仮面ライダー響鬼 〜歌姫達との絆〜 (オレンジタロス)
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一の巻/出会う響鬼


最近響鬼にはまったのでほぼ見切り発車です。




ある海

 

荒れ狂う海の中で海水が岸辺に叩きつけられる中、岸辺で一人の少年が少女の左胸を両手で押していた。

 

十回ほどしてから気道確保し人工呼吸、更に胸を押す。

少年はそれを繰り返す。

 

すると少女は水を吐き意識を取り戻す。

少年を見る少女。

少年は笑顔を浮かべると右手で敬礼のようなポーズをする。

 

「ほのかをたすけてくれたの?」

 

「きたえてますからこれくらいは出来ないと♪」

 

 

───────────

 

 

数年後

 

「行ってきまーす!」

 

我が家でもある和菓子店【穂むら】を後にする少女【高坂穂乃果】

 

 

「よーし! 今日も頑張ろーー!」

 

スカートであることも気にせず穂乃果は跳び跳ねながら音ノ木坂学園に向かった。

 

 

───────────

 

 

「そんじゃま行ってきます」

 

「ああ」

 

「行ってらっしゃい!」

 

顔の近くで火打ち石を弾かれるのはまだ十代後半の青年は大型バイク【焔】に跨がる。

 

「そういえばヒビキ、明日穂むらさんと新しいメニューの試食会があるんだが、お前も参加するか?」

 

「お、いいですねぇ。そんじゃそれまでに片付けられるように頑張ります。シュッ!」

 

青年は焔のエンジンをつけると爆音を響かせながら走り去った。

 

 

───────────

 

 

都外の森の中

 

「♪〜〜〜」

 

鼻歌を歌いながらテントを張り工具箱サイズの箱を取り出す青年。中には変わった形のディスクが大量に縦に並ぶ。

 

青年は右腰に折り畳まれた音叉でディスクを横に弾いていく。

 

するとディスクは独り手に動きだしそれぞれ赤・青・緑に変色しディスクアニマル【アカネタカ】【ルリオオカミ】【リョクオオザル】に変化し森の中へ入っていった。

 

「よろしく♪」

 

青年は敬礼のようなポーズをしディスクアニマル達を見送った。

 

 

───────────

 

 

「鬼だ・・・」

 

「鬼・・・・」

 

「でも今はあの子はまだ動けないから早く餌をあげきらないと・・・」

 

「・・・・・いいときに来たね・・・。餌が二匹・・・」

 

不気味に笑う男女は猫背でその場を立ち去った。

 

 

───────────

 

 

「・・・・・希・・・」

 

「おっかしいなぁ〜〜〜」

 

「・・・迷ったわよね・・・」

 

「エリチ・・・・、そんなにはっきり言わんといて〜〜〜な」

 

地図を回しながらコンパスを見る紫がかった髪の少女【東條希】、そんな彼女をジト目で見つめる金髪のポニーテールの少女【絢瀬絵里】

 

「まさかこんなとこでオシャカになるなんて思わないやん?」

 

「どうするのよぉ。卒業記念に登山したいって言うから来たのに。でもコンパスが急に壊れるなんて思いもしないわよね。仕方ない。今日はここで野宿でもしましょう」

 

「ごめんねエリチ」

 

「気にしないで」

 

テントを張り始める二人。

その時希は後ろに先ほどの男性がいることに気づく。

 

「! いつの間に!?」

 

「? 希?」

 

慌てる希に視線を移す絵里。しかし自分の近くにも不気味に笑う女性が現れたことに気づいた。

 

「! よ、良かったぁ。実は迷ってしまったんです・・・・。もし良ければ人気のある場所ま・・・・で・・・・」

 

歩み寄ろうとした絵里だが不気味に笑う女性がただ者でないことを察し、歩みを止める。

 

「ええ。連れていってあげますよ。餌としてね」

 

女性【姫】は笑うと身体を変化させ【妖姫】に変化する。

 

「ひっ! の、希! !?」

 

腰が抜けて座り込む絵里は希に視線を移す。

そこには糸に身を包まれ気絶した希と【童子】が変化した【怪童子】が。

 

「そん・・・・な・・・」

 

希を側に寄せつつ身を震わせる絵里。

 

「誰か・・・、誰か・・・」

 

周りを見渡す絵里。しかし周りに人の気配はない。ましてや気配があったとしても並の人間にどうにかできる相手か。そう考えた絵里は目の前が真っ黒になる。

「そんな・・・・。いや・・・・」

 

歩み寄る怪童子と妖姫。

 

「いやあああああああ!」

 

叫ぶ絵里に妖姫と怪童子が糸を吐く。

 

 

 

 

その時現れたアカネタカが翼で糸を切断、思わず怪童子達が後退する。

 

「鬼」

「鬼!」

 

「鬼?」

 

振り返る絵里の目の前には先ほどバイクで森に現れた青年がいた。

 

「危なかったな。間に合って良かったよ。逃げた方がいい」

 

「無理・・・。足がすくんで・・・・」

 

青年は絵里を庇うように立つ。

 

「わかった。そこでじっとしててくれ。ただし今から見ることは秘密でよろしく」

 

「?」

 

混乱する絵里をよそに青年【ヒビキ】は右腰の音叉【変身音叉音角】を取り出すと木に軽く打ち付ける。

そのまま音角を額にかざすと鬼の顔が額に現れる。

 

その直後ヒビキの身体を紫の炎が包む。

 

「! あ・・・・」

 

口を覆う絵里の前でヒビキの肉体は燃えながら変化する。

 

「はああああああああああ・・・・、はぁ!」

 

右手を横に振り払うヒビキ・・・・否、そこにいたのはヒビキではなかった。

 

メタリックパープルの身体、手足と胸に銀色の装飾、さらには太鼓型のベルトには様々な装備を備えるその姿はまさに“鬼”だった。

 

「・・・・・」

 

開いた口が塞がらない絵里の前でヒビキが変身した鬼【響鬼】は怪童子と妖姫に歩み寄る。

 

童子達の爪を備えた腕が降り下ろされるが響鬼はその腕を受け止めつつ蹴りや拳を打ち込む。

 

軽く10トンを越える打撃を受けた童子達は地に伏せる。

 

響鬼は二体が並んだのを確認すると口を開き紫の炎【鬼幻術鬼火】を吐き二体を燃やし尽くす。

 

悶え苦しむ二体に素早く接近した響鬼は【音撃棒烈火】を手にし二体を突き飛ばす。

 

怪童子達はそのまま吹き飛ばされ空中で土塊になり絶命した。

 

 

「・・・・・まずは童子と姫は片付いた。後はツチグモか」

「あ・・・・、あの・・・」

 

「! 悪いけど今回の親玉倒してくるからここにいてくれるか? 大丈夫! 鍛えてますから!」

 

響鬼は右手で敬礼のようなポーズをするとルリオオカミの後を追い走り去った。

 

 

───────────

 

 

「ここか・・・」

 

小さな木の小屋にたどり着いた響鬼。

 

「さっさと片付けるか」

 

響鬼は扉を開き中へ。

 

そして数秒後小屋全体が暴れるように動き始め8本の足が壁を突き破り出てくる。

 

足の生えた小屋は身体を木にぶつけながら悶える。木の破片が辺りに散らばりながら小屋は全壊、中から巨大な蜘蛛の魔化魍【ツチグモ】が現れる。

 

そして響鬼はツチグモに馬乗りになっていた。

響鬼はベルトの【音撃鼓・火炎鼓】をツチグモに当てると火炎鼓は巨大化、響鬼は烈火を掴むと火炎鼓を叩き始める。

 

「はあああああああああああ!」

 

暴れまわるツチグモを気にせずに響鬼は火炎鼓を叩き続ける。

 

響鬼は烈火を掲げる。

 

「はあああああああああああ、はぁ!」

 

そのまま烈火を同時に叩く。

途端にツチグモは爆発し土塊と化した。

 

「ふぅ・・・」

 

響鬼は烈火を回しつつ納め一息した後再び走り始めた。

 

 

───────────

 

 

「の〜〜〜ぞ〜〜〜みったら〜〜〜〜」

 

糸をほどききった希を揺する絵里。

 

「ん〜〜〜! 希、ちょっと痩せt痛っ!」

 

タブーを言いかけた絵里に無意識の希の軽い蹴りが絵里の足に入る。

 

「希〜〜〜! 希〜〜〜!」

 

「お〜〜〜い。もうちょっと穏便に起こしてあげたら?」

 

「! あなた・・・」

 

振り向く絵里。

そこには普通の服装のヒビキが。

 

「とりあえず森を降りようか。とはいえ・・・」

 

一息いれるヒビキ。

既に時間は夕方、日が落ちようとしていた。

 

「もうあの怪物は出ないから安全だ。とはいえ夜の森を動き回るのは危険だ。それに俺の移動はバイクだから片方は残すはめになるから危険だ。今日はひとまず俺のキャンプで野宿しよう」

 

「は、はぁ・・・・」

 

「とりあえず歩けるかな?」

 

「大丈夫だと・・・・」

 

「よし! 俺はこの娘を・・・・」

 

ヒビキは気絶したままの希をおんぶしたが背中に当たる感触に耐えきれずにお姫様だっこにシフトする。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・な、何?」

 

「もしかして今希の胸・・・「ほ、ほらほら! 急ぐぞ!」

 

希をお姫様だっこするヒビキ、その後を絵里が追いかけながら一同はヒビキが張ったキャンプに向かった。



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二の巻/落ちる絵里


スピード投稿になった今回。

ちなみに戦鬼メンバーはオリ主になります。


 

「・・・・は! 逃げてエリチ! あれ?」

 

目を醒ました希はテントの中であることに驚く。

出ると焚き火の近くにコーヒーを飲む絵里とヒビキが。

 

「希! 良かった。気がついたのね!」

 

「え、エリチエリチ! さっきの・・・・、もしかしてうちら・・・」

 

「大丈夫よ希。生きてるわ」

 

「え? もしかしてエリチが?」

 

「ち、違うわ。ヒビキさんよ! ヒビキさんが追い払ったの!」

 

「ヒビキさん?」

 

