出雲天花さんの妹は女版東堂 (三鞭鮭)
しおりを挟む

第一話 魔防隊六番組交流戦 ー個人戦①ー

ちなみにスレイブで一番好きなキャラはワルワラさんです。
あんなん笑うわ。
天花さんは二番目。


「いよいよだねーひまりん! 交流戦♪」

「準備バッチリ! “武器化”と違って、敵の知らない能力だから意表を突いてやるわ…!」

 

 魔都、七番組の寮、露天風呂。

 魔防隊七番組隊員二名、今日当日開かれる六番組との魔都交流戦について言葉を交わす。

 “駿河 朱々”は祭りが如く。

 “東 日万凛”は試合が如く。

 

「おねーさんに目にモノ見せるんだよね!」

「えぇ。組長がせっかく下さったチャンスだもの、絶対に見返してやるわ…!」

 

 焔。日万凛は姿なき宿敵を睨みつける目はまるで、荒々しく燃え上がる金色の焔。

 

「そーいえば六番隊っておねーさん以外だれが来るんじゃろ?」

「……」

 

 日万凛が入り口に目を向ける。

 ガラガラと馴染み深いドアの開閉音を耳にしたのだ。

 

「あれ、どーし――「性癖にはソイツの全てが反映される」――は?」

「せい――……は?」

 

 聞き覚えがない声のよる聞き馴染みのない台詞。

 思わず間の抜けた声が零れる朱々と、密かに警戒していた日万凛は、ペタペタと石造りの床を歩む声の主に目を向ける。

 

「男の趣味がつまらん奴はソイツ自身もつまらん。オレはつまらん女が大嫌いだ」

 

 奇怪な台詞の主。

 想像もつかない姿の答えは筋骨隆々だった。

 盛り上がる上腕二頭筋。丸太のように太い脚。シックスパック。

 鍛え抜かれた全身は筋肉によって薄っすらだが輝きを放ち、ボディビルダーいやゴリラを思わせる。

 頭から左目を超えて刻まれた野生じみた傷跡も、短い黒髪も、連想の材料だ。

 

「答えろ、七番隊。どんな男がタイプだ」

 

 だが、二人は思考は……。

 

「因みにオレは――身長(タッパ)(ケツ)がデカい男がタイプです

 

「「………………。」」

 

 なんだコイツ、それ一面で埋め尽くされていた。

 

「返答次第では今ここで半殺しだ。交流戦への良い肩慣らしにする」

「アンタのようなゴリラ見たことないけど、まさかアンタも六番隊!?」

 

「あぁ、六番隊 新入隊員 葵。自己紹介終わり。

 これでお友達だな、早く答えろ。女でもいいぞ」

 

「言うワケ――ッ!」

「待って、朱々」

 

 男のタイプをせがまれるという異例のシチュエーションに思考を巡らす日万凛。

 今、私たちは丸腰。怖気づく私じゃないけど、相手の能力も分からない状態で戦闘は避けたい。

 そう思い至った結果。

 

 ――優希。

 

 人物の顔が浮かぶ。

 

「いやらしいッ!!言うワケないでしょ!そんなことおッ!!?」

「ひまりん、それ私が言いかけたやつ」

 

 茹蛸の如く真っ赤に染まった顔でひまりん返答。

 

「……やっぱりだ」

「――ッ!?」

 

 至極真っ当な返答をされた葵の目には、一筋の涙がこぼれ落ちていく。

 失望。ありありと顔に感情が描かれたような気がして、思わず能力で両腕を機銃にする日万凛。

 次の瞬間、葵の姿は消え――

 

「退屈だよ、ひまりん」

「――はやッ」

 

 日万凛が咄嗟に目にしたのは思考が追い付けない程、葵が速かったこと。

 その俊敏性を生かし、己に腕を振りかざしてきたこと。

 そして、誰かが間に入ったこと。

 

「もおー暴れちゃダメだよぉ~! 仮にも“組長の妹”でしょお!

 良い寮だったのに、おかげさまで寝るじかん逃しちゃったじゃ~ん!」

「む、邪魔するなサハラ。オマエと言えど邪魔すれば殺すぞ?」

 

「組長の…妹ですって!?」

 

 六番組 組長の妹。

 今の一撃が示した強者の片鱗に納得がいった日万凛。

 

「それに…」

 

 現れた誰か、日万凛には見覚えがある。

 六番隊 若狭 サハラ。

 あまり外に出ないタイプと記憶しているが故、

 今の一撃を防いだ戦闘能力の高さに、日万凛は思わず度肝を抜かれた。

 

 そして、それは日万凛だけではない。

 

「……これが私の、ね」

 

 朱々は己の相対する者を理解した。

 現在、七番隊の寮に滞在するメンバーは五名。戦闘能力を有するのは朱々含めた三名。

 日万凛は姉と、組長は六番隊の組長と、残るは――目の前の二人……どちらか。

 

「どちらも強敵…」

 

 思い至るは、絶望ではなく。

 

「あいてにとってふそくなしッ!!」

 

 朱々は燃え上がる。

 その内心は、ユッキーにかっこいいとこ見せるぞー!である。

 恋する乙女はタフなのだ。

 

「いや~殺されちゃあ“高田くん”のクリアファイル、プレゼントできないなぁ~?」

「なッ――それは!」

 

 サハラが懐から出したソレは「長身系アイドル高田くんのクリアファイルの予約券ッ! 嘗て東京のコンサートにて東京ver.コスの高田くんが載った特別仕様のクリアファイル100枚が限定販売され、なんと購入と同時に高田くんがその場でサインしてくれたあの伝説のクリアファイル! 即座に完売し、惜しむ声が数多くあがったことで、サインが複製されたクリアファイルがネット再販され、オレもコンサート版一枚と合わせて10枚は揃えたあの――!」

 

「うん、それ。暴走した時はこれキャンセルするって言えばいいって、組長から渡されたの~」

「流石姉貴……いいだろう。

 高田くんと姉貴に免じて勝負は一騎打ちまで取ってやる、ひまりんとやら」

 

「ひまりん言うな! そもそもわたしの相手は八千――」

「行くぞサハラ」

「はーい! ごめんね~ひまりーん」

「ちょっとォ!?」

 

 聞く耳持たず。

 挑発等の目的ではないだろう葵の自然な態度が、猶更日万凛のはらわたを煮えくり返す。

 

「なんて勝手な人ッ! もうッなんなのよアイツゥ…!」

「まぁまぁ…」

 

 怒りのままに頭をかきむしる日万凛をサハラはなんとか諫めようとしていた。

 

 ―――

 

 日万凛は最高に不機嫌だった。

 七番組 組長が日万凛に聞くと、葵というゴリラに“どんな男がタイプだ?”という理解不能なゴリラ語で尋ねられ、ゴリラのせいか風呂に立て掛けた入浴中の札が飛び、男性 和倉 優希が侵入。

 不覚にも素っ裸を見られたのだと言う。

 

「…………。」

「……スーッ」

 

 優希に睨みつける目はまるで、虎視眈々と首を断たんとする侍のそれ。

 このまま六番組よりも先に優希vs日万凛の一騎打ちが始まりそうな雰囲気だった。

 

「ふふ、やっぱり七番組は元気だね」

「日万凛、気持ちはわかるが冷静になれ」

 

 微笑ましく眺める六番組 組長と、日万凛を諫める七番組 組長。

 能力によって寮を包んで余りある程巨大な結界が施されたこの場には、互いに一騎打ちを始める為のメンバーが並んでいた。

 

 六番組 組長“出雲 天花”、七番組 組長“羽前 京香”。

 六番組 日万凛の姉“東 八千穂”、七番組 八千穂の妹“東 日万凛”。

 六番組 パワー系の能力者“若狭 サハラ”、七番組 パワー系の能力者“駿河 朱々”。

 そして、六番組の新人“出雲 葵”、七番組の新人“和倉 優希”。

 

 審判の十番組“備前 銀奈”と七番組の非戦闘員“大川村 寧”もこの場に居合わせている。

 

「それでは説明をさせていただきます!」

 

 この結界の主、銀奈が説明を始める。

 銀奈の能力「会員制闘技場(ギンナクラブ)」は己が地面に引いた線を境に、結界を発動。

 署名した者に結界内に入る許可を与え、その結界内での負傷を任意に治すという。

 余談だが、この能力によって彼女は訓練や交流戦に引っ張りだこだった。

 

「醜鬼が千匹来たって壊れない結界だね」

 

 天花が言う“醜鬼”とはこの魔都に巣食う怪物であり、魔防隊設立の理由そのもの。

 魔都と世界をつなぐ“クナド”という門が無作為に現れるため、魔都に魔防隊が存在するのだ。

 個体にもよるが一匹でも数十人の犠牲者出るほどの戦闘力を持つ。

 

「あぁ、その調子で審判も頼む」

「――!」

 

 京香も天花に同意し、銀奈に言葉をかける。

 すると銀奈の目はキラキラと輝いた。

 

はい! 天サマ! 京サマ! 頑張っちゃいますよ―ッ!!

