前世 男の聖女コスプレTS少女が行くダンジョン配信 (銭湯妖精 島風)
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1. 世界ってのは、常々バグってる

 

 

まずは何から話すべきか・・・

 

 

そう、まず最初に僕は死んだ。死んでしまった、死因は何だっただろうか?

 

確かありきたりの死に方だった、それは覚えている

 

 

何処にでも居る、可もなく不可もないアラサーの会社員、それが前世の僕だったのだが、特筆する程の悲惨さも特異性もなく、あっけなく死んだ

 

 

死んで、性別不明の中性的な・・・ジェンダーフリー?な神様とゴリゴリマッチョの神様に会って、前世より楽しく多少楽に生きれる様に願ったら、マッチョ神様に何でか欲がないねー みたいな事を言われてしまい、困惑してる内に新たな母の胎に送り込まれ無事、転性を果たした

 

 

そう、転性を果たした。僕はオッサンから女の子にジョブチェンジしました、はい

 

 

まぁ僕が神様にお願いした願い事に、性別の固定は無かったので、前世と同じ性別と言うガチャは2分の1の確率になる訳で、僕は見事ハズレを引き当てた訳だ、うん

 

 

そして僕は五月七日(つゆり) カナリアと言う名を手に入れた

 

 

さて、文字の読み書きと算数の足し算引き算とか、小学2〜3年生まで習う内容のアドバンテージが有った僕ではあるが、前世から特に賢い訳では無かったので、前世より勉強に力を入れる事を決意し、頑張って勉強をした

 

 

今世ではオツムの出来が前世より良いのか、中の上ぐらいの学力を手に入れる事が叶い、両親を始めとした兄達は受け入れてくれて、僕は安心している

 

 

さて、そろそろ今世の世界の有様を語るとしよう

 

 

現代日本 そう言ったが、正確には前世より幾分か技術進歩している、僕が死んだ時期から言うと、寧ろ転生した時期は少し逆行していたぐらいなのに、だ

 

 

その理由、それは異世界と融合合体してしまったから、らしい

 

 

魔法と異能が一般的な、そんな世界と現代地球は混ざり合い、アメリカ・ロシア・中国を始めとした大国は見知らぬ異世界国と置き換わってしまい、日本国内も余波の地震や天変地異により少なく無い被害が出た

 

 

これは未曾有の大災害、統合騒乱と名付けられ、歴史の教科書に記載されていて、毎年テレビ等では追悼番組がやっているぐらいだ

 

 

そして二度と次元災害が起こらない様に、元々アメリカが有った場所に生えた国、リューネ王国の凄腕科学者 立花(たちばな) 夏月(かづき)を始めとした有志が次元を縫い止める楔を世界各地に打ち込み、理論上は楔がなくならない限りは次元災害は発生しない様になった

 

 

統合騒乱後、災害復興をしていく中でリューネ王国やオーシア王国、ベルカ帝国と言う大国からの支援・技術提供、流入で日本は発展していった

 

 

と言うのが、僕が授業で習った内容だ。僕が転生する15年以上前の話だし、僕が二足歩行で自由に動き回れる様になった頃には、発展しまくってたし?

 

 

 

そんな技術進歩した日本で流行っている娯楽、それはダンジョン配信だ

 

 

先述した楔、次元を縫い止めている訳だが、どうしても僅かに微動する次元のせいで、楔の周辺が異界(ダンジョン)化してしまい、様々な次元・時空・時代の物品、そして生物が流入してしまう

 

 

そして生まれたのが、ダンジョン内の危険生物を排除しアイテムを入手し踏破する人々、探索者(ダイバー)と言う職業であり、更に前世より進んだ技術を用いて作られた、ハイスペックなのに安価な配信機器を内蔵したドローンを使ってダンジョン攻略を配信する人達、ダンジョン配信者(ライバー)

 

 

彼等、彼女等の活躍でダンジョン由来の製品で雇用が生まれたり、新エネルギー源が供給出来たり、まぁ兎に角、需要と供給が釣り合っている

 

 

配信サイトでは人気コンテンツとして青天井だし、ダンジョン配信者の事務所だって大手から中小、数えきれないぐらいあるし、個人勢も存在する

 

 

とはいえ、誰でも探索者になれる訳ではなく、先天的な才能を有していないとならない

 

 

その身体に魔力を有していなければ、探索者になる事が出来ないからである

 

 

元々魔力を有していなかった地球人だったが、素質を持っている人はいた様で、統合騒乱後に魔力を有する第1世代が最初期の探索者として活躍し、彼等彼女等の子が産まれる頃には、魔力を有する国民は増え様々な法整備がされていった

 

 

そんな先天性の才能が必要なほどほどに狭き門を潜っても、探索者・配信者として成功する保証は全くなく、それゆえに探索者・配信者は人を魅了している

 

 

 

今年から高校生になった僕は、とある事故に遭遇し探索者になる事になったのだった

 

 

この物語は、元アラサー会社員の僕が探索者をする筈が、周りに押し切られる形でダンジョン配信者になる物語

 

 

世界は割とバグっている






見切り発車で書き始めてます

拙い内容かと思いますが、どうかご容赦を


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2. 始まりの事件 1

 

 

西暦20**年、未曾有の大災害 統合騒乱の傷跡も少なくなった年度末を控えた今日この頃 雪がチラつく日の事、僕・・・五月七日(つゆり) カナリアは寒さに震えながら高校受験会場からの帰路を歩く

 

 

「今朝の予報だと晴れて少し気温上がる筈だったんだけどなぁ」

 

 

少々寒さに弱い僕のアテが外れてしまい、少し悪態を付きつつ疎らに降る雪と空を見上げて軽く睨む、まぁ睨んだ所で何も好転しないのだけれど

 

 

溜め息を吐き、無意味な事を止め視線を地面に戻すとガラス扉がマジックミラーになっている お店で、学校指定のダッフルコートにマフラーをした少々不機嫌そうな金髪碧眼の少女が僕を見つめ返している

 

まぁ僕なんだけどね、うん

 

 

マジックミラーに映った自分の姿を見て思う、どう見ても日本人には見えない、と

 

 

今の日本では珍しくもない存在である僕は、実はハーフだったりする。それも異世界人との、だ

 

 

日本人の父とベルカ人の母の元に産まれた僕は見事、ベルカ人寄りの見た目になった訳だ、美人の母には感謝しないとね? おかげで僕は美少女の部類の容姿をしている訳だし

 

 

 

いい加減、寒くて限界だったのでダッフルコートのポケットから財布を取り出し自販機で暖かい物を買おうとした瞬間、地面・・・否、空間自体が揺れる

 

 

「・・・次元震!? 警報はなかったのに」

 

 

周りを見渡し落下物や倒れそうな物が無いか確認してから道路の真ん中に移動し膝を着いて揺れが治るのを待っていると、10mぐらい離れた空間がひび割れて行き黒いナニカが染み出し壁の様な形をなしていく

 

 

「・・・はぁ」

 

 

揺れが収まり、けたたましい警告音を響かせるスマホをポケットから取り出して確認すると、ダンジョン出現警報と書いてあり、僕は脱力して空を仰ぐと黒いナニカにより覆われていて、僕は生えたダンジョンに巻き込まれた事を確信する

 

 

稀に有るのだ、こうゆう突発的かつ不規則的にダンジョンが生える事が

 

そして黒いナニカは触れると継続ダメージを与えるヤバい代物なので触らないようにしないといけない

 

「受験後の帰路だった事は、不幸中の幸いかな? 」

 

 

とりあえず電気は通ったままの様なので、あったかいココアを自販機で購入し飲みながら どうするか考える

 

 

選択肢は2つ、この場で救助を待つか、移動し自力で脱出するか、だ

 

 

両方メリット・デメリットが存在する、通常の遭難であれば動かない方が良い可能性もあるが、此処はダンジョンであり、異界の生物が居るので座するのも相応のリスクがある

 

 

まぁそれは動いても同じだけれど、母 の教えでは迷ったらとりあえず動け、なので救助を待つより、僕と同じ様に巻き込まれた人が居るかも知れない、なら合流した方が良い

 

 

「本当、備えておくものだね。僕は攻撃魔法使えないし」

 

 

肩から下げていた鞄から投石紐を取り出し異常が無いか確認する

 

 

日本と言う国は元々魔法の無い国であり、危険物の取り扱いや所持にかなり厳しい制限を設けている、ダンジョンが生える時代になっても厳格な法は存在し続け、護身用の得物を選ぶのも一苦労する

 

 

僕の様に小柄で非力な子供であってもダンジョン内で護身出来る得物、それが投石紐だ

 

 

仮に僕が自身の手で全力投球した缶コーヒー1本で大人の男性が怯む程度の威力が出せるし、缶コーヒーならば自販機から入手可能で即応力も高い

 

 

「投石紐を使用すれば、小型ならば殺傷も可能、最低でも負傷させて後退の時間稼ぎが出来る」

 

 

そんな訳で缶コーヒーを非常用に持っていた小銭を使い10本程買い、鞄に入れ左手に投石紐、右手に缶コーヒーを持ち周りを警戒しながら黒いナニカから遠ざかる様に進む

 

 

「本当、こうゆう時に攻撃魔法が使えたら頼もしいんだけどね」

 

 

周りの音に聞き耳を立てつつ呟く

 

 

日本人とベルカ人のハーフである僕だが、容姿は母、性質は父から受け継いだ様で、僕には魔法適性が無かった

 

 

ちなみに僕には兄が3人居るのだが、3人ともに魔法適性を持っていて少し羨ましい

 

 

その代わりに、護身術と護身用の投石紐を教えてくれたのだけれど

 

 

 



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3. 始まりの事件 2

 

 

 

そんな事をボヤきつつ慎重に歩を進めていると、甲高い女性の悲鳴が聞こえ僕は悲鳴の聞こえた方へ走る

 

2つ目の角を曲がると、緑色の肌をした小学生低学年ぐらいの背丈の人型のモンスター、一般的にゴブリンと呼ばれるソレが女性に襲い掛かろうとしている所だった

 

数は3体、距離は約20mで僕もゴブリンも20歩も有れば互いに手が届いてしまう距離だ、それ故に少々覚悟をしなければならない

 

 

足を止めて深呼吸し左手に持つ投石紐に缶コーヒーをセットしブン回し加速し、力一杯振り抜き1番僕側に立っているゴブリンの頭を砕く

 

 

[経験値を獲得しました]

 

「よし、ヒット・・・今なんか聞こえて、缶コーヒーの威力強くなってる気がするけど、まぁ良いか」

 

 

頭部が砕かれ地面に伏し魔力の光子になり霧散していくゴブリンだった物を見つつ鞄から次の缶コーヒーを取り出し再装填して再び投石紐を回しながら

 

 

「お姉さん、そのまま地面に伏せて置いて下さい、誤射して当たったら 当たり所が悪いと先程のゴブリンみたいに頭が陥没するので」

 

 

「わ、わかったわー」

 

 

僕より少し年上の様子のお姉さんは、可能な限り平べったくなり頭を両手で庇う体勢を取ってくれるので、僕としては かなりやりやすい

 

 

「さて・・・君らを退治しないと、ね?」

 

[経験値を獲得しました]

 

2投目を放つと先程と同様にゴブリンの頭にクリティカルヒットし撃破する事が出来た

 

これであと1体なのだが・・・流石に3回目は当たらないだろうなぁ

 

 

ゴブリン1と2が手にしていた粗末な棍棒と剣の様な物が地面に転がっているのを見つけ、3つ目の缶コーヒーを投石紐にセットして回して最後のゴブリン3を警戒する

 

 

ゴブリン3が持つのは石斧の様な物、ゴブリンの知能レベルは幼稚園児〜小学生低学年ぐらいと言われている

 

見た目に反してチカラは強いが、防御面は人間同様 脆弱な為、単体での脅威はモンスターの中では低めだが、ゴブリンは基本的に2体以上の群れで行動する性質がある、個として弱くても道具を作り使用する知能と群れとして行動するチカラがゴブリンの強さ、と言える

 

 

故に、対ゴブリン戦術は、先手必勝の遠距離からの奇襲

 

 

「混乱に乗じての殲滅」

 

 

3投目を放つが、予想通りゴブリン3は缶コーヒーを躱しネッチョリとした笑みを浮かべ僕の方へ駆けてくる

 

僕とゴブリン3の間の距離は約20m、投石紐に再度缶コーヒーをセットし4投目を放つには時間が足りない、それをゴブリン3は理解している、故に無防備な僕を嬲れると思って嫌らしい笑みを浮かべ、僕へ襲い掛かる事を選択した

 

 

「予習復習はしっかりしないとダメだぜ?ゴブリン君?」

 

 

ゴブリン3が振り下ろした石斧をスウェーで躱し、缶コーヒー7本+αが入った鞄をゴブリン3の顔面にフルスイングしカウンターを決め、呻き声を上げて居るゴブリン3を横目に駆け足で鉄剣を拾いに行き拾って感覚を確かめ振り向き

 

 

「寝てれば良いのに」

 

 

ヨロヨロと立ち上がって恨めしそうに僕を睨むゴブリン3を兆発すると、激昂したゴブリン3が石斧を振り回しながら突っ込んできて隙だらけだったので、サクッと鉄剣で頭を叩き割り撃破する

 

 

[経験値を獲得しました]

 

[リザルトを開始します]

 

 

「終わりましたよ、お姉さん。怪我は無いですか?」

 

 

「え?え、えぇ・・・大丈夫、ありがとう」

 

 

「それは良かった、あ、缶コーヒー飲みます?」

 

 

「え? い、いえ、大丈夫よ、ありがと」

 

 

なんか空耳が聞こえてるけど無視して、お姉さんを立たせて怪我が無いか一通り見て怪我がない事を確認し、ゴブリンからドロップした魔石を拾う

 

 

理屈は分からないが、ダンジョン内でモンスターを倒すとアイテムがドロップする、ゴブリンとか非食用だと主に魔石・武器・アクセサリー類、獣系の食用可だと肉・革・爪・牙とか、モンスターから素材やら強化素材やら色々とドロップする訳だ

 

 

そしてドロップ品は専門の買取店があって、換金ができる

 

 

そんな訳でドロップ品の品定めをし、紫色の魔石3個と黒鉄色をした拳サイズの石、ゴブリン1〜3の武器をゲットした

 

 

 

 



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4. 始まりの事件 3

 

 

ゴブリンからの戦利品を手に入れた訳だが、魔石と拳大の黒鉄色の岩は鞄に入るけど、流石に武器3つは入らないので

 

 

「お姉さん、石斧と剣と棍棒、どれが良いですか?」

 

 

「ど、どう言う事かしら?」

 

 

「ダンジョンは未だ健在、つまりダンジョンボスは撃破されていません。ボスが撃破されていない以上、再びゴブリンか他のモンスターと遭遇する可能性があります」

 

 

「なるほど、無いよりはマシって事ね?」

 

 

「そうです、丸腰よりは幾らかマシですね」

 

 

僕は空を指差し、未だ黒いナニカに覆われているのを お姉さんに告げる

 

 

僕等の巻き込まれた突発的に生えたダンジョンは、理屈は分からないが ダンジョンの長であるダンジョンボスを撃破する事で消滅する

 

 

本当に何故だろう?

 

「それじゃぁ・・・石斧にしようかしら? 三つの中なら、まだ使えそうだし」

 

 

「分かりました、どうぞ」

 

 

「ありがとう」

 

 

僕は石斧をお姉さんに渡し、無理矢理棍棒を鞄に押し込み辺りを見渡して進路を考えた瞬間

 

 

[集計処理が終了しました]

 

[経験値が上限に到達 レベルが上がります]

 

[レベルアップによりエクストラクラス“聖女”を獲得しました]

 

[クラススキル“岩塩生成 Lv.1”を獲得しました]

 

[クラススキル“聖水生成 Lv.1”を獲得しました]

 

[クラス獲得によりステータスに上方補正が入ります]

 

 

ハッキリとした空耳が聞こえ、僕は困惑する

 

どうやら僕にも しっかりとベルカの血は受け継がれていた様だ、何せベルカ帝国は宗教国家なのだから、よく知らないが母の家系は超超遠縁だが皇族・・・教団の最高指導者と同じ血が入っているらしい

 

 

もしかして神様に会った事があるのも原因なのかな?

 

エクストラクラスについては、後で考察する事にして、まずは2つのクラススキルについてだ

 

 

「・・・クラススキルってどうやって確認するんだろう?」

 

 

「君、どうしたの?」

 

 

「あー・・・ゴブリン倒したらレベルが上がってクラスを獲得したみたいなんですけど、クラススキルの確認の仕方が分からなくて」

 

 

「クラススキルの確認の仕方? 確か・・・ステータスに記載されていたはず、君・・・先に名乗りましょうか、君とか貴女とか面倒だし」

 

 

「そうですね、僕はカナリアと言います」

 

 

「私は紗夜(さや)よ、よろしくねカナリアちゃん」

 

 

お姉さん改め紗夜さんと名乗り合い、ステータスの表示法を聞きステータスを確認する

 

 

クラススキル① 岩塩生成Lv.1

 

1時間で500gの岩塩塊を生成する、gを指定し取り出す事も可能

 

保有上限は2kg。レベルアップで成長する

 

 

クラススキル② 聖水生成Lv.1

 

30分で小瓶1本分(150ml)を容器付きで生成する。容器の小瓶は聖水使用後に自動で消滅する

 

保有上限は10本、レベルアップで成長する

 

 

 

「ふむふむ、無いよりはマシ、かな?」

 

これは本当に無いよりはマシかもしれない、聖水がモンスターに通じるか全くの謎だ、瓶を投石紐にセットして放てば良いかもだけど

 

んー 僕は鑑定スキルを持ってないから、今分かる事は これが全てだ

 

 

「ひとまず・・・救助が来るか、ダンジョンボスが撃破されるのを待ちましょうか。運が良ければ出口が見つかるかも知れませんし」

 

 

「そうね、そうしましょう」

 

 

ひとまず空を見上げて進行方向を決め歩き出す、僕の予想だと円形にダンジョンが形成されている様なので、中心にダンジョンボスが居ると仮定し、外縁分をなぞる様に移動をする

 

 

そして運が良ければ出口が見つかり、次点で救助に来た探索者に遭遇出来る可能性がある

 

 

願わくば、僕の予想が当たっています様に、特にダンジョンボスには遭遇したくない、正直言ってダンジョンボスに遭遇したら十中八九、僕等は死ぬ

 

いや、最低でも死、悪ければゴブリンの慰み物になってからの死

 

 

だから大胆かつ慎重に出口を探さなければならない

 

 

 





[五月七日カナリアがLv.1 になりました]
[エクストラクラス 聖女を獲得しました]
[クラススキル 聖水生成を獲得しました]
[クラススキル 岩塩生成を獲得しました]


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5. 始まりの事件 4

 

 

紗夜さんと移動を開始して小1時間で運良く救助に来てくれた探索者と遭遇し、僕達はゴブリン3体と遭遇した以上の危険に合わずにダンジョンからの脱出を成し遂げる事が出来た

 

 

「助けてくれてありがとうね、カナリアちゃん」

 

 

「いえ、人として当たり前の事をしただけですよ」

 

 

「ダンジョンの中で、その当たり前が出来る事は とても凄い事よ。誇りなさい? 」

 

 

「あー・・・ありがとうございます?」

 

 

急に紗夜に褒められてしまい、照れて変な反応をすると、紗夜さんはクスリと笑みを浮かべて

 

 

「貴女、ダンジョンの中だと頼もしいのに、平時だと可愛いのね?」

 

 

「揶揄わないで下さいよ、紗夜さん」

 

 

「ふふ、ごめんなさい?」

 

 

僕の言葉にニコニコとしていて、イマイチ効果が無さそうだ

 

 

「カナリアちゃん、良かったら連絡先を教えてくれない? 御礼がしたいの」

 

 

「いえいえ、わざわざ御礼までは不要です、本当に当たり前の事をしただけですから」

 

 

「良いから、スマホを出しなさい? ほら」

 

 

「分かりました」

 

 

「・・・嘘でしょ? なんでよ」

 

紗夜さんって割と押しが強い人の様で、有無を言わさずに僕にスマホを取り出させ、自分のスマホを取り出し呆然としている

 

 

ゴブリンに襲われて倒れた拍子にクリティカルが入ったのか、紗夜さんのスマホはバッキバキに画面がヒビ割れて、電源すら入らない状態になっている、これは運が悪い

 

 

「くっ・・・良いわ、次に出会った時は絶対に御礼するから、覚悟しておきなさい?」

 

 

「本当、御礼とか大丈夫ですから、いや本当に」

 

 

「いいえ、恩を返さないのは私の主義にも家訓にも反するから、必ず御礼はするわ。絶対に必ず」

 

 

「お、おぉぅ」

 

紗夜さんから謎の圧を感じ、これ以上は何を言っても無駄そうだな と思い、彼女の好きにさせる事にする

 

そう、再会しなければ良いだけなのだから、うん

 

 

「あ、紗夜さん。迎えが来た様なので僕はこれで」

 

 

「えぇ、今日の所は これでサヨナラするけれど、また会いましょう」

 

 

「またどこかで」

 

 

凄まじい気迫の紗夜さんに少々圧倒されたが、迎えに来てくれた3番目の兄の元へ駆け寄る

 

 

「迎えありがとう、三鶴(みつる)ちゃん」

 

 

「構わないよ、カナリア。それより無事で良かった」

 

 

黒髪碧眼のモデル体型の美青年の兄、三鶴に御礼を言うと彼は僕の頭を撫でて安堵した様子の声色で言う

 

 

探索者の魔力を用いて自身を複製体(アバター)にコンバートしてから行う通常のダンジョン攻略と違い、突発的に巻き込まれるダンジョン遭難は基本的に生身だ

 

アバターの基本仕様である緊急脱出(ログアウト)が使えない以上、余程の幸運がなければ無傷での脱出が出来ない

 

 

そして僕は余程の幸運に恵まれた訳だ

 

 

「寒いし帰ろうか」

 

 

「うん、ありがとね三鶴ちゃん」

 

 

「良いよ、君は僕の・・・いや、僕達の可愛い妹なのだから」

 

 

そう言い、もう一度僕の頭を撫でて先導を始める。うーん、この兄は相変わらずイケメンだなぁ

 

 

この三鶴と言う美青年・・・いや、我が五月七日家の3人の兄達は僕と歳が離れている為か、少々? 僕に甘く恐らくシスコンの民なのである

 

 

今回迎えに来た三鶴でさえ大学生で、長男と次男は社会人でダンジョンに関わる仕事をしている・・・と言うか、我が家は大体ダンジョン関係の職についている、うん

 

 

つまり、今回 僕の迎えに来たのが三鶴な理由で、至極簡単に言うと、ダンジョン遭難の色々で手が離せないのだ

 

 

こればかりはどうしようも出来ない、是非もなし

 

 

ちなみに何故 名前+ちゃん付け かと言うと、歳が離れている上に3人も居るので、いちいち呼ぶ時にお兄ちゃんを付けるのが面倒だったので、ちゃん付け で呼んでいたら、気に入られてしまったからだったりする、本当 僕に甘い兄だと思う

 

 

 

さて、家に帰ったら色々と調べてみる必要がありそうだなぁ

 

 

クラスの事、クラススキルの詳細、何故今更クラスを獲得したか、とか色々

 

 



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6. 帰宅と考察

 

 

三鶴の運転する車に揺られ自宅に戻り、リビングのソファーに座り脱力する、流石に疲れてしまった

 

 

「ふへぇぇ・・・」

 

 

「お疲れ様カナリア」

 

 

「ありがとう三鶴ちゃん」

 

 

全力でソファーに身を預けている僕の頭を撫でて労ってくれる三鶴に御礼を言い、ドロップ品の中に謎の岩が有ったのを思い出し、どうせなら知恵を借りる事に決め

 

 

「よっと・・・三鶴ちゃん、この岩なんだけど、何か分かる?」

 

 

「岩? どこで拾ったの?」

 

 

「ゴブリン倒したらドロップした」

 

 

「あぁ、ドロップ品か・・・ふむ」

 

 

僕が鞄から棍棒と鉄剣を鞄から出して避け、拳大の黒鉄色の岩を彼に見せると質問してきたので答えると、棍棒と鉄剣をチラリと見て少し思案顔になる

 

 

「多分これは魔法鉱石の一種だと思う、それもかなり純度の高い」

 

 

「魔法鉱石? それってミスリルとかオリハルコンとかのヤツ?」

 

 

「そう、それ。ただまぁ・・・これ1つじゃ小型のナイフを1本作れるかどうか?って所かな」

 

 

「ふぅん、なら売ったほうが良いかな?」

 

 

「それもそれでアリだと思うよ、君の物だしね」

 

 

「そっか、ありがと」

 

 

三鶴の説明に相槌を打ちつつ岩を眺める、仮に魔法鉱石ならソコソコの値段がつくはずだ、期待値で言うと僕のお小遣いの1.5倍は硬い筈

 

 

「ねぇカナリア、その岩さ? 少し僕が預かっても良いかな?」

 

 

「え? 別に良いけど・・・なんで?」

 

 

「大学で色々と魔法鉱石は見てきたけど、これは見た事が無いからね。興味があるんだ」

 

 

「そっか、なら良いよ? はい」

 

 

「ありがとうカナリア」

 

僕は三鶴に岩を渡し、ステータスを見ようと思っていた事を思い出したので、ステータスを表示し、上から順番に慎重に読んでいく

 

 

「氏名、ヨシ。レベルは・・・1、まぁ妥当かな? えぇーっと?」

 

 

氏名やレベル等の項目を順に見てゆき、クラスの項目に辿り着く

 

 

「エクストラクラス 聖女 何回見ても変化無しかぁ」

 

 

「エクストラクラスを獲得したのかい?カナリア、おめでとう」

 

 

「僕としては聖女ってガラじゃ無いんだけど・・・」

 

 

「君はいるだけで可愛く美しいから聖女にピッタリだよ」

 

 

「またそう言う事を言う、だからシスコンって言われるんだよ三鶴ちゃん」

 

 

「僕はシスコンで有る事に誇りを持っているから問題無いよ」

 

 

僕の呟きを聞いた三鶴の言動にツッコミを入れるが、効果なくニコニコとしている、ダメだコイツ早くなんとかしないと

 

 

ここだけの話、三鶴はモテる。僕の買い物に付き添いしてくれた時に、ほぼ毎回 逆ナンされるぐらいにはモテる、まぁ即お断りしてたけど

 

 

「ねぇ三鶴ちゃん、エクストラクラスって何? エクストラって事は珍しいとは思うけど」

 

 

「エクストラクラスって言うのは、超希少で獲得条件が謎に包まれたクラスの事、通常のクラスは適性によっては複数保持出来たりするけど、エクストラクラスは無理らしい。まぁそもそもエクストラクラス保持者が少なすぎて何にも分からないんだけどね?」

 

 

「なるほど、謎のレアなクラス、と」

 

 

僕の様な無知者でも知っているクラス、剣士や弓士や魔法使い等は獲得条件が分かっていて、クラスを複数保持する事も出来るらしい

 

流石に相反するクラスは無理らしいが、剣士+魔法使いとかは出来るとか

 

 

「ん? エクストラクラス保持者は、通常クラスを獲得出来ないのかな?」

 

 

「どうだろう? さっきも言ったけど、エクストラクラス保持者が少なすぎて分からないんだ、母さんか鷹樹兄さんに聞くしかないかな?」

 

 

「そっか、ありがと三鶴ちゃん」

 

 

「構わないよ、寧ろどんどん聞いてきて良いよ?」

 

 

僕の質問に答えつつ、全くブレない三鶴に正直少し引きつつステータス画面の続きを読んで行く

 

 

この先、再びダンジョン攻略をするか分からないが、自分の事を理解して置く事は大切だ、聖女が就職に役立つかは分からないけど

 

 

 



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7. 帰宅と考察 2

 

 

我が兄ながら変人な三鶴に引きつつステータスの確認を行う、そして分からなければ彼へ尋ねる事にした、変人だが僕の分からない事を結構知っているから

 

 

エクストラクラス 聖女の説明文を読むと

 

 

一般的に神の代弁者や代行者、世界の観測者の任を神により選定され与えられた女性を表すクラス

 

任命した神により与えられる加護やクラススキルが異なる

 

また当人が信奉している神から任命される事が常であるが、稀に信奉していない神から任命される事がある

 

 

と書かれていて、少しだけ疑問が解消される

 

 

ベルカ出身の母は兎も角、日本生まれ日本育ちの僕は特定の宗教に入信している訳ではない、まぁ強いて言えば僕は神道だろうか?

 

 

学校の授業で習ったので、僕の会った神様が何処のどの神様かは何となく知っている、そして日本は元々 多宗教国家であり八百万(やおよろず)の神を信奉する神道と言う宗教がある、だから僕は特定の宗教ではなく、神道をしているわけだ

 

 

神様は居る事を僕は知っている、出会ったのだから、間違いない

 

 

さて、この説明文を見ると、聖女はある種の役職名の様だ。つまり僕以外にも聖女が居る可能性がある

 

まぁ僕以外に居た所で、どうなんだ?って話ではあるけど、オンリーワンでは無い事が分かって良かった

 

 

「クラススキル、岩塩生成と聖水生成・・・か」

 

 

「随分と偏ったクラススキルだね? 聖女って癒しの力とかがあるイメージだけど」

 

 

「そうだよね、聖水は兎も角 岩塩って、ねぇ?」

 

 

僕の呟きに三鶴が反応し、言うので同調し言う。僕も彼と同様のイメージだからだ

 

 

ひとまず両方の説明文を読む

 

 

魔 及び 邪なるモノを祓い、迷える魂を清め神の御元へ送り癒すチカラを持つ

 

 

また清い者、魔に魅入られていない者には癒しを与える

 

経口接種でHPやMPなどが一定時間継続回復と魔なるモノ・邪に連なるモノから身を護る祝福を得る事が可能

 

 

 

「・・・つまり この2つのクラススキルはフォローとか支援向きって事かな? 具体的に魔と邪なるモノってなんだろう? 」

 

 

「一般的には悪魔や魔物、悪霊や呪霊かな? でもダンジョンで得たクラススキルだからね・・・もしかして、ダンジョンモンスター特効だったりして」

 

 

 

「まさか、そんな都合が良い訳・・・」

 

 

三鶴の言葉を否定しようと思ったが、ふと考える。確かにダンジョンで得たクラスのクラススキルだ

 

ダンジョンの仕組みは未だ謎の領域が多い、常設されてしまっているダンジョンの階層が幾つあるかも判明していない、現状で100層超えていた筈

 

そう考えると、三鶴の冗談もあながち否定は出来ない

 

 

「・・・試してみるしかない、かな?」

 

 

「今日はダメだよ?」

 

 

「分かってるよ、もう夕方だし・・・早くても明日、かな?」

 

 

「分かればヨシ、でも明日は僕はバイトあるからなぁ」

 

 

「そうなの? なら1人で・・・」

 

 

「ダメだよカナリア、誰か付き添いを連れて行かないと!」

 

 

「なにゆえに?」

 

 

急に語気が強くなった三鶴に驚きつつ尋ねる

 

 

「幾らダンジョン内ではアバターとはいえ、一撃死とかした場合は痛みのフィードバックが身体にきてしまう、死の苦痛を幻痛として味わう事になる。だから必ず付き添いが必須、最低でも1人はね? それに実験なら尚更だよ」

 

 

「それはそうだけど・・・」

 

 

三鶴の正論に押されて何も言えなくなってしまう、しかしながら僕は好奇心が高い方なので、気になる事を放置しておくとモヤモヤして落ち着かない性分なのだ、だから少しでも早くモンスター特効か知りたい

 

 

なら護衛を雇うか? 無理だ、雇う程のお金がない。ドロップ品を売っても到底足らないだろう

 

 

ん〜・・・ここは長男(たかき)に甘える作戦を取るべきかな? うん、そうしよう

 

 

後で連絡を取る事に決め、甘える決意を固める

 

 

 

 



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8. 探索者登録

 

 

三鶴に正論で言い負かされてしまった後、ステータスを全部読みある程度は理解出来た所でスマホに通知が来たので、見てみると僕が囚われていたダンジョンが攻略され消滅した事が書かれていた

 

 

「軽傷者は居ても重傷や死亡者は居ない、良かった」

 

 

救助に突入した救助隊の隊員と探索者も含めてのことの様で、僕は安堵する

 

 

内勤の母と次男の心配はしていないが、探索者をしている長男とギルド所属のパワードスーツ(ヴァンツァー)部隊の教導官をしている父は救助へ出ている筈なので、少し心配だった。主に父が

 

 

それから三鶴と2人で夕飯を作り長男と次男は家を出ているので、父と母の帰りを待ち4人で夕飯を囲む

 

夕飯後に自室でダラダラしながら長男へ電話を掛けて付き添いをお願いすると、了承してくれたのでワクワクしながら眠りにつき、翌朝 僕は長男に連れられギルドへとやってきた

 

 

「ねぇ鷹ちゃん、ダンジョンってどうやって入るの?」

 

 

「そこの角を曲がった先にダンジョン直通の転移門(ゲート)がある、警備員とか立ってて侵入者や暴れるアホの取り締まりしてる」

 

 

「へぇ〜」

 

 

日本には現在人口の2割ぐらい魔力を保有している日本人が存在していて、少しずつ増えて来ている

 

このまま推移すれば、1000年経たずに日本人のほぼ全てが魔法を扱える様になるだろう、まぁ世界が滅んでなければだけど

 

 

「カナリア、ダンジョンに行くには準備が必要だ。先に言っとく、面倒くさいぞ」

 

 

「え? どうゆう事? ねぇ鷹ちゃん? なに、その含みのある笑顔は」

 

 

生暖かい目で僕を見る鷹樹に連れられカウンターへ行くと

 

 

「おはようございます鷹樹さん、昨日招集されたから今日はオフにするって言ってませんでしたっけ? ん?んん? 可愛い娘を連れて・・・まさか、パパ活ですか? 」

 

 

「朝からよく喋るなぁ後輩Bよ、妹だよ妹。全く似てないけどな? そんで、今から妹の探索者登録をしたいんだ、頼む」

 

 

「了解です先輩T、暫しお待ちを」

 

 

人当たりの良さそうな金髪にインナーカラーが入ってる女性が鷹樹と仲良さそうに会話をする、なんか先輩後輩言ってるし、高校とかの時に知り合ったのかな?

 

 

「それじゃぁ妹ちゃん、ギルドの決まりで登録前検査があるから」

 

 

「え? ちょっとダンジョンで実験したいだけで、探索者になるつもり無いんですけど・・・ダメですか?」

 

 

「ダメだねぇ、極々一部の例外を除き原則ダンジョンに入れるのはギルドに登録された探索者だけだからねぇ」

 

 

「なるほど・・・」

 

 

先程、鷹樹が生暖かい目をしていた理由を理解し諦めてルールに従う事にする

 

 

此処でゴネるほど僕の精神は幼稚ではない、郷に入れば郷に従え。ならば迅速にルールに従う方が良いに決まっている

 

 

「検査って何を?」

 

 

「とりあえずこのゴツいタブレット端末に手のひらを当ててくれるかな? 」

 

 

「分かりました」

 

 

後輩Bに言われた通り少々ゴツいタブレット端末に手のひらを押し当てると、何やらスキャンされた様で数秒してタブレット端末がスキャン完了と発する

 

 

「はい、離して大丈夫。魔力保有量は・・・基準値クリア、おめでとう妹ちゃん、探索者登録できるよ」

 

 

「ありがとうございます?」

 

 

「それじゃぁ、これからが本番。まず・・・これがギルドの規約、全部読んで同意の署名欄が1番下にあるからサインしてね? で、それが終わったら探索者登録の画面に切り替わるから、必要事項の記載をお願い、分からなければ私か鷹樹さんに聞いてくれたら説明するから」

 

 

 

「・・・分かりました」

 

 

タブレット端末とペンを受け取りギルド規約を読んで行く、ゲームとかなら読み飛ばして即サインするのだけど、今回は守らないといけないルールだろうから、しっかりと読む

 

 

うーん、文字数が多いなぁ

 

 



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9. 探索者登録 2

 

 

たっぷり30分かけて規約を全て読んでからOB(オーシア・ベルカ)共通語の筆記体で署名欄にサインをして、登録書に切り替わったので必須項目を埋めて行き クラスやレベル、保有魔力量等の部分が既に埋まっている事に気付く

 

 

どうやら、先程スキャンした時のデータが反映されている様だ、ステータスを見ながら記入するのは面倒くさかったので良かった

 

 

「終わったかな? それじゃぁ30分ぐらい情報登録に時間かかるから、鷹樹さんと装備を見てくると良いよ」

 

 

「そうだな、行くぞカナリア」

 

 

「え? あ、うん」

 

 

話が当事者(ぼく)を置き去りにして進んで行って少し困惑するが、まぁ仕方ない

 

 

鷹樹の案内でショップエリアに辿り着き、少し疑問を感じたので鷹樹に尋ねる

 

 

「ねぇ鷹ちゃん、この建物さ? 外観以上に広くない?」

 

 

「そりゃぁ空間拡張の魔法が使われてるからだな」

 

 

「空間拡張? それって超絶高難易度の魔法じゃ?」

 

 

「そうだな?」

 

 

そうだな、じゃないが? と思いつつショップに並ぶ商品を眺める

 

剣や槍、斧に弓等 様々な武器や防具が並んでいて、見ているだけで楽しい。やはり刀とかロマンだよね

 

 

「へぇ、銃火器もあるんだね」

 

 

「そうだな? この区間にあるのはダンジョン産かダンジョン由来の素材で作られた物で、あっちの区間に有るのはダンジョン外の素材で作られた物だな。一般的にダンジョン産の方が性能が高めと言われている、だから値段もダンジョン産の方が割り増しだ」

 

 

目の前にあるボルトアクションライフルを手に取り安全装置や薬室、ボルトを触り弾が装填されていない事を確認してから、構えてみる

 

 

「結構重いかも」

 

 

「そりぁお前には重いだろうな、ボルトアクションライフルなら・・・こっちだな、騎兵仕様の方」

 

 

「少し銃身が短いのか、なるほど・・・」

 

 

持っていたボルトアクションライフルを元有った場所に戻して、鷹樹から渡されたボルトアクションライフルを構えてみると、なかなか良い感じの重量と感じる

 

 

「探索者なり配信者なりになるなら必要だけど、今の所はなるつもりはないんだろ? なら最低限のにしとけ」

 

 

「そうだね、とりあえずゴブリンから獲得した棍棒と鉄剣で良いかな? 今日の目的は実験だし」

 

 

「確か、クラススキルの岩塩と聖水がダンジョンモンスターに有効か? の検証だったよな?」

 

 

「そうそう、三鶴ちゃんが意味深に言うから気になって」

 

 

「三鶴がなぁ・・・アイツ、頭は良いしなぁ」

 

 

僕の言葉に鷹樹は思案顔で少し唸る、三鶴は知識も豊富で頭の回転も速い、なので彼の言った仮説は検証するに値する

 

仮に探索者をするなら、是非とも三鶴をパーティーに加えたいぐらいだ。頭脳係は必要だしね

 

 

「仮にダンジョンモンスター特効だったら、どうするんだ?」

 

 

「ん〜どーしよっかなー」

 

鷹樹の質問に対し、ボルトアクションライフルを元の場所に戻しつつ考える

 

 

探索者と言うのは、上手くいけば普通にバイトをするより時給が高い

 

 

仮に1時間でゴブリンを3体倒せた場合、魔石1つで500円としても3つで1500円にはなる

 

ゴブリンの場合、魔石は確定ドロップなので、+αの素材や武器類が入手できるので、下限でも2000円ぐらいは稼げる筈だ

 

 

まぁ全て上手く行けば、だけど

 

 

「まぁバイト先を探す手間はないし、お小遣い稼ぎに来るぐらいはアリ、かな?」

 

 

「まぁ良いんじゃね? 連絡くれたらスケジュール確認して空いてたら付き合ってやるよ」

 

 

「うん、ありがとう鷹ちゃん」

 

 

「構わんよ」

 

 

そう言いニッと笑み、鷹樹は僕の頭を撫でる。少々力が強い気もするが、まぁ仕方ない、鷹樹は三鶴と違いマッチョメンなのだ、パワーが有り余ってて仕方ない

 

 

それに僕は割と頑丈な方だから首は大丈夫だ、ただ髪の毛が乱れるから少しは手加減して欲しいとは思う

 

 

 



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10. 検証実験開始

 

 

鷹樹が頭を撫でた事で乱れた髪を整えながらカウンターへ戻ると、後輩Bが仕事をしていて、僕の方を見てニコリと笑み

 

 

「カナリアちゃん お待たせ、どちらでも良いから手をコレの上に置いて?」

 

 

「分かりました」

 

 

ゴツいタブレット端末の上に左手を置くと、一瞬 ギルドのロゴ?が手の甲に映った気がしたけど、すぐにタブレット端末から終了が発せられる

 

 

「これで登録終了、これはギルド証ね? 身分証の役割を持つから無くさない様に、ギルド内の売買もギルド証で出来るよ」

 

 

「デビットカード機能付き、みたいな?」

 

 

「そうそう、そんな感じ。通帳を持ってきてくれたら、ギルド内バンクから切り替える事が出来るよ、いちいちギルドに来てATMで下ろすのも面倒でしょ?」

 

 

「それは確かに」

 

 

一通り後輩Bから説明を聞き、色々と知ることが出来た

 

「それじゃな紅谷(べにや) なんか面白い情報入ったら教えてくれ」

 

 

「はいはい鷹樹さん、任せてください。とびっきりのゲテモノ食材の情報仕入れときますんで」

 

 

「お前・・・」

 

 

後輩B 改め 紅谷と鷹樹のコントを横から見ていて仲良いなぁ と思う、実は付き合ってる? うん、すぐそう言う風にするのは良くないね、うん、戒めよう、反省反省

 

 

そんな訳で反省しつつ鷹樹の案内で転移門を通り、日本第6号異界(ダンジョン) 若宮 第1層に到着し、辺りを見渡す

 

 

雑草は少ない森の様な場所に見える

 

「この若宮は未だ攻略中の長深度ダンジョンだから、浅い階層は初心者とか向きのダンジョンなんだ」

 

 

「確か・・・150層まで確認されたんだっけ?」

 

 

「そうだな、2日前に更新されて公式記録では152層だ」

 

 

「で、健在っと」

 

 

「その通り未だ健在だ、そしてエリアボスは強敵でギリギリだったらしい」

 

 

「うへぇ、それはそれは」

 

 

ダンジョンは階層を重ねる毎に出てくるモンスターが強くなり、得られるドロップ品の質も良くなる、全くもって謎である

 

 

「鷹ちゃん、頭の上に青丸に三角がついてるのがあるんだけど?」

 

 

「それはパーティーを組んでる味方って事だ、黄色丸はパーティー外の探索者、赤でひし形は敵モンスターな」

 

 

「ますますゲームみたい」

 

 

「確かにな」

 

 

やはり餅は餅屋と言う事で、現役探索者の鷹樹に分からない事を聞くのが1番と思い、分からない事は直ぐに聞いてみると、教えてくれるので助かる

 

 

「この階層は何が出るの?」

 

 

「なんだっけかな・・・確かキラーラビットとか、ミドルボアとかだった気がする」

 

 

「ウサギと・・・イノシシ?ブタ?」

 

 

「角の生えたウサギと、毛深くて まぁまぁデカいブタ、だな? 実験に使うならミドルボアがオススメだ、的がデカいし、デカいから見つけやすい」

 

 

「了解、それじゃぁミドルボアを目標で」

 

 

「オッケー、俺 気配感知のスキル取ってるから安心しろ」

 

 

「流石は鷹ちゃん」

 

 

探索者であり配信者の鷹樹の有能さを誉め、彼に続き獣道を進む

 

 

「鷹ちゃん、さっき言ってたウサギとブタ以外はモンスター出てこないの?」

 

 

「出てくるぞ? シカとかヤギとかオオカミとか」

 

 

「出てくるんだね?」

 

 

「第1階層はクッソ広いからな、なんでかは知らないけど、絶滅しない。あとシカは美味かったぞ」

 

 

「ふぅん、ブタは? ブタ美味しかった?」

 

 

「ブタ? あーちょっと癖があるから人を選ぶかもかぁ、煮込みで臭い消せれば美味い、筈」

 

 

「そっかー」

 

 

流石はダンジョン飯配信で生計を立ててるだけあって調理に対しての知識が豊富な鷹樹を素直に尊敬する

 

 

そうだ、あとで岩塩舐めてみよう、経口接種したらウンヌン書いてあったし、食用にしても大丈夫だろう、多分

 

 

聖水でブタ肉を煮込んだら どうなるんだろう?

 

 

何か凄い料理が出来るかも知れない、これも試してみよう、そうしよう

 

 

 

 



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11. 検証実験開始 2

 

 

 

鷹樹と共に獣道を進みつつ、今日に限っては 直ぐには煮込みを試せないなぁ と言う結論に至る

 

流石に臭みを消す香草類も調理器も持参していないので、やるとしても家でするしかない・・・鷹樹の家に押しかけるか? 鷹樹の家なら色々揃ってそうだし、うん、良いかも

 

 

「鷹ちゃん・・・」

 

 

「静かに、居たぞ・・・よし、こっちには気付いてないな」

 

 

「何処?」

 

 

「2時方向、距離は・・・80mって所か」

 

 

「2時方向、80m・・・あの焦茶で毛の長い奴?」

 

 

「それで合ってる」

 

 

鷹樹に煮込み実験の事を聞こうとした瞬間、鷹樹に制され小声でミドルボアの発見を告げられたので、僕も小声で返しミドルボアを目視で確認する

 

 

2時方向、つまり僕達の右斜前80mの位置に毛の長いブタがいるのだけど、少々距離が遠い

 

 

僕の使う投石紐は理論値だと150m程度の射程がある、しかし射程と命中精度はイコールではない、僕が確実に当てられるのは せいぜい50m程度だ

 

 

「心配するなカナリア、アレはモンスターだ。初撃を外しても此方に向かってくるだけ、向かってきたら俺が叩っ斬ってやるから、な?」

 

 

「・・・ありがとう鷹ちゃん」

 

 

「構わんよ、妹は兄に甘えるもんだろ?」

 

 

不安になっている僕を見透かして鷹樹は そう言い、僕の頭を撫でて再び髪を乱す、だが甘んじて受けよう。なんだかんだ言っても安心するし

 

 

「岩塩は塊だし、重量の軽い聖水から試そうかな」

 

 

「了解、タイミングは任せる」

 

 

「分かった」

 

投石紐を服のポケットから取り出し、捻れとかが無いかを確認して、聖水入り小瓶を召喚して投石紐にセットし、軽く予備回転をして具合を確かめる

 

 

気持ち質量が足らない気もするが、まぁ仕方ないので深呼吸してミドルボアへ聖水入り小瓶を射出し、風切音を鳴らしながら飛んでゆきミドルボアの胴体へヒットし、小瓶は割れ中身の聖水がミドルボアを濡らす

 

 

「頭ならワンチャンだったけど、胴体か・・・ピギッみたいな鳴き声はあげたけど大したダメージでもない、かな?」

 

 

「お前、スイッチのオン・オフがすげーな。めっちゃ冷静じゃん」

 

 

「鷹ちゃんが守ってくれるんでしょ?」

 

 

「ったく、仕方ねぇなぁ ウチの可愛い妹はよぉぉ」

 

僕の攻撃により僕達に突進してくるミドルボアを観察しながら呟くと、鷹樹に言われたので答えると、鷹樹は満更でも無い表情をしてロングソードを抜き構える

 

 

「ピギァァァァ・・・・」

 

[経験値を獲得しました]

 

 

「え? 死んだ? 鷹ちゃん、斬った?」

 

「いや、斬ってない。間合い後2歩ぐらいで勝手に死んだ」

 

 

突如としてミドルボアが断末魔をあげ紫の光子に変わり、5㎝程 地面から浮く生肉が目の前にあり困惑する

 

 

「聖水の効果かな? 」

 

 

「多分な、あと何回かミドルボアで試してから他の奴でも試すしかないな」

 

 

「そうだね、説明文的には、岩塩も同じ効果っぽいし。聖水の効果がダンジョンモンスター特効なら、岩塩もだろうしね」

 

 

鷹樹は生肉を拾い上げジップロックみたいな奴に入れ、ウエストポーチ?に入れる。何か入り方がおかしい

 

 

「鷹ちゃん、そのウエストポーチ? 何?」

 

 

「これか? アイテムバッグだよ、探索者には必須アイテムだな。所謂 魔法の鞄で、見た目の何倍・何十倍の容量を有している」

 

 

「へぇ、便利だね」

 

 

「性能も値段もピンキリだけどな?」

 

 

僕の質問に鷹樹は答え、カラカラと笑う

 

 

「参考までに、鷹ちゃんのは幾らだった?」

 

 

「俺の? 確か・・・50万ぐらいだっな、俺の場合は持ち込む荷物も多いし」

 

 

「50万・・・ちなみに安い方?高い方?」

 

 

「かなり安い方だな、いやぁマジで運が良かった。このレベルのを普通に買ったら100万ぐらいはするだろうし 」

 

 

「お、おぉぅ」

 

 

何気なく聞いた事で衝撃を受けて言葉が出ない僕が面白いのか、鷹樹は笑っている

 

探索者って、やっぱ凄い

 

 



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12. 検証実験開始 3

 

 

探索者は収入が多いが、それと同時に出費が多い職業である事を学び、鷹樹の先導で次の標的を探す

 

 

1層に入って結構歩いたので実験も兼ねて岩塩を小指の先程の欠片で召喚し口に含んでみる

 

 

「・・・しょっぱい」

 

[HP・MPが5秒間継続回復します]

 

 

「急にどうした? 大丈夫か?」

 

 

「いや、岩塩の味が気になってさ?」

 

 

「お前なぁ・・・岩塩をそのまま舐める奴が居るかよ」

 

 

僕の言葉に呆れた表情をする鷹樹を横目に、左手の上辺りに見えるレベル・HP・MP表示の横に空耳と共に表示が現れ秒数が減っていく

 

これは観察しやすくて助かるなぁ

 

 

「味は、まぁ・・・悪くない、よ?」

 

 

「そうかい・・・気になるな、ちょっとくれ」

 

 

「いいよー」

 

僕が口に含んだ岩塩の欠片と同量の岩塩を召喚し、鷹樹に渡すとすぐに口に入れ吟味し

 

「雑味も少ない、これなら料理を選ばずに使えそうだな」

 

 

「なら今後は塩買わなくても良いね」

 

 

「スキルで召喚した物だろ? なら時間経過で消滅する筈だ」

 

 

「そっか、ままならないね」

 

 

鷹樹の言葉を信用するなら、僕が召喚した岩塩は時間経過で消滅する筈なので、どの程度で消滅するかも検証が必要かも知れない

 

 

あとは加工した場合にはどうかも必要かな?

 

 

「見つけた、11時方向 距離・・・70m」

 

 

「11時方向 距離70m、了解」

 

 

木の陰に身を潜めて鷹樹の見つけた獲物を見る、先程と同じミドルボアで頭を僕達とは反対に向けている

 

 

「・・・位置が悪いなぁ、此処 木が密集してて投石紐が回しにくい」

 

 

「ならアレは一旦見逃すか?」

 

 

「ううん、少し位置を変えてみる 」

 

 

ミドルボアから目を離さない様にしながらも慎重に動き良い位置を探すと、少し遠くなったが、良い位置を見つけ聖水小瓶を投石紐にセットして予備回転を加えて安定させてから思いっきりミドルボアに射出する

 

 

すると今度は予想通りミドルボアのお尻辺りに着弾し、小瓶が割れて聖水をミドルボアは浴びる、先程と同じならば このミドルボアも直に死ぬ筈だ

 

 

ロングソードを抜き僕の前に出た鷹樹越しにミドルボアを見つつ、仮説が正しい事を祈る

 

 

仮説が正しければ僕的にはコスパが良いので、探索者をする時に楽が出来るのだから

 

 

「ピギァァァァ」

 

[経験値を獲得しました]

 

 

「・・・ミドルボア特効って可能性もあるけど、多分ダンジョンモンスター特効だな」

 

 

「そうだね、次はミドルボア以外で試してみよう?」

 

 

「へいへい、お姫様のお言葉のままに」

 

 

「もう、茶化さないでよ鷹ちゃん」

 

 

1体目の時同様、鷹樹は慣れた手付きでミドルボアの生肉を回収・収納し、わざとらしく騎士の礼みたいなポーズを取り言ってくるので、軽く肩パンして抗議するが、鷹樹は微塵も反省していない様子だった、ぜひもなし

 

 

それから鷹樹の索敵スキルを頼りにシカとオオカミ、ダチョウのダンジョンモンスターを実験台に検証した結果、仮説が正しい事が証明され、聖女のクラススキルで生成された聖水と岩塩はダンジョンモンスター特効と確証を得る事が出来た

 

 

「とはいえ、手数が貧弱なのは変わらないよねぇ」

 

 

「今のままソロで探索者をするのは厳しいと言わざるを得ないな」

 

 

ダンジョン内での実験を終え、僕は鷹樹の家に上がり込み検証実験その2、聖水煮込みでも効果が発揮されるのか? を行う為にミドルボアの煮込みを鷹樹に監修されながら作っている

 

 

「やっぱりソロは厳しいかぁ・・・かと言って鷹ちゃんも忙しいでしょ? 三鶴ちゃんもバイトあるし」

 

 

「まぁ武装面をどうにかするのが手っ取り早いな、間違いない」

 

 

「武装面、かぁ・・・」

 

 

聖水小瓶×5本を鍋に注ぎながら考える、なにぶん僕はコンパクトボディの持ち主なので、この身体に合う武器となると、選出が結構難しい

 

 

母から護身術代わりに戦闘術を幾らか習っているから、剣とかが良いかな?

 

 



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13. 母娘の戯れ?

 

 

ダンジョン及び鷹樹宅での検証結果、岩塩と聖水はダンジョンモンスター特効を有していて、経口接種では量により効果の上昇幅、効果時間が変わる事がわかった、あと煮込みは美味しかったので近い内に再び作るつもりでいる

 

 

そんな訳で、1週間が経ち僕は2つ目の滑り止めの受験を終えて会場から出ると、金髪碧眼の長身でナイスバデーの女性が僕を見つけ近づいてくる、うん? 何でいるんだろう?

 

 

「お疲れ様、カナリア」

 

 

「うん、ありがとう お母さん」

 

 

僕の目の前で微笑む美女、五月七日(つゆり) アルエットは僕の母親である、周りの保護者と見比べても若々しく30代前半に見える訳だが、その実 齢50歳と言う美魔女である、僕と違いバインバインである。遺伝子は仕事をサボってしまったとさ

 

さて、予定では今日も徒歩で帰宅するつもりだったのだが、何故か仕事中である筈の母が目の前にいる事に疑問を抱いていると

 

 

「今日は午後からお休みを貰ったの、先日あった事故の処理も終わったし」

 

 

「そうなんだ? 」

 

 

「そうなのよ、さぁ行くわよカナリア」

 

 

「へい、マイマザー。そんな急いで何処に行くってんだい?」

 

 

「ふふ、着いたら分かるわ」

 

 

母に手を引かれて移動を始めたので、ふざけてエセアメリカ人みたいに聞いてみたけど、見事にスルーされ誤魔化されてしまう

 

 

ナンヤカンヤで車に乗せられ運搬されギルドに到着し、僕の疑問は更に深くなる

 

 

「なんでギルド?」

 

 

「こっちよカナリア」

 

 

「え? うん、うん?」

 

 

訳も分からず母の導きに従いついていくと、頑丈そうな壁に囲まれた広い部屋に辿り着く

 

 

「此処・・・広い」

 

 

「それじゃぁ・・・始めましょう」

 

 

「え? ちょっ・・・何を?!」

 

 

「稽古よ? 稽古、受験が有ったし控えていたでしょう? 今日で受験も一段落するし、ね?」

 

 

「・・・また急だなぁ」

 

 

我が母は大らかな性格で、人当たりも柔らかいのだが、たまに突拍子も無い事をする大雑把な人なのだ

 

 

更に言うと、ベルカ出身なので幼い頃から戦闘訓練を積むのが普通らしく、僕もそれなりに訓練を施されてきた訳だが・・・

 

 

「僕、制服だし、得物も無いよ? 」

 

 

「そうね、だから・・・此処なのよ?」

 

 

僕の言葉に母がパンパンと手を打つと、キラキラと光子が舞い瞬きの間に彼女は戦闘装束(法衣)を身に纏っていて、僕の服もトレーニングウェアに変わっていた、え? 怖い

 

 

「良いカナリア? 貴女は同世代の子と比べると圧倒的に小柄よ、リーチも不利と言わざる得ない、でも逆に言えば被弾面積が小さいと言う事でもある」

 

 

「だからこその投石紐、でしょう?」

 

 

「その通り、膂力で劣る貴女が取れる最善だった得物。しかし、その段階は過ぎているわ、探索者登録したのよね?」

 

 

「したけど?」

 

 

法衣を纏い儀仗を携え母は僕を見据えて言う、母はギルドで仕事をしているので、いずれは耳に入ると思っていたので、想定内だ

 

 

「探索者をするなら、投石紐では力不足、かと言って近接武器では小柄の貴女では不利、ならば伸ばすのは・・・銃火器の扱いよ」

 

 

「そこは魔法じゃないの?」

 

 

「エクストラクラス・聖女は攻撃魔法の取得条件が高難易度なのよ、だから取得条件の穴である銃火器の扱いを学んで貰うわ」

 

 

 

母は、そう言うと儀仗でコンコンと床を打つ、すると空中に数多の銃火器が現れ並び、その光景は壮観と感じる

 

 

「本当なら、貴女には魔武器を授けたいのだけど、原料の取り寄せが困難なのよねぇ」

 

 

「魔武器?何それ」

 

 

「その者が1番扱える形を成す、その者専用の武器の事よ。作成には特殊な鉱石が必要なの」

 

 

「その鉱石が入手困難って訳、か」

 

 

母の説明を聞き、僕は魔武器が欲しくなる。だって自分専用の武器、なんて甘美な響きだろうか、欲しい、とても欲しい

 

 

母の口振りからすると、オーシアやベルカからの取り寄せが難しいのだろう、ならダンジョンに潜る事で入手出来る可能性はゼロじゃ無い筈だ

 

またはダンジョンで旅費を稼いでベルカに行って入手する、だな うん

 

 



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14. 金髪3人集まれば文殊の知恵

 

 

魔武器入手について思考していると、母は再びコンコンと儀仗で床を打つ、すると見覚えの有る金髪のお姉さんが母の後ろから現れ

 

 

「さぁ出番よ(あかり)ちゃん」

 

 

「おまかせを、アルエットさん」

 

 

燈と呼ばれた金髪のお姉さん、約1週間前に冒険者登録の受付をしてくれた紅谷さんだ、燈って名前だったんだなぁ

 

 

「呼ばれて出てきた紅谷 燈お姉さんにおまかせ、貴女に最適な武器を選びます」

 

 

「はい、よろしくお願いします。燈さん」

 

 

「うーん、スルー」

 

 

如何にも芝居掛かったセリフと仕草で言ってきたのだが、特に思う所もないので触れずに返すと、あからさまに肩を落とした後、顔を上げ何処から出したか分からないタブレット端末を片手に僕と端末、そして銃火器の群れで視線が行き来する

 

 

「さっきアルエットさんも言っていたけど、同世代に比べても かなり小柄、だからバレットM82系統の長くて重い銃は除外」

 

 

燈の言葉と連動して対物ライフル等の長くて重い銃が群れの中から消える、よく分からない仕組みだ

 

 

「反動制御も念頭に入れるなら、アサルトライフルやサブマシンガン、マシンピストルがオススメだけど、弾薬費がバカにならないので学生であるカナリアちゃんにオススメするのは・・・この銃剣付きのトレンチガンことウィンチェスターM1897よ」

 

 

「えーっと・・・ポンプアクション式のショットガン、ですよね?」

 

カツカツと足音を鳴らして移動し、銃火器の群れから燈は1つのショットガンを掴み僕の方へ差し出してくる

 

ウッドストックの如何にもショットガンと言う典型的な形状をしているトレンチガンを受け取り観察してみる

 

 

「そう、このトレンチガンなら銃剣も付いてるし最悪の間合いでも対応可能、更に敢えてポンプアクションにする事により、エマージェンシーリロードにも対応出来ると言う算段よ」

 

 

「なるほど、それは重要ですね」

 

 

セーフティが掛かっている事とチャンバーに装填されていない事を確認してから何となく構えてみつつ燈の説明に相槌を打つ

 

うーむ、アイアンサイトが小さい

 

まぁそもそもショットガンって散弾銃って書くし散弾を使うから大体の向きで良いのかも知れない?

 

 

「もっとも重要な事、それはお財布に優しい事よ」

 

 

「ん? 何でトレンチガンがお財布に優しいんですか?」

 

 

「正しくはトレンチガンが、では無いわ。正しくはショットシェルが、よ」

 

 

「どう言う事ですか?」

 

 

燈の言うお財布に優しい理由が分からずに首を傾げていると、燈は芝居掛かった仕草で

 

 

「カナリアちゃん、世の中には暴徒鎮圧用の岩塩弾なんて物があるの、つまり主原料の価格が安くなるのよ」

 

 

「なるほど、岩塩を作り出せる僕は岩塩分の必要経費が浮く訳ですね?」

 

 

「そういう事、雑に1包50円と設定しても、ゴブリンの魔石1個分のコストで10包は作れるわ、どう?」

 

 

「コスパも悪くないですね」

 

 

燈の説明を聞き、お財布に優しい理由を理解する

 

彼女の説明は理に適っている、学生の身分である僕には何とも嬉しい情報だ、しかしながら 大きな問題がある

 

 

「唯一の問題は、トレンチガン等の初期購入費用ですね」

 

 

「え? ギルド内のショップ限定だけど、ローン組めるよ? 」

 

 

「え!? そんな制度があるんですか? 」

 

 

「うん、じゃないと 大半の人が初期投資出来なくて探索者になれないよ」

 

 

「た、確かに」

 

 

僕は燈の言葉を聞き、納得する

 

そりゃそうだ、探索者として活動する為には 縛りプレイを好む変態で無ければ武装一式を揃える、その初期費用を捻出出来ないと探索者になれないとなったら、ギルドとしても困る訳だ

 

 

探索者が増えればギルドとしても収入が増える訳だしね、うん 賢い

 

 

ローンを組む事で返済の為にダンジョンへ潜る必要も出来る、上手い仕組みだなぁ

 

 







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15. カナリア死す?! (死なない)

 

 

燈によるトレンチガンのレクチャーを受け、実際にショットシェルを装填したりトレンチガンを撃ったりする

 

彼女の説明によると、この部屋・・・トレーニングルームは魔法で作られた仮想現実的なヤツらしく、痛みはあるが死なず弾薬等も消費しないらしい、何なら今僕が手にしているトレンチガンでさえ、魔力の塊で再現した模造品と言う

 

俄には信じられない、うん

 

ちなみにトレーニングルームから外に持ち出せないし、トレーニングを終了するとシステムも終了して武器も魔力に戻るとかなんとか

 

 

「カナリアちゃん、筋が良いねぇ? 物覚えが良くて お姉さん助かっちゃう」

 

 

「いえいえ 燈さんの教え方が上手だからですよ、それに趣味が映画鑑賞なので、少々覚えがありますし」

 

 

「へぇ〜映画が好きなんだ? どんなのを見るの?」

 

 

「アクション系ですね、オススメはジョン・ウィックとゴジラですね」

 

 

「うーん、知らないなぁ」

 

 

エマージェンシーリロードの仕方を教えて貰いながら映画の事を聞かれたのでオススメを提示してみたが、燈は知らなかった様だ

 

 

まぁ仕方ない事だ、僕が前世で会社員してた時代の映画だし? 転生後の今の世界だと二十数年程前の、それこそ統合騒乱前の映画だからねぇ、うん 仕方ない

 

 

統合騒乱でハリウッド映画は軒並み絶滅してしまったけど、稀にダンジョンから発掘されたりするから、映画発掘専門の探索者が居るぐらいだったりする

 

 

「そろそろ良いかしら?」

 

 

「そうですね、最低限の動作は身に付いたかと」

 

 

「ちょっ・・・まさか、冗談だよね? お母さん? ねぇ?!」

 

 

「うふふ、私が法衣を着ているのに、立って見守るだけだと思ったの? 燈ちゃん、ありがとう。下がって良いわよ」

 

 

「了解です アルエットさん、頑張ってね〜カナリアちゃん」

 

 

燈は言うが早いかすぐさま姿が消え、今日初めて触った得物を使っての強制稽古が母の宣言で開始する

 

痛いが死なないトレーニングルーム、母は手加減せずにブチかましてくるに違いない、そう確信し深呼吸してチャンバー内にキチンとショットシェルが装填されている事を目視で確認し母を見据える

 

 

「うんうん、覚悟は決まったようね? 貴女が察している通り今日は手加減せずに魔法を使うわ」

 

 

「つまり死ぬほど痛い?」

 

 

「えぇ、死ぬほど痛いわ」

 

 

僕の質問に母はニッコリと微笑み答える、いや怖いんですけどぉ

 

 

「それじゃぁ・・・始めましょう」

 

 

「逃げ出したいよ、僕は!!」

 

 

Wasser, trage es(水よ、穿て)

 

 

母は儀仗の頭を僕の方へ向けると、彼女の周りに20㎝程の水球が3つ程生成され、勢い良く僕目掛けて飛んでくる

 

 

冷静に軌道を見て母を起点に円を描く様に横移動しながらトレンチガンで素早く2発撃ち水球を撃ち落とし、最後の1つは頑張って躱わす

 

 

初手が初級魔法の水球と言う事は、初手から殺しには来ていない様だ、無回転だしスピードも並程度だったし?

