【完結済】瀬人VSキサラ~時空を超える記憶~ (生徒会副長)
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TURN0-1「奪われたブルーアイズ」

TURN0-1「奪われたブルーアイズ」

*本格的なデュエルは次の話からです。
*9月15日、修正。デュエルディスクは左腕につけるものでしたね。


 気がつけば、海馬瀬人は見知らぬ砂丘に独り立っていた。照りつけるような日差しと全てを焦がすような陽炎が目に映るにもかかわらず、何故か熱さに対する感覚は鈍い。

 風が吹き荒む向こうに、黒いマントと仮面の男の姿がおぼろげに見えた。男が手を空に掲げると、そこから妖しい雷光が発せられる。

 瀬人の手に武器はない……。ただ身構えることしか出来ない彼が覚悟を決めたその時ーー。

 1人の、銀髪の美女が前へ躍り出た。

 彼女は、瀬人を護るために、瀬人の盾として、その身を雷光に貫かれた――。

 倒れる彼女を、すかさず受け止める。

すると彼女は――生来蒼く澄んでいる筈の眼を血で紅く染めて、瀬人を睨みつけた。

 

「――? ――――ッ!?」

 

 何を叫んでいるかはわからない。しかし、彼女の絶望と、瀬人に対する想いの強さだけは分かった気がした。

 次の瞬間――。

 

「――――――!!」

 

 断末魔を上げる彼女の身体から青い焔が燃え上がり、断末魔は巨龍の咆哮となった。

 

『なっ……!?』

 

 今まで明確に分かる音がなかった空間に、彼自身の驚きの声が洩れる。

 何故ならその巨龍の姿は――。

 

(ブルーアイズ!?)

 

 自分が最も信頼するしもべ、青眼の白龍に他ならない。それが自分に牙を剥いている……。

 なぜ? どうして?

 理由が分からないまま、瀬人の身体はブルーアイズの光撃に飲み込まれた――――――。

 

**

 

「――――ッ……!」

 

 目が覚めると、そこはいつもと変わらない、社内の仮眠室だった。瀬人の額に、汗が鬱陶しくへばりついている。枕元のデジタル時計は、午前2時を知らせていた。

 

「また、あの夢か……」

 

 彼――海馬コーポレーション社長、海馬瀬人は、数日前から悪夢にうなされていた。夢は儚く、そのヴィジョンはおぼろげにしか覚えていないが、はっきり覚えていることが1つある。

 

(ありえん。俺が、ブルーアイズに殺されるなど!)

 

 所詮はくだらない夢に過ぎぬと、瀬人はいつものように切り捨てることとした。

 瀬人には目標があった。彼が生涯のライバルと認めた決闘者――アテムが冥界に還った今こそ、『世界海馬ランド計画』という人生最大の目標を、一層推し進めていかなければならない。こんな幻影に気を遣っている余裕など、彼にはないのだ。

 

(もう一度眠り直すか……。)

 

 一度払いのけた布団に手をかけた時、仕事用の電話がけたたましく鳴りだした。

 

「チッ……」

 

 世界を股にかける大企業には、よくあることである。

 

(面倒なことだ。仕方ないとはいえ……)

 

 彼は渋々受話器を取った。

 

「俺だ。何の用だ?」

 

 受話器の向こうにいるのは、彼の一番の腹心――磯野のはず。そう見越して簡潔に訊ねた。しかし――。

 

「こんばんは……。海馬瀬人」

 

 何故だろう。女の声がした。

 

「貴様は何者だ」

「貴方に名乗れる名前はない……。まあ仮に、シンと名乗っておきましょうか」

 

 あまり女らしくない名前だ……という感想を抱く。思い当たる節もなかった。

 

「……要件はなんだ」

「今から、私とデュエルをして下さらない?」

「デュエルだと?」

 

 『デュエルにおいて、いつ何時であろうと、誰の挑戦でも受ける』――そういう信念を、彼は一応持っている。しかし今は、草木も眠る丑三つ時だ。

 

「休養も仕事の内……。俺は忙しい。その挑戦、日を改めれば、受けてやってもいいぞ?」

「負けるのが怖いのかしら? それとも、貴方のしもべには雑魚しかいないのかしら?」

 

 その挑発は、海馬瀬人の闘争心に火を灯すには十分だった。

 

「ふぅん! ブルーアイズの存在を無視して俺のカードを雑魚呼ばわりするとはいい度胸だ!」

 

 一瞬、あの悪夢のことが瀬人の頭をよぎったが、関係のないことだと思っていた。次に、相手が言葉を発するまでは。

 

「青眼の白龍? そんなカード、貴方のデッキに入ってないわよ?」

 

 ブルーアイズの悪夢。こんな深夜の挑戦者。意味ありげな口振り。

 

(……まさか!?)

 

 彼はすぐにデッキを確認した。ブラッド・ヴォルス、X-ヘッド・キャノン、収縮、エネミーコントローラー、最終突撃命令、異次元からの帰還……。

 ……ない。

 海馬瀬人が最も信頼するカード、青眼の白龍は――どこにもなかったのだ!

 

「貴ッ様ァァアア!! 俺のブルーアイズを何処へやった!? 絶対に許さんぞ!!」

 

 深夜であることなど意識の外にやって、瀬人は怒声を上げる。

 

「ふふっ……。取り返したければ、屋上にいらして下さい。そして運命のデュエルを愉しみましょう? 

 貴方とブルーアイズの――運命を決めるデュエルを!!」

「ちぃっ!」

 

 乱暴に瀬人は通話を切る。

 自分で決めたものならいざ知らず、他人に決められた運命のデュエルなど、彼にとっては至極どうでもよかった。しかし、それでも彼を突き動かしたのは――。

 

(ブルーアイズこそ俺の光。ブルーアイズこそ俺の魂。そして――俺とモクバの、絆の象徴。何としても取り返す!!)

 

 彼の意志は刀より鋭く、ダイヤモンドよりも固かった。

 瀬人は、己の象徴のひとつである白いコートに袖を通し、気を引き締める。ブルーアイズを取り戻す為、デッキを再編成する。

 左腕に決闘者の盾、デュエルディスクを装着すると、彼は戦場へと、走り出した――。

 

**

 

 屋上にやってきた彼を迎えたのは、黒雲渦巻く暗い空と……。

 

「お待ちしておりました……。海馬瀬人」

 

 モノクロ模様の仮面を被った女だった。声だけでなく、腕の細さや衣服の凹凸を見れば女であることはわかる。仮面の外には長い銀髪が、黒のグラデーションを深めながら真っ直ぐ下りる。うなじと美しく張り出した乳肌に目をやれば、そのいずれもが、大理石のような輝く白さを見せている。乳肌は途中から、蝙蝠の翼のような暴力性と身軽さを孕んだ黒のドレスで隠されていた。

 

「ふぅん……。逃げることなくデュエルに臨む潔さは誉めてやる。だが、俺のブルーアイズを奪った罪は言い逃れできんぞ!」

「罪から逃れられないのは貴方のほうよ!」

 

 瀬人に心当たりはなかったが、相手の気迫に一瞬気圧された。

 

「貴方はかつて、大きな罪を犯した。貴方だけじゃない。私も含めて……全ての人、全てのカードは今、大きな罪を背負っている。私は、それを無に帰すためにここへ来た……」

「そんな戯れ言はどうでもいい。過去の罪など俺には関係ない。俺が見据えるものは、未来へのロードのみ! 俺の未来を照らす光、ブルーアイズは返してもらうぞ!」

 

 瀬人は空に左腕を掲げる。その動作に反応し、デュエルディスクは臨戦形態に変形した。

 

「いいえ……。未来に光などないわ。あるのは底知れぬ罪と絶望だけ……。それを、デュエルで教えてあげる!」

 

 いまこの時の両者間においては、理解にも交渉にも至る余地はない。互いに、考えることは同じだった。

 

((――決闘者なら、カードを以て己を語るのみ!))

 

 青眼の白龍を巡るデュエルが、幕を開ける――。

 

『『――デュエル!!』』

 

海馬瀬人/LP4000(先行)

《VS》

シン/LP4000

 

「俺の先行、ドロー!

 手札から『サンダー・ドラゴン』を捨てることで、デッキから新たな『サンダー・ドラゴン』を2枚、手札に加える!

 ブラッド・ヴォルスを召喚!

 これでターンエンドだ!」

 

瀬人LP4000/手札6枚/伏せ0枚

ブラッド・ヴォルス/攻1900




【注意】
*デュエルSSです。
*キサラが悪堕ちした過程については、以下の小説をご覧下さい。
『罪に堕ちるブルーアイズ』→http://novel.syosetu.org/32132/3.html
*興味があれば、私が書いた古代編の短編小説も併せてお読みください。
『いつか、友としてディアハを』→http://novel.syosetu.org/33588/1.html
*ルールは、5D’s時代のOCGに準拠
*起動効果の優先権と、ダメステに関する新改訂は無関係(関係するカードは出ない)
*禁止制限(リミットレギュレーション)も上記に準拠しますが、例外もあります。具体的には以下の通りです。

《瀬人が使用する》
超再生能力、異次元からの帰還、増殖するG、大嵐
《キサラが使用する》
超再生能力、OCG効果のSin、蒼眼の銀龍、伝説の白石、青き眼の乙女
《使用しない》
アニメオリカ全て、征竜、殿堂入り禁止カード(強欲な壺、混沌帝龍など)


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TURN2-3《Sin青眼の白龍》

瀬人LP4000/手札6枚/伏せ0枚

ブラッド・ヴォルス/攻1900

 

 伏せカードがないとはいえ、瀬人の場にいるのは下級モンスターで最高級の攻撃力を持つ『ブラッド・ヴォルス』。だがシンは、それを歯牙にもかけず、自分のターンを始めた。

 

「私のターン、ドロー!

 ……手札が悪いわね。『手札抹殺』の魔法カードを発動!」

「ふぅん、威勢のよさの割には手札事故か! いいカードの一つでも引いてみるんだな!」

 

互いの手札を確認した後、墓地へと送る。

 

》瀬人が捨てたカード:6枚

サンダー・ドラゴン×2、

ボマー・ドラゴン

ゴブリンのやりくり上手

ロード・オブ・ドラゴン

ドル・ドラ

 

》シンが捨てたカード:5枚

Sin真紅眼の黒竜

Sinレインボー・ドラゴン

Sinトゥールス・ドラゴン

ダーク・アームド・ドラゴン

伝説の白石

 

 シンの『手札抹殺』は、手札事故からの脱出以外にも、明確なメリットとなる狙いがあった。

 

「いま捨てた『伝説の白石』の効果発動! このカードが墓地に送られた時、その過程を問わず、強制的に、デッキからこのカードを手札に加える!」

 

 その時、シンが手札に加えたカードを見た瞬間、瀬人の中で改めて、実感が湧いた。

 彼の命とも言えるカードが、奪われたという事実が――。

 

「この……『青眼の白龍』を!」

「ブルーアイズ……! それは俺のカードだッ!! 必ず取り戻す!」

 

 事実をその眼に突きつけられ、彼の闘志はさらに燃え上がった。だがシンは、怯むことなく反論する。

 

「それは不可能よ。貴方は、他ならぬ……ブルーアイズ自身の力で敗北するのだから!

 フィールド魔法、罪深き世界――『SinWorld』を発動!」

 

 そのフィールド魔法が発動されると、ソリッドビジョンの範疇を超えた変化が現れ始めた。

 最初に起こったのは、デュエルディスクから発せられる黒い電撃。それが、上空・右翼・左翼の三方向に放たれるとそこから世界の色が変わっていく。それは人を惑わすような紫色の銀河。元あった世界は、青と橙で「線」の輪郭のみを残し、「面」としての個性は侵食されて消えた。

 そして、目には見えない重苦しさが辺りに漂う。瀬人はこの感覚に、心当たりがあった。

 

(似ている……。『オレイカルコスの結界』に……)

 

 『オレイカルコスの結界』とは、彼が以前戦った『ドーマ』と呼ばれる組織が使っていたカードだ。デュエルの敗者の魂を封印する効果があり、瀬人もその身を以てその力を味わっている。

 

「このフィールド魔法が発動している時、ターン開始時のドローを放棄することで、デッキから『Sin』と名の付くモンスターをサーチ出来る。だけどこの効果はおまけ……おそらく使うことはないわ」

 

 その先にある効果に、瀬人は直感で気づいた。

 

「『SinWorld』のもうひとつの効果! デュエルに敗北した者は、その魂を打ち砕かれ、死に至る!」

「くっ! やはり……! 当たって欲しくはなかったが……」

 

 デュエルを命のやり取りに使うなど、軍事産業を潰し、ゲーム産業に取り組んできた彼の信念が許さなかった。

 

「そんな手段に頼るのはよせ! 俺が敗北するなどありえん! 貴様が後悔することになるぞ!」

 

 アテムや遊戯などとの出会いや、多くのデュエルを通して彼は変わった。たとえ怒りに燃えることこそあれど、ゲームと称して人の命を弄ぶような真似を、絶対に許さないように。

 

「そんなことはないわ。貴方がこれ以上未来へ進んでも、待っているのは罪と絶望だけ。私にとっても、貴方にとっても……世界にとっても! だから私に、後悔はない!」

「貴様ァ! 俺が創りあげる未来が、世界に罪と絶望を喚ぶというのか! そんなことは、ありえん!」

「信じる信じないは貴方の勝手よ。私には勝算がある!」

 

 『SinWorld』の効果に恐れをなす様子も見せず、シンはデュエルを再開した。

 

「まずは永続魔法『魂吸収』を発動! カードが1枚除外されるたびに、私のライフが500ポイント回復する。

 そして! デッキに眠る2枚目の『青眼の白龍』をゲームから除外することで、このモンスターを特殊召喚する!」

 

 最初にソリッドビジョンのカードから現れたのは、瀬人のよく知る『青眼の白龍』だった。しかし、それは本命の召喚のコストに、ベースに過ぎない。

 

「何!? なんだ、その召喚条件は!」

「見せてあげるわ! 『青眼の白龍』のもうひとつの姿――。罪と絶望を知り、それを変えるために現出した姿――。現れよ! 『Sin青眼の白龍』!!」

 

 何処からか現れた黒い兜がブルーアイズに被せられ、美しい白銀の翼がモノクロ模様に変わり――『Sin青眼の白龍』に姿を変えられてしまった……。

 

シンLP4000→4500

Sin青眼の白龍/攻3000

 

「よくも……! よくも俺のブルーアイズを、こんな姿に!!」

 

 己が魂も同然のカードを汚され、瀬人は怒りと悲しみに震えた声を上げる。しかしシンの表情は、彼以上にその感情を表現していた。

 

「……貴方は、『青眼の白龍』をもっと酷い姿にしたことがあるはずよ。その罪を、この一撃で思い出させてあげる……。バトルフェイズ! 『Sin青眼の白龍』で、『ブラッド・ヴォルス』を攻撃!」

 

 姿形こそ、青眼の白龍とは違う。しかし、その口腔に収束する輝きは、青眼の白龍のものと寸分も違わないーー。

 

「誅滅の爆裂疾風弾!!」

 

 強烈な攻撃を受け、『ブラッド・ヴォルス』が破壊される。

 

ブラッド・ヴォルス/攻1900(破壊)

《VS》

Sin青眼の白龍/攻3000

 

瀬人LP4000→2900

 

「ぐっ……!」

 

 それでもなお止まらない攻撃の余波に、海馬瀬人は飲み込まれた――。

 

**

 

『……くん、海馬くん……!』

 

 瀬人が気がつくと、夢の中のようなぼやけた風景に、誰かが立っていて、その人物の声が木霊していた。その誰かの正体に、瀬人は間もなくたどり着いた。

 

(あのぼやけた人影は、もしや遊戯? なぜこんなところに突然……? 俺は、白昼夢でも見ているのか……?)