 

 明らかに二人のファン。

 中々オーバー気味な銀奈の反応に、少し恐々としながら京香達を眺める優希。

 するとふと銀奈と目が合う。

 

「………。」

「―っ!?」

 

 先程の日万凛と負けず劣らずの厳しい目を向けた銀奈。

 日常だと分かっていても、突如向けられた鋭い目に心臓が跳ねる優希。

 そう、銀奈の反応はこの世界ではありふれた反応である。

 

 異能を与える魔都の果実“桃”。それは女性にのみ微笑み、男性には異能を渡すことはない。

 結果、社会は女尊男卑と化したのだ。

 

「よーしじゅんび完了!」

 

 背後からひょこっと現れた幼い少女は大川村 寧。

 法被のような上着を羽織り、頭には七番隊と描かれた鉢巻を巻いている。

 その小さな手で掲げるは、七番隊の字と戦うメンバーの名が載った応援タオル。

 

「それ作ったんだ」

「ねいは非戦闘員ですから。応援たくさん頑張ります!」

 

 あまりの手の凝りように愕然とする優希。

 寧はにぱっと愛らしい笑顔を見せ、優希に返答した。

 

「――おっ早速俺の出番みたい、行ってくるね」

「はい! 応援しますからね、優希さんも頑張ってくださいね!」

「うん、勿論!」

 

 駆け付け、日万凛の隣に佇む優希。

 日万凛が手を触れると――優希の身体が怪物のそれと化す。

 優希の肌が白銀へと変異し、細身の筋肉質な肉体を形作ってゆく。

 両腕には黒い防具、首にはマフラーのように靡く布、下半身を包む袴は忍者の如し。

 

「能力の一環として彼も参加するわ」

 

 和倉優希。

 能力を持たぬ男性()がここにいる理由。

 それは奴隷にした者の力を引き出し使役する能力「無窮の鎖(スレイブ)」と特別相性がいい人間だから。

 故に唯一の男性魔防隊員としてここに立っている。

 

 この話は魔防隊の中でも噂になっており、天花も噂を耳にした一人である。

 

「構わ――「待て」……なんじゃ葵、邪魔するでない」

 

「姉貴に待ったを掛けられていたから口出ししなかったが、和倉 優希。

 オマエが出てしまえばオレの戦う相手がいなくなる…!

 実につまらん、故に“オレも出る”」

「…なッ!? お前、私様を舐めておるのか! 出しゃばるなッ!」

 

 葵の言葉に強く反発する八千穂。

 

「和倉 優希、オマエに一つ聞きたいことがある。どんな男がタイプだ」

 

 このゴリラに人間の言葉は通用しない。

 

「私、内心卑怯だと思ってたのよね」

あっオイ日万凛!?

 

 優希の静止を振り切り日万凛は前に出る。

 

「アンタも参加なさいゴリラ!」

「何言っとる!? コイツの様な危険人物参加させたらお前の身に――」

自分から敵増やしてどうする!? オマエは夢の為、この勝負どうしても勝たないと――」

「優希、命令。葵の質問に答えなさい(うるさい)

 

「……huh?」

「風呂で裸見やがったバツよ、エロ猿」

「!?!!??!!!?!?!!?」

 

 必死に口を動かそうとする優希。

 しかし奴隷は主人の命令には逆らえない。

 無情にも勝手に口は開き、公開処刑は幕を切って落とされる。

 

身長(タッパ)(ケツ)がデカい男がタイプです…。組長みたいな……

 

 半泣きである。

 対して葵。

 

「――ッ!!」

 

 瞬間、脳内にあふれ出した存在しない(・・・・・)記憶。

 教室には学ランに身を包んだ葵と優希。

 

「オレ、高田くんに告る」

「はぁッ!? いやいや待て待て東堂! 俺、慰めんの嫌だからな面倒くさい!」

「なんでフラれる前提なんだよ」

「逆になんでOK貰えると思ってんだ? ゴリラだぞ?」

「かのアン・サリバンはヘレンケラーにこう説いた。

 『裏切りというものもそれはそれでいいと思う』…と」

「それ言ったの猪木だろうが」

 

 そして学ラン姿の高田くんに告白する葵。

 

「ごめんなさい、僕好きな人がいるから」

 

 バッサリだった。

 

「…………。」

「…………。」

「……好きな人がオレってパターンは」

「あるわけねーだろ」

 

 はぁ…と優希は深いため息をつき、葵の頭を叩く。

 

「オイ俺んち行くぞ! メシ作ってやんよ!」

「――!」

 

 ※葵の妄想です。

 

「オレ達はいつでも二人で一つだった…か」

 

 突如放心した葵に電源が入る。

 顔からは穴という穴から体液が垂れており、とても乙女がする顔ではない。

 汚い。

 

「どうやらオレ達は“親友”だったようだな」

「俺アンタの名前すら知らねーんだけどッ!?」

 

 ゴリラをスルーすることで蓋をし、日万凛は八千穂を指さす。

 内に秘めるは、落ちこぼれだと蔑まれた日々の屈辱。

 何もできない無力への怒り。

 

「八千穂もゴリラもぶっ飛ばして、完全勝利する―ッ!!」

 

 雪辱を果たす。

 東 日万凛の目的はそれだ。

 

「そうだな、そうだよな。

 奴隷が主人を信じなくてどうする…!

 わかったよ日万凛、あいつら二人諸共屈服してやろうぜッ!」

「…えぇ!」

 

「――成ったな、ひまりん」

「ひまりん言うな」

 

 誰目線なのよと葵に突っ込む中、八千穂は内心舌打ちし葵を恨んでいた。

 また、こう考えてもいる。

 あの男が参加した際にはこれ幸いと思った。勝負にケチがつく可能性が無くなるからの。

 能力や体調の不調、異例の事態に陥ろうとも二対一の立場で、結果に口出しするなどできない。

 日万凛は真面目だからの。

 だが、葵が参加すれば話は別! 邪魔なんじゃオマエはアアアアア!!と。

 

「ふむ…勝手に決めてしまったな、やっちよ。何か要望はあるか?」

「やっち言うな……ん? 要望じゃと!」

 

 天恵。皮肉にも葵から救いの手を授かった。

 八千穂は好機と見るや否や、生き生きとした表情で言葉をまくし立てる。

 

「私様が勝った後は東家に戻ってもらう!

 私様の部屋で一生を過ごすのじゃ!

 みっちり矯正してくれるわ――ッ!!」

 

 わーっはっはっはっはと続け、実にすっきりした様子。

 妹からはゴリラと同等の目を向けられているが、後腐れなく勝負ができると銀奈が手を挙げる。

 

「ルールはギブアップもしくは戦闘不能で負け!

 怪我治るし、思いっきりやっちゃってー!

 それじゃあ――はっじめぇーッ!!




東堂というよりもゴリラじゃないかこれ?

あと存在しない記憶で優希殿が“東堂”呼びしてるシーンありますが、誤字ではないです。そこまで重要じゃない名前の秘密は、失踪してなかったらいつか書きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 魔防隊六番組交流戦 ー個人戦②ー

八千穂ちゃんの能力生かすのムズ…五秒停止書けなかった。
ごめんちゃい。


「ルールはギブアップもしくは戦闘不能で負け!

 怪我治るし、思いっきりやっちゃってー!

 それじゃあ――はっじめぇーッ!!

 

 東日万凛&和倉優希 対 東八千穂&出雲葵の変則的な一騎打ち。

 開始一秒。

 

「ぐア――ッ!?」

 

 東八千穂はぶっ飛んだ。

 

烙印波ッ!

「一度見せた後に使うのは感心しないな、優希(マイフレンド)!」

 

 鳩尾が衝撃波に襲われる中、辛うじて見開いたことで得た光景は和倉優希の独特な構え。

 膝を置き、右手の手首を掴み、撃ち抜くように右手の掌を相手に向けた体勢。

 背中には馬のように乗り込んだ日万凛の姿。

 葵は易々とこの衝撃波を破り、こちらにわき目も降らず日万凛達目掛けて駆け抜けてゆく。

 

「よ、くも…!」

 

 八千穂がこの芸当ができたのは並大抵を否定する努力を重ねたからだろう。

 

 身体が地に着く前に構えを取る。

 左腕は十二時の方角へ天高く伸ばし、右腕は三時の方角へ伸ばす。

 そして左腕を前方を突き出し、右腕は左腕と交差するように九時の方角へ折りたためば完成。

 この自称至高なポーズが東八千穂の能力発動条件。

 

「――東 の 辰 刻(ゴールデンアワー)ぁ゛ッ!!!

 

 東家の劣等生とは異なる驚異的異能と評された「東の辰刻」。

 その力は“時間操作”。

 

「ルールはギブアップもしくは戦闘不能で負け!

 怪我治るし、思いっきりやっちゃってー!

 それじゃあ――はっじめぇーッ!!

