Fate/Evil (遠藤凍)
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番外
セイバーの日常




今回はセイバーさん視点の日常回

では、お楽しみ下さい。


 

 

私こと、セイバーの朝は早い。

 

朝日が昇る時間帯。

現代の時刻で午前6時に目覚め、前に買ってもらった“ぱじゃま”から“じゃーじ”に着替える。

 

拠点(新都の東側の中央より)から未遠川に向かってエイジから頂いた『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』と同じ丈の木刀を持って走り、体を温める。

 

川に着いたら、川原で、訛ってないか確認しながら素振りをする。

ある程度したら、拠点まで走って戻り、じゃーじを脱いで、買ってもらった服に着替える。

そのままじゃーじを脱衣所の籠に入れて、台所に向かい、茶碗と箸を持って、エイジの自室の前で座って起きるのを待つ。

 

 

 

 

 

その数分後に扉が開き、エイジが眠気の残した顔ででてくる。

以前は驚かれたが今回から慣れてしまったのか、「飯だな?ちょっと待ってろ」と言って食事の用意をするために台所へ向かった。

 

 

 

普段あまり感情を表に出さない彼の驚いた顔が見れないのが残念だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

去り際に、「まるでペットみたいだな……」と言っていたが、“ぺっと”とはなんだろうか?

今度エイジに尋ねてみることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイジの料理はどれも美味しいので、箸がよく進む。

今朝も2人前を平らげるとエイジの乾いた笑い声が聞こえたがどうしたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食後。

エイジは仕事が入り、外に出て行った。

どうやらある荷物の輸送と護衛を依頼されたらしい。

 

確か中身は……世界で1番最初に脱皮した蛇の化石、だったはず。

 

エイジが仕事の間、私は暇になってしまったので、“てれび”を点けて暇を潰す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お昼過ぎ。

用意されていた食事を食べ、てれびを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お昼が過ぎてちょっとしたぐらいに、エイジが帰宅した。

疲れたと言って、そのまま“そふぁ”に寝転び、眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………暇だから彼の寝顔を眺めることにする。

 

間違っても、見たいからというわけでなく、暇つぶし程度に見るのだ。

 

 

………ふふっ、エイジの寝顔、普段からは想像できないほど可愛らしいですね………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体感時間で数十分、実際には5分弱経った頃。

 

エイジが目を覚まし、慌てて元の位置に戻り、平常を装う。

寝起きだからか、エイジはまだ眠そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後3時頃。

エイジに外に出かけようと提案されたので、一緒に出かけることにした。

どうやら予備の拠点候補と同時に、私にこの街の地形を覚えて貰おうと考えているらしく、基本毎日一緒に外に出かける。

 

 

 

 

………そういえば、これはてれびで言っていた“でーと”いうものではないだろうか?

男女が仲よく、楽しく出かけることがそうらしいのだが………私たちの場合はどうでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェルデは、エイジがよく訪れる場所だ。私はどちらかというと、深山町の方の商店街がいい。

あっちは食事関係の店が揃っているからだ。

 

1度エイジに連れてってもらったっきり、全く行っていない。

 

ただ店に立ち寄って外食をしただけなのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある程度見て周ると、エイジがお手洗いに向かったので、その場で辺りを見渡すと、ある店が目に入った。

様々なぬいぐるみが置かれた専門店だ。

 

特に私の胴体ぐらいの大きさのライオンのぬいぐるみが気になった。

 

………あれを抱きかかえてモフモフしたいですね………。

うぅ〜、欲しい………。

 

 

「………そんなに欲しいなら、買ってやろうか?」

「ッ!?エ、エイジ!いつから戻ってきたのですか!?」

「お前がそれに喰いついた辺りから」

 

 

不覚………まさか見られていたとは………王としての威厳が………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………で、欲しいの?欲しくないの?」

「欲しいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

威厳?そんなの今捨てました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〜♪」

 

 

買ってもらったぬいぐるみを抱きかかえ、拠点に帰ってからずっと、顔をうずめてモフモフしている。

 

 

「………フッ、年相応の趣味もあるんだな……」

 

 

あぁ〜、このモフモフ感がたまりません!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がついたら、一時間もモフモフしていた。

 

横でにやけた顔のエイジがこちらを見ていた………は、恥ずかしい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後6時。

エイジが突然、手合わせをしようと頼まれた。

もちろん断った。いくらエイジが強くても限度があると。

だが、その後話し合った結果、手合わせをすることになった。

 

………別に、モフモフしているのを見られ、「へえ、騎士の癖に逃げるんだぁ?」と言われた腹いせではない。

そう、あくまで手合わせだ。

 

武器は木刀。勝利条件は「相手に降参させる」こと。

 

 

フッフッフッ………今こそ王の威厳を見せる時!

いざ、参る!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………エイジは本当にただの魔術師か?

 

英霊、ましてや、全盛期の私相手に互角に打ち合っていた。

最初、様子見がてら軽くするつもりが気づけば本気を出させるまで発展した。

もしかすると、私はとんでもないマスターに選ばれたかもしれない。

 

ひょっとしたら、この人となら、私の悲願を叶えられるかもしれないという期待と同時に、彼を恐ろしく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時エイジが、黒い笑みを浮かべていたのに私は全く気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後7時。

体を動かした後の食事は最高である。

今晩は焼肉らしく、用意が出来るまでぬいぐるみをモフモフしておこう。

 

 

 

 

 

しばらくモフモフしていると、エイジに、できたから来いと言われたので箸を持って向かう。

 

いざ、戦場へ!

 

 

 

モグモグ…………あっ、エイジ!それは私が育てた肉です!

………え?名前でも書いてんのかって?

フッフッフッ、そんなこともあろうかと、唾液をつけておきました!

…………って、なんでむせているんですか?

ほら、お水飲んでください。大丈夫ですか?焦って食べるからですよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後8時。

お風呂が沸き、“れでぃふぁーすと”ということで、私がいつも先に入らせてもらっている。

 

 

…………そういえば、彼と出会ってもう3ヶ月ですか。

 

 

最初は彼のミスによる不本意の召喚だったが、今ではいい思い出だ。

 

共に笑い、酒を飲み、語り合ったりした。

 

ある時はエイジに嫌がらせをされ、ある時は聖杯戦争に向けて話し合ったり、ある時は食事の奪い合いをしたりした………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、これでいいのだろうか?

あと3ヶ月もすれば、聖杯戦争の始まりと共に、私たちの別れが近くなるということです。

 

………ですがそれが私たちサーヴァントという存在、こんなにお世話になった彼に、これ以上迷惑をかけられません。

 

 

 

 

 

 

………そう、それが最善なんです、彼にとっても、私にとっても。

 

 

 

 

そして、いつかは言わないといけない。

 

聖杯に望む、私の願いを。

故郷の救済、ブリテンの滅びの運命を変えることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがそれを聞いたエイジは、なんていうのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜだろうか?

彼に否定されるのが、怖く感じた。

否定されたことを考えると胸の辺りが酷く痛く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

これは………いったいなんだろうか?

いつか、分かる日が来るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

………とりあえず、今日はもう寝よう。

午後11時、就寝。

おやすみなさい。

 

 






いかがでしたか?

今更ながら戦闘描写が苦手なことに気づいてしまった。
そろそろ聖杯戦争に突入するのだが、うまく書けるか心配になってきました。

では、また次回。



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メリークリスマス!

どうも遠藤凍です。

今回はクリスマスということで、番外編を書かせていただきました。

少し遅かったのは、キャスター戦と並行で書いていたからです。

とりあえずifのつもりで書いたので時系列はめちゃくちゃです。

では、どうぞお楽しみ下さい。


明後日は12月25日。

 

どうやら現世ではクリスマスという日らしく、人々が祭り事をし、何かを祝う日のことを指すそうだ。

 

家族で、友達で、夫婦で、そして、恋人同人で-----

 

 

 

夜にパーティーという祝典を開き、ご馳走を食べるそうだ。

 

 

 

ああ、クリスマスとはなんて素晴らしい日なのでしょう!これこそまさに祝典!私が求めていた理想郷!

 

 

しかし、今回の私は一味違う。

クリスマスの醍醐味………そう、それは-----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「-----プレゼント交換?」

「そうだよ。クリスマスでは仲のいい友達や好きな人、恋人や家族に贈り物をし合うのが普通だよ?セイバーの場合、僕とエイジだね」

「アスモとエイジ、ですか………確かに、普段からお世話になっていますしね……」

「そう、だから僕たちも贈り物を用意しなくちゃ!」

 

 

とは言われても………何を贈ればいいのだろうか?

 

 

「何を贈ればエイジは喜んでくれるのでしょうか?」

「うーん………エイジは多分何でもいいと思うよ?」

「そうなんですか?」

「うん、貰った物には絶対ケチをつけないから………」

「しかし何でもといっても、適当にするには………」

「だよね。エイジは普段から感情を顔に出さないから僕も毎年喜んでくれてるのか分からないからヒヤヒヤしてるよ……」

 

 

うーん………どうすれば………。

 

 

「じゃあ、無難にケーキでも作れば?」

「ですが私は料理は………アスモは経験は?」

「…………ない」

「ですよね」

「料理はいつもエイジに作ってもらってたし………」

「そうでしたね………」

「じゃあどこかのお店で適当に………」

「ッ!それはダメです!」

 

 

いくらなんでも年に一度の大事な贈り物、手を抜くのは流石に相手に失礼だろうとアスモに論ずるとーーー

 

 

「セイバー………僕感動したよ!そうだね!手間暇かけて、気持ちを込めることに意味があるんだね!」

「その通りです!」

「セイバー!」

「アスモ!」

 

 

そう言って私たちは抱き合う。

女の友情とはいいものだと“てれび”で言っていましたが、ここまで素晴らしいとは……!

 

 

「でもどうするの?料理はできないし………」

「いえ、まだ手はあります」

「え?」

 

 

今こそ、てれびの知識を活用する時!!

 

 

「では、早速出かけましょう!」

「えっ?ちょっと!待ってえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

これは12月23日、クリスマスイブの前日のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方永時はというと……………悩んでいた。

もちろんアスモとセイバーのクリスマスプレゼントについてである。

 

アスモは…………エロ本でも贈ってやるか………?

いや、ダメだ。あいつは色欲の悪魔だから渡したら発情して襲われる危険性が………よし、やめよう。

やはり無難に猫のグッズか?とりあえずその線でいこう。

 

問題はセイバーだな……。あいつは…………食べ物か?

いや、あいつは変なところでマジメだから食べ物で釣れるか?やっぱり無難に………ん?

 

 

「これだ………!」

 

 

ふと、あるものが目に入ったエイジはすぐ様走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何?編み物がしたい、じゃと?」

 

すっかりクリスマス気分の街につられた間桐家はクリスマスパーティーの準備に取り掛かっておったのじゃが………妾の契約者である小娘、間桐桜が急にそんなことを言ってきおった。

 

「うん……おじさんに」

 

 

相手は屍もどき………しかいなさそうじゃしな。

 

 

「しかしのうお主、編み物の経験はないのじゃろう?」

「………うん」

「ムムム………教えるのが面倒だしの………潔く諦めy「ルシファー姉様はできないの?」……無論できるが?」

「じゃあ教えて」

「それとこれとは話が別zy「教えること、できないの?」な、何を言うておる!妾は誰だと思うておる!」

「………口だけの人?」

 

 

キィィィィ!言わせておけば失礼なことを………!

 

 

「………いいじゃろう、今回は特別に妾自ら教えてやろうではないか!」

「ありがとう、ルシファー姉様」

 

 

クッ…………!こやつとおると調子が狂うわ。

そうじゃ、あの男にもプレゼントを用意してやらねばな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桜ちゃん…………ぐすっ………お、俺………!」

 

 

して、屍もどきよ。覗きとは趣味が悪いぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、セイバーは何をする気なの?」

「フッフッフッ、よくぞ聞いてくれました。いいでしょう、今こそ明かされる私が求めていた究極の贈り物とは…………!」

 

 

ビシッと若干変なポーズで決めているが、英霊の持つオーラがセイバーから溢れ出し、思わずアスモは息を飲む。

 

 

「ズバリ、-----」

「……………ゴクリ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「-----手編みの物です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーン!と効果音が付きそうな勢いで言い放つ姫騎士。その勢いに思わずアスモもオォー!となるがあることに気づく。

 

 

「セイバー………それどこ情報?」

「もちろん“てれび”でですが?」

「そう………………セイバー、編み物の経験は?」

「ありませんが何か?」

「………そう」

 

 

ものすごく不安が積もるアスモであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ククッ…………クカカ………………クカカカカカカカカカ!我ながらいい考えが浮かんだぜ!クカカカカカカカ!!」

 

 

なんかマッドサイエンティストみたいな凶悪な顔で何かを始めようとするこの小説の主人公……………大丈夫だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「-----痛っ!」

「大丈夫ですかアスモ?」

「うん………あっ、セイバー!縫うところ間違えてるよ!」

「えっ!?そ、そんな…………またやり直し………」

「間に合うかなぁ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「-----ここをこうして、こうすれば…………ほれ、やってみよ?」

「うん…………」

 

 

「あれって………魔王なん、だよな?おっと、俺も早くプレゼントを探さないと!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時は来た。

12月25日-----クリスマスという名の聖戦が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「メリークリスマス!!」」」

 

 

各々がクラッカーを鳴らし、並べられた豪華な食事を食べ始める。

 

 

「モグモグモグモグモグ…………………」

「セイバー、少しは落ち着いて食えよ………」

「ほんとほんと」

「お前はお菓子ばっか食うんじゃねえ、子供か?」

「むう、子供じゃないもん………」

「だったらちゃんと食べなさい」

「はーい」

「モグモグモグモグモグ………………」

「どうしたセイバー?いつもなら『エイジ!クリスマスとは本当に素晴らしい祝典ですね!』とか言いそうなのによう?」

「モグモグ………食べ物が全てではない、ということです」

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてやってきた醍醐味、プレゼント交換。

 

まずは間桐家から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これは俺からのプレゼントな」

 

 

小娘にキラキラしたブレスレットを手渡す屍もどき。

 

 

「ありがとう、おじさん」

「ほう、屍もどきにしてはいいセンスじゃのう」

「俺だってやればできるってことさ。ほら、あんたもだ」

「妾に、じゃと?」

 

 

手のひら大の大きさの箱を渡され、中を見てみると、

 

 

「ゼンマイ式のオルゴール?」

「あんた綺麗な音色のものが好きなんだろ?」

 

 

試しにゼンマイを巻いてみると、とてもいい音色が聞こえてきおった。

これはなかなか…………。

 

 

「いい音色、だろ?」

「フンッ、まあまあじゃのう」

「そっか………「じゃが」………?」

「せっかくじゃ、ありがたく貰っておいてやろう」

「そうかい………」

「ほれ、小娘も渡す物があるじゃろう?」

「うん………おじさん、少ししゃがんで」

「ん………?こうかい?」

 

 

屍もどきがしゃがんだのを見計らって小娘は例のものを首に巻いてやった。

 

 

「いいよ?」

「えっ?これって…………」

「小娘の手編みのマフラーじゃな………」

 

 

紺色とは………なんか微妙じゃがのう…………。

おっといかん、次は-----

 

 

「次は妾じゃのう」

 

 

と言った途端に引き締まった顔になる二人-----そんなに緊張しなくとも良いのでは?

 

 

「ほれ、まずは小娘からじゃ………」

「これは?」

 

 

“見た目”は普通の薄い赤の髪留めじゃが………そう、見た目は-----

 

 

「それは妾の特別製での、それに魔力を込めるとすぐさま妾が飛んでくる+対攻撃Cの結界を張る代物じゃよ」

「とんでもない物作ったんだな………」

「まあその程度作るなら容易かったしのう………そうじゃ、屍もどきにもちゃんとあるから泣いて喜ぶが良い」

「俺にも?」

「さようーーーーーーバーサーカー!持って参れ!」

 

 

台所から箱を持ってくる黒騎士。

 

 

「妾からお主にやる代物はこれじゃ」

 

 

妾が手を軽く挙げると開かれる箱。

そこには真っ黒いケーキが………って黒い?

 

 

「ちょっと待て、妾は確か白いケーキを-----あっ」

 

 

しまった!!バーサーカーの宝具を忘れておったわ!

 

 

「確か………バーサーカーの宝具って………」

「掴んだものを宝具にする、じゃ………」

 

 

クッ!妾としたことが油断しておったわ!

 

 

「こうなれば………ありとあらゆる我が術を使って…………」

 

 

ケーキを元に戻す!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談じゃがこのあと戻すのに三十分かかりもしなかったわ。これぞ妾!傲慢を冠する者の実力じゃ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

では、セイバー陣はというと…………

 

 

「…………」

「…………」

「…………何これ?」

 

 

ちゃぶ台を囲んで、二人の美少女が濃厚な威圧を出しながらたまに永時をチラチラ見てくる…………永時に変わってもう一度言おう、何だこれは?

現在食事が終わり、楽しいプレゼント交換のはずだが…………

 

 

「とりあえず、プレゼント交換をしたいんだが…………プレゼント、あるよな?」

「「もちろん(愚問ですね)!」」

「そ、そうかい………じゃあ、まず俺からか?」

 

 

ほれ、と言って二つの小包みを二人の前に差し出す。

セイバーには本体が青で銀のリボン、アスモにはピンク本体で赤のリボンの小包みだ。

 

 

「開けていい?」

「いいぜ?」

 

 

その言葉を皮切りに小包みを紐解く。

さて、気になる中身は?

 

 

「これは………私、でしょうか?」

「かわいい!」

 

 

二人に渡されたのは手のひらサイズの小さな人形だった。

 

セイバーは手のひらサイズの自身がライオンの着ぐるみを着ている………読者は知っている人もいると思う、セイバーライオンである。

 

アスモは手のひらサイズの自身がライオンではなく猫の仮装をしている………ネコアr………ではなくネコアスモ。

 

 

「よくできてるだろ?いやぁ、ホビーショップに寄った際にピンと来てな、ラボをフル稼働させて手作りしたんだ」

「これは………可愛らしいですね………」

「そうだね………」

 

 

セイバーの頬が緩み、つられてアスモの頬も緩み、それを見た永時はとても満足そうな表情をしていた。

 

 

「で、お前らもプレゼント、用意してくれたんだろ?」

「はい、そうなんですが…………」

「ねえ………?」

 

 

自分らよりいい贈り物をされて、流石の二人も言い淀む。

 

 

「アスモ………覚悟を決めましょう!」

「そうだね!せっかくだから一緒に出そ?」

「いいですね!では、せーので出しましょう。いきますよ?せーのっ」

 

 

二人同時にちゃぶ台の上にプレゼントを置く。

 

 

「セイバーは………ハンドウォーマー。アスモは………ハンドウォーマー?」

 

 

見れば黒と青の色違いのハンドウォーマーが一つずつ置いてあった。

 

 

「どうして一つずつ?」

「本当は手袋を作りたかったのですが…………」

「時間と技術が足りなくて…………」

「それで片っぽずつのハンドウォーマーが………」

 

 

申し訳なさそうにする二人を見て、永時は少し間を置いたあと、ハンドウォーマーを手に付けた。

 

 

「んっ…………いいんじゃねえか?俺としてはハンドウォーマーの方が作業がしやすいしな。………サンキュー」 「…………良かった」

「喜んで頂けて何よりです」

「何言ってんだ?こんな美少女二人に貰ったんだ、男としては嬉しい限りだぜ?」

「び、美少女………ですか………」

「ううう〜恥ずかしい〜」

 

 

言われ慣れていないのか、美少女二人は顔を赤くして俯く。

永時はこうなるのを分かってやっているから達が悪い。

 

 

「クカカ………まあそこが面白えじゃねえか、作者?」

 

 

そんなもんか………って、地の文読むんじゃねえよ。

 

 

「悪い悪いーーーほら、二人とも。いつまでも顔赤くしてねえで、さっさと締めるぞ?」

「………そう、ですね。やることはやっておきましょう。ほら、アスモ?」

「…………うん」

「ではーーーーーーせーのっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「メリークリスマス!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

_________________________

 

1:アインツベルンのクリスマス

 

「----えっ?クリスマスパーティーがしたい?」

「………」

「じゃあ切嗣に相談してーーーえっ?サプライズの方が面白そう?………確かにそうね。いいわ、やりましょう?」

「マダム………ビギナーの言っていることが分かるんですか?」

「ええ。彼は意外と大人しい性格なのよ?」

「それは意外ですね………敵を容赦なく襲うので、もっと狂暴な性格かと………」

「…………」

 

 

身振り手振りでアイリスフィールに意思を伝える。

 

 

「私は普通の人間ですので………ですって」

「ランサーの片腕吹き飛ばした人物が普通の人間とはとても思えません………」

「…………」

「失礼な!そんなこと言うならケーキを作ってあげませんよ?って」

「すみませんでした」

「………」

「分かればよろしい」

「………」

「では、早速ですが準備を手伝っていただけますか?って。私は別に構わないわよ?」

「ええ、私も構いません…………ケーキのためなら」

「………」

「まずはケーキ作りから始めましょうって」

「ッ!是非お手伝いをさせてください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………というわけでパーティーを開きました!」

「…………」

 

 

仲良くハイタッチするアイリスフィールとビギナー。

 

 

「いやいやアイリ。今は聖杯戦争の途ch「ビギナーがたまには休息も必要ですよ?って」………もうなんなんだこのサーヴァント。規格外の力を有しているのに性格は凡人って………」

「………」

「ちょっ、何勝手に撮影しているんd---えっ?イリヤにお父さんたちの楽しんでいる姿を送りつける?………まあそれならいいが………えっ?今の内にプレゼントでも買って送ってやれ?………確かにな、遅くなるけどイリヤが喜ぶなら………」

「切嗣が折れた!?」

「ビギナー………恐るべし………」

 

 

 

 

1:アインツベルンのクリスマス 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2:自称妻の贈り物

 

クリスマスパーティが終了し、眠りにつこうとベッドに足を運んだ時にそれは起こった。

 

 

「ーーーーー痛っ」

 

 

コツンと何かが降ってきて、永時の頭に当たる。

 

 

「…………なんだこれ?」

 

 

床に落ちたそれは銀ピカに輝くーーー高さのあまりない長方形のプレゼントボックスだった。

 

 

「うわぁ………どっかの金ピカ思い出すぜ……」

 

 

若干ビビりながらも包装紙を剥がし、中身を確認するとーーー

 

 

「あれ?マフラーじゃん」

 

 

黒のマフラーだったのでとりあえず広げてみてーーーーー固まった。

よく見れば白の糸でこう刺繍されていた。

 

 

ーーーEIJI LOVE と。

 

 

送り主が誰かすぐに判明し、永時は深いため息を吐く。

他に何かないかと箱を探ると、一通の手紙があった。せっかくなので中を開けて読んでみると、

 

 

『愛する我が未来の夫へ

 

前略

 

いつになったらお主は妾の夫になってくれるのじゃ?

この超絶完璧最強美女である妾を負かしたほどの男じゃーーー責任は早うとっておくれ…………。

まあ、妾は寛容じゃから、昔みたいに奴隷になれとは言わん。

 

それはそうとさっさと婚姻届にサインしておくれ、後の手続きは妾がしておくから。今なら三食寝床風呂付きで面倒を見てやるぞ!

 

そうそうお主は子供が何人欲しい?妾は三人は欲しいのうーーーっと、これはちと早すぎたかの?まあお主に純潔を捧げる準備はできておるからいつでもウェルカムじゃ。

 

妾はお主のことを常に見守っておるぞ?

どうして居場所が分かるじゃと?それは無論、妾とお主の愛の為せる技よ!

 

待っておるからの、ダーリン♪

 

by お主の愛するルシファーより』

 

 

「ーーーッ!?」

 

読み終わり次第すぐさま辺りを見回して監視の目がないか確認する。ちなみに永時は前世でも今でも独身である。

手紙の他に、あらかじめ記入された婚姻届が同封してあった。あとは永時が印をするだけで完成するのである。

 

「あの女………まだ諦めてなかったのかよ………怖えよ!」

 

 

もはやストーカーと化している魔王(笑)に永時はただ震えて怯えるしかなかったー----はずもなく。

 

 

「----ー寝よ」

 

 

毎度毎度ご苦労様と呟くと考えることを放棄して、さっさと寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「----おやすみ」

「よく眠るのじゃぞ?」

「----ーッ!?………気のせい、だよな………?」

 

 

 

2:自称妻からの贈り物 完

 




いかがでしたか?

どうしても書きたかったクリスマス編。

気まぐれな作者をお許し下さい。


では、メリークリスマス! 良いお年を!



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日本在住ねるふぇちゃん

〜Z淑女さんのコメント〜

「はぁい♡読者の皆様、それと淑女=マモン様と思ってたお馬鹿様もおはこんばんは。皆のアイドル、絶望淑女ことゼツちゃんでーす♪……えっ?お呼びでない?いやいや、皆様はご冗談がお上手なようで……コホン。では本題に入らせていただきます。
今回は番外編ということでまあ多少矛盾とかこいつ誰だよ!?的なキャラが登場するやもしれませんがご了承ください。
しかし……ルシファー様よりも先にあらすじ進出させてもらいましたが……本当に良かったのでしょうか?

……それにしてもいいですねえ、クリスマスというものは。イチャイチャするカップルに憤怒と渇望、そして絶望の眼差しを送る哀れな方々を見るのは楽しいもので、こんなに素敵な日はそうそうございませんよ!
少し前はルシファー様の絶望を見て楽しんでおりましたがあの方はもはや恋する乙女。あれはあれで中々そそるものがありますが、やはり人々の絶望が一番の格好品ですねぇ。

……えっ?そろそろ本編を始めろ?んもう、皆様はせっかちなのですね。せっかちな人は異性どころか、同性にも嫌われますよ?

……では、番外編。是非ご覧ください。見ないと……呪っちゃうぞ♪




……ふむ。その蔑むような『無理すんなBBA』とでも言いたそうな眼差し……悪くない!いいぞ、もっとやりなさい!」


「ん〜♪このケーキ美味しいね!流石、ブブが作っただけのことはあるよね〜♪」

「……こんなところに理想郷があったのか!?」

「(ブリテンの料理って、どれだけマズかったんだろう……?)」

 

 

 

クリスマス。今セイバーとアスモの2人がワイワイしている姿(去年の参照)を見て、俺は少し思い出すところがある。

 

それは今から数年前、まだネルフェと親子関係になってあまり経っておらず、初めてのクリスマスを迎えた頃のことだったか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜数年前、拠点であるラボにて〜

 

 

突然だが皆さんはサンタの存在を信じていますか?

生憎だが俺はそういう記憶がないから定かではないがサンタを信じてなかった覚えはある。

つまり何が言いたいかと言うと……

 

 

「お父様お母様、サンタさんは今年も来るのでしょうか?」

「えっ……?」

「何?」

 

 

ブブ……ベルゼブブが送ってくれたクリスマスケーキを食べてた時にウチの娘(ネルフェ)がそう言い出してな。まあ俺はこの子がそんなこと言い出すとは思わず、柄にもなく動揺した。ほら見ろ、さっきまで寝てたベルフェでさえ飛び起きてるぞ。

 

 

「どうしてそんなことを?」

「アリスさんから聞いたんです。いい子にしていれば、人でも悪魔でもサンタさんという方がプレゼントを配りに来てくれるって……」

「ああ、そうらしいな」

 

 

そう、この子はサンタさんを信じている子らしい。マジ純粋(ピュア)である。てかアリスは娘に何吹き込んでんだ。

残念ながら俺はこの子とまだ親子関係がまだ浅いため、完全には理解していないところがあり、これがまさにそれに当てはまる。

 

 

「(おいベルフェ……どういうことだ?)」

「(ええっとね〜……)」

「(それについては私から説明しましょう)」

「「(アリス……!?)」」

 

 

とりあえずいきなり現れたアリスの言うことを要約するとこうなる。

 

 

ネ:お母様!クリスマスって何ですか!?

べ:クリスマス?ああ〜!確か、キリスト君の生誕をお祝いする日だよ〜!

ア:あと、サンタさんなる存在が良い子にプレゼントを配るらしいですよ?

ネ:サンタさん?

ア:はい、サンタというものはですね…(説明中)……だ、そうです。

ネ:サンタさんですか……楽しみですねお母様!

べ:う、うん。そうだね……

 

 

 

「(……と、いうわけです)」

「(なるほど。ネルフェはサンタの存在をすっかり信じ込み、だけどあの子にサンタさんが実在しないと言えなくなり、今に至ると?)」

「(うん……)」

「(毎年プレゼントはどうしたんだよ?)」

「(ネルフェ様にプレゼントの要望を手紙として書いて貰い、私が買い出しに行ってネルフェ様が寝静まった頃にベルフェ様が能力でチョイチョイっと……)」

「(確かにお前の能力なら部屋に入らずともプレゼントを置くこともできるか……)」

 

 

とまあ訳を聞いてみたわけだが……実に簡単に答えは出た。

 

 

「(何なら俺が言ってやろうか?サンタは存在しないって)」

「(ダメだよ永くん!)」

「(何でだよ?)」

「(あの子を見てそんなこと言える!?)」

 

 

言われるがまま、俺はチラリとネルフェを見てみる。

 

 

「〜♪サンタさん、今年は来るかな〜?」

 

 

そこにはすごく楽しみにしている天使がいました。

 

 

「(……まあ関係ないが)」

「(何でェ!?)」

「(しかしな……夢見るのもいいが、いつかは現実を知らねばならぬ時が来るんだ。だったら今言った方があの子のためだろうが)」

「(……いくら永くんでもそれは許さないよ?子供である今だからこそ夢を見させてあげないといけないと思うよ!)」

「(甘やかすのは将来的にはあまり良くないと思うが?)」

「(あくまで意見を変えるつもりはないんだね?)」

「(……ああ)」

「(……よろしい。ならば戦争だよ永くん)」

「(…いいだろう)」

 

 

ベルフェの顔が普段の怠けた表情でなく、久々に見る魔王の表情へと変わる。

 

 

「……ネルフェちゃん」

「お母様?」

「少し、永くんとお話(物理)してくるね?」

「お父様とお話、ですか?」

「うん。だからネルフェちゃんは引き続きクリスマスを楽しんでね?」

「はい!いってらっしゃい!」

「「いってきま〜す(いってくる)」」

「アリスはあの子の側にいてやれ」

「分かりました。では、いってらっしゃいませ」

 

 

2人に見送られると俺たちはベルフェが出した黒い波紋のような空間に入り込んだ。

 

 

「そう言えばアリスさん。今年は魔王の方以外のお客様が来ることがあるのですか?」

「いえ、そのような予定はありませんが……?」

「サンタさんは毎年どうやって私の部屋まで来れるのでしょうか?」

「それはサンタさんだからだと思います」

「サンタさんだから?」

「はい。一夜で皆様のプレゼントをお配りするような方なのですよ?ネルフェ様の部屋に行くぐらい朝飯前なのでしょう」

「なるほど!納得しました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃実戦ルームでは……

 

 

「アハハハハハ!!いいね永くん!前より腕上げたね〜!!」

「そっちこそ!前より射撃の腕上げたな!」

「よし!次で決めてあげるね!」

「ハッ!来いよ!」

「いくy「とりあえず邪魔だから失せてもらおうか」ーーーにょや!?」

「何!?敵襲k「聖夜に沈め」ーーーたわらば!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや?」

「ん?どうされましたか?」

「いえ……(結果は相打ちですか。珍しいこともあるのですね……)少し所用が出来ましたので暫く席を外しますね?」

「はい!いってらっしゃい!」

 

 

そう言ってアリスも部屋から出て行き、ネルフェは1人、部屋に取り残されることになる。

とりあえず暇になったネルフェは出されているケーキを食べて、両親を待つことにした。

 

 

「ん〜♪このケーキ美味しい!」

「ーーーほう?では私も頂こうか?」

「あっ、どうぞーーーって、誰ですか!?」

 

 

なんかいつの間にかネルフェの隣で座り、ケーキをモグモグ食ってる白い袋を掲げた黒い服の如何にも怪しい金髪の女が呑気にケーキを食っていた。

 

 

「ほう、このしつこくない甘さのクリームにふんわりとしたスポンジ……及第点と言ったところか。悪くない」

「はあそうですかーーーって、だからどちら様!?」

 

 

ネルフェの叫びでようやく気づいたか、黒い女はケーキを食す手を止める。

 

 

「私か?見て分からんか?」

 

 

そう言われ、ネルフェはじっと見て観察する。

 

白のトリミングのある黒をベースとした服に黒のナイトキャップ(?)そして、黒のミニスカートで締まりの良く、一種の芸術品のような黒タイツに包まれた脚が美しく見えている。

そして彼女が掲げる白い袋を見た後、ネルフェの中である結論が浮び出た。

 

 

「もしかして……サンタさんですか?」

「如何にも。私はサンタオルタ。息凍る真冬を切り裂く、悪のサンタクロースだ」

「嘘!?本物のサンタさんですか!?」

 

 

悪の、とか何とか聞こえた気がしたが子供のご都合主義により記憶の片隅にと追いやられた。

年頃の子供のようにはしゃぐネルフェを見て、サンタオルタさんとやらは満更でもない笑みを浮かべた。

 

 

「プレゼントも貰ってもないのに喜ぶか、やはりチビッ子というのはこうでなくてはな」

 

 

それに比べあいつらは……とブツブツ文句を言いだすサンタさん。

それを見てネルフェはサンタさんも大変なんですねと心配した。しかし、ふとある疑問が浮かんだ。

 

 

「ところでサンタさん。どうやってウチに入ったのですか?」

 

 

アリスに聞いたところによるとサンタさんはエントツから入ると聞いた。しかしウチにはそれがないため、毎年どうやって入ってるんだろう?と疑問に思っていたのだ。

 

 

「無論決まっておるだろう?エントツから入った」

「いえ、ウチにはエントツはn「エントツから入った。いいな?」はい……。ところでですが罠とかの類があったはずですけど……どうしたんですか?」

 

 

そう、この家……というよりこのラボは侵入者に特に厳しく、殺害前提の罠が大量に仕掛けてあることをネルフェは知っていたが故に尋ねた。

するとサンタさんはあっけらんとした顔でこう答えた。

 

 

「サンタたるもの、あの程度の玩具で止めれる訳無かろう。まあ道中夫婦喧嘩らしきことをしている大人がいたから叩き潰しておいたが……」

 

 

そう言うと掲げていた白い袋を逆さに持ち、中から何かが飛び出てくる。そしてその飛び出したものを見てネルフェは目を見開いた。

 

 

「お父様!お母様!?」

 

 

それは目を回して仲良く倒れている両親の姿であった。しかも何故か2人ともサンタさんと同じ黒のサンタの格好してだ。

 

 

「安心しろ、ちゃんと峰打ちにしてあるから死にはしない」

「はあ……」

 

 

よく見たところ特にこうといった外傷はないため、安心した。

するとサンタさんは何かを思い出したかのように手をポンッと叩いた。

 

 

「ところで本題に入るが、今回『お願いサンタさんレター』を出した日本在住のねるふぇちゃんだな?」

「え……?確かにサンタさんへのお手紙は出しましたけど……」

 

 

確かに手紙を出したのは記憶にあるが、そんな名前だったっけ?と記憶を辿っていく。

しかしそれでサンタさんが来てくれたのだ。特に気にすることないだろうと疑問を記憶の片隅へとしまい込んだ。

 

 

「……そうか、なら間違いないな。では手紙をくれたチビッ子にプレゼントをやろう」

「おお〜!」

 

 

そう言ってサンタさんは袋の中に手を突っ込んで中身を探り、ある物を取り出してネルフェに手渡した。

 

 

「これは……?」

「サンタコスチュームだ。確かプレゼントは親子仲良く出来るようなものを欲していた覚えがあったからな」

「サンタさんって服まで用意して下さるんですね」

 

 

手渡されたのはサイズ以外がサンタさんと同じサンタコスチュームだった。

 

 

「なるほど、ペアルックってやつですね!」

「そういうことだ。本来なら手紙を出してない者にはプレゼントをやらんが内容も内容だ。特別に両親にもやっておいた」

 

 

だからお二人の姿がサンタさんと同じ格好なのですねと1人納得した。

そして、早速貰ったそれに着替えてみると流石は自称悪の娘か、それとも美少女だからかサンタコスがとても似合っていた。

 

 

「うむ。よく似合っているぞ」

「ありがとうございますサンタさん!」

「礼には及ばん、それがサンタだからな。……さて、トナカイを待たせてあるのでな。私はそろそろ撤退させて貰うぞ」

「もう、行ってしまうんですか?」

「生憎と私のプレゼントを待つチビッ子がまだまだいるのでな」

「そう、ですか。少し残念です……あっ、そうだ!」

 

 

何か閃いたのかネルフェはパタパタとケーキの元へと走っていき、

 

 

「どうぞサンタさん。私からのクリスマスプレゼントです!トナカイさんと一緒に食べて下さい!」

 

 

そう言って切り分けた3分の1ホール分のケーキとフォークを箱に詰めてサンタさんに手渡した。

まさか逆にプレゼントを貰えると思わず、暫く固まるサンタさん。

 

 

「まさかサンタさんである私がプレゼントを貰うと思わなかったがここで受け取らないのはダメな大人がすることだ。よって、ありがたく受け取ってやろう」

 

 

とまあ言い訳っぽいものを言っているような気がするがそこはサンタさん。ネルフェの意思をちゃんと汲み取って素直に受け取ってくれた。

 

 

「ではな、ねるふぇちゃん。これを着て両親との仲を深めるがよい」

「はい!ありがとうございましたサンタさん!」

 

 

ぺこりと頭を下げるネルフェに背を向けてサンタさんは部屋から出て行った。

 

 

「ネルフェ様、マスター知りませんkーーーあっ、こんなところにいたのですね」

 

 

そして入れ違うように部屋に入室してきたアリスは皆がサンタさんの格好をしていることに疑問に思ったがその前にニコニコ顔のネルフェの方が気になり尋ねてみた。

 

 

「(何故黒いサンタ?)……ネルフェ様、何かいいことでもありましたか?」

「……ふふっ、内緒です♪」

「……?内緒なら仕方ありませんね。では、マスター達を起こしてクリスマスの続きをしましょうか」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたなトナカイ。では次のチビッ子の家に進軍するーーーと言いたいが頑張る私達にチビッ子からのプレゼントだ。フッ、驚いたか?まさかサンタがプレゼントを貰えると思わなかったが、プレゼントを貰えるのはクリスマスの醍醐味。ありがたく頂くとしよう」

「ーーー!?」

「どうだ?美味いだろう?さっきも味見がたら試食してみたが、このケーキの作り主は余程の腕とみた。将来いいお嫁さんとなるだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーークチュン!」

「ん?どうしたのじゃ?ブブよ。まさか風邪でもひいたか?」

「問題、皆無。(さっ)ちゃん、仕事、再開」

「大丈夫ならそれでよいが……無理するでないぞ?」

「了解。調理、再開」

「うむ。今回は何を作るつもりじゃ?」

「七面鳥、ローストターキー」

「おお、美味そうじゃのう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーあ、ありのまま前に起こったことを話すぞ。『俺はいつの間にか寝ていて、気が付いたらサンタになってた』何を言ってるか分からねえと思うが(ry

 

 

 

 

〜永時錯乱中〜

 

 

 

 

失礼。……話は戻るが、そんな訳で俺はそんな奇妙なクリスマスを経験した訳だ。何故かラボの一部が潰されており翌日俺とアリスで修復する羽目になったがまあネルフェが終始ニコニコしていたし良かったとしよう。

 

 

「エイジ〜!早くしないとケーキがなくなっちゃうよ!」

「ああ分かった」

 

 

 

 

 

とりあえずは今やってるクリスマスを楽しむとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが何故か1人だけサンタコスでなかったアリスが凹み出したため、後に自称良妻ストーカー魔王に製作を頼み、そのせいで俺の貞操が危なかったのはいつものことなので言う必要もないかもしれんが一応言っておこう。

 

 

 

 

 

では、皆さん。悪であるこの俺からささやかながらお祝いさせてもらおう。

 

メリークリスマス。今年も良い1日を過ごせることを切に願おう。

 

 

 




またやってしまった遠藤凍でございます。
サンタオルタさんを見ていてなんか閃いて書いてみました。

…えっ?ちゃっちゃと本編やれ?ポルナレフ?まあいいじゃないですか少し落ち着いt……おや?誰か来たようだ。

メリークリスマス!今年も良き1日をお過ごしください。









あれ?どうもビギnーーーうわっ!?ちょっと何する(ry


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聖杯戦争開始前
テンプレという名のイジメ


はじめまして、遠藤凍です。
処女作品なので駄文かもしれませんがそこはお許しください。
では、どうぞお楽しみ下さい。


 

 

「…………聖杯戦争?」

 

 

冬木と呼ばれた地のある廃ビル……の隠し部屋となる地下にある研究所に科学者、白衣姿の男はいた。

 

黒みがかった紫の髪、とても科学者のイメージとかけ離れた筋肉質の細い肉体。何より、男の両眼、その色は暗く、闇のようであるがどこか吸い込まれそうな感覚に陥るような、そんな眼をしていた。

そんな彼は今、この間たまたま手に入った資料のある1点に興味がいった。

 

 

ーーーーーーー聖杯戦争、始まりの遠坂、間桐、アインツ

ベルンの始まりの御三家と呼ばれるその道の世界では有名な魔術の家柄が始めた戦争のことだ。

 

 

死して"アラヤの抑止力"として召された、歴史に登場する有名な偉人、否、英雄。

そんな彼らを大体100年に1度降霊術によって英霊として召喚し、一種の使い魔……サーヴァントとして召喚者…マスターと2人1組で7つの陣営に別れて殺し合いをし、勝ち残った者が万能の願望機、聖杯によってどんな願いも叶えてくれるという、どこの野菜人がてでくる7つのボールだよ!とツッコミどころ満載なものだが…………

そして、人外と化した彼らをそのまま降霊させても素直に従うはずもないので、クラスという枠に押し込んでマスターが御していけるようにし、いざという時は令呪と呼ばれる強制命令権を3回得る。

クラスは全てで7つ、

 

最有力にて最優力の剣使い、セイバー

 

敏捷が高く、ステータスも高い槍使い、ランサー

 

遠距離攻撃が得意で射撃能力の高い弓兵、アーチャー

 

 

これらは三騎士と呼ばれ、非常に人気が高い。

 

残るは…

 

高い機動力を持ち、多彩な宝具を使用する騎兵、ライダー

 

ステータスを向上させる術を持つが理性を失くす狂戦士、バーサーカー

 

隠密行動に長け、マスター暗殺が得意な暗殺者、アサシン

 

高い魔力と強力な魔術で戦闘する魔術師、キャスター

 

 

これら7つの陣形に分かれて殺し合う……と資料を読む男、終永時。それに興味が惹かれたが、参加しようとは考えなかった。

永時は魔術の世界に触れてはいるものの、表立った成果を挙げず、大人しく科学と魔術の混合を夢みて研究所に篭っているだけ、科学者として興味があるが、命を捨ててまで、参加しようとも考えなかった。

 

 

 

だが、ここで何も起こらなければこの小説は終わってしまう。

 

 

「…………ッ!!」

 

 

突然永時の左手の甲に熱い棒を押し付けたような痛みが走り、やがて痛みがひいたので見ると……

 

 

「………マジかよ…」

 

 

まるでテンプレのごとく、マスターの証、令呪が刻み込まれていた。

 




改めて、はじめまして、遠藤凍です。
いかがでしたか?
とりあえず次回はサーヴァント召喚をやろうと思います。
不定期更新ですが応援、よろしくお願いします。


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気になるサーヴァントは?

どうも、遠藤凍です。
今回は気になるサーヴァント召喚です。
どんな結果になってもお怒りにならぬようよろしくお願いします。
では、どうぞお楽しみ下さい。


 

どうも、読者の皆様、はじめまして、終永時だ。

 

見事にマスターに選ばれた俺……かなりマズイ。

下手したら死ぬんだぞ!?嫌だ〜!死にたくねぇ〜

………なんて、現実逃避してる暇があるならとっととサーヴァント召喚して準備でもしよう。

 

正直に言うと少し参加する目的が出来たのでやることにした、というのが理由だ。

 

突然だが、俺は別世界から来た、転生者という部類に入る、らしい。詳しくは知らん。

とは言ってもアニメや小説などの世界らしいが、サブカルチャーとは無縁の世界で生きてきたため、ここがどういう世界で、この先どうなるかは全く知らん。

まあ、頑張って生き残るとしよう。

 

さて、調べたところ、聖杯戦争というものが始まるまであと…………6ヶ月前?えらく早くねぇか?……まあいいが。

 

これは戦争だ。戦争を始める前に敵の情報を入手しなければ……まず思いつくのが御三家だな。

 

 

 

遠坂は多分当主の遠坂時臣が出てくるだろう。

 

アインツベルンは……多分ホムンクルスが参加するのか?………捜査を続けて続行する。

 

間桐は…あの噂の蟲爺か?いや、あいつ自身は表に出ないはずだからもしかして他の奴か?……こちらも捜査続行。

 

噂では天才、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが6ヶ月後に日本に向かうと聞いたので多分参加表明なのだろう。

 

あとは日が近くなれば分かるだろう。

 

 

 

……で、ここが本題、サーヴァントの召喚だ。誰にするかは決めている。

無論、アサシン、無理ならキャスター。理由としては戦法が俺とよく似ているからだ。

策を練り、罠を仕掛け、敵を騙し、基本マスターの暗殺を狙う。

真っ向勝負が得意なセイバーやランサーとは無縁だな……つか、ないな、騎士道とか無理だし。

まあ仕方ねえよ、

 

 

 

 

 

それが、俺という“悪”だから。

 

 

 

 

 

とりあえず召喚しよう、必要な魔法陣描いてっと……あっ、あれで魔力保有量を高めておくか…えっと、なんだっけ……

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出て、王国に至る三又路は循環せよ」

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

繰り返すつどに五度。ただ満たされる刻を破却する」

 

「-----Anfang」

 

「-----告げる」

 

「-----告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に応えよ」

 

本来善と悪の位置が逆だが、それは俺自身が悪を名乗っているのであえて逆にさせてもらった。

 

「誓いを此処に。

我は常世総ての悪と成る者、我は常世総ての善を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来れ、天秤の守り手よ-----!!」

 

 

床に描いた魔法陣が光だし、徐々に輝きが増し、前が見えぬくらい明るく光る。

 

目が、目がァァァァァァ!!…………ネタはやめろって?

………悪かったな。こういう時はこれをやればいいと知り合いから教わったものでな。

 

話は戻るが、一瞬やられた視界が徐々に戻り、最初に見えたのは白銀と紺碧のドレス?のような甲冑。碧眼で中性的だが、凛々しく、どこか威厳があるような顔、そして、金髪でトレードマークのようなアホ毛がピョコンと1本だけ重力に逆らっている頭の男のような女。

彼女からはいかにも王であるオーラが漂い、思わず息を飲んだ。

 

 

「-----問おう」

 

 

彼女が口を開き、俺はそれを黙って見守る。

 

 

「-----貴方が私のマスターか?」

「-----ああ、俺がお前のマスターだ」

 

 

そういうと彼女はフッと笑い、言葉を紡ぐ。

 

 

「-----これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。

-----ここに契約は完了した」

 

 

おおっ、なんかカッコいいな!ロマンを感じる!って奴か?……まあはたから見たら中二病だけどな。

 

 

「では、よろしくお願いします、マスt「ちょっと待て」……何でしょうか?」

「戦闘時はともかく、かたっくるしいのは嫌いでな。俺は終永時。気軽に永時って呼んでくれ」

「……では、エイジと呼ばせていただきます」

「そっか、じゃあこれかr「少しお待ちくださいエイジ」…なんだ?」

「お前、ではなく“セイバー”とお呼びください」

「…そっか、よろしく、セイバー…………んっ?」

 

 

今この女なんて言った?

 

 

「……なあ、前になんて言った?」

「……少しお待ちくださいエイg「そこじゃなくてその後だ」……えっと………」

 

 

 

 

 

 

「『お前、ではなく“セイバー”とお呼びください』と…」

 

 

 

 

 

 

「…………フッ」

 

 

 

 

………神よ、お前は俺をイジメて楽しいか?

 

 




いかがでしたか?
青セイバーファンの皆様、本当に申し訳ございません!
どうしてもやりたかったんです!
次回はセイバーとの口論?のつもりです。

これからも応援、よろしくお願いします!


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王と悪の会談?



どうも、遠藤凍です。
前回口論といいながらあんまり書けなかったことをお許しください。
今回は永時が何故サーヴァント召喚したか、何故聖杯戦争に参加するか、というのがお題です。
最後にはサーヴァントのステータスを公開します。
まぁ原作青セイバーさんと大して変わりませんが………
では、どうぞお楽しみ下さい。




 

 

「………はぁ」

「あ、あの……エイジ?」

「………はぁ」

 

 

サーヴァントがセイバーと知り、さっきからこれを繰り返す永時。

 

 

「……最悪だ。……本来ならアサシンでマスター暗殺無双でもするつもりだったのに……。しかも、依頼の品を触媒にしたとか………うわっ、色々と詰んでるじゃん、バレたらお得意様がぁ………。しかもこのサーヴァントのステータスが異常に高いし…………」

 

 

実は令呪が出た時、永時本人は令呪を破棄しようと考えたが、科学者の本能、つまり未知を知りたがる探究心という欲には勝てず、「まあ、アサシンならどうにかなるだろう」と安直な考えをした過去の自分を殴りたかった。

しかも、問題は召喚時にあり、残念なのかどうかは別として、永時が召喚に使った部屋、自室は残念ながらとても綺麗とは言えない部屋だった。

 

そして、神のいたずらなのか、魔法陣の上に、アインツベルンから鑑定依頼であった、聖剣エクスカリバーの鞘、アヴァロンの欠片が落ちていたのに気づかないという“遠坂家の呪い”が発動してしまった、ということだ。

 

 

「……では、マスター権を破棄して教会に保護して貰う、ということでしょうか?」

「ん〜、まっ、そうなるかな?」

「そう、ですか……」

「ん?」

 

 

落ち込むセイバーを見て、何かを感じとった永時。

こう見えて一応“悪”を名乗っているので、人の負の感情には敏感である。

 

 

「………おいセイバー、予定変更だ」

「………えっ?」

「………だから、参加してやるよ。聖杯戦争に」

 

 

だからこそ、永時という男は興味を持った。

他ならぬ、英霊という存在の、セイバーの抱える闇に。

 

 

 

 

それが、彼という“悪”だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、お前(心の闇)のことを知りたくなったんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はぁ!?に、にゃにを言ってるんですか!?」

 

 

明らかに動揺し、顔を赤らめているセイバーを見て、ああ、なるほどと永時は呟き、

 

 

「………まさかとは思うが、今のを愛の告白と間違えたわけじゃねえよな?」

「なッ………!?そ、そんなこと!か、考えてもいません!」

「クカカ……バレバレだぞ?素直に吐いたらどうだ?」

「うっ……、すみません……そう思ってしまいました……」

「そうかい(いくらなんでもチョロねえこいつ……まさか!“あれ”が原因か?……調べてみるか)」

 

 

読者からしたら残念ながらなのか、ラノベの鈍感主人公ほど鈍くはないと永時は自負している。

 

 

「しっかしまあ、あのアーサー王が女だったとはな。まあ歴史っつうのは嘘の積み立てみたいなもんらしいから、こうして生きた証人から歴史の真実を聞くのも悪くはねぇな」

「………そうですか」

「ん?どうした?まさかまだ怒ってんのか?」

「……別に………怒ってなどいません」

 

 

頬を膨らませ、そっぽを向いて、いかにも怒ってますアピールをしているセイバーに永時は苦笑して、

 

 

「分かった、悪かった。ちょいとからかい過ぎたな……すまん」

「いえ、私の方こそすみません………子供染みたことをして……」

「気にすんな。お前とはいい関係を築きたいからな」

 

 

サーヴァントも人間であり、心もある。

だからこそ、闘ってもらうからこそ、彼女の戦闘経験を参考にし、できるだけ彼女の戦闘スタイルに合わせてやるべきだと永時は思う。

理性のないバーサーカーが呼ばれなかっただけマシか………とプラスに考えておくことにした。

 

実際、第3次のエーデルフェルトの双子の姉妹当主は、姉妹間で仲間割れをし、早期退場となったらしいし、噂では、マスターとサーヴァントが不仲で、最終的には仲間割れをし、マスターがサーヴァントに殺されたというデマかどうか分からないものもある。

だから、不仲だとそこを敵に突かれてしまうかもしれないので………

 

 

 

「じゃあ、さっそくだけどセイバー………外に出かけるから霊体化してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずはパートナーを理解するところから始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの………エイジ」

「ん?早く行くぞ「できません」………はい?」

「ですから……その……れ、霊体化ができません」

「何?そんなスキルあったっけ?」

「えっと………セイバーのクラスは基本そうなんです」

「………よし、まずは服を買いに行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず新都のヴェルデのショッピングモールで歩いていたが………

 

 

 

………周りの視線が痛かった。

 

 

 

永時は紺の長ズボンに、黒のパーカーと割と「なんか言ったか作者?」……ごく普通だが、問題はセイバーだ。服装は召喚時の服装一着しかなかったので、とても目立つ。

 

レイヤー、撮影会など、ありもしないデマが広がっていく。

 

魔術で追い払おうかと考えたが、近くに魔術師がいる可能性を考慮してやめた。

 

 

「エイジ、これはどうでしょうか?」

 

 

目的の店に入ってセイバーが最初に指差す服はボディーガードが着てそうなダークスーツだった。

 

 

「確かにお前に似合いそうだが………選んだ理由は?」

「機動性を重視したからです」

「………店員さ〜ん、あとよろしく。あっ、ついでに下着も頼む」

「お任せください!!」

「え?ちょっ、何を!離せ!離せぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

永時が言うと同時に、セイバーの横に現れた元気ハツラツでやる気スイッチがオンになっている店員’s(女)がセイバーの両腕をガッチリとホールドし、ドップラー効果を残して店の奥へ消えていった。

 

 

「………一応これも買っておいてやるか(しかし、女で生まれたのに機動性重視とは……単に興味がないのか、あるいはする余裕がなかったか、それか……そういう風に育てられたか。いずれにせよ、事故とはいえ呼んでしまった客人には変わらん。せめて現世ぐらいは楽しんでもらうとしよう。)」

 

 

俺も甘くなったもんだなと苦笑し、とりあえず待つついでにそこらを見て回ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………疲れました」

「クカカ、現代人のオシャレの世界は広いだろ?」

「はい。私の生前では、おしゃれとはあまり縁がなかったですので…」

 

 

結局のところ、店員が次々と服を持ってくるのでキリがないと判断したセイバーはエイジを呼び出して何着か選んでもらって事なきを得た。

 

結局買ったのは上下6着、ブラとパンツのセットで4着を購入し、現在拠点となる廃ビルに向かって徒歩で帰っていた。

 

 

「………今日は、色々とありがとうございました」

 

 

普段凛としてムッとしたような表情の彼女は屈託のない笑みを浮かべる。

 

 

「………なんだ、そんな顔もできるのか」

「えっ………?」

「さっきからなかなか表情を変えないから人形みたいで心配したが………大丈夫そうだな」

「えっと……?」

「まあ、要するにだ、笑顔の方が似合ってんぞ?」

「そ、そうなんですか?」

「クカカ…………さあ、帰って飯にするか」

「では、食事の間、私は見回りを………」

「いや、お前も一緒に食えよ。別に食えないわけじゃないんだろ?」

「あくまで魔力回復の手立てとしてありますが……よろしいのですか?エイジの魔力保有量はかなり高いようですし……」

「別に構わん。サーヴァントとはいえお前は一応客人だ。それに最低限のもてなしをしないと俺の気がすまんのでな……それに、現代の食事に興味もあるだろ?」

「………では、お言葉に甘えて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、これが間違いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モグモグ…………………エイジ、お代わりを」

「ほう?いい食いっぷりだ。そんなに美味いのか?」

「ええ!ブリテンの食事に比べれば断然!!」

「そ、そうか………?(なんかキャラ変わってる?)」

 

 

 

 

 

「モグモグモグ…………………エイジ、お代わりを」

「……3人前をあっさりと食いやがっただと………!?」

 

 

 

 

 

「モグモグモグモグモグ…………………エイジ、お代わりを」

「……いや、もうねぇよ」

「そんなぁ!?」

「結局5人前食いやがった………食費もつよな?まだ金は腐るほどあるし………大丈夫、だよな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論、早くも暴食王、解禁。

まあ、永時の手料理が美味かったと記述しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖杯戦争まで、あと6ヶ月。

時間か、食費か、先になくなるのはどちらだろうか?

 

 






いかがでしたか?
予定より早く暴食王を解禁させていただきました。
はてさて永時は聖杯戦争が始まる前に生きていけるのでしょうか?
タグを追加させていただきます。

では、お待ちかねのステータス公開、どうぞ!








【クラス】セイバー

【真名】アルトリア・ペンドラゴン

【属性】秩序・善

【ステータス】
・筋力B+
・耐久A
・敏捷A
・魔力A
・幸運B
・宝具A++

【保有スキル】
・対魔力A

・騎乗A

・直感A

・魔力放出A+

・カリスマB

・???D

【宝具】
『風王結界』

インビジブル・エア

ランクC+

対人宝具

レンジ1〜2

最大補足1

原作通り


『約束された勝利の剣』

エクスカリバー

ランクA++

対城宝具

レンジ1〜99

最大補足1000

これも原作通り


『???』







???は作者のオリジナルです。
しかし、これ以外に追加するかもしれないので悪しからず。

これからも応援、よろしくお願いします!



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要因



どうも、遠藤凍です。
今回はセイバーのチョロイン(?)化についてです。


では、どうぞお楽しみ下さい。




 

「セイバー、話をしよう」

 

 

セイバー召喚から少したった頃。俺は昼食中のセイバーとちゃぶ台を挟んで、座って向き合う。

 

議題はもちろん、セイバーのことだ。

読者のみんなはお気づきだろうが、このセイバー、どこかおかしい。いくらあの伝説のアーサー王がいくら女であろうが、出会って少しもしてない男の言葉に慌てたり、頬を赤らめたりするだろうか?

いや、断じてないだろう。いくらなんでもあのチョロインっぷりはなさすぎる。

そしてあの暴食っぷり、いくら美味くても、あれは特におかしい!!

 

*あれはいずれそうなる運命です。

 

そこで俺は色々と考えた、キャラ崩壊を起こせる人物に心当たりがあるが、セイバーと会ってもいないはずので却下。

 

 

 

 

分かったのは、俺にあるものが原因で起こったキャラ崩壊だ。つか、それしかない。

 

 

 

 

 

とりあえず、その原因の確証を得るため、俺はセイバーと話をする。

 

 

「………ふぁい、ふぁんふぇふふぁ?(はい、なんですか?)」

「………食うか話すかどっちにしろ」

「………モグモグ」

「いや、普通そこは食べるのをやめるところだからな?」

 

 

………ヤバい、令呪使って自害させて楽になりてぇ(主に金銭的に)自分がいるが、参加すると言った以上、な?

………そろそろ胃薬でも用意しようかな?

 

「モグモグ…………………ゴクンッ……で、なんでしょうか?」

 

いや、そこでキリッとしても意味ないからな?

 

 

「……お前は本当にアーサー王か?」

「ええ、その通りですがなにか?」

「いや……じゃあ質問を変えよう。………お前は元々そういう性格か?」

「いいえ、生前の性格とはかけ離れてますね……」

「………自覚はしてんだな……じゃあ、いつから変わった?」

「呼ばれて暫く経ってからでしょうか?前の私なら初対面のあなたにからかわれても、あんなに動じることがなかったはずです」

「………なんか心当たりは?」

「……あるにはありますね」

「教えてくれないか?」

「………分かりました。………召喚の際に強力な負の力をエイジから感じ取りました。やがて、エイジと契約を完了した時から繋げている魔力パスに魔力以外の何かがほんの少しずつですが、漏れ出しているように今も私の中に流れてきているのです。恐らくそれが原因かと………」

「………うん、これ、俺の所為だわ。

多分、召喚時にやったあれが原因だな絶対。

 

実はあの日、少しでも魔力量を高め、強力なサーヴァントを呼ぼうとした俺はあれの力を最大限に使ってしまってな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

罪被りし偽善遣い(ギルティーズ・ヒポクリエイト)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いわゆる特殊体質ってやつかは知らんが持っていたもので、効果は、あらゆる負を吸収して己の糧にするという能力。

一見有能に見えるが、かなり欠点がある。

 

 

1:負を吸収するので、自分の負の感情の面が強く出てきて、発狂する。

 

2:痛みも負に入るので、痛みが伴い、発狂する。

 

3:あくまで俺の糧なので、そのまま俺以外に流すと発狂する。

 

4:しかし、吸収したものから純粋な魔力は生産できるが、吸収した分の四、五割程度。

 

5:あと、吸収範囲は選べるが、無差別に吸収するので、たくさんの人の1・2が押し寄せてきて、発狂する。

 

 

とまあ、デメリットが発狂ばかりなのだが、生憎慣れてしまったので、今はなんとも思っていない。

発狂していた時期が懐かしい………。

 

っと、話を戻すが、この負の糧は俺以外に流れると発狂する恐れがあったから純粋な魔力だけを流したんだが……どうやら発狂しない程度で少しずつ漏れて、流れたせいでお前がおかしくなったようだ…………本当にすまん。許してくれとは言わないが……頼む」

「……頭を上げてください、エイジ。……私は後悔はしていません。例え過去の私がどうあれ、喚ばれて答えたのは何より私自身ですので………。それに………」

「それに………?」

 

 

 

 

「偶然が重なったからこそ、私はこうしてあなたと出会えたのです。……寧ろ感謝したいですね」

 

 

 

「……かん、しゃだと………?」

「目的のサーヴァントでない私を、自害させずに受け入れてくれた、それだけでも感謝しきれないことなのです」

「………セイバー」

 

 

女神だ!俺の前に女神がいるぞ!

 

おいそこ!「さっき自害させるつもりだった癖に」とか言うな!

 

 

「……すまんな」

 

 

こんな温かい言葉、いつぶりだろうな………。こんなのもたまには、悪くないな。ったく………泣かせてくれるじゃねえか。

キャラ崩壊がいい方向に進んだのかな?

 

 

「………エイジ」

「………なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ではそう思うならお代わりを」

「それとこれとは話は別だ」

「………ふふっ、冗談です」

 

 

いや、目がマジだったぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきの感動返せよ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し変わった主従による聖杯戦争が、もうすぐ始まる。

 

 






いかがでしたか?
無理矢理感があるとは思いますが、そこは私の力不足をお許しください。

やっと出せた永時の能力。

『罪被りし偽善遣い』

チート臭いですが、デメリットがほぼ発狂と、自身を“悪”と名乗る永時にピッタリな能力です。

これにより漏れてしまった負が、セイバーに不本意に流れてしまい、発狂とはいかなくても、キャラ崩壊に繋がったということです。

今回のことでセイバーは、

1:正の感情の耐性が低くなった。(特にエイジ)

2:負が入ったことにより、感情が豊かになった。

3:負の部分が出やすくなった。

4:真面目すぎて純粋になった。(最初の勘違いもそこから)

5:乙女力が少し上がった。


といったところでしょうかね。



応援、よろしくお願いします。では、また次回。



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本編:聖杯戦争開始
幕開け



どうも、遠藤凍です。

いよいよ始まります聖杯戦争。
まだ最初なので、あんまり永時の出番はありません。

では、どうぞお楽しみ下さい。




 

 

日本のとある空港に1組の男女がいた。

 

雪のように白い肌、そして同色の髪、赤眼と人形のような女性、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。

今回の聖杯戦争のアインツベルンの代表である。

 

もう1人は、ダークスーツを着こなしシークレットサービスのような黒髪で白い伊達メガネをかけた男。

今回の聖杯戦争で召喚されたサーヴァントである。

 

 

「ここが、日本なのね………」

「………」

 

 

アイリスフィールの言葉を肯定するように、男は首を縦に振る。

 

 

「ねぇ、ちょうどいい時間だし、お昼にしない?」

「………」

 

 

肯定のつもりか、アイリスフィールの後ろに立ち位置を変える。

 

 

「それじゃあ、行きましょう」

「………」

 

 

男はうなづくことで、アイリスフィールに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、アサシンがアーチャーに消され、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セイバー、準備と覚悟は出来たな?」

「ええ、もちろんですが………本当にその格好で行くんですか?」

 

 

いつでも戦えるように、セイバーはあの時のダークスーツに着替えたが、永時はというと、フルフェイスの黒のガスマスク、黒いヘルメット、黒い軍服と、黒づくめの完全装備をしていた。おかげで声がいつもより低くなっている。

 

 

「仕方ねえだろ?顔を晒して正体をバラす訳にはいかねえし、それに………例の魔術師殺しが参加するそうじゃねえか」

「確かその方とは………」

「ああ、1回殺りあって殺されかけたことがある。………まさか、魔術回路をぶち壊すとかやばすぎだろ………おかげで復帰に3ヶ月かかったぞ…」

 

 

どこからかの依頼で永時を殺しにきたので、興味本位で戦ったが、何らかの方法で魔術回路を壊され、一応かけておいた保険のおかげで事なきを得た。

だからこそ、あの時の借りを返せるチャンスがきたのだ。嬉々として、スナイパーライフル…モシンナガン(改造により、サプレッサー内臓)をいじる永時を嫌そうに見るセイバー。

 

 

「エイジ、何回も言ってますが………」

「分かってるって。狙撃するのはあくまでお前の勝負の邪魔をする奴だけにするから、全力で戦ってくれ。ただし、万が一の時は手を出させてもらうぞ?」

 

 

奇襲メインの永時と騎士道を重んじるセイバー。

異なる戦法の2人はもちろん、意見をぶつけあった結果。

 

1:基本セイバーに合わせて決闘方式にし、永時はその邪魔をさせないようにし、常に1対1の状態にすること。

 

2:万が一の場合は、意地を張らずに退却も考えること。

 

3:相手がセイバー1人の手に負えない場合、永時も参加する。

 

4:真名、マスターがバレるような発言をしない(宝具使用は別)。

 

5:基本独断行動はせず、必ずパートナーに相談すること。(それなりの理由がある場合は除く)

 

6:これらを守らない場合、永時はセイバーの欲求にできる範囲で答え、セイバーは1食抜きと4時間モフモフ禁止とする。なお、破った場合は延長する。

 

となり、決めた途端に絶対に守ろうと誓ったセイバー。

食事と娯楽をとられるのだ、無理はない。

暇さえあればモフモフしている身としてはたまったもんじゃない。

 

 

「えっと………モシンナガン、ナイフ、グレネード、スタン、チャフ、スモーク、C4、AK-47、ハッシュパピー、LAW、スコーピオン、麻酔弾………あとは適当にするか」

 

 

ポイポイと次々に現代兵器を影の中に入れ込む。

 

 

「エイジ、魔力回復の薬品は入れましたか?」

「おっといけね」

 

 

薄い黄緑色のいかにも怪しい薬品を放り込む。

 

さて、ここでこの影のネタバラシをしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

影の家(シャドウ・ハウス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

負の象徴ともいえる影を利用したもの。

効果はいたって簡単で、自分の身体の質量の分だけ好きな物を入れて持ち運べるというもの。応用すれば、人を入れて運べることも可能だ。

これである程度の武器を入れ込み、残りはここと予備の拠点に置いておく。

 

 

「………OK、できた………セイバー、敵はどこにいると思う?」

「多分ですが………ここかと」

 

 

セイバーの直感は、倉庫街を指していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈み、倉庫街が近づくにつれ、濃厚な威圧感を感じ取られる。

どうやらセイバーの直感が当たったらしい。

 

 

「エイジ、この気配は間違いなくサーヴァントのものです」

「分かったから飛び出そうとするのをやめろ。行くかは罠かどうか確認してからだ」

 

 

そういうと、影の中から数羽の蝙蝠が威圧感のする方角へ飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………罠らしきものがないな……よし、行ってこい」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倉庫街の中心の大通りに見える2つの人影。

1人は、ダークスーツに身を包んだセイバー。

そして彼女の前には、暗い緑のボディースーツで身を包み、右手に長槍、左手に短槍を携えた、泣きぼくろのある美麗な顔立ちの男。

男は目の前のダークスーツ姿のセイバーを見据えるとフッと笑って口を開いた。

 

 

「よくぞ来た。今日1日、この街を練り歩いて過ごしたものの…どいつもこいつも穴熊を決め込むばかり……俺の誘いに応じた猛者は……お前だけだ」

 

 

セイバーはいつでも戦闘できるように構える。

 

 

「その清澄な闘気……セイバーのとお見受けしたが、いかがに?」

「いかにも。そういうお前は、ランサーに相違ないな?」

「その通りだ。-----フン、これより死合おうという相手と、尋常に名乗りを交わすこともままならぬとは………興の乗らぬ縛りがあったものだ」

「………全くだ」

 

 

アホかッと念話で永時の声が聞こえた気がしたがスルーして睨み合う。

しかし、ランサーの目の辺りから、何か妙な力が発せられているのが分かる。

 

 

「……………魅了の魔術?」

 

 

セイバーはランサーの泣きぼくろが原因だということに気がついた。

 

 

「ああ、これは何に効くか分からん物だ。異性には効くらしいが正直分からん。恨むなら俺の出生と己が人間であることを恨むがいい」

 

 

そいつは是非欲しいな…と言っている男がいるが、セイバーはまたもやスルーする。

 

ランサーは笑みを浮かべると、セイバーはそれをそよ風でも受けているような涼しい顔で返す。

 

「そのような面構えで、私の剣が鈍ると期待していたか?槍使い」

「そうなっていたなら興ざめだっただろうな。なるほど、セイバーの対魔力は伊達ではないということか………結構。この顔のせいで腰の抜けた女を斬ることとなれば、俺の面目に関わる。最初が骨のあるやつで嬉しいぞ」

「ほう、尋常な勝負が所望であったか。誇り高き英霊とあいまみえたこと、私にとっても幸いだ」

 

そう言ってセイバーは白銀と紺碧のドレスのような甲冑を見に纏わせ、不可視の剣を構え、

 

 

「「………いざっ!!」」

 

 

激突する。

 

 

まず、間合いの関係でランサーの長槍による突きを繰り出すが、セイバーは不可視の剣で薙ぐように振って弾き、上段から斬りつける。

だがそれを2本の槍で受けとめ、短槍で弾いて長槍で薙ぐ。

足元を狙われたセイバーは後ろに跳んで避け、速度を上げて再度斬りかかる。

不可視の剣で斬るが、上手く弾かれる。

 

 

『ランサー、宝具の開帳を許す』

「了解しました、我が主よ」

 

 

ランサーは短槍を投げ捨て、フッと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………マズイな」

 

 

永時は心の中で舌打ちをする。

 

いい狙撃ポイントがあったので陣取り、スナイパーライフルのスコープ越しで観戦していたが、状況はまずかった。

ランサーの宝具の開帳により、腹部にダメージを受け、そのうえ、さっき投げ捨てた短槍を拾って使われ、左手に傷を負わされていた。

狙撃しようかと考えたが、射線上に脱落したはずのアサシンがいたから、撃てるに撃てない。

 

 

「………仕方ねえ」

 

 

乱入しようとスコープから目を離そうとした永時ーーーの耳に雷鳴が響いた。

 

 

「「「ッ!?」」」

 

 

広場にいた二人と永時が、空を見上げて音源を確認する。

そしてそれを見た永時は思わず呟いた。

 

 

「………あれって……戦車(チャリオット)か?」

 

 

まさしくそれは古代オリエントの国々が使っていたとされる戦闘用馬車ーーー戦車(チャリオット)だった。

それを引くのは神々しい二頭の牡牛。

それに乗るのは、炎のように赤い髪と髭を蓄えた巨漢の男だった。

 

 

「AAAAlalalalalaie!!」

 

 

稲妻を踏みながら空を駆ける戦車は、やがて二人の間に割り込むように降り立った。

降り立った直後に、堂々と立つ巨漢は両手を広げてその口を開いた。

 

 

「双方武器を収めよ!王の前であるぞ!!」

 

 

その身体に相応しい野太い声を上げ、動きを止めている二人を見て、言葉を続ける。

 

 

「我が名は征服王イスカンダル!此度の聖杯戦争において、ライダーのクラスを得て現界した!!」

 

 

その言葉を聞いて、永時は思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----コイツ、ひょっとして馬鹿なのか?

 

 





いかがでしたか?

最初に出てきた男はオリ錆です。

いずれまた登場させるので、ご期待ください。

タグ追加しました。

では、また次回で。



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金ピカ降臨



どうも遠藤凍です。

遂にあのサーヴァントが登場します。
一体、誰なんだ〜(棒)

では、どうぞお楽しみ下さい。




 

 

空を駆ける戦車に乗って現れた巨漢の男の言葉に、2人は呆気にとられていた。なお、永時に至っては呆れとともに男に少しの期待を持っていた。

攻略の要となる真名を告げたのだ。征服王イスカンダルは博学で有名であるから、何か考えがあって言い放ったのだろうと、そう思いたかった。

 

 

「何を考えてやがりますかこの馬鹿はぁぁぁぁ!!」

 

 

1人の少年……らしき人物が、赤髪の巨漢…ライダーの赤いマントを掴んで喚く。

 

 

「フッ」

「ぎゃふん!!」

 

 

が、ライダーのデコピンであっさり沈められた。

そしてそのまま、ライダーは2人を見つめて問いかける。

 

 

「うぬらとは聖杯を求めて争う巡り合わせだが………まずは問うておくことがある………」

 

一旦区切り、拳を握って両腕を広げて続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひとつ我が軍門に下り、聖杯を余に譲る気はないか?さすれば余は、貴様らを朋友として遇し、世界を征する愉悦を共に、分かち合う所存であるぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………訂正、やっぱり馬鹿だった。

 

こんな奴にかつて、世界は征服させられかけたのか……と内心呆れ一色に変わる永時。

 

一体何言ってんだこの馬鹿は………とでも言いたそうな目でライダーを見る2人。

 

ランサーは首を左右に小さく振ると、ライダーに向かって口を開く。

 

 

「残念だったな。俺はその提案に乗るつもりはない。俺の主は今生に誓いを立てた新たな君子ただ1人。断じて貴様ではないぞ、ライダー!!」

 

 

怒りを含んだ声で答え、ライダーを睨みつける。

同感だと言いたそうに小さくうなづき、答える。

 

 

「そもそも、そんな戯言を述べたてるために、貴様は私たちの勝負を邪魔立てしたというのか?だとしたらそれは…騎士として許し難い侮辱だ………!!」

 

 

そう言われたライダーは困った顔でゴツゴツした大きな拳を額に押し付けていた。

すると何か思いついたか、拳を額から離し、

 

 

「………待遇は応相談だか?」

 

 

金を示すハンドサインをする。

………どうやら金で釣る気だ。

 

しかし、その言葉にセイバーとランサーは誇りを傷つけられ、怒りに任せて言葉を放った。

 

 

「「くどい!!」」

 

 

ライダーは諦めてないのか、不満を残した顔で二人を見つめる。

それを見て更に苛立ちを覚えたセイバーが言葉を紡ぐ。

 

 

「重ねて言うなら、私も1人の王として、ブリt………国を預かる王だ。………如何な大王といえど、臣下に下る訳にはいかぬ」

「ほう、一国の王とな?国を束ねる者が、こんな小娘だったとは……して、どこの国の者だ?」

「生憎、マスターに口止めされていてな……答えることはできない……が…」

 

 

そりゃそうだ、食事と娯楽がかかっているんだから。

 

しかし、小娘ーーーと言われたのに腹が立ったのか、不可視の剣の切っ先をライダーに向ける。

 

 

「その小娘の一太刀を浴びてみるか?征服王!」

 

 

明確な拒絶の意思を表すセイバー。

ランサーも同様らしく、己の獲物を構えて拒絶の意思を示す。

流石に諦めたのか、ライダーは眉を顰めて大きなため息を吐いた。

 

 

「………こりゃあ、交渉決裂か。残念だなぁ」

「ラ・イ・ダーーーーーー!!」

 

 

断られ、心底惜しそうに頭をかきながら呟くライダーに向けて、マスターらしき少年の怒りの叫びが倉庫街に響き渡った。

するとそれに反応したのか、倉庫街のどこからか声が響いた。

ただし、その声には少年とは違う怒りが込められていた。

 

『そうか……よりにもよって貴様か』

「ひィッ………!!」

 

 

少年は甲高く短い悲鳴を上げる。

その声には覚えがあるからだ。それは、できれば会いたくなかった人物で………本来ライダーのマスターになるはずだった男だったからだ。

 

 

『一体何を血迷って私の聖遺物を盗み出したかと思ってみれば……まさか君自ら参加するとはねえ……ウェイバー・ベルベット君?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、あの少年がウェイバー・ベルベットなら、この声は………高飛車……ケイネス・エルメロイ・アーチボルトか………いいこと聞いたな」

 

正直にいうと永時は仕事上関わりがあるが、ケイネスのことが嫌いだった。ケイネスが天才なら、永時は努力の人間だからだ。

 

 

『日々失敗し、鍛錬する者こそが真の強者となり、慢心こそが己の真の敵なのだ』

 

 

永時は努力すればラノベの主人公みたいに強くなれると信じ、この言葉を掲げ今日まで鍛錬を続けた。

 

だからこそ、失敗を知らないこの男が嫌いなのだ。

口を開けば如何に優れているかと自慢話ばかり、魔術師以外の人種を完全に見下しており、同じ魔術師でも血筋の乏しい者には歯牙にも掛けない。

彼としては結果がついてくるのが当たり前と考えているのだ。そりゃ嫌いになるのも無理はない。

 

 

「ちょうどいい、少しは奴にお灸を据えてやろう……」

 

 

ライダーがケイネスに喧嘩を売っている中、永時は悪役のような黒い笑みを浮かべた。

一応この小説の主人公なのだが………大丈夫なのだろうか?

 

 

「ーーー他にもおるだろうが、闇に紛れて覗き見しておる連中は!」

 

 

ライダーの言葉に怪訝そうに尋ねるセイバー。

ライダーはセイバーに向けて親指を立てるとニカッと笑った。

 

 

「セイバー、ランサーよ。うぬらの真っ向勝負、誠に見事であったぞ。あれほど清澄な剣戟を響かせては、惹かれて出てきた英霊がよもや余1人ということはあるまいて」

 

確かに…と思う永時。

 

 

「もし名高き英霊がこそこそと鼠のように隠れ潜んでると云うならば………全く情けないのぅ!」

 

 

それでも姿を現さない英霊に、痺れを切らした征服王が今まで以上に大きな声で倉庫街に響かせる。

 

 

「聖杯に招かりし英霊は、今ここに集うがいい!なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れぇッ!!」

 

 

(そんなので、出てくる馬鹿はいないだろ?)

 

残念ながらそれはフラグである。

 

 

「ッ!?」

 

 

永時は驚く。それは倉庫街の街灯の上に闇色の夜の世界とは不釣り合いな黄金の粒子が集まって、人の形を成していくからだ。

 

 

「我を差し置いて“王”を称する不届き者が、2匹も湧くとはな………」

 

 

赤い双眼の黄金の鎧を纏ったサーヴァントが、3人のサーヴァントを見下ろして不愉快そうに言った。

3人にはこの男に見覚えがあった。何しろ、この男こそがアーチャーで、アサシンを圧倒的火力で消し去った張本人だからだ。

無論、そう言われた王2人は苛立ちを覚える顔でその男を見た。

 

 

「………マズイな」

 

 

すぐさま荷物を片付け始める永時。戦士としての直感が、あの男はヤバいと告げているのだ。

 

セイバーには悪いが、参戦させてもらおう。

 

 






いかがでしたか?

次回は遂に永時も参戦します。
セイバーと互角な永時はどこまで喰いついていけるか?

では、また次回で。



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狂乱の戦士



どうも、遠藤凍です。

やっぱり戦闘の描写は難しいです。

では、お楽しみ下さい。




 

 

「難癖つけられたところでなぁ……イスカンダルたる余は世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが……ほれ、この戦車が余がイスカンダルである証拠であるぞ?」

「たわけ。真の王たる英雄は、天上天下に我ただ一人のみ。あとは有象無象の雑種にすぎん」

 

 

ああいうのに限って、案外最後にラスボスとして出るんだよな………と心の中で呟く永時。

 

 

「ほう?そこまで言うんなら、まずは名乗りを上げたらどうだ?貴様も王たる者ならば………さぞかし有名な名であろうなぁ?」

「貴様如き雑種が、王たる我に向けて問いを投げるか?身の程を弁えよ!!」

 

 

ガンッ!と足場を強く踏みつけ、その衝撃で街灯が割れる。

 

 

「我が拝謁の栄に俗してなお、この面貌を見知らぬと申すなら……そんな輩は生かしておく価値すらない!!」

 

 

突如アーチャーの背後がゆらりと歪み、アーチャーと同様の輝きを放ちながら、鋭い刃の切っ先と槍の穂先が顔を出す。

どちらも武器とは言えないほどの煌びやかな装飾を施しており、それらから感じる魔力は、宝具そのものである。

ライダーの傍にいるウェイバーはその魔力量に恐怖を抱き、ライダーはウェイバーの前に立ち、独特な形の双剣を構え、怯えるウェイバーを赤いマントで包み込み、姿が見えぬランサーのマスターもその剣と槍の魔力量に息を呑み、ランサーはマスターのいる方角を背に、双槍を構え、セイバーももういない永時の方角を背に、不可視の剣を構え、永時はどこかで面白そうな顔でニヤリと笑っていた。

 

 

「ーーーフン」

 

 

アーチャーが剣と槍を放とうとしたその時、轟ッ!!と5人から少し離れたところに、それは姿を見せた。

 

隙間なく全身を覆った漆黒の西洋鎧…プレートアーマーの騎士は、体つきから男と断定できるが、目以外は見えておらず、唯一見える目は、轟々と燃える業火のように不気味に揺れる双眼が正面を捉えていた。

 

バーサーカーの参戦である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーおーやってるな………」

 

 

永時は先程の狙撃ポイントより前へ進み、現在かなり近くでサーヴァントの戦いを眺めていた。

突如現れたバーサーカーが、アーチャーの宝具?を上手くやりこなしている。

 

飛んでくる剣を掴み、槍を弾き、剣を投げて双剣と相殺させ、大剣を掴んで一振りし、飛んでくる大量の矢を撃ち落とす。

 

理性をなくしているバーサーカー、されど蓄積された武術は変わらず。

 

 

「素晴らしい……」

 

 

狂気に包まれて尚、アーチャーに怯まず圧倒しそうな戦いを見せるバーサーカーに興味を持った。

 

あいつの闇をーーーバーサーカーの適性である狂った伝承とやらを聞いて、知りたい。

 

故に、ここで潰されるのは惜しい。そう考えた永時はーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォン!!と爆音とともに、アーチャーが爆発に包まれ、土煙が上がる。

 

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 

驚く一同を前にある人物が姿を現す。

 

 

「よお、楽しそうじゃねぇかーーー俺も混ぜろ」

 

 

LAWを肩に担いだ永時だった。

最初に気づいたのはセイバー。

 

 

「エイ………マスター!?」

「ほう、あれがうぬのマスターか?どれーーー」

 

 

勧誘しようとするライダーをセイバーが遮る。

 

 

「勧誘なんて考えはやめておけライダー。私のマスターは誰かの下に着くのを嫌う人だからな。誘っても怒りを買うだけだ」

「ーーーふむ、そうか……残念だのぅ」

 

 

誘う気だったのか、残念そうに呟くライダー、ウェイバーは突然現れた永時に唖然とし、ランサーは突然現れた永時に警戒しているのか2槍を永時に向けており、セイバーは驚愕と呆れの混ざった顔で永時を見ていた。

 

 

「………チッ、さすがは英雄…生きてるか…」

 

 

永時がそう呟くと轟ッ!と暴風が土煙を払う。

そこには人1人守れそうな大盾を持ったアーチャー。しかも額に青筋を立てている。

 

 

「痴れ者が………王たる我に手を挙げるとは………!!その不敬、もはや万死すら生温い!じっくりと痛ぶり、ありとあらゆる苦痛と恐怖を味わわせ………この我自ら滅してくれる!!」

 

 

その叫びに大気は震え、さっきより倍以上の宝具が顔をだす。

永時はLAWを放り投げ、構えて戦闘に備えーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーッ!」

 

 

宝具が射出されることがなかった。

 

 

「貴様如きの雑種がこの我に命令するか、時臣ィ!!」

「時臣、だと……?まさか………」

 

 

血がにじむほど拳を握るアーチャーの先程の言葉に思考の海に入る永時。

そして、アーチャーは周りのサーヴァント+マスターを見て言う。

 

 

「まあいい。いつか我と戦うその日まで、せいぜい間引きしておけ。真の英雄たる我と戦うのは、生き残った雑種だけだ………ただし………」

 

 

アーチャーの指は永時を指し、

 

 

「………貴様は例外だ。……貴様だけは我自ら滅してやろう……せいぜい震えて待っておくがいい」

「ご指名、ありがとうございますってか?とっとと帰れ金ピカ」

「ッ!!貴様ーーー!」

 

 

そこでアーチャーは霊体化し、その場から消え去った。

 

 

「あーあ、やる気が削がれた………セイバー、帰るぞ」

「………そうですね」

 

 

2人は他のサーヴァントを見回した後、そのまま帰ったーーー

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー訳もなく。

 

 

「■■■■■■ーーーーーー!!」

 

 

鉄柱を持ったバーサーカーがセイバー目掛けて突っ込んできた。

 

 

「何ッ!?………………グッ!」

 

 

直感スキルのおかげでなんとか受け止めたセイバー。

しかし、その呻き声は余裕そうではなかった。

 

 

「■■■■■■ーーーーーー!!」

「なるほどのう………掴んだ物を宝具にするのが、奴の宝具か………」

「どういうことだライダー?」

「つまりだセイバーのマスターよ。詳しくは分からんがあの鉄柱、黒い脈みたいな物が付いておるし、先程アーチャーの武器を奪って振り回しておったろう?そもそも、そうでもしなくてはただの鉄柱が英雄の武器と渡り合えるはずがなかろう?」

「なるほど……」

 

 

先程のランサーの宝具のせいで左手が全く使えないせいで力負けし、セイバーに若干の隙ができる。

 

 

「しまっ…………!」

「ッ!セイバー!」

 

 

焦るセイバーだが、相手は待ってくれず鉄柱を全力で振り下ろす。

永時が駆け寄ろうにも反応が遅れ、距離が遠く間に合わずーーーー

 

 

「ーーーそこまでにしてもらおうか」

 

 

甲高い金属音が倉庫街に響く。

そこには右手に赤い長槍をバーサーカーに向けるランサーの姿があった。

 

 

「ラ、ランサー?」

 

 

ランサーはセイバーに向けて笑みを向けると同時に、1本の柱が宙を舞ってバーサーカーの後方へ落ちる。

間違いなく先程バーサーカーが振り回していた鉄柱だった。

ランサーの宝具…長槍は魔力的効果を打ち消す力を持っているのはセイバーがよく知っている。

宝具化したといえど、所詮は魔力で宝具化したただの鉄柱。

まさしく、天敵ともいえる宝具だった。

 

 

「………助かった、ランサー」

「………勘違いするな、セイバーのマスター。俺はただ、セイバーとの決着がまだついてないから助太刀しただけだ………」

「そ、そうかい……」

 

 

はたから見れば、ツンデレのように思えて苦笑いを浮かべる永時。

 

 

(男のツンデレって誰得だ?)

 

 

恐らくはランサーのマスターの身内()だけかと思うがそれを永時は知るよしはなかった。

 

 

「とにかく助かった、とりあえず一時休戦でバーサーカーを止めないか?」

「元からそのつもりだ」

「了解しました」

 

 

三人は己の獲物を構えて、バーサーカーを囲む。

だが、ここであの男が言葉を発した。

 

 

『何をしているランサー、そこのセイバーは難敵だ。速やかに始末しろ』

「ッ!セイバーは!必ずやこのディルムッド・オディナが、誇りにかけて討ち果たします!故にどうか、我が主よ……!」

『…………』

 

 

ランサーのマスターは大きく息を吸い込み、ランサーに冷たく言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『令呪をもって命ずる。バーサーカーを援護し、セイバーまたはそのマスターを…………殺せ』

「なっ………!あの高飛車ッ!!」

「ッ!?」

 

 

突如、金縛りにあったかのようにランサーの動きが硬直する。

静まった空気に包まれ、ランサーの首が錆びたブリキ人形のように少しずつ動き、永時と目が合った瞬間。

 

 

「チッ!我が盟約に従い、悪の名の元に、我に力を貸したまえ-----」

 

 

ランサーが槍を振るい、二槍が永時を襲う。

そして、甲高い金属音が二回響く。

2回鳴ったのは、直前で上手く捌いたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーー『八方美人』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー煌びやかで、とても戦闘に向かないような錦の太刀を逆手に持つ永時とーーー

 

 

「………マスター、お怪我は?」

 

 

ーーーその太刀に勝る、美しい騎士…セイバーの2人が、だ。

 

 

「ーーーほう?こりゃまた……」

 

 

その美しい太刀に興味が惹かれるライダー。

 

 

「……俺は大丈夫だ、セイバー。俺の強さはお前がよく知っているだろ?」

「そうでしたね……すっかり忘れていました」

 

 

そう言っている間にも、鉄柱を武器にしていたバーサーカーと赤と黄の2槍を構えたランサーがジリジリと迫っている。

互いの距離が狭まっていくその時、突如夜空に雷鳴が響いた。

 

 

「AAAAlalalalalaie!!」

 

 

雷鳴に負けないぐらい雄叫びを上げながら、雷電を纏った戦車で疾走するライダー。ランサーはすぐに気づき、咄嗟の回避行動を取り、軌道上から逃れる。

しかしバーサーカーはセイバーに集中していたため、反応が遅れ、そのまま餌食となった。

戦車を急停止させ、バーサーカーがどうなったか確認する。

 

 

「■■■■■■ーーーーー!!」

 

 

当のバーサーカーは痛みに堪えるような声を上げ、此方に向かって突撃しようとしていた。

 

 

「ほう………中々どうして根性のある奴よ」

 

 

ライダーは特に慌てず構え、

 

 

「とりあえず黙ってろ」

 

 

ライダーの肩を蹴り、バーサーカーの上から永時が強襲し、バーサーカーを巨大な“ハンマー”で無理矢理地面に叩きつけた。

 

 

「■……■■………■……」

 

 

さすがに堪えたのか、セイバーの方へ手を伸ばすも、黒い霧となって消えていった。

永時は安堵し、ランサーのマスターがいるであろう方角を向き、それに気づいたライダーが永時と同じ方角を向いて言う。

 

 

「まあ、バーサーカーにはご退場願ったが……ランサーのマスターよ。下種な手口で騎士の誇りを穢すでない」

 

 

穏やかな口調だが、言葉1つ1つに怒りが込められており、反論を許さない威圧感があった。

 

 

「ランサーを退かせよ。これ以上そいつに恥をかかせるようなら、余はセイバーに味方する。セイバーのマスターよ、貴様もそうであろう?」

「………ああ、別に構わん。今ここで敵が1人でも消えるならなおのこと」

 

 

さっき投げたのと別のLAWをランサーのマスターのいる方角へ構えることで賛成の意を表す。

ライダーはそれを確認すると大きくうなづき、ランサーのマスターに問う。

 

 

「ーーーというわけでだ。これ以上やるというならば、我ら3人で貴様のサーヴァントを潰しにかかるが………どうする?」

 

 

マスターを直接狙うとは言わないのは、騎士であるランサーへの配慮なのであろう。

仕方なくランサーのマスターは言葉を紡いだ。

 

 

『………撤退だ、ランサー』

 

 

今宵はここまでだ、と言い残してランサーのマスターは去って行った。

主の撤退を確認したランサーはホッと一息しライダーを見上げる。

 

 

「………感謝する、征服王」

「なぁに、戦場の華は愛でるたちでな」

 

 

ニカッと嬉しそうに笑う征服王につられ、ランサーも笑う。

そしてセイバーと永時が歩み寄り口を開く。

 

 

「感謝する、征服王」

「今回は助かった、感謝するよ征服王」

「別に気にせんで良いわ」

 

 

ランサーは永時のところに歩み寄り、

 

 

「セイバーのマスターよ。………先程は失礼した……」

「気にすんな。令呪を使われちゃあ仕方ねえよ……」

「………感謝する」

 

 

短い会話を済ませた永時はセイバーの方を向き、

 

 

「………さて、セイバー。今度こそ本当に帰るぞ?」

「はい。………では、ライダー、ランサー。次は尋常な戦いを…」

「もちろん」

「無論だ」

 

 

その言葉に納得したか、背を向けてマスターと一緒に帰って行った。

 

 

「………では、参りましょう」

「ああ………B地点にある車で帰るぞ」

「………ええ、帰ったらその刀について説明して貰いますよ?」

「ことわr……分かったから睨むな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇の中、そこに似合わない綺麗な水晶玉が置いてあり、そこには先程の倉庫街が映っていた。

それを見るのは奇妙なローブに身を包んだ大きなギョロ目の男。

 

 

「嗚呼………乙女よ。我が“聖処女”よ………!すぐにでもお迎えに馳せ参じますぞォ…………」

 

 

彼はそう言って、視線を彼女に向ける。

永時と話して微笑みを浮かべる彼女ーーーーセイバーに。

 

 

 

 

 






いかがでしたか?

ギョロ目と『八方美人』は次回辺りに投稿する予定です。

では、また次回。


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新たな人影



どうも、遠藤凍です。

気がつけばお気に入り登録が100件に達していました!

読者の皆様、誠にありがとうございます。

これからも応援の程よろしくお願いします。


では、お楽しみ下さい。




 

 

とりあえず、倉庫街近くにあるB地点に置いてあった普通車(改造車)に乗って帰ることになったセイバー陣。

 

 

「………すみませんエイジ、ランサーを甘く見ていた私の落ち度です……」

「気にするなと言いたいところだが……『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』が使えんのはまずいな……」

 

 

セイバーの騎乗スキルを見てみたかったが、左手が使えないために断念しセイバーが助手席に座り、永時が運転席に座って運転しながら敵情報と現状の整理をしていた。

 

 

(さっきので分かったのは………

 

アーチャーの真名不明、宝具は大量所持のため不明、マスターは遠坂時臣。

 

ランサーの真名はディルムッド・オディナ、宝具は魔力的効果無効の長槍と治癒不可の傷をつける短槍、マスターはロード・エルメロイ。

 

ライダーの真名はイスカンダル、宝具は不明、マスターはウェイバー・ベルベット。

 

アサシン………は、全部不明だから今後次第かな?

 

バーサーカーの真名は不明、宝具は掴んだ物を宝具にする宝具、マスターは不明。

 

キャスターは主従共に………いや、マスターはまだ出てない衛宮切嗣か?いや、間桐の可能性もあるし………。

 

こっちは………セイバーが左手に治癒不可の傷のため、『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』が使えないしとてもまともに戦闘ができんな……早くランサーをどうにかして始末しなくては………)

 

 

 

「エイジ………もう少しスピードを緩めませんか?」

 

 

ドン引きのセイバーに言われて気づいたが、無意識の内にアクセルを強く踏んでいたようだ。

 

 

「おっと悪い……」

 

 

永時は思考を中断し、運転に集中することにした。

そんな彼にセイバーは口を開く。

 

 

「あの……1つよろしいですか?」

「………あっ?なんだよ」

 

 

セイバーは無言でバックミラーを指差す。

 

 

 

 

 

「ーーー後ろに座っている人物はどなたですか?」

「ーーー何?」

 

 

バックミラーを確認すると、先程『八方美人』が置いてあったはずの後部座席に1人の人物が座っていた。

 

桃色の短髪、碧い瞳、そして背はセイバーの頭1つ分小さく、細い肢体は滑らかな曲線を帯びており胸は控えめだが、全体的にスレンダーな体型をしている中性的な顔の少女。

何より永時がよく知っていて相棒に当たる人物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、なんでいるんだよ!-----アスモッ!」

「ヤッホー!エイジ、遊びに来たよ♪」

 

 

アスモと呼ばれた少女は無垢で明るい笑顔を永時に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………つまり、あの刀は七つの大罪の色欲を司る魔王アスモデウス本人の物で、旧友である彼女の力を拝借した時に一緒に呼び込んでしまったと………」

「呼び込んだっていうか、こいつがかってに来ただけだがな……」

 

 

契約により『八方美人』を呼び寄せたのはいいが、呼びだした際の魔力の繋がりが出来たことにより、『八方美人』に憑依する形でアスモデウス本人を呼び寄せてしまった……というか向こうが勝手に来たようだ。

 

戦力が増えたのは嬉しいが、サーヴァント召喚に近いものらしく『八方美人』の周囲3キロ圏内しか行動ができず実体化に関しての魔力は問題なく、そこらの人間の色欲を吸収すればある程度は確保できるので、宝具使用時だけ魔力を供給すればいいらしい。本来より弱体化が見られるが大した問題ではない。

 

 

 

「え〜、いいじゃない………僕たち“夫婦”なんだから」

「………エイジ、どういうことでしょうか?」

 

 

 

セイバーの今までにない殺気を受けてさすがの永時も焦りを感じ、反論する。

 

 

「なんでセイバーはキレてんだよ………てかアスモ、そもそも俺とお前はそういう関係じゃねえだろうが、嘘言うんじゃねえよ」

「むう………僕はそのつもりだったけど?」

「はいはい、そうですか」

「むむむむむ!!」

「そうでしたか………あれ?なぜ私はホッとしているのでしょうか?」

 

 

セイバーの心に湧き出てきた感情、それを知るのはまだ先のことである。

 

そして、その気持ちについて考える間もなくそれは現れた。

前方から何かの気配を感じ取ったセイバーは運転席に半身を乗り出し、ハンドルを掴んでブレーキを強く踏んだ。

 

 

「おっと!」

「うわっ!」

 

 

幸い騎乗スキルのおかげで上手く停車出来た。

永時は咄嗟に構えたため何ともなかったが、アスモは反応が遅れ、後部座席から落ちていた。

 

 

「うぅ〜、痛い…………セイバー、何するのさ……」

「………敵か?」

「はい、永時は私から離れないでください」

「………ああ」

 

 

永時は黙って頷き、アスモは『八方美人』の中に潜って永時がそれを持つ。

それを確認したセイバーは永時とほぼ同時にドアを開けて外に出て道の前を照らす車のライトに照らされている人物を見据える。

赤と群青に統一された襟巻きに金属製の留め具が飾られたローブに身を包んだ魚類を連想させる大きなギョロ目の長身の男。

男はセイバーの顔を見ると、穏やかな笑顔で丁寧に頭を垂れた。

 

 

「……お迎えに上がりました、“聖処女”よ」

「……!」

「……あっ?」

 

 

今なんと言った、とでも言いたそうにするセイバー。

生涯を男として振る舞い、その一生を終えたのだから女と呼ばれるのがおかしい。

そもそも“聖処女”という呼び名で呼ばれる覚えがない。

 

 

「………知り合いか?」

「いえ、覚えがありません……」

「なっ………!?」

 

 

その言葉に男はギョロ目を大きく見開き、顔を上げた。

 

 

「おおォ、ご無体な!この顔をお忘れになったと仰せますか!」

「忘れたも何も、貴公とは初対面だ。人違いではないのか?」

「ああ、あああ………私です!“ジル・ド・レェ”でございます!………貴女の復活だけを待ち望み、こうして時の果てにまで馳せ参じて来たのですぞ!“ジャンヌ”!」

「ジャンヌ、だと!」

 

 

男の言葉に永時は驚き、セイバーも驚いた。

まさかここにも真名を明かす馬鹿がいるとは誰も思わなかっただろう。

これでこの男はサーヴァントであり、残るクラス……キャスターだということが分かった。

 

 

「私は貴殿の名を知らぬし、“ジャンヌ”という名に心当たりがない」

「---ッ!!………そんな……まさかお忘れなのか?………生前のご自身を?」

「貴公が自ら名乗りを上げた以上、私もまた騎士の礼に則って真名を告げよう。我が名は「これ以上言ったら飯抜きな?」………とにかく、ジャンヌではないことは確かだ」

「………嘘でございましょう……?何かの間違いなのでしょう……?貴女のその姿は、紛れもないジャンヌ・ダルクだという証なのですぞ!!」

「証拠になってねえな………」

「しつこいぞ!分からぬのなら何度でも言おう。私はジャンヌ・ダルクではない!」

 

 

宣言染みたセイバーの発言に、キャスターは嗚咽し始めた。

 

 

「おおおおおッ!なんと痛ましい!なんと嘆かわしい!………記憶を失うのみならず、こともあろうに別人と申されるか……そこまで、そこまで錯乱してしまったのですかジャンヌ………ぅぅ……」

 

 

そう嘆くキャスターは、怒りと悲しみを込めながら地面を殴り始める。

 

 

「おのれぇぇッ!!我が麗しの聖処女に神はどこまで残酷な仕打ちをォォォ!!何故だ!?何故そこまで彼女だけを苦しめる!?何故私ではなく彼女なのだァァァ!?彼女が「長いわ」ギャアアアア!!」

 

 

話が長引きそうな気がし、ストレス発散ついでにキャスターにミサイルを叩き込む。

その爆風でガードレールに突っ込むキャスター。

 

 

「エ………エイジ?」

「あははは………相変わらずだね………」

 

 

その光景にセイバーは呆然とし、付き合いが長くいつの間にか現界していたアスモは何も思うことなく再装填をしている永時の相変わらずさに苦笑する。

 

 

 

 

変質者、慢心、長話、変態。

 

 

 

 

 

これらを主に嫌う永時。

有益ならともかく、無駄な長話は嫌いなのだ。

 

一方、ガードレールに突っ込んだキャスターは怒りをあらわにして永時を睨んだ。

 

 

「おのれぇぇ………!遂に来たか神の使いめッ!私とジャンヌの逢瀬を邪魔するならーー」

「違うわボケ」

「ギャアアアア!!」

 

 

またもやミサイルによる爆撃で吹っ飛ぶキャスター。だがすぐに復活して永時に怒りの感情をぶつける。

 

「おのれぇぇ!1度ならず私に2度も手を上げるとは………!!」

 

 

そんなキャスターを無視してセイバーとアスモにアイコンタクトを送る。

 

 

 

や・っ・て・い・い・か・?

