天使「人間さんにおかしくされてしまいました」 (桜の塩漬け)
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【人間さんにおかしくされてしまいました】

初投稿です


1:名無しの魔族

どうしたらいいんでしょうか

 

2:名無しの魔族

おかしくされたってどゆこと?

 

3:名無しの魔族

具体的な内容が分からないと相談にも乗れんぞ

 

4:名無しの魔族

とりあえず>>1の状況を詳しく知りたい

 

5:名無しの魔族

あと人間さんについても教えて欲しいです

 

6:名無しの魔族

えっと、私はもともと天界で女神さまの側仕えをしていたのですが、人間さんをより理解するために去年から異世界交流センターに派遣されたんです。彼とはそこで出会いました

 

7:名無しの魔族

>>1は天使か

 

8:名無しの魔族

ていうか女神の側仕えって上級天使じゃん

 

9:名無しの魔族

はい、熾天使の座を賜っています

 

10:名無しの魔族

めちゃエリートやんけ!?

 

11:名無しの魔族

上級天使の中でも最も力を持つ天使だな

 

12:名無しの魔族

天使族の最高幹部が掲示板に書き込む時代かー、魔族の未来は暗いよ

 

13:名無しの魔族

ところで異世界交流センターってなぁに?

 

14:名無しの魔族

>>7

我ら魔族と人間の相互理解を深めるという名目で開発された施設だ。まあ学校のようなものと思えばいい

 

15:名無しの魔族

へー、でもなんで新しい名前つけてまでそんな施設つくったの?もう人間の学校に通ってる魔族って結構いるくない?

 

16:名無しの魔族

人間さんと会える機会が増えるのは喜ばしいことですけどね

 

17:名無しの魔族

>>15

それぞれの種族の文化を意識した教育カリキュラムなのも特徴だが、普通の学校と違うのは生徒たちに寮生活を義務付けているという点だな

 

18:名無しの魔族

ガタッ

 

19:名無しの魔族

なん・・・だと・・・

 

20:名無しの魔族

つまり人間きゅんと一つ屋根の下での生活・・・ってコト!?

 

21:名無しの魔族

すいません少し用事を思い出したので失礼しますね

 

22:名無しの魔族

おい!抜け駆けすんじゃねぇ!

 

23:名無しの魔族

あのー

 

24:名無しの魔族

少し落ち着け、そもそもあと数年の間は貴様らの大半が入学できないだろうしな

 

25:名無しの魔族

どういうことだ?

 

26:名無しの魔族

実はセンターはまだ試運転でな、人間と身近に生活するにあたり致命的な問題がないか確認している段階なんだ

だから生徒として入学するのは比較的理性が強い種族、または種族の中でも代表的な地位の者が選ばれる

 

27:名無しの魔族

そんな・・・

 

28:名無しの魔族

じゃあ、通学時間ギリギリになっても起きてこない私を心配してモーニングコールしてくれる人間くんは・・・?

 

29:名無しの魔族

ホームシックになった人間さんのために部屋にあがって料理を作ったり、添い寝してあげるのも・・・?

 

30:名無しの魔族

隣の部屋の子にばれないように声を押し殺しながらの甘々制服エッチも・・・?

 

31:名無しの魔族

全部ただの幻だ

 

32:名無しの魔族

うあああああああああああああ

 

33:名無しの魔族

うそだ!そんなのうそだ!

 

34:名無しの魔族

なんて惨い・・・

 

35:名無しの魔族

あのっ、お話の続きをしてもよろしいでしょうか?

 

36:名無しの魔族

あぁ>>1まだいたんだ

 

37:名無しの魔族

今私たちは理想郷の遠さに絶望しているんだ、放っておいてくれ

 

38:名無しの魔族

憎い・・・!!特権階級が憎い・・・!

 

39:名無しの魔族

むぅ、仕方ないですね。私の人間さんの写真コレクションを見せるのでやる気出してください!

>>写真

 

40:名無しの魔族

こ、これは!

 

41:名無しの魔族

流れる汗・・・上気した頬・・・!

 

42:名無しの魔族

乱れた呼吸を必死に落ちつかせようとする様はまさに!

 

43:名無しの魔族

体育祭中の人間くんたち♡エッチすぎなんですけど♡

 

44:名無しの魔族

しかも腹チラとか芸術点高いわ

 

45:名無しの魔族

だが!>>1が立場を利用していい思いをしている事実は変わらない!私は屈しないぞ!

 

46:名無しの魔族

後払いでプール授業の写真も見せます

 

47:名無しの魔族

へへへ、熾天使様から相談されるなんて光栄ですぅ。舐めた口きいてすいやせん、犬の鳴きまねでもしましょうか、ワンワン!ワンワン!

 

48:名無しの魔族

これが、熾天使の『力』・・・!

 

49:名無しの魔族

相手が性欲に忠実だっただけだろう

 

50:名無しの魔族

>>49

水着の人間さん見たくないんですか?

 

51:名無しの魔族

見たいに決まってるだろう!!

 

52:名無しの魔族

じゃあ皆の心も一つになったところで改めて>>1の話を聞こうじゃないか

 

53:名無しの魔族

はい、私と彼がセンターで出会ったということはお話しましたよね。彼とは二年生になってからよく話すようになったのですが、もう可愛くて仕方ありませんでした。

親愛の証だって言って、顔におっぱい押し付けてぎゅって抱きしめると顔真っ赤にして震えてるんです♡あとは授業中にふと目があったときにふにゃって笑いかけてくれて、何回授業を保健体育の実習に強制変更しようと思ったことか♡

 

54:名無しの魔族

急に解像度の高い人間の情報を出すんじゃない、興奮するだろうが

 

55:名無しの魔族

ひたすらに羨ましいです

 

56:名無しの魔族

私ならもうレするわ

 

57:名無しの魔族

性欲を抑える方法を聞きたいなら無駄だぞ、だいたいの魔族は考えるより先に手が出るからな

 

58:名無しの魔族

>>57

それは彼を想いながらベッドで禊いでなんとかしているのですが・・・

 

59:名無しの魔族

流石は熾天使様、勤勉でいらっしゃいます

 

60:名無しの魔族

ああ、禊(笑)ね

 

61:名無しの魔族

それでも天使は特に性欲が強いからな、驚異的な理性だ

 

62:名無しの魔族

じゃあ結局何が問題なの?

 

63:名無しの魔族

そうですね、ときに皆さん先ほどの人間さんたちの写真を見たときどう思いましたか?

 

64:名無しの魔族

どうって・・・

 

65:名無しの魔族

エロい

 

66:名無しの魔族

犯したい

 

67:名無しの魔族

天界にお持ち帰りしたいです

 

68:名無しの魔族

もう誘ってるよね♡大人しくズボンぬぎぬぎしようねー♡

 

69:名無しの魔族

そうですよね、私も以前まではそう思っていたのですが・・・

最近はあまり興奮できなくなってしまって

 

70:名無しの魔族

は!?

 

71:名無しの魔族

嘘乙

 

72:名無しの魔族

ありえん

 

73:名無しの魔族

てめー、もし目が肥えたとか言うならその羽毟り取るぞ

 

74:名無しの魔族

さすがに信じられません

 

75:名無しの魔族

>>73

そういうつもりはないのです!私だって前はこの写真で、人間さんが首絞め祝福で浅い呼吸で苦しみながらも気持ちよくなっちゃって快楽マゾ堕ちする妄想で禊いでましたから!

 

76:名無しの魔族

うわぁ

 

77:名無しの魔族

仮にも天使って呼ばれてるやつが首絞め性癖にすんなよ

 

78:名無しの魔族

私はいいと思いますよ!

 

79:名無しの魔族

まあ>>1のやばい性癖はともかく、写真の人間たちに興奮できなくなったのはいつごろからなんだ?

 

80:名無しの魔族

そんなに首絞めダメですか?あの瞬間の人間さんが一番かわいいと思うのですが

>>79

自覚したのはつい最近なんです。少なくとも二年生の始めまでは大丈夫でした

 

81:名無しの魔族

なるほど、ちょうど彼とやらと仲を深めた時期に一致するな

 

82:名無しの魔族

なら単純にその人間くんに夢中になってるだけなんじゃない?

 

83:名無しの魔族

いえ、私は天使として今まで多くの人間さんを天界に導いてきたのですが、ほかの人間さんに興奮しなくなるということはなくて・・・

 

84:名無しの魔族

天使の使命は多くの人間さんに祝福を与えることだというのに、このままでは他の子たちに示しがつきません

 

85:名無しの魔族

ふむ、>>1側に問題がないとすると原因は相手の人間側にある可能性が高いか

 

86:名無しの魔族

でも人間くんが魔族になにかできるとは思えないけどなぁ

 

87:名無しの魔族

守ってあげないといけないくらい力も弱いですしね

 

88:名無しの魔族

だがとりあえず>>1と人間の出会いから原因を探っていけば取っ掛かりは得られるかもしれん

 

89:名無しの魔族

他人の目があって初めて気づくことってあるもんね

 

90:名無しの魔族

賛成

 

91:名無しの魔族

皆さん、ありがとうございます!

