深紅の航路に祝福を (コウハクまんじゅう)
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日常
まずはこの小説を見つけ出してくださり、ありがとうございます。これが初投稿となるので至らない点が多々あると思いますが、その時は感想欄にて教えてくださると有り難いです。
あ、筆者の初期艦は綾波です。(唐突)
それでは、本編スタートです!
一人の男が寝ていた。歳は17,8といったところだろうか。
規則正しい寝息を立てて気持ち良さそうに寝ている。
だが、そんな安眠も突然終わりを迎える。
ピピピピピピ!
主を起こすため、アラームを鳴り響かせる目覚まし時計。
う〜ん…あと少しだけ…と呻く主。
ピピピピピピ!
そんな事知ったことではないと言わんばかりに響き渡るアラーム。
「あと…15分…」
ピピピピピピ!
やかましい。さっさと起きろ。
「う〜ん…」
重い体を引きずるようにして布団から起き上がり、起きる時間を告げる目覚まし時計を止める。
「あ〜…眠い…」
未練がましく布団にすがりつき、もう一度寝ようとする。だが、
「悟〜、ご飯できてるよ〜」
「…あ〜い。…」
母さんが呼んでいる。
朝飯を食べるため、俺…「赤井 悟」(あかい さとる)は瞼をこすりながら仕方なくテーブルへと向かうのだった。
「いただきま〜す。」
椅子に座り、朝飯を食べ始める。家にいるのは俺と母さんの二人だけ。父親は俺が物心がついていない幼いときに他界したらしく、それ以来母さんが女手一つで俺を育ててくれた。父親がいない俺にとって父とはどういう存在かよくわからないが、それでも今の平穏な生活に満足していた。
「ーーセイレーンの勢いが増しており、世界中で被害が拡大しています。海軍には早急に対応することを…」
朝飯を食べているとテレビからニュースが流れてきた。セイレーン…突如として現れ、人類から制海権を殆ど奪った謎の敵対勢力…そんなセイレーンを打倒するために陣営の垣根を越えて「アズールレーン」なるものが結成された。その結成に大きく関わったのが「ユニオン」「ロイヤル」「鉄血」そして…
「にしても、いつ見ても綺麗だな。」
ふと窓の外を見る。そこには、見事な桜が咲いていた。
俺が住んでいる国…「重桜」。
世界が協力したお陰で一時はセイレーンを退けたらしいがその後内輪もめがあったらしく、アズールレーンから鉄血、重桜が離脱して「レッドアクシズ」を結成した。以降は、アズールレーンに敵対するようになり、そのせいでアズールレーンは「セイレーン」と「レッドアクシズ」の2つの勢力を相手に戦っている。
「あっ、見て見て悟!艦隊が戻ってきた!」
母さんがにわかに騒ぎ出した。どうやらテレビのニュースがセイレーンに関するものから、艦隊が帰投する様子を映したものに変わったらしい。
「かっこいいわねぇ…私も艦船に生まれてたらな〜」
などと冗談めかしながら呟いている。
艦船。それは軍艦の力をその身に宿した少女たち。セイレーンを倒すのに必要不可欠な存在。そして、
(……めちゃくちゃ美人だな…)
そう。なぜかどの艦船も女優顔負けな別嬪揃いなのである。世の女性からしてみれば羨ましい限りなのだろう。
朝食を食べながら横目で見てみると、狐のような耳を生やし、茶色の着物を着た女性と同じく狐のような耳を生やした白い着物を着た女性がチラッと見えた。
……その横顔が、どこか憂いを帯びていたのは気のせいだろうか…
「ごちそうさま。」
「は〜い。お粗末様。」
朝飯を食べ終わった俺は学校に行く支度をし始めた。歯を磨き、制服を着て、学校へ持っていくものを確認し…
「あ、宿題のプリント忘れてた。危なかった…あれ?どこいった?」
…どうやら、登校するのはまだ先のようだ。
「プリントはあったけど、やってないってマジ?昨日やったと思ったのに…」
などとぼやきながら宿題を手にする。時計を見やり、まだ時間はあることを確認する。仮に遅刻しそうになったとしても、この家から学校までは歩いて十数分程度で着くほど近い。
「さっさとやって終わらせるかぁ…」とつぶやき、机に向かう。が、
「うおっと…」
手元が狂い、プリントを落としてしまった。だがそれは床に落ちる前に拾われることになる。
伸びてきた、奇妙な紅い腕によって。
「ふぅ、やっぱこいつは便利だな。」
その奇妙な腕の表面には白い模様が何本も交差するように走っていた。その腕は、肩から生えるようにして出現していた。そして、プリントを掴んだまま溶けるように消えていった。悟の手の中には宿題のプリントがしっかりと握られていた。
この奇妙な腕のことを、悟は「クリムゾン・ハンド」と呼んでいる。
そして、奇妙なものはもう一つある。
「こいつのおかげでプリントが落ちる未来はすでに見えていた。対処するのは簡単だったよ。」
とつぶやき、額にかかっていた髪をかき分けた。そこには、桃色の人の顔がくっついていた。
「やっぱ未来が見えるのは便利だな。こっちの思うように使えないのは不便ではあるが…」
この額にくっついている顔のことを悟は「たらこ」と呼んでいる。(「たらこ」と呼ばれるたびに、額の顔がなんとも言えない表情をしているのは内緒。)
しかしながら、今本人が言ったように思い通りに使えないため、任意のタイミングで発動することはできない。
「んじゃ、さっさと終わらせるかぁ。めんどくせー」
ブツブツ言いながらも宿題に取り掛かる。
一見すれば、(奇妙な腕が使えて、額に顔がついているということ以外は)ただの朝の日常。
だが、
彼は知らない。この後、自分の運命を大きく変える出来事が起こることを。
彼は知らない。この後、もう今まで通りの生活を送れないことを。
これから起こる出来事を、まだ彼は知らない。
「おっ、ついたついた〜 それじゃあ早速始めちゃおっか〜 前夜祭、盛り上げていこー!」
運命は静かに、それでも確実に、動き始めていた。
今回は主人公と世界についての説明回です。
あっさりし過ぎたかな…あんま長すぎると飽きちゃうかなと思って短くしてみたのですが…もし短かったら感想欄で教えて下さい。
最後に出てきた人は一体誰なんでしょうねぇ…(すっとぼけ)
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始まり
「ちきしょぉおおー!!」
何やら叫びながら全力疾走している男がいる。
「遅刻だぁぁあああ!!」
その男…赤井 悟は絶賛遅刻中である。
時は、家で宿題のプリントを解いているときに遡る。
時間に余裕があるとのんびりとしていたら、
「あれ?あんたまだ学校行ってないの?そろそろ時間じゃあないの?」
と母に言われ まだ全然よゆうだ。 と返したら、
「んー?あ。あんた、この時計20分遅れてるわよ?」
「ゑ?」
そして、今に至る。
「くそぉぉおおお!!時間がズレているなら直しとけやぁああ!!」
ちなみに、悟の学校では遅刻を一回するごとに放課後に強制的に完全下校時刻(a.m.7:30)まで居残り勉強をさせられるのである。だから、勉強をやりたくない悟はこうして必死こいて走っている。
「なんでこういうときに未来予知が使えねぇんだよぉおお!!」
半ばヤケクソで自分に備わった能力にまで当たり始める。そして、そんな状況に追い打ちが。
「!? なにィっ、」
悟は急停止した。
「くそっ…なんでこんな時にお前が…」
それは、急いでいるときに最も会いたくない存在…
「信号機ィィイイイ!」
しかも、ちょうど赤になったところである。急いでいるときに限って、信号に引っかかる事ってよくあるよね()
「早く変われ早く変われ早く変われぇええ!!」
発狂しながらボタンをめちゃくちゃに押しまくる。傍から見ればやばいやつである。しかし、ボタン連打も虚しく信号機は無情にも赤色のランプを断固として変えない。
現実は非情なり。
「あぁ…おわった…」
両膝から崩れ落ち、手を地面につけた。
「なんて言おう…」
と、せめて少しでも減刑してもらえるように言い訳を考えていたとき。
ドォオン!!
「!?な、なんだ…?」
突然鳴り響く爆発音。そして、その音が聞こえた後わずかに地面が揺れた。
事故か?とも思ったが、次の瞬間にはその考えは頭から吹っ飛んだ。
ズドォオン!!