 

 

 

めんどくさそうな顔をしているが、手に手榴弾を持っていることでとても説得力があった。

対して2人はやりすぎだろうと思って首を横に振ることで否定を示した。

そうか……と永時は残念そうに呟き、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光弾をキャスターに放り投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャアアアア!目がァ!目がァァァァァァァ!!」

 

 

無論もろに喰らっては涙を流しながら地面にのたうち回るキャスターにいつの間にかサングラスを装備していた2人は苦笑した。

しかし腐っても英霊、キャスターはすぐに視力を回復させ、怒りの表情で永時に詰め寄る。

 

 

「貴様ァァ!私のこのつぶらな瞳に何をする!?」

「はいはいすんませんでした〜(棒)」

「ジャンヌ!この男は危険です!直ちに離れることをご提案いたしますぞ!」

「悪いがこの男は私のマスターでな、神の手先でもない」

「………どうやら相当神の呪いに毒されておられるのですね……。よろしい、それなら私に考えがあります」

 

 

そう言ったキャスターは霊体化し始める。どうやら撤退するようだ。

 

 

「次は会う時は相応の準備をして参りますゆえ………それまでお待ちくだされ、ジャンヌ………」

 

 

その言葉を最後に完全に霊体化し、セイバーたちの前から姿を消した。

 

 

 

 

 

「エイジ」

「ああ、多分あいつはキャスター………これで全員そろったから本格的に動き始めるか………セイバー」

「はい」

 

 

そう言って永時は右手をセイバーに向けて伸ばす。

 

 

「………これからよろしく頼むな」

「………もちろん、こちらこそよろしくお願いします」

 

 

セイバーは賛成の意味を込めて永時の手を握った。

進むべき場所へ向かって、2人は第1歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕のこと忘れてない?」

「「あっ…………」」

「ひどい…………」

 

 

訂正、2人+1本?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは少女にとって地獄のようだった。

 

いや、心を空っぽにしている本人にはそう感じないかもしれないが。

 

 

 

少女は前までとある有名な魔術の家系の次女だった。

 

しかし、家の決まりで少女は本人の知らぬ間に養子に出されることになった。

 

 

 

そこから少女の地獄の始まりだった。

 

 

 

毎日刻印蟲と呼ばれる蟲が少女を犯し、狂わし、壊していく。

茶色が混じった黒髪は気づけば紫になっていた。

子供らしかった瞳は生気すら灯っていなかった。

先日、優しいおじさんが助けてくれる、ここから連れ出してくれると、言ってくれたが期待はしなかった。

 

もはや人間とは言えない姿になってまで永遠の生にしがみつく老人らしき何か。

蟲を操って人を弄ぶ何か。

殺してもすぐに復活する何か。

 

そんな化け物を相手にするのだ、期待しろと言うには無理がある。

 

それこそが少女を地獄に落とした張本人だったからだ。逆らえば少女はすぐに殺されると分かっていたため、逆らう気にもなれなかった。

生きるために、少女は人形のようになるしかなかった。

 

また今日もいつも通り蟲の海へ放られた少女は考えるのをやめた。

一体いつまでこの苦痛は続くだろうか。既に頭と身体を切り離し少女はそう思ったその時だった。

 

 

『助けてやろうか?』

 

 

謎の女の声が聞こえ、何故か分からないがその言葉を聞いて無意識の内に首を縦に振っていた。

 

 

『ほう、そこまで堕ちてなお、生にしがみつくか……よかろう。じゃが、3回願いを叶えたらそれなりの対価を貰うが………良いな?』

 

 

嘲笑とも言える女の言葉に特に気にせず、またもや首を縦に振っていた。

 

 

『よかろう。契約は完了じゃ』

「-----ッ!!」

 

 

女の声が聞こえると少女の右手に痛みが走る。これは蟲によるものではないまた別の痛み。

まるで熱い棒に当てられたような鋭い痛み。

 

 

「……………えっ?」

 

 

乾いた唇を動かして、掠れた声を漏らした。

蟲の群れの右手部分だけが光り、手の甲に刺青が刻み込まれる。

そして少女に応えるように暗い蟲蔵が光に包まれる。

あまりの眩しさに少女は思わず目を閉じた。

 

 

 

「………ふむ、これまた見苦しい場所に呼び出されたものじゃのう……」

 

 

 

氷のように冷たく、妖艶な女の声が少女の耳に届いた。

そこで少女は自分を見つめる視線に気がつく。

雪のような白銀の長髪を腰まで垂らし、引き込まれそうな黒い瞳、女らしさと言える豊満な肢体を胸元を開けた黒のドレスのような鎧に身を包んでいて、妖艶な雰囲気を出す女が少女をしばらく見つめたあと、少女の側に歩み寄る。

 

 

「この女子か……?」

 

 

女が少女を蟲の海から摘み上げる。

 

 

「肉体的には生きておるが、精神的に女としては死んでおるな……こりゃ面倒なものよ」

 

 

呆れを残した溜め息を吐く。

 

 

「………さて、典型的じゃが聞こうかのう………お主が妾の契約者か?」

「けい、やく……しゃ………?」

 

 

少女の疑問の声に女はまた溜め息を吐いて答える。

 

 

「なんじゃ?お主、“契約”を知らんのか?」

 

 

少女は首を縦に振って肯定する。

すると女の後ろから老人の笑い声が聞こえる。

 

 

「………呵呵呵ッ!まさか桜がサーヴァントを召喚するとはのう………これでこちらはサーヴァントが2体ということか……」

「………」

 

 

女が後ろを振り向くと1人の老人が立っており、その老人を見るや否、桜と呼ばれた少女は若干の怯えを見せたのを女は見逃さなかった。

 

 

………なるほど、此奴(ゴミ)が原因か。

 

 

「どうじゃ?そんな小娘より、儂につくがよい」

「………この妾に指図するか、愚老が。妾を指図するのはあの男だけで十分じゃ」

 

 

女は右腕を薙ぎ払うように振ると同時に飛び出した一筋の光線が老人の頭を吹き飛ばした。

しかしそれでは意味がないと桜は思う。

 

 

「呵呵呵呵呵呵ッ!流石にサーヴァントといえどその程度では儂を完全に殺すことはできんか!」

 

 

薄暗い部屋に響く声は先程殺したはずの老人が汚い声で笑っていた。

 

 

「再生能力?本当に人間か?いや、蟲の集合体か?」

「さてな?………折角サーヴァントが召喚されたのじゃ、潔く儂の駒になって貰おうか」

 

 

そう老人が言うと一瞬で女の周りに大量の蟲が集まり始める。

そして老人の合図で蟲たちは女に襲いかかり、

 

 

「………フッ、化け物と言えど所詮は人間か………侮るなよ蟲風情が-----『止まれ』」

「………なん、じゃと!?」

 

 

たった一言で蟲たちはその動きを止めた。

 

 

「何をしておる?何故奴を襲わない!?」

「おやおや、性根以外に頭も腐っておったか?」

 

 

老人の動揺を無視して、蟲が波がひくように2つに割れ、女の道を作りそこを堂々と優雅に歩く。

 

 

「そんなことも分からぬのか?」

 

 

心底詰まらなさそうに女は言った。

 

 

「簡単なことじゃ、単に貴様の蟲使いの力が妾の力に勝てなかったということ。つまり、今や妾が命令権を掌握したと言っても過言ではない」

「馬鹿な……そんなこと、あり得ぬわ………」

「1つ言わせてもらうが、ありえないことはあること自体ありえないと思え、まああくまで受け売りじゃが……最後にいい教訓となったであろう?」

 

 

まさか、自分の蟲がサーヴァントに操られるなど考えてもいなかっただろう。

しかし実際こうして老人は操っていた蟲に裏切られ孤立している。

 

 

「ーーーというわけじゃ………とっとと消えるが良い」

「ま、待てーーーーー」

 

 

女は再び腕を振るい飛び出た一筋の光線が一匹の蟲を貫いた。

ドシャと地面に老人だった何かが冷たい床に落ちる音がしたが、2度と動かないのを確認すると女は残った蟲共に共喰いを始めさせるよう命じ、それから視線を外して桜へと戻した。

 

 

「ふむ、力は少しだけ落ちておるkーーーチッ、あの蟲風情が。こんなとこにもおったか」

 

 

そう怒りを込めて呟くと桜の胸に手を添えると手が明るく光だす。

 

 

(あっ……暖かい……)

 

 

その光はただ眩しいだけでなく、蟲に食い荒らされたボロボロの身体を癒していき、空っぽだった心を満たしていった。

光が止むと女の手には1匹の蟲らしき何かが握られており、それを観察する

 

 

「なるほど、これが奴の本体というわけか」

 

 

暫く観察すると飽きたのか鼻でフッと笑い、手に持つそれを軽く上に投げて光線で完全に消滅させた。

 

 

「………終わったぞ」

「えっ………?」

「じゃから、あの蟲ケラなら今妾が消し去ってくれたわ」

 

 

桜は見てはいたが信じられなかった。あの恐ろしい存在の消滅があまりにあっけなかったが、事実桜の目の前で起こったので信じるしかなかった。

 

 

「さて、今回はサービスでなしにしておいてやろう。ではあと3回、願いを叶えてやろう」

「えっと……?」

「……さて、次はなんじゃ?……と言うても、まだ決まっておらなさそうじゃのう」

「………お姉さんのお名前、教えて?」

「それだけか?まあ良い。名前ぐらいなら数えんようにしてやろう………まずはお主から名乗れ」

「………遠坂……ううん、間桐桜」

「桜か、良き名じゃのう。では、妾も名乗るとしようーーー」

女はそう言って3対で計6枚の鳥のような漆黒の羽を背中から出して名乗りを上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「-----我が名は魔王ルシファー。それがお主と契約する者の名じゃ。覚えておくが良い」

 

 






いかがでしたか?

一応2人のステータスを書いたのでご覧ください(かなりハイスペックなので悪しからず)

※宝具は後に追加あり




アスモ

【クラス】ライダー

【真名】色欲を司る魔王アスモデウス

【属性】中立・悪

【ステータス】( )はスキルによる強化後
・筋力C (C+)
・耐久C (C+)
・敏捷A (A+)
・魔力B (A)
・幸運B (B+)

【保有スキル】
・騎乗A

・変化A
(姿を自由に変えれる)

・天文学A++
(学者並みの知識)

・役者魂A
(余程のことがない限りはバレない演技力。ただし、自分と付き合いが長い相手には効果がない)

・軍略B

・カリスマA

・仕切り直しB

・対魔力C

・悪魔体質A
(夜になるとステータスが向上。ただし、光属性のダメージが倍加する)

・自動供給B
(宝具使用以外で魔力供給しなくても周りから魔力を吸収するので大丈夫)

・神性C
(元智天使のため)

・魔王の威厳B
(格下の相手限定で威圧・洗脳ができるが本人はあまり好まないので正直意味のないスキル)

【宝具】
『八方美人』

はっぽうびじん

ランクB

レンジ1

最大補足3

変化能力を強化し、変身した相手の能力も模倣する。
ただし、弱点も模倣してしまうので注意が必要。

【補足】
イメージはApocryphaのアストルフォに近い。
向こうと違って正真正銘の女だが………。
魔界を統治する魔王の1人だったが、永時との出会いで今や恋する乙女。
変化能力を使って永時の好みを詮索中らしい。
ちょっぴり弱気だがやる時はやる娘。
好きなものは永時と下ネタと猫。
嫌いなものは魚の内蔵。






ルシファー

【クラス】キャスター

【真名】傲慢を司る魔王ルシファー

【属性】中立・悪

【ステータス】
・筋力C
・耐久B+
・敏捷B+
・魔力A++
・幸運C

【保有スキル】
・魔術A++

・陣地作成A

・道具作成B

・高速神言A

・カリスマB

・拷問技術A

・加虐体質A

・黄金律B
(金銭的に余裕ができる)

・気配察知B

・神性C+
(堕天使のため)

・自動供給A
(基本的に魔力供給の必要がない)

・魔王の威厳A
(アスモデウスとほぼ同じだが、弱っているならサーヴァントにも効果がある)

・堕天使体質A
(光・闇属性に強い耐性を持ち、それらを自分で扱える)

・アンチ対魔力A
(事実上、対魔力の完全無効化)


【宝具】
???

【補足】
キャラ的には年上のお姉さん的存在。
かつて傲慢で慢心しまくっていたが、ある人物との出会いで慢心を失くす。
今や傲慢なのが問題だが、めんどくさがりながらもなんだかんだ言って面倒を見てくれる。
傲慢故にか意地っ張りなのが萌え要素。
趣味は人間観察。
綺麗な音色のものが好き。
蟲が嫌い。
最近頑張っていることは花嫁修業。相手は………



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姫騎士と悪・幼女と屍もどきと傲慢姫



どうも、遠藤凍です。

今回は軽くですがある人の過去に触れます。

では、お楽しみ下さい。



 

 

---お前、誰だ?

 

---そっか、お前も実質孤独なんだな。

 

ーーー俺か?俺は………名乗るほどでもねえよ。

 

ーーー別に構わん。どうせ俺は罪人だからな。

 

ーーーその名は捨てたつもりだったんだが……。

 

ーーー名前?お前もしつこいな……まあいい。

 

ーーー俺の名は………終永時。終わりなき永遠の時を、自らの“悪”を背負って生きていく。俺にピッタリな名だろ?

 

 

ーーーそう、俺は“---ーー”だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「-----ッ!」

 

 

そこでセイバーは目を開けた。

本来サーヴァントに睡眠は必要ないが眠れば魔力消費を抑えることができるので仮眠をとっていたところでこれだ。

 

 

「………今のは、エイジ?」

 

 

先程見た映像と己の記憶と照らし合わせる。映像に映ったのは荒野のような場所、相手は長身長髪の妖艶な美人だが、桃色の髪に碧眼から推測するにアスモデウスだろう。

では、アスモデウスに話しかけていた男は服装は一致しないが体つきや顔つきから見て永時だろうと結論づけた。

 

 

「………では、これは彼の記憶?」

 

 

サーヴァントは夢を見ないが、代わりとしてマスターの記憶を見ることがあり、マスターもサーヴァントの記憶を見ることがあるのだ。

 

 

「………セイバー、ご飯出来たよ?」

「ッ!………アスモですか。了解しました」

「………セイバー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………セイバー?」

「なんでしょうか?」

「………ご飯、食べないの?」

「食べてますよ?」

 

 

とは言うもののいつもの半分(とは言っても普段は2人前〜3人前)しか食事に手をつけていなかった。その様子を見て永時とアスモはヒソヒソと話し始める。

 

 

「エイジ、これでいつもより食べてないの?」

「ああ、いつもならこれの倍は食ってるはずだが……」

「倍………?食費は大丈夫なの?」

「今の所はな……あぁー、あいつらがいれば少しは楽になるんだが………」

「………まあ、いないのは仕方がないよ……」

「2人とも……聞こえてますよ?」

「「ギクッ!」」

 

 

何故聞こえた?と言いたそうな顔でセイバーを見る2人。

 

 

「私はサーヴァントですので………エイジとアスモ、一つよろしいですか?」

「「………な、何かな?」」

 

 

ビクビクする2人を無視してセイバーは続ける。

 

 

「………先程、私はある夢を見ました」

「夢?確かサーヴァントは………あっ」

「そうです。私は2人のーー正確にはエイジの記憶を見ました………」

「何を見たんだよ?」

「エイジとアスモの馴れ初めらしきものです」

「ああ、あの頃か……それがどうしたよ?」

「懐かしいね」

「私はその記憶にいるエイジが言っていたある一言に疑問を抱きました………“その名は捨てたつもりだったんだが”

この言葉、最初は終永時という名を捨てたのだったと考えましたが、自身を罪人と言っておられましたのでこうも捉えれます。“前の名を捨て、新たに終永時という名を名乗った”と………」

「………何が言いたい?」

 

 

低い声で話すと同時に永時からサーヴァントに近い実力の濃い殺気が放たれる。

 

 

「………いえ、少し気になっただけです」

 

 

これ以上聞けばヤバいと直感が警告を鳴らしたので話を終了させた。それに気づいた永時は気まずそうな顔をして口を開いた。

 

 

「すまん………いずれ話す」

「では、その時までお待ちしておきますね?」

「すまねえ……」

 

 

少し気まずい空気の中、3人は食事を再開しながら話し始める。

 

 

「………突然だが、ランサー陣の居場所が分かった」

「本当ですか!?では、今すぐに支度を「そうやってすぐに事を急かすのはお前の悪い癖だぞ」………す、すみません……」

 

 

食事をやめて立ち上がろうとするセイバーを静止させ、分かればいい、と言うと永時は話を続ける。

 

 

「ランサー陣はサーヴァント、ディルムッド・オディナ。マスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト通称ロード・エルメロイ。そしてその婚約者のソフィアリ家の息女、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの3人だ。今、使い魔を飛ばして情報を集めたのだが……場所が場所だけにかなり面倒だ」

「その場所って………?」

「……ホテルの上層階でフロア丸ごと魔術要塞化」

「うわぁ……そんなの誘ってるじゃない」

「だからこそ、この作戦を結構するにはもってこいだ」

「作戦、ですか?」

「ああ。今後俺たちが有利に、なおかつセイバーのやり方で勝利するためには必要なことだ」

「エイジ、それってどんなの?」

 

 

アスモの問いに対して永時は嫌そうな顔で答えた。

 

 

「セイバーが最も好まないやり方だよ」

「………説明、していただけますよね?」

「無論だ。だが、それにはあることが必要だ……」

 

 

永時はそう言ってアスモを見詰める。

もちろん見詰められるアスモは顔を赤らめて恥ずかしがり、それを見たセイバーはムッと頬を膨らます。

 

 

「ちょっとエイジ……そんなに見つめなくても「アスモ、お前の力が必要だ」………えっ?」

 

 

イタズラを思いついた少年のような顔をする永時にアスモは長年の付き合いからヤバいと直感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その例のホテルの駐車場で1人の男が電話をかけていた。

相手は助手であり仲間の女。

 

 

「舞弥、状況は?」

「全く動きがありません。気づかれてもおかしくはないのですが………」

 

 

そう言って女…舞弥は例のホテルを覗く。

目標は気づきもせず、なにやら口論らしきことをしている。

 

 

「まあいいさ、慢心してくれるならそれは好都合だからね」

「しかし、セイバー陣には終永時がいますが………気づかれるのでは?」

 

 

男に少し余裕があると感じた舞弥は話しかける。

 

 

「あの男か………いや、あの男は気づいていても多分静観するはず」

 

 

舞弥は終永時という男の話は話しかけている男から聞いていたが全く理解不能な人物だった。

 

 

呼び名は終永時。二つ名は『悪の狂信者』。

 

 

彼自身が掲げる『悪の基準』に基づいて仕事をするところから由来する。

しかも魔術師にしては滅多といない科学技術も使う人物。

 

本名、実年齢、生年月日、国籍が不明。姿は黒の軍服、黒のフルフェイスのガスマスク、黒のヘルメットに身を包み、素顔が不明。フリーランスの傭兵もどきで仕事の成功率8割5分の実歴と男であるということしか分かっていない。

 

調べた際に出た実歴を挙げるとーーー

 

 

曰く、ある時は神秘の漏洩を破ってまで人助けをしようとした魔術師を赤字確定の報酬で教会から逃がす手伝いをした。

 

曰く、外道に走った魔術師を内密に捕縛し、実験体にした。

 

曰く、魔術ではない理解不能な技術を持っている。

 

曰く、封印指定の子供を匿った。

 

曰く、自身が封印指定を受けたのにもかかわらず、送り込んだ執行者の過半数を皆殺し、軽くても半殺しで全て教会に送り返した。

 

曰く、教会を脅して封印指定を取り消させた。

 

曰く、不老に達した人間。

 

 

など、もっと詳しく調べれば次から次へと出てくる武勇伝。全て挙げればキリがない。

 

そして男、『魔術師殺し』衛宮切嗣の師であり母のようでもあったナタリア・カミンスキーと旧知の仲であり、切嗣の師でもあり、切り札である『起源弾』の存在を知る人物の一人であり、かつてその『起源弾』で葬ろうとして唯一殺すのに失敗してしまった人物だったからだ。

『起源弾』で完全に魔術が使えなくなったにも関わらず、転移をして逃亡した。

 

謎の集合体、それが終永時と呼ばれる男だ。

 

 

ーーー何者なんだ彼は?

 

 

「ーーー!終永時がいます!」

 

 

舞弥の言葉によってその考えは中断された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

例のホテル前にセイバーと永時は車に乗って窓を開けたまま待機していた。

 

 

「ーーー来たか」

 

 

そう呟く永時の視線の先にはホテルから出てくる1人のボーイ。そのボーイはその足でこちらに歩み寄り、運転席側に向かうとポケットからある物を出して永時に渡す。

 

 

「ーーー予定通り確保しておいたよ」

「ーーーああ、じゃあ例の場所でまた落ち合おう」

「了解」

 

 

 

短いやりとりを終えるとボーイは再びホテルへと戻っていった。

ボーイが戻っていくのを確認したら助手席にいるセイバーに話しかける。

 

 

「ーーさて、この作戦に異論はないな?」

「ですが………」

「仕方ねえだろ?こうでもしないと今宝具が使えない、まともに戦闘できないお前が役に立たんだろうが……」

「………しかし、それではーーー」

「騎士道に反するってか?………はぁ………お前、勝ち残る気あんのか?」

「そ、それは………」

 

 

食事の時と同じ威圧を受け、セイバーは少したじろぐ。

そんなセイバーを無視して永時は続ける。

 

 

「騎士道に乗っ取って尋常な戦いをしたい?それでもって勝ち残って聖杯を得たい?………ハッ、笑わせるな、どんだけワガママ言えば気が済むんだ?今まともに戦闘できない奴が何言ってんだか………あのな、これは戦争なんだ。どんな手段を用いても勝てば正義となり負ければ悪になる世界だ。全員がお前と同じ志じゃねえし、尋常な勝負を全員が望むとは限らない。だからこそ俺たちマスターは多少卑怯なことで信頼度が下がることになってもお前らサーヴァントの土俵になるようにしてやるのが義務だと思っている。確かにパートナーの信頼を失うのは最も恐れることだが今のままでは確実に俺らは全勢力に狙われるのは目に見えてるし、ランサーと尋常な勝負を望むならなおさらだ。………今回はお前のためでもあるんだ、我慢してくれ」

「………エイジ」

「………なんだ?」

「すみませんでした」

「あっ?」

 

 

突然のセイバーの謝罪に永時は呆然とする。

 

 

「確かにエイジは大抵私の意見を尊重してくれた。ですが、その状態に慣れてしまい、あなたに甘えていたのかもしれません………」

「あ、ああ……」

 

 

単に我慢してもらうよう言ったつもりが、なんでそう解釈したのか永時には理解できなかったが、都合良く事が進んでるので気にするのをやめた。

 

 

「ですので今回は弱ってしまった私のためだと仰っていたので従わせていただきます。いいですか?別に私のためと言われて嬉しいからではありませんので悪しからず」

「………フッ、そうかい」

「今鼻で笑いましたね?」

「あっ?気のせいだろ?」

「いえ、絶対に笑いました。馬鹿にしてますね?」

「さあ?」

「さあ?ではありません!今笑った心意を正直に述べてください!」

「おっとそろそろ時間だぞ?早く定位置に着け」

「話を逸らさないでください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、作戦開始だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは突然耳にした火災警報器の音が原因だった。

 

最初に気づいたのはランサー。

 

 

「ッ!主!サーヴァントがこちらに向かってきています!」

「何?………折角の客だランサー、下で出迎えろ」

「いえ……それがーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“この建物の壁を走ってきています!”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だと!?」

 

 

この時になって漸く予想外の事態だと知って驚き次の行動に移す暇もなく、それは現れた。

 

ガラスを割るような音が響き、中に入ってきたのはーーー

 

 

「セイバー!」

「しばらく私の相手をして貰うぞ、ランサー!」

 

 

突如現れた姫騎士に一瞬怯むが己の主を守るため、姫騎士……セイバーへと2槍を向けて立ち向かう。

 

 

「ランサー!そのままセイバーを抑えていろ!」

「了解しました!」

 

 

頼られたのが嬉しいのか、ランサーの顔に一瞬笑顔ができ、槍を握る手が自然と強くなる。

だがーーー

 

 

「すまない、ランサー」

「何?」

 

 

セイバーの謝罪と共にカランコロンと響いた金属音。その数三つ。

 

 

「な、何がーーー」

 

 

そこでケイネスはあるものが目に入る。

科学に疎い自分でも見覚えのあるもの。

 

ーーーあれは、空き缶?

 

それが、突如煙を吹き始める。

 

 

「主!?」

 

 

いち早く反応したランサーは主の元へと向かいたいがセイバーによってその行く手を阻まれる。

そしてランサーは為す術もなく、部屋に煙が充満していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、始めようか」

 

 

永時がそう呟き、手に持つスイッチを押す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟音が響き、同時に天井が爆発で穴が空いたと気づいた時には、ケイネスは動けなかった。

煙の中から現れた何かによって壁に叩きつけられたから。そして何よりーーー

 

 

「ーーーソラウ!」

 

 

煙が晴れたと同時に影のような黒い人型に縛られた婚約者が目に入ったからだ。

 

 

ーーーまさか影使いか!?

 

 

相手の手の内を即座に理解し、部屋の明かりを壊そうとしーーー

 

 

「動くな」

 

 

ーーーその動きを止められた

 

その声の主はーーー影のような黒尽くめの格好の男である。

だが、男がいたのはケイネスの後ろだ。いち早く反応できたランサーだが、セイバーがその行く手を阻む。

 

 

「ソラウ様!」

「おっと、俺を殺るのは構わんが……」

 

 

そう言ってソラウを縛っているーーーソラウ自身の影を操って縛りを強くする。あまりの痛みにソラウは悲鳴を上げる。

 

 

「そのままこの女を絞め殺すまで……さて、どうする?今すぐセイバーとの戦闘をやめて大人しくするなら話は別だが……」

「ランサー……戦闘をやめろ」

 

 

止めるよう言ったのはランサーのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。しかしランサーは納得いかず反論する。

 

 

「しかし!」

「ランサー!」

「……了解しました」

 

 

ランサーが2槍をしまうのを確認してからセイバーも警戒を解かないままの状態で戦闘をやめ、永時は続ける。

それを見たケイネスは好機と見て自身の魔術を発動させようと口を開き、

 

 

「では、お前も縛らせてもらおうか」

 

 

どこかから伸びた人型の影によって身体を締めつけられ、口を塞がれた。

ランサーの視線が怖い怖い。

 

 

 

「危ない危ない。さすがはロード・エルメロイと言ったところか……だが、甘えよ。砂糖より甘いぜ」

「ーーー!!」

「いや、何言ってるか分からん。……とりあえずこれを見ろ」

 

 

また伸びた別の影が1枚の紙をロード・エルメロイに見せるように出てくる。

 

 

それは『自己強制証文〈セルフギアススクロール〉』。

魔術の世界において絶対厳守の呪いに近い契約書のことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも、久しぶりの俺視点での語りだな……。まあもう2度とないと思うがな。

さて、今から俺がどこにいて、何をして、何がしたいか説明しようと思う。

 

まず、相手ケイネス・エルメロイ・アーチボルト……もう面倒なので、ロード・エルメロイは自分がいるフロア全体を魔術要塞にしているのを確認した俺たちはアスモをあらかじめホテルから適当に拉致ったボーイに変身させてホテルに侵入させ、ある物を貰った。そのある物とは後に語る。

 

次に俺は戦闘服をトランクスに詰め、客を装って偽名でホテルに侵入する。

その足でアスモから受け取ったある物ーーカードキーを使ってロード・エルメロイの真上の部屋に入る。最初罠があるか心配していたが、フロア丸々罠を張っていることに集中していたからか真上と真下の部屋には罠が一つも存在しなかった。

そのまま入って戦闘服に着替え、床に軽く穴を開ける程度のC4をセットしてあとは火災警報器を作動させて準備完了。

俺はロード・エルメロイの真上、アスモは真下、セイバーは外で待機させ、客が逃げ出したのを狙って行動を開始する。

 

セイバーに無茶をしてもらって壁を駆け抜けて部屋に突っ込んでランサーの相手をして足止めしてもらった。流石にそう来るとは考えてなかったと踏んだからだ。

 

そしてランサー陣がセイバーに集中している間に真下にいたアスモに外に出て空を飛んでもらいスモークを放り込んでもらう。………アスモが飛べるのって?そりゃ、悪魔だし羽はあるよ?

 

そしてスモークが充満したのを見計らってC4を起動、穴を開けて急いで下に降り、ロード・エルメロイを壁に叩きつけ影を使ってソラウを捕縛。本人の自衛能力が低いと事前に調べたから楽に捕縛出来ると思っていたからだ。

そして煙が晴れる前にロード・エルメロイの後ろに移動し、影をいつでも動かせるようにする。

 

あとはご存知の通りランサーを脅して止めさせ、ロード・エルメロイを口を塞いで縛って魔術を使えないようにしておいた。

 

そして『自己強制証文』を突きつけて契約してもらう。無論拒否権などない。内容は実にシンプル。

 

 

1、終永時とセイバーは今後一切ケイネス・エルメロイ・アーチボルトとその婚約者ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリを殺さないことを誓う。

 

2、ランサーの宝具である短槍を令呪を用いて完全に破壊し、2度と使わないこと。

 

3、今後セイバー陣と戦う際は必ず騎士道に基づいてとり行い、決着を着けること。なお、両マスターは邪魔するような行動を取らないこと。これはランサーとセイバーの勝敗が着くまで有効とする。

 

4、なお、2と3が完了するまでケイネス・エルメロイ・アーチボルトは終永時に攻撃を加えてはならない。

 

 

使わないと書いたのはもしかしたら短槍の再生能力とかあった時用の保険だ。壊した短槍が復活しました〜だから使いまーす、とかシャレにならん。

そして3。これはセイバーとランサーのために付け足したものーーーと言うのは嘘でこれはセイバーの信頼を勝ち取る口実である。作戦を聞いていたセイバーからの信頼度は下がっていたが、これを聞いて信頼度は戻るどころか増えただろうと確信している。だってこれ聞いて自分のためにしてくれたって気づいた瞬間ーーーデレたからだ。

いやマジで。騎士王が乙女に変わった瞬間だな。無論、面白そうだからアスモに隠し撮りさせたが。

 

さて、話は現在に戻る。

 

 

「どうだロード・エルメロイ、悪くない内容だろ?」

「ーーー!!」

 

 

なんか言ってるがマジで分からん。てか俺の名前見て驚いてんのか?

 

 

「別に契約しなくてもいいが、その場合………婚約者消えるが構わんよな?」

「ーーー!?」

 

 

おお、流石の天才も女が絡むと弱るか……。

 

 

「契約するか?」

 

 

俺の言葉に必死に首を縦に振って返事をする。

 

 

「よろしい、ならサインを書きたまえ」

 

 

左腕だけ影の縛りを弱くしてペンを持たせる。

………一応保険かけとくか。

 

 

「一応念のために言っておくが、魔術を発動しようとすれば自動で婚約者とお前を絞め殺す設定になっているので悪しからず」

 

 

言った途端ビクッとロード・エルメロイの腕が動いた気がしたが気のせいかな?

 

とにかくサインさせたのを確認し、『自己強制証文』がちゃんと機能しているのを確認して拘束を解いた。ソラウは気絶しており、俺は咳き込むロード・エルメロイに話しかける。

 

 

「遅くなって悪いが久しぶりだなロード・エルメロイ?」

「クッ……魔術の面汚しが!」

「おいおいひどいな、俺は使えるものは何でも使う人間なんでね。まっ、油断してたからこうなったんだよ。ほら、先にやる事があるだろ?まあ、悔しくてもランサーが決着つけないと攻撃できないけどな」

「チッ………令呪をもって命ず。ランサーよ、宝具『必殺の黄薔薇〈ゲイ・ボウ〉』を完全に破壊せよ」

「………了解しました」

 

 

そう言ってランサーは短槍を両手で持って膝でへし折る。

 

 

「マスター、傷が治りました!」

「OK、では撤収だ」

 

 

そして去り際にこちらを睨むランサーを横切って、

 

 

「良かったな。これで尋常な勝負が出来るぜ?」

「ーーーッ!……感謝しておく」

「クカカ、ではな」

 

 

そしてその場から去ろうとしてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケイネス・アーチボルト様!ケイネス・アーチボルト様はいらっしゃいますか!」

 

 

偽装された火災により避難したホテルの客を探すボーイ。

どうやらケイネスを探して彷徨っているようだ。

そんなボーイに声をかける人物が1人。

 

 

「ーーーケイネス・アーチボルトは私です」

 

 

突如そう名乗った黒髪の日本人男性にボーイは疑問を浮かべる。いかにも外国人のような名前と容姿があっていないからだ。

しかし、男は言葉を続ける。

 

 

「妻のソラウと共に避難しました」

 

 

ボーイは顧客リストをめくる。そこにソラウという女性がケイネス・アーチボルトの妻であると書いてあったのを確認したボーイの疑問は消え、他の客の確認をするのに忙しいためそのまま去って行った。

それを確認した男…衛宮切嗣は電話を取り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー突然の揺れと轟音に襲われた。

 

 

「ーーー今のは爆発か!」

「貴様、何をした!?」

 

 

永時を責め寄るランサー。

 

 

「知らねえよ。第一こんなことしてお前のマスターが死んだら契約の意味がねえだろうが」

「……確かに………失礼した」

「分かればいい。………ロード・エルメロイ。これは多分だがこの建物の柱を爆発させたものだと思う」

「……つまり、早く避難しろと?」

「そういうことだ、早くしないとこの建物が崩れて婚約者もろとも潰れちまうぞ?」

「言われなくとも分かっている。いくぞ、ランサー」

「はっ」

 

 

筋力の関係でランサーがソラウをお姫様だっこし、それをロード・エルメロイは睨みながら部屋から出て行った。

ランサー陣が出て行ったのを見て、電話をかける。

 

 

「ーーーアスモ、車の準備は?………了解ーーーセイバー、降りるから俺をおぶれ」

「………はっ?」

「だから、窓から飛び降りるから俺をおぶれ」

「りょ、了解しました……」

 

 

戸惑いながらもセイバーは永時の意見に従い、おぶる。

 

 

「ほう、これがセイバーの感触か……悪くない」

「ッ!い、逝きますよ!!」

 

 

セイバーは頬を赤く染めて窓から飛び降りた。

そして、着地点であるさっき乗ってきた車の上に着地する。………ちょっと凹んだがまあ大丈夫だろう。

 

 

「アスモ、車出せ」

「了解♪」

 

 

セイバーに降ろしてもらい、今だボーイの格好のアスモはハンドルを握ってアクセルを強く踏んで車が走り出す。

走り出した車で運転しているアスモは運転席にあるスイッチを押しまるでタクシーのようにひとりでに扉が開き、永時は助手席に、セイバーは後部座席に入り込んで座りそのまま扉を閉めた。

 

 

「今の爆破ーーーまさかあいつか?」

「エイジ、どうかいたしましたか?」

「いや、別に………ところでセイバー、どうして顔が赤いんだ?まさかさっきの言葉に動揺したのか?」

「別に、動揺など……」

「嘘だ」

「嘘だね」

「なっ……ち、違います!」

 

 

そして、車は闇夜へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーじゃあ、あんたが桜ちゃんと契約したあの有名なルシファーなのか?」

 

 

バーサーカーのマスターであり、私のおじさんの雁夜おじさんは疑問を目の前の女の人に向かって声に出す。

 

 

「そうじゃと何回も言うておろうが……じゃから、妾はこの小娘と契約し、その害となる蟲爺を消した。ただそれだけじゃろうが………」

「いや……とても現実味がなくてな………」

 

 

そう言われても仕方がありません。私も最初、疑っていましたから。

………それにしても、ルシファー姉様(本人がそう呼べと言っていたので)は私の名前を聞いたのに今だに私のことを小娘と呼んできます。………確かにまだ私は子供ですが……

 

あの後ーーールシファー姉様がお爺さまを消して少し散歩に出かけて帰ってきたところで丁度帰ってきたおじさん。

最初バーサーカーと名乗る鎧の人をを呼び出しましたが、私が止めたことでなんとかなりました。

そして、2人が落ち着いた後、話をすることになりました。

 

 

ーーーおじさんが私のために聖杯戦争という戦いに参加していること。

 

ーーールシファー姉様と私が悪魔の契約をしたこと。

 

ーーーそして、ルシファー姉様がお爺さまを消してくれたこと。

 

 

「じゃあ、俺が今までしてきたのは………」

「全部無意味、ということじゃのう」

「そっか………」

 

 

ルシファー姉様は少しは気の利いた言い方ができないのでしょうか?………ですが、おじさんが落ち込むのも無理はありません。だって私の性であと一ヶ月しか生きられない体になったとルシファー姉様から聞きました。そう、私の性でーーー

 

 

「……良かった」

「「はっ?」」

 

 

おじさん、今なんて………?

 

 

「…………して………」

「ん?どうしたんだい桜ちゃん?」

「………どうして、そんなこと、言えるんですか……?」

 

 

全部、私の性でおじさんは………!

 

 

「確かに死ぬのは怖い。けど俺は凛ちゃんや桜ちゃんさえ守れればそれでいいんだ……」

「おじさん………そ、そうだ!ルシファー姉様!」

「なんじゃ?」

「今すぐおじさんを「それはダメだ」おじさん…!?」

「悪魔の契約なんてダメだ!もし願いを3回言ったら、桜ちゃんは死んでしまう……だからダメだ」

「では、妾が無理矢理叶えさせればどうする?」

「その時は……バーサーカーであんたを殺す……」

「………ほう、このルシファーを殺ると?」

「「ッ!」」

 

 

重しを乗せられたような感じ……これが、ルシファー姉様!!

 

 

「確かに俺ではあんたに勝てないだろうな。けど!それでも!桜ちゃんや凛ちゃんに害を及ぼすなら……死んででもあんたを止めてやる!」

「…………ククッ…………ハハ…………フハハハハハハハハ!!」

「「ッ!」」

 

 

今、笑った?

 

 

「いやはや、愉快愉快。これじゃから人間観察はやめられん。褒美に一つ、良いことを教えてやろう……その小娘………魔術の属性が架空元素“虚数”であるぞ?」

「架空元素?虚数?なんだそれ?」

「そうかお主らは知らんのか……では、封印指定は知っておるか?」

「一応大まかには………まさか!」

「その通り、この世界の魔術の知識によると基本的な魔術属性は地・水・火・風・空の5つの五代元素と呼ばれるものでできておる。風は中々希少なものじゃが、架空元素・虚数は風の上をいく希少中の希少。風が“れあ”なら架空元素・虚数は“すーぱーれあ”じゃな……今までは間桐の名が隠れ蓑になっておったが、あの蟲爺が死んだと知られれば………今まで通り、もしくはそれ以上酷い生活をさせることになりおるなぁ………例えば、実験動物などかのう?」

「そんな………!」

「今は妾の力でただの高い魔力量を持つ娘になっておるが………いつまで隠し通せるか……」

「じゃあどうすればいいんだよ!」

「なに、あれがあるじゃろうが」

「あれ………?」

 

 

そしてルシファー姉様はニヤニヤしながら続けた。

 

 

「ーーーお主が参加しておる戦争の目玉である万能の釜………願望機ともいえる“聖杯”が」

 

 

「その手があったか!」

「じゃろう?さすれば妾に頼らずとも願いが叶うじゃろう?」

「けど………いいのか?」

「何が?」

「悪魔ってのは契約して願いを叶えた者の魂を食べて生きてるって………」

「それは昔の話じゃ。今では単なる魔力回復の手段の一つとなっておるから、別に契約せんでもあと万は生きれる。それに妾がこの小娘と契約してやったのは………単なる人間観察、まあ暇つぶし程度じゃ」

「そっか………ならいいが」

「して。お主、その者……バーサーカーだけで勝ち残れる自信はあるのかのう?先程の戦闘を見させて貰うたが………お主、見事に死にかけとったし………」

「なっ………!」

「そうなんですかおじさん!?」

 

 

そんな……私の性でおじさんが傷つくなんて………。

どうすれば………あっ、そうだ。

 

 

「ルシファー姉様の強さはどのくらいですか?」

「ん?ふむ………状態次第じゃが基本的には人間には負けんが………ほう、決まったのか?」

「はい………ごめんなさい雁夜おじさん」

「ッ!?桜ちゃんダメだ!」

 

 

 

 

「1つ目の願いは、聖杯戦争に参加して雁夜おじさんを勝利に導いて」

 

 

 

 

 

 

そう言った途端、私の手にある刺青の1画が剥がれ、ルシファー姉様の中に吸い込まれていきました。

 

 

「ククッ………了解した」

「桜ちゃん…………」

「ごめんなさい雁夜おじさん。でも、一回だけなら大丈夫だから心配いらないよ?」

「でも………「そう通り。あとは小娘が誘惑に勝つ気持ち次第じゃ………して、屍もどきよ」………屍もどきって………」

「この小娘の願いで妾は参加してやったのじゃ………生き残らんと小娘が泣くぞ?」

「そんなこと、言われなくても分かってるさ………桜ちゃん、待っててね?」

「うん、頑張ってね」

 

 

今はまだ上手く笑顔ができないかもしれない。けど、いつかはちゃんとした笑顔でおじさんを迎えられるようにしようと思いました。

 

 

 

 

 

「そうじゃ、一応形だけじゃが小娘が妾のマスターになっておるからな?」

「「え………?」」

 

 

 

 

 

見ると私の左手の甲に右手にある黒いのとは別の赤い刺青ーーー令呪というものがついていました。

 

これから先大丈夫なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでその令呪、どこから取ってきたんだ?」

「お主が帰ってくる前に教会に行ってのう。その際に3画ほど拝借してな………」

「悪魔が教会って………」

「フッ、妾は魔王。あの程度の聖なる力には耐性があるから心配はいらん」

「いや、そういうことじゃなくて………」

「ん?どういうことzyーーーおっと忘れておった」

 

 

そう呟いた瞬間、お爺様を消したあの光線を窓の外に三発打ち出す。

するとシュボッ!とマッチが燃えるような音が聞こえ、何かが地面に落ちました。

 

 

「今のは何ですか?」

「単なる使い魔のようじゃ」

「まさか忘れてたって………」

「その点は心配はいらん。事前に幻覚で見えなくして結界を張っておいてたから誰もここへは入れんし見ることも叶わんよ」

「それは……凄いなぁ」

「じゃろう?もっと褒めても良いのじゃぞ?」

「………そんなことより、お腹が空いた……」

「そんなこと!?」

「もうこんな時間か……早くご飯作らないと………」

「………いいもん。今度あの男に褒めてもらうもん……」

「でも、雁夜おじさん料理できないんじゃ……」

「ま、まあなんとかなるy「な、なら、妾が作ってやろう!」………料理できるのか?」

「当たり前じゃろうが!妾は傲慢を冠する者!万能でなくては傲慢を名乗れんわ!」

「そう?じゃあよろしく」

「任せておれ………今こそ我が花嫁修業の成果を見せる時!!」

「ははは………まあ頑張って」

 

 

やる気満々で台所へ向かうルシファー姉様……大丈夫だろうか?

ああいう人に限って失敗しそうな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果、ルシファー姉様の料理はものすごく美味しかった。

 

威張っただけはある………今度ルシファー姉様に教えて貰おうかな?

 

 

 






いかがでしたか?

前回の後書きの通りルシファー様はキャスター(仮)として参加します。

ちょっと無理矢理感があったかもしれませんがそこは作者の実力不足なのでお許し下さい。

※アスモ・ルシファーのスキル、補足部分を変更しました。


では、また次回で。



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キャスター&イレギュラー討伐指令



どうも、遠藤凍です。

今回はいよいよ気になるあの人が登場します。

では、どうぞ




 

 

冬木市新都にある冬木教会。

その中には1人、今回の聖杯戦争の監督役である……言峰璃正がいた。

 

 

「ーーー今、聖杯戦争は重大な危機に見舞われている」

 

 

誰もいない信徒席に言葉を投げかける。

だが信徒席には誰も居らず、いるのは各々のマスターの偵察用の使い魔のみだった。

その数は5体で、形式上脱落している言峰綺礼と今回の収集の原因となっているキャスターのマスターを除外すれば数があっており、特に何も思うことなく璃正は続ける。

 

 

「ルールを逸脱したキャスターの所業が原因だ。よって、ここに私の緊急監督権限を使用し、ここにキャスターの討伐命令を下す。そして見事に討ち取った者には……令呪1画を報酬とする。

更にもう1つ期限なしの討伐命令を下させてもらう。

対象はアインツベルンが召喚したとされるイレギュラーサーヴァント『ビギナー』。

イレギュラーな存在であり、先程のホテル爆破事件の際、ランサーを不意打ちとはいえ、“サーヴァントの片腕を一瞬で吹き飛ばした”ほどの異常な強さのサーヴァントが召喚されてしまった。このままでは聖杯戦争の秩序が乱れる可能性を考慮した上で決まったことだ。なお特別ルールとして、サーヴァントがいないマスター及び現在いるサーヴァントを破棄したマスターにはビギナーのマスターの殺害成功時点でビギナーの使役を許可する。なお、キャスターの消滅が確認され次第、改めて聖杯戦争を再開させる…………さて、最後に質問のある者はこの場で名乗るといい………もっとも、人語が発音できる者のみに限らせてもらうがね……」

 

 

その言葉を機に次々と退出していく使い魔達。そして璃正一人となっていった。

 

 

「では、これにて緊急収集を終了する」

 

 

その言葉は誰にも聞かれず、闇夜へ溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビギナー………初心者のサーヴァント?」

「初心者?バランス重視のサーヴァントでしょうか?エイジ、何か情報は?」

「いや、こうといったものはないな………」

 

 

現在、本拠点で三人は作戦会議のまっ最中だった。

議題は先程出たキャスター・ビギナー討伐についてだ。

 

 

「そんなよく分からん奴について語るよりキャスターの方が先だろ?」

「ええ〜なんであんな変質者の話をしなきゃいけないんの?」

「全く同感です」

「おい」

 

 

実はこの2人、さっきからやたらとキャスターの話を避けようとする。

それは仕方ない。人間違いするだけでなく、ストーカー宣言されたのだ。世の女性のほとんどは嫌がるだろう。

一応永時も2人の気持ちを理解しているが、このままではいけないと思い説得にかかる。

 

 

「んなこと言ったってあれは案外しつこく付きまとってくるぞ?だったら今の内に殺っといておいた方が後々考えなくて済むんだぞ?」

「むっ………確かにそうですね………」

「確かにね、ああいうのは一度懲らしめないと行動がエスカレートするからね」

「だろ?相手は変質者だ。多少過激なことをしても大丈夫だ………………きっと」

「「確かに」」

 

 

説得終了。そしてすぐに切り替えて永時は口を開く。

 

 

「では、キャスター討伐の作戦を考えるが………何か意見ある人は?」

 

 

いつの間にか黒スーツに身を包み、メガネを掛けている永時と黒い学ランのセイバーと上が学ランで下がスカートのアスモがいるが………それは御都合主義というやつだ。

 

 

「は〜い」

「では、アスモ君」

「はい!まずピーーーーして、バキューーーンして、ピロピロしたらいいと思います!」

「見た目の割に怖いこと言うなよ!却下!」

「え〜!いい案だと思ったんだけどなぁ〜」

「却下だ。………では、他には………」

「はい」

「では、セイバー君」

「騎士の名のもとに「却下」…なぜですか?」

「なんか面倒だから」

「そんな理不尽な!?」

「……はあ、お前らな……仕方ない、他に誰かいないか」

「はい」

 

 

そう言って手を挙げる赤髪ショートボブの少女。

 

 

「はい、アリス君」

「「誰!?」」

「はい、私としてはあのキャスター…ジル・ド・レェは一般人を巻き込まないことを考慮しない者だと考えられます。故に「「ちょっと待って(下さい)!!」」………何でしょうか?」

「エイジ!この子は誰なの!?」

「私が召喚された時にはいませんでした………説明を要求します!」

 

 

突然の新しい女の登場でものすごい剣幕で詰め寄ってくる2人に永時は怯みつつも説明し始める。

 

 

「あー、こいつは………アリス説明してくれ」

「了解しましたマスター。………初めましてセイバー様、アスモ様-----」

 

 

彼女の話を要約するとこうなる。

 

 

・彼女の名はTYPE・アリス。永時の技術チートに近いスキルと、ある人物の協力で作られた魔術と科学を混合した試作型のヒューマノイド。

 

・ショートボブの赤髪、金色の瞳、稼働しやすいように細くすらっとしたスレンダーな肢体、そして肌の感触を精巧に再現した人口皮膚、と人間らしく精巧に作られている(製作期間10年)

 

・優秀だった魔術師の魔術刻印が埋め込んであるので実力は魔術師の少し上。

 

・人工知能(ほとんどの製作期間をこれに注ぎ込んだ)があるので、人の感情はある程度理解できるが、まだ試作機なので若干ズレているところがある。

 

・もしものために用意しておいたラボの上位個体で永時が暫くどこかに行っている間、彼女がラボの管理・研究・開発をしている。

 

 

「エイジ、最近遊びに来ないと思ったらまた籠ってたんだ………エイジの籠り癖は知ってたけど……今回は長い方だね………」

 

 

いくら長い付き合いとはいえ、流石のアスモも引き気味である。

 

 

「人工とはいえ、ここまで精巧に再現するとは……」

「ふぇいふぁーふぁま、ふぉっふぇふぁふぅふぇふぁふぁふぃふぇふだふぁい(セイバー様、ほっぺた弄らないでください)」

「………癖になりそうですね………」

「じゃあ僕も………」

 

 

こちらはもう交流し始めているが……。

 

 

「とにかく!アリスは俺たちのサポート・支援を主だってしてくれる。まあ仲良く………………できてるな」

 

 

この後作戦会議に戻るまで、15分を要したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回、こちらは傍観しようと考えておる」

「どうしてだよ!じゃあキャスターを放置するって言うのか!?」

 

 

今回の討伐の話を聞いてキャスターを討伐しに行く気満々の雁夜はルシファーの言葉に激怒するが、ルシファーは冷静に続ける。

 

 

「そうとは言っておらん。ただお主とバーサーカーを考えた上での行動じゃよ」

「俺と……バーサーカー?」

「今、他の陣営がキャスターに夢中になっておる。そんなところにバーサーカーを突っ込んでみよ。ただでさえ魔力が低く、屍もどきのお主が本物の屍になりおるぞ?」

「それは………」

「今キャスターに目を向けておる間に、こちらは少し工作活動をさせてもらおうではないか」

「工作活動……?」

「妾の陣地作成と道具作成で神殿と罠を大量に製造し、黄金律で軍資金を稼ぐぞ」

「でも、ほとんどのサーヴァントに対魔力があるぞ?」

 

 

雁夜の疑問に動じず、むしろ自信あり気な態度を見せる。

 

 

「フッ、そこが狙い目じゃよ」

「狙い目………あっ」

「そう、妾にはアンチ対魔力がある」

「ただの魔術の罠だと思って油断させるのが狙いか!」

「そう、それを繰り返してあらかた削っておいてからバーサーカーを投入すれば?」

「勝てる………!」

 

 

 

「まあ底辺だった勝率が少し上がる程度じゃがの……」

 

 

 

「………ごはぁ!!」

 

 

痛烈な言葉に雁夜は吐血した-----ように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜になり、闇夜に照らされ、更に不気味さが増した森にキャスターは現れた。

 

 

「おっ、来た来た」

「アリスの予想通りだった、ということですね……」

 

 

原作で使っていた『遠見の水晶玉』なるものを自己流にアレンジしたものでキャスターの動きを観察する。

アリスの提案はこうだ。

街中にいては一般人が巻き込まれる可能性があるなら、一般人がいないところに行けばいい、とのこと。

しかしキャスターはそれを見越してか、周りに十数人の虚ろな目をした子供たちを従えて現れた。たぶん催眠術でも使用したのだろう。

 

 

「人質か………卑劣な真似を………!」

「落ち着けセイバー、まだ出るには早すぎる。早く出ても人質で動けなくなるだけだぞ?」

「……分かってはいますが…………」

 

 

するとまるで見えているかのようにこちらを見つめて、爽やかな笑顔を浮かべ丁寧に頭を垂れる。

どうやら永時の魔術を見破ったようだ。さすが、腐ってもキャスターなだけはある。

 

 

「昨夜の約定通り、ジル・ド・レェ、罷り越してございます。我が麗しの聖処女ジャンヌに今一度、お目通りを願いたい」

 

 

キャスターの言葉にセイバーは永時の方を見る。

しかし永時はまだ早い、と首を横に振った。

 

 

「まぁ、取次はごゆるりとなさってください。私もそのために暇つぶしに相応の準備をして参りました故」

「暇つぶし、ねえ?」

 

 

キャスターが指を鳴らすと子供たちは正気に戻る。

 

 

「さあ坊やたち、鬼ごっこを始めますよ!ルールは簡単です。この私から逃げ切ればいいのです。さもなくばーーーーー!」

 

 

キャスターはその大きな手を近くにいた子供の頭に伸ばし、そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴギャ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、“キャスター”の腕が見事に折られていた。

 

 

「ギャァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

悲鳴を上げるキャスターの腕には先程キャスターが連れていた子供が、キャスターの腕を膝でへし折っていた。

 

 

「どう?なかなかの演技力だったでしょ?」

 

 

先程の子供とは違う声で話すとその姿を変形させる。

桃色の髪の中性的な女の子、アスモである。

 

 

「流石我が相棒。いい仕事してるな」

「しかし、ここまでがアリスの予想通りだったとは、恐れを抱くほどですよ」

「それがアリスだからなぁ……流石、あいつが作っただけのことはある」

 

 

そう、実はセイバーの言うとおりなのだが、実はキャスターが生贄となる子供を探していると聞いていたアリスはアスモに子供になるようにし、人目がなくなおかつキャスターに見つかりやすい場所に事前に待機してもらい、あとは催眠術にかかった演技でこの森に来て気を伺っていた、ということだ。

 

 

「みんな!早く向こうへ行くんだ!」

 

 

正義のヒーローの演技をして、子供たちを永時のいる方角へ避難させる。

 

 

「貴様ァァァァァ!我が聖処女との逢瀬を邪魔する気かァ!?」

「悪いね、僕だって事情があるのでね!」

 

 

そう言ってキャスターとの距離を縮め、

 

 

「悪霊退散!南無三!」

 

 

塩をキャスターの目に投げつけた。

悪魔が塩って…………宗教的に全く違うが………。

 

 

「ギャァァァァァ!!目が、目がァァァァァァ!」

 

 

塩が目に染み、地面をのたうち回るキャスター。

それを見て好機と見た永時は遂に出動を許可した。

 

 

「よし、行ってこい」

「はい!あれ?もういない……………」

 

 

いつの間にか隣にいなくなっていた永時に疑問を抱きながらもキャスターの方へ駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「屍もどきよ、予定変更じゃ」

「えっ?」

「妾もあそこへ参加してくる。ちと、良い案……というよりは私情が浮かんでな………バーサーカーと小娘と一緒に留守番しておれ」

「ちょっと待てーーー!行っちまった………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えい♪」

 

 

と可愛らしい声を出すアスモだが、やってることはキャスターの顔面を蹴り飛ばすという見た目に合わないえぐいことをやっていた。

 

 

「ぐぼぉ!」

 

 

サッカーボールのように転がっていき、

 

 

「エイジ、今だよ!」

「了解………変態退散」

 

 

いつの間にかアスモの隣にいた永時は手に持つスイッチらしきものを押しーーーーー

 

ーーーーーキャスターが爆発した。

 

 

 

「ギャァァァァァァァァァァ!!おのれェェェェェェェェ!!」

「汚い花火だね」

「本当だな。これだから変態は………アスモ、今のうちに子供を回収しといてくれ」

「了解♪」

 

 

子供たちのことはアスモに相棒に任し、自分は速攻で復活した変質者の前に立ちはだかることにした。

 

 

「さてストーカー野郎………悪いが俺と戯れてもらうぞ」

「来たな神の使いめェ!…………いいでしょう。あなたを滅してからでも遅くはありませんからねェ!」

 

 

永時はサブマシンガンを構え、キャスターは一冊の本を手に取る。

 

 

「さあお行きなさい海魔たち!忌まわしき神の使いを滅するのです!」

 

 

そう叫びを上げながら手を本に叩きつけるとおぞましいヒトデのような何かがうじゃうじゃと現れる。

中心部には口らしきものが大きな牙をズラリと並ばせ、触手のような腕?には吸盤らしきものがついていた。

その海魔たちは永時を喰らおうとし、一斉に襲いかかる。

 

 

「うわっ気持ち悪い。こんなの来るとか予想外だぞ?」

 

 

口で悪態を吐きつつも銃を乱射して海魔を一体一体葬り去っていく。

 

 

「セイバー早くしてくれ〜」

 

 

そう言っている間にも海魔はどんどん数を増していき、殺り逃した一体が永時に飛びかかる。

 

 

「やばっ」

 

 

慌ててサバイバルナイフを取り出し、切り捨てる。

斬って、撃って、また斬って。何回やっても一向に減らず、永時のストレスが頂点に達しかけた時、彼女は来た。

 

 

「『風王鉄槌(ストライク・エア)』!!」

 

 

叫びの直後に暴風の塊が永時の横を通り越し、海魔を蹂躙する。

やっとか、と言って永時は後ろの人物に声を掛ける。

 

 

「遅えよ」

「いえ、エイジが早すぎるのです」

「そうか?まあ裏技使ったしな」

 

 

短い会話を続ける間も、海魔を殺り続ける二人。

 

 

「ああ………ジャンヌ………なんと気高い、なんと雄雄しい!ああ………聖処女よ、貴女の前では神すら霞む!」

「キャスター!私は貴様(ストーカー)を終わらすために………貴様を斬る!ーーー悪霊退散!!」

「おいでなさいジャンヌ!その清き身体を、私の愛で穢れさせてあげましょう!」

 

 

なんか俺とアスモの影響受けてないか?と疑問に思いつつも永時はミサイルをキャスターに打ち込むが、海魔の壁によって防がれ、舌打ちをする。

しかも、何十匹も葬ったはずの海魔が一向に減らず、寧ろどんどん数を増していた。

 

 

「……減るどころか、寧ろ増えてねえか?」

「おかしい…………奴の魔力は底なしとでもいうのか?」

「フフフフフ…………分からないですよねぇジャンヌ?いくら倒しても無限に湧き続ける海魔たちをどうやってしょうかn「あっ、分かったぞセイバー」危なっ!」

 

 

話の途中にも関わらず、ミサイルをぶっ放してキャスターの言葉を遮る。キャスターは海魔を盾にしたことでまたしても防ぎ、そのことに永時は舌打ちする。

 

 

「チッ、死んでねえか…………どうせその本が魔力源なんだろ?」

「悔しいですがご名答です神の使いよ。この本の名は『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』。我が盟友、フランソワ・プレラーティーの遺した魔書であり、海底の深淵に眠る悪魔たちを召喚することができるものです」

「なにっ………!?」

「別名『ルルイエ教本』。………確か、クトゥルフ神話に登場する怪物を召喚する魔書だっけ?並大抵の人間が詠唱すれば碌なことが起こらねえっていうあれか?」

「またもやご名答です神の使いよ。…………いかがですジャンヌ?何もかも昔のままだ。強いて言うなら、かつてオルレアンに集った勇者もこれほど豪壮ではありますまい?そしてその気高き闘志、尊き魂のありようは、間違いなく貴女がジャンヌ・ダルクであるという証!」

 

 

キャスターは一旦言葉を区切り、今度は怒りのこもった声で続ける。

 

 

「それなのに何故だ!?何故目覚めてくれないのです!未だ神の御加護を信じておいでか!?」

「くっ………戯言を!」

「この窮地にも神の奇跡が貴女を救うとっ!?………コンピエーニュの戦いをお忘れか!?あれほどの辱めを受けてなお貴女は、神の操り人形に甘んじるというのかァ!?」

「黙れぇぇぇぇ!!」

「おい、セイバー!待てっ!……チッ」

 

 

キャスターの戯言にキレたセイバーは力任せに剣を振るって前進し海魔を切り裂くが、数の差には勝てずセイバーは触手に動きを封じられる。

 

 

「邪魔だ」

 

 

セイバーの元へと駆け寄ろうと永時は前進するが海魔の圧倒的量によって先を阻まれる。

 

セイバーは拘束から抜けだそうともがくが、より一層拘束が強まり、抜け出せるに抜け出せなかった。

ここまでか、とセイバーが悟った時、一本の槍が触手を切り払った。

咳き込むセイバーに聞き覚えのある声の人物が声を掛けてきた。

 

 

「無様だなセイバー」

「………ランサー?」

 

 

セイバーがその名を呼ぶと“片腕の”ランサーはセイバーに向けてウインクした。

 

 

 

 

「妾もおるぞ?」

 

 

 

 

女の声と共に、数十本もの白い光線が海魔と大地を抉る。

その声に心当たりがある永時は背筋が寒くなった。

 

後ろを振り向くと雪のような白銀の髪を腰まで垂らし、引き込まれそうな黒い瞳、女らしさといえる豊満な肢体を胸元を開けた黒のドレスのような鎧に身を包んでいて、背中から鳥のような漆黒の翼、妖艶な雰囲気を出す美女を見て、背筋が完全に凍った。

 

 

「よう……ルシファー」

「久しいのう終永時…………」

「そう、だな………」

「エイジ、この方は?」

 

 

セイバーは突然の乱入者に戸惑いつつも永時に関係性を尋ねる。

 

 

「こいつはな………アスモと同じ魔王の一人だ」

「そうですか………」

 

 

セイバーと話す永時を見てむすっとした顔でルシファーは言葉を続ける。

 

 

「……のう、エイジよ」

「………なんだ?」

「………いつになったら妾の夫になってくれるのじゃ?」

「……会っていきなりそれかよ………」

「で、返事は?」

「……」

「そりゃ、もちろんことわr「だが断る」……なん、じゃと?………な、何故じゃ?」

 

 

ルシファーのところだけ地震が起きたようにガタガタと震える。…………動揺しているのが丸わかりである。

 

 

「いや………俺、結婚する気ねえし」

「な、なんじゃと…………!?」

 

 

地面に手をついて、羽が弱々しく縮み、世界の終わりを見たような顔でガタガタ震える。

 

 

「ば、馬鹿な………あ、ありえんわ…………スタイル良し、器量良し、家事全般良しのこの超絶完璧最強美女のこのルシファーのプロポーズを断る、じゃと?」

「イエス」

「な、なななななななっ!」

 

 

ショックのあまり震えが止まらないルシファー。

余程自信があったのだろう。

 

 

「あの………私は……「「うっとおしいわギョロ目!」」ギャァァァァァァ!!」

 

 

空気の読めないキャスターの発言に2人はキレ、ミサイルと光線を叩き込んだ。

 

 

「おっ♪息があったようじゃ、これぞ夫婦と言えよう?」

「たまたまだろうがアホ」

「ほう?妾でも今の発言は見逃せんのう」

「やるか?」

 

 

戦闘中にも関わらず痴話喧嘩を始める2人。

それを好機と見たキャスターは霊体化し始める。

 

 

「クッ…………今回は引かせていただきます。ではジャンヌ、またお会いしましょう」

「二度と来るな、悪霊が!」

 

 

キャスターは霊体化して撤退したのを確認すると、ランサーは口を開いた。

 

 

「………なあ、セイバー」

「なんだ?」

「………俺の来る意味、あったか?」

「………すまん」

 

 

黄昏るランサーとペコペコと謝るセイバー。

そうしている間でも2人の痴話喧嘩は続いている。

 

 

「だからてめえは馬鹿なんだよ。……その無駄にデカい胸に栄養を回すから脳まで届いてねえんだよ」

「なんじゃと!?言わせておけば馬鹿馬鹿と言いおって………!」

「やんのか?」

「いいじゃろう、今日こそ徹底的に潰してやろう!」

「ハッ!前みたいに無様に負けんじゃねえぞ?」

「ふん!後悔しても知らんぞ----ッ!?」

 

 

それは突然彼らの前に姿を現した。

轟ッ!!とそれは地に足を付け、圧倒的な威圧を四人にぶつける。

 

白い伊達メガネをかけ、黒い髪の至って普通の人間が黒いタキシード姿の男が現れた。

 

だが、それに反応を見せたのは2人。

 

まず一人目は----ーランサー。

 

 

「ビギナー………」

「ッ!あれが!?」

「見た目に騙されるな………あれは俺の片腕を吹き飛ばしたサーヴァントだ」

「今回のイレギュラー!?」

 

 

そしてもう一人は----ー永時だ。

 

 

「おいおいマジかよ……」

「エイジ?」

 

 

永時の姿を見たセイバーは顔を驚愕に染めた。

なぜなら、あの永時が、どんな敵でもいつも自信があるような素振りをする永時の顔が強張っていたからだ。

 

 

「……げろ」

「?」

「…………逃げろ」

「エイジ?」

「……いいから早く逃げろ!」

 

 

その声でビギナーと呼ばれるサーヴァントは永時の方を向いて、動きを止めた。

 

 

「………n………ve…………………」

「ルシファー!死にたくなければ今すぐ帰れ!ランサー!お前もあいつの実力が分かってるならとっとと帰れ!セイバー!俺に何があっても絶対に奴に手を出すなよ!?」

 

 

ビギナーの肩が震え、だんだん震えが強くなる。

 

 

「………n………e…………er…………」

「エイジ!あのサーヴァントは一体!?」

「ハッ、何が初心者のサーヴァントだよ………いや、確かに初心者“マスター”にはやりやすいサーヴァントかもな(チッ……よりによってなんでこいつが!?)」

 

 

そもそも気づくべきだった。慎重な魔術師殺しがどうしてこうも大胆にサーヴァントの情報を漏らしてしまったのかを。ランサーの情報を聞いた時に気づくべきだった。

そう、それは実に簡単なことだった----ー

 

 

「Neeeeverrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!」

 

 

突然狂ったようにビギナーが叫ぶと同時に、その姿を消しー----セイバーの視界から永時が消え、代わりにビギナーが立っていた。

 

永時に駆け寄りたいが、それどころではないので、セイバーたちは獲物を構えて目の前の敵に立ち向かう。

 

 

----魔王が光線を叩き込むが、当たる寸前に光線は消え、踵で地に叩きつけられる。

 

----槍騎士が槍を振るうが、漫画のように指二本で止めてランサーが驚く暇を与えず、槍を掴んで引っ張ってランサーを引き寄せ、腹を殴る。

 

----姫騎士が不可視の剣を振るうが、手刀で弾かれ、十字に斬りつけられる。

 

その時間僅か13秒。

 

そう、ビギナーが圧倒的に強すぎるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消えた永時はどこに行ったかというと、森の中を飛んでいた。いや、この場合は飛ばされていたが正解だろう。

先程セイバーたちは見えていなかったが、永時にははっきりと見えていた。

 

あの叫びを上げた一瞬で永時の懐へ入り込み、たった1発殴っただけでこれだ。

 

 

---チッ、2、3本はやられたか?

 

 

冷静に判断しつつ身体を半回転させ、地面に足を付けて止まって状態を確認する。

だが、それを待ってくれない人物がいた。

 

 

「Neverrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!」

「おいおい、もう3人沈めたのか………いや、お前ならあの程度、朝飯前か」

 

 

ランサーと争う程の速度で此方に向かってくるビギナー。

先程ステータスを見たが、異常だったのは予想済みだったので、大して驚きはせず、右手にハンドガン、左手にサバイバルナイフを逆手に構えて迎撃体制に入る。だが、その手は若干震えていた。

 

 

「Neverrrrrrrrrrrrr!!」

「………」

 

 

迫り来るビギナーに永時は呼吸を整えて攻撃に備える。

そして、その距離がゼロになった----ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何?」

 

 

永時の攻撃範囲に関わらず、金縛りにあったかのようにピタッとその動きを止めた。

 

 

「………Irisfeel!?」

「アイリスフィール?」

 

 

突然女性の名前が浮上し、自身の記憶から詮索する。

 

 

「衛宮切嗣の女………アインツベルン家の者か……」

「…………ッ!?」

 

 

ビギナーは即座に霊体化し始め、その真偽を確かめることはできずに去って行ってしまった。

 

 

「ビギナー……よりにもよってお前か………ノット」

 

 

その問いに誰も答えず、闇夜へ溶けていった。

 

 

 





いかがでしたか?

では、ビギナーのステータス公開です。どうぞ!

注)かなりのバグです。


【クラス】ビギナー

【属性】中立・狂

【ステータス】
・筋力A
・耐久A+
・敏捷A
・魔力B+
・幸運C

【保有スキル】
・狂化D

・騎乗A+

・直感A

・戦闘続行A
(往生際の悪い)

・縮地B
(相手との間合いを一瞬で詰める歩法)

・千里眼B

・単独行動A

・異常体質B
(ステータスを無視した力を発揮する時がある)

・祖龍の寵愛A→D
(龍の始祖の加護を受けることにより、空を歩けて、攻撃に龍+龍殺しの属性を付与する。更に龍殺し以外に耐性がつくのだが、狂化のせいで、空を歩く効果しかない)

【宝具】
『???』




『???』

現在あることに使っている+マスターのせいで戦闘には使えない。




【補足】
永時が知ってる中で最も相手にしてはいけない人物。
だが、2つの宝具のうち1つは、魔力不足と、あることに使用しているため、実質1つしか使えない。



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絶対強者と呼ばれた男



どうも、遠藤凍です。

今回はビギナーメイン回です。

あと、ビギナーの召喚時からの過去も少しだけ触れます。

ああ、文才が欲しい……

では、どうぞ。




 

 

ビギナーは走っていた。

スキル『異常体質』により、ランサーに近い足の速さは更に加速を続け、道中にある木々を避けているのにも関わらず、衰える気配を見せず、もはや彼の敏捷はEXの域に達している。

 

 

「Irisfeel!」

 

 

彼の頭の中に浮かぶ、銀を強調したような1人の女性。

今回の聖杯戦争に参加したマスターの衛宮切嗣の妻である女性。

普段何事にも動じない自分が何故か彼女を見て、心が動いた気がした。

だが、恋心ではない何か、それが動力となって彼を突き動かす。

 

全ては、彼女らのために。

 

現在彼女が危機に立たされていると出た直感の真偽を確かめるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思い返せば、彼女に出会ったのは数ヶ月前だった。

 

 

 

 

気付けば、眩い光と共に、自分は立っていた。

 

何事か?と思い、辺りを見渡して警戒する。

 

一言で言えば、夜の教会だった。

薄暗いが、神聖さを保ち、スタンドガラスから差し込む月の光がより神聖さを強調していた。

そんな教会の床に描いてある魔法陣らしきものの上に、自分は立っていた。

 

では、自身に異常はないかと確認する。

この間適当に見繕った灰色一色のジャージのままだった。

特に何かされた訳でもないようで安心したのも束の間、

 

 

「---ッ!」

 

 

突然の鈍痛と共に何かが頭の中に直接流れ込んできた。

 

 

---聖杯戦争

 

ーーー英霊

 

ーーー7つのクラス

 

ーーー令呪

 

ーーー現代の知識・言語

 

ーーールール

 

ーーー自分のクラス名

 

 

などなど、上げれば切りがない情報量に自分は動揺した。

 

痛みが引くのを待って再び周りを見ると人影があることに気づく。

その数2つ。

 

1人は、ぱっと見は黒髪の二十代ぐらいの日本人男性。だが、漂わせる雰囲気と、何よりこちらを見る黒い双眼。それには色がなく、まるで死人のような目でこちらを見つめており、自分はひどい嫌悪感を持ったのを今でも覚えている。

そしてもう1人は、雪のような白い肌とそれと同色に近い白銀の髪、どこか母性を感じさせるような緋色の瞳の女性。

 

今共通して言えるのは、2人が驚愕に満ちた顔でこちらを見ていたことだ。

 

 

「アーサー王、なのか?」

「でも現代の服を着ているわよ?」

「どういうことだ?確かにあの男は間違いなくエクスカリバーの鞘だと……」

「…………a………」

 

 

喋ったことで驚く2人をよそに、自分はある疑問が湧き出た。

 

 

言葉が話せないのである。

 

 

話が出来ないという致命的な状態だけ終わらず、一部の力が使えない形になっていたのだ。そりゃ誰だって驚くだろう。

すると、女性が自分の前に歩みよってきたので、考えるのをやめ、情報収集に徹することにした。

 

 

「あなた……アーサー王よね?」

 

 

アーサー王?確か『アーサー王物語』の主人公で、ブリテン国を治めた騎士王の名前だったはず……

 

残念ながら自分は違うので、言葉の代わりに首を横に振ることで否定した。

 

 

「……アーサー王じゃ、ない?」

「……まさか!」

 

 

男は魔法陣の中心に置かれた、西洋剣の鞘を掴みーーーへし折った。

 

 

「えっ……?」

「やられた……贋作を掴まされた!」

 

 

話の通りならアーサー王のエクスカリバーの鞘のレプリカらしいので、少し惜しいと思った。

 

贋作……その言葉に少し嫌なことを思い出したが、すぐに頭の中から消し去った。

 

 

「あの男は間違いなく本物を持っているはず……」

「じゃあ、あの男がセイバーのマスターってこと?」

「そうだね……仕方がない、このサーヴァントでやるしかない」

「そうね……どこの英霊かしら?」

 

 

英霊?確か、英雄が死んで『アラヤ』に召し上げられたのがそういうらしいが……残念ながら自分はそんな異常者と一緒にしないで欲しいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だって自分は“普通”なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから自分は2人と交流し、聖杯戦争に参加することにした。

 

 

決め手は2つある。

 

1つは、皮肉なことに彼女、アイリスフィールがなんとなくどこか似ていると感じたのだ。類は友を呼ぶ、というやつだろうか?

だからこそなのか、彼女を幸せにしてやりたいという使命感が生まれた。

 

そしてもう1つはーーー聖杯が欲しいからだ。

願いはもう決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー殺伐とした聖杯戦争もまだ先なので、日記をつけながら聖杯戦争まで過ごした。

 

マスター衛宮切嗣とはあまり交流は出来ていない……というか、徹底的に無視された。更に、仲良くなったアイリスフィールのことをアイリと呼ぶと扱いが酷くなった。

子供かあれは!?と言って、アイリスフィールに愚痴ったのを今でも覚えている。

アイリスフィールはよくもまあ、あんなのを旦那にしたな……と思っていたのは確かである。

 

そんな彼でも、娘がいた。

 

名前はイリヤスフィール、通称イリヤ。

 

アイリスフィールに似て、あの衛宮切嗣との子供か!?とツッコミたくなるような無邪気さに癒された覚えがある。

最初、少し遠くから眺める程度だったが、アイリスフィールの勧めで遊ぶことになった。

ビギナーお兄ちゃん、と呼ばれた時は鼻から情熱が出た。

とても可愛らしく、将来いいお嫁さんになりそうな気がした。

今では文通し、イリヤと呼べるぐらい仲良くなっている。

 

切嗣の協力者である久宇舞弥を紹介された時は、最初の頃は警戒されていたが、彼女がケーキ好きだと聞いて、ケーキを作ってあげた時から仲良くなって、今では舞弥と呼んでいる。

 

舞弥は切嗣の愛人ではないか?と、出会って僅か1週間で自分の言いたいことを理解してくれたアイリスフィールに相談すると「違うわよ?」と殺気を出されながら言われた時はサーヴァントである自分でもかなりビビったものだ。

 

女は怒ると怖いと知ってはいたが、もう怒らせないでおこうと肝に銘じた。

 

 

結論として、彼らは魔術とかアインツベルン家とか関係なしに、ただ普通の家庭だった。

 

もしも、アイリスフィールがホムンクルスでなければ?衛宮切嗣が聖杯にこだわらなければ?多分彼らは普通の家庭として幸せになっていたはずだろう。

 

 

だからこそ自分は協力するのだ。

 

 

恒久的な平和の実現?戦いの根絶?くだらない。

自分が幸せになっていない人間が人類の幸せを求めるなんてなんという馬鹿なのだろうか?

そもそも人類は戦い、争うことにより成長する生き物だ。

成長の元といえる戦いを消した時のメリット・デメリットは考えているのだろうか?

 

少数を捨てて大勢を救う。確かに素晴らしいと思う。

だが、それならアイリスフィールは?舞弥は?イリヤは?

大勢のためなら彼女らも切り捨てるというのか!?

 

マスターには悪いが、そんな馬鹿げたことを止めてやればいい。

だが、切嗣には令呪がある。止めようとして、自害しろと言われれば即終了だ。封印している宝具を使えばなんとかなるが、魔力不足のせいでほとんど使えない。

なら、勝ち残って聖杯に願えばいいだけだ。

 

 

故に、自分は誰にも負けられない。

 

あるのは、絶対的な勝利のみ。

 

例え、知り合いが敵だったとしても、負けるわけにはいかない。

 

なぜなら自分はーーー絶対強者と呼ばれていたから。

 

 

 

全ては、彼女らの平凡な暮らしのために、自分は戦う。

 

 

 

ーーー『サーヴァント生活日記』より、数ページ抜粋。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーッ!」

 

 

目の前の光景に言葉を失った。

 

真っ白な髪を赤く染めているアイリスフィールと地面に横たわり地面を真っ赤に染めている舞弥が、目に入ったからだ。

 

 

「……ビギナー!?」

 

 

まるで、予想外と言いたそうな顔でこちらを見ている黒い神父服の男。

男の両手には、指の間に挟んだ長い剣をかぎ爪のようにしているもの……確か、黒鍵と呼ばれた物が血塗られていた。

 

気づくべきだった。この男、言峰綺礼は、切嗣に会いたがっており、アイリスフィールは切嗣に会わせてはいけないと聖杯戦争が始まった頃から言っていたではないか。なら、言峰綺礼は自分がいない隙を突いてやって来るのが分かっていたではないか。

そして、会わせまいとアイリスフィールは動きだし、2人がぶつかるのは明白であった。

 

なのに、切嗣がランサーのマスターを倒すための囮としてランサーの足止めに向かってしまった。

 

 

「……aa………a………aaaa……」

 

 

あの時、ああすれば……こうすれば……と後悔と綺礼に対する怒りが、ビギナーの精神を削っていき、

 

 

「……Aaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 

理性を失くし、ただ目の前の敵を殲滅すべく、敵との距離を縮める。

 

 

「アサシン!」

 

 

綺礼の盾になるように現れた白い骸骨を模した仮面を付けた黒ずくめの小太りな男……脱落したはずのアサシンがビギナーの前に立ちはだかることで時間稼ぎをし、綺礼を逃がそうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズバッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん、だと……!?」

 

 

だが、一瞬で距離を詰めて手刀を振るい、まるで豆腐ように切られて宙を舞う“アサシンの頭”だったもの。そして、血を吹き出しながら地に崩れ落ちる“アサシンの身体”だったもの。

しかも、ビギナー本人の目にはアサシンなど映っておらず、まるで、道端の小石をのかしたような感じだ。

 

サーヴァント相手では不利と感じ、逃亡しようと足を後ろに一歩下げた瞬間のことだった。

 

これは夢か?と思いたかったが、残念ながら現実である。

そして、距離を詰められた綺礼は黒鍵を構えーーーる前に黒鍵をガラス細工のように折られ、腹部に強烈な拳を加える。

執行者としてかなりの実力があるつもりだったが、まるで高さ数十メートルから地面に落ちたぐらいの衝撃だった。

 

 

「ぐっ……アサシン!」

 

 

口から血を流し、さすがにこのままでは不味いので、1体ではなく今度は4体で足止めすることにした。

筋肉質の細身の男・小柄な体躯の男・衰えを見せない年寄りな男・長身で細長い男。姿は違うが、仮面と黒ずくめの姿だけは全く一緒だった。

それぞれが短剣を手にし、ビギナーへと向かう。

 

小柄な男が短剣をビギナーの頭に突き刺そうと突き出し、ビギナーはそれを首を傾げるようにして頭を横に傾けて避け、左手を真っ直ぐ伸ばして腕を急速に前に伸ばし、小柄な男の心臓を抉る。その隙に年寄りと細長い男がビギナーの左右から短剣を弾丸のように投擲し、残った筋肉質の男が気配遮断でビギナーの背後に忍び寄り、背中を突き刺そうと短剣を突き出す。

すぐさまビギナーはさっきの小柄な男を突き刺した左手を男を突き刺したまま引っ込めて右に回転し、右から飛んできた短剣の盾にし、残った右腕を振るって左から飛んできた短剣を掴んで後ろの男の短剣を弾き、そのまま投擲して逆に突き刺してやった。

短剣を掴まれたことに一瞬驚くが、すぐさま残った己の肉体を使って、接近戦に持ち込む。鍛え抜かれた己の肉体を用いて、手刀を二人同時にビギナーに放つが、ビギナーは真上に跳ぶことで避けて小柄な男を放り捨てる。2人は驚くも1歩後ろに下がる。

そして、降りてきたビギナーに2人は構えるが瞬きした一瞬で距離を詰め、一振りで老人の上半身と下半身をサヨナラさせた。

残った筋肉質の男はビギナーとの距離を詰め、全身全霊の手刀を放つが、ビギナーは振り向きざまにそれを左手で弾き、隙だらけになった男に、残った腕で振り向きざまの回転力を利用しながら、力の限りの手刀を心臓に捻じ込む。男は打ち上げられた魚のようにビクビクと2、3度動き、やがてその動きを止め、とうとう動かなくなった。

 

つまらなさそうにアサシンだった亡骸を放り投げ、綺礼がいたはずの方へ向く。

 

だが、肝心の綺礼はおらず、逃亡を許してしまったようだ。

 

 

「……ッ!?Irisfeel!Maiya!」

 

 

だが、そんなことはどうでもいい。まずは2人の容体を確認する。

舞弥とアイリスフィールの容体は一刻を争うような状態だったので、止むを得ず宝具で治療することにした。

 

 

「『原点にて頂点』」

 

 

宝具名を呟くと2人の傷口がどんどん塞がっていき、傷口が消えると共に、2人の顔色が良くなっていった。

 

 

「ぐっ……ビギナー?」

「Maiya……」

「ビギナー!マダムは!?」

 

 

舞弥はアイリスフィールの心配をするが、ビギナーがアイリスフィールの方を指差して状態を見せたことで安堵した。

 

 

「……」

「……さすがに今言いたいことは分かります……大丈夫です、自分で立てます」

 

 

舞弥は自分で立ち上がって、それを歩けるのを確認したビギナーは眠ったように気絶しているアイリスフィールを抱えて歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……Master………sibaku…………」

「えっ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、アインツベルン城では2つの人影があった。

 

1人は床を血に染め、倒れ伏すランサーのマスター、ケイネス。

そして、そのケイネスに止めを刺そうと銃を向け、引き金に指を掛けるビギナーのマスター、衛宮切嗣の2人だ。

 

だか、それを良しとしない人物がいた。

 

 

「少し待てよ。切嗣君?」

「ッ!?」

 

 

指一つで人を殺める道具を、手に掴んで止める男。

いつの間にか現れたこの小説の主人公。

 

 

「終永時……!?」

「よぉ……随分と大きくなったじゃねえか?」

「くっ……!」

 

 

切嗣は銃の向きを変え、引き金を引いた。

 

 

「んな物騒なもん向けんじゃねえ、よっ!」

 

 

だが、銃を床に叩き落とすそうと手刀を振るう。

 

 

 

「……腕を上げたな」

 

 

 

永時の肩から血がにじむ……どうやら発泡を阻止できなかったようだ。

 

 

「……何をしに来た?」

「なに、久々に可愛い弟子と話がしたかったが……邪魔したな。さっきランサーがロード・エルメロイを連れて行ったしな……」

 

 

見ると永時の言うとおり、本当にケイネスが消えていることに気がつき、切嗣は内心舌打ちする。

 

「まさか、最初からそのつもりで来たのか?」

「……何が?」

「……待てよ、そもそもどうやってここに来た?」

 

 

そこで切嗣は気づく、アインツベルン城の周りには結界が張ってあるはずなのに、それを解除せずにどうやってここに来たのだろうか?と。そもそもキャスターの戦闘直後のはずなのにいつの間にここに来たのか?

 

 

「ああ!結界のことか?まあ、俺にしかできない裏技を使った、とでも言っておこうか?ちなみに言っておくが、お前が起源弾を俺に打ち込んだ時と同じ方法だからな?」

「何!?」

「クカカ!まあ精々頑張りな?そろそろ俺も本気で行くからよう?」

 

 

そう言って永時は窓に掛け、飛び降りる。

慌てて切嗣は窓の下を覗いたが、その姿はもうなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーようやく、彼の謎が紐解かれ始める時が来た。

 

 

結末がどうなるかは、誰にも分からない。

 

 




いかがでしたか?

今回登場した宝具『原点にて頂点』の強さはというと、

『乖離剣』や『約束された勝利の剣』を余裕で防げるぐらいでしょうか?

ですが、今はある事情と、魔力消費が高すぎるせいで、戦闘時は使えませんので、戦闘時はもう1つの宝具を使っています。

ヒントになりましたでしょうか?

では、また次回。



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酒宴準備



あけましておめでとうございます、遠藤凍です。

いよいよ年が明けてしまいましたが、皆さんは今年の目標は何に致しましたか?

ちなみに私は今年には頑張って物語を無事に完結させる、です。

今回は軽〜く、エイジの過去語りもあります。

では、どうぞ。




 

 

一方、ルシファーはというと、ふらついた足どりで間桐家へ帰宅していた。決して酔っているわけではない。ただ単に脳を揺さぶられただけである。

 

途中でよく分からない黒ずくめの人間が4人ほど奇襲してきたが、寄ってきたハエを払うように無意識のうちに抹殺していた。

 

 

ーーーこの妾を一撃で意識を刈り取ったあの男……何者じゃ?しかも……

 

 

頭に引っかかるのは、あの男と対峙した時に放った光線が“当たる前”に消滅したこと。そしてーーー

 

 

「ーーーエイジの様子が、いつもと比べて何処か変だったしのう……」

 

 

あの男の顔を見た瞬間の永時の顔が、“恐怖”に染まっていたことに驚愕を覚えた。

 

ルシファーが知っている永時は、例え誰が相手でも余裕の表情を浮かべた男であるはずだ。

いや、逆にこうも考えられる。

 

 

「ーーーあの男……あのエイジさえ恐怖に染める人物といえば……まさか、のう?」

 

 

ルシファーの頭の中にある人物が浮かび上がったが、すぐに否定した。何故ならその人物が存在するということは、あるはずないと思っていたからだ。

 

だが、ルシファーはあるものが目に入り、思考を中断させる。

 

 

「おったおった……」

 

 

それは、探し物がやっとの思いで見つけた人のような笑顔ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルシファー?本当にそう名乗ったのか?」

「はい、終永時がそうハッキリと名乗っていました」

「ルシファー……もはや英霊を越えた存在ではないか……」

「アサシンで確認させたところ、高度な魔術を使っていましたのでおそらくはキャスターだと……」

「アサシンでの暗殺は?」

「ビギナーにより、手負いのところを何人かで奇襲させましたが……近づく前に見事に返り討ちに逢いました」

「マスターの方は?」

「間桐家に出入りしているのは目撃されてあるので、間桐雁夜かと……」

「いや、それはありえん。あの間桐の急造魔術師が2体もサーヴァントを使役できるはずがない」

「しかし、それでは間桐臓硯ということになりますが……」

「遂に重い腰を上げたか……まずいな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、おかえりーーーって、どうしたんだよその怪我!?」

 

 

実際にはその臓硯が魔王によって消されているとはいざ知らず。玄関に入ったルシファーはその直後に、運悪く雁夜に見つかってしまった。

 

帰ってきて自室で傷を癒して何事もなかったように振舞おうと考えていた作戦が第1歩目から失敗した。

 

雁夜は刻印蟲に蝕まれた身体を引きずってルシファーに歩み寄ってくる。

 

 

「ビギナーに少しな……」

「ビギナーって、イレギュラーを1人でやりに行ったのか!?」

「安心せい、一撃で意識を刈り取られたから大した怪我はない」

「そういう問題じゃなくて!なんで一人で行ったんだよ!?バーサーカーを「バーサーカーを投入すればお主が死に急ぐだけじゃが?」それでも……!」

「心配してくれるのは結構じゃが……ありゃ、妾とバーサーカーの2人でも勝てんわ」

「ッ!?……そんなに強いのか?」

「妾の推測が正しければじゃがの。正直あれには今回のサーヴァントの中では誰も彼奴には勝てん」

「ッ!?」

 

 

魔王の弱気な発言に、雁夜は戦慄を覚えた。

 

どう慰めようかと考え始めもした。

 

 

「と、いう訳でこちらには今、情報が必要である」

「いやいや何でそういう展開になるんだよ!」

 

 

が、意外と本人がけろっとしていたので考えるのを即座にやめた。

 

 

「と、いう訳で紹介しよう……アサ子じゃ」

 

 

シュタッ!と忍びのようにルシファーの側に降り立つ髑髏を模した黒ずくめの女。

 

 

「ああ〜アサ子って、女のアサシンだからアサ子ってーーーアサシンんんんんんんんんんんんんっ!?」

 

 

ものすごい形相で驚く雁夜を相変わらず涼しい表情で見る。

内心でも、おおっいいリアクションじゃのぅ程度だ。

 

 

「安心せい。魔王の威厳で洗脳済みじゃ」

「そ、そう……」

 

 

もはや規格外な魔王にすげーとしか言えなかった。

雁夜の精神状態は戦争が終わるまで持つのだろうか……?

 

 

「こやつのマスターが面白いやつでのぅ。上手くいけば、こちらが有利に進めることも可能じゃ」

「アサシンのマスターが面白いやつ?」

「さよう。上手くいけばお主の大嫌いな遠坂時臣に繋がるヒントを得られるやもしれんぞ?」

「……時臣ィ」

 

 

間桐桜ーーー旧遠坂桜をこの腐って終わっている間桐に養子として出した張本人。そして、雁夜の初恋の相手の夫。

 

そもそも奴が桜ちゃんを養子に出さなければ……

 

ただでさえ刻印蟲によって削られている精神状態で溜め込んでいた怒りと憎しみがふつふつと湧き上がって沸騰寸前なのを感じる。

そして、今にも怒り狂いそうな雁夜を見てルシファーはただ笑みを浮かべて眺めているだけだった。

 

 

「……では、早速じゃがアーチャーとビギナーを中心に情報を集めて参れ」

「……御意」

 

 

霊体化してその場を去って行く女アサシンを見つめた後、ルシファーは真剣な表情で口を開いた。

 

 

「……屍もどきよ。バーサーカーはどこにおる?」

「え?バーサーカーなら蟲蔵で待機させてるけど……」

 

 

いつになく真剣な表情のルシファーに怒りを忘れて答えた。

 

 

「あそこか……確かに、あの部屋は頑丈じゃからのう。バーサーカーが暴れても大丈夫そうじゃの」

「一体何を始める気なんだよ……」

 

 

雁夜の問いにルシファーはニヤリと笑みを浮かべて、知りたいか?と逆に問う。そして、雁夜は首を縦に振るとルシファーは笑みを崩さぬまま答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バーサーカーと一戦交える」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、一方の永時はというとーーー追い詰められていた。

 

 

「なぁーーーアスモ」

「ぷいっ!」

「……セイバー」

「気安く話しかけないでください変態」

「oh……」

 

 

精神的に……

 

 

 

何故こうなったか、少し遡ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさいませマスター、セイバー様、アスモ様」

「あっ、ただいま〜アリス……えっ?」

「どうしましたか?アスモーーーこれは……」

「あっ?どうしたお前rーーーこれは!?」

 

 

疲れきった一同を迎える使用人……ではなく使用ヒューマノイド、アリスが迎え出てくれたのは嬉しいが……服装が何故か某過負荷の大嘘憑きが一時期好みだった服装ーーーつまり、裸エプロンだった。

まだ服装だけが変なので弁解は出来たはずだったが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター、お風呂にしますか?お食事にしますか?それとも……わ・た・し?キャッ♪」

 

 

 

 

 

 

 

この一言で空気が完全に凍った。とは言うものの無表情でやっているので説得力が皆無な訳だが……

 

 

「「……どういうこと(ですか)?エイジ?」」

「いや……あのな。これには太平洋よりも深〜い訳があってだな……」

 

 

戦闘時より濃厚な殺気で迫りよる2人に焦りを感じて弁解し始める。

 

 

「マスター……似合いませんか……?」

「とても似合ってるぞーーーあっ……」

 

 

しかし、さすがの永時も、女の涙には勝てなかった。

 

 

「『風王ーーー(エアーーー)

「このーーー」

「えっ……?ちょーーー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー鉄槌(ストライク)』!!」

「変態っ!!」

「落ち着kーーーげぼらぁっ!?」

「マスター!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、いうことがあって。あれから、色々説明してなんとか元の状態に戻れた……訳もなく。

 

 

「……死のうか」

「安心してください。マスターにはわたしが着いています」

「アリス…」

「例えマスターのご趣味が変わられてようとも、私は気にしませんよ?」

「ーーーよし、死のうか」

「そう思ってロープを用意しておきました」

「さすがアリス、準備がいいな……これで安心して死ねるーーー」

「「ちょっと待て!?」」

 

 

実はアリスがこうするようインプットしたのはもう1人の製作者であることを、全員は知るよしがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、あれから永時の自殺騒動があったりして30分後。

ようやく永時が復活したのを確認してセイバーは口を開く。

 

 

「エイジ……よろしいですか?」

「ん?なんだ?」

「ビギナーが叫んでいた、Never(ネバー)というのは、エイジのーーー」

「俺が捨てた名前のことで合ってるぞ?」

「そうですか……」

「……知りたいか?俺の過去を」

 

 

いつもよりらしくない永時に驚きを隠せない様子のアスモ。

 

付き合いが長い彼女だから言えるのだが、永時はあまり自分のことを話したがるような人間ではない。そして、アスモ自体、まだ本人の口から聞いていなかったのだ。

 

それを言わせたセイバーに若干の嫉妬を向けるが、嫉妬は“レヴィアタン”の仕事だと考え、割り切った。

 

 

「軽くだが俺の過去を語ろうか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルシファー?」

 

 

闇夜を駆ける戦車の上でライダーは疑問の声を上げる。

 

 

「ああ、さっき森の方でそう呼ばれる奴が出たらしい……」

「ルシファー……確か、魔界の魔王の1人だったか?」

「そう、なんだけど、な……」

「どうした坊主?」

「いや……それがさーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー誰かに求婚してフられたらしいんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「求婚?誰に?」

「お前も知ってるだろ?ーーー終永時だよ」

「ほう!あのセイバーのマスターにか?」

「そうなんだよ」

 

 

ライダーは自分のマスターから彼のことは恐ろしい存在だと聞いていたが、サーヴァントにその身1つで挑む姿がとても印象に残っていた。

 

 

「只者ではないと思ってはいたが……まさか魔王と顔見知りとはのう!」

「なんだよ、えらく上機嫌だな……」

「さよう。相手はあの魔王とその顔見知りだぞ?ますます余の臣下に加えたくなったわ!」

「頼むからやめてくれ……」

 

 

ライダーのマスターのストレスがドンドン蓄積されていく。そんなマスターをいざ知らず、原因のライダーは首をゴキゴキと鳴らし、腕を組んで悩んでいた。

 

 

「うーむ……おおっ!良い案が浮かんだぞ!」

「えっ……?」

 

 

そしてまた、ライダーのマスターのストレスがマッハで加算されていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、始めようかのぅ」

 

 

指をゴキゴキと鳴らしながら目の前の黒騎士を見つめる。

 

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーーー!」

 

 

憤怒に染まった声を上げ、目の前の魔王を殲滅しようと突貫する。

まず、先制攻撃としてルシファーが光線を放つが、バーサーカーは右手を包んだ籠手で防ぐと残った左手でルシファーの顔めがけて殴る。

 

 

「ほう……!やるのう……」

 

 

ルシファーの顔ぐらいの盾の出現で辛うじて顔を守った。盾は装飾などはされてはいないが白と黒、全く正反対の色が左右均等に半分ずつ色づいており、その輝きは装飾品を浮かばせる。

そんな盾を持ってニヤリと笑う。

 

 

 

「妾にこれを出させるとは、エイジ以来じゃぞ?光栄に思え……とは言うても、聞いておらんか」

 

 

更に大きさがまちまちの盾を4つ現れ、手に持つ盾も含んだ5つがルシファーの側でふわふわと宙を浮かびながら控える。

 

 

「少し上げていくぞ?」

 

 

今度は盾1つ1つから出た光線がバーサーカーを襲う。

 

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎!?」

 

 

されど、バーサーカーはただ突っ立っているわけでもなく、生前から培った武を使って避け、光線はただ床を焦がすだけである。

 

 

「この部屋は中々頑丈じゃのう」

 

 

だが、肝心のルシファーは対した反応も見せず、悠々と立っていた。

 

 

「追加じゃ」

 

 

更にルシファー本人から3本光線が追加されるが、それでもバーサーカーは軽々と避けていく。

 

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーーー!!」

「しまっーーー!」

 

 

7本の光線の隙間を縫って移動し、ルシファーの目の前辿り着いて再度拳を振るう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーなんてな?」

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!?」

 

 

ゴッ!!とバーサーカーの拳が直撃したが、それはルシファーの側に控えていたはずの盾によって防がれ、“後ろから”光線で撃たれた。

バーサーカーは後ろを見ると、何故かルシファーの側に控えていたはずの盾がふわふわと浮かんでいた。

 

 

「いつ、その盾が動かないと言った?」

 

 

ルシファーがやったことは単純に盾の1つを動かしてバーサーカーの背後をとっただけである。

だが、まさか盾が動くとは思ってもいないバーサーカー。

ヤバいと騎士の直感が警鐘を鳴らしていた。

 

 

「お喋りはここまで。早くせんとお主のマスターが屍になってしまうからのう?」

 

 

そう言ってまた盾を2つ、追加した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてーーーまずはビギナーについて語ろうか……」

 

 

重い雰囲気の中、永時はそう切り出した。

 

 

「ビギナー……あれは俺がかつて魔界で魔王巡りをやった後の話だな……あっ、魔王巡りっつうのはそのまんまの意味だぞ?……で、俺はある討伐依頼を受けてな……」

「討伐依頼?」

「ああ。……相手は神殺しで有名な奴でな、名前はエンド・コール。神話大系で有名なラグナロクそのものを表した男だったな……そいつの討伐の際に一緒にいたのが……」

「ビギナーだったと?」

「そう、どうしてあの防御チートの体現者がサーヴァントになってるかは不明だがな。まあ分かってるのは真名と宝具ぐらいだな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー奴の真名はノット・バット・ノーマル。普通に恋い焦がれた異常者であり、故に絶対強者と呼ばれた男だ」

 

 

 

 

 

「ノット・バット・ノーマル……普通ではなくもない?」

「まあ中二くさく言うと『異常な普通』かな?」

「異常な普通……して、宝具は?」

「まあ正確には1つだけ知ってるってのが正しいんだがな……宝具の名は『普通求めし異常者(ノット・バット・ノーマル)』。効果は予想出来ているかも知れないが異常の全否定……つまり、異能の完全無効化がやつの宝具だ。更に……触れた物や人物を一定時間“普通にする”」

「普通……?それじゃあーーー!」

「そう、サーヴァントやマスターがそれを喰らえば……一般人と同じステータスになるってことだ」

「あの異常なステータスでその宝具……確かに、絶対強者の名は伊達ではありませんね……」

「だろ?だからあの時俺はお前らを逃がそうとしたんだよ……」

「そう、だったんですか……」

「まあ過ぎたことはいいとして一応対策はある……」

「それは?」

「それはな……まあ、飯でも食いながら話すよ」

 

 

よっこいしょと言って立ち上がり、そのまま外に買い物に出かける準備をし始める永時に2人はずっこけた。

 

だが、これが間違いだったと気づくのは誰も知るよしがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーサーカーの暴走のせいで魔力を奪われて屍になりかけていた雁夜はルシファーの道具作成で作った魔力を直接補給する魔力瓶を飲んで辛うじて生きていた。

 

ふと、急に魔力を作っていた体内の刻印蟲が静まり返る。

 

 

「……終わった、のか?」

 

 

屍になりかけの身体を引きずってゆっくりとした足取りで蟲蔵へ向かう。

 

 

「おや?屍もどきではないか。……どうやら本物の屍にはならんかったようじゃな」

「あんたの魔力瓶のおかげで辛うじてな……ん?」

 

 

そこで雁夜はある違和感に気づく。

 

目の前には元気そうなルシファー、その側で控えるようにふわふわと浮くモノクロみたいなカラーリングの盾……は後で聞くとして。

 

そして、その手で引きずる何故か焦げ臭いバーサーカー。

 

ん?バーサーカー?