 

 八千穂の記憶を除いた世界の時間が“五秒”戻る。

 鳩尾から貫くような痛みは消え、にやりと不敵な笑みを浮かべる八千穂。

 それは苦痛から逃れたことへの歓喜によるモノではなく。

 

「クックックッ…!」

 

 五秒先を知るというアドバンテージを隠すため。

 東の辰刻は強力な効果である同時にデメリットを抱えている。

 一つは発動条件。

 もう一つは“疲労”。

 妹の日万凛はよく知っている。

 急に疲労した姿を見せれば日万凛達は行動を変え、まだ見ぬ手段で襲ってくる。

 これは相手の行動(アドバンテージ)を変えず、試合を有利に進めるための手段。

 

「流石だ優希(マイフレンド)…開幕早々八千穂を倒すとは!」

 

 全てこの女のせいで水泡に帰すのだが。

 

「だが――うぼあ」

「バラすな阿保オッ!」

 

 特に理由のある暴力が葵を襲う。

 その隙を狙って空に飛び上がった優希達が、流星の如く漫才コンビに降りかかる。

 八千穂は油断していた。

 しかし、身動きが許されない空に飛んだ二人から予想されるは自由落下だろう。

 

 だが結果は違う。

 烙印波の応用で脚から衝撃波を放ち、高速で落下したのだ。

 そして――再来する八千穂の隙だ。

 

――烙印波ッ

 

 地を穿つ必殺技。

 時を戻す技法があるとはいえ、八千穂は粉々と化す大地と同様の結末を迎える筈だった。

 しかし、異なる。

 

「甘いぞ(マイ)――」

「優希!」

――烙印波ッ

 

 右手からの衝撃波が乱入者(イレギュラー)を打ち砕かんと放たれる。

 

「…ちがう」

ごが――ッ!?」

「優希ッ!?」

 

 砂煙が去るより速く剛腕が放たれる。

 

 的確に捻じ込まれた鳩尾への拳は、怪人と化した優希に息を吐き出させる。

 日万凛の悲鳴を横目に、優希の前に立ち塞がる出雲 葵。

 

「練り込まれた戦術、男の身でありながら能力の特性を技へと昇華させた努力、流石だ。

 八千穂を狙った技も良い。

 あれなら衝撃波が砕いた地面の欠片が八千穂に致命傷を与えるだろう。

 しかし違う(・・)

 俺への一撃は遠距離でこそ輝く技…“烙印波”か。それをチョイスするべきではなかった」

 

 今じゃ。

 好機と見た八千穂がホルスターから取り出した対醜鬼用拳銃で日万凛を狙い撃つ。

 

(じゅ)力操作」

 

 言葉と同時に蒼いオーラが左手に集まる。

 

 葵は背後から飛び出した醜鬼を屠る音速の弾丸を掴む。

 何事もなかったかのように開いた左手からは、潰れた弾丸がキンと音を立てて落下した。

 

「だ、弾丸を受け止め――ッ!?」

 

「能力の都合上、位置を把握しなきゃ使いこなせないんでな。

 やっちとひまりんの位置を線で結べば、この通り朝飯前ってワケさ」

 

「ぐ…いや、今のパワーはどういうことじゃ! 組長から聞いた能力と全く違うではないか!」

 

 まだ晒していない出雲 葵の能力は身体強化ではない。

 傍若無人の葵が暴走した際に必要だと、姉の天花は組員に伝えていた。

 

「確かにオレの能力はシンプル。

 故に拡張性はない、と勝手に決めつけていた。

 だが、拍手の際に溢れるこの蒼いオーラ! 姉貴と同じく空間を歪める特異のパワー!

 それを拳に溜め、放つことでオレはこの破壊力と防御力を手に入れたのだ」

 

「じゃあ何故その力でそやつらを守った!?」

「開始早々終わったらつまらんだろう。

 まだ始まって一分も経ってない。“お前も同じだろ”?」

「…は?」

 

 心臓が跳ねる。

 八千穂は、葵をただ組長の脛を齧るだけの粗暴な道楽娘かと思っていた。

 しかし、そんな相手が自身の総時間を的確に見抜く。

 日万凛であろうとそんなことができるか。

 

 気持ち悪い。

 八千穂は葵をそう再評価した。

 

「さぁ立て優希(マイフレンド)ッ! まだ勝負はこれからだぞォッ!!」

「優希ッ!!」

言わなくても分かってらあああああ烙印波ァッ――

 

 立ち上がる優希が放つは至近距離による烙印波。

 

 凶悪な笑みを浮かべながら葵は右拳にオーラを宿し、迎え撃つ。

 

 衝突の瞬間、葵の拳から黒い火花が散り――!

 

ぐおおおあああああッ!?

 

 優希が押し負ける。

 主として乗る日万凛ごと彼方へ吹き飛び、倒れ伏す。

 

「限りなく0に近い秒数以内に、抽力と打撃が衝突したとき、発生する現象。

 オレはこの現象を“黒閃”と呼んでいる。

 これが優希(マイフレンド)に足りないものだ。しかし、安心しろ。

 今日を以って優希(マイフレンド)に会得してもらう――“黒閃”を!」

 

 優希の現形態「無窮の鎖(スレイブ)旋風(つむじかぜ)」はパワーを捨て俊敏性に特化した形態である。

 それでも醜鬼を殴り潰せる程の力は持ち合わせており、尚且つ烙印波の一撃だった。

 並大抵の魔防隊員ですら有り得ない。

 怪物だ。

 

 それに弾丸が襲う。

 

「おっと」

 

 カチャリ、引き金を引く微細な金属音を聞き取った葵。

 八千穂の身長、癖、性格などから弾道を予測。

 チップスでも摘むかのように指二本で弾丸を摘み、葵は新たな相手の出現に凶悪な笑みを浮かべる。

 

「勝手に決めるでないッ!!」

「遊んでくれるのかァ! やっちよッ!!」

 

 咆哮と共に葵は八千穂に襲い掛かる。

 一撃、二撃、三撃。

 鋭い打撃には蒼いオーラはなく、素手で十分という葵の認識が八千穂の神経を逆撫でする。

 

 だが正解なのだ。

 

「くッ」

 

 捌き捌き捌き、それでも掠っていく葵の打撃。

 抽力操作に集中していない分、切れのある打撃が絶え間なく襲い掛かる。

 故に“ポーズができない”。

 

「閃光弾とかないのかよぉッ!!」

「――しまッ!」

 

 八千穂には連撃から逃れる術がなかった。

 息つく暇もない八千穂に生まれた隙目掛けて葵は大振りを放つ。

 痛みを伴う。

 だが、これで“ポーズができる”。

 そう……思ってしまった。

 

「か、は――ッ!」

 

 葵の剛腕から放たれたラリアットは八千穂を地面に叩き付けた。

 吹き飛ばされた優希達への黒閃とは異なり、真下。地面に。

 

 背中から響く激痛を無視して開いた八千穂の目には、片足を上げる怪物の姿。

 

「残念だよ、やっち」

 

 倒れ伏す八千穂に、葵は号泣しながら片足を上げていた。

 オーラは込もってない、が振り下ろせば大怪我必須の一撃だろう。

 間髪入れず葵は容赦なく片足を振り下ろす。

 

「優希……ぶっ飛ばしなさい」

あぁ了解だぜ、ご主人様ァ!

 

「待ってたぞ(マイフ)――ぐおおおッ!?」

 

 怪物に流星が墜ちる。

 まるで天罰が如く。

 優希の突進は葵を貫き、空を飛ぶ。

 

おらああああああああッ!!

 

 葵は衝突の瞬間、烙印波同様の衝撃波を腹に感じた。

 しかし足りない。

 

「強烈な一撃。だが…これは黒閃ではない。雑念が大き過ぎるッ!!」

ぐえッ!

 

 葵は身を仰け反らせ、鳩尾を狙った優希の腹を蹴り上げる。

 苦痛に声を上げ、地に転げ落ちる優希。反面、軽やかに三回バク転を決める葵。

 

「明鏡止水だ、優希(マイフレンド)。究極の集中こそが黒閃を技たらしめる」

 

 その腹には蒼いオーラが宿っているのを日万凛は見逃さなかった。

 

「…ちゃっかりしてるわね、アンタ」

「なんせオレは親友に手加減する野暮な(オンナ)じゃないからな」

 

 ダウンする優希へ一直線に駆け抜ける葵。

 

「さぁ、今こそ黒閃を見せてみろ!

 それ以外に、この抽力の鎧を貫くことは不可能だぞ優希(マイフレンド)!」

 

下がって(・・・・)、優希!」

っ! あいあいさーッ!

 

 東日万凛はこの日を望んでいた。

 東家の落ちこぼれと蔑まれた日々に決着をつけ、組長のような英雄になるという夢に向かう。

 因縁に背き、劣等生という肩書きを背負ったままでは――過去に呪われる。

 

 呪いは祓わなくてはならない。

 

「その為にはアンタが邪魔なのよ、クソゴリラッ!」

 

 その為に準備してきた。

 優希は理解している、“下がって”……これは作戦の“合図”の一つ。

 

 だが、二人の細微な反応を出雲 葵は目にしている。

 見え見えの挑発、深追いは危険だと結論付け、足を止める。

 

――ッ!

 

 まるでムーンサルト。

 葵の顎…脳震盪を狙ったしなやかな蹴りは空を切り、優希の目は不服そうに葵を睨む。

 不服――少なくとも優希がひそめた目が、葵にはそう見えた。

 それを日万凛が知れば、きっとこう言うだろう。

 

 時間操る相手想定してんのよ、一度の失敗ぐらいで諦めるわけないでしょ!

 

「邪魔だっつてんの――よオッ!!」

「あ…ぐおッ!?」

 

 脳天直撃かかと落とし、それを決めたのは東日万凛である。

 

「ふはははは! 軽いねッ! ひまりん…オマエじゃあ威力が足り――!」

 

 そう言う葵はふらついている。

 蒼いオーラ無しの剝き出し状態で食らったのだ。

 完全に油断した隙に叩き込まれた一撃。

 戦闘不能には墜とせなかった。だが、これにより出雲葵に第二の隙が誕生した。

 

「明鏡止水、やってやるよッ!」

「最高だよ…親友(マイベストフレンド)……!!」

――――“黒ッ閃”ッッッ!!!