知らぬ名前に頭を傾げる希。そこに歩み寄るヒビキがコーヒーの入ったマグカップを差し出す。

 

「もしかしてあなたがヒビキさんなん?」

 

「よろしく♪ シュッ!」

 

敬礼のようなポーズをしつつ笑顔を向けるヒビキに希は恐る恐るマグカップを受けとる。

 

「とりあえず二人とも今日は悪いけど今日はテントに泊まってね。まぁ寝袋はあるみたいで助かったよ。自分用しかなかったから」

 

「え? ヒビキさんはどこで寝るんですか?」

 

「? 外だけど?」

 

エリチの質問にヒビキはきょとんとした声で軽く答える。

 

「でもまだ3月ですし・・・」

 

「大丈夫! 鍛えてますから!」

 

「いや鍛えてるとかそういうんじゃなくて・・・」

「そのテントじゃ三人も入らないし男が一緒じゃ二人とも落ち着けないでしょ。それにレディに風邪ひかせる訳にはいかないし」

 

「は、はぁ・・・」

 

「そんじゃ夜更かしは禁物だし寝ようか。お休み〜〜〜」

 

「え、ちょっとヒビキさん!」

 

言いたげな絵里をよそにヒビキは寝袋に入り〇び太並の早さで眠りについた。

 

「もう寝ちゃった・・・」」

 

「なんやろかこの人・・・。カードでもよくわからへん・・・・」

 

「ホントに何者なのかしら・・・・」

(それにさっき変身したあれは・・・・)

 

「まぁ色々考えてもわからへんし今日は眠らへん? 明日改めて聞いてみよ?」

 

「そうね」

 

希の意見を了承した絵里。二人は静かにテントのジッパーを閉め眠りについた。

 

 

 

 

「ねぇ希。頼むからそばにいてね。暗いのは・・・」

 

「わかってるわかってるって♪」

 

 

────数時間後───

 

 

夜が明け日が差し込む。

光はテントを突き抜け絵里の目に入る。

 

「ん? 朝? なんだか疲れたから凄い眠っちゃった気が。え? まだ5時?」

 

時計を見て驚く絵里。

 

しかし妙なことにテントの外にヒビキの気配を感じなかった。

 

「ひ、ヒビキさん?」

テントを開くとそこには畳まれた寝袋が。

 

「どこ行ったのかしら・・・」

 

絵里は恐る恐るテントからでて森の中へ。

 

「さ、寒いわ・・・。よくこんな寒い中ヒビキさん寝れたものよね・・・」

 

身を振るわせつつ進んでいくと滝が。

 

そして水が落ちていくそばにヒビキが上半身裸でいた。

細身のようで筋肉質なその身体のあちこちに切り傷や擦り傷がある。

 

「あんなに身体に傷が・・・」

(もしかして昨日の怪物と戦って・・・)

 

絵里が見る中、ヒビキは静かに両手の烈火を掲げる。

 

「・・・・・・はあ!」

 

高々にあげる掛け声と共に烈火を水に叩きつけるヒビキ。

 

「! きゃあああああ!」

 

すると高い水しぶきがあがり軽い雨のようにヒビキに降り注ぐ。

しかし驚いた絵里が足を滑らせ池に落下、再び水しぶきがあがる。

 

「お、お〜〜〜〜い! 大丈夫エリチちゃ〜〜〜ん!」

 

「お、驚いた〜〜〜」

 

「!」

 

池から出てくる絵里にヒビキは目線を反らす。

 

「ヒビキさん?」

 

「・・・・・」

 

「! きゃあ!」

 

ヒビキから上半身に指を指される絵里は自分の服が透け黄色いブラジャーが見えているのに気付き両手で庇う。

「・・・・見ました?」

 

「ご、ごめん・・・」

 

「は、ハラショー・・・・」

 

 

〜〜〜〜数分後〜〜〜〜

 

 

「じゃあヒビキさんはその響鬼っていう姿に変身して魔化魍っていう妖怪と戦っていると・・・・」

 

ヒビキと上着を借りた絵里はテントに向かって歩いていた。

 

「そ♪ 話だけじゃバカバカしいでしょ?」

 

「い、いえ・・・。現に昨日あんなのを見たら・・・」

 

「まぁ俺も悪かったよ。もうちょっと勘が鋭かったらもっと早く片付けて二人に怖い思いさせずに済んだんだけど。それに今年大学生だっけ? なんかデリケートな時期にあんなもん見せちゃって」

 

「いえ、気にしないでください。事実助けて貰いましたし」

 

「そう言ってくれるとこっちも気が楽だよ」

 

「とりあえずなるべく秘密みたいですしこのことは希にも言わないでおきます」

 

「ありがとねエリチちゃん。いややっぱり絵里ちゃんってちゃんと呼んだ方がいいかな」

 

「いえいえ、気にしないで下さい」

 

「そっちも敬語使わないでいいよ。同い年だし」

 

「え? もっとヒビキさん年上だと思ったんですけど」

 

「なにそれ? もしかして老けて見えた?」

 

「いえいえ。かなり落ち着いてたんで・・・、あいや・・・、落ち着いてたから・・・・」

 

「まぁあんなの相手にしてたらイヤでも落ち着くよ・・・」

 

「でも凄いですヒビキさん。それにカッコいいです」

 

「ありがとな♪」

 

曇りのない笑顔を見せるヒビキに絵里もつれて笑顔になる。

 

「お! やっぱり笑顔の方が美人だな」

 

「え?」

 

「昨日からやたら表情固かったからさ。ようやく笑顔見せてくれたな」

 

「・・・・・ふふふ。なんか私バカみたい。ヒビキさんのお陰で気が楽になったわ。助けてくれたしなんだが昨日今日で凄いヒビキさんに助けてばっかり」

 

「人助けるのが俺の仕事だから当然だよ」

 

 

笑顔を見せる二人は並びながらテントに向かった。

 

 

 

───────────

 

 

「よし。それじゃあ俺はここら辺でドロンするよ。二人とも気を付けてね」

 

「ありがとヒビキさん」

 

「ありがとうございますぅ」

 

二人を駅の前まで送ってもらい焔にまたがるヒビキに絵里と希は礼をする。

 

「それじゃあまた会う日まで元気でね」

 

「・・・・・あの、ヒビキさん!」

 

エンジンをつけヘルメットを被るヒビキを呼ぶ絵里。

 

「ん?」

 

「・・・・・また会える?」

 

「多分ね。そんじゃ! シュッ!」

 

頬を少し赤く染める絵里にヒビキは敬礼するとそのまま焔で走り去った。

 

「エリチ・・・・、もしかして?」

 

「そ、そんなことないわよ! 決して好きになったりなん・・・・て・・・」

 

「別にうち、好きになったとは言ってへんよぉ?」

 

「の、希ぃ!」

 

「えへへへ〜〜〜♪」

 

顔を真っ赤にする絵里をからかう希。

 

二人は無事に電車に乗り東京へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばエリチ、うち気づいたんやけど」

「何を?」

 

「ヒビキさんのバイク、東京ナンバーやったで? しかも方向も」

 

「・・・・・あ・・・」

 

「良かったねエリチ。また会えるよ♪」

 

「からかわないでよ希ぃ!」

 

 

───────────

 

時は夕方

東京・下町

甘味処たちばな前

 

 

「いやはや、本日はありがとうございました」

 

「大変美味しゅうございました」

 

並んで礼をする親子。

眼鏡をかけた男性は関東エリア支部長【立花勢地郎】、もう片方の硬い口調の女性は彼の娘【立花日菜佳】だ。

 

「いえこちらこそ。たちばなさんにお褒め頂きこちらも励みになります。今後ともお互いいい和菓子を出していきましょう。そういえば聞いてたより一人少なかったんですけど」

 

「あ〜〜〜。いやですね、うちの従業員が一人楽しみにしてたんですけど仕事がながびいちゃいまして」

 

日菜佳は勢地郎と顔を合わせ申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「まぁ帰ってきたらそちらに挨拶しにいかせますんで」

 

「いえいえ、お気になさらず。それでは。本日はありがとうございました」

 

「いえいえ。こちらこそ」

 

互いに礼をすると高坂夫妻は歩いて帰っていった。

 

「結局ヒビキは間に合わなかったなぁ」

 

「楽しみにしてたのに残念ですねぇ」

 

店の中に入っていく立花親子。

その直後店の前に焔が停車、ヒビキがヘルメットをとり駆け寄ってきた。

 

「おやっさん! 穂むらさんは?」

 

「おうお帰り。タッチの差で間に合わなかったなぁ。今帰っちゃったよ。まぁお菓子は冷蔵庫の中に入ってるから頂きなさい。感想があれば後で私の方から電話するから」

 

「ん〜〜〜〜。でもやっぱり申し訳ないから今からお詫びに行ってきます。まぁ距離も少しだし鍛えるのも兼ねてひとっ走りいってきます。途中なんか買っていきますんでバイクお願いします」

「まぁその方があちらも不愉快にはならないだろう」

 

「そんじゃま♪」

 

敬礼しつつヒビキは手土産にする菓子買うべく洋菓子店に向かって走って行った。

 





僕は穂乃果ちゃんと絵里ちゃんと花陽ちゃんが好きです。

早く甘い展開書きたい(笑)


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三の巻/語る過去


そういえば最近気づいたんですが穂むらとたちばなってロケ地一緒なんですね(笑)

なんて偶然だ・・・。


高坂家・穂乃果の部屋

 

 

「じゃあ皆ゆっくりしててね。穂乃果お茶入れてくるから」

 

「ねぇ穂乃果ちゃん、アルバム見ていいにゃ?」

 

お茶を入れに一階におりようとする穂乃果にショートカットのボーイッシュな少女【星空凛】は本棚のアルバムを指差し訪ねる。

 

「大丈夫だよ。じゃあ待っててね」

 

穂乃果がその場を離れると凛と共に大人しげな少女【小泉花陽】、一年生の中でも大人な雰囲気を持つ【西木野真姫】がアルバムを見始める。

 

「うわ〜〜、穂乃果ちゃん可愛いにゃ〜〜〜」

 