ではさっそく、彼との出会いは・・・

 

 

 




次から小説パートが続きます


淫魔ちゃんねるを読んでいるうちに天使って恋愛感情なさそうだなと思って書きました


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1.善意が辛いです

 この世界には魔族と呼ばれる存在がいる。

 

 淫魔、天使、魔獣族、竜族、鬼族など多種多様な見た目でありながら共通して見目麗しく、当時の人間は彼女らを歓迎した。人間を遥かに上回る力と未知の技術を持ちながらも、友好的な態度であったことが世論を後押ししたそうだ。

 一部の受け入れ反対を掲げていた国も彼女らの態度に絆され、今ではその掌を返している。

 

 噂好きのゴシップ誌では、その国のトップは淫魔に篭絡されていた、日本の総理大臣含む各国首脳の退任も時期を同じくとしており魔族の侵攻ではないか、と騒ぎ立てていたが、発刊の翌日会社自体が倒産したらしい。

 有名なニュースサイトでは、魔族に対する新しい法整備でゴタついていた社会の中、権力の推移のタイミングが偶然重なっただけという見解で一致しているし、今やただの陰謀論として扱われている。

 

 実際彼女らの登場から50年たった現在において、彼女らに侵略され不利益を被ることはなく、むしろその逆のことが起きている。

 持ち込まれた技術により将来的に不安視されていた資源不足の解決方法が明確になり、加えて通信技術なども飛躍的に発展した。ある研究者によると魔族の台頭により、地球上の技術は何回もの技術革新をスキップしたのだとか。

 

 まあつまり、ここで言いたいことは人間にとって魔族との関係は切っても切れないものであるということだ。

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 春うららかなる今日、僕はもうこの一年間で見慣れた通学路を歩いている。肩ひもが少しだけほどけたスクールバックと、ようやくサイズがあってきたブレザーに時間の流れを感じながら、道の傍らに立ち並ぶ都会には珍しい桜並木に目を向ける。

 

 なんでもこの埋立地一帯の管理を担っている鬼族が桜をとても気にいっているそうで、この街では電柱を探すよりも桜の木を探す方が簡単といわれている。

 あちこちに桜がある景色は埋立地の固いイメージとはかけ離れた華やかさがあり、この街に愛着が湧くポイントの一つだろう。ちなみに一年通して枯れたところは見たことがない、魔法とやらを使っているのだろうか。

 

 だけどやっぱり春に咲く桜は日本人として特別なものを感じる。少し暖かくなった空気に涼しい風、頭上からは百舌鳥の鳴き声が聞こえ、地面には桜の花びらが絨毯のように広がっている。

 僕はこの絨毯に乗ったまま通学路を進むのが好きだった。だから清掃員さんがすべて片づけてしまう前に朝早く寮を出る。

 

 数分歩いて最後の曲がり角を曲がると、視線の先に現れるのは周囲のアパートや飲食店よりも一際大きく存在感を示す建築物。

 

 異世界交流センター、魔族と人間が入り混じるこの世界で次代を担う人材を生み出すべく作られた特殊な学び舎。僕、鬼塚蒼良はその二年生である。

 

 

「おはよう、蒼良!今日も早いな!」

 

「あ、おはよう、大地」

 

 いつも通り朝のHRが始まるまでの時間を自分の席で本を読んで過ごしていると、元気溌剌という言葉が似合いそうな声が前の席から聞こえた。

 僕に向かって爽やかな笑みを見せる茶髪の彼の名前は桃谷大地。僕の狭い交友関係の中で最も仲の良い友人である。

 ・・・別に友人を作るのが苦手というわけではない。クラスに四分の一くらいしか男がいないせいで絶対数が少ないからだ。うん、本当に。

 

「お、また新しい本読み始めたんだな」

 

「うん、『アンコウでもわかる新法』って本」

 

 魔族の登場から今まで、世界では様々な分野で変化を求められた。法律もその一つである。この本では、その変化の中で新たにできた法が簡潔に書かれており、非常に読みやすくまとまっている。タイトルは少々奇抜だが。

 

「また法律系の本かー。いくら両親と同じように弁護士なりたいといっても、いい加減飽きてこないか?」

 

「うーん、確かに勉強がしんどいって思うことはあるけど、憧れだからね」

 

 僕の両親はともに弁護士として同じ事務所で働いている。なんならお母さんはそこの所長である。鬼族特有の冷静さや管理能力の高さを生かして今日も辣腕を振るっている。

 お父さんは普通の人間だが相談者に親身に寄り添う姿勢が好評で、事務所内の人気は並み居る魔族さんたちを押しのけてお母さんに次ぐ二位である。嬉しそうに自慢してた、お母さんが。お父さんは照れてた。

 

 そんな両親の職場には幼い頃よく遊びに行っていた。事務所に入ってきたときは不安そうな顔をした人が、両親と話して安心した顔に変わっていくのを何度も見た。そこで見た両親が人のために真剣に働いてる姿がかっこよくて、憧れて。そのときに僕の夢は決まったんだと思う。

 

 そういえば当時は考えもしなかったが、職場に幼い子供がうろちょろして鬱陶しがられても仕方なかったというのに、事務所のお姉さんたちはお菓子をくれたり、一緒にボードゲームで勝負してくれたりと優しい人ばかりだった。僕が来るなり仕事を放ったらかして一日中構ってくれた淫魔のお姉さんは元気だろうか、もうお母さんに怒られていないといいけど。

 

「まったく、いいか蒼良!俺たちはまだ学生なんだ、勉強ばかりなんてもったいない!恋して、遊んで、青春を謳歌しなければ!」

 

「恋って、二人とも彼女できたこともないのに・・・。でも、そうだね今日はちょっとゲームの気分かも」

 

 熱弁する大地に同意を返す。僕が勉強に掛かりきりになってしまったとき、大地はこうして軽く諫めてくれる。

 頑張りたいと思ったときには励ましてくれて、しんどいと思ったときには強引にでも連れ出してくれる。まるで心が読めているのではと思ってしまうほど気配りができる男である。

 

「今日の放課後、僕の部屋にコントローラー持って集合でいい?」

 

「おう!今度こそリベンジを果たして見せるぞ、俺の必殺コンボに驚くといい!」

 

 僕たちが放課後にゲームの予定を決めたと同時に、教室の扉が滑る音がした。

 ふと周りを見てみるとほとんどの生徒がすでに着席している。僕たちが話している間にHRの時間が迫っていたようだ。

 

「みなのもの~、おはようさん」

 

 扉から出てきたのは頭に捻じれた角を持ち、黒に近い緑色の髪を腰まで伸ばした長身の美人、我らが担任のりゅーちゃん先生である。あだ名の由来はまんま竜族であるから。なにかと理由をつけてお菓子をくれることと、臨場感ある歴史の授業が人気を集める教師である。

 

 そして、その後ろから扉を潜るのは・・・

 

「先生、プリントはこちらの机の上に置いておきますね」

 

「いつもわざわざすまぬのう。ご褒美に今日も饅頭あげような、ちょこもあるからの」

 

 太陽の光に当たりほのかに赤色を帯びた金髪に翡翠色の透き通った瞳。そしてなにより、背中に広がる六枚三対の翼と頭上に浮かぶ輝く輪が彼女の種族を雄弁に語る。彼女は天使族、人間から苦痛を取り除き天界に導くのが使命なのだとか。

 

 そんな彼女だが別に人間だけを救っているわけではなく、今日のように先生の手伝いでプリントを運んだり、淫魔の生徒の恋愛相談に乗ったり、果てには悪魔の先輩に頼まれて運動部の助っ人に出たりと八面六臂の活躍を見せている。

 

 人間の想像した天使が現実になったかのように、本当に彼女は優しい人なのだ。

 

 

「すいません先生、大変ありがたい申し出なのですが、あの、私最近ちょっとだけお腹周りが・・・」

 

「貰ってくれんのか?これ、おいしいんじゃがのう・・・」

 

「ああっ!そんな悲し気な顔なさらないでください!?頂きますっ、頂きますから!」

 

 ・・・本当に彼女は優しい人なのだ。

 

 

 

 

 

 

 ―異世界交流センターでは季節が夏になりプールの授業が近づくと、とある先生の周りに女生徒が急に近寄らなくなるという。

 男子に少しでも綺麗な身体を見せたい乙女心と、普段よくしてくれるその先生の悲しむ顔を天秤にかけることを強制するその期間は『竜の試練』と呼ばれ、多くの生徒に恐れられている。

 

 

 

 

 

 

 




~今日の動物~

百舌鳥・・・
 言わずと知れたサイコ鳥。秋から春にかけては開けた平地、夏から秋にかけては涼しい高原に生息している。また、越冬するための狩場争いが激しいことでも知られる。
 モズのはやにえで有名だが、その明確な理由は不明。一説によると『狩猟本能』を満たすため、『獲物』を晒すことで縄張りを主張しているとも言われている。
 ハードなエロの匂いがしますね。

鮟鱇・・・
 言わずと知れたリョナ魚。水深300m以下の深海に生息している。広大な深海に対して個体数が少ないため『性的寄生』という特殊なプロセスが生殖に含まれる。
 深海で雄と雌が出会った場合、まず雄が雌に嚙みつき、その後雌が雄を『吸収』する。この際雌の外部器官として雄の精巣は掌握され、ただ『精液を供給するだけ』になる。
 このプロセスでは、雄側に免疫システムが機能していないことが重要である。しかし免疫がなくとも雄の鮟鱇が病原体に対抗している事実があり、全く未知の免疫システムを持っていると結論づけられている。
 「わからせ」、「ふたなり」と隙がありません。日本人の何人かは鮟鱇から人間に進化したルーツを持つんでしょうね。
 綺麗な女の子に近づいたらゴー、フィニッシュで食べられます。
 

出展;https://honcierge.jp/articles/shelf_story/6796
   https://nazology.net/archives/65753
 