 

『じいちゃんに、いったい何をしたんだ!?』

(……何の話をしているんだ?)

 

 何の脈絡もなくそんな質問をされても困る。瀬人はそういった主旨のことを言おうとしたのだが、彼の口は勝手に動いた。

 

『別に? 互いの一番大切なカード賭けて、少々刺激的なデュエルをしただけさ。ジジイには耐えられなかったようだがね』

 

 瀬人は……自分が過去に吐いた台詞を覚えていた。そして、次に何が起こるのか、ということも。

 

『そのデュエルに勝利したことで手に入れた、このカード……』

 

 1枚のカードが、彼の視界に入る。

 

(や、めろ……。やめろぉぉぉぉおお!!)

『4枚目は敵になるかもしれないからなぁ!!』

 

 破り捨てられた、否、破り捨てたカードの姿を目に焼き付けながら、瀬人の視界は黒く染まっていく。

 

 あんなに求めていたのに。あんなに憧れていたのに。あんなに……愛していたのに――。

 

**

 

「――思い出したかしら?貴方の罪を」

 

 気がつけば、瀬人は『SinWorld』で塗り替えられた屋上に戻っていた。

 

「おのれ……。人のトラウマにつけ込むとは……。」

 

 あれは過去にあった事実だった。当時の瀬人には、頼れる味方も、誇れる力もなかった。そんな中で、誰よりも強くあろうとする一方、自分を超える者の登場に怯えていた彼は、4枚目の『青眼の白龍』を破り捨てた。

 そして……あの時彼が恐れていたことが、いま現実のものになっている。

 

(ブルーアイズが、俺の敵として立ちふさがっている……!)

 

「カードを1枚伏せ、エンドフェイズに速攻魔法発動。『超再生能力』! このターンに手札から捨てた、または生贄に捧げたドラゴン1体につき、カードを1枚ドローする。

 手札抹殺で5体のドラゴンを捨てたから、5枚ドローさせてもらうわ。これで本当にターンエンド。

 さあ選びなさい、海馬瀬人。ブルーアイズの力によって未来を失うか、同じ罪を繰り返すか!」

 

シンLP4500/手札6枚/伏せ1枚

Sin青眼の白龍/攻3000

SinWorld

魂吸収

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 彼は究極の選択を迫られていた。シンが示した選択肢は2つ。

 ――海馬瀬人の敗北か、青眼の破壊か。

 敗北は許されない。負ける気はない。モクバのため、己の夢のために。

 そして――ブルーアイズも、そんな結末は望んでいないと、彼は信じている。

 だが彼が勝つには、あのブルーアイズを倒すしかない。第三の選択肢を導き出せる手札は揃っていなかった。相手の手札の枚数から考えて、問題の先延ばしをする訳にもいかなかった。

 

(俺は多くの出会いを通して変わったはずだ! アテム、遊戯、そして何よりブルーアイズ!

 ――にもかかわらず、俺は、またあの罪を繰り返すのか?)

 

 無力、罪悪、苦悩。様々な感情が彼の中で渦巻く。

 その結果――悲しい決断をする他なかった。

 

「――ブルーアイズよ。こんな手段に頼るしかない俺を許してくれ……」

 

 そう小さな声で詫びると、彼はメインフェイズに移った。

 

「『X-ヘッド・キャノン』を召喚! さらに装備魔法『巨大化』により、攻撃力を2倍にする!」

 

X-ヘッド・キャノン/攻1800→3600

 

 シンのフィールドにいる、強き命と生きる悲しみの象徴とは対称的に、無機質で近代的な瀬人のモンスター。カード効果で巨大化し、敵に銃口を向けている。

 

「バトルだ!『X-ヘッド・キャノン』で、『Sin青眼の白龍』を攻撃! X-ディストラクション!!」

 

レーザーの弾丸は敵に見事命中する。そして、巨大な爆風が、モンスターとプレイヤーに襲いかかった……。

 

Sin青眼の白龍/攻3000(破壊)

《VS》

X-ヘッド・キャノン/攻3600

 

シンLP4500→3900

 

 ただ攻撃力で上回っただけのバトル。凡骨並みのタクティクス。あまりに、彼にとっては虚しいバトルだった。

 

「すまない、ブルーアイズ……。リバースカードを一枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

瀬人LP2900/手札4枚/伏せ1枚

X-ヘッド・キャノン/攻3600

↑巨大化

 

「やはり……。貴方は、第三の選択肢を示すことができなかった」

 

 爆風の向こうから、悲しそうな声が聞こえてくる。

 

「これで確信したわ……。貴方が創りゆく未来は、罪と絶望で満ちるということを」

 

 爆風が晴れていく。シンと名乗った彼女の仮面はひび割れており、一片、また一片と崩れ落ちていく。

 

「だから、諦めさせてあげる。貴方のロードを、終わらせてあげる……。」

 

 仮面の下に隠されていた、美女の顔。瀬人は彼女を、知っている。

 それは、もう二度と会えないと思っていた相手だった。

 

「貴方を……愛しているから……」

 

 海のように澄んでいたはずの青い瞳は、黒く濁り、目元には涙の跡のような黒い刺青があったが、間違いなくその人だとわかった。

 

「キ、サラ……だと?」



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TURN4-5《青き眼の乙女》

社長誕生日おめでとうございます!
よかれと思って、キサラ悪堕ちデュエルの次話を投稿しました!


瀬人LP2900/手札4枚/伏せ1枚

X-ヘッド・キャノン/攻3600

↑巨大化

 

キサラLP3900/手札6枚/伏せ1枚

モンスターなし

魂吸収

SinWorld

 

「キ、サラ……だと?」

「あら? 貴方の口からその名前が出るとは思わなかったわ」

 

 瀬人とキサラと出会いは、この現実での出来事ではない。

 獏良の挑戦を受けて訪れたエジプトで、瀬人は五千年前のエジプトをモチーフにした仮想世界に迷い込んだ。

 その時に、彼女――キサラと出会った。

 なぜそれを憶えているのかというと、仮想世界上の人物で、唯一コミュニケーションを交わせた存在だったからだ。

 そしてもうひとつ。キサラが、その身体に『青眼の白龍』を宿していたからだ。

 

「――貴様は……。いや、お前は……いったい何者なんだ?」

「『キサラ』の名を知っているなら、もう貴方の中で答えは出ているんじゃない?」

 

逆に問い返されて……まさかとは思いつつ、瀬人はそのありえない仮説を口にする。

「お前は――青眼の白龍、なのか?」

「――私のターン、ドロー!」

 

 彼女は答え合わせに応じず、デュエルを進めた。

 

「答えろ! お前がブルーアイズだというのなら、なぜ俺を殺そうとする!? 黒幕は誰だ!!」

「『青き眼の乙女』を通常召喚!」

 

青き眼の乙女/攻0

 

「なっ……」

 

 疑問が解決するより早く、新たな衝撃が与えられる。召喚されたカードもまた、キサラによく似ていたのだ。ただ、キサラが薄幸の少女なら、こちらは多幸の乙女と言えそうな雰囲気だが。

 

「このカードは、私が闇に染まった時に零れ落ちたカード! 当然、私と縁ある能力を持っている! それは――カード効果、もしくは攻撃の対象になったとき、『白き龍』を呼び出す能力!

 さらにリバーストラップ、『スキル・サクセサー』を発動! 『青き眼の乙女』を対象に選択! その攻撃力が400ポイントアップ!

 これが何を意味するのか――分かるわよね?」

 

 紅いオーラが『青き眼の乙女』に降り注ぐ。罠カードから力を受け、目を閉じて祈りを捧げる『青き眼の乙女』の身体から、白銀の大翼が飛び出した。

 

「さらに手札から『Sinパラレルギア』を捨てることで、魔法カード『D・D・R』を発動! 除外していたモンスター1体を特殊召喚する!

 戦場に集え! 2体の――『青眼の白龍』!!」

 

 フィールドに静かに降り立ったのは、紛れもない、穢れなき本物のブルーアイズ2体だった。彼女の背で、対をなして左右に並ぶ。

 

Sinパラレルギア(手札→墓地)

青眼の白龍/攻3000(デッキ→場)

青眼の白龍/攻3000(除外→場)

 

 そこで、瀬人は気がついた。今まで公開されたブルーアイズは、3枚。

 

「これで――これで準備は整ったわ! 手札から『融合』を発動! 手札の1枚と、フィールドの2枚! 合計3枚の『青眼の白龍』を融合する!」

 

 今までイラストを見せつけられた3枚の『青眼の白龍』、その全てが、瀬人のものだった。それが今、1つに束ねられ、強い光を、新たな生命の誕生を告げる光を放つ。

 

「強靭・無敵・最強たる竜よ! 今ここに具現し、滅びの未来とともに、真のブルーアイズの所有者を示せ!

 融合召喚! 降臨せよ!『青眼の究極竜』!!」

 

 白き龍よりも凶暴で、より鋭く、より美しい姿をした究極の兵器が、三首で瀬人に向かって吼えた――。

 

青眼の白龍×3(墓地へ)

青眼の究極竜/攻4500

 

「まさか――貴様は……!」

 

 彼女が、キサラが『青眼の白龍』であるとすれば、それは自分が持っていた3枚とは無関係の――。

 

「4枚目の、ブルーアイズ……!?」

「やっと、気づいたようね……」

 

 彼の答えは、真実と一致した。

 

「お前が俺を殺す理由は、復讐か?」

 

 殺された、破り捨てられた恨みを晴らしにきたのか。瀬人はそう考えたが、キサラはそれを肯定しなかった。

 

「まさか。今でも、あなたのことは愛している。だからこそ、力と己を信じて突き進むあなたが、破滅の未来に至るのを見ていられなかった。この一撃が、あなたの心に届き、闘志を砕くことを祈っているわ」

「どういうことだ?」

「究極竜の一撃で、『Sin青眼の白龍』の時のように、あなたに1つのヴィジョンを見せてあげると言っているのよ」

 

 そこまで教えると、キサラは一息ついて、手札のカードに手をかけた。

 

「まずはその下準備ね。魔法カード『スタンピング・クラッシュ』を発動! 味方のドラゴンの力により、相手の魔法・罠を1枚破壊し、さらに500ポイントのダメージを与える!」

 

 キサラは伏せカードとX―ヘッド・キャノンを交互に見やり、

 

「『巨大化』の破壊を狙うのはちょっと博打ね。伏せカードを破壊するわ!」

 

 そう宣言して瀬人が伏せたカードを指差した。その命令に従い、究極竜は暴風を起こしながら天へ舞った。その後の着地が生み出す衝撃は、瀬人の伏せたカードを粉砕するだろう。しかし瀬人は、風に立ち向かい、キサラに抗った。

 

「ならば、チェーン発動しておく!『リビングデッドの呼び声』! 墓地から『ドル・ドラ』を蘇生召喚!」

 

 一説には竜の長老とも噂されるドルドラだが、やつれた印象が否めない。攻撃表示であるにもかかわらず、これから訪れる運命と役割に怯えている様子が伺えた。

 

「破壊された『ドル・ドラ』は、エンドフェイズに能力を下げて自己再生するのでな……」

「なるほどね。でもダメージは受けてもらうわ!」

 

 究極竜が降り立つと、地は震え、風は瀬人とカードを圧し潰さんばかりの勢いで殺到する。

 

リビングデッドの呼び声(破壊)

ドル・ドラ(破壊)

瀬人LP2900→2400

 

「くっ……!」

「これで私の『青眼の究極竜』を妨げるものは何もない!」

 

 『スタンピング・クラッシュ』の余波でよろめく瀬人の隙を、キサラは逃がさない。

 

「バトル!『青眼の究極竜』で、『X―ヘッド・キャノン』を攻撃!」

 

 3つの首がそれぞれエネルギーを放出し、1つの巨大な光弾を完成させる。全てを滅ぼす、その究極の一撃の名は――。

 

「究極爆裂疾風――アルティメット・バーストォッ!!」

 

青眼の究極竜/攻4500

《VS》

X―ヘッド・キャノン/攻3600(破壊)

 

瀬人LP2400→1500

 

 『X―ヘッド・キャノン』の散り様は、壊された、倒された、などという域を超えている。残骸こそ墓地にあろうとも、蒸発した、消え去ったという域のものだ。当然、瀬人も無事では済まない。

 

「ぐっ……うぅっ……!!」

 

 感覚を消し去るような熱と閃光を感じながら、瀬人は意識を手放した……。

 

**

 

 瀬人の覚醒と比例して大きくなる響き。それは、拍手喝采の音色だった。

 

『お見事です、不動博士! 貴方が開発した“モーメント”は、人類進化の、源泉と象徴になることでしょう!』

 

 瀬人の目の前には、大きく跳ねた髪型をした、白衣の男性がいた。そして2人を、研究者やマスコミと思われる大勢の人が囲んでいる。カメラのレンズは、2人の他に、その傍にある機械にも向けられていた。

 

(話の筋から察するに、目の前の男が『不動博士』で……。この、光輝くリングを持つ機械が『モーメント』なのか?)

 

 瀬人がそこまで想像したところで、不動博士は彼に手をさしのべてきた。温和な表情も相まって、反射的に握手で応えた。すると、歓声が更に大きくなった。

 

『モーメント、万歳!!』

『デュエリストに進化あれ!!』

『海馬コーポレーションに栄光あれ!!』

 

 同時に、不動博士の手を介して、瀬人の頭脳に知識が流れ込んできた。

 モーメントのこと、デュエルのこと、歴史のこと……。

 それらを理解したとき、瀬人は――。

 

「フフフ……ふはははははは! アーッハハハハハハ!!」

 

 笑わずにはいられなかった。全てが順調。全てが理想の、最善の軌跡を描こうとしているのだから。

 

(デュエルからエネルギーを得て回転する、夢の永久機関『モーメント』! これだ! これさえあれば、資源を巡る醜い戦争は消え失せる! 世界海馬ランド計画に必要な、エネルギーと資産を確保できる!! 俺の夢と理想は――完成をみる!!)

 

 彼の夢は膨らみ、進化は加速する。

 それに比例して、モーメントも光り、回転する。

 さんさんと。くるくると――。

 惨惨と。狂狂と――。

 

(――うん?)