 

 

「バーサーカー!?」

「ん?そうじゃが何か?」

「いやいやあんた、何してんだ!?」

「とりあえず弱らせて魔王の威厳で洗脳、とは言わんが、此奴の記憶を覗いてのう」

「記憶?」

「此奴……どうやら『アーサー王物語』の関係者らしくてのう。屍もどきよ、少し調べてくれぬか?」

「分かった今すぐに「まあ待て」」

 

 

バーサーカーを引きずったまま雁夜に歩み寄り、雁夜の身体に手のひらをかざす。すると明るくて暖かな光が雁夜の身体に触れ、バーサーカーが暴れる前の身体に戻っていた。

 

 

「これは……!?」

「妾が持っている治療魔術と思うてくれればよい。流石に屍状態では辛かろう?」

「あ、ありがとう……」

「……分かったなら早う行け」

 

 

照れくさいのか、ルシファーの顔は赤かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、それもすぐに元に戻ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーッ!?屍もどき!待て!」

「どうしたんだ一体?」

「ーーー敵襲じゃ!」

「敵襲!?」

「くっ……!まだ屋敷内に罠を仕掛けてなかったのが仇となりおったか!」

「どうすんだよ!?」

 

 

そうこう言ってる内に侵入者はこの屋敷内にズカズカと入ってきている。

 

 

「とりあえず、桜ちゃんを……!」

「いや待て。少し静かにしろ」

 

 

言われるがままに黙り込む雁夜。

そして、入り口の方からドンッドンッと足音が聞こえーーーそれは姿を見せた。

 

 

「ーーーほう、これが噂の魔王か?結構な美人じゃないか!ガァッハッハッハッ!!」

「……なんじゃ?この無駄にむさ苦しい筋肉男は?」

「ライダーだよ!なんで忘れてんだよ!」

「ライダーじゃと?」

 

 

そういえば……と初日の倉庫街での戦いを思い出す。

確かいきなり現れては真名を名乗るわ、他のサーヴァントを臣下に加えようとするわ、ランサーのマスターに喧嘩を売るわ、声が無駄にデカイわで、ルシファーの印象は最悪だったのであっさりと記憶から抹消した男だったことを思い出す。

 

 

「だって……エイジと全く正反対のタイプじゃからのう……「エイジ?エイジってセイバーのマスターか?」そうじゃが……?」

 

 

話に割り込んで来たライダーに明らかな嫌そうな顔を向ける。……大丈夫かこの魔王?

 

 

「というとあれか?終永時に求婚してフられたのか?」

「……なんじゃと?貴様……なんと言った?」

「ヒィッ!」

 

 

明らかに怒っているぐらい濃厚な殺気を出し始めるルシファーに恐怖の声を上げる雁夜。

 

何やってんだ征服王。

 

 

「しかしのう、どうしてこんな美人の求婚を断りおったんだ?」

「……そうじゃろう!?お主もおかしいと思うか!?」

「ああ、全くだ」

 

 

あれぇ?立ち直り早くねえかこの魔王?ほら、雁夜おじさんも目をパチクリとさせてるぞ?

そして、雁夜の視線にようやく気付いたルシファーは咳払いを一つして威厳を保とうとする……もう遅いと思われるが。

 

 

「ゴホンッ!……して、お主。何ようじゃ?」

 

 

見るとあの赤いマントの戦闘服姿ではなく、キツキツで今にも破けそうな『大戦略』と世界地図がプリントされた、世界征服でもするのかと言いたくなるようなTシャツとジーンズと、ラフな格好なので戦闘ではないかと考えるが一応警戒しておく。

 

 

「なぁに、今回は戦いに来たわけではない。これからセイバーを誘ってビギナーのところへ行き、酒宴を行うつもりだったのだが……その道中に一筋の光線が飛んできおってな?気になるもんだからここによってみれば……貴様らがいたからついでにと誘いに来たのだ」

「一筋の光線……?」

 

 

犯人に心当たりがある雁夜はじっとルシファーをジト目で見るが、当の本人は知らん顔である。

 

蟲蔵の頑丈さにテンションが上がり、どれだけ耐えれるか試していたとはとても言えない。

 

 

「そ、そういえばお主!ビギナーのところへ行くと言っておったな?」

「おお、そうだが?」

「では、妾も行こうかのう!」

「はぁ!?何言ってんだよ!」

 

 

急に雁夜を掴んで側に寄せ、小声で話し始める。

 

 

「上手くいけば他のサーヴァントの真名が分かるかもしれんのだぞ?」

「なるほどな……」

 

 

要は酒に酔わせて洗いざらい吐いて貰おうという魂胆だ。

 

そこっ!傲慢なのに偉く慎重だな、とは言わない。

 

 

「じゃあ俺たちは留守番か?」

「そういうことになるな……バーサーカーがおるから大丈夫じゃろう」

 

 

言うだけ言い終わると雁夜を掴んでいた手を離し、ライダーと向かい合う。

 

 

「ライダーよ。行くのは構わんが、場所はあるのか?」

「おお、そりゃあもちろん。酒宴に打ってつけの場所がな?」

「ほう!では早速行こうかのう?」

「なら、余の戦車に乗っていくか?」

「いや、妾は自分で飛べるから大丈夫じゃ」

 

 

バサァッ!と漆黒の鳥のような翼を広げる。

 

 

「おお!これが堕天使の翼か!中々立派ではないか!」

「そうじゃろう?……して、お主のマスターは何処じゃ?」

 

 

今気付いたのだが、いつもライダーの側でツッコミをしているマスターがいない。

 

ツッコミ要員はとても必要なことであるのだが……。

 

 

「ああ!坊主なら着陸する時に気を失ってなぁ。そのまま放置してきたわ!」

「そうか……」

「ライダーじゃなくてよかった……」

 

 

ウェイバー君に幸あれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の飯は何がいい?」

 

 

ルシファーたちがそんなことを計画していたのもいず知らず、食材を求めて新都から深町へ移動中の一行。

 

これから何が起きるのか分かっていないからとても楽し気である。

 

 

「精がつくもの!」

「無論!焼肉でしょう?」

「お前らな……毎日そればっか言ってるけど他にはないのか他には?」

「「むぅ……」」

 

 

だが、それは一瞬で崩れ去る。

 

 

「おお、セイバー!こんなところにおったか!」

 

 

後ろから発せられたその言葉に、永時の背筋が凍り、後ろを振り向くことができなかった。

 

なぜなら……私服姿で、ガスマスクを付けず、素顔を晒していたからだ。

 

裏世界での終永時は、名前以外不詳でなければいけないのだ。

 

 

「ライダー!?」

 

 

戦闘服である白銀と紺の甲冑に身を包み、バッとライダーの方へ向いて後ろへ跳ぶ。

ちなみに永時は肩を震えるだけで後ろを向くことが出来ず、アスモは……行方をくらましていた。

 

 

「セイバー……ヘルプだ」

「マスター?……ハッ!」

 

 

運良く直感で永時の事情を察知してくれ、永時を隠すように後ろに立つ。

 

こんな時に彼の相棒(アスモ)はどこに行ったのだろうか?

 

 

「なぁに、今回は戦いに来たわけではない」

「何?」

「いやな。これからビギナーのところで酒宴を行おうと思ってな……ルシファーと共に行こうとしたところでお主らに会ってな。ついでに誘いに来たのだが……お主のマスターはどこだ?」

「エイジはどこじゃ?」

 

 

永時と言えば黒一色の格好なので、黒一色の人物を捜す。

 

とはいうものの、目の前のセイバーの後ろに隠れている男だが……。

 

てかルシファーさん、俺以外に少しは興味を示しましょうよ……と永時は内心思った。

 

 

「ん?セイバーよ。その男は誰だ?」

「いえ……彼は……その……」

「ん?もしかして……」

 

 

おっと、永時の存在に気付いた征服王と魔王。

 

永時、色々とピンチである。

さて永時はこの状況をどう乗り越えるのか?

 

 

「マスター?」

「ほれ、そこの男。こちらを向いてみよ」

「……分かった」

 

 

くるっと振り向く永時。その顔は……

 

 

「エイジ……お主、ふざけておるのか?」

「いや……俺はいつも通りだが?」

 

 

ルシファーは怪訝そうな顔で見るのも仕方がなく、なぜならーーー

 

 

「なぜに獅子舞?」

「仕方ねえだろ?作者が書いてる時期がお正月なんだからよ……」

「あっ、なるほどのう!」

「余にはさっぱり分からんのだが?」

「まあ気にすんな征服王。……ちょっとそこで待っておいてくれ、今すぐ準備してくるから」

 

 

そう言った直後、永時の姿はどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サンキューアスモ」

「どういたしまして♪」

 

 






遠藤「いかがでしたか?作者の遠藤凍でございます」

永時「おい作者、今回は珍しいやり方だな」

遠藤「そうですね。新年に因んで、趣向を少し変えようかと思いまして。とは言っても、今回だけですよ………多分」

永時「あっ、そう。……で?俺を呼んだ理由は?」

遠藤「ビギナー……ノットさんの宝具についてですよ」

永時「いや……それならあいつ呼べよ」

遠藤「狂化かかっていて会話出来ない彼とどうしろと?」

永時「ああ……悪かった」

遠藤「分かってくだされば結構です。……では、早速ですが本題に入りましょう」

永時「ビギナー……あいつの宝具はさっき言った通り異能の完全無効化だ」

遠藤「つまり、全身版幻想殺しですね!」

永時「幻想殺しってのは知らねえが……とにかく、あれはオンオフがもちろんあるし、あのステータスだしな……どうすんだ作者?」

遠藤「大丈夫です!ちゃんと弱点はあります……って、読者の方々はもうお分かりですよね?」

永時「というか、それよりあれがヤバいな」

遠藤「『原点にて頂点』ですか?」

永時「ああ、俺は知ってはいるが、正直発動されると俺らは詰む」

遠藤「……まあ弱点は用意してありますので、ご安心ください」

永時「そうかい……。じゃあ、俺はそろそろ行くわ……」

遠藤「えっ……?どこへ行かれるのですか?」

永時「魔王共に新年の挨拶をしにな……」

遠藤「そうでしたか。お時間を取らせてすみませんでした……。アスモさんやセイバーさん、ルシファー様にもよろしくお伝えください」

永時「気が向いたらな……」

遠藤「消えた……ゴホンッ!では皆様。こんな作者ですが、今年もどうぞ、よろしくお願いします!」

遠藤「あっ!良ければ永時本人が所有する能力の予想をしてみてください。ヒントは……征服王が関係しているかも知れません」

遠藤「参考になりましたか?では、また次回」



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聖杯問答 ーー集いし王達ーー



どうも、遠藤凍です。

いよいよ始まる聖杯問答。
はてさてどうなるのやら。

では、お楽しみ下さい。




 

 

『師よ。例の膨大な魔力反応のことですが……』

「分かったのか?」

『はい、場所は間桐邸なのですが……魔力が強大過ぎて、詳しいことは分かりませんが……』

「いや、多分その魔力源は……あのサーヴァントか……」

『そのようですね……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬木市上空を移動する2つの影。

 

1つは、二匹の神牛に牽かれながら、雷でできた道を走るライダーの戦車。

そして、漆黒の翼を広げて、空を舞うルシファー。

 

戦車にはライダーとそのマスター、そしてセイバーの3人。

そして、残ったアスモはというと……

 

 

「何故に妾がお主を運ばなくてはならんのだ……」

「ごめんねルシファー……僕が魔王ってバレると色々マズイんだよ……」

「まあよかろう。その代わりにエイジの好みも色々と聞けたしの」

 

 

アスモが魔王とバレると色々と面倒なことになるため、止むを得ずルシファーに担がれる形で輸送されていたーーーエイジの色々を犠牲に。

 

ちなみにアスモが教えたのはこの間のアリスの服装である。

 

 

「……して、セイバーよ。お主のマスターは本当に来るのか?」

「本人曰く……裏技を使って来るから、と言っていましたが……」

「安心せい。“奴はもう着いておるわ”」

「ん?いくらなんでもそれは無理であろう?」

「……腰を抜かすでないぞ?」

 

 

そんな会話をしていると、薄暗い森が皆の視線に入る。

 

 

「見えたぞ!貴様のところと比べもんにならんぐらいシケたところだのぉっ!」

「シケた言うでない」

「あれは……アインツベルン城?」

「そういえばライダー」

「なんだ?」

「ビギナーのマスターから許可をとっているのか?」

「いや、とっとおらんが?」

 

 

ライダーの行き当たりバッタリの計画性にものすごく不安になるセイバー陣。

 

 

「では、行くぞぉっ!」

「ライダー、何を!?」

「……ん?あれっ?僕は確か間桐邸に……」

「しっかり掴まっておれっ!」

「「ちょっと待てえええええええええ!!」」

 

 

ものすごい勢いで加速して先に行ってしまったライダー達。

そして、残されたルシファーとアスモはただ単に呆れていた。

 

 

「あんなに急がなくても……」

「本当じゃな。寧ろ、あんな風に行けばビギナーに仕留められかねんぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインツベルン城の扉を強引に開き、中へ入っていくライダー達。

 

 

「おーい!ビギナーはおるか!」

 

 

樽を担いだライダーの野太い声に誘われ、実体化してライダー達の前に現れたビギナーはとても面倒臭そうな顔をしており、奥から出てきたマスターと思わしき白い女性はライダー達を見て顔を驚愕に染めていた。

 

 

「ライダー!?」

 

 

すぐさま白い女性……アイリスフィールの存在に気付いたビギナーは彼女を守るように前に立つ。

 

警戒しまくっている2人に、ライダーはニッコリと笑みを浮かべて言う。

 

 

「安心せい。今回は戦いに来たのではない。ちと、酒宴の場所を提供して欲しいのだが……よいか?」

「……」

「……そうね。いいんじゃない?私から言っておくから、あなたも参加したら?……これでよろしいですか?アレキサンダー大王陛下」

「おおっ!中々話が分かるではないか!?」

 

 

アイリスフィールはビギナーにウインクすると、ビギナーは少し微笑んでから霊体化してどこかへ行ってしまった。

 

 

「いえ……先程あの男がやってきたもので……」

「あの男?」

「中庭へ向かえば分かると思いますよ?」

 

 

戦車で気絶しているライダーのマスターと違い、余裕と気品が溢れていて、その美しい容姿は、色欲を司るアスモが今度この人に化けてエイジを誘惑しようかな?と思うぐらいである。

 

疑問に思うライダーはすぐさま中庭へと足を進め、他もそれに続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い花が咲き乱れる花壇の中心には、1人の黒一色の男がこちらに背を向けて胡座をかいて座り込んでいた。

 

 

「ようやく来たかお前ら。待ってたぞ」

「おおっ?セイバーのマスターではないか!お主……いつの間に来ておったのだ?」

「まあ……俺しか使えない裏技を使ったってことだ。事前に許可をとっておいたから、自由にやって構わないとよ」

「ほう、余の戦車より早く来られるとは、ますます臣下に加えたくなったわ!」

「残念ながら今は誰の下に下る気はないから諦めろ」

「うーむ……もったいないと思うがなぁ……」

「来たか……」

 

 

そう言って腰を下ろしていく一同を前に、ビギナーが再び姿を現す。

 

 

「ビギナー!?」

 

 

セイバーを筆頭にルシファーとアスモが戦闘体制に入ろうとしてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですよ?今回は戦いをするわけではありませんので」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「喋った!?」」」

 

 

 

 

 

ビギナー本人から発せられた言葉を聞いて、一気にやる気を削がれてしまった。

 

 

「貴様……喋れたのか?」

「いえ、普段は狂化で無理ですが、今回は宝具を使って。一時的ですが言葉を話せるようにしました」

 

 

アインツベルンの森での行動と口調が全く合わず、動揺するセイバー達をよそに、ビギナーは永時のところへ歩み寄る。

 

 

「お久しぶりですねネb……いえ、永時と呼んだ方がよろしいでしょうか?」

「久しぶりだなビギナー?」

「痛っ!」

 

 

握手を求めてきたので、全力の握力でギリギリとビギナーの手を握り締める。

どうやらキャスターの時の恨みがまだ残っていたらしい。

 

 

「……そういえば、どうしてあの時襲ってきたのかな?」

「いや……あのですね?あの時はなんというか……久しぶりに再開してつい嬉しくて、その時狂化のせいで理性を……」

「……まあ今回は許してやるけど。次は……」

「もちろん、全力であなたに答えてあげますよ?」

「……フッ」

 

 

そう言ってビギナーはセイバーとルシファーの間に腰掛ける。

 

永時は少し離れたところで一同を見守ることに徹する。

 

 

「ライダーよ、その樽の中身は酒か?」

「その通りだ、この土地の市場のものの中で中々の一品だと思うぞ?」

「ほう!それは楽しみじゃのう」

 

 

ほとんどがライダーの酒に興味を示していたが、ビギナーは1人だけある気配を感じ取るのに集中していた。

 

そして全員が腰掛けたところでビギナーは呟く。

 

 

「……来ましたか」

「いつまで我を待たせるつもりだ雑種共」

 

空いている場所ーーーセイバーとライダーの間に黄金の粒子が集まり、やがて黄金の鎧の美青年を形づくる。

 

言わずもがな、アーチャーである。

 

 

「では、酒宴を始めようではないか!」

 

 

ライダーのその一言で、酒宴ーーー聖杯問答が始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て」

 

 

わけもなく。そう制止を呼びかけたのは今回の聖杯戦争の有力候補、アーチャーからで、その声には怒りが込められている。

 

 

「どうしたのだ、アーチャーよ?えらく機嫌が悪そうだな?」

「ライダーよ、これは王の器を測るための催しではなかったのか?」

「いや……確かに余はそういったかも知れんが……」

「では何故、王ではない雑種が2匹もおるのだ?」

 

 

そう言うアーチャーの目線の先には、ルシファーとビギナーがいた。

 

 

「……フッ、残念ながらそれは違うぞ?アーチャーよ?」

 

 

挑発するように返すのはもちろん、プライドの高いルシファーである。

 

 

「……何?」

「お主は妾とビギナーを王ではないと言うておるのが間違いなのじゃよ」

「ルシファーはともかく……ビギナーも王であると?」

「うむ」

 

 

セイバーの疑問に薄く笑って、答える。

 

 

「アーチャーよ、お主のマスターから聞いておるはずじゃろう?……妾は魔界を統べる魔王の一人であると」

「ほう!貴様があのカラスどもの親玉であるか!」

「カラス、のう……エイジに言われた時以来じゃのう……」

 

 

カラスと言われたが大して怒りもせず、頬を赤らめて昔の思い出に浸るだけだったので、永時とアスモは安心し、その反面驚きもした。

 

 

あの傲慢なルシファーがキレなかった!?と。

 

 

なんとも失礼な2人である。

 

 

「ではルシファーよ。ビギナーが王であることを知っているということは、その真名も知っているのか?」

「なかなか鋭いのうセイバー。……まああくまで推測じゃから今確認を取りたいのだが……良いかのビギナーよ?」

「……別に構いませんよ?真名を知られたところで誰も……いえ、この場にいるルシファー以外のサーヴァントは全員分からないでしょうしね」

「ほう!えらく自信があるようだな!ビギナーよ!」

「違いますよ征服王。ただ、“本当”に誰も分からないのですよ」

「本当に分からない?それはいったい……」

「とりあえず、魔王の推測を聞いてからお答えしますので、少々お待ちください」

「……分かった」

 

 

どこか腑に落ちなそうなライダーはとりあえず、我慢してルシファーの話に集中する。

 

 

「……まずは聞くが、お主……あのノット・バット・ノーマルで違いないな?」

「……ええ、その通りですよ魔王。……よく私のことをご存知でしたね……」

「なんじゃ、否定せんのか?……まあ所詮神々が言いふらしたおとぎ話のような存在じゃったから半信半疑じゃったが……妾の攻撃を防いだことで確信したわ」

「おやおや、これはとんだ失態をしていまいましたね……とはいっても、真名がバレたところで全く困りませんがね……」

「じゃろうな。お主の存在を知っておるのは神々か魔王ぐらいじゃからのう」

「それはそうでしょうね。何せ、私の存在は禁止事項とされておりますゆえ」

 

 

神々、という言葉にセイバーは驚き、ライダーは驚きと共に臣下にしたいという欲が疼き始め、アーチャーは神が嫌いなのか、顔を嫌悪に歪めていた。

 

そして、長い前振りに業を煮やしたアーチャーが口を開く。

 

 

「……結論からして何が言いたい?」

「つまり、妾が魔界を統べる王ならば。此奴は原初の一すら霞んで見える程の。生まれもって原点にて頂点に君臨する絶対的な強者……それがこの男じゃよ」

「……つまり、此奴は世界全てを統べる王だと?」

「さよう。そこのアーチャーがありとあらゆる宝具の原典をもつ王ならば、この男は力ある者の頂点に立つ王者と言っても過言ではない存在、ということじゃ」

「私はそんなに大それた存在ではありませんよ……」

 

 

その場にいた全員が驚愕した。

 

アーチャーは自身のことがこの魔王に知られていたことに。

 

ライダーはビギナーの存在の強さに。

 

セイバーは王なのに王らしくないビギナーに。

 

ほんの少し離れていたライダーのマスターはビギナーの把握できない強さに。

 

ビギナーのマスター(偽)は夫が召喚したサーヴァントの規格外さに。

 

アスモはその偶然にただ驚いていた。

 

 

ほぼ全員が驚くなか、永時だけはいつも通りに余裕を持った顔つきで佇んでいた。

 

 

「ーーーと、いうわけで。妾とビギナーの2人は意味は違えど王の名を持つ者……これでよいかアーチャー?」

「……好きにしろ」

 

 

アーチャーの許可が降りたのを確認すると、ルシファーは笑みを浮かべて告げる。

 

 

「では、宴を始めようかの?」

 

 

ルシファーの言葉を皮切りにその場にいた全員の空気がガラリと変わり、ライダーは酒樽の蓋を拳で叩き割り柄杓で中身をすくって他のサーヴァントに見えるように掲げる。

 

 

「いささか珍妙な形であるが、これがこの国の由緒正しき酒器らしい」

「ワインを柄杓でって……そこは日本酒かと……」

「文句を言うでない。葡萄酒もなかなかよいぞ?」

 

 

そうこう言いつつも、ライダーから受け取った柄杓で酒をすくいグッと飲み干すビギナー。そしてそのまま手渡されたルシファーは酒をすくい、続けて勢いよく飲み干したあと、左隣のセイバーへ渡す。

 

 

「聖杯は相応しき者の手に渡る定めにあるという。それを見定めるための儀式が、この冬木における闘争だというが……何も見極めをつけるのみなら、血を流す必要はあるまい。英霊同士、互いの格に納得がいけば自ずと答えは出る」

「なるほど、器を試すということか」

 

 

柄杓を手渡されたセイバーは酒樽からすくい、グッと他に劣らない勢いで飲み干す。

 

 

「美味しいですね……」

「次は我の番か……早く寄越せ」

 

 

半ば強奪する形で柄杓を奪い取ったアーチャーは酒を飲むが、その顔を嫌悪に染める。

 

 

「何だこの安酒は?こんな安酒で英霊の格を測れるとでも思ったか?」

「そうか?この土地の市場で仕入れたうちじゃあ、こいつはなかなかの一品だぞ?」

「確かに……このお酒はなかなかよい味を出していると思いますよ?」

「そういうのは貴様が本当の酒の味というものを知らぬからだ」

 

 

そう言うと片手を掲げ、宝具らしき黄金の波紋を小さく開いて人数分の黄金の酒器と黄金の大きな瓶を一つ取り出した。

 

 

「見るがよい。これが王の酒というものだ」

「おお、これは重畳!」

「ふむ……なかなかよいではないか」

「これは素晴らしいですね……」

 

 

ライダーはすぐさま黄金の酒器に酒を注ぎ、全員に渡していく。

サーヴァントたちは受け取るとすぐに飲んで感想を述べる。

 

 

「おおっ!美味いッ!」

「美味しい……」

「これほどの酒はいつ振りかのう?」

 

 

サーヴァントたちが絶賛する中、ビギナーだけは首を傾げて美味いか?と言いたそうな顔で皆を見ていた。

そして、そのことに気づいたアーチャーは鼻を鳴らして言う。

 

 

「どうした無個性よ?あまりの美味さに言葉が出んのか?」

「無個性って……確かに私は普通ですが……。いえ、このお酒、確かに美味しいのですがーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーバッカスさんのお酒よりは少し足りない気が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何?バッカスだと?」

 

 

その声には怒気が含まれており、ビギナーを見る視線が鋭くなった。

 

 

「バッカス……?」

「ローマ神話の酒神じゃよ。……しかしお主、そんな人物と知りおうていたのか?」

「ええ、酔ってしまうとセクハラをしてきますが、普段は真面目に酒造りに勤しんでおりましてね……1回だけ造ってもらったんですよ」

「貴様……あろうことか忌まわしき神の造りし酒が我の出した酒に劣ると……?」

「はい、そうですが何か?」

 

 

ピシリとその場の空気が凍った。

ライダーはあちゃーと額に手を当てて天を仰ぎ、セイバーはビギナーに非難の目を当て、ルシファーは言いおった此奴!とニヤニヤと笑みを浮かべ、ウェイバーとアイリスフィールはこれから起こりそうなことを予知して震え、アスモはあたふたとし、永時は詰んだなと“アーチャー”に哀れみの目を向けていた。

 

侮辱とも言える返事にアーチャーは手に持つ酒器を握り潰し、とてつもなく低められた声は憤怒に満ちていた。

 

 

「貴様……我をコケにしておいて楽に死ねると思うなよ?」

 

 

ただでさえ魔力の塊である身体が魔力が増大したことによって震え、血色の双眼が燃え上がっていた。

 

そんなアーチャーに対し、何ら変わりない表情で言葉を放つ。

 

 

「さすがに高貴な英霊といえど、酒では神には勝てませんか……」

 

 

ブチッ!と聞こえたのはビギナー以外の全員であろう。

 

アーチャーは立ち上がると背後の黄金の波紋から何かを取り出そうと手を突っ込んで歪な形の剣を取り出そうとし、

 

 

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

 

次の瞬間、残りのサーヴァントが顔を引き締めたのは、目的の剣を取り出そうとしているアーチャーの腕を掴んでいるビギナーに対する驚愕であった。

 

 

「薄汚い手で我が腕に触るか!無個性!」

「私があなたを怒らせてしまったのならお詫び申し上げますが……ここは酒宴ですよ?」

 

 

ビギナーから発せられる圧倒的な威圧に他のサーヴァントどころか、アーチャーも驚きを見せる。

 

 

「ぐぁ……!」

「ぐっ……!」

 

 

何故ならビギナーのマスターとライダーのマスターが威圧だけで地面に跪かせ、更に地面に足が若干めり込んでいるからだった。

 

ただし、アーチャーだけは別の理由である。

 

ビギナーによって掴まれた腕が全く微動だにしないのだ。

 

アーチャーの筋力はBであり、ビギナーはA+でアーチャーより上だが、それでも動かないこと事態がおかしいのである。

 

 

「今すぐ怒りを沈め、武器をお収めください」

「貴様……!この英雄王たる我に意見する気か!」

「今すぐ怒りを沈めて、物騒なもんしまえって言ってんだ。血祭りに上げてやろうか?」

 

 

ビギナーは伊達メガネを外すと更に威圧感が上がり、口調が荒々しくなると共に、2人のマスターの足元が陥没していく。

 

 

「喧嘩なら後でいくらでも引き受けてやる。だが、てめえも王なら、時と場所ぐらいは弁えるよなぁ?」

「……チッ!命拾いしたな、無個性……」

 

 

武器を収めて座り込むのを確認し、ビギナーがメガネをかけるとその圧倒的な威圧感がなくなり、2人のマスターは重圧から解放され、他のサーヴァントもホッとする。

 

だが、この時永時とビギナーが黒い笑みを浮かべていたのを、誰も気づけなかった。

 

 

「クックック……では、続きをしましょうか?」

「クカカ……いいセンスだぜビギナー?まさか宝具で無理矢理怒りを沈めさせるとはな」

 

 

 

聖杯問答はまだ始まったばかりである。

 

 






いかがでしたか?

書いてて思ったんですが、思ったよりノット君が英雄王よりラスボス臭を漂わせているのは気のせいでしょうか?

聖杯問答については次回かその次あたりで終わらせるつもりです。

では、また次回。



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聖杯問答 ーー願いーー



どうも遠藤凍です。

遂にUA数が2万を突破いたしました!

これも皆様の応援のおかげでございます。

失礼ながらこの場をもって言わせていただきました。

これからも応援のほど、よろしくお願いいたします!


では、どうぞ。




 

 

ーーー絶対強者、ねえ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、残念ながら違うと述べておこう。

 

所詮それはただの肩書きに過ぎないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、私と互角の人物がまだ存在していたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私にとってその人は無二の友であり好敵手、そして、私の唯一の希望であった。

 

その人は私に本当の笑顔を、情を、異常としての生き方の楽しさを、色褪せて見えていた世界に色をつけてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、それも長くは続かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その人は私の前から姿を消したからだ。

 

何故!?どうして!?

 

疑問ばかりが私の頭をよぎり、私は知ってしまった。

 

 

もう、その人はいないのだと。

 

 

再び私の世界が色褪せてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、まだチャンスはあったのだ!

 

だから私はこのチャンスに賭けようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからもう少しだけ待っていてくれーーー友よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖杯を手に入れ、合間見えるその日まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではまず、最初に己が大望を聞かせてくれる者は名乗りを上げよ。なぁに、遠慮することはないぞ?」

「待て」

「ん?」

 

 

最初に切り出したのは意外にもアーチャーからだった。

 

 

「そもそもあれは我の所有物。世界の宝は1つ残らず、その起源を我が蔵に遡る。故に、その所有権は今も我にあるのだ」

「では、あなたは生前に聖杯を持っていたと?どんなものかご存知で?」

「知らぬ。我の財の総量は、とうに我の認識を超えている。だが、宝とあるというなれば我が財であることは明白。それを勝手に持ち出そうとは図々しいにも程があるぞ?」

「そんな無茶苦茶な……」

 

 

アーチャーの酒を我が物顔で飲んでいる、ライダー以外の他のサーヴァントも同感だと言いたそうな顔でアーチャーを見る。

 

 

「まあまあ……他に誰か名乗りを上げる者はおらんか?」

「では、次は妾がいこうかの?」

 

 

笑みを浮かべたルシファーが挙手すると他のサーヴァントとマスター達は期待に満ちた視線でルシファーに集中する。

 

永時1人を除いて……。

 

 

「妾の願いはーーー特にないな」

 

 

その場の全員がずっこけた、ように見えた。

 

 

「どういうことだそれは?」

 

 

ライダーが代弁して尋ねるとルシファーは笑みを崩さぬままの表情で語る。

 

 

「いやな……妾の望みは人間観察じゃからすでに達成しておるし……」

「セイバーのマスターへの婚約を頼もうと思わんかったのか?」

「いや、妾としては聖杯で叶えても妾自身が満足いかんし、どうせなら彼奴とは愛しあう仲になってから結ばれたいしのぅ……聖杯による偽の愛などいらぬわ」

 

 

言ってて照れくさいのか、頬を赤らめながら話すルシファー。

 

アスモは隣の相棒を睨みつけ、理由も分からずイラっとしたセイバーはとりあえずマスターに怒りの目を向けることでやり過ごし。言われた本人は馬鹿かあいつ?と若干の照れと自身を選んだことへの負い目が混ざった顔でルシファーを見ていた。

 

 

「欲のない奴だのう……だが、気に入った!どうだ?余の臣下になる気はないか?」

「残念じゃが妾を従えたければ力で示してみよ。まあ、妾を倒せた者は1人しかおらんかったがな」

「ほう?面白い……いずれ挑ませてもらうぞ?」

「ふふ、楽しみじゃのう」

「で、次は?」

 

 

アーチャーの呼びかけに手を挙げる男が1人。

 

 

「では、次は私、でしょうか?」

 

 

とりあえずノリで挙げましたよ?と言いたそうな顔でサーヴァント達を見回す。

 

 

「私の願いはしいて挙げるなら……普通になりたいですね」

「普通?」

 

 

あまりに意外過ぎる願いに一同は唖然とする。

そんな中、ビギナーは大して気にもせず続ける。

 

 

「私は生まれた時からずっとそれを夢見てきたのです……普通に働き、普通に結婚して、普通に子供を産んで、普通に死ぬ……そんな生き方をしてみたいのです」

 

 

そう、これが彼の夢であり『普通求めし異常者(ノット・バット・ノーマル)』となる彼の原点ともいえる。

 

生まれもって異常だった故に普通を求める。

 

例え、全てを失ったとしてもそれでも、普通になりたかった。

 

 

「英霊にしては意外な願いだのう……」

「残念ながら私は英霊程異常ではなく、あくまで普通でいるつもりなので」

 

 

あまりに異常過ぎる男の意外な発言にサーヴァントやマスター達はただ呆然としていた。

 

 

 

 

 

ーーーただ1人を除いて。

 

 

 

 

 

「エイジ?どうしたの?」

「いやちょっとな……」

 

 

魚の骨が喉に引っかかったような違和感を覚えたが後で考えるかと即座に放置して話を聞くことに専念することにした。

 

 

「変わっておるのぅお主」

「変わってなどいません、あくまで私は普通ですので……そういうあなたの願いは何なのですか?征服王」

「むっ、余か?」

 

 

いきなりの振りに少し驚くが、酒を飲むと照れ臭そうに頬を指でかきながら答えた。

 

 

「……受肉だ」

 

 

その意外性にその場にいた全員が驚きの声を上げた。

中でも彼のマスターが一番大きな声を上げていた。

 

 

「お前!望みは世界征服だったはzーーーぐえっ!」

 

 

もはや兵器に近いサーヴァントのデコピンで黙らせると大きな溜め息を吐いて肩を竦めた。

 

 

「馬鹿者。いくら現界してようと所詮サーヴァントの身。今世を生きる人間とは違い、魔力で現界しておる……故に!1つの生命としてこの世に根をおろし、この身をもって全てを征服する、それが余の覇道である!」

「なるほど。つまり聖杯戦争はあくまでお主の大望のための過程、ということじゃな?」

「さよう!その小さき願いを基盤に、世界を征服するという大業を成し遂げることが、余の真の願いである」

「……そんなものは王のあり方ではない。例えそれが王のあり方であってもそれはただの暴君だ」

「ほう、ではセイバーよ。貴様の願いと王道を聞かせてもらおうではないか?」

「私の望む願いはーーー」

 

 

セイバーは告げる。まだ、己のマスターにも話していないことをーーーずっと隠し通してきた聖杯への願いを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が故郷の救済ーーー祖国の滅びの運命を変えることだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで時が止まったかのように、場の空気が凍った。

 

 

 






いかがでしたか?

ビギナーの宝具『普通求めし異常者(ノット・バット・ノーマル)』はビギナー自身と人々の“普通でありたい”という願いから生まれた宝具。

生まれもって異常だから普通を求める……力を持つ人のよくある悩みですね。

まあ、『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』と由来は若干似てますが……


ですが普通であるからこその弱点は三つあります。

1つは某幻想殺しと同じ対策をとる。

ではあと2つは何か、考えてみてください。




ヒントは……"普通とは何か?"




ヒントになりましたでしょうか?



あともうひとつ問題です。
この中に嘘つきがいます。

さて、誰でしょうか?





では、また次回。




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聖杯問答ーー王とはーー



どうも、遠藤凍です。

いよいよ聖杯問答も終盤に。

さて、どうなるでしょうか?

では、どうぞ。




 

 

前回のあらすじ

 

セイバーの発言によって空気が凍った、以上。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけですっかり静まり返ってしまった場。

 

セイバーは分かる言葉で言ったはずなのに誰も反応せず、静まり返ったことで困惑した。

 

 

「お主……今なんと言った?」

「ですから、祖国の滅びの運命を変えると……」

「やはり聞き間違いではなかったか……」

 

 

ライダーとアーチャーは黙り込み、ルシファーは哀れむような視線をセイバーに向け、ビギナーはあまり興味なさそうに酒を飲んでいた。

 

 

「セイバー……それはつまり、己が歴史に刻んだ行いを否定するということですか?」

「その通りだビギナー。例え奇跡を以ってして叶わぬことでも、万能である聖杯があれば必ずーーー」

「くっ、ふふふふ……ふはははははっ!!」

 

 

突然黙り込んでいたアーチャーが大声で笑い始める。

それは王の気品もない、ただセイバーの願いが笑い話だったかのように笑う。

 

 

「……何がおかしい、アーチャー!」

「ははは……オイオイ聞いたかライダーにカラスに無個性よ!これを笑わずにいられるか!?何とも王とは思えん願いよなぁ……!」

 

 

ライダーは黙って酒を飲んでおり、ビギナーとルシファーはコクコクと首を縦に振った。

 

 

「つまり……あれですね」

「なんとも救いようのない馬鹿じゃな」

「そこまでにしておけ……だがセイバー。アーチャーの言うとおり、それは王の願いではないぞ?」

「ッ!ふざけるのも大概にしろ!国のため、民のため、その平穏を願うのが王であろう!?」

「ははははははっ!!本当に面白い奴よ!こんなに笑ったのは道化以外は久々だぞ、セイバー!」

 

 

セイバーが反論すればするほどアーチャーは笑い、ライダーの顔から笑みが消え、ルシファーの哀れむ顔がだんだん蔑みに変わり、ビギナーは相変わらず興味なさげに振る舞ってはいるが聞いてて呆れたのか大きな溜め息を吐いていた。

その態度に怒りが蓄積されたセイバーは怒りをぶつける。

 

 

「貴様らどうかしているぞ!?命を捧げた故国が滅んだのだぞ!……それを慎まなくて何がおかしい!?」

「『命を捧げた故国』、のう……」

「貴様らも王なら、身を呈してまで、己が国の繁栄を願うはずであろう!」

「いや、それは違うぞセイバーよ」

 

 

声をかけたライダーの顔は呆れ、悲しみ、そして若干の怒りが混じっていた。

 

 

「王が全てを捧げるのではなく。国が、民が、その命を国に捧げるのだ」

「それは暴君の治世ではないか!」

「然り、余は暴君が故に英雄だ。だがなセイバーよ……自らの治世を悔やむのはただの暗君だ。暴君よりもなおたちの悪い……」

「貴様とて世継ぎを葬られ、築き上げた国を三つに引き裂かれて終わったはずだ!その結末に……貴様は何の悔いもなかったというのか!?今一度やり直せたら、故国を救う道もあったと……そう思わないのか?」

「ないな。それが余の決断、余に従った臣下の生き様の果ての姿ならば滅びは必定。慎み、涙は流せど悔やむことはせん」

「しかし、それではーーー」

「まだ気付かんのか、セイバーよ」

「……何が?」

「ましてそれを覆すなど、そんな愚行は余とともに築いた全ての人間対する侮辱であるのだと!」

「ーーーッ!?」

 

 

らしくないライダーの怒りに一瞬怯むセイバー。

 

だが、彼女にも譲れないことがある。ライダーには悪いが肯定するわけにはいかない。

 

 

「滅びを華と称するのは武人だけだ!正しき統制、そして治世こそが、民の望むものであろう!」

「ならば貴様は己を正しさの奴隷と称すのか?」

「それでいい。理想に重んじてこそが王だ」

「それが王だと……?愚言も大概にしろセイバーッ!」

 

 

森中に広がる怒声により、付近の小動物や鳥は一斉に逃げ去って行く。

 

 

「その言葉は我ら王に対する侮辱!王とは、誰よりも豪笑し、誰よりも激怒し、清濁を含めてヒトの臨界を極めたる者。その姿に臣下は、民は見せられ、王に尽くすのだ」

「そんな治世にどんな正義があると言うのだ!?」

「いい加減にしなさいっ!」

 

 

突然上げた怒声により、言い合っていた2人が止まる。

 

 

「ビギナー……?」

「王道に正義?国に命を捧げる?全くもってくだらない!」

「何……?それはどういうーーー」

「黙りなさい」

 

 

負けじと食らいつくセイバーだが、ビギナーが一睨みするだけで怯んでしまった。

 

 

「王道に正義などは必要かもしれない」

「なら「ですが!」」

「その正義のせいで国を滅ぼしたのは誰ですか?」

「ーーーッ!」

「ええ、確かにあなたは民のためにその命を捧げることは素晴らしいことです、私には到底できないでしょう。ですが、あなたは民を救ったあと何かしましたか?」

「ッ!そ、それは……」

「確かに暴君はダメかもしれないせん。ですが、他の王は民をキチンと導いています。王に認められようと必死に頑張って努力して尽くしてきた。はたや、王とともに夢を叶えるために強くなろうと民は努力した。はたや魔界を統べようとと力でのし上がって王とともに戦うために民は努力してきた」

 

 

だが、それでは力のない弱者は見捨てられるではないか!とビギナーに問うと溜め息を吐いて続ける。

 

 

「確かにアーチャーは我儘過ぎ、ライダーは夢に夢中になりすぎ、ルシファーは……いえ、もうあの男に改心されているのでいいでしょう……の治世では弱者は見捨てられる。……弱者は救う、いいことです。だが、所詮はその程度」

「その程度、だと?」

「ええ、所詮はあなたの自己満足による正義ではないですか?」

「自己満足?」

「そう、ただ救うだけ救ってあとは放置……民はあなたのために強くなろうと考えたか?……いえ、違う。私ならこう考えますね、別に何もしなくとも何かあったら王が助けてくれるから大丈夫だろう、と。これが国民中に広まった結果、堕落していくのは明白。そしてその現状を知らないあなたは民を形だけの救いに満足する。……それは自己満足と言えずなんと言いますか?」

「それは……」

「確かにあなたの理想は素晴らしい。ですが所詮理想。理想ばかり見ていてあなたは現実を見てなかったのではないですか?これではただ人を救うだけの舞台装置。もはや人でも王ですらない」

「あなたに何が分かる!?」

 

 

セイバーはもはやまともな反論もできず、ただ怒りをぶつけることしかできなかった。

 

反論しようにも、自身の国が滅びた光景を思い出し、何も言えなかった。

 

その姿はまるで死刑執行に怯える受刑者のようだった。

 

 

「分かるわけないじゃないですか。私はあなたではないし、王になりたいとも思わない。私が言いたいのは、あなたの正しさは度が過ぎていることなのですよ」

「度が過ぎている……?」

「正義と悪の基準とはとても曖昧で分からない。いき過ぎた正義は悪となる、とかですね。……例えばそうですね……あなたのマスター、終永時を例にあげましょう」

「ーーーッ!」

 

 

一瞬反応を見せたセイバーを見ながらビギナーは語る。

 

 

「魔術師の皆さんはご存知の通り、彼は自らを悪と評しています。では、何故彼はそう評しているのでしょうか?」

「確かに坊主からそう聞いておるが……何故だ?」

「それはですねーーーッ!」

 

 

ビギナーの言葉を遮るように彼の頬を何かが掠めた。

掠めた物が飛んできたはずの方向を見て、大きな溜め息を吐いた。

 

 

「なんのつもりですか、永時?」

「おい、ノット……それ以上話すと流石に手を出さなくてはならねえが……構わねえなら話を続けろ」

 

 

拳銃をこちらに向けて威圧してくる永時に対して動じもせずに続けたいところだが、彼は自身の弱点を知っているので、続ければ面倒だと判断し、とりあえずやめることにした。

 

 

「すみませんセイバー、少し熱くなってしまいました」

「い、いえ……」

「それに……それどころではなくなったようですしね」

 

 

そういうビギナーが指差すのはーーーライダーのマスター。

 

 

「えっ?僕?」

「違いますよ、その後ろ」

 

 

ライダーのマスターが後ろを恐る恐る見ると……それはいた。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

そして、それの出現に他のサーヴァントやマスターも目を見開く。

 

 

「アサシンッ……!」

 

 

初日に倒されたはずのアサシンが再び現れたのに驚いたがそれよりその数にもっと驚いた。

 

ローブ姿の者、巨漢の男、中肉中背の若い男や女など、老若男女問わず、たくさんのアサシンがいた。

 

唯一の共通点といえば、同じ白い髑髏の仮面と全身黒ずくめということぐらいだ。

 

ライダーのマスターはライダーの方へ寄り、ビギナーとセイバーは己のマスターの近くによって守るように立って威圧する。

 

 

「何で死んだアサシンがこんなにいるのだよ!」

「つまり、余たちは最初から謀られてたというわけか?」

「時臣め……下種なことを……」

「奴もここまでかのう……」

「貴様ら全員アサシンなのか!?」

 

 

これがアサシン、ハサン・サッバーハの1人『百の貌のハサン』の実力である。

 

多重人格であるハサン故にできる宝具『妄想幻像(ザバーニーヤ)

 

人格を1人の個として生み出すため、“多数で個人”を主張できるのだ。

 

 

「どうするのだライダーよ……ライダー?」

「狼狽えるでない魔王よ。少々礼儀がなっておらんが、あれも客だぞ?」

「思いっきり殺気出しまくっとるがのう……」

「まあそういうでない。アサシンたちよ。そんなに殺気だたんと我らと共に語ろうではないか。この酒は貴様らの血と共にある」

 

 

ライダーはニッコリと笑って柄杓をアサシンに向けて掲げるが、アサシンは短剣を使って柄杓を斬り、酒を地面にぶちまけた。

 

ライダーはぶちまけられた酒を一瞬見やると立ち上がる。

 

そしてライダーを嘲笑い、各々が暗殺武器を構えた。

 

 

「ーーー余の言葉を聞き間違いわけではあるまいな。暗殺者どもよ?」

「……」

「余は言ったはずだぞ?この酒は“貴様らの血である”と。それをぶちまけたたいのならーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー是非もない」

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、ライダーを中心に暴風が吹き荒れる。

 

寒い季節のはずなのに熱せられるような熱い風を肌で感じた。

 

ルシファーは盾を使って風を防ぎ、ビギナーとセイバーはマスターを守るように立ち、アーチャーはその場で動かず風を正面から受けており、アスモは吹き飛ばされそうになるが飛ばされまいと永時にしがみついた。

 

永時がライダーを見るといつの間にか紅いマントの戦闘服に変わっており、暴風の中で堂々と立っていた。

 

 

「貴様らには!余が今ここで、真の王たる姿を見せてやらねばなるまいて!!」

 

 

そう宣言すると暴風とともにその場の全員が光に包まれる。

 

そして光が止むと、瞑っていた目を開けた一同はその顔を驚愕に染めた。

 

何故なら目の前に広がる光景が“中庭”ではなく、じりじりと肌を焼く灼熱の太陽のある、広大な砂漠のだったからだ。

 

そう、それはーーー

 

 

「固定結界、ねえ……」

 

 

本来それは魔術師が目標とするもののひとつで、魔法の領域に近い魔術である。

 

 

「あなた、魔術師でもないのにどうして……」

「確かに余は魔術師ではない……しかも、これは余一人でできるものではないのだ……」

 

 

ライダーの言葉に驚く自身のマスターやアイリスフィールにライダーは笑みを見せる。

 

 

「ここは我が軍勢が長きに渡り駆け抜けた大地。余と苦楽を共にした勇者たちが、等しく心に焼き付けた心象風景だ」

 

 

そう言った直後、全員の後方から足跡が聞こえてくる。

 

それも1つや2つは生温いといいたいように多くの足音が聞こえ、一同は振り向くと永時を含めた全員が驚きの表情を見せ、ライダーは両腕を大きく広げて高らかに叫んだ。

 

 

「見よ!我が無双の軍勢をッ!肉体が滅び、その勇猛なる魂が英霊となってなお、余の忠義を忘れることのない偉大なる伝説の勇者たち!」

 

 

軍勢は一定の距離を開けて歩みを止め、整列して王の言葉を待つ。

 

それを見たライダーは誇り高く叫びを、己の宝具の名を言う。

 

 

「彼らこそ我が軍勢にして永遠の朋友!彼らとの絆こそが我が至宝にして王道の具現!征服王イスカンダルが誇る最強宝具ーーー『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』なりッ!!」

『オオオオオオオォォォォォォォォッ!!』

 

 

ライダーの叫びに戦士たちは負けじと雄叫びを上げて、大地を大きく揺るがす。

 

その軍勢の中から、ライダーの巨体に劣らない大きな一頭の馬が彼のところへ歩み寄った。

 

ライダーの生前の愛馬として有名なブケファラスである。

 

 

「久しいな、相棒」

 

 

懐かしそうにブケファラスの頭を撫でた後、ブケファラスに自ら乗馬する。

 

乗ったあと、後ろで控える者たちに向けて高らかに叫ぶ。

 

 

「王とはッ!誰よりも鮮烈に生き、諸人を見せる姿を指す言葉!勇者たちの羨望を束ね、その道標として立つ者こそが、王!故に――!」

 

 

キュプリオトの剣を抜き、高く掲げる。

 

まるで道標を指すように。

 

 

「王は孤高にあらず。その志は、すべての臣民の志のたるが絆故にーーー!」

『然り!然り!然りッ!!』

 

 

ーーーこれが暴君?冗談じゃない。これはまるでーーー覇王じゃないか。

 

 

「それでは始めるか。暗殺者どもよ。我が戦場は広大な砂漠。故に物陰に隠れ、暗殺を得意とする貴様らには不利であろうが、先の行いからして、覚悟はできておるのだろう?」

 

 

暗殺者故に隠れて隙を伺って暗殺するのが基本スタイルだが、ここは遮蔽物のない広大な砂漠、正面からの戦闘が得意でない彼らにとって、数的に、戦力的にも詰んだも同然だった。

 

 

これから行われるのは、一方的な蹂躙劇。

 

無論、白熱のバトルなどは存在しない、一方的な暴力の嵐。

 

 

「蹂躙せよォォォォッ!!」

『オオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 

アサシンたちにとってその雄叫びは、地獄へ呼び寄せる死神の声に等しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーお客さん、この付近は始めてなんですか?」

「いいえ、数年前はこの付近に住んでいまして……一応私の祖国のようなものです」

 

 

冬木市でそんなことが起こってるとはいざ知らず、不気味なぐらい静かな夜の世界を走る一台のタクシー。

 

客にフレンドリーに話しかける三十代近くの男性運転手に対し、愛想よく答える十代の少女と見れば普通のタクシー内での会話である。

 

 

「へえ、てっきり観光客かと思ってましたよ?」

「確かに、よく言われますね……」

 

 

運転手の言うとおり、少女の容姿はとても日本人とは言えないような容姿であった。

 

 

「……では、今から向かうところはご実家ですか?」

「はい」

「そうですか……親御さんもさぞかし喜ぶでしょうね……」

 

 

そんな他愛ない会話を続けながら、タクシーは闇夜を進み続ける。

 

 






いかがでしたか?

さて、最後に出てきた少女は、一体誰の関係者でしょうか?

何故ビギナーはセイバーの王道を嫌うか。それは前話のクイズの答えと同じく、またいずれにということで。

次回で聖杯問答を終わらせるつもりです。

では、また次回。



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聖杯問答ーー終幕ーー



どうも、遠藤凍です。

今回は短めで色々と読みずらい点がありますのでご了承ください。

では、どうぞ。



 

 

ライダーの号令により、それは始まった。

 

戦略もない、ただ一方的な狩りが。

 

ライダーは軍勢を先導するように、尖兵のように砂漠を駆け、最も距離が近い女のアサシンの首を切り落とし、それに続くように軍勢は槍を投げ、剣・槍で次々とアサシンを斬り伏せる。

ライダー以外のサーヴァントはただその攻撃を見届けるぐらいしかせず、

 

 

「クッ……惜しいことをしたのう……」

 

 

情報源が失くなるのは分かってはいたが、手を出せないため、魔王は悔しそうにライダーを睨みつけるぐらいしかできなかった。

そしてその蹂躙を受けているアサシンはただその攻撃を受けるしかなかった。

 

圧倒的物量を目の前にして呆然とする者、現実から逃げるように軍勢から逃げる者、無駄だと分かっていてなお挑む者。

 

 

 

 

何をしようと関係なく、アサシンたちはその圧倒的数に飲まれ、10分もたたぬ内にそれは終わった。

 

 

 

 

敵が全滅したのを確認するとライダーは剣を上に掲げて勝利の叫びを上げる。

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

『オオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 

更に負けじと軍勢も雄叫びを上げる。

 

 

「これが……ライダーの宝具!?」

「す、すごい……」

「ほう、雑種にしては……」

 

 

その蹂躙の様子にその場の全員が驚愕と感嘆に浸る中、ルシファーだけは思いつめた表情で軍勢を見つめていた。

 

 

「……ルシファー?どうかしたか?」

「いやのう……妾も“あれ”と似たようなのを持っておるぞ?」

「えっ……?まさか……?」

「そのまさかじゃよ?」

 

 

またあれとやるのっ!?と内心シンクロをした永時とアスモ。そして、それを見透かしてニヤついているルシファーがそんなことをしている間にライダーは固定結界を解除し、元の中庭に戻っていた。

 

サーヴァントたちは特に何も思うことなく、酒飲みを再開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、物事にはいつも終わりは存在する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーッ!?そ、そろそろわ、私はかeらせていtaだきます……ね……」

「……時間か?」

「……えe」

 

 

ビギナーの宝具の限界が近づき、理性が失くなり始めたところで、聖杯問答はお開きとなった。

 

 

「今日はもう言いたいことを言い尽くしたし、ここらで終幕としようか」

「ッ!ライダー!私はまだーーー」

「貴様はもう黙っておけ」

 

 

そう語るライダーの視線には怒りはなく、寧ろ憐れみへと変わっていた。

そして、それに気づいたセイバーは言いかけた反論を辞める。

 

 

「セイバーよ。いい加減その痛ましき夢から目を覚ませ。さもなくば貴様は、英霊としての最低限の誇りを失うことになるぞ?」

「何だと?」

「貴様の夢見た王とは、貴様自身を苦しめ続けるだけの呪いでしかないのだ。……行くぞ、坊主」

「あっ……ああ」

「待てライーーー!」

 

 

セイバーの静止の声を聞き流し、ライダーはマスターと共に戦車で空を駆け、夜の闇へ消えていった。

 

 

「我もそろそろ去るとしよう。……そうだ、セイバーよ」

「何だ?」

「奴の言葉に耳を傾ける必要はないぞ?貴様は、貴様の信ずる道を進めばよい。その道の果てまで突き進んだ際の姿はどのようなものか……楽しみにしておるぞ?」

 

 

それと……と言って、ビギナーの方を見やる。

 

 

「……私、Deス……か?」

「そう、貴様だ」

「……ナにka洋……Deスか、金ピカ王?」

「英雄王だ。……やはり貴様も我直々に裁いてやらねばならぬと思っただけだ」

「……はァ?」

「……原点にて頂点に君臨する王?……冗談も大概にしておけよ?王は天上天下、我一人だ」

「……だkaラ、殺すト?」

「……無論だ」

「……Naルほど……まア、ココ以外の殺りアイを受けると言っタのは私ですしね……イツデモイラシテクダサイ」

「まあ、その無個性な面が恐怖に染まれば、さぞかし見物であろうなぁ?」

 

 

ではな、と不敵に笑いながら、アーチャーは霊体化して中庭から姿を消した。

 

これで残りはルシファーとビギナー陣とセイバー陣だけになった。

 

 

「……エイジ」

「……なんだ?」

「……どうしてあの女の味方をするのだ?」

「はぁ?」

 

 

ルシファーの言葉が理解できない永時にルシファーは溜め息を吐いて続ける。

 

 

「……いや、なんでもない。……ではな」

 

 

だが、結局言葉を飲み込み、背中から漆黒の翼を広げ、空を舞って夜の闇へと紛れていった。

 

そろそろ帰るか、と永時はアスモとセイバーに声をかけ、中庭に背を向ける。

 

 

「……そうだ、ビギナー。少しいいか?」

「……?」

「……お前、あの時どうして嘘をついたんだよ?」

 

 

ピタッと、帰ろうとしていたビギナーの動きが止まる。

 

 

「……どうイう琴……Deスか?」

「あれだけ頑張って“普通”になろうとした奴が、どうして今更聖杯なんかに頼るんだって聞いてんだよ」

「……気ガ変ワッタンデスヨーーー」

「“自力で”普通になることがお前の悲願なのにか?」

「……」

「無言は肯定とみなすが?」

「……ソウイウアナタノ願イハナンデスカ?」

 

 

逆に質問され、しばらく考え込んだ後、永時は答えた。

 

 

「……俺に願いなんてねえよ」

「嘘デスネ」

 

 

即座に否定され、若干困惑した永時を見て、ビギナーはニヤッと笑った。

 

 

「……聖杯戦争二選バレルマスターノ条件ハ、何カ願イヲ持ッテイル者ナノデスヨ?」

「……」

「ホラネ?私ト貴方ハ同ジナノデス」

「……分かった、これ以上深くは追求しない。……これでいいな?」

「分カレバ良イノデス」

 

 

デスガ、とビギナーはセイバーを今まで以上にキツく睨みつけながら言う。

 

 

「貴方ノ願イダケハ、絶対二阻止シテミセル」

「お前、どうしてそこまでしてセイバーを目の敵にするんだ……?」

「アア、ソレハデスネーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私ハ正義ヲ語リ、名乗ル者……ソウ、特二偽善者ガコノ世デ一番嫌イナノデス……殺シタイ程二ネ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前……」

「タダ……ソレダケノ事デス」

「ちょっと待てーーー」

 

 

永時の静止を聞き流し、ビギナーは光の粒子となって中庭を去って行った。

 

 

「……さて」

 

 

過ぎたことは仕方がない、と永時は気を取り直して、2人の方を見やる。

 

憤怒と哀愁の混じった表情のセイバーとそれをどうなだめようかとオロオロするアスモ。

 

 

「……まずは飯でも食わせるか」

 

 

とりあえず、セイバーを落ち着かせるところから始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、あの人の新しい拠点ですか……」

 

 

前回登場した謎の少女は今、トランクケースを掲げて、ある建物の前で佇んでいた。

 

 

「クンクン……ムッ!これは女の匂い……!?またあの人は……!」

 

 

……女の匂いって、実際に分かるのだろうか?

 

とにかく、少女はトランクケースから一丁の拳銃を取り出すと憤怒の表情を浮かべながら建物の中に入っていった。

 

 






いかがでしたか?


前々回のクイズの答え、つまり嘘つきは、永時とビギナーでした!


えっ?2人もいたのかって?……誰も1人だけとは言ってませんよ?あと、誰もサーヴァントだけとは言ってませんし……。

2人の願いは何なのかはまた今度ということで……。

では、また次回。



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一時の休息



どうも、遠藤凍です。

久しぶりの投稿ですみません。言い訳かもしれませんが少し所要で書くことが出来なかったんです。

では、どうぞ。




 

 

ーーーその丘に広がるのは、燃え盛る炎に包まれ、死体と武器に積まれた山だった。

 

現代ではプレミア価格が付きそうな西洋甲冑が赤黒い液体に染められている。

 

 

そしてその山の上で死闘を交える2人の騎士。

 

 

ひとりは白銀と紺碧のドレスのような鎧の姫騎士……セイバー本人。

 

もうひとりは重装の鎧に全身が包まれており、ノイズらしきものが掛かっているため、顔がよく分からない騎士。

 

だが、あの程度殺りあったあと、セイバーが槍を持って相手を突き刺した。

 

そして一瞬だけだが、相手の騎士の顔に掛かっていたノイズが取れてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーッ!」

 

 

そこで、永時は目を覚ました。

 

 

「……サーヴァントの……セイバー自身の過去か何かか?」

 

 

あくまで冷静に先程の映像について思考する。

 

だがそれだけでは何か分かるわけでもなくとりあえず心当たりがありそうなセイバーに聞いてみるか、と身体を起こそうとしてーーー起こせなかった。

 

どうやら両腕が何かに拘束されており、上半身すら起こせない。

 

 

「……おい」

「んん……ムニャムニャ……」

「……はぁ」

 

 

右腕は彼の相棒であるアスモが、彼のベットに入り込んで抱きついている。

 

まあ、これは甘えたがりなアスモがよくやることなのでまあいつものことだが、このままだと色々とマズイので……

 

 

「起きろ」

 

 

残っている足で蹴り飛ばしてベットから落とした。

 

 

「ふぎゅ!」

「さて、次は……?」

 

 

可愛らしい声を上げてベットから落ちたアスモを無視して左腕を拘束している原因を見ると……

 

 

「オイオイ……」

 

 

セイバーではなく、薄い褐色肌の少女が永時の腕に抱きついていた。

 

 

「……おーい、起きろ」

 

 

少女の頬をペチペチと叩いて、起こす試みをする。

なんか相棒の時とはえらい違いである。

 

 

「……起きろ」

 

 

だが、それも一瞬のこと。

 

なかなか起きず、寧ろ抱きつく力を強めた少女にイラッとし、アスモと同じくアスモと反対側へ蹴り飛ばした。

 

 

「ふぎゃ!」

 

 

いくらなんでも、美少女を蹴り飛ばすだろうか?と言いたい人もいるだろう。

 

 

美少女とのおいしいイベント?んなもん知るか。

 

 

残念ながら終永時という男である。

しかも、無自覚タラシではなく、現状を理解しているからなおのこと、達の悪い。

 

まあ本人にとって色恋沙汰は今のところ興味がないらしいが。

 

 

「うう〜、痛い……」

「起きたか?」

「えっと……エイジ?」

「お前……またか」

「えへへへ。だってぇ、その方が眠りやすいんだもん」

 

 

俺は抱き枕か、と心の中でツッコミをしたあと、自身の頬を叩いて眠気を飛ばす。

 

 

「はいはい……飯作るから手伝え」

「むぅ……分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セイバー」

「エイジ……ですか」

 

 

いつも通り扉の前で座って飯を待っているわけでもなく珍しく居間で身を縮めるように座り込んで、前に買ってやったぬいぐるみに顔を埋めてモフモフしていた。

 

ふむ……ライダーとノットに言われて堪えたか?

 

 

「今飯作ってやるから少し待ってろ」

「……はい」

 

 

とりあえず、飯でも食わしてやるか。

 

 

「えっと……フライパンは……」

「ーーー」

 

 

ん?今なんか聞こえなかったか?そんなことよりフライパンを……

 

 

「ししょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

扉が開くと同時に響く声、そして薄い褐色肌のガキが俺のところへダイブしてきて、

 

 

「フッ」

「ふぎゃ!」

 

 

フライパンで優しく顔から受け止めてやった。

 

ごぉぉぉん!と鈍い音が響き、ガキは地面を崩れ落ちる。

 

やばっ、つい反射的に……これが職業病か。たがいい音鳴ったな……。

 

 

「エイジ!何事ですか!?」

 

 

さすがは英霊、落ち込んでても切り替えが早いな……って、そんなことよりもだ。

 

 

「痛い……」

 

 

痛みで悶えているこの馬鹿をなんとかしないとな。

 

 

「何してんだ馬鹿弟子」

「ハッ!師匠が私を呼んでいる!?」

 

 

呼ばれたと分かった途端バッと無駄に1回転して立ち上がり頭を45度ピッタリになるように頭を下げる。

 

 

「お久しぶり振りです、師匠!」

「久しぶり振りだねえ、ムニエル」

「ニルマルです!」

「あれ?そうだっけ?」

 

 

……さて、セイバーがよく分からんと言いたそうな顔をしているので説明しよう。

 

彼女の名は終ニルマル、通称ニル。ニルマルはヒンドゥー語で“純粋”を意味する語らしい(諸説あり)。

 

短い群青色の髪、命の灯火の燃えるような輝きを見せる黒い瞳、薄い褐色肌の子供。

 

色々あって4年前辺りに拾った養子で、俺の弟子である。

 

 

「えっと、あれから1年たったが……今20歳か?」

「いえ、まだ14ですよ……」

「いやいやそれはねえだろ?」

 

 

今から約1年前に武者修行として海外旅行という名の遠征に出掛けさせたのだが、1年前のこいつは年相応以下の身長のはずだったが……今見たところ、170に届くか届かないかぐらいの背丈、そしてルシファーのを少し控えめにしたような胸、そして何より……

 

 

とても14歳の子供とは思えない気配を漂わせ、目つきも子供らしい純粋なものではなく、まるで悟りを開いたかのような達観した目をしていた。

 

 

「お前……何があった?」

「死徒と殺りあったり、執行者と殺りあったり……まあ色々ありましたよ、ええ」

 

 

一体何があったらこうなんだよ!?色々ってなんだよ!?

 

 

「と、とりあえず飯でも食うか?」

「ええ、その前に師匠ーーー」

 

 

ガチャと金属音らしきものが鳴りーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また女をタラしこめたのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか俺の後ろに回り込み、拳銃らしき硬いものを俺の後頭部に突きつけ、背筋も凍るぐらい低い声で言い放った。

女……多分セイバーのことを指しているのだろう。そう思いたい。昔はガキっぽくて可愛げがあったんだがな……。

 

 

「……腕、上げたな……」

「ありがとうございます。……では、O☆HA☆NA☆SHI☆しましょうか?」

「いや、これはな「O☆HA☆NA☆SHI☆しましょうか?」……OK」

 

 

時の流れって、人を変えてしまうんだな……。

 

弟子に引きずられながら俺はそう考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖杯戦争ですか……師匠がそんなものに参加するなんて珍しいですね」

 

 

あの後師事した覚えのない拷問スキルを習得していたニルによって尋問されかけたところをアスモの説得によって尋問は中止。食事がてらの話合いとなった。

 

 

「まあ色々あるのさ……」

「そうですか……で?」

「で、とは?」

「この人たちと師匠はどんな関係ですか?」

「あー……サーヴァントと付き合いの長い相棒」

 

 

永時の発言にガーン!と効果音を鳴らしたような雰囲気を出す2人と小さくガッツポーズをする弟子。

 

それを見て、永時はニヤリと笑う。

 

 

「残念ながら俺は色恋沙汰には興味ねえからな?」

「そうですか……もしかして枯れてます?」

「一応あるにはある」

「だったらーーー」

 

 

この状況……つまり、現在このラボに美女が“4人”もいるのにどうして手を出さないのかと聞きたかった。

 

だが、流石にこの人に限ってそれはないかと即座に否定し、言葉を飲み込んだ。さっき色恋沙汰には興味がないと言っていたし。

 

 

「安心しろ、同意してくれたら相手してやるぞ?」

「さりげなく心を読まないでください」

 

 

なんで心が読めるんですか?と冗談を言う永時に問うと、そりゃ師匠だからな、と答えニルはただ呆れるしかなかった。

 

この人超能力者じゃないか?と思ったが、超能力なんてないよねとまたもや即座に否定した。

 

 

「さあ?案外あるかもしれねえぞ?」

「……もう何も言いません」

「クカカ……すまん、少しセイバーと2人きりにしてくれないか?」

 

 

永時の顔の笑みが消え、いつになく真剣な様子から事の重大さを理解した2人は黙って部屋から出て行った。

 

そして、2人が出たのを確認すると永時は話を切り出した。

 

 

「セイバー……ちょっといいか?」

「……なんでしょうか?」

 

 

さて、どうやって慰めようか?

 

 






いかがでしたか?

今回やっと名前出しで登場したニルマルちゃん。

問:ニルマルちゃんは今回の聖杯戦争に登場したある人物の関係者なのですが。さて、誰の関係者でしょうか?って、すぐに分かると思いますが……。

また番外編でも書こうかな……?

では、また次回。



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酒語り



どうも、終永時です。

久々の投稿。

投稿すればするほど書くスタイルが変わってるような……気のせいか?

では、どうぞ。




 

 

「セイバー……酒でも飲まねえか?」

 

台所をガサゴソと漁り、1本の酒瓶を取り出した。

 

「酒、ですか?」

「ライダーが出したのとは違うやつだけどな」

「では、お言葉に甘えて……」

 

人数分のコップを取り出すとコップに酒を注ぎ、セイバーの目の前に置く。

 

 

「……エイジにはありますか?」

「ん?」

「やり直したい過去が……ありますか?」

「やり直したい過去、ねえ……そりゃあるよ?誰だって変えたい過去の1つや2つはあるだろうよ」

「なら「だからと言ってやり直すのとは話は別だ」……」

「だからと言って変えるのは間違えている」

 

 

その言葉を受けた途端、セイバーは自身の胸が酷く痛くなるのを感じた。

まるで鋭利な刃物で心をズタズタにされたような、そんな感じがした。

 

 

 

それ以上は言わないでくれ。

 

 

 

セイバーが最も恐れていたことが……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーとは、言わねえ」

「えっ……?」

 

 

……起きなかった。

 

予想外の言葉にセイバーは凍ったかのようにその動きを止め。そして永時はコップの酒をグイッと一飲みする。

 

 

「……前の俺もそんなことを考えていたからな。だから間違えているとは俺が言える立場じゃねえよ」

「『前の俺も』?では、エイジは……」

「そう、俺とお前は同じ穴の狢ってことだ」

「同じ穴の狢……」

「皮肉にも俺にも守りたかった者がいたのさ。まあお前と違って個人の救済だったがな」

「個人ですか……」

 

 

酒を飲んでいるせいなのか、饒舌になっている永時は普段語らない過去を語りだす。

 

 

「……こんな俺にもな、愛した女がいたんだぜ?」

「愛した、女……」

 

 

胸にチクリと刺さる謎の痛みに疑問を浮かべつつも話を聞くため即座に廃棄した。

そんなセイバーの複雑な心境を知らず、永時はコップに酒を注ぎながら続きを言う。

 

 

「……俺は昔、軍役をしていた頃があってな。その頃にある組織の一部隊の隊長をしていてな。そいつは同じ部隊の隊員。優しくてお茶目な奴だったよ。

 

始めは友達から始まったんだけど、恋仲になるにはそう時間はかからなかった。

あの時は楽しかった……毎日仲間とくだらねえことしたり、些細な事で喧嘩したり、仲間の恋愛を手伝ったり、酒を飲んでドンチャン騒ぎしたり……。

 

けどある日、そいつは突然俺の目の前で死んじまったよ。俺を庇って銃弾を受けたことによる大量出血が原因でな……。

……そいつが死んだ時は精神的にかなりやばかったんだが同じ部隊の奴らのおかげでどうにか立ち直って頑張ってきた。

 

……けどな、後ほど仲間も戦場で死んじまってな。正直生きる気力を失くしたよ。

 

そんなある日、俺の最後(フィナーレ)に相応しい舞台を見つけたんだ。

そいつは伝説の男と呼ばれた男でな。そいつに挑むためにわざわざ世界中を敵に回してまでして、そして……」

 

 

クカカ、と独特な笑い方をしながら酒をまた一口。話の句切れで酒を飲んでおり、今ではもうすっかりデキあがってしまっている。

 

 

「気づいたら魔界にいてな。……少し情報収集してたら魔王という存在がいたらしくかなり気になってな。少し顔を見てみようと行ってみたらアスモ……アスモデウスと出会った。

 

そこからだな、まあちょっと一癖あるアスモの部下に政治を任して俺たちは旅に出たんだ。……楽しかったよあの頃は。生きる目的を見つけたような気がして。

大食い馬鹿や走り屋、ダラけまくってる科学者とか色々あったよ……で、気づいたら魔王巡りは終わっていてな。また生きる目的を失った俺は魔界をフラフラと彷徨った……あの時はアスモには迷惑かけたよ。

 

んで、次にきたのが神殺し、エンド・コールの討伐依頼だ。

再び情熱に火がつくような感じがした俺はすぐ様参加を決意したよ。

その時にビギナーを含め、総勢四人もの精鋭が集まって共に戦った。……結果としては1回目は惨敗、2回目はノットによる一方的な蹂躙であっさりと幕を閉じたよ。

 

そして、また生きる意味を見失ってそろそろ死んでやろうかって考えてたんだけどな。どこからか聞きつけたんだろうな、ルシファーの側近の女に呪いを掛けられ、気絶させられ、気づいたらここにいてかれこれ20年ってとこだな……クカカ!我ながら少し喋りすぎたか?」

「その……呪いとは一体……?」

「その呪いはな……」

 

 

そして、また一口飲んで。

 

 

「……死ぬことができない呪いさ。まあいわば、不老不死さ」

「不老不死……ですか」

「元々俺は訳ありで不老の身だったから不老は別に良かったが、不死は結構堪えたな。……死は不老の俺にとって最後の希望みたいなものだったからな」

「不老……」

「……そういやお前も選定の剣を抜いて一時期不老になったんだっけか?」

「そこはエイジが知っている伝承通りです」

 

 

『アーサー王物語』において王位選定のために用意された、岩に刺さったカリバーンを抜いて王に選ばれたのがかのアーサー王であり、その後騎士道に背いた行いをした為にカリバーンは折れ、湖の貴婦人にもらったのが今彼女が使っている『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』である。(諸説あり)

 

 

「……なかなか過酷な人生送ってたんだよな、お前。……で、どうだった?俺の話を聞いて?」

「……正直に述べますとエイジは自身の命の価値を知りたいのではありませんか?」

「ほう、どうして?」

「前に一度あなたの手合わせした際、手合わせといえど英霊である私と互角に渡りあっていたほどの実力を備え、話を聞く限りでは自ら望んで強者に果敢に挑む。……まるで自分を殺してもらうために挑むかのような、そんな気がしたのです」

「……やっぱりそうだったか。薄々そう勘付いてはいたがセイバーに言われて確信したよ」

 

 

クカカ、と陽気に笑ってはいるがその笑いは自嘲ともいえるものだった。

そんな永時の姿をセイバーは直視することが出来なかった。

 

 

「そっか……俺はずっと、自分の死に場所を探していたのか……通りで……ようなこと、をす……るわ……けだ……」

「エイジ?」

 

 

見るとちゃぶ台につき伏せた状態でスヤスヤと寝息を立てて眠る永時がいた。

 

 

「……寝顔でも眺めておきましょうか」

 

 

とりあえず一旦寝顔を拝もうと顔を近づけたところで、

 

 

「セイバーちょっと来てくれない……って、何しているの!?」

「ッ!?アスモ!いえ、あの……これはですね……」

「もしかして、襲うつもり!?……だったら僕も混ぜてよ!」

「違います!……え?」

「あれでしょ![ピー]して、[ピロピロ]して、[自主規制]するんでしょ?ねえねえどうなの!?」

 

 

可愛らしい見た目と裏腹に次々と放たれる卑猥な言葉の数々。そしてそれを聖杯の知識で意味を知っていた(んなもん入れんなよ聖杯)セイバーは顔をだんだんと羞恥に染めていく。

 

流石は色欲を司る魔王……。

 

 

「アスモ!な、何か勘違いをーーー」

「えっ?まさか[バキューン]して、[ホニャララ]してーーー「黙りなさい変態魔王!」ふぎゃ!?」

 

 

いつの間にかそこにいて、卑猥なことを言い続ける変態魔王の首筋に手刀をトンッと叩き込み意識を奪ったニル。

 

 

「全く、下ネタになるとすぐに興奮すると聞いていましたがここまでとは(師匠の貞操をいただくのは私だけでいいのに)……あっ、セイバーさん。ちょっとこっちへ来てください」

 

 

言われるがまま、立ち上がってニルの側に歩み寄ると彼女の後ろからアリスがひょっこりと顔を出した。

 

 

「セイバー様、マスターがお呼びです」

「えっ?あなたのマスターはエイジなのでは?」

「いえ、もう一人のマスターです。……案内いたしますので、私についていてきてください」

 

 

そういえば製作者は2人いたなと思い出しながらアリスについて行く形で部屋を後にした。

 

さて、突然だがここで思い出してもらいたい。ここで残っているのは一体誰か?

 

 

「……誰もいませんね?」

 

 

そう、意識がない変態魔王。師の貞操を狙う肉食獣。そして酔って眠る自称悪だけである。

 

だからーーー

 

 

「今こそ!我が悲願が達成される時!」

「へえ、悲願ってなんだ?」

「無論、私の貞操を師匠に捧げるのでs……えっ?」

 

 

ーーーと言って、そうはさせないのが終永時なのである。

 

 

「へえ、少し会ってなかったが全然変わりなくて嬉しいよ、ニルマルちゃん?」

「あ、あの、師匠?いつから起きてらしたんですか?」

「お前がこの部屋に入った時から。……昔に言ったはずだよな?戦士たる者、いかなる時でも常に戦闘態勢に入っておくと……そう教えたはずだが?」

「いやいや、今は戦闘時ではありませんyーーーって、痛い痛い痛い!師匠の愛という名のアイアンクローが痛い!脳髄が出ちゃう!出ちゃうのぉ!」

「はいはいそうですかそうですか、大変だねぇ」

 

 

メキョと人体ではあり得ないような音を鳴らしながらしばらくアイアンクローをしているとあれだけギャーギャー騒いでいたニルが急に静まり返った。

 

 

「ん?落ちたか……」

 

 

意識が落ちたのを確認した永時はニルをそっと床に降ろしてやる。

 

全く酷い師匠である。

 

 

「仕方ねえだろ?こうでもしねえと隙あらば俺の貞操狙ってくるしよ。……どこで教育を間違えたかな」

 

 

地の文読むんじゃねえ……まあ頑張りたまえ。

 

 

「よくよく考えれば俺の周りにはまともな女がいねえ……」

 

 

……頑張れ永時君。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらでございます」

「……何もありませんが?」

 

 

アリスに案内された部屋はラボの最奥にある、倉庫らしき部屋でそこにはアリスのもう1人のマスターらしき人影は感じとれなかった。

 

 

「いえ、ここら辺を……」

 

 

アリスが壁に手を付けるとピーと機械音が鳴り響き、

 

 

『……アクセスを許可します。ようこそアリス様、セイバー様』

 

 

女性の合成音と共にアリスが手を付けていた壁の一部が横にスライド移動した。技術チート万歳である。

 

 

「隠し扉?それに何故私の名前が……?」

「たった今セイバー様の情報を登録しておきました。次回からはここら辺に手を付けるだけで通れます。ですが、奥に入るには登録者のみとなっておりますので覚えておいてください」

「はあ……」

 

 

もはや理解の範疇を超えたセイバーは曖昧な返事で応えながら扉の奥へと足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ〜?アリス以外に〜、誰かいる〜?お客さんかな〜?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隠し扉の奥にあったのは長い廊下だった。

人工の灯りが廊下を照らしているから分かるが、最奥がとても小さく見えるぐらい長い廊下であった。

 

無論、そこを徒歩で行くわけにはいかないとアリスが言い出し、

 

 

「どうですか、このTYPE・ユニコーンの性能は?」

「本物の馬と対して変わりません。これが人工の馬とは思えないほどです」

 

 

現在二人は、アリスのもう1人のマスターがいるらしい最奥の研究室に向かって馬を走らせている。

 

 

TYPE・ユニコーン。

 

アリスのもう1人のマスターが製作者。

なんとなくで作られ、現在この隠しラボの交通手段のひとつとなっている100%人工の機械じかけの馬である。

 

 

「しかし、流石はセイバー様。騎乗がお上手ですね?」

「まあ騎乗スキルがありますので……」

「……では、バイクの運転なども可能ですか?」

「バイクなら現代の馬だと思えばできると思いますよ?」

「そうですか……確か試作品の改造バイクが倉庫にありましたね……実験させてみましょうか」

「……何か仰いましたか?」

「いえ、何も。……止めてください」

 

 

アリスの指示通りに馬を止めて降りる。

 

そこは安眠中と書かれたプレートが扉の横にかけられている部屋だった。

 

 

「では、参りましょう」

「安眠中と書かれていますが?」

「あのボケマスター……失礼、我がマスターは“常時”寝ております故」

 

 

安眠中のプレートがかけられているのにも関わらず、アリスはズカズカと入って行く。

 

一瞬アリスの本音が聞こえた瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自動ドアが開くと共にセイバーの視界に入ったのはよく分からない機械の数々、そして床に散らばる資料の山々だった。

 

いかにも研究室といえるところと言えようその部屋の惨状にアリスは溜め息を吐く。

 

 

「あのボケマスター……また散らかして……」

 

 

後で片付けないといけませんね、と資料の山々で出来た隙間を歩いて奥へと進んでいくのをセイバーは後ろからついて行く。

 

 

「いました。一応あれが私の2人目のマスター(仮)です」

 

 

アリスが呆れた顔で指差す先には……

 

 

「zzz……」

 

 

そこには、机の上で布団を敷いて爆睡している女性が1人。

 

 

森をイメージするようなビリジアンの髪。

 

湖を連想させるようなサファイアの瞳。

 

まるで癒しをイメージし、ずっと側にいたくなるような錯覚に陥る。そんな彼女の名は……

 

 

 

「あれが私の第2マスター。怠惰を司る元魔王、ベルフェゴール様です」

 

 






いかがでしたか?

ニルマルちゃんが!ニルマルちゃんがおかしくなった!

別に変なキャラにするつもりはなかったんだが……何故だ?本当は師匠LOVEの可愛らしい猫みたいなキャラのつもりで書いてたのが……どうしてこうなった?

しかもこの小説の女性陣が変態・変人ばっか集まっている気が……まっ、いっか。その方が面白そうだし、書きやすいし。





こんな作者ですが、これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。


では、また次回。



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結論として彼には秘密が多すぎる。



問:次のうち、この話に登場予定のキャラを答えなさい。
また、その理由(作者の心情)を簡潔に述べよ。

①クーデレ

②ファザコン

③妄想系ドM

④ツンデレ


さあ、どれでしょうか?では、どうぞ。





 

 

「では、私は手筈通りに彼らを襲撃すれば良いのですね?」

 

 

同時刻、暗い空間で1人佇む青年は目の前の暗闇に話しかける。

 

 

「ーーー?」

「別に構いません。その覚悟はとっくの昔にできていますので……」

「ーーー」

「ええ、ですから“あの約束”は守っていただきますよ?」

「ーーー」

「なら良いのですが……では、そろそろ出撃準備に取り掛かりますので、私はこれで……」

 

 

青年が背を向けて去って行くのを暗闇はただ後ろからジッと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルフェゴール……怠惰の悪魔、ですか……」

 

 

いかにも怠惰らしく、机の上で布団を敷いて、ダラけきった表情で眠る美女を見てセイバーは納得する。

 

ベルフェゴールの伝承の1つとして、ベルフェゴールは自ら発明し、発明品を人間に譲渡することで堕落させるというものがあり、故に彼女が科学者であるのはすぐに理解できたのだが、

 

 

「……んんっ……zzz」

 

 

あまりの堕落っぷりにさすがのセイバーも警戒をあっさりと胡散させてしまった。

 

 

「ベルフェ様……ベルフェ様!セイバー様をお連れしましたよ!」

「んんっ……あと五分だけ……」

「ダメです!第一、呼んできてと仰ったのは誰ですか!?」

「ええ〜?もう、あと10分だけでいいから……」

「時間が増えてますよ……そんなことはいいので、早く起きてくださいよ!」

「あと10光年だけ……」

「それは時間の単位ではありません!」

 

 

こうなったら……、とアリスは近くの壁に付いていた青いボタンを押す。

 

するとジリリリリリ!!とけたたましい騒音が響くとともに壁や天井から数十個の目覚まし時計が出現した。

 

 

「ん〜!うるさ〜い!」

 

 

騒音に負けないぐらいのベルフェの叫びとともに影のように真っ黒な彼女が何人も現れ、目覚まし時計を止め始める。

だが、さすがに数十個の目覚まし時計のせいで起きたのか布団の中でモゾモゾしつつも上半身をゆっくりと起こした。

 

 

「んっ……ふあああ……よく寝た〜」

「ベルフェ様、お客様がお見えになられてます」

「んっ?……ああ〜!始めまして〜、私の名前は〜ベルフェゴール、ベルフェって呼んでね〜!」

「では、私はセイバーと……」

「真名はアーサー王、だよね?」

「えっ、ええ……」

 

 

真名を言われたことで驚いたがアリスが言ったんだろうなと自己解釈で済ました。

 

 

「ところで、私に用とは一体……?」

「ん〜とね〜、一回英霊って存在とお話ししたかったんだよね〜」

「嘘を言わないでくださいボケマスター。つい先日までサーヴァントのサンプルが欲しいって仰っていたではないですか……」

「あっ、そうだったね〜!ちょっとそこに座って〜」

「大丈夫です、戦闘に響くようなことは致しませんので……」

「そうですか……」

 

 

2人に促されるままに近くの椅子に座らされるセイバー。

 

威風堂々としているが若干固くなっているのに気づいたベルフェはニッコリと微笑んだ。

 

 

「大丈夫だよ〜。ほんの少しで終わるから〜」

「ベルフェ様、早くしないとマスターに怒られますよ?」

「うっ……永くんは怒ると怖いからね〜。じゃあ、始めよう〜!……解析開始(アナライズ)

 

 

サファイアの瞳が更に碧く光るとともにセイバーの足元に同色に光る魔法陣が出現する。そしてそれはゆっくりと上がり、セイバーの頭のてっぺんで下がり、足元のところでまた上がりとそれを何回か繰り返した後。魔法陣が消え、セイバーの目の前には満足顔のベルフェがいた。

 

 

「おお〜!これがサーヴァントという存在なのか〜!」

「データを移しておきますね?」

「おお〜!流石は私の作った優秀な助手だね〜!」

「私はそのために作られた訳ではありませんよ……」

「では、私はこれで……」

「あっ、セイバーちゃん〜ちょっとお話ししない〜?」

「しかし……」

「永くんなら酒に酔って寝てるし〜、いいんじゃない〜?」

 

 

確かに……とセイバーは酔って眠ってしまった永時を思い出しそれならいっかと思い、中途半端に上げていた腰を下ろし席に再度座った。

 

 

「……で、永くんは何て言ってたの〜?」

 

 

永時自身の過去、永時がここに来て20年も生きていること、そして彼に恋人がいたこと。セイバーは先程されたばかりの話をした。

するとベルフェはう〜ん……と考える仕草をしたのち、あれ?と首を傾げた。

 

 

「永くんは“前回の聖杯戦争”に参加していたはずだよ〜?」

「前回の聖杯戦争!?そんなことは一言も……」

「永くんはアサシンのマスターとして〜参加したはずだよ〜?」

 

 

衝撃の事実に唖然となるセイバー。

それもそのはず、聖杯戦争は60年に1度行われるもの。つまり、永時は少なくとも60は軽く生きているということになる。

 

60代なのに見た目や体つきは20代のまま。どうやら不老というのは本当らしい。

 

 

「ですが……どうして嘘なんかを……?」

「さあ?酔っていたから仕方ないんじゃない〜?永くんは酔ってる時はよく話すし〜記憶が混濁する時がたまにあるしね〜。酔いが覚めた時に聞いてみたら〜?」

 

 

では、そうさせていただきます。とセイバーは椅子から立ち上がり、

 

 

「あっ、ちょっと待って〜」

 

 

いざ去ろうと後ろを向いたところで後ろからベルフェに静止の言葉をかけられた。

 

 

「まだ何か……?」

「んっとね〜……アリス〜、あれ持ってきて〜!」

「あれですね。えっと……」

 

 

アリスは資料の山々をガサガサと粗探しを始め、1つの用紙の束を取り出した。

 

 

「これでしょうか?」

「そうそうこれこれ〜!はい!これを永くんに渡しておいて〜。あと、永くんによろしく伝えておいてね〜!」

「分かりました。お伝えしておきますね?」

 

 

そう言ってセイバーが退出して行ったのを見たベルフェは。

 

 

「さてと……うんしょ」

 

 

いそいそと布団の中へ戻っていき眠ろうと目を瞑り、

 

 

「ーーー何しているのですかボケマスター。まだ仕事は終わっておりませんよ?」

「だって〜、今日は英霊とお話しできて〜いい気分だから〜」

「だから寝ると?……ほう?」

「はわっ!?」

 

 

元魔王といえどそれなりの実力があるはずだが、そんな元魔王がビビるほどの怒りのオーラを放出するアリス。

 

 

「えっ……?ア、アリス?」

「いつもいつもいつも!ことあれば惰眠ばかり……いい加減……」

 

 

ガチャガチャ!とアリスの腕や背中からガトリングやら刀やらキャノン砲やらミサイル砲などの殺戮兵器が出てきて、無論切っ先は全て作り主であるベルフェの方へ。

 

 

「仕事しなさーい!!」

「えっ?ちょっと待っーーーにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

この日、研究室の一部が爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルフェの霊圧が……消えた?」

「エイジ、何を仰っているのですか?」

「いや別に……帰ってきたのか」

「ええ……酔いが覚めたのですね」

「ああ、酔いが覚めるのは早い方だからな……職業柄ってやつだ。……そうだ、さっきの話の件だが……」

「年齢が間違えていたことについてですか?」

「えっ?ベルフェから聞いていたのか?」

「はい……それにエイジが前回の聖杯戦争に参加したと聞きました」

「そっか……悪いな。前回のことをバラしたくなかったんだよ」

「そうですか。あの……良ければ聞かせていただけませんか?前回の聖杯戦争について……」

「クカカ……いいぜ?酔ってねえからさっきみたいに間違えはしねえ……とは思うぜ?」

「とは思うぜって……不安要素がありますが?」

「まあそう言うなって……さてさて、まずは前回の聖杯戦争に参加した過程から話そうか。

 

そもそも俺が参加した理由としては当時お得意様だったエーデルフェルトからの依頼でな。今は衰退こそしているが当時はまだ有名な貴族の家系の1つでな、俺はその家からの参加者であるエーデルフェルト姉妹っていう本当に姉妹か?って思うほど仲が悪い姉妹の協力者として参加することになったんだよ。

 

依頼内容は簡単に言うとマスター殺し、だな。

 

あの姉妹はとても面白い発想をしてな。姉妹ということを利用して善と悪両方の詠唱を唱えて召喚を行ってあら不思議。善と悪両方の属性を備えたサーヴァントが召喚されたのさ。いやぁ、あの時はかなり驚いたよ。

 

で、実際聖杯戦争が始まって俺が最初に行ったのはアサシンのマスターの闇討ちだ。アサシンは俺がマスター殺しをする上で最も邪魔な存在だったからな……。マスターが人形師だったかなんだか知らんが、クソ弱かったからあっさり始末できたよ。

 

んで、あっさり始末できたのはいいがな……アサシンが残ってたからそのマスターから令呪を奪い取り、あの姉妹のサポートとして情報収集と裏工作が出来そうなアサシンのマスターになったのさ。

 

だけど俺が姉妹の所に戻っていた頃。なんとあの姉妹は仲間割れを始めててな。まああの二人は血が繋がってるか怪しいぐらい仲が悪かったからいつかは起こると考えてはいたがな……。まさか序盤でやるとは思わなかったよ……。

 

結局、俺が戻ってきた頃には妹ちゃんは死んでいて、姉(あね)ちゃんの方は辛うじて生きていてな。治療してやった後彼女は速攻祖国へ帰って行ってしまったよ。そこでエーデルフェルトは序盤であっさり敗退。

 

仕方なく残った俺はエーデルフェルトに報告。その後興味半分でアサシンのマスターとして参加することにしたのさ……まあ、最後にあんなもん出てくるとは考えてもなかったが……」

「あんなもん?それは一体……」

「……残念だがそれは言えん。悪いな、いつかは話すから」

「そうですか……」

「ところで、ベルフェに何て言われたんだ?」

「その件なのですが、実はベルフェから永時にこれを渡して欲しいと……」

 

 

セイバーは先程ベルフェから渡された用紙の束を手渡す。

 

永時は受け取ってすぐにペラペラとめくり、あるページでその手を止め、笑みを浮かべた。

 

 

「……ほう、なるほどね。……こいつは面白え」

 

 

だがその笑みはとても主人公とは言い難い悪役染みた笑みだった。

 

 

 

 

ーーーサーヴァントの真名調査による報告書。

 

以下の内容は今回の聖杯戦争のサーヴァントについて記載する。

 

 

 

『遠坂時臣・アーチャー真名→古代ウルクの王ギルガメッシュ』

 

『間桐雁夜・バーサーカー真名→湖の騎士ランスロット』

 

 

 

なお、付近に魔王らしき反応を5つ確認。

 

詳しい詳細は次ページにて記載。

 

 

 

「5つ、だと?」

 

 

数の多さに疑問を抱きつつもページを進めるとその疑問はすぐに消えた。

 

 

「内2つの反応はここだからアスモとベルフェ。内一つは間桐邸だからルシファー。内1つは……新都の方じゃねえか。確かオフィス街だったよな……まさかあいつか?……で、最後の1つは……冬木中を移動して回っている?これについての詳細は次ページに……ヒント?」

 

 

次のページをめくり、目を疑うような内容に永時の表情は驚愕に満ちていた。

 

 

「何々……えっ?あ、あの子が帰ってきたのか?マズイぞ……ひっじょぉぉぉぉぉぉに、マズイ!」

 

 

持っていた書類を床に放り投げ、非常に慌てた様子で部屋の片付けを始める永時。

 

 

「何が書かれていたのですか……?」

「何がもクソもねぇよ!お前も片付け手伝ってくれ!」

 

 

あたふたしながら片付ける永時を横目で見つつ、何が彼をそうしたのか気になったセイバーはさっき永時が放り投げた書類を拾い上げて目を通す。

 

 

「『ヒント!永くんと私がよ〜く知っているあの子だよ〜!あっ、私が連絡しておいたから〜、時期にコッチに来るはずだよ〜!』……誰なのでしょうか?」

「誰って!?そんなのーーー」

 

 

そこでピンポーンとインターホンの音が鳴り響く。てか、インターホンあったんだ……。

 

と、同時に扉が開き、

 

 

「おとうさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

見覚えのある光景と共にニルとはまた別の美少女が永時にダイブしーーー

 

 

「遅い」

「うぎゃ!」

 

 

美少女と永時が触れそうな距離に達しかけた瞬間、永時の姿が一瞬で消え、美少女はそのまま重力に従って落ちて行った。

 

 

「お父様!?娘がいたのですか!?」

 

 

そんな美少女はほっといていつの間にか横にいた永時の胸ぐらを掴んで揺さぶってどうなんだコラ?と言いたそうな表情を見せて真実を問いただす。

 

 

「あぁ……いやな、これにはマリアナ海溝より深〜い訳があるわけでな……揺らすなセイバー、よっ、酔っちまうか、ら……!」

「お父様!」

 

 

胸ぐらを掴むセイバーの腕を払うとそのタイミングを見計らっていたのか今度は永時の娘?が抱きついて永時の胸に顔をうずめて形で引っ付く。

 

 

「……とにかく紹介するよ。ほら、自己紹介しな」

「はい!初めまして!ネルフェ・B・終です!」

「そうですか……ん?ミドルネームのBはまさか……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?ミドルネームのBはベルフェゴールのBですけど……」

 

 

 

 

 

 

ここに爆弾が1つ、投下されたのであった。

 

 






答:②
模範解答:staynightのイリヤちゃん見てたら無性に書きたくなったから。


……言っておきますが、ネルフェちゃんは普通の子ではないので悪しからず。

では、また次回。



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強欲なお嬢様



どうも、遠藤凍です。

今回は……タイトル通りになっている、かな?