 

 

水ってのは結構厄介だ、常温では液体で高温では気体、低温では固体となる

 

 

液体は形状変化の幅が凄まじく、量が増えれば壁となって攻撃を防ぎ、敵に向かって放てば濁流となり押し流す

 

 

「つまりは、僕の攻撃が届かないってね!!」

 

 

「そうね、もっと頑張らないと・・・死んじゃうわよ?カナリア? Wasser, schnitzen(水よ、刻め)

 

 

「ひぇっっっ」

 

 

水球より圧倒的に速い水刃をヘッドスライディングする要領で躱して、すぐさま立ち上がり走る、足を止めたら終わり・・・間違いなく斬死か圧死か溺死する

 

 

「散弾でダメなら・・・スラグ弾だ」

 

それまでの白色のショットシェルを全弾母に向けて撃ち、チャンバーに直接緑色のショットシェルのスラグ弾を入れ、撃つ

 

 

「あら? あらあら」

 

 

「ちっ、躱されたか・・・でも、今なら!!」

 

スラグ弾は水玉を貫通したが、母は余裕な表情で難なく躱わす、その一瞬の隙を見つけ、僕は母へ真っ直ぐ走り寄り銃剣を突き立てようとするが、水玉により阻まれ母に切先が届かず

 

 

「惜しかったわね、残念」

 

 

「くっっまだっ」

 

 

「終わりよ?」

 

 

母は微笑み僕の脳天に儀仗の硬い頭を振り下ろし、僕の意識は暗転した

 

 



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16. カナリア死す?! (死なない) 2

 

 

母の容赦無い無慈悲な一撃により僕の頭は物理的に凹んだと思った瞬間、視界が暗転し気付くと僕は椅子を並べて簡易ベッド状態の上に寝ていた

 

 

「・・・知らない天井だ」

 

 

「そうでしょうね」

 

 

声に驚き飛び起き声の方を見ると緑髪緑目のジェンダーフリーな10代前半ぐらいの人と、ハゲマッチョの大男が立っていた

 

 

僕は直ぐに椅子から降りて、2人の前に片膝を折り頭を下げ

 

 

「お久しぶりですイオン様、ヴェスタ神」

 

 

「あぁ、そんなに畏まらないで構いませんよ、カナリアさん」

 

 

「そうそう、今の僕等はオフだから」

 

 

頭を下げた僕に優しく諭す様に言うイオン様に従い頭をあげると、ヴェスタ神はサイドチェストを決めている、謎だぁ

 

 

この2人・・・2柱は僕が転生した際に対面した神様で、イオン様はベルカ帝国に本拠地を置く聖導教会の神様、ヴェスタ神はリューネ王国の国教 ヴェスタ神教の神様なのだ

 

 

 

「さて、今の状況を説明します。貴女はアルエットさんの無慈悲な一撃で昇天してしまいました、本来トレーニングルーム内の出来事は無かった事にされて即リスポーンするのですが、貴女の場合・・・申し訳ありませんが幽体離脱しやすい様でして・・・」

 

 

「君はトレーニングルームやダンジョンでデスする度に、この隱世(かくりよ)の図書室へ来てしまうって事、絶対に図書室の出入り口から出たらダメだからね? 出たら本当に死んじゃうから」

 

 

「お、おぉぅ・・・肝に銘じておきます、はい」

 

 

少し申し訳無さそうなイオン様と、相変わらずポージングをキメながら喋るヴェスタ神の絵面に慣れつつある自分が少し恐ろしいが、めちゃくちゃ重要な事を言われたので、本当に肝に銘じておこう、死にたくないし

 

 

「此処に来てしまった ついでに本格的に洗礼をしておきましょう、僅かばかりの謝罪に」

 

 

「そうだねぇ、幽体離脱しやすいって事は、その分 魂が肉体を離れやすいって事、つまり死にやすいって意味だしねぇ? 僕達が洗礼をすれば・・・まぁ少しは身体は腐り難くはなるかな? 多分」

 

 

「・・・よろしくお願いします」

 

 

僕は片膝から両膝をつく体勢に移行し、祈りの姿勢を取り(こうべ)を垂れる

 

 

 

「我イオンの名と神意において」

 

「我ヴェスタの名と神意において」

 

「汝、五月七日 カナリアを我の聖女とし加護を授ける」

 

「汝、五月七日 カナリアを我の聖女とし加護を授ける」

 

 

イオン様とヴェスタ神が同時に宣言し、僕は一瞬だけ光り洗礼が終わる

 

 

気持ち身体が軽い気がするかも?

 

 

「ありがとうございます、イオン様、ヴェスタ神」

 

 

「いえいえ、此方・・・正しくはヴェスタの不手際でしたし、お気になさらず」

 

 

「へへ〜ごめんねぇ〜」

 

 

僕の言葉にイオン様は呆れた様子でヴェスタ神を見るが、彼は反省した様子は無くキレッキレのポージングを披露している

 

 

「あの、帰り方が分からないのですが、どうしたら?」

 

 

「椅子に横になって目を閉じて現世(うつりよ)を強く思い描いてください、そうすれば帰れます」

 

 

「分かりました」

 

 

僕は椅子に横になり目を閉じてトレーニングルームを思い描くと直ぐに意識が暗転し、目を開けると母の大きな双丘が視界一杯に広がっていた。我が母ながらデッカいなぁ、いやほんと

 

 

「あら、起きた? カナリア」

 

 

「うん、どれぐらい寝てた?」

 

 

「10分ぐらい無呼吸で死んでたわ、流石に最初は焦ったけれどイオン様から御告げを受けて落ち着いて膝枕をしていたの」

 

 

「・・・危なかったのは理解した」

 

 

良かった、あと少し遅かったら脳細胞死んでアホの子になってしまう所だった

 

 

良かった、本当に間に合って良かった

 

 

「イオン様の聖女として洗礼を受けたのね、おめでとうカナリア。ママ嬉しいわ」

 

 

「ありがとう? お母さんが喜んでくれて僕も嬉しいよ?」

 

 

僕を膝枕しながら僕の頭を撫でる母の嬉しそうな声に、何となく僕も嬉しくなり言う

 

 

まぁ聖女としての職務がある訳でもないんだけどね?

 

 





[聖女がLv.2に上がりました]
[聖水生成がLv.2に上がりました]
[岩塩生成がLv.2に上がりました]

[洗礼により二柱の加護を獲得しました]
[鍛錬によりクラス 銃使い(ガンナー)を獲得しました]


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17. 予期せぬ再会

 

母に物理的に頭を凹まされてから日に1度 母と共にイオン様に祈りを捧げ、寝る前に10回程腕立てをしてヴェスタ神に奉納する生活を半月程続けた僕は、学校からの帰り道 もう会わないだろうと思っていた人に出会い、捕獲されてしまった

 

 

「また会ったわね? カナリアちゃん」

 

「また会いましたね、紗夜さん」

 

 

僕を見つけた瞬間、逃げる間もなく猛ダッシュで距離を詰めて僕を抱きしめ逃げ道を塞いだ紗夜さん、やりおる

 

うむ、マイマザーよりは小さいけど中々良い物をお持ちの紗夜さんを密かに堪能しつつされるがまま身を委ねる、こうゆう小動物扱いは慣れているからね

 

 

「さてと、まずは連絡先を交換しましょう? 」

 

「前回の約束ですし、分かりました」

 

スマホを取り出し紗夜さんと連絡先を交換すると

 

 

「それじゃぁ・・・道端もアレよね、少し先にカフェがあるから行きましょう?」

 

 

「分かりました、行きましょう」

 

 

僕が逃げない様にか手を引き歩き出す紗夜さん、やはり少々押しが強い気がするけど、まぁ慣れているから良いか

 

 

数分で落ち着いた雰囲気のカフェに辿り着き紗夜さんは躊躇いも無く中に入っていく、なんかカッコいい

 

 

それから半個室の席に案内され、紗夜さんと対面で座りホットココアを注文する、改めて見ると黒髪ロングの如何にもお嬢様って見た目をしているなぁ紗夜さん

 

 

「まずは改めて、ダンジョン遭難の時はありがとうね?カナリアちゃん」

 

 

「いえいえ、僕は当たり前の事を・・・いえ、両親の教えを守っただけです」

 

 

「両親の教え? 」

 

 

「はい、両親の教えです。見ての通り僕は純血の日本人ではありません、父は日本人ですが、母はベルカ人です。 ベルカとオーシアでは皆 魔力を持ち魔獣が歩き回っています、だから戦うチカラを持つ者は弱き者を守る、そう教えられています、それに母は敬虔な聖導教会信者ですしね」

 

 

金髪碧眼で純血の日本人な訳が無い僕の説明を紗夜さんにすると、彼女は なるほど みたいな表情をしている

 

 

聖導教会の教義を簡単に言うと、正しい道を歩む宗教 である、大いなるチカラには相応の責任が伴う、故に強き者は強いチカラを正しく使える様に教え導く、そう言う理念を持っていて、信者は清く正しく生きる事を是としている

 

 

特に厳しい戒律やら禁忌食物が有る訳でもないので、僕としてもオススメの宗教である

 

 

「たまたま僕はベルカ人の母が居て、そこそこの戦闘教育を施され、偶然 紗夜さんと出会い、運良くほぼ無傷でダンジョンを脱出出来た、僕は幸運だっただけです、だから気にしないでください」

 

 

「貴女の身の上話と私が恩返しするのは全くの別問題、誤魔化されないわよ?」

 

 

「・・・失敗したかぁ」

 

 

敢えて身の上話をして誤魔化す作戦を見透かされ失敗に終わる、無念

 

 

そんな訳で注文したホットココアが来たので、一口飲み息を吐く

 

 

「私は私が満足するまで貴女に恩返しをするわ、絶対に」

 

 

「あの・・・紗夜さんって押しが強いって言われません?」

 

 

「たまに言われるわね」

 

 

「やっぱり言われてるんですね・・・」

 

 

言われるのに改めないって事は生来の性質だろうから、僕が折れて彼女に合わせる他ない訳か、よし折れよう

 

 

僕は知っている、こう言う時は折れた方が疲れないって事を、相手は満足したら解放してくれるだろうし

 

 

「ねぇカナリアちゃん、あの日貴女は何であそこに居たの?」

 

 

「え? 高校受験ですよ? 志望校の入試が終わった帰りだったんですよ」

 

 

「・・・高校受験? え? 中学受験じゃなくて?」

 

 

「高校受験です、確かに僕は低身長で童顔かも知れませんけど・・・」

 

 

 

僕の返答に紗夜さんは少し取り乱し目をパチパチとさせる

 

んーやっぱり勘違いしてたか、結構歳下と思われてる雰囲気は感じてたんだよなぁ

 

 

多分紗夜さん高校生だろうから、僕と1〜2歳ぐらいしか変わらないんだよなぁ、うん

 

 



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18. 予期せぬ再会 2

 

 

もはや慣れた事の第何弾になるか分からないけど、慣れ親しんだ現象なんだ 小学生に間違われるの

 

 

三鶴ちゃんがバイトで不在の時に僕が1人で夕飯の買い物しに行った時とか、たまにお婆さんとかおばさんとかに褒められて飴を貰うしね

 

 

「えっと・・・何処を受験したの?」

 

 

斑鳩(いかるが)比嘉(ひが)町第2と冨堂(ふどう)ですね」

 

 

「一昔前の金持ち学校に、部活にチカラを入れている学校、この地域だと大学合格率がバカ高い学校? 纏まりがないわね」

 

 

「家から近い順に選びました、徒歩30分圏内」

 

 

少しドヤ顔で紗夜に答えると、彼女は少し呆れた表情をして

 

 

「貴女ねぇ、少しは将来を考えていた方が良いわよ?」

 

 

「大丈夫です、高校生活中に夢が見つからなかったら、探索者として生計を立てますし、最悪ベルカに行って職業聖女します」

 

 

「そう、それなら良い・・・ん?」

 

 

先程まで呆れた表情をしていた紗夜の表情が変わり、ジッと此方を見つめてくる

 

 

「どうしました?」

 

「探索者・・・は、まぁ良いとして。 聖女って?」

 

「え? 紗夜さんと出会った時に獲得したクラスですよ、忘れました?」

 

「聞いてないわよ?! それにクラス聖女って聞いた事ないわよ・・・もしかしてエクストラクラス?」

 

「あれ? そうでしたっけ? まぁそうですね、エクストラクラスです」

 

 

真剣な表情になり思案を始める紗夜を見つつホットココアを飲み考える、そういえばクラススキルの見方を教えて貰ったけど、獲得したクラスの話はしてなかった様な気がする、ごめんね?紗夜さん

 

 

「カナリアちゃん、確認なのだけど・・・近々探索者として活動を始める予定なの?」

 

 

「そうですね、そのつもりです。ただまぁ装備一式の購入からなので具体的には高校入学した後になると思います」

 

 

「そう・・・カナリアちゃん、良かったらウチと契約しない?」

 

 

「・・・契約?」

 

 

ゲンドウ座りで僕を真っ直ぐ見据え紗夜は言うが、僕にはサッパリ意図が分からず困惑する

 

「実は私ん家は代々会社を経営していて、最近はダンジョン関係にも手を伸ばしているのだけど、ほら適性持ちって少ないじゃない? だから自社開発した試作品をテストするテスターを探すのも一苦労なの、だから専属契約して欲しいのよ」

 

 

「なるほど? 僕の存在は渡りに船な訳ですね?」

 

 

「その通り、新しい試みもあって私に一任されているわ。勿論 報酬は出るし 装備面も経費から出せるわ」

 

 

「装備って事は、弾薬費もですか?」

 

 

「えぇもちろん」

 

 

「やります、紗夜さんなら僕に変なことしないでしょうし」

 

 

「ありがとうカナリアちゃん」

 

 

報酬が出て弾薬費も気にしなくて良い、試作品のテストをする手間はあるがバイトだと思えば悪くもない、むしろメリットが勝る

 

そんな事を考えていると余程嬉しかったのか紗夜がわざわざ僕の何処まで移動してきて僕を抱きしめる、僕は座っている関係で彼女の胸に顔を埋める形になる訳だが、やはり素晴らしい者を紗夜は持っている、役得役得

 

 

「カナリアちゃんのおかげでプロジェクトが始動出来るわ、ありがとう」

 

 

「いえいえ」

 

プロジェクトと言うのは恐らく紗夜が一任されている新しい試みの事だろう、それを今僕が詳細を知る権利はない

 

何故ならまだ口約束しただけで、正式に契約書を交わしている訳ではないからだ

 

まぁ気にならないって言ったら嘘になる、めっちゃ気になる ほら、僕って好奇心強いし?

 

 

でも我慢だ、正式に契約したら詳細を教えてくれるだろうし、うん我慢我慢

 

 

「とりあえず探索者になる為の先行投資、それを貴女への恩返しとさせてもらうわ、拒否権はないから そのつもりで」

 

 

「・・・分かりました、謹んで受け取らせていただきます」

 

 

ほんと大した事をしていないし、ゴブリンのドロップ品の殆どを貰ったから気にしなくて良いと思ってるけど、多分聞いてくれないので紗夜の好きにさせよう、うん そうしよう

 

 



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19. 五月七日家 家族会議?

 

 

紗夜からの誘いを口約束だが受け、その日の夕飯時に両親へ高校入学したらバイトを始める事を伝えると、内容を聞かれたので口約束した内容をありのまま伝えると、雇用主(さや)の名前と連絡先を聞かれたので、素直に教える

 

 

なんか、表情が険しかった気がするけど、何でかな?

 

 

そんなこんなで、もう直ぐ合格発表と卒業式を控えた週末の事、自室で趣味の映画を見ていると、母が扉をノックし入室してきて

 

 

「少し話が有るから、来てもらえる?」

 

 

「え? 構わないけど・・・」

 

 

ワゴンセールの安売り品のC級映画がクソみたいな内容だったので、真剣な表情の母の言うことに素直に従い、彼女の後に続く

 

 

自室からダイニングへ移動すると、神妙な表情で座る4人の男衆がいる、何だこれ?

 

 

家主である父と大学生で実家を出ていない三鶴は分かる、しかし彼女と同棲中の次男 雀晴(すばる)と長男 鷹樹が居る意味が分からない

 

 

たまたま帰省した日にちが被っただけなら、こんな表情をしていないだろうしね?

 

 

「えーっと・・・どうしたの? みんな揃って」

 

 

「カナリア、先日のバイトの話は覚えているか? 」

 

 

「先日のバイト? あぁ、紗夜さんに誘われて快諾したヤツ? それが?」

 

 

ダイニングテーブルの定位置に座り、空の湯呑みに勝手に急須からお茶を注いで一口飲んで尋ねると、父が真剣な表情で質問してきたので素直に答える

 

 

「実はお前から話を聞いて俺達は各々調査をしたんだ」

 

 

「えぇぇ・・・流石に過保護なんじゃ?」

 

 

「幸い、アルエットは内勤で情報観覧が出来る地位にいるし、雀春も資材やらの流れを調べられる、俺も昔馴染みのツテで紗夜って娘の素性を調べる事が出来た」

 

 

「おっと完全にスルーされてるぞ〜?」

 

 

何というか・・・僕が末っ子だからか、はたまた五月七日家 唯一の女児だからか分からないが、割と過保護な所がある気がする

 

 

「分かったのは紗夜って娘は篠原グループ総帥の孫娘だと分かった」

 

 

「加えて篠原グループ傘下企業がギルドホームの賃貸契約をしているわね」

 

 

「で、先日 ギルドホームに設備一式の搬入が確認された」

 

 

「SNSで探索者に向けて勧誘の広告が配布されてる」

 

 

父→母→雀晴→鷹樹の順に喋る、なんかすごい連携だなぁ

 

 

「僕の方も本当に裏が無いか探ってみたけど、彼女は本心から君への恩返しと実益を兼ねている様だね」

 

 

「・・・どうやって探ったのさ? 三鶴ちゃん」

 

 

「企業秘密だよ、カナリア」

 

 

とても胡散臭い笑みを浮かべて説明する三鶴に尋ねるが、はぐらかされてしまう、うん これは追求しない方が良さそうだ

 

 

「だから、バイト先は安心出来そうだぞ? カナリア」

 

 

「うん、ありがとう? 頼んでないけど」

 

 

身構えて少し疲れたので脱力してお茶を啜る、美味しいなぁ緑茶

 

 

「さてと、カナリアから預かっていた正体不明の岩だけど、正体が分かったよ」

 

 

「そうなの?」

 

 

「うん、コレは魔鉱石だったよ」

 

 

「魔鉱石?」

 

 

「魔鉱石!? 三鶴、何で魔鉱石を?」

 

 

少々ピリついた空気が緩み三鶴が彼へ預けていた黒光りする謎の岩の正体を口にすると、普段の母からは想像出来ない声量で僕の言葉を飲み込み言う、母が動揺してるの珍しいな〜

 

 

「カナリアがダンジョン遭難した時に、ゴブリン魔石と一緒にドロップしたそうだよ。僕は鑑定スキル持ってないし調べていたんだ」

 

 

「そう、そうなのね・・・貴女はイオン様の聖女だものね、カナリア」

 

 

「訳が分からないよ」

 

 

僕を置いてきぼりに話が進み、母は自己完結した様子でそう言うが僕にはさっぱり分からず困惑する

 

 

「いい? カナリア? 魔鉱石は魔武器を作る為に必要不可欠の魔法石なの」

 

 

「魔武器は確か、その人固有のオンリーワンの武器なんだっけ?」

 

 

「そう、魔武器は その者が1番扱える得物になる、そして担い手と共に成長する謂わば生きている武器よ」

 

 

「ほへ〜そいつはすげぇや」

 

 

こんな岩が、そんな凄い魔法石だったとはね、驚いた

 

とりあえずは、これで1つ ダンジョン探索者への1歩を踏み出せたな、うん

 

 





[紗夜は五月七日家から信用を獲得しました]
[カナリアは魔鉱石を入手しました]


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20. 契約の時、来たれり

 

 

 

過保護な両親+3人の兄の報告会? から更に1週間が経ち僕はギルドの貸し会議室(小)で約2週間ぶりの紗夜と対面しているのだが、紗夜の顔が少々引き攣っている様な気がする、何でだろう?

 

 

とりあえず彼女の視線は僕では無く、僕の両脇に座る母と長男を行き来している、あれかな? 鷹樹って個人勢だけど一定のファンが居るし、母も僕を産んだにしては見た目が若い上にバインバインのナイスバデーだからかな? 多分

 

 

「え、え〜・・・カナリアちゃん、先日の口約束の件の契約書が出来たから公式の契約を交わしましょう」

 

 

「よろしくお願いします、あ 保護者2名が同席したいと無理矢理ついてきた件はすみません」

 

 

「大丈夫、同席は当然だと思うわ。貴女は未成年な訳だし」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

無言で紗夜を見る2人の視線を浴びながら彼女は言う、僕は同席拒否したんだけどね? 鷹樹は兎も角、母は仕事中な訳だしさ?

 

 

そんなこんなで紗夜は自分の鞄から契約書の入ったファイルを取り出し机の上に広げて、僕の前に置く

 

 

「口約束した内容を形式張って難しい言葉を使い細かく記載されているわ、面倒だと思うけれど読んでからサインをしてちょうだい?」

 

 

「僕は紗夜さんを信じていますが、もしかしたら紗夜さん以外の誰かが改竄してたりするかも知れないので熟読させて貰います」

 

 

「そうね、その通りよ」

 

 

開かれたファイルを手に取り上から順に読んでいく、うーん やっぱり契約書の言い回しは独特で読みづらいなぁ

 

 

そんな事を思いつつ、たっぷり時間をかけて読み込み内容を理解する

 

 

内容を要約すると、篠原グループ傘下企業が試作した様々な用品をダンジョンで実用テストする と言う物だ

 

 

あくまでも学業優先のスタンスで行き、基本的には平日なら放課後の数時間、土日祝日は要相談・・・正しくバイトのシフトの様なイメージの勤務形態だ

 

 

僕としては試作品の種類が少し気になるので、質問しておこう。とりあえずメモメモ

 

 

「カナリア、私も読ませてもらえる?」

 

 

「え? 良いけど・・・」

 

 

「カナリアちゃん、ちょっと」

 

 

「何ですか? 紗夜さん」

 

 

隣に座っていた母が契約書を確認したいと言ってきたので素直に渡すと紗夜が僕を呼び、会議室(小)を退出して彼女は僕に向き直り

 

 

「貴女の母親がダンジョン黎明期の元探索者で現ギルド支部長だなんて聞いてないわよ」

 

 

「まぁ言ってませんからね、それは知らないでしょう」

 

 

「くぅぅ・・・それに実兄が個人勢なのに実況者ランキング上位者の鷹樹なのも!!」

 

 

「それも言ってないですからね、凄いのは母と兄ですし・・・ちなみに父はヴァンツァーの教官してます」

 

 

なんとも言えない表情で問うて来たので、サラッと答えると更に何とも言えない表情をする

 

 

僕は七光で自分を着飾る趣味は無いので、仮に聞かれてもギルド職員とか探索者をしている程度にしか言わない事にしている

 

 

もちろん知らない知識は教えてもらうが、各々の地位を利用して楽をしようとは思わない、自分自身のチカラで築いた土台がなければ ちょっとした歪みで瓦解して何も残らない惨状を招くから

 

 

「・・・何となく貴女の性格を理解したわ、用心深いわね」

 

 

「ありがとうございます?」

 

 

なんやかんや紗夜を宥め? 入室すると母では無く鷹樹が契約書を読んでいる所だったので、改めて2人の間に座る

 

 

「変な仕掛けは無かったわ、安心してカナリア」

 

 

「俺も読んだけど、特に詐欺っぽい条項も言い回しも無い真っ当な契約書だな」

 

 

「そう、ありがとう お母さん、鷹ちゃん」

 

 

母から高そうな万年筆を借り共通語の筆記体で契約者の欄にサインをして、紗夜に渡すと彼女もサインを書き、原本と控えに分離させ控えを僕の方に差し出し

 

 

「これで雇用契約は完了ね、これからよろしく カナリアちゃん」

 

 

「はい、よろしくお願いします。紗夜さん」

 

 

紗夜的には少々圧を感じる場面だっただろうが、何事も無く契約が出来て良かった

 

 

さてさて、これで探索者になる準備は半分は終わったかな?

 

 



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21. カナリア ダンジョン配信者になる(強制)

 

 

紗夜的に圧を感じる中 交わした契約から1週間、僕は無事 高校受験に合格した上で中学校を卒業し、少々忙しい春休みを送っている

 

卒業式の日は、僕と同じ高校に受かった人以外は何故だか泣いて悔しがられ、女子達に代わる代わる抱きしめられた、僕はマスコットではないが泣いてる娘にマジレスする程 鬼畜ではないつもりなので、いつもの様にされるがまま身を任せた

 

 

そんなこんなで揉みくちゃな卒業式を終えた今日この頃、入学先である斑鳩の制服を指定の服屋で注文した その足でギルドへ向かう、紗夜に呼ばれているのだ

 

 

「やっと事務所が形になったから〜 みたいな事を言ってたなぁ紗夜さん」

 

 

上部組織との中間とかは紗夜がやるらしいけど、どうやら何人かスタッフを雇う様なので、多分 その人達との顔合わせだろう と予想し紗夜が借りたギルドホームへと紗夜からスマホに送られてきた地図を見つつ歩を進める

 

うーん、やっぱり空間拡張魔法は凄いなぁ、ギルドの入り口から結構歩く

 

 

ギルドの入り口から数分歩き、ギルドホームに辿り着いたので、一応礼儀として扉をノックしてから中に入ると

 

 

黒髪ロングの姫カットな美少女と見慣れた黒髪短髪のマッチョ、茶髪でメガネを掛けた女性と、金髪にインカラーの入った美女が談笑していた

 

 

「・・・なんでいるの? 鷹ちゃん」

 

 

「なんでって、ひでーなー、そんな言い方しないで良いだろ?」

 

 

僕の言葉にわざとらしく悲しむ表情をする我が家の長男に、ほんの少しだけイラッとしたが我慢し

 

「そういうのは良いから、なんで?」

 

 

「やれやれ、せっかちお姫様だな。俺も紗夜と契約したんだよ」

 

 

「はい? なんでさ? 」

 

 

肩を竦めてヤレヤレとしながら鷹樹が言い、僕は疑問に思い尋ねる

 

今まで数多の事務所や企業からスカウトがあった筈なのに、それを蹴り続けた彼が、今更契約をした事が謎なのである

 

 

「それは私から説明するわ」

 

 

「紗夜さんから? どういう?」

 

 

語り出そうとした鷹樹を手で制し紗夜が口を開く、確かに雇用主から聞いた方が早いかも知れない、うん

 

 

「貴女との契約によって我々が進めていたプロジェクトである、篠原グループ傘下のダンジョン配信者事務所の設立が叶ったわ、鷹樹さんには配信者 兼 アドバイザーとして契約をしてもらったの」

 

 

「ダンジョン配信者事務所? ん? 配信者事務所?! え?? 僕はテスターでは? 」

 

 

「えぇ、テスターよ? 篠原グループ傘下企業が製作したダンジョン配信用のカメラドローンの、ね」

 

 

「・・・嘘では無いのが悔しい」

 

 

声高らかに紗夜は宣言し、僕は衝撃を受け項垂れる、騙されてはいないし契約を反故にしてもいない

 

確かに契約書通り、試作品のテスターなのだ、試作品の種類まで明記はされていなかったし、確認し忘れた僕の落ち度だ、悔しい

 

 

「私、貴女と出会った時から思っていたのよ、この娘は最強に輝く原石だってね? だってこんなにも可愛いのに勇気を持って正しい道を歩んでいるのだもの!!」

 

 

「評価されて嬉しいですが、興奮しないでもらって」

 

 

「あら、ごめんなさいね」

 

 

僕としても褒められるのは嬉しいが、面と向かって言われると流石に恥ずかしいので少したしなめると、紗夜は少し冷静に戻る

 

 

「少し搦め手みたいになってしまったのは申し訳ないけれど、主に貴女にやって貰う事はカメラで撮影されながら試作品をテストする事よ」

 

 

「まぁ・・・カメラが増えただけなら良いですけど・・・」

 

 

小中と同級生により小動物扱いされて来たので、今更見世物扱いを気にする事もないし、そういうバイトだと思えば良い

 

 

「ステラ・アーク0期生として、頑張ってね カナリアちゃん」

 

 

「僕に出来る事は出来る限りしますけど、失敗しても怒らないでくださいね?」

 

 

「大丈夫、その失敗も折り込み済みよ? 何せ手探りですもの」

 

 

そう言い紗夜はサムズアップする

 

 

まぁいいか、チャレンジする事は悪い事じゃないし、うん

 

 





[カナリアはダンジョン配信者事務所に所属しました]
[鷹樹はダンジョン配信者事務所に所属しました]


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22. カナリア ダンジョン配信者になる(強制) 2

 

 

 

僕がバイト内容を正しく理解していると、今まで黙っていた燈さんが軽く挙手をし

 

「そろそろ良いかな? 」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

「よし、カナリアちゃんとは面識もあるから自己紹介は省くとしてステラ・アークとギルドの窓口担当が私になったから、よろしくね? 」

 

 

「窓口、ですか?」

 

ダンジョン配信をする以上、ダンジョンへ入ったりする関係でギルドとのやり取りは発生する、それは理解できるのだが、わざわざ窓口役が必要なのか? と思い燈へ尋ねる

 

 

「ダンジョン配信をする以上は、少なからずダンジョンモンスターを討伐する事になるし、運が良ければ宝箱が見つかるかも知れない。 そういう取得物を事務所に死蔵する訳にはいかないでしょう? 」

 

 

「なるほど、取得物の売買とかの窓口役な訳ですね?」

 

 

「そういう事、あとは監査役も兼任」

 

 

「・・・お疲れ様です」

 

 

監査役って事は、外部監視者って事で恐らくは過保護な母の差金だろう、多分

 

 

いや、目の前にも過保護なマッチョの長男がいるし、流石に考え過ぎだろうか?

 

 

「次は私、かな? 初めましてカナリアさん、私は(たかむら) (なぎさ) 金庫番 兼 事務 兼 他色々担当、よろしく」

 

 

「あ、はい。 五月七日 カナリアです、これからお世話になります」

 

 

「鷹先輩、この娘可愛いっすね? 持って帰って良いすか?」

 

 

「良い訳あるか、アホ」

 

 

「えー・・・」

 

名乗った彼女に答え、僕も名乗り頭を下げると、そんな事を口走る

 

仕事の出来るクール美女かと思ったら変態美女だった、そしてまたしても鷹樹の知り合いらしい、とりあえず身の危険を感じはしないが、物理的に彼女から距離を取っておこう、そうしよう

 

 

鷹樹にバッサリと切られ本当に残念そうにしている篁から距離を取り、軽く紗夜の後ろに隠れる様にしておき

 

 

 

「鷹ちゃんの知り合い?」

 

 

「紅谷と同じで篁も高校時代の後輩だよ・・・昔から可愛い物好きだったがロリコンを発症していたとは・・・」

 

 

「ねぇ、それ僕にも刺さるんだけど?」

 

 

鷹樹による無遠慮な言葉が僕へ突き刺さる、いやね? 確かに僕は小学生に間違われる程 小柄だし童顔だけれど、それにしたってオブラートに包んで欲しいと思う訳で・・・ねぇ?

 

 

まぁ正しい意味でなら僕はロリではあるのだけれども

 

ロリータの定義年齢は中学生ぐらいらしいし、うん

 

 

 

「ま、悪いヤツでは無い、悪いヤツでは。まぁ・・・最悪 俺が処してやるから、安心しろ」

 

 

「う、うーん・・・安心出来ないかなぁ? 」

 

 

その篁を処す時って、僕が彼女に頂かれた後になってしまうのではなかろうか? うん、信じているぞ 長男!!

 

 

燈さんが 『そろそろ私は仕事に戻るねぇ〜』と事務所を去るのを見送り、僕へ邪な目線を送ってくる篁を紗夜を盾にしつつ横目に鷹樹の方を向き

 

 

「ねぇ鷹ちゃん、気になってる事なんだけどさ? なんで紗夜さんと契約したの? 今までスカウトされてたでしょ?」

 

 

「あー・・・まぁぶっちゃけると、今まで個人で案件とか処理してきたけど、正直首が回らなくなってきてな? 今までは友達にスタッフとしてやって来たけど、税金関係とか もうややこしいし面倒臭くてな?」

 

 

そうそう、ウチの長男は頭は悪くないが、脳筋の民であり兄貴肌のイケメンマッチョなのだ、故に女性より男性にモテる まぁ性的にではない、うん

 

 

「それならウチに入って貰おうと交渉したのよ、どのみち個人勢の人はスカウトするつもりだったし」

 

 

「なるほど、納得しました」

 

 

「ねぇ鷹樹さん? 持って帰ってはダメかしら?」

 

 

「ダメ・・・かは本人次第だな、カナリアはアンタには懐いてる様だし」

 

 

僕を抱きしめ頬擦りしながら鷹樹へ言う、紗夜の場合はやましい感情を感じないから良いけど、そのセリフは危ないぞ?

 

篁の時とは打って変わり判断を僕に委ねてくる鷹樹に呆れつつ

 

 

「紗夜さんの自宅に行くのは、もっと友好を深めてからにしましょう、ね?」

 

 

「そうね、事を急いては仕損じてしまうわね」

 

 

なんだか、イマイチ理解してるのか疑問だが、上手く交渉出来た様で良かった

 

 

 



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23. カナリア ダンジョン配信者になる(強制) 3

 

 

 

 

紗夜に抱擁され彼女の双丘を堪能していて、ふと 彼女に伝えておかないといけない事を思い出す

 

「そうそう紗夜さん、装備面で報告しないといけない事が有るんです」

 

 

「なにかしら?」

 

紗夜は僕の頭部に頬擦りするのを止め聞いてくる

 

 

「実はダンジョン遭難の時にゴブリンからの取得物に魔鉱石が有ったんです、だから魔武器を生成してしまおうかと」

 

 

「魔鉱石・・・魔武器? 魔武器って? 」

 

 

「魔武器とは、魔鉱石を用いて生成した者が1番扱えるモノになる唯一無二の専用武具の事です」

 

僕の言葉にイマイチ ピンと来ていない様子の紗夜に説明をする

 

 

「専用の武具、か・・・魔武器なんて 私は聞いた事ないわ、鷹樹さんは?」

 

 

 

「俺はほら、カナリアと兄妹だし母親がベルカ人だから知識としては知ってたけど、日本人じゃ殆ど持ってないんじゃないか? 」

 

 

「珍しい訳ね?」

 

 

「あぁ、魔武器の原料の魔鉱石だって、カナリアが持って来たのを見たのが初めてだ。日本じゃ魔武器って概念がそもそも浸透してないみたいだしな」

 

 

「なるほど・・・」

 

 

鷹樹と言葉を交わし、僕を抱きしめるのをやめて思案顔でデスクの天板に腰掛け足を組む、なんか様になっててカッコいい

 

 

「日本でレアなら話題になるでしょうし、せっかくだから魔武器生成を撮影して動画として出しましょう」

 

 

「だな、日本産魔鉱石での魔武器生成、見るヤツが見たらバズると思うぞ?」

 

 

「そういう事なら僕は異論は無いけれど・・・」

 

 

この先、配信者を僕はする事になる訳だけど、どういうプランで動くかは僕の考える事ではないので、上司2人に任せる事にしよう、丸投げともいう

 

 

「お嬢、今ちょろっと魔武器について調べてみましたが、魔鉱石に魔力を流し込み形にするのがオーシア・ベルカ式、専用の魔法塗料で描いた魔法陣に魔力を注ぎ形にするのがリューネ式、だ そうです」

 

 

 

「そう・・・なら両方してみましょうか」

 

 

 

「確かに、2パターンあるなら、両方試すのが良いな」

 

 

「渚、至急 手配してちょうだい、なる早で」

 

 

「御意」

 

 

ただの変態美女ではなかった篁は、この短時間で僕が見つけられなかった情報を見つけ出して紗夜に報告、すぐに仕事に取り掛かる

 

 

「カナリアちゃん、渚は変態だけど仕事に関しては超絶使えるわ。人間性以外は天才や秀才と言っても差し支えないレベルよ、変態だけど」

 

 

「相変わらずズバズバ言いますなぁ〜お嬢は」

 

 

「貴女が使える人材でなければ、今頃は堀の向こうに入れている所よ」

 

 

「ひで〜」

 

 

なんか、さっきからのやり取りを見てると此処 数日とかの遠慮の無さでは無いな? もしかして紗夜と昔から知り合いなのかな?

 

 

「気になる? まぁなんていうか・・・私の元家庭教師なのよ、渚は」

 

 

「私の親が お嬢の親と知り合いで、頭の出来だけは良かった私が家庭教師してたのさ、見ての通り お嬢は生意気だったけどねぇ〜」

 

 

「へぇ〜」

 

 

「いやぁ〜そのコネで事務員に就職出来たから良かった良かった」

 

 

篁はカタカタとキーボードを操作しながらカラカラ笑う、この人 仕事してると普通に美人だな

 

 

「お嬢、さっきのアレは取り寄せに1週間掛かるみたいです、場所は押さえておきます?」

 

 

「そうね・・・万が一を考えると、ギルドのトレーニングルームがベストだけれど、搬入が後ろにズレると面倒だから、場所の手配は搬入後にしましょう」

 

 

「了解です、そうそう鷹樹さんトコの編集スタッフ、そんままウチで雇うんで雇用契約書にサイン貰って来て下さい」

 

 

「相変わらず仕事早いな、お前」

 

 

「でっしょー? 褒めて良いっすよ、先輩」

 

 

「おーすーごいごい、すーごいごい」

 

 

なんか会話しながら書類作成して茶封筒に入れて鷹樹へ渡す、仕事が早いってかマルチタスクが過ぎる、真似できないし、真似したく無い

 

 

少しだけ篁を見直した

 

 



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24. 初めての撮影

 

 

 

春休みも片手で数えられる程になった今日この頃、流石に試作品のカメラで撮影をする訳にはいかない為、僕目線からは高そうなカメラがギルドのトレーニングに複数設置されていて、その中心に魔法陣の描かれたシートが鎮座している

 

ワクワクするなぁ〜

 

 

「1回 鷹樹さんで実験してあるから安心して? カナリアちゃん」

 

 

「分かりました、紗夜さん」

 

 

今日、トレーニングルームは貸切で僕達 ステラ・アークのメンツしか居ないので、肩の力を抜き紗夜に答える

 

 

先日、リューネ式魔武器生成魔法陣が正常に動くかの実験台にされた鷹樹は、満足気にクレイモアを持って眺めている、嬉しいのは分かるけど何しに来たんだ?

 

 

「お嬢、カナリアちゃん、撮影準備OK 撮影開始」

 

 

「始めましょうか」

 

 

「はい」

 

 

紗夜が鷹樹の隣まで下がったのを確認して、僕は流石に鷹樹の様にフルオープンで配信する事に抵抗を感じたので、3Dマスクをしてから魔法陣の真ん中に立ち、手に持つ魔鉱石と足元の魔法陣へ目を閉じ意識を集中する

 

 

イオン様とヴェスタ神から聖女に任命されてから自分の内に流れる魔力を感じ取る事が出来る様になったので、ゆっくり確実に魔力を循環させて行く

 

 

Gott, erbarme dich meiner(神よ、慈悲を与え賜え)

 

 

目を閉じているにも関わらず眩しさを感じる中、僕は空へ魔鉱石を捧げる様に持ち上げると、一段と光り輝き僕を光が包み

 

 

『僕からは君と仲間の障害を払い戦う 矛のチカラを』

 

『私からは貴女と仲間を癒し護る 盾のチカラを』

 

 

ヴェスタ神とイオン様の声が聞こえ光が収まり目を開けると、紗夜チョイスの長袖の戦闘服を着ていた筈の僕は、ノースリーブの白を基調にした如何にも聖女が着ていそうな法衣を身に纏っていた

 

うん? 不思議と寒く無いな?

 

 

 

 

そして左手(ききて)に草花をモチーフにしたエングレーブが施された銃剣付きトレンチガンを持っている

 

 

「・・・ひとまずは無事に終わった、かな? 」

 

 

2つ同時に生成したせいか、疲労感を感じつつ 次の手順を思い出す

 

 

「確か、名前をつけないと・・・えーっと・・・」

 

 

疲労からか少し鈍い思考を頑張って回転させ名前を考える、魔武器は名付けをしないと完成せず、チカラを発揮出来ないからだ

 

 

「法衣をローレライ、トレンチガンをフロッティと名付けよう」

 

 

僕が名付けると、一瞬光り多分 全行程が終了したので、振り返ると紗夜が頷いたので、魔法陣から出て彼女の方へ歩くと

 

 

「カメラ切りました お嬢、喋っていいですよ」

 

 

「ご苦労様 渚、お疲れ様カナリアちゃん」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「大丈夫?」

 

 

「なんか、急に眠くなってきて」

 

 

相変わらず仕事が出来る篁の声を聞き彼女を労った後、僕も労ってくれ彼女の質問に返答する

 

やばい、凄く眠たいどうしよう。こんなに睡魔が襲ってくるのは初めてだ

 

 

ふらふら と睡魔に抗いつつ紗夜に歩み寄り身を寄せると、彼女は迷わずに僕を受け止めて抱きしめてくれる、ありがたや ありがたや

 

 

「ちょちょっカナリアちゃん? ほんと大丈夫? 」

 

 

「多分、ダメじゃないか? やっぱ2つ同時の魔武器生成は体力も魔力も大量消費するみたいだな? その様子だと 8割夢の世界に足突っ込んでるぞ、ソイツ 」

 

 

「なら仕方ないわね、私は一旦 事務所へ戻るわ、貴方は渚と撤収お願い」

 

 

「了解、妹をよろしくな」

 

 

「えぇ任せて? ってカナリアちゃん軽っ軽すぎじゃない? 」

 

 

あー紗夜さんに抱かれるのは良い心地だなぁ とか夢現な感想を呑気に抱いていると、紗夜と鷹樹の会話が聞こえ気がするが、もう睡魔が凄くて認識が出来ない

 

 

なんか運ばれてる気もするけど、紗夜なら大丈夫だろうから身を任せよう、それに睡魔に抗うのも限界だしね

 

 

そう何の自慢にもならない事を考えた瞬間、僕は寝落ちした

 

 

 





【鷹樹は魔武器を獲得しました】
【カナリアは魔武器 ローレライを獲得しました】

【挿絵表示】

【カナリアは魔武器 フロッティを獲得しました】


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25. 初めての撮影 2

 

 

寝落ちしてしまった僕が目を開けると、知らない天井が目に映る

 

 

「・・・誘拐?」

 

「人聞きが悪いわね、同意の上の筈だけれど」

 

 

身体を起こして、適当に呟いた事に反論する声の方を見ると足を組み椅子に座りタブレットPCで何か作業している紗夜がいた

 

 

「そうですね、紗夜さんでしたら同意してます」

 

 

そう言いニコッとしていうと、紗夜が数秒顔を伏せ微振動する、何故だ?

 

 

「ぅん、ひとまず おはよう、カナリアちゃん」

 

「はい、おはようございます。紗夜さん、僕はどれぐらい寝てました?」

 

「2時間くらいかしら? 撤収は鷹樹さん と渚が終わらせているから安心して」

 

 

紗夜は作業していたタブレットPCをスリープ状態にしてサイドテーブルに置き、僕に言う

 

後片付けが終わってるのはよかった、うん

 

 

「ところで・・・ここは?」

 

「私のセカンドハウスね」

 

「セカンドハウス?」

 

「えぇ、事務所の奥にある部屋の1室よ、そこそこ家が遠いし、此処だと都合も良いのよ、色々と」

 

 

何と言うか改めて見ると、ワンルームマンションの1室の様な風景の室内を見て納得する、何気に設備が全部揃ってる

 

 

「賃貸のギルドホームだから申請次第で応用が効くのよ、空間拡張魔法って凄いわね」

 

 

「なるほど、なんとなく理解しました」

 

 

改めて空間拡張魔法の凄さを認識する、やっぱり魔法は奥深い

 

 

「それはそれとして、体調はどうかしら?」

 

「ん〜・・・昼寝してスッキリって感じです」

 

「そう、不調が無いなら良かったわ」

 

 

ベッドから降りて軽く身体を動かしてみるが、寝落ちする前より調子が良い気がするぐらい体調は良い

 

 

魔武器・・・ローレライは僕が寝落ちしても解除されない様で、未だ僕は聖女フォームのままな事に気付いたので、改めて調べる事にした

 

 

「ん〜ワンピースタイプの服にコルセット?あ、ショートパンツ履いてる良かった良かった、上もノースリーブタイプのインナー着てる良かった」

 

 

「私が居るのだけれど?」

 

 

「僕は紗夜さんは、僕にやましい事をしないって信用してますから」

 

 

「そうだけど、そうじゃなくて・・・幾ら同性とはいえ恥じらいをね?」

 

 

人目憚らずに全身チェックをしていると、紗夜にたしなめられる、確かに僕は気にしないけど、見てる人の方は気にするか、反省

 

 

「次からは気をつけます、でも僕は紗夜さんになら別に見られても構いませんよ」

 

「・・・貴女ねぇ、あまりそういう事を言うものじゃないわ」

 

「僕は紗夜さんだから言ってるんですよ? 篁さんには言いません」

 

 

僕の言葉に、紗夜は少し呆れた様子で言うので そう返すと軽く頬を染める、なぜだ?

 

元々 僕は肌を他人に見られる事に抵抗が そんなにない方だと思う、前世ではアラサーの男だったし、今世では4人程男の居る家庭で育っている訳だし

 

 

流石に全裸では歩かないけど、インナーだけでとかなら全然家の中歩くし?

 

 

「あれ? 右手の中指に指輪? 」

 

右手の中指に指輪があり、良く見ると草花のエングレーブのされている

 

 

「それは貴女の魔武器・・・トレンチガンの方の待機状態らしいわよ?」

 

「フロッティの?」

 

「魔武器は非使用時にはアクセサリーになって待機するみたいね? 」

 

「便利ですね」

 

「えぇ、便利ね」

 

アクセサリーになるなら、場所を全く取らないのは良い事だ。特に銃火器を持ち歩くのは結構気を使わないとダメだし

 

物によるけど、暴発しない様に複数に分離して運ぶ必要がある物も存在する訳だし

 

「魔武器の検証をしに行きたいんですけど、良いですか?」

 

「今日はやめておきなさいよ?」

 

「あ、いえ そうじゃなくて、撮影した方がいいのかなぁ?と」

 

「あぁ、なるほど。そうね・・・一応撮影しましょうか、配信する・しない は別にして、見直して精査も出来るだろうし?」

 

 

「分かりました」

 

 

僕の言葉に紗夜は少し考えそういう、僕は彼女の言葉に従うだけだ。何せ配信者として何をするべきかがサッパリ分からない訳だし

 

 

いやぁ、丸投げって楽だなぁ

 

 



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26. 魔武器検証

 

 

好奇心旺盛な僕は紗夜を説得し翌日に再度トレーニングルームを押さえて貰い、その日はワクワクしながら帰宅して夕飯を食べてウッカリ爆睡して気が付いたら朝だった

 

そんな訳でキチンと身嗜みを整えてから事務所へ行くと、物凄いスピードで仕事をしている篁が見えたが見えなかった事にし、社長デスクで優雅にコーヒー片手にタブレットPCを見ている紗夜に声を掛ける

 

 

「おはようございます、紗夜さん」

 

「えぇ、おはようカナリアちゃん。渚、行くわよ」

 

「資材搬入とかは昨晩してあるんで、すぐに出来ますよ お嬢」

 

「本当、仕事は出来るわね」

 

 

マグカップをデスクに置き立ち上がり篁へ声を掛けると、篁が紗夜へ言う。仕事が出来るのは素直に尊敬する、うん

 

ただまぁ、僕をチラチラ邪な目で見て来なければ、もっと尊敬出来るんだけどなぁ

 

 

そんなこんな紗夜を物理的に盾にしつつトレーニングルームへ行くと、昨日とは違う配置でカメラが設置されていて、壁際にダンボール箱が積んである

 

 

「カメラドローンの試運転も兼ねて魔武器の検証を開始しましょう」

 

 

「ライブ配信じゃないから、配信する場合は後でモザイク入れるから安心してね〜カナリアちゃん」

 

 

「分かりました」

 

 

「印が有る場所が撮影範囲内のベスポジだから、そこで」

 

 

仕事になるとスイッチが切り替わるのか篁は僕に邪な目を向けずにテキパキと指示を出してきたので、従い印の位置に立ちカメラの場所を確認する

 

 

「ドローン飛翔・・・感度良好っと、撮影を開始」

 

 

「始めます」

 

 

ほんの微かな飛翔音を出し僕の周りを上手い具合に飛ぶ30㎝ぐらいのドローン、凄いなぁ

 

ドローンに感心しつつ僕はローレライの待機状態である髪飾りとフロッティの待機状態である指輪へ魔力を流す、すると一瞬光り次の瞬間には僕は聖女フォームでトレンチガンを右手に持って立っている

 

 

「展開は問題無く出来る、次は・・・」

 

フォアグリップを軽く引き、チャンバー内にショットシェルが装填されている事を確認し、次は完全に引きショットシェルを排出させ、フォアグリップを元の位置へ戻し新しいショットシェルをチャンバー内に送り込み、一連の動作の具合を確かめる

 

 

「軽いけど軽すぎない絶妙な具合だなぁ、良い」

 

 

次は連続で動作確認をするが、やはり問題はなく個人的には最高と言いたいぐらいだ

 

 

「確か魔武器は固有能力が有るらしいから・・・」

 

 

聖女のクラススキルを確認した時の様に魔武器の能力を確認する

 

 

「えーっと・・・フロッティはっと・・・魔弾精製か」

 

魔弾精製、魔力を消費し魔法弾を造り出し撃つ事が出来る能力、なのだけれど僕は聖女のクラス補正で攻撃魔法への魔力消費にデバフが掛かっているから、結構な魔力消費を覚悟しないといけない

 

普段使いは出来ないから緊急時用って所かな?

 

 

「次ローレライは・・・3つも有る、すご」

 

 

①アイテムポーチ

 

主に弾薬類や小物類を収納出来る、最初期 収納重量上限 5kg、レベルアップで上昇

 

これはありがたい、弾薬ポーチを別途用意しなくていい

 

 

②魔法習得効率上昇

 

攻撃魔法以外の魔法習得効率が上昇する

 

これも聖女のデバフが関わってそうだなぁ、うん

 

 

③隠匿の加護

 

一部の例外を除き僕がローレライを展開中の記憶を改竄し、非展開時に配信者カナリアであると認識出来ない

 

一部例外は、身内である鷹樹や紗夜 等と高レベルの鑑定スキルなどを保持している者

 

 

おぉ、これは僕としては、とても嬉しい固有能力だ、いちいちマスクしなくて良い訳だし、マスクって少し息しにくい時あるし?

 

 

ローレライの固有能力3つは実用的な能力で良かった

 

 

「篁さん、的を」

 

「オッケー」

 

僕の要請に応え篁がポチポチ操作すると、的が召喚されたので素早く撃ち抜き、アイテムポーチからショットシェルを取り出しリロードする

 

 

馴染む、すごく馴染む、楽しい

 

 



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27. 新生活

 

 

魔武器の能力確認と検証をした日から数日、僕は真新しい制服に袖を通している、そう今日から僕も高校生になった

 

 

つまりは、僕の配信者(バイト)生活の始まりでもあるけど、まぁどうにかなるでしょ、うん

 

 

僕的には視聴数が伸びようが伸びまいが、結構どうでも良い

 

 

それを考えるのは紗夜(うえ)の仕事だと思うし、肩肘張るのは疲れるから特別キャラ作りする必要もないと思う

 

 

自分で言うのも変だけど、僕って属性の塊だしね、うん

 

 

日本人なのに金髪碧眼で、身長143㎝のコンパクトボディで平たい胸族、一人称が僕だしさ、もうキャラ作りする必要性無いよね

 

 

そんな身にもならない事を入学式中、暇を持て余し考えたり偉い人の話を話6分の1ぐらいで聞いたりして、どうにか切り抜けて割り振られたクラスへ行くと、同中の同級生に熱い抱擁という歓迎をされ、そういえば10人ぐらい此処に受かった人居たなぁ と思い出しつつ、されるがまま身を任せる

 

この娘は悪い子ではないので、満足するのを待とう

 

 

結果から言うと、先の娘が呼び水となり僕は小動物扱いで抱き抱えられたり抱きしめられたりと、女子生徒に代わる代わる猫可愛がりされた、何故だ?

 

 

まぁ本当に嫌な事をされないから良いし、もしもの時は武力で圧倒出来るので、良いと言う事にしよう、正直な所 僕は男子より女の子の方が好きだしね

 

 

そんな訳で担任の先生が来るまでマスコットをした僕は、ホームルーム中に乱れた髪を整えながら先生の話を聞く

 

 

とりあえず今日はホームルームで終わりらしい、とりあえず教科書類は各自購入しにいかないとダメな様なのでプリントを綺麗に畳みカバンに入れる

 

 

そしてホームルームが終わったら再び女子に囲まれて身動きが取れなくなる前に教室を脱出して、校舎を出ると僕と同型の制服を着た姫カットの紗夜が優雅に立っていた

 

 

「紗夜さん? なんで此処に・・・」

 

 

「私も斑鳩の生徒だからよ、ちなみ2年生」

 

 

「なるほど、紗夜さんは斑鳩の生徒だったんですね・・・ん? なんで此処に? 誰か待ってるんですか?」

 

 

 

斑鳩は金持ち学校とあって結構な割合で社長子息子女が居る訳だけど、紗夜は一般社長子息子女とは一線を画すオーラを持った人だ、そんな人が僕を待ち伏せしているとは思ず、再度尋ねる

 

 

「貴女を待っていたのよ」

 

 

「僕をですか? わざわざ?」

 

 

「えぇ、だから着いてきなさい」

 

 

「あぁ押しが強い」

 

 

僕の質問に答え紗夜は僕の手を握って移動を始め、その道中で

 

 

「アルエットさん、カナリアちゃんを先にお借りします」

 

 

「えぇ、分かったわ〜」

 

 

「止めても良いんだよ? お母さん」

 

 

「また後でね〜」

 

 

我が母と遭遇したが、相変わらずノホホンとしていて僕の言葉は届かずに僕は紗夜により連行され、高そうな黒塗りの車に乗せられた時点で流れに身を任せる事にし、頭を空っぽに車窓からの景色を眺め ボケェーっとする

 

 

10分程で車が止まり降りると、最近見慣れてきたギルドで紗夜に再び手を引かれ事務所へと連行される

 

 

「渚、準備は?」

 

 

「バッチリ、あとは宣材写真撮れば万全すね」

 

 

「ご苦労様」

 

 

紗夜は相変わらず仕事のスピードがヤバい篁からスマホを受け取り僕の方へ向いて

 

 

「活動用のスマホよ、発信用のSNS等のアカウントと連絡先は登録済み、ガチガチにセキュリティも固めてあるから安心して?」

 

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 

「アプリの配置は自由にして良いけれど、むやみやたらに消したりしないでね? スケジュールアプリはこまめに見てくれると助かるわ」

 

 

「分かりました」

 

 

顔認証なのかよく分からないがロックが解除され中を確認すると、現在主流のSNSと配信アプリ、スケジュールアプリ等、配信者活動に必要な物が並んでいたので、一通り目を通しておく事にした

 

特にスケジュール管理は大切だからね

 

 



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28. 新生活 2

 

 

一通り入っているアプリの中身を確認すると、一貫してアイコン?が金糸雀(かなりあ)モチーフのエンブレムみたいな物になっている事に気がつく

 

 

実は僕個人で使っているアカウントのアイコンの写真は全て金糸雀の写真で統一してあるので、これは嬉しい

 

 

我が家はみんな鳥類由来の名前だから、各々が自身の名前に由来する鳥のパーソナルマークや写真を使っていたりする

 

 

父は鷲、母は雲雀、長男は鷹、次男は雀、三男は鶴、未子の僕 金糸雀

 

 

名前にちなんで飛べたら良いけど、そんな事はないのが少し残念

 

 

「気付いたかしら? 貴女のパーソナルマークよ、勿論 金糸雀モチーフ。鷹樹さんも鷹モチーフのパーソナルマークを配信アカウントで使っているから、参考にさせて貰ったわ、まぁなんというか・・・入学祝い代わりよ」

 

 

「ありがとうございます紗夜さん、とっても嬉しいです」

 

 

僕は感極まり紗夜を抱きしめて感謝を表す、今まで彼女からは抱きしめられてきたから嫌がられる事はない筈なので、遠慮なく全身を使い全力で抱きしめる

 

 

「そんなに嬉しかったの? 」

 

 

「はい、とっても」

 

 

「そう・・・それなら良かったわ」

 

 

突然の抱擁に最初は戸惑っていた紗夜だが、すぐに微笑み僕の頭を撫でる、その手は温かく優しさを感じる

 

 

我が兄達の内1人でも姉が居たら良かったのに と少しだけ思う、なんなら紗夜が姉になって欲しいまである、まぁ無理だけども

 

 

全身を使い全力で感謝をたっぷりと表し抱擁を止め身体を離すと、羨まし気な篁が見えたので、デスクに座る彼女の元へ歩み寄り

 

 

「篁さんが設定とか色々な雑務してくれたんですよね? ありがとうございます」

 

 

「カナリアちゃん?! 塩対応だったのに、急にデレる!」

 

 

流石に紗夜の様に抱擁するのは少し怖いので彼女の頭を撫でると、なんか凄い喜んでくれた? 多分喜んでる、うん

 

 

20秒程して撫でる手を離して

 

 

「これからお世話になります、篁さん」

 

 

「任せてカナリアちゃん! お姉さん、カナリアちゃんの為なら何でもしちゃうから!!」

 

 

「常識の範囲内で大丈夫ですから、落ち着いて下さい」

 

 

「そうよ渚、カナリアちゃんが怖がっちゃうじゃないの」

 

 

大興奮の篁をたしなめると紗夜が僕を抱きしめ庇う様に自身の身を前に出して言う

 

僕は、その程度では怖がらないですよ、紗夜さん? と言いたいが空気を読んで黙っておく、それに紗夜の抱擁は心地よいのである

 

 

「さて仕事の話をしましょうか」

 

 

「はい、お嬢」

 

 

紗夜の一言でスイッチが切り替わった篁がキリッとなる、黙っていれば美人だな本当

 

 

「カナリアちゃん、この後の予定は?」

 

 

「教科書他、高校生活で必要な物資調達に行く予定でした」

 

 

「そう、なら渚に手配させるから、少し時間をもらえる?」

 

 

「え? 構いませんが・・・」

 

 

紗夜の言葉に了承の意を伝える、先の『時間をもらえる?』は調達する時間を、と言う意味ではなく、僕の時間を彼女に差し出すと言う意味の方だろう

 

 

何をさせられるのだろうか?

 

 

「宣材写真と自己紹介動画の撮影をしてしまいましょう」

 

 

「撮影、ですか」

 

 

こう、いまいちピンと来ないが、紗夜の指示に従っておけば多分大丈夫だろう

 

 

 

何せ僕は本当に何も分からないのだから

 

 

「渚?」

 

 

「撮影部屋に準備してあります」

 

 

「ご苦労様、それじゃ行きましょう?」

 

 

「え? あ、はい」

 

 

デスクの並ぶエリアを抜け、紗夜の私室が有るエリアに続く扉とは反対側に位置する扉を抜け、撮影部屋とネームプレートがついた部屋へ入る

 

 

室内は一面グリーンバックのクロマキーの壁紙で、撮影用のカメラが既にセットされていて

 

 

「まずは宣材写真からね、聖女フォームになって?」

 

 

「分かりました」

 

 

前回同様、ローレライに魔力を流し展開して聖女フォームへ着替えフロッティを緩く持つ

 

 

さて、どんな写真になるやら

 

 

 



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29. 初めての配信

 

 

高校生になって初の週末土曜日、僕は既に聖女フォームでダンジョン第1層 森林域で撮影ドローン数機に囲まれ、鷹樹に見守られる中 初ライブ配信の準備をしている、主に僕の精神を落ち着ける方向で

 

 

幾らマスコット扱いに慣れているとはいえ、顔も分からない不特定多数の視聴者が居る状態は初めてで、柄にもなく緊張している訳だ

 

 

大丈夫、ベテランの鷹樹がいるし紗夜や篁もサポートに徹してくれている、だから大丈夫

 

 

「カナリア、配信者の先輩として言うが、別に失敗しても大丈夫だ。流石に放送禁止系の事故はダメだが、全力で取り組んだ結果の失敗だと逆にバズる要素になったりするからな」

 

 

「・・・それって安心させる気ある?」

 

 

「ない、でも視聴者を意識し過ぎて緊張してガチガチよりは、意識しない方が良いぞ」

 

 

「そうかな? そうかも」

 

 

『それじゃカナリアちゃん、まもなく時間だから真正面の1号を見てね〜』

 

 

「了解です篁さん」

 

 

事務所から3台の撮影ドローンを操作している篁からの通信に返事をする、今日のライブ配信でする事は そう複雑ではない、自己紹介して質問に答えるだけ

 

 

SNSで事前に自己紹介動画をアップして、質問募集をしているし、リアルタイムに篁と紗夜が質問の精査をして、ドローン1号により空間投影されたウィンドウに表示してくれる事になっている

 

ライブ配信を見てる視聴者のコメントも質問用のウィンドウの横に表示される予定だが、視聴者が居なければ意味は無いから、まぁひとまずは気にしないで良いかもしれない?

 

 

『ライブ配信開始5秒前・・・4・・・3・・・2・・・1』

 

 

「ごきげんよう、視聴者の皆さん。僕のライブ配信に来ていただき感謝します」

 

 

【始まった】

【始まったぞ】

【僕っ娘だぞ】

【男の娘かも知れんぞ】

 

篁の声を聞きながら手汗がヤバい事を自覚しつつ、ドローン1号を真っ直ぐ見つめ言葉を発すると、コメントが流れてくる

 

僕の予想に反して視聴者が多いみたいで、コメントが流れるスピードが速い、読みきれないんだけど

 

 

「えっえーっと・・・初ライブ配信で慣れてなくてコメントが読めてないかも知れません、すみません」

 

 

【素直だヨシ】

【りょ】

【俺達は訓練されてるから大丈夫】

【がんばえー】

 

 

コメントが読めない事に罪悪感を抱いたので謝ると、なんとも温かい反応が返ってきていて、なんか嬉しい

 

「改めまして、僕の名前はカナリアと言います。ステラ・アークに所属しています、画角の外にはヘルプ要員の鷹樹さんがいらっしゃいますが、緊急時以外は介入はしないそうなので、気にしないで下さい」

 

 

【ソロ配信は危険だもんな】

【カナタソを守ってくれ鷹樹】

【そういや鷹樹が入ったのステラ・アークだったな】

【がんばえー】

 

 

読める範囲でコメントを読むと、鷹樹がいる事にクレームはない様だ、思ったより民度が高い、よかった

 

あとなんか『がんばえー』しかコメントしてない人が居る気がするんだけど、気のせいかな?

 

 

「今日は初ライブ配信と言う事で、事前に募集していた質問箱に寄せられた質問に答えて行きたいと思います」

 

 

【俺のが読まれます様に】

【きっと俺だ】

【がんばえー】

 

 

流れるコメントを横目に質問ウィンドウを注視し質問を読む

 

 

「『男の娘ですか?』・・・あの、よりにもよって最初の質問にこれを選んだのは何故ですかね? スタッフ」

 

 

【スタッフ良い性格してて草】

【カナタソの冷ややかな目だ】

【カナリアちゃんのお仕置きか?】

【なんでそれ選んだスタッフw】

 

 

ドローン数台を同時に操作しながら質問を精査しているであろう篁をドローン1号越しに怒りを告げると、なんかコメントが盛り上がる、訳が分からないよ

 

 

「質問に答えるなら僕は正真正銘の女の子ですよ、胸が平たい族のね?」

 

 

【ワンチャン無かったか】

【自虐ネタを使ってきたぞ、やりおる】

【今日からカナリアちゃんのファンになります】

 

 

渾身の自虐ネタを披露すると視聴者にウケた様で盛り上がる、良かった良かった

 

とりあえず後で篁は叩こう、うん

 

 



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30. 初めての配信 2

 

 

鉄板の自虐ネタを披露しコメントが盛り上がるのを見守りつつ表示された次の質問を読む

 

 

「『日本語が上手ですね、出身国を教えて下さい』ですか? これに類似する質問が多数寄せられているみたいですね、僕は生まれも育ちも日本の日本人ですよ? 母はベルカ人ですけどね」

 

 

【その見た目で日本人は驚く】

【そりゃ日本語マスターしてて当たり前か】

【カナリアちゃんはマッマ似なのかな?】

【まさか、マッマも平たい族?】

 

 

やっぱり日本人離れしている容姿にコメントがざわめく、割とたまにある事だから慣れた事だけど、道すがら人に尋ねたら慌てられるんだよね、それて拙い共通語とかで話されたりするヤツ、僕は普通に日本語で質問してたんだけどね? うん

 

 

「母は平たい族ではないですよ、そりゃぁもうバインバインです」

 

 

「おーい、あんま語るなー」

 

 

「おっと、失礼」

 

 

【鷹樹がちゃんと先輩してる】

【流石は先輩、偉い】

【初配信で先輩に注意されてるの草】

【鷹樹先輩チース】

 

 

木に背中を預けて立っている鷹樹による注意を聞きこれ以上深掘りするのをやめて次の質問を読む

 

 

「『聖女服を着ていますね、何処かの聖女ですか?』僕は何処の宗教にも所属していませんので聖女ではないです、この服は魔武器なんです」

 

 

【魔武器?】

【なんぞ?】

【魔武器って日本じゃ見かけないんだが】

【全身写してくれるの助かる】

【おい、この子ショットガン しょってるぞ?!】

 

 

コメントの内容から篁がドローン2号を操作し、僕の全身を周りながら写した事を察し、ついでにフロッティの事も紹介しておく事にする

 

 

「聖女服と、このトレンチガンが僕の魔武器です。確か魔武器生成の動画が出てる筈なので、詳しくはそちらを是非ご覧ください」

 

 

【マジか、後で見よ】

【魔武器かカッケー】

【小柄な子が武器持ってるの良いな】

【分かる】

 

 

よしよし中々順調に初ライブ配信は進んでいる様だな、うん

 

 

「『特技はありますか?』特技ですか? うーん・・・投石でしょうか? おや?」

 

 

【投石?】

【この見た目で特技投石とは如何に】

【大人しい見た目してるのに特技投石、推せる】

 

 

流れるコメントを横目に目を凝らし数十m先にミドルボアが居るのを見つけ、鷹樹に目配せすると、好きにしろ とジェスチャーで示されたので、謎の力で背中に張り付く? フロッティを背負いアイテムバッグから投石紐を取り出して、聖水瓶をセットし回転させながらドローン1号に合図し、篁へミドルボアの存在を示し、全力で聖水瓶を射出しミドルボアにクリティカルさせる

 

 

「と、言う感じで投石が得意です。あ、向かってきますね」

 

【当てられるの凄いけど、棒立ちが過ぎる】

【カナリアちゃん、もっと焦って】

【逃げて〜】

【鷹樹先輩仕事だぞ〜】

 

 

特技を披露し此方へ爆走してくるミドルボアを余裕の棒立ちで眺めていると、僕の心配をするコメントが流れる、優しい人ばかりだなぁ嬉しい

 

 

そんな事を思っていると、例の如くミドルボアは情けない悲鳴をあげ死に生肉がドロップする

 

[経験値を獲得しました]

 

 

【なん・・・だと・・・】

【ミドルボアが死んだ?!】

【なんで?】

【カナリアちゃんの仕業か?】

 

 

アイテムバッグからジップロックを取り出し生肉を回収しキチンと封をしてから仕舞い

 

「実はダンジョンモンスター特効のスキルを持っているんですよ、僕」

 

 

【マジか】

【うらやま】

【少しドヤ顔なのかわよ】

【ドヤ顔かわよ】

【かわよ】

 

 

あまり保有スキルを開示しない様に言われていて、開示の範囲も指示されていて、これぐらいなら大丈夫な範囲だったりする

 

視聴者の目には白い塊が飛んでいった様にしか見えないだろうしね?

 

そういえばミドルボアの煮込み美味しかったな、今入手した肉で煮込みを作ろうかな? うん、そうしよう

 

せっかくだから紗夜にもお裾分けしよう

 

 



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31. とある板での反応

 

 

【新人ダンジョン配信者を語る板 No.**】

 

 

 

55: 名無しの発掘人

 

 

やっぱ若いと勢い有るよな

 

 

56:名無しの発掘人

 

 

それな

 

 

57:名無しの発掘人

 

 

おまはん等、すっごい子を見つけたぜよ

 

 

58:名無しの発掘人

 

 

なんでエセ薩摩藩士なんだw

 

 

59:名無しの発掘人

 

>>58 すまん、特に意味はない

 

 

そんな事より、URLを見てくれ。絶対損はさせない

 

[URL]

 

 

 

60:名無しの発掘人

 

なんか必死で草

 

 

65:名無しの発掘人

 

 

心してみてくれ、飛ぶぞ

 

 

70:名無しの発掘人

 

 

これは!! めちゃくちゃ美少女じゃねーか!