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2.人間さんって難しいです

 あれは今日から一年前、僕がセンターに入学するする前日のことだった。

 

 

『蒼良、もう行くのか?』

 

『うん、早めに行って荷物の整理とかしなきゃだし』

 

 太陽が頭の真上に上る頃、僕は家の玄関で両親の見送りを受けていた。センター付属の寮までは大体家から三時間かかるので、先に運び込んでもらった家具の組み立てや荷物の整理を考えるともう出発しなくてはならない。明日の入学式で寝不足なんてことになったら幸先が悪すぎる。

 

『持ち物は大丈夫か?制服とか下着はあるか?あとは魔界植物のポーションと竜の爪が入ったお守りと獣除けの簡易結界と魔封じの札も・・・』

 

『大丈夫だから。足りなくなったら向こうでも買えるし』

 

 僕が背負っているリュックの中には魔界産の便利グッズが詰め込まれている。お母さんの心配性は昔からだったが今日は特にそうだ。別に僕はライオンのいる檻に入るわけでも、霊が生者を貪るホラーハウスに住むわけでもないというのに。

 このままだとリュックをさらに一回り大きくしかねない様子のお母さんを止めるように、その肩にふわりと手が乗せられた。

 

『大丈夫だよ、蒼良はしっかりしてるからね。心配要らないさ』

 

 隣に立っていたお父さんが苦笑いしながらお母さんを宥める。過保護なお母さんと少し放任主義のお父さん、相性が悪そうに見えるが夫婦仲は極めて良好である。喧嘩したのも僕が生まれる数年前にしたのが最初で最後だとか。

 

『それに、子供が自分で考えて進む道を決めたんだ。信じて送りだすのが親ってものだろう?』

 

『ぬぅ、ついこの間まで赤子だったというのに。人間の成長は早過ぎるぞ・・・』

 

 そう言うと、お母さんは僕を優しく抱きしめる。今まで何度も感じてきたこの温もりともしばらくはお別れだと思うと寂しく感じる。

 

『長い休みには必ず帰ってくるのだぞ。それと、もし辛いことがあれば遠慮なく連絡しろ』

 

『うん、わかった』

 

 いつも守ってくれていた両親と離れて暮らすことに不安はある。だけど、僕も大人になるときが近づいているんだから、仕事に忙しい両親に頼らず自立した姿を見せないと。そう考えていると、お父さんが僕の目を見ながら声をかける。

 

『僕らの仕事を邪魔しないように一人で頑張ろう、なんて思う必要はないからね』

 

『・・・なんで考えてること分かったの?』

 

『親だからさ。あと蒼良は顔に出やすいからね』

 

 柔らかく笑うお父さんに考えを見透かされて恥ずかしさで俯いていると、僕の頭にお父さんの大きな手が乗った。手と触れた頭の部分がじんわりと温かくなっていく。

 

『僕らは蒼良に自由に生きてもらいたいって思ってる。でも、それは一人で全部背負い込むってことじゃない。それに親にとって一番悲しいのは、子供の大事な時に力になれないことだからね。』

 

『うん、ありがとうお父さん。・・・そろそろほんとに行かなきゃ』

 

 そっと二人から離れて玄関の扉に足を向ける。これ以上は寂しさとか感動とかで涙が出てしまいそうだった。

 そこでお母さんがふと思い出したかのように声を投げかける。

 

『そうだ、蒼良。何度もしつこいようだが向こうでは魔族に、中でも特に』

 

『"天使に気を付けて"、でしょ?わかってるって』

 

 最後にもう一度二人の顔を振り返って宣言する。僕の夢の新しい出発を。

 

 

『行ってきます!』

 

 

『『行ってらっしゃい、蒼良』』

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

「おはよ~、今日もりゅーちゃん先生の手伝いしてきたんだ。偉いね~」

 

「ふん、相も変わらず馴れ合いにご苦労なことだな、天使よ」

 

「おはようございます。でもこれは私の自己満足のようなものですから、褒められることではありませんよ」

 

 心なしか暗くなった天使の輪を浮かばせながら、彼女は自分に割り当てられた席に向かう。その途中で向けられるクラスメイトたちからの親し気な挨拶は、彼女が一年生の間多くの人を助けてきた結果だ。その賞賛に対しても謙虚に返すのは彼女の美徳だが、もっと誇ってもいいことだと思う。

 それと少し尊大な口調の人は吸血鬼族で、態度に反して根はいい人だ。一年間接してきてクラスの皆も段々慣れてきている。たぶんさっきのは「いつもお手伝いお疲れ様!」、ぐらいの意味だろう。

 

 挨拶を交わしながら教室を歩く彼女は僕の隣の席に鞄を置くと、顔をこちらに向け僕と大地に声をかける。

 

「人間さんたち、今日もおはようございます」

 

「おう、おはよう!」

 

「お、おはよう、ございます、ウリエルさん・・・」

 

 大地の大きな声とは反対に僕は今にも消え入りそうな声を出した。彼女の前では妙に気恥ずかしさを感じてしまうのだ。特に去年のあの事件以来は彼女の名前を呼ぶにも少し緊張してしまう。

 一年生のときは同じクラスでも席が離れていたので僕の挙動不審が彼女に露呈することはなかったのだが、新学期初めての席替えで彼女が隣になってからというものの教室で僕の心は休まることを知らない。いつもこんな調子で接してしまっているのは彼女に申し訳ないので、どうにかしたいとは思うのだが。

 

 そんなふうに考え事に浸っていたからだろう、彼女が僕の顔を不安そうに覗き込んでいるのに気付くのが遅れた。

 

「あの、大丈夫ですか?何か悩み事があるならお話を聞くくらいならできますよ」

 

「別に、大丈夫、です」

 

 急に目の前に彼女の整った顔が映って、咄嗟に思い切り目を背けてしまった。加えて長身の彼女が屈むようにしているせいで身体の一部が協調されていて目に毒だ。というか本人に向かって「悩み事は貴女といるときに緊張してしまうことです」、なんて変な勘違いを生みそうなこと言えるわけがない。

 

 とはいえ彼女からすれば僕は話しかけた途端に目を背けた奴になるわけであり、すると彼女が一つの推論を導くことは当然だった。

 

「・・・私、なにか気に障るようなことをしてしまいましたか?もし、知らないうちに迷惑をかけてしまっていたならそう仰ってください」

 

 そう言う彼女の顔には確かな悲しさが浮かんでいて、少し目も潤んでいるような気がする。

 人間の苦痛を取り除くことを目標にする彼女であるからこそ、自身が苦痛の要因となることを恐れているのだろう。そんな優しい彼女を僕の行動のせいで悲しませてしまったのだと思うと、罪悪感と自己嫌悪で胸が苦しくなる。

 なんと言葉を返したらいいのか、迷っているうちにも過ぎていく時間がより僕らの間に沈黙を積もらせる。

 

ーーーああ、最悪だ。死にたい。

 

 

「いやーそんなことないと思うぞ。ちょっと照れてるだけだって!な、蒼良?」

 

 二人の間で流れる暗い雰囲気を消し飛ばすように大地の明るい声が聞こえた。その声に思わず彼の方を見ると、机の陰で僕以外には見えないように右手でサムズアップを作っている。

 今日ほど彼のことを頼もしく思ったことはない。昼休みに学食を奢ることを心に決めながら、出された助け舟に全力でしがみつく。

 

「そう!全然迷惑なんかじゃない、です。だって・・・」

 

 続けて出そうとした言葉は教室の前方に取り付けられたスピーカ―から流れるチャイムの音によってのみ込まれた。HR開始の合図だ。見ると、先生はすでにプリントを前の席の生徒に配り終えているようで、じきに僕らにも回されるだろう。

 

「ほら、蒼良もこう言ってるしさ。安心しなって」

 

「そう、ですね」

 

 まだ少し不安の残る表情だが、一応納得の返事をした彼女は僕をちらりと見てから席に戻っていく。本当はもう少しちゃんと弁明したかったのだが、一先ず誤解は解けた、はずだ。

 

「うむ、みな席に着いたかの。今日のHRは各委員会と係の担当を決めるのじゃ。詳しい仕事内容はプリントに書いておるから確認しておくことじゃ」

 

 ウリエルさんのことを気にかけながらもプリントの内容にざっと目を通す。学級委員に風紀委員や保険委員、図書委員、体育委員等をまとめた委員会に、各教科の先生を補佐する教科係。それが役職ごとに男女関わらず二名ずつ。どうやら一年生のときと大きく違いはなさそうだ。

 どうしようか、去年と同じ図書委員にでも入ろうかなと考えてみる。仕事も持ち回りの図書室の管理と二か月に一回おすすめの本を紹介するだけだし、暇な時間は本が読める。楽な仕事なので委員会の中では最も人気が高い。

 

「まずは学級委員じゃな、誰かやってくれる子はおるかの?」

 

「先生、俺やります!」

 

 先生が尋ねるなり、そう言って勢いよく僕の前の席から大地の手が挙がる。確かに彼はよく人の機敏に気付けるし、明るい性格だからクラスのリーダー的立場は似合うだろう。でも彼はすでに生徒会に入っているはずなのだが大丈夫なのだろうか。

 どうやら先生も僕と同じ疑問を抱いたようで大地に問いかける。

 

「ありがたいが、お主はもう生徒会に入っておるじゃろう。忙しいのではないか?」

 

「あー、実は生徒会での仕事って魔族の先輩がほとんど終わらせちゃうから俺はあんまり忙しくないんすよ。だから大丈夫です、やらせてください!」

 