 

 炸裂した。

 

 黒い火花は優希に微笑んだ。

 烙印波の衝撃と完全に拳に乗せ、葵の鳩尾に叩き込んだ。

 

 優希に黒閃は葵を吹き飛ばし、遥か彼方へ追いやる。

 交流戦中、自力で目を覚ますことはないだろう。

 

「やったわね、優希……優希?」

「…………。」

 

 返事はない。

 先程まで意気揚々と闘った奴隷はただ立ち尽くす。

 まるで抜け殻のよう。

 

「ちょっと? どうしたのよ優希!」

 

 黒閃が生み出す火花(スパーク)が神経の隅々まで伝い、活性化を促す。

 結果、優希はスポーツにおける『ゾーン』に入った状態になった。

 全能感で脳が満たされ、まるで“全て”を見ているかのよう。

 

「…………。」

 

 思考する優希の頭の中。

 何も見えない……何も感じない……“違う”。

 何もかも見える! 全て感じるッ! でも、いつまでも情報が完結しないッ!!

 情報の処理に肉体が追い付いてないのか!?

 だから、動けない…ッ!

 

 やばい…来るぞ日万凛ッ!

 足音も、心音も、瞼の開閉する音だって聞こえる……なのに、動けないッ!

 あの変人(葵)は動けたっていうのに……ッ!!

 

「昔を思い出せ、日万凛」

 

「っ! や、八千穂…」

 

 無窮の鎖(スレイブ)は日万凛の本来の能力ではない。

 

 端末に記録した、他者の能力が使用可能になる“青雲の志(ラーニング)”こそが本来の能力。

 記録には相手の承認が必要だが、複数の能力を得たオールラウンダーになる……と期待された。

 しかし、青雲の志には相性があった。

 

 例として巨大化が可能な玉体革命(パラダイムシフト)という能力をあげる。

 某ヒーローの如くビル並みに巨大化できるのだが、相性が悪い日万凛はそんなことできない。

 せいぜいバストが3センチ変わる程度なのだ。

 

 もちろん相性がいい能力も存在する。

 自身の組長 羽前 京香の能力“無窮の鎖”がそれだ。

 相性のいい能力を見つけ、記録していけば自ずと最強になる……にも関わらず、東家が“青雲の志”を蔑んだ理由、それは弱点がもう一つある点。

 

 “代償”を払うまで“能力の切り替え”ができない点だ。

 

 “無窮の鎖”には“代償”がある。

 奴隷の働きに応じ、褒美を与える必要があるのだ。

 それを払わずに能力が切り替えは実行できない。

 

 万能ではない、それを姉の八千穂は理解していた。

 この無防備な日万凛に対し、八千穂が考えたのは『心置きなく詰みに入れる』ということ。

 

「お前は常に大一番で結果を出せなかった。今回も同じよ」

 

 その言葉で東日万凛は思い出す。

 大事な試験に向けて頑張りすぎる余り、怪我を負ったこと。

 極度の緊張で熱を出してしまい結果が出せなかったこと。

 思い出したくもない記憶。

 

「お前一人じゃ何もできんじゃろ。ギブアップせい、日万凛」

 

 日万凛はこぶしを握ることしかできない。

 思考は無音で満たされ、反論は存在しなかった。

 

 唯一思考に浮かんだのは“…自分はここでも結果が出せないというの?”ただ一つ。

 

 幼少期から刻まれた“劣等生”という言葉で負った傷は簡単に癒えやしない。

 だからこそ立ち向かったのだ。

 だが、簡単に打ち勝てる程現実は甘くない。

 

「わ…た、し……は」

 

 もう手がない。

 もう無理だ。

 もう諦めるしかない。

 手は浮かばない、浮かぶわけがない。

 

「も……う………」

 

 一人では心細かった。

 完全勝利を謳うなら自分一人で戦うべきだった。

 

 でも、こんな失敗だらけの自分なんか信じられるわけがない。

 

 桃の能力も初めは凄いって言われてたけど、いざ使ってみたら結局私は落ちこぼれ。

 ここで立ち上がったって――きっと最後は……。

 なら、ここであきらめた方がいい。

 

「あ、き……ら…め――」

 

 “奴隷が主人を信じなくてどうする…!

 

 優希。

 

「あき……ら…め――」

 

 優希は、しんじてくれた。

 

「あき…ら…め――」

 

 優希は自分が思った以上によく働いてくれた。

 こんな自分なんかの為に……。

 

「あきら…め――」

 

 いつも男だからって理由でバカにしてた。

 なのに身体張って全身全霊で能力を持つ相手にぶつかってくれた。

 

「あきらめ――」

 

 なのに私が諦める?

 奴隷だけ死ぬ気で働かせておいて、惨めに敗北を認めて醜態を晒すのが主?

 “違う”…。

 

「奴隷が身体張って戦ったのよ。次は私の番、私はあきらめ――ないッ!!」

「これ以上は醜態ぞ? 組長に恥かかすなッ!!」

「最後までもがき続ける事を七番組では醜態とは言わないッ!!

 

 聞く耳持たず。

 八千穂にはわき目も降らず日万凛は優希の元へ駆け出した。

 立ち尽くす奴隷から伸びる鎖を手に取り、背中に乗る。

 

「優希、八千穂に“烙印波”!」

「木偶の坊に何を期待しておるッ!」

 

 開幕早々八千穂を倒した技。

 だからこそブラフが効くと考えたのだろう。

 隙は見せない。

 東 八千穂はこう考えた。

 

「うが――ッ!?」

「拳銃持ってるのがアンタだけと思わないことね」

 

 日万凛の手にあるのは八千穂自身が持つモノと同じ対醜鬼用拳銃。

 その弾丸が八千穂の右肩に風穴を開けた。

 

 妹には何もないと考えた、これが八千穂の隙である。

 

「クッ!」

 

 激痛に駆られ今にも能力を使いたい八千穂。

 だが弾道の合間に何もない中、ポーズを決める間抜けではない。

 

 時間逆行による負傷の無効化を捨て、八千穂は岩陰に隠れる。

 

「あとは私に任せて、優希」

 

 日万凛も同様優希から離れ、岩陰に隠れる。

 今の自分には何もない。

 姉のような時間を操るような凄い能力も、ゴリラや優希のような人並外れた力も。

 

「それでも何が勝利に繋がる“何か”があるはず…!」

 

 考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。

 考えなければ負けるだけ。

 どんな手を使っても相手を出し抜け東日万凛。

 

「……ねぇ、アンタ。なんで“私を心配した”の?」

「は? 何を言っとる、私様がいつ心配した?」

 

 岩陰から声を上げた日万凛の心当たりのない言葉に、呆けた声が出た八千穂。

 

「“何言っとる。コイツの様な危険人物参加させたらお前の身に”――」

「それは…」

「優希と一緒にごちゃごちゃ言ってたから気付かなかったけど、言ってたわよね?」

 

 自分が葵の参加を許可した際、心配した優希と誰かの声をしっかり耳にしていた。

 あの時、日万凛は声の主を七番組の誰かだと認識したが、もしも…姉の八千穂が言っていたら?

 

「ねぇ、なんで私をいじめるようになったの?」

「…………。」

「わたし、嫌だった」

 

 八千穂は黙る。

 悔いがあるが如く顔を俯かせ、押し黙る。

 

「なんで私のこといじめたの?」

「…………。」

「もしかして私のこと――」

「――違う!」

 

 つい顔を出してしまった。

 そして知る。戦闘不能のはずの優希の姿がどこにも見当たらないことを。

 

「ま、まさか!?」

 

 あの出雲葵と渡り合った優希が目覚めてしまえば非常に危険。

 焦った様子で周囲を警戒する八千穂。

 重傷を負う一歩手前だったのだ。

 出雲葵への警戒が丸々優希への警戒と繋がる。

 

「どこじゃ…どこにおる!」

 

 高速で移動しているのなら、駆ける大きな足音がするはず。

 だが、周囲からそんな音はしない。

 なら烙印波? 時間を巻き戻せば恐るるに足らず。

 

 ならば警戒するべきは出雲葵を吹き飛ばした突進、と考える。

 あれなら岩ごと破壊し、自身ごとやっつけることが可能のはず。

 

「くっくっく! ならば…時間停止で遠くに離れる!」

 

 これまでの東八千穂ならば五秒が限界だった。

 しかし、通常の至高のポーズよりも遥かに大きい動作を行うことで――成長を遂げた。

 停止可能時間、なんと“十秒”。

 

「――東 の 大 辰 刻(プライムタイム)

 

 小さく、しかしはっきりとその名を唱え、八千穂は切り札を発動した。

 可能な限り遠くの岩陰に隠れ、そして停止した時間は元に戻る。

 八千穂は待ち構える。

 自分が先程いた岩が破壊される瞬間を。

 

 ――ドオン。そしてたった今、轟音を響かせ岩が破壊された。

 

 きた。

 優希が岩を破壊した音だ。

 八千穂は物陰からこっそり顔を出し、銃口を向ける。

 

「くっくっ――く?」

 

 砂埃が晴れた先には岩の残骸しか残っていなかった。

 

「おらんではないか!?」

 

 和倉優希も、東日万凛も、その場にはいなかった。

 キョロキョロと見渡す。

 そして日万凛を見つけた瞬間――もう遅いと言わんばかりに八千穂の身体が“吹き飛んだ”。

 

「色々言って謝るわ、きっとアンタにも理由があったんだと思う」

「――な、ぜ」

 