「うぁあ!?」
また聞こえた爆発音。今度は更に大きく、さきほどよりも近い距離から聞こえた。振動もかなり大きい。これは事故ではないと確信した。事故だとしたら、こう何回も大きい爆発はよっぽどでなければないだろう。そして、音が聞こえる位置が近ずいてくるのもおかしい。だが、この音は絶対に事故ではないと確信させるに足る理由がもう一つある。それは…
「砲撃音…か?」
そう。素人が聞いてもその音は明らかに普通ではなかった。まるで大砲をぶっ放したかのような凄まじい轟音だったのである。そして…
「きゃぁあああ!」 「逃げろ!逃げろぉ!」 「助けてっ‥誰かぁ!」
音が聞こえた方向から大勢の人が駆けてきた。その後方には黒い煙が上がっていた。
「な、なんだ!?一体何があったんだ!?」
たちまちあたりが人だらけになって大混乱に陥る。
「う、うわわっ!」
人の波にぶつかられ、流され、気づけば道の横にどかされていた。
「い、いてぇ…くそぉ…一体何だってんだぁ?」
誰か事情を知っている人を捕まえて情報を手に入れたいところだが状況がそれを許してくれない。
仕方ない。少し乱暴するか。
「うわっ!?おいてめぇ!何しやがる…」
1人の通行人を捕まえて強引にこちらへ引き寄せる。怒鳴られそうだったがこちらもそれどころではない。勢いで押し切る。
「一体何があったんです!?」
「え?あ、あぁ…せ、セイレーンだよ。セイレーンが突然襲ってきやがったんだ!」
「なっ、セイレーン!?な、なん…」
で、と言いかけてしばし思考を巡らせた。
(いや、待てよ?俺が住んでいるこの街の近くには艦船たちの基地がある。そしてその艦船達の基地はまぁまぁ大きいところだったはずだ。そして艦船の基地があるということは…軍の基地があるということは、必然的にこの街は襲撃のターゲットになりやすいのでは?)
「お、おい!あんちゃんも早く逃げた方がいいぞ。やつら、建物も人も見境なく攻撃してきてるからな…」
捕まえた通行人はそれだけをまくしたてると足早に立ち去った。
「あ、ちょっと!…まぁ、いいか。セイレーンが攻めてきたとなると学校に行っている場合じゃあないな…一度家に引き返すべきか?……と、言うか普通こんな簡単にセイレーンの侵攻を許すもんなのか?哨戒とかしてるもんじゃあないのか??何してんだ海軍!」
色々考えるところはあるがひとまずは家に引き返すことにした。
だが、その時。
ドォオオン!!
突如、目の前にあった建物が吹っ飛んだ。それと同時に無数の瓦礫も吹っ飛んでくる。
「!?くっ! クリムゾン・ハンド!!」
その呼びかけに反応し、紅い腕が悟の肩から飛び出してきた。
ドドドドドドドドド!!
そして、飛んできた瓦礫を一つ残らず粉々に砕いた。そして、眼の前の建物が吹っ飛んだおかげで一気に視界がひらけた。
「ふぅ、危なかった……うん?なんだぁ?あれ……」
そこには、たった一人で黒い船…セイレーンと戦っている少女がいた。
はやくKANSEN登場させたいがあまり文字数が少なくなってきている…(汗)
次くらいにはようやくちゃんと出てくる…かな。
細かい設定とか考えるのきついので、雰囲気で楽しんでくれればいいかなと思います。
もともとこの小説はスタンドを(特にキング・クリムゾンを)アズールレーンで出したいのと、アズールレーンとジョジョのクロスオーバーの小説が増えてくれればいいなと思って書き始めたものなので…
あと、多機能の使い方が少しずつわかってきました。
【追記】
すみません、基地がある場所の設定を少し変えました。
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艦船達
そして、アズレンのキャラに対して残酷な描写が含まれている可能性があります。
苦手な方いたらごめんなさい。
あといつもよりも長いです。
「なにィ!?市街地が襲撃を受けただとォ!?さっさと第一艦隊を対処に向かわせんか!!」
ゴテゴテに飾った派手な部屋で一人の男が怒鳴り散らしている。ここはA基地。悟が住んでいる街の近くにある基地である。
「し、しかし指揮官様!艦隊はろくに補給も休憩もせず何度も出撃したせいで消耗しきっています!せめて補給だけでも…」
と、男の命令に抗議する狐の耳を生やし、茶色の着物を着た女性。しかし…
「黙れ!補給など許さんぞ!なぜ貴重な物資をみすみす
無茶苦茶な理論をまくしたて、ついには最愛の妹をも人質に取る始末。男はまるで聞く耳を持たない。どうやらこの男は艦船は使い捨ての道具としてか見ていないようだ。たとえ戦えなくなっても変わりがいると思い、あくまでも自分たちに補給をさせないつもりらしい。その事実に狐耳の女性は唇をかみしめる。
こんなやつ、指揮官でなければ今頃は…! だが、ここで歯向かえば妹が危険にさらされる。それに、こうしている間にも街はセイレーンによって蹂躙されているのだ。ここで余計な時間を割くわけにはいかない。
「ッ…!!……わかりました。ただちに第一艦隊を出撃させます…。」
もうたくさんだった。ああ、一体いつまでこんなことが続くのか。一体いつまで
願わくば、誰かにこの忌まわしい状況を変えてほしかった。
そんなことを考えながら、私……「赤城」は、執務室から出ていった。
「出撃命令…です?」
「ええ。セイレーンが街を襲撃しているわ。一刻を争う事態よ。…こんな事、言いたくはないのだけれど…補給はないそうよ。すぐに出撃の準備をして頂戴。」
「……わかったのです。」
悲痛な面持ちで出撃の知らせを伝える。そしてそれに素直に答える白髪の長い髪をポニーテールにした女の子…「綾波」
「情報によれば量産型セイレーンの
「…わかったのです。」
「わぅ……お腹…空いたなぁ…」
と呟いてタトゥーを入れた腹をさすっている犬の耳が生えている少女…「夕立」
「流石の雪風様も、疲れたのだ…」
弱々しく呟く、美しい銀色の髪をなびかせている犬の耳が生えている少女…「雪風」
「ちょ、ちょっと…みんなしっかりしなさいって!」
美しい黒髪に可愛らしい犬の耳が生えた少女…「時雨」
「また、あの
暗い顔をしながら呟き、腰の軍刀に手をかける白い軍服を着た女性…「高雄」
「高雄ちゃん…」
同じく白い軍服を着て軍刀を差し、姉を心配している女性…「愛宕」
以上の6人が、第一艦隊を構成する艦船だ。「艦隊」と言っても、なんとかまだ動くことのできる艦船が寄せ集められているだけの悲惨な状況だ。他には第二艦隊、第三艦隊とあるがその2つの艦隊は常に委託に行かされているため戦闘をするときには第一艦隊が担当するような形になっている。
そして彼女たちがここまで憔悴しきっているのも無理はない。なにせ碌な食事も与えられず、さきほどあったように満足に補給もさせてもらえない。さらには男のストレスの捌け口にされることもしばしば。これは第一艦隊だけでなく他の艦隊の艦船たちにも矛先は向いている。
そんな劣悪な環境によってコンディションも最悪に。そしてそんな状況の中、何回も出撃させられているのだ。轟沈した者がいないことが奇跡だった。
そして、このA基地に所属しているどの艦船もこう思っていた。
「この状況は一体いつまで続くのか、いつになったらこの悪夢は終わるのか、願わくば誰かこの状況を変えてくれ。誰か……助けて」と。
彼女たちは知らない。今日、その願いが叶うことを。
彼女たちは知らない。ある一人の少年によってこの地獄から解き放たれるということを。
これから起こることを彼女たちは、まだ知らない。
「第一艦隊、出撃する。」
セイレーンに襲撃されている街は、A基地から近かった。近いことですぐに助けに行けるが逆に言えば基地も攻撃を受けやすい。よって素早く掃討に当たらなければいけなかった。
しかし、前回悟が呟いていたように普通ならば街にセイレーンが直接襲撃しに来るのはあり得ない。それは艦船による哨戒が徹底されているからだ。だから、セイレーンは街どころか重桜の領域に侵入することすらできない。
普通ならば。
しかしここはA基地。さきほどあったように碌に補給もさせず、ほとんどの艦隊は委託に行かされているためまともに哨戒などできるわけがなかった。
「街が襲撃を受けている。敵は量産型セイレーンの駆逐5、軽巡3、重巡2と数は少ないが放っておけば私達の基地も攻撃されかねない。赤城殿も言っていたが他に敵がいないとは限らない。周囲を警戒しつつ素早く倒すぞ。」
「「「了解」」」
旗艦の高雄が全員にやるべきことを通達する。やはり腐っても艦船。ひとたび戦場に出れば例え消耗していようともその目や意識は戦う者のそれへと変わっていた。
母港を出てそれほど経たないうちにその轟音は聞こえてきた。
それと同時に量産型セイレーンの姿も見えた。すでに街からは火の手が上がっており、建物もいくつか破壊されていた。だが、セイレーンは街を砲撃するのに夢中でこちらの姿は見えていないようだ。
「よし、こちらには気づいていないな…まずは
セイレーンに気づかれないように慎重に近づいていく。そして十分に接近した後…
「全艦、突撃せよ!」
刀を抜き、一気に突っ込んだ。
戦いはあっけなく終わった。
最初の突撃で重巡どころか艦隊の大半を吹き飛ばしあっという間に決着がついたのだ。これで街は助かった、が
「もう少し早く来ていれば、街は襲われずに済んだのに…それに、ちゃんとした指揮官がいれば哨戒だってできたのに…」
「時雨…」
「それに、燃料と弾薬がもうほとんど無いのです…」
「基地に戻ったらこっそり頂いちゃいましょう?」
舌を出しいたずらっ子のような笑みを浮かべおどけてみせる愛宕。そんな様子に少し気が抜けた綾波。
「おい。周囲への警戒を怠るなと…」
と、言いかけたその時。
ズドドドドォオオ!!
