 ゾワンとした。

 いや、べつに気持ち悪いとかそういうのではない。

 ただ、生存本能が脅かされることに対して忌避感が湧いた。

 

 

 猫という役職は、狼に噛まれれば狼を道連れにし、もし吊られれば誰かひとりを道連れにする。

 その誰かというのは、お姉ちゃんかもしれないし、わたしかもしれない。

 

 そんな状況で、もしもお姉ちゃんがわたしではなく恵子を選んだらどうだろう。

 

 考えたくもないが、お姉ちゃんをネトラレてしまったわたしは脳が破壊されて、盤面から退場してしまうかもしれない。あるいは、お姉ちゃんは子どもを虐待した犯罪者としての自責の念に耐えきれず、これまた盤面から退場してしまうかもしれない。

 

 つまり、恵子が狼ではないかと誤認し吊られれば――。

 お姉ちゃんに恵子が選ばれれば――。

 任意の誰かが道連れにされる猫ルーレット、通称()()()が発生する。

 わたしかお姉ちゃんかのいずれかは盤面から去ることになる。

 

 恵子がどこまで考えているかはわからないが、もしそうなったら、お姉ちゃんを失った傷心のわたしを追いかけるつもりなのかもしれないし、あるいはお姉ちゃんがいなくなった未成年だけの家庭をどこか適当な誰かを後見人として紐づけてわたしを飼うつもりなのかもしれない。

 

 もちろん。それは確率的には低い話。

 恵子の本命がわたしで――。

 にもかかわらずお姉ちゃんに好き好き光線を発射するというのはいかにも迂遠だし。

 そもそも恵子がお姉ちゃんに選ばれなかった場合はどうなるんだ?

 つまり、恵子がブラフとしてお姉ちゃん好き好きしても、受け入れられなかった場合は?

 

 そこまでの推理をみんなに披露する。

 

『選ばれなかった場合か』

『どうなるんだろうな』

『小学生の恋は成就しない様をメスガキに見せつけることになるとか?』

『WSS案件になるから、メスガキはかなり不利になるぞ。¥2000』

 

「ん。わからせマンお兄ちゃん。ありがとー。ところでWSSってなに?」

 

『ん。さすがにWSSはメスガキでも知らなかったか。WSSというのは、「わたしのほうが先に好きだったのに」という言葉の略で、要するにメスガキが告白する前に妹Ⅱが告白してしまうと、そのCOが成功するにしろ、しないにしろ、ヒモ姉は心に防壁ができてしまい、メスガキは失敗する可能性が高まるということだ。¥100』

 

「なにそれ! ゆるさん!」

 

『小学生らしい激高でほほえまーw』

『WSSでぐぬぬとなるってことか』

『狼として吊られた時点で、妹Ⅱは戦略を通したことになるのか』

『猫ルー狙いの猫って上級者すぎて怖w』

 

「いやでもさ。そのあとに猫はわたしをゲットできるわけ? お姉ちゃんに告白を断られたとして、その後にわたしに乗り換えるように見えるわけでしょ。節操なくない?」

 

『モラトリアムの時間が創れるわよ。¥200』

 

「あ、おねロリのおねお兄ちゃん。モラトリアムって?」

 

『WSSによってメスガキちゃんは告白ができなくなるってこと。そうすれば、時間は無限にあるのだから、猫はゆっくり狼を調理すればいいの。私としてはそれでもぜんぜんおいしいのだけどもね。メスガキちゃんが一番かわいいから守りたいわ』

 

「そうか。なるほどね。お姉ちゃんが妹Ⅱの告白を断っておきながら、わたしの告白を受け入れるというのはダブスタ気味になってしまうから受け入れない。仮にわたしが大人になれば――、そのときは成就する可能性があるけれど、それまでの間にわたしを堕とすって魂胆か」

 

 舐められたもんだな。

 狼の狩りはしつこいんだぞ。

 狙った獲物は絶対にあきらめたりはしない。

 

「じゃあ、その場合はわたしがお姉ちゃんをあきらめなければ問題ないよね?」

 

『まあそりゃそうだが』

『むしろ、ずーっと成功しない状況に持っていかれるかもしれんぞ』

『そもそも、ヒモ姉がノーマルだったら端から無理な件』

『メスガキの姉をヒモにする計画は破綻しちゃうよなぁ』

 

 くっ。そうか。

 恵子が現れた時点で考えるべきだった。

 お姉ちゃんのお世話を恵子と分担している今の状況では。

 わたしだけのお姉ちゃんではなくなっている。

 時間は既に味方じゃない。

 

「あ、じゃあ――噛みつけばいいんじゃないかな」

 

 わたしはとっさに思いついたことを口にする。

 

『猫を噛むとか正気かw』

『メスガキは初心者狼さんだったんでちゅね』

『かわいいな。メスガキ♡ 小学生らしい発想ですここびっち』

 

 煽るな煽るな。

 お兄ちゃんたちは人狼ゲームというお遊びに惑わされすぎなんだよ。

 

「漫画やアニメじゃあるまいし、これは現実なんだからさ♡ 例えば、わたしが狙われてるとか言って、妹Ⅱを追い出すって方向性だって考えられるわけじゃない。それが噛むってことだよ♡」

 

『その噛みは通るか?』

『ンー。現実的に考えると、それってありえないシチュエーションなんじゃ』

『小学生に襲われる小学生ってことか。ヒモ姉がそれを信じるのかねえ?』

『オレ氏もそう思います。¥100』

『オレ氏は人の意見に乗っかるだけじゃなくてなんか意見だせよw』

『バブってオギャる。それがオレ氏クオリティ』

 

「確かに小学生が小学生に言い寄るっていうのは、ちょっと考えにくいシチュだとは思うけど、生活を続ける中で、もし本当に妹Ⅱが猫だったらそのうち尻尾を出すんじゃない?」

 

『絶対罠だそれ』

『こんな簡単なトラップにひっかかるのね。おかわいいこと♥』

『そうやって狼を焦れさせて踏ませるのが猫の手口』

『絶対にやめたほうがいい。いやな予感がぷんぷんするぜ……。¥100』

『本当にわたくしに噛みついたらどうですとか言われそう』

 

「MSGK泣かし隊の兄貴が言うんならやめといたほうがいいのかな」

 

 正直、よくわからんのよな。

 人狼に喩えて話をしているわけだけど、現実的に恵子がわたしに言い寄るってシチュ自体が、想像の埒外だからなぁ。推理を伸ばしてみても違和感バリバリ。会議は踊ってもしかたないところはある。

 

 あらためて考えてみて。

 

――恵子が猫の可能性は本当にあるのだろうか。

 

「じゃあ、次に狩人の場合だけど――、わたしはこっちの線のほうが高いと思うな」

 

 恵子が狩人であればどうか。

 復習になるが、狩人は狼の襲撃から村人を守る存在だ。

 狼が人を喰い殺す悪であるなら。

 狩人は正義を体現するヒーロー的な役割を果たす。

 

 わたしが考えるのは、赤ずきんちゃんの()()()の話。

 狩人に助けられた赤ずきんちゃんは、その後、狩人に対して恋心を抱かないだろうか。

 

 お姉ちゃんはノーマルだからそれはないと思いたい。思いたいが――。

 

 少なくとも『家族』という枠組を保持しようとする狩人と手をとりあう可能性は高い。

 昼時間(モラトリアム)が過ぎ去ったあと、狼がいなくなった村は復興を目指す。

 現実的にはわたしも成年に達するまでは同じ家に住み続けることはできるだろうが、一度拒否された恋が成就する可能性は限りなく低いということになる。吊られた狼は草場の陰からその様子を見続けることになる。嫌すぎる状況だ。

 でも、猫のときと同じように違和感がある。

 小学生がお姉ちゃんに恋してるってありうるのか。

 いやわたしという実例があるのは重々承知しているところではあるが。

 

「やっぱり家族という()()を維持したいだけというのが本線だよね……」

 

『それはそうだが、強化狩人だった場合はどうするんだ? ¥3000』

 

「萌えるお兄さんお兄ちゃん。スパチャありがとう。強化狩人か……」

 

――強化狩人。

 

 狩人には特殊能力持ちの強化狩人というものも存在する。

 強化狩人は、狼だろうが狐だろうが村人だろうが、自由に射殺ができる。

 

 もしも、恵子がお姉ちゃんのことを好きで、わたしを邪魔な存在として排除したいと思っているなら、わたしを射殺してしまえばいい。要するにお姉ちゃんを狙っている悪い狼であると告発すればいい。この場合も、ノーマル狩人と同じく、しばらくは家に住み続けることはできるだろうが、それまでガッチリとお姉ちゃんをガードしつづけて、わたしがいなくなった後にしっぽりと――みたいなことも考えられる。

 

「結局……どうすればいいのかなぁ……」

 

『涙声なメスガキがかわいそうかわいい』

『メスガキが猫に踊らされてるよ! かわいいね』

『妹Ⅱの要素が足りなさ過ぎてこれだけじゃ判断はつかんな』

『盤面整理兄貴。早く来てくれ。オレはもうワケがわからないよ!』

 

「そうだよ。盤面整理兄貴。お願いします!」

 

 頭を下げると――。

 どこからともなく現れる盤面整理兄貴。

 

『盤面整理をする。妹Ⅱが猫である場合、猫はメスガキが好きだ。それで狼であることを装い姉に拒否されることで猫ルーを発生させるか、あるいは狼に噛まれることでメスガキを道連れにする。この場合、メスガキは絶対に猫を噛まないほうがいい。なにかしら罠が仕掛けられている可能性が高いというのが歴戦のつわものの見識だ。¥100』

 

「んーまあそういう感じか。じゃあどうすりゃいいのわたし」

 

『この場合、姉を素直に噛めばいいということになるが、話はそううまくはいかない。¥100』

 

「狩人の場合があるからね」

 

『そのとおりだ。妹Ⅱが狩人の場合、姉を守っている可能性がある。それが秩序を維持したいからか姉を好きだからかはわからないが、いずれにしろ、狼の襲撃は防がれてしまう。狼は吊られてしまい、最終的には狩人と村人はしっぽり暮らすか、あるいは恋とは無縁な平穏な家庭が築かれるかはわからんが、メスガキの想いは破綻する。¥100』

 

「じゃあ、妹Ⅱを糾弾したら」

 

『猫かもしれんので噛めない。¥100』

 

「どうすりゃいいのおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」

 

『悲報。メスガキ壊れる』

『姉をいたぶってきたツケが回ってきたんだ。あきらメロン』

『いやまあ普通にノーマル狩人で恋とは無縁なやわらか仲良し家庭を築きたいだけだろ』

『仲良し家庭を築きたいだけだとしたら、妹Ⅱちゃんけなげ』

『あ……いいこと思いついた。¥100』

 

「なに。ムカチャッカ半島お兄ちゃん」

 

 ムスっとした口調になるのは許してほしい。

 わたしは軽く絶望しているんだ。

 

『スリーピースでひとつなぎの秘宝を求める。略して3Pすればいいんじゃね? ¥5000』

『小学生の配信でなんてこというんだ。おまえw』

『赤スパだけどこれは許されないだろw』

『草しか生えない最高に丸い回答で笑った』

『おまえそれはヒモ姉が犯罪者ルートじゃねえかw』

 

「だめだこりゃ……」

 

 ドリフ的に終わる夜会議だった。

 

 

 ※

 

 

 

 奇妙な感覚。

 悪くはない。

 けして悪くはないが。

 なにかしら侵入されているような。

 なにかしら冒涜されているような。

 一匹狼としての矜持を踏みにじられているような気分。

 

――これが飼いならされる気持ちか。

 

 与えられる感覚としては気持ちいいの一言。

 ほとんどお姉ちゃんから与えられるものではなかったそれ。

 わたしからの、ではなく――。

 わたしが与えられる刺激。

 

――恵子に髪を梳かれていた。

 

 丁寧に丁寧に。

 ブラシで髪を梳かされている。

 心が――安らぐ。

 これ以上なく安心する。

 なにかしら庇護されている気持ちになる。

 実際に、一歳年上とはいえ、恵子が姉的ポジションであることは間違いないだろう。

 妹が姉に庇護される。

 それはなにもまちがっているはずがない。

 なにもおかしなことではないはずだ。

 前にも言ったが、わたしは誰かに撫でられるのは嫌いじゃなかった。

 ほんのり触れる指先から伝わる熱。

 そこに含まれる暖かな人の情は、孤独な狼を癒すに十分だったから。

 

「うふ♡」恵子がわたしの髪にそっと手を添える。「もったいないですよ異空ちゃん」

 

「え、なにが?」

 

「髪の毛です。お手入れしないともったいないです。せっかくこんなにキレイなのに」

 

「簡単なお手入れくらいしてるよ。ブラッシングもしてるし」

 

 鏡越しに見える恵子は首を振った。

 どうやら答えとしては落第点らしい。

 

「いいですか。女の子の髪は()なんです」

 

 視線でわかっているだろうと問われているみたいだった。

 確かにそのとおり。

 わたしはお姉ちゃんの髪を毎日毎朝毎晩梳かしている。

 お姉ちゃんはそのままでもかわいいが、その素材を活かさないのは実にもったいない。

 髪は女の命なんだから、少しぐらい省みてと、お姉ちゃんには言いたい。

 わたしがお姉ちゃんをお世話する理由(わけ)をそっくりそのまま言語化されているのだから、否定のしようもない。もちろん、わたしはわたし自身のこともそれなりに綺麗にしようとは思っている。お洒落にも気を使ってるし、今時の女の子の水準には達しているはず。せっかくとびきりカワイイ女の子になったのだから、自分自身を高めないのはもったいないからな。

 そこで得た技術をお姉ちゃんに使えるというメリットもあるわけだし……。

 

「異空ちゃんはお姉様を()()()()()()です」

 

 思考が先回りされている。

 

「そんなことないよ」

 

「そんなことありますよ。ですから自分のことは()()()になってしまってるのでしょう。実際にほら、ここに証拠があるのですから」

 

 白銀の髪をすくって見せる。

 いつもより少しだけ輝いて見えるそれは、わたしの怠慢の証拠として提出された。

 わたしができたのは沈黙を返すのみ。

 恵子はうっすらと笑う。

 

「それに――髪は女の武装です」

 

「武装……?」

 

 そりゃまたぶっそうな。

 益体もないギャグが浮かんだが、もちろん言いたいことはわかる。

 

「ストレートヘアだけではなく、いろいろな髪型を試してみるのもいいと思います」

 

「そんなの恵子ちゃんも――」

 

 ストレートロングヘアじゃん。

 もちろん、ツヤツヤで光を浴びたら天使の輪っかがでるくらいキレイで。

 けっして、なにもしてないわけではないのだろうけど。

 髪型としてはごく普通といえる。

 わたしとほとんど変わるところはない。

 

「いまは異空ちゃんのことです」

 

「でも……」

 

 髪の毛という()()()を持たれてるせいか。

 わたしはいまいち反抗的な気分になれない。

 

「メンドウくさいよ」と。

 

 本当にメンドウくさかったので適当な答えを返してしまった。

 

「わたくしがやってあげます」

 

「いいよ。時間がもったいないよ」

 

「そうではありません。異空ちゃんはお姉様のお世話をすることに喜んでいるのでしょう? 楽しんでいるのでしょう? わたしにもその喜びを味わわせてください。妹をお世話する楽しみを与えてください」

 

 恵子は、わたしの心を正確に見抜いている。

 まさか、姉に欲情しているとまでは考えていないだろうが。

 お姉ちゃんを依存させることで得られる喜びは本当だ。

 

「いいけど……」

 

「ありがとうございます。では少し編みこんでみましょう♡」

 

 宣言通り、恵子はわたしの髪をいじるのが楽しいようだ。

 いそいそとわたしの髪をもてあそんでいる。

 わたしはなされるがまま。

 髪の毛をいじられるときに何かできることはないからそれは当然と言えたが、わたしがまな板の上の死んだ魚みたいな目になるのは、先日の配信でお兄ちゃんたちの推理を聞いたからだろう。

 

――猫狩ギドラ。

 

 猫という役職は、狼に嚙まれれば狼を道連れにし、もし吊られれば誰かひとりを道連れにする。

 お兄ちゃん達の指摘は、端的に言えば、恵子が私のことを好きなんじゃないかというものだ。

 

 あるいは狩人として家族を守ろうとしている。

 家族という概念を。

 

 もしくは強化狩人として、わたしという狼を排斥しようとする布石。

 

 ……要素を拾えない。

 

 恵子がどういう想いで、わたしにかまうのかわからない。

 

「はい。できましたよ」

 

 編みこまれた髪は後ろで結ばれている。

 わたし、()()()()()()()()()()

 それはけっして嫌な感覚ではない。

 誰かにお世話されるのは悪い気分じゃないし。

 恵子のこともちょっぴり家族とは思い始めてるから。

 

「ありがとう」

 

「それにしても――」

 

「ん?」

 

「異空ちゃんは綺麗でかわいいですね」

 

「そうかなぁ」

 

「そうですよ。わたくしにとってはかわいい妹です」

 

 最後に髪留めを装着させてもらう。

 いつもより少しだけかわいいわたしが完成する。

 そして――、ふっと湿り気のある感触。

 わたしのほっぺたに、恵子の唇がおりていた。

 

「あ、ああ……なにするの」

 

「異空ちゃんがかわいすぎて、つい――ね♡」

 

 こいつは本当に一体何なんだ。

 

 猫か狩人か。

 

 わたしにはわからない。

 

 誰か助けて!




見た目的には単に姉妹百合が展開されてるだけという


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改訂。明るいお姉ちゃん計画。

 みんなが寝静まった夜。

 狼さえも眠りに落ちる時間。

 

「異空ちゃんは眠る宝石のようですわね」

 

 わたしはささやかれている。

 耳元で覆いかぶさるようにして少女の声が聞こえる。

 さざなみのように小さな声。

 

 わたしはベッドに縛りつけられていた。

 手足に巻きついているのは縄のような硬いものではなく赤とピンクに彩られたリボンだ。

 動かそうと思えば動かせないほどではない。

 けれど、意識が朦朧として、身体は満足に動かない。

 まぶたさえも閉じ切ったまま。

身体の芯が奇妙に熱い。

 

「はっ……はっ……」

 

 狼がそうするように、わたしは小さく息を吐く。

 熱が逃げない。

 逃げられない。

 熱い――。

 わたしの頬に少女の吐息があたっている。

 かろうじて目を開けると、そこには黒曜石のような瞳が視界いっぱいに広がっていた。

 視線を合わせると、黒の(ひずみ)の中に吸いこまれていきそうだ。

 

「異空ちゃんの瞳はアレキサンドライトのようですわね。わたくしが生きてきた中で出逢った最高の――。秘めたる想いを解き放つ輝く断片。ああ……欲しい……」

 

「え、恵子ちゃん、わたしを、た、食べたいの?」

 

「そうですわね。()()()()()一興」

 

――それもまた?

 

 疑問のうちに視界を動かすと、隣にはお姉ちゃんが眠っていた。

 悪い魔女に毒をもられた眠り姫のように瞳は閉じられている。

 わたしと同じようにリボンで拘束されていた。

 

「お、お姉ちゃん!」

 

 わたしは叫んだ。けれど、お姉ちゃんは起きない。

 恵子は、わたしに見せつけるようにお姉ちゃんの頬を撫でる。

 

「んっ……」

 

 頬から唇へ撫でまわし、髪をひとすくいして花をかぐような仕草をする。

 見ているうちに、息が苦しくなった。

 わたしは必死に無様な吠え声をあげ続ける。

 

「お姉様の瞳はさながらアンダリュサイト。控えめながら輝く宝石。こちらもまた捨てがたい」

 

 お姉ちゃんはうっすらと瞳を開けていた。

 恵子はお姉ちゃんを覗きこむように観察している。

 その顔は喜悦に染まっている。

 それを隠そうともしていない!

 

「やめて。お姉ちゃんを食べないで!」

 

 恵子は見せつけるように、お姉ちゃんの頬にキスをした。

 不条理な――。

 あまりにも理解が及ばない展開。

 ヤダ! ヤダ! 恐怖と混乱に思考がグチャグチャになる!

 

「わたくし、欲しいものは()()()自分のものにする主義ですのよ」

 

 そんなの――おかしい。

 欲張りすぎる。

 わたしだって欲しいものはひとつに絞っているのに……。

 あれもこれも欲しいなんて、もはや猫でも狩人でもない。

 狼陣営も村人陣営も関係なく、ただひたすら我が道を行く。

 他者を歯牙にもかけず。

 他者を歯牙にかけゆく存在。

 

「いただきまぁす♡」

 

 そんなの。

 

 そんなの――。

 

――ただの()()()じゃん!

 

 

 

 

 

 ハッと目が覚めた。

 

 ドリームか……。マジ焦ったぁ……。

 ものすごい寝汗をかいている。

 

『異空ちゃん起きて朝だよ』

 

 いつものお姉ちゃんボイスを止めて、わたしはうにゅーんと伸びをする。

 張りついたパジャマのなかにぱたぱたと空気を入れて少し涼む。

 

 心臓はいまだドキドキしている。

 

 スマホを見ると、もう朝の七時か。

 お姉ちゃんボイスは既に三十分近くもスヌーズを繰り返していることになる。

 今日は祝日ということもあってか、昨日は少し夜更かしをしてしまった。

 悪夢を見た原因はたぶんそのせいだろう。

 

 それにしても、スリーピースとはいったい。

 お兄ちゃんたちが変なこというからあんな夢を見たんだ。そうに違いない。

 

 だいたいこちとら小学生だぞ。少しは加減しろ。えちえちな会話をブロックしたことはないが、いくらなんでもそりゃないって。恵子がお姉ちゃんとわたしの両取りを狙っているとか、どんな属性だよって話。

 

 世の中は広いからハーレムやら逆ハーレムやらもありえなくはないが――。

 しかし、冷静に考えてほしい。

 唯一の肉親を亡くした小学生が、性的な意味で姉妹を堕とそうと狙っているとか考えられるか?

 ありえん。半分くらいはブーメランになってる気がするが、わたしだって節操というものは持ち合わせているつもりだ。

 恵子がドラクエの魔王のように、ふたりでお姉ちゃんを分かちあおうとか言ってきても、わたしは断固拒否するね。

 やはり本線は家族愛が欲しくてがんばってるってところだろ。

 

 家族に異分子が混じるなんて、言葉にすれば数文字程度のことだけど、そこには言葉にできないほどの努力と時間が費やされているものだからな。わたしだってそうだった。お姉ちゃんが好きすぎて、暴走しないようにこれまで我慢してきたんだからな。お姉ちゃんもきっとそうだろう。誰かといっしょに暮らすということに、お姉ちゃんが努力をしなかったわけがない。いくら仲良し姉妹でも……。

 

――家族になるには我慢が必要。

 

 これはわたしの実体験から導き出された真実だ。

 どういう種類の我慢かは人によるだろうけどな。

 

 

 

 ※

 

 

 

 さて――。

 今日はお姉ちゃんも休みだから、ゆっくりと朝の支度ができる。

 今日はお姉ちゃんが大好きなパンケーキでも作ろうかな。

 ようやく夢のことを忘れかけ、今朝の献立をあれこれ考える。

 それから着替えてソロソロと部屋を出ると、思いがけず声が聞こえてきた。

 

「……様。……さい」

 

 防音のきいたお姉ちゃんの部屋からは閉め切っていれば中の音が聞こえてくることはない。

 頭がまっしろになるというのはこのことだろう。

 わたしはまだ恵子に部屋の合鍵を渡していないが、お姉ちゃんは既に恵子に渡しているところを見た。その意味するところはただ一つ。

 声が聞こえるとしたら、恵子がお姉ちゃんの部屋に侵入していることしか考えられない。

 

「お姉様。起きてください」

 

――ドアは少しだけ開いていた。

 

「本当にお姉様は眠り姫のようですわね。王子様のキスで起こす必要があるのでしょうか」

 

 わたしは目を見開いて、その少しだけ開かれた隙間を注視する。

 想起するのはさきほどの夢の内容。

 お姉ちゃんが恵子に襲われている映像。

 

「お姉ちゃん!」

 

 わたしはドアを思いっきり開け放った!

 そこには、予想通り恵子がお姉ちゃんを優しく揺り起こしてる姿があった。

 

「あら――」恵子がこちらを向いた。「異空ちゃん。起きたのですわね」

 

「どうして恵子ちゃんが……」

 

「ここにいるかですか。それは異空ちゃんが起きなかったからです」

 

「確かにそうだけど」

 

「何度もベルを鳴らしましたのよ。ですが起きてくる気配はありませんでしたので」

 

「そうだけどぉ……」

 

 恵子の指はお姉ちゃんの肩のあたりにとどまっている。

 モゾモゾと動くお姉ちゃん。

 あっ……あっ。お姉ちゃんが起きちゃう。

 覚醒が近いのは長年の経験ですぐにわかった。

 

「ふやぁ。あれぇ。今日は恵子ちゃんだぁ。おはよう」

 

 起きちゃった……。

 お姉ちゃんがわたしじゃなくて、恵子に起こされちゃった。

 

 わたしの姿に気づいたお姉ちゃんはポヤンとした顔でわたしに視線を投げる。

 

「あ、異空ちゃんもいたんだ。おはよう」

 

「む~~~~ん」

 

 他意がないのはわかってる。

 でも、わたしがついでみたいに言われたのがすごくすごく不満だ。

 のっしのっし歩いて、わたしはドアをバタンと閉めてその場から遁走した。

 

 口を開けばキタナイ言葉がとびだしそうで。

 自分の感情を制御できそうになかった。

 

 わたしは我慢したんだ。

 

 

 

 ※

 

 

 

 感情ぐちゃぐちゃ丸である。

 

 お姉ちゃんはあれから恵子によって着替えさせられリビングルームに降りてきた。

 

 着ている服はレトロ風なワンピース。

 ウェストのあたりをキュッと引き絞り、お姉ちゃんの豊満な身体のメリハリを際立たせ上品に見せている。そして首元には青細いネクタイを緩く垂らしており、わたしの趣味とは違うが、センスの良さを感じさせた。

 

 お姉ちゃんがいつもよりかっこよく見える。

 それは常ならばわたしにとってもハッピー要素なんだけど……。

 当然のことながらわたしは素直に喜べない。

 

 お姉ちゃんが恵子の思うがままに、コーディネイトされて。

 恵子好みのお姉ちゃんにさせられて。

 お姉ちゃんもそれを受け入れて少しうれしそうに見える。

 

 そして――。

 もうひとつ許せなかったのは、()()

 皿にのっけてあるパンケーキにわたしはフォークをぶっ刺した。

 

 既にわたしは周回遅れ状態だった。

 起きたときには先手をとられ、朝食は既に作られていたのだ。

 朝ごはんはわたしが作る約束なのに。

 

「恵子ちゃんもお料理上手だねぇ」

 

「お姉様のお口にあったようでなによりです」

 

 恵子が無難に応えをかえした。

 

 お姉ちゃんのお皿にはパンケーキが三段重ねで置いてある。

 お姉ちゃんの好きな甘いハチミツがたっぷりとかけられている。

 それをお姉ちゃんはニコニコしながらパクついている。

 

――むうぅぅぅぅぅぅん。

 

 風船のようにわたしの頬が膨らんでいく。

 お姉ちゃんの節操なし!

 という言葉が口まで出かかったが、パンケーキを口いっぱいほおばることで飲みこんだ。

 

 ふと、恵子と視線が交差した。

 

 その視線にどんな意味があるかはわからない。

 少しわたしをうかがうようなそんな視線。

 

 そして沈黙。

 ナイフとフォークがお皿とキスする音が食卓を支配する。

 

「あの――」

 

 恵子が沈黙を破った。

 

「異空ちゃん。本当にごめんなさい」

 

「え、突然どうしたの?」

 

 わたしの代わりにお姉ちゃんが疑問を口にする。

 やはり、恵子はわかっていたらしい。

 わたしの不満も。やるせなさも。吊られた狼の気分も。

 全部わかっていたみたいだ。

 やっぱりこいつはお姉ちゃん狙いの狩人なんじゃないか?

 でも、だとしたらどうして謝るんだろう。

 

「異空ちゃんとの約束を破ってしまったんです」

 

「約束?」

 

「お姉様を朝起こすときはいっしょに。朝食は異空ちゃんが作るという約束でした」

 

「そ、そうなんだね……なんか妹たちに計画的にヒモにされていってるような……」

 

「約束を破るのは悪いと思ったのですが、今朝方は起きてくる気配がなく、わたくしが先走ってしまったのです。家族としてどうしてもお役にたちたくて、お姉様を起こし妹を起こさないのが、()()()()()()()()()わたくしの勤めだと思いまして」

 

 そこまで解説されてしまうと、こちらとしても感情の置き所がなくなる。

 

「とらないって言ったのに……。恵子ちゃんのうそつき!」

 

 ついに言ってしまった。

 わたしはまるきり子どものように道理の通らないことを喚き散らしている。

 

「そうですわね。誓いますわ。今後は絶対に約束を破りません。お姉様のお世話はひとりで勝手にいたしませんから、どうか許してくださいませ」

 

「……むうう」

 

 そこまで言われてしまうと、恵子の気持ちにも少しは共感するところがでてくる。

 お姉ちゃんのことが好きとかそういうのではなく、家族としてのポジションを手に入れようとした結果だとすれば、恵子の行動もわからんではないからな。

 

 ただ、お姉ちゃんをとられてしまったというような感覚が湧いて、どうにも恵子の言葉を受け入れられない自分がいた。

 

 我ながら狭量だとは思うけど、わたしにとっては絶対に譲れない無二の宝石だからだ。

 

 そんな葛藤を抱いていると、視界に影が伸びた。

 お姉ちゃんだった。

 

「ふやっ♡」

 

 わたしはお姉ちゃんに抱きしめられていた。

 やわらかい物体に顔がうずまり、溺れそうなくらいの愛情で包まれている気分だ。

 わたしに押し出されるようにしてはみ出たお肉が周りに広がる。

 知らなかった。おっぱいって液体だったんだ。

 これぞまさしくアルキメデスの法則。

 

「異空ちゃん。お姉ちゃんは異空ちゃんのお姉ちゃんだよ。だからごめんね」

 

「お姉ちゃん♡」

 

 即落ち二コマもいいとこだが、お姉ちゃんはわかっていないなりにわたしのことを気にかけてくれた。そのことがうれしくて、こころの中が暖かいもので満たされる。

 

 実をいうと、恵子に対する怒りや敵愾心というのは不思議とそんなに湧かなかった。

 

 それよりもお姉ちゃんが無頓着なことのほうがわたしにとってのダメージだったんだ。

 

 お姉ちゃんが気にかけてくれるなら、わたしはすべてのことを許せる気がする。

 

「お姉ちゃんどこにも行かないで♡」

 

 わたしは渾身の力をこめて頭をすりつける。

 あざとい。我ながらあざといが――。

 お姉ちゃんをとられそうで嫉妬したのは本当のことだ。

 演技2割本心9割で構成された、まごうことなき妹プレイ。

 これに落ちないお姉ちゃんはあんまりいないといっておこう!

 

「うんうん。私はどこにも行かないよ」

 

「お姉ちゃん好き……♡」

 

 それにしても、まさかこういう流れになるとはな。

 棚からお姉ちゃんとはこのことだ。

 その結果をもたらした恵子に、わずかながら感謝の念も生じる。

 

「少しだけ羨ましいです」

 

 知らぬ間に恵子が近づいてきていた。

 ぽろりとこぼすようにつぶやくのは幼い嫉妬心。

 それはどちらに対して抱いたものだろう。

 

 お姉ちゃんはわたしからおっぱいを離し、なんとも言い難い顔をしている。

 その意味するところはわかっている。

 お姉ちゃんは恵子のことも家族として抱きしめたいのだろう。

 でも、わたしの手前、本当にそうしてよいのかわたしに確認しようとしている。

 言葉がでてこず悩まし気な表情。

 し、しかたないにゃぁ。

 ここは大人のわたしが大度を見せるとき。

 

「いいよ。お姉ちゃん」

 

 お姉ちゃんは視線で確認するように「いいの?」と聞いてるみたいだった。

 

 わたしは頷く。

 

 お姉ちゃんとわたしは片腕を開いて恵子を迎え入れた。

 

「ありがとうございます。本当に嬉しいです」

 

 恵子は雛鳥のように飛びこんで、三姉妹は仲良く抱き合ってましたとさ。

 

 おしまい♡

 

 あれ、でもちょっと待てよ。

 

 もしも、恵子がここまで読み切ってたとしたら……怖くね?

 

 

 

 ※

 

 

 

 そんなわけないよな。

 

 いくらなんでも、わたしを嫉妬させて、お姉ちゃんに慰撫させ、さらには自分も慰撫されなきゃ死んじゃう的な主張をすることで、わたしも恵子を受け入れざるをえないような状況を創り出し、うまく家族ポジとしての地位を確立するとか……。

 

 言葉にしてみたら、すごすぎる策略だが。マジだったとしたら天才すぎてビビるわこんなん。

 

 いやいやいやいや考えすぎだろう。

 

 おまえの頭ン中、人狼ゲームかよ。

 

 最近は、お兄ちゃんたちと遊びすぎて、そんなふうに偏った考えになってしまったに違いない。

 

 そうだ。そうだよ。恵子ちゃんはええコ。恵子ちゃんはええコ。

 

 恵子はわたしを傷つけるようなことはしない。もたされたのは利益のみだ。

 

――状況はきわめて良好。

 

 あれからわたしは『時間割』を創り出した。

 

 恵子との口約束を文面化した感じだな。

 

 内容は、今日のメイン担当は誰か。つまりこれは全般的なお姉ちゃんコンシェルジュサービスについて誰が担当するかという話。個別には朝起こす係。朝食を作る係。お弁当を作る係。買い物に行く係。お姉ちゃんと添い寝する係などなど。

 

 学校の時間割のように、そこには一週間の予定がすべて書かれてあった。

 まさしくお姉ちゃんヒモ化計画の新しい素描である。

 

 お姉ちゃんは「ははは……妹ちゃんたちのお世話がすごすぎる件について」とか言って現実逃避してたけど、抵抗は無意味だ。お姉ちゃんは小学生妹たちのヒモになれ♡

 

 もちろん、お姉ちゃんには全部覚えてもらって、もしも万が一間違っていたら、そのことを指摘してもらうようにしてもらった。ダブルチェック大事。超大事。お姉ちゃんはただ漫然とお世話を受けるのではなく、常にだれにお世話されているのか意識していなければならない。

 

 なにしろ、これは恵子も()()()()()考えたものだ。妹ふたりによってつくられた計画をお姉ちゃんがひとりで拒否できるわけがない。

 

――わたし、パワープレイの楽しさ知っちゃった♡

 

 そして、恵子は今わたしの隣を歩いている。今日はいっしょにお買い物する予定だ。というか午前中の段階で、そのように決定した。

 

 お姉ちゃんは大学の課題があるとかでついてこれなかったが、まあほとんどいつもわたしひとりで買い物しているわけだから問題はない。お姉ちゃんはついてこれるときはちゃんといっしょについてきてるよ。そのあたりは常識的なお姉ちゃんだからね。

 

 俯瞰的に見ればだ――。

 

 恵子は家族が欲しいだけの優しい女の子で、わたしのこともお姉ちゃんのことも想ってくれている。

 わたしがお姉ちゃんに情欲を抱いているから、偏って見えるだけであって、普通はこんなイイ子いないよってくらい性格もいい。

 歪んでいたのは、わたしの瞳のほうだったんだ。

 

 わたしは恵子と手を繋いで歩いている。

 そして、もう片方の手は高齢者が使うような手押し車を引いている。

 無地に花柄のついたいかにも女児っぽい一品だが、内実はあくまでシルバーカー。

 これをわたしはキャリーバッグのように引きずって買い物にでかけている。

 残念ながら重い買い物袋を引きずって歩くだけの体力はわたしには無いんだ。

 

 買い物すがら、高校生くらいのお姉さんたちに「かわいいー♡ お姉ちゃんとお買い物かな♡」と言われたけれど、年期が違うのだよ。年期が。

 

 まあ、恵子のほうが身長は高いし、実際に年上だ。

 

 恵子はわたしを引率するような気持ちで、手をつなごうと言ってきたのかもしれない。

 

「それにしても異空ちゃんはすごいですね」

 

「え、なにが?」

 

「小学生なのにきちんと計画を立てて、生活をしているのですね」

 

「献立のこと?」

 

「それだけでなく、生活全般のことですよ」

 

「このくらい簡単だよ。恵子ちゃんもできるじゃん」

 

「それはそうなのですが、一般的な話ですよ」

 

 ふむ。もしかして天才だと思われたか?

 はっきり言うが、わたしは天才じゃない。

 それなりに頭を働かせて生きてはいるが、それもこれも明るいお姉ちゃん計画のためだ。

 

「お姉ちゃんに心地よく過ごしてもらいたいから精一杯背伸びしてるだけだよ」

 

「背伸びしている異空ちゃんはかわいいですわね」

 

 ふふ。褒めても何も出ないぞ♡ 今日のおやつは少しだけ色をつけてやろう。

 

「学校では仲の良いお友達はいらっしゃいますか?」

 

 唐突な話題転換。

 これは女の子生活を始めてから知ったことだが、女の子に会話の導入部分はほとんど必要ない。

 女のほうが並列処理に優れているとか聞いた覚えがある。

 どこまで本当なのかは定かではない。

 けれど――、会話のスピードが速いのは確かだ。

 恵子の場合は、特にそんな感じがする。

 

「いるよ。双子の姉妹ちゃんとか、占い趣味な女の子とか、カメラ好きな子とか」

 

「お家に呼ばれたりはしないのですか?」

 

「まあそれなりに。恵子ちゃんはどうなの?」

 

「わたくしは転校してきたばかりですからね」

 

「そうなんだ」

 

 なんか闇深案件になりそうだから、突っ込むのはよしとこう。

 

「異空ちゃんは普段なにをされているんですか?」

 

「うーん。趣味の話?」

 

「そうですね」

 

「ネットとかかな」

 

 趣味読書ですと履歴書に書くくらい無難な回答だった。

 わたしって結構多趣味だからな。

 イラスト描いたり。音楽したり。お姉ちゃんを愛でたり。

 もちろん、お姉ちゃんを愛でるのが一番の趣味だけど、それが趣味認定されるかは謎だ。

 

「恵子ちゃんは何か趣味あるの?」

 

「そうですわね。わたくしは芸術鑑賞が趣味といえるものでしょうか」

 

「芸術鑑賞……」

 

 まさにお嬢様って感じの趣味だな。

 ネットでエロCG見ても芸術鑑賞って言えるわけだが。

 言い方ってあるよなって思う。

 表現次第で受け取り方なんて百八十度変わるわけだからな。

 高尚な雰囲気。上品さ。お姉ちゃんからでは残念ながら学べない要素の数々。

 小学生だが、恵子から学ぶことは多そうだ。

 第二のお姉ちゃんとして認めてあげるのもやぶさかではない。

 

「わたくし、異空ちゃんも芸術作品のように感じていますのよ」

 

「え、わたしが?」

 

「ええ。そのアレキサンドライトのような瞳――宝石のようでとてもキレイです……」

 

「そ、そうなんだ」

 

 なんか視線にねばっこいものを感じるんだが!?

 わたし、もしかして狙われちゃってます?

 受け入れようとした途端に、爆弾を放り投げてくるスタイルやめてもらえませんか。

 

「ふふ。あわてる異空ちゃんもかわいいですね。かわいい妹です」

 

「そ。そう? ありがとうね」

 

「ところで、お昼は何を作りましょうか」

 

 お昼ごはんの話。

 この会話のスピードは、人狼ゲームの議論よりも早いかもしれない。

 しばらく、慣れるのに時間がかかりそうだ。

 

「そうだね。今日はお好み焼きの気分」

 

「なるほど……」

 

 そう、グチャグチャのカオティックな食事。

 わたしの今のこころ。

 

「いっしょに作りましょうね」

 

「うん」

 

 結局のところ、わたしが恵子を受け入れた大部分の理由は、わたしの主導権を犯すことはなかったからというのが大きい。

 わたしが作る献立を、生活プランを恵子はそのまま飲みこんでくれている。

 それで、わたしといっしょに何かをするのが嬉しいと言ってくれる。

 

――喰えない少女だ。

 

 わたしは思った。




ヨシ。一片の曇りもない姉妹百合を今日も書けたぞ!


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ヒモ姉スレッド:もしかしてヒモになるほうが

 

122:小学生妹のヒモ姉

あれから考えたんですが……

もしかしたら私、小学生妹ちゃんたちのヒモでいいのかもしれません

 

123:仰げば名無し

お、敗北カミングアウトかw

 

124:仰げば名無し

最近はご無沙汰だったのに突然なんだよ

ようやく妹ちゃんのヒモになることを受け入れたのか

 

125:仰げば名無し

まあヒモ姉がヒモ脱却するとか無理だから

それ一番言われてるから……

 

126:小学生妹のヒモ姉

最近、思ったんですが妹ちゃんたちがすごく仲良さそうなんです

妹Ⅱちゃんもようやくなじんできたのかなって

私がお世話されることで、ふたりは共通の『お仕事』ができて

仲良くなれたのかなって思ったんです

 

それで思い切って妹ちゃんに聞いてみました

わたしがヒモになることで、妹Ⅱちゃんは家族になれるのかって……

もちろん、ヒモって言い方じゃなくて

お世話されることでって言いましたよ

 

そしたら、妹ちゃんはそうなりたいと思ってるって答えてくれました。

妹Ⅱちゃんとも家族になりたいから、お姉ちゃんはお世話されてねとも

 

だから、このまま私はヒモになっていたほうが都合がいいんじゃないかとも思うんです

 

127:仰げば名無し

まーたメスガキの策略にハマってるよヒモ姉w

 

128:仰げば名無し

メスガキの心境からすると、どうなんだろうな

ヒモ姉をひとりでお世話したいんじゃなかったんだろうか

それとも猫狩を警戒した結果、懐柔策に変えたとかか

 

129:仰げば名無し

そりゃ家族として受けいれたいのは本心だろ

お姉ちゃんとられなきゃそれでいいと思ったのかもしれんし

 

130:仰げば名無し

むしろこれから濃厚な三姉妹てぇてぇが見れるのかと思うと心躍りますよ

服はもうたたんでます

 

131:仰げば名無し

メスガキは家族が欲しかった説はまだ残留しているからな

それほど突飛な考えでもないだろう

 

132:仰げば名無し

妹Ⅱを素村と誤認して狼さんが噛もうとしている説

 

133:仰げば名無し

>>132 それはないだろw

お姉ちゃんのことが好きすぎる特殊性癖の持ち主だぞ

つまり、お姉ちゃん専門噛みなんだよ妹ちゃんは

 

134:仰げば名無し

でも妹Ⅱちゃんも妹ちゃんから見れば、お姉ちゃんじゃん

 

135:仰げば名無し

まあ確かに

 

136:仰げば名無し

狂信者サイドから見れば、その線はないな

メスガキは両喰いするような節操なしではない

仮に妹Ⅱが素村だとしても、ヒモ姉を全力で噛みにいくだけだ

 

137:小学生妹のヒモ姉

あのですね……

みなさんが、妹ちゃんのお遊びにつきあってくださってるのはわかるんですが

その人狼ゲームってどうにもわからないんです

すみません

 

138:仰げば名無し

ヒモ姉はこの件については謝ることはないぞ

頭、人狼で申し訳なかった

妹ちゃんの件については、ヒモ姉の視点で考えよう

 

139:仰げば名無し

(狂人にアドバイス聞いていいんだろうか?)

 

140:仰げば名無し

(メスガキ信者以外も混ざってるからいいんじゃね?)

 

141:仰げば名無し

(俺は狐きゅん信者だよ)

 

142:仰げば名無し

(背徳者がいたぞ。吊るせ!)

 

143:仰げば名無し

おまえら仲いいな

盤面整理するが、まずヒモ姉はヒモを脱却したいというのはまちがいないか?

 

144:小学生妹のヒモ姉

まちがいないです

私も大人なんですから、しっかりしなきゃいけないと思っています

 

145:仰げば名無し

おお……

 

146:仰げば名無し

ヒモ姉が大人になってる!

 

147:仰げば名無し

底値だとあとはあがっていくだけだからな

 

148:仰げば名無し

ひでえこといいやがるw

 

149:仰げば名無し

盤面整理の続き

ヒモ姉はヒモを脱却したい

しかし妹ちゃんからは、むしろヒモになってほしいと言われた

だから、どうしたらよいか迷ってる

ここまではあってるか?

 

150:小学生妹のヒモ姉

あってます

 

151:仰げば名無し

自分は盤面整理してるメスガキ擁護派なのでアドバイスにも偏りは見られるかもしれんが

普通に大人として考えるんなら、小学生にお世話を任されたらいかんだろと思う

ただ、お世話をされることが妹たちの保護になっているなら、その仕事を無理に奪うのもよくない

丸い回答としては妹ちゃんたちが成長するまで、ヒモ姉も努力しつづけることなんじゃないか

例えば、朝ごはん今日はお姉ちゃんが作ってみると提案するとか

前に料理作ろうとしてたから、努力できないわけじゃないだろう

 

152:仰げば名無し

盤面整理兄貴の言葉があったけぇ

頼れる兄貴って感じがするぜ

メスガキにとっては裏切り行為かもしれんがw

 

153:仰げば名無し

ヒモを脱却したければ考え続けろってことか

村人にできることってそれしかないもんな

 

154:小学生妹のヒモ姉

あの、それがですね……

時間割が……

その……できてしまってるんです……

 

155:仰げば名無し

ん? なんだ時間割って

 

156:仰げば名無し

また妙なワードが飛び出してきたぞ

 

157:仰げば名無し

ヒモカス。おまえちょっとは成長したと思ったら、また言語不明瞭かよ

しっかりしろ

今がヒモ脱却できる最後のチャンスかもしれないんだぞ!

 

158:小学生妹のヒモ姉

あの……口ではうまく説明しようもないので……

説明するのほんとに苦手なので……

またみなさんに動画見てもらっていいですか?

 

159:仰げば名無し

ヒモ姉の盗撮技術だけはどんどんあがっていくな

 

160:仰げば名無し

妹ちゃんはたぶん盗撮上等とか考えてそうだけど

妹Ⅱちゃんはいいんだろうか……

 

161:仰げば名無し

今回の主眼は妹Ⅱちゃんの内心でもあるわけだから

それを探るという意味では動画を見せてもらうのもアリじゃないか

要するに、妹Ⅱちゃんが無理をしていないかが姉として心配だったってことだろ

で、それが原因でヒモ脱却していいかどうかも判別つかんかったわけだ

オレらにジャッジしてほしいのは、そこなんよたぶん

 

162:仰げば名無し

おまえヒモ姉よりヒモ姉の心境詳しいなw

 

163:仰げば名無し

まあ好きにしろとしか言えんよそこは

家族の問題だし

ヒモ姉が友達いないからオレらくらいしか聞く人いないんだろうしな

 

164:小学生妹のヒモ姉

友達いるもん……

 

165:仰げば名無し

じゃあそいつに聞けよw

 

166:小学生妹のヒモ姉

ここまでつきあっていただいた

みなさんのことを信頼しているんです

だから助けてください!

 

167:仰げば名無し

ヒモ姉ってほんとかわいいよな

ダメな子ほどかわいいって真理だわw

 

168:仰げば名無し

もうさ、赤ちゃんにしか見えないオレがいるんだわ

ごめんなヒモ姉

 

169:仰げば名無し

口ではいろいろ言ってるが

三姉妹の百合日常を垣間見れることに期待感が隠せないオレがいる

 

170:小学生妹のヒモ姉

こちらです……

https://www.anetube.com/watch?v=xxxxxxxxxxxxx/channel=himonee

 

171:仰げば名無し

よっしゃきたこれ!

うん。今日は……キノコか

エリンギのような巨大キノコがヒモ姉なんだな?

マタンゴにしか見えんが、悪くないぞヒモ姉

きちんとプライバシーに配慮している90点

 

172:仰げば名無し

ところで思ったんだが、これどうやって撮ってるんだろうな

スマホじゃなさそうだし……

 

173:小学生妹のヒモ姉

動態探知センサーつきのネジ式小型カメラです

通販で売ってました

リビングにも設置してます

 

174:仰げば名無し

ヒモ姉が盗撮魔になっちゃったw マイナス30点!

 

175:仰げば名無し

おや?

ドアが少し開いて入ってきたのは黒いマタンゴ

これは妹Ⅱちゃんか

 

176:仰げば名無し

無言のままだからわからない

 

177:仰げば名無し

うん?

「まだかかりそうでしょうか」

って呟いてるのは、どうやら妹Ⅱちゃんの声っぽい

なにか待ってるのか

 

178:仰げば名無し

メスガキを待ってるんだろ

あれだけお姉ちゃんのお世話に固執しているメスガキが

ひとりで起こすのを許すわけもないしな

 

179:仰げば名無し

お姉ちゃんの傍で妹Ⅱちゃん待機中か

これ、じっとヒモ姉の寝顔を見ていると考えると

やっぱり狩人あるいは強化狩人の線もあるな……

 

180:仰げば名無し

さすがに長いのでカットか

いや動きがなかったから自動でカメラが切れたのか?

 

181:仰げば名無し

そして妹ちゃん登場。ピンクマタンゴか。

妹Ⅱちゃんに起こされているヒモ姉を見て

愕然としているのが伝わってくる

 

182:仰げば名無し

こんなんネトラレ場面じゃん

おら、こんなシーン見とうなかった

 

183:仰げば名無し

ヒモ姉寝起きだからしかたないかもしれんが

「妹ちゃんもいたんだ」ってひどくね?

「も」はねえだろ「も」は

 

184:仰げば名無し

むーんってかわいいなメスガキw

完全にお姉ちゃんとられてお冠なご様子

そして、お姉ちゃんはそのことに気づいてないご様子

半分寝てるもんな……

これは一波乱ありそうな感じか

 

185:仰げば名無し

結局、妹Ⅱちゃんに着替えさせてもらったのなw

妹ちゃんから逃れられても妹Ⅱちゃんが待っている

隙を生じぬ二段構えだ

 

186:仰げば名無し

そして場面は食卓へと移るか

これ妹Ⅱちゃんが作ったのか

ヒモ姉が手放しでほめるから、妹ちゃんがかわいそう

 

187:仰げば名無し

自覚がないってのが一番人を傷つけるんだよ

妹にズタボロにされたオレは詳しいんだ

 

188:仰げば名無し

狐きゅん♡ いたんだ♡

 

189:仰げば名無し

ああ、こりゃ妹Ⅱは半ば気づいているな

朝のシーンで逡巡してたのは

やはりメスガキを待っていたからか?

それとも、ドアを開けていたのは……

メスガキが来る時に合わせて、あえてそのときに姉を起こした?

いや……まさかな

 

190:仰げば名無し

ヒモ姉「なんか妹たちに計画的にヒモにされていってるような」

これは正解だよたぶん

 

191:仰げば名無し

姉を起こし妹を起こさないのが次女の勤めか

これは眠っているメスガキを起こすのも忍びなかったのかもしれんな

約束を破ったのは悪かったと言ってるが、

これこそまさに朝のシーンの待機時間につながるわけだろ

 

192:仰げば名無し

そしてメスガキ魂の叫び

「とらないって言ったのに。妹Ⅱちゃんの嘘つき」発言か

これはメスガキの言い分もわかるな

妹Ⅱちゃんはなんにせよ約束を破ったのには変わりないんだから

家族内のルールを破るのはよくないことだよ

 

193:仰げば名無し

>>192

そうかぁ?

妹Ⅱちゃんの立場からすれば

小学生の妹が無理してお世話しているように見えたんじゃないか

事実、メスガキは寝坊してるわけじゃん

家族として支えたいからこそ、約束よりも妹であるメスガキを起こさなかったんだろ

 

194:仰げば名無し

なんにせよ妹ちゃんかわいそう

 

195:仰げば名無し

動け……頼む動いてくれヒモ姉……

過去の出来事だけど見ててハラハラするわ

 

196:仰げば名無し

お姉ちゃんの抱っこ

キマシタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!

 

197:仰げば名無し

ギスギスが一瞬であまあま百合に入れ替わる瞬間であった

 

198:仰げば名無し

でかした!

 

199:仰げば名無し

ヒモ姉やるじゃん

こうやって小学生妹をたぶらかしてるんだなw

 

200:仰げば名無し

こうなってくると、逆に妹Ⅱちゃんは疎外感かんじちゃってるわけだよな

「少し羨ましい」か

マジで心にくるからやめてくれ

幸せになってくれよ頼むから

 

201:仰げば名無し

そしてヒモ姉も察するか

ああ、妹ちゃんとヒモ姉の視線の交差が深いわ

キノコだけど……

 

202:仰げば名無し

妹Ⅱちゃんも迎え入れられる

ああキノコの群生に尊さを感じる日が来るとは……

 

203:仰げば名無し

キノコの群生ww

 

204:仰げば名無し

はー、すっげぇスッキリした

よかった寝取られた妹ちゃんはいなかったんだね

この村には狼も猫もいるはずないんだよ

 

205:仰げば名無し

お、そうだな

 

206:仰げば名無し

狼はいないって……それ第一犠牲者の発言……

 

207:仰げば名無し

そしてようやく例の『時間割』か

キノコだからさっぱりわからんが、

ピンクマタンゴと黒マタンゴに迫られてる様子からは

めっちゃキラキラした顔で渡されたんだろうなとわかる

これって妹ちゃんが妹Ⅱちゃんとの口約束を明文化したってことだよな

ふたりの合作か?

 

208:小学生妹のヒモ姉

ちなみに現物はコレです

https://oneechanup.org/uploda/.xxxxxxxx.pdf

合作と言ってましたよ

 

209:仰げば名無し

ひえっ

 

210:仰げば名無し

なにこの……時間割

朝はおはようから夜はおやすみまで

ビッシリと担当が書かれてる

 

211:仰げば名無し

メスガキ……恐ろしい子

てか、これって実質『お姉ちゃん係』なのでは

 

212:仰げば名無し

妹ちゃんからしてみれば、これも一種の譲歩ではあるよなぁ……

妹Ⅱちゃんを受け入れようとしてて、オレ氏てぇてぇわ……

 

213:仰げば名無し

メスガキもほだされてるのか

猫狩をあれだけ警戒してたのに

やはり本線としては、素村の家族愛とか考えているのか

 

214:仰げば名無し

さりげに添い寝まで追加されちゃってるじゃねーかw

これヒモ姉受け入れたんか?

 

215:小学生妹のヒモ姉

さすがに夜いっしょに寝るのを毎日するのは

私の精神が持たないので勘弁してもらいました

一緒に寝るのがイヤというわけじゃないんですが……

 

216:仰げば名無し

残念だったなメスガキ

 

217:仰げば名無し

妹ちゃんたちが談合して開国迫られているようなもんだから

これヒモ姉詰んでね?

 

218:仰げば名無し

そっすね

 

219:仰げば名無し

うんこれ無理だわ

 

220:仰げば名無し

今日も姉妹百合が尊くてとてもよかったです(小並感)

 

221:仰げば名無し

さて、メスガキ配信で打ち上げパーティでもすっか

 

222:仰げば名無し

よーしパパ、赤スパ投げちゃうぞ

 

223:小学生妹のヒモ姉

ちょ、ちょっと待って

行かないで!!!!!

誰か助けて!!!!!

 

 その後、しばらく不毛なやりとりが続いたが、妙案が出ることはなかった。

 

 

 

 ※

 

 

 

「三姉妹丼ですか?」

 

 きょとんとした顔をしているのは恵子。

 無論、えっちな言葉ではない。

 検索したらそっち方面の画像ばっか出るがな。

 

 当然、生粋のお嬢様である恵子が姉妹丼なる言葉を聞いたことはないだろう。

 いや、いまどきの小学生は案外知っているのか。

 このあたりは要調査だな。ともかく――。

 

「えっとね。豚肉のそぼろに、鶏の卵、そして絹さやで作る丼モノだよ」

 

「ああ、三色丼のことですか。しかし、まったく血縁とかなさそうですね。絹さやとかそもそも植物ですし……」

 

 赤の他人丼なのでは――?