 岩ごと大砲の如き衝撃で撃ち抜かれた八千穂は気を失い、倒れる。

 その八千穂の言葉の続きは――“なぜ全裸になっておる!?”だった。

 

 青雲の志(ラーニング)

 能力を使った際、その能力の代償を払わなければ能力の切り替えはできない。

 ならば、日万凛はこの場で払ったのだ。

 奴隷の働きに見合うご褒美を……公には言えない褒美だが。

 

「それはあの駄犬のせいよ、全く いやらしいんだから……」

 

 褒美を払い終えたあとは能力を武器化……武装小町(バンバンバン)に切り替え、岩を全部破壊する。

 これが東日万凛の作戦である。

 

「でも――よし、よしよしよし…よっっっしゃあああああ!!」

 

 東日万凛&和倉優希 対 東八千穂&出雲葵の決着は、日万凛達の勝利で幕を閉じた。




優希くんに黒閃使わせてごめん。
でも、どうしても使わせたかったんだ。

○○先生「だって君(旋風)弱いもん(パワーが)」

隷架拳とかどうやってんのか記述なかった気がするので、
黒閃という技ぶち込んでもセーフだよねセーフ。
許して!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 姉妹、日万凛、憤る

葵ちゃん(ヴォエ)をちゃんとエミュできてんのか不安になるこの日ごろ。
不安ながらという大変小説を舐め腐った投稿ですが、アドバイスあったらお願いします。


「――決着ウウウウーッ!!

 勝者、東日万凛!!

 

 審判、銀奈がとても興奮した様子で日万凛&優希の勝利を宣言。

 

「やったー! ひまりんとユッキーが勝ったー!!」

 

「…あの、京香さん? 目を抑えられると寧、見えないのですが…?」

「済まない寧、我慢してくれ。この光景は少々教育に悪い」

 

 朱々は勝利を喜び、京香は未成年隊員の寧の目を抑えている。

 

「色々思うところはあるが、よくやったな二人とも」

 

 日万凛の組長である京香は眉をひそめながらも、日万凛の勝利によって微笑みを浮かべた。

 

「あらら~暴走しちゃいましたね」

「八千穂には申し訳ないことをしたね。葵にはもっと縛りを付けるとしようか」

 

 いつも通り微笑みを浮かべる天花(葵の姉)の声、それは余りにも重たく。しかし、どこか楽しそうで。

 

「とりあえず今部屋にあるグッズ全部没収だね」

「それだけは――ッ!?」

駄目

 

 気絶中の葵は跳ね上がるも、姉による死刑執行を宣言され崩れ落ちる。

 

NOOOOOOOOOォ――!?

 

 今この瞬間姉の“空間を操る能力”によって、部屋にあるグッズは全て姿を消しただろう。

 サハラは自業自得だね~と言いながら葵の頭をよしよしと撫でている。

 

 一方銀奈によって傷を癒された者たち。

 日万凛は速やかに服を着終わり、八千穂も全回復。優希も黒閃の反動から解放された。

 

「…………。」

「……。」

「………。」

 

 気まずそうである。

 

「「えっと」」

 

 姉妹の声が被る。

 

「…………。」

「…………。」

「…………(気ッまず)」

 

 チラッと朱々を見る。

 日万凛のベストフレンド。

 きっと協力してくれ――

 

「両手に花だねユッキー、それじゃあバイナラ!」

 

逃げるな卑怯者オオオオッ!!

 

 真に迫った怒号を上げるも事態は何も変わらない。

 一瞬、優希は頼れる組長京香に目配せしようと思ったが……威風堂々故にド直球に事態を悪化させるのでは?と脳裏に不安がよぎり。

 残るは、いつの間にか親友になってた名前も知らない戦闘狂……先程崩れ落ちたばかり。

 

「(どうすりゃいんだよ)」

 

 不憫である。

 

「やぁ奴隷クン、お困りかい?」

「あなたは…天花さん!」

 

 そういえば一番頼りになりそうな人物がいた!とハッとする優希。

 思いがけぬ味方の登場に優希はあった! 救いの手あったよ!と大変喜んだ。

 

 さてと呟き、天花は物怖じせず優希と同じく二人の合間に入る。

 

「ぬっ…組長」

「……天花組長」

「調子はどう、二人とも」

 

 天花が尋ねると二人は大丈夫だと答えた。

 

「本当に? とてもそんな顔には見えないけど」

「かっかっか。心配し過ぎじゃ、銀奈隊員の能力は本物。流石引っ張りだこな訳がある!」

「えぇ、おかげさまで傷一つない。…そこは八千穂に同意するわ」

 

「……む、むぅ」

 

 軽快な高笑いが消える。

 八千穂は再び複雑な表情へと変わっていく。

 

言わなくていいの?

 

「――ッ!」

 

 天花の一言に、固まる八千穂。

 まるで時が停まったかのようで、その様子からはありありと恐怖が感じ取れる。

 地面と捉えたその目だけは細かに震えていて――。

 

私が言おうかな?

「…………。」

 

「八千穂…」

 

 組長の言葉、八千穂の口は動かない。

 妹はいつも見てきた大胆不敵とは異なる姉に心配そうな声を目線を送る。

 

 姉妹の目線は繋がらない。

 

「じゃあ言うね――「待て」……ふふ」

 

 天花の言葉を止めたのは、ようやく喋った八千穂だった。

 八千穂の様子は、銀奈の能力で回復したはずなのに肩で息をしており、明らかにおかしい。

 間近で見た人物には分かる。

 “能力を使った”のだと。

 

「もう大丈夫だね」

 

 けろりと笑う天花を八千穂は睨みつけ、鋭い口調で言葉を放つ。

 

「お前とは全く似てないと思っておったが、

 そうやって遠慮なしに姉妹の間に割り込むとこ、妹とそっくりじゃな…!」

「ふふふ♪ あの子とは血は繋がってないんだけどね。これからはしっかり妹の手、握ってなよ」

 

 八千穂お姉ちゃん。そう区切り、心配そうに眺める棒立ちの優希を連れ、天花は立ち去る。

 

「ひ、日万凛っ!」

 

 勇気をふり絞り妹の名を呼ぶ。

 

「……なに」

「あっ! えと、そのぉ…」

 

 顔を上げ、合わせた妹の目はどこか憎しみの篭もっている気がして、たじろぐ。

 八千穂は蚊の鳴くような弱々しい声を漏らすも、目を逸らしはしなかった。

 

「すーっ。はーぁっ…」

 

 息を深く吸い、そして同じくらい吐いて。

 

 “情けないのう”

 

 “お前は東家の名に泥を塗るばかりじゃな……日万凛”。

 

 “背中を預けるには不安な者もおるのー”

 

 六番組との交流戦開催のきっかけになった言葉。

 日万凛の心底悔しそうな顔を覚えている。

 

 “わたし、嫌だった”

 

 だからこそ、もう止まらない。もう戻らない。逃げたりしない。

 

 

 

 

 

――ごめんッ!!

 

 随分時間を掛けたが八千穂は言い切った。

 一度は奪われた言葉だが、だからこそこの“後悔”を言い切れた。

 

「それじゃあ! じゃあの! 日万凛!」

 

 ……返答は最早どうでもよかった。

 何が返ってこようと自業自得。

 だから、言うだけ言って八千穂は日万凛の元をそそくさと去ろうとする。

 

待ちなさいよ

「…………ひ、ひま」

 

 あれだけ心中逃げないと覚悟を抱いたのに、最後は逃げようとした卑怯者の手を握る日万凛。

 激怒の声がした背後へ、ギギギと錆び付いた歯車のように首を曲げる。

 ギロリと睨む日万凛がいた。

 

「――ヒッ!」

まだ許すかも言ってもないのに、最後の最後でチキンになりやがって…!

「えっと、ごっ、ごめ!」

 

 己の妹相手にぷるぷると震える八千穂。

 あれだけ出なかった謝罪の言葉を反射的に言おうとしている。

 今の修羅と化した日万凛相手には分が悪いだろうが。

 

「……はぁ」

 

 今まで、己の中で自分よりも大きい存在だった姉が、今じゃあとてもちっぽけで、情けない。

 ため息をつき、日万凛は告げる。

 

「“もしかして私のこと――”……守ってくれてたの?」

 

「は、え?」

 

 日万凛が試合中、言えなかった言葉だ。

 

東家(うち)はコンプレックスを詰めて煮詰めたような家だものね。

 

 “東は強大あるべし”……。

 そんな理念のせいで、あの家には子供を巻き込むほどの実力主義があった。

 本家の血を引く私たちは分家から目の敵にされて、実力のないと言われた私は“狙われた”」

 

 分家の子供に何度も腹を蹴られた。

 

 日万凛の脳裏には、あの家が嫌いになる記憶がいくつも流れてゆく。

 でも――ある日を境に、記憶が停まる。

 

 八千穂が日万凛のほっぺたをつついた時から。

 

「アンタが嫌がらせしに来てパッタリ止んだのよ。

 力のある本家のアンタが、邪魔だったのかしらね」

 

「――ッ! でもッ! 毎日バカにされて日万凛は苦しかったじゃろッ!?」

 

 何も変わってない。

 

「あれから“痛み”はなかった」

 

 確かに変わった。

 

「アンタの不器用な優しさ、やっと分かったわよ」

 

「でも、苦しかったって……」

 

「そりゃあね、でも子供がやったことでしょ。もう怒ってないわ。

 でも、アンタはもう立派な大人。もう二度とかっこ悪いことしないでよ。

 

 ……お、お姉ちゃん

 

 

 

「――っ! う゛ん!