突然砲弾の雨が降り注いだ。
「きゃあああ!?」 「うわあぁ!?」
「愛宕!」 「夕立!」
「いたた…ちょっと油断しちゃった…」
「うへぇ〜…まだまだやれるぜ〜…」
二人が被弾してしまった。なぜ、一体どこから。
「あはははは!」
上の方から無邪気な、それでいて狂っているような笑い声が聞こえてきた。
「お前は…ッまさか!!」
人間離れした黄色い瞳孔、背中にはシュモクザメのような艤装。白髪をポニーテールにまとめた少女が、こちらを見下ろして楽しげに笑っている。
なぜ、こんなところに…こいつは…
ピュリファイアー
セイレーン、その上位個体…
「な〜にさ。いちゃいけなかったわけぇ〜?」
相変わらずこちらを面白そうに見下ろしている。その目はまるで面白いものを見つけた子供のようでいて、狙った獲物を決して逃がさんとする猛獣のような鋭さも秘めていた。
撤退…だめだ、こいつが私達を逃がすわけない。それに街が攻撃される。
戦闘…愛宕と夕立が戦えない今、現実的ではない。
どうする…どうすれば…
絶望の二文字が高雄の頭の中を支配した。
「高雄さん。みんなを連れて逃げてください。ここは綾波が引き受けます。」
背後に仲間を庇うようにセイレーンの前に進み出て、持っていたブレードを構えた。
「なっ…!?綾波!?」
「なっ、何言ってるのよ!そんなのダメに決まってるじゃない!」
「…綾波達だけではこいつには勝てないです。赤城さんや加賀さん達がいないと…それにさっきの戦闘で燃料も弾薬もあまり無いのです。だからみんなは一度戻って補給して、戦える人達を呼んできてくださいです。」
油断なく睨みをきかせながら二人に答える。
「しかし、それはお前だって…!」
「大丈夫です。綾波はこんなところではやられないのです。」
後ろを振り向き、自分のことを心配してくれている仲間達にしっかりとした声色で答える。
「綾波…」
「さ、早く!」
「…すまない。すぐに戻るからな!」
愛宕と夕立を曳航して離脱していく仲間たち。
「おっ、作戦会議は終わった感じかなー?お仲間はみんな君をのこして逃げちゃったようだけどー?」
相変わらず憎たらしい笑みを浮かべてこちらを見下ろすセイレーン。
「…」
その挑発に対して無言でブレードを構え直す綾波。
「あはは!まさか、本気で私と一人で戦うつもりなのー?それか、逃げたお仲間は他の仲間でも呼びに行ったのかなー?君はそれまでの時間稼ぎだったりする?」
まずい、見抜かれている。だがそれを悟られる訳にはいかない。
だから、答えない。
「ふーん。こっちのことは無視しちゃうんだー。まぁいいや。」
両手を誘い込むように広げた。刹那、ピュリファイアーの背後から量産型セイレーンが召喚された。数は、およそ十数隻といったところか。
「ッ…!!」
「さぁさぁ…始めちゃおっかー!」
たった一人の戦いが始まった。
艦船の皆さんをどんな感じで喋らせようか調べながら書きました。違和感がないといいのですが…
ようやくちゃんと艦船が出せたので筆が(指が)進む進む…
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覚悟と無謀
皆さん楽しんでくれているでしょうか…頑張って書いていきますので、今後もコウハクマンジュウをよろしくお願いします。
あと、綾波と結婚しました!めちゃくちゃ嬉しいです!!結婚装束がとても可愛いと思いました。(語彙力)
アズレンとジョジョのクロスオーバー、もっと増えていいと思うんだ。(唐突)
轟音。
無数の砲弾が巻き起こす水柱。
それらを必死で避ける少女。
少女を撃ち抜かんと狙う黒い船。
(やべぇ…)
俺…
本当なら早くこの場から立ち去らなければならないのだが、今動けば流れ弾に当たる可能性がある。実際、何発か近くにある建物に当たっていた。まぁ、万一当たりそうになったとしてもクリムゾン・ハンドで防げばいいのだがそれをやった場合、セイレーンに見つかる可能性がある。それに…
(やばいが…小さな女の子が一人で戦ってるのを放って逃げられるかってんだ。)
そう。目の前で奮戦している少女をおいて逃げ出すことが、悟にはどうしてもできなかったのである。
(だが、どうする…彼女、傍から見てもかなりしんどそうだ…動きが目に見えて鈍くなっている…このままではやられるのも時間の問題だな…俺が出てってもいいんだが…万が一俺が戦いに参加するとなったら、最低でも1〜2メートルは相手に近づかなきゃあだめだ…いや、そもそも船って殴って倒せるもんなのか?それに…)
改めて、戦闘が行われている場所を見る。
(戦場が海ではな…俺は一応泳げるが、向こうに辿り着くまでに流れ弾に当たって死ぬか、見つかって殺されるのがオチだな…どのみち現実的じゃあねぇな…くそ、せめて海の上を歩けたら…!)
なんてことを考えていたら…
「……!?なッ…こ、これは…まずい!」
突然頭の中を流れる映像。おそらくは、たらこによるものだろう。だがこれは…この映像は…!
「…!!」
慌てて少女の方を見る。なんとか敵の砲撃を躱していたが、その動きは明らかに鈍くなっていた。
(まずい…まずい!はやく何とかしなければ!! なにか手を打たねば彼女は…!)
たらこが見せた映像。それは…
(やられてしまう…!!)
少女が被弾し、海の上で倒れるというものだった。
(たらこの見せる未来は、外れたことがない…!つまり彼女が被弾し、倒れるのは確定している…!だが、その後の様子は見えなかった…つまり彼女が被弾した後は何が起きるのかがわからないということ…)
だが、仕留められる獲物を前に黙っているほどセイレーンは情け深くないだろう。
(なんとかしなければ!だが、俺に何ができる…考えろ…考えろ…考え…はっ!)
思いついた。
だが、これをやってしまえば俺は死ぬかもしれない…そしたら大勢の人たちを悲しませてしまう…
となかなか決断しきれずにいると、
ズドォオオン!!
轟音が響き、巨大な水柱が立った。その中から小さな影が放り出されたかのように飛び出してきた。そしてそのまま海の上に転がって倒れ込んだ。よくは見えないがあの少女だろう。
「!!来たッ!映像と同じ光景だ!!」
もはや躊躇っている場合ではない。悟は覚悟を決め、素早く思考を巡らせた。
(あんだけの船、動かすには船員がたくさん必要なはずだ。だが、甲板や砲台にそれらしき影は見えねぇ。それに動きがどこか不自然だ…ということは、あの黒船…セイレーンは全て操られているんじゃあないか?だとしたら…)
悟は上空を見上げ、そいつを見つけた。人間離れした黄色い瞳孔、背中にはシュモクザメのような艤装、白髪をポニーテールにまとめ、さっきから少女が戦っているのを面白そうに見下ろしている。
(操っている本体をなんとかすれば、船の動きも止まるはずだ!)