「浴衣似合ってる〜〜〜。あ、ことりちゃんと海未ちゃんもいるよ。皆可愛い〜〜〜」

 

 

「ち、ちょっと見ないでください。恥ずかしいです!」

 

「忘れてたね。私達も結構写真取られてたの」

 

赤面する青髪の長髪【園田海未】、脳を溶かしそうな甘い声の【南ことり】。

 

すると真姫がある写真に注目する。

 

「あれ? この写真の穂乃果、なんで男の子の上着握りしめてるの?」

 

その写真には海辺をバックにする穂乃果。その手には男子が着る上着をシワが出来るほど握りしめている。

 

「懐かしいなぁ〜〜〜。この写真」

 

「この写真は8年前の穂乃果が海に旅行に行った時のものです。あの時は帰ってきた時の穂乃果の作り話を毎日聞かされてました」

「「「作り話?」」」

 

一年生三人が声を揃えると穂乃果がお茶が乗ったお盆を手に戻ってきた。

 

「ん? どうしたの?」

 

「ねぇ穂乃果ちゃん。この写真の時の作り話ってなんにゃ?」

 

「え? それは・・・・」

 

凛の質問に困る穂乃果。しかし他二人も知りたげに見つめる。

 

「えっとね・・・。穂乃果ちゃんの10歳の夏なんだけどね・・・・」

 

 

〜〜〜〜8年前〜〜〜〜

 

 

「はぁ・・・、だれか・・・、助け・・・」

 

調子にのって足の届かない深さまで泳いできてしまった穂乃果は溺れていた。

しかも天気も急に悪化し出てきた風で波も荒くなり、体力が限界の穂乃果には到底乗り越えられない環境に。

 

「誰・・・か・・・」

 

ついに力尽きた穂乃果は海に沈む。

 

(穂乃果死んじゃうのかな・・・・、やだよ・・・、穂乃果まだやりたいこと沢山あるのに・・・。もっと海未ちゃんやことりちゃんと遊びたいよぉ・・・。もっと美味しいもの食べたいよ・・・。お母さんみたいに大好きな人と結婚したいよぉ・・・。やだよぉ・・・、死にたくないよぉ・・・)

 

流した涙も直ぐに海の一部となる冷たい世界で穂乃果の意識が途切れる。

 

その時だった。

10歳程の少年が穂乃果の腕を掴むと浮上、近くの座礁に穂乃果を寝かせる。

「待ってろ! 今助けるから!」

 

少年は穂乃果の左胸を組んだ両手で押していく。そして気道を確保し人口呼吸をする。

 

少年はそのサイクルをひたすら繰り返す。

 

「起きろ! 返ってこい!」

 

「・・・・・ゴホッ! ケホッ、ケホッ・・・」

 

「よし!」

 

水を吐き意識を取り戻した穂乃果の目に入ってきたのは笑顔を見せる少年。

 

「・・・・・穂乃果を助けてくれたの?」

 

「鍛えてるからこれぐらいは出来ないと♪」

 

「・・・・・うえ〜〜〜〜ん!」

 

敬礼のようなポーズをする少年に穂乃果は急に泣き出し抱きつく。

「? えっと・・・・」

 

「怖かったよぉ〜〜〜〜! 穂乃果死んじゃうかと思ったよぉ〜〜〜!」

 

「・・・・大丈夫。俺が護るから」

 

少年は優しく穂乃果の頭を撫でる。

穂乃果も少年の言葉に安心したのか落ち着いて静かに離れる。

 

「とはいえ・・・」

 

少年が見る海は荒れに荒れていた。

 

「この海を女の子一人背負って泳ぐ自信はないな。仕方ない」

 

少年は穂乃果を背負うと座礁にある小さな鍾乳洞へ向かった。

 

「仕方ない。明日になったら海も落ち着くだろうからそれまでは一晩ここで籠城かな」

 

 

 

少年は鍾乳洞の中で穂乃果を座らせると近くの枝を集め始めるや否や木片に枝を押し付け回し始める。

 

「なにするの?」

 

「火を起こすんだよ。いくら夏でもこのままじゃ凍えちゃうしね」

 

「で、でもそんなんじゃ。ライターとかマッチとかじゃないと」

 

「大昔の人はこうやって火起こししてたんだよ。ほら」

 

穂乃果と喋りながらも枝を回す少年。

すると煙が上がってくる。

 

「よし!」

 

少年は火種に空気を当て火を大きくすると枝の山に火をつけ焚き火に。

 

「よし! これで火元は出来た! ほら。暖まるよ」

 

「う、うん」

 

焚き火近くに座り焚き火に手をかざし身体を暖める二人。

 

「・・・・・あのぉ・・・」

 

「ん?」

 

「お名前は? 穂乃果はね高坂穂乃果って言うんだ。小学四年生!」

 

「僕? 僕は日々輝。日向日々輝(ひゅうがひびき)って言うんだ。僕は五年。なんだか変な名前でしょ」

 

「凄ぉい! カッコいい!」

 

穂乃果に名前を誉められた少年【日向日々輝】は照れくさそうに頬をかく。

 

「ねぇヒー君! ヒー君はなんで穂乃果を助けてくれたの? あ、ヒー君って言うのはね? 日々輝君とヒーローから取ってヒー君だよ」

 

 

「ヒーローって・・・。僕そんな立派なものじゃないよ。そりゃあ鍛えてるから助ける自信があった。だから助けに行ったってのもあったけど・・・・」

 

「けど?」

 

「僕のお師匠様だったら絶対に助けに行ってた。だから真似てみたんだ。それにこんなに可愛い娘だもん。将来幸せになってもらいたかったし」

 

「そ、そんなことないよぉ。穂乃果なんて。お友達のことりちゃんとか海未ちゃんの方がもっと可愛いよぉ」

 

「そっか。穂乃果ちゃんは優しいね」

 

笑顔で誉められた穂乃果は頬を赤くし日々輝と目線を反らす。

 

「くしゅん!」

 

すると穂乃果は小さくくしゃみをする。

 

「! やっぱり冷えるかぁ。はい」

 

「え?」

 

日々輝はなんの躊躇いもなく自分の上着を穂乃果の肩にかける。

 

「でもヒー君が風邪ひいちゃうよぉ」

 

「大丈夫! 鍛えてますから♪」

 

「そ、それじゃあ!」

 

穂乃果は日々輝の腕を掴み自分の身体に抱き寄せる。

 

「寒いときは人肌? だっけ? そんな感じに暖めあった方がいいってテレビで言ってたんだよ。だからこうすればきっと暖かいよ」

 

「ありがとうね穂乃果ちゃん」

 

左腕を掴まれているため日々輝は右手で穂乃果の頭を撫でる。

 

 

「ねぇ、穂乃果も何かあだ名で呼んでもらいたいなぁ」

 

「え? それじゃあ・・・・・ほのちゃんは?」

 

「うん。ヒー君♪」

 

「ほのちゃん♪」

 

「ねぇヒー君。ヒー君は誰と来たの? 穂乃果はね、雪穂とお母さんとお父さんと来たんだぁ」

 

「へぇ〜〜。いいねぇ。僕はお師匠様と来たんだ」

 

「お師匠様?」

 

「うん。僕にとってその人が家族なんだ」

 

「お父さんとお母さんは?」

 

「・・・・・ちょっと前に死んじゃったんだ・・・」

 

「ご、ごめんなさい! 穂乃果気づかないで・・・」

「気にしなくていいよ。父さん母さんがいないけど今の僕には京介さんって言う兄弟子さんもいるしイブキさんやトドロキさんっていうカッコいい人たちもいる。なんにも寂しくないよ」

 

「そ、そうなんだ。良かった」

 

「そろそろ時間も遅いし寝ようか」

 

「うん・・・・。ねぇ・・・・、ヒー君・・・」

 

「ん?」

 

「もし・・・・、もしだよ? また穂乃果が怖い目にあったら助けてくれる?」

 

「うん。だって僕はほのちゃんのヒーローでしょ?」

 

「うん! ありがとヒー君! だ〜〜〜い好き!」

 

不安げな表情から一転、満面の笑顔を見せた穂乃果は日々輝の頬に唇をつける。

 

「ほ、ほのちゃん?」

 

「穂乃果ね? なりたいもの一つ見つかった! ヒー君のお嫁さ〜〜〜ん♪」

 

「・・・・・ありがとねほのちゃん。僕もほのちゃん大好きだよ」

 

「うん♪」

 

二人は焚き火の暖かさに眠気を誘われながら、互いの身体に寄り添いながら睡眠、一夜を過ごした。

 

 

───────────

 

 

翌朝

 

「ふぅ。ついたついた」

 

鍾乳洞から穂乃果を背負い泳いできた日々輝。

浜辺にあがると穂乃果を丁寧に座らせる。

 

「ありがとヒー君♪」

 

「鍛えてますから♪」

 

お馴染みの敬礼を笑顔でする日々輝に穂乃果もつられて笑顔になる。

 

「ねぇヒー君。また会える? ずっと友達?」

 

「うん。お師匠様が言ってたんだ。どんなに離れてても絆っていうのは途切れないって。だからほのちゃんともずっと友達だ」

 

「約束だよ?」

 

「男に二言はない♪」

 

二人は互いの小指を結び合う。

 

 

 

 

 

 

 

すると。

 

「お〜〜〜〜い! 日々輝〜〜〜〜!」

 

浜辺を一人の男性が走ってきた。

更に遠くではあるものの反対側の浜辺からも三人の人影が。一つの人影に至ってはかなり小さい。

 

「ヒビキさん! どうやらお別れだね」

 

「ヒー君・・・・」

 

涙ぐむ穂乃果に日々輝は同じ目線までしゃがむ。

 

「大丈夫! 必ずまた会えるよ。それまで元気でね」

 

「・・・・・うん。でも会えなかったら後悔するんだからね! 穂乃果絶対、ぜ〜〜〜〜〜ったいいい女になってモテモテになってるんだからね!」

 

「そいつは楽しみだ♪」

 

日々輝は穂乃果の頭を撫でるとそのまま男性に向かって走り去ってしまった。

 

 