 

 

 

「祇園精舎の鐘の声、か」

「いきなりどうしたの、葵」

 

「諸行無常の世界でも変わらないものもある。そう言いたかったのさ、姉貴」

「そうだね。いつの世も、兄弟姉妹の絆は美しい。私もそう思うよ」

 

「正にオレ達のようにな、優希(ブラザー)!」

「赤の他人です」

「――ッ!?」

 

 諸行は無常なり。

 

「さてさて、姉妹喧嘩に決着を付いたところで早速第二回戦を始めましょう!!

 

 もう“激!”待ちきれない!と声を大にして呼びかける審判銀奈。

 それに同意するかの如く、選手二人が入場する。

 七番組のパワー担当 駿河 朱々と、同じくパワー担当 若狭 サハラだ。

 

「もう心配ごとはなくなったし、思いっきりやれる!」

 

 幾ばくか優希の目が冷たい。

 逃げたくせに…と優希の顔には書いてあった。

 冷や汗たらたらの朱々は振り返りはしなかったが。

 

「まだ見てたいって思っちゃうけどねえ~」

 

 それでもやる気は十分といった様子で、肩をぶんぶん回すサハラ。

 サハラはよかったねやっちと心の中で密かに思いを伝え、対戦相手を見据える。

 

「それじゃあ早速――はっじ「待てッ!!」んえっ!?

 

 叫んだのは京香。

 日万凛を信じて口を挟まなかった彼女が、余裕がない様子で一同に伝える。

 

「寧の様子がおかしいッ! 総員、警戒態勢!」

 

「「「了解ッ!」」」

 

 京香の一声で全員瞬時に構えを取る。

 能力のない優希は京香の傍へ。一瞬ちらりと目をやるが、周囲に目を戻す日万凛。

 そんな日万凛と背中合わせの八千穂は、妹を心配そうに眺めていた。

 

「いッ今のは…」

「どうした寧、何が見えた」

「そ、その――」

 

 寧の能力は、千里眼とも言われる“きっと見つける(プロミス)”。

 何かに遮られようとも、望遠鏡のように遥か彼方を見通すことが可能な能力である。

 数ある能力の中でも希少性が高いとされ、11歳でありながら魔防隊に属する程。

 

 能力発動中は寧の全身から桃色のオーラが溢れ、寧の角膜に独特の模様が浮き出る。

 決して遠方から発覚するような目印は存在しない。

 しない筈なのに。

 

 “視られてる? 暗幕とった途端に…やるねぇ

 “皆によろしく伝えて――戦闘開始だって

 

「……み、みられました」

「なんだと?」

 

 敵の能力か? 寧と同類の。

 だとすれば、こちらの戦闘能力が盗み見られたことになるな、と怪訝な顔を露わにする京香。

 

「ギャ…ギャギギギ!」

「バウ、アアアウ」

「ゴアアアアアア――ッ!!」

 

 そんな中、地中から這い出るように現れる醜鬼の群れ。その数、数え切れない程の大群。

 

「醜鬼!? なんでいきなりこんなに…ッ!」

「激! 安心してください♪」

 

 現れた敵に対して日万凛は武装小町の銃口を向けるも、大丈夫だと銀奈に呼び止められる。

 

「ギャギャギャ――ギャアアア!?」

 

 醜鬼が銀奈の結界に触れた瞬間、電撃が迸り、断末魔を上げながら消し炭と化す。

 火にたかる虫の如く、理性なき醜鬼が次々と醜態を晒しながら消えてゆく。

 

 そんな群れの中心、それはいた。

 

ふーむゥ

 

 言葉?

 “人食い”の醜鬼の大群から人の声が聞こえる?

 

 目を見やる一同には、般若の面に似た目元だけを覆った仮面を付けた、大柄の人間を目にする。

 尚、人間であるのか半信半疑だったが。

 

これで結界のつもりとは……

 

 その者が嘲笑いながら取った行動は頭突きだった。

 衝突によって結界は電撃を周囲に撒き散らし、それは護られている筈の内部にも届く。

 銀奈は見開く。

 私の自慢の結界、それに今、ヒビが入っているのだから。

 

滑稽すぎて――この雷煉 大 爆 笑 !

 

「きゃッ!」

 

 そして、崩壊。

 ハハハハハと豪快な声が響く。

 

廃れ物ども。貴様ら、そろそろ亡びの時だ

 

「グギャ――オッ!!」

「グロロロアっ!!」

 

 同時に猛獣が侵入する。

 人に似た化物の手が銀奈に伸ばされる。

 悲鳴を上げる時間もなく、ただ目を瞑るしかなかった。

 

 ――“パァン”!。

 

「は? あれ?」

「やぁ」

「ひゃあ! な、なんで天サマが!?」

 

 銀奈は先程まで葵がいた天花の隣へ。

 何が起こったか理解できず、天花が声をかけると彼女は天花にいい反応を露わにする。

 

 対して葵。

 銀奈のいた位置に立ち、醜鬼達を殴り潰す。

 これこそが蒼いオーラの源、葵本来の能力――

 

「オレの能力は“相手と自分”の位置を入れ替える――不義遊戯(ブギウギ)!!」

 

 葵の台詞から葵に助けられたと理解した銀奈は、葵に熱烈な視線を向けていた。

 

「……あおサマ!」

「考え直せ!? 俺をいきなり親友兄弟扱いしたヤツだぞ!?」

 

 優希はそれを強く止めようとした。

 

「気持ちは分かるけど、話はあと。非戦闘員は寮の中へ」

「姉貴???」

「天花、寧からの索敵報告も聞いておけ!」

 

 能力によって寮内と空間を繋いだゲートを出現させる天花。

 姉から出た言葉にハテナを浮かべた葵をスルーし、京香は情報のために声をかけた。

 あの仮面の敵なのか、それとも別かを知るために。

 

いるではないか…二人以外に! 少しは楽しめそうなヤツが!

 

「プロポーズの割にはアプローチがなってないな、緊張しているのか?」

 

 軽口の裏で、頭を回す葵。

 

 注目したのは“二人以外に”という言葉。

 実力という面で見れば、この場でそれに相応しい人物は組長二人。

 希少な能力という面で見れば、寧ちゃん・姉貴・やっち…ただ人数が異なる。

 自然と狙いは絞られた。敵の狙いは“組長二人”。

 

 そして次、敵の能力。

 一撃が黒閃並み…シンプルな身体強化か、それとも噂に聞く“人型の醜鬼”の身体能力か。

 ならば別途に能力があると考えた方がいいな。

 葵はそう結論付けた。

 

 数日前、妹と仲違い中の八千穂がいるのに、六番組が七番組の寮へと足を運んだ理由。

 それは“人型の醜鬼”の出現だった。

 人と同等の知性を持つ“敵”。

 国は尖った個性(例、葵)が集まった魔防隊の団結を図り、連携を密にせよと命じた。

 

 結果が八千穂と日万凛をきっかけとした交流戦の勃発だが。

 

 その件は結果一件落着を迎え、隊員に一層濃厚な訓練を促した効果はあった。

 葵はチャンスと見た。

 己の実力が、噂の人型醜鬼にどれほど通用するか。

 

そんなに嬉しかったか?

 この乱撃の後も、その軽薄な態度を取れたら誉めてやろうぞ!

 

「次は点数をつけてやるよ」

 

 ―――

 

 “パァン”。

 入れ替わり直前に聞いた音。

 日万凛は呟く。

 

「発動条件は“手を叩くこと”ってワケね」

「正確には“手に蒼いオーラを纏いながら”じゃがな。早過ぎて見えん」

「ねぇ八千穂…お、姉ちゃん」

「なんじゃ日万凛!」

 

 近づく余りくっついたキラキラ顔の姉を、照れ隠し交じりに押しのけ、尋ねる。

 

 もしも交流戦中、あの能力を使って優希もしくは己と位置替えをされていれば……。

 そう思い至り、苦い顔を浮かべる日万凛。

 

「全ッ然! 本気出してないじゃないアイツゥ…!」

「……まぁの。

 シンプルじゃが、戦闘中いきなり使われれば銀奈隊員と同じく混乱必須。

 内容以上に凶悪な能力じゃがの、ヤツは私ら相手に“必要ない”と断じた」

 

 格差。

 

「腹立っておるのは私様も同じ。これはチャンスじゃ日万凛、ここでアイツを出し抜くぞ!!」

「――えぇッ!!」

 

 姉妹が戦場を駆けた。




デレた八千穂が好きなのじゃ。
もっと原作で日万凛とイチャイチャして。
原作者様頼む。
高田くんのグッズ捧げるから。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話 抽力の核心

いえーい深夜テンションふっふー!!


………やべえ頭ちょー痛ぇ。





 オレの不義遊戯はエネルギーを消費して発動する能力。

 姉貴並みにエネルギーはなく、次の拍手を行う時間という物理的インターバルに関してだが、姉貴は瞬間移動を連続で666回可能。

 ほぼ上位互換。

 

 己の能力を見つめ直し、身体能力向上を狙った抽力操作を編み出した。

 だが不義遊戯のエネルギーを消費する抽力操作を多用するのは危険。

 温存しようと思った。

 

 無理だなこりゃ、“強すぎる”。

 

「ふうんッ!!」

温い!