 恵子はいぶかしげに聞いた。

 

「そんなの気持ちの問題だよ! 血よりも濃いものってあるでしょ」

 

 わたしとお姉ちゃん。そして新たに家族に加わった恵子。

 そのいずれも血のつながりは無いに等しい。

 お姉ちゃんと恵子は血はつながっているが、この家で暮らし始めるまで赤の他人だった。

 

「なるほど。つまり、これはわたくしたち家族を現したものというわけですね」

 

 タブレットに表示された三姉妹丼をつつき、恵子は納得の表情を見せた。

 そうだよ。これこそがいまのわたしたちの関係にこそふさわしい。

 

 あれから少し時が経ち、現在は落ち着いた状況といえる。

 わずかながら恵子に対する疑いの目も残ってはいるが、概ね姉妹関係は問題なく推移している。

 

 お姉ちゃん配信も少し休憩ぎみだ。

 特筆すべきイベントでも起こらない限りは、これでいいと思っている。

 ワインを寝かすように、家族っていうのは時間が醸成するものなんだよ。

 

「恵子ちゃんは卵のほうをしてくれる?」

 

「わかりましたわ」

 

 超ハイスペックなお嬢様である恵子は、料理の腕もかなり達者だ。

 わたしが長年培ってきた経験値を軽々と越えていく。これで、いままで料理なんてほとんどしてこなかったらしいから、本当にばけもんみたいな能力値だよ。

 

 ちなみにお姉ちゃんだと、まず卵を割れるか心配になるレベル。

 誰か全自動卵割り機を持ってきてくれ。

 

 恵子が卵そぼろを作り始めたのでわたしのほうは、豚の挽肉を水分が飛ぶまで煮はじめた。これは超簡単だから、ついでに絹さやのほうも処理しておく。こっちもたいした手間はない。へたをとって茹でる。あとは切る。こんだけ。

 

 まあ、お姉ちゃんが少しでもおいしいように、お肉のほうの油は切ったりしてるけど、手間自体は初心者向けといえる。これもまた庶民の料理だ。

 

「異空ちゃんはお料理が本当に上手ですね」

 

「わりと長い間やってるからね。それより、恵子ちゃんのほうがすごいよ。まだほとんど料理したことないんでしょ。それなのに完璧だし」

 

「この程度、検索すればいくらでもやり方は書いてあるのですから、できて当然です」

 

 それができないお姉ちゃんがいるんですが……。

 

 まあ、恵子に他意はないように思う。

 

 自分が天才であることに無自覚な面があるというか。

 あまりにも頭のできがよすぎて、凡人がなぜできないのかがわからないのだろう。

 

「さて、完成」

 

 三国鼎立。

 まさにそんな感じだ。

 卵の黄色と、肉の茶色。そして絹さやの緑が綺麗。

 ちょうど円グラフみたいな感じを思い浮かべてもらえばいいと思う。

 お姉ちゃんのはお肉を60パーセントくらいの配置にしておこう♡

 

「お姉様を呼びにいきましょうか」

 

「うん」

 

 

 

 ※

 

 

 

「うわぁ。キレイだね。異空ちゃんも恵子ちゃんも本当にすごいよ」

 

「えへ♡ お姉ちゃんありがとう♡」

 

「ありがとうございます。お姉様」

 

 お姉ちゃんに褒められて、和気あいあいとした雰囲気で食事は始まる。

 恵子も少しは慣れてきたのか、食事時にも口を開くようになってきた。

 

「このお料理はわたくしたち家族を現わしているものらしいです」

 

「へえ……、あ、三色が私たちなんだね」

 

 お姉ちゃんが感心しているみたい。

 

「そのとおりです。血のつながりは薄いですが――、わたくしを家族と見立ててくださると、異空ちゃんから告げられたんです」

 

「異空ちゃん優しいね」

 

「えへ♡ 恵子ちゃんも家族だしね♡」

 

 お姉ちゃんのものとは種類が違うけど、恵子のことも大事なのは確かだ。

 

「ですが、異空ちゃんにはひとつだけお願いしたいことがあるのです」

 

「お願い?」

 

 いきなりなんだろう。

 

「わたくしも家族として認めていただけるのであれば、是非、()と呼んでいただけませんでしょうか。恵子お姉ちゃんでも、単純にお姉ちゃんでもかまいませんから」

 

「あ、確かに恵子ちゃん呼びだと、お姉ちゃんという感じはしないかな?」とお姉ちゃん。

 

「恵子ちゃんをお姉ちゃん呼びしたら、お姉ちゃんと区別つかなくなっちゃうよ」

 

 わたしは軽く抗議した。

 

 正直なところ、お姉ちゃんという普通名詞を固有名詞にしたいという欲望があるからな。

 それはわたしのこだわりとも言える。

 

「でしたら、お姉様のことはひもお姉様とか、ひぃ姉様とお呼びすればよろしいのでは?」

 

「ヒモ姉はちょっと……」

 

 お姉ちゃんが引いている。

 

 まあお姉ちゃんの名前からすれば妥当な線なんだろうけど、それはどうしても受けいれられない。

 

「お姉ちゃんはお姉ちゃんだから、お姉ちゃんって呼ばれなきゃダメ」

 

「そうですか……」

 

 恵子は少し寂しそうな顔になる。

 そんな顔をされると罪悪感が湧く。

 恵子のことを恵子ちゃんと呼ぶのは、わたしの中でどこか恵子のことも庇護すべきと考えているからだ。なにしろ転生前の年齢を考えると、いくら天才児だろうが、恵子は小学生の女の子なんだからな。庇護されるべき存在なのはまちがいなく、わたしの中の残留した大人のこころがそう思わせるのだろう。

 ただ、お姉ちゃんをお姉ちゃんと呼びたいのは魂の欲求だから、絶対に変えられないのに対して、恵子のほうをお姉ちゃんと呼ぶのは、まあ――できなくはない。

 

「恵子お姉ちゃん。……これでいい?」

 

 ちょっとだけ恥ずかしい。

 顔は伏せ気味に上目遣いで言うことになってしまう。

 

「ええ……。 ええ……! ありがとう存じます。異空ちゃん!」

 

 感極まった恵子は立ち上がり、すぐさまわたしに抱き着いてきた。

 

「むぎゅ」

 

 かくして、お姉ちゃんがふたりに増えてしまったのである。

 

 もちろん、唯一絶対のお姉ちゃんはお姉ちゃんだけだけどね。



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要素を拾え!

258:小学生妹のヒモ姉

みなさんが要素?を拾えないというので

追加情報をもってきました

今回は短いですが

 

259:仰げば名無し

お、ヒモ姉えらいぞー♡

 

260:仰げば名無し

盗撮お姉ちゃんが戦利品を見せびらかすの図だな

ご相伴にあずかりますか

 

261:仰げば名無し

最近、妹ちゃんも配信で妹Ⅱちゃんのことをあんまり言わんくなったからな

妹ちゃん、根が素直なもんで、人を疑うのをあまり知らなんだ

 

262:仰げば名無し

メスガキのくせにそこらへんは天使よなw

 

263:仰げば名無し

妹Ⅱが猫かもしれんのにおかわいいこと♡

 

264:小学生妹のヒモ姉

いいでしょうか

それではお願いします

https://www.anetube.com/watch?v=xxxxxxxxxxxxx/channel=himonee

 

265:仰げば名無し

はいスタートしました

これは……デカ文字だと!?

妹ちゃんは「妹」。妹Ⅱちゃんは「妹Ⅱ」そして、ヒモ姉は「姉」。

この前わかりにくかったから、文字にしてくれたんだねありがとうヒモ姉

 

266:仰げば名無し

ヒモ姉ぶっちゃけ遊んでるだろw

 

267:仰げば名無し

わきあいあいとした雰囲気

 

268:仰げば名無し

和をもって貴しとなす

 

269:仰げば名無し

妹「三姉妹丼だよ。お姉ちゃん」

三姉妹丼

ごくり……

それっておいしいですか?

 

270:仰げば名無し

メスガキおまえもう……

妹Ⅱを受け入れたんやな……

 

271:仰げば名無し

これで、妹Ⅱが猫か強化狩人だったら目もあてられんな

妹Ⅱはかなりアヤシイと思うんだがなぁ

 

272:仰げば名無し

お姉ちゃんのだけお肉の割合多すぎだろw

あいかわらずお姉ちゃんに甘いなメスガキ

まあ通常運行ではある

 

273:仰げば名無し

お姉ちゃん、へえそうなんだねって

姉妹丼ってワードに無反応なところがかわいい

 

274:仰げば名無し

煩悩に支配されているオレらが汚く思えてくるわw

 

275:仰げば名無し

いや、小学生から「姉妹丼だよ」と言われている図を想像しろ

妹たちがその姉妹丼をふたりで作ってきてる状況だぞ

えっちな名称だねとか言えるか?

まあ、メスガキは十中八九わかってるからいいが

妹Ⅱちゃんもいるしな

 

276:仰げば名無し

なるほどヒモ姉はわざとなんでもないように受け取ったと

 

277:仰げば名無し

ちゃうねん

マジでヒモ姉はわかってないねん

うわーキレイだねって言葉、無垢な天使そのものやろ

 

278:小学生妹のヒモ姉

どういう意味でしょうか?

三姉妹丼のなにがえっちなんですか?

 

279:仰げば名無し

ほらぁ

 

280:仰げば名無し

ヒモ姉はそのままのヒモ姉でいてね♡

 

281:仰げば名無し

絶対に姉妹丼とかで検索しちゃダメだよ?

 

282:仰げば名無し

おいやめろw

 

283:小学生妹のヒモ姉

はいわかりました

 

284:仰げば名無し

姉妹ともども素直かよ

かわいいね♡

 

285:仰げば名無し

まあ、あれだよ三姉妹丼だったら、メスガキの想いもわかるわ

妹Ⅱちゃんが言ってるように「家族として見立てる」こと

これがメスガキの一番の想いだろ

 

286:仰げば名無し

お姉ちゃん食べたいという劣情入りかもしれんがなw

 

287:仰げば名無し

ありえんとはいいがたいのがメスガキクオリティw

 

288:仰げば名無し

「ですが、妹ちゃんにはひとつだけお願いしたいことがあるのです」

流れ変わったな

 

289:仰げば名無し

妹Ⅱちゃんはところどころでぶっこんでくるようなイメージ

 

290:仰げば名無し

お姉ちゃん呼びの強要か

妹Ⅱこええ。こいつやっぱ猫なんじゃ……

 

291:仰げば名無し

オレらはメスガキとヒモ姉のおかげでメタ的に思考できているが、

小学生のみなしごが、新しくできた妹から姉として慕われたいってそんなに変か?

姉は妹を呼び捨てるかあるいはちゃんづけで呼んだりするが

妹は姉を「お姉ちゃん呼び」するもんだろ

 

292:仰げば名無し

妹Ⅱは抜群に頭いいみたいだが、

子どもっぽいワガママなところもあると思うぞ

約束破ったり、今回のお姉ちゃん呼び強要したり

お嬢様っぽい雰囲気にだまされがちだが

 

293:仰げば名無し

それが猫の計略なんだよなぁ……

 

294:仰げば名無し

お姉ちゃんのいるところでそれ言われたら

メスガキも拒否できないところではあるな

軽く抵抗はしているみたいだが、

半ば受け入れてるんだろう

 

295:仰げば名無し

家族でなかった者たちが家族になろうとしているんだ

妹Ⅱちゃんも勇気をだしたんじゃないか?

 

296:仰げば名無し

妹Ⅱの中身によって評価がガラリと変わってくるなw

 

297:仰げば名無し

それにしてもヒモ姉って「ひも」にまつわる名前だったんだな

これは運命論的にヒモ姉なのでは?

 

298:小学生妹のヒモ姉

紐音です

 

299:仰げば名無し

ヒモ姉、ヒモ姉だった?

 

300:仰げば名無し

紐音ちゃんっていうんだかわいいね♡

 

301:仰げば名無し

メスガキに「紐音お姉ちゃん」と呼ばれた未来もあったかもしれんのか

これはご近所さんでも噂になりそう

紐音お姉ちゃん。→ヒモのお姉ちゃん。→やーいおまえん姉ちゃんヒモ姉~。

 

302:仰げば名無し

おいおい、名前単体とはいえネットリテラシー的によくないぜ

 

303:小学生妹のヒモ姉

妹ちゃんの名前を前に晒しちゃったことがあるので

自分の名前も晒さなきゃ不公平だと思いまして……

 

304:妹ちゃん

>>303

お姉ちゃんそんなことしちゃダメだよ

 

305:仰げば名無し

い、妹ちゃんだと……

バカな!?

本物か?

 

306:仰げば名無し

メスガキ降臨すんなw

 

307:仰げば名無し

いや普通に偽物でしょ

 

308:妹ちゃん

本物だよ。お姉ちゃん今日の夕飯はポトフだったよね?

 

309:小学生妹のヒモ姉

ポトフ正解です……

 

310:仰げば名無し

まさか掲示板で共有CO見れるとは思わなんだw

 

311:仰げば名無し

やはりここは伝説の掲示板

普段起こりえないミラクルが起こるからおもしろいw

 

312:仰げば名無し

で、メスガキがわざわざ降臨してきたのはなんでだ?

 

313:妹ちゃん

お姉ちゃんはわたしだけのお姉ちゃんなのに

みんなに知られたのがちょっとイヤだった♡

 

314:仰げば名無し

メスガキwww

 

315:仰げば名無し

メスガキってやっぱ小学生だわ

 

316:小学生妹のヒモ姉

妹ちゃんなの?

本当に?

 

317:妹ちゃん

さっき共有COしたでしょ

 

318:仰げば名無し

説明しよう

共有COというのは人狼ゲームにおいて行われる戦法のひとつ

共有者というのはお互いに共有者であることを知っており、ふたりひとくみの役職である

もし仮に狼側が共有者を騙る場合二人以上がでなければ乗っ取れないわけだから

共有者は村サイドであることが証明しやすい

その方法として、片方が相方はだれだれですと伝え、相方がそのとおりだと答える

これを共有COというのである

 

319:妹ちゃん

お姉ちゃん自分を傷つけないで

わたしのワガママでヒモになって欲しいって言ってごめんなさい

 

320:小学生妹のヒモ姉

>>319

うん、わかった

あとで抱っこしに行っていい?

 

321:妹ちゃん

うぇるかむかもーん♡

 

322:仰げば名無し

なんやスレでイチャイチャしやがって

もっとヤレ

毎秒、姉妹百合しろ

 

323:仰げば名無し

なんか姉妹百合てぇてぇんですが……

 

324:小学生妹のヒモ姉

あと……私、ヒモにはなりたくないんだけど……

だ……ダメかな……?

 

325:妹ちゃん

それはダーメ♡

 

326:仰げば名無し

ダメだったw

 

327:仰げば名無し

逃げられないよ、ヒモ姉

 

328:仰げば名無し

それもまたイチャイチャやんけ

 

329:仰げば名無し

いまのヒモ姉ヒモ化計画は妹Ⅱも一枚かんでるからな

妹ちゃんを説得できても、それだけじゃ足りんだろ

 

330:仰げば名無し

オレ氏としては、メスガキ側の心境をもっと聞きたくはあるな

本当に今のままで大丈夫なのか?

妹Ⅱに追い詰められてる気はしないのか?

スレではなくて配信のほうが話しやすいかもしれんが……

 

331:妹ちゃん

うーん。わかった

それは配信のほうで説明するね

じゃあ、匿名に戻るから

お姉ちゃんまたね♡

 

332:小学生妹のヒモ姉

(*’-‘)ノ*:・・:*マタネー*:・・:*

 

 

……ダメでした

ヒモ脱却できませんでした

 

333:仰げば名無し

メスガキに襲われたら誰だってそうなる

オレだってそうなる

 

334:仰げば名無し

目の前で姉妹のイチャイチャっぷりをライブ的に見せつけられたらなぁ

正直、無理なのがまるわかりではあるな

 

335:仰げば名無し

ただ妹ちゃんのほうはまだ説得の余地があるような気もするぞ

妹ちゃんがヒモ姉をヒモにしたいのは自分のためだが、

姉想いなのも確かだからな

真摯に説得すればワンチャンあるんじゃないか

 

336:仰げば名無し

それには妹Ⅱのほうの説得も同時並行的に進める必要がある

やはり妹Ⅱの要素を拾わないと無理じゃね?

家族になりたいってだけなら、姉ちゃんにはいずれ自立してほしいと思ってそうだし

ヒモ姉はそのままでも大丈夫だろうが……

 

337:仰げば名無し

ヒモ姉が狙われているか、あるいはメスガキが狙われてたら

ヒモ姉はそのまま飼われる可能性があるな

 

338:仰げば名無し

しかし、妹Ⅱが強敵すぎて、正直手づまり感あるわ

妹ちゃんがそもそもほだされかけてるみたいに見えるからなぁ……

 

339:仰げば名無し

あ、動画さっき終わったけど

メスガキが妹Ⅱちゃんをお姉ちゃん呼びしてるのな

三姉妹が仲良くなってなにより

 

340:仰げば名無し

狂信者サイドとしては

狼なにやってんだよってやきもきするわw

妹Ⅱをただの小学生(素村)とか思ってるんだろうが

おまいう案件だぞ

おまえは自分自身をもう少し鑑みろ

おまえは普通の小学生か?

 

341:仰げば名無し

久しぶりにお姉ちゃん配信するのかたのしみー

 

342:仰げば名無し

わんわーん

 

343:仰げば名無し

わおーん

わおーん

わおーん

 

344:妹ちゃん

あ、今回からお姉ちゃん配信はメンバー登録した人だけに公開するから

だいぶん内輪の話になってきちゃったしね

もちろん、お兄ちゃんたちは内輪だよ♡

 

345:仰げば名無し

くぅーん

 

346:仰げば名無し

メスガキに飼いならされてるオレら

 

347:仰げば名無し

ち、しゃーねーな。メンバー登録してやるか

 

348:仰げば名無し

こうして深くひっかけていく手法

本当に小学生かよって思いますw

 

349:仰げば名無し

ヒモ姉もメスガキ配信に参加するか?

 

350:小学生妹のヒモ姉

無理です……

知らない人ばっかりだと怖いし……

 

351:仰げば名無し

このスレだといいのかよ

異次元の思考だな

まあ、コミュ障だからわからんでもないが

 

352:仰げば名無し

ヒモ姉は自分のペースで発言できる匿名掲示板のほうがいいのかもな

 

353:仰げば名無し

配信だとどうしても喋る必要がでてくるからなぁ

トーク能力が必要になるから、慣れないうちは相当難しいのはわかる

 

354:仰げば名無し

じゃあ、やっぱりヒモ姉は布団かぶって震えてろでFA?

 

355:仰げば名無し

ファイナルアンサー

というか、まずは落としやすそうな妹ちゃんを説得する方法でも考えとくべきでは?

 

356:仰げば名無し

抱っこしにいったついでに、お姉ちゃんをヒモにしないでと

泣きながら頼めばワンチャンあるかも?

 

357:仰げば名無し

うんいいよ。その代わり、お姉ちゃんを食べてもいい?

 

358:仰げば名無し

ありそうで怖い結末書くなw

 

359:仰げば名無し

初心にかえって、ここは大学の勉強をがんばってくれ

経済的に自立できれば、もしかしたら……

億が一くらいの確率で助かるかもしれん

 

360:仰げば名無し

確率はゼロ♡ ゼロ♡ ゼロ♡

と、メスガキに煽られる未来しか見えない

 

361:小学生妹のヒモ姉

ヤダー!

勉強がんばります……

 

362:仰げば名無し

うん、お姉ちゃんガンバレ

 

363:仰げば名無し

ガンバレ♡ ガンバレ♡

 

364:仰げば名無し

お姉ちゃんがんばぇー♡

 

365:仰げば名無し

メスガキが混ざってそうだなw

お姉ちゃんガンバレよ♡

 

 

 

 ※

 

 

 

 配信の夜時間。

 狂信者であるお兄ちゃんたちは、すぐに参集してくれた。

 これからはメンバー登録した人だけのプレミアム配信だが、同接の数は普段とあまり変わらないようだ。案外、面倒見のいいお兄ちゃんたちである。

 

「さて、カフェ・オレのお兄ちゃんもわたしのことを心配してくれてるみたいだからさぁ♡ ちょっとお姉ちゃん計画について見直ししてみよっか♡」

 

『妹Ⅱの要素取りしたほうがいいと思うぞ』

『ほんとそれ』

『妹Ⅱは猫の可能性のほうが高いと思う』

『妹Ⅱがメスガキ堕としを狙ってる要素取りか』

『まずはメスガキの考えを聞きたいところではあるな。¥100』

 

「わたし自身の考えとしては、妹Ⅱは村狩目だと思ってるよ♡ いちおう話についていけないお兄ちゃんのために説明すると、村というのは家族愛中心主義で、わたしがお姉ちゃんを狙っていてもスルーする可能性が高い子のこと、狩人は家族愛中心だけど、家族という秩序を維持することを優先して、お姉ちゃんを防御しようとする場合かな。このあたりはけっこう境目曖昧だけどね」

 

『メスガキとしては素村と狩人どっちだと思ってるんだ? ¥100』

 

「MSGK泣かし隊お兄ちゃん。ありがとう。どっちかというと素村じゃないかなと思ってるよ」

 

『その心は?』

 

「その心は――、まあ言うても小学生だしね。小学生のこころの柔らかさは家族愛と性愛的なものが混在しているんだよ。だって思春期前夜だからね♡」

 

『盛大にブーメランなんだが』

 

 ほっとけ♡

 みんなには説明できないが、わたしの場合は、ベースに大人の魂があるんだよな。

 

 だけど、恵子はそうじゃない。恵子が転生者なんじゃないかって考えなくもなかったが、おそらくその線はない。なんというか――、肌感覚でわかる。例えば、三姉妹丼と口に出した時に、えっちな単語を思い浮かべれば、多少はそのことが態度に出るはずだ。無垢なお姉ちゃんは一切そんなことなかったけど、お姉ちゃんは天使だからね。恵子もきょとんとした表情をしていた。魂が擦れていない。天才だから吸収力とかはすさまじいものがあるが、知識や経験値のうえでは純粋なメスガキのように感じた。

 

 だから――、恵子は()()()()()()である。ただ、天才なだけの。

 そう考えれば、恵子が欲しいのは家族愛であって、猫や狩人のように誰かを性的な意味で食い散らかしたいわけではないという結論が導かれる。これは狼特有の視点であって、狂人であるお兄ちゃんたちには知りえない情報だ。

 

「わたしのことは考えてもしかたないよ。そう生まれついてしまったんだから」

 

『ナチュラルボーンお姉ちゃんキラーw』

『ふーむ。だとしても要素は拾っておけるように思うがな』

『最初に言ったが、猫要素はけっこうあるように思うぞ。¥100』

『オレ氏もそう思います』

『私もそう思うわ。考えておかないとメスガキちゃん食べられちゃうわよ』

『簡単にお姉ちゃん呼びしちゃってさぁ。狼ちゃん雑魚すぎ♡』

 

「ふふ♡ お兄ちゃんも動画見て簡単に騙されちゃったようだけど、妹Ⅱちゃんお姉ちゃん呼びについては、わたしも少しは考えているよ♡」

 

『ほう……』

『さすがメスガキ。ただ押されているわけではないのか』

『言うても、あの状況ではお姉ちゃん呼びは必然ではあるがな』

『ヒモ姉がいるから拒否できなかったんだろ?』

 

「いやいや。妹Ⅱちゃんのお姉ちゃん呼びは恥ずかしいから()()()()()()()ってかわいく拒否したんだよ。残念がってたけどね。これで、いざというときにお姉ちゃん呼びをすることで、わたしのほうのワガママが通るってわけ。だってかわいい妹のワガママなんだよ。拒否できると思う?」

 

『なるほど秘密兵器にしたわけかw』

『転んでもただで起きないメスガキ』

『さすが狼さん。かっけぇす』

『でも、それ込みだとしても、お姉ちゃん呼びされた実績は残るがなぁ……』

『妹Ⅱが猫だったら、あのときお姉ちゃんと言いましたよねとか言ってきそうだが』

『猫要素だよ。まちがいないって。オレのセンサーがそう言ってる』

 

「猫要素ねえ……。例えばどんなところ?」

 

『例えばそうだな。まず初日にメスガキが妹Ⅱを受け入れたときに、どんなことがあったんだ。そこんところをもう少し詳しく知りたい。確か、前に妹Ⅱに言われたとおりに言葉を返すだったな? ¥200』

 

「ん-。初日ねえ。あのときはわたしとお姉ちゃんが両親が亡くなって身寄りを探してたときに、初めて妹Ⅱちゃんの家を訪れたときを思い出してたんだ」

 

 わたしは、今も装着しているヘアピンを触る。

 そう、あのとき結果的に家族にはなれなかったが――。

 恵子は純粋な気持ちでヘアピンを贈ってくれた。

 その気持ちに報いたいと思ったのは確かだ。

 

『猫要素なんじゃね?』

『猫要素だよな』

『猫要素ね』

『どっちかというとネコというよりタチだがなw』

『メスガキロックオンされてんじゃんw』

『初日からやべえよ。妹Ⅱ』

 

「あのねえ。よく考えてよ。一年前に妹Ⅱがわたしを狙ってヘアピン渡すとか考えるのおかしくない? いくらなんでもそれを計画的にやったんなら、一年間放っておいたのはなんでってなるじゃん」

 

『それは確かにな』

『妹Ⅱっていいとこのお嬢さんなんだろ。やっぱ親がいたら厳しいんじゃ』

『親という封印石がなくなり、解き放たれた猫又説』

『いくら天才でも小学生が単身で乗りこんでくるわけにもいかんだろうからな』

『でも、ヘアピンは間違いなく猫要素』

 

「みんな、どうにも猫だって言いたいみたいだね。じゃあ、他には?」

 

『他にはやっぱヒモ姉の寝起き事件のときかな』

『ドア開けっぱなしでメスガキを待っていたのがアヤシイ……』

『それオレも思ったわ』

 

「ドアを開けっぱなしなのは、妹Ⅱがわたしに配慮してでしょ。約束破っちゃダメって気持ちもあったから、どうしようか迷ってたんじゃん」

 

『メスガキが部屋に踏みこんだ瞬間にヒモ姉を起こし始めたようにも見えるんだよな』

『タイミング見計らってた説もある』

『ドアを開けていたら、メスガキが起き始めた音も拾えるだろうしな』

『動態探知カメラが途中で止まったから、そのあたりのタイミングがよくわからんのよな』

『うーん……』

 

「じゃあ、何。お兄ちゃん達は妹Ⅱがわざとわたしが来るタイミングでお姉ちゃんを起こしたって言いたいの? なんのために」

 

『メスガキを嫉妬させるため? としたら狩人なのか?』

『んー。妹Ⅱがメスガキの要素を拾うためとかかな』

『そのあとの流れを考えるとなぁ……』

『あのあと、メスガキのお姉ちゃんとらないで発言と、わたくしも羨ましいコンボで、まんまと次女ポジにおさまったんだよな。これって猫狩の位置としては理想的なんだよなぁ。¥200』

 

「メスガキスキーお兄ちゃんありがとう。確かに猫狩としては理想的なポジションだと言えるけど、それはお姉ちゃんの行動が基点になってるんだよ。お姉ちゃんがわたしを抱っこしてくれなかったらそうはならなかったわけじゃん」

 

『お姉ちゃんに抱っこされて世界は救われた』

『ごめん姉妹百合てぇてぇのせいで、あんま考えられんわw』

『一般的に見てヒモ姉はメスガキに甘いからな』

『ちょっと観察すれば、そうなることは予想できたんじゃね?』

『メスガキはそこまで計算してたとは考えなかったのか?』

 

「確かにちょっとは考えたけど……」

 

 恵子はわたしよりも遥かに頭がよさそうなのは確かだ。

 頭の中に恵子が猫狩なのは少しよぎったところではある。

 わたしがお姉ちゃんなら、抱っこしているかもと思ったのと同じくらいは。

 

『メスガキも考えてるじゃんw』

『猫だと怖いから考えないようにしてただけなんだな、やっぱりw』

『猫怖くてガクブルしてるメスガキかわいいね♡』

『狼保護したいところではあるけど、既に篭絡されてる感じがするなぁ……』

『結局、オレらが要素をあげたとしても、狼の考え次第なところはある。¥200』

 

「んー。そうだね。お兄ちゃん達の要素取りは役に立ってるよ。わたしだって最終目標のためには最後まで要素はとり続けるほうがいいと思うし。でも、やっぱり妹Ⅱは素村っぽいかなぁ」

 

『逆に素村っぽい要素ってどこなんだ?』

『強いて言えば、小学生ってところか?』

『直接妹Ⅱと対峙しているメスガキがそう思うなら仕方ない面はあるが……』

 

「小学生であること以外に妹Ⅱが素村っぽい要素か……」

 

 これがなかなか難しい。

 恵子の行動を分析してみても、どうとでもとれるものばかりだからな。

 

「あえて言えば、前にも挙げられていたワガママっぽいところかな。約束破ったり、お姉ちゃん呼びを強要したりしてるのって、わたし狙いだと嫌われる要素でしょ? あえてそういう行動をしているってことは、疑われる要素を故意に創り出しているってことになるから、猫狩どちらでも矛盾だと言えるんじゃない?」

 

『それが猫の手口だと言ってんだよ』

『やっぱほだされてるじゃねえか』

『お姉ちゃんⅡができてうれしかったんだよな』

『メスガキかわいいよメスガキ』

 

「むうううううん」

 

『ほっぺたふくらますメスガキかわヨ』

『もしかして狼なのに食べられる幼狼という役職なのでは?』

『そういった行動が狂人狂わせてるってそれ一番言われてるから』

 

『いいかメスガキ。おまえの心象を悪くして得られる効果はいくつかある。まずメスガキがヒモ姉を求めることによって、妹Ⅱは自分の立ち位置が被保護位置だとヒモ姉に主張できる。次女ポジに収まることができたことからわかるだろう。¥100』

 

「ん。MSGK泣かし隊の兄貴の言葉なら少し真面目に聞く♡」

 

『真面目に聞くんだw』

『MSGK泣かし隊兄貴への信頼が厚いな』

『お、嫉妬か? ¥500』

『嫉妬マスク三世もいたんだなw』

 

『おう。続けるぞ。次に狼位置が明らかになる。つまり現実的に言えば、おまえがどれだけヒモ姉を想っているかを計測することができるってことだ。もしも、おまえ狙いなら、おまえの矢印がヒモ姉に向いていることは猫にとって憂慮すべき事態だろ。¥100』

 

「まあ確かにね。でもそれで嫌われようとするって本末転倒じゃん」

 

『猫の立場なら、村人であるヒモ姉を排斥する必要はないんだ。狼に自分が狙われさえすればいいんだからな。少女どうしのお遊びなら、許される範囲は大きいだろ? ¥100』

 

「まあそりゃそうだね」

 

 たとえ、わたしが恵子と()()()()()()になっても、恵子が叱られることはないと思う。

 お姉ちゃんがわたしや恵子とそうなったら、お姉ちゃんは問答無用で加害者だ。

 その点が、恵子とお姉ちゃんの立ち位置の違いでもある。

 

「でも家から追い出すって方向性の噛みもあるよ。これはゲームと離れた現実的な思考だけど」

 

『嫌われるかもしれない方向性が猫の素村アピールなんだよ。¥100』

 

「確かにそういう面はあるかもしれない……」

 

 恵子があえて嫌われるかもしれない行動をとることで、それでもなお家族愛を求めている()()()()()()()をしている。そう考えることはできないわけじゃない。実際、お姉ちゃんも恵子をかわいそうに思って、家族だよと宣言したわけだし、そうなってしまうと、わたしも否定しにくい面はある。

 

 たとえ、わたしの仕事を奪ったとしても。ギリ我慢できる。

 我慢しなきゃいけない立ち位置に置かれていると言える。

 

「でもさぁ……。妹Ⅱちゃんが本当に家族愛を求めてるだけだったらどうすんのさ。仮にわたしが追い出したら、あとの罪悪感半端ないんだけど」

 

『そりゃそうだな……』

『メスガキは既にほだされちゃってるからなぁ』

『家族のことに、好き勝手言ってる立ち位置だから、そこまで言われると責任は持てんな』

『メスガキが我慢できなくなったら、ヒモ姉に訴えるしかなかろうて』

『我慢できるかできないか、そのギリギリを猫が探っているようにも見えるが……』

 

「うん。わかった。お兄ちゃんたちに責任を負わせることはないよ」

 

 そもそも家族の話にお兄ちゃんたちを巻きこんでるだけだからな。

 お姉ちゃんをゲットしたいという大それた目標があるから、これだけいろいろ考えちゃうわけだけど。

 たぶん、わたしが普通の小学生だったらここまで悩まないと思う。

 

「ありがと♡ やっぱり、今のままだと様子見かな。要素はこれからも拾っていくつもりだけど、このままとりあえずは家族関係を続けていこうと思います♡」

 

『まあメスガキが決めたのならいいさ』

『アドバイスしかできんからなぁオレらは』

『しかし、仮に猫だとすれば、次に狙われるのはヒモ姉かもな……』

 

「次に狙われるのがお姉ちゃんってどういうこと?」

 

『あ、単なる思いつきなんだが、ヒモ姉が妹Ⅱへの依存度を高めたら、メスガキは焦るわけだろ。その結果、メスガキは妹Ⅱを排斥しようとするわけだが、それができなくなる状況になるように思うんだよなぁ。¥100』

 

「……お姉ちゃんをわたしよりも依存させる?」

 

 そんなことがありえるのか。

 わたしにはお姉ちゃんと過ごした時間というアドバンテージがある。

 それなのに、それを無視するようなヒモ化要素が……。

 

 

 

 あった。

 

 

 

 ただひとつだけ――。

 

 

 

 わたしに持ちえない要素が、恵子には確かにひとつだけある。

 お姉ちゃんを徹底的にヒモ化する絶対兵器が恵子にはあるんだ。




進めば二つ!


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ゾンビかサメか、それが問題だ

「お姉ちゃん♡ サメとゾンビどっちがいーい?」

 

 わたしは、お姉ちゃんに語りかけた。

 手にはバルタン星人のごとく、ふたつの映画のパッケージを掲げて持っている。

 フォフォフォフォフォ♡

 

「え、突然どうしたの?」

 

 お姉ちゃんはパッケージを見た瞬間、脅えているみたいだった。

 リビングのソファのところで足を抱えて小さくなっている。

 身をそらして、わたしから逃げようとしてる姿が実にそそる♡

 それもそのはず、お姉ちゃんはこわがりなんだよね。

 ホラー映画自体が苦手であまり見ないタイプ。

 今も見ていたのは、風光明媚な渓谷に挟まれた大河を下るナイスボートな映像だった。

 

 今日は土曜日で、恵子もいない。

 恵子は一週間に一度くらいのペースで実家のほうに帰っている。

 家令から報告を受けて、いろいろと指示を飛ばしているらしい。

 普段はIT時代の申し子らしく、スマホやパソコンからテレワークしてるみたいだが、顔をつきあわせてやらなければならないこともあるとかないとか。まあ家をずっと空けておくのもよくないのだろう。

 

 ともかく、恵子がいないので、お姉ちゃんにいつもよりずっと甘えられる。

 たまにはお姉ちゃん成分を補給しないと、わたし生きていけない。

 

「お姉ちゃんといっしょに映画みたいなぁ♡」

 

 わたしはソファに膝をのっけて、お姉ちゃんに迫る。

 そして映画のパッケージをグイグイと押しつけた。

 

 ちなみにサメ映画のほうはお前もうサメじゃねーだろっていうぐらい、えげつねえモンスターが襲来するようなことが書かれてあるが、大丈夫。そいつ映画の中では()()()()()()()()()()()()()()()から♡ なんならウルトラマンより登場時間少ないからね。

 

 でも、お姉ちゃんはそんなこと知るはずもないし、わたしも先入観を持って映画を見てほしくないから、あえて何も言わないのだ。

 

「お、お姉ちゃんはディズニーとかのほうがいいなぁ」

 

「えー、サメもゾンビもおもしろいよ♡」

 

 特にサメやゾンビというのは、ロンリーウルフと重なるところがあるからな。

 ゾンビは連帯しているが、意思のない無統率な群体だし、サメは言わずもがな。

 どちらも人間関係を際立たせるためのギミックになってるんだよ。

 わたしは、どちらかと言うと、サメやゾンビに感情移入するタイプである。

 

「こういうのはちょっとお姉ちゃん苦手なんだよねぇ……」

 

「だってほら、ここに小さなお子さんは大人の人といっしょに見ましょうって書いてるよ♡」

 

「え……あ、本当だ」

 

 歯切れの悪い返事をするお姉ちゃん。

 あまりパッケージを直視したくないのだろう。

 

「お姉ちゃんがいっしょに見てくれると嬉しいな」

 

「う、うん。わかった」

 

「ほんと♡ ありがとうお姉ちゃん♡」

 

 わたしはパッケージを放り出してお姉ちゃんに抱き着いた。

 ちなみに今日のお姉ちゃんは、だらし姉ぇモード。

 わたしが着せたオシャンティーな服を脱ぎ捨てて、下着同然の姿となっている。

 恵子がいないと、お姉ちゃんも少し油断するんだよな。

 そこがお姉ちゃんのかわいいところです♡

 

 

 

 ※

 

 

 

 選ばれたのはゾンビ映画だった。

 パツキンの若い姉ちゃんが主人公で、おっぱいは結構デカい。それだけでも見る価値あるわ。

 

 わたしがジャケ買いした理由の大部分は、おっぱいに責任があると言っても過言ではない。

 なお、ゾンビなハザードではなく、超人的な力を持たない一般市民というところが実によい。

 

 この映画の特殊なところはポイント・オブ・ビューという視点の妙にある。

 要するに、カメラ視点ということで、実際に撮影されたものがほぼそのまま提示されているというような形だ。登場人物の中にカメラマンがいて、そのカメラ視点なんだよな。だからこそ俯瞰視点と違って、臨場感が半端ない。

 

 恐怖に震えた人間が、カメラのブレとして表現される。

 小さな息遣い。

 暗闇から迫る得体の知れない人影。

 FPS視点ともまた違うぞ。この視点は、獲物を追う狼に通ずるところがある。

 パツキンの姉ちゃんが逃げる!

 

「ふえぇぇぇぇぇ。ヤダぁぁぁぁ!」

 

 そして怖がるお姉ちゃん♡

 そのままわたしはぬいぐるみのように抱っこされる。

 恐怖を逃がすためのショックアブソーバなのだろう。

 お姉ちゃんの素足がわたしの身体ごとからめとっていて、ちょっとだけ息苦しい。

 けれど、それに倍する嬉しさがある。

 

――ゾンビさん、ありがとう♡

 

 もっとお姉ちゃんを怖がらせてください。

 実をいうと厳密にはゾンビじゃないが、そんなことはどうでもよいのだ。

 恐怖に震えるお姉ちゃんが愛おしい。

 きゅーっとしたくなる。

 

「ねえ、お姉ちゃん」

 

 わたしはお姉ちゃんを見上げた。

 

「な、なななにかな。異空ちゃん」

 

 顔が近くて、わたし大興奮。

 涙目のお姉ちゃんがかわいくて、すぐに食べたくなっちゃう。

 けれど、わたしは視線を合わすにとどめた。

 

「怖いなら、わたしを見ていていいよ。わたしなら怖くないでしょ?」

 

 ほーら。かわいい小学生妹ですよー♡

 

「が、画面から目をそらしたら、いっしょに見てることにならないから……」

 

 お姉ちゃん♡

 怖くてもわたしのことを想って我慢してくれるところが好き♡

 

「実は、わたしもちょっぴり怖くて、お姉ちゃんをチラチラ見て安心してた♡」

 

「異空ちゃんも?」

 

「そうだよ。だって怖いもん♡」

 

 ぎゅうううっと、お姉ちゃんに近づいていく。

 太陽に吸いこまれる小惑星みたいに、限りなく距離をゼロにする。

 お姉ちゃんのお日様みたいな体温を感じて、本当に安心する。

 

 でも、それだけじゃ足りない。

 これからのことを考えると、どうしても布石を打っておかなければならない。

 

「もし、お姉ちゃんに怖いことが起こっても、()()()()()()()()()()ね」

 

「異空ちゃんが?」

 

「うん。何か怖いことあっても、困ったことあっても、絶対守ってあげる♡」

 

――そう、()()()()戦法。

 

 お兄ちゃんとの配信のなかで気づいた、恵子の持つ最終兵器。

 それに対抗するためには、お姉ちゃんがわたしを狩人であると誤認してもらわなきゃならない。

 なんのことはない。いままでの培ってきた姉妹の信頼度の差を対抗手段にするんだ。

 

 これは、恵子が猫狩どちらであっても、あるいは素村であっても、わたしがまっさきにすべきアピールだった。

 いまになって思えば、わたしは恵子と共同戦線を張った気になって安心していたんだ。

 腑抜けているとしか言いようがない。吊られても文句を言えない失態だ。

 

 もちろん、恵子は素村である線が一番濃い。今でもそう思っている。

 わたしの中では、恵子は家族が欲しいだけのただの小学生だ。

 だけど、だからといって猫狩を警戒しないのは、トーシロの考えってやつですよ。

 わたしは怠惰な豚じゃない。飢えた狼なんだ。

 

「だから、お姉ちゃん、なんでもわたしに相談してね♡」

 

「う、うん。異空ちゃんの言う通りにするね」

 

 お姉ちゃんは画面で襲われているパツキンの姉ちゃんをチラチラ視界にいれている。

 画面から視線を逸らすのも怖く――、しかし直視するのも怖い。

 恐怖のあまり、わたしの守るという言葉にすがってしまう。

 そしていよいよゾンビに押し倒されるお姉ちゃん!

 緊張感のあまり、お姉ちゃんはわたしを力強く抱きしめる。

 

「わ、私を守ってぇ! 異空ちゃん!」

 

「もちろんだよ。お姉ちゃん♡」

 

 映画はバッドエンドぎみに終わったが、わたしのストーリーはハッピーエンドでまちがいなし。

 

「ううう。怖かったぁ」

 

「フォフォフォフォフォ♡」

 

 思わずニコニコダブルピースをかましてしまうわたしでした。

 さすが忍者キタナイという声がどこからともなく聞こえてきそうだ。

 しかし、勝てばよかろうなのだ!

 

 

 

 ※

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

 夕方の六時をまわった頃。

 玄関口のベルが鳴り、恵子の声が聞こえてきた。

 いつもなら、そこで勝手に入ってくるのだが、その様子はなかった。

 

「申し訳ありませんが、荷物が多くてどなたか開けていただけませんか」

 

「はーい」

 

 ちょうど料理をしていたわたしが、いったん火を弱火にしてドアに向かう。

 

 玄関の扉を開けると、そこには恵子の視界を塞ぐほどの大きなプレゼントボックスを持った恵子が立っていた。中身は軽そうだが、質量的には大きそう。三段重ねになっていて、一段目二段目は薄い。三段目だけはやたら大きくて立体感のある箱だ。

 

「恵子ちゃん。おかえりなさい」

 

 わたしは持ってきた箱のことには触れず、お決まりの言葉を口にした。

 

「はい。ただいま戻りました」

 

 身体を半身にして、わたしに顔を向ける恵子。

 そのままニッコリと笑う様子は、家族のもとに帰ってきて安心しているように見える。

 油断しているわけじゃないが、やっぱりどうしても小学生というフィルターがあるからな。

 

 恵子を中に招き入れ、わたしはドアを閉めた。

 これでまた姉妹という密室の完成だ。

 逃げ場のない闘技場――決戦のバトルフィールドというべきか。

 家族になった人間に対してあまり誉められた考えではないがな。

 

 階段からお姉ちゃんが降りてきた。

 先ほどまでのだらし姉ぇ恰好は鳴りを潜め、いまではわたしが用意した恰好をしている。

 清純かつ優雅な一品。もちろん、かわいい。

 けど、さっきまでの下着同然の無防備な姿も捨てがたい。

 オトコごころは複雑なのよね。いや乙女ごころか。知らんけど。

 

「あ、恵子ちゃんおかえり~。今日はちょっと遅かったね」

 

「お待たせして申し訳ございません、お姉様。今日は外国の方との商談に少し時間がかかりすぎてしまいましたわ」

 

「へえ、そうなんだ……。恵子ちゃんって本当に小学生?」

 

「わたくしなんか、ひよっこですよ。オジさま達にかわいがってもらっている立場ですわ」

 

 謙遜を見せる恵子。

 本当にそう思ってそうだが、客観的に見たら小学生というレベルじゃない。

 わたしは鍋の火加減をみながら、お姉ちゃんとのやりとりを見守っている。

 

「外国の人とのお話って、やっぱり英語でするの?」

 

「そうですね。英語が多いです。スウェーデン語も少々使うといったところでしょうか」

 

「恵子ちゃんスウェーデン語もできるの!?」

 

「たしなむ程度ですわ」

 

 トリリンガルかよ。

 やっぱりこの小学生、底が知れない。

 というか――さらりと流したが()()という言葉のほうにビビるべきだ。

 お姉ちゃんは「すごいねー」と感心しきりだ。

 しかし、単純に英語を話せるのがすごいって感じだな。

 

「異空ちゃんも英語を話せるのですよね?」

 

「んー、わたし? まあそれなりに」

 

 そりゃ話せるが、いちおう外国生まれの外国育ちではあるからな。

 

 話せなきゃ日本にやってくるまで、パッパとどうやってコミュニケーションとっていたんだって話になるわけで、英語くらいは話せて当然という感じもする。

 

『それだけじゃなくて、スウェーデン語も話せますわよね』

 

 恵子が突然、スウェーデン語で喋りはじめた。

 パッパの血筋も調べたんだろうから、この程度は知っているというアピールだろうか。

 

『もうだいぶん忘れたよ』

 

『ご謙遜ですわね』

 

『わたしは日本語ベースで考えているからね』

 

 これは本当。

 いくつか言語を学んでいると、同じ意味を持つ言葉が重なって思考される。

 脳内の切り替えみたいなものが必要になってくるんだけど。

 わたしの場合は、あくまでベースは日本語を使っている。

 

『異空ちゃんにも、わたくしの商談をぜひとも手伝ってほしいですわ』

 

『わたしまだ小学生だよ。無理に決まってるよ』

 

『オジサマ達とのお話は楽しいですわよ。皆さま紳士ですし。異空ちゃんもきっと気に入られます。わたくしが保証いたします』

 

『小学校の先生に、知らない男の人としゃべっちゃダメって言われてるし』

 

 まあ、お兄ちゃんたちとは日夜しゃべりまくってるがな。

 でも、お兄ちゃんたちは知らない人じゃないからいいんだ。

 

『わたくし、カワイイ妹を自慢したいのです!』

 

 見え透いた魂胆だと思った。

 恵子が最終兵器を使う布石を打ってきている。

 

「ここは日本なんだから日本語をしゃべってよ。()()()()()()()

 

 お姉ちゃん呼びのカードを切って、恵子を牽制する。

 恵子はすぐに口をつぐんだ。そして若干、顔を赤らめて嬉しそうにする。

 むぅ。勝負に勝って、試合に負けたとはこのことか。

 

「天才な妹たちに挟まれて、そ、疎外感がすごい」

 

 お姉ちゃんが絶望した顔をしていた。

 お姉ちゃんはカワイイの天才児なんだから、そんなに悲観しちゃダメ♡

 

「大丈夫だよ。いまどきAIちゃんに任せれば、ほとんど同時通訳はできるんだし」

 

「でも、異空ちゃんの算数の宿題をAIちゃんに解いてもらったら。マスターは大学生なのにこんな簡単な小学生向けの問題も解けないんですかぁ♡って煽られたもん……」

 

 あー。

 

 あれはイヤな事件だったね。

 

 わたしがちょっぴりお姉ちゃんに頼る演出をしたくて、お姉ちゃんに宿題を見せにいったら、そういう顛末になってしまった。最近のAIは学生の宿題に使われてしまうのを防ぐために、なんらかのバイアスがかかっているらしい。

 

 ていうか、AIちゃんってさりげにメスガキ仕様じゃね?

 

「ともかく、ここは日本なんだし、べつに外国語ができなくても大丈夫だよ」

 

「本当に?」

 

「本当だよ。恵子ちゃんも、外国語は禁止でお願い」

 

「わかりましたわ。家内の秩序を乱してしまい申し訳なかったです」

 

 ひとまず話が落ち着いたところで料理が完成した。

 

 夕食における永遠の定番。

 

――すき焼きである。

 

 

 

 ※

 

 

 

「お姉ちゃん。今日のお味はどうかな?」

 

「もちろん! おいしいよ! お肉やわらかぁ♡」

 

 そう、お姉ちゃんのお胸のお肉もやわらかぁ♡ どんどん吸収されてイケ♡

 

 お姉ちゃんが喜んでくれてなによりだ。

 

 一方、恵子のほうはというと、これまたいつものように静々と食べているが、表情はやはりほころんでいる。日本人にとって魂の料理ともいえるすき焼きの魅力に抗える者はいまい。

 

 たとえ、スウェーデン語が堪能な小学生だろうが、それは真実といえる。

 

「ふふ♡ 異空ちゃんは、すぐにでもお嫁さんになれますわね」

 

 うっ。

 恵子にそんなふうに言われてしまうと複雑な気分だ。

 前にお姉ちゃんにも同じように言われたが、そのときとはワケが違う。

 もし、恵子が猫だったりすると恐怖を感じる。

 

 ええい、なにくそ。狼が怖がってどうする。

 

「すき焼きって見た目以上にシンプルなんだよ。食材切って煮つめるだけだからね」

 

「お姉様の好みに寄せているところが素晴らしいと言いたいのですわ」

 

「……」

 

 恵子がわたしとお姉ちゃんを睥睨する。

 その観察眼はどちらを狙っているのか。あるいはどちらも狙っていないのか。

 

「お姉ちゃん好みの味に染めてるのは確かだよ」と、わたしは言った。

 

「お姉様が異空ちゃんに慕われて、わたくし些かモヤっとしたものを感じます」

 

「えー、モヤっと?」とお姉ちゃんがお肉にパクつきながら言う。

 

「はしたない妹とお笑いください。異空ちゃんに想われているお姉様を見て、羨ましいと思ったのですわ」

 

「恵子ちゃんもすぐに私たちみたいになれるよぉ」

 

 お姉ちゃんは甘いな。

 いろんな意味で甘い。

 だけど、わたしもまたそう思っている部分があるのは確かだ。

 

 なんだかんだいって、恵子は必要以上に踏みこんできたりはしないからな。

 手探り状態なのはこちらも同じ。

 恵子が時折踏みこみすぎても、それはわたしにも同じくらいの責任があるように思う。

 

「そうなれると嬉しいと思います」

 

 恵子は静かに目を閉じて、そう言った。

 

 

 

 ※

 

 

 

 それから人心地つき、ようやく例のデカいプレゼントボックスに話題が移る。

 

「これなーに?」と、お姉ちゃん。

 

 さっきから気になっていたらしい。もちろん、わたしも同じ気持ちだ。

 

――この中には、恵子の秘密兵器が隠されているのではないか。

 

 そんな戦々恐々とした気持ちが湧いてくる。

 

「また、領域侵犯になってしまいそうで、心配なのですが――」

 

 普段よりも心なしか弱々しい声だ。

 恵子は三段目の大きなボックスのリボンを解き放った。

 中から現れたのは、巨大な一抱えもある猫のぬいぐるみだ。

 ちょっとデブ猫だが、そこは愛嬌だろう。

 

「お二方にどうしてもプレゼントがしたくて……」

 

 恵子はデブ猫を持ちあげる。

 視界がさえぎられるほどの大きなぬいぐるみだ。

 もちろん、その意図するところはわたしへのプレゼントなのは疑いようもない。

 

「お姉様にも、異空ちゃんにも本当に感謝しているのです」その姿はとてもいじらしい。「受け取っていただけますか」

 

「うん。ありがとう。恵子ちゃん」

 

 これって、中にカメラとか仕込まれてないよな。

 いやいくらなんでも、そういった証拠を残すほど恵子は容易いプレイヤーじゃない。

 ぬいぐるみが、たまたま猫だから、そういった思考になってしまっただけだ。

 

 お部屋にはそれなりに女児っぽくぬいぐるみは置いてあるし、そこに一匹加わるだけならべつに問題はない。ブサイクな顔もよく見ればかわいらしいし。

 

 でも怖いのは一段目と二段目か。

 

 こちらにはヤバげな臭いがプンプンする。

 いつだって、秘密兵器は最後までとっておかれるものだからな。

 果たして、二段目の箱からは、黒いドレスが現れた。

 子どもサイズで、わたしにぴったり合いそうな一品。

 

「パリのタイユールに創らせましたの」

 

「夜会とかで着るようなドレス?」

 

 わたしは両の手でドレスを手に持ってみた。

 夜空を手のひらサイズに封じこめたような、とてつもない金額がかかってそうな一品だ。

 それにしても、どうやってわたしのサイズを知ったんだろう。

 まさか目視?

 

「サイズについては、いくつかのお写真から推測した数値になりますわ。合わなかったらおっしゃってください。すぐに調整させますので」

 

「これ絶対高いやつでしょ。受け取れないよ」

 

「鳳寿院の力をもってすれば、この程度たいしたことありません」

 

 イヤな予感がますます膨れあがる。

 

「すごーい! 異空ちゃんが着たら絶対似合いそう!」

 

 お姉ちゃんが目をキラキラさせている。美的感覚に鋭敏なお姉ちゃんは、プロの作った芸術作品ともいえる一品に釘づけのようだ。

 

「もちろん、お姉様のもありますよ」

 

 そして、最後に取り出されたのはお姉ちゃん用のドレス。

 こちらは大人向けのシックな感じで、わたしのようにひらひらはしていない。

 きっと、すごく似合うと思う。

 

「うわぁ。こっちは素材負けしそうだね」

 

「そんなことありませんよ。お姉様もお綺麗ですから」

 

「えー、そうかなぁ」

 

 喜色を隠せないお姉ちゃん。

 というか、そもそもお姉ちゃんはずっと素の状態。素村だ。

 金や権力とは無縁な無邪気な村人は、与えられた見たこともない財宝を前にはしゃいでいる。

 

――ゾクっ。

 

 背中に戦慄が走った。

 

 お姉ちゃんは気づいていないけれど……。

 ついに恵子が最終兵器を繰り出してきたという感じか。

 数分後の未来を、わたしは正確に覚知する。

 

「どこの夜会に出てもおかしくないですよ。お姉様♡」

 

「恵子ちゃんありがとうねぇ」

 

「お姉様に喜んでいただいて嬉しいですわ」

 

 恵子は言っている。

 

 鳳寿院の跡取りの唯一の()として、その権勢をふるえと。

 下々の者に見せつけてやれ、と。

 

 つまりは――。

 

 ()寿()()()()()()()()()と、お姉ちゃんに言っているんだ。




保護者らしく振舞ってねってだけだよね、きっと


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狩人日記?