 生徒会の仕事というのを詳しくは知らないが、それでも口振りから察するに彼に任されている仕事も多少あるはずだ。なのに彼は軽くなった荷物の分を休むことに使わず、さらに荷物を背負おうとしている。それはたぶん人の役に立ちたい、誰かを助けたいと思っているから。

 僕もそうだ、両親のように人の役に立ちたいと思っている。でも、将来のために本のページを捲る僕と、今精一杯誰かの手を掴もうとしている彼を比べたとき、どうしても僕は自分が自己満足で終わるのではないかと怖くなる。僕が助ける人は僕の想像の中にしかいないのだから。

 

 他に探すべきなんじゃないだろうか、この手の別の使い道を。

 

「そこまで言うならここはお主に任せようかの。ではもう一人誰かやってくれる子はおるか?できれば女子がよいの」

 

「誰もやらぬなら我がやろう。大衆を導くなど貴族の我からすれば造作もないことであるからな」

 

 僕がぐるぐると考えているうちに学級委員が決まったようだ。もう一人は朝、ウリエルさんと話していた吸血鬼の人だ。今のは「誰もやりたくないなら私がやるよ!こういうの慣れてるから気にしないで」って意味だろう。

 

「学級委員は決まりじゃの。では次に風紀委員をやってくれる子はおるかの?」

 

「はい、私がやります」

 

 今度は隣の席からウリエルさんの手が挙がる。一年生のときも彼女は風紀委員を務めていたし不思議はない。意外かもしれないが彼女はルールを破った人に対してしっかり怒れるタイプの人である。規則を破った生徒がいくら屁理屈を捏ねようと笑顔のまま理詰めで追い詰めていく光景はちょっと怖かったりする。

 ちなみに風紀委員は委員会の中で最も人気がない。理由は単純に仕事の量が多く面倒だからだ。校内清掃に校門前での朝の挨拶、注意喚起のポスター制作や相談箱に寄せられた学校に対する不満の解決など、単純作業で終わらない内容も多い。

 

 ・・・では彼女が手を挙げたのは面倒ごとを引き受けるためだろうか。それとも規則を守ることが多くの人を救うと信じているからだろうか。

 

「ではもう一人、男女どちらでも構わぬよ。誰かおるかの?」

 

 そういえば彼女はなんで人を助けるのだろう。人間を救うって使命が神様から与えられているとして、じゃあ人間以外の魔族を助けるのに理由はあるのだろうか。

 

 彼女の側で、彼女と同じように誰かを救っていけば僕は変われるだろうか。

 

 今、この胸にある衝動が大事なもののような気がして、彼女を知りたくて

 

 

 

「・・・え?」

 

「お、ならこれで風紀委員は決まりじゃの」

 

 

 だから、僕は手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こういう委員会決めって長引きましたよね。
女子は早めに決まるんですけど、遊びたい盛りの男子は放課後に拘束される時間がもったいないと感じてしまうのか結局じゃんけんで決めたりしてました。


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3.夢に私がいたらいいですね

 いつもどうり朝早くに桜舞い散る通学路を歩く。だけど今日は生憎その美しさに思考を割く余裕はない。今日から風紀委員最初の仕事、挨拶強化週間が始まるのだ。これから二週間は入学したばかりの一年生の風紀委員を除いた、二年生と三年生の風紀委員が一週間ずつ持ち回りで校門前に立って生徒に挨拶を呼びかける。

 昨日委員が決まったばかりだが、休み明けの生徒の意識を引き締めるために早速風紀委員の出番というわけだ。それ自体に不満はない。朝早く学校に来るのは普段と変わらないし苦に思わない。

 問題はウリエルさんとどう接するかだ。昨日の放課後に大地とのゲームで圧勝してから一睡もせずに考えたが答えは出なかった。ただの委員同士の事務的な関係では僕が知りたいことに近づけないだろうし、かといっていきなり馴れ馴れしくする勇気もない。

 

 センターの正面玄関で上履きに履き替え、そのまま階段を上って教室にたどり着く。まだ誰もいないことに安心しながら自分の席に腰を下ろす。纏まらない思考をそのままに時間が来るまで仮眠でもして頭をすっきりさせようとアラームをセットして机にうつ伏せになろうとしたとき、教室の扉が開かれるのが見えた。

 ・・・噂をすれば影とはよく聞くが、どうやら考えるだけでも適応されるらしい。

 

「あ、やっぱりいたんですね!おはようございます、人間さん!」

 

「あ、はい。おはようございます」

 

 驚きが一周回って逆にすらすらと言葉が出てきた。

 それにしても今日の彼女はいつもよりテンションが高い気がする。普段より目がキラキラしているし背中の翼もパタパタと忙しい。

 僕の目の前まで来た彼女は弾んだ声で語りかける。

 

「今日は初仕事ですね!慣れないことかもしれませんが私がサポートするので、一緒に頑張りましょうね!」

 

「あ、はい」

 

 廊下を見るにこの時間ではまだ他の生徒は来そうにない。さっき僕がいることを予想しているような口振りだったし、わざわざ僕と話すために早めに来てくれたのだろうか。

 僕の視界を遮るように立った彼女は言葉を続ける。

 

「風紀委員に立候補してくれたときは驚きましたけど、それ以上に嬉しかったんです。一年生のときは遠巻きにされてた気がしますけど、これをきっかけに仲良くなれますよね!」

 

「あ、はい」

 

 今日の天気は一日中晴れらしい、窓の外の雲一つない空がそれを証明しているようだ。雨だったら風紀委員の仕事に支障をきたしていただろうし一安心である。

 僕から太陽を遮るように立った彼女が少し前のめりになりながら続ける。

 

「安心したんです。人間さんは別に私のことを避けたいわけじゃ・・・」

 

 僕は再び廊下を見ようと首を動かそうとして、

 

「めちゃくちゃ避けるじゃないですか!?」

 

「ごめんなさい!」

 

 いや、本当に彼女を避けたいわけではないのだ。ただ彼女の目を見ると湧き上がる、得も言われぬ羞恥心に耐えられないだけで。昨日出した勇気はもう期限切れになってしまったのだ。

 彼女の方をちらりと伺うと教室に入ってきたときの元気は鳴りを潜め、不安そうな表情でこちらを見ていた。これでは昨日の焼き増しだ。なにか言い訳を、彼女を安心させる言葉をかけたくて迷いながらも口を動かす。

 

「あー、あの、実は僕、女の子とあまり仲良くなったことがなくて。それで、どうしても目を合わせると緊張してしまって」

 

 咄嗟に思い付いた言い訳にしては悪くないのではないだろうか、僕の女性遍歴を暴露したこと以外は。少し事実と違うことは図書委員のときに魔族の人に頼られることはあったけど、目を合わして話すことに苦労なんかしなかったことか。さっきの悪癖は彼女の前でだけ出てしまうものだ。

 

「そうなんですか?ふむ、なるほど・・・」

 

 僕の言葉を聞いた彼女は目を丸くすると、次第に意味を咀嚼したのか段々と笑顔になっていく。どうやら悲しませずに済んだようで、彼女の目もまた活力を取り戻してキラキラと、いやもはやギラギラと輝いている。

 すると彼女はふと何かを思いついた顔で僕に話しかける。

 

「でも風紀委員の仕事をするのに魔族の女の子たちと話せないのは困りましたね。例えば服装検査をする際にしっかり注意できないといけませんし」

 

 彼女の言葉に曖昧に頷く。さっきの言い訳が原因で風紀委員の業務遂行能力が疑われてしまったようだ。

 どうするべきか、ここで仕事をできることを言えばさっきの言い訳に矛盾が生じる。でもこのままでは風紀委員の役を降ろされる可能性もある。このセンターの大部分は女生徒だから男の子だけを相手し続けるのも不自然だ。

 やはり慣れない嘘などつくべきではなかったのかと悩んでいると、頭上から彼女の声が降ってきた。

 

「そんなに不安そうにしなくても大丈夫です。私にいい案があります!」

 

 いつの間にか俯いていた顔を上げて声の方を見ると、彼女は満面の笑みを浮かべ握りこぶしを胸のあたりに掲げながら言葉を続けた。

 

「私で女の子の練習をすればいいんです!」

 

「・・・はい?」

 

 聞き慣れない単語に思わず素っ頓狂な返事をしてしまう。

 女の子の練習とは、話の流れからするに女の子との会話の練習ということか。言い回しがちょっと危ない気がするが、そう考えれば別におかしな提案ではない。またいつものとおり彼女が人の助けになりたいと思って言ってくれたのだろう。

 

「でもウリエルさんに迷惑が・・・」

 

「全然大丈夫です!むしろ嬉しいといいますか、役得といいますか!」

 

 僕の言葉に被せるように勢いよく返事が返ってくる。ここまで言わせてしまっては逆に断る方が失礼だろう。それに僕だって彼女とは普通に話したいと思っているのだ。彼女のことを知りたいと風紀委員会に入ったのに、このままでは好きな動物も聞くことができない。

 

「じゃあ、その、お願いします」

 

 

 僕の返事を聞いた彼女は笑みを浮かべたまま、その二本の腕を僕の肘のあたりまで持ち上げる。手の平は大きなものを掬い上げるかのように傾けられ、同時にほっそりした指は軽く曲げられている。窓を背に立つ彼女の金髪が太陽の光を浴びてあたたかく光る。

 