悟はそう確信し、そばにあった瓦礫をクリムゾン・ハンドで掴んだ。そして…
「うぉおおお!!」
瓦礫を思いっきりそいつにぶん投げた。クリムゾン・ハンドが投げた瓦礫はまっすぐにそいつに飛んでいった。そして、
ゴッ!
命中した。鈍い音が響き渡る。
「おっ?」
しかし、瓦礫を当てられた本人には傷ひとつついておらず、まるで効いている様子はなかった。だが、その意識は少女から悟へとそれた。
「こっちだ!こっちに来やがれ!」
悟は声を上げ、砂浜に飛び出して走り出した。
やっちまった…馬鹿げている。生身でセイレーンに立ち向かうなど。
もしかしたら、俺は死ぬかもしれない。だが、それでもあの少女をどうしても放っておけなかった。走りながら、ちらりと少女の方を見た。相変わらず倒れたままだったが、周りのセイレーン達は少女を攻撃する素振りは見せていなかった。やはり、さっき瓦礫をぶん投げてやったあいつが操っていたのだろう。ならば、このまま注意を引き付けて彼女から引きはがす。
決意を固めながら砂浜をひた走っていく。
一方、瓦礫を投げつけられた本人…ピュリファイアーは激昂するでも動揺するでもなく、悟を興味深そうに観察していた。
(へぇ〜、これは予想外だった…まさか人間から不意打ちを受けるとは…あの少年が投げた瓦礫。あれは当たった感触からして大体10〜20kgはある瓦礫だった。そんなもの、普通は軽々と投げられるもんじゃないよ。しかも、私は今地上から少なくとも100メートルちょっとの高さにいるのにも関わらず正確に当ててきた…)
ひょっとしたらあの少年、なにかあるのかも……なんか面白そう…
(…え?あれ?なんで私こんなに気になってるの?所詮はただの人間でしょ??しかも、私に喧嘩売ってきたんだよ?)
砂浜を走る少年を目で追い、戸惑いながらも思考を巡らせている。その頭の中からはさきほどまで追い詰めていた
「……ちょっと遊んじゃおっかなぁ〜。」
黄色い瞳の中に好奇心を宿し、
一方、悟は砂浜を走っていた。
「……!!来るッ!」
突然、横へと飛ぶ。するとたった今自分が走っていた所に無数の弾丸が撃ち込まれ、たちまち蜂の巣になった。
「へぇ〜、よく避けられたね。反射神経がいいのかな?」
追いつかれてしまった、
頭の中ではわかっていた。覚悟もしていた。だがこうして、目の前で対峙してみたらいかに自分が無謀なことをしているかが嫌でもわかった。恐怖で背筋が凍った。今の攻撃は、たらこによる未来予知があったから避けられただけだ。弾丸が自分に迫ってきているという未来が見えたから横に飛んで避けられただけ。たらこの未来予知がなかったら、俺は今頃肉片に成り果てていたことだろう。その事実にゾッとする。
「……ああ。反射神経には自信があるからな。」
動揺を悟られぬようになんとか言葉を紡ぎ、臨戦態勢に入る。
「そっかー。ところでさっき瓦礫を私に当てたけど、どうやったの?あれ、人間が軽々と投げられるもんじゃないでしょ?」
「気合で投げたんだよ。人間様を舐めんじゃねぇ」
流石に「超能力でぶん投げた」とバカ正直に答えるわけには行かず、適当にはぐらかす。まぁ、もし言ったところで信じるとは思えないが。
ピュリファイアーは、その答えに一瞬あっけにとられた。かと思ったら
「あははは!気合?無茶苦茶だねぇきみィ!」
面白そうにけらけらと笑っている。これ以上突っ込まれると都合が悪くなるので話題をそらすことにした。
「いきなり背後から銃ぶっ放すお前も大概だがな。んで?この後どうすんだ?」
もうわかりきってはいるが、あえて問いかける。
問いかけられたピュリファイアーは少し考える素振りをした後、
「んー、ホントはもうちょっとやらないといけないことあったんだけど〜」
背中のシュモクザメのような艤装が動き、砲身が俺の方へ向く。
「君と遊んでみたくなっちゃった☆」
と、無邪気に答えた。
「…そうかよ。」
ひょっとしたらこのまま帰ってくれるかも、なんて希望はあっけなく打ち砕かれた。やるしか無いらしい。
「せいぜい楽しませてね〜」
こちらを挑発するセイレーンを睨みながら、俺はクリムゾン・ハンドを構えた。
悟とピュリっちが交戦状態に入りました。果たして悟は勝てるのか!?
ピュリっちってこんな感じですかね…キャラを喋らせるのって大変なんですね、小説書き始めて痛感しました。他の方々はすごいということを改めて感じました。頑張ります。
次回は艦船sideを予定しております。
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記憶
あれは本当だ。
悟sideと艦船sideの両方になります。
あとUA1100突破とお気に入り登録者数15人突破ありがとうございます!!
こんな小説でも読んでくれている人がいると思うと嬉しいです!!
今後も頑張って書いていきますのでよろしくお願いします!!
〜 高雄side 〜
「こちら第一艦隊!量産型セイレーンは掃討したが、上位個体のセイレーンが出現!愛宕と夕立が被弾し、燃料と弾薬も残りわずかで戦闘継続が困難と判断し一時撤退、基地へ帰投中!現在綾波が一人で足止めをしている!すぐに他の艦隊の支援と補給の用意を要請する!」
基地、司令部へと無線で連絡を入れる。連絡している今も遠くから轟音が聞こえてくる。綾波が一人で頑張ってくれているのだろう。綾波のためにも、一刻も早く戻らなければならない。だが、
「何!?撤退だと!?勝手な真似をしおって!今すぐ戻って戦闘を継続しろ!補給も支援も無しだ。お前たちだけで対応しろ!」
案の定
「指揮官、その命令には従えない…」
「黙れ!