X月XX日

 

 わたくし、目覚めましたわ。

 

 日記なんて益体のないもの。記録物としてはなんの価値もないと思っておりましたが、わたくしの感動を、一瞬一瞬の生の喜びを閉じこめるには、日記という媒体は有用だと思いなおしました。

 

 だから本日から日記を書き始めようと思います。

 

 今日、わたくしは天使ちゃんにお逢いました。白雪のようなベースに毛先は桜色を乗せた髪の毛。小さなかんばせは幼いながらも整っており、既に完成された美を見せます。なかでもアレキサンドライトを思わせる複雑な色合いをした瞳。ああ……古来より日本人が詩のなかに封じようとした詠嘆の感情を、わたくしは満腔を通じて理解しましたわ。

 

 ああ……。

 

 言葉が絶します。その沈黙の中にしか表現できない至上のかわいらしさ。

 

 ああ本当に。異空ちゃん。本当に。

 

 かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいかわかわかわかわかわかわ。

 

 かわ……ゆす。

 

 どうにも感情が暴走気味になります。

 でもそれくらいわたくしにとっては衝撃的でした。

 

 異空ちゃんはどうやら両親を亡くしたばかりらしく、美人なお姉様と連れだってやってきました。おふたりは仲が良く、異空ちゃんの視線には無上の信頼感がうかがえます。対するお姉様の表情はこわばっており、これからお父様と相対することに緊張しているようでした。お姉様はかろうじて成年と呼べる年齢でしたが、まだまだ若い身空。誰か大人の庇護を求めて、わたくしのお父様にお会いしにきたのでしょう。

 

 異空ちゃんの顔に、(くら)いものが無かったのは幸いでした。その愛くるしいお顔が曇るのはあまり見ていたくはありませんでしたから。ですが、涙で濡れる瞳はどんなにか美しいだろうと、そう思わなくもありませんでした。異空ちゃんがかわいすぎるのがイケナイのです。子猫が愛くるしすぎてメチャクチャにしたくなるというのは往々にしてあることでしょう。

 

 お姉様とお父様が話している間、わたくしと異空ちゃんはしばらく子どもたちだけで遊んでいるように言われましたわ。

 

 鏡台に座る異空ちゃん、わたくしは背後から十本の指を覆うようにかぶせます。

 

 我ながら蜘蛛が獲物に組みつこうとしている様を連想しました。無垢な少女を屠る喜びは、目覚めたばかりのわたしにとって、抗いがたい熱を伴っていました。息が荒くならないように気をつけるのが大変でした。

 

 髪留めは心理的負担を与えないように、できるだけシンプルなものを選びましたわ。

 

 フランスの職人に作らせた一品もので、百万円ほどはしますが、おそらく異空ちゃんは気づいていないでしょう。なぜなら、宝石よりも尊いご自分の価値に、まったく気づいていらっしゃらないのですから。

 

 あと数年も経てば引く手あまたになることは想像に難くありません。いや、今でもその手の趣味の方にはたまらないはずです。欲望の視線にさらされ無惨に花を散らすよりは、いっそわたくしの手でたおってしまおうか。そう考えなくもありませんでした。

 

 わたくし欲しいものは絶対に手に入れる主義ですので。

 異空ちゃんをわたくしの妹にしたいというのが日記を書き始めた動機でもあるのです。

 

 

 

X月XX日

 

 残念ながら、異空ちゃんの家族にはなれませんでしたわ。

 お父様の言い分もわかります。お父様はわたくしを男手ひとつで育ててくださってますから、そこに異分子を取り込むことを忌避されたのでしょう。鳳寿院の力が邪魔をしてしまったのです。

 

 いっそ鳳寿院の名を捨ててしまおうか……。そんなことを考えなくもなかったのですが、現実的に見て、それは無理です。いまのわたくしは小学生ですし、ひとりで暮らすのさえ許されないでしょう。

 

 可能性があるとすれば、わたくしが中学に上がる頃に、須垣家の近くにある中学校を選択し、実家から通うのは遠いからという理由で、須垣家に転がりこむというのはどうでしょうか。

 

 これなら、お父様を説得することも可能かもしれません。なんだかんだ一人娘というのは最強です。父親にとって、娘はまるで無慈悲な月の女王のように逆らい難い存在だからです。お優しいお父様のことですから、きっと天涯孤独な姉妹のことも気にかけているはず。わたくしが須垣家のお世話になることで、お父様は須垣家の援助をする契機ができる。お父様の心にも沿う形になるでしょう。

 

 それまでの間にできることを考えます。

 

 

 

X月XX日

 

 わたくし、デビュタントを経験しました。

 

 十を数える年になると、鳳寿院家では社交の場に踊りでることになります。

 お父様のお仕事を少しだけお手伝いし、その傍らで顔をつなぐ。

 逆説、わたくしの計画を遂行していくためには、鳳寿院から離れなければなりません。

 

 要するに使用人の方々を使っていろいろとしてしまうと、必ずお父様に伝わってしまいます。

 ですので、親切なオジサマを見つけるためにも、積極的にデビューしたのです。

 

 それなりに親しい間柄になった後は、複数のオジサマを通じて、探偵を雇いましたわ。

 直接顔をつきあわせたわけではございませんが、情報はデータでのやりとりで十分ですし、私設の口座から報酬をお渡ししても誰にもバレることはございません。自主性を重んじるお父様は、わたくしの口座を覗き見るなんて無粋な真似はいたしませんから。

 

 これで登下校時の異空ちゃんの御姿を鑑賞できます。

 ああ……。今日もお可愛いこと……。

 

 

 

X月XX日

 

 ついでに、ブイチューバーとしてもデビューしましたわ。

 

 生意気に思われるかもしれませんが、わたくしどうにも庶民の方々の心情というものがいまいち理解できません。同級生の方々にも、どこか壁のある態度をとられてしまいます。同級生にすら「恵子お姉様」とか呼ばれる始末。上級生の方々からも呼ばれた時は心の中で頭を抱えましたわ。

 

 これでは、異空ちゃんを射止めることなんてできようもありません。

 わたくしは庶民の方々のように「恵子お姉ちゃん」と呼ばれたいのです。

 

 仮面をかぶりながら、庶民の考えを知る。

 それにはブイチューバーが効率的だと思ったのですわ。

 

 ブイネームは少し考えましたが、わたくしの名前からそのままほとんど捻りもなくつけました。

 鳳寿院恵子。

 HOUJUIN EKOから淫猫としましたの。

 

 容姿はネコミミのついた黒髪黒目のお嬢様。相場の百倍ほどお金を積んで、超特急でプロに描いていただきましたが、清楚な淫獣という矛盾した設定によく応えてくださっていると思います。

 

 

 

X月XX日

 

 淫猫は清楚系の女王様気質という設定にいたしました。

 わたくし、どうにも自分が高飛車なのではないかと思います。帝王学を学んできたせいなのか生来的な気質なのか、あるいはその両方の結果、わたくしは無意識的に人を支配してしまう傾向があると思います。だからこそ、逆につきぬけてキャラクターとして設定してしまえば違和感がないと思ったのですわ。

 

 もちろん、最初から異空ちゃんを披露したりはしません。

 誰が自分の宝石箱を赤の他人に見せびらかしたりするでしょう。

 

 信頼を醸成する期間が必要でした。

 もちろん、それはリスナーの皆様にとってもそうでしょう。

 わたくしが皆さまの信頼を勝ち取るためには幾分かの時間が必要だと思います。

 

 

 

X月XX日

 

 お豚さん。

 そう呼ばれることで、喜ぶ人種がいるらしいことを、わたくし初めて知りました。

 ブイはリスナーのことを特殊なファンネームで呼ぶ文化があるようです。

 いつのまにやら、リスナーさんはお豚さんになってしまいましたわ。

 わたくしがご挨拶すると、ブヒブヒ鳴くのです。

 お可愛いこと……。

 

 

 

X月XX日

 

 今日もお豚さんたちがブヒブヒ鳴いてます。

 このまま養豚をはじめましょう。

 

 

 

X月XX日

 

 異空ちゃん観察日記のほうも続けております。

 今日も異空ちゃんがかわいらしすぎますわ。

 

 

 

X月XX日

 

 今日は雨あがりの空。

 水たまりを飛び越える異空ちゃんがかわいかったですわ(小並感)。

 

 

 

X月XX日

 

 今日も異空ちゃんがかわいい。

 わたくし優勝しました!

 

 

 

 

X月XX日

 

 異空ちゃんが横断歩道を渡れなくて困っているご高齢の方を助けていらっしゃいました。

 ああ……異空ちゃんは天使。

 わたくしの異空ちゃんデータがECOドライブの中に溜まってゆく……。

 

 

 

 

X月XX日

 

 あまりの異空ちゃんのかわいさに目が曇ってましたが、少しおかしなことに気づきました。

 ほとんど毎日のように買い物をしてらっしゃるのは異空ちゃんなのです。

 シルバーカーを引いて、買い物をする姿は、初めてのおつかいといった風情があり、大変好ましいものでしたが、よくよく考えれば変です。

 お姉様はいったい何をしているのでしょうか。

 

 

 

X月XX日

 

 お姉様のほうも観察してみましたが、どうもお姉様は異空ちゃんに生活全般をお任せしちゃっているのではないかと思います。小学生がそんなことをできるのかとも思うのですが、わたくしでもできなくはないですし、絶対にないとは言い切れません。お豚さんたちにも意見を聞いてみましょうか。

 

 

 

X月XX日

 

 メンバーシップに入っていただいた、エリートなお豚さんたちに聞いたところ、異空ちゃんは家族愛にすがっているのではないかという線が濃くなりました。

 

 確かに両親を失ったばかりの小学生が、唯一の家族であるお姉様にすがるという考えは妥当なように思います。お姉様もそれをわかっているがゆえに、あえて小学生妹のヒモである状態を維持しているのかもしれません。

 

 

 

X月XX日

 

 自家サーバーのありあまる力を利用したVR空間。

 その奥まったところにある、一段高いところには豪奢な椅子があり、そこにわたくしは足を組んで座っています。

 お豚さんのひとりが、「もしかすると妹様は淫猫様のようにお姉様を愛してらっしゃるのでは」という愚劣な意見を奏上してきたので、叱責したのです。

 わたくしに踏まれて、お豚さんは喜んでいました。

 なにゆえ……。

 

 

 

X月XX日

 

 

 

 

X月XX日

 

 

 

 

X月XX日

 

 お父様がみまかって数日。

 たとえようのない心細さを感じます。

 家族とは、この宇宙とわたくしを結びつける紐帯だったのですね。

 縁を失うと、人は地に足をつけていられず、魂は中空へと霧散する。

 寂しい……。

 

 

 

X月XX日

 

 立ち直るのに、少しお時間がかかりましたわ。

 この世に縁がなければ作ればよいのです。

 天国に行ってしまったお父様、見ていてください。

 わたくしは必ず世界で一番カワイイ妹を手に入れてみせます!

 

 

 

X月XX日

 

 異空ちゃんはやはり天使でした。

 一年前のやりとりを覚えていて、わたくしの贈った髪留めを大事に想ってくださっていたのです。感動のあまり、わたくし涙を抑えきれませんでした。

 ああ……お豚さんたちが赤スパを投げる気持ちが今まさに理解できましたわ。

 推しに魂をささげるような気持ちだったのですね。

 ああ……、わたくし、異空ちゃんに赤スパ投げたい。

 鳳寿院の全財産、66兆2000億………!!

 

 

 

X月XX日

 

 引っ越しの準備に須垣家にお邪魔してわかったことなのですが、お姉様ヒモでしたわ。

 ただ、こうなると、異空ちゃんがお姉様をお世話しているのはなぜなんでしょうか。

 家族関係を確かなものにするため?

 しかし、それにしてはいささか過剰な気もします。

 前にお豚さんの一人が言っていたように、お姉様のことを狙ってらっしゃるからでしょうか。

 そんなバカなとは思うのですが……。

 

 

 

X月XX日

 

 異空ちゃんの心の内がわからなかったわたくしは、少々犯罪めいておりますが、お豚さんたちの意見をあらためて聞いてみることにしました。

 

 具体的には、わたくしが髪留め型のカメラで異空ちゃんの様子を撮影しお豚さんたちに提示。

 それから庶民の感覚で、意見を抽出するという流れです。

 

 もちろん、異空ちゃんの尊いお顔を晒すなんてことはいたしません。のっぺらゲンガーを使って顔をアニメ調にし、背景画像変更と変声も施し、プライバシーや肖像権に対して最大限の配慮をいたします。

 

 喧々諤々の議論が湧きおこりました。

 わたくしが思っているのと同様に判別不能。

 ただし、家族愛を一部はみ出るような感情も見え隠れするといった感じでしょうか。

 

 提示された意見はお姉様のお世話をわたくしが分担するというもの。

 もしも、異空ちゃんがかわいい狼さんだとしたら、わたくしが家事を分担することでお姉様をとられるかもしれないと焦り、尻尾を出すのではないかという意見でした。

 

 なるほど確かにと思い、お豚さんをねぎらってから実際にそのような作戦に移りました。

 

 

 

X月XX日

 

 お姉様のヒモっぷりが生半可なものじゃないことが判明いたしました。

 朝はおはようから、夜はおやすみまで。隙のないヒモ生活。

 これはお姉様が社会復帰するのは無理かもしれません……。

 

 せっかく縁あって家族になれたのですから、お姉様のこともないがしろにしたくはありません。

 家事を分担するというのは、わたくしの計画にも沿いますが、お姉様を更生させるという意味でも有用でした。異空ちゃんはかわいらしく抵抗しておりましたが、わたくしの言ってることは社会常識的に見て正しいので、うまく反論することはできません。

 

 しかしながら、異空ちゃんがお姉様のお世話をする本心は、やはり家族愛にあるのではないかとも思いますわ。いずれにしろ、わたくしが家事を分担することで、問題はないはずです。

 

 異空ちゃんがただのかわいらしい妹だとしたら、いずれわたくしにお世話されることに慣れていくでしょうし、仮に狼さんだとしても、お姉様をいっしょにお世話することで共同戦線を張ってるように思うでしょうから。

 

 

 

X月XX日

 

 一年前と同じく、異空ちゃんの髪の毛を梳いてあげました。

 少々髪が痛んでおります。トリートメントはしているのでしょうか。

 わたくしが姉らしく注意すると、異空ちゃんはメンドウくさいといった態度をとります。

 ああ……妹が姉をぞんざいに扱う。この距離感がたまりません。

 わたくしの手で綺麗にかわいくなっていく異空ちゃん。

 そして、ありがとうとはにかむ姿は、わたしの心臓を撃ちぬいてしまいました。

 思わず、頬に口づけてしまいましたが、少しやりすぎだったかもしれません。

 けれど、トマトのように赤く染まる異空ちゃんは、激カワ。

 もはやカワイイというレベルを越えています。

 常人であるわたくしが耐えられるはずもないのです。

 

 

 

X月XX日

 

 今朝は珍しいことに異空ちゃんが起きてきませんでした。

 

 わたくしと異空ちゃんは、朝はお姉様をいっしょに起こすことになっていますが、肝心の異空ちゃんが起きないことにはどうしようもないところです。何度かベルを鳴らしても無反応。

 

 異空ちゃんは頑張り屋さんですから、いずれ必ず起きてくるでしょう。

 わたくしにはそれを待つ選択肢もありました。

 

 ですが、ここでどうしても抑えがたい衝動がわたくしのなかに湧きおこったのです。

 

 さでずむ。

 

 異空ちゃんの曇り顔は致死性のかわいさを含みます。

 涙に濡れた瞳は宝石のように輝くでしょう。

 

 もちろん、脳裏では冷静に計算する部分もありました。

 わたくしが異空ちゃんに嫌われることで、お優しいお姉様は所在を無くしたわたくしをかばうでしょう。

 そうすると、今度は異空ちゃんが泣きはらした目で、お姉様を求めるに違いありません。

 わたくしとしましては、お姉様を強いて排斥しようという気はありませんから、それでもよいのです。

 

 計画はうまくいきました。

 わたくしは次女としてのポジションに収まり、須垣家の一員として真に迎え入れられたのです。

 

 その証として、わたくしの手元には、異空ちゃんの作った時間割がございます。お姉様のお世話についてビッシリ書かれたそれは、お姉様をとられたくないという想いと、わたくしを受け入れたいという想いがアンビバレンツに内包されていて、見ているだけで達しそうになりますわ。

 

 これが、異空ちゃんの考える明確な()()なのでしょう。

 わたくしはこのラインを犯さないように、わずかずつ浸透していけばいいのです。

 

 同日、わたくしは異空ちゃんといっしょにお買い物にでかけることができましたわ。

 小さな手から伝わる体温が尊く、わたくしは喜びを抑えることができそうにありません。

 

 途中で、護衛兼探偵をしていただいている高校生くらいに見えるお姉様や、いつも異空ちゃんを見守っていただいている高齢ながらその道では伝説のおばあ様にご挨拶しつつ、異空ちゃんと他愛のない会話を重ねました。

 

 女子高生探偵さんはわたくしと異空ちゃんが仲良く買い物をしているのを見て「お姉ちゃんとお買い物かな」とおっしゃってくださいましたわ。普通に考えれば、わたくしの配色は黒で、異空ちゃんは白。黒白なのにお姉ちゃん扱いをするのかと言われれば微妙どころかもしれません。すれ違っただけの赤の他人だからこそ違和感のない言葉ですが、要素をとられれば失言とも言えますわね。

 

 ですが、この点についてはどうしてもわたくしが聞きたかった言葉なのです。

 わたくしが欲しい言葉を投げかけていただいたという点で言えば、さすが伝説の探偵の孫といったところでしょうか。報酬には色をつけておきましょう。

 

 

 

X月XX日

 

 今日も優勝しましたわ!

 ついに、異空ちゃんがわたくしを姉と認めてくださったのです!

 

 ああ……。あああ……。

 天にも昇る気持ちとはこのことを言うのでしょう。

 

 忘れないうちに反芻したいと思います。

 

 今日、異空ちゃんは三姉妹丼を作るとのことでした。

 お豚さんたちがよく姉妹丼なる言葉を卑猥な意味で言っているのは知っています。

 しかしながら、天使の口からそのような言葉が出るとは正直意外でした。

 わたくしは、その意味するところが卑猥である――ということが伝わらないように、精一杯表情筋を引き締めましたわ。この程度、オジサマたちとポーカーゲームに興じたりするわたくしにとっては造作もないことです。

 

 それで重ねて聞いていきますと、なんともかわいらしい発想!

 この三姉妹丼はわたくしたち姉妹のことを指しているというじゃありませんか!

 

 これは浸透作戦がうまくいっていると見たわたしは、一気に侵攻を開始します。

 わたくしを、お姉ちゃんと呼んでもらえるように要求したのです。

 

 厚かましい願いですし、拒否される可能性もございました。

 もちろん、わたくしの中には、お姉様が傍らにいるから断られないだろうという打算的な部分もありましたわ。

 ですが、わたくしの希求は、異空ちゃんに姉と呼んでもらうことなのです。 

 

 望みは叶いましたわ。

 恥ずかしいからと言って、一度切りでしたけれど、一度目があれば二度目も必ずあるはずです。

 

 わたくしの計画は順調そのものですわ!

 

 

 

 

X月XX日

 

 異空ちゃんの身も心も手に入れるためには、お姉様の攻略が欠かせません。

 異空ちゃんはお姉様に依存しておりますから。

 

 しかし、異空ちゃんからお姉様をとりあげるなんてのは下策でしょう。

 

 言うなれば、わたくしは、異空ちゃんに食べられたいのです。選ばれたいのです。

 主体的な判断の結果として、わたくしをお姉ちゃんと呼んでほしい……。

 イヤイヤながら強制的に言わせるなんて状況は望ましくないのです。

 

 ずいぶんとワガママで傲慢だと思いますが、それがわたくしという存在なのだからしかたありません。

 

 中策は、円満にお姉様には退場していただくということが考えられます。

 具体的には鳳寿院の金と権力で自立を早め、お姉様がおひとりで生きていけるような環境を整えるのです。

 お姉様のほうがヒモを脱却すれば、当然、異空ちゃんのお姉様を依存させるという依存症も抑えられるでしょう。問題なのは、この方策は異空ちゃんを必要以上に追いつめてしまうこと。追い詰めすぎて、消えない瑕をつけることは望みません。

 

 上策は…………。

 

 まあここに書くことでもないでしょう。

 答えはわたくしの中に既にあるのですから。

 

 さぁ今日も、異空ちゃんを()()()()()()しましょう!




猫でした


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猫を炙るお仕事

 妖精が舞っている。

 恵子の用意した夜会用のドレスを着せられてお姉ちゃんがくるりと回転した。

 

 その様子は、スイングバイの要領で後からついてくるおっぱいが素敵ではあったのだけれども、そんな悠長な感想を抱いている余裕はなかった。

 

 あれからすぐ後――。

 

 恵子がドレスを試着してみるようお姉ちゃんに促し、お姉ちゃんもつやつやな夜会ドレスを着てみたかったのか、あっさりその奸計に乗っかってしまった。

 

 わたしとしては、地獄の門へご招待されているようにしか見えないのだけど、お姉ちゃんは恵子がお姉ちゃんを姉として慕っているようにしか見えないらしい。

 

――お姉ちゃん、本当にこのままじゃヒモになっちゃう!

 

 と、思うものの……。

 お姉ちゃんに守ってほしいと言われるためには、恵子が行動するのを待たなければならない。

 わたしからわざわざ、鳳寿院に取り込もうとしていることを指摘するのもおかしいしな。

 それに恵子を家族として迎え入れている以上、いまさらその影響をゼロにすることはできないだろう。恵子を追い出しでもしない限りは――。

 しかし、お姉ちゃんは絶対にそうしないと思う。

 まさに、後手後手とはこのことか。

 わたしが悄然たる表情になるのもしかたのないところだ。

 

「どうしたんです。ドレスお嫌いでしたか?」

 

 鏡台の後ろから、恵子が声をかけてくる。

 その顔はわかりやすいくらい嬉しさで満ちている。

 奸計がうまくいきそうで喜悦を抑えきれないのだろうか。

 

 確かに夜を思わせるような黒いドレスは、わたしの白銀の髪によく似合っていた。

 髪留めは、たぶんメチャクチャ高そうな蝶を模したもの。もはやヘアピンとかのレベルじゃないそれは、小さな宝石が虹色のように配置されている。戦慄するぐらい金の匂いを感じる。これってウン千万円くらいするんじゃ……。

 

 そして、白い首筋には黒いチョーカー。

 

――わたし、首輪つけられちゃった……。

 

 このドレスもまた狼の拘束具のように思えた。

 素の状態なら、すごくかわいくしてくれてありがとうなんだがな。

 どうにも、恵子が計画的に見えてしかたがないんよ。

 そう思うのおかしくないよな?

 

「嫌いじゃないけど、装飾過多だと思うよ」

 

 わたしはありのままの感想を述べた。

 

「そうでしょうか。異空ちゃんはとてもお綺麗ですから、それくらい着飾らないと装飾のほうが負けてしまいますわ。お姉様もそう思いますよね?」

 

「ん? そうだねえ。異空ちゃんにそのドレスすごく似合ってるよ。まるで妖精さんみたい」

 

 お姉ちゃんがはずんだ声を出す。

 そのこと自体は嬉しい。しかし――。

 狼としての矜持が顔をだす。

 会話に布石を打て!

 すべての言葉に意味を持たせろ!

 恵子が猫でも狩人でも村人陣営なのは違いない。

 ともかく、うまく会話を誘導するんだ。

 

「えー、そうかなー。ドレスなんて()()()()()って感じがするよ。わたしやお姉ちゃんの世界とは無縁って感じがしない?」

 

 世界観の違い。

 わたしたちの世界と恵子の住む世界は違う。

 

「確かにねー」

 

「お姉ちゃんがこの服着てどこかに行くとか考えられないでしょ。お家で着る分にはいいけどね」

 

「そうかも。こんなに豪華なドレス着てると気後れしちゃうかもね」

 

「そんなことはありませんよ。服なんて着ていればすぐに慣れますから」

 

 恵子は柔らかくわたしの言葉を否定した。

 

「むっ」

 

「それに、お姉様もいずれは外に出て、独り立ちなされるのでしょう?」

 

「そ、そうだねー」

 

「いつまでも小学生にお世話されるのなんて、お姉様もお嫌でしょう?」

 

「それはそうかも――」

 

「でも、お姉ちゃんのお世話をするのは、わたしと恵子ちゃんで決めたことだよ!」

 

 わたしはすかさず反論する。

 恵子との時間割。あれはまぎれもない盟約だ。

 お姉ちゃんをヒモ化することを規約化したもの。

 自分でルールを破るなと、わたしは言っている。

 

「確かにそうですが、わたくしはお姉様が自立をいますぐ目指すのは難しいとしても、追々そうなるべきだと申し上げたはずです」

 

「む、むぅ……」

 

「それに、お姉様の気持ちとしてはどうなのでしょう。小学生妹のヒモとしてずっとこのまま暮らしていたいですか?」

 

「それはイヤかな……」

 

「さすがお姉様」恵子が大仰な声をあげる。「お姉様はきちんと考えておられる大人です」

 

「それほどでもぉ……えへへ」

 

 これはマズイ。

 わたしは恵子の指からするりと抜け出し、一気にお姉ちゃんに駆け寄った。

 そしてダイブトゥヘブン!

 

「わたし、お姉ちゃんと離れたくないよ!」

 

「ん? 私も同じだよ?」

 

「お姉ちゃんはヒモのままでいてくれなきゃヤダ!」

 

「そ、それはちょっと……どうなのかなぁ?」

 

「わたしがんばるから。いなくならないで」

 

 お姉ちゃんのおっぱいに頭をこすりつけて懇願する。

 もはやなりふり構っていられない。

 わたしの最強カード、家族愛を失いたくない健気な妹が炸裂する。

 

「異空ちゃんはいつもがんばってくれてるよ。ありがとうね」

 

 ぎゅう。お姉ちゃんに包みこまれて、わたしも腕を可能なかぎりまわす。

 お姉ちゃんの熱を感じて、少しだけ安心した。

 傍らにいる恵子を盗み見ると、なんとも言えない表情をしている。

 呆れ顔というべきだろうか。

 

「なにもお姉様をこの家から切り離したほうがよいなどとは言っておりませんよ」

 

「どういう意味?」と、わたしは聞いた。

 

「言わば、そう……リハビリみたいなものでしょうか。お姉様がヒモだと言われてしまうのは、経済的にも自立なされていない面が大きいからだと思いますわ。お姉様にそれなりの稼ぎがあれば、わたくしたちがお姉様に食べさせていただいている対価に家事を分担するというのは何もおかしなことではありません」

 

「だから()寿()()()()()()()()()()って?」

 

 いい加減、イラっときたので言ってしまった。

 

「異空ちゃんは本当にかしこいですわね。宝石のような瞳にどれだけの知性を秘めていらっしゃるのでしょう。わたくしの言葉の意図をここまで正確に理解してらっしゃるとは……」

 

「ええなにどゆこと?」

 

「ごまかさないでよ」

 

 わたしはジト目で言う。

 恵子は不敵に笑った。

 

「いいでしょう。はっきり申し上げます。お姉様。わたくしの縁を通じて、社会的権力をお持ちなオジサマ方にお会いするのはいかがでしょうか」

 

「えーと、それはどういう意味かな?」

 

「はい。わたくしが思いますに、お姉様が描かれる絵は素晴らしいものです。しかし、評価されるというのは適切な方々に評価されてこそと思いませんか?」

 

「そうかなぁ。自分でいい絵を描いたっていう満足感も重要だと思うんだけど……」

 

「ある画家が大変素晴らしい絵を描いたとしても、家の中で飾っているだけでは評価されることはないでしょう? わたくし、お姉様の絵はもっと評価されるべきだと思いますの。妹として、お姉様の絵が素晴らしいものだと多くの人に知ってもらいたいのですわ」

 

「恵子ちゃんが私の絵を評価してくれるのはうれしいんだけどね」

 

 お姉ちゃんは微妙な表情になった。

 自己評価の低いお姉ちゃんはいまいちピンときていないのだろう。

 ただ、恵子の言うこともわかる。

 素晴らしい絵が必ず評価されるなんてことはない。

 広告や宣伝がまったく無意味なんてことはないからな。

 そうじゃなかったら、世の中にインフルエンサーなんて者はいない。

 

 わたしに美術的審美眼はないから、お姉ちゃんの絵をどうこうは言わないけれど、お姉ちゃんの絵がたくさんの人に認められるのは、わたしにとっても嬉しいことだ。

 

 だから、恵子の言葉を遮ることができなかった。

 恵子は、わたしの逡巡を見抜いたのか、さらに言葉を重ねてくる。

 

「異空ちゃんも、お姉様に大成してほしいでしょう?」

 

「それはそうだけど、恵子ちゃんはお姉ちゃんの気持ちを無視しているよ」

 

「果たしてそうでしょうか。妹が姉の力添えをすることがそんなにおかしなことですか?」

 

「鳳寿院のヒモになれって言ってるのと同じじゃん」

 

 言葉のつばぜり合い。

 家族だけの力関係では、正直なところ劣勢だ。

 ここにお兄ちゃんたちがいないことが心底悔やまれる。

 あのとき――、わたしが恵子の意図を見透かしたとき。

 お兄ちゃんたちには伝えなかった。

 なぜなら、恵子の気持ちが家族愛にあると考えたから。

 それと、恵子の意図がどうであれ、鳳寿院家の力を利用することでお姉ちゃんがヒモを脱却することは、お姉ちゃんにとっても、もしかすると、いいことなのかもしれないと思ったからだ。

 

「えー、お姉ちゃんとしては自分の力だけで成功したいかな……できればですが」

 

「ふふ。お姉様もおかしなことをおっしゃいますね。自立されるのにも力が必要なのはわかりますでしょう。妹の力も姉の力なのですから、使えるものは使えばいいのですよ。わたくしはお姉様のことを本当のお姉様と考えておりますし、わたくしの持っている力はお姉様の力として使ってくださってかまいません」

 

「それって異空ちゃんが言ったように、鳳寿院家のヒモになれってことだよね?」

 

「そうですわね。見ようによってはそう見えることは否定いたしません。けれど、わたくしはきっかけとしてもらいたいだけです。お姉様が独り立ちすれば、必ず社会の中で多くの人と交わることになります。いずれなさねばならないことのはずです」

 

「お姉ちゃんはコミュ障なの!」わたしは怒号を発した。「お姉ちゃんが知らない誰かとお話するなんて無理に決まってるじゃん!」

 

「異空ちゃん、それは……まあそうなんだけど……」

 

「ごめん。お姉ちゃん。でも、こうでも言わないと、恵子ちゃんわからないから」

 

 このサディスティックな女王様にはな。

 

「確かにお姉様があまり人づきあいが上手でない方なのはわかります」

 

「恵子ちゃん、それは……まあそうなんだけど……」

 

「ですから、リハビリと申し上げました。わたくしがご紹介するのは、気の良いオジサマです。お姉様が多少コミュ障っぷりを発揮しても、笑って許してくださる方々ですわ。もちろん、わたくしも隣にいて補佐いたしますし、ご心配なら異空ちゃんも傍らにいてくださればいいのです」

 

「無理だよぉ。恵子ちゃん」

 

「……ふむ。そうですか。ですが、お姉様にはわたくしの保護者としての責務もございます。つまり鳳寿院家跡取りの後見人としての立場です。この点についてはどうお考えなのでしょうか?」

 

「後見人か……そうだよね。私、忘れてたけど恵子ちゃんの保護者だった」

 

「そこまで請け負った覚えはないって言えばいいんだよ。お姉ちゃんは須垣家の一員としては受け入れたかもしれないけど、恵子ちゃんも最初は鳳寿院家の力から離れたくて、こっちに逃げこんできたって言ってたんだから」

 

「素晴らしい反論ですわね……。異空ちゃんの思考も宝石のようにキレイで……」

 

「だったら認める? 恵子ちゃんが矛盾したこと言ってるの」

 

「もちろん――」恵子は一息置いて言った。「認めませんわ」

 

「むぅ」

 

「わたくしが鳳寿院から離れたかったのは、煩わしい親族の影響から脱するためですからね。鳳寿院家の力を捨てたいと言った覚えはありません」

 

「だとしても、須垣家を利用したことになるでしょ」

 

「わたくしは家族が欲しかったのです。そこに嘘はありませんわ。今、わたくしが主張していることで、異空ちゃんやお姉様に嫌われるのではないかと、密かに恐れてもいるのです」

 

 ぜんぜん密かじゃないけどな。

 

「恵子ちゃんが家族が欲しかったとしても、お姉ちゃんは鳳寿院家の後見人としての立場まで要求されるとは思ってなかったの。そこはわかる?」

 

「ええ、もちろん……わかります。その点は認めましょう。だから、お姉様の心向きを聞いたのです。わたくしのご要望を叶えてくださるか。後見人としてふるまってくださるか。わたくしはお姉様にそうなってほしいと願っております」

 

 抱き着いたままのお姉ちゃんはさっきから情けない顔になっている。

 わたしと恵子の言い争いも、優しいお姉ちゃんのことだ。居心地のよいものではないだろう。

 お姉ちゃんは、幽霊みたいなふらふらとした足取りで鏡台に向かい、ストンと腰をおろした。

 

「少し考えさせてください」

 

 それがお姉ちゃんの出した結論だった。

 

 

 

 ※

 

 

 

 

423:小学生妹のヒモ姉

 誰か助けてくださぁい……

 

424:仰げば名無し

 またかよw

 

425:仰げば名無し

 今度はどうしたヒモ姉

 

426:仰げば名無し

 また小学生のヒモっぷりを明らかにするんですかね?

 もはや恒例ですから驚きはないと思いますが

 

427:仰げば名無し

 これ以上のヒモ要素ってあるか?

 妹ちゃんたちに手取り足取り全身洗われたとかか?

 

428:仰げば名無し

 そういや、妹ちゃんたちといっしょにお風呂入ってるんだよな

 ヒモ姉が美少女じゃなかったら普通に事案だなw

 

429:仰げば名無し

 それだと、今日は美少女三姉妹のお風呂シーンがいよいよ見れるのか!?

 既に、全裸待機しているぞ! さあ!

 

430:仰げば名無し

 やめてさしあげろw

 ヒモ姉はこれでもヒモ脱却を目指してがんばってるんだぞ

 

431:仰げば名無し

 今日は編集疲れで一歩も動けましぇーん……

 例によって動画をアップしたので、アドバイスお願いします

 https://www.anetube.com/watch?v=xxxxxxxxxxxxx/channel=himonee

 

432:仰げば名無し

 はい、今日も始まりました

 姉妹百合レース

 えっとこれは……初心に帰って仮面ですかね?

 白い仮面が各々の顔についていると。

 ちょっとこれはいけません。

 妹Ⅱちゃんの容姿が少しだけ顕わになってしまいます

 

433:仰げば名無し

 妹Ⅱちゃん、本当に和風美少女って感じなんだな

 黒髪ロングヘヤが綺麗だ

 

434:仰げば名無し

 なんか、プレゼントボックスを持って現れたな

 なんだろうこれ

 嫌な予感がプンプンするぜ……

 

435:仰げば名無し

 オジサマと商談する小学生

 妹Ⅱこいつ本当にいったいなんなんだ

 

436:仰げば名無し

 ヒモ姉

 もしかして外国語堪能なところがすごいとか思っちゃってる?

 そこも確かにすごいけど、そこよりも大人と商談しているところのほうがすごいよ?

 

437:仰げば名無し

 スウェーデン語もできる、か……

 英語も合わせると最低でもトリリンガル

 語学は既に小学生ってレベルじゃないな

 

438:仰げば名無し

 さりげにメスガキもトリリンガルCOか

 まあ、外国の血が混ざってるんだから当然といえば当然か

 北欧の血が混ざってる感じもするしなー

 フィンランドとか、スウェーデン語が母国語らしいで

 

439:仰げば名無し

 むしろ、妹Ⅱがその話題を出してきたことのほうが恐ろしい

 わりとありえる線としては、妹ちゃんの言葉に合わせた感じもする

 ほんとはトリリンガルどころじゃないかもしれん

 

440:仰げば名無し

 なぁ、妹ズが何言ってるのかわからんのだが

 

441:仰げば名無し

 AIちゃんに聞け

 すぐにわかるぞ

 

442:仰げば名無し

 妹Ⅱがスウェーデン語話せますよね的なことを言って

 妹ちゃんができるけど何かと言って

 妹Ⅱちゃんがだったら商談に参加してみたいなこと言ってるよ

 妹ちゃんはこれに対して拒否

 小学生だしーみたいなこと言ってるっぽい

 

443:仰げば名無し

 ここでは日本の言葉を話せ!

 妹ちゃん憤る

 

444:仰げば名無し

 さりげに妹Ⅱちゃんをお姉ちゃん呼びか

 この線は絶対に通すという強い意志が感じられるぜ

 

445:仰げば名無し

 ヒモ姉の疎外感がすごい

 

446:仰げば名無し

 ヒモ姉の気持ちわかるわw

 妹ちゃんたちが外国語で話し始めたら困惑して当然だよなw

 

447:仰げば名無し

 そして追い打ちをかけるようにAIからダメ姉呼ばわりされるヒモ姉に草

 

448:仰げば名無し

 ヒモ姉かわいそうかわいい

 

449:仰げば名無し

 とりあえずすき焼き食って

 上を向いて歩こうぜw

 

450:仰げば名無し

 涙がこぼれないようになw

 

451:仰げば名無し

 妹Ⅱから妹ちゃんを嫁呼びか……

 うーん、やはり猫なのか?

 

452:仰げば名無し

 普通に家族のだんらんでしょ?

 深く考えすぎなんだよ、メスガキ狂信者たちは

 

453:仰げば名無し

 メスガキにはなんというか躊躇がみられるんだよな

 妹Ⅱのことも家族として受け入れなければならないと思っている節がある

 そんなメスガキがマジでかわいくはあるんだがなぁ……

 妹Ⅱが得体が知れないので怖くはある

 

454:仰げば名無し

 妹Ⅱは天才児っていうのは嫌というほど要素があがってくるが

 どうしても一歩足りない感じがするんよな

 反撃の嚆矢がないというか

 

455:仰げば名無し

 プレンゼトボックス解放

 でっかいのはぬいぐるみか

 メスガキもまんざらではなさそう?

 

456:仰げば名無し

 そのぬいぐるみのなかにカメラが仕込まれていて……

 さすがにそれはないか

 

457:仰げば名無し

 ぬいぐるみ猫なのがこええw

 

458:仰げば名無し

 それは考察のし過ぎ

 メスガキの生の姿を思い描けば

 マッチングしてると思うぞ

 

459:仰げば名無し

 イソラちゃんかわいいもんな

 また生配信してほしい

 

460:仰げば名無し

 小学生の生配信を求めんなよw

 通報すっぞ

 

461:仰げば名無し

 ふーむ、ドレスね?

 パリのタイユールに創らせたって言ってるけど

 タイユールってなに?

 

462:仰げば名無し

 職人だと思えばいいよ

 しかも、超級のな

 たぶん、死ぬほど高い

 

463:仰げば名無し

 ヒモ姉……おまえ能天気すぎやせんか

 見たこともない高そうなドレスを前に

 テンションあがるのはわからんでもないが

 

464:仰げば名無し

 どこの夜会に出てもおかしくないですよお姉様

 これって……妹Ⅱはヒモ姉を夜会に参加させようとしているのか?

 やっぱヒモ姉狙いの狩人?

 

465:仰げば名無し

 なあ、途中で動画途切れてるんだが

 着替えシーンないのバグですか?

 

466:仰げば名無し

 バグってんのはおまえの頭ン中なんだよなぁ

 ヒモ姉に最低限のリテラシーがあってよかったわ……

 

467:仰げば名無し

 夜会ドレス着たヒモ姉かわいい!!!!!

 前々から思っていたけど、ヒモ姉って身体120点。精神5点だよな!!!

 

468:仰げば名無し

 おまえその評価はひどすぎるw

 

469:仰げば名無し

 的確過ぎてなんにも言えねえw

 

470:仰げば名無し

 はぁ……メスガキ

 おまえかわいすぎんよ

 妖精さんかよ

 

471:仰げば名無し

 確かにメスガキのドレス姿は異常なかわいらしさだな

 メチャクチャ高そうな髪留めもあるが

 某国の姫君といってもおかしくない出来だぞ

 

472:仰げば名無し

 チョーカーも装着させられて

 絶対、メスガキはムスっとしてるぞ

 

473:仰げば名無し

 装飾過多……

 お姉ちゃんはこれを否定

 妹Ⅱがヒモ姉に聞くのが天才の所業なんだよなぁ

 

474:仰げば名無し

 大好きなお姉ちゃんからカワイイって言われたら

 メスガキも否定しにくいところだからな

 

475:仰げば名無し

 メスガキもがんばったな

 異世界の服といって否定している

 これはもしかして……なるほどそういうことなのか

 

476:仰げば名無し

 妹Ⅱちゃんって実家が太いんだよな

 ああ、なるほどそういうことね

 

477:仰げば名無し

 どういうことだよ?

 って、動画見てたらわかったわ

 妹Ⅱちゃんってもしかすっと、

 ヒモ姉を妹Ⅱちゃんの家のヒモにしようとしていたってことね?

 

478:仰げば名無し

 メスガキはそれをわかっていたということになるが

 水臭いな

 だとしたら、配信でそれくらい言えばいいのに

 

479:仰げば名無し

 ヒモ姉が妹Ⅱの実家の権力を使うのを、ある程度は容認してたんじゃないかな

 メスガキって、姉が大学卒業して働くのも、それもいいとか言ってたじゃん

 いろいろ言ってるけど、ヒモじゃなくなるのもしょうがないって思ってたんじゃ

 

480:仰げば名無し

 やっぱメスガキは純愛派なんよな

 どうしても隠し切れない良い子要素があるんよ

 

481:仰げば名無し

 妹Ⅱの攻めがツオイ……

 ヒモ姉にヒモじゃないほうがいいよねビームだしてる

 これにはヒモ姉もたじたじ

 

482:仰げば名無し

 メスガキも苦しいな

 時間割のことを持ち出しても

 それは暫定だと言われる始末

 

483:仰げば名無し

 メスガキがんばれ

 

484:仰げば名無し

 妹Ⅱにさすおねされて、すぐにだらしなくなるヒモ姉

 おまえ……メスガキの努力に気づけ

 おまえのこと必死に守ってるんだぞ

 

485:仰げば名無し

 メスガキが文字通り身体を張って姉を守ろうとしているな

 家族愛を持ち出されれば、ヒモ姉も受け入れる

 それは非常にてぇてぇ光景ではあるんだが……

 メスガキがラストスペルを切らにゃあかんほど追い詰められているとも言える

 

486:仰げば名無し

 妹Ⅱもヒモ姉を妹ちゃんから切り離したいわけじゃないのか?

 リハビリ?

 

487:仰げば名無し

 ヒモ姉に経済力があればかぁ……

 経済力あっても、ヒモはヒモだと思うんだがな

 

488:仰げば名無し

 でも生活費入れればやっぱ違うんじゃね?

 

489:仰げば名無し

 うお、メスガキの

 ピー家の力を利用しろってと聞き返すの強い

 そういうことか

 やっぱ、メスガキは妹Ⅱの意図をそんなふうに考えていたのか

 

490:仰げば名無し

 えー、妹Ⅱの実家のヒモになれってこと?

 

491:仰げば名無し

 ええなにどゆこと?

 

492:仰げば名無し

 おまえ、ヒモ姉と同じ反応すんなw

 

493:仰げば名無し

 メスガキの思考に、なんか妹Ⅱも嬉しそうなの謎

 メスガキ狙いの猫だとすれば、狙ってるメスガキが自分と同じ天才児で嬉しいって感じか?

 

494:仰げば名無し

 オジサマと会え宣言がついに妹Ⅱから出ちまったな

 ヒモ姉が弱々しかった理由が判明したぜ

 

495:仰げば名無し

 ひえ

 妹ⅡがこわE

 

496:仰げば名無し

 力が欲しいか……

 ならばP家と契約をかわせ……

 

497:仰げば名無し

 妹Ⅱの実家にどんだけ力があるのかわからんが

 実家が太いほうが成功する確率は高そうだな

 

498:仰げば名無し

 ヒモ姉が自分の力でがんばりたいっていうのもわかるな

 自分の絵が純粋にその力だけで有名になりたいっていうのは

 アーティストだったら誰でも考えそうなことだろ

 

499:仰げば名無し

 素晴らしい絵なら必ず評価されるなんてナイーブな考えは捨てろ

 

500:仰げば名無し

 ピー家のヒモねえ……

 これってヒモ姉は回避できるんかね

 妹Ⅱを受け入れている以上、難しいのでは?

 

501:仰げば名無し

 妹の力も姉の力か

 妹Ⅱも家族だということは主張しつづけてるからな

 猫狩不明だが、お姉ちゃん想いの村人陣営なことは間違いないわけで

 そのやり方が強引だというのはわかるが、いまいち否定しにくいところではある

 

502:仰げば名無し

 妹Ⅱが家族愛欲しいただの妹だとすれば

 姉に成功してほしい妹というのは、健気な要素だよ

 

503:仰げば名無し

 オレらはメスガキ擁護派が多いからどうしてもメスガキびいきになるけどな

 ヒモ姉が妹Ⅱの力を使うことで、より一層家族の絆ができると考えていたら

 その考えを否定するのはちょっとな

 

504:仰げば名無し

 妹Ⅱちゃん、配慮という言葉とは無縁の女王様タイプだと思う

 確かに根底にはメスガキやヒモ姉に対する想いはあるんだろうが

 やり方がゴーウィングマイウェイだろこれ

 

505:仰げば名無し

 強引か

 そりゃ確かにな

 

506:仰げば名無し

 メスガキお前……w

「お姉ちゃんはコミュ障なの!」って

 本当のこと言われたら、人は傷つくんだぞw

 

507:仰げば名無し

 即座に妹Ⅱからもそのとおりだと言われるヒモ姉

 涙を禁じえねェw

 

508:仰げば名無し

 うーん

 だからこそのリハビリ発言か

 論理の構築が先回りされてるようで気持ちわりぃw

 

509:仰げば名無し

 ヒモ姉にとってはヒモ脱却も確かに悪くはないんだろうがな

 その結果、ピー家のしがらみにどっぷりつかる可能性もあるのがなぁ

 

510:仰げば名無し

 妹Ⅱの恐ろしいところは、妹ちゃんも傍らにいていいと

 一見すると譲歩を見せてるところだよな

 

511:仰げば名無し

 妹Ⅱが強すぎて勝てる気がしない

 メスガキも健闘しているが、正直劣勢

 

512:仰げば名無し

 猫ちゃんは狼ちゃんにひどいことしたよね

 

513:仰げば名無し

 猫だとはきまっとらんがな

 

514:仰げば名無し

 オレは猫だと思うぞ

 狼の顔を曇らせるのが大好きなサディスティックなお猫様でしょ

 オレのセンサーがそう言ってる

 

515:仰げば名無し

 センサー持ちの言うことは信用しないって決めてるんだ

 

516:仰げば名無し

 猫と和解せよ

 

517:仰げば名無し

 いいかい

 お猫様は人間の上位種なんだよ

 狂人ごときがお猫様に勝てるわけないだろ

 

518:仰げば名無し

 これで一番割り食ってるのってヒモ姉じゃね?

 ヒモ姉の無理だよぉで三回抜いた

 

519:仰げば名無し

 確かにヒモ姉かわいそうだが

 妹ちゃんの御世話になってる時点でどうしようもなくね?

 ヒモから脱却したければ、独り立ちしろってわけっしょ

 それができない時点で、採りうる選択肢は限られるつーか

 

520:仰げば名無し

 オレも忘れてたが、ヒモ姉って一応小学生妹ちゃんたちの保護者なんだよな

 で、ピー家の後見人ってことにもなるのか

 責務と言われたら確かにないわけではないんだろうが

 ヒモ姉にとっては寝耳に水だろうな

 

521:仰げば名無し

 メスガキの「そこまで請け負った覚えはない」発言

 これってクリティカルか

 

522:仰げば名無し

 メスガキがんばぇー

 

523:仰げば名無し

 妹Ⅱちゃん両頬に手をあげて恍惚の模様

 

524:仰げば名無し

 オレもしびれたわ

 論理的思考能力は妹Ⅱに負けてないぞ

 

525:仰げば名無し

 要望ね……

 発言ログを拾ってみると、確かに妹Ⅱは姉の意向を聞いているに過ぎないんだよな

 

526:仰げば名無し

 もう妹Ⅱが猫っていうか蜘蛛っていうか

 ともかくからみとられてるようで怖いという感想しか思い浮かばん

 どうやってこっから逆転するんだよ、メスガキぃ……

 

527:小学生妹のヒモ姉

 そろそろ見終わりましたでしょうか

 私、どうしたらいいと思います?

 

528:仰げば名無し

 知るかw

 自分で少しは考えろ

 

529:仰げば名無し

 狼にとっては苦しい時間が続くな

 ヒモ姉はまったく当てにならんし

 

530:仰げば名無し

 なにか反撃の糸口でもあればなあ

 

531:仰げば名無し

 せめて猫狩素村のどれかが明らかになればメスガキも戦いやすいんだろうが

 

532:仰げば名無し

 ヒモ姉はいずれにしろヒモなのでは?

 妹Ⅱちゃん勝利:ピー家のヒモ

 妹ちゃん勝利:妹ちゃんのヒモ

 おや?

 

533:仰げば名無し

 ほんまやwww

 これどうあがいても絶望w

 

534:仰げば名無し

 ヒモ姉がヒモ脱却するには

 ピー家の加護を得る線はない

 はっきり言えば、妹ズの影響を逃れて自分でなんとかするしかない

 

535:仰げば名無し

 でもそれって無理なんよな

 だいたい、それが最初から可能なら

 ヒモ姉こんな場末のスレに助けを求めてないよ

 

536:仰げば名無し

 そりゃそうだw

 

537:仰げば名無し

 残念だけど……(首を振るドクター)

 

538:小学生妹のヒモ姉

 ふぇ

 なにか

 なにかないんですか

 

539:仰げば名無し

 あえて言えば妹ちゃんの勝利かな

 そしてそれから妹ちゃんに土下座してヒモは勘弁してくださいとお願いする

 妹Ⅱは人の話を聞かなそうだが、妹ちゃんはまだ話を聞いてくれそうだからな

 

540:仰げば名無し

 妹ちゃんたちに慕われて、ヒモ姉大変だね(笑)

 

541:仰げば名無し

 ほんま、ヒモ姉の立場、代わってあげたいわ

 

542:仰げば名無し

 メスガキ……おまえの勝利を信じてるぞ

 

543:仰げば名無し

 反撃の糸口を見つけろ!!!!

 

544:仰げば名無し

 妹Ⅱは隙を見せそうにないからなぁ……

 

545:仰げば名無し

 ちくしょうオレらにできることはないのかよ

 メスガキ狂信者のオレらは無力なのか

 

546:仰げば名無し

 メスガキにすごいお兄ちゃん大好きって言ってもらいてぇw

 

547:仰げば名無し

 あ、あの……オレ氏……

 また変なの見つけちゃったんですが

 いや見つけたというか、まったくの偶然というか……

 ここで言うのはちょっと憚れるので、メスガキのプレミアム配信で報告します

 ヒモのお姉様は見ない方がいいかもしれません

 メスガキの許可がでなければ、オレ氏も発言しませんので

 それでは失礼

 




猫を炙るのは誰の仕事だ、言ってみろ


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狼のパワハラ会議

 今日はいきなりプレミアム配信から始めることにした。

 プレミアム配信とは、メンバーシップ限定の配信のことだ。

 他にも細かく条件設定できるらしいが、わたしの場合はメンバー登録さえしていればいい。

 

――お姉ちゃんはこの配信にはいない。

 

 お姉ちゃんはこの界隈にはうとくて、そもそもアカウントもわたしが作ってあげたくらいだ。

 お姉ちゃんのアカウントはわたしの配信と紐づけられ、設定を変えなければブイなお姉ちゃんー―つまり、天使なお姉ちゃんが顕現される。

 そして、お姉ちゃんはすごく素直。天使だからね♡

 サブ垢や裏垢を使ってわたしの配信に潜入するってことは理論上できなくはないが、お姉ちゃんはそんなことは絶対しないと、お姉ちゃんマニアのわたしは断言できる。

 

 カフェ・オレ氏の望みどおり、お姉ちゃんがこの配信に現れることはないだろう。

 

「で、どういうことなのかな♡」

 

『そのことを説明する前に、まずはオレ氏の職業についてCOさせてくれ。¥100』

『なんだいったい?』

『カフェ・オレ氏。またなんかやらかした?』

『おまえの職業ニートだろw』

『妹Ⅱの何かについて知ったとかだろ。もったいぶんな』

『おまえはバブってるほうが似合ってるよ』

 

「カフェ・オレお兄ちゃんの職業? べつにCOしたければしてもいいけど。本当にいいの?」

 

『問題ない。今後の説明のためにもこのことは言っておかなくちゃならないからな。¥100』

 

「ふうん。ではどうぞ♡」

 

『オレ氏はデイトレーダーなんだ。¥100』

 

「お、ふーん♡ で?」

 

『それで、オレ氏もいろいろとそのなんだ、日々自己研鑽しなくちゃならんと思ってな。この界隈で株とか語ってるブイとかいないかなぁとか毎日探ってるわけです。¥100』

 

『おまえは単純にブイが好きなだけだろw』

『妹Ⅱはブイしてるとかか……?』

『なんかいろいろ言ってるけど、おまえそれ浮気だからなw』

『メスガキファンとしてこれは許せない』

 

「へぇ……ちなみにどんな子を見つけたの?」

 

『ブイの名前は宝珠淫猫。宇宙の果てにあるショーガク星からやってきた宇宙猫人の女王様で、普通の配信とかもやってるが、時折株取引とかの解説もやってくれるんよ。¥100』

 

『小学星wwww』

『おまえってやつはw』

『おまえ、ほんとに小学生好きだなw』

『デイトレードとか言い訳じゃねえか』

『初手言い訳から入る赤ちゃんがいるらしい』

『やっぱ、おまえはバブってろw』

 

「ほうじゅいんねこ……ね。ふうん♡」

 

 カフェ・オレお兄ちゃんは恵子の名前を知らないはずだが、これは()()()か。

 まさか、恵子もブイチューバーをしているとは思わなかった。

 恵子のブイを見れば、恵子の要素取りに使える。

 それどころかクリティカルな何かを盗み見ることができるかもしれない。

 そうなれば、カフェ・オレ氏の貢献は計り知れないものがある。

 でも、なんか気に入らないな♡

 

「あのさぁ。ブイだから虚構なのはわかるけど、そんなに小学生を探したいの♡」

 

『いえ、けしてそのようなことは……。たまたま株のことをしゃべっていたので。¥100』

 

「いまどき、株取引のこと喋ってるブイチューバーとか星の数ほどいるよね。なんで小学生設定を思わせるようなブイを視聴しちゃってるのかな?」

 

『その……淫猫様は素晴らしい知識をお持ちでして。¥100』

 

「淫猫様? 小学生かもしれない女の子に様づけするんだ。わたしのこと飽きちゃったの?」

 

『いえ、決してそのようなことは……! ¥100』

 

「この変態♡ ロリコン♡」

 

『いいえ! いいえ! 違います! ¥10000』

 

『カフェ・オレ氏、渾身の赤スパw』

『おまえってやつは……最高だよw』

『メスガキに変態と呼ばれたいだけの人生だった』

『わたしのこと飽きちゃったのって寂しげに言うメスガキ。使える』

 

 わたしはわりと嫉妬深いほうなんだ。

 グリーンアイドモンスターの名は伊達じゃない。

 カフェ・オレお兄ちゃんが赤スパ投げて、弁明してくれる姿は嬉しいけれど。

 恵子にお兄ちゃんもとられそうだと思うと、お腹の奥が燃えてくる。

 

「だったら、わたしのこともメスガキ様って言ってみろ♡」

 

『(そんなことオレ氏に言われても)¥100』

 

「そんなことを言われても、何だ、言ってみろ♡」

 

『ば……バブぅ……¥100』

 

『あーあ、バブっちゃったよ』

『二度とバブったりしないんじゃなかったのかw』

『ロリコンCOだからね。しかたないね』

『オレらも素養はあるから、この件は戒めにしなければな……』

『妹Ⅱの属性を明らかにした貢献人に対して、土下座強要するメスガキがいるらしい』

 

 いじめすぎちゃったかな。

 やっぱりわたしはメスガキだ。

 お兄ちゃんをイジメて、喜びを感じちゃってる。

 我ながら度し難い。が――、ここがわたしのホームランドなんだろう。

 お兄ちゃんもお姉ちゃんも()()()()だ。

 絶対に淫猫なんかに渡さない♡

 

「浮気したカフェ・オレお兄ちゃんのことは許してあげるよ♡ だからさっさと説明して♡」

 

『ばぶ。わかったよ。この淫猫なんだが……、オレ氏が視聴し始めたのは半年前くらいからかな。当時のオレ氏は淫猫のメンバーじゃなかったから、普通の配信しか見れなかったんだ。¥100』

 

「淫猫が配信を始めたのはいつ?」

 

『一年前くらいかな? そのページに飛べば略歴はわかるだろ。¥100』

 

『宝珠淫猫で検索したら、一年前くらいだな』

『うーん。妹Ⅱとメスガキがあった日からすぐか』

『アーカイブに残ってるのをざっと見たけど、ごく普通の配信っぽいぞ』

『微妙に変声してる? ヒモ姉の動画とは声が違うような』

 

「当時のってことは、今は淫猫のメンバーなんだよね?」

 

 わたしは確認の意味で聞いた。

 

『そうだよ。¥100』

 

「脱退しろ♡」

 

『えー。¥100』

『やっぱり許されなかったw』

『いいのかメスガキ。貴重な情報源が』

『メスガキ、怒ってるんよなw』

『お兄ちゃんとられそうで怒ってるって考えたらカワイイ♥』

『メスガキに嫉妬されるオレ氏がうらやま』

 

「まあ、脱退しろって言うのは冗談だけどね。メンバーになって、初めてカフェ・オレお兄ちゃんは確信したんでしょ。妹Ⅱが淫猫だって」

 

『そうだよ。メンバー限定の配信は、今メスガキがやってるお姉ちゃん配信みたいな感じなんだ。そこでは、淫猫が今日も妹ちゃんがかわいかったとか、現実をアニメ風に加工した動画を見せながら言ってた。¥200』

 

「それって、妹Ⅱは猫って意味?」

 

『そうだよ。妹Ⅱは猫だったんだよ! ¥2000』

 

『やっぱ猫かー』

『こわっ。小学生妹を狙う小学生姉とかこわっw』

『カフェ・オレ氏はどうしてそう思ったんだ?』

『大方、ヒモ姉の動画と同一状況だったとかだろうが……』

『それってカフェ・オレ氏の感想なんじゃないですかね?』

 

「そうだよ。みんなが言うように、どうして淫猫を妹Ⅱと同定できたの? 証拠は?」

 

『そりゃどんだけ変声してても、ヒモ姉の動画とまったく同一の会話がなされていたらいくらなんでもわかるって。オレ氏が参加したのはつい最近の例のドレス配信からなんだが、VR会場で大画面で放映されていたのは、プリンセスな恰好をしていたメスガキなんだからな。リアルなメスガキと配色いっしょだし。¥1000』

 

「えっと、それって妹Ⅱも盗撮してたってこと?」

 

 お姉ちゃんの盗撮は知ってるけど、恵子も撮っていた?

