パルプンテは最後までとっておく (葉虎)
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プロローグ

移転してきました。

引き続き、ご愛読よろしくお願いします。


「ふぅ…いい天気だ……」

 

縁側でお茶を飲みつつ、空を見上げる。

 

今日は、雲一つない快晴。

 

膝の上には…

 

「くぅん♪」

 

子ぎつねが一匹丸くなって寝ており、頭を摺り寄せてくる。

その期待に応えるべく、湯呑みを置き、ゆっくり優しく頭を撫でる。

 

絵にかいたような喉かな場面。しかも今日は平日の昼間とくればそれは至上の贅沢と呼べるもの。

だが、その贅沢も明日まで……

 

「はぁ、学校いきたくねぇな……」

 

槙原耕二、旧名。佐伯司は明日から二度目の小学生。

 

ありがちなテンプレ転生し、二度目の生を受けた彼は、そうぼやいた。

 

そのありがちなテンプレ転生だが、

転生時のやりとりは、転生後の世界がその時点では未定であり、

三つ能力をくれると、所謂お約束的な展開だった。

 

とりあえず、俺が望んだ能力は。

 

①全てのドラクエ作品で出てきた呪文を使える。

②大魔王バーン様と同等の魔力。

③転生後、自身の能力を自由自在にコントロールできること。(アフターリスクなし)

 

この三つ。そんなチート能力を得て、俺はこのとらハ、もしくはリリカルの世界に爆誕した。

 

それは誕生して、両親の会話を聞くうちにすぐに分かった。なぜなら、

 

「耕二、そんな所でのんびりしていていいのか?明日は入学式だろ。」

 

過去に思いを馳せていた俺に、エプロンをかけた長身の男性が苦笑いを浮かべながら話しかけてきた。

 

槙原耕介。今の俺の親父である。

母の名前は槙原愛。

 

とらハ2のメインキャラだったからである。

 

 

「準備は終わってるよ~~」

 

返事を返し、膝の上にいる狐の久遠を撫でる。

俺がいるのはさざなみ寮一階の縁側。

 

俺が学校に行きたくないのは、此処さざなみ寮が天国だからである。

この寮は、知っている人もいるかもしれないが女子寮。そう、女子寮なのである。

 

しかもとらハ2のキャラが寮生にいたり、また退寮後も時たま来てくれ、みな美人さんなのである。

子供ボディーを利用し、ひとしきりお姉さま方のおぱーいに突貫してはもふもふしたのは懐かしい思い出だ…。

 

あぁ、また来てくれないかな~。ゆうひさんに瞳さん。

そういえば、今度薫さんが来るんだっけ!楽しみだなぁ~。

 

ちなみに、転生後の俺の初恋は仁村知佳さんだったりする。

 

なのになぁ、いくら入学先が聖祥で、リリカルの原作キャラ達に会えるとしてもなぁ。

まだ小学生でしょ?どう考えてもさざなみ寮の方がいいよなぁ。

 

「……ラナルータ使えば、すぐ帰れるよな」

 

ラナルータ。唱えれば瞬時に昼と夜を逆転させる呪文。

 

唱えようかどうか本気で考えつつ、日向ぼっこを続けた。

 

 

「……二、…耕二」

 

「…ん~~?」

 

肩を揺さぶられて、目を開ける。

 

どうやら、日向ぼっこを続けているうちに眠ってしまったらしい。

 

「…起きたね。まったく、そんな姿勢で寝ていると身体が痛くなるよ?」

 

「義姉さん?」

 

膝の上で寝ている久遠を起こさないように、俺は座った体制のまま腰と首をひねり、

声をかけてきたハスキーボイスの持ち主を確認する。

声の持ち主は、想像通りの銀髪ショートカットの美女。俺の義理の姉であるリスティ槙原だった。

苦笑いを浮かべつつ、流れるような動作でたばこを取出し、口に加え、火をつけようとした所で…

 

「…っと、危ない。耕二の前じゃまずいか」

 

取り出したライターとたばこを仕舞った。まったく、女性なのにカッコいい人だとつくづく思う。

 

「別に、俺は気にしないのに…」

 

「耕二はいいかもしれないけど、私が耕介と愛に怒られるんだ」

 

父さんはともかく、あの菩薩のような母さんが起こる姿など想像ができない。

俺も怒られた記憶がないし。まぁ、俺の場合、怒られるような事をまずしていない

という事もあるが…

 

「で、どうしたの?仕事は?」

 

「着替えを取りに帰ってきたんだ。それと…」

 

ニヤッと笑みを浮かべたかと思うと、ギュッと背中に抱き着いてきた。

 

「ちょっ、義姉さん!?」

 

「弟分を補充しきたんだ♪」

 

背中にムニムニと柔らかいものが当たる。うちの義理姉は世間で巨乳といわれるものを持っているのだ。

 

「義姉さん、義姉さんは知ってるでしょ。俺の精神年齢が見た目通りじゃないことを…。駄目だよ、弟とはいえ、男にそんなことしちゃ」

 

「何今更そんな常識人ぶってるのさ。ゆうひや薫には抱き着きに行くくせに。このエロ小僧め。

いや、精神年齢からすれば変態か…よし、逮捕しよう♪」

 

そういうとギュッと抱きしめる力を強める義姉さん。

 

義姉さんの職業は刑事であり、そして、このさざなみ寮で唯一俺の抱える秘密を全て知っている人物だ。

それは2年前。ふとしたことで義姉さんが持つHGS…所謂、超能力を使用した際の心を読み取る力がきっかけで、俺の事を疑問に思い、二人だけで話し合い…もとい、取り調べが行われた事にある。

 

幼児にも容赦ないっす…

刑事パネっす…

 

当時の俺の感想である。まぁ、その際に洗いざらい知られた。

 

 

俺が前世の記憶を持って転生されられた事も…

 

彼女たちが俺の前世の世界でゲームのキャラクターの登場人物であった事も…

 

俺の能力の事も……全て。

 

 

だが、義姉さんはそれを知っても俺を受け入れてくれた。

 

 

へぇ~神様って本当に居るんだ。 前世って言われてもなぁ。耕二は耕二だろ?私の弟だよ。

 

ゲームねぇ。いまいちピンと来ないな。だって私は此処にこうして、自分の意思で生きているし。

耕二も私を一人の人間として義姉として接してくれているんだろう?ならそれでいいさ。

 

能力か…超能力の姉弟。おそろいでいいじゃないか。

 

 

あの時、義姉さんが受け入れてくれた時、初めてこの世界に生まれ、生きていると感じた。

 

その日以来、義姉さんとより親しくなり、寮生にはブラコン、シスコンと揶揄される事が多くなった。

 

 

 

「ふぅ~♪弟分も補充したし、いつものを頼むね♪」

 

抱き着いていたのに満足したのか、離れながら義姉さんはそう言い、ウインクをする。

 

そんな義姉にため息をつきながら…

 

「いいけど…。あんまりこれに頼らないで、ちゃんと寝て、ちゃん食べてよ?ちょっと痩せたでしょ?」

 

「いや、ダイエットって…「義姉さんに要らないよ。そんなもの」…悪かった。気を付けるよ。

ったく、フィリスといい…お前といい。義姉に対して説教ばかり…」

 

ブツクサいう義姉に苦笑いを浮かべ、手を翳し……

 

ホイミと呪文を唱えた。

 

 

「……ふぅ。終わったよ」

 

やはり疲労が溜まっていたのだろう。ホイミを終え、2割程度美人になった義姉さんから目をそらしつつ、告げる。

 

「やっぱいいな。見ろこの肌の張り、それに疲れも取れてるし……」

 

俺のホイミは大魔王の魔力がそうさせるのか、怪我の治療と体力の回復を同時に行える上に、美肌効果があったりする。

 

以前、仕事で疲れていた義姉を癒そうとホイミを掛けて以来、偶にお願いされるのだ。

 

転生の能力で使えるようになった呪文のうち一番使用している呪文である。

もともとはルーラ目当てで貰った能力だったんだけどなぁ。

 

「そういえば、父さんは?」

 

「ん?あぁ、耕介は私と入れ違いで買い物に行ったよ。耕二も連れて行こうか迷ってたけど、気持ちよさそうに寝ていたから起こさなかったみたいだね。私はお留守番」

 

「仕事はいいの?」

 

「ちょっと休憩さ。もうじき那美達が帰ってくる。それまでの間だけ。耕二を一人にして置くわけにもいかないだろ?」

 

今日は珍しくみんな居ないのか…。

 

いつもは、誰かしら居るのに。アルバイトで時間が不定期のさざなみの破壊王とか、締切に追われている酔いどれ漫画家とか。

 

「でも、耕二も明日から小学生か」

 

「正直、行きたくない。理由は推して知るべし」

 

「2回目か…いいじゃないか。遊べるのは子供のうちだけだ。精一杯遊んでおけば」

 

「それよりもこうやって縁側で久遠と一緒にいる方がいい。癒されるぅ~。」

 

「…まぁ、とにかく頑張れ。あまり耕介や愛を心配させるな」

 

「わかっているよ。どうしても耐えられなくなったら、ラナルータ使ってやる」

 

「……ちなみにそれを使うとどうなる?」

 

この後、ラナルータの効果を説明し、義姉さんが必死でやめるようにお願いされた。

 

 

 



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第1話

 

聖祥に入学して数日が過ぎた。

 

入学式当日の夜は入学祝と称する宴会でえらい騒ぎだった。

 

丁度、桜の咲き具合も頃合いで花見を兼ねて、寮の近くの桜並木の下で行ったもんだから

テンションもさらにあがり、悪乗りした某漫画家にお酒を飲まされた挙句、菩薩のような

母さんが鬼に転じて……止めよう。思い出したくない。

 

とまぁ、さておき晴れて聖祥の一生徒になったわけなのだが…

 

「……まぁ、薄々そうなんじゃないかとは思っていたけどね」

 

寮のお姉さん達と一緒に、本日も登校を果たした俺は、席に着き頬杖をついたまま、教室を見回し、

 

数人の見覚えのある女の子に視線を向けた。

 

高町なのは

アリサ・バニングス

月村すずか

 

リリカル原作3人娘である。

 

まぁ、この辺りは想定の範囲内だ。考えていなかったわけじゃない。同級生で同じクラス。

やっぱり、リリカルの世界なんだ~。ジュエルシード事件とか起きるのかなぁとか…うん、まぁ此処まではまぁいい。問題は、その3人にしきりに話しかけている連中。

 

銀髪オッドアイのガキ。

白髪、色黒。何処かの赤い弓兵に似ている小僧。

金髪のどこぞの英雄王を模したお坊ちゃん。

 

俺と同じく転生者の3人組だ。初日に姿を見た時は思わず吹きそうになった。

 

「はぁ、此処って日本の小学校だよな……」

 

なんで、黒髪の人口がこんなに少ねぇんだよ!!

 

まぁ、そういう俺も茶髪なんだけどさ。べ、別に染めたわけじゃないわよ!地毛よ!両親からの遺伝なんだから!!

 

……止めよ。やっててむなしくなってきた。疲れてるんだな……帰ったら久遠と戯れよう。癒して貰おう。

 

そんな事を考えつつ、意識を元に戻す。

 

この3人の転生者の態度から言って、原作に介入する気満々なのだろう。

 

正直、勘弁してほしい。

 

俺はさ……さざなみ寮で平和に第2の人生を過ごせればそれでいいんだよ。

ルーラとかホイミとかさちょっとずるい能力を使って楽しく生きられれば。

彼女もさ…容姿も悪くないし、今のうちから女の子とのコミュニケーションスキルを磨けば出来ると思うんだ。出会いには事欠かないし、原作に出ないモブキャラだってかわいい子はいるし……

 

そりゃ、原作組のキャラたちは可愛いよ。美人だよ。とらハ2の人達でそれは分かっているよ?

 

でもさ、リリカルのキャラはみんなハードル高いし、狙うのは無理だろ。

 

原作を振りかえってみよう。

 

なのはの場合、嫁はフェイトだろ。で子持ちでシングルマザー。

フェイトの場合、嫁はなのは。で子持ちでシングルマザー。

はやての場合、嫁とか子持ちはともかく、守護騎士どうにかしなきゃだろ。

シグナムとかヴィータとか……あと、シグナムとか。

 

管理局3人娘は男が付け入る隙がない。つか、彼女たちは男性相手に恋をするのだろうか?

 

ありさとすずかはお金持ちのお嬢様。帝王学?何それ美味しいの?な、俺には無理だ。

そもそも何話していいかわからないし、会う時間とか取れんの?

 

まぁ、これは俺の考えであの転生者3人トリオが何を考えているのかが分からないし、

馬に蹴られたくないから、別に邪魔はしないけどさ……。

 

ちょっかい出して、こっちまで被害が飛び火するのだけは勘弁してほしい。

 

原作通りがベターなのに。誰も死なないし、大きな怪我もしない。

フェイトやはやては悲しい思いをしたかもしれないけど、乗り越えた訳だしさ。

 

もし、リリカルのイベントが始まったら関わり合いにならないようにしようとしていたのに…台無しだ。

 

とりあえずは、俺の周囲に害をもたらすようならば、容赦せずに敵対行動を取るというスタンスの元、

あいつ等の情報を集める事にした。何ができて何ができないのかを。

 

「……ダモーレ」

 

小声で呪文を唱え、転生者組を一人一人さりげなくチラ見する。

 

この呪文は相手のステータスが見える呪文。この世界仕様なのか見えるのは魔力のランクとかデバイス所持の有無、そして転生者の場合は神様から数かった3つの能力まで把握することが出来た。

 

……ドラクエの呪文って結構…いや、かなりチートだよなとか思いつつ、情報を整理する。

 

銀髪の厨二病患者

 魔力ランク:SSS

デバイス所持:有

神様特典

  ①魔力SSS

②デバイス知識、デバイス精製技能

③容姿を銀髪オッドアイにする。

 

赤い弓兵もどき

 魔力ランク:SSS

デバイス所持:無

神様特典

  ①魔力SSS

②無限の剣製

③容姿をアーチャーにする。

 

金ぴか英雄王劣化版

 魔力ランク:SSS

デバイス所持:無

神様特典

  ①魔力SSS

②王の財宝

③容姿を英雄王にする。

 

……うん。まぁ、見た目通りの能力ですね。赤いのと金ぴかのは。

 

銀色のもなぁ。リリカルなのはでは結構有用な能力だろう…。ん?ちょっと待て、こいつらどう考えても転生先を把握したうえでの能力選択だよな…。俺の時は分からなかったのに。なんだ?あの神様嘘を付いてた?それとも俺が最初に転生して、後から転生したから行き先が決まっていたとか……。

 

若干釈然としないがまぁ、いいや終わったことだし。

 

にしても…王の財宝かぁ。いいなぁ。あの第四次の聖杯問答で飲んでた酒には興味があるんだよ。どんだけ美味いのか。

 

どうにかして手に入らないものか……。金ぴかにお願いしてもなぁ、俺が転生者ってばれると何かとめんどくさそうだし……。

 

うん、うん考えていると教師室が慌ただしくなる。どうやらHRがそろそろ始まるようだ。

 

この後もお酒入手について色々考えを巡らせた結果、一つの方法を思いつくが、その代償に事あるごとに先生に注意を受けた事は言うまでもない。

 

 

 

学校から帰宅後、父さん手製のおやつを食べ終えて、部屋に戻ってきた。

 

久遠は残念がら居なかった。くそぉ、俺の癒しが……。まぁいい、今は王の財宝についてだ。

 

俺の部屋は小学校に上がった際に貰ったばかりの部屋だ。父さんと母さんはまだ早いんじゃないかと思っていたようだが、義姉さんが援護射撃をしてくれたお蔭で、自分の部屋を持つことが出来た。

 

その際に…

 

「耕二も男だから、いろいろあるんだよね♪ムラムラっと来るときとかさ」

 

義姉さんが含み笑いをしながら、そんなことを言っていたが…。肉体年齢を考えてほしい。

 

 

まぁ、それはいいや。さてっと、王の財宝…さっそく試してみますか。

 

「モシャス」

 

呪文を唱える。モシャス…対象の1人に変身し、HP・MPを除く能力、呪文・特技をコピーする呪文。

これで金ぴかに変身すれば、王の財宝が使えるのではないかと考えたのだ。

 

俺の賭けは…

 

「王の財宝っと…おぉ!!」

 

成功した。空間に穴が開いている。よっしゃ。

 

「では、さっそく。あの美味いお酒を…出してくれ!!」

 

……わくわく。

 

……どきどき。

 

……ん?

 

しかし何も起こらない。

 

「なんでだ!?やっぱりモシャスじゃだめなのか!?でも穴は開いたしなぁ、何でもいい、取り出しても危なくないものを一個だけ取り出してくれ」

 

穴に向かって注文をしてみる。するとドサッと何かが出てきた。

 

出てきたものを確認する。なんと、押し入れにしまってあった俺の枕だった。

 

いつから俺の枕はギルガメッシュの蔵にある至高の財になったんだ?

 

いや、待てギルガメッシュの蔵?まさか……

 

「王の財宝って、使ったやつの持ち物しか出せないんじゃ……」

 

オワタ…俺の短くもはかない夢が…いや、俺はまだいい。

 

「金ぴか…あんたぁ……やっちまったなぁ」

 

脳裏には金ぴかが王の財宝から家具や本などが雨あられと射出させている光景が浮かび、笑いが込み上げる。

 

「い、いや、それはそれで強いのかも……。俺なら絶対にやらないが」

 

せめて魔力量の多さを糧に頑張ってほしいものだ。



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第2話

 

陽気な春の休日の昼下がり…

 

「にゃんがにゃんがにゃー♪ にゃーらりっぱらっぱらっぱらにゃーにゃ♪」

 

テンション高めに街を闊歩していた。

 

入学して早一年が過ぎ、去年の一年間。原作、転生トリオと特に関わりを持つことなく。

 

二年のクラス替えで、見事違うクラスになった俺は、とある場所に向かっていた。

 

さざなみの破壊王こと美緒直伝の訳のわからない鼻歌を思わず歌いつつ、歩く。

 

向かう先は人気のない、町はずれの廃墟。

 

俺の数少ない趣味。ドラクエ呪文を使ったネタ技の練習をしに行くのだ。

 

神様から貰った特典の自身の能力のコントロールのお蔭か、俺はダイのように呪文を放つのではなく、纏わせることが出来る。

所謂、魔法剣というやつだ。まぁ、俺の場合は剣なんて持ってないから魔法拳になるわけだが…。

 

最近はメラを纏わせ、草薙の拳ごっこをしている。

 

何時もはルーラを使って移動するのだが、今日は陽気もいいし、気分もいいし、散歩がてら歩いていくことにしたのだ。

 

 

 

「…おらっ、早くしろよ!!」

 

「へへっ、天才はあっちの方も天才なんだろうなぁ…」

 

「っ!さわらないで!!」

 

何時もの廃墟に到着したのだが、どうやら今日は先客が居るらしい。

 

しかもどうやらよろしく無い場面のようだ。海鳴は治安が良いところだと…いや、ないか原作であれだけ問題が起こってれば……。

でもなぁ、こんな場面にタイミングよく遭遇するなんてさぁ、主人公補正とか持ってるのかなぁ。嫌だなぁ……トラブル体質なんて。

 

これも遺伝。槙原耕介の血のなせる技なのだろうか…とか思いつつ、助けに入ることにする。

本来なら関わり合いになりたくないのだが、これを見捨てた方がもっとろくなことにならない気がする。

 

主に俺の正義感云々の問題ではなく、義姉にバレた際のお仕置きが怖いのだ。いや、お仕置きじゃすまないな…兄妹の縁を切られるかもしれん。

 

ま、とりあえず。

 

「……ピオリム」

 

ピオリムを掛け、部屋の中に突入する。

大魔王様の魔力譲りの馬鹿げた効果により、常人離れした速度で距離を詰めて…

 

「ラリホーマ」

 

男達を眠らせた。

 

そして、襲われそうになっていた女性に初めて目を向け所で固まった。

 

「アリサ・バニングス?」

 

其処には、目の前の光景に唖然とした顔の元クラスメイトの姿があった。

 

 

いや、よくよく見ると違う。

 

顔立ちはそっくりだ。だが、髪の色が金髪というより茶髪に近い。何より、身長……というより年齢か。俺よりも二つ、三つ年上に見える。

そして、肌蹴た服からは未発達の…って!

 

「これ、サイズが合わないと思うけど、無いよりましだと思うから」

 

咄嗟に着ていた服を投げ渡し、後ろを向く。

そのまま、ポケットの中から携帯を取出して、義姉に電話を掛けた。

 

 

 

「……うん、そう。俺がいつも使ってるあそこ。ほら、義姉さんも何回か一緒に来てくれたでしょ?あそこの廃墟。ん、じゃ待って…」

 

「お待たせ耕二♪」

 

「いや、待ってないから」

 

耳に携帯を当てながら突然現れた義姉に苦笑いをし、電話を切って携帯をしまった。

 

「それで状況は?」

 

「男たちは外傷なし、眠らせてある。2、3発蹴れば起きると思うよ。」

 

威力抑えたし…

 

「わかった。後の対処は任せろ。帰ったら今日はご褒美に一緒に寝てあげよう♪」

 

「遠慮するよ。義姉さん、寝相悪いし」

 

ひらひらと義姉さんに手を振って、その場を後にしようとした所で…

 

「……待って!」

 

後ろから声を掛けられた。

しかしその声を無視してそのまま歩みを止めることなく外に向かう。

 

もう2度と会うこともないし、これ以上関わり合いになったら面倒くさい事になりそうだったから。

 

だが、時すでに遅し。

 

その言葉が脳裏に思い浮かんだのは、その3日後の事だった。

 

 

 

どうしてこうなった…

 

いつも通りの平穏な小学生ライフを満喫していたのだが、その平穏は2限目と3限目の休み時間。

教室を訪ねてきた一人の上級生によって脆くも崩れ去った。

 

「あなたに会うのは此れで2度目ね。ごきげんよう。槙原耕二君」

 

そう、先日の廃墟の被害者が俺の教室に訪ねてきたのだ。

 

しかもうちの制服を着て…

 

同じ学校かよ!!

 

そして、彼女は俺が反応を返す前に

 

「ついてきて」

 

強引に手を取り、俺を連れ出した。

 

 

 

 

連れてこられたのは人気が全くない屋上。

そりゃそうだ。さっき、3時限目の始まりを告げるチャイムが鳴った所だもの。

 

「改めて、先日は助けてくれてありがとう。私は4年のアリサ。アリサ・ローウェルよ」

 

「槙原耕二です…」

 

もう色々と諦めた。彼女からは逃げられそうもない…。

つか、彼女の名前を聞いて確信した。

 

この人、とらハ3の…アリサ・バニングスの元となったキャラだ。

 

「よく分かりましたね。俺の事」

 

「ヒントは色々あったわ。まず、私をアリサ・バニングスと間違えたこと。彼女、うちの生徒でしょう。結構目立っていて上級生の間でも有名だし。それで、あなたはうちの生徒だと考えた……。そして、あの刑事さん。リスティ・槙原さんの事を義姉さんと呼んでいたでしょう?だからあなたの姓は槙原だと予測をつけて…後は教室を虱潰しに探したの。教室であなたを見つけた後は、同じクラスの子を捕まえて名前を聞いた…」

 

ピッと人差し指を立て、説明していくローウェル嬢。

 

「はぁ、それで俺になんの用です?ローウェル先輩」

 

「アリサでいいわ。そうね、用事はお礼を云いたかったのと、これを返そうと思って。」

 

そう言うと、紙袋を差し出される。中身はあの日、彼女に渡した俺の上着だった。

 

「別にわざわざ返さなくてもよかったのに…」

 

言いつつ、受け取る。さて、これで彼女の用事も終わったことだし、後は教室に戻るだけだ。

 

「それじゃ、俺は教室に戻ります」

 

「待ちなさい。まだよ、少し私とお喋りをしてくれないかしら?」

 

「…いえ、でも今は授業中…「あぁ、ごめんなさい。言い方を変えるわ」

 

そう言うと、彼女はグッと俺の腕を掴んで……

 

「耕二、あなたは私とお喋りをしなさい」

 

見惚れるような微笑を浮かべて、俺に命令をした。

 

 

……とんでもない、女の子に捕ってしまった。

 

ため息を吐きつつ空を見上げる。

 

空は憎らしいほどの青々とした快晴だった。

 

 

 

それから他愛もない話をした。

 

お互いに事件の事、彼女は俺の見せた能力の事に触れることなく。

学校の事とかの世間話を……で、話していて気が付いたことがある。

 

何がアリサ・バニングスの元になった人だ!

性格は真逆ではないか。

 

バニングスの方は名前の通りのバーニング。熱く、元気…悪く言えば喧しい。

くぎゅボイスも合わさってのまさにツンデレキャラ。

 

しかし、この人アリサ・ローウェルはクール。ひたすらクール。

表情もほとんど変えないし……。

例えるならば、毒舌を吐かない某小説のヶ原さんに近い。

 

ひとしきり会話をし、3時限目の授業終了を告げる鐘と共に…彼女は去って行った。

 

去り際の…

 

「じゃぁ、またね。耕二♪」

 

クールな彼女が見せた微笑みに一瞬見惚れ…我に返った所で……。

 

「またって…まだ何かあるのか」

 

不吉な台詞に戦慄を覚えつつ、俺も屋上を後にした。

 

これが後に、ウィザードと呼ばれるデバイス作成の鬼才。

 

アリサ・ローウェルと俺の縁の始まりだった。

 

 

 

……この後、教室に戻った俺がこっぴどく担任に叱られたのは言うまでもない。

 

 

 

 

何時もより当社比3割増しで精神力を消耗した俺は、疲れる身体に鞭を打ちつつ、文房具屋へと向かっていた。

某少女漫画家から買い物を頼まれたのである。

 

「当の本人は仮眠とかで寝るってんだからなぁ、なんて理不尽な……」

 

ブツクサと文句を言いつつ、文房具屋へと到着。中に入った所で…

 

「……っ!?」

 

見慣れない白い髪の少年を目にし、咄嗟に隠れてしまった。

 

そこにいたのは某、転生トリオの一角。アーチャーもどき事、アチャ男君であった。

 

彼はブツブツと何かを呟きながら、カッターをジッと…引くぐらいに見つめていた。

 

どれほどそうしていたのだろうか…暫くすると満足したのか商品のカッターを棚に戻して、店の奥に入っていく。

 

気になったので、こっそり後をつけてみた。

 

アチャ男君は、ペーパーナイフ、十徳ナイフ、彫刻刀をそれぞれ同じようにブツブツと呟きながら、ジッと見つめて棚に戻していた。

 

興味本位で近づき、アチャ男君の呟き声の内容を聞いてしまった時、俺は後悔という感情に苛まれた。

 

 

 

創造の理念を鑑定し、

基本となる骨子を想定し、

構成された材質を複製し、

制作に及ぶ技術を模倣し、

成長に至る経験に共感し、

蓄積された年月を再現し、

あらゆる工程を凌駕し尽くし――――

ここに、幻想を結び剣と成す――――!

 

 

 

アチャ男ぉ…

 

何故だろう……

 

アチャ男が店を去った後も、溢れ出てくる涙が止まらず…

 

「ぼく、どうしたの?」

「お母さんとはぐれちゃったの?」

 

店員さんや周りのお客さんに心配されるというちょっとした騒動になってしまった。

 

 

その日、精神的疲労度が積もりに積もった俺は…

 

夕食を終え、風呂に入るとそのまま眠りについた。



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第3話

 

俺は浮かれていた。テンションもここ最近ない程の高さだ。

 

「にゃんがにゃんがにゃー♪ にゃーらりっぱらっぱらっぱらにゃーにゃ♪」

 

思わず登校途中というのに訳の分からない鼻歌を歌ってしまう程だ……はっ、すれ違ったOLのお姉さん(美人)に笑われてしまった。

自重しろ……自重するんだ……

 

「帰ってくる~♪、もうすぐ、帰ってくる♪」

 

駄目だ。止まらない。くそぉ、これというのも全部、ゆうひさんと薫さんのせいだ。

 

だって、あの二人が近々海鳴に返ってくるっていうんだもん。盆と正月が一気に来たようなもんだ。

此れでテンションが上がらないなんて俺には無理だ。

 

これで知佳さんまで帰ってくるなんて事があったならば、俺はどうなってしまうか分からない。

 

……残念ながら知佳さんは帰ってくる予定はないのだが。

 

でも待ち遠しい。早く時が過ぎればいいのに……

 

「そうだ…こんな時こそ、ラナルータだ」

 

連続で唱えれば直ぐにでも約束の日になるはずだ……。

 

危険な思考に陥りそうになるが、最後の理性でどうにか堪える事が出来た。

 

 

 

「どうしたの耕二?今日はいつもより楽しそうね」

 

お昼休み、あの出会いから殆ど毎日お昼を一緒しているアリサが問いかけてきた。

 

俺たちが今居るのは調理室だ。お昼休みに他クラスが使用してない場合は、此処を占拠し食事をすることが多い。

お茶とか淹れられるし…。

 

鍵は普通に掛っているが、アバカムの前に開かない扉などない。逆に鍵を閉める方法がないため、帰りは何時も開けっ放しで

出ていくのだが……

 

当然のようにアリサは後に付いてきて向かいに座り、某健康食品の封を開けようと…

 

「って、待て待て。いつも言っているだろう。ちゃんとした物を食べろと。ほら、今日も俺の弁当半分食べていいから」

 

「そう、いつも悪いわね……頂くわ」

 

「そう思うなら、ちゃんと弁当持って来いよ」

 

父さんお手製の弁当を広げ、急須でお茶を注ぎ、アリサに差し出す。

 

「あら、これだってちゃんと栄養は取れるのよ」

 

「そんなのばっかり食べていると大きくなれないぞ」

 

「……耕二は胸の大きな女性が好みなのかしら?」

 

「まぁなぁ。俺は大きさよりも形を優先するが…それでもCは欲しいなぁ……って、何だその目は」

 

「別になんでもないわ」

 

何でもないならジト目になるなよ。

 

そんなアリサの視線をごまかすように俺はアリサの最初の問いかけに答えることにした。

 

「俺が楽しそうな理由だったっけ?それはな、昔、俺を可愛がってくれた元寮生が二人、近々海鳴に来ることになってな。

久しぶりに会えるからなんだよ。」

 

「元寮生って……さざなみ寮の?」

 

「うん。一人はアリサも知ってるんじゃないかな…歌手のSEENAだよ」

 

ポトッと取ろうとした卵焼きが弁当箱の中に落ちる。

 

珍しくアリサは驚いているようだ。いや、表情は微妙にしか変化していないが……最近こいつの感情が表情から読み取れるようになってきた。

そんだけ、一緒に居るってことかなぁ……

 

「SEENAって、あの天使のソプラノ?あなたの交友関係ってどうしてこんなに幅広いのよ…」

 

「そんなに驚くような事か?」

 

「だって、あなたの知り合いって漫画家に刑事さんに歌手。あと、プロのバスケット選手にお医者さんでしょ?」

 

うぅん、そう聞くと確かにな……。おまけにアリサに言ってはいないが、退魔師に猫娘に妖狐に幽霊に超能力者……

挙句の果てに俺自身も魔法が使えますって言ったら、どんな顔をするだろうか。

 

まぁ、これがとらハクオリティだ。忍者とか剣士も居るしな…。

 

「俺の友好関係は置いといて、今度日本でCSSのチャリティコンサートがあってさ、一足先にゆうひさんが帰ってきて、コンサートの前にこっちで

休暇を取るんだって」

 

「へぇ、だからそんなに浮かれているのね。それにしても、SEENAと知り合いなんて……あぁ、だから耕二は歌が上手いのかしら?」

 

「……確かにゆうひさんには指導を受けた事があるけど……聞かせたことあったっけ?」

 

「偶にだけどね。今みたいに浮かれていると歌を歌っている時があるわよ。無意識だったの?」

 

アリサの言葉にカァッと顔が赤くなる。何これ、滅茶苦茶恥ずかしい。

 

「ふふ、普段は大人びているのに偶にこういう可愛い反応を見せてくれるのよね。」

 

「う、うるさい!!」

 

俺は恥ずかしさを誤魔化すように弁当を食べ始めた……。

 

 

アリサと弁当を食べ終えた俺は、担任にちょっとした用件で呼ばれて職員室を訪れてた。

 

そこでとても気になる物体が隣のクラスの担任の机の上に置いてあるのを見つけてしまった。

 

いや、見た目はハンドクリーナーなんだよ。ただ、妙にゴテゴテしてて、コード類が外にむき出しになってなければの話なのだが……

 

止めておけばいいのに、好奇心に駆られた俺は思わず唱えてしまった。

 

インパス……と。

 

 

スターダストスキーマ version11。

 

ストレージ?デバイス

待機状態なし

不要となった電化製品やがらくた類を用いて作成された魔法補助用のデバイスの11号機。

部品を寄せ集め、強引にデバイスとしての機能を確立している為、耐久力に問題あり。

Bクラス以上の魔力を込めた場合、負荷に耐え切れず爆散する。

元になったのは掃除用の電化製品。ハンドクリーナー。

 

 

……どうやって職員室から出たのか記憶にない。ただ、ゆっくりと教室に戻る際に、脇を早足で…先ほど職員室で見かけた

スターダストスキーマなる物を持った銀髪君が通り過ぎて行く………。

 

あのデバイス…没収でもされていたのか?

 

銀髪ぅ……。

 

全俺が泣いた!

 

 

 

 

学校が終わり、俺は癒し(久遠)を求めて街を歩いていた。

 

寮にも神社にも居なかった……はて、あの愛しい子狐は何処に行ってしまったのだろうか?

まぁいい、ついでとばかりに頼まれた買い物を先に済ませてしまおう。

 

そう考え、道を歩いているとだ。

 

「まったく!?こんな物ばっかり拾ってきて!!駄目だっていつも言ってるでしょ!!」

 

「ご、ごめんさい。お母さん!でも…あぁ、捨てないで!!」

 

「捨てないでって…じゃ、何かに使うの!?」

 

住宅街にあるゴミの集積地を通りかかった辺りだろうか?そんな親子のやり取りが聞こえてくる。

 

微笑ましく思い、視線を向けると……そこには見覚えのある金の髪が……。

 

「それは……」

 

「ほら、使わないじゃない!!まったく、壊れた冷蔵庫、電子レンジ、パソコンに…訳の分からない部品!!一体どうやって持って帰ってきたのか知らないけど……うちの物置だってあまり広くないのよ!」

 

いや……あんたも相当だよお母さん。業者呼ぼうよ。

 

金髪のお母さんらしき茶髪の髪の長い女性(美人)は白い細腕を腕まくりしながら、トラックの荷台にある重そうな電化製品を運んでいく。

 

つか、いくらゴミの集積地だからといって、これは不法投棄に当たらないんだろうか?いや、あまり詳しくないうえに電化製品なんて、引き取り以外で捨てた覚えがないから分からないが……

 

 

にしても金ぴかぁ…

 

涙目になっている金ぴかを目の端に捉えつつ、そっとその場を後にし……。

 

 

射出される冷蔵庫に洗濯機などの重量級の電化製品……

 

その馬鹿げた光景に笑い転げそうになるが、ふと、その威力を想像し戦慄を覚え……。

 

「色々考えてるんだろうなぁ……」

 

その並々ならぬ努力に気が付けば目元が濡れていた。



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第4話

 

浮かれすぎていて忘れていた……。ゆうひさんと薫さんが来るってことはあの事件が起こるのか……

 

とらハ3の美由希ルートのチャリティーコンサートテロ未遂事件。そして那美ルートの久遠の祟りの封印が解ける事件。

 

まぁ、転生してから起こりうる事件として想定していたので、どちらもどう立ち回るかは考えてある。

 

チャリティーコンサートはゆうひさんが出るので当然行くつもりだ。その際に警備に当たる義姉さんの手伝いをしようかと思う。

メインとなる美由希の母に当たる美沙斗さんについては関わるつもりはない。

 

高町家に任せよう。よその家の問題に口出しすべきではないのだ。

 

久遠についてだが、これは何としても救い出す。絶対だ!

その為なら薫さんと敵対することになっても、俺は久遠に付く。

 

いや、薫さんにも久遠を切るという辛い判断はさせない。

那美さんにも悲しい思いをさせない。

 

本当ならもっと早く久遠を祟りから解放したかったのだが、義姉さんに相談した所、神咲の当代である薫さんにきちんと俺の能力を含め、

説明を行った後に、立ち会って貰った方がいいと言われたのだ。

 

前に薫さんが此処に来たときは準備が出来ておらず、俺自身も幼すぎた……。

 

だが、もういいだろう。まだ、小学校低学年という身分だが、もう待てない。近々久遠の封印が解けてしまうから。

 

 

 

ゆうひさんと薫さんが帰ってくる日が近づきつつある今日この頃。

 

俺はいつも通りの学園生活を送っていた筈だった……

 

「ねぇ、耕二。あなた魔法は信じる?」

 

お昼を食べ終え、二人揃ってのんびり…お茶を啜っているところで、予期しない内容の問いかけをアリサがしてきたのだ。

 

 

 

 

場所を調理室から昼休みも終わり、人気のない屋上へと移した…。

 

また、授業をサボってしまったが今はそれどころじゃない。

 

「…なんでいきなりあんな事を聞いてきた?」

 

「……質問に質問を返さないで。まずは私の問いに答えて。そしたら私も答えるわ」

 

「………知ってるよ。お前も薄々気が付いてただろ?」

 

「…そうね。私を助けてくれたあの時……あんなの普通の人が出来るような事じゃないわ。薄々あなたに何か秘密がある事は分かっていた……」

 

そうだ。あの日にとっくにアリサなら気が付いていた筈だ。だが、今になって何故…

 

「あなたの問いに答えていなかったわね。私がこんな事を聞いたのはね。あなたの事が知りたいからよ。」

 

「本当はね。ずっと、ずっと聞きたかったの……。でも聞けなかった。聞いたらあなたとの関係が壊れてしまう気がして……。今まで友達どころか話し相手もろくに存在しなかった私にとって…あなたは特別だった。」

 

ポツリポツリとありさの独白は続く…

 

「あなたに会うまでの私は他人に興味はなかった。いつも本を読んで…勉強して…ずっと、ずっと一人で過ごしていた。

でも、あの日…あなたに興味を持った。だから勇気を出して話しかけた……」

 

「お昼を一緒に食べるようになって、お弁当も分けてくれて、一緒に居るのが心地よくて……だからこのままでもいいって、知りたいって気持ちを心の奥底へと仕舞い込んだ……。でもね、昨日ちょっとしたできごとがあって」

 

その後はアリサの生い立ちに関わる話だった。

 

物心ついた時から両親が居なかったアリサは孤児院で育ち、今もその孤児院から学校へ通っているそうだ。

授業料なんかは特待生で全て免除されており、特待生を維持、そして本が好きだった事もあり友達とも遊ばず勉強や読書などをして過ごしていたそうだ。

 

「先日…孤児院に私を引き取りたいっていう人が現れたの……その人は…まぁ結構年取ったお爺ちゃんなんだけどね。自分の事をミッドチルダの魔導師だと名乗った」

 

「……っ!?」

 

「その反応はやっぱり知っているのね?私も普通なら正気を疑ったところなんでしょうけど…耕二の事を知っていたから…だからね、思い切って聞いてみようと思ったの」

 

なんだ?おい、どうして唐突にそんな話になる?どこの爺だ自重しろ!!突然ぼく魔法使い~♪じゃねぇよ!!変質者か!?童貞か!?

 

「その人はね、魔導師が魔法を使うのに必要なデバイスっていう……杖に当たるのかしら?を作成している技師で、後継者を探しているそうよ。それで、お眼鏡に叶ったのが私…」

 

手に北を刺さない不思議なコンパスがあったわね…って、どこの海賊だよ爺!!つか、それロストロギアじゃね?そうだろ!!

 

「私には才能があるって、高い魔力も持ってるし…訓練すれば魔法も使えるって…」

 

マジかよ爺!!いや、信用ならん。確かめよう。ダモーレ!

 

アリサ・ローウェル

 魔力ランク:AA

 デバイス所持:無

 レアスキル:インスピレーション 状況や疑問や謎に対し、突然のひらめきで答えを導き出す能力。

 何時ひらめきによる答えが得られるかは本人でも不明。

 

……マジだよ爺。あんたの目は節穴じゃ無かったよ。

 

「ふぅ…で、アリサはどうするんだよ?」

 

「私は受けようと思っている。いい人そうだったし、魔法にも興味あるし…それに……耕二に近づけるから」

 

な、なんだ。そんな潤んだ目で見るなよ…。

 

「私ね、あの日以来、男の人が苦手なの。平気なのは幼稚園児以下の小っちゃい子か、年取ったお爺さんくらい。それ以外だとつい、身構えちゃうのよ……耕二以外は」

 

だから、やめろ。俺には知佳さんという心に……

 

「今はまだあなたの好みじゃないかもしれないけど、将来絶対にあなた好みの女になって見せる。

ゆうひさんにも薫さんにも知佳さんにも負けないくらいの…だから、忘れないで…」

 

うわぁああああ!!くぁwせdrftgyふじこlp;!!