 

 瀬人は今ごろになって異変に気づいた。モーメントは先ほどまで、豊かな虹色を見せながら回転していたはずである。それが、いまは白一色を放ち、回転も逆になっている。

 

「いったい……何が……?」

 

 瀬人の理解よりも遥かに早く、モーメントの逆回転は加速する。光量も同時に増していき――。

 

「うっ!? なんだ……この光は!!」

 

 それは爆発だった。彼が、人間が進化の末に辿り着いた世界とモーメントは、膨らみ過ぎた欲望によって弾けた。過剰な空気で膨張した風船が破裂するように。

 閃光が止んだ後に残った景色は、地獄絵図だった。

 

「なんだ……これは……」

 

 天に向かって伸びていたビル群は、傾きながら傷だらけの外壁を晒す。地には大きな亀裂が疾り、老若男女を問わず、溶岩の奈落へといざなう。

 それを気にする様子もなく、機皇帝による殺戮、人間同士の略奪が、休むことなく行われている……。

 この世界には、この未来には、夢も希望もなかった。

 あるのは――底知れぬ、罪と絶望だけ……。

 

***

 

「これが……俺の創る未来……?」

「そう。これが、貴方の創る未来……」

 

 仮想現実からデュエルの舞台に戻った瀬人は、まもなく両の膝をついた。先ほど見たヴィジョンを、妄想と称して切り捨てることはできなかった。何故なら――。

 

(あれは――映像の中での俺だけでなく、今の俺が客観的に見ても、最善の選択によって創られた未来……)

 

 その行く末が、罪と絶望で満たされた、あの世界なのである。かと言って、モーメント無くして瀬人の夢が叶うものか。モーメントを超える存在を、生み出すことなど出来るものか……。

 

「あのヴィジョンの、罪と絶望で満たされた未来を回避する道は2つ」

 

 苦悩の中で、すんなりと彼の耳に染み入ってくる。2本の指を立てる、キサラの声が。

 

「自らの罪を悟り、重ねながら、無為に生きるか。それとも――ここで朽ち果てるか。後者を選ぶというなら、私が『キサラ』と『青眼の白龍』の名の下で、引導を渡してあげるわ」

 

 『青眼の究極竜』を背に従えたキサラの、あやすような語りかけに、最早――瀬人は屈し始めていた。

 

(それも――いいかも、しれんな……。力強く歩むほど、罪を重ね、絶望へと近づく俺のロードなど……いっそここで、美しく幕を下ろしてしまえば……)

 

 力なく首を垂らす瀬人の姿を、キサラは悲しげな笑みを浮かべながら見つめていた。

 

「もはや闘志も折れたようね。サレンダーさせてあげてもいいけれど……私のバトルフェイズは、まだ終わっていないわ。

 『青き眼の乙女』! 『スキル・サクセサー』で得た400ポイントの攻撃力を短剣に換えて、瀬人の命を絶ちなさい!」

 

 命令を受けた美女は、その柔和な雰囲気に似合わない凶器を具現化する。しかし、ガタガタと震えるばかりで、戦いに赴こうとしない。

 

「どうしたの!? それが瀬人の為であり、瀬人もそれを望んでいるのよ! 早くしなさい!!」

 

 罪に堕ちたデュエリストに命じられ、美しい青い眼の娘は、操り人形のようにぎこちない足取りで、瀬人に歩み寄る。

 

「キサラ……」

 

 裁きを待つ罪人は、両膝を着いたまま彼女を見上げる。丁寧に編まれた銀髪、優しさと愛情で満たされた豊かな肢体、透き通る青い瞳。彼女に看取られて、彼女の手で死ねるのなら本望だと、彼は心から思えた。それなのに。

 

(なぜ……お前は、泣いているのだ……?)

 

 彼女は大きな眼に涙を溜め込んで、悔しげな、悲しげな表情で瀬人を見つめていた。

 

「さようなら、瀬人……。 『青き眼の乙女』で、瀬人にダイレクトアタック!!」

 

 決闘者の命令の下、ナイフを両の手で構える時も、彼女の表情は変わらなかった。このままいけば、短剣は彼の眉間に刺さる。その一連の流れの中、一滴の雫が――瀬人の頬についた。

 

(これは……キサラの、涙……?)

 

 その熱い涙に触れたとき、瀬人の時間は止まり、意識は再びヴィジョンの中へと落ちる。

 それはかつて、彼と彼女が紡いだ記憶――。

 

***

 

 初めて出逢ったとき、彼は平民の少年で、彼女は難民の少女だった。

 盗賊に囚われていた彼女を救い出したときに放った言葉を、彼は今でも覚えていた。

 

『俺はいつか大物になる! 戦争で死んだ 父さんの分まで、国と母さんのために、デカい仕事をするんだ!』

『だからその日まで、俺の名前を覚えておけ! そして、お前に酷いことをする奴に言い返してやれ!』

『私は、セトに救われた、生きる価値のある人間だ、と! 私はセトから、ここで 生きてよいという許しを得ている、と!』

『俺はお前を救ったことを誇りにする! だからお前も、俺に救われたことを誇りに生きろ!』

 

 あれは、心から出た言葉だった。彼が、自分の宿す力と正義を、実感できた瞬間だった。

 この行動が引き金となり、村は焼け、母は死することになったが、彼に後悔はなかった。むしろ、正しき民草を犠牲にしなくて済むほどの力と正義を、我が身と祖国に持たせねばならないと、決意を新たにする契機となった。

 

 それから数年――。

 

 神官を目指しての猛勉強と、神官としての激務に忙殺され、その志を失いかけた。

 

『わずかな民の犠牲など、王家の谷の石コロにすぎぬ……』

 

 しかし、彼女との再会や、盗賊王を巡る戦いを通して、彼は知ることが出来た。思い出すことが出来た。

 結束あっての力、仁徳あっての政、親愛あっての絆だと……。

 だから彼は――全てを失っても、未来への希望を壁画に遺すことができた。

 その壁画にあるのは、ディアハに臨む二人の若者の姿と、同僚と恋人。そして、友への詩。

 

――我は叫ぶ

――闘いの詩を

――友の詩を

――遥か魂の交差する場所に

――我を導け

 

 その後、幾千年――。

 

 彼は、神官の頃より幼い身体で、神官の頃以上の書物や学問と戦っていた。両親を失った彼ら兄弟が、底辺から勝ち上がるために。

 地獄ような日々の中、彼は1枚のカードに救われた。

 弟が幼い手で描き、贈ってくれた。憧れの、最強の龍。

 

『俺はいつか――本物を手に入れてみせる!!』

 

――その数年後。

 

 怨敵・海馬剛三郎を失い、1度彼は狂った。あんなに憧れていたカードを、恐れのあまり破り捨てるほどに。

 それでも彼は再び立ち上がった。誇り高きデュエリストとして生まれ変わることが出来た。

 あのカードと共に――。

 

『このカードに全てを賭ける! 俺の信じたカードは――!』

『そう――神を生贄に捧げる!!』

『目覚めよ。我がデッキに宿る、青き炎の化身――!』

『喰らえ、化け物ォ! 次元を超えて俺の未来のロードを切り拓く光を!!』

『当然! 俺が選ぶのは――!!』

 

(ブルーアイズ、キサラ……。俺とお前の出会いが生んだのは、やはり罪や絶望ではない! 夢と希望だった! 俺がお前を想い続ける限り、俺の歩むロードに光が絶えることはなかった! だから俺は――負ける訳にはいかない! キサラを救うことを――諦めるものか!!) 

 

***

 

 繰り出された刃が散らせたのは、男の鮮血ではなく、金属が衝突しあった火花だった。

 『青き眼の乙女』の攻撃を受け止めたことで、瀬人のLPが削られる。

 

青き眼の乙女/攻400

《VS》

(ダイレクトアタック)

 

瀬人LP1500→1100

 

「――え?」

 

 2人のキサラは驚きを隠せず、眼を丸くした。一度は膝を地に着けた瀬人が今の瞬間、片膝を立て、攻撃をデュエルディスクで受けたのだ。

 

「カードを1枚伏せ、私はターンを終了する。エンドフェイズに、『青き眼の乙女』は攻撃力が0に戻る……」

「俺の、『ドル・ドラ』を蘇生することも、忘れないでもらおうか……」

 

キサラLP3900/手札0枚/伏せ1枚

青眼の究極竜/攻4500

青き眼の乙女/攻400→/攻0

魂吸収

SinWorld

 

瀬人LP1100/手札4枚/伏せなし

ドル・ドラ(蘇生)/守1200→/守1000

 

 攻撃は受けたが、ライフは残っている。『ドル・ドラ』も還ってきた。そして闘志も――。

 

「眼が覚めたよ――キサラ」

「――なんですって?」

 

 今までになく、はっきりと。記憶の中の己自身が、何度も呼び続けた愛しき名を、時を超えて心から紡ぐ。

 対する罪に堕ちたキサラは、死に損ないのものでも、苦し紛れのものでもないその口調にたじろぐ。

 

「もう二度と、お前を見捨てはしない。悲しませはしない……。

 いつの日か、何処かで救えなかったお前を、今度こそ救ってみせる。

 そのためなら、俺は何度でも立ち上がれる。生まれ変わることができる。

 そして俺は、勝ち取ってみせる! 俺とキサラが、共に歩み、幸せになれる未来を!!」

 

 彼の想いと記憶は今、時空を超える――。

 

「俺のターン、ドロー!!

 2枚のリバースカードをセット! ターンエンドだ!」

 

キサラLP3900/手札0枚/伏せ1枚

青眼の究極竜/攻4500

青き眼の乙女/攻0

魂吸収

SinWorld

 

瀬人LP1100/手札3枚/伏せ2枚

ドル・ドラ/守1000

 




*青眼2体召喚や、スタンピング・クラッシュの発動タイミングは、演出の都合上あんな書き方をしただけです。デュエルの展開には影響しません。


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TURN6-7《蒼眼の銀龍》

 《蒼眼の銀龍》が入った、ストラクチャーデッキ「青眼龍降臨」は、全国のカードショップで、大好評発売中です!


キサラLP3900/手札0枚/伏せ1枚

青眼の究極竜/攻4500

青き眼の乙女/攻0

魂吸収

SinWorld

 

瀬人LP1100/手札3枚/伏せ2枚

ドル・ドラ/守1000

 

「まさか――。記憶をっ、取り戻したというの? そんなことが……」

 

 戸惑いを隠しきれないキサラの言葉に、瀬人は自嘲気味にフッっと笑う。

 

「さあな。そういう言い方が正しいかどうかは知らん。しかし――」

 

 熱く拳を握りしめ、彼は再び宣言する。

 

「俺が胸に宿した想いに、偽りはいささかもない! 今度こそ、お前を救う! そして、共に歩む未来を、この手勝ち取ってみせる!!」

「――私を、救う? 共に歩む未来を、勝ち取る?」

 

 キサラは、瀬人が宣言したことの要点を抜粋して、黒と蒼が混じった眼を丸くした。

 

「ふふふ……あっははは……」

 

 続いて乾いた笑い声をあげる。無知で哀れな決闘者を、舞踏者を嘲笑う。そして仕方なく教えてやった。

 

「貴方が出した答えは矛盾しているわ」

「どういうことだ?」

「このデュエルで貴方が勝てば、私は死ぬことになる。逆もまた然り。そんな私と共に歩む未来なんて、絶対に存在しな――」

「もし存在するとしたら、どうだ?」

 

 その発問は、キサラの表情をリセットさせた。

 

「あのヴィジョンの、モーメントが暴走する未来には至るまい。何故なら、あの未来にお前の姿はなかった! お前を救い、共に歩むという第三の選択をすれば、罪と絶望に満ちた未来を変えることができるはずだ!」

「……偉そうなこと言って、貴方のフィールドは、口ほどにもないじゃない」

 

 彼女は理想論を避け、現実を指摘した。

 

「貴方を守っているのは2枚のリバースカードと、死に損ないの雑魚ドラゴンが一匹だけ。対する私の場には『青眼の究極竜』がいる」

 

 それに同意するように、攻撃力4500の究極竜が低く吠えて瀬人を威嚇する。

 

「さらに――私の墓地に眠る『スキル・サクセサー』は、自身を墓地から除外することにより、モンスター1体の攻撃力を800ポイント上昇させる効果を、自分のターン限定で発動できる!」

「と、いうことは――」

 

 先程キサラが披露したブルーアイズ召喚コンボを思い出すことで、瀬人は気づいた。

 

「そう。『青き眼の乙女』の効果でブルーアイズを特殊召喚すれば、さらなる追撃も可能! このターンで、今度こそ終わらせてあげる! 私のターン!!」

 

 キサラにはドローカード以外に手札がない。しかし彼女は、それを一瞥して嗜虐的な笑みを浮かべた。

 

「『青き眼の乙女』を守備表示に変更し、バトルフェイズに入るわ! 『青眼の究極竜』で攻撃!」

 

 白い指が瀬人のほうに向く。攻撃目標を定めた究極竜の3つの口腔で、エネルギーが充填されていく。

 

「喰らいなさい! アルティメット・バーストォ!!」

 

 全てを滅ぼす光の砲撃が放たれ、『ドル・ドラ』を呑み込まんとする。しかし、瀬人の顔に恐怖の二文字はない。

 

「リバースカード、発動!」

 

 対するキサラもまた、驚愕の二文字を現しはしない。

 

「言っておくけれど、並みのカードならば無意味よ!」

「並みのカードなどではない。俺自身が信じた最強の竜。それを迎え撃つなら、最強トラップのひとつを使わざるをえまい!」

 

 勇ましき決闘者の足下でカードのイラストが、キサラからも見えるように反転する。それは、全てを跳ね返す無敵の光壁――。

 

「喰らえッ!『聖なるバリア‐ミラーフォース‐』! 相手の攻撃表示モンスターを全滅させる!!」

「なっ!?」

 

 今度こそは、キサラを驚愕させるに至った。『ミラーフォース』は、彼女の計算を狂わせるのに十分なカードだったのだ。

 

「そして俺は信じている! ブルーアイズの強さは『ミラーフォース』1枚で破られるものではないと!」

 

 光の奔流は『ミラーフォース』で反射され、光の矢となってキサラの方へ翔んでいく。

 

「さあ、どう避ける!?」

 

 キサラは眉間に皺を寄せながら……。

 

「貴方に心配されるまでもない! 手札から速攻魔法発動!『融合解除』!! 『青眼の究極竜』の融合を解除し――」

 

 すると究極竜が輝き、その光の中に三つの影が見えた。

 

「3体の『青眼の白龍』を、守備表示で蘇生召喚!」

 

青眼の究極竜/攻4500(EXデッキへ)

青眼の白龍/守2500×3

 

 光が止むと、影は白き龍の姿を現す。姿勢を低くしているのは守備表示の証だ。龍と乙女に迫っていた光の矢は、その頭上を空しく通過する。

 

「これで、私の場に攻撃表示モンスターはおらず、『ミラーフォース』による被害はゼロ! 残念だったわね」

「残念だったのはお前のほうだろう?」

 

 同じ得意げな笑みであっても、キサラは止まり、瀬人は深まった。

 

「俺の伏せカードが『次元幽閉』のような対象を取る効果のカードだったなら、今のターンでトドメを刺せたはず――それができなかった。お前の想像を超え、究極竜を退けさせた俺に、流れは向いている!」

「減らず口を! 究極竜ではなく、3体のブルーアイズなら勝てるとでも!?」

 

 キサラは嘗められたことに怒りを露にするが――何かに気づき、吸血鬼のような笑みを浮かべ始める。

 

「――いや、貴方が相手をするのは、3体のブルーアイズ以上の布陣よ!」

 

 白い右手が天に掲げられる。まるで、何かの儀式を行うかのように。

 

「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ! レベル8の『青眼の白龍』に、レベル1のチューナーモンスター『青き眼の乙女』をチューニング!!」

「なにッ!?」

 

 空へ翔んだ白龍と乙女は、テクスチャー前のような光の骨格に姿を変える。その後、龍は8つの光球、乙女は光輪1つのみを残して、完全に霧散した。

 

「進化の光と古の威光――いま交わりて、守護の光となる! 蒼天を臨む銀嶺が如く、此処にそびえ立て!」

 

 ☆8+☆1=☆9

 

 集いし9つの輝きは、やがて光の柱となって空を貫く。その中に、巨龍の影が映る。

 

「シンクロ召喚! 君臨せよ、『蒼眼の銀龍』!!」

 

蒼眼の銀龍/守3000

 

 最初に見えたのは、蒼く発光する眼だった。ブルーアイズよりも小さい眼が、射抜くような光線を放っている。四肢には、その巨体を支えられる強靭な筋肉が晒されている。鱗を纏わずとも、十分な防御力があるということだろう。『蒼眼の銀龍』は『青眼の白龍』とはまた異なる、逞しい美しさと強さを持つ龍であった。

 瀬人は滅びのヴィジョンを観た際に、シンクロの概念は知ることができた。しかし実物を見たのは初めてである。

 