一応反対したが、被せるようにして遮られた。どうやらあくまでも聞く耳を持たないらしい。男の横暴に心底辟易した。だが今回ばかりは命令に従っている訳にはいかない。
「…了解した。ではこれから第一艦隊は指揮官の管轄から離れ、拙者の独断で行動する。」
「なっ!?高雄!貴様ァ!!」
まだなにか言っていたがもはや聞く必要はない。無線を叩き切った。あぁ、やってしまった…が、みんなを助けるにはこうするしか無い。この後私は軍法会議か…と考えていたら
「た、高雄ちゃん…」
「高雄さん…」
肩を貸していた愛宕が痛みに顔を歪めながらも、心配そうにこちらを見つめてくる。他の面々も不安げにこちらを見つめてくる。まずは今やるべきことをやらなければ。後のことはすべてが終わってからだ。
「心配することはない。まずは基地へ帰投して補給をしよう。そして、戦える人を集めて綾波の元へ向かおう。」
「で、でもさっき指揮官の管轄下を離れるって…」
「大丈夫だ。すべての責任は拙者が取る。」
と、言ったその時。
「おーい!」
と、こちらを呼ぶ声が聞こえる。この声は…
「古鷹!」
「高雄!それに、愛宕と夕立はどうしたの!?」
心配そうにこちらにやってくる古鷹。その後ろからは加古、旗風、暁、白露が続いてくる。彼女たちは第三艦隊所属の艦船だ。
「なぜこんなところに?」
「委託の帰りだよ。帰っている途中にすごい音がして、びっくりして来てみれば高雄たちが居たってわけ。あれ?綾波はどこ?」
「今は一人でセイレーンと戦っているのだ!だから、早く戻って助けないとなのだ!」
「え、ど、どういうこと?」
「えーと…」
事のいきさつを全て説明した。街を襲撃したセイレーンを撃滅したら上位個体が出てきたこと、二人が被弾したので一時撤退し、綾波が足止めしてくれていること。指揮官が第一艦隊への支援や補給は無しと命令したこと。…第一艦隊は高雄の独断で行動するということ。
「そんな…支援も補給もなしって…それに高雄、あなたの独断で行動するって…戻ったらただじゃすまないよ!?」
「承知の上だ。皆を助けるにはこうするしかなかったからな…いや、それよりも今は一刻も早く補給を済ませ、綾波の元へ戻らなければ。」
「…わかった。じゃあ、これ使って」
そう言いながら古鷹は、委託に行って手に入れた燃料や弾薬などの物資を高雄に渡した。
「なっ、これは古鷹たちが手に入れた燃料じゃないか…」
「いいの。どうせ基地に戻ってもあいつにとられるだけだし、それならあなた達に使ってほしいの。」
「うむ。それがしも古鷹殿に賛成でござる。」
と、古鷹や暁の言葉を皮切りに第三艦隊の面々が委託で手に入れた物資を第一艦隊に引き渡した。
「…かたじけない」
「それと、私達も一緒に行くよ。まだ燃料や弾薬にも余裕があるからさ」
「な…そんなことをすればそっちだって…」
「綾波、助けないとでしょ?」
ね?と後ろの第三艦隊の面々を振り返る。各々、力強く頷いた。
「…はぁ、まったくお前たちは…」
こうなれば何を言っても聞かないだろう。だが、正直言って支援してくれるのはありがたい。そして愛宕と夕立を一旦基地まで運ばなければ。
そこで愛宕を古鷹が、夕立を旗風が曳航することになった。
「みんな、気をつけてね」
「わぅ、戦えないのはつまらないぜ…みんな気をつけろよー」
こうして第一艦隊(高雄、時雨、雪風)と第三艦隊(加古、白露、暁)一行は綾波の元へと向かったのだった。
〜高雄Sideout〜
〜悟Side〜
無数の弾痕がつき、そこら中に瓦礫が落ちている荒れ果てた海岸。そのなかで二人の人物が対峙していた。一方は背中にシュモクザメのような艤装を背負うようにして装備した少女…ピュリファイアー。もう一方は腕を庇い、苦しげに肩で呼吸をしている男…赤井 悟。相対する二人の様子は正反対だった。
「ほらほら〜もっと頑張らないと死んじゃうよ〜?」
「……う、るせぇ…」
最後まで言えずに血を吐き出す。もはや言い返すことさえままならない。現在、彼の体は限界を迎えていた。腕を一発の弾丸が貫通、腹にも二発喰らっておりずっと出血していて立っていることさえやっとの状態。視界がぼやけ、激痛に意識も薄れていっている。対するピュリファイアーは五体満足で無傷。どちらが有利であるかは火を見るよりも明らかである。
だが、こうなるのは必然だった。何しろ悟はごく普通の人間。むしろセイレーンと戦って生きている事自体が奇跡なのだ。対するピュリファイアーはセイレーンの中でも上位個体、上の存在なのである。そんな天と地ほどの力の差がある中で悟がこうして生きている理由は…
ズドドドド!!
なんの前触れもなく弾丸が飛んでくる。とっさに横に飛んだが避けきれない弾丸が悟に向かってくる。だが、
「クリムゾン・ハンド!!」
その呼びかけに応じるように、赤い腕が飛び出し弾丸を防いだ。
「また弾丸が
そう。これこそ、悟がセイレーンと戦えている理由。
「ッ!!ぐあぁ!!」
脇腹を一発の弾丸が抉る。あまりの激痛に身を捩る。いくらクリムゾン・ハンドやたらこがあるとはいえ、いつまでも戦っていたら悟がやられるのは時間の問題である。
「ちくしょぉお!てめぇぇえ!!」
痛みをぶちまけるようにクリムゾン・ハンドで渾身の一撃を見舞う。ピュリファイアーはまともに受けて吹っ飛び、瓦礫の中に突っ込んだ。
悟は血を吐き出して低くうめき、脇腹を庇いながら倒れ込んだ。これ以上戦うのはまずい。そう判断すると、そっとピュリファイアーが突っ込んだ瓦礫から離れるが、
ドドドドドォオ!
瓦礫の中から無数の弾丸が飛んでくる。しまったと思ったときには体が宙を舞っていた。そしてあっというまに目の前に地面が迫っていた。クリムゾン・ハンドを出して受け身を取ろうとしても力が入らず出せない。俺は地面を転がった。
転がりながらふと、初めて
あれは確か、何年か前のことだったか。
その日は海辺を散歩していた。頬に当たる潮風が心地よかった。
しばらく歩いていたら、俺は奇妙なものを見つけた。それは箱のような、それでいてピクセルのような形をしていて、光を放っていた。いや、光を放つと言うよりかは光を閉じ込めているように見えた。ともかく俺はその奇妙な物に興味を持ち、よく観察するためにその箱のような物を拾い上げた。
そしたら突然、強い光を放ち始めた。思わず取り落としたが、俺の手を離れてもなおその箱は光るのをやめなかった。それと同時に俺の頭の中に何かが流れ込んでくる感じがした。
俺はそれが恐ろしくなって逃げ出した。翌日にまたその場所に行ってみたが、その奇妙な箱は見つからなかった。あれが何だったのかは今でもわかない。だがその日を境に、俺は
刹那のうちにこの記憶が頭の中をよぎった。なぜこの記憶を今思い出したのかはわからなかったが、なぜだかとても重要なことのように思えた。
「あははは!突然ぶっ飛ばされたぞ!?一体どうやったんだ!?」
瓦礫をぶっ飛ばし、狂ったように笑いながらこちらに近づいてくる。攻撃されたのになんで笑ってやがんだ…いや、そんなことより立たなくては…だが、体に力が入らない。激痛と疲労で意識も朦朧としてきた…
「あれ?死んじゃった?せっかく面白くなってきたのに残念。…ま、いっか。」
倒れたまま起き上がらないのを見て死んだと判断したんだろう。どこかへ飛んでいった気配がした。目の前が暗くなっていく。ああ、俺はここまでか、母さんや友達に心配かけちまうな…そういえば、あの少女は避難しただろうか…薄れゆく意識の中でそんなことを考えていたとき、ふと、視界の端でなにかが見えた。
「あれ…は、」
どこかで、見たことがある。だがどこで…いや、待て。あれは…まさか!
「クリムゾン…ハン、ド…」
最後の力を振り絞り、それをクリムゾン・ハンドに持ってこさせる。これは…
「光る、箱…」
それはさきほど思い出した箱だった。そういえば、この場所は箱を拾った場所だ。戦っているのに夢中で気が付かなかった。いつの間に来ていたのか…。箱を掴むと、あのときと同じように光り始め、俺はまばゆい光に包まれた。
またあの何かが流れ込んでくる感覚…だが今度は流れ込んでくるものが何かわかる。これは…
「誰かの、記憶か…?」
いろんな景色や人物が頭の中に浮かび上がっては消えていく。
紫色の拳銃を持った男性、金髪で紫色の服を着た男性、桃色の髪をした女性、ジッパーのついた奇妙な服を着た男性、そしてその他大勢の人物がいろんな景色とともに流れていく…そして、この景色や町並みは…テレビでたまに見るサディア帝国の町並みによく似ている…。
すると突然、見覚えのある奇妙なものが一瞬見えた。これは…
「クリムゾン・ハンドとたらこか…?なぜ、他人の記憶の中にクリムゾン・ハンドとたらこが出てきたんだ…?」
また景色が変わり、色々な景色や人物が流れていく。膨大な情報が頭の中を流れていく感覚にめまいを覚える。すると突然、世界に亀裂が入り、崩れ落ちていく。思わず目を見開いた。なんだ?これは…そう思っている間に、世界は深紅に塗り替えられていく。と同時に、一人の男の声が聞こえてきた。
選ばれた運命からは誰も逃れることは出来ない。
お前達が滅びるという結果だけが残るのだ。
永遠の絶頂は我にのみ存在する。
時の消し飛んだ世界で哀しみの歌を歌うがいい
急な変化の連続に驚いていると深紅の世界に一人の人物が浮かび上がってきた。警戒しながら見ているとその姿は徐々にハッキリし始めた。
桃色の髪にまだらの模様がついている独特な頭髪をして、これまた独特な網の服を着た男。そしてその傍らに浮かび上がる紅い不気味な
「誰…だ」
警戒しながら話しかけると急に桃色の頭髪の男が消滅した。またもや起こった摩訶不思議な出来事に驚いていると、残された紅い
我が名は…
貴様は…選ばれた…
貴様に…力を…やろう…
「お、まえは…」
何者だ、と言おうとしたが言い終える前に意識が現実へと引き戻された。気づけばあの箱は消えており、どこにもなかった。
「なんだったんだ…一体…」
わからない。すべてが解らない。自分に話しかけてきたあいつは何者だったのか、なぜ自分に力を貸すと言ったのか、選ばれたとは何なのか、なぜ箱を触ったら他者の記憶が頭に流れてきたのか。疑問は尽きないが、今はそれよりも重要なことが。
「何か…以前と違う…何かが違う!ハッキリとは分からないが、何か違う!」
違いの正体を探すため、試しにクリムゾン・ハンドを出してみる。だが、出てきたのは…
「ッ!?…お前は!?」
先程自分に話しかけてきた、あの紅い
少々まずい状況になっていた。そのセイレーンは自分が助けようとした少女の近くに居た。少女はまだ気絶しているのだろう、海の上に倒れていた。そしてセイレーンはその少女に対し艤装の砲身を向けていた。それが何を意味するかをわからないほど鈍感ではない。
「どうする…どうする…!」
これではさっきと一緒ではないか。少女が逃げる時間を稼ぐどころか逆に追い詰められて死にかけ、結局少女の所にセイレーンを行かせてしまった。かと言って今の自分に何が…いや、ちょっと待てよ。もしかしたら…
と思い直し、相変わらず何を考えているかわからない表情で隣に佇む紅い
こいつをうまく使えばこの状況、切り抜けられるかもしれない。
「さっき現れた桃色の髪をした男が言っていたよな…『時を消し飛ばす』と…」
時を消し飛ばすってなんだ?どういう能力なんだ?何ができるんだ?と考え込んでいたが、現実にはそんな時間さえないことを思い知らされる。
少女に砲身を向けたセイレーンはもう撃つ態勢に入っている。もはや一刻の猶予もない。
そう決意を固めた悟は、少女を助けるためにまたセイレーンへと向かっていくのだった。
ようやくキング・クリムゾンを出せました!!次回はリベンジ戦ですかね。
あと艦船ですが、だれを登場させるか迷いました。そして、まだしっかりと登場していない人たちも出していく予定ですのでお楽しみに!!