 

「私はあなたの事が好き」

 

何時も表情をあまり変えない彼女の…

 

赤く染まった頬と…

 

初めて見る微笑みに心奪われ……

 

彼女が居なくなった後もずっと、俺は屋上に立ち尽くしていた。



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第5話

 

はぁ……何も手に付かない……。

 

初めて……女の人に告白された。

 

俺の精神年齢が世間でおっさんと言われる年齢に突入しつつあっても…

 

告白の相手がまだ、小学生だったとしても…

 

俺にロリコン要素が皆無で……スタイルが良い大人の女性が好みだったとしても…

 

それでも、あの微笑みに目を奪われ、心を動かされたことは事実で……。

 

「おい、坊主。耕二の様子がおかしいんだが、何か知らねぇか?」

 

「ふふ……耕二はね、今日学校で女の子に告白されたらしいよ♪」

 

「おぉ!?告白なのだーー!耕二、モテモテなのだぁーー!!」

 

「えぇ!?おめでとうございます耕二君!!」

 

「あらあら、耕介さん。今日はお赤飯にしましょうか…」

 

「そ、そうだな!!」

 

って…

 

「何ばらしてるのさ義姉さん!?つか、勝手に読まないでよ!!」

 

「耕二、姉弟の間で隠し事なんて野暮だよ。」

 

「けけけ、いっちょ前に照れてやがんのか?今日は珍しく可愛いじゃねぇか。よし!耕介!!酒だ!!今日は飲むぞぉ!!耕二の彼女GET記念の宴会だ!!」

 

「宴会なのだぁーー!!耕介ぇ!ごちそうを用意するのだぞ!」

 

「彼女かぁ……羨ましいなぁ。私にも素敵な恋人が……」

 

何このカオス…。

 

夕暮れ時のさざなみ寮。

 

珍しく、現寮生が全員集合したリビングでは混沌とした様相になっていた。

 

ニヤニヤと俺をしきりにからかう義姉さん。リスティ・槙原。

 

事の発端にして同じく、ニヤニヤと笑みを浮かべながらこれ幸いと便乗し、酒を要求しだした。仁村真雪。

 

宴会という言葉に反応し、思わずピョコンっと猫耳と尻尾をだして、ご馳走を要求しているの猫娘。陣内美緒。

 

久遠を抱きかかえつつ、妄想の海にダイブした巫女衣装の少女。神咲那美。

 

ENKAI!!が発令され、即座に準備に取り掛かる俺の父親、槙原耕介。

 

そして……

 

「折角だし、私も何か作ろうかしら」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

即座に場の空気を戦慄させた。俺の母親。必殺料理人の槙原愛…って!

 

「っと…そ、そうだ!愛、耕二の相手についてもっと詳しく聞きたくないかい?」

 

「お、おぉ!?そうだ。準備は耕介に任せて、愛は耕二の話を聞いてやれよ!なっ!?」

 

「そ、そうなのだ。愛は耕二と一緒に待ってればいいのだ。」

 

「そ、そうですよ。お仕事で疲れているでしょうし……ね、耕二君もお母さんとお話ししたいよね?」

 

「う、うん。母さんに話を聞いてほしいな?」

 

「こ、耕二もこう言ってることだし、準備は俺に任せて愛は耕二と話をしてあげてくれ」

 

驚異のチームワークを見せるチームさざなみ。誰だって、自分の命は惜しい。

 

以前の惨劇を俺たちは忘れない。不幸中の幸いか犠牲になったのは父さんだけだったが…

 

顔面蒼白で、冷汗を流している父さんに対し、こっそりバーン様の魔力を使用したキアリーを3回使用した所で

やっと症状が改善された時は、畏怖の目で母さんを見つめたものだ。

 

皆の説得もあり、どうにか惨劇は防がれたが……

 

「それじゃ、耕ちゃん。お話をしましょうか♪」

 

どのみち俺は、嬉し恥ずかしの詰問タイムは避けられないようだった。

 

 

 

「それで、耕ちゃんに告白した女の子はどんな子なの?」

 

「えっと、別に普通の…「アリサだろ?」……義姉さん!!」

 

くそ、義姉さんめ。プライバシー?なにそれ?おいしいの?と言わんばかりの態度で、人の心を読みやがる。

 

「いや、耕二。ボクは別に心は読んでいないよ。ただ、耕二の知り合いで知っているのがアリサだけだったのさ。それにしてもアタリだったとはね…」

 

「なんだ?坊主は耕二の相手の事を知ってんのか?」

 

「まぁね♪偶然知り合うことになったのさ…」

 

「それで、耕二君。告白の相手はアリサちゃんって子なの?」

 

な、那美さん……いや、ドジッ子で少し天然なのは知ってますが、もう少し変化球で……直球ど真ん中は勘弁してくださいよ。

もう、無理だ。この面子相手に白を切りとおすのは…ラリホーでも使わん限り……ただなぁ、義姉さんとか真雪さんとか母さんとかに通用する気がしないんだよなぁ。いいや、諦めよう。

 

「……そうです」

 

「おぉ!?アタリなのだ!それで、アリサっていうのはどんな奴なのだ!?」

 

「年は耕二の2つ上で4年生。将来あれは絶対に美人になるね。よかったな。耕二の好みのタイプ。年上の綺麗なお姉さんにど真ん中のストライクじゃないか。しかも絶好球だ。」

 

「そういや、ゆうひとか知佳によく付いて回ってたよなぁ。けけけ、なんだ耕二。お前もいっちょ前に男じゃねぇか。」

 

やめて…もうやめて!!ライフが無くなる。

 

ベホマでも癒せない心の傷を負ってしまう……。

 

 

「それで…耕ちゃんはどうするの?お返事で悩んでたんでしょ?」

 

助け舟…を出したわけでもないのだろう。母さんがそんな質問をしてくる。

 

「……分からない。確かに俺もアリサの事が好きだよ。此れは間違いない。」

 

「両思いなのだ!!」

 

「耕二君、男らしいですね。堂々と女の子の事を好きと言えるなんて…」

 

「っと、ネタに使えっかもな。メモッとこ…」

 

猫、巫女、漫画家の戯言はスルーして…

 

ただ、恋愛となるとどうだろう?駄目だ、付き合い方が全く思い浮かばない。

つか、俺も相手もまだガキだしなぁ。まぁ、どっちも見た目とは裏腹に精神年齢高いけど…

 

そんな俺の話を聞いて、母さんはにっこりと微笑し…

 

「じゃぁ、それをアリサちゃんにそのまま伝えてあげて。まだ小学生だもの。恋愛とかそんな難しいこと考えないで、アリサちゃんと一緒に居るのが好きなら、一緒に居て、遊んで…そうやって大人になっていって……その時に、まだお互いに相手が好きだったら……その時にまた考えましょう♪」

 

……そうだな。うだうだ考えてないで、まずは告白の返事を、今思っていることをちゃんとアリサに伝えないとだな。

 

 

「ありがとう母さん。相談したらすっきりした」

 

「どういたしまして♪それでね、耕ちゃん。今度アリサちゃんを連れてきて、ちゃんと紹介してね♪」

 

「うん。機会があればね」

 

その時はなるべく、寮の住人が居ない時を選ぼう…。

 

 

「にしてもなぁ、まさか耕二がなぁ。順番的には…ねこ!それに神咲従妹!あと坊主もか……お前らの方が先に彼氏を紹介しなきゃいけねぇってのに…先越されてんじゃねーよ!!」

 

「…真雪に言われたくないね。いい加減、真雪も男作らないと…このままじゃどんどん行き遅れ…「上等だ!表に出やがれ坊主!!」…はぁ、真雪から言い出した話じゃないか」

 

久々に義姉さんと真雪さんの追いかけっこが始まる。

 

まぁ、真雪さんの言わんとすることもわかる。うちの寮生はOB含め美人なのに浮いた話はあまり聞かない。まぁ、みんなうちの父親に好意を向けていたっていう事もあるんだろうけど。

 

そうこうするうちに準備が完了し、宴会が始まる……

 

さざなみ寮は今日も平和だった…

 

 

 

翌日、人の邪魔が入らない4限目の授業中にアリサを屋上へと呼び出した…

 

 

「ごめんな。授業中に…でも、誰にも邪魔されずに話がしたかったから…」

 

「それは別に構わないわ。それで話っていうのは何?」

 

「昨日の…アリサの告白の返事がしたくて…」

 

俺の言葉に僅かにアリサの表情が変わるが、気にせず自分の気持ちを伝える。

 

「俺もアリサの事が気になってる……。告白も嬉しかった。でも、それがLoveなのかLikeなのかが分からない。

だから……もっとアリサの事を知りたい。俺の事を知って欲しい。その結果……アリサの事が本当に好きだったなら」

 

こんな曖昧な返事は間違っているかもしれないけど…

 

「今度は男の俺から告白する。仮に、別の誰かを好きになってもちゃんと伝える。答えは必ず出す。だから…待っててくれないか?」

 

言い切る。結局答えは保留。一番最悪な答え…いや、答えを出してすらいない。

 

黙って話を聞いていたアリサは…

 

「……待つなんて、嫌よ」

 

俺の都合のいい願いを拒否し…距離を縮めてくると。

 

「――んっ」

 

「――っ!?」

 

そのまま抱き着くように俺の頭の抱え、唇を合わせた…

 

それは一瞬、触れ合うだけのキス。

 

その後、距離を取ったアリサは、突然の行動に唖然とする俺を、唇をなぞりながら若干、頬を染めて……

 

「待つだけなんて嫌……耕二が私に惚れていないならば、惚れさせるだけよ。

だから、保留なんて返事は認めない。耕二の心が決まった時に、私と付き合うか、私を振るか…」

 

そのどちらかを答えなさいと。そう言って、アリサは微笑むのだった…。

 

 



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第6話

「時空管理局?」

 

アリサの衝撃的な宣言の後、数日が経過した。

 

俺たちの関係は以前と殆ど変わっていない。お昼ご飯を屋上で一緒に食べ、時間が合う時に一緒に下校する。

 

ただ、幾つか変わった事もある。一つ目は、アリサとの距離が縮まったことだ……物理的に。

 

前はある程度、間隔をあけていたのが今は寄り添うように座っている。最初はドキマギしたものだが、最近は慣れた…。

 

二つ目は会話内容がお互いの過去とか結構深い内容まで話すようになったことだ。俺の秘密である前世の記憶があるという事と、ドラクエの魔法が使えることは普通にアリサに知られてしまった。

 

別に話すつもりはなかったのだが、気が付けば話していたという始末。

 

なんか、どんどんアリサの術中に嵌っていっている気がする。

 

今日も今日とて魔法関連の話をしていて、出てきたのはリリカルなのはでお馴染みの、あの組織の名前だった。

 

「そう、ジャックが色々言ってた。魔法を使うならば知っておくべき組織だって…」

 

ジャック・ヴァルド。アリサを引き取った爺さんの名前。

 

引き取りに応じたアリサの今の名前はアリサ・R(ローウェル)・ヴァルドとなっている。

 

『まぁ、将来は槙原アリサになるし、耕二は普通にアリサって呼べばいいからあまり関係ないけど』

 

とか臆面もなく言い放ったのがつい先日の事である。アリサさん…マジパネッス。なんど思ったことか…

 

「へ、へぇ、どんな組織なんだ?」

 

過去を思い出し、赤面しそうになるのを誤魔化すためにアリサに問いかける。

 

その問いかけでアリサが話してくれたのは、大体原作の管理局と相違ない事だった。

 

「此処は管理外の世界だから管理局の干渉は殆どないけど、まったくないわけじゃない。現にジャックみたいなミッドチルダの出身者が移住してるし、この世界から魔導師になった人も何人かいるみたい。国の上層の方では管理局に繋がっている人とかも居るみたいだし…」

 

……ふむふむ、原作でリンディさんがこの世界の通貨とか住むところとか…つか、戸籍とかを得られたのはその辺に関係があるのかね?

 

「問題は此処から、管理局は慢性的な人手不足。そこに私とか耕二のような高ランクの魔力を持つ人間の事を知られたら…

ましてや、希少な能力を持ってる。」

 

確かに俺もアリサもレアスキル持ちといっても語弊がないからな。特に俺なんて死者蘇生もお茶の子再々だし。

うわっ、嫌な予感しかしない……。

 

「しつこくスカウトとかされそうだよなぁ」

 

「それだけならまだいいわ。中には手柄の為に強引な勧誘を行う人も出てくるみたい。最悪のケースは武力とか…」

 

うわっ、そりゃ確かに最悪だ。色々な人間がいるからなぁ。ましてや出世のために何でもするような奴とかの一人や二人は居るだろう。

 

「だから、私たちには自分を守る術が必要。だから放課後に家に来て」

 

「ん?なんでそうなるんだ?」

 

な、何か嫌な予感が……

 

「ジャック達が鍛えてくれるそうよ。耕二の話をしたら一緒につれてくるように言われたわ」

 

「い、いや~~俺にはこの力があるからいらな…「一緒に来るわよね?耕二」……はい」

 

な、何故だ!!修行とか練習とかしたくないからチート仕様にしたのに…

ジュエルシードとか闇の所とかスカさんとかにも関わる気がなかったのに…

原作組との遭遇も避けたのに…

どうしてこうなった?

 

 

「ほぅ、おぬしがアリサの言っておった小僧か……」

 

アリサに引きずるように連れてこられた一軒家……というかアリサ邸は見た目普通の洋式の家だった。

 

エレベーターなんてものがなければ…

地下室なんてものがなければだが…

 

地下にあるどこぞの研究所のラボのような所で俺たちを出迎えたのは、長い白髪、丸いサングラスの爺さん。

 

……つか、何処のドクターJだよ。

 

見た目、羽根つきの機械人形を作成した。とある科学者を連想させる。

彼こそが、ジャック老。アリサを引き取った爺さんだ。

 

挨拶もそこそこに、爺さんは後に続くように言い放ち、俺たちを置いて歩き始める。

 

このまま付いていかずほっといたら面白そうだと考え、直立する俺を、させじとアリサが手を取り後に続く。

 

連れて行かれた先は、天井も壁も真っ白な部屋だった。

 

だが、俺たちが中に入り、ドクターJ(今後、心の中でこう呼称することにした)ことジャックさんが空間に浮かんだコンソールを物凄いスピードで操作すると……

 

なんということでしょう……

 

一面真っ白な殺風景な部屋が、壁も天井もない……荒野に早変わり。

 

これぞ匠の技……。

 

脳内でやたらカッコいいBGMが流れたのち、やたら心に残る声のナレーションを妄想していると……

 

「ふむ、準備は整ったの。さて…さっそくお主の力を見せて貰おう。なぁに遠慮はいらんよ。此処ならいくら暴れようと問題はない」

 

そんな事を言い出したドクターJ。

 

……マジか!?

 

テンションが上がる。何故なら、今まで攻撃系の呪文は満足に使えなかったのだ。

 

バーン様クラスの魔力の場合、例え最弱の呪文を唱えたとしても、威力が高すぎて練習する環境はなかった。

 

今まで、魔力を抑えに抑え…最高でもガスバーナー程度の炎、バスケットボールクラスの氷塊とかしか出来なかったのだ。

 

だが、此処なら全力で……メラが使える!!

 

「メラ!」

 

全力のメラを唱える。指先には小さい火球。アリサ達が口を開く前に、ピッとその火球を飛ばす。

 

そして…地面に火球が着いた途端に……

 

巨大な火柱が上がった。

 

うぉおおおお!!キタキタキタぁああ!!これがメラだ!いや、違う此処は…

 

「…今のはメラゾーマではない…」

 

「メラだ…」

 

キリッっと告げる。ふっ、決まった。

 

この上ないどや顔で、アリサとドクターJの姿を伺うが……

 

な、何っ!?まさかの無反応だと!?はっ!しまった。こいつら元ネタ知らないじゃん!!うわっ、恥ずかしっ!

 

「ひ、ヒャド!」

 

俺は誤魔化すように呪文を唱えた。

 

一瞬で火柱の上に氷の塊が出来ていき、重力に従って氷は火柱の下に落下。炎と氷で水蒸気が発生する。

 

「バギ」

 

巨大な真空の刃が水蒸気を吹き飛ばす。うぉっ、テンション上がってきたぁ。

 

「デイン!」

 

轟音を立てて雷が降り注ぎ、大地を焦がし…

 

「ギラ!」

 

指先からレーザーの如き閃光が空間を切り裂き……

 

「イオ!」

 

無数の小さな球体が飛んでいき、爆発を起こす。

 

よし、次は中位クラスの……「も、もうよい!!」えぇーーー。こっからなのにぃ…

 

メラミを唱えようかという所でドクターJのちょっと待ったコールが入った。

 

「な、なんという出鱈目な力じゃ…。」

 

「わ、私も驚いたわ……」

 

「各系統への魔力変換資質もさることながら、込められた魔力量は、Sランクに匹敵する……。しかし、驚嘆すべきはその威力もさる事ながら、その若さで力をコントロールできている事じゃ。」

 

ライタークラスの炎からなんでもござれだ。チート能力ですいません……。

 

「他にはどんな事ができるのじゃ?あぁ、試さんでも口頭でよい」

 

ちぇっ。先手を打たれた。でもなぁ、補助系はマジで反則技が多いからなるべく隠して置きたいんだよなぁ。

 

あっ、そうだ……。後あれがあった。

 

「幽霊が見えます」

 

父親譲りの霊力で幽霊が見えること。ただ、莫大な霊力を誇る父さんと比べたら俺はあんまり霊力を持っておらず、とても刀に纏わせて切るなんてことは出来ないらしい。薫さんがそう言ってた。霊丸…ちょっと憧れたんだけどな。

 

いいんだ…いいんだ……。ギラを指先に集中して霊丸もどきなら撃てるから…

それにその分、俺の霊力は見ることに特化し、気配が希薄な幽霊もはっきり見える。

 

幼いうちは能力の制御が出来ず、ずっと霊が見えたり…日常生活に支障が出ることもあるらしいんだが、

俺は自分の意志でオンオフが出来る…。

此れも特典の③転生後、自身の能力を自由自在にコントロールできること。(アフターリスクなし)のお蔭なのだろう。

 

まぁ、薫さんの指導で多少の訓練はしたが……。

 

俺の言葉に二人の反応はというと…

 

「霊?そんなものいるわけないわ」

 

「そうじゃの。心霊現象は大抵科学で説明できるからの」

 

幽霊を信じようとしない。訝しげにこちらを見ている。

 

つか、アリサさんよ。あんたが否定しちゃダメでしょ。とらハ3の幽霊少女め。

 

二人に十六夜さんを引き合わせたら…いや、こんな下らない事で俺の癒し系2トップの片割れである

彼女にご足労頂くのは忍びない……御架月でいいや。どんな反応をするだろう。

 

「あとは…ちょっとだけ剣術をやってるかな…」

 

始めたのは四歳くらいだったろうか…真雪さんに頼んで日門草薙流を教えてもらっている。

気が向いたときに1日5分……真雪さんの戦闘可能時間の分だけ。

 

最近は3分と何処かの宇宙人と同じ時間しか戦えないが…とりあえず技は大体覚えた。

 

きっかけは、知佳さんのノートパソコンを覗き込んだ際に発見した。

仁村妹・人生設計表・恋愛編である。

 

そのステップ12 手を繋ぐの条件は以下の二つ。

・寮のメンツと面談

・仁村姉相手に試合で十本中一本取る

 

このうち面談は問題ないと思うが、問題は二つ目の条件だった。

 

知佳さんに惚れこんでいる俺としては、最大の障害たる真雪さんを剣によって打倒する必要があった。

 

何時の日か真雪さんに勝利し、知佳さんとのんびりゆったりとイチャイチャして過ごす……

その為に真雪さんから剣を学び、敵の技を知れば、後は若さが有利。ドラクエの補助系の呪文も合わせて使用すれば、

同じ技を使うのだ…俺の勝利は揺るがない。

 

その為だったら、嫌いな修行もちょっとの間だけなら、耐えられる。

 

そんな打算から、【さざなみのだらけきった師弟(義姉さん命名)】は誕生したのだ。

 

師匠はあれでも、モシャスにより真雪さんに化け、技を実際に振るい体に覚えさせる + 特典③転生後、

自身の能力を自由自在に以下略……のお蔭でみるみる上達していった。

 

庭で木刀を振るうたびに複雑そうな表情で父さんが見ていたのは少し気にかかったが……。

 

「それとな……多分そこらの奴より運動神経がいいと思う」

 

これは美緒の影響。つかあいつと遊んでいれば嫌でも体力は付く。

 

身体は大人、頭脳は子供?というどこぞの名探偵とは真逆の猫娘は、ガキ相手でも容赦がない。

 

おまけに猫娘パワーなのか分からないが、あいつの身体能力は異常なほど高い。あの戦闘民族のサラブレッドであり、修行をしている美由希と互角以上なのだから相当だ。

 

中でも一番のトラウマは鬼ごっこだ。隠れるの有りの。

 

美緒との鬼ごっこは何時も一対一の勝負なのだが、あいつは猫を使って人の位置を探り、追い掛け回す。

 

隠れるという手段が取れないのだ。

 

奴の『行くのだぁーーー!!』の一声で十匹を超える猫どもに揉みくちゃ…もふもふ地獄……いや天国か?

を味わったのは昨日の事に思えてくる。

 

 

「後は…これでも歌が上手い!」

 

なんせプロ仕込み。ゆうひさん直伝だ。

 

転生前はギターも弾けたんだが、今は分からん。この身体じゃコードが抑えられないし……指が届かん。

 

「あと、料理も覚えるつもりだ」

 

これは危険回避のためである。曲がり間違って、母さんと寮で二人きり…お昼時……なんてシチュになったら…死ねる!!

 

 

「耕二…あなたってなんでもありね……」

 

話を聞き終え、呆れたようにいうアリサ。いや、こうして思うと俺も大概チートだと思うけどさ…。

 

「後半から、段々と話がズレてきておったが…それでもお主が普通の小僧ではないことはよく理解できた」

 

ドクターもアリサと同様の反応……。つかさ…

 

悪いのは俺じゃない!!あの異常な…魔窟であるSAZANAMIが悪いんだ!!

 

あそこに普通と呼べる寮生なんて俺の知る限り一人も居ないんだぞ!!

 

そんな場所に住んでみろ!!普通でなんて居られないから!!

 

 

「んで、いきなり色々やった訳だけど、どういう意図なのさ」

 

俺たちは地下からリビングに場所を写し、アリサが淹れた紅茶を飲んでいる。ふむ…美味い。アリサめ……できる。

 

「アリサから聞いておらんか?お主を鍛えるためじゃよ。もっとも、必要はなさそうじゃが…」

 

呆れたように言うドクターJ。

 

「お主は既にある程度の戦うための土台はありそうじゃからな……。後は実戦経験を積みさえすれば、問題はなかろう」

 

んな…特典に頼り切りで、週に数回の適当な自己訓練とだらけた師匠を持つ俺を過大評価し過ぎじゃないかい?

まぁ、訓練が嫌だから黙ってるが…

 

「実戦訓練はアリサがある程度、戦えるようになるまで待って貰うとして……後はデバイスかの」

 

「そこからは私が……耕二。私は今、ジャックからデバイス作成の技術を学んで、自分のデバイスの作成をしているの……

それでね…」

 

アリサにしては珍しく言いづらそうに、目を伏せつつ…

 

「ジャックのような一流の技術者が居るなら、そっちに頼んだ方が良いとは思ってるんだけど……ね。それでも…

あなたのデバイスは……私が作りたい!あなたの身を守る盾を…あなたの敵を倒す剣を……あなたの半身となる相棒を……」

そこまで言い切ると、アリサはまっすぐに俺の目を見て…

 

「お願いします。私にあなたのデバイスを作らせて下さい」

 

頭を下げた。

 

その返事は…考えるまでもない。

 

「あぁ、頼む…いや、こちらこそお願いします……かな?」

 

技術はドクターJの方が遥かに上だろう。だが、俺の事を此処まで想っている人が何処にいる?

 

俺は確信する。

 

例え、俺がどんなに良い技師に巡り合っても、デバイスを手に入れても……。

 

俺の相棒と呼べるデバイスを作れるのは、やはり相棒と呼べる彼女…アリサだけなのだと。

 

 

 

俺の返事にアリサはしばし俯き、目元を擦ると……

 

「ふぅ~。それじゃ、耕二のデバイスの仕様から考えないとね……何かリクエストはある?」

 

「そうだな……ちょっと、憧れてるのはあるけど…技術的に難しいかも……」

 

「ほうほう…なるほどの、面白い事を思いつく小僧じゃ。既存の技術では不可能じゃの……さて、アリサよどうする?」

 

「作るわ……生涯かけてでも最高の物を作って見せる。ふふ、いい目標が出来たわね」

 

「ふむ…じゃがのぉ。それだけでは折角の小僧が持っておる力が活かせ切れない部分がでてくるのぉ」

 

「だったら、こうするのはどうかしら?」

 

「ほぅ、そうくるか……。じゃが此処は…」

 

「あら、それなら…」

 

えっと…

 

俺が最初の意見を言った直後から、アリサとドクターJの二人はあーでもない、こーでもないと話し合いながら空間に出現したモニター見せ合いつつ、キーボードを高速で打ち込んでいく。

 

かぁ~やぁ~のぉ~そぉ~とぉ~

 

「……お邪魔しました」

 

ぐすん…帰ろっ。

 

そう思って席を立つと

 

「何処に行くの?耕二にはまだ各種データを山のように取ってもらわないといけないわ」

「そうじゃっ!ほれ、行くぞ!!時間がもったいない」

 

先ほどまで放置プレイをしてくれたのは誰だと理不尽な気持ちを抱きつつも、拒否権は無く…

 

ガシッと肩を掴まれ、ずるずると連行されていく……。

 

 

翌日…俺は転生して初めての…

 

朝帰りをした……

 

 

連絡は前もってしていたのだが、帰ると父さんと母さんはからは軽く叱られ……

 

その後、さざなみ寮で初お泊り記念!なるENKAI!が発動され、夜通し喧騒が止むことはなかった。

 

 

願わくば……神よ。

 

俺を寝かせてくれたまえ……。



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第7話

どうしてこうなった?

 

最近、この台詞を思うことが多くなった気がする。

 

俺は此れまで原作組とか極力関わらないことにしていた。

 

同じクラスだった去年は下手に近づかず、かといって避けることもしない。

 

普通のクラスメイトのように接するように心がけていた。

 

だから翠屋にも行ったことがなかった……。行く気もなかった。

 

偶に寮の誰かが買ってくるシュークリームでその絶品な味は恋しかったが…

それでも自分で買いに行くのは我慢したのだ。

 

だが……

 

「フィアッセ~~♪」

 

「ゆうひ~~♪」

 

互いに抱き合い、友好を深めあう美女二人。

 

「うわっ、本当にSEENAだ!」

 

「お、おねぇちゃん。ちょっと落ち着いて」

 

「そうだぞ。月村。慌てなくても椎名さんは逃げない」

 

興奮気味の美女を落ち着かせようとする美少女と美青年。

 

どうして……

 

「すずかのお姉さんすごいわね…」

 

「にゃはは、大ファンだって言ってたしね…」

 

「よっぽど、好きなんだねぇ…」

 

そんな三人を見ている。美少女二人と美女一人。

 

原作組のオンパレード……

 

俺は今、此処…翠屋にいるのだろうか?

 

時間を少し前に戻してみよう。

 

 

 

いつも通りに学校が終わり、俺は1人さざなみ寮へと帰宅していた。

 

アリサは最近デバイスの作成に掛りきりで…今日も学校には来なかった。

 

べ、別に寂しくなんてないんだからね!!……ごめんなさい。嘘です。

 

寂しさを紛らわせるように、若干早足で久遠という癒しを求めるべく、帰宅すると……

 

「~~♪」

 

綺麗な……

聞き覚えのある…

心が温かくなる…

 

そんな歌声が聞こえてきた。

 

「――っ!?」

 

俺は着替えることもせず、そのままの恰好で歌声の主を探す。そして…

 

寮の庭先にある木の木陰で、木に凭れ掛るように座り…

 

目を閉じて……彼女は歌っていた。

 

木陰の傍らで眠る子猫と…

 

ひらひらと舞う蝶に優しく、語りかけるような歌。

 

その歌声に聞き惚れ、俺は声を掛ける事なく…。

 

ずっと、その場に立ち尽くしていた。

 

やがて……歌が終わると、彼女は目を開けて、俺の姿を視界に捉える……。

 

「おお?もしかして耕二くん?いや~大きゅうなったなぁ~」

 

彼女の言葉に自然と顔が綻んでいく。でも、仕方がないだろ?

 

「おかえり。ゆうひさん」

 

目の前には、最近はテレビでしか見る事のなかった…

 

ゆうひさんの微笑があったのだから……。

 

 

「何時、帰ってきたの?」

 

あの後、部屋に戻ってパパッと着替えた後、リビングに行き、ソファーで寛いでいるゆうひさんに問いかけた。

 

「昨日の夜に海鳴に着いたんや。そんで、暫く休暇を貰ってな。耕介くんのご飯食べて、猫と遊んで、疲れを癒そ思ってなぁ。あぁ、あと耕二くんにも会いたかったしな~。ほら、此処に座りぃ~」

 

ポンポンと自分の隣の空いている部分を叩くので、言われるがままに座ると…

 

「あぁ~♪やっぱ、耕二くんは可愛ぇなぁ~」

 

ギュッと抱きしめられ、ボリュームのある胸に顔が埋まる。

 

待ち望んだ感触。う、嬉しいけど、気持ちいいけど……

 

「む~!む~!!」

 

い、息が…いや、止めないで……で、でも苦…いや、柔らかっ!?

 

後半訳が分からなくなってくる。

 

暫くすると堪能したのか…解放され、俺は空気得て事なきを得た。

 

あ、危なかった。だが、これで死ねるなら男として本望ではなかろうか?

 

「そういえば…今、ゆうひさんしか居ないの?」

 

何時もなら父さんなり、真雪さんなりが居るんだが…

 

「真雪さんはお休み中や~。夜からの宴会に備えるって。耕介くんはお買い物や~」

 

……おい、お客さんに留守番させんなや。まぁ、そんな事気遣ったら逆にゆうひさんが怒るかもしれんが……。

 

つか、此処ん所、ENKAI!の頻度が半端ないな。まぁ、現さざなみ寮に真雪さんのストッパー足りえる人が居ないのが最大の理由なんだろうが……知佳さんか薫さんのどちらかが残っていたら、こうはならないんじゃないだろうか?

 

「あ、そや。耕二くん。耕介くんが帰ってきたら。うちとデートせぇへん?」

 

「行きます!」

 

反射的に反応。ゆうひさんのお誘いを断るわけがない。

 

だが…俺はこの時、どうして行き先を聞かなかったのかを後に後悔する……というかしたのだった。

 

 

 

父さんが帰ってきて、俺たちはデートに出かけた。っていっても、人と会う約束があり、その場所が喫茶店だから俺も連れて行こうとしたんだとか……ちぇっ、そうそう都合よくはいかないか……。

 

そんで今に至る。待ち人とは、翠屋のロゴが入ったエプロンを纏い、そのエプロンの下からでも自己主張を忘れない巨乳。

独特な触角のような髪型に青い瞳の美女。フィアッセ・クリステラのことだった。

 

此れが俺が翠屋に至るまでの経緯だ。

 

フィアッセさんと友好を深め終わると、俺とゆうひさんは席に案内されて座る。原作キャラ達の視線を注がれながら。

 

他の客はどうした?と思ったが、どうやら店を閉めているらしい。俺は、この店の視界に捉えた衝撃により気が付かなかったんだが…

 

それでいいのか?翠屋よ!

 

もうね。色々諦めたよ。もうなるようにしかならん。

 

ゆうひさんに心配されるのも本意じゃないし…

 

「それで何にする?ゆうひ」

 

「そやな~。抹茶フロートと宇治金時!耕二くんは?」

 

「…アイス宇治茶とみたらし団子!」

 

ゆうひさんに振られ、俺もボケる。実は、翠屋に行った時を妄想して、やりたかったネタなのだ。

 

まさか、できるとは思わなかったが…

 

「………えっと」

 

困ったようなフィアッセさんの反応。視線は俺に注がれている。

 

いや、フィアッセさんだけではない、やり取りを伺っていた皆が固まっている。

 

ゆうひさんの素顔を知らない人はゆうひさんの言葉に、知っている人はそれに合わせた子供の俺の言葉に…

 

「あかん!フィアッセ!!此処はキレのいいツッコミを入れてくれんと…うちらアホみたいやんか!」

 

「やっぱり、俺がツッコんだ方がよかったかな?」

 

「いや、耕二くんは正解やで!此処は店の人間にツッコんでもらわなあかんからなぁ。にしても、うちの咄嗟のボケに合わせられるなんて…やるようになったなぁ」

 

すんません。原作知識から俺もやりたかったんです。

 

「ほぅ…そのチョイスとは…若いながら中々味が分かるな。」

 

「た、高町君?ツッコむところはそこなの?」

 

俺たちのやり取りに何やら感心する高町兄と月村姉。

 

「ねー、お姉ちゃん。ボケとかツッコミとかってなぁに?」

 

「あはは、なのは、それはね」

 

ボケとツッコミの意味を高町姉に訪ねる高町妹。

 

「ねぇ、アリサちゃん。あれって去年同じクラスだった。槙原君だよね?」

 

「えぇ。SEENAと仲が良いみたいだけど…どういう関係なのかしら…」

 

訝しげに俺を見る元クラスメイト。月村妹とバニングス。

 

中々のカオスだった。

 

気を取り直して、フィアッセさんは再度注文し、俺とゆうひさんはボケる事無く。

 

ゆうひさんはチーズケーキとミルクティを、俺はアイスコーヒーとシュークリームを注文した。

 

「ゆうひ、その子が前に言ってた耕二っていう子?」

 

注文を伝えて、戻ってきたフィアッセさんが訪ねる。

 

「そや、槙原耕二くん。面白くて、可愛ぇ子やろ?」

 

「ども、面白くて、可愛ぇ子。槙原耕二。聖祥小学校2年です。」

 

「自分で言う事ちゃうで~!」

 

ピシッとゆうひさんからツッコミが入る。あかん…ゆうひさんと居ると、俺の隠していた芸人魂が揺さぶられる。

 

ボケをいれずにはいられない。

 

なんか、将来、仮にはやてと知り合って仲良くなっても同じような事になる気がしてきた。

 

くそ、これが槙原の血がなせる業なのか……

 

原作組と関わらないように今までしてきた努力が、今日無駄になり、

色々どうでもよくなってきているのもあるかもしれない。

 

段々面倒臭くなってきたし、もうなるようになれ!知るか!!

 

魔法とか転生がバレなきゃもういいや。転生者組からは不審な目で見られそうだが……。

 

「聖祥の2年生?もしかして…すずかと?」

 

「えぇ。同じ学年です。去年は、同じクラスでした。えっと…」

 

「あ、私はすずかの姉の月村忍。よろしくね槙原君。それと…し、SEENAさん!私、大ファンなんです。あ、あの、さ、サインとか貰ってもいいですか?」

 

ええよ~と、快くサインを承諾したゆうひさんに、感激する忍さんを差し置き、自己紹介は続いていく…

 

「えっと、私はフィアッセ・クリステラっていうの。よろしくね耕二」

 

フィアッセさんを皮切りに、恭也さん、美由希さん、なのはちゃん、すずかちゃんと続き…

 

「私はアリサ・バニングスです。SEENAさんの歌は何時も聞いてます」

 

「アリサちゃんやて?」

 

ゆうひさんはアリサの名前にピクッと反応した。何か嫌な予感が…

 

「あぁ、真雪さんが言うとった耕二くんの彼女かぁ。いやぁ、耕二くんも隅に置けえんなぁ~。こんな可愛ぇ子を」

 

ゆうひさん!それ、アリサ違い!!いや、そもそもあっちのアリサも彼女じゃねぇし!!

 

つか真雪さん、何言ってくれてるんだあんた!!はっ、まさかそれは薫さんや知佳さんにも伝わってるんじゃなかろうか?

 

……伝わってるんだろうなぁ。那美さんと真雪さん経由で………。

 

なんか外堀がどんどん埋まってるような気がするんだが…

 

俺が否定せず、衝撃の事実に唖然としていると。顔を真っ赤にしたバニングスが…

 

「かの!?ち、違います!!私はこんな奴の彼女なんかじゃ!!」

 

…こんなやつ…。そこまで言わなくても……。えっ?俺、嫌われてたりする?

 

「あっ、それって4年生のローウェルさんの事じゃないかな」

 

「知ってるの?すずかちゃん」

 

アリサの事を知っていたすずかちゃんの助け舟に乗り、とりあえずこの場を落ち着かせることにした。

 

「そ、そう。すずかちゃんの言ってるアリサが俺のかの…って、彼女じゃないけど、ゆうひさんが言ってるのはそっちのアリサ。ローウェルの方。んで、バニングスとは殆ど話したこともないよ」

 

とりあえず、フォローを入れる。さて、これでバニングスも少しは…

 

「な、何よその言い方!!ちょっと位話したことあるでしょ!!」

 

えぇ!?誤解を解いたのに其処に怒るのかよ!!

 

「大体!なんですずかの事は名前で呼んでて、あたしは苗字なのよ!?」

 

「いや、この場に月村さんは二人いるし…バニングスを名前で読んだらどっちのアリサか分からないし」

 

「じゃぁ、私の事もなのはって呼んで」

 

えぇ!?この流れで話に入ってくるのかよなのはちゃん!?

 

「ちょ、ちょっとなのは!!」

 

バニングスも割って入ってこられて困惑している。はっ、まさか俺たちの言い争いを鎮めるために話題を変えようと?

いや、違うな。話題かわってねーし。素か?素でやってるのか?

 

この混沌とした場を収めたのは……

 

「はいはい、みんな取りあえず。落ち着いて」

 

注文したチーズケーキとシュークリームを持ってきた……

 

「お待たせ。私は翠屋の店長でなのはのお母さん。高町桃子って言います」

 

桃子さんと……その後ろを苦笑いで飲み物を運んできた…

 

「俺はなのはの父の高町士郎っていうんだ。よろしくな。」

 

士郎さんだった。

 

 

 

 

 

ゆうひさんとデートの筈だったのに…

 

なんでやねん!!

 

思わずツッコまずにはいられない……。

 

目の前には注文したシュークリームとコーヒー。

 

うん。それはいい。とても美味しそうだ。

 

問題は俺を取り囲むように同じボックス席に座っている連中。

 

ギロ!

 

あはは…

 

にゃはは…

 

視線を向けたそれぞれの反応。

 

睨みつけてくるバニングスと、苦笑いを浮かべているすずかちゃん。

 

そして…苦笑い?というか素で笑ってねぇか?ななのはちゃん。

 

ちらりと、別の席に視線を向ける。

 

そこには、楽園があった……。

 

一緒にやってきた、ゆうひさん(とらハ2巨乳ヒロイン)

 

ゆうひさんに会って感激している忍さん(とらハ3巨乳ヒロイン)

 

ゆうひさんと楽しく談笑をしているフィアッセさん(とらハ3巨乳ヒロイン)

 

時折二人の会話に混ざる美由希さん(とらハ3隠れ巨乳?胸は大きいヒロイン)

 

そして、静かに話を聞いているのは恭也さん(とらハ3主人公)

 

何だ?この差は?

 

あの後、なんだかんだで席を子供組と大人組に分けられて座る事となり…

 

方やぺったん娘に囲まれる俺。

方や巨乳のお姉さまに囲まれる主人公……

 

う、羨ましすぎる……

 

なんだ?主人公補正か?やっぱり、息子ってだけじゃ、正規の主人公には勝てないのか?

だったら、那美さんとか、さるとか、かめも加えてやれよ!!

 

んで、ゆうひさんを返せ!こんちくしょ~~!!

 

「ちょっと!!聞いてるの!?」

 

「あぁん!?」

 

おっと、いけね。バニングスに声を掛けられて、咄嗟にガラの悪い声が出てしまった。うん、八つ当たりはよくないよね?反省…

 

「っと、ごめん。何か用?」

 

俺の反応に激高する寸前のバニングスを見て、すぐさま謝る。

 

「学校での印象とは違うねって話してたんだよ」

 

すずかちゃんが、バニングスを宥めつつそう返してきた。

 

「そうかな?」

 

まぁ、猫被ってたしな…

 

「そうだよ~~。学校じゃ…えっと……そう、ずっとご本を読んでたり、寝ちゃってたりしてたの…」

 

今、どもったな。思い出したかのように言ったな……

 

「お前…一瞬忘れてただろ?」

 

「なのは…」

 

「なのはちゃん……」

 

「う、うにゃ?ち、違うの!ただ…えっと、そう、すぐ言葉が出てこなかっただけなの!!」

 

だから、忘れてたんだろう?

 

つまりは、俺の作戦は成功だったわけだ。もっとも、俺以外の転生者達のインパクトが強すぎたのもあるんだろうけど……。

 

俺たちのジト~っとした視線に耐え切れなかったのだろう…咄嗟に話題を変えようと…

 

「そ、そうなの。そういえば、さっきゆうひさんが言ってたアリサちゃんについてなの!」

 

爆弾を投下してくれた。

 

「おぉ~~そやそや、忘れる所やった」

 

それに反応したのはゆうひさん。それに追随するようにお姉さま方がやってくる。

 

目が爛々と輝いているんですが…お、おい、高町恭也。そんな所でやれやれ…みたいなリアクションは良いから助けろ!!

 

お前なら何とかなるだろ!!

 

戦えば勝つ。それが御神流なんだろ?

 

御神の剣は誰かを護る時に最も強くなるんだろ?

だったら、俺の個人情報を護り通して見せろ!!

 

くそ、駄目か…役立たずめ!

 

はっ、まだ、御神の剣士は他に居るじゃないか。

 

美由希…は、駄目だな。敵だ。た、高町士郎!!