「シンクロ召喚!? これが――未来の召喚方法か!」

「そう。人類の進化とモーメントを加速させ、最後には滅びを招いた召喚方法よ! そして『蒼眼の銀龍』の効果発動、ホワイト・フレア・サンクチュアリ!!」

 

 すると『蒼眼の銀龍』が踏みしめた所から、白い霧のようなものが立ち込め始める。それは残る2体の『青眼の白龍』の足下まで広がった。

 

「この効果は『蒼眼の銀龍』が特殊召喚に成功した時に発動し、その後2回目のエンドフェイズを迎えるまで続く! この聖域の加護を受けている限り、私が従えるドラゴンはカード効果の対象にならず、カード効果による破壊も通用しない!」

「次の俺のターンに、カード効果で対処するのは困難だということか……!」

 

 瀬人の手札には、強力な魔法カードが1枚ある。しかしそれは『対象を選択する効果』のカードだった。故に、聖域に阻まれて効果を発揮できない。

 

「それだけじゃないわ!『蒼眼の銀龍』にはもう1つ効果がある! その名は銀龍の咆哮! スタンバイフェイズが訪れる度に、私の墓地の通常モンスターを、つまり『青眼の白龍』すら蘇生させることができる!」

 

 つまり、瀬人がこのまま何もしなければ――。

 

「次のターン、3体のブルーアイズに『蒼眼の銀龍』を加えた巨龍の軍勢が、貴方に総攻撃をかける! 今度こそ終わりよ、セト!!」

 

 鬼の形相でキサラは瀬人を睨む。3体の龍も同様に、柵を破らんとする猛獣のように激しく吼えたてる。対する瀬人の場では、『ドル・ドラ』が守備表示で平伏すのみ。

 

「私のターンは終了よ。さあ――今度こそ殺してあげる。罪と絶望を生む前に、積み重ねる前に!!」

 

キサラLP3900/手札0枚/伏せ1枚

青眼の白龍/守2500

青眼の白龍/守2500

蒼眼の銀龍/守3000

魂吸収

SinWorld

 

瀬人LP1100/手札3枚/伏せ1枚

ドル・ドラ/守1000

 

「俺の、ターン……」

 

 額に汗を浮かべながら、瀬人は恐る恐るデッキに手を伸ばす。キサラが歪んだ美貌と笑みでそれを見つめていることが、彼にはわかった。

 

(このターンで『あのカード』を引けなければ……俺は確実に負ける!)

 

 『蒼眼の銀龍』を従えたことで勝利を確信しているキサラと違い、瀬人はデッキに可能性が残されていることに気づいていた。

 だからこそ、信じるのが怖い。裏切られるのが怖い。

 

(どう贔屓目に見ても、『最強』と名乗れはしないこのデッキを……俺は心から信じられるのか? 俺が、俺が今まで信じてきた、数少ないものは――)

 

 そこまで自問自答をして、瀬人はハッと気がついた。

 

(――何を、恐れる必要があったのだろうな……)

 

 瀬人の表情は穏やかに、微笑すら浮かべるようになり、落ち着いた様子でデッキに手を伸ばしていく。その変化に、キサラは当然気づいている。

 

「どうしたの? 追い詰められすぎて、頭がおかしくなったのかしら?」

「まさか。――信じているだけさ」

「信じる?」

 

 瀬人の手がデッキに触れる。彼はドローする前に、この一枚に託した想いを熱く語った。千載一遇の機を前にした勝負師のように。

 

「そう――。キサラ、あるいはブルーアイズ! お前は、闇に堕ちようと、傷つこうと、決して俺を裏切ることはない!

 だからこそ俺は、必ずお前を闇から救い出す! そして二度と傷つけあうこともなく、庇い合うこともなく、未来へのロードを共に歩む! このターン、このドローは、その礎に足を掛けるための、第一歩であり、ラストチャンス!」

 

 剣客が鞘から抜刀するように、気高き決闘者は風を切り光が差すほどの勢いで、運命のカードを引き払う――!

 

「行くぞ。俺の……タァァ――ン!!」

 

 その見事なドローに、揺るぎない心に――彼のデッキは、応えてくれた。

 

「キサラ。お前の心のピーズがひとつ、いま救い出してやる! 俺が引いたカードは――」

 

 二人の、再会のデュエルで使われたカードの1つ。

 決闘者の王に引導を渡す鍵となったカードの1つ。

 今まで多くの物語を紡いできた魔法。そして今、瀬人とキサラを繋ぐ魔法――。

 

「『死者蘇生』!!」

「な……なんですって!?」

 

 キサラのデュエルディスクから、一枚のカードが瀬人の元へ舞い込んでくる。彼はそれを、慣れた手つきでフィールドに出した。

 数多の決闘で繰り返してきた、今までの彼にとって当たり前だった動作――。

 

「蘇れ! 俺が最も信じ、愛するカードよ! 俺と志を同じとするならば、今一度、俺に力を貸せ!!」

 

 紫色の銀河が、太陽の如き聖なる暖かい輝きで照らされた。

 否、そのカードは、彼にとって紛れもない『太陽』だった。

 彼に力を与える光。彼を見守る光。彼の征くロードを示す光――。

 

「ブルーアイズッ! ホワイト・ドラゴンッ!!」

 

青眼の白龍/攻3000(キサラの墓地→瀬人の場)

 

 光の中から現れた白き龍は、この7ターンの中で最も力強い咆哮を上げた。

 相手フィールドの三龍を前にして、恐れなど一片もない。

 それを従える誇り高き決闘者も、その心は同じだ。

 

「ふぅん。俺はさらにカードを1枚伏せ、ターンエンド!

 さあ、来るなら来い! 俺とブルーアイズが共にある限り、敗北の二文字などない!!」

 

 普段の力強さ、自信、誇り――全てを取り戻した瀬人を前に、彼女は身体を震わせ、黒の混じった銀髪を振り乱して怒り狂った。

 

「かえせ……。そのカードを……かえせええェェッ!!」

 

 7ターン目にして、決闘は様相を変えた。

 もはや、白き龍が裁きを以て瀬人を救うデュエルではなくなった。

 これは、白き龍を従える2人の決闘者のデュエル――!

 

キサラLP3900/手札0枚/伏せ1枚

青眼の白龍/守2500

青眼の白龍/守2500

蒼眼の銀龍/守3000

魂吸収

SinWorld

 

瀬人LP1100/手札2枚/伏せ2枚

青眼の白龍/攻3000

ドル・ドラ/守1000



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TURN8-9《青眼の究極竜》

キサラLP3900/手札0枚/伏せ1枚

青眼の白龍/守2500

青眼の白龍/守2500

蒼眼の銀龍/守3000

魂吸収

SinWorld

 

瀬人LP1100/手札2枚/伏せ2枚

青眼の白龍/攻3000

ドル・ドラ/守1000

 

「ふぅん。アテが外れたな、キサラ」

 

 自分のターンを終えた瀬人は、2本先取の勝負で1本取ったかのように、余裕の笑みすら浮かべていた。

 

「これで次のターン、お前は3体のブルーアイズで攻撃することなど不可能だ。

 そして『蒼眼の銀龍』の効果、ホワイト・フレア・サンクチュアリもこれで終了。やっと互角の闘いが出来そうだ」

 

 3体のドラゴンを守っていた白い霧が晴れていく。

 

「互角? 互角ですって……?」

 

 しかし罪に堕ちた決闘者の表情は、負の感情によって曇る。

 

「今さらブルーアイズを従えればどうにかなるとでも!? 私のフィールドには、同じ『青眼の白龍』が2体! さらに墓地には『スキル・サクセサー』がある!」

 

 キサラが意地を張って示したもの。それは、前のターンから進展していない現状だった。対する瀬人のフィールドには、新しく『青眼の白龍』が堂々と存在を示す。

 

「ふぅん。誰が何と言おうと、俺とブルーアイズが創るのは、光輝く未来へのロード! あとはキサラ。お前を救い、共にそのロードを駆けるだけだ」

「戯れ言を! 貴方がそう言うなら――ブルーアイズの力で、貴方を滅ぼすまで! 私のターン!!」

 

 ドローカードを確認すると、彼女は悔しそうな舌打ちを洩らした。

 

「2体の『青眼の白龍』を攻撃表示に変更し、バトルフェイズ!」

 

青眼の白龍×2/守2500→/攻3000

 

「たとえ『ドル・ドラ』を見逃すことになろうとも――ブルーアイズは残さない!」

 

 鏡の虚像と実像のように、2体のブルーアイズが東西に対峙する。

 相討ち狙いの攻勢である。

 

「ゆけ、『青眼の白龍』! 滅びのバーストストリーム!!」

 

 黒と蒼が混じった瞳を見開いたキサラの背で、巨龍の口腔が光輝く。

 

「アッハハハ! 期待が外れたわね、瀬人! 貴方と違って、私は『青眼の白龍』を散らせることに躊躇いなんてないの。私もブルーアイズも、罪深い存在だから! それに『スキル・サクセサー』を使えば、一方的に戦闘に勝つことも可能なのよ!」

「――まだ気付かないか」

 

 攻撃する前の高ぶりを語るキサラに対し、瀬人は静かに呟く。それでやっと彼女は違和感を覚えた。

 

「こ、攻撃が始まらない……?」 

 

 充填された『爆裂疾風弾』は、サーチライトのように瀬人の側に光を当ててくるが、それ自体は一向に発射される気配がない。

 瀬人が白く見えるほど照らされたフィールドでは、1枚の罠カードがリバースしていた。

 

「俺は罠カード『和睦の使者』を発動させてもらった! これでお前のモンスターは、俺に戦闘ダメージを与えることも、戦闘による破壊を行うことも出来ない!

 だが――俺の『青眼の白龍』には何の影響もない!」

 

 瀬人が操る龍の砲門が開く。2つの疾風弾から零れる幾条の光が、剣閃のように交錯する。

 

「キサラ! このままではお前の『青眼の白龍』が戦闘破壊されることになるぞ! 早く選ぶがいい! 『スキル・サクセサー』を使うか、否か!」

「ふざけた真似を! 私に裁かれるべき貴方が、私に選択を迫るというの!?」

「お前に何と言われようと、俺のブルーアイズが止まることはない!」

 

 彼女が苛立ちを見せている間にも、運命の瞬間は迫り――とうとう弾けた。

 

「いくぞ――滅びの爆裂疾風弾!!」

 

 限界まで引き絞られた弦から放たれる一撃。それを前にして、

 

「わ、私は……『スキル・サクセサー』を――」

 

 彼女はこのデュエルにおいて、初めて戸惑いの表情を見せる。

 しかし、何かを悟ったかのように――緊張の糸が切れたのように――淡い笑みを浮かべると、ポツンと呟いた。

 

「――使わない。使わないわ」

 

 キサラの背で、2つの爆裂疾風弾が衝突した。

 太陽が生まれたような閃光は、双龍を消し去る威力を持っていたはずだったが、片方を葬るに留まった。

 

青眼の白龍/攻3000(戦闘破壊)

《VS》

青眼の白龍/攻3000(和睦の使者)

 

 瀬人は空のように青い眼で全てを見ていた。その上で揺るぎない視線を彼女に送っている。

 送られた以上は返さねばということか、爆音が止んだ一瞬の静寂の後、罪に堕ちた決闘者が口を開く。

 

「フフ。だって、次のターンには『蒼眼の銀龍』の効果で蘇生できるのよ? だったら、犠牲にしたっていいじゃない」

「甘いな」

 

 聞きようによっては弁明とも取れるそれを、瀬人は一言で吐き捨てた。

 

「俺なら間違いなく『スキル・サクセサー』を使っていた! ブルーアイズを守れるなら、罠カードの1枚や2枚など惜しむものか! そんな計算で、そんな心で――ブルーアイズを従えて俺を倒すだと? 甘い!!」

「フン、甘いのは貴方のほうよ! 『青眼の白龍』も海馬瀬人も、そんな価値を持ってはいない! 罪を背負い、償いの名の下に散るより上の価値など――ありはしない!!」

 

 『青眼の白龍』の在り方と価値を巡り、デュエルに劣らぬほど激しく想いをぶつけ合う。だが、手を伸ばしても届かない距離での決闘と論争では、魂の交差する場所に2人が導かれることはない。

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 2つの平行線を繋ぐ一筋の光は、何処にあるのだろうか――。

 

キサラLP3900/手札0枚/伏せ2枚

青眼の白龍/攻3000

蒼眼の銀龍/守3000

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 先のターンと違い、瀬人のドローに迷いはなかった。何故なら――。

 

「キサラ! このターンで、俺とブルーアイズが持ちうる可能性、創りゆく未来の片鱗を、お前に見せてやる!!」

 

 光は既に――彼の手にあったからだ。

 

「馬鹿なことを。貴方がどれだけ口上を並べようと、攻撃力3000の『青眼の白龍』では、守備力3000の『蒼眼の銀龍』を突破出来ない!」

「ふぅん。お見通しというわけか……」

 

 瀬人は穏やかな笑みを浮かべてキサラの意見を肯定する。

 

「さすがだと言いたいが……」

 

 彼の評価が一線を越えることはなかった。なぜなら、海馬瀬人のデュエルは――。

 

「甘いぞキサラ!」

 

 彼女の1歩先を行く――!

 

「リバースカードオープン!

 『エネミーコントローラー』!!」

「なに!?」

 

 十字キーと3つのボタンを持つそれは、紛れもなくコントローラーだが、操作対象は勇者でも配管工でもない。

 

「このカードはコマンド入力することで、お前のフィールドのモンスターを操ることができる!

 『ドル・ドラ』を発動コストの生贄にして、←、→、A、B!」

 

 コマンド入力が終わると、ケーブルが対象となるモンスター、『青眼の白龍』に接続された。

 

「このコマンドによって、お前フィールドの『青眼の白龍』は、俺の生贄として使用することができる!」

「いけ、にえ……!?」

 

 本来『エネミーコントローラー』で奪取した相手モンスターは、1ターンのみ、攻守を含めて手足のように操れるのだ。

 しかし、瀬人は敢えて『生贄』という言葉を使った。

 

「馬鹿な! 貴方がブルーアイズを生贄に捧げてまで喚ぶモンスターなど、いるはずが……」

「これがお前の――疑問に対する答えだ!

 『融合呪印生物―光』を通常召喚!!」

 

 融合呪印生物―光 /攻1000

 

 宝石や機械、生物の肉体を混ぜ合わせてカプセルに凝縮したような、奇怪な生命体が現れた。だがそれは、すぐさま眩い光に包まれて見えなくなった。

 

「融合呪印生物よ! いま最もふさわしい姿に、その身を変えよ!!」

 

 卵から天使が孵るように、光の球体から白翼が広がる。

 その後も成長を続け、仮染めの生命は美しさと誇りを宿した龍に生まれ変わる。

 海のように澄みわたる美しい青眼、穢れを知らぬ誇り高き白銀――。

 

「青眼の白龍!?」

「融合呪印生物が持つ第一の効果だ! このカードは、融合モンスターに記された融合素材の代用品にできる!」

 

 最もこれは本来、姿形をコピーする能力ではない。それにもかかわらず『青眼の白龍』の身体を得たのは、すぐに『融合素材』としての役目を果たすからに他ならない。

 

「そして、第二の効果を発動! 自身を含む融合素材モンスターを生贄に捧げることで――融合モンスターを特殊召喚する!!」

「まっ、まさか――!?」

「俺は、3体のブルーアイズを生贄に捧げる!!」

 

 対象となりうる組み合わせなど、瀬人のフィールドを見る限り、1つしかない!