STAND NAME:クリムゾン・ハンド(仮称)
破壊力:B
スピード:B
射程距離:E
持続力:E
精密動作性:?
成長性:?
STAND MASTER:赤井 悟
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浄化者と深紅の王 ピュリファイアーSide
これから忙しくなるので投稿頻度落ちます。
あと、キング・クリムゾンの漢字は「深紅の王」でした。申し訳ございません。
全て修正しました。
「あれ?死んじゃった?せっかく面白くなってきたのに残念。…ま、いっか。」
無数の弾痕がつき、瓦礫が散乱し、荒れ果てた海岸。そこには二人の人物が居た。一人は地面に倒れ伏した少年、もう一人は今の声の主の少女。
(もう少し楽しめるかと思ったんだけどな〜。所詮は人間か。けど、初めてだよ。艦船でもないただの人間が私に挑んできたのは。それに加えて一撃をもらうとは…)
そう思いながら私…ピュリファイアーは地面に倒れ伏したまま動かない少年を見下ろしていた。
少年は体中に傷を負っており、服もボロボロになって汚れている。地面には血がじわじわと滲んできており、吹き付ける潮風に髪が無造作に揺れていた。この少年は先程まで息も絶え絶えになりながら私と戦っていたが、私の放った弾幕をくらってついに倒れた。
仮に生きていたとしても私の砲撃を食らい、あげくあの出血量だ。しばらくはまともに動けないだろう。放っておいても何もできまい。
そう判断した私はとどめを刺し損ねた艦船に引導を渡すため、今も海上で倒れている艦船の所に向かうのだった。
「チックタック♪チックタック♪永遠の眠りにつく時間だよ〜」
さっきの砲撃がよほど堪えたのだろう、量産型と戦っていた艦船の少女はまだ気絶していた。瞼を閉ざしたまま目覚める気配はない。
ふと冷静に考えてみると、少年と戦っているのに夢中になっていて量産型を動かすのを忘れてたことに気づく。量産型の方を見ると砲を少女に向けたまま固まっていた。喫水線に波がぶつかって砕け、その度に漆黒の船体が揺れている。その様子は、途中でほったらかしにされて戸惑っているようにも見える。しかし、今から自分で始末するし、特に気にする必要もないかと思い直し、少女の方へと向き直った。
そんじゃ、さっさと終わらせて帰ろ〜。そう思いながら照準を少女に合わせ、引き金を引き…
何も起こらない。
「…あれ?」
おかしい。私は確かに引き金を引いた。少女に狙いを定めて確かに…
いや待て、それよりももっとおかしいことが…
「どこ行った??」
そう。少女がいないのだ。あたりを見回してもどこにも見当たらない。
どうやって、いつ逃げたのか。疑問が頭の中を駆け巡った。
いや、逃げたのなら私が見逃すはずがない。だって目の前に居たのだから。しかし現状、どこにも居ないのだ。
ふと砲身の先を見てみると、白い煙を吐き出していた。そして少女が横たわっていた場所を見てみると、水飛沫があがった跡があり、その跡も海の中に飲み込まれているところだった。つまり、気づかぬうちに自分は撃っていたのだ。
「…!?」
ますます何が起こったかわからない。撃ったのなら音一つしないのはおかしい。あれほど大きい音だ。聞き逃すはずがない。それに、忽然と姿を消したあの少女はどこへ行ったのだ。この至近距離で見失うとは…
「何か…何か、おかしい…」
考え込みながら周囲を見渡していると、海岸に動いている影が見えた。よく見てみると、その影は瓦礫に隠れようとしているようだった。
それを認めた瞬間に撃った。轟音が響き、弾丸が瓦礫に向かって一直線に飛んでいき、瓦礫ごと周囲をふっ飛ばした。周囲に砂埃が舞い上がる。今度はさっきのような現象が起きなかったことに安堵しながらも、仕留めたかどうか、今しがた自分が撃ったのは何かを確認するために着弾地点に飛んでいく。
あたりを警戒しながら着弾地点を見てみると、瓦礫は粉々に砕け、地面は抉れてクレーターが出来ていた。だがその中にはこれと言って何かあるわけではなかった。これでは影の正体を知ることもできないし、仕留められたかどうかもわからない。
どうしたものか、と考えていた時、ふいに近くから物音がした。音がした方を振り返ると、瓦礫があった。どうやら音は自分の目の前にある瓦礫の後ろから聞こえてたようだ。
それがわかった瞬間にまた砲を発射し、瓦礫を砕いた。すると、砕けた瓦礫の後ろに何かがいる。それを見た瞬間にまた間髪入れずに砲を発射する。あたりには撃った衝撃と着弾した衝撃で土煙が舞い上がった。自分が撃ったなにかの状況はわからないが、少なくとも木っ端微塵か蜂の巣になっているだろう。
注意深く見ていると土煙が少しずつ晴れ、自分が撃った何かの輪郭が見え始める。大きさはおそらくは自分と同じくらいだろうか、背中には何かを背負っているようにも見える。まるでサメのような…
そこまで考えると、違和感を感じた。背中にサメ?まるで私と同じ…そう思っていると土煙が完全に晴れ、瓦礫に隠れていた何かがハッキリと見えた。だが、それは…
「…!?瓦礫の、影に隠れていたのは…」
私だ。
瓦礫に隠れていた私は驚愕しながらこちらを見ている。おそらくはこちらも同様の表情をしているのだろう。これは一体…と考えていたら、体に変化が起こった。
「ッ!?体が、透けていく!?」
手から腕、全身へと広がっていく。そして、気づいたときには立っていた位置も違う。さっきまでは瓦礫の前に立っていたのに、いつの間にか瓦礫の後ろに立っている。
「こ、これは…一体…」
「餞別代わりに見せてやったのだ。」
「!?」
低く、冷酷な声が響いた。
動けない。まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。
心臓の鼓動が急速に早くなる。
振り向くか、距離を取らなければいけないのにそれが出来ない。
そんな動揺を見透かしてか、背後にいる者は言葉を続けた。
「最期だから教えてやろう。お前がたった今目撃し、そして攻撃したのは未来のお前自身だ。数秒過去のお前自身が未来のお前を見たのだ。」
未来の自分?数秒過去の自分?それがどういうことなのかを考える余裕すらない。
なぜなら、心臓にナイフを突きつけられているかのようなおぞましい殺気を受けているからである。
一体何者だ?この私が動けなくなるとは…
「これが…
その言葉とともに、鈍い音が響き渡り、背中に衝撃が加わった。だが、
「ッ!!くそっ…」
グシャリ、と音を立てて、背中の艤装が貫かれるのを感じた。
(ふぅ、危なかった…背中に艤装がなかったら今頃どうなっていたことやら…。)
しかしそうも言ってられない。今、自身の背後にいる何者かは頑丈な艤装を貫けるほどの力があるのだ。このままではこちらの身が危ない。
艤装によって直撃を免れたその一瞬のすきを逃さず、素早く距離を取って振り向いてみたら、そこには意外な人物が居た。
「ッ、お前は…」
「…」
それは、先程まで地面に倒れ伏していた少年だった。そして、その腕には抱えられている艦船の少女がいた。
「…驚いた。生きてたんだ。それにそいつはいつ拾ったの?あと今のって君がやったのかな?」
矢継ぎ早に質問してみるが、少年は答える気配はない。表情を見てみるがうつむき加減でよく見えない。だが体の方を見てみると肩が上下しており、耳をすますと荒い息遣いも聞こえてくる。腹や腕からは血が止まることなく滲み出しており、少女を抱えている腕も小刻みに震えていた。恐らくは傷が痛み、その上で少女を抱えているため立っているだけで精一杯で、こちらの声は聞こえていないのだろう。
「…まぁいいや。なんにせよ、君が生きているなら今度こそ仕留めるだけ。その腕に抱えているやつごとね。」
そう言いながら砲を少年に向ける。
「さぁ、ファイナルステージと行こうか!」
誘い込むように両手を広げ、高らかに宣言した。
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浄化者と深紅の王 赤井悟Side
ここ最近になってようやく落ち着いてきたので、なんとか投稿できます。
前回はキング・クリムゾンの力に目覚めた悟が綾波を救出して、ピュリファイアーと対峙したところで終わっています。
今回は悟視点で前回の舞台裏が出されるような感じです。
それでは…本編どうぞ!!