 

「こんなに年頃の男女が居るのに、なのはと同い年の子の彼女の話で盛り上がるなんて……私達、孫の顔がみれるのかしらね?」

 

「そうだな桃子……。なら、どうだ?確率を増やすためにあと一人くらい……なのはに弟か妹を……」

 

「士郎さんったら♪」

 

「桃子…」

 

「士郎さん…」

 

イチャついてるんじゃねーよ!!

 

この後、誰も助けてはくれず。

 

俺は女性陣の話の肴になった……。

 

 

根掘り葉掘り聞かれ、精神的に疲労しきった俺は……

 

さざなみ寮にて今度は宴会席の酒の肴にされて……

 

癒しを求めるべく……那美さんから久遠を預かり、共にベットの中に入った。

 

そして……

 

その晩、俺は夢を見た……。

 

とても悲しく…切なくなる夢を…。



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第8話

それは…一匹の狐と少年の物語。

 

とある山の中で一匹の狐が生を受けた。

 

しかし、その狐は…普通とは違う狐だった。

 

他の仲間の狐が年を重ねるごとに死していく中……。

 

狐は死ぬ事無く、生き続けた。

 

幾百…幾千の夜を過ごした狐は妖力という力を得。

 

雷を操る能力と、人へ変化する能力を身に付け……。

 

妖狐と呼ばれる物へと変わった。

 

しかし…穏やかで純粋な狐は妖狐となった後も、無暗矢鱈に力を振るう事はせず…

 

長い時間が過ぎて行き…

 

ある日、一人の少年に出会う。

 

【あれ?君は…】

 

少年と出会った時、狐ではなく少女の姿を取っていたが、人としての言葉を使う事は出来ず…

また、その時代で黒髪ではなく、金の髪という事もあり、そこでは彼女は異端な少女だった。

 

しかし、澄んだ心を持ったその少年は彼女を受け入れてくれた…

 

【はは、お前、動物みたいな奴だなぁ~】

 

少年は少女に食べ物をあげる。

 

その日から、二人は時々出会い、少年は少女に食べ物をあげる日々が続く…

 

少年から食べ物を貰い、笑顔を向けられるうちに、少女の心は段々と暖かな気持ちに包まれていく。

 

狐という獣の身でも、妖狐という妖の身でも理解できなかった……感情という物を知った。

 

少女は少年と会うのが…少年と触れ合うのが嬉しかった……。

 

 

【…や…た……ほら、僕の名前だよ。弥太っていうんだよ】

 

少年は彼女に根気よく名前を教え、甘酒や餅を共に食べた。また遠くの山に薬草を積みに行ったり、川へと遊びにも行った。

 

彼女は少年と一緒に居るのがすきだった。

 

ずっと共に居たいと思っていた。

 

そこには幸福があった。

 

しかし、その幸福は……

 

長くは続かなかった。

 

 

 

 

少年の住む村では、とある噂が立つようになったのが切っ掛けだった。

 

死の病なるモノが近づいている…その病に侵されたものは七晩立つ頃には倒れ…死に至ると。

 

少年は少女に告げる。

 

【死の病がくる……。だから、君はどこか遠くに行った方がいい。】

 

「とおく…いっしょにとおくにいくのすき。かえってきてやたといっしょにのんびりするのもすき」

 

彼女は微笑みながら告げる。少年の教えもあり、徐々に人の言葉を理解できるようになった彼女。

 

しかし、死の病という言葉の意味が分からず、少年と一緒にどこか遠くに出かけるものだと思っていた。

 

【違うよ。帰ってはこない。もう、此処には戻らないんだよ】

 

【……くぅ?…いいよ?やたがいっしょならいいよ?…どこにいくの?】

 

【……僕は一緒には行けない。僕はこの病を治さなければいけないから……】

 

【やたいっしょじゃないの?……じゃ…やだ…いかない】

 

少年は彼女を抱きしめる。売薬商でありながら病から命を救えないことが不甲斐なく…

その両手の温もりが愛おしくて……。

 

少年は泣きながら少女を抱きしめ返し、二人はしばらく抱きしめ合っていた。

 

 

しばらくして…村では死の病に侵され、命を落とす村人が出てきた……。

 

少年の売る薬では病は治らず、また他に治すすべもなく…

 

村人たちは神社へと集まり、神主へと救いを求めた。

 

しかし、神主も病に侵され…

 

絶望の中、神主は今だ病に侵されていない売薬商の少年を見て一つの神託を告げる。

 

神に捧げる供物こそ…この村を救う唯一の手段だと……。

 

神主の神託と、今だ病に掛らない少年に対し村人たちは疑心暗鬼に陥っていた事もあり…

 

 

 

 

 

少年に会うために村を訪れた少女はソレを見てしまった…

 

【この供物により、死の病は取り除かれるであろう!】

 

神主が神社の境内で叫んでいた。

 

その周りには病に侵された人々が集まり、一心不乱に祈り続ける。

 

そして祈る先……人々が囲んでいる中央の柱には…

 

【これで皆は救われるだろう!!】

 

病の証たる黒い死斑に侵され、狂気の表情を浮かべる神主が、赤い血を流しながら…

 

柱に吊るされているモノに叫ぶ。

 

【あ…あ…!】

 

少女の口から言葉にならない音が出る。

 

少女に言葉を教え、少女と共にあり、少女を愛した少年の…

 

変わり果てた姿を……少女はミテしまった。

 

かつての幸福は悲しみに包まれ、絶望し、やがて…

 

憎悪となる……

 

【ぁぁぁあああァッァアアア!!】

 

少女は伏せていた顔を挙げて、天に向け叫んだ。

 

その声が届いたかかのように、蒼天の空から一筋の雷が落ち……。

 

雷の眩い光が止んだ時には…

 

……少女は…狐から少女に変わった少女は……

 

タタリとよばれるモノになった。

 

……その後、その村に何があったのかを知る者は誰もおらず。

 

結果として、村があったと思われる大地は抉れ、焼き爛れ…

 

其処は、長年、草木の生えぬ死の大地となった。

 

その後、全国各地の寺社仏閣にて天候に関わらず、雷が落ち。

 

全てを燃やし、破壊する化生がやってくるという噂が流れ…

 

人々はそれを【祟り】と呼んで恐れた……

 

 

しかし、それも終りが訪れる。

 

如何に強大な力を持っていても、退魔という魔を退ける術を学んだ者たちとの

死闘によって、彼女は封印された。

 

 

 

 

「……じ、…二…耕二!」

 

「んあ?」

 

「どうしたんだ?ボーっとして…体調でも悪いのか?」

 

心配そうに声を掛けてくる父の言葉に我に返る。

 

「いや、大丈夫だよ」

 

昨夜見た夢を反芻していただけだから…

 

あの夢を見た後、夢の影響か寝汗が凄かった為、シャワーを浴び、朝食を取っていたのだが、

 

食事に集中できない。

 

「くぅ?」

 

視線を久遠に向ければ、不思議そうに首を傾げる。

 

原作は知っていた…

 

実際にリアルな…久遠が体験した夢を見た。

 

でもなぁ…信じらんないよなぁ……

 

おかずのウィンナーを半分にし、手招きして、やってきた久遠に食べさせながら思う。

 

あの夢は…久遠の能力である夢移しにより見せられたものだろう。

 

これまで、何度か久遠と共に寝た事はあったが、あの夢を見せられたのは今回が初めてだ…

 

徐々に封印が解ける時期が近づいているのだろう。

 

薫さんが居ない今、若干の猶予はあるのだろうが……

 

「耕二、そろそろ出ないと遅刻するぞ~」

 

父さんに言われ、時間を見ると。確かにそろそろ学校に行かなければいけない時間。

 

慌てて寮を出て、通学路を歩きつつ……。

 

「……万が一という事もあるしな。手札は多いに越した事はないか……」

 

だがなぁ…

 

「あいつ…今日は学校来るかなぁ……」

 

最近時たま休んでいる不良少女…兼、天才少女に思いを馳せた。

 



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第9話

――Side Kouji Makihara

 

はぁ!?

 

一瞬、電話で言われたことが理解できなかった。

 

昨夜の夢とは裏腹に俺は平和な学校生活を今日も一日送り終えた放課後。

 

例によって、学校に来ていないアリサに悪態をつきつつ、帰ろうとした所でクラスの男どもに遊びの誘いを受けた。

 

まぁ、偶にはこういうのもいいか。ハブられるのもなんだしなぁ。とか思いつつ、誘いに乗り、校庭にてサッカーに興じる事にする。

 

そしてその休憩時間。携帯電話を開くと留守電が入っていた。

 

相手は義姉さん。

 

切羽詰まった口調で、早口で聞き取りづらく。直ぐに切れてしまったが……。

 

「――っ!?わり、俺帰る!!」

 

慌てて人気のない方向へ駆け出す。だって…

 

「なんでだ!?早すぎるだろ!!」

 

薫さんが帰ってから数日は猶予があると思ってたのに…

 

なんでよりにもよって…

 

「来てすぐに事を起こしてるんだよ!!」

 

 

――Side Nami Kanzaki

 

「リスティ…そこをどきね。これはうちらの問題。あんたは関係なか」

 

「嫌だね。久遠も那美もさざなみの家族だ。」

 

にらみ合う。薫ちゃんとリスティさん。

 

薫ちゃんの手には十六夜が…リスティさんは妖精のような羽を出し、右手がバチバチと光を放っている。

 

薫ちゃんの後ろには楓さんと葉弓さん。共に小太刀と弓を構えて薫ちゃんの指示を待っている。

 

「那美。久遠を頼むよ」

 

私と久遠を庇うように、薫ちゃんと対峙しているリスティさんがそう声を掛けてくれる。

 

「久遠!!ダメだよ!タタリなんかに負けちゃダメ!!」

 

荒い息を吐き、蹲っている久遠に必死に声を掛ける。

 

事の発端は学校帰りに、薫ちゃんたちを偶々見かけ、その只ならぬ雰囲気が気になって後を付けたことが始まりだ。

 

 

薫ちゃんたちの意図は分かる。封印が完全に解け掛る前に、久遠を殺してしまうつもりだ。

 

だから、咄嗟に久遠に十六夜が向けられた時に割って入った。

 

其処にリスティさんもやってきたんだ。

 

なんでリスティさんが来たのかは分からない。けど…今はやることは……

 

久遠を助けなきゃ。

 

 

――Side Other

 

此れは、一匹の狐と少女の物語。

 

タタリとなり封印された一匹の狐。

 

それから…長い時が経ち、彼女の封印は時を経つに連れて徐々に弱まっていく。

 

そして、人々の記憶から祟りの記憶が完全に消え去った数百年後に…

 

彼女の封印がついに解けてしまった。

 

封印から解けた彼女は再び、雷の力を持って、破壊を始めた。

 

しかし、長きに渡り封印され、また、封印が解けた直後という事もあり、彼女にはかつての力が無く。

 

現代の退魔師…神咲の者達が総出で再度封印を試み…

 

彼女の力は再び、封印された。

 

封印が解けた直後で被害は最小限に留まったが…犠牲者も出た。

 

それは封印を試みた神咲の退魔師ではなく…

 

神主を務めていた普通の…平和な家族。

 

その家の父と母だった。

 

 

両親の死に泣き、悲しむ少女。

 

そんな少女に狐を封印した神咲の家の当時の当代が告げる。

 

【……あんたの両親ば殺したんは……祟りと呼ばれちょる。昔、諸国を荒らしとった狐じゃ】

 

【…きつね?】

 

【うちもこの通り…殺されかけたが……薫が……孫がどうにか倒した。……今は力を失って…ただの狐じゃ。仇ば討ちたいのなら討てばよか。両親を殺されたあんたと、あんたの弟にはその権利がある。

……うちは止めん】

 

生かすも殺すも自由。

 

そう問われた少女…那美は考える……そして…

 

その問いを受けてから数日後、那美は一匹の狐の過去を見る。

 

両親を殺され、狐の過去を知った那美は……

 

【…あなたの封印は、何年か経ったら解けちゃんだって。だから、わたし、おばーちゃんと一つ約束をしたの……】

 

両親を殺された…憎むべき対象の狐に答えを語りかける。

 

【あなたと仲良くなって……いい子に育てるって】

 

彼女が出したのは復讐ではなく、共に歩んでいくという答えだった。

 

【タタリなんて…呼んでごめんね。…そんな名前じゃなくって、弥太君がくれた…名前があるんだよね?】

 

それは…遠い過去。少年が少女に与え、少年以外に呼んだ者は無く、また、数百年に渡って呼ばれていなかった名前…

 

【…ずっと久しく…遠く離れても……幸せで居られる様に…そう願って名付けられた名前…】

 

その名前を…

 

【ね。久遠】

 

数百年ぶりに呼ばれた名前。そしてその名を呼んだ少女は狐を胸に抱き…

 

【…悲しい事…いっぱいあったけど……友達になれるよね?…しゃべれるんだよね?だったら呼んで…】

 

 

 

 

「……な…み」

 

「久遠!!」

 

必死に声を掛ける…数百年の時を超えて……久遠という名を再び呼んでくれた少女の名前を口にする。

 

大切で…大好きな友達

 

もう抑えられない。もう嫌だ。あんな事をするのは…。

 

一筋の涙が頬を伝う…

 

そして残った最後の意思で……呟いた。

 

「た…す…けて」

 

瞬間…落雷が落ち。

 

「ァァァアア!!」

 

叫びと共に……封印が解かれる。

 

少女すがたから女性の姿に変わり、破壊の権化と化す。

 

その最初の標的になったのは…

 

「那美!!」

 

最も近くにいた大切な友達である少女。

 

 

薫たちの必死の呼びかけに反応する事が出来ず…

 

無残にも凶爪が振りぬかれた……

 

 

――Side Kouji Makihara

 

義姉さんを対象にリリルーラで現場に到着した時に目に入ったのは…

 

「おい那美!!しっかりしろ!!」

 

「リスティ!此処はうちらが抑える。早く那美を病院に!!」

 

大人となった久遠と戦う薫さんを初めとする三人と。

 

必死に那美さんに声を掛けている義姉さん。

 

そして……

 

腹部から血を流し、倒れている那美さんの姿だった。

 

 

……何をやってたんだ…俺は!?

 

こうならないように…動いてきたんじゃないのか!?

 

いや…後悔は後だ。今は……

 

「義姉さん!どいてくれ!!」

 

「耕二!?」

 

間違いなく致命傷。しかし…俺には…

 

「ベホマ」

 

最大級の癒しの呪文を那美さんに施す。

 

俺のホイミ系の呪文は、体力と共に外傷も治す。

 

「傷が……」

 

数秒後、傷痕一つない状態になり…

 

「…ん?……あれ?私……耕二くん?」

 

何事もなかったかのように那美さんが目を覚ます。

 

ふぅ…これで那美さんは大丈夫だな。

 

「……後は久遠を」

 

視線を戦っている三人に向ける。

 

どうにか持ってはいるが久遠が押している。いずれは三人とも倒れるであろう。

 

「義姉さん。俺の部屋の机の一番右上の引き出しの中にある巾着袋を持ってきて!!

あ、あと那美さん。あれ借りるよ!」

 

言いながら駆ける。

 

途中でスカラ、ピオラ、マホバリアを限界まで重ね掛ける……

 

そしてたどり着いたのは地面に落ちていた。那美さんの愛刀である雪月を拾い上げ。

 

「久遠!!」

 

久遠に切りかかった。

 

 

斬撃を爪で受け止める久遠。

 

そして俺たちは対峙する。

 

 

「誰!?なんなの!」

 

「子供!?なんでこんなところに…」

 

「…耕二くん!?どげん!こんなところに居ると!!」

 

突如割って入った子供に困惑する3人。

 

「ごめん!説明したいのは山々なんだけど……来る!」

 

そんな3人に謝りつつ、久遠が放つ雷を避ける。

 

「は、速い!」

 

ピオラが可能にした高速移動。それに子供ながらの小柄な体格も相まって…久遠は俺を捉えることが出来ない。

 

さらに…

 

「トベルーラ…」

 

「嘘!?あの子空を飛んでない!?」

 

空を含めた三次元軌道。

 

さて……

 

「義姉さんが来るまで…俺と戯れようか……」

 

 

 

度重なる久遠の攻撃。高速移動により今のところ避けてはいるが、長くは続かない。

 

その原因は体力不足。唯でさえ子供の体に高速移動。強化しているとはいえ、失われる体力は激しい。

 

普通なら直ぐにガス欠になるだろう。

 

そう、俺以外ならば…

 

「べホイミ…」

 

度々べホイミを掛け、体力を回復する事で…俺は魔力が尽きない限り、動き続ける。

 

攻撃を避け、時折食らいつつ、回復呪文で回復し時間を稼ぐ。

 

攻撃呪文は使わない。能力によりコントロールが効くとはいえ、万が一にも間違え、久遠を殺してしまう結果になったら

目も当てられない。何より、久遠に対して呪文を放つなんて事は出来そうにない。

 

最初の一撃だって、断腸の思いで放ったんだ。

 

それに時間を稼ぐって言っても微々たるもの…

 

ほら…

 

「耕二!!」

 

義姉さんも来たことだし…

 

「終わりにしよう……!義姉さん!俺が久遠を抑えている間に中の宝石を薫さん達に!!」

 

丁度5人居る。

 

「受け取ったら、久遠を中心に5人で囲ってください!那美さん!病み上がりで辛いだろうけど…頑張って!」

 

「リスティ!?耕二君は一体を…」

 

「薫!今は耕二を信じてくれ!」

 

 

 

蒼い宝石。サファイアを持つのは神咲楓…

 

「なんだか分からいけど…配置に着いたよ!」

 

翠の宝石。エメラルドを持つのは神咲葉弓。

 

「こちらもいいですよ!」

 

真紅の宝石。ルビーを持つのは神咲薫。

 

「片が付いたら色々と問い詰めちゃる!」

 

黒い宝石。パールを持つのはリスティ・槙原

 

「さて…お膳立ては全て整ったよ。耕二」

 

そして……

 

白い宝石。ダイヤモンドを持つのは…

 

「耕二君!!お願い!久遠を…久遠を助けてあげて!!」

 

神咲那美。

 

準備は整った……

 

「邪なる威力よ退け……」

 

5人が持つ5つの宝石を起点として陣が描かれる。

 

あれらは普通の宝石。俺の魔力を微量に帯びているので互いに若干の干渉をし合うだけの…

 

それを利用して邪を滅する陣を描く。

 

紡がれて描かれるのは五芒星。

 

そして紡がれる呪文…

 

「マホカトール!」

 

陣から光の柱が天に上る。

 

それは聖なる光。

 

「ぁぁぁアアア!!」

 

その光にさらされた。中心に居る。久遠の祟りは…最後に叫びを挙げて…

 

完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

時計の秒針が刻まれる音が部屋に響く…

 

普段のさざなみ寮とは打って変わって静まり返ったリビング。

 

此処で緊急家族会議が開かれていた。

 

議題は言わずもがな…久遠の一件についてだ。

 

あの後、当然のように薫さんに事情説明を求められたが、義姉さんの

 

『とりあえず、念のために那美をフィリスに見せよう。話はその後でもいいだろ?

それに、耕二。いい機会だから寮のみんな…というか耕介と愛にも話したらどうだい?』

 

という話になって、その日に話をする事になった。

 

参加メンバーは…

 

薫さん、楓さん、葉弓さんの神咲退魔師の三人と那美さん、義姉さんの当事者組。

 

父さん、母さん、真雪さんのさざなみ寮の保護者組。

 

そして俺だ。

 

んで、現在俺の能力以外…今日あった事と久遠の事を薫さんが説明した所だ。

 

「………色々、バ神咲には言いてぇこともあるが…説教は全部の話が終わってからだ。あと…坊主。那美は平気なんだろーな?」

 

「それは安心していいよ。フィリスのお墨付きだ」

 

その言葉にホッと一息つくと、真雪さんは俺に視線を向ける。

 

いや、真雪さんだけじゃなくみんなの目が俺に向く。

 

「んでだ。耕二。その不思議パワーはどうしたんだ?」

 

若干、鋭い視線になる真雪さん。いや、それはまだいい。

 

薫さん…睨まんといて~~こわっ、滅茶苦茶怖いって。

 

ふむ…此処は

 

「…何を隠そう……槙原耕二は…魔法使いだったのだ!!」

 

簡潔かつ、ウィットに富んだ説明で…この場を和ま…

 

「ふざけるんじゃなか!!」

 

ですよね~。

 

とりあえず、俺が知る限りのリリカルなのはで出てた設定を話す。

 

多次元世界とか魔導師の事を中心に。

 

「俺に色々教えてくれたお姉さん(架空)が居てね。その人に力の使い方とかを教わったんだ(大嘘)」

 

「え?その人?さぁ、最近会ってないなぁ。何処にいるかも知らないし……」

 

そう誤魔化す。間違えても本当の事を告げ、俺の精神年齢を知られる訳にはいかない。

 

何故かって?そりゃ決まっている。女の人と混浴が出来なくなってしまうからだ!!

 

「耕ちゃん!」

 

話を聞き終え、真っ先に声を出したのは、珍しく怒気を含んでいる母さん。

 

今まで黙っていたことを叱られると身構えていたのだが…

 

「知らない人に付いて行ったら駄目でしょ!?めッ!!」

 

「「「「「「「えっ!?怒るとこそこなの!?」」」」」」」

 

声が揃う。俺も驚いた。

 

「あ、愛。此処は黙っていた事を怒るべきだろう?いや、知らない人に付いて行ったことも確かに良い事じゃないが…」

 

「?それは何か理由があったんじゃないかしら。違う?耕ちゃん」

 

「いや…黙ってたのは言い出すきっかけが無かったというか…」

 

よくよく考えてほしい。唐突に息子が魔法使いだと言い出したらどう思うか…

 

まぁ、俺が子供という事もあり、微笑ましげに見られるだけで信じては貰えないだろう。

 

証拠を見せれば信じては貰えるかと思うが……

 

「……今日の反応から見てリスティは知っとったんじゃろ?」

 

「まぁね♪今日、那美を助けた回復の魔法にはボクもお世話になってるからね」

 

「坊主。どっか怪我でもしてんのか?」

 

「いや、違うよ。もっと微弱な…回復。疲労回復とかにも効くから、仕事終わりに疲れている時なんかは時々お願いしてたんだ。それに…」

 

義姉さんはニヤッと笑みを浮かべて…

 

「美肌効果もあるしね。それも最上級の」

 

爆弾を落とした…

 

「そういえば…那美ちゃん」

 

「えっ!?なんですか!?」

 

「いや、お肌が艶々だと思って…」

 

「本当だ。とても死にかけた人間とは思えない。いや、何時もより綺麗かも…」

 

い、嫌な予感が…

 

「耕二!」

 

「な、なんでしょ。真雪さん」

 

「……後で部屋に来い。」

 

「…イエスマム!」

 

有無を言わさない迫力に頷く事しか出来なかった。

 

混沌となりつつある。さざなみ家族会議。それに収拾を付けたのは

 

「話が脱線しちょる!!ちょっと黙っとってください!!」

 

議長?の薫さんであった。

 

「信じられんけど…この目で見た以上。耕二君の力については信じる。んで、久遠に使った力はなんじゃ?どういう効果がある?」

 

「マホカトールですか?効果は悪しき物を滅する。破邪の魔法としか言えないです。それゆえ、それ以外の人間や動物には何の影響もありません。あれで、ピンポイントにあの黒い靄みたいな奴だけ滅しました。」

 

俺の言葉に絶句する薫さん。そりゃそうか、言ってみればこの効果は退魔の最高峰と言っていい。

 

威力も久遠に憑いていた祟りを滅したのだ。申し分ないだろう。

 

その後も矢継ぎ早に質問が続く。

 

空を飛んでたけど、やっぱり飛べるのか?とか、他にどんなことが出来るかとか…

 

攻撃的なものは隠しつつ、できる事を都度述べていくにつれ、周りが騒ぎ、薫さんが収めるという

パターンを繰り返す。

 

もはや、完全に何時ものさざなみ寮の空気に戻りつつあった。

 

因みに最もウケが良かったのがモシャス。一通りの人に化けては、色々な事をやらされた。

 

薫さんに化けて、真雪さんの少女漫画に出てくるヒロインの台詞の真似をやった時は凄かった。

 

真雪さん&義姉さん大爆笑。怒り心頭で顔を真っ赤にした薫さんに叩かれた。

 

想えば、薫さんに殴られたのはこれが初めてではなかろうか……。

 

取りあえず、夜も更け…会議もぐだぐだになって来たこともあり、ひとまずお開きとなった。

 

久遠についてだが、薫さん達の見立てでももう祟りは存在しないとの事だが、念の為にお祖母さんでもある和音さんにも見てもらう為に、本家へと連れて行く事となった。

 

 

後日、事の次第を知った和音さんによる呼び出しがあり、神咲の総本山に出向くことなり、そこでドタバタがあるのだが…今の俺には知る由もなかった…。



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第10話

 

どうしてこうなった?

 

最近、同じような事ばっかり思ってる気がするが…思ってしまったもんは仕方がない…

 

あのクロノ執務官も言ってたっけ…

 

世界は、いつだって……こんなはずじゃないことばっかりだよ!!

 

あの言葉は真理だ……。

 

《どうしたのですか?そんな暗い空気を纏って……冴えないあなたが余計に冴えなくなっていますよ?》

 

呆れたように脳内に響く声……。

 

忌々しく左手を見れば、そこには諸悪の根源たる銀の輝きを放つ物体が薬指にへばり付いていた。

 

とぼとぼと…家路を急ぐ。

 

はぁ、また寮のみんなが五月蠅いんだろうなぁ…と、アンニュイな気分を感じながら、俺はこうなった

状況を思い返していた。

 

 

 

本日の放課後、デバイス作成の進捗状況を聞くべく帰宅前のアリサを捕まえ、共に帰宅しながら話をする事になったのだが…。

 

 

「それで…デバイスの作成状況はどんな感じなんだ?」

 

「私のは出来上がっているわよ。とはいっても、スタンダードな物なのだけどね」

 

「?前に言っていたプランはどうしたんだよ?なんか特殊な形状と機能を持つオーダーメイドにするって」

 

「あれは、一朝一夕にできるものじゃないわ。私はあなたと違って、戦う力を持っていない。だから、とりあえず基本的な魔術を一通り使ってみて、自分の適性と熟練度を挙げたつつ、随時デバイスをカスタマイズ…もしくは作り変えて行くつもりよ。」

 

材料も特殊だしね…とアリサは言葉を締めくくる。

 

「んで、お前のデバイスは何処にあるんだよ?待機状態で持ち歩いてるんじゃないだろ?」

 

「いいえ、今は家にあるわ。ちょっと事情があってね……まだ持ち歩けないの」

 

アリサにしては歯切れが悪いな…。まぁいいや。本題に入ろう。

 

「それで……俺のは?」

 

「耕二のデバイスは全体の……6割程度かしら。基本的な機能は実装済み。だけど…決めたわ…耕二、今から私の家に来て」

 

そう告げて、俺の手を取り、そのまま家に連れて行くのだった。

 

 

 

家に着き、地下のデバイス作成の研究室に通され、椅子に座らされると…

 

アリサはタオルを渡し…

 

「耕二、これで目隠しをして…」

 

目隠しをするように言われた。

 

「いやいや…なんでさ?」

 

「これからデバイスのお披露目をしようかと思うの。驚かせたいからその演出…」

 

なんだ?こんなのアリサのキャラじゃないと思うのだが…あれか?自分のデバイスが出来て

テンションが上がってるのか?

 

ふふ、子供っぽいというか…可愛い所もあるじゃないか…

 

そんなアリサを微笑ましく思いながら、言われた通り、タオルを頭の後ろで結び、目隠しをする。

 

「…耕二。左手を前に出して……」

 

は?い、意味が分からんが…まぁ、言われた通りにしよう…

 

「違うわ。手のひらは下に…手の甲が上に向くように…」

 

なんだ?いよいよもって何をするつもりなんだ?アリサさんは…

 

怪訝に思いながらも、手の甲を上に向ける。

 

すると…アリサの手だろうか?手を取られ、俺の指先を数回撫でたかと思うと

 

「うぉっ!なんだ、今、薬指が冷やっとしたぞ!?」

 

「ふふ…ふふふ♪耕二♪もうタオルを取っていいわよ」

 

な、なんだ?

 

タオルを取る。最初に視界に入ったのは珍しい微笑を浮かべたアリサの顔。

 

その顔に若干見惚れそうになるも、違和感の正体を確認すべく左手に視線を向け…

 

ありえないものが目に入った。

 

ゴシゴシと目を擦り…

 

「耕二、目は擦っちゃだめよ。目が悪くなるわ。」

 

アリサに怒られて中断し、再度左手を見る。

 

正確には左手薬指を…

 

其処には…先ほどまでは無かった銀の輝きが…

 

「アノ…アリササン。コレハ?」

 

「指輪ね。それが耕二のデバイス。その待機状態。ちなみに…私とお揃い」

 

アリサが自分の左手を見せるとそこには…俺のと同じ銀の輝きを放つ指輪が薬指に嵌っていた。

 

……ふぅ。びーくーる。

 

冷静に……冷静にだ。

 

たまたま。そう、たまたま指輪を左薬指に嵌めているだけさ。特別な意味なんてない。

 

でも。勘違いをする奴もいるからな。主に家の寮のお姉さん方とか…

 

せめて…右手に…いや、リングにチェーン通してネックレスにすれば…

 

「って、は、外れないんだが!?」

 

ひねったりしてみても、ビクともしないぞ!?

 

「…一度つけたら、その子の意思がないと外れないわよ。あくまで、私じゃなくてその子の意思だから…」

 

「その子?」

 

《不本意ながら…冴えないあなたのデバイスをやることになってしまった……悲劇の少女……名前はまだないわ。まぁ、よろしく。》

 

脳内に響く声。これって…

 

「インテリジェントデバイス……そのデバイスに組み込んだAIが念話で語りかけているのよ」

 

名前はあなたが付けてあげて。とアリサ。

 

《希望は、ヴェアトリス・オディール・ローズヒップでお願いします。世界最強の魔女である彼女の名前こそ、私に相応しい。

そして共に世界を制しようではりませんか》

 

なんか…深夜枠にやってるアニメに出てくるキャラクターの名前にしろと言い、物騒な事を言い出す指輪。

 

あ~なんだ。

 

「色々ありすぎて…ツッコミが追い付かん……」

 

まぁ、一つ一つ行こう。

 

「とりあえず、最初の疑問だ。外れないってのはどういうこった?」

 

《私が外せないようにしているのですよ。捉えた獲物は逃がさない。誰であっても……ふふふ…あっはっは!!これが私の数百ある奥義の一つ…束縛する運命!!》

 

……この五月蠅いのは無視しよう。視線をアリサに向ける。このデバイスは奥義とか言ってるが、実際にこの機能を付けたのはアリサだろう。

 

「それは…あれよ。戦闘中に万が一にも外れないようにロック機能を…」

 

「ふむ。アリサさんよ。人と話す時は目を見て話そうか?」

 

目をそむけながら言われても説得力皆無だ。もっとも、こんな反応をするアリサを見たのは初めてなので、表面上冷静を装っては居るが、俺も内心ドキドキだ…

 

俺の言葉にふぅ~っと、ため息を付くと。アリサはそのまま視線を逸らしたまま……若干頬を染めて…

 

「……その指に着けていて欲しかったから…」

 

くぁwせdrftgyふじこlp;!?

 

何だこれ?なんだこのアリサ…。

 

滅茶苦茶可愛いんだが……

 

普段、表情を変えない鉄面皮なところがあるくせになんだ今の表情は……

 

「……そ、そっか…」

 

「え…ええ」

 

ど、どうしよう。

 

やっとそう言葉を返したが、互いに沈黙。いや…どうしていいか分からなくて……

 

「……」

 

「……」

 

結局、何時もの俺たちに戻るためにはもう暫く時間が必要だった。

 

 

 

「……は、話を戻すわね。耕二のデバイスの機能だけど、そうね。耕二。セットアップしてみて…」

 

「セットアップか…」

 

なのはみたいに詠唱をしなければならないのだろうか?

 

なんだっけ、天が何たら……

 

天よ叫べ!!地よ!!唸れ!!今ここに!!魔の時代来たる!!

 

リリカルマジカルるるるるる~♪だっけ?さすがに覚えとらん…

 

《ふっ、私の後に続きなさい。心は熱く…頭は冷ややかに…》

 

呟きだした俺のデバイスに沿って、俺も台詞を紡ぐ…

 

《左手には焔の剣を。右手には凍てつく剣を。胸には燃え滾る熱き魂を》

 

……紡ぐ…

 

《……中略………祖は雷光。祖は疾風。否。祖は雷光より疾風より疾く駆けるもの》

 

紡…って、

 

「長ぇよ!!」

 

こんなの…覚えられん。つか、覚えたくない。

 

《あぁ…なんという事を……もう!最初からやり直しじゃない。今度は最後まで言い切りなさいよ。

我は漆黒の闇を総べる王…》

 

「嫌だよ!つか、最初と台詞違うだろ!!」

 

「耕二。別に念じればセットアップできるわよ?」

 

「早く言えよ!!真面目に繰り返していた俺が馬鹿みたいじゃないか!!」

 

「傍からみたら、中二病を患っている人のようだったわ。でも大丈夫。

どんなあなたでも私は愛せるから」

 

さらっと言うアリサだが。顔は真っ赤だ。つか俺の顔も真っ赤だ。あぁ、もういいや。

 

セットアップ…

 

《時の狭間を垣間見て……って、あぁっ!?》

 

一瞬、光が辺りを包む……なんて事はなく、何時の間にか俺の服装は変わっていた。

 

まぁ、そりゃそうか。毎度あんな目立つ変身シーンがあったら時間がもったいないし。

 

……で、改めて俺の恰好を見る。

 

服装は制服から和服…藍色の着流しに、緋色と白で彩られた外套。

 

腰には刀。

 

お侍さん風です。はい……

 

「バリアジャケットのデザインはジャックが考えたの。私は燕尾服の方がよかったのだけど…」

 

《ふふ、私の一票でこれに決まりましたわ。あの、伝説の剣豪。柳生景虎様風に色合いをアレンジした……まさに最高傑作ですわ》

 

……あぁ、もう何でもいいよ。

 

因みに柳生景虎とは婦女子に大人気な剣豪漫画の主人公である。

 

「刀はこの世界の……井関というお店からジャックが買ってきて………その形状をベースに作成したの」

 

ふむ。確かに…鞘から刀を抜刀してみれば、日本刀のような形状はしていても、見た目は機械的だ。

 

「基本的な魔法は既に組み込んであるわ。

適性があれば使えるはずだから…あとはデバイスに聞きながら試してみて」

 

「分かった。んで、此処までできているのにまだ6割なのか?」

 

デバイスの必要な機能は一通り実装されていると思うのだが…

 

「二つほど。まだ完成していない機能があるのよ。一つはあなたが使う魔法に関しての非殺傷設定の付与。これは、とりあえず現時点で仮実装済み。テストは耕二じゃないと出来ないから、後でお願い。そこで問題点があったら都度修正していく」

 

「なるほど……テストは分かった。んで、もう一つは?」

 

 

「問題はもう一つ……あなたのデバイスのワンオフアビリティ……構想は出来ているのだけど、現在の材料、技術での実現は不可能なの…」

 

俯くアリサ……いやいや……

 

「十分すぎるだろ。ありがとな…」

 

そんなアリサの頭を撫でながらお礼を告げる。

 

アリサと言えば、気持ちよさそうに目を細めて頭を撫でられていた。ふふ、久遠で磨き上げた俺の撫でテクを存分に味わうがよい。でだ…

 

「機能に関しては本当に文句ないんだが……」

 

「?」

 

「この待機状態が指輪っていうのはどうにか……いや、それはいいや。その……外れないっていうのだけ、どうにかして貰えないだろうか?」

 

そんな俺の頼みは…

 

「嫌♪」

 

滅多に見る事の出来ない…満面の笑みを浮かべたアリサによって却下されたのだった。

 

 

「話は変わるが……此処までできていて、渡すのを渋っていたのは何でだ?」

 

「……それは…」

 

ポツリポツリとアリサが語りだす。

 

言葉の端々には怒りが滲み出ている。

 

話を纏めるとこうだ。

 

デバイスを作成するに当たって使用していた端末に対してクラッキングを受けたらしい。

 

犯人はネット上で噂になっている天才クラッカー……『天使妖精』なる人物。年齢性別不詳。

 

防衛には成功したものの、置き土産にばら撒かれたウイルスによって、AIの性格が変動してしまったらしい。

 

俺のデバイスのAIにはアリサを、アリサのデバイスには俺の性格をベースにしたAIが組み込まれる筈だったのだが……

 

ウイルスの効果により、俺のデバイスは中二病に染まり、アリサのは…

 

「アクセル、セットアップ。」

 

《ふっ、だが断……ひぃ!?じ、冗談だよお、お嬢。お、おしおきは勘弁…》

 

へたれとなった。

 

「だから、性格を直してから渡そうかとも思ったんだけれど…」

 

《…やはりグランドマスターには逆らえない運命にあるのかしら……でも、此処で私が死んでもいずれ

第2、第3の私が現れて》

 

《ひぃ!?ご、ごめんなさい!ごめんなさい!》

 

「ちょと。それも可哀想になって……」

 

なんだかんだで優しいからなぁ。アリサは……

 

「別に俺は気にしないよ。アリサの方も…まぁ、それはそれでいいデバイスだと思うし」

 

何故ならば…

 

「そのバリアジャケット。凄い似合ってるな。なんていうか……安着な言い回しになるけど…可愛いと思うぞ」

 

アリサの姿は白を基調とし、桜の花びらが散らされた着物。

 

どこぞのお姫様のようだったから…

 

《当然だよ。何故なら僕が見立てたんだからね!!》

 

「急に得意げになったな……だが、いい。お前はいい仕事をした」

 

相手に身体はないが、男同士互いに心の中でサムスアップをする。

 

「な、何を言うのよ……」

 

若干顔を赤くするアリサ。ふふ、やられっ放しだからな。偶には反撃に出るもの悪くない。

 

それに嘘は吐いてないしな。

 

そんなやり取りの後、日も落ちてきたのでお暇することになり…

 

 

 

現在に至ると…

 

「もう…いいや、諦めた……というより、覚悟を決めたよ俺は…」

 

帰宅後にめざとく指輪を発見され、どんちゃん騒ぎとなったのは言うまでもない。



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第11話

 

「ふぅ…いい天気だ……」

 

縁側でお茶を飲みつつ、空を見上げる。

 

今日は、雲一つない快晴。

 

膝の上には…

 

「くぅ、くぅ♪」

 

子ぎつねが一匹丸くなって寝ており、頭を摺り寄せてくる。

その期待に応えるべく、湯呑みを置き、ゆっくり優しく頭を撫でる。

 

絵にかいたような喉かな場面。しかも今日は平日の昼間とくればそれは至上の贅沢と呼べるもの。

だが、その贅沢も明日まで……

 

「はぁ、学校いきたくねぇな……」

 

明日からは望んでもいない新学期が始まる。

 

入学から毎年、新学期の度に同じ事をしていたりもするが、

今年は一際、しみじみと思う。

 

そう、リリカルでマジカルなイベントが目白押しの年が…

 

去年は去年で色々な事があった。

 

久遠の事件を始め、原作通りにチャリティーコンサートでテロが発生。

 

俺というイレギュラーがいたせいか、原作に登場しない人物が出てきて、

まぁ、色々あった訳だ。

 

折角の気分が台無しになるので、詳しくは割愛。まぁ、機会があったら語ることもあるだろう。んでだ、結論だけ述べるとテロは無事収束し、結果として…

 

「あ♪お兄ちゃん居た~♪」

 

義妹が出来た。

 

訳が分からんかもしれないが、要するにだ。フィリスさんやセルフィさんと同じで、義姉さんの遺伝子から生まれたクローンって奴だ。なんか澤田?沢田?字は分からんが、そんな名前の奴が元凶。まぁ、義姉さんが捕まえたからもう大丈夫だと思うが…。

 

んで、テロ事件での敵側のイレギュラーがこの義妹。解決後は義姉さんの義妹としてこの寮に住んでいる。いや、見た目からはどっちかっていうと…真雪さんの義妹に近い。

 

なぜならば…

 

にこにこ満面の笑みを浮かべた義妹を見る。

 

ちくしょう。似てやがる。だが、別人だ。奴に大人の魅力はない。

 

「ん?難しい顔してどうしたの~?」

 

彼女の容姿は義姉さんというより、知佳さんに近い…ってか、瓜二つ。

 

何がどうなったかは知らないが。彼女はトライウィングスシリーズのラストオーダー。

 

義姉さんと知佳さんの毛髪から採取した遺伝子を組み合わせ、操作したハイブリッドなのだ!!……らしい。聞いてもいないのに、沢田?が語っていた。

 

だが、外見年齢は俺と同じくらい。培養液の中で育ちきる前に資金が無くなり、止むを得ず、彼女を外に出し、龍から依頼を受けてお金を稼ぎ、さらに彼女の性能を見せつけ、龍をバックに研究を続けようと澤田?は目論んでいたらしい。

これも聞いてもいないのに勝手に語られた情報だ。

 

 

 

「別に何でもない。学校に行くのがメンドクサイなぁ~って思っていただけだ」

 

「え~!?私はすっごく楽しみ。ほら、みてみて。制服だよ♪」

 

くるりとターンする義妹。現れた時から制服姿だったから見せびらかしに来たんだろう。

 

明日から学校へ一緒に通う事となり、よほど嬉しいようだ。

 

反応が鈍い俺の姿に若干不機嫌になった義妹の機嫌を取りつつ、俺は神に祈った。

 

せめて、あの原作+転生者トリオの濃いメンバーと違うクラスになれますようにと……

 

色々と諦めたとはいえ、無駄な騒動に巻き込まれたくはない。

 

 

「神は死んだ…」

 

項垂れるように机に突っ伏す。

 

朝も早いせいか人の姿は疎らだ。どうしてこんな早くに登校しているかというと、クラス替えの結果が気になったから……ではなく、テンションがやたら高い義妹に引きずられるようにして連れてこられたからだ。

 

んで、クラス替えの結果は……

 

高町なのは

月村すずか

アリサ・バニングス

 

この三人が一緒のクラス。まぁ、原作でも固まってたし、偶々不幸にも同じクラスに俺がなってしまったからまだわかる。

 

だが…

 

視線を金、銀、白という小学生にしては目立つ頭をした奴らに向けて……ため息。

 

お前らもかよ……

 

なんだ?補正か?