 

 右拳を放つ。

 奴は拳を返り討ちにしようと頭突きを放つ。

 その直前に、右拳を開きながら下から左手と合わせる。

 

ぬおッ!

 

 パァンと拍手を鳴らし不義遊戯を発動。

 オレと奴の位置は入れ替わり、ちょうど背中合わせの状態と化す。

 そのがら空きの背中目掛け、今度こそ――

 

――“黒閃”ゥ゛ん!!

 

 決まった。

 黒閃は技術じゃない、偶然起こる現象だ。

 オレも狙って出せたことはない。

 今、黒閃に対してオレ達ができることは黒閃が出現する環境を整えてやること。

 ただし、その日のうち黒閃を決めてゾーンを体験しているのなら、確率は格段に上がる。

 

 まぁ、現時点で黒閃を出す意味はなくなった。

 通じてないのだからな。

 

――見込み違いだぞ? どうした廃れ物おッ!!

 

 異常に早い大振り。

 奴め、身体能力も一級品か。

 しかしな醜鬼よ、今の黒閃でゾーンに入ったオレの方が判断が早い!

 不義遊戯で醜鬼と入れ替わり、避ける。

 

逃げる才は誉めてやる、ほれ。もっと踊れェい!

 

 奴が腕を上げると同時、雲が不自然な動きを始めた――最悪は“落雷”。

 不味いな……オレの抽力は電撃には弱い。

 だが、妙だ。

 不義遊戯で対応されるのは理解している筈。なら、これはオレを誘い出すための罠!

 

 早いが、手札を切る!

 

「不義遊戯ッ!」

 

 パァンという音の直後、落雷は奴自身を穿つ。

 

ぬッ!?

 

「能力の発動は頭で自由に切り替えられる。手を叩こうが、今のように不発にできる」

 

 これで奴の手の内が一つ分かった。

 腕を上げることが条件の落雷。一瞬の溜めの後、“一つ”の落雷が発生する。

 でなければ己の位置だけでなく、オレの今いる位置に撃たない理由がない。

 

面白い。さぁ次はどうする、廃れ物…!

「そりゃ、耐性がなければ自爆を賭けたギャンブルはしないよな」

 

 奴は電撃に耐性がある。記憶完了。

 手を鳴らす。

 今度は醜鬼と奴だ。

 奴は醜鬼を落雷で消し飛ばそうと腕を上げる。

 手札その二。

 

 オレの不義遊戯の効果対象は“相手と自分”と言ったな。

 違うね。

 自分以外にも“抽力を纏わせたモノ”も効果対象になる。

 だからこんな石ころでも抽力を纏わせれば――パァン。

 

どういう――

 

 人も醜鬼もいない中、驚いた様子の奴が現れた。

 全くドッキリのし甲斐があるな!

 

――“黒閃”ァ゛!!

 

 隙を見せた背中に二度目の黒閃が成功した。

 効かない攻撃浴びせて油断はしない。

 落雷の前にすかさず不義遊戯。

 

 ――パァン!

 

死ねい廃れ物おッ!!

「そんな遠くに雷落として、なにしてんだよおばあちゃん」

ここでまた――ッ!?

 

 不義遊戯不発。

 そして三度目、背中ががら空きだぜ。

 

――“黒ッ閃”ェ゛ン!!

いい加減鬱陶しいッ!!

 

 やはり黒閃の条件は連続で行うことなのか?

 ともかく、同じところを連続で殴ったんだが効いてないな。

 

 それがどうした。そういう能力なら納得は行く。

 だが、まだ確定していない。ただ単純に硬いだけというなら、敵には油断が生まれる。

 畳み掛けろ。

 

 コイツは今のところ姉貴なら勝てる相手だ。

 全部任せても姉貴なら倒すだろう。だが、ここへは何のために来た?

 

 金のため? そうだ。ここなら高田くんのグッズはチケット代が稼げる!

 戦闘のため? そうだ。ここなら不良なんざ目じゃない相手がいる!

 姉貴のため? そうだ。ここなら拾ってもらった恩を返せる!

 だが、それだけじゃないだろう出雲葵。

 

 抽力が空になっても、続けろ。

 ここには何のために来た。

 

「――姉貴を超えるッ!!

 

 ここで通用しないオレなんざ要らない。

 ここで弱腰になるオレなんざ死んでしまえ。

 ここで勝利できるオレだけだ、求めるのは――ッ!!

 

“黒――

くく――ッ!!

 

 嗤った?

 

 口を開き、見えるのは喉ではなく焔。

 奴の二つ目の手の内は、一瞬で放たれる“口から焔”!

 不味いな…この体勢だと避け切れん。

 あの焔を受けて隙を晒してしまえば、落雷、頭突き、大振り……いずれも黒閃並みの威力の攻撃を受けてオレは即座にリタイア。

 下手したら死ぬな、だがッ!

 

「まだ手はある」

無駄なあがきよッ!!

 

 奴の口から焔が放たれ、胸を焦がす。

 熱いな。

 だが、抽力で逸らせ。コントロールを諦めるな。

 一歩踏み込み狙うは奴の“右手”。

 全てを出し切れ。

 

「不義遊戯ッ!」

 

 オレとオレの手でなくとも可能ッ!

 オレとオマエの手による“不義遊戯”!!

 お互いを入れ替え、四度目の構図を作り出す。

 

 一撃浴びせて敵は慢心している、それすら詰め込んで打ち出せ、出雲葵――!!

 

――“黒ッッッ閃”ああああああああ!!

 

 決まった。

 

 効きもしない攻撃が。

 

「腹じゃあッ葵!!」

 

 やっちの声。

 

「不義――!」

隙だらけだ

「――あが」

 

 腹に一撃が貫く。

 

 雑な殴打、されど認めたくはないが交流戦の優希(ブラザー)よりも強力。

 身体は否が応でも地を離れ、行き先は彼方。オレは奴にぶっ飛ばされた。

 

 身体中から嫌な音を聞きながら風を受ける。

 それでも意識があるのは、やっちのおかげで可能な限り集めた抽力で“腹”を守れたから。

 

 計算してあと落下まで三秒。

 

 上手くやれ。でなければ次こそ死ぬぞ出雲 葵。

 

「――!」

 

 まだ戦うため、不義遊戯と黒閃一回分の抽力を残し、脚に抽力を溜める。

 

 それをクッションにするために身体を捩じって、交流戦と同じように三回バク転を決める。

 失敗すれば天国生き。

 

 痛みの中できるのか?

 やるしかない。

 

 喉の奥も熱い、あばらも…胃袋も破裂したのか? 初めてだな。ここまでの大怪我。

 息をすれば血反吐が邪魔をするだろう。

 息を止めろ。

 

 無呼吸でやるのか?

 やらなきゃいけないんだよ。そもそも息を整える時間もない、分かるだろオレ。

 

 さぁ歯を食いしばれ。

 

「がふ――」

 

 痛――シャットアウトしろ。死ぬぞ。

 耳鳴りがする。問題ない。頭痛がする。死ぬほどじゃない。立ち眩み――シャットアウト。

 黒閃のゾーンが可能にする身体のコントロール、これさえあればいい。

 

「――ぶッ」

 

 着地の衝撃で血が溢れる。いいね。生きてる証だ。痛みはシャットアウト。

 ハイになれ。全能感で追い付く痛みを誤魔化せ。オレは天才最強ソーカモナー!!

 

「ッあ」

 

 身体を伸ばし地に手を付けて、右手に力を入れて強引に勢いを殺しながら――クリア。

 その甲斐あってミシリという音が腕から聞こえた。

 なのに、まだ勢いは止まらず、身体もなんだか寒い。

 不良と喧嘩してたガキの頃の記憶だともう少し先のはずなのだが。

 まだ残り二回。

 

「ぃッ!」

 

 折り曲げた脚で地に足つけ、腕の時とは逆に軽やかに飛び――クリア。

 だが、少ししか勢いが落ちてない。それでも脚は使う。奴と戦う時にどうしても必要だ。

 この程度、問題ない。

 もう残り一回。

 これ以上は身体が動かなくなる。

 

 上手くやれ。上手くやれ。上手くやれ。上手く――シャットアウト。

 

「ばはッあ!」

 

 口から血を噴き出すも今はもう関係ない。

 右手を地面に引っ掛ける。

 爪なんざ飾り。大事なのは命。感覚的には親指は残ってるぜ? 十分だろ。

 ここで止めるしかない。

 でなければオレは奴に殺される。

 

 姉貴を超える前に――。

 

 ここで死んでたまるか。

 高田くんのライブも待ってんだぞ?

 確実に決める。

 神経に意識を集中させろ。痛みを消す暇はない。歯を食いしばれ。ショック死するなよ。

 

「――がぎばあがあああああ」

 

 痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛!?!??#!?#%$!>&&$”!$”!%#!■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

「あやつを止めろおッ!!」

 

 ここで雷煉と名乗ったあの強敵を戦わせたら葵は死ぬ。

 葵に恩はない。だが、組長にはある。だからこそ六番組として絶対に阻止する。

 

 それに……。

 

「せっかくの後輩に手ぇ出すんじゃない、貴様ぁッ!」

 

邪魔だ。前座にもならん、廃れ物ども

 

 腕を上げる。

 妹に向けられないか、何度も恐ろしいと感じた落雷の合図。

 その前に至高のポーズを取る。

 

――東の辰刻(ゴールデンアワー)ッ!!