「またね・・・・。また会お〜〜〜〜〜〜ね〜〜〜〜〜〜! ヒ〜〜〜〜〜〜く〜〜〜〜〜ん!」

 

声をあげる穂乃果に日々輝は振り向かずに敬礼のポーズを返し男性と共に浜辺を後にした。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「「「・・・・・」」」

 

穂乃果の話を聞き終えた一年生たちは唖然とする。

 

「まぁこんな感じなんだけど」

 

「でも11歳にしてはそこまで出来るのはちょっと嘘くさいわね。いくらなんでも」

 

「そうなんだよぉ。皆、そう思って当時は信じてくれなかったんだよぉ」

 

「それでその後ヒー君はどうなったの?」

 

真姫から感想を聞いた穂乃果に花陽が気になり続きを気にする。

 

「翌日その辺りに行ったんだけどさっぱり・・・・。それ以降ヒー君には会えなかったんだ」

 

「切ないね・・・・。ひと夏の恋かぁ・・・」

 

しみじみ思う花陽たち。

 

「穂乃果ちゃんは今でもヒー君に会いたいと思うにゃ?」

 

「・・・・・うん・・・」

 

凛の質問に静かに、だが強く答える穂乃果。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいませ〜〜〜ん」

 

すると玄関から声が聞こえる。

 

 

「お客さんかなぁ。ちょっとごめんね。まだお母さん達帰ってきてないからちょっと降りてくるね」

 

穂乃果はお茶を置き再び一階へ。

 

 

───────────

 

 

穂むら前

 

「う〜〜〜ん。やっぱりまだ帰ってないかな。たぶん夕方だから買い物してるんだろうけど」

 

手には洋菓子店シャルモンの土産を持ったヒビキが。

 

「ケーキだからすぐに冷やさなきゃなんだけど・・・・。仕方ない・・・。また来よう。これは持ち帰って皆で・・・」

 

「あの・・・」

 

「?」

 

振り返り帰ろうとしたヒビキ。しかし呼ばれて振り向くとそこには穂乃果の妹【高坂雪穂】と絵里の妹【絢瀬亜里沙】が。

 

「もしかして穂むらさんの方?」

「もしかしても何もそうですけど? どちら様ですか?」

 

「ああ、俺はたちばなの者なんですけど今日新メニューの試食会に参加できなかったんでお詫びに来たんだ。これつまらないものだけど」

 

ヒビキは雪穂にシャルモンの紙箱を見せる。

 

すると雪穂、更には亜利沙の目の色が一気に変わる。

 

「ゆ、雪穂! これってあの高級洋菓子店シャルモンのロールケーキだよ!」

 

「お、落ち着いてよ亜利沙! と、とりあえず中にどうぞ。うちたいしたものないですけど」

 

「えっと・・・・・。じゃあ・・・お邪魔します」

 

目を輝かせながら生唾を飲む女子二人にヒビキはやや怯むも、誘いをうけ穂むらの中へ。

 

 

───────────

 

雪穂は階段をかけ上がり穂乃果の部屋へ。

 

「お、お姉ちゃん! ケーキだよケーキ! シャルモンのケーキ!」

 

「おおお〜〜〜〜〜! ホント!? でもなんで?」

 

「たちばなの人が持ってきてくれたんだよぉ! ほら今日お母さん達が一緒に新しいメニューの試食会するって言ってたじゃん。それに参加できなかったんでお詫びにって。とにかくお姉ちゃんお茶! お茶出して!」

 

「い、イエッサー!」

 

目を輝かせる穂乃果の口からヨダレがたれる。

穂乃果は敬礼すると一階に降りお茶を入れた茶飲みをお盆に乗せ客席に座るヒビキの元に。

 

「ど、どうもお待たせしましたぁ〜〜〜♪ これ粗茶ですが〜〜〜」

 

「お。どうもどうも」

 

その直後穂乃果は自分のスリッパにつまづき転がりかける。

しかしヒビキは直ぐ様駆け寄ると穂乃果を受け止め、落ちる茶飲みを溢さずにキャッチする。

 

「おおおお〜〜〜。ハラショー!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「鍛えてますからこれぐらいは出来ないと♪」

 

それなりの距離があったにも関わらず穂乃果を受け止め茶飲みも保護したヒビキに亜利沙は拍手、穂乃果も礼を言う。

 

対しヒビキも敬礼。

 

(・・・・あれ? このポーズに鍛えてるって・・・・、まさか!)

 

しかしヒビキの言葉に敬礼、これらに反応した穂乃果は静かに起き上がる。

 

「・・・・・ヒー君?」

 

「へ? まぁ前に助けた女の子にそう言われ・・・・・、ほのちゃん!?」

 

「・・・・・ヒー君〜〜〜〜!」

 

「おわっ! 熱っ!」

 

満面の笑顔を浮かべるや否やヒビキに抱きつく穂乃果。ヒビキはとっさのことで後ろに押し倒される。そして手に持っていたお茶が手にかかる。

 

「ヒー君だぁ! ヒー君! 会いたかったよぉヒー君〜〜〜〜!」

 

「ほ、ほのちゃん・・・・。ちょっと離れ・・・、!」

 

抱きつきすりつく穂乃果を優しく離そうとするヒビキ。

しかしその光景に二階から降りてきた直後直面した海未達は言葉を失う。

 

「ただいまぁ。でもなんでお店が開いて・・・・・」

 

更に穂乃果達の両親までも現れ、目の前の光景にフリーズする。

 

「は、破廉恥です穂乃果! 殿方を押し倒すなんて!」

 

「穂乃果ちゃん、大胆・・・」

 

「凛ちゃんにはまだ速いよぉ」

 

「にゃにゃにゃ! かよちん見えないにゃ〜〜〜!」

 

「・・・・・べ、別にそういう相手がいるからって羨ましくなんかナインダカラ・・・」

 

「お姉ちゃん・・・・」

 

「ハラショー・・・・」

 

 

「お、お父さん落ち着いて! ちょっとなにそのホッケーマスクとチェーンソー! どっから出したの? み、皆お父さん止めて!」

 

顔を赤くする者、黙って見つめる者、ジェイ〇ン装備で襲いかかる者など大騒ぎの穂むら。

 

その後状況が落ち着くのは約一時間後のことになる。

 





気になっている方もいるかもしれませんがイブキさんたちもだします。

ちなみに今作は2014年の設定です。去年に一期がやったので。後8年前というのは響鬼の世界観ではちょうどオロチを沈めてから最終回まで一年間あくこの空白期間という設定にしてます。


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四の巻/歌舞く鬼


今回ようやく戦鬼が一人でます。




穂むら・客間

 

 

「では二人ともごゆっくり〜〜〜〜」

 

片手にフライパン、左手でジェイ〇ンをひきづりつつ立ち去る穂乃果の母。

 

壁に隠れ状況を伺う海未達も知らずに穂乃果はヒビキと同じテーブルに座り語り始める。

 

「久しぶりだねヒー君」

 

「うん。ほのちゃんも元気そうで良かったよ。8年ぶりだ」

 

「うん♪ ヒー君も元気で嬉しい。それになんだか凄くカッコよくなっちゃってびっくりしちゃった」

 

「俺も俺も。ほのちゃんすごく可愛くなって驚いたよ」

 

「そ、そうかなぁ〜〜〜。なんだか照れるよぉ〜〜〜」

 

「いやいや。すごく可愛くなった。こりゃあ俺、友達としては見劣りしちゃうよ」

 

「そんなことないよ! ヒー君だってスッゴくカッコいいもん!」

 

「そう? ありがとなほのちゃん」

 

「うん♪ ・・・・・その・・・、ヒー君?」

 

「ん?」

 

「ま、前みたいに頭・・・・・撫で・・・・て欲しいなぁ〜〜〜・・・・なんて・・・・」

 

席を寄せ上目遣いで頼む穂乃果。

 

「そうだなぁ〜〜。ちょっと照れくさいけどほのちゃんのお願いとならば」

 

ヒビキは照れながら頬をかくも嫌な顔一つ見せずに穂乃果の頭を撫でる。

「久しぶり〜〜〜〜。ヒー君の撫で撫で〜〜〜♪」

 

「なんだか前に戻ったみたいだな。こうしてると」

 

「うん♪ ねぇヒー君、いつも何してるの?」

 

「言うなれば人助けかな」

 

「すっごぉい! やっぱりヒー君はヒーローだよぉ!」

 

「そうかなぁ」

 

「うん! ねぇヒー君。もし良かったらなんだけどメアドとか交換して欲しいな〜〜〜、なんて・・・」

 

「別にいいよ」

 

「ホント!?」

 

二人はスマフォを操作し赤外線機能のためにそれぞれのスマフォを近づける。

顔も近づくが下を見ているせいか気づかない。

 

「送信完了〜〜♪」

 

「ありがとヒーくn!」

 

目前に迫っていたヒビキに穂乃果は顔を真っ赤にする。

 

「ん?」

 

「な、なんでもない! なんでもないよぉ?」

 

「? あれ? もうこんな時間かぁ」

 

「あ、ホントだ・・・・」

 

「長い間いるのも迷惑だしそろそろ失礼するよ」

 

「え? もう帰っちゃうのヒー君」

 

「大丈夫。俺は結構たちばなにいることが多いからいつでも来てね」

 

「う、うん・・・・」

 

同じ目線にしゃがみ頭を撫でるヒビキに穂乃果は仕方なく納得する。

「ついでにお友達も送ってくよ。ね?」

 

物陰に声をかけるヒビキ。

すると隠れていた海未達が出てくる。

 

「み、見てたの皆ぁ! 恥ずかしい〜〜〜」

 

「もう遅いし送ってくよ。夜中に女の子出歩かせるのは危ないしね」

 

「えっ〜〜と。私とことりは家が近いので大丈夫です」

 

「私達も家は近場です。送ってくなら亜里沙ちゃんを送ってあげてください。一人になっちゃいますし」

 

「了解。そんじゃ亜里沙ちゃん行こうか」

 

「はい。じゃあね雪穂、皆さん!」

 

「それじゃあまたな! シュッ!」

 

亜里沙はヒビキと共に穂むらを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 

「ずっと見てたの?」

 