 

槙原の血がそうさせるのか?

 

実に恐ろしきは我が父、槙原耕介か……。

 

 

はぁ~と深いため息を吐きつつ、体を起こし、様子を伺う。

 

金ぴかとアチャ男は、三人娘のところに競うように向かい、何かを何かを話しかけはじめ、銀髪君はふっと髪を掻き上げる仕草をして、窓際に向かったのだが、席が空いていないのに気が付くと、舌打ち一つ……そのままドカッと近くに座った。

 

その窓際で一番後ろという席に座っていた俺も、隣の席に座った男子生徒に話しかけられたので、様子を伺うの止めて、しばしの雑談。

 

まぁ、いいさ。

 

もう、あの日から気にすんの止めたのさ。

 

 

さて、学長の有難くも迷惑な長話を聞き終え、教室に戻ってきた俺はといえば、一枚の紙切れを手に、祈りを捧げていた。

 

新たな担任の元、始まったのは席替えというイベント。

 

スタンダードなくじ引きで行われるそれは、この誰もが一喜一憂した記憶があるのではないだろうか?

 

大切なのは、席の場所よりも、誰が近くに座るかだ。

 

現に、このクラスの男どもはチラチラと見目麗しい3人娘に視線を向けていたりする。

 

……思春期には早すぎるぞガキども。

 

まぁ、そんなこんなでくじを引き終え、開票が始まる。

 

俺の場所はまだ発表されておらず、3人娘はといえば、各地…というのも語弊があるかもしれないが、まぁ、それぞれ散った形になり、お互いに残念がっている。

 

んで…俺はと言えば……

 

「隣だ♪ヨッロロ~♪よっろろ~~♪」

 

「えっと……よろしく。」

 

某人気アニメ映画の替え歌を歌うくらい壊れていた。

 

俺は引き当てててしまったのだ。

 

羨望の……三人の姫の中の一人の隣を。

 

グサグサッと視線が突き刺さる中、痛い壊れ気味の俺の言葉に苦笑いで返事を返してくれた件の姫。

 

月村すずか。

 

まぁ、なのはちゃんとかバニングスよりはマシか……。

 

以前、翠屋での会合以降、3人娘とは出会えば挨拶を交わし、話を振られたら適当に応対するくらいの関係を築いていた俺なのだが…すずかちゃんとは普通に会話が成立するのだが…他の二人は……

 

なのはちゃんの場合

 

『耕二君。こんにちはなの』

 

『こんにちは高ま……なのはちゃん』

 

『今、苗字で呼ぼうとしたの…』

 

『いや、いや、そんなことは。それにちゃんと名前で呼んだじゃないか』

 

『…じゃ、それはいいの。それより、最近どうして翠屋に遊びに来てくれないの?』

 

『えっ?い、いや。それは色々と用事が…』

 

『……葵屋さん(和風喫茶)にはよく行っているみたいなの』

 

『そ、それは…お、俺、和菓子とか緑茶の方が好き…って、なのはちゃん?どうして俺の手首を握るのかな?』

 

『ちょっと、お話なの』

 

『えぇぇぇ!?何について?』

 

『お母さんが気にしてたの。この間の事で嫌になって来てくれないんじゃないかって』

 

『まぁ、た、確かにそれも顔出しづらい要因の一つだけど……って、まじ?ねぇ、ちょっとなのはちゃん、強っ!?何気に握力が…』

 

ずるずると翠屋に連行され、訥々と翠屋のお菓子の良さを言い聞かせられた。

 

それ以来、若干の苦手意識を持っていたりする。

 

 

バニングスの場合

 

『Hi 耕二』

 

『ん?バニングスか。今、帰りか?』

 

『そうだけど…いい加減、私の事も名前で呼びなさいよ!』

 

『だが、断る!!』

 

『フシャーーー!!』

 

大体、会う度にこんな感じだ。

 

 

 

若干の脚色は入ったが、概ねこんな感じ。何かと因縁をつけられやすい二人よりかはマシ。でもなぁ…

 

始業式終了後、何時もより早い下校時間となり…

 

「すずか帰るわよ」

 

「すずかちゃん帰ろ~~」

 

そう、すずかちゃんが居る限り。奴らからやってくるのだ。そして…

 

「折角だし、耕二君も一緒に帰ろ?」

 

隣にいる俺をロックオンし、声を掛けてくるなのはちゃん。

 

この子は何かと俺を誘う事が多い。それは俺に対して気があるとかじゃなく、単に…逃げる奴ほど追いたくなる……という習性があるからだ。というのが俺の見解だ。

 

一歩退けば、二歩距離を詰めてくる。そんな子。

 

当初、距離を取ろうしていた俺の態度を敏感に察したのか、ターゲットにロックオンされてしまったようなのだ。

 

そして、生半可な理由では納得せず、ずっと追いかけてくる。

 

それは今までの経験で分かっている。

 

「悪い。先約が居る。」

 

指輪をちらつかせつつ、そんなことをほざいた。

 

「え、じゃ、その子も一緒に…」

 

「な、なのはちゃん。邪魔しちゃ悪いよ……こ、耕二君。ごめんね。また明日ね」

 

「……あぁ、そういうこと。なのは、それ以上は野暮ってものよ。じゃあね、耕二。お幸せに」

 

年齢詐称疑惑のある空気読み職人。すずかちゃんが意図を読み取り、すずかちゃんの台詞からバニングスも察したようで、二人でなのはを連れて行ってしまった。

 

さてっと…

 

「アリサが今日、休みだってことを知ったらどうなるだろうか?」

 

……後が怖いので考えないことにした。

 



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第12話

無理やり無印に突入。

ちょっと短いかも


 

ついに原作が始まった。

 

それに気が付いたのは、オコジョからのSOSを受け取った…という訳でもなく。

 

高町なのはが魔導師となった為、日ごろの態度がおかしくなったから……という訳でもなく。

 

一本の電話だった。

 

「めずらしいな……仕事中に母さんが電話なんて…」

 

しかも用件は呼び出し。

 

そんな事を呟きながら、俺は母さんの勤務先である動物病院に向かっていた。

 

さっきまで一緒だった久遠は、俺が動物病院に行く旨を告げると、脱兎の……いや、狐だから脱狐の

如く逃げ出した。

 

あぁ、注射嫌いだもんね。久遠。

 

昔……理由は忘れたけど、久遠が注射を受けなきゃいけないって事になって。嫌がる久遠を那美さんが必死で説得し、それでも嫌がった久遠は逃走。

 

さざなみ包囲網によって、捕縛され。そのまま、病院に連行されたことがあった。

 

因みにさざなみ包囲網とは、ここいらの猫のボスたる美緒の号令をもとに、数十匹を超える猫たちに、包囲、追跡されるという恐ろしいものだ。

 

久遠が猫が苦手になったのは、時折いじめられるのもあるが、これが決め手だろう。

 

そんな訳で、一人さびしく病院へと辿り着き、中に入ると……

 

「あれ?耕二君なの」

 

「え?耕二?」

 

「耕二君?あ、やっぱり槙原って…」

 

清祥三人娘がおり…。そして……

 

あぁ、ついに始まったのか……

 

適当に挨拶をしつつ、母さんの所に行く。案の定、母さんが見ている患畜は……一匹のオコジョだった。

 

「あ、耕ちゃん。来てくれてありがと~。」

 

俺に気が付いた母さんがやってくる。なんでも、話を聞くに三人娘が息子と同じクラスだという事を知り、少しでも不安が和らぐようにと俺を呼んだらしい。

 

「この子は何日か此処に入院する事になってね。私はまだ他の患畜を見なきゃいけないから、耕ちゃん、あの子たちを送ってあげてね」

 

正直、面倒くさいが…母さんに言われたら断れないなぁ。

 

 

「っと言う訳だ。3人とも、このオコジョは母さんに任せて、帰ろうか。」

 

送ってくよ。と続けようとした所で…

 

「……そうね。此処でこうしていても仕方がないし。ちょっと、鮫島に連絡してくるわ。なのはも乗って行くでしょ?」

 

「うん。ありがとう。アリサちゃん」

 

……あれ?送……

 

「……あはは、ごめんね。耕二君。」

 

申し訳なさそうに告げるすずかちゃん。

 

いらねぇじゃん俺!!

 

かあさぁ~~ん!って、居ねぇし!!天然!?天然だからか!?

 

がっくりと項垂れる俺を尻目に、アリサは電話を掛けるために、病院の外へと向かい…

 

「あのね。耕二君」

 

「何?」

 

なのはが俺に声を掛けてくる。若干、威圧的な返事になってしまったが、まぁ、許してほしい。

 

「あの子はオコジョじゃなくて、フェレットだよ」

 

「どっちでもえぇわ!!」

 

ビシッとツッコミをいれる。もう嫌だ……。かぁ~えぇ~るぅ~~。

 

 

 

その日の夜……

 

『さっきの念話…聞こえた?』

 

アリサから連絡があった。あぁ、アリサにも聞こえたのね。リンカーコア持ちだし。

 

『聞こえた』

 

『……どうするの?』

 

『ほっとく』

 

俺たちが出しゃばらなくても、原作主人公がなんとかするだろう。

 

それに昼間の二の舞はごめんだ。

もう、一歩も動かねぇどーー!!

 

『いいの?』

 

『あぁ』

 

『……発信元、あなたの家の近くだったけど……』

 

『………』

 

あ…

 

『耕二?』

 

わ、忘れてたー!!。ユーノって今、うちの病院に居るんだった。

 

あの身体じゃ遠出はできないだろうし。

 

なにか?初戦はうちの近所で行われるのか?

 

じ、冗談じゃない。

 

『と、とりあえず。様子だけ見に行ってみる。あぁ、アリサは来なくていいぞ』

 

『……どうしてよ』

 

うわ、不機嫌そうな声…

 

『い、いや。可愛い女の子がこんな夜に一人で出かけるのは危ないしさ……』

 

『…可愛い……わかった。今日は家でモニターしてる。でも、耕二に何かあったら絶対に駆けつける。

気を付けてね』

 

さてっと………

 

念の為、スカラ、ピオリム……っと…重ねがけはいいか。

 

あとは…ステルスっと。よし、いくべ。

 

「道案内は頼むぞローズ……」

 

指先に光る指輪に話しかける。

 

俺のデバイス…ローズ。正式名称はヴェアトリス・オディール・ローズヒップなのだが、

あまりに長すぎるため、ローズと呼んでいる。考えるのが面倒なのでこのデバイスの望みどおりの名前を付けてやった。

 

さて、その俺の相棒たるデバイスはと言えば…

 

《えぇ~~あと三十分で流浪の菊が始まるんですけど……見てからじゃ駄目です?》

 

流浪の菊。あの新撰組の天才イケメン剣士沖田総司が明治で全国を流離い、悪人どもを倒す。一部で大人気の明治剣客浪漫譚……一言で言えばアニメである。

 

「録画してるだろ」

 

お前に言われてな。俺が何時もセットしてる。

 

忘れたら拗ねるもんな。お前…

 

《はぁ~~わかっていませんねお前様。いいですか?録画するのは当たり前。録画しつつ、リアルタイムで見るのが真のファンなので……って、あぁ、お前様!!》

 

うざく語りだしたローズを尻目にこっそりと外へ出て、現場へと走り出す。

 

きゃんきゃん聞こえる罵詈雑言は無視する。

 

しっかし、アリサの声で此処まで喋られるとやっぱ違和感あるな。多少は慣れたが…

 

つか…

 

「別に俺が何かする訳じゃないから、見てていいよ。TVの電波が入るならどこでも見れるだろ。」

 

タッタッタ…というより、シュババッという感じで疾走する。

 

結構気持ちいい。意味もなく、叫びたい。あぁ、ただただ叫びたい。

 

そんなノッてきた俺に対して…

 

《ところでお前様…何処に向かって走っているのです?》

 

その言葉に、ピタッと止まる。

 

とりあえず、動物病院に向けて疾走していたが…そうだな。移動しているかもしれない…。

 

「………ローズ。サーチャーを頼む」

 

《……これやったら、本当に私はTVを見ますからね》

 

呆れたようなローズの声……胸が痛かった。

 

 

 

サーチャーを元に現場へと到着。

 

よりにもよって、本当に寮の身近だった。

 

Uターンした……。ま、まぁいい。

 

気を取り直して、物陰に潜みつつ、様子を伺う。

 

現場は既に緊迫感に包まれていた。

 

正に一触即発。いつ戦闘になってもおかしくない雰囲気。

 

相対しているのは…4人…。いや、3人と一匹?で良いのだろうか?

 

互いの動きに注意しながら牽制し合う三人と、少しずつ遠ざかっていく黒い煙?のような…よく分からない物体。

 

オコジョは逃走したのか居なかった。

 

こっそりとサーチャーを飛ばしてみる。

 

 

 

~LIVE~

 

「死にたくなければ…そこをどけ。そいつは俺の獲物だ」

 

「はいはい、中二病乙。お前こそ、どっか行けよ。原作組に関わるチャンスなんだから」

 

「やっぱり二人とも転生者か……まぁ、そうだとは思っていたがな。まぁ悪いが、どちらも役不足だ。」

 

銀髪が現れた。

 

金髪が現れた。

 

アチャ男が現れた。

 

 

三人はいがみ合っている。

 

その隙に、黒い影は少しずつ遠ざかっていく……。

 

……なんだ?このカオス。

 

つか、とりあえずだなぁ……。

 

「…ローズさんや、ローズさんや」

 

《…何!?喋りかけないでって言ったでしょ!!幸い、CMだったからよかったものの!》

 

あぁ、怒ってるよ。いつものキャラが……なんかのアニメに触発された大和撫子良妻賢母キャラだっけ?

が崩れてるよ。

 

「すいませんが、一つ、結界の方をお願いできやせんかねぇ」

 

《…もう!本当にこれで最後だからね!》

 

言うや否や、足元に六芒星の魔方陣が敷かれる。

 

ミッド式でも、ベルカ式でもない術式。まぁ、この術式については、追々語るとして……

 

六芒星の魔方陣から俺の魔力を惜しみなく使い、結界が展開って……

 

「ローズさんや、時間がなかったのか知りませんけど、ちょっと雑すぎじゃありませんこと?」

 

広いよ、この結界。

 

《……》

 

返事がない。アニメに見入っているようだ。

 

ま、まぁいいや。此れで寮の平和は保たれた。

 

 

さて、三人はと言えば、結界に気が付いていないのか特に何の反応も見せず。

 

ただ、睨みあっている。

 

として、とうとう見えなくなる。黒い影……当初の目的を完全に忘れている。

 

まぁ、黒い影はほっといても結界内の何処かに居るだろから、いいや。

 

ってなわけで、今は三人の動向を探る。

 

まず、最初に動いたのは金髪。

 

「先手必勝!!食らえ雑種ども!!」

 

手を振り払う仕草と同時に、空間に穴が開く。

 

「「!?」」

 

咄嗟に身構える二人。しかし…何も起こらなかった。

 

「あれ?なんで?ほ、ほらっ、いけったらっ!!」

 

テンパる金髪。しかし何も起こらない。

 

「まさか…お母さん……」

 

そうか……また、捨てられたんだなぁ。

 

なんだろう。目から汗が……おかしいな。別に熱くないのに。

 

止まらないや。

 




ハーレム?させねぇよ!に対抗して、ひとり勝ち?させねぇよ!!
的な対抗馬を用意しようと思っていたんだが……

既にトップとの差が半端じゃない事に気が付いた。

いったい何馬身離れていることか……

どうすっぺ…

ま、まぁ。とりあえずは次回。銀髪VSアチャ男をお送りいたします。


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第13話

エミヤを聞きながら書き殴った。

勢いで……やってしまった。

みんなのスルースキルが…今、試される!!

アチャ男 VS 銀髪君 完全決着編!

この話書いてて、誰が主人公なのか…作者にも分からなくなってきた。


金髪君がorz状態となり、三つ巴の均衡が崩れる。

 

銀髪君とアチャ男は金髪君はもう既に眼中に無いようだ……

 

最初に動いたのは銀髪君。

 

徐々にアチャ男から距離を取り始め……物陰に入る。

 

なんだ?どうしたんだぎんぱ……って、なにぃ!?

 

「ば、馬鹿な……」

 

物陰に行った銀髪君はすぐさま戻ってきた。

 

手に……スタンドタイプの掃除機を携えて……

 

 

スタンドタイプ。

持ち手部分に本体がついた縦長のタイプ。

スリムなため、すきまなどに収納できる。

ワンルームやひとり暮らしにおススメの一品(ポケ○ン図鑑的な声)

 

前回はハンディタイプだった…

 

ハンディタイプ。

手軽に使える小型の掃除機。

場所を選ばず使え、省スペースでも置いておけるのがポイント。

腰より高い位置の掃除や自動車の掃除などに便利。(ポ○モン図鑑的な声)

 

 

はっ、あまりの衝撃に脳内に変な声が…だが……

 

「アイツ進化してやが……って、なんだと!?」

 

目を凝らしてよく見れば、奴のは唯のスタンドタイプではない。

 

サイクロンだ。サイクロン式の掃除機である。

 

しかも通常一個の筈が、三つ付いている。

 

その仰々しさに息を飲む。

 

いや、俺だけではない。アチャ男もまさかのウェポンに驚いている。

 

「……ふっ」

 

そんな俺達を尻目に、銀髪君はドヤ顔でスイッチを入れる。

 

動力源は彼の魔力だろうか?スイッチに鼓動し、回転し始めるサイクロン。

 

それぞれ回転方向が違い、どこか…そこで廃人とかしている金髪君が本来持つはずの乖離剣を思わせる。

 

ちょっとカッコいい。だが…

 

《あぁもう!!なんですか!!やかましいですね!!》

 

吠えるローズ。指先に居るため、辛うじて聞こえるがもう少し離れていたら、あの銀髪君の手にある掃除機の音に掻き消される事だろう。

 

ローズが怒るのも無理はない。半端じゃない喧しさ。

 

恐らくは銀髪君の魔改造とサイクロン三つのせいだ。

 

普通は此処までやかましくはない。

 

結界があるからいいが、もし、俺が張っていなかったらえらい騒ぎになった事だろう。

 

時間も時間だし。

 

ワンルーム?使えねぇよ。こんな喧しいやつ。昼間でも苦情が来るだろう。

 

……今、結界を解いたら銀髪君の将来はどうなるだろう。

 

私……気になります!!

 

ちょっと、危ない好奇心に駆られていると…

 

 

「……くっ、と、投影開始」

 

サーチャーが音声を拾う。

 

銀髪君に気おされていたアチャ男もようやく動き出した。

 

 

手にはカッターナイフ、ペーパーナイフ、彫刻刀が数本。

 

 

掃除機を両手で構える銀髪君。

 

文房具主体な刃物を手に持つ、アチャ男。

 

 

……今、結界を解いて……ついでに義姉さんに通報したら……

 

…止めとこう。夜に一人で出歩いてるのが知られたら俺まで叱られる。

 

そんな事を考えている間に、戦いが始まった。

 

 

先手は銀髪君。

 

掃除機の特性ゆえか、集める…つまり、集束に適しているのだろう。

 

攻撃方法は魔力法。ヘッドのない。掃除機の吸い込み口からテニスボールくらいのサイズだろうか?

 

銀色の魔力弾が放たれる。

 

速度はあまりなく、辛うじて避けているアチャ男。

 

着弾し、少し地面が抉れる事から、そこそこの威力はあるようだ。

 

だが、アチャ男も負けてはいない。

 

避けつつ、距離を少し詰め文房具を投擲…そして…

 

「……壊れた幻想……」

 

爆発する文房具。

 

威力は……ロケット花火よりやや激しい爆発。

 

 

しかし、投擲の為、あまり飛距離が伸びず……。

 

詰められて、即座に距離を取ろうとする銀髪君の行動もあって、

 

こちらも届かない。

 

 

……す、すげぇ。

 

あまりの緊張感に息を飲む。

 

射程距離は銀髪君の方が長く、攻撃の届かない位置を保ちながら魔力弾を放つ。

 

対して、射程距離は銀髪君には劣るものの、連続して投擲、攻撃が出来るのがアチャ男。

 

距離を詰め過ぎた場合、銀髪君の魔力弾を躱すのが難しくなるのだろう……。

 

適度な距離を保ちつつ、反撃をしている。

 

 

息もつかせぬ勝負。

 

この戦いは最初に一撃を喰らった方が恐らく負ける。

 

魔力を使った戦いにしては互いに威力は低いが…

それは相手にある程度の防御能力が備わっている場合だ。

 

 

プロテクションはおろか、バリアジャケットすら両者にはない。

 

はっきり言って、互いに防御能力は0に近い。

 

だが、攻撃力はそれなりにある。

 

一発貰った方がそこから崩される。

 

 

現在の戦況は互角……。いや、僅かに……

 

「アチャ男…優勢か?」

 

此処にきて銀髪君の動きが悪くなり始める。

 

原因は……

 

「あぁ、そりゃそうか。重そうだもんなそれ……」

 

得物の大きさ重量を見れば、どう見ても掃除機を振り回している銀髪君の方が体力を使う。

 

こりゃ決まったか?

 

「はぁ、はぁ……こ、こんな小競り合いじゃ埒が明かない……。どうだ?互いに次の一撃で勝負を決めるというのは?」

 

苦し紛れにそんな提案をする銀髪君。

 

はは、そんなことしなくても、このままいけばアチャ男の勝ちだ。

誰がそんな提案に……「いいだろう…」乗るんかい!!

 

ビシッと虚空にツッコミをいれる。

 

何?馬鹿なの?

 

唖然とする俺を尻目に、二人は足を止めて、次の一撃の準備を始める。

 

「はぁぁ!!」

 

慎重に魔力を掃除機に込めていく銀髪君。

 

サイクロンが回転し、ビリビリと視認できるレベルの電気が迸る。

 

ちょっとカッコいい。

 

だが……

 

「……全力には耐えられなそうだな」

 

銀髪君が慎重になっている理由は其処だろう。

 

若干、掃除機から煙が出始める。

 

ちょっとでも魔力を込めすぎたら、その瞬間……あの掃除機は爆散するだろう。

 

幾つ…デバイスを作ってきたのだろうか?

 

その一つ一つの限界点を見極め、扱ってきたからこそ身に着いた魔力のコントロール。

 

俺のような特典に頼った天性の物ではなく、銀髪君の努力の塊。

 

彼が己の力を全力で振えるデバイスを手にした時……一体、どれほどの物になるか……

 

 

対して……

 

 

 

 「I am the bone of my sword.」 

  ―――――― 体は剣で出来ている。

 

 

 

アチャ男も詠唱を開始………

 

 

 「Steel is my body, and fire is my blood.」

  血潮は鉄で 心は硝子。

 

 

目を瞑り、詠唱をするアチャ男

 

 

 「I have created over a thousand blades.」

  幾たびの戦場を越えて不敗。

 

 

ただ惜しむべきは……

 

《?どうしたのですか?お前様、突然、鼻歌など…》

 

いや、『エミヤ』が流れないからさぁ~。つい……

 

そんな事をやっている間に……

 

 

 「Unknown to Death.」

  ただの一度も敗走はなく、

 

 

 「Nor known to Life.」

  ただの一度も理解されない。

 

 

呪文が詠唱されていく……

 

アチャ男も相当練習したのだろう……

 

流暢な英語。

 

駅前留学でもやっていたのだろうか?

 

 

 「Have withstood pain to create many weapons.」

  彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。

 

 

いよいよだ…

 

あと2節で…ついに発動する。

 

《お、お前様……ま、まさか…必殺技ですか?》

 

ローズも何時の間にか興味津々だ。番組が終わったのだろう…

 

銀髪君の方は、無事魔力を込め終わったようだ。

 

ゆっくりとアチャ男の詠唱の完了を…待……って、

 

何ゆえに銀髪君は相手に銃口?というより、吸い込み口を向けているのだろう…

 

 

 「Yet, those hands will never hold anything.」

  故に、生涯に意味はなく。

 

 

ニヤリと笑う銀髪君…ま、まさか……

 

 「So as I pray, unlimited…「隙だらけだぞ!!」」

 

「躱せ…」

 

《お前様?何を…》

 

 

――たわけ、躱せと言ったのだアーチャー!

 

思わず叫びそうになる。

 

何故なら……

 

詠唱の最後の最後で、銀髪君の渾身の一撃が放たれたのだ……。

 

斜に構え、目を瞑って…詠唱に集中していたアチャ男にその一撃が躱せる筈もなく……

 

勝敗は……決したのだった。

 

 

 

「ははは…あっはっはっは!勝った…勝ったぞ!!」

 

渾身の一撃を受けて、吹っ飛び、倒れ伏して動けないアチャ男。

 

それを見届け、勝利の余韻に酔う銀髪君が高らかに笑う。

 

「ふん、急所は外してやった、死にはしないだろう」

 

いや、死ぬって……。

 

「……とはいえ、こちらも限界か…。なのはの処に行っても無駄だな」

 

壊れたのだろう…忌々しそうに手に持っていたデバイスをその場に捨てて立ち去る銀髪君。

 

っと、いけね、銀髪君を結界から出さないと…

 

 

後に残ったのは、倒れ伏す。アチャ男と……

 

「ま、マジかよ……」

 

ガサガサと茂みから出てきた金髪君。って、まだ居たんだね……。ま、そうか。結界から出てないしね。

 

 

「……これ、あいつの……」

 

ゴクリと唾を飲む金髪君。きょろきょろと左右を見渡し、人目がないのと、アチャ男が動かなのを確認すると…バッと銀髪君の捨てて行った掃除機を抱えて駆け出した。

 

 

 

金髪君も結界の外に出す。残ったのは俺とアチャ男。

 

「……生きてるか?」

 

恐る恐るアチャ男の様子を伺う。

 

返事がない……ただの屍のようだ…

 

《サーチ……バイタル確認。お前様…残念ながら……》

 

マジか……って、

 

「うぉい!!ヤバいって!」

 

慌ててザオリクを唱える。

 

まさか、最初にこの呪文を使うのがアチャ男だとは思わなかった……

 

見る見るうちに息を吹き返し、生気を取り戻していくアチャ男。

 

効果は抜群だ!!

 

「さて……アチャ男はもう大丈夫そうだ。」

 

ふぃ~焦ったぜ………。

 

アチャ男がどうなろうと知った事じゃないが、目の前で死なれたら目覚めが悪いしな。

 

それにあんな原因で死んだら性質の悪い悪霊になりそうだ。

 

那美さんに迷惑を掛けちゃいけない……。

 

「さてっと、ジュエルシードはどうなってるかな……」

 

トベルーラで飛翔し探索開始。

 

程なく、なのはを見つけた。丁度、状況はクライマックス。

 

 

「封印すべきは忌まわしき器。ジュエルシード!」

 

「リリカルマジカル。ジュエルシード、シリアル21。封印!」

 

無事、原作通りに魔法少女となり、ジュエルシードを封印したようだ。よかった……。

 

次回からはユーノの怪我も良くなり、結界も自前で張るだろう。

 

結界を解除し……

 

「ふぁ……疲れた。帰って寝よ。」

 

なのは……それにユーノよ。

 

あとよろ!

 

そう、心の中で告げ…俺は寮へと帰るのだった。

 

 

 

――Side Yuuno Scrya

 

なんとか封印が出来た……

 

「やったね。ユーノ君」

 

「うん、ありがとう。なのは」

 

それにしても、なのはは凄い。持っている魔力量もそうだけど、初めてで此処まで戦えるなんて……

 

だけど…気になることがある。

 

何時の間にか張られていた結界。……そして、僕たちがジュエルシードを封印した後、それは解除された。

 

タイミングを見計らっていたかのように。

 

見られていた?

 

……この町に僕たち以外にも魔導師が居る?

 

だとしたら目的は何だ?ジュエルシードだとしたら……

 

「ユーノ君。帰らないの?」

 

「あ、そうだね。」

 

いや、そうと決めつけるのは早計だ。

 

僕は判断を保留し、なのはと共に帰路に着いた。




やっちまった。

すまん…アチャ男。

本来ならアチャ男が勝つという結果で書いていたんだが、どうしてこうなった?

原因は分かっている。此処でアチャ男が勝ったら、当初予定していたアチャ男の
強化計画に繋がらないからだ!

だがその代償として、銀髪君がとんでもない下種野郎に……。

変身シーンで容赦なく攻撃を叩き込むのが、銀髪君クオリティ。

そして主人公が完全傍観者スタイル。

まぁ、此処でしゃしゃり出ても…戦いにならないからねェ。


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第14話

プロットを見直してたんだが…

あれ?転生者三人トリオは?

筆が進まないのはこの三人の扱いに作者が困り始めているのが理由の一つだったりするw

これはもう、強制ログアウトかな…


 

――Side Kouji Makihara

 

「――ハッ」

 

短く息を吐き、刀を振う。

 

その鋭い剣戟を受け、足を切断された所に……

 

銃声が一発……頭に風穴が空き断末魔の声を上げる事無く…

 

敵は消滅した。

 

それを見届け俺は刀……相棒たるローズを鞘に納刀し、振り向いた。

 

其処には、白と朱金で拵えたリボルバーをホルスターに収めながら息を整えている少女。

 

アリサ・ローウェルの姿があった。

 

 

「今、何階だっけ?」

 

「地下7階よ」

 

マップを確認しながらアリサが告げた。

 

ポカポカした春の陽気と満開の桜が咲く季節の土曜の休日。

 

俺とアリサはジメジメした薄暗い天井と壁に囲まれた…

 

地球から遠く離れた世界にあるダンジョンを攻略中であった。

 

それも唯のダンジョンではない。

 

俺は、確認の為にフローミを唱える。

 

――破邪の迷宮 地下7階――

 

……此処は破邪の迷宮。

 

ダイの大冒険に破邪の洞窟が出てくるが何か関係あるのだろうか?

 

初めてこの迷宮に足を踏み入れた時はそんな疑問が脳を過った。

 

はてさて、何故俺達がこんな場所に来ているかと言えば……

 

話せが長くなるので簡潔に言えば……

 

事の発端は去年。アリサが魔法に触れた辺りに遡る。

 

当初アリサはと言えば、魔法に触れたばかり。当然、魔法の行使にはある程度の練習…訓練が必要だった。

 

そこでドクターJが昔デバイスを作成していた頃のコネを使い、元時空管理局教導隊……

 

氷の女帝。

 

魔弾の魔女。

 

冷酷なる鬼教官。

 

などの異名を持つ。今だ管理局内で語り継がれている伝説の女傑を家庭教師に据え、訓練を開始した。

 

アリサが去年、学校を休みがちだったのはデバイスの作成もそうだが、こちらの理由も大きい。

 

教導を受けていたのは基本は週に二回。大型連休や休暇などはみっちり行っていたらしいが…まぁ、とにかく、そんなこんなでメキメキと力を付け、デバイスもスタンダードな物から自分専用のデバイスに変更した。

 

アリサの手に握られたデバイスを見る。

 

うん……どこからどう見ても傘だ。

 

だが、ただの傘ではない。先ほどの銃声からもわかるように傘の先端部分が銃口となり、其処から弾丸が飛び出るのだ。

 

銃だけではない。傘の柄の部分を引き抜けばエストックのような突きを主体とする剣に。

 

傘を広げれば盾にもなる。

 

分解も可能で、片手剣に盾。片手短銃に盾にもなる。その他にも色々な形状があるらしい……まだ、構想だけで未実装だそうだが……。

 

しかし、これだけの武器だ。使いこなせないだろうと指摘した事がある。

 

 

 

「そうね。剣なら剣を学んできた人には敵わないし、銃もそう。盾だってどれだけ有効に活用できるか分からない。」

 

「ならなんで?」

 

どれか一つを選ばなかったんだろう。

 

「色々考えたんだけれどね。私がデバイスを持つ理由は……耕二あなたの隣に立ちたかったから…」

 

「一番になれなくてもいい。相手より劣っていてもいい。私が勝てなくても…

耕二がきっと勝つ。」

 

「私は耕二が持つ手札を増やせればいい。」

 

「………」

 

「……惚れた?」

 

ふふっと微笑むアリサ。

 

「ばっ、馬鹿野郎!?ふ、不覚にもじ~んと来ただけなんだからね!!」

 

あ、危なかった……今、アリサに目を奪われていた。落ち着け。

 

Noロリータ。Noタッチ。ぺったん娘は少女であって、女の子ではない。

 

よし、お、落ち着いたぞ。

 

「それにね。私は才能がない。だから器用貧乏にならざるを得ない。」

 

「……才能ね。まぁ、にしても諦めるのは早いだろう。」

 

「難しいとは思うけど、アリサ。お前なら……一番になれる。誰にだって勝てると思うけどな」

 

その言葉にアリサは驚いたよう顔をした後。

 

「そうね。耕二が言うならもうちょっと頑張ってみるわ」

 

 

 

そして、今年の春の事である。

 

戦う能力をある程度、身に着けたアリサ。そして、元々戦う力を持っていた俺。

 

そんな俺達に足りない実戦経験を積ませる為にドクターJが出した案がこのダンジョン攻略だ。

 

このダンジョンはドクターJが昔からデバイス作成の為に利用していた素材採集場所である。

 

此処でしか手に入らない部品もあり、管理局でドクターJが高名を馳せたのも、その技術力も大きいがやはり、特殊な素材を使いこなしたことも大きいだろう。

 

このダンジョンを使えば、実戦経験を積むこともでき、またデバイスの素材も手に入る。一石二鳥……

 

そんなこんなで俺とアリサはダンジョン攻略を開始する事になったのだ。

 

 

さて、このダンジョン……破邪の迷宮だが

入り口付近に転移魔方陣があり、一度行った事がある階層に転移することが出来る。帰りも同じ……まぁ、殆どリレミトを使うのだが。まぁいい、そんな便利機能が付いている。

 

始め、このダンジョンの名が破邪の迷宮と分かった時は如何しようかと思った。

 

その理由は、ダイの大冒険のアバン先生である。

 

破邪の洞窟に潜っていた先生は、転移などと言った手段が無く、町に戻ることなく潜り続けた。

 

前半は良いだろう。後半はむしろ、敵との戦闘より、食糧不足、水不足、疲労など……サバイバルも要求されたに違いない。

 

断言しよう。現代っ子の俺達には無理だ。

 

この破邪の迷宮は各階層、階段を降りたところに魔方陣があり、そこにそれぞれの魔力紋……まぁ、人それぞれ違う魔力の形状……指紋みたいなものを登録する事が出来、次回からは各階層の魔方陣に乗ると、

各個人ごとに登録済みの魔方陣へと転移できるようになるのだ。

 

まぁ、そんな感じでここ最近、毎週土日の朝から夕方まで破邪の迷宮を踏破しているという訳だ。

 

さて、此処破邪の迷宮だが、出てくるモンスターはドラクエで出てきたものから、見覚えのないようなものまで豊富に出てくる。

 

そして、お約束のように各階層にはボス部屋があり、ボスを倒さないと次回層へは進めなくなっている。

 

さらにこの迷宮の最大の特徴だが……

 

古今東西……ありとあらゆる場所での希少な素材、そして失われた技術……ロストロギアが見つかるのだ。

 

理由は不明。ドクターの仮説では何らかの形で時空を漂流していたロストロギアが最終的に流れ着くのが此処、破邪の迷宮なのではないかとの事だ。

 

「じゃ、行きましょうか?今日はこの階層を踏破して帰りましょ」

 

「そうするか……」

 

アリサの言葉にそう答えると俺たちは奥へと進んでいく。

 

 

ジュエルシード事件は完全になのはちゃん達に丸投げした感じだ。

 

あの転生者トリオは此処の所、事件が始まったというのに目立った動きを見せない。

 

銀髪君はデバイスが壊れた。

 

金髪君は戦う手段を持たない。

 

アチャ男は……あれ?なんで動かないんだろう。

 

前者二人は分かる。今の状態でしゃしゃり出て行っても役に立たない。

 

でもアチャ男は何故だろう。

 

あの日……ジュエルシード事件の幕開けとなった夜。

 

次の日はアチャ男は学校を休み。

 

その次の日には登校していたのだが……いや~あれは凄かった。

 

教室で銀髪君と顔を合わせるなり、ふっ。っと勝ち誇った顔をする銀髪君。

 

そして、あの決着に納得がいかなかったのだろう。

 

「こ、この…卑怯者め!恥を知れ!!」

 

叫びながら銀髪君に殴りかかるアチャ男。

 

突如始まった度付き合いに教室内は騒然とした。

 

とはいっても、互いに子供。ポカポカと殴り合うレベルの喧嘩だったが。

 

まぁ、その後は当然の如く担任の先生にコッテリと絞られていたようだが。

 

……自粛しているのだろうか?

 

そんな考え事をしながら歩いていると、突如天井から落ちてきたスライムに反応が遅れ、

 

アリサがそのフォローをしてくれたのだが…

 

「何やってるの!!」

 

怒られた。っと、そうだな。考えるのは後だ。

 

今は、この階層の攻略の事を考えよう。

 

とりあえず、その後は問題なくその階のボスを倒して、今日の冒険は終わった。

 

 

 

――Side ???

 

 

「はぁ、はぁ、クソ!!」

 

ジュエルシード事件は始まっている。

 

何とか原作に介入しようとしているんだけど……

 

「ど、何処にいるんだよ。高町さん……」

 

俺は主人公である高町なのはを探して、町中を歩き回っていた。

 

「くそ!こんな事ならもっとちゃんと原作を見ておくんだった。」

 

転生してから十年近くたつ。

 

大体の原作の話の流れは覚えているが、それも重要所だけだ。

 

何処で何が起きていたか…場所までは覚えていない。

 

唯一覚えているのは温泉と、月村さんの家でイベントがあった事なんだけれど……。

 

どちらもまだ起きていない。

 

一度、高町さんの家で待ってみようかと思ったんだけれど……。

 

翠屋ならともかく、自宅の場所を知らない。

 

ならば、翠屋から後を付けてみようとした事もあったが…。

 

高町さんのお兄さんに見つかった。

 

その場は何とか誤魔化したけれど……もうこの手は使えない。

 

……あいつ…あの卑怯者の持っていたあの掃除機みたいなやつ。

 

あれはデバイスだろうか?

 

あれなら魔力の反応とか探査できるんじゃないか?

 

…思い返しただけで腹が立ってくる。

 

あいつの口車に乗ったせいで俺は負けた。

 

詠唱も後少しだったのに。

 

……ふぅ、落ち着け。いいじゃないか早い段階で欠点が分かっただけで。

 

そうだよな、考えてみればあんなに長い詠唱を無防備で唱えてただけじゃ、邪魔されるよな。

 

しかも相手が効果を知っている転生者なのだから余計だ。

 

取りあえず、詠唱を唱えつつ、投影だけで立ち回る方法を考えないとな。

 

後あれだ、今のままじゃ決め手に欠ける。

 

俺の攻撃は当たってたんだ。あれが文房具じゃなくて…もっと……。

 

「そうか!あれなら行けるかもしれない。」

 

高町さんを探すのをひとまず中断し、俺は走り出した。

 

目的地は、ケインズホーム……大手ホームセンターだ!!

 

 

 

――Side ???

 

「くそっ、やっぱり駄目か!!」

 

がしゃっと床に掃除機のようなデバイスを放り投げる。

 

……ヤバい床へこんじゃったかな。い、いや、きっと大丈夫だ。

 

確認するのが怖かったのでそのまま放置し、ベットに倒れこむ。

 

「ガムテープじゃやっぱり駄目か…」

 

あの夜。咄嗟にあいつの使っていたデバイスを持って帰ってきたものの。

 

ガムテープで亀裂部分を補修とか色々してみたけど、やっぱり動かない。

 

こうなったら駄目もとで分解するしか……でもなぁ。

 

デバイスの仕組みなんてわかんねぇよ。

 

「やっぱり、参考にするならあっちのエミヤもどきかなぁ」

 

同じアーチャーだし。

 

あの夜もそうだ。もし、捨てられていなかったら僕が勝っていた筈だ。

 

そうか、大きいゴミだから。捨てられちゃうんだ。

 

もっと小さい。隠せるくらいの……。

 

それでいて、文房具なんかより威力がある物を……

 

考えろ……そして次こそは見せつけてやるんだ。

 

もう無視なんかさせない。

 

 




転生者達の強化フラグ。

誰かはわかるよね?