 

 五秒停止。

 落雷は声を上げた八千穂を狙って墜ちている。

 自分以外でよかった。もしそうだったら、届かない。

 八千穂は安堵しながら雷を避け、雷煉に向かう。

 

 そして世界は動き出す。

 

ほう? 避けたか

 

「優希ッ!!」

おおッ!!

 

 旋風を巻き起こし一直線に駆けてゆく二人。

 

 しかし、雷煉にはバレバレである。

 二人を狙い、致死の落雷が今墜とされる。

 

「――うがああああああ゛ああああッ!?!?!?」

 

 二人には当たらなかった。

 朱々が落雷を受け止めたから。

 彼女の能力“玉体革命(パラダイムシフト)”は身体のサイズを変化させることが可能。

 かの英雄の如く巨大化し、二人の避雷針となったのだ。

 

貴様らは奴との殺し合いを終えたあとだ…!

 

 背を向ける雷煉は飛んだ。

 その怪力で突き進む二人を無視し、葵の待つ方角へ。

 

「たしか、やっち……未来の私によると鋭い角を生やすイメージ…だっけ!」

 

 そしてその先には待ち受けるかの如く、若狭 サハラがいた。

 5秒先から帰ってきた八千穂によって任されたのだ。

 

 何度も5秒先から帰り、そしてその度にサハラ本人からやったことを聞いたらしい。

 そして何度も五秒前の本人に伝えた。

 ああやってみて。こうやってみて。

 数十回繰り返された五秒の中で、同時に一発でわかるヒントを本人から聞いて……。

 

 雷煉を停めるには必要な事だったろう。

 それでも八千穂はよくできたなと驚きを隠せない。

 

 サハラも同じだった。

 よく頑張ったねと気絶した八千穂の頭を撫でた。

 今もその暖かい温もりが手に残っている。

 

「次は私の番……」

 

 分数を指定し、その時間中だけ自身の身体能力が可能な能力“怒れる羊(クレイジーシープ)”。

 最少が1で、最大が60。

 しかし、サハラと八千穂はやり抜いた。

 

「――0.1ッ!!」

 

ぬおっ!? 我が力負け――

 

 6秒。

 飛んでサハラに自ら向かった間抜けを叩き落すには、十分だった。

 間抜けを掴み、思いっきり元の位置に向かって投げる。

 

「優希……今ぁ!」

 

 日万凛の掛け声で飛ぶ優希。

 駆けたことで得た推進力は優希を運び、雷煉の落下地点まで高速で進む。

 それに合流する人影――。

 

「優希、日万凛、同時にいくぞッ!!」

「「はいッ!!」」

 

 “無窮の鎖”本来の持ち主である羽前 京香だ。

 驚異的な身体能力で優希達に追いつき、日万凛の握る鎖を自身も握る。

 加速しながらという日万凛の案、“無窮の鎖”同時使用という京香の策略。

 それが今、雷煉を屠ろうと襲い掛かる。

 

無窮の鎖(スレイブ)戦雲(いくさぐも)――うううおおおおおああああああッ!!!

 

 英雄になる。

 日万凛が目指した夢。

 しかし、優希もそれは同じ。

 だからこそ守りたかった。

 勝たせたかった。

 夢への背中は押せた。

 

 今度は己自身が英雄となる番だ。

 

カァッ!!

「私には通用せんッ!!」

 

 悪足掻きで放たれた火球。

 しかし、京香によって斬り払われる。

 両腕を上げる。だが、数を増やしたところで落雷は“もう遅い”。

 

おおおあああああ――黒ッッッ閃えええええええッン!!!

 

 やはり和倉優希は愛されている。

 条件は揃えた。

 その日のうちに黒閃を行った。

 されど、土壇場での慣れない新形態での黒閃。

 和倉優希は黒閃の申し子である。

 

 しかし――“誰か”に足を掴まれた。

 

「寧が見た敵か…!?」

クソッ威力が足りねぇ…!

 

死ね

 

 落雷が間に合ってしまった。優希達を狙って落ちてくる。

 

「優希、あとは組長に任せて」

くッ!

 

 ここで逃せば間に合わなくなる。

 だが、自分の役目はもうない。

 口惜しげだが、日万凛の言葉に優希の身体は支配される。

 

 京香は優希の身体から離れ、雷煉に向かう。

 己の仕事だと確信し。

 

忘れたか? 両腕であることを

「ぐああああああ――ッ!?」

 

 落雷を受けた。

 

「……斬る」

 

 刀を地面に突き刺し、落雷を地面に流す。

 焦げと電撃傷が刻まれた身体で雷煉を細切れにしようと動く。

 

 無我夢中で刀を振るった。だが、もう雷煉はそこに存在しなかった。

 

「…く、そ」

 

 

 

 ―――

 

 

 

「…………」

 

 生きたぞ。

 

お前のようなしぶとい廃れ物は初めてだ。だが、年貢の納め時…

 

 左手で不義遊戯を発動しろ。

 

「…………」

 

 ヤバいな無茶したせいで身体が動かん。

 馬鹿だな、これでは足を残した意味がない。

 

――では、死ね

 

 姉貴は……こんな無様晒さないんだろう。

 

 オレと違って綺麗だから。

 

 だからオレはオレなりに超えたかった。

 あの完璧な存在を。

 いつも退屈そうな美人面をなんとか驚かせたり笑わせたりして歪ませたかった。

 姉貴があの頭の悪いババアだったら苦労しなかったろうに。

 

 なんで頑張ってんだっけ?

 

 ガラじゃない。

 いつも何でも出来た。

 天才だった。

 そうでなければ食い物にされるだけ。

 

 親もいないオレが生き残るために武器、頭脳がなくては生き残れなかった。

 不良、ヤクザ、醜鬼――初めては全力を出してもあと一歩で死ぬところだったな。

 醜鬼と三日間デスレースして生き残れたのは運と姉貴のおかげだ。

 

 なんでそこまでして生きたかったんだっけ?

 

 いつも退屈だった。

 何かを超えた後、その何かは今までより退屈になっていって……。

 オレはそれが他人より早かったんだ。

 

 死にかけの戦いの機会が他人より多くて、それでなんか脳のタガが外れちまったんだろう。

 だからいつも狙われた。

 返り討ちにするのは簡単で、でもそいつらは数を増やして帰ってくる。

 

 だから桃が欲しくなったんだ。

 

 生きたい理由になってない。

 

 オレは捨て子だった。

 道路の草むらの中、見つかりずらい場所に捨てられていたらしい。

 それでもそいつが発見できたのは偶然にも車を停めて、草むらに向けてしょんべん中、オレが大声で泣いていたから。

 今じゃあ考えられない男の立ちしょんだ。

 

 でも運命だ。そのおかげでイケメンに拾われ、施設のババアに気に入られた。

 下手すればこの時、ババアに草むらへ捨てられたかも知れない。

 

 すくすくと捨てられるかもという疑心暗鬼の中、オレは立派に他人を出し抜く子供へ成長した。

 他のガキ共を先導し、ババアを陥れた時はスカッとした。

 

 だが、オレの頭を恐れたガキ共は不良をぶつけた。

 死にかけた。が、この時だ。喧嘩の駆け引きを身に着けたのは。

 

 病院を抜け出しガキ共を罠にかけ、あと一歩というところでヤクザに捕まった。

 暴れ過ぎたせいでガキ共失踪事件の容疑者として、ヤクザが睨まれたのだ。

 拷問を受ける中、オレは痛みをコントロールする術を得た。

 

 そうじゃないと生き残れなかったから。

 

 警察が来るまでの二日間を乗り越えた。

 そしてガキ共全員葬り去ってすくすくと裏路地で不良から金を奪う中学時代。

 そんなオレの目の前にクナトが開いた。

 

 数多くの醜鬼に追われ、その果てに身体のエネルギーをコントロールする術を得た。

 そして三日間も走り切った。姉貴と出会うまで、何時間も。

 

 楽しかった。

 

 難題を乗り越える瞬間、次は何が待っているのだろう。

 次はどうやって乗り越えようか。

 ドーパミンが溢れて仕方なかった。

 

 あの趣味が合う男と親友になるには。

 

 あの完全無欠の姉貴を超えるには。

 

 目の前のババアをぶっ飛ばすには。

 

 どうやって乗り越えようかなぁ。

 どうすればいいと思う、高田くん。

 

「そうだね」

 

「――高田くん!」

 

 ※妄想です。

 

「メス豚らしくケツかっぴらけば?」

 

「なるほど手ではなく――ケツ!!」

 

 流石は高田くんだぁ。

 

「やばい狂人には藪蛇だった」

 

 抽力操作。

 

 右ケツに抽力を集めろ。左ケツにもだ。

 いや、それだけでは足りない。抽力で掌を形作れ。

 騙せ。世界の理を。己が魂さえも――。

 

 今この瞬間、オレのケツは抽力の核心を掴む――ッ!!

 

 ※現実です。

 

「……!」

 

 はははヤバい。にやけちまう。

 ババアにバレちまうじゃねえか。

 でも、まぁ仕方ないよな。

 

 だって――“パァン”!

 

なあ!? 手は動いて――

 

 人生ってこんなにも狂っていて楽しいんだから。

 

――“ ッッッッッ ”――――!!

 




いえーい深夜テンションふっふー!!


ごめんなさいケツだけは正気で考えました。
これだけはやりたくて書いてました。
いつも通り反応集に影響されました。
反省も後悔もしておりません。
許してください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。