「「「「「「・・・・・はい・・・・」」」」」」

 

「もぉ〜〜〜〜〜!」

 

 

───────────

 

 

絢瀬家前

 

「遅いわねぇ亜里沙ってば。穂むらに寄ってくって行ってたけどいくらなんでも・・・・、まさか途中で暴漢に襲われてあんなことやこんなことを!?」

 

一人妙な妄想にを浮かばせる絵里。

 

すると二人の人影が近寄ってきた。

 

「あ、おねーちゃーーん! ただいま〜〜〜〜」

 

「よっ! また会うとはね」

 

明かりに照らされた二人は亜里沙とヒビキだった。

 

「ひ、ヒビキさん!? なんで亜里沙と!?」

 

「いやぁ〜〜〜。なんて言うか・・・・」

 

「ヒビキさんね、高坂先輩が小さい頃助けられた人でね? 穂むらのお知り合いのお店で働いてるんだって。お姉ちゃんもヒビキさんとお知り合いなの?」

 

「え、ええ。昨日山で遭難したところを助けてもらったの。でもまさかこんなにすぐ会うなんて思わなかったわ」

 

「そうだったんだぁ〜〜〜。あ! 遅くなったことママ達に謝らなくちゃ! お休みなさいヒビキさん!」

 

「うん。お休み」

 

手を振って絢瀬家に入っていく亜里沙。玄関前にはヒビキと絵里だけが残る。

 

「口裏合わせてくれてありがとね」

 

「いえ。命の恩人ですので。それにこんな遠くまで亜里沙を送っていただきましたし」

 

「たいしたことじゃないよ。それじゃあ俺はこの辺でドロンするよ」

 

「はい・・・・」

 

振り返り帰路を歩き始めるヒビキ。

 

「・・・・・あの!」

 

そんなヒビキを絵里が呼び止める。

 

「ん?」

 

「・・・・・また・・・、会えますか?」

 

「うん。俺基本的にはたちばなっていう甘味処にいるから。是非来てね」

「はい・・・」

 

「そんじゃ! シュッ!」

 

ヒビキは笑顔で敬礼を返し闇の中へ走り去った。

 

 

「・・・・・やっぱり変ね。ヒビキさんと会うと顔や身体が熱くなるわ・・・。風邪かしら・・・」

 

絵里は自分の異常を勘違いしたまま家の中へ入っていった。

 

 

───────────

 

 

「にしてもまさか穂乃果の話が本当だったとは思いませんでした」

 

「うん。前に信じてあげなくて悪かったよね」

 

帰り道を歩く海未とことり。

 

「でも穂乃果ちゃん嬉しそうだったね。もしかしてヒビキさんのこと今でも好きなのかなぁ」

 

「す!? ことり! そ、そんなふしだらなことを! ああ、でも穂乃果だったら色んな過程を通り越してあんなことやこんなことを・・・・」

 

「海未ちゃん・・・・・。・・・・あれ? 海未ちゃんあれ・・・・」

 

「え?」

 

妙な妄想に入り込む海未を苦笑いで見つめることりだったが、暗闇のライトに照らされた二人組を指差す。

 

その先にはスーツ姿の中年男性と女性。しかも女性の服装は音ノ木坂の制服である。

 

「あれって・・・・、まさか援助交際ですか!?」

 

「す、すごぉい・・・・。初めて見たぁ・・・、あれ? また人が・・・」

 

更に二人組の後ろには別の人影。年齢は十代後半、細マッチョと言えるような体格の青年だ。

 

「まさか援助交際と見せかけて二人であの方からお金を巻き上げるとか・・・」

 

「えええ〜〜〜〜! どうしよう海未ちゃん!」

 

「とはいえ証拠も何もありませんし後を追いましょう!」

 

「ら、ラジャ〜〜」

 

海未とことりは二人組の男女を尾行する青年を更に尾行する形で廃ビルの中へ入っていった。

 

 

───────────

 

 

東京都・廃ビル内

 

 

「こんなところでヤるのかぁ? なかなか大胆だなぁ〜〜〜」

 

「いいでしょ〜〜〜。それに興奮しない?」

 

「するする♪」

 

先ほどのスーツの中年男性と音ノ木坂の制服の女性が入ってきた。

 

二人はソファーのそばに落ち着く。

 

「そんじゃ始めよう。時間がもったいないし」

 

上着を脱ぎネクタイを緩める男性。

 

「そうね。時間もったいないし始めましょ」

 

しかし女性はそんな素振りも見せずに指を鳴らす。

 

すると壁に一体化していた童子と姫が現れる。

 

「な、なんだお前ら! おいこれはなんなんだ!」

 

「あんたは餌なの! ほら! やっちゃって!」

女性は童子の影に隠れる。

童子達も不気味に笑いながら男性に歩み寄る。

 

「ひ、ひぃ〜〜〜」

 

情けない声をあげ腰を抜かす男性。

その時一機の【アサギワシ】、数機の【アカネタカ】が童子達に襲いかかった。

 

童子達はディスクアニマル達を叩き落としつつ後退。

そしていつの間にか男性を庇うように尾行していた青年が立っていた。

 

「き、君は・・・」

 

「ちょ〜〜〜と失敬♪」

 

青年は笑いながら呪術式の入った札を取りだしライターで燃やす。すると呪術文字達は男性と女性の額につき気絶させる。

 

「気づいたときにはきれいさっぱりだ。さてと。お仕事お仕事♪」

 

青年は童子達に視線を移すと睨みを効かせながら音角を取り出す。

青年【カブキ】は音角を軽くかかとで鳴らし額にかざす。

するとカブキの身体を桜吹雪が覆い彼を【歌舞鬼】へと変身させた。

 

童子達もそれぞれ怪童子と妖姫に変化し襲いかかる。

 

「音叉剣!」

 

そして歌舞鬼も音角を【鳴刀・音叉剣】に変化させ走り出す。

 

物陰でその一部始終を息を飲んで見守る海未とことりに気づかずに歌舞鬼は怪童子達と激突した。

 

 



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五の巻/秘める思い


凄く久々の投稿になり申し訳ありませんでした。




「な、なんなんですかあれ!?」

 

「鬼・・・・さんかなぁ・・・」

 

物陰から歌舞鬼と童子達の戦いを見つめる海未が投げ掛けた疑問に一緒に見ていることりが感じたままの見た目の感想を答える。

 

「鬼って・・・・、そんな昔話じゃないんですから・・・」

 

呆れ半分に答える海未。二人は改めて歌舞鬼の戦いに視線を戻した。

 

 

 

 

「はっ!」

 

怪童子の背中会わせに転がりつつ妖姫に蹴りを放つ歌舞鬼。

 

そのまま怪童子に音叉剣を降り下ろすが寸前で避けられる。

 

「んなろぉ! ちょこまかちょこまか逃げんな!」

 

 

歌舞鬼の剣を寸前で避ける怪童子。

その時妖姫が歌舞鬼に飛びかかる。

 

「! なんてな!」

 

歌舞鬼は拳を紙一重で避けつつ妖姫の胸部に音叉剣を突き刺す。

 

「隙あり!」

 

隙を突こうとした怪童子に白い血を浴びながら歌舞鬼は鬼火を放つ。

そのまま音叉剣を抜き燃え上がる怪童子を横一閃に斬る。怪童子達は同時に爆発し土塊に。

 

「「きゃっ!」」

 

「きゃっ?」

 

しかし爆発に驚いた海未達が声をあげてしまう。

 

「・・・・隠れてないで出てこいよ。別に取って食おうって訳じゃねぇんだから」

 

音叉剣を戻し納めた歌舞鬼の視線に恐る恐る海未達が出てくる。

 

「・・・・・あの・・・」

 

「へぇ〜〜。可愛いじゃんか。こんな状況じゃなきゃ直ぐに口説くんだが・・・・」

 

振り向く歌舞鬼。

次の瞬間、天井を破壊し【ヌリカベ】が現れた。

 

「「!」」

 

「ヌリカベか・・・」

 

驚く海未達を下げる歌舞鬼は後ろ腰から音撃棒【烈翠】を手に駆け出す。

 

「はっ!」

 

ヌリカベの触手を烈翠で弾きつつ接近する歌舞鬼だが死角から来た触手に吹き飛ばされる。

 

「んなろぉ!」

 

しかし歌舞鬼は起き上がり片手に音叉剣を持ち触手を斬り伏せていく。

 

「どらぁ!」

 

そして飛び蹴りをヌリカベの首に放ち後ろに倒すと馬乗りになり音撃鼓をたたきつける。

 

「音撃打! 豪火絢爛の型! はっ!」

 

歌舞鬼は烈翠を両手に音撃鼓を叩いていく。

 

「はっ! はっ! はっ! はっ!」

 

叩かれる度に緑の波動を放ちヌリカベを弱らせる音撃鼓。

 

「はああああああ、はっ!」

 

そして同時に烈翠が叩かれるとヌリカベの身体が膨らみ爆散する。

 

「ふぅ」

 

手元に戻ってきた音撃鼓をベルトに戻しながら歌舞鬼は隠れる海未達に歩み寄りながら変身解除、元の服を着たカブキに戻る。

 

「あまりおおっぴらに話すなよ? 話しでもしたようなら・・・」

 

悪い顔で歩み寄るカブキにおののく海未達。

 

「「話しでもしたら?」」

 

「食べちゃうぞ。性的な意味で」

 

「な、な〜〜〜〜んだぁ。ビックリしたぁ」

 

「・・・・・」

 

「海未ちゃん?」

 

「は、ハレンチです! お下品です!」

 

「・・・・・いいねぇ、このうぶな感じ。ぞくぞくするねぇ」

 

「なんだか違う人が入ってますよ! 性的な意味で食べるだなんて不潔です!」

 

「冗談に決まってんだろ。なんだぁ、想像したか? なんなら見せてやろうか?」

「結構です!」

 

「そんな耳まで真っ赤にして言うなよ冗談だって。まぁ冗談はこの辺までにして」

 

一瞬にして表情と空気が変わるカブキに海未は静かになる。

 