出て来てない最後の一人は、対峙した時に真価が問われる所謂びっくり箱扱い。

いつもより増して筆が進まん進まん。

気晴らしに思いついた恋姫のネタ小説でも書こうかなぁ。


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第15話

とりあえず駆け抜ける。

後で、直すかも。


 

最近なのはちゃんの様子がおかしい……。

 

アリサちゃんもそれを感じているようで、私たちに相談してくれない

なのはちゃんにイライラしているみたい……。

 

私もちょっと心配だ。

 

「どうしちゃったんだろう……」

 

そんな事を考えながら、私は家の門を潜る。

 

そこで……

 

【…えっく……ここどこ~~】

 

女の子の泣き声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

えっと……。

 

ありえないものを見た。

 

俺は目をつぶり、眉間を軽く揉んだ後にちらりと確認してみる。

 

目に映に入ったのは金色の髪。日本では珍しいかもれ知れないが、このクラスにもアリサ・バニングスという少女がいる以上、まぁありだろう。

このクラスで見たことがない顔……いや、正確には近い未来にクラスメイトになるであろう顔なのだが…。現時点ではまだクラスメイトには居ない。

 

次に目に入ったのは、女子の制服とは似て非なる……いや、色だけは似てるのか…白いワンピースが目に入る。どうやら、私服のようだ。

 

そして最後、足が地面に着いていない。

ふわふわと浮いている。

というか教室を飛び回っている。だが、他の生徒は気が付かない。

 

……スリーアウト!!なんじゃこりゃ!!。

 

頭を抱える。

 

今だけは、もって生まれたこの目が恨めしい。

 

父親には劣るが、生まれつき持った霊力。

 

そして薫さんお墨付きの霊視能力はバッチリとその姿を捉えていた。

 

フェイト・テスタロッサ?いや……まさか。

 

アリシアの方か!

 

「……?」

 

あ、ヤバい。目があった。こ、こっちくんな!!

 

【いま目が……見えてるの~?】

 

反応するな。目を合わせるな。無視だ。無視するんだ俺。

 

ヒラヒラと目の前に手を翳すアリシア?

 

ぐるぐると俺の周りを旋回するアリシ以下略…。

 

ゼロ距離でジッと目を見つめてくるアリ以下…。

 

耐えた。耐えたぞ俺。不動の精神力だ。よく頑張ったぞ俺。

 

流石に零距離美少女は物凄い攻撃力があった……。

 

【そ、そんなに見つめられたら照れちゃうよ……】

 

「お前が照れるんかい!!」

 

反射的にビシッとツッコミをいれる。

 

……はっ、しまった。

 

【へっ?や、やっぱり。君、私の事が見えるんだね!?っていうか…今、触っ……】

 

咄嗟に霊力を纏ってしまった。

 

父さんのようにアホみたいな馬鹿霊力こそないが、此れくらいなら俺にもできる。

 

霊力の使い方は薫さんと那美さんに少し指導を受けた。

 

二人が言うには霊力量などは普通の退魔師以下。ただ、呑み込みの速さは天才的とのこと。

 

結構すぐ使えるようになった……。すまん、神様チートだ。

 

ただ、前にアリサにも言ったが刀などに纏わせることはできない。せいぜい自分の身体のみ。

 

それも除霊できるほどの霊的攻撃を与える威力はない……。いいんだ。魔力なら誰にも負けないから……。

 

とりあえずだ……

 

【ねぇ!?見えるんでしょ?聞こえるんでしょ?】

 

あ~もううっさいな。

 

無視だ……鋼の精神だ。初志貫徹……。

 

じ~。

 

無視されているのだが、懲りずにまた零距離視線。生きていれば吐息が分かるレベル。

 

そして……

 

【…///】

 

てれりこ…

 

「このくだりはいいって!!」

 

ツッコまんぞ……って、しまった。

 

くそ、染みついた感覚で咄嗟にツッコミを入れてしまう。

 

「えっと……」

 

その様子を隣の席から困ったように見ているのはすずかちゃん。

 

【あっ!?すずか!すずか!すずかの他にも見える人がいたよ~♪】

 

お前が連れてきたのか。

 

がっかりだ…がっかりだよ。

 

三人娘の良心だと思っていたのに。

 

何かと絡んでくるバニングスとやたらと話しかけてくるなのはちゃん。

 

そして、二人の蛮行にブレーキを掛けていた良心だったのに。

 

「ブルータス……お前もか」

 

担任の先生が入ってきたのは、俺が項垂れるのと同時だった。

 

 

《どうしたのです?お前様》

 

授業中、何時もならローズと一緒に何かしら暇を潰しているのだが、何時になく真剣な様子?で授業を聞いているように見えるらしい俺に怪訝そうに話しかけてくる。

 

隣の席からもチラチラと視線を感じる。

 

そして…その元凶は。

 

【ねぇ、ねぇ。君、耕二君って言うんでしょ?槙原耕二君。私はね。アリシア。アリシア・テスタロッサっていうの!】

 

ふわふわと俺の周りに纏わりついて話しかけて来た。

 

クラスの様子を見るに皆いつもどおり。特殊な力を持っている連中。なのはちゃん、アチャ男、金と銀髪君も

どうやら見えていないようだ。

 

【えっとねぇ~。私はね、ミッドチルダっていう所に住んでたんだけどね。気が付いたら知らない場所で…。お母さんを探してウロウロしてたらすずかがね、見つけてくれたんだ。】

 

うん、聞いても居ない状況説明ありがとう。何だこれ、俺とプレシア陣営になんかフラグたった?嫌だなぁ~。

 

《なぁ、ローズ。念の為に聞くが……俺の目の前に何がいる?》

 

《何って…ご学友の瀬田様がお座りになっていますよね?》

 

どうやら、アリシアの姿は確認できないらしい。俺の前の席の瀬田?君という回答が来た。

あれ?瀬田って名前だったっけ?前の席だから偶に話をするんだけど、いっつも向こうから話を振ってくるから名前を呼んだことがない。よし、瀬田君ね…覚えた。

 

にしても、すげぇな。ローズ…俺もまだうろ覚えなクラスメイトの名前を覚え…「はい、じゃぁ次は、遠藤君。答えてみて」

 

先生に指を差されて立ち上がる俺の前の席の瀬田君…改め、遠藤君。って…

 

《……》

 

えっと…

 

《そ、それにしても、お前様。急に何が居るかだなんて…何かあったのですか?》

 

誤魔化してる…

 

まぁ…なんだ。触らないでおこう。それよりもだ。

 

【ねぇ聞いてる?でね、此処学校っていう所なんだよね。いっぱい子供がいるねぇ~。私にもお友達とか出来るかなぁ】

 

いい加減…喧しくなってきた。

 

指先…中指に霊力を集中。親指で中指を固定。発射準備オーケー。

 

喰らえ…

 

ビシィッ!

 

【っ!?痛ぁああい!!】

 

ちっ、やっぱり成仏はしないか……。まぁ、ただのデコピンだしな。

 

俺の渾身の霊力デコピンを喰らったアリシアはすずかちゃんに泣きつく。

 

泣きつかれたすずかちゃんはと言えば、よしよしと慰めつつ、こっちを軽く睨んでくる。

 

うぉ、すずかちゃんのあんな顔…初めて見たかもしれない。で、でも俺悪くないもん。

 

学校に関係のない物を持ってくる君が悪いのだ。

 

そんなすずかちゃんの奇行に……

 

「?月村さん。どうかしましたか?」

 

先生が気が付く。まぁ、傍から見たらパントマイムしてるように見えるからねぇ。

 

「え?えっと……その…」

 

先生の言葉に皆もすずかちゃんに注目する。困った表情のすずかちゃん。有りの侭に説明する訳にもいかないからねぇ。さて、どうやってこの場を切り抜けるか…

 

「こ、耕二君が…で、デコピンをして…」

 

ちょっ、おまっ!!

 

「槙原君?」

 

すずかちゃんの証言により一気に視線は俺の方へ集中する。

 

人柄の良い、一部では人気のある彼女にそんな事をすれば…

 

「ま、槙原ぁ。お前!」

 

「この野郎。すずかちゃんに何てことを!」

 

男連中を始め、非難の嵐。

 

中でも……。

 

「こ、耕二!!すずかに何してるのよ!!」

 

「すずかちゃん大丈夫!?」

 

烈火の如く怒り始めるアリサとすずかちゃんの身を心配するなのは。

 

ど、どうやって収集付けるんだよこれ?

 

「す、すいません。ちょっとふざけ合ってました。ごめんね。すずかちゃん」

 

合わせろや!

 

「う、うん。こっちもごめんね。アリサちゃんもなのはちゃんも大丈夫だよ。」

 

空気読み職人すずか。見事に俺の意図を理解してくれた。

 

「はい、みなさん。授業を再開しますよ。槙原君と月村さん。授業中ですよ。ふざけ合うのは休み時間にしなさい。」

 

ふぅ~。どうにかなったようだ。

 

《それで、お前様?何がどうなっているのですか?正直、今の一連のやり取りの意味が分からないのですが……月村様は何故あのような嘘を…》

 

あながち嘘って訳じゃないんだよなぁ。デコピンしたのは本当だし。対象が違っただけで…。

 

【えっと…ごめんね。私がうるさかったからだよね。】

 

もういいよ。

 

【あ、それとね。すずかがね。後でお話がしたいんだって。】

 

まさかすずかちゃんからその単語が出るとは……。

 

はぁ~とため息を吐く。

 

帰りてぇ…。

 

 

 

放課後、俺は話をする為にすずかちゃんの家に向かっていた。

 

すずかちゃんは先にアリサと一緒に車で帰って行った。

 

正直、バックれようかと思っただけど。そうも行かない。お目付け役が居るからだ。

 

《それじゃ、出発~♪》

 

ふわふわと先頭を行くアリシアである。

 

ありがた迷惑な事に案内するとの事で、車には乗って行かず俺の所に残った。

 

俺としてはすずかちゃんと話をするというより、こいつを返却しに行くのが主要目的だったりする。

 

とりあえずだ……。

 

「インテ……」

 

かしこさを上げる。

 

《ローズ、念話のチャンネルを調整する》

 

こういう応用はアリサの専売特許なんだが…。何とか行けるか?

 

他人に繋げる要領で、目の前のアリシアに。

 

《あ~、あ~。こちら槙原。ただ今テスト中。アリシア、聞こえたら応答せよ》

 

《お、お前様…突然何を……はっ、これが毒電波という奴ですか?お、気を確かに!》

 

失礼な事をほざくデバイスを無視して、色々調整しつつ、語りかけ続ける。

もちろん地域は半径3mに限定してだ。無いとは思うが妹?と犬コンビが釣れたら困る。

 

やがて…

 

【へっ?何?こ、耕二君が話しているの?】

 

よし、ミッションコンプリート。

 

《? 私にも毒電波が!?》

 

《あ~、ローズ。こちら姿は見えないが、故アリシア・テスタロッサさん。

んで、アリシア。俺は今、念話で話しかけている。ローズってのは俺のデバイス。OK?》

 

【ね、念話って…。こ、耕二君。魔導師だったの?】

 

≪まぁね~。所でさ、アリシアさんよ≫

 

【なぁに?】

 

俺はピタッと立ち止まる。正直、本意じゃないんだけど仕方がない。

 

≪こっち、すずかちゃん家と逆方向だけど≫

 

別に行きたい訳じゃないけど、このままだと何処に連れて行かれるか分からん。

 

【へ……嘘!?】

 

マジだよ。

 

俺は正確なすずかちゃんの家は知らないが、高級住宅街に住んでいることくらいは知っている。

 

そして、徒歩で行くならソコソコ距離があるという事も。

 

という訳で……

 

≪バスで行くから…ついてこい≫

 

【……はい】

 

この頼りにならない案内役は放っておいて、自分で動いた方が良さそうだ。

 

何処か憎めない幽霊少女に溜息を吐きつつ、俺は歩き始めた……。

 

 

そして……

 

「………」

「………」

 

その俺の後を付いてくる二つの影に気が付くことがなかった。

 

 

 

すずかちゃんの家に着いた俺達。

 

前世の記憶から、月村家のセキュリティーに警戒していたんだけど…、

姉と違い、しっかり者のすずかちゃんはきちんと対処をしていたようで、

特に反応はしなかった。

 

忍さんは恭也さんとデートとかで、リア充もげろ……とか思いつつ、

生ノエルとファリンさんに迎えられ、生メイドさんに若干テンションが上がりつつも、何とか自粛。

 

部屋に通され、メイドさんたちは退散し、俺とすずかちゃんとアリシアの三人となる。

んで、早速アリシアの事についての話になり、まぁすずかちゃんと一緒に学校に来た経緯はアリシアが勝手に語っていた通りなのだが……

 

この後だ。互いになんでアリシアが見えるのかという話題に発展したのだが…

 

この時の俺のファインプレーを自分でも褒めたい。

 

若干、影を差しているすずかちゃん。…そして下手に月村家の事情に首を突っ込みたくない俺…。

 

二人の利害を一致させるために……。

 

「父さんがさ、昔から幽霊が見える人で…俺もそれを受け継いだみたい。すずかちゃんも同じような感じ?」

 

先手を取った。退魔師とか、霊力とかそっち方面に話が及ばないように。

 

幽霊が見えやすい一般人ですよ。ってな感じで。

 

魔導師云々はアリシアを口止めしてある。

 

すずかちゃんも暫くは真意を疑ってたみたいだけど、最終的には誤魔化せた。

 

そして今後、アリシアの事をどうするかという話になり…。

 

【私は…お母さんに会いたいな…】

 

ぼそりと…アリシアが呟いた…。

 

……関わり合いになるつもりなんて無かったのになぁ。

 

お母さんに会いたい…か。

 

会って、どうするのかは知らない。けどな…

 

転生前の自分……。唐突に死んでしまった俺。

 

前世の幾つかの心残りの一つ。

 

両親より早く…死んでしまった事だ。

 

だから…

 

【ーーっ!?】

 

スッとアリシアに手を伸ばす。また、でこぴんされるのかと。アリシアはギュッと目を閉じた。

 

そんなアリシアの様子に内心罪悪感を覚えつつも…

 

【あ……】

 

そっと頭を撫でた。

 

突然撫でられて困惑するアリシアに…

 

「……分かった。お前が母親に会えるように協力……いや、会わせてやるよ。」

 

俺は幽霊にはなれなかったけど…

 

もし、アリシアのように幽霊になっていたとしたら…

 

やっぱり、会いたいと思うだろうから。

 

言葉を伝えたいと願ったろうから。

 

だから俺はこの目の前の女の子のお願いを…

 

叶えてやりたいと……そう思ったんだ。




投稿。

今回はアリサの出番なし。

最近、プロジェクトクロスゾーンをやってるんだけど…。

ゴッドイーターのキャラにアリサってキャラがいるんだが、

そのせいか、耕二&アリサのユニットを妄想してしまう。

2人が連携して攻撃したらこんな感じかなぁ~。みたいな。


まぁ、雑談はさておき本題に戻る。

今回から冒険してみる。

活動報告でもぼやいたが、いくつか考えたプロットの中で一番破天荒なもので話を進めてみた。

どうなるのかは俺にも分からない。

後を付けていた二人のうち、1人は新キャラ。もう1人は既にチラッと登場しているキャラだったりする。

分かった人はすごい。



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第16話

作者的にもどうしてこうなった回。

予め言っておこう。

リトルバスターズに感化された訳じゃない。

どちらかというと超平和バスターズに感化された。


どうしてこうなった……

 

もはやテンプレと化してきているが、許してほしい。

 

俺だって不本意なんだ。

 

だがしかし……

 

「よし、では『アリシアちゃん、お母さんを探す団』の結成を此処に宣言する!」

 

【わぁ~~♪ありがとー】

 

「えへへ♪面白くなりそうだねぇ~♪」

 

小学生らしく秘密基地と銘打った廃ビルに集まる5人の少年少女たち。

 

握り拳を振り上げ、堂々と甲高い声で宣言をしたのは茶色いショートカットの十人居れば十人が美少女と断定するであろう少年。そう、少年なのだ。

 

見た目は完全に美少女の癖に…だが、男なのだ。

 

名を相川歩という。

 

別にゾンビでも魔装少女でもクソ虫でもない。隣のクラスの男の娘。

 

まぁ、両親の名前を聞いたが彼の息子という訳では無いようだが…

 

けど、絶対に親戚か何かだろ!!

 

そんな少年に拍手をしながらお礼を言うのは、幽霊少女。

 

アリシア・テスタロッサ。団結成のきっかけとなった少女である。

 

そして、楽しそうに買ってきたお菓子を食べているのは、我が不詳の義妹である。

 

HGS患者。所謂…超能力者であるアリス・C・クロフォード。

 

そして、ちょっと離れた位置。というか我関せずで俺の事を冷たい視線で見るのは、

 

アリサ・R・ヴァルド。

 

現時点で天才デバイスマイスターの片鱗を見せており、

戦闘面でも俺の相棒と呼べる存在である。

 

そして…

 

大魔王様の魔力とドラクエの呪文全て。なんちゃって日門草薙流、そして最近はミッド式魔法も

齧り始めた。魔法剣士槙原耕二。

 

以上の五名が此処に集いし少年少女である……。

 

すずかちゃんはこの場には居ない。

 

というか、段々疎遠になりつつある……。

 

まぁ、塾とかで忙しいとか……すずかちゃんまでこっちきたら、バニングスが完全に孤立しちゃうとか

問題があるからかもしれないが。

 

それらしい人を見かけたら連絡すると、ごめんね?と謝りながら告げられた時は固まってしまった。

 

まぁ、アリシアは未だにすずかちゃん家にいるんだけど…。

 

最初は俺に付いてこようとしてたんだけど、断ったのだ。

 

うちの寮には退魔師が居るから。

 

まぁ、那美さんがアリシアにどうこうするとは思ってない。だけどなぁ。

 

万が一、薫さんに見つかったらなぁ。

 

……いや、流石に薫さんもこんな小さい女の子相手に十六夜は抜かないと思うけど……。

 

……抜かないよね?

 

っと、そんな感じで今一つ不安だったので、丁重にお断りした。

 

街中での単独行動も避けるように注意した。

 

まぁ、本人はぶーたれてたが。

 

 

さて…いつまでも現実逃避してないで話を戻そう。

 

つか、此処にいる面子はなんだよ!!

 

まともな人間、相川しか居ねーし!!

 

いや、まともじゃないかもしれないが。

 

ダモーレでステータスを探れば分かるが、怖くて試していない。

 

だが、それよりも怖いアリサさんの冷たい視線。

 

声に出さなくても分かる。どういうこと?っと視線で訴えかけて来ている。

 

取りあえず、アリシアが学校に着てから、すずかちゃんの家に行った件までを説明し…

 

すずかちゃんの家の辺りで視線がさらに強まり、陽気な春の気候なのにも関わらず、凍てつく身体に震えながら、続きを語り始める。

 

つか、此処からは俺もよく分からないんだ。

 

簡単に言えば、アリシアの姿が見える相川と義妹の二人が頼んでもいないのに妙な正義感を発揮し、ずけずけと首を突っ込んできた。それだけなんだが。

 

流れ的にはすずかちゃんの家に行った日。

 

俺と一緒に帰ろうと思っていた義妹。そして偶々、下校時義妹と一緒のクラスの相川が義妹を発見。

 

当たり障りなく帰りの挨拶をしようとした所で、俺の後ろをふわふわと浮かんでいるアリシアを発見し、

興味本位に後を付け、すずかちゃんの家に着いたところで帰ればいいのに。

 

律儀に待ち続け。

 

んで、話を終えて帰宅する俺と見送りに来たアリシア、すずかちゃんの二人と遭遇し。

 

代表して俺に問い詰める義妹。

 

誤魔化そうとする俺。

 

姿が見える事に興奮し、アリシアがぺちゃくちゃと経緯を説明。

 

なし崩し的に、暗くなってきたので解散し…。

 

次の日の放課後。帰ろうとアリサと二人で校門を出たところで、義妹、相川、アリシアの襲撃に会って…

 

 

「今に至るわけですよ」

 

「あなたってつくづく色々な事に巻き込まれるわよね。」

 

「まぁ…な。否定はしない。でもさ…」

 

「?」

 

「お前の一件は巻き込まれて良かったよ。もし、あの場に俺が居なかったらと思うと…ぞっとする。」

 

あれだけはこの巻き込まれ体質に感謝だな。

 

「こ、耕二…///」

 

「て、照れるなよ。俺まで恥ずかしいじゃないか……///」

 

二人して顔を赤くして俯く。そこに…

 

 

「はいそこぉーー!!二人でイチャイチャしない!!」

 

割って入ったのは義妹。どうやら無視されていたのが気に食わなかったようだ。

 

その言葉に二人して咳払いをする。うぉ~~。なんだこれ?滅茶苦茶恥ずかしいんだが…

 

「それで、アリシアっていう子はそこに居るの?正直、幽霊なんて非科学的な物は信じられないけど…」

 

どうにか落ち着いたアリサが言う。ふむぅ…アリサには見えないようだ。

 

「アリサ。ちょっと俺と手を繋いでみろ」

 

俺の申し出にちょっと頬を赤く染めるアリサだが。言われるがままに差し出した俺の手を取って、しっかりと指と指を絡み合わせて手を繋ぐ…。って、あれ?

 

普通に手を繋ぐはずだったのだが…まさかの恋人繋ぎ…ま、まぁいい。重要なのはそこじゃない。

 

「高い霊力を持った人間と接触することで一時的に霊力が上がるってことがあるらしいんだ。さらに言えば、俺は見る事だけならソコソコの評価を貰ってるからな。その辺りの影響で…どう?此れで見えたりしない?」

 

「え、えぇ……見える。金髪の女の子…よね?」

 

「あぁ…これでアリサにも見えたな。まぁ、いちいち俺の手を握ってなきゃいけないっていうデメリットがあるが…」

 

俺の言葉にギュッと少しだけ握る力を込めて…

 

「私にはむしろメリットだわ…ずっと耕二の温度を感じてられるもの…」

 

微笑むアリサ。

 

思わず顔が赤くなる。そして…

 

「でもさぁ、その名前長すぎない?」

 

「そうかな~」

 

【そうだね~。私もうなんて名前だったか忘れちゃった♪】

 

残る三人はスルーすることにしたらしい。色々話し合っている。

 

今ならこっそり帰れるんじゃないかと若干、アリサの手を引きこそこそと出て行こうとした所で…

 

「よし、じゃぁお兄ちゃんは何がいいと思う?」

 

義妹に声を掛けられた。

 

ちっ、折角帰れると思ったのに。

 

此処で無理に返っても家で義妹が騒ぐのが目に見えている為、諦めて話に付き合う事にした。

 

しかし…

 

「何が?」

 

「この団の名前だよ。ちゃんと聞いてろよな」

 

俺の問いに答えたのは相川。

 

何やらご立腹のようだ。

 

「……なんたらバスターズとかでいいんじゃないか?」

 

取りあえず、記憶を遡り案を出して見る。

 

リトルバスターズとか…

 

幽霊も居るし超平和バスターズとか…そんな感じの名前で。

 

「バスターズ!なんかカッコいいな!えっと…アリシアちゃんのお母さんを探すバスターズ。略して…」

 

「アリシアバスターズだ!!」

 

おい…それは……。

 

「バスターズには倒す者達とか追い払う者達とか言う意味があるわ。和訳するならアリシアを倒す者達、アリシアを追い払う者達っていう感じになるのかしら」

 

アリサが解説する。

 

「う~ん。アリシアちゃんを筆頭とする倒す者達っていう風にも取れるんじゃないかな」

 

「それは駄目だ!不公平だ。う~ん。じゃぁ、略してアスターズにするか。ほら、メンバーの名前に

『あ』が付いてるし。」

 

あゆむ。

 

ありす。

 

ありしあ。

 

ありさ。

 

なるほどね…。まぁ、俺は…

 

こうじ。

 

ついてないんだが…

 

「もう、それでいいよ。」

 

ど~でもいい。

 

「よし、決まり。今日から俺たちはアスターズだ。それでだな。早速だけど幾つか決めなくちゃいけないことがある。」

 

場を仕切るのは相川。まぁ、俺とアリサ以外は盛り上がってるし、俺たちはそこまでノリ気じゃないから好きにすればいいけどねぇ…。

 

「それは、アスターズを率いるリーダーだ。」

 

「相川でいいじゃん…」

 

間一髪いれずツッコむ。だって、やりたそうにしてるし、既に仕切っているし。

 

本人も乗り気。別に反対する意見もないという事もあり、あっさりと決まった。

 

「よし、それじゃ俺がやるぞ。じゃ次だ。」

 

まだ何かあんの?そろそろ子連れにゃんこの再放送があるんだけど…

 

「団員たちの呼び名を決めたいと思う。槙原も言っていたが、相川とか…苗字じゃなんか違う。それに、アリシア、アリサ、アリス……紛らわしい名前が多いからな」

 

呼び名ねぇ…

 

「んじゃ、まずは俺から。何かある?」

 

相川が意見を募り…

 

「クソ虫…」

 

ぼそっと呟いたのはアリサ。

 

「ちょっ、それは悪口だから。それに俺、リーダーだよ?」

 

【あいちゃんとか?】

 

「なんか女の子っぽくて嫌だ」

 

「あ~いあいとか?」

 

「いや、むしろ名前よりも長くなってる上に…俺はおさ~るさん♪じゃね~♪」

 

歌ってるし、ノリノリじゃねぇか。

 

「じゃ、最後は槙原。何かまともな意見は?」

 

「……だんちょー。で」

 

俺の言葉に固まる相川……そして、ふるふると震えだす。

 

「いいな…それ」

 

気にったらしい…

 

「だんちょ♪」

 

ちょ。の部分を舌足らずな口調で言う義妹。不覚にもちょっと可愛いとか思ってしまった…

 

はっ、いかん。あれは、知佳さんではない!見た目だけ、見た目だけ。中身は女神と小娘だ……。

よし、落ち着いた。

 

【だんちょっ】

 

マネをしながらちょっとアレンジを加えるアリシア。残念だったな。二度目だそんなに可愛く感じない。

 

「だ、……団長」

 

恥ずかしいのだろう。ちょっと顔を赤らめつつぼそりというアリサ。やヴぁ、何この娘。ちょう可愛いんですけど…。

 

「俺は団長で決まり。じゃぁ、次は槙原だな」

 

俺?

 

「耕二は…耕二ね。今更変えられない。」

 

「う~ん、おにいちゃんはおにいちゃんだしなぁ~」

 

【じゃぁ、私も耕二って…呼び捨てで呼ぼうかなぁ】

 

「耕二か…普通に名前呼びだけど、反対意見は?」

 

「別にいいよ。それで。ただ、その理屈で行くと俺もアリサはアリサなんだよなぁ」

 

「私もそれで…むしろそれがいいわ」

 

即答するアリサ。変なあだ名を付けられるよりはいいのだろう。

 

「んじゃ、二人は耕二とアリサに決定っと。残るは……」

 

義妹とアリシア。

 

そういえば、義妹に関しては…義妹よ。って呼称してたっけな。流石にまずいよな…。

 

「じゃぁ、クロフォードから。アリスだから…アリなんてどうだ?」

 

なんだそのアクセント。まるで…

 

「中東の方に沢山そうな名前ね。」

 

アリサに同意。

 

「やだ。そんな可愛くないの…」

 

「ルイスとかキャロルとかはどう?」

 

「それって、アリスから来てるよな?」

 

ルイス・キャロル。不思議な国のアリスの著者である。

 

流石アリサと言うべきか……けど、小学生が知ってるのか?

 

【えっとねぇ……クロフォードだから…クロちゃんは?】

 

「クロ……。猫みたいで可愛いかも♪」

 

まぁ、猫の名前に割とあるしね。

 

「耕二は?なんか意見ないか?」

 

「クロでいいんじゃないか?本人が気に入ってるなら」

 

義妹はクロに決定。

 

「じゃぁ、最後にアリシアちゃん」

 

「そりゃ、もうミー君だろ。」

 

間一髪いれず答える。クロちゃんと言えば、ミー君。

 

【なんで!?それ男の子の愛称だよね?君が付いてるし】

 

「名前から考えようぜ?えっと~。アリとかは?」

 

提案する相川…じゃなくって、だんちょー。

 

つか一度やったボケ。みんなもうツッコまない。

 

だんちょー涙目……。まぁねぇ。ボケはスルーされるのが一番きついからねぇ。

 

アリシア・テスタロッサね……。

 

転生前のオタク脳から割り出せば…。

 

シア、テッサ、テスタってとこか

 

まぁ、個人的にテスタって聞くとエグゼビーストという声が脳内に聞こえてくるんだが…。

 

ソコソコやり込んだからなぁ。もはや不治の病になりつつある。

 

今後の事を考えれば、テスタロッサから取った名前じゃない方が良いか。

 

フェイトが来るかもしれんし。

 

まぁ、そのころにアリシアが居るっていう保証もないんだけど…。

 

となると…

 

「シアになるのかなぁ…」

 

「シア……シアちゃん…うん。なんか響きがいい。」

 

俺の呟きに反応するのは義妹もといクロ。

 

【シア……えへへ、そんなあだ名で呼ばれるの初めてだよ。】

 

どうやら、納得したようだ。

 

「よし、みんなの呼び名も決まった事だし、此処に改めて…アスターズ結成の宣言をする!!」

 

高らかに腕を振り上げて宣言するだんちょー。

 

アスターズ。後に管理局を震撼させる………かもしれない。集団が結成された。




一番破天荒なプロット。

今後どうなるか…俺にも分からない。

アリシアに友達を作ってあげたかったんだよぉ~~。


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第17話

お久しぶりです。

マジ恋、恋姫、オリジナルでネタが浮かんだのでそっちで色々妄想してて、投稿が遅れました。

いや、正確にはこの話は結構前にできてたんだけど、その次がね……。

フェイトとの絡みがね難しいんだ。

想定してたプロットでフェイトをどうやって原作とあまり差異なくできるか。

それを考えているうちに現実逃避してました。

では、つたない文章ですがどうぞ~


 

さて……どうするか。

 

アスターズ結成の翌日。俺は授業中に頭を悩ませていた。

 

シアのお母さん、プレシアさんが何処に居るかを俺は知っている。

 

問題はどうやってそこに行くかだ。

 

最終的に時の庭園から動かないプレシアさんと接触するには此方から赴く必要がある。

 

物語の序盤で時の庭園の座標を知っているのはフェイトとアルフの二人。

 

出来れば、管理局が出張ってくる前……。ゴタゴタする前に接触を図ってしまいたい。

 

一度でも時の庭園に行くことが出来れば、以降ルーラで行けるようになる。

 

ルーラ。瞬間移動呪文。

 

一度行ったことがある場所に一瞬で移動する呪文だ。

 

まぁ、俺が欲したドラクエ呪文が使えるようになりたいと思えるきっかけとなった呪文だ。

 

だが、一つの疑問点があった。

 

ルーラ。果たして別の世界にも行くことが出来るのかどうかだ。

 

ダイの大冒険だとルーラで普通に空を飛んでいるような描写が見られた。

 

だが、あれは仮に和名を付けるなら瞬間移動呪文ではなく、高速飛行呪文だ。

 

俺が使えるルーラはどうなのだろうと…。

 

アリサとドクター達の協力により、俺はルーラがどんな現象で移動しているのかを調べた。

 

結論から言えば、ルーラは時空間移動なのではないか?という結論が出た…。

 

その理由はルーラを唱えた瞬間、ある一定の速度に達すると完全に俺の姿が消え。

 

同時間に別の場所へと現れた事から、移動に一切時間が掛っていないのでそういう結論になった。

 

ボソンジャンプに近いかもしれない。まぁ、過去や未来には飛べず。同時間に別の場所へ移動する。

 

正に瞬間移動なわけだ。

 

ある一定の速度……時速88マイルに達した時に時空間移動が始まるので助走距離が必要。

 

開けた場所でしか使用できず、屋内で使用した場合はゲームの描写の通り頭をぶつける。

 

……やってないよ?頭ぶつけるんだよ?死んじゃうもん。

 

時速88マイルと聞いたときにはどこぞのデロリアンかよ……。と思わずツッコミを入れてしまったが。

 

とにかくそんな原理なので、別の管理外世界にある破邪の迷宮にもルーラで行ける訳なのだ。最初はドクターの知り合いに送って貰ったのだが。

 

 

こほん、思考を元に戻そう。

 

つまり俺が時の庭園に行くには現時点ではフェイト達のエスコートが必要になるのだ。

 

でもなぁ……。

 

正直、フェイト達にはあまり関わり合いたくない。

 

そりゃ、将来金髪巨乳美女ですよ?此処でフラグを立てとけばって気もちょっとはするよ?

 

でもなぁ。

 

仮にフェイトに事情を話し、まぁ信じてくれなくてもシアの名前を書いた手紙か何かをプレシアさんに渡して貰えば、次からは向こうから此処に連れてきなさい的な接触があるだろう。

 

でもなぁ、そうなるとシアとフェイトの対面が先になるんだよ。

 

まぁ、シアの姿がフェイトに見えるかどうかは分かんねーけど。

 

……駄目だ。シアがどういう反応するか想像つかん。

 

つか、他家の事情に首を突っ込みたくないんだよ。

 

唯でさえ、訳あり家庭なのに。

 

……ふむ、親戚?って事で通るかな……。もしくは妹とか。

 

シアが死んでからプレシアさんが産んだ子供だよ。見たいな……。

 

…駄目だな。どう説明しようとなんで俺が知ってるんだ?みたいな話になりそうだ。

 

まぁ、割とアホの子だからシア相手なら誤魔化せそうな気もするが。

 

 

シアとフェイトの接触は避けつつ、プレシアさんに会わせる方法か……。

 

ん?待てよ。つか、俺は馬鹿か?

 

シアを連れて行かないで最初に俺だけで時の庭園に行って、その後にフェイトが居ない隙にシアを会せれば良いんじゃないか?

 

此れならスマートにシアをお母さんに会わせてやれる。

 

その後の事は、シアが会ってどうしたいのか分からないから。成り行きに任せよう。

 

当初の目的は達したことだし。

 

もし、生き返ることをシアが望んだなら……。

 

俺には望みが叶えられるかもしれない呪文がある。

 

ザオリク。死者蘇生呪文。

 

まぁ、シアの肉体の状態とか。他にも幾つか懸念事項はあるけど……。

 

いいや。選択肢はシアに委ねよう。

 

まだ、関わってから日数はあまり経っていないが…情が移りつつある。

 

あいつの声……水樹さんだったしなぁ~~。

 

暫くしてから気が付いてテンションが上がったのを覚えてる。

 

転生前の記憶を掘り起して、幾つか曲を譜面におこしてみよう。

 

転生前はギター弾けたし俺が曲を弾いてあいつに歌わせるんだ。

 

曲とか歌詞はそんな完全に覚えていないから、オリジナルとは違ったものになるけど……。

 

そんで歌が上手かったら、ゆうひさんの伝手でCSSに放り込むのも面白いかもしれない。

 

それに……

 

「俺もアスターズだしな……」

 

取りあえず、俺の行動方針は決まった。まずは手紙を書くか……。

 

女の子が良く手紙のやり取りをやってるし、すずかちゃんなら持ってるかな。

 

俺はすずかちゃんにレターセットを分けてもらう事にし、まずは自分のノートで文面を考え始めた。

 

ふむ……。

 

初対面の相手に何を書けばいいんだろう?

 

 

 

放課後、俺達アスターズは皆で示し合わせて下校していた。

 

俺の右手にはアリサの五本の指が絡まっている。

 

所謂…恋人繋ぎである。

 

理由はこうしないとシアが見えないからだそうだ。

 

アリサがアスターズに参加している動機が良く分からなかったんだが、もしかして…これか?

 

止めよ。聞いたら恥ずかしい返事が返ってきそうだ。

 

「さて、今日から本格的にシアのお母さんを探す事にしよう。その方法だが…」

 

「写真とか無いのが残念だよねぇ~。取りあえずシアちゃんに似た人を探すしかないんじゃないかなぁ~」

 

「それなのだけど……。前に彼女に…シアによく似た人を町で見たことあるわよ」

 

俺の右手を握りながら、指でつっついたりと遊んでいたアリサが目撃証言を挙げた。

 

「なっ!?本当か!?」

 

「えぇ。今思えば…似てるというか瓜二つね。シア…あなた双子の姉妹とかいる?」

 

【ううん。いないよ?あ、でもねぇ~。お母さんに誕生日プレゼントに妹が欲しいってお願いしたから…もしかしたら妹が生まれたのかもしれない……。うわぁ~。どうしよ~~。私お姉ちゃんだよ!?】

 

はしゃぐな。気が早い。まだお前の妹とは……ってか、十中八九フェイトだよなぁ~。

 

つかこの反応なら会わせても問題ないのか?でもなぁ、話がしたいとか言われそうだし、フェイトは完全にシアを知らない訳だし。

 

いいや、当初の予定通りにとりあえずはシアとプレシアさんを会わせて、後はプレシアさんに丸投げしよう。

 

「よし、それじゃぁアリサの証言を参考に町を散策するぞ。さて、何かほかに意見はあるか?」

 

「あ、いっこいいか?」

 

「なんだ?」

 

「とりあえず鞄置きに一旦帰らねぇ?」

 

そう提案して、とりあえず解散する。

 

シアは取りあえず、すずかちゃんの家に一旦戻ると飛んで行く。

 

それを見届け……

 

 

「んで、何だよ耕二」

 

メールでシアを除くアスターズの面々を呼び出した。

 

「シアのお母さん探しの件なんだけどさ。俺に任せてくれないか?少し心当たりがあるんだ」

 

「心当たりがあるなら先に言ってよ~」

 

「悪いな、ちょっとシアには内緒にしときたかったんだ。ちょっとクロは後で手伝ってくれ」

 

膨れるクロをあやしつつ謝る。

 

「シアに知られたらまずい事なのか?」

 

「あぁ。もっと言うとシアといきなり接触させるのが拙いと言ったところか……その理由はアリサならなんとなく分かるだろ?」

 

「なんとなくだけどね……。シアとお母さんを合わせた時に果たしてお母さんはどういう反応をするか。率直に言えば、シアだと信じて貰えるか。そういう事でしょ?あなたが気にしているのは」

 

流石はアリサ。年齢詐称疑惑のある天才少女だ。

 

まぁ本当の意図は違うのだが、そういう懸念事項も確かに存在する。

 

「なんでだ?アリサはあっさり信じたじゃないか?お母さんもシアの姿を見せれば信じてくれるんじゃ…」

 

「馬鹿ね。私と耕二は以前から親しいお付き合いを続けてきた。対して私たちとシアのお母さんは面識なし。お母さんが見ず知らずの私たちがいきなりシアの姿を見せたとしても信じない可能性の方が高いでしょう?」

 

アリサから冷静な指摘が入る。つか親しいお付き合いって……わざとか?わざとそういう風な言い回しをしているのか?それとも俺が自意識過剰で気にし過ぎているのか?

 

「ま、まぁ。そういう事だ。シアもやっとお母さんに会えたのに否定されたんじゃ……悲しんじゃうだろ?だからまず心当たりのある俺が話をしてみるよ。ある程度仲良くなるまで。それまでみんなにはシアの事を頼みたいんだ」

 

「シアの事?」

 

「あぁ。何でも今までアイツには友達らしい友達が居なかったらしいんだ。だからみんなにはあいつと遊んでやってほしい」

 

下手にフェイトと関わると色々危ないしな。ジュエルシード関連で…

 

つっても、アリサもクロも自分の身は守れるだろうし、シアはそもそも物理攻撃が効かない……。

 

あれ?問題なのはだんちょーだけ?

 

まぁいい。取りあえず了承を取った。

 

みんながシアの気を惹いているうちに俺は行動を起こす事にする。

手順としては

 

①フェイトと接触。プレシアさんに対して手紙を渡してもらえるよう頼む。

 

警戒されるだろうが手紙くらいは……大丈夫だよね?

 

②手紙にはシアを匂わせる文面を書き、プレシアの興味を引く。

 

そうすれば…向こうから接触してくる……はず。

 

③プレシアさんとのご対面。俺がシアの事を知っているという点を武器に幽霊について説明。シアとの対面の段取りを取る。

 

……いきなり雷とかは来ないよね?