 部屋の掃除はわたしがしているし、そんな気配はなかったはずだけど。

 

『たぶんボディカメラかなにかで撮ってたんだと思う。動画の内容はFPSで妹Ⅱ視点だからな。¥100』

 

『盗撮三姉妹w』

『みんな互いに盗撮経験ありとか業が深すぎんよー』

『ちょっと、待ってくれ……。もしかするとここに淫猫の手の者がまぎれこんでいる可能性もあるのでは?¥100』

 

「ん。メスガキスキーお兄ちゃん。スパチャありがと。いまはメンバーだけになってるけど、その可能性はあるかもしれないね」

 

 もしそうだとすれば、もはや裸の殴り合いをしなきゃならないけど、カフェ・オレお兄ちゃんが言うように、恵子が猫なら――つまり、わたしのことが好きなら、戦いようはいくらでもあるように思う。

 

『それなんだが……おそらく可能性は低いとオレ氏は思う。¥100』

 

「へえ、どうして♡」

 

『実を言うと、淫猫様のメンバーは少数精鋭なんだ。単にメンバー登録するだけじゃプレミアム配信は見られないんだよ。¥100』

 

『ほうほう』

『また淫猫様言うてるしw』

『オレらのほうはわりと最近までノーガードだったからなぁ』

『いまもメンバーだったらすぐ見られるから、ノーガードなんじゃ……』

『ちょっと待て。淫猫のファンネームって豚じゃねーかw¥200』

『え、マジだwww¥200』

 

「ふうん。カフェ・オレお兄ちゃんって赤ちゃんじゃなくてお豚さんだったんだね♡」

 

『ば、バブゥ……¥100』

 

「違うでしょ。ブヒって鳴けよ♡」

 

『ぶ、ブヒぃ……。(メスガキ許して)¥200』

 

『カフェオレがひどすぎて草』

『残念ながら、淫猫の豚になってる時点でなぁ』

『でもまあ、最後の最後はメスガキの元に戻ってきたわけだから……』

『メスガキも許してあげてくれ。カフェ・オレ氏はロリコンなだけなんだ』

『小学生に豚呼ばわりされるのが好きなロリコンだがなw』

 

「ンー。わたしが一番って言ってくれたら考えてあげる♡」

 

『これはメスガキw』

『考えてやるよ(考えてやるとは言ってない)』

『淫猫女王にとられまいと必死になりやがって……』

『もちろん、メスガキが一番だ。そうじゃないとこっちに報告しに来ないって。¥10000』

 

「それもそっか♡ その言葉忘れないでね♡」

 

『(許された……)バブぅ。¥100』

『よかったな……』

『朗報? カフェオレ氏、赤ちゃんに戻る』

『猫を炙るのは狂信者の仕事だからな』

『妥当なところに落ち着いたか』

 

『メスガキとイチャイチャしているところ悪いが、そもそも妹Ⅱと淫猫が同定されたとしても、淫猫が猫とは限らないんじゃないか。¥100』

 

「あ♡ MSGK泣かし隊兄貴。おつかれさまです♡ 確かにそうだよね。カフェ・オレお兄ちゃんの証言だけじゃ、よくわからないところはあるかなぁ」

 

 いくら、わたしが大画面でフィーチャーされていたとしても、恵子がわたしにお姉ちゃん呼びされたがってる程度に愛着があるのは最初から知ってるし、それだけじゃ決定的な猫要素とはなりえない。

 

 わたしのことも、普段からかわいいかわいいって言われてるしな。

 

『それはその場の空気感というか雰囲気でわかるんだよ。¥100』

 

「またえらく曖昧な……」

 

『VR空間のライブチャット方式だと空気感みたいなのはちょっと違うのかもな』

『うーん。妹Ⅱがメスガキをかわいがってるのはいつもの調子だからなぁ』

『カフェオレは目端は聞くが、どうにも思考能力は赤ちゃんだしな……』

『ヒモ姉のちょっとだけ上位互換って感じ。¥100』

『おまえ両方に失礼だなw』

 

「じゃあ、わたしが直接メンバー登録して確かめに行ったほうがいいのかな」

 

『やめとけ』

『猫のフィールドに向かう狼とかヤバすぎる』

『虎穴に入らずんばって言うし、まあ悪くはない手ではあるが』

『虎も猫科だしな』

『カフェオレ氏に盗撮してきてもらえば?』

 

『その……言いにくいことなんだが、メンバーに入るときに淫猫自らが面接を執り行うんだよな。で、プレミアム配信については当然メンバー外に漏らすのは禁止。実は今もけっこう危ない橋わたってるんだよ。¥100』

 

「VR配信を動画保存したりしたら法的措置をとるとか言われちゃった?」

 

『ぶっちゃけそう。¥1000』

 

「ふーん。そう♡」

 

『妹Ⅱの実家は太いから、マジでやられるかもしれんな』

『かつての狐きゅんみたいになっちゃうってことかよ』

『あれはマジで効いたわ。内心ガクブルだった』

『狐きゅんみっけ♡』

 

「カフェ・オレお兄ちゃんが訴えられそうになっても、わたしが止めるよ」

 

 仲間を傷つけるものは許さない。

 それが狼クオリティ。

 やっぱり、わたしが先行しないとダメだ。

 これはわたしと恵子の戦いなんだから。

 

『メスガキかっこいい。とぅんく』

『確かにメスガキが妹Ⅱのイケニエになればワンチャン助かるなw』

『やった。妹ちゃんが飛びこんできたラッキーってならないか?』

『それって、メスガキ守りたいオレらにとっては本末転倒w』

『カフェ・オレがヒロインポジで草』

『カフェオレも決死の覚悟でブイバレかましたんだな……』

『しかし、メンバーになるために妹Ⅱの面接あるとかやべえ』

 

「メンバーになるための詳細な条件はなんなの?」

 

『えっとそうだな。ある日オレ氏も突然、エリート豚の一人からお誘いのDMが来たんだが、その時聞いた話だと、累計スパチャ額とか、他メンバーの紹介を受けて、仮メンになれて、そこから淫猫の面接。受かれば晴れて正式メンバーという感じらしい。¥1000』

 

『カフェオレは着々と豚の道を歩んでいたんだな』

『メスガキと戯れる傍らで、おまえというやつは……』

『やっぱり浮気もんじゃねえか。処せ』

『オレ氏が少数精鋭と言った意味がわかったわ』

『メスガキがメンバーになるためには、淫猫信者を装う必要があるということか……』

 

「累計スパチャ額ってどれくらい?」

 

『わからんが、たぶん一日上限額の5万円くらいじゃないか?』

 

「なるほど……登録日とかは関係ないの?」

 

『いつ登録したかなんてわからんからたぶんそれはないと思う。¥100』

 

「どうでもいいけど、わたしより淫猫のほうにたくさんスパチャ投げてないよね」

 

『そ、それはありません。信じて。¥10000』

 

『そろそろカフェ・オレが上限額に近づいてまいりましたw』

『メスガキも煽ってやるなよw』

『お兄ちゃんとられそうで必死なメスガキかわいいよ』

『累計5万円程度なら最低一日で可能ではあるな。ただ不自然すぎるか。¥100』

 

「そうだね。わからせマンお兄ちゃんの言う通り、一日で即5万円は不自然かな。でも、時間は待ってはくれないから、ちょっと賭けに出ようと思う」

 

 一日で五万円をぶっこみ。

 カフェ・オレお兄ちゃんの紹介を受けて、即メンバー試験を受ける。

 これが一番早いと思います!

 

『う、うーん。それはいくらなんでも強引じゃね?』

『妹Ⅱよりも強引だぞ』

『勝ちを焦るなメスガキ』

『せっかく反撃の糸口を見つけたんだから、イージーにいこうぜ』

『妹Ⅱ視点だと、妹ちゃんはただの小学生だろうから、五万円即ぶっこみはありかもしれん。¥100』

 

「そうだよ。MSGK泣かし隊の兄貴が言う通り。小学生がいきなり五万円を投げつけてくるなんて思いもつかないだろうし、カフェ・オレお兄ちゃんが言うように、わたしがブイをしているなんて知らない可能性が高い。だったら、これはチャンスなんだ!」

 

『進めば二つか』

『でもそれって、メスガキが妹Ⅱの生面接を受けるってことだろ?』

『VRチャットでも、バレそうな気がする』

『メスガキの演技力からすると……わからんな』

『一年間小学生バレしなかった手腕は認めるが、メスガキは根が素直だからなぁ……』

 

「カフェ・オレお兄ちゃんもそれでいいかな♡」

 

『あ、いや、うーん。それでもかまわんが、メスガキって株とかわかるか? ¥100』

 

「株?」

 

 なんで、ここで株の話?

 猫か猫じゃないかが重要でしょ。

 

『メンバーになるってことは、要するに淫猫に対して一定のファンだってことだよな。で、淫猫は普段いろいろとやってはいるが、特色としてはデイトレードとか株とか先物取引とかそういうやつなんだよ。中身小学生っぽいから興味が湧きましたとかだと面接でお祈りされると思うぞ。¥100』

 

『中身小学生っぽいから興味が湧きましたw』

『カフェオレがキリッとした顔で面接受けてたかと思うとワロケルw』

『オレ氏株に興味がありまして是非メンバーになりたいですとかほざいてたのかw』

『あー、メスガキ小学生だったな。超スペックすぎて忘れてたわ』

『メスガキちゃん、株わかるー? 地面に生えてるのじゃないよ?』

 

「株くらいわかるけど。というかお兄ちゃんたちからもらったお金、資産運用してるし♡」

 

『は?』

『マジかw』

『メスガキ……おまえも底が知れねえよ』

『天才児なのは知ってたけど。すげえな』

『しかしそうだとしても、擬態は必要になってくるわけだよな』

 

「お兄ちゃんたちさぁ。どれだけわたしがお姉ちゃんを騙してきたと思ってるの♡ わたし、羊の皮をかぶった狼だよ♡ たかが小学生を騙すのなんてワケないよ♡」

 

『しかし、猫もまた天才児……』

『騙しあいの果てに勝者はいずこか』

『次回、狼VS猫。究極のバトルが始まる』

『盤外でのキャットファイトじゃねえかw』

 

「ふふん。わたしは勝つよ♡」

 

 そして、お姉ちゃんをゲットするんだ。



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猫のライブハウス

「ここがあの猫のハウスか……」

 

 とは言うものの、わたしは一歩も動いてはいない。

 なんのことはない。恵子がやってるブイのトップページに検索を通してきただけだ。

 恵子からもらった巨大な猫ぐるみをクッション代わりに、わたしは身体をローテーブルにつっぷすようにして、ノートパソコンを操作している。

 

 過保護なお兄ちゃん達は、恵子からもらった猫のぬいぐるみに盗聴器がしかけられているんじゃないかって心配してたけど、ギュムって潰してみても、機械っぽい感触はなかったよ。まあ盗聴器は電磁波発してるから、ハムノイズを拾う機械を使えば正確にわかるだろうけど、そこまでする必要はない。

 

 わたしは恵子のことを脅威には思っているが、べつに怨んでいたり嫌ってたりするわけじゃないからな。

 この猫ぐるみは人をダメにするくらい柔らかくて、抱っこするとなんか安心する。その程度には恵子のことも信頼している。だいたい妹をガチストーキングしてたら物的証拠ありありで一発アウトだからな。そんなアホな子じゃないことは最初からわかっているんだよ。これはライバルと試合をしていて、ライバルが難易度の高いプレイを必ず通してくるという確信めいた信頼に近い。

 

 リビングルームでFPS視点の盗撮してるやんって意見はあるかもしれんが、それはお姉ちゃんもそうだし、今のわたしがやってることも考えれば似たようなものだからな。家族としての越えてはいけない一線というのは、恵子も含めてみんな持ってるように思う。

 

 この心理戦を制するためには、そんな些末なことではなく、恵子の本心に近づいていかなければならない。そのためには恵子が演じている淫猫というキャラクターを見るのが手っ取り早い。

 

 お姉ちゃんとの一戦を通じて学んだことだが――。

 ブイが仮面をかぶるのは本心を隠したいからじゃない。

 むしろさらけ出したいと思っているからだ。

 

 ライブ配信へのリンクをクリックし、わたしは恵子に逢いに行く。

 

 ほどなく画面は遷移し。

 

――宝珠淫猫。

 

 そのデフォルメバージョンが出迎えてくれた。

 黒髪黒目のお嬢様。特徴的なのは角のように突き出したネコミミ。

 もちろん、アニメ顔でリアルな恵子とは異なるが、落ち着いた雰囲気の奥からかもしだされる絶対的強者感が現実での様子に似ている。

 

 アーカイブを予習した感じ、変声しているのか妙に甲高く、アニメ声になっているが、機械を通してなのかはよくわからない。ギリギリ、自前の肉体を使ってもできなくはない程度の変え具合だ。恵子の財力を使えば、AIを使って、ほぼ同時間でアニメ声に変換するなんて簡単なことだと思うが、この点については判別がつかない。

 

 ライブハウスは奇妙な連帯感に包まれていた。

 恵子はまだ登場しておらず、リスナーたちは、『ブヒブヒ』と鳴いている。

 このあたり、お兄ちゃんたちが最近『わおーん』とよく鳴くようになったのといっしょだな。

 思わずクスっと笑いがこぼれてしまう。

 

 ちなみに、カフェ・オレお兄ちゃんから伝えられた情報どおり、一般リスナーが視聴できるのは、普通のブイ会場で、要するにわたしがやってるのと同じだ。VR空間ではなく、視聴者はコメントを打ちこみ、2Dタイプのブイがしゃべるという形式。

 

 だから、そこまで緊張感はない。

 

 わたしはここでは一般モブ。

 サブ垢である『メスガキちゃん』を使ってアクセスをしている。

 コメントを打ちこまなければ空気以下の存在だ。

 

 とりあえず『わおーん』とでも打ちこんでおくか。

 恵子の豚になるのはなんかヤだしな。

 儚い狼の自己主張ですよ。

 

 すぐにわたしのコメントは他のコメントに流され埋没していく。

 でも、いくつか呼応するように『わおーん』という声があがった。

 頼もしいお兄ちゃんたち♡

 

 実は今、()()()()()()()プレミアム配信中だ。

 さすがに二窓をしながらだと、会話の流れについていけないからしょっちゅうは見れないけど、カフェ・オレお兄ちゃんと連携しながら進められるし、お兄ちゃんたちと協力しながらPPすれば、わたしが恵子のメンバーになりやすくなるかもしれない。そんなふうにお兄ちゃんたちから申し出があった。

 

 本当にお兄ちゃんたちは心配性だ♡

 

「ふふ……♡」

 

 さて、恵子のライブを視聴してやりますか。

 わたし達はてごわいぞ。

 

 

 

 ※

 

 

 

「ごきげんようお豚さんたち。今日もいらしてたのですわね」

 

『ぶひいいいい』

『ブヒっ』

『淫猫さまぁ』

『今日もお麗しい……』

『ああ罵倒してくだされ』

 

「みっともなく鳴くのはおやめくださいませ。ご近所迷惑ですわ」

 

『ぶひひ』

『淫猫様からでしか摂取できない養分キター』

『やっぱり鳴いちゃう。だってお豚さんだもん』

『女王様からの罵倒を受けてみな。飛ぶぞ』

『飛んでブヒーン』

 

 あっという間に場を掌握してしまった。

 恵子の――いや、ここでは淫猫と呼ぶか――淫猫のカリスマはかなりのものだ。

 ブイという限られた稼働、動きの中で優雅さと侵しがたい神聖な雰囲気をかもしだしている。

 

 さて、わたしはどうコメントするべきだろうか。

 

 そもそも、淫猫はどうしてメンバーを少数精鋭にしたかということだが、カフェ・オレお兄ちゃんによると、どうも庶民サンプルを求めたかららしい。自分は女王様だから、どうにも庶民の心がわからない。わからないから最愛の妹のこころもいまいちつかめないところがある。だから、一般人の考えを知るために、エリートな豚さんたちを集めたとか。なぜ一般リスナーじゃなくてエリートな豚さんに絞ったかというと、ある程度頭がよくて行動力があるお豚さんを集めたかったとか、信頼できるお豚さんとして、自分の強固なファンで固めたかったとか、そういう説明をされたようだ。

 

 優越感(スペリオリティコンプレックス)を利用した人心掌握術のひとつ。

 自分がエリートだと言われたカフェ・オレお兄ちゃんは、わりと心が傾くのを感じたらしい。

 踏んであげようかと言ったら、バブってたけどね。

 

 ともあれ――。

 

 なんとも生粋の女王様らしい発言だが、わたしが行うべきコメントはただひとつ。

 珍しい庶民サンプルとして価値のある発言を行うこと!

 

『淫猫ちゃん。すごく威厳があるね。同じ女の子として興味深い♡ ¥10000』

 

 つまり、()()()()()()

 想定するのはJCないしJKくらいの頭ゆるふわの女の子。

 なぜかわからないけど、お姉ちゃんを想像すると演技しやすいぞ。

 

 相手はショーガク星からやってきた女王様という設定である。

 当然、淫猫のリスナーは圧倒的に男性が多い。

 その中で、女子リスナーという属性は得難いサンプルのはずだ。

 

 もちろん、そこには一定の危険が伴う。

 わたしが女子小学生だから、属性が似すぎていて身バレする危険はある。

 だが――、虎穴に入らずんばというのは、前の配信で言われたとおり。

 猫のしっぽを踏む覚悟がなくては、この戦いを勝利に導けない。

 

 コメント流れ――流れ。

 

『赤スパ乙!』

『淫猫様だぞ。様づけしろメスガキが』

『メスガキちゃんってすげえ名前w』

『この配信にもついに女子がきたんだね』

『どうせおっさんだぞ』

『魔法少女服着るようなおっさんかもしれん』

『淫猫様をちゃんづけするとは不敬なやからめ』

『ぶひひ……』

 

 いくつかの反応。

 配信の中では、わたしという存在は不協和音なのだろう。

 不協和音は不穏へといたり、配信を乱す要素となりうる。

 それを淫猫が放っておくはずがない。

 淫猫がスキルのあるプレイヤーなのは、普段の恵子を見ていればわかる。

 これも――信頼。

 

「お豚さんたち。初見者さんにはお優しくしなさい。わたくしは様づけされなくてもべつにかまいませんのよ。勝手に様づけしだしたのはお豚さんたちのほうでしょう」

 

『ぶひ。すみませんでした』

『メスガキちゃんごめんな』

『淫猫様の前で不敬だと思いまして……』

『お許しください。淫猫様』

『どうか。わたくしめの頭をお踏みくだされ』

 

『わたし、ずっと前から見てたんだけどコメント初めてで勝手がわからなくて。ごめんなさい』

 

「そうなのですわね。いいんですのよ、気楽にかまえてくださって。それとスパチャありがとう存じます」

 

『ガチ初見者か』

『初見者ならしかたないな』

『わおーん。女子が仲間になってくれてうれしい……うれしい……』

『わおーん』

『なんか豚じゃなくて狼の遠吠えっぽいのが聞こえる』

『なんか今日、変じゃね?』

『女子が来たとたんにこれだよ』

『男は狼なのよ。気をつけなさい』

 

 場のコントロール。

 淫猫の力もあるが、お兄ちゃんたちもがんばってくれてるな。

 

「皆さま。女の子にかまいすぎるのは品がないですわ。もちろん、わたくしならかまいません。お豚さんごときによいように扱われるわたくしではございませんから。もしもわたくしと遊びたいお豚さんがいたら、じっくりといたぶってさしあげますわ」

 

『ぶひいいいい』

『淫猫様に遊んでもらいてぇえええ』

『でもメスガキ名乗ってるからって女子ではないのでは?¥100』

『まあそりゃそうね……』

『なんかコメント具合では本当に女の子って感じがした』

『オレのセンサーでは、女子だったよ!』

 

『いちおう本当にメスガキです』

 

 わたしはすかさずコメントを打ちこむ。

 単なるコメントにそこまでの力はないが、お兄ちゃんたちの絶妙なコメント誘導と、女子リスナーの物珍しさもあってか、わたしの存在感が増していく。

 

『だからってメスガキはねーだろw』

『メスガキ(30)とかだったら逆に興奮する』

『株を学びに来るメスガキとかいるんかなぁ』

『まあどうでもええわ』

『淫猫様の教育的指導を早く受けたいです!』

 

――パンパン。

 

 淫猫が手を打ち鳴らす。コメントの流れが一瞬止まった。

 

「はいはい。わたくしの貴重な女子リスナーさんをイジメないでくださる」

 

『サーセンした』

『すみません。淫猫様』

『ごめんなさい。赦して……赦して……』

『なんやこの統制されたムーブはw ¥5000』

『知らんのか雷電』

『アッカ』

『赤スパ投げたやつ、メスガキスキーてw』

 

「メスガキスキーさん。ありがとう存じますわ。わたくしには妹がおりまして、小さな女の子がイジメられてるのを見ると、どうにも許せませんの。ごめんあそばせ」

 

 淫猫が扇子で口元を覆う。

 普段よりもちょっとだけお嬢様度があがってるな。

 恵子も演じているんだろう。

 

『淫猫さんには妹がいるのかー。知らなかったなー。¥2000』

『淫猫様の妹様はここでは有名だぞ』

『ここは初めてか。力抜けよ』

『淫猫様ぁ。早く今日の教えを……』

 

「さて、お豚さんたちも待ちきれないようですし、今日の授業を始めましょうか」

 

『ぶひいい』

『淫猫様のエサだぁぁぁぁ』

『淫猫様盲信でOKよ』

『淫猫様信じて投資したら、オレ氏、資産三倍になったわ』

『つい最近メンバーに昇格したオレ氏じゃないか』

 

 話題をすぐに切り替えて淫猫は注目すべき銘柄について語り始めた。

 

 それにしてもナイス誘導だよ、メスガキスキーお兄ちゃん♡

 これで、淫猫の中にメスガキ=妹と同一視する視線が生まれた。

 もちろん、中身が本当にわたしだとは思っていないだろうが、庇護対象がダブって見えるというのは、今後に大きな影響を与えるだろう。

 

 そして、カフェ・オレのお兄ちゃんはあとで正座な。

 ん――。わたしのほうの配信を見てみると、カフェ・オレお兄ちゃんが釈明していた。

 

『これは策略なんよ。メスガキがうまく侵入するための布石なんだ』

 

「そういうことにしておいてあげる♡ でもうまくいかなかったら説教ね♡」

 

『ば……バブぅ……¥200』

 

『またイチャイチャする』

『カフェ・オレ氏が一目置かれてるのが草』

『こっちではバブってる赤ちゃんなのになw』

『それにしても淫猫の授業だが普通に勉強になるな』

『株式インデックス……なんぞそれ?』

『そりゃ十万何千冊の魔術書を記憶してる少女だろ?』

『だめだこいつら……ただのメスガキ好きに投信は難しすぎたんだ』

 

 淫猫の授業はオーソドックスな投資信託を扱うものだった。

 どちらかと言えば、長期向けの戦略に思えるけど、今日がたまたまそうだったんだろう。

 

「ですから――、わたくしは、これからの時代は新興国を重視すべきだと思いますわ」

 

 論理だてた説明は非常にわかりやすい。

 自前で作ったのか、それとも誰かに作らせたのを流用しているのかわからないが、国別のGDP伸び率を示し、今後二十年の推移を占う。そこからポートフォリオを形成するという流れ。

 

 言ってることは一見難しいけど、中身はパイがでかくなるところを狙ったほうが資産運用上、有利ですよというごく単純なことを言っている。初心者向けといってもいいレベルだ。

 わたしもパイは大きいところが好き♡ どことは言わないけれど♡

 

 では、ここらでちょっとつついてみるか。

 

『淫猫ちゃんは国内市場には目を向けてないの? ¥5000』

 

「あらメスガキちゃん。またスパチャありがとう。そうですわね。日本のGDPは現在のところ世界5位。まだまだポテンシャルはありますけれど、問題になりますのは、今後二十年間のGDP成長率ですのよ」

 

『メスガキは何も知らないトーシロだなw』

『所詮はメスガキよ。わからせられるのが定め』

『淫猫様の声色がいつもより優しい……優しい……』

『女の子だとしたら優しくしなくちゃな』

『メスガキがワトソンポジで、オレらを高めてくれてる可能性がワンチャン』

 

 淫猫が海外市場に目を向けろと言っているから、豚さん達もどうやらわたしの意見に否定的。

 実を言えば、わたしも主戦場は海外市場だったりするので、淫猫と同意見だ。

 だが、わたしが揺さぶりたいのはそこじゃない。

 

『個別の銘柄に着目すれば、日本でも成長がみこめる企業はありそうじゃない? 例えば――』

 

 わたしが述べたのは鳳寿院傘下の子会社。

 

 いま売れ時のAIちゃんを作っている企業で、今後はロボットテクノロジーと結びついて、最終的には小学生くらいのメスガキAI搭載型ロボットを生み出すだろうと予想されている。

 

 しかし、成長が期待されているということが言いたいんじゃない。

 

 わたしは仮面の奥に潜む、淫猫の素顔を探る。

 反応が早い淫猫がわずかに――遅延した。

 

 その理由はおそらく……。

 

 自分の所有している企業にまつわる話をしようとすると、インサイダー取引にあたる可能性が出てくるからだ。もっとも、こういう場での発言がどこまで適用されるかはわからない。会社にとっての重要な秘密をバラさない限りはたぶん大丈夫だろうと思う。

 

 けれどコンプライアンス上のリスクを感じて、淫猫は困惑したんだ。

 

『メスガキは株と投信の違いもよくわかってないらしい』

『メスガキって何歳くらいかな? 小学生だったりしたらビビるがw』

『小学生がぽんぽん赤スパ投げれるわけねーだろ ¥100』

『そりゃそうか……』

 

「失礼、少し考えてしまいましたわ。そうですわね。日本にも目を見張る成長をする企業はございますわ。メスガキちゃんがあげた企業もそうなる可能性が高いと言えますわね。今回の授業は長期投信がメインですので、対象となるのはファンド――要するにお金の集まりでしてよ。メスガキちゃんのお話とは少しズレが生じますから、次回の宿題とさせてくださいませ」

 

『そうなんだ。すごく勉強になったよ。ありがとう淫猫お姉ちゃん♡ ¥5000』

 

「お、おね……」

 

 淫猫は扇子で顔全体を隠してしまった。

 

『おいおいおねロリかよ』

『まさかまさかでございますな』

『ショーガク星の淫猫様を姉呼びするとは……』

『このメスガキ、ただもんじゃねえぞ。淫猫様のクリティカルポイントを的確に……』

『淫猫様も言うて小学生なわけねーだろうから、マジで姉妹みたいな年齢差もありうるのか?』

『でも、メスガキがメスブタになるとちょっと意味変わるなw ¥3000』

『なんてこと言うんだよ。おまえw』

 

「わからせマンさん。ありがとう存じます。メスガキちゃんをメスブタとはあまり呼びたくありませんわね。それに、わたくし、姉妹関係に年齢なんてものはあまり重要じゃないと思いますの」

 

 再起動した淫猫が突然、わけのわからないことを言いだした。

 しかし、これはわりと普段からおこなわれる発言らしく、お豚さんたちは落ち着いたものだ。

 

『淫猫様は姉妹という概念そのものを愛してらっしゃる』

『お姉ちゃんのほうが依存してる系の姉妹関係好き』

『オレ氏も好き。¥200』

『生活全般を妹にお世話されてる系お姉ちゃんのことが大好き』

『生活能力は年齢とは関係ないからなぁ。¥100』

 

「そうですのよ。わたくしにもお姉様がいますが、成人してるのに家事はまったくできませんの」

 

『出た。レアキャラのお姉様』

『お姉様は小学生の妹君たちのお世話になっているんだよな。知ってる』

『淫猫様がガチで小学生だったりしたら、その姉、だらし姉ぇ……』

『何言ってるんだ。淫猫様はショーガク星からやってきた年齢不詳の女王様だぞ』

『そういやそうだった』

『じゃあ、淫猫様の家の家事は誰がやってるんですか。¥5000』

 

『さすがにメスガキ関連の名前が出すぎだからオレはやめとく』

 

 とMSGK泣かし隊兄貴の代打で出てくれたのが、

 

「盤面整理兄貴さん、ありがとう存じます。家事はわたくしの妹と分担してやってるんですのよ」

 

 そう語る淫猫は本当に嬉しそうだった。

 わたしも嬉しくは――あった。家族が増えて。姉と呼べる人が増えて。

 

 淫猫がまだ家族愛を求めている線は消えていない。

 カフェ・オレお兄ちゃんの言葉はあくまで伝聞で、証拠と言えるようなものはない。

 お兄ちゃんのことは信頼しているから、たぶん正しいだろうなとは思うけど。

 ふと、恵子を騙していることに罪悪感が頭をもたげた。

 

『どうしたメスガキ。コメントが止まっているぞ』

『配信が終わる前にあと3万円ぶちこまないと』

『いまならかなりの好感度で面接を迎えられるんじゃないかしら?』

『メスガキ。止まるんじゃねえぞ』

『お姉ちゃんをゲットするんだろ! メスガキ! ¥2000』

 

 そうだった。

 わたしはこんなところで立ち止まっていられないんだ。

 

「行くよ。お兄ちゃんたち♡」

 

 コメントを打ちこむ。エンターキーを押せ!

 

『わたしにもお姉ちゃんがいるの。淫猫ちゃんもわたしのお姉ちゃんになってほしい♡ それでお金のこととかいろいろ教えてほしいな♡ ¥30000』

 

『でっか』

『ナイスパチャ』

『メスガキと淫猫様との間に奇妙な縁がある気がする』

『淫猫様は支配者であらせられる。妹気質を持つものを自然と集めてしまわれるのだろうか』

『しかし、30のおっさんがお姉ちゃんとか言ってる姿想像したら……』

『メスガキはメンバーになりたいんかな?』

『初コメで、5万円投げつけてメンバーになりたいとか、狙いすぎじゃねえの?』

『ファンでもなけりゃ5万円は投げられんだろ』

『うーん……?』

 

「お姉ちゃんですか。それは困りましたわね。わたくしには既に妹がいますし……ですが、メスガキちゃんの想いは受け取りましたわよ。わたくしのメンバーになるには、誰かしらの推薦が必要ですが、今回は特例で推薦なしで仮メンバーにいたしましょう」

 

『やった♡』

 

『あれ、オレ氏いらんくね?』

 

 カフェ・オレお兄ちゃんがわたしの配信で黄昏ている。

 

『悲報。カフェオレの存在意義なくなるw』

『乙彼。おまえの役目はここまでだ』

『カフェ・オレなんて最初から要らんかったんやw』

『かわいそかわいそなのですぅ』

『ば……バブぅ。¥100』

 

 表では、淫猫が話を続けていた。

 

「ですが――、あくまで仮のメンバー。わたくしの面接を突破できなければ、元のお豚さんに戻っていただきます。よろしいですわね?」

 

『もちろん♡ わたしは勝つよ♡』

 

 かくして、わたしは一次試験を突破したのだった。




カフェ・オレ氏……いいやつだったよ。


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お姉ちゃんが煮詰まった結果

 あれからほどなくして、メスガキちゃんアカウントと淫猫の間でDMが取り交わされ、面接は次の日曜日ということになった。少し目立ちすぎたかなと思うものの、初めての女子メンバー候補ということで恵子の記憶の中に刻まれたはずだ。

 

 一次試験の結果はほとんど最高と言ってもいいだろう。

 カフェ・オレお兄ちゃんは無惨なことになったがな。

 貴重な一般庶民妹サンプルとしてメスガキちゃんを切ることは、相当なポカをしない限り、おそらくないだろうと思う。わたしの勝利は近い。

 

 恵子との水面下での戦いは続いているが、もちろん日常生活も途切れることはない。

 

「六時か……起きよ」

 

 部屋のドアを開けると、まだ誰の気配も廊下にはなかった。

 すると示し合わせたように、恵子の部屋の扉が静かに開く。恵子だった。

 寝ぐせひとつない黒髪がさらりと流れ、視線にはやわらかいものが宿っていた。

 

「おはようございます。異空ちゃん」

 

「おはよう。恵子お姉ちゃん」

 

「……! ええ、おはようございます!」

 

 目に見えてキラキラとしたオーラをまとう恵子。

 

――ふふ♡ ちょろいやつめ♡

 

 恵子のメンバーになると決めたとき、わたしは密かにもう一つの作戦を発動させていた。

 今日からしばらくは気持ち多めに恵子お姉ちゃん呼びをする。

 リアルと虚構の両面作戦である。

 

 仮に――だが。

 もし、恵子が猫としてわたしのことが好きならどうすればよいか。

 

 お姉ちゃんをとられたくないというのがわたしの最終目標なのだから、恵子を懐柔したほうがよい。つまり、甘える妹として、お姉ちゃんを鳳寿院家にとりこもうとするのをやめてもらう。

 

 これが通れば、時間は再びわたしの味方になる。

 

 近い将来――五年後くらいに()()()()()()()()()()()()()を引っ提げて、お姉ちゃんを完全なヒモにすればいい。鳳寿院家のヒモになるのがよいか。それとも、わたしと添い遂げるのがよいか選んでもらえばいいんだ。

 

 お姉ちゃんは根っからの庶民だし、ハッキリ言って鳳寿院家の名は一般人には重すぎる。選択肢は初めからあってないようなもの。わたしが選ばれるだろう――。

 

 そのときは恵子というオマケもくっついてくることになるが、なぁに主導権はこちらにあるんだ。たいしたことはないさ。恋愛は好きになったほうが負けというのは古事記にも書いてある。

 

 そんなわけで恵子といっしょに朝食を作っている。

 今日は和食な気分。正確には和洋混在系のいわゆる定番な日本食。

 ご飯とお味噌汁にベーコンエッグ、サラダ和えといった感じだ。

 

――和をもって貴しとなす。

 

 という、今のわたしの気持ちを体現させてみた。

 容姿だけで見れば、わたしは洋風で恵子は和風だからな。

 ちなみに和というのは、原文ではやわらぎと呼ぶんだぜ。カッコいいだろぉ~。

 

「ふんふーん♪」

 

「今日は気分がよろしそうですわね」

 

「そうかな? あ、恵子お姉ちゃんはお味噌汁のほうお願い」

 

「わかりましたわ」

 

 恵子は手慣れた手つきでお味噌汁を作り始めた。

 今日は大根のお味噌汁。細切りにした大根が軟らかくなるまで煮こむのはそれなりに時間がかかる。その間に、わたしはちょっとお高いアメリカンスタイルのベーコンをカラカラになるまで焼いた。同時並行的に、違うフライパンで目玉焼きを作る。

 お姉ちゃんは半熟とろとろが好き。わたしは硬め。恵子はどっちでもいいらしい。

 もちろん、お姉ちゃん最優先ですよ。

 わたしはお姉ちゃんファーストだからね。

 

 しばらく時間が経過する。

 フライパンに視線を落としながら、

 

「ねえ、恵子お姉ちゃん」

 

 と、わたしは言った。

 

「はい。どうしましたか?」

 

 ふふ。お姉ちゃんと呼ばれて嬉しいか。

 では、ここらでジャブを打たせてもらおう。

 

「お姉ちゃんを鳳寿院家に取り込もうとしている件だけど、あれやめてくれないかな?」

 

「あら、どうしてでしょうか」

 

「お姉ちゃん、明らかに困惑してたよね」

 

「人は巨大な宿命を意識したときに必ず困惑するものですわ」

 

 鳳寿院家の一員になるのが宿命か?

 人の業だろう。

 

「でも、お姉ちゃんには独り立ちする道もあるよね?」

 

「それはもちろんですわ。鳳寿院との関わり方も最終的にはお姉様が決められることです」

 

「だったら――」

 

「ふふ。異空ちゃんはお姉ちゃんを守るかわいい騎士さんみたいですわね」

 

「むう……」

 

「わたくしも同じ気持ちです。お姉様のことは姉としてお慕いもうしあげておりますが、他方でわたくしの中では庇護対象でもありますのよ」

 

「どういうこと?」

 

「だって、お姉様は小学生妹のヒモなのですから、普通の姉妹の関係としては逆転していると言えますでしょう。わたくし、お姉様のことも妹のように感じるときがありますの」

 

「お姉ちゃんなのに?」

 

「年齢は関係ありませんわ。わたくしとお姉様がそういう関係を結びたいと思った。だから姉妹という関係になれたのです。異空ちゃんも同じでしょう?」

 

「確かに……」

 

 それは否定できない。

 

「お姉様を妹として仮定すれば、わたくしが鳳寿院家の中にとりこもうとするのは、おかしなことではありません。お姉様がたとえおイヤだといっても、()()()()()()()に基づいて、わたくしはお姉様をヒモにいたします」

 

――パターナリズム。

 

 別名、家父長主義。

 強い立場にある者が、弱い立場にある者の意思に反してでも、弱い立場の者の利益になるという理由から干渉しようとすることを指す。

 恵子はやはり根本的に女王様なのだろう。

 わたしも、お姉ちゃんのことを保護したいけれど、ここまで極端じゃない。

 

 いつのまにやらベーコンはカラカラになっていた。

 そして目玉焼きは、早めに救出したお姉ちゃんのだけはふわとろだが、恵子とわたしの目玉焼きはカッチカチのハードボイルド仕様だ。少し喋りに熱が入りすぎたらしい。わたしは火を止めた。

 

「ねえ、恵子お姉ちゃん」

 

「はい。なんでしょう」

 

「かわいい妹の頼みでもダメかな?」

 

「ふふ♡ そうですわね……。考えておきましょう」

 

 ただではわたしの噛みを通してはくれないか。

 

 恵子のほうも火を止めて、大根の一片を口に入れた。味見だろう。

 

「わたしにもちょうだい」

 

「火傷しないようにお気をつけなさい」

 

 恵子はお箸で大根を掬い、ふぅふぅと冷ましてくれた。

 差し出されたお箸に迷いなく、わたしも口に入れる。

 

 大根は噛まなくてもいいぐらい柔らかくなっていた。

 いつのまにやら、鍋のほうも()()()()()()()ようだ。

 

 誤用かそうでないかは、微妙なところだけど。

 

 

 

 ※

 

 

 

 朝食とお弁当ができあがったところで、お姉ちゃんを起こしにいく。

 もちろん、恵子もいっしょだ。

 いろいろと言いたいことはあるが、盟約(ルール)は今も健在。

 こちらから約束を破ることはしない。

 そして、恵子も盟約を破る気は無いようで、わずかずつこちらに干渉することで盟約自体を改変しようとするところが手ごわいところだ。

 サディスティックな女王様に勝利するのは、ただカワイイ妹という立場ではダメらしい。

 まあいいさ。恵子は考えると言っていた。

 猫を手なずける作戦が失敗すると決まったわけじゃない。

 

 そんなことを思いながら、わたしはお姉ちゃんの部屋のドアノブに手を伸ばした。

 そこに驚くべき光景が広がってるとも知らずに。

 

「え?」

 

 わたしは目を疑った。

 お姉ちゃんが起きてる!

 ふらふらとした足取りで、目元はゾンビみたいにどこを見ているかわからない。

 朝に弱いお姉ちゃんがベッドから抜けだしてひとりでに起きるなんて奇跡のような確率だ。

 しかも、驚くべきはそれだけじゃなかった。

 

――クソダサジャージ。

 

 お姉ちゃんは自分で着替えていた。

 赤ジャージの上着のジッパー部分を閉めようとしているが、寝ぼけているのと大きなおっぱいが邪魔してうまくいかないようだ。だってそれ高校生の時のやつだよね。お姉ちゃんのおっぱいは今も成長していて、収まりきれていないよ。

 

 やがて、わたしの存在に気づいたのか、お姉ちゃんの視線がこちらに向いた。

 

「あ、おはよう。異空ちゃん。恵子ちゃんもおはようね~」

 

「おはよう。お姉ちゃん……なにしてるの?」

 

「あのね。いつまでも妹ちゃんたちのお世話になるのはダメかなって思って、できることから始めようと思ったの。着替えくらいならできるかなぁって……」

 

 できてねぇよぉ!

 

「お姉ちゃん今日大学行くよね。まさかとは思うけど、その恰好で行くつもりなの?」

 

 クソダサいというのもあるが、お姉ちゃんみたいな美人がおっぱい爆盛のジャージ姿で登校するというのは、世のお兄さんがたの目に毒なんじゃないだろうか。

 

 あまりに無防備かつ無謀な試み。

 

 お姉ちゃんがヒモを脱却したいのはわかるけど、コレは無い。

 

「お姉様。ジャージ姿が必ずしも悪いとは言いませんが、美術を学びに行かれるのにその恰好は品性を疑われませんか?」

 

 恵子はわかりやすくジト目になっていた。

 身体からゴゴゴとオーラみたいなのがたちのぼっているようだ。

 女王様のオーラに一般人は気おされるしかない。

 お姉ちゃんはタジタジとなっている。

 

「あ、あのね……私に一番馴染んでるのってコレなんじゃないかなぁって」

 

 まあ、わからないでもないよ。

 お姉ちゃんにとって、ジャージ姿は一種の心の防壁なんだろうと思う。

 鎧のようにジャージを身にまとって、自分の心を守りたかったんだ。

 

「はぁ……異空ちゃんがお姉様を甘やかしすぎたから、こうなってしまったんですね」

 

「恵子ちゃんが無理強いするから、無理にがんばった結果だと思うよ……」

 

「その結果がコレですか……」

 

「ジャージ動きやすいよ。ぜんぜん悪くないよ?」

 

 お姉ちゃんは必死にアピールした。

 恵子、頭を抱える。

 わたしも頭痛がしてきた。

 

 コレは無いという意味では、恵子と意見が一致していた。

 

「ほら、お姉ちゃんさっさと脱いで」

 

「そうですわ。お姉様には土台無理なのですから、まずは妹たちにお世話されなさいませ」

 

「ひ、ひぇ。脱がさないで。ひとりでできる。ひとりでできるから!」

 

「ひとりでできないからこうなってるんだよね?」

 

「お姉様が一人で着替えるなんて、ニワトリが空を飛ぶようなものですわ」

 

「ひーん」

 

 妹ふたりに迫られて、お姉ちゃんは防御の姿勢になった。

 無駄だけどね。

 妹ゾンビに襲われる姉は無惨にもひん剥かれてしまうのだ。

 

 

 

 ※

 

 

 

「くすんくすん。私、がんばったのに」

 

 朝食の時。

 お姉ちゃんは落ちこんでいた。

 そりゃ、がんばったのはわかるんだけど、努力の方向性がね……。

 お姉ちゃんに優しい言葉をかけてあげたいけれど、お姉ちゃんにずっとヒモでいてほしいわたしとしては、なかなかいい言葉が思い浮かばない。

 

「お姉様がお独り立ちしようとがんばっていらっしゃるのは喜ばしいことだと思います。けれど、それ以前に家族としてのルールを破るのはいかがなものでしょうか」

 

「約束?」

 

「そう約束です。例の時間割はわたくしと異空ちゃんでお作りしたものですが、お姉様がお世話をされることで初めて完成するのです。お姉様が断りもなくルールを破るのは困りますわ」

 

「そ、そうだよね……。でもそれだと私っていつまでもヒモのままなんじゃ……」

 

「断りもなくと申しあげました。一言も妹たちに相談もなく、おひとりで決められるのは自分勝手というものです」

 

「自分勝手……」

 

 お姉ちゃんがショックを受けている。

 

「恵子ちゃん。言い方」

 

 さすがに放っておけず、わたしは口をはさんだ。

 確かにお姉ちゃんがやったことは横紙破りかもしれない。

 お姉ちゃんにルールを破られて、わたしも怒っていたのは確かだ。

 でも、言い方ってあるよな。

 

「生意気を申しあげました。けれど――、異空ちゃんのことをどうかお考えください。異空ちゃんはお姉様のお世話をするのが生きがいなんです。とりあげないであげてください」

 

「わたしを理由にしないでよ」

 

「そうですわね。異空ちゃんをアリバイにするズルい言い方でしたわ」

 

 ですが――、と続ける。

 

「お姉様のお世話をできてわたくし家族としての絆を得たようで嬉しかったのです。お姉様にそんな気がないのは重々承知しておりますが、朝の出来事は絆という紐帯を切り離されたようで寂しかったのですわ」

 

「ごめんね。恵子ちゃん。約束を破る悪いお姉ちゃんで」

 

「いえ、お姉様をヒモ扱いしているのは悪い妹のわたくしですから」

 

 ムム。遠まわしにわたしも非難されているみたいだ。

 しかし、ここでお姉ちゃんにヒモにならないでいいよと言うことはできない。

 

――いったいどうすれば。

 

 わたしの懊悩が伝播したように、お姉ちゃんも頭を抱えていた。

 

「うう、ヒモになりたくけど、ヒモにならなくちゃ妹ちゃんたちが傷つく。いったいどうすれば」

 

 お姉ちゃんは煮詰まってしまった。

 

 

 

 ※

 

 

 

 あれからお姉ちゃんは悩ましげな表情のままだった。

 わたしはお姉ちゃんのことが心配になりながらも、どうすることもできなかった。

 小学生の朝は早い。大学生よりずっと先に登校時間が迫ってくる。

 いつもの道を歩きながら、学校へと向かう。

 

――恵子と手をつないでな。

 

 業腹ではあるが、恵子と仲たがいをしてもいいことはない。

 わたしは恵子と和解の道はないかを探ることにした。

 

「恵子お姉ちゃん。あまりお姉ちゃんをイジメないでよ」

 

「イジメてるつもりはありませんわ。それにお姉様をヒモにしたいのは異空ちゃんもでしょう」

 

「それはそうだけど、お姉ちゃんのこころはお豆腐みたいに脆いんだよ。優しく扱わなきゃダメ」

 

「ふむ。確かに一理ありますわね」

 

「でしょう」

 

「ですが、やはりお姉様にはもっと大人になってもらわなくてはと思います」

 

「お姉ちゃんに嫌われてもいいの?」

 

 言外に、わたしにもと聞いたつもりだ。

 恵子はわたしの意図を正確に理解して、目を細めた。

 

「それでもかまいません。嫌われてしまうことを恐れて何もしないより、わたくしはわたくしなりの方法でその方を愛するだけです」

 

「恵子ちゃんは強すぎるよ」

 

「そうですわね。わたくしも時折、そんな自分が煩わしくなることもあります」

 

 狼は群れるが、猫は群れたりしない。

 家族どうしで集まったりはするが、基本的に孤高の存在だ。

 鳳寿院家の跡取りとして、周囲の大人たちからも同じ年代の子どもからも恵子は浮いてきたのだろう。まさに天然モノの孤独な女王様。不器用すぎるスタイルが人を遠ざけてしまう。

 

 まったく困ったお姉ちゃん()だ。

 

 

 

 ※

 

 

 

 小学校が終わり下校の時間になった。

 恵子とは一時間違うときがあるが、今日はたまたまいっしょの時間だ。

 朝のときと同じく手をつないで帰り、玄関に到着する。

 

 お姉ちゃん大丈夫かな。

 最近のお姉ちゃんは恵子の猛烈な攻勢もあってお腹が痛い痛い状態(ぽんぽんペイン)だと思う。

 マッサージとかしたら、少しは和らぐかなと思うけれども、ヒモになること自体をヨシとしないお姉ちゃんからしたら、どうなんだろうな。

 

 家の中は、まだ昼間だというのに暗かった。

 

「お姉ちゃんただいまぁ」

 

 声をあげてみても反応がない。

 嫌な予感がする。

 

 お姉ちゃんの靴は玄関口にあった。

 家に帰ってるのはまちがいない。

 わたしが帰ってきたら、必ずといっていいほど玄関口で出迎えてくれるお姉ちゃんが来ない。

 

「なにかあったのでしょうか?」

 

 恵子が怪訝な表情をする。

 わたしはいてもたってもいられず、靴を脱ぎ散らかしてお姉ちゃんの部屋に向かった。

 

 部屋の鍵はかかっていなかった。

 わたしは思い切ってドアを開けた。

 

「あ、異空ちゃぁん。おかえりぃ。ふへへ♡ 異空ちゃんがダブルに見えるぅ♡」

 

 お、お姉ちゃんが……飲酒してる。

 床に転がってるのは、アルコール度数9%の酎ハイ。

 空になった500ミリ缶が、一本、二本。

 そして、手元には三本目の桃味のそれ。

 

――お、お姉ちゃんが現実逃避しちゃってる!?

 

 恵子に追い詰められすぎた結果、ついにお姉ちゃんが壊れちゃった。

 

「お、お姉ちゃん。大丈夫なの?」

 

「え、なにがぁ?」

 

 夕暮れよりも真っ赤な顔が、豆腐よりも柔らかな声を出した。

 これはどうしたらいいんだろう。

 

「恵子お姉ちゃん。お姉ちゃんが酔っぱらっちゃってる」

 

「お姉様。飲酒をするのは大人としてのたしなみかもしれませんが、だらしないですわよ」

 

 後から追いついてきた恵子が、再びジト目になっている。

 

「もうー。恵子ちゃんはうるさーい! お姉ちゃんはねえ! お姉ちゃんは……大人なんだゾ! もっと優しくしろよぉ!」

 

 お姉ちゃんもジト目で応戦。

 これにはさすがの恵子も一歩引いた。

 

「もーう。小学生のくせにぃ。かわいい妹のくせにい」

 

「お姉様。お水をお飲みになっては……」

 

「水なんか飲んでられるかぁ! 馬鹿ぁ!」

 

 グビ。グビ。グビ。

 そんなに一気に呑んじゃ危ない。

 

「だいたい、ほーじゅいんとか知らないしぃ。えこちゃんはえこちゃんだから家族なんらよ。どうしてそんな意地悪すんろ? ねえ。恵子ちゃん。こっち来なさい」

 

「はい。お姉様。わきゃ」

 

 食虫植物のような動きで捕獲される恵子。

 どんなに頭がよくても、身体は小学生の女の子。

 豊満経営によって育ち切ったお姉ちゃんの身体の前では、無力な女の子に等しい。

 

「いじわるな女の子はこーだ! わからせてやる!」

 

「お、お姉さ――むうううううう」

 

 ちょ、ちょっと待って。

 なにが起こってるの。

 お姉ちゃんが口移しでアルコール度数9%の酎ハイを恵子に飲ませていた。

 

 じたばたともがいていた恵子だったが、最後には高濃度アルコールの前に敗北し、クタっと全身の力を抜いてしまう。

 

「お姉ちゃん何してるの!」

 

 わたしは絶叫した。

 

「あー、異空ちゃん!」

 

 ものすごく目が座っているお姉ちゃんである。

 

「なに、お姉ちゃん?」

 

「こっちきなさい」

 

 恵子はくったりとしたまま、ペッとばかりに吐き出され、あとに呼ばれるはわたしのみである。

 ちょっとだけ期待してしまっているわたしがいる。

 ご、ごくり。

 でも、こんなので……いやでも。

 

「はーやーくー!」

 

「はい」

 

 そして収まる定位置。

 お姉ちゃんのお胸の位置に頭を預け、手と足で絶妙にロックされている。

 小学生の力じゃ、絶対に逃げられない♡

 

「お姉ちゃんはね。少し怒ってるのです」

 

「そうなの? わたし何かしちゃった?」

 

「恵子ちゃんも異空ちゃんも、お姉ちゃんがヒモになりたくないって言ってるのに……すんすん」

 

 今度は泣き上戸。

 お姉ちゃんの感情が行方不明だ。

 実を言うと、お姉ちゃんがお酒を飲んでいる姿なんて見たことはない。

 わたしが知る限り初めての飲酒。

 

「お姉ちゃん、ごめんね」

 

 わたしはお姉ちゃんの顔に手を伸ばした。

 わたしと恵子が戦うのは宿命かもしれないけれど。

 お姉ちゃんを巻きこんでしまって、本当にごめんなさいって思う。

 お姉ちゃんが傷つかない方法があればそうしたい。

 

「本当にごめんなさひっておもってるんなら、お姉ちゃんをヒモにすりゅのやめなさひ」

 

「それはヤダ♡」

 

「もーーーう。異空ちゃんもわからせてやる!!!」

 

「むうううううううん♡」

 

 わたしの今世におけるファーストキッスは桃の味がした。

 それにしても、小学生の身体にアルコール度数9%はキツイ。

 一気にお腹の奥が熱くなって、わたしは気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 後日。お姉ちゃんは土下座してわたしと恵子に平謝り。

 わたしはそもそも煽ってた面もあるからどうということはない。

 そして、恵子はちょっぴり引いていた。

 

「お姉様を舐め腐っていたわたくしが甘かったのですわ」

 

 とは、恵子の言。

 

 これより先、恵子は少しだけお姉ちゃんのことをヒモにすることに強引さがなくなり、お姉ちゃんはお姉ちゃんとしての威厳を取り戻したのである。

 

 酒の力ってスゲェ……。




お酒は飲みすぎたらダメよ


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ヒモ姉スレッド:悲報ヒモ姉逮捕される?

623:小学生妹のヒモ姉

不詳、私ヒモ姉は犯罪者になってしまいました。

皆様いままでどうもありがとうございました……。

 

624:仰げば名無し

なんだなんだ?

 

625:仰げば名無し

まさか妹ちゃんに手を出したとかか?

妹ちゃん大勝利の予感

 

626:仰げば名無し

だったら今頃、メスガキ大はしゃぎしてんじゃね

 

627:仰げば名無し

配信でメスガキが妙に嬉しそうではあったが

報告らしい報告はなかったけどな

 

628:仰げば名無し

逆に妹Ⅱちゃんに手を出したとかじゃ

 

629:仰げば名無し

そっちでもメスガキが報告しないわけないんだよなぁ

ある日、ヒモ姉が起きてみると、空鍋を混ぜ混ぜしているメスガキの姿が

 

630:仰げば名無し

とりあえずヒモ姉は何があったのか報告しろよw

ここに来たってことは、助かる手段探してるってことだろ

 

631:小学生妹のヒモ姉

こちらが証拠VTRになります……

https://www.anetube.com/watch?v=xxxxxxxxxxxxx/channel=himonee

 

632:仰げば名無し

おまえってやつはブレないなw

盗撮も微妙に犯罪っぽいことに気づけw

 

633:仰げば名無し

さて始まりました

おっと、今日は……? えっとなんだろう

旅館とかで売ってそうなミルク瓶と

自動販売機で買えそうなブラックコーヒーの缶か

ミルクが妹ちゃんでコーヒーが妹Ⅱちゃんかな

 

634:仰げば名無し

ヒモ姉ってあいかわらず朝食を作ってもらってるんだな

まあいまさら驚くべきことでもないが

妹たちの協力プレイが微笑ましい

 

635:仰げば名無し

メスガキのほうが料理しながら妹Ⅱを説得してるな

お姉ちゃんをP家にとりこむのやめてくれないって頼んでるの

ほんと献身的だわ

 

636:仰げば名無し

そこだけ見ると、マジで姉想いの健気な小学生なんだけどなw

 

637:仰げば名無し

狼と猫の因縁の争いよ

水面下では副音声の言葉が取り交わされているに違いない

 

638:仰げば名無し

「お姉様のことも妹のように感じるときがありますの」

って小学生の妹に妹扱いされてるヒモ姉って哀れすぎる

でも適切な評価でワロタ

 

639:仰げば名無し

しかたねえだろ

ヒモ姉はヒモ姉なんだから

 

640:仰げば名無し

パターナリズムねえ

妹Ⅱはやはり支配者気質だよな

このままいけば、被保護対象としてヒモ姉はヒモにされてしまうように思うが

逃れる術とかあるんだろうか

 

641:仰げば名無し

イソラが「かわいい妹の頼みでもダメかな」って聞くの強すぎるわ

早速、猫だと仮定して布石を打ってきてやがる

リアルと虚構で二面作戦かよ

 

642:仰げば名無し

しかし、カフェ・オレ氏の見解だと妹Ⅱは猫らしいが、

メスガキの主張も通らないところを見ると、本当なのか疑わしくもあるな

いやそれもパターナリズムに基づく愛情表現なのかもしれんが

 

643:仰げば名無し

火傷しないように気をつけなさいって

ちょっとお姉さんっぽく言う妹Ⅱがわりとカワイイわw

お姉ちゃん風吹かしている感じ

 

644:仰げば名無し

それはメスガキの策略だぞ

妹としてごく普通に接することで

妹Ⅱを姉として認めているよと言外に主張し、

妹Ⅱのラインを少し動かしたんだろう

 

645:仰げば名無し

ここまでヒモ姉登場せず

ヒモ姉がタイーホされるような案件はなし

そして次のシーンは、ヒモ姉のお部屋だな

って、ヒモ姉……おまえひとりで起きれたんかワレェ!