 

 

72:名無しの発掘人

 

 

おいおい、死んだわ(俺が)

 

 

 

74:名無しの発掘人

 

 

待て、待つんだ、まだ少女と決まったわけではない!

 

男の娘の可能性もある!!

 

 

76:名無しの発掘人

 

 

くっ・・・否定できねぇ、何処がとは言わないが平たい故に

 

 

77:名無しの発掘人

 

 

おまはん等は、すぐ胸の話をするよな?

 

ちなみにワイは貧乳好きやで

 

 

 

78:名無しの発掘人

 

 

止めないんかーいw

 

 

79:名無しの発掘人

 

 

聖女風の衣装を着てる男の娘、良くない?

 

 

80:名無しの発掘人

 

同志よ

 

 

81:名無しの発掘人

 

 

それは推すしかないな、間違いない

 

女の子でも推すけど

 

 

82:名無しの発掘人

 

 

やっぱりワイ等は節操ないのうw

 

 

83:名無しの発掘人

 

 

いつから俺達に節操があると錯覚していた?

 

 

85:名無しの発掘人

 

 

草草の草

 

 

 

 

 

【新人ダンジョン配信者 カナリアたそ を観察する会 No.1】

 

 

1:カナタソを見守り隊

 

 

よう相棒、まだ生きてるか?

 

 

2:カナタソを見守り隊

 

 

さっき生き返ってきたわ

 

 

3:カナタソを見守り隊

 

 

週末で良かった、配信見れるわ

 

 

4:カナタソを見守り隊

 

 

ふっ、自宅警備員の俺には死角がないぜ

 

 

5:カナタソを見守り隊

 

>>4 働けw

 

 

6:カナタソを見守り隊

 

自己紹介動画を見つけてから全裸で待機してたら、風邪ひいて今日仕事だったのに休んでるワイにも死角はないで

 

 

7:カナタソを見守り隊

 

 

>>6 寝てろよw

 

 

8:カナタソを見守り隊

 

強者いて草

 

 

11:カナタソを見守り隊

 

俺、この配信が終わったらバイトに行くんだ

 

 

12:カナタソを見守り隊

 

なんか死にそうにないなぁ、それw

 

 

 

50:カナタソを見守り隊

 

お、始まった

 

 

51:カナタソを見守り隊

 

カナタソ緊張しててかわいいな

 

 

52:カナタソを見守り隊

 

分かる、これは推さねば

 

 

53:カナタソを見守り隊

 

カナタソかわよ

 

 

54:カナタソを見守り隊

 

鷹樹がサポート要員でスタンバッテるの告知するの偉い

 

 

55:カナタソを見守り隊

 

後方保護者の鷹樹、相変わらず良い筋肉です

 

 

64:カナタソを見守り隊

 

板の住人が配信に集中して進みが悪いの草

 

まぁワイも配信ガン見してるけども

 

 

65:カナタソを見守り隊

 

こんだけの美少女(仮)やぞ、目が奪われるのは仕方ないわ

 

 

67:カナタソを見守り隊

 

せやな

 

 

70:カナタソを見守り隊

 

 

ステラ・アークのスタッフは何を考えてるんだよw

 

よりにもよって最初の質問が『男の娘ですか?』は流石にw

 

 

71:カナタソを見守り隊

 

スタッフ良い性格してるなw

 

 

73:カナタソを見守り隊

 

多分カメラ越しにスタッフ睨んでる? っぽいけど、かわいい

 

 

74:カナタソを見守り隊

 

 

ワイ、カナタソに冷ややかな目で踏みつけて欲しい

 

 

75:カナタソを見守り隊

 

>>74 唐突に性癖暴露するのは辞めてもろて

 

 

120:カナタソを見守り隊

 

 

特技が投石とは如何に?

 

カナタソ見るからに軽量やが?

 

 

121:カナタソを見守り隊

 

 

あれかな、魔力持ちは身体強化なるバフが使えるってヤツ

 

 

122:カナタソを見守り隊

 

 

あーアレな、競技会では使用禁止になってるやつ

 

 

130:カナタソを見守り隊

 

 

いや、何が起こったん?

 

 

131:カナタソを見守り隊

 

 

カナタソが紐みたいのに石?を載せて紐をブン回して石をイノシシにヒットさせて棒立ちしてたら、イノシシが死んだ

 

俺は何を言ってるんだ?

 

 

132:カナタソを見守り隊

 

>>131 俺等が聞きたいが、全て事実だ

 

 

 

133:カナタソを見守り隊

 

 

聖女のコスプレした美少女、これは推す一択だわな

 

 

134:カナタソを見守り隊

 

 

せやな、布教せんとな

 

 

 

 

 





掲示板の錬成、難しい


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32. 完走の会

 

 

 

なんとか初ライブ配信を終えた僕は、事務所のミーティング区間に僕を含めたステラ・アーク従業員4名全て・・・いや鷹樹チームのメンバーも居るのか、とりあえず創設メンバー4人が顔を突き合わせている

 

 

「まずは初ライブ配信完走お疲れ様、カナリアちゃん」

 

 

「ありがとうございます、紗夜さん」

 

 

そう良い優しく微笑む紗夜に、僕も微笑み返すと彼女の隣に座る篁にも被弾した様で微振動して息が荒くする、ちなみに鷹樹は慣れているのでシラフで僕の頭を撫でている、いつもの事だ

 

 

「少し喋り過ぎそうな危うい場面も有ったが、初ライブ配信という事を加味すれば合格だと、俺は思う」

 

 

「ありがとう鷹ちゃん」

 

 

「そうね、その辺りは次からの課題としましょう。それに私も充分に成功した、と思っているわ・・・渚」

 

 

「はい、お嬢。 ライブ配信終了から約1時間程度であるものの、我々の想定を超えるスピードで拡散されています。主流掲示板でも概ね好評ですね」

 

 

 

鷹樹の評価を聞き お礼を言うと紗夜も評価を言い成功判定をし、相変わらずスイッチが入ると出来る女へ進化する篁がタブレットPCを操作して、僕達へと説明する

 

 

「SNS 及び 配信サイトにアップした自己紹介動画と魔武器生成動画、ライブ配信アーカイブの再生数が急速に伸びている事も確認されています、グラフは此方」

 

 

「なんだこりゃ・・・」

 

 

篁がタブレットPCを机の上に置き、僕達に再生数グラフを見せてくれ、鷹樹がグラフを見て引き気味で呟く

 

それも仕方ない、こんな伸び方するなんて予想していなかったのだから

 

 

「さっきも言ったけれど、ライブ配信は大成功と言って差し支えないわ。この先の展開も私と渚、鷹樹さんで相談しておくから安心してちょうだい、カナリアちゃん」

 

 

「そうですね、信じて従います。紗夜さん」

 

 

「ま、つってもダンジョンでやる事なんて皆んなやってるから、この先ずっと順調かは分からないけどな?」

 

 

「そうね、カナリアちゃんの可愛さだけではリスナーを繋ぎ止め続ける事は出来ない可能性も充分あるわ、キチンと理解しているわよ?」

 

 

「なら良いけどよ」

 

 

常々感じている事だけど、紗夜は本当に高校生か? と思う。実は僕の様な転生者の可能性もあるかも知れない

 

そう思ってしまう程、紗夜は堂々と歳上だろうと接し対等に会話をしている、身体に精神が引っ張られて精神年齢が低い僕とは大違いだ

 

 

「ひとまずは予定通りに、ダンジョン探索者初心者講座の撮影をして動画を出して行きましょう」

 

 

「鷹ちゃんを先生役に、僕が生徒として探索者として必要な事を学んで行きながらダンジョン1層を攻略するヤツですね」

 

 

「えぇ、意外と探索者としての知識は暗黙の了解みたいな所があるし、渚に探して貰ったけれど日本においては解説や初心者向けの動画は無かったわ」

 

 

 

そう、日本とオーシア・ベルカ・リューネではダンジョンへの認識に若干の差が存在する

 

ダンジョンは貴重な資源回収の場である、この事は全国共通なのだが ダンジョンの特異性故に、日本においてはエンタメの要素が強く、先の3国では若者 主に学生の鍛錬の場であると言う要素が強い

 

だから先の3国では初心者・・・剣を握って間もない者向けの基本的な構えや剣の握り方などの動画が充実していたりする

 

 

日本人も大概 戦闘民族の末裔ではあるが、現在進行形の戦闘民族には流石に敵わないし、そもそも日本人の探索者が少ないのだ、なくて当たり前といえば当たり前だろう

 

 

「基本戦闘の色々はギルドのサポートに丸投げするとして、基本的な心構えと最低限の索敵の仕方ぐらいは動画にしておきたいわね」

 

 

「確かに、索敵とかって習ってないですしね」

 

 

「これを機に新人が増えると良いな、探索者は幾ら居ても困らないしな」

 

 

そんな具合で、僕達は初回ライブ配信を成功させ、企画会議を進める

 

 

これは結構楽しいかも知れない、うん悪くない気分だ

 

 



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33. 初心者講座・座学編(撮影)

 

 

初回ライブ配信をしてから1週間後、僕は聖女フォームで撮影部屋に置かれたホワイトボードの前に置かれた机に座っている

 

「準備完了、カメラ回しますよ? 先輩」

 

 

「了解、それじゃ始めるぞ」

 

 

「分かった」

 

 

相変わらず仕事が早い篁の言葉を聴き、僕は住まいを正してホワイトボードを見る

 

 

「ステラ・アーク所属、講師役の鷹樹と」

 

 

「同じくステラ・アーク所属、生徒のカナリアです」

 

 

「今回から何本かに分けて初心者講座をしていくから、是非見てくれ」

 

 

「よろしくお願いします」

 

鷹樹の言葉に合わせて僕も挨拶をする、先導役が居ると楽だなぁ

 

 

「それでは早速始めていく訳だが、今回は初回と言う事で基本的な事から始めて行こうと思う、ほい」

 

 

如何にも示し棒と言う棒で軽くホワイトボードを2回叩くと、ホログラムでダンジョンの説明が表示される

 

「基本中の基本から、ダンジョンは約25年前に起こった大災害 統合騒乱の後遺症で発生している次元震災害の1種だ」

 

 

鷹樹は手元の冊子をチラ見しながら澱み無く説明を続ける、結構 先生としての才能があるんじゃないか?

 

 

「ダンジョンは最奥のダンジョンボスを討伐する事で消滅するが、楔に近ければ近いほど深く階層が連なっている、故に常設と化してるダンジョンが存在している、俺が普段潜っている若宮ダンジョンがソレになっている。そんな常設ダンジョンは日本国内だけでも約50ヶ所、突発性ダンジョンを含めると100を超える、と言うのがギルドからの公式発表だ」

 

 

「はぇー・・・100越えてるんだ、知らなかった」

 

 

「まぁぶっちゃけると、人口密集地とか人が住んでる地域以外のダンジョン踏破は後回しになりがちだな、日本では探索者の数も充分とは言えないし、何よりダンジョン発生した場所の立地が悪い確率が高い」

 

 

「それはつまり?」

 

 

「単純にダンジョンまでの道のりがキツいって事だ、本当に道なき道とかな?」

 

 

「ひぇぇ・・・」

 

 

 

ダンジョン災害は主に遭難者と発生により土地の使用が出来なくなる事が被害状況である、逆に言うと遭難者がおらず急いで土地の奪還をする必要が無ければ無理にダンジョン踏破を行う必要が無い、と言う訳だ

 

 

今の所、ダンジョンが成長し範囲が拡大した と言う情報は知らないので、尚更だろう、多分

 

 

それにダンジョン内でないとアバターへのコンバートも無いし、ログアウトも使えない、獣道を歩き疲弊して わざわざ見入りが不透明なダンジョンへは正直、僕は行きたくない

 

そんなダンジョンよりは、常設ダンジョンへ足が向くのは必然な訳だ、うん

 

 

 

「ダンジョンは災害であると同時に貴重な資源回収の場であり、その各種資源を回収するのが、探索者と呼ばれる 俺達だ。探索者になる為には基準値の魔力を有している必要がある」

 

 

「先生、なんで基準値が設定されているんですか?」

 

 

「その理由は、アバターを生成するのに必要だからだ」

 

 

「そうだったのか、知らなかった」

 

 

本当に知らない事だったので、素直に納得すると

 

 

「正しくは、ログアウト機能を使う際にアバターを構成する魔力を使うから、その分だな、いわゆる安全対策って奴だ」

 

 

「それも知らなかった」

 

 

「割と探索者でも知らない人がいるかもな、かくいう俺も講師役するって事で予習して知ったぐらいだったし」

 

 

そう言うと鷹樹は肩を竦めて言う、その予習用の資料を作ったのは篁だろうから、本当仕事は出来るな篁

 

 

「次はリスポーンについて、各ギルドにはダンジョンへの転移門があり、その隣の広間にリスポーンの魔法陣が設置されている、ログアウトを使用した際にもリスポーン地点に送られる訳だが、たまに体質で合わない人が居て酔って吐く事も珍しくない」

 

 

死に戻りした時は覚悟しておこう、流石にライブ中に嘔吐してるのは見せられないしね、うん

 

 

「キリも良いし、第1回はここまで。次回も是非見てくれ」

 

 

「宜しければ、チャンネル登録と高評価をお願いします」

 

 

「一旦カメラ止めまーす」

 

鷹樹の締めの挨拶に続き、打ち合わせ通りに僕も言うと篁がカメラを止め、少し休憩になったので、一息つく

 

 

いやぁ意外と知らない事あったなぁ

 

 

 



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34. 初心者講座・座学編(撮影) 2

 

 

15分程の休憩時間を取った後、初心者講座2本目の撮影が始まる

 

 

「ステラ・アーク所属 鷹樹と」

 

「同じくステラ・アーク所属 カナリアです」

 

 

「前回に引き続き、俺が講師役として進めていく、前回の座学編第1弾を視聴してない人は、是非見てくれ」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

やっぱり先導役が居ると楽だなぁ、進行の色々もしてくれるし

 

 

「今回も前回に引き続き座学枠と言う事で、早速始めていこうと思う」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

前回同様、鷹樹が示し棒でホワイトボードを軽く2回叩くと、今回の内容がホログラムで表示される

 

 

「俺達 探索者にとって それなりに重要な要素、クラスについてだ。クラスとは探索者の適性により付与 又は 獲得出来るモノだ」

 

 

「ダンジョンに入らないとダメなんですか?」

 

 

「そんな事は無い、先天性・・・産まれた時点でクラスを保有している人もいる、ベルカ人やリューネ人の人達は大多数が魔法使いのクラスを先天的に保持している、と言われている」

 

 

「なるほど」

 

僕の質問に答え鷹樹が軽くホワイトボードを叩くと、クラス獲得の流れに表示が切り替わり

 

 

「クラス獲得の仕方は大きく分けて2つ、①先天性の才能により獲得する、②学んで獲得する、だ」

 

 

「その他に取得方法は無いんですか?」

 

 

「有る、が・・・任命されないと発現しないクラスがあるから今回は除外している、例えば近衞騎士とか教会騎士とかだけど、取得条件の詳細は俺も知らないからな」

 

 

「分かりました」

 

 

フワッと聞いた事有るかなぁ? ぐらいのクラス名を聞き、僕もさっぱり取得条件が分からないので、深く追求はしないでおく

 

 

「さてクラス獲得方法を分かりやすく簡単に言うと、ギルドに来て戦闘教官に教導して貰うのが1番早いし、確実だ」

 

 

「そう言えば、僕もやって貰ったっけ」

 

 

「受付でお願いすれば、あとの手続きもマンツーマンで対応してくれるしオススメだ、是非活用してくれ」

 

 

ギルドとしても探索者が増えれば収入が増えるし、探索者もギルドもWin-Winの関係な訳だ

 

 

それはそれとしても、探索者が増えると競合が増えてしまうと思うのだけど、初心者講座で解説してるんだろう?

 

あとで聞いてみよう

 

 

「クラスには上位のエクストラクラスと言うのが存在するが、分かっている事は少ない、有名な所で言うと聖女や勇者などのクラスがエクストラクラスに該当する」

 

 

「確か・・・取得条件が分かってないんだったっけ?」

 

 

「その通り・・・と言いたい所だが、先の聖女と勇者に関してのみ取得条件が分かっている、神から任命された者 及び 勇者 又は 聖女として召喚された者、だ」

 

 

「なるほど?」

 

 

鷹樹の説明を聞き思ったのは、両方 自分の努力云々では取得出来ない類いのクラスだと言う事だ

 

 

神に努力が認められて取得する、と言う事は有るかも知れないけど、神に任命して貰わないと獲得できない訳だし

 

召喚にしても、召喚者が望むか否かで決まるので、結構運任せな感じがする

 

 

まぁクラスが勇者だからって、その人が勇者足り得るかは別問題だしね、うん

 

 

 

「先2つ以外のエクストラクラスの存在も確認されてはいるが、正直よくわかっていない。理由は単純に保持者が少ないのと、秘匿しているからだ」

 

 

「先生、少ないのは理解出来ますが、なぜ秘匿するんですか?」

 

 

「それは人間は汚い生き物だからだ、希少なエクストラクラスを保持している事は探索者としては大きなアドバンテージになると同時にデメリットになり得る、言い方は悪いが弱みを握って言いなりにしようとする奴が居ないとは言えないからな」

 

 

「・・・なるほど、理解しました」

 

 

世の中は綺麗事だけで出来ていない、その事実を再認識して僕は何も言えなくなる

 

 

僕が聖女を保持している事を公言するな、と言われている理由も しっかりと理解した

 

 

「それでは今回はここまで、是非次回も見てくれ」

 

 

「宜しければチャンネル登録と高評価 をお願いします」

 

 

前回同様、鷹樹の締めの挨拶に続き言葉を紡ぐ

 

 

少し疲れたなぁ

 

 



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35. 初心者講座 間話 昼食

 

 

 

 

篁の昼食の号令を聞き僕達はミーティングエリアに行き、適当な席に座って篁が手配したであろう仕出し弁当の蓋を開ける、うん凄い豪華だ

 

 

僕も、それなりに裕福な家の子なつもりだったけど、想像を超える仕出し弁当が目の前に有って、やっぱり紗夜はお嬢様なんだなぁ と実感する

 

 

「カナリアちゃんって左利きなんだね?」

 

 

「あ、ありがとうございます。そうですね、絶妙に不便な事がたまにあります」

 

 

保温容器から入れたコンソメスープの入った器を篁から受け取ると、彼女が そんな事をいうので、鉄板の自虐ネタを披露しつつ仕出し弁当に手をつける、美味い

 

ちなみに紗夜は社外の用事で出掛けているので不在だ

 

「不便な事かぁ・・・例えば?」

 

 

「普段電車は使わないのでアレですが、駅の改札とか右利き仕様で少し面倒ですね」

 

 

「なるほどなるほど」

 

 

僕達の対面に座り仕出し弁当を食べ始めた篁が、僕の説明に相槌を打つ

 

 

そんな他愛ない話をする雰囲気になったのを感じたので、先程疑問に思った事を尋ねてみる事にした

 

 

「初心者講座は視聴者としては需要有ると思うけれど、探索者が増えたら競合が増えるんじゃ?」

 

 

「まぁ競合は増えるけど、俺等だけで経済を回せる程の利益は生み出せないから、だな」

 

 

「そもそも日本じゃ探索者人口も少ないしから需要と供給のバランスが微妙ってのが現状だし、お嬢としても探索者が増えた方が仕事しやすいんだってさ」

 

 

やはり大人の考えは中々に深い、おかしいな精神年齢は僕の方が高い筈だけど、身勝手な考えになってしまっていた、反省

 

 

「探索者が増えれば需要が増え、供給も増え、雇用も増える。日本と言う国全体で見ればメリットが多いのさ」

 

 

「お、良い事言いますね先輩、今度から私も使わせてもらいますね」

 

 

「茶化すなよ後輩、実際の所 綺麗事でも無いしな」

 

 

「日本における探索者の人材不足ですね? 」

 

 

「あぁ・・・」

 

 

おやおや? 成人組2名が難しい顔をし始めたぞ? なんでだ?

 

 

「ま、俺等に出来る事をして、脳味噌使う系は お前と紗夜に任せるわ」

 

 

「鷹先輩、やっぱ脳筋っすね」

 

 

「筋肉は全てを解決するんだぞ? 知らないのか? 」

 

 

「いや知らないですよ、先輩」

 

 

相変わらず仕上がってる筋肉を魅せながら鷹樹がいつもの様に言うと、篁が呆れた様子で言う、ロリコンの気があるだけで感性は普通の様だ、良かった

 

 

「ほら、カナリアちゃんの表情を見てください、呆れてますよ?」

 

 

「気にするな、いつもの事だ」

 

 

「・・・おいおい」

 

 

篁は鷹樹に対して遠慮がないぐらいには仲が良いな、本当ロリコンの気が無ければ仕事が出来る美女なんだけどな、惜しい

 

僕としても彼女の働きぶりには尊敬の念を抱いているのは事実である、公私もキチンと分けるし・・・アレ? あんま邪険にしなくても良い気がしてきたな

 

 

仕事はキチンと完璧にこなしているし・・・よし、もう少し優しくしてあげよう、うん

 

 

篁と仲良くしておく事は良い事だ、この先ステラ・アークに所属している間は彼女のお世話になる訳だし

 

 

「篁さん、午後からは第1層で実技の撮影をするんですよね?」

 

 

「そそ、基本的には鷹先輩が先導してモンスターを排除しつつ1層を攻略するって流れだね、まぁあくまでも説明がメインだから必ずしも攻略する必要は無いけどね」

 

 

「分かりました、ドローンのバッテリーって何時間対応ですか?」

 

 

「えーっと確かカタログスペックでは8時間だけど、私の予想は良いところ5時間かな?」

 

 

「5時間、か・・・分かりました」

 

 

5時間あれば初心者講座・実技編の撮影には事足りる筈だ、多分

 

 

「機材の情報を知っておくのは良い心掛けだな」

 

 

「やめて、揺らさないで、ご飯食べたばかりで吐くよ」

 

 

「すまんすまん」

 

 

いつものチカラ加減で僕を撫でた鷹樹にクレームをつけるが、反省の色は見えない・・・本当に吐いて吐瀉物浴びせかけてやろうかな、この長男

 

 

 

 

 

 

 



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36. 初心者講座・実践編(撮影)

 

 

 

昼食を食べお腹を落ち着けた後の昼下がり? 僕は鷹樹と共に若宮ダンジョン1層の入り口付近に居る

 

 

『通信感度良好、映像 及び 音声受信問題無し・・・先輩、始めて良いっすよ』

 

 

「了解、始めるぞ? カナリア」

 

 

「分かった」

 

座学編の時から ずっと聖女フォームでローレライは展開済みなので、フロッティを待機状態を解除して背中に納刀して、鷹樹に返事をし僕担当のカメラドローン2号を見据える

 

 

「動画を視聴してくれたみんな、ありがとう。ステラ・アーク所属 鷹樹と」

 

 

「同じく ステラ・アーク所属、カナリアです」

 

 

開始の口上も3回目となれば慣れてきてスムーズに鷹樹の口上に続く事が出来た、人間って意外と成長が早いなぁ

 

 

「初回と前回で座学編、今回から実践編をやっていく、引き継ぎ俺が先生役、カナリアが生徒役で進めて行くから そのつもりでいてくれ」

 

 

「今回もよろしくお願いします」

 

 

鷹樹の言葉に軽く頭を下げて言い、鷹樹の進行に従う

 

 

「前回の座学編で話したクラス関連を引き続き説明して行こうと思う、クラスには高確率でクラススキルという技能が付与される」

 

 

「高確率なんですか?」

 

 

「あぁ高確率だ、例えばクラス戦士を獲得していても、得意とするスタイルで取得できるスキルが違ってくる、一撃必殺が得意な奴が居れば、カウンターが得意な奴もいる、その個性に左右される訳だ」

 

 

「なるほど」

 

 

確かに個々の個性で多様性がある、剣の使い方だってそうだ

 

 

手足の長さや身長体重の差、それが有る以上は同じ型は存在しても、全く同じ剣技は存在しない

 

 

「それに個々によって取得出来るクラスもマチマチだからな、スキル構成も千差万別だな」

 

 

「参考までに、先生のスキル構成はなんですか?」

 

 

「今まで散々晒してきてるしな、参考程度にしてくれよ? 俺が保持してるクラスは斥候(スカウト)戦士(ウォーリア)狩人(ハンター)の3つで、気配感知・気配隠蔽・近接能力向上 等のクラススキルを習得している、本当はもうちょいスキル有るけど全部説明するとキリが無いから省略する」

 

 

「なるほど、ありがとうございます」

 

 

「てな訳で、ここから先は実際にスキルを使用して見せる事にする」

 

 

そう鷹樹は言い、先導を始める

 

 

鷹樹の気配感知は正直 僕も欲しい、何せ有視界戦は体格的にも不利だし、先に敵を見つける事が出来れば、奇襲も出来るし罠も設置出来るかも知れないし

 

 

うん、是非とも欲しいな、索敵スキル

 

 

「斥候は本当オススメのクラスだから、積極的に取得を目指すと良い、確かカナリアは銃使いのクラスを持ってたよな?」

 

 

「はい、トレンチガンの教習をした時に」

 

 

「なら、斥候か狩人のクラス獲得が出来るかもな? 両方 索敵スキル獲得が期待出来るクラスだぞ?」

 

 

「そうなんですか?」

 

 

「あぁ」

 

 

エクストラクラススキルの実証実験の時と同様に獣道を進みながら、鷹樹の解説に耳を傾ける

 

 

初心者講座動画であると同時に僕への授業でも有るのだから、真剣に取り組むべきなのである

 

 

「お、11時方向 距離70mにスモール・ディアを確認」

 

 

「11時方向 距離70mにスモール・ディア、了解」

 

 

鷹樹が身を低くし、指を指す方向に頭突きが強そうな鹿を視認し僕も身を屈める

 

 

「実は俺の索敵スキルは、そこまで広い範囲を索敵出来ない。何年もレベル上げして、やっと最長100mを超えないぐらいだ」

 

 

「あの、その言い方だと もっと広範囲を索敵出来る人が居る様に聞こえるのですが?」

 

 

「トッププレイヤーにはゴロゴロいるぞ? 」

 

 

「えぇぇ・・・」

 

 

鷹樹の説明を聞き、これが鷹樹の謙遜なのか事実なのかが分からないので

 

 

「参考までに、先生の知る人で索敵範囲最長は?」

 

 

「約3000mだな、ちなみにその人はスナイパーだ」

 

 

「3000mって、もはや索敵範囲を超えてるんじゃ?」

 

 

「だよな〜」

 

 

凄すぎて言葉を失う僕に鷹樹はカラカラと笑う

 

 

うん、もう笑うしか無いね

 

 

 



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37. 初心者講座・実践編(撮影) 2

 

 

 

ひとしきり笑った鷹樹は改めてスモール・ディアを見据え

 

 

「それじゃぁ対モンスター戦の実演と行こう、あぁついでに魔武器を使用してみよう」

 

 

「了解・・・どっちが?」

 

 

「あー・・・俺から行くか」

 

 

低くしていた体勢を通常時に戻し自身の魔武器であるクレイモアを展開し握り、切先をスモール・ディアに向け

 

 

「来いよ、鹿野郎」

 

 

「急に口悪くなるじゃん」

 

 

「いや、これは挑発スキルの口上なんだが?」

 

 

「なるほど」

 

 

それまで僕達に見向きもしなかったスモール・ディアが殺意高めに此方へ爆速してくる、ラージ・ボアより速い

 

 

「ふぅ・・・はっ!!」

 

 

「おぉ、お見事」

 

 

「まぁ1層のモンスターなら、こんなもんだな」

 

 

スモール・ディアの頭突きを躱し伸び切った首を一刀両断し撃破して背中に納刀し鷹樹は言う

 

 

これは中々にカッコいいな、少し見直したぞ長男

 

 

手慣れた様にドロップ品を回収する鷹樹を横目に周りを見渡し視界による索敵をするが、モンスターの姿は見えない、残念

 

 

「とまぁ、魔武器の切れ味はこんなもんだな、俺の魔武器はクレイモア だがカナリアのは聖女服と銃剣付きトレンチガンだ」

 

 

「魔武器は担い手により千差万別の形状・能力を有します」

 

 

「魔武器が欲しいと思った、そこの探索者に朗報だ。ステラ・アークCEOがリューネ式魔武器契約魔法を若宮ギルドに寄付した、だから若宮ギルド所属の探索者は受付で申請してくれ、多分この動画が出てる頃には設置が終わってる筈だ」

 

 

「ある意味ガチャなので、何が出ても自己責任でお願いします」

 

 

オーシア・ベルカ・リューネでは一般常識な魔武器の存在をステラ・アークのみで保有する意味は低いため、紗夜は敢えて魔法陣を若宮ギルドへ寄付する事を決めて既に納品されている筈だ

 

 

魔武器は担い手により千差万別な形態を取る訳だが、それは盾であったり本である事もあるだろう、だから武器作成を生業にしている人達の需要が減る事もない

 

 

それに魔武器の展開を維持するには微量とはいえ魔力を消費するので、保有魔力量が少ない人は節約の為に魔武器を使用しない、という選択肢もある

 

 

「それじゃぁ、次の獲物を探すとしよう」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

再び鷹樹が先導を始め、僕は彼の後ろについていく

 

 

「索敵しながら軽く初心者にオススメの魔法を紹介するぜ」

 

 

「お願いします」

 

 

「まずは障壁術、シールドとかバリアと呼ばれる魔力で作成した盾の事だ。これを習得してるか否かで戦闘の勝敗を分ける場合がある」

 

 

「あれか、致命傷を防げる防げないの差」

 

 

「その通りだ・・・居たな、1時方向 距離70m ミドル・ボア」

 

 

「1時方向 距離70m ミドル・ボア、了解」

 

 

障壁術の説明を聞きいていると、ミドル・ボアを発見し鷹樹が指を指したので、フロッティを抜刀しフォアグリップを軽く引きチャンバーに装填されている事を目視で確認し適正位置に戻し、安全装置を解除し緩く構え鷹樹に無言で頷く

 

 

「よし、良いぞ?」

 

 

「了解」

 

 

鷹樹から少し離れてミドル・ボアへ照準を合わせ引き金を引くと散弾銃独特の発砲音が鳴り、鉛玉の代わりに詰められていた岩塩粒がミドル・ボアを貫き苦悶の声を上げる間もなく生肉と毛皮のドロップ品へ姿を変える

 

[経験値を獲得しました]

 

 

 

「ワンダウン、まずまずかな」

 

 

「いやぁ上手くなったもんだな」

 

 

「ミドル・ボアは的がデカいからね」

 

 

フォアグリップを操作しロードをしてショットシェルを装填しながら鷹樹へ答え、ドロップ品の回収へ向かい回収する

 

 

「毛皮をドロップするとは、ついてるな」

 

 

「珍しい?」

 

 

「まぁまぁか? 肉は確定ドロップだけどな」

 

 

「なるほど、この肉は煮込みにしよう」

 

 

「良いな、ミドル・ボアの煮込みは美味いからな」

 

 

僕の言葉に鷹樹はうんうんと頷き肯定しカメラドローン1号へ向き直り

 

 

「今回の動画はここまで」

 

 

「宜しければ、チャンネル登録・高評価をよろしくお願いします」

 

 

と動画の締めの挨拶をし一息つき

 

 

「よし、帰るか」

 

 

「ここからだと、2層入り口と出口、どっちが近い?」

 

 

「出口だな」

 

 

「じゃぁ、帰ろう」

 

 

例に漏れず鷹樹に先導してもらい帰路に着く、なんか疲れたなぁ

 

 

 



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38. 母 再来

 

 

 

撮影で進んだ道を引き返す道のりを疲れているとはいえ、兄におんぶしてもらう歳でも無い僕は頑張って帰路を歩き、事務所で一息ついていると篁に『チャンネル登録者数が規定を超えたから収益化したから〜』とマルチタスクする彼女に伝えられ、正直困惑する

 

だって、早過ぎる気がするし?

 

 

まぁ僕としては数字は気にしないで行きたい、数字に縛られて数字ばかりを追う様になるのは、ちょっと違う気がするからだ

 

 

ライブ配信で視聴者が数名だとしても、僕が僕のままで見てくれる視聴者の為に配信するのが理想だと思うしね

 

 

そんな訳で登録者数や視聴回数に拘るつもりが全く無い僕のやる事は変わらないので、この先も特別見ないで配信者をして行く事だろう

 

 

その後、流石に疲れていたので聖女フォームを解除し私服で帰宅、諸々を済ませて速攻で布団に入り爆睡した

 

 

 

爆睡して全回復した僕は紗夜に呼ばれて事務所に行くと、トレーニングルームを借りてあるから聖女フォームで向かう様に篁に言われ、彼女に従い聖女フォームでトレーニングルームに向かうと、完全装備の我が母がにこやかな笑みを浮かべ立っていた

 

 

「なんで お母さんが?」

 

 

「貴女に教導を行うためよ」

 

 

「僕に? 」

 

 

今日、今の時間は普通に仕事中の筈の母が此処に居る理由を尋ねてみたが、イマイチよく分からない、少し前みたいに半休の様では無いみたいだし?

 

 

大体、稽古なら僕達の周りをカメラドローンが飛び回っている訳がない

 

 

「今日は貴女に障壁術を伝授するわ」

 

 

「あー・・・なるほど、それでお母さんなんだね」

 

 

「そうね、たまたま手空きだったし、どうせなら と思って」

 

 

「うん、なんとなく理解した」

 

 

昨日の撮影で鷹樹が言っていた教導のヤツだと理解し頷く

 

 

障壁術の教導なら、この前みたいに頭を凹ませられる事も無いだろう、多分

 

 

「さ、此方にいらっしゃい、今日は痛い思いはしないわ・・・多分」

 

 

「ねぇ、今 多分って言わなかった? ねぇ?」

 

 

「気のせいよ、えぇ」

 

 

儀仗で示された位置に立ち母へ抗議するが、誤魔化されてしまう、無念

 

 

「それじゃぁ障壁術の基本から、まず障壁には大きく分けて2種あるの、前方に展開する物と全方位を包む様に展開する物、この2種よ。ちなみに使用者が好きな様に呼称するから、シールドだとかバリアだとか、もう呼び方はごちゃごちゃしているわ」

 

 

「統一する動きは無い訳?」

 

 

「無いわね、呼び方は技術の継承に影響ないし、師の呼び方を弟子は受け継ぐだけね」

 

 

「えぇ・・・なんかガバいなぁ」

 

 

母の説明を聞き思った事を言うが母は意に返す事は無く口を開き

 

 

「障壁術の基本は前方展開・・・シールドよ、以後は前方展開をシールドと呼称するわ」

 

 

「あいまむ」

 

 

「シールドは近接戦において必要不可欠な技能よ、1手の差が生死を分ける戦場に置いては特にね? では手本よ」

 

 

そう言うと母は儀仗を軽く前に出すと1m程の六角形の半透明な板が現れる

 

 

「これがシールド、六角形なのは私のイメージがしやすいからよ」

 

 

「つまりイメージによって形が変わる、と?」

 

 

「その通りよ、正方形だったり正円だったり楕円だったり長方形だったり、千差万別人それぞれね」

 

 

「なるほど」

 

 

ひとまず母の見様見真似で試しに利き手(ひだりて)を前に出して魔力で形を作るイメージをするが、なんとも形にならず粘土細工みたいにウニョウニョした形になってしまう

 

 

これは結構難しい

 

 

「あら、魔力放出と形成が出来るなんて、すごいわね」

 

 

「え? そうなの?」

 

 

「えぇ、まずは放出で躓く事が多いのよ、魔力って通常時は無色透明だしあやふやな存在感だし? かくゆう私も魔力放出の感覚を掴むのに3日掛かったわ」

 

 

「またまた〜」

 

 

「・・・なんで信じないのかしらね、この子は」

 

 

 

ウニョウニョとシールドを形成させながら母の説明を聞き信じてない事があからさま過ぎたのか、感じ取られ母に呆れられてしまった、なぜだ?

 

 

 



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39. 第2回ライブ配信

 

 

マイマザーによる障壁術の教導を受けてから約1週間、どうにかシールドを習得する事が出来た

 

 

まぁ習得出来たと言っても一撃受け止めたら割れてしまうのだけれど、母には及第点を貰えたから、探索で使って行こうと思う

 

 

『カナリアちゃん、時間よ』

 

 

「ありがとうございます、紗夜さん」

 

 

紗夜の言葉を聞き返事をしてから彼女が持って来たカメラドローンver1.2を見据える

 

最近忙しそうに社外を走り回っていた紗夜が持ってきたカメラドローンver1.2はAI搭載の半自立型らしい、正直 詳しくは知らない

 

 

なんでも最適な画角を維持して撮影出来たり複数機連携しての撮影も出来るらしいし、ライブ配信中に映り込んだ無関係な探索者に四角の黒ベタの補正を掛けてプライバシー保護したりしてくれるとか

 

 

いやぁ便利だなぁ

 

 

「ライブ配信を視聴していただいている皆さん、こんにちは ステラ・アーク所属 カナリアです」

 

 

【始まった】

【待ってた】

【きちゃ】

 

 

例の如くカメラドローンにより表示されているコメントを見ているのだけど、初回ライブ配信と同様・・・いや、それ以上にコメントが流れて行きコメントが目で追えない、もはや動体視力がどうこうではない

 

 

「待機していただいていた方々、ありがとうございます。早速ですが本題へ入りたいと思います、今日は若宮ダンジョン1層の攻略をしたいと思います」

 

 

【おー】

【これは楽しみ】

【カナタソの勇姿が見れると聞いて】

【がんばえー】

 

 

「出発」

 

【楽しそう】

【ワクワクのカナタソかわよ】

【かわよ】

 

 

フロッティを展開し緩く持ちながら攻略を開始すると、コメントは概ね良い内容が流れている様で安心する

 

 

ちなみに今日からはソロでの活動がメインになる、鷹樹も暇じゃないのでいつまでも おんぶに抱っこではダメだからだ

 

 

そんな訳でダンジョン表層も表層の1層なので、半分観光気分で気分良く獣道を進みつつ、木になっている実を取って観察してみる

 

 

「これって食用ですかね? 小さなリンゴみたいな見た目してますけど」

 

 

【この子、大人しい見た目の割に好奇心が高いな】

【今にも齧りそうなの草】

【やめといた方がいいんじゃね?】

【食べちゃダメだ、フリじゃなくてマジで】

 

 

なんと言うか、止められるとやりたくなるのが人のサガと言うのか、好奇心に勝てなかった僕はプチリンゴ擬きを齧り、すぐにカメラドローンに背中を向け

吐き出す

 

「うぇ渋い・・・」

 

【コイツwww】

【やってる事が小学生男子と変わらないw】

【止められてるのにやるからw】

【もうショタかも知れない】

【ちゃんとカメラに映らない様にして吐き出すの偉い】

 

 

聖水を取り出し口をゆすぎリセットしカメラドローンへと向き直り

 

 

「とてもじゃ無いですが、食べれた物じゃなかったです。みなさんは気をつけて下さい」

 

 

【何事も無かった様に装ってるw】

【少し涙目なのかわいい】

【かわいい】

【もうロリでもショタでも構わない、かわいいは正義】

 

 

今度からは好奇心には抗おうと心に誓い、歩を進める

 

 

「ん?あれは・・・」

 

【何か見つけた?】

【モンスターか?】

【身を屈めたからモンスターだな?】

 

 

30m程先にスモール・ディアを見つけ、身を屈めて近くの木の影に隠れて周りにモンスターがいないか索敵する

 

「ん〜・・・周囲にはスモール・ディア以外にモンスターはいないみたいですので、やってしまいます」

 

 

【お、トレンチガンが火を吹くのか?】

【ワクワク】

【カナタソの腕前に注目】

 

 

チャンバーにキチンと装填されている事を確認し、膝立ちになって構え狙いを定めてトリガーを引くとスモール・ディアは悲鳴を上げる間もなく、物言わぬ生肉へと代わる

 

[経験値を獲得しました]

 

【見え?!】

【カナタソの御御足】

【裾短いですなぁ】

【見えてます?】

 

 

「あのコレ、下はショートパンツなので下着じゃないですよ?」

 

 

こんな短い丈の服で下を履かない選択肢は無いと思うのだけど、違うのかな?

 

 



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40. 第2回ライブ配信 2

 

 

何故だかコメントが沸いたスモール・ディア撃破をした後、少しして小腹が空いたので

 

「そろそろ一旦休止にしたいと思います、15分を目処に配信を再開します。では」

 

 

【はいはーい】

【待機やで】

【離席】

 

 

僕の合図で配信画面が待機に変わり音声がミュートになる

 

『お疲れ様カナリアちゃん』

 

「ありがとうございます、紗夜さん」

 

 

手頃な木の根に座り、アイテムパックの中からシリアルバーを取り出し食べ紗夜へ返事をすると

 

 

『カナリアちゃん、貴女 想定以上に好奇心旺盛なのね? なので方針転換して逐次指示を出すわね?』

 

 

「え? あ、はい」

 

 

『次回から許可した物以外は食べたり触ったりしない様に』

 

 

「はい」

 

 

うん、怒られてしまった、反省

 

 

本当、子供を叱る母親みたいな言い方をされてしまったので、従うしか無い、うん

 

 

『反省したなら良いわ、配信中 私を呼ぶ時は・・・そうね、CEOにしましょうか、事実役職だし』

 

 

「分かりました、紗夜さん」

 

 

シリアルバーを食べ切り水分補給をしっかりしてからカメラドローンのバッテリーを交換する

 

実は少しコツがいる作業だったりして少し手こずる

 

 

 

『事前に入手した地図だと、もう少し進めば階層ボスがいるボス部屋の筈よ』

 

 

「階層ボスですか? 1層のボスって何ですか?」

 

『えぇっと・・・クマね、中型のクマ』

 

「クマですか」

 

 

カメラドローンのバッテリー交換が終わり再び飛翔したカメラドローンを見て問題無さそうだな? と思いつつ紗夜の返答を聞き、確か熊って珍味だったよな? と考えてしまう

 

 

『まさか、階層ボスを食べようとは思ってないわよね?』

 

 

「どうして分かったんですか?」

 

 

『顔に出てたからよ・・・貴女と鷹樹さんが兄妹な事を今理解したわ』

 

 

「顔に出てましたか、気をつけよう」

 

 

紗夜の指摘を聞き気をつける事を心に誓い

 

 

「それでは、そろそろ配信を再開しますね?」

 

 

『分かったわ』

 

 

カメラドローンが再びコメント欄や配信画面を表示したのを確認して、紗夜が待機画面とミュートを解除したのを確認し

 

 

「お待たせしました、配信を再開したいと思います」

 

 

【再開】

【待ってた】

【間に合った】

 

そんなコメント欄の反応を横目に見つつ探索を再開し、慎重に進む

 

 

表層中の表層、第1層では群れる事なくモンスターが単体で闊歩しているので、僕としてはやりやすい

 

 

そんな訳でボス部屋までの道中に3匹程ミドル・ボアを始末し生肉をゲットしたので、帰ったら紗夜に煮込みを作って振る舞おうと思う

 

 

「さて・・・石碑と半透明の膜状のナニカがありますね、何ですかね?コレ」

 

 

【トレンチガンの銃剣で突くの草】

【警戒するの、ヨシ】

【ボス部屋やで〜】

【ボス部屋到達思ったより早かったなぁ】

 

 

さっき紗夜に怒られたので、慎重にフロッティの銃剣で膜を突いてみるが、手ごたえは無く少し困惑しつつコメントを見るとボス部屋と書いてある

 

 

『コメントの通り、そこがボス部屋ね。石碑はセーブポイントだから必ず魔力を流してセーブして?』

 

「分かりましたCEO」

 

【保護者参戦】

【CEOってステラ・アークの偉い人やんけw】

【会社のトップを動かすカナタソw】

【CEOの声若いな】

 

 

指示された様に石碑でセーブしてからフロッティの最終チェックをし万全の状態である事を確かめてボス部屋に突入すると、僕の身長を超えるクマが腕組みして仁王立ちしていて、吠える

 

 

「わぁ、クマだ〜」

 

 

【反応が斜め上w】

【全く動じてないの草】

【ボスを脅威と感じてない表情、肝が太すぎるw】

 

 

距離は20m程の近距離なので、クマが仁王立ちして隙だらけの内にチャンバーからショットシェルを抜き、代わりにスラグ加工した岩塩塊の入ったスラグ弾を装填し、クマの眉間を撃ち抜き撃破する

 

[経験値を入手しました]

[クラスレベルが上がりました]

[スキルレベルが上がりました]

[クラススキルを入手しました]

 

 

「油断大敵ですね」

 

【容赦無いw】

【ボスを瞬殺w】

【ニッコニコのカナタソかわよ】

 

 

階層ボスを瞬殺した事でコメント欄が賑わうのを横目にドロップ品を回収しアイテムバッグに詰め

 

 

「それでは1層の攻略が完了したので、今日の配信は終わりにします。お付き合いありがとうございました、よろしければチャンネル登録・高評価、お願いします」

 

 

【おつ】

【おつー】

【お疲れ様〜】

 

 

締めの挨拶をして軽くカメラドローンに向けて手を振り、配信は終了しましたの画面に切り替わりミュートになるのを待ち、完全に終了した事を確認して脱力する

 

 

なかなか疲れた

 

 

 





【カナリアのレベル2になりました】
【エクストラクラス 聖女がレベル3になりました】
【クラススキル 聖水生成がレベル3になりました】
【クラススキル 岩塩生成がレベル3になりました】
【クラス ガンナーがレベル2なりました】
【クラススキル 反響定位を習得しました】


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41. 何事もない休日

 

 

第2回ライブ配信を終え2層に降りて石碑に魔力を流してセーブポイントを更新して帰還用の転移門を使い帰還して事務所へ行き、装備一式と取得物を篁へ渡す

 

管理などは彼女の仕事なのだ

 

 

そんな訳で疲れていた僕は颯爽と帰宅し、やるべき事を済ませてから爆睡し、翌朝 日課の魔力操作の鍛錬をしてから、改めて事務所へ行きミドル・ボアの肉を篁から回収して、事務所のキッチンで持ち込んだ食材を活用してミドル・ボアの煮込みをソコソコの量を作る

 

 

紗夜と篁にお裾分けする分を引いても余る量を作っている訳だけど、これは自宅で食べる分とお弁当に持っていく分も含まれているから、大丈夫だ

 

 

それに余れば冷凍しておけば良いしね?

 

 

そんな訳で落とし蓋をして火力をトロ火にして煮込みだすと

 

 

「良い匂いね」

 

「おはようございます、紗夜さん」

 

「えぇ、おはよう。その寸胴の中身は何かしら?」

 

「ミドル・ボアの煮込みです」

 

「そうなのね」

 

 

いつもはキリッとしている紗夜が眠た気に匂いに釣られて現れ尋ねて来たので、素直に答えるが まだ眠いのか曖昧な返事を返してくる

 

 

「眠そうですね?」

 

「えぇ、昨夜は本に夢中になって夜更かししてしまったの」

 

「そうなんですね? コーヒーでも淹れましょうか?」

 

「そうね、お願いしようかしら」

 

「お任せあれ」

 

 

電気ケトルに聖水を瓶4本分入れ沸かし市販のドリップコーヒーを淹れ紗夜へ渡し、ちゃっかり自分の分も淹れ一口飲んでから すぐに角砂糖を3つ程投入しかき混ぜる

 

 

「ふふ、ありがとうカナリアちゃん。凄く美味しいわ」

 

「それならよかったです、角砂糖入りますか?」

 

「大丈夫よ、私 コーヒーは無糖ブラック派なの」

 

「カッコいいです」

 

「ふふ、ありがとう?」

 

 

子供舌な僕は未だにブラック無糖を飲めない、もっぱら加糖コーヒーを飲んでいる、うん 甘いのが好きなんだよね、僕

 

 

今世を振り返ってみても我が事ながら食い意地が張っている、食へのこだわり? がまぁまぁ強い

 

なにせ、現在進行形で調理中だし?

 

 

普段の食生活も思えば、育ち盛りの男子と同量食べてると思う

 

 

うん、そのエネルギーは一体何処へ行ってるんだか、低身長平たい胸族の僕の身体に贅肉がつかない不思議

 

 

「カナリアちゃんって、甘いもの好きよね?」

 

「大好きです、好き嫌いも無いですよ」

 

「そう、なら今日はオフだし、私に付き合って貰えるかしら?」

 

「構いませんが?」

 

 

突然の誘いに虚を突かれてしまったが、一旦煮込みの火を止め灰汁を全て取り除き、蓋をして取り扱い注意の貼り紙をして片付けを済ませる

 

 

15分程してデスクエリアへ移動すると紗夜と篁が楽し気に会話していた

 

 

「紗夜さん、お待たせしました。篁さん、キッチンの煮込みは今触らないで下さいね? まだ完成してないので」

 

 

「それほど待ってないわ」

 

 

「オッケー、鷹先輩が来ても触らせないから安心してね〜」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

そんな訳で篁に煮込みの見守りをお願いして、僕は紗夜と共に事務所を後にする

 

 

「それで、どこに行くんです?」

 

「最近開店したばかりのカフェよ、ネットで人気になってて気になっていたの」

 

「そうなんですね?」

 

「ネット見るんだ〜みたいな表情ね? 今の世の中 情報社会なの、流行り廃れを敏感に感じ取りアンテナを張っていないと商機を逃してしまうわ。私が手掛けているのはステラ・アークだけじゃないもの」

 

 

「え?」

 

 

なんかさり気なく僕の思考を読み、とんでもない事を言わなかったか?

 

 

ステラ・アーク以外の事業も手掛けているのか? 高校生で? やっぱ凄いな紗夜は、素直に尊敬する

 

 

「ま、父や兄達に比べたら私が手掛けている物は小規模だけれどね?」

 

 

「は、はぁ・・・」

 

 

「ふふ、貴女には難しいかしら?」

 

 

紗夜は微笑み、僕を優しく抱きしめて頭を撫でてくる、安心する温もりと香りを感じる

 

 

彼女が満足するまで堪能する事にしよう

 

 

 



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42. 何事もない休日 2

 

 

紗夜の抱擁を堪能した後、僕達は紗夜の先導の元、噂になっているカフェへと辿り着く、若宮ギルドから結構近く徒歩十数分程度だろうか?

 

 

外観は如何にも新装開店した真新しく、窓越しに見える店内は落ち着いた雰囲気を感じる内装だ

 

 

そんなこんなで入店した訳だが、満席らしく少し待ち時間が発生してしまったが、此処は気長に待つ事にしよう

 

 

「これは私の想定より早く混んでしまったわ」

 

 

「今日は休日ですし、そんな事もありますよ」

 

 

「貴女は優しいのね」

 

 

そう言い紗夜は僕へ本日2度目の抱擁をしてくる、やはり紗夜は僕の軽量コンパクトボディがお気に召した様だ

 

 

「カナリアちゃん、温いわねぇ」

 

「そうですか? 」

 

 

そういえば僕は少し平熱が高いんだっけ? その割に寒いの嫌いなんだけどね、うん

 

 

そんな身にもならない雑談をしていると席が空いた様で呼ばれたので入店し、席につく

 

 

「今日は私がお会計を持つから、好きな物を頼んで頂戴」

 

 

「え? 良いんですか?」

 

 

「構わないわ、貴女のチャンネルが想定以上に早く収益化したお陰で利益が出始めているのだから」

 

 

「そうなんですか?」

 

「そうなのよ」

 

 

本当にチャンネル登録者数とか視聴回数とか興味が無くて見て無いから謎だし、収益化されたと言われても還元率も知らないからイマイチ ピンと来ないので曖昧な返事を返すと、紗夜は苦笑して相槌を打つ

 

 

「鷹樹さんから聞いていたけれど、貴女 本当に数字を見ていない様ね?」

 

 

「見てませんね、僕の仕事はダンジョンで試作品を試し評価する事、配信については2の次ですし、数字の為に僕自身を偽るのは疲れるだけ、素の僕を見てくれる視聴者が増えなければコンテンツとして迷走しますから」

 

 

「・・・結構考えているのね」

 

 

僕の想いを紗夜に告げると彼女は少し驚いた表情をする、どうやら身を任せ過ぎた様だ、反省

 

 

いや、まぁ基本的には先の事は考えない質ではあるし、長い物には巻かれる主義だけどね?

 

 

「良い機会ですし言葉にしておきますけど、確かに僕は未来を深く考えない質ですし、長い物には巻かれる主義です、しかし僕は信用・信頼していない人に身を任せたりしませんよ? 貴女だから僕は身を任せているんです紗夜さん」

 

 

「カナリアちゃん・・・そう、ありがとう」

 

 

「どういたしまして?」

 

 

僕の言葉に紗夜は凄く嬉しそうな表情になり そういうが僕は返答に困ったので曖昧な返事を返しておく

 

 

それからメニューでデカデカと主張しているデラックスなパフェとホットココアを注文し、提供されたお冷で喉を潤しておく

 

 

満席の為か少々時間がかかり注文した僕のパフェとホットココア、紗夜のブラック無糖とシフォンケーキがやってきて、パフェが僕達の視線を奪う

 

 

「・・・大きいわね」

 

 

「これはデラックスですね」

 

 

紗夜らパフェのデラックスと言う名に恥じないパフェの立ち姿に軽く引いていて、僕は食べ応えがありそうだと思いワクワクする

 

 

「いただきます」

 

「カナリアちゃん、1人で大丈夫? 無理なら私も食べるから言って頂戴?」

 

 

「多分大丈夫ですが、もしもの時はお願いします。紗夜さん」

 

 

「えぇ、わかったわ」

 

 

デカさも豪華さもデラックスのパフェにスプーンを入れ食べ始めると、口に甘さが広がり幸せを感じる

 

あぁやはり甘味は良い、手軽に幸せを感じる事が出来る素晴らしい物だ

 

 

「美味しい?」

 

「とても美味しいです」

 

「そう、それなら誘った甲斐があるわ」

 

「ありがとうございます紗夜さん、一口どうぞ」

 

「え? え、えぇ・・・いただくわ」

 

 

幸せを噛み締めてパフェを食べる僕に微笑みながら聞いてきた紗夜に答え、感謝の意を込めて一口分をスプーンで掬い彼女へ差し出すと、少し戸惑った様子を見せた後、口に入れ食べる

 

 

うーん、少し馴れ馴れしかったかな? 反省

 

 

次は、もう少し仲良くなってからにしよう、そうしよう

 

 

 



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43. 相談

 

 

デラックスなパフェを1人で完食して紗夜が唖然として『その身体の何処に入ってるの?』と尋ねられたが、僕にも分からないので、さぁ? とだけ伝えておいた

 

 

僕としては腹7分目ぐらいまで甘味が食べられて満足である

 

 

そんな訳で少し引き気味の紗夜と事務所へ帰りミドル・ボアの煮込みを完成させ、紗夜と篁へお裾分けして残りは寸胴のままアイテムバッグに入れて持ち帰り、家族で食べたり小分けにして冷凍保存した

 

 

ナンヤカンヤと過ごし、翌朝から普通に学校だったので真面目に授業を受け、放課後 僕は事務所で事務仕事をしている篁に相談をしている

 

 

「新しく獲得した反響定位なんですけど、カメラドローンの表示版にマップを反映って出来ませんか?」

 

 

「カナリアちゃんが、私に相談って言うから何かと思ったらソレかぁ〜 んー・・・工夫でどうにかなるかも?」

 

 

僕の言葉に篁はパソコンの画面を見て手を忙しなく動かしながら返答してくる、マルチタスク凄い

 

 

「あの、無理なら無理ってハッキリ言って下さいね?」

 

 

「ん? いやいや、無理では無いと思う、やってみる価値はあるしね? ただ少しセッティングに時間がかかりそうだからね、お嬢ってば 私にステラ・アークの事務以外の事務作業も私に振ってくるもんだからさ? 」

 

 

「お疲れ様です、本当無理なら断って貰って良いので」

 

 

「なんか今日のカナリアちゃん優しいねぇ〜、お姉さん頑張っちゃう」

 

 

なんかマルチタスクで仕事をしながら会話を続ける篁を労ったら、なぜかやる気を出して作業スピードが上がる、何故に?

 

 

「反響定位とカメラドローンの同期については数日待って貰うとして、各種レベルが上がったんだよね?」

 

 

「はい、主に聖女と関係スキルがレベル2になりました」

 

 

「そっかそっか おめでとう、レベル2だから上昇幅は高くないと思うけど、どう?」

 

 

カメラドローンのセッティングを数日で済ませると言う驚愕の宣言は、一旦聞こえなかった事にして、篁に質問された事を答える

 

 

「聖水と岩塩は成長してないですね、僕の方は各ステータスが少し成長してます、ローレライとフロッティはレベルも変化無しです」

 

 

「そっか、魔武器は私達にとって未知の物だから成長条件が分からないから、なんとも言えないね」

 

 

「そうですね・・・お母さんに聞いてみるのが手っ取り早いかもです」

 

 

「あぁ、それはそうかもね」

 

 

僕の言葉に篁が同意する、餅は餅屋に聞くのが一番手っ取り早いので、夕食時にでも聞いてみる事にしよう

 

 

「たまにギルドのロビーとかで すれ違うけど、本当に鷹先輩を産んだ人には見えない若さだよね?」

 

 

「娘の僕から見ても不思議ですよ、魔力を持っていると老けにくいとか有るんですかね?」

 

 

「魔力と不老の関係性? 立証できたら面白い論文になるね」

 

 

カラカラと笑いながらも手が動き続けている篁は、本当に凄いと思う

 

 

「ん? そういえば、アルエットさんってベルカ人だよね?」

 

 

「そうですね、日本に来る前は教会の騎士隊に居たとか何とか」

 

 

篁は作業が一段落したのか手を止め伸びをしてから僕の方へ向き、タンブラーの中身を飲んでから僕へ尋ねてきたので答える

 

 

「実はエルフの血が入ってて、それは不老の秘訣だったりして」

 

 

「まさか、そんなそんな」

 

 

「いやぁ分からないよ? カナリアちゃんは家系図見た事あるの?」

 

 

「・・・ない、ですね」

 

 

「でしょ〜? まぁあくまでも そうだったら納得出来るな〜 って願望だけどね?」

 

 

そう篁は言い笑う、しかし確かに篁が言う仮説が正しいとすれば母が実年齢より若々しく見える理由に説明がつく

 

そして僕が軽量コンパクトボディである理由にも納得ができる、かもしれない

 

 

正直、不満はないが たまに不便を感じる時はあるから、成長する余地があれば、あった方が僕としては嬉しい

 

是非、あってくれ



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44. 母の語

 

 

篁へカメラドローンのセッティングをお願いした翌日 学校が終わってから僕はギルドのトレーニングルームで母と対峙している

 

 

「昨日夕飯の時に尋ねられた魔武器の事だけれど、改めて私の知る範囲の事を教えるわ」

 

 

「うん、お願い」

 

 

「魔武器とは担い手が最も扱える形を成す担い手専用の武具であり、担い手と共に成長する自分自身を写す鏡」

 

 

「自分自身を写す鏡・・・」

 

 

ローレライとフロッティを展開し、眺めながら母が言った言葉を呟く

 

 

「自身が成長すれば自ずと魔武器も成長するわ、精進する事が魔武器と自身を成長させる事に繋がるの、成長に近道も正解もないわ。まぁ不正解はあるけれどね?」

 

 

「なるほど」

 

 

恐らく成長とは単純にレベルを上げれば良い訳ではないだろう、精神的な事も含まれているはずだ

 

 

単純な身体の強さも、心が弱ければ それは単なる暴力に過ぎず、それは強さとは言えない

 

心技体、その全てが揃う様に精進しよう、うん

 

 

「聖導教会の教え、チカラを正しく使う事、それは魔武器と自身の成長に通じるわね」

 

 

「そうだね」

 

 

「チカラだけでは人は人でなしであり、想いだけでは世界は変えられない。正しい想いを持ち正しくチカラを振いなさいカナリア」

 

 

「うん」

 

 

若宮ギルドの長をしている母だが、根幹の部分は今でも聖導教会 教会騎士なのだろう、その言葉には重さがある

 

 

「さて説法紛いはこれくらいにして、実際の所 毎日欠かさずに反復練習とかをコツコツとするしかないわね、特に貴女は魔力に目覚めて日が浅い訳だし、兎に角 基本に忠実にコツコツが大切よ」

 

 

「初心者が、いきなり多くを求めるなって事?」

 

 

「言葉はキツイけれど、要約すると そうね」

 

 

まぁ実際の所、母の言う通りなのだろう、今の僕は素人に産毛が生えた程度の初心者も初心者だ

 

 

多少はトレンチガンの扱いに才は有る様だが、自惚れてはいけない 僕より強く逞しく人はゴマンといる、何なら目の前に1人いる

 

 

「探索者としての貴女にアドバイスをするならば、貴女が取れる選択肢は2つ。1つ タンク役とパーティを組む、2つ 両方を熟る様になる、よ 理由は貴女のクラス聖女が原因なの」

 

 

「確か攻撃系統の魔法取得にマイナス補正なんだっけ?」

 

 

「そうね、聖女はサポート特化の後方支援職、ヒーラー兼バッファーがメインの立ち回りなの、だから貴女の様にソロ活動してるのは少々異例と言えるわ」

 

 

「そんなに?」

 

「そんなによ」

 

 

僕はイマイチ ピンと来ずに母に尋ねると母は遠い目をして言う

 

僕の様な存在は、相当異常の様だ

 

 

「ダンジョン表層や上層なら、貴女の頑張り次第でソロでもある程度までは大丈夫だと思うけれど、中層以降・・・最前線では戦うのは厳しいと判断せざる得ないわ、私は一応ヒーラーの適性を持っているけれど、メインは攻撃魔法を使用したアタッカーなのよ?」

 

 

「確か適性は水系統なんだよね?」

 

 

「そうね、派生で氷も使えるわ」

 

 

そう言い母は自身の魔武器である儀仗を軽く振り水玉を生成して凍らせて見せる

 

 

相変わらず手際は良い、相当な修練を積み魔力制御を会得している結果だ

 

 

「私の事はおいておいて、この先 ダンジョン攻略の最前線を目指すならパーティを組みなさい、1人ではダメでも2人なら達成出来る事もあるわ」

 

 

そう言い母は優しく、そして懐かしそうに微笑む

 

 

「お母さんにも、そういう仲間が居たの?」

 

 

「えぇ、ベルカに有る学園で初等部の頃からパーティを組んでいた仲間が居たわ、共に笑い泣いて喧嘩して成長して・・・そして強い絆を結んだ、私には掛け替えのない仲間よ、そんな背中と命を預けられる仲間を貴女にも作って欲しいの、人間は1人では・・・独りでは生きられないのだから」

 

 

そう言い母は僕を抱きしめて頭を撫でる、人は独りでは生きていけない、まさにその通りだと僕も思う

 

 

僕にも見つかるだろうか? そんな仲間が

 

 



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45. 母の説明

 

 

母の温もりを暫く堪能した後、母が僕から身体を離し

 

 

「そう、そうよ。使い魔を召喚してみるのはどうかしら?」

 

 

「使い魔?」

 

 

「えぇ、魔力や要求品を対価に契約しチカラを貸してくれるモノ達の事よ」

 

 

「なるほど」

 

 

母は、ウッカリしていたわ〜 みたいな表情をし僕に説明する、どうやらベルカでは一般的な事のようだ

 

 

その使い魔と契約する事が出来れば、ワンチャン パーティメンバー募集をする手間が省ける可能性があるかも知れない

 

 

「使い魔は魔法生物で、今私達の居る此の世界とは別の時空 または 世界に居るとされているの、例えば100人中97名が鳥獣で、2名が竜や龍、1名が人型精霊みたいな感じね」

 

 

「あの、竜と龍の違いが分からないのだけど?」

 

 

「竜は知性は多少あれど人語を解す事が出来ないドラゴンの事で、龍は人族を超える知性を持ち人語を解し人の姿を取ることも出来るドラゴンの事よ、だからダンジョンモンスター以外の龍とは事を荒立てない方が良いわね、彼等は基本的には温厚で寛容な性格だから、怒らせなければ大丈夫」

 

 

母の説明を聞き、その言葉の裏に透けて見えた『怒らせたら必死』をひしひしと感じ取る

 

 

「使い魔契約に必要な事は魔力の量や質、身体の強さではなく心の有り様、その者が如何に正しい道を歩んできたか、歩んで行こうとしているか、で決まるわ」

 

 

「心の有り様」

 

 

「貴女は自身を道具としか見てない人の下で働きたいとは思わないでしょう?」

 

 

「確かに」

 

 

母の説明に納得する、確かに そんな人の下では働きたくないし、信用出来ないししたくない

 

 

「私も資料でしか知らないのだけど、心根が腐っていた者が使い魔召喚に失敗して召喚獣が召喚されなかったり、凄くでかいカメムシみたいな召喚獣が召喚されたりした例もあるみたいね」

 

 

 

「う、うーん・・・多様性?」

 

 

召喚事故はともかく、凄くでかいカメムシは少し興味がある、どれぐらいデカかったんだろう? 2〜30㎝とかかな?