 

④シアを連れ行く。アスターズの面々は連れ行かずこっそりとシアだけ。

 

後で恨まれるだろうが…一般人には危険すぎる……つか、だんちょーが。

 

概ねこんなところか?幾つか懸念事項はあるが此れで行こう。

 

となるとまずはフェイトと接触しなけりゃ話にならないんだけど……。

 

まぁそれには案がある。

 

これぞ人海戦術……。いや、人海じゃないが…。

 

 

 

 

 

あの後再び再集結したアスターズの面々はお母さんを探すという目的そっちのけで鬼ごっこをして遊ぶ事になった。

 

まぁ、俺の頼みを聞いたから強引に予定が変更となった訳だけど。

 

唐突なだんちょーの鬼ごっこしよーぜ!の宣言に普通にシアが乗ったから凄い。

 

子供だからか?天然だからか?いずれにせよ、助かった。流石はだんちょー。

 

そして、解散したその日の夜。俺は早速動き出す。

 

 

「んぁ?なんだ二人揃って」

 

クロ伴なって訪れたのはさざなみ寮の真雪さんの部屋。

 

「ちょっと、人探しをしてて。真雪さんにある人物の絵を書いて貰いたいんだ…」

 

「あぁ?めんどくせー。あたしゃ忙し…「もちろんタダとは言いませんよ」」

 

ドンッと後ろ手に持っていた物を差し出す。その瞬間、くわっと真雪さんの目が見開いた。

 

「これは……あの名酒、褒め殺しじゃねーか!!こんなもんどっから」

 

「さっきちょっと行って買ってきました。」

 

東北の方まで。

 

ステルスで姿を消し、トベルーラで移動。モシャスで父さんに変身し買い物。そしてルーラで帰宅する。

 

以上の工程でちょっと買ってきたわけだ。

 

「……分かった。商談成立だ。んで、何を描けばいいんだ?」

 

「あ、それは……クロ。頼む」

 

「うん」

 

クロが6枚3対の白い羽のようなリアーフィンを展開する。

 

そして行うのはプロジェクション。リーディングとは逆の能力。

 

これにより、真雪さんに伝えて欲しいのはシアの情報。

 

「了~解。この娘を描けばいいんだな?」

 

ちょっと待ってろと作業を開始し。

 

流れるような作業で瞬く間に仕上げていく。しかもそのクオリティは高い。

 

流石プロ。

 

クロもほへぇ~と言った感じで驚いているようだ。

 

「ほれ、できたっと。」

 

出来上がった絵をお礼を言いながら受け取る。おぉ、フルカラー。

 

するとニヤニヤと真雪さんは嫌な笑みを浮かべ……。

 

「んでこーじ?浮気は駄目だぞ?」

 

とからかってくる。

 

「詮索は無用で。からかうのも止めてよ。それ、没収するよ」

 

絵が出来てしまえばこっちの物だもの。買ってきた酒に手を伸ばすふりをする。

 

慌ててそれを庇う真雪さんの隙を付いて早々に部屋から脱出した。

 

代わりにクロを置いてきたのでそっちを構ってくれ。

 

さて、次はっと……。

 

俺は完成した絵を持って、さざなみの破壊王こと美緒の部屋に向かうのだった。

 

 

 

 

夜も更けたさざなみ寮。

 

その裏山にてとある集会が行われていた。

 

なぁ~ご。

 

にゃ~。

 

其処に居たのは猫の群れ。

 

その数、数十匹。

 

海鳴市のあらゆる所から野良、飼い猫問わずに集う猫たち。

 

そして猫一同が見つめる視線の先に居るのはこの集会を仕切る2人と1匹。

 

海鳴市猫番格序列1位 陣内美緒

 

海鳴市…いや、噂では2つ隣までの市の猫を従えるトップである猫娘。

 

海鳴市猫番格序列2位 次郎

 

事実上純粋な猫である次郎こそが本当のトップかもしれない。

 

トップの座を美緒に譲るもその信頼は厚く……。俺でさえも尊敬に値する渋さと大人の風格を時々見せるイカス猫である。

過去、薫さんが寮生だったころからさざなみ寮に現れており、老いなどが全く見えない事から、一部では妖怪化したのでは?という疑惑すらある。

 

そして…

 

海鳴市猫番格序列3位 槙原耕二

 

何時の間にか三番手に収まってしまったのが俺である。

 

美緒と共に猫と遊んでおり、また久遠をいじめている猫に対して大人げなくも魔力なんぞを使用し、無双を誇った事から何時の間にかこの地位になっていた。

 

当初、集った猫一同が一斉に服従のポーズを見せたのはシュールな光景だったな……。

 

そんなちょっと過去の事を思い出している間になになら集会は進行している模様…。

 

 

 

「何?ブチが?」

 

『姉御。最近うちらのシマを荒らしている新参者の野良猫にやられっちまったようで…』

 

騒然とする会場。だが…

 

『静かにしねぇか……。』

 

次郎の一括が入り、静まり返る。

 

「そ、それでブチは?」

 

『ご母堂の所に運んで診て貰いやした。命にゃ別状はありやせん。』

 

その言葉にホッとする空気が流れる。しかし…

 

『許せねぇ。よくもブチの兄貴を…』

 

『いっちょ〆ましょうや!!』

 

怒りが再燃し、またもや騒然とする集会場。それを鎮めるのもやはり…

 

『騒ぐな……。原因も分かっちゃいねぇんだ。感情的に動くんじゃねぇ…』

 

怒鳴った訳では無い…だが威圧感のある一声で場が静まる。

 

『美緒嬢。この件は預からして貰いたい……』

 

「次郎?」

 

『事の発端をきちんと調べて……。もし相手に非があるようなら……』

 

一瞬温度が下がり、体が重くなった気がする。

 

その発生源たる一匹の猫は……

 

『きっちりと…落とし前は付けるんで』

 

そう静かに告げた。

 

 

うむ、場の空気と美緒の反応から勝手に猫の台詞を付けてみたがこんなやり取りが行われているに違いない。

 

次郎かっけー。

 

ちなみに俺は当然猫の言ってることなんて分からない。にゃーとなーとか鳴いているようにしか聞こえない。

 

何時もなら特別顧問として俺の横には通訳の久遠が居てくれるので俺もある程度の発言は出来るのだが…

 

っていっても完全に人間である俺は猫の社会には殆ど首を突っ込まないようにしている。

 

「それじゃ、その件は次郎に任せる。後は耕二からみんなに頼みがあるそうなのだ。」

 

美緒が取り出したのは真雪さんにお願いした絵。

 

「この人間を見かけたら教えて欲しい。あたしと耕二は学校で居ないから…次郎これもお願いしてよい?」

 

『耕二の坊ちゃんに伝えるだけならば特に問題はない。』

 

「という事なので、見かけたら次郎に……ん?どうしたのだ?確かお前たちは…」

 

締めようとした所で絵を覗き込んでいた猫の一団が声を挙げる。

 

「耕二、月村の家の猫たちがこの人間は自分たちの家に居ると言っているのだ」

 

あ~あ~。シアの事か。あれ、君たち見えるんだ?

 

「あぁ、それ別人。そっくりだけど探しているのはまた別の奴」

 

「見分けがつかないのだ」

 

「それは大丈夫。取りあえずこの絵の人間を見かけた場所を教えてくれれば」

 

これだとシアの目撃情報も集まるだろうけど、あいつの行動は推測できる。

 

俺達かすずかちゃんと一緒に居る事が殆どだからな。

 

フェイトはジュエルシードを探してあちこち歩き回っているはず。だが、当然寝食を行っている家がある。

 

目撃情報からシアの行動範囲で見かけられたものを除き、なおかつ何日かで目撃情報が集中している場所の付近にフェイトが住んでいる可能性が高い。

 

「当然、報酬は出そう。無事、見つけられた暁には此処に居る皆すべてに…」

 

「KAL ○ANを振舞おうではないか!!」

 

高らかに宣言する。すると…キュピンっと一斉に猫の目が光った気がした。

 

猫たちの士気が上がる。おぉ、流石はカル○ン。ねこまっしぐら。

 

さて、此れで準備は整った。

 

フェイト…何処に居るのかは分からんが……直ぐに見つけ出してやる。




ぬこ登場。

リトバスに影響を受けたことは否定しない。

だが、さざなみ寮に居れば猫もいるから丁度いいや~って感じで。

ってかフェイトどうしよう。フェイト…。

なぜかフェイトとの絡みを考えているとシグナムとの絡みに関してのネタばっかり浮かんできて……。

正直、早くASが書きたいんだが……。


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第18話

待っている人が居たらですがお待たせしました。

かなり急展開かも…うん。わかってるよそれは。

私の実力ではこれが限界。



あ、あと気晴らしに始めた新連載。

ペディグリーの方も興味があったらよろしくお願いします。

と、葉虎は葉虎は露骨に宣伝してみたり。




 

【お母さん探しなんだけど…耕二君がやってくれてるって聞いたんだけど…】

 

《あぁ。腕利きに頼んだから情報は直ぐに集まる。ちょっと待っててくれ》

 

授業中。話しかけてきたシアに対して念話で応じる。

 

正直、この念話は結構神経を使う。

 

ちらりとなのはちゃんの様子を伺えば特に気にした様子はない。

 

まだ未熟だからかは分からないが、これなら気が付かれる心配はなさそうだ。

 

 

 

猫たちが情報を集めてくるまで取りあえず手が空いた。

 

なので、俺は放課後にアスターズの面々たちといつも通りの廃ビルで遊んでいたんだが…

 

目の前にはとんでもない現象が巻き起こっていた。

 

「あ、ありえない。ありえないわ……。」

 

アリサがガタガタと震え、俺にしがみ付いてくる。

 

こうしないと自我が保てないのだろう。気持ちは分かる。

 

【もきゅ♪もきゅ♪】

 

目の前には、金髪の美少女がお菓子を口いっぱいに頬張っているというむしろ愛らしい光景……。

 

正し、件の少女がふわふわと浮いていなければだが……。

 

もちろんその少女とはアリシアことシアである。

 

事の発端は、クロがお菓子を持ってきた事に始まる。

 

俺やアリサはシアの事を配慮し、食べ物等の持ち込みは避けていた。

 

十六夜さんや御架月など通常幽霊は物を食べる事は出来ないからだ。

 

だが…

 

俺達との接触か、はたまた俺が霊的デコピンで刺激を与えたからか…。

 

物体に干渉できなかったシアは物に触れるようになり。

 

物が食べられるようになった。

 

「大体、食べた食物は何処にいってるの?それに…」

 

ブツブツとアリサが唱え始まる。

 

今は俺に触れているからシアを視認できるから違和感はさほどないが、手を離せば食べ物が宙に浮き、消えていくように見えるらしい。

 

ホラーだ。

 

薫さんが見たら卒倒するか、動揺して十六夜さんを抜きに掛るかもしれない。

 

ちなみに何でも触れるかと言ったらそうでもないらしい。

 

実際には今食べてるお菓子も、クロに食べてよいか了解を取ったら食べられるようになった。

 

ちょっと試してみたところ、シアの為に用意したり、シアに譲渡使用した物は触れる事が出来るようで、シア個人で勝手に物に触れたりは出来ないようだ。

 

意味が分からん。

 

とりあえず考える事を放棄した。考えても分からない事はわからん。

 

【あ~。美味しかったぁ~。ありがとうね、クロちゃん】

 

「いいよ別に~。次はもっと美味しい物を持ってくるね。」

 

キャッキャッ、うふふ。してる金髪美少女二人を見てるとどうでも良いことに思えてきた。

 

「なぁ、なぁ。耕二、ヒトカゲだとカスミが倒せないんだ…」

 

そんな二人を尻目にマイペースにゲームを続けるだんちょ~。

 

うん。とりあえず、トキワの森でピカチュウ捕まえてくれば?

 

今日もアスターズは平和だった。

 

 

 

猫たちに捜索依頼を出してから三日。

 

猫たちの証言を次郎がまとめ久遠経由で伝えてくれた情報によれば、日中は街中で様子を見られることが多い。

 

ただ、街中と言っても一か所に集中している訳では無く散っている。恐らく捜索をしているのだろう。

 

なので街中で会える可能性は低い。だが…。

 

夕方以降。とあるマンションとコンビニ付近での目撃証言が此処三日で集中している。

 

これは恐らく……。

 

ふむ、帰りに報酬を買って帰らなきゃだな。

 

流石、いい仕事をしてくれる……。

 

 

さて、次の問題はどうやって接触するかだ。

 

手紙は準備してある。

 

最初はネタ的に大きく『来い』とだけ書いてみた。

 

流石に無いなと即却下したが、その後に色々試行錯誤し七転八倒し、最終的に面倒くさ……妥協して、完成した渾身の一筆。

 

後は此れをプレシアさんに渡すようフェイトにお願いするだけなのだが。

 

取りあえずプレシアさんはアリシアという言葉をキーにすれば釣れるだろう。

 

なんせ娘の情報を持った人物だ。怪しくても接触を持とうとするだろう。

 

問題はフェイトにどうやってお願いするかだ。

 

いきなり出て行ってこれをお母さんに渡してくれるかな?

 

……怪しすぎるだろ。

 

俺だったら間違いなく警戒する。何だこいつは?みたいな感じで…

 

まぁ、でもさどうやっても結局は怪しんだけどね。

 

原作を見た感じだと盲目的にお母さんを信じている感じがしたから、プレシアさんで釣れるか?

 

「なるようになるか…」

 

 

 

 

学校帰りに荷物を置いて家を出る。

 

目指すはフェイトが住んでいると思しきマンションだ。

 

「まだ残ってたんだな……これ」

 

コンビニ買ったでおでんを食べつつフェイトを待つ。

 

その周りを猫たちがわらわらと寄ってきたので、冷ましたちくわをおすそ分けしつつ待つ。

 

おでんを食べ終わり、暇つぶしに持ってきた携帯ゲーム機を適当にプレイしつつ、さらに待つ。

 

結局その日、日が沈みかける頃、大きな犬を連れた目当ての金髪の少女が現れた。

 

「こんにちは」

 

取りあえず当たり障りのない言葉で声を掛ける。

 

「こ、こんにちは」

 

若干、どもりながらも挨拶は返してくれた。

 

「驚かせてごめんね。ちょっと聞きたいことがあるんだけど…君、テスタロッサさんだよね?」

 

その言葉に…

 

「あんた何者だい!?」

 

反応したのはフェイトの隣にいた犬。

 

アルフだった。ってか安易に喋るなよ。

 

警戒を見せ身構えるフェイトとそれを庇うようにして唸り声をあげるアルフ。

 

そんな二人に俺は両手を挙げて…

 

「あ~~信じて貰えないかもしれないけど怪しい者じゃないんだ。っと自己紹介がまだだったね、俺は槙原耕二。君のお母さんの知り合いの…知り合いってとこかな。」

 

嘘は言っていない。

 

 

「母さんの?」

 

「うん。でね、用件なんだけど」

 

挙げていた手を降ろし、ポケットから手紙を取り出す。

 

「これを君のお母さん。プレシアさんに渡してほしいんだ。」

 

両手を挙げ、敵意がない事を威嚇するアルフにアピールしつつ、そっと手紙を手渡してザッと距離を取る。

 

フェイトは手渡された紙を四方八方から眺め何やら確認をしている。

 

カミソリでも仕込んでいるとか疑われているのだろうか?

 

まぁいい。

 

目的は果たした…後は去るだけだ。

 

無いとは思うが手紙を付き返されても困るしな……。

 

そう考え、俺は振り返る事無く足早に場を後にした。

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった……」

 

破壊された数多の機械。

 

その中で、全身を焦げ焦げにした三人……正確には二人と一匹の介抱をしながら、俺は1人そう呟いた。

 

事の起こりはフェイトからのアプローチがあった事だ。

 

どうやら無事手紙をプレシアさんに渡してくれたらしく、直ぐに会いたいという旨の連絡が俺のデバイスに入ったのだ。

 

んで、示し合わせて時の庭園にやってきた。

 

今回は事情説明のみを行おうとアリシアは連れて来ていない。つか、アニメの通りなら連れてこない方が良いと思ったからだ…。

 

うろ覚えだが、いかにも魔女とかそんな服装をしていた気がする。パッと見はコスプレ。

しかも若干、狂気じみていた。

 

対してアリシアの記憶では、エプロンの似合う優しいお母さん。…まぁ、普通のお母さんの恰好をしていただろう。

 

しかも住んでいるのは陰気くさい白の中。部屋も研究機材などが乱雑に散らかっている暗い場所。

 

自分に置き換えてみよう。

 

久しぶりに会った自分の母親が狂気じみた魔女のコスプレで、一人で訳が分からない機械が乱雑している暗い部屋で高笑いをしていたら……。

 

出来る事なら他人のふり。まぁ、実際にはどうリアクションしていいのか困り、凍りつく自信がある。

 

母親の方もそんな姿を最愛の娘に見られて見ろ……。

 

うん。今後の親子関係がギクシャクするだろう。きっと何年たってもふとしたことで思いだし、ベットの門辺りに頭を打ち付ける黒歴史となるだろう。

 

つまり結果的には誰が得するの?状態になるわけだ。

 

そう考え、まずは話を通してからしかるべき恰好、しかるべき場所でシアと対面できるように段取りを整える事を提案することにした。

 

念の為、転移魔法にて時の庭園に到着後にアタックカンタとマホカンタを掛けておいた。

いきなり攻撃されることを考慮してだ。

 

思えば、これがすべての原因だった。

 

フェイトに案内され、対面したプレシアさんの恰好はやはりというか、黒と紫の暗いローブ?にマント?なんて表現すればいいんだろう。イメージ的には悪い魔女みたいな出で立ちだった。

 

そんな彼女は、案内してきたフェイトに労いの言葉一つ掛けず、煩わしそうに退室を促し、フェイトが退室した所で……。

 

「で、あなたがこの手紙をくれた子かしら?」

 

「えぇ、初めまして。槙原耕二です」

 

内心ドキドキだ。怖ぇえよ。この人。

 

噛まずにスラッと返事が出来た自分を自画自賛したい。

 

「それで、この手紙にはアリシアが幽霊で私に会いたがっているとか…ふざけた事が書かれていたけれど…」

 

お、怒ってるよ。

 

なんかバチバチ言ってるんですけど……。

 

おかしいな、簡潔にアリシアが幽霊で会いたがっている旨を記しただけなのだが…。

 

「そ、それは事実です。で、ですが今の状態で会せるこ……」

 

そこで話し終わる前にプレシアさんから雷撃が放たれた。

 

威嚇のつもりだったのだろうか?にしては威力は大きいその魔法は、俺に触れる直前に、軌跡を遡るようにプレシアさんに跳ね返り……。

 

直撃した。

 

ドサッっと倒れるプレシアさん。余りの唐突な出来事に固まっていると…

 

「か、母さん!」

「あっ、フェイト!?」

 

ドアの前で待機をしていたのだろうか?先ほどのやり取りで生じた轟音を聞き、フェイトとアルフが慌てた様子で入ってくる。

 

そして倒れているプレシアさんを発見し…

 

「よくも…母さんを…」

 

「えっ、ちょっと、待っ…」

 

母親と同様バチバチと電気を発生させ、デバイスに魔力を込めていくフェイト。その間、

 

「このぉお!!」

 

アルフが殴りかかってくる。

 

2人を落ち着かせようと声を掛けるも聞く耳持たず、アルフの打撃が俺に直撃したと思いきや、アルフの方が吹っ飛び…

 

「サンダースマッシャー!!」

 

遅れて飛んできたフェイトの魔法も、母親と同じ結末を辿って…。

 

フェイトの方に吹っ飛んでいたアルフを巻き添えにし、三人の焦げ焦げが誕生した。

 

《………お前様》

 

「………とりあえず、介抱するか」

 

様子を見ると死んではいないみたい。非殺傷設定という最低限の理性はあったらしい。

 

《…同じ過ちを繰り返さないように、相手を無力化する事を提案します。》

 

「それもそうだな」

 

起き上がった直後、また攻撃されては敵わない。

 

デバイスを取り上げて、三人にバインドを掛けた後、俺は治療を開始するのだった。




はやくASに入りたいなぁ~。

ネタ考えると最終的にシグナムとの絡みばっかり思いつく罠。

絡みやすいんだよ。

シグナムってとらハの薫さんが元になったキャラとか言われてたりするし、似通ってるとこあるし。

主人公はさざなみ寮…それも、真雪&リスティのコンビの影響を多大に受けておりまして…。

相性の良さは原作をやった人間ならなんとなく想像がつくと思う。


あ、余談ですが、リアルの友達にペンネームの事で葉虎(ようこ)と読まれていました。
実際の読みは葉虎(はとら)です。

なろうのペンネーム。久遠から久遠=妖狐=葉虎と思ってたそうで…

まぁ、実際にそう読めるからこの漢字にしたというのもありますが、実際の読みは、はとらでございまーす。


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第19話

どうも、毎度の事ながらスランプ気味の葉虎です。

来月から忙しくなりそうなので今のうちに書こうと思いきや、筆が進まない。進まない。

いちおうこれ含めて三話分ストックは書いたけど…なんかこうすっきりしないんですよね。

でも投稿しちゃう。だって、このままだとASにたどり着くのに何年かかるんだって感じだし。

この作品…女性キャラとの絡みが多いですが、あくまで方針はハーレム?させねぇよ。
でございます。

愛と癒しは別次元なんです。意味は多分この話を読めばわかります。


 

あの後、目をさまし暴れようとした三人をどうにか宥め、話を聞く状態までこぎつけた。

 

俺、頑張った。つか、もう疲れた。帰りたい。

 

そんな気持ちを抑えつつ、なんとか説明を行う。

 

フェイトやアルフも今回は退出せず、一緒に聞いてはいるが話の殆どを理解していないようだ。

 

アリシアって誰?状態。でも、空気が読めるいい娘なフェイトは口を挟まず、逆に空気が読めないアルフが割って入るのを阻止してくれている。

 

「…正直、信じられないわ。幽霊なんて非科学的な事は」

 

「まぁ、そうだろうね。俺も口で説明しただけじゃ信じて貰えないとは思うよ。だから、今度連れてくる事を約束する。だが、その前にアンタにはアリシアと会うための準備をして貰う。」

 

「準備?一体私に何をさせるつもり?」

 

怪訝そうに俺を見るプレシア。

 

「まずは…その服だ。」

 

そんなプレシアにビシッと告げる。俺の言葉の意味が分からずにいるプレシアに続けて言ってやる。

 

「その魔女だかなんだか分からないコスプレ衣装で会うつもりか?アリシアの精神年齢は死んだ時から成長していない。あいつにはなエプロンが似合う良い母親だったあんたの印象が残っているはずだ」

 

俺の言葉にハッとなり、自分の身なりを確認するプレシア。そしてさらに続ける。

 

「それにこの場所だ。暗い、辛気臭い、怖い。あんた、こんなラスボスの城みたいな場所で会うつもりか?」

 

そんなの互いに望まないだろう。

 

「ば、場所については問題ないはずよ?そうよね?フェイト」

 

「えっ、えっと……アルフ?」

 

「あたしたちが暮らしてた家かい?確かにあそこならまだ出てからそう立ってないし、少し掃除をすればどうにかなるとは思うけど…」

 

ふむ、話を聞くにこの城の中庭にはちゃんとした居住区があるらしい。そして庭園という名に恥じない程の立派な庭もあるとか…。

 

「ふ、服については…」

 

目線を逸らすプレシア。持ってないのだろうか?はぁ、いちおう準備しておいてよかった。

 

「ローズ。あれを…」

 

ローズに銘じて、空間モニターを出現させ、それをプレシアの方に飛ばす。

 

「これは?」

 

「うちらの世界の服のカタログ。好きなの選んで、それでバリアジャケットを作れば体裁は保てるだろう」

 

「……あなた天才?」

 

プレシアさんからそう言われるのはちょっと嬉しい。ま、まぁ、元々はアリサの案だけど。

 

「だから、フェイトちゃん。お母さんに来てほしい服をお願いすると良いよ」

 

「何故、フェイトに?」

 

「娘の意見は貴重だろ?求められるのは母性な訳だし。それに…」

 

あんたよりセンスがありそうだ。

 

その言葉はどうに呑み込んだ。

 

「……選んでみなさい」

 

俺の言う事に何かを思ったのだろうか?

 

プレシアさんは少し考えた後、フェイトにそう告げた。

 

「は、はい!」

 

プレシアさんに謂れて若干緊張気味に返事を返し、真剣に俺が渡したカタログを見ていく。

 

まるで、戦いに赴くような気合の入りようだ。

 

その後ろでハラハラと…まるで、はじめてのおつかいを見守る母親のようなアルフの姿が印象的だった。

 

そして…選ばれた服を見て、俺は戦慄する。

 

……黒って…

 

黒一色って……。

 

しかも純然たる黒。色が混じっているとかじゃない…真っ黒黒なのだ。

 

まぁ、対面するのが幽霊だからって……喪服じゃないんだから。

 

結局…

 

最終的にアルフが選んだ服が一番センスがあった。

 

……彼女もともと狼ですよね?

 

 

 

プレシアさんに明日にでもアリシアに会わせる事を約束し、家に帰ってきた。

 

帰ってきたのは良いけど…

 

「なんで居るのさ?」

 

「見張り。逃げるかもしれないからって…母さんが」

 

フェイトちゃんが着いてきた。

 

逃げねぇよ。態々何しに会いに行ったか分からんだろ。

 

アルフは居ない。急ピッチでお掃除をしているからだ。

 

フェイトと別れるのですんごい反対していたが、プレシアさん→フェイトちゃん→アルフ。

の流れで命令されて、渋々…もう本当に渋々残った。

 

「あ~…まさか泊まって行くつもりだったりする?」

 

「み、見張り…」

 

いや、答えになってないし…何故裾を掴む?

 

はぁ~っと溜息を吐く。別に一日くらい幼女を泊めるくらいなんでもない。

 

場所がさざなみ寮でなければ。

 

こりゃまた、宴会かなと今後の展開を予想しつつ。

 

寮の中に入る。

 

「ただいま…」

 

「おう、耕二。おかえ…り?」

 

疑問形で出迎えてくれたのは真雪さんだった…。ちっ、また面倒な人に。

 

まぁ、結局は早いか遅いかの違いなんだが…

 

真雪さんの目線は完全に俺の背後…フェイトちゃんに注がれている。

 

そして…ニヤリと嫌な笑みを浮かべると…

 

「この間の絵の娘か……。けけけ、耕二…もう持ち帰りとはやるじゃねぇか」

 

「あぁ、ついでに泊まるんで」

 

さらっと動じることなく告げる。からかいモードの真雪さんと義姉さんと接するコツは動揺しない事。

 

リアクションをすればするほどからかわれる。

 

抜群のリアクションを返すせいで薫さんが恰好の獲物となっているのはその為だ。

 

この二人が絡まなければ、凛とした大人の魅力あふれる美女の薫さんなのだが…。

 

絡んだ途端にそれが崩れる。ある意味相性が良いのだろう。

 

俺も時々からかうサイドに回る事があったりする。

 

薫さんが…「真雪さんが三人に増えた」とぼやいていた。

 

少なからず影響は受けているらしい。恐るべし…魔窟さざなみ。

 

ちなみに、オリジナルの真雪さん、二号のリスティ義姉さん、俺で三人だ。

 

 

さて…

 

真雪さんはそのまま父さんに耕介が女連れて来たーだの、宴会だの言っている。

 

何時もの事なので…それを流しつつ…

 

「ようこそ…人外魔境さざなみ寮へ」

 

簡単に染まりそうな…純粋な少女を招き入れた。

 

 

 

 

 

「お、おい耕二?」

 

「なんすか?」

 

何故か恐る恐る声を掛けてきた義姉さんに答える。

 

夕食時当然の如く宴会となったさざなみ寮。

 

俺が連れてきた事もあり、宴会当初は隣に座っていたフェイトだったが、あっさりと連れて行かれ、根掘り葉掘り…矢次に質問されている。

 

テンパってる。テンパってる。そりゃそうだろうねぇ~。

 

俺との関係は?とか言われても、会って間もないし。

 

つか、そんな相手の家にお邪魔するとか…かなり勇気が要る行動だろう。

 

仕方がないので庇うようにして事情を説明する。

 

この子の落とし物を拾ったのはいいが、何処に居るか分からない。

 

んで、警察に言うよりも早そうだからと猫に探して貰ったと。

 

そして届けに行き、そこから仲良くなり、今日泊まりに来ることになったと。

 

フェイト…まぁ、実際にはシアなんだが…を探していたことは協力を要請した真雪さんや美緒などは知っていた為にでっち挙げた嘘だ。

 

まぁ、義姉さんとクロなんかには心を読まれて、嘘だと見抜かれているのだが…。

 

クロも、フェイトをみて大層驚いていた…シア!?とか叫ぶくらいには…

 

一応、シアの妹。ただし、姉が居る事は知らないという説明をしたうえで、シアの説明をするのも難しいので口裏を合わせて嘘に協力して貰っている。

 

いや、下手に幽霊の話を持ち出すとねぇ…。色々とね。

 

那美さんなら平気だとは思うけど、一応ね。

 

まぁ、いずれはクロにだけはフェイトがクローンであることを告げる事になるだろう。

 

義姉さん同様、嘘だってことはバレてるし。

 

まぁ、同じクローンのクロならうまくショックを受けたフェイトを慰めてくれるだろうし……。

 

……クロも明日一緒に連れて行った方が良いかな?

 

それでだめなら、フィリス義姉さんに丸投げしよう。

 

プロのカウンセラーだし、同じクローンだし。

 

シアもなぁ、自分のクローンが居ると知って、どう反応するだろうか?

 

……俺ならかなり複雑な気持ちになるが、あいつなら喜びそうな気がする。

 

こっちは義姉さんにフォローを頼むか?同じオリジナルだし。

 

でもなぁ、シアに義姉さんの悪影響受けて欲しくないんだよなぁ。

 

そんな事を考えていると、一先ず落ち着いた面々は料理に舌鼓を打ち始めた。

 

フェイトもすんごい挙動不審だったが、母さんに世話されて食事をしていたりする。

 

つか、母さんの可愛がり方が半端じゃない。

 

そしてフェイトもまんざらではなさそうだ。

 

母性力が高い母さんと、お母さんに愛されたいフェイト。

 

相性がいいのだろう。

 

それはいいんだ。それは…

 

問題は…

 

「寝取られた。俺の癒しが…」

 

久遠が…久遠がフェイトの膝の上で丸まっている。

 

あの久遠がである。

 

人見知りが激しく、初対面の相手には懐かない久遠がである。

 

「い、いや。寝取られたって…そもそも久遠は那美の…」

 

義姉さんがなんか言っているが、それどころではない。くそぉ…何故だ?

 

あれか?同じ金髪で電気タイプだし相性がいいのか?

 

いや…待てよ。

 

「これは…これでありかも…」

 

フェイト+久遠……うむ、よく見ればこの組み合わせも癒される。

 

今まで…俺が求めていた至高の癒しとは…

 

知佳さんの膝枕で寝て。

 

お腹の上には久遠が丸まっていて…

 

ゆうひさんの歌を聞きながら…

 

十六夜さんが側に寄りそう…

 

そう…それはまさに至高。

 

だが、実現は不可能だ。久遠しかいないし、この面子が一堂に会する機会などない。

 

 

 

ならば、実現可能な癒し空間を作ればよい。

 

アリサの膝枕で寝て…

 

お腹の上には久遠が丸まっていて…

 

シアの歌を聞きながら…

 

フェイトが側に寄りそう…

 

ふむ…これは此れで…。

 

アリサは偶に膝枕をしてくれることがあるが、正直まだ子供なので太ももの感触が今一つだ。まぁ、これは時が解決してくれるだろう。

この時、頭を軽く撫でてくれたりして…嫌いじゃなかったりする。

 

久遠は言わずもがな……那美さん俺にくれないかな…。

 

シアはゆうひさんに及ばないものの歌がかなり上手い。まぁ、中の人的には納得だ。

後は経験を積めば、ゆうひさんレベルまでいけるんじゃないだろうか?蘇生したらCSSを紹介してみようか。プレシアさんはマネージャーにして……。

 

そしてフェイトである。将来彼女は十六夜さんと同じくらいの癒しを与えてくれる女性になると思う。原作の姿から勝手に想像しているだけなのだが…。

 

 

しっかし、あれだな。こう見ると金髪だらけだな。別に金髪が好きって訳じゃないんだが、周りにいる人たちで癒し効果を持っているのが偶々金髪だっただけだ。

 

あれだよ?別にハーレムを目指そうとしているわけじゃないよ。むしろ恋愛感情は、こと癒しに至っては邪魔になるし、煩悩なんてものは入る余地がない。

 

修羅場なんて事になったら、癒しどころじゃないし。

 

ただ俺は摩耗した心を癒してほしいだけだ。ホイミでは癒せない心の疲れを。

 

……我ながら馬鹿な事を考えているな。と自己嫌悪しつつ、からあげを口に放り込む。

 

まぁ、実際にはアリサの膝枕か久遠と戯れるだけで十分だったりするのだが……。

 




癒し空間は目標とかではなく、ただの妄想です。

多分マイナスイオンが何それ?美味しいのってくらい癒されるはず。

すずかちゃんも癒し要素かなと思ったんだけど彼女にはおそらく欠点がある。

すずかちゃんは夜の一族である。

そして夜の一族には……発情期があるのだ!

エロスが入ってきたら……もうそれは癒しではないのだ。

つか発情期ぱねぇよ。特にとらハ1のさくらちゃんの発情期のエロさは異常。



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第20話

わーい。お気に入り数が5000を超えてるぅう。

みなさんご贔屓ありがとうございます。

葉虎的にもやったねグッ!って感じです!

さて、前回の更新で久遠に関する同志が一杯いたのが驚いた。

ぱねぇな久遠。

だが、同志諸君。久遠の所有権を主張する前に奴をどうにかしないと。

あの純潔(を奪った)悪魔…弥太を。

餌付けなんてしやがってこの野郎。

個人的に彼があんな風に殺された本当の理由は久遠の純潔を奪ったからに違いないと勝手に思っている。


 

「ふはは…あ~はっはっは!脆弱ぅ!貧弱ぅ!どうしたこの程度か!!」

 

騒音とそれに負けない程の笑い声が木霊する。

 

その声の主は…ギル様もどき。絶好調のようだ。

 

そして、地に付しているのは銀髪君。ピクリとも動かないが…やばいんじゃないだろうか?

 

俺の目の前には俺を背後に庇い護るようにしてバルディッシュを展開するフェイト。

 

臨戦態勢である。

 

うん……どうしてこうなった……。

 

 

まぁ、事は単純だ。

 

さざなみ寮の宴会がひと段落し、静寂が戻った夜…。

 

ジュエルシードの反応を感知したフェイトがさざなみ寮を飛び出したのだ。

 

もう集める必要な無いんじゃないかとも思うのだが…

 

もろもろをまだプレシアさんに伝えてないし、未だに集めているのだろう。

 

止せばいいのに好奇心に駆られて後を追う。走りながらもデバイスをセットアップ。藍色の着流しに、緋色と白で彩られた外套…夜間に目立つことこの上ない色合いのバリアジャケットを展開し、腰には刀…臨戦状態で現場に到着。冒頭に至る。

 

高笑いをする金髪君。十八番の王の財宝は展開していないようだ。その代りに手に見えるのはいつぞやの掃除機…あの銀髪君が使っていたデバイスを金髪君が使っている。

 

いや違う。正確には銀髪君の使っていたデバイスじゃない。あれは…

 

《あのデバイスから物凄い魔力が検出されています》

 

前回と違うのは回転するスクリューが青白い雷光を帯びており、それがデバイス全体を覆う感じになっている。

 

ちょっとカッコいい。

 

その力の源となっているのは…半ばほどに埋め込まれた青い結晶。

 

「ジュエルシード…」

 

ポツリとフェイトが呟いた。

 

 

その呟きが聞こえたのか…いや、恐らく偶々だろう。

 

高笑いをしていた金髪君が俺達の存在に気が付く。

 

「ん…君はフェイト・テスタロッサ…あはは、やった…やったぞ!とうとう原作に関われる。」

 

《お前様、あの方は何を言っているのでしょう?》

 

「……さぁな…」

 

いきなりメタ発言をかましてくれる金髪君。だが、幸いにもフェイトはジュエルシードの影響で妙な事を口走っているとか思っているのか…特に気にした様子はなく、デバイスを構えている。

 

「コージは大事な母さんのお客さん。此処は私が抑えるから安全な場所へ逃げて…」

 

「いや、大丈夫。知ってるだろ?俺に魔法は効かない」

 

その言葉に思い出したのだろう。苦虫を噛んだような表情をするフェイト。

 

「ふふふ、手に入れたこの力があれば……ん?お前は槙原?何故そんな所に…?」

 

そこでようやく俺に気が付き、そんな事を言ってくる金髪君。

 

いや、俺からすればお前こそ何やってるの?と言った感じなんだが…。

 

つか結界張れよ。仕方がないので俺がまた張った。

 

「……フェイトと一緒……こんなキャラ原作には居なかった。……やっぱり、前々から怪しいとは思っていたんだ。なのは達とも仲が良かったし、お前も転生者か!?」

 

《お前様?》

 

「あ~完全に逝っちゃってるね」

 

さらっと誤魔化す。

 

「邪魔はさせない。俺は力を手に入れたんだ。お前も銀髪と同じにしてやる。」

 

ジュエルシードの影響かキャラがおかしい気がする。こんな好戦的な奴じゃなかったような?

 

そんな会話をしている隙に…

 

フッと目の前のフェイトの姿が消え……。

 

金髪君の真後ろに現れたと思いきや、バルディッシュを一閃。

 

しかし…

 

「…っ!?」

 

その一撃は金髪君に触れる事は無かった。

 

荒れ狂うような魔力がフェイトの接近を阻んでいたのだ。

 

「止めるんだ。僕は君と争う気はない。このジュエルシードも…事が済んだら君に渡そう」

 

振り返りフェイトに向かって笑みを浮かべながらそんな事を言う金髪君。

 

ふむ…

 

「…ギラ」

 

ぼそりと呟き、指先から一筋の高エネルギーの熱閃が放たれる。それは若干狙いがそれ金髪君の頭を掠めるようにして通り過ぎた。

 

「だから、今は槙原を…ーーっ!?」

 

……ちっ…外したか。わずかだが相手の魔力の干渉かズレたな。やはりまずは頭ではなく避けにくい身体にしとくべきだったか…

 

「お、お前…後ろからとは卑怯じゃないか!?」

 

「知るか。油断したお前が悪い。」

 

「何!?」

 

「大体、背後から奇襲を受けたならまだしも、敵が目の前に居るのに余所見をしている方が悪い。」

 

ぐぬぬ…と唸る金髪君。

 

なまじ見た目がギルガメッシュに似ている為、怒った顔はそれなりに迫力がある。

 

「雑種が…」

 

完全にギル様になりきり指を鳴らす金髪君。そして背後の空間が揺らめき…

 

「なっ…」

 

絶句するフェイトの声。そう何もない空間にいくつもの穴が開き…

 

出てくる出てくる。

 

電子レンジ、掃除機、冷蔵庫、テレビ。

 

何処かしら壊れ、古くなっている電化製品の数々。

 

無残にも捨てられたであろう物の数々は何処か…禍々しいオーラを感じる。

 

しっかし…よくこれだけの数々を集められたな。

 

また母親に捨てられなかったのだろうか?

 

「潰れろ」

 

バッと腕を振り下ろす金髪君。

 

その合図と同時に、弾丸のような速度で電化製品の数々が飛来する。

 

「コージ!!」

 

フェイトが叫ぶ。

 

見た目はアホらしいが、威力はあなどれない。

 

だが…それも当たればの話である。

 

無数の魔力球を即座に作り上げる。

 

ただの魔力球ではない。これは広範囲の敵を殲滅するのに優れた呪文。

 

「イオ」

 

飛んで行く魔力球。そのうちの数発が、飛来物にぶつかり爆発。

 

それに連動するように近くの魔力球が爆発していき。小規模な爆発が無数に起きる。

 

そして…

 

「馬鹿な…」

 

金髪君がそう言葉を漏らす…。爆発の煙が収まると、電化製品は見る影もなくそこには爆発により細かくばらばらになった部品だけが地面に落下していった。

 

呆ける金髪君の背後から、フェイトがバルディッシュで斬りつけるが…

 

「くっ…」

 

やはり金髪君の持つデバイス(掃除機 + ジュエルシード付)から金髪君を覆うように渦巻く雷光を帯びた魔力に阻まれ効果が無い。続けて魔法を放つも…

 

《お前様…あれは》

 

「あぁ、吸収されてるな」

 

フェイトが変換した雷光が金髪君を渦巻く雷光に辺り、そのまま吸収されているようだ。

 

その証拠に一層強くバチバチしてるし。

 

電気を操るフェイトとは相性が悪いということもあるが、流石にランクSオーバーにジュエルシードだな。

 

「ふふ、あはは。あの程度の攻撃を防いだくらいでいい気になるなよ。こうなれば、俺の最強の…この技でお前を仕留めてやる」

 

フェイトの攻撃を防いだことで自信を取り戻したのだろうか…饒舌にそんな事を言う金髪君。

 

 

魔力を糧にスクリューが高速回転し、青白い雷は勢いを増し、デバイス全体を覆うように集束していく…物凄い魔力。

 

「天地乖離す(エヌマ)…」

 

回転がピークに達する。迸る雷光。

 

そして…騒音に継ぐ騒音。滅茶苦茶うるさい。だが、それに負けないくらい声を張り上げる金髪君。

 

そして…

 

「開闢の星(エリシュ)!!」

 

放たれる破壊の力。

 

オーバーSランクの膨大な魔力が込められたそれの威力は正直洒落にならないレベル。

 

さらに非殺傷設定なんてものはされていない。喰らったら即死ぬ。

 

そんなのがまっすぐ俺に向かってくる。

 

だが…

 

どんなに魔力が込められていても、威力が高くても…あくまでそれは魔法。

 

右拳を下から突き上げ、それを弾き返す。

弾き返されたそれは金髪君より遥か上方の空に向かって行き、やがて見えなくなった。

 

……今ので結界が壊れたなもう一回張るとしよう。

 

態々拳を突き上げたのは反射角を調整するためだ。

 

あのまま相手に跳ね返ってたら金髪君と共に背後を取っているフェイトまで巻き込みかねないからな。

 

「ば、馬鹿な…なんだお前…何なんだよ!?最大の…攻撃だったんだぞ!?」

 

あっさりと必殺技を跳ね返され動揺する金髪君。そんな彼に…

 

「覚えておけ。これが…マホカンタだ」

 

思わず言ってみたかった台詞を告げていた。

 

 

 

 

「……ジュエルシード…封印」

 

フェイトが封印処置を施す。

 

あの後、あっさりと必殺の攻撃が無効化され。動揺している金髪君をフェイトが倒した。

 

後ろを取ってた上に、攻撃に魔力を使用したせいで、守るように渦巻いていた魔力も無くなり、完全に無防備状態。さらには動揺していたこともあり、一撃でころりと彼は昏倒した。

 

取りあえず、二人の容体を確認する。

 

まず金髪君。

 

フェイトの非殺傷設定の攻撃であっさりとやられたこともあり、怪我は特になさそうだ。

 

デバイスも完全に沈黙している。

 

そして銀髪君。

 

こっちはこっちはどうやら強く頭を打っているようだ。それ以外に外傷は見られない。

 

直接攻撃を受けた訳ではなさそうだ。推察するに何らかの余波を受けて吹っ飛ばされたという所か?此れくらいなら治療は別にいいだろう。

 

「それにしても…コージのあれは何?魔法を跳ね返すなんて…」

 

「見ての通り、魔法を跳ね返す魔法だけど……」

 

すんごい複雑そうな顔をしている。

 

マホカンタ。まさに魔導師殺し。

 

まぁ、そんな事はさておき、ジュエルシードも封印したことだし…帰ろうかとフェイトに声を掛けようとしたが…

 

「にゃ!?この間の女の子に…近藤君に中島君!?それに…耕二君まで!!」

 

主人公が現れてしまった。

 

はて?