では、どうぞ。




 

 

 

「ーーーと、いうわけだ」

「なるほど……つまり、魔王を倒したエイジを危険視した一部の者たちによって、エイジを始末するために作られたホムンクルスが彼女だと……」

「まあそういうことだ」

 

 

ネルフェの訳ありの部分を説明し終わるとセイバーは少し思いつめたような表情でニルとアスモと遊んでいるネルフェを見つめていた。

 

もう少し細かく説明すると魔王を倒した永時を危険視したベルフェの部下が独断で永時を始末するために色々と手を尽くし、焦って強硬手段に出た結果生み出されたホムンクルスがネルフェであり、永時と他の魔王のDNAをついでいる。と、以前ベルフェがその部下に尋問した際に回収した報告書に書いてあった。

 

突然だがネルフェは永時のDNAを持った人工体、つまりホムンクルスに近い存在であるというのは今の説明で理解したはずだ。

 

ではここで思い出してもらいたいのがセイバー……アーサー王物語のホムンクルスといえば?……そこで出てくるのがかの有名な叛逆の騎士モードレッドである。

彼女の息子?はアーサー王の姉モルガンが王を陥れるために魔術によって生み出されたという出生があり、ネルフェと境遇が似ているのである。

 

故にセイバーがネルフェを見る視線に違和感があるのをすぐに察したわけで……。

 

 

「次にお前が言いたいことを当ててやろう……どうしてこの子を娘として認めたのですか?ってとこか?」

「ッ!?ええっ、そうです」

 

 

ーーー境遇はほぼ同じ、故に気になるってとこか?

 

 

「ネルフェ、悪いが席を外してくれないか?ニル、アスモも」

「お父様?」

「悪いな。今からセイバーと大事な話をするから……な?」

「……はい」

 

 

少し寂しそうな表情を見せた娘に永時は少し胸が痛む思いがし、とりあえず頭を撫でてやるとネルフェの顔に笑顔に戻り、最終的に彼女は永時にニッコリと無垢な笑みを向け、部屋から立ち去って行った。

ニルとアスモは真剣な表情から話の重要さを感じとり、ネルフェに続いて部屋を出ていく。

 

2人が出ていくのを無言で見送ったセイバーはふと思った。

 

ーーー誰だ、あれは?と。

 

少ししか付き合いがないが、あんな優しい雰囲気を永時は見たことないため、困惑を隠せないでいたのであった。

そして三人が出たのを確認すると永時は口を開いた。

 

 

「愚問だな。……そんなの決まってるだろう?ーーーあの子が親に愛を求めてるんだ、それに応えるのが親というものだと俺は思うよ。例え、俺が知らぬ間に生まれた子であろうが、なかろうが。血が繋がってようが繋がってなかろうが、な?」

 

 

愛する者を失い、愛を求める気持ちをよく理解している永時だからこその答え。

 

 

「この子の母親が誰であれ関係ねえ。この子を愛するのが悪となるなら、俺が喜んでその悪を背負ってやるまでだ。悪の狂信者だけにな?例え、あの子が俺を殺したいほど憎んでいてもな。まああの子は優しいからそんなことはねえとは思うがな」

「……」

 

 

故に彼は今も、そしてこれからも互いに愛を与え、与えられるように選択したのだ。

 

誰よりも愛を失う怖さを知っているから。

 

 

「お前が何を思ってるかは知らんが少なくとも俺は、愛を求める幼子を突き離すようなことをしてはならねえとは思うわけだが……お前さんはどうした?」

「私は……」

「……俺が思うに、セイバーは聖杯にかける願いを間違えてんじゃねえか?」

「……どういうことでしょうか?」

 

 

勘に触ったのか、怒気が含まれた声色で永時に向けて言葉を放つ。

 

 

「別にお前の願いがおかしいとかどうこうじゃなくて、聖杯にかける願いを履き違えてんじゃねえのか?」

「履き違い?」

「お前の場合は……そうだな、祖国の滅びの運命を変える、だっけ?その前にお前はやるべきことがあると思うが?」

「やるべきこと?」

「“話をすること”さ」

「……は?」

 

 

意味が分からない、と言いたそうな顔でセイバーは永時を見つめ直す。

 

 

「お前が救おうと必死だったお前の国の民、そして円卓の騎士に話をすべきだと俺は思うのだが……どうだ?」

「いえ、意味が全く理解できないのですが……」

「えっとな……お前言ってたよな?王とは国に、民にその命を捧げると。そう言ったよな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、祖国の運命を個人の都合、独断で変えるのは暴君と変わらんのでは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーッ!?」

「……そもそも国を、民を愛したお前がなんでそんなことまでする必要があるんだよ?」

「……王ならば、民や国の繁栄と平和を望むのが当たり前では?」

「なるほどね……じゃあ、ブリテンの民と円卓の騎士はそうすることを望んだのか?彼らの意見を聞いたうえでの判断なのか?」

「それは……」

「円卓の騎士は王と対等である存在なんだろ?だったらまずそいつらの意見を聞いてから決めるべきでは?独断と偏見でそんなのは決めてはいかんよ……そんなのはただの理想の押し付け、暴君と大して変わらん、と俺は思うが?」

「……あなたに……あなたに何が分かるっ!?」

「分かるさ。俺とお前は同じ穴の狢なんだから」

「あっ……」

 

 

そう、永時は前に言っていたはずではないか。

 

前にそんなことを考えていた、故に何とも言わないと。

 

なら気持ちが分かるはずなのに何故止めようとするのか?そんなのは簡単なことである。

 

 

「まさか……エイジは……」

「そっ、お前が今言ったようなことをやったんだよ。訳あって過去に戻ってやり直しをした。でも、結果は全部失敗したよ。何度も何度も何度もやったのにな。けど結局救えなかった。寧ろ前よりひどい目にあって終わった方が多かったよ。

……分かるか?毎回同じことを繰り返し、分岐点から先は雲を掴むような感覚でやるのを、毎回だぞ……?分かるか?毎回同じことを繰り返して精神が磨耗していく自分が周りにバレないように演技し耐える苦しみを……分かるか?救いたかった人が、前よりひどい目にあって死んでいく姿を見て耐える気持ちが……お前には分かるか?」

 

 

セイバーは驚愕した。あの永時がここまで感情を表に出しており、そして何より、彼の顔が苦痛の表情に満ちていたから。

今にも壊れそうなボロボロの心を表したように苦痛を見せる顔にセイバーは何も言えず、ただ俯くしかできなかった。

 

永時は訳ありの不老の身故に何百年も生きていきそれに伴って成長した精神。

それはどんな状況でも崩れ落ちることがないはずだったもの。

だが、運命を前にそれはあっさりとボロボロと崩れ落ちていった。

 

そんな彼が一度壊れかけてしまったのだ。彼より短き生涯を生き、騎士道・王道という鍍で塗り固めただけの脆そうな心を持つただのか弱い小娘に耐えられるだろうか?

無論、無理だと言い切れるのではないだろうか?

 

 

「……けど、ある男の助言でな。彼女の意見を聞いてみたらどうだと言われてな。試しにやってみたら驚いたよ。ーーーそんなことは望んでなかったってな。無論、気を遣ってんじゃねえかって思ってたけどそんな疑いはすぐに消えたよ。だってよ……長い付き合い故に、あいつは本心でそう言ってるって分かっちまうんだよな……。

その時思ったんだよ、……俺は今まで何をそんなにムキになってたんだ、こいつ自身の運命に他人である俺が関わって何になる?ってな。そうしたらなんか憑き物がとれたみたいにスッキリしてな」

 

 

セイバーは立場が少し違えど昔の永時とよく似ている。

 

読者がよく知っている紅茶さんが過去の自分を見極め、最後は希望を託して自ら犠牲になってように、永時は彼女の願いを聞いた時に確信し、それ故に彼女を止めるとは言わずせめて自分という失敗例を上げて、忠告し見極めるために話の場を設けたのだ。

自分のようになって欲しくないために、自ら悪役となって。

それが彼という悪、彼なりの優しさなのである。

 

 

「やめろ、とは言わない。とりあえず他の皆と話をしてみろ。それでもやるというなら……俺は止めんよ。ただし、正義とか王としての義務とかそんな建前で過去を変えるというなら……その時は俺はお前を敵と認め全力を持ってお前を殺す。それだけは覚えておいてくれ」

「……」

「今すぐ答えを出せとは言わねえ。お前にはお前の考えがあるだろうしな……まだサーヴァントは全員残ってんだ、じっくり考えて答えを出したらいいさ」

 

 

そこでタイミングを見計らったように携帯の着信音が鳴り響く。

しかし、その番号は永時の心当たりがなかったものだった。

 

 

「誰だ?……はいもしもし?」

『すみません、終永時様のお電話でしょうか?』

「そうですが……」

『……お久しぶりです、永時様(あぁ、永時様。あなた様のお声を聞くだけでわたくしはもう果てそうですわ!……また下着を変えなくてはいけませんわね)』

「……で、なんで俺の番号知ってんだ……マモン」

『そんなの……永時様とわたくしの愛の前では些細のことですわ!(それは……秘密ですわ)』

「本音と建前が逆だぞ……」

 

 

強欲の魔王、マモン。

 

強欲だが、やることは出来るしっかり者のお嬢様。

だがそれはあくまで過去の姿で、永時にボコられた際に永時にイジメられるのを妄想で楽しむ妄想系ドMになった……のだが、最近無意識で曝け出してきているのでそろそろ妄想系が取れそうなただの変態である。

色欲さん経由の情報によると最近『永時様教団』なるものを創設。現在教徒は千を超え、自ら教祖として終永時の素晴らしさを教徒に語り尽くしているぐらい彼に夢中(悪く言えば狂信)である。

無論それを聞いて「よし、潰すか」といい笑顔で言いながら重火器持参で魔界へ赴いた者がいたのは言うまでもないことだろう。

 

 

『あら、失礼……ところで、わたくしに会いたいとお聞きいたしましたが……(できればわたくしを縛ってから罵詈雑言と鞭打ちのご褒美を……!ジュルリ。……あら?よだれが……)』

「ああ、そうなんだが……どうせベルフェの奴から聞いた……いや、お前の場合は勘で探り寄せたってところか?」

『その通りですわ。……ご要件は永時様がわたくしに協力を求めていると、そう捉えてよろしいですか?(流石は永時様!わたくしの考えは全てお見通しということ……まるで永時様に全て支配されている気がしてこれはこれで素晴らしいですわ!)』

「まあその通りな訳だが……悪いが協力してくれないか?」

『もちろん、永時様のためならば喜んでご協力させていただきますわ』

「なら良かった。それならどこかで落ち合いたいのだが……今どこにいる?」

『今はオフィス街のあるビル一つを丸々買い占めて、のんびりと過ごさせていただいてますが……(できれば激しく出来るように防音設備が整ったところが……えっ?外でする?そっ、そんな!いけませんわ永時様!そんなところで、服を剥いでロープで縛るなど……!)』

「……おいマモン、聞いてるのか?」

『……失礼、少し考え事を(またわたくしったら、要らぬ妄想を……永時様に限ってそんなことは……いや?永時様はSの気があるとアスモデウスが仰ってましたわね……)』

「お前な……まあいい。とにかく、今からそっちにーーー何?……ほう!」

『永時様?(まさかのここで放置プレイ!?流石は永時様!わたくしの予想を超えるような仕打ち(ご褒美)を下さるとは!』

 

 

多少の沈黙をこうプラスに捉えるとは……流石は変態である。しかも他のと比べて群を抜いている。

 

 

「さっき連絡があってな……川の方で膨大な魔力反応が検知されたようだ」

『未遠川ですか……確かに、ここからでも大きな魔力を感られますわ』

「と、いうわけでだ。急遽そっちへ行かなくてはならなくなったから……」

『ご心配なく、もう準備は整えておりますので』

「……悪いな」

 

 

こうして、話数は多けど実際には短かった一時の休息が終わりを告げたのであった。

 

 





いかがでしたか?



今回出たマモンは今までのキャラの中で1番濃いキャラのような気がするが……ちょっとやりすぎたか?うん、きっと気のせいだな!きっと……多分……メイビー。

で、では、また次回で!



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怪物退治は英雄の仕事



いよいよ始まった怪物退治。
さて、永時はどの様に動くでしょうか?

では、どうぞお楽しみ下さい。




 

 

とりあえず今もなお増大し続ける魔力の反応の方角へ向かって改造した試作型バイクを走らせたのだが……

 

 

「なあセイバー……今夜はたこ焼きにしねえか?」

「お断りします。……流石にあれを見て食べる気にはなれませんので」

「あ、やっぱりダメか」

 

 

川についた彼らを待っていたのは巨大なタコのような何かだった。

しかも周りにはランサーやライダーが必死こいて討伐しようと奮闘している。

 

 

「どうしましょうか?……エイジ?」

「あ、ああっ……とりあえずあいつらに加勢してやれ。宝具は使うなよ?」

「了解しました。して、エイジは何を?」

「ちょっと知り合いの所へ、な?なぁに、怪物を退治するのは決まって英雄のお仕事だろ?まあ頑張ってくれ」

 

 

そう言ってエイジは再びバイクを動かし何処かへ走り去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのギョロ目、なかなか面倒なものを呼び出しおったのう」

 

 

一方とあるビルの屋上でルシファー・バーサーカー陣営である柵に腰掛けるルシファーと柵に手をつけている間桐雁夜は英雄たちによるタコ狩りを傍観していた。

 

 

「面倒なもの?」

「うむ……ありゃ、邪神に近い類じゃな」

「じゃ、邪神!?」

「まあ紛い物じゃがな」

 

 

ルシファーのフェイントの入った言い方に雁夜はズッコケ、さっきの驚きで減った寿命を返せよ!と内心ツッコむ。

流石に今のを発言すると後で何をされるか分からないので内心だけに留めておいた。

 

 

「まあ再生力が高いただ図体がデカいタコじゃと思えばよい」

「でも……大丈夫なのか?」

 

 

余裕そうなルシファーに対し、高すぎる再生力に苦戦している英雄たちに雁夜は不安を孕ましていた。

 

 

「お主が言いたいことも分かる。今は川に留めておるから魔力量の問題で傷をつけられておるから良いが、街の方へ行けば……」

「魂喰いをして、魔力量が増える……」

「そう、つまりあれの再生力は格段に上がり……傷すらつくと同時に再生するようになり、実質上あれを始末するレベルが格段に上がりおるな」

「だったらそんな呑気なこと言ってないでお前も参加しろよ!?」

 

 

冬木市の危機に対し呑気なことを言っている魔王に雁夜は怒りの形相で詰め寄る。

 

だが、肝心の本人は川の方をジッと眺めていた。

 

 

「……いや、大丈夫じゃろう」

「……えらく自信があり気だな」

「何、あの男がおるからな……」

「終永時か?」

「左様。彼奴ならあの程度なんとかするじゃろう?それよりーーー」

 

 

言葉を区切り、腰掛けていた柵から降りて首を上空を向ける。

雁夜も釣られて見るとそこには上空に浮かぶ黄金の船に乗っている黄金の青年とあごヒゲが特徴の男。

 

 

「遠坂……時臣!」

「ほう、やはり諸悪の根源であるか……」

 

 

雁夜の恨みの相手を見定めるようにジッと見つめていたが、興味を失くしたのか他の方へ目線を向け始めた。

 

彼女の視線の先にあるのは、海魔討伐に来たらしき2機の戦闘機。

 

ふむ、と戦闘機と黄金の船を品定めをするように視線を何回か移した後、思い浮かんだ案を話し始める。

 

 

「……あれ墜とすか」

「……は?」

「バーサーカー、あの戦闘機を自身の宝具で奪って、アーチャーの船を墜とせ」

 

 

ルシファーがそう言った直後、2人の真横で実体化したバーサーカーが柵を力いっぱい蹴り飛ばして空を跳び、戦闘機へと向かって行った。

 

 

「……えっ?」

 

 

雁夜が唖然とする間にもバーサーカーは戦闘機を1機叩き落とし、もう1機を自身の宝具にしてアーチャーの船へ突撃して行った。

 

 

「……うむ」

「いやいや、なんでワザワザ喧嘩売りに行ってんだよ!?」

「まあまあ良いではないか。それにお主、元々あれに喧嘩を売るのじゃろ?だったら軽く喧嘩を吹っ掛けて様子見することも大事だと思わんか?」

「うっ……」

 

 

ルシファーの言うとおり、元々は別の理由でそんなことを考えてはいた。

 

 

「じゃが、お主の考えは少しは変わったようじゃな」

「えっ……?」

「何、目を見ればすぐ分かること」

 

 

最初出会った時は命の灯火が消えたような濁った目をしていたのが、少し経っただけで今や力いっぱい灯火を燃やし命を吹き返したように輝きを取り戻した目をしていれば誰だって分かるものである。

 

 

「じゃが、それでもお主は遠坂時臣……あのあごヒゲに喧嘩を吹っ掛けるが……何故じゃ?」

「それは……」

「ほれ、遠慮せずに言うてみよ」

 

 

ルシファーに急かされ、雁夜はポツリポツリ話し始めた。

 

 

「……聞きたいんだ」

「何を?」

「どうして時臣は……桜ちゃんを間桐なんかに養子として出したのか……俺はそれが知りたいんだ」

「そりゃ……あれじゃろう?小娘自身貴重な魔術属性を持しており自身の手に余るから養子に出すことを思いつき、その行き先に間桐を選んだのは腐っていても御三家の1つであるからではないのか?」

「それは分かってる。……それでもハッキリとあいつ自身の言葉から聞きたいんだ」

「それだけか?」

「あともう一つある。……葵さんは、桜ちゃんは、この話に本当に納得しているか気になるんだ」

「……なるほどのう」

 

 

遠坂時臣の人物像をアサシン経由で大体理解してあるので雁夜の発言に納得がいった。

 

ーーー確かにあのような輩なら一方的に事を決めておる可能性が高いか……

 

だが、それをするに至っての雁夜の悩みを理解した。

 

 

「安心せい、お主の手を煩わせはせんよ」

「えっ……?」

「悩んでおるのじゃろ?……もしも、最悪の結果に至った場合どうするかを」

「……」

「お主は今や小娘にとって必要な存在になってきておろう。そんな男がワザワザ自身の手を汚すようなことをするでない」

「でも、それじゃあお前が……!」

「お主は優しいというか甘いというか……のう。まあ安心せい、人々を救うのが天使という存在じゃからな。まあ頭に元、がつくがな?」

「お前、まさかーーー「それ以上言わなくともよい」」

 

 

ルシファーの考えを言おうとしたところで、本人に言葉を遮られた。

 

 

「分かっておるじゃろう?……いずれはどちらかが消えねばならぬのだからな」

「……」

「まあそんな悲しそうな顔をせんでよい。……もう慣れておるから安心せい」

「でもーーー」

「ああもうっ!こんな辛気臭い話はやめじゃやめじゃ!……ちょっとそこらを見回ってくる、これ持っておれ」

「ちょっ、おい!……行っちまった」

 

 

雁夜に黒い十字架のアクセを投げ渡すと翼を広げて夜空へと飛び立って行った。

 

 

「本当に自由だなあいつ……ん?」

 

 

しかし、彼女には1つの誤算があった。

 

 

「……ッ!?あれは……遠坂時臣!」

 

 

選りに選って、彼女が飛び立って何処かへ行ったのとすれ違うように隣のビルにあごヒゲが降りてきてしまったことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衛宮切嗣は困惑していた。

先ほど自分はキャスターのマスターである雨生龍之介を射殺した後、付近の建物や河原に潜んでいるマスターやサーヴァントを見ていた。こんな状況でも彼はマスターを直接狙う『マスター狩り』を行ってはいたが撃てずにいた。

今ここでマスターを撃てばキャスター討伐に支障が出ると考えたからだ。

 

それと若干関係ある原因は1組の男女。

 

1人は彼が危険視するマスターの1人である傭兵のような男、終永時。

 

もう1人は間桐が召喚したらしい魔王ルシファーに負けず劣らずのワガママボディを白と金をベースにした強欲をイメージさせるようなドレスに包み込み、何色でも染まりそうな白髪を縦ロールにし、まるで貴族の社交界に出ていたような上品さと妖艶さを兼ね揃えた淑女。

 

そんな全く真逆の2人が仲睦まじく談笑している。

だが、そんなことは問題外だ。問題は……

 

 

「永時様、この方が持つ銃は?」

「ワルサーWA2000。ドイツワルサー社の高性能オートマチック狙撃銃だな」

「なるほど、初めてお目に掛かりましたわ……」

「メモは忘れないんだな」

「しかしこの船……あまり乗り心地がよくありませんわね……」

「お前のとこの奴が高性能過ぎるだけだろうが。これも中々いい代物のはずだぞ?」

 

 

衛宮切嗣の横で……そう、この船の甲板に乗って談笑しているのだ。

 

 

「そこんとこどうなんだ?切嗣君?」

「……何故あなたがここにいる?」

「無視か、お兄さん悲しくなるねぇ……まあしいて言うなれば暇つぶし?」

「永時様、お知り合いですか?」

「まあな。ちょっと昔俺が揉んでやった奴だよ」

「師事!?そんな……羨まーーーゲフンゲフン、羨ましいですわ!」

「欲求ダダ漏れだぞ……」

 

 

と、切嗣にとってどうでもいい会話を聞き流しつつ切嗣は考える。

会話の内容や雰囲気から察するにこの女は終永時と親しい女であること、そしてこの戦争に参加している何処かの貴族出身の魔術師であり、自衛能力がなさそうだということが分かった。

 

なら、これが終わった後でも彼女を人質にすればーーー

 

 

「ーーーなんて、考えてんだろ?」

「ッ!?」

「どうして分かったかって?昔言ったろ?俺は普通じゃないって」

 

 

その言葉で衛宮切嗣の記憶の中からある引き出しが抜き出される。

それはーーー

 

 






いかがでしたか?

そろそろフラグっぽいものの回収を始めようと思っています、なんかフラグっぽいものを立てているばかりいるような気がするので……

では、また次回。



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師弟関係(半ば強制)



切嗣と永時の師弟関係の始まり。とは言っても軽い馴れ初め程度ですが。

ナタリアの口調ってこんな感じだっけ?

では、どうぞ。




 

 

「何の用だナタリア。こっちは今追われてる身だぞ?」

「まあまあ、あたしとの仲じゃないか」

 

 

ナタリア・カミンスキーとの出会いは敵同士ということから始まった。

当時の永時(この時からもう黒ずくめだった)は封印指定を受けている真っ只中で執行者とのリアル鬼ごっこをし続ける日々を送っていた。そんな大半の執行者とは別のごく少数の中に彼女が入っていたのである。

結果としては永時が逃亡することにより何もなく終わったかのように思われたが腐れ縁とも言えるものであろうか、再会は案外すぐに訪れた。

 

永時もまさか逃亡先の酒場で再会するとは思いもしなかっただろう。

そこから後はただ普通に2人で飲んで、近代兵器を使う共通点から話が合い、共に仕事をする仲にまで発展したというわけである。

 

 

「まあ最近この生活に飽きてきたから構わんが……」

 

 

最近まではリアル鬼ごっこをゲーム感覚で楽しんでいたものの、最近はザコ続きでいい加減この生活に飽きてきたところに丁度かかってきたのが旧知の女、ナタリア・カミンスキーからの連絡だったというわけである。

 

まあ言うなれば暇つぶしがてらに寄ってみたようなものである。

 

 

「ならいいじゃないか」

 

 

とりあえずついてきてくれ、と言われ彼女の背を追っていくとある1人の少年がベットの上で規則正しい寝息を立てて眠っていた。

永時はその光景に目を見開き、ナタリアとその少年を何回か見た後こう告げた。

 

 

「……とりあえず警察行こうか?安心しろ、腕の立つ弁護士を紹介してやるから」

「落ち着け、一旦話をしようじゃないか。あと、あたしをなんだと思ってるんだ?」

「冗談だよ、冗談」

 

 

とは言うものの実際内心ではショタコンになったのかとヒヤヒヤした自分がいたが……。ショタコンは知り合い1人で充分である。

そうこう言っている内に少年は目を覚まし、永時を見て誰だと言いたそうな顔でナタリアを見ていた。

 

 

「紹介しよう、この男は終永時。今日から坊やの師となる男だ」

「「……は?」」

「……何か意見でも?でも、あくまで聞くだけで拒否権はないぞ?」

「いやいや大ありなのだが?そもそもこいつは何者だ?」

「……アリマゴ島は知っているか?」

「アリマゴ島?確か死徒が出たとかで教会の奴らが慌てて出動していたのは知ってはいるが……?」

「……もうそこまで言えば分かるだろう?」

「……なるほどね、あの島の生き残りか……いや、魔術刻印が存在しているということは……衛宮矩賢の息子の衛宮切嗣ってとこか?」

「正解だ。よく知っているじゃないか」

「奴が封印指定される前に研究者として2、3度は会っていたからな。……そっか、奴は死んだのか」

 

 

教会も惜しい人材を失ったな、と言いつつ、その息子である衛宮切嗣を観察する。

 

 

「んで、それが理由だと?」

「なぁに、エイジが気に入りそうな存在と思ったのさ」

 

 

ナタリアは語った。

アリマゴ島にて島民が死徒化し、教会によって地獄と化した島を見た切嗣は別のところでも同じ事を繰り返すであろう父を見逃すことができず、背を向けた父を銃殺。その後衛宮矩賢を狙ってきたナタリアと島を脱走。そしてナタリアの交渉により矩賢の魔術刻印の2割を継承し、現在に至ったということを。

 

そしてそれを聞いた永時の反応はとてもいい笑みを浮かべていた。

 

 

「ほう……なかなか素晴らしい“悪”を持ってるじゃねえか。いいぜ、俺がこいつの師事をしてやるよ」

 

 

その時ナタリアは待ってましたと言いたそうな笑みを浮かべていたのを切嗣は見逃さなかった。

そしてこうも思った。

 

この男……どこかきな臭い、と。

 

まあ見た目からして誰もがそう思うだろう。

 

 

「おい、誰がきな臭いだ?あっ?」

 

 

と怒った声で言った後、切嗣の頭に鈍痛が走った。まあただゲンコツを受けただけである。

じんわりと痛む頭を抑えながら永時を睨むが子供の睨みに怯むわけもなく寧ろ鼻で笑って受け流した。

 

 

「言い忘れていたが坊や、この男には隠し事はできないから気をつけろよ?」

「クカカ、そういうこった。だって俺はーーー普通じゃないからさ」

 

 

その言葉にますます胡散臭いと思い、再びゲンコツを喰らったのは言うまでもないだろう。

 

 

その後半ば強制的に受けた彼からの師事は思い出せば目から涙が出るほど、厳しいものだったと語っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことを思い出し、彼は出会った時から問いただしてことを再度問いただす。

 

 

「あなたは……何者なんだ?」

「何度も言ってるだろ?俺は普通じゃなーーーいや、少し答えを変えようか……」

 

 

 

 

 

「俺は、超能力者(エスパー)だ、とでも言っておこうか」

 

 

 

 

 

そう言い残し、横の女を肩に寄せると同時にその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よろしいのですか?彼に秘密を教えたりして」

「別に構わんよ。バレたところで誰も対策はとれないんだからよ。それに……実際能力は教えてはいないだろ?」

「そうですが……あっ、そういえばそれがあなた様が封印指定を受けている理由でありましたわね」

「そりゃそうだろ?魔術師は探せばいるが、超能力者(エスパー)なんてこの世界にはいないからな」

「確か、その希少性故の封印指定でしたわよね?」

「まあそういうことだ」

 

 

そう言ってマモンを抱きかかえ、消えたり現れたりしながら空中散歩のように空を駆ける。

 

傍から見ればまるでお姫様を運ぶ王子様……には正直誰からも見えないだろう。永時の格好も格好だし、寧ろ誘拐に見えるだろう。

 

 

「てか流れで抱きかかえてるけど、お前……空飛べるだろ?」

「よろしいではありませんか。此方としては永時様に触れる機会ができたわけですし……」

「……はあ、目的地に着くまでだぞ?」

「まあよろしいではありませんか。わたくしの身体を堪能されておられるようですし」

「おい」

「フフッ、冗談ですわ」

「どうだか……」

 

 

内心ではあわよくばそのままどこかの廃ビルに入って襲って欲しいと願う変態お嬢様がいるが、まあ触れ合っているからいいかと納得した。

 

だが、そんな彼女の幸せも一瞬で終わる。

 

 

「こんなところにおったか」

「「えっ……?」」

 

 

何故ならそう……

 

 

「また会ったのう、エイジよーーーんっ?……何故強欲の奴がここにおる?」

 

 

現在魔王の中で上位に値する程、愛が重い(面倒くさい)2人が揃ってしまったからだ。

 

 






いかがでしたか?

次回は愛の重〜い2人が夫(仮)を巡ってバトる予定です。
狂信者とストーカー、果たして勝つのはどちらか?
まあ結局のところ、どっちが勝とうが永時は被害に合うのは目に見えてますが……。

では、また次回。



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希望の光をその剣に

 

 

「あら?お久しぶりですわね、ルシファー?」

「久しいのう、強欲よ……ちと、“妾の”エイジに触れすぎではないか?」

「あらあら、嫉妬はレヴィアタンの役目ですわよ?」

「ほざけ、あんな犯罪者予備軍のような存在と一緒にするでないわ」

「そういうあなたは立派な犯罪者ですわよ、ストーカーさん?」

「貴様……ふん、貴様こそ『永時様教団』なる頭のイかれたようなものを創っておるではないか。何が永時様の愛は我ら悪魔の皆で分け与えてもらうじゃ、エイジの全ては妾のものに決まっておろう?」

「……言いましたわね?」

「言ってやったな」

 

 

正直言うとどちらも犯罪者である。てか、お願いだからここで暴れないでくれ。と永時は呆れ顔で目の前の馬鹿2名に告げる。

 

マモンは自身の獲物である弓を使い、ルシファーは自動防御性能がある盾を使って目の前で殺りあっているわけで……。マモンが矢を放ち、ルシファーの盾がそれを防いでお返しとばかりに光線を飛ばし、マモンはそれを矢で射抜いて相殺し、また矢を放つという無限ループが完成していた。

売り言葉に買い言葉、それに伴う攻防の応酬。そして時間の経過と共に変わっていく地形。

そしてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前ら、今すぐやめないと今後一切口を聞かんぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

マッハで募った永時のストレス。

と同時にピタッとその動きを止める魔王(笑)達。

 

普段の永時ならこういう場合ほっといてこの場を去って行くが今はくだらぬことで喧嘩している場合ではないから止めただけである。

まあ単にここで喧嘩されると他のマスターに見つかって面倒なことになりかねんと思ったからである。

 

 

「2人とも、正座しろ」

「いや、しかし……」

「いくらお主といえど……」

「正・座」

「「はい……」」

 

 

反論しようとした2人だが、永時の目が本気と書いてマジの目だったので渋々正座することにした。

 

そしてそこから説教が始まったのが数分前のことである。

結局それはセイバーの念話が聞こえるまで続いた。

 

 

『……ジ……エイジ!聞こえますか!?』

 

 

珍しく焦ったように早口になっていることから事の重さを理解し、渋々説教を中止して念話に集中する。

 

 

『ああ、聞こえてるぞ。……どうした?』

『……今すぐ宝具使用を許可してください!』

『……は?』

 

 

突然の宝具使用を求める声に時が止まったかのような錯覚を永時は感じた。

宝具使用はいわば真名を晒す、更に切り札を晒すようなものである。そんなことを何の前振りもなく言ってきたわけで……。

 

つまり、ついに馬鹿になったかこいつ?ということだ。

 

 

『……とりあえずどういう過程でそうなったか簡潔に説明してくれ』

『実はーーー』

『……なるほどね。再生力が高すぎるため、自身の対城宝具を使用しないと打倒できない状態だと?』

『そういうことです』

『確かに、ランサーやライダーの宝具は対人・対軍だからな……』

 

 

ついでに言うならバーサーカーもそんなもの持ってそうにないし、アーチャーなら可能だが向こうは完全に傍観する気満々だから無理。知っている魔王の中にはそれらしいものを持っているが今惰眠を貪っているために来られないので現状だけで考えると可能なのはセイバーとなってしまう。

 

いや、まだいた……

 

 

『おい、ビギナーはいるか?』

 

 

そう、彼ならば、異常の塊ともいえるあの男なら。この現状を打破できるのではないか、と。

 

 

『ビギナーなら先程参加してきましたので……いました!』

『よし、ならあいつにあれをなんとかできるか聞いてくれ』

『……ダメです。彼でもできないと』

『……クソが』

 

 

遂に最後の希望が絶たれてしまった。

永時としては発動したいのは山々だが発動すれば確実にセイバーの真名がバレるのは明白。永時はどうしてもそれだけは避けたいリスクだった。だからと言って躊躇なんかしていられない状況に陥っているのは確かであった。

 

 

『セイバー、宝具の使用を許可する』

『よろしいのですか?』

『ああ……クソー、真名をバラすようなことだけはしたくなかったんだけどなぁ……』

『……すみません』

『別にお前は悪くねえよ。気にすんな』

 

 

もうこうなったってしまったなら仕方がない。やるならとことんやってやろう。

 

 

『令呪の補助は要らないな?』

『はい、大丈夫です』

『よし。……そうだ、ビギナーに伝えてくれーーー』

『……了解しました』

 

 

永時の言葉を聞き取るとセイバーは念話を切って急いでビギナーの元へと駆けていった。

 

そして、先程まで落ち込んでいた永時は今や無意識に笑みを浮かべていた。

かのアーサー王の『約束された勝利の剣』が間近で見られるのだ。研究者としては大変興味があった。

 

 

「……おい、お前ら。場所を移すぞ」

「えっ?何故でしょうか?」

「ちょっと面白いものが見れるぞ?」

「ほう?……なら妾が案内してやろう。丁度、いい場所を知っておるのでな」

「そう、ならよろしく……」

 

 

この後、どちらが永時を運ぶかで一悶着あったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーー!!?」

 

 

巨大な海魔は自信に伝わった強烈な痛みに声ならぬ声を上げ、体全体が強制的に川の真ん中へと移動させられる。

 

セイバーは海魔を動かした程の怪力を持つ人物に衝撃を覚えると同時にこう思った。

 

 

本当にあれは人間か?と。

 

 

海魔の側面からたった一蹴りで動かしたビギナーに恐怖を覚える者などもいた。

 

だが、今そんなことを考えている場合ではない。

今は己に与えられた使命を果たすべく、宝剣を強く握り直す。

『風王結界』が解け、聖剣がその姿を晒し、光り輝きだした刀身が闇夜を照らし、その美しさに誰もが惹かれていた。

 

 

「ほう、中々の物じゃのう」

「そうですわね」

 

 

その美しさに傲慢や強欲までもが賛美し、それに応えるかのように聖剣はその光を強く輝かせる。

それだけでなく至るところから光が集まり、凄まじい魔力を練り上げ、更にその輝きを強くさせる。

 

さあ、常勝の王よ。今こそ高らかに叫べ、謳え

その手に執る願いを、希望を、奇跡を、その真名に込めろ

其の名はーーー

 

 

約束されたーーー(エクスーーー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーーー勝利の剣(カリバー)!!』

 

 

その叫びと共に膨大な光が、闇夜を照らし切り裂く光が、斬撃となって轟音をたてながら海魔の方へ向かっていく。

 

そしてその光は海魔へ飲み込まれていたキャスターにも届いた。

 

 

「おお…………この輝きは……間違いない……これは……あの日見た………」

 

 

狼狽えながらもキャスターはそれを掴もうとゆっくりと手を伸ばす。

 

彼の目の前にはあの日見た光景が広がっていた。

聖母のように微笑み、自身に手を伸べる金髪の彼女。

 

 

「私は……一体ーーー」

 

 

自身にはない光を、人々を魅了する光を輝かせる彼女から差し伸ばされた手を、もう1度掴むため彼は手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー奴も安らかに眠れるといいな」

「どうしたのじゃエイジよ?感傷に浸るとはらしくないではないか?」

「いやな、やり方は間違っているが、あいつも1人の救済のために必死だったんだなって今気づいちまったんだよ……」

「永時様……」

「……クカカ、あまりらしくねえことはするもんじゃねえな」

 

 

もしもこの場にアスモが今の永時を見ていたらこう言っただろう。

 

今のエイジは出会った時と同じ、死人のようだと。

 

 

「……わたくし達はいつまでもあなた様のお側に居ります。……だからあなた様だけではありませんことをお忘れなきよう」

「マモン……」

「強欲の奴の言うとおりじゃ、暗い過去があるのならば、膨大な明るい未来で塗りつぶせば良いだけじゃろう?」

「すまんなお前ら……」

「ふん、別にお主のために言うたわけではないわ」

「「ツンデレか(ですわね)」」

「違うわ!」

 

 

過去を未来で塗りつぶす、確かにいい案とも言えよう。

だが、彼らはまだ気づかない。

新たな魔の手がすぐ側まで近寄って来ていることに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく会えるぞ……愛しき我が父に」

「それは良かった……まずはどういたしましょうか?」

「そうだな……まずは目障りなあの女から消していこうか。……できるな?」

「仰せのままに」

「なら良い、行くがよい“アヴェンジャー”」

「はっ……では、始めましょうか“ネバー”」

 

 

人はそう簡単に過去から逃げられないということを、後に思い知ることになる。

 

 

噛み合わない歯車(物語)に新たな歯車(キャラ)が加わり、終幕(フィナーレ)へ向けて回り始めた。

 

 





いかがでしたか?
最後の2人は誰なのかは次回と言う事で、

では、また次回で。


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一方その頃①

 

 

『……こちらアサシン3。聞こえますか?オーバー』

『こちらセクシャル。聞こえてるよ、オーバー』

『……では、所定通りにいきましょう』

『うん………けどいきなりだよね、こんなこと頼んでくるなんて……』

『まあそれだけ私達のことを信頼しているとも言えますがね?』

『まあそうだけど……大丈夫?ここには強力な結界が張ってあるって聞いたけど……』

『大丈夫です。そんなのは……まあ正面突破で』

『えっ……』

『では、カウント3でいきます』

『ちょっ、ちょっと!?』

『3……2……1……GO!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「マダム?どうなされましたか?」

「これなんだけど……」

「写真ですか?」

 

 

アイリスフィールはそう言って1枚の写真を手渡した。

一旦見れば誰かの集合写真のようだが、中に写っていた人物が問題だった。

 

 

「これはーーーッ!?」

 

 

だが、そこで鳴り響いた轟音に閲覧を中断させられる。その音が敵の襲撃だと感じたのはすぐのことだった。

扉を蹴り飛ばす音と共に終永時と同じような服装で全身を余すとこなく隠した長身の女が冷徹な雰囲気を纏い拳銃を構えて堂々と中に入ってきた。

 

 

「ッ!マダム、下がってください!」

「ええ……」

 

写真を返し、アイリスフィールを奥へ逃がし、舞弥は連絡をしようと携帯を取り出すがそれを察した襲撃者は手に持つ銃で携帯を撃ち抜く。

 

 

「くっ……!」

 

 

舞弥は手に持つ銃を乱射するが、女は背中に背負った太刀を抜いて弾丸を弾いた。

弾丸を弾かれたことに驚きつつも舞弥は掃射を続けるが、弾切れを起こすと背中に付けていたスプレー缶を放り投げる。するとスプレー缶は煙を上げて部屋全体が煙で視界が悪くなっていく。

 

 

「この程度で防げるとお思いですか?」

 

 

女がそう言うと彼女の後ろの方から風切り音が聞こえ、彼女の苦悶の声が聞こえた。

床に何かが倒れる音が聞こえ、煙が晴れると目の前には左足が根こそぎなくなった彼女が倒れており、その後ろには自分と全く同じ姿の人物が血を浴びたナイフを手にして立っていた。

 

 

「ぐっ……ま、だむ………」

「お疲れ様」

「この女……どうしましょうか?」

「今後の邪魔になりそうですし………とりあえず殺っときましょう」

「そうですね」

 

 

そんな軽いノリで決め、前にいた女が拳銃を構えて引き金を引いた。

なんとも軽すぎる命のやりとりであった。

 

 

「ところでなんですが……」

「どうしました?」

「……どうして私の真似をしているんですか?アスモ」

「まあいいじゃない、その方が誤魔化せそうだしね」

 

 

先ほどの冷徹な雰囲気をあっさりと胡散させ、拳銃を構えながらケラケラと笑う彼女。

 

 

「……で?これでよかったのかな?」

「そうですね…………時間ですね」

 

 

そう言った後、すぐさまその場から移動を開始し、2人がいなくなると同時に壁が破壊され、

 

 

「Aaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 

川にいたはずのビギナーが白い髪の女性を抱え、ボロボロの姿でそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むにゃむにゃ……ハッ!寝てない寝てない」

 

 

数分前同所、全身機械じかけのユニコーンに寝そべるように乗るベルフェはユニコーンの動きに身を任せ、その動きによって誘われる眠気と戦いながらも駆けていた。

だが、そんな眠気もすぐに吹き飛ぶような出来事が彼女の目の前にはあった。

 

 

「おお〜!ここは宝庫なのか〜!?」

 

 

通路のあらゆるところに設置された侵入者対策の近代兵器の数々、その1つ1つは人間一人殺めるには充分なものだが彼女にとってはおもちゃを大量に置かれたようなものであった。

ユニコーンはまるで自身の家のように悠々と歩み、ベルフェは目をキラキラと光らせながら嬉々としてそれらを一つずつ丁寧に回収していく。

 

 

「ん〜?どうしたの?」

 

 

宝探しをして数分後、ふといきなりユニコーンは足を止め、その視線は自身の行き先を真っ直ぐ見つめており、ベルフェも釣られて見る。

 

 

「「あっ……」」

 

 

視線の先にいるのは雪のような白い髪の淑女、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。かの魔術師殺しの妻である。

一見、同じことを言ってはいるがそれに込められた気持ちは全く別だった。アイリスフィールは、敵に出会ってしまったことへの焦りと、ベルフェが乗っている幻獣種……ユニコーンに対する驚き。よく見ればそのユニコーンは機械じかけというのが分かるが、敵襲を受けていたことによる焦りからあまりよく見る余裕がなかった。

 

そしてベルフェは……今回の研究対象を見つけたことによる喜びである。

 

 

「研究対象はっけ〜ん!」

「ッ!」

 

 

研究対象。その言葉を発せられた後のアイリスフィールの行動は早かった。

自身の持っていた針金に魔力を通らせると針金から鳥型の使い魔を形づくりそれを放つ。

 

 

「おお〜!これがアインツベルンの錬金術か〜!」

 

 

アイリスフィールの錬金術にベルフェは感心している間に別の針金に魔力を通して2体目を使って放った。

本来はあと数体はつくれるのだが、精密操作するには2体が限界だったため、2体で頑張るしかなかった。

 

 

「でも〜、それだけじゃ〜火力不足なんだよね〜」

 

 

ベルフェはそう言ってアイリスフィールに攻撃を開始する。

 

 

「さあ行くのだ〜!ユニコーン!」

 

 

だが、あくまで戦闘は他人任せである。流石は怠惰を冠する者である。

そして、そのままの体制でビシッと前を指差すとユニコーンはそれに応えるように、角の部分から蒼い電撃をバチバチと帯電させる。そして、勇ましく鳴いて前足を上げ、それを思いっきり床に下ろすと同時に角から帯電していた電撃が一気に放出される。

放出された電撃は壁や床や空中を力続く限り走り続け、アイリスフィールの使い魔に向かっていく。アイリスフィールは電撃に当たらぬように使い魔を操作しながらベルフェの方へと進ませる。

 

バチィ!と鳴る電撃音と共に使い魔の1体が蒼い電撃に突きぬかれ、床へ落ちていく。そして隙間を縫うようにもう1体はユニコーンの足元へと入っていく。

 

 

「むっ!?」

 

 

ユニコーンの足元へと入り込んだ使い魔は自身の身体を解き、針金に戻ったそれはユニコーンの前足2本に絡みついた。

無論、バランスを失った馬の行く末というと……

 

 

「ふぎゃ!?」

 

 

立つことが出来なくなり、そのまま地面に横たわり、搭乗者は地面に叩きつけられた。

 

 

「うう〜、やったな〜!」

 

 

プンスカと怒った表情を見せながら起き上がり、懐から1丁の拳銃を取り出して発砲した。

飛び出した弾丸はアイリスフィール本人にではなく、その足元に着弾し、その直後に白い煙を辺りに充満させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「令呪を以って我が傀儡に命ず!ビギナー、アイリの元へと向かえ!今すぐに!」

 

 

己のマスターの令呪使用の声と共にビギナーは彼女、アイリスフィールの元へと瞬間移動した。

こうなった原因は使い魔がアイリスフィールと舞弥が何者かに襲われているところを捉えたからである。

 

あの男の仕業だ、と衛宮切嗣は考えた。

 

しかし、現実ではあの男は先程まですぐ近くにいたというアリバイがある。協力者の可能性も考えたが、現に彼の横にいたため頭の中からその考えはすぐに消え失せた。

彼としては令呪を使うのは躊躇ったが、アイリスフィールが襲われていると聞けば話は別である。今彼女に死なれては色々と困ることがあるからである。

 

と、いうことがあり現在。ビギナーは令呪の補助を受け、アイリスフィールの側に現界した。

 

 

「A……?」

「えっ……?」

 

 

彼の視界に入ったのは見覚えがあるビリジアンの髪の美女、ベルフェゴールが眠るように床に横たわっているアイリスフィールの側でしゃがみ込んで彼女に向けて手のひらをかざしていた。

 

 

「あ、あのーーー」

 

 

かざしていた手を離し、震えた声で何か言おうとしてはいたがそんなのはどうでもいいとばかりにビギナーは彼女に殴りかかった。

 

 

「はわっ!?い、いきなりは酷くない!」

「……」

 

 

語尾を伸ばす余裕がないぐらいの肉弾戦のラッシュを避けながら何やら文句を言ってはいるが、知らんというばかりにビギナーは攻撃を続ける。

 

 

「でも、こんなことしてていいのかな?君のマスターの助手さん、このままじゃ死んじゃうよ?」

 

 

そう言われピタッとその動きを止めるビギナー。そして、それと同時に彼の頭の中で電撃が走った。

舞弥が何者かに襲われているとそう直感が告げていた。

 

 

「おっ、隙あり〜!」

 

 

そしてその一瞬の隙をつき、ベルフェゴールは床に何かを叩きつける。すると瞬く間に辺りに煙が充満していった。

視界が悪くなる?だからどうした?そんなことは彼の前ではほんの一瞬の時間稼ぎである。

だが、彼女にとってその一瞬さえあればよかったのだ。

 

 

「やっちゃえ〜ユニコーン!」

「ーーーッ!?」

 

 

どこからか聞こえた彼女の声と共に腹部に痛みが走った。

見れば鋭利な円錐状のもの……ユニコーンの角が自身の身体を貫通させ、傷口から赤い赤い血が床へと流れていた。

更に、その角からバチバチとヤバい音が聞こえ、

 

 

「Gaaaaaaaaaaaaaaッ!?」

 

 

傷口を中心に高電圧が彼の身体中を巡り、悲鳴を上げる。

 

確かに彼には異常な攻撃は通用しないために強いーーーならば普通の攻撃をすればいいだけである。

 

ーーー魔術補正で刺すのではなく、物理的に刺したら?魔術による電撃ではなく、あくまで科学で発生させた電撃ならば?

 

どちらも異常とは捉えることができない現象であり、ベルフェゴールは完全に彼の弱点を突いていた。

 

 

「Aaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 

だが、宝具は普通でも彼自身は異常。故に力技でそれを抜き取るのは容易いことだった。蹴りつけながら抜き取る時に生々しい音が聞こえるにつれ、尋常ない痛みが走るがそんなことはどうでもいい、今どうやってこいつを殺すか?痛みと狂化でまともな思考が許されない彼はそれしか考えられなかった。

 

 

馬が鳴き声を上げながら電撃を放ってきたーーーとりあえず殴る。

 

馬が再び突き刺そうと角をこちらに向けて突進してきたーーーとりあえず殴る。

 

足が壊れてまともに歩けなくなっていったーーーとりあえず殴る。

 

遂に馬は壊れ始めたーーーとりあえず蹴る。

 

とりあえず殴る、蹴る、殴る、殴る、蹴る、殴る、殴る、殴るーーー。

 

 

もし、アイリスフィールが今の彼を見ていたらこう言っていただろう。

 

 

「ーーー!!」

 

 

まるで破壊を心の底から楽しんでいるようだったと。

その姿は破壊を快楽とする異常者のようであったと。

 

 

「……」

 

 

床に崩れるユニコーンだった何かが動かなくなるのを確認すると視線を侵入者がいた方へと向けた。だがそこにはベルフェゴールの姿はなく、代わりに置き手紙らしき1枚の紙が置いてあった。

 

 

『もう用は済んだので帰るね〜!PS:私からの置き土産があるから忘れないでね〜!byベルフェ』

 

 

読み終わると同時、壊れたはずのユニコーンが起き上がっており目の部分を怪しく黄色く光らせていた。

 

 

「自爆モードに移行しますーーー」

 

 

ヤバい、とビキナーはすぐさまアイリスフィールを抱えに行こうと駆け出し、ユニコーンを横切ると、

 

 

「ーーー!?」

 

 

ユニコーンの身体からワイヤーが飛び出し、ビキナーの身体に纏わり付いた。

そして、ピーと甲高い音が辺りに響いた直後、眩い光と爆炎がビキナーたちを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2人共、お疲れ様〜。ごめんね〜、個人的なことで巻き込んじゃって〜」

「別に気にしてませんよ?」

「でも、エイジに内緒でこんなことしていいのかな……」

「いいんじゃない〜?永くんもきっと理解してくれるはずだよ〜」

「そう?」

「ところで……データは取れたのですか?」

「うん、バッチリだよ〜!それに〜、ちょっと面白いことが分かったよ〜!」

「面白いこと?」

「うん!アインツベルンも中々考えてるんだな〜って!」

「???」

「ところで……肝心の研究対象ごと爆破させてますが……良かったのですか?」

「……別にあれが死のうが私にはもう関係ないよ」

「そうですか……」

 

 






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一方その頃②

 

 

セイバーが聖剣をブッパした頃、その上空では2つの飛行物体が熾烈な闘いを繰り広げていた。

 

方や黒い瘴気に包まれたバーサーカーの戦闘機。

 

方や黄金とエメラルド中心に形どられたアーチャーの船。

 

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーーー!!」

 

 

バーサーカーの乗る戦闘機に搭載されたミサイルがアーチャーの船に向かって撃つ。

 

 

「チッ……鬱陶しい犬が………!」

 

 

だがそれはアーチャーが打ち出した煌びやかな武具によって撃ち落とされ、仕返しとばかりにバーサーカーに向かって武具を打ち出す。

バーサーカーは戦闘機を上手く操り、機動力とミサイルを駆使してアーチャーの武具を回避する。そして雄叫びを上げながら機体を更に加速させる。

しかし、アーチャーはそれを見るや否、自身の船の速度を急速に落としていき、加速していたバーサーカーの戦闘機はあっという間に追い抜き、不覚にもアーチャーの前へと出てしまい、

 

 

「……フン」

 

 

偉くご満悦な様子でバーサーカーに武具を射出した。

だがバーサーカーはただ喰らうだけではなく、もてなす力の全てを使って回避に専念するーーー

 

 

「……?」

 

 

訳もなく、機体を真下に向け、地へと急速下降しだした。

ついに頭がおかしくなったか、とアーチャーは考えていたがそれは違った。

 

 

「……何っ!?」

 

 

自ら射出した武具が目の前でたった数本の光線にあたかたもなく消し去られたからだ。

 

 

「また会えたのう金ピカよ。……エイジ、やれ」

「へいへい……ったく、人使いが荒いやつだぜ」

 

 

アーチャーの目の前にはモノクロのような盾を複数従えたルシファーと弓矢をこちらに向けて構えるセイバーのマスター……終永時の2人がいた。

 

 

「……アワリタティ・アルクス」

 

 

終永時がそう呟くと弓から矢が放たれ、矢は赤黒い光となってアーチャーの船を見事に貫いた。

 

 

「貴様ら……この我を地に落とすか雑種!」

 

 

船を壊され、上手く地に着地したアーチャーは悔しそうに上空にいる2人を睨み続けていた。

 

 

「……ハッ!この妾をカラス呼ばわりするからじゃ」

「根に持ってたんだな……」

「……フン、そんなことはどうでもよい。……エイジよ、少し頼みがあるのじゃが……よいか?」

「(誤魔化したなこいつ……)……で、なんだ?」

「それはのう……ある者を連れてきて欲しい。面白いものが見れるぞ?」

「ほう?……で、誰を?」

「それはーーー」

「……OK、その話受けてやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王が……負けた?」

 

 

とあるビルの屋上で遠坂時臣はそう呟いた。

考えていた策が、計画が、予想が、全てが狂い始めていた。

 

終永時が参加したこと。

 

アインツベルンが規格外のイレギュラーを召喚したこと。

 

間桐臓硯が重い腰を上げ、英霊を超えた存在を召喚したこと。

 

もはや聖杯戦争が本来あるべき形を崩し始めたこと。

 

どうすればこの状況を打破できるか……と考えていた時臣に声を掛ける人物がいた。

 

 

「遠坂時臣……!」

「間桐雁夜か……」

 

 

灰色のジャージパンツにパーカーの男が近づいてきた。

片腕を抑え、足を引きずり、弱々しく見えるのは間桐の魔術によって力に手に入れた代償と言えよう。

 

 

「……どうして、桜ちゃんを……養子に出したんだ?桜ちゃんは……葵さんは……それを望んだのか?」

「……魔術の才能がない君が、魔術から逃げた君がそれを言えるのか?」

「いいから答えろ!」

 

 

内心はどうだろうが表側はあくまで冷静に、優雅に対応する。それが家訓であるが故に、だ。

 

 

「おとう……さん………?」

「なっ!?」

「……何?」

 

 

だがそこに自分の娘がいなかったら、の話だが。

 

 

「……桜、か?」

「……うん」

 

 

どうしてここにいる?雁夜はそう思いつつも桜に近づこうとし、

 

 

「桜ちゃーーー」

「ちょっと来いーーー」

 

 

そう男の声が聞こえると雁夜は物陰から何者かに体を引っ張られた。

 

 

「なーーーっ!?」

「静かにしてろ、今いいところだから」

 

 

声を上げようとした雁夜は首筋に鋭利な刃物を向けられ、無理矢理黙らされる。

 

……今いいところ?どういうことだ?

 

だがそんな疑問の答えはすぐに分かった。

 

 

「……どうして…………どうして…………間桐に、行かなきゃ、いけなかったの……?」

「……」

 

 

物陰にいるせいで声しか聞こえなかったが、彼女が泣きながら時臣を見ているのが分かり、途切れ途切れ話す彼女の声を雁夜は黙って聞くしかなかった。

 

 

「魔術なんて知らなくても……よかった………間桐なんて……行きたくなかった……」

 

 

彼女の溜め込んでいた感情が溢れ出るように、その幼き声が少しずつ大きくなっていく。

 

 

「ずっと……いたかった………お姉ちゃん、お母さん……お父さんと………ずっと一緒に、いたかった……!」

「そうか……それがお前の気持ちか………」

 

 

そこで要約娘がいる現実を理解したのか、時臣から落ち着きが見え始めた。

雁夜はこの会話の邪魔をするつもりはなかった。

それこそが彼が忌み嫌っていた間桐に戻った由縁なのだから。元々桜が養子に出した理由を時臣本人から確認するつもりだったから。その答えはこの会話の先にあるはずだから。例え彼女が遠坂に帰りたいと言っても、それは彼女自身の意見だ。桜本人ではない自分が決めることではないと。だから、彼は黙って見守り続けようと。

 

静寂になった空間に、遠坂時臣の言葉が酷く鮮明に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……その考えは間違えている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……?」

 

 

何の感情もない彼女の声が響いた。

 

 

「まだ子供のお前には判らないかもしれないが、お前の中に眠る魔術の才能は私を軽く凌駕する凄まじいもの。魔術のことをお前に知らせることのないまま育てる道もあったかもしれないが……。桜、お前の才能は知らないで周囲の危険から守れるほど小さくは無い」

 

 

遠坂時臣は自分の言葉に絶対的な自信を持って告げる。

感じる、何を言われているか判らないーーーあまりにも予想外過ぎて、理解すら出来ない思いーーー。それをこの男は全く感じ取ってない。

ただただ、自分の正しさに従って遠坂時臣は言う。

 

 

「魔術は一子相伝であり、遠坂の魔術は凛に継がせるであろう事は以前から決まっていた。そうなれば自ら魔術を学びその才能と向き合って自分にも他人にも屈しない道は遠坂では作り出せん。間桐へ養子へやったのは、お前を守る為だ」

 

 

そして遠坂時臣は最後の言葉でこう締めくくった。

 

 

「いつかきっとお前にも判る時が来る」

「……」

 

下らん、と雁夜の後ろにいた男はそう呟き始める。確かに人生を魔術に捧げ、思想の根幹を魔術師で染めた遠坂時臣らしい言い草だ。全くもって反吐が出る。と男はそう言った。だが雁夜自身も間桐の魔術をほんの僅かでも知る男だ。遠坂時臣の言い分の中にほんの欠片ほどの正論があるのは素直にそうと認めよう。それでもその言葉は愚策中の愚策と断言する。愚かすぎて笑いすらこみあげてきそうにある最悪の言葉を言ってしまった。

桜は『魔術師』ではなく『遠坂の娘』として家族と一緒にいる事を望んだ。ここ数日、間桐で明るく過ごしたとしても、それは家族じゃなく似た別の何かだった。

寂しいが、今の彼女は雁夜やルシファーよりも遠坂の家族である事を望んでいた。

 

だが、遠坂時臣はそれを否定した。

 

父親として娘から伸ばされた手を自身から振りほどいた。

『遠坂の娘』と『桜の魔術師の才能』が切っても切れない関係だったとしても、それは父親として言ったらいけない言葉じゃないのか?と。

親からの否定。子供にとってこれ以上辛いものは無いと思う。捨てられた、と思ってもおかしくない。家族として共に過ごした時間が楽しければ楽しいほど、それは絶望へと変わる。桜は雁夜のように最初から間桐臓硯に何の価値も見出してなかった男とは違う。家族に希望を持った子供なんだ、と。

気づいたら雁夜は男の拘束を無理矢理振りほどき、遠坂時臣の前に立っていた。

 

 

「お、おい!……はあ………あの子を家に帰してやるか」

 

 

残された男はそう呟くと一瞬にしてその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその上空にて、ルシファーは全てを見ていた……。

だがそれを見終えた後の表情は蔑みでも、憎しみでも、笑みでもなんでもないただの無表情。しかしそこには期待外れによる残念さと呆れ、そして哀愁が混じっていた。

 

 

「……やはりこうなったか」

「……お前、こうなることは分かってたはずだろう?なんでこんなことを?」

「……妾ももう少しだけ、信じて見たかったのじゃよ……人間の可能性を」

「お前………」

「ハハハ……人間を信じて裏切られた妾がこんなことを言うとは、滑稽なものよな」

「……」

「気にするでないわ。そのおかげで妾はお主に出会い、救われ、人を信じる大切さを改めて教えてもらったからの」

「………俺は誰も救ってはねえよ……お前が勝手に思い違いしてるだけだ……」

「フッ、そう言うと思っておったわ。じゃが、少なくとも妾や怠惰の奴はそう思っておるぞ?」

「……俺は、正義の味方とかじゃねえんだよ。………俺は、悪だ。概念・存在・思想においても正義とは真反対だろうが」

「分かっておる。じゃがその悪に救われた者もおるということを、忘れるでないぞ?」

「……間桐雁夜が燃えてるぞ?」

「おっと、そりゃ大変じゃのう。今から燃えて屍になりかけておる者のレスキューをしなくてはならんから妾はもう行くぞ?あと、話を誤魔化すでない」

「……ああ」

「っと、そうじゃエイジ……同盟を組まんか?」

「はあ?」

「他意はない。……まあそういうことも考えておいてくれということじゃ」

 

 

そう言ってルシファーは飛び立って行った。

 

 

「あいつが同盟?………何か裏がありそうで怖えなーーー」

『……イ…………エイジ!聞こえますか!?緊急事態です!』

『……今度はなんだ?』

 

 

念話越しに聞こえるセイバーの声にデジャヴを感じながら暗い気分を払拭させて気持ちを切り替えた。

そしてセイバーの言葉から衝撃の一言を言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ランサーが……正体不明のサーヴァントに……殺されました………』

『……はぁ?』

 

 

 



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宣戦布告

「何だ?この状況は……?」

 

 

永時が飛ばした蝙蝠型の使い魔を通して見たのは疲労困憊の(セイバー)と、胸に穴を開け血反吐を吐き、上空を睨みながら消えていく二枚目男(ランサー)の二人を見下げている人物がおり、何よりその手には、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー見覚えのある、紅い長槍をバトンのようにクルクル回していた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何者だ?」

「おやおや怖い怖い。では、自己紹介を初めまして、セイバー殿、クラス名はアヴェンジャー。ただ極普通のサーヴァントです。以後お見知りおきを……」

 

 

艶のある黒い長髪を腰まで垂らし、明治時代の深緑の軍服を身に纏った中性的な顔つきの女のような長身の優男。だがその口調は温もりを感じることができず、どこか芝居がかっておりその一言一言の度に背筋に悪寒が走り、結論からするととても極普通のサーヴァントには見えなかった。

 

 

「ーーー復讐者(アヴェンジャー)……またもやイレギュラークラスか?」

「またもや?……おかしいですねぇ、イレギュラーは私だけだと伺っていましたが……まあ対した問題ではないのですが……」

「……何が目的だ?」

「……目的?いえ、私自身対した目的は……一応ありますが今はマスターの目的のためにここを訪れた次第でございます。……その目的は何か?まあ詳しいことは言えませんが……「そこまでだ、アヴェンジャー」」

 

 

アヴェンジャーの後ろから制止を命ずる女の声にアヴェンジャーは開いていた口を閉じ、後ろを振り向き、足を一歩後ろに下げて軽く頭を下げる。すると先程までアヴェンジャーが立っていた場所の後ろから一人の少女が歩いてきて、アヴェンジャーが立っていた場所に位置取った。

長い紫の髪、サファイアのような瞳に練乳のような白い肌の10代後半の少女だった。

 

 

「子供……だと?」

「ああ、生憎と私は子供に値する年齢だろう……だが、それだけで戦争に参加してはならない理由にはならんだろう?騎士王よ」

「……」

「それとも子供が戦争に巻き込まれるのは騎士道(正義)に反するからお嫌いかな?」

 

 

戦争が起こることでいつも被害にあってきたのは力なき民や子供達。そして家族の名を呪文のように繰り返して死んでいった姿がセイバーの脳裏に蘇り、苦虫を噛み潰したような表情を見せた。

 

 

「……その様子だとそうらしいな。……全く、“我が父”も面倒な女をサーヴァントにしたな」

「我が父……?」

「終永時……それが我が父の名だ。知っているだろう?」

「えっ……?しかし、彼の娘は……」

「ああ、No.07……確か、ネルフェ?だったな。ベルフェゴールとの娘か……そうか、我が父はまだ私達全員を知っておらぬのか」

 

 

No.07……明らか認識番号らしき呼び名でネルフェを呼ぶ少女。話の流れからしてネルフェの他に最低七人はいることが判明した。

 

 

「……そのエイジの娘(仮)が私達に何か御用で?」

「そう警戒するでない。そんなのは決まっているだろう?……聖杯戦争の参加表明(我が父に会いに来ただけ)だ」

「……は?」

 

 

何を言っているんだこの少女は?

まるで遊びに来た感覚で参加者全員を敵に回すと豪語しているではないか。

 

 

「まあ一見子供の戯言の様な言葉かもしれんがな……だが、今頃教会の奴らは焦っているだろうよ。一応これでも、埋葬機関でNo.3の執行者なのだがな……」

「埋葬機関?…………ッ!?」

 

 

その名前には覚えがあった。

確か三ヶ月前に一杯やった時に永時が愚痴っていた内容がそんなことだったようなことを思い出した。

運が悪いのかいいのか、封印指定時代に何故か埋葬機関の連中に追われた話をしてくれたのだが……

 

 

「ナルバレック怖い」

 

 

と涙目で語っていた。てか、滅多に表情を変えない男が号泣してた。

どうやら興味本位でNo.1に命を狙われたらしく、あれはあかんと語っていた。その際、なんとも言えない空気になったのは言わずもがな。

そんな永時(=セイバー)を泣かした実力のある部署のNo.3が目の前に現れたのだ。警戒するなと言うのは無理な相談である。

 

 

「……なるほど、その感じだと埋葬機関のことを我が父から聞いておるな?……まあ仕方がないか」

「……我がマスターを始末しに来たのか?」

「いいや、我が父に会いたいのは本命。……だがそれはあくまで先程までの理由……ああ、でもさっき気が変わったがな…………」

 

 

彼女が言い終わると彼女の後方の川の水が猛り狂い、一匹の蛇の姿を形作るようにうねり、セイバーの方へと向かっていく。

 

 

「ーーーくっ!」

 

 

セイバーは手に持つ不可視の剣を凪ぐように水の蛇を斬るとあっさりとその形を胡散させた。

 

 

「……うむ、流石はかのアーサー王というべきか。実力は確かのようだな。……アヴェンジャー」

「……何?……ッ!」

 

 

ヒュッと風切り音が聞こえ、身体を捻って後ろに剣を振るうとその途中、アヴェンジャーが持つ“紅い長槍”に押し止められた。

つまり、先程の蛇はあくまで囮で本命は後ろからの不意打ちであった。

不意打ちが失敗したのが分かるとアヴェンジャーはセイバーを槍で強く前に押すと同時に後ろへと跳び距離を取った。

 

 

「はぁ……マスター、肝心なところで呼んだからバレてしまったではありませんか」

「ああ、すまん。許せ」

「……」

「卑怯、か?だが我が父ならこう言うはずだ……『卑怯、卑劣は所詮敗者の戯言』と。全く、これだから騎士というのはーーー「マスター」……何だ?」

「あちらをご覧ください」

「なんだ……って、ただの使い魔ではないか」

「ええ、ただの使い魔のようですが……複数……どうやら他のマスターの物のようなのですが……」

「……なるほどな、そういうことか……アヴェンジャー」

「了解しました」

 

 

そう言って紅い長槍……ではなく、ビデオカメラを取り出して録画を始めた。

それはセイバーに対する挑発か、はたまた騎士道を重んじるため不意打ちをしないと踏んでいるかは定かではない。だが紅い長槍を持っている辺り、不意打ちの可能性も考慮はしているようだ。

 

 

「ゴホンッ!……えー…………聖杯戦争に参加している魔術師共(口だけの貴族共)。初めまして、埋葬機関No.3、二つ名はリヴァイアサンと言えば大抵の人間は知っているとは思うが……まあそんなことはどうでもよいのだ。今回こうして録画しているのは他でもない………貴様ら魔術師共(無能マスター)に宣戦布告しに来た、というわけだ。えー、現在カメラを回しているのがサーヴァント“アヴェンジャー”だ。残念ながら真名の方は本人が告げぬため不明だが、まあそこそこの英霊だと自負しているつもりだが……どうなのだ?」

「さあ?実際のところ、戦争というものは戦略一つで簡単に戦局が変わるものですからなんとも言えませんね」

「つまらん奴だな……まあ良い。とりあえずまず宣戦布告の意味でランサーを刈り取らせてもらったので後々確認してくれたまえ……まあマスターの方は後で出向いて殺してから死体でも教会に送りつけてやるか……喉が渇いたな、アヴェンジャー、後で飲み物買ってきてくれ」

「マスター、話が逸れてます」

「おっと失礼。……とりあえず我々の拠点は一応柳洞寺のはずだが……そっちはどうなっている?」

「えっと……あっ、たった今貴女のお友達が確保したそうですよ?」

「なら良い……と、いう訳で此方へとじゃんじゃん来てくれたまえ、お客はできる限り歓迎しよう。……まあ来なかったら我々自らお宅訪問させていただくが……アヴェンジャー、何か一言言っておけ」

「えっ……?急ですね………で、ではお手柔らかにお願いします……こんな感じでしょうか?」

「15点だな、つまらん」

「厳しい評価ですね……」

「ふん、貴様はその程度ということか……」

「そういうマスターは何か一言ないのですか?」

「むっ?そうだな……では、最後に私を知っている者共にこう言っておこう………『イーヴィル計画』と」




【クラス】アヴェンジャー

【属性】平等・悪

【ステータス】
・筋力B
・耐久A
・敏捷B+
・魔力B+
・幸運C

【保有スキル】
・対魔力C

・戦闘続行A

・騎乗B

・単独行動A

・カリスマC

・直感B


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いきなりの……

「ーーーーーここ、は……?」

 

 

気がつくと白百合の咲き乱れる平原で横になっていたセイバー。辺りを確認するも永時やアスモの姿はなく、ただ一人、ポツンとその場に立っていた。

もしかして敵の罠に嵌ったのか?いや、それはないはず。確かあの後永時と共に拠点に戻ってきたはずだ。それは間違いないはず。

では、何故私はこんなところにいる?

 

 

「ーーーッ!」

 

 

思考の海に潜っていたセイバーの前に、突然それは姿を現した。

 

 

「……これは?」

 

 

白いテーブルの上に白いテーブルクロスとティーセットらしきものが置いており、そのテーブルの周りには同色の椅子が二脚、互いに向き合える形でセッティングされており、そんなものが目の前に現れ流石の彼女も困惑の様子を隠せなかった。

 

 

『ーーーどもども〜』

「誰だっ!?」

 

 

頭に直接語りかけるように話しかけてくる陽気な男の声に警戒し、自身の得物である不可視の剣をーーー

 

 

『まあまあ、んな危ないもん出さんと、一旦落ち着かへん?』

「ーーーッ!?」

 

 

取り出そうとして、取り出せなかった。

相手の宝具かスキルによる封印?いや、もしかしたら武器自身を使えなくするものか?

あくまで冷静に慎重に状況を理解し、それらが当てはまりそうな存在を聖杯に知識から検索するも結局見つからなかった。そんなセイバーの心境を知らず、男はおちゃらけた声色で話を続ける。

 

 

『とりあえず、君の得物はこっちに預からせて貰うな?いやぁ、流石の俺も波動砲モドキ(聖剣ブッパ)されたらたまらんしの〜』

「……何が目的だ?」

『目的?そやな……お話、しよう?かの?』

「お話……?」

『そそ。まあ危害は加えるつもりはないから安心して……とは言うても信じてくれへんとは思うけど……まあとりあえず座って座って』

「はあ………失礼します」

 

 

とりあえず危険がないのを確認し、呆れつつも仕方なく席へと座る。

 

 

「やあいらっしゃい。初めましてセイバーちゃん、いや、アルトリア・ペンドラゴンちゃん?」

 

 

席へ座ったセイバーの前の椅子に男は遂に姿を現した。

 

黒いパーカー、黒いジャージに中肉中背と分かるが、フードを深く被っているためか何故か顔が見えない。

 

だが、そんなことよりだ。何故この男は自身の真名を知っているのだ?

 

 

「……何故その名を?」

「残念ながら秘密事項やから言えまへーん」

「……」

「おお怖い怖い、そう怒りなさんなや。折角の美人が台無しやで?」

「それで、話とは?」

「無視か、お兄さん悲しいのぅ」

「は・な・しとは?」

「真面目にやるからそんなに睨まんといて………ゴホンッ、では本題に入ろっか?」

 

 

男が指を鳴らすとボフンとアニメのような煙が辺りを包み、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『第1回!這い寄れ!○○○さん!in第四次聖杯戦争編!』?……何ですかこれは?」

「いやぁ、なんか『BBチャンネル』なるものがあるらしいからそれに対抗して?一応○○○は俺の名前が入んねんけど、いきなり出したら読者の皆さんもつまらんやろ?………あと、言うとくけど一応これトークショーな?」

「はあ……」

「まあとりあえず気にせんといてっちゅうことや。では、張り切って参りましょう!今回のゲストは……ジャン!第四次聖杯戦争にて優勝候補、セイバーこと、アルトリア・ペンドラゴンさんです!はい、読者の皆さんも拍手〜!」

 

 

先程まで白百合の咲き乱れる平原にいたはずなのにいつの間にかテレビの収録スタジオへと早変わりしていた。しかしテーブルと紅茶セット自体は変わらず、どうやら周りの背景だけを強制的に変えたようだ。いや、よく見ればご丁寧なことにカメラなどの撮影セットが追加されており、突然の男の意味の分からない行動にセイバーはただ呆然と眺めているくらいしかできなかった。

 

 

「すみません、お義兄様はいつもこうなんです……」

「貴女は……?」

 

 

いつの間にかテーブルの横に現れたお茶汲みらしい少女が目の前の(馬鹿)をチラ見しながら申し訳なさそうな顔でセイバーの方を見ていた。

 

白髪赤眼のアルビノ、しかし右眼だけは金色のオッドアイ。

触ったら一瞬で壊れてしまいそうなガラス細工をイメージされられるような細身で青白い肌のか弱そうな身体。

そしてそんなイメージとは違う淡い紺色の着物を身に纏い、帯は黒が多めの紫だった。そして少し力を込めたら潰れそうな首には真紅の首輪らしき物が装着していた。

 

そしてセイバーが自身と目を合わせたのに気づくと弱々しく、しかし異性でも同性でも酔わせそうな妖艶さを備えた笑みを見せた。

 

 

「あっ、失礼しました。初めまして、名を………すみません、名を名乗ることを禁じられているもので……Aとお呼びください」

「ではAと……ところで、お義兄様とは……それに、その首輪は……」

「あっ……私達、血の繋がりはないのですがまあ兄妹みたいなものなので……それと、この首輪はお義兄様がくれたもので……これがないと力の制御が出来ないんですよ………」

「……すみません、失礼なことをお聞きして」

「いえ、気にしてませんので……紅茶でよろしいですか?」

「お構いなく」

 

 

本当は力のことについて聞きたかったが、流石に野暮だと思いすんなりと身を引いた。

そしてAがお茶汲みを始め、それを見計らうように男は口を開いた。

 

 

「では、早速ですが……ふむ、今回は初回ということで出血大サービス!ある陣営について話をしましょう!」

「ある陣営?」

「ほら、貴女達も会ったはずでしょ?……愉快奇天烈なピエロな男の娘とお父さん大好きっ子と」

「……もしかしてアヴェンジャーのことですか?」

「そうそう正解〜!」

「アヴェンジャーについて何かご教授して頂けると?」

「ん〜……流石に全部は無理ですがね?肝心な部分は伏せさせていただきます。ですが、ただ一方的に話すのはつまらない。なのであるルールを設けさせていただきました……」

 

 

男のはビシッとカメラがあるところを指差して言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ズバリッ!聖杯戦争で生き残ることです!」

 

 

男の言葉の後からワー!と居ないはずの観客の歓声が響いたような錯覚を覚える。いや、もしかしたらこの男が宝具か何かで幻聴を聞かせているのかもしれないが。

 

 

「……美味しいですね」

「あ、ありがとうございます」

「お上手なのですね?」

「そうですか?そんなに褒めても何も出ませんよぉ?」

「あれ……?話聞いとる?」

 

 

まあ残念ながらスルー力を身につけたセイバーに見事にスルーされており、男は軽くショックを受けていた。

それに気づいたAはセイバーに気づかせ、話を本筋に戻した。

 

 

「………生き残る?それはつまり……」

「つまり、残りサーヴァントが減少し君達が生き残っていれば話が進む、ということですよ」

「……それまでにアヴェンジャーが倒されたら?」

「……いや、私の予想が正しければあれは最後まで残ると思いますよ?(まあ死んだらそこまでやと言うことやけど)」

「……自信があるのですね」

「少し先の未来が分かっていましてね?それに基づき予想した結果を語っているだけでしてね。(まあ若干狂いが生じてきとるんやけどね……)」

「……最後に何か仰いましたか?」

「いや何も……。さて、話を戻させて頂きますが今回召喚されたのはアヴェンジャー……言わば復讐者だそうですね?」

「ええ、そのようですね……」

「なら、ここで一つの疑問が浮かび上がるのですが……」

「疑問……?」

「いえね、その復讐となる火種は一体何が原因なのでしょうか?と思いまして」

「……そういえば」

 

 

確かに彼の言う通り復讐するために現界したといえど目的でもある復讐相手が誰か、それによってもしかしたら真名が見えてくるかもしれない可能性が出てきたのだ。

 

例えば、セイバー自身が対象ならば………。とは言っても彼女にはアヴェンジャーの容姿に心当たりがないが。

 

 

「……どうやら彼の真名に一歩近づいたようですね?」

「ええ、まあ……」

「それは良かった。なら次にアヴェンジャーの真名に関すr「残念ながらお義兄様、お時間です」……マジ?」

「マジです」

 

 

控えていたAがそう切り出すと懐から銀の懐中時計を取り出し、男に時間を見せる。

すると男は残念そうな顔で言った。

 

 

「ありゃりゃ、もうお時間がやって参りました。残念、“今回”はここまでですね。」

「ッ!ちょっと待って下さい!まだ話がーーー」

「それではまた会いましょう。さようなら〜!」

 

 

 

だんだんと男の姿が遠のき、セイバーはその世界から強制に排斥された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「珍しいですね、いつも傍観を突き通すお義兄様が直接手出しするとは……」

「そう?……まああれや、今回は“あいつ”おるやん」

「あー、確かに居ますね」

「やろやろ?あれでも一応気をつけなあかんやつやねん」

「……えっ?一見対して危険性はなさそうですが……?」

「……あれはな、例えるなら真っ白な画用紙の上にある灰色の絵の具や」

「灰色の絵の具、ですか……?」

「そそ、まあ黒に近い灰色やけどな……こっから先は言われへんけど」

「えっ……?結局はどういうことなのですか?」

「まあ安心し、この戦争が進めばいずれ分かることやから」

「はあ…………」

「なんや、えらい不満そうやのう?」

「いえ、そういうわけではないのですが……」

「ん?それとも、構って欲しいんか?」

「…………………はい………」

「そっか……じゃあ今から二人でどっか行く?」

「……はい!」



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タイトルが……浮かばない

「はあ……なんで………なんで俺がこんなことしなくちゃなんねえんだよ!」

「なんでって言われても……仕方ないだろう?他でもないーーーーの命令なんだから」

「いやいやいや、いくら命令とは言え、なんで俺が爺のお守りしなくちゃなんねえんだよ!?」

「……まあ良いではないか若いの。儂の足として存分に振るうがよい」

「爺は黙っとれ!……てかやろうと思えば普通に走れるだろうが!?」

「それを言うならお前の方がお守りするのに一番向いてるじゃないか?」

「うぐ……!」

「奴は狙撃手としては完璧だが……」

「移動時がなあ……」

「ぐっ……!分かった。分かったからその期待で満ちた目でこっちを見んじゃねえ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セイバーが謎の男の会談をこなしている頃、永時は着替えることもせずにある場所へと足を運んでいた。

 

 

「………」

「あれぇ?永くん、キャスターは〜?」

「……キャスターならさっきセイバーがやったよ。お前も使い魔飛ばして見てたんだろ?」

「あれぇ?バレてた〜?……じゃあ、本題は別なのかな〜?」

「ああ、そうだな……」

 

 

部屋に入って早々、ヅカヅカとベルフェのところへと歩み寄り、いつもの場所で横になっていた彼女の胸ぐらを掴んだ。

 

 

「どういうことだ?」

「な……、何のことかな〜?」

「分かってんだろ……『イーヴィル計画』のことだ」

「………」

 

 

その名を聞くや否、彼女から笑みが消えた。

 

 

「俺が知る『イーヴィル計画』で誕生したのは三人だけじゃなかったのか?」

「……私が確認したのは確かに“この間”までは三人だったよ?」

「“この間”?」

「……本当は三人だけじゃなくて、他にも何人かいたらしいんだよね」

 

 

ベルフェの一言にやっぱりかと思い、さっきまで募っていた怒りが胡散し、掴んだいた手の力を緩めて拘束を解く。そして逆に冷静になってしまった自分自身に嫌気を感じた。

 

 

「……で、今回現れたリヴァイアサンって……」

「レヴィとの娘だね」

「やっぱりか……」

 

 

嫉妬を司る悪魔レヴィアタン……永時が知っている魔王の一人で魔王たちの中でまだマシな方だが、性格に問題がある人物である。

 

というのは置いといて、問題は彼女のもう1つの姿……リヴァイアサンのことである。

旧約聖書において最高の生物と記されるヘビーモスに対し、リヴァイアサンは最強の生物と記され。内容通りその強靭な巨体と頑丈な鱗の前にはいかなる武器も通さず、一度殺りあった永時としては二度と戦いたくはなかったのだが、残念ながらそうは言ってられない状況になっていた。

 

そんな彼女との血を持ち、最強の生物(リヴァイアサン)の能力を完全、または最低その半分でも引き継いでいる可能性があり、例え半分でもこの辺り一帯を荒地にするのは容易なのだ。

 

 

「どうする………消す?」

「すぐにその発想になるのはやめろ」

「でも……」

「とにかくこれからどうするかだが……」

 

 

言葉を区切り、ヒョイっとその場から軽やかに横に移動するとさっき彼が立っていた場所が穴だらけと化した。そして上手くそれを避けた永時は原因であるベルフェを軽く睨みつけた……とは言っても正確には彼女の横で揺らめき、黒く光る空間から出ているガトリングを警戒しただけだが。

だがその睨みに怯むことはなく、寧ろゲーム機をいつの間にか取り出してピコピコと遊んでいた。

 

 

「……相変わらずいきなりだな」

「ん〜、その身体能力は相変わらずなんだね〜。良かったぁ」

「良かったって……こっちは殺されかけた身なんだが?」

「えっ……?だって永くん、死なないじゃない?」

「いや、そうだけどさ」

 

 

確かに不老不死の体になっているといっても、ガトリングを普通に受けて喜ぶようなマゾではない。ましてや、体は人外だが精神は普通の人間と変わらないため、肉体的に耐えれるかもしれないが精神的に死んでしまう。

 

 

「まあそれは置いといて……」

「おい」

「永くんに〜、私からの〜、プレゼントがありまーす!」

「ーーーという名の実験だろ?」

「えっ!?なんで分かったの!?」

「……それなりの付き合いだから嫌でも分かる」

「そう。ならこの後の展開は分かってるよね?」

「ああ、俺の予想が正しければーーー『ガコン!』……って、おい!?」

 

 

永時が何かを言う前にベルフェはボタンを押し、永時を強制的に下の階へと落とした。

 

 

「あれ?今なんか別のが落ちたような………気のせいかな〜?」

 

 

怠惰の司るベルフェゴール。普段怠け者な彼女は永時を一人の人として、一人の異性として、そして……“実験対象として”興味を持つ科学者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……チッ、ベルフェの奴………後で覚えてろよ」

 

 

何とか着地し事なきを得た永時。普通の人ならばパニックになるところだが、生憎永時は元軍人。非常事態には慣れており、“こういう事”は過去に結構あったため意外と冷静でいられた。

 

 

「しかし、暗えな……」

 

 

永時としては状況確認をしたいところだが、完全な暗闇の中。そのせいでこの部屋の規模が理解できず、下手に動くことができなかったーーー

 

 

「訳はない」

 

 

現在戦闘服のため持っていた暗視ゴーグルを装着した。

 

はっきりとした視界が捉えたのは数十メートル四方の巨大な部屋。障害物が何もなく、真っ平らなその場所の隅っこらしきところに永時はいた。

 

しかし、あまりの広さにある疑問が生まれた。

 

 

「ちょっと広すぎだろ……」

 

 

そう、永時が知っている部屋でこんな規模の部屋に覚えがなく、こんな規模を作り上げるための余分な土地はなかったはずだったのだが……。

 

 

「……いや、あいつなら可能か」

 

 

彼女の能力を用いれば……と推測する。

考察はここまでにして今はとにかくここから脱出するため、永時は拳銃を取り出しゆっくりとした足取りで暗闇の中へと足を進めていった。

 

彼女の能力?実に怠惰な彼女らしい能力だと語っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母様、少しよろしいですか?」

「ん〜?どうしたのネルフェちゃん?」

「実は……お母様から頂いたあの子、ドリーちゃんが見当たらないのですが知りませんか?」

「……いや、知らないよ?」

「そうですか……」

「最後に見たのはどこ?」

「ええっと……さっきドリーちゃんを連れてアスモさんとこの辺りで遊んでいたら見失ったのですが……」

「ッ!?ま………まさか、ねぇ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………で、俺を呼び出した理由はなんなんだ?」

 

 

永時はそう言って後ろで佇むB(ベルフェ)印のキラーマ◯ン擬きのロボットに付いているレンズに視線を飛ばす。だが、ロボットはただ起動音を鳴らすだけでうんともすんとも言わない。

 

 

「……目的は何だ?実戦データなら聖杯戦争前に取ったはずだが?」

 

 

正解なのか急に動き始め、横から近接用のガンブレードと頭部の部分からバルカン砲をこちらに向けてくる発砲するーーー前にバチバチと体から電気を帯電させて殴りつけた。

 

 

「……ふむ、昔よりは威力が上がっているな。しかし……反応速度がやや落ちたってところか?いや、この場合……勘が鈍ったってところか」

 

 

体から電気の音を鳴らし、手を開いたり閉じたりしながら自身の実力を再度確認する。

 

 

「ここ数年研究漬けの日々だったしな………丁度いいや。ここらで慣らしておくか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう思わねえか?……ニル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よく分かりましたね」

 

 

ただ広いだけの部屋に響く足音が一つ。そして目の前から自分とほぼ同じ姿をした愛弟子が拳銃をこちらに向けながら歩いてきた。

 

 

「俺の実戦データを取るんだ。機械では俺に対抗できない。なら機械以外にすればいいと考え、尚且つ俺と互角に殺り合える人物はと考えたら、な。それに、組手としてやればお前のレベルアップにもなる………と踏んだところか?」

「まあそんな感じです」

「ん、大体は理解した……」

 

 

彼女に向かって一歩踏み出し、彼女は距離を取るために一歩下がる。一歩踏み出し、一歩下がる。また一歩踏み出し、一歩下がる。

しばらくそれを繰り返し続けていたが永時が先に動いた。

 

 

「ッ!?」

 

 

大きく踏み出し、彼女の懐に入り込もうとする。それに対して彼女は持っていた拳銃を構えて発砲した。

だが永時は慌てずに弾道を予測し身体を右に捻って避け、そのまま彼女の懐に入り込み二発目を撃たれる前に左手で銃を抑えて銃身を外側へ逸らす。

そして空いていた右手で彼女の肩を全力で押し、床に叩きつけた。

 

 

「がはっ……!」

 

 

彼女の肺から酸素が強制的に吐き出される。だがすぐ様足を広げて下半身を上に上げ、そのまま捻って回転蹴りを繰り出すが永時は掴んでいた手を離して一歩下がることで簡単に避ける。しかし彼女はその隙を突いて立ち上がって銃を構えた。

 

 

「……近接格闘において、ハンドガンよりナイフの方が有利だと教えたのを忘れたのか?」

「ッ!?いつの間に……」

 

 

のだが肝心の銃は永時の手にあり、しかもたった今目の前で分解されたためこの組手では使えなくなってしまった。

 

 

「Mk.22 Mod.0って……懐かしいもの使うんだな」

「師匠の愛銃ですからね……てか、師匠がこの銃を勧めてきたのです、よっ!」

「残念ながら俺の愛銃は……蠍だぜ?」

 

 

すかさずナイフを抜き取り横に薙ぐように振るう。対する永時は床に落ちた石ころを拾うような仕草をし、ナイフは宙を切った。そしてそのままナイフを奪い取ろうと腕を伸ばすが意図に気づいた彼女はすぐ様手を引っ込めることで逃れ、後ろへバック転をして距離をとった。

 

 

「……流石は師匠。とても“鈍ってる”とは思いませんよ」

「いや、この時点でお前を組み伏せてないからダメだ……」

「全盛期には程遠いと?」

「ああ……このざまだとあいつらに瞬殺されるのが目に見えてるな」

「そ、そうですか……」

 

 

彼らを基準にしたらおかしいのでは……と内心ツッこむ。

前に師匠から聞いたところによると……

 

 

一人目は基本何でも出来てしまう万能チート。

 

二人目は最高速度がマッハを超える速度チート。

 

三人目は普通に恋い焦がれる異常な防御チート。

 

そして、四人目である永時……そんな化け物達と同じ道を渡り歩いたのだ。チートでなければ対等になることは出来ないだろう。

 

永時曰く実力として 三人目≒一人目>二人目>>>永時 らしい。

 

更に部隊長経験を生かして主に参謀役としてこの化け物達の指揮を取っていたようだ。

 

 

それを聞いた時は改めて師の凄さを感じとったのは言うまでもないだろう。

 

そんな人が今鈍ってる状態で最優のサーヴァントと互角。つまり鈍りが消えれば……と考えただけでゾッとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「A……aa………」

 

 

アインツベルン城のある一室で痛みに堪えるビギナーの呻き声が響いていた。

 

とは言っても先程ベルフェゴールにやられた傷は体質が体質なだけにすぐに塞がっているため特に問題はなかったのだが、問題は自身が元々持つものによる痛みであった。

 

ボロボロになってしまったダークスーツの隙間から見える脈のように見える赤黒い刺青。血脈のようなそれは心臓の鼓動と同時に蠢き、彼に激痛を与えていた。

 

 

「……」

 

 

久々に感じたこの痛みに思わず失笑してしまう。

 

異常を嫌い、避けてきた自分が自ら望んで手に入れた異常。

 

大切な友を守るために手に入れたというのに肝心の友はもう居らず、残ったのはこの呪いに近いもののみ。しかもマスターの魔力不足のせいで自身の抵抗力が下がっておりいつ暴走してもおかしくない状態になってしまっている。

その証拠として本来ないはずの狂化スキルが存在しており、現に何回が暴走しかけているのが現実である。

 

こんな状態で令呪で発動なんか命ぜられれば……

 

 

「…Haaaaaa………」

 

 

ありえそうな未来に思わず溜め息をついてしまう。

一度ああなってしまえば暴走するのは明白、そうなった場合自身を止めてくれる存在は恐らくかつての仲間ぐらいの実力が必要であろう。だが現時点においてそれに値するのは一人のみ……かと言ってここで自害しては目的が達成できなくなる。

 

 

……願わくば、最後までもってくれますように。

 

 

そう思いながら深い溜め息を吐いた。



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堕ちた天使、少女の救済を試みる

「貴様……何故助けた?要らぬことをしよって……」

「……別にお前を助ける気なんか毛頭なかったんだが……アスモとマモンが助けろってうるさいからな……」

「またまた〜、後半から結構やる気だったじゃない」

「『お前ら、悪いんだが手伝ってくれ(キリッ』なーんて、仰ってましたよね?」

「……ほう?いい度胸してんじゃねえか」

「えっ……?」

「え、永時様?一体何を……?」

「なぁに、一回軽く飛ぶような経験してもらうだけだから安心しろ」

「いやいやそれって単に意識がーーーって痛い痛い痛い!」

「ちょっと永時様!?意識がぁ!意識が飛んでしまいますぅぅぅぅぅぅぅぅ!?(ああ……その鋭い目つき……とてもいいですわね!!)」

「ほおら、だんだん眠くなってきたろう?」

「永時!これって洒落にならないよ!?」

「ああ……これも中々、たまりませんわ………ガクッ」

「マモンンンンンンンンンン!?」

「……」

「堕ちたか?まあいい………覚えとけルシファー、悪魔だろうが人間だろうが天使だろうが誰しもが裏切り、裏切られ続ける生き物だ。故にこう言っておこうーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇夜に包まれた間桐邸にて襖の隙間から見える僅かな光。その部屋には布団の上にて虚ろな目で虚空を見つめる少女、間桐桜がいた。

彼女は先程、誰かさんの要らぬ計らいが原因で絶望に浸っているところであった。

 

 

実の父である遠坂時臣からの拒絶。

 

 

遠坂時臣は遠坂の長としての意見を言ったつもりであろうがまだ幼子と言える彼女にとって、これほど辛いものはないであろう。

 

そんなことがあって希望でもあった父親に捨てられたと解釈した桜はただ何も考えない、誰かさんと会う前の人形へと戻ってしまい、流石にヤバいと感じた誰かさんは色々と手を尽くしていた。

 

 

「はぁい♡こちらをご覧くださーい♪……はいっ!どうです?何もないところから一本の生け花が!」

「……」

「……で、では次です。右手にありますのはただのスーパーボールです。これをこう握り潰すと………あら不思議。スーパーボールがあったはずの手からたくさんの蝶々が出てきました〜!」

「……」

「で、ではとっておきです!今から奇跡の大脱出を行いますーーー!」

 

 

……まあ正確には長い黒髪を地面まで伸ばし、黒づくめの服装で胸元をヘソの上辺りまで開いている淑女のような痴女だが。

 

彼女はルシファーが先程召喚した、ルシファーが最も信頼している秘書兼幹部、絶望淑女ことゼツの相性で呼ばれる女である。

 

 

「……ジャーン!ど、どうです?私は見事に脱出できましたー!」

「……」

「……で、では次は……次は……次、は………………うわーん!ルシファー様ぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

だが、そんな彼女が主に頼まれた仕事は……そんな肩書きとは全く関係ないことであった。

 

 

まあ簡単に言うと間桐桜を何としても笑顔にしろ。

 

 

その指示通りにやっていたものの可哀想なことに何をやっても無表情を貫く彼女にこの場から居たたまれなくなった彼女は部屋から逃亡した。

 

 

「ゼ、ゼツ!何故敵前逃亡しておる!それでも妾の部下を名乗る者か!?というかひっつくでない!汚いぞ貴様!」

「ですがぁ……、去年の忘年会のも、去年の建国記念日のも、あれもこれもそれもどれもぜーんぶ試して無表情なんですよ!?」

「そこをどうにかするのがお主(マジシャン)の仕事じゃろうが!」

「違います!?本来は呪術師ですよ!?」

「ええい、役に立たんやつよのう!マジック以外に能はないのか!」

「ひどいっ!そういうルシファー様は出来るんですか!?」

「……はっ、何を言う。妾はかつて人を救済しておった身、この程度朝飯だ」

「おお、流石はルシファー様!今こそ、その万能性を生かすところではないでしょうか?」

「……はぁ、まあ良い。お主の思惑通り動くのは癪じゃが………今回は妾が原因じゃしの」

「流石はルシファー様!」

 

 

まあ見ておれ、と言って襖を開けて部屋へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小娘……少し良いか?」

 

 

襖の隙間から声を掛け、彼女が無言で頷いたのを確認したルシファーは静かに入室した。

 

 

「一応話は聞いたぞ……大変だったようだな」

「……」

「隣、良いか?」

 

 

ルシファーがそう声を掛けるも、桜は虚空を見つめ続けたまま無言で頷き、確認したルシファーは彼女の隣に腰掛けた。

 

 

「……妾も裏切りを味わった身、落ち込む気持ちは分からんでもない」

「……?」

「信頼していた者に裏切られる辛さはよく分かると言うておるのだ」

「……」

「……今からは妾の独り言じゃからな」

「……?」

「……妾はこう見えて若かりし頃は天使の長を務めておったのだ。仕事内容は……今思い出せば反吐が出るがまああれじゃ、身を粉にして神の駒として毎日仕事をしておったわ。……それが人間の救済にもなっておると信じてな。

しかしな、所詮それは幻想じゃった……。実は人という種を管理するためだったとは知らずにな」

「……!?」

「……人という種はな、最初の方は大した力は持ってなかったがその分数が多かったのだ。それを危険視した神々は人と神の両方のパイプを持つ存在を作り上げたのじゃ。……それが後の世界最古の王ギルガメッシュじゃ。

じゃがギルガメッシュが自己中心に生き始め、計画はあっさりと破綻。それに代わる代案として生み出されたのが人間の管理、その管理者に選ばれたのが妾じゃった。管理こそが人間のためになるという神々の嘘をあっさり信じてな。

 

妾は喜んで毎日仕事をしておったよ。じゃがな、ある日こう思ったのじゃ、『これで本当に人のためになっておるのか?』と。

気になった妾は人間の様子を見て驚いたわ。まさか同じ神を信仰しつつも人々は争っておる、しかも肝心の神々は何の助けも出さずにな。それを見た妾はすぐに神に抗議したがすぐに突っぱねられたわ。……寧ろ奴らは人が減ることに喜んでおったわ。

 

そこで始めて神々との考えの違いに気づいた妾はショックを受けたわ。……そして同時にこうも思ったのじゃ、『なら、妾が神の代わりになれば良い』とな。今思えば馬鹿な判断だったがな。

そして妾は神に反逆という無謀なことをし始めたのじゃ。天使仲間と組み、足りない数を人間と協力することで補った。

 

最初はうまくいっておった。じゃが、結局は妾らは敗北した。

 

原因は簡単じゃ……人間共が妾達を裏切って神側についたのじゃよ。

今思えば馬鹿じゃったと思うよ、当時の人間共は“神々”を信仰しておったのじゃから。

そして、敗北し反逆の罪で妾と同士達は堕ちた天使、堕天使となった。

 

そして地獄に落とされた妾達はどうにか脱出し、魔界へと移住した妾は決めたのじゃ。……もう誰も信じない、自分自身の欲のために生きると決めた。……で、気づいたら魔王になっており、やがて……彼奴に出会ったのじゃ。……今思えば馬鹿な男じゃったよ。会ったばかりの他人のために戦うとはな、そして彼奴に改めて信頼というものを教えてもらったわ……まあ、おかげで惚れてしもうたが………っと、最後は惚気話になってしもうたが結局妾が言いたいのは1つだけじゃ」

「……?」

「信じておった者に裏切られるのは辛い、それは妾はよく知っておる。じゃが……いずれお主の前に本当に信頼出来る者が現れるはずじゃ……とは言わん。それはお主の今後の行動次第じゃな………まあ妾のような罰当たりが救われたのじゃ、お主のような良き小娘が救われんのはおかしいじゃろう?」

「……そうなの?」

「ああ、それが難しいのならまずはお主が信じておる者ではなくお主を信じておる者を探してみよ。そして観るのだ、その者は本当に信頼出来るのかを。それを続けておれば自ずと見つかるぞ?」

「……そんな人、いる?」

「おるではないか。全く関係ないはずの赤の他人であるお主を救おうと地を這いつくばっておる大馬鹿者が」

「……雁夜おじさんのこと?」

「うむ。……まあ彼奴に話しづらいのならば妾に話すが良い。全てお主と妾だけの秘密にしておいてやろう。……何じゃその目は?疑うのなら令呪か契約を使ってやっても良いぞ?」