 その光景はまるで宗教画の中の天使が人間に救いを与える瞬間のようだ。彼女はすべての罪をその母性で包み、赦すだろう。彼女が次に口を開いたときに紡がれるのは神への賛美歌か、それとも人への金言か。

 

 

 

 

「では、まずはハグしましょう!」

 

 

 僕の脳が思考を停止する。視覚と聴覚が拾う情報が一致しない。

 

「なんで・・・?」

 

「誰かと仲良くなるには目を見て挨拶するのがその第一歩です!ですが先ほど、目を合わせるのが苦手と仰っていました」

 

 かろうじて絞り出した疑問に返された彼女の言葉を確かめるうちに、少しずつ思考が回りだす。そして彼女が言いたいことを察する。

 

「そこでハグです!人間さんたちの間ではこれも挨拶になると聞きました。そしてなにより、ハグした後はお互いの顔が見えません!」

 

 確かにハグならお互いの顔は見えなくなる。ただし、かなり密着した場合である。しかも僕と彼女はかなり身長差があるから正面から抱き着きあったときに、その、僕の顔が彼女の胸の上の方にいってしまう。つまり絵面が大変よろしくないことになる。

 そもそもハグで挨拶するのは海外の文化だ。人間という大きな区別で物事を見ている天使からすれば問題ないのだろうが、僕は純日本人でただのクラスメイトの女の子とするにはハードルの設定が高すぎる。なんなら目を合わせて普通に挨拶するより難易度が上がっている。

 

 それに、まだ僕らは・・・

 

「その、ウリエルさん。確かにハグは人間の挨拶ですけど、特に仲良くなった友人同士とかでやるもの、なんです。だから、お互いを何も知らない僕らには・・・」

 

 

 

 

「大丈夫ですよ。これから、私たちは絶対に特別な仲良しになれます。神様にだって誓えます」

 

 

 

そうやって、彼女があんまりにも自信に満ちた声で言うから、天使が神様に誓うなんて言うから。

なんだか、その根拠を聞いたりするのは野暮な気がしてしまって。

足を一歩一歩動かしながら、これが雰囲気にのまれるっていうことなんだなと思った。

 

「絶対、ですか?」

 

「はい。だからこれはちょっとした先払いです」

 

 背中に回された腕が僕を引き寄せる。制服越しでも彼女からの体温はしっかりと感じられた。いざそのときになると僕が思っていたような劣情は浮かんでこなくて、ただそこには安息があった。

 僕の身体を外から隠すように彼女の大きな翼が広げられる。触れたその感触で、まるでふわふわの布団の中にいるような気持ちになって、そういえば仮眠を取ろうとしていたことを思い出す。

 

「寝てもいいですよ。時間になったら起こしますから」

 

 

 今、彼女はどんな顔をしているのだろうか。そんなことを想いながら僕は意識を落とした。

 

 

 

 うっすらと無機質なアラーム音が聞こえる気がする。でもそれはすぐに止まって、代わるように人の声が聞こえだした。

 

「おはようごさいます、人間さん。これで二回目ですね」

 

 目を開けると鼻先から数センチのところに彼女の顔があった。少しからかうような彼女の笑顔を見ながら、自分がどこで何をしていたのかを思い出して顔が熱くなる。

 そして同時に嫌な予感がして、足元を見てあることに気づく。

 

「ず、ずっと立ったままでいたんですか!?ごめんなさい、僕が寝てしまったせいで・・・」

 

「いえいえ、私が言い出したことでしたし大丈夫ですよ。それよりも、」

 

 同級生の女の子に甘えてしまって迷惑をかけたことに、恥ずかしさと申し訳なさで俯いている間にも彼女は話し続ける。

 

「むぅ、まだ目が合いませんね。こうなったら出来るようになるまで毎日ハグしましょうね!」

 

「え!?」

 

 今日一回しただけでもう羞恥心でどうにかなりそうだったというのに、毎日なんてとてもじゃないが耐えられない。彼女のとんでもない提案を思い直してもらうために慌てて口を開く。

 

「ま、待ってください!そこまでやらなくても・・・」

 

「あー、そろそろお仕事始まっちゃいますね。急がないといけません」

 

「露骨に話を逸らさないでください!」

 

 このあとも必死に言葉を尽くしたが彼女が聞き入れてくれることはなかった。

 

 

 

 今日から一週間、僕は風紀委員の仕事としてたくさんの生徒と挨拶を交わしたけど、彼女一人と交わした挨拶の方がどっと疲れた。

 

 

 

 

 




彼らは一年生の頃からお互いを知らないわけではありませんでしたが、人間さんが距離を取っていたので会話自体は最小限になっていました。
この挨拶が彼らの関係の始まりとなります。



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4.バレなければいいんです

新生活始まって早々に風邪引いた結果スケジュールがレされて萎え気味だったんですけど、メイドアリスとバニートキ来てくれたので頑張ります。


 

 

 カレンダーに五月の文字が刻まれる今日、一年生はもう新生活にも慣れた頃だろう。

 長い休みの後に残る気分の浮つきも落ち着き、自分を取り囲む環境を日常と認識し始める。

 そんな去年の自分を思い返しながらも、朝特有の澄み切った空気を堪能して登校してきた僕は今―――

 

「人間さん、今日のハグはどうですか?たっぷり堪能してくださいね♡」

 

 ウリエルさんの胸で息を止められながら、酸欠その他諸々で顔を赤くしている。

 

 

 彼女との特別な挨拶が始まってもう二週間になる。

 僕が彼女と目を合わせられないことに端を発したこれは、朝早くの教室で二人きりの状態で行う。なにを言ってもこの挨拶の習慣化を取り下げなかった彼女に唯一僕が通せた条件だ。さすがに衆人環視の中で女の子と抱き合えるほどの度胸は持ち合わせていない。

 

 それに、彼女は完全な善意で僕のために提案してくれているのだ。勘違いとはいえ一度了承してしまったのもあるし、そもそも僕の噓が原因でもある。

 ならば助けてもらう立場でいちいち文句を言うのも筋が通らないと思い、最終的には受け入れたのだが・・・

 

「かわいいです♡」

 

 最近彼女の目がおかしい。

 少し前までは良かったのだ。最初のハグのとき僕が寝不足だったのもあって彼女に抱いたのは安心感が強かった。その印象を引っ張っていたのかその後の彼女とのハグも甘えている羞恥心はあるものの、お母さんと接するようなそんな気持ちだった。

 

 しかし慣れとは恐ろしいもので、やがて気づかなくていいものにまで意識が向き始めるのだ。例えば、顔に当たっている不定形なものの存在感とか、いつの間にか覚えてしまった彼女の匂いとか。それだけでも純粋に協力してくれている彼女に申し訳ないのに、悪いことは重なって起こる。

 

「人間さんはずっと私が守りますから♡」

 

 同じタイミングで彼女がより強く抱きしめてくるようになったのだ。今では先に言った通り息をするのも一苦労な状態である。

 原因はたぶん天使としての庇護本能が目覚めたことだろうと推測している。漏らす言葉も"かわいい"とか"守る"とかだし。

 とはいえ、この不幸なタイミングの一致によって僕の朝に平穏はなくなってしまった。

 

 また今も彼女の腕の輪が狭まり、そこに収まる僕の身体が潰れる。

 僕に見える世界がすべて彼女になって、まるで真夏日のように体温が上がり頭がクラクラしてしまう。

 彼女にそのつもりはなくとも、この状況は健全な男子高生として反応してしまうものがあるのだ。これ以上は理性が危うい。

 

 僕はギブアップの意思を伝えるつもりで彼女の背を叩く。

 

「んー?ふふ、そんなに催促しなくても、もっとぎゅっとしてあげますからねー」

 

 これが授業で習った異種族との壁というものであろうか。初めてのコミュニケーションエラーがこんなところで現れるとは―――

 

 

 ―――僕が彼女から解放されたのはこれから10分も後のことだった。

 

 

「何とか、乗り切ったぁ~」

 

 時が過ぎて放課後、僕は教室から出ていく生徒を横目に万感の思いでひと息ついていた。

 あれからふらつく思考を何とか持ち直した僕は今日一日の授業を気合で受け切った。

 ノートは取れたものの集中しているとは言い難い状態だったので、寮に帰ったら復習が必要かもしれない。

 ちなみに大地は学級委員の仕事で駆り出されているから今日は一人で下校だ。

 

 僕が席でぼうっとしていると教卓の側でウリエルさんとりゅーちゃん先生が話しているのが見えた。

 ここからではよく聞こえないが先生が彼女になにかを手渡しているのが見える。

 そのまま一言二言会話を交わし、最後にお礼らしきことを言った先生は忙しそうに教室を去っていった。

 

 なんとなく内容が気になった僕は隣の席に戻ってきたウリエルさんに問いかける。

 

「ウリエルさん、先生と何を話してたんですか?」

 

 そういえばあの挨拶の成果か少なくとも会話はスムーズにできるようになった。以前のように彼女の前でどもってしまうことはもうないだろう。

 まだ目はちょっとしか合わせられないのだが。

 

「さっきは先生にお使いを頼まれたんですよ。今は中間テストの準備で先生方も忙しいですから」

 

 詳しく聞いてみると、彼女が買いに行くのは中間テスト用の特殊な印刷紙だという。なんでも試験中の魔法による不正を防ぐための特別な加工がされているらしい。

 いつも試験のとき質のいい紙を使っているなとは思っていたがそんな機能があったとは知らなかった。

 