 天空へ舞い上がるブルーアイズ達の交差点。そこから生まれた光が、月明かりのように瀬人へと降り注ぐ。

 

「強靭・無敵・最強たる竜よ! 今ここに具現し、未来へのロードとともに、真のブルーアイズの所有者を示せ!」

 

 淡い青さを帯びた輝きは、三つ首龍の輪郭を描き始める。

 幻想かと疑ってしまいそうな、儚いヴィジョン。

 だが夢や希望など、初めはそんなものだろう。

 それをカタチにするのが、知恵であり、力であり、勇気。

 今の瀬人には――全て揃っている!

 

「非正規手段による――特殊召喚!」

 

 絵画が完成するように、写真が色づくように、龍の輪郭に命が宿った。未来を切り拓く、究極の力――。

 

「ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン!!」

 

青眼の白龍×2(生贄)

融合呪印生物―光(生贄)

青眼の究極竜/攻4500

 

「そ、そんな……。『青眼の白龍』が1枚も入っていないデッキから『青眼の究極竜』を召喚した……?」

「キサラ! これが俺の答え――第3の選択肢だ! お前との闘いは、殺すか殺されるかの二択ではない! 共に歩み、未来を創ることも出来る!」

「ば、ばかな……。こんな、ことが……!」

 

 驚きのあまり呆然としていた彼女が、神に平伏す民のように、或いはオアシスを前にした放浪者のように片膝をつく。

 だが、その眼が未だ闇を拭えていないことから、瀬人は決意した。

 

「許せよ、蒼眼の銀龍……。バトルフェイズ! 『青眼の究極竜』で『蒼眼の銀龍』を攻撃!」

 

 短く小さな声で守護龍に詫びると、瀬人は躊躇いもなく、究極の一撃を解き放つことを宣言する。その砲撃の名は――。

 

「究極爆裂疾風――アルティメット・バーストォ!!」

 

 高速で暗闇の出口に迫った時のような、すさまじい光量――。果てなき紫の銀河が書き換えられて生まれたまっしろな世界に、『蒼眼の銀龍』が溶けて消えていく……。

 

青眼の究極竜/攻4500

《VS》

蒼眼の銀龍/守3000(破壊)

 

「ぐ、あ、あぁ……!」

 

 キサラもまた、究極竜が放った風と光に一瞬で覆われ、白く染まっていく。黒く汚れた雪が川の流れを受ける姿のように、罪に堕ちた決闘者の髪と身体がなびいて震えた。そして遂に、

 

「きゃああぁぁッ!!」

 

 と悲鳴を上げてキサラは吹き飛ばされた。

 

「カードを1枚伏せる。そして最後の手札、『超再生能力』を発動!」

 

 『超再生能力』は、このターンに手札から捨てた、もしくは生贄にしたドラゴン族モンスター1体につきカードを1枚ドローする魔法カードである。1ターン目にキサラも使用している。

 

「俺はこのターンに、『ドル・ドラ』と『青眼の白龍』2体――合計3体のドラゴンを生贄として使用した! よってデッキから3枚のカードをドローする! これでターンエンドだ!」

 

キサラLP3900/手札0枚/伏せ2枚

モンスターなし

魂吸収

SinWorld

 

瀬人LP1100/手札3枚/伏せ1枚

青眼の究極竜/攻4500

 

「目を覚ませ、キサラ! これでわかっただろう!? 俺たちは互いに傷つけ合う必要も、庇い合う必要もない! 2人で共に歩み、未来を創っていけるんだ! だから――刃(カード)を捨てろ! そして俺の元へ来い! キサラ!!」

 

 『青眼の究極竜』によって照らされながら、瀬人は今までにないほど強く、彼女の心に訴えかける。

 すると彼女は、足腰を震わせながら、カードを握りしめながら立ち上がった。その表情は、ロングヘアーの銀色に隠されて見えない。しかし――。

 

「今さら、出来もしないことを……。言わないで、下さいよ……」

 

 聞き逃しそうな程小さな声と、今までとは違う立ち方から、瀬人は感じ取った。

 最初の彼女は、女帝のような自信を土台にして立っていた。

 その後、瀬人が『青眼の白龍』を取り戻した時からは、怒りに燃える悪鬼のようであった。

 だが今の彼女は、悲劇を唄う歌姫のように、必死で、か弱さが感じられるようで……。

 

(顔が見えずとも……。俺にはわかる。そして、あくまでカードで語るというなら――俺は、どこまでも付き合ってやる! この魂を賭して、キサラの全てを受け止める!!)

 

 キサラの、彼女の心が――泣いていることを――。

 



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TURN10-11《終わりの始まり》

だいぶと投稿が遅れました。
副長は死んでませんよ。死なないとは言い切れませんが。


キサラLP3900/手札0枚/伏せ2枚

モンスターなし

魂吸収

SinWorld

 

瀬人LP1100/手札3枚/伏せ1枚

青眼の究極竜/攻4500

 

 

 キサラが銀と黒のグラデーションを描く髪を振り払い、顔を露にする。

 やはり涙は流れていない。蒼と黒で混沌とした瞳の色合いも相変わらずだ。しかし視線が違う。見下すような断罪者の視線でも、睨みを利かせた鬼の視線でもない。瀬人と同じ――真剣な、生きている人間の視線だ。

 

「私のターン!」

 

 そのままドローするのかと思いきや、彼女はピタリと手を止めて一呼吸置く。そして決断した。

 

「私は……ターン開始時のドローを放棄することで、『SinWorld』の効果を発動します! デッキからSinモンスターを3枚選び、その中からランダムに貴方が選んだ1枚を手札に加えます!」

「ふぅん。とうとう、あからさまなコンボに頼らざるを得ないほど追い詰められたか?」

「あからさま? そんな評価をしていられるのも今のうちです! 私のエースモンスターは、確実に究極竜を粉砕します!」

 

 キサラがそう宣言しながら提示したのは、次の3枚のカードだった。

 

》Sinスターダスト・ドラゴン

》Sinパラレルギア

》Sinパラレルギア

 

(2体は攻撃力0のチューナー、1体は攻撃力2500のSinモンスターか……)

 

 情報の1つとて逃さない、鋭い瀬人の視線が止んだのを見計らって、キサラはイラストを伏せてシャッフルした。

 

「真ん中のカードを手札に加え、残りはデッキに戻してもらおうか」

 

 フッと軽い笑みを浮かべて、彼女は一連の処理を済ます。準備は整ってしまったのである。

 

「トラップ発動!『リビングデッドの呼び声』!」

 

 瀬人も使用している、万能蘇生カードの1つである。しかし攻撃表示でしか蘇生出来ず、低攻撃力モンスターを呼び戻しても壁にはならない。

 

「む? 究極竜を超える蘇生可能なモンスターなど、いないはずだが……」

「勘違いしてもらっては困りますね。私が蘇生させるモンスターは――序盤で墓地に落とした、『Sinパラレルギア』!」

 

 先ほど見たチューナーの、言うなれば1枚目が対象として選択される。キサラが何をするつもりか、瀬人には手に取るようにわかった。

 

「くっ……そのトラップに対して、手札の『増殖するG』の効果をチェーン発動! このカードを手札から捨て、その後相手が特殊召喚を行う度に、デッキからカードを1枚ドローする!」

「貴方が何をしようと……私はもう止まれない……止まるわけにはいかないんですよ……! 『Sinパラレルギア』を蘇生召喚!!」

 

瀬人手札3枚→2枚→3枚

Sinパラレルギア/攻0(墓地→場)

 

 3本のネジを地に向けて伸ばす奇怪な歯車が現れる。続いて非チューナーのモンスターが召喚されると思われたが――。

 

「『Sinパラレルギア』の制約効果! このカードをシンクロ素材とする場合、もう1体の素材として手札のSinモンスターを使用する!

 レベル2の『Sinパラレルギア』に、手札に存在する、レベル8の『Sinスターダスト・ドラゴン』をチューニング!!」

「なに、手札からシンクロ召喚だと!」

 

 フィールドに細身な龍の骨格が浮かび上がり、そこに2つの黒い輪が重なった。

 

☆2+☆8=☆10

 

「歴史の陰から生まれし悲しみよ!時空を超えた物語に、終焉のピリオドを打て!

 シンクロ召喚!『Sinパラドクス・ドラゴン』!!」

 

Sinパラドクス・ドラゴン/攻4000

 

 現れたのは、瀬人の視界を覆うほどの黒翼を広げた獰猛な龍――Sinパラドクス・ドラゴンだった。

 

「Sinパラドクス・ドラゴンの効果発動! このカードがシンクロ召喚に成功した時、墓地のシンクロモンスター1体を復活させます!

 蘇れ、『蒼眼の銀龍』!」

 

蒼眼の銀龍/攻2500

 

 『Sinパラドクス・ドラゴン』の隣に新たなる龍が降り立つ。これにより、神に匹敵する要塞を造るコンボが組み上がった。

 

「そして、

チェーン1に『蒼眼の銀龍』の効果を、

チェーン2に『スキル・サクセサー』の効果を墓地から発動!

 『Sinパラドクス・ドラゴン』は攻撃力が4800まで上昇し、さらにホワイト・フレア・サンクチュアリの加護を受けます!」

 

Sinパラドクス・ドラゴン/攻4000→4800

 

 強力な耐性と高い攻撃力を得た『Sinパラドクス・ドラゴン』は宙へ飛び立ち、獄炎のような赤い眼で瀬人と『青眼の究極竜』を見下ろす。

 

「さらにリバースマジック『終わりの始まり』を発動!

 いま私の墓地には、6体のSinモンスターと『ダーク・アームド・ドラゴン』――合計7体の闇属性モンスターがいます!

 この内、5体のSinモンスターを除外し、カードを3枚ドロー!」

 

墓地→除外

》Sin真紅眼の黒竜

》Sinレインボー・ドラゴン

》Sin青眼の白龍

》Sinパラレルギア

》Sinスターダスト・ドラゴン

 

 キサラは3枚ものカードをドローした上に、まだ通常召喚をしていない。しかし彼女は手札を見つめるばかりで、召喚もカードの発動もしなかった。

 

「ふぅん、どうしたキサラ。満足のいくカードは引けなかったか?」

 

 実を言えば図星であったが、あくまでキサラは気丈に振る舞う。 

 

「引く必要もありませんよ。『スキル・サクセサー』と5体のSinカードが除外されたことで『魂吸収』の効果が発動し、私のライフは3000ポイント回復します!」

 

キサラLP3900→6900

 

「しかも私の場には、神に匹敵する『Sinパラドクス・ドラゴン』がいます! 2体のドラゴンの攻撃で――このデュエルは、終わりです!」

「そうだな。もう、終わりだな……」

 

 瀬人が圧倒的な物量差を前に諦め、うつむきながらキサラの言葉を肯定した……少なくとも彼女の目にはそう映った。あとは、トドメを刺すだけ――。

 

「バトルフェイズ!『Sinパラドクス・ドラゴン』で『青眼の究極竜』を攻撃!

 逆刹の革新戦火砲ッ!!

(逆刹のパラダイムシフト・ブレイズ!!)」

 

 砲門のように最小限の開き方をした口から、暗黒の火炎が放たれる。

 それに対して彼と彼の竜は、何も出来なかった。

 ――いや、何もしなかったのだ。

 

「キサラ――気づいていたか? お前の口調が、元に戻り始めていることに!」

 

 一瞬の、勝機が訪れるまで……!

 

「このデュエルは……こんなデュエルは、もう終わりだ! お前が抱く罪の力が、が神に匹敵するというのなら! 俺とお前の絆は、神をも超える!!」

 

 『青眼の究極竜』の全身が、降り注ぐ昏い業火に包まれたこの瞬間――つまり“ダメージ計算時”こそ、瀬人の想いと策が煌めく時なのだ!

 

「リバースカードオープン!『ハーフ・カウンター』!」

 

 暗雲のような炎を払って姿を見せた『青眼の究極竜』は、その身に紫電を纏い『Sinパラドクス・ドラゴン』と同じ高さまで飛び上がった。

 

「このカードの効果で、『Sinパラドクス・ドラゴン』の元々の攻撃力の半分を、究極竜の攻撃力に加える! よって、究極竜の攻撃力は――」

 

青眼の究極竜/攻4500→6500

 

「こっ、攻撃力――6500!?」

「この一撃で、お前の目を覚ましてやる! いくぞ!

 反撃の――アルティメット・バースト!!」

 

 三つ首のそれぞれが、強化された光弾を解き放つ。『Sinパラドクス・ドラゴン』の右翼に風穴を開け、左翼を剥ぎ、黒い首を断ってなお余力ある爆裂疾風は――銀色の風となって、キサラを包む。

 

青眼の究極竜/攻6500

《VS》

Sinパラドクス・ドラゴン/攻4800(破壊)

 

(……超えて、くる……)

 

 つよいつよい光の中で、彼女は悟り始めていた。

 

(この人は、セト様は……。自身の、私の――罪も、絶望も、悲しみも――受け止め、超えてくる)

 

 Sin青眼の白龍、青眼の究極竜、蒼眼の銀龍、Sinパラドクス・ドラゴン。彼女の罪を具現化した存在たちを、瀬人は超えてみせた――ブルーアイズと共に。

 

(私にこの人は、殺せない。この人は私を、殺さない)

 

 二択と思われた選択肢。その両方が無為にして不可能であるというのなら。

 

(私が、為すべきことは――)

 

 彼女がそこまでを、真っ白にした頭で考えたところで、か細い体は清流に流されるように宙へ飛んだ……。

 

キサラLP6900→5200

 

「キサラ!!」

 

 彼女の身体が地に着いて間もなく、瀬人はそこに駆け寄った。

 髪はもとの清く白い輝きを取り戻していた。眼は閉じていたが、黒い涙の紋様は跡形もなく消えていた。

 抱き起こしてみれば、彼女は目を閉じたまま、か細い声で呟いた。

 

「セ、ト……さま……」

「キサラ! 元に――元に戻ったんだな!」

 

 二人の心と力が、未来を拓いた! 瀬人は柄にもなく嬉しそうな笑みを浮かべる。

 そしてキサラは――。

 

「に……。に、げ……て……っ」

 

 熱でうなされているかのように息を乱れさせながら、必死で瀬人に伝えた。

 

「キサラ……。もう、俺は逃げない! 罪からも、過去からも! 今度こそ共に歩もう。二人で、未来を創り、拓こう。俺には、お前が――」

「ち、がう……。ちがう、の……っ!」

 

 瀬人の否定よりも更に強く、キサラは彼を言葉で突き放す。

 

「もう……私を、死なせ、て……。

 でない、と……」

 

 二択の中で苦しむ彼女の眼は――。

 

「私は、あなた、を……。

 殺す、こと、に…………っ」

 

 黄と黒と青。毒物をかき混ぜたような色で濁っていた。

 

「うっ……! ああッ!」

「――キサラ……?」

 

 キサラを中心に、地面にブラックホールのような渦が生まれ、彼女のライフが桁たましい音を立てながら削れていく。

 そして――。

 

「ああああアアアアァァ――ッッ!!」

「ガッ……!?」

 

キサラLP5200→2600

 

 瀬人の身体が突如跳ね飛ばされる。キサラの下と内から溢れだした銅色の影によって。

 銅色の影は紫の銀河とキサラの肉体を侵しながら膨らんでいき、生命の形を成していく。 視界を覆って突き付けられる、鋭い翼。

 人の世の、罪と真実を嘲笑う巨大な口腔。

 その竜の名は――『Sinトゥルース・ドラゴン』。瀬人とアルティメットを見下しながら、その全貌を現した……。

 

Sinトゥルース・ドラゴン/攻5000(墓地→場)

 

「――よくも、よくもここまで私を追い詰めたものだな……。瀬人!」

 