 

 

「さっき9割は鳥獣と言ったけれど、姿が鳥獣でも高位の召喚獣も数多くいるわ、代表的な子だと・・・フェンリルとかユニコーン とかペガサスとかかしら?」

 

 

「僕でも何となく聞いた事ある名前だね」

 

 

「そう? とはいえ、珍しい種族ではあるわね、かなりレアとするとトレントを召喚した子も居たわよ?」

 

 

「トレントって、動く木のモンスターの?」

 

 

「えぇ、そのトレントよ」

 

 

「はぇ〜」

 

 

召喚主の人は木にまつわる魔法とかが得意だったのかな? 例えば土と水と光の属性に適性を持っていたとか

 

 

「どう? 使い魔召喚してみない? カナリア」

 

 

「そうだね、やってみようかな? あ、でも1度 紗夜さんに確認してからの方が良いかも」

 

 

「それもそうね、使い魔召喚用の魔法陣の準備もあるし、今日すぐすぐは無理ね」

 

 

「そっか、わかった」

 

 

紗夜に相談したら十中八九 撮影しよう、みたいな流れになると思うし、若宮ギルドで魔武器生成に続き、使い魔契約が出来る様になるだろう

 

 

「ねぇお母さん、魔武器生成に来る人はどう?」

 

 

「魔武器生成? そうね、暫くは予約が埋まっている筈よ? それも県外からの予約で」

 

 

「県外からも来てるんだ、わざわざ」

 

 

「やはり魔武器のメリットが多少の出費より優っているからかしら? ありきたりの能力だけど筋力増強とか魔法攻撃強化とか、装備するだけで得られるバフだし、なにより耐久値をある程度無視出来るし?」

 

 

「あぁ、そうか、魔武器って壊れても休めば治るんだっけ?」

 

 

「そうね、修復期間は 損傷の度合いや保有魔力によってマチマチだけれど」

 

 

その事を差し引いても魔武器を生成し運用する事はメリットだ、まぁそれも人それぞれのスタイルによるかもだけれど

 

 

そういえばローレライって防御力あるのかな? 普通に肌触りの良い服だけど・・・試すのは流石に勇気が居るなぁ

 

 







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46. 企画会議

 

 

 

母からの教導とありがたい教えを受けた日の夜、紗夜に明日話したい事がある旨をメッセージを送り翌日、例の如く学校が終わってから僕は事務所へ向かう

 

 

今の所、基本的に徒歩での移動だけど、そろそろ移動法を考えても良いかも知れない

 

 

そんな事を道中に何となくボヤっと考えつつ若宮ギルドへ歩き事務所へ入ると、紗夜は既に社長デスクで優雅にコーヒーを飲んでいた、速いな

 

 

「ん、来たわね。さぁ企画会議を始めましょう、渚が準備してくれているわ」

 

 

「はい」

 

 

紗夜は そう言いコーヒーカップ片手にミーティングエリアへ移動していくので、僕もついてゆきマックスコーヒーの缶が置いてある席に座る

 

 

「鷹先輩は撮影に出てるから、今日は3人だから企画会議は3人だよカナリアちゃん」

 

 

「分かりました、篁さん」

 

 

「それじゃぁ始めましょうか、まずは昨夜カナリアちゃんが連絡してくれた件から」

 

 

アレ?ウチの長男居ないな? と思っていた僕を見て気付いた篁が説明をしてくれたので理解した事を伝えると、紗夜に昨夜連絡した件を話す様に促される

 

 

「昨日、紆余曲折あり母に今後探索者としてダンジョンへ潜る為に必要な事を教えて貰う中で、急では無いが必須の事と使い魔について教えて貰いました、そしてお伺いしたいのは使い魔の方です」

 

 

「使い魔?」

 

 

「えー使い魔・・・使い魔召喚用の魔法陣を使用し、数多存在する魔法生物を召喚して契約する儀式、契約方法は様々、と」

 

 

僕の言葉に紗夜はハテナを浮かべ、篁は手早くタブレットPCを操作し使い魔召喚について調べて情報を話す、やっぱり仕事できるな この人

 

 

「使い魔召喚をする事で、この先の課題になるだろう、聖女の攻撃系魔法習得のマイナス補正による火力を上げにくい事を緩和出来る可能性があります」

 

 

「なるほど、確かにそうね・・・聖女のマイナス補正の件は、私も対策を検討していた所なの、魔武器がトレンチガンである以上は火力は一定だろうと仮定していたわ」

 

 

「使う弾薬ショットシェルですからね、トレンチガン」

 

 

紗夜もダンジョン攻略や配信をしていく上で火力の伸び悩みは懸念していた様で、コーヒーカップを置き腕組みをして言う

 

 

実は僕も懸念事項が有って、それは無機物系のダンジョンモンスターに聖水・岩塩が効果有るか否か、と言う事だ

 

 

有機物系、つまり生物系のダンジョンモンスターには血が通っているから毒の様に作用してモンスターを死に至らしめる、と仮説を立てているのだけど、正直無機物系のモンスターで検証してないから確証を得れていない

 

 

ちなみに幽体・アンデット系には難なく撃破出来る筈なので今回は除外している

 

 

まぁそれは今考えても仕方ないから使い魔召喚の事に集中しておこう

 

 

「僕としては使い魔召喚を行うつもりなのですが、撮影しますか?」

 

 

「ん〜・・・そうね、使い魔召喚をすると いずれは配信に使い魔が映るでしょうから秘匿する意味はない、ならば最初からコンテンツとして大々的に見せた方が今後の活動の妨げにはならない・・・筈」

 

 

「なら私がまた準備をすれば?」

 

 

「あ、今回は母が準備してくれるそうなので、篁さんの手を煩わせるのはカメラの配置だと思います」

 

 

「りょーかい」

 

 

「うん、撮影しましょう。渚はアルエットさんと打ち合わせしてカメラの配置を検討してちょうだい」

 

 

「仰せのままに」

 

 

色々な懸念事項やメリット・デメリットを考え紗夜は言い、篁が反応したので母に言われた事を彼女に伝えると、紗夜が篁に指示を出す

 

 

「次、もう数日で約1週間の連休になるわ。その連休を使って何か企画をする予定だけど、カナリアちゃんは希望あるかしら?」

 

 

「ゴールデンウィーク企画ですか・・・ダンジョンキャンプ、とか?」

 

 

「・・・前代未聞の企画ね、ダンジョンでキャンプするなんて」

 

 

素人に産毛の生えた程度の僕が思い付いた事を呟くと、紗夜は戦慄した表情をして言う

 

 

いやぁだって1層ぐらいなら僕でも大丈夫かなぁ?って思っちゃったし

 

 

 



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47. 来ませい、相棒

 

 

企画会議をした翌日、僕は篁からの連絡を受け放課後に若宮ギルドのトレーニングルームへ来ている、もちろん完全装備で

 

 

「・・・待っていたわ、カナリア」

 

 

「お待たせ、お母さん」

 

 

「あと少しで機材設置が終わるので〜」

 

 

法衣を身に纏った母に返答をすると、少し離れた場所で設営をしていた篁が言ってきたので、そちらにも返事を返しておく

 

 

トレーニングルーム(ここ)ならば召喚獣と戦闘になっても大丈夫だから安心ね」

 

 

「・・・戦闘になる事があるの? 聞いてない」

 

 

「あら? 言ってなかったかしら? ごめんなさいね?」

 

 

母は僕の言葉を聞いてテヘペロして言う、反省してないなこれは

 

 

支部長を務めるぐらいだし、仕事ではミスしないのだろうから別に良いか、うん

 

 

母のウッカリは今に始まった事ではないので、スルーして僕は今一度目の前の使い魔契約に意識を集中させる、死なないとはいえ痛いものは痛いので

 

 

「設置完了、カメラ回しまーす」

 

「始めましょうか」

 

「そうだね」

 

篁の声を聞いた母に促され僕は魔法陣の前に立つ

 

 

「やり方を説明するわね? 血を少量魔法陣へ垂らし魔力を流しながら祝詞を捧げる、あとは貴女の心根次第よ」

 

 

「・・・分かった」

 

 

そう母は微笑みナイフを差し出してくるが、僕は受け取らずにフロッティの銃剣を展開し、深呼吸して覚悟を決め 少し指先を刺して魔法陣へ垂らし、魔力を魔法陣へ注いで祝詞を捧げる

 

 

「精霊の力より生まれしものよ、封印されし力、目覚めよ、漆黒の宇宙より今ここに契約を願う」

 

 

魔法陣が光り輝き風が逆巻きあまりの強風に腕で顔を庇い数秒で風が止んだので腕を下げると、魔法陣の上に僕の身の丈を越える体躯の漆黒の美しい毛並みをした狐が優雅に顕現していた

 

 

「よもや人の身で(わたし)を呼べる者が居ようとは驚愕に値する」

 

 

「えっと・・・お忙しい所をお呼びしてすみません、えっと美しい毛並みですね」

 

 

「・・・くく、お主 面白い奴だな 」

 

 

何か気に入られた様で、漆黒の狐はカラカラと笑う、所作や声からして多分女の子だろうか?

 

 

「吾を召喚出来る程のチカラを有する者・・・の筈なのだが、レベルが低いよなぁ? ん? んん?」

 

 

「ど、どうしました?」

 

 

何か気になる事があったのか、彼女は僕へ顔を近づけ匂いを嗅ぎだす、やっぱり綺麗な毛並みをしている

 

 

「二柱の匂い? お主、二柱から聖女に任命されておるな? なるほど、何故お主が吾を召喚出来たか理解出来た」

 

 

「それは良かった、です?」

 

 

僕には何が何だかよく分からない事が彼女の中で解決した様だ

 

「吾を召喚出来る程の徳を積んで居る貴公ならば、武を見せて貰うまでもない、そも貴公は聖女であるしな? それに初見で怯えず我が毛並みを褒める度胸も気に入ったぞ」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「礼儀もしっかりしておるし、更に加点だの」

 

 

余程気に入られたのか、彼女は上機嫌で笑い言う、多分僕では彼女には勝てない

 

僕と彼女ではレベルの差があり過ぎる、だって僕レベル2だし? 彼女のレベルは最低でも100は超えているだろう

 

 

「貴公、名は何と言う?」

 

 

「カナリア、五月七日 カナリアです」

 

 

「うむ、吾は名持ちであるが真名を明かせぬ身 故、契約中の証として呼び名を授けてくれ、それが契約の証としよう」

 

 

「分かりました」

 

 

威風堂々とした佇まいの彼女に言われ、僕は彼女の名前を考える

 

 

とりあえず魔法陣の中心に座する彼女の周りを周り思案してみる、体毛は黒で尻尾は9本・・・九尾か

 

古来 狐は人を化かす者、と伝承されているが神社で神の御使として祀られても居る、前者は若く幼い未熟な狐で後者は修行を積んだ成熟した狐、と解釈できる

 

人間だって若気の至りでヤンキーになったりして周りに迷惑をかけるのだから、霊狐や妖狐が人にイタズラして化かしたりするよね、うん

 

 

その狐の中でも特に厳しく長い修行を経て至るのが九尾の頂き、だった筈

 

 

「ワカモはどうだろう?」

 

 

「ワカモか、まぁ良かろう。吾が名をひと時ワカモとし、カナリアを我が主人と定める」

 

 

彼女がそう言うと、魔法陣が光り輝き僕の左手の甲に令呪の様な模様が現れる

 

 

どうやら、これで使い魔契約は終わった様だ

 

 

「これからよろしく頼む、(あるじ)よ」

 

 

「よろしくね、ワカモ」

 

 

ワカモと挨拶を交わしていると、何だか急に睡魔に襲われ始め、僕はワカモに抱きつく様にその身体へ身を任せて意識が途絶えた

 



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48. ダンジョンキャンプ

 

 

 

使い魔召喚で九尾の霊狐(ワカモ)を召喚して魔力を大量消費してしまい、彼女の美しい毛並みで爆睡してしまった日から数日、篁に無理言ってダンジョンキャンプの支度をしてもらい、1泊2日のキャンプを敢行する運びとなった

 

ほんと、無理言ってすまない篁

 

 

『カメラ感度良好、カナリアちゃん配信始めるわね?』

 

「了解です紗夜さん」

 

 

カメラドローンの具合を確かめた紗夜の言葉に了承の意を伝えると、カメラドローンの表示板に待機中と表示されていたのが、僕を映し出す

 

 

「皆さん こんにちは、ステラ・アーク所属 カナリアです」

 

【始まった】

【きた】

【待ってた】

 

 

例に漏れずコメントが流れるスピードが速くて目で追いきれないが、喜んでくれている様でよかった

 

今の所はアンチも居ないみたいだし

 

 

「告知が直前だったので知らない方も居るかも知れませんが、今回のライブ配信ではキャンプをしてみたいと思います」

 

 

【本当にダンジョン内でキャンプするのか】

【ニコニコのカナタソかわよ】

【楽しみなんですね、分かります】

【幾らアバターとはいえ、危ないんじゃ?】

 

 

かろうじて目に入ったコメントの半分ぐらいは告知を信じられて無かったみたいで、驚いている様子が見受けられる

 

 

「1層入り口の現在地から、キャンプ予定地へ移動して設営予定です。あと途中でカメラのバッテリー交換等で待機画面になったりしますが、撤収まで配信は続行します」

 

 

【これが成功したら配信最長記録になるかも?】

【ダンジョンキャンプなんて前代未聞だし】

【カナタソを丸一日見れる】

【さながら24時間テレビだな】

 

 

コメントにもある様に前代未聞の挑戦でもあるが、僕は楽観視していて楽しいキャンプになると思っている

 

篁が用意してくれたガジェットも有るしね、うん

 

 

「それと僕の相棒を紹介します、今後 僕の配信には彼女が映ると思いますので、よろしくお願いします」

 

 

「吾はワカモ、見ての通り巨大な霊狐だ。主の盾であり(つるぎ)であり足であり、時には寝床になる、皆の衆よろしく頼む」

 

 

【デッ】

【巨大を体現するデカさ】

【モッフモフやな】

【巨大に違わぬ言葉遣い】

【寝床てw】

 

 

カメラドローンの画角にワカモが映る様に少し移動すると、コメントが賑わう

 

 

やはり使い魔は珍しい様だ

 

 

「使い魔召喚の動画が出たら是非見て下さい、召喚契約用の魔法陣は若宮ギルドに問い合わせ下さい。それでは出発します」

 

 

【俺、この配信を見終わったら探索者になって使い魔契約するんだ】

【変な死亡フラグ立てないでもろてw】

【ワイ、カナタソに会えるなら引きこもり引退するで】

【はよ引きこもり引退せい】

 

 

なんか変な流れになってるコメントを横目に僕はワカモを連れてキャンプ予定地へ歩き出す

 

「重くない?大丈夫?」

 

「この程度では服を着ている程度の重量だ、余裕だとも」

 

 

【ワカモ氏は荷物持ち(ポーター)兼任か】

【冒険には上位に行けば行くほどポーターが必須だしな】

【ポーターが居るのと居ないので、攻略の難易度が変わるもんな】

【1階層が広過ぎて探索・攻略に数日掛かりとかあるもんな、最前線】

 

 

 

馬やロバに着ける運搬用器具を付けてキャンプ用品や物資を積載しているワカモに尋ねるが、彼女はカラカラと笑い確かな足取りで僕の3歩後ろを歩く

 

 

流石に大容量アイテムバッグの用意が出来なかったので、その代案のアナログな手段だったので少し心配だったが、ワカモを見る限り その言葉に嘘は無い様だ

 

 

コメントもポーター状態のワカモを見て納得? してくれている様で良かった

 

 

それにしても、1層とはいえ そろそろモンスター1匹ぐらい遭遇しても良いぐらいなんだけど、影も形も見えないし反響定位にも反応しない、おかしい

 

 

まさか、新しいスキルが生えた? いや、ないか・・・ないない、うん ない

 

 

 

 

 



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49. ダンジョンキャンプ 2

 

 

 

結局モンスターに遭遇する事なくキャンプ予定地まで来れてしまい、おめでたい頭をしている僕でも、その違和感を感じざる得ないのだが、モンスターとの戦闘が無くて体力温存出来たのも事実なので、原因は深く考えないで置くことにする

 

 

「無事キャンプ予定地に着きましたね、当初の予想だとモンスターと1〜2戦交える筈だったのですが・・・遭遇しませんでしたね?」

 

 

【ダンジョンモンスターって探索者を積極的に狙う筈なんだけどな】

【困惑してるカナリアちゃん、かわよ】

【カナタソかわよ】

【隠蔽系スキルが生えた?】

 

 

流れてくるコメントを見ても、有識者な人も不思議に思っている様で仮説を立ててる人もいる

 

 

それを横目に念の為に自分のステータスを確認してみるが、隠蔽系のスキルは見受けられない

 

 

「モンスターと遭遇しない件はキャンプをする事には好都合ですので、一旦放置する事にして、設営をして行きたいと思います」

 

 

【切り替え大切】

【確かにキャンプするのに都合良いな】

 

 

そんなコメントを横目に見ながらワカモに積載されている荷物を下ろし、適当な平地に仮置きして

 

 

「キャンプ地をしっかり見せた方が良いですよね?」

 

 

【1層って湖あるんだな、知らなかった】

【これはキャンプに良い】

【キャンプベスポジやな】

【きえー】

 

 

カメラドローンを通じて紗夜へ合図を送りキャンプ地 周辺を映して貰い、僕も改めてしっかりと周りを見渡しておくが、やはりモンスターの姿が全く見えない

 

 

それからテントの設営をする為に、寝やすい場所を探して下地のグランドシートを敷いてペグで固定し、その上に2名用テントを設営する

 

 

【手際が良すぎる】

【キャンプ慣れしておるw】

【カナタソ実はキャンパー説】

【趣味映画鑑賞だからインドアと思ってたわ】

 

 

なんか手際が良いと視聴者が驚いている様だが、僕は別にインドアでは無いのだ

 

父も長男も脳筋でキャンプするの好きだし、次男と三男も なんだかんだで付き合いが良い人だからキャンプ行くし、母なんてベルカ人で元冒険者な為、野営のプロなのである

 

 

つまり僕はキャンパーとして英才教育を施されているし、僕はキャンプ好きだ

 

 

まぁ学生の身分である為、お財布事情と寒いのが嫌いなので季節と回数は控え目なのだけどね?

 

 

今回のダンジョンキャンプが成功すれば、個人的にキャンプ地の幅が広がるので試金石にするのは良い機会なのである

 

 

【めっちゃイキイキとしてるw】

【ほんに楽しそう、ヨシ】

【ん? 現地で合流した人おる?】

【あれ? チラチラ映ってる】

 

『カナリアちゃん、誰か映り込んでるわ、確認してちょうだい?』

 

「え? そんなまさか・・・」

 

 

紗夜からの通信を聞き、テント設営の手を一旦止めて辺りを見渡すと、黒髪の巫女服を着ている少々目付きの悪い小柄な女性が焚き火台や椅子を設置しているのが見える

 

 

その頭には狐耳、腰部やや下にはフカフカな尻尾が生えていて、日本人では無い事が分かった

 

 

「ん? どうした主よ、此処では位置が悪いか?」

 

「え? いや、大丈夫だけど・・・ワカモ?」

 

「うむ、そうだが・・・なんだ? 高位の召喚獣は人化の術が使えるのを知らないのか?」

 

「・・・知らなかったよ」

 

「そうか、主は1つ賢くなったの」

 

 

【あの巨体から人化すると小さくなる不思議】

【ワカモ氏か良かった】

【戻して・・・戻して・・・】

【なんか変な層がいて草】

 

 

『ワカモで良かったわ、配信を続けて大丈夫ね』

 

「了解ですCEO」

 

 

コメントもワカモが人化した事に驚いている様子だが、僕も結構驚いてしまった

 

そうかワカモは人化出来るのか・・・いや、九尾の霊狐なんだから少し考えればわかる事じゃないか、反省

 

 

一応、不測のトラブル対策で3日分の食糧を持ち込んでいるからワカモの分も食事を用意出来るから、まぁヨシとしよう

 

 

 



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50. ダンジョンキャンプ 3

 

 

少し騒動が起こりはしたが、大きなトラブルも無く設営を終える事が出来たので、焚き火をする為に火起こしをする事にした

 

一息つく為にお茶も淹れたいしね

 

 

僕がキャンプへ行くと言ったら、頼んでいないのに 嬉々として庭で薪割りをしてくれた我が父のおかげで、余裕で1週間分はありそうな薪を父から借りてきたアイテムバッグから出してフロッティの銃剣でフェザースティックを作り、焚き火台の上に組み上げていく

 

 

【設営だけじゃなく火起こしも手慣れておる】

【熟練のキャンパー カナリア】

【野営とかしなさそうな見た目してるのにねぇw】

 

 

組み上げたフェザースティックと着火材にチャッカマンで火をつけて焚き火を錬成し、良い具合になるのを待つ

 

 

「やはり焚き火は良い、うん とても良い」

 

 

【急に疲れたサラリーマンみたいな事言い始めて草】

【急にどうした、カナタソw】

【君、小学生ちゃうん?w】

 

 

キャンプの醍醐味を噛み締めていると、流れてきたコメントの1つが目に入る

 

 

なにやら誤解がある様だ

 

 

「僕は高校生ですよ、お間違えない様」

 

 

【え?】

【嘘やろ!?】

【ワイ、ロリコンになるとこやった。高校生ならセーフ】

【それグレーゾーンやない、アウトや】

 

 

あーなんかコメントが阿鼻叫喚してるなぁ、うん僕のせいだけど

 

 

そんな事を考えつつキャンプケトルにアイテムバッグに保管していた聖水を注ぎ火にかけて

 

 

「ワカモ、お茶飲める?」

 

「うむ、頂こう。ちなみに吾は紅茶を淹れるのが得意なのだぞ?」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

 

【カナリアちゃん、マイペースw】

【コメント欄を阿鼻叫喚に陥れたのにw】

【これは推すしか無いなw】

 

 

アイテムバッグから取り出したポットにティーパックを入れお湯が沸いたらポットに注ぎ少し蒸らして味が出るのを待ち、アウトドアマグカップへ注いでワカモへ1つ渡し、自分の分を飲む

 

 

うん、やはり聖水で淹れると美味しくなる・・・気がする

 

 

実はコーヒーを無糖で飲めない僕だが、お茶は その限りではなく砂糖を入れずに飲む事が出来る

 

「うむ、これは美味い」

 

「そう? 良かった」

 

【お茶飲んでニコニコのカナタソかわよ】

【良い笑顔】

【笑顔、ヨシ】

【ワイもカナタソの お茶飲みたいぞ】

 

 

配信中ではあるけど、お茶を飲みながらゆっくりしよう

 

キャンプ地まで、そこそこ歩いたしね、うん

 

 

『少し時間があるし、質問コーナーにしましょう。前回の余りもあるし』

 

「了解ですCEO」

 

 

紗夜の言葉に了承すると、カメラドローンの表示板が1枠増え、そこに紗夜が選んだ質問が表示される

 

 

「しばしの間、休憩も兼ねて 寄せられた質問へ返答していきたいと思います」

 

 

【お、これには期待】

【ワクワク】

【またやらかしてくれよ、スタッフw】

 

 

 

コメントに邪な事が書かれているのが見えたが、見なかった事にして質問を注視する

 

 

「えぇっと・・・『カナリアちゃんの魔武器を、もう少し近くで見たいです』ですか? まぁフロッティなら構いませんよ」

 

 

【素晴らしいエングレーブが施されておる】

【綺麗】

【これ魔法効果あるんかね?】

【どうだろか?】

 

 

紗夜に合図をしてフロッティをカメラの前に出して、よく見える様にし

 

 

「どうでしょう? あ、ちなみに浮きます」

 

 

【はい?!】

【下手な浮遊マジックよりマジックで草】

【急に浮かすの草】

【少しドヤ顔なのかわいいw】

 

 

そう実はフロッティは浮くのだ、背中に納刀した時に鞘に収めている訳でも無いのに納刀状態を維持するから、もしや? と思って試してみたら見事に浮遊したし、極低速だが動かす事もできる

 

 

いやぁ魔武器って凄いよねぇ〜

 

 

「あとは銃剣がデフォルトで付属していて、装弾数は5+1ですね」

 

 

【そのあたりは実銃と同じスペックなのか】

【銃剣付けれるとか強い】

【ショットガンは比較的お財布に優しいからな】

【相性が良ければ一撃撃破出来るしな】

 

 

どうやらフロッティの説明は気に入って貰えた様だ、良かった良かった

 

 



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51. ダンジョンキャンプ 4

 

 

 

フロッティを見せて視聴者に喜んで貰った後も、お茶を片手に質問コーナーを続け

 

「『カナリアちゃんは兄弟いますか?』 ですか、僕には歳の離れた兄が3人居て、僕は末っ子ですね」

 

 

【3人も兄がいるんか】

【カナリアちゃんの兄はイケメンに違いない】

【パッキンな予感】

 

 

今日、ステラ・アークの質問箱に寄せられた質問を選別して表示板に表示しているのは紗夜なので、この質問には答えて良いと認識し、正直に答える別に隠す必要も無いしね?

 

 

「長男と僕が10歳歳が離れていますね、ちなみに父と兄は脳筋のトレーニーです」

 

 

【身内に容赦無いなカナリアちゃんw】

【容赦ないの草】

【草草の草】

 

 

コメントで身内に容赦ないとか言われてるけど、身内に遠慮する必要は無いよね?

 

年中筋トレしてるし、父と長男

 

 

「あ、あと僕以外の兄3名は黒髪ですよ? お父さんに似たんでしょう、多分」

 

 

【カナタソ、パッパの事 お父さん呼びなのね】

【解釈一致】

【カナリアちゃんに、お父さんって呼ばれたい人生だった】

【ワイもカナタソに、お兄ちゃんって呼ばれたいわ】

 

 

 

なんかコメントに変な勢力が生えてるけど、見なかった事にしとこう

 

 

そもそも兄3名をお兄ちゃん呼びした覚えもないし、うん

 

 

・・・どうしよう、視聴者に我が兄が混ざってたら と言う考えが過ぎってしまった

 

 

雀晴は、まぁ大丈夫だろう、僕には甘いがシスコン拗らせてないし

 

 

問題は三鶴だろう、どうしよう・・・三鶴なら視聴者に紛れ込んでてもおかしくないんだよなぁ、自他共に認めるシスコンだもん三鶴

 

 

【どしたカナリアちゃん、急に顔が曇ったぞ?】

【ポンポンペインか?】

【大丈夫か〜?】

 

 

「あ、あぁ・・・大丈夫です、体調万全です。ちょっと今の今まで気にしてなかった可能性に気付いてしまっただけで・・・」

 

 

「どうした主よ、複雑な表情をしておるが?」

 

「大丈夫、うん ほんと」

 

 

僕の表情が少し変わった事に気付いたコメント欄が少しざわめく

 

 

これは失敗したなぁ・・・三鶴なら見てるよなぁ多分

 

別に見られて困る配信をしている訳ではないが、こう兄妹に見られてると思うとなんか恥ずかしいのだ

 

 

「3人いる兄のうち、3番目の兄は自他共に認めるシスコンでして・・・兄妹に配信見られていると、その恥ずかしいんです」

 

 

【なーる】

【オッケー把握w】

【自他共に認めるシスコンとは強いw】

【[¥10000-] 頑張ってね、カナリア】

【おい、赤スパだぞ!!】

 

 

「みっ・・・三男、お願い自重して、お願い」

 

 

三鶴の話をした途端、収益化で解禁されたスパチャで高額スパチャを投げつけてきたで有ろう三鶴の名を叫びそうになったが、我慢しなんとか誤魔化す

 

 

こんなアカウントのアイコンが3羽の鶴がモチーフの奴を使ってる人が僕の身内以外にいるとは思えないので十中八九、本人だ

 

 

「お願い、実の妹に課金しないで、自分に使って、ね?」

 

 

【カナタソ引き気味なん草】

【赤スパはガチで三男が投げたっぽいなw】

【実の妹に課金と言うパワーワードw】

【カナリアちゃん必死なんなんで?w】

 

 

僕の訴えにコメント欄が賑わうが、三鶴らしきアカウントからコメントが見受けられない、雲隠れしたか

 

帰ったら、よく言い含めておかねば

 

 

「さてと・・・予期せぬ三男が生えましたが、今どうしようも無いので、夕食作りに入りたいと思います」

 

 

【切り替え大切】

【切り替えて行こう】

【キャンプ飯やろか?】

【ワクワク】

 

 

アイテムバッグからキャンプ用ローテーブルを取り出し組み立てて設置し、その上に材料を並べていく

 

「時間も時間ですし、この先は飯テロ注意ですね」

 

【せやなw】

【ワイも腹減ったわ〜】

【デリバリー注文しよ】

【ワイも〜】

 

 

僕の言葉に視聴者も、ご飯の確保を始めた様だ

 

飯テロされたらお腹空くしね、仕方ないね!!

 

 

 



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52. ダンジョンキャンプ 5

 

 

 

 

飯テロ勧告をしてから紗夜に合図をして材料が良く見える様にカメラドローンを動かして貰い

 

 

「今日作るのはホーン・ラビットのスープ及び香草焼き、ワニの串焼きに簡易パンです」

 

 

【おぉ良いメニュー・・・ん? ワニ?】

【ワニか〜流通してんのやね】

【ワニって実はサメかもしれんぞ?】

【ワンチャン、サメの可能性もあるな】

 

 

事前に下処理した材料を見せながら献立を説明すると、ワニに反応するコメントがチラホラ見える

 

 

今までダンジョンモンスターの肉とか食べてるし、僕は今更ワニ程度どうも思わないのだけど、やっぱ珍しいのかな? 美味しいけどなぁ

 

 

 

「ホーン・ラビットは鷹樹さん、ワニは三男からの提供です。ありがと〜」

 

 

【かわいい】

【ニッコニコかわいい】

【カナタソ、ウチの子にならへん?】

【カナタソに、お兄ちゃんて呼ばれたい人生やった】

 

 

カメラドローンへ軽く手を振り2人へお礼を告げて、焚き火の火力を調整しメスティンにスープの材料を入れる

 

 

「最初はスープから、メスティンに根菜と玉ねぎ・水を入れ沸騰するまで近火で加熱します」

 

 

【慣れておる】

【これは普段から料理してる手付き】

【カナリアちゃんのご飯食べたい】

【カナリアちゃん、ウチの子にならない?】

 

 

チラッと見えたコメントで凄い勧誘されているけれど、僕は他の家の子供になるつもりは微塵も無いので見なかった事にし

 

 

「スープを煮てる間に簡易パンの準備をします」

 

 

【手際良い】

【薄いヤツか?】

【あんまり発酵させない方のヤツかな?】

 

 

さっきお茶を淹れた時の余りのぬるま湯をスキレットに入れオリーブ油と少量の塩とベイキングパウダーを入れて箸で混ぜて小麦粉を入れ、かき混ぜ生地を錬成する

 

 

「ダマなく生地が纏ったら適度に暖かい場所においておきます、その際 乾燥を避ける為に濡れふきんを被せて起きます」

 

 

【これは良いパンになりそう】

【ワイもやってみよ】

【カナリアちゃんの手料理食べたい】

 

 

焚き火台から少し離れた場所に簡易テーブルを設置しスキレットを置いて発酵させるので、暫くは放置だ

 

 

「その間に沸騰したメスティンを火から少し遠ざけてホーン・ラビットの肉を入れ、コンソメを始めとした調味料を入れ臭み消しに香草をパラパラ」

 

 

【今の段階で美味そうな件について】

【くっ・・・飯テロだぜ】

【ワイのデリバリーまだ来ぬのか・・・】

 

 

あとは弱火で じっくり煮ればスープは完成するので、鉄板を取り出し焚き火の上に設置する

 

 

「今回の分量は2名分になっています、レシピが知りたい場合はステラ・アークHPの要望の欄へメールをお願いします。多分要望多数なら公開されると思います」

 

 

【よし、送ってこよう】

【これは実質カナリアちゃんの手料理が食べられるヤツ?】

【カナリアちゃんの手料理と聞いて】

 

 

 

レシピと言っても僕が考案している訳でも無いので需要があるか分からないが、まぁいいとしよう

 

 

「メインのホーン・ラビットの香草焼きを作りたいと思います、事前に各種ハーブや香草・香辛料で下処理してあるホーン・ラビットの肉を鉄板で表面を焼き旨味が逃げない様にします、絶対に鉄板は高温に熱して置いて下さいね?」

 

 

【あぁ〜肉の音〜】

【良い音や】

【ステーキ食べたくなって来たなぁ】

 

 

さっと肉へ焼き目をつけ、アルミホイルで包みメスティンより更に遠くへ配置し、じんわり火を通して行く

 

 

「あとは少し待ちますので、余った人参でも齧って待ってましょう」

 

 

【流れる様に人参齧り出すの草】

【それ本当に余ったのか?w】

【丸ごと人参やんけw】

 

 

 

皮だけ剥いてある人参を丸ごと齧り咀嚼する、うーん自然の味わいで美味しい

 

 

そういえば、鷹樹がダンジョン産の人参とか言ってた様な? まぁ良いか、美味しいし

 

野菜は身体に良いしね、健康大切だし、うん

 

 



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53. ダンジョンキャンプ 6

 

 

 

生の人参を丸齧りして自然と農家の方々に感謝して味わいつつワニの串焼きを焼き、1本食べ終える頃にはスープと香草焼きも完成したので、簡易パンも焼いて夕飯を完成させる

 

 

「よし、ホーン・ラビットのスープと香草焼き、ワニの串焼きに簡易パンの完成です」

 

 

【おー美味そう】

【カナタソの手料理食べたい】

【くっ・・・飯食ったのに腹減ってくる】

 

 

 

コメント欄の反応は、まずまずと言った所かな? とか思いつつワンプレートにしたヤツとスープをシェラカップに注ぎワカモに渡してから、僕はスープを口にする

 

 

「ん〜もう少し塩気があっても有り、かな?」

 

 

「他が味が濃ゆい故、吾は此の程度で良いと思うぞ?」

 

 

「あーなるほど、それもそうだね」

 

 

【[¥3000-]カナタソいっぱい食べて大きくなるんじゃぞ】

【[¥2000-] 食事代】

【[¥500-] 牛丼代】

 

 

 

ワカモと夕飯の感想を述べあっているとカラフルなコメントが流れて来たのが見え、少し困惑する

 

 

「え? ちょっっ僕にスパチャはしなくても良いんですよ? お金を大切にしましょう? ね? 」

 

 

【スパチャ投げられて焦るカナタソかわいい】

【かわよ】

【かわいいけど、それで良いんか?企業所属w】

【[¥10000-] うるへー、ワイが稼いだ金やワイは貢ぎたい推しに貢ぐんや!!】

【主張強いのいて草】

 

 

 

スパチャを貰えるのは、まぁ嬉しい 嬉しいんだけど、僕は配信を通じて視聴者を元気にしたり、そう言うのがしたいので有って 視聴者からお金をもらう為に活動してる訳では無いのだ

 

 

僕の収入はダンジョンで獲得した戦利品と動画の視聴回数で事足りているしね?

 

 

「僕は、皆さんに元気だったり癒しだったり楽しみを届ける為に活動をしています、スパチャは有難いですが僕は皆さんから お金を貰う為に活動している訳では無いので、無理にスパチャをする必要は有りません、そして皆さんが自力で稼いだお金の使い道を止める権利は僕には無いので、皆さんの意思を尊重します」

 

 

【良い娘やんけ】

【僕、カナリアちゃんのファンになります】

【スパチャ禁止にしない理由がしっかりしてる】

【偉い】

 

 

 

僕の考えている事を包み隠さずに言うと、なんとか視聴者へ気持ちが通じた様でスパチャが止まる

 

危ない所だった、お気持ち表明しなかったら お祭り騒ぎになってスパチャに便乗して後続でスパチャを投げ出す人が出て来て、収拾がつかなくなる所だった

 

 

誰も知らない事だが、僕は元社畜会社員なので この手の悪ふざけの流れをSNSで流れてきたのを見たり切り抜き動画を見たりして来ているのだ、初手封じする事も不可能ではない、うん成功して良かった

 

 

「では切り替えまして、ワニ美味しいですよ、ワニ」

 

 

「文字通りワニだな? サメでは無い正真正銘ワニだ」

 

 

【めっちゃワニおしてくるの草】

【ワニ好きなんだね?カナリアちゃんw】

【かわいい】

 

 

鳥に近い味だけど、野生味の有る噛みごたえの有る歯応え、美味しい

 

 

三鶴に頼んで再入荷して貰って煮込みゆ作ってみるのも良いかも知れない

 

 

「少々歯応えがありますから、少し食べる人を選ぶかも知れないですね」

 

 

「吾は平気だが、歯が悪い者や顎の弱い者には向かぬな」

 

 

【結構ちゃんとした食レポで驚いてる】

【どっかでワニ料理食べれないかな?】

【食レポ、ヨシ】

 

 

僕はワニ肉が好きで食べるから大丈夫だけど、みんながみんな僕みたいに食い意地が張ってる訳ではないので、一応説明しておく

 

 

「香草焼きも上手に出来てますね、こちらはちゃんと柔らかくなってます」

 

 

「ふむ、これは隠し包丁で筋切りしてあるのか、興味深い」

 

 

【やべぇめっちゃ肉食いたくなってきた】

【くっ・・・焼肉かステーキ食いてぇ】

【兎か・・・調べてみるか】

【ワカモ氏、何気に料理の知識豊富じゃぬ?】

 

 

 

ワカモに関するコメントに、僕も同意したい

 

 

なんか料理を始めとして色々な知識が豊富だったりする、テントの設営とか焚き火台の設置とか色々

 

 

霊狐の修行に必要なのだろうか?

 

 

 



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54. ダンジョンキャンプ 7

 

 

 

ダンジョンの中と言うのに陽が沈み辺りが暗くなってくると、私の可愛らしい主人様(あるじさま)が欠伸を噛み殺し始めるのを察する

 

徒歩で此のキャンプ地までやってきて、私も手を貸したとはいえテントの設営もしていて疲労も有る上に、腹が膨れたとなれば眠くなるのも必然だろう

 

 

「主よ、一眠りすると良いだろう。このままでは椅子で寝落ちしてしまうぞ?」

 

「う? ん・・・そうだね、そうする・・・すみません皆さん、そう言う訳で僕は仮眠と取りたいと思います、おやすみなさい」

 

 

「これを枕にすると良いぞ、主」

 

「うん、ありがと・・・」

 

 

だいぶ睡魔に負けているカナリアへ9つある尻尾の1つを切り離し手渡しすると、疑わずに受け取り抱き抱えてテントへ入って行く

 

 

渾身の鉄板ネタが不発で少々不満だが、まぁ眠い目を擦る子供だし仕方ないと思う事にしよう

 

「CEOよ、お主も少し休むと良い。視聴者の相手は吾がする故な」

 

『・・・わかったわ、お言葉に甘えさせて貰うわね』

 

「うむ、ゆるりと休むと良い」

 

 

私の呼び掛けに紗夜はカメラドローンを手頃な場所へ着地させたので、彼女も休息に入ったと判断し、指を鳴らして影を操作しカメラの画角を調整する

 

 

「さてさて視聴者の者共よ待たせたな、これより暫し吾が皆の相手を勤める故、適度にコメントを拾って行くので そのつもりでいてくれ」

 

 

【ワカモ氏 優しい】

【ナチュラルに尻尾もいでるけど血が出てない件】

【ワカモ氏マッマみたい】

【ワイもワカモ氏の尻尾欲しい】

 

 

 

よしよし、コメントに鉄板ネタに反応している視聴者いるな、と自己満足し

 

 

「吾は九尾の霊狐だ、この尻尾は実体であると同時に霊体であり、ある種の媒体なのだ、そして霊狐である吾は血が通っている訳ではないし感覚はあっても痛覚はない」

 

 

【なるほど、霊狐ってすげぇ】

【はえ〜、そんな理屈なんか】

【つまり量産できる?】

【販売されたら買うで】

 

 

 

馬鹿正直に真実を語る必要は無いので、もっともらしい説明をして視聴者に納得してもらう

 

私は霊狐と呼称されているが、実際には違う

 

その実、私は神よりチカラを下賜され九尾の狐の獣人へ転生し転性した元日本人と言うヤツだ

 

 

そして2度目の死後に御使として、二柱の元で働いている存在だ、ちなみに本来は人型が基本形態だが、今は召喚獣らしさを出す為に霊狐形態を基本にしている

 

 

「吾から半径15m離れると魔力へ解け吾の元に戻ってくる故、販売は無理だな。諦めてくれ」

 

 

【マジかー】

【ワンチャンは無いか〜】

【モッフモフに顔埋めたい】

 

 

これは嘘だ、私の意思次第で幾らでも何処へでも持ち運べるし、動かす事が出来る

 

ただ制約として切り離して維持できる上限は8つまでで、それ以上は無理だ

 

 

「自慢ではないが、吾の尻尾は安眠効果があってな? 使用した子は皆 朝までスヤスヤだったぞ?」

 

 

【カナタソうらやま】

【ワカモ氏、悪い顔しとるw】

【良い事してるのに笑顔が邪悪で草】

【使用した子って、ワカモ氏は保母さんかいな?】

 

 

クックと笑い、カナリアを甘言で誘惑し安眠の沼へ沈めた事を告げると、コメントで笑顔が邪悪である事を指摘されるが、そんな事は分かりきっている

 

3度の生を受けてなお、邪悪な面をしている自覚があるのだからな

 

 

そして私の言葉に反応しているコメントが見えたので

 

 

「吾が現世(うつりよ)にいた頃の我が子と孤児達の事よ、皆 立派な人間になり生を全うしてくれた」

 

 

【ワカモ氏経産婦なんや】

【なるほどなるほど】

【子育ての経験があるから料理の手際も良いし知識も豊富だったのか】

 

 

転生者は神からチカラを下賜されている為、総じて死に難い生き物へと変貌する

 

特に九尾の狐として転生した私は、強靭な身体と長い寿命を得て夫や子、弟子の最期を看取った

 

 

皆、良い最期を迎え安らぎの中、逝ってくれたのを思い出す

 

 

本当に幸せで有れて良かった、そう思っている

 

 



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55. ダンジョンキャンプ 8

 

 

 

 

 

少し過去を喋り過ぎた気もするので、意図的に話を逸らす事に決め

 

 

「吾の過去話は此れぐらいにして、視聴者諸君は何故 今日モンスターと遭遇しなかったか気にならぬか?」

 

 

【また邪悪な笑み浮かべておるw】

【その言い方、黒幕なんよw】

【良い人なのにねぇw】

 

 

面の悪さが災いして、少し悪巧みした時に笑うと笑みが邪悪と言われるのは、本当困ったものだなぁ、と思わなくも無い

 

 

 

「答えは簡単、吾が居たからだ」

 

 

【ん? 何故に?】

【実は先回りして倒してた、とか?】

【なるほど、分からん】

 

 

答えを告げた程度では理解が及ばない様で、コメントに疑問の言葉が流れていく

 

 

ふむ、日本人には馴染みのない話だったかも知れないか、失念していた

 

 

「もう少し噛み砕こうか、吾は九尾に至った高位の霊狐だ、故に低位のモンスターは吾を避けて逃げるのだよ」

 

 

【なるほど、レベル差が有りすぎるから逃げるのか】

【そりゃ寄って来ないわ】

【1層だもんなぁ、そりゃ寄らないわ】

【ワカモ氏 偉い】

 

 

 

私の説明に視聴者は納得してくれた様で、理解のコメントが流れていく

 

 

「あぁ、カナリアには内緒だぞ? 2層攻略時には、吾は自身に封印式を施しておく故な」

 

 

【ワカモ氏、ちゃんと考えてる】

【主役はカナリアちゃんってスタンスなんやね】

【サポートに徹するつもりなんか】

 

 

「当たり前だろう、お主ら吾が無双してカナリアが棒立ちなのを見たいのか? 違うであろう? お主らが見たいのは身麗しき少女が少しずつ成長しダンジョンを攻略したりする配信だろう? 違うか?」

 

 

【ワカモ氏の言う通りやな】

【棒立ちカナリアちゃんも見たいけど、頑張ってるカナリアちゃんを俺は見たい】

【ワカモ氏、分かっとるな】

【ワカモ氏が視聴者の1番の理解者なん草】

 

 

進んで前に出ない宣言についてコメントが見えたので、理由を述べると納得してくれた様だ

 

 

「言葉を重ねる事になるが、吾はあくまでもサポートに回るつもりだ。カナリアの身に危険が及んだり、要請が有ればチカラを振るうがな?」

 

 

【ポーター出来るだけ活動にプラスだしね】

【今の所、カナタソは1対1しか経験してないからな、タンクがいるだけでも、この先楽になる】

【銃使いは出費もそれなりだしねぇ】

 

 

私の言葉にコメントは概ね良好な反応だ、良かった良かった

 

 

「さて長らく語って夜もふけてきた、お主らもあまり無理をせずに床につけよ?」

 

 

【ワカモ氏にママ味を感じるワイ】

【ワカモマッマ】

【目付きが少し悪いけど優しいマッマや】

 

 

私は元々頑丈な身なので2〜3日不眠不休で活動出来るし、その気になれば亜空間に引き篭もり分身を現世へ放ち活動させる事もできる

 

しかし、視聴者の殆どは柔い身体をしているから、明日が休日とはいえ不眠はキツイだろうと判断した

 

 

「吾はお主らの母ではない・・・が、吾にとって人の子は等しく童、寝付くまで吾が相手をしてやろう」

 

 

【ワカモママ〜】

【マッマ】

【ワイ、明日から働くわ】

【ワイも】

 

 

 

なんかよく分からないが、一部のニートがやる気を出してくれた様で働く気になったらしい、よかった?

 

 

「さて、今は監視も居らぬし質問が有れば答えたりするが、何かあるか?」

 

 

【ワカモマッマは魔法使えるん?】

【マッマの子供になりたい】

【神様って実在するん?】

 

 

カナリアが起きるまでの暇つぶしに質疑応答をしようと思い言うと、そんなコメントが目に入ってきた

 

 

「吾は魔法が使える、吾が真っ黒いのはそれが理由だ。数多の色を重ねると黒へなるだろう? それ故に吾は黒になっておる、それと神は実在する、少なくとも神イオンとヴェスタ神はの」

 

 

【属性を色になぞらえるのか、なるほど】

【なるほど、複数混ぜたら黒になるのか】

【はぇ〜】

 

 

まぁ神は実在すると言われた所で実感は湧かないだろうな、私だって実際に会ったりしていなかったら実感が湧かないだろうしな、うん

 

 

 



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56. ダンジョンキャンプ 9

 

 

 

柔らかな日差しと肌触り最強のモフモフを感じながら微睡み、至福を噛み締めていたが、次第に頭が覚醒してきて自分が何処にいるかを思い出し身体を起こし、だらしなく口元から垂れているヨダレを拭い、ワカモの尻尾を小脇に抱えてテントから出る

 

 

「ん? 起きたか主よ、吾の尻尾は凄いだろう?」

 

 

「おはよう、うん 凄い快眠だったよ・・・って そうじゃなくて」

 

 

「安心せよ、視聴者共は吾が相手をしておいたのでな」

 

 

カッカと何やら悪役のボスみたいな笑みを浮かべて僕に言うワカモに尻尾を返却しながら言う

 

凄い快眠だったので、常用したくなる魔性の尻尾だ

 

 

 

「さ、此処に座れ主よ」

 

 

「うん、うん?」

 

 

【おはよ〜カナタソ】

【朝までスヤスヤとはw】

【ワカモ氏の尻尾のチカラ、恐るべし】

 

 

ワカモに促されキャンプチェアに座ると、ワカモが何処から出したかわからないが、櫛で僕の髪をすき始め、正面にあるカメラドローンと展開されているコメント欄が目に入る

 

 

「おはようございます、仮眠のつもりだったのですが爆睡してしまいました、すみません」

 

 

【いっぱい寝るのは良い事だから気にしない気にしない】

【寝る子は育つし、いっぱい寝て】

【ワカモ氏の話、結構面白かったから大丈夫やで】

【定期的に人生相談枠を設けて欲しいまである】

 

 

ワカモに寝癖を治して貰いながらコメントを見ていると、視聴者は皆んな優しい反応を返してくれるのだが、チラホラ ワカモに人生相談して貰ったみたいなコメントが流れているのが見える

 

ワカモは僕が寝てる間に何をしてたんだ?

 

 

「えーっと・・・ワカモの件は僕の権限では判断出来ないのでCEOと相談してからお答えする事にします」

 

 

【そうよな】

【それはそう】

【カナリアちゃんのチャンネルだけど運営がいるしね】

【CEO、是非枠を確保してくれ】

 

 

僕の説明に視聴者は理解あるコメントをしてくれていて、ひとまず安心していると

 

 

「よし、こんなものだろうか」

 

「ありがとうワカモ」

 

「構わぬよ、吾が好きにした事だ」

 

 

【尊ひ】

【てぃてぃ】

【やはりワカモ氏はマッマ枠やな】

【意義なし】

 

 

僕の寝癖を駆逐したワカモにお礼を言うとコメント欄が沸く、なぜだ?

 

 

「それでは朝食を作って行こうと思います、材料はコチラ」

 

 

【ワクワク】

【白い粉と白い液体、白い卵やな】

【白い液体は草】

【怪しい白い粉w】

 

 

朝なのでシンプルな物をチョイスしたのだけど、予想外にコメントが賑わう

 

 

やっぱり皆んな白い粉が好きなのかな? 僕は好きだけど

 

 

「では手頃な容器に卵と牛乳を入れ、よくかき混ぜます。良いタイミングでホットケーキミックスを入れダマにならない様に混ぜ、スキレットにバターを入れ馴染ませてから生地を流し込み焼きます」

 

 

【ホットケーキ、分かってた】

【そうよねw】

【皆んな白い粉好きなんだから〜w】

 

 

チャチャチャーとホットケーキを錬成して適当なプレートへ積み重ねて配置し、見栄えが良い様にバターを飾り付けてカメラへ見せる

 

 

「ホットケーキの完成です、どうでしょう?」

 

 

【めちゃくちゃ美味そう】

【カナタソは良いお嫁さんになれるね】

【店を開けるレベルの見た目】

 

 

ワカモの分を彼女に渡してから自分の分を頬張り、牛乳も飲む 美味い

 

 

いやぁやっぱりホットケーキと牛乳は相性抜群だね

 

 

【ニッコニコ】

【カナリアちゃんかわよ】

【美味しそうに食べるなぁ】

 

 

「皆さんも是非自作してみて下さい、オススメです」

 

 

【材料自体はスーパーとかで買えるしね】

【カナタソほど上手く焼ける自信ないんやでw】

【それなw】

 

 

僕の言葉に、そんなコメントが流れてくる

 

そりゃぁ最初から上手に焼けないけど、慣れたら上手く焼ける様になるし、自分で食べる分には何度失敗しても大丈夫だしね? うん

 

 

実は僕より三鶴の方が上手なんだけど、これは言う必要は無いね

 

 

 



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57. ダンジョンキャンプ 10

 

 

 

 

朝食のホットケーキを食べ終えて食器類から片付けを始める

 

 

「朝食も終えたので、撤収を始めていきます」

 

 

【がんばえー】

【本当プロキャンパーやなカナタソ】

【ん〜キャンプしたくなってきたぜ】

 

 

そんなコメントが流れているのを横目に撤収作業を開始する、最近覚えた水玉を生成する魔法で焚き火を消化し、水操作で脱水して廃棄袋へ薪の残骸を収納していく

 

 

聖女のデバフで攻撃転用の方向には全く成長しないのだけど、こういう小手先の便利能力や防御とかの方には成長の伸び率が段違いに高い事に最近気がついた

 

 

 

まぁとはいえ攻撃魔法じゃ無い水魔法なんて数が限られているし、創意工夫とか精密制御が必要だったりするんだけどね?

 

 

「それでは帰路を進んで行きたいと思います」

 

 

「主よ、吾の背に乗ると良い」

 

 

「え? 大丈夫?」

 

 

「問題ない、主程度の重量なんぞ、吾には余裕よ」

 

 

【ワカモ氏にライドオン】

【困惑カナタソかわよ】

【キャンプ道具積載してカナリアちゃんまで乗せようとは、ワカモ氏 恐ろしい子】

 

 

キャンプ地に来た時と同様に巨大な狐の姿に戻ったワカモにキャンプ道具を積載して帰路を歩き出そうとしたらワカモに言われ、少し心配になりながらもワカモの背中に乗る

 

 

最強の肌触りな上に鞍がある訳でもないのに謎の安定性を感じる、謎仕様で少し困惑してしまう

 

[クラス 騎兵(ライダー)を獲得しました]

[クラススキル 騎乗を獲得しました]

 

 

「・・・クラス 騎兵を獲得しました」

 

「まぁ必然であろうな」

 

 

【唐突にクラス獲得して困惑のカナタソかわいい】

【クラス獲得、おめでとうカナリアちゃん】

【おめ〜】

 

 

「ありがとうございます? で、ではワカモ、お願い」

 

「うむ、承知した。揺らさずに走る故、心配は無い」

 

 

僕の言葉にワカモはカメラドローンへ目配せし、とっとっと と軽快な足取りで移動を始め、少しずつ速度を上げてゆく

 

徐行から速足へ変わり駆ける、そこそこ速いのに全く揺れない、これは中々に楽しい

 

 

【はっやw】

【カナリアちゃん、お気に召した様だな】

【ニッコニコやん、かわよ】

【カナリアちゃん、バイク乗りの素質あるな】

 

 

「良いですね、取ろうかな単車免許」

 

 

「ダンジョンの外では吾は目立つしな、良いのではないか?」

 

 

【乗り気で草】

【せや、カナタソ高校生やんけ】

【そうだ、カナリアちゃん小学生みたいな見た目だけど高校生だったなw】

【ワンチャン、もう取れる歳なんやね】

 

 

チラッと見えたコメントを拾い発言すると、僕が高校生である事を忘れている視聴者がチラホラ見受けられ、少し遺憾の意を感じる

 

 

「もう少し・・・来週ぐらいで16歳の誕生日なので、両親と相談して教習所へ通ってみようと思います」

 

 

【誕生日近々で草】

【やっぱりカナリアちゃんは合法やね】

【やめーやw】

【単車乗り回すカナタソ、良い】

 

 

確か単車は16歳から中免が取れる筈なので、中免を取るとして・・・問題は小さい部類のバイクにしないと僕は持て余すと思うので、何を購入するかだなぁ

 

 

帰ったら三鶴に相談してみよう、日曜だし家に居るだろうし

 

 

そんな訳で帰り道は行きの3分の1以下の時間で1層入り口付近へ辿り着く

 

 

「それでは今回の配信は此処まで、よろしければチャンネル登録、高評価をよろしくお願いします」

 

 

「皆の者、またいずれだ」

 

 

【おつ〜】

【お疲れ様〜】

【おつした〜】

 

 

軽くカメラドローンへ手を振りながら締めの挨拶をして配信終了の画面に切り替わり暗転したのを確認してから肩の力を抜き脱力する

 

 

「事務所へ帰ろっか」

 

「そうだな、キャンプ用品も下ろさぬといかんしな? 主も身を清めねばな?」

 

 

「別に1日ぐらい気にならないけど? もう人に会う用事もないし」

 

「身嗜みは人として最低限のマナーだぞ、主よ」

 

 

「うぃ」

 

ワカモに騎乗したまま彼女と会話をしていると、たしなめられてしまったので反省する

 

 

気をつけよう

 

 

 



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58. 半休暇

 

 

ワカモにたしなめられてしまった後、ギルド内を彼女の背中に乗ったまま移動し事務所へ帰るが、流石に騎乗したまま中には入れなかったので廊下で荷卸しをして倉庫にキャンプ用品をしまってから、人型になっていたワカモに背中を押され事務所のシャワーを借り身を清める

 

 

ワカモって綺麗好きなんだな、多分

 

 

魔武器であるローレライは自動洗浄機能がついてるので格納してしまえば後は放置で良いので家から事務所まで着てきた服に袖を通し、デスク区間へ戻る

 

 

「やぁカナリアちゃん、お疲れ様」

 

「ありがとうございます、篁さん」

 

 

今日は優雅にコーヒーを飲んでいる篁に労われたので、お礼を言い軽く周りを見渡すが、ワカモの姿が見えない

 

 

「ワカモちゃんなら隠世(かくりよ)? に帰ったよ」

 

 

「・・・なるほど、隠世に」

 

 

僕が惰眠を貪っている間、寝ずの番をしてくれていた訳だし、身体を休めに帰ったのだろう、と判断し篁に相槌を打つ

 

 

「カナリアちゃん、元気そうだね?」

 

「え? 急にどうしました? 元気ですけど・・・」

 

 

篁の問いを疑問に思い訝しんで彼女を見ると

 

 

「少し疑問があってね? 8時間快眠しているとはいえ、ワカモちゃん程の高位召喚獣を約1日 召喚し続けてケロっとしてるから」

 

 

「どういう事ですか??」

 

 

「ありゃ? 気付いて無いの?そっか」

 

 

 

訝しんでいる僕に気付いた篁が説明をするが、さっぱり理解出来ずに尋ね返すと、軽く驚いた表情をしてから

 

 

「いいかい? 召喚獣と言うのは、召喚・・・現世に顕現させている間、魔力を消費するんだ、そして召喚獣が強ければ強い程 消費する魔力の量は増えるって訳、ゲーム的に表現すると ワカモちゃんは星5か6だね」

 

 

「確かにワカモと契約した時、凄く眠くなりましたけど・・・」

 

 

「ほら、本来ならカナリアちゃんはワカモちゃんを召喚出来ない筈ってワカモちゃん、言ってたでしょ? アレってカナリアちゃんのレベルが足らないからって事なんだけど、魔力保有量に関しては例外だったみたいだね? 現にワカモちゃんを現世に顕現させ続けられてた訳だし」

 

 

篁の説明を聞き、そういえば そんな事を言っていたな? と思い出してなんとなく理解する

 

 

どうやら僕は多量の魔力を保有している様だ・・・アレ?もしかして成人男性並に食べてても成長しなかったり、肉が付かなかった理由って魔力に変換されてるから?

 

 

それだと理由としては納得出来る、動いてはいるけど高が知れているからね、うん

 

 

「その様子を見る限り、本当に気付いてなかったみたいだね? 」

 

「え? えぇ、まぁ・・・」

 

「カナリアちゃんさ? 魔力保有量も多いし 聖女クラスなんだし、何個か補助系統を習得しといた方が良いんじゃない? この先もソロ専門で確定してない訳だし」

 

 

「そうですね、幸い攻撃魔法以外の習得にはバフが掛かる様なので考えてみます」

 

 

「私に言ってくれたら資料とか取り寄せるから、気軽に言ってね」

 

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

仕事は真面目な篁の言葉に頷き、肯定する

 

本当、仕事中は頼りになるなぁ この人

 

 

「それで話は変わるんだけどさ? 」

 

「なんでしょう?」

 

 

「ワカモちゃんの尻尾、最強?」

 

「はい、至高でした」

 

 

真剣な表情になり尋ねてきた篁に、僕も真剣な表情で返す

 

ワカモの尻尾は最強無敵の至高の逸品だったと断言できる

 

 

「くぅぅ、私も是非味わってみたいなぁ」

 

「今度、ワカモに相談してみますか?」

 

「え? 良いの?」

 

「えぇ、篁さんにはお世話になりっぱなしですし」

 

「やったーありがとうカナリアちゃん」

 

「おふっっ」

 

 

余程嬉しかったのか篁は椅子から立ち上がり、僕を抱きしめ紗夜より控え目な胸に僕を埋める

 

これはなかなか、紗夜もだけど篁もなかなかのモノをお持ちだ、僕には全く無いけど(笑)

 

 

ひとまず良からぬ事をされない限りは、篁が満足するまで されるがままにしておこう

 

 



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59. vs母娘

 

 

ダンジョンキャンプが成功して幕を閉じた翌日、僕はトレーニングルームにて聖女フォームでフロッティを握り締め、のほほん と笑みを浮かべている完全装備の母と対峙していて、僕達の周りを多数のカメラドローンが飛び回っている

 

 

「まさか、お母さんとの稽古をライブ配信する事になるとは」

 

 

「ふふ、安心なさいカナリア、痛くない様にするわ」

 

 

「それは安心出来ないかなぁ?」

 

 

なんとも言えない事を言って微笑む母に少し恐怖を抱きつつ彼女を見据え、初手を考える

 

 

前回物理的に頭を凹まされてから色々と出来る事が増えた、だから勝てなくても善戦はできる筈だ、多分

 

 

『それじゃライブを始めましょうか』

 

 

「分かりました、紗夜さん」

 

 

「分かったわ〜」

 

 

紗夜の言葉に了承し返事を返すとカメラドローンが僕の前に滞空し、配信画面を映し出し、待機画面から切り替わるのを確認し

 

 

「皆さん、ごきげんよう ステラ・アーク所属 カナリアです。今日は不定期で行っている稽古の様子をライブで配信していきたいと思います、今日の相手は・・・」

 

 

開始の口上をして、紗夜へ合図を送り母へカメラが切り替わり

 

 

「視聴者の皆さん こんにちは、私はアルエットっていうの、よろしくね?」

 

 

【美人やな】

【めっちゃ美人】

【カナタソのと似た法衣着てる】

【カナリアちゃんと顔の作り似てね?】

 

 

やはり法衣を着ていると目につく様で、気になっている人がいる様だ、あと鋭い人もいるみたい

 

 

「アルエットは、若宮ギルド支部長をしている強者です、温和な見た目に騙されていると痛い目を見ます、バリバリのアタッカーですからね」

 

 

「あら、キチンと治癒魔法も使えるのよ?」

 

 

「知ってるよ」

 

 

【遠慮が無いから身内かの?】

【お姉ちゃんとか? 】

【カナリアちゃんは4兄弟で兄3人じゃろ?】

従姉(いとこ)とか?】

 

 

 

やはりと言うか、母の見た目が若いせいか、コメントの中に彼女を僕の母親だと思っている人がいない

 

 

本当、若いよねぇマイマザー

 

 

「それじゃぁ・・・始めようか、お母さん」

 

 

「そうね、時は金なりとも言うし始めましょう」

 

 

【マッマ!?】

【カナリアちゃんのママなん??!】

【わっかっっ?!】

【え? アルエットさん、4児産んどるんか? そなアホな】

 

 

そんな阿鼻叫喚が見えた気がするが、僕は敢えて無視して紗夜に合図してカメラドローンを退避させフロッティを改めてしっかり握り締めて母を見据える

 

 

「先手必勝!!」

 

 

「今日は届くかしらね? Wasser, blockiere es(水よ、阻め)

 

 

前回同様、僕の放った散弾は母の生成した水玉により無力化され、彼女へ届かない

 

 

無論、想定通りの事なので焦らずに動き続けて的を絞らせない様にする、戦闘経験や知識・技術で僕が母に勝てる要素は全く無いので、冷静かつ慎重に見極めなきゃならない

 

 

「ほら、その弾じゃ私には届かないわよ? 早いしないとジリ貧になって、また頭が凹んでしまうわよ?」

 

 

「揺さぶりに掛かってるのは分かってる、だから気にしないよ!」

 

 

「そう、それじゃぁ・・・私からも行くわよ? Wasser, schnitzen(水よ、刻め)

 

 

「速いって!」

 

 

2つ飛んできた水刃の1つを撃ち落とし、もう1つをフロッティの銃剣でパリィして防御し、反撃に母へ散弾を浴びせるが、やはり水玉に阻まれる

 

 

やっぱり厄介だな、水玉

 

 

水って抵抗力が凄いし、液体故に不定形で粘度も厚さも形も自由自在

 

 

だからこそ、隙を作る事ができる筈だ

 

 

僕が母に勝つには、奇策の他ない・・・勝てる気全くしないけど

 

 

「それでも、やらないとダメなんだ」

 

 

「来なさいカナリア、その悉くを私は打ち砕きましょう」

 

 

言ってる事が魔王みたいになってる母に少し引きながら攻撃の手と足を止めないで行動を続ける

 

 

やってやる、やってやるぞ

 

 

 



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60. vs母娘 2

 

 

 

惜しげも無く母へ散弾を浴びせるが、その悉くが母の水玉に阻まれ彼女に届かない

 

ついでに言うと、母は一歩も動いて居ななかったりする、身を隠す遮蔽物欲しい

 

 

「気合いは感じるけれど、前と手札のバリエーションが同じね? 」

 

 

「攻撃魔法習得にデバフかかってるからね」

 

 

「それもそうね」

 

 

依然として、余裕そうなニコニコ顔を崩さずに冷静に僕を評価し母は言う

 

 

よし、攻撃手段の方の欺瞞情報の刷り込みは良い具合だな、と思いひとまずは僕の作戦は順調に進んでいる事を感じる

 

 

次の段階へ進める為に、散弾とスラグ弾を交互に装填し射撃を始める

 

 

「少ない手札で工夫してきたわね、うんうん 良いんじゃない?」

 

 

「まだ余裕な表情してるくせに」

 

 

「当たり前じゃない、何年貴女のママをしていると思っているの?」

 

 

「答えになってないよ!!」

 

 

 

母の本気で言っているのか、ふざけているのか分からない言葉に少しツッコミを加えつつ、閃光手榴弾を母へ投げ炸裂の瞬間だけ自分の腕で視界を遮り、聖水を一気飲みしながら母へ駆け寄り、フロッティを突き立てる

 

 

「悪くない判断だけれど、まだまだ甘いわね」

 

 

「なんで、見えてない筈なのに・・・」

 

 

「視覚のみで戦ってきた訳じゃないって事よ」

 

 

フロッティの切先が母に突き立ったと確信していたが、母は目を閉じているにも関わらず儀仗でフロッティの側面を軽く叩き、その軌道を逸らして余裕そうに言う

 

 

「貴女は反響定位のスキルを有しているでしょう? 実は私も持ってるのよ、視覚に頼らない感知スキルを」

 

 

「くっ・・・その可能性を考慮してなかったなぁ」

 

 

「ふふ、また1つ賢くなったわね、カナリア」

 

 

魔法使いである筈の母は僕程度なら近接戦となっても余裕な様で、ニコニコしたまま言い、水玉でフロッティの切先を阻み拘束して僕の頭へ儀仗を振り下ろしてきた

 

 

「此処だ!!」

 

 

「あら? やられたわ・・・油断ね・・・」

 

 

シールドで儀仗の一撃を逸らして回避し、拘束されていたフロッティの銃剣を本体からパージし素早く母の鳩尾へと銃口を構え直し散弾を浴びせると、そんな事を言いながら母は倒れる

 

 

「ふふ、成長したわね カナリア、ママは嬉しいわ」

 

 

「いや、何事もなかった様に立ち上がるじゃん」

 

 

「当たり前でしょう? 鉛玉程度で私が死に至る訳ないじゃない、レベルが違うのよレベルが」

 

 

巻き戻しみたいにヌメっと起き上がりニコニコして母は言う、本当に人間か? マイマザー

 

 

「先程のは良い手だったわ、フロッティは魔武器だものね、任意の操作が意思1つで出来る利点を利用する、良い発想だわ」

 

 

「う、うん・・・ありがとう?」

 

 

「でも、止めは散弾では無くフラグ弾にするべきだったわね? そうすれば私の障壁を貫いてダメージが入ったかも知れないわ」

 

 

「え? 障壁って・・・」

 

 

「中・後衛である私が自身の身を守るすべを持ってない訳がないでしょう? 私は戦闘中は常に障壁を展開しているのよ?」

 

 

「えぇぇ・・・」

 

 

つまり・・・つまりだ、母は僕と戦闘している間、無詠唱で常に障壁術を使用しながら、同時に水魔法で防御や攻撃を行っていたって事か?

 

こりゃ敵わない訳だ、うん

 

 

 

「えっと・・・稽古中、動かなかったのは?」

 

 

「舐めプしてるだけよ?」

 

 

「・・・泣いていいかな?」

 

 

「あらあら、ママの胸に来る?」

 

 

「行かないよ、お母さんが元凶だからね!」

 

 

衝撃の事実を知ってしまい、著しく自信を打ち砕かれてしまう

 

 

いやぁ、ここまで実力差があるとはなぁ

 

 

「カナリア、今日はここまでにしましょうか」

 

 

「え? うん、分かった」

 

 

母の言葉に頷き、カメラドローンへ合図をして近づいてもらい

 

 

「今日の配信は、ここまでにしたいと思います。よろしければチャンネル登録、高評価をよろしくお願いします」

 

 

「若宮ギルドは探索者登録、大歓迎だから遠慮せずに来てね?」

 

 

締めの口上を述べ、軽く手を振り配信を締める

 

最後にサラッと宣伝入れてくるとは、なかなかやりおるなマイマザー

 

 

 



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61. 2層 攻略

 

 

 

 

 

我が母が偉大すぎる事を再確認する稽古配信の翌日、僕は例の如く聖女フォームで2層入り口付近に立っている

 

 

配信者生活も1月(ひとつき)を超えると人間慣れてくるのか、最初に比べてスムーズに色々出来る様になった、良かった良かった

 

 

「皆さん ごきげんよう、ステラ・アーク所属 カナリアです。今日は2層の攻略をしていきたいと思います」

 

 

【連休だから連日の配信助かる】

【カナリアちゃん、無理しないでね〜】

【せやで、ちゃんと休んでな?】

 

 

流石に連日ライブ配信をしている為か、僕の体調を気遣ってくれる視聴者がチラホラいるのが見える、優しい

 

 

「では、早速出発していきたいと思います」

 

 

【カナリアちゃん、ガンバー】

【ガンバ〜】

【ガンバエー】

 

 

今日はキャンプの時程の荷物を積載していないワカモを従えて攻略を開始する

 

 

「えーっと、若宮ギルド2層のモンスターは、1層に引き続きミドル・ボアとスモール・ディア等が居て、新しくミドル・ウルフ等 複数種が増える、と」

 

 

【やっぱ少し増えるんやな】

【階層=レベル換算だとレベル2だし、まだ大丈夫やな】

【トレンチガンは強いしな】

 

 

篁が纏めてくれた2層の出現するモンスター等が記載された冊子を見て喋ると、表層に生息している獣系モンスターならフロッティで一撃必殺出来るだろう、と予想した視聴者のコメントが流れていくのが見える

 

 

そんなコメントを横目で見つつ冊子をパラパラと捲り流し読みしているのだけど、モンスター以外の動植物の情報が写真付きで簡単な説明まで記載されて、なかなか素晴らしい、が・・・食用じゃ無い物の注意書きが念入りに書かれていて、どうやら僕は信用されてない様だ

 

 

まぁ仕方ないよね、好奇心には勝てなかったもん、前回

 

 

 

 

「ん〜・・・半径50mに敵影なし、と」

 

 

【他のダンジョンの森林地帯だと見通し悪いけど、若宮のは比較的見通し良いな】

【せやね、まぁ表層ってのもあるんじゃねか?】

【攻略開始して10分ぐらいだけど、接敵しないのは珍しい?】

【運によるやろな、人によっては2層の階層ボスまで接敵ゼロもいたらしいし】

 

 

反響定位で周囲を確認しつつ獣道を進むが、1層攻略の時よりは気も楽に進めている気がする

 

 

まぁ反響定位は姿がハッキリと見える訳ではなく、ソナーみたいに距離と大凡の形までしか分からないし、索敵距離50mぐらいなんだけどね?