「あの怪物は人間を喰らう。今回は基本的に盛ったオスしか引っ掛からないようなケースだったから良かったが・・・」

 

「「・・・・・」」

 

「だから今度ああいう怪物に遭遇したら逃げろ。なんも考えずにな」

 

「・・・・わかりました・・・」

 

「ありがとうございます・・・」

 

頭を下げる海未とことり。

 

「とりあえずもう時間が・・・」

 

カブキが見せる左の腕時計の針は既に10時を回っていた。

 

「もう遅いし送ってくぜ。途中バケモンよりタチの悪いのに引っ掛けられたら目覚めが悪ぃしな」

 

「ど、どうしよう海未ちゃん・・・」

 

「正直不安でないと言えば嘘になりますし・・・。お言葉に甘えて宜しいでしょうか・・・・。ご紹介が遅れました。私園田海未と言います」

 

「南ことりです」

 

「カブキだ。よろしくな!」

 

自己紹介した三人はそのまま暗い道を歩いていった。

 

 

 

 

 

「ちなみにお礼というかなんというか君らのスリーサイズ・・・・・あべしぃ!」

 

 

「次は鈍器でいきますよ」

 

 

 

───────────

 

 

「送って頂きありがとうございました・・・・」

 

「気にすんなよ」

 

園田家の玄関前に着いた海未とカブキ。

 

「そういえば園田って日本舞踊の名家だよな」

 

「はぁ・・・・」

 

「お互い親やらご先祖が凄いとプレッシャーがかかるよな」

 

「お互い? カブキさんも?」

 

「・・・・・ああ、いや・・・。気にしないでくれ。俺の家系は代々鬼をやっててな。俺の親父やじいさん、曾じいさん、更にその前も皆鬼をやってたんだ。そんじゃあな、いい夢見ろよ!」

 

「えっと・・・・、カブ・・・」

 

海未が何か言いたげなのも気にせずカブキは闇の中へ消えていった。

 

「代々・・・・・ですか・・・」

 

 

───────────

 

たちばな・二階

 

 

「んで? カブキは二人程、ヒビキも一人見られた・・・と?」

 

「「すいませんでした・・・・」」

 

笑顔でありながらも何か黒いものを抱えて正座するヒビキとカブキを見下ろす勢地朗。

 

「まぁまぁ父上。二人も別に見せたくて見せた訳では・・・」

 

「・・・・・まぁ、二人とも若いなりに頑張ったからこそ被害を抑えられたんだろうしこれ以上は言わないでおくとしよう」

 

日菜佳のフォローで落ち着いた勢地郎。

 

「「ふぅ〜〜〜、今後はきをつけます」」

 

「うん。そういえば例の話聞いたかな?」

 

「例の話?」

 

「聞いてなかったのかカブキ」

 

「ああ」

 

「関東以外の各地で新人の鬼を教育させるのに関東からベテランを各地に配置変えするって話だよ。代わりに各地から一人ずつこっちに来るんだとさ」

 

「へぇ〜〜〜。どんなのが来るんだ?」

 

「それについてはもうメンバー割れたよ」

 

勢地朗はファイルから四枚の鬼のデータ紙を出し二人に見せる。

 

そこに乗っていたメンバーにヒビキ達は驚く。

 

「凄い偶然が起きたもんだな」

 

「ああ。俺を含め戦鬼が五人勢揃いとはな」

 

そこのデータ紙には戦国時代から存在する鬼の名家【戦鬼】の四人、【ニシキ】【ハバタキ】【トウキ】【キラメキ】の顔写真が乗っていた。

 

 

───────────

 

高坂家・穂乃果の部屋

 

 

「はぁ〜〜〜〜〜、まさかヒー君に会えるなんて夢にも思わなかったなぁ」

 

ベッドに横たわる穂乃果。

 

「ヒー君も覚えててくれて良かったぁ。今度のお休みにたちばなさんに行ってみよ〜〜っと♪ ・・・・・」

 

穂乃果はベッドの下から木箱を取りだし中身をあける。中にはかつてヒビキに借りた上着が。

 

「ヒー君・・・・」

 

穂乃果はヒビキの上着を抱き締めベッドに横たわる。

 

「ヒー君・・・・、穂乃果のことずぅーーっとおいてけぼりにしてた分、たーーーくさん甘えちゃうんだからね〜〜〜」

 

 

───────────

 

 

絢瀬家・浴室

 

「はぁ〜〜〜・・・・」

 

浴槽の中で天井を見つめる絵里。

 

「なんだか私変・・・・。なんだかヒビキさんのことが頭から離れない・・・・。なんでなのかしら・・・・。わからない・・・・。どうしてしまったのかしら・・・・」

 

絵里は水の中に顔を沈める。

浴室には天井から落ちる水滴の音、浴槽からでる泡の音のみが響き渡る。

 

絵里はゆっくりと頭をあげる。

 

「・・・・・なんだかよくわからないわ・・・・。・・・・も〜〜〜〜〜! もやもやするぅ!」

絵里は再び湯船に頭まで浸かった。

 

 

───────────

 

 

「ふえっくしょん!」

 

二人の乙女が考えていたころ能天気にジョギングをするヒビキのくしゃみが夜の街に響く。

 

「風邪ひいたかなぁ。それとも誰か噂してんのかなぁ。なにはともあれ!」

 

ヒビキは背負っていたリュックから音撃棒を取りだし構える。

 

「夏まであと約3ヶ月! もっと鍛えないとな!」

 





ちなみにカブキの服がまんまだったのには後々設定を付随します。



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六の巻/奏でる師弟


新キャラでます。


「♪〜〜〜」

 

とある小屋で鼻唄を歌いながら焚き火を燃やし武器を作る青年。

 

「師匠いつになったら帰ってくるんだろう。用心棒にでてだいぶ経つけど」

 

すると扉を叩く音が聞こえる。

 

「?」

 

青年は頭を傾げながら扉を開ける。

すると血だらけになった彼の師【カブキ】が倒れ込む。

 

「師匠! しっかりして下さい!」

 

肩を貸しながら小屋の中にカブキを寝かせる青年。

 

「待っててください! 今すぐに治癒の呪術を・・・・・」

 

「・・・・よ・・・・せ・・・・」

 

「カブキさん! まだ意識が・・・・」

 

「いいか・・・・。俺は生きてちゃいけないんだ・・・・。俺は・・・・身も心も鬼になっちまった・・・・。人を殺めた・・・・」

 

「なんですかそれ・・・・。だったら生きて罪を償ってください! 俺はまだ・・・・」

 

「俺の全てはお前に託したんだ・・・・。お前はもう・・・・一人前だ・・・・」

 

カブキは血だらけの手で青年に自分の音角を託す。

 

「カブキさん・・・・」

 

「いや・・・・・、今日からはお前がカブキだ・・・。カブキ・・・・、お前は鬼になりきるな・・・・。人を守れ・・・・。鬼として・・・・」

 

「・・・・・はい・・・。カブキさんが殺めたなら俺はその人達の何倍も・・・、何万倍も守り抜きます・・・・。カブキさんの罪は俺が償っていきます・・・・」

 

「・・・・・ありがとな・・・・」

 

青年に音角ごと手を握られるカブキ。

カブキは安らかに笑うとそのまま笑顔で眼を閉じ静かに永遠の眠りについた。

 

 

〜〜〜〜数日後〜〜〜〜

 

 

小屋の前に小さな墓が築かれた。

 

その墓の前にはカブキから名を託された青年が。

青年は桜に包まれながら歌舞鬼に変身し膝をつく。

 

「後は任せて安らかに眠ってください。俺が・・・・・、カブキさんの意思を引き継ぎます・・・」

 

歌舞鬼は立ち上がるとその墓に背を向け歩き出した。

 

 

 

新たに作られた鬼の支援組織【猛士】の一員、明日夢が新たなカブキに会いに小屋に来るのはそれから数日後の話・・・。

 

 

───────────

 

 

茨城県のある森

 

車の入れる場所まで走ってきた緑のホンダエレメント。

猛士が支給した【雷神】だ。

 

そこから降りたのは二人の男性。

 

一人は三十代半ばながらも揺るがない目をし、もう一人は十代後半の青年。二人は雷神のトランクを開けそこからギター型武器【音撃弦】の2つ【烈雷】【烈斬】を取りだし森の中へ。

 

「財介、油断しちゃダメッスよ」

 

「オッス! トドロキさん!」

 

【トドロキ】に強く返事を返す【更木財介】。

 

「「!」」

 

すると二人を待ち構えてたかのようにバケガニの童子と姫が現れた。

 

「鬼か」

 

「うちの子の邪魔はさせないよ」

 

それぞれ怪童子と妖姫に変化する。

 

「財介・・・」

 

「オッス!」

 

トドロキと財介はそれぞれ左手の変身鬼弦【音錠】【音伽】を展開しかき鳴らす。

そのまま額にかざす。

鬼の模様が額に写される。

怪童子と妖姫が駆け寄る中トドロキ達二人は動じずに左手の鬼弦を天に突き上げる。

 

すると二人に落雷が落ち、怪童子達を吹き飛ばす。

 

雷が二人の服を破り身体を包む。

 

そして雷を振り払うと二人はそれぞれ【轟鬼】【更木変身体】に変身していた。

 

「行くッスよ財介!」

 

「オッス!」

 

轟鬼は烈雷、轟鬼の銅色のような更木変身体は烈斬を地面に突き刺し二体に挑みかかる。

 

「「とりゃあ!」」

 

それぞれが格闘術を駆使し童子と姫を打ちのめしていく。

 

童子達もハサミを首に突き立てるが二人の鬼はギリギリで止め、ハサミを腕力で割る。

 

「そりゃあ!」

「でりゃあ!」

 

そして轟鬼は足を掴み宙に投げる。更木変身体も背負い投げの容量で姫を同じく宙に投げる。

 

「財介!」

 

「オッス!」

 

烈斬を手にした更木変身体は轟鬼が組んだ手を踏み跳躍、宙の童子と姫を切り裂く。

 

斬られた童子達は地面に叩きつけられ破裂し土塊に。

 

「トドロキさん! ありがとうございました!」

 