 

近藤に中島?

 

《お前様、クラスメイト…ましてや魔力持ちの名前くらい覚えておいてくださいな。

あの金の御髪の方が近藤浩二さま。銀の御髪のお方が中島ひろしさま。ついでに、此処にはいらっしゃいませんがこの間いたもう一人の方が綾小路紀彦さまですよ。》

 

ローズが教えてくれた。そんな名前だったのか…

 

……でも、金髪君、銀髪君、アチャ男でいいや。もう俺の中でそれが定着しつつあるし。

 

「何があったの!?」

 

「あなたには関係ない」

 

そんな事を考えていると二人で話を始めてしまった。

 

なのはの問いかけを冷たくあしらうフェイト。

 

そして二人の視線が俺の方に…

 

「耕二君何があったの!?あ、あと耕二君も魔法使いなの!?」

 

「ジュエルシードは封印した。帰ろうコージ」

 

これ俺が収めるの?まぁ、こうなったら仕方がないか…。此処で逃げたらなのはが余計にしつこくなる。これは経験談である。

 

「はぁ…ちゃんと説明するよ。フェイトちゃん、悪いけど付き合ってくれ。」

 

「わかった」

 

あれ?案外あっさり。

 

あれかな?彼女も俺に興味があるのかな……。まぁ、考えてみれば俺の説明をあまり理解してなかったし。少しでも知りたいのだろう。

 

「質問に俺が答える形式の方が手っ取り早いな。何が聞きたい?」

 

「えっと…耕二君も魔法使いなの?」

 

「まぁね。きっかけは些細な事だったけど…一応俺も魔法使い。管理局には属していないけどね」

 

「管理局?」

 

あれ?管理局の事は説明していなかったのだろうか?

 

肩に乗って居たユーノが説明をしている。その説明が終わると…

 

「じゃぁ、君は一体何者なんだ?」

 

代わりにユーノが話しかけてきた。

 

「何者も何も…なのはちゃんと一緒でこの世界のただの子供さ。ただ、生まれつき魔力は持ってたみたいで…まぁ、縁あってミッドの魔導師と知り合う機会があってね。その人に支持して魔法を覚え、デバイスも貰った。」

 

「……もしかして君がこの間…結界を張った魔導師?」

 

「この間っていうのは何時を言っているか分からないけど、結界は張ったことあるな。張らないでドンパチやってた奴らが居たから」

 

ちらりと視線を向ければ、絶賛気絶中の金と銀。

 

「近藤君と中島君とは?」

 

「魔導師みたいだな。殆ど面識はないから詳しい事は知らない。詳しい事は本人に聞いてくれ。俺はただあの二人が争う現場に偶々遭遇しただけだ。今回はジュエルシードが関わってたみたいだけどフェイトが封印したし…」

 

ちらりとフェイトに視線を向ける。

 

「この子とはお友達なの?」

 

「……正確には、その子の姉…になるのかな。その子と友達なんだ。」

 

なのはの問いに答えれば、眼を見開くフェイト。

 

「私の姉?どういうこと?……その子の名前がもしかしてアリシアっていうの?」

 

「まぁな……詳しい事はプレシアさんに聞いてくれよ。俺もそんなに君の家の家庭の事情に詳しい訳じゃないから」

 

本当は色々知っているけど、知っている理由を説明するのも面倒だし。

 

プレシアさんに丸投げした。

 

「君たちの目的は?ジュエルシードは危険なんだ。集めて何をするつもり?」

 

そしたら今度はユーノが聞いてくる。目的と言われても…

 

「俺は別に集めてない。フェイトは集めているみたいだけど…」

 

「……あなた達には関係ない」

 

「そんな事ないの。ジュエルシードは元々ユーノ君が…」

 

「あれは僕が発掘したんだ。それで輸送中に…」

 

言いながら落ち込んでいくユーノ(フェレット)物凄くシュールだ。

 

はた迷惑な話だなとかツッコんでやろうと思ったけど、この姿を見てたらその気はなくした。

 

そもそも悪いのは輸送中にちょっかいかけたプレシアさんだし。

 

真雪さんや義姉さんに耕二はSだよな。とか言われる程度にはSな俺でもそこまで鬼じゃない。

 

「それで君はその女の子の協力をしているの?」

 

落ち込んでいたユーノがそんな質問をしてくる。

 

「いいや。別にフェイトちゃんに協力しているわけじゃない。」

 

そうなの?と視線で訴えてくるなのはちゃんに頷きで返し…

 

「俺がフェイトちゃんに協力つうか一緒に居る理由は…あ~なんつぅか…彼女の姉がらみで…まぁ、この先は家庭の事情になるから俺からは詳しくは説明できないんだけど…まぁ、そんな感じ。」

 

「……だったら耕二君。私を手伝ってくれないかな?ほら、耕二君強そうだから心強いし、みんなで集めたら早く見つかるし」

 

「ごめん。俺には俺のやることがあるからそんな時間ない」

 

ピシャリと言っておく。不服そうな顔をしているが、容認してほしい。

 

つか、本来なら此処で正体がばれたのも不本意なんだ。仕方がないから説明しているだけで…。

 

俺からあらかた聞きたい事は聞き終えたのだろう。今度はフェイトに色々と質問をしている。

 

だが、フェイトは特に答えるつもりは無く、何処か冷たい。互いにジュエルシードを集める者同士…敵だと思っているのだろうか?だが、甘いな。

 

高町なのは。彼女はそんな態度をとればとるほど燃え上がる。

 

完全にロックオン状態。

 

ご愁傷様である。俺としては俺からターゲットが彼女に移ってくれれば万々歳だ。いいぞ、もっとやれ。

 

だが、フェイトも流石に頑固だ。つか俺の方を若干睨んで見ている気がする。

早く帰ろうと言いたげだ。

 

「あ~もう、夜も遅くなって来てるし、続きはまた今度にしないか?」

 

俺もこのままだと埒が明かなそうなので、そう告げなのはは渋々だがそれに同意し、お開きとなった。

 

 

 

翌朝…俺は遅刻すれすれの時間に登校し、朝のホームルームを終え、机に突っ伏していた。

 

朝からかなり疲れているのだ。

 

原因は、今頃俺の部屋ですやすやのんきに寝ているであろう金髪少女…フェイトだ。

 

朝、学校へ行こうとする俺の後を付いてこようとするフェイト。

 

当然部外者を連れて行ける訳もなく、待っているよう説得を試みたが見張るの一点張り。

 

何を言っても聞き耳持たなかった。

 

だから俺は強硬策を取らせてもらった。

 

とはいっても乱暴なまねをしたとかじゃない、ただラリホーをお見舞いしてやっただけだ。

 

その後フェイトが起こされないようにバルディッシュを拝借して、学校に来た。

 

だもんで、今俺のポケットの中ではバルディッシュがあったりする。

 

抗議のつもりかピッカピッカ光るのは止めて欲しい。ちゃんと返すよ放課後に。

 

そんな事があり疲弊しているという訳だ。

 

銀髪君と金髪君は学校を休んでいる。

 

 

そしてその日の午後の授業中。プレシアさんから連絡がきた。

 

会う準備が整ったそうだ。昨日の今日で素早いな。アルフが頑張ったのだろうか?

 

よっぽど会いたいんだな。

 

なんかフェイトが通信に出ないとか言ってたから事情を説明し謝っておいた。

 

フェイトが叱られるのが可哀想に思えたから…まぁ、原因が俺にあるので罪悪感に負けたというのもあるが…まぁ、何はともあれ…

 

《シア~、今日学校が終わったらお母さんに会いに行くぞ》

 

【ほぇ?】

 

ぽかんとアホ面でそんな事を言うシア。いきなりの事で驚いたのだろう。

 

《アポは取っといた。問題ない》

 

【あるよ!!っていうか…えっ!?何時の間に!?聞いてないよ!?】

 

《言ってないよ?驚くかなと思って…》

 

【そりゃ驚くよ!!】

 

ギャーギャーいうシアを宥めつつ…

 

あれかな、クロも一緒に連れてった方が良いかな。

 

フェイトの事情を聞きたそうだったし、それにプレシアさんがフェイトがシアのクローンであることを話した際に、同じ立場のクロだったらフォローしてくれそうだし。

 

いざとなったらフィリス義姉さんにお願いするのもありだ。彼女もクローンだし、プロのカウンセラーだし。

 

俺はこっそりと携帯のメーラーを起動し…

 

クロに学校終わったら家に直帰するように告げ、

 

だんちょーに本日のアスターズの活動を休止してくれるようにお願いし。

 

アリサに一緒に帰れない旨を告げる。

 

「ふぅ…」

 

一通りの連絡を終えて、携帯をしまう。

 

つかあれだな。

 

最近アリサとあんまり話せてないような気がする。

 

この件が終わったら…

 

「埋め合わせに一緒にどっか行くかな」

 

行くならば遊園地とかよりも動物園だろうか?

 

けど…普通な動物を今更見に行ってもな…

 

どっか別の管理世界の動物園に行ってみるのが面白いかもしれない。

 

俺やアリサが知らない動物が居るかもしれないし。

 

久遠に継ぐ癒し系の動物がいるかもしれない。

あるといいなふれあい広場みたいな場所が…

 

ふむ…今度、ドクターJに聞いてみるか…




あっさりやられた金髪君。

当初はもっと…本当に瞬殺されてたんだけど、あまりにあれなんでもうちょっと戦ってみた。

多分、理性をなくしててジュエルシードが完全に暴走してたらもっと強かったんだよ。

下手に理性があったせいで…中途半端に願いが反映された結果の弱体化だと思っている。

いくら魔力があって、魔法使用経験ゼロだし。

戦闘経験もゼロ出し。

そんな感じでこうなった。

あと戦闘シーンが苦手っていう事もある。

でもあれなんだよね、この作品で主人公の戦闘シーンをイメージすると相手が対シグナム。

十兵衛ちゃん2の自由VSフリーシャの戦闘シーンをベースに妄想が展開される。

あの殺陣、アニメではベストスリーのかっこよさだと個人的には思っている。
曲もいいしね。

あんな風な戦闘シーンを書きたいけど、あれを文章で再現するのは無理。


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第21話

ふぅ…やっと更新できた。

もっと早くするつもりだったんだけど…最近買ったゲームに思いのほかハマってしまった。

ChuSinGuraいいね。知らないメーカーだったからノーマークだったけど。

こいつぁ当たりだった。早くもFDを期待していたりする。

まぁ、とりあえずクリアしたから投稿できました。


 

《お前様…》

 

「……何も言うなローズ」

 

目の前に広がるカオス…いや、ちゃんと組み分けはされているんだけど…

 

まずは…

 

「クローン…私がアリシアの……クローン」

 

「ふぇ、フェイト…」

 

「だ、大丈夫だよ。そんなの珍しくないって。私だってクローンだし。それに私の方が多分ろくでもない扱いをされてきたと思うよ?狭い部屋に缶詰にされてさ…実験、実験って…注射も一杯されたし、変な薬飲まされたし……くっ、言っててムカムカしてきた……。とにかく、そんな事で悩んでるんじゃない。万倍マシでしょ!!」

 

フェイト、アルフ、クロたちの三人組。

 

プレシアさんから衝撃の事実…自身がクローンであることを告げられて、ショックを受け…落ち込んでいるフェイトを必死に慰めるアルフと、慰めたのち逆ギレ気味のクロ。

 

そして…

 

【どうしてそんな事言ったの!?お母さん!!】

 

「あ、アリシア…で、でもね。私の娘は…」

 

説教をするシアとしどろもどろになりながらも弁解するプレシアさん。

 

 

恒例となりつつある台詞を言おう…

 

どうしてこうなった?

 

 

事の起こりは…

 

シアを連れて帰宅、クロと眠りから覚め、強制的に眠らされたフェイトからの睨みを華麗にスルーしつつ、アルフが超頑張ったであろう、綺麗に掃除が行き届いたプレシアさんの家に到着した。

 

「で、どういう事?アリシアは何処に居るのかしら…」

 

中に入り、リビングに通されると…剣呑な雰囲気を見せるプレシアさん。アリシアの姿が見えていないようだ…。

 

フェイトも同様。唯一…「え…?ふぇ…フェイトが二人!?」

 

アルフには見えているらしい。混乱している。

 

フェイトはそんな見えない何かを見ているアルフを心配そうに見ている。

 

アリシアと言えば…プレシアさんを一目見るなり…

 

【お母さん!!】

 

と抱き着いた。

 

俺とクロはそんな愉快なテスタロッサ家を眺めていたのだが、何時までもこうしているわけにもいかない。

 

「プレシアさん…俺の手を。そうすれば見えるようになりますから」

 

差し出した手を胡散臭そうに握るプレシアさん。

 

嫉妬からか俺をかなり睨んでくるフェイト。

 

すると…

 

「え!?なんなの!?」

 

困惑するプレシアさん。あ~…。

 

「シア。近いって…もうちょっと離れろ」

 

俺の言葉にハッとなり恥ずかしそうに距離を取るシア。

 

そして、プレシアさんとシアの視線が交差する。

 

「あ、アリシア…アリシアなのね…」

 

【お母さん…幽霊なのに私の事ちゃんと分かるの?】

 

「分かるわよ。私はあなたの母親なのよ」

 

ふらふらとアリシアに近寄ろうとプレシアさん。

 

繋がれた手が離れそうなので…空気を読んで俺もそっと距離を詰める。

 

そして…

 

「アリシア…」

 

【お母さん…】

 

母娘の感動の対面。感極まり互いに抱擁しようと手を伸ばし…

 

空を切った。

 

「あ、アリシア!?アリシアどこ!?」

 

いや……だからさ…

 

「手がね。」

 

ぷらぷらと抱擁の為に放された手を見せる。

 

その手をガッと掴み、睨んでくるプレシアさん。いやいや、手を放したのアンタだからね。

 

 

対面を済ませ、事情を説明する為に各自席に座る。

 

ソファーには俺を真ん中に両脇にプレシアさんとフェイトが座り、手を握っている。じゃないとシアが見えないからね。

 

対面にはシアを真ん中にクロとアルフが挟むような感じで座っている。

 

プレシアさんの目はシアに釘づけ。シアもにこにことプレシアさんを見ている。

 

アルフとフェイトと言えば、混乱気味。シアに対しても若干警戒しているみたいだ。

 

クロはと言えば…

 

「はぐ、もぐ…このお菓子美味しいね~」

 

出された茶菓子を喰らっている。

 

そんなクロを置いて、話は進む。まずは俺達から…とはいっても…

 

「俺は幽霊になったシア……アリシアを見つけて友達になって……んで、母親に会いたいって言うから探して、此処まで連れて来たってだけ。幽霊が見えたりするのは生まれつき…霊力っていう力を持っているから」

 

「霊力…興味深いわね。それでアリシアは?どうしてたのかしら?」

 

【えっとねぇ~わかんない。ずっと眠ってたの。それで目が覚めてから割と直ぐに耕二君と会って、アスターズを結成して…あ、アスターズっていうのはね…】

 

どもりながらも一生懸命説明するシア。それを見た事もないほどの穏やかな笑顔で見ているプレシアさん。あんた誰?

 

この辺りまでは和やかに話が進んでいたのだ。そして…

 

【それで…その女の子は?もしかして私の妹?】

 

シアが俺の隣に座るフェイトを見て当然の疑問を発する。それに対する…プレシアさんの答えは…

 

「ち、違うの!この子はアリシアのクローンよ!だから娘なんかじゃないわ!私の娘はあなた一人だけよ!!」

 

そう爆弾発言をし、冒頭のカオス状態になってしまった。

 

 

 

プレシアさんの言葉に烈火の如く怒るシア。あんな怒ったシア見た事ない。

 

そして、クローンとか娘じゃないとか言われてショックを受けるフェイトと慰める二人という構図が出来上がった。

 

《あの方は、なぜあのような軽率な発言を?》

 

「なんか焦ってたみたいだし。大方あれじゃない?此処でフェイトちゃんを娘だと認めたらシアがショックを受けるとか思ったとか?ほら、自分の代わりの娘を~みたいなことをシアが思って悲しむとか…」

 

というか…

 

《お前様も災難ですね…》

 

「あぁ、どうにかしてくれ」

 

俺はと言えば、プレシアさんとフェイト。両者と手が繋がっている為に間に挟まれているわけで……。

 

はぁ…と一つ溜息を吐いた。

 

 

 

「ごめんなさいフェイト。あなたも私の娘よ。ちょっと気が動転してて…その思わず」

 

「……母さん」

 

……しらじらしい。そう思うのは俺の心が荒んでいるからだろうか?

 

あの後、シアの説教でフェイトに謝れと言う事になり、プレシアさんが謝っている。

 

本心からそう思っているかどうかは分からない。が、シアはうんうん。と頷いている。

 

【フェイト、これからはお姉ちゃんが護ってあげるからね♪】

 

どんっと無い胸……どころか実態すらない身体を叩くしぐさをするシア。

 

すっかりお姉ちゃんぶっている。が、フェイトは複雑そうだ。

 

突如現れた、自身が求めている母親の愛情を一身に受けている姉。

 

……複雑な家庭環境だな。

 

まぁ、此処からは家族の問題だ。身内で頑張ってくれ。ただ、その前に幾つか問題があるけどな。

 

「これからは良いけど…どうするんだ?プレシアさん。俺が居ないとシアの姿が見えないし…って、プレシアさん。痛いんですけど」

 

ギリギリと握られた手に力が加わる。

 

「あなたは、これからずっと私の手に触れて居なさい」

 

「いやいや、それは無理ですよ。それにそんな事をしても根本的な解決にはならない。」

 

どういう事かとジト目で見るプレシアさん。丁度いい。

 

「シア。このままの状態が続けば遅かれ早かれ…お前は消える」

 

そう確信を持って告げた。

 

「それはどういう事なの!?」

 

「シアには肉体がない。どんな聖人でもそんな状態が続けばどうしても思ってしまう。身体が欲しいと。親しい人が食事をすれば、自分も食べたくなる。人と触れ合えば自分もその温もりが欲しくなる。そうやって、どんどん負の感情が溜まって行き……その結果、待っているのは……自分が自分ではなくなる。ただ、生きている者を妬み、恨むようになる。そうなった状態の幽霊を悪霊と呼びます。もうこうなったらシアとしての人格はありません。」

 

「か…身体ならあるわよ。アリシアの身体なら!」

 

プレシアさんが説明を聞いて、慌ててそう言ってくる。

 

「本当ですか!保存状態とかその辺りは…」

 

「大丈夫よ!アリシアの身体だもの。私が万全の管理をしているわ」

 

アリシアの身体がある。原作知識からその事は俺も知っているが、それは不自然だし、プレシアさんが不信に思うだろう。

 

だからこそ知らないふりをした。

 

そして…肉体あれば…

 

「なら、シア。お前は生き返れるかもしれないぞ」

 

俺の発した言葉に静まり返る。みな言ったことが理解できていないみたいだ。

 

一番初めに再起動したのは…

 

「そ、それはどういうことなの!!」

 

プレシアさんだ。もう掴みかかるような勢い…って、実際に肩をグァシっと掴まれ、ぐわんぐわん揺らされているのだが…

 

「せ、説明するから放してくれ」

 

その腕を払いのけ、コホンと咳払いひとつ。皆、聞く体制になった所で…

 

「その前に、これから言う事は他言無用。これを約束してくれない事には…シアには悪いが生き返らせることは出来ない」

 

俺の言葉に皆が頷く。いや、フェイトとアルフがワンテンポ遅れて、プレシアさんが頷くのを見て、フェイトがつられ、アルフという感じだ。

 

「信用して大丈夫だと思うよお兄ちゃん」

 

クロのお墨付きなら大丈夫だろう。

 

そして説明をする。

 

ザオリク……蘇生魔法。

 

この魔法で生き返らせるのに必要なのは肉体と霊体。

 

どちらかが欠けても蘇生は成功しない。

 

ゆえに肉体があっても幽霊となっておらず成仏してしまった人物は蘇生できない。

 

また老衰による死も蘇生は出来ない。いや、正確には蘇生は出来るが直ぐにまた死んでしまうのだ。

 

ザオリクは肉体の損傷は蘇生と同時に回復する。ゆえに外傷により死亡し、霊体があれば蘇生が出来る。

 

しかし病死は無理。ザオリクでは病気まで治せないからだ。

 

さて、何故俺が一度も使った事のない呪文の詳細が分かるかというと、

特典の転生後、自身の能力を自由自在にコントロールできること。(アフターリスクなし)

のおかげなのか使おうとした呪文で出来る事がなんとなく分かるのだ。

 

この状態で蘇生可能とか、この状態では不可能とか。

 

んで、色々考え、調べたところ上記のような考察がなった。実際に使ったわけじゃないけど十中八九間違いないだろう。

 

こんな感じの内容を端折って説明する。

 

「し、死者蘇生能力ですって!?」

 

驚くプレシアさん。この反応は予想してた。

 

だからこそ迷ったんだ。

 

こんな能力…レアスキル中のレアスキル。

 

あまり安易に使っていい能力ではない。

 

しかし…

 

アスターズを結成してからのたわいもない日々。

 

だんちょ~がやっているゲームを覗き込みながら難しい顔をし一緒に考え込み…

 

クロとお菓子を仲良く、時にはどっちが美味しいかと喧嘩して…

 

本を読んでいるアリサに強請って文字を楽しそうに教わって…

 

そんなシアを見て来て…そして何より…。

 

 

「こんな場所で何してるんだ?」

 

それはかくれんぼをやっていた時だったか…

 

シアを探しまわり、たどり着いたのは廃ビルの屋上。

 

そこでシアは隠れる事無く…沈みゆく夕日を見ていた。

 

俺が来たことに気が付いて振り向き…

 

【えへへ…見つかっちゃった】

 

ぺろっと舌を出して笑うシア。だが、その笑みにはどこか無理が見えて…

 

何よりも…

 

「泣いてたのか?」

 

【う、ううん。そんな訳ないよ。だ…だって私は幸せだもん。優しくて…楽しいお友達と一緒に遊べて】

 

ゴシゴシと目元を拭って笑うシア。

 

「無理するな。笑えてないぞ」

 

【えへへ、そうかな…】

 

そのまま黙ってまた夕日を見るシア。俺もその隣に並ぶ。

 

【……嫌な子だよね。私って…】

 

「…そうか?どっちかというとクロとかの方が性質が悪い気がするけどな」

 

【ううん。私の方が嫌な子だよ。だって、こんなに楽しいのに……みんなを妬んでる私が居るんだ…】

 

【私も学校でお勉強して、お喋りして……洋服や本を買ったりしたいって。今のままで十分楽しいのにそんな事を思ったりしちゃう…】

 

「……シア」

 

【あはは、ごめんね。あ、ほら。鬼がこんなところでサボってたらみんなに怒られるよ。私はもうちょっとしたら、行くから。先に戻ってて】

 

言いながら顔を伏せてしまうシア。その表情は伺えない。

 

俺は言われるがまま屋上を後にする。

 

その時、俺はもう迷うのは止めた。

 

うじうじと細かい事を気にしていた。ザオリクを使った後、もしこの能力がバレたらどうなるかだとか。だけど…

 

「上等だ…」

 

泣いている女の子がいる。

 

日は浅くても…それでも大切な友達。そんな友達が泣いている。

 

友を救うのに何を躊躇う事がある。

 

例え、能力目当てで有象無象が来ようとも薙ぎ払ってやればいい。

 

シアが…友が望むなら喜んでこの能力を使おう…そう決意したんだ。




アリシア復活までのカウントダウン。

そりゃね。

金髪美少女の幽霊が泣いている~♪

金髪美少女の肉体がある~♪

そして~♪ザオリクが使えるぅ~♪

が揃ったら救うでしょ!

とりあえず幽霊や霊力、ザオリクなどの設定は実際の原作とかとは違うかも、話の流れでそうなった。

この作品ではこんな設定という事でどうかひとつ。スルーしていただけるとありがたい。

使おうとした呪文で出来る事がなんとなく分かるっていうのも都合よすぎるかもと思ったけど、まぁ、自分の能力がコントロールできるなら、それが分かってないとメラの威力が強すぎて火事とか起きるみたいな事故とかありそうだし、まぁいいかなって。

それではまた次回。今週末はマジ恋のA-2が出るから、クリアした頃にたぶん更新できると思います。

ではでは~


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第22話

更~新。自分的にはハイペース。

理由は暑くて家……というか部屋に立て籠もっているからという点が挙げられる。

後はマジ恋A-2が出る前で時間があったから


いい加減、無印を終わらさなければ…


 

思わず息を呑む。

 

目の前で起こっている一つの奇跡に…。

 

洋服を着て眠っているのは私の愛しい娘。

 

アリシア。

 

永久に目覚める事のない眠りについてしまった娘。

 

それを認めたくなくて…。あらゆる手を尽くしてきた。

 

そんな私の願いがもうじき叶おうとしている。

 

半信半疑だったが、あの莫大な魔力といま彼の両手で輝いている光を見ていると、それが現実を帯びてくる。

 

彼の手がゆっくりと動く。

 

描かれるのは十字架。アリシアの身体の上をなぞるように彼の両手で輝く光は十字架を描き。

 

そして…

 

「…ザオリク」

 

その十字架を描き終え、その上から手を翳しながら彼はそう呟いた。

 

「あ…あぁ…」

 

言葉にならない。

 

彼が言葉を呟いて暫くすると…

 

真っ白だった愛娘の肉体に赤みがさしていく。

 

そして…

 

「ん…ううん…」

 

瞼が動き…

 

まるで普通に朝、眠りから覚めたように。

 

「…えっと…お、おはよう」

 

身体を起こしたアリシアは、はにかみながらそう言った。

 

 

 

 

 

「アリシア!!」

 

ダッと駆け寄るプレシアさん。

 

それに気を使うようにサッとフェードアウトして、脇で見ていたクロの所へ向かう。

 

「ついにおにいちゃんは…神となった」

 

「何を訳の分からん事を…」

 

妙な事を口走るクロ。

 

「いや、だって死者蘇生だよ?おにいちゃんはどれだけ凄い事をしたか自覚あるの?」

 

「っていってもなぁ。あれは色々条件付けが居るし、肉体がある事とか、幽霊の状態である事とか…真に死者蘇生というなれば、いかなる条件下でも…肉体が無くても既に成仏していてもそれがきないとな。俺がやったのは単に霊体を肉体に戻して、つながりを復活させただけだ」

 

「いやいや、十分凄いから…」

 

呆れたように言うクロ。

 

そんなクロを横目にシアの状態を伺う。

 

無事成功してよかった。

 

シアにすがりつき涙を流すプレシアと困ったようにそれを宥めるシアを見てそう思う。

 

しかし、プレシアさんは凄いな。蘇生した後普通に動いてる。

 

肉体の劣化がまるでない。筋肉すらも衰えていないようだ。

 

そこに凄まじい母の愛を感じる。

 

「あの子…大丈夫かな」

 

そうクロが告げる。

 

視線の先にはジッとシアとプレシアさんの二人を見つめるフェイトとそんなフェイトにどう声を掛けていいか分からず困惑しているアルフの二人。

 

「大丈夫だろ。ほら」

 

指をさす。その先にはフェイトの視線に気が付いたのか…分からないが手招きをしてフェイトを呼ぶシア。

 

呼ばれるままにシアの近くに寄って行ったフェイトはそのままプレシアさんに腕を引かれ、アリシアと一緒に抱きしめられている。

 

そのまま何やら三人で言葉を交わし…

 

フェイトの目から涙があふれ、ギュッとプレシアさんに抱き着いた。

 

そんなフェイトの頭をプレシアさんは優しく微笑み、ゆっくりと撫でていた。

 

「……変わりすぎな気がするけど…あれ…誰?」

 

「あれが素の…アリシアが死ぬ前のあの人の姿だったとか…まぁ、演技には見えないし、いいんじゃね?当人が幸せそうなら」

 

クロとそんな話をしていると…

 

「よがった…よがったねぇ…フェイトぉ」

 

号泣するアルフが何時の間にやら近くに居た。

 

まぁ、何はともあれ…

 

「おにいちゃん。お疲れ様」

 

「あぁ…」

 

まだ色々と問題はあるが、この光景が見れただけで良しとしよう。

 

 

 

 

「…そう」

 

あの後、号泣しているアルフに帰る旨を告げ、海鳴に帰ってきた。

 

そのまま家に帰ろうかとも思ったが、その前に一人、事の次第を告げておく人物がいる。

 

そして洗いざらい経緯を説明したのだが…

 

「……ちょ、ちょっとおにいちゃん私まで巻き込まないでよ」

 

「……いや、お前が居た方が何時もの能天気スキルで場の空気が和むかと…」

 

「…どこが!?むしろ悪化しちゃってるじゃない!」

 

場の空気が重い。

 

それは不機嫌そうな顔をした一人の少女。

 

アリサから出ているものだ。

 

そして…

 

「……話は分かったわ。まぁ、私の知らないところでこれだけの事をしていたことに関しては…色々と言いたいことがあるけど、まぁ、耕二に言った所で無駄だものね。」

 

はぁっとため息を吐くアリサ。ふぅ、ようやく解放されると思いきや…

 

「……ちょっと来なさい」

 

「え?私!?ちょ、ちょっと…」

 

アリサは俺に待っているようにだけ言うとクロを連れて部屋を出た。そして待つことしばし…

 

「誤解して悪かったわね。これからもあなたとは良い関係を築いていきたいわ」

 

「も、もちろんです。末永くお願いします。ねえさま!」

 

……は?

 

ねえさま?

 

「……今まであなたの事を色々と勘違いしていた部分があったかもしれないわ。ごめんなさい」

 

「い、いいえ、そんな事…ねえさまにはいつも優しくしてもらって…じ、自慢の姉です」

 

……な、何が起こっている?

 

「ふふ、ねぇ。困ったことがあれば何でも言いなさい。大事な妹だもの…力になるわ」

 

……聞こえた話からすると二人は姉と妹と呼び合っているようだ。

 

あの退出の間にロザリオの授与でも行われたのだろうか?

 

まぁ、互いに金髪という事もあり、姉妹に見えなくもない。欠片も似てない2人だが。

 

ま、まぁいい。怖いからあまり深入りはすまい。話題を逸らすことにする

 

「と、所でさ、アリサはシアが生き返った事についてはどう思っているんだ?ほら、いつものありえないみたいな反応はしないのか?」

 

「えぇ、耕二がやる事に関して自分の常識に当てはめるのは正直バカみたいだもの。考えても無駄よ。結果だけ受け止めるわ。じゃないと私はノイローゼになるわよ」

 

呆れたようにそんな事を言われる。まぁ、気にしてないならいいや。

 

「で、私は良いけど…団長にはどうやって説明するの?」

 

「「あっ…」」

 

俺とクロの声が揃う。

 

結果的にだがアスターズで団長だけが何も知らない状態だ。

 

まぁ、魔法に関してもそうなのだが…

 

「……いまさら説明かぁ」

 

「…うん、絶対にイジけるよね?」

 

「かといってこのままずっと隠していてもバレた時、余計にショックを受けるわ。言うならこういうのは早い方が良い。」

 

そうだな…。

 

今まで幽霊だったシアが今度から生身で会うのだ。

 

シアが成仏したという良い訳をしてもいいが、その場合はもう二度とシアとは会えなくなる。

 

そんなものは誰も望んでいない。

 

「なんか…どんどん広まってるよな。魔法の事」

 

「耕二、あなたの力の事もね。後悔しているの?」

 

「いいや」

 

それはない。あのシアの嬉しそうな顔を見れたんだ。

 

「大丈夫だよ。何かあっても、みんなでおにいちゃんを護ってあげる。ね?ねぇさま」

 

「そうね。耕二の力に目を付けた有象無象が沸いてきたとしても…私達…いいえ、私があなたを護るわ」

 

「…あぁ、さんきゅ。だけど、事態はそんなに切迫してないから大丈夫……だと思う」

 

大丈夫だよね?

 

プレシアさんの研究者としての本能とか…

 

シアの何処か抜けている部分とか…

 

フェイトの嘘とかつけそうにない純真な部分とか…

 

不安要素はあるけど……だ、大丈夫なはずだ。

 

 

 

シアが復活してから数日が経った。

 

俺達はと言えば…

 

「え~それでは、僭越ながらアスターズの団長たる……俺が乾杯の音頭を取らせていただきます。このたびは~」

 

シア復活パーティーを時の庭園で開催していた。

 

かんぺを見ながらどもりながらもそんな事を言っているだんちょ~。

 

ちなみにカンペの内容は俺が考えた。

 

数々の宴会をこなしてきた俺だ。乾杯のあいさつなどお手の物。

 

やりたいと言うのでだんちょ~に任せてはいるけど…。

 

プレシアさんやフェイト、アルフからはあの子誰?的な視線になっているが、流石は団長。まったく気にしていない。

 

気が付いていないだけかもしれないけど。

 

参加者はアスターズの面々。プレシアファミリーといった少数なもの。酒も大人なのはプレシアさんだけという事もあり、置いていない。

 

こっそり紛れ込まそうとしたのだが、アリサに見つかってしまった。久しぶりに飲みたかったのになぁ。

 

魔法についてだが、事の経緯を告げ、隠していたことを団長に詫びたのだが、最初は確かにいじけていたものの、魔法を見せて欲しいとの願いに幾つか見せると…どうでもよくなったのか、直ぐにきらきらとした瞳で食いついてきた。

 

その結果、まぁ仲が悪くなくこともなく、アスターズの面々は良好な関係が築けている。

 

それどころかパーティを発案したのもだんちょーだ。

 

日取りは、シアが生き返った後、念の為、プレシアさんが様々な検査を行い問題ない事を確認したのち、行われる事となり…

 

今日、この日に開催されることになった。

 

「あっはっは、お疲れ様だね、耕二!」

 

バシバシッと俺の背中を叩きながら笑いかけてくるのはアルフ。

 

ここ最近、俺とアルフはかなり仲良くなった。というのも…

 

「あぁ、しっかし美味いな。これ…今まで食べた事のない味付けだ。今度作り方教えてくれないか?」

 

「いいよ!その代わりに耕二の作ったこの料理のレシピを教えておくれよ」

 

このパーティの料理各種を用意したのが俺とアルフなのだ。

 

最初は買おうとも思ったのだが、うちの義妹が猛反対し、折角なら手作りで祝いたいとかほざいた。

 

自分は料理が出来ないくせにだ。

 

んで、参加者…とはいっても主賓のシアは除いて、料理が作れるやつを募った所…

 

結果は俺とアルフのみ。

 

俺が料理を出来る理由は…まぁ、自衛のためだ。

 

父さんに何かあった時、母さんが動く。

 

すると…さざなみ寮に未曾有のバイオハザードが発生する可能性が出てきてしまうのだ。

 

それを事前に阻止するため、俺は父さんから料理教わったのだ。

 

なので、作れる料理のメインは洋食だったりする。

 

まぁ、普段はあまり作らせてもらえないが…それでも…

 

「がるるぅう。おにいちゃんのデザートは死守する。プリンに杏仁豆腐に…アンコ・ド・カンテーヌ!!さ、三種の神器がそろい踏み…ぜ、全部食べるぅうううう!!」

 

偶にデザートは作ったりする。

 

どういう訳か俺が作るデザートは寮のみんなに好評だ。

 

なかでも、プリン、杏仁豆腐、餡蜜は三種の神器とも呼ばれているらしい。なんか、その美味さは鬼神のごとし…なんたらとか講釈をクロが述べていたが…

 

普通に作っているだけなのだが、そん所そこらの店の者とは比べ物にならない程美味いらしい。俺にしてみれば普通だと思うけど…

 

作った際、一個でも余ると寮で女性陣を中心とした喧嘩が発生する。

 

人数分作って、余らないようにはしているのだが、何らかの事情で寮に帰れない人の分とかが余ってしまう。取っておくという選択肢は彼女らにはない。

 

あれば喰う。それが摂理だとか…

 

「ひっ…」

 

「ちょ、ちょっとクロがおかしいわよ。耕二、何とかして!!」

 

「あはは~♪そんなに美味しいの?じゃぁ、私も……って、クロちゃん。痛い、痛いよ!!」

 

早速、揉めているようだ。まぁ、

 

フェイトは怯えているし、

 

アリサは困惑。

 

実害はクロに噛みつかれているシアだけで、結局…クロが暴走しているだけだが。

 

やれやれ…

 

「やめぃ。一人一個ずつだ。三種類からどれか一個選べ!」

 

「ふ、ふぎゅっ!」

 

シアからクロを引っぺがして、説教をする。

 

「なっ、この三種からどれか…一個…だと!お、鬼の所業だよ!!選べるわけない!!」

 

「じゃぁ、喰うな!」

 

「嫌だ!!って、あぁああ、シア、何勝手に食べてるの!」

 

俺とクロがそんなやり取りをしていると、何時の間にかシアが杏仁豆腐を取って食べており…

 

「………うへぇ~♪」

 

締まりのない顔で何処かに旅立っていた。

 

「あぁ…おにいちゃんの毒牙にまた一人…」

 

「人聞きの悪い事を言うな。大体言う程のもんじゃないだろ」

 

俺も隣にあった餡蜜を一口食べる。ふむ…美味い。

 

美味いが別にそこまでいう程じゃないと思う。だが…

 

「黙れ!この味覚異常者め!!」

 

「…お前はいらないみたいだな」

 

その言葉に反応し、物凄い速さでプリンをひとつ手に取ると、フィンを展開し、離れたところへテレポートするクロ。そこまで必死にならんでも…

 

「確かに美味しいわね…というか……これは……耕二、何か麻薬とかそういう中毒性のあるものは入れてないわよね?」

 

「入れてねーよ。失礼な…」

 

アリサもプリンを手に取り食べている。だが、クロのように取り乱したりは…いいや、お前誰だ?なんか見た事もないほど頬が緩んでいるんだが…

 

そんなやり取りがありつつ…皆、パーティーを楽しんでいるようだ。

 

アルフとだんちょーは欠食児童のように料理を平らげ、

 

シア、クロ、アリサは女の子同士で集まり何やらお喋りに興じている。

 

俺は一歩離れたところからそれらを見つつ、飲み物を飲んでいると…

 

「……あなたにはお礼を言っても言い足りないわね」

 

同じようにその光景を見ていたプレシアさんに話しかけられた。

 

「別にいいよ。シアの為にやった事だから」

 

「…そう。でもね。それでもね。ありがとう。アリシアを生き返らせてくれて」

 

やめてくれ、そう面と向かって言われるとどう反応して良いか分からん。

 

「ふふ、照れているの?可愛い所もあるじゃない」

 

「からかわないでくれ」

 

さて……それよりもだ。

 

「これからどうするんだ?」

 

「……そうね。とりあえず此れはいらなくなったわね…」

 

プレシアさんが取り出したのはジュエルシード。

 

「それは、フェイトちゃんに集めさせていたロストロギアだな」

 

「そう。アリシアが蘇った今、これは必要ない。不法所持してたら管理局に捕まる恐れもある。だから、これは管理外世界に落ちた危険な物だからフェイトに集めさせて管理局に届けようとしていた…そういう方向に持っていけたらいいと思っているの」

 

「それでいいのか?あんたの身体の事は?」

 

「……気づいていたのね?」

 

「まぁな。霊感が強いせいか、死期が近い人間は見てて分かるんだよ。あいにく、俺の力じゃ外傷は治せても病は治せない。」

 

「……そうなの…当てが外れたわね」

 

言いつつ、ちっとも残念そうではないプレシアさん。その態度に少しイラつく。

 

「なんで思い残すことは無いみたいな顔してるんだよ。あんたはいいよ。目的であったシアが無事生き返ったんだから。だけどな、親を失ったあの二人はどうする?」

 

「……だからジュエルシードで私の身体を治せって?」

 

「あぁ、それも手段の一つだろうよ」

 

だが、プレシアさんはその気はないようだ。

 

ただ穏やかな顔でシアの様子を眺めている。そして…

 

「か、母さん…」

 

「フェイト…聞いていたの?」

 

迂闊にも…俺達は近くに来ていたフェイトの事に気が付かなかった。

 

そして…

 

「――っ!?」

 

「フェイト!待ちなさい!」

 

プレシアさんの制止を振り切り、フェイトは駆け出す。そしてそのまま転移してしまった。

 

 

 

 

 

 

フェイトが転移した後、集まっていた面々に事情を説明する。

 

聞き終え、真っ先にフェイトぉ~~と叫びながらアルフが転移した。

 

「って、何処探す気なんだあいつは…」

 

呆れたように言う。そんな俺の態度に…

 

「何を呑気な…私たちもフェイトを探しに行くよ!!ほら、耕二君!!」

 

シアが怒り、急かす。とはいっても…

 

「やみくもに探しても見つからないわよ?少し冷静になりなさい。」

 

そんなシアをアリサが諫めたところで…

 

「お、おい…大丈……って、うぉっ!?」

 

だんちょ~が慌てた声を出し、視線を向ければ

 

「お、お母さん!!」

 

意識を失い、倒れかけたプレシアさんを支えていた。

 

 

あの後、治療設備が整っているという事で、アリサの自宅兼ドクターJのいる研究室にプレシアさんを運んだ。

 

「一通りの処置は施したが…正直、生きているのが奇跡じゃな。あまり長くは持たんぞ」

 

ドクターの名は伊達では無かったらしい、てきぱきと処置を施し、プレシアさんの容態をそう告げた。

 

けど、この人…デバイスの技師だよね?やっぱりあれか?頭のいい連中は医学とかさまざまな方面に通じているのか?それとも年の功?ま、まぁ、処置してくれるならいいや。

 

「クロ、シアを頼む」

 

「う、うん。」

 

フェイトが居なくなり、プレシアさんまで倒れた事で憔悴しているシアをクロに任せて…

 

「さて、どうするか…だな」

 

俺、アリサ、だんちょ~で今後の事を話し合う事になる…

 

「な、なぁ!お前の魔法でプレシアさんは何とかならないのか!?」

 

「無理だな。治療魔法は病気には効かない。その他にもう一つ、治す見込みのある方法は…ある事にはあるが…現状ではその手も使えないんだよ」

 

「その理由は?」

 

アリサの問いに、俺はポケットに仕舞っていた小瓶を取り出す。

 

「それは?見たところ中身は空……いいえ、よく見ると底の方に光ってる砂があるわね」

 

「あぁ、これは時の砂。プレシアさんを助けるにはこの砂がある程度必要なんだ」

 

時の砂の呪文。サンズ・オブ・タイムを使用するのに必要なアイテムだ。

 

この呪文の効果は時間を操り、若返ったり、元に戻したりすることが出来る。記憶はそのままでだ。

 

なので、この呪文で病気になる前の状態に戻してしまえばよいという訳だ。幸い、先天的な病気ではないし。

 

「その砂は何処で手に入るの?」

 

「破邪の迷宮……だが、確実という訳じゃない。現に今の今まで見つけた砂を集めてまだ、これだけだからな」

 

「……前に空の宝箱の前でごそごそやってたのはそれを集めていたからなのね」

 

呆れたようにそう言うと、顎に指を添えるようにして考えるアリサ。だが、それも一瞬の事で…

 

「……取りあえず、フェイトは身の危険が迫っているという訳でもないし、シアのお母さんを優先した方が良いわね。とは言っても、場所は破邪の迷宮……耕二、明日から学校を休める?」

 

「あぁ大丈夫だ」

 

多分、細かい事情を話さなくても、人助けという事だけ伝われば平気。本当に良い両親に恵まれたもんだ。

 

「それじゃ、私と耕二は至急、時の砂を集めるわ。ジャックはシアの母親の容態を…シアはお母さんに付いていなさい。クロはシアの事をお願い。そして、団長…一人になってしまうけど……フェイトの捜索をお願いできるかしら?」

 

「え?お、俺一人でか…」

 

ふむ、確かにだんちょ~一人ではきつい物があるな……。

 

それに暴走したジュエルシードともし遭遇したら身を守る術は無い。

 

調べたところ団長にも魔力はあるらしい。それもAAという結構高い魔力ランクだ。

 

しかし、デバイスが無い。ストレージならあるが、ぶっつけ本番。ジュエルシードの暴走から身を護れるのかが不安だ。インテリジェンスならある程度カバーしてくれるのだが…

作っている暇は無く。貸そうにも俺とアリサは迷宮に行くので当然デバイスは使う。

 

それに一人で探したところでたかが…って、あっ!?