 

 

そんな訳でスキル任せにズンズン進んで行き

 

 

「居ましたね、アレは・・・ミドル・ウルフでしょうか?」

 

 

【お、レア個体じゃん】

【毛が白いのはレアやな】

【1000分の1だっけ? 】

【せやで、毛皮落とすんのも同数とする】

【確率が低くて草】

 

 

とりあえず木陰に身を屈め、白の毛並みを持つミドル・ウルフを見つけ視聴者に報告すると、レア個体らしく少しコメント欄が賑わう

 

 

納刀していたフロッティを抜刀し構え、フォアグリップを少しだけ引きチャンバーのショットシェルが何かを目視で確認し、フォアグリップを戻しミドル・ウルフへ目線を戻して

 

「進行方向上に居ますし、せっかくなので撃破しちゃいましょう、幸い気付かれていないですし」

 

 

殺気(やるき)満々やなw】

【可愛い顔して容赦ないカナタソ、ヨシ】

【見た目は聖女やし魔の者を屠るんは仕事やしなw】

 

 

なんか好き勝手言われてる気がするけど、まぁ良いか

 

聖女なのもやる気満々なのも事実だから仕方ない、うん仕方ない

 

 

そんな訳で深呼吸し約50m先に居るミドル・ウルフへ散弾を放ち、その頭を撃ち砕く

 

ミドル・ウルフが濃紫の魔力粒子へ解けていくのを確認し、木陰から立ち上がりドロップ品を確認しに歩み寄る

 

 

[経験値を獲得しました]

 

「牙と毛皮ですね」

 

【カナタソ、ラック高いな】

【おめー】

【運いいね、カナリアちゃん】

 

 

牙と毛皮をアイテムバッグへ収納しながら報告すると、軽く祝福のコメントが流れていく

 

 

さてさて、攻略も3分の1ぐらいは終わったかな?

 

 

 



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62. 2層 攻略 2

 

 

 

 

 

ミドル・ウルフを撃破した後、小休止を兼ねて冊子の中にあった簡易マップを確認しつつシリアルバーを齧る

 

 

「多分、この辺りと仮定して・・・2層出口までは大体2時間半ぐらい?」

 

 

「そうだの、吾の足なら1時間ぐらいだが・・・どうする?」

 

 

シリアルバーを齧っている僕にワカモが尋ねてくる、おそらく この質問は、彼女の背に乗るか? と言う問いだと判断し、少し考える

 

 

ひとまずアイテムポーチからスマホを取り出し時間を確認し

 

 

「まだ夕暮れまで時間あるから、まだ大丈夫かな?」

 

 

「うむ、攻略配信だしな、致し方あるまい」

 

 

【ワカモ氏 少し残念そうなんだがw】

【ワカモ氏、カナリアちゃんにライドオンして欲しかったんやなw】

【ワカモマッマ、ドンマイw】

 

 

コメントと少し残念そうなワカモを横目にスマホと食べ終えたシリアルバーの包装をアイテムポーチへ、冊子をアイテムバッグに収納し恐らく2層出口へと続いているだろう獣道を進む

 

 

アイテムバッグかポーチが もう1つ欲しいな、こう道具用のやつが欲しい

 

 

ローレライのレベルが上がったらポーチの数増えたりしないかな?

 

 

そんな邪念を抱きつつ進み、ダンジョン内で初の鳥系モンスターと会敵する

 

 

「木の葉で姿が捉え難くてエイムし辛い・・・」

 

 

【お? ダンジョンモンスター相手に苦戦してるぞ?】

【なるほど、獣系モンスターとは相性良い反面、飛行する系は相性悪いのか】

【相性問題、あるあるやな】

 

 

使用してるのが、通常のショットシェル同様の金属由来だったら あまり関係無いかも知れないが、僕が使用しているのは岩塩弾なので手で簡単に折れる枝なら兎も角、人力で折るには手こずる枝とかには岩塩が負けて阻まれてしまうのだ

 

 

この想定はしていなかった自分の甘さを呪いつつ、手持ちの札で切り抜ける方法を考える

 

各種岩塩弾と閃光手榴弾が1つ、聖水小瓶がいっぱい、と

 

 

手持ちの使えそうな物は、これぐらいで後 は障壁術と水魔法で水玉を作れるぐらい・・・

 

 

水玉、そう僕は水魔法使えるじゃないか

 

 

そして障壁術の練度も母に褒められるぐらい上達しているし、僕はあの無茶苦茶な母の娘なのだ、やれる筈だ

 

 

僕は腹を括り聖水を2本飲み鳥へ散弾を放ちながら詠唱を始める

 

[240秒間 ステータスが向上します]

 

Herr, erhöre mein Gebet(主よ、我が願いを聞き届け給え)

 

 

【おん? 急に日本語じゃないの喋り出した】

【何語や、これ】

【多分、O B共通語やな】

【そういやマッマがベルカ人って言ってたな】

 

 

 

そんなコメントを横目で見つつ、鳥に近づく隙を与えない様に進路へ散弾を撃ち込みつつ詠唱を続ける

 

 

Ich hoffe auf den Segen einer reichen Ernte(望むは豊作の恵み)

 

 

【なんかカナリアちゃん、キラキラし始めてね?】

【共通語で詠唱してるんやろか?】

【教養無いからサッパリ分からん】

 

 

ごめんね、視聴者の皆さん 流石に日本語で詠唱するの恥ずかしいから共通語で詠唱してる訳じゃなくて、イオン様宛の祝詞含みの詠唱なんだよね

 

 

Betreibe und reinige mich von bösen Geistern.(魔を祓い清め給え)

 

 

【急に曇ってきた?え?】

【日が暮れても天気が変わる筈ないダンジョンで?】

【天候操作の魔法?】

【カナリアちゃん、マジ聖女やん】

 

 

[経験値を獲得しました]

[180秒間 ステータスが上昇します]

 

 

 

詠唱を完了させると僕を中心に魔法陣が形成され、みるみる雲が出来上がり雨が降り出し、僕と木々・・・そして鳥を濡らす

 

 

先程まで元気に飛び回っていた鳥は苦悶の鳴き声を上げ墜落し経験値とドロップ品を残し魔力粒子へ還る

 

 

 

ふう、なんとかなったな、良かった良かった

 

 

なんとかなった代わりに、びしょ濡れになってしまったけど、まぁ仕方ないよね?

 

 






ルビ振りがバグったので編集して再投稿しました


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63. 2層 攻略 3

 

 

 

小雨で留めるつもりが、少し加減を間違えて本降りの雨量にしてしまった為、全身くまなくビッショリ濡れてしまったので、脱水する事に決め水操作で衣服や髪から水気を吸い出し手元に集めつつ、コメント欄をチラ見すると

 

 

【濡れた美少女キタ】

【すけっ!?】

【少し透けてる?】

 

 

なんかコメント欄が阿鼻叫喚してるのが見える、僕の服が透けて喜ぶ変人がいる様で、少々変な感情を抱かずにはいられない

 

 

「ノリ程度の下ネタは見逃しますが、僕の姿を見て興奮する変態さんは、スタッフやCEOにお願いしてBANして貰う事も出来ますので、お忘れなく」

 

 

【カナリアちゃんの冷ややかな目】

【割とマジだな、コレ】

【スタッフとCEO、これ見てたらガイドライン作ってケロ〜】

 

 

脱水して集めた水玉が野球ボールぐらいのサイズになってきたが、まだ生乾きな感じで少し気持ち悪いので続行する

 

 

【所で、さっきカナリアちゃん、何をしたん?】

【天候操作の魔法までは分かるけど】

【なんで鳥堕ちたん?】

 

 

 

「疑問を抱いている方も多い様なので、少し解説をしますね? 終わる頃には服の脱水も終わるでしょう」

 

 

【助かる】

【感謝】

【おしえて、カナリアてんてー】

 

 

先程 鳥を堕とした魔法の事が気になった視聴者が結構居た様子なので、服の脱水が終わるまでの暇つぶしに、軽く解説をする事にした

 

 

「先程の魔法は、水魔法の天候操作、いわゆる雨を降らせる中規模から大規模の魔法です」

 

 

【それは分かる、うん】

【本来だったら複数人でするタイプの魔法な気がするけど、まぁ良いか】

【カナタソ、魔力多いんやな】

 

 

脱水の片手間に解説をすると、降雨の方は理解している人が多数いる様で、そんな反応が流れてくる

 

 

「何故、降雨の魔法で鳥を撃破出来たか? と言うと、僕のスキルが関係しています」

 

 

【カナタソのスキルって?】

【なんやっけ?】

【確か反響定位と・・・なんやっけ?】

 

 

僕が視聴者に明かしているスキルは、確か反響定位とダンジョンモンスター特効・・・の筈、あとは騎乗かな?

 

 

あとで配信見直して明かしたスキルを確認しておかなきゃね、うん

 

 

「以前、僕がダンジョンモンスター特効のスキルを有している事を覚えていますか? 今回は そのスキルを併用して降雨の魔法を媒体に使った訳です」

 

 

【なるほど、ダンジョンモンスター特効ならモンスター以外には無害か】

【デメリットも少ないな】

【濡れて動きが鈍るのと、詠唱が長いのがデメリットだけど、決まれば必中だもんな、メリットが勝る】

 

 

僕の解説に視聴者は納得をしてくれる、実際の所 この説明では 嘘はついていないが事実では無いのだが、まぁ視聴者は知る由もない

 

 

実際は降雨の魔法で降らせる雨を聖水で生成しているのだ、だから今も物理・魔法攻撃力や防御力上昇等のバフにMP・HPの継続回復が続いている状態だ

 

 

だから本来の効能は、ダンジョンモンスター特効の広域デバフ+探索者への広域バフという代物な訳だ、うん

 

 

 

服や髪も良い具合の乾燥状態になったので水玉をポイ捨てし

 

 

「服の脱水も終わりましたし、攻略を再開したいと思います」

 

 

【だいぶ魔力消費してる筈だけど、大丈夫?】

【無理せんとログアウトしてええんやで?】

【もう少し休んでもええよ? 誰も文句言わんて】

 

 

なんか視聴者からの優しい言葉が流れてきて、少し嬉しいと感じ

 

 

「先程充分休みましたから、大丈夫です。それに僕は保有魔力量が多いらしいので」

 

 

【カナリアちゃんが大丈夫ならええけど】

【シンドくなったらログアウトやで? ええな?】

【リスナーはカナリアちゃんが元気な姿が見たい訳だから、無理しないでね?】

【ワイ、カナリアちゃん見てて父性に目覚めたんや、カナタソが元気にキャッキャしてんのが見たいんや】

 

 

なんというか、僕の視聴者まとも過ぎない? こうゆう配信界隈って、もっとこう濃ゆい変人が多いイメージを持ってたけど、優しい人達で僕は恵まれているなぁ、嬉しい

 

 

 

 

 

 



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64. 2層 攻略 4

 

 

 

視聴者の優しさに感動しつつ歩を進めていると、RPGに出てくるテンプレート宝箱を発見する

 

 

「怪しいー」

 

「確かに怪しいのう」

 

 

【森林エリアにステレオタイプの宝箱有るの草】

【確かに怪しいw】

【カナリアちゃん、めっちゃ怪しんでて草】

 

 

こんな森林の中にポツンと、如何にも開けてくれと主張するザ・宝箱を怪しむな と言う方が無理と言うものだろう

 

 

「どうしよう?」

 

「開けてみるか?」

 

「ん〜・・・・」

 

 

【カナリアちゃん、木の実は迷わずに食べたのに宝箱は悩むのねw】

【カナタソは食い意地がはっておるんやw】

【慎重なのは良い事】

 

 

割と本気で罠の可能性を考慮している訳だけど、チラ見するコメント欄には そんな事が書かれているのが見える

 

 

これは永遠に擦られ続けられるネタだろうな、うん

 

認めよう、僕は食い意地張ってるよ

 

 

 

「RPGとかだと、宝箱の中にはポーションとかが入っているのがテンプレートだよね?」

 

 

「そうだの、表層とはいえダンジョンは何が起こってもおかしくない、たまたまステレオタイプ宝箱が生えた可能性もあるからな」

 

 

「なるほど?」

 

 

ワカモの言う事も一理あるなぁ と思い、フロッティで宝箱を突いてミミックじゃ無い事を確認してみる

 

 

【慎重なカナリアちゃんかわいい】

【恐る恐るやんw】

【かわいい】

 

「よし、ミミックではなさそう」

 

 

【ミミックか警戒してたんか】

【なるほど、ミミックは警戒すべき】

【かわいい】

 

 

とりあえずミミックなら擬態を解くぐらい宝箱を突き回し確認して蓋に手を掛けて開こうとするが、微動だにしない

 

 

「鍵が掛かってる? ふむ・・・」

 

 

「宝箱に鍵が付いているのもテンプレートだの」

 

 

「確かに、ん〜?」

 

 

【カナタソ、鍵開けできるん?】

【鍵穴見てるけど、分かるん?】

【ワンチャン、才能で突破とか?】

 

 

鍵穴を覗いてみても開け方が分かる訳では無いので、正直無駄なんだけど観察は大切だし、とりあえず宝箱の観察を続ける

 

 

大部分が木製(仮)で縁や鍵が金属で補強されてるザ・テンプレート宝箱

 

 

「よし、これなら大丈夫かな?」

 

「鍵開け出来そうか?」

 

「え? 鍵開けなんて無理だよ、だからこうする」

 

 

【カナタソ、脳筋過ぎるw】

【カナタソw】

【チカラ・イズ・パワーw】

 

 

フロッティから銃剣を外して銃口の方を握り締め、ストックを宝箱の上蓋へ力一杯振り下ろすが、少し割れた程度だったので2度3度と完全に叩き割れるまで振り下ろす

 

 

「ふぅ、穴が空いたので破片を退かして中身を確認しましょう」

 

 

「主よ・・・」

 

 

【流石のワカモ氏も呆れ顔なんだがw】

【イキイキしてましたなぁカナリアちゃんw】

【ニッコニコやんカナリアちゃん】

 

 

ぺぺーい と破片を退けて宝箱の中身を掴み引っ張り出して確認すると、水色の液体の入った小瓶だった

 

 

「・・・ポーション?」

 

「どうだろうな? 」

 

「視聴者のみなさん、分かる人いませんか?」

 

 

【カメラ越しだとなぁ】

【ん〜瓶の形と色的にはポーションだと思うけど、何ポーションかはわかんねー】

【ダンジョン産ポーションは色も容器もバラバラだもんなぁ】

 

 

「じゃぁ持って帰って鑑定してもらいます」

 

【せやな】

【状態異常付与系のポーションだとヤバいしな、英断だな】

【鑑定スキル持ちがいると色々と便利やけどなぁ、そうそう居ないから】

 

視聴者へ助けを求めてみたが、流石に分からないみたいなので一旦持ち帰る事にして、アイテムバッグへしまい粉砕した宝箱を見ると破片諸共消え去っていた、ほんと不思議空間だなぁダンジョンは

 

 

そんな事を考えつつ先へ進む、位置的には もう少しで階層ボスが居る筈なので、ゴールも近い

 

 

冊子によれば、2層のボスは大蛇らしいので前回同様開幕眉間に風穴を開ければ勝てる可能性が高い、多分

 

 

まぁワカモもいるし、どうにかなる筈だ、きっと

 

 

 



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65. 2層 攻略 5

 

 

 

宝箱を粉砕して謎ポーション(仮)を入手してから約20分程で、階層ボスのボス部屋前に辿り着いたので、1層の時みたいに石碑へ魔力を流しセーブしてからボス部屋へ踏み入れようとした足を止める

 

 

【ん? どしたんカナリアちゃん?】

【急に止まって、どうしたん?】

【なんかトラブルか?】

 

 

やはり視聴者が優しく感じつつ

 

 

「いえ、先程魔力を結構消費してしまったので、ボス戦の前に休憩しようかと」

 

 

【なるほど、それもそうだな】

【せやな、万全をきすのは良い事やな】

【宝箱も物理で粉砕したしな、少し休憩した方がええな】

 

 

「それじゃ15分ぐらい休憩にします、今のうちに皆さんも休憩してください」

 

「皆の者安心せよ、主は吾がしっかり見ておくからな」

 

 

なんか軽くワカモに失礼な事を言われた気がするけど、気づかなかった事にして、ワカモに積載されている鞄から簡易コンロ等の道具を下ろして、キャンプの時同様、聖水でお茶を淹れキャンプチェアに座って飲む

 

 

ひとまず夕暮れまで暫くの猶予がある内にボス部屋まで辿り着けて良かった

 

 

2層ボスは大蛇らしいけど、どれくらいデカいのか少し楽しみだし、肉がドロップするかも知れないので期待大だ

 

 

ちょっとどんな味か気になるしね?

 

 

そんな訳でオヤツのシリアルバーをモソモソ食べて、しっかり片付けをしてボス部屋へ足を踏み入れる

 

 

30秒程進むと、体長5mほどの大蛇が姿を現す

 

 

「アナコンダみたいな柄してますね」

 

 

「そうだな」

 

 

【相変わらず冷静なカナタソw】

【女の子って蛇とか怖がるイメージあるけど、カナリアちゃんは例外だな】

【俺には分かる、カナリアちゃんは きっと、コイツどんな味だろう?と考えているに違いないw】

 

 

 

なんというか僕の考えを見透かされて少し変な感情を抱きつつ、大蛇を見るとクマの時とは違い、侵入者である僕に威嚇してきている

 

 

コイツはクマより用心深い様だ、まぁ初手からブッ放すんだけどね?

 

 

そんな事を考えチャンバーへスラグ弾を装填しようとしたら大蛇が飛び掛かってきたので横へローリングジャンプで躱す

 

 

「気が早いなぁ、もう」

 

「無事だな?主よ」

 

「もーたんたい」

 

 

【身軽だなカナたん】

【回避型脳筋カナタソ】

【回避してすぐに装填作業完了させるの凄い】

 

 

大蛇へ文句を言いつつ狙いを定め、再び飛び掛かって来たのをスラグ弾で迎え撃ち、頭部を撃ち砕き撃破する

 

 

「よし、スラグで正解だった、良かった良かった」

 

 

【安定の秒殺w】

【やっぱこの幼女つえーわw】

【流石はパワー系美少女】

 

 

なんか言われない名称をつけられた気がするが、見なかった事にして蛇皮と蛇肉を入手したので、蛇皮をアイテムバッグにしまい、一旦蛇肉をワカモの背中に置いてから簡易コンロと鉄串を取り出す

 

 

「・・・主よ、流石に生肉を吾の背に直置きは謹んで欲しいのだが?」

 

 

「次は何か敷くよ、ごめん」

 

ワカモへ適当な謝罪をしつつ銃剣で蛇肉を手頃な大きさに切り鉄串にさし適当に塩胡椒してコンロで炙る

 

 

【階層ボスと戦ってる時よりルンルンやんけw】

【いっぱいお食べw】

【かわいいは正義、カナタソはかわいいから正義】

 

 

「ん〜・・・よく焼いておこう」

 

 

「その方がいいな」

 

 

コンロで炙り、中までしっかり火が通ってから食べると、少し固めの鶏肉みたいな食感に魚と鳥の合いの子みたいな味がする

 

 

これはこれで悪くない味だけど、素焼きは美味しい〜 って味ではない

 

 

「蒲焼のタレとかをつけると美味しくなりそう」

 

「そうだの、あとはシチューとかか?」

 

「それはありだね」

 

 

【食レポ助かる】

【こりゃぁ配信の方向性は決まったなw】

【ダンジョン地産地消 飯テロチャンネルだなw】

 

 

「階層ボスも倒したので、今回の配信はここまで、宜しければチャンネル登録・高評価をよろしくお願いします」

 

 

蛇肉を齧りながら締めの挨拶をしてライブ配信を終了させる

 

 

さてと、蛇肉はまだ余ってるし、残りはどう調理しようなぁ

 

 

 



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66. 3者会議

 

 

 

若宮ギルド内ステラ・アーク事務所のミーティング区画に顔を突き合わせ真面目な表情をして座って居る人間が3人

 

 

カナリアが2層攻略で不在な事を狙って集まっている訳だが、CEOたる紗夜が切り出すのを待っている状態だ

 

 

俺としては予定も無いから良いが、あまりノンビリしていたらカナリアが帰ってくると思ってしまう

 

 

「・・・カナリアちゃん、私の予想を遥かに超える奔放さがあるわね?」

 

 

「まぁな、俺等男兄弟に囲まれて育ってるし、本人自身 身体を動かすのは嫌いじゃないし」

 

 

 

正直な所、カナリアは末っ子・・・しかも、俺と10も歳が離れている五月七日家 唯一の女児だから、少々甘やかしている事は否めない

 

 

まぁカナリアは聞き分けも良いし、本当に悪い事、してはならない事はしないし、人を困らせる類いのワガママも言わない

 

 

「元々好奇心が強いヤツだよカナリアは、誰かと一緒ならフラフラ自分本位には行動しないし、まぁ誰かストッパーを同行させるのも手だな」

 

 

「流石は実兄、カナリアちゃんの事を理解してるわね?」

 

 

「まぁな、約16年アイツの兄貴してんだぞ? 嫌でも分かるさ」

 

 

紗夜が少し茶化す様に言ってきたので、肩をすくめて返してやる

 

 

そう、俺は約16年 カナリアの兄貴をしてきたんだ

 

 

野郎だらけの五月七日家にカナリアがやってきた時は大騒ぎだったのを覚えている

 

 

親父も雀晴も三鶴も狂喜乱舞だったし、母さんも喜んでいた

 

 

まぁ母さんの遺伝が強くて金髪碧眼なのは少し驚いたが、可愛い妹が出来たのは嬉しかった

 

 

今、思い返すとカナリアは全く手のかからない子だった と思う

 

 

玩具売り場を通っても、同年齢の子供の様に玩具をねだって泣き喚かないし、好き嫌いもしない、玩具も散らかしたままにしない・・・そんな幼児らしさが薄い幼児だった

 

 

そういえば親父が気紛れで見てた映画にハマって、映画のDVDとかは母さんにねだっていたっけ、それも常識の範囲内でだったけど

 

 

そんな俺と似ていない実妹の不思議な生態を思い出していると

 

 

「ストッパーの件なんすけど、ワカモちゃんじゃダメっすよね?」

 

 

「ダメだろうな、配信見てたら分かる様にワカモは基本的にカナリアの好きにさせてる」

 

 

「先輩がストッパーするのは?」

 

 

「却下、俺は俺のスケジュールもあるし、カナリアに付き合ってる時間が無い訳ではないが、時間が足らん」

 

 

 

渚がタブレットPCを操作しながら俺へ尋ねてきたので、包み隠さずに話す

 

 

ステラ・アークに所属して案件の整理を代行して貰っているとはいえ、所属前に受注した長期の案件とかも有るので、カナリアの世話ばかりもしていられない

 

それにカナリアは、実兄の俺じゃ気を使わな過ぎて多分、身の振り方を改めたりしない

 

 

「まぁ幸い表層エリアを攻略するまで、まだ幾らかの猶予は有るから、差し迫っての問題ではないな」

 

 

「そうは言っても、悠長にしていられないでしょう? なんで見知らぬ木の実を躊躇わずに食べるの? あの娘は」

 

 

「食い意地が張ってるのと、ダンジョンではアバターなのと聖女の特性として状態異常耐性が常時発動してる」

 

 

「・・・聖女特性、それ聞いてないのだけれど?」

 

 

「ん? そうなのか? しっかりしてる様に見えて割と適当な所あるしなぁカナリアは」

 

 

 

紗夜の言葉に そう返すとも言えない表情をする

 

 

「気付いてると思うがカナリアも基本的にはチカラisパワーの脳筋だからな?何せフィジカル脳筋の父と信仰系戦闘民族の母の間に産まれて男兄弟に囲まれて育ってるからな」

 

 

「・・・そうね、えぇそうね」

 

 

何とも言えない表情のまま紗夜は頷く、大丈夫か? コイツ

 

 

ま、運が良ければカナリアのバディを務められるぐらいの探索者が見つかるさ・・・三鶴を勧誘するか?

 

 

あれ? そういや、アイツ 戦闘技能持ってたっけか?

 

 

まぁいい、あとで確認しよう

 

 



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67. 黄金の休日

 

 

 

ゴールデンウィークが始まって数日が経過し、その半分を超えた今日この頃 僕は丸々1日の休みを得たので、1日ダラダラする事にし自室で相変わらずワゴンセールされていた映画を ぐでぇ〜っと見る

 

 

「この前のよりは良いかな、うん」

 

 

「評価2.4といった所だろうか」

 

 

僕の人をダメにするクッションをしてくれているワカモが映画の評価を呟く

 

 

ワカモの感性は僕に近い様で、僕の評価も同じぐらいだった

 

 

「高校進学以来、休みらしい休みは初めてかも」

 

 

「そうか、あまりスケジュールを詰めぬ様に紗夜と相談すると良いぞ?」

 

 

「ありがとうワカモ、でも まぁ楽しいし働いてるって感覚では無いんだけどね?」

 

 

 

そう、1日中ダラダラ出来る休日は無いけれど、感覚としては部活へ行っているモノに近いし、何より楽しいから苦ではないのだ

 

 

撮影とかは少し長めに時間を取られたりするけど、毎回ではないし ライブ配信も2〜3時間で拘束時間も部活と大差ないしね?

 

 

だから、趣味に時間を回す事も充分可能だし、学業に支障が出る程でもない

 

 

「もう少ししたら別の勉強もしないとね」

 

「む? もう両親には話したのか?」

 

「うん、自分で費用は出すからって言ったら、好きにして良いって言われたよ」

 

 

「自身の金だしの、自由に出来て然りだ」

 

 

僕の唐突な呟きにワカモが察して尋ねてきたので、答える

 

 

ワカモってなかなかすごいなぁ

 

 

もう数日で僕は満16歳へとレベルアップするので、数日前に思いついた中免取得を決行する為に両親へ話していた訳だけど、ちょうど月を跨いでいたおかげでステラ・アークから給与振り込みがされていて、諸々の費用を引いても余りって言うか、単車まで買ってもお釣りが出るぐらい収入があって、両親はすぐに認めてくれた

 

危ないから辞めとけみたいな事を言われるかなぁ? と思っていたけど、全くそんな事は無かった

 

 

やっぱ五月七日家は戦闘民族の末裔だね、うん

 

 

「まぁお父さんもバイク乗ってるし、鷹ちゃんもバイクの免許持ってるしね、止めないか」

 

 

「吾が公道を堂々と走れれば、免許取得と言う面倒はないのだがな」

 

 

「流石にワカモにライドオンして街中疾走は目立つもんね」

 

 

大型バイクで通勤している父と、その父に影響されて同じく大型バイクの免許を持っている長男が居る我が五月七日家では、止められる訳が無かった と今ふと気づく

 

 

当たり前だが、僕以外の家族は成人しているので自動車免許を持っているのだけど、母に関しては乗馬スキルが有るとか何とか聞いた事がある

 

 

そんな母は通勤には車を使っているので、我が家の駐車場には母の通勤用の車とファミリーカー、父の大型バイクが止められるので、そこそこ広い

 

 

だから、僕がバイクを購入しても多分、大丈夫な筈、多分

 

 

まぁワカモ・ライドオンが目立たなかったらワカモに乗りたい所なんだけどね?

 

 

「さてと・・・B級映画も見終わったし、課題を片付けてしまおうかな」

 

 

「うむ、勉学では吾は役に立たぬ故、吾は喋るクッションに徹する事にしよう」

 

 

ローテーブルの上に置きっぱなしの課題を開き、解き始めるとワカモが そんな事を言うので少し笑ってしまう

 

 

そんなこんな課題を進めていく訳だが、僕はとびっきり優秀と言う訳ではなく、凡人なので普通に時間を掛けながら課題をこなしていく

 

 

僕は神様二柱に願った事は楽しく少し楽に暮らしたい だったので、前世よりは楽に楽しく生きていられている

 

 

突如としてダンジョンが生える世界で大きな怪我も病気もしないで、だ

 

 

だから充分だと僕は思っている

 

 

たとえ課題の問題が難しくてサボりたくなってきていても、僕は幸せを享受している、そう思う

 

 

「・・・さっぱり解き方が分からないや」

 

 

今の時間なら三鶴が自室にいるだろう、と判断し名残惜しいがワカモから離れ課題を片手に彼の部屋へと向かう

 

 

我が家に頭脳派がいて良かった

 

 

 



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68. 雑談?配信

 

 

ライブ配信をしたり、軽く案件の撮影をしたり、二輪免許の勉強を始めたりしたゴールデンウィークも終わり、約1週間ぶりに登校した日の放課後、僕はステラ・アークの撮影部屋に設営された簡易セットの真ん中に寝そべるワカモに聖女フォームを身に纏い背中を預けて座っている、下には絨毯? カーペットが敷いてあって冷たくない

 

 

僕の前には撮影用カメラと空間投影ディスプレイ、あとはローテーブルがあってミネラルウォーターのペットボトルが置いてあって、背後にはクロマキーの壁紙が壁一面に貼られている

 

 

この撮影部屋で撮影するのにも慣れてきたけど、簡易的とはいえセットまで組めるとは、篁は多才すぎるな、うん

 

 

そんな事を考えつつ篁のライブ配信開始のお知らせを聞き口を開く

 

 

「皆さん ごきげんよう、ステラ・アーク所属 カナリアです」

 

 

「今日は座椅子役のワカモだ」

 

 

「視聴者の皆さん、こんにちは ステラ・アークのCEOよ」

 

 

【始ま・・・CEO!?】

【とうとうCEOが出てきたw】

【紙袋で顔は隠れてるけど、美少女の予感がするぜ】

 

 

僕の隣で紙袋を被り顔を隠して、ワカモへ僕と同じ様に背中を預けている訳だが、ディスプレイとキーボードの数が僕の倍ぐらいある

 

 

一応穴空いてるけど、ちゃんと視界確保されてるのだろうか?

 

 

「ステラ・アークは設立間もない弱小事務所だから、色々と実験的な配信をしていくつもりよ、私が出てきたのも実験の1つ と思ってちょうだい?」

 

 

【把握だぜ】

【女王様みたいで助かる】

【おねロリたすかる】

 

 

なんか今失礼なコメントが流れて行った気がするけど、気のせいだったかな?

 

 

「今日はカナリアちゃんの16歳の誕生日と言う事で、雑談+質問箱の消化をしていく予定よ、コメントの方も拾う時は拾うから安心なさい?」

 

 

【女王様じゃなくて、お姉様やなCEO】

【よし、CEOを今後はお姉様と呼ぼう】

【お姉様、助かる】

 

 

自己紹介以外喋って無いのに配信がスムーズに進んで行って楽だなぁ、紗夜に感謝しなきゃ、うん

 

 

【せやカナリアちゃん女子高校生やったな】

【そういやカナたんは合法だったわ】

【なんでかカナリアちゃん小学生って錯覚しちゃうんだよなぁ】

 

 

「そうですよ、僕は高校生です、間違っても小学生ではありません」

 

 

「錯覚する気持ちは分かるけれど、ね」

 

 

低身長童顔の平たい胸族の僕は、いつでもロリ扱いなんだなぁと思うし慣れた

 

 

 

「さて話題作りも兼ねて質問箱を消化していましょうか」

 

 

「分かりました」

 

 

【CEOの進行力バカ高ぇw】

【やや問題児なカナリアちゃんを御してるw】

【お姉様相手だと大人しく従うんだねカナリアちゃんw】

 

 

ほんと紗夜が進行してくれるから凄い楽では有るんだけど、ちょいちょい失礼なコメントが流れていて、遺憾の意を表明せざるを得ない

 

 

「最初だしコレにしときましょうか『こんにちは、カナリアちゃんがステラ・アークに所属する事になった経緯が知りたいです』ですって」

 

 

「経緯ですか? 簡単に言うとダンジョン災害に巻き込まれてしまった際にCEOと出会い、勧誘されたから・・・でしょうか?」

 

 

「・・・事実では有るけれど、少し簡略化しすぎじゃない? 私を救ってくれた事とか割と重要だと思うのだけれど?」

 

 

「そうですか? 僕は普通の事をしただけですから、それに武勇を闇雲に喧伝する趣味も無いので」

 

 

「貴女と言う娘は・・・本当に・・・」

 

 

【CEOの様子を見るにカナリアちゃん大活躍だったみたいだな】

【もっと詳しく知りてぇぇ】

【CEOが項垂れてるぞ? カナリアちゃんw】

 

 

なんと言うか、紗夜に何故か呆れられた様子で項垂れてられてしまいコメント欄も賑わう

 

 

いやだって本心から武勇伝を広める趣味ないんだもん、仕方ないじゃない?

 

 

僕はやるべき時にやるべき事が出来るチカラをたまたま有していただけなのだから

 

 

 



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69. 雑談?配信 2

 

 

呆れられて項垂れていた紗夜が、1つ溜息を吐き

 

 

「今から数ヶ月前、私とカナリアちゃんはダンジョン災害に巻き込まれてしまったのだけれど、その時 私は運悪くゴブリン3体と遭遇して囲まれてしまったわ」

 

 

【お、CEOが説明してくれるみたいだ】

【CEO、ゴブリンに遭遇してたんか】

【よく無事だったなCEO】

【ワカモ氏がカナリアちゃんの口封じてて草】

 

経緯を説明し始めた紗夜を止めようと思ったが、ワカモが尻尾で僕の口を物理的に封じてきて止められない、モフモフには抗えないのだ

 

 

「情けなく腰を抜かし地面に倒れながら悲鳴をあげていた私の声を聞き、女子小学生らしき少女が見たこともない紐状のナニカと缶コーヒーを携え現れ、紐状のナニカ・・・投石紐に缶コーヒーをセットし振り回してからゴブリンへ射出してゴブリンの1体を撃破し、私に そのまま地面に伏せて防御姿勢を取るように指示を出して、自分は残りのゴブリンの相手をし始めたの」

 

 

【全然情けなくないと思うでCEO】

【俺も腰抜かす自信しかない】

【カナリアちゃん、ヒーロー過ぎん?】

 

 

 

紗夜の説明にコメント欄が賑わうのが見える、僕は少し感覚がズレているようだ、と再認識する

 

 

「ゴブリンとの戦闘は時間にしたら5分も掛かっていなかったかも知れない、それほどアッサリとゴブリン3体を撃破し、更には私を気遣ってくれる優しさを感じる、そんな娘がカナリアちゃんよ。小学生と思ったら来春高校生になると言われ驚いたのを覚えているわ」

 

 

【カナリアちゃんヒーローやんけ】

【強くて優しい美少女ヒーローとか売れて然り】

【需要しかねぇ】

 

 

「何度でも言いますが、僕は当たり前の事をしただけです。自分にチカラがあるのに我が身可愛さに見捨てたりしたら後悔してしまう訳ですし」

 

 

「・・・貴女は優しすぎるわね」

 

 

【自分の為、みたいな言い方してるけど、根底のヒーロー気質が滲み出てるのよw】

【本当に自分勝手な人は、そんな事を考えないんやでw】

【カナリアちゃんを推しますわ】

【やはり おねロリなのでは?】

 

 

 

なんか紗夜が僕を生暖かい目で見てくるのは何でなんだろう? アレか?妹を見守る姉的なやつ

 

 

まぁ確かに僕は末っ子だから妹枠なんだろうけど

 

 

「そういえば僕の家族構成は話した事ありますけど、CEOは兄弟いるんですか?」

 

 

「いるわよ、姉兄が3人」

 

 

「CEOも末っ子なんですね」

 

 

「そうね」

 

 

【CEOも末っ子かぁ、まぁ姉属性な気はするけどw】

【カナリアちゃんを見る眼差しが姉のソレだもんなw】

【やはりCEOは、お姉様だな】

 

 

同じ末っ子の筈なのだが、紗夜からは姉パワーを感じる、転生してから ずっと末っ子をしてきた僕には分かる

 

 

まぁ正直に言うと兄3人の内1人ぐらい姉でも良かったのでは?と思わなくもない・・・いや、姉がいたら僕は着せ替え人形と化してた気もするから、兄3人で良かったかも知れない、うん

 

 

「僕は弟妹が欲しい、と思ったりしないんですが、CEOはどうですか?」

 

 

「そうね・・・私も別に って感じね、姉兄と仲が悪い訳では無いけれど、特別仲良しって訳でもないし、それに今は少し手の掛かる弟が出来たみたいで楽しいし」

 

 

「・・・僕を見て微笑んでいるのは、何故ですか? 」

 

 

【手の掛かる弟w】

【美少女の皮を被った中学男子だからカナリアちゃんはw】

【実は おねショタ なのでは?】

 

 

 

紙袋に隠れていて直視は出来て居ないが、紗夜が微笑みを浮かべているのを直感で感じ取る

 

 

まぁ僕としても紗夜が お姉ちゃんだと嬉しいと思いはするから良いんだけどね

 

 

 

「CEOの姉兄は、どんな人達なんですか?」

 

 

「そうね・・・全員完璧主義者かしらね」

 

 

「・・・なんか生き辛そうですね」

 

「自由を愛する貴女から見たらそうでしょうね」

 

 

紗夜は僕の言葉に肩を竦めて苦笑し言う

 

僕含めて五月七日家は自由人ばかりだからかな? うん、きっとそうに違いない

 

 

 



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70. 雑談?配信 3

 

 

 

話題作りに質問箱を消化しながら紗夜との会話を主軸に配信を続けているが、これは中々楽しい所がある

 

 

普段は身体を動かす配信がメインだから結構斬新な気持ちにもなるしね

 

 

「『カナリアちゃん、お誕生日おめでとうございます、先日の配信で自動二輪免許を取ると言っていましたが、その後はどうですか?』との事だけれど・・・そういえば言ってたわね? カナリアちゃん」

 

 

「そうですね、あの後 両親に相談したら即答でOKを貰えましたので、今は教習所を探している所です」

 

 

紗夜がチョイチョイと質問箱を操作して見つけた質問に答えてると

 

 

「あら、意外とすんなりOKが出たのね? 」

 

 

「えぇ、諸々の費用をバイト代から捻出すると前置きして話をしましたから、コレも皆さんのお陰ですね、ありがとうございます」

 

 

【えぇんやで】

【カナリアちゃんの魅力の賜物だからね】

【僕っ娘ロリが中学男子みたいな活動力で配信してるとか、見なきゃ損だかねw】

 

 

事実ではあるんだろうが、なんか恥ずかしくなるコメントがチラホラ見えてしまうので、見なかった事にする

 

 

 

「お父さんと長男が大型バイク免許を持ってて、お父さんは通勤に使っているので、それでってことも有るかも知れないです」

 

 

「そうなのね」

 

 

「CEOもどうです?」

 

 

「え? 私? うーん・・・」

 

 

【お目目シイタケなカナリアちゃん】

【珍しく押しが強いなw】

【CEOも悩むぐらいには前向きなんかな?】

 

 

お嬢様で送迎車がある紗夜には不要かも知れないが、学生証以外の身分証としては、かなり優秀なモノになるのであるし、好きな場所へ身軽に出掛けられる魅力がある

 

まぁそれなりの費用が掛かるから無理強いはしないけどね?

 

 

「そうね、それもアリかしらね、気晴らしになりそうだし」

 

「それじゃぁ、一緒に教習所へ通いましょう」

 

「えぇ、一緒に通いましょう」

 

 

【てぇてぇ】

【カナタソ、ニッコニコ】

【おねロリ てぇてぇ】

 

 

僕の言葉に微笑み了承して頭を撫でて来る紗夜に姉力を凄く感じ、なんか満たされていく

 

なんか、おねロリ おねロリ うるさい人が居るけど、今は機嫌が良いので見逃してあげよう

 

 

「さて、そろそろかしら?」

 

「何がですか?」

 

「スタッフ」

 

「はい、お嬢」

 

 

【スタッフも紙袋なんかw】

【紙袋の上から眼鏡w】

【スタッフ強いw】

 

紗夜の呼び掛けに彼女と同じ様に紙袋を被り、その上から眼鏡を付けている篁が箱状の物体を持ってやってきて、ローテーブルの上に設置する

 

 

「ハッピーバースデー、カナリアちゃん」

 

「あ、ありがとうございます、スタッフ」

 

 

【なんかカナリアちゃんの様子がおかしくね?】

【何か我慢してる?】

【笑いそうなんじゃない?w】

 

 

篁の絵面が少しツボに入り笑いそうになってしまったので我慢しているのだけど、ちょっとヤバい

 

 

なんとか笑いを噛み殺す事に成功すると、篁の手により箱が開封され、そこには小型のデコレーションケーキが鎮座していた

 

 

「ハッピーバースデー、カナリアちゃん、どうかしら?」

 

 

「ありがとうございます、CEO・・・なんと言うか、凄いですね」

 

 

「喜んで貰えたなら嬉しいわ」

 

 

【飾り付けすげぇぇぇ】

【飾り付けやっばっっ】

【凄すぎて逆に引いてる自分がいる】

【半端ねぇ(語彙力)】

 

 

姉力マシマシの紗夜に尋ねられたので、微笑み返答したのだが、僕の低い語彙力では、この程度の感想しか出てこないのが悔やまれる

 

 

「あの・・・まさかスタッフの手製とか、ないですよね?」

 

 

「流石にスタッフの手製ではなく私・・・いや我が家が贔屓にしてる お店に依頼したものよ」

 

 

「それを聞いて安心しました、ケーキまでスタッフが担当していたら仕事量がエグいし、多才過ぎるので」

 

「えーっと・・・褒められる?」

 

「はい、いつもありがとうございます」

 

「やふーーー」

 

 

【めっちゃスタッフ嬉しそうw】

【普段は塩対応なんやろなw】

【どんだけ嬉しいんやw】

 

 

僕の言葉に小踊りをし出しそうなぐらい嬉しそうな篁を見て、もう少しだけ優しくしよう、と心に決める

 

 



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71. 雑談?配信 4

 

 

 

 

小踊りしそうな篁を横目に紗夜から下賜されたフォークでケーキに入刀して一口食べる

 

すると、今まで・・・前世を含めても味わった事のない至高以外に形容出来ない味が口の中いっぱいに広がり、幸せを感じる

 

 

「美味しい?」

 

「とても!!」

 

「そう、それなら良かったわ」

 

「よしよーし」

 

 

【めっちゃ幸せそうな表情やなカナリアちゃん】

【うむ、かわいいの権化】

【てぇてぇ】

【これは、おねロリ】

 

 

ケーキを食べて幸せを感じている僕を左右から撫でてくる紗夜と篁の様子を見て、そんなコメントが流れているのがチラッと見えたが、僕は今ケーキを食べるので忙しいので、見てない事にしよう

 

 

そんな訳で2人に撫でられながらケーキを時間をかけて半分程まで食べた頃合いに紗夜が口を開く

 

 

「ねぇ?カナリアちゃん、お願いがあるのだけれど」

 

 

「お願い、ですか?」

 

 

紗夜から紙袋越しに真剣な眼差しを感じ、一旦フォークをケーキ皿の縁に立て掛けて彼女の方を向き、未だ僕の頭を撫で回す篁を無視して紗夜に聞き返す

 

 

「私達、出会って それなりの時間が経ったじゃない?」

 

「そうですね? 多分3ヶ月ぐらいでしょうか?」

 

「そうね、そろそろ⬛︎⬛︎(紗夜)さん では無くて⬛︎⬛︎(紗夜)ちゃんって呼んでも良いのよ?」

 

「・・・え??」

 

 

【CEO唐突過ぎってか、ライブ配信でピー音入ったぞ、すげーw】

【どんな技術してんだステラ・アークw】

【ライブ配信でラグ無しでピー音入れるとかヤバすぎw】

 

 

どんなお願いが出て来るか僕が構えていると、予想外のお願い? が飛び出してきて困惑してしまう

 

さて、どう答えたものか・・・うーん

 

 

紗夜は僕の先輩であり雇い主である、これは変えようの無い事実であり僕は目上の者には敬意を払う様にしている

 

だから、身内以外には基本的に目上の人には さん付け&敬語で話すのだ

 

 

「ほら、⬛︎⬛︎(紗夜)ちゃんって呼んでごらんなさい?」

 

 

「そうだった、押し強いんだった、拒否権無いやつだ」

 

 

「あ、ズルいっすよお嬢、私も⬛︎()ちゃんって呼んで欲しいな、カナリアちゃん」

 

 

「増えた〜」

 

 

【CEO押し強ぇwww】

【カナリアちゃんに逃げ場無くて草】

【スタッフも便乗しだしてカオスw】

【おねロリ てぇてぇ】

 

 

左右から紗夜と篁に迫られ僕は困惑し、もう流される道しか残されて居ない気がする

 

正直、本人が望むなら そう呼ぶのが良いかも知れないが、本当に押しが強い

 

 

「分かりました、分かりましたから、少し離れて下さい、圧が凄いです」

 

 

「あら、ごめんなさいね?」

 

 

「カナリアちゃんは可愛いなぁ〜」

 

 

【まぁ折れるわなぁw】

【俺達は何を見せられているんだw】

【よく分からないが、てぇてぇ からヨシ】

 

 

2人に距離を空けて貰う事で圧が薄まり一息つき

 

 

「では今後は⬛︎⬛︎(紗夜)ちゃん、⬛︎()さんと呼びます」

 

 

「ふふ、敬語じゃなくても良いのよ?」

 

「お嬢だけ ちゃん付けは、ズルい、私も〜」

 

 

⬛︎⬛︎(紗夜)ちゃんは兎も角、貴女は僕と結構歳が離れてるじゃないですか、長男の後輩なのでしょう?」

 

 

「うぇぇ〜〜」

 

 

そんな篁 改め 渚の様子を見て、少し前に考えていた彼女に優しくする気持ちが少し薄れていくのを感じる

 

 

うーん、悪い人では無いのだけどね? うん

 

 

なんだろう、扱いが鷹樹に近い気がする・・・うん、ある意味で紗夜より精神的に距離が近いんだな、多分

 

 

そんな自己分析して新事実に気付いてしまったのだった

 

 

 

「ふふ、ご愁傷様ね? ⬛︎()

 

 

「なんすか? 勝ち誇った顔しやがってぇぇぇ」

 

 

「なんだ、コレぇぇ」

 

 

【スタッフが地団駄踏み始めたぞw】

【画面越しの俺等でも分かるは、紙袋の中で勝ち誇った顔してるのw】

【カナリアちゃんが宇宙ネコにw】

 

 

この場合、紗夜が大人気ないのか、渚が大人気ないのか、どちらだろう?

 

 

うん、両方だな、きっとそうだ、めいびー

 

 

 



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72. ぷれぜんと ふぉ かなりあ

 

 

 

紗夜と渚の争い?を傍観していたら、なんでか僕にケーキを食べさせる為にフォーク争奪戦に発展し、交互に僕へケーキを餌付けして2人は満足してくれた誕生日配信から約2週間が経過した今日この頃、僕は渚からの連絡を受け事務所へ出頭している

 

 

事前に渚から撮影部屋へ来る様に言われていたので、制服のまま撮影部屋へ入ると、床に大小様々な段ボール箱が敷き詰められていて少し圧を感じ足が止まってしまう

 

 

「あーカナリアちゃん、来たね〜 早速だけど開封しちゃおう」

 

 

「あ、はい・・・はい? どう言う事ですか? 渚さん」

 

 

「これ全部、カナリアちゃんへのバースデープレゼントだよ?」

 

 

「はへぇ? 」

 

 

渚の言葉を聞き思考が停止し、間抜けな声しか出せずにいると、段ボール箱を積んでいた渚が寄ってきて僕の頭を撫で

 

 

「視聴者は君に夢中なんだろうね? 大丈夫、私も一緒に開封作業するから変な物が有っても滅するから」

 

 

「・・・はい」

 

 

こういう時に 真面目なお姉さんをするのは少しズルい と感じつつ渚に返事をして段ボール箱に手を掛けると

 

 

「あ、そうそう、お嬢の指示で開封の義を撮影するから、いつもの聖女フォームでお願い」

 

 

「分かりました」

 

 

一旦更衣室へ行き荷物をロッカーへ仕舞い聖女フォームに変身してから撮影部屋へ戻り、カメラが設置されている場所へ立つと机の上に段ボール箱が置いてあり、渚は先日の様に紙袋を被っていて、やっぱり少し面白い見た目で笑いそうになるのを我慢しつつ

 

 

「えー、視聴者の皆さん、ごきげんよう ステラ・アーク所属 カナリアです。今日は皆さんからステラ・アークに届いたプレゼントの開封をしていきたいと思います、プレゼントありがとうございます」

 

 

カメラへ向き開始の口上を述べてから、軽く微笑みお礼を口にしてから、1箱目を開封し中身を確認する

 

 

「これは・・・香辛料でしょうか? ありがとうございます」

 

 

見た事が無い種類の香辛料が入った小瓶を手に持ち眺めてお礼を言う

 

 

「この濃緑のビニール?に補装された四角い粘土みたいな物はなんでしょう?」

 

 

「ん〜? なんだろう? ちょっと調べるね」

 

 

2箱目に入っていたウエストバッグに入っていた物体を掴みマジマジと見ながら渚へ尋ねと彼女も分からない様で、物体を僕の手から取りタブレットPCで検索を始める

 

その様子を見つつ包装越しに突いてみたり匂いを確かめてみる

 

「包装の上からは匂いなし、と」

 

 

渚を見ると、まだ掛かりそうだったのでフロッティを展開し包装を切り裂いて中身を露出させ再度匂いを確認するが、全くしない

 

 

「乳白色って感じの色・・・うーん、甘い」

 

 

「カナリアちゃん、正体が分かったよ・・・なんで口をモグモグしてるのかな? まさか・・・」

 

 

「渚さんも、食べます? ガムみたいで甘くて美味しいですよ?」

 

 

「わぁーーー!! ダメ、カナリアちゃん、すぐ吐き出して!! これC-4だから!! 」

 

 

「あぁ〜C-4かぁ〜 なるほどなるほど」

 

 

少し切り一欠片を口に含み咀嚼すると口の中に甘さが広がり味は、まぁまぁだなぁと思っていると渚が正体を掴んだらしく、僕へ報告してくるが咀嚼している僕を見て、珍しく取り乱し指示を出してきたのでカメラ外のゴミ箱へ吐き捨て聖水で口を清めてからカメラ前に戻る

 

 

「良いかな、カナリアちゃん? 正体不明の物体Xを無闇に口にしちゃダメ、分かった?」

 

 

「今後は好奇心に勝てる様に善処します」

 

 

「君、ねぇぇ・・・」

 

 

渚に真っ当な苦言を呈されてしまったので、そういうと何か呆れた雰囲気を発して彼女は肩を落とす

 

 

「ひとまず、C-4は有ると便利っちゃ便利だから有効活用しようね」

 

 

「そうですね、宝箱の頭だけ吹き飛ばすとか使えそうです」

 

 

「うーん、使い方がチカラisパワーだなぁ」

 

 

そう渚は少し遠い目をしてる気配を醸し出す、でもプラスチック爆弾なんだからチカラisパワー以外の使い方あるかな?

 

 

 



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73. ぷれぜんと ふぉ かなりあ 2

 

 

渚に少し怒られた後もプレゼント開封の儀を続けているのだが、減ってる気がしないのは、きっと錯覚だろうけど多くない?

 

 

プレゼントを贈ってくれた視聴者の多さに感謝しつつも、多さに少しの疲労を感じてきている、そんな僕の前に段ボール箱ではなく小型のアタッシュケースが置かれる

 

 

「アタッシュケース、ですか? これは・・・」

 

 

「ケースが頑丈そうだよねぇ」

 

 

「それだけ、重要なのかも知れませんね」

 

 

アタッシュケースに触れると、見た目通り金属製の様で冷んやりとした触り心地をしているのを感じつつロックを外し開けて中身を確認する

 

 

そこにはハンドガンが1挺とマガジンが3本、恐らくマガジン3本分の弾薬が封入された箱が入っていた

 

 

「こ、これは・・・」

 

「ど、どうしたの? カナリアちゃん? カナリアちゃん??」

 

「.45ACP弾を使用するM1911をベースに小型化し近接戦へ特化させたコンペンセイター兼用ストライクフェイスを標準装備したハンドガン・・・デトニクス・コンバットマスターじゃないか!! やっふー」

 

 

「か、カナリアちゃん? カナリアちゃん??」

 

 

ハンドガン本体を手に持ちマガジンが刺さっていない事を確認してからスライドを引きチャンバー内にも装填されていないのを確認してから、各部を確認しながら独り言を呟きテンションがブチ上がる、渚が戸惑っているが気にならない程、僕のテンションが高まる

 

 

「あぁありがとうございます、トレンチガンを使う僕のスタイルに合わせて近接戦想定に選んでくれたんですね」

 

 

「やっべ、全然分からないや」

 

 

「C.A.Rシステムを習得しないと、あぁ楽しみだなぁ」

 

 

「あー聞いてないねぇ〜」

 

 

なんだか渚が生暖かい目を向けてきてる気がするけど、気にしないで僕はデトニクス・コンバットマスターの感触を確かめる

 

 

そんなこんなそれなりの時間を使い満足した僕は一旦アタッシュケースへ仕舞い

 

 

「お待たせしました、渚さん 次をお願いします」

 

 

「次はコレ、だよ」

 

 

「金属製の箱?ですね」

 

 

「そうだね」

 

 

薄緑色の長方形の箱と正方形?な箱が僕の目の前に並んでいる

 

「なんか、この2つはニコイチのセットみたいだね?」

 

「そうなんですか? とりあえず開封していきますね」

 

 

とりあえず正方形の方を開封すると、金属製の四角くて平たい形状のコンテナに背負う為のギミックが付属したモノとナニカを誘導する為の平たいスケルトンチューブみたいなモノが入っていた

 

 

「迷彩柄ですね」

 

 

「そうだね」

 

 

正体が何かを図りきれていないが、多分火力isパワーみたいな脳筋の類いだろうなぁ とは何となく理解しているので、長方形の方を開封すると

 

 

「Mk48軽機関銃? ん?」

 

 

「カナリアちゃん、そのチューブみたいなヤツ、給弾口に接続出来るっぽくない?」

 

 

「・・・カッチリハマりますね」

 

 

渚の指摘にコンテナ(仮)から伸びるチューブ(仮)をMK48軽機関銃の給弾口に接続してみると、ジャストフィットする

 

つまりこれは膨大な弾薬を使い敵を蜂の巣にする脳筋パワープレイする為の銃火器な訳だ

 

 

「あ、機関銃の蓋裏に名前書いてあるよ? えーっと・・・アイアンマン弾薬バックパック、だってさ」

 

 

「名前からして強そうですね」

 

「そうだね」

 

 

コレを使えばゴブリンの群れ相手にも優位に立てるかも知れない、でも・・・

 

 

「使い所は限られてしまいますね・・・重いし、弾代が凄まじい事になりそうです」

 

 

「それは確かに・・・入ってたスペック表を見るに最小値が500みたいだね、えーっと・・・約5万円かな? 大体」

 

 

「思った程でも無いかもですが・・・調達にも少し手間がありますね」

 

 

「奥の手ではあるかもね」

 

 

重くてろくに走れないだろうアイアンマン弾薬バックパック装備は奥の手として使用する事を決めた

 

 

僕のスタイルは、回避型なのである

 

 

 



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74. おいでませ、篠原邸(強制連行)

 

 

 

その後もプレゼント開封の儀を続け、多種多様な品物・・・調味料だったり保存食だったり小物(手榴弾系)だったり小物(今時の化粧品類)だったりRPG-7だったりを手に入れる事になり、アイアンマン弾薬バックパック等の銃火器類は渚の手によりオーバーホール兼何か仕込まれてないかのチェックをする事となり、とりあえず彼女へ預けてある

 

 

まぁそもそもダンジョン外で理由無く武器を持ち歩くの、基本違法だしね、うん

 

 

そんなこんな開封の儀から約2週間が経過して6月に入り初夏の匂いを感じ出して無事に教習所へ通う日々を乗り越えて自動二輪免許を習得し、乗るバイクを選定中の今日この頃、僕は放課後 ステラ・アークの事務所へ向かおうとしていたら校門前で紗夜と遭遇して、挨拶する間もなく抱き上げられて気付いたら黒塗りの車に積載されていた、うん なんでかな?

 

 

「あの〜、なんで僕は紗夜ちゃんに誘拐されたのですか?」

 

 

「ごめんなさいね? ちょっと気持ちが先走ってしまって」

 

 

「次からは事後承諾にしないでくださいね?」

 

 

「善処するわ」

 

 

今日は撮影もライブ配信の予定も無いから良かったものの、僕のスケジュールを確認・・・いや、紗夜と渚には筒抜けだったわ 僕のスケジュール

 

 

仕事用スマホのスケジュール管理アプリにも小まめに予定を書き込む様にしてるから、今日が空白なのバレてる訳か、うん納得

 

 

「それで・・・どこに連行してるんです?」

 

 

「我が家よ」

 

 

「・・・我が家? それって」

 

 

「事務所の部屋ではなく、所謂実家ってヤツね」

 

 

僕の問いに紗夜は良い笑顔で答える

 

 

うーん、押しが強いとは思っていたけれど、ここまでとはねぇ?

 

 

まぁ特に困る訳でもないし、良いか

 

 

そんな訳で深く考えるのを辞めて紗夜に身を任せる事にする、どうにかなるだろうし、多分

 

 

そんなこんな紗夜の抱き枕状態で車に揺られる事、小1時間で目的地へ到着した様で停車したので下車し、目の前の光景に息を呑む

 

 

「ようこそ篠原家へ、貴女を歓迎するわカナリアちゃん」

 

 

「あ、はい」

 

 

石畳が施されてた停車場に頑丈そうな木製の門から左右に伸びる石垣、門から玄関まで続く大理石?の通路、その奥に見える瓦屋根の日本家屋

 

 

確かに、紗夜はお嬢様だと知っていたけれど、こんな豪邸に住んでいるなんて僕は知らない・・・待てよ?篠原だっけ? 紗夜の苗字

 

 

「あの、紗夜ちゃん? もしかして篠原グループの・・・」

 

 

「えぇ本家直系よ? グループ総裁が私の祖母なの・・・と言っても私に跡目が回って来る事は9割9分無いでしょうけど」

 

 

紗夜は困惑する僕を再び抱きしめて言う

 

 

うん、紗夜はお嬢様だ、それもURお嬢様、お嬢様オブお嬢様

 

 

そりゃぁ学生の身分で探索者事務所を開設出来る訳だ、うん 納得

 

 

そんな訳で軽量コンパクトボディの僕を紗夜は抱き上げて門を潜り敷地へ入る、何というか手入れの行き届いている庭が広がっている

 

 

うん、語彙力が乏しい

 

 

紗夜にされるがまま篠原邸に侵入した僕は完全に彼女に身を委ねでされるがままで日本庭園の見える部屋まで運ばれる

 

 

「この客間が我が家で1番オススメ出来るのよ」

 

 

「・・・凄い、ですね」

 

 

ほんと語彙力が低い僕は感想が落第点なのだが、紗夜は微笑み追求をしてこないので、優しい

 

 

「お招きいただきありがとうございます」

 

「招いた、と言うよりは連行だったけれど、喜んで貰えたなら嬉しいわ」

 

 

僕達は縁側へ座り日本庭園を見ながら話す、たまにはこう言うのも悪くないかも知れない

 

 

何も考えずに、身にもならない話を友達とする、それだけで僕は幸せだと感じる

 

 

高校入学から結構騒がしい日々だったしね?

 

 

「ここなら渚の邪魔も入らないしね?」

 

「はい? なんで渚さんが出てくるので?」

 

「なんでも無いわよ、誰か お茶をお願い」

 

なんかはぐらかされた気がするけど、まぁ良いか

 

僕は紗夜の事を信用しているしね

 

 

 



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75. おいでませ、篠原邸(強制連行) 2

 

 

 

 

紗夜の声に何処からか『はい、ただいま』と声がする、あれか? お手伝いさん的な人が居るのかな? と言うか姿が見えないんだけど忍の者だったり? いや、ないか

 

 

「おかえなさいませ、紗夜お嬢様」

 

「ただいま、冬彩(かずさ)

 

 

返事が聞こえ数分経たずにクラシカルなメイド服を着た黒髪を後頭部で団子に纏めた若い女性が色々を片手に縁側へ現れ紗夜へ傅いて言い、僕の方へ向き

 

 

「当家へようこそカナリア様、お話はお嬢様より聞き及んでおります」

 

「あ、はい。お邪魔してます」

 

「ふふ、緊張しなくても冬彩は何もしないわよ?」

 

「お嬢様、従者が見慣れないだけかと」

 

 

そんな会話をしながら冬彩は紗夜と僕の お茶とお茶請けをセッティングしていく、この人 凄い

 

「では、改めまして 篠原家従者衆4席 (かなめ) 冬彩(かずさ)と申します。以後お見知り置きを」

 

 

「五月七日カナリアです、よろしくお願いします」

 

 

従者衆4席って何だ? と思ったが、グッと飲み込み冬彩へ自己紹介を返すが、表情がピクリとも動かないので、少しやり辛さを感じる

 

 

「良かったわね冬彩、推しに会えて」

 

「貴女へ忠誠を誓った身ではございますが、再度忠誠を誓わせていただきます」

 

「そう、ありがとう」

 

冬彩は片手で保持し続けたお盆を自身の脇に置いて、紗夜へ平伏し頭を下げ言葉を紡ぐ、なんだこれ?

 

 

「あら、カナリアちゃんは分からないわね? ごめんなさい、簡単に言うとこの娘(冬彩)は貴女のファンなのよ」

 

 

「そうなんですか? いつも応援ありがとうございます」

 

「いえ、(わたくし)など木端者故」

 

「カナリアちゃんの魔武器の効力でオフだと貴女だって分からないじゃない? だから同じ学校に居ても気付かない訳で」

 

「かと言って学校だと色々と問題があるから、と」

 

「その通りよ」

 

 

僕に断りも無くファンとの面会を仕組まれた事に思う所はあるけど、まぁ紗夜の身内ならやたらめったら言いふらしたりはしないだろうし、紗夜も冬彩を信じられる人間と判断したから面会を許したのだろ、と範囲し 紗夜への不満は無かった事にしよう

 

 

それはそうと、冬彩って何か仰々しい喋り方をしてるなぁ と思う、やはり日本最大のグループ企業総裁一族の使用人となると、このぐらい難しい敬語を使うのが日常なのだろうか?

 

 

「さて、お茶が冷たくなる前にいただきましょう。冬彩も そのまま聞いてちょうだい」

 

「いただきます」

 

「御意」

 

 

なんかメイドと言うよりは忍者とか臣下みたいな控え方で冬彩は紗夜へ答えているのを横目に、湯呑みに入った緑茶を飲むと少し温くなっていて飲みやすくなっていて安心する、美味しい

 

 

「冬彩、貴女にはステラ・アークへ来てもらうわ、流石に渚だけでは裏方が回らないし」

 

 

「・・・しかし、お館様の許可が」

 

「お祖母様には私から話を通してあるから大丈夫よ」

 

 

「分かりました、お嬢様の命なれば」

 

 

紗夜の言葉を聞き冬彩は最初、あからさまに嫌な表情をしていたが直ぐに無表情へ戻り紗夜へ頭を下げ了承?する

 

 

「あの・・・冬彩さん、嫌そうでしたが?」

 

「この子、渚とウマが合わなくて犬猿の仲なの、でも2人共公私を分けるし大丈夫の筈よ」

 

「えぇぇ・・・」

 

紗夜はサラッとそんな事を言うのだが、結構致命的な事をスルーしている気がしてならないのだけど、気のせいかな?

 

 

「まぁ顔を合わせたら不愉快な表情をする程度で殴り合いにはなった事3〜4回程度だから大丈夫よ、多分」

 

 

「いや、それ致命的にダメなヤツじゃ?」

 

「・・・お恥ずかしい限りです、渚程度に遅れを取るとは」

 

「多分、そう言う事じゃないです冬彩さん」

 

何と言うか、話が噛み合ってない様な気がしてならないのだけど・・・よし、諦めて流される事にしよう

 

 

渚と冬彩が犬猿の仲でも、僕には被害無い筈だしね、うん

 

 



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76. 新たな仲間

 

 

 

篠葉邸へ招待(強制連行)されてから2日が経ち、僕に何かが変わった事もなく、今日も今日とて放課後にステラ・アークの事務所へ向かう為に校門へと歩いていると、抱き上げられて黒塗りの車へ積載され、車が動き出す

 

 

「誘拐は犯罪ですよ? 紗夜ちゃん」

 

「誘拐ではないわよ?カナリアちゃん」

 

「グレーゾーンかと、お嬢様」

 

 

僕を撫で回しながら ご満悦の紗夜へクレームを言うが、1㎜も反省した様子がなく、助手席に座る冬彩が紗夜をたしなめるが、それも響いている様子はない

 

 

ひとまず紗夜の好きにさせる事にして、今日は髪を下ろしていて大きめの丸メガネを付けている冬彩を眺める

 

 

何と言うか、彼女への意識が薄まる感覚が有って少し変な感じがする、何だこれ?