「いいッスよ。それよりバケガニは・・・・」

 

「・・・・・、! この鳴き声は!」

 

辺りを見渡しながら川沿いに出るとそこには巨大な蟹型魔化魍【バケガニ】が。

 

「よし! 行くッスよ!」

 

「オッス!」

 

「「とりゃあ!」」

 

二人は跳躍しバケガニの目前へ。

 

ハサミを降り下ろすバケガニに二人はそれぞれ左右に回避。そのまま互いの音撃弦でハサミを粉砕する。

 

二人はバケガニの脇腹に音撃弦を突き刺し音撃震をセット、音撃モードにする。

 

 

「音撃斬! 雷電激震!」

「音撃斬! 雷電斬震!」

 

それぞれ音撃弦をかき鳴らす。二種類のギター音が周囲に響き渡る。

 

「はぁ! とぁ! ふぁ!」

「ふっ! せぃ! ふっ!」

 

音撃を響かせる二人の鬼。

そして最後、大きく弦を震わせる。

バケガニは爆散し、二人の鬼は着地した後音撃斬を演奏する。

 

これはトドロキ流、魔化魍を倒した後の清めの儀式だ。

 

二人はシャウトを響かせ演奏を終えると顔のみ変身を解除し雷神に向け歩き出す。

 

「ふぅ〜〜〜」

 

「トドロキさん、お疲れ様っス!」

 

 

「財介もお疲れ。弦の腕も大したもんだ」

 

「いえいえ、トドロキさんには全く追い付けないっスよ。まだまだ自分は未熟っス」

 

「まぁ俺も十年近くやってるからそう簡単に追い付かれたらザンキさんに合わす顔がないからな」

 

「でもいつまでもこのままじゃいけないっス。もっと音撃を鍛えて少しでも速くトドロキさんを安心させて自立できるように頑張るっス!」

 

「それはそれで淋しいなぁ。まぁいつまでも弟子のままじゃいられないからなぁ。まぁまだまだだけどな」

 

「オッス! これからもビシビシお願いしますっス!」

 

「よし! じゃあ雷神まで走るぞ!」

 

「オッス!」

 

二人は雷神に向け歩を早めていった。

 

 

───────────

 

 

東京

 

「にしても買いすぎじゃないのかユウマ」

 

菓子が大量に入ったスーパーの袋を両手に大量に持つヒビキ。

 

「そんなことないよ。僕の仕事は頭脳労働なんだから糖分は必要。和菓子も嫌いじゃないけどそればっかしゃ飽きちゃうだろ?」

 

「まぁ気持ちはわかるけど」

 

そんなヒビキと一緒に歩くのは眼鏡をかけた青年。年齢はヒビキとほぼ同じである。

 

「それにこれから厄介なのと当たるんだしこれぐらいは手伝ってくれよ」

「じゃあ作り始めんのか? アレ」

 

「イグザクトリー。まぁアレは今までのとは格が違う問題児だからかなり時間はかかると思う」

 

「まぁ気にしないで気長ににマイペースにな。ユウマは他にもディスクやら武器の調整とかもあるんだから」

 

「悪いねヒビキ」

 

ヒビキともう一人の青年【勇ヶ峰ユウマ】は道の角を曲がった。

 

 

 

 

「ねぇねぇねぇ〜〜〜。今日ヒー君いるかなぁ〜〜〜。ヒー君いるかなぁ〜〜〜」

 

「穂乃果、さっきからなんで今日はこんなに落ち着きがないんですか? いつも以上に落ち着きがないですよ」

 

「まぁまぁ海未ちゃん。穂乃果ちゃんの気持ちもわかってあげよ? だ〜〜〜い好きなヒー君にあえるんだもんね穂乃果ちゃん?」

 

「だ、大好きだなんて・・・・・」

 

ことりにズバリ言われた穂乃果は途端に静かになる。

 

「べ、別に会いに行って一緒にお茶しようとか、至近距離で匂いを嗅ごうとか、次のお休み何か都合があるか聞こうとか、考えてないよ! 考えてないないよ!」

 

「穂乃果・・・・、企てがただ漏れな上、日本語が変になってます・・・・」

 

「と、とにかくたちばなにレッツゴーだよ!」

 

「お〜〜〜♪」

 

拳を突き上げる穂乃果とことり。

三人もたちばなに向かいつつ道を歩いていた時、角を曲がってきた二人組にぶつかった

 

「「「きゃ〜〜〜」」」

 

「「うおっ!」」

 

ぶつかった五人。

しかしぶつかった二人組は倒れる穂乃果達を掴み倒れるのを未然に防いだ。

 

「大丈夫ほのちゃん?」

 

「ひ、ヒー君! ヒー君だぁ!」

 

「うおっ!」

 

穂乃果を助けたのはヒビキだった。

穂乃果はヒビキの顔を見るやいなやヒビキに抱きつく。

 

「ヒー君だ〜〜〜。ヒー君〜〜〜♪ 生ヒー君〜〜〜♪」

 

「ほのちゃん恥ずかしいって。それに道端・・・・」

 

「あ・・・・」

 

ヒビキの声で我に帰った穂乃果。

その一部始終を微笑ましそうにユウマが、そのユウマに助けられたことりが赤面、海未が身体を震わせながら見ていた。

 

「穂乃果〜〜〜〜〜! ハレンチです!」

 

「ごめんなさ〜〜〜〜〜い!」

 

 

───────────

 

 

都内の道端に停車した雷神の助手席から財介が降りる。

 

「いいんすかトドロキさん。支部に報告にいかなくて」

 

「いいぞ。自分がやっとく。しばらく連チャンだったから財介はたっぷり休め。休むのも鬼の仕事のうちだ」

 

運転席からトドロキが返事を返す。

 

「オッス!」

 

「それじゃあな」

 

財介がドアを閉めると雷神は走り出す。

 

「よしっ! 空腹よし! 喰うッスよ!」

 

財介は自分に激を入れGOHANYAという看板の店に入っていった。

 

 

 

 

 

「♪〜〜〜〜、今日は大盛無料〜〜〜♪」

 

その数分後、眼をうっとりさせながら花陽も店に入っていった。

 





更木変身体は劇中でも言った通りまんま斬鬼さんです。


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七の巻/迷い込む部屋

投稿が大変遅れてしまい申し訳ありませんでした。

これからは早めの投稿を心掛けたいです。


「ただいま〜〜〜」

 

「只今戻りました」

 

「「「お邪魔しま〜す」」」

 

 

ヒビキとユウマ、次いで穂乃果達がでたちばなの入り口をくぐる。

するとそこにはトドロキが団子を大量に頬張っていた。

 

 

「トドロキさん!」

 

「ん゙!? ほっほはっへ」

 

「ちょっと待って」と言ったらしくお茶を一杯飲み口の中を胃に流し込む。

 

「ん! お久しぶり。ユウマ君、ヒビキさん」

 

「トドロキさん、さん付けはよしてくださいよ。俺の方が年齢も熟度も低いんですから」

 

「あ、そうか。でも長い間前のヒビキさんをこう読んでたからつい」

 

「まぁ構わないですけどトドロキさんはバケガ「ゆっくりしてってくださいねトドロキさん! ヒビキ、ちょっと」

 

「「「?」」」

 

 

ヒビキの口を素早く塞ぎ物陰に連れてったユウマを不思議がる穂乃果達。

 

 

「なんだよ」

 

「ヒビキ、穂乃果ちゃん達の前で僕達の仕事について話すのはまずいよ」

 

「あっ。悪い」

 

「以降は気を付けてね」

 

「ああ」

 

「どうかしたのヒー君」

 

「あああ。なんでもないよ? なんでもな〜〜〜い♪ なぁユウマ?」

 

「うんうん」

 

顔を覗かせる穂乃果をごまかす二人。

すると奥から勢次郎が顔を出す。

 

 

「お〜お〜、いらっしゃ〜〜〜い」

 

「ご無沙汰です支部長」

 

「「「支部長?」」」

 

「わ〜〜わ〜〜。なんでもな〜〜〜い!」

 

「ほらトドロキさん。奥に奥に! 積もる話も有りますし。ねっ! ねっ!」

 

「あっ、ちょっとまた団子が〜〜〜〜」

 

 

絶妙なコンビネーションを見せつつトドロキを奥へ連れ込むユウマ。

静かになる空間では頭を傾げる穂乃果達。

 

 

「ま、まぁゆっくりしてってね。おやっさん注文」

 

 

ヒビキもその場をまかせ奥へ。

 

 

「あ、ああ。そうだね。ご注文は?」

 

「えっと・・・・、じゃあきび団子を3つお願いしま〜す」

 

「はい。ちょっと待っててね」

 

 

勢次郎は注文を聞くとまずはお茶をくみに奥へ入っていった。

 

 

 

 

 

そしてこのドタバタ、ちゃんと閉めていなかったのもあり、ある一ヶ所が「開いていた」ことにまだこの時は誰も知らない。

 

 

 

───────────

 

 

 

たちばな地下

 

「済まなかったッス!」

 

 

頭をテーブルに当てる勢いで謝るトドロキ。

 

 

「いいですよトドロキさん。気にしなくて」

 

「そうそう。ヒビキ君もそう言ってますしトドロキ君もわざとじゃないんですから」

 

 

ヒビキと日菜佳のフォローを受けようやくトドロキは頭をあげる。

 

 

「ヒビキ君が助けた女の子達が彼女らだと思ったもんで」

 

「いや、あの子達は別です。俺が子供のころ溺れかけたところを助けた穂乃果っていう子とその友達です」

 

「へぇ〜〜〜」

 

「そうだったんですかぁ。確か穂乃果ちゃんは高坂さんの所の娘さんでしたよね。いや〜〜〜。凄い偶然ですね〜〜〜」

 

「はい。まさかまた会えるなんて思いもよらなかったです」

 

「お正月のおみくじが当たったってことですね」

 

「そういえばいい縁が来るって書いてあったような・・・。ああ! 懐かしい友達と会えるってことだったんですかねぇ」

 

「果たしてあっちはただの友達と思ってるでしょうか?」

 

「へっ? どういうことですかそれ?」

 

「さぁ?」

 