「……いいの?」

「ん?」

「………本当に、信じて……いいの?」

「信じろ、とは言わん。それはお主が見極めて決めること、まずは練習として妾と屍もどきを観て決めよ。……まあその前にーーー」

 

 

ふと急に桜は背中に暖かく柔らかい感触を感じた。

首を後ろへ回して見るとルシファーが慈愛に満ちた優しい笑みで桜を後ろから包み込んでいた。

 

 

「そんな顔では誰にも顔合わせは出来んぞ?」

「え……?」

 

 

そこで桜は気付いた。

 

自分が涙を流していたことに。

何より、もう無いと思っていた感情が残っていたことに。

 

 

「なぁに、本来ならば情緒豊かな年頃。泣いても笑っても誰もお主を責めたりはせんよ……だから、泣きたい時は泣くがよい」

 

 

その言葉が引き金となり、彼女の中に溜まっていた感情が爆発し、ルシファーは本格的に泣き始めた彼女を黙って抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……モグモグ」

「……美味いのかそれ?」

「……」

「何?現地調達はサバイバルの基本だと?一応一週間分の食糧は確保しているのだがな……」

 

 

幻想的な光を出す月に照らされるリヴァイアサンは横で食事をする友人に笑って問いかけた。しかしその笑みは引きつっており、ひいているように感じられた。

 

何故なら彼女は……蛇を食っていたからである。

 

 

「確かに美味しいですねこれ、彼が言っていたことは本当だったのですね……」

 

 

しかも、何故か己のサーヴァントが一緒になって食っているのだ。

 

 

「どうです?マスターも食べませんか?」

「結構だ」

「……」

「食えと?結構だ………だからってそんなに落ち込むな!」

 

 

断られるや否や食事を止め、無表情ながら目を潤ませてこちらを見てくる友人。

 

 

「マスター……」

「……ええい!食えばよいのだろ食えば!」

 

 

遂には己のサーヴァントにも裏切られ、罪悪感を募らせたリヴァイアサンは先程勧めてきた物を奪い取って噛み付いた。

 

 

「…………………意外といけるな」

 

 

そう言った瞬間、二人がハイタッチしているのをリヴァイアサンは見逃さなかった。



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更に狂い、荒れる戦争

お久しぶりです。遠藤凍です。

最近リアルが忙しくなってきたので更新の間隔がかなり開くとは思いますがお付き合いの程、よろしくお願いします。


ーーーさっきあいつも言ったと思うが、全ての原因は去った今。0(ゼロ)は1、2になり、やがて10……そして100へとなるだろう……。

 

 

ーーーだが……、そこ(新しい未来)に、(古い秩序)は……Never(限りなくゼロに近いもの)は、残ってはならない。

 

 

ーーーだからこそ……俺の死をもって、Never(0に近いもの)Ever(1に近いもの)へと変わり、新たな一歩を踏み出すことが出来るはずだ。

 

 

ーーー老兵(年寄り)は去るのみ、後は新兵(若い者)に後を託そうじゃねえか……。

 

 

ーーーああ……これが、(俺にとっての最後の希望)か……あながち、悪、くは………ない、な……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?お帰りーーーって、どうしたの!?」

 

 

弟子との組手という名の実戦データを取り終わり無事、呑気にゲームをしているベルフェの元へと帰還した永時。そんな彼の肩には眠っているニルマルが背負われていた。

だが、ベルフェが驚いたのはそこではなく……

 

 

「ああ……なんか死んだふりされた挙句襲われてこうなった」

 

 

と、苦笑気味に頭を指差す永時。頭には白い羽毛に覆われ、紅い目と頭部にある耳のような器官が特徴的な、まるでウサギとヒヨコを混ぜたようなそんな愛らしい生物がいた。

 

 

 

 

……まあ後に“永時の頭をガブガブと噛んでいる”、が付くのだが。

 

 

 

 

「……頭、大丈夫なの〜?」

「ああ、問題ない。しかし……見た目の反した凶暴性、更にそれを補うかのような高度な知能………何なんだこいつは?お前が造った生物兵器か?」

「うーん、正解っちゃ正解なんだけど……」

「あっ、ドリーちゃん!」

 

 

ベルフェが何かを言おうとしたところで話を遮るかのように扉を開けてズカズカとネルフェが部屋に入ってき、ネルフェの声に反応したそれは噛んでいた口の力を緩めてそのまま床へとうまく着地する。と同時にトテトテと猛スピードでネルフェの胸へとダイブし、優しく受け止めてもらっていた。

 

 

「ネルフェにはえらく懐いてんだな」

「あっ、お父様」

「お前がこれの飼い主か?」

「はい。……この子はドリーちゃんって言って、とっても大人しくて可愛いんです!」

「いやいや待って欲しい。可愛いはともかく、大人しい、というのは何かの間違いだろ?」

「えっ……?」

「いや、だってさっきまで噛まれてたし……」

 

 

ほら、とさっきまで噛まれていた痕を指差す。すると段々彼女の顔が青くなっていき、

 

 

「ドリーちゃん?あっちでお話ししようかぁ?」

 

 

何故かドス黒い笑みを浮かべながらドリーとやらを連れて外へと出て行った。

 

 

「……で、永くん。どうだった?」

「……ああ、投薬と組手のおかげで大体は戻ってきたよ」

「じゃあ、やるんだね?」

「ああ、これから本格的にな」

 

 

そう言って恒例の悪どい笑みをネルフェに見せ、その笑みに対してベルフェは頬を赤く染めながらニッコリと微笑み返した。

すると突然、先ほどネルフェが入ってきた扉から相棒が一通の手紙を持って入ってきた。

 

 

「エイジエイジ、さっきこんなのが届いてたよ?」

「俺宛の手紙?宛名は……チッ」

 

 

宛名を見るや否や嫌そうな顔になる永時。余程、嫌な相手なのだろうことが伺えた。

 

 

……なんか外からよく分からない悲鳴が聞こえるらしいが気のせいであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。教会にて、その信徒席に向かい合うように座る二人の男がいた。

 

 

「……終わりました」

「そうかい」

 

 

男の左手に新たに追加され、三画になった令呪を追加されたのを確認していると言峰璃正があることを尋ねてきた。

 

 

「ひとつ、よろしいですか?」

「……なんだ?」

 

 

折角いい気分になってたのに話しかけんなや糞爺、と内心キレつつも表面上は平静を保つ。

 

 

「今回召喚されたビギナーはあなたの顔見知りだと伺いましたが……」

「ああ、それで?」

「彼は……一体どういう英雄でしたか?」

「どういう英雄、か……。実に分かりやすい英雄だよ、女のために英雄(化け物)になり、結局守る者も守れずに無様に死んでいった大馬鹿者、ってとこだな」

「そうですか……」

 

 

璃正としてはあわよくばビギナーの弱点を聞けるのでは……と考えていたが残念ながら思い通りにはならなかった。

 

 

悲劇(バットエンド)は英雄にはよくあること、寧ろ喜劇(ハッピーエンド)を迎えたものなんて数えるほどしかいない。……奴はその中の一例だった、ただそれだけだ」

 

 

似たようなもんだからな、と皮肉気に思った。

 

愛する者を守るために戦い、亡くし、それぞれ新たな生き方を手探りで探す。

何のために生き、何のために死ぬか、それを探すのが今彼等に課せられた生きる理由(使命)である。

 

 

「では、そろそろ失礼させてもらうーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー前に死んでくれ」

 

 

 

 

 

そう言って男は虚空から取り出した拳銃を発砲した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここをこうすれば……」

 

 

桜が泣き止んで眠ってしまった後、柳洞寺の境内に何故か侵入していたルシファーはある細工を施していた。

本来なら例のアヴェンジャー陣が陣取っていて危険なはずだが、流石は腐っても神々に逆らった者、軽い細工と隠蔽程度ならばあっさりとこなしていた。

 

彼女は一体何がしたいのかは実に簡単、単なる戦力の補強であり、もうここまでくれば大体の人は彼女の目的が何か理解できるだろう。

 

 

「ここか?……おっ、あったあった」

 

 

細工をする中、目的のものを見つけてニヤリと笑った。

 

 

「細工は上々、隠蔽は完璧じゃが……思ったより時間がかかりよったか。早くやるに越したことはないな」

 

 

細工を終わらせるや否や自身の指を軽く噛み、流れ出る血で魔法陣を描き上げる。

 

 

「ふう、さて……と」

 

 

魔法陣を描き上げ、ある棒切れをそこに投げ込んだ。そしてその口から言葉を紡ごうとした時、後頭部に盾が出現したと同時に冷気を纏った氷の槍が盾にヒットした。

 

 

「……来よったか。嫉妬の娘よ」

「チッ!まさか敵陣に単身で入り込むとは……流石は魔王といったところか」

 

 

現れたのは今注目されている少女、リヴァイアサン。例のアヴェンジャー陣のマスターである。

 

 

「しかしまあ、彼奴によく似ておるのう……ん?」

 

 

自身が知る相手の娘ということもあり、興味深く観察するルシファー。よく見れば見るほどあの女によく似ており、ある一点でその視線が釘付けになった。

 

 

「……親に似て胸がないな」

「…………………殺す!」

 

 

ブチッ!と何がキレる音と共に複数に増えた氷の槍がルシファーに向かって飛んでいく。

だが槍の飛んできた分だけ、自動防御の付いた便利盾が彼女の身を守りながら反撃として光線を放つ。それを一瞥した後、視線をリヴァイアサンから逸らし、その口から言葉を紡ぎ始める。

 

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三又路は循環せよーーー」

「貴様……まさか、サーヴァントを召喚する気か!?」

 

 

ルシファーの目的に気づいたリヴァイアサンは阻止すべく盾を突破しようと試みるが、増え続ける光線を避けるのに必死でなかなか近づけず、対してルシファーは今頃気づいたか馬鹿め、と内心ほくそ笑みながら言葉を続ける。

 

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。

 

-----告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

「……チッ!令呪を持って命ずる、我がサーヴァントよ。今すぐ帰還し、魔王の行動を妨害せよ!」

「ーーー了解しました、我が主よ」

 

 

だが、リヴァイアサンは迷いもなく令呪を使って己のサーヴァントを呼び寄せて戦力を追加した。

令呪による瞬間移動をして召喚されたアヴェンジャーは手に持つ破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を振るい、光線を凌ぎ、盾を叩き落とした。

だが、撃ち落とされると同時に新たな盾が彼女を守るために出現する。

 

 

……まさか奴が来るとはのう。

 

 

サーヴァントを来るのは予想していたが令呪を使ってくるのは予想外であり、思ったより早く来た事に内心舌打ちした。

今すぐにでも反撃を行いところだが、生憎魔法陣と挟まっている位置におり、下手に動けば召喚の影響を受けるのではないかと踏み、動けないでいて自身の武器が盾で良かったと思った瞬間である。

 

そういう訳で全くと言っていいほど動けないルシファーは今はただ己の盾を信じて言葉を紡ぎ続ける。

 

 

「誓いを此処に。

我は常世総ての悪と成る者、我は常世総ての善を敷く者」

 

 

だが相手が悪く、魔力的効果を打ち消す破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を持っていて何故か使いこなせているアヴェンジャーの前に次々と撃ち落とされていって出現する方が遅れていき、両者の距離は段々と近くなっていく。

そんな状況においても彼女は目的を達するため、言葉を紡ぎ続ける。

 

 

「されど汝は終焉を葬りし者、我はその力を借りる愚か者なり」

 

 

目的のサーヴァントを召喚するため、オリジナルで言葉を追加する。

だがこうしている間にも二人の距離は徐々に縮んでいき……。

 

 

「もらっーーー「それはこちらの台詞じゃ」何っ!?」

 

 

アヴェンジャーの槍がルシファーへと届き、自身の勝利を確信した瞬間。

 

 

 

横から飛んできた光の槍に、アヴェンジャーは横腹を貫かれた。

 

 

 

「な、何故……!?」

 

 

痛む横腹を抑えながら驚愕の表情をするアヴェンジャー。それはそうだろう。何故なら……

 

 

「何故二人もいる!?」

 

 

横槍を入れたのと今目の前で詠唱している人物が同じルシファーだからであった。

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来れ、天秤の守り手よ-----!」

 

 

そうこうしている内に言葉を紡ぎ終わり、英霊が召喚される。

眩い光が辺り一面を包み込み……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何?……ッ!?」

 

 

光が晴れ、見えたのは頭部が無くなり大量の血を吹き出す変わり果てたアヴェンジャーの姿と。

 

 

「遅い、遅すぎる。スロー過ぎて欠伸が出るぜ」

 

 

そう言って一人の女が姿を見せる。

 

黒のTシャツに同色のデニムのロングパンツを身につけ、虎柄の腰巻を腰に巻いており、黒のロングヘアー、そして額には一本の横線があり、血で汚した三叉戟を持つ“幼女”がいた。

 

 

「ガキ……だと?」

 

 

十代にも満たない容姿の人物にリヴァイアサンは唖然する中、横槍を入れた方のルシファーはニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「サーヴァント、ランサー。……否、『終焉末路(カウンター・ラグナロク)』が一人、バット=エンド。召喚に応じて参上してやったぞ」

「クックック……久しいのう、最速の黒槍姫(バット)よ。体調はどうじゃ?」

「ああ……死ぬ前と比べたら随分とマシだ」

「そうか、なら良い。……“ゼツ”、もう良いぞ」

「了解しました、ルシファー様♪」

 

 

返事と共に召喚していた方のルシファーの姿がぐにゃりと歪み、代わりとして彼女の部下にして秘書兼幹部の絶望淑女ことゼツの姿があった。

 

 

「ルシファー様、無事に成功いたしました」

「ご苦労」

 

 

少々疲れ切った表情をしながらも微笑みながら己の手についた令呪を見せ、弔いの言葉を掛けた。

そして、今まで警戒のため黙っていたリヴァイアサンが口を開いた。

 

 

「どういうことだ?確か絶望淑女は呪術師、まさか貴様が幻術でも掛けたのか?」

「流石は奴の娘、それぐらいは知っておるか……。まああれじゃ、いくら妾でも幻術は専門外でな。短時間しか不可能なのだ。だから、奴が自ら掛けたのだ」

「何?」

「簡単なこと。他人から見て自身がルシファー様に見えるように自身に呪いを掛けただけよ」

 

 

そう言われてリヴァイアサンは納得した。呪術が専門とする彼女なら掛けるのも解くのも朝飯前なのだろう。

 

 

「……で、俺はまずどうすればいいんだ?そこのマスターを殺ればいいのか?」

 

 

暇そうにしていたランサーがアヴェンジャーの血が付いた三叉戟をクルクルと器用に回した後、その矛先をリヴァイアサンへと向ける。

しかしルシファーにその矛先を手で制され、その頬を膨らませ、不満そうにルシファーを睨みつける。

 

 

「……何のつもりだ?」

「いや、撤収するぞ」

「はあ?」

「気づいておるじゃろう?……伏兵の存在に」

「……分かった」

 

 

不満そうにそう呟くと二人を抱えて姿を消し、衝撃によって遅れて出てきた強風だけが吹き荒れていた。

妨害しようとしていたリヴァイアサンはその早すぎる速度に反応できず、少し遅れて逃げられたことに気づいた。

 

 

「チッ」

「……見事に逃げられましたね、マスター」

 

 

するとさっき殺されたはずのアヴェンジャーが何もなかったかのようにひょっこりとその姿を現した。

 

 

「いや、多分“貴様ら”の存在に気づいていただろうな」

「……そうですか」

「まあ分かっていてあのランサーは貴様に挑むつもりだったそうだがな」

「そう、ですか」

「……で、例のは?」

「それならこちらに」

 

 

そう言って左手につけた……“令呪”を見せた。

 

 

「よろしい、では例の計画を始めるぞ。奴を呼んでこい」

「御意」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでマスター。破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)が見当たらないのですが……ご存知ないですか?」

「何?……ッ!あの女ァ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでよぉルシファー、どうやって俺を召喚したんだ?もう7騎のサーヴァントが揃ってるはずだろ?」

「いや、正確には9騎だが……。まああれじゃ。聖杯戦争の予備システムを少し弄っただけじゃよ」

「予備システム?……おいおい、この地の魔力がなくならねえか?」

「いや、今召喚されておるのは9騎のはず。妾の計算では14騎未満ならなんとか持つと計算しておるが……まああんまり召喚すると面倒なことになるのでな」

「そうかい。流石は魔王ってか?」

「大したことはしておらんよ。……ところで、その紅槍はどうしたのだ?」

「これか?なんか置いてあったからパクった」

「手癖の悪い女じゃのう……」

「そりゃどうも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





いかがでしたか?

では、ランサーのステータスどうぞ。








【クラス】ランサー

【真名】『終焉末路(カウンター・ラグナロク)』の一人、バット=エンド。

【属性】中立/中庸

【ステータス】
・筋力A+
・耐久B
・敏捷EX
・魔力A
・幸運C
・宝具EX

【保有スキル】
・戦闘狂B
(戦闘中、一定の間隔で判定を行い、低確率で加虐体質のランクが1ランク上がっていく)

・加虐体質E

・戦闘続行A

・無窮の武練A

・勇猛A

・単独行動A

・神性B

・カリスマB

・野生の勘A
(直感A&気配察知A)

・騎乗B

・対魔力A

・白魔法A

【備考】エンド・コールを始末するために作られた組織『終焉末路(カウンター・ラグナロク)』の一人。
二つ名は最速の黒槍姫。最速の名の通り四人の内で一番足が速く、推定速度はマッハを超えると言われている(決して逃げ足ではない)。
永時曰く、見えないぐらい速い速度チート。


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アイリスフィール争奪戦

 

 

「……で、何でこんなところにまで呼び出しやがった?」

 

 

さっき届いた手紙をヒラヒラと揺らしながら永時は送り主である人物に話しかける。

しかし空いた手で銃を持っているあたり、警戒を怠ってはいないようだ。

 

 

「おやおや?要件なら中に書いてあるのでは?」

「……その話し方はやめろ、気持ち悪い」

「まあまあそう言わずに、今はこの話し方が気に入ってます故……」

「そうかよ。……じゃあ言い方を変えよう。ここに書いていた内容は冗談抜きか?」

 

 

手から炎を出して手紙を燃やし、威圧しながらそう言った。

だが肝心の相手は不気味な笑みを崩さぬまま話を続ける。

 

 

「ええ、貴方が思っている通りの内容ですよ」

「そうか……まさかまたお前と組むことになろうとはな」

「おや?了承して下さるのですか?」

「遠回しに脅してる癖によくもまあ……」

「何言ってるんですか、交渉とは脅してなんぼでしょ?」

「いや違uーーーベルフェだと?」

 

 

永時の携帯に着信が入り、肝心の相手はいいとアイコンタクトを送ったのを確認すると電話に出た。

 

 

「……報告?一体何の?」

 

 

どうやら手紙を見た後、出かけて行った永時を心配したベルフェが掛けてきたようなのだ。

 

 

『ん〜、あれだよ〜。永くんが血なまこになって探し続けていた例の聖杯の場所だよ〜』

「……何だと?」

『どうやら〜、“前回”のことを踏まえて〜やり方を変えたようだね〜。どうやらアイリスフィール・フォン・アインツベルンの体内に埋め込んでいるようなんだよね〜』

「……なるほど、戦術の欠片もない奴らでも考えはあったんだな」

『そのようだね〜。で〜、こんなこと調べてどうするの〜?“前回同様聖杯を破壊”するの〜?』

「……いや、前回はあと一歩のところまで行ったのだけど力不足で止むを得ず破壊したんだ。まあ今回は一応上手くいくようにしてある」

『そうなんだ〜』

「……ところで、ネルフェはどうした?」

『ん〜?ネルフェちゃんなら〜、今奥の方でアスモと遊んでるよ〜』

「そうか……」

『後悔してるの〜?ネルフェちゃんをこっちに帰らせたことを?』

「……本当なら戦場に子を連れてくる馬鹿はいないだろうな」

『でも〜、今ネルフェちゃんを側に置いとかないと危ないからね〜』

「分かってる、分かってるつもりだが……」

『……大丈夫、私が守ってあげるから』

「……すまない」

 

 

そう言って電話を切ると空気を読んで黙り込んでいた相手が口を開いて言った。

 

 

「……お子さんですか?」

「まあな」

「そうですか。では、死なせないよう努力しなくてはなりませんね」

「……ノット相手に死なないようにするは無理だろ?」

「さあ?やってみないと分かりませんよ?」

「まだ本気を出してない奴にどうやって?」

「さあ?……そうそう言い忘れてました。一つ面白い情報をお伝えしますね?これから起こるであろう未来のことを」

「……何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Aaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 

アインツベルンの森の中、ビギナーの叫び声と荒々しい足音が響き渡る。

その彼の視線の先にはライダーらしき人物に抱えられたアイリスフィールの姿があった。要は誘拐されているのである。

 

見回りのため、アイリスフィールの側を離れたのを狙ったのか定かではないが突然拠点へと乗り込んで来て誘拐などという行為に及んだのを知り、ビギナーの心に憤怒と落胆を孕んだ。

正々堂々とした勝負を好んでいたライダーを見てきたためにマスターの関係者を誘拐するという愚行に走ったのがビギナーには信じられなかった。

 

 

だがもうそんなことは関係ない。何故ならーーー“奴を殺せば全てが解決するのだから”

 

 

「Riderrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!」

 

 

ライダーを殺さんと全力で飛びかかる。

自身が持てるだけの筋力の全てを使って頭を潰そうと全力の拳を繰り出す。

 

どうやらアイリスフィールのことは考慮できておらず、敵を殲滅することしか頭に残っていないようだ。

 

だが単純な攻撃なため、ライダーはヒョイと横に逸れることで避けることに成功する。

 

 

「……ッ!」

 

 

避けられたことで攻撃が止まる訳もなく拳はそのまま地面へとその力をぶつけ、大小様々な土塊が浮くと共に地面が陥没した。そしてその間にライダーはビギナーとの距離をある程度取った。

しかしそこでビギナーの攻撃が終わる訳もなく、埋まった手を抜くと同時に空いている手を地に付けて回し蹴りで自身の周りに浮いていた土塊で自身の胴くらいの大きさの物を蹴り飛ばした。

 

 

「少しは周りを見たらどうだ?」

 

 

しかしそう聞こえてきて一閃、蹴り飛ばした土塊が真っ二つに別れ、ゴロンと地面に転がる。と同時にスタッとビギナーの目の前に降りてくる一人の人物。

 

 

「……ッ!」

 

 

それはビギナーにとって顔見知りの人物、見た目とは違う姉御肌から姉貴分として慕っていた女。

 

 

「……But!!」

「久しぶりだなノット。いきなりで悪いが邪魔させてもらうぜ?」

「Buttttttttttttttttttt!!」

 

 

何故彼女がここにいる?だがそんなことはどうでもいい。

 

かつての仲間とはいえ、敵と認識したビギナーは紅槍を構える彼女に飛びかかっていった。

 

 

 

それが……時間稼ぎが狙いであるとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……どうだセイバー。アリス作の試作型バイクは?』

「はい。中々素晴らしいとは思いますよ?」

 

 

新都の大通りにて、スピード違反で余裕で引っ張られる速度で道路を爆走していた。

しかしただドライブしている訳もなく、耳にインカムを付けて通信を行いながら走行していた。

 

 

『さて、今回お前に頼んだのは他でもない。衛宮切嗣の女、アイリスフィールを連れ去ってくることだ。悪いが俺は今手が放せない状態でな』

「それは構いませんが、何故誘拐などを?」

『……その女の有無で聖杯にかなり近づける、とでも言っておこうか』

「聖杯に近づける?」

『理由はもう一つあってな、どうやら奴はすでに誘拐されてるらしいんだよ』

「すでにですか?」

『幸い、誰かさんが発信機を付けてたらしいから場所が分かってたから発覚したことだ。だから……』

「逆に奪い返して恩を売ると?」

『そういうことだ。奴は俺と同じく手段を選ばない人間だからな、ここで一手打っておけば後に響いてくるはずだ。と踏んだんだよ』

「……」

『不満を感じてるかもしれないが我慢してくれ、聖杯に近づくには必要なことなんだよ』

「……了解しました」

『悪いな。敵は深町の方角へ向かって走っている、どうやらライダーの姿らしいが……別のところで奴を確認済みだ。故に騙されるなよ?多分敵は変身能力を所持している』

「はい」

『……二時の方向だ』

 

 

言われた通りの方角を見ると見つけた。アイリスフィールを抱えて建物の上を走っているライダーを。

 

 

「目標補足。これから追跡を開始します」

『了解、通信は切らずに頼む』

 

 

目標を補足し、バイクを更に加速させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Aaaaaaaaaaaaaaa!!」

「ふはははははははははは!!楽しいなぁ、楽し過ぎるぜ!」

 

 

一人は憤怒に満ちた顔で、もう一人は狂喜に満ちた顔で戦い、森を荒地へと変えていく。

 

その戦いは誰にも見えず、ただ戦闘による衝撃と荒れていく森が戦闘の凄まじさを物語っていた。

 

 

「そらっ!」

「Ga……aaa………aa…!!」

 

 

バットの一突きがビギナーの右足に突き刺さる。

 

 

「Bu……tttttttttttt!!」

「何!?」

 

 

しかし槍を突き刺したまま、バットのその小さな頭を掴み、地面へ叩きつけた。

 

 

「うぐっ……!」

「Ooooooooooooo!!」

 

 

そして空いた手で槍を抜き取り、そのまま彼女の頭を突き立てる、それを察したバットは腕の力だけで横に跳び、槍は地面へと刺さる。

 

 

「はぁぁぁぁぁ!」

「Gu…aaaa……!」

 

 

その隙を見逃さず、すぐ様全力の速度で体当たりをしてビギナーを吹き飛ばし、槍を回収した。

 

 

「Butttttttttt!!」

「まだ立ち上がるのかよ。……よくもまあそんなんでやれるな」

 

 

バットの言う通り、ビギナーの身体は切傷だらけ、刺し傷、血だらけ。対してバットは打撲痕が少々あるが大した怪我ではなく、どちらが優勢か明らかだった。

 

圧倒的な速度とそして互角の筋力による物理攻撃を前に異常を防ぐだけの宝具しかないビギナーには厳しすぎた。

 

 

「……っと、時間だ」

 

 

のだが、そこでバットは構えた手を緩め、槍を仕舞った。

 

 

「良かった。本気出してないお前を倒すのは面白くねえからな」

「……」

「じゃあなノット。……そうだ、ライダーを早く追いかけなくて大丈夫か?」

「ッ!?」

 

 

そこで言われて漸く本来の目的を思い出したビギナー。

何故知っているのか問いただそうにも、彼女は霊体化して去っていってしまったので何も聞くことが出来なかった。

だがここで立ち止まっておく訳にもいかず、すぐ様追いかけることにした。

 

 

「……ッ!?」

 

 

だがそこで問題が発生した。ここに来て再び疼き始めた刺青。これが疼き始めるということはつまり……封印が緩くなっているということだ。

 

タイミングの最悪さにビギナーは怒りを覚えた。

 

この封印を抑え込めるのにはかなりの体力(魔力)と精神力が必要となるのだが今はどうか?

精神力なら根性でなんとかすればいける、だが体力(魔力)は?

今さっきまで瀕死一歩手前にまで追い詰められた。故に漫画やアニメのように耐えれるはずもなくーーー

 

 

「……ココマデカ」

 

 

ーーー身体にあった血脈が赤く、激しく光り、封印は解かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういや槍がなんか打ち消したようだが……気のせいだよな?」

 

 

訂正、コイツが封印を解いた原因であるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、バイクで爆走中のセイバーはアイリスフィールに近づけていた。

だが……

 

 

「流石はかの騎士王。一筋縄ではいかないわね」

 

 

突如として現れた車に誘拐犯は乗り込み、代わりに車の天井の上に姿を出したのは……全身黒ずくめで胸元をへそあたりまで開いた女である。

もう誰が主犯か見え見えであるがセイバーにとっては見知らぬ存在、よく考えたものである。

 

と、いう訳でそんな呪術師の妨害のせいで中々ターゲットに近づくことが出来ないでいた。

 

 

「それ〜♪」

 

 

と懐から小銭らしきものを道路へとばら撒く。

 

 

「ッ!またか!」

 

 

それを見るや否や嫌そうな顔をするセイバー。

すると道路へ落ちた小銭が……辺りを巻き込んで爆発した。なんとも勿体ないことをするものだ。

 

 

「更に〜!」

 

 

と楽しそうに人差し指をセイバーに向けて黒くてなんか色々とヤバそうな魔力の塊を指先からマシンガンのように連射してぶっ放す。簡単にいうとどこかの赤い悪魔の得意技の狂化版に近いものである。

 

 

「どう?どう?どう!?絶望を感じてる!?」

 

 

今までのお淑やかな姿はなくし、頬を赤らめてうっとりとした表情で嬉々としてセイバーの妨害を行っていた。

セイバーに対魔力があるのを知っているのか、狙うのは全て道路やバイクであり、流石にバイクに対魔力がないので避けるしかなかった。

 

 

「くっ……!」

 

 

しかしセイバーは騎乗スキルをうまく使ってバイクを操作し、ヒラリヒラリと爆撃を避けていく。

 

 

「あら?これも避けるのね……なら、追加ね♡」

 

 

ふざけるな!と内心言うがそれで止めるはずもなく、小銭の総数を追加し、更に魔力弾を両手撃ちに変更してバイクに狙い定める。

 

既にこれを何回も繰り返してて機体はボロボロ、そろそろ速度的にも限界も来ており、セイバーは一つの賭けに出た。

 

 

「『風王結界(インビジブル・エア)』!」

 

 

発動と共に幾たびにも重なる空気の層がバイク全体を包み込み、見事な変化を成し遂げた。

 

 

「確か、これを……」

 

 

そして、ハンドルに取り付いた赤い髑髏マークのボタンに指をかける。

実はこれこそがアリスの改造の目玉であり、製作者のアリス曰く、

 

 

『どうしてもスピードアップしたいなら押してください…………まあ死んでも責任は取れませんが』

 

 

とのこと。まあマーク的に危険なことが見え見えなわけだが、

 

 

「ええい、ままよ!」

 

 

押した、押してしまった。

 

ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!!

 

 

「こ、これは……!」

 

 

ボタンを押すとマフラーが二本追加され……火を吹いた。

どうやらブースターのようである。

 

これならいける!

 

直感でそう悟り、敵に向かって突き進む。

 

 

「え……ええ!?ちょっと!まだそんな機能残してたの!?」

 

 

さっきまでとはとても違う俊敏で軽やかな動きで避けるようになった変化を遂げたことに驚きつつも攻撃の手を緩めることをやめなかったが急激な変化についていけるはずもなく、一瞬で距離が縮まった。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

「くっ!絶望的!でも……それもまたいい!」

 

 

追い詰められて剣を振り下ろされたにも関わらず、嬉々とした顔で指を構える。

 

 

「けど……出すタイミングが少し遅かったわね。もう少し早ければ勝てたかもしれないのに」

「本当それな」

「……ッ!」

 

 

しかし第三者の介入により、セイバーの剣が弾かれ、バイクは真っ二つに切られて停止した。

だが車の方には被害がなく、新手は間に位置し、立ちはだかるように着地した。

 

 

「少し遅くない?」

「うっせえ、あそこから五分で来たんだ。少しはありがたく思え。てかノット相手に逃げるのはキツいんだぞ?」

「そう?ならいいけど。じゃあ、時間稼ぎよろしくね?」

「ああ」

「逃がすか!」

 

 

そう言って車は走っていく。それを逃がさないとセイバーは鎧を纏って車へ向かうが新手の者の槍によって阻まれる。

 

 

「……そこを退いていただけませんか?」

「やだね。お前らを邪魔する様命令させてるからな?……少しは楽しませろよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルシファー様、ご命令通りに回収して参りました」

「ご苦労。妾たちの正体をバラしてはおるまいな?」

「はい。バーサーカーには雁夜殿の令呪を使わせて何とか宝具を使わせ、ビギナー、セイバーの妨害は彼女が無事に行いました」

「うむ。ん?これは……」

「どうかなされましたか?」

「いや、何でもない。では、留守番は任せたぞ?」

「はい」

 

 

部下の報告を聴き終え、アイリスフィールを受け取るとルシファーはどこかへ飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてとある廃ビルの屋上でルシファーは降り立った。

 

 

「持ってきてやったぞ。言峰綺礼よ」

「流石は魔王だ。礼を言う。……そうだ、令呪の進呈でも如何かな?」

「断る。これで貸し借りはなし、とっとと失せるがよい」

 

 

彼女が言う借りとはキャスター討伐にまで時を戻す。

 

実は永時と会話した後、燃えている雁夜を回収しようとしたが何故か雁夜の姿がなく、周辺を探しても見当たらず、仕方なく一旦帰還するとこの神父が治療して届けに来たのだ。

 

しかし彼女は魔王、永時の影響でマシにはなったが借りは作りたくないと魔王のプライドが許さず、ならばと出されたこの条件を渋々ながらも承諾したのだ。

 

今回バット=エンドを召喚したのもこのためでもある。

 

 

「そうだ。一つ言い忘れていた。教会へ向かってみるといい、面白いものが見られるぞ?」

「何?」

 

 

しかし、綺礼は答えることなく去って行った。

ルシファーは何か嫌な予感を感じ、すぐ様教会へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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怒りの傲慢様



お久しぶり……でしょうか?
最近案がポンポン出てきて後が怖いと感じる遠藤凍です。

いよいよこの作品も終盤に近づいて来ました!いやぁ、ここまで来るのに四苦八苦しましたねぇ。

改めて、読者の皆様には感謝致します。

では、どうぞ。




 

 

突然だが、皆さんは転生特典というものをご存知だろうか?

 

 

それは運命のいたずらというべき神からの贈り物。

 

それは神の手解きが加えられ、その者は新たな力を手に入れる。

 

中には望み通りに、中には望まないものを。

 

欲し、欲さなくとも与えられる時もある。

 

 

 

その者はそれを望まなかった。だが神に近き者はそれを与えた、否、与えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが……後に世界を壊し、神すら恐れる存在になるとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬木市上空にて本物のライダー陣は戦車(チャリオット)にて移動していた。

 

 

「ライダー……後ろから何か来てないか?」

「ん?」

 

 

ふと後ろを見たウェイバーは怪訝そうに後ろを指差し、ライダーは後ろを見てみる。

見えたのは一人の人間、だがその移動方法に目を見開いた。

 

 

「なあ坊主、人というものは空を飛べるものなのか?」

「えっ?魔術師の中には出来る人もいるらしいけど……って、こっちに向かってきてないか!?」

 

 

逆立った金髪に碧眼。そしてよく鍛え上げられ、引き締まった筋肉。そして、人間であるウェイバーでも感じてしまう程の闘気と殺気をばら撒く男。

 

そんな男が猛スピードでこちらに向かって飛んできているのだ。ウェイバーが焦るのも無理はない。

 

 

「なかなか面白いではないか。是非臣下に誘ってみたいものだ!」

「いや多分無理d「ッ!伏せろ!」ーーー!?」

 

 

だろう、と言いかけたところでライダーが叫び、その勢いに負けて思わずその場にしゃがんでしまう。

すると光の球体が緑色に光りながら猛スピードで頭上を通過。そのまま上空へと上がっていき……大爆発を起こした。

 

 

「えっ?今のってーーー?」

「坊主!しっかり掴まってろよ!」

「え!?ちょっと!今度は何を!?」

 

 

手綱を持つ手を強め、戦車(チャリオット)は急降下を始め、山道の道路に車輪を付けて走り出した。

 

夜とはいえ、障害物のない空中にいればいい的となってしまう。故に道路とはいえ、降りたことで命中率が多少でも下がると踏んだのである。

 

 

「どこへ行くんだぁ?」

 

 

だがそうはいかなかった。

 

ズシン!と轟音が響き、舞い上がった砂塵と爆風がライダーのマントをたなびかせる。

 

そして、進む先には例の男が。

 

 

「ぬお!?」

 

 

いち早く気づいたライダーは急ブレーキをかけ、戦車(チャリオット)を急停止させる。

 

 

「おいライダー!一体何があってーーーえええっ!?」

「貴様何者だ?見たところサーヴァントのようだが、金髪の男なぞ見た覚えが……」

 

 

突然現れた人物に怪訝そうに見るライダー。しかし男はある一言だけ憤怒を込めた声で告げる。

 

 

「ライダーァァァァァァァァ!」

「その声、どこかで聞いたような……。ん?そうだ!思い出したぞ!姿が変わっているから気づかんかったが貴様、ビギナーだな!」

「……だからどうしたぁ?」

 

 

男……否、ビギナーはそう肯定した。姿形は違えど声は変わらず、ライダーはそこからこの男の正体を割り出した。

そのあまりの変化にウェイバーも目を見開いてビギナーらしい人物を凝視していた。

 

 

「ビギナー!?てか、何でそんな流暢に話せてるの!?」

「そんなことは知らん。また宝具かなんかで話せるようにしたんだろうな」

 

 

だが、ビギナーらしい人物は憤怒の表情を維持したままさっき飛ばしてきた緑に光る球体を自身の掌から作り出す。

 

 

「……まさかここでやるつもりなのか?」

「ふむ。どうやらそのようだな」

「おいライダー。まさかお前もやるのか?」

「無論だ。……奴は既にやる気のようだしのぅ。それにはしっかりと答えてやらなくてはなるまい?」

「いや、けどさ……」

 

 

ウェイバーはそんなことを気にしているのでない。もうこのライダーの性格は短い付き合いとはいえ、分かっているつもりだからもう諦めた。では気にしているのは何か、それはビギナーとの間合いのことである。

 

その距離は約数十メートル弱、しかし彼らサーヴァントにとっては飛び出せば一瞬で届いてしまう距離。更にこの戦車(チャリオット)は前進しかできない、しかし、肝心の進路方向にはビギナー。しかも二車線道路とはいえあのライダーの巨体を簡単に運ぶ戦車(チャリオット)。そのサイズは大きく、小回りすることもできないのだ。

 

そのことを踏まえ、ウェイバーはある結論に至る。

 

 

「まさか……真っ直ぐ突っ込むつもりか?」

「無論そうだが?」

 

 

ウェイバーは言葉を失った。コイツ、馬鹿じゃねえの?と。

 

 

「安心せい、ちゃんと策は用意しておる」

 

 

だが流石は博学、策はあるようだ。

 

 

「けど、ビギナーは優勝候補とまで言われてるんだぞ?いけるのか?」

「まあ見てろ。確かに奴はかなり場数を踏んでいる猛者だ。だが、そんな奴にも……否、どんな猛者だろうと必ず隙はある。そこに余は賭けてみるのだ。それに……彼奴とて、気が変わって余の臣下になるのかもしれんしな」

「お前……まだそんなこと言って」

「奴はそれほどの猛者ということだ坊主。余の軍勢に加えるからこそ、奴は良き臣下になり、やがては……良き盟友となるかもしれん」

 

 

そう言ってニヤリと笑みを浮かべ、キュプリオトの剣を抜く。

 

その笑みを見て、ウェイバーは諦めた。もうこの男は止められないと、なら自分はマスターとして見守ろうと。

 

 

「じゃあやれよライダー。お前のやり方で勝てばいい」

「ほう?話が分かるようになってきたではないか!」

 

 

そして二人は笑みを浮かべ、ライダーは宝具を発動する。

 

 

「いくぞ!『遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)』ォォォォ!!」

 

 

その雄叫びによって、戦車(チャリオット)を牽く神牛は雷撃を纏う。

ライダーの雄叫びに、戦車(チャリオット)の動きに、大地は揺らぎ、神牛が一歩踏み出せば雷が迸り、『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』は持てるだけの力全てを使ってビギナーを蹂躙すべく突き進む。

 

 

「……フッ、流石はライダー。そう来なくては面白くない!」

 

 

流石のビギナーもこの時だけはアイリスフィールのことは忘れ、目の前の敵との戦いに集中する。

 

 

「AAAAAlalalalalalalalalalalalalalalaie!!」

「うおおおおおオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

ライダーの戦車(チャリオット)が今まで見たことないぐらいの速さで迫り、ビギナーは掌にある球体を掴み、戦車(チャリオット)に向かって全力投球した。

 

そして、辺り一帯は爆発と爆風、そして眩い光によって包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドカッ!と荒々しく教会の扉が蹴破られ、ルシファーはズカズカと入っていく。

 

中は電気も何もついておらず、僅かに入り込んでいる月明かりだけを頼りに辺りを警戒しつつも奥へと進んでいく。

 

そして、奥の方に見覚えのある後ろ姿が見えた。

 

 

「あれは……あごヒゲか?」

 

 

間桐雁夜の怨敵である男を見かけ、手から光の槍を作り、ゆっくりの近づき……

 

 

「死んでおる、だと?」

 

 

悪魔の契約の際、対価で魂を貰うため分かったこと。それはこの男の魂からは生気が皆無に等しい程感じられないのだ。

 

 

「……ゼツ」

「はぁいルシファー様♡お呼びですか?」

 

 

そう言って信徒席の下からぬっと出てきた。

 

いつもならイラッときて蹴り飛ばしているがシリアスな空気のため、空気を読まない馬鹿(部下)とは違い、怒りを腹の奥へ押し込んだ。

 

 

「……奴の周囲に罠の類はないか?」

「ん〜、特にありませんよ?……あら?あの人物は?」

「遠坂時臣。屍もどきの怨敵であり、小娘の実の父親じゃ」

「そうですか、彼が……。エイジ様に比べたら貧相な身体ですね」

「ハッ、エイジと此奴を比べるでない。否、比べる価値すらないわ」

 

 

相変わらずゾッコンですね。とゼツは苦笑しながら言った。

 

 

「しかし、それならば一体誰が……?」

「恐らくあのクソ神父じゃろうな。教会の話をしておる時、腹の内にドス黒いものを感じたのでな」

「ルシファー様が感心する程とは、余程のクz……んっ!………悪なのですね?」

「ああ。じゃが、ありゃ純粋過ぎて妾でも寒気が感じたわ。……あれはエイジとは違う成長を遂げおるな」

「そうですか……ルシファー様、誰か来ましたよ?」

「分かっておる。隠れるぞ……ゼツ」

「了解しました♪」

 

 

指を鳴らすと二人は闇に紛れ、姿を消した。

そして、一瞬の静寂の後教会の外から誰かの足音が聞こえる。だがその足音に規則性などなく、微かに足を引きずるような音も紛れており、ルシファーはそこから大体を察したのだがあえて静観してみることにした。

 

彼女の契約は聖杯戦争に勝ち残らせること……なのだが、人間観察を行い、人間を見極めるという自身の確固たる願望には勝てないのである。

故に気になる。あの男が、死の淵を彷徨う男の答えを。情に流されるままでなく自身の強い意志を持った男が、どのような答えを見せてくれるのか。

 

だから彼女は隠れて静観することに徹した。例え、今後聖杯戦争が不利な状況になるとしてもだ。

 

そして彼がやってきた。

 

 

「遠坂……時臣ィ!」

 

 

原作通り呼ばれたのかどうか定かではないがやってきた間桐雁夜。

 

 

「俺を殺したつもりでいるようだが……残念だったな!」

 

 

弱々しいが強い意志の持った顔つき、足取りで遠坂時臣へと近づいていく。

 

 

「お前は桜ちゃんを泣かした!そして俺を怒らせた!だから……とりあえず一発殴らせろ!」

 

 

ほう、とルシファーは感心した。まさか殴らせろなんて言うとは意外だったようだ。

 

そして雁夜は時臣へと近づき、全力のパンチを顔にお見舞いするために肩を掴んで、

 

 

「その後桜ちゃんに謝ってもrーーーえっ?」

 

 

その後桜ちゃんに謝ってもらうぞ。そう言おうとしたがすでに死体である時臣の身体は押されたことによりバランスを崩し、重力に従って教会の冷たい床へと倒れ伏したので言葉を失った。

 

 

「死ん、でる……?」

「雁夜くん?」

 

 

死体に近づいて生死を確認しようとしたところで教会の入り口の方から雁夜にとって聞き覚えのある女性。否、居てはマズい女性の声が聞こえた。

 

 

「葵、さん?……ッ!違う!待ってくれ!これはーーー」

「満足してる、雁夜くん?これで聖杯は間桐に渡ったも同然ね?」

「だから待ってくれとーーー」

「どうして?私から桜を奪っただけじゃ物足りないの?」

「……は?」

 

 

危うく言いそうになったがルシファーも同じ言葉を発しかけていた。

 

小娘を奪った?両家納得の上で養子に出したのではないのか?しかもどんな解釈をしたらそのような言葉が出てくるのだ?

 

 

「(ルシファー様!気を抑えてください!)」

 

 

ルシファーのストレスがマッハで募り、爆発寸前のところでゼツの一声で何とか気を収める。

 

文句ならいつでも言えるのだがそれではダメだ。せめて間桐雁夜がどのように答えるか確認するまでは手出ししない。そう決めたので怒りを沈める。

 

 

「よりによって、この人を私の目の前で殺すなんて……どうして!?」

「だから殺してなんか……」

 

 

そこで気付いた。ああ、この人に何を言っても無駄だなと悟った。何故なら彼女の目は怒りに燃える目をしており、気分が高ぶっており、更に自分が時臣殺しの犯人だと思っているのだ。何を言ったところで言い訳にしか聞こえないのだろう、そう思った。

 

ここ数日、ルシファーの行動に引っ張られていたためかそれともルシファーのおかげで心に余裕ができたのか、意外と冷静にいられる自分に驚く。

 

そしてあることを閃いた雁夜は驚くべき行動に出た。

 

 

「だって仕方がないだろ?この男がいなければ……こんな男さえいなければ!俺は聖杯戦争に勝利し、楽に聖杯を手に入れていたはずだったんだ!……前々から鬱陶しかったんだよ。この男が、この男の魔術の才能が!この男の幸せが!ーーーだから桜を養子に入れたんだよ。あいつが少しでも不幸になれるようにってね!!」

 

 

なんとこの男。やってもない罪を認めた。認めてしまった。しかもありもしない理由で、しかも嘘の動機まで丁寧に語った。

 

何故なら自分は持って数日の命。だから自分は泥を、つまり時臣殺しの罪を被ったのだ。

夫が殺され、次はその魔の手が桜にもいくかもしれない。そうなれば流石の遠坂葵も間桐へ預ける気を失くし、桜を引き取るだろうと考えたのだ。

 

例えそれが……初恋の人から嫌われる結果になると分かっていても、だ。

 

 

それが、間桐雁夜の選んだ答えだった。

 

 

「ふさげないでよ!アンタなんかに!何が分かるっていうのよ!?アンタなんかーーー誰かを好きになったことなんか……ない癖に!!」

 

 

いざ言われると結構堪えた。暖かかったあの人が、命に懸けても守ろうとした人が今はどうだ?そんなものは今や見る影もない。

 

優しすぎる雁夜にとって、その言葉は厳しすぎた。

 

ふと、彼の目元から一滴の滴が流れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで気が済んだか?」

 

 

ルシファーの裏拳が遠坂葵の頬にヒットした。

 

 

「えっ……?」

 

 

何故か怒りの表情に満ちたルシファーがいきなり現れたことに雁夜は驚き、呆然としてしまい、ただ見るだけしかできなかった。

 

 

「さっきから聞いておれば貴様……意味の分からんことをほざきおって。娘を奪っただけじゃ物足りないの?……下らん、全くもって下らん。養子に出したのは両家納得の上でのことであろう?では貴様はそれに反対したのか?」

「それは……」

「やはりな。どうせそんなことじゃろうと思ったわ。所詮は口先だけの貴族令嬢のことはある。全ては流されるまま、自身の意見は直接言わず後から愚痴るとは……実に下らん女じゃ」

「……」

「だんまりか?本当に下らん女だ。しかもあれじゃろう?娘……遠坂凛が勝手に戦地に入ってきて死にかけたそうじゃな?」

「……ッ!」

 

 

実はキャスター討伐前、本格的なサーヴァント戦の準備のために下調べを行っていたルシファーは下水道付近にて雁夜を発見。首根っこを掴んで事情を問いただすとここがキャスターの根城であり、桜の姉の遠坂凛が無謀にもここに突っ込んで行ったのを確認したため、助けに来た。とのこと。

その後なんか海魔の餌になりかけていたところを発見、放置するのも良かったが雁夜がうるかったので渋々助けてやったのだ。

 

 

「全くもって下らん。力のない小娘如きが勝手に戦地に入ってきて死にかけておったからな。そこの男が助けんかったら今頃死んでおったものを……」

「そんな……」

「人を見る目がない、娘すらまともに見ることが出来ない。本当にお主は下らん女だ!」

「うっ……!」

 

 

遠坂葵の首を片手で掴み、上に上げる。

 

 

「やめろルシファー!」

「貴様は黙っとれ!」

「ッ!」

 

 

普段冷静な彼女からは想像もできない怒声を上げ、不意を突かれた雁夜は手を止めてしまった。

 

 

「失礼、雁夜殿」

「なっ……!ゼ……ツ?」

 

 

そしてその隙を突いて今まで黙っていたゼツが雁夜の首筋に手刀を当て、意識を奪い去った。

 

 

「貴様如きに何が分かる!?この男の苦悩を、小娘の苦しみを!……間桐の家に行った小娘が何をされたか知っておるか?まず奴は蟲ケラ如きに処女を奪われ、心身共に蟲に犯され続け、彼奴の髪色は今や変色して紫に変わっておるのだぞ?そんな小娘を救ってやったのがそこの男だ。奴は自らの命も省みずに赤の他人である小娘を救うために持って数日のところまで命を削りおった大馬鹿者じゃ。妾が来なければ今頃この二人は壊れておったわ。それに比べて貴様はどうだ?娘を奪った、夫を奪った?そこから更に八つ当たりじゃと?なら貴様はそうならないように何かしよったのか?どうせ何もしておらんのだろ?魔術の才もない、力も何もない、そんでもって事は全て他人任せの貴様には到底無理なこと。こやつらが苦労して生きておるのに貴様は汚れを知らぬまま、綺麗なまま毎日をのうのうと暮らしておったのだろう?ふざけるな……ふざけるな!妾はな、貴様のような者が嫌いだ。虫唾が走る、身の毛がよだつ!……ああもう!イライラさせる女だ!もういい、貴様も八つ当たりしたのだ。妾も貴様を見習ってさせてもらおう。勝手に後悔してろ勝手に懺悔でもしろ、そして無様に生きていろ!」

 

 

そう言って光の槍を振るい、左腕と両足を切断した。

 

ルシファーはいつになくイライラしていた。遠坂葵の生き方にイラついたのではなく、増してや間桐雁夜に同情して変わりに怒ったのではない。なら何故か?

 

 

「貴様如きがこの男を……間桐雁夜を勝手に語るでないわ。故に、貴様如きが間桐雁夜を責める資格もありもせんわ」

 

 

そうだ。何故なら自分は数日といえど間桐雁夜という男を理解していた。だからこそだ。間桐雁夜の表面しか理解していないこの女が許せなかったのだ。

 

表面上でしか人を知ることができなかった、終永時に出会う前の自分と重なるから、つまり同族嫌悪みたいなものを抱いたからである。

 

 

「せめてもの慈悲じゃ。右腕と命だけは取らないでおいてやる。間桐雁夜の優しさに感謝するがよい」

 

 

ルシファーがそう言うと痛みのあまり遠坂葵は気絶し、それを鼻で笑って一瞥すると入り口に向かって歩み出した。

 

 

「ゼツ。“カリヤ”を運べ」

「はい、ルシファー様」

 

 

気絶した雁夜を抱えながらもゼツは少し先を歩くルシファーの背中を見て、

 

 

(これもエイジ様の影響なのかしら?ルシファー様は随分と甘く……いえ、優しくなられたのですね)

 

 

驚く反面、嬉しいと思った。

 

しかし、ルシファーの足が急に止まったことでその思考を中断させた。

 

 

「そこにおるのだろう?クソ……否、外道神父。今妾は機嫌が悪いのでな。出て来なければ殺すぞ?」

 

 

そう言うと拍手の音が聞こえ、入り口から真っ黒な服装の人物が現れた。言わずと知れた言峰綺礼である。

 

 

「素晴らしい、流石は魔王だ。中々面白いものを見せてもらったよ」

「つまらん男じゃのう貴様。どうせ人の不幸に愉悦でも感じたのじゃろう?」

「ほう?どうしてそう思うかね?」

「何、貴様からは純粋な悪意を感じる。まるでオモチャを与えられて喜ぶガキのようだ。自身が心からいくら求めても意志がなくては残るのは虚無感だけ。だけど貴様はこんな下らんことで達成感を得ておる。だからつまらん男だと言ったのじゃよ」

「なるほど、ではどういうものが好みなのかね?」

「全くもってつまらん男だ。そんなことも分からんのか?妾が好むのはただ一人、終永時だけじゃ。貴様のような純粋過ぎず、かと言って濁り過ぎることのない最も人間らしいのに美しい()を持っておるのだ。貴様には到底分かるまい」

「……なら、衛宮切嗣はどうなのだ?」

「衛宮切嗣?ああ、あの無様な生き方をするクソガキか。確か恒久的な平和、戦いの根絶が願いとエイジが言っておったが、実に下らん妄言じゃ。笑い話にもならん。奴は単に自身が行ったことの罪滅ぼしがしたいだけじゃな。平和なんてのはただの免罪符。血で汚れた先の平和など到底無理に決まっておる。そもそも人は人同士で争い、戦うからこそ反省し、生きてきた生き物じゃ。……これは受け売りじゃが、正義や悪ってのは時代によって変わる、いわば生き物みたいなものじゃ。政治や経済、宗教、思想、環境などによってコロコロ変わりおる。今日までやってきた正義が、明日には悪となるかもしれんし、逆も然りとな。それに、どんな平和(正義)を望んでおるかは知らんがそんなもので平和が叶うのなら今頃世界平和なんて掲げる必要なんてなくなるじゃろうが。じゃが奴は無理をしてまでそれを実現しようとしておる。つまり結論として、衛宮切嗣という男は正義とも悪とも言えない、冷徹なロボットにすらなりきれない哀れな人間、ということじゃ……以上、参考になったか?反論は聞かんぞ?ではな」

 

 

言峰綺礼の答えはあえて聞かず、ルシファーは教会を出て行った。

 

 

 

 

 




いかがでしたか?

ビギナーのステータス更新です。どうぞ!



【クラス】
・ビギナー

【ステータス】
・筋力A+→A++
・耐久A++→A+++
・敏捷A+→A++
・魔力B++→C-
・幸運B→C


【保有スキル】
・狂化D→A
(ある特定の人物に合わない限り、普段なら会話は出来る)

・騎乗A+→B-
(狂化のせいでランクダウン)

・直感A

・戦闘続行A

・千里眼B→A

・単独行動A

・異常体質B→A
(狂化により異常に近づいたためランクアップ。ステータス上昇の確率が上がる)

・祖龍の寵愛D→C
(異常に近づいたためか、何故か上がったスキル。あらゆる属性攻撃に若干の耐性がつく)


※追加スキル・破棄スキル

・縮地B《破棄》

・魔力放出A(気)《追加》
(魔力を気に変換して放出する)

・加虐体質A《追加》


【宝具】
普通求めし異常者(ノット・バット・ノーマル)

完全な異常になったため、破棄されました。


『原点にて頂点』

レジェンド・オブ・サイヤ

ランクEX

対星宝具

レンジ1〜???

最大補足???

神から与えられた転生特典。
某野菜王子をヘタレにさせたあの(悪魔)になる。
本来ならこれだけで王に君臨できたかもしれないのに本人は興味がないようだ。


『???』

異常になったことで使用可能になった。
これこそがルシファーの言っていたありとあらゆる原点を担うことになってしまった原因。サーヴァントの身で使うとほぼ勝てるが代わりに自身の身が滅ぶので今後一切使わない予定のようだ。






この作品を書く前、fateに伝説の悪魔をいれたらどうなるんだろ?って思ってやってしまいました。

ステータスが低い?そりゃサーヴァントの身ですから弱体化はしないと(汗)

反省はしていない、だがちょっと後悔している……。


で、ではまた次回!



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異常と最速

 

 

ライダーとビギナーのぶつかり合いにより、山道の道路が爆発を起こし、舞い上がるかの如く、炎が炎上していた。

 

そんな中から出てきたのは金髪碧眼の筋肉質な身体の男、ビギナーである。

 

 

「フッ、この俺があの程度の爆発くらいで死ぬと思っていたのか?」

 

 

特徴的な足音を鳴らしながら炎の中を悠々と歩いて出てくる。その身体には火傷などの傷が存在せず、彼の肉体の強さを物語っていた。

 

 

「……もう終わったか?」

 

 

詰まらなさそうに呟き、炎に背を向けて歩き出す。

 

 

「ん?」

 

 

ビギナーに電流が走り、ある人物の居場所が出てきた。

 

 

「……まあいい、奴ならいつでも殺れる」

 

 

そう言ってビギナーは空を飛んでどこかへ行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方アイリスフィールを追いかけていたセイバーはバットとの戦闘に苦戦していた。

 

 

「おらおらおら!」

「くっ……!」

 

 

ビギナーと同じように高い筋力と敏捷により苦戦は強いられてはいたがビギナーとは違い、大した傷を負ってはいなかった。

 

いくら相手が速かろうと冷静に観察して上手く避け、弾いているのだ。狂化によって理性がなく、それ故単純な攻撃しかできなかったビギナーとは違うのである。

 

 

「はぁっ!」

「ぐっ……!まだまだぁ!」

 

 

セイバーの切り上げがバットの身体にかする。しかし、バットは手に持つ槍で心臓に一突き。

しかしセイバーは剣を横にすることで軌道を逸らし、急所を外すことに成功したが、代わりに逸れた槍は横腹に突き刺す形になった。

 

そして身の危険を感じ取ったバットは槍を抜いて後ろへと跳ぶ、すると案の定セイバーが剣を横に薙ぐように振るっているのを確認した。

 

 

「チッ、外したか。流石は騎士王というべきか?」

「そちらこそかなりの武芸の持ち主のようで……是非ともその真名を聞きたいものですね」

「アホか、これは戦争なんだぞ?安々と自分の名を名乗る馬鹿がいるか。いたとしたら相当な大馬鹿者だがな?」

「……」

 

 

図星であるため、黙り込むセイバー。永時との契約がなければ今頃会話をするかのように名乗っていたであろう。

 

 

「えっ……まさか図星?」

「……いえ、違います」

「ふぅん。まあどうでもいいけど……さっ!」

 

 

セイバーに向かって飛び出すーーーかのように見えて更に一歩後ろに下がって横に薙ぐように振るい、バットに向かって飛んできた緑の何かを弾いた。そして弾いたそれは軌道を変えて近くに落ちて、爆発した。

 

 

「新手か!?」

「チッ……もう来やがったか」

 

 

セイバーは新手を警戒して剣を構えて辺りを見渡し始め、バットは首を上を向け、ある一点を眺めていた。

 

 

「バットォォォォォォォォォォ!!」

 

 

雄叫びと共に物凄い形相でこちらに飛んでくる男を二人は視界に捉えた。

 

 

「あれは……何者だ?」

「ノットだよ、ノット。しかしあいつ……もうこの段階に来ていたか」

「ノット?……ああ、ビギナーのことですか。しかし………」

「明らかに変わってる、か?まあそれが奴の宝具なんだよ。気にしたら負けだ」

 

 

黒髪と白い伊達メガネ以外特に特徴がなかった男が金髪碧眼に引き締まった筋肉と特徴だらけの男へと変貌しているのだ。驚くなという方が無理である。

 

だが、醸し出している闘気と殺気から先程の比ではなく、変わったのは見た目だけでないことを物語っていた。

 

 

「バットォォォォォォォォォォ!!」

「はいはい、そんなに叫ばなくてもいいから。それとも俺が恋しい?……な訳ねえか」

「オオオオオオオオオオ!!」

 

 

流星のように落ちてきて、その勢いのまま拳を振り下ろす。

しかし敏捷が高いバットにそんな単純な攻撃は聞かず、槍を使って横へとズラし、ビギナーは道路に衝突した。

 

 

「ゲッ!」

 

 

しかしビギナーのパワーが強力だったためか、はたまた本来の持ち主でないからか。手に持っていた紅槍が折れていた。

 

 

「あちゃー……やっぱり自分の得物じゃないから無理かぁ」

「バッ……トォォォォォォォォォォ!!」

 

 

怒りの声を上げ、圧倒的な殺気と闘気を振り撒いて大地を揺るがしながらビギナーは立ち上がり、バットは自身の得物を取り出した。

 

 

「……鎖?」

「ああ、いつ俺の得物が槍だけと言った?……まあいい。おい騎士王!一旦ここらで停戦にして共闘といかねえか?」

「……同感です。今それを考えていました」

「それは了解ってことでいいか?」

「ええ」

「おk。じゃあ……いくぜぇ!」

「はい!」

 

 

バットの叫び声と共に二人は飛び出す。

 

 

「バットォォォォォォォォォォ!!」

 

 

二人が飛び出したのに反応したのか、ビギナーも同じように飛び出す。

 

 

「デェヤァ!」

 

 

ビギナーは掌に緑弾を作り出し、二人に向かって投擲する。二人は横にズレることにより避け、ビギナーの懐へと接近する。

 

 

「チィッ!!」

「はぁっ!」

 

 

ビギナーは最も距離が近いセイバーに拳を振り下ろす。だがセイバーは振り下ろされた腕を足場にして跳び、ビギナーの頭狙って剣を振り下ろすーーーのだが頭突きで防がれ、再び拳で攻撃する。

 

 

「ほらよ!」

「何ぃ!?」

 

 

しかし腕に鎖が絡みついて引っ張られ、軌道が逸れた拳はセイバーに当たらず空振りする形となってしまい、

 

 

「今だぞ!」

「はい!『風王鉄槌(ストライク・エア)』!」

 

 

ゼロ距離からの風の鉄槌が頭に叩き込まれ、辺りに砂塵が舞い上がる。

打ち終わったセイバーは剣を構えたまま後ろに下がる。

 

 

「……やったか?」

「ちょっ、それフラグ……「その程度のパワーで、この俺を倒せると思っていたのか?」ッ!」

 

 

バットの言う通り、砂塵から大きな手が伸びてきてバットを掴もうとするがギリギリ気づき、バック転で腕をヒラリと回避し、巻いていた鎖を解く。

 

 

「……相変わらず化け物みてえな奴だな」

「俺が化け物?……違う、俺は悪魔だぁ」

「……ああそうだったな。お前は悪魔(自称)だったな」

「フフ……フハハ………フハハハハハハハハ!!」

 

 

悪魔と言われて嬉しかったのか、悪魔のような笑みを浮かべ、礼と言わんばかりに緑弾を投げ飛ばした。

バットとセイバーはビギナーに向かって走り出し、走りながら身体を捻って緑弾を避ける。

 

 

「はぁっ!」

 

 

セイバーが剣を振るって今度は胴を狙うが難なく弾かれ、緑弾を作り、投げ飛ばさずにセイバーの腹に叩き込んで押し込む形で爆発させた。

 

 

「グハッ……!」

「フハハ!」

「せい!」

 

 

その隙にバットは接近し、顔に蹴りを与える。

 

 

「何なんだぁ今のは?」

「げっ!」

 

 

全然効いておらず寧ろ喜んでいるかのように笑みを浮かべるのをきみわるく感じながら顔を蹴ってバック宙の要領で地に足を付ける。そしてビギナーは踏み潰そうと足を勢いよく下ろす。のだがその前にバットは鎖を絡ませて引っ張りバランスを崩したビギナーは思わず声を上げた。

 

 

「何だと!?ーーーとでも言うと思っていたのか?」

「なっ……ぐあっ!」

 

 

バランスを崩し、地面に倒れる前に地に手を付けて身体を捻って回転蹴りをバットのその小さい体躯にぶつけた。

そして蹴られたバットは地面に1、2回バウンドしながら飛んでいき猛ダッシュで接近したビギナーに蹴り上げられ、更に緑弾を投げられて……

 

 

「『風王鉄槌(ストライク・エア)』!」

 

 

風の鉄槌が緑弾に当たり、壊すことは出来なかったが軌道は逸らすことができ、どこかの虫ケラさんのようなことにはならずに済んだ。

 

 

「チィッ!」

 

 

邪魔されたビギナーは大きく舌打ちをし、邪魔をしたセイバーに掌を向けて緑弾を発射した。

 

 

「なっ…!」

 

 

投げるだけだと思っていたセイバーは不意を突かれ、直撃は避けられなかった。

 

 

「ぐあっ……!」

「はぁっ!」

 

 

爆発でセイバーが吹き飛ぶ中、爆発の中からバットが飛び出してき、ビギナーはすぐ様標的を変更して緑弾を撃ち続ける。だが流石はマッハを超えると言われる女。圧倒的な速度で緑弾をスイスイと避け、一瞬で懐へ入り込んだ。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

「……」

 

 

そして速さを生かした肉弾戦に持ち込み、ラッシュを叩き込むがビギナーも負けず劣らずのスピードでラッシュを捌いていた。

 

 

「チッ、サーヴァントの身じゃ無理があるか「何なんだぁ今のは?」ッ!?」

 

 

強めに叩き込んだ拳が掴まれ、空いた手でバットの顎を撃ち抜いて上へと上げる。顎をやられたために意識が少し揺らぎ、なすすべもなく上に上げられ、

 

 

「ッ!しまっtーーー」

「フフッ……フン!」

 

 

意識を覚醒させた時にはもう遅く。足を掴まれ、下に投げられる。落とされたバットは受け身もできず叩きつけられ、地面は陥没して小さなクレーターができていた。

そしてそのまま降りてきたビギナーに両足で踏み潰され、苦痛の声を上げる。

 

 

「ぐあああああああ!!」

 

 

その叫び声にビギナーは笑みを浮かべ、宙へ浮かび上がり、二人を見つめる。

 

 

「くっ……!」

「ゲホッ……ゴホッ………!!」

 

 

一人は立てないほどの重症、もう一人は吐血をして身動きすらとれないほどの重症であり、ビギナーの有利は確定し、ビギナーは喜びの笑みを浮かべた。

 

 

「……残念だがとうとう終わりの時が来たようだな。今楽にしてやる!」

 

 

掌を向け、緑弾を作る。しかしその大きさは今までと比にならないぐらい大きいものを作っており、それだけで二人は威力を理解し、本気でなかったことにも気づいた。

 

 

「あれは……!」

「チッ……!こうなりゃ奥の手を……」

 

 

だが、いざ発射となった時。ビギナーはその動きをぴたりと止め虚空を見上げて声を荒げた。

 

 

「……何だと?貴様、何を言っているのか分かっているのか!?」

「何、だ……?」

「多分マスターとの念話なのでは?」

「何ぃ?……チィッ、今回だけは大人しく言うことを聞いてやる。………バット、今回は見逃してやる」

「へえ……?そりゃまたどうしてだよ?」

「貴様には関係ないことだ。……フン、どうせ貴様のことだ。まだとっておきを隠してあるのだろう?」

「まあな……」

「……次は絶対殺してやるからな」

 

 

捨て台詞を吐いてビギナーは高度を上げていき、飛び去って行った。

そしてビギナーを去って行ったのを確認するとバットは回復を試み、呪文を口ずさんだ。

 

 

「……ケアルラ」

 

 

するとバットの身体が緑色の暖かな光に包まれ、光が晴れるとバットの身体にあった傷という傷がなくなっていた。

 

 

「回復魔術?しかし、あそこまでを一瞬で回復させるなど……」

「ん?そうなのか?……よっと」

 

 

治った途端ヒョイと跳んで着地するとセイバーに近づき、同じように処置を行った。

 

 

「ケアルラ」

「……すみません」

「いいってことよ。まあ俺としても楽しめたし良かったよ。じゃあなセイバー、次会った時もよろしくな」

「はい、次も是非よろしくお願いします」

 

 

そう言うとバットは目にも止まらぬ速さで走り去っていった。

 

それを見届けた後、インカムからコール音が響く。

 

 

「……はい」

『俺だセイバー。例の女は見つかったか?』

「いえ、それが……」

 

 

アイリスフィールを見失ったこと、犯人らしき人物を三人であること、その内一人は鎖を使う少女だということを説明する。

すると永時はどこか納得したような声を出した。

 

 

『ーーーなるほどな。鎖を持った少女ねえ……』

「何か心当たりが?」

『まあな。……とにかく一旦帰還しろ。話はそれからだ』

「……了解しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……やはり魔法の力を持っていたか)

 

 

セイバーがいたところより遥か上空にてビギナーはすぐに帰還しなくて良かったと思いつつ思考していた。

 

確かに彼女が回復手段を持っているのは知っていた。しかし、彼女はある病気が原因で衰弱しており魔法どころか本来の実力が出せなかったが今はサーヴァントの身。その人物の全盛期で召喚されるため、最初から回復はすぐに出来るはずである。

 

 

(しかし……何故鎖で勝負してきた?)

 

 

彼女は戦闘狂であり鎖が得物であるのは知っているがそれ故に納得いかない部分がある。

 

 

(なんで鎖なんかで挑んだ?鎖を使った時の実力では俺に勝てるとは到底思えんが……)

 

 

戦闘狂である彼女はただ戦うのではなくそれなりのルールを敷いてやっているのがビギナーが感じる妙な引っかかりの原因であるのは分かっていた。

 

 

(確か……見知らぬ相手には様子見も含めて鎖を、認めた相手には槍を、だったか?まあ槍でやってきたがあれは多分ランサーの槍のはず。あっさり折れるから変だと思ったが……)

 

 

他にもルールはあるらしいがそこはほっといて彼は思考する。

自画自賛ではないが自分は彼女に認められるほどの実力を持っているつもりだ。なのに何故負けると分かっている鎖で挑んだのだろうか?それとも何か別の目的があって……

 

 

(……まあいい、見つけ次第聞けば分かるだろう)

 

 

深く思考するのが面倒になった彼は考えるのを放棄してアインツベルン城へ向かって飛び立った。

 

 

結局彼はバットの目的が時間稼ぎであることに気づかずに去って行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……了解しました』

 

 

了承の声を聞き、通信を切ったのを確認すると永時は一瞥する。

 

 

「さて……」

 

 

そう言ってモニター越しに見える四人の女性から視線を外し、思考に浸ることにした。

 

 

(ノット、鎖を使う少女………都合よく奴らが揃ってきてる訳だがどういうことだ?……まさか、また奴が?……いや、それにしてもおかしい。それならノットを狂化状態で呼び出すことがまず違うだろうな。そもそも奴の力は暴走すれば星一つ余裕で潰せるんだ。それこそ抑止力が働く……抑止力?…………ああ、そういうこと)

 

 

答えに辿り着いた永時は一人納得し、再びモニターに視線を戻した。

 

 

 



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悪、娘と対面する


今回は永時sideです。

前にアヴェンジャー陣とビギナー討伐の同盟を組んだ永時、破壊の権化と化す彼にどう対抗するのか。

では、どうぞ



 

 

偶にだが不意に思い出すことがある。

 

 

自分が昔作った部隊のことを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある墓地。そこで永時はある墓の前で足を止め、真っ白な花束を添え、じっと見つめていた。

 

 

「………あれから40年は経ったでしょうか?……最近は貴女の声を忘れてしまうことが増えたきたような気がします。俺も歳なのでしょうか?」

「あいつらと向こう(あの世)で上手くやっていますか?」

「……今日来たのは報告です。貴女の部隊に劣るかもしれませんが再び部隊を持つことができました。……部下というのは誰も彼も付き合う程に可愛く感じてます」

「貴女は俺らのことを家族と言ってましたが今ではその意味がよく分かります。まあ俺の年齢的にも子供のようなものですがね?」

「最近ふと思うのです。……もし、貴女が生きていれば、今頃こんなことにはならなかったのでしょうか?とね」

「それともう1つ報告です。もうすぐ俺もーーー「……ここにいましたか、隊長殿」」

 

 

声と足音が横から聞こえ首を向けると部下でおる男が自分の目の前にいた。

 

 

「……ああお前か。どうした?」

「いえ、例の件について1つお聞きしたいことがありまして……」

「へえ、何だ?言ってみろ」

 

 

するとら男は少し躊躇うような仕草を見せて口を開いた。

 

 

「我々に何か隠していませんか?」

「……あっ?」

 

 

先程まで見せていた笑みが消え、真剣な無表情を見せる。

それを見た男は先程より気を引き締めた。

 

 

「……そいつはどういうことだ?」

「貴方らしくない行動に違和感を感じたのです。……私だけではありません。あいつらも薄々ですが気づいています」

「……証拠は?」

「貴方が筋肉バカと呼んでいる方が吐いてくれました。酒の席で問い詰めたら話してくれましたよ?」

「チッ、あの馬k「嘘ですよ」ーーーあっ……チッ」

「……貴方には拾ってくださった恩があります。だから、だからこそ我々は貴方のお役に立ちたいのです。その為なら命すら捨てる覚悟を持っています。ですからお願いします……正直に話してください」

 

 

そう言って男は頭を下げる。永時は暫し黙り込んだ後、溜め息を吐いて顔を男に向けて言った。

 

 

「……終わらせたいんだよ」

「終わらせたい?何をです?」

「……呪われた系譜に終止符を打つ」

「ッ!?……本気ですか?」

「ああ本気だ」

「しかし……」

「伝説の部隊、伝説の男、近いようで違う鏡写し、伝説の優勢、その劣勢。まるで呪われたかのように続く呪われし系譜……それを断ち切らなければ奴らは止まることはない」

「しかし、貴方もその系譜なのでは……?」

「そう……始まりだからこそ俺がやらねばならないのだ。Neverは永遠ではない。いつかは朽ち果て、滅ぶ運命……ただそれが早いか遅いかの違いだ」

「……正気ですか?」

「無論正気だ」

「私個人としては出来れば貴方には「それは無理な相談だ」……」

「俺はもう充分生きた。後は死に場所を選ぶだけだ」

「隊長殿……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セイバーがビギナーとの勝負をし終わる少し前。

 

 

「うーん……病気による弱体化の影響は殆どなくなったね〜」

「そうか……すまんかったな面倒かけて」

「本当だよ〜、永くんがあの衛宮なんとかに変な弾丸撃たれたりするから更に長引いたんだよ〜?」

「……悪かったと思ってるよ」

「ーーーこちらにおられましたかマスター、客人が来られています。いかがなさいますか?」

 

 

以前からずっと行われてきた能力の調整をベルフェにやってもらっていたところ、アリスがそう言って入ってきた。

 

 

「客人?」

「ビギナー討伐の同盟についてと言っておられますが?」

「すぐに通してくれ。それと……ネルフェにはどこかに隠れさせて近くで護衛しておいてくれ」

「……了解しました」

「永くん永くん、私も同席していい?」

「いいぞ。てか寧ろしてくれ」

 

 

ビギナー討伐の同盟ということはアヴェンジャーがマスターを説得してきたのであろう、と永時はそう踏んでいた。

 

そして案の定彼らはやってきたのでとりあえず居間へと案内した。来たのは今聖杯戦争で騒がれているアヴェンジャーとリヴァイアサンの二人である。

 

 

「初めましてだな我が父よ。嫉妬の魔王レヴィアタンの血を一応(・・)ひいているものだ。リヴァイアサンと呼んでくれ」

「……終永時だ。好きに呼ぶといい」

 

 

自己紹介を終わらせると永時と相変わらず布団から出てないベルフェはリヴァイアサンをよく観察する。

 

スラッとしているが若干幼さの残るような体つき、腰まで伸ばした紫の髪、サファイアのような蒼い瞳に練乳のような白い肌の美少女。

 

二人は特徴点(特に胸部)をじっくり見て結論を下した。

 

 

「やはりあいつ……レヴィアタンがベースか?」

「かなり類似点(特に胸囲)があるからそうだろうね〜。レヴィ、元気にしてるかな〜?」

 

 

そのあまりに似ている姿に二人は母親であろうレヴィアタンの面影を思い浮かべていた。

 

しかし肝心のリヴァイアサンは嬉しそうにすることもなく、寧ろムスッとした表情で二人を見ていた。

 

 

「……」

「ん?何か不満か?」

「大したことでない……ただあの女()と一緒に見られるのが嫌いなだけだ」

「そうか……(思考はレヴィアタン寄り、嫉妬深いところは同じか)」

 

 

今の所、向こうの機嫌が良い方なのでいい感じに事が進むと思い、この機会を逃さぬように話を切り出す。

 

 

「本題に入りたいのだが……いいか?」

「ああ、構わない「あら永時様、こちらにいましたか」……と言いたいところだが父よ、その女は何者だ?」

「……なんで来たかを聞いておくべきか?マモン」

「ほう、あれが強欲……」

「大したことではありませんわ。ただ紅茶でもいかがかと思いまして……(密室で、ですがね。後は紅茶を軽く盛って既成事実を作れば……ふふっ、ふふふふふふふふふふ!)」

 

 

このまま何も起こらずに事が進むと思い込んでいた自分を殴りたくなった。

 

まさかの強欲様の入室である。

 

 

「あら、貴女は?」

「リヴァイアサンだ」

「リヴァイアサン?……その髪色、肌色、艶………ああ、レヴィアタンの娘ですか?中々美しい容姿をお持ちのようで……正直羨ましいですわね」

「……そうか?」

 

おっ、いい感じじゃね?と永時は内心ほくそ笑んだ

 

『永時様教団』とか訳の分からないものを創ってはいるが一応魔王の中では常識を持ち合わせてはいるからだ。

 

だがそれは淑女として知識を持っているだけ、彼女は強欲の女。故にワガママ、つまり躊躇いを知らないという根本的な性格は変わっていないので……

 

 

「しかし、彼女にとても似ていますわね……特に胸の無さが」

 

 

思ったことを直ぐに口にしてしまう事が暫しあるのだ。

 

正直に言おう。マモン、後で覚えてろ。

 

 

「あ……」

「あちゃ〜」

 

 

プチっと切れてはならぬ音が鳴ってしまった。てかやってしまった。

 

 

「貴様……表出ろ」

「あら?何かお気に召すようなことを仰いましたか?」

「言ったな……」

「言ったね〜。見事にコンプレックスを突きまくってるね〜」

「そうなのですか?」

「チッ……まあいい。父に近づく女を始末するいい機会だ。待っておいてくれ父よ。父の愛を受けるにふさわしいのは私だけであることを証明してみせよう!」

「むっ、それは聞き捨てなりませんわ。永時様の愛は悪魔の皆で分け与えもらうもの。貴女のような小娘だけにあるものではありませんわ」

 

 

永時は思った。他所でやってくれと。

 

そんな永時の思いも知らず話は物騒な方向へと進んでいく。

 

 

「ハッ、面白い冗談だな。魔王というのは冗談が上手いようだな」

「……少しお話をする必要がありますわね。いいでしょう………表へ出なさい。わたくし直々に教育してあげます。永時様、お願いできますか?」

「もう勝手にやってくれ……ベルフェ」

「は〜い」

 

 

布団に入ったまま指を鳴らすと二人の近くの空間が揺らぎ、黒く輝かせながら波打つ波紋を広げ、二人を飲み込んで消えていった。

 

 

「マモンの奴……後で覚えてろよ」

「ご愁傷様〜かな?(まあマモンならどんな仕打ちでも喜びそうだけどね〜)」

「……んで、あいつらどこに送ったんだ?」

「うーんとね〜……確かセクター2」

「セクター2って……お前、あいつらを殺す気か?」

「何のことかな〜?あわよくば共々くたばってとか思ってないよ?ていうか〜、セクター3とかよりマシだと思うけど?」

「おい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここはーーー」

 

 

波紋の中を進んで行って最初見えたのはまさに海と言えるような場所であった。

 

その少し上空に二人は出てきたのだ。

 

 

「ーーー何!?」

「あら?」

 

 

無論二人は重力に逆らう事が出来ず、海へと墜落していく。

 

だが幸いというべきか床らしきものが長い道のように続いており、マモンはそこに着地し、リヴァイアサンは海面のう上に立つことで着地した。

 

 

「……」

「ッ!?」

 

 

途端、いきなり海面の水がうねりだし2匹の蛇のように形取りマモンを襲う。

 

だが素早く反応できたマモンは矢を2本それぞれの手で持ち、1本を投擲して潰し、もう1本は剣のように振るうことで見事に潰し、潰したことにより水飛沫が少々自身にかかっただけで済んだ。

 

 

「……いきなり不意打ちとは」

「卑怯か?……要は勝てば良いのだ」

「別に何も言いませんわ。不意打ちも立派な戦術の一つですから。……では次はこちらから参りますわね!」

 

 

弓を取り出して持ち、海面を踏みしめて走り出す。

 

まさか海面を走れるとは思っておらず不意を突かれ、反応が遅れ、矢が振り下ろされる。

だが素早く氷の槍を作り、ギリギリ受け止める。

 

するとマモンは後ろに飛んで距離を置き、矢を弓にかけて放つ。

 

放たれた1本の矢は風を切り裂きながらリヴァイアサンへと突き進む。

だがある程度の距離となったところで急に分裂し、その数が増大した。

 

 

「ほう!」

 

 

だがリヴァイアサンは焦ることもなく水を操り、刃の形取らせて薙ぐように振るい矢を全て打ち払う。

払い終えると今度は氷の槍を手元に作り出し、投擲する。

しかしマモンは新たな矢を射ち出して弾くと小さく笑みを作ったがその顔はすぐに強張った顔へと変化した。

 

 

「ーーー!」

「あら?」

 

 

マモンの変化に反応したかのように足元の海面を割って何かが飛び出し、間一髪のところでマモンは後ろに跳ぶことで何とか凌いだ。

 

 

「くっ……ベルフェゴールめ。わたくしもろとも葬り去るつもりですのね!」

「あれは……魚、なのか?」

 

 

海面を割って飛び出してきたのは大きな口を持つ15メートルは軽くある巨大な魚がその体型に合うような大きな口を開いて飛び出していた。

 

 

「さあ?魔界では見覚えのない魚類です、わっ!」

 

 

弓矢を構え、射ち出し矢は魚を貫き、そのままリヴァイアサンへと向かうがリヴァイアサンは新たな氷の槍を作り出し撃ち落とす。

 

そして更に槍を複数生成し、飛ばす。

 

対してマモンはリヴァイアサンに向かって走り出す。途中飛んできた槍は矢を振るい、あるいは射ち出して凌ぎ、接近して横腹に蹴りを放つ。

 

 

 

「ぐっ……!クソッ!」

 

 

痛む横腹を抑え鈍痛に耐えながら水を操り蛇として再びマモンへと向かわせる。

しかしいざ当たる距離に入った時、タイミングを計ったかのようにマモンの前に先程より少し小さめの同種が飛び出し、盾となる形となる。そのまま水の蛇は魚の体を抉り、遂に貫いた。

 

だが貫くまでのその僅かなラグがあれば十分だった。

 

 

「……ふふっ、偶々飛び出して盾になって下さるとは運がいいですわね」

「なっーーー!?」

 

 

そのラグを利用して、更に間に挟まるように存在する絶命した魚が落ちた衝撃で上がった水飛沫により視界が上手く遮っていることも利用し、水飛沫の中で弓を“二つに分解して”剣のように振り下ろした。

 

まさか分裂して剣になるとは思わず、反応が遅れたリヴァイアサンは右肩を後ろに回して体を弓なりに軽く反ることでかする程度で済んだ。

 

 

「あら?避けましたか。運がいいですわね?」

(運がいい?ふざけるな!避けるのがやっとだったぞ!?)

 

 

内心愚痴りながらも氷の槍を生成して振るい、隙だらけのマモンに斬りかかるがマモンは体を無理矢理捻って避けるが頬のところに当たってしまったのか少し血が垂れていた。

 

とりあえず両者は一体後ろへと跳んで距離を取った。

 

 

「あら?血が……うふふっ、ふふふふふふ。わたくしを傷つけられるとは……いいですわね。もっとわたくしを楽しませてくださいね?レヴィアタンの娘さん?」

 

 

頬の痛みに気づいたマモンはその綺麗な手で触れて手元を確認する。もちろん手には血が付いておりそれを見てニタリと笑った。

 

そして垂れ流れる血に反応したのか海面には大小様々な魚影がチラホラと見え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の永時はというと……マモンとリヴァイアサンが消えていった後の居間へと戻る。

 

騒がしくしていた二人が消えたことにより居間はシンと静かになり、沈黙が続いていた。

ベルフェは布団の中で恐らく寝ているのか微かに寝息が聞こえており、アヴェンジャーは警戒してか座らずに近くの壁にもたれかかって腕組みをしており、永時はちゃぶ台の前に座り込んで全員とも一言も発さず黙り込んでいた。

 

そんな空気の中、話を切り出したのは一応主人公、終永時である。

 

 

「……おいアヴェンジャー。お前ら何してきたんだ?」

「いえ、ビギナー討伐について具体的な案の話合いをと考えていましたが……ウチのマスターがすみません」

「まあいいけどさ……お前も大変だな」

「ええ、まあ……」

「あれだ……頑張れとでも言っておくよ」

「ありがとうございます。……ところで本題に入りたいのですがよろしいですか?」

「ああ、構わねえぞ」

 

 

若干哀愁っぽい何かを漂わせているアヴェンジャーに同情の目を向けつつ、まあ座れよとちゃぶ台前に座るように勧めるとアヴェンジャーは素直に従い、ちゃぶ台前に腰を下ろした。

 

 

「で、具体案なのだが……」

「見つかったのですか?」

「まあな、これは奴をセイバーを通して観察した結果なのだがな……今まで色々言い訳付けてビギナーにぶつけた甲斐があったわけだ」

「なるほど……」

「まずビギナーのあの変身は宝具によるものであることが推測される」

「宝具、ですか……」

「そ、故にあの状態を維持するだけでも魔力の消費はかなりでかいはずだ。更に奴が放つ気弾はどこからあんな出力をだしている?」

「えっ?それはもちろんマスターの魔力……あっ、なるほど。そういうことですか」

「そう、変身した奴の攻撃の全てがマスターの魔力持ちなら?」

「……いずれ自爆すると?」

「そういうことだ。狂化による理性崩壊、更に変身という名の宝具の常時展開、魔力を気弾に変換して攻撃……な?明らかに燃費が悪すぎるだろ?」

「つまり?」

「戦闘が長引かせれば俺たちにも勝機があるということだ」

 

 

確かに、とアヴェンジャーは内心褒め称える。しかしまだ不安要素が残っており、それを解決しないことには安心できず、それを口にした。

 

 

「しかし、彼は……」

「分かっている。確かもう一段階変身が残ってんだろ?」

「……ええ」

「確かに奴は強い。だがマスターはどうだ?」

「……なるほど、我々が奴を惹きつけている間に貴方がたが仕留めると?」

「正確にはそれぞれのサーヴァントが惹きつける、な」

「なるほど……まあ仕方ないです。昔のよしみで手伝いましょう」

「すまんな。他に質問は?」

「我々が裏切る可能性を考慮しないのですか?」

 

 

あの手この手といつも考えている男がこんな簡単なことを見逃すはずがない。と思い、反射的に言ってしまった。

 

 

「……ふぅん、お前がそんなこと言うとはねえ?まあ確かにその考えは一応ある。だがお前の性格を考えたらそれはないと踏んだ。何故なら弱体化状態であいつと戦えるという面白い状況をお前が見逃すはずないだろうが」

 

 

あっけらんとした顔で言い切る永時にアヴェンジャーは参ったと言いたそうな仕草をした。

 

 

「……お見事、とでも言っておきましょうか。よく私の性格を理解してらっしゃる」

「……それほどの付き合いはあったんだ。大まかには理解しているつもりだ」

「そうですか……(正直言うと裏切った方が面白いですがね。まあ個人的に死なせたくない方がいますし……もしやそれも考えて?……いえ、考えすぎでしょうか?)」

(この世界にはあいつがいる。いくら娯楽主義のお前とは言え裏切るようなことはしないだろう。……悪いが利用させてもらうぞ)

(ーーーとか考えていそうですがまあいいでしょう。いざとなればあの人だけでも逃せば良いですしね)

(ーーーと、考えているだろうが関係ない。どの道あいつは強制的に戦闘に自ら突っ込んでいくはずだ。最低命だけでもお前が死守するだろうから裏切りの心配はいらんな)

 

 

などと2人がそれぞれの思惑を持ちつつ話は続く。

 

 

「次にいつやるのかだがーーーと言いたいが……そこで引っ付いている奴は誰なんだ?」

 

 

と見せかけ、話をいきなり切って天井を見つめて左目を紅く光らせながらこう言った。

 

 

「……はて、何のことでしょうか?」

「とぼけるなよ」

 

 

そう言って永時はいつの間にか取り出したサブマシンガンを手に取り、見つめていた天井目掛けて発砲した。

 

 

「……そこか」

 

 

弾幕を張ってため穴だらけの天井の中、唯一穴ができてない部分にある物を投げ込んだ。

 

ベチャッ!とトマトをぶつけられたかのような音を出すと赤色に染まった人型らしき何かが天井に張り付いていた。

 

 

「ほら?やっぱりいるじゃねえか」

「おやまあ……」

「……」

「おっと」

 

 

目を見開かせる。すると突然横から飛んできた3本の剣を見えない壁があるかのように弾き、剣はそのまま重力に従って床に落ちた。

 

 

「……黒鍵か。久しく見てなかったが……俺にはただの刃物でしかないがな」

 

 

そう言って天井ではなく誰もいないアヴェンジャーの横の方である何もない空間を睨みつけた。

 

 

「ステルス能力と言ったところか?天井にダミーを付けていたのはいいセンスだとは思うが……生憎俺には見えている。姿を現さないなら……次は容赦せんぞ?」

「……」

 

 

体から電気を纏いながら威圧するように言う。

すると言われて観念したのか、バチバチィ!と電気音を鳴らしながらそれは姿を現した。

 

長い黒髪を垂らし、出てるとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる豊満な体を持つ赤眼、長身の女性。頭には虫の複眼をイメージさせられそうなオレンジのパッドのようなものが二つ、頭頂部に被って(?)あった。

 

その姿を見た永時はある人物を思い出してしまいピタリとその動きを止めた。

 

 

「……ブブか?しかし、それにしては大きくなってrーーー」

「……」

「んんん?」

 

 

一瞬で懐に移動し、ギュッと抱きつかれた。しかし身長的に永時より高いのでどちらかと言うと豊満な体に包み込まれた、が正しいのだろう。

 

急なことに永時が戸惑うなか、女性は1枚の紙切れを見せつけるように取り出し、それを見た永時は完全にフリーズした。

 

 

 

 

 

 

 

 

『結婚してください』

「……は?」

 

 

 






軽〜い解説。

セクター2
ベルフェが昔に作った生態調査のための飼育場。分かりやすく言えば危険生物や生態兵器紛いのものが普通にたむろする動物園のようなところ。
地球の生物や魔界の生物。最近ではとある男と仲良くなったため他世界の生物などが入ってきており、見覚えのある生物がいるかもしれないがどうか目を瞑って頂きたい。

話は戻るが、セクター2はその内の1つであり、主に水中を主な生活圏とする生物を飼育している。


余談だが、セクター3は灼熱の溶岩に囲まれた灼熱地獄のようなエリアである。



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暴食と嫉妬を継ぐもの

ライダーと宝具を発動していたビギナーの戦闘の余波によりボロボロになり一部では炎が炎上している道路にて忙しそうに動き回る複数の人影、彼らは今は亡き言峰璃正の後を継いだ息子の言峰綺礼の命により聖杯戦争での戦闘の痕跡を跡形もなく消すため、道路補修に伴って証拠隠滅を行っていた。

 

だがそれは2人の美女によって今や絶叫と悲鳴が響き渡る殺戮現場へと変貌を遂げていた。

 

 

「なっ……なぜ貴様がここに!?」

「ちょっ、まっ……待tーーーギャアアア!!」

「う、腕がぁ!俺の腕がぁ!?」

 

 

逃げ回るスタッフを特に追うことなく光の光線が1人ずつ貫いていく。

 

 

「ふむ……やはり手応えのある人間はおらぬか」

「お言葉ですがルシファー様。永時様のような人間は稀なので……あまり期待しない方が良さそうですよ?」

「それもそうか……やはりそこらの人間とは比べ物にならんか。流石妾の夫になる男、そこらの有象無象とは格が違う!」

「しかし……何故このようなことを?魔力回復が目的であればそこらの人間を襲えばよいのでは?」

 

 

絶望に染まったスタッフに笑みを浮かべつつ、ゼツは指先から禍々しい黒弾をスタッフの1人へと打ち込みながら主へそう尋ねた。

 

するとルシファーは無表情で光線を打ち込みながら語った。

 

 

「仕方なかろう。無関係の者を巻き込めば追われるのは必須、それは妾の望むことではない。それに比べ奴らはこの世界の裏側に属する者、殺されるぐらいの覚悟は持っておろう?」

「ですが実際は……」

「戦う意思を見せず逃亡する……実に人間らしい愚かな者よ。エイジの爪垢を飲ませてやりたいものだ」

「先程も言った通り永時様のような人間は稀なこと。ですが今は英霊が存在する聖杯戦争中。永時様、とは言えませんが骨のある英霊が出ることを望んでおきましょう」

「……そうだな」

「で、本当の理由は何でしょうか?」

「……何?」

 

 

ピタッと一瞬だけだがルシファーの動きが止まる。しかしすぐに殺戮を再開する。

 

 

「何を言うておる?」

「いえいえ、ただ長い長いそれらしい言い訳を語るルシファー様に疑問を抱いただけですよ?」

「別に言い訳ではない。れっきとした本心だ。ただ……」

「ただ?」

「……無関係な者を巻き込むのは彼奴が好まんと思っただけじゃ」

「ふふっ、そうですか」

「わ、笑うでないわ!」

「いえいえ、ルシファー様も魔王である前に乙女であったことが証明されたので満足いたしました」

「くっ……後で覚えておれよ」

「はて?何のことでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『結婚してください』

 

 

その言葉に永時は固まった。

 

急に知り合いのそっくりさんのプロポーズを受けたのだ。驚くのも無理はない。

 

 

「……どういうことだ?」

『……そのままの意味』

 

 

疑問を浮かべた永時に答えるかのように紙切れを追加して見せてくる。

 

 

「(いつの間に書いたんだ?)……何者だ?」

『それは貴方がよく知ってるはず』

「ブb……ベルゼブブの関係者か?」

『正解。私はNo.6。リヴァイアサンからシーちゃんと呼ばれている。貴方の推測通り暴食の魔王ベルゼブブと貴方の血をひいている』

「暴食、ねえ……んで、それがどうしたらプロポーズに繋がる?」

『まだ私が生まれたての頃に見た貴方の戦闘記録を見て惚れた』

「……」

 

 

永時は目を閉じ思考する。まともなプロポーズなんていつ以来だろうかと。

 

 

ーーー君と一緒に世界を見て回りたいんだ!

 

ーーーわたくしの玩具になりなさい、終永時

 

ーーー私のものになってよ!実験台としてだけどね?

 

ーーーあたしのマネージャーになりなさい!

 

ーーー婚姻同意、許可、懇願

 

ーーー未来永劫、妾のものになる気はないか?

 

ーーー俺の嫁になれ!

 

ーーーこれからも、相談相手になってくれませんか?

 

ーーー安心しろ、我しか見えないようにしてやる。なぁに、食事と我の愛情だけは欠かさずくれてやるから安心しろ

 

 

……うん、ほぼまともなものがなかった。

 

今回はまともなプロポーズなのは分かる。分かるが……自分の娘に、だ。

 

 

「ああ、あれか。子供が『将来パパと結婚する!』ってやつだろ?」

『違う、割と本気』

 

 

……なんか無性に泣きたくなってきた。誰だよこんな風に育てた奴は!