 

646:仰げば名無し

スゲェ……赤ちゃんが初めて歩いたときみたいに感動しているよw

 

647:仰げば名無し

わぁ。えらいねえ

ヒモ姉がんばったねぇ

でもなんで酎ハイ缶なんだろうヒモ姉

 

648:仰げば名無し

しかも、お腹のところに9%って書いてるw

ストゼロかよwwwww

 

649:仰げば名無し

ヒモ姉がタンスの奥から、赤ジャージ引っ張り出してきて着替え始めたな

おきがえもひとりでできるなんて、まだ20歳なのにえらいなぁ

 

650:仰げば名無し

本当だ!

ひとりで起きられるだけじゃなく

ひとりでおきがえもできるなんて

ヒモ姉の成長っぷりに涙が止まらないよ

 

651:小学生妹のヒモ姉

私も少しは成長しなきゃと思ってがんばったんです

 

652:仰げば名無し

>>651

そっか

オレらの意見も取り入れてくれたんだな

ヒモ姉は素直だからわりと成長するほうだと思うんだよな

 

653:仰げば名無し

妹ちゃん「今日大学行くよね」

今日大学行くよね……

今日大学行くよね?

 

654:仰げば名無し

ヒモカス……おまえセンスの欠片もない赤ジャージで

センスを磨きにいくはずの美大に行こうとしたんか

もう何も言えねえ……

 

655:仰げば名無し

努力はしたんだ

努力はしたんだよ

でもそれが明後日の方向だっただけなんだ

ヒモ姉はなんも悪くねえ

ていうか着るもんぐらいなんでもいいだろ!

 

656:仰げば名無し

妹Ⅱの言葉を翻訳すると

「そんなクソダサジャージで外を出歩くなんてやめてくださいませ。P家の名前に瑕がついてしまいますわ」

これだよなw

 

657:仰げば名無し

ヒモ姉の容姿を思い浮かべると、赤ジャージもわりと悪くないと思うんだよな

絶対、胸部が盛り上がって、えちえちなことになってる

 

658:仰げば名無し

あー、今が酎ハイ缶のせいかわからんかったが

確かにヒモ姉は容姿だけ見れば、美人さんだしなw

赤ジャージも悪くない選択だ

 

659:仰げば名無し

妹ちゃんが阻止しようとしているのは、狼視点もあるだろうよ

自分以外に噛ませる気ないからな

 

660:仰げば名無し

ひとりでできるもんって必死になるヒモ姉はかわいそうかわいい

でも、子どもが自分でできるってムキになってるように聞こえちゃうんだよな

 

661:仰げば名無し

鶏が空を飛ぶようなものって、妹Ⅱ辛辣すぎぃ!

 

662:仰げば名無し

そして今日も妹たちにコーディネイトされるヒモ姉だったとさ

ここまでヒモ姉のヒモ生活は通常運行

犯行シーン? みたいのはなかったと思うけど

ジャージ着たのがそれってわけでもないだろうし

てか、まだ動画半分も行ってないじゃん

今日の動画なげェわ

 

663:仰げば名無し

オレらにとっては妹Ⅱの要素とりには有利だし

妹ちゃんにとってはヒモ姉の内心を知るいい機会だと思うが

なんで動画まで口下手なんだよヒモ姉……

いやヒモ姉だからこそか

 

664:小学生妹のヒモ姉

いちおう皆様に私が犯行に至った経緯を知ってもらっていたほうがよいかと思いまして

削ろうかとも思ったんですが、全部載せることにしました

朝食を妹ちゃんたちが作ってるシーンは、

妹ちゃんが私をかばってくれてるみたいでうれしかったです

 

665:仰げば名無し

妹ちゃんは最後にお姉ちゃんをおいしくいただくために

じっくりコトコト煮込んでるだけだがなw

 

666:仰げば名無し

朝食の場で妹Ⅱに弾劾されるシーンに移った

妹Ⅱがヒモ姉に約束破るなっていうのおまいう案件だよな

 

667:仰げば名無し

妹Ⅱはメスガキがヒモ姉をヒモにしたいということを知ってるから

うまく反論できないことを知っていたんだろう

しかし、妹Ⅱのヒモ姉へのあたりが強いな

ヒモ姉には嫌われてもいいと思っているんだろうか

連鎖的にメスガキにも嫌われかねないと思うんだが

天才児の考えることはよくわかんねえな

 

668:仰げば名無し

まさに女王様って感じがする

メスガキとは別種のメスガキだな

 

669:仰げば名無し

だいたい妹Ⅱはどうしてヒモ姉をP家にとりこみたいんだろうな

そりゃ、姉として家父長的に保護したいってのはわからんでもないが

妹Ⅱが猫だとしたら変じゃないか?

 

670:仰げば名無し

妹Ⅱも普通に家族愛が欲しいだけの小学生説はあるぞ

というか、確率90パーくらいで普通はその線じゃないか

 

671:仰げば名無し

妹Ⅱが妹のことを好きだとすれば、

やっぱりヒモ姉が邪魔にはなってくるからな

P家に取り込んで、無理やり権力でデビューさせちゃえば

妹ちゃんのヒモとしては卒業ってことも考えられるから

その線を狙ってるんじゃないかな

 

672:仰げば名無し

それか単純にサディストで

メスガキがあたふたしてるのを愉悦ってるとか?

 

673:仰げば名無し

あーあ、ついにヒモ姉の悩みがマックスに

妹Ⅱが追い詰めすぎるから……

 

674:仰げば名無し

ヒモ姉のメンタルは豆腐並みに柔らかいからなぁ

これは妹Ⅱが悪いわ

 

675:仰げば名無し

妹たちにとってヒモ姉のお世話をするのが絆か

まあ半分くらいは本音なんだろうな

 

676:仰げば名無し

ヒモにならなきゃ妹たちが傷つくか

妹ちゃんたちのことを一番に考えられるヒモ姉は立派だよ

 

677:小学生妹のヒモ姉

ぜんぜん立派じゃないです……

 

678:仰げば名無し

あー、うん?

ヒモ姉の酎ハイ缶が少し凹んでるように見えるな

小学校に妹ズが登校したあともテーブルで悩んでる酎ハイ缶

シュールだわ

 

679:仰げば名無し

そりゃあれだけ詰められたらそうなるだろ

よかれと思って、一念発起し、がんばってひとりで起きて着替えたのにダメだしされ

自分勝手とまで言われちゃなあ

しかも、ヒモから脱却したいのに、その道も封じられちまった

 

680:仰げば名無し

いわゆる詰みでは?

 

681:仰げば名無し

まるで将棋だな

いや実際、オレがヒモ姉の立場でもどうしようもないと思うぞ

やるなら少しずつ自分でできることを増やしていくくらいしかないが

P家がなぁ……とんでもない権力を握ってそうだから怖い

妹Ⅱがラスボスすぎなんよ

庶民ひとりの努力ではどうこうできないレベルなのでは?

 

682:仰げば名無し

妹Ⅱが本気を出せば、ヒモ姉はいますぐにでも完全ヒモ状態になるってこと?

 

683:仰げば名無し

前に妹ちゃんが監禁√進むとか笑い話であったが、

妹Ⅱの権力の鳥かごは現実的にありそうだから怖いよな

なんか知らんうちに巨大な力にとりこまれてそう

 

684:仰げば名無し

そしてシーンはヒモ姉の部屋へ。

フラフラとした足取りでレジ袋片手に帰宅したって感じだな

あ……これ

ヒモ姉が今回のアバターを酎ハイ缶にした理由がわかったわ

机に500ミリ缶が一本、二本、三本……

オイオイオイ死ぬわあいつ

 

685:仰げば名無し

ひ、ヒモ姉

おまえそれは不毛の道

やめろおおおおおおお!

 

686:仰げば名無し

現実逃避かよw

 

687:仰げば名無し

酒に逃げちゃったかー

気持ちはわかるよ

つらかったんだね

 

688:仰げば名無し

ヒモ姉って普段飲酒とかしてるの?

いきなり高濃度のやつキメるとかやばない?

 

689:仰げば名無し

ストゼロちゃんは優しい子なんだよ

いろんな現実の悩みを霞がかったように脳内から消してくれるんだ

 

690:仰げば名無し

酒のアテもなく、すきっ腹に飲むのは身体に悪いからやめとけ

このままじゃ、ヒモ姉がダメ姉になっちゃうぞ

というか、小学生にお世話させて自分は昼間から酒かっくらうとか

真のヒモムーブなのでは?

 

691:小学生妹のヒモ姉

>>688

お酒を飲んだのは初めてです

もう二度と飲む気はありません……

 

692:仰げば名無し

うひ。すげえ飲みっぷり。

ぐびぐびイッてるよヒモ姉

イケる口だったか

 

693:仰げば名無し

ヒモ姉普段いっぱい食べるから胃が丈夫なんだなと思っていたけど

肝臓も強かったんだな

普通気絶するレベルだと思うぞ

 

694:仰げば名無し

パソコンでなんか動画見ながら飲んでるな

角度的にわからんけど、なにみてんだろ

 

695:小学生妹のヒモ姉

よく覚えてないですが、子猫と子犬が戯れる動画を見てた気がします

途中からよくわからないお花畑が見え始めました

 

696:仰げば名無し

アニマルビデオかよw

猫と犬というのがまたなんともいえないなw

 

697:仰げば名無し

ヒモ姉、脳みそにダメージ受けてない? 大丈夫?

 

698:仰げば名無し

ヒモ姉がケラケラ笑ってるわ

楽しそうだなぁ(棒)

 

699:仰げば名無し

笑った次の瞬間にはいきなり泣き始めたんだが……

感情が迷子か

やべえ酔い方してるなぁ

 

700:仰げば名無し

椅子のところで膝を抱えて

「なんで私だけぇ……」ってw

 

701:仰げば名無し

流れるような動作で二本目に突入しました

私の肝臓持ってくれよ!

 

702:仰げば名無し

この地獄の中に妹たちは突入することになるんか?

 

703:仰げば名無し

あ……

 

704:仰げば名無し

そうなるよな、やっぱり

ということは、ヒモ姉のタイーホ案件って

酒の力に任せて暴言吐いたとかかなぁ

 

705:仰げば名無し

寝ゲロかましたとかじゃね?

 

706:仰げば名無し

この先見るの怖くなってきたわ

 

707:仰げば名無し

あ。この先ショッキングな映像が流れますってテロップでたんだがw

なにこれw ヒモ姉わざわざこんな編集したんだね。ありがとうw

 

708:仰げば名無し

うおマジだ黒背景に黄色文字の警戒色入れるなんて気が利いてるね

ヒモ姉の動画編集能力もだいぶん高まってきてるよ

ヒモ脱却とは一ミリも関係ないところだけどw

 

709:仰げば名無し

妹ちゃんたち帰ってキター!

 

710:仰げば名無し

ヒモ姉がついにメスガキたちをわからせる展開来ちゃう?

 

711:仰げば名無し

妹ちゃんがダブルに見えるぅ♡

 

712:仰げば名無し

それはお得だな

じゃあ分裂したメスガキはオレがいただいておこうか

 

713:仰げば名無し

おまえのが酔っぱらってるじゃねーか

 

714:仰げば名無し

うわ。妹Ⅱのだらし姉ぇ発言に、ついにヒモ姉がぶちきれた

溜まってたんだないろいろと

 

715:仰げば名無し

そりゃ新しくできた妹だからな

大人としては気を遣うし

ヒモ姉も生活能力はアレだが、精神的な意味ではヒモ家の支柱ダゾ

 

716:仰げば名無し

妹Ⅱもたいがいな性格だからなぁ

陰キャなヒモ姉には耐えがたいプレッシャーだったんだろうよ

オレ氏はわりとヒモ姉に同情的だな

 

717:仰げば名無し

>>716

おまえはブヒってるのにそんなこと言っていいのかよw

 

718:仰げば名無し

>>717

ほっとけw

リアルでの中の人の生活は、わりとフラットに見てるつもりだ

 

719:仰げば名無し

「もーう。小学生のくせにぃ。かわいい妹のくせにい」

うーん、おまかわ

実はヒモ姉が一番精神的にはかわいい説ある

 

720:仰げば名無し

おもしれー女だとは思ってるよw

 

721:仰げば名無し

呼ばれる妹Ⅱ

捕獲される妹Ⅱ

そして……犯行現場を目撃してしまった

 

722:仰げば名無し

うわぁ。うわぁ……。そりゃあかんやろw

 

723:仰げば名無し

ちょっとだけ妹Ⅱがやりこめられてスカっとしてるオレがいるw

 

724:仰げば名無し

酎ハイ缶の桃色が黒色と混ざって、ちょっと桃黒になる演出

ヒモ姉……そこ拘るところなん?

まあ何が起こったかそのままだと缶どうしだからわかりにくいけどさw

 

725:仰げば名無し

え、これって小学生に口移しで強制飲酒させたってこと?

なにそれはかどる

 

726:仰げば名無し

はかどっちゃダメだろw

 

727:仰げば名無し

これってメスガキとしては複雑な気分なのでは?

 

728:仰げば名無し

いやむしろこの状況を機と見て……

 

729:仰げば名無し

あっさりと捕まりにいくメスガキ

そうだよな

おまえにとってはむしろこのチャンスを活かさない手はない

 

730:仰げば名無し

ヒモ姉渾身の主張に対し、

メスガキは「それはヤダ♡」って

絶対おまえわからせられにきてるだろ

 

731:仰げば名無し

あーあ、お姉ちゃんを怒らせちゃったね

これはわからせられてもしかたない

 

732:仰げば名無し

むしろバッチ来いだろw

メスガキ絶対喜んでるに決まってるわw

 

733:仰げば名無し

精神的にはそうかもしれんが

小学生だと内臓もまだできてないから

やっぱり強制飲酒はあかんわ

 

734:小学生妹のヒモ姉

みなさん。ご視聴ありがとうございました

それでは自首してまいります……

 

735:仰げば名無し

待て待て待てw

 

736:仰げば名無し

早まるなヒモ姉

そんなことしたら余計妹たちが傷つくだろ

 

737:仰げば名無し

妹ちゃんはまちがいなく、ヒモ姉を犯罪者にはしたくないだろうし

妹Ⅱもそういう気配はないんだろ?

 

738:小学生妹のヒモ姉

確かに妹ちゃんたちはどっちも私のことを非難しませんでした

むしろ以前より私に対して優しくなったような……

 

739:仰げば名無し

(それって腫れ物に触る的なやつなのでは?)

 

740:仰げば名無し

まあ愛じゃよ……たぶん

家族どうしのことだから犯罪にはならんと思う

教えて法律に詳しい人

 

741:仰げば名無し

本件では、ヒモ姉が妹たちを抑えつけて無理やりお酒を飲ませようとしているので

暴行罪と強要罪の構成要件に該当しそうではあるな

観念的競合によって強要罪のほうに吸収される

しかし、過度の飲酒でヒモ姉は心神喪失してるようにも思えるから無罪ってことで……

 

742:仰げば名無し

酒の失敗くらい誰にでもあるさ

おちこむなよヒモ姉

 

743:仰げば名無し

自首する気概があるのは大人としての責任の取り方としては適切かもしれんが

こんな誰が見てるかもわからん掲示板で動画をアップするのは危険だぞ

いくら缶酎ハイのアバターとはいえなw

 

744:仰げば名無し

まあ仮にまったくの第三者がヒモ姉を告発しても

妹ちゃんは絶対に口を割らんと思うし、

まかりまちがって妹Ⅱの怒りをかったら

そいつP家の力で消されるかもな

おっと、玄関に誰か来たようだ

 

745:仰げば名無し

こえー想像すんなよw

でもまあ、妹Ⅱもおとなしくなったのはなんか意外だな

 

746:仰げば名無し

確かに女王様な妹Ⅱがヒモ姉に配慮するとか珍しい

 

747:仰げば名無し

妹Ⅱの中でヒモ姉のことが『酒乱の妹』にランクダウンしただけだろw

 

748:仰げば名無し

ヒモ姉に聞きたいんだが、妹Ⅱが優しくなったって具体的にはどんなことがあったんだ?

 

749:小学生妹のヒモ姉

えっとですね……特にこれといったエピソードはないんですが

ここ数日、P家のことを話題に出さなくなりました

それと、私のことをヒモ扱いするのではなく、姉として認めてくれたような気がするんです

昨夜の夕飯のときに、「お姉様は妹にお命じくださればよいのです」とか言ってたし

よくわかんなかったですが

 

750:仰げば名無し

そこも動画にしろよw

 

751:仰げば名無し

なんか重要なこと言ってないか?

 

752:仰げば名無し

どういう流れでその発言がでてきたん?

 

753:小学生妹のヒモ姉

たしか……その時の晩御飯はカニクリームコロッケで

とろふわで甘い感じがして、とてもおいしかったです

それで私はいつもありがとうって言ったんです

妹ちゃんたちははにかんで、かわいくて、天使で

私ってすごく幸せだなぁって思って

でも、ここ数日妹ちゃんたちから「ヒモ」という単語が出てこなかったもので

だから逆に頭をよぎったんです

このままじゃダメになっちゃわないかって

お酒の失敗で私が妹ちゃんたちを傷つけちゃったのは事実ですから

 

気づいたら、私もちょっとは料理できるようになりたいなってつぶやいてました。

そしたら妹Ⅱちゃんが、いっしょにご飯を作りたいのでしたら、

そのように時間割を調整しましょうかと言ってきて

妹ちゃんが絶対ダメって猛反発してきて

私がおろおろしていたら

妹Ⅱちゃんがさっきのように言ったって感じです

 

754:仰げば名無し

カニクリームコロッケのくだりっているのか?

 

755:仰げば名無し

そこはヒモ姉クオリティだから……

 

756:仰げば名無し

つまり、妹Ⅱは最大限ヒモ姉の意見を聞くって言ったわけか

すげえ譲歩じゃねえか

あの女王様な妹Ⅱ様がねえ

 

757:仰げば名無し

これは大人の威厳ってやつを見せつけちゃったかなw

やったなヒモ姉。わからせ成功しちゃってるぞ!

 

758:仰げば名無し

これはメスガキとの協調路線を捨てたってことになるんじゃないか

P家のヒモにする戦略を捨てて、

真にヒモ姉を自立させる方向で考えているのかもしれない

 

759:仰げば名無し

酒乱のヒモ姉にビビッて、ケアしてるだけなんじゃねーの

唇まで奪われちゃってるわけだし

 

760:仰げば名無し

メスガキはヒモ姉をヒモにしたいが

妹Ⅱは強いてヒモ姉をヒモにしたいわけじゃないからな

ヒモ姉をいっしょになってお世話することで

メスガキと仲良くなるというのが妹Ⅱの狙いだったんだろう

 

761:仰げば名無し

>>760

だったらますますわからんのだが

ヒモ姉を自立させようとすれば、本命であるメスガキに嫌われるんだぞ

どうしてその線を自ら捨てるのかってことにならんか

 

762:仰げば名無し

それなんだが……

メスガキはたぶんもう妹Ⅱを追い出せないんじゃないか

 

763:仰げば名無し

どういうこと?

 

764:仰げば名無し

たぶんだけどさ

メスガキの中では、妹Ⅱも家族だと思っちまってるんじゃねーのかなって

追い出せないじゃなくて、正確には追い出したくないだな

 

765:仰げば名無し

それはあるかもなー

だったらメスガキがこのゲームで狙ってるのって、猫と和解するってこと?

 

766:仰げば名無し

猫と和解せよ

 

767:仰げば名無し

配信でもそんな感じだよな

妹Ⅱが何を考えているかの要素とりをして

最終的には妹Ⅱもてなずけるつもりなのかもしれない

 

768:仰げば名無し

そこらは配信で聞けばいいな

ヒモ姉ごめんね

好き勝手に話してて

それでなんの話だっけ?

 

769:小学生妹のヒモ姉

妹Ⅱちゃんがほんのり優しくなったので嬉しいというのと

私はヒモを脱却を目指したほうがいいのかという話です……

 

770:仰げば名無し

妹Ⅱはそれでもいいかもしれんが

妹ちゃんのほうは断固拒否なんだろ

やっぱヒモ姉はヒモ姉じゃないとダメなんじゃ

 

771:仰げば名無し

うーんメスガキもなー

ヒモ姉には甘いところがあるから

真摯に頼めばってところではあると思うよ

 

772:仰げば名無し

そうか

だからこそ「お姉様は妹にお命じくださればよいのです」という発言だったわけか

妹っていうのはメスガキのことも指してたのかもしれない

 

773:仰げば名無し

ラスボスのお猫様がこわE

 

774:仰げば名無し

確かにヒモ姉が「私は自立したいの。だから手伝って」とか言ってきたら

メスガキも断り切れんよな

一回ポッキリだったけど、ヒモ姉がメスガキといっしょに料理作ったときもそうだったし

 

775:小学生妹のヒモ姉

それで私はいったいどうすれば……

 

776:仰げば名無し

メスガキ保護主義のオレらからすれば

ヒモ姉がヒモを脱却すると

どうしてもメスガキが傷つく可能性を考えちまうなぁ

ヒモ姉もそれは嫌だろ

 

777:小学生妹のヒモ姉

それは嫌です!

私は妹ちゃんのお姉ちゃんなんです

姉は妹を守るのが使命なんですよ!

 

778:仰げば名無し

言えたじゃねぇか

 

779:仰げば名無し

だから全力でヒモしてろってことなんだけどなw

 

780:仰げば名無し

茶化すなw

まあ実質そうなんだけど

 

781:仰げば名無し

丸い回答としては、メスガキの成長を見守るのが良いだろう

ヒモ姉をヒモにするという絆にすがらなくてもいいくらい

家族としての仲を深めたらいい(と言っておけばメスガキにとっても有利か)

 

782:仰げば名無し

かっこの中で台無しなんですがそれはw

 

783:仰げば名無し

たった一日で戦略を変えるほど妹Ⅱは甘いのかな

みんないろいろ言ってるが、妹ⅡがP家のことを言わなくなったのも

一時的なものかもしれんし

どうせ後見人としての義務は残存しているんだから

ほとぼりが冷めた頃にもう一度持ち出せばいいわけで

 

784:仰げば名無し

>>783

そのときはこう言えばいい

「姉として妹に命じる。P家のヒモにするな」

 

785:仰げば名無し

「残念ですが、お姉様はわたくしの中では妹ですの。逆にわたくしが命じます。ヒモになりなさい」

 

786:仰げば名無し

二コマで敗北してるじゃねえかw

 

787:仰げば名無し

ヒモ姉が妹たちにちゅっちゅしまくれば万事解決だと思うけどなぁ

ヒモ姉「オラっ。私に従え!」

妹ちゃん「お姉ちゃん♡」

妹Ⅱちゃん「お姉様♡」

こうだろ?

 

788:仰げば名無し

こうだろじゃねえよw

姉妹百合は尊いが、現実と二次元は違うんですのよ

 

789:小学生妹のヒモ姉

みなさんのおっしゃってることほとんどわかりません

ともかく妹ちゃんを傷つけないためには現状維持がよいってことですか?

 

790:仰げば名無し

そうっすね

 

791:仰げば名無し

まあそういうことになるな

 

792:仰げば名無し

素村にできることはあまりにも少ない

でも考えるのを止めちゃダメだ

 

793:仰げば名無し

今回の件は、お姉ちゃんの底力を見たって感じだなぁ

案外ちゅっちゅ作戦がうまくいきそうな気もするw

 

794:仰げば名無し

ヒモ姉がんばえー!




ヒモ姉の勇気が世界を救うと信じて…!


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猫の試練

 いよいよ決戦の夜。

 わたしは不退転の決意を決める。

 運命を決めるメンバー登録の面接まで、あとわずかだ。

 

 メスガキちゃんアカウントに届いたDMには会場のURLが指し示されている。

 時間解放されるそこはVR空間になっているらしく、面接対象者は各々が自分でアバターを用意しなければならない。どんな格好をしてくるかは自由だが、就職や学校の面接と同じく恰好も評価対象と考えるべきだ。

 

 だいたいはみんな二足歩行をして紳士服を着たお豚さんらしい。

 それってオークじゃね?

 まあデフォルメ化した二頭身キャラが多いらしいが。

 

 わたしが用意したのは、ひらひらのドレスを着た羊さんだ。

 魔法少女とかでよくいるパートナーキャラみたいな感じ。

 もちろん、わたしが描いたオリジナルだ。

 つぶらな翆色の瞳と真っ白いふわふわの体毛が我ながら気持ちよさそう。

 毛先はちょっとだけピンク色。

 そこはかとなく妹の雰囲気をまとっている感じがしなくもない。

 

「じゃーん。どうよ。お兄ちゃんたち♡」

 

『じゃーんかわヨ』

『抑えきれぬ妹臭』

『あのさ。現実のイソラに配色似せるのやばない?』

『大丈夫か。メスガキ』

『もっと自己主張抑えたほうが……』

『淫猫の配信でも目立ちすぎたからな』

『もっと自分を抑えろよ。メスガキ。¥1000』

 

「できぬぅ♡」

 

『できぬじゃねぇよw』

『メスガキってわりと目立ちたがり屋だからな』

『そもそもメスガキな時点でそうよ』

『妹Ⅱのことも結構好きだよね。メスガキちゃん』

『オレらが見えてないところで、妹Ⅱも優しいお姉ちゃんなんじゃね?』

 

 ふん。いろいろ言われているが、恵子に負ける気なんてさらさらないがな。

 

「さぁて。最弱(ひつじ)こそが最強(おおかみ)であることを淫猫に見せつけてやろう♡」

 

『羊の皮をかぶった狼を顕現さすなw』

『最強なのは猫科の虎なんだよなぁ……』

『大丈夫か。最後まで予習しなくて』

『オレらは面接会場に入ることもできないからな』

『カフェ・オレ。メスガキを頼むぞ。¥10000』

『ああ任せろ……と言ってもオレの存在意義ないなったが……¥10000』

 

「MSGK泣かし隊のお兄ちゃん。カフェ・オレお兄ちゃん。スパチャありがとう。カフェ・オレお兄ちゃんは見届け人だね。わたしが淫猫に勝つところを一番そばで黙って指くわえて見てろ♡」

 

『ば……バブぅ。まあ、メスガキなら大丈夫だと思うが油断はするなよ。¥100』

『なんかフラグっぽい流れだよなw』

『こないだお姉ちゃんにキスされて浮かれてんじゃね?』

『まだお酒が残ってる説がワンチャン』

『ヒモ姉を犯罪者にしないためにがんばるんだ。メスガキ』

 

「ふふん。お姉ちゃんにキスされたのはむしろ勝利フラグだよ♡ 女神様のキスを受けて負けるわけないじゃん♡ 今日はでっかいカツ丼も食べてきたし♡」

 

『それがフラグだって言ってるんだよw ¥500』

『メスガキちゃん。がんばりなさい。¥1000』

『とりあえず火打ち石カチカチしといた。¥500』

『とりあえず近所の神社にお参りしといた。¥100』

『このメスガキに勝てた姉などいない。¥1000』

『大丈夫だ。データは頭のなかに入ってる。¥200』

『やったか!? ¥30000』

『あっかwww』

 

「みんな負けフラグ乱立させるのやめてよね♡ 猫が狼に勝てるわけないじゃん♡」

 

『直前まで追い詰められてたのは誰だよw』

『猫のほうが素の状態では強そうだけどなぁ』

『どっちも天才児だが、今回の場合、猫は選ぶ側だからなぁ』

『前回みたいにメスガキを見守っときたいが、それもできんし』

『この配信もいったん切るんだろ?』

 

「そうだよ。ラグとか出たらクソ雑魚パソコン使ってるって思われちゃうからね♡ いったんお兄ちゃんたちとはお別れだよ♡ みんなわたしがいなくなって寂しがれ♡」

 

 特にVRでアバター動かしながらだと、万が一ラグが出たとき復帰が難しそうだからな。

 断腸の思いだが、いったん配信は停止せざるをえない。

 

『おまえが一番さみしがってる定期』

『勝手にいなくなるな』

『メスガキぃ。ちくしょうううううう』

『くそおおおおおおおおお』

『くそおおおおおおおおお』

『くそおおおおおおおおお』

『くそおおおおおおおおお』

『くそおおおおおおおおお』

『くそおおおおおおおおお』

 

 画面いっぱいに敗北を味わっているお兄ちゃん達。

 なんなんこれ♡

 

「じゃあ、行ってくるね♡」

 

 

 

 ※

 

 

 

 会場の中は薄暗かった。

 ひと昔前のライブハウスのようなイメージか。

 ちらほらと会場内には既にお豚さんたちがいるようだが、そんなに多くはない。

 数としては100にも満たない感じか。

 わたしが現れると、アバターの何人かの頭上にコメントがふきだしで現れた。

 同時に機械音声がヘッドホンごしに聞こえてくる。

 

『あ、メスガキちゃんだ』

『羊かぁ……まあブタはあわんだろうしな』

『妹様と配色がいっしょだ。偶然か?』

『豚のいるところに羊ちゃんが迷い込んでくるとはなぁ……ぶひひ』

『妹様の疑似プレイして淫猫様に気に入られた泥棒猫め』

『おいやめろ。そんなこと言ってたらお叱りを受けるぞ』

『淫猫様にお叱りうけてぇ……』

 

 見ての通り――。

 わたしの評価はあんまりよくはないだろうな。

 モブがあまりにも悪目立ちしすぎたという自覚はある。

 しかし、狼としての矜持が抑えられぬのだ。

 

『メスガキ様。こちらに来ていただけますか』

 

 ひとりのお豚さんが近づいてきた。

 執事服にモノクルをつけた知的な印象のお豚さんだ。

 カフェ・オレお兄ちゃんだった。

 

――ふふ、初対面という体で現れたな。

 

 先の配信ではさりげなく、わたしをメンバーに推してもらう作戦だったが、淫猫がわたしをいたく気に入ってしまい、その作戦は頓挫してしまった。

 話の流れとしては、カフェ・オレお兄ちゃんがいきなりわたしを知り合いとして紹介するのも妙だし、奇妙さが連続すれば違和感を生むから、いまのわたしはお兄ちゃんとは初対面ということになっている。

 

『うん』

 

 わたしは短く答えを返しボロが出ないように気をつける。

 カフェ・オレお兄ちゃんが行く方向にアバターを動かすと、見えてくるのはライブハウスの奥まったところにあるステージ。そしてステージには階段というか低い段差がある。一番奥には巨大なスクリーンと豪華そうな椅子が置かれてあって、悪の根城といった感じがする。

 

 まだ淫猫の姿はないようだ。

 

『ここで膝をついてお待ちください』

 

『わかった。カフェ・オレお兄ちゃんありがとう』

 

 絶妙な視線のやりとり。

 VRだけど、お兄ちゃんがわたしを心配してくれてるのがわかる。

 片膝をつくという動作をさせて待機する。

 

 虚構と現実が入り時混じった空間で、その支配者が現れるのをひたすら待つ。

 待つ。待つ。待つ。

 やがて、スポットライトがステージ中央にある椅子に集まり、光のエフェクトがくるくると乱舞し周りを包みこんだ。

 そして光が消え去ったあとには、淫猫が足を組んで座っていた。

 

――傲岸不遜。

 

 まさに、一片の曇りもない女王メスガキがわたしの前に現れ出でる。

 

「あら、お待たせしてしまったようですわね」

 

『あんまり待ってないから大丈夫だよ』

 

「そうですか。ではさっそくですが――、わたくしの面接を受ける覚悟がおありということでよろしいですわね。メスガキちゃん」

 

『もちろん』

 

「では、まずは……そうですわね。プロフィールから言ってもらいましょうか」

 

 プロフィール?

 こんなVR空間での宣言に何か意味があるのかとは思うものの。

 おそらく、それらしく正しいと思える主張ができるかというところを見ているのだろう。

 つまり、いつもやってる人狼ゲームと同じ。

 狼が狩人を騙ったり、占い師を騙ったりするのと同じだ。

 

「名前はメスガキちゃん。年齢はJCくらいかなぁ~。淫猫ちゃんに興味が湧いたのは、お金のことが好きだからです♡」

 

 周りが少しざわついた。

 

『JCやったー!』

『マジでJCだとしたら、ワンチャン妹ありうるのか?』

『淫猫様のご年齢がJKくらいだとすれば……』

『馬鹿野郎。淫猫様のご年齢を勝手に推測するんじゃねえ』

『メスガキねえ……どうせおっさんだぞ』

 

 さすがにJS――女子小学生という設定には無理があるからな。

 リアルでは、もちろん淫猫もわたしもJSだが、精神年齢という意味ではもう少し高いような気がしている。

 

「静まりなさい!」

 

 淫猫が大喝した。

 会場内のコメントは波が引くように静まる。

 淫猫の表情はどこか嬉しそうだ。

 もちろん3D映像だから、現実の素顔をいくつかパターン化したものであるが、淫猫の場合はかなり細かい表情まで表現されているように思う。たぶん、マネーの力で絵師さんに描かせまくったんだろうな。普通はAIによるパターン表情の切り替えが主流だが、一枚一枚に魂こもってて普通にビビるレベル。

 

「さて、続きですがよろしいですね?」

 

『はいどうぞ』

 

「あなたはJCということでしたが、それが本当ならお豚さんの中でおそらく最年少になるでしょうね。その年齢で五万円ものスパチャをするのはなかなか大変でしたでしょう。どのように稼いだのですか。差し支えなければ教えてくださいませ」

 

『お小遣いを投資にまわしたりしてたら、いつのまにか百万円単位になってたよ』

 

「あなたのご両親はあなたが投資をすることに賛同したのでしょうか。未成年者が口座を開くのも大人の同意がいるでしょう?」

 

『わたしの後見人は自由放任主義者だからね』

 

「ふむ。後見人ですか……」

 

 そう後見人――お姉ちゃんはわたしのヒモだからな。

 もしも、お姉ちゃんが一銭も稼がなくても生きていけるだけのお金は稼ぐつもり。

 恵子がいれば黙っていても養ってくれそうではあるけど。

 お姉ちゃんをヒモにするのはこのわたしだ。

 

 ところで面接のメインの方策だが、わたしは極力嘘をつかないことにした。

 嘘をつくときのコツは、真実と嘘をほどよくブレンドすることだと言われている。

 わたしがJCといったのは嘘だが、そのほかのことは真実を述べるつもりだ。百パーセント嘘だけで構成されていると、どこかで無理が生じ、全体がほころぶものだからな。

 

「では、あなたはJCながらも独学で投資を学び、勝ちを拾えていると、そうおっしゃるわけですわね。世界経済が成長し続けるという前提を飲みこめば、さほど難しいことではありませんが、それでも素晴らしい才能ですわ」

 

『ありがとう』

 

 女子小学生の淫猫がなんか言ってるが、仮にわたしが普通のJCやお豚さんだったとしたら、かなりグラつくだろうな。女王様に褒められて悪い気はしないもん。

 

「ところで――」淫猫が口元に指をあてながら「宇宙最強の力とはなんでしょう?」

 

 いきなり中二病かよ。

 あいかわらず淫猫――いや恵子は話の脈絡を飛ばす傾向にあるな。

 天才はこれだから困る。

 

『で、でた! 淫猫様のご質問コーナーだ』

『あれ急にやられると焦るんだよな』

『正解とか気の利いた答えを返そうとすると失敗する』

『宇宙最強の力、それは妹ぢからです!』

『正解だ。マイブラザー』

 

 もちろん、わたしの答えはひとつしかない。

 

『宇宙最強の力、それは複利の力だよ』

 

 かの天才――アインシュタインが言ったとか言わなかったとか。

 だから、わたしにそれなりの知識があることを測っているんだろう。

 

「渋沢様が最も愛する者は誰ですか?」

 

 これは簡単。

 

『渋沢さんだよ』

 

 一万円札にもなっている渋沢さんは、昔の諭吉先生と同じくお金の概念と結びついている。

 株や投資をするうえで、もっとも大事なことは種銭を持っていること。

 スタートするのが100万円と1億円だと、同じ額を稼ぐ際、1億円のほうがはるかに簡単だ。

 つまり、お金はお金があるところに集まってくるということが言いたいんだろう。

 

「ロボテックにおける適正な人件費率はどの程度だと思いますか?」

 

『それはどの分野かによるよ』

 

「では最も期待されている介護業界だとすればいかがでしょうか」

 

『40パーセントくらいじゃないかな』

 

「それはなぜですか?」

 

『イニシャルコストが高いから。現時点では介護ロボットを導入するにも初期投資がかさみそうだよね。人間メインの介護事業が、人件費率50パーくらいで損益分岐点だからそれよりも少し低いくらいだと思う』

 

「一理ありますが、不正解ですわね。介護ロボットが導入されれば人件費率は20パーセント程度までは落せるでしょう。イニシャルコストの問題も、じきに解消されます」

 

『それはさすがに知らなかったな』

 

「メスガキちゃんにも知らないことがあって安心しましたわ」

 

『わたしはJCだからね~。淫猫ちゃんに教えてもらわないといけないことは多いと思うよ』

 

 これは本当。

 淫猫もとい恵子は経営感覚というか、そういう知識はわたしよりも優れているように思う。

 強くてニューゲームなわたしを遥かに凌駕する圧倒的な知識量。

 そして、知識だけで終わらない頭の回転の速さ。

 地頭がいいんだろうな。

 さすがに妹がこの場にいることまでは推測できていないだろうが。

 

「あなたに兄弟姉妹はいらっしゃいますか?」

 

 突然ガラリと変わる質問。

 上から見下ろす視線は、あくまで超越者のもので、黙っていればすべてをさらけ出さなければならない気になってくるから不思議だ。高圧的というわけでもないんだがな。

 

『いるよ』

 

 わたしは素直に答えた。

 

「あなたは、姉ですか? 妹ですか?」

 

『妹だよ』

 

「そうですか。妹……フフ」

 

 淫猫が漏れ出すように笑う。

 周りも再びざわつき始めている。

 

『ざわざわ……』

『妹というワードに淫猫様が嬉しそうだ』

『そりゃそうよ。淫猫様は妹狂い……』

『妹を吸いたいと日々おっしゃられている方だからな』

『妹を吸うというパワーワード』

 

 なんだよ妹を吸うって……。

 まあ、お姉ちゃんが時々わたしに抱き着いてきて、頭のあたりをくんくんしてくるから、それに近い感じか。恵子はあまり身体的に過度な接触はしてこないが、もしかしてお姉ちゃんと同じようなことをしたかったんだろうか。言ってくれればそれくらいは、してあげたのに♡

 

「あなたはお姉様を慕ってらっしゃいますか?」

 

『もちろん♡』

 

「どのようなところを慕ってらっしゃるのです?」

 

『全部だよ♡』

 

「一カ所に絞るとするなら?」

 

『かわいいところかなぁ♡』

 

「お姉様はかわいらしい方なのですね」

 

『うん♡』

 

「下のお姉様に対する評価はいかがでしょうか?」

 

『えーっと、お姉ちゃんがふたりいるって言ってなかったと思うけど』

 

「あらそうでしたか。すみません」

 

『でもまあいるんだけどね。下のお姉ちゃんに対する評価はできるお姉さんって感じかな』

 

「優秀なお姉様なのですね」

 

『うん。そう思うよ』

 

「信託報酬率が高いファンドと低いファンド。あなたはどちらを選びますか?」

 

 また、変わる。

 ほんと、めまぐるしいな。

 

『信託報酬率が低いファンドに決まってるよね。高いお金を払ってるんだから高いリターンが望めるなんて保証は投資の世界じゃ通用しないから』

 

「ノーロードあるいはバックエンドロードについてはどうお考えですか?」

 

『結局、名目が違うだけでお金は多くとられちゃうわけだから、詐欺みたいなもんだと思うけど』

 

「博識ですこと……」

 

 やべえ。煽られてるみたいだ。

 いや、声色からすると、落胆に近い感覚か?

 よくわからない。最初の頃の得体の知れなかった恵子と同じ感覚を受ける。

 

「妹は姉に庇護されるべき存在だと思いますか?」

 

『それはどういう関係を結んでいるかによるよね』

 

「あなたの場合はどうでしょう」

 

『わたしの場合は――』

 

 どうなんだろう。

 お姉ちゃんをヒモにしたいというのは、お姉ちゃんに庇護されるべき存在になりたくないともいえるわけで、そう考えると、妹は姉に庇護されるべき存在ではないということになる。けれど、わたしは、モラトリアムの時間はお姉ちゃんに庇護されるべき存在であることも利用している。難しいところだ。

 

『お互いに支えあうのがいいんじゃないかな』

 

 わたしは玉虫色の回答を返した。

 

「わたくしの考えは違います。正直なところ、メスガキちゃんの考えには不満がありますわ」

 

 淫猫はきっぱりと言い放った。

 

『そうなんだね。やっぱり妹は庇護されるべきって考え?』

 

「もちろんですわ。正確には力のある者が姉として妹を庇護すべきです」

 

『そういう考えもあっていいんじゃないかと思うけど、やっぱり関係次第なんじゃないかな』

 

「メスガキちゃんは上のお姉様をかわいいと評しましたね。かわいいとは庇護対象として見ている。つまり、内的には妹として見ていることに他なりません」

 

『お姉ちゃんをそんなふうに見たことは』

 

 あるな……。確かにそれは否定できない。

 

「ありますでしょう。わたくしが不満なのは、メスガキちゃんが利と理に聡く敏いところがありながらも、ロジックに従わない部分で、上のお姉様を下の姉よりも姉として慕っているという事実です」

 

『姉妹関係を利益とか力関係とかで見るほうがおかしいよ』

 

「いいえ。そうではありません。現実的には妹という存在は姉に保護されるべきです。未成年ならなおのことそうでしょう。わたくしが言いたいのは、寄りかかるのでしたらより強い者にしておきなさいということです。幸いなことにあなたにはもう一人姉がいるのですし、その方は優秀なのでしょう?」

 

『そんな家族内で序列とかつけたくないんだけど……』

 

「お優しいこと……。ですが、それではあなたは上のお姉様にご負担をかけていることになりますわね。庇護者は保護者にとっては大なり小なり負担になっているということ。上のお姉様の才覚を越えるほどに寄りかかれば、お姉様はつぶれてしまいます」

 

 酔いつぶれたお姉ちゃんの姿が脳裏に浮かんだ。

 恵子の言いたいことはわかる。

 お姉ちゃんの庇護者としてふるまいながら保護者としての地位を狙う。

 これは、お姉ちゃんにとって特大級の迷惑だろう。

 半分くらいは恵子がお姉ちゃんを鳳寿院家にとりこもうとしたせいだろうと思っているが、そもそもヒモにするということが、心理的な負担なんだ。

 

 恵子は自分ならつぶれないと言っている。

 確かにそうだろう。化け物のような思考能力と胆力がある。

 お姉ちゃんよりも、遥かに生存能力は高い。

 

 でも――。それでも。

 

『わたしはお姉ちゃんがいいんだよ』

 

「そう……なのですわね。それなら何も言いません」

 

 面接会場はあいかわらずざわついていた。

 淫猫が沈黙しているので、会場のざわつきがBGMとして聞こえてくる。

 

『淫猫様がここまで熱くなられるとは珍しい』

『奇妙なほどに付合しているからな……家族と重ねあわされたのだろう』

『それでどうなるんだ。面接結果は』

『メスガキちゃんJCのくせにオレより投資詳しいわw』

『オレらは雰囲気で投資しているからなw』

 

「静かに――」

 

 淫猫が口を開くと、ざわつきはピタっと止まった。

 

「最後に質問なのですが、あなたは何のためにお金を貯めようとしているのですか?」

 

 うーん。

 実をいうと、お金にはあんまり興味はないんだよな。

 この点も、嘘をついていることになるが、べつにお金のことが嫌いなわけではない。

 将来お姉ちゃんを養うためともいえるが、お姉ちゃんもなにかしら経済的には自立していく可能性が高いだろうし。迷惑をかけないため?

 いや、違う。本質的にはやっぱりただひとつ。

 わたしの答えはいつもシンプルだ。

 

『ほしいものを手に入れるためだよ』

 

「ふふ……お可愛いこと♡」

 

 淫猫はこの日一番の優美な笑顔を見せた。

 

 

 

 ※

 

 

 

『それで面接は合格かな』

 

「ええもちろん文句なしの合格ですわ。ただ――ひとつお願いがありますの」

 

『なにかな?』

 

「あなたの生の声をお聞かせくださいまし」

 

『えあ』

 

 やべ。キーボード操作をミスって変な声が出てしまった。

 このVR空間では、機械音声ではなく、わたし自身の声も出せるようになっている。

 しかし、そんなことをすれば一発でバレてしまうこと必至。

 どうする!?

 混乱して動きが遅れるわたしに、淫猫はいつのまにやら壇上から降りてきている。

 

 一歩。一歩近づいてくる。

 

 画面いっぱいに淫猫の妖艶な顔が広がった。

 黒ネコミミがピコピコと動いている。

 デフォルメしているわたしと違って、淫猫はアニメ3Dキャラで頭身も高い。

 その淫猫がわたしのまっしろふわふわな毛に手を伸ばした。

 わたし、もふもふされちゃった……。

 

『どうしてそんなこと』

 

「もちろん、貴重な妹サンプルとして心にとどめ置くためですわ」

 

『わたしは淫猫ちゃんの妹じゃないよ?』

 

「そうですか。しかし、あなたの心性はわたくしの妹と似ているように思いましたの」

 

『ブサイク声だよ。なんならおっさん声でイメージが崩れるかもしれないし』

 

「そんな心配はまったくしておりませんわ」

 

 周りがまたざわついた。

 

『淫猫様の執着が獲物を狙う猫のようだ』

『メスガキがうらやましい』

『ああ、オレのだみ声ならいつでもお聞かせするのに』

『メスガキやっぱおっさんなんじゃねーのw』

『淫猫様に優しくなでなでされたいブヒー』

 

 ヤバイヤバイヤバイ。

 これ断ってもいいやつなのか。

 メンバー登録はどうなる。

 時間が……時間が……足りない。

 

 淫猫の試練は佳境を迎えていた。




ちなみにわたしは雰囲気で書いてる♡
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チェス盤の駒

 淫猫からの申し出に、わたしは固まってしまった。

 くずおれた姿勢から動くことができない。すぐ近くには淫猫が微笑を浮かべており、幼気な仔羊をなぶるのを愉しんでいるかのようだ。

 

――生の声を聞かせる。

 

 それはわたしが須垣異空であるとバレてしまうことを意味する。

 しかし、それは即ゲーム終了ということを意味しない。

 わたしが固まっていたのは、今後の盤面を見据えて()()()()()()()()()()()悩んでいたからだ。

 

 ひとつにわたしが淫猫を恵子だと知らずに来ていると思いこんでくれるかもしれない。

 わたしは淫猫が猫であるかどうかを測るためにメンバーになりたかったわけだが、わたしが異空だとわかっても、恵子は猫であることを隠さないかもしれない。情報は偏っており、向こう側はアドバンテージをとったと思いこんで、より素の状態を観察できる可能性はある。

 

 だが――、その可能性はよくて五分五分。

 一度バレてしまったら、その関係を覆すことはできない。

 対してバレていなかったら、いわゆるコンティニューができる。

 つまり、メンバー登録の面接をもう一度受けられる可能性はある。

 

 いやそもそも、面接は合格したと淫猫は言った。

 その言葉をいまさら覆すだろうか。

 JCの設定を活かせば、ネットリテラシー的に声を出さないことは通りそうではあるが……。

 

 あともうひとつだけ方法はある。AIによる合成音声を聞かせるということだ。ただ加工しただけではおそらく通らないが、わたしには誰にも言ってない秘密兵器を持っている。

 

――お姉ちゃんのサンプリングボイス集。

 

 年齢設定を思いっきり下げて、わたしの声と混ぜ合わせれば。

 

 だが、少なくとも調整に三分くらいはかかるか――。

 いまも裏側でアプリケーションをたちあげているが、受け答えをしながらだと、まともな調整は難しい。

 

 どうする。どうする。どうする!?

 

「どうしたのですか? さきほどから固まって。ふわふわな羊さんなのにカチコチですわ」

 

 ええい。迷ってる暇はない。

 覚悟を決めろ。並列思考をするんだ。

 

『淫猫様』

 

 そのとき落ち着いたバリトンボイスが響いた。

 機械音声であるが、その声はさきほど聞いた。

 カフェ・オレお兄ちゃんがわたしと淫猫の前に進み出て、片膝をついたのだ。

 

「なにかしら?」

 

 淫猫は眉をひそめ、わずかに不快そうに視線を投げた。

 

『メスガキ様が中学生でありましたら、生声を聞かせるのは豚の耳に悪いかと』

 

「アバターが機能しているのですから、生の声くらい問題ないでしょう?」

 

『いえ、音声解析が発達している昨今。声から身バレという危険もありますれば……』

 

 カフェ・オレお兄ちゃんは隣にいるわたしにチラリと視線を寄こしてきた。

 そういえば、カフェ・オレお兄ちゃんにわたしがお姉ちゃんの妹だとバレたのは声がきっかけだったな。

 ちょっと前のことだけど、そのときのことを思いだして、笑みがこぼれる。

 わたしはひとりじゃなかった♡

 お兄ちゃん()()はわたしを庇ってくれている。

 いま、このときがチャンスだ。

 

「声から身バレというのは確かに可能性としてはありますわね。ただ、わたくしは定型の機械音声ではなく、メスガキちゃんの唯一の声が聞きたかっただけですわ。この意味わかりますかしら。カフェ・オレさん?」

 

『加工してもよいということですか?』

 

「ベースが生の声でしたらいいでしょう」

 

『しかし、あまりにも特例が過ぎませんか。メスガキ様は今般メンバーに加えられたばかり。序列を乱すことは淫猫様ご自身がお嫌いでしょう』

 

「それを言うなら、歩兵(ポーン)のあなたが、わたくしの決定に口をはさむのもおかしな話ですわね」

 

 会場のざわつきが大きくなる。

 淫猫のメンバー序列はチェスの駒のようになっているらしい。

 わずか100名にも満たないメンバーの中で、新参のポーン、ナイト、ビショップ、ルークというふうに区別されている。もちろん、クイーンは淫猫で、王はいない。

 

『カフェ・オレ氏も比較的新参者だしな』

『しかし、メスガキの声出しはリテラシー的には問題があるように思うが』

『ウーム。淫猫様はメスガキを特別視しているのだろうか』

『これだけキャラ立ちしてたらモブじゃねえよなw』

『声、加工OKならまあ……』

 

『盤面によっては、歩兵(ポーン)女王(クイーン)を屠ることもあるでしょう』

 

 カフェ・オレお兄ちゃんが真っ直ぐに淫猫を見つめていた。

 不興を買う恐れもあるのに、お兄ちゃんはひるまない。

 淫猫は腕を組み、カフェ・オレお兄ちゃんの視線を受けた。

 組んだ腕をトントンと指先で叩く淫猫。

 瞳の中に不快の感情はないが、直接受けたわけでもないのにすさまじいプレッシャーを感じる。

 デフォルメキャラの視線からは遥か高みから見下ろされる形になるから当然だ。

 

「カフェ・オレさんは紳士ですのね。よろしい。それだけのことをおっしゃるということは、自分がメンバーの資格を失うということも覚悟しているということでよろしいですわね?」

 

『……』

 

 カフェ・オレお兄ちゃんは何も言わない。

 本当にそこまでわたしのことを優先してくれているんだ。

 お兄ちゃんは、狼を守る狂信者としての役割を完璧にこなしてくれていた。

 ツーンと鼻の奥が痛くなる。

 胸が締めつけられるような痛み。暖かみ。家族みたいな絆。感謝。

 感情がぐちゃぐちゃ丸になりそう。

 

『淫猫様がここまで強権をふるうのは珍しいな……』

『メスガキを妹様と同一視してらっしゃるのだろうか』

『カフェ・オレ氏、骨は拾ってやるぞ』

『淫猫様。どうかご再考を』

『淫猫様怖いけど、踏まれたい自分もいて複雑な気持ちブヒ』

 

「静まりなさい。わたくしは今、カフェ・オレさんと話をしているのです」

 

 シンと静まった。

 淫猫は再びゆっくりとした歩調で壇上へと登り、玉座へと座った。

 

「序列を乱すなと言ったカフェ・オレさんは自ら序列を乱した。この責任をどうお考えですか?」

 

 口調はあくまで静かだが、言葉に逃げ口上を許さない強さがある。

 カフェ・オレお兄ちゃんは一瞬、わたしを見た。

 メスガキちゃんアカウントにDMが入る。

 

――あとはガンバレよ。メスガキ。

 

 させない!