 

 

「今の冬彩を注視するのは止めた方が良いわ、そのメガネは認識や気配を希釈するマジックアイテムなのよ」

 

 

「へぇ、ダンジョンって変な物も出土するんですね」

 

 

「篠原グループで開発した物よ?」

 

 

「え?」

 

 

冬彩を注視する僕に紗夜が彼女から僕の顔を逸らさせながら言う、日本人の大半が魔力を持たないのに、マジックアイテムを開発・運用できる事に驚く

 

 

 

「篠原家・・・いえ、現総帥の真子様が10代になったばかりの頃、お慕いした殿方と姉を相次いで亡くされ、急に跡目筆頭へと担ぎ出された そうです。そんな中、真子様は 英才教育の合間に魔法や魔術の研究をし、約25年前に独自技術を確立し、マジックアイテムの製造を開始しました」

 

 

「え? その真子さんって・・・」

 

 

「私の祖母の事よ、まぁ認識希釈のメガネなんて副産物でしかなかったみたいだけど」

 

 

「どう言う?」

 

 

「お嬢様、若宮ギルドに到着致しました」

 

 

「ありがとう春馬、続きは事務所でにしましょう」

 

 

「はい」

 

 

話し込んでいる間に若宮ギルド前へ到着した様で、春馬と呼ばれた運転手に告げられ僕達は車から下車し、僕は紗夜に抱き上げられたので、されるがまま輸送される

 

 

「お嬢、お勤めお疲れ様で・・・げぇ」

 

 

「お嬢様、私はお茶の支度を致します」

 

 

「えぇお願いね冬彩、渚も そんな顔をしないの、貴女の仕事スピードについて来れるのは冬彩ぐらいでしょう?」

 

 

「・・・そうっすけど」

 

 

事務所へ入り冬彩と渚の目が合った瞬間、両者あからさまに嫌な表情をして直ぐに顔を逸らし、冬彩は給湯室へと消え 紗夜は最近だと珍しくマトモは事を言う

 

 

「ほんと、2人は仲が良くない様ですね」

 

「ん〜まぁ、人間みんな仲良くって奴は幻想なのよ、どうしても合わない人は、どうやっても合わないのよ、2人は その類いなの」

 

 

「そう言うものですよね」

 

 

僕は前世では会社員だったので、どうしても仲良くなれない人が何人か居たから、紗夜が言っている事を理解している

 

 

仲良くなれないが、折り合いを付けて付き合って行くしか無いのだから、人生ってのは退屈しない

 

 

「渚本人は信じないと思いますが、私は渚の実力は認めているつもりですよ? ただ私と性格が合わないだけで」

 

 

「そっくりそのまま返すよ、冬彩」

 

 

お盆にティーセットを持って冬彩が給湯室から戻ってきてミーティング区画にセットしながら渚を見ずに言い、渚も一切 冬彩の方を見ずに言い返す

 

ほんとに合わないんだなぁと思いつつ、紗夜に促され着席すると紗夜が当然の様に僕の隣に座り

 

 

「冬彩、鍵を」

 

「御意」

 

「良いんですか?」

 

「構わないわ、用があればインターホン鳴らすわ」

 

 

紗夜の言葉に短く返事をして冬彩が返事をして事務所の扉を施錠してテーブルの横に控える

 

普通に座ると思っていたけど、座らないので少し驚くが、紗夜には慣れっこの様で特に気に留める様子はない

 

 

と言うか、わざわざ施錠したってことは、車の中で話していた内容って部外者秘だったりするんじゃないだろうか?

 

それって、僕が聞いて大丈夫なの?

 

 



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77. 新たな仲間 2

 

 

第六感で僕が聞いてはマズイ内容な気がしてならないのだけど、逃げるタイミングを逃している隙に紗夜が口を開く

 

 

「現在、篠原グループは日本最大の複合企業として君臨しているわ、統合騒乱前から世界有数の大グループ企業では有ったけれど、統合騒乱でズタズタになった経営状態を建て直したのが、現総帥のお祖母様だったの」

 

 

「凄いって事は理解できました」

 

 

「ふふ、それで構わないわ。お祖母様は想い人を復活させる為に、湯水の如く湧き出るポケットマネーを駆使して魔法・魔術の研究を繰り返して、約25年前に身を結んだのよ」

 

「は、はぁ・・・」

 

 

紗夜の説明を聞き、真子がとんでもなく有能な人物である事は理解出来たが、その後の説明がサッパリ理解できない

 

 

「日本は統合騒乱直後 魔法・魔術に関して法が存在しなかった訳だから、やりたい放題だったのよ、それでお祖母様は 所謂『私の考えた最高の夏月さん』を造り出したって訳」

 

 

「・・・クローンって事ですか?」

 

 

「そうね、クローンに類似するナニカだと思うわ」

 

 

「えぇぇ・・・」

 

 

なんというか、執念が凄いと言う感想しか出て来ないんだけど? マジか、ヤベー人だわ、うん

 

 

「そんな訳で、お祖母様は総帥秘書として人造人間を侍らせて今日も今日とて総帥の職務を全うしているわ」

 

 

「そ、その副産物が車の中で話していたマジックアイテム、と」

 

 

「その通りよ」

 

 

なんと言ったら良いかよく分からない気持ちになってしまい、無理 車の中で話した内容へ繋げると、紗夜が頷く

 

「現行篠原グループと関係を持たない企業は少ない・・・いえ、殆ど無いわね、何処かしらで傘下企業が絡んでると思うし」

 

 

「つまり篠原グループが日本を支配している?」

 

「まぁそうとも言えるかも知れないわね、まぁ総裁だから何でも一任で決められる訳ではないし、決議が必要だから独裁ではないわね」

 

「なんか日本の闇を覗いた気分です」

 

 

僕の言葉に紗夜と いつの間にか横に寄ってきた渚が僕の頭を撫で始める、日本の闇を覗かせたの、紗夜なんだけどなぁ? と思ったが好きにさせとこう

 

あと、羨ましいそうにコチラをチラチラ見てる冬彩は見えてない事にしよう、どうするのが正解か分からないし、うん

 

 

「そんなにチラチラ見るなら貴女も撫でたら良いじゃない」

 

「そうだぞ? カナリアちゃんは私と違って器が広いからセクハラしなかったら許してくれるからな」

 

 

「・・・渚、貴女カナリアさんにセクハラしたのですか?」

 

 

「は? する訳ないだろ、はっ倒すぞ」

 

 

紗夜の言葉に戸惑う冬彩へ渚が続くが、何故だか一触即発の雰囲気へなる、何で?

 

あと物凄く渚の口が悪くなってて笑いそう

 

 

「僕の為に争わないでください、渚さんは弁えているロリコンなのでセクハラはしない人ですよ、それに小動物扱いで撫で回されるのは慣れてますから、遠慮しなくて良いですよ? 紗夜ちゃんぐらいまでは許容範囲内です」

 

 

「だ、そうよ? 」

 

 

「で、では・・・」

 

 

おずおずと僕の頭を控え目に撫で出した冬彩の優しい手付きに安心を覚える、やっぱり この人は優しい人なんだろうなぁ、うん

 

 

「そんな訳で冬彩は私の隣室に住んで貰って、倉庫番とか色々な雑務をこなして貰う事にするわね?」

 

 

「うす、じゃぁ私はデスクワークとかに専念して良いんですね?」

 

「そうね、お願い。この先スタッフは雇う予定だから、随時報告するから そのつもりで」

 

「了解です、お嬢」

 

「御意」

 

 

そんな話を僕の頭を撫で回しながらする紗夜達、なんか締まらないけど本人達が良いなら良いか、うん

 

 

「渚さんって、此処に通ってるんですか?」

 

 

「ん? うん、近くにセキュリティガッチガチのマンションが有って、そこに旦那と住んでる」

 

 

「そんなんですか・・・え? 旦那さん?!」

 

「うん、旦那。意外かな?」

 

「はい!」

 

「うーん、元気な返事」

 

 

何気なく尋ねると、予想外の返答がきて元気よく答えると、渚がカラカラと笑う

 

 

うん、予想外すぎる

 

 



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78. れっつ ねみみにみず

 

 

渚が既婚者である事が意外過ぎて驚愕し彼女がひとしきり笑った後、紗夜が優雅にお茶を飲みながら

 

 

「ちなみに、渚と冬彩は従姉妹よ」

 

「不本意ながらですが」

 

「そっくりそのまま返すよ、冬彩」

 

 

この2人は本当に直ぐ喧嘩をしますな・・・とか思っていると

 

 

「私の父親と冬彩の母親が兄妹でね、ちなみに私の旧姓は長谷川」

 

 

「長谷川家も要家も篠原家へ代々仕える一族なのですが、渚はご覧の通りはみ出し者でして」

 

 

「はん、敷かれたレールしか走れない奴に言われたかないね」

 

 

「そう言う所なんですよ、渚」

 

 

なんで血縁関係の話を聞いているだけなのに、喧嘩しだすのかな?いや、本当に

 

 

「カナリアちゃんの前で喧嘩なんて辞めなさい」

 

 

「失礼致しました」

 

 

「了解です、お嬢」

 

 

 

紗夜が静かに一喝すると、2人は睨み合いを止めて冬彩が控え位置へ戻って姿勢を正し、渚は僕の正面へ座る

 

 

「2人共、貴女達が仲良く出来ない事は私も重々理解しているつもりよ、でも最低でも事務所にカナリアちゃんが居る時やカナリアちゃんの前で見苦しい喧嘩はしないで頂戴、良いかしら?」

 

 

「お嬢様のお心のままに」

 

 

「分かりました、お嬢」

 

 

「よろしい」

 

 

凛とした表情で2人へ言うと、冬彩は膝を着き頭を下げ、渚は頷く

 

 

こうしていると、やはり紗夜は人の上に立つ者の才能と言うか資質が有るんだなぁと感じる

 

 

最近は何かフニャフニャしてたけど、出会った頃は こんな凛としたカッコいい人だったな、そういえば

 

 

まぁオン・オフの差なんだろうし、気を張り続けるのは疲れるしね、うん

 

 

「では少し仕事の話をしましょう・・・あぁ冬彩、入り口の鍵は開けて良いわ」

 

 

「御意」

 

 

お茶を飲み、僕を撫でて冬彩に指示を出して事務所の扉の鍵を開けさせ

 

 

「先程も少し触れたけれど、今後 渚にはデスクワークを中心に担って貰う事にして、冬彩には在庫管理や倉庫管理をして貰うわ」

 

 

「御意」

 

 

「委細承知」

 

 

「カナリアちゃん、装備品の補充に関しては今後は冬彩に、新装備の相談は一旦 私にして貰えるかしら?」

 

 

「分かりました、冬彩さん よろしくお願いします」

 

 

「お任せください」

 

 

紗夜の言葉に各々返事をする、ひとまず渚の負担は減りそうだからよかった

 

 

「セット設備の方なのだけど、暫くは2人で良い具合にやって頂戴? ほら、嫌な顔しないの」

 

 

「・・・御意」

 

「・・・うぃ」

 

 

もう面白いぐらい嫌な表情をしてる2人を紗夜がたしなめる、本当仲悪いなぁ

 

 

「では次、カナリアちゃん宛に他事務所からコラボの打診が来てるわ、10箇所ぐらいから」

 

 

「・・・え? 本当ですか?」

 

「本当よ、割と猛プッシュで」

 

「えぇぇ・・・」

 

 

うん、確かに収益化してるし それなりに認知されているとは理解してるよ? 僕だって、それでもデビューして約2ヶ月のペーペーとコラボなんてしたい変わり者が居ると思わないじゃない?

 

と言うか、コラボの打診が来る事自体を想定してなかったから、今凄く困惑している

 

 

「参考までに、コラボ内容の提示は有るんですか?」

 

「貴女がしたい事に全て委ねる、そうよ」

 

「・・・それ、僕に丸投げですか?」

 

「いえ、アチラが気を使ってるだけね。カナリアちゃん、今 若宮ダンジョンは 2層まで攻略した所な訳だし、貴女が出来る事の方が少ないじゃない?」

 

 

「それもそうですね」

 

 

紗夜の説明に納得する、僕が出来る事と言えば

 

①ダンジョン攻略、②ダンジョンキャンプ、③雑談配信、④調理、ぐらいだしね、うん

 

 

遠征する事も可能って言えば可能だけど、平日は普通に学校あるし土日の予定も有ったりして連休とか長期休みじゃないと厳しい

 

 

高校生の本分は勉強だし、本業を疎かにはしたくないからね、うん

 

 

まぁ若宮ダンジョンで活動してる配信者だったら、もっとコラボしやすいとは思うけどね?

 

 

その時は鷹樹にも同行して貰おうかな

 

 



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79. れっつ ねみみにみず 2

 

 

 

そんな事を考えていると

 

「それと日本のダンジョン配信者を集めて開催されるイベントのお誘いも来ているわ」

 

 

「紗夜ちゃん、少し怒涛が過ぎるですけど?」

 

 

「あら、ごめんなさい?」

 

 

考える事が増えてしまったので、軽く苦言を呈するが響いてる様子が無い、まぁいつもの事だから良いけど

 

 

「コラボの方は一旦保留しておくとして、イベントの方は受けた方が良いですか?」

 

 

「そうね・・・事務所的には受けて貰えると知名度が上がるし、視聴者も喜んでくれると思うわ、でも無理強いはしないわよ? 貴女が活動していて楽しいのが1番だもの」

 

 

 

僕の問い掛けに紗夜は微笑み、そう言う

 

その表情に少し見惚れてしまう、やはり紗夜は美人だなぁ

 

 

「ありがとうございます、紗夜ちゃん」

 

「構わないわよ、カナリアちゃん」

 

「ところでイベントって、いつなんですか?」

 

「渚?」

 

「はいはーい」

 

 

お礼を言い、日付を尋ねると紗夜は渚の名を呼び、渚はデスクの上のタブレットPCを起動し確認して

 

 

「8月だから、夏休み中かな?」

 

「夏休み中ね、補習が無ければ」

 

「夏休み中・・・か」

 

 

イベントの開催日が夏休み中と判明した訳だけど、開催日が夏休み中と言う事は、それなりの大きいイベントなのだろう、と無知な僕でも察しが付く

 

 

実は、構想段階では有るものの旅行というか巡礼?をしに行こうと考えていたりするので、結構スケジュールがキツイ可能性が出てきた

 

 

「紗夜ちゃん、このタイミングでアレですけど、夏休みに少し日本を離れたいんですが・・・」

 

「あら、旅行?」

 

「旅行と言えば旅行ですが・・・総本山に行って礼拝を、と」

 

「あ〜、なるほど。理解したわ」

 

 

紗夜の傍に控える冬彩が何の事かサッパリ分からない表情をしているが、紗夜は僕の言葉を理解している様で頷く

 

 

「今のところ、カナリアちゃんの7月の最終週はスケジュール空いてるよ〜」

 

 

「ありがとうございます、渚さん」

 

「1週間で足りる?」

 

 

「少し足りないですけど、夏休み中に分ければ何とかなると思います」

 

 

「そう・・・渚、調整しておいて頂戴」

 

 

「了解です、お嬢」

 

 

そんなやり取りを見て、僕の予想以上に忙しい夏になりそうだなぁと他人事の様に思う

 

まぁ間違いなく自分の事なんだけどね? うん

 

 

「えーっと、とりあえずはイベントの方は参加する方で行きたいと思います、ただ鷹ちゃんが同行するのを前提で」

 

 

「そうね、その方が良いでしょう。あとで鷹樹さんも交えて話を詰めましょう?」

 

「はい」

 

 

紗夜へイベントへの参加了承の意を示し、彼女も概ね了承してくれる

 

そして少し置き去りになってる冬彩へ向き

 

「冬彩さん、社外秘なのですが・・・僕はイオン様とヴェスタ神から祝福を戴いて聖女のエクストラクラスを有しているんです」

 

 

「なるほど、だから礼拝へ?」

 

 

「はい、各教会から認定されている訳では無いですけど、2柱から任命されていますので、総本山へ礼拝に赴くのが筋でしょうから」

 

 

「素晴らしい、お心遣い。感服致します」

 

 

冬彩に説明すると彼女は、そう言う・・・なんかいちいち言葉が仰々しいなぁ、うん

 

 

「それに見ての通り僕は純血の日本人では無いです、ベルカには祖父母や親戚が居ますし、数年ぶりに会っておこうかと」

 

 

「それは良い心掛けですね、統合騒乱の様な大災害が再び起こらない保証は無いですし、会える内に会うのが1番良い選択です」

 

 

「そうですね」

 

 

何か冬彩の言葉に重さを感じて、なんとも平凡な返事を返してしまう

 

 

まるで自身の経験に基づく様な そんな重さだった・・・まさか、冬彩も転生者?

 

 

いや、まさかね? こんな都合よく転生者がいる訳ないよね? うん

 

 

さてさて、ベルカの聖導教会総本山へ行く事自体は、そう難しくはないしハードルも低い

 

 

ただヴェスタ神教の方は、そうとはいかなくて、リューネ語をある程度は使える様になっとかないとなぁ

 

 

 



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80. 下準備

 

 

冬彩がステラ・アークに加入して6月も半ばを過ぎた今日この頃、僕はコラボの要請の多さに少し圧倒されたので、鷹樹を誘いキャンプにきている

 

 

Du siehst sehr strahlend aus.(お前、なかなか冴えてるよな)Es gibt keine Konkurrenz um den Platz im Dungeon.(ダンジョン内なら場所取り合戦も無い訳だし)

 

 

Loben Sie das?(それ褒めてる?)

 

 

Natürlich lobe ich dich(もちろん、褒めてる)

 

 

【日本語で頼むw】

【こう言う時バイリンガルは便利だなw】

【鷹樹はやっぱお兄ちゃん枠だな】

 

若宮ダンジョン第1層の湖畔でのダンジョンキャンプ配信をしながら僕は鷹樹と会話をする、聞かれたらマズイ話とか鷹樹相手には共通語で出来るから、かなり楽だ

 

 

鷹樹も僕同様に片親が日本人では無い事を公表しているので共通語を不自由無く使える理由にしているが、リューネでは無い事だけは明記しているらしい

 

 

今更だけど、僕も もう少しボカせば良かったかな? いや・・・マイマザー、ガッツリ顔出ししてたわ、うん

 

 

「視聴者の皆さんには配信開始の時もお伝えしましたが、何でかコラボのお誘いが沢山来て どうしたら良いか分からないので、今日は配信者の先輩でありステラ・アーク相談役で頼れる兄貴枠 鷹樹さんとダンジョンキャンプをしながら、ゆっくりしたいと思います」

 

 

「視聴者の皆、ダンジョンキャンプする時は簡易結界を使う様にな? 最近安価の使い切りタイプが出たから」

 

 

【視聴者の大半は出来ねーから配信見てんだよw】

【本当、この筋肉兄貴はw】

【ナイスバルク】

 

 

やっぱり鷹樹がいると楽だし落ち着く、脳筋だけど頼れる優しいお兄ちゃんだからね、鷹樹は

 

 

にしても流れるコメントを見る限り、視聴者のみんなも鷹樹は脳筋って認識なんだね? 解釈一致でよかった

 

 

そんな事を考えつつ、僕の座布団をしているワカモを撫でて癒される、鷹樹とワカモで僕の憂鬱とか不安が晴れていく

 

 

「そんで、コラボは受けるのか?」

 

 

「・・・そう、そこが問題ではある、うん」

 

 

「まぁデビューから2ヶ月程度だもんな〜、他事務所とかだと箱内でライブ配信でコラボの経験積ませたりしてから、他事務所の配信者とコラボする、みたいのがセオリーってヤツだからな」

 

 

【頼れる筋肉兄貴 鷹樹 降臨】

【脳まで筋肉になったので全身で思考する事が出来るのが彼、鷹樹である】

【筋肉を愛し、筋肉に愛された男 鷹樹!!】

 

 

焚き火台に薪を焚べながら鷹樹は僕へ尋ねてきたので返答すると、お茶を淹れながら言う

 

 

箱内、つまり同事務所所属の配信者間でコラボ配信をして慣らす、と言う事なのだが、残念ながらステラ・アークは出来立てホヤホヤであり、所属配信者は僕と鷹樹の2名であり、鷹樹は相談役の任にもついている為、純粋な配信者は僕のみ と言う事になる

 

 

そんな事を僕も焚き火台に薪を入れながら考える

 

 

「先輩からのアドバイスをするなら・・・無理してコラボする必要は無い、と思うぜ? 」

 

 

「え? 」

 

 

「向こうに選ぶ権利がある様に、お前にもコラボを受ける・断る権利があるし、受けるにしてもコラボ相手を選ぶ権利がある。案件が絡むコラボも同様にな?」

 

 

そう言いニッと鷹樹は笑む、そんな彼の顔を見て僕の肩は軽くなった気がする

 

 

そうか、僕にも選択の自由があるか、確かにそうだ

 

 

Danke Bruder(ありがとう、お兄ちゃん)

 

 

Das ist in Ordnung(構わんよ)

 

 

【お、カナリアちゃんの憂いは晴れたか?】

【やっぱニコニコのカナリアちゃんが1番やな】

【鷹樹の言う通り、無理せんでな?】

 

 

鷹樹の言葉に賛同するコメントが流れていくのが見え、視聴者にも感謝する

 

 

僕は恵まれている

 

 



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81. ロイヤル遭遇

 

 

 

鷹樹の言葉に肩の荷が降りて軽くなって暫く鷹樹と座談会みたいな流れで配信を続けていると、獣 それも大型獣の咆哮の様な音が耳に入り、鷹樹との会話を止める

 

 

「聞こえた?」

 

「あぁ、俺にも聞こえた」

 

「主よ、カメラを12時として4時方向から聞こえておる」

 

「分かった、ありがとうワカモ」

 

 

【なんかスゲー鳴き声だったな】

【鷹樹が警戒してるから、イレギュラーか?】

【鷹樹、お兄ちゃん枠なの分かるけど、トレンチガンの前に立たない方が良いと思うぞ? 】

 

 

フロッティを展開して薄暗くなり始めた木々の奥へ銃口を向けつつ警戒する訳だが、鷹樹が僕の壁になろうとして射線に入ってきてしまう

 

 

「射線入ってる、もう少し左にズレて」

 

「おぉ、すまん」

 

「見える?」

 

「見えないが、居る」

 

 

視覚に頼らない索敵スキルを有している鷹樹の返答を聞き、僕も反響定位をフル活用する、咆哮を感知すれば大体の位置は分かるしね?

 

 

「この咆哮を上げる程のモンスターが1層に湧く筈無いんだが・・・」

 

 

「流石は鷹樹さん、若宮ダンジョンを知り尽くしてる」

 

 

「最深層の事はよく知らないけどな、俺は攻略派じゃないし」

 

 

【俺も結構配信見てるけど、聞いた事ないタイプの鳴き声だな】

【若宮ダンジョンで食材調達のスペシャリストの鷹樹が分からないとなると、やっぱりイレギュラー?】

【探索者の使い魔の可能性は?】

【それは全然有る】

 

 

 

僕は鷹樹と会話しつつ最近覚えた照明の魔法をフロッティの魔弾として生成し、居るであろう方向へ撃つ

 

人力で投擲した程度の速度で飛翔し、蒼髪の少女の姿が暗闇に数秒だけ現れる

 

 

「女の子?」

 

「・・・なぁ、あの子 探索者だな」

 

「そうだね、アイコンが探索者の奴だったし・・・ん?」

 

「なら、この咆哮は何なんだ? あの子は1人で此方に歩いてきてる」

 

「確かに・・・」

 

 

【モンスターじゃないのは分かったのに、謎が生まれたw】

【配信配慮で許可ない場合は黒ベタだからなぁ、誰だかサッパリだ】

【探索者なら何で咆哮聞こえるんだろな?w】

 

 

 

暗闇の中からお腹を抱えてヨタヨタと僕達の方へやってきて口を閉じているのに咆哮が聞こえる

 

「・・・随分と主張の激しい腹の虫だねぇ」

 

「おい」

 

「ごめんなさい」

 

 

Sorry, it's sudden and bad(ごめんなさい、突然で悪いのだけれど) Could you please share something to eat?(何か食べる物を分けて貰えないかな?)

 

 

「え、えーっと・・・」

 

「・・・リューネ語かぁ、俺はあんまり賢くないんだが」

 

 

【2人して困ってる】

【カナリアちゃんもダメかぁ】

【俺等もリューネ語ダメやん?そりゃダメよ、ましてカナリアちゃん学生やし】

 

 

思わず口から漏れた言葉を鷹樹にたしなめられ、すぐに謝罪すると蒼髪少女が僕達に何やらリューネ語で訴えてくるが、分からない

 

何か助けて欲しい事は理解したけど

 

 

それにしても見れば見るほど美少女だ、蒼の髪に紫の瞳、平時であれば愛嬌の有るであろう顔は、今はシオシオピカチュウみたいにシオシオしてるけれど

 

 

 

「此処、日本だった・・・餓死しそうなので、ご飯を恵んで下さい。お願いします」

 

「それは大変、すぐ用意しなきゃ」

 

「だな、今作るから暫く待っててくれ」

 

 

【急に日本語話し始めたw】

【リューネから日本に遠征してきた探索者か、珍しい】

【お、ワカモ氏の尻尾をレンタルしてる、羨ましい】

 

 

僕達は彼女の言葉を聞き直ぐに行動を開始する、想定外のイレギュラー対策で食糧は4日分は有るので惜しみなく振る舞おう

 

 

そういえば鷹樹が知り合いの探索者からお裾分けて貰ったのを更にお裾分けして貰った何かの肉が有ったのを思い出し、とりあえず適度な厚さにスライスして鉄板で焼く

 

ほんとならスープとかの方が良いかも知れないけど、まずはお腹に物を入れた方が良さそうだからね、うん

 

 



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82. ロイヤル遭遇 2

 

 

 

 

蒼髪美少女に生姜焼きモドキを提供すると、本当に美味しそうに食べる姿をを見て一旦安心しつつ、次の調理へ移行する

 

 

【四角の黒ベタだから、海苔が動いてるみたいでウケるw】

【本当ステラ・アークの謎技術すげぇ】

【山程有った肉が見る見る無くなってくのスゲェ】

 

 

 

そんなコメントが流れているのを横目に、僕は野菜も必要だと思ったので具沢山のスープを作り始める

 

鷹樹は鷹樹で、もやし炒め作ってるけど、まぁ良いと思う、多分

 

 

「此処で有ったのも何かの縁だし、名前を教えてくれるか?」

 

「これは失礼・・・ぼくはヘンリエッタ・ ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(ルピナス)⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(ブリリアント)、皆んなからはヘンリって呼ばれてるよ」

 

 

「・・・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(ブリリアント)って、リューネの・・・」

 

Canary, warte.(カナリア、待て)

 

 

【ん〜やっぱラグ無しのピー音すげぇ】

【どんな技術でやってるんだか】

【リューネ人のヘンリエッタ・・・まさか、な?】

 

蒼髪美少女の名前を聞き思わず言葉が出そうになった所を鷹樹に止められ、何とか飲み込む

 

 

リューネ人でブリリアントの姓を持つのは一家門のむ、リューネ王族だけなのだから、驚いて僕が口を滑らせそうになるのも仕方ないと思いたい

 

 

リューネとは元々はアメリカが有った大陸に上書きされた大国で、旧日本基準で今ある超技術の大半を開発した立花 夏月博士が住んでいる国だ

 

噂によると 立花博士は、今はもう高齢で隠居生活をしているらしいけど

 

 

と まぁ大して持ち合わせて居ない知識をフル活用して目の前の蒼髪美少女ことヘンリエッタがリューネ王国の お姫様である事は理解する、まぁ彼女が言った内容が真実ならば、だが

 

 

 

Why are you here?(何故、ここに?)

 

 

To eat Japanese dungeons, right? con(日本のダンジョンを食べる為にだよ? コン)

 

「え?ワカモ? リューネ語喋れるの?」

 

「吾は賢いのだぞ? 主よ」

 

 

【ワカモ氏、多才過ぎん?】

【流石はワカモ氏】

【ドヤ顔w】

 

 

僕の座椅子をして居たワカモが急に口を開きヘンリエッタとリューネ語で会話をし始めた事に驚き尋ねると、ドヤ顔で返してくる

 

 

「ヘンリ曰く、ダンジョン攻略をしに来ただけみたいだな」

 

「そう、なんだ?」

 

「ヘンリがどこの誰でアレ、腹を空かせてる事には違いないだろ? 俺は鷹樹」

 

「それはそうだね、僕はカナリア。よろしくね?ヘンリさん」

 

「うん、よろしく。タカキ、カナリア」

 

 

【山積みの料理が次々と海苔に吸い込まれていくw】

【食べるスピードが早くて吸い込まれてる様に見えるのウケるw】

【はっやwww】

 

 

自己紹介をしながら全速力で料理を作り続けているのだが、その悉くがヘンリの胃に収まってゆく

 

僕も食べる方だが、彼女は僕以上に大食漢な様だ、これは作り甲斐が有って結構楽しい

 

 

そんなこんなヘンリへ料理を食べさせつつ、自分の分もちゃっかり食しながら料理を作り続け

 

 

「・・・底ついた」

 

「俺もだ」

 

「お供に荷物持たせてしまってて補填が難しい・・・コレで足りる?」

 

 

【ヘンリ氏、機械みたいに平坦な喋り方するなぁ】

【おもむろにデカ目の魔石?を出してくるロイヤルスタイル】

【絶対、時価数十万は固いな、この魔石】

 

 

約四日分の食材を使い果たしてしまい、少し途方に暮れているとヘンリが申し訳なさそうな表情と声色をしている・・・機械みたいに平坦な喋り方ってコメントが見えたけど、僕には そうには聞こえないんだけどなぁ?

 

何と言うか、鈴が鳴る様な澄んで綺麗な声の少しフワフワした感じに聞こえるんだよね、うん

 

 

それはそれとしても、食事代としては過剰な物を差し出してきた気がするのだけど、気のせいかな?

 

 

多分、気のせいじゃ無いな、鷹樹も驚いた表情してるし、うん

 

 

 



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83. ロイヤル遭遇 3

 

 

ヘンリの腹も3割程膨れた所で鷹樹とカナリアの食材が底ついてしまったので、ヘンリの口に私の魔力を捻じ込み応急処置をして餓死を防いでおく

 

 

それから暫くすると夜もふけ、健康優良児のカナリアは寝落ち寸前だったので

 

 

「主よ、今日は床に入ると良い、あとは吾が見ておく故な。鷹樹も良いぞ」

 

 

「ん〜・・・ありがとワカモ」

 

「・・・何かあったら起こして良いからな、ワカモ」

 

 

「任せよ」

 

 

「おやすみなさい」

 

 

【カナリアちゃんは夜更かし出来ないんだよねぇ、かわよ】

【おねむ のカナリアちゃん、かわいい】

【ワカモ氏タイムの始まりだ】

 

 

フラフラとテントに入って行くカナリアを少し心配そうに見守る鷹樹の背中を見送り、カメラへ目線を送り その先に座る紗夜へ休む様に合図を送ると、前回同様着陸したので、影魔法を使い丁度良い画角に固定する

 

 

Isn't it still handy?(相変わらず器用なものだね?)

 

Even if you don't have talent(才能が無くとも) You'll get better if you spend a lot of time on it.(長い時を費やせば上達するものだからね)

 

 

【えーっと・・・なんかワカモ氏を褒めたのは分かった】

【ワカモ氏も流暢なリューネ語だぁ】

【ワカモ氏 多才】

 

 

鷹樹とカナリアが居なくなったからか、ヘンリがリューネ語へ戻して私を褒めたので、事実を返すが納得いかない表情をしている

 

 

本当、感情が表情に出やすい娘だ・・・ただしヘンリを正しく認識出来る者が見れば、だが

 

 

このヘンリと言う娘、少々特殊な転生体である為、資格を持つ者以外はヘンリを正しく認識出来ず、無表情・無機質な声色と受け取らざる得ない

 

 

人の身に有りながらも人ならざる魂を持つが故の苦労と言う所だろう

 

 

そして何故 私がヘンリの事情を知っているかと言うと、彼女の母が私の恩人だからだ

 

 

端的に言えば、私が夫と結婚出来る様に助言をし夫に発破をかけてくれたのが、ヘンリの母 シャルロットだったのだ

 

 

シャルロットは護衛を伴い隣接する世界へ旅行を行う趣味があり、偶然訪れた私が居た世界で事を成した、そして私は彼女へ恩を返す為、年に数度 趣味の家庭菜園で取れた野菜をお裾分けする間柄になっていた訳だ

 

 

だから、私はヘンリとも顔見知りという事なのである

 

 

thought you still couldn't see me this year(今年はまだ姿が見えないと思ったら) How could you be in a place like this?(こんな所にいるとはね?)

 

I have some work to do. (ちょっと仕事でね ) Half wiping muscle idiot's ass(筋肉馬鹿の尻拭い半分) Half of the mission from Aeon(イオンからの使命半分さ)

 

 

Work, huh?(仕事、か)・・・ Is that her bodyguard?(それは彼女の護衛かな?)

 

 

If anything,(どちらかと言うと) Canary support?(カナリアのサポートかな?) I never get tired of watching it, it's fun(見てて飽きないし、楽しいよ)

 

I see(そっか)

 

 

【全然分からねぇw】

【大人の事情な奴で字幕も設定されて無いからなぁw】

【そもそも日本人以外が出る想定じゃないだろ、このチャンネルw】

 

 

ヘンリとの会話に気を取られていて視聴者を置き去りにしてしまったが、笑って許してくれている様で助かる

 

 

本当、カナリアの視聴者は民度が高いから感心する

 

 

まぁ、荒らす者が現れれば九尾の霊狐パワーで痛い目を見る(まじな)いを喰らわせてやるだけだが、それはもうドカンと痛いのをな

 

 

カナリアを悲しませる者は私が許さない、絶対にだ

 

 



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84. ロイヤル遭遇 4

 

 

 

 

例の如く、熟睡してしまい気づいたら朝だったので、軽く寝癖を直してからテントを出て伸びをしつつ、髪伸びたなぁ〜と考える

 

 

そろそろ髪を切りに行かないとなぁ とか下らない事を考えつつ、火の番をしてくれたワカモへ目を向けると、ヘンリとリューネ語で会話をしていた

 

 

謎多き美狐は謎が多いな、ワカモ(ほんにん)曰く賢い狐らしい・・・まぁそりゃ九尾に至れるだけの修行を熟せば賢くもなるか、うん

 

 

そんな2人に近寄り

 

「おはようワカモ、ヘンリさん」

 

 

「起きたか主よ、おはよう。茶を淹れよう」

 

 

「おはようカナリア」

 

 

挨拶もそこそこに地面から伸びる黒い円柱に乗るカメラドローンを見て、まだ紗夜は復活していない事を理解し、コメント欄を見る

 

 

【おっはーカナリアちゃん】

【おはようカナリアちゃん】

【朝までスヤスヤでしたなカナリアちゃん、おはようなんだぜ】

 

 

「おはようございます、まさか 寝ずに視聴してる感じですか?」

 

 

【俺はカナリアちゃんが寝た後、少ししてから寝たぜ】

【俺は完徹やでw】

【ワイもwワカモ氏の話面白くてw】

 

 

「あまり無理しないで下さいね?」

 

 

【はーい】

【カナリアちゃん優しい】

【分かったぜ】

 

 

挨拶をして尋ねると、そんなコメントが返ってきたので、そう言うと何か優しい判定されて少し困惑する

 

 

「主よ、これを飲んで目を覚ますと良い」

 

「ありがとう、ワカモ」

 

 

尻尾を使い器用にお茶を淹れてくれたワカモに お礼を言いキャンプチェアーに座りお茶を飲み、一旦落ち着いていると

 

 

「む? ナニカの声が聞こえるな」

 

 

「え?声?」

 

 

「・・・4時方向」

 

 

ワカモの言葉に少し驚き、ヘンリが指定した方向に目を向けるが、僕にはサッパリ分からない

 

姿も声も認識出来てないのは少し怖い物を感じるけど、モンスターは簡易結界で入って来れない筈だから、人の筈だ、多分

 

 

Henry〜? where〜?(ヘンリ〜?何処〜?)

 

 

「んん? 確かに人の声がする・・・リューネ語?」

 

Ah, I'm worried(あぁ、私は心配よ)Where can I go hungry?(何処でお腹空かせて無いかしら?)

 

 

「呼ばれてますよ?」

 

 

「・・・そう、だね」

 

 

微かに聞こえて居た声が徐々にハッキリと聞こえ始め、ヘンリの表情があからさまに嫌そうなモノへと変わる

 

 

なんだろう、見つけて欲しく無いのかな? もしかして家出中とか?

 

もし家出なら日本まで来るとは、中々気合いの入っている家出だと思うし、よく日本の若宮ダンジョンだと分かったなぁ〜と感心する

 

 

「カナリア、五月蝿い迎えが来たから ぼくは行くね? タカキによろしく」

 

 

「え?あ、はい。分かりました」

 

 

「もう暫くは日本に居る予定だから、またね」

 

 

「はい、またいずれ」

 

 

ヘンリは そう言い名残惜しそうに言い、声の主がいる方向へと歩き出し、別れの挨拶をして去って行く

 

 

何と言うか、不思議な人だったなぁと思いつつ、お茶を啜る 美味しい

 

 

そんな訳で本当なら朝食を作って行く所だけど、昨夜材料が底をついているので、撤収を始める事にして残りのお茶を一気に飲んで片付けを始める

 

 

「そういえば鷹樹さんは?」

 

「主が快眠してる明け方頃に、急用でテントを畳んで先に引き上げたぞ?」

 

「本当だ、テント無いや」

 

 

【画面越しでもソコソコの音だったのに、スヤスヤのカナリアちゃん】

【スヤスヤ カナタソ、かわよ】

【カナリアちゃんはかわいい、正義】

 

 

起こしてくれてよかったのに と、思わなくもないけど、これも鷹樹の優しさかな? と思い、感謝しておく

 

 

にしても、コメントを見る限り僕が熟睡してて起きなかっただけの可能性はあるけどね? 疲れてたのかな?

 

 

「ではワカモに道具一式の積載が完了したので、今回の配信は此処まで。よろしければチャンネル登録、高評価をよろしくお願いします」

 

 

【おつ〜】

【お疲れ様カナリアちゃん】

【おつした〜】

 

 

いつもの締めの挨拶をして、ライブ配信終了を確認してからカメラドローンを回収し、ワカモにライドオンして出口を目指す

 

 

なかなか面白いダンジョンキャンプだったな、うん

 

 



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85. 御礼参り

 

 

 

ダンジョンキャンプで中々に面白い人に出会えた週末を超えた月曜日の放課後、僕は例に漏れずステラ・アークの事務所へと足を運ぶ

 

 

今日は特に仕事がある訳でもないけど、弾薬用の岩塩を冬彩へ供給したり新しい活用法の相談を渚や鷹樹にしたりするから、無駄ではない、多分

 

 

そんなこんな学校から徒歩で事務所へやってくると、ミーティング区画が少し騒がしい様な気がして、渚が定住しているデスクを見ると爆速で仕事をこなしているのが見えたので、近寄り話しかける

 

 

「お客さんですか?」

 

「うん、そりゃぁもうロイヤルな お客さんだね」

 

「ロイヤル?」

 

「そそ、そんでカナリアちゃんの、ね?」

 

「え? 僕にですか?」

 

「いえーす」

 

 

手を動かしながら渚は言い少し笑う、その様子を見ている訳だが、何と言うか僕 宛のお客さんと言われても心当たりが無いから、対応に困る

 

 

「今は先輩が対応してるけど、いやぁあの先輩を圧倒するとはねぇ〜」

 

「それ、笑い事なんですか?」

 

「笑い事でしかなく無い?」

 

 

そう言うと渚はカラカラと笑う、我が兄の扱いが雑な事に心を痛めるべきか、同意するべきか、悩む所だなぁ本当

 

 

そんな事を考えつつミーティング区画のパーテーションから少しだけ顔を出して中を覗くと、金に近い薄い茶色の髪と金の瞳を持つ顔の作りは日本人っぽい美女が鷹樹に向けてリューネ語で何かを語りかけていた

 

うん、サッパリ分からない、あとヘンリが死にそうな表情をしている

 

 

Oh? It's finally here(あら? 漸く来たわね) Hurry up and sit down there(早く、そこに座りなさい)

 

「はぁ・・・カナリア、座って貰える?」

 

「あ、はい」

 

 

何か軽く睨まれて何か言われたけど、サッパリ分からずにいると、ヘンリが通訳?してくれたので、彼女達の前の席の鷹樹の横に座る

 

 

You are Henry(貴女ねヘンリに) The one who fed me was(ご飯を食べさせてくれたのは)

I'll thank you.(感謝してあげるわ) Rejoice and cry(歓喜して感涙なさい)

Originally you guys(本来なら貴女達) A commoner of this level(程度の平民が) There's no way I'd give it to Henry.(ヘンリに献上するなんてあり得ないのだから)

Look, thank (ほら、食べて頂いたて) you for eating it.(ありがとうございます、と) こひゅっっ」

 

 

「いい加減五月蝿いよユーカちゃん、ゴメンね? この娘は仕事出来るんだけど、性格に欠陥を抱えてて」

 

 

「あ、はい。お構いなく・・・今、首が180度ぐらい回転しましたけど・・・」

 

「大丈夫、ユーカちゃんは頑丈だし、暫く寝たら元気になるよ」

 

 

何か長々と語っていた美女をヘンリが静かに一喝し首に手を掛けてゴキっとして黙らせて、ヘンリは僕達へ謝ってきたので大丈夫か尋ねると、そんな返答が返ってきた

 

ふむ、リューネ人は頑丈なんだなぁ

 

 

「この娘は ぼく の付き人? なんだけど、食糧他色々を持ったまま迷子になってね、危うく餓死しそうになったんだ」

 

 

「なるほど、付き人、ですか・・・」

 

 

黙らされてテーブルに沈んでいるユウカの肩へドスドスと突き手を繰り出しながらヘンリは説明してくるのだが、目の前の光景のせいて全然話が頭に入って来ない

 

 

チカラ、強くない? いや、気心知れた仲なんだろうけどさ? 何か音が重い気がするんだ、うん

 

「改めて、ありがとう。カナリア、タカキ」

 

「いえいえ、お気になさらず」

 

「気にすんな、情けは人の為ならずってな」

 

「そっか、ありがとう」

 

僕達の言葉を聞き、ヘンリはフワリと笑みを浮かべる

 

やっぱヘンリは美少女だと思うんだ、うん 間違いない

 

 



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86. 御礼参り 2

 

 

 

テーブルの上に沈むユウカへ肩パンを時々叩き込むヘンリと談笑していると、少し疲れた表情の紗夜が現れたので

 

 

「お疲れ様です紗夜ちゃん、なんか疲れてます?」

 

「学校で面倒なのに捕まってしまってね、なんとか巻いて来たのよ」

 

「面倒なの?」

 

「えぇ・・・とても、ね?」

 

 

紗夜は それだけ言うと撫でやすい位置にあるからか、僕の頭を撫で始めて微笑む、紗夜のストレス緩和に役立つなら 幾らでも撫でられ様じゃないか

 

 

「お初にお目にかかるわ、リューネ王国の姫 ヘンリエッタ・ルピナス・ブリリアント第7王妹殿下」

 

 

「・・・姫って呼ばないで欲しい、ぼく は姫という歳じゃないし」

 

 

「現在進行形の肩書きなのだから、仕方ないと思うのだけれど・・・まぁ良いわ、私は篠原 紗夜よ 以後お見知り置きを」

 

 

「うん、よろしくサヤ。この娘は立花(たちばな) 裕夏(ゆうか) 仕事はできるけど性格に著しい欠陥を抱えた立花の末娘にして、ぼく の専属護衛 兼 使用人だよ」

 

 

僕の頭を撫で回しながら紗夜がヘンリへ挨拶をし、なんでか姫呼びを拒否する発言をヘンリがするので、疑問に思っている内に、ユウカのフルネームと正式な肩書きが判明する、どうやら護衛・・・ボディーガード的な奴らしい

 

アレ? 先日ヘンリと逸れてたのは、物凄く不味いのではなかろうか?

 

 

そんな事をユウカに肩パンをしているヘンリを見て思う

 

 

「あのぉ・・・ヘンリさん、まだ若いじゃないですか? 僕と そんな歳変わらないと思いますし、10代の内は姫で全然OKだと思いますよ? 」

 

 

「カナリアは優しいね、 でもねカナリア? ぼく は母様の遺伝で物凄く老け難い体質で、とっくの昔に学生を卒業してるし成人になって20年は経ってるんだ」

 

 

「・・・つまり?」

 

 

「ぼくはね? カナリア、36歳なのだよ。だから姫呼びされたくないんだ」

 

 

「マジっすか!?」

 

「マジ、大マジ」

 

「カナリアちゃんが衝撃でキャラ崩壊してるわね、かわいい」

 

 

何か頭上から聞こえた気がするけど、そんな事より目の前の美少女が美少女では無く、美女である事に驚愕する

 

 

我が母も実年齢と外見年齢が釣り合わない人だけど、ヘンリ程では無いので物凄く驚いてしまっている

 

 

36歳か、それは確かに姫呼びされたくない気持ちも理解できる

 

 

僕が同じ立場なら、断固拒否するしね?うん

 

 

となると、未だテーブルに沈んでいるユウカも外見年齢と実年齢が釣り合ってない可能性が高い

 

 

「参考までに、ユウカさんの年齢は?」

 

「ユーカちゃん? 同じ歳だよ? 産まれた時からの付き合いなんだ、文字通り、ね?」

 

「リューネって凄いですね」

 

「本当、ねー?」

 

 

ドスドスとユウカの肩へ突き手を喰らわせながらヘンリは僕の質問に答えてくれる

 

 

ヘンリ程ではないが、ユウカも36歳には見えない若い見た目をしている、だいたい22〜4歳ぐらいだろうか?

 

 

「さて・・・冬彩?」

 

「すでに」

 

「ありがとう」

 

 

カチャリと事務所の鍵を閉めて密室を作り出した紗夜がヘンリを真っ直ぐ見下ろし

 

 

「先日、当家に来訪したらしいじゃない? 用件は何かしら? 用件次第では協力するのもやぶさかではないわよ?」

 

 

「あー・・・どうしたものだろうか・・・うーん、王命なんだよなぁぁ」

 

 

「リューネの王様が、何で他国の篠原家(うち)に何かに用があるのよ?」

 

 

「少し待ってね? 今どうするか考えるからさ? ね?」

 

 

うーん、相変わらず押しが強いなぁ紗夜、でも真面目な話をしてる間でも僕を撫でる手は止めないのは流石と言わざる得ない

 

あと鷹樹が静かだと思って、横を見たらいつの間にか隠遁していて居なくなっていて、少し驚く

 

 

いや、本当 いつから居なかったんだろう? これがトップを走る探索者の実力なのだろう、多分

 

 

さて・・・紗夜の質問に関してヘンリがどう答えるかは気になるけど、これ僕が聞いたら不味い内容じゃないの? いや、マジで

 

 

 



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87. 御礼参り 3

 

 

数分間の沈黙の間、紗夜は僕の頭を入念に撫で回し続けて、ヘンリは意を決した様に紗夜を見据え

 

「ふぅ・・・それじゃぁ、一旦座って貰って良いかな? 首痛くなっちゃうし」

 

 

「・・・そうね」

 

 

ヘンリの言葉に紗夜は頷き、僕の隣へと座る

 

「ぼく が先日 篠原邸へ訪れた理由、それは要 夏月の複製体の調査をする為なんだ」

 

 

「複製体の? なんでわざわざ? 理解出来ないわ、高々 人クローン1体の為の調査なんて」

 

 

「まぁ分からないよね、理由が。その人クローンの元が凡人だったなら、ぼく がわざわざ面倒くさいお使いさせられずに済んだのだけどねぇ?」

 

 

「どう言う事よ」

 

 

語り出したヘンリへ紗夜が返答するが、ヘンリは本当にダルそうに肩を竦めて言う

 

本当に面倒くさそうだなぁ、うん

 

 

「ん〜何処から説明をしたら本題を理解出来るかなぁ・・・よし、詳しく噛み砕くと長くなるから、少し省きながら説明していくね? 」

 

 

「仕方ないわね、分かったわ」

 

「まず大前提として神は存在する、そして神によりチカラを与えられた人間も」

 

「知識としては知っているわ、転生者と呼ばれる人達よね? 前世の記憶を持ち、尚且つ神からチカラを授かっているとか」

 

 

ヘンリは本題を説明する前の説明をし始める

 

統合騒乱後、世界の常識は塗り変わり 神の存在が実証され特異なチカラを持つ者、転生者と言う存在も認知された

 

今、この世界で一番有名な転生者は誰かと言うと、要 刑音(けいね)と言う万能医師だ

 

 

ありとあらゆる医術・医学を行使出来るチートとしか形容出来ない人物で、全国各地の病院に居る、文字通りに居る

 

転生者由来の膨大な魔力を使い分身体を作り出して医療に従事しているのだとか、たまにテレビに出てるし なんなら若宮ギルドの医務室にも居るし時々道ですれ違うぐらいだ

 

 

「その転生者に何の関係が?」

 

「件の複製体のベースが転生者だから問題あるんだよ、否・・・並の転生者であれば大して問題は無かったのだけど、ベースが悪かったんだベースが」

 

「どう言う事? 私はお祖母様の想い人としか・・・」

 

「・・・転生者にも神から下賜されたチカラの量、強さのランクがあるって事です紗夜ちゃん。多分そのクローンは僕よりずっと強い」

 

 

「カナリアちゃん?」

 

 

「件のクローン、イオン様からチカラを下賜された現在世界最強の一角を担っている転生者がベース何でしょう? 名前は確か・・・立花 夏月」

 

 

「まぁ君は知っててもおかしくないね、うん」

 

 

同じ神からチカラを下賜された転生者と言うのは、何となく感覚で分かる物なのであるが、それはどうでも良くて

 

今 問題なのは、立花 夏月の複製体を一企業の女性が保有している事にある

 

 

彼女クラスの転生者の複製体となれば、核兵器クラス・・・否、国1つ地図から消せる地球滅亡クラスの戦力と言って過言ではない

 

 

転生者の強さのランクを5段階評価で表すなら、僕は2〜3で立花 夏月は7と言う具合のバグった評価をせざるを得ない

 

 

「何やらヤバい事は理解したわ、でも何で貴女が調査を? 貴女は王妹でしょう?」

 

「理由は幾つか有るけれど、①篠原家が日本において絶大なチカラを有している為、並の身分じゃ色々難しい事 ②ぼく がたまたま日本のダンジョンに用が有ったから ③転生前とはいえ母様の生家であり母様の実妹の凶行の責任を取る為、だよ」

 

 

「貴女の母親と言うと・・・前王妃シャルロット・S・ブリリアント?」

 

 

「うん、そのシャルロットで合ってる。転生者なんだよね母様」

 

「それ私達に言って大丈夫なの?」

 

「別に良いんじゃないかな? 手放しに公表はしてないけど隠してないって言ってたし、それに・・・君の信頼を勝ち得る方が良いと判断した、だから知り得る情報は公開する」

 

「・・・そう」

 

 

うーん、やっぱり僕が聞いたら不味い内容としか思えないけど、今更逃げられないし、仕方ない諦めて置物と化そう

 

 



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88. 御礼参り 4

 

 

 

僕は置物、僕は置物、と自己暗示を施しながら流れを静観していると

 

 

「ん? 少し待って頂戴、立花博士は女性よね? でもクローンは男性よ、私は自分の眼で見ているわ」

 

 

「言ったろう? 立花 夏月は転生者、つまり死んだ後に性別が反転しているんだ」

 

「・・・なるほど、再度出生したら2分の1だものね、性別が反転する事もある訳ね?」

 

「その通り、カヅキおばさんは元男、そしてクローンは男として精製されている訳だね」

 

 

僕とは関係ない立花博士の話なんだけど、僕自身元男の転生者と言う内容は少し居心地が悪い

 

それはそれとして、立花博士も元男だったのかぁ、女性にしては珍しい発想とデザインのガジェットを発表してた理由は、それなんだろうな、うん

 

 

「と言うのが前提の話で、ぼく は夏月くん(仮)の研究記録や その他付随するデータを入手して本国に居る上から3番目の兄様に届ける お使いを任されてるって訳」

 

 

「概ね理由は分かったわ」

 

「サヤ、君は察しが良いから先に言っておくけれど、場合によっては夏月くん(仮)は生かして置けないから、暗殺する事になるかも知れないし、死ぬまで幽閉って事もある、何も問題がなくて定期監視で済むかも知れない、それを踏まえて ぼく は君に協力を要請したい」

 

 

「・・・そう」

 

 

ヘンリの説明を聞き、紗夜は頷いて思案を始める

 

これは法が云々とか、そんな簡単な話ではない、立花 夏月のクローンとはいえ産まれた命だ、それを自分が関与した結果、刈り取る可能性がのあるのだから悩まない筈がない

 

 

と、そこまで考えて、ふと思う

 

「ヘンリさん、その夏月くん(仮)って立花博士の生前の細胞をベースに培養して精製されているんですよね?」

 

 

「研究資料が無いから断言は出来ないけれど、多分 そう」

 

 

「あと魔力回路の有無は遺伝が95%ですよね?」

 

「うん、基本的には後天的に魔力回路が形成される事は無いね、手術とか手を加える場合は別として、だけど」

 

 

僕の質問にヘンリはサラッと答え、更なる質問にも答え『まぁその手術も余程腕が良くないと無理だけど』と言う

 

 

その言葉を聞き、僕は確信する この夏月くん(仮)は十中八九、真人間の純日本人スペックで、魔力も異能も有していないだろう、と

 

 

魔力や異能は身体由来の超常のチカラだ、魂の強度が魔力の量・濃度に関わりはするが、魔力を生み出す器官や貯める器官、全身に送る器官が無ければ行使出来ない

 

 

血液が骨髄で作られても血管と心臓が無ければ全身へ循環させられ無いのと同じ様に

 

 

「カナリアは小さいのに賢いね、ぼく の予想も純日本人スペックだと仮定しているよ」

 

 

「ヘンリさん、僕は高校生ですよ」

 

 

「はぇ? そうなの? ごめんねぇ」

 

 

「いえいえ、慣れてますから」

 

 

やっぱり年齢を勘違いされていた様で、ヘンリは少し驚いて謝罪してきたので、大丈夫と伝える

 

 

「・・・良いわ、協力する。お祖母様の凶行で世界が滅んだら目覚めも悪いし、私も身内として責任は取らないと、ね?」

 

 

「うん、ありがとうサヤ。早速で悪いのだけれど研究資料の在処については知ってる?」

 

「えぇ、本社の地下研究施設、あとお祖母様のセカンドハウスの地下にも研究室があるわ・・・多分夏月(仮)クローン技術関係はセカンドハウスの方ね、あそこのセキュリティは本邸の比では無いもの」

 

 

紗夜はヘンリに協力する事に決めた様で、そういう

 

漸く僕が置物をする時間が終わりに向かっている様になってきて良かった

 

 

本当、この件に関しては僕は部外者でしか無いしね?うん

 

 

「それじゃぁ、セカンドハウスの方を捜索してみようかな?」

 

「私に出来る事が有れば言って頂戴、可能な限り協力するわ。お祖母様にバレる前に終わらせないとダメだし」

 

「そうだね、この1週間が正念場かもね」

 

 

何をするか分からないけど、漸く解放されそうで良かった

 

 

場違い甚だしいからね、うん

 

 



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89. 次男の晴れ舞台

 

 

 

寝耳に水の話が有ったり、予期せぬ出会いが有ったり、聞いたら不味い内容の話を聞かされて置物と化したりした6月を超え、7月に突入した今日この頃、僕は父の運転する車に輸送されている

 

 

「カナリア、制服で良かったのか? アルエットが お前のドレス用意してたろ?」

 

 

「してたね、あんなヒラヒラしたのは趣味じゃないし落ち着かないから制服が良いんだ、お母さんには悪いとは少し思うけどね」

 

 

「あー・・・まぁ〜似合うとはいえ お前の年齢を考えると、少し幼稚なデザインかなぁ? とは俺も思ったけどな?うん」

 

 

仕事の都合で母が同乗していない事を良い事に容赦のない本音を父へ吐露すると、苦笑しながら同意してくれる

 

まぁこの車には僕と父しか乗って無い訳だが

 

 

さて 別に僕は母が嫌いな訳ではないし、愛し甘やかされている実感はあるが、こう・・・僕の年齢を考慮してほしいと思ってしまう

 

 

着ろと言われればゴスロリとか甘ロリだって着る、ただ時と場合によるのだ、特に今日の様な僕が目立つとダメな日は特に

 

 

自分で言うのには抵抗あるけど、僕は平時でも珍獣レベルに目を引く存在なのだ、だから母が気合いを入れて用意したドレスより 普遍的な制服が最善手なんだ、そう僕は信じている

 

 

「ほら、僕ってただでさえ珍獣並に目立つし? 主役より目立つのはダメじゃない?」

 

「それはそうだが、自分で言うのか?」

 

「実際会う人会う人に言われ続けてるからね、可愛いとか、美少女とか、妹にしたいとか、etcetc」

 

「ま、お前は間違いなく美少女だよ、本当アルエットに似て良かったな?」

 

 

父はガハハと笑い言う、大丈夫だ父よ、僕の内面は間違いなく貴方の影響を受けている、じゃなければ 前世の性格と違い社交的になってないのだから

 

チカラisパワー、良いよね

 

 

そんな他愛ない話をしながら結婚式場へと車は進み、小1時間で到着し下車して身体を伸ばす

 

そういえば散髪するの忘れていたけど、今更だから気にしない事にし、肩を回しながら歩く父の後を追い式場へと入ると、既にそこそこ人が居て少し驚く、チャペルの方の時間まで結構あるしね?うん

 

 

それにしても雀晴(すばる)がとうとう結婚するのか、そう考えると少し考え深い物を感じるなぁ

 

 

奥さんになる秧鶏(くいな)には何度か会ったけど、大人しい感じのお姉さんだったな、うん

 

 

秧鶏と同世代の人って、結構押しが強かったりキャラが濃ゆい人が多い印象だったけど、秧鶏はお淑やか系だった

 

 

脳死でデカくて目立つ父の背中についていくと親族控室なる部屋に辿り着いて、中に入ると僕と同世代の子供はおらず、幼児か成人してるかの二極化していた

 

そりゃそうだよね、ウチの年齢バランスが少し悪いのが原因だよね、うん

 

 

座り心地が良さそうな椅子にアンティーク調のテーブル、壁に掛かる何か綺麗な絵に花瓶に生けられている花

 

それを無視して父は秧鶏の両親の方へ行き軽く挨拶をしていたので、便乗して僕も軽い挨拶をしてから、何となく嫌な予感がしたので 花を摘みに行く と言う名目で控室を脱出する

 

 

実際トイレに行きたかったし、結婚式場って普段入らないから好奇心に勝てなかったのもあるけど

 

 

そんな訳でトイレを済ませてから手洗い場の鏡を見つつ髪飾りを外して髪を整えて髪飾りを再装着して髪を結う

 

 

ほんと便利な髪飾りだ、汚れても自動洗浄機能ついてるし、自己修復もしてくれるし、リボン部分が伸び縮みするから髪型のバリエーションが増やせる、魔武器ってほんと凄い

 

 

そんなこんなトイレを後にして式場内の徘徊を始める

 

 

何というか、全体的に煌びやかでキラキラしてる印象を受ける、まぁ結婚式場だから当たり前かも知れないけど

 

 

僕達の他にも何組か結婚式を行う人達が居るみたいで、控室前に看板?みたいな奴が立っているのが見える

 

 

そして凄く広い、脳死で徘徊したら迷子になりそうなぐらい広い

 

 

 



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90. 裏舞台

 

 

 

7月に突入し夏の香り漂う今日この頃、私は次男の結婚式へ参列しているカナリアの断り無く勝手に現界して闇属性の魔法である影渡りを用いて、影の中を泳ぎ人目を避け とある場所へ向かっている

 

 

紗夜やヘンリでは真子を説得するのが困難かも知れないし、並行世界線とはいえ真子は私にとっても妹分だ、不幸にはなって欲しくない

 

 

影の中は障害物がないのでスイスイと移動が完了し、目的地で念の為に耳だけ影から出して索敵し、障害が居ない事を確認し影から出て周りを確認する

 

 

ゴテゴテとした物ではなく、シンプルに機能美を追求した内装の書斎の様で、デスクと本棚が並んでいて、デスクには今日会いに来た真子がゲンドウ座りで着座していた

 

 

「ごきげんようワカモさん」

 

「こんにちは、真子」

 

 

移動で多少乱れた着衣を整えて彼女へ住まいを正して飾らずに向き合う

 

 

「そろそろ来客が来るとは思っていましたが、まさか貴女とは」

 

「そうかな? まぁ君にはそうかも知れないね・・・用件は分かっているよね?」

 

 

「えぇ、理解しています。私の夏月さんの件ですね?」

 

 

私の言葉に静かに頷き、真子は答え 私はその返事に頷く

 

「それなら話は早い、研究資料をリューネへ渡すんだ、良いね?」

 

「言われずとも、元よりそのつもりです。夏月さんは・・・立花夏月という人間は歩く戦略兵器、その前世遺骸から採取した細胞を使っているとはいえ、夏月さんのクローンの存在が露見すれば誰がやってくるか、なんて予想がつきます。これでも私は篠原グループの総帥ですから」

 

 

「・・・そっか、君は最初から分かっていたんだね? 」

 

 

「えぇ、今の所 貴女が来客であった事以外は、私が描いた道筋通りに事が進んでいます」

 

 

そう真子は最初からクローンを作成すれば、リューネや他国の調査員が来る事を分かっていて、作成へ踏み切っている

 

「堂々としているのは、彼には異能が無いからかな?」

 

「もちろんです、2度と夏月さんを失う事態は避けねばなりません、元々純日本人である夏月さんに異能がある訳ないですし、何度も何度も念入りに検査し、無能力の真人間である事を確認しています」

 

 

「本当、君の一途さは篠原の血より要の血と言われた方がしっくりくるよ真子、実はお館様の隠し子だったりしない?」

 

 

「しませんよ、両親共にお姉様と同じ、と鑑定書がありますし・・・まぁそんな事は今更どうでも良いのです」

 

 

本当に抜け目の無い計画の様で、念には念を入れて着実に事を進めて来ている様で、これは私が説得にくる必要も無かったみたいだ

 

 

「どうしますか? データ、貴女が持って帰りますか?」

 

 

「ううん、私は持って帰らないでおくよ、紗夜とヘンリが動いているし、下手に私が水をさしても悪いしね?」

 

 

「そうですか? 貴女は本当に義を重んじますね・・・後のことは(さや)(ヘンリ)の動きに合わせて演出する事にしましょう」

 

 

「ありがとう真子」

 

「構いませんよ、これも彼との未来の為です」

 

 

私が そう言うと真子は微笑み言う、本当に本心から言っているのだろう

 

 

「ヘンリについては分からないですが、紗夜は賢い娘ですし塩梅は難しいですが、まぁどうとでもなるでしょう」

 

 

「侵入を誘発させるよりは、招いてあげたら?」

 

「それもそれで有りではありますね、その方が身の潔白を証明出来そうですから」

 

 

そう、今回の件の要点はクローンを作成した事について、では無い

 

 

問題視されているのは、歩く戦略兵器である 立花 夏月のクローンである事である為、真子が作り出したクローン夏月が異能を有していない、と証明出来れば事足りるし丸く収まるのだ

 

 

だから、真子は無理に隠し通す必要も争う必要も無い

 

 

故に調査員を招き入れてしまえば良い、まぁだいぶ疑いの目は向けられるが、解析を担当するのはシンクだろうし、クローンが無能力と分れば放置と言う判断になるだろう、そう真子も踏んでいるに違いない

 

 

 



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91. 終業の日

 

 

結局式場が広くて迷子になってしまった僕は式場の従業員のお世話になり親族控室へと時間ギリギリに戻り事なきを得た

 

いやぁ危なかった、遅刻もそうだけど、母が僕に用意したドレス持ってるのが見えてしまったからね、うん

 

 

そんな訳で僕は案件をこなしたり攻略のライブ配信をしたりして過ごし、7月も下旬に差し掛かり1学期の終業式を迎え、納車されたCB125Rに跨り下校する

 

いやぁバイクは良い、気持ちが良い、ただ7月は日差しが強いから対策しないと日焼けとか熱中症になってしまうかも知れない

 

 

車高は高いけど、僕には障壁術があるから大丈夫、足が付かない分はシールドでかさ増しできるから

 

 

そんな訳で風を感じ上機嫌にバイクを走らせギルドへ到着し、頑張って習得した収納魔法を使いCB125Rとグローブ、ヘルメットを収納して、中に入り備え付けのテレビが目に入ったのでチラ見すると、オーシアの大きなダンジョンが攻略されたニュースが目に入る

 

 

「だいぶデカかったアレか、ふぅん」

 

「やっほ〜、カナリア」

 

「ヘンリさん、こんにちは」

 

「うん、こんにちは」

 

 

ニュースに気を取られていると、死角から蒼髪美少女ことヘンリが微笑みながら現れたので、挨拶をする

 

やっぱり36歳には見えないなぁ

 

 

「あれ? 1人ですか? ユウカさんは?」

 

 

「ユーカちゃんは五月蝿いから仕事を言い付けてある」

 

「そうなんですね?」

 

僕とヘンリが話して居たら騒がしくなりそうなのに、静かなままだったので周りを見渡し彼女の付き人であるユウカの姿を探すが見当たらなかったので、尋ねると ヤレヤレといった表情をして返事が返ってくる

 

 

付き人として、それは大丈夫なのか? と思ったけど、主人であるヘンリの命令なら仕方ないのかも知れない

 

 

「サヤに聞いたけど、リューネのヴェスタ神教本部へ礼拝に行く予定なんだってね? 丁度 例の お使いも終わって一度帰国するから、同行しない?」

 

「え? いやぁ、流石に迷惑を掛けちゃいますから・・・」

 

「カナリアは ぼく の恩人、だから気にせず同行するべき」

 

「なんか、押し強くないですか?」

 

 

なんかグイグイと迫ってくるヘンリに押され、どうしようか悩む

 

 

確かに同伴者が居ても知り合いが居ないのは少し不安だし、居たら助かるけれど、流石に一国のお姫様に甘えるのは不味い様な気がしなくもない

 

「カナリア、ぼく の言う事を聞いておくほうが後々便利、身一つで行ったら教会から聖女就任の洗礼をさせられる」

 

「いやいや、まさか」

 

「君はヴェスタから聖女に任命されているって、ぼく 知ってるんだよ?」

 

「・・・なんで、それを」

 

「ぼく はヴェスタと知り合いだから」

 

 

ヘンリは僕に顔を寄せて小声で言ってくる、これは拒否権無いかも知れない

 

「別に君をどうかしようと思ってないよ、君には自由の身で居て欲しいしね? それにリューネ王族だから教会にもコネあるし」

 

「・・・分かりました、よろしくお願いします」

 

「うんうん、分かってくれて嬉しいよ。いつ出発にする? 明日?」

 

「せめて準備に2日下さい、お願いします。航空チケットも取らないとダメですし」

 

「そう? カナリアは身支度だけしたら良いよ、チケットとか宿泊先は ぼく が手配しておくから」

 

「いや、それは流石に」

 

「良いから良いから、お姉さんに任せて起きなさい」

 

 

何というか、紗夜の比では無いぐらい押しが強いヘンリに押し切られる形で僕のリューネ旅行(仮)が決定してしまった

 

もう少しスケジュール調整して鷹樹か三鶴に同行して貰う予定だったけど、こうなったら仕方ない。相談して少し無理して貰う事になりそうだ

 

 

すまない、マイ・ブラザー お姫様の圧には僕程度の小市民では到底抗えるパワーは無いのだ、本当にすまない

 

 

これは両親も含めて相談の流れになりそうだなぁ、まぁ結構忙しい人達だし、同行者の枠からは外れると思うけど

 

 



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92. リューネへGO

 

 

 

ヘンリの提案を了承した後、ステラ・アーク事務所へ彼女も連れて行き、雇用主の紗夜へ件の礼拝の事を伝え、スケジュールをどうにかして貰う、すまない 本当にすまない

 

 

僕の為に骨を折ってくれた紗夜と渚に熱い御礼を言うと抱きしめられ撫で回されたが、まぁ対価としては安いので受け入れる

 

 

それから短時間で済む案件の撮影を幾つかこなしてから帰宅し、家族会議を開催して事情説明をして、鷹樹に伺いを立てる

 

 

「すまん、流石に無理だ。大き目の案件が有ってな」

 

「そっか、無理言ってごめん」

 

「構わねーよ、雀晴・・・は除外として、親父と母さんと三鶴は?」

 

 

食卓の中央に置かれた機器により空間投影されたディスプレイに映る鷹樹が申し訳無さそうに言うので、一言謝ると鷹樹が新婚ホヤホヤの雀晴を除外した残り3人へ尋ねる

 

 

「俺は3日後から数日 ギルド本部に出張」

 

「私は明日から1週間ぐらい出張、近隣ギルドとの定例会議があるの」

 

「僕は特には無いかな、バイトも休み取れるから」

 

 

かなり不服そうな両親と比例して満面の笑みを浮かべる三鶴という構図が少し面白い、本当 僕は甘やかされているなぁ

 

 

「お父さんもお母さんも出張頑張って? お土産は買ってくるから」

 

 

「優しい子に育って俺は嬉しいぞ、カナリア」

 

「そうね、私も嬉しいわ」

 

 

「すぐ大袈裟にしないで、ね?」

 

普通の事を言ってるのに、何故だか過大評価をしてくる両親へ言うが、十中八九改善はされないだろう、うん

 

 

「それじゃ三鶴ちゃん、2日後に出発予定だから、そのつもりで」

 

 

「わかったよ、カナリア」

 

「カナリアをよろしくな、三鶴」

 

「お願いね? 三鶴」

 

「任せてよ、父さん母さん」

 

 

そんな事を言いつつヘンリへ2人分のチケットの手配をお願いする為にスマホを操作していると、視界の端で そんな寸劇風のナニカが繰り広げられていたが、見えなかった事にする

 

 

そんなことで翌日 丸1日使って旅支度をし、当日 勉強机の引き出しの肥やしになりかけていたパスポートも装備して、待ち合わせ場所である最寄りの空港へと三鶴が運転する車で向かい、立体駐車場へ駐車して空港施設内へと入り、ヘンリを探す

 

 

「時間に余裕を持って待ち合わせしてるから、余程じゃない限りは大丈夫だと思うけど・・・」

 

 

「日本だと蒼髪は目立つし、すぐ見つかる筈だよ」

 

 

ゴロゴロとキャリーケースの車輪を鳴らしながら国際線受付カウンター近くの目印を目指す

 

 

そんなこんな特に問題が起こる事もなく目印に近付くと日本では珍しい蒼髪の美少女を色々な角度からカメラで写真を撮影している薄茶の髪の美女が目に入り

 

 

「良かったねカナリア、アレなら見逃す心配はないね」

 

 

「はは〜凄い皮肉が効いてて最高だね」

 

 

ユウカの奇行を目の当たりにして少しSAN値が削られた気がするけど、三鶴は違うらしく、ニコニコと表情を崩さずに2人へ歩み寄り

 

 

「ごきげんよう、ヘンリエッタさんとお見受け致します。僕は三鶴、カナリアの兄です、本日より少しの間お世話になります」

 

 

「ん、ご丁寧にどうもありがとう、こちらこそよろしく」

 

 

Ah Henry(嗚呼ヘンリ) How generous and beautiful(なんて寛大で美しいのかしら) むぐっっ」

 

 

It's noisy, Yuka.(うるさいよユーカちゃん) Shut up until I say okay(ぼくが良いって言うまで黙ってて)

 

 

三鶴がヘンリへ挨拶をしていたらユウカが上からな態度で何か言っていたがヘンリに物理的に口を塞がれて黙らされる

 

相変わらず扱いが雑だなぁ、あとリューネ語があまり分からないから 何となく『うるさい、黙ってろ(意訳)』ぐらいしか分からなかった

 

 

 

「ヘンリさん、よろしくお願いします」

 

 

「うん、任せて。使えるコネをふんだんに使った快適な旅を約束するよ」

 

 

「・・・はい」

 

 

物凄く良いドヤ顔を披露してくれたヘンリに何も言えず、曖昧な返事を返す

 

 

今回はヘンリに おんぶに抱っこだから文句を言える立場じゃないしね

 

 

 



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93. リューネへGO 2

 

 

そんなこんなでヘンリ+αと合流できた僕達兄妹はヘンリの先導のもと搭乗手続きをして荷物を預けて、空港内を少し徘徊したりラウンジなる所で腰を落ち着けたりする

 

その間、ユウカが威嚇の表情を僕達兄妹に向けてきたけど、ヘンリの言いつけを守り無言を貫いていたので、律儀な人なんだなぁ と思う

 

 

そんな訳で搭乗開始時間になったのでヘンリとユウカの後に続いてリューネ行きの旅客機へと通路を進んで行くと窓の外に姿が見えたので、写真を取っておく

 

 

 

さて、この世界において旅客機とはジャンボジェット機とか そんな飛行機ではなく、対飛行系モンスター装備がされた小型の浮遊航空艦の事を指す

 

 

簡単に言うと空を飛ぶイージス艦みたいな感じで、専属のヴァンツァー隊が護衛までしてくれるので、まぁまぁ安全が保障されている

 

 

まぁ内装はジェット旅客機とかと変わらないので悪しからず

 

 

「・・・あの、ヘンリさん?」

 

「どうかした? カナリア」

 

「半個室みたいな席なんですが・・・」

 

「そうだね?」

 

「ファーストクラスでは?」

 

「そうだよ?」

 

明らかに高そうな座席へ案内されたので、通路を挟んで隣のヘンリへ尋ねると、『なにを当たり前な』みたいな表情で返答が返ってきて、彼女に任せた事を少し後悔する

 

ヘンリはリューネの王女様で僕や三鶴みたいな中流家庭とは段違いのセレブだったのだ、うん

 

 

「恩人にはのしをつけて何倍返しする、カヅキおばさんに教わった」

 

「倍率がエグいんですってば・・・」

 

フンスと胸を張りヘンリは言うが、倍返しではなく乗返しなんですわ

 

 

何というか、加減が分からないらしい、いや気持ちは嬉しいけどね?