 

 

『まさか泣いてる?』

「そのまさかだがな」

 

 

涙を流さず、永時は心の中で泣いた。

 

 

『……それで、返事は?』

「……もちろん断r「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 

また面倒なことが来たと永時は直感し、これから起こるであろうことを考えると胃が痛くなってきた気がしてきた。

 

天井を突き破り、忍者のようにシュタッと降り立つ馬鹿弟子。

 

 

「そこの貴女!プロポーズするなんて例え師匠が許しても私は許しませんよ!」

『……何者?』

「よくぞ聞いてくれました!私こそは終永時の一番弟子であり、将来この貞操を捧げると誓った間柄。終ニルマルだ!」

『何……だと………!?』

「いや、違うし」

『ですよね〜』

「な、なんだってー!?し、師匠!嘘だと言って下さい!」

「誰もお前の貞操を頂くとも捧げるとも言ってねえよ」

「そ、そんな……!私とは遊びだったのね!?」

『最低……』

「一旦黙ってろ!……んで、何の用だ?」

「えっ?いや……師匠にプロポーズしようとする愚か者に制裁をと……」

「……はぁ」

 

 

本来なら怒っているところだが今はそれどころではないのでため息を大きく吐いた。

 

 

「……ニル。今からセクター2へ向かってくれ」

「セクター2、ですか……?」

「さっきマモンらを送ったんだけどな……さっきアリスから被害状況を聞いて……」

「静観できる状態ではないと?」

「主に空調被害が酷くてな。ネルフェを連れて制圧、修理を頼みたい」

「はあ……ちなみにそれだけですか?」

「2人の戦闘のせいでピストレとグロートとかの飼育ケースが壊れたらしくてな、今は交戦中だそうだ」

「分かりました。今すぐに向かうべきですか?」

「いや、向こうの警戒レベルはレベル3まで上がっているからな。万が一もあるからベルフェに用意させてるスーツを着て行ってくれ」

「了解しました」

 

 

チラチラとシーちゃんを見つつも渋々部屋から出て行った。

 

 

「さて、話を戻そうか?」

『挙式はどこであげるって話?』

「いや違うからな。アヴェンジャー、いつまで空気になってやがる」

「おや?覚えていらしてましたか」

 

 

今まで空気だったアヴェンジャーは覚えられていることに感動しながら再びその姿を現す。

 

 

「で、私を呼んだのはいかなる理由で?」

「頼みがあるんだが……いいか?」

「……?何でしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キェェェェェェェ!!」

「キシャァァァァァ!!」

 

 

一方セクター2。横が飼育ケースに囲まれた場所にて、2人のアホ共による戦闘の余波で飼育ケースを破壊。中で伸び伸び過ごしていた生き物たちの逆鱗に触れてしまい更に中の水が漏れているせいで通路は彼らの戦場へと化していた。

 

蟹と魚を混ぜて人型にしたような何かの雄叫びと共に蟹の爪のような異形な手から水鉄砲が放たれ、ラボの床を易々と貫通させた。

 

 

「ああもう!鬱陶しいですわね!」

 

 

水浸しのドレスを鬱陶しく思いながらそれを後ろに下がることで避け、弓を構えて頭部を狙って矢を放つ。

 

グェッ!と呻き声に近い声を上げながら頭に刺さり、床に倒れ伏し青い血液で染め上げていた。

 

 

「ああ醜い……醜過ぎて吐き気がしますわ」

「ゴァァァァァァァァァ!!」

 

 

ハンカチを取り出して口元を抑えるマモンの死角。脆くなった飼育ケースを突き破って5つに割れた大顎を持つ巨大な魚?のような生物がマモンを噛み砕かんと口を開いて飛び込んでくる。

 

 

「……本当、醜いですわ」

 

 

そう言って弓を分解して一閃、当てるつもりだった。

 

 

「やめなさい!」

 

 

その一言を聞くまでは。

 

 

「……あら?」

 

 

その一言の後急に大人しくなった魚。すると床に着地した後いそいそと飼育ケースの中へと戻っていった。

 

声が聞こえた方を振り向くと黒と青がベースのスーツようなものを身につけ、フルフェイスのヘルメットを装備した2人組みがいた。

違いらしい違いと言えば額のところ辺りに01、02と書かれたナンバーぐらいだろう。

 

 

「ご無事でしたかマモンさん」

「その声は……どなたですか?」

 

 

それを言われてコケそうになるがなんとか踏ん張ってヘルメットを外す。

 

01は深緑の髪が特徴な幼い少女。02は群青色の薄褐色の少女が姿を現した。

 

 

「確かネルフェさんと……ダニエルs「ニルマルです」うふふ、冗談ですわよ?ところでどうしたのですか?こんな辺境な場所で」

 

 

失礼な!とベルフェの声が聞こえた気がしたがスルーし、本題に入る。

 

 

「いえ……貴女たちが暴れているせいで被害が凄いんですよ」

「それで止めに来たと?」

「まあそういうことです」

「なるほど……ところでですが、ここの生き物たちは彼女、ネルフェさんには懐いているのですか?えらく素直に言うことを聞いていましたが……」

 

 

現にさっき殺した半魚人っぽいものの同種の生物が銃口?を向けてはいるがそれは全てマモンとニルに向けられているのだ。

 

 

「この人たちは私のお客さんだから安心して」

 

 

それに気づいたネルフェがそう語りかけると渋々といった感じで銃口?を下ろし、飼育ケースへと戻っていった。

 

 

「これは……洗脳の類?しかしベルフェゴールがそのような能力を持っている報告はなかったはず……」

「簡単ですよ?彼らは皆、ネルフェちゃんがお世話をしたからですよ」

「彼女が、これらの飼育を?」

「ええ、新種の幼体を1人で育て上げ、ある程度になれば飼育ケースに放つことをやってきました。そしてやがてボスとなるその個体は彼女に懐いているため、自然にその種の群れは彼女に従う、というわけです。前は師匠自らやっていたそうですが最近は彼女自らやってます。まあ後から増えていく個体は自身の能力でなんとかしているそうですがね?」

 

 

マモンは素直に驚いた。この研究施設の生物全てが彼女に掌握されているのだ。その技量と努力、そしてそれを実現する能力に大変興味を持った。

 

前にベルフェゴールに聞かされた『イーヴィル計画』とやらは魔王たちの遺伝子を使っていると聞いた。

 

自身の遺伝子を使った子供はまだ見つかってないらしいので将来会うのが楽しみになってきた。

 

 

「ところでマモンさん。リヴァイアサンはどうしたのですか?」

 

 

その子はきっとわたくしに似てさぞかし強く、優美で可憐な少女でしょうね、と想像に浸っているとネルフェにそう言われて意識を元に戻した。

 

 

「リヴァイアサン?……ああ、それなら」

 

 

そこに、と自分の横の飼育ケースを指差す。2人はマモンの横に移動してみると……リヴァイアサンが確かにそこにいた。

 

こちらに向かって泳いできながら、だ。

 

 

「流石はレヴィアタンの娘。中々の力をお持ちのようでしたが……わたくしの前では話になりませんわね」

「いやいやいや!何終わったな、みたいな顔しているんですか!?こっちに来てますよ!」

 

 

そうニルが言い終わると同時に飼育ケースを突き破って、はっきりと姿を現すリヴァイアサン。だが可憐な、少女の姿はなく、身体の右半分が龍と化し、目を黄色くギラギラと輝かせていた。

 

 

「マダダ……まだ終わッテない!」

「あら?生命力の高さ(しぶとさ)だけは親に似ていますわね」

 

 

下がりなさい、と2人を下がらせ弓を構える。

 

 

「アァァァァァァァァァァ!!」

 

 

異形となった右足で床を踏みしめ、6本となった大きな鉤爪のような手で握り潰さんと腕を伸ばす。

 

マモンは身体を傾けて避け、ニルはネルフェを抱えて横へ跳ぶ。

 

見事に空振りした手はそのまま飼育ケースを握り潰し、中から更に水が溢れ出てくる。

 

 

「怪力A+と言ったところでしょうか?」

「チィッ!!」

 

 

後ろだと気づいたリヴァイアサンは右腕を乱暴に振って暴風を起こし、そのまま水を操作してマモンに襲わせる。

 

 

「……ですが、甘いですわよ?」

 

 

分解した弓を即座に合体させ、矢を放つ。

 

放たれた矢は暴風を纏ったかのように風の音と風を引き裂く音を響かせながら迫り来る暴風を薙ぎ、迫る水を貫き、そのままリヴァイアサンの体も見事に貫いた。

 

 

「ガッ……!!」

「その程度の強化ならレヴィアタンでも簡単に出来ること昔とは言え彼女らと戦争をした我々魔王を舐めないで欲しいですわ」

「ぐっ……まだダァ!」

 

 

痛みを堪えるように床を強く踏みしめ、突貫する。だがそんな簡単な攻撃は易々と見切られ、横にひらりとかわされる。

 

 

「……フッ」

「ッ!?」

 

 

だがリヴァイアサンはかわした直後を逃さず、そのまま腕を床につけ力技で飛んでマモンに跳び蹴りをかました。

 

 

「くっ……!!」

 

 

だが咄嗟に腕を交差させて防ぎきったマモン。しかしその蹴りの重さに少しよろめいてしまった。

その隙を逃すわけもなくそのまま身体を捻って右腕を振るう。

 

 

「……はぁ。もういいですか?」

 

 

だがそれはニルの溜め息混じりの一言でリヴァイアサンの優勢は止まった。

 

マモンとリヴァイアサンに挟まれる形に入り込み、リヴァイアサンの大きな腕を両手に掴み、背負い投げの要領で投げて飼育ケースに叩きつけた。

更にそのまま駆け出し、体制を立て直したリヴァイアサンにスプレー缶を投げつけた。

 

 

「な、に……!?」

 

 

リヴァイアサンに当たる寸前でスプレー缶が爆発し、中から煙が溢れてリヴァイアサンの周辺に充満する。

 

なりふり構わずリヴァイアサンは腕を振るい、煙を払う。

 

 

「……ッ!?」

 

 

つもりでいたが体が重く感じ、振るうことが出来なかった。

まるで体が段々と麻痺していくような動きの鈍さと気だるさを感じた。

 

 

(麻痺、気だるさ?……まさか!)

 

 

それらから推測するにこの煙は毒、及び睡眠薬の類ということに気づいた時にはもう遅く。

 

 

「とりあえず……一旦眠りなさい」

 

 

そう言って懐から銃を取り出して発砲。そして飛び出した弾丸は彼女の体を撃ち抜いた。

 

 

 



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蘇る悪夢

〜前回までの軽いあらすじ〜

惜しくもあと一歩のところで、セイバーとかつての仲間の息の根を止める寸前までいったビギナー。だが、肝心のマスターにそれを邪魔され渋々帰還することにした。


一方永時のラボではビギナー討伐同盟のため、拠点を訪れたアヴェンジャー陣。しかし痴情のもつれ(?)で戦闘になった。最初は放置していた永時だが、被害が酷いと聞き、弟子のニルマルを送り、元凶の1人であるリヴァイアサンを沈めることで鎮圧に成功した。



ーーーある男の話をしよう。

 

ーーー彼は常勝無敗の絶対王者。

 

ーーー立場的には伝説の勇者とか、世界最強とか、そんな言葉がまさに似合うような男だ。

 

ーーーだが彼は貪欲ながら求めた。納得のいく敗北を。

 

ーーーそして彼は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方アインツベルン城。アイリスフィールがいなくなったことで更に静けさを増していたーーーかのように思われていたが。現状としては全く真逆のことが起こっていた。

 

城中に響く轟音が鳴り続け、遂に壁が壊れて土煙が上がり、その中から人影が飛び出してきた。

 

 

「ウガッ……!!」

 

 

ゴロゴロと転がって現れたのはここの住人、衛宮切嗣本人だった。その体はボロボロで服はズタズタにされ、破けた服の隙間から見える肌には青いアザがチラホラと見え隠れしていた。

 

 

「……立て、衛宮切嗣。あの時戦闘を止めた理由をいい加減話してもらおうか?」

 

 

切嗣が飛んできた方から姿を現したビギナー。特徴的な足音を鳴らしながらマスターである切嗣の所へ歩み寄る。

 

 

「ゲホッ、ゴホッ……!!」

「……チッ。その程度の傷ならすぐ治るだろうが」

 

 

口から吐血をし、咳き込んでいるため話すことが出来ず、そのことを理解したビギナーは何故か奇妙なことを口走った。

 

すると言い終わった直後にまるで再生をするように傷が、アザが治っていった。

 

 

「フン……やはり俺があの時直していたものを持っていたか。通りで……」

 

 

そう言って切嗣の首を掴んで自分の顔の高さまであげ、心臓部分を忌々しく睨み付けた。

 

 

「あのセイバーと同じ気配を感じるわけだ」

「……ッ!?」

「……まあいい。そんなことはどうでもいい。さあ答えろ。何故あの時止めた?」

 

 

そう言って首を掴む力を強める。

 

 

「う……あっ……!」

「答えろ衛宮切嗣!何故奴らを殺すのを止めた!?」

 

 

だが首を絞めているため、声を出すことができないことに気づき、掴んでいた力を抜いた。そして必然的に宙に浮いていた切嗣は重力に従って床に落ちた。

 

 

「ゲホッ……!お前、の……」

「何ィ?」

「お前の宝具、のせいで……魔力が枯渇しかけた、からだ……」

 

 

要するに魔力消費が激しすぎて無くなりかけたから止めさせた、かららしい。

 

 

「チィッ、クズが……それでも貴様魔術師か?」

「……生憎と、まともな師事、は……受けてなくてね」

「……切り札は起源弾のみ。チッ、とんだハズレを引いたようだな。衛宮切嗣、1つ忠告しておいてやろう。今の貴様では終永時には勝てない」

「何……?」

 

 

今や静寂に包まれているので否応でもそう聞こえてきた。

 

 

「アイリスフィールから聞いたが昔それで奴を倒したらしいが……奴に同じ手が通用すると思うなよ?」

 

 

そう言って身を翻し、壊した壁から思考しながら出て行く。

 

 

(増してや現代科学と起源弾だけに頼ってるようじゃ、あいつには絶対勝てんだろうな)

 

 

それはそれなりの付き合いがあるものだから理解できること。そもそも衛宮切嗣が終永時と勝てると考えていること自体が間違っているのだ。

確かに自分とバット、そしてまだ姿を見せていない4人目は人間をやめた強さを持っているためあまり知られていないがそんな3人と対等に渡り歩いてきたのだ。寧ろ化け物でないことがおかしいことなのだ。

 

 

(それに奴は魔王と戦い、勝利しているのだ。今更ただ少し能力を持っている人間程度が勝てるはずがない)

 

 

まあ恐らく俺とやれば負けるだろうがな、と追記する。

 

 

(奴1人なら何とかできる。だが問題は……)

 

 

そう言ってビギナーの脳裏にある少女の姿が映る。

 

 

(バット……まさか奴まで参加しているとは………奴らが手を組まなければ良いが……)

 

 

自分は一応知人の中で強いと自負できる。しかしそれはあくまで1対1(タイマン)の場合だ。2対1ならまだ勝機はある。だが3対1になれば……

 

 

(いや、要らぬことは考えないでおこう。後々面倒になる)

 

 

その考えが現実になるはずがない。嫌な考えが浮かび、無理やり思考を中断したビギナーは気持ちを切り替えて今この場にいないアイリスフィールの心配をしていた。

 

(アイリスフィールは無事なのだろうか?)

 

 

何か変なことをされてないだろうか?と思えば思うほど心配になってくる。

 

言っておくが別に彼は何もアイリスフィールに恋愛感情を抱いているわけではない。増してや人妻なのだ。そのような感情が起こるはずもない。起こったらそれこそ問題だ。

なら何故マスターでもない女の心配をするか。それは実に簡単、単に昔出会った女によく似ていたというありがちなこと、

 

 

(……もうあいつの二の舞だけは起こさせんぞ)

 

 

そして、単に彼は昔死んだ友のように悲惨な死を遂げて欲しくないと思ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー!おい、ーーー!しっかりしろ!!」

 

 

荒れ狂うように吹く暴風。打ち付けるような大雨の中。ぬかるんだ地面に横たわる少女を金髪翠眼の姿になっているビギナーが抱え上げる。

泥で汚れた手で触れると自身の手が赤く染まっていくのを見て彼の不安と焦りは加速していく。

 

 

「んっ……ノット?どう、したの……?」

「どうしたもこうしたもあるか!……何であんな馬鹿なことをした!?」

 

 

そうビギナーが叫ぶ。しかし彼女は無理やり作った笑みで微笑んだ。

 

 

「馬鹿なこと?……いいえ違うわ。それだけは断じて違うの」

「……何ぃ?」

「これで……良かったのよ。どの道私の先はないようなもの。だったらせめてこんな私に残せるものとしたら……分かるでしょ?」

「……分からん。意味が分からん!だからと言って何故お前が死なねばならん!?」

「それは……貴方達に生きて欲しいから、かしら?」

「……っ!」

 

 

一瞬静寂が訪れる。

地面が陥没、崩壊する音。葬るべき終焉の叫び。今もなお終焉に挑む仲間の雄叫び。そして戦闘による衝撃音。

 

その全てが自分には全く聞こえなかった。

 

 

「気分屋だけど面白いことをいつも見せてくれたオメガ。厳しいけど実は優しいネバー。私の可愛い弟子のバット。そして私に世界を見せてくれた親友(貴方)。そして、『終焉末路(カウンター・ラグナロク)』の皆。……私に世界を教えてくれた大切なお友達。それだけで充分でしょう?」

「……けどどうするんだ。お前、前に言ってただろう!いつか俺と一緒に旅がしたいって!また皆と馬鹿騒ぎしたいって言ってただろうが!」

「ああ……そうだったわね。それも、もうできnーーーッ!?ゴホッ!」

 

 

言葉を途中で止め、血を吐いて咳き込み、向き合っていたビギナーは血をもろに浴びた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……間桐邸の屋根上にて、バットは横になりながら月を眺め、家からくすねた酒を同じくくすねた盃で飲んでいた。

 

 

「今宵の月は綺麗だな……まあ酒の方がいいけどな」

 

 

まさに花より団子だな。と苦笑しながら盃に注いだ酒を一気に飲み干す。

 

 

「しかし……聞いていた聖杯戦争とはかなり違うな。あいつ……ルシファーの話を鵜呑みにすればサーヴァントは俺を含めて9騎のはず……本来は7騎と聖杯からの情報によればそうあるが……何事も例外はあるということか?」

 

 

むむむ、と難しい顔をしながら盃に酒を注ぐ。

 

 

「……んで?俺に何の用だ?アヴェンジャーさんよ?」

 

 

そして酒を飲みながらそう言いだした。

 

 

「……おや?気づいておられましたか?」

「まあな。そんな邪気を出しまくってたら誰でも気づくわ。あと気安く触るな」

 

 

そう言われてバットの後ろからスッと姿を現したアヴェンジャー。しかしその手は彼女へと伸ばされ、手をわきわきしていた。もう完全にあれな人である。

 

 

「それってツンデレですね?……いえ、やめときましょう」

 

 

それにも構わず手を伸ばそうとしたが彼女が携帯を取り出し、もう片手で三叉槍をこちらに向けてきたので仕方なく諦めた。そう、仕方なくである。

 

 

「分かりゃいい。……んで?何?」

「今回来たのは……お分かりですよね?」

「……ビギナーか」

「ええ」

 

 

そう言って酒を飲もうとするが盃に酒がなく、仕方なく注ごうとするとそれに気づいたアヴェンジャーはお注ぎしますね。と酌を自ら行う。

それを大して気にせず、酒を飲みながら話を続ける。

 

 

「つまりあれか?同盟を組もうって魂胆か?」

「Exactly(そのとおりでございます)」

「そうかい……どうせあれだろ?ネバーに言われてきたんだろ?」

「おや?よくご存知で……って、まあすぐ分かりますよね」

「そりゃああいつは俺たちのブレインだったからな。ノットに対して同盟を組む=ノットの危険性をよく理解している。つまり、ノットと関わりがあった奴らで思い浮かぶのはあいつぐらいだろうよ」

「ええまあ……よくお分かりで」

「それほどでもない」

 

 

ニヤリと互いに笑い合い、バットは再び酒を飲んだ。

 

 

「同盟の件。ウチのマスターに聞いておくよ。ただなぁ……」

「ただ?」

 

 

そう聞き返すとバットの顔から明るさが消え、暗い表情へと変わっていく。

 

 

「仲間と敵対するのだけは、避けたかったんだがな……」

「……」

 

 

寂しそうに呟いたその言葉にアヴェンジャーは何も言わず、そのまま夜の闇へと溶けるように姿を消していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーな、何なんだ!?お前は……一体何者なんだ!?

 

ーーーなぁに、簡単なことだよ。俺はただ……敗北者になりたい、それだけの男さ。

 

ーーー〇〇〇!!〇〇〇-----------!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……私の意識は覚醒した。

 

心身ともにふわふわとしていてまるで地に足つかず、浮いている感覚だ。

 

……ああ、またか。

 

忌々しいあの場所に、私はいるようだ。私が最も嫌う、クズ共の巣窟に。

 

ふと、左の方から気配を感じてチラリと見てみる。すると、いた。私が唯一信じる我が友の姿が。

 

良かった、彼女がいるのなら安心できる。そんな私の心境とは裏腹に奴らはやってきた。

 

 

「No.06の調子はどうだ?」

 

 

この声……私の嫌うクズ共の親玉だったな。どうやら我が友の話をしているようだが……?

 

 

「はい。コンディションにおいては特に問題ありません。しかし……」

「オリジナルには程遠いと?」

「はい……残念ながらこのままいっても戦力になるかどうか……」

「なるほど……単体でオワリエイジを始末させるのは不可能、ということか」

「はい。唯一の利点といえば協調性の高さでしょうか?サポートに適した個体であると思われますが……」

「フン、そんなものは必要ない。今我々に必要なのは単体で戦闘できる駒なのだ。そう、オワリエイジをも超える個体をな。そうすればベルフェゴール様もお喜びになられるだろう」

 

 

嘘をつけ。それはただの口実。その後に私たちをけしかけて魔王の座を乗っ取りたいだけだろうが。そう内心で陰口を叩いていた。

 

 

「では……どういたしましょう?」

「決まっている。このまま成果もなく続ければ経費の無駄だからな……処分しろ」

 

 

だがその言葉によって私の身が、思考が、凍りついた。

 

 

「分かりました」

 

 

そんな私とは関係なくクズの1人は部屋から出て行く。

 

……我が友を処分?

 

勝手に生み出して、散々私たちの身体をいじくり回して、駒扱いして役に立たなければ処分するだと?

 

貴様らの性で友は話すことが出来なくなったのだぞ?貴様らの性で友は感情を出すことが出来なくなったのだぞ!?

それでもって血の繋がった父を殺せ?どこまで貴様らは勝手なのだ!?

 

沸々と今までの鬱憤が溜まっていく。だがそんなことも知らずクズの親玉は我が友の前に立ちこう言い放った。

 

 

「フン、とんだ役立たずだったよ。お前は……」

 

 

その時、私の中の何かがキレた。

 

 

そこから先はーーーーーーー何も覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー!!」

 

 

そこで彼女……否、リヴァイアサンは目覚めた。

 

とりあえず状況を確認する。どうやら布団で寝かされているようだ。

 

 

「起きたか?」

 

 

意識がはっきりしてきたのでいざ起き上がろうとした時、ある男が現れた。

 

 

「……父、か?」

「その父に当てはまる人物が終永時っていう男ならば当てはまるが?」

「合ってる」

 

 

そうかい、と言って彼は彼女の横へと移動して座り込んだ。

暫しの沈黙の後、彼は口を開いた。

 

 

「……2つ質問いいか?」

「……ああ」

「お前の狙いは俺の命か?」

「……違う」

 

 

私はただ、貴方の側にいたかった。ただ普通の子供のように甘えたかった、愛して欲しかった。ただそれだけなのだ。

 

そう言おうとしたが言葉に出ず、顔を下に逸らした。

 

 

「そうか……では2つ目。お前は……俺に何を求めている?」

「それ、は……」

 

 

私を貴方の子供として愛して欲しい、など言えるわけがない。

私たちは元々貴方を殺すために生み出された存在。そんな理由で生まれた私なのだ。愛される資格など、生まれた時からないようなものだ。

 

 

「……お前の言いたいことは大体予想がつくから言わせてもらうが間違ってたら言ってくれ。……どうせあれだろ?私は俺に愛される資格がない、とか思ってんだろ?」

「……ッ!」

 

 

彼女は驚いた。まぐれかどうかは定かでないが見事な推理である。

流石は我が父である男だな、と内心賞賛しながら首を縦に振って答えた。

 

 

「そっか……なんでお前らはそんなに暗い思考してんのかねぇ?」

 

 

お前ら。その言葉に彼女は引っかかりを覚えた。推測するに恐らくは……彼女以外の終永時の子供たちを指しているのだろう。

 

 

「お前やネルフェ以外にも3人の子供たちに会ったことあるがな。お前はまだ優しい方だったぞ?」

「3人?」

「1人は俺を憎む余り殺そうとした。1人は俺の心に自らの存在を刻み込むために自害しようとした。最後の1人なんか俺との永遠の愛のためにとかなんとか言って俺を殺しにかかってきたんだ。まだお前のやってることは優しい方だ」

 

 

そう言って彼女の頭を少し乱暴に撫でる。彼女は大して嫌がりもせず、黙って撫でられていた。

 

 

「これだけは言っておく。子が親に愛されるのは決して悪ではない。お前が何を思って躊躇ってるかは知らんが俺はお前を子として全力で愛する。例えお前が嫌がろうとお前に殺されようとも世界がそれを悪と認識しても、お前を愛してやる。……覚悟しておけ。俺はこういう人間なのでね?」

 

 

それでも、と反論しようとしたが彼の威圧感のある鋭い目つき、だが、真っ直ぐなその目でじっと見つめられ、彼女は言葉を飲み込んだ。

 

 

「……すまない。少し1人にしてくれないか?」

「……?あっ、ああ……」

 

心情を察した彼は黙って部屋から出て行った。

 

 

「私は……」

 

 

混乱している頭を整理するため、彼女は何も考えず布団に潜り、眠りへとついた。

 

 

『師匠!今日こそ貴方の貞操を頂きますよ!』

『はあ?……ったく、何回も同じことしたところで状況が変わるわけないだろ?』

『ところがどっこい。今回は頼もしい味方がいるのです!』

『何?アスモと組んだのか?……ッ!?』

『ふふん!驚きましたか!?さあ行きますよ!シーちゃん!』

『ちょっ、何でお前らが組んでんだよ!?』

『師匠が同盟を組んだと聞いて閃きました……2人の共有財産にすれば良いと!』

『何だよその発想は!?マモン並に面倒な発想じゃねえか!?』

『さあ、お覚悟を!』

『チッ……いいだろう。お前に見せてやる、姐さん直伝変態駆逐拳を……』

『……え?何ですかそのヤバそうな拳法(?)は!?えっ?どうしたんですか?私の首に両手なんか添えtーーー』

 

 

外から聞こえたそんな話の後に悲鳴が響いたが、すでに眠りへと着いた彼女の耳には届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんは。今日の冬木市もいい天気やの〜。そう思わん?」

「……え?酒が飲みたいだけ?いやね〜、酒飲みの鬼とかとつるんでるとどうもね〜。……っと、話は戻すわ。今回来たのは君への報告がてら来ましたわ」

「……彼は頑張っとるよ?流石は君のお友達と言うだけのことはあるな。……相変わらずどんな精神してるんやろうねえ。あんなん普通の人ならようせいへんほど異zy……悪かったからその拳を下ろしてください死んじゃいます」

「……んんっ!しかし彼も悪というとる割にはお人好しな部分が多々あるけど大丈夫かね?えっ?いざとなれば自分が何とかする?……君も大概やね。プライドとか捨ててまでやるんかいな?えっ?そんなもの犬にでも食わせてやれ?……ふうん、面白い。やっぱり面白いねえ彼は、見てて飽きへんわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほんと、俺を楽しませた存在なだけはある」

 

 




『変態駆逐拳』

ある人物が訳あって編み出した対変態紳士鎮圧用の拳法(?)というより処刑法。

触らせぬ、語らせぬ、悟らせぬ。の精神の元、編み出されたため、一般ピーポーの方々からすれば惨いの一言で片付くもの。しかし紳士からすればご褒美でもあるのであくまで一時的な暴走を止める程度のものである。

変態に悩める人々のために作ったからなのかどうか定かではないが、力の弱い女性でも出来るようにちゃんとされている。

なお、自称悪さん曰く、知り合った女性のほとんどに伝授しているそうなので紳士諸君は以後、行動する際には気をつけることをお勧めする。それでも構わん、というお方はご自由にどうぞ。


『昇天』

今回ニルマルたちに使用した技。分かりやすく説明すると某バイオがハザードの死神さんの処刑である。

殴ったり蹴ったりすれば喜ぶ、ならばそう思う前に意識を飛ばせばいいんだよ!と開祖は語る。

記録者である私も喰らってしまい、3日は起きることができなかった。恐ろしいものである。







記録者:万能チートさん


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魔王と覇王


〜強欲様がお送りする前回のあらすじ!〜


「リヴァイアサンマジ裏山……えっ?もう始まってる?…んんっ!皆様ご機嫌よう。
遠藤さんがFate/Goのクリスマスイベントとやらに集中しておりますので、今回はわたくしことマモンが変わって、あらすじをお送りさせていただきます……では早速ですが、強いて言えば1つだけーーー

ーーーニルマルさん、シーちゃんさん。次回からはわたくしも加勢させなさい。
共有財産という考えは共感できます。この際是非『永時様教団』へ入信なさってはいかがでしょうか?

……えっ?簡略化しすぎ?あらすじじゃねえ?……そんなこと知りませんわ。わたくしはわたくしのやりたいようにしただけですから。前回のことをしりたいのなら自分で読みなさい。
大体『サンタオルタ……だと…?漲ってきたー!!』とか言ってどこかに行った遠藤さんが悪いのです。ええ、だから苦情等は遠藤さんの方へとお願い致します。……では、本編の方をお楽しみ下さい」




 

 

「……」

 

 

桜、雁夜共に寝静まっている深夜。電気を点けず、どこからか取り出してきた銀の丸テーブルの中央に設置された蝋燭に火を灯し、その灯りを頼りに、送られてきた未開封の手紙をジャージ姿のルシファーは無言で眺めていた。

 

 

「……ふむ、罠の類はなしか」

 

 

自分宛に届けられたそれが罠ではないと分かるや否、乱暴に開けて中身を取り出して読み出した。

 

 

「……ほお?面白いではないか」

 

 

しかし短い内容だったのかすぐに要件らしきものを理解し、彼女の顔に自然と笑みが浮かび上がっていた。

 

問題としては書き綴られていたのが久しく見てない文字だったため、解読に多少時間がかかったというぐらいである。

 

 

「ルシファー、ちょっといいか?」

 

 

しかしバットの声が聞こえるや否や、すぐに元の真剣な表情に戻すと、銀色の玉座を出現させて腰掛けた。

 

 

「良いぞ」

「入るぞ〜」

 

 

そう一言言ってからバットは入室し、ルシファーは頬杖をし、余裕の笑みを浮かべて歓迎した。

 

 

「何用じゃ?」

「いやな、同盟のお誘いを受けたんだが……どうする?」

「……ああ、ノット・バット・ノーマルの討伐同盟ってとこかの?通りでサーヴァントの気配を感じるわけじゃな」

「まあそうなんだけどさ……」

 

 

気まずそうに言うバットを尻目にルシファーは暫く黙り込んだのち、口を開いた。

 

 

「ふむ……バットよ」

「ん?何だ?」

「その同盟を呼びかけた陣営に返事をしておいてくれぬか?」

「ああ、オッケー。……で?なんて言えばいい?」

「答えはお主なら知っておろう?と」

「……?とりあえず了解した。んじゃあ、ちょっくら行ってくるわ」

「気をつけていくのじゃぞ?」

 

 

あいよ、と軽く返事すると姿を消し、召喚時と同じように衝撃と遅れて出た暴風が吹き荒れた。

 

 

「少しは遠慮というものがないのか、あやつは……まあ良い。バーサーカー、出て参れ」

 

 

そう言って自身の後ろに語り掛ける。するとバーサーカーが静かに実体化した。

 

 

「今から妾は少し出かける。留守を頼んだぞ」

 

 

そう言うとバーサーカーはただ黙り込んだまま静かに霊体化した。

 

 

「さて、行こうかの」

 

 

そう言ってルシファーは冬木市の空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目的地は……冬木大橋。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーって、ことがあったんだよ」

「おや、彼女がそんなことを?どういう意味でしょうか?」

 

 

そう言ってバットとアヴェンジャーは手に持つ湯のみのお茶を飲み干す。

 

 

「「ふぅ……美味い」」

「おいコラ、何のんきに人の家で寛いでんだ?」

 

 

とか言いつつ持ってきた急須で2人のお茶を注ぐ永時。

 

 

「……そうですよ、お二方。今は聖杯戦争中なのですよ?同盟を組んでるアヴェンジャーはともかく、ランサーはお引き取り願いたい」

「大福食いながらぬいぐるみモフッてる奴には言われたかねえよ」

 

 

ムッ……とジャージに身を包み、ライオンのぬいぐるみをモフモフしながら幸せそうに大福を食べる騎士王(笑)がいた。

 

 

「しかし、あいつがそんなことを……まあ予想通りだった訳だが……」

「ん?結局どういう意味なんだよ?おっ?この大福うめえな」

「気に入ってくださって良かったです。持ってきて正解でしたよ」

 

 

そう言ってモキュモキュと効果音が聞こえるような咀嚼をするバット。そして可愛いですねぇ、とニッコリ笑顔でそれを見るアヴェンジャー。

 

 

「しかしお前、金はどうしたんだよ?」

「……まあそれは置いといて、それで?どういう意味なんですか?」

「話を逸らすな。……あれだ、あいつはあいつらしさを貫くってことだ」

「どういうこと?」

「つまり、誰の手も借りず、1人で何とかしたいってことだ。丸くなったとはいえ、あいつは魔王……フッ、傲慢(プライド)を重視するとは、実にあいつらしい」

「そうかい……」

 

 

そう言ってバットは湯のみのお茶を再び飲み干して一服する。そして、ふとあることを思い出した。

 

 

「……ところでよぉ」

「ん?何だ?」

「聖杯戦争って勝ち残ったら何でも願いを叶えてくれるんだろ?だったら何を聞きたいか分かってんだろ?」

「願い事について知りたい、ですか?」

 

 

そゆこと、と言って急須を持ってお茶を注ぐ。

 

今更過ぎねえか?と永時は思ったが、そういやコイツらあの時いなかったな、と思い出した。

 

 

「セイバー、お前もどうだ?」

「いえ、私は結構でs……これも何かの縁でしょう。その話、乗らせていただきます」

 

 

はっきりと断ろうとしたが急に意見を変えてそう言いだした。そんな彼女の視線の先には、永時の後ろで釣竿に引っ掛けられた『やってくだされば差し上げますよ?』と紙が貼られた茶菓子に目がいっていた。ちなみに竿を持っているのはニヤけ顔のアヴェンジャーである。

 

 

「では私も……」

「おいネバー、お前はどうすんだ?」

「いや、俺は別にーーー「はいはい、とりあえずやるぞ」……無視かよ」

 

 

やる気がないのでその場から離れようとしたがバットに回り込まれ、いつも間にか席に座り込んでいた。

 

まさに才能の無駄遣いだな、と思いながらも逃げるタイミングを伺う。

 

いつの間にか元の位置に戻っていた速度チートのバット。しかし本人はやる気のようで、何て言うんだろうな?と目をしいたけにして期待に満ちた目でじっと見つめている。

 

他には、なんか見覚えのない茶菓子を頬張っているセイバー。

 

そしてそれを理解しつつ永時にムカつく笑みを見せるアヴェンジャー。てかセイバー買収されたのかよ。

 

 

「……はぁ」

 

 

逃げられないことを悟り、溜め息を深く吐いて諦めることを決心した。

 

 

「んで?誰から話すんだよ?」

「じゃあ言い出した彼女からで」

「そうだな、じゃあ俺からで「師匠、よろしいですか?」……何だ?」

 

 

丁度始めようとするタイミングで部屋に現れた弟子。タイミングの悪さにバットは文句の1つや2つ、言おうとしたがその真剣な表情が何か物語っていることを感じ取り、言葉を飲み込んだ。

 

 

「……例の2人が動き出しました」

「……分かった。引き続き監視を続けてくれ」

「分かりました」

 

 

そう言って部屋から姿を消す。そして聞き終わった永時は気を引き締めた真剣な表情に戻り、アヴェンジャーに向かって言った。

 

 

「アヴェンジャー、セイバー、準備しろ」

「了解しました」

「分かりました、すぐに」

 

 

真剣な表情に変わり、部屋から出て行く2人。急に変わった雰囲気にバットはついていけず、どうすれば良いのかあたふたしていた。

 

 

「な、何だ?えらく騒がしいけど……?」

「……悪いが姐さん、その話はまた別の機会にしてくれないか?」

「えっ?まあいいけどさ。何するんだ?」

「ビギナーと決着をつける」

「…何?」

 

 

聞いた途端、目つきを鋭くして永時を睨みつける。しかし永時はその視線に怯むことなく、いつもと何ら変わりない態度を取り続ける。

 

 

「おいおい姐さん、そんな怖い顔しないでくれよ?別に俺は個人的に恨んでるとかそんなんでやるわけじゃねえ……分かってくれ」

「……分かってる。分かってるけど……」

 

 

そう言って彼女は顔を俯かせる。その姿に申し訳なさが出てきてすぐさま謝罪する。

 

 

「……すまんな、俺の力不足のせいで」

「いや、誰のせいでもねえよ。……邪魔したな」

 

 

そう言い、俯いたまま彼女は去っていった。高速で移動したため、遅れて出てきた衝撃と、それにより出てきた強風が部屋に吹き荒れた。だがそんなことは大して気にせず、永時は部屋から出ようと足を運ぶ。しかし出たはずだったアヴェンジャーに止められて彼は足を止めた。

 

 

「……いいのですか?彼女を放っておいて大丈夫なのですか?」

「……別に構わん」

「では、彼女が障害として現れた場合は?」

「その時は……倒してでも突破するだけだ」

「倒す、ですか……いやまあ随分と丸くなられましたね。昔の貴方なら殺ることも考慮していましたが……」

「フッ、やっぱりそう思うか?……俺も随分と甘くなったもんだな」

 

 

自嘲気味に笑うと彼は部屋から立ち去って行った。そしてその背を眺めていたアヴェンジャーは呟いた。

 

 

「しかしその甘さも、人間には必要なのですよ?まあ甘すぎるのもいけませんがね?…しかしーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーその甘さが、仇にならないと良いのですが……特に貴方は弱体化が一番酷いようですからねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして冬木大橋にて手紙の差出人であるライダーが腕組みして佇んでいた。

 

 

「……来たか」

 

 

ふと急に笑みを浮かべて上空を見上げ、釣られてその愛馬のブケファラスも、その上に騎乗するマスターのウェイバーも同じ方向を見上げる。その視線の先に上空から見下しながらゆっくりと降下していくルシファーの姿が。

 

 

「……ふん、こんなもので呼び出すとはな。何用じゃ?」

「ん?中は見ておらんのか?」

「無論見とるわ。しかし…決闘を申し込むとはどういう風の吹き回しじゃ?」

「んんん?そのままの意味であっとるぞ?」

「……ふむ。貴様のことじゃから、てっきりギルガメッシュに挑むと踏んでおったがな……」

 

 

予想が外れ、まさか自分に挑むとは思わなかったルシファー。

 

しかし彼女は魔王。戦わずして敗走など傲慢(プライド)が許せぬことである。故に今回彼女はこの挑発に乗り、ここまでやってきたのだ。

 

 

「ハッハッハッ!どうも余は欲張りでな!魔王と称される貴様を征服したくなってな!」

「ほう……?つまり妾を臣下にしたいとでも申すか」

「いや、その前に1つ聞いておきたいことがある」

「…なんじゃ?言ってみよ」

 

 

ニヤリ、と余裕を持った笑みでルシファーが見つめる中、ライダーはルシファーに少し歩み寄り、笑みを崩さぬまま言い放った。

 

 

「……余の盟友とならんか?」

「断る」

 

 

まさに即答であった。あまりの早さに驚いたライダーは理由を尋ねた。

 

 

「ほう?それまたどうしてだ?」

「そんなのは決まっておる。妾が魔王だからだ」

「魔王、だから……?」

 

 

思わず呟いたウェイバーの方に向き、左様、と彼女は答える。

 

 

「親愛なる盟友と共に世界を征服する、それがお主が覇王ある故の道、即ち覇道じゃ。じゃが妾は違う……誰の下にも付かず、誰とも対等であらず、常に上に立ち続け、孤高の存在でなくてはならない。それが妾が魔王であるための道、即ち魔道と言うべきか」

「けど…それ故に孤独。寂しいと感じたことはないのか?」

 

 

ウェイバーの素直な問いに鼻で笑ってこう答えた。

 

 

「無論じゃ……とまあ、昔の妾ならそう思っておったが……まあエイジのせいで人の温もりを知ってしまったからな。今あの頃に戻ろうとすれば寂しく感じるじゃろうな」

「そうか」

「しかし、だからと言って誰かの下に付かないことは変わらんぞ?」

 

 

ニタリ、と好戦的な笑みを浮かべてライダーを見やる。するとライダーは神妙な顔をしていた。

 

 

「……なるほど、お互いに譲らぬものがあるということか」

「そうじゃ。……で、お主はどうするのだ?」

「無論決まっておる。我が覇道は征服あってこそのもの、ならば、余は余らしく剣を交えて語り合えばよい!」

「ほう?この妾に挑むと言うのか?」

 

 

笑みを崩さぬまま、濃厚な殺気をばら撒く。しかし、ライダーとそのマスターは怯むことなく彼女から目を離さず、ライダーははっきりと答えた。

 

 

「そうだ、と言ったら?」

「……よかろう、貴様には妾への挑戦権を与えてやろう」

 

 

すると、彼女は背中に3対の計6枚の漆黒の鳥羽を広げ、自身が持ち得る魔力と殺気を解き放って言う。

 

 

「やるからには全力で来るがよい。さすれば妾に、一太刀浴びせられるかもしれんぞ?」

「無論そのつもりだ」

 

 

ニタリ、と笑うとライダーは微笑みを崩さぬまま語る。

 

 

「……やる前に聞いておこう。お主、何故断られると分かっていて盟友にしようとした?」

「…なあに、簡単なことよ。もしかすれば気が変わり、了承すると踏んでおったからだ。それにお主は盾を使うと聞いた。……例えば、余の『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』をギルガメッシュの宝具と貴様の盾で武装させれば、最強と言っても過言ではない兵団が出来る」

 

 

まるで夢を語る少年のようなライダーの言葉にルシファーは納得していた。確かに半神半人のギルガメッシュの宝具、負けたとはいえ神に抗った者の盾。この2つが揃えば確かに最強かもしれないと。

 

 

「……改めてどうだ?余と盟友にならんか?貴様と余とギルガメッシュならば必ずや世界の果てまで征服出来るぞ?」

「……なるほど、世界征服か。そう言うのも悪くないかも知れぬな。じゃが、さっきも言った通り妾は魔王。生憎、伴侶は間に合っておるし、魔王は常に上におらねばならぬのだ。友など要らぬし、誰かの下に下るのも考えられぬ」

「……孤高なる王道か。では、余はその揺るがぬ王道に敬服を持って、続きは剣を交えて語るとしようか」

「よかろう、やってみよ。このルシファーに対して、全力で抗うことを許そう」

 

 

そう言って2人は互いに背を向けて歩きだす。ライダーは愛馬へと、ルシファーはただ距離を取るために。

 

そして、ライダーは愛馬に騎乗し、ルシファーはある程度距離をとった後、ライダーは己の得物を天に掲げて叫んだ。

 

 

「ーーー集え我が同胞たちよ!今宵我らは、かの神代の神の反逆者へと勇姿を示す!!」

 

 

すると剣から光が放たれ、ルシファーを飲み込んでいく。

 

 

「……例の宝具か」

 

 

目を開けて視界に広がったのは太陽がこれでもかというほど照らされ、先の全く見えないほど広大な灼熱の砂漠。

 

そして、地平線から見える軍勢。その前に先導する様にこちらに歩むライダーの姿があった。だがその顔は先程のような友好的な笑みではなく、全くの無表情であり、彼の真剣さを物語っていた。

 

そして後ろに整列して控える兵達(同胞たち)は槍を天高く掲げ、己の王の言葉を待ち続けた。

 

 

「敵は傲慢を司る魔界の王!相手にとって不足なし!!いざ益荒男たちよ!7つの大罪の一端を担う者に、我らの覇道を示そうぞ!!」

 

 

そう叫びながら剣を天へと掲げると賛同するように兵達は雄叫びに近い声を上げる。

 

そして、掲げたその剣が振り下ろされたその瞬間。

 

 

「AAAAlalalalalalalalalalalalalalalalaie!!」

『オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 

ライダーとそれに続くよう走り出す兵達。その様子をルシファーは面白そうに眺めていた。

 

 

「……夢を追ってここまでなるとは相当なものよ。しかしな、夢は所詮夢。大抵叶わぬことを理解しておったか?……さて、貴様はその夢。見事に叶えられるかのう?……ゼツ」

「お呼びでしょうか?ルシファー様」

「……少々骨のありそうな者がいたのでな。あれをやるぞ、すぐに用意せよ」

「了解いたしました」

 

 

特に何もせず普通に現れたゼツに特にツッコミをせず、要件を伝えるとすぐ去っていった。そしてそれを見送ったルシファーは着ていたジャージを黒のドレスのような鎧に変え、銀の玉座を出すとそれに腰掛けた。

 

 

「気づいておらぬのか?世界を征服すると言うことは魔界も視野に入れておるのも同義。つまりは我ら魔王に挑むということも考慮しておるだろうな?……せめてもの報いとして、妾自ら手を下してやろう」

 

 

そう言って彼女は肘枕をし、空いている左手を天に掲げる。

 

 

「見るがよい。傲慢の魔王、ルシファーの力を!その目でしかと焼き付けるが良い!」

 

 

そう言い終えると、彼女の背後に大量の魔方陣らしきものが大量に出現し始めた。

魔方陣からは人が1人、また1人と現れていく。しかしその背には漆黒の羽を広げており、人間でないことは明らかであった。

 

 

「何だあれ……まさか堕天使!?いや、悪魔もいる!」

 

 

ウェイバーが言った通り中には蝙蝠のような羽を広げた人型のような存在、通称悪魔と呼ばれる者も姿を見せていた。

 

段々と召喚される中には人型ですらない異形の存在もいた。

 

やがてその数はライダーの軍勢に匹敵するほどの数となった。

 

 

「何と!?」

「見よ!これこそが妾に付き従ってきた部下共よ。どうした?怖気付いたか?」

「いや、これ程の軍勢を持つとは……ますます盟友にしたくなったわ!!」

「ほう?」

 

 

ビビるどころか、むしろ好戦的になったライダーに感心しつつ彼女は自身の部下を見渡す。

 

 

「……ルシファー様、ご指示を」

 

 

その中にはいつもの奇抜な黒タイツ姿ではなく、露出を控えた軽装の鎧に身を纏ったゼツが、自身の王の斜め後ろに立ち、王の言葉を待っていた。

 

 

「ッ!来るぞぉ!!」

 

 

直感的に敵が来ると理解したライダーは己の兵達に警戒を呼びかける。

 

すると案の定、ルシファーは顔を冷徹な魔王の表情へと変化させ、上げていた左手を振り下ろして号令を上げた。

 

 

「……行け」

「全軍!突撃ぃ!!」

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 

王の言葉を代弁するようにゼツは声を上げて叫び、それをしかと聞いた部下たちは人間を超えた強靭な筋力で地面を蹴って大地を駆ける者、鳥や蝙蝠をイメージされられそうな翼を力一杯羽ばたかせ空を駆ける者、中には竜種らしき者に騎乗する者など、様々であるが皆が皆、ライダーの軍勢を討ち滅ぼさんと向かって行く。

 

やがて2つの軍勢はぶつかり、戦の炎は燃え上がる。

 

 

「これこそが妾の魔王としての集大成の1つ、その名も『地獄の中の天国(ヘヴン・イン・ヘル)』じゃ」

「『地獄の中の天国(ヘヴン・イン・ヘル)』ですか?」

「うむ。エイジが語っていたある組織の名から取ったものじゃ」

「ある組織、ですか?」

「ああ、確か……『天国の内側』とか『地獄の外側だった』だったか、思い出せん……」

 

 

と、そうこう話していると1人の堕天使が走ってきて片膝を立てて屈む。その姿はまさしく忠誠を誓う部下の姿であった。

 

 

「申し上げます!敵将が前衛を突破しましたぁ!」

「何ィ?……分かった。貴様らはもう撤退せよ。その敵将諸共、妾自らやる。異論はないな?」

「了解しましたぁ!」

 

 

返答するとすぐさま魔法陣を出現させ、元いた場へと戻っていく部下を見守るとルシファーは視線をゼツへと戻した。

 

 

「ゼツ、被害状況を」

「はっ……現在我が軍の被害はごく僅か、対して向こうは半数以上その数を減らしており、こちらが優勢であります」

「ふむ、そうか……」

 

 

そう言ってルシファーは肘枕をした格好のまま戦場を見つめる。そして次々と消えていく悪魔達に困惑する兵達の集まっているところを見つけると盾を1つ出現させ、光線を放った。

 

放たれた光線は真っ直ぐと進んでいき、そして着弾と同時にその周辺は爆発に包まれた。そして爆発により発生した砂煙が晴れると……兵達がいたであろう痕跡が跡形もなく、なくなっていた。

 

 

「フッ……」

 

 

その光景に満足そうに笑うと同じ盾を複数出現させ……一斉掃射を始めた。

しかし兵達は怯むことなく、寧ろ敵がいなくなったことを好機と見て、ルシファーの元へと走り出した。

 

 

「……来たか」

 

 

掃射を始めて数分、ライダーが遂にルシファーの元へとやってきた。しかし肝心の兵達はごく僅かへとその数を減らしており、

 

 

「む?もう限界か……」

 

 

2人のサーヴァントを包んでいた世界(固有結界)が崩壊し始めた。

 

 

 



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そしてあいつはまたやってくる



〜キクマr……ではなくニルマルちゃんが送るあらすじ〜

「(ん?また誰か私の名前を間違えた気配が……気のせいか?)皆さんこんにちは。終永時の弟子兼愛人こと、終ニルマルです。えっ?なんで愛人かって?そりゃあ……その方が興奮するじゃないですか色々と!
……んんっ!それにしても凄いですよね〜。えっ?何かって?そんなの……師匠の肉体の凄さに決まってるでしょう!
……えっ?前回のあらすじ?あー、傲慢様はお強いですねー(棒)
そんなことより、師匠の肉体について語るのが大事なんですよ!まず師匠はですねーーー『以降惚気話(?)のため、この先はカットしました』」



 

消えていくライダーの世界とその兵達。まるで夢のように儚く消えていき、やがて残ったのはライダーとそのマスターと馬のブケファラスという2人+1騎だけ(現実)だった。

 

 

「……」

「ライダー……」

 

 

世界が崩壊したのをこの目で見たライダーはただ無言のまま馬を止める。マスターであるウェイバーからはその表情を見ることは出来ず、ただ黙って見守っていた。

するとライダーは突然あることをマスターであるウェイバーにある問いを投げかけた。

 

 

「……そういえば1つ、貴様に聞いておきたいことがある。ウェイバー・ベルベットよ、臣として余に仕える気はないか?」

「……ッ!?」

 

 

その言葉にウェイバーは涙を流す。

かの征服王に認められたことか。それとも、参加理由である自身のことを認められることが叶ったことか。はたまた、ライダーが今から死に行くことを悟ったことか。それともその全てか。

その本心はウェイバー本人にしか理解できないが、確かに彼は泣いていた。

 

 

「貴方こそ……貴方こそが、僕の王だ。貴方に仕え、貴方に尽くす。どうか……僕を導いて欲しい…!臣として、貴方と同じ夢を見させて欲しい!」

 

 

ウェイバーの言葉をライダーはしっかりと受け止め、それに答える。

 

 

「……うむ、良かろう」

「え……?」

 

 

そう言ってウェイバーの襟首を掴み、舗装された道路へと降ろしてやった。

 

 

「夢を示すのも王である余の務め、そして王の示した夢を見極め、それを後世へと語り継げていくのが、臣たる貴様の務めである!」

 

 

臣として認められて初の命の内容に驚くなか、ライダーはニッコリと笑い、まるで何かを悟ったかのように彼は言葉を続ける。

 

 

「生きろウェイバー。そして余の生き様を、貴様の王の在り方を、このイスカンダルの疾走を!生きて後世へと語り継げろ!」

「……!!」

 

 

遂に我慢できなくなったウェイバーは顔を俯かせて涙を流しながら嗚咽を漏らす。

そして、ライダーは気持ちを整理する。今から相対する敵へと集中するため、目を瞑る。

 

 

「……さあ!いざ行こうぞブケファラス!!」

 

 

カッと目を開き、強く手綱を握り、愛馬を前へと走らせる。ブケファラスはその巨体から普通の馬とは比べられぬ程の疾走を見せる。

そして先程まで俯いていたウェイバーは涙を拭い、疾走するライダーの背を見つめる。自身が認めてくれた王を、その生き様を、在り方を見届けるために彼は見続ける。

 

 

「AAAAlalalalalalalalalalalalalalalalaie!!」

「来るか……」

 

 

雄叫びに近い叫びを上げながら疾走する姿を目視したルシファーはそこから先は何も言わず、自身の背後に盾を展開する。やがて夜空に白光と黒光が光り輝き広がっていき、そして……そこから光線が一斉に放たれた。

飛んでくる光線を自身の得物で弾く、防ぐ、受け流す。しかしそれだけで全てを凌げる訳もなく、取り零した光線は道路を、ライダーを、そして愛馬をも貫いていった。

 

 

「……ぬおっ!?」

 

 

脚を貫かれ、遂にブケファラスは転倒し、乗っていたライダーも地面へと引きずり降ろされる。だが彼はすぐに立ち上がり、実体を消していく愛馬を背にして走る。

 

 

「AAAAAAAAAAAAlalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalaie!!」

 

 

今まで以上に声を上げ、彼は走る。

光線が腕を、足を、左肩を、腹を貫いていく。だが彼は急所に当たるものだけを最低限の動きで弾き、前へと走り続ける。

彼は走ることを止めない、どんなに貫かれようとも、どんなに血に染まろうとも、彼は足を止めない。

 

 

「……」

 

 

何故なら自身の背を、己の生き様を、在り方を、その疾走を、見極めようと見続ける臣のために。そして、自身の覇道を魔王に示すために彼は走る。

 

ーーー覇道を謳い、覇道を示す!そしてこの背を見守る臣下のために!!

 

そう心に決めた彼の進行を、そう簡単に止めることは出来なかった。

 

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

遂にルシファーの元へと辿り着いたライダーは剣を全力で振り下ろす。

しかしルシファーはそれを涼しい表情でひらりと避けるがライダーはそれを見越したかのように剣を薙ぐように振るい、ルシファーの首を狙った。

 

 

「ーーーその攻撃は良し。だが……甘いぞ」

 

 

しかしその刃は間に挟まるように現れた盾によって届くことはなかった。

そして、動きが止まった一瞬の隙にルシファーの手から出現した光の槍によって心臓を突き刺された。

心臓を貫かれたことにより、ライダーの口の端から血が流れる。

 

 

「…瞬間移動する盾に光の槍とは、また妙なものを使いおるなぁ……」

「フッ……前に一度、同じ流れで苦い思い出があったのでな。二の舞を踏まぬよう対策をとったまでよ。して……夢より覚めたか、征服王よ?」

「ああ、そうさなぁ……。此度の遠征もまた、心躍ったなぁ……」

「……いつまでかは知らんが妾は長寿の身。いつの日かまた巡り会える日が来るであろう。その時は……また挑戦するがよい」

「はははっ……そりゃまた…いいなぁ………」

 

 

そう言ってライダーの体は粒子へと変わっていき、静かにその実体を消していった。

そして、静まり返る中ルシファーは静かに歩き出し、奥にいるウェイバーの所へと向かっていく。

 

 

「……小僧、貴様は何者だ?」

「僕は……僕は、あの人の臣下だ!」

「ほう?臣下とな?……では、もう1つ聞こう。貴様の王が討たれた訳だが……仇はとらぬのか?」

「……お前に挑めば僕は死ぬ。けど、僕は生きろと命じられた…!だからそれは出来ない!!」

 

 

揺らぎのない強い言葉にルシファーは感心した。

かつてルシファーが見た人間らしい真っ直ぐな瞳にはその揺るぎのない信念と強い意志が込められており、ある男をふと思い出してしまった。

更にはある男でさえ持ち得なかった王への忠義心をも感じ取れた。

 

彼女は素直に驚いた。これ程までの人間が、まだ現代にも残っておったのかと。

 

 

「……そうか。その忠義、大儀であるぞウェイバー・ベルベットよ。この妾を感心を持たせるとは驚いたぞ。これからもその心意気、忘れることなく、胸を張って生きていくがよい」

 

 

そう言って背を向け、次の目的地へと歩みを進める。

 

 

「フッ…妾も甘くなったものよ。さて……そろそろ次に移ろうとしようかの。……ゼツ。バーサーカーとバットを呼び戻してこい」

「了解しました。ところで、雁夜殿はどうなされますか?」

「彼奴はバーサーカーのマスターだ。残る小娘の警護は貴様が信頼できる部下にでもやらせておいて構わん。呼び出せ」

「……逢瀬のままに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?ここは!?」

 

 

気がつけば見覚えのある白い平原へとセイバーは立っていた。

この間このようなことがあったことを思い出し、嫌な雰囲気を感じ取っていたところに、

 

 

「まさか……」

「ふふふ、そのまさかですよ。では、『第2回這いよれ〇〇〇さん!』開幕でーす!」

 

 

辺りは光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……?ッ!?」

 

 

再び意識が戻ったので辺りを見れば見た覚えのあるようなテレビスタジオにある椅子に座らされていた。

 

 

「やあ、ご気分はいかがかな?」

 

 

そして目の前の席には見覚えのある黒いパーカーに同色のジャージのあの(馬鹿)がいた。

 

 

「貴方が私の立場なら気分がいいと言えますか?」

「……では、今回もお話をしましょうか」

 

 

セイバーの遠回しの苦情に男は華麗な(?)スルーパスで強制的に話題変換をした。

セイバーは若干不満気ながらも前回同様に出された紅茶に舌鼓を打つ。

 

 

「今回は茶菓子としてワッフルとバウムクーヘンをご用意しました。ですので……少しだけでいいのでお義兄様の遊びに付き合ってくださいませんか?」

 

 

こちらも前回同様Aが茶菓子を申し訳なさそうに出すのを見て少しだけ付き合うことにした。

 

 

「それで……今回呼び出したのはどのようなご用件で?」

「それはですね……今回もアヴェンジャーについてお話ししようと思いましてね」

「はあ……」

 

 

出された茶菓子を食しながらセイバーは男をじっと見つめて観察する。

仕草、口調などから行動パターンなどを推測し、どのように行動すべきかを考える。

 

 

「ところで1つお聞きしますが……セイバーさん、貴女はその生涯。敗北もしくは勝利だけのどちらかで固定されていましたか?」

「えっ?いえ、それは流石にありませんでしたが……」

 

 

そう、セイバーでさえ、否、人間誰でも1度は敗北と勝利を経験するものである。そのことを説明すると男は苦笑しながら答えた。

 

 

「それがですねセイバーさん。世界というものは貴女の予想以上に広いものでしてね。中には常敗無勝の男やその逆も存在するんですよ?」

 

 

つまり、話の流れ的にアヴェンジャーはその2つのどちらかに値する存在であるようだ。

そのことを頭に記憶しておき、セイバーは聞くことに集中する。

 

 

「はあ……それに何の意味が?」

「つまりその人物は敗北もしくは勝利のどちらかを経験していないことになります。そんな人間が果たして現状に満足するのでしょうか?」

「なるほど。つまりアヴェンジャーの目的は自らの運命の払拭だと?」

「さあ?流石にそこまで断言は出来ませんが直感Aを持つ貴女が言うのです。合っているのではないてしょうか?」

 

 

適当に返答する男に若干の苛立ちを感じながらもセイバーは質問を続ける。

 

 

「しかし…そんな英霊は記録に全くないのですが?」

「なぁに、簡単なことですよ。貴女のその記録とやらはあくまでこの世界の史実に基づいた記録なのです」

「…つまり、どういうことですか?」

「難しいですか?では、分かりやすくこう言いましょう。キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグという人物はご存知ですか?」

「確か……第二魔法『並行世界の運営』に至った。現存する魔法使いの1人でもあり、死徒27祖第4位の世界に座る者であり……かの朱い月を倒した者、でしたね」

「朱い月、ですか……懐かしい名前ですね。彼?いや、今はその後継者は彼女だったかな?あの頃が懐かしいですね……」

 

 

元気にやってますかねぇ〜と懐かしそうに空を見上げており、それを見て1つ疑問が生じた。

 

 

「懐かしそうに語ってますが……知り合いか何かで?」

 

 

正直合って欲しくない予想が頭に浮かぶが現実というものは非情である。

 

 

「ええまあ…昔ちょっと語り合い(物理)を少々と……」

 

 

なんか物理と物騒なことが聞こえた気がしたが気のせいであることにした。そう、気のせいなのである。

 

 

「……っと、昔話に浸るのはこれぐらいにして本題へ入りましょう。かの糞じz……んんっ!ゼルレッチ氏は並行世界の運営に成功したためにはっきりと分かったことですが並行世界とはあらゆるifの世界を意味しています。例えば、貴女のマスターが衛宮切嗣である世界。そもそも私がここで貴女と対話していない世界。もしかしたらこの世界自体が小説である世界かもしれません」

「なるほど、つまりアヴェンジャーはあったかもしれない並行世界で偶然誕生した英雄だと?」

「まあそういう認識で構いませんよ」

 

 

紅茶を飲んで男は一息つく。茶菓子を食べようと手を伸ばすが既になくなっていることに気づき、Aに頼んで追加の茶菓子を出してもらい、出されてすぐに男はバウムクーヘンひと切れを摘むとそのまま口に運んで食す。

対してセイバーは無表情のまま黙々と追加の茶菓子を口へと放り込んでいっており、その様子を見たAは食べてくれることに嬉しく思う反面、食いすぎでは?と引いており、苦笑していた。

 

 

「よく食べますね……私としては嬉しいのですが…」

「そうやね……(大食らいなところは一緒。あくまでそれが出たのが少し早いだけか)」

「しかし……並行世界の英雄なのは理解出来ましたが……これだけでは真名が分かりませんね」

「まあそこは次回へと持ち越しということで……では皆様。残念ながらお時間となってしまいました。最後にゲストのセイバーさん。何かご質問はありませんか?」

「アヴェンジャーについてお聞きしたのですが……彼は私のマスターと親しくはなしているようですが……竹馬の友か何かで?」

「さあ?それは分かりません。ですが、視聴者の皆様の中にはそろそろ感づいている方もおられるはずです。なので後は直接マスターにお尋ねください。では、生きていればまた会えるでしょうその日まで。皆様ご機嫌よう!」

 

 

そう言って前のように光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お義兄様。いつまでこの遊びを続けるおつもりで?」

「ん〜……あと1回ぐらいかな?多分それぐらいがええ感じやと思うし?何回もやったら視聴者の皆様も飽きてくると思うし?恐らく多分次話かその次あたりにネタバレすると思うわ」

「そう、ですか……」

「さてさて、皆がどんな風に動いてくれるのか。楽しみでしゃあないわ」

 

 

 



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最強vs最狂



〜傲慢様が送る前回のあらすじ〜


「(フン、何故妾がこのような余興をせねばならぬ……まあ良い。偶には興じるのも良いか)……皆の者。初めましてか?傲慢を冠する者、ルシファーである。
今回見事あらすじに選ばれた妾じゃが……何故ゼツの方が先に選ばれたのかが納得いかん。誰か分かりやすいように説明せよ。ん?作者が悪い?ふむ……なるほどのう。理解した、礼を言うぞ。
では妾は他の者共とは違うので軽くじゃが語らせてもらおう。

前回、遂にライダーと決着をつけた妾は次の目的のために全戦力を集めだした。
一方哀れな騎士王は例の男に呼び出され、アヴェンジャーに関する新たなヒントを得た。

ってとこかの?うむ……。どうも例の男とやらは哀れな騎士王に肩入れしておるようじゃが……何が目的じゃ?まあ妾の予想が正しければ碌な理由でない気がするが……まあ分からんものを推理しても話は進まん。続きは本編を見れば分かるじゃろうし、そろそろ帰らせてもらおう。妾はこれからちとばかし所用があってな。人に会わねばならぬのでな?では、さらばじゃ。

……ところでじゃが遠藤凍という名の下手人はどこにおるか知らんか?」




 

 

 

「さっさと消えろ!鬱陶しい!」

「貴様!余程死に急ぎたいか!無個性!!」

 

 

アインツベルンの森にて、憤怒の表情を見せながら宝具を放ち続けるアーチャーとイラついた表情を浮かべるビギナーは緑弾を投げるもしくは打つなりして飛んでくる宝具を相殺し続けていた。

 

何故このようなことになったのか、それはほんの数分前にまで遡ることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?敵襲か!?」

 

 

1人で部屋に篭っていたビギナーは誰かは分からないがサーヴァントらしき気配を感じ取り、すぐ様壁をぶち破って森へと飛び出していく。

そしてその正体を探るために暫く森の中を飛び回っていると、

 

 

「……ッ!?」

 

 

真横から爆発と衝撃が彼を襲った。

不意を突かれたことにより軽々と吹き飛ばされ、地面へと落とされた。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

しかしダメージは受けてなかったので、すぐ様受け身を取ることで立ち直し、警戒心を緩めることなく辺りを警戒する。

すると彼の耳に聞き覚えのある、ある男の声が聞こえてきた。

 

 

「ほう?不意打ちとはいえ、我が財を受けてなお健在とは少しは骨があるようだな」

「アーチャー!!」

 

 

そう、黄金に身を包んだ世界最古の王であるアーチャーが腕組みをしながらこちらを見下していた。

 

 

「アーチャー……貴様、何をしに来た?」

「何をしに来た、だと……?ハッ、王を名乗る無礼者に呼び出されたから来てみれば貴様がいたのでな。貴様、以前言っていただろう。『喧嘩なら後でいくらでも受けてやる』と」

 

 

確かにそんなこと言ったなと思い出しつつ、いつ攻撃が来てもいいように臨戦態勢を取り続ける。

 

 

「ああ、言ったな……それがどうした?」

「まだ理解してないのか?……つまりは」

 

 

そう言ってアーチャーは自身の背後に黄金の波紋を広げ。

 

 

「興が乗ったから、今から我自ら裁いてやるということだ」

 

 

そう言って黄金の波紋から大量の宝具を射出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーと、いう訳でこうして戦闘が行われているということである。

 

 

「……フンッ」

 

 

再びアーチャーは波紋を展開し、宝具を射出する。

煌びやかな武具の数々はビギナーに向かって飛んでいく。

 

 

「チッ……!」

 

 

それに舌打ちしつつビギナーは手から緑弾を作り出し、投げとばす。すると1つだけではなく、分裂するように小さい緑弾が飛んでいき、飛来してくる宝具を撃ち落としていく。

しかしアーチャーは何も思うことなく更に波紋を展開し、射出を続ける。

 

 

「しつこいぞ貴様!!」

「ならば大人しく我に裁かれるがよい!」

「断る!」

 

 

そう言って同じ技をもう1度使い、迎撃する。

 

 

(このままじゃジリ貧か……切嗣の魔力が持つまであと少しというところか)

 

 

少し前にやったセイバーとバット戦を思い出し、自身の限界を理解していたため、もうそろそろ来ると理解しており、それ故に焦りを感じていた。

どうしてこの状況を打破できるか、頭を捻って考える。

 

 

(……チッ、もうどうにでもなれ!)

 

 

しかし流石は賢さ26と言われている男になっているだけはある。考えることをやめ、本能的に武具を避けることにした。

飛んでくる弾幕のような武具の隙間という隙間をその巨体からは予想がつかない速さで突き抜けていく。

 

 

「何……!?」

「死ぬがいい!」

 

 

そしてその隙間から緑弾を投げ飛ばしてアーチャーを直接狙った。

しかし、それを鼻であしらうように笑うと自身の正面に7枚の花弁で飾られた盾を出して間に挟ませることで見事に防ぎきった。

 

 

「何ィ!?」

「それ、もっと興じてみよ」

「クソッ……!」

 

 

防がれたことによりビギナーは動揺するがそんな暇もなく、アーチャーは宝具の射出を再開し、また防戦へと戻された。

 

 

(チッ…!このままじゃ本当に魔力切れ……あれを使うしかないのか?)

 

 

防戦へと戻されたビギナーの頭にふとある考えが浮かぶ。

しかし、それは敵にとっても、マスターである切嗣にも、そして本人であるビギナーにとっても最悪の考えだった。

 

かつての仲間なら理解しているものもいるだろう。最強で最狂への変化を遂げるべきかを。

 

だが彼は葛藤していた。この変化を遂げれば勝利は確定だろう。しかし、問題はそれに伴う膨大な破壊衝動が溢れ出てくる。しかも狂化も重なり、すれば最後、今僅かに残っている理性は消えてしまうことが簡単に予想できた。つまりそれは、気の向くまま行うありとあらゆる破壊活動の実行を意味するのだ。

別に無関係な一般人が死のうと所詮は他人、助ける義理もないのでどうでも良いのだ。だが……

 

 

(下手すればアイリスフィールを巻き込んでしまう……それだけは避けなければ)

 

 

まだ生存しているかもしれないアイリスフィールを殺してしまうかもしれないことが予想され、変化することを躊躇っていた。

更にもう1つ、問題があった。

 

 

(あれをやれば最後、暴走は免れん。……切嗣は確実に魔力枯渇を起こすだろうな)

 

 

そうすれば死ぬぐらいならと切嗣は確実に令呪で自害させてくる可能性が出てきたことだ。

そうされたら目的達成の前に死んでしまうのは明白なのだ。こんなところで死ぬ訳にはいかないのだ。

 

 

(……クソッ!面倒臭い!こうなったら捨て身覚悟でーーー)

 

 

ヤケクソで突撃の態勢を取ろうと構えたところで……それはいた。

 

 

「ーーー!!?」

「……ほう?」

 

 

戦闘民族の中で強者と言われる存在と化している自分でさえ恐怖する程の圧倒的な重圧感(プレッシャー)。その重さは無意識に足を後ろへと下げさせる程の圧倒的なものだった。

しかし彼は知っていた、否、嫌でも覚えていた。この重圧を出せる存在を。

対してアーチャーは怯むことはなく、寧ろここまでの重圧を出せる存在に興味が出ており、それがいるであろう方角を見つめていた。

 

 

「こんばんは皆様。今宵もまたいい夜だと思いませんか?」

 

 

そう言って現れたのは今回全くの未知数と呼ばれるサーヴァント。アヴェンジャーと名乗る男であった。

 

 

「おい雑種。貴様がしでかしたこと、理解しておろうな?」

 

 

しかしアーチャーは止められたことに怒りを感じており、現れたアヴェンジャーにそう尋ねた。

するとアヴェンジャーはアーチャーの存在に気づくと綺麗なお辞儀を見せて語り始める。

 

 

「おや?これはこれは英雄王殿。突然の無礼をお赦しください。実はこのビギナーにちょっとした用がございまして……」

「ほう?所用とな?申してみよ」

「はい。実はーーー」

 

 

赦しが出たのでアヴェンジャーは目的を語ろうと口を開いた。

 

 

「簡単なことです。私がここに来たのh「消えろぉぉぉぉぉ!!」……おや?」

 

 

が、いつの間にかアヴェンジャーの懐に飛び込んだビギナーは手に持った緑弾をゼロ距離で懐に叩きつけて爆発させた。しかもセイバーの時に使ったものより威力を上げて、今自分自身が出せる力を出し切った出力でだ。

特に構えもしなかったアヴェンジャーはその攻撃を無防備な状態で受け、そのまま爆発によって吹き飛ばされた。

それを見たアーチャーは吹き飛ばされたアヴェンジャーを蔑むような目で見ていた。

 

 

「フン、もう消えよったか。未知数と散々喚かれておるから期待しておったが……所詮は雑種か」

 

 

そう言って霊体化して去っていった。

しかし、アーチャーは知るべきだったのだ。何故あのビギナーが不意打ちなんて真似に出たのかを。

 

 

「はあ……はあ……!やった!やったぞ!」

 

 

対して残ったビギナーは攻撃に確かな手応えを感じたため、殺ったのだと歓喜していた。いや、正確には安堵していた。この行動は正解だったと、必要なことだったと。

 

 

「いやはや……今のはちょっと効きましたよ?」

 

 

しかし現実はそう甘くないものである。

吹き飛ばした衝撃により生み出された土煙から確かに起き上がるように見える人影。晴れてくるとそれはハッキリと見えてきた。

よく見れば彼は不気味でなおかつ重圧感を感じさせられる雰囲気を醸し出しながら張り付いた笑みを浮かべていた。更に艶のある長い黒髪の中性的な男の姿はなく、深緑の軍服を着た、白髪に筋肉質な身体つきの中背な男が黒い双眼でこちらを見つめていた。

 

 

「なん……だと!?」

 

 

まるで冷水を頭から掛けられたかのようだった。身体は凍りついたかのように固まり、目を見開いてその人影を見た。

 

 

「いくらその状態とはいえ、相変わらず貴方の攻撃は重く、それ故に明確な殺意は確かに伝わりました。ですが、甘いですよ?私を殺りたいのならバビロンとエクスカリバーとエアを同時にブッパするぐらいの威力でないと……それとも伝説のスーパーサイヤ人になってギガンテックミーティアでもぶちかませば殺れるかもしれませんねえ?おっと、メメタァな発言をしてしまって申し訳ない」

「グッ……!」

 

 

何故不意打ちをしてまで殺そうとしたのか。

人間というものは最悪の事態が起こるとすぐに原因を排除しようと本人にも予想できない行動を取ることがあるが今回はまさにそれが当てはまる。

 

 

「何故だ!何故お前が参加している!?」

 

 

それはビギナーが最も危険視していた事態が起こったから、つまりそれは……

 

 

「いやね?ネバーも姐さんも、そしてノット。『終焉末路(カウンター・ラグナロク)』の皆さんが参加していると聞きましてね?個人的に参加したくなったのですよ」

 

 

4人目である人物の参加を意味していた。

 

 

マッハを超える速度チート、バット=エンド

 

自称普通の異常な防御チート?ノット・バット・ノーマル

 

驚異の生命力を持つ耐久チート、ネバーこと終永時

 

そして表立って公表されなかった、この3人を越える最狂最悪の男がいた。

 

 

「……メガ………オメガァァァァァァァァ!!」

「来いよノット。昔みたいに喜り負せて(斬り伏せて)やるよ」

 

 

そう言ってどこからともなく取り出した刀やナイフや包丁などの刃物全般を指の間に挟んでニヤリと笑った。

 

つまり、ビギナーが最も最悪だと、だけどそれ故にないだろうと考えていた。まさかの『終焉末路(カウンター・ラグナロク)』の全員参加を意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

存在自体がチートと呼ばれた人物。万能チート、二つ名は気まぐれな狂楽者。その名もオメガ。

異常よりも異常で、最速よりも最速で、自称悪よりも悪を演じ。気分によってそれが逆へと変わってしまうかもしれない男が聖杯戦争最強であろう男とぶつかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー使い魔からの情報によるとどうやらあの馬鹿が状況を開始したようだ。やはり、あの馬鹿をこっちに引き入れて正解だったな」

「そうですか……」

 

 

現在乗車している黒の普通車に揺られながらある場所へと向かう一同にそう報告する。

ちなみに乗車メンバーは運転席に永時。助手席にサマエr……ニルマル。後列の進行方向から左からセイバー。反対の窓側にはマモン。そしてその2人の間に挟まるように座って永時の運転姿をポーッと眺めるシーちゃんの5人。

 

 

「師匠。今更なのですが一体どこに向かっているのですか?」

 

 

何も伝えられずに車へと乗り込んだニルは恐る恐る師へと尋ねてみる。

 

 

「……ああ、お前には言ってなかったな。今から向かうのは……冬木市公民館だ」

「公民館?また何でそんなところに?」

「……実はな、前ベルフェの奴が俺に黙ってやっていたことがあってな。まあ後々問い詰めたらある人物に発信機を付けていたことが発覚したんだ」

「ある女?」

「アイリスフィールと呼ばれる女だ」

 

 

その名を聞いて思い出す。確か前師匠が言っていた聖杯の器としての存在がそんな名前だったことを思い出した。

それに前になんかアインツベルンのホムンクルス技術に興味あるとかなんとか言ってアスモを含めた3人でアインツベルン城に乗り込んだあの時かと思い出しながら話を聞く。

 

 

「あっ……!そういうことですか」

「分かってくれたらそれでいい」

 

 

そう言って運転を再開する。

しかし、ふとあることを思い出し、永時は再び口を開く。

 

 

「……そういやセイバー。思いは固まったか?」

「……いえ、まだです」

 

ここでいう思いとはセイバーが聖杯にかける願いのことであり、それの実行をするかしないかのことを聞いているのである。

 

 

「そうか……」

「セイバーさん」

 

 

すると2人が無言になったのを見計らってか、今まで黙っていたマモンが口を開いた。

 

 

「1つお聞きしたいのですが……よろしいですか?」

 

 

マモンが珍しくシリアスになったことに永時は驚きつつも黙って見守ることにした。

すると雰囲気から察したのかセイバーは凛とした声で返答した。

 

 

「何でしょうか?」

「セイバーさんは……永時様のことをどう思っていますか?」

 

 

ガクッ、とセイバーとマモン以外の者が体のバランスを崩した。

 

 

「なんで今それを聞くんだよ?」

「永時様。一見ふざけているように見えますがわたくし達にとっては結構重要なのですよ!」

 

 

いや、知らんがなと永時は内心思うが他の女性陣は耳を傾けて興味津々な姿を見せていた。

肝心のセイバーは頭を傾げて少し思考したのち、答えた。

 

 

「相談事を聞いてくださる友人、でしょうか?」

「友人ですか?」

「はい。何も言わずとも黙って見守り、時には論じてくれる友人、というより兄妹に近いものですね」

「そうですか。ならよろしいのですが……」

 

 

そういえばとマモンは思い出す。自分の友人の魔王に永時のことを友人のように思っているが実は微かに芽生えた恋心に気づいていないだけ、という事例があったことを思い出してセイバーはそれに当てはまるのでは?と推測した。

しかしこういうのは下手に言えば変な意識を持ってしまうかもしれないので黙っておこうと考えた。

 

 

「あー……悪いが現在目的地間近になったからそろそろ気を引き締めてくれないか?」

 

 

永時の一声で皆は黙り込み、各々が臨戦態勢の状態を維持し始める中、コンコンと運転席の窓の方からそんな音が聞こえた。

 

 

「ん……?」

 

 

気のせいか?と運転を再開するとまたもやコンコンと音が聞こえる。

確かに耳にした永時は音源が気になりだし、音のする窓の外を見ると、

 

 

「……」

「よっ!」

「……車から出ろ!」

 

 

見覚えのある幼女が鎖を放り投げる姿があった。

慌てて皆にそう叫ぶと同時に窓を突き破ってハンドルに鎖が巻きつき、

 

 

「オッケー!そお……れっと!」

 

 

鎖の持ち主はそれを背負い投げの要領で車を道路に叩きつけた。

叩きつけられた衝撃に車は耐えられるはずもなく、ひしゃげて大爆発を引き起こした。

 

 

「大丈夫ですか皆さん!?」

「わたくしは大丈夫ですわ」

『私は大丈夫』

「私は大丈夫ですが……エイジが!」

 

 

しかし各々が脱出できておりほぼ無傷であった。

皆が安全を確認する中、永時だけが見当たらず、もしや……と最悪の事態がセイバーの頭をよぎった。

 

 

「チッ、痛えじゃねえかこの野郎」

 

 

しかしそんなセイバーの心境もいざ知らず、大炎上している車の運転席の扉を蹴飛ばしてひょっこりと姿を現した。

よく見れば周りは何だいつも通りかと大した心配もせずに奇襲者である人物を睨んでいた。

 

 

 

「ヒュ〜!派手だねぇ!」

「……何のつもりだ?姐さん」

 

 

永時はバットを殺気混じりの目で睨みつけた。

しかし、バットはそれを軽く受け流してあっさりと答えた。

 

 

「ん?……ただお前の邪魔がしたいだけだが?あと、お前と殺りあってみたいってのもあるけどな」

「寧ろ後半のが本音だろ?」

 

 

馬鹿言うんじゃねえよと舌を出して笑みを浮かばせる。

でもな……と先程まで仲間に見せていた優しい雰囲気はなくなり、殺気と威圧を纏った狂戦士の雰囲気へと変わり。

 

 

「……本音はその逆なんだよ」

 

 

永時の腹部に衝撃が走った。

 

 

 



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妨害



〜怠惰様が送る前回のあらすじ〜


「……zzZ」



※担当者職務放棄のため、割愛となりました。




 

 

「…な……に………?」

「仕方ねえだろ…こうでもしねえと、お前を止められねえだろうが……」

 

 

確かに聞こえるグチュリと生々しい音、何かが入り込んだような異物感、そして熱く煮え滾るような感覚。そしてそれを確認しようと視界を下げて永時は理解した。

自身が槍のような物で貫かれていることに。

 

 

「姐、さん……!?」

「本当は殺りたくはねえけど……殺るつもりでいかねえと、お前の邪魔は出来ねえしな」

 

 

軽く舌打ちしてバットを蹴り飛ばし、槍を片手で無理矢理引き抜いて槍を乱雑に投げ捨てる。

引き抜いた所から血が流れ出るが気する暇もなく永時は拳銃を取り出して発砲したが彼女は涼しい顔でひらりと避けていき、ついでに投げ捨ててあった槍を回収していった。

 

 

「ダルいことしやがって……」

「うっせえ不死身野郎。とっととその傷治せ」

「言われずともするつもりだ」

 

 

グッと身体に少し力を入れると身体中の細胞がその活動を活発化させ、あっという間に傷口が塞がった。

 

 

「なあ、1つ質問したいんだがいいか?」

「……何だよ」

「さっきから邪魔すると言っているが……理由は何だ?」

「ん〜、俺の勘が言ってんだよ。ここでお前を止めないとヤバいことになりそうってな」

「姐さんお得意の勘ねえ……」

 

 

普通ならたかが勘だろうと鼻で笑ってしまうがそうはいかない。その彼女のたかが勘がよく当たるのだ。特に悪い方は予知と言っても過言でないぐらい当たるもので、現に仲間を1人失くしてしまったこともあったので侮れないのである。

 

 

「……まさかとは思うが1人で来たわけじゃねえよな?」

「まあそのまさか……な訳ねえけどな」

 

 

その言葉に驚くこともなく、永時の中に疑問が湧き出た。

今の言葉は明らかに仲間が控えていることをはっきりと断言しているようなもの。だが先程からそれらしい気配どころかバット以外の気配が全くと言っていいほど感じられず、更に先程から濃い魔力の気配も感じてきており。ふと、ある仮説が浮かび上がった。

 

 

「……ハッ、見事にやられたな」

「おっ?気づいたか?」

「まあ推測の域だが……」

 

 

ヒュッ、と風切り音と同時にナイフを自身の真横に投げる。

ナイフはそのまま真っ直ぐ進んでいき、突然見えない壁に阻まれたかのように弾かれ、そのまま重力に従って地に落ちていった。

 

 

「……やはりか。恐らくだが、何らかの方法で空間を切り離してるってところか?」

「……まあそんなもんだな」

「そんなのも出来たのか?本当、ここで生きてたら封印指定ものだな」

「そうか?お前でそれならオメガとかかなりヤバくねえか?」

 

 

確かに、と彼女の言葉に同意する。考えてみればノットで星砕きが出来るレベルなのだ。万能チートの彼ならトイレに行く感覚で魔術の根源に辿り着けるのでは?という考えが浮かび出た。

 

それと同時に思考する。永時1人を止めるためだけに彼女は1対1(タイマン)へと持ち込んだのだ。残ったセイバー達には誰が当てがわれたか。恐らくはマスターだと考えるのが妥当だろうなと推測した。自分の推測が正しければ、彼女のマスターはセイバー達の足止めには丁度いい実力者だろうなと思っていた。

 

 

「……と、まあお喋りはここまでだ」

「……やる気満々だな」

「別に本当はあんたとやりたくねえよ」

「……じゃあビギナー討伐止めてくれるか?」

「断る」

「……だろうな。まあ分かってたから今ここにいるんだけどな。まあお前と殺りあえるんだ。楽しまなきゃな!」

 

 

そう言って槍を構えるバット。しかし楽しそうな声色とは別にその表情には影が差していた。

 

 

「……チッ」

「来いよネバー。久々に組み手といこうじゃねえか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オメガァァァァァァァァ!!」

 

 

雄叫びに近い叫びを上げながら緑弾でアーチャーの宝具を迎撃していた弾幕を張る。

 

 

「無駄無駄ァ!」

 

 

しかしそれに驚かないどころか寧ろ嬉々とした雰囲気でマジシャンのようにどこからともなくナイフをホイホイと出して、投擲しまくって全てを相殺する。

 

 

「オメ……ガァァァァ!!」

 

 

投擲中にビギナーは一瞬で距離を縮め、手に緑弾を持っており。叩きつけようと腕を振るう。

 

 

「死ぬがいい!」

「むっ……?」

 

 

しかしそんな馬鹿正直な攻撃を素直に喰らうはずもなく、その場で小石を拾うような仕草でしゃがむと、遅れて腕が頭上を横切る。そして、隙だらけになったビギナーの横腹をノックするように手首のスナップを効かせて手の甲で殴る。

 

 

「ぐおっ!……クソがぁ!」

「……ニャハハって、ぬおっ!?」

 

 

少し怯みながらもビギナーは拳を振り降ろす。それを少し笑いながらも横に転がるように跳んで避ける。

その強靭で巨大な筋肉から振るわれる拳は地面を易々と貫ぬいていき、更にその衝撃も強大でそれにより起こった暴風で軽く吹っ飛ばされた。

 

 

「ワオ……ヤバいね」

「オメガァァァァァァァァ!!」

 

 

耳が避けそうな大声で叫びながら接近する。

 

 

「うるせえ」

「ぬおっ!?」

 

 

しかしそれに苛立ったのでビギナーより早く跳んで接近し、黙らせるつもりで顔面に飛び膝蹴りをした。

不意な攻撃に吹っ飛ぶも手に緑弾を持って無理矢理投げ飛ばした。

 

 

「のわっ!?」

 

 

飛んできたそれを上半身を後ろに反らすことで何とか避ける。すると目的を失った緑弾はどこかへ着弾し、森の一部が焦土へと変化した。

 

 

「うへぇ……エグいn「死ぬがいい!!」ぐおっ!?」

 

 

上半身を起こすと目の前にビギナーの大きな手があり、それに掴まれて地面に叩きつけ、そのまま引きずられる。

しばらく引きずられた後、突然ビギナーは腕を振るって放り投げる。しかしその先には……

 

 

「あり?どうしtーーーウボァッ!?」

 

 

頑丈そうな岩石に顔から突っ込んだ。

 

 

「消えろっ!」

 

 

更に追い打ちをかけるように緑弾を手の平から連続して撃ち出す。1発1発の威力が半端ないためか緑のエフェクトが幾つも点滅し続け、それと共で出てくる土煙が攻撃の凄さを物語っていた。

確実に殺りきったと実感したビギナーは無意識のうちに口角を上に上げていた。

 

 

「……終わったか?」

「馬鹿言うなよ」

「ッ!?」

 

 

少し気を抜いていたビギナーに向かって土煙を切り裂いて片手斧がビギナーへと迫ってきており、ギリギリ気づいたビギナーはその太く、されど筋肉質で強靭な腕でそれらを薙ぎ払った。

 

 

「フンッ。その程度の刃物でこの俺を殺せるとでも思っていたのか?」

「思っとらんよ。残念ながら姐さんを愛でるまでは死ねないんでな。(おっと、読者の皆様に説明しておくが俺は決してロリコンでなく、幼女は愛でるものだと考える紳士の1人であるから誤解しないでいただきたい)」

 

 

ビュオッ!と強風が吹き出して土煙が強制的に晴れていき、その中にはまだピンピンした姿でいて、ビギナーは内心舌打ちした。

 

 

「逆に聞いてやるが、その程度のパワーでこの俺を倒せるとでも思っていたのか?」

「……」

 

 

図星だったのか黙り込むビギナーにしてやったりとドヤ顔を見せながら、ふと浮かんだある提案をしてみる。

 

 

「変身しないのかい?伝説のスーパーサイヤ人に」

「貴様……分かってて言ってるだろ?」

「はて、何のことやら?」

 

 

明らかにはぐらかしていることにイラっとしながらもこのあとどう動くか考える。

しかし肝心の敵はにやけ顏を作りながらこちらの様子を伺っていた。

 

 

(こいつ……俺で遊んでやがるな)

 

 

しかし、それは様子見ではなく。意味もなく上空を横切るトンボを眺めるように。ただ単なる興味本位による観察、つまりは次にどのように足掻くか、相手はそれを楽しんでいるのだ。

 

 

「……ニャハハハ。どうしたノット?その程度で終わるような奴じゃないだろ?」

「……フン、言ってろ」

 

 

イラっときたので1発殴ってやろうか?と考えたがそれこそこの男の思う壺だろうと考え、怒りを抑え込み、様子見に徹する。

 

 

「……まあお前の考えとか分かってるけどな」

 

 

しかし、彼はそれを見越した上でビギナーに接近した。右手を握り締め、それをビギナーの顔めがけて放つ。

 

 

「……ッ!?」

 

 

それを片腕で防ぐ。すると隙だらけになった彼にもう片手で持つ緑弾を叩き込む。

 

 

「……見切ったぁ!」

 

 

しかし身体を無理矢理左へ捻ることで避け、その勢いを生かしてビギナーの横腹に回転蹴りを放った。

 

 

「……!」

 

 

ダメージは与えられなかったが衝撃は耐えられず、少しバランスを崩してよろけ、その隙に後ろへ下がった。

ビギナーはすぐさま立ち上がり、緑弾を手に持っていつ動いてもいいように構える中、彼は軍服のポケットに両手を突っ込み無防備の態勢をとった。

 

 

「ちょっといい?」

「……なんだぁ?」

 

 

許可を得るや否、一瞬安堵した表情を見せたがすぐにそれを戻し、にやけた顔のまま思ったことを問うてみる。

 

 

「……お前さん。“いつ死んだ?”」

「何ィ?」

「いやだってさ?英霊ってのは『死んだ英雄・偉人』がなるもんだろ?」

「つまり、俺があの後どうしていたか知りたいと?」

「それもある」

 

 

彼の頭にはあの後……エンド・コールと呼ばれていた存在との決着をつけ終わったあの日のことが浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、誠悦ながら『終焉末路(カウンター・ラグナロク)』構成員。シリア・ボノーラが乾杯の音頭を取らせて貰う」

「ハッハッハッ!美女が言うと絵になるねえ!今日も綺麗だぞ!」

「バット…からかうのはよしてくれ……」

 

 

エンド・コールに勝利したことにより世界は救われ、メンバーの皆はすっかり宴会を始め出し、盛り上がる中。オメガは1人、その席を外して外に出る。春が近づいているが夜のためか真冬のような冷たい風が吹いており、少し肌寒く感じたが同時に少し心地よくも感じていた。

 

 

「ん……?」

「あっ……」

 

 

どうやら先客がいたようで引き返そうとしたが、気づかれてしまったので諦めて隣に寄って地べたに座ることにした。

 

 

「……オメガ?どうしました?」

「そういうノットこそどうした?」

 

 

金髪で筋肉隆々の姿……ではなく、黒髪で白い伊達メガネを掛けたノットが地べたに座って空に浮かぶ満月をボーッと眺めていた。

 

 

「いえ……全てが終わった今、これからどうしようかと迷っていましてね?」

「迷う?」

 

 

悩むのではなく迷う。つまり何をするかは複数決めてはいるが、どれにするか決め損ねているということであろう。

 

 

「何を?」

「それは言えまs……いや、どうせ貴方にはバレるでしょうから?お話します。ですが……他の皆さんには内緒にしてくださいね?」

「分かった。約束しよう」

 

 

それを聞いて安心したのか、ホッと安堵の表情を浮かべ、話し始める。

 

 

「実はですね……」

 

 

その日の翌日以降。ノットの姿を見たものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は戻って現在。その時の情景を思い出しながらオメガは話す。

 

 

「皆と共に平和に余生を過ごすか。彼女との約束を果たすか。結局後者を選んだな」

「……ああ、そうだ」

「だけど、約束もそうだがもう1つ。目的があったろ?」

「……ハッ、お前にはお見通しってか?」

 

 

笑いながらそう尋ねるビギナー。しかし、戦闘態勢は維持し、睨みつけたままで話を続ける。

 

 

「彼女との約束。世界中を見て回ること。そして……自分探しの旅ってとこかの?」

「流石だと言いたいが少し近いようで違う。俺が旅に出たのはあいつとの約束もそうだが……」

「何……?」

「簡単なことだ。あいつが命を張ってまでして救った世界を、命を、そして……俺の存在理由を。ただ知りたかっただけだ」

 

 

予想外の答えに無言になる中、ビギナーはそう語った。しかしその姿は少し哀愁が漂っているような気がした。

 

 

「そっか……で?答えは出たん?」

「いや、結局分からなかった。だから自ら……」

「そう……」

 

 

伝説の存在となっているので死因は2択なのは分かってはいたが当たって欲しくない後者であったことを知り、妙な安心感が出た。

 

 

「お前らしいと言えばいいか?普通を求める癖に普通じゃない生き方するところは……」

「うるさい……で?話は終わりか?」

「いや、あと1つ。いい?」

「……早く言え」

「じゃあ……アイリスフィールって女性にえらくこだわっとるようだが……まさか彼女と重ねてる訳じゃーーー何のつもり?」

 

 

質問の途中で突然緑弾を投げ飛ばしてきたビギナーに苛立ちを覚えるも冷静に問いただす。

するとビギナーは無表情で答えた。

 

 

「別に……話が長引きそうだったのでな」

「話を途中で切ったってことは……図星ってことでいい?」

「……」

「ふぅん。まあいいけどね……」

 

 

そう自分で納得してポケットから手を抜くと。手刀を作って振るい、正面から飛んできた緑弾を弾き捌いた。

 

 

「……随分とつまらん男になったな」

「フンッ、いいからとっとと死ね」

「ならばこの俺を負かしてみることだな脳筋野郎」

 

 

2人は再び激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、困りましたわね……」

 

 

一方こちらも永時と同じく閉じ込められたマモンは永時よりすぐに状況を理解したものの、何も出来ず仕舞いで困り果てていた。

 

 

「わたくしの勘ではもうそろそろ……来ましたわね」

 

 

そう言うとマモンの視線の先から1人の女が歩み寄ってきた。その人物はマモンの記憶にあり、なおかつ会うのが面倒だった人物であった。

 

 

「やはり貴女でしたか……ルシファー」

「フン、まさか貴様と再び相見えるとは思わなかったぞ。強欲よ」

「それはこちらの台詞ですわ」

 

 

現れたのは傲慢を代名詞に持つ女、ルシファー。1人の男を愛するという根本的なことは同じだがやってることが全く合わない2人の再会である。

 

 

「……1つお聞きしたいのですが、これは誰の差し金ですか?」

「確かに妾の差し金ではないことは言えるが……言うとでも?」

「まあそうなりますわね。では……力づくでお聞きするとしましょう」

「ほう?この妾とやると?」

「ええまあ……運が良ければ、分かるかもしれませんわよ?」

「…よかろう。やってみよ……このルシファーに対して、抗うことを許可してやろう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか?シーちゃん?」

『大丈夫』

 

 

一方馬鹿弟子とファザコン暴食娘の変態同盟2人もマモン達と同じように閉じ込められていた。

 

 

「これは……?」

『恐らく、固定結界の応用のようなものだと思う』

「固定結界ですか……しかし、違和感ないですね」

 

 

ニルが言うのもその筈、見れば見る程冬木の街にそっくりに感じてしまうからだ。恐らくまだ日が浅いので気づかないかもしれないが自身の師ならばとっくに気付いているのだろうなぁと警戒心を薄れさせて思ってたりしていた。

 

 

「うーん、流石は永時様のお弟子さんと娘さんなだけはありますね。大体合ってますよ?」

 

 

そんな2人に突然スッと姿を現して話しかける女に2人の警戒は一気に高まる。

ニルは拳銃を構え、シーは黒鍵を指に挟んで構えた。

 

 

「……何者ですか?」

「まあまあ、そう物騒なものを構えないでくださいよ。そんなのされては……濡れてしまうではありませんか!」

 

 

2人は思った。

 

こいつ……私達以上の格上(変態)だと。

 

彼女達にとって警戒レベルを上げるにはそれだけで充分だった。

 

 

『ま、まさか……』

「知っているのかシー電!?」

『前に資料で見た記憶が正しければだが……恐らく彼女は傲慢の魔王ルシファーの側近。経歴と本名が全く不明の呪術師、絶望淑女』

「合ってますよ?まあ皆さんは気軽にゼツちゃんとお呼びしますがね。って、そんなに警戒しなくてもいいですよ?」

 

 

そうは言っているものの、服装が奇抜。性格もアウト。素性不明。もう警戒してくれと言っているようなものである。

 

 

「うーん、呪術師として呼ばれるのはいつ振りでしょうか?最近皆さんは私=手品師(マジシャン)みたいなイメージを付けられてましたので……あれ?目から汗が…」

 

 

オヨヨ、とハンカチを取り出すゼツ。話しかけるのが面倒と思う2人だが、今事情を知ってそうな人物は1人なので渋々話しかけることにした。

 

 

「あの……」

「オヨヨ……あら?どうされましたか?」

「いえ、私達を閉じ込めた関係者ですよね?率直に言うと出していただきたいのですが……」

「ええ、そうして差し上げたい気持ちは山々なのですが……何分、我が主の命ですので」

「そうですか……」

「おや?やる気ですか?」

 

 

2人の雰囲気が変わったことを感じ取り、臨戦態勢に入るゼツ。

 

 

「ええまあ。そうでもしないと抜けれそうにありませんので」

「そうですか。ではーーー」

 

 

親しみやすいような雰囲気から一変し、殺気をぶつけられて2人は更に警戒する。

そんな2人を特に気にせず、ゼツはニッコリと笑顔を浮かべて言った。

 

 

「ーーーいい(絶望)を見せてくださいね♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイジたちは一体どこへ……?」

 

 

一方、セイバーも同じように閉じ込められており、直感的に閉じ込められていることは理解してはいるが、肝心な脱出の手段がないか直感を頼りに探しているのが現状だった。

 

 

「ッ!?」

 

 

そして、そんなセイバーを前に現れた刺客は。

 

 

「バーサーカー!?」

 

 

黒い瘴気を纏った鉄パイプを握る黒きバーサーカーだった。

 

 

「■■■■■■■■■■ーーー!!」

 

 

セイバーを見るや狂ったようにバーサーカーは叫び、一気に距離を詰めると、手に持つ鉄パイプを振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隔絶された空間で、それぞれが妨害を始めた。

 

 

終永時vsバット・エンド

 

傲慢vs強欲

 

自称悪の弟子&暴食の娘vs傲慢の側近

 

セイバーvsバーサーカー

 

万能チートvs防御チート

 

 

各々がそれぞれの思惑を持って、今宵激突する。

 

 

 



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妨害②

〜アリスが送る前回のあらすじ〜

「皆様お久しぶりでございます。プロトタイプヒューマノイド、TYPE・アリスです。今回は私があらすじを語らせていただきますのでよろしくお願いします。

前回。冬木公民館に向かおうとするマスターたちは突然の敵襲により思わぬ足止めを喰らってしまう。そして、一同を前に現れたのは……なんとルシファー率いる傲慢様御一行であった。

まさかの彼女らが妨害に出るとは予想が出来ませんでしたね。てっきり私の予想では手を組んでくださるかと踏んでいたのですが……何事も上手くいかないってことなのでしょうか?
残念ながら私はネルフェ様をお守りしなくてはならないので向かうことは出来ませんが、ご武運を祈っております。
……話は変わりますが、ベルフェ様はどちらに行かれたのでしょうか? 」


人々が寝静まる冬木の街……に似た空間にて金属が何かがぶつかり合う音が響いていた。

 

 

「■■■■■■■ーーーーーー!!」

「くっ……!」

 

 

その音源となっているのはセイバーとバーサーカーの2人。

その戦況はほぼ互角と言える状況だと言えた。

普通なら変身前のノットとやったバットのように冷静に見れば何とかなっただろう。しかし、このバーサーカーは狂える者しては異質と言える存在だった。

何故なら意思がない存在と言えるバーサーカー。しかし、まるで意思があるかのように卓越した武練をもって、セイバーを追い詰めていた。

 

 

「■■■■■■ーーー!!」

「ッ!?……はあっ!」

 

 

手に持つ鉄パイプをセイバーに振り下ろし、セイバーはそれを剣を横にして火花を散らせながら受け流し、そのまま勢いをつけて切り上げる。

 

 

「■■■■ーー!!」

 

 

だがバーサーカーは身体全体を後ろに引かせて避け、その体勢から無理矢理鉄パイプをセイバーに投げ飛ばす。

そんな適当な攻撃が当たるはずもなく、少し屈むとその頭上を通過して行って街灯を切り落とすだけの結果となった。

 

 

「■■■ッ!」

「……!」

 

 

しかし、バーサーカーはそれを狙いであるかのように屈んでいるセイバーを蹴り飛ばす。

すぐさまセイバーは剣を縦にすることで蹴りを受け止めようとするが思ったより馬力が強く、吹き飛ばされてしまう。

 

 

「■■■■■■ーーー!!」

「なっ…!?」

 

 

すぐに立ち上がるが、目の前には先程切り落とした街灯を片手で振り下ろすバーサーカーの姿があった。

慌てて横に跳ぶことで避け、遅れてセイバーがいた位置に街灯が叩きつけられた。

 

 

「遅い!」

「■■■ーーーーー!!」

 

 

そして、その隙にセイバーは剣を構え、横薙ぎに振るう。それに気づいたバーサーカーは持っていた街灯から手を離して後ろに跳ぶ。

 

 

「■■■■ッ!!」

「くっ……!」

 

 

次にバーサーカーは後ろに丁度あった電柱を引っこ抜いて縦に振り下ろす。

セイバーはそれを上空へ斜めの方向で跳ぶことで軽々と避け、そのまま電柱の上に降りて伝い、

 

 

「はあぁぁぁっ!」

 

 

バーサーカーの顔めがけて、剣を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ、あ……!!」

 

 

ルシファーたちのいる空間より下の場所、下水道にて間桐雁夜の苦痛の声が響き渡っていた。

別に前遠坂時臣によって刻み込まれた火傷はルシファーによって完全に完治しているので原因ではなく、現在戦闘しているバーサーカーの魔力供給のために身体の中に潜む刻印蟲が魔力を生産するために身体を蝕むので、それによる痛みのせいだった。

 

 

「う、あ……」

 

 

雁夜は痛む身体に鞭打って下に置かれた液体の入った小瓶を開け、中身を無理矢理喉の奥へと流し込む。

 

 

「……はあっ、はあっ!……ああ………」

 

 

すると身体に魔力が巡っていくのを何となく感じ取ると中にいる刻印蟲は静まり、荒くしていた息をゆっくりと戻していく。

 

 

「……流石、バーサーカーってか?魔力の、消費が…激しいなぁ」

 

 

下に置かれた小瓶を見ながらそう言う雁夜。

ルシファーが用意したこの小瓶は魔力が全くといっていいほどあまりない雁夜のために作ってくれたもので、魔力を直接供給できるという凄い代物である。これにより魔力のストックをすることで本来足りない魔力を作るために動き出す刻印蟲の動きを抑えることが出来ており、もし彼女がいなければ……と考えてゾッとした。

しかし流石は魔力消費が激しいと言われるバーサーカー。2分に1度のペースで飲んでおかないとすぐに枯渇し、刻印蟲が動き出す始末である。

 

 

「(……つまりあれか?あの爺は最初からこれを狙ってたってことか?)」

 

 

よくよく考えればこんな状況であの弱腰な妖怪糞爺が勝とうと考えていたのか?