 お兄ちゃんが作ってくれた時間は、わたしの計略を完成させた。

 なんとか滑り込みセーフだ。

 

『私はメンバーをやめ――』

 

「待って!」

 

 お姉ちゃんの柔らかボイスとわたしの透明な声を混ぜ合わせるのは初めてじゃない。お姉ちゃんとひとつになりたい系の妹であるわたしがそれくらいのことをしてないわけないからな。

 

 今回は、お姉ちゃんの年齢を十歳程度まで落とし、わたしの素の声を二十歳くらいまで引き上げた。

 結果として出力されたのは、姉妹逆転の不思議な響きをもった声だった。

 

「んー。あー♪ あー♪ 淫猫ちゃん。どうかな。これがわたしの声だよ」

 

「あら……お可愛い」

 

 会場はわたしの声に騒然さを取り戻す。

 

『うお。マジで女の子だった』

『メスガキちゃんかわよ』

『なんか不思議な声色だな』

『合成音声っぽいが定形ではないな』

『AIちゃん。メスガキちゃんの声はネットでのサンプルボイスにあがってる?』

『ウェブ上にある既知のサンプルボイスではありません』

『素の声を加工してるっぽい感じか?』

『96パーセントの確率でベースの声を加工しております』

『メスガキちゃん女の子?』

『98パーセントの確率で女性の骨格をお持ちの方です』

『AIちゃんありがとうw』

『あいかわらず、AIちゃんなんでも答えてくれるな』

 

「これでいいでしょ。カフェ・オレお兄ちゃんは悪くないよね」

 

「ふふ……。まったく論理的整合性はないですが、そういうことにしておきましょう」

 

『メスガキがなんか優しいな』

『カフェ・オレ氏。JCに庇われる』

『事案では?』

『けじめでは?』

『カフェ・オレ氏。良識派なのにw』

『よろしいのですか。淫猫様』

 

「わたくしはよろしいと申しあげました。この話題はおしまいですわ。カフェ・オレさんもそれでよろしくて?」

 

『はい。淫猫様がよろしければ、私から申し上げることはございません』

 

「カフェ・オレさんをナイトにしてさしあげます」

 

 雷光のように淫猫が言った。

 

『え? それは……』

 

「お受けできないと?」

 

『いえ。かしこまりました。謹んでお受けいたします』

 

「よろしい」

 

 なんか知らないけど、お兄ちゃんが昇格したらしい。

 いきなりの抜擢に、会場内には動揺が見られるようだ。

 

『ふえ。カフェ・オレが騎士に昇格だと?』

『やっぱカフェ・オレけじめだろw』

『JCを守った功績でナイトに昇格とかうらやまw』

『エリート豚すぐるww』

『淫猫様はカフェ・オレ氏をお試しになられたのかもしれない』

 

 冷静に振り返ってみると、この状況は少し怖い。

 カフェ・オレお兄ちゃんが試されたというのは、おそらく違うだろう。

 

――試されたのは多分わたし。

 

 庇われたわたしがお兄ちゃんを助けに出ることを見越していたんじゃないか。

 確かに淫猫はわたしとカフェ・オレお兄ちゃんの関係は知らないかもしれない。

 けれど、庇われたら庇いたくなるのが人情ってもんだ。

 もしも、カフェ・オレお兄ちゃん以外が助けに入ったとして、わたしはどうしただろう。結局、同じ筋道をたどったように思う。確信はないが。

 

 淫猫は感情をインストールしたAIみたいに、精確に人のこころの動きをトレースしてくる。

 わたしの精神性が異空と同値だと考えれば、この場にいるメスガキちゃんがどう動くかは高い蓋然性をもって推知可能だ。

 

 結局、わたしの声を手に入れることが、淫猫の目的で、カフェ・オレお兄ちゃんがメンバーをやめるやめないっていうのはどうでもよかったというのが真相なのでは――。

 

 などと考えた。考えすぎだろうか。

 

 淫猫は丸めた拳で頬杖をつき、お豚さんたちに向けて宣言する。

 

「わたくしが、あなたたちエリートなお豚さんに求めているのは庶民の考え方を知るためだと申しあげましたわ。特に――わたくしの妹は優秀で宝石のようにきらめく知性を持っていますの。あなたがたに期待しているのは、怠惰な豚ではなく輝く黄金のような精神性なのですわ」

 

 恵子のわたしに対する評価が高すぎて恥ずい。

 でも、お兄ちゃんのことを評価してくれるのは嬉しい。

 なんだか複雑な気持ちだ。

 

 淫猫は詩歌を朗読するように続ける。

 

「カフェ・オレさんの精神は気高く、わたくしの妹に近しいものを持っていると思います。だから評価したのですわ。まさにナイトにふさわしいと」

 

 淫猫は腕を翼のように広げた。

 いままでの無慈悲な女王という態度はどこへやら。

 指先で慈愛を表現するのがサマになっている。

 

『ここの位階って妹様との近似値だったのかw』

『淫猫様がカフェ・オレ氏をほめちぎってるな』

『我らも庶民サンプルもとい妹サンプルとして精進しなくては』

『ぶ、ブヒ……』

『ば……バブぅ』

『カフェ・オレが赤ちゃんになってるw』

 

 あーあ、持ち上げられすぎて、いつもみたいにバブっちゃってるよ。

 でも、かっこよかったよ♡

 わたしはメス堕ちしない系女子だけどね。

 

 

 

 ※

 

 

 

「さて、メスガキちゃんはこれで正式なメンバーです」

 

 メンバーのみんなからも拍手があがった。

 仮初のメンバーとはいえ、受け入れてもらえてうれしくはあった。

 猫と狼の戦いが終わっても、恵子の配信から得られるものは多そうだ。

 メンバーを続けてもよいかもしれない。

 

「ありがとう。淫猫ちゃん」

 

「違いますよね?」

 

「え? なにが?」

 

「淫猫お姉ちゃんです。先の配信の時もおっしゃっていたでしょう」

 

「なんで?」

 

「そんなのわたくしがそう呼ばれたいからに決まっております」

 

「あれは文字だからそんなに恥ずかしくなかっただけで……」

 

「わたくしの言葉に逆らうのですか?」

 

 淫猫がジト目で微笑を浮かべてくる。怖いからやめてくれ。

 リアルでの言葉よりも容赦がないのは、本当の妹とは思っていないからだろう。

 わたしの立ち位置はあくまで妹サンプル。

 

 抵抗する妹をいかにお姉ちゃん呼びさせるかというエミュレートなのだろう。

 わたし、負けてあげたほうがいいんだろうか。

 

「淫猫お姉ちゃん?」

 

 わたしは小首を傾げる動作をさせて、おずおずと言ってみた。

 

「そう……その調子ですわ!」

 

 スッゲエキラキラエフェクトまきちらしてるんですが。

 淫猫のアバターからは星やらハートやら、光の粒やらがあらわれている。

 

『淫猫様がバーチャル妹を手に入れて喜々としていらっしゃる』

『これから疑似姉妹百合が見られるの?』

『てぇてぇ……』

『でもメスガキって妹様の情報を見ることになるんだよな』

『うーむ。これからのことを考えると、リアル妹VSバーチャル妹の戦いに?』

『メスガキちゃんが妹様に嫉妬する展開もそれはそれでブヒれる』

『そういや今回メンターがいないから、メスガキってメンバー配信のこと知らんのじゃ』

 

 自分で自分に嫉妬するとか、どんな罰ゲームだよ。

 

 でもよく考えると、メスガキちゃんはメンバーになりたいくらいには淫猫を慕っているという設定なわけで、嫉妬心がまったくないのも変だろうな。正直、メンバーに入ったあとのことはあんまり考えていなかった。ここまで淫猫がメスガキを妹視してくるなんて思わなかったからな……。

 

 まあいい。それはおいおい考えていくってことで。

 

「そういえば、メスガキちゃんにメンバー配信のことを説明しておりませんでしたわね」

 

 両の手を指先だけ合わせて、淫猫は楽しそうだ。

 

「株とか投資について教えてくれるんじゃないの?」

 

「もちろん、それも含まれますが――、わたくしがメンバー配信をしている理由は妹のことをよく知るためなのですわ。わたくしに妹がいることはお伝えしましたでしょう?」

 

「ふうん。そうなんだ。妹のことを知ってどうしたいの?」

 

「もちろん、妹と仲良くなりたいのですわ」

 

「そうなんだ。優しいお姉さんなんだね」

 

「そうなりたいと願っておりますわ。ですからメスガキちゃん。あなたには――」

 

 淫猫は再び玉座から降りてきた。

 仔羊であるわたしのアバターに手を載せるようにして、

 

――()()()()()()()()()()

 

 ぶっこんできやがった。

 王配。チェスで言えばキング。不在だった位階。

 そしてメンバー内の地位で言えばほとんど頂点に近い。

 何段飛ばしって話じゃねーぞ。

 

 お豚さんたちのざわめきは頂点に達している。

 当たり前だ。こんなポッと出のJC設定の疑似妹にいきなり高ランクを与えては現場は混乱するに決まっている。本社からやってきた社長血縁の若い兄ちゃんが、五十近いベテラン部長を顎で使うようなもんだからな。

 

『き、キングだと。馬鹿な……』

『これは妹様と同等に見る宣言なのでは?』

『ウーム。淫猫様の考えに異を唱えるつもりはないが……』

『これからメスガキちゃんのことメスガキ様って呼べばいいの?』

『オレ、メスガキ様にもブヒれるわ』

『ええい。静まれ。静まらんか』

『ビショップの爺さんが切れ散らかしとるw』

 

 会場のノイズに引きずられてはいけない。ここは冷静に対処だ。

 わたしはメンバー内の地位を知らないことになっている。

 

「王配ってなに? 意味がわからないんだけど」

 

「わたくしのメンバーはチェス盤の駒で、位階を区別しているのですわ。キングはクイーンであるわたくしのひとつ下。あるいはニアイコールの地位ということになりますわね」

 

「いきなりキングにするのってまずくない?」

 

「いいえ。その位階はあなたにこそふさわしいですわ」

 

「メンバー配信の意義とかなんにもわかってないのに?」

 

「わたくし、あなたには期待しておりますのよ」

 

「なにを?」

 

「妹の要素(エレメンツ)モデルとしての振る舞いを、ですわ」

 

「どういうこと?」

 

 言いたいことはわかったが、わたしには聞くという選択肢しかない。

 知らない設定をここで埋めておけば、ボロが出る確率は減らせるだろう。

 淫猫はあいかわらず嬉しそうに顔を赤らめている。

 アバターの設定を弄っているのか。自動でAIが頬の温度を感知しているのかはわからない。

 ただ、淫猫が全身で喜びを表現しているのはまちがいなかった。

 わたしという最高のモルモットが手に入ったからだろう。

 

「わたくし、妹のこころがよくわからないんですの。というより――、庶民の方々のお気持ちというか、他人の気持ち自体を数値パラメータ以上の意味では理解できないところがあるんですのよ」

 

「エスパーじゃない限りそうだろうね」

 

「わたくしはエスパーではございません。エスパーでもないただの凡人が妹のこころに近づき、妹の精神を解析し、わたくしが理解できるように理解したいと考えておりますの。それにはデータが必要なのです」

 

「淫猫お姉ちゃんはかわいがるよりも慕われたいタイプ?」

 

 つまり、()()()()()()()()()()()ってことか。

 

 数値パラメータうんぬんのことはよくわからんが、誰かのことを好きっていうのはその人の中では問うまでもないことだ。誰かがどう思うか――その平均要素をとりたいというのは、その人からどう思われるかをパターン解析したいということに他ならない。だから、恵子は愛されたいタイプかと思った。

 

 もちろん、比重の問題で、人間ならどっちの感情も持ってると思うけどね。

 わたしもお姉ちゃんを愛し愛されたい年頃だからわかる♡

 

「その思考の切れ味。本当にわたくしの妹そっくりですわ」

 

「そうかな。普通だと思うけど……」

 

「普通とはなんですか?」

 

「哲学だね」

 

 お姉ちゃんと同じようなことを言われ、やっぱり姉妹って似てくるのかなと思った。




前回はたくさんのいいね♡ありがとうございました♡


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狼たちの反省会

「こんざーこ……♡ お兄ちゃんたち」

 

 わたしのメンバーへの報告である。

 あれだけ力になってくれたお兄ちゃんたちへ結果報告をしないわけにはいかない。

 狼ってわりと義理堅いんだよ。

 たとえ精神的にボロボロの状態でもな。そう、わたしは疲れていた。

 淫猫の試練によって――ではない。

 そうではなく……まあいいやそれはおいおい語っていこう。

 

『なんか力ないな』

『どうしたうまくいかんかったか?』

『もしかして狼透けちゃったとか?』

『イソラバレしたとかじゃね。あまりにもウカツ……』

『カフェ・オレがまたバブってたとか?』

『淫猫女王様にいじめられたんか?』

 

「ふふ……まあ、試験自体は合格したんだけどね。とりあえず、わたし視点の動画をこの配信内の小窓で見せるから、先にこれを見てくれないかな」

 

『確か動画保存はNGだったのでは?』

『カフェ・オレ氏に動画提出させればええよ(ニチャァ)¥100』

『やめてさしあげろw』

『それバブる案件だから。カフェ・オレちゃんバブっちゃうから』

『バブぅ。¥100』

『ほら予定調和w』

 

「あー、いやそれがね。わたしにはそんなこと言われなかったんだよね」

 

 それどころか、わたしに与えられたのは謎の特権的地位。

 

――キング。

 

 まあ、淫猫のメンバーの位階については名誉的な意味合いしかないらしいが、ファンサービスの一種と考えれば、その意味はそれなりに重い。

 

 それについてもわざわざ説明するだけの気力がなく、動画に丸投げすることにした。

 

 わたしは手のひらを上に向ける。

 

 ぽわ。動画の四角い枠が出現。

 わたし自身のバーチャルな身体をちいちゃく画面端に寄せる。

 そして動画をみんなが見えるように大きくした。

 ちょうど、ゲームとかをするときと同じ配置だ。

 

 動画はすぐに再生される。最初は、

 

――カフェ・オレお兄ちゃん登場。

 

 執事服とモノクル装備の紳士なお豚さんだ。

 頭の上にキャラクターネームが書いているからすぐにわかる。

 

『カフェ・オレおまえwww』

『ふむ、メスガキの近くにいるために説明役を買って出たのか』

『メスガキ様www』

『メスガキ演技足りてるか? いつものメスガキじゃねーか』

『まあ、前の普通の淫猫配信でもそうだったしなぁ』

『やっぱ、小学生に演技は無理だったんだよ』

『結局、妹Ⅱと家族になりたいんじゃね。だから素の状態だったとか』

 

「いちおう演技はしたんだけどね。わたしってメスガキちゃんだったわけだから、名前の呪縛からは逃れられなかったという感じかな」

 

 動画は進む。

 淫猫の登場。そしてプロフィールを聞かれる場面へ。

 

『プロフィール聞かれるってなんなん?』

『わりとバレてる可能性ありそう』

『淫猫様の頭脳の前には、メスガキも手のひらの上っぽい』

『だとしたら、既にここもヤバい?』

『いやーきついっす』

 

「いやバレてはないと思うよ。単に全体的な思考能力というか、わたしのレベルを見定めようとしているだけだと思う。人狼ゲームでどれくらい主張できるかと同じ」

 

『いつもみたいに♡マークな声色じゃないのがなぁ』

『メスガキも、少しは考えてるんだろうな』

『妹スキーな淫猫としては、疑似妹のことをもっと知りたかったとかかな』

『今回の潜入については、メスガキもガバガバだからなぁ……』

『あ、ガバガバ発言あるけど、それオレも思ってたわ』

『メスガキはガバガバ……ごくり』

『おいやめろww』

 

「その自覚はあるよ。今回、わたしは自分を偽って淫猫に逢いにいったわけだけど、結局、最後に相対するのはリアルでの妹Ⅱなんだよ。だから、わたし自身を偽りすぎちゃいけないっていうブレーキがかかった面はあると思う」

 

『メスガキはいい子ちゃん過ぎww』

『小学生だもんな。ニューお姉ちゃんを騙すのは忍びなかったのか』

『うーん。猫におもんばかる必要ってあるのか』

『妹Ⅱのことも結局、お姉ちゃんと化してしまったメスガキであった』

『だったら、もう妹Ⅱのことも噛んじゃえばいいんじゃねw』

『ついにスリーピースもとい3Pが現実味を帯びてきちゃって草』

 

 動画はわたしのJC発言へ。

 ここらは、まあ折り込み済みだから、お兄ちゃん達の反応も薄い。

 実はJSでしたというので草をはやしているお兄ちゃんもいたけどね。

 

 そして、始まる淫猫の質問。

 最初は宇宙最強の力とは何かと聞かれたんだったな。

 

『宇宙最強の力、それは健気さを装う妹ぢから』

『それ、動画で豚も言ってるやついるなw』

『アインシュタインか。まあこのあたりは知識だねぇ』

『淫猫の質問スピードが唐突すぎてビビる』

『さらりと答えるメスガキも反応スピードはやっ』

『おそろしく速い質問…オレじゃなきゃ見落としちゃうね』

 

 そう――。

 恵子はリアルでも会話のスピードが速い。

 というか、なんというかこれって早口ってわけじゃなくて、わたしが反応できるギリギリのスピードで会話をまわしている印象なんだよな。わたしもちょっと混乱していた面はあると思う。

 

 動画内では、質問内容が変わって、わたしの家族構成について聞かれる。

 

『家族構成聞かれるとかやべえ』

『やっぱ、メスガキバレてる感じがするなぁ……』

『妹ポジだといわれて不敵に笑う淫猫がヤバい』

『メスガキちゃんも妹なんだ。ヤッターって感じじゃね?』

『妹を吸う。¥10000』

『あっかwwww』

 

「腹パン大魔王お兄ちゃん。赤スパありがとう。妹を吸う発言は確かにビビったけど、お姉ちゃんも時々わたしの後頭部あたりに頭をうずめて、吸ってくれるんだ。だから、わりとありかなって思ったよ♡」

 

『メスガキおまえ吸われたい系メスガキだったんか』

『淫猫視点だと、メスガキこそが猫なのかもしれんな』

『猫吸いって猫好きにはたしなみなところあるからな。¥100』

『猫吸い?』

『お猫様の身体に顔をうずめて思いっきり吸うことを猫吸いという。¥100』

『ていうか、ヒモ姉に吸われるメスガキを想像したらてぇてぇ』

『妹Ⅱに吸われるメスガキを想像したらこえぇ』

 

「淫猫お姉ちゃんは、そこまでわたしにベタベタはしてこないよ」

 

 せいぜい手をつなぐくらいだろう。

 まあ、ほっぺたにチューされたことはあるが、よく考えたらそのことはお兄ちゃんたちは知らなかったな。部屋での出来事なので、お姉ちゃんのカメラの対象外だったんで、口では説明したような気がするが、直接現場を見せたわけじゃない。

 

 動画は、お姉ちゃん問答へと移る。

 ここでは、お姉ちゃんは好きかって問われて、もちろんって答えたんだよな。

 わたしのレゾンデートルといってもいいお姉ちゃんのことは、どんな状況でも絶対に悪く言うなんてことはできない。魂を賭けて、大好きと主張する所存。

 そしたら、下の姉はどうかと聞かれ、わたしは優秀なお姉ちゃんだと答えたんだ。

 

『下のお姉ちゃんはどうかって……おまえこれバレてへん?』

『うーん。中身イソラだとバレてたとしてどうなるんだ』

『そりゃ、妹ちゃんキターでしょw 内心ウキウキだったのでは?』

『あまりにも出来すぎているよな』

『メスガキちゃんって客観的に見たら臭すぎるんよw』

『隠しきれない妹臭するよな』

『オレもメスガキ妹を吸いたい。¥100』

 

「えーっと、狐のお兄ちゃん。それはさすがに引くわー」

 

『こ、コーン。¥1000』

『狐、おまえの戦いはもう終わったんだ。休め』

『冷静に考えると、小学生の匂いを嗅ぎたいとか言ってる事案だぞw』

『冷静に考えちゃいけないw』

『狐きゅんも逮捕されちゃう?』

 

「まあ、わたしのことはいいんだよ。ある程度のリスクは覚悟してるからね。バレてるならバレてるで、本音の殴り合いをすればいいって思ってるから」

 

『メスガキ時々男らしいw』

『妹Ⅱのことも大好きなんだぞ』

『淫猫に迫られたらどうするつもりなんだろうな』

『そりゃ、お姉ちゃんに泣きついてついでにおいしくいただけばOKだろ』

『ヒモ姉のアルコール依存症が始まっちゃうw』

 

 動画は妹は庇護されるべきか論争へ。

 このあたりは、わたしとしてはクリティカルヒットを喰らった感じだな。

 お姉ちゃんをヒモにするというのは、わたしの都合だから。わたしの業だ。

 

『これって人狼ゲームで言えば、議論を重ねて狼吊ろうとしてない?』

『それなー。妹Ⅱが猫だとすれば、メスガキはノコノコやってきた雑魚狼なわけで。噛まれて上等というか。現実的に見て、自分を選べといってるわけだよな。まさに猫踏みを迫る猫ムーブだよ。¥1000』

 

「MSGK泣かし隊の兄貴。お疲れ様です! 雑魚狼っていうのは心外だけど、淫猫がお姉ちゃんじゃなくて自分を頼れって言ってたのは印象的だったな」

 

『ヒモ姉は赤ちゃんだから頼れないしねw』

『好き嫌いを別にすれば、妹Ⅱのほうが頼りがいあるのは確か』

『ヒモ姉、アル中だしなw』

『それでもお姉ちゃんのほうがいいって言うメスガキ潔いな』

『これまでの経緯を見てきたオレらからすれば当然よ』

 

 そして、問題の生声を聞かせてほしいというシーンへ。

 

『生声? どんどんメスガキバレの確率が高まってるんですが』

『疑似妹として手元に置いておきたいって思った可能性もあるんかな』

『ここまでメスガキが妹ムーブかましてるとなぁ。限りなく黒いわ』

『あーあ、メスガキちゃんわからせられちゃったね』

『所詮、姉に敵う妹などおらんのだ』

 

「このときはちょっと焦ったかな。わたしが妹であることがバレたとしてどうなるのかって、複数のルートがあるから迷っちゃったよ。迷いって、視点漏れが出るから禁忌なのにね」

 

『まあそれはある』

『騙りはどうしても歪みがでるものだからな』

『矛盾なくても白すぎて黒いみたいな謎の逆噴射あるぞ』

『妹バレしたとして、メンバーにはなれるだろうが……』

『妹Ⅱの猫かどうかの確定が主目的だったわけだろ。えっとどうすりゃいいんだ?』

『そりゃバレないに越したことはないだろ』

 

「バレないに越したことはないよ。妹Ⅱが猫であること――つまりわたしのことが好きなのかどうかを明らかにするのが主目的だからね。バレたらやっぱり隠そうとされるかなっては思ったよ」

 

『そりゃなぁ』

『でも、淫猫もブイだから演技の線は消えないと思う』

『まさに一戦目で、メスガキが使った戦法だな』

『バレないようにって言っても、メスガキにできることあるんか』

『やっぱ、JC設定で生声はちょっとっていうのが丸そうかな』

 

「JC設定のネットリテラシーは考えたね。でも、それだとメンバーになるのを拒否られるかなとも思ったし、わたしの立ち位置を猫に近いところに持っていきたかったから、やっぱり声は出そうって考えたんだ。わたしの生の声ってわけじゃなくてね。リアルでボイス加工ができるくらいサンプリングしているのあるからさぁ♡」

 

『あ(察し)』

『お姉ちゃんボイスか!』

『おまえ、どんだけお姉ちゃんのこと好きなんだよ』

『ボイス加工できるくらいデータ溜まってるんだなw』

『しかし、お姉ちゃんボイスでもバレるよなぁ』

 

「お姉ちゃんボイスだとバレるから、AIちゃんにお姉ちゃんの年齢を下げてもらって、逆にわたしの年齢設定をあげてもらって、ふたつを混ぜ合わしたってわけ。基礎データは作ってたから、あとは調整だけだったんだけど、淫猫の圧がすごくてね。時間が足りなかったんだ」

 

『ぶっつけ本番に近いからな。そりゃ時間が足りんだろ』

『そうなると、この沈黙が痛いな』

『ん。誰か来た』

『って、カフェ・オレ。生きてたんかワレェ!!』

『カフェ・オレさん、かっけぇっす』

『ば、バブぅ(てれるぜ)』

『バブってるカフェオレはぜんぜんかっこよくないけどなw』

 

 そう、動画はカフェ・オレお兄ちゃんの登場シーンへ。

 

『メスガキの音声解析しちゃったカフェオレがなんか言ってるなw』

『これ背景事情知ってると草だわ』

『まあ順当だな。JCだろうがJSだろうが身バレの危険は避けるべき』

『カフェ・オレってわりと常識的だよな』

『バブっている以外はきわめて優秀なお兄ちゃんだよ』

 

「あのときは本当に助かったよ。ありがとうね。カフェ・オレお兄ちゃん♡」

 

『いやまぁ。メスガキがヤバそうだったんでとっさに身体が動いたんだ。¥100』

『まさに、狂人の鏡w』

『メスガキが目にハートマーク浮かべてるぞ。っていつものことか』

『それにしても妹Ⅱのパワハラ会議こえーわw』

『序列とかもお遊びとはいえ、それっぽいしな』

『いやぁ。これってライン透けちゃってるんじゃね? ¥1000』

 

「萌えるお兄さん。スパチャありがとう。ラインっていうのは当然、狼狂ラインのことだよね。それはどうかな。妹Ⅱは人の心理状態を読むのがメチャクチャうまいんだよね。動画内ではあんまり上がってないけど、普段はキツイ言葉を言ったあとには優しくしてくれるし……撫でてくれるし」

 

『ほだされとるやんけ』

『心理状態を読むのがうまいなら、なおのことラインに気づいているのでは……』

『そっか。ヒモ姉の動画はあくまでヒモになりたくない素村視点だからね』

『素村視点では狼を恐れない猫ムーブが人外目に見えるってのはあるかもなぁ』

『自分は絶対に喰われんと思ってる猫は、喰われることがない狼目に思われてしまう』

『ヒモになりたくないヤダーって気持ちから作られた動画だからね。しかたないね』

 

「わたしとカフェ・オレお兄ちゃんのラインは透けてないと思うよ。心理状態を読むのがうまいっていうのは、メスガキちゃんの心性とわたしの心性が一致していると仮定して、わたしならどう動くかがわかっていたんじゃないかって意味。わたしってわりとお人よしだからさぁ♡」

 

『ふーむ。メスガキなら庇われたら庇おうとするか』

『メスガキってほんとカワイイわ。わからせたくなる』

『いもバレのほうが確率高そうではあるがなぁ』

『速攻で、心性分析してくる淫猫が怖すぎるww』

 

 ともあれ、カフェ・オレお兄ちゃんのおかげで危機を脱した。

 混成ボイスをお披露目するわたし。

 

『これなんだけど、べつにおっさんでも加工すれば女声にできるんじゃねーの?』

『オーバーラップさせたやつと、完全に別出力だと声の出し方に違いがでるんよ。¥1000』

『へえ、なんとも言えない美声だな。ちょうどJCっぽく調整できてるね』

『でも素材がお姉ちゃんとメスガキなんだろ。これってどうなん?』

『まあそこから解析される可能性はあるな』

 

「あのときはしかたなかったんだよ。わたしの声をそのままベースにしたら一発アウトなんだから。日常会話ができるほどにサンプリングボイスを集めているっていうのは、小学生妹がするには考えづらいでしょ」

 

『妹Ⅱならそれくらい考えそう』

『苦肉の策ではあるが、あの状況ならしかたないのかねぇ』

『カフェ・オレ氏。出汁にされてない?』

『バブ(それはオレも少し考えてた。もしそうならごめんな。メスガキ)¥100』

『お優しいこと……w』

『こえーから淫猫みたいなこと言うなよ。って、おまえメスガキスキーかよ』

 

「お兄ちゃんを守れたのなら後悔はないよ♡」

 

『メスガキしゅき』

『カフェ・オレに嫉妬』

『なに、嫉妬の華が咲いたとなれば、我がマスクを進呈しよう』

『嫉妬マスク三世。おまえってやつはw』

『みんな忘れてるけど、カフェオレは小学生にブヒってたロリコンだからな!』

『おいやめてさしあげてw』

『僕、赤ちゃんだからわかんない。¥100』

『こいつwwww』

 

 で、わたしはメンバーになれた。

 そして、バーチャル妹の地位を手に入れた。

 淫猫お姉ちゃん呼びの強要。ここらはリアルと交差する。

 

『淫猫お姉ちゃんか……』

『やっぱ猫くせぇ』

『結局、メンバーにはなれたんか。よかったな』

『限りなく薄氷を踏んでるようでこえーよ』

『地雷原をピクニックしてる感じじゃねーの?』

『この狼。狂人よりも狂人プレイしちゃってる』

 

「メンバーになれたのはよかったんだけどね。わたしがバーチャル妹になってしまったのは盲点だったよ。これからリアル妹――つまり自分に対して嫉妬するみたいなプレイが求められるわけで……」

 

『自分で選んだ道だろw』

『妹プレイしすぎた結果だよ。自業自得』

『しゃーない。切り替えてイケ』

『てか、メスガキおまえキングになっちゃったのねw』

『序列とかのことはカフェ・オレ氏が説明していたが、これってどういうことになるんだ?」

 

 わたしがキングの位階を授けられた件に話題は移った。

 

「これねー。わたしにもよくわからないんだけど、たぶん妹サンプルとしてわたしを手元に置いておきたいんじゃないかな」

 

『妹のエレメントモデルとしてメスガキをご所望か』

『イソラちゃん愛されちゃってるなー』

『もうこれだけで猫要素プンプンさせてるわけだが』

『妹バレしているとすると、妹に恥部を見せたい妹Ⅱという図式になるな……』

『メスガキが、淫猫のことをかわいがるより慕われたいタイプかって聞いてるのは、なにか意図があるのか? ¥3000』

 

「もちろんあるよ。これはわたしが淫猫を堕とすための布石なんだ」

 

『淫猫が堕とされるのか。狼が堕とされてるのかこれもうわかんねーな』

『新しいお姉ちゃんのことをもっと知りたかったんだね』

『かわいいよメスガキかわいい』

『これから淫猫好みの妹を演じるつもりかww』

『ウーム。盤面がこんがらがってきたなぁ。盤面整理兄貴来てくれ頼む』

 

『盤面を整理する。メスガキは淫猫のメンバーになれた。しかし、妹バレした可能性は見過ごせないレベルで存在する。ここで配信しているかどうかまで知っているかは不明。カフェ・オレ氏とのなんらかのつながりが見透かされた可能性はある。これからの展開次第だが、淫猫が猫であると確信が持てれば、メスガキは淫猫を懐柔していくという策は成り立つだろう。つまり現実的に言えば、狼バレ=お姉ちゃんのことをゲットしたいということを隠しつつ、妹Ⅱには姉妹百合でイチャイチャして、妹Ⅱに計画が進んでいると誤認させるという戦法だ。¥2000』

 

「盤面整理お兄ちゃんありがとう♡ まあ、そんな感じだろうね」

 

『疑似姉妹百合イチャイチャが見れる配信があるって本当ですか?』

『妹Ⅱのあたりが強いのは素だからなぁ。猫だとしても懐柔できるのかは謎』

『猫と和解せよ……できるのか知らんけども』

『そもそも、淫猫って猫なん? そのあたりはまだはっきりしていないの?』

 

 動画はストップボタンを押していったん止めている。

 

――淫猫が猫で確定したか。

 

 この質問には「イエス」と答えるのが妥当だろう。

 

 でもひとつ誤算だったのは、恵子のわたしに対する猫猫ビームをモロに浴びたことだな。

 

 精神的にめっちゃきつかった。そのことは語るよりも見せたほうが早いだろう。

 

 わたしは再生ボタンを押して、動画の続きを再開した。



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淫猫フェスティバル

 あれから、メンバーになったわたしは早速、淫猫に抱っこされていた。

 え、なにこれ?

 抱っこ――。お膝に乗せられた状態である。

 物理演算で質量のある身体になっているから、いまの仔羊体型だとちょうど人形みたいな塩梅になる。

 もちろん触覚があるわけじゃないけどな。

 いくら2035年の現代でもそこまでの技術はない。

 

「ねえ。メスガキちゃん」

 

 上から覗きこんでくる淫猫。

 赤ちゃんの視点がこんな感じだろうか。

 安心感よりも先に巨大な顔が迫ってきて恐怖を覚えてしまう。

 しかし、両腕でロックされている以上、わたしは逃れられない。

 

「なに、淫猫お姉ちゃん」と、わたしは聞いた。

 

「妹という字と株という字。似ていると思いませんこと?」

 

「言われてみればそうかもね」

 

 なにが言いたいんだ。

 これから、妹ちゃん配信をいよいよ拝めると思っていたのだが、背後にあるスクリーンにはまだ何も映されていない。玉座は淫猫が操作すると、スライドして壇上の端に移動したから、このあと家族内のエピソードが上映されるのかなと思っていたけれど。

 

「わたくし、妹価チャートというものを、いつもつけていますの」

 

「いも……か? なにそれ」

 

「実際にお見せしたほうが早いでしょう」

 

 片腕はロックしたまま、もう一つのほうの腕で淫猫はなにやら操作する。

 すると、スクリーンに株価チャートと同じように、折れ線が映し出された。

 およそ、右肩上がりではあるが、ところどころ下がっているところもある。

 

「これは、わたくしの妹がわたくしに対して抱いている思慕の情をグラフ化したものです」

 

「うへ」

 

 ま、マジかよ。

 これって、わたしの心理状態を推察されちゃってるの?

 

「もちろん、ここにいるエリートなお豚さんたちに推測させましたわ。ひとりの意見では歪みや偏りがあっても、多数が集まれば精度が高くなります。この妹価はおよそ正しいと思っていますわ」

 

「でも、お豚さんたちは妹じゃないよね」

 

「そうですわね。確かにそのとおり。メンバーには男の方ばかりですから女子小学生がどう考えているかについては疑問点もあるところですのよ。ですからメスガキちゃんがどう考えるか。妹価が正しいか。聞かせてほしいわ」

 

 どうせ逃げられないので、わたしはうなずいた。

 まずはグラフの一番左端。出逢いのシーンからだ。

 

 お姉ちゃんといっしょに鳳寿院家に向かったときの様子がアニメ調に描かれてある。

 

「アニメ……作ったの?」

 

「プロに作らせましたわ。アニメの制作には時間がかかりますから後追いになりますけど」

 

「なんか聞いたことあるような声なんだけど」

 

「声優さんですからね。メスガキちゃんはアニメとか見ますか?」

 

「まあそれなりに……」

 

「ふふ♡ わたくしの妹もそのように答えてましたわ」

 

 おそらく秘密主義でこっそり作らせたものなのだろう。

 お金を湯水のように使うという表現があるが、まさに言葉どおりだ。

 アニメもさりげに作画いいし、たった百人未満の人に見せるには明らかにレベルが高い。

 これって――あの有名なスタジオが作ったやつじゃない?

 なんか某有名なアニメの制作が遅れてるとかで資金繰りの厳しさとかが噂になっていたところだけど、裏ではこんな闇が隠されていたとは。

 まさか妹アニメーション作らされていたとは知らなかった。

 ちょっと罪悪感が湧いちゃうんだけど。

 

「おや、メスガキちゃんのお顔が少し曇っていますわね。もしかして、アニメの制作会社に対して憐憫の情を抱いたのですか。お優しいこと……」

 

「うん。まあ……そんな感じかな」

 

「問題ありませんわ。通常の百倍ほどの金額で頼みましたら、喜んで作ってくださいましたから」

 

「それって、どのくらい?」

 

「たいした額ではありません。累計で数十億円程度でしょうか」

 

「す、すうじゅうおく……」

 

 みんなごめんなさい。うちの姉が札束で横っ面ビンタしてしまい誠に申し訳ございませんでした。こんなメスガキ女王様のために、妹アニメーション作ってもらって本当に申し訳なく思ってくる。

 

 スクリーン上ではふたりの馴れ初めみたいなのが展開されていた。

 イソラ――この場合は、スクリーンにいるわたしのことだが――は奇しくもヒモ姉スレと同じく『妹ちゃん』と呼ばれている。背格好はちょうどわたしと同じくらい。配色も同じ。しかし、少女漫画の主人公みたいにかわいさマシマシ。フリルとかつけた格好で、妖精さんみたいになっている。わたしのリアルもかなりかわいいが、どっちかというとファンシーなファッションで魔法少女を思わせる。

 

 は、恥ずかしい。でも身をよじることすらできない。

 視線は常にスクリーンで固定。大画面だから映画を見ているような感覚だ。

 

「ふふ♡ どうです。わたくしの妹はかわいいでしょう」

 

「そ、そだね」

 

 ナレーションでは、宝珠家のもとに訪れた身よりなき姉妹みたいなこと言ってる。

 それで、淫猫がバックに華を咲かせながら、指を組んで、わたしを見初めたことが語られる。

 

(かわいい。ああ。かわいい。この子をわたくしは絶対に妹にしたい。かわいい。ああ。かわいい。おててちっちゃい。瞳が宝石みたい。ああかわいい! お持ち帰りしてもいいかしら)

 

 どんだけかわいい連呼するんだよ。

 バーチャルじゃないわたしのリアルな瞳は、既に死んだ魚みたいになっている。

 

「それで髪留めを贈ったんですの」

 

「へえ、ヘアピンをね……ちなみにそれっていくらぐらいなのかな?」

 

 今も装備しているヘアピンをわたしは触った。

 アニメ作らせて10億円ポンと払うようなヤツだ。

 このヘアピンも一見すると、そこらの百均で売ってそうなシンプルなやつだけど、嫌な予感がした。

 

「百万円ほどでしたかしら」

 

「ひゃ、ひゃく!?」

 

 わたしが一年かけてお兄ちゃんたちからもらった額と同じだとぉ!

 ヘアピンを触っていた手に電気が流れたみたいになって、とっさに指を放す。

 これが百万……。うそだろおまえ。

 どう見ても普通のヘアピンだぞ。

 

「淫猫お姉ちゃんはお金持ちなんだね。その妹ちゃんがちょっと羨ましい」

 

「フフ♡ メスガキちゃんもすぐに一億や十億くらいは貯められるようになります。わたくしの言う通りにしていれば簡単ですよ。手取り足取り教えてさしあげますからね♡」

 

 手とり足取りとか恐怖でしかないんだが。

 リアルのわたしは白目をむいていた。

 

「さて、第一話。出逢い編いかがでしたでしょうか?」

 

「そ、そうだね。なんというか……まあ、妹ちゃん的にも嬉しかったんじゃないかな」

 

「そう思いますか! ふふ……♡ やはりお豚さんたちは正しかったようですわね」

 

「ヘアピンを贈ってくれたことよりも、姉妹になりたいって言葉のほうが嬉しかったんだと思うよ」

 

「ふむ……、それは本音だったのですが、妹のこころにヒットしていたのなら僥倖ですわね」

 

 それは嘘じゃないから。

 

 

 

 ※

 

 

 

 第二話、再会編。

 恵子のパッパが亡くなって、須垣へ恵子が来たときの話だ。

 あのとき、わたしは恵子に同情していた面もあったように思う。

 スクリーンの中の恵子は既に悲しみを振り切っていたようだ。

 これはアニメだから、恵子の指示が入ったフィクションだとは思うけれども……。

 

(ああ、妹ちゃん。いつ見てもかわいい。毎秒微速度撮影したい!)

 

 そんなふうに某有名声優に言わせないでくれ。

 天国のパッパに申し訳ないとか思わないの?

 視線だけで、抗議したら、淫猫はすぐに了解したのか微笑みを返してきた。

 

「もちろん、お父さまのことは寂しかったですわ。ですが――だからこそ家族が欲しかったのです」

 

「お姉ちゃんもいるでしょう。妹のこと見すぎなんじゃ」

 

「そうですわね。最初は外貌に惹かれたのは事実です。妹のかわいさはわたくしが鑑賞したどの芸術品よりも美しく、想像を絶するレベルでしたから。お姉様のことは正直なところ付録であったことは否定しません。ですが……今ではお姉様のことも家族だと感じていますのよ」

 

「ふうん」

 

「まあ、最初は妹ちゃんを手に入れるために、お姉様を利用させてもらいましたが」

 

 アニメのなかでもしっかりその点は説明されている。

 唯一の姉妹として妹ちゃんは姉に依存している。だから、将を射るにはまず馬からということで、お姉ちゃんをまずは堕とす。それが、恵子の作戦らしかった。

 

 実際、お姉ちゃんはかなり優しい。ぽわぽわぷよんな天使だから、恵子のことを最初に受け入れたのはお姉ちゃんだ。お姉ちゃんが受け入れる以上、わたしに恵子を受け入れないという選択肢はなかった。

 

 そんなお姉ちゃんを利用したのは許せんと思うが、しかし、家族になりたいという気持ちに嘘がないなら、しかたないという気持ちにもなる。

 

 

 第三話。日常生活編。

 お姉ちゃんがヒモであることがバレて、お姉ちゃんを更生させようとする恵子。

 恵子はお姉ちゃんのこともちゃんと家族だと考えてくれていた。

 それは純粋にうれしい。

 

(お姉様をヒモから脱却させようとすれば、妹ちゃんの本当の気持ちに迫れるかもしれません)

 

 そういうふうに内心で思ってなければな。

 要するに、わたし=お姉ちゃん狙いの狼だと疑っていたということになる。

 恵子はわたしに頼られる存在になりたかったのだろう。

 つまり、唯一の姉として君臨したかったんだ。

 

「このあたりは妹ちゃんに必要以上に嫌われないかが心配でしたわ」

 

「妹ちゃんからお姉ちゃんをとっちゃうのはよくないよ」

 

「そうですわね。ですが、べつに家族を破壊しようとしたわけではないのですよ。いまはいいでしょう。身寄りのない姉妹が身を寄せ合ってるのですから、なにもおかしなことはありません。ですが、年が経てば? いずれは姉妹はバラバラになるのです。それがいわゆる常識というものでしょう」

 

「淫猫お姉ちゃんは妹ちゃんとずっといっしょに暮らしたいんだよね。その点についてはどうなの?」

 

「わたくしと妹ちゃんは年齢が近いですからね。お姉様と離れたくないというのでしたら、交渉に応じる用意はあります。わたくしの言うことに従うのでしたら、ご褒美としてお姉様を与えてあげましょう」

 

「そういうのはよくないよ。お姉ちゃんをないがしろにしてる!」

 

「そうですわね。お姉様のことをないがしろにしすぎた結果はこの後すぐに明らかになります」

 

 第四話、お寝坊編。

 わたしが朝起きてなかった話だ。

 このあたりは、お姉ちゃんをヒモにするという点について、恵子と協議ができて、わたしは浮かれていたんだよな。共闘体制ができて、恵子は猫ではなく素村なんじゃないかと勘違いしていた。

 

 時間割を作ったのも、恵子との初めての共同作業という感じで、わたしもだいぶん恵子にこころを許していたと思う。

 

「かわいらしいでしょう。お姉様をとられたくないあまりにわたくしと共闘できたと思って一時の安心を得ているように思えます」

 

「それって、さでずむだよ」

 

「そのとおり。キュートアグレッションという言葉をご存じですか」

 

「子猫に対してメチャクチャにしたくなる例のアレ?」

 

「そう。かわいいものに対して破壊的な衝動を覚えてしまったわけです。度し難いことですが、わたくしはわたくしであることをやめられません」

 

「それは抑えたほうがいいと思う」

 

「そうですわね。ここでの妹価は少し下降ぎみですわ。ただこれもバネの要領でいずれは上がるための要因のひとつなのですよ」

 

 すべては猫のたなごころの上。

 そう言いたいらしい。確かに恵子は頼れる面は多々ある。

 お姉ちゃんよりも、ある意味姉らしい。

 

 第五話、買い物編。

 恵子といっしょに買い物に行く。

 途中で会ったいつものおばあちゃんや普段なにげなくすれ違う女子高生たちは、全部エキストラらしい。

 え、マジで?

 ちょっとどころではない衝撃なんだけど。

 

 第六話、いっしょに料理編。

 これは三色丼を作った時の話だな。

 わたしが三姉妹丼とか言って、恵子を初めてお姉ちゃん呼びしたときの話だ。

 お兄ちゃんたちにはウカツとか尻軽とか、下手したら雑魚狼とか呼ばれたけど。

 このときは必然だったんだよ。

 

「妹に無理やり姉と呼ばせるのは、いささか(おもむき)からはずれるところもありますの」

 

「そうなんだ?」

 

 それにしては強行策だったように思えるが。

 ただ、恵子の中では、たびたびわたしの自由意思を確認しているようでもあったかな。

 

「わたくしは自由な意思で"お姉ちゃん"と呼んでもらいたいんですのよ」

 

「わたしは無理やり呼ばされた」

 

「ですわね♡ 無理やり呼ばせたいというのも本当です」

 

「どっちが本当なの?」

 

「どっちも本当なのですわ。ただ本質的に言えば、どちらかというとわたくしは呼ばれたいほうですわね。無理やり呼ばせるのではなく、妹の自由な意思でそう呼んでもらいたい。姉として慕ってほしいと考えていますの」

 

 よくわからない。

 恵子はどちらを望んでいるのだろう。

 いくら内部情報(インサイド・インフォメーション)にアクセスできたとしても、恵子のこころは不明のままだ。

 

 第七話、宝珠家のヒモ編。

 ここでは、わたしやお姉ちゃんにドレス&ねこぐるみをプレゼントしたことが語られている。

 お姉ちゃんを鳳寿院家のヒモにするための布石を打ってきた話だな。

 最初、お姉ちゃんはそんなこととはつゆ知らず、純粋に見たことも無いドレスを着て浮かれていた。

 わたしはそのときは既に恵子の策略に気づいていて、気が気じゃなかったが、恵子が本当に家族だと思ってくれているのも感じていたから、無碍にはできない微妙な気持ちのときだった。

 

「わたくしの実家はそれなりにお金持ちで、それなりに権力を持っていますの。ここで見ているメスガキちゃんには言うまでもないことでしょうけれど」

 

「だから、お姉ちゃんを宝珠家のヒモにしようとするのはどうなのかな。妹ちゃんの逆鱗に触れているようにも思うよ」

 

「ヒモという言葉の解釈次第ですわね。ハッキリ言えば、芸術という定性的なものは、権力者が幾人か意見を述べるだけでいかようにも変更可能なものです。お姉様の絵はすばらしいとわたくしひとりが言ったところでなにごともございませんが、何人かの著名な方が言えば、評価なんて簡単にくつがえる。その程度のものですわ」

 

「お姉ちゃんに対して失礼だと思わないの」

 

「思いませんね。わたくし自身はお姉様の絵は好きですのよ。ですが、評価という軸は好き嫌いという軸とはあまりにかけ離れている。それが現代というものではありませんか」

 

「それは否定しないけどね」

 

「メスガキちゃんはどう思いますか。わたくしがお姉様を宝珠家のヒモにしようとしたのは悪いことでしょうか。わたくしとしては、お姉様に経済的に自立していただくのは、心底、よろしいことだと考えていますし、社会的にも正しいと考えているのですわ」

 

「社会的に正しいというのはそうだけど、お姉ちゃんのことをもっと考えてほしい」

 

「ふふ……本当にあなたは……」

 

 それ以上は小さすぎて声を拾えなかった。

 

「あなたが考えているとおり、お姉様の感情をあまりにもないがしろにしすぎたツケはこのあとすぐにやってきます」

 

 第八話、ハードドランカーお姉ちゃん編。

 あの、お姉ちゃんが9パーセントの高濃度酎ハイを飲んで酔っ払った事件だ。

 恵子に追い詰められすぎたお姉ちゃんは精神崩壊を起こし、ストゼロと呼ばれるアルコール度数のやたら高い酎ハイをかっくらってしまう。

 そして、目の座ったお姉ちゃんに囚われた恵子とわたしは、不覚にもキスで強制飲酒をされてしまうのだった。

 むせる♡

 

「あのときは、お姉様のことをもう少しケアするべきだと本当に考えましたのよ」

 

「追い詰めすぎたからだよ」

 

「わたくしに後悔という二文字はありません。ですが反省はいたしました。お姉様を侮りすぎたわたくしが悪かったのですわ」

 

「だったら、お姉ちゃんをヒモにするのもやめたの?」

 

「そうですわね。この点については保留といたしました。わたくしがどうしても理解できないのが、使える力をなぜ使わないのかという点です。お姉様は宝珠の家の力を使いたくなさそうでしたが、それがなぜなのかはついぞ腑に落ちませんでした」

 

「お豚さんたちがそれっぽいことを言ってくれなかったの?」

 

「お豚さんたちは、庶民としては巨大な力の前に恐れおののいて、そういうことは考えられなくなるとおっしゃっていましたね」

 

「だいたい正しいと思う。つけくわえるなら、お姉ちゃんにも自分の手でゲージュツしたいって誇りはあったんじゃないかな」

 

 わたしには芸術というのはよくわからないから、下手なことは言えないけれど。

 でも、お姉ちゃんが権力やらお金やらで自分のまっすぐな芸術的感性をねじまげられることは望んでなかったように思う。

 

「その観点は新しいですわね。お豚さんたちではでてこなかった視点です」

 

「淫猫お姉ちゃんはいまでもお姉ちゃんをヒモにしたいと思っているの?」

 

「正直に申しまして、わたくしはお姉様がどうお考えなのかを尊重したいと考えていますわ。わたくしの最愛の妹がお姉様のことを慕っている以上、その意思をねじまげることはどうしてもできませんから」

 

 お姉ちゃんは、現状最も白く見られている村人だった。

 わかるよ。どうしても村視される存在というのはでてくるものだからな。

 

「だったら、そうしたほうがいいと思う」

 

「ですわね。イソラちゃんがそう言うのならそうなのでしょう」

 

 ……ん?

 

 いや、気のせいだよな。

 というか、わたしをイソラと誤認したとかそういう話かもしれん。

 

「さて、これでここまでの妹価チャートはおしまいですわ。続きももちろんありますが、現状は手づまり感がありますの。メスガキちゃんとしては今後わたくしはどうしたほうがよいと思います?」

 

 それをわたしに聞くか。

 淫猫の主張としては、わたしを手に入れるためにどうしたらいいかという話だよな。

 えーっと。淫猫視点で見れば、わたしはお姉ちゃんのことを手に入れたがってる狼に見えるか、あるいは家族愛を求めている素村っぽくも見えるってことだよな。

 

 このあたりは、狂信者であるお兄ちゃんたちですら判別がついてないことだから、猫である恵子ではどうあがいても明らかにならないところだと思う。

 

「その前に聞きたいんだけど、淫猫お姉ちゃんの最終目標ってなんなの?」

 

「そうですわね」

 

 淫猫は少し考える仕草をする。

 ドキドキするなぁ。わたしと合体したいとかだったら、ちょっと期待に応えられそうにない。

 だが、淫猫の回答は違った。

 

「わたくしとしては、妹の幸せが第一だと思っておりますのよ」

 

「じゃあ、結果として妹を手にいられなくてもいいってこと?」

 

「それはごめんこうむりたいですわね」

 

「だったらどうするつもり?」

 

「ふふ♡ 答えは決まっています。妹ちゃんに()()()()()()()のですわ」

 

 かくして、濃ゆーい一回目の淫猫フェスティバルは閉幕したのである。

 




本日二話目です。
そろそろ妹Ⅱへの勝ち方も要素そろってきた感じか?


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猫からの打診

――という話だったのさ。

 

 動画の再生が終わった。

 わたしが妹価を見せつけられた淫猫フェスティバルの様子は、お兄ちゃんたちに伝わった。

 それでみんなの感想は予想通り。

 

『バレてるやんけ』

『バレてるよな……』

『ちょっと小声だけど、イソラ言われているような』

『どこまでバレてるかが重要だよな』

『狼終了のお知らせ』

 

「いや、淫猫はとっさのことで言い間違っただけじゃない?」

 

 わたしは反論を試みた。

 あのときの違和感。

 すべては虚偽と真実が入り時混じった空間での出来事だ。

 実際に体験したわたしでないとわからないことも多いと思う。

 

『妹アニメ作らせるようなやつがか?』

『天才児の妹Ⅱが言い間違えるかぁ?』

『ギリギリ聞こえるか聞こえないかというのが逆にあやしいだろ』

『探偵というかエキストラ雇ってるようなヤツだぞ』

『これはもうバレてる前提で行動したほうがいい』

 

「うー、あの場はちょうど映画館みたいな感じだったんだよね。わたしと淫猫の距離は近くて、お豚さんたちがステージの下にいるような感じだったから、わたしと淫猫が何を話しているかは、たぶん知らなかったはず。そうだよね。カフェ・オレお兄ちゃん」

 

『なにか話してるなくらいしかわからなかったな。¥100』

 

「ほらね。だから、淫猫も油断してたんじゃない? なにしろ淫猫も小学生だし!」

 

『認めたくないんだなw』

『おまえも小学生だという事実を忘れるなw』

『妹バレしているとして、この配信はバレてんのかな』

『ヒモ姉スレッドのほうはどうなんだろうな』

『カフェオレみたいな特殊なやつがいない限りはそうそうバレないとは思うが』

 

「スゥ――、はぁ~~。やっぱりバレてると思う?」

 

 わたしはリアルでねこぐるみをギュっと抱きしめた。

 配信前からわたしが精神的にうちのめされていたのは、これバレてんじゃねと思ったからだ。

 しかし、いったいどこでバレたんだろう。

 いや、バレてるとしてどこまでバレている?

 わたしが異空であることはほぼバレ確定。

 わたしがブイやってることは不明。

 お姉ちゃんに欲情しちゃってることは?