 もともとはりゅーちゃん先生が買っておく役目だったが、うっかり忘れてしまっていたらしい。

 まあ何千年も生きる竜族にとって一か月、二か月の時間など誤差にしか感じられなかったのだろう。僕らの担任に"最近"とか"近いうちに"は禁句なのだ。

 そして同じく忘れていた試験の作成に追われている先生に代わってウリエルさんがお使いを頼まれた、という経緯だ。

 先ほど先生に渡されていたのはその代金だったのだろう。

 

 そこで僕はひらめいた。

 全校生徒分の印刷紙を準備するとなるとかなりの量になることが予想される。

 そのとき僕がウリエルさんの荷物を持ってあげれば、彼女も僕のことを頼れる男だと思うに違いない。

 そうなれば彼女の母性本能も収まり、朝のハグも以前のような普通のものに戻るはずだ。

 

「それ、僕も付いて行っていいですか?」

 

「え、でも特に面白いことはないと思いますよ?」

 

「ちょうど復習用のノートが欲しかったので一緒に行こうかと思って」

 

 疑問に思う彼女にお誂え向きにさっきできた理由を提示する。

 ノートを買うのもお使いに付いていくのも、どちらも彼女のハグを起因としていると考えると少しおもしろい。

 

「ああ、なるほど。なら着替えた後に寮の入り口で集合しましょうか」

 

「このまま制服で行かないんですか?」

 

 文房具屋ならセンターからそう時間も掛からないうちに着くと思うのだが。

 

「魔法防止用の印刷紙は普通のお店では売ってないのでちょっとだけ歩かないといけないんですよ。それにセンターから近くても外に出かけるときには基本的に制服は非推奨です。たとえ学校外でも、風紀委員としてみんなのお手本となるように振舞わなければいけませんよ」

 

 そう窘める彼女に頷きながら、

 

 

 ―――誰もいない教室で異性が長時間抱きしめ合っているのはお手本にしていいことなんだろうか?

 

 という疑問が湧き上がってきたが、藪蛇になりそうなので口に出すことはなかった。

 

 

 僕らセンターに通う生徒が住んでいる寮には男子寮、女子寮を分けることなく巨大な一棟として建築されている。一応中で区別はされていて上層から人間男子、人間女子、魔族の順だ。でも普通体力がある魔族の方が上層になると思うのだが。

 そのせいで前にエレベーターが止まったときは、息を切らしながら階段を上っているところを魔獣族の人に見られて気まずかった。背負っていってやろうかとも言われたが流石に辞退した。

 

 今僕はそんな寮の入り口でウリエルさんを待っているところだ。

 黒いパンツにゆとりのある白いTシャツ、あとは適当に選んだ暗い青のジャケット、お洒落なんてあまり意識したことはなかったからかなりラフな服しかなかった。鎖骨の中ほどまで外気に触れてしまっているが今の季節だと夜は少し肌寒さを感じるかもしれない。

 まあデートというわけでもないし、最低限見れれば動きやすさ重視で構わないだろう。

 

 

 そう、思っていたのだが、僕が入り口で立ち止まってからというもののやけに視線を感じる、特に魔族の人から。

 なんでだろう、もしかして魔族の文化では僕のファッションってとんでもなくセンスのないやつ、みたいに認識されるのだろうか。

 変な汗が出てきて思わずシャツの襟を引っ張ってパタパタと身体に風を送る。あ、また視線が強まった。

 

 もういっそのこと着替えてこようかと考えていたとき、こちらに向かってくる見覚えのある影があった。

 フリルがあしらわれた白いブラウスに淡いベージュのタイトスカート、上には薄手の桜色のカーディガンを羽織っていて見るものに春を連想させる。

 そう思わせる服装で現れたのは約束の相手であるウリエルさんだった。

 

「ごめんなさい人間さん!お待たせしてして、しま、って」

 

「いえ、僕もさっき来たところですから」

 

 そう謝りながら駆け寄ってきた彼女は僕を見て急に固まった。

 明らかに僕の服装、正確に言えば上半身を凝視している。

 やはり、どこか変なのだろうか。

 

「あの、僕の格好って変に見えるんですかね?さっきから視線を感じていて、もう着替えてこようかと・・・」

 

「いえいえ、とてもお似合いですよ!?ぜひそのままで行きましょう!そのままで!」

 

 どこか必死な様子で彼女はそう言ってくれているが、これは確実に気を遣われれていると見ていいだろう。

 もしも本当に普通の格好ができているのならばここまで彼女は慌てていないはずだ。

 彼女を待たせてしまうことになるがもう少しキッチリした服に着替えてこよう。

 

「すいません、やっぱり着替えてくるので少し待って・・・」

 

 部屋に戻ろうと踵を返した僕の足は数歩進んだところでそれ以上動かなくなった。 

 彼女が僕の手をガシッと掴んでいるからだ。手から伝わる圧迫感はとても彼女の細腕から生み出されるとは思えないほど強い。

 そしてあろうことか彼女が僕の手を引いたまま強引に寮の外に出ようとするので慌てて声を出す。

 

「ちょっと急にどうしたんですか!?」

 

「い、いえ、早く行かないと寮に帰ってくるときに暗くなってしまうので急いだほうがいいと思いまして!」

 

 今は放課後に入ってすぐだから日没までには余裕があるし、着替えも長引かせないからそこまで急がなくてもいいと思うのだが。

 そう口を挟む間もなく、彼女は僕をぐいぐいと引っ張って寮の出入り口を抜けて歩き始めてしまう。

 ここまで来たら彼女の意向を覆すのは不可能だろう。・・・つい最近同じようなことがあった気がする。

 

「もう、わかりましたよ。着替えは諦めますからそろそろ手を放してください」

 

 さっきから僕と彼女の手は繋がったままだ。この時間帯だと下校中の生徒も多いし、僕らの仲を勘違いされるようなことになれば彼女にも迷惑だろう。

 そう思って僕は声をかけたのだが、彼女はきょとんとした顔でこちらを見てくる。  

 

「え?いやですよ?」

 

 あまりにもはっきりとした否定の声に驚き、思わず彼女の顔をまじまじと見つめてしまう。

 その表情から彼女は自分の発言がおかしいとは微塵も思っていないことが分かる。

 なんだか僕の方が変なことを言ってしまったような気持ちになるが、振り返って考えても自然な流れだったとしか思えない。

 

 ・・・というか今気づいたが彼女との距離がいつもより妙に近い。 具体的には彼女が僕の胸元を上から覗き込めるほどに。

 僅かな身じろぎでも彼女の匂いが届いてしまって、そこから脳裏に朝の一幕が思い起こされる。

 

 

 僕と彼女との距離感はただのクラスメイトとしては異常だと思う。

 一体どれだけの人間が学生時代に同級生の女の子とハグしたことがあるのだろう、それも日常的に。

 僕は今までこの距離感の原因を彼女の元来の性格からくるものだと思っていたけど、もしかしたら彼女が手を放したくないと言うのも彼女が僕にそういう感情を・・・

 

 

 

 

「だって人間さんが迷子になったら大変じゃないですか」

 

 僕の桃色の思考を断ち切ったのはウリエルさんのそんな言葉だった。

 彼女は微笑みながら続けて言う。

 

「人間さんの口振りからしてこれから向かうお店に行ったことはないですよね?だから私がばっちり引率してあげます!」

 

「なっ!?僕は子供じゃないんですよ!それくらい・・・」

 

「ほら、行きましょう!」

 

 

 薄々気づいてはいたが今日で確信した。どうやら彼女は結構強引なところがある。

 

 手を繋ぎ、どこかへ出かけようと身体を寄せ合い歩く男女二人。すれ違う人達からすればカップルかなにかに見えるのだろう。

 惜しむらくは彼女からの僕らへの認識が親子のそれであることだ。

 

 

 

 

 




ちなみに天使族にはデートと言う概念がありません。
理性の弱い大半の天使たちは自分に向けられている行為に気づく=天界につれていってセッなので、彼氏彼女の期間が存在しないからです。
また、天界にいる人間は天使の共有財産的な立場で休む間もなく永遠に快楽の虜になり、外にでることもありません。



ここから連続した三話がまとめて一幕になる予定です。
思ったより長くなった・・・


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5.ちょっかいかけないでください

 それぞれのキャラクターの思惑とか価値観を考えながら書いてたら思ったより複雑になったかもしれません。

 小説って難しいですね


 

 色々と諦めてウリエルさんと手を繋いだままで他愛ない話をしながら足を進める。

 道中で見覚えのある制服が何度か目に入ったが、もはや彼らが僕たちの顔を知らないことに賭けるしかない。

 いや、僕はともかく彼女は結構な有名人だから分が悪いかもしれない。

 

 明日センターで広がってしまうであろう噂に対してどう対応したものか、と考え始めようとしたところで彼女の声が聞こえた。

 

「はい、着きましたよ。ここが魔族御用達のお店が揃うショッピングモール『マモン』です」

 

 僕の目線の先には一面ガラス張りの大きな建造物が鎮座しており、その出入り口では多くの魔族の人達が行き来している。

 

 この『マモン』という施設については聞いたことがあった。確かある悪魔が種族問わずにお店を誘致して出来た商業施設で、メインの客層を魔族に絞り多種多様な魔法道具を販売しているのだとか。魔族が求める道具はすべてここにある、とまで言われているらしい。

 僕は魔族が集まるというだけで及び腰になって来たことはなかったのだが中々活気のある場所のようである。

 