いや、違う。あの爺は何十年と生きる汚物よりも醜いものである。もしかしたら勝てる見込みがないのにやらせたのかもしれない。そもそも本当に勝つ気があるのならば無難な3騎士をサーヴァントにさせていたはずだ。

 

 

「(まさか……。いや、ありえるか)」

 

 

何てことを考えながら再び小瓶を飲み干す。そして、同じく置かれている半透明に光る水晶玉に目をやる。ちなみにこの水晶玉(ルシファー製)を使って現状を確認しているのだ。

 

 

「流石は魔王様ってか?……ってか、どっちが勝つんだこれ?」

 

 

残念ながら戦闘に関しては素人同然のため、雁夜はただそれを黙って見るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ?どうした?」

「……ああもううざったいですわね!」

 

 

一方こちらはと言うと、マモンは苦戦を強いられていた。

マモンの武器はと言うと双剣へ分解出来る弓。双剣の状態ならば接近戦ができ、弓の状態にすれば遠距離から攻撃出来る代物である。

 

 

「そおら、もっと足掻いてみよ」

「言わせておけば……!」

 

 

複数の盾から放たれる光線を走って避けながら矢を放つ。

放たれた1本の矢は2本、4本と倍々に増えていき、矢の弾幕となってルシファーへと迫る。

 

 

「チッ」

 

 

しかしそれは光線によって迎撃され、届くと思っていたものも自動防御の盾が勝手に防ぐので一撃も入れることが出来ずにいた。

 

 

「はっ!」

「甘いわっ!」

 

 

ならばと弓を分解して接近戦に持ち込むが、盾が邪魔して中々接近出来ず、こちらが攻撃することが難しくなってきた。

昔のルシファーなら慢心しまくっていたので一撃を入れるのは容易かったのだが、永時のおかげでそれを捨て去ったので敵として面倒なことになっているのだ。

 

 

「……(せめて盾をどうにか出来れば良いのですが……)」

「どうした強欲よ?その程度か?」

「……勝手に言っておきなさい」

 

 

この状況をどうやって打破すべきか。とりあえずアイディアが浮かぶまでとりあえずやってみることにした。

運が良ければ、浮かぶかもしれないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方こちらは対ゼツ戦をしているニル&シーはというと……。

 

 

「アハハハハハハッ♪」

「……ッ!」

 

 

指先から禍々しい魔力弾を連続で放つが、ニルはナイフを構え、サーヴァントに負けないぐらいの素早い動きでスイスイと避けていく。

 

 

「ふむ……流石と言うべきですね」

 

 

そのまま一気に接近してナイフを振るうが、魔力弾をゴムのように引き伸ばし、それで上手く受け流す。

そして空いた片手で手の平サイズの袋を取り出して逆さにし、中身をぶちまけた。

 

 

「お金?……ッ!?」

 

 

出てきたものに疑問を浮かべたニルだが、それが急に光り出したので直感的に無理矢理後ろに下がった。

 

 

「ん〜、惜しい!」

 

 

すると案の定それは爆発し、土煙と舗装された道路の破片が舞い上がり、視界が遮られる。更にそれらを切り裂いて魔力弾が弾幕を形成して飛んでくる。

目視出来たものの無理矢理下がってきたため、バランスを崩していており、体勢を整えるのをやめ、防御の体勢に移る。

 

 

「チッ……!」

『下がって!』

「えっ?」

 

 

そんなニルを庇うかのようにシーはニルの前に位置づき、目を紅く、怪しく光らせる。

 

 

「……ッ!」

 

 

すると、まるで世界がねじ曲がったかのように空間が歪み、魔力弾はあらぬ方向へと飛んでいき、姿を消していった。

 

 

「……ふうん、それが貴女の能力というわけですか?(なるほど。少し違うようですが、蛙の子は蛙ってわけですかね?……全く。能力といい無表情といい、誰に似たんだか……)」

「……!」

『私がサポートするから頑張って』

「……では、頼りにさせて貰いますね。シーちゃん?」

『任されろ』

 

 

無表情であるが力強いサムズアップをする仲間にニルは笑うことで返答し、銃を構えて再び突撃する。

 

 

「……!」

「甘いですよ!」

 

 

再びお金爆弾(仮命名)をばら撒くゼツだが、2度も同じ効くはずもなく、スイスイと避けていきながら確実に前へと歩を進める。

だがそんなことはゼツには承知の上。故に、その爆発に合わせて魔力弾を放つ。

 

 

『甘いのはそっち』

 

 

しかし、それは向こうも同じでニルより速い速度で彼女の盾になるように前に出て、空間を歪ませて魔力弾を逸らし、すぐ解除して黒鍵を投擲する。

 

 

「ッ!」

 

 

無論ゼツは危険から身を守るため、魔力弾で迎撃する。

黒鍵が迎撃される中、シーはその隙に銃を取り出して発泡した。

 

Vz61。通称スコーピオンと呼ばれるその銃は彼女の愛銃にて、彼女の大好きな人の愛銃でもあり……皮肉にも、ゼツが永時に倒された際に使われた銃でもある。

 

 

「……ッ!それは!?」

 

 

思わず反応してしまい、魔力弾の掃射を止め、守りの態勢に入る。

もう1人の自分とも言える影を操り、半球状に形取らせて自身の前へと出す。すると出来たと同時に銃弾の嵐が影の盾に降り注ぐ。

 

 

「ふう……」

 

 

とりあえず防げたことに安堵する。そして、銃弾の嵐の音が聞こえなくなったのでいざ攻撃を再開しようと盾を解除した。

 

 

「……!?」

 

 

ーーー瞬間。後ろから何者かに頭を鷲掴みされ。

 

 

 

 

 

 

「ーーー『空想電脳(ザバーニーヤ)』」

 

 

 

 

 

 

彼女の頭が突如、爆破した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ!」

「っ!……これでも、喰らっとけ!」

 

 

バットが手に持つ槍が永時の腹を易々と貫く。

しかし、永時は怯むことなく彼女の頭を掴んで頭突きをかます。

 

 

「〜〜〜ッ!!」

 

 

痛みで悶えているその隙に彼女のその小さな体躯に蹴りを叩き込む。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

軽いためか易々と飛んでいき、その隙永時は槍を抜き取って放り投げ、傷を再生させた。

 

 

「オラァッ!!」

 

 

すぐにバットは立ち直し、マッハを超える速度で接近して殴りにかかる。

だが、お見通しかと言いたいかのように身体の左半分を後ろに引かせて避け、空ぶった彼女の腕を両手で掴み、走ってきた時の勢いを利用して地面へ彼女を投げる。

 

 

「……ていっ!」

「ぬおっ!」

 

 

しかし、彼女は投げられる前に地に足を付けて勢いより蹴り出して同時に掴まれた手を振りほどいて宙を舞う。そして丁度いい足場()があったので踏んづけてクルクルと回って着地する。

 

 

「チッ」

 

 

無論踏まれた永時は前のめりになって手を付けてしゃがむ形になったが、懐から銃を出して、その場から半回転して発砲する。

速いバットにそんなもの当たるはずもなく、ひらりひらりと避けられていき、ちゃっかり槍も回収していた。

 

 

「……はぁ………はあ………」

「…ふう……ネバー。腕上げたな?」

「そりゃどう、もっ!」

 

 

一瞬で間合いを詰めて槍を叩き込まれるが、相棒である太刀を出して受け止める。

 

 

「久しぶりに見たなその太刀!そういやアスモは元気か!?」

「ああ、相変わらず色々とハツラツとしてるよ!」

 

 

そう言って槍を受け流し、彼女の身体に蹴りを入れる。

 

 

「くっ……ってえな!」

「っと!」

 

 

後ろに後退させつつもそのままではしてやられまいと、空いた手から手の平大の光の球体を放つ。

だがそんな適当な攻撃が効くはずもなく、太刀で簡単に薙ぎ払う。

 

 

「チッ、やっぱり無理だったか」

「フン」

「なら……」

 

 

そう言うと槍を中心に炎に包まれ、槍はその形を変化させ、三叉槍へと変化させていた。

 

 

(うわっ。姐さん本気(マジ)だな……こりゃあ、腹くくる時が来たな)

 

 

まるで燃え上がってる彼女の気持ちを表すかのように槍は紅い焔を纏う。

 

 

「1回燃えてみるか?」

「ハッ!焼死で死ねたら苦労しねえよ」

「あっ、そう!」

 

 

先程より大きな風切り音を響かせながら槍を横に振るう。すると槍を纏っていた炎が槍の穂先へと集い、永時を襲う。

 

 

「なっ……!(やっぱり炎でリーチを伸ばしてきたか!)」

 

 

焦った永時はその場から上に跳ぶことで上手く避けるが宙にいるため、隙だらけとなってしまう。

 

 

「もらっ「させるか!」チッ!」

 

 

突きを入れようとするバットに永時は銃を掃射する。

突きの構えを取っていたバットはすぐさま戻して槍をクルクルと回して銃弾を弾き飛ばすもその隙に永時は地へと足をつけた。

 

 

「……!」

「くっ!」

 

 

と同時にその足の速さで目の前に接近し、炎を穂先に纏わせた槍を横薙ぎに振るうも、永時は足に力を込めて後ろへと跳んで避ける。

しかし掠ったのか、着ていた服が溶接されたかのように少し溶けていた。

 

 

「甘い!」

「何!?」

 

 

だがそこで攻撃は終わってなく、逆に跳んだタイミングを狙ってきたのか、そのまま突きの構えで近づいてくるバット。

 

 

「……がはっ!?」

 

 

そして、最初と同じように……いや、今回は少し違っていた。

 

 

「……ぐっ……ああ………!?」

 

 

槍による痛みとは違う感覚。まるで熱を帯びた棒を突っ込まれた、否、実際突っ込まれているのだ。炎を纏ったままの槍を。

 

 

「言ったろ?1回燃えてみるか?って」

「……流石に、痛えなこれは」

「……?」

 

 

戦況は優勢だと分かってはいるのだが、相変わらずの悪どい笑みを崩さない永時に違和感を感じていた。

とりあえず警戒に越したことはないだろうと考え、槍を抜き取ろうと、持つ手に力を入れた。

 

 

「ッ!?」

 

 

のだが、全く動かない。いや、動かせなかった。更に手から痛みも感じられる。

さっきみたいに槍を掴まれていたからか?いや、違う。何故ならその手は槍ごと鋭い何かに上から貫かれていたからだ。

 

 

「なっ……!?」

「おいおい姐さん。『八方美人』の能力を忘れたのか?」

「……!?」

 

 

変形・変身。これこそが『八方美人』の能力。変身が得意なアスモらしい能力である。

そして永時がバットに対して行ったのは実にシンプルで、単に『八方美人』を変形されて彼女の持ち手を槍ごと貫かせただけ、ただそれだけである。

 

 

「正解だ。じゃあ今からやること、分かる?」

 

 

スッと彼女に見せるように何かのスイッチを取り出す。

 

 

「……まさか!?」

「まあ、そのまさかだよ」

 

 

ヤバいと直感が働き、手を抜こうと必死で抗う。

しかしそんな苦労は虚しく、スイッチを押されて足元が光り、2人纏めて爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐおっ……!」

 

 

ビギナーの苦痛の声と共に、その巨体が易々と吹っ飛んでいく。

 

 

「オメガァァァァァァァァ!!」

 

 

しかし怯むことなく無理矢理立ち上がり、両手に緑弾を持って投げとばす。

 

 

「だからさ。ワンパターンだぞ?」

「なん、だと!?」

 

 

投げとばすと同時に視線の先にいたはずの男が自分の目先に現れ、目を見開く。反射的に退かせようと腕を振るおうとして腹を殴り抜かれる。

 

 

「ば、馬鹿な!?」

「残念ながら現実なんだよノット。今のお前じゃあ俺を超えることは出来んのだ」

 

 

殴られた腹部から感じ取れる痛みに驚愕した。あのセイバーの攻撃を、アーチャーの宝具を喰らってなお無傷だった強靭な肉体にダメージが入っていることに驚愕しているのだ。自慢ではないが、一応伝説の存在になっているのでかなり強い部類に入り、負けはないだろうと自負していた。そんな彼のプライドを割り箸を割るかのように簡単にへし折りに掛かっている男に、なおかつ現状で奴に勝てない自分の不甲斐なさに、苛立っていた。

対してオメガは腕を組んで、倒れそうなぐらい背を反らすというなんとも器用なポーズを取りながら哀れむような目でビギナーを見下していた。

 

 

「確かにお前は天才だ。何もせずとも充分な力を得て、今まで生きていたんだろうな。確かにお前ならネバーや姐さんには勝てるだろう。だがな……お前の知り合いに、努力する天災がいることを、忘れていたんじゃあないだろうな?

……そう!レースゲームで例えるなら!今日初めて扱うスポーツカーか!あるいはいつも練習で乗りこなしている改造車か!レースした場合どちらが勝つと問われれば貴様ならどう答える?」

 

 

無論殆どが後者を選ぶだろう。

ビギナーは確かに天才で最強である。何もせずとも伝説の力を持っているので向かうところ敵無しと言えるだろう。しかし、対峙しているのはそれ以上の化け物。ビギナーと似たように天才的な才能を持って生まれたのにも関わらず、今日の今日まで努力してきた男なのだ。

つまり何が言いたいかと言うと、ビギナーにとってオメガという男は相性が悪すぎたのだ。

 

 

「お前とは生きてきた年月が違うのだ。簡単に勝てると思うなよ小僧が」

「貴様、言わせておけば好き勝手言いやがって……だがなオメガ。もしかすれば初めて乗るスポーツカーでも、勝てない見込みがないとは言えんだろ?」

「まあ100%お前が負けるとは言ってはないしな。なんだ?まさか主人公補正とか働いて勝てるとでも?残念ながらお前は主人公じゃねえぞ?」

「フンッ、言ってろ。その内貴様を血祭りに上げてやる……」

「ハッ!悔しかったら負かしてみろよ。このオメガを!」

「……言っておけ、今楽にしてやる!」

「ほう?言ったな?(もう少し遊ぼうかと考えてたけど……もうやめだ)」

 

 

オメガが何かブツブツ言っているがビギナーは気にせずに走り出そうとその強靭な足に力を込めて走り出そうと身体を前に傾ける。

そんなビギナーを見てオメガは次なる行動に出る。

 

 

「……3割解放!」

「ッ!?」

「そおれ喰らっとけ……」

 

 

しかし気づけば自分の周囲を刃物がこれでもかというくらい敷き詰められるように現れ。

 

 

「ロードローr……ではなく、タンクローリーじゃッ!!」

 

 

更に上空からタンクローリーを片手で持つオメガが、ビギナーの頭上から降ってきて、刃物の嵐が彼を襲った。

 

 

「オメガ!貴様ァァァァ!!」

 

 

とりあえずまず周りを囲むように迫るうざったらしい刃物を腕で薙ぎ払う。

何故わざわざそんなことしたか。先程彼の拳が自身の肉体を貫通したので、もしかしたら刃物も貫通するのでないかと思い、保険のつもりで払うことにしたのだ。あと、わざわざ大声で叫んでこんなにも分かりやすくタンクローリーを攻撃の手段として出してきたので、タンクローリーは囮であり、本命は刃物であるという確信もあった。

 

 

「何ィ!?」

「バーカ!」

 

 

しかしそれはオメガにはお見通しであり、刃物はビギナーの予想より殺傷力が低く、あっさりと自身の肉体に弾かれた。

つまり本命は、タンクローリーということである。

 

 

「喰らええぃ!」

「クソがぁぁぁぁぁぁ!!」

「ほう?受け止めるか!」

 

 

刃物のせいで時間を稼がれ、すぐ目の前まで迫ってきたタンクローリーを正面から受け止め、力ずくで押し返そうと腕に力を込める。

 

 

「だが予想通り!」

「ッ!?まさか!?」

 

 

タンクローリー越しに聞こえる声にビギナーの頭に最悪の考えがよぎり、冷や汗を流す。

そんなビギナーの反応に予想がついていたのか。オメガは手を強く握ってニヤリと嘲笑う。

 

 

「ぶっ潰れな!!」

 

 

そしてタンクローリーに拳を振り下ろし、自身を巻き込んで大爆発を引き起こした。

 

 

 




※補足→バットのスキルが開放されました。


・魔力放出A(炎?)


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妨害③



〜ネルフェが送る前回のあらすじ〜

「(えっと……この台本通りにすればいいんですか?)……皆さんおはこんばんは!今回ここをやらせて貰います、ネルフェ・B・終です!よろしくお願いします!
ええっと……早速ですが軽く前回のあらすじをさせてもらいますね!

前回!ええっと……公民館へ向かう道中、ルシファーさん達に閉じ込められて妨害されるお父様達。一体何人が脱出できるのか?そして最後は誰が微笑むのか?どうぞご覧ください!

……えっと、これで良かったのでしょうか?」




 

 

不気味な夜の闇に染まったアインツベルンの森。その森の一角が今、紅く染まっていた。

先程オメガが取り出したタンクローリーによる爆発により、森が燃え上がっているのだ。

 

 

「ハッハー!最高にハイってやつだー!……っと、遊びはここまでにして」

 

 

そんな火災原因である男が、燃え上がる火と舞い上がる黒煙の中から飛び出してくる。

着ている服が少し焦げを見せているものの、本人の肉体には全くと言っていいほど傷というものが存在していなかった。

 

 

「さて?……どうなったかね?」

 

 

ある程度歩くと後ろを振り返り、敵である男の生死を確認する。

 

 

「うーん。こっからじゃ、煙でよく見えんなぁ」

 

 

そう言って数歩前へと足を進める。

 

 

「見えん」

 

 

1歩、また1歩。前へ前へと進んでいく内にいつの間にかさっき出てきた火元の前へと立っていた。

 

 

「ん〜?」

 

 

小さな鍵穴を覗くかのようにじっと見つめる。すると人影らしきものが薄っすらと見えた気がした。

 

 

「おったおった……さて、死んでるかなっ!?」

 

 

観察してたオメガの視線の先の火の中から大きな手が突然飛び出し、咄嗟のことで間に合わずそのまま頭を鷲掴みにされた。

掴まれたにもかかわらず、目を細めてよく見る。すると腕の持ち主の姿がはっきりとされてきた。

 

 

「へえ……生きてたか」

「……なんなんだぁ今のはぁ?」

 

 

ビギナーがまだ生きていたことにオメガはニヤリと笑みを浮かべ続け、ビギナーはその顔に向かって拳を放った。

 

 

「にょや……!?」

 

 

殴られた勢いでオメガは吹っ飛ぶ。しかし肝心の顔は鼻血が少し出ているも笑みは崩すことなく維持しており、重心を前に傾けてくるりと半回転し、そこらにあった木に両足をついて、力一杯蹴り飛ばして飛ばされた方向を逆走し。

 

 

「喰らえ「馬鹿がっ!」!」

 

 

殴り返そうと手を握るが、肝心のビギナーは片手に緑弾を持って待ち構えており、その腕をオメガへと振るう。

急に止める手段がないオメガは諦めて握った拳で相殺を試みることにした。

 

 

「よっと!」

「チィッ!」

 

 

殴ったことにより起こった爆発を利用して上手くその場から離脱する。

まだ生きていることに舌打ちしながらもビギナーは再び緑弾を投げ飛ばす。

 

 

「オラァッ!!」

 

 

だがオメガはそれを苦無(クナイ)を投擲することで相殺させ、ビギナーの苛立ちは高まっていく。

 

 

「喰らっとけぃ!」

「ぬおっ!小賢しいことをっ!」

 

 

相殺する中に余分に包丁を投擲して弾かせて隙を作らせ、その間に太刀を取り出して接近戦に持ち込む。

まずは抜刀で腹部を狙う。

 

 

「なっ……!?」

 

 

腕で上手く弾き、薄皮1枚を剥がれるだけで済んだのだが、ビギナーは目を見開いた。

今までオメガの刃物の攻撃によるダメージは全くと言っていいほどなかったが、初めて肌を傷つけるようになったのだ。ビギナーを警戒させるには充分だった。

 

 

「『燕返しもどき』!」

「チッ!」

 

 

次に某最強農民の斬撃を真似たものを放つ。流石に斬撃は3つ同時とはいかなかったが、ほぼ同時に近い速度で3つの斬撃がビギナーを襲う。

だが、ビギナーはヤケを起こしたのか片腕を盾にして特攻する。

 

 

「マジか!?」

「オメガァ!」

 

 

斬撃は確実に届き、腕に切り傷を与えるものの、致命傷には至らず、顔を掴まれそうになるも間一髪で首を傾けることで避け、横から蹴り飛ばす。

 

 

「ぬおっ……!」

「オラオラッ!」

 

 

飛んで転がっていくビギナーにナイフ類を投げて追撃する。

ビギナーはその場から更に転がって木の後ろに入り込んで上手くやり過ごし、盾にした木に腕を突っ込ませて地面から引き抜き、

 

 

「デェヤァッ!」

 

 

全力でオメガにぶん投げた。

 

 

「おっ?」

 

 

オメガは焦ることなく太刀を鞘に入れ直して構え。

 

 

「……斬ッ!」

 

 

抜刀により、一刀両断した。

だが、それの後ろに控えていたのか。切れ目からビギナーが飛び出してきて顔を掴まれ、地に叩きつけられる。

 

 

「フハハッ!」

「ふぎゃ!……クソっ、たれ!(賢さ26と言われてるけど中身はノット。まさか知恵を働かせるとは思わなかったわ!)」

 

 

叩きつけられた衝撃で地面にクレーターのようなものができるがそんなことを気にする暇もなく、空いている下半身を起き上がらせてその勢いでビギナーを蹴り飛ばす。

 

 

「ぐおっ!?」

「そおれ、追加だ!」

 

 

森の中でそこそこ大きめの大木に頭から突っ込むビギナーに追加攻撃で片手斧や頭ぐらいの螺子などを放り込む。

 

 

「おおおおっ!」

 

 

しかし緑色のバリアのようなものが青緑髪のビギナーを覆っており、それにより攻撃は全て弾かれ、そのまま飛び出してきてタックルをかました。

 

 

「ダニィッ!?バリアは反則だろ!?」

「知らん!とっとと死ぬがいい!」

「こ・と・わ・る!……ッ!?」

 

 

そうふざけていたオメガだが、ビギナーの髪色が青緑色へと変わっていることに気づき、驚愕する。

 

 

(まさか……徐々に伝説化し始めてるのか?ニャハハ、流石は腐っても伝説のサイヤ人ってか?)

 

 

まさかの事態に冷や汗を流すオメガ。少し焦りを感じつつも刃物をビギナーへ投擲した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニルの技能らしき力で前回頭を爆破されたゼツ。

見事に首から上の部分には煙が上がり、残った身体はバランスを保てなくなり、地へと崩れ落ちた。

 

 

『……1つ聞いていい?』

「……何ですか?」

 

 

倒れ伏すゼツだった身体を少し距離を置いたところから臨戦態勢を維持して見つめたまま、シーは声をかけた。

 

 

『さっきの……何?』

「ああ、『空想電脳(ザバーニーヤ)』のことですね。あれは……まあ、ぶっちゃけると私の宝具なんですよね〜」

『宝具?まさか……サーヴァント!?』

「ええ、多分貴女の考えは合ってますよ?正確には前聖杯戦争の、ですがね」

 

 

シーは驚きと共に妙な納得感を感じとっていた。

報告では確か、4年前に養子として引き取られてはいた。だが、実はその前から行動を共にしていたという根も葉もない噂があったのだ。

所詮噂だろうとタカをくくっていたのだが……。

 

 

『でもどうして?サーヴァントは役目を終えたら消滅するのでは?』

「まあそう考えるのが普通ですよね……確かに私は本来、あの戦争が終わったあの時に消える……はずだったんですけどね。気がついたら肉体を得てまして……」

『受肉?』

「ええ………今から説明したいところなのですが……生憎、向こうは待ってくれないようですねぇ」

 

 

そう言って先程まで見ていたところに目線を移す。

 

 

「……いやぁ、まさか貴女がサーヴァントだったとは思いませんでしたよ。サーヴァントを弟子にするとは、流石はエイジ様と言うべきでしょうか?」

『!?』

 

 

聞こえてくる。否、もう聞こえないと思っていた声を耳にし、シーは目を見開いて音源の方を向く。

 

 

「よく生きてましたね」

「生憎と私は呪術師なものでして……いくら呪うしか能がない私でも一撃必殺を避けるぐらいのものは用意してますよ。例えば……『即死することが出来ない呪い』とかね?」

 

 

そう言ってムクリと起き上がるゼツ。よく見ればなくなったはずの首から上だった部分は違和感を感じるくらい綺麗な状態で戻っていた。しかし、そこから下は何か赤い液体を浴びたかのように、病人のような青白い肌は赤く染まり、特徴である足まで垂らした黒髪と黒い服に至ってはその液体によって、赤黒く変色していた。

 

 

「……なるほど、呪いをですか。即死出来ないものとはいえ、痛みを全く感じないわけではないはずですが?」

「ええ感じますとも……しかし!私にとってはそんなことは想定内なのです!考えてみてください。いくらやっても楽に死ねず、じわじわいたぶられて殺されるのを待つか!しかし即死はしないと言っても痛みは感じるので精神的に疲弊していくか!私があまりに不利なこの状況、これこそまさに絶望!これこそが私の生きるための糧なのです!」

『……引くわー』

 

 

別に聞いてもいないカミングアウトを今にも悶絶しそうな顔で話す姿にシーはドン引きするが、ニルは態度を変えることなく、寧ろ何か思い詰めるような表情を見せていた。

 

 

「……生きるための糧、ですか」

『?』

「いや、私はですね。生前は人を殺すことしか能がない子供でしてね。育った環境のせいであるかもしれませんが今思えば本当につまらない子供でしたよ。生きる糧なんかなく、子供らしいことはせずに毎日を無駄に過ごして。死んでサーヴァントになって……そして、師匠に出会って変わりました。……師匠はとても変わった人でしてね。何をしたかは知りませんが私なんかを受肉させるわ。なんか勝手に強制的に弟子にさせられるわ。教養だとか言って世界一周旅行に連れ出すわ。……なんだかんだ言ってましたけど全部私のことを思ってしてくれてたんですよ。そして、気づけばあの人に惹かれていたんですよ。全く、まさかアニメみたいな事になるとは思いませんでしたよ。………だからですかね。どんな手を使ってでも勝ちたいと思うんですよ。私のことを待つ人のためにも」

「待つ人のために、ですか(この子といい、暴食の子といい。どうしてこうも親に似てるんですかね?)」

 

 

『生憎だが絶望中。こんな俺を待ってるバカがいるんでな……悪いがどんな手を使ってでも勝たせてもらうぞ』

 

 

かつてあの男に言われた一言を思い出して、思わずクスッと笑ってしまう。

 

 

「……何かおかしいことでも?」

「いえ、まさにエイジ様の弟子だと思っただけですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!」

 

 

突然両足に痛みが走り、思わず攻撃の手を止め、地に膝をつくことになった“ルシファー”の姿がそこにはあった。

 

 

「なん、じゃと?」

「……ふぅ、なんとか間に合いましたか。最近ついてますわね」

 

 

何をされたか理解できなかったルシファーは目の前の強欲を睨むも、睨まれた相手は寧ろ安堵の表情でルシファーの奥を見ていた。

 

 

「ん〜……間に合った?」

 

 

攻撃の手が止んで静まり返った空間にその声は聞こえた。

その声は強欲も、そして膝をついているルシファーでさえ知っている声だった。

 

 

「何をしに来た……」

 

 

ルシファーがそう叫ぶと後ろの空間が歪み、パジャマ姿のベルフェがその姿を現した。

 

 

「……怠惰ァ!」

「何をって……強いて言えば〜、マモンの援護かな〜?」

「援護、じゃと?」

 

 

一瞬幻聴ではないかと思ったが、どうやら現実であることにルシファーは驚愕する。

自身を含め、魔王は敵対することは多々あれど、我が強い者が多いため、手を組むことはこれまでも、そしてこれからもないとばかり思っていたからだ。

 

 

「貴様らが?手を組むだと……?」

「残念ながら現実なんだよね〜」

「驚きましたか?まあ無理もありませんわね」

 

 

そう言って再び構えるマモン。そして組んでいることを明らかにするかのようにマモンの横に移動し、背後の空間を歪ませ、そこから大量の銃器が姿を見せる。

 

 

「チッ(まさかこの2人が組むとはな……ただでさえ強欲だけで手をかけるというのにな)」

「……つまり、変わったのは貴女だけではないということですよ」

「まさか〜、卑怯とか言わないよね?」

 

 

状況はこれで一気に不利になったルシファー。

しかし彼女は戦う手を止めない。無論、降参する気も、無惨に負ける気もない。

確かに彼女は変わった。終永時という異分子が混ざったことにより良い方向へと変わった。だがそれは彼女の生き方までは変えることと同義ではない。

 

退かず、戦い、勝利する。

 

それが彼女の生き方(プライド)だからだ。

 

 

「ハッ!まさか妾が降参するとでも思っておったか!!」

 

 

痛む足に鞭打って立ち上がり、盾を手動に切り替えて操作して自身を囲うように陣形を作り、光線を一斉掃射する。

 

 

「まあ降参するとは思ってなかったけどね〜」

 

 

予想通りに行動するのを溜め息混じりに呟くとベルフェは腕を振るう。

すると待機していた機関銃が一斉に掃射を始めた。

 

 

「そうですわね。彼女らしいと言えばそうなのですが……」

 

 

光線と弾丸がぶつかる中、マモンは駆け抜けて行ってルシファーに正面から接近戦を仕掛ける。

 

 

「甘いぞ!」

 

 

だがそんな単純な攻撃に当たってやる程優しくないので、盾で受け止めようと盾を動かす。

 

 

「……!」

 

 

予想通り正面から馬鹿正直に突っ込んできたので盾で受け止め、思わずほくそ笑んだ。

 

 

「……何!?」

 

 

のだが、それも束の間。運が悪かったのか、当たり場所が悪かったのか、よく分からないが防いだ盾がひび割れて壊れてしまい、僅かながらも隙間ができたことでルシファーの笑みは完全に消え失せた。

そして、運悪くその空いた隙間に銃弾が入り込み、ルシファーの身体を貫く結果となってしまった。

 

 

「……っ!?」

 

 

更に正面から極太のビームが迫り、囲っていた盾を正面へ総動員させて防ぎきる。

だが、後ろが空いたことで隙間ができ、回り込んできたマモンによる斬撃が彼女を襲う。

 

 

「くっ……!」

 

 

しかしそれを彼女はライダー戦の時より早い動きでそれを避け、光の槍で彼女を切り裂く。

 

 

「おっと〜」

 

 

しかし穂先が届く前にマモンが空間の歪みに飲み込まれ、当たることは叶わなかった。

そして、眠そうに立っているベルフェの横に歪みが出来、中からマモンが姿を現す。

 

 

「助かりましたわ」

「どういたしまして〜。けど〜、驚いたね〜」

「ええ、まさかあのルシファーが能力を使うとは……」

「それほど追い詰められてるってことかな〜?」

 

 

そう言われてマモンは思考する。

確かに自分の能力は強運。ベルフェは空間操作。ルシファーにとって能力抜きではキツく。逆に言えば能力を使えば何とかなるのだろうと踏んでいるのかもしれない。

 

 

「お〜!」

 

 

先程のより比べものにならないほど加速した光線が正面から迫り、少し焦る(?)もベルフェは間に挟むように巨大な砲塔を出して先程ルシファーに撃った極太ビームで相殺する。

 

 

「おお〜!」

「チィッ!」

 

 

突然横に現れて槍を突き立てるルシファーに驚きつつ(本人はそのつもり)も、後ろに作った空間の歪みに自身を飲み込ませて上手く逃げ込んだ。

 

 

「あら?わたくしを忘れてませんか?」

「くっ……!」

 

 

そして、側にいたマモンが双剣で切り上げる。

しかし槍で横へと弾き、更に速い動きで距離をとる。

 

 

「……チッ!」

「ふむ。やはり彼女の加速の能力は厄介ですね……」

「うーん。でも〜、いくら速く動けたとしても限界はありそうだよね〜」

「確かに。いくら加速するとは言え、それに伴って体力の消費なども加速しているはず……」

「そこを突けば何とかなるんじゃない〜?」

「そうですわね」

 

 

会話した後、2人はニヤリと嫌な笑みを浮かべ、ルシファーへと果敢に攻め立てに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

バーサーカーの顔の部分に見事、剣を当てることに成功したセイバーは少し距離をとって様子見に徹していた。

 

 

「■■■……!」

 

 

しかしそれだけでは流石に致命傷とはいかず、分かっていたのかセイバーは剣を握る力を強くした。

 

 

「……ッ!?」

 

 

のだがそれはすぐに緩めることとなる。しかしそれは彼女自らの意思で行ったことではない。

 

 

「そんな……嘘だ……そんなはずは………」

 

 

先程剣を当てたことにより、漆黒の兜が半分に割れてハッキリとされてくる顔を見たから。

それは彼女にとってとても見覚えのある人物にそっくりだったから。思わず剣を握る力を弱めてしまった。

 

 

「何故貴方が……!?」

 

 

だがそれだけが決め手ではない。困惑する彼女に追い打ちを掛けるようにバーサーカーは1振りの剣を手に取った。

それはバーサーカーから発せられる黒い瘴気に当てられてなお、美しく輝く。まるで聖剣のような、そんな1振り。

 

 

「……ランスロット!?」

「……Au………thur………!!」

 

 

ランスロット。

かの『アーサー王伝説』にて、湖の騎士、裏切りの騎士と呼ばれたかつて円卓の騎士だった男。そして、ブリテン崩壊の一端を担ったと言われた人物。

アーサー……否、アルトリアにとって思いがけない人物との再会であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぐっ、つぅぅ……!!」

 

 

先程仕掛けられたと見られる爆発物の爆発に巻き込まれたものの何とか助かったバット。しかし服がちらほら焼け焦げ、痛々しい火傷の痕がちらほらと見え隠れしていてとても無事とは言えなかった。

 

 

「……ケアルガ」

 

 

しかし呪文のような言葉を呟く。すると、明るくて暖かな緑の光に身体が包まれ、それが消えた時には傷が綺麗さっぱり無くなっていた。

 

 

「……ふぅ(まさかプロテガを掛けることを見越して、爆破魔術に変更してるとは……考えたなコイツ)……って、熱っ!」

 

 

実は爆破直前、物理防御倍増の効果があるプロテガを自身に掛けたのだが、実は爆弾に見せかけた魔術攻撃だったらしく、そっちは対象に入ってなかったため、直接受ける結果となってしまった。

 

そう黙って思考していたがまだ服がチリチリと燃えていることに気づき、自身に風を吹かせて火を消しさり、完全に鎮火したのを確認して再び思考を始める。

 

 

(けど何故だ?こんなことしても回復されるって分かってるのになんでわざわざ自爆なんかしやがったんだ?)

 

 

ゆっくりとした足取りで辺りを見回しながら思考する。無論、最低限の警戒のために槍を持ったままでだが。

彼女が知るネバーという男は、不必要なことをしない男だ。この自爆に見える何かもきっと何か意味があるのだろう。そう思いながら辺りを散策する。

 

 

(さて、何を企んでやがるんdーーー!?)

 

 

あるものを見つけ、足を止める。しかし彼女はその光景に目を見開いた。

 

 

「おいおい……どういうことだよ!?」

 

 

彼女の視線の先に写っているのは、膝から下をごっそりと失くした痛々しく見える片足、そして身体がほぼ焼け焦げている“桃色髪の中性的な顔の美少女”が地面に横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、冬木市公民館。明かりのついてない暗い内部をゆっくりと移動する1人の人影があった。

 

 

「……」

「やはり来たか」

「……!」

 

 

突然暗い部屋に明かりが点灯し、部屋の中央に黒い神父服の男が見えて人影は構えた。

その様子を見て、黒き神父は笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待っていたぞ。終永時」

 

 

 

 

 

 

 



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悪は何処へいるか



〜とある馬鹿が送る前回のあらすじ〜


「どうもお久しぶりでございます。私たちの時間はそんなに進んではいませんが寧ろ視聴者の皆様の体感時間的には1ヶ月は経っているのでないかと思い、あえてお久しぶりと言わせていただきました。
……さてさて、今回このコーナーをやらせていただくことになったわけですが……いやね、確かに私は本編では名前を公開してはいませんがいくらなんでも『とある馬鹿』は酷すぎませんかねぇ?……おっと失礼。話を戻しますね。
……では、改めて仕事をやらせていただきます。ん……(おや?いつの間にか手元にカンペらしきものが……ほほう、流石我が義妹。いい仕事をしておる)

えっと……199X年!冬木は核の炎に包まれた!しかしある男は何事もなかったかのように平然と生きていた!その男の名はネbーーーどこの世紀末ですかこれ?……失礼、間違えました。表ではなく、裏の方でした。

ーーー前回!最高にハイになって調子に乗った馬鹿は26に顔パンを喰らい。一方、自称悪だと思って戦う幼女は実は桃色変態魔王が変身していたことに気がつき。一方騎士王さんは顔見知りであるネガティヴ騎士(?)と再会する。そして、肝心の自称悪はというと……っとここまでにしておきましょう。

長い長い語りでどうもすみませんねぇ……では、本編の始まり始まり」




 

 

「桜様。ご就寝の時間なのですよ」

「……やだ」

「そう言われましても……ルシファー様とカリヤ様は朝方に帰ると仰っていましたよ?」

「やだ」

 

 

間桐家の桜の寝室。夜中だと言うのに布団の上で寝ることなく座っている桜。

そんな彼女に寝るように促す銀髪のメイド、マイティアは首を横に振って拒否を示す桜に見て困り果てていた。

 

 

(ルシファー様の命でこの子のお守りを任せられたけど……まさか夕方に寝ていたとは予想外ね)

 

 

先程突然主人に呼び出されて困惑している中頼まれたものの、今夜2人が帰って来ないかもしれないと予感していたのか、よく分からないが夜に備えて夕方に仮眠をとったらしく、そのおかげで目をパッチリと開けており、寝付く様子を見せない彼女にマイティアは溜め息を吐いた。

別に桜がワガママ、なんてことではなく普通に言うことを聞いてくれる従順でいい子、だったのだが……何故かこれだけは頑なに拒否を示すである。

 

 

(……しかし、私はルシファー様に仕えるメイド!こんなことでへこたれる訳にはいかないわ!)

 

 

しかしここで負けじと小さくガッツポーズを取って気合いを入れると彼女は思考する。

 

 

(とは言ったものの……一体どうすれば良いのかしら?子育ての経験なんてないし……あっ、そうだ!)

 

 

何かを思い出したのか、懐から携帯を取り出して誰かに連絡を取り始めた。

 

 

「……あっ、もしもし?サタン様のお電話でお間違いないでしょうか?」

『あっ?誰だよ?』

「突然のお電話すみません。ルシファー様のメイドのマイティアという者なのですが……」

『……ああ、あいつのメイドか。何の用だ?』

「実は……子育て経験のあるサタン様に是非ご教授頂きたいことがありましてこうしてご連絡させていただきました。……お願いできますか?」

『俺に?別に構わねえが……んで?』

「ある子を寝かしつけるようルシファー様に命じられたのですが、夕方頃に寝ていたらしく中々寝付けなくて……」

『ふぅん……だったら温かい飲み物を飲ませたらどうだ?』

「温かい飲み物ですか?」

『あとはアロマオイルとか音楽を聴かせるとかだな』

「ふむふむ、なるほどなるほど……」

 

 

しっかりとメモを取っていくマイティア。子育て経験が全くない彼女にとって、とても新鮮な気持ちであり、少し高揚感のようなものを感じ取っていた。

 

 

『ん〜他にはなんかあったかなーーー「ママ〜?ごはん!」……ちょっと待ってろ!すぐ作ってやるから!「あーい!」』

「……ビリア様はお元気そうですね」

『まあ俺の娘だしな!……っと、そろそろ切るな』

「はい。ご教授、ありがとうございました。今度お土産持参でお礼に伺わせていただきますね?」

『へえ……楽しみにしとくぜ?』

「はい!では、失礼します……よし!とりあえず試してみましょう。まずは……ミルクティーでも作ってみようかしら?」

 

 

携帯を切るや否や、すぐさま台所へと駆け込んで行った。

ちなみにだが、この後助言された方法を試したものの最初(カフェイン入ってる時点)で躓いているため、結局夜明け前まで戦うことになるのだがこの時の彼女はまだ知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでお前がここにいるんだよ……アスモ!」

 

 

視界にはっきりと映る、痛々しいほどの大怪我をした見覚えのある桃髪の美少女の存在にバットは戸惑いを見せていた。

 

何故かと言えば簡単なことで永時やオメガを止めようと試みる場合。彼らは不老不死、またはそれに近い存在のため、不死殺しの宝具を使用しなければ死ぬことはないので殺す気でかからないと止まらない。(オメガの場合は使用しても死なない気がするが)

しかし対象が彼ら以外の場合はそれなりの手加減をして殺さぬようにしなくてはならない。

 

 

「ハハハ……久し、ぶりだね……バット」

 

 

つまり加減を間違えれば……下手すれば死に至らせてしまう、ということである。

 

 

「今は喋んじゃねえ!……ケアルガ!」

 

 

とりあえず呪文を唱えて外傷を治すものの、流石に失くなった部位の修復までは無理であったようで悔しそうに舌打ちするバットの姿があった。

 

 

「……よし。大丈夫か?」

「フフッ……相変わらず、君は、優しいね……」

「うるせえ」

 

 

とか言いつつも上半身を持ち上げてやり、厳しい目線を向ける。

 

 

「……なんでお前がいる?ネバーの差し金か?」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は永時達が出発する直前に遡る。

 

この時まだ姿を変えてないオメガ、マモン、アスモ、ニルとシーちゃん、永時、そしていつも通り布団に入って寝ているベルフェの7人が集まって会議らしきものを行っていた。

 

 

「……とまあ恐らく姐さん経由で恐らくルシファーに事が伝わっているのは目に見えている訳だが……俺は敢えてそこを突く。あいつらは俺たちがノットを殺ると踏んでいるだろうから絶対妨害してくるのは確定的だろうしな」

「なるほど。だから敢えて姐さんにノットの話を聞かせた訳ですか……しかし、姐さんを利用するとは感心しませんねぇ」

 

 

明らかな怒気を放つオメガを宥めさせるため、永時は事前に考えていたことを話す。

 

 

「まあそう言うと思ったよ。けどな……こうでもしないと後々面倒になるぞ?下手すれば姐さん1人でノットを相手しに行くかもしれないんだぞ?だったら足止めしておくのがベストだろ?」

「……仕方ありません。今回はそちらの話に乗ってあげましょう。で?私は一体何をすればよろしいのですか?」

「……ああ、まずお前はノットの相手をしてくれ。あいつを単体で相手できるのはお前ぐらいしかいないからな」

「なるほど。ではそれなりにやって「ただし」……ただし?」

「出来ればでいいが……いや、確実にノットを戦闘不能に持ち込んでくれ」

「……ほう?」

「ノットは……あいつには悪いが、変身したらかなりマズい。だから……変身する前に奴を、殺してやってくれ」

「……善処しましょう」

「ああ……次にだが恐らく、あのルシファーのことだ。俺たちの戦力に合うメンバーを当ててくるはずだ。ルシファーが1番信頼してる部下のゼツだが……恐らくだがニルとシーが相手するはずだ。そこで、俺なりの対抗策を伝授しようと思う」

『対抗策?』

 

 

それはな……と永時はあるものを取り出してシーに手渡した。

 

 

「これは……?Vz61?師匠の愛銃ですよね?」

「そうだ……これを奴と対峙した時に使ってみろ。恐らくだが一瞬だけ動揺して隙を見せるぞ?」

『どうして?』

「昔それで奴を蜂の巣にしてやったからだよ」

 

 

サラッと流すように言ってはいるが要するにトラウマに近いものを受け付けたと言っており、ニルは若干引いていた。

実際には『死ぬことができない呪い』を掛けた彼女が死なないことを理解した上で蜂の巣にしたと言うエグいことをしていた訳だが……そこは知らぬが仏ってことでしておこう。

 

 

『貴方の愛銃……オカズになるかな?』

「やめろマジで」

『……分かった』

「……ったく。で、マモンは必然的にルシファーになる訳だが……ベルフェ」

「……ハッ!寝てないよ!……って、どうしたの?」

 

 

涎を垂らし、半目。明らかに寝ていたであろうことは明確だが、永時としてはもう慣れたのでスルーして本題を言う。

 

 

「マモンと共闘してくれないか」

「……え〜?やだ〜!」

「何ですかその間は!?そんなことこっちから願い下げですわ!」

 

 

そう拒絶を示す2人。あまりに予想通りの反応に永時は溜め息を吐きつつ、マモンをじっと見つめる。

 

 

「……頼む」

「い、いくら永時様の頼みでも無理なものは無r「今度1回だけ可能な限りお前の言うことを聞いてやるからさ」是非やらせてください」

 

 

さっきまでの態度は一変し、土下座までしてやろうとするマモンに呆れつつも今度は寝ようとしているベルフェの方を向く。

 

 

「ん〜?何〜?私はマモンと違って「今度ネルフェと一緒にスキーでも行くか?」詳しく聞こうか?」

 

 

聞くや否や布団を投げ捨て、伸び口調を消し、今まで見たことのない俊敏な動きで永時の目の前に現れるベルフェに永時は溜め息を吐いた。

 

 

「……で?やってくれるか?」

「「もちろん(ですわ)!!」」

「オーケー。じゃあ先にマモンが相手をして、途中からベルフェが参加してくれ。そうすればあいつのペースを上手く崩せるだろうか、ら……聞いてるのか?」

「(言うことを1つ聞く……?じゃ、じゃあラのつくホテルに行って激しいプレイを……いや、それとも外で?………いやん♡まずは手錠と首輪と鞭とーーー)」

(永くんとネルフェちゃんとスキー……雪ではしゃぐネルフェちゃん……転んで涙目になるネルフェちゃん……上手く滑れて笑顔なネルフェちゃん………悪くない!)

「……じゃあ次だ」

 

 

なんか自分の世界に入り浸ってるのでスルー。

 

 

「まあ最後であり問題でもあるんだが……姐さん。バットについてだが……アスモ、頼めるか?」

「……え?僕?」

「そうだ。正直こんなことをやらせたくはないが……囮を頼めるか?」

「……要は時間を稼げばいいんだよね?」

「ああ……頼んだ。けど、危なくなったら変身を解けよ?姐さんのことだからお前の姿を見れば殺しはしないだろうからさ」

「オッケー、任せてよ!」

「一応俺の武器を渡しておく。使い方は覚えているか?」

「僕を誰だと思ってるの?」

 

 

ムスッとして永時を睨むアスモ。永時は苦笑しながら答えた。

 

 

「……そうだな。じゃあ頼むぞ“相棒”」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーさあね?よく分からないや」

「なんつー馬鹿なことを……」

「馬鹿じゃ…ないよ……。これは、僕自身が決めたこと、だから……」

「だからって……」

 

 

だからと言って他人である人間のために命を懸けてまでするか?そう言いたかった。

だが弱っているのにも関わらず、まだ闘士のあるように錯覚させられそうな強い意志を持った目で見つめられ、言うことができなかった。それに、よく考えたら自分も似たようなものだったと気づいたからでもある。

 

 

「……まあとにかく。お前はもうその状態じゃ戦うことさえできないんだ。諦めて降参してくれ」

「その方がいいかもね……」

 

 

そう言って諦めたのか、身体の力をスッと抜いて目を瞑るアスモ。それを見たバットはアスモを地面に横たわらせて背を向けて歩き始める。

恐らく永時がいるであろう場所、冬木公民館へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ僕はまだやれるけどね」

「ッ!?」

 

 

しかしそう声が聞こえた。その直後、直感的に頭を右へ傾けたが正解だった。傾けると同時に長い何かが頭が元あった場所を通過していったからだ。

目を見開いて驚愕し、バットは後ろに振り向く。

 

 

「テメェ……なんで立ち上がってる?」

 

 

目に入ったのは右腕をこちらに向けて異常な程ゴムのように伸ばすアスモの姿があった。しかも失くなっていたはずの両足が綺麗に戻っており、桃色の4本の触手のようなものがゆらゆらと蠢いていた。

よく見ればその4本の触手のようなものの付け根の部分はアスモの頭部に繋がっているのである。

 

 

「あのねぇ……足がなくなったからって、歩けないとでも思ったの?残念、僕の能力は変身・変化だよ?」

 

 

シュルシュルとゴムのような勢いで元の長さに右腕を戻し、口角を少し上げて言った。

 

 

「だったら、他の部位で補って新しく作ればいいだけだよ」

 

 

そう言って髪を伸ばして触手のようなものを数本作り、バットへと勢いよく伸ばす。

 

 

「チッ……!降参したんじゃねえのかよ!?」

 

 

再び槍を手に取って振るい落とす。しかし槍とぶつかった瞬間、金属音が鳴り、予想外の硬さに驚いた。

 

 

「僕はその方がいいかもねと言っただけで、降参するとは一言も言ってないよ?」

「まあ一理ある、かっ!」

 

 

そのまま駆け出して距離を詰める。アスモはただ自由にさせるわけなく触手の数を増やして攻撃する。

しかし、足が速い彼女には遅すぎる攻撃であり、一気に距離を詰めて後ろに回り込み、槍で切り上げる。

 

 

「そうだ、まだ僕が囮をやってる理由を言ってなかったよね?」

 

 

アスモは顔の表情を変えることなく、触手を束ねて分厚い装甲を作って上手く弾き、余った触手を伸ばして攻撃する。見てなかったからか急所は当たらなかったが、彼女の左肩を貫く。

 

 

「くっ……!」

 

 

しかし、刺さると同時に後ろに下がり、深く刺さることを防ぎきった。

 

 

「それは……僕がエイジのものだからさ」

「……はっ?」

 

 

僅かだが動揺し、動きが止まった。

その隙にアスモは触手を地面に突き刺す。

 

 

「あの時からもう決まってたんだ、僕と出会ったあの時から。そう、僕は彼の相棒だ。だから僕は彼のためになんでもやるって決めたんだ。彼のためならどんな汚名も着てみせよう。彼のためなら自らの手を汚そう。彼のためなら喜んで死んでみせよう。そう、それだけの価値が彼にはあるから。彼のおかげで、今の僕があるから。無様でも馬鹿でもいい、狂人と言われても僕は彼の隣に居続ける。それが僕の今の生き方なんだよ」

「……つまりは好きってことか?」

「さあ?生憎と僕は恋愛はまだ1度もしたことがないからね。よく分からないけど君が言うならそうかもしれないね」

「恋愛を1度もしたことがない?おいおい、それじゃあトビト記にあるって言われるサラって女はなんだよ?お前がなんかやらかしたって聞いてるが?」

 

 

トビト記に書かれた物語によればアスモデウス(またはアスモダイ)はサラという美しい娘に取り憑き、彼女が結婚するたびに初夜に夫を絞め殺していたとある。まあ色々あってある若者の案によりアスモデウスはサラから逃げ出し、大天使ラファエルに捕まり、エジプトの奥地に幽閉された。しかし何故かアスモデウスはサラ自身には手を出さなかったという。

 

 

「違うよ……サラは僕の友人さ。まだ僕が未熟者だった頃に出会った、人間の友人だよ。当時僕達悪魔は存在するだけで嫌われていたもんでね。けどサラはそんな僕に声を掛けてくれたんだ。……優しい子だったよ。暇さえあればサラに会いに行ったぐらい仲が良くなっていたよ。けどそんなある日、サラが結婚するって聞いたんだ。僕は悪魔だから式に出ることはできなかったけど、それでも嬉しかったよ?事の真相を聞くまでは……」

「事の真相?」

「サラが政略結婚をさせられたってことさ。驚いたよ。まあサラは僕から見ても美人だったから、狙う男が多かったから分かってたけどさ。それで、真相を確かめるために、サラが話しているのを盗み聞きしたんだ。サラは表には出さなかったけどすぐ分かったよ。サラはこんな結婚は望んでいないって。だから僕は……」

「彼女に取り憑いて夫を殺してったか?」

「そうだよ。僕はそうやってサラを守ってきた、つもりだったんだ。けどある日サラは教会に赴いてこう言ったんだ。『神よ、私を殺してくれ』って。最初は驚いたけど、後から気づかされたよ。彼女のためにやってたことが裏目になっていたことに……よく考えれば取り憑いているとはいえ、夫に殺るのは彼女本人だったしね。………そんな時だね。ある若者2人が、サラの元を訪れたんだ」

「……それがトビアとアザリアか」

「そう、まあ細かく言えばアザリアはラファエルだったけど流石にすぐに気づいたよ。向こうは隠してるつもりだったらしいけど……まあ、あんなことがあったからとりあえず僕は2人を見守ることにしたんだ。そしたらトビアとサラは恋に堕ちたよ。初めてのことだったね、サラが一目惚れをするなんてさ。相思相愛の2人を見て僕は考えたよ。『彼ならサラを幸せにできのかも』ってね。後は……君が知っている通りさ………まあ、所詮僕の独りよがりな行動だったってオチさ」

「そうかい……だから分からないと?けど俺はネバーに向けてるのは愛だと思うんだけどなぁ……」

「けど、それはそんな単純なもんじゃないんだと思うんだ。多分家族に対する愛でもなければ異性に対する愛でもなく、もはやそれすらも超えた感情、だとでも言えばいいのかな?言うなれば半身のようなものだよ。僕の半分が彼であり、彼の半分は僕である。少なくとも僕はそう思っているよ?」

「へえ、それな、らっ……それで、いいけど、なっ!」

 

 

地面から飛び出し、突き上げてくる触手をバットは上手く避け、対してアスモはそう言ってまた新たな触手を作り出す。

 

 

「まあ要するに……何がなんでも、僕は彼の隣に(相棒として)居続けたいから。ただそれだけの理由さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待っていたぞ。終永時」

 

 

会えたのが余程嬉しかったのか、あるいは自身の予想が的中していたからか。その真意は定かではないが言峰綺礼は確かに笑みを浮かべていた。

 

 

「……」

「黙りか。まあいい……」

 

 

黙秘を続ける終永時らしき人物に何も思うことなく、まるで立ちはだかるように彼の行き先に立ち塞がる。

 

 

「衛宮切嗣と戦うつもりじゃなかったのか?」

「本来ならそのつもりだったのだが……私も欲が出たようだ」

「欲、か……」

「知りたくなったのだよ。何を持ってして悪を名乗り、掲げるのかを」

「……それだけか?」

「それだけでない。お前はあの衛宮切嗣の師でもある男だ。奴の師であるお前なら、答えが見つかるだろうと踏んだという訳だ」

 

 

無表情ながらも声色から嬉々として語っている言峰綺礼。

 

 

「そうか。ならば精々頑張って答えを見つけてくれ」

 

 

だが、熱心に語る綺礼の話を半分聞き流しながら永時は足を進める。

 

 

「なに……?」

「なんだ?まさかご丁寧に答えてくれるとでも考えてたか?だとしたら貴様は随分とお気楽な思考しているんだな。悪いが忙しい身でな。先に行かせてもらうぞ」

 

 

まさか思いもよらない返答に固まる綺礼。そんな彼を何も思うことなく普通に横切る永時に焦った綺礼は……。

 

 

「くっ……ならば…「実力行使か?」……!?」

 

 

 

片手に3本ずつ、両手で計6本の黒鍵を指に挟んで後ろを振り返る。しかし、その行動が読まれていたのか、後ろを振り向いた瞬間、永時の拳が綺礼の目の前まで迫っていた。咄嗟の判断で片手に挟んである黒鍵に魔力を流して盾にして拳を受け止めるも、拳はごり押しするかのように黒鍵を砕き、綺礼の顔面を捉える。だがその砕く時に発生する僅かながらの時間で綺礼は身体を左へと重心を傾けることで拳を避け、その勢いのまま周り、蹴りを顔に放つ。

 

 

「……ッ!」

 

 

永時は咄嗟に拳を引いて少し屈み、頭上を通り過ぎる足を回避。だが綺礼は更にそのままもう1回転して先程より少し下げた位置に蹴りを放つ。

永時は足に力を入れ、重心を後ろに傾けてそのまま地面を蹴り、後ろへ跳ぶ。そして、そのまま半回転して地に両手をついて更に半回転しながら後ろへ跳ぶ。その空中にて装備していたサブマシンガンを2丁抜き取って引き金を引く。

放たれた銃弾は綺礼へと迫るが、綺礼は再び両手に黒鍵を持ち、飛んでくる銃弾を捌き切る。そして全ての銃弾を捌き切った頃には永時は地に足を付けた。

 

 

「難なく銃弾を捌くとは……流石は執行者とでも言っておこうか」

「お褒めに預かり光栄だ。それで……話す気になっていただけたかな?」

「ほざけ(さて……どう動くか)」

 

 

右手の銃を直して相手の動きを待つ。すると綺礼は黒鍵を構えて接近してきた。

とりあえず手に持つ銃で牽制のつもりで撃つ。すると案の定黒鍵で弾かれてしまい、そのまま黒鍵を突き出す。

 

 

「……ハッ!」

 

 

予想通りだったので永時は内心ほくそ笑みながら右手に力を込めて突き出された黒鍵を裏拳で横に逸らす。そして隙だらけとなっている言峰に銃口を向ける。

 

 

(何!?)

 

 

しかし、先程とは別格の速さで姿勢を戻し、前へ進む勢いを利用していつの間にか黒鍵を消して空いていた手で永時の腹部を殴り抜いた。

 

 

「ッ……!」

 

 

そのまま押し出された永時はベクトルに従って後ろに飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 

 

「ガハッ……!?」

 

 

叩きつけられた衝撃で肺の中の酸素と血液が吐き出され、そのまま地へと倒れ込む。

確かな手応えを感じていた綺礼はその呆気なさに落胆しつつ踵を返して歩み出す。

 

 

(……終わったか。もう少しできるものだと踏んでいたがーーーッ!)

 

 

だがそれは終永時を前にやってはいけないことだった。

 

突如後ろから殺気とガチャリと鳴る金属音のような音を感じとった綺礼は咄嗟に後ろへ身体を半回転させると。

 

 

(ーーーなんだと!?)

 

 

彼の視界に捉えたのはすぐ側まで迫ってきているミサイルだった。

 

 

「くっ!」

 

 

咄嗟の判断で腕を交差させて爆発を防ぐ。幸い、強化魔術により軽度の火傷で済んだが、爆発による煙が彼の視界を遮る。

そして、新たに響く2回の発砲音。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

1発目は腹部左側を貫き、2発目は左手を貫き、交差していたためそのまま右肩をも貫いていった。

痛む左手で穴が空いた腹部を抑え、右手に力を込めて拳を作ろうとするも肩をやられたせいかあまり力が入らなくなっていた。

 

 

「……甘いぞ」

 

 

流石は耐久チートと評される程の男。ミサイルを放り投げ、左手に拳銃、右手にサブマシンガンを手に持ち、何事もなかったかのように首をゴキゴキ鳴らしながら銃を構える。

 

 

「流石は衛宮切嗣の師だ。生半可な気持ちでは致命傷を与えることすら厳しいものだ」

「……生憎と貴様と違って場数を多く経験してるものでな」

 

 

そう言って両者は沈黙し……再び動き出す。

 

永時はサブマシンガンを綺礼に向けて発泡する。

放たれた銃弾は綺礼へと迫るも綺礼はまだ使える左手に黒鍵を3本持ち、弾きながら永時へと接近していく。その道中で永時に向けて持っている黒鍵全てを投擲する。

 

 

「……!?」

 

 

飛んできた黒鍵に対し、永時はサブマシンガンで応対しようと標準を合わせて引き金を引く。だが弾切れを起こしたのか引き金を引く音だけが聞こえ、舌打ちして放り投げてもう片手の拳銃で撃つ。

放たれた銃弾は6発。2発は上手く黒鍵に当たって軌道を変えることに成功したが、残り4発は当たらずに通り過ぎる。

 

 

「チッ!」

 

 

残った1本の黒鍵は空いた手で腰元に付けていたナイフを抜き取って斬り払う。

しかしその間に言峰は距離を縮めて永時の目の前まで接近し、拳を作って心臓部目掛けて放つ。

 

 

「ぐうっ……!」

 

 

それに対して身体を反時計回りに捻り、避けようとするも間に合わず、拳は右腹部を抉る。

 

 

「……!?」

 

 

しかし、怯むことなく寧ろ無傷な気配を見せるかのようにニヤリと笑みを浮かべ、そのまま身体を捻って綺礼の脇腹に右足を叩き込んだ。

 

 

「ぐおっ……!!」

 

 

ベキボキッ!と骨の折れる音が鳴り、そのまま吹っ飛ばされる。

少し距離が空いてしまうも上手く受け身をとって着地し、再び接近を試みようと態勢を整える。

 

 

「遅い」

 

 

しかし、態勢を整えて立ち上がった瞬間、銃声が4回聞こえ……

 

 

「……見事だ」

 

 

綺礼の胸部を全ての弾丸が見事に貫き、綺礼は肘を曲げて地に肘をついた。

それを見た永時は構えた銃を下ろし、ゆっくりとした足取りで綺礼へと近づく。

 

 

「……」

「っ!」

 

 

だが、歩いている最中に2発を発泡。1発は左肩に、もう1発は左腕の二の腕部分を貫き、攻撃しようと構えていた綺礼を驚愕させた。

 

 

「終わりだ」

 

 

そのまま力なく膝をついている綺礼の所に歩み寄り、その頭部に銃を突きつけた。

 

 

「……死ぬ前に1つだけ答えろ。何が目的だ?」

「目的、だと?……先程話した通りだが?」

「何?まさかそんなことのために命を懸けるのか貴様は?」

「……フッ。残念ながらそんなことに命を懸ける程なのだよ私は」

「くだらんな。そんなくだらん好奇心だけで命を張るとは……哀れだな貴様は。好奇心は猫を殺す、または馬鹿の一つ覚えのどっちだったか忘れたが……くだらなすぎて笑いがこみ上げてくるわ」

「そうか……すまないが冥土の土産として教えてくれないだろうか?何故悪を掲げるのかを。そして、その掲げる悪とはなんだ?」

「……まあいい。気が変わったから答えてやる……実に簡単な答えになる訳だが、正直言うと悪を掲げる理由は……分からん」

「なんだと?何故だ?」

 

 

目を見開いて驚愕する。まさかあれだけ悪を名乗り、掲げていたのにその理由がないときたのだ。綺礼が驚くのも無理からぬことだった。

 

 

「何故だと?なあに、とても単純でシンプルな話だーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー何故なら私は、終永時ではない(・・・・・・・・)からな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにーーー「残念ながら時間切れだ」」

 

 

何か言おうとした綺礼の言葉を遮るかのように永時は引き金にかけた指を引いた。

 

 

 






今回使用した武器詳細

拳銃→ベレッタM92
サブマシンガン→Vz61 スコーピオン
ミサイル→M72LAW



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各々の行く末は



〜Aがお送りする前回のあらすじ〜

「……コホン。皆様お久しぶりです。今回ここを担当させていただきますAです。短い間ですがよろしくお願いします。

前回、子供の寝つけに苦労するメイド。見事悪魔に化かされたバット・エンド。そして、ネバーは一体何処へ?

彼らの行動を見させていただきましたが、まさか囮を用意されるとは流石だ、と言っておくべきでしょうか?
……しかし彼は何が目的なのでしょうか?それに、彼の今までの行動を見ている身なので分かりますが、今回彼がやっていることは単純かつ小規模な策ばかり。まるで何かを警戒しているような、そんな気がしてなりません。お義兄様ならば分かるかと思いますがあの人は素直に真実を話されるお方ではありませんので……

……ここからはあくまで推測なのですが、もしかすれば彼は混乱に乗じて誰かを始末するためにこんな策を講じたのではないかと思います。でなくてはわざわざ戦力を分散させ、わざわざルシファー陣と律儀に戦闘する必要はないのでは?と考えたからです。
その過程を踏まえると状況から見て今空いているのは……アーチャー、でしょうか?しかし慢心しているとは言え彼はサーヴァント。たった1人で易々と勝てるようなものではないのですが……っと、ここまでにさせていただきます。これはあくまで私個人の推測。全て鵜呑みにせず、あくまで参考程度ということにしてください。

自称悪は何を企んでいるか。娯楽者は何を思うか。ここ優しき戦闘狂は仲間を救えるか。異常者は大切な人を救えるか。まだまだ答えは見えそうにないですがここはひとつ、気長にお待ち頂ければ幸いです。

では、ご覧ください。」




 

 

狂ったように笑い、高らかに声を上げて魔力弾を撃ち込むゼツ。

その対象であるニルは舌打ちし、右斜め前方向へと飛び込むように重心を傾けて回避しつつも前進する。そして回避した彼女の視界が次に捉えたのは敵であるゼツの姿。

 

 

「ッ!?」

 

 

ではなく、夜空の中街灯の光によって光り輝く大量のコインが彼女の進行方向に散りばめられていた光景だった。

 

 

 

「!!」

 

 

咄嗟の判断で腕を交差して顔を庇って正解だった。重心はコインがある方向へと向けており、急な方向転換が不可能であったからだ。

そして予想通りコインは光を放ち、それぞれが溜め込むエネルギーを解き放ち、大爆発を引き起こした。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

爆発をもろに受け、吹き飛ばされて転がるもなんとか地に手を付けて態勢を整える。

次にどう動くか考えながら敵の方を見ようと前を向く。

 

 

「チェックメイトです♪」

 

 

しかし、ゼツの声と共に前頭部辺りに微かにだが柔らかな感触を感じて理解した。

 

ああ、悔しいが彼女の言葉通りなのだと。

 

そう悟るニルの前頭部に人差し指を当てているゼツはニッコリと笑みを浮かべたまま、そのまま魔力弾を撃ち込んだ。

頭部を撃ち抜かれたニルは力なく重力に従って崩れ落ちる。

 

 

「アハハハ♪案外あっけないものですね……さぁて、次は貴女ですが……覚悟は出来ていますか?」

 

 

そう言って少し距離が開いたところで構えているシーと呼ばれた(標的)に視線を合わせる。

正直なところ、もうちょっとニルをいたぶってお楽しみタイムといきたかったところだが、そこから逆転されるとちょっと嬉s…面倒なので諦めてさっさと始末をつけようと考えていた。もし負けでもすれば主人からキツい仕置きを受けるハメになるので真面目にすることにしただけのことである(まあその仕置きも喜んで受けるのだが)

 

そして肝心のシーはというと、相方が殺られたことに動じることなく、じっとゼツを見据えていた。

 

 

(動じていない?うーむ……無表情であることが幸いとなってますね。動揺を誘えているかすら分からないとは……本当、誰に似たんだか)

 

 

まあ体格は全く似てませんがね、と思いながら彼女は不意打ちとして魔力弾を撃ち込んだ。

しかしシーが目を光らせることで目の前の空間が歪み、飛来してきた魔力弾はあらぬ方向へと切り替え、そのまま闇夜へと消えていった。

それを見て彼女は再び思考を始める。

 

 

(やっぱり外れちゃいましたか……爆破、呪札、魔力弾、呪殺。隙あれば試してみましたが効くどころか寧ろ当たる気配すらないのが現状っていうのが辛いですね。……ああ、追い込まれていくこの感覚もまた良いものです!……っと、すると次は?)

 

 

ガチャリと金属音が聞こえて意識が引き戻される。視線を移せば先程思わず隙を見せることとなった原因であるサブマシンガン。その銃口をこちらへと向けるシーの姿があった。

先程は不意を突かれるになってしまったが、永時に敗北したあの時から随分と時は流れているのだ。もう銃器を見ても混乱することなどはなくなり、寧ろ自らが絶望に陥ることの喜びを見出せたのでプラスになったぐらいである。

そんな彼女が今銃口を向けられたことで怯むことはなく、寧ろ相方が死んだことに動じることなく立ち向かってくる意志の強さに喜びを感じていた。

 

強い意志を持ち、根拠のない希望を抱いている。それを絶望に染めればどれほど美しく輝けるものか。そして、それが自分を興奮させてくれるか。希望が大きいほど反転させた時はその分絶望も肥大化し、そしてそれを見て悦に浸る。

 

他人の不幸は蜜の味。まさしくその言葉に生き甲斐を感じているものこそ、絶望淑女という女である。

 

 

「うふふっ♪」

 

 

気分が高ぶっていく自分を抑えつつ、飛来してくる弾幕を前進しながら紙一重で避けていく。

 

 

「そ〜れ!」

 

 

そしてそのまま一気に距離を詰めて手刀を叩きつけた。

しかし、振り下ろした手刀はシーに届くことはなく、間に挟むように現れたレイピア状の剣によって行く手を遮られていた。

 

 

「おやぁ?」

「ッ!」

 

 

シーは軽く力を入れて手刀を押し出す。押し出されたゼツは腕を上げて後ろに仰け反る形となり、シーはその間に後ろに跳びながら持っていた剣を投擲した。

ゼツは特に焦ることなくニヤリと笑みを浮かべて魔力弾で相殺させる。

 

その意味深な笑みに疑問を抱いたが、その答えはすぐに分かることとなる。

 

 

「!?」

 

 

僅かながらゼツの視線が自身の背後へと動くのを目にし、ヤバいと体が警鐘を鳴らし始めたが遅かった。

 

ズブリと生々しい音が聞こえて、遅れて鉄の匂いと右胸辺りから激痛を感じ、

 

 

「!!」

 

 

そして漸く、自分が後ろから何かに貫かれている現実を認識した。

 

 

「おやぁ?急所を外した?……いやはや、一瞬とはいえズラすとは流石と言っておきましょう」

 

 

後ろからそう声かけるゼツは突き刺していた手刀を引き抜き、ゆっくりと崩れるシーを見て笑みを浮かべていた。それは不意打ちに成功して喜んでいるからか、はたまた、ただ単に攻撃が通ったことかどうかは定かではないが、とにかく彼女は上機嫌になっていた。

 

そんな彼女は呪符らしきものが大量に貼り付けられた麻縄を取り出し、呼吸が少し荒くなっているシーの全身に巻きつけて縛り上げた。

 

 

(ん〜、見た感じ肺を貫いたって感じですかねぇ?)

「!?」

「どうしてって顔してますねぇ?まあ単純かつありがちな方法ですよ」

 

 

どうして?と不思議そうな顔でこちらを見てくるシーに応えるため、彼女は靴先でトントンと地面を小突く。するとそのまま地面へと身体を沈めていき、やがて黒い人影となって前方にいたもう1人の足元へとピタリとくっついた。

 

 

「……」

「まあ分かりやすーく言えば影を使った分身ですよ」

 

 

確かに単純かつありがち、それ故に強力な一手と言えるだろうそれに見事にやられた、ただそれだけのことである。

まあここだけの話、忘年会の瞬間移動マジックの時に考案したのが由来らしいがそれについては口が裂けても言えないものだ。

 

 

「しかし、予想とはいえここまで的中できるものとは思えませんでしたよ」

「……?」

「いえ、こちらの話ですよ?(……恐らく能力は空間を歪ませる。或いはそれに近いもの。自分自身を歪めることは出来ず、あくまで周りを歪ませて飛び道具を逸らすってところ、私を直接歪ませないところを見ると人体か生物に干渉できないってとこですかね?……しかし、それだとあのベルゼブブ様の娘にしては単純すぎるというかショボいというかなんというか……前にも似たような能力の事例を聞いてますし。確か……歪曲の魔眼でしたっけ?)」

 

 

疑問を解決しようと思考を巡らせる。しかし、それすらも彼女は疑問を抱く。まるで思考すらも歪められているかのような錯覚に陥らされているような気がしてきたからだ。

 

 

(魔眼と言えば直死の魔眼とかが有名らしいですが……ああ、もう!こうこんなことなら知り合いに魔眼のことについて聞いとけば良かった!……待てよ?そもそも魔眼の類ですらない?)

 

 

この時、うんうんと思考にのめり込んでいる彼女はもう少し周りを見るべきだったと思う。

 

 

「……チェックメイトですよ」

「え……?」

 

 

油断大敵という言葉があるが今の彼女はまさにそれと言えたからである。

聞き覚えのある声から放たれた言葉に既視感のようなものを感じたが、確認する間もなく彼女の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー後は縛っておいて、麻酔銃を頭にパシュッっと……大丈夫ですか?シーちゃん?」

『私は大丈夫。……急所は外れてから辛うじて、だけど』

「そうですか……でも凄いですよね貴女の能力は。まさか彼女の認識まで歪められるとは思いませんでしたよ。まあおかげ様で不意打ちを仕掛けることができましたが……肩を貸しますので立てますか?」

『そう……』

「おや?どうされましたか?」

『……怖くないの?』

「ん?怖い?何がです?」

『……その気になれば貴女の思考すら歪ませて洗脳だって出来る。意気投合したとはいえ、お互いにまだ出会って間もない間柄なのに……』

「ああ、つまりは利用し終わったからここで放置して殺すのが妥当ではないか、とでも?」

『その通り』

「んー……そう言われましてもねぇ。私としてはシーちゃんはいい子そうですし、それに……何より貴女は師匠の娘さんですからねぇ。見殺しにした、なんて言ったら師匠に怒られちゃいますし、何より……なんか妹みたいでどうも見捨てられないですよ」

『……妹?』

「まあ要するにこっちが勝手に仲間意識を持ってるだけってことです。気に食わなかったら拒絶してもらっても構いませんし、いっその事殺してくれても構いませんよ。殺されたら私が甘かっただけのことで済むだけですから」

『……そう』

「さて、彼女は拘束したので動けませんし、貴女も状態が状態なのでとりあえずは治療のために戻りましょう」

『私は大丈夫だからあの人のところへ向かって』

「……さっきまで辛うじてと言っていた癖に?」

『……』

「どうせ師匠のことです。心配せずとも帰ってきますよ」

 

 

 

 

 

ーーー絶望淑女。頭を爆破されて気絶。その隙に全身を完全拘束された後、頭部の復元の直後に麻酔を撃たれたため、行動不能(リタイア)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーッッッ!!」

 

 

再び身体が悲鳴を上げ始め、雁夜は慌てて小瓶の中身を飲み干そうと手を伸ばす。しかしその手は空を切ることとなる。

 

 

「……ない………ない!?」

 

 

数えるのが億劫なぐらいあったはずの小瓶がいつの間にか尽きていたからである。

 

 

「……これってマズくない?」

 

 

それの意味することは、雁夜は現在ピンチを迎えているということである。

 

 

「ッ!?ーーーーーーー!!?」

 

 

突然襲ってきた痛みに思わず雁夜は声なき悲鳴を上げる。雁夜の体内に潜む刻印蟲が魔力不足を補うために彼の命を喰い尽くし始めたのだ。

 

 

「あ……がっ……ゴホッ!ゲボォッ!」

 

 

喉を痛め、一度咳き込めば吐血して呼吸もままならず、身体の痛みに耐えるために頭を掻き毟り、身体の至るところを強く握り、そのせいか身体中血だらけとなっていた。元々半死状態だったからか、虫の息となるのは案の定早く訪れた。

まるで自分を迎えに来た死神が近づくのを知らせるかのように命の灯火が燃え尽きかけ始める雁夜。そんな彼の脳裏をよぎったのは桜の姿……だけでなく、何故かその中にはルシファー達の姿もあった。

 

 

自分が助けようと必死に、文字通り命懸けで守ろうとした桜。

 

素直ではないがなんだかんだ言って助けてくれたルシファー。

 

後から聞いたが、桜を笑わそうと必死になって頑張ってくれたゼツ。

 

 

まるでこれまでを振り返るように浮かび上がる映像を見て雁夜は理解した。ああ、これが走馬灯って奴かと。

 

手足の動きが鈍くなっていき、身体は徐々に重みが増していき、瞼が重くなったような感覚を感じる。彼は直感的に死が刻々と近づいていくのを理解してしまった。

 

 

(ごめん……みんな………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なぁにカッコつけているんですか?』

「……えっ?」

 

 

しかし、その寸前で何かが割れた音と共に彼女は現れた。本来ならここにいないはずの人物に目を見開いて驚愕する。

 

 

「大丈夫ですか?雁夜殿」

「ゼ……ツ………なのか?」

「はぁい♡皆のアイドル!絶望淑女こと、ゼツちゃんでーす♪」

 

 

だが肝心な彼女は出現早々顔の前で横チョキをし、キュピーンと効果音がしそうなセクシーポーズ(?)を呑気にしていた。

 

 

「なんで……お前が…ゴホッ!ゲホッ!!」

「おっといけない。治療が先のようね……」

 

 

雁夜が吐血したことで漸く現状を把握したのか、ポーズを解いて雁夜の横脇にしゃがみ込む。

 

 

「なんでって?そりゃあルシファー様の命で来ただけですよ。突然ですがお口は開けれますか?」

「……?」

 

 

どうしてルシファーが?と疑問が浮かんだものの、尋ねるだけの気力は残っておらず、言われるがまま残ったチカラを振り絞って小さくだが口を開く。

するとゼツはどこからか取り出した豆粒のような黒い物体を雁夜に見せる。

 

 

「はぁい、これ飲み込んでくださいね〜♪いや、この場合『仙豆だ、食え』でしょうかね?」

「うごっ!?」

 

 

嫌な笑顔を作り、半ば無理矢理雁夜の口に放り込み、頭と顎を無理矢理動かして飲ませた。

 

 

「……って、いきなり何するんだよ!」

「あら?すっかり元気になられましたね」

「えっ?あっ……そういえば……どうしてだ?」

 

 

さっきまで死にかけていたはずなのに、今では戦闘前の状態に戻っており、その変化に雁夜は驚いた。

 

 

「フッフッフッ……単なる呪いの応用ですよ(まあ代償は少々些細な不幸が続きますがね?)」

「なるほど……凄いなぁ」

「そうでしょうか?そんな素直に褒められたことがないので照れますね…」

 

 

普段ルシファーに褒められたことがないゼツとしては慣れぬ褒め言葉に頬を赤く染めて言葉通り照れていた。

そんなゼツを見てルシファーとはえらくまともだなと内心驚いていた。まあ実際はそのルシファーもドン引きする程酷いものだが、それは知らぬが仏ということかもしれない。

 

 

「(あのルシファーの部下って聞いたから最初はどんな変人かと思ってたけど……やっぱりまともそうだな)……ところでなんだけど、どうしてここに?」

「あら?聞かれてないんですか?」

 

 

するとゼツは雁夜に近づいてポケットに手を突っ込み、ある物を取り出し、そのまま雁夜に見せる。

 

 

「これ、見覚えないですか?」

「あっ……確か前、あいつに貰ったアクセサリー、だっけか?」

 

 

見せられたそれは確かバーサーカーがアーチャーと空中戦を繰り広げる前に渡された黒い十字架のアクセサリーだった。

 

 

「ああ……なんか持っとけって言われて押し付けられた奴だったな」

「これはですね。持ち主の生命力の低さに反応するセンサーみたいなものなんですよ」

「センサー?」

「ええ。雁夜殿の場合は死ぬ少し前に反応するものですね。効果は雁夜殿の場合は私に危機を知らせる。そして、魔力不足の元である原因を解決するってとこですね」

 

 

凄い効果だなと感心したと同時に、流石魔王様ってか?とルシファーの実力の一端を感じ取った。

しかしそれと同時に誰もが思う疑問が浮かんだ。

 

 

「原因を解決……?って、まさか!?」

 

 

漸く気づいたのか、雁夜は手の甲を突然見る。すると、案の定あるものがなくなっていた。

 

 

「令呪が……ない!?」

 

 

令呪の損失。つまりそれは……サーヴァントとの繋がり(契約)を破棄したということだった。

しかし、そこで雁夜にある疑問が浮かぶ。

 

 

「……ちょっと待ってくれ。じゃあ桜ちゃんとの契約はどうするんだよ?」

 

 

自分より桜を優先する雁夜は令呪のことをそっちのけでそう問いつめる。

言われたゼツはあー、そんなことありましたねぇと明らかに今思い出したかのように呟いた。

 

 

「あー……前に桜さんと契約したと言っておられましたねぇ。確か……『雁夜殿を勝利へ導け』でしたっけ?それならご安心を。サーヴァントはまだ残っておりますので」

「……はぁ?」

 

 

いつの間にそんなことを……と感心半分、呆れ半分で再び問いただそうとする。

 

 

「それってどういうこと?」

「実はですね。バーサーカーだけでは戦力的にキツくないかとルシファー様はお考えになられましてね。それでちょこちょこーっと裏技を使って新たにサーヴァントを召喚したって訳です」

「……ん?サーヴァントの召喚?」

「そうですよ……何か?」

「何か?って、ルール違反とかにならないのかそれ?」

「あー……多分大丈夫だと思いますよ。調べによりますと前回アインベルリンとかアインツベルーとかなんとか言うところがサーヴァント関係でやらかしたそうですがまあ恐らく大丈夫でしょう。……要するにバレなきゃいいんですよバレなきゃ。一応はランサー陣から令呪を奪い取り、それに使って新たにサーヴァントを召喚したってことになっておりますのでご安心を」

 

 

それでいいのか?と言いたいところだが、グッと堪えることにした。

するとそんな雁夜を見てゼツはフッと優しい笑みを浮かべる。

 

 

「雁夜殿は心配性ですねぇ。そんなことばかりしていると……禿げますよ?」

「禿げますよって、あのなぁ……まあいいや。んで?どういう根拠で契約を破ってないことに繋がるんだ?ただ単にサーヴァントを召喚しても俺のサーヴァントはもういないから実質的敗北確定だろ?」

「……そう言うと思っていましたので理由はちゃんとご用意してありますよ。……ルシファー様と桜さんとの契約は雁夜殿を勝利へと導くこと、でしたがまあ要するに最終的に雁夜殿が生きており尚且つサーヴァントを所有している状態になれば良いわけですから。とりあえず現在はルシファー様がマスターとして行動し、敵を全て片付けたらマスター権限を雁夜殿に譲るという算段を立てておられます」

「……まあ理に適う、かな?」

「納得されたならそれで良し。されなくてもまあ関係ありませんがとにかく、今は雁夜殿の安全が最優先事項です。とりあえずここから非難しましょう。今は変わり身で誤魔化していますがいつまで持つかは分かりませんのでお急ぎを」

「あ、ああ……」

 

 

 

 

ーーー間桐雁夜。魔力枯渇による体力の低下により一時離脱。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デェヤァッ!!」

「っと!」

 

 

目にも止まらぬ速さで飛来してくる緑弾を何の苦もなく、晴天のような余裕そうな表情でヒラリヒラリと避けていくオメガ。

 

 

(ヤベェ、どうしようかこれ……)

 

 

しかし内心は曇天であった。

 

 

「なんで伝説のスーパーサイヤ人かよく分かんねえ姿になってるのかね?」

 

 

何故なら髪色を緑色に変色させ、されど他は金髪だった頃のままのビギナーが目の前にいるからだ。つまり、見覚えのない姿への変貌に困惑しているのだ。

 

 

「よっと、のわっと!(何、あの状態……?しかもなんか理性ありそうだし……)」

「考え事をしている余裕があるのか?」

「!?」

 

 

推測しているオメガの視界からいつの間にか姿を消したビギナー。驚く間もなく、気付けばいつの間にか背後から声が聞こえ、巨大な足が迫っていた。

 

 

「フンッ!」

「ぬっ……おっと!」

 

 

後ろを振り向くと同時に右手を強く握り、迫り来る足を裏拳で受け止める。

 

ゴキッ!

 

 

「な、に……?(折れた……パワーが上がってんのか?)」

「フフッ……その程度か?」

 

 

骨の折れる音を聞いてビギナーはニタリと嫌な笑みを浮かべ、両者は後ろへ下がる。

 

 

「……どうした?まさかもう終わりか?」

「馬鹿言うんじゃねえよ……まあ安心しろ。お前が満足いくぐらいには付き合ってやるよ」

「フハハハ!この俺を前にしてそう言えるとは、流石はオメガだと褒めてやりたいところだぁ!」

「そりゃどーも(しかし、見事にオリジナルに染まってきてるな……こりゃあマズい事体になるかもな)」

 

 

オメガは折れた右手を痛そうにぷらぷらと揺らし、ビギナーはオメガの動きを見極めるためにじっと相手の出方を伺っていた。

 

 

(さて、なんでここまでパワーアップしたか……まあ見た目が変わったのが関係ありそうだけど)

(チィッ……!理性を保つギリギリ辺りまで出力を上げさせてみたが……やはり奴はこの程度では終わらんか!)

(ふむ……見た感じで判断するならば極限まで出力を上げてるって感じかな?じゃあやることは単純化される)

(恐らくさっきの攻撃で奴は理解しているはずだ。だから敢えて……)

(とりあえず……)

 

 

((更に出力を上げる!!))

 

 

「ヘェヤァッ!!」

「喰らえっ!!」

 

 

消えたのは一瞬。そして次に姿を見せたのは緑弾と拳がぶつかり、爆発と共に緑のエフェクトが森の一部を巻き込んで2人を包み込んだ。

 

 

「オメガァッ!!」

「ノットォッ!」

 

 

しかしその爆発の中から2人が飛び出し、再び激突する。

 

 

「イレイザーキャノン!」

「甘い!」

 

 

ビギナーの腕から放たれた緑弾がオメガへと迫るもどこからか取り出した日本刀で切り上げ、上空へと打ち上げた。

 

 

「ふんっ!」

「フハハハ!」

 

 

そのまま持っていた日本刀をビギナーに向けて放り投げる。真っ直ぐ一直線に飛んでく刀をビギナーは手刀で弾き、空いた手で緑弾を持って放り投げる。

 

 

「無駄無駄ァッ!」

 

 

飛んできた緑弾を上に跳んで回避し、跳躍中に両手にナイフを構える。

来るかとビギナーも構え、瞬きをした。

 

 

「ッ!小賢しい!」

 

 

その一瞬の内にビギナーを囲うようにナイフの弾幕がすぐそばまで迫っていた。しかし、飛んできたそれらを緑色のバリアで身体を包み込みながら前進することでやり過ごし、緑弾を片手に持って急接近する。

 

投げてくるか叩きつけると思い込んでいたオメガは迎撃のためにまだ無事な手を手刀にして構え、振るうために力を込めた。

 

 

「フッ」

「んんっ……!?」

 

 

しかし、それは杞憂となった。

 

確かにビギナーは緑弾を叩きつけた。しかし、それはオメガではなく地面にだ。

 

 

「くっ……目くらましか!?」

 

 

無論叩きつけられた緑弾は着弾に続いて緑のエフェクトがオメガの目先に眩く光りながら広がっていき、オメガの正面を遮る。

だが目くらましをされたと言えどまだ攻撃手段がないわけではない。

 

 

「ならば、直感と感覚を駆使して狙い撃つだけのこと!」

 

 

そのまま突っ込むという手段もあるのだが、下手すれば蒸発なんてことになりたくはないので念のために遠距離にすることにした。

どこからか取り出した刀を指の間に3本挟み、ビギナーの気配を探って全力で投擲する。

 

 

「……?」

 

 

つもりだった。そう、だったのだ。

 

折角追い打ちをかけるチャンスだと言うのに何故かその手を引いたオメガ。基本的に笑みを浮かべている彼だが、今はとても怪訝そうな顔をしているのであった。

 

 

(さっき感じた気配……なんだ?)

 

 

先程確かに自分はビギナーの気配を探ったはずだったのだが……それらしいものは見つかったのだが、何故か複数の気配がしたのだ。それが今浮かんだ疑問点であり、違和感。それがビギナーを取り逃がしてしまった理由でもある。

 

 

(明らかに別のものが複数……まさかあいつは偽物だった?それじゃあ分身?……いや、あいつにそんな器用なことは出来ないはずだよな。じゃあ伏兵……?いや、それなら何故今頃になって感じるようになった?アサシン?いや、アサシンは序盤で消えたと聞いているからないな)

 

 

辺りがはっきりと見えるようになった頃にはビギナーの姿は勿論なく、されどそんなことはお構いなしにオメガは思考を続ける。

 

 

(……なんだ?このなんか覚えがあるようなないような感覚は?まるで気づかずに地雷原をスキップで歩き渡っていくような、そんな感覚だ……っと、考えたい所だが今はそれどころじゃねえしな。あいつを逃すと後が面倒だ)

 

 

とりあえず追いかけるかと怠そうに呟き、彼は森の中を疾走する。

 

 

 

 

ーーービギナー。突如行方を眩ましたため戦闘中止。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

動く気配を見せない言峰綺礼だった亡骸に腰掛け、悠々とした調子でガスマスクを外し、煙草に火をつけた。

 

 

(父が吸っていたのに憧れて初めてみたが……今ではすっかり日常的になってしまったものだな。流石に友の前では吸うに吸えんが……)

 

 

紫煙を燻らせ、先程の戦闘で使用した銃器を顔を近づけると鼻を動し始めた。

 

銃を形取る鉄の匂いと自身の身体にも漂う鉄臭い匂い。先程の発砲したためか最も濃く漂う硝煙。そして、自身が恋い焦がれる人物の体臭が僅かながら嗅ぎとれ、うっとりとした表情を見せた。

 

 

(ああ……漸く、漸く悲願は叶った。研究所から友を連れてこの世界に逃げ出した時はどうなるか心配していたものだが……あの女に出会い、とりあえず執行者になって今の地位に登り詰め、そしてこうして父に会えた。あの女は今頃何をしているのだろうか?……まあ行方知らずの者なんかはどうでも良いな。それより友だ、頼まれたことは成し遂げた、後は好きに行動しろと父も言っておったし、我が友の様子でmーーー?)

「……誰だ?」

 

 

コツン、と足音が聞こえた。感慨に浸っていた彼女は意識が戻されたことに不機嫌になり、いつもより低い声を出した。

 

 

「……」

 

 

しかし、返事の代わりに返ってきたのは銃声と共に飛んできた銃弾。

溜め息を吐きながら彼女は持っていた拳銃を後ろへと放り投げる。すると弾丸の軌道上に飛んでいき、2つはぶつかってあらぬ方向へ弾かれていった。

正直今のは宝物として残しておきたいものだったが父が持っているものなど後からいくらでも拝借すれば良いかと苦渋の決断の上だということは分かって欲しい。

 

 

「……衛宮切嗣か」

 

 

腰を上げ、後ろを向く。すると案の定と言うべきか銃口と一緒にナイフのように鋭い眼差しを向ける衛宮切嗣の姿があった。

 

 

(衛宮切嗣……なるほど、我が父の弟子なだけはある。先程のエセ神父もそうだがこれは骨が折れそうだ)

 

 

そう愚痴りながらも敵の動きを見ようと目を凝らす。

 

くたびれたコートにボサボサの黒髪、そして何かを諦めたのか絶望したのか、死人のような目をこちらを見ていることに苛立ちを感じていた。

自分の友も無表情故か昔あのような目をしていたことを思い出してしまったからである。

 

生まれ故か自身の境遇を嘆き、定められた未来を諦め、悲劇のヒロインのように振舞っていた彼女を思い出したからか?それとも単に彼女と重ねてしまったからか?

 

 

(……いや、今はそんなことは関係ない。今は目の前のことを集中しなくては……)

 

 

意識を切り替えて再び衛宮切嗣に意識を向ける。

こちらを見やる死人のような目が今度は見開いたかのように見える気がして……ん?見開いた?

 

 

「終永時では……ない?」

「なんだと?」

 

 

思いもよらぬ言葉に思わずボロを出してしまった彼女。

それもそのはず、出発前少し前自身の友の助力に寄りどう見ても終永時としか認識出来ぬよう存在を歪めて貰っているのだ。掛けた本人がやられない限り声も姿も終永時として認識するはず……

 

 

(……まさか)

 

 

そこで彼女の頭の中で当たって欲しくない仮説が1つ浮かび上がった。

 

 

(可能性としてはあり得るな。こうなるならガスマスクを外さなければよかったか……いや、どのみち声でバレてしまうか)

 

 

まあバレてしまったのは仕方がない。下手にすれば父の作戦の邪魔になるかもしれない。

 

 

「まあいいーーー」

 

 

友のことは心配だが、その前にやらなくてはならないことが1つ増えた。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーとりあえず死ね」

 

 

 

 

 

 

 

障害は排除する、ということだ。

 

 

 



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色欲、傲慢、怠惰、強欲、破壊



〜変じn……変態魔王による前回のあらすじ〜

「……いやちょっと待って。百歩譲って変人なのは認めるよ。けど、変態だけは断じて認めないよ!?変態なら他にもいるじゃないか!……例えば?ほら、皆は知らないと思うけどレヴィ……レヴィアタンはレズだし。オメガはロリコンだし。他にはマモンとかマモンとかマモンとか……ほら、意外といるでしょ?
えっ?僕……?いやいや、僕は違うよ。僕はただ単に[ピーー]とか[ズキュゥゥン!!]とか[公開してやる……と思っていたのか?]とか言うのとエイジが大好きで、ちょっと変身出来るだけの何の変哲もない、ただの可愛い悪魔だよ分かった?……うん、分かってくれればそれでよろしい。じゃあ、頼まれたお仕事でもしようかな?

さて、前回何をしていたか。……うん、僕が活躍してとてもカッコよかった……以上だね!

……えっ?仕事しろ?活躍なんてしてねえだろ?ルシファー様はどうしたって?そんなのいたっけ?うーん……気のせいだよきっと。うん、きっとそうだよ!
……あっ、そろそろ時間だね。僕も行くべき場所に行かないと……じゃあ、始めるね。



そういや……エイジはちゃんと、帰ってきてくれる……よね?」




 

 

 

バットの小さな手から雨のような拳の猛撃が迫り来る。避ける気力もなく、直撃を免れないアスモは吹き飛ばされまいと髪を自分の前に交差するように重ねて急所に当てまいと防ぐ。

だがアスモもそのまま耐え忍ぶだけで終わるつもりは毛頭なく、残った髪と両手を突き刺そうと振るう。

 

 

「くぅっ……「どこを見ている!」ッ!?」

 

 

しかし、足が速い彼女の前にそんな足掻きなどは当たりはしない。

 

 

「なっ……「遅い!」かはっ……!」

 

 

気づけば、車とぶつかったような鈍い轟音が響き、後ろを振り向いたアスモの腹部にバットの拳が入っていた。

肺にあった酸素は吐き出され、途端に息苦しくなり、酸素不足か意識が朦朧としてきた。

 

 

「……ッ!?」

 

 

しかし、腹部に走った衝撃と痛みにバットは後ろに数歩下がり、目を見開いた。

 

 

「…ま…………だ………だあ!」

 

 

身体の所々に切り傷や打撲痕が痛々しく映り、意識が朦朧としているはずなのに、その目はまだ死んでおらず、寧ろ拳を打ち込んでくる程の気力、消えるどころか灯火を燃え上がらせているような、そんな感じがした。

 

(……これが執念ってやつか。ノット程じゃねえけど…….それでもすげえな)

 

 

気を抜けば思わず後ろへ一歩引いてしまいそうな、そんな気迫だけで圧倒されそうになるのを感じ、流石魔王だとそう賞賛した。そして、それが1人の男の頼みのために必死だということも理解した。

しかしこんなところで怯み、身を引くわけにはいかない。例え知り合いであろうと向こうが譲れないものがあるように自分にも譲れないものというものがあるのだ。

 

 

「おおおおおおおおっ!!」

 

 

腹の底から雄叫びを上げ、不安定な足取りのはずなのにしっかりと地に足をつけ、まだ動く右腕を伸ばしてくる。

それを冷静に見て片手で払って方向をズラす。そして、その払った手を握って殴り抜く。

 

 

「……喰らえっ!」

「!?」

 

 

しかしその前に、アスモの額と左肩辺りから赤黒いビームのようなものが顔めがけて打ち出された。

急だったためか。反応が遅れたが自慢の速さでギリギリ動き、後ろに跳ぶことで何とか避けようと試みる。

だが向こうの方が早かったようでこめかみ辺りを撃ち抜かれる結果となった。

 

 

「……チッ!」

「ぐぅっ……!」

 

 

足元がふらつかせたアスモの頭を鷲掴みし、彼女は止めの一撃を与える。

 

 

「ハァァァッ!」

「あっ………あああああああああああっ!!」

 

 

手から暴風が吹き荒れ、風の刃にアスモは切り裂かれて完全に意識を失った。

 

 

「あ、がっ……!えい、じ………ごめん………」

「……」

 

 

荒れた息を整えながらアスモの意識が完全に失くなったのを確認し、今度こそは終わったかと安堵して頭を持つ手を放した。

ちなみにあれから意識がなくなったと思ったら不意打ち、なんてことが4、5回はあったなと思い出していたがそんなことはもう些細なことである。

 

 

(全く、誰に似たんだか……温存したかったのに最後に思わず本気出しちまったぞ)

 

 

溜め息混じりに呟くと倒れていたアスモを拾い上げ、驚愕した。

 

 

(なっ……!さっきより傷口が広がってやがる!?)

 

 

アスモの怪我の主は打撲痕が多いがその中には槍による裂傷が少なくとも額と左肩の2つが見られた。しかもそれがさっきより酷く裂けていてまるで血管が破裂したかのような状態でだ。つまりこれが意味するのは……

 

 

(こいつ……お得意の変身能力で血液を打ち出したっていうのかよ!?)