 その声はキサラの口から発せられたが、キサラのものではない声だった。

 声の主は、キサラという蛹から脱皮した成虫のように身体を起こして現れ、瀬人を睨みつけた。

 

「だが……それもここまでだ! 貴様は、この私自らの手で抹殺してやる……!!」

 

 金の長髪と、目元に血涙の痕のような刺青を持つその男を見て、瀬人は直感で確信した。

 

「貴様か! キサラを惑わし、こんなツラいデュエルを仕掛けたのは! 貴様は何者だ!?」

「私は、イリアステルの滅四星が1人、『逆刹のパラドックス』! 時空を超え、最善の歴史を探し求める者。このデュエルも、私が求める未来へ至るための一過程にすぎない!」

「いち、過程、だと……!」

 

 そこからパラドックスが話したことは、すでに瀬人も知っていたことだった。

 モーメントの開発によって、より一層の進化と発展を遂げた世界。だが欲望や誘惑も同時に増長され、その世界は自滅に至った……。

 

「その未来を回避するために、多くの実験を試した……。だがいずれも失敗した。

 特に前回の実験では、『SinWorld』の効果による死を覚悟した……」

「まさか、その自業自得に――キサラを巻き込んだのか!」

 

 パラドックスはニヤリと表情を歪め、我が物顔で彼女の白い首に腕を回す。キサラには抵抗する気力もないようで、苦しげに震えながら声を漏らすのみ。

 

「巻き込んだ、という言い方は心外だな。

 私と融合して生き延びたことにより、キサラは悲願を叶える機会を得たのだ」

 

 まあ、その見返りとして『キサラ』という元人間だった肉体を、我が魂の依り代として利用させてもらっているのは事実だが――とパラドックスが追加で暴露したものだから、瀬人が声を荒げるのも当然だろう。

 

「今の俺とキサラにとって、貴様の存在など邪魔だけだ。さっさと消え失せろ!」

「それは、出来ない相談だな――。

 今の私とキサラと『Sinトゥルース・ドラゴン』は――三位一体なのだから」

 

 パラドックスを殺すか、『Sinトゥルース・ドラゴン』を破壊すれば、キサラも死ぬ。

 キサラの救済はパラドックスの勝利と同じ。

 

「選択肢は2つだ、瀬人。私とキサラが死ぬか、お前が死ぬか――。どちらにせよ“我らが”悲願は達せられる。貴様が死んだ場合は勿論のこと、キサラをデュエルで殺した貴様が、デュエルの発展に携わることなど、できるはずがないからなぁ!!」

「くっ……!」

「私はこれでターンエンド。貴様の『青眼の究極竜』の攻撃力は4500に戻り、我が身『Sinトゥルース・ドラゴン』を下回る……」

 

青眼の究極竜/攻6500→4500

 

パラドックスLP2600/手札3枚/伏せなし

Sinトゥルース・ドラゴン/攻5000

蒼眼の銀龍/攻2500

魂吸収

SinWorld

 

 パラドックスが言うことは当たっていた。それを認めた上でキサラを救うには――。

 

「俺は諦めんぞ、パラドックス!『Sinパラレルギア』の後、

『Sinパラドクス・ドラゴン』――。

『蒼眼の銀龍』――。

『Sinトゥルース・ドラゴン』――。

 これらが特殊召喚されたため、『増殖するG』の効果によりカードを3枚ドロー!」

 

瀬人手札3枚→6枚

 

「そして俺のターン!」

 

 創るしかないのだ、この手札7枚で。パラドックスを倒しつつキサラを救う道を。

 しかし――。

 

「フン、どうした瀬人。満足のいくカードは引けなかったか?」

「黙れ!!」

 

 それでも彼は進むしかなかった。たとえ、自分の心を、彼女の身を、傷つけることになろうとも――!

 

「バトルフェイズ!『青眼の究極竜』で……!」

 

 瀬人の視線の先では、下半身を『Sinトゥルース・ドラゴン』に埋められたキサラが、うっすらと目を開けていた。

 

「瀬人様……。ごめん……なさい……」

 

 自分のせいで、瀬人の記憶に消えない傷が刻まれた。自分のせいで、瀬人がいま苦しんでいる。瀬人の自分のせいで、瀬人の未来が閉ざされようとしている。自分のせいで……。

 そんな、彼女が抱く罪悪感を解った上で、彼は突き進む。

 

「ッッ! 攻撃! アルティメット・バースト!!」

 

青眼の究極竜/攻4500

《VS》

蒼眼の銀龍/攻2500

 

 キサラの写し身を以て写し身を討つ。その悲劇は、パラドックスとキサラのライフに大きなダメージを与えた。

 

パラドックスLP2600→600

 

「グフッ……!」

「かはっ……!」

 

 パラドックスが血を吐けば、キサラもまた同じ量の血を吐く。

 

「キサラ! くっ……!」

 

 果たして、瀬人がこの三位一体を相手に選択する道は――。

 

「モンスターをセット! カードを3枚伏せてターンエンドだ……!」

 

そして――。

 

「私のターン……!」

 

 罪と真実の龍に跨がり、少女を抱えた逆刹が、最後の牙を剥く――!

 

瀬人LP1100/手札3枚/伏せ3枚

青眼の究極竜/攻4500

???/裏側守備

 

パラドックスLP600/手札3枚→4枚/伏せなし

Sinトゥルース・ドラゴン/攻5000

魂吸収

SinWorld

 



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TURN12《龍の鏡》

副長「俺は死んだんDA-!!」

嘘です。リアルで色々ありましたが何とか書けました。


「私のターン……!」

 

瀬人LP1100/手札3枚/伏せ3枚

青眼の究極竜/攻4500

???/裏側守備

 

パラドックスLP600/手札3枚→4枚/伏せなし

Sinトゥルース・ドラゴン/攻5000

魂吸収

SinWorld

 

 大袈裟にデッキから引き抜いたカードを、パラドックスはそのままプレイする。

 

「私は手札から『闇の誘惑』を発動!  デッキからカードを2枚ドローする」

 

 ドローフェイズからの、更なるドロー。それは、パラドックスがほくそ笑むのに充分な引きだった。

 

「その後手札から闇属性モンスター、『Sinサイバー・エンド・ドラゴン』を除外する。これにより、私のライフが『魂吸収』の効果で回復する」

 

パラドックスLP600→1100

 

 一方、パラドックスと一体化させられているキサラは、『青眼の究極竜』の攻撃によって気絶したままだ。

 

(キサラ……)

 

 何としても、今度こそキサラを救う。自身が定めた目的故に、瀬人の視線はやはり彼女へ向く。

 

「コレが気になるか?」

 

 ボールでも持つような手振りで、パラドックスはキサラの頭を鷲掴みにする。

 

「ゲスめ! 薄汚い手で触れるな!!」

「ふん、まあそう気にするな。貴様らの絆はもうすぐ無に帰す。歴史の闇の中へとな……。お前たちの希望はここまでのようだ……」

 

 パラドックスは、手札4枚の中から2枚に指を這わせた。

 

「手札から『モンタージュ・ドラゴン』を捨てることで『ハードアームドラゴン』を特殊召喚! このカードは、手札からレベル8以上のモンスターを捨てることで特殊召喚できるのだ」

 

ハードアームドラゴン/攻1500

 

 人体模型に対する龍体模型なるものがあれば、こんな見た目なのだろう。骨格と筋繊維で全身を覆った二足歩行の龍が召喚された。

 

(手札コストを払ってまで召喚した、攻撃力1500のモンスター……。シンクロ素材か? 生贄要員か?)

 

 瀬人の予想は、方向性としては正しい。だが――。

 

「これで今度こそ……勝利のキーカードが揃った!

 私は、『ハードアームドラゴン』と――」

 

 規模を、見誤っていたのだ。

 

「我が身『Sinトゥルース・ドラゴン』、『キサラ』を生贄に捧げる!!」

「な……に……!?」

 

 生贄と消滅を意味する風の渦。それが2人と2体を――何より、瀬人にとって最愛の人を覆い隠す。

 

「や……やめろおおぉぉォォ――っ!!」

 

 瀬人の叫びを他所に、彼女らの姿は霞んでいく。

 

「ハハハ……はははははは!!」

「あぅっ……うわあああああ!!」

 

 瀬人に続いて、キサラとパラドックスの声が、昏い空へと重なり響く。

 

「ちぃッ!」

 

 デュエルの掟を振り切って、風を振り切って瀬人は駆け出した。あと10メートル、5メートル……。

 

「キサラ!!」

 

 地を蹴って彼が伸ばした手は――宙を空しく掠めただけだった。

 後に残されたのは、独りの男と黒く渦巻く空――。

 そして暗闇から覗く紅い眼差し。

 

「な!?」

 

 隕石が墜ちてきたのかと思う程の勢いで、その眼光は瀬人に激突し、その身体を小石のように弾き飛ばした。

 図太い腕に巨大斧を握り、冷たく紅い眼差しを向ける巨大な爬虫類の暴君――『タイラント・ネプチューン』だった。

 

「ククク……驚いたか?」

 

 パラドックスの声が、頭に直接響く。

 

「これこそ、私が時空を超える旅と実験の中で手にしたカードの1つ……『タイラント・ネプチューン』だ。このカードは、召喚時にリリースしたモンスター1体の能力をコピーする。これにより、三位一体の魂は維持された……」

 

 コピーされたのは能力に留まらない。タイラント・ネプチューンの骨肉がミシミシと蠢き、再び『Sinトゥルース・ドラゴン』の巨翼が羽ばたいた。

 

「また、『ハードアームドラゴン』を生贄にして召喚された最上級モンスターは、カード効果で破壊されない!」

 

 『Sinトゥルース・ドラゴン』の身体に、『ハードアームドラゴン』と同じ骨格状の硬い皮膚が浮かび上がった。もはやミラーフォースも激流葬も通用しない。

 

「さらに、『タイラント・ネプチューン』の攻撃力は、召喚時にリリースした自軍モンスターの攻撃力の合計値となる!」

 

タイラント・ネプチューン/攻1500+5000→6500

 

「攻撃力、6500の破壊耐性持ちだと!?」

「これだけでも貴様と『青眼の究極竜』を消し去るには十分。だが私は、さらに最後の手札――融合召喚カード、『龍の鏡』を発動する!!」

 

 それはパラドックスの最後の手札だった。だから瀬人は驚きを隠せない。

 

「バカな!貴様のフィールドと手札には、融合素材となるモンスターはいないはず!」

「フフフ……。だがこのカードは、素材モンスターをフィールド、または墓地から除外することで融合召喚を行うのだ!」

「何!? まさか……」

 

 瀬人が想像したのは、青眼三体融合。しかし実際に素材として選ばれたのは、5体のモンスターだった。すなわち……。

 

 鉄壁の象徴『ハードアームドラゴン』。

 最強の象徴『青眼の白龍』。

 災厄の象徴『ダーク・アームド・ドラゴン』。

 未来の象徴『伝説の白石』。

 権力の象徴『モンタージュ・ドラゴン』。

 

 この組み合わせから出せるモンスターは、1体しかありえない。

 

「闇に沈みし五つの龍魂よ! いま混沌の渦のなか一つとなりて、凶つ邪神龍の血肉へと生まれ変われ!!

 融合召喚!『F・G・D』!!」

 

F・G・D/攻5000

 

 かつて瀬人の前に立ちふさがったこともある五色の邪神龍が、パラドックスの手で召喚された。しかもその血肉の一片には、ブルーアイズも含まれている。

 

「攻撃力5000級のモンスターが2体だと!?」

「さらに私のライフは『魂吸収』で2500ポイント回復だ!!」

 

パラドックスLP1100→3600

 

「瀬人! お前は第三の選択肢を! お前とキサラが共に歩む未来を示すと言ったな! この絶望を前に、何を示せるというのだ!!」

「だ、だめ……」

 

 デュエルやモンスターの主導権なく、半ば力尽きていたキサラが意識を取り戻す。Sinトゥルース・ドラゴンの体表に腕を立て、最後の抵抗を試みるが、その白い腕は鈍い色の龍の身体へと呑まれてしまう。

 

「バトルフェイズ! 『Sinトゥルース・ドラゴン』で『青眼の究極竜』を攻撃ッ!!

 罪と真実による圧殺!!

(Sinトゥルース・ストレッサー)!!」

「だめぇぇぇぇええええ――――ッ!!」

 

 攻撃宣言、絶叫悲鳴、巨龍咆哮が重なる中、紅いエネルギー光流が放たれ、究極竜と瀬人を押し潰さんとする。

 

「ガッ……!?」

「セト様!!」

 

 負けないで――という切望を裏切って、事実は二人にのし掛かる。究極竜の美しい翼が、首が、造形が。紅い力に圧し負けて、ひしゃげて、崩れて――。

 

Sinトゥルース・ドラゴン/攻6500

《VS》

青眼の究極竜/攻4500(戦闘破壊)

 

 地雷が散ったかのような轟音と粉塵こそ起こったものの、意外なほど呆気ない最期だった。

 

「あ……ああ……!」

 

 ブルーアイズはキサラの云わば分身で、トゥルース・ドラゴンとキサラは一心同体。だから実感として分かった。戦闘破壊に成功したことも、2000ポイントの戦闘ダメージが通ったことも。

 もちろんそれはパラドックスも同じである。

 

「勝った……! 勝ったぞ!! 確実な手応えがあった! ついにやった! 見ているか!? アンチノミー! アポリア! Z―ONE! 私はついにやり遂げたぞ! これで絶望の未来は変わる! 我々、イリアステルの勝利だ!! ハハハハハハ!!」

 

 狂喜の高笑いを上げるパラドックスに対し、キサラは絶望の雫石を落とした。

 

「な……んで」

 

 自分を失意の淵から救ってくれたあの人を、今度は自分が救う番だと思った。

 あまりに短い時間だったが、その間に互いの愛を確かめあった。

 だから異形の力を姿を受け入れて、時を超えて闘って……。

 なぜ、その異形の力と姿が、あの人を殺めてしまったのか。

 

「お前はそういう星の下に生まれているのだ」

 

 自信あるその声は、研究と証明を繰り返した科学者のそれだ。

 

「キサラ、お前の力と存在は、周りに罪と絶望をもたらすものなのだ。だが悲観することはない、むしろ誉れと受けとれ。お前と瀬人の絶望が、我々の絶望の穴を塞いでくれるのだからな……」

「う……うっ……」

「さあ、再び1つとなろう。念には念を――さらなる絶望を世界に種として振り撒き、我らが未来の絶望を埋め潰そう……」

 

 キサラの身体が、徐々に龍の身体の中へ沈んでいく。底なし沼に嵌まったように、蟻地獄に嵌まったように――。

 もはや腰のくびれが見えなりつつも、キサラに抵抗するだけの気高さは残っていなかった。

 

(ごめんなさい……セト様……。貴方を救い、貴方の力になる。それが私の望みだったけれど……)

「私は貴方に――罪と絶望を、与えてしまった……! 本当に――ごめんなさい……!」

 

 自らの罪に苛まれながら、キサラの身体と魂と涙は、歴史の闇へと消えて――――。

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――それは、どうかな……」

「――――――――な、に…………!?」

 

 粉塵の向こうに立つ人影。腕を庇いながら、傷つきながら、それは確かに両の足で立っていた。

 気高く闘いを続ける、彼の者の名は――。

 

「セト様!?」

「勘違いするなよ、キサラ……。お前とブルーアイズが与えたのは、罪と絶望などではない! 夢と希望だった! その想いと真実は、誰にも覆させはしない!