 予め開かれている大きな扉を潜ると同時に喧騒が耳に入ってくる。

 魔族の人達は年を取っても見た目が変わらないので確かなことは言えないが、ちらほらと角や尻尾の付いた幼い子供が見えるあたり年齢に関わらず人気がありそうだ。

 

 中のお店は飲食店やアパレルショップ等の人間のショッピングモールと同じようなものもあるが、雑貨屋らしきところには魔法陣が刻まれたチョーカーやあからさまに怪しいピンク色をした薬品があったりと明らかに違う点もある。

 

 

 そうやって目的の店に向かい歩いている途中にも色々と観察しているのだが、気のせいか僕らの周りだけ異常に騒がしい。

 というのも今僕たちはそこそこ混雑している施設内を移動しているわけで、必然的に他の魔族の人との距離が近くなるのだが・・・

 

 

「おい、人間がいるぞ」

 

「連れいるしそういうプレイでしょ。はー妬ましいぃ」

 

「でもこんな往来であの格好はもう誘ってるじゃん・・・」

 

「おかあさーん、あれってキカクモノっていうんでしょ?私もヤりたーい!」

 

 なんかすれ違う度に指をさされて話されたり、じっとりした視線で睨まれている気がする。ぶっちゃけかなり怖い。

 想像してみて欲しい、周りを自分より頭一つ分背が高い人達に囲まれて全員がこちらを見下ろしてきている光景を。おまけに力では絶対に敵わない相手に。

 

 心細さから自然とウリエルさんと繋いでいる手に力を込めてしまう。

 すると、僕の心境を敏感にも察したのであろう彼女は僕の手を握り返しながら安心させるように笑いかける。

 

「不安にならなくても大丈夫ですよ、人間さんには私がついてますから」

 

「う、すいません・・・」

 

 また少しお互いの身体の距離を縮めたまま混雑を潜り抜け、何階かフロアを上がると文房具屋らしい店構えが見えた。

 どうやらそこが目的地だったようで二人で少し早足気味に店内に入る。ここは他のお店と比べてそこまで人気が多くはないようで、やっと一息付けそうだ。

 

「では私は店員さんに在庫を確認してきますので買いたいものを選んでおいて下さいね」

 

「あっ・・・」

 

 そう言ってあっさりと手を離した彼女はお店のカウンターに向かって歩いていく。

 手から失われていく温度になんとなく釈然としない感情が湧き上がってくるが、意識しないようにしよう。

 

 気を取り直して店内をあらためて見まわす。

 棚に並んでいる商品はどれも見た目は普通のものばかりで、ノートや消しゴムなどが置いてある。

 ただ商品名に『書いたことが現実に!?あなたの恋を叶えるノート』とか『拾った相手はあなたに釘付け!誘惑消しゴム』などやたらと恋愛方面に絡めた売り文句が踊っている。

 人間である僕にはそれがジョークグッズなのか魔法のかかったものなのかの区別もつかないが。

 

 とりあえず端っこの方に雑に平積みされていた今使っているのと同じノートとついでに誘惑消しゴムとやらも手に取る。

 いや、本当に効果を期待しているわけではない。ただ僕一人でこのお店に来る機会は滅多にないだろうから記念品として変わったものが欲しくなったのだ。

 あれだ、修学旅行で木刀を買う男子高校生と同じ心理である。

 

 カウンターに顔を向けると、どうやら丁度いいタイミングだったようでウリエルさんの目の前に紙袋が二つ置かれている。

 おそらくあそこに目的の魔法紙が入っているのだろう。

 足を進めて近づくと僕の足音に気づいた彼女が振り返る。

 

「あ、人間さん。欲しいものは選べましたか?」

 

「はい、このノートと・・・」

 

 そこまで言ってから僕はハっと口をつぐんで手に持ったものを背中に隠す。

 突然の僕の行動にウリエルさんが怪訝そうに首を傾げた。

 

 待て、今僕が持っている誘惑消しゴム、これを彼女が見たらまずいのではないか?

 

 遅まきながら気が付いた事実に焦りが募る。

 もし見つかれば、軽蔑、哀れみ、少なくとも負の感情を向けられることは間違いない。

 それはまるで教室にエロ本を持ち込んで盛り上がっている男子達を見る女子のように。

 

「あの?一緒に払ってしまうので出してくれますか?」

 

「ぼ、僕はあとでお会計するので大丈夫です、はい」

 

 今から商品を棚に戻しに行くのは不自然だし、彼女に嫌われないためにもここは意地でも譲るわけにはいかない。

 

 すると彼女は信じられないことを聞いたとばかりに大仰に片手で両目を覆って嘆きだした。

 

「人間さんにお金を払わせるなんて、そんな非道なこと私には出来ません・・・!」

 

「なんで僕がお金払うことにそんなに悲しむんですか!というかそもそも奢ろうとしないでくださいよ!?」

 

「別に人間さんに損はないじゃないですか!もう、いいから早く出してください!」

 

 彼女の両手が僕に迫ってくる。

 この手に捕まれば、僕はこれから同級生の女の子に貢がせた軟派野郎という汚名を背負うことになる。

 あまつさえその子に軽蔑される可能性もセットだ。

 

 こうなったら例え不自然でも全力ダッシュで撤退するべきか。

 そう考えて後ろに振りかえろうとしたとき、僕の身体は誰かの間延びした声に止まった。

 

「ウリエルちゃ~ん、そんな強引にしたら可哀そうでしょ~」

 

「・・・・・・はぁ、あなたには関係ないでしょう。あとちゃんづけは止めてください」

 

「いいじゃ~ん、私たちの仲なんだしさ。ほらそこのお客さん、こっちのレジ空いてるからおいで~」

 

 隣のレジから手を振って僕を呼んでいるのは黄金のような濃い金髪に黒い翼を持った綺麗な魔族の人だった。

 だがなによりも目を引くのは頭上に浮かぶ黒い輪。ウリエルさんのそれとは対照的に一切の光も通さない漆黒に染まっている。

 

 この人は天使、なのだろうか。その正体に好奇心をくすぐられる前に、ふと頭に引っかかるものがあった。

 あれ、そういえばここに人なんかいただろうか。そもそもレジは一つだけだったような、まあ気のせいか。

 

 地獄に仏とばかりに僕はそそくさとウリエルさんの脇を潜り抜けて隣のレジに向かう。

 

「あっ!ちょっと勝手に決めないでください!」

 

「勝手してたのはウリエルちゃんでしょ~。そんな態度だから今まで碌に彼氏も出来てないんだよ~」

 

 店員さんがそう言った瞬間、隣からとてつもない熱気が押し寄せてきた。

 慌てて目を向けると、そこではウリエルさんの背中に広がる六枚の翼が白から橙にその色を変えており、周りの空気がゆらゆらと揺れている。

 そこが熱源とみて間違いないだろう。というか翼の色って変わるんだ、初めて知った。

 ウリエルさんがいつもと違う明らかに苛立ちを滲ませた声で言葉を返す。

 

「勘違いしないでください。天使は多くの人間に愛を与え天界に導くことが使命、だから私たちは他の魔族と違い特定の番を必要としないだけです」

 

「わぁ怖~い。まあ確かに他の天使はそうだろうけど、君の欲望はどうなの?一度堕ちた君がそれだけで本当に満足できるのかな~」

 

「それは、どういう・・・」

 

 二人の言い合いをおろおろしながら僕が見ていると、急に店員のお姉さんがウリエルさんの言葉を無視してこちらに顔を移した。

 

「いやぁ待たせてごめんね~、今お会計するから。えっとノートが一点と~」

 

 そこまで言って店員さんは一点を見つめて動きを止めた。目線の先にあるのは例の消しゴムだ。

 ・・・別に恥ずかしくなんてない。僕はただお店の商品を買っただけだから。

 

「ほほ~ん、なるほどなるほど。さっきのはそういう、じゃあ・・・」

 

 店員さんは消しゴムをレジを通さないまま、僕に意味深な視線を向けて何かぶつぶつと呟き出した。

 なんでもいいから早く済ませて欲しい。

 さっきから横のカウンターで頬を膨らましているウリエルさんの機嫌がどんどん悪くなっていくのを雰囲気で感じるのだ。

 

「お客さん、お客さん。ちょ~とこっちに耳寄せてもらっていい?」

 

「いや、なんでですか。それより早くお会計を・・・」

 

「言いたいこと言い終わったらすぐやるから~」

 

 腰を屈めてニマニマと笑う店員さんを少し訝しみながらも、僕はカウンターに身を乗り出すような体勢を取り頭を傾ける。

 すると僕の耳に息がかかるほどの距離でぼそぼそと声が囁かれた。

 

「回りくどいことなんか止めてさ~、あの子が好きならさっさと告白した方が後悔しないよ~」

 

 内緒話をするような状況にこそばゆさを感じるより先に内容の方に違和感を覚える。

 告白とはなんのことだろう。いや、まさか・・・

 

「ちょっ、違います!あの消しゴムはそういう意図じゃ」

 

 

 

 

「もっと本能に素直になろう。欲しいものは何をしても全力で手に入れるんだ。他の人にとられる前に、ね?」

 

 店員さんのその言葉は、不自然なほどに僕の脳にスッと入りこんできた。

 先ほどまで否定しようとした何かも忘れてしまうほど僕の頭の中で言葉だけが何度も反響する。

 

 まるでお菓子に蟻が群がるように何かが這いずる感触が僕の頭の中を襲う。

 思わずガクリと身体から力が抜け咄嗟にカウンターに手をついて自重を支える。

 目の前がぼんやりと霞む。続いて音と温度もゆっくりと消え、やがて思考だけがくっきりと浮かび上がる。

 