 

「大丈夫だ。強力な助っ人を用意する」

 

「助っ人?」

 

そうだ。俺には頼りになるアイツらが居た。

 

「話は今日中に通しておく。動くのは明日からだ」

 

取りあえずこの方針でアスターズは動くことになる。あ、そうそう…

 

「あと、だんちょ~。金は渡すから明日集まる際にKAL ○AN買っといてくれ」

 

明日からだんちょ~の指揮下に入る予定の頼もしい助っ人だ。直々に労ってやってくれ。

 

 

 

 

翌日

 

再びアリサの家に集まった面々。学校は皆サボりのようだ。

 

「それで、助っ人っていうのは?」

 

「あぁ、大多数にはもう動いて貰っている。そしてこの子が通訳兼護衛の…」

 

「…くおん」

 

昨日とは違い一人メンバーが追加されている。

 

それは協力をお願いした久遠(幼女ver)。

 

本来人見知りなこの子に頼むのは気が引けたんだがけど…

 

「こうじ、くおんたすけてくれた。だからこんどはくおんがたすける。がんばる」

 

……こんな事言われたら…言われたらさぁああ!

 

マジで欲しい…久遠。那美さんと本気で交渉しようかな。

 

話が逸れた。と、ともかくだ。

 

だんちょ~にこれだけは言っておかないと

 

「俺はこれからアリサと迷宮に行くわけだが…だんちょ~、もし…もし久遠に手を出したら……斬るから」

 

久遠を見て、若干だんちょ~の頬が赤くなったのを俺は見過ごしてはいない。

 

俺も男だ。この愛くるしさにそういう反応するのは…まぁ分かる。

 

だからこそだ。警告はしておかないと。

 

デバイスを展開し、鯉口を切りながら脅す。

 

コクコクと凄い速さで頷いてくれた。頼むぞ?俺に友を斬らせないでくれ…




デザートですが、神様から貰った能力は関係なし。耕二の生まれながらの力です。

さざなみ寮のサラブレットは伊達じゃない。

さて、よいよ無印がクライマックスに突入しつつありますが、いまだ管理局の姿は見えず(笑)

もうそろそろ介入予定です。でも書くかどうかは……。だって、主人公…迷宮に潜っちゃってるし。

書くとしたら別サイドですかね。

後、書き方を最初プレシアさん視点で、次に耕二視点で書いてますが、特に○○viewとか書かなかったんですけど、分かりますよね?分かりづらかったら直します。

金髪君、銀髪君は体調不良により、学校を休んでいる状態なので出しませんでした。

後、感想で時折話題のサンズ・オブ・タイムをとうとう出しましたが、発動に枷を設けてみた。そうじゃないとあっさり無印が終わっちゃう上に、万能すぎちゃうんで……。


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第23話

難産だった。前半部はスムーズだったんだが…

破邪の迷宮が出た時から考えていたネタ。

読者の中に同志が何人いるか分からないが、同志ならば葉虎と同じように脳内にとあるBGMが流れることだろう。

書いてる時、思わず鼻歌で歌ってたよ。

あとこれとは別にマジ恋で上杉謙信のクローンを主人公にした作品をひそかに書いてるんだけど…

ずっと脳内でMar○が流れていたりする。

頭に残るよね、アリスの曲は…


俺とアリサは現在、破邪の迷宮地下12階を攻略中だ。

 

思ったより、効率が悪い。

 

というのも、今回の目的は攻略というよりも、時の砂の入手であり…

 

よって、各フロアにて地下への階段よりも広範囲に調査し、宝箱などを発見しなければならなず。

 

通常よりも時間をかけてフロア内を探索している為、時間が掛っているのだ。

 

「……まずいわね。かなり時間が掛ってる」

 

「あぁ、だが…焦って罠やモンスターで怪我をしたりしたら…それこそ余計に時間が掛る。だから、あくまで慎重にだ。」

 

「……分かってるわ。それに最悪の事態を想定して保険は用意してある…けど…」

 

「あぁ、でもできればやりたくないけどな。でも多分…正直、今のペースではプレシアさんの身体が持たない。」

 

「…そうね。でも、そろそろ現実を見据えた方が良いわね。」

 

そう、正直厳しい。

 

「多少の時の砂は集まったけど…」

 

「今までの法則性からするに時の砂が入っている宝箱は各フロアごとに一つ…それも少量。11階までずっとこのパターンが続いている…そうなのよね?」

 

「あぁ…んで、入っている量も一定。増減している様子はない。この法則が続いた場合、規定量が集まるのは大体地下20階ってとこか」

 

いきなり大量に時の砂が入った宝箱が見つかるという可能性もまぁ、無くは無いけど、希望的観測だ。

 

過去の傾向からその法則は俺も理解していた。ただ、確かめたかったのは10階以降も同じ量の時の砂が手に入るかどうかだ。10階区切りで入手量が増えると言う可能性に期待をしていたのだ。まぁ、それも11階で入手した量が今までと同じであった事からその可能性は限りなく低くなったが…

 

「フロアも降りるごとに大きく、罠も多く、敵も強くなっている。ますます1階当たりの攻略に時間が掛っていく……ちょっと早いけど、この階層の探索を終えたら戻りましょうか。シアに色々話をしないとね」

 

「……そうだな。辛いかもしれないけど……。とりあえず今はこの階の突破だ。気を引き締めようか」

 

そんな会話をしながら進む。

 

そして地下12階で初めて遭遇する敵。

 

それは魔導師にとって天敵ともいえる相手だった。

 

「ハニホー、ハニホー」

 

「女の子だ、女の子だ」

 

「捕まえろーーー」

 

その光景を目にし、俺は一瞬固まってしまう。だって、あれは…

 

「な、何あれ?……埴輪?」

 

「……さ、作品が違ぇだろおおおお!?」

 

思わずツッコむ。

 

あの姿…

 

そして脳内ではとあるコミカルなBGMが流れ始める。それはあいつらの曲。

 

あれは…

 

あいつらは…生前、アリス信者であった俺は何度も目にしてきた。

 

そしてあいつらの恐るべき特徴。

 

「に、逃げろアリサ!お前じゃ分が悪い!」

 

アリサを庇うようにデバイスを構える。今の彼女ではこいつらに絶対に勝てない。

 

何故ならば…

 

「なっ、魔法が…」

 

「ハニホー」

 

「効かないよ~」

 

「捕まえろ~」

 

俺の言葉に牽制の為、魔力弾を放ちながら後退を始めたアリサだが、その魔力弾は奴らに当たった瞬間に何事も無かったかのように掻き消える。

 

そう、あいつらは魔法を無効化する。

 

「はぁああああ!!」

 

間合いに入った奴から斬撃を放ち、切り捨てる。

 

アイツらには物理攻撃あるのみ。

 

いずれこういった魔法を無力化する相手が出てくる事は想定済みだ。

 

だが、それはメタルスライム系の奴らだと思っていた。

 

だからこそ、固い物を斬る練習も行ってきたのだ。

 

「……まさか…最初に特訓の成果を試す相手がハニーとは」

 

襲ってきた数匹のハニーを切り捨て、周囲を索敵し…問題ない事を確認してから納刀し、そう呟く。

 

「アリサ、あいつらには魔法は通用しない。だから魔法以外の攻撃手段が必要なんだけど…なんとかなるか?」

 

「……ちょっと待ってて。此れを試してみるから」

 

言いながら、アリサは両手の拳銃型デバイスをくっ付けて…

 

「モードチェンジ、エアロブラスター」

 

そう告げる。すると二丁の拳銃が変形を告げ、一丁のライフルに。

 

「……それは?」

 

「私もね。魔法が効かない敵の存在は前から想定してた、だから魔法以外の攻撃手段も用意してたっていう訳。此れはね、魔法の力で空気砲を放つの。弾はこれよ」

 

「パチンコの弾?」

 

「そう。あくまで魔法を使うのは動力部分だけ、実際にはこのパチンコの弾を撃つわけだから、これなら多分、効果があるはず…」

 

言いながらアリサは銃口を壁に向けて、トリガーを引く。

 

バシュッ!!っと短い音がしたかと思うと、パチンコ弾が発射され、壁を穿った。

 

……立派な質量兵器だ。

 

「難点は、非殺傷が不可能っていう事と弾切れの心配がある事かしら」

 

なんだろう、そういって微笑むアリサは可愛いんだけど…冷や汗が止まらないのは…

 

「……フレンドリーファイアだけは勘弁してくれよな」

 

取りあえずそれだけ言っておいた。

 

信じてるからね。アリサさん。

 

「それはそうと…向こうは大丈夫かしら?」

 

「だんちょ~のことか?さぁな。一応、ドクターJには釘を刺して、久遠もヤバそうだったら逃げるように言っておいたけど、」

 

あの爺さんが余計な事をしなければ恐らく大丈夫。

 

今回、俺は猫たちに再びフェイトの捜索を依頼した。

 

その他の捜索方法はジュエルシードやフェイト自身の魔力を追う方法がある。

 

フェイトが強めの魔法を使ってくれれば、それを感知する事が可能だ。

 

だがしかし、今回その手の情報が回らないようにドクターJに釘を刺しておいたのだ。

 

何故ならその手の情報が入り、現場に急行した場合、フェイトが戦闘状態に入っている可能性が高い。

 

相手がなのはなら互いに非殺傷設定での魔法の応酬だろうから、目立った怪我はしないが、あの三人トリオやジュエルシードの暴走体だった場合は危険だ。

 

だからこそ、その手の情報が入らないようにし、猫からの目撃情報からフェイトの潜伏先を突き止める方法を取った。

 

それなら、非戦闘時である可能性が高く危険は少ないからだ。

 

だんちょ~危ないマネはよしてくれよ。

 

 

 

 

「すげぇ…」

 

場所をアリサの家の前に移す、そこでは続々とやってくる猫たちから…

 

「ん、このあいだえきのちかくでみたって」

 

狐の女の子が内容を聞いて俺に教えてくれる。

 

なんだ?耕二は獣使いか何かか?

 

魔法使いで獣使いで…凄いなアイツ。

 

聞き取った情報を地図に記していく。

 

だけど…

 

「あちこち動き回ってるなぁ~~」

 

目撃情報が多すぎる。

 

印を見れば、本当に各所で目撃されていることが伺える。

 

しかも…

 

「いっしょにおとなのおんなのひとがいたって。おれんじいろのかみの」

 

……アルフさんか?

 

ミイラ取りがミイラになったのか?

 

何やってるんだと思っていると…次の報告が来た。

 

「だんちょ、だんちょ…たいへん。ついさっきこうえんでみかけたって」

 

しかもリアルタイムな情報。

 

「よし、着いてきてくれるか?久遠ちゃん」

 

「うん。くおんがんばって、こうじにほめてもらう」

 

 

 

 

 

 

「フェイトちゃん、アルフさん!」

 

「君は…」

 

よかったまだ居た……。

 

声を掛けると一瞬身構えたが、見知った顔だったためか直ぐに警戒を解いてくれた。

 

「君を探しに来たんだ、一緒に帰ろう。こんなことをしてる場合じゃない」

 

「…何かあったの?」

 

「君のお母さんが倒れたんだよ!!」

 

「ーーーっ!?」

 

「プレシアが?」

 

けど、心配いらない。耕二が助ける手段があるって、動いている。

 

この言葉を告げる前に…フェイトちゃんは……

 

「急がないと!!」

 

手に持った青い宝石を握りしめ、空を飛んで行ってしまった。

 

「あっ、待っとくれよフェイト!!あっ、あんた達教えてくれてありがとうね。だけど、もう危ないから帰りな」

 

それを慌てて追いかけるアルフさん

 

「だんちょ。あのこいっちゃうよ」

 

「追いかけよう」

 

慌てて追いかける。が、相手は空を飛んでおり…

 

「ずるいな…飛べるのって……」

 

直ぐに見失ってしまった。

 

「どうするの?」

 

「飛んで行った方向に行ってみる」

 

耕二やアリサだって頑張ってるんだ。

 

団長の俺が頑張らないでどうするんだ。

 

そして、2時間ほど捜索し、手がかりもないので一旦戻ろうかとした所で…

 

違和感を感じだ

 

「くぅ?これこうじの」

 

「あぁ、結界って言ってた奴だ」

 

捜索前に教えて貰った。

 

結界。実際に耕二に何度か展開して貰い、この違和感を感じたら魔導師が何らかの戦闘行為を行っている可能性が高いから即座に逃げろと。

 

だけど…

 

「此処で退いたら、何の為にここまで来たか分からねーよ」

 

「でもこうじいってた。あぶないって」

 

「大丈夫だよ。ちょっと物陰から様子を伺うだけさ」

 

そういって、俺は身を物陰に隠しながら移動する。そして目の前には…

 

「フェイトちゃんと…あれは……高町さん?」

 

探していた少女と同級生の少女が空中戦を行っている姿だった。

 

アルフさんも近くで知らない少年と戦っているのが見える。

 

高町さんが何かを叫んでいる。あいにく距離がありすぎて聞こえない。もっと近づこうとすれば

 

「あぶない」

 

久遠ちゃんに止められてしまった。

 

仕方が無くその場に隠れたまま様子を伺う。

 

積極的なフェイトちゃんとは対照的に何処か消極的な高町さん。

 

ずっと何かを話しかけている。かと思いきや…

 

「うぉ、なんだあれ?」

 

ピンク色のレーザーみたいなのを放った。キレちゃったのか?

 

でも当たらない。距離を積めて、フェイトちゃんが怒涛の攻撃。

 

「す、すげぇ…」

 

正直、見惚れていた。そしてそれに惹かれるように少しずつ近づく。

 

久遠ちゃんが裾を引っ張って止めているけど…ごめん。そして…

 

そしてよいよフェイトちゃんの攻撃が苛烈を極め、防戦一方となりつつなり、決着が着こうとした所で…

 

「ストップだ!此処での戦闘は危険すぎる!僕は時空管理局執務官のクロノ・ハラオンだ!!」

 

知らない黒い服の少年が割って入った。声が聞こえた。何時の間にかそんな近くまで近づいてしまっていたようだ。

 

さらに…

 

「空気読めよ!!」

 

言いながら何かを投げている男の姿…あれはたしか…

 

耕二が前に言ってた…なんだっけ?アチャ男?だったっか…

 

「止せ!これは公務執行妨害だぞ!!」

 

「うるさいKY。良い所で邪魔に入るなっ!!」

 

そんなやり取りを続ける二人。

 

そのせいか、戦闘も停止している。というかその隙をついてフェイトちゃんとアルフさんは飛んで行ってしまった。

 

「だんちょ……あぶないっていったのに…」

 

くいくいと裾を引っ張ってくれていた久遠ちゃんの眼尻に涙が溜まっている。

 

ヤバい。

 

こんなことが知れたらマジで耕二に殺されるんじゃないか?

 

「ご、ごめん。あ、そうだ。フェイトちゃんも行っちゃったし、一旦帰ろうか。あぁ、帰りにお小遣いで美味しい物買ってやるから…だから泣かないでくれ」

 

久遠ちゃんに謝りつつ、そっとその場を後にする。

 

これを耕二とアリサに報告しなきゃいけない。

 

「はぁ……俺なんかが団長でいいのかな?」

 

あの二人に比べると禄なことが出来ていない。

 

俺にも力があれば、もっと協力できるのに…

 

「そういえば、俺にも魔力があるって言ってたっけ」

 

今回の騒動が終わったら、色々教えて貰おう。

 

そう決意し、帰路に着いた。




ハニホー

更新。

勢いだけで書いた。後悔はたぶんすると思う。

魔導師の天敵登場。最初は普通にメタルスライム系の予定だったんだけど…

……ちょっとふざけちゃった♪

パワプロとかでは直球よりも変化球が好きな葉虎でございます。

高速スライダーとかね。



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第24話

作者迷走中……。

し、シリアスが書けねぇ…


 

「うわっ!?」

 

アリサと共にダンジョン攻略から帰ってきた。

 

んで、ダンジョンでは役に立たないので、充電していた携帯電話を手に取って画面を見て唖然とする。

 

着信履歴にズラーッと高町なのはの名前が。

 

「……見なかったことに…」

 

出来たらいいなぁ。

 

無視したらまた追っかけられるんだろうなぁ。

 

それはそうと…

 

そんな事を考えつつ、コールバックしようかと思ったが、後回しにする。

 

今はだんちょ~達と情報を共有し、今後の方針を立てないと…

 

 

 

「ま、マジかよ!?」

 

「そんな……お母さん」

 

「……何とからないの?」

 

まず、俺達の話を聞いただんちょ~、シア、クロの反応。

 

「まぁ、仮説だけどな。そうなる可能性は高い」

 

時の砂は一階層にそれぞれきまった量しか手に入らない。

 

この法則は地下11階でもほぼ増減が無かった為、今後もそうである可能性が高い。

 

ペース的にはプレシアさんの身体が恐らく持たない。

 

「かといって、焦って攻略するのが最も危険よ。段々、敵の強さ…トラップの殺傷性…ともに上がってるもの」

 

「あぁ、むしろ攻略のペースは落ちると思っていい。」

 

潜っている時間も段々と短くしていった方が良いだろう。

 

難易度が上がり、疲労度も上がっている。疲れた状態で難敵、難所にぶち当たるのが一番危ないからだ。

 

「一応保険に代替え案は考えておいたが…」

 

「保険?」

 

「えぇ、コールドスリープよ」

 

コールドスリープ。

 

冷凍冬眠状態にし、病状の進行を遅らせ時間を稼ごうというものだ。

 

合わせて、俺のホイミで体力だけでも回復すればある程度の時間は稼げる見込。

 

その間、時の砂を集める。と言った具合だ。

 

だが、リスクもある。

 

冷凍冬眠状態から蘇生した場合、何らかの後遺症が残ると言うケースがあるようなのだ。最もそれは…

 

「冷凍睡眠状態から、病気に掛る前の状態に一気に肉体を逆行させるから、その辺りのリスクは問題ないんだけどな」

 

だからこそ、保険としてドクターに準備をお願いしていたのだ。

 

しっかし、この爺さんも謎だ。

 

駄目もとで言ったが、まさか必要な設備があるとは……。

 

 

アリサから幾つかデバイスに関する特許を持ってるから、資金は腐るほどあるみたいだという話は耳にしていたけど……個人でこんな設備を所有すんなよ。

 

「まだ準備はおわっとらんぞ」

 

「アリサは準備を手伝ってやってくれ。俺の方はちょっとやることが出来た。」

 

だんちょ~と久遠から聞いた話を聞くに、十中八九…なのはちゃんからの電話は管理局がらみだろう。

 

コールドスリープはできれば使いたくない。なので俺は引き続きダンジョン攻略に専念して、空き時間にフェイトの捜索と行った所か。メインは管理局となのはちゃんにやって貰う事にする。

 

 

「シアは引き続きプレシアさんに…意識が回復したら今のうちに一杯話しておくといいよ…クロは…」

 

「分かってる。シアと一緒に居るわ」

 

……よし、後でご褒美に杏仁でもプリンでもなんでも作ってやる。

 

んで、だんちょ~は…

 

「分かってる。俺も残るよ。正直、足手まといになりそうだ。だからさ、この件が終わったら俺にも……魔法を教えてくれないか?」

 

それは別に構わないが…どういう心境の変化だ?

 

「なら…私のデバイス貸してあげるから、早速魔法の練習とかしてみる?」

 

「いいのか?アリサ」

 

「えぇ、準備で忙しいしね。インテリジェントデバイスだからこの子ならある程度の基礎は教えられるわ。だからと言って、耕二の所にはいかないようにね。ぶっつけ本番で戦闘なんて事になったら……最悪、死ぬわよ。」

 

「わ、分かってるよ」

 

んじゃまぁ…方針も決まった事だし。

 

「……電話すっか」

 

とりあえずはなのはちゃんからかな…。

 

 

 

なのはちゃんに電話し、今日はもう遅いという事で後日。

 

なのはちゃんと会って一緒に次元空間航行艦船アースラへと来ていた。

 

案内されたのは茶室。いちおう言っておくが、宇宙戦艦の一室である。

 

色々夢がぶち壊しだ。

 

ってか?いいのか…これ?仮にもこの戦艦ってあれだろ?資金は税金とかから賄われているんだろ?こんな趣味全開の部屋拵えて…。

 

ま、まぁ。俺が払ってるわけじゃないから細かくは言わないけど…。

 

「呼び出してしまってごめんなさい。どうぞ、楽にして」

 

中には綺麗な正座で座っている美女。

 

自己紹介されずとも知っている。リンディさんである。

 

艦長さんである。

 

そして何より未亡人である。

 

……とても子がいるとは思えない若さ。

 

っとと、突っ立っているのも拙いので、進められたまま対面に座る。

 

俺の隣にはなのはちゃんが、そしてリンディさんの隣には黒助。息子であるクロノが控えている。

 

そしてリンディさんは手慣れたように急須からお茶を注ぎ、近くのポットから白い四角ものを茶に…

 

「やらせねぇよ!!」

 

入れられる前にシュバっと湯呑みを奪った。

 

「あらあら、甘い物は嫌い?」

 

「えぇ、基本的に無糖が好きなんで…」

 

いいつつ、ポチャポチャと自分の湯呑みに砂糖を入れていく。その様子を呆然と見ていたなのはちゃん。慌てた様子で砂糖を入れられる前に自分の湯呑みを確保する。

 

クロノもちゃっかりと自分のお茶を確保し、全員にお茶がいきわたった所で…

 

「初めまして。時空管理局巡察艦艦長のリンディ・ハラオウンです。今日は呼び立ててしまってごめんなさい」

 

「僕は時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ。君の事は彼女から聞いている。」

 

俺はちらりとなのはちゃんを見る。ビクッと震えるなのはちゃん。睨んだつもりはないが、まぁ、心情的に余計な事をとか思っていたので、不機嫌な顔になっていたのだろう。

 

「……ども、槙原耕二です。」

 

事項紹介が終わり、事情聴取のような会話が始まった。

 

「さて、君も魔導師らしいが……魔法はどこで?見たところ君も管理外世界の人間だろう?」

 

「まぁ、とある伝手である人に基礎だけみっちり教えられただけですよ。名前くらいは知ってると思いますが、ザミエル・クロイツェル。彼女がまぁ、先生ですかね」

 

これは半分本当。この人には基礎訓練と称した地獄を見せられた。

 

ザミエル・クロイツェル。金髪のショートカットに眼鏡をかけたクール美女である。

 

ちなみにこの人、今は引退しているが昔は管理局で魔弾の射手とも呼ばれた凄腕の魔導師でランクはSS。

 

今も語り継がれる。航空戦技教導隊の伝説の戦技教導官でもあった人らしい。

 

因みに滅茶苦茶怖い。

 

アリサと一緒にやった基礎訓練だが……こっそりホイミを使って回復していなければ、俺とアリサはこの場に存在しなかっただろう。

 

まぁ、後から聞いた話だが、体力的にきつくなればやめさせようとしていたようで、ホイミで回復した分、余計にメニューがきつくなったそうだが…。

 

半分本当というのは今ではアリサの専属みたいな感じで自分の技術を叩き込んでおり、俺には別の先生が居るからである。

 

使用しているデバイスは二丁の銃の形をしたデバイス…ケルベロス。

 

作ったのはドクターJ。まぁ、俺の師匠を含め、その伝手で師事することが出来るようになったのだが…。

 

「ざ、ザミエル・クロイツェルって…」

 

「し、知ってるも何も……伝説の戦技教導官の名前じゃないか!!」

 

驚愕する2人。やっぱり有名人だね。ザミエルの姐さんは。まぁ、こう言うと容赦なく弾丸で撃ち抜かれるから居ないところでこっそりと言っているのだが……。

 

言わないと言う選択肢は初めからない。

 

「あの人の教え子なら申し分ないわね……。槙原耕二君だったかしら、このジュエルシード事件の解決に協力をして貰えないかしら?」

 

お茶を一口飲み、取りあえず落ち着リンディさんがそう尋ねた。

 

「ま、待ってください艦長。いくら、あの伝説の戦技教導管の教え子とは言え、彼は民間人のはずです……。民間人だよな?」

 

言い終わった後、念の為に確認をしてくるクロノ君に頷く。

 

まあ、交友関係はそこらの管理局員よりヤバくなってるけどな。

 

「フェイトちゃんに関しては俺にも関係のある事ですから、駄目と言われても勝手に動きます。それ以外は…まぁ、俺もちょっと色々忙しくて……協力は約束できません。」

 

「……そう、ならフェイトさんの事だけでいいわ。ねぇ、クロノ執務官。勝手に動かれるよりも協力体制を取った方がやり易いと思わないかしら?」

 

「それは……確かにそうですが…」

 

渋々認めるクロノ君。

 

こんな感じで、フェイトに関して俺と管理局との共同体制で当たる事となった。

 

とは言っても、別段何をどうしろという訳でもなく、基本的には情報交換。互いにフェイトを見つけたら知らせようと言う状態。それまでは通常通りに生活を送るという感じだ。

 

だから俺としてはダンジョン攻略に専念しつつ、フェイトは実績もある方々である猫部隊に捜索をお願いし、得た情報を管理局に伝える事で協力をするつもりだ。

 

 

話も終わったのでなのはちゃんと共に帰路に着く。

 

別段夜も遅いという訳では無いが、日は沈みつつあるので一応、彼女を翠屋まで送って行く事に。

 

「耕二君の先生がそんなにすごい人とは知らなかったの」

 

「ザミエルの姐さんの事か……まぁねぇ。俺も話を聞いてびっくり……はしなかったな。今思うと…」

 

あの眼光、殺気、ただものじゃねぇ……とは思ってたし。

 

「いいなぁ。ねぇ、今度私にも会わせて」

 

「……やめとけ。命を大事しろ」

 

大方、自分も師事を仰ごうと言う腹だろうが、マジで止めておいた方が良い。鬼のしごきだぞあれは。

 

なのはちゃんに姐さんを紹介した事で罪悪感に苛まれたくない。

 

そして将来…原作通り教導隊に所属した際は……訓練を受ける子たちが可哀想だ。

 

そんな感じで、色々と誤魔化しつつ会話を続け、彼女を翠屋まで送り届けた。

 

「あら、あらあら、耕二君。なのはを送ってくれたの?」

 

翠屋に入り、桃子さんが奥から出てきて声を掛けて来てくれた。

 

「ありがとうね。あ、そうだ。お礼に夕飯うちで一緒に食べて行かない?」

 

有難い話だが、寮で俺の分の食事も用意してくれているはずだ。

 

アリサの所に行こうかと思ったが、アスターズの面々は解散してるだろうし……そう考えた所でタイミングよく電話が鳴る。相手はクロ。

 

桃子さんに断って電話に出る。

 

『あっ!?おにいちゃん、早く……早く帰って来て!!大変なの!!』

 

切羽詰まったような声、まさかプレシアさんの容態が!?

 

「どうした!?何がった!?」

 

思わず声を荒げてしまい、注目を集めてしまう。

 

『おかあさんが……おかあさんが……料理を作ってるんだよ!!』

 

思っていた事態とは違う。違うが……確かに一大事だ!!

 

「なっ!?父さん……父さんはどうした!?」

 

『昼間にちょっと手を怪我したみたい。大事は無いんだけど……。代わりにお母さんが……「耕二か!?貸せ!!」……おい、耕二!早く帰って何とかしろ!!』

 

真雪さんがそう叫ぶ。よほど切羽詰まっているのだろう。

 

状況から察するにもう既に料理は開始されているようだ。進行具合は分からないが今から帰った所で、手遅れ。作り始めた料理を止める術は無い。

 

ふむ……残された手段は……。

 

「あ、真雪さん。俺、今日友達の家で夕飯ご馳走になって帰りますね。」

 

『なっ!?て、てめぇ!!自分だけ…』

 

ピッと通話を終了し、電源を切る。

 

「すいません。夕飯ごちそうになります。」

 

「家に帰らなくていいの?大変そうだったけれど」

 

「いいんです。むしろ俺の身を案ずるなら、どうか……どうか夕食をご一緒させて下さい。」

 

元々夕食に誘ってくれたのは桃子さんの方なのでそのまま高町家でご馳走になった。

 

美味かった。

 

自分の命が助かった安心感もあってその味は格別だった。

 

まぁ、その翌日の朝食にて……。

 

ご丁寧に昨夜の残り物がラッピングしてあり、結局は俺も撃沈したのだが……。

 

 




かなり前に書きあがっていたもの。

本当は無印終わりまで書き溜めるつもりだったのだが…。

次話で停滞。書けないよ。書けないよ。

作者の中でやっぱりフェイトが鬼門だ。絡みが書けない。キャラ的には好きなんだけどな。

はぁ…ASが遠い……。

今回出てきたザミエルの姐さんはとりあえず名前だけの予定。今後出てくるかどうかは読者様の反応次第。
キャライメージ的にはザミエル卿の2Pカラー。

とりあえず実家に帰省して、正月休み中…悶々と考えることにします。

ではでは、今年一年ありがとうございました。来年のよろしくおねがいしやす。


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第25話

まだ、覚えていらっしゃるお方、お久しぶりです。

とりあえず生きてます。

リハビリがてらデレステとか他の二次創作を書いたり、考えてたりして早数年。

遅くなってしまいましたが、どうぞ。

短くてごめんなさい。


 

ひ、酷い目にあった……。

 

管理局と接触してから翌々日。俺はふらふらと洗面所に行き、顔を洗う。

 

昨日は丸一日、寝込む羽目になった。恐るべし、母の手料理。

 

「ふっふっふ、自分だけ逃げようとした罰だよ」

 

同じくふらふらと起きてきたクロが若干青い顔のままそう言う。

 

そんなクロに洗面台を譲りつつ、身支度を整える。朝食は外でも田部らえるようにサンドイッチにして貰った。

 

昨日は体調不良の旨をアリサに告げたまま、ダウンしてしまった。

 

状況を確認しないと……。

 

 

「よう、おはよう」

 

「おはよう耕二。とはいってももうお昼になるけどね。顔色がまだ少しわるいけど……大丈夫?」

 

そっと頬に触れながらそう尋ねるアリサ。

 

あ~、冷たい手が気持ちいい。

 

「大丈夫だ。だが、まだ戦闘とかは無理だな。待たせているシアには悪いけど…」

 

ダンジョンにはとても行けそうにない。

 

「ううん。大丈夫だよ。急いだからって直ぐにどうこうなる問題じゃないし……これで耕二君まで倒れちゃう方が心配だよ」

 

奥からやってきて話を聞いていたシアがそう言う。シアも若干顔色が悪い。まぁ、原因は俺とは別だろう。

 

プレシアさんが倒れてからずっとアリサの所に泊まっているが、やっぱり…

 

「お前こそ大丈夫か?ちゃんと寝てるか?」

 

シアに聞きつつ、ちらりと横目でアリサを見る。

 

「う、うん。元気いっぱいだよ」

 

そう答えるシアだがアリサは首を振る。つまりはあまり眠れていないのだろう。

 

ふむ…

 

「……ラリホー……っと」

 

スッと距離を詰め、シアにラリホーを掛ける。前のめりに倒れるシアをそのまま抱き留め……

 

「ちょっと強引だけどな。少し休ませた方が良い。アリサ、ベットに…」

 

アリサの案内の元、シアが使っているベットに放り込んだあと、アリサと部屋を出る。

 

「それで状況は?」

 

「準備は整っているわ。プレシアさんの体調は……まぁ、良くもなっていなければ、悪くもなっていないわね」

 

つまり意識はまだ戻っていないのか…

 

「通常、コールドスリープには本人の同意が居るのだけど…これ以上、状態が悪くなるようなら…」

 

「あぁ、仕方がないだろう。シアには了解を取ろう。だけどフェイトちゃんには……」

 

「今、居ないしね。それに居たとしてもどういう反応をするか……」

 

想像できないな。普段はそんなことないのだが、事がプレシアさんとなると冷静な判断力を無くしそうだし。

 

「いいさ。そうなった場合、俺が恨まれるだけだ。大したことないさ。」

 

「……おひとよし」

 

呆れたように言うが、そんな俺に付き合うお前もな。

 

そんな話をしつつ、リビングに移動する。

 

「ふぅ…」

 

ドサッとソファー座り込む。俺も休もう、早く体調を整えないと。

 

そんな俺の隣にアリサも座って…

 

「……えい」

 

俺を引っ張り、自分の方に倒れ込ませ、頭をそのまま膝の上に乗せた。

寝苦しいので横向きから仰向けに体制を変える。

 

自然とアリサを見つめ合う形になる。

 

少しアリサが顔を覗き込むようにし、髪が頬を擽る。

 

気にせず、アリサはどんどん顔を近づけ……

 

「ん……って、おい。」

 

「…私にも癒しは必要よ。それに頑張ったんだもの少しくらいご褒美を貰っても怒られないわよ」

 

唇に手を添えてそんな事を言うアリサ。だがその顔は真っ赤だ。

 

誤魔化すようにゆっくりを髪を撫でてくる。

 

あ~~なんだろう。眠くなってきた。

 

やっぱり疲れてるのかな……。

 

そのまま心地よい微睡に身を任せて行く……。

 

 

 

そして翌日。

 

前日、ゆっくり休めた事もあり、絶好調だ。

 

現在、14階を攻略中。階層が下になった事により、前の階よりダンジョンは広まったが、攻略のスピードは格段に増した。

 

それは…

 

「ふぅ、行けるわね。この作戦は」

 

アリサが考えた作戦のお蔭である。

 

ダンジョンで一番時間が掛る事…それはマッピングだ。

 

アリサが作ったプログラムで自動マッピングを行っていたとはいえ、ダンジョン内を歩きまわらないといけなかった。

 

だが…

 

「……あぁ。確かに効率は良いよ。だけどさ、ダンジョン攻略の醍醐味を全てぶち壊しているよな」

 

この先には何があるのか分からないのがダンジョンの怖さでもあり、面白さでもあったんだ。

 

「今は効率が一番でしょ。」

 

言いながら、四方に飛ばしていたサーチャーからデータを得て、マップを作成していくアリサ。

 

自分自身で歩くことなくサーチャーにより、ダンジョンデータを収集しているのだ。

 

これで、動かなくても正確なマップができ上がっていき、攻略スピードが高まるって訳だ。

 

下手な行き止まりに詰まる心配がないのが良い。宝箱の場所も分かるしね。

 

「この方法に今まで気が付かなかったなんて…私も馬鹿よね」

 

「いやいや気づいただけで凄いって」

 

俺もまったく気が付かなかった。ダンジョンは歩きながらマップを埋めていくみたいな固定概念があったからな。ゲームとかで。

 

さらに、俺がトヘロスを使う事により、敵と遭遇する事も無くなりサクサクと攻略は進んでいく。

 

なんで忘れていたんだろう。トヘロス。

 

あれかな、ドラクエシリーズで殆ど使ってなかった呪文だからかな。

 

だって、雑魚と戦ってレベル上げなきゃ勝てないし、使っても特技の忍び足だったしな。

 

しかし、地下15階の攻略でその甘い考えは吹き飛んだ。

 

 

 

「アリサ!?」

 

咄嗟にアリサを突き飛ばし、代わりに発動したトラップの矢を受ける。

 

「こ、耕二!?」

 

涙目になりながら、慌てふためくアリサに俺は笑いながら告げようとする。

 

大丈夫だと、痛みは殆どないし、多分かすり傷。ホイミを使えば傷跡も残らないからと……。

 

しかし……。

 

ピクリとも動かない身体。喋る事さえできない。あれ?これって…

 

麻痺か!?

 

俺の状態に気が付いたのだろう。慌てて、カバンから薬を取出し、突っ込まれる。

 

この薬はダンジョンの宝箱から手に入れた、状態異常を治す万能薬だ。

 

「た、助かった。」

 

ま、マジで怖かった。意識はあるのに身体が動かせないとは……こんなにも怖い事だったのか。

 

思えば、麻痺になったのは初めてだ。毒は何回かなった挙句、速攻でキアリー使ってたからあまり気にしてなかったのだが。

 

麻痺はヤバい。キアリクが使えない。

 

しかも今、パーティーは俺とアリサの二人。

 

ちょっと過信しすぎていた所があったかもしれない。

 

念の為にキアリクを一度唱えた後、ホイミで傷を癒して、身体に問題が無い事を確認し、今日はダンジョンから離脱する。

 

そして、アリサの家で反省会。

 

「やっぱり、ガントレットとか手袋とか……手にも防具は必要よ」

 

矢から身体を庇う為に手を出したのが拙かった。

 

身体だったら、バリアジャケットの恩恵で身体まで矢は届かなかっただろう。

 

「やっぱそうかぁ。蒸れるし、あんま好きじゃないんだけどなぁ」

 

それに手に何かしら付けた状態だと細かい作業がやりにくい……。まぁ、慣れれば大丈夫なのかもしれないが

 

「それに今回みたいな不測の事態があった場合、二人だとちょっと危ないかもしれないわね。特に耕二の魔法が生命線な部分があるもの」

 

 

「……まぁな。咄嗟に離脱するなら俺のリレミトは必須だし」

 

「……人員を増やすしかないわね。二人じゃ危なすぎる。」

 

「それに加えて、俺たち二人の戦力の強化もな。段々と敵も強くなってきているし、ダンジョンも複雑化してる。」

 

目下、一番必要なのは罠とか見分けられる人。

 

ゲームとかで言うとスカウト…とか言うんだっけ?ああいうサポートタイプ。

 

理想を言うなら場数を踏んでいるベテランが良い。

 

俺達の経験不足を補えるような人が。

 

 




この作品について正直なところを言おう。

……早く無印終わらせて、シグナムとの絡みが書きたい!!


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