時は、ピュリファイアーが綾波を撃ったところまで遡る。
やべぇぇええ!!!
心のなかで盛大なシャウトをかましている男…赤井 悟。彼が心のなかで叫んでいる原因は、彼が腕の中に抱えている少女にある。
(いくら助けるためとはいえ、女の子を抱えるなんて何やってんだ俺ぇええ!!)
あたらしく得た
この男、女の子耐性がびっくりするほどない。もともと人と話すのはあまり得意ではないし、生まれてこの方女の子と接する機会もあまりなかった彼にとって、女の子を(お姫様)抱っこしているこの状況は刺激の強すぎるものであった。
さて、話を悟の方に戻すと、彼は必死に理性を保ちながら次にすべき行動を考えなければならないという苦境に立たされていた。腕越しに感じる女性特有の柔らかい四肢の感触、鼻腔に広がる甘い匂い。それらに頭の中をかき乱されながらも彼は、今はまだセイレーンに見つかっていないが、それもいつまで続くかわからない。ここは早々に逃げるのが最善の選択肢だ。という結論を出した。
(だが、そう簡単には逃がしてくれなさそうだよなぁ…この
と、そこまで考えて、未だに眠ったままの少女の方を見た。
少女の体には無数の傷がついてはいるが、出血も少なく命に関わるようなものはなさそうだ。とりあえず、こっちは大丈夫そうだ。と思った。
次いで、自分の体を見た。見るも痛々しい深い傷を腹と腕に負っている。加えて、止血もままならず、いまだに血が噴き出していた。はやく手当をしなければ命に関わるだろう。
(この傷に加え、この娘を抱えながらの移動だ。そこまで早くは動けないな…うっ…)
ふいに出血による眩暈が襲い、片膝をついた。
(本格的にまずくなってきたな…とりあえず、瓦礫に隠れながら町のほうに…)
そう思っていた時だった。頭の中にある映像が流れてきた。
「ッ…!!くそっ…」
その映像を見た瞬間に悟は
激痛に思わず顔がゆがむが、足を止めている余裕はない。今しがた崩れ落ちていった世界は、すでに元に戻り始めていた。
「!ッッ…!!」
声にならない悲鳴を上げ、悶絶する。そしてちょうど良く時間が来た。崩れ落ちた世界は再び元に戻り、時は再び刻み始める。
悟が転んだ場所は、幸いなことに大きな瓦礫の影だった。それと同時に轟音が鳴り響き、さきほどまで隠れていた瓦礫が周辺の物もろとも吹き飛んだ。
「はぁ…はぁ…危なかった…」
荒い息を吐きながら、さきほど見た映像のことを思い出す。あの映像にはセイレーンが撃った弾が、自分が隠れている瓦礫に向かって飛んできている様子と、瓦礫から体がすこしはみ出していた悟の様子を映し出していた。
「完全に隠れていたと思っていたのにな…油断した…」
ちょっとした失態で危うく命を落としかけた事実に背筋が凍る。それと同時に素早く思考を巡らせる。
(このままじゃいずれ殺られるな…どうする?どうやってこの状況を打開する…?このまま逃げるのは厳しい…かと言って戦うのはもっと厳しい…くそっ…!)
などと考えていると、独特なエンジン音が聞こえてきた。瓦礫の影から恐る恐る覗くと、あのセイレーンが着弾地点を確認しているところだった。
「……!!」
その様子を見て、悟は恐怖した。それと同時に、もはや自分には一刻の猶予もないことを悟った。焦りと恐怖が入り混じり、悟はまた失態を犯してしまう。
パキ…
乾いた音が足元から響き、何かを踏んだ感触が足から伝わってきた。ハッとして見てみると、中程から折れた小枝がぐったりと横たわっている。「やべぇ、」と思う間もなく轟音が鳴り響いた。わざわざ確認しなくても、死の気配が近づいてくるのがひしひしと伝わってくる。なぜだか、時間がひどくゆっくり進んでいるように思えた。それと同時に、死の恐怖もゆっくりと体を蝕んでいくように感じられた。
その途方もない絶望感の中、悟はーーー
覚悟を決めた。
視界が暗転する。それと同時に世界が崩れ落ちていく音がかすかに聞こえた
ふと目が覚めると、悟は少女を抱えていた。さらに、知らぬ間に瓦礫の影から違う場所へと移動していた。暗かった視界が突然明るくなることで多少眩しかったが、その中に
痛む箇所に目をやると、血が滲んでいた。血の出る勢いはさっきよりかは収まっていたが、止血とまでは至っていない。それを見た途端、痛みをこらえるために荒い息遣いとなっていた。
セイレーンが何言っていたようだが、痛み(と、腕越しに感じる少女の感触)に耐えていたのであまり聞こえなかった。だが、セイレーンが何か言い終えたのか両手を誘い込むように開きながら砲を向けていた。もうここまで来たら逃げも隠れもできないので、こちらも戦闘態勢を取り…たかったが少女を抱えているので、代わりに
さぁてと、リベンジマッチと行こうか。
ピュリファイアー視点の時、時飛ばしがなかったみたいな感じの描写ありましたが、あれは時飛ばしがあったことすら認識できないくらいの短さで時を吹っ飛ばした…ということで。
あと、前回の内容の一部分を変更しました。
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深紅の王と浄化者 決着
まさか初めての評価で9をもらえるとは思ってもみませんでした…おかげでモチベがバク上がりでございます。感謝感激、です!!
さて、今回の話はまぁまぁ長めです。いよいよ悟とピュリっちの決着がつきます…果たしてどうなる!?
では、本編どうぞ!