わかったように笑う日菜佳にヒビキはやや不満げに首をかしげた。

 

 

 

 

「ところでトドロキ君、今度のお出かけなんですが・・・」

 

「ん! ほれは(それは)・・・」

 

「あ、ちょっと! トドロキ君! 逃げるな~~~!」

 

「あれ? そういえば財介は?」

 

 

 

───────────

 

 

GOHANYA内

 

 

中では財介がどんぶりの山を築いていた。

 

 

「すいません。おかわりお願いしますッス」

 

「はい。ただいま」

 

 

さっきからわずかなたくあんをおかずに白米を胃袋に入れていく財介を昼食に来ていたサラリーマンたちが唖然となって見つめる。

吉野〇のような店内のカウンターに座るそんな財介の目の前では花陽がお椀に山盛りになった白米を前に目を輝かす。

 

 

「ああああ~~~。この光る白い新米の輝き。このつや。しあわせぇ~~~♪」

 

 

ゆっくりと舌で米を満喫する花陽。

ふと財介と目が合う。

 

 

「「・・・・・ど、どうも・・・」」

 

 

たまたま目があい気まずそうに互いに目を背け白米に視線を移す。

 

 

この二人の行動はその後ほぼ同時に退席するまで続く。

 

 

 

───────────

 

 

 

「・・・・・ヒー君まだかな・・・。ねぇ海未ちゃん・・・。ヒー君まだかな・・・。ねぇ海未ちゃん・・・。ヒー君まだ・・・」

 

「穂乃果・・・。さっきから何度同じ言葉を繰り返すんですか。耳にタコができるぐらい聞きました。それにまだ数分もたってませんよ」

 

 

暖簾の先をそわそわして見つめては海未の肩をゆする、それを繰り返す穂乃果を一括する海未。

 

 

「だ、だってぇ」

 

「仕方ないよ海未ちゃん。ここまで来たのはヒビキさんに会いたくてなんだもん」

 

「それはそうでうが・・・。でも多分今奥を覗いてもヒビキさんはいないでしょう。何やら関係者のようですし」

 

「う~~~ん。ヒー君何してるんだろう」

 

机に頬をつける穂乃果。

すると勢次郎がきび団子をお盆に乗せて戻ってきた。

 

 

「はいお待たせしました~~~。うち特製のきび団子で~~~す。何々? ヒビキとお話したくて来てくれたのかな?」

 

「はい! あっ。そうだ。あの・・・立花さん!」

 

「別にいいよ。おやっさんで。そうヒビキは言うし」

 

「はい。えっと・・・おやっさんさん!」

 

「・・・あは。まぁいいか。で? 私に聞きたいことかな?」

 

「ヒー君って・・・、つ・・・つ・・・付き合ってるひとっているんですか!?」

 

「穂乃果ちゃん?」

 

「何を聞いてるんですか穂乃果」

 

 

奇妙な名前で呼ばれ笑う勢次郎はさらに笑う。

 

 

「いや~~~。彼はうちに下宿してるけどそういう話は聞かないかなぁ」

 

「本当ですか!?」

 

「あれ? なんだか嬉しそうだね」

 

ほっとしたように肩を撫で下ろす穂乃果。

 

 

「もう穂乃果ったら失礼ですよ」

 

「ごめんごめん。つい気になって。だってヒー君あんなにかっこいいんだよ! 彼女さんができてたって不思議じゃないもん」

 

「ま、まぁ・・・」

 

「うん。ヒビキさんはカッコいいもんね」

 

「さすがはことりちゃんは話がわかる~~~」

 

「ははは。やっぱり前のヒビキにそっくりだな彼は」

 

「「「前の?」」」

 

「あ・・・・・、いや・・・・こっちの話・・・」

 

 

思わず口を滑らす勢次郎。

その直後勢次郎のスマフォが鳴り出す。

 

 

「ちょっと失礼」

 

 

勢次郎は一言謝ると暖簾をくぐってすぐ電話をする。

 

 

「もしもし私だけど・・・、・・・・・わかった・・・ヒビキを向かわせるからそっちは”それ”に専念してもらって大丈夫。・・・・うんうん・・・・じゃあ気を付けてね・・・。はいはい・・・」

 

 

勢次郎は暖簾をめくり顔を出す。

 

 

「ごめんねぇ。ちょっと席を外すけど大丈夫かな?」

「「「はぁ」」」

 

「ごめんねぇ」

 

 

勢次郎が奥に消えていくと穂乃果たちはゆっくりときび団子を食べ始めた。

 

 

───────────

 

 

「サバキさんがシロアリを見つけた?」

 

「うんちょうどバケガニ退治にでてるとこの近くに見つけたみたいなんだぁ」

 

「そうですかぁ」

 

 

地下の書庫で地図をにらむヒビキと勢次郎。

 

 

「でもこの時期、ここにシロアリですか・・・」

 

「まぁね・・・。頼めるかいヒビキ。ダンキやカブキ達も出払っててね」

 

「了解です♪」

 

 

ヒビキは敬礼のポーズをすると階段をかけ上りたちばなの客席に出る。

 

 

「ヒー君!」

 

 

その瞬間、穂乃果が犬のように寄り添ってきた。

 

 

「おー、ほのちゃん。うちのきび団子気に入ってくれた?」

 

「う、うん。ねぇヒー君、この後時間あるかなぁ?」

 

「ごめん。急な仕事が入っちゃって今から出なきゃいけないんだ」

 

「え〜〜〜〜」

 

「悪いね。また今度」

 

 

ヒビキは駆け足で階段を登っていってしまった。

 

 

「も〜〜〜〜〜。ちょっとお手洗い行ってくるぅ」

 

しょぼくれながらトイレに行く穂乃果。

 

 

「なんか穂乃果ちゃん可哀想・・・」

 

「せっかく会いに来たんですからわかります・・・。でもヒビキさんも随分と多忙な方・・・、! あれって」

 

「え?」

 

「いえ、その壁・・・」

 

 

海未が指差す先、ヒビキが登っていった階段の壁には僅かな隙間が開いていた。

 

 

「・・・・なんだろう」

 

 

ことりと海未は恐る恐る近寄る。

そしておもむろに開いていない側を触ってみる。

 

その直後壁が回転し脱力したことり、引っ張ろうとして海未までもが反転した壁に吸い込まれた。

 

 

「ただいま・・・ってあれ?」

 

 

手洗いから帰ってきた穂乃果を待つのは三人分のお茶ときび団子、手荷物のみだった。

 

 

「あれ? ことりちゃん? 海未ちゃん?」

 

 

見渡す穂乃果。

すると登山着にリュック、バイクのカギを握りしめヒビキが二回から降りてきた。

 

さらに勢次郎も奥からあらわれる。

 

 

「そんじゃ行ってきます」

 

「うん。気をつけてね」

 

 

敬礼するヒビキに勢次郎は笑顔で見送る。

 

するとヒビキは穂乃果に視線を合わせる。

 

 

「ごめんねほのちゃん。なんだか俺に用事があったみたいだったけど?」

 

「あ・・・、えっとね・・・。前はすぐに別れちゃったからもし空いてれば遊びに行きたいなぁって・・・」

 

 

もじもじしながら上目使いで思いの淵を告白する穂乃果に勢次郎が何かを察したように笑う。

 

 

「そっかぁ~~~。ごめんね。私がヒビキに急な仕事を頼んだばっかりに。それじゃあ近いうちに土日ヒビキを非番にしとくよ」

 

「ホントですか?」

 

 

喜ぶ穂乃果に対し突然の勢次郎の発言に頭をかしげるヒビキ。

 

 

「おやっさん? なんで?」

 

「ヒビキ・・・・。これ系の話の鈍さはお師匠さんと一緒だねぇ君は」

 

「はい?」

 

「自分で考えなさい。でも考えすぎて事故を起こさないようにね。とにかく行ってらっしゃい」

 

「はぁ・・・。行ってきます」

 

 

不満げに頭をかきながらヒビキはたちばなを後にした。

 

 

 

 

 

 

その後海未とことりの所在を探していたことを穂乃果が思い出すのは数分後の話。

 

 

 

───────────

 

 

 

その頃ことりと海未は壁の先にある急な滑り台を滑り落ちていた。

 

 

「きゃああああああ!」

 

「怖いよおおおお!」

 

 

ババ抜きの時のような表情の海未と泣き顔のことりだったがようやくゴールについたのか平らな場所にたどり着く。

 

 

「ここは一体・・・」

 

「怖いよぉ海未ちゃん・・・」

 

「私だって怖いです・・・」

 

 

真っ暗な空間で海未に抱きつくことり。海未はとりあえず手探りで壁を触ると開き、その先に足元にあかりがついた道が。

 

 

「・・・行ってみましょうことり」

 

「えええ?」

 

「このままここにいてもらちが空きません。幸い明かりはありますし足元は問題なさそうです」

 

「・・・わかったぁ」

 

 

恐る恐る道を歩いていく二人。

 

すると行き止まりにつくがすみ間からは光が差し込む。

恐る恐る壁を押すとその先には明るい部屋が。

 

 

「「・・・・」」

 

 

しかしその部屋の全貌に二人は言葉を失う。

 

妙な空間にはあちこちに妙なものが置かれていた。

 

壁には大量の変わったCDに楽器が並び、大きな鷹のようなオブジェが置かれ、太鼓の模様のような木彫りの壁紙が壁に張り付いている。

 

 

「なんなんだろうここ・・・・」

 

「・・・・これって確かカブキさんが使っていた・・・」

 

 

海未はふとカブキが使っていた変わった音叉と腰に下げたディスクを思い出す。

その空間にはよく似たものが置かれていたからだ。

 

 

「ん?」

 

 

すると気配に気づいたのか隣の部屋からユウマが顔を出した。

 

 

「あれ? 確か園田さんに南さん?」

 

「「ユウマさん!」」

 

「「「なんでこんなところに?」」」

 

 

ユウマも海未たちもこの状況をよく飲み込めずに訪ねる声がシンクロする。

 

しかし会話のドッジボールと化している現在の状況からすぐに答えが返ってくるわけがなかった。

 

 

 



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