 

 

そんなやり取りをしていると添乗員に着席を促されたので大人しく席に座りシートベルトを手に持つ

 

 

毎回思うけれど、このシートベルト 嵌めづらいんだよなぁ

 

 

そんなこんな少し手こずりつつ装着し離陸を待つ

 

 

それから数分で旅客機は離陸し、浮遊航空艦特有の浮遊感を味わいシートベルト装着のランプが消えるのを待ってシートベルトを外し一息付く

 

 

「とりあえず規定の距離までは通常航行だね」

 

「あと1時間ぐらいですか?」

 

「そうだね、順調なら それぐらいかな?」

 

 

そんな会話をヘンリとし肩の力を抜く、少し長い航路なのだが一定の距離では安全の為、徐行運転になっているのである

 

まぁ大体5〜6時間でリューネの空港へ到着するから、結構速いとは思う

 

 

それから欠伸を噛み殺しながら面倒な夏期課題を可能な限り消化しておく、面倒な事は先に済ませておいた方が後々楽だと僕は学んだのだ

 

 

「カナリアは偉い」

 

「時間は有限ですから」

 

「ん、カナリアは賢い」

 

 

なんか僕を全肯定してる様な気がするヘンリに褒められて、少しやる気が出たので、ちゃちゃちゃーっと真面目に取り組みつつ斜め後ろから感じる突き刺さる様な気配を放つユウカは視界に映さない様にしておく、怖いし

 

 

そんな訳で10分の1ぐらい消化して、機内サービスで貰ったチョコケーキを食べてSAN値を回復させたりする

 

ずっとユウカの怨念を受け続けたら身が持たないしね?

 

 

それにしても美味しい、これは両親や兄弟、紗夜達にも食べさせてあげたいぐらいの美味しさだ

 

 

チャレンジした事はないけど、お菓子作りにも手を広げてみるべきだろうか? いや、あまり時間も取れなさそうだしな・・・少し悩む所だなぁ

 

 

あーでもキャンプ飯的なヤツは有りかも知れない、動画のネタにもなるし一石二鳥、うん悪くない

 

 

「美味しい?」

 

「はい、とっても」

 

「そう、良かった」

 

 

僕がチョコケーキを食べて幸せを噛み締めているとヘンリに尋ねられたので答えると、嬉しそうに微笑む

 

 

なんだろうか、姉気分に浸れて嬉しいってヤツ? 確かヘンリも末っ子だった筈だし、そうかも知れない

 

 

やはり一度は弟妹が出来る事を夢見たりするんだろう、多分

 

 



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94. リューネに到着

 

 

 

その後もトラブル無くリューネへ到着し、例に漏れず不満そうなユウカの先導で空港を出ると金獅子のエンブレムがついてる黒塗りの車の前に、クラシカルなメイド服を着ている金髪と赤髪の2名が待っていて迷わず 其方へ ヘンリは歩いて行く

 

 

Welcome home, princess(お帰りなさいませ、殿下)

 

 

I'm home(ただいま) They are my customers(彼女達は ぼく のお客さんだから) To avoid any rudeness(失礼がない様に)

 

 

I got it(かしこまりました)

 

 

ヘンリが金髪のメイドさんと2〜3言会話すると、彼女達は無駄の無い所作でトランクとドアを開け、荷物を受け取り車載し車内へ誘われる、これがプロか

 

 

なんて感動していると車が走り出し

 

 

「まずはホテルにチェックインするつもりだけど、良いかな?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「本当は ぼく の実家に案内したい所だけど、流石にカナリアも嫌がりそうだし、色々の都合が有ってねぇ」

 

 

「・・・そうなんですか」

 

 

本当危なかった様だ、ヘンリは何を考えてるか全く分からない、こう言ったらアレだけど知り合って1月(ひとつき)足らずなのに、なんでこんなに信用してくるのか分からない、別に脳内お花畑とかでは無い人なのは分かっているけども

 

 

まぁそんなこんなでリューネ王都外れにある高そうなホテルへと到着し、下車して自分の荷物を運ぼうとしたらメイドさんに やんわり断られ、ヘンリに手を引かれ受付? へ連行され、リューネ語だったからサッパリ分からない会話を聞き流している内に高そうな部屋へ案内され

 

 

「もう少ししたらホテル内のレストランが開く筈だから、夕食を食べるならそこで食べたら良いよ、支配人には話通して 支払いは全て ぼく 宛てにしてあるから冷蔵庫の中身も自由にして構わないから」

 

 

「あ、ありがとうございます、ヘンリさん。でも支払いまでは・・・」

 

 

「良いの良いの、受けた恩は100倍返し、カヅキおばさんを習ってるだけだから」

 

 

「・・・は、はぁぁ」

 

 

これは僕が何を言っても折れなさそうだな、と思い長いものに巻かれる事にする

 

 

正直に言うと、飛行機代はともかく この部屋の宿泊費だけでも払えるか微妙な所だ、中免とCB125Rで貯金使ったしね、うん

 

多分、1泊ぐらいならギリいけるかもなレベルだと思う、多分

 

 

「それで悪いのだけれど、ぼく は今から お使いを完遂しに行かなくちゃいけないんだ、だから また明日の・・・現地時間10時ぐらい集合で良いかな?」

 

 

「それで構いません、ありがとうございます」

 

 

「集合場所は・・・ホテル最上階のカフェテラスにしようか、街並みが綺麗に見えるし」

 

 

「分かりました、その様に」

 

 

「ん、それじゃぁまた明日」

 

「はい、また明日」

 

 

名残惜しそうに軽く僕を抱きしめてヘンリ+αが帰って行き、室内には僕達 兄妹だけが残される

 

 

「・・・悪意は無いみたいだね」

 

 

「三鶴ちゃんが、そう感じるなら下心の無い善意な訳か・・・なんか それはそれでヤバい気がしなくも無いなぁ」

 

 

「確かに、過ぎた善意も恐ろしい結果を生む可能性は有るからね」

 

 

「・・・ねぇ、不穏な事を言わないでくれないかな? 」

 

 

「ふふふ、ごめんごめん」

 

 

肩の力を抜き高級ソファーに寝そべってダラけると三鶴が呟いたので返答すると、そんな事を宣ったので軽く抗議すると、三鶴は僕の頭を軽く撫でて反省した様子は無い謝罪をしてくる

 

 

この三鶴と言う五月七日家 三男は、脳筋一家である我が家では珍しいチカラこそパワーな脳筋ではなく、人の感情や思惑の機微を詳細に繊細に感じとる事の出来る賢い人間なのだ

 

だから、三鶴がヘンリに悪意が無い、と言ったのならヘンリは善意で僕達へ色々としてくれている事になる

 

 

嬉しいが、度が過ぎるんだよなぁ

 

 



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95. 不審者(兄)

 

 

 

フッカフカな高級ソファーにダメにされそうになったが、三鶴の兄パワーで何とか人間の尊厳を守れた夜を超え翌朝、寝心地が最強のベッドのおかげで快眠だったので、二度寝をしたい気持ちを抑えこみ、ベッドを脱出して身支度を整える

 

 

「・・・この寝癖手強い」

 

「君、年に何回か そうゆう日があるよね」

 

「普段大したケアしてないからなぁ?」

 

「基本リンスインシャンプーだもんね」

 

「うん、面倒くさいし・・・手に負えないから、お風呂入る」

 

「了解」

 

 

そんな他愛ない会話をして強敵(寝癖)と戦い最終手段を使い苦勝して、朝食を食べに行き、余裕をもって集合場所の最上階カフェテラスへと行く

 

 

「これは壮観だ、ヘンリさんが推す訳だ」

 

「そうだね、これは素晴らしい」

 

 

このホテルは王都の外れに立っている理由、それは街並みを損なわない為だろう

 

 

歴史的価値の高い街並みが眼下に広がっていて、そういうのに興味がない僕でも目を奪われてしまうぐらいに美しいと感じる景色が見れてしまうのだ

 

 

そんな景色が見える窓際の席に座り、キャラメルマキアートを注文して飲みながらヘンリがくるのを、のんびりと待つ

 

 

「すまない、少し良いか?」

 

「うん? 僕達ですか?」

 

「なんでしょう?」

 

 

ちょっと窓の外に集中し過ぎて、僕達に近寄って来た人物に気が付かず、声をかけられて振り向くと、身なりがかなりしっかりした蒼髪蒼眼の美青年が、少し胡散臭い笑みを浮かべて立っていた

 

 

「君がカナリアちゃんかな?」

 

「・・・なんです? いきなり」

 

「申し訳ありませんが、どなたでしょう? 不審者に明かす身分は無いので」

 

 

美青年の問いに三鶴が怪訝な表情をして、いつでもヤレる様に体勢を整えながら返答すると、美青年は更に胡散臭い笑みを浮かべ

 

 

「それもそうだ、俺はシンク、ヘンリの兄貴だ。ほら蒼髪だろ?」

 

 

「・・・特別 蒼髪は珍しくないので」

 

 

「いやいや、リューネだとウチの一族しか居ねぇんだって、あホラ 少し前に撮った家族写真」

 

 

シンクの説明に返すと、どうやら髪色が同じで信じて貰えると思って居た様で胡散臭い笑みは消え、対応策を捻り出し始める

 

 

確かに日本では蒼髪は少し珍しい、でもオーシア・ベルカには普通に居るし、なんなら黒髪の方が珍しいまであるので、彼の兄妹証明は意味がない

 

 

そんな訳で見せられた写真なのだが、人数がそこそこ多くてヘンリを探すのに少し苦労する

 

アレ?ヘンリが無表情だ、何でだろ? 写真撮られるの嫌なタイプなのかな?

 

 

 

「えーっと・・・ホラ、ヘンリは此処で、俺は・・・あれ? あ、こっちだ」

 

 

「・・・何で今迷ったんです?」

 

「いや、普段はコンタクトなんだけど、この日は目の調子悪くてメガネだったから兄貴と被ってて」

 

 

「へぇぇ〜」

 

「いや、本当なんだって、俺等三つ子なんだよ」

 

 

シンクの説明に納得がいかずに生返事を返すと、彼は言い

 

 

「・・・確かにリューネ王族に三つ子が居た筈」

 

 

「だろ? 信じてもらえたか?」

 

「仮に信じるとして、そのお兄様が妹に何の用ですか?」

 

 

三鶴の雰囲気が大分ピリつき始め、シンクへ尋ねる

 

 

「いや、何つーか・・・ヘンリと友達になる奴が現れたから、ちょっと好奇心で会いに来たんだよ」

 

 

「はぁ??」

 

 

「だから、ヘンリは少し特殊な存在だから友達出来た事なかったんだよ、なのに友達出来たってんで、どんな奴なのか好奇心が芽生えたんだ。俺は研究職で好奇心に弱くてさ?」

 

 

「はぁ??」

 

 

あぁなんか返答が下らないせいか三鶴が猫ミームみたいな顔と声になってしまっている

 

 

誰が予想出来るだろうか? 王族が末妹に友達出来たから見にくるなんてさ?

 

 

それにヘンリって36歳でしょ? 子供じゃないんだからさ?

 

そのお兄さんて事はシンクも30歳オーバーの良い大人なんでしょ? まぁ見えないけどさ?

 

 

好奇心で僕を見に来なくても良いんじゃないかな?

 

 

 



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96. 不審者(兄) 2

 

 

 

何というか、とてつもなく下らない理由で僕へ会いに来たと言うヘンリの兄ことシンクの奔放さに呆れつつ、改めて彼を見定める

 

 

蒼髪蒼眼で三鶴と同等か それ以上の高身長で自称研究職と言う割には引き締まった身体をしている、自己管理をしっかりしているタイプか その内に抱える魔力が多い為かは僕には分からないけどね

 

 

ヘンリの兄と言う事は、彼も王族の1員なのだろうけれど、何というか・・・王族の威厳?というのを感じない

 

 

うん、かなり失礼な事なのは理解しているけどね?

 

 

「それで、感想は如何です?」

 

 

「そうだな・・・ヘンリが気にいるに値する人物だな、大抵の場合は俺等が王族と知ったら畏まったり態度変わったりするもんだけど、変わらないじゃん?」

 

 

「正式な場なら兎も角、少なくとも貴方は此処へはヘンリの兄、として来たのでしょう? なら畏まる必要は無い筈ですし、僕はリューネ国民でも無いので、リューネの王子とか姫とかどうでも良いです」

 

 

「そう、その思考、精神性が故に俺は君を賞賛しよう」

 

 

「えぇ〜・・・」

 

 

正直、結構失礼な事を言ってると思うのだけれど、シンクは嬉しそうに芝居掛かった仕草で言う

 

 

リューネ王族は変わり者しか居ないんだろうか?

 

 

そんな形容し難い感情を抱いていると

 

 

「・・・兄様? なんで此処に?」

 

 

「お? ヘンリか、いや何・・・噂のカナリアちゃんに会ってみたくてよ」

 

 

「兄様はカヅキおばさんに影響され過ぎ、自重するべき」

 

 

「そう言うなって、な?」

 

 

待ち合わせ時間に合わせて、茶髪青眼の美女と紫髪金眼の美女を引き連れ登場したヘンリがシンクを見て物凄く面倒臭そうな表情をして言い、シンクはケラケラと笑いヘンリの頭を撫でる

 

 

ヘンリの表情を見る限り兄妹仲は悪くないようだ

 

 

あと何で茶髪青眼美女は無表情で紫髪金眼美女はニコニコ顔なんだろうか?

 

「ウチの兄がダル絡みして申し訳ない」

 

「いえいえ、そこまでじゃ無かったので」

 

「そう兄貴を邪険に扱う物じゃないぜ?ヘンリ」

 

「兄様は黙ってて」

 

「うぃ」

 

 

申し訳なさそうに言うヘンリへ返答をすると、シンクがヘラヘラ笑い言うが、ヘンリが睨み言うとシンクは大人しく黙る、やはりシンクはシスコンの様だ

 

 

「ぷふ〜、シンクおじさん言われてやんの〜」

 

「おじさんは妹離れするべき」

 

「相変わらず生意気な双子だな お前等は・・・つか、なんでユウカじゃ無くてお前等が居んだよ?」

 

 

何か急にシンクを紫髪の方が煽り始め、茶髪が続いて淡々と追撃を加えてシンクは溜息をつき、質問を投げかける

 

おじさんって言ってるって事は、2人は姪なのかな? 確かに二十代の美女だけれど・・・もしかしてシンクって例に漏れず外見年齢が詐欺ってる?

 

 

「ユーカちゃんなら、うるさいから城に置いて来た」

 

「私とリリスはパパのお使いで登城してたんだけど、グンジョウおじさんに書類渡して暇になったから、ヘンリちゃんに着いて来たんだ〜」

 

「ボクとマリアが居れば護衛役として申し分ない、完璧」

 

 

「いや、末席とはいえお前達も王族だからな? マリア、リリス」

 

 

うーん相変わらずユウカの扱いが雑なんだけど、まぁ良いか 確かにユウカは居るとうるさいし

 

 

さてやはり この美女2人はシンクとヘンリの身内の様だ

 

多分、紫髪金眼がマリアで 茶髪青眼がリリスだろう

 

 

「細かいなぁ、そんなんじゃ禿げるぞ〜?」

 

「ん、おじさんも注意するべき歳、レッドゾーン」

 

「良い加減にしねーとリオンにチクるからな?」

 

「それは卑怯だぞ〜」

 

「おじさんに人の心は無いのか?と問わざる得ない」

 

 

なんか僕達を置き去りに、口論が始まってしまったなぁ

 

 

とりあえずシンクは見た目に反して実年齢が それなりな様だが・・・幾つなんだろう?

 

最低でも40は超えてるとは思う、多分

 

 

あと、リオンって誰だろ? 名前だけじゃ性別不明なんだけど?

 

 

 

 



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97. れつごー 大教会

 

 

 

大して興味の無い口喧嘩にも飽きたのでヘンリに案内を願い出て最上階カフェテラスを後にすると、自称護衛だからかマリアとリリスもついてくる

 

 

「ウチの身内が騒がしくて申し訳ない、仕事は出来るのだけど皆んな一癖も二癖もある人が大半なの」

 

 

「その様ですね・・・ご苦労お察しします」

 

「ありがとうカナリア・・・あぁみんな君みたいに聞き分けが良ければ良いのに」

 

 

「えぇ〜私は おじさん程 好奇心に支配されてないよ〜?」

 

「マリアに同意、ボク達は聞き分け良い方、訂正を要求する」

 

 

なんか心なしかシオシオし始めてるヘンリの苦労を察して慰めるとマリアとリリスがヘンリの言葉に異議を唱える

 

本当元気な人だな、マリアとリリスは

 

 

エレベーターに乗り高そうな黒塗りの車へ案内され、乗車して気になった事を彼女達に尋ねてみる

 

 

「あの・・・お二人はヘンリさんと、どの様な関係なんですか?」

 

 

「ん〜? 叔母と姪だよ〜」

 

「ん、自己紹介がまだだった。ボクはリリス、こっちはマリア、よろしくカナリアちゃん」

 

「よろしくねぇ〜」

 

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 

僕の問い掛けにマリアが先に答え、リリスが続き自己紹介をして来て何かタイミングが狂わされて変な感じになって変な返答しか返せなかった

 

 

というか、運転手のメイドさんを省いた車内に居る人間5名中4名の一人称が 僕でなんか愉快な空間になってるなぁ

 

 

「ぼくは末の王妹で、その双子は下から2番目の王弟の娘。そしてユーカちゃんと同じ血筋」

 

 

「あー・・・なるほど、理解しました」

 

「いやいや、ユウカおばさんと同列に扱われるのは少々不服だよ、カナリアちゃん」

 

 

「ん、即時撤回を求める、いくらカナリアちゃんが可愛くても許与できない」

 

 

「あ、はい、すみません」

 

ユウカと同列に扱われるのが本当に嫌な様で、僕へ抗議してきたので口先だけの謝罪をしておく

 

 

「ちなみに、お二人の年齢は?」

 

「えぇ〜っと・・・確か26歳のはず」

 

「26歳で合っている」

 

 

うん、ヘンリと違い外見年齢と実年齢がほぼイコールのようだ

 

まぁ美人である事は変わらないのだけども

 

 

「シンクおじさんは・・・何歳だっけ?リリス」

 

「50と少しだったのは覚えている、不覚」

 

 

「なんです? リューネ王族は老けない呪い(まじない)でも掛けられているんですか?」

 

 

「ん〜その可能性は否定できないなぁ〜」

 

 

「確かに、お祖母様達も老けない、不思議」

 

 

僕の言葉にカラカラと笑い否定をせずにマリアが言い、リリスが続く

 

 

もしかしてマジで呪いの類いが掛かってるのだろうか?

 

またはエルフとかの血が入ってるとか? それも否定出来ないなぁ、僕はリューネの事をよく知らないし

 

 

「そういえばユウカさんと同じ血って言ってましたが・・・」

 

 

「うん、私達のママがユウカおばさんの姉なの」

 

「名前はリオン、怒ると超怖い」

 

「2人が怒らせる事をするからでしょ? 」

 

 

シンクが言ってたリオンなる人物は2人の母親だったようだ、リリスの様子から察するに、本当に怒らせたら不味い人のようだ

 

 

「リオン姉様は、とても優しい人。奇人変人の巣窟の立花家で珍しい常識人の1人」

 

 

「それな〜」

 

「事実、否定できない」

 

 

「えぇぇ・・・」

 

 

ヘンリの言葉にヘンリがカラカラと笑い同意を示し、リリスがしみじみ噛み締め頷く

 

立花家って、僕が予想している以上に変わり者しかいないのだろうか?

 

 

「タチバナ カヅキの名前は聞いた事は有るよね? 確か日本の教科書にも乗ってるはず」

 

 

「え? えぇ、はい。名前と何をしたかフワッとは・・・」

 

 

「マリアとリリスは、そのカヅキおばさんの孫なんだ。マリアなんかだいぶ遺伝してて研究職なんだ」

 

 

「おばあちゃんの足元にも及ばないけどねぇ〜」

 

 

「は、はぁ・・・」

 

 

教科書に載ってる、近代史の中でも飛びっきりぶっ飛んでいる技術を用いて歴史に名を刻んだ人物の孫と対面するとは予想してなかったなぁ

 

 

なんか、人脈が大変な事になって来てない?

 

 



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98. れつごー 大教会 2

 

 

 

何とも混沌とした情報を与えられて形容し難い気持ちになっている内に車はヴェスタ神教総本山サンテブルク教会へと辿り着き下車して見上げて、しっかりと観察する

 

 

ザ・ファンタジーの大教会な慎ましくとも美しい外観を目に納め、少し感動し息を飲むが、すぐにハゲマッチョが頭を過りスンっとなりヘンリに先導されながら教会の中へと入る

 

 

「このサンテブルク教会はリューネ建国時に建造された建物で、補修はされていたりするけど、当時の石材そのままの部分も結構あるんだよ?」

 

 

「へぇぇ・・・ん?」

 

 

大聖堂に入りヘンリの説明に耳を傾けるが、ヴェスタの石像が目に入り説明が頭に入ってこなかった

 

だって石像は古代ギリシャ風の服を着ていたから、僕の会ったヴェスタはブーメランパンツを身に付けてただけだったしね?

 

 

そんな身にもならない事を考えつつ、ヴェスタの御神体の前に立ち見上げ

 

 

「三鶴ちゃん、少しの間 よろしく」

 

 

「うん、分かった」

 

 

僕は短く三鶴へ良い、ローレライを展開し聖女フォームになり御神体の前に膝を折り祈りを捧げると、意識が遠退き三鶴に支えられる感覚を感じ視界が暗転する

 

 

「・・・ふぅ、お久しぶりです、ヴェスタ神」

 

 

「うん、久しぶりだね? でも僕の方へ先に来るのは予想外だったよ」

 

 

「特に理由は有りません・・・強いて言うなら、ヘンリさんの圧に屈しただけで」

 

 

「ははは、そうかい? まぁ良いかな、君が楽しく歩めているなら良かったよ。それにイオンも後回しにされたからと拗ねる程 器が小さくないからね」

 

 

いつか見た図書室の椅子に座って、うたた寝をしている様な体勢だったので目を明け、前を見据えると相変わらずブーメランパンツのみ着用し、キレッキレのポージングを決めているヴェスタが目に入ったので、軽く挨拶をする

 

 

うん、ポージングしながら比較的マトモな事を言ってくれているのだけど、ポージングが邪魔してあんまり言葉が入ってこない

 

 

「にしても君は律儀だね? 日本の教会で礼拝すれば良かったのに」

 

 

「いえいえ、やはり総本山で挨拶をするのが筋だと思っただけです」

 

 

「いやいや、大分律儀だよ? カナリアちゃん、まぁ僕としては悪い気はしないけれど」

 

 

僕の言葉が嬉しかったのか、ヴェスタはサイドチェストを決めてニコリと笑う

 

 

 

ん〜悪い(ひと)では無いんだろうけど、色々と主張が強いなぁ・・・主に筋肉の主張が

 

 

「僕は有史以来、幾人の人を聖女として任命してきたけれど、君ほど律儀な人は数える程だった、故に君に更なる祝福(ちから)を授ける事にするよ」

 

 

「そんな、わざわざお手を煩わせる程では無いですよ」

 

 

「ふふ、残念ながら君には拒否権は無いんだよねぇ〜」

 

 

[エクストラクラス・聖女のレベルがアップしました]

[条件達成につきステータス補正率が上昇します]

[クラススキル・岩塩生成のレベルがアップしました]

[保有上限・生成量が上昇しました]

 

ニッコリと笑みヴェスタがモスト・マスキュラーを取ると光の粒子が僕を包み淡く光り、いつもの謎の表示が現れて消えていく

 

 

「ヴェスタ神教において聖女とは魔や邪と相対し打ち払い、正しき行いをする女性の事を指すから、一般的な癒しのチカラを持つのが聖女、みたいな感じじゃないんだよねぇ」

 

 

「だから、岩塩なんですか?」

 

「うん、イオンと相談したら、物理攻撃出来る方が良いって言うからさ?」

 

 

「ん、ん〜・・・」

 

なんか少し感性がズレてる気がするが、まぁ神様なんて少しズレてるぐらいが丁度良いのかも知れない

 

 

「よし、それじゃぁそろそろお帰り? 腐っちゃうからね」

 

「はい、またいずれ参ります」

 

「ふふ、楽しみにしているよ、カナリアちゃん」

 

 

ヴェスタに挨拶をして目を閉じて現世の事を念じると、来た時と同様に意識が遠のいて行き暗転するのだった

 

 

 



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99. れつごー 大教会 3

 

 

 

ゆっくり目を開けると、知らない天井と見慣れたイケメンフェイスの三男が見え、後頭部から伝わる感触で状況を把握する

 

 

「ありがとう三鶴ちゃん」

 

「おかえり、カナリア」

 

 

僕の言葉に三鶴は微笑み頭を撫でながら言う

 

 

「ねぇ、確かにお願いしたのは僕だよ? でも何で膝枕なの?」

 

「それは・・・ほら、指定なかったから僕の好きにして良いって事でしょ?」

 

「うーん、シスコン」

 

「褒めても何も出ないよ、カナリア」

 

「褒めてないよ、三鶴ちゃん」

 

 

相変わらず少々僕を愛し過ぎてるシスコン三男に呆れてつつ、大人しく三鶴の膝を借りておく

 

実は幽体離脱の副作用で本調子では無いのだ

 

 

そんな訳で軽く顔を動かし周りを見てみると、三鶴を羨ましそうに見ているヘンリが見え、何で羨ましそうなのか不思議に思いつつ御神体の方へ眼を移すと、車椅子に座り御神体を見上げている黒髪ロングの人と、見覚えのある蒼髪の美青年の姿が見える

 

 

シンクは、わざわざ着替えて此処までやって来たのかな? 意外と暇何だなぁと思い少し無理矢理身体を起こして岩塩のカケラを口に含み聖水で流し込んで一息つく

 

 

「くく、なるほど、なかなか向こう見ずの性格をしている様だな」

 

 

シンクが車椅子を回すとキィィと車輪が鳴り、僕を金の瞳で見据えて車椅子の主がニヤリと笑みながら言う、そんな彼女の姿を見て僕の本能が彼女と戦うな と警笛を鳴らしてくる、下手をしなくても戦えば死ぬ、その事実を理解してしまう

 

 

「そう警戒しなくても、取って喰ったりはしない。これでも子供と身内には甘いと自負しているのでな」

 

 

「そう、大丈夫だよ? この人、目付きが悪くてカタギには見えないけれど、真っ当な人だから」

 

 

「ははっ言ってくれるじゃないか、グンジョウ」

 

 

「なんで嬉しそうなんですかね? カヅキおばさん・・・」

 

「グンジョウ? カヅキ? ・・・いや、まさか」

 

 

ニヤニヤと車椅子の主は笑みを浮かべて言ってくるが、全く信用していないのを見てか、左眼に走る縦一文字の傷跡を持つシンクと同じ顔の美青年が僕を安心させる為に保証してくれるのだが、正直2人のやり取りを見ていて どうでも良くなってしまった

 

なにせ、ガチでヤベー転生者筆頭とリューネ国王が目の前にいるからだ

 

 

「あぁ畏まらんで良い、私は死に損ないのババアだし、コイツはオフだからな」

 

 

「は、はぁ・・・」

 

 

「そんな死に損ないからのアドバイスを聞いてくれ、若い内から塩分過多は辞めておけ、中高年になって一気に身体にガタがくるぞ」

 

 

「あ、はい」

 

 

ヤレヤレと肩をすくめている陛下を横目に、悪役スマイルを浮かべている割にはマトモなアドバイスをしてくる立花博士に少し間抜けな返事を返すと彼女は静かに頷き

 

 

「お前の他者を助ける高潔な姿勢は賞賛に値するが、自分の命を軽く見積もる事は控えろ、お前が愛する人を心配する様に、愛する人もまたお前を心配し身を案じているのだからな」

 

 

「善処します」

 

 

「あぁ是非そうしてくれ、罪悪感で死にたくなるぞ?」

 

 

「・・・覚えておきます」

 

 

彼女の言葉には重さがあった、きっと実体験から得た教訓だろう

 

 

僕が誰かが傷付くのを嫌がる様に、誰かは僕が傷付くのを嫌がる、それは当然の事だろう、でも僕は その事を失念していた様だ

 

 

「カナリア、お前は素直な子だな? ウチの孫1号より大分可愛げがある」

 

 

「クオンは貴女に似たんだと思いますよ?」

 

 

「だろうな? 」

 

そう立花博士は言い笑う、こうしていると歩く戦略兵器とは思えないぐらい、少々目付きの悪い美女に見える

 

 

「ヘンリと友人になってくれて、ありがとうな? こればかりは私達ではヘンリへ授けられなかった」

 

 

「いえ、そんな大層な事では有りませんよ? 僕も誰も彼も受け入れるわけではないですし」

 

 

「そうか、ならば そう言う事にしておこう。戻るぞ グンジョウ」

 

 

「やれやれ人使いの荒いお義母様ですね」

 

 

なんかよく分からないが、立花博士は満足したのか陛下に車椅子を押させて帰って行った

 

 

なんだったんだろうか?

 

 



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100. 帰国

 

 

立花博士との遭遇で、少し周りの事も気にかける様にしよう、と心に決めて何故か変わるがわるヘンリとマリア、リリスに抱き抱えられたり、3人の案内で軽く王都観光をしたりする

 

 

やはり異国の地と言う事で飛び交う言葉に関しては、あんまり分からなかったけれど、歴史を感じる建物等を見れて個人的には満足しているし、三鶴は興味深そうに資料館みたいな場所でイキイキとしていた

 

 

そんなこんなで少々はしゃぎ過ぎてしまった僕は夕食を食べた後、睡魔に襲われて見事に夢の世界へ誘われ気付けば朝だった

 

 

「おはようカナリア」

 

 

「・・・おはよう、三鶴ちゃん・・・何時?」

 

 

「9時半を少し過ぎたぐらいかな? 顔洗ってきなよ」

 

 

「そうする・・・」

 

 

優雅に新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた三鶴へ尋ねると、顔を洗う様に言われたので返事をして、とりあえず着替えて無かったので上着を脱いでベッドに投げ置き、洗面台で顔を洗い歯を磨く

 

 

その一連の工程が済む頃には目も頭も覚めて思考がハッキリとする

 

 

「新聞、読めるの? リューネのじゃないの?」

 

 

「読み書き程度なら不自由はしないぐらいなら」

 

「三鶴ちゃん、僕が思っている以上に賢いね」

 

「そう? ありがとう」

 

 

捉え方によっては貶されている様に聞こえそうな褒め方をすると、流石は長年僕の兄をしてるだけあって、真意を汲みニコリ微笑む

 

 

我が兄ながらイケメンの高物件なんだよなぁ、僕が絡まなければ だけど

 

 

「それじゃ帰り支度をしようか、君はまずお風呂に入っておいで?」

 

 

「うい」

 

 

三鶴の指示に従って お風呂に入り身支度を整えてスーツケースへ衣類とお土産を詰め込むとヘンリが部屋へやってきた

 

 

「おはようカナリア、ミツル。予定では ぼく も日本へ同行する事になっていたのだけど、急用で同行出来なくなってしまったんだ、申し訳ないけれど最寄りの空港まではウチの使用人に手配させてあるから、ごめんね?」

 

 

「いえいえ、忙しいのに わざわざありがとうございます、あとは日本に帰るだけですから」

 

 

「そう? ありがとう、少ししたら日本に また行くから、よろしくね?」

 

 

「はい、お待ちしています」

 

 

そんな会話を5分足らずでしてヘンリは、相変わらず僕達を睨みつけてくるユウカを連れて去っていった

 

 

やっぱりユウカとは分かり合えないのかな?

 

 

ユウカに睨まれるのも良い気持ちしないので、少し時間を潰してからチェックアウトし、黒塗りの高級車で空港まで送って貰い、三鶴に搭乗手続きを一任して荷物を預け、搭乗時間まで少し空港散策をして荷物にならない程度のお土産を買ったりする

 

 

旅行ってやっぱり楽しいなぁ

 

 

そんなこんなでヘンリが用意してくれた帰りの航空機に乗ると、例に漏れずファーストクラスだったので、絶対恩返ししようと心に決める

 

 

少々長い搭乗時間を潰す為に何となくテレビ放送をつけてみると、立花博士の訃報を知らせるニュースがしていて、ヘンリの急用の正体を察する

 

 

ヘンリも末席とはいえ王族の1人だから葬儀には参加しないとダメだよねぇ

 

 

それはそれとしても、あんなに元気そうだったのに急死するとは・・・暗殺? いや、無いか

 

毒とか効かなそうだったし、立花博士

 

 

車椅子に乗ってたし、元々病気を患っていたのかも知れないしね?

 

 

「・・・そんな人でも、死ぬ時は死ぬんだから。僕なんか直ぐだね」

 

 

「そうだね、だから気をつけてね? 君もまた1人の人間なんだから」

 

 

「うん、わかったよ。三鶴ちゃん」

 

 

僕の呟きに三鶴は言い、僕の頭を撫でる

 

 

忘れがちだけど、人間は簡単に死ぬ生き物なんだ

 

 

それは転生者であっても変わらない事を僕は思い出した

 

 

よし、あんまり無茶な事はダンジョン外ではしない様に心掛けよう、三鶴って普段ニコニコしてて優しいけど、怒らせると怖いタイプだし? まぁ僕は怒られた事ないけど

 

 

 



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101. 五月七日家 最強の人

 

 

 

立花博士の訃報を帰りの旅客機で知り、人間はいつか死ぬ事を再認識した後、自宅最寄りの空港に戻って来て、数日だが少し懐かしさを感じつつ開放感を満喫する

 

やはり小市民の僕にはファーストクラスは身に余ると思うんだ、うん

 

 

そんな訳で来た時と同様、三鶴が運転する車で自宅へ戻ると、出張で居ない筈の母が玄関で待ち伏せしていて、ドアが開いた瞬間に素早く僕を抱き抱え靴を脱がしリビングへと輸送していく

 

 

うーん、これは余程ストレス溜まってるか、それを上回る良い事が起こったか のどちらかかな?

 

 

「ただいま、お母さん」

 

「お帰りカナリア」

 

「出張はどうしたの? 予定だと明日か明後日が帰宅日だったよね?」

 

「会議がスムーズに進んで日程が省略されたのよ」

 

「なるほど? お疲れ様、お母さん」

 

「ありがとうカナリア、貴女は本当に優しい子ね」

 

 

そんなやり取りをして確信する、こりゃストレスの方だな と、そんな訳で母が気が済むまで身を委ねる事にして、猫可愛がりされていると

 

 

「急だけど明日ベルカに飛んで明後日にエルドランド大教会で礼拝する事になったの」

 

 

「そうなんだ、大変だね?」

 

 

「何 他人事の様に言っているの? 礼拝をするのは貴女よ? カナリア」

 

 

「・・・急過ぎるよ、お母さん」

 

 

僕を撫で回しながら母が唐突に そんな事を言って来たので、また出張かぁ と思い相槌を打つと、どうやら僕の話だった様で驚きつつ三鶴を見ると、肩をすくめていたので、どうやら三鶴も知らなかった様だ

 

 

「法律で国を跨ぐ長距離転移が禁止されていなければ、日帰りも可能なのだけれど」

 

「禁止してなかったら不法入国し放題になるし、密輸し放題だよ」

 

「そうね、カナリアは賢い子に育ってママは嬉しいわ」

 

「・・・ハードルが低いなぁ、本当」

 

 

ストレス+αだった為に、僕を甘やかす母には今何を言っても通じないので、好きにさせる事にしよう

 

 

さて、確かに僕も長距離転移が出来たら楽かなぁ? とは思うけど、転移自体がバカ燃費悪い魔法筆頭であり、習得困難な魔法筆頭でもある

 

 

いわゆる瞬間移動やテレポートと呼ばれたりする転移魔法は、入口と出口の座標計算をした上で魔力操作を行う必要がある、じゃないと出口が地面の中とか木の中とか上空ウン百mとかになりかねない

 

そして距離に応じて消費魔力が倍々に増えていく ぐらい燃費が悪い

 

 

だから一般的には、一室に入口出口が固定された魔法陣を敷き魔石や数人掛りで必要魔力を補って使うのである

 

 

日本では雷に打たれて死ぬ人ぐらいのレベルで希少だが、転移事故で死ぬ人もいる、調子に乗るとダメな例だね、うん

 

 

「そういえば、お父さんは?」

 

 

「北海道に応援として派遣されたわ」

 

 

「え? 北海道?」

 

 

「えぇ、北海道のダンジョンが大きいらしくて」

 

「大変だね」

 

「そうね、まぁ大丈夫じゃない? 愛車も輸送ヘリに積んで行ったし」

 

 

「・・・走る気じゃん」

 

 

何気なしに母へ尋ねと、どうやら父は出張と出張が重なって北海道へ向かったらしいのだが、どうせならツーリングもしてくるつもりらしく、愛車を持って行ったらしい

 

 

その事に少し呆れつつも、僕も北海道ツーリングしたくなり、ほんの少し羨ましく感じ、無性に走りたくなってきたので

 

 

「お母さん、ちょっと走ってくるから解放して欲しいな」

 

「もう仕方ない子ねぇ〜 ママもついて行こうかしら?」

 

「え? 僕はまだ免許取って1年経ってないから2ケツ出来ないよ?」

 

「何を言っているの? 私も 自分の大型バイクがあるのよ?」

 

「え? 何それ知らなかった」

 

母に解放して貰い、そんなやり取りをして知らない情報を与えられ三鶴を見ると、 僕は知ってたよー みたいな表情をしていた、いや教えてよ三鶴ちゃん と思わなくも無いが、まぁ確かにライダーの父に感化されててもおかしくないっちゃない、うん

 

 

それに僕同様、収納魔法使えたら場所も困らないし、収納内は時間経過しないから保管に最適なんだよなぁ

 

 

 



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102. うぇるかむ とぅ シュナウファー家

 

 

唐突に我が両親共にライダーだった事を知る事になり少し混乱したが、風を感じる欲求には勝てず、僕は母の圧に負けて共に峠を攻めに行って個人的には走れて大満足だった

 

暫くはCB125Rに乗るつもりだけれど、セカンドバイクを購入するのを検討しても良いかも知れない

 

 

配信サイトで見かけるレンタルバイクのインプレッション動画とか撮影しても面白いかも知れない、ローレライを展開しとけば顔バレしないし防御力も高いしね?

 

 

そんなツーリングを敢行した翌日、僕は空港にCB125Rで向かおうとしたら母に猛反対され、仕方なく母の運転する車に揺られて空港に輸送される、無念

 

 

空港まで距離がソコソコあるから気持ち良さそうだったんだけどね、残念

 

 

ちなみに三鶴はバイトが有って留守番で、物凄い不服そうだった

 

そんなこんなで母に搭乗手続きを任せて荷物を預け、少し空港内を散策して時間を潰して時間になったら旅客機へ乗り込み、エコノミー席である事に安心し着座する

 

 

これでファーストクラスだったら、また肩が凝ってしまう所だったので、良かった

 

 

物理的距離が近い為か片道約3時間のフライトを久しぶりに味わい、少し懐かしさを感じながら母と並んでキャリーケースを引いていると、ベルカでは珍しくも何とも無い金髪碧眼の美人が嬉しそうに僕達に手を振り呼んでいた

 

 

「あれ? レイおじさん?」

 

「あら? レイったら迎えは不用と言ったのに、困った人ね」

 

「数年ぶりだから嬉しかったんじゃない?」

 

 

僕の言葉に母は軽く肩を竦める、この肩の竦め方は三鶴と同じだから本当親子なんだなぁと実感する

 

 

金髪碧眼美人レイこと、レイヴン・W・シュナウファーは、ベルカ帝国の上位貴族シュナウファー家当主であり、僕の叔父さん つまり母 アルエットの弟である、もう双子か? ってぐらい似てるけど、3歳ぐらい差があった筈だ、多分

 

 

 

「姉上、カナリア、おかえりなさい。首を長くして待っていたよ」

 

「連絡したのは三日程前でしょう? そんなに待たせてはいない筈よ?」

 

「いやはや、姉上は相変わらず手厳し」

 

 

本当ソックリな2人のやり取りを見ていると、やはり2人共嬉しそうだ

 

ちなみに僕含めて共通語で会話をしているので、悪しからず

 

 

「カナリアも久しぶりだね? 前に会った時と変わってなくて私はビックリだよ」

 

 

「それは僕もだよ おじさん、貴方も全く変わって無いから」

 

 

「そうかい? 何もケアはしてないのだけどね」

 

 

にぱー と笑みを浮かべて僕に軽くハグしてからレイヴンは僕へ言う、僕が言えた事ではないが、貴方も全く変わらないね? うん

 

母と同じで30ぐらいに見えるからね?

 

 

「それじゃ行こう、車を待たせてあるからね」

 

「そうね、あまり待たせるのも悪いし行きましょうか」

 

「そうだね」

 

 

ゴロゴロとキャリーケースを引いてレイヴンの後に続き空港を出ると、高そうな車が止まっていて見覚えの無いメイドさんがトランクを開けて待っていた

 

 

「2年程前に雇用したリタ、なかなか優秀だよ?」

 

「おじさんが、そう言うなら そうなんだろうね?」

 

「まぁ姉上程ではないけれど、安寧の時代には丁度いいぐらいさ」

 

「お母さんを基準にしたらダメじゃないかな?」

 

 

リタに聞こえない程度の小声でレイヴンと話すのだが、基準がやばすぎて少し引いてしまったが、まぁ仕方ないと思う

 

なにせ我が母は下手な転生者より強いのだから

 

 

まぁ転生者だから無条件に強いと言う訳ではないけれど、大抵の場合は僕みたいな変わり者以外はチカラを貰っている筈だけども

 

 

最上位は立花博士の様な戦乱を生き抜いた転生者達だけど、彼ら彼女らも結構高齢と言う問題はある、一部の例外は除いてだけどね?

 

要は転生者は純人間種だけじゃない、亜人種に分類されるエルフや獣人、半龍や龍人とかも居るらしいしね?

 

 

彼ら彼女らは歩く戦略兵器であると同時に抑止力である訳だ

 

 

 



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103. うぇるかむ とぅ シュナウファー家 2

 

 

 

そんなこんな車にキャリーケースを積み込み発車し、小1時間程度で如何にも貴族の屋敷に辿り着き、下車し伸びをする

 

 

「外観はあまり変わってないかな?」

 

 

「ははは、数年で朽ちる柔な作りはしてないからね」

 

 

「そっか、そうだね」

 

 

車からキャリーケースを下そうとしたら、リタと数人の使用人が素早く館の中へ運び入れて僕は手持ち無沙汰になってしまったので、大人しく手ぶらで館のエントランスへ入る

 

「相変わらず当主の姿絵が中央に飾らせているんだね?」

 

「伝統らしいからね、私としては主張が激しいから辞めたいのだけど、仕方ないよ」

 

「これもまた当主の定めよ、レイ」

 

 

「姉上は手厳しいなぁ」

 

 

そこそこデカいレイヴンの姿絵を見て彼へ言うと、苦笑してレイヴンは言い、母が追撃する

 

 

僕的には、これだけ目立つ姿絵が玄関に飾ってあるから、当主が誰かなんて一目瞭然だから間違え無いだろうと思う

 

 

「部屋は いつもの客室だから、分かるよね?」

 

「うん、大丈夫」

 

「それじゃ、私は少し雑務が残ってるから、また後で」

 

「お仕事頑張っての、レイおじさん」

 

 

レイヴンの言葉に返事をして、軽くハグしてから仕事へ送り出して、母も少し書類の確認すると言い客間へ行ってしまったので、玄関エントランスに突っ立てても邪魔だろうと思い、中庭へと出て花壇を見てみると、日本では見ない種類の草花が植えられていて、花を愛でる趣味の無い僕だが、なかなか楽しめている

 

 

「あら、カナリア、帰ってきていたのね」

 

「おばあちゃん、久しぶり」

 

「えぇ、久しぶりね? 確か・・・3年振りだったかしら?」

 

 

かつては鮮やかな金髪であった髪は加齢で色素が薄くなったのか僅かに金が残る白髪を持つ、実年齢より外見年齢が若く見える 僕の祖母 シュラーリヴが背後から話しかけて来たので振り返り、返事を返すと微笑みを浮かべる

 

うーん、やはりシュナウファー家は老けない血筋なのかも知れない

 

ちなみに祖父は婿養子らしい

 

 

「大きくなって・・・無いわね、3年前と変わって無い様に見えるわ」

 

「残念ながら、身長も伸びて無いんだなぁコレが、はは〜」

 

「そう、まぁ我が家は何故か老け難い体質が遺伝し続ける変わった一族だし、何かの拍子にアルエットの様に成長するかも知れないわよ?」

 

「気休めでも、ありがとう おばあちゃん」

 

シュラーリヴへ歩み寄り、母同様 僕より長身の彼女へハグしお礼を言うと、頭を撫でてくる

 

その手は母と同じ様に優しい

 

 

「キュクノスもシュヴァーンも夏休みだと言うのに帰省しないのだから、困った子達よ」

 

 

「ははは、勉強に打ち込んでいるなら、まだマシ何じゃ無い?」

 

 

「そうだと良いのだけれど・・・勉強そっちのけで女へ現を抜かしていないと良いのだけれど」

 

 

「それは・・・うん、信じよう?」

 

 

シュラーリヴは少し愚痴っぽく僕を撫でながら言う

 

 

キュクノスとシュヴァーンはレイヴンの双子の息子で、今はベルカの全寮制学園ポカリに入学している、確かこの春に大学生になったのかな? 多分

 

 

ポカリはシュナウファー家の屋敷から片道3時間ぐらい掛かるので、そうそう気軽に帰省が出来ないから、長期休暇や連休に帰省するのがセオリーになっているのだけど、当の双子は帰省しないつもりの様で、シュラーリヴはご立腹のようだが、そこは僕で我慢して貰う事にしよう

 

 

「貴女だけでも会えて嬉しいわ、私もハインツも歳だから いつ何が有ってもおかしくないから」

 

「・・・そうかもね」

 

「えぇ、つい先日も殺しても死ななそうな人が亡くなった訳だし、人間はいつかは死ぬものね」

 

 

シュラーリヴは僕の脇に手を入れ持ち上げて、少し苦笑した様な表情で言う

 

何だろう? まるで立花博士を良く知ってるみたいな物言いだな?

 

テレビとか、記事を読んでとか、そんなレベルじゃ無い雰囲気を感じるのは気のせいかな?

 

あと、我が祖母ながら腕力凄いな

 

 

 



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104. うぇるかむ とぅ シュナウファー家 3

 

 

 

 

コンパクト軽量ボディとはいえ、幼児を高い高いする気軽さで僕を持ち上げる我が祖母シュラーリヴに戦慄しつつ疑問を投げかけてみる

 

 

「それって・・・立花博士?」

 

「えぇ、その通りよ」

 

念の為に確認すると、やはり立花博士の事だったのだが、尚更疑問が深まる、彼女はリューネ人の筈なのでシュラーリヴと接点は無い筈なのだ

 

 

「立花博士はリューネの人じゃない?」

 

 

「彼女はオーシアの上級貴族よ? 40年程前に当時のリューネ王妃に懇願されて、義妹へ家督を譲りリューネに移住したの」

 

 

「そうだったんだ」

 

 

僕はてっきりリューネに転生して無双していたと思っていたが、先にオーシアで無双していた様だ、が・・・地続きの隣国に居るだけでシュラーリヴが、あんな評価をするとは思えない

 

 

「私がまだ学生だった頃、彼女は颯爽と現れオーシアのギルドの頂点である称号持ちの1人になったわ」

 

 

「そうなんだ?」

 

「闇帝の称号を得た彼女の活躍はベルカに住んでいた私の耳にも届いていたの、それに今より ずっと医療技術が低かった当時は 色々な要因が重なって皇族の分家は我が家ぐらいになって居たから、噂が良く耳に入って来たわ」

 

 

「そ、そうなんだ?」

 

 

立花博士の活躍も凄いけど、遠縁だと思って深く追求していなかったら、遠縁でも近い側だった事に驚いてしまい、同じ言葉の繰り返しになってしまう

 

 

「大丈夫よ カナリア、貴女は分家の分家だし、何より日本国籍だから皇族とはいえ手は出せないし、私が出させないわ。まぁイオン様から神罰が下るだろうから、誰も何もしないでしょうけれど」

 

 

「え、えーっと・・・どう言う事?」

 

 

「あら、貴女はイオン様とヴェスタ神から聖女に任命されたのでしょう?」

 

 

「な、なんで知ってるの!?」

 

 

ハイパーおばあちゃんタイムのシュラーリヴの言葉が理解できなかったので聞き返すと、言ってない筈の事を彼女が知っていて驚愕してしまう

 

 

「え? あぁそういえば貴女は知らないのね、私は枢機卿の1人なのよ?」

 

 

「えっと、つまりは・・・聖導教会の中でも偉い人?」

 

 

「簡単に言うと そうなるわね? と言っても私は教会騎士側だけれどね? 」

 

 

「はへぇ〜」

 

 

シュラーリヴは僕を高い高いしたままニコリと笑む

 

うん、老婆が持ってるパワーとして不思議だったけれど、教会騎士なら納得が出来る、そりゃ戦闘職だもの

 

 

「枢機卿なだけあって、聖女任命に関してはイオン様から神託が有った事、その内容を知らされていたのよ、イオン様は慈悲深い方だから無用の接触を禁止されているしね?」

 

 

「イオン様、ありがとうございます」

 

 

本当、僕は恵まれている、イオン様直々に根回しまでしてくれているし、実の祖母が教会内でも高い地位に居るから後ろ盾としては申し分無い訳だし?

 

 

そこまで考えて、僕はふと思う

 

 

「お母さんは、おばあちゃんが枢機卿な事知ってるの?」

 

 

「えぇ、勿論。アルエットが日本へ出向する前から私は枢機卿の位に居たのだから」

 

 

「おう まいまざー 」

 

 

そんなシュラーリヴの言葉に脱力して項垂れると

 

 

「何処ぞの阿保が利用する為にすり寄って来ない様にする為よ? あの子は我が子を愛しているけれど、遅くに出来た貴女の事は特に大切に育てて来たのだから」

 

 

「兄3人に比べたら大分甘やかされている自覚はあるし、理由も理解出来る」

 

 

「ふふ、貴女は本当に可愛くて賢い子ね」

 

 

「うーん、評価基準が甘いんだよなぁ」

 

 

母を筆頭に、一族 唯一の女児の僕を皆んな少しの事で、過剰評価する傾向にあるのは何でだろうか?

 

双子の従兄も僕には甘いし、本当大丈夫だろうか?

 

 

愛されているのは、まぁ正直嬉しいと思う反面、甘やかされ過ぎて悪い方向へ進んでいないか、不安になったりもしたりする訳で

 

 

多分、僕が転生者で前世の記憶が無かったら、もっとヤベー我儘娘さんになってたに違いない、うん 間違いない

 

 

 

 

 



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105. イオン様と再会

 

 

 

聖導教会本山へ礼拝しに来ただけなのに、知らない情報が沢山出てきて混乱してしまった後、良い時間になったのでシュラーリヴに抱えられたまま食堂の方へ行くと、仕事を終えた母とレイヴン、祖父ハインツにレイヴンの妻である叔母ハイデマリーが談笑していて、順番にバトンの様に抱き上げられた

 

 

久しぶりに会えて嬉しいのは分かるけど、僕は16歳になったんだよ? おじいちゃん、おばさん・・・と言って辞めてくれる訳も無かった

 

 

 

そんな訳で文字通り全身で歓迎された翌朝、僕はしっかりと支度をしてリタが運転する車に揺られ聖導教会本山へと向かい、入り口前の大階段前で下車して、相変わらずデカい教会の建物を眺める

 

 

「相変わらずデッカいなぁ」

 

「信徒の宿舎や教会騎士の育成機関に訓練所も併設されているもの、他国の王城2つ分ぐらいの建物面積はあるわね、まぁ街全てが教会の敷地といえば敷地ではあるのだけれど」

 

 

「そうだね、門を超えてから通りにいる人は法衣を着てる人しかいないしね?」

 

 

運転手として同行してきたリタを除き、僕も母も正装(法衣)を身に纏っている人しか歩いて居ない

 

「では、アルエット様、カナリア様、(わたくし)は失礼致します。お時間になりましたら、お迎えに上がります」

 

 

「えぇ、ありがとうリタ。ご苦労様」

 

「ありがとうございますリタさん、よろしくお願いします」

 

 

リタの言葉に返答すると、彼女は恭しく頭を下げて車へ乗り込み去って行った

 

若いのに、仕事が出来る女性って感じでカッコいいな

 

 

「よし、頑張って登ろう」

 

「ふふ、そうね」

 

 

僕は、いつもの丈が短い聖女フォームだから特に階段とか平気だけど、母の法衣は結構裾とか長いから大丈夫なんだろうか?

 

まぁ大丈夫なんだろうけど、着慣れてるだろうし

 

 

僕が着たら裾とか汚しまくる自信しかない

 

 

そこそこ長い階段をゆっくりしっかり踏み締めて登り、大聖堂の大扉の左右に控える門兵?守衛?の教会騎士に挨拶をして中へ入ると、何故か僕と母以外の信者が居らず不思議に思いつつ、相変わらず中性的でジェンダーフリーなイオン様の御神体の前に辿り着き見上げる

 

 

 

「・・・ここまで来るのは初めて」

 

 

「そういえばそうね、貴女に洗礼したのは日本の支部でだったし」

 

 

「ここにきて知らない情報を増やさないで欲しいよ? お母さん」

 

 

「あら、ごめんなさいね?」

 

 

僕の呟きに母が新情報を投げ付けて来たのでクレームを入れるが、全く響いた様子も無い

 

 

「それじゃぁ・・・お願いね?」

 

「えぇ、任せてちょうだい」

 

 

深呼吸をして母へお願いすると、内容を理解している様で微笑み頷くのが見えたので、僕はイオン様の御神体の前に膝を折って祈りの体勢を取り目を瞑り祈る

 

 

すると直ぐに意識が遠退き母に抱き抱えられる感覚と共に意識が暗転し、気がつくと いつもの図書室で、イオン様は優しい微笑みを浮かべ 近侍らしき人を伴い立っていた

 

なので僕は直ぐに座って居た椅子から立ち上がり、イオン様の前に傅き頭を下げる

 

 

それはそうと 近侍(仮)の人、法衣を着ているけどフードを深く被っていて凄く怪しいって言うか、性別すら分からない

 

イオン様が伴っているから、悪い人では無いとは思うけれど、物凄く怪しい

 

 

「あぁカナリアさん、頭を上げてください」

 

「ありがとうございます、イオン様」

 

「いえいえ」

 

 

イオン様に頭を上げる様に言われたので、傅いたまま頭を上げイオン様を見上げると

 

 

「貴女はヴェスタには椅子に座ったままで挨拶したのに、私には最敬礼を取るのですね?」

 

 

「それはそうですよ、僕は血筋的にも心理的にも聖導教会寄りですし」

 

 

「なるほど、一理ありますね」

 

 

イオン様は僕の行いを苦笑して尋ねてきたが、僕の返答で納得した様子で頷く、そして近侍(仮)は声には出していないが肩が震えていたので、どうやら笑っているようだった

 

 

笑う程の事なんだろうか?

 

 

 



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106. イオン様と再会 2

 

 

 

僕の目線の先にいる近侍(仮)が肩を揺らし笑っている事に気付いたイオン様は、へにゃっと少し苦笑した表情をし

 

 

「貴女の気持ちも分からなくも無いですが、笑い過ぎですよ? 夏月(カヅキ)さん?」

 

 

「くくく、すまない」

 

 

「夏月? まさか立花博士?!」

 

 

「あぁ、また会ったな? カナリア」

 

 

驚いてしまい傅いていた体勢から立ち上がり、近侍の見据え尋ねると彼女は深く被っていたフードを取り、相変わらずの悪役スマイルを浮かべて僕の名を呼ぶ

 

 

何故、先日亡くなった立花博士が此処にいるんだ? ・・・いや、逆だ 亡くなったから此処にいるんだ、きっと

 

 

そもそも 此処は 隠世(かくりよ)の中に存在する場所、神であるイオン様やヴェスタ神との面会室

 

故に死人である立花博士が居てもおかしくはない、無いけれど・・・

 

 

「何故、輪廻の輪に入っていないのか・・・不思議か?」

 

 

「はい」

 

 

「カナリアさん、とても単純で当然の事柄です。夏月さんは私への負債が有るのですよ」

 

 

「負債?」

 

 

立花博士が思案中の僕へ尋ねて来たので返答すると、イオン様が苦笑したまま言う

 

 

立花博士程の人が負債を抱えるとは、只事ではない筈・・・そもそも神に対してなんて常識外の事だ

 

 

「カナリアさんも夏月さんが転生者であり、人の身ならざる超大なチカラを有していた事は知っていますよね?」

 

「はい、控え目に言っても単独で一国を滅ぼせるぐらいの能力はあったと認識しています」

 

 

「転生時に人の身に余るチカラを得た事、即ち借金と大差ないのです。まぁ夏月さんの場合は、対転生者用の異能を私から借り受けていたので、暫くは私の元でアルバイトですね」

 

 

「ぜひもなし」

 

 

「・・・なるほど」

 

 

何だか物凄く重大な事をサラッと教えられた気がするのは気のせいだろうか? よし、気のせいと言う事にしよう

 

 

「夏月さんが負債者と言う話は これぐらいにして、貴女へ新たに祝福(チカラ)を授けましょう、安心して下さい。取立てたりしませんから」

 

 

「あ、はい」

 

[エクストラクラス・聖女のレベルが上昇しました]

[条件達成につきステータス補正率が上昇します]

[クラススキル・聖水生成のレベルがアップしました]

[保有上限・生成量が上昇しました]

「エクストラクラススキル 聖歌を獲得しました」

 

 

イオン様の言葉に返答し、傅いて祈りの体勢を取ると光の粒子が僕を包み淡く光り、いつもの謎の表示が現れて消えていく

 

 

この流れは何かヴェスタ神から祝福を授けられた時と同じに思うけど、クラスレベルが上がっただけじゃなくて新しいスキルを獲得する事が出来た

 

 

ダンジョン内でレベリングしてた時には新しいスキルを獲得しなかったのに、したと言う事は?

 

 

「前回お伝えし忘れていましたが、聖女は特殊なクラスですから礼拝をしなければレベル上昇に伴う新クラススキルの獲得や進化が出来ません、お手数ですが教会へいらしてください」

 

「総本山限定ですか?」

 

「いえ、日本の支部で大丈夫ですよ? ちなみに習得可能か否かはステータスのスキル欄で確認出来ますので」

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

 

僕が予想をした瞬間、イオン様が そう言い微笑む

 

やはりエクストラクラスは特殊なクラス故に一手間必要だったらしい、とりあえずはスキル獲得の条件を知る事が出来て良かったと思う事にしよう

 

 

「それでは、名残惜しいですが、あまり時間を費やしてしまうとカナリアさんの身体が腐ってしまいますので、今回はここまでとしましょう」

 

 

「お気遣いありがとうございます」

 

「いえいえ、また会いましょう」

 

「はい」

 

僕はイオン様と立花博士に頭を下げて椅子に座り目を閉じる、すると直ぐに意識が暗転し、目を開けると視界の半分以上が母の双丘に占められていて、すぐに状況を理解したが例に漏れず幽体離脱の副作用で本調子では無いので、暫くは母の膝枕を堪能しておこう

 

母の愛は偉大なので、甘えたくなるのは仕方ない、そう仕方ないのだ

 

 

 



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107. 新クラススキル確認

 

 

 

大聖堂にある長椅子に寝かされる様に膝枕をされながら僕は指を動かして、空中に表示されているステータスの項目を確認していく

 

聖女のクラスレベルが上がっているのは分かっていたので良いとして、レベル上限が解放されている様だ

 

前までは確か10が上限で、次は15らしい・・・ネトゲかな?

 

 

なんともゲーム的な仕様に少しツッコミを入れたくなったが、我慢するとして、次の上限解放も多分 礼拝しに行く事が条件だろう多分

 

 

「ステータス上昇補正の倍率が、また上がってるけど・・・比較対象が無いからイマイチ分からないなぁ」

 

 

「本来なら後方支援のクラスである聖女にしては、まずまず戦闘力が高いわよ? 」

 

 

「そうなの? じゃぁヴェスタ神のおかげだね、ヴェスタ神教だと聖女は勇者的な立ち位置らしいし」

 

 

「そうなのね、それなら納得出来るわ」

 

 

僕が目を覚ましている事に気づいていた様子の母は僕の呟きに特に驚く素振りもなく、僕の頭を撫でながら呟きに対してコメントしてきたので、そう言うと何か納得される

 

 

とりあえず聖水と岩塩の生成量と保有上限、顕現時間の上限が上がっているから探索者としての活動が更にしやすくなるのは間違いない

 

 

岩塩なんて短剣ぐらいなら作れそうな量を生成出来るしね?

 

 

岩塩の形状変化の練習もしておこうかな? もしダンジョン外で暴漢に襲われたらフロッティは使えないし、火器厳禁だろうし?

 

こう、岩塩製のトンカチで頭をボコォって感じで使うイメージで、うん 我ながら悪く無いね

 

 

やはり性犯罪者には人権は不要だと思うので、チカラこそパワーで解決しよう、そうしよう

 

 

そんな下らない事を心に決めつつクラススキルの欄を見てゆき、ついさっき獲得したばかりのクラススキル聖歌の説明を読む

 

 

エクストラクラススキル 聖歌

 

聖導教会主神イオンにより下賜される歌声を媒体に発動するスキル

 

猛り歌・鎮め歌・癒し歌の3種類存在する

 

 

あくまでも歌声が媒体である為、歌詞や曲調自体は何でも良いので使い手により仕様が千差万別な事も特徴

 

 

獲得後 最初に習得する歌を選択する必要があり、設定しなければ使用が出来ない

 

選択しなかった他2種類は習得可能なレベルになれば習得できる

 

 

使い手本人にも効果があるが、味方への効果が50%ほど上乗せされる仕様になっている

 

 

「・・・完全にパーティ向けスキルな訳か、ふむ」

 

 

「それもそうよ、そもそも聖導教会において聖女は後方支援職なのだし、歌いながら近接戦なんて息が続くとは思えないもの」

 

「それはそう」

 

 

僕の呟きに母がそう言うので僕も同意する

 

どこぞの装者と呼ばれる歌いながら近接戦をする超人な人達は別にしても、僕は普通に無理だ、うん無理

 

 

まぁトレンチガン(フロッティ)があるから、ある程度までは距離を取れはするので聖歌を使えはする、多分

 

 

「やはり壁職が欲しい所ね」

 

「タンク、かぁ」

 

 

母は僕の頭を撫で続けながら呟く、盾が魔武器の人とか都合良く現れはしないだろうし、これは今後の課題と言えば課題かな?