 家族愛というカモフラージュがあるから、ここもまだ不確定部分があるはずだ。

 

『やっぱりメスガキのほうもバレたって思ってたw』

『配信前に力なかったのって敗北確信しちゃってたからか』

『これは雑魚狼さんですね』

『しかし、妹Ⅱの情報探査能力よ』

『いやでも、メスガキちゃんがイソラであることの証拠はないはずだ。¥1000』

 

「MSGK泣かし隊兄貴。スパチャありがとう。そうだよね。証拠はないはず」

 

『だが、ヒモ姉と生声をブレンドした例の声を聞かせちゃってるわけだよな。ということは、いずれバレるのは必至。あの場では証拠はなかったかもしれんが、ちょっと調べりゃすぐわかるんだから。¥100』

 

「そうだよね~~はぁ……失敗した」

 

 わかりやすくわたしが落ちこんでいると、さらにスパチャが投げられた。

 

『手を止めるな。おまえの手はなんのためについている。勝利をつかむためだろうが。なぜバレたのか。いつバレたのか。バレたとしてどこまでバレてるのか。このあたりを議論すべきじゃないか? ¥100』

 

 やはり、MSGK泣かし隊の兄貴はかっこいい。

 

『私は、妹Ⅱちゃんが本音を語ったのかに焦点を当てるべきだと思うわ。あのときイソラちゃんだとバレていたとすれば、それを知りながら妹アニメを見せたのかしら。¥500』

 

「おねロリのお姉ちゃん。ありがと♡ そうだよね。そこも大事かな」

 

『淫猫ちゃんがお姉ちゃんと呼ばれたい理由がわかる気がするわ♥ ¥30000』

 

『お姉ちゃん呼び一回三万円www』

『ついにおねロリのおねがお兄さん呼びじゃなくなったw』

『え、おねロリのおねっておっさんじゃねーの?』

『まあそこはわりとどうでもいいw』

『なんで妹バレたかってそりゃ妹Ⅱをなめすぎた結果なのでは?』

『バレ要素はわりと多いような気がするなぁ』

 

「盤面を整理するよ」

 

 わたしは元気な声を出すように努める。

 

『お、オレの役割が……』

『悲報、盤面整理兄貴、仕事を奪われる』

『盤面整理というか議論の焦点だな』

『この配信も観察されているとしたら勝ち目なさげ』

『メスガキのはメンバー登録しただけで簡単に見れるプレミアム配信だからな』

 

「じゃあ、まず何を議論するかについてだけど、わたしがイソラバレしたのはどうしてかな」

 

『そりゃメスガキちゃんが目立ちすぎたからじゃね?』

『妹Ⅱのノーマル配信の時から探り入れてたんちゃうか』

『素のときのイソラと同じ口調』

『メスガキの家族構成が現実と同じ』

『メスガキとメスガキの仲間たちの暗躍』

『メスガキスキーとかわからせとか、それにまつわるスパチャが多かった』

『妹Ⅱのメンバー試験で、メスガキのアバターがイソラと同じ配色だった』

『抑えきれぬメスガキ臭』

 

「ま、まあ……考えてみれば、いろいろと尻尾出してたよね」

 

 小学生だと思って油断してた面は否定できない。

 

『どうせメスガキもバレてもいいさって考えてたんだろ』

『淫猫お姉ちゃんのことも好きになりたくて、ついつい素がでちゃうんだよな』

『酔ってるヒモ姉が酔ってないって言うくらい確定的に明らか』

『かわいいね♥ メスガキ♥』

『もうさぁ。淫猫お姉ちゃんにごめんなさいして食われちゃえば?』

『狼が喰われるとかwwww』

 

 お兄ちゃんたちが好き勝手言ってるが、わたしは負ける気はないぞ。

 

「これさぁ。いつバレたのかって話だよね。要素を積み上げていって徐々にって感じかな。メンバー試験前にはもうバレてたのかな」

 

『その時点ではメスガキはモブだろ?』

『高額スパチャを投げた点って、メスガキが妹ちゃんだという要素からは真逆』

『赤スパ五万円を投げるのは小学生では難しそうではあるはずなんだが……』

『妹Ⅱはメスガキの口座とかも調べているんだろうか』

『リアル方面で、そこまで探知されていたらもう無理よw』

 

「あー、赤スパしてもわたしだと思っていたことになると、連鎖的にブイしてるってことも知ってた可能性が高くなるのかもね。ちなみに、妹Ⅱはわたしの口座とかは調べてないと思うよ。プライバシーを侵害するようなお部屋の中の盗撮とかはなかったし」

 

 エキストラさんたちも公道での出来事だ。

 その理由もわたしがあまりにもかわいすぎて護衛しなきゃってことらしいし。

 たぶん、わたしのことを調べるにしろ、家族としてのライン越えはしてないように思う。

 

『妹Ⅱに対する信頼が熱い』

『言うて護衛つき小学生……』

『ブイバレについては五分五分くらいじゃないか』

『五割も確率あったら激熱なんだよなぁ』

『レバブルしてるくらい超激熱だと思うが』

『ブイバレについては、メスガキにまつわるオレらが出張ってきたのが裏目ったか』

『メスガキで検索したら、メスガキ・イソラにもぶち当たりそうかな。¥100』

 

「そうかもね。それくらいはしそう……」

 

 今になって思えば、もともとあるサブ垢『メスガキちゃん』ではなくて、他のサブ垢を作るべきだったかもしれない。後の祭りだが。

 

「じゃあ、いずれブイバレもするとしようか。そうだとしたら、わたしはどうしたらいい?」

 

『ブイバレしてたら、次に懸念すべきはこの配信がバレないかじゃないか?』

『淫猫のほうはメスガキ側がイソラバレを悟っているのを知らない可能性もある』

『淫猫みたいにメンバー登録を絞ったほうがよさげ』

『メンバー登録者には宝珠淫猫はいないんだよな?』

『ややこしいな。ひとつひとつ整理していけ』

『ば、盤面整理させて。¥1000』

 

「盤面整理兄貴。じゃあ、よろしくお願いします」

 

『ヨシ。じゃあ盤面整理するぞ!! ¥3000』

『よかったな。盤面整理w』

『まあ、盤面というかルートどりが難しくなってきてるからな』

『言うて、全バレしてたら意味はないが……』

『まあ、がんばれw』

 

 水を得た魚とはこのこと♡

 コメントからいそいそとした様子が伝わってくる。

 

『まず、メンバー登録者に宝珠淫猫はいないんだよな? ¥100』

 

「いないよ。メンバー登録者に淫猫はいないね」

 

『では、次に淫猫がサブ垢を作るような性格かということだが、これはどうだ? ¥100』

 

「たぶん、しないんじゃないかな。淫猫は確信犯と言ったらいいか、自分が正しいと考えているタイプだから、嘘をつくような子じゃないし、詐術を用いたりもしないと思う。そりゃサブ垢くらいは持ってるかもしれないけど」

 

『ここまでで、盤面整理できたことは、淫猫はメスガキのお姉ちゃん配信を見ているわけではないということだ。豚たちがまぎれこんでいる可能性もあるが、あっちのメンバーは少ないんだろ? ¥100』

 

「少なかったね。あの場でざっとカウントした感じだと76名だと思う。わたしも入れて77」

 

『メスガキ。おまえ数えてたのかよ』

『薄暗いVR空間でよく数えてたな』

『壇上から見下ろしてたとはいえ、すさまじすぎる』

『あ、でも動画で保存してたら後から数えることもできるか』

『77名だと、こっちに豚がいるかいないかは微妙な数字だなぁ』

『淫猫は浮気に厳しいんかな?』

『浮気に厳しいのはメスガキのほうだろw』

 

「わたしが嫉妬深いのはほっとけ♡ でもまあ、淫猫のほうはそんなに嫉妬深くはなさそうかな。女王様ってことで、お豚さんたちが勝手に浮気を戒めてる感じはするけど」

 

 わたしみたいにゆるーい感じではなくて、わざわざ位階とかも作ってるくらいだからな。

 なんか、アイドルに対するプチ宗教観と同じで、全体的にヤバい雰囲気があった。

 

『オレ氏がもらった豚の十戒には、浮気は厳禁ってあるわw ¥1000』

『オレ氏www』

『これ最終的に、メスガキと淫猫の両方に浮気を責められるパティーンw』

『姉妹百合の間に、カフェオレ氏挟まってんのかよ。これはケジメだな』

『なるほど豚の統制力が強いのが仇になってるのか』

『淫猫の思想だと、豚たちは判断材料にしかなってないんよ。あくまでブレインは自分ひとり』

『豚はいなさそうかなぁ。いたとしたらそいつ狐と同じポジなわけだろ?』

『豚狐がいたら、あの場でメスガキ断罪されてたんじゃね?』

『まあそうだよな。というか、その場合は既にゲーム終了』

 

「豚さんはいないだろうね。たぶんだけど」

 

 そうだったら、既にわたしがお姉ちゃん好き好き状態なのがバレて……。

 えっと、どうなるんだ。だからどうしたって感じになるんだろうか。

 

『盤面整理を続けよう。この配信に豚はいない。そう仮定する。つまり、メスガキのブイバレはしてるかもしれんが、狼だとはバレていないということになる。その場合、猫である妹Ⅱは、自分がメスガキちゃん=イソラだと知ってることを秘しておきたいか。¥100』

 

「これについては秘密にしておきたいんじゃないかな。だって、妹の気持ちが知りたいからって、わざわざお豚さんたちを集めたんでしょ? わたしに直接聞けばいいのにしなかったのは、わたしも防御するからで、わたしの情報を集めてることは伏せておきたいはず」

 

『それなー』

『妹Ⅱはメスガキがヒモ姉に欲情しているかどうかを確定させたいんじゃないか。¥100』

『ヒモ姉と切り離していきたいとか考えてたら、そうなるのかな』

『切り離すとかじゃなくて、メスガキの中のヒモ姉の重要度によって戦略を変える感じかも』

『高度な柔軟性をもって臨機応変に対処する』

『妹Ⅱは頭良すぎて、戦略家気質なんだろうよ』

『どっちも難しく考えすぎなんだよな。もうガバっと抱き着いてチューしろよ』

『小学生に小学生を襲わせるのは教唆行為でNG』

 

「猫としては狼がどこにいるかは知っておきたいよね。その要素取りはまだ続いてると思う」

 

『猫はメスガキが狼だろうがそうでなかろうがかまわず食っちまいそうだが』

『人狼で考えると、わけわからんくなる。だったらおまえがヒモ姉喰って終わりだろw』

『妹Ⅱが猫だと確定した時点で、狼勝利確定なのでは?』

『でも、人狼ゲームと違って、ヒモ姉は現時点で狼に食べられないスーパー村人だからなw』

『スーパー村人、なにそれ新しいw』

 

「現実という話をすると、夜時間がくるまで――つまり、わたしが大人になるまではお姉ちゃんは食べられないよ。それは前から変わってない。問題はそこに至るまでに、猫の横やりが入るかもしれないってこと」

 

『そういやそうだったな』

『モラトリアムの時間か』

『案外、今の状況も人狼ゲームしてたんだな』

『だったら、前みたく、猫だったら吊られに行くって可能性もあるんかねえ』

『猫ルーか。その線ってまだ残ってたんだな』

 

「吊られに行く――。それは淫猫がヒモ家から出ることを意味する。その際に、宝珠家の力を使って、お姉ちゃんを道連れにする。つまり、宝珠家のヒモにするというのは考えられるかもね」

 

『頭ン中こんがらがる』

『でもさー。猫としての本懐は、メスガキに喰われることだろ』

『選んでほしい言うてたからなぁ』

『吊られて猫ルー作戦は、ヒモ姉が酒におぼれるから棄却されましたw』

『そういや人狼に酔っ払いという状態もあったよなw』

 

 いま、恵子がどう思っているかは知らないけど、鳳寿院に紐づけようとする流れは一旦止まっている。お姉ちゃんのナイスプレイによって、猫ルーの可能性は低くなった。と、思いたい。

 

『しかし、イソラバレをこちらに伏せておきたいんなら、どうしてわざわざ「イソラちゃん」とか言ったんだろうな。あれって意図的な失言じゃないか。¥1000』

 

「MSGK泣かし隊のお兄ちゃんの言う通り、ほとんどCOなんだよね」

 

『ん-。あーそうか』

『妹ちゃんがきてくれてうれしいってなってガチで失言したとか?』

『ここまでのレベルのプレイヤーが失言とかするかなぁ』

『やはり、そこが違和感の元か』

『だったら、イソラバレをこちらが知っていること上等ってこと?』

 

「猫が裸での殴り合いを希望なら応じるよ。でもあのときぽつりとつぶやいただけだし、正直よくわかんないんだよね。あ、バレたかなって一瞬思ったけど、もしかしたら違うかもしれないし」

 

『真偽不明で偽装するのが高等テクニックなんよ』

『淫猫としては猫バレしたって思ってるだろうから、実は焦ってるんじゃないか。¥100』

『そうかぁ? だったら、あの余裕たっぷりな態度はなんなんだよ』

『余裕な態度は、猫のスタイル』

『盤面整理兄貴。しっかりしてくれ。議論がちっともまとまってないぞ』

 

 わたしにも迷いがあるからな。

 盤面整理兄貴が整えた場を乱してしまった。

 

『すまんな。盤面整理を改めてしっかりしてみよう。淫猫はメスガキちゃんをイソラだと思っている可能性は高い。そしてその点を伏せておきたいかは微妙。淫猫のイソラ発言を最大限考慮すると、おそらく伏せておかなくてもよいと思っている。これは逆に言えば、淫猫は自分が猫だとバレてもかまわないと思っているということを指す。¥1000』

 

「そうなるね」

 

 たっぷりナレーションで解説されたからな。

 わたくしは猫ですってCOしまくっていた。

 あれで猫じゃなければ、なにが猫だよって話になる。

 

『次に考えるべきは、イソラ発言の時に、ブイバレをしていたかどうか。証拠がなくても確信をしていたかについてだが、この点は、淫猫の普通配信のときの行動がどう見られているかによる。メスガキスキーやわからせマンの発言。ついでに言えば、「わおーん」のログを拾えば、なんらかのつながりが看破されたとみるべきか。¥100』

 

「わおーんは迂闊だったかもね。メンバー試験のときにはブイバレとは言わないまでも、わたしの関係者としてお兄ちゃんたちの存在は知られたかな」

 

『ここで猫の基本戦略を今一度考えてみると、まずヒモ姉がアル中になっちゃうから自分が吊られて猫ルーというのはない。だったら、狼に噛まれたいということになるが、猫だとバレれば普通は噛まれない。だからこれもありえない。ウーム。盤面整理してみてもよくわからんな……』

 

「盤面整理乙でした♡ そこまでで十分だよ。で……、妹Ⅱの戦略なんだけど、たぶん――」

 

――画面の端にポップアップ。

 

 メスガキちゃんアカウントのほうからDMが入った。

 

 それを開けて、わたしは確信する。

 

 やっぱり、淫猫は。いや、恵子はまだわたしが狼だと確信していない。

 恵子の戦略は、自分が猫であるとCOすることで、噛み筋から狼か否かを見極めることにある。

 

 猫は自分が猫だとバレても特に問題がない役職だ。もちろん、伏せておくに越したことはないが、猫だと分かった瞬間に、村人側からは吊られることはほとんどなくなる。

 

 要するに――、恵子が自分のことを猫だとお姉ちゃんに伝えたところで、それは恵子を追い出す要因にはなりえない。もう家族だからというのもあるけれど、猫は()()()()()()()()()()()()()()()()からだ! 小学生だし。女子だし。自分からはわたしを傷つけないとでもいえば、その点は通るだろう。

 

 猫はここにいる。それでお姉ちゃんは自身は村人であることを知っている。

 だったら狼はどこにという話になって、消去法的にわたし狼が確定してしまう。

 つまり、恵子はお姉ちゃんにわたしの想いを伝えてしまえばいい。

 いや、伝えてほしくなければ、()()()()()という戦略がとれることになる。

 恵子はお姉ちゃんを人質にして、わたしに噛むよう促しているんだ。

 

――メスガキ・イソラというブイチューバーをご存じありませんか?

 

 DMにはそう書かれていた。

 

 

 

 ※

 

 

 

「あー、お兄ちゃんたち。いま淫猫のほうからメスガキちゃんアカウントにDMがきたよ」

 

 わたしはメッセージを読み上げる。

 

 拝啓。メスガキちゃん様。

 メスガキ・イソラというブイチューバーをご存じありませんか?

 いいえ、わずらわしい迂遠な言葉は排しましょう。

 あなたはメスガキ・イソラちゃんではありませんか?

 もしそうでしたら、わたくしとコラボ配信をしませんか。

 議題はそう、お姉様についてなんていかがでしょう。

 お姉様の今後のこと。家族の在り方。わたくしの家の力をどうするか。

 語るべきことはいろいろとありますし、そろそろ決着しておくべき時間でしょう。

 あなたにとっても有意義だと思いますよ。

 色よいお返事をお待ちしております。草々。

 

『は、マジ?』

『やっぱブイバレしてたんか』

『どうするんだ。メスガキ』

『このコラボ配信は絶対に百億パーセント罠』

『すっとぼけるのはどうだろう』

『もう絶対確信されているじゃん。投了だ投了』

 

「コラボを受けるかどうかの前に、淫猫の戦略について思いついた点を述べておくね」

 

 わたしはついさっき思いついた淫猫の戦略を伝えた。

 現実と人狼がリンクしていてわかりづらいけど、わたしのクリティカルポイントはいつでもお姉ちゃんだからな。お姉ちゃんを人質にとられたら確実に負けてしまう。でも、勝ちの目が消えてないのは、わたしが狼だという点についてはまだ疑いが残っているということだ。

 

 もし、わたしが狼――つまり、お姉ちゃんのことを性的に食べたい小学生妹だと知っていたら、恵子は部屋の前でベル鳴らして、わたしは直接選択を迫られていただろうから。

 

『なるほどねぇ……完璧に理解した(理解できていない)』

『投票の時間が近づいてきているのか』

『コラボ配信で家族について語るってなんなんwww』

『いやまあ、ここでも同じようなことしてるから、いまさらではあるが』

『オレ氏、まさか淫猫様の件からここまで大事になるとは思わず困惑。¥1000』

『オレ氏は裏切り者として、晒し豚になる可能性大よw』

『バブぅ(メスガキたすけて)¥100』

 

「カフェ・オレお兄ちゃんはおとなしくしておけば大丈夫じゃないかな」

 

 こう言っちゃなんだけど、恵子はお豚さんたちのことをパートナーとは考えてないように思う。

 眼中にないというか、データ取りのためのサンプルでしかない。

 お豚さんたちに、どこまで事情を説明するかはわからないけど、わたしみたいに逐一報告と連絡と相談をしているかというと、そういうわけではないと思う。つまり、お豚さんたちはお兄ちゃんたちよりもずっと盤外の存在だ。

 

「さて、それで――このコラボだけど狼としては受けざるをえないよね」

 

『おお、受けるのか……』

『マジでどうなるんだ。いったい』

『そのコラボ配信で肝心のヒモ姉呼ばれなさそうでかわいそうw』

『最近のヒモ姉は自粛状態で、スレのほうにも顔出ししてないよw』

『やっぱ、ヒモ姉が一番かわいいわ』

 

「お姉ちゃんは誰にもやらないよ♡」

 

『いまのうちに自分の非狼要素と狼要素を洗い出してたほうがいいぞ。¥100』

『メスガキがノコノコ猫の配信に遠征したのは狼要素だよな』

『ニューお姉ちゃんのことが好きで、配信で見つけたーって線もなくはないから』

『いままでの経緯からすると、ヒモ姉ラブなところは完全に透けてると思うが……』

『しかし、欲情してるってのはさすがにバレることはないだろう』

『裸で抱き着いていかない限りはなww』

 

「コラボではどうなれば最高かな?」

 

 自分の勝利条件を洗っておく。

 まず、わたしはお姉ちゃんが好き。いつもここから始まる。

 そして、そのためには、わたしがお姉ちゃんのことを好きなことは猫にバレてはいけない。

 さらには、お姉ちゃんをヒモにする今の状態を維持。

 鳳寿院家の介入を防ぐ。

 恵子にはただの家族として、夜時間になるまでやきもきしてもらおう。

 

「ちょっと、淫猫には期待させるのがいいのかもね?」

 

『お姉ちゃんとして慕うってことをか?』

『姉妹百合してもいいかなぁって感じの態度をとるってこと?』

『それはそれで危険な気もする』

『狼の勝ち筋を残しているのが、ちょっと猫の策略っぽい気もするんだよなぁ。¥100』

『だったら部屋のベルを押さないのもわざとか? なんのために』

『だって、さでずむの女王じゃん。¥100』

 

「さでずむ、ねぇ……」

 

 恵子は我が強いところがあるのは確かだが、嗜虐趣味はないように思う。

 キュートアグレッションとか、いろいろ言っているが、その本質は――。

 異質……。

 ほんのちょっとの違和感。

 

 人狼ゲームでレベルが上がってくると、ほんの些細なズレに気づく瞬間がある。

 お兄ちゃんからもらったなにげないスパチャが、わたしの中で萌芽となった。

 

――猫を降すための一撃の。




みんな丸太は持ったな!! 行くぞぉ!!

(脳内ログなので整合性がなくても雰囲気で悟ってくださいの意)


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決戦前夜

 リアルでわたしがブイチューバーをやってることがバレたわけだが、驚くほどに私生活は静かだった。恵子はお姉ちゃんにわたしがブイチューバーをやってることを告げることもなく、それどころか、コラボ配信が決まったことすらも言わないままでいたからだ。

 

 王者の余裕ってやつか?

 

 この不安定さにはモヤモヤした気持ちが残るものの、もしもお姉ちゃんがコラボに参加とかいうことになれば、わたしは必死に防御するだろうから、お互いに何も得ることはない薄っぺらなコミュニケーションになるだろう。

 

 それはお互いに本意ではないってわけだな。

 

――とか思っていたら、部屋のベルが鳴った。

 

 部屋の前のモニターには恵子の姿が映っている。

 わたしの理論だと、恵子がわたしを物理的に襲うことはないから怖くはない。

 さていったいどんな話なのか。

 

「異空ちゃん。開けてくださいませ」

 

「どうしたの? 恵子お姉ちゃん」

 

「いくつか打ち合わせがしたくて。お姉様の前では不都合でしょう?」

 

「まあ、そうだね」

 

 そのまま恵子を迎え入れる。

 恵子はあちらこちらに視線をまわし、そわそわと嬉しそうだった。

 部屋の中央付近にあるソファに座るように促し、わたしもねこぐるみを抱っこしながら座る。

 ふう。柔らかくて落ち着く。

 

「あら、わたくしのあげた猫さんを大事にしてくださっているのですね。うれしいです」

 

「柔らかくて気に入ってるから」

 

 じーっとわたしを観察するような視線。

 なんだか、気まずいな。

 

「お茶でもだしたほうがいい?」

 

「いいえ、不要です。まず――、異空ちゃんには謝っておきたいことがあります。いままで異空ちゃんの私生活を覗き見るようなことをして申し訳ございませんでした」

 

 綺麗な所作で頭を下げる恵子。

 

「趣味は人それぞれだし、べつにいいよ」

 

 わたしもお姉ちゃんも同じようなことをしてきたからな。

 まあ、恵子の場合は、妹アニメ作るためっていうのが大きな理由だろうけど。

 

「これからは一切盗撮の類はいたしません。鳳寿院の名に賭けて誓いますわ」

 

「お豚さんたちはいいの?」

 

 元になる動画がなければ、説明しにくくなると思うけど。

 

「かまいませんわ。お豚さんたちはわたくしにとっては感覚器のようなもの。あくまでブレインはわたくしなのですから。それにもはや誰かに説明しなければならないこともないでしょう」

 

「ふぅん」

 

 やはり、お兄ちゃんたちとの関係よりも、ずっと薄いな。

 仲間を求めるわたしと、部下を求める恵子との違いか。

 

「それで話ってなに?」

 

「これを異空ちゃんに渡したくて」

 

 恵子が見せたのは、恵子の部屋の合鍵だった。

 黒い色をした少し大きめの鍵で、先端の逆にはハートマークがついている。

 これでいつでも襲ってこいとそう言ってるつもりだろうか。

 

――猫の挑戦状?

 

 狼が猫を襲えば、猫にとっては勝利も同然だからな。

 受け取らないという選択肢も当然あった。

 けれど、結局のところ、わたしは少し迷ってから合鍵を受け取った。

 恵子がほっとしているように見える。

 わたしも家族としての絆を捨てるのは本意ではない。

 

「受け取ってくださらないかと思っていましたわ」

 

「恵子お姉ちゃんも家族だと思っているから」

 

「そうですか……」

 

 ひと呼吸。

 遅延。

 その遅延こそが知性のきらめき。

 

「異空ちゃん、わたくしは異空ちゃんのことが好きです」

 

 流星のように言葉がわたしに降りそそぐ。

 

「うん、知ってる」

 

「それは家族以上の意味です。大好きですよ異空ちゃん」

 

 恵子の口から直接COが聞けた。ちょっとだけ顔が熱くなってくる。

 どちらかと言えば、素直クール系の恵子である。

 氷の女王から熱い言葉を聞くと、その熱が伝わってくるみたいだ。

 

――それはまぎれもない本音だった。

 

 わたしもお姉ちゃんのことが好きって言いたいけれど言えない。

 そういう状況だというのもあるけれど。性分というのもあるだろう。

 恵子が明け透けに本音を語れることが少し羨ましかった。

 

「わたしにお姉ちゃんって呼ばれたいだけじゃないんだね」

 

「そうですわね。具体的には恋人のように、毎日毎朝毎晩、異空ちゃんにキスしてもらえたら嬉しいと思っていますわ。異空ちゃんがうなずいてくれるなら、わたくしは一生結婚しません。異空ちゃんに鳳寿院家のすべてをあげてもよいと思っていますわ」

 

「ありがとうね。でも――」

 

 ぬいぐるみみたいな扱いになりそうだな。

 べつに撫でられるのはいいよって言ってるけどさ。

 

「鳳寿院家の力は要らないかなぁ」

 

「異空ちゃんならそう言うと思っていましたわ」

 

 だから、お姉ちゃんをエサにわたしを釣り上げようとしたんだろうしな。

 お姉ちゃんが鳳寿院家のヒモになってしまったら、そのルートもありえた。

 

「お姉ちゃんも同じだと思うよ」

 

「でしょうね」

 

「お姉ちゃんを鳳寿院家のヒモにしない――むぐ」

 

 わたしの唇に恵子の指先が押しつけられた。

 それ、不法接触ですよ。猫のくせに。

 抗議の目を向けると、恵子は薄く微笑みながらそっと指先を離す。

 

「その点については、コラボ配信のときに話しましょう?」

 

「いいよ」

 

 どうせ、わたしのなかの結論は変わらないからな。

 配信という場で、わたしの動揺を誘っているんだろうが、そうはいかない。

 

「ねえ。異空ちゃん。あなたのメンバーに登録してもよいでしょうか?」

 

「それはダメ」

 

「そう……。でしたらコラボは()()()します? あなたが親しんでいらっしゃるお兄様方をお呼びしたほうがよいかしら?」

 

「恵子お姉ちゃんのメンバー配信にお兄ちゃんたちを呼ぶことはできないの?」

 

「ふふ♡ まるで専属的合意管轄の問題のようですわね。それでもよいとは思うのですが、わたくしとしては二人で新しいアカウントを立ち上げるというのはどうかとご提案いたしますわ」

 

 ふたり一組のブイチューバーか。

 コラボというよりは、むしろユニットだな。

 まあそれでもいい。

 

「それでいいよ。でも、スパチャとかは受けられなくなるね」

 

 スパチャが認められるには開設時間と再生数が必要になるからな。

 すべての発言がフラットになる。

 かなりのスピードで流れていくコメントをすべて見切ることはできないし、長い発言もカットされるから、わたしにとっては不利だ。

 でも、そこらへんが落としどころか。

 

 それからいくつかのリアル方面での打ち合わせをおこなった。

 コラボ配信は、わたしたちのメンバーに対して、それぞれチケットを配ることになる。

 

「それでは、異空ちゃん。コラボ楽しみにしてますわね」

 

「うん。わたしも楽しみにしてるよ」

 

「それから、わたくしのお部屋はいつでも開けてくださってもかまいません。異空ちゃんに対しては、わたくし、いつも扉の鍵は開けておきますわ」

 

「遠慮しとくね」

 

 壁紙一面にわたしの写真とか張られてたら怖いからな。

 いくらなんでもそこまではないと思うが、なんとなくありそうで怖い。

 

「ふふ。襲ったりはしませんよ。妹としてかわいがるだけですから」

 

 恵子は楽しそうに笑う。

 実際に楽しいのだろう。

 もはや隠すべき事項もなければ、自分の想いに恥ずべきところもないと考えているのだから。

 ただひたすらに、自分の気持ちに素直になれる。

 それが猫の自由さ。恵子の強さだった。

 

 

 

 ※

 

 

 

 最近、お姉ちゃんに逢ってない気がする。

 いや、実際には毎日顔を合わせてるんだけど、恵子のことにかかりきりだったからな。

 あくまで精神的な意味あいだ。

 決戦の前にお姉ちゃん成分を補充しとこう。兵站はやはり重要だよね。

 

「お姉ちゃぁん♡」

 

 部屋のベルを鳴らして、お姉ちゃんに呼びかける。

 

「どうしたの。こんな夜遅くに」

 

 ふわあと、大きなあくびひとつ。

 お姉ちゃんは妹たちの水面下での戦いに気づいていない。

 この戦いの推移によっては、お姉ちゃんがヒモ化するかどうか決まると思うが――。

 いまはちょうど凪のように状況は落ち着いている。

 だから、お姉ちゃんは精神的にちょっと油断しているようだった。

 わたしが着せたベビードールを着ていて、肩紐がずれていたりするクソエロい恰好。

 見ているだけで、目がさえてくるから不思議だ。

 どうしよう夜なのに♡

 

「今日はお姉ちゃんといっしょに寝たいな♡」

 

「え、いっしょに?」

 

「うん♡ だめかな?」

 

「ダメじゃないよ。おいで」

 

 お姉ちゃんのおっぱいに抱き着いていく。

 やっぱり、ねこぐるみよりずっとずっと柔らかい。

 この感触は甘くとろけてクセになるぅ♡

 

「どうしたの。今日はあまえんぼさんだね」

 

 ベッドに並んで腰かけて、お姉ちゃんは聞いた。

 

「怖い夢を見たの」

 

「怖い夢……あ、言わなくていい。言わなくていいからね」

 

 怖いのが苦手なお姉ちゃんである。

 

「お姉ちゃんがいなくなっちゃう夢だよ」

 

「あ、そうなんだ。よかった。怖い系統が違ってて……」

 

「お姉ちゃん、いなくならないでね」

 

「いなくならないよ。ずっと、いっしょだよ」

 

「むうううん♡」

 

 わたしは、お姉ちゃんに頭をすりつける。

 お姉ちゃん♡ お姉ちゃん♡ お姉ちゃん♡ お姉ちゃん♡ お姉ちゃん♡

 やっぱり、お姉ちゃんが好き。

 お姉ちゃんをヒモにしたい。

 

――いっしょに布団の中で眠りにつく。

 

 お姉ちゃんの顔がすぐ近くにあってわたしは安心する。

 怖い想像も悪い考えも全部吹き飛ばしてくれる。

 

 ふと思ったのは、スレッドの中に狐がいなかったこと。

 仮の存在だから、FOX3とでも名づけようか。

 実を言うと、わたしがFOX3として、妹と妹Ⅱがコラボしていることをお姉ちゃんに通達するという戦略も考えないではなかった。

 お姉ちゃんはこう見えて、案外行動力のあるところもある。

 わたしと恵子のコラボ配信の存在を知れば、もしかするとコラボ配信に参加してくれるかもしれない。

 

 しかし、そうなると不利になるのは十中八九わたしだ。

 わたしはお姉ちゃんをヒモにしたい悪い狼で、恵子は社会常識的には正しいことをしている。

 

 お姉ちゃんにとってもそうだ。

 お姉ちゃんは何度もヒモになりたくないって言ってて、わたしがしようとしていることはお姉ちゃんを傷つける。お姉ちゃんは天使だから、そんなわたしを赦してくれているけれど、いつまでもそんな関係が続くとは限らない。

 

――大人になれば。

 

 大人になったところで、わたしの想いが成就するんだろうか。

 

「最近……」お姉ちゃんが小さくささやいた。「なにかあったの?」

 

「え、どうして?」

 

「異空ちゃんも恵子ちゃんもあんまり私をヒモにするって言わなくなったから」

 

「ごめんねお姉ちゃん。わたし恵子お姉ちゃんにお姉ちゃんがとられると思って」

 

「いいんだよ。お姉ちゃんは異空ちゃんが傷つかなければそれでいいんだぁ」

 

 わたしはたまらなくなって、お姉ちゃんの胸元でもぞもぞした。

 

「んんっ。くすぐったいかも」

 

 かぷっ。あむあむ。

 わたしはお姉ちゃんを甘噛みした。

 

「恵子お姉ちゃんは、たぶんお姉ちゃんをヒモにする気はないよ」

 

「え、それってどういう?」

 

――だから、お姉ちゃんが恵子を選べば。

 

 お姉ちゃんは勝てる。

 自分で不利になることを言う雑魚狼な自分にビックリだ。

 でも、わたしはスッキリとした気分だった。

 お姉ちゃんに嘘をつきたくない。

 

「おやすみなさい」

 

 わたしは夢の世界に逃げこんだ。

 

 

 

 ※

 

 

 

 ×月××日

 

 

 

 やはり、異空ちゃんはブイチューバーをしていましたわ。

 

 メンバー配信ではなにやらアヤシイことをしているみたいですけれども、わたくしがこっそりメンバーになって覗き見るというような野暮なことはいたしません。おそらくお姉様に愛を寿(ことほ)いでるような内容なのでしょう。まるで狼の遠吠えのようです。けっしてお姉様には届かない。

 

 異空ちゃんはお姉様のことが好きなのでしょうね。

 

 その好きという意味もわたくしと同じ意味。

 

 そうでなければ、わざわざわたくしのメンバーになろうという意味がわかりません。

 

 異空ちゃんはわたくしのことを、家族として姉としては想ってくれているようですが、最初からずっとお姉様第一主義者でしたから。人は第一印象が九割と呼ばれるように、初日の行動こそがその人のひととなりを現わしていると思います。

 

 でしたら、さっさと最後通告を引き渡してしまえばよいと思われるかもしれません。

 

 わたくしが、異空ちゃんに選択を迫れば、異空ちゃんに逃げる術はありません。

 

 しかし、それはわたくしを選ぶというよりは、選ばざるを得ない状況を創り出してしまうとも言えます。それはあまりに無粋というもの。

 

 わたくしが欲しいのは、異空ちゃんの自由なこころであり、異空ちゃんそのものです。

 

 狼と猫。

 

 人外同士の戯れ。

 

 実に楽しい。この瞬間を味わいつくしたい。

 

 そして、異空ちゃんを絶望の淵に叩き落とし、その泣きはらした瞳を鑑賞しつくしたい。

 

 想像をするだけで、背中にゾクゾクとした享楽が駆け抜けます。

 

 度し難いほどに――さでずむ。

 

 

 

 ※

 

 

 

 と、そこまで書いた時。

 部屋のベルが鳴りました。こんな深夜の時間に一体だれが……。

 まさか、異空ちゃんでしょうか。

 チラリと考えたものの、冷静な頭は94パーセントの確率で異なる結果を導き出します。

 勝手に計算してしまう、この頭が恨めしい。

 果たして、わたくしの想像どおり、そこに立っていたのはお姉様でした。

 

「どうしたのですかお姉様。こんな夜更けに?」

 

「あのね。異空ちゃんが私の部屋で寝たいって言ってきて、いいよって私も伝えて……。それで、異空ちゃんが言ってたんだけど、恵子ちゃんはお姉ちゃんのことをヒモにはしないって」

 

 要領を得ない言葉を聞いていると、だいたいの事情は察せられました。

 どうやら、狼さんが自らの弱点をさらけだしているようです。

 

 おやおや……これはどうしたことでしょうか。

 お姉様をヒモにしたい異空ちゃんと、そうしたくないわたくしとでは、お姉様視点、どちらのほうが有利かおわかりにならないはずもないでしょうに。異空ちゃんは自ら弱点をさらけだしたことになります。

 

 しかし――、その矛盾こそが美しい。

 

「お姉様のお考えは正しいですよ」

 

「じゃあ、恵子ちゃんは()()なんだね」

 

「ふふ♡ 小学生に危険を感じるなんて、おかしな話ですよ」

 

「そうだけど……」

 

 お姉様は、異空ちゃんのことを脅威に思っているのでしょうか。

 いえ、おそらくお姉様の中にも相反する想いというものがあるのでしょう。

 異空ちゃんの想いに半ば気づきつつも、それを受け入れたいという気持ちと、そうしてはいけないという気持ちの両方をお持ちなのではないでしょうか。

 

 異空ちゃんの長年の努力が実を結ぼうとしているともいえるのかもしれませんですわね。

 

 お姉様も理解(わか)らせる必要があります。

 

「お姉様は、異空ちゃんがブイチューバーをやってることはご存じですよね?」

 

 いくつかのアーカイブにお姉様も出演していましたわ。天使の恰好をしていて、メスガキ・イソラちゃんがASMRするという内容でした。あれしてほしいと心底思ったものです。

 

「あ、うん」

 

「わたくしも、同じくブイチューバーをしております」

 

「へえ、そうなんだ。うちの小学生たちがすごい……」

 

「それで、わたくし異空ちゃんとコラボ配信することになりましたの」

 

「コラボ? 仲良しさんなんだね。いいなぁ」

 

「お姉様に選択権を与えます」

 

 わたくしは申し上げました。

 

 お姉様のアカウントにDMでコラボ参加のチケットを送っていいか。

 

 これは異空ちゃんにとっても迷いを晴らすチャンスになるでしょう。

 

 もちろん、モラトリアムを続けたいというのなら、それでもかまいません。

 

 異空ちゃんは今、夢の中でまどろんでいるのでしょうから。

 

 そうしたいのなら、いつまでもお付き合いいたします。

 

 

 

 

 お姉様の選択は――。

 

 

 

 

 



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猫との決戦

 いつもの小悪魔チックなメスガキではないわたし。

 

 恵子からの申し出を受けて、わたしは()()()()()()()()()()を使わせてもらうことにした。

 要するに、ファンシーでキラキラしていてお姫様チックな、現実のわたしに似ているアニメな感じのわたしを想像してもらえばいい。

 

 この容姿だとメスガキ度数は下がる。

 当たり前だよな。正直なところ、リアルなわたしはかわいすぎるんだ。

 かわいさは時として武器となるが、メスガキという属性は言ってみればサディスティックな側面を多く含んでいる。それがかわいさで中和されてしまう。

 

 わたしにとっては、ちょっぴり不利ではあるが、せっかくの初ユニット。そして、淫猫のクオリティはさすがプロが描いただけあって、メチャメチャ高いんだよな。わたしのメスガキな容貌も気に入っているが、ユニットなのにクオリティの差が出るのは、配信を見てくれるみんなに対して申し訳ない気がした。

 

――だいたい、お兄ちゃんたちはわたしたちの都合に巻きこまれている。

 

 であれば、わたしは配信者として、みんなを楽しませるというスタンスを崩したくはない。

 

 恵子特攻があるという面も考えたがな。

 決戦前夜に恵子のCOを聞いた限り、わたしの外貌に惹かれたらしいし。

 ただ、恵子もさでずむな女王であるから、この点は痛しかゆしといったところか。

 わたしをよりイジメたくなるのかもしれない。

 だから、このデータを渡したのかも。

 

 まあ、いいさ――。やることは変わらない。

 わたしのキャラはメスガキで押し通す。

 

――わたしは会場にダイブする。

 

 会場はコロシアムのようなVR空間で、これも恵子が用意したものだ。

 わたしが先にダイブすると、階段状になった周りは人であふれていた。

 75名のお豚さん(カフェオレお兄ちゃん除く)と、699名のお兄ちゃん達。

 みんな欠けることなく、わたしと恵子の配信を見に来てくれている。

 

 こんな奇跡はおそらくリアルでもめったに起こらないだろう。

 恵子は、まだ現れていないようだ。

 

「こんな小学生の配信見に来るなんて、みんなロリコンなのぉ♡ 雑魚お兄ちゃんたち♡」

 

『メスガキがメスガキじゃない、だと……』

『うお、メスガキちゃんが妹様だとは聞いていたが、すげぇ違和感あるぜ』

『生の声なんだな。かわええ……』

『リアル小学生なんだよな? 淫猫様もメスガキも』

『淫猫様が天才小学生すぎてより一層盲信いたします!』

『JCじゃなくてJSで株とか語るメスガキがいるらしい』

『予習で、イソラちゃんの配信いくつか見てきたけど、違和感ありまくりだな』

『魂はいってる妹様かわいい』

『オレ、妹様のファンになるわ』

『淫猫様にとってもたぶん、妹様ファンになるのはOKだと思われ』

『そもそもこの配信で何がなされるんだろう』

『淫猫様は何を想い、何を成すのか』

『カワヨ……』

『メスガキちゃんのファンたちもかなり多いなぁ』

 

 合成音声も聞こえるが、数が数だけにほとんどノイズとしてしか聞こえない。

 

 しかし、この点については対策済みだ。

 

 わたしの眼前には、いくつも小窓が現れては消えていく。

 恵子のVR空間にはメッセージが合成音声としても流れるが、コメントを表示する機能もある。

 その応用で、コメントをすぐ近くに表示することができる。

 半透明なウインドウが無数に表れる。まるで言葉のシールド。

 

 これは、現れては消える儚い泡沫のようなものだが、恵子に聞いたところ特殊な機能があった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。

 

 頼りになりそうなMSGK泣かし隊の兄貴。

 盤面整理が得意というより趣味な盤面整理兄貴。

 少し情けないけど水平思考が得意なカフェ・オレのお兄ちゃん。

 前は敵だったけど今では妹好きな狐のお兄ちゃん。

 時々鋭いことを言うわからせマン。

 ちょっとサドいが、ロジカルな思考の腹パン大魔王。

 嫉妬のことについてはなぜか熱い嫉妬マスク三世。

 ひたすらにわたしに優しいおねロリのお姉さん。

 初心者的ムーブで白く見られてしまうメスガキスキー。

 家族愛とかに敏感な萌えるお兄さん。

 えとせとら・えとせとら。

 

 でも、みんな志願してくれた。

 わたし利の発言をする狂人として。

 いや、正確には狼の声を聴ける聴狂人として。

 

「合言葉を言え♡」

 

『わおーん』

『なんぞ?』

『合言葉??』

『わおーん』

『わおーん』

『狼の遠吠えが聞こえる』

『なんでわおーん?』

『そういや、淫猫様の配信でも妹様わおーん言うてたような』

『わおーん』

『わおーん?』

『わおーん』

『なんかの符丁か?』

 

 わたしの発言をもとに、お兄ちゃん達のうち、志願者たちが合言葉を言ってくれる。

 それをもとに、わたしはコメント発言者を確認し、ピン止めしていく。

 わおーーーん!

 あ、これお豚さんだ。なんかノリで発言した人が混ざってるらしい。ぽいっちょ。

 

 そんなわけで、わたしの布陣は完成した。

 さぁ、かかってこい淫猫。わたしたちは負けないぞ。

 

 

 

 ※

 

 

 

「狂おしいほどにかわいらしいですわね。イソラちゃん」

 

 背後から突然声がした。聞き間違えることはない。

 振り返ると、そこには恵子が悠然と立っていた。

 あのときのメンバー配信とは違い、夜会ドレスのような恰好に着替えている。

 また、札束ビンタで創らせたのだろうか。

 衣擦れの音まで聞こえてきそうなリアルさ具合だ。

 金の力ってスゲェ……。いや、まあ、恵子が綺麗なのは否定しないけどね。

 

「五分遅刻だよ。淫猫お姉ちゃん」

 

「ふふ。かわいらしい抵抗を見せる妹に時間をあげただけです。ご準備はできましたか」

 

「わたしは上流階級じゃないんだからさ。時間にパンクチュアルなほうが好き」

 

「なるほど、覚えておきましょう」

 

 ビジネスシーンでは五分前行動が主流だが、上流階級では五分遅れ行動がメインだとか聞いたことがある。人と人が出会うときも、受け入れるだけの準備が必要だから、少し遅れて到着するというのが通例になっているらしい。知らんけど。

 

「さて――最初に申し上げておきますが、わたくしがこのコラボ配信を企画した理由は、イソラちゃんに完膚なきまでに敗北を味わわせるためです」

 

 わたしにとっての敗北条件は、お姉ちゃんへの恋心が知られてしまうこと。

 しかし、ここにはお姉ちゃんはいない。つまり理論上、わたしに敗北という二文字はない。

 

「とでも思ってそうなので、間違いを二つ訂正しましょう。まず、わたくしが切り崩したいのは、あなたがたお兄様と呼ばれる方々です。イソラちゃんはお兄様方を味方と思っているようですが、事がゲームではなく現実であるとしたらどうでしょうか。社会的に見て、常識的に見て、世間的に見て、誰が正しいのか。本当はわかっているはずなのです」

 

「それは淫猫お姉ちゃんがお兄ちゃん達のことを知らないだけだよ」

 

「いいでしょう。ですが、小学生であるあなたに手を出すような大人がいれば、通常は事案となることをお忘れなく……」

 

「自分だって、わたしを狙ってるくせにぃ♡ な~に言ってるのかな♡」

 

「わたくしはいいんですよ」

 

「なんで!?」

 

「わたくしも小学生ですから」

 

「むうう。それはズルい言い方だよ。都合がいい時だけ大人のふりして、都合が悪くなったら子どものふりをする。おかしいじゃん」

 

「はやく大人になりたいイソラちゃんは、そう思うでしょうね。ですが、いまこの時においては、わたくしの言葉こそが正しい。あなたの言葉こそがまちがっているのです」

 

「そんなの勝手に決めつけないでよ!」

 

 いまは昼時間。

 確かにわたしにとって時間は不利なまま。

 

『落ち着けメスガキ』

『猫の挑発にカンタンに乗っちゃいけない』

『オレ氏もそう思います』

『おまえはまず豚の恰好でそのセリフ言うのやめろよw』

『淫猫ちゃんが言う、もうひとつってなんなのかしら?』

 

 そうだ。おねロリのお姉さんが言うように、淫猫は二つの間違いを指摘した。

 わたしの思考を完全にトレースしている淫猫のことだ。

 なにかとんでもない秘策が用意されているに違いない。

 

「ふふ、二つめの間違いについて指摘させていただきましょうか」

 

 淫猫がツイっと指先を動かすと、突然地面が揺れ始めた。

 ゴゴゴとせりだすようにしてわたしのいた地面が丸く切り取られてあがっていく。

 そして、同じように淫猫の地面もあがった。

 みんなからは見上げる形になるが、恵子としては下に見られるのは嫌だということだろうか。

 

 そして三回目の揺れ。

 ちょうどわたしと淫猫の位置からは三角形を描くようにして、再び地面がせりあがっていく。

 

「お、お姉ちゃん?」

 

 そして地面から生まれるようにして現れたのはお姉ちゃんだった。

 わたしが描いた天使のキャラじゃない。現実のお姉ちゃんに似せたアニメキャラクター。

 いま、お姉ちゃんの身体は地面から生み出されたクリスタルのような結晶の中に埋まっている。

 手を軽く組み、祈るような姿勢。

 そして、目と口は堅く閉ざされている。動きもない。

 

――ブラフだ。

 

「お姉ちゃんの偶像を用意して、わたしがひるむとでも思った? 残念でした~♡」

 

 だいたい、お姉ちゃんを呼ぶくらいなら、最初から淫猫はリアルでわたしと交渉すればいい。

 お姉ちゃんに恋心を伝えられたくなければ、わたくしに従えってな。

 それに、そもそも――、お姉ちゃんは陰キャなんだよ!

 他人とコミュニケーションをとるのもエネルギーを消費するタイプ。

 だから、こんな大勢の場にわざわざ出てくるはずがない。

 

『メスガキ、これってヤバくないか?』

『ヒモ姉が目の前にいたらうまく反論できないのでは?』

『淫猫が前もってヒモ姉と交渉していた可能性もあるが……』

『メスガキはわりとパッション系だからなぁ』

『ヒモ姉が思考トレースできないパッション系の最たるものだということを考慮しろ』

 

「う、うーん……そうなの?」

 

 お兄ちゃんたちの言葉がブレーキになって、わたしは再考してみる。

 お姉ちゃんが突飛な行動をするタイプなのは知ってる。

 お姉ちゃんがスレッドをたてたのも、料理を作ったり、自分で起きたり、お酒を飲んでつぶれちゃうのも、わたしの想像を越えていた。

 だとしたら、お姉ちゃんがこの配信に参加している可能性もあるのか。

 お姉ちゃんがここにいたら、わたしはどう取り繕えばいい?

 

「ふふふ……。考えているようですわね。その知性のきらめきこそがわたくしの最も好きなところですわ。アレキサンドライトの瞳よりもずっと輝いています」

 

「悪趣味だよ」

 

「メスガキキャラが崩れちゃってますわね。もともと根が素直なイソラちゃんにメスガキキャラは無理があるのではなくて?」

 

「ほっといてよ。これがわたしのキャラなんだから」

 

「仮面をかぶるのは悪くありませんよ。わたくしもポーカーフェイスを嫌というほど学んできましたからね。では――さっそく始めましょうか」

 

――言葉の殴り合いを。

 

 家族会議という名の議論が始まる。

 

 恵子の目的は、わたしが自ら狼だと自白することにある。

 半ば確信はあるだろうが、わたしが自ら狼COすること、絶望を願っているのだろう。

 とんださでずむだが、そうすることで、ようやく恵子はわたしに選んでもらえると思っている。

 

 だから――、最初の議題は。

 

「お姉様をヒモにするという点について、イソラちゃんはどうお考えですか?」

 

「どうって?」

 

「本当にそれはお姉様のためにおこなわれているのでしょうか」

 

「何が言いたいの?」

 

「とぼけなくていいんですのよ。イソラちゃんはお姉様を手に入れたい。ですが、さすがに小学生では、お姉様と添い遂げるというのは無理筋。だから、今のうちに将来のために布石を打っておいたのでしょう? ヒモにして、イソラちゃんがいなければ生きていけないと、そう思わせるのが目的だったのではありませんか?」

 

「淫猫お姉ちゃんも盗撮していたなら知ってると思うけど、お姉ちゃんはひとりで生活できない系の女の子なの。家族はふたりきりになったんだから、できるわたしがやったらいいじゃん」

 

「なるほどそれは一理あります。わたくしもお姉様のヒモっぷりには少々こころを痛めましたわ。これでは社会復帰は絶望的かと思ったものです。ですが、わたくしが来たからには、お姉様のお世話を引き受ける必要はなくなったはずです。なぜ、時間割などを作り、お姉様のお世話を続けたのですか?」

 

「それがわたしの役割だからだよ」

 

「それは、お姉様のためではなく自分のためだったと認めるということですか」

 

「違う。だいたい淫猫お姉ちゃんも家族として定着したいって言ってたじゃん。わたしがお姉ちゃんをヒモにするのは、淫猫お姉ちゃんのためでもあったんだよ」

 

「あらあら、わたくしのことを考えてくださったのですね。お優しいこと。ですが、わたくしはお姉様をヒモにするのは初めから反対でしたわ。現時点でのお姉様の生活力から、すぐにヒモ状態を脱却するのは無理と判断しましたが、いずれは――そう、近い将来に自分のことぐらい自分でできるようになるべきだと思いましたし、いまもそう思っております」

 

「むぐぐ……」

 

『正論パンチかましてくる淫猫を腹パンしてぇ』

『しかし、これ勝てねーわ。分が悪すぎる』

『この配信で勝とうとするよりは、負けない方向で考えるべきかもな』

『メスガキもお姉ちゃんの偶像が見守ってる状況だと難しいな』

『そもそもサンドバック状態だからな。狼の防御感がでちゃってる』

『淫猫はメスガキラブCOしちゃってるし弱点なさげだしな』

 

「さて、イソラちゃんにまずはひとつ選んでいただきましょうか」

 

「な、なにを」

 

「認めなさい。あなたはお姉様をヒモにしたがってるでしょう。もしそうでないというのでしたら、今後、お姉様のお世話はわたくしがすべておこない、お姉様を真人間に矯正させます」

 

「だ、ダメ! それは……ダメ」

 

「でしたら、認めるのですね」

 

「認める……。でも、それは淫猫お姉ちゃんが最初に言ってたとおり、お姉ちゃんとわたしをつなぐ絆なんだよ。お姉ちゃんとわたしは血がつながってない。でも、家族になりたいって思ったから、お姉ちゃんのお世話をしたかったんだ」

 

「ふふ……なるほど、それはまた突き崩しがたい理由をあげてきましたね」

 

 この点に嘘はないからな。

 要は比重配分の問題。わたしの大部分はお姉ちゃん大好きって気持ちによるものだけど、ほんの数パーセントは家族愛も含まれる。

 

 わたし自身にだって正直よくわかんないグチャグチャした感情なんだ。

 他人の恵子にわかるはずがない。たとえ家族でも。

 

「まあいいでしょう。成分分析をかけるように、人のこころを分析するというのも無粋というもの。ですが、方向性としては、イソラちゃんはご自身のためにお姉様をヒモにしたいという点は認めるわけですわね」

 

「二度も確認しないでも、発言を覆したりはしないよ」

 

「でしたら、今後についてはどうなされるおつもりですか。自分のためにずっとお姉様をヒモにし続けておくのでしょうか。それはあまりにもお姉様がかわいそうではありませんか?」

 

「お姉ちゃんが卒業したら、自然と自立していくんじゃない? わたしは待ってるんだよ」

 

「そうですか。でしたら、お兄様方はどうお考えなのでしょうか? イソラちゃんの考えは結局のところ時間稼ぎのように思います。行きつく果ては、お姉様を完全にヒモにすること。それが正しいことだと思いますか。大人の判断をお聞かせください」

 

『家族間の出来事だからなというのはあるな……』

『オレ氏も外の意見は聞くべきだと言ったことあるが、フラットに見れば、ヒモ姉がかわいそうというのは考えないでもない。でも、ヒモ姉も頑張れよって気持ちもあって、あー、バブぅ』

『こんなときまでバブんな、おまえはw』

『淫猫はロック思考が強いな。ハッキリ言うが、おまえのヒモ姉に対する想いもただの感想だぞ』

 

 淫猫は、わたしのピン止めしたアカウントを、手元にコピーして読みこんでいるようだ。

 その不敵な笑みにゾクっとした。

 

「MSGK泣かし隊さんですか。わたくしのお姉様に対する評価が感想というのはそのとおりです。すぐにでもナイトになれそうなくらい優秀な方のようですわね。ですが――これでわかりましたでしょう。イソラちゃん」

 

「なにが?」

 

 ぞんざいな口調になるのは許してほしい。

 淫猫の思わせぶりな態度が悪いんだよ。腹パンしてぇ。

 

「結局のところ、彼等はイソラちゃんの()()()()()()()()()()ということです。家族の関係だからと一線を引いているでしょう? 所詮はリスナーなんですのよ。指先ひとつも触れたことのない方々に家族の問題を判断などできようはずもありません。つまりは、独り遊び(ソリティア)。あなたは耳心地のよいコメントを拾い、自己肯定しているにすぎないのです」

 

 イラ!

 お兄ちゃんたちを悪く言うとかなんなん。

 

「だったら、淫猫ちゃんは? お姉ちゃんを宝珠家のヒモにしようとしたよね。それってお姉ちゃんのこと思ってないよね?」

 

「そのとおりですわ」悪びれることなく淫猫は言った。「パターナリズム。わたくしは最初からそう申しあげております。お姉様の気持ちよりもお姉様の自立のほうが急務。小学生のヒモである異常状態よりはそちらのほうがよいに決まっているじゃないですか」

 

「それはまちがってるよ。わたしもお姉ちゃんをヒモにはしたいけど、少しはお姉ちゃんもヒモでいていいって思ってくれてると信じてる。でも、淫猫はそもそも他人が何を考えようが、どう行動しようが、どうでもいいんでしょ」

 

「ええ。もちろん」

 

「だから、まちがってるんだよ」

 

「まちがっていてもいいとも申し上げました。わたくしが客観的にみてまちがってるとしても、わたくしはわたくしの信じた道を突き進むのみです」

 

「だったら、お兄ちゃんたちの発言を聞いたのも、ただ論破したかっただけじゃん」

 

「ええ、そのとおり――。ですが、イソラちゃんのおっしゃることもまた想像の域をでませんね。お姉様が何をお考えなのかはお姉様しかわからないでしょう?」

 

「そりゃそうだけど……」

 

 でも、スレッドで、配信で、日々の生活で、わたしはお姉ちゃんの気持ちに少しでも近づく努力をした。その努力がすべて無駄だったなんて思いたくない。少なくとも恵子よりはお姉ちゃんの気持ちを知っている。

 

『メスガキの言ってることは正しいと思うがな』

『ヒモ姉はメスガキ保護のためにヒモになってもいい発言はしていたぞ』

『お豚さんたちが恐ろしいほど静かだな……』

『これが恐怖政治ってやつか』

『メスガキ。おまえは自分の道を信じつづけろ!』

 

 えへ♡ やっぱりお兄ちゃんたちは頼もしい。

 そうだよ。淫猫が言ってることなんて、それこそ口から出まかせにすぎない。

 お姉ちゃんの気持ちをわたしは信じる!

 

「そろそろ時間ですわね」

 

「時間……?」

 

 チラリとモニター端の時間を見てみる。

 配信開始から三十分。時間は夜の九時半になっていた。

 なにやら嫌な予感がして、わたしはお姉ちゃんのほうを仰ぎみた。

 

 お姉ちゃんがゆっくりと開く花弁のように瞳を開けた。

 

「イ ソ ラ ちゃん――?」

 

 唇からこぼれる声は、まぎれもなくお姉ちゃんのもの。

 心臓が早鐘を打つ。

 こんなの聞いてない。

 お姉ちゃんがヒモとかヒモじゃないとかはどうでもいい。

 わたしは負ける。

 今じゃなくても、すぐ後に必ず吊られる。吊られてしまう。

 

 開始から三十分。

 ズレた時間を告げられていたお姉ちゃんが配信に乱入した。

 

「さぁ。お姉様のお気持ちを聞きましょうか」

 

 絶望的な状況の中、後半戦が始まる。



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わからせられたのはどちらか

「イソラちゃん? ここ、いつもの配信とは違うね。た、高い……」

 

 配信にお姉ちゃんが乱入した。

 その可能性はほとんどないと思っていた。

 お姉ちゃんはわたしのメンバーじゃない。

 そして、恵子のメンバーでもない。

 この配信はプレミアム中のプレミアムで、メンバーにアクセス権を配っている。

 アクセス権というのは、セキュリティトークンのようなもの。わかりやすく言えば鍵だ。

 鍵を持ってさえいれば、メンバーでなくても参加はできる。

 わたしがお姉ちゃんに鍵を渡していない以上、渡したのは恵子ということになる。

 

 でも――、なぜという疑問が消えない。

 

 恵子の思想からすると、お姉ちゃんを参加させることはないと思っていた。

 だって、わたしにお姉ちゃんのことが好きだと自白させたいんだったら、お姉ちゃんがいたら不都合だから。でも、さでずむからすると、こんな盤面を破壊するようなこともやってしまえるのかもしれない。

 

「お姉様、時間通りいらしたのですわね。ここはわたくしとイソラちゃんの決戦の場です」

 

「決戦?」

 

「そう、わたくしとイソラちゃんのどちらが正しいかを決める場所。いえ、わたくしがイソラちゃんをわからせる場と言ったほうが正しいでしょうか」

 

「喧嘩しちゃだめだよ」

 

「喧嘩ではありませんよ。ただ家族の在り方を決めていくだけのことです」

 

 お姉ちゃんはどうにも私たちの話を理解していないようだ。

 わたしと恵子がコラボ配信をするくらいしか聞いていない?