 そしてパラドックス!! 俺とキサラの絶望で、貴様の絶望の埋め合わせをするだと!? ふざけるな!! 絶望には絶望、罪には罪、憎しみには憎しみ――そんな方法では何も救えないことは、俺たち3人の罪が物語っているだろうが!!」

 

 パラドックスは何も言い返せなかった。だから代わりに、額から血を流す瀬人に問う。

 

「何故……? なぜ生きている!? 確実に、2000ポイントのダメージを食らわせたはずが……!」

「ああ、確かに。並みの決闘者なら、ダメージによって心身がお陀仏だったろうな。だが俺は耐えた! そしてライフポイントは、この2枚のカードによって回復していたのだ!」

 

 瀬人の場でリバースしていたのは、チェーン1に『ゴブリンのやりくり上手』とチェーン2にて『非常食』だった。

 

「『やりくり上手』を先に発動し、『非常食』をチェーン発動! 逆順処理で、ライフを1000回復後、墓地に眠る『やりくり上手』の枚数――つまり2枚に1枚上乗せした、3枚をドローし、1枚はデッキボトムへ返す!」

 

 墓地に眠る『やりくり上手』が2枚なのは、1枚目が『手札抹殺』で、2枚目が『非常食』で墓地へ送られたからだ。

 

瀬人手札3枚→6枚→5枚

瀬人LP1100→2100→100

 

「だが! 今更どれだけドローしようが、どれだけ口上を並べようが、遅い!! 『Sinトゥルース・ドラゴン』の効果発動! 戦闘破壊成功時に、相手フィールド上のモンスターを、全て破壊する!!

 断罪する千棘の紅!!

(スカーレット・パニッシュ・サウザンド)』!!」

 

 幾千の紅い針が豪雨となって降り注ぐ。その裁きにより、瀬人が従える裏守備モンスターは破壊。完全に守り手を失った瀬人の場を狙うのは――よりによって攻撃力5000。

 

???/裏側守備(効果破壊)

パラドックスLP3600→4100

 

「これで今度こそトドメだ!! 『F・G・D』で、瀬人にダイレクトアタック!!」

 

 五砲五色の破壊光線が鋭く瀬人に迫る。今度こそ打つ手はない。

――パラドックスだけが、そう思っていた。

 

「セト様! どうか……生きて! 勝って!!」

「言わずもがな! ペーテンよ、我が身を守る盾となれ!!」

 

 デッキから飛び出した道化師が素早く身構え、光線を小さな身体で一身に受けた。当然跡形もなく破壊され尽くしたが、これで瀬人にダメージはない。

 

F・G・D/攻5000《VS》闇・道化師のペーテン/守1200(戦闘破壊)

 

「な、なに!? なぜ、まだ守備モンスターが残っているのだ……!?」

「ふぅん、気づかなかったか? お前のライフが500回復していたことに……。

 貴様は『Sinトゥルース・ドラゴン』の効果で、1体目の裏守備のペーテンを破壊していたのだ! だから俺は、1体目を墓地から除外して2体目のペーテンを呼び出し、盾に使ったまでのこと」

 

 『闇・道化師のペーテン』には、墓地へ送られた時に、自身を除外することで後続のペーテンをデッキから特殊召喚できる効果がある。パラドックスのライフ回復は、除外された1体目のペーテンが『魂吸収』のトリガーになったことによるものだ。もちろん、デッキに3枚入っていれば3体目を呼ぶことも可能だが……。

 

「そして俺は――3体目のペーテンを特殊召喚しない!」

「なに!? これほどの攻撃をかわした上に、壁も生贄も敢えて残さずに、自分のターンに繋げるだと……!?」

「もう俺には青写真が出来ている! 俺が死ぬでもない、キサラが死ぬでもない――共に歩む希望の未来が!」

 

 だが、それには手札5枚では足りなかった。ただ勝つだけなら5枚もあれば可能だということは、瀬人もパラドックスも承知している。

 たった1枚、キーカードが足りていない。次のドローで引けなければ、キサラと共に歩む未来など到底得られないし、更に後のターンまで瀬人が耐えることも不可能。だから瀬人は宣言する!

 

「いくぞ! これが、俺の! ファイナルターーーーン!!」

 

 瀬人のデッキが出した答えは――――。

 

瀬人LP100/手札5枚→6枚/伏せ1枚

モンスターなし

 

パラドックスLP4100/手札なし/伏せなし

Sinトゥルース・ドラゴン/攻6500(ハムド状態)

F・G・D/攻5000

魂吸収

SinWorld

 

 



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LAST・TURN《魂の解放》

投稿遅れて申し訳ないです(多分エタったと思ってた人が大半でしょうな……)

いよいよ、デュエルの決着です!


瀬人LP100/手札5枚→6枚/伏せ1枚

モンスターなし

 

パラドックスLP4100/手札なし/伏せなし

Sinトゥルース・ドラゴン(ハムド状態)/攻6500

F・G・D/攻5000

魂吸収

SinWorld

 

「いくぞ! これが、俺の! ファイナルタ――――ン!!」

 

 瀬人のデッキが出した答えは――――。

 

「くく……残念だったな瀬人。カイザー・グライダー、か」

 

 どうせ最後ならと、瀬人が公開したラストドローは、それほどレアでもない☆6のカード。生贄がいないため、召喚もままならない、はずだが。

 

「いいや! これで……未来へのロードは繋がった!

 まずは魔法カード『魂の解放』を発動! 墓地全体から5枚までカードを選択して、ゲームから除外する!」

「瀬人、今更ブルーアイズを除外しても遅いぞ! しかも、除外するカード1枚につき、私のライフは500回復する!」

「ふぅん。俺が除外するのは、この3枚だ!」

 

墓地→除外

》ドル・ドラ

》ボマー・ドラゴン

》ブラッド・ヴォルス

 

パラドックスLP4100→5600

 

 初期ライフ以上を誇っていたパラドックスのライフが更に増え、瀬人の50倍以上になった。

 

「ククク……これだけライフがあれば、もはや我らの勝利は揺るぎない。まあ負けて死しても目的は達成されるがな」

「いいや! これ以上のライフ回復さえなければ、ピッタリと削りきれる! それに、敗者を死に追いやるデュエルも、もはや終わりだ!

 俺は2枚のカードを発動する! チェーン1にて『大嵐』! チェーン2に――『異次元からの帰還』だ!!」

 

 紫以外の色が忘れ去られた罪深き世界にヒビが入る。隙間から覗くのは、新たな世界。未来への、希望の朝日。

 

「砕け散れ、罪深き世界! 希望を繋げ、未来へのロード! 時空を超えて帰還せよ、我が下僕のモンスター達よ!!」

 

除外→帰還

ボマー・ドラゴン/攻1000

ドル・ドラ/攻1500

ブラッド・ヴォルス/攻1900

闇・道化師のペーテン/攻500

 

瀬人LP100→LP50

 

 4体のモンスターを同時召喚――その直後、氷河が砕けるようにして2枚の魔法カードが壊れた。『魂吸収』が、そして罪深き世界、『SinWorld』が。

 『SinWorld』が破壊されると、にわかに世界は彩りを取り戻していく。

 本来の世界――それは瀬人の未来と夢の塔、海馬コーポレーションの屋上。丑三つ時を過ぎてから始まり、闇に包まれていたデュエルに射し込むのは――。

 

「た、太陽……!」

 

 昇りゆく朝日の光を後光にしながら、彼は希望へのファイナルターンを続ける。

 

「パラドックス! 貴様にも一応の礼だけは言っておく。貴様の企みがなければ、俺とキサラが時空を超えて再会することなどなかったからな……。そして俺は、貴様とキサラのカードも使って、未来に希望を繋ぐ!」

「バカな……キサラはともかく、私のカードだと……!?」

 

 罪と絶望を刻み、誤った歴史を断つために選んだカードで、夢と希望を紡ぎ、未来を繋ぐ……それを瀬人はやろうというのだ。

 

「魔法カード『二重魔法』を発動! 手札の魔法カード1枚をコストに、相手の墓地に眠る魔法カードの効力を得る!」

 

 瀬人が為そうとすることが“写し鏡”なら、『二重魔法』の効果も“鏡”。写しとる魔法もまた“鏡”!

 

「俺は手札から『融合』を捨てることで、さらなる融合召喚の力を得る!」

「な、まさか!?」

「過去に沈みし光を得て――未来を映し出せ!『龍の鏡』!!」

 

 融合素材として現れたのは、先程破壊された『青眼の究極竜』と、その融合素材となった『融合呪印生物―光』。

 

「融合呪印生物よ! いま最もふさわしい姿に、その身を変えよ!」

 

 奇怪な生命体は、再び本来の融合素材モンスターへと姿を変えていった。それは白き龍と同等の能力を持つ、伝説の剣闘士――。

 

「『カオス・ソルジャー』を融合素材にするだと!?」

 

 パラドックスは驚くが、これはまだ効果処理の途中。絆はさらに進化する。

 

「最強の決闘者と、伝説の決闘者――。2つの魂が生み出す結束の力、あらゆる闇と邪神を打ち砕く!

 融合召喚! いでよ、究極竜騎士――マスター・オブ・ドラゴンナイト!!」

 

墓地→除外

》融合呪印生物―光

》青眼の究極竜

 

究極竜騎士/攻5000

 

 『究極竜騎士』は、その名に恥じぬ武具と防具と乗騎を揃え、太陽の光を浴びながらフィールドに降臨した。 

 

「次はキサラのカードだ! 魔法カード『戦線復活の代償』を発動! フィールドから通常モンスター『ブラッド・ヴォルス』を墓地に送ることで発動! 墓地のモンスター1体を復活させ、このカードを装備する! 俺が選んだカードは――」

 

 パラドックスのデュエルディスクから一枚のカードが風を切って飛び出し、そしてしっかりと瀬人の指に止まる。

 

「進化の光と古の威光、いま一つとなりて、守護の光となる!蒼天を臨む銀嶺が如く、ここにそびえ立て!」

 

 デュエルディスクが異常な演算によって悲鳴を上げるのにも構わず、瀬人はその龍の名を呼ぶ。時空を超えて現れたその名は――。

 

「蘇生召喚! 蒼眼の銀龍!!」

 

蒼眼の銀龍/攻2500(キサラの墓地→瀬人の場)

 

 『ブラッド・ヴォルス』がいなくなって空いたフィールドに、『蒼眼の銀龍』が音を立てて降臨する。瀬人の足腰もデュエルディスクの処理能力も限界に近かったが、次の効果発動まで何とか耐えきってみせた。

 

「『蒼眼の銀龍』の効果、『ホワイトフレア・サンクチュアリ』を発動する!

 『蒼眼の銀龍』『究極竜騎士』『ボマー・ドラゴン』『ドル・ドラ』の4体はカード効果で破壊されず、効果の対象にもならない!」

 

 4体の竜のそれぞれが白い光の気流を纏う。残る1体――『闇・道化師のペーテン』はその加護を受けないが、すぐにフィールドを離れることとなる。

 

「さらにペーテンを生贄に、レベル6の『カイザー・グライダー』を召喚する!」

 

 『カイザー・グライダー』は金色の竜――ドラゴン族だ。これで瀬人のフィールド全てを、5体のドラゴンが埋め尽くした。

 

「『究極竜騎士』の効果適用! 自分フィールドのドラゴン1体につき、このモンスターの攻撃力は500ポイント上昇する! よって究極竜騎士の攻撃力は――」

 

究極竜騎士/攻5000→7000

 

「攻撃力7000……! 我が身、Sinトゥルース・ドラゴンを上回るだと……」

 

 戦闘破壊による敗北が見えたにも関わらず、パラドックスの驚きは少ない。なぜなら……。

 

「ククク……。とうとう諦めたか、瀬人。いいだろう、そいつで攻撃してくるがいい! 究極竜騎士の攻撃で、キサラと私もろとも、望みを絶つがいい!!」

「――バトルフェイズ! 俺は、『究極竜騎士』で攻撃する! ギャラクシー・クラッシャー!!」

 

 剣の煌めきと爆裂疾風弾が1つになった一撃は、敵のドラゴンを貫いた――。

 

そう――。

 

『F・G・D』を!

 

究極竜騎士/攻7000

《VS》

F・G・D/攻5000

 

パラドックスLP5600→3600

 

「な、なに!? バカな瀬人! お前はわざと負けてキサラを救った気にでもなるつもりか!?」

「続いて『ボマー・ドラゴン』で、『Sin トゥルース・ドラゴン』に自爆特攻する!!」

 

 攻撃力の差もなることながらその体格差も、隼が飛空挺に向かって行くかのごとく、まるで話ならない。

 

「ボマー・ドラゴンの効果! 自爆特攻するときの戦闘ダメージをゼロにする!」

「そんなことは分かっている! お前の狙いもな! ボマー・ドラゴンにはさらに、自爆特攻した相手モンスターを効果破壊するが、『ハードアームドラゴン』が与えた耐性によって、その破壊は無効だ!!

 迎撃させてもらう! 罪と真実による圧殺(Sinトゥルース・ストレッサー)!!」

 

ボマー・ドラゴン/攻1000

《VS》

Sinトゥルース・ドラゴン/攻6500

 

 ボマー・ドラゴンはSinトゥルース・ドラゴンが放った攻撃の重力に掻き消され、遺された爆弾が慣性で巨体にぶつかるも、白煙を虚しく上げるだけ。

 だが、決して――。

 

「無意味な犠牲だな」

「無意味な犠牲ではない! 俺とキサラ……。そしてお前自身の全てがパズルのピースとなり、未来へ至る第3のロードを描き出す!

 『Sinトゥルース・ドラゴン』の強制誘発効果を発動してもらうぞ、パラドックス!」

 

 Sinトゥルース・ドラゴンの強制誘発効果は、戦闘で相手モンスターを破壊した場合、相手フィールドのモンスターを全て破壊する『断罪する千棘の紅(スカーレット・オブ・サウザンド)』。その尖った雨が、パラドックスの意思に関わりなく放たれる。

 しかし、瀬人のモンスターは『蒼眼の銀龍』の効果「ホワイトフレア・サンクチュアリ」によって守られた。

 

「ただ1体を除いて、な!」

 

 光の破片となって砕け散ったその1体とは――蒼眼の銀龍より後に召喚された、『カイザー・グライダー』!

 

「破壊されたカイザー・グライダーの効果発動! 場のカード1枚を……破壊ではない――! バウンスしてもらう! 無論、俺が対象に取るのは、Sinトゥルース・ドラゴン!」

 

 パラドックス、キサラ、Sinトゥルース・ドラゴンが一体となったその巨体を包むほどの、強烈な上昇気流が巻き起こる。

 

「ば、バカな……!こんな、手でェ…………!?」

「カードに戻れ! 罪と真実を嘲笑う竜よ!!」

 

カイザー・グライダー(効果破壊)

タイラント・ネプチューン(場→手札)

 

 三位一体の龍の断末魔は、気流の轟音に呑まれて満足に響くことはなかった。後に残ったのは……。

 

「ぐ、グ……ゥ……! ま、まだ……私は……!」

 

 青と黒が混じった眼の少女。逆刹の執念がキサラに憑りつく様だった。額を抑えながらフラフラと立つ濁った眼の少女に対し、

 

「トドメだ! ドル・ドラで、キサラの中に残るパラドックスへダイレクトアタック!!」

「ぐああぁぁ――――っ!」

 

ドル・ドラ/攻1500《VS》(直接攻撃)

パラドックスLP3600→2100

 

 龍の長老が火炎弾を放つ。今度こそ忌まわしい呪縛から解放された彼女は……。

 

「セト……。もう、終わりに、して……」

 

 震えながらも両の脚で立ち、最後の一撃を望む。彼は頷き応えて、

 

「ああ、これで終わりにしてやる。

 そして新たに始めるのだ、俺たちの未来を!」

 

 信念を込めた指先で、力強く攻撃を宣言する!