 そうだ、誰かに奪われるなんて耐えられない、僕が手に入れなくては。今僕の欲シイものは・・・

 

 

 カサリというビニール袋が擦れる音で、僕はいつの間にか閉じかけていた瞼を見開いた。

 店員さんと僕の間には商品の入ったビニール袋と長方形の紙が一枚置かれている。

 なにか、つい先ほどまでとても大事なことを考えていたような気がするが思考に靄がかかったように思い出せない。

 

「はい、これが商品とおまけのチケットね~」

 

「・・・え、あぁはい」

 

「最近この施設にゲームセンターっていう娯楽を取り入れてみたんだ~。このチケットはクレーンゲームを一回無料でプレイできるからよかったら遊んでみてね~」

 

 ぼやけた思考を振り払い改めて机の上に目を落とす。

 チケットにはドット絵でデフォルメされた悪魔族がプリントされている。

 

 そういえばここに来る途中で同じものが書かれたポスターを見た気がする。

 魔族が作ったゲームセンターというのも興味があるし帰りにウリエルさんと一緒に寄ってみようかな。

 

「ゲームセンターですか。魔族の人もそういうのに興味あるんですね」

 

「所謂青田買いってやつかな~。最近の若い子は興味の移り変わりが激しいからね~。ま、それだけ儲けるチャンスがあるってことだけど~」

 

「若い子って、店員さんも十分若く見えますけど・・・」

 

 僕がそう言うと店員さんは吃驚した顔をしてこちらを見てくる。

 あ、そういえば魔族の中には生きた年数を重視する種族もいるって本で見たことがある。

 もしかして気分を害してしまったかもしれないと冷や冷やしながら様子を伺っていると、ふいに店員さんは妖艶な雰囲気を纏って僕の手をゆっくりと上から包み込むように握る。

 

「ふふ~♡それって私を口説いてるの~?」

 

「え?・・・あっ」

 

 まずい、僕が今言ったのってよく考えなくても思いっきりナンパの常套句じゃないか。

 でもここで誤解だと伝えるのもそれはそれで失礼な気がする。

 いや思ったことを素直に言っただけではあるが、でもやっぱり・・・

 

 そうやって懊悩していると、目の前からくすくすと笑う声が聞こえた。

 その唐突さに僕が困惑していると、店員さんは僕の手をパッと離しそのまま人差し指を僕の唇に当てる。

 

「ま~様子を見る限り本気じゃないのは分かるけど、安易に口にしたらダメだよ~。あと、私はもう旦那様が三人いるから~」

 

「さっ!?」

 

「私、加減できずに搾り取っちゃうからさ~、交代制にしないと相手の体力が・・・」

 

「人間さん、一体いつまでソレと話してるんですか!もうお会計終わったなら帰りますよ!」

 

 突然近くから響いた大声に後ろを振り向くと、そこには両手に紙袋を持ち眉を顰めたウリエルさんが立っていた。

 どうやら彼女の方のお会計は終わったらしい。

 僕は急いで机の上のものをひっつかんで、彼女の声に促されるまま店の出口に向かおうとする。

 

 そして店員さんに背を向け一歩踏み出した瞬間、僕は水中から抜け出したような錯覚に陥った。

 気づかぬうちに身体にかかっていた圧迫感が取り払われ視界が明るくなる。

 急な変化に驚き周囲を見回してみても特におかしなところはない。

 なにか、空調や照明の具合によるものだろうか。

 

「じゃあね~。ちなみに、お客さんが本当に私を欲しくなったらいつでも受け入れるから~」

 

「あはは、ありがとうございます」

 

 ひらひらと手を振りながら冗談を飛ばす店員さんに別れを告げて、僕は小走りでお店の入り口で待っているウリエルさんの隣に並ぶ。

 彼女が生み出す隠す気のない不機嫌オーラに戸惑いながらも、僕は謝罪を口にしようとした。

 

 すると、彼女は唇を尖らせながら不服そうな声を出す。

 

「随分仲良くなったんですね、何気なく連絡先まで交換しちゃいますし」

 

「はい?連絡先って何のことですか?」

 

「何って、その携帯の画面に写ってるじゃないですか。はぁ、まさかアレに先を越されるとは・・・」

 

 その言葉に従って自分の手もとを見てみると知らぬ間に僕のスマートフォンが手のひらに収まっていた。

 そこには世界的に人気の無料チャットアプリが開かれており、さっきの店員さんの顔が写されたアイコンの横に『これからよろしくね~』というメッセージが来ている。

 

 もちろん僕には連絡先を交換した記憶なんてない。

 でも実際に証拠は目の前の画面に存在しているし、ウリエルさんだってそれを認めている。

 僕の認識だけがズレている。

 

 まるで僕だけ別世界に取り込まれていたかのような不気味さを感じていると、突然横から伸びてきた手にさっと僕のスマートフォンが取り上げられる。

 

「あっ」

 

「いい機会ですし私とも交換しときますね」

 

 そう言って彼女が素早く二つの画面を操作したかと思うと再び僕の手にスマートフォンが返される。

 画面の一番上には新しく白い子猫のアイコンが追加されており、名前には『ウリエル』と書かれている。

 

「もっと早くこうしておくべきでしたね。これで人間さんに何かあってもすぐに駆けつけられます、迷子のときとか」

 

「まだ迷子とか言いますか・・・」

 

 なんだか彼女の行動によって緊張が一気に溶かされてしまった。

 とりあえずこの現象の謎については一度忘れるとしよう。不気味だが害があるわけでもないし。

 

 ウリエルさんは機嫌を直したようで、喜色を浮かべた顔をして自分の手もとの画面を見つめている。

 そして一通り満足したのか彼女は腰を曲げて、先ほどスマートフォンを持つために地面に置いていた紙袋に手を伸ばそうとする。

 

「あ、その紙袋、僕が持ちますよ」

 

 僕はウリエルさんがまだ手をかけていなかった方の紙袋の取っ手を掴む。

 そもそも当初の目的としては彼女の手伝いをすることで頼りになるところを見せることだったのだ。

 危ない、色々あって忘れるところだった。

 そう思いながら僕は手に持ったものを持ち上げようとして―――

 

「おっも・・・!?」

 

 その予想外の重さに身体を上げられずにいた。

 持ち上げられないことはない、だけどこれを持って寮まで歩いて帰るのは少し厳しくなりそうだ。

 

「紙でも量がありますから、一袋分でも10kgは軽く超えていると思いますよ」

 

「ぐ、でも一つなら何とか・・・」

 

「はいはい、危ないので手を離してくださいね」

 

 彼女はそう言いながら僕の持っていた紙袋をひょいと代わりに持ち上げてしまった。

 僕の手のひらにはまだうっすら赤い跡が残るほどに重たいそれを彼女は二つとも軽々と運んでいる。

 魔族と人間の身体能力の差については理解していたが改めて突き付けられた気分だ。

 

 結局手伝いを果たせなかった。というか今までの道中を考えるとむしろ邪魔にしかなっていないのでは。

 そうやって意気消沈している僕に向かって、彼女はふとあることに気づいたように僕の買い物袋から飛び出す一枚の紙を指さす。

 

「あれ、人間さんそのチケットなんですか?」

 

「あぁ、これはさっきおまけに貰ったんです。クレーンゲームを一回無料で遊べるらしいんですけど・・・今日は止めておきます」

 

「どうしてですか?まだ時間も余裕がありますし、もったいないですよ」

 

 彼女が視線を向けているのはさっきお店でもらったゲームセンターのチケットだ。

 彼女の言う通りまだ空もまだ赤くなっていない時間帯、少し遊んだところで帰りの心配はいらないだろうが・・・

 

 

「でも、ウリエルさんにできるだけ重い荷物を持たせたままにしたくないですから」

 

 いくら魔族で力に優れていようと、僕にとって彼女はただの過保護なクラスメイトの女の子だ。

 残念ながら僕の無力さから負担を肩代わりすることはできないし、もしかしたら彼女はそれを負担とも感じていないのかもしれないけど。

 

 僕の言葉を聞いた彼女は一瞬顔を背けたかと思うとすぐに薄く微笑みながら返事を返す。

 

「ん゛ん゛っ、私のことは大丈夫ですよ。それに私もゲームセンターで遊んでみたいと思っていましたから良い機会ですし」

 

「でもっ・・・はい」

 

 ゲームセンターは地下にあるらしく、ここからは階段ではなくエレベーターに乗る必要がある。

 荷物が増えた関係からか来た時よりもウリエルさんとの間にある距離は開いたまま、僕たちの足は出口に向かう順路から離れていく。

 

 

 また、甘えてしまった。

 彼女の気遣いを無駄にしたくなかった、なんて言い訳にはならないだろう。

 現に僕の胸には申し訳なさとは別に確かな高揚感が芽生えてしまっている。

 

 彼女と過ごす時間が増えるのは歓迎すべきことだ。その分彼女の考えを理解しやすくなる。

 しかし、彼女に与えられるままのこの関係はきっとよくない。

 僕が望むのは彼女と同じ視座に立って物事を見ることなのだから。

 

 

 まだ僕は彼女になにもしてあげられていない。

 

 




 子供の頃、ショッピングモールの映画館に行ったとき謎にクレーンゲームのチケット貰った記憶があります。
 そのときの自分にとってクレーン一回分で使う百円は大金に感じていたので、何か得した気分でしたね。
 まあ、一回二回で取れるほど甘くはなかったのですが・・・


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