 恵子が誘ったのは事実だろうが、どういう説明をしたんだろうか。

 

「お姉ちゃん。どうしてコラボに参加しようと思ったの?」

 

 わたしは聞いてみた。

 

「え、だって……、イソラちゃんのことが心配で」

 

「わたしのことが心配?」

 

「夜いっしょに寝ようって言ってきたでしょ。そのとき……えこ……淫猫ちゃんは私をヒモにしないって言ってたのが変だなって思ったから。淫猫ちゃんに聞いてみたの」

 

「そんな、理由で……」

 

 お姉ちゃんがコラボに参加したのは、()()()()()()だった。

 お姉ちゃんはコミュ障だけど、わたしが傷つくのがイヤなんだ。

 思い起こせば、スレ立ての動機も、ヒモになりそうってだけじゃなくて、わたしが何か危ないことをしてないのかが心配だったからだった。

 お姉ちゃんに想われてるのは嬉しい。

 でも、わたしはお姉ちゃんの気持ちを理解していなかった。

 そのことが苦しい。胸のあたりが押しつぶされそう。

 

「お姉ちゃん、ごめんなさい」

 

「え、なんでイソラちゃんが謝るの?」

 

「お姉様を蚊帳の外に置いたことを謝罪しているのですのよ」と淫猫は言う。「このコラボでは、お姉様をヒモにすべきか否かを議題に置いてました。それなのに、お姉様を呼ばないのは不誠実でしょう」

 

「う、ヒモについての話し合いをするの? こんな大勢の前で?」

 

「ええ、お姉様には判定役をやっていただきたいと思います。イソラちゃんはお姉様をヒモにしたい。わたくしはヒモにするのはまちがっているという立場です。お姉様はどちらが正しいとお思いでしょうか」

 

「え、えと、それは……」

 

 お姉ちゃんは突然のことに面食らっている。

 

「やめてよ。お姉ちゃんは関係ないでしょ!」

 

「関係あるではありませんか」

 

「違う! お姉ちゃんがヒモになるかどうかじゃなくて、わたしの気持ちが主題のはず」

 

 それくらいは淫猫もわかっているはずだ。

 

「主題? 主題とはなんですか? あなたの気持ちとはなんですか?」

 

「それは……わかってるくせに」

 

「でしたら、わたくしを選びなさいと、そう申し上げているのですよ」

 

「ヤダ!」

 

「あらあら……。では、もう少し戯れましょうか」

 

「いったいどういう状況なのぉ。小学生のネットリテラシー怖すぎるよぉ」

 

 お姉ちゃんが頭を抱えてしまった。

 

「お姉様にもわかりやすいように説明しましょう」

 

 淫猫は両の手をあわせて優美にほほ笑む。

 

 ゾクリ。

 嫌な予感は最高潮に達した。

 

「やめて!」

 

「イソラちゃんがお姉様をヒモにしたいのは幼い恋心がゆえです。ヒモにして依存心を高め、最終的にはお姉様をモノにしようと考えている狼の思考ですわ」

 

「こい……ごころ?」

 

 お姉ちゃんは怪訝な表情をしていた。

 

 思考が真っ白になる。

 恵子はわたしに選ばれたいがゆえに、お姉ちゃんを人質にしているものだと思っていた。

 その恵子がどうしてバラす。自分で人質を殺すようなものじゃないか。

 

『メスガキ止まるな。手を動かせ!』

 

 お兄ちゃんの言葉にハッとして、わたしは顔をあげた。

 

「家族愛だよ。さっきも言ったよね」

 

「家族愛自体は否定していませんよ。愛はすべてを包摂するものですからね。ですが、本当に家族愛だけでしたら、お姉様がいずれ自立することも認めるべきです。イソラちゃんほど頭がよければおわかりですよね?」

 

「わたし、まだ小学生だから……」

 

 わたしは視線を落とす。

 わたしが子どもだからというのは、最強の攻勢防御ではある。

 だが、そうするといずれはお姉ちゃんをヒモにするのをあきらめなければならない。

 大人になれば、という理由が崩壊する。

 

 お兄ちゃんたちのコメントが目に入る。

 

『小学生CO! って最初からバレてたか』

『いやまあ、淫猫の言うこともわかるんだが、えげつないわ』

『ヒモ姉のヒモ脱却自体は推奨されるべきではある』

『結局、メスガキが子どもだから、メスガキ保護しようって気持ち強いわ』

『でも、淫猫も小学生なんだよなぁ』

 

 そう、恵子も小学生だ。

 同じ小学生から、お姉ちゃんをヒモにするのをあきらめろと言われるのは、大人からそう指摘されるのとはわけが違う。

 

「あ、あの」と、お姉ちゃん。「イソラちゃんが私をヒモにしたいなら、私はそれでもいいよ」

 

「そうやってお姉様が甘やかすから、イソラちゃんがいつまでたっても大人になれないのです」

 

「え、でも、イソラちゃんはまだ小学生だよ。ゆっくり大人になっていけばいいと思うんだけど」

 

「わたくしも小学生です。小学生だからという甘えはよくないと思いますが」

 

「甘えてくれると私は嬉しいけどなぁ。ダメなお姉ちゃんだけどね」

 

「今の発言でわかりました。お姉様も半ばヒモになることを受け入れているのですわね」

 

「ち、違うよ! ちゃんと自立する努力はするつもり」

 

「なら、イソラちゃんを説得したらどうです? 自分をヒモにしないでほしい。自立するよう努力するから、助けてほしいとでも言えばいいじゃないですか」

 

「ううーん。でも、それはイソラちゃんを傷つけちゃうんだよね?」

 

 お姉ちゃんの視線がわたしに向いた。

 

「うん……、お姉ちゃんをお世話したいのは、わたしのワガママだよ。さっき言ったごめんなさいは、その意味も含んでる。でも、お姉ちゃんとは血のつながりがないから。代わりの絆がほしかったの」

 

「うん、わかっているよ。イソラちゃんはずっとずっと私の妹だよ」

 

「そうではありません」淫猫の横やり。「ワインに泥水を一滴混ぜるようなものなのですよ。家族愛を隠れ蓑に恋心を隠す。それがイソラちゃんの考えた戦略なのです。家族愛があるのは真でしょう。家族を失った幼子が唯一の家族にすがるのもあり得る話です。しかし、どちらが主成分か。お姉様、きちんとお考えください」

 

「えーっと、さっきから言ってるのってゲームか何かなのかな」

 

「ゲーム?」

 

「人狼ゲームとかそういうの……」

 

「人狼ゲームですか。確かにイソラちゃんがお姉様を狙う狼だとすれば、おもしろいことに付合していますわね。さながらお兄様たちは狂信者。そして、わたくしは……ふふ、猫ですか」

 

 あれ、これって……。

 恵子はヒモ姉スレッドを知らない?

 そうか、さすがにノーヒントからスレッドの存在を知るのは、天才児でもできなかったんだ。

 

――そして。

 

 お姉ちゃんがかつて一戦目を経験しているということも知らない!

 

『わおーん』

『わおーん』

『わおーんです』

『メスガキがんばれ』

 

 向こうにバレないようにDMを送ってくるお兄ちゃんもいる。

 

 淫猫が知らない情報がどう作用するか――。

 いやどう作用させるかが、わたしの盤面操作だ。

 

 

 

 ※

 

 

 

「さて、議論を続けましょう。お姉様はヒモになりたくないがイソラちゃんのためにヒモになってもいいと考えている。ここまでは合ってますわね?」

 

「う、うん。そうだけど」

 

「ですが、イソラちゃんはあなたに恋心を抱いている」

 

「違うと言ってるじゃない」と、わたしは言った。

 

「では、ここでわたくしも人狼ゲームにちなんでCOしましょう」

 

 下々を睥睨する淫猫。

 その視線は氷のように冷たい。

 淫猫は言った。

 

「猫又CO」

 

「え、猫ちゃん? ネコミミついてるけど、そういうこと?」

 

 お姉ちゃんが頓珍漢なことを言っている。

 でも、淫猫は不敵な表情を崩さない。

 

「違いますよ。お姉様は人狼ゲームのことをあまりよくお知りじゃないんですのね。猫という役職は狼に噛まれることで、狼を道連れにする村陣営のことです。わたくしは、イソラちゃんのことを家族以上に想っているのですわ」

 

「え、え、え?」

 

「イソラちゃんのことを愛しているのです。残念ながらイソラちゃんは家族以上には想ってくれていないようですが、それもまもなく変わるでしょう」

 

 どういう原理でだよ。

 

「淫猫ちゃんが、イソラちゃんのことを好き?」

 

「そうです。毎日髪を梳いてあげたい。キスしたい。抱きしめたい。ずっとずっと一緒にいたい。添い遂げたいと思っているのです」

 

 淫猫の言葉を止めることはできない。

 わたしがどんな言葉を投げかけたとしても、淫猫が言ってしまえばそれで終わり。

 もし止めることができるとすれば、恵子を選ぶという言葉だけ。

 そんなのはごめんだ。

 

 恵子は悠々と続ける。

 

「わかりませんか。お姉様。ここに()()()()()()()()()()()()()()()()という事例があるのです。でしたら、イソラちゃんがそうでないという保証はどこにもないでしょう。答えは簡単です。イソラちゃんもまたそうなのですよ。お姉様を愛していらっしゃるのです」

 

「淫猫ちゃんがそうだからって、わたしもそうだとは限らないでしょ。自分が特殊だからって、それを一般化しないでよ」

 

「弱い反論ですわね。でしたら、最初の問いに戻りますが、お姉様をヒモにするのをあきらめるのですか? 違うでしょう。あなたはそうしない。絶対にお姉様を噛むことをあきらめない」

 

「妹たちが何言ってるのかぜんぜんわからないよぉ」とお姉ちゃん。

 

 すでに精神的にボロボロだ。

 お姉ちゃんがアルコールにのまれないか心配だ。

 

『ヒモ姉カワイソス』

『胃痛役か。まあ残当』

『姉妹百合を愉しんでたのにどうしてこうなった!?』

『マジそれなw』

『しかし、盤面から言えば相当不利だな』

『オレ氏たちにできることはあるのか』

 

 十分助けてもらってるよ。

 

「お姉様に今一度問いかけますが、お姉様はヒモにはなりたくないのでしょう? いえ、このような遁辞は少々飽きました。ハッキリと言います。お姉様はイソラちゃんを妹以上に見れますか?」

 

「それはどうだろう……」

 

 むぐぐ。

 知ってたさ。今の時点のお姉ちゃんの気持ちは変わらない。

 

「そのような優柔不断なことだから、小学生妹のヒモになっているんですよ。大人ならば淡い恋心など切って捨ててしまいなさい。でなければ、お姉様はイソラちゃんを押し倒して責任をとりなさい。いまこの時点において、二つに一つですわよ」

 

『ヒモ姉が犯罪者になっちゃう!』

『いやその選択がありうるのならメスガキ勝利だが』

『淫猫は何がしたいんだ?』

『盤面整理をするスペースがないのが困りものだな』

『あえて言えば、メスガキが姉に迷惑かけたくなければ自分を選べって言ってるんじゃないか』

『ここまでされたら普通嫌うだろ』

『妹価大暴落じゃね? せっかくお姉ちゃんとしては見てもらえてたのにな』

 

 その点は奇妙ではある。

 どうして、恵子はここまでCOをした。

 お姉ちゃんにわたしの気持ちを伝えてしまえば――、わたしは敗北する。

 だけど、恵子もまた、わたしに嫌われるだろう。

 わたしに選んでほしくなかったのか。

 わたしと交渉するために、猫であることを隠していたんじゃないのか。

 さでずむがそうさせるのか。

 

 いや、違う。

 そうじゃない。

 もしも、恵子が()()考えを持っていて行動しているのなら、一貫している。

 

 わたしが思考を進めているさなか、お姉ちゃんも迷っていた。

 

「お姉様。悩んでいるのは本当はわかっているからですよね? イソラちゃんはお姉様を姉以上に見ている。そのことに気づいていらしたからこそ、お姉様はヒモでいることを選んでいるのです」

 

「ちょ、ちょっとだけタイム!」

 

 お姉ちゃんが変なことを言いだした。

 

「またモラトリアムの時間ですか。いいでしょう。わたくしも少々喋り疲れました。十分間ほど休憩をとりましょう」

 

 そして続ける。

 

「……それにしても、イソラちゃんには少々落胆いたしました。あなたはわたくしに有用な反論をなにひとつできなかった。お姉様という首根っこを捕まえているから当然と言えば当然なのですが、少しばかり骨のない狼さんでしたわね。せいぜいログの精査でもしておきなさいな」

 

 そう言って、淫猫の姿はかき消えた。ログアウトしたみたいだ。

 今に見てろ。わたしの最後の一撃をくらわしてやるからな。

 

 お姉ちゃんはたぶんあっちに行ってるんだろう。

 お姉ちゃんのことはお兄ちゃんたちに任せておけばいい。

 

 わたしができることは、ただひとつ。

 

 狼の()()だ。

 

 

 

 ※

 

 

 

 装備確認ヨシ!

 スケスケのベビードールに勝負パンツ。

 ひそかにお姉ちゃんとの夜を夢見て買っていた紐パンだ。

 残念ながら、わたしはまだブラジャーをつけるほど胸がないので上半身は下着同然のコレ一枚ということになる。

 おっと、忘れるところだった。

 恵子にもらったヘアピンを装備。

 お化粧はまだわたしには早いが、リップクリームくらいは塗っておくか。

 ここまで約30秒。

 

――出陣だ。

 

 もちろん、行き先は恵子の部屋だ。

 恵子自身から受け取った鍵を使って、強引に押し入る。

 ベルも鳴らさない。そんなのはもはや折り込み済みだ。

 恵子も百パーセントに近い確率で、わたしを待っている。

 

 最後の決戦を望んでいる。

 

「あら、お待ちしておりましたわ」

 

 恵子はベッドに横たわって、本当に休憩をしていた。

 少し疲れたというのは本当なのだろう。

 わたし視点無敵の巨人に見える恵子も、所詮は小学生の体力に過ぎない。

 上半身を起こしたままの恵子が、再び口を開く。

 

「それで、選ぶ決心はつきましたか。お姉様のことを考えるなら、わたくしを選ぶのが正しい選択です。誰にも迷惑はかからないでしょう」

 

 わたしは無言のまま、恵子につめよる。

 狼に会話は不要だ。

 ベッドに乗っかり、恵子の肩をつかんで、そのまま押し倒す。

 ちょうどお腹のあたりに両足で挟みこんで、マウントポジション完了。

 ここまで一切の抵抗はなかった。

 

 やはり――。

 

 猫。いや本質的な意味でのネコなのだろう。

 

「ねえ♡」わたしは聞く。恵子が望むように。「どうして負けようとしているのかな♡」

 

「なにを言っているかわかりませんね。それよりもわたくしを噛もうとしているのでしたら、お早目にどうぞ。なにしろ残り時間は七分と三十六秒ほどしかございませんので」

 

「違うでしょ♡ 恵子ちゃんはわたしに嫌われるのを望んでいたんだよ♡ おかしいと思ったんだ。誰だってそう思うよね。普通好きな人には好きって言ってもらいたい。だったら、お姉ちゃんにネタバラシして、わたしに嫌われるムーブをするのはどうしてってことになる♡」

 

「それは……、わたくしがイソラちゃんを飼い殺すためです……」

 

 顔が赤いぞ。どうしたぁ?

 

「だったら、どうして最初からお姉ちゃんに猫COしなかったんだよってことになる♡」

 

「コラボ前はまだイソラちゃんが狼だという確信がなくて」

 

「よく考えればさぁ。確信なんかなくてもいいんだよ。小学生女児が小学生女児を好きだと言っても犯罪にはならない。常識的にはちょっとだけマイナーかもしれないけどね。だから、コラボ配信前に猫COをしなかったのは、いやそれ以前にお姉ちゃんをコラボ配信に呼ぼうとすら最初してなかったのは、わたしの敵愾心を煽るためだったんだ」

 

「イソラちゃんに嫌われるなんて……わたくし耐えられそうにありませんわ」

 

「その点も恵子ちゃんはCOしているよね。愛するよりも愛されたい。嫌われても自分の在り方を変えることはできないって♡」

 

「パターナリズムです」

 

「いい加減認めたらぁ♡ 恵子ちゃんが望んでいる愛され方って嫌われたいってことだったんだよね?」

 

「ち、違います。そんな、変態チックな……」

 

 ハァハァと恵子の息が荒かった。

 まるで、エサを期待している――。

 わたしは上半身を覆いかぶせるようにして、恵子の耳元でささやく。

 

 そう、恵子の属性はこの一言に集約される。

 

「――メスブタ♡」

 

「ひゃう!」

 

 びくんと恵子の身体が跳ねた。

 

 そう、さでずむなんかじゃない。

 恵子はわたしに敗北させられ、わからせられることを望む――()()()()()だったんだ。

 百合乱暴的な場面では、ネコとタチがいて、ネコというのは組み伏せられるほうでもある。

 そんなことはまあどうでもいい。

 ともかく、恵子の様子から見ても間違いないだろう。

 正直、ここにいたるまで、まだ迷いもあった。

 

 誰が自分から嫌われるというマゾい行為をする?

 しかも、嫌われるといっても、わたしが気づかなければ本当に嫌われて距離とられて終わる。

 なんつう綱渡りな……。

 いや、でもそれが恵子の欲しいモノだったんだろう。

 

「メスブタのくせにずいぶんと生意気な口をきいてくれたよね♡」

 

「は、はい。ごめんなさい……ふひ」

 

 恵子の端正な顔が、お茶の間に見せたらいけない顔になっている。

 小学生女児がしていい顔じゃない。

 

「違うだろ。豚は豚らしく、ブヒって言えよ♡」

 

「ブヒ♡」

 

「キモ♡ わたしみたいな小さな女の子にイジメられるのが好きだなんて、本当生きてて恥ずかしくないの? 天国のパパさんに申し訳ないとか思わないの♡」

 

「わたくし、そういう性分なんですの。圧倒的強者からねじ伏せられることに下卑た快感を覚えてしまう……。どうしようもない性分(さが)なんですのよ」

 

「そのわりにわたしみたいな女の子が好きなんだね♡」

 

「わたくしの性分を満足させてくれる女の子はいままでいませんでしたわ」

 

「だから、さっきガッカリしてたんだ。わたしが負けそうだったから」

 

「そうです。イソラちゃん……いいえ、イソラ様。わたしを飼ってくださいませんか。豚のようにこき使っていただいてもかまいません」

 

「イソラ様はちょっと……」

 

 さすがに引くわぁ。

 

「だいたいさぁ。わたしがお姉ちゃんのこと好きなこと知ってるのに、よくそんなお願いが言えるよね♡ さっきまで負ける気なんてありませんって顔してたくせにさ」

 

「あつかましいお願いだとは思っております。あの……お姉様のことをどうなされるおつもりですか。わたくしがうまく誘導すれば、あるいは」

 

 ぺちん。

 ちょっぴり軽く頬を叩く。

 ぜんぜん痛くないへなちょこビンタだが、それでも恵子は身を震わせるほど快楽を得ていた。

 度し難い……。わたしよりも度し難い存在がいたとは、世の中って本当に不思議だ。

 わたしは与えられたロールに従って、続ける。

 

「メスブタのくせに生意気♡ あのまま行っても、わたしは勝ってたよ♡」

 

「お姉様はわたくしの主張を真と見ないのでしょうか」

 

「お姉ちゃんの考えは、わたしにはわからないよ。でも、頼りになるお兄ちゃん達がいるからね」

 

「お姉様もどこかにコミュニティを持ってらっしゃるのですか?」

 

「あ、さすがに気づいた?」

 

「それは、人狼ゲームのことを持ち出しておいて、あまり知らなさそうなところで気づきました」

 

「そっか。そりゃそうだよね」

 

「そ、それで! イソラちゃんはわたくしを噛んでいただけるのですか?」

 

 期待のまなざし。

 わたしは恵子の肩をつかんで――また上半身を耳元に寄せた。

 

「調子にのるな♡ メスブタ♡」

 

「も、もっと!」

 

「わたしの言うことに従ってくれるなら――、いや、従え♡」

 

「はい♡」

 

「だったらちょっとだけ考えてあげる♡ それまで放置プレイね♡」

 

「ひゃい。わかりましたブヒ♡」

 

 ダメだ。この村。早く焼き払わないと。

 

 そんなことを思いつつ、わたしは恵子の部屋を後にした。

 

 

 

 



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決戦投票

810:小学生妹のヒモ姉

大変です!

大変です!

大変です!

誰か助けてください!

 

811:仰げば尊し

お、おう

いつにもまして、八兵衛ムーブだな

まあお茶でものんでおちつこうや

 

812:仰げば尊し

マッテタ

 

813:仰げば尊し

しかし、事情はわかるがどうしたもんかねぇ

 

814:仰げば尊し

ヒモカスはさぁ……まず落ち着け

オレは純粋なスレ民だから事情はわかんネンダワ

おまえの味方だと思ってるからさ

 

815:仰げば尊し

ヒモカス兄貴は、純粋なスレ民だったのか

狂人以外の村人も残っていたんやなって

半ば驚いているオレ氏がいる

 

816:仰げば尊し

なるほどね事情は完璧に理解した(エスパー風味)

 

817:小学生妹のヒモ姉

かいつまんで説明しますと

わたし、妹ちゃんたちのコラボ配信に参加する

なんか妹Ⅱちゃんは妹ちゃんのことが好きで

妹ちゃんは私のことが好きってことになってて

妹ちゃんが私をヒモにしたいのは私のことが好きだからで

妹Ⅱちゃんはヒモになりたくなければ妹ちゃん=狼だと判定しろって言うんです

私がヒモにならないと妹ちゃんは傷つくし

私もうどうしたらいいかわかりません!

 

818:仰げば尊し

十分しかないからすげーコンパクトにまとまってる

ヒモ姉の成長に涙w

 

819:FOX2

>>817

あれはゲームだよ

ヒモ姉も覚えてるだろ

今はもうDAT落ちしちまった一スレ目のこと

オレが出張った一戦目のことだよ

あれと同じで、メスガキと淫猫がゲームしてるんだ

 

820:仰げば尊し

狐きゅんいたんだ♡

 

821:仰げば尊し

なるほどここで狐が出てくるか

てか、狐はいまや狂信者側なんだけどね

しかし、淫猫にその理論が通用するか?

 

822:小学生妹のヒモ姉

>>819

FOX2さんお久しぶりです

やっぱりそうだったんですね

なんか雰囲気的にそうじゃないかって思ってました

よかったぁ、、、

 

823:仰げば尊し

ヒモ姉よかったね

ギスギス家族なんていなかったんだ

(現実から目をそらしながら)

 

824:仰げば尊し

淫猫のムーブがメチャクチャ気になるな

正直、常軌を逸してるとしか思えん

言ってみればリア狂なのでは

 

825:仰げば尊し

いまさら人狼ゲームが通用するかぁ?

狐の言い分は利敵行為ですらありうるぞ

 

826:FOX2

いやオレもそう思うんだが

休憩に入ったときのメスガキの様子から

なんとなくそうしたほうがいいと思ったんだ

 

827:仰げば尊し

メスガキは休憩に入る直前に

「かってくるね。お兄ちゃんたち」と言っていた

これは『勝ってくる』あるいは『狩ってくる』という意味だが

妙な自信があるように思えた

おそらくヒモ姉がここに来るのはメスガキもわかっていたんだろう

しかし、このスレにいる様子はない

だとすれば、メスガキが向かったのは淫猫のもとしかありえない

どちらの意味でも、メスガキは猫を降す自信があったということになる

 

828:仰げば尊し

いま、猫わからせ中だったりしてw

 

829:仰げば尊し

頭おピンクの発想やめろw

 

830:仰げば尊し

破れかぶれになった狼が猫噛みで自殺って線もなくはないが

メスガキは最後まであきらめないタイプだぞ

どういう手段かはわからんが、勝つ見込みがあったということだ

そしてオレらに求められているのはおそらく

ヒモ姉の説得ということになる

狼が何を求めているか正確に推理して行動するんだ

 

831:小学生妹のヒモ姉

あのぉ、私どうしたらいいんでしょうか?

妹Ⅱちゃんはあんまり説明とかしてくれるタイプじゃないんで

ゲームのこととか知らないでコラボに参加しちゃったんです

 

832:仰げば尊し

ヒモ姉カワイソスクライシス

 

833:仰げば尊し

オレはイソラよりも淫猫よりも、ヒモ姉推しw

もうかわいくてかわいくてしかたないんよ

孫みたいな感じw

 

834:仰げば尊し

初心者村が村民に助けを求めるのはなにも悪いことじゃない

誰だって最初は初心者なんだからな

生活のことにしたってそうだよ

ひとつずつ学んでいけばいい

料理も着替えることも掃除も洗濯も

 

835:仰げば尊し

ヒモカスは生活能力皆無だが

コミュ障ってほどじゃないと思ってる

 

836:仰げば尊し

たぶん休憩時間十分というのもいくらでも延長可能じゃないか

いま、イソラが妹Ⅱを抑えているのはまちがいない

ヒモ姉が結論を出すまで、おそらく二人は待ってくれる

豚は知らんが、少なくともオレらは待てるぞ

 

837:仰げば尊し

掲示板のヌクモリティがすごい♡

いまや殺伐としたスレッドだらけだが

ここは三十年前くらいのノリを思い出すわ

 

838:仰げば尊し

おまえ何歳だよw

 

839:仰げば尊し

ヒモ姉を説得ってどういう方向が正しいんだろうな

簡単に言えば、誰を吊らせるかという話なんだが

盤面的には、村のヒモ姉。猫の妹Ⅱ。狼のメスガキ。狂人のオレらなわけだろ

狂人のオレらは盤面外と思われてるかもしれんが……

いままでの議論の流れから言えば、猫はメスガキに投票する

ここは間違いないとして、オレらはどうすればいい?

 

840:MSGK泣かし隊

スレの流れがバラバラになりそうなので

お目汚し失礼する

>>839の疑問だが、オレらが狙うべきなのは「引き分け処理」だろう

メスガキは淫猫を排斥したいわけじゃない

家族だからそうしたくないというのもあるが

ヒモ姉が妹Ⅱを家族だと考えているから受け入れざるをえないという面もある

ともかく、そうすると猫吊りはダメだ

猫ルーが発生してしまうからな

 

841:仰げば尊し

あの淫猫を残すとかマジすか兄貴……

お腹の中で虫飼ってるようなもんで

お腹いたいいたいなるよ

ポンポンペインだよ

 

842:仰げば尊し

ヒモ姉とメスガキが仲良く突然死(回線切り)して

ゲーム終了っていうのもいいんじゃないか

 

843:MSGK泣かし隊

オレはなんとなくだが、メスガキの勝ち筋も見えてるんだ

リアルのメスガキはモラトリアムを求めていた

つまり、ヒモ姉を噛んで終了というふうにはできなかったんだ

もちろん、ヒモ姉を吊るということもできない

アル中になっちゃうしなw

だとすれば、ゲームでの正着もまたそうあるべきだと思った

おそらくリアルで猫に勝てれば、ゲームのほうはどうとでもなるわけだが

美しく誇り高い引き分けを選ぶ

それが狼の意思だと思う

 

844:仰げば尊し

美しく誇り高い引き分けねえ

正直、MSGK泣かし隊の言ってることは半分もわからんが

メスガキ保護になるなら、そっちを選ぶぜ

 

845:仰げば尊し

MSGK泣かし隊もやっぱり猫わからせ考えちゃってるんかw

メスガキは戦闘民族だからな

ただ、あの淫猫様が簡単に負ける姿も想像できんw

 

846:仰げば尊し

普通に考えれば、狼は自己犠牲の精神で猫噛みにいったとも考えられる

つまりは、お姉ちゃんをとらないかわりに、自分が妹Ⅱのヒモに……

 

847:仰げば尊し

小学生のヒモになる小学生とかどんなカルマ値だよw

そんな村焼き払ってしまえばいい

 

848:MSGK泣かし隊

メスガキは勝ちにいったんだ

噛みにいくとは言ってない

ここでそのことを語るのはいろいろとマズイので語らないが

ともかく、メスガキは猫を飼い殺す選択をしたんだと思うぞ

言い方を変えれば、誰かがかつて言っていたとおり……

猫と和解せよ、だ

 

849:仰げば尊し

オレはMSGK泣かし隊の兄貴を盲信するぜ

どうせ、答え合わせはすぐに明らかになるんだ

人狼慣れしているMSGK泣かし隊に一任したほうがいい

 

850:仰げば尊し

準備は一任するわ

 

851:仰げば尊し

まあオレ氏もそう思うよ

ヒモ姉がまたおいてけぼりだけど

こっちで結論出すまで、ヒモ姉はもう少し待っててくれ

 

852:盤面整理兄貴

盤面整理するぞ

MSGK泣かし隊の兄貴によれば、狼が狙っているのは引き分け

盤面はさっき>>839で言われたとおり(不覚)

この場合、猫がメスガキを吊ってくるのは、

狼がリアル方面で猫と和解してもたぶん変わらないだろう

猫にうまく引き分けにしろって言ってくるはずだからな

加えて、猫の特性上、猫を吊ってはいけない

だとすれば、引き分け処理に持っていくために

妹Ⅱ→メスガキ。メスガキ→ヒモ姉。オレら→ヒモ姉

そしてヒモ姉はメスガキに投票するしかない

 

853:小学生妹のヒモ姉

あの……なんだかまたわかんなくなっちゃいましたが

私はイソラちゃんに投票すればいいんですか?

それでイソラちゃんは傷つかないんでしょうか

私が心配なのはそれだけなんです

 

854:仰げば尊し

案の定、十分経過してもふたりは現れないな

これはメスガキ勝ったのか?

 

855:仰げば尊し

ヒモ姉が再ログインするまで待ってくれてるんだろう

ヒモ姉はおちついて考えていいぞ

 

856:仰げば尊し

しかし、それってメスガキが本当に求めている「勝利」なのか?

MSGK泣かし隊の兄貴が言うこともわからんでもないが

それには二つのハードルがあるだろ

一つはオレらがヒモ姉を説得できるかという点

そしてもう一つは、メスガキがそんなふうに動いてくれるかという点だ

 

857:仰げば尊し

>>856

それって視点漏れなんじゃね

もう一つあるだろ淫猫がその「勝利」

つまり引き分け処理に乗っかってくれるか

 

858:仰げば尊し

メスガキが猫をわからせちゃってるんなら

メスガキがオレらの意図に気づけば、

猫はメスガキの言う通りに動くだろ

つまり、基点となるのはやはりメスガキ

メスガキがそんなふうに動いてくれるかということになる

 

859:仰げば尊し

なぁ、もう20分近く経過しているんだが

豚のほうのざわめきがひでえぞ

 

860:仰げば尊し

いくらなんでもメスガキのほうの猫わからせも終わってるだろうから

このスレ見ているんだろうな

ということは、メスガキはあえてこのスレに降臨していない?

 

861:仰げば尊し

ここでメスガキが降臨するのは無粋の極みだろ

 

862:仰げば尊し

逆に言えば、メスガキが現れないのがオレらの推理が正しいことを証明している

 

863:仰げば尊し

メスガキはオレらが二つのハードルを乗り越えることを信じてくれたんだな

 

864:仰げば尊し

オレはメスガキを信じるぜ

オレたちのことを信じてくれてることをな

 

865:仰げば尊し

お前が信じるオレを信じろで草

あれ、なんか涙が……

 

866:仰げば尊し

やはり淫猫がどんなに強力なやつでも

ひとりじゃ勝てなかったんだな

 

867:仰げば尊し

いまざわついている豚たちを

オレらが落ち着けと説き伏せてる状態だが

豚との関係性が猫の限界だと思うよ

いくら天才でも、このスレを見抜けなかったのもそうだ

 

868:仰げば尊し

オレ氏は言うまでもなくメスガキを信じるぜ

もう絶対に、二度と、絶対にいいいいいいいいバブったりしない!

 

869:仰げば尊し

オレ氏はいい加減にしろw

けど、オレも信じるわ

 

870:仰げば尊し

メスガキを信じるに一票

 

871:仰げば尊し

オレもメスガキ保護派

 

872:仰げば尊し

ていうか、二スレ目からはほとんどオレらで占められているからな

純粋スレ民もそれでいいか?

てか、盤面に乗っからない以上、どう転んでもそうなるわけだが

 

873:仰げば尊し

ヒモ姉の保護的に考えても引き分け処理は妥当だろ

あ、ヒモ姉はメスガキ投票でお願いします

 

874:小学生妹のヒモ姉

アッハイ

 

875:仰げば尊し

大変素直でよろしいwww

 

876:仰げば尊し

ワンレスで説得されるヒモ姉かわいいよw

 

877:仰げば尊し

いやまあヒモ姉も安心したんだろ

家族がバラバラになる危機だったんだからな

淫猫は本来ならアク禁レベルの悪質プレイヤーだが

身内村だと、こんなノリになるよなぁ

 

878:仰げば尊し

宇宙人狼だったら、宇宙にぽいっちょレベルの悪行だけどな

 

879:仰げば尊し

これでゲームは終わるわけだが

ヒモ姉のリアルという名のゲームは終わらないわけだから

これからもヒモにされないようにがんばってくださいw

 

880:仰げば尊し

五年後……いや三年後にどうなってるか楽しみだわ

伝説のスレッド再びとかなりそう

 

881:仰げば尊し

そんときは、もうヒモ姉は噛まれた後かもしれんw

 

882:仰げば尊し

【悲報】私氏、中学生妹のヒモになりそう

 

883:仰げば尊し

勝手に続編作んなw

 

884:仰げば尊し

いざ決戦のバトルフィールド(茶番)へ

 

885:仰げば尊し

わおーん!

 

886:仰げば尊し

お、メスガキか?

違うかな

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 残念ながら違うよ♡

 わたしはスレッドを見ていたけど、今回は書きこんでいない。

 お兄ちゃんたちの結論を見守っていたし、信じていたからね。

 そして――、お兄ちゃんたちの出した結論は正しい。

 本当は、スレを見るのも無粋かなと思ったけど、さすがにそれは危険すぎるし、わたしも賭けに出てなんとか恵子に勝ったんだから、そこは大目に見てほしいな♡

 

 さて、もはやラスボスは降したも同然だが、淫猫に引き分けを狙うということまでは伝えられなかった。

 DMで伝えてもよいが、ここは最後まで綺麗に終わろう。

 なぜなら、それこそが狼の完全なる盤面操作だからだ。

 わたしは引き分けという名の完全勝利を目指す。

 

「お姉ちゃん来たね」

 

「う、うん。来たよ。イソラちゃん」

 

 お姉ちゃんは小さく縮こまっている。

 今もおそらく盤面についていけていない。

 でも、お姉ちゃんにとってのスレ民は、わたしにとってのお兄ちゃんたちと同じくらい信頼している仲間だ。だから、きっとその説得には従うだろう。

 お姉ちゃんは素直なんだ。わたしはそのことを五年前から知っている。

 身内村ならではのメタ読みだけど、この読みは絶対にはずさない。

 

 さて、そうなると猫のほうだが――。

 こちらは、リアルでわからせたとはいえ、正直なところ内心がぶっとびすぎていて、今もどういう方策をとるのかわからない。

 

 もちろん、ゲームで負けたからってリアルの負けとは同値ではない。

 けれど、ゲームでも勝てないとなんか悔しいよなぁ。

 もし万が一、淫猫がお姉ちゃんに投票して、お姉ちゃんが吊られるという結果になれば、すごくすごく嫌だ。たとえゲームでも、絶対にお姉ちゃんを吊らしたりしない。

 お姉ちゃんはわたしが絶対に噛むんだ。

 今じゃなくても、未来に!

 

「さあ勝つよ! お兄ちゃんたち。このゲームを終わらせよう」

 

『やっぱ勝ったんかワレェ』

『どうやって勝てたのか謎すぎる』

『感想戦で是非そのあたりを聞きたい所存』

『ネチョった?』

『おいやめろ村追放されても知らんぞ』

 

「さて――、役者がそろったところですので、イソラちゃんに聞きましょう」

 

 淫猫の顔が赤い。さっきの余韻がまだ残っているようだ。

 息も荒く、小さく熱い吐息をこぼしている。

 

「おかしいよね♡」

 

「な、なにがでしょう……」

 

「だって、いままでお姉ちゃんの判定を仰いでいたのに、なんでわたしに聞くの♡」

 

「そ、それは……そうですわね」

 

 あれほど威厳たっぷりだった淫猫女王が見る影もない。

 ネコミミもなんだかヘタレている。

 わたしは視線だけで、淫猫をお姉ちゃんのほうへ誘導する。

 

「お姉様。そのですね。イソラちゃんを狼だとするわたくしの主張はいかがでしたでしょうか」

 

「あのね。淫猫ちゃん。私もよくわからなかったんだ」

 

「お姉様はアドバイスを受けに行かれたのでは……?」

 

「アドバイスは受けに行ったよ。でも私が最後に決めるんだよね?」

 

「そうですわね。その情勢は変わっておりません」

 

 言いながら淫猫はいぶかしんでいる。

 それはそうだろう。淫猫もこのゲームが茶番であることは当然気づいている。

 そして、人狼ゲームに見立てていることも、たぶん察している。

 

 けれど、リアルではわたしをご主人様にしたい恵子のこと。

 

 当然ながら、このゲームでの恵子のロールは猫。

 猫は村人陣営であって、狼を吊らないなんて選択はない。

 つまり、ゲームかリアルか。

 淫猫がどちらを選択するかという問題になる。

 

 そして、これはわたしの試練でもある。

 恵子をうまく飼い殺せるか。

 卑しいメスブタのご主人様としてふさわしいか。

 このゲームで決まる。

 

「淫猫ちゃんたちがこのゲームに私を選んだのって、やっぱり私がヒモだとダメだからだよね」

 

「ええ、まあ……そうですわね」

 

「わたしはそう思っていない派だけどね」

 

「だったら、このゲームは抜きにして、私も真剣に考えなくちゃって思ったの。イソラちゃんがわたしをヒモにしたいのは本当なんだよね?」

 

「本当だよ」

 

「私はお姉ちゃんだから、イソラちゃんが傷つく選択なんてしたくないんだよ。ヒモになれっていうなら、ずっとじゃなくても、イソラちゃんが大人になるくらいまではそうしてもいいと思ってるんだ」

 

「お姉ちゃん♡」

 

「だから――私はイソラちゃんを吊りたくないんだよ」

 

「え?」

 

「スレ民さん達はイソラちゃんを吊れって言ってたけど、私はリスナーさん達を指定します」

 

「はあああああああ?」

 

「えっと、ダメだった?」

 

「ダメじゃ……ないけど」

 

 お姉ちゃんの助走をつけたぶん殴りで、わたしの完璧な勝利が全部ぶっ飛んでしまった。

 そうか……、お姉ちゃんの中ではスレ民よりもわたし保護のほうが優先だったんだ。

 たとえゲームの中でも吊りたくないっていうのは嬉しいけど。

 これって、どうなるんだ。

 

『さすがヒモ姉……オレたちの想像を越えていく』

『イソラって自分の愛され具合をあんまり認識してないよな』

『これってどうなるんだ。オレらはべつに吊られてもかまわんけどw』

『なんの力も持たない素村こそが狼よりも強い最強の役職なんだよ』

『これが人狼ゲームか……』

『メスガキ指示をくれ』

 

「吊り指定はそのままでお願い」

 

『わかった』

『りょーかい』

『指定すらしたくないとかメスガキ愛されてるな』

『超高度な姉妹百合を見せられてる気分』

『このゲーム終わったらどうせイチャイチャするんだろ。知ってる』

『お姉さんも混ぜてほしいわ』

 

「イソラちゃんは何を狙って……わたくしはどうすれば」

 

 さきほどから、淫猫はブツブツと呟いている。

 もはやお姉ちゃんの指定がお兄ちゃんたちに向いている以上、わたしができることは猫に投票することしかない。そして、淫猫にはわたしに投票してもらう。これで同数引き分けになる。

 

「盤面整理をしてあげるね♡ いま、盤面にはお姉ちゃんとわたし、そして淫猫ちゃんとお兄ちゃんたちの四人がいる。お兄ちゃんたちは集合体だけど、全員で一票でいいよ」

 

「なるほど、そういうゲームなのですわね」

 

「うん」

 

「しかし、お兄様方の意思はどのようにお伝えするんですか?」

 

「コメント窓を使ってもらおうかな。この窓って指定した人に飛ばせるでしょ?」

 

「なるほど、ルールは理解できました。指定の仕方は指差しということですわね」

 

「そうだよ。()()()決めておいたとおりにね」

 

 もちろん嘘だ。

 淫猫とのコラボ配信がこういうふうに決着するなんて何も考えていなかった。

 あとは、わたしの意思を伝えるのみ。

 

「わたしは勝つよ。村人陣営として村の復興を目指すんだ」

 

「それではわたくしはどうなるんです?」

 

()()()()()()()()()()()()んだよね。だからかかってこいよ狼♡ 指定、淫猫!」

 

「わかりました。遺言めいた言葉になりますが嬉しかったですわ。ここまで戦えたこと。そして最後にお姉ちゃんとまた呼んでもらえて……」

 

 

 

 

 

――投票結果。

 

 

 

 

 

 お姉ちゃん→お兄ちゃんたち。

 お姉ちゃんは場外を指さしていた。どこを指せばいいのかよくわからなかったんだろう。

 わたしもその点は失念していた。

 

 お兄ちゃんたち→お姉ちゃん。

 これは順当だな。ものすごい勢いでコメントまみれになっていくお姉ちゃん♡

 いつもみたいにひーんって泣いててかわいかった。

 

 わたし→淫猫。

 わたしの吊り先はお姉ちゃんから変更になってしまったけれど、結果的には悪くなかったと思う。ロジカルに見れば、わたしは淫猫を吊れないままだが、パッションから言えばお姉ちゃんと同じ気持ちだから。

 

 

 そして、淫猫の指先はわたしに向いていた。

 やっぱり、恵子は天才だ。わたしの意図をほとんど正確に読み取ってくる。

 そのわりにお姉ちゃんの意図は読めなかったり、いろいろと変な趣味は持ってるけど。

 単純に強かったという思いが強い。

 やはり、姉に勝る妹はいねぇというのは本当なのかもしれないな。

 わたしの二番目のお姉ちゃんである。中身ドMのメスブタだけどね。

 

 

 

 

――引き分けです。

 

 

 

 

 かくして狼と村人は仲良く暮らしていくことになった。



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感想戦。そして次の村へ。

 さて感想戦である。

 と言っても、恵子もお姉ちゃんもいない。

 恵子はまたお豚さんたちの元に帰っていったし、お姉ちゃんはそもそもゲストとしてわたしの配信に参加するくらいだ。だから、感想戦の相手はお兄ちゃんたちということになる。

 

 今日はなんと!――というほどでもないが、久しぶりに素顔で配信をしてみることにする。

 お兄ちゃんたちはほとんど素顔を見ているだろうし、見てない人は狐のお兄ちゃんくらいか?

 

「というわけで帰ってきたよ。ざ~こ♡」

 

『おつかれ』

『ていうか素顔配信かよ。大丈夫か?』

『メスガキが素顔になるといまいちくそおおおおって気分にならんのよな』

『かわいすぎてちょっとなーw』

『オレ氏もそう思います』

『うひゃあ、マジでイソラちゃんカワヨ……¥500』

『比較的新参の人かと思ったら狐きゅんじゃん』

 

「あー、この姿を直接見るの初めてのお兄ちゃんたちもいるかもね♡ お兄ちゃんたちなら見られても別にいいけどね♡ どうせ小学生には手を出せない雑魚お兄ちゃんたちばっかりだし♡」

 

『くそおおおおお』

『くそおおおおお』

『久しぶりのくそおおおおおだなw』

『メスガキは非メスガキCOしちまってるから、まあいまさら感あるわ』

『で、なんで顔出ししたん? ¥1000』

 

「べつにたいしたことじゃないんだけどね」

 

 わたしは背後に置いてあったエレキギターを手に取る。

 カメラ調整ヨシ!

 そして、いつかのときのように靴下をぬぎぬぎ。

 生足をみんなの前にさらけ出す。

 

『えちえち』

『これはメスガキw』

『なんでそこで脱ぐんw』

『もはやメスガキへの信頼度が高すぎて不安感はないが』

『ふーむ?』

 

「あのね。ここ、下にキーボードがありまーす♡ これを足で弾きながら、ギターを演奏しながら歌うという寸法だよ♡ いくらなんでも足指はメスガキモードじゃ表現できないからね。どうだすごいでしょ♡」

 

『すごーいw』

『いやてっきり感想戦へと移ると思ってたんで困惑しているオレ氏』

『イソラちゃんカワヨ』

『魅了属性100パーセントだからな。メスガキっぽさはないが』

『あのさぁ……この小学生いまさらながら天才すぎひん?』

 

 演奏なんて単なる技術だからね。

 経験値さえ積めば、誰でもってわけではないが、うまくなる人がほとんどだよ。

 

 まあ素顔を見せたのは、お兄ちゃんたちに仮面を脱いでお礼を言いたかったというのもある。

 ちょっと照れくさかったんで、演奏を理由にしたんだ。

 

――メスガキ演奏。

 

「どうだった?」

 

『いやなんかもうワケがわからないというか』

『変態プレイすぎて逆にキモイww』

『頭ン中ぐちゃぐちゃ丸だよw』

『演奏後のハァハァしてるイソラカワヨ……』

『さっきから魅了されまくってる人がいますわよ』

 

『で、そろそろどんなふうに勝ったのか。教えてくれるんだろう? ¥1000』

 

 やっぱり、切り込み隊長はMSGK泣かし隊の兄貴だった。

 うむうむそうだよね。

 しかし、どう切り出したものか。自分の中でもまだ整理がついていないからな。

 

「あー……とりあえず、休憩後についてなんだけどね。淫猫を押し倒してきたよ」

 

『ひゅー』

『それはまぎれもなく奴さ』

『狼の所業。でもそれは猫噛みなのでは?』

『メスガキ属性のほうで攻めたわけか』

『しかし、そんなんで勝てるわけないと思うんだが』

 

「あのね。にわかに信じがたいことかもしれないけど、淫猫ってマゾブタだったんだよね」

 

『マゾブタかよwww』

『へえええええあああああああああwwwwwwww』

『お豚さんを囲っているのは猫ではなくメスブタだったのかよwwwwww』

『草あんど草』

『お姉ちゃん呼び強要したりもしてるのにか?』

 

「まあ、さでずむとまぞひずむってコインの両面だからね。たぶんどちらも淫猫の本性だと思う。ともかく、ちっちゃい女の子に罵られたいという、わたしからすれば何とも言えない属性持ちの女の子だったわけ」

 

『それはメスガキ特攻だわ』

『妹Ⅱはメスガキがメスガキしているの見て興奮してたんだなw』

『だからコラボ配信もちかけたりしてw』

『特殊性癖すぎてそれは想像できんわ』

『あ、でもこれで妹Ⅱは完全攻略したってわけか?』

 

「まあそういうことになるね。時々踏んであげたら言うこと聞くらしい」

 

『ひええええ』

『この村やっぱり焼き払うべきなのでは?』

『相対的にイソラが真っ白に見えるレベルw』

『結局、妹Ⅱも手に入れたいもの手に入れちゃってるわけか。¥100』

『妹Ⅱを敵とみなせなかった時点で、そりゃそうなるよ』

 

「まあ――、度し難い趣味を持ってるのはわたしも同じだしね。ただお姉ちゃんを苦しめたのは許せないのでお仕置きしたほうがいいのかなとも思う」

 

『お仕置きしたら喜ぶのがマゾブタだぞ』

『真のお仕置きは家からの追放だろうが、さすがにそれしたらゲームが嘘だったとバレてしまうしな。淫猫は本質的にはメスブタなのかもしれんが、やはりロールとしては猫よ。¥100』

『だな。まあ家族として矯正していけ』

『飼い主としての責任やなw』

 

「そうするほかないよねぇ」

 

 勝利のあとに寂寥さを感じるとは業が深い。

 

 

 

 ※

 

 

 

 あれから何度も夜を越えて再び朝が巡ってきた。

 と言っても、わたしはまだまだ小学生だけどな。

 お姉ちゃんボイスを止めて、わたしはうにょ~んと伸びる。

 

「ふぅ……、さて、今日もお姉ちゃんライフを始めます」

 

 今日のコーデはどうしよう。

 やっぱり、お姉ちゃんと同じリンクコーデがいい。

 でも、お姉ちゃんはどう着替えてくるかな?

 

――今日は恵子が着替えを手伝う日。

 

 でも、恵子の意思だけで決まるわけじゃない。

 お姉ちゃんもその日の気分があるし、どんな装いがいいか自分の意見を積極的に出そうとしているように思える。たぶん、お姉ちゃんもゲームを通じて少しだけ前に進んだのだろう。

 

 さて、そうなると予想されるのはどんな格好か。

 わたしはお姉ちゃんの姿を想像するのが少し楽しかったりする。

 

 お姉ちゃんをヒモにしたいという気持ちは今も変わっていないけれど、それと同時にお姉ちゃんが前に進んでわたしが追いつこうとするのもいいんじゃないかと思えてきた。

 

 ヒモにしたい/ヒモにしたくない。

 依存させたい/依存したい。

 狼になりたい/妹でいたい。

 

 そんなアンビバレンツがこころが、わたしの中で同居している。

 

 でも、そんな想いも結局のところは「お姉ちゃん大好き♡」という言葉に収斂される。

 

「たぶん、これかな?」

 

 今日は少し暑い。そしてみんなで遊園地にお出かけする日だ。

 出無精なお姉ちゃんを説得するのは簡単だった。わたしと恵子の両方から説得されれば、お姉ちゃんも頷かざるをえないからな。お姉ちゃんも少しカジュアル気味な恰好を選ぶんじゃないだろうか。

 だから涼し気なワンピースを着てみた。

 青を基調としたセーラー服の上着部分を伸ばした感じ。

 大き目のリボンが胸元についていて、今日もわたしは超絶かわいい。

 

 こういうロリコン殺しな服は、正直あまり趣味ではないけれど、恵子はどちらかと言えばかわいい系が好きなようだからな。わたしがそう思うのを予想して、恵子がお姉ちゃんの意思を誘導しようとするのは考えられる。マゾブタではあるけれど、お姉ちゃんぶりたい特殊なお豚さんなのである。

 

 ドアを開けて、階下へ降りた。

 まだ少し暗い部屋の中にカーテンを開けて光を取り入れる。

 

 それからいつものように、朝ごはんを作り始める。

 今日のお姉ちゃんは何が食べたい気分だろう。

 お姉ちゃんの喜ぶ顔が早く見たい。

 いっぱい食べて満腹になって溶けた顔になるのが好き。

 

「ふんふーん♪」

 

 お姉ちゃんはまだ料理ができない。

 けれど、少しずつ手伝ってくれるようになった。

 具体的にはピーラーで人参の皮を剥いたりするレベルだけど、前よりもちょっぴり実の部分が残るようになった。

 

 階段を降りてくる音がする。

 わたしが視線をそちらにやると、来たのは恵子だけだ。

 

「お姉ちゃんは?」とわたしは聞いた。

 

「はい。いくつかの選択肢を与えて、そこから選んでいただくようにいたしました」

 

 ゾーン進行か。

 いくつかの灰の中から吊っていく手法のことをゾーン進行という。

 我ながら頭人狼だなと思うが、そうなると、やっぱりお姉ちゃんの意思が重要だ。

 お姉ちゃんがどんな格好で降りてくるか、わたしはウキウキした気分になる。

 

「ごくろうさま」

 

 わたしはぞんざいに言い放った。

 

「はい♡ またイソラちゃんの椅子になりたいです♡」

 

 恵子の言葉の意味は、文字通り恵子が椅子になることを指す。

 ドMの思考はよくわからないけれど、よつんばいになって、わたしが座ると愉しいらしい。

 いや、マジで意味がわからんのよ。

 でも、時々はエサを与えないと、鳴き声がうるさいからな。

 

「考えとくね」

 

「よろしくお願いしますわ。それと、おはようございます」

 

「うん、おはよう。恵子お姉ちゃん」

 

「ところで、本当によかったのですか?」

 

「ん。なにが?」

 

「遊園地。貸し切りにしなくてよいのかという話ですわ。お姉様は雑踏が苦手な方でしょうから。開演前なら数億ほど出せば、おそらく貸しきりも可能ではないかと」

 

「恵子お姉ちゃん」わたしは指先を突き出す。「めっ!」

 

「あ♡」

 

「わたしに叱られるためにわざとそんなこと言ってないよね」

 

「いえ、そんなことはありませんわ。ちょっとお腹の奥がうずいたくらいです」

 

「はぁ……。まあいいけど、お姉ちゃんだって成長してるんだからさ。そんな無茶苦茶なことしないよ。むしろ小学生妹が遊園地貸し切るほうがヒモっぷりに拍車がかかってドン引きすると思うけどな」

 

「そうですわね。かしこまりました」

 

「うむ。よろしい」

 

「はぁん♡」

 

 わたしが恵子をぞんざいに扱うたびに、恵子は身をふるわせる。

 本当に度し難いな……。まあ、人のこと言えないけど。

 

「あ、それから鍵渡しておくね」

 

「よいのですか?」

 

「うん。わたしだけ部屋の鍵を渡してないの。なんだか仲間外れみたいで嫌だったから」

 

「ありがとう存じます」

 

 恭しく鍵を受け取る恵子。

 それはエサを与えられた豚のごとく――、

 なんてことはなく、キラキラしたエフェクトを巻き散らかすただの小学生なんだよな。

 やはり、最後の最後で恵子を切れなかったのは、わたしの甘さが原因というより、転生により加算された経験値というものかもしれない。

 

 家族――なんてものは幻想で、儚く、散りゆくもの。

 だから、あえて自分の手からとりこぼしてしまう必要はないと思っている。

 たとえ、厄介で爆弾のような存在でも、わたしは抱えて生きていく。

 

 家族はひとつの宇宙みたいなものだから。

 わたしの大事な宝石箱だから。

 それが、わたしの答えだ。

 

 

 

 ※

 

 

 

 朝食を作り終わった頃に、ようやくお姉ちゃんが降りてきた。

 やった! 当たり!

 お姉ちゃんが着てきた服は、青のロングワンピース。

 足首まで隠れるくらい長いからニアミスだけど、まずまずの当たりといっていいだろう。

 

「お姉ちゃん。おはよう♡」

 

「うん。おはよー」

 

 ちょっとまだ眠そう。

 でも、そんなお姉ちゃんもかわいい♡

 

 家族みんなで食事をする。

 あれから少し変化があったのは、テーブルをラウンド型にしたことかな。

 丸いテーブルだと、円卓の騎士の気分。

 これこそが三国鼎立、なんてね。

 ともかく、ふたりのお姉ちゃんたちの顔が見れるので、これが一番安定しているんだ。

 

「今日もおいしいねぇ。イソラちゃんありがとう」

 

「ううん。お姉ちゃんありがと♡」

 

 食事も終わった頃。

 糖分が脳内に入ったことで、朝に弱いお姉ちゃんはさらにとろけた顔になっている。

 こんな状態で本当に大丈夫かな。

 お姉ちゃんといっしょに外に行くのは久しぶりなんで楽しみなんだけど、お姉ちゃんが嫌ならわたしは行かないほうを選ぶ。お姉ちゃんのペースにあわせて、ゆっくりと――。

 

「お姉ちゃん。今日は人混みの中に行くことになるけど大丈夫?」

 

「う~、うん! 大丈夫。お姉ちゃんがんばるよ」

 

「もし、お姉様が倒れられたら鳳寿院家のスタッフがバックアップするので大丈夫です」

 

「大丈夫だよぉ。お姉ちゃんだって大人なんだから、そんな大事にしないでもきちんとやるよ」

 

「それは……まあ、わかりました」

 

 わたしが視線を飛ばすと、それだけで恵子は控えてくれた。

 考えるまでもないことだが――

 いざというときはグラサンつきの黒服たちが駆けつけるんだろうな。

 いやあるいは、高校生の恰好をした凄腕探偵の孫あたりがくるんだろうか。

 いずれにしろ――、

 わたしの保護者はお姉ちゃんだけだ。

 

「お姉ちゃんが守ってくれるなら安心だね」

 

 そう言って、わたしはお姉ちゃんの大きなお胸にダイブした。

 生地の薄いワンピースはお姉ちゃんの弾力と甘い匂いをわたしの脳内に直接送りこんでくる。

 

「守るよ。だって大切な妹だもん」

 

「お姉ちゃん大好き♡」

 

 お姉ちゃんにCOする。

 お姉ちゃん好き♡

 お姉ちゃん好き♡

 お姉ちゃん好き♡

 

 いくら言葉にしても足りないくらいだ。

 だって、お姉ちゃんはいつだってお姉ちゃんで、わたしはお姉ちゃんといっしょにいられるだけで嬉しい。生きていてよかったって思える。永遠に変わらないものはないけれど、永遠に変わりつづけるという永遠はあるよ。わたしはお姉ちゃんという永遠を信じてる!

 

 だから――、

 

 玄関のドアを開けて、お姉ちゃんを引っ張って。

 子どもがはしゃぐみたいに駆け出して。

 

 そしてわたしは叫ぶんだ。

 

「わおーん!」

 

 狼の遠吠えは澄み渡る青空の向こう側へと吸いこまれていった。




これにて完結です。
村建て同村ありがとうございました。
いえ、ここまで読んでいただきましてありがとうございました。
あとは番外編を書いて終わろうと思いますが、いったん完結とさせていただきます。

評価、お気に入り登録、ここすき、感想。そしていいね♡
どれも得難い経験になりました。
感謝の言葉しかありません。

本当にお読みいただきありがとうございました。


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