 

「蒼眼の銀龍! キサラにダイレクトアタック!」

 

 清浄なる光が、キサラの全てを包みこんだ――。

 

蒼眼の銀龍/攻2500《VS》(直接攻撃)

キサラLP2100→0




ついに決着がつきました。次回、物語は結末へ至ります。


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TURN・END

※これは最終回ではありません


 ライフが尽きたキサラは、精魂果ててガックリと膝を着いた。小さく縮こまった彼女を、透き通るほど白く朝日が照らしていた。

 

「キサラ!!」

 

 自分の身体に突き抜ける激痛を物ともせず、瀬人は彼女の元へ駆け寄る――と。

 

「ありがとう……。セト、さま……」

 

 キサラの身体が霧のように薄くなっていき、向こう側の街並みが見えるまでになった。

 

「あ、はは……。せっかく、セト様が魂を、賭けてくれた、のに……。やっぱり、ダメ、みたいですね……。」

 

 その症状は時間とともに酷くなり、キサラの濃度と反比例して、光の粒子が大量に天へ昇っていく。

 

「ば、バカな!? 闇のゲームを強いる『SinWorld』は破壊した! 『Sinトゥルース・ドラゴン』も、お前もろとも破壊しないよう細心の注意を払って攻略した! なのに――何故!?」

「やっぱり……。世界が違うのかも、しれませんね……。あなたを想うことは、罪、だったのかも……」

 

 官僚と流民。白人と黒人。ドラゴンとデュエリスト。モノとヒト。古代人と現代人。死者と生者……。

 

「あなたの力になりたかった。一秒でも長く、あなたを感じ、あなたの傍に、いたかった……! でも……!」

 

 涙を浮かべた青い眼に、精一杯の笑みをつくって告げた。

 

「さよう、なら。セト様。 あなたは、ひとりでも、未来へ……駆けて……」

 

 瞬間。気がつけば抱き締めていた。

 肌の張りも跳ね返らず、存在が曖昧になりつつあることも気に止めずに彼は抱き締めた。二人の頬を熱い迸りが伝っていた。

 

「ふ……ふ……。諦めの、わるい、ひと……。」

 

 キサラが淡く抱き返すと、瀬人は力強く魂の叫びを上げた。

 

「ああ!諦めない! 諦め屈してたまるか!

 俺は五千年の時を超えてやっとわかったんだ! お前が、ブルーアイズが、デュエルが気づかせてくれたんだ!」

 

「敗者には死を――それが全くの間違いではない! だが――勝利か敗北か、生か死の二択を強いるルールや闇こそ、本当に超えるべきものだったんだ! 見えるけど見えないもの――第三の選択肢があったんだ!」

 

「俺が生きてお前が死ぬ……。そんな見え透いた選択肢にはもう惑わされない! いまここでお前が消えても、絶対に、何千年かかってもお前の笑顔を手に入れてみせる! 絶対に手に入れるのだ! どうせ手に入るものなら、いま手に入れても同じだろう!?」

 

「だからキサラ! 諦めるな!! 諦めるだけ無駄なのだ! 本気で願い、魂を賭けてみせろ! いつの日か結ばれる二人なら――いまここで1つになることの何が悪い!?」

 

 かつては罪深い愛だった。それに対し運命は、永きの別れという罰を与えた。

 しかし――。

 

「俺達が愛を欲することが罪だというなら――。」

 

 時空を超える記憶は再び愛を繋ぎ――。

 

「そんなくだらん罪を定めるルールは、俺が壊してみせる!!」

 

 数千年の呪縛を打ち砕く――!!

 

「わたし、だって……。私だって……!! もしも、許されるなら……ううん、誰からも許しを得られない想いだとしても……!」

 

 消えゆく指先に精一杯の力を込めて、愛しい人に抱き着きながら彼女は発露した。

 

「あなたの力になりたい! あなたの傍にいたい! 私は……!」

 

「私は――! あなたと共に、『生きたい』!!」

 

 そのとき――。

 キサラの身体が、超新星の産声のごとく輝いた――!!

 

――――。

 

――――光が止むと、ビルの屋上には影2つ。

 ひとつは海馬コーポレーション社長、神官セトの生まれ変わり――海馬瀬人。

 そしてもうひとつは……。

 

「え……? わ、わたし……は……」

 

 消えもせず、死にもせず、彼女はそこにいた。

 艶があり川のように流れる銀髪も、雪のように白い肌も、深く澄んだ海のような青い眼も、スラリとした手足も失われず。

 キサラは間違いなく――人間としての生を受けていた。

 

「良かったな……キサラ! 本当に……よかった!」

「……本当に、いいの? 私なんかが……あなたと生きて……!」

 

 未だ我が身に起こったことが信じられず、涙ぐみながら確かめた。

 

「他ならぬ俺たち自身が選んだ道だろう? 誰にも否定させない。誰にも邪魔させない。

 ――共に生きよう、キサラ」

「う……うわぁぁぁぁああん……!!」

 

 歳相応、女の子として相応な号泣。服が濡れることにも構わず、瀬人は共に涙を流しながら受け止めた。

 

「怖かった! ずっと、ずっと……あなたを待ち続けていたけれど……っ」

「ああ、待たせて悪かったな……」

「自分のいるべき場所も、許される場所もなくて……ずっと不安で……っ」

「大丈夫だ。これからは、二人ともに生きていこう……」

「うわぁぁぁぁああん……!」

 

 新しい未来を見つけた二人を、昇りゆく朝日が祝福していた――。

 

 

 




次回が本当の最終回です。


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NEXT・TURN(最終回)

 世界に名を轟かす大企業『海馬コーポレーション』は、今日も平常通りに業務中である。

 そこはいつもと変わらない、社内のデュエル実験室だった。ソリッドヴィジョンの改良や新カードのテスト、コンピューターAIとのデュエルを行う部屋である。部屋の前に設置された時計は、午後2時を知らせていた。

 その部屋へ、デュエルディスク片腕に入っていく一人の男に、

 

「お待ちしておりました。セト様……」

 

 そう呼びかけた先客は……。

 

「ふぅん、待たせて悪かったな。

 ――キサラ」

 

 ややゆとりを持たせた白いスーツを着た、キサラだった。

 あのデュエルを終えた後、瀬人は有象無象の疑問や問題を振り払い、キサラを海馬家と海馬コーポレーションに迎えた。まだ籍も入れていなければ挙式もしていないが、そう遠くない話だろうとはお互い考えている。

 パラドックスの呪縛からは解放されたキサラだが、やはり元が4枚目の『青眼の白龍』なだけはあった。戦闘力、古代魔術の技能、カードの魔力や精霊を感じ取る力、決闘者としてのタクティクスにおいて、海馬コーポレーションに通用するものがあった。元々家事は執事やメイドが全てやってしまうという事情もあって、キサラはボディガード兼秘書、場合に応じてカード開発部門の補佐として瀬人やモクバの周りで働くようになった。

 そして今日、キサラがデュエル実験室にいるのは――。

 

「いえいえ! 私もこのカードを回収して、今この部屋に入ったところですから」

 

 そう言ってキサラがポケットから出したのは、『ハネワタ』。海馬コーポレーションが開発した、チューナーモンスター第1号である。

 パラドックスが未来から持ち込んだカードは、『青き眼の乙女』『蒼眼の銀龍』『龍の鏡』の3枚だけを残して、パラドックスと共に消滅してしまった。しかしKCとI2、キサラと瀬人に加えて武藤遊戯や天馬夜行、ペガサスの協力も得て、先日ついにチューナーモンスター『ハネワタ』が完成したのである。

 目指すはシンクロモンスター及びシンクロ召喚の実用化。そして、モーメントの暴走による人類滅亡が起こる前に、モーメントに代わるエネルギーを開発することであった。

 

「では。闘ろうかキサラ! 遠慮は要らん、本気でかかってこい!!」

「はい! セト様も、うっかり負けたら、カードの貴公子の名が泣きますよ!」

 

 愛する人なき絶望の未来とも、暴走による滅亡の未来とも違う。

 彼らは、光差す第三の未来へと、歩み始めていった――――。

 

 

「「デュエル!!」」

 

瀬人VSキサラ~時空を超えた記憶~

 

 




ここまでの応援、感想、読了、誠にありがとうございました。
個々の感想にはひとつひとつ返信をお送りしていますし、これからもそうさせていただく所存です。

この小説が、海馬瀬人、神官セト、キサラ、青眼、デュエル、遊戯王を愛する方にとってプラスになればいいな、と思っています。

一言感想欄などから連絡いただければ、瀬人×キサラCPの小説・漫画を描く際に世界観を流用していただいて構いません。これを機に瀬人キサが発展してくれれば嬉しいです。

稚拙にして未熟ながら、今後の生徒会副長の活躍にご期待いただければ幸いです。

それでは皆様、またお会いしましょう!ノシ


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EXTRA・TURN「キサラVSドッペルゲンガー」(デュエル前part)

瀬人VSキサラのおかげで出来た「現代にキサラが居る」という便利な世界観を再利用して考えた架空デュエルです。社長誕生日なのでデュエル前パートだけ先にうpします。海馬社長誕生日おめでとうございます!


「暑い……」

 

 木漏れ日すら鋭い熱帯雨林は、湿度の高さも相まって、彼女──キサラには非常に厳しい環境であった。

 

「3000年前のエジプトなんて……まだ涼しかったんじゃないかと……錯覚しますよこれは……。まさか例の事件ってただの熱中症じゃないでしょうね……?」

 

 「白き龍」としての生命力と魔力で多少の誤魔化しは効くものの、ついつい息を切らせながらの独り言が捗ってしまう。

 なぜ彼女が時空を超えて伴侶になれた筈の瀬人とも、彼の会社の部下とも離れ、こんな南米の熱帯雨林をさ迷っているのか。

 享楽のためではない。

 最新のレジャー用ウェアの性能テストでもない。

 それは彼女が先ほど一人愚痴っていた、「例の事件」と関係している。

 

──

 

「昏睡3名、発狂2名、行方不明が3名、ですか……」

「あぁ。人数だけでも酷い有り様だろう?」

 

 そんな相談を瀬人がキサラにしたのは、10日前のKC社長室でのことだ。

 

「南米に海馬ランドを作るにあたり、現地の風土や伝承を調査しに森林へ入った小隊が最初の被害者だ。それの救助隊や追加の調査隊なども続々と被害に逢い、今やこの人数……という訳だ」

 

 瀬人がため息をつくのは、単なる被害の大きさだけが理由ではない。原因が不明で解決の見通しが立たないからである。

 もちろん、手がかりが無い訳ではない。発狂して生還した2名の証言がある。だが、うわ言やら寝言やら心理学的な聞き取りやらの中から信憑性の高そうなキーワードを繋ぎ合わせて導かれた答えは、

 

『地図にもない、コンパスも効かない場所に1人で迷い込んだ後、”もう1人の自分に襲われた”』

 

という突拍子もないものである。

 

「瀬人様に言わせれば、『また妙なオカルト話か』──といったところですか?」

「だからこそお前に頼みたい、ということでもある」

 

 瀬人はずいぶん長い間、千年アイテムや三千年の輪廻因縁に関することで苦労してきた。千年アイテムが地上から消えた今も、世界は瀬人が知る科学では論理的に説明がつかない事象に満ちている。

 だが今の瀬人には、頼れる彼女がいる。論理的には説明がつかない、三千年の絆と記憶で繋がった『キサラ』が!

 

「俺は別件で手が離せん。キサラ、お前に南米へ飛んでほしい。『白き龍』の力を持つお前なら大丈夫だろうとは思っているが、くれぐれも気をつけてな」

「はい。何年でも何度でも、貴方の力になりますよ」

 

──

 

 そしてキサラは、暑さに苦しめられながらも、見えざる敵と自分自身の思惑通りの状況に踏み入っていた。

 一瞬汗を拭うために目を瞑った隙に消えてしまった同行者たち。地図にない川のせせらぎ。デタラメに回り続けるコンパス。デジタル腕時計がまだ正しく動いているなら、証言通りの術中に陥ったのはほんの5分前程度か。その5分間で、キサラは鬱蒼とした森から、せせらぎの音源である小川に出ることができた。

 

「ちょーっとだけ、涼しいですね」

 

 滝のように流れ、白い肌も銀の髪も濡らしていた汗をタオルで拭いながら、しばし涼む。

 直射日光こそ直撃するものの、湿度を無駄に上げる木々がなく、小川に沿って緩やかな風が流れているが故だった。

 この涼しさの源泉である小川を少し観察してみる。

 ギリギリで一足跳びこそ出来なさそうだが、歩いて渡れそうな程度の浅さで泥も舞い上がっていない清流である。屈んで見てみれば、鏡のようにキサラが”二人”映る程の水質──。

 

「──ッ!!」

 

 『もう1人のキサラ』に首を締められそうになり、反射的に右手だけ『白き龍』の異形を顕し、振り向きざまに剛爪で反撃する。だがその斬撃は『もう1人のキサラ』が飛び退いたことで空振りに終わった。

 

「おーっと、危ない危ない! ただの女の獲物かと思ったら、とんだ化物だったらしいぜ!」

 

 銀の髪も青の眼も服装もキサラと瓜二つだが、声だけはキサラより少し低い、中性的なものだった。

 

「獲物に化物と、好き放題言ってくれますね? 私には『キサラ』というちゃんとした名前があります。貴方も名乗られては?」

 

 普段の穏やかな口調からも怒りが滲み、右手を龍の爪にしたまま睨みつける。

 

「おー怖い怖い! 俺の名はドッペルゲンガー。だがすぐに『キサラ』に改名するぜ。お前の存在を乗っ取ってな!」

「ではやはり一連の事件は貴方が……」

 

 出くわせば自分が死ぬという超常現象『ドッペルゲンガー』を名乗るこの者が下手人だったのか。

 

「あんたと同じ服装の連中か? 乗っ取ってやろうかと思ったんだが、どいつもこいつも乗っ取る値打ちが無さそうだったんでな。まあ二人だけ一旦キープしてるけど」

「私なら乗っ取る値打ちがあると?」

「あるねェ! これでも最低限の世俗は知っててさ! あんた海馬瀬人の伴侶だろ? 俺が乗っ取るには最高の条件の相手だぜ!」

「素直に私が応じるとでも?」

 

 キサラは、今度は両手とも龍の姿を顕して戦意と力を見せつけるが──。

 

「待て待て! こんな暑苦しい場所で肉弾戦なんて止そうぜ! ここはデュエルと行こうじゃないか、俺のデッキも見てもらいたいしな!」

「…………。」

 

 この提案を無視して爪で引き裂くというのもアリではあるのだが、どうせ「勝つ自信がないから肉弾戦が良いんだろ?」と挑発されれば乗らざるを得ない訳だし、無闇やたらに龍の力を解放するよりはデュエルの方が割が良いのは事実だった。龍の爪による脅しを止めて、条件を取り付ける。

 

「私が勝ったら、私も含め、貴方が今まで出した被害者を全員解放してもらいますよ?」

「俺が勝ったらアンタの身体と名前を頂くぜ。『キサラ』に成れたならどっちにせよアンタ以外は用無し! 全員解放するから安心してデュエルしてくれよな」

 

 かくして、キサラはバックパックから手際よくデュエルディスクを出し、ドッペルゲンガーは何処からともなくディスクを具現化させ、デュエルを開始した。

 

 「「デュエル!!」」

 

キサラLP8000

≪VS≫

ドッペルゲンガーLP8000

 




デュエルパートがまだ途中でキリが悪いのでまだうpできません!すみません!


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