 

 

「それはそれとしても、聖歌の検証をしなきゃだね」

 

 

「そうね? それに最初に選ぶ歌の選定もね」

 

 

「そうだね」

 

 

と、母の言葉に返答するのだが、現状ワカモがいるとはいえソロ活動中の僕が優先すべきな歌は、猛り歌 か 鎮め歌の どちらかだろう

 

猛り歌は、使い手 及び 仲間の各種ステータスが上昇するバフ

 

鎮め歌は、敵対モンスター 及び 探索者 の各種ステータス下降 及び 行動阻害するデバフ

 

 

うん、鎮め歌の方がメリットが多い気がするから、鎮め歌にしようかな?

 

 

あとは検証だけれど、モンスターと遭遇しやすい方が良いのかな? まずは1〜2層で試して、下の階層に行く方が良いかも知れない

 

 

最近まで知らなかったけど、表層部の1〜5層は所謂チュートリアル扱いらしい

 

確かにチュートリアルは大切だもんね

 

 



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108. 僕達の戦いは此処からだ!!

 

 

終業式から約1週間で聖導教会とヴェスタ神教の本山、エルドランド大教会とサンテブルク教会で礼拝をすると言う、少々正気とは思えない小旅行を敢行した今日この頃、日本へ帰国したのだけど僕に腰を据えて休む時間はある筈もなく、1週間で溜まったタスクを処理する為に奔走しなければならない訳で

 

 

 

「皆さん ごきげんよう、ステラ・アーク所属 カナリアです」

 

 

【待ってた】

【この瞬間を待っていた!!】

【待ってました】

 

 

カメラドローンに向けていつもの様に挨拶をすると、すぐにコメントが流れてくる

 

 

 

「急遽私用が入ってしまい予定されていたライブ配信等が中止・延期になってしまい、申し訳ありませんでした」

 

 

【えぇんやで】

【用事あったんなら仕方ない】

【配信者にもプライベートがあるしな】

 

カメラドローンに向かい謝罪をして軽く頭を下げると、何とも優しいコメントが流れてくる、やっぱり僕の所の視聴者は民度が高い様な気がする

 

 

【でも、まぁ私用の内容の予想が跋扈してたな】

【不謹慎な奴で言うと身内の不幸】

【あと補習合宿ってのもあったなぁ】

【ガチ聖女に任命されたから、任命式を受けに〜みたいのもあったよな】

 

 

「・・・約1週間、私用で留守にしただけで、そんな賑わうんですか? 少なくとも僕の親戚縁者は元気ですし、補習を受ける程 お頭が弱い訳でもありませんよ?」

 

 

なんかよく分からない予想を立てられていて、少々なんとも言えない気持ちになったが、気を取り直し

 

 

「えーっと、今日は攻略をしていく訳ですが、前回で漸くチュートリアル区間と言われている5層まで踏破しましたので、6層からが本番と言う事で少し楽しみです」

 

 

【6層からはダンジョンが本気だしてくるんだよな】

【モンスターの遭遇率も体感2〜3倍は増えるしなぁ】

【此処やから漸く収入がプラスに転じるかなぁ?って感じだもんねぇ】

【まぁソロで6層攻略で半人前、10層攻略すれば1人前と言われてるぐらいには、キツイのかもだけど】

 

 

本当、ダンジョンとは不思議な物で、どう考えてもおかしい所が多々ある、まず優しすぎる仕様だ

 

1層で基本的な動き方と単体エネミーとの対地戦闘

 

2層で単体エネミーとの対地・対空戦闘

 

3層で複数エネミーとの対地戦闘

 

4層で複数エネミーとの対空戦闘

 

5層で複数エネミーとの対地・対空戦闘

 

 

ザックリと振り分けるとこうなる、道中に採取ポイントも有ったりしたけど大した効果の無い薬草とか数% HPが回復する木の実とか、デコピン程度のダメージしか喰らわない宝箱トラップとか、そんなのばっかりだった

 

 

お膳立てが過ぎるのでは? と疑いたくなるのは必然ではないだろうか? 僕達は何かに誘き出されているのでは? と

 

 

まぁ仮にそうでも構わない、考えても答えは出ないし、僕は最前線へ身を投じる予定は無いしね

 

 

 

「さてさて、6層では何が待っていますかね? 出来れば美味しい物が良いですね」

 

 

【うーん、やっぱりカナタソは花より団子かぁ?w】

【そりゃ配信中に鑑定スキル持ってないのに未知の木の実を食べる様な娘だものw】

【あーCEOにめっちゃ怒られてた奴な?w】

 

 

「失礼な、そんなに怒られてないですよ? 少し監視が強まっただけです」

 

 

【充分目をつけられてるの草】

【草草の草】

【自由にさせたらリスポーンしそうやもんカナリアちゃんw】

【幼女かな?w】

 

 

どうも火に油を注いだ様で、コメント欄が盛り上がる

 

いやぁ一応、僕も反省はしてるよ? 一応は、でもダンジョン内は複製体(アバター)だから比較的安全に試せるじゃない? だから試した方がお得だと思う訳で、ね?

 

 

そんな訳で約1週間ぶりのライブ配信を始めて行こう

 

どんなモンスターが出てくるか楽しみだ、出来たら可食だと嬉しいな

 

僕はワカモを召喚し、6層 攻略へと足を踏み出す

 

 

僕達の戦いは此処からだ!!

 

 



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109. 6層攻略

 

 

 

今日も今日とてモフみ が最強なワカモを伴い、6層攻略を開始する

 

まぁ開始すると言っても、開始直後から接敵する訳も無いので、周辺警戒しつつ1〜5層と同じ森林タイプのフィールドを進んで行く

 

 

「ダンジョンに潜るのも約1週間ぶりですね・・・鈍って無いといいですが」

 

 

【油断大敵だけど、カナタソなら大丈夫でしょ】

【あと10は余裕余裕】

【相性にもよるだろうけど、カナリアちゃんなら甲殻類とかじゃなきゃ大丈夫じゃね?】

 

 

何というか、視聴者からの信頼?が厚い気がする

 

まぁ確かに聖女のクラススキルは対ダンジョンモンスター特効で、体内へ接種させれば必死だ

 

これは長所であると同時に短所になる、当たらなければダメだし、体内へ接種させられなければ、クラススキルを生かせない

 

 

攻撃魔法が実質習得不可の僕の火力は、クラススキルに依存していると言わざる得ない

 

 

「甲殻類モンスターが出たら関節に銃剣さして、どうにかします・・・カニ足ドロップしないかな」

 

 

【あ、コレは食う事 考え始めたぞ?】

【ダンジョンモンスターはデカいからなぁ〜さぞ喰いごたえあるだろうなぁ〜】

【階層攻略のついでに食材探し なのか、食材探しの ついでが階層攻略なのかw】

 

 

流れてきたコメントの甲殻類を見てエビ・カニが頭を過り、そう言えば遭遇してないなぁ と思い至る

 

森林フィールドの6層にエビがいる可能性は低いので、カニの方が期待出来るだろう、ほら ヤドカリとかヤシガニとか陸上に居るカニもいる訳だし?

 

 

そんなこんなで獣道を進んでいると、複数のミドルウルフを感知し静かに木陰へ身を潜め、正確な数を把握する

 

 

「10時方向、距離60にミドルウルフ3体確認・・・っと、3体なら問題無いけれど」

 

 

「銃声は響くからなぁ、場合によるがモンスターが誘引される可能性もゼロではないな、まぁダンジョン内なら全ての行動に言える事ではあるが」

 

 

「そうだね? あ、そうだ。試してみようと思った事が有ったんだよね」

 

 

「ふむ、良いのではないか? 失敗しても吾が対処しようぞ」

 

「うん、よろしくワカモ」

 

 

【なんかするつもりみたいだぞ?】

【何するつもりだろう?】

【誕プレで貰ってたC4でトラップとか?w】

【オーバーキルやんけw】

【コスパが釣り合わねーよw】

 

 

 

なんかコメント欄で愉快な事を言ってるなぁ と思いつつフロッティに装填されているショットシェルをバックショットからスラグへ詰め替える

 

バックショットのままでも理論上は出来る筈だけど、念の為に散弾でないスラグを使う事にして、僕は日頃の鍛錬の成果を見せる事にしよう

 

 

木陰で片膝をついた狙撃の体勢を取りフロッティの銃身・銃口に障壁術の応用でサイレンサーを形成し、深呼吸をしてから引き金を引く

 

元々岩塩弾 故に火薬の量が少な目な事もあり、最低限の音のみ発生したおかげでミドルウルフは何が起こったか分からない状態で1体目を撃破する

 

 

そして僕を見つけ出す前に2体目へスラグを撃ち込み、流石に3体目が僕に気付くが1対1なら余裕なので、迷わず冷静に撃ち殺す

 

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「うん、上手くいった」

 

「なるほど、考えたな主よ」

 

「これなら替えもきくからね」

 

 

【カナリアちゃんのトレンチガン、こんな静かだっけ?】

【ミドルウルフの挙動もおかしかったなぁ】

【これなら替えがきくって、何の替えなんじゃろか?】

 

 

唐突に実行した実験の結果に満足していると、困惑のコメントが流れている事に気付く

 

あぁそうだ、視聴者にも説明しないとだよね? カメラ越しだと障壁って見え難いしね、分からないのも納得出来る

 

 

「さっきの実験は、障壁術を利用したサイレンサーの使用実験です」

 

 

【なるほど、サイレンサーか】

【消音器を障壁で作った、と?】

【カナリアちゃんってチカラこそパワーの脳筋の民だけど、地頭は割と賢いよねぇ】

 

 

僕の説明に視聴者が納得し、褒めてるのかディスってるのかよく分からないコメントも見えたが、見なかった事にしよう

 

 

 



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110. 6層攻略 2

 

 

 

視聴者に軽くディスられた後、ミドルウルフのドロップ品を回収して攻略を再開する

 

「先程の実験でお見せした様に、障壁術には応用力があります」

 

【確か、魔力で防御盾を造ったり出来るんだっけ?】

【使用者で形も千差万別とか何とか」

【カナリアちゃんって、パワープレイに目が行きがちだけど、冷静に対処するよねぇ】

 

 

獣道を進みつつ、障壁サイレンサーのネタを軽く呟くと、そんなコメントが流れてくる

 

やはり僕の様な素人に毛が生えた程度の人間より大分知識を持ってる人がいる様で、少し尊敬の念を抱く

 

 

「魔法はイメージ、とよく言われているらしいですね? 故に固定観念に囚われずに自由な発想を持てると、良いらしいです」

 

 

【ゆーても、人間向き不向きあるから型にハマった方が上手な人もおるんよなw】

【イメージがしっかり固まってれば、きちんと発動はするけどなw】

【既定の型にハマるのは楽だよなぁw】

【それな〜w】

 

 

僕の焼付け刃な知識を披露すると、そんなコメントが流れてきて、確かにそうだなぁ も僕も共感する

 

 

「詠唱とは、その為にある訳だしな? 属性と魔力使用量を間違わなければ最低限の火力が保証される、それが詠唱魔法だ」

 

 

「そうなんだ、僕は詠唱あんまりしないし、周りにする人居ないなぁ おかしいなぁ お母さんは魔法使いなんだけどなぁ 」

 

 

「主の御母堂は強者(つわもの)故、短縮化した魔法名や名詞のみで魔法を使用出来るのだろう」

 

「なるほど、確かに 水よ ほにゃらら とか そんな感じで魔法使ってたなぁ、うん」

 

 

【マッマが魔法使ってた時の意訳が漸く判明したぞw】

【共通語だったから、あーなんか呪文呟いてるなー ぐらいしか分からんかったからなぁw】

【本当、あれで魔法使えるの わけわかめやでw】

 

 

流れてきたコメントを見るに、母の技術力は僕が思っていたより大分高いみたいだ、あまり実感がないけど

 

まぁ仕方ないよね、僕の周りに魔法を使う人が母しかいないんだから、うん仕方ない

 

 

そんな訳で、ワカモに軽く魔法の講義をしてもらいながら獣道を進むと、見慣れた石碑を発見する

 

 

「あれ? 石碑ですね・・・予定より少し早い様な?」

 

 

【さっきまでユルユルだった雰囲気が引き締まったな】

【ニッコニコのカナリアちゃんも良いけど、キリッとしてるカナリアちゃんも推せる】

【配信見ながら、チョロっと調べてみたけど位置が微妙なんだよなぁ、その石碑】

 

 

事前情報と渚の入手した6層のマップ情報的に、この場所に石碑があるのは不自然であり、何かイレギュラーが発生している事を示している

 

 

「ワカモ、君って周辺の索敵とか出来るの?」

 

「任せよ主よ、吾には児戯の様に容易い事よ」

 

「じゃぁよろしく」

 

「うむ、暫し待て」

 

【ワカモ氏 めっちゃ嬉しそうw】

【なんか召喚して四方八方に送り出したぞ?】

【黒い動物っぽかったけど、カメラにあんまり映ってなかったな】

 

 

ワカモが僕の要請に答え魔法で黒い動物の様なナニカを召喚し、索敵をさせる為に四方八方へ放つ

 

 

「ワカモ、さっきのは?」

 

「吾の影魔法の1つだ、便利だぞ?」

 

「影魔法かぁ・・・僕には無理そうだね? 適性が水と土っぽいし」

 

「あぁ、それもそうだな?」

 

 

【影魔法か、こりゃまた珍しい属性を持ってるなぁ】

【希少過ぎて幻の属性らしいな】

【闇系統を使い熟せて漸く開花するかしないかって奴だっけ?】

 

 

どうやらワカモが使った魔法は、かなり珍しい魔法の様でコメント欄が、かなり賑わう

 

 

そういえば、魔法の属性適性を調べて無かったなぁ、十中八九 水と土は有ると思うんだよね?

 

 

現に水魔法で水玉を作り出せたりするし? なら岩塩生成由来の土系統の属性の適性を持っててもおかしくないと思うわけで

 

 

あると色々とやれる事の幅が広がるから、是非とも適性が有って欲しい

 

 

今日の攻略が終わったら適性を調べる方法を調べようかな?

 

 



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111. 6層攻略 3

 

 

 

周辺警戒しつつワカモに周辺の索敵をお願いして数分も経たずにワカモが口を開く

 

「どうやら、吾等の目の前にある石碑を12時として、3時方向にボス部屋らしき物が存在する」

 

 

「え? マップでは階層ボスのボス部屋は、12時〜10時方向の筈・・・やっぱりイレギュラー? 」

 

 

「恐らくな」

 

『こちらの方でも調べてみた結果、どうやらレアイベント的な奴みたい』

 

 

「スタッフ? そうなんですか? 」

 

 

【レアイベントか、こんな上層で出るなんて珍しい】

【これを不運と言うべきか、幸運と言うべきか、悩むw】

【レアイベントのモンスターって、階層ボスより強い時もあるけど、旨味も階層ボスの比じゃないもんねぇ】

 

 

ワカモと渚の報告を聞き、石碑の正体を概ね把握する事が出来た

 

 

うん、ネトゲかな?

 

 

ここまで来ると、イオン様とかヴェスタ神より高位の神様が、娯楽の為にダンジョン生やして観察して楽しんでるって言われても納得出来るレベルで、人類に都合が良くて分かりやすいシステムなんだよね、うん

 

 

まぁ仮にそうでも、僕的にはどうでもいい事だ、楽しく生きていれれば良いしね?

 

 

 

「よし、それじゃ何かドロップ品も美味しいみたいだし、挑戦してみようか」

 

 

「うむ、主が望むならば吾は何も言うまい」

 

『レアイベントだから、事前情報ゼロ 気をつけてね?カナリアちゃん』

 

「ありがとうございます、スタッフ」

 

 

【頑張って〜カナリアちゃん】

【見せて貰おう、汝の力を】

【頑張ってねカナリア、ケーキ焼いて待ってるから】

【兄者がおるやんけw】

 

 

石碑に魔力を流しセーブを行って気合いを入れてレアイベントへ挑もうとして、コメント欄に三鶴が生えたのが見えたが見なかった事にし、集中する様に務める

 

そういえば三鶴は こう言う人間だったな、うん 集中集中

 

 

 

三鶴が生えた事で少し集中を乱されたが持ち直し、ボス部屋と同じ様に膜の様なモノで覆われているエリアに入ると、人型の黒色甲冑を着た様なモノが膝をついて座っていて、僕に気付いたのか立ち上がり構える

 

 

「素手? いや籠手を着けてるから拳闘士タイプかな?」

 

「主よ、油断するなよ? 此奴は今までの敵とは格が違う」

 

「そうだね、完全人型のモンスターとの戦闘は初めてだから集中するよ」

 

 

【甲冑っぽいけど・・・なんだこれ?】

【アンデット系か竜人系か、はたまた自動人形系か、さっぱりだ】

【助けて、考察はーん】

【暫し待たれよ】

【居るんかーいw】

 

 

 

聖水を飲み、フロッティを軽く黒甲冑に向けて、どうするか考える

 

 

モンスターへの知識が乏しい僕は、現状目の前の黒甲冑の正体が分からない、だから用心してよく観察する事にする

 

 

黒甲冑と表したけど、その実 尻尾があるのでトカゲが鎧を着てる感じに近い ような気がする

 

 

「黒甲冑が拳闘士タイプなら、遠距離攻撃の手段は乏しい筈、なら中距離戦が出来る僕が有利の筈、多分」

 

「装甲の隙間に当たればの」

 

「うん、分かってた」

 

 

【これは微妙に相性が悪いか?】

【分からん、情報が無さすぎる】

【ダメージが通りさえすれば、ほぼ確殺なんだけどね?】

 

 

黒甲冑がトカゲ由来の人型モンスターと仮定して、厚い皮膚と頑丈な鱗に 僕の岩塩散弾は阻まれるだろうし、スラグだと拳でパリィしてきそうなぐらいの気迫を感じる

 

 

「うぇっっ速い!?」

 

「吾の想定より2割程速い、気をつけよ主よ」

 

「そうするよっ」

 

【おー流石はカナリアちゃん、後ろじゃなくて前に前転回避する度胸、見事】

【死にゲーマーかな?w】

【俺には無理だわ、敢えて前に回避なんて】

 

 

目測15mを一足飛びに一気に距離を詰めて来た黒甲冑の懐に飛び込む様に前転回避して、ガラ空きの背中へ屈んだ体勢でバックショットを撃ち込むがダメージの入った形跡はなく、流れる動きで回し蹴りが繰り出されたので、屈んだままバク宙して回避して更に胴体へバックショットをお見舞いするが、ビクともしてない様子だった

 

 

うーん、硬いなぁ

 

 



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112. 6層攻略 4

 

 

 

これまでのダンジョンモンスターとは圧倒的に強い黒甲冑に対抗心が燃え上がり、僕は楽しいと感じている

 

 

今までのダンジョンモンスターは基本的にワンパンで撃破してこれた、確かに楽ではあるけど、正直に言うと飽きがきていた訳で

 

 

「視聴者の皆さん、黒甲冑攻略が終わるまでコメントに反応出来ないと思いますので、ご容赦ください」

 

 

【ええで】

【頑張ってカナリアちゃん】

【ファイトやで】

 

 

バックステップで黒甲冑から距離を取りながら視聴者へ先に謝罪をすると、理解がある視聴者しかいない様で、応援コメントが流れてくる

 

そんなコメントを横目に、律儀に構えて待って居た黒甲冑を真っ直ぐ見据えフロッティを構え

 

 

「君は・・・理性的なんだね」

 

「・・・・」

 

「まぁ答えないか」

 

 

構えて待つと言う思考が出来る黒甲冑に話しかけてみるが、無言の返答が返ってきただけだった

 

 

さてさて、どうしたものだろう? バックショットが弾かれたので、スラグを試したい所だけど、リロードする隙をくれるかどうか

 

 

そんな事を考えていると、先程と同じ様に一気に距離を詰めてきて、右拳が繰り出されたので、スウェーで避け銃剣を突き出すが、サイドステップで躱され、左拳が繰り出されたのを前転回避して、すぐに立ち上がりダッシュで距離を取る

 

うん、手強い

 

 

でも、銃剣を回避したって事は 恐らく銃剣だとダメージを与えられるって事だろう、多分

 

 

でも今の僕では黒甲冑に銃剣を当てられる気が全くしない、が・・・聖歌でデバフを与えられれば、その限りでは無い筈だが効果が出るまでに最低1小節掛かる

 

 

ワカモにはポーターをお願いしててあまり負担を掛けたくないけど、仕方ないか

 

「ワカモ、30秒ぐらい黒甲冑の足止めをお願い」

 

「承知した」

 

 

僕の要請にワカモは返事をしてスルスルと積載していた荷物を地面に置き、黒甲冑へ飛び掛かって行き、それを見てすぐに深呼吸をしてフロッティを浮遊させ、スタンドマイクに見立てて鎮め歌を歌い出す

 

 

「Gute Nacht, Kanarienvogel

Gute Nacht, Kanarienvogel

Auf Wiedersehen, Kanarienvogel

Winke mir zu, lächle jetzt für mich」

 

 

僕は光に包まれ、黒甲冑は黒いモヤみたいな物に包まれ、頭上のアイコンにデバフのマークが増え、あからさまに能力低下が見られ、その様子に気づいたワカモは大きく後方へ飛び、射線を開けてくれる

 

「Gute Nacht, Kanarienvogel

Du hattest einen harten Tag, du solltest schlafen

Sternenlicht am Himmel, das dir Schlaflieder singt

Schätze deinen Traum」

 

 

鎮め歌を歌い続けながら、フロッティを手に取りバックショットを排出しスラグ弾を再装填して、黒甲冑へ歩み寄りながら連射すると、デバフが掛かっていて能力低下しているにも関わらずスラグ弾を腕でパリィして防いで来て驚愕してしまう

 

だが、2度3度とパリィして行く内に黒甲冑の装甲が砕け、とうとう被弾し紫の血を流し、被弾した腕をダラリと下げて 僕の方を真っ直ぐに見据えてくる

 

 

「僕の勝ちだね」

 

「・・・・・」

 

「楽しかったよ」

 

フロッティを握りしめて黒甲冑へ言うと彼(仮)は無言でコクリと頷いたので、銃剣を用いて袈裟斬りすると いつもの様に魔力光子へと還ってゆき、レアイベントが終了した様で、宝箱が生える

 

[経験値を獲得しました]

[魔武器Aのレベルが上昇しました]

[魔武器Bのレベルが上昇しました]

 

 

「ボス討伐報酬的な奴かな? ますますネトゲっぽいなぁ」

 

「やったの、主よ」

 

「うん、ありがとうワカモ」

 

【撃破おめー】

【おつー】

【報酬なんじゃろな?】

 

 

ワカモに御礼を言いつつ宝箱を開けて報酬を確認しつつ、撃破を祝福するコメントとかが流れてきているのが見える

 

 

うん、やっぱ視聴者が優しい人ばかりで、僕は恵まれてるなぁ

 

 

 



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113. 6層攻略 5

 

 

 

自分の恵まれた環境を再認識して噛み締めつつ、宝箱を開封して中身を確認する

 

 

中には、紫掛かった黒色のコインの様な物と、ドロップ素材の外骨格と爪が入っていた

 

 

「ん〜、まぁまぁ?」

 

「どうなんだろうな? 吾には分かりかねる」

 

『少し調べてみるね?』

 

「よろしくお願いします、スタッフ」

 

【わかんねー】

【見た事無い品物しか無い件についてw】

【配信画面越しだと、アイテム名までは見えない事多いしねぇ】

 

 

そこそこある素材をアイテムバックに突っ込みながら呟くが、視聴者も渚も分からない様で、レアかどうか分からずじまいだった

 

ま、仕方ないかー と切り替え コインを摘み上げて観察する

 

 

「コイン状の黒紫っぽい色で、トカゲ?っぽい刻印が施されている・・・何だろう? 記念品かな?」

 

 

「その可能性もゼロではないな」

 

【カナリアちゃん、アイテム名は分かるん?】

【なんか禍々しい色してるな】

【それなりにダンジョン配信観てきたけど、討伐の証なんて知らないぞ?】

 

 

影魔法を使い降ろした荷物を再度積載しながら僕の呟きに返答してくるワカモを横目に、コメントにアイテム名が何か?と言う問いがあったので、コインをよく見る

 

 

「えーっと? 召喚獣用要石 ・鎧蟲(がいちゅう)? 石? え? これ石なの? 肌触り金属何だけど」

 

【カナリアちゃん、驚くポイントはそこじゃないと思うでーw】

【せやな、召喚獣を呼ぶとか契約に使えるアイテム何やと思うでw】

【可愛いからヨシ】

 

 

名前より、金属の感触がするコインが要石、つまり石材で出来ている事に気が行ってしまい、思わずオーバーリアクションを取ってしまったが、コメント欄を見る限りは気にしていなさそうだからよかった

 

 

「え、えーっと・・・召喚用要石は、詳細が分からないので、後日にしたいと思います」

 

「そうだな、主よ 少し休む方が良いのではないか?」

 

「そうだね、少し休憩にしたいと思います」

 

 

【はいな〜】

【この後に階層ボスが控えてるもんね〜】

【休憩大切】

【ボス部屋って撃破後も暫くは安地になるもんなぁ】

 

 

渚へ合図をすると休憩中と書かれた待機画面へ変わったので、適当な場所にキャンプチェアを取り出して座り、エネルギー補給用のシリアルバーを齧る、安定の美味しさに安心する

 

 

「主よ、お茶だ」

 

「ありがとう、ワカモ」

 

尻尾を器用に使い魔法瓶からシェラカップにお茶を注いで僕へ渡してきたワカモに、お礼を言って受け取り飲み 安定の美味しさに安心する、本当美味しいなぁ

 

 

『カナリアちゃん、さっきの召喚獣用要石なんだけど、どうやら撃破したダンジョンモンスターと召喚契約する為のアイテムみたい』

 

「つまり、召喚したら 黒甲冑が現れて 契約出来る可能性がある訳ですか?」

 

 

『その通り、流石に契約成功率の方までは調べ切れて無いから、もう少し精査するつもり、だから一旦 持ち帰る方向で』

 

 

「分かりました、その様に」

 

 

この短時間でコインの効能を調べて正体を僕に報告してきた渚の有能さに感心する

 

本当、仕事スイッチが入ってると真人間だなぁ

 

そんな事を考えつつ2本目のシリアルバーを齧り、返事を返す

 

 

このコインが黒甲冑を召喚して契約出来るなら、だいぶ嬉しい

 

 

召喚獣なら、煩わしい手順を踏まずにタンクをお願い出来るしね?

 

 

それにあの頑丈さなら、タンクとして申し分ないはずだ、これは運が良いなぁ

 

 

「渚さん、6層の階層ボスの情報はありますか?」

 

 

『あるよ〜、端的に言うとデッカいクワガタだね?』

 

「蟲系ですか、そう言えば蟲系とは初めて遭遇するかも知れないですね」

 

『カナリアちゃん、さっき戦った黒甲冑は多分蟲だよ? ほら要石に鎧蟲って書いてるでしょ?』

 

「え? あ、ほんとだ・・・蟲だったのか、黒甲冑」

 

 

渚の指摘で、僕はてっきり爬虫類系統だと思っていた黒甲冑が蟲系である事に気付き、我ながら間抜けだなぁと思う

 

 

 



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114. 6層攻略 6

 

 

自分の間抜けさ に我ながら呆れつつ、しっかりと休息を取り体力・精神力共に回復したので、片付けて配信を再開する

 

 

「お待たせしました、それでは6層攻略を再開したいと思います」

 

 

【がんばー】

【待ってた】

【活躍に期待やで】

 

 

待機画面から配信画面に切り替わったのを確認してから再開を告げると、コメントが流れてくるので、画面の前で再開を待ってた人が結構居たみたいだった

 

 

「ボス部屋まで約3分の1程度の道のりの筈なので、1時間は掛からないと思います」

 

 

「3〜40分程度で着くだろう」

 

 

「6層階層ボスは、スタッフ調べによるとクワガタらしいので、少し楽しみです」

 

 

【カナリアちゃん、ニッコニコやんw】

【女の子は虫とかダメな子 多いイメージだけど、カナリアちゃんは違うかw】

【カナリアちゃん、虫とか平気なんやねw】

 

 

デカいクワガタを見れるだけで、ワクワクしている事を視聴者が感じ取ったのか、そんなコメントが流れてくる

 

「お父さんに小さい頃からキャンプに連れて行って貰ってましたし、僕は虫平気ですね、まぁ流石にゴッキーを素手では触りたくないですが」

 

「まぁ虫がダメだとキャンプは厳しいしな」

 

「それに、カブトムシとクワガタはカッコいいじゃないですか?」

 

 

【相変わらず見た目によらずワイルドなんよw】

【ほんと、このロリはw】

【ロリの皮を被った男子小学生って言っても納得できそうやw】

 

 

と、コメント欄では散々な言われようだが、そもそも前世は会社員のオッサンで出身地が田舎オブ田舎だったので虫は普通に平気だし、カブトムシやクワガタがカッコいいのは最早疑いようも無い

 

まぁ鑑賞は好きだけど、食用は勘弁願いたい、普通に無理

 

 

それから予定通りの時間でボス部屋前に到着し、石碑へ魔力を流してセーブポイントを更新する

 

 

「それでは配信も大詰め、6層 階層ボス戦へ挑みたいと思います」

 

【がんばー】

【ファイトやで】

【ガンバやで】

【初手ブッパで風穴開けたれw】

 

 

応援コメントを読んで気合いを入れてボス部屋へ入ると、2mぐらいのクワガタが僕を威嚇する様に顎を広げていた

 

 

「想像より小さいですね、残念」

 

 

【しょんぼりしてるw】

【充分デカいんよw】

【しょんぼりカナたん かわよ】

 

もう2m程デカいのを想像していたので、少し残念に思い呟くと、そんな反応がコメント欄に流れる

 

「まぁどちらにせよ撃破はするので、このサイズの方が倒しやすいは倒しやすいですけど・・・貫通しますかね?」

 

 

「どうだろうな? ダメなら関節から刃を入れるしかないかもな」

 

 

「そうだね? ワカモ」

 

 

【やっぱり冷静に対処するんよなw】

【切り替えてこ、カナリアちゃん】

【がんばえー】

 

 

試しにスラグ弾を放ってみるが、予想通り甲殻に阻まれダメージが無い様にみえ、攻撃した事で敵対状態に移行したのか、此方へ突進してきたので、回避する

 

 

「直線的な挙動だけど、少し速いなぁ」

 

 

「どうする?主よ」

 

 

「読みやすい挙動だし、試したい事もあったから試してみようかな」

 

 

「試したい事?」

 

 

【何をする気なんだ?】

【ひとまずニッコリしてるのは分かる】

【まだ隠し球があるのか?】

 

 

クワガタと適切な距離を取りワカモの質問に答えると、首を傾げ尋ね返してきたので、ニッコリ笑み頷く

 

 

「タネは単純な事、サイレンサーよりも単純」

 

「あぁ、なるほど。吾も昔 その使い方をする者を見た覚えがある」

 

「やっぱり僕と同じ事を考える人がいるんだね?」

 

 

【なんだこれ?】

【半透明でよく見えないけど、クワガタの足を起点に障壁を展開してる?】

【確かにサイレンサーよりは単純な構造かもだけど、座標の指定とかさぁ】

【障壁が壊れた先から新しいの展開してる?】

 

 

そう、僕が試したかった事、それは障壁による拘束

 

障壁術によるシールドは、展開時に空間に固定される性質がある、それを利用しようと、思ったのが始まりだった

 

 

いやぁ聖女ブーストのおかげで、するする上達して良かった

 

 

 



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115. 6層攻略 7

 

 

聖女パワーの恩恵である攻撃魔法以外の成長補正と、渚認定の魔力保有量を用いてクワガタを障壁術で拘束し、壊れたら即座に再展開して弱点部位を探す為にクワガタの周りを歩く

 

 

【これは有用な使い方だなぁ】

【黒甲冑の時は何で使わなかったん?】

【アレやろ、余裕がなかったんや】

 

 

「そうですね、黒甲冑の時は使う余裕が無かったです、なにぶん速くて座標指定が待ち合わないので」

 

【なるほど、座標へ固定する訳だから、そうなるか】

【なーる、把握】

【命名するならアンカーって所かね?】

 

 

「アンカー、良いですね。採用します」

 

クワガタの周りを一周した所で、コメント欄に良さげな名称が生えてきたので採用する事にし、クワガタへトドメをさそうと思い銃剣を関節へ差し込む為に接近すると、何処に口があるか分からないが、唐突に咆哮をあげ1m程のカブトムシ3匹ほどが飛来する

 

 

「手下を呼び出すタイプか・・・絶妙に小さいし、残念だなぁ」

 

 

【相変わらずマイペースだなぁカナリアちゃん】

【充分デカいのよ、カナリアちゃんw】

【虫平気な人も、引くデカさしてるんよw】

 

 

銃剣をフロッティから外し、クワガタの関節へ突き入れてからフロッティの銃身を握り僕へ体当たりをしにきたカブトムシの1匹へフルスイングして殴り頭部を凹ませて撃破し、時間差で来た2匹はシールドで防ぐ

 

 

【よし、やっぱりクワガタより甲殻は柔らかいな】

 

 

【無駄に良いフォームなの草】

【ほんと見た目はお淑やかな美少女なのに、中身は男子中学生だもんなぁw】

【カナリアちゃん、なんか部活とかしてたん?】

 

 

フロッティとアンカーを使いカブトムシを物理的に凹ませて撃破しつつコメントを見ると、質問が目に入ったので答える

 

 

「部活ですか? してませんね、小学生の時も中学生の時も帰宅部でした」

 

 

【手際良いなぁw】

【慣れてきてるな、うんw】

【こんだけコメント流れてて質問拾えるの偉い】

【そういやカナリアちゃんて女子高校生やったなw】

 

 

クワガタが再度咆哮をあげない内に倒してしまう事に決め、誕プレの中に使えそうな物がある事を思い出し、準備する

 

 

【なんか濃緑の包みに入った奴取り出したぞ?】

【なんやこれ】

【粘土? いや幾らカナリアちゃんでもボス戦中に粘土細工はしないだろうし?なんや?】

 

 

「大抵は頭を凹ませれば大丈夫だろうから・・・まぁ良いや面倒だし2個ぐらい使っちゃお」

 

 

1包2kgのC4をクワガタの頭部へ貼り付け 上から障壁を被せて起爆装置を接続してコードを伸ばしながら安全な距離まで離れる

 

 

【まさかC4?】

【そいや誕プレにあったなC4】

【いや、一般的な女子高生はC4の設置できんのよw】

【せやなw】

 

 

「多分、これで大丈夫でしょう」

 

 

手元の起爆スイッチを操作するとC4が起爆し、クワガタの頭に大きな風穴があく、やっぱり障壁で蓋をしたから威力がクワガタに集中したようだ

 

 

いつもの様に魔力光子へ還る様子を見ながら、そんな事を考える

 

 

「上手く発破出来ました」

 

「これで手数が増えたな」

 

【カナリアちゃん、器用なんだねぇw】

【カナたんがニコニコだからヨシ】

【可愛いは正義】

 

 

そんなコメントを横目にドロップ品を回収して、先へ進み7層へ続くゲート前の石碑へ魔力を流してポイント更新をし

 

 

「では、6層階層ボスを撃破し7層へのゲートが解放されたので、今日の配信はここまでとさせていただきます、配信 お付き合いありがとうございました、よろしければ チャンネル登録・高評価よろしくお願いします」

 

 

【お疲れ様】

【おつー】

【お疲れ〜】

 

「あ、そうそう、次回の配信は東京の方でやるイベントへ参加するので、その時になると思います、よろしければご覧ください」

 

 

【マイペースw】

【宣伝偉い】

【自由だなぁw】

 

 

締めの挨拶をした後に、宣伝を思い出し差し込んでから渚へ合図を送り配信終了してもらう

 

危なかったなぁ、うん

 

 



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116. カナリア、驚愕する

 

 

なんだかんだと6層攻略を終えて事務所へ戻ると、ニッコニコした渚が見慣れない銀と金のプレートを持って僕を出迎えてくれた

 

「お疲れ様、カナリアちゃん、ワカモちゃん」

 

「ありがとうございます、渚さん」

 

「出迎えご苦労、主よ荷物は我が預かろう」

 

「え? うん、ありがとう」

 

 

出迎えてくれた渚に返事を返していると、ワカモが尻尾を使い僕の荷物を回収して、取得物倉庫の方へと去っていく、相変わらず器用だなぁ

 

 

「いやぁやっと届いたよ、銀の盾と金の盾」

 

「そうなんですか? おめでとうございます」

 

「・・・君のだよ?」

 

「え??」

 

 

なんか凄く嬉しそうに渚が言ってきたので、祝福の言葉を言うと彼女としては珍しく呆れた様な表情に変わり言う、銀と金の盾は僕の物らしい

 

 

そんな身に覚えのない金属プレートへ目を移して考えてみるが、心当たりがない、表彰される様な人助けも紗夜以来してないし?

 

 

 

「この盾はね? 君の登録者10万人突破と100万人突破の記念品なんだよ?」

 

「そういえば鷹ちゃんの部屋にもありました、なるほどなるほど」

 

「カナリアちゃん、もしかして登録者数とか全く確認してない?」

 

「配信者になってから1回も確認してないです」

 

「マジで?! いや、まぁ・・・カナリアちゃんだしねぇ、うん」

 

 

渚の説明に、鷹樹の部屋にも同種の金属プレートが飾ってあった事を思い出して彼女に言うと、質問されたので答えると 結構失礼な事を言われた気がするけど、聞き逃した事にしておこう

 

 

なるほど、道理で振り込まれるバイト代が多い筈だ、ホント僕は恵まれているなぁ

 

 

「そんな訳で、この銀・金の盾は君の物な訳だけど、どうする?」

 

「ん〜事務所に飾っておいて下さい、自宅に場所ないんで」

 

「嘘はよくないなぁカナリアちゃん、持って帰るのが面倒くさいだけでしょ?」

 

「それもあります」

 

約4ヶ月で僕の性格を理解している渚に凄いなぁ と思いつつ返事を返す、物理的に持って帰る事は大して面倒を感じていないが、この様な金属プレートを持って帰ったら我が家はお祭り騒ぎになるに違いない

 

両親も三鶴も僕の静止を聞くような人達ではないので、起爆剤は減らすに越した事はないのである

 

 

「ま、事務所としては箔がつくし大歓迎だけどね? 本当に良いの?」

 

「構いません、有っても無くても僕は僕ですし」

 

「ふふ、カナリアちゃんらしいね? 有り難く事務所に飾らせてもらうよ」

 

「はい」

 

 

渚は微笑んで言い金属プレートを箱に丁寧にしまい、再び僕の方を向き

 

 

「それじゃぁお仕事の話をしようか」

 

「え? あ、はい」

 

「明日、かねてより募集していたステラ・アーク1期生の面接があるから、カナリアちゃんも同席して?」

 

「はい?」

 

 

つい数秒前までニコニコしていた渚が真面目な表情に変わり、僕へタブレットPCを渡してきたので受け取ると、彼女は そう言う

 

我ながら間抜けな声が出てしまったが、仕方ないと思う 想定外すぎる

 

 

「以外そうだね? でも良く考えてごらんよ、カナリアちゃんはステラ・アーク創設メンバーの1人なんだよ? 所謂 幹部な訳」

 

「理屈は理解しましたけど、僕は何も分かりませんよ?」

 

「大丈夫大丈夫、小難しい事は私や お嬢、鷹先輩が担当するし、カナリアちゃんは 気になった事があったら質問するぐらいで大丈夫だから」

 

「・・・う、うーん」

 

 

渚の説明を聞き、僕は本当に必要なのか疑問を持つが、やれ と言われたらやるしかないのも、また事実な訳で

 

 

「あ、あと面接の時は聖女フォームでね?」

 

「え? なんでですか?」

 

「そりゃぁ君の身バレ防止の為だよ、ローレライ展開中は身バレ防止機能が作動してるじゃない?」

 

「あーなるほど?」

 

 

そうか、1期生候補との面接だから不採用の場合、僕の身バレの可能性が発生するのか、やっぱり渚は仕事が出来るなぁ

 

 

 



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117. 集えダンジョン配信者!!

 

 

唐突にステラ・アーク幹部と言う肩書き(仮)を付与されて、1期生の面接をさせられ、置き物同然になりつつ無難な質問だけしか出来なかった苦行を経て、僕は渋谷ダンジョンがある渋谷ギルドへ鷹樹と共に来ている

 

 

空間拡張の魔法でイベント会場を作成している様で、会場がかなり広く 呼ばれたであろうダンジョン配信者達が、和気藹々とイベント開始前の雑談や挨拶をしていて、鷹樹も顔見知りなのか ちょいちょい挨拶を交して、軽く雑談をして僕を軽く紹介してくれる、なかなか出来た兄だ

 

 

まぁもちろん兄妹としてではなく、同事務所の後輩としてだけどね?

 

 

ちなみに9割程配信者らしくカメラドローンを従えて撮影しながら挨拶回りをしていた

 

 

「何気に顔広いよね、鷹ちゃん」

 

「まぁな、それなりに活動歴も長い方だし? お前が知らないだけで、ダンジョン配信者のイベントとかには、そこそこ出てるんだぜ?」

 

 

「そうなんだ」

 

 

そんな他愛無い会話をしつつ既に聖女フォームである僕は目立つのか、物凄く視線を感じるが、まぁ慣れた物なので気にしないでおく

 

 

「ねぇ、鷹ちゃん? 僕さ、このイベントの概要ぐらいしか知らないんだけど、何をすれば良いのかな?」

 

「・・・事前に資料渡してあったろ? 読まなかったのか?」

 

「うん、貰ったけど読むの忘れてた」

 

「お前・・・まぁ良いや、簡単に言うと日本各地と海外からダンジョン配信者を集めて、渋谷ダンジョン攻略タイムアタックをして貰うって感じだな」

 

 

僕の言葉に鷹樹は軽く呆れた様子で簡単に説明してくれるが、少し疑問を感じる

 

 

ダンジョンモンスターは討伐されてから再度配置されるまで、リキャストがある筈だからだ

 

 

「お前が感じてる疑問は分かるぞ? モンスターのリキャストの関係で後の方が有利なんじゃ? って思ってるんだろ?」

 

 

「そう、その通り」

 

 

 

やはり僕の兄を約16年程してるだけあって、僕の事をよく理解している様で、疑問を言い当て

 

 

「渋谷ダンジョンは 他のダンジョンと違っていて、1層から10層までしかなくて、尚且つダンジョンボスが10層にしか居ないんだ」

 

 

「浅くない? ん?いや、そうだけどそうじゃなくて、そんなに浅いのに何で渋谷ダンジョンがいまだに存在しているの?」

 

 

「それは渋谷ダンジョンがアスレ特化のダンジョンだからだ」

 

「アスレ特化のダンジョン? アスレってアスレチックのアスレだよね? ・・・SASUKE的な?」

 

「俺にはSASUKEが分からんけど、多分その認識で合ってる」

 

 

「はへぇ〜」

 

 

鷹樹の説明を聞いて、思わず前世知識で呟いてしまったのを鷹樹に聞かれてしまったので、脳死でアホになったフリをして返事を返しておく

 

大体コレで誤魔化せて来てるし、きっと大丈夫、めいびー

 

 

「詳しいルールとか、攻略階数はイベントが始まってからMCが説明してくれるだろうから、省くな?」

 

「うん、ありがとう鷹ちゃん」

 

「構わんよ」

 

鷹樹は、そう言いニカっと笑み僕の頭を撫でる・・・のだが、場所は選んだ方が良い気がする、うん

 

僕は別に良いけど、鷹樹に変な噂が出回ったら困るのは鷹樹だし?

 

それにほら、全方位から視線を感じるしね?

 

 

「おっすおっす、鷹樹くん、久しぶり〜」

 

「あぁ、久しぶりっすね? リカさん」

 

「うんうん、その子が最近SNSで話題のカナリアちゃんかなぁ? 」

 

「そうですよ」

 

「カナリアです、よろしくお願いします」

 

「私はリカ、主に魔導具の作成と作成した魔導具を使っての検証をしているよ、よろしくねカナリアちゃん、早速だけど 撫でて良い?」

 

 

「え? あ、はい」

 

身長170㎝ぐらいで腰まである紫系の髪、赤に近い色の瞳をした、ナイスバデーの美女が鷹樹に話しかけてきて、知り合いの様で軽く挨拶をして、すぐに僕の方へ向いてきたので自己紹介をすると、彼女も自己紹介を返してきた流れで要求されたので、少し困惑しつつ了承すると優しい手つきで僕を撫で始める

 

 

なんなんだろうか? この人は? 多分悪い人では無いんだろうけど

 

 



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118. 集えダンジョン配信者!! 2

 

 

そんな訳で、リカが僕を撫で出した途端、女性配信者が僕へ近寄ってきて、『私も撫でて良い?』的な感じで取り囲まれて撫でられたり抱き抱えられたりしたので、人垣の先にいる鷹樹の方を見てアイコンタクトでSOSを訴えてみるが

 

「良かったな、ハーレムだ」

 

「・・・役立たずめぇ」

 

 

生暖かい目をしてサムズアップして、そんな事を言いやがりましたので罵っておく

 

いや、まぁ男性配信者じゃないだけ良いけどさ? それに僕は女性の方が好きだし?

 

しかし、幾ら小動物扱いに慣れているとはいえ、数が多いので疲れてしまうのである

 

 

そんなこんな小動物扱いされていると

 

 

「はーい、開始時間になるので開会式を始めて行きます、カナリアさんが出走前からグッタリしてるので、そこの一団はさっさと解散してくださいね〜」

 

 

イベント用のTシャツ?を着た銀髪でナイスバデーな美女が舞台上からマイクを使い宣言し、僕を囲んでいた女性配信者達を解散させてくれて、漸く解放されて一息つく

 

 

「さてさて今年も始まりました、ダンジョン配信者 夏の祭典 第15回 渋谷アスレタイムアタック 夏の陣、本年も司会進行を勤めます 渋谷ギルド 支部長 アリサ・マナンダルです、よろしくお願いします」

 

 

アリサと名乗った銀髪美女の開会の挨拶? に呼応して 自由時間の配信をしていなかった配信者達も配信を開始した様で、カメラドローンがブンブン飛び回っている

 

 

これだけ多いと、蜂の羽音に聞こえてくるから不思議である

 

 

「皆さんごきげんよう、ステラ・アーク所属 カナリアです」

 

「同じくステラ・アーク所属、保護者 兼 相方に任命された鷹樹だ」

 

 

【おっすおっす】

【今日もカナリアちゃんは〜?】

【かわいい〜】

【かわいい〜】

【かわいい〜】

【鷹樹先輩もナイスバルク】

 

 

 

そんな訳で僕もカメラドローンのスイッチをオンにして配信を開始し、周りに迷惑にならない程度に声を潜め挨拶をすると、謎の結束したコメントが流れて来たのが見える

 

 

なんか知らない間に視聴者の結束が強くなってて少し困惑してしまうのだけど・・・まぁ褒められるのは悪い気しないけどね? うん

 

 

「今回は前に告知した通り、ダンジョン配信者の大型イベントへ参加させて頂いています」

 

「日本各地と海外から集められたトッププレイヤーばかりのイベントだ、楽しめる筈だから期待していてくれ」

 

 

「え? 」

 

「ん?」

 

【なんかカナリアちゃんが引っかかってるぞ?w】

【おかしい所は無かったはずだけどな?】

【首傾げてるカナリアちゃん可愛い】

 

 

 

鷹樹の説明に疑問を感じ、思わず声を出してしまい鷹樹が どうかしたか? みたいな表情で僕を見てくる

 

 

「トッププレイヤーが集められてるって言った?」

 

「言ったが?」

 

「僕、トッププレイヤーじゃなくない?」

 

「お前なぁ・・・活動開始約4ヶ月で金盾持ってる奴がトッププレイヤーじゃない訳ないだろ? 少し俗物的な言い方になるが、お前程目立つ目玉商品は居ないだろ、こんなイベントではよ?」

 

「・・・はへぇぇ〜」

 

 

【あ、宇宙ネコみたいになっちゃったw】

【かわいいは正義】

【然り】

【然り】

【然り】

 

 

どうやら僕に自覚が全くなかったが、僕はトッププレイヤーの仲間入りしていた様だ、無念

 

まぁ今後の活動方針も変わらないけどね、うん

 

 

「では挨拶はこれぐらいにして、ルール説明を始めたいと思います。ルールはシンプル、各ペア ないし ソロで 渋谷ダンジョン1層から出走して貰い3層に設けられたゴールに到達する事、空間跳躍系の魔法やダンジョンを破壊する恐れのある攻撃魔法は禁止となります、心配な方は最寄りのギルド員に確かめてください」

 

 

「ん〜と言う事は、フロッティの出番は無いかも?」

 

「まぁ確かにそうなるだろうな? 破壊禁止でトレンチガンの出番はないだろうし」

 

【討伐系ならカナリアちゃんに有利だったな】

【確かに】

【これワンチャン、ワカモ氏にライドオンも有りなんじゃ?】

【天才か?】

 

 

フロッティの出番無しか〜と思っていたら、そんなコメントが流れて来たのが目に入る

 

確かにワンチャンありかもしれない?

 

 



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119. 集えダンジョン配信者!! 3

 

 

使い魔への騎乗がルール的に許可されるか分からなかったので、渋谷ギルドのギルド員へ確認しに行こうとしたら、鷹樹が代行してくれる様でステイを命じられる

 

アレ? これって迷子になるから待ってろって事かな?

 

 

「と言う訳で、なんか過保護な鷹樹さんが代行で確認しに行ってくれたので、待ちます」

 

 

【迷子対策のアレっぽくて草】

【やはりカナリアちゃんはロリだった】

【鷹樹がお兄ちゃんしてるんよなぁw】

 

 

コメントを見て、やはり迷子対策の方な気がしてきたけど、まぁ良いか と気持ちを切り替える

 

にしても、視聴者は 僕と鷹樹が兄妹だと気付いているのに気付かないフリをしてくれているのか、それとも気付いてないけど 鷹樹のお兄ちゃんパワーをイジっているのか、どちらなんだろうか?

 

まぁこれだけ似てないし、そうそう気付く訳ないよね? 多分

 

 

鷹樹が確認しに行って数分して戻ってきて

 

 

「聞いてきたぞ〜 ルール的には認められるけど、あまりオススメはしないってよ」

 

「合法なら良かったけど・・・オススメしないのは何でだろう?」

 

「飛んだり跳ねたりするし、非致死性トラップがあるからじゃねーの?」

 

 

「え? 知らないんだけど?」

 

「説明資料を読まないのが悪い」

 

「うぃ」

 

【ライドオンは合法で良かったけど、カナリアちゃん論破されとるw】

【これは100% カナリアちゃんが悪いわw】

【論破されて しょんもりカナリアちゃん かわいい】

 

 

僕の知らない情報をサラッと言ってきた鷹樹にクレームを言うが、論破されてしまい、コメント欄が大草原と化してしまった

 

 

アスレって言ってたから、SASUKE的な奴かと思ったけど、もっとヤバ気な類いだった様だ

 

 

そんな事を考えて、ふと思い付いた事を脳死で鷹樹へ尋ねてみる

 

 

「ねぇ、もしかして経験者?」

 

「おう、今年で3回目だな」

 

「そっか〜」

 

【鷹樹は事務所の先輩やろ? 何で知らないんやw】

【ほらカナリアちゃんはマイペースだからw】

【やべぇ、納得が出来すぎるw】

【カナリアちゃんって、普段どんな動画とか見てるんだろ?】

 

 

僕の質問に鷹樹が答え脳死返事を返すとコメント欄にツッコミのコメントが溢れる、仕方ないじゃない? 僕ってダンジョン配信を殆ど見ないし?

 

 

だから、僕の知識って かなり中途半端だったりするんだよね

 

「最近だと可愛い動物の動画とか、料理とか、バイクのインプレッションや新車紹介などでしょうか?」

 

「んで纏まった時間が出来たら映画を見たり単車転がしてるんだよな?」

 

「うん、そうだね」

 

【前半と後半でギャップがw】

【見た目ロリだから未だにバイク乗ってるの驚くんよw】

【そういやカナリアちゃん、16才のJKやったなw】

【せや、カナリアちゃん小学生やない高校生やw】

 

 

僕の生態を熟知している鷹樹が付け加えたので同意して頷く

 

 

「バイクは良いですよ? 風を感じて爽快な気分になれます」

 

「確かに、バイクは良いぞ? 」

 

【増えたぞw】

【そういや鷹樹もゴツいバイク乗ってたなw】

【画面からの圧がw】

【ツーリング動画とか出したらバズるかもな?w】

 

 

兄妹揃って 否、ライダー 一家の五月七日家によるステマ? をするとコメント欄に圧が強いというコメントが流れてくる

 

「ツーリング動画、ですか・・・悪くないかも」

 

「悪くないかも じゃねーよ、お前 絶対にCEOに相談しろよ? 勝手に撮影とかやったら方々・・・いや、迷惑掛かるのスタッフぐらいか?」

 

「うん、あとでCEOに相談するね?」

 

 

【カナリアちゃんは乗り気だなぁ】

【惜しい、最初は真面目な雰囲気だったのにスタッフの扱いが雑w】

【もはやスタッフの扱いが雑なのは変えられないのか?w】

 

 

 

僕の呟きに鷹樹が紗夜に相談する様に言い、渚の扱いが雑な件について視聴者の解釈が一致しているようだった

 

すまない渚、お土産買って帰るから許してね?

 

 



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120. アスレ出走

 

 

 

そんなこんな渚の扱いが雑な感じになってしまったが、後でフォローするとして、鷹樹と作戦会議を始める

 

「では3回目の出場の鷹樹さん、傾向と対策をどうぞ」

 

「そうだなぁ・・・よく見て対応するしかないな、毎年構成変わってるし、毎回トラップの配置が変化するし?」

 

「なるほど?」

 

 

【まぁアスレとはいえ、ダンジョンだもんなぁ】

【芸が細かいんよ、渋谷ダンジョンは】

【噂では最奥のダンジョンボスを討伐してもリポップしたらしい】

 

 

鷹樹にアドバイスを貰う為に聞いてみたが、そう上手く行く訳もなく、鷹樹も初見で挑む形の様で、ありきたりの事しか言わないが仕方ない

 

 

「ただワカモにライドオンは辞めた方がいいかもな? 視聴者も お前の勇姿を見たいだろうし、お前の場合 生身の方が小回り効くだろ?」

 

「確かにそうかも? 」

 

「来年・・・いや、冬の陣かもだが、次回が有ればワカモとペアで出走したら良いだろ?」

 

「一理ある」

 

【やっぱ鷹樹は お兄ちゃん枠なんだなぁw】

【カナリアちゃんが素直に従ってて かわいい】

【後でワカモ氏へのフォローしないとだね】

 

 

鷹樹は脳筋だが、三鶴程では無いが賢く先の事まで考えているから、彼の助言は聞き流さずに、しっかりと聞く様にしている

 

 

僕みたいに後先考えずに生きてないし、配信者としても先輩だから聞いておかないと損だと思うしね?

 

 

「ワカモには悪いけれど、今回はライドオンは無しかな?」

 

 

「その方が良いだろうな、お前の反響定位も その性質上 生身の方が感度上がるだろうし」

 

「そうだね? でも何で分かるのかな?」

 

「そりゃ反響定位は結構ありふれたスキルだからだぞ? 仕組みとか性質とかある程度解明されてるんだよ」

 

「やっぱり賢いね」

 

 

【もうやり取りが兄妹みたいな件w】

【今更だろw】

【ワイもカナリアちゃんみたいな妹欲しい】

【リアル妹に幻想を抱かん方がええで、生意気やからな】

【生意気なカナリアちゃん? 俺得なのでは?(難聴)】

 

 

僕の質問に答える鷹樹の言葉に納得する、そう言えば銃使い(ガンナー)は訓練をすれば取得出来るタイプのクラスだから、クラススキルも頑張れば取得出来る、つまり反響定位の保有者が多いという事だ

 

 

だから調べれば反響定位が、どの様なスキルかが分かる

 

 

「まもなく前走者がゴールしそうなので、ステラ・アーク所属 鷹樹&カナリア ペアはスタート位置へお願いします」

 

 

「お、俺達の番だな」

 

「そうだね」

 

 

【もうすぐ出走か】

【楽しみやな】

【カナリアちゃん、割とパワープレイ多いし、予想出来ないなぁ】

 

 

アリサ支部長のアナウンスを聞き、僕と鷹樹はスタート位置へと向かう

 

 

「それじゃ、コレを飲んで?」

 

「ポーション? 何でだ?」

 

「三男と共同開発した、バフ盛り盛りポーション名称未定だよ」

 

 

「・・・まさかと思うが、名前が 名称未定 じゃないよな?」

 

「何を言ってるの? 名称が決まって無いから名称未定だよ? 」

 

 

「そうか、なら良かった」

 

 

「何が?」

 

 

【三男すげーなw】

【薬師か錬金術師のクラス持ちっぽいな、三男】

【鷹樹は何を危惧してるんだ?w】

【もしかして鷹樹、三男と面識ある系?】

 

 

僕が三鶴へ聖水をベースにステータス向上のポーションが作れないか? と聞いてみたら二つ返事で颯爽と開発したのが、今回のポーションだ

 

開発者の三鶴が名付けをしてないので、ステータス向上ポーション(仮)状態だから、仕方ないよね?うん

 

 

そんな訳で鷹樹にポーションを飲ませて、僕もポーションを飲むのだが、お世辞にも美味しいとは言えない味で、少し顔を顰めてしまう

 

[全ステータスが3600秒間30%向上します]

 

「まっず・・・これは効きそうな味してる」

 

「確かに・・・これは良く効きそうだね」

 

 

【味は要改良なんだなw】

【なんとも言えない表情してるw】

【でも飲み切ったの偉いw】

 

 

このポーションは、三鶴にお願いして味を改良してもらう事にしよう

 

 

絶対に改良してもらおう

 

 



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121. アスレ出走 2

 

 

 

絶妙に不味いステータス向上ポーションを接種してスタート位置で待機しつつ軽く身体を動かしておく

 

 

「今回はお前は初回だし優勝ではなく完走を目標にするか」

 

「そうだね? そうしよう」

 

「よし、なら好きに動いて良いぞ? 合わせる」

 

「うん、お願いね?」

 

 

【仲良いなぁ、良き】

【鷹樹お兄ちゃん優しい】

【これは間違いなく おにショタ】

 

 

鷹樹と打ち合わせして拳を合わせると、そんなコメントが流れてくる

 

まぁ間違ってはないかな? 僕は元男で精神的には男寄りだと思ってるし?

 

いや、ショタではないか、16歳だし? うん

 

 

「それではステラ・アーク 鷹樹&カナリア ペア、まもなく出走です」

 

「視聴者の皆さん、もう直ぐ出走しますので、コメントを確認出来なくなります、ご了承ください」

 

「よろしくな」

 

 

【オッケー】

【がんばー】

【楽しんでなー】

 

 

アリサ支部長のアナウスを聞き視聴者へ言うと、快く了承してくれて安心する

 

やっぱ治安良いなぁ、僕の視聴者

 

 

「カウント3、2、1、スタート!!」

 

「カナリア、行きます!」

 

「行くぜ」

 

 

スタートの合図を聞き、ゲートを潜り1層へと侵入すると、SASUKEとは違い、なんかデジタル空間調の内壁が見える

 

 

「迷路っぽい感じかな?」

 

「プラスでアスレだろうな、あとトラップ」

 

 

体型の関係で鷹樹が前だと視界不良になるので、僕の後ろを走る鷹樹が答える

 

「隆起型の障害物、2秒」

 

「了解」

 

反響定位で感知した生える障害物を鷹樹へ伝え僕はハードルを飛ぶ様に回避して走り続け、鷹樹も僕と同じ様に障害物を突破する

 

 

「5秒後、抜ける床」

 

「了解、飛ぶか?」

 

「補強する」

 

「OK」

 

 

抜ける床の空間部分へ障壁術を用いて補強し無理矢理押し通り速度を落とさずに進む

 

とりあえず今のレベルのトラップやアスレなら まだ余裕がある

 

 

「30m先、跳び石ゾーンみたい」

 

「どうする? 俺は跳べると思うが」

 

「ん〜・・・まぁ跳ぶしかないかな?」

 

「まぁそうだよな」

 

30mほど床がなく、空中に足場となる石柱? が浮遊しているゾーンへ辿り着き迷わずに跳び足場を踏みしめる

 

これは多分、ダミーが混ざってると思うので少し慎重に行かねば・・・いや、ダミーなら障壁術で足場作れば良いか、うん

 

 

そんな感じでダミーの足場を踏み抜いた瞬間に障壁術で足場を作り跳び石ゾーンを突破する

 

 

「お前、結構器用だな」

 

「攻撃魔法習得が難しいからね、小手先の技を身につけなきゃ」

 

「なるほど? 魔法はイメージって奴か」

 

「そんな感じ」

 

 

そんな会話が出来る余裕を持って1層を突破し2層に侵入すると、すぐさま道が分かれていて注意書きがあり、今回ペアの意味を理解する

 

 

「左右の道に分かれて進んで、タイミング良くスイッチを押したり切り替えたりしないと進めないタイプか〜」

 

「だな、んじゃ俺は右に」

 

「僕は左だね、よろしく」

 

「おう」

 

 

鷹樹と拳を合わせて左右の道へ分かれ進み、行動阻害系のトラップを避けて行く

 

軽く謎解きみたいな要素もあるのかな? 今回は

 

幸い互いの声が聞こえる様で連携に支障がないのが幸いし、順調に進む

 

 

「スイッチ〜」

 

「お〜」

 

鷹樹へ合図して下から上に閉まるタイプの石扉を開けて貰い、時間が勿体ないので高跳びの要領でコンパクトボディを生かし隙間を抜け、鷹樹を通す為にスイッチを押し、扉を開ける

 

 

「OK、通れる」

 

「了解、進むね〜」

 

「おー」

 

そんな事を繰り返し2層を突破し、3層に侵入すると2人で協力しないとダメなタイプのギミックが続いている様で、鷹樹と合流が出来ていない

 

「居るかね?」

 

「居るぞ?」

 

「まだ合流無理そうだね?」

 

「そうだな、まぁ仕方ないから進むぞ」

 

「あいあい」

 

鷹樹の返事を聞き、進むしかないと言う事で兎に角前へ進む

 

僕としては、結構楽しいから、プライベートでまた来ても良いかも知れない

 

 



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122. 集えダンジョン配信者 閉会式

 

 

 

渋谷ダンジョン1〜3層を余裕を持ってクリアする事が出来て良かった

 

僕個人的には、協力要素とか有って結構楽しめる内容で、プライベートや配信とかで再戦するのも悪くないと思っている

 

 

【画面越しだと見え難いのが難点だな、障壁術】

【だな〜、日に日に上手くなってるよねぇ】

【カナリアちゃん、偉い】

 

 

「ありがとうございます?」

 

「よし、俺も褒めよう、偉いぞカナリア」

 

「ちょっ」

 

 

【やっぱ鷹樹はお兄ちゃんだな】

【うん、お兄ちゃんだ】

【鷹樹お兄ちゃんだ】

 

 

ゴールの3層からイベント会場へ戻りつつコメント欄のコメントへ返答をしていると、鷹樹が そんな事を言い僕の頭を雑に撫で、コメント欄が 鷹樹お兄ちゃん 的なもので埋まる

 

まぁ鷹樹はお兄ちゃんだから仕方ないね、うん

 

 

「とりあえずゴールしてイベント会場へと戻ってきました」

 

「あとは参加者全員の出走・帰還を見送って閉会式を待つだけだな」

 

 

【お疲れ様〜】

【おつ〜】

【おつかれ〜】

 

ずっと見ていたであろう視聴者には分かる事だが、伝えて一応壁際へより壁を背に配信を続ける

 

 

「閉会式まで もう暫く掛かるだろうし、軽く完走の感想戦といこうか」

 

「それは・・・完走と感想を掛けた 親父ギャグ?」

 

「ちげーよ、普通に感想戦だ」

 

「うぃ」

 

【確かにイン? は踏んでる気はするけどw】

【文法的にも間違ってないんだよなぁw】

【何も間違ってないのに、可哀想な鷹樹w】

 

 

どうやら気にしすぎだった様で、鷹樹を憐れむ?様なコメントが流れているのが見える

 

「単刀直入に言うと、とても楽しかった」

 

「まぁだろうな? 見てて それは感じた」

 

【イキイキしてたよねぇカナリアちゃん】

【確かに、モンスター気にしないで良いからかな?】

【それはあるだろうな、うん】

 

 

僕がアスレを存分に楽しんだ事はお見通しの様で鷹樹が言い、コメント欄も似た様な感じのコメントが流れていく

 

「あとは・・・もっとこう、池とか飛んでロープを掴んだりする系だと思っていましたけど、まさか迷路系とは思いませんでした」

 

「こればかりは完全に運だな、俺は初回はそれだったし、2回目はトライアスロン的な感じだったぞ?」

 

「へぇ〜」

 

 

【確か渋谷ダンジョンは定期的に内装が変わるんだっけ?】

【そうらしい】

【ほんと、ダンジョンって不思議だよなぁ】

 

 

鷹樹の言葉やコメントを見て、ダンジョンへの謎が深まった気がしたが、僕がどうこうする事でも無いので、不思議だなぁ とだけ思っておく

 

そんな訳で暫く感想戦をしていると、参加者全員の出走・帰還が終わった様でアリサ支部長のアナウンスが聞こえる

 

「参加者の皆さんお疲れ様です、最後の出走者の帰還を確認致しましたので、早速ですが表彰式へと移りたいと思います」

 

「あ、最後の方が戻ったようですね」

 

「そうだな」

 

【やっぱそこそこ人数いたから時間掛かったなぁ】

【これでも配信者の上澄だもんなぁ】

【日本だけでも100名ぐらいは居るしな】

 

 

そんなコメント欄を見て、鷹樹が言っていた事を思い出す、今日集まっているのは日本のトッププレイヤーだと

 

つまりこの場にいる配信者はチャンネル登録者数が3桁万人超えの実力者? が集まっていると言う事で、そんな人達が100名以上居るのだから凄いとしか言えない

 

 

そんな他人事の様な感想しか出てこないあたり、僕は自覚がサッパリ無いのだけどね、うん

 

 

「それでは上位5ペアの発表です、呼ばれたペアはお手数ですが壇上までお願いします、第5位 (あか)の女王 ヴェルナー ・ ニール ペア 」

 

 

「日本人じゃなさそう?」

 

「緋の女王はオーシアのチームだな、確か」

 

「チーム? 事務所じゃなくて?」

 

「チームだよ、事務所の名前は また別で・・・名前は忘れたわ」

 

【確か事務所はクリなんとか とかじゃなかったか?】

【あーそうそう、クリ何某だったはず】

【めっちゃスコア稼いでるチームも居たよな?確か】

 

 

そんなコメントを見て、やっぱりオーシアも修羅の国なんだなぁと思うのだった、まる

 

 

 

 

 



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