地響きと轟音が絶え間なく響き渡る。
瓦礫が散乱し、そこかしこに穴ができ、見るも無残な姿に変わり果てた砂浜で、死闘が繰り広げられていた。
「あははっ!!」
狂った笑い声と共に弾丸の雨が降り注ぐ。それらを避けるたびに地面に無数の穴が空き、鼓膜が破れるのではないかと思うほどの轟音が耳に突き刺さる。
「くそっ…!」
常人ならば数秒も持たず粉微塵になってしまうような地獄の中で、一人の男が
〜赤井 悟Side〜
やはり厳しいな…と弾幕の嵐を避けながら考える。
隙がなさすぎてセイレーンに近づくことさえできない。
と思いながら、腕に抱えた少女と未だに血の止まらない腕と腹をちらりと見る。
(腕と腹にこんだけの傷を負って、更にはこの
考えているそばからまた弾幕が飛んでくる。それを後ろにかるく飛び退りながら避け、避けきれなかったものはキング・クリムゾンで弾く。これを避けたらまた弾幕が飛んできて、それをまた避ける…戦いが始まってからというもの、ずっとこれの繰り返しだ。
せめて少女を安全な場所へ…とは考えたものの、あの弾幕では時を飛ばして移動したとしてもほとんど無意味だろうと判断してやめた。
それに、キング・クリムゾンを使っていてわかったことなのだが、どうやらこいつは持続力があまりなく、エネルギーの消費が激しいらしい。そして消費したエネルギーは使用者…悟から自動で賄われている。そのため、乱発してしまうとあっという間に疲れて動けなくなってしまうのだ。なので、無闇矢鱈に時飛ばしを使うわけにはいかなかった。
その点言えば
そういうわけで、悟はジリ貧を敷かれていた。
このまま戦い続けていては、いずれ限界が来て自分と少女もろともやられてしまうのは目に見えている。
何か、何かこの状況を覆せるきっかけさえあれば…
〜赤井 悟Side 終了〜
〜ピュリファイアーSide〜
あははっ♪そろそろ限界かな?いっぱいいっぱいって感じ?
でもまぁ、よくあそこまで動けるねぇ。艦船抱えて、腕と腹に深手を負っているのに。
逃げ回る獲物に絶え間なく弾幕を浴びせ、弄びながら感心する。普通の人間ならとっくにくたばっているか、痛みや出血で一歩も動けないはずなのだが、それでもあの少年は動き続けている。少なくとも並みの人間では到底できない芸当だ。
「だからこそ…遊び甲斐があるなァ~」
こいつはあとどれくらい動けるのだろう?三十分か?それとも二十分か?ひょっとしたら十分も動けないかもな?いずれにせよ、動けなくなるまで遊んでやるよ。
ギラギラとした金色の瞳に加虐心を滾らせながら、逃げ回る獲物を見つめていた。
〜ピュリファイアーSide 終了〜
だんだんと悟の動きは鈍くなり、弾幕は濃密さを増す中、攻防は突如として終わりを告げた。
悟の足を一発の弾丸が掠め、動きが更に鈍くなった所に続けて飛んできた二発目が足を撃ち抜いた。
「ッ…!!」
激痛に顔を歪め、倒れ込んだ。必死に起き上がろうとするが、疲労と痛みによりもはや一歩も動けなかった。
ザッ、と地面を踏みしめる音が背後からした。
「もう終わりかー?」
確かめるように、それでいて獲物を追い詰めるかのように聞いてくる。
「………」
「おい、人が聞いてるんだから答えろよ。………いや、もうそんな元気ないか〜?」
こちらを煽るように言ってくる。
言い返す気力すらない。
「もう動けないなら…」
ザッ…ともう一歩踏み込むのと同時に艤装が動き、全ての砲が一斉に悟を睨んだ。
(なんとか頑張ってみたけど…今度こそ終わりか…結局、この娘を助けることはできなかったなぁ…)
悟は、少女を助けることができなかったことを悔やんではいたが、死への恐怖はさほどなかった。その代わりに、頭の中に浮かんできたのは家族や友人のことだった。
(母さん、ごめん…先に逝ってしまう親不孝な俺を許してくれ…まだ顔も知らない父さん、そっちへ逝ったら色々話せるかな…?そして数少ない仲間達…あいつらは今頃何してるんだろうな…ちゃんと安全な場所に避難してるかな…)
大切な人たちへの色々な想いが頭をよぎる。
「じゃあな」
無慈悲な声が響いた。
ズドォオン!!!
突然、砲撃音が響き渡った。続いて爆発音も響いた。
「綾波ー!無事かー!?」
「やっちゃえー!!」
という声が聞こえた後、また爆発音が響いた。どうやら量産型セイレーンが攻撃されているらしい。次々と黒煙が上がっていくのが見えた。
「ちっ…こんな時に…!」
セイレーンの意識が、そちらの方へと逸れた。
なんだかわからんが、これはチャンスだ。
そう考えた悟はこっそり移動し、少女を安全な場所に避難させた。
「ふぅ…」
なんとか少女の安全は確保できた。さて、あとはこっちだが…
そう考えながら、セイレーンを見た悟の頭に一つの映像が流れ込んでくる。
「……へぇ、なるほどな。」
そのイメージを見た悟は静かにセイレーンに近づいていった。
量産型セイレーンが炎上しながら次々と撃沈されていく。もうもうと上がる黒煙と、艦船達を憎たらしげに睨んでいた。その光景に意識が逸れていたが、ふと我に返り、つい先程まで追い詰めていた獲物のことを思い出す。
向こうの連中も無視はできないが、まずはこちらの瀕死の獲物を仕留めてからでも良いたろう。
そう考えて振り向いた。
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァア!!!!
油断しきっていたその横っ面に、キング・クリムゾンの
「!!!??」
見えない"何か"から食らった攻撃により、ピュリファイアーは吹き飛んだ。そして、吹き飛ばされる間際にあの少年の顔が見えた気がした。
「ッ…!!くそッ!!」
流石はセイレーンの上位個体と言ったところだろうか。吹き飛ばされながらも艤装を動かし、なんとか体勢を整えようとする。が、上手くいかない。
「ッ!?」
いつもなら手足のように操れると言うのに、今はまるで言うことを聞かない。躍起になって動かそうとしていると、あることに気づく。
「あの時…!!」
そう。不意打ちをくらった時のことである。あの時は艤装が盾となったため、大した怪我はなかったが艤装にはかなりのダメージがあったのだ。
「くそ…くそッッ!!!覚えていやがれぇえええ!!!」
小物の悪党が去り際に吐くセリフを盛大に叫びながら、遥か彼方に吹っ飛んだ。
セイレーンがぶっ飛んでいったのを確認すると、キング・クリムゾンは静かに消えた。
「ぐっ……」
苦しげに呻き、膝をつく。重傷を負った体には、ラッシュによる負担は大きかったようだ。
流石にもう動けない…かなりの無茶したなぁ…まあ、最後にかませたしいいか…
そう思いながら先程頭の中に流れてきた映像を思い出す。
「やばい!とどめだジョルノ・ジョバァーナァアアア!!!」
叫び声とともに深紅の拳が黄金の人影を乱打する。
その映像は、キング・クリムゾンが黄金の人影に殴りかかった瞬間のものだった。
さきほどセイレーンにかましたあの攻撃は、悟がこれを見て真似したものである。ちなみにラッシュ時の奇妙な叫び声はキング・クリムゾンが勝手に叫んだものだ。
「というか、頭に流れてきたあの映像何だったんだろう…声も聞き取りにくかったし…」
色々な謎は残ったが、今は気にする余裕も必要も無いと判断し考えるのをやめた。
「さて、そろそろ…」
動くか、と言い終わる前に地面に倒れた。何が起こったのか一瞬理解できなかったが、すぐに自分が倒れていることを理解すると身を起そうとする。
が、体に全く力が入らない。それどころかどんどん体から力が抜けていく。
視界が狭窄してきた。頭の中が真っ白になっていく。まるで眠りに落ちるようだ。
ああ…死ぬのか、俺。
薄れゆく意識の中、ぼんやりとそんなことを考えていた。
誰かの焦ったような声が聞こえた気がした。
書いていて「いや、悟お前……ミスタじゃねえか!?」ってなってた。まさかここまで頑丈になるとは思わなかった…
キング・クリムゾンのラッシュは書きたかったことの一つだけど、どう出そうか悩んでました。ラッシュの時の掛け声(?)も。
悩んだ末、ピュリっちが油断してるところにぶち込んで、掛け声はギャングスターに憧れているあの人の掛け声を使いました。正直掛け声なしでもよかったかなと思っていたけど、それじゃあ地味でしょう!?ということで無駄無駄になりました。
キング・クリムゾンのラッシュってかなり強力だしロマンあると思うんですけどねぇ…あまり出てこなかったのが残念。
戦闘は一旦ここらへんで終わりにして、次回からは本格的に悟と艦船達が関わっていくことになると思います。あとは襲撃の後始末とかになるのかな?
次回もお楽しみに!
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