 

 

正確にはとある悪の救世主が目からビームもどきを打ち出したように高圧で血管から血液を水圧カッター並みの勢いで排出しただけのことである。

しかし、先述した通りのビームもどきでは眼球が裂けるというリスクがあるようにこの技は眼球ではなく血管に圧をかけるため、血管が破れてしまうという欠点があるようだ。

 

とにかく治療してやらないと死ぬ。そう直感した彼女はすぐに出血を抑えるために応急手当をした。なんとか出血を止め、一安心したところで辺りが歪んだような錯覚が彼女を襲った。

 

 

(ああ、効果が切れたか……ってことは決着がついたのか)

 

 

歪んでいく空間を眺めて彼女はそう思った。

 

 

(……中々凄いよなこれ)

 

 

さっきまで閉じ込められていた空間に素直に感心した。

軽く説明するとこれの効果は至って単純であり、適当な空間に閉じ込めて戦い、決着をつけると元に戻れるという簡単なものである。

 

さて、ここで突然だが少し記憶を遡って欲しい。細かく言えば永時の姿だったアスモと戦う前、この空間のことの説明をした時のことを覚えているだろうか?

あの時永時(アスモ)はそんなことも出来るのかと言ったらまあなと答えた。つまり、何が言いたいのかお分かりだろうか。

 

まあ要するに彼女はこの現象を起こした人物だとははっきりと公言していないということだ。

 

 

(ネバー達を分散させるためにはどうすればいいか迷っていたから相談してみたら二つ返事でこれを貸してくれた訳だが……酒も入ってたし、仲間とは言え迂闊すぎたか?なんか裏がありそうで怖いんだが……)

 

 

本当は街中で強襲し分散。各個撃破の方針だった。そうだったのだが、あまり頭のキレない(悪く言えば脳筋)バットとしては奇策や妥当案などが浮かぶ訳もなくこれでいいのかと悩んで酒を呑んでいたところに都合よく現れた。よくよく考えてみれば怪しさ満載で疑ってくれと言っているようなものだと今頃気づいた。

 

 

(マズイぞこれは……明らかにいつものパターンじゃねえか!?まさか、またなんかされるのか!?……いや、逆にもしかして何もなかったり?)

 

 

そこで彼女は今までのことを思い返してみることにした。

 

 

ある時はケーキを持ってきてくれたので食べると急に頭に猫耳が生えてきて更にそれを写真に撮られ、その後耳をモフられ(ついでに身体も触られ)

 

ある時はプレゼントと称してフリルまみれの黒いドレスを着させられ、その後コスプレ撮影会を強制的にやらされた。(ちなみにネバーは照明、ノットは雑用として強制参加していた。後から聞いたところによると2人とも脅されていたらしい)

 

ある時は突然眠いと言って自分にダイブしてきたので何事かと思いながら受け止めて寝かせてやると不意を突かれてスリーサイズを測られたり(ちなみに手触りで)

 

 

(……碌なことしかねえなオイ!)

 

 

思い返せば思い返す程湯水のように湧き出る酷い思い出の数々。少し前も酒を呑もうしていたところにやってきてセクハラ一歩寸前まであったことを思い出して苛立ちすら感じて身体を震わせていた。

 

 

(あのロリコン野郎……今度は何企んでやがる!?)

 

 

今までの経験上油断させといて何か仕掛けてくるということが当たり前となっていたので今度は何されるんだとビクビクと小動物みたいに震えていた(まあその姿すらも可愛いと言ってそうだが……)

 

 

(まさか……!昔ネバーに聞いた話じゃあスクール水着を着せるとか言ってたらしいが……もしや!?)

 

 

今度は過激なコスプレ撮影会か!?と思考が変な方向へと行っているが残念ながらここにはツッコミ役がいないため、更に変な方向へと1人走りしていく。

 

 

(水着とかねえよな……いや、チリ紙のように常識を捨てた奴のことだ。ありえないことがまずありえないと思っとかねえと……ヌード撮影ってやつは流石にない、よ……な……?)

 

 

どんな感じになるかと考えて……ボフンッと顔を真っ赤にした。

 

 

(いやいやいや、そもそも脱ぐ前提で話が進んでること自体が可笑しくねえか!?いや、けどあいつなら……って何言ったんだよ俺は!?ああ、くそっ!)

 

 

あいつといると調子狂うなぁ!と愚痴りながら近くにある電柱を蹴飛ばしてへし折ってしまい、それにより昂ぶっていた感情が段々と冷めていき、落ち着いたところで元へと戻ろうと変わっていく空間を眺め……

 

 

「……えっ?」

 

 

まるで時が止まったかのような、そんな錯覚を感じた。

 

 

「なんだよ……これ……」

 

 

原因は彼女の見えた光景。さっきまで協力していたマスターと一同とその相手である永時のお仲間一同。彼女らの内の数人が地に伏している光景が彼女の視界に捉えたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ………ようやく、終わりましたわね……」

「そうだねぇ……疲れちゃったよ〜」

 

 

荒れた息を整えようと必死なマモンと疲れたと言いながらいつもの間にか取り出したベットでおやすみタイムに入ろうとしているベルフェの2人は敵対者であるルシファーに視線を向ける。

 

 

「ぐっ……おのれぇ……!」

 

 

それもそうだろう。何故なら2人がかりで矢だらけ弾痕だらけにされてもなお立ち上がる気力(根性)が残っているからである。

 

 

「いくら、プライドのためとは言え……ここまでのものなのです、か?」

「確かに凄いよね〜。下手したら永くん並みかな〜?」

 

 

布団から手を出し、軽く指を振ると立ち上がろうとするルシファーの背後に銃器が顔を出し、一斉に送射を始めた。

 

 

「ーーーー!?ーーーーーー!?」

「ん?そうでしょうか?確かに永時様は頑丈とは思いますが……それは心も、ではないでしょうか?」

「心、ねえ……」

 

 

感心したのか、ベットから出て行ってテーブルと紅茶用の器具などの一式を取り出し、ルシファーの声にならない叫びをBGMにして話を始め出した。

 

 

「科学者としては興味深い内容でしたか?」

「まあね……」

「病も気からというように心持ち次第で人間はその真価を発揮するようです。心と身体は密接な関係でもあると友人の書物で読んだことがありますわ」

「うーん……そんなの科学的じゃないよ」

「そうは仰いますがね。魔術や奇跡の力や精神の具体化などと言ったものもありますし今後の研究の参考にしてはいかがでしょうか?他にも……いえ、また今度の機会にお話ししましょう」

「どうしたの?」

 

 

急に話を切り出し、何事かと思うベルフェ。対してマモンはというとチラリと視線を別の方へ向けるので釣られてそちらを見やるとさっきまで違和感のあった空間が何事もなかったかのように元の冬木の夜の街へと戻っていた。

 

 

「あれぇ?戻ったの?」

「……恐らくですが術者であるルシファーが倒れたからでしょうか?」

 

 

そしてまたチラリとルシファーが完全に動かなくなったのを一瞥して確認し、とりあえず現状把握として辺りを見渡すとある2人がマモンの視界に入った。

 

 

「あら?あれは確か……ネルネr「ニ・ル・マ・ルです!」……ご、ご冗談でしてよ?」

 

 

いつも眠そうにしているベルフェの半目がパッチリと開かれる程の物凄い剣幕でマモンの間近に現れたニル。

さっきまで気づかなかった癖に名前間違いには鋭いのですねと苦笑いする。どうやらマモンの視界に入った2人とはニルマルとシーのようだ。

 

 

「あれぇ?2人がいるってことは〜?」

『なんとか勝った。というより、なんでティータイム?』

 

 

何故か戦友のように肩を貸しているニルに疑問を持ったベルフェだがまあなんやかんや言ってあのお人好し(永くん)の弟子なのだ。どうせ仲間意識とか勝手に感じて今に至っているのだろうと自己解決させた。

 

 

「まあそこはお気になさらず……ところで、相手方は?」

「えっと……そこに伸びていると思いますが……」

 

 

ニルが見やる方向へチラリと視線を向けるマモンとベルフェ。そこにはどこかで見覚えのある顔の人物が麻縄で縛られ、心なしか息が荒れているような気がするが今はそんなことはどうでも良いのだ。

 

 

「あら?確か彼女は……絶望痴女、でしたか?」

 

 

本当は淑女とかそんなのが付くところだが残念ながらそれを指摘する気があるものはいないどころか否定すべき本人が気絶しているため、その間違いに気づくのは先の話となるだろう。

 

 

「そう言えば師匠はどこに?」

「分かりません。もしかすれば苦戦されているかもしれませんね……」

「見に行く〜?」

「……いえ、永時様のことです。爆破されても何事もなく帰ってきていますから大丈夫でしょう」

 

 

永時は昔から魔王やらオメガやらノットやらエンド・コールなどの人外共にボコられて耐久値だけが異常な程上がり、核弾頭並みの攻撃を受けて普通に生きている生命力を見てきたマモンだからこそ、そう判断したのである。というよりはもはや悟ったとも言えよう。

 

もし永時がこれを聞いていたらその信頼性に喜ぶべきかそれともそんな評価が下されていることに苦笑すべきか迷っていたことだろう。

 

 

『えっ?なにその妙な信頼性……』

「まあ貴女も見れば嫌でも理解しますよ……ん?」

 

 

和やかな雰囲気から一変、急に緊張感のある引き締めた表情へと変えるニル。それに影響されてか先程までの和やかな雰囲気は胡散し、緊張感が漂うようになった。

 

 

「どうしたの〜?」

「いえ……何か聞こえませんか?」

「……あっ、確かに聞こえますわね」

 

 

言われてみて気づいたのだが、何かよく分からないが何かの音が確かにマモンの耳に入ってきた。

 

 

「確かに聞こえますわね。何か、聞き覚えのあるようなないような特徴的な音が……どこで聞いたのでしょうか?」

『書いて表現するなら……』

 

 

口でペンを加え、器用に紙に表現しようとしたシー。しかしその手はすぐに止めることとなる。

 

 

「ふぁぁぁ、眠いnーーー」

「……!?」

 

 

一瞬間違いかと思った。

さっきまで話していたベルフェゴール。怠惰とはいえ、魔王である彼女。そんな彼女が視界から突如消えたからだ。

 

 

「ッ!ベルフェゴール!?」

 

 

突然消えたことに驚愕を隠せない顔を見せ、辺りを見やるマモン。そして、彼女はそれを見た。いや、見てしまった。

 

 

「……」

 

 

ベルフェゴールらしき人物が筋肉ダルマとも例えれるような屈強な男によって近くのビルに叩きつけられてクレーターをも作っている光景を目にしたからだ。

 

 

「あ、あれは……確かオメガが抑えていたはずでは……?」

 

 

次に耳にしたのは隠蔽なんぞ糞食らえとでも言いたいように遅れて聞こえてくるビル崩壊の轟音。そして、嫌でも耳に入った。特徴的なあの音が。

 

 

ギュピッギュピッギュピッ

 

 

「ほう、まだ虫ケラが残っていたのか」

「「「!?」」」

 

 

マモンにとって聞き覚えのある。なおかつ危機感すらも覚える足音が夜の街に響く。

それに伴い、敵対したくない程の圧倒的な重圧と関わりを持ちたくない程の濃厚な殺意と悪意が嫌でも感じ取られた。

 

 

「まあいい。どうせ破壊すればいいだけのこと」

「くっ……!」

「ほう……この俺を前にして戦う意思を見せるとはな」

 

 

戦闘態勢に入ったマモンを見て喜びを見せる相手。正直なところマモンとしては逃げたかった。しかし、現状としては逃げることは難しかったからである。

 

まず、足止めをしているはずのオメガがここにいない。つまりはやられたと考えたほうが良いだろう。これで今現状的に奴に単体で対抗できる戦力がなくなったこと。

次に能力的に逃走に向いているベルフェがやられてしまったのがかなり痛いところである。

次に他の人物。恐らく逃げようにもニルとシーは怪我をしている状況。まともに戦うどころか逃げることすらままならない。更に戦力となりそうなルシファーと絶望淑女は気絶中のため使い物にならない。

 

 

だから彼女は決断する。

 

 

「ニルさん、シーちゃんさん。まだ戦えますか?」

「ええ、サーヴァント戦はキツイですが一応出来ますよ」

『私もまだやれる』

 

 

ニルに肩を借りるのをやめ、ふらつきながらもなんとか立つシーと既に戦闘態勢に入ったニル。それを見て相手はニタリと笑った。

 

 

「フフフッ、正直なところ無視していきたいところだが、邪魔するとなれば仕方がない」

「……あら?ならば無視してくださって構いませんわよ?」

「減らず口を叩くのはやめておけ。どうせ俺が後ろを向いたら不意打ちをしてくるか後々邪魔をするのだろう?ならば今ここで潰してしまえばいい」

「へえ、貴方(脳筋)にしては利口な考えですわね」

「フン、俺はあいつ(ブロリー)のようにただ破壊するだけの馬鹿じゃない。俺は俺の自己満足のために行動する。ただそれだけだ」

「自己満足、ですか……それが、大切な人を破壊する結果としてもですか?」

「っ……どうやら死にたいようだな」

「あらあら、お手柔らかにお願いしますね?(彼に殴られたら一体どんな快r……快楽が得られるのでしょうか……ジュルリ。あら?涎が……)」

「……フン、安心しろ。今楽にしてやる!!」

 

 

こうして、悪魔と悪魔が激突し、冒頭部分へと戻る。

 

 

ちなみにだが、この戦闘で1人だけ歓喜の混じった声があったとのこと。どうか気のせいであって欲しいと思いたいところである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ククッ……ハハハ………ハハハハハハハハハハハハ!!」

『なんだ貴様?偉く嬉しそうだな』

「それもそうだ。条件は全て揃った!……後は上手く事が進めば全てが終わる!そうすれば……そう、何もかも終わるのだ!こんなにも嬉しいことはないぞ!」

『フン、そんな回りくどいことをせずとも、全てを破壊し尽くせばいいだろう?俺ならそうするが?』

「確かにそうだが……正直に言えばこの辺りを破壊し尽くせばすぐに終わる訳だが、それはそれで問題だ」

『……?何故だ?』

「……奴が怒るからだ」

『……なんだと?寧ろ好都合ではないか?』

「いや、確かに目的はあくまで奴だけだが……逆に貴様に問うが、ある1人を目標とする場合。そいつをより殺りやすいようにするにはどうすればいいと思う?」

『……全てを破壊すれば自ずと当たるだろ?』

「チッ……これだから貴様は何度も敗北するのだ。学習しないなら貴様は一生勝てんぞ?」

『……なんだと?』

「(自分もそれで一度負けたから学習したというのに貴様は……)」

『……?何か言ったか?』

「何も言っとらん……とにかくだ。何故かと言えば答えは1つ。奴の周り、つまりは仲間の有無だ」

『仲間、だと……?』

「そうだ、貴様も経験があるだろう?まるで群がる蜂の如く、奴らが集ってくるのだぞ?無差別な破壊なぞしてみろ。それこそただでさえ鬱陶しいものが増えて面倒になってくるのは目に見えるだろう?」

『……ああ』

「だから賭けてみたのだ。世界の悪平等さ(バランス)にな」

『そして、その賭けに勝ったと?』

「ああ、その通りだ……まさかこんなに早く来るとは思わなかったがな」

『……』

「安心しろ。上手くいけば残りは貴様に譲るつもりだ。そう、上手くいけばな?……フフフッ、精々上手くことが進むよう祈っておくがいい」

『……チッ』

(最初喚ばれた時は驚いたものだが今となっては驚愕より歓喜の方が勝っているのが現状よ……さて、今思う鬱陶しいものは3つ。とは言っても最後の1つ以外は奴がやってくれるはず。なんだかんだとあのガキのためにとか言ってやってくれるはずだ。私としては3つ目もやって欲しいものだが……やってくれる保証は限りなく0に近いか。仕方ない、別の手段を講じるか)

「私と再び相見えた際、奴は一体どんな顔をするんだろうなぁ?」

『……フン、下らん』

(……ああ、愛しき我が宿敵よ。今宵も私と踊ってくれることを切に願うぞ)

 

 



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集いし猛者共


〜姐さんが送る前回のあらすじ〜


「ヤッホーお前ら!遂に……遂に、このバット・エンドちゃんが出張してきたぜ!……まあそんな事どうでもいいか。ちゃっちゃと仕事させてもらうぜ。


前回!見事アスモの奴を倒した俺!……まあ見事に騙されちまってホイホイされちまった訳だが、とりあえずネバーの奴は別の場所にいるってことは分かった!……けど一体どこにいるんだ?

そして遂にあの男、伝説の悪魔を持つノットの奴が動き出しやがった!

……あいつは何考えてるかは知らねえけどさ。この辺りを破壊するつもりなら止めねぇといけねえよな……っと、そんな訳であらすじ終わり!以上解散!




……そういや、多分ネバーとかオメガとかノットのこと殺すつもりでいるけどさ……本当にこれでいいのか?それとも、単に俺が甘いだけなのかな?」








 

 

 

 

 

ーーーやあ、今日はとてもいい天気だと思わないかい?

 

 

ーーーああ、そうだな……。神々の黄昏(ラグナロク)に相応しい。美しい黄昏時だとは思う。

 

 

ーーーへえ……君、名前は何ていうんだい?

 

 

ーーー人に名乗らせるのならまずは自分から、そう聞いたことはないか?

 

 

ーーーおっと、こりゃ失礼。僕の名前はオメガ。ただ普通の人よりちょっぴり強いだけの、ただの人間さ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光に当たる人々は寝静まり、闇夜に紛れる人々が活動する冬木の街。

そこを物凄い速さで通り過ぎる一本の大木。その上にオメガは立っていた。

 

 

「……」

 

 

お前は桃○白かとツッコミたいところだが別世界(他作品)の真似事をするのは彼の特徴の1つでもあるのでそこは目を瞑って頂きたい。

 

しかしそんなことも気にせず、彼の頭は全く別のことを気にしていた。

 

 

(さっきの気配……確かにだが俺の感覚が何かを捉えた。しかもそれは見覚えがあるときた。何だろうねこれは……例えるなら某奇妙な冒険における悪のカリスマと星型のアザを持つ一族のように。某世紀末の世界における世紀末覇者と世紀末救世主のように。まるで壊し、壊し合う……いや、殺し、殺し合う関係と言うべきか。そんな風に感じとれるが……まさかね)

 

 

杞憂であれば良いものだと不信感を漂わせながら彼は街を進んでいく。

 

 

「おや……?」

 

 

しかしその道中で彼はあるものが目に入った。

 

 

「姐さんじゃないか。どうしたんだい?」

 

 

自身のお気に入りの幼女の姿を捉えたオメガは飛行中の大木の上から跳び降り、彼女の真横へと着地した。ちなみにだが大木はそのままのベクトルで進み続けたままの状態、つまり放置である。

 

 

「あっ……オメガか……」

「ん……?」

 

 

それなりの付き合い故かいつもより声のトーンの低さに気づいたオメガ。見れば彼女の手元には傷だらけのドM魔王や知り合いの弟子、挙句の果てには知り合いの娘までが地面に転がるように横たわっているのだ。いつもならば「姐さん!俺だ!愛でさせてくれ!」など言うのだが、彼女が仲間思いと知っているならばその心情を察することは容易でありそれと同時に空気を読むことも簡単なことであった。

 

 

「これは酷い。また随分と派手にやられたもんだ」

 

 

介抱している彼女の側に寄ってそう声をかけるオメガ。見れば分かるが、とりあえず話を理解するために敢えて現状を聞くことにした。

 

 

「で、誰にやられたんだい?」

「それが……俺にも分からねえんだよ。戻ってきたらこうなっててよ……」

「分からない、ねえ……」

 

 

そう呟いてジッと辺りの観察を始めるオメガ。

 

疲弊しているのか、いつもよりか細くなっている姐さんとその横脇にある熱を帯びたように存在を揺らめかす槍。何かの衝撃で壊れたビル。何かが落ちたのか陥没してクレーターのようになっている道路の一部。そして、死屍累々と例えれるように転がっている人物達に見える打撲痕のような痣。これだけのことが出来るものは現状的に限られてくるということだ。

 

 

「(打撲痕から見て敵は肉弾戦特化。アーチャーは宝具に頼ってるからなし、てか寧ろ肉弾戦なら負けそう。セイバーも剣使うからなし。バーサーカーは必ず得物を持ってるからなし。ネバーなら出来るがわざわざ戦力を減らすようなことをするわけないのでなし。姐さんは……言う必要もないか。つまり、あと残るのは……俺とノットだけになるかな……)」

 

 

この状況を見て彼女はどう判断するのか。楽しみであると同時に少し怖くも感じていた。

 

 

(怖い?つまりは恐怖を感じたということか?ある帝王曰く、「恐怖を持たぬ者こそが世界の頂点に立つ者」だったか?なんかそんな風なことを聞いたことがあるけど……まさか、嫌われることに恐怖を感じている?……んなアホなことあるかぁ?)

 

 

最初こそ否定はしていたものの、考えを変えたのか。いや、あるかもしれない。と彼は自己肯定した。

 

 

(少なくとも姐さんとはそれなりの付き合いとも言える。その間に情が移ったかもしれない。それならばこの恐怖が生まれたのも納得がいく)

 

 

つまりは彼女に嫌われたくない。そういうことなのかもしれない、そう自己解釈した。

そして同時に彼はあることに気づく。いや、気づいてしまって動揺する。具体的には一人称が変わる程。

 

 

(……あれ?もしかして私ってロリコン?)

 

 

もし、これがネバーの耳に入っていたらこう答えていたはずだ。

 

何を今更言ってんだアイツ?と。

 

本人曰く子供好きな性格の影響によるもの(?)というよりその延長(?)らしい。

 

 

(……んな訳ないなうん。きっと気のせいだな。うん、きっと気のせいだ。読者の皆もきっとそう思ってるはずだよね)

 

 

そしてこの男、まさかここに及んでとぼけ出したのである。しかしここには真剣に介抱しているバット1人のみ、読心能力がない彼女に分かるはずもなく残念ながらここにはツッコミは1人もいなかった。

まあ本人がその事実を知るのはもっと先のことになるかもしれない。

 

今やその事実を知るのは今は観測者(読者)創造主(作者)だけ知る得ることである。

 

 

「……あっ、俺がやるよ」

 

 

1人シリアスならぬシリアルになっていた気分を切り替えるため、彼女の介抱の手助けをすることにした。

 

突然の手助けに動揺するバット。どうやら声を掛けられたことにではなく、別のことに動揺しているようである。

 

 

「えっ?いや、けどよ……」

「あー……そういうこと。大丈夫ですよ。別に対価とか取りませんので」

 

 

ほいっとなと気の抜けるような掛け声と共に指を鳴らす。すると見る見るうちに皆の傷は塞がっていき、やがて痣などがない健康的な身体へと変貌を遂げた。

 

 

「……相変わらず凄えな」

「……そうかい?」

 

 

そんな感嘆な声にオメガはドヤ顔をするはずだっただがそれを止め、ゆらりと笑ったまま視線を彼女へと向ける。

背中しか見えないがその背には哀愁のようなものを漂わせており、オメガは少し心配になって彼女には悪いが自分のスキルを使用してその心境を覗かせてもらうことにした。

 

 

(……なるほどねぇ)

 

 

戦うしか能のない自分が恨めしい。簡略化させるとそのようなに語っている心に彼はなんとも言えない気持ちになった。

 

 

(いくら彼女に教えて貰えたとはいえ、姐さんには回復魔法の才はなく、出来ても1時間に1、2回かそこら治すのが限度だった。ただそれだけのことだし、どうしようもないことなんだけど……仲間思いってやつも大変なこった)

 

 

今は亡きお仲間であり、知り合いの異常者の友人である彼女を頭に思い出しながら小さく溜め息を吐いた。

 

しかし自分は気まぐれな狂楽者。名の通り自分が面白いと思うことだけをするだけが生き甲斐であり、だからわざわざ面倒で面白みもない励ましや慰めなんぞするはずもなく。

 

 

「……まああれだよ。適材適所って言葉があってさ。確かに姐さんは身体の回復役は出来ないかもしれない。けど、人に降りかかる火の粉を払うぐらいのことは出来るんじゃないかい?」

「……そいつは慰めのつもりか?」

「さあね?ただあれだよ。ウジウジすんなって言いたいんだよ」

「ウジウジするな、ねえ。けどよぉ……」

「はいはい、ネガティヴになるのはやめましょうね〜」

 

 

このままでは埒があかないと感じたオメガはウジウジする彼女の額にデコピンをした。

 

 

 

「痛っ!……何すんだよ?」

「あのねぇ、俺が言うのもなんだけどさ。後悔する暇があるなら先のことを考えたらどうだい?大事なのはこれまでどうしたかじゃなくてこれからどうするかだと思うんだけど?」

「……そんなもんか?」

「そんなもんだよ人間ってのは。人間は過去にしがみつく生き物じゃなくて未来に生きる存在らしいからね」

「ふーん……」

 

 

何か思いつめたように考え込むバットを見てこりゃあ長くなりそうだと感じ、

 

 

「さて、治療もしましたし、しょげる姐さんもまた可愛いってことで撮影もしたし。先に行かせてもらうよ?」

「……あ、ああ行ってこ……っておい!?今撮影って言ってなかったか!?」

「んじゃ、よろしくね〜!」

「ちょっ、待っtーーー」

 

 

言いたいことだけ言って、バットの静止の呼びかけにも耳を傾けず、彼は姿を消した。残されたバットとしてはポカーンと暫く惚けていた。

 

 

「……ったく。言いたいことだけ言いやがって」

 

 

ハッと気がつき、そう悪態を吐きながら彼女は介抱している手を再び動かし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……これでいい。やっぱりあいつをこっちの方角にわざと逃がして正解だったか。元々逃すつもりだったけど、何かの気配を感じれたことで自然に事を進めれた。……最初、王様をあそこに誘き寄せてくれと頼まれた時はどうしようかと考えたが……上手くいってなにより。予定通りあいつは魔王たちをボコってくれて姐さんは介抱でしばらくあそこに留まるはず。ならば今の内にあいつを潰して、危険性のあるものでも潰しますかね……全く、僕も甘くなったもんだ)

(しかし、気になるのはセイバーちゃん。姐さんの口振りと様子から推測するに彼女はあの場にはいなかった。つまりそれを意味することは……なるほど、予定より早く向かったか……まあ問題ない。邪魔になるなら排除すればいいしね。マスター諸共、だけどね……ああ、面白い。今この状況が面白くて仕方がない。それで彼女が来てくれれば、尚のことなんだけどねぇ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」

「ッ!?」

 

 

そして、そのセイバーは言うと誰よりも早く決着をつけていたのである。

 

 

「なっ……!?」

 

 

セイバーの持つ聖剣による突きが敵であるランスロットの胸を貫く結果となったがその結果にセイバー自身が驚いていた。

それもそのはず、セイバー……アルトリア・ペンドラゴンにとってランスロットという騎士は円卓最強の騎士。その言葉が伊達とは口が裂けても言えないぐらいの実力者。そういう男であるはずだったからだ。

 

補正により狂ってもなお衰えを見せぬ卓越した剣技。更にそれを補うかのように併せ持つ無窮の武練。

 

手合わせならば勝利を挙げたことはあった。しかし闘争。勝者が生き、敗者は死ぬ。そんな本当の殺し合いに発展したことはなく、推測の域でしかないが恐らく負けてしまうであろうと考えていた。

 

理由はそれだけではない。彼が持つ得物も結論を出した要因でもあった。

 

 

無毀なる湖光(アロンダイト)

 

 

魔剣と化してしまってなお、その美しさは衰えを見せぬランスロットの愛剣。

竜退治の逸話を持つため、竜を持つものにとっては相性の悪い剣であることは確かで竜の因子を持つセイバーにとって勝ち星を挙げること自体無理かもしれないと頭の片隅に思っていた程。

 

 

「ラン…スロット……?」

 

 

だが現実はどうだ?一瞬電池の切れたロボットのように動きを止めたその一瞬をついて私は何をした?そう、突きを放ったはずだ。

ではその突きはどうなった?今目の前にいる湖の騎士の胸にしかと刺さっているのが見える。

何故あんな隙を見せたこと、更に致命の一撃が呆気なく入ったことにより驚愕と疑問が彼女の思考を巡らす。彼との戦闘にそのような兆候などがあったのだろうか。いや、殆ど自分に対し憤怒と殺意を向けてきたことしか覚えがなかった。

 

そして、彼女はそれにより別のことを考え始めた。

 

 

(……ああ、ランスロット。そもそも貴方がこうして狂い、剣を向けるということはそれだけ私のことが憎いのですね)

 

 

そう推測するセイバーだが実際はその彼女に裁いて貰うために襲ったのだがそれをセイバーが知る術はない。

 

 

(ですがランスロット。この度貴公と剣を交えて分かったことがある……やはり私は祖国を救いたいと)

 

 

彼と話して考えていたがやはり個人的にあの国はやり直すべきだと考えた。例えどんな結果がなろうと民や円卓の騎士に否定されようとも、何もせずに嘆くよりはとりあえずやってみる価値はあるはずだと結論付けた。

 

 

(……ああそうだ。これは私のただの我欲、子供のような我儘に過ぎない。周りのことを考えず独断と偏見でやろうとするのは暴君と変わらないと言われましたがそれでも……アーサー王としてではなく、アルトリア・ペンドラゴンという1人の人として、国を救いたいのだ。だからこそーーー)

 

 

足の力が抜けてきたのかバランスを崩し、こちらにもたれかかり剣が深く食い込むランスロットの耳元で彼女は自身の思いを吐露する。

 

 

「ーーー聖杯は、私が貰う……!!」

 

 

そう吐き出した瞬間少し気持ちが楽になったような気がした。まるでのしかかった重石を下ろしたようなそんな軽量感が。

 

ああ、気持ちを吐き出すのはこんなにも心地良かったものなのか。

 

少し憑き物が取れたような顔色になるセイバーを僅かに残る視力で見ていたランスロットは苦笑気味に呟いた。

 

 

「ふふ……まだ、そんなことにこだわっていたの……ですか……全く、貴方というお方はーーー」

 

 

そこで彼の言葉は途切れた。いや、正確には身体を構成していたものが粒子となって崩れ、最後の言葉を言い切る前に宙へと胡散したからだ。

 

 

「……それが、今私が願う唯一の望み(我儘)だからだ」

 

 

消えていくランスロットを“片方が濁った金に染まった”目で見やると彼女は辺りを燃やす炎と同じように揺らめく世界を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(今のところは、大体……予定通り、か……)

 

 

ある場所にて本物のネバーは物陰に身を潜め、出来るだけ音を立てぬよう自身の武装の最終確認をしながら、事前に送り込んだ使い魔を経由して状況も確認していた。

 

 

(……ふん、あのロリコン野郎め。一応念を押して殺しておけと言っておいたのに逃すとは……どうせ奴のことだ『いつ殺せとか言ってないでしょ?』とか言うんだろうな……まあ敢えて言わなかったが……)

 

 

そう言って次の武装を手に取って……視界がブレた。

 

 

「ッ!?」

 

 

原因は突然の頭痛と若干の吐き気。ただ痛いのではなく、まるで頭が溶けていくような、そんな錯覚を感じさせられるような痛みであった。更にその痛みによる影響か、手の力が一瞬弱まって危うく銃を落としかけた。

 

 

(チッ……!予想より進行が酷くなってきている。つまりは近づいたということか)

 

 

何が近づいたのかは分からないが、現時点で言えることは彼に何らかの異常が起きているということである。

 

 

「(……クソが)」

 

 

小さく悪態を吐き、痛みになんとか耐えながらも物陰から辺りを見渡す。

 

 

(目標は大体50メートル。側に敵が1人。言峰綺礼がいないところを見ると……リヴァイアサンの奴が上手くやってくれているようだな)

 

 

彼の視線が捉えたのは金色に輝く、まさに万能の釜や願望機の名に相応しい杯、聖杯。しかし、そこから溢れ出ているのは見ただけでヤバいと身体が警鐘を鳴らす程黒い泥のようなものである。

そして、その側で仁王立ちする聖杯に負けず劣らずの輝きを見せる男。アーチャーこと最古の王、ギルガメッシュである。

 

 

(さて……どうしてあの男があんなのを守るように立っているかは知らんが……オメガ然り、姐さん然り、ノット然り、長生きしている奴の考えは理解できんが……どうせその類なんだろうな)

 

 

正直なところ正面から行けば勝算はあるにはある。しかし、接近戦を重とするセイバーなら搦め手を使えばどうにかなる。だが相手はアーチャー、銃弾よりも早く飛ばしてくる武具の雨を掻い潜ってどうにかするのは至難の技である。そんなことをしそうなのは速さ自慢を持つ姐さん。ノットなら構わず直感で避けて、そのまま突っ込む。オメガならそもそも打ち込む前に懐に踏み込んで殴り抜くか漫画を読みながら人混みの人を避けていくように武具の雨を避けていくだろう。

 

 

(……こう考えるとやはり俺はつくづく弱者であることを思い知らされるな)

 

 

そう考えるとまともに避けることが出来ない、自称悪らしく姑息で泥臭い方法でしか取れず、勝つことが難しい自分が恨めしく思ってしまった。

正直なところ、他の3人が逸脱しているだけなのは頭では理解しているつもりだった。しかし、本心はそうはいかないようだ。

 

 

(フッ……かつての部下やあいつ(セイバー)の影響でも受けたか?)

 

 

言うなればそれは正面から正々堂々と戦って勝ってみたいという欲求。騎士道精神に近い何かのようだった。

 

 

(……くだらん事を考えるもんだな)

 

 

しかし、彼は自称とは言え悪をかざす者。勝つためなら手段を選ばず、まるで作業のように戦う。

 

どんな手を使おうが勝てばいい。それがネバーという男の戦い方なのだ。

 

 

(……さて、そろそろか)

 

 

だからこそ彼は屑と言われようと利用できるものならどんなものでも利用する。

 

 

「……何?」

 

 

大きな地響きと共に天井が崩れ、砂埃が舞う中、1つの大きな影が轟音を立てて落ちてくる。

 

 

「ネバーは……どこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「貴様……無個性!?」

 

 

ーーー例えそれが、かつての仲間であろうと使えるものは利用する。それが永時という男だから。

 

 

「……フン、まあいい。丁度暇を持て余していたところよ。セイバーと対峙する前の余興にはなるか……」

「何だtーーークソッ!あの野郎……!」

 

 

“都合よく”現れたビギナーにやる気のある視線を向けたアーチャー。そして、背後からの視線に気づいてしてやられたという表情を見せるビギナーだが今頃気づいてももう遅い。

 

 

「フッ」

「クソがァッ!」

 

 

自身の背後に黄金に波紋を広げるアーチャーに背を向けているのは危険と判断し、後ろに向いて対峙する。

正直に言えば逃亡は可能だった。しかしそう出来ない理由がある。いや、出来てしまった。

 

 

(……何故アイリスフィールがここにいる!?)

 

 

対峙するアーチャー。その後ろに見える黄金に輝く聖杯のようなもの。それから何故かアイリスフィールらしき気配を感じ取ってしまったからだ。

すぐに確認したい気持ちではあるが目の前のアーチャーが邪魔で仕方なく対峙しているだけなのである。

 

 

「フン、まあいい……誰だろうが、お前たちがこの俺の邪魔をするのなら関係ない……」

 

 

アーチャーはやる気を感じ取ったのか、背後の波紋から武具の射出を始め、それをビギナーはオメガの時に使ったバリアを張って飛来してきた宝具をいとも容易く弾きとばした。

容易く弾かれたことに目を見開くアーチャー。そして視界に捉えていたはずのビギナーが気づけば顔に肉薄するほど接近し。

 

 

「俺はただ悪魔(ブロリー)として破壊し尽くすだけだぁっ!」

 

 

対応させる暇を与えず、その胴に緑弾が叩きつけられた。

 

 

(クカカ……流石ノットだ。予想通りに動いてくれたな……動くか)

 

 

だがこれも永時の企みだと理解してなお、戦うことを彼は選んだ。

 

 

(まあ精々頑張ってくれノット。俺はその間を利用させてもらうがな……アーチャーまだ生きていたのか)

 

 

憤怒を纏って立ち上がってきたアーチャーに対して生きていることに驚愕しながらも暴れだした2人に気をつけながら彼は移動を開始する。

 

 

「ッ!?」

 

 

パッと姿を消して出来るだけ死角になる場所に出現してまた消えるを繰り返して聖杯へと近づく永時。しかし限界というものがあり、バレないと思われるその移動にアーチャーはその卓越した感覚と視界により気づいてしまった。

 

 

「ッ!?貴様ーーーッ!?」

 

 

突然の出現に驚愕しつつも葬ろうと武具の矛先をそちらに向ける。しかし、目の前のビギナーはまだ気づいておらず攻撃しようとも分裂した小さい緑弾によって射出前に潰されてしまい。

 

 

「!?」

 

 

幸いというかべきなのか本人の被害はなかったもののが爆発により舞う砂塵によって肝心の永時を見失い。

 

 

(じゃあ、後は2人で頑張っておけ)

 

 

見事聖杯に辿りついた永時は泥らしきものによって穢れていく聖杯に直接触れる。

 

 

「ッ!?へぇ……こいつはーーー」

 

 

すると泥が口のように形取り、永時を喰らうかのように飲み込んだ。音もなく飲まれ、残ったのはアーチャーとビギナーの戦闘による轟音のみが響くのであった。

 

しかし誰もが気づかなかった事実が1つ。

 

飲まれる瞬間の彼の顔が悪どい笑みを浮かんでいることに。恐らく誰も、本人でさえも気づいてはいないだろう事実に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ようこそ、悪を名乗る我が同志(愚者)よ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつての知り合いをこの手に掛けたセイバーは警戒を怠ることなく公民館内部を進んでいく。しかしその内心は焦っていた。

 

先程まで感覚的に感じ取れていた永時の気配が公民館辺りで消えたからである。

いくら1人で何とかできてもこの身はサーヴァント。肝心のマスターがいなくては彼女はすぐに消えてしまうそんな存在だからだ。

 

 

(エイジ……一体どこへ?)

 

 

奥へと足を進めるがその足取りは少しずつだが遅くなっていく。何故だと言えば進めば進むほど、帰れと生存本能と直感が警鐘を鳴らし続けていたからだ。

しかしそれと同時に彼女の直感は永時の行方がこの先だと語っている。何もしないよりはマシだと彼女は足を止めず前へ前へと歩みを続ける。

 

そして、最奥らしき広がった空間へと足を踏み入れ、驚愕した。

 

 

「ほう、また虫ケラが1匹死にに来たか……」

「ビギナー!?」

 

 

すぐに視界に入ったビギナー。何故髪色が緑色になっているかは疑問だが、そんなことよりその彼の大きな手の中には赤黒い染みを付けた黄金の鎧だった何かを纏い、顔を掴まれて宙へと上げられているアーチャーの姿があったことに驚愕した。

しかしビギナーはそんなことなぞ気にすることなく何故彼女がここへと来たのか大体予想は出来るが一応問うてみることにした。

 

 

「……貴様も聖杯を狙うのかぁ?」

「そうだと言ったら?」

 

 

はっきりと答えたセイバーは剣を構え、戦う意思を見せる。するとビギナーはニタリと悪魔のような笑みを見せ、アーチャーを横へと乱雑に放り投げる。だがそれはすぐさま無表情へと切り替わり、聖杯の前へとそり立つ壁の如くセイバーの前へと立ちはだかる。

 

 

「……フン、まだ祖国のやり直しなぞにこだわるのか?」

「そうだ……だからそこを退け、ビギナー!」

「くだらん妄言を!これだから正義面する(クズ)は嫌いなんだ!」

「違う!これは私個人の願望(我欲)だ。正義などではない!」

「……まあいい。どの道この金ピカのように血祭りに、いや……跡形もなく破壊してやるだけだぁっ!!」

「くっ……!ならば、押し通すまで!」

 

 

話にならない。そう判断したセイバーは構えのままビギナーへと詰め寄り、ビギナーは緑弾を手に持って相対する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーこれで、殆どの猛者達が集うことになるが……もしかしたら、終幕の時はそう遠くないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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衛宮切嗣


〜嫉妬娘によるあらすじ〜

「よく来てくれた、感謝する。
では、早速だが仕事をさせてもらうとしよう。


前回、我がサーヴァントは自分の女に会いに行き落ち込む女を慰め、自身のやるべきことを再確認。
騎士王は部下を手にかけ自分の意思を吐露し、聖杯を得るために前へと進む。
そしてビギナーの奴は我が父の罠にかかってアーチャーを潰し、出会わせたセイバーと連戦。
我が父は……何をしてるんだ?分からんからなんとも言えんのが現状か……まあこのくらいでいいだろう。


うむ……娘とは言え、我が父の考えが理解できぬのは辛いものだな。しかし友曰く、親の心子知らずという言葉があるらしいからそういうものなのかもしれん。
そこで、今思いついたのだが……これが終わったら、甘えさせてくれと頼んでみようかと思う……誰にも言うなよ?わ、私だって子どもなのだ!そういう時もあるということだ。(まあ元々、聖杯にそう願うつもりだったが……)

では、じっくり見ていくがいい。特に、父の勇姿を、その目に焼き付けるぐらいにな。

とは言っても、どうやら今回はその元弟子?がメインらしいがな」





 

 

ーーー終永時にとって、衛宮切嗣という男は面白い男だった。

 

自身の思う正義を貫くため魔術すらも道具の1つと思い、彼の師事も強さを得るための手段の1つとして見ており、そこには師としての尊敬などは毛頭なかった。

だが彼はどんどん自身の技術を学んでいったのは確かで、そこは素晴らしいの一言に尽き、かつて部隊の育成などをしていた時代を思い出し、楽しんでいたのは秘密である。

 

しかし彼にはどこか危うさというものがあった感じはした。目的のためなら手段を選ばない。まさに数少ない自分との共通部分であった。それ故に自分は危なさを感じていた。

 

 

ーーー目的のためならば大切なものですら普通に切り捨てるだろうと。

 

 

現にそれは起きた。彼の母であり姉であり師のようなショタc……ナタリア・カミンスキーがある死徒化研究をする魔術師を追って目標の乗る旅客機に潜入。なんとかその魔術師を倒したが他の乗客はその魔術師の研究の影響を受けてゾンビ化しそんな危機的な状態で1人取り残された。

 

その頃ちょうど永時はと言うと、別の用で魔界の魔王様に会いに行っており、切嗣1人だけだった。

 

そして地上にいた切嗣はその状況を理解した上でーーーミサイルを飛行機にぶっ放した。それも躊躇いなく。

 

確かにこの行動には誰も文句は言えないだろう。飛行機が降りたところでゾンビ共が湧いてきて付近はたちまちバイオハザードな世界へと変貌していたことだろう。

後に事情を調べた永時はこれには驚いた。いや、こうなることは分かってはいたが驚愕、まさにその一言しか出なかった。

知り合いに状況を細かく再現してもらったがまさか母である女を躊躇いなくやるとは、その冷静さと冷酷さに彼は素直に驚き、感心した。

 

 

ーーー正義の味方になりたい。

 

 

前にナタリアからそんなことを言っていたとかなんとか聞いていて、それ故に出会った時の予感は確信へと変わった。

 

こいつは目的(正義とやら)のためなら手段を選ばない(悪を為す)と。

 

これは永時としては面白いの一言に尽きた。何故なら彼は掲げるものが違うとは言え、自分とどこか同じように感じられたからだ。

それがどんなものかはまた語ることになるだろうからその時に語ることにしよう。

 

 

そしてその数日後、ナタリアの死を聞いた永時は彼女の死に場所を隠蔽の魔術を使って訪れ、後ろから現れた衛宮切嗣に打たれた。

 

いや、正直言えば普通に避けられた。気配も感じ取っていたし、銃口がこっちを向いていたことも知っていた。しかし一瞬だけ後ろを一瞥した時に見たものによって逃げることが出来なくなった。

 

それは彼のハイライトの消えた、死んだ目の奥に映る微かな意志。まるで実家を出て行く決心をした子供のようなそんなことを感じ取っていた。

 

 

ーーーああ、お前は師を切り捨てて(悪を為して)まで正義の味方とやらになりたいのか。

 

 

それは、これから穢れた道を歩まんとする男の、確固たる意志の表れだった。

少なくとも終永時(自称悪)としてはその決意()を踏み躙ることは出来ない……なんて綺麗事は言わない。単に逃げる気力が失せた、それだけのことである。

 

 

「……やはりお前はそうなるか」

「なに?」

「4つだけ、言わせてくれ」

「……なんだ?」

「1つ目。今後一切お前にこのようなチャンスを与えるつもりはないからしっかり狙えよ?チャンスは一撃までだからな」

「……」

「2つ目。この道を歩むことを、決して後悔するな。後悔したらもうそこで終わりだということを理解しておけ」

「……」

「そして3つ目……言っとくが俺はこれをチャラにする程お人好しでなくてね。いつか仕返しさせてもらうからな?」

「……」

「そして最後は……大切なものを蔑ろにはするなよ?」

「……ッ!」

 

 

そして、終永時は撃たれた。しかし、運がいいのか悪いのか死ぬには至らず。慌てて止めを刺そうとした衛宮切嗣だったが、謎の瞬間移動(テレポート)によってその場から逃げられてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、あの時語っていた仕返しがこれ(変わり身)のようだ。

 

 

「がはっ……!」

「クハハハ!」

 

 

リヴァイアサンは嬉々とした表情で異形と化した右腕で衛宮切嗣の腹部を殴り抜く。

ベキボキッ!と拳が腹部へと吸い込まれるように抉っていき、骨が軋む音を立てながら彼は壁へと叩きつけられた。

 

 

「フゥ……流石は我が父の弟子ト言ったところカ?しぶとさダケは一人前ダ、ナッ!」

「ぐっ……!(『固定時制御……(タイムアルター……)二重加速(ダブルアクセル)』!)」

 

 

 

追い打ちをかけようと右足で地面を蹴り上げて突貫してくる。しかし切嗣が持ちうる時間操作魔術を戦闘特化にさせたそれにより、自身の時間経過速度を倍速化させ、改造したトンプソン・コンテンダー(以後コンテンダーと記す)を慣れた手つきで切り札である起源弾をリロード。効果が切れるギリギリで引き金を引いた。その後遅れて若干の疲労感が彼を襲うが構いやしなかった。

銃特有の乾いた音と共に弾丸は彼女との距離を縮めていく。

 

正直これ(起源弾)が効くかどうかは疑問であるが効く理由らしきものはあった。

その理由としては彼女の変化。明らかに異形であるそれは魔術による変化であると推測していた。

彼女が終永時との娘ということは調べで確認しており、ノットから聞いたがあれは悪魔とのホムンクルスだということも。

いくら悪魔との娘とはいえ半分は人間。あのような変化をするには魔術による補助が必要でないのかと踏んでいたからだ。

 

 

「チッ」

 

 

そして彼女は右手で床を握り、その圧倒的な握力で粉砕。手にある瓦礫片を左手で投げつけ、弾丸と相殺させ、その右腕で殴りかかる。だが切嗣は己の魔術を駆使してギリギリ避けて確信した。

つまり、今のことが意味することは1つ。

 

 

(……まさかとは思っていたけど、起源弾の存在がバレている?)

 

 

使い魔越しに彼女を観察していたが、遠距離攻撃は氷の槍を使っての投擲が基本的だったようだが、どうも彼女は瓦礫片を投げるなど魔術のまも感じられぬ攻撃しか行っていないのである。

あからさまな攻撃方法の選択にそう思わずはいられないのだ。

 

 

(いや、あり得る…使い魔を通じて感づかれたのかもしれない……)

 

 

正確には直接自分の師のような男が教えたからであるが、そんなことは切嗣は知るはずもない。

 

しかし彼はやり方を変えない。何故なら避けるということはつまり、当たればこちらに軍配が上がることを示していると踏んだからだ。

 

 

(さて……どうしようか)

 

 

問題は彼女の異常な程強化されている身体右半分。あくまで予想だが彼女は半身しかその強化は出来ないのではないかと踏んでいた。

 

 

(チッ、あの男……露骨なマデに右半身を狙ってくルな……ヤハリ父から聞いた起源弾トヤらを当てるノガ狙いか?)

 

 

一方彼女は彼女で父である終永時から起源弾の詳細を聞いてはいたが、だからと言って対策は取れど、勝ち星を上げるには至らず少しイラついていた。

 

 

(正直言えば強化をカケずにやりたいところダガ、奴は普通ノ銃器まで所持してイル。解いて挑めば蜂ノ巣は確定だから困ッタものダ……)

 

 

どちらも言えることだが、相手の手の内はある程度理解しておりそれ故に下手に出ることが出来ない状態が今の現状であった。

 

 

(……レプリカとは言え、アヴァロンのおかげでさっきの傷は完全に治癒した。残るのはグレネード2つとナイフ4本、キャリコの弾薬は僅か…起源弾は後2発)

(……正直言えバ、この強化は持ッて大体数分程度、それマデに決着をつけレるカ?……クソ!体力を使ッテしまうのガ難点ダナこれは……!)

 

 

互いの戦力的にも短期決戦になることは必須。一体どちらが先に手を出すのか。いや、この場合治癒力を高めるアヴァロンを体内に入れている切嗣にとっては時間をかけるほど回復していくのでリヴァイアサンの方が若干不利なのかもしれないが。

 

 

「……」

「……」

 

 

両者様子見に徹しているそんな中、先に手を出したのは……

 

 

「……フン!」

 

 

リヴァイアサンの方だった。

彼女は変化している右手で地面を強く殴り抜き、瓦礫片と共に砂塵を撒き散らした。

 

 

(なに……!?目潰しか!)

 

 

完全に視界から逃れられたことに切嗣は冷静に状況を確認し、下手に出ると突っ込むと奴の思う壺だと考え、ナイフを1本、砂塵の中心に向けて投擲した。

 

 

「ッ!」

 

 

しかしそれは藪から蛇だったようで砂塵からナイフの倍近い数の瓦礫片がこちらへ飛んでくる。

魔術を使用して避けようとするもたったの2詠唱を言う前に被弾。左肩と左横腹を貫く結果となった。

 

 

「『固定時制御・二重加速(タイムアルター・ダブルアクセル)』!」

 

 

だが彼は気合いで堪え、コンテンダーに起源弾を再び装填。装填と同時にキャリコをもう片手に持ってキャリコの方の引き金を引いた。

 

 

「ぬっ!?」

 

 

狙うは彼女の左半身。飛来する弾丸に気づいた彼女は右腕を盾にするように前に構える。

 

 

(ここで……もう一度!)

 

 

疲労感が襲うのが分かってはいるが切嗣は更に魔術を酷使し、グレネードの1つのピンを抜いて放り投げる。

 

 

「何だと!?」

 

 

彼女の驚愕の声、そして解除と共に爆破。しかし無傷ではあったのは最初から予想していたこと。

爆発と砂塵で周囲の確認が出来ない彼女を横目に切嗣は斜め後ろのところに回り込んでコンテンダーを右半身に向けてその引き金を引いた。

 

 

「うおっ!?」

 

 

しかし化け物並の直感が働いたのか運良く下に屈んでしまい、避けられてしまう。

 

 

(『固定時制御・二重加速(タイムアルター・ダブルアクセル)』!)

 

 

ならば次だと更に負荷がかかることを覚悟して更に加速し、再びコンテンダーに装填をする。

 

 

「甘いわ!」

「ガハッ……!?」

 

 

しかし、2倍加速しているはずの切嗣を普通に認識してきて、装填する前にその異形の右手が顔を捉え、そのまま殴り抜いたことに彼は吹き飛ばされながらも驚愕した。

 

 

「……フン、最初の内はマダしも、ソウ何回も加速したラ対処の1つや2ツ出来るワ」

 

 

正確には昔研究所にいた際に対傲慢として加速する機械相手に訓練していたのが皮肉にも功がそうしたのである。

まあ彼女としては機械の方が強かったというのが素直な感想でもあるが……。

 

 

(さアどう出る衛宮切嗣よ……マさかこれで終ワリか?)

(さっき受けたのはなんとか癒えた。だが、今のでキャリコは弾切れ……コンテンダーはあと1発。ナイフはあと3本……流石はあの化け物の巣窟(埋葬機関)で生きてきただけはある……調べによれば彼女は身体能力は化け物並で有名。やはり接近されると圧倒的に不利になるか)

(ウム。強化の残リ時間は持って後4分強といッタところか……食屍鬼(グール)ヤ吸血鬼相手なら慢心してイルところを殴リ抜イテ頭部を握り潰せバ勝テルのだガ……そう上手クはイカンか)

 

 

切嗣は口端から垂れた血を拭い、リヴァイアサンは右手を開いたり閉じたりする。そんなことをしているが内心は互いが互いに冷静に自己分析をし、次の手立てを考え始めていた。

 

 

(『固定時制御ーーー(タイムアルターーーー))

 

 

先に動いたのは切嗣。彼は使い切ったキャリコを投げ捨て、

 

 

(ーーー三重加速(ーーートリプルアクセル)』!!)

 

 

今度は3倍速で加速し、ナイフの1本に手をかけて投擲した。

 

 

「なんダtーーーグッ!?」

 

 

先ほどより明らかに速くなった急激な加速により反応が遅れて、左足にナイフが突き刺され、僅かながら怯んでしまった。

だが切嗣にとってはその怯みは充分だった。

 

敢えて切嗣は虚をつくようにナイフを抜いて敢えて接近戦へと持ち込んだ。実際まさか接近されると思ってなかったのか驚愕に染める彼女の顔があった。

 

好機だと踏んだ切嗣は彼女の左半身目掛けてナイフを振り下ろす。

 

 

「ガッ!?」

「……何!?」

 

 

しかし彼女は笑みを浮かべてそれを左手で突き刺されるように手のひらを向け、ナイフをわざと刺ささせて、強化していないはずの左手が純粋な握力でナイフを粉砕させた。

 

流石の切嗣もこれには驚きを隠せず、思わず顔に出る。

だがこの瞬間にも彼女は空いた右手で拳を作り、殴りかかった。空気を裂く音が聞こえるほどの人間離れし、今までで最も速い速度を出した拳に切嗣はマズいと感じ取り、

 

 

(『固定時制御・四重加速(タイムアルター・スクウェアアクセル)』!!)

 

 

無茶だとは分かってはいるが死ぬよりはマシだと言い聞かせて限界まで飛ばす。

4倍速に加速した体感世界で切嗣は頭を屈めることで拳を避け、最後のナイフを手にかけて彼女の左横腹に突き刺した。

 

 

「グガッ……!」

 

 

強化されていない部位を刺され一歩後ずさる。それと同時に切嗣は後ろに飛び、空中でグレネードのピンを抜いて投げつけた。

 

 

「チィッ!」

 

 

思わず右腕で庇ってしまうリヴァイアサン。その間に切嗣はコンテンダーに起源弾を装填。

 

 

「舐メルナ!」

 

 

装填終了と同時に彼女はナイフを抜き取って逆に投擲、そしてその後ろについていくように右腕を構えて走り出す。

だがそれに対し切嗣はもうリロードは終えており、銃口を彼女に向けて引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし2人が想定しない神の悪戯ともいうべき事態ことが起こる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

「ナッ……!?」

 

 

ちょうどその真上には聖杯戦争における最狂と最優の激突する激戦区。ならばその床であるこの天井が崩れるのは必然というべきか偶然だったというべきか。

 

……とにかく、何が言いたいことかと言うと、戦闘による余波により崩れた天井から黒い泥のようなものが激流の如く溢れ出し、その噴出地点が皮肉にも2人の頭上だったということである。

 

流石に戦闘中で負傷していた2人は突然の出来事に対処出来るはずもなく、あっさりとその激流に飲まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『世界(ザ・ワールド)』!!時よ止まれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんてね?まあ時間止めてるのは事実だし?ちゃっちゃっと取り掛かりますか……おっと、失礼。観測者(読者)の諸君はまあ僕の正体を理解しているかもしれないが決して言わないことを約束してくれ、オッケィ?……よろしい。ならば僕はもう行くね?……そうだ。ついでにネバーにメタ発言でもさせておこうっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衛宮切嗣は夢を見ていた。

 

自分が認識している世界が、平和に満ちている。まさに世界平和。恒久的な平和と言えよう。

しかし、世界は自分の知りえないところが多くある。そこでは怒鳴りあい、殴り合い、殺しあう。

 

 

だがそれでも、自分の周囲は平和である。

 

 

 

 

 

 

衛宮切嗣は夢を見ていた。

 

人々は争いなく暮らしている。暴力は愚か、人を傷つけることすら絶対にない世界。

 

ある夫婦がいた。2人は子を成すためにある行為をしようとする。しかしその過程には女性は必ず傷つかなくてはならないことがある。敢えて言わないが分かる人は分かること。しかし、人を傷つけることは出来ぬ世界であるため、結局2人は子を成さぬまま生涯を閉じた。

 

他にもそのような人々が増え続け、少子高齢化が悪化の一途を辿っていった。全ては争わぬために。

 

 

やがて人々はいなくなり、世界は平和となった。

 

 

 

 

 

 

衛宮切嗣は夢を見ていた。

 

目が覚めれば1人だった。

愛する家族や友を探すも何故かいなかった。だから次に外に出てみた。だが、家族どころか人の気配が1つもなかった。

 

とりあえず、走った。駅、交差点、公園、学校、デパート、空港、電車。思い当たるところを探したが、誰もいなかった。

 

そして気付いた。自分以外の人がいないのではないかと。

 

否定したいがためにまた走った。しかし、誰もいなかった。

 

 

自分以外の人がいなくなる。確かにこれも平和なのだろう。

 

 

 

 

 

ーーーだが、これは自分が望んだ平和と言えるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しかし、それもまた一種の救済というものよ』

 

 

『ーーーさあ、どう出る?衛宮切嗣よ』

 

 

『肯定か、否定か。それを決めるのは貴様次第』

 

 

『だが、それはどちらも同じかもしれぬ』

 

 

『何故なら聖杯如きに委ねる時点で、終わっているのだから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ」

「……!」

 

 

作った緑弾をパシッと掴み、そのまま放り捨てるように放つビギナー。小さいながらもセイバーを吹き飛ばすには充分な威力を持つそれが分裂し、散弾として降り注ぐ。

幸い、数だけで1つ1つの爆発力や威力はそんなになく、剣1本で上手く捌き、『風王結界(インビジブル・エア)』の応用で風の防御膜のようなものを張っていたおかげで、このまま上手くいけばダメージといったものはないまま終わりそうである。

 

そう、上手くいけばの話。

 

 

「フハハハッ!」

「しまっ……!」

 

 

そんなことでこの悪魔の攻撃が止むはずがないからだ。

 

緑弾を1つ弾いた瞬間、目の前には100キロは優に超えるスピードですぐ側まで迫っているビギナーの姿があった。

 

セイバーは間に合わないと判断し剣を横にかざして少しでもダメージを減らそうと防御の構えをとった瞬間。彼は接触し、小柄なセイバーへとタックルをかました。

筋肉の鎧とも言える引き締まった筋肉質の肉体と、防御が出来たとはいえ、ギリギリで気づくところまで迫ったその圧倒的なスピードから繰り出された力に押し負けてセイバーは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。しかもその力が強すぎたのか少し壁に埋もれてしまう形となってしまった。

 

 

「ぐっ……!」

「くたばれ!」

 

 

それを好機だと見たのか、更に追い討ちをかけるように両手に緑弾を持ち、交互に投げた。投げられた緑弾は吸い寄せられるかのようにセイバーがいるであろう場所に飛んでいく。

 

 

「くっ……『風王鉄槌(ストライク・エア)』!」

 

 

しかしセイバーは剣から放たれる暴風の塊を壁に打ち付けることでジェット噴射の要領で脱出。しかし、彼は攻撃を止めることなく鬼のような怖い顔をしながら緑弾を投げ続けるもセイバーは紙一重で避けながら走って期を伺う。

 

 

「チッ」

 

 

当たらないと理解したのか、緑弾を投げるのを止めてセイバーへと接近し始める。これは遠距離攻撃が少ないセイバーにとっては好機とも言えよう。

だから、この期を逃さず攻め込めるだけ攻めようとセイバーは画策する。

 

 

「デェイッ!」

「はあっ!」

 

 

その強靭な腕から繰り出されるパンチがセイバーに襲いかかる。それを剣を上手く扱って綺麗に受け流す。

顔を驚愕に染めるビギナーの懐に入り込み、腹部を斬りつけた。

 

 

「馬鹿がっ!」

 

 

しかし案の定と言うべきか、その頑丈さに弾かれてしまう。前にやった時は出力を上げる前から弾かれていたのにまだそのような愚行をするセイバーにビギナーは嘲笑いながらセイバーにラリアットを繰り出した。

 

 

「ぐ、あっ……!」

 

 

流石の速さに防御もとる暇もなく、諸に喰らってしまい吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 

 

「フンッ!」

「なっ……!」

 

 

同じ目には合うわけにはいかないとクルリと身体を半回転させて壁に蹴り上げようと足に力を込め、蹴り上げようとする壁に視線を向ける。

しかし、彼女が見たのは叩きつけられる前にいつの間にか壁際に移動していたビギナーの悪魔のような笑みであった。

 

 

「フフフッ!」

 

 

先回りしたビギナーは彼女の華奢な(ビギナーから見て)身体を両手で掴み、サマーソルトキックのように蹴り上げた。

 

 

「ぐあっ……!」

 

 

苦痛に顔を歪ませ、天井近くまで打ち上げられたセイバー。しかし、下では緑弾を右手に持って腕を後ろに引いているビギナーが今まさに追撃の体勢を取っていた。

 

 

「とっておきだぁっ!」

 

 

低い風切り音を鳴らしながら放たれた緑弾は変な軌道を描きながらも確実にセイバーの方へと迫っていき、

 

 

「『風王鉄槌(ストライク・エア)』!」

 

 

セイバーから放たれた暴風の鉄槌によって、潰された。

ビギナーの視界一面を覆う規模の土煙が舞っており、2人の放ったものの力加減が伺える。

 

 

「……なにぃ?」

 

 

潰されたことに驚きつつも再度攻撃しようと視界の悪い土煙の中にいるであろうセイバーを視線で索敵する。

 

 

「ッ!そこか!」

 

 

気配を感じ取ったのか、手の平を土煙に向けて緑弾を複数撃ち出す。

 

 

「なんだと!?」

 

 

しかし、返ってきたのは当たった感覚ではなく2度目の暴風の鉄槌だった。正確には、脱出時に1度使っているので3度目なのだがそんなことはどうでもいい。

とにかくその暴風の鉄槌が別方向から飛来してきて、気づいた時には直撃し、2度目の土煙が上がった後だった。

 

 

「(……フン、無駄なことを。例え貴様があの有名なアーサー王だろうと、その程度のパワーでは傷をつけることなどできぬっ!!)」

 

 

ビギナー自身が知る中で現在、自分の身体に傷をつけられそうな存在は1人。万能チートと呼ばれるあのロリコンだけなのだ。増してや相手は自分に傷すらつけられず一方的にやられているだけのセイバーとなれば、そう高を括っているのは仕方ないことなのだろう。

 

 

「ッ!な、なんだと……!?」

 

 

だからこそ、そんな自分の身体から痛みが走ったらさぞかし焦ることなのだろう。

 

痛む場所を正確に手で辿るとあるところでグチョリと生暖かい感触が感じられ、手を見ると……その手は真っ赤に染まっていた。

 

その痛む場所は……後頭部であった。

 

後頭部。そこは人体で鍛えられない、急所の1つ。確かに彼は伝説の悪魔となってはいるがまだ本気には至っておらず最高の防御力を持っていない状態。

 

 

「クソがっ!」

 

 

油断していた。まさか雑魚だと思っていた奴に傷をつけられたのだ。彼を怒らせるには充分なことである。

そして、その判断材料として証明するかのように後ろには血の付いた聖剣を持つセイバーの姿が、

 

 

「セイバァァァァァアアアア!!」

 

 

気に食わなかったのだろう。怒りが頂点へと達し、後ろにいるセイバーへとさっきより速い速度で急接近し、ラリアットを繰り出した。

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

苦痛の声を上げてセイバーはまた吹き飛ばされた……と思っていたと思うが寧ろ逆。声を上げたのはビギナーの方だった。

 

 

「く、クソ!……目がァッ!」

 

 

痛々しい切傷を見せながら彼は右目から流れる流血を手で押さえる。

この時彼は2つのことに驚愕した。1つは鍛えられない部分である目を正確に狙ってきたこと。もう1つは、

 

 

(ぐっ……何故だ!さっきは避けられなかったはず!ま、まさか……!)

 

 

自分のスピードについて来て、なおかつ避け切ったという事実にだ。まだ殺り始めてまだ数分程度。あのバットやネバーでさえ初対面だった当時はこの状態でも追いつくのに日数を費やしたことを覚えている。すぐに覚えた奴など今のところ1人だけのはずだった。そう、だったのだ。

 

 

(こ、この女……!戦闘感覚だけはオメガ並だと言うのか!?)

 

 

つまり彼女は、生前から戦の戦線に立っていた時の積み重ねと直感が体に染みついていることが嫌でも理解させられる。そしてそれだけを活用するだけでこの悪魔と渡り合えている才能を併せ持っている事実にビギナーはほんの少しの焦りと恐怖。大きな憤怒を内に溜め込んでいた。

 

 

(ッ!この俺が恐怖するだと!?くっ……!早くこの女を始末しなければ!)

 

 

何度殴ってもその意思を変えることなく、折れることなく立ち上がって、果敢に挑むその姿に悪魔(ブロリー)としての本能が警鐘を鳴らす。まるでこの感覚は……

 

 

(カカロットォ……!)

 

 

そう、油断していたところに致命的な1撃で自分を倒し、2度にわたって倒すことが叶わなかった憎きあの男とどこか重なるところがあるのだ。

何度潰しても泣き言1つ言わず、何度も立ち上がってきたあの男と。

 

 

「……ォォ………カ…………トォ………カカロットォォォォォォォォォッ!!」

 

 

獣のような咆哮を上げてセイバーに突っ込もうと足に力を込めるビギナー。

そこには ノット・バット・ノーマル(理性)ではなくブロリー(本能)が勝っているのが現状であった。

 

 

『ーーー令呪を以って命ずる……』

「「!?」」

 

 

だからこそなのだろう。

 

 

『……今の己の全力を以って、“聖杯”を破壊しろ』

 

 

抗う理性がなくなった今なら、令呪が効きやすくなってしまっているのだから。

 

 

「「なっ……!?」」

 

 

突然の令呪の使用に驚くサーヴァントの2人だが、それぞれ意味は違っていた。

 

セイバーは令呪を使って正気を疑いたくなるような命令をするマスターに。

 

ビギナーは命令をしている内容の重大さに。

 

 

「なっ、なんだと……!?」

 

 

すると突然。錆びついたブリキ人形のようにぎこちない動きで聖杯の方へと向きを変え、緑弾を、それも今まで投げてきた中で1番だと言えるような大きさのものを右手の平に作り上げて向け始めたのだ。

 

 

「き、貴様……!正気か!?」

『……』

 

 

マスターである衛宮切嗣に大きな声で抗議をしようとするビギナー。しかし返ってくる返答は無言であった。

 

 

「わ、分かっているのか!?そんなことをすればどうなるか!アイリスフィールがどうなっても構わないというのか!?」

「ッ!」

 

 

抵抗しているのかぎこちない動きだが、手の平は少し下へと反れ、身体を後ろへと捻ろうとしている。

 

そしてセイバーは突然のことに若干呆然としていたが、意識を戻す。

今聞いたところ、ビギナーの言葉通りならこのままでは不味いことが起きるのではないかと直感が言っており、騎士道に背くも動きの鈍っているビギナーへと攻撃を仕掛ける。

 

 

「ビギナー……許せ!」

 

 

自分も聖杯が欲しいのだ。何があったかは知らないが、それをこんなところで壊されてたまるか。

 

彼女は一言謝り、隙だらけの彼の後頭部へと剣を振り下ろした。

 

 

『もう1画を以って命ず……今の己の全力を以って、聖杯を破壊しろ』

「ッ!オオオオオォォォォォォォォォォォ!!」

「しまっ……!?」

 

 

轟っ!とビギナーを中心に凄まじい暴風と衝撃波が起こり、彼の力が増したように感じた。その力は空中にいて、不意を突かれたセイバーはあっさりと吹き飛ばされてしまう程で、距離を取ってしまった。

抵抗する力を消されたのか、先程までぎこちなかった動きが滑らかなものへと変わり、再び標準を聖杯へと合わせる。

 

 

「衛宮切嗣!貴様ァァァァァァァァァ!!」

「不味い!」

 

 

素早く立ち上がったセイバーは地面を踏みしめ、ビギナーへと一気に距離を詰める。

 

 

 

 

 

ポ-ヒ-

 

 

 

 

しかし、非情にもそれは放たれた。

 

気の抜けそうな音と共に緑弾がビギナーの手から離れ……聖杯と接触。緑のエフェクトと共に、大爆発を引き起こした。

 

 

「クソがァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

聖杯の破壊により、この世に留まる理由を失くし、構成する身体が光の粒子となって消えていく中、溢れ出る感情に身を任せて叫んだ。

 

 

「ーーー!!」

 

 

そして、何故かセイバーが必死そうに叫んでおり、その珍しさに顔を上げると……

 

 

「ッ!?」

 

 

黒い泥のようなものが、目前に迫る光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衛宮切嗣はミスを犯した。

 

咄嗟と言えば仕方ないだろうが、壊すものを間違えたこと。そして、壊すタイミングをも間違えたこと。

 

 

それが後に大災害を引き起こすことになろうとは思わなかっただろう。

 

 

 

 

だがもう遅い。

 

 

 

 

終焉への足取りは今流れる時と同じくして、止まることなく進んでいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 



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終永時の悪とやら


〜暴食娘の送るあらすじ〜

『……ども、将来の夢はあの人のお嫁さんになるつもりで生きてるシーです。前々回あたりでビギナーにやられてしまいましたがなんとか生きてます。

前回、リヴァイアサンは衛宮切嗣と決着?を付け、ビギナーはセイバーと戦闘していたけど生きていた衛宮切嗣によって聖杯を無理矢理破壊する結果になった。

……あくまで感だけど、なんか人がたくさん死にそうな気がするけど……まあ、あの人とリヴァイアサンがいれば正直どうでもいい。だってそれが私達の望みなのだから。

さて、私は今からあの人の写真を眺めて自分を慰める仕事があるのでこれで……

……あっ、言い忘れてたけど今回は戦闘シーンがなしでクソ長い会話シーンらしいので悪しからず。あと、今回はあの人がメインの回だから必見ーーーいや、絶対見ろ……以上』




 

 

ーーー貴様は何を求めてここを訪れた?地位か?名誉か?名声か?財か?それとも死合うに値する強者か?それか……『悪』の名を磐石なものにするためか?どうなのだ?悪を名乗る愚者よ。

 

ーーーいや、どれも違う。俺が欲しいのは……力だ。

 

ーーーなに?

 

ーーー正確にはお前の力の借りたい。目的はただそれだけだ。

 

ーーー愚かな……私を引き込むとどうなるか、簡単に予想出来るはずだ。

 

ーーー分かってるさそんなこと……けど、所詮俺はただの人間。強き者の力を借りることしか出来ることがない哀れな存在なんだよ俺は。例え卑怯者と、悪だと罵られてもいい。俺は勝つためなら手段を選ばん、ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

19??年6月4日生まれのAB型の男児。アメリカで生まれた。

 

 

数年後、両親の元ですくすくと育つもある日、念動力(サイコキネシス)を発現。暴走して両親を負傷させ、そのまま2人は帰らぬ人となった。必然的に彼は孤児となりストリートチルドレンとして生きることとなった。

苦労はしたものの衣食は能力でなんとかできたのでそうして生き残った。

 

 

その実力に目をつけた軍部の者に勧誘されて軍に入隊、12の時だった。

 

 

1931年、少年兵として活躍する中、名も知らぬ軍医の女に養子にならないかと言われ、運命的なものを感じたのか了承した。

 

拾われた家は日本でいう真剣を扱う道場のような場所であった。

 

彼女の名は椿アネモネ。1910年12月25日生まれのA型。日本人の父とアメリカ人の母の2人の間に出来たハーフらしい。名前の由来は彼女の両親が新婚旅行でヨーロッパに行った際、母親の方がアネモネの花を気に入ったからだそうだ。

当時23歳、多いスキンシップとしつこさが売りで、母親のような包容力ある柔和な笑み、親代わりのつもりだからなのか説教をしてくるのが多く、お茶目な部分を持ち、どこか妖艶な母性のような雰囲気を醸し出す女であった。

最初反抗的だったものの、仲良くしようとしつこくされていたせいで半ば諦めて義姉として接することにした(母親扱いするとそんな年取ってません!と説教を喰らった教訓を生かした結果である。)

 

彼女の家は先程記述したが真剣を使う道場。父がやっていたらしく今は閑古鳥が鳴いている道場の看板娘をしており、彼は強制的にそこの門下生になった。

だからこそなのか、やはりというべきか真剣を使うのから実践的なことが多く、彼はどんどん強くなっていったのは確かである。

 

 

それから数年後、彼は超能力を買われて特殊部隊の隊長まで異例の昇進を果たした。

その後、運命的な出会いなのか専属の軍医として彼女がやってきた。彼はカリスマ?のようなものを持っていたようでリーダーとして部下に慕われ、彼女は部隊の花として色んな意味で人気者だった。

 

その時からだろうか?彼女のスキンシップが若干過激なものが多くなってきたのだ。

そんな中、その影響を受けてか彼に最近ある感情が生まれついていた。それは年頃の少年らしい彼女に対する意識の変化があった。

 

 

 

 

 

しかしそれが後に両者の関係が変わる原因になるとはこの時誰もが思わなかったことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして彼が20になった年。彼は彼女を襲った。

 

どうやら彼は彼女を姉としてではなく1人の女性として見るようになっていたようでそれが遂に我慢の限界を超えてしまったようだ。現在の彼ならば媚薬を盛られても普通に過ごせたが、彼にも青臭い時代は当然あったということだ。

 

しかし彼女は彼を拒むどころか受け入れた。それも愛情の1つであるかのように。

 

その時語ってくれたのだが、両親を事故で亡くし1人寂しく過ごしていたところ、ちょうど共通点のある彼を知って養子として引き取ろうと行動に出たらしい。

 

つまりは自分の寂しさを埋めるために自分は拾われたと聞かされた。

 

しかし、それを聞いて彼は別に何も思わなかった。正直彼もどこか似ているのではないかと思っていたからだ。

 

そこから2人は互いを求め合うようになった。まるで傷を舐め合うかのように……それはほぼ依存に近いものへと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな2人に不運が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1938年。ある戦場へと出向いた彼率いる特殊部隊。しかし敵に囲まれなんとか切り抜けたものの、彼は動くことが出来ぬほど重症となった。

 

そこで軍医である彼女はすぐさま彼を運び、近くの軍病院で彼はなんとか一命を取り留めた。

 

しかし、彼をまだ生きていると知った敵側は刺客を送り込み病院を襲撃させた。

すぐに狙いが彼だと気付いた彼女は彼に手を貸しながら病院を逃げ回った。

 

だが、運悪く見つかってしまい戦闘。敵を撃退するも悪足搔きで撃ち放った凶弾が彼へと撃ち放たれ、彼女は身を挺して庇った。

 

その後彼の部隊が騒動を聞きつけて慌ててやってきたが、彼女は運悪く致命傷を負ったようで助からないと隊員はそう述べた。

 

突然の余命宣告に呆然とする彼。そして辛うじて生きている彼女はそんな彼にある頼みをした。

 

 

自分を殺してくれと。

 

 

彼は最初は拒んだ。しかし隊員がもう助けることはできないと泣きそうな声で語り、その後彼女と数秒会話した後、何を思ったのか突然隊員の銃を奪いーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー彼は彼女を手にかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時からだろうか。彼が、自らを悪と名乗り始めたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして1943年。上司の勧めである人物が率いる部隊へと入隊。

 

 

1945年人類初の核実験と言われるトリニティ実験に非公式の動員兵として参加。その後被爆し、約1週間程昏睡状態に陥る。

しかし目覚めた時には能力は変質。細胞も変異し実質の不老なった。

 

 

 

こうして、ネバーという男は出来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日からここに配属されることになった、コードネーム『NEVER(ネバー)』だ。

先に言っとくが俺は悪だ。大義とか忠義とかのために戦う気はないから悪しからず」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

 

気がつけば辺りは暗い闇に覆われた世界。奥行きはどこまであるのか、どの方角を向いているのかさえ分からなくなるぐらい真っ暗な世界に永時は立っていた。

 

どこまで足を踏み締めれるか分からず、ゆっくりと一歩踏み出せば足裏からグチャリとよく分からないが泥か何かの肉片か、それっぽいものを踏んだ感触が歩く度に続いていた。

 

 

「……」

 

 

最初は慎重になって歩んでいた永時。しかし慣れというものは怖いもので段々と臆することなく歩みを早めて先へと進めていった。

 

 

「……趣味が悪い場所だな」

『それはどうも』

「ッ!?」

 

 

見たままの感想を述べた永時に返ってきた返事とどこからか湧いてきた気配に永時は驚愕し、反射的に拳銃を取り出して音源らしき場所に発泡した。

 

 

『危なっ!?っと、とととと……あ痛っ!?』

「チッ……」

 

 

しかし撃ち抜いた感覚と音はなく、女の焦った声と盛大にコケた音が聞こえ、外したと永時は思わず舌打ちした。

 

撃った方向を睨めば、羽衣のような黒い衣服を纏った、この世界では眩しく見えるほど白い女が盛大に転んでた姿を視界に捉えた。

 

 

『……ゴホン。久しいな、終永時(我が同胞)よ』

「今頃新ためて言ってもドン踏んだ事実は変わらんからな」

『……久しいな、終永時(我が同胞)よ』

「いや、だからs『ひ・さ・し・い・な!終永時(我が同胞)よっ!』……チッ、なんだよ?」

 

 

無理矢理誤魔化した女に永時は睨み、銃を仕舞いつつも本題を尋ねると女は純粋で、されどドス黒い何かを孕んだ妖艶な笑みを浮かべて話し始めた。

 

 

『なぁに、半世紀ほど会わなければ寂しいものよな?と思ったまでよ。それで、此度は何用でここに参った?』

「……フン、心当たりがあるんじゃねえのか?“ユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルン”。いや……“アンリマユ(この世全ての悪)”と呼ぶ方が良かったか?」

『ふむ……どちらも私であって私ではない。それが私という存在だから気にするな。それで?再度問うが何用でここに参った?』

「ああ、そうだった。あまりのマヌケさに要件を忘れてな」

 

 

皮肉をいう永時に彼女は笑みを崩さず永時を見つめていた。そして、要件を思い出した永時はこちらもニタリと笑みを浮かべた。

 

 

『……何故こちらに銃を向けた?同胞に向けるものは、好意はあれど殺意は向けるものではないぞ?』

「おいおい今更そんなことをほざくのか?……まあいい。新ためて言ってやるから聞いておけ」

『……』

「……俺の身体と彼女を、特に彼女の方を元に戻してもらおうか?あと、俺はお前の同胞とやらになった覚えはねぇ」

 

 

要件を聞くなり、笑みを崩してはいないが彼女から殺気が溢れ出し、永時は殺気を受けてなおどこ吹く風と受け流していた。しかし彼女はやがて殺気を沈め、眉をひそめて永時に問いを投げかけた。

 

 

『……何故だ?何故気に食わんのだ?貴様は心の奥底で悪を望んでおった。だから私はお前の半分を(アンリマユ)としてやったのだぞ?』

「それはお前が前回の時にこの俺の身体を奪い取ろうとして失敗して、アンリマユという英霊と半分融合した。そういう結果だろうが。……なにが同胞だから共に過ごさないかだ。要するにこの世に降り立つ器が欲しかっただけ、そういうことだろう?」

『……まあ否定はせん。しかし、死んでなお貴様に巣食う寄生虫(あの女)にこだわると言うのか?自分の知り合いにも嘘をついてまで参加する程重要なことなのか?』

「ああ、そうだよ。好奇心で参加したとか嘘を吐き、かつて自分が愛した女が死んだことを今でも引きづり続けてる哀れな男、それが終永時という存在なんだよ」

 

 

それを聞くなり彼女は眉間に皺を寄せ、険しい顔で永時を睨み始める。

 

 

『だが……私はアンリマユ(この世全ての悪)を冠する存在。悪は全て私が受け入れなくてはならず、ならば同じ悪を掲げる貴様を歓迎するのは当然のことであるがな……』

「へえ、じゃあその必要はないな。なんせ俺はお前が考えているような存在じゃあないからな」

『なに……?』

「……お前と俺では考えが違うってことだ。いいか、お前の場合は世界に悪と認めさせるために悪事を働く。だが俺はお前とは違う」

『なら、貴様にとって悪とはなんだ?』

 

 

まあ予想通りとも言える問いに永時は真剣な表情でことを語る。

 

 

「俺にとって、か……まあ単純に言わせてもらえば、“自己満足(エゴ)”のためだ」

『はっ?』

「お前が掲げるのは悪になるために悪を為すこと。だが俺は自己満足(エゴ)のため、ただそれだけだ。要するに俺は自己満足(エゴ)のために人を利用し、傷つけ、犯し、殺し、守り、受け入れ、愛情をも注ぐ。全ては俺の自己満足(エゴ)のために悪を為す。だから正義とはとてもじゃないが無縁であり、それ故俺は悪を名乗ってるだけで、悪を為すことは自己満足(エゴ)のための手段に過ぎん」

 

 

簡約すると悪として認めて欲しいから悪事を働くのではなく、自己満足のために悪事を働いたから便宜上悪となっているだけ。それだけのことである。

 

似たような意味かもしれないが僅かにその考えが違うことはお分かりだろうか?

 

 

「だからわざわざこんなこと(デミサーヴァントなんぞに)しなくとも俺はお前のような立派な悪にはなれるわけねえんだよ。なんせ俺は所詮“小悪党”なんだからよ」

『貴様……“そんなもの”を宿しておいて、よくそんなことを……私の予想が正しければそれは人が宿して良いものではない』

「あっ?……ああ、こいつか?こいつは気にすんな。勝手に俺に住み着いただけのただの居候だ」

《……ふん、悔しいがその扱いは的を得ているからなんとも言えんな》

「……んで?どうする?《オイ》俺を殺し《貴様、聞いてるのか?》て身体を奪うか?《無視するな》それとも《オイ、無視するなオワリエイジよ》……チッ、なんだよ?」

《やっと話を聞く気になったか……》

 

 

聞こえてきた声、低い女の声を無視してきたのだがそのしつこさに思わず声をかけてしまった永時。すると声の主はほんの少しだけ弾んだ声でそう語った。

すると先程までになかった息が詰まりそうな、それで持って吐き気を催されるような、更にどこか居心地の良さも感じられるドス黒い邪悪な気配(オーラ)が終永時から滲み出てきた。それも、この世全ての悪を冠する彼女が思わず一歩後ろに下がってしまい、呼吸が荒れる程の強力なレベルのをだ。

 

 

「なんだよお前……今頃になって出てきたのか?タイトルであんだけ悪が出ると言いながら伏線とかなしで終盤にいきなり出てきやがって……ん?今なんか言ったか?」

《(メタいな……)またあの自称人間(オメガ)によるイタズラではないか?……まあいい。此度出た理由は貴様の言う聖杯戦争、その結末に興味が湧いたのが1つ、2つ目は濃厚な悪の気配らしきものを感じたから出てきた、ただそれだけのことよ》

 

 

あっそう、とどこか素っ気ない態度で返答する永時に声の主はそうだと似たような反応で返していた。

そんな会話をしている間にアンリマユは空気に慣れてきたのか呼吸を整え、元の妖艶な、しかしどこかぎこちない笑みを浮かべた。

 

 

『ふぅ……1つ質問を良いか?』

《呼ばれているぞ?》

「なんだ?」

『いや、用があるのは宿っている方だ』

《なに?言ってみろ、紛い物よ》

『紛い物か……言い得て妙とはこのことか……まあ良い。貴様に1つ尋ねるのだが、何故貴様程の存在が人間であるこの男に宿っているのだ?』

 

 

その質問から声の主はこの世全ての悪(アンリマユ)にさえ劣らない。いや、もしかしたらそれ以上の存在であることを示していた。

 

しかしそんなことは知らず声の主はケラケラと笑いながら話す。

 

 

《何故宿るかだと?そんなのは決まっておろう……この男に付いて行くと面白いからだ》

『……面白い?』

 

 

またもや永時の時と似た反応を見せる彼女にケラケラ笑ったまま続ける。

 

 

《そうだ、この男は面白いぞ。波乱万丈、四苦八苦、女難。まさにその言葉に相応しい生き様を見せてくれたぞ?》

《だが、面白いと思うのはそれだけではない。さっきも言ったと思うがこの男は悪を名乗る癖に悪らしからぬ生き方をする。自身を小悪党と評してまで大切な者を救おうとするその生き方に感心したのだ》

『……分からんな。悪とは絶対的なもの。同族を受け入れ、敵対者を滅殺し、常に頂点に君臨する。それが絶対悪ではないのか?』

《ハハハ……紛い物にしてはいい線だと褒めてやりたい。あながち間違ってはおらん。しかし少し違うな。オワリエイジの掲げる悪とは、さっき言ったと思うがあくまで自己満足のための正義悪。……己のために他者を踏み台にして生きる。実に人間らしさが出ていて面白いと思わんか?》

「オイ、別に俺は正義を名乗ったつもりはないぞ。これまでも……そしてこれからもな」

《それは許せ……まあ、詰まるところを言えば、悪とは思考や性格によって変わってしまうのが現状。決して絶対的なものではないということだ》

『……』

 

 

黙り込んだ彼女に声の主と永時は疑問を浮かべる。すると急に笑みを浮かべだした。

その顔は何か企む子どものような笑みのように感じられるが、どこか悟ったような、それで持って狂気を帯びたような、そんな雰囲気を感じさせられる笑みだった。

 

 

《(おい……あの紛い物、何か企んでおるぞ?)》

「(ああ、分かっている……)」

『……ああ、なるほど。貴様らの言い分はよく分かった。ならば私は私らしく振るまわせて貰おうか』

 

 

そう言うなりさっきまで沈めてた殺気を静かに醸し出した彼女に永時は咄嗟に銃を構え、引き金に指をかけた。

 

 

《紛い物よ……貴様、何を企んでおる?》

『なぁに、やはり私の考えは間違ってなかったのだと改めて感じただけのことよ』

「……なに?」

『……貴様に宿るその者と共に、それを宿してなお普通で居られる貴様を我が物にすれば、私は真に悪となれる。(さす)ればより本物に近づくことができるのではないかとな』

「こいつ……」

《ふん、哀れなものだ。だから貴様は所詮紛い物なのだ》

『勝手に言っておれ“悪の根源”。何故貴様がここにいるかは知らんが私は私の悪道を貫かせてもらう。私が(本物)になるためのな』

《黙れ紛い物。紛い物の分際で本物になるだと?所詮貴様は贋作。本物を超えることはあれど本物になることは決してないことを理解しておるか?》

『さあな?もしかすれば成れるかもしれんぞ?悪の根源と称される貴様を喰らえばな?』

「……くだらんな。さっさと彼女を返せ。前回いきなり襲ってきて勝手に奪いやがって、まだ要求するかこいつは」

『仕方なかろう?一方的に蹂躙するのも悪の1つ。それに、はいそうですかとあっさりと返すのは善行と言えよう?……そうだ。ならば1つ条件付きでどうだ?』

「条件、だと?」

『なぁに、よく見る誘拐犯が人質の家族に出すあれを浮かべたら良い』

《(待て、オワリエイジ。罠の可能性もあるぞ)》

「……分かった」

《(何だと?)》

「……ただし、その条件を聞いてからやるかどうか考えさせてもらう。(もし気に食わなかったら無視して後で姐さんに泣きついてオメガに消してもらうなりしてその後ゆっくりと別の方法を考えればいいだけの話だ)」

《(なるほどな……私が言うのもなんだがゲスいな)》

「(そりゃどうも)」

 

 

本当は元々潰すつもりで60年を準備して過ごしてきたのだが、条件次第で平和的かは知らないが返してくれるのだ。永時としては万々歳である。

 

 

『ふむ、まあ良いか……条件とやらは至って単純。貴様がこの聖杯戦争で死んだら宿っている奴もろとも私のものとなってもらう、それだけのことよ』

「へえ……どうする?」

《フン……》

 

 

声の主に尋ねるとどうでも良いと言いたいばかりに鼻で返答する。イエスと捉えていいだろうと踏んだ永時は、

 

 

「オッケー。要は生き残ればいいんだろう?なら乗った」

『ほう?怪しまずに乗るというのか?』

「まあ生き残ればいいだけならなんとかなるだろ(オメガは昔撮った姐さんの写真集で買収して、ノットはオメガをけしかけて潰し合わせて、姐さんは説得すりゃワンチャンあるし……最悪逃げるか)」

《(うむ……流石自称悪。中々に酷い小悪党っぷりだ)》

『なら良いが……死んでも文句は言うなよ?』

「さあ?俺は悪だから律儀にやるか知らんな(さて……そろそろ殺るか)」

『そうか……』

 

 

実のところを言うとそんな口約束を永時は守るつもりなど毛頭ない。目的は返して貰ってからアンリマユを殺すことなのだから。

 

姑息?卑怯?何を使おうが要は勝てばいいのだから。勝てば官軍、負ければ賊軍という奴である。

 

 

とりあえず永時は口約束を守るように見せるためマジックを取り出して右手の甲にメモをする。

すると予想通りと言うか約束を忘れずにメモをしていると思い込んだのか、律儀だなと感心したような呟きをしているのを耳にした。

 

 

『では、まずは……貴様が求めた女を返してやろう』

「変な細工はするなよ?やった瞬間殺るからな……“こいつ”が」

《オイ、何故そこで私の名が出る?》

「いや、考えてみろよ?俺は確かに頑丈かもしれないが一応人間。もしも呪いとかの細工があれば何も出来なくなるのは必然。なら俺より圧倒的に強いお前が動くしかないだろう?それともあれか?人1人殺せるようなショボい呪いで幕を閉じたいのなら諦めるが……」

《ほざけ。何故私があんなもの(贋作如き)に命をやらねばならんのだ。昔言ったはずだが?貴様が死んだら1人でまた暇潰しを探しに行くとな》

「それでいいさ。実にお前らしい答えで安心した」

『もう良いか?』

「《構わん、続けろ》」

 

 

同時にハモり、アンリマユは苦笑しつつもその手に小さな光を出して照らし始める。その光はこの世界ではとても眩しく、美しく見えた。

 

やがてその光はアンリマユの手から離れ、吸い込まれるかのように永時へと向かい、永時の胸へと入って行った。

 

 

「……ッ!?」

 

 

途端。意識が遠のき出し、足元がおぼつかなくなった。しかし彼の内心は焦りより心地よさと懐かしさで包まれていた。

 

 

「ぁ……あぁ………この、感覚は……まさしく、彼女の……」

 

 

歓喜の見える表情を見せるも、突然電池が切れたかのように膝をつき、だらんと(こうべ)を垂れた。

 

しかしその様子に2人(?)は大して驚きも、意識を確かめようともせず、じっと永時を黙って見続けていた。

 

しかしそれも束の間のことでそれを破ったのは声の主であった。

 

 

《……そろそろ起きろ》

「ん……」

 

 

声の主が呼んだ途端。バチバチィッ!と電撃が彼を包みながら彼は立ち上がる。

 

 

『ほう……こうも変わるとは』

「あら?ここは……?」

 

 

そこには毒気のあるような黒みがかった紫の髪を腰まで伸ばし、冷たく厳しい目つきは全く違う柔和な目つきを見せ、立ち上がってからこちらを向くまでの仕草一つひとつが優美でどこか可憐さを感じさせられ、発せられる声は普段の低い威圧感のある声色とは真逆の高い柔和な声色。そう、まるで女性かのような……

 

 

《久しいな、“椿アネモネ”よ。ざっと半世紀ほど振りと言ったところか?》

「あらあら?久しぶりね、ダークさん」

 

 

さん付けに慣れていないのか、むう……と言葉を詰まらせる声の主。

その反応の原因が分かっていたのか椿アネモネと呼ばれる終永時はクスクスと笑っていた。

 

 

《……相変わらず喰えん女だ》

「あら?何かおかしなことでも?」

《いや、何でもない。流石はあのオワリエイジの“義姉”をやっていた女だけはあると改めて思っただけのことよ》

「……まあ、正確には今は彼の副人格なんですけどね」

『なるほどな。それで仕草も口調も何もかも女性寄りになっているということか』

 

 

つまりそれを示すのは……終永時は二重人格者であった証明であり、しかもダークという者曰くそれはかつての義姉のようだ。

 

 

『しかし、皮肉よな。会いたいと思っておっても、この者が出るにはこの男が意識を失くす必要があるとは……これでは会えぬと同義だというのになぜ必死に求める?』

《そんなのは簡単だ……それだけ奴は孤独を嫌っているという証明であろう》

『なんだと?あの終永時が?あの自称悪がか?』

「……」

 

 

ダークから出た意外な仮説に目を見開いた。しかし肝心の終永時(椿アネモネ)は何も語ることなく、ただ黙って頷くことで肯定の意を示した。

 

 

《前に奴の深層心理を覗いたことがあって知ったのだが……訳ありとは言え、あの者はこの女を直接手をかけたのだろう?亡くしたのならば余計に求めたくなるのが人間。そうだろう?》

「……ええ、まあそんな感じですね?」

《会えなくともこの女は自分がいた痕跡を必ずしも残す。それを見た奴はこの女が自分の中に存在している実感を得る。それもまた、奴の自己満足なのだろう》

「流石はと言っておくべきかしら?なんだかんだ言って彼のことを見てらっしゃるんですね?」

《……否定はせん》

 

 

消えそうな暗い小さな声でそう呟いたダークにアネモネはあらあら、とクスクス笑っていた。

 

 

『……要はどういうことだ?』

《要するに、奴は捌け口が欲しかったと思うのだ。自分の弱さ(寂しさ)というストレスをぶつけるためだけの捌け口が》

《オワリエイジという男は貴様が思っているよりずっと弱い存在であり、奴は人間だ。軍役時代の隊長。『終焉末路(カウンター・ラグナロク)』という組織の頭などをしていたが、奴は部下に悩みは言えど、弱音と弱味だけは決して明かさなかった。ならどうやってストレスの捌け口を用意したか。そこで思い浮かべたのがこの女(椿アネモネ)だった……だから奴にとって一番本音を出すことが出来るこの副人格を生み出した、ということだろう?》

「……ええ、よく推測できましたね。87点です。残り13点は私を生み出した時代の間違いによるものと素直じゃない貴方へとの失点、ということで。私が生まれたのは(本物)が死んで少しした頃なので」

 

 

フン……と慣れたかのように鼻であしらう態度にアネモネもただクスクスと笑って楽しんでいた。

そんな中ほぼ聞くだけとなっていたアンリマユは驚愕で染めた顔をずっとしていた。

 

 

《フン……まあいい。貴様と話せたから今回は良しとしてやる》

「フフッ、それは良かったわ。私も貴方と話せて楽しかったわ」

『……もう良いか?』

 

 

いい加減聞くだけで放置されるのが癪に触ったのか、低いドスの効いた声で2人に尋ねる。

するとアネモネはあっ、と気の抜けたような声を出し、頬を赤らめて恥ずかしそうに照れていた。

 

 

「あらやだ……私としたことが、つい話し込んでしまいましたね。ごめんなさいね?」

《ふむ……いささか話し込んでしまったか》

『分かれば良い』

 

 

では、そろそろ御暇(おいとま)しますか。というアネモネに声の主はそうだなと肯定すると彼女はアンリマユに向き合う。

 

 

「あの、御暇したいのですが……」

『分かっておる。あと1分程経てば自ずと出れる仕組みになっておる』

「そうですか……」

 

 

残り時間何をしましょうかと呑気な会話をしだす彼女にその呑気さに思わず力を抜いてしまう。

思い残したことはないのか?とダークが尋ねると思い出したかのように声を上げた。するとアンリマユの方に近寄っていく。

 

 

「そうでしたそうでした。最後に1つよろしいですか?」

『なんだ?』

「いえ……死んだら彼を貰うと言っていましたが……刺客なぞは差し向けてませんよね?」

『……さあな。そういう約束はしておらんからな』

「そうですか……」

 

 

少し思いつめた表情で思考する彼女、しかしそれはすぐに引っ込み、花のような笑みを向けた。

 

 

「なら……こうしましょう」

 

 

ニコリと笑みを向けたまま、彼女の……アンリマユの胸に1本の日本刀を突き立てた。

 

グチュリと生々しい音。そして遅れてえっ?と間の抜けた声が聞こえた。

 

 

『な、に……?』

「なにって……だって、あの子のことを邪魔しようとするんでしょう?ならば、お義姉ちゃんとして邪魔なものは失くしてあげないといけない……例えるなら、あの子が綺麗なお花で貴女は雑草。花の成長を邪魔する“草”は伸び切る前に刈り取らないと、あの子がダメになっちゃうでしょ?」

『き、貴様ァ……』

 

 

今頃になって彼女(アンリマユ)はようやく気づいた。この女の笑みの意味が。それは友好的な意味ではないただの貼り付けた笑み、ただ単に自分を油断させるためのものと、そしてどこか狂気染みたものを孕ませた笑みであることに。

 

だがまだこちらは負けていない。否、負ける要素が足りてない。

 

 

『ク……クハハ……フハハハハハハッ!!』

《……なんだ?遂に頭でもイカれたか?(いや、この笑いは……)》

『……ああ、実にやられたわ!何故意識を共有せん貴様がこのような手に出たのか不思議ではあるがな!』

「……それならここに」

 

 

そう言って彼女はさっき永時がメモを書いていたであろう右手の甲を彼女に見せる。

 

 

【隙あらば殺せ】と。

 

 

『……クク、クハハハハハハ!!そりゃそうだ!あの男が素直に話を聞き、増してやメモをキチンと残すなどするから変だと思っていたが、今思えば疑えば良かったか!』

「まあそれが彼ですから……で、遺言はそれでいいかしら?」

『……いや、あと1手足りなかったようだな』

「えっ?」

 

 

素っ頓狂な声を上げる彼女。するとグラリと視界が揺れた。

 

 

「な、何が……地震?」

《……なるほどな。見事にしてやられたな。地震などの規模の小さいものではない、この世界が揺れているのだ。恐らく推測だが、この世界が崩壊しているのではないか?》

『その通り。時間切れだ』

 

 

グラグラと大地震のように揺るぐ世界に思わず手をかけていた刀を手放し、後ろへ下がりながらもおぼつかない足でなんとか立ちながら彼女は同じくふらつくアンリマユに視線を外すことなく今にも射抜きそうな視線を向け続ける。

 

 

「どういうことかしら?」

『うむ、どうやら何者かが小聖杯を物理的に壊したようだな』

「……なんですって?」

《ほう、そんな馬鹿がいたのだな……(これで聖杯をどうにかしようと考えてた案は……かなり狂うことになるのか?)》

「くっ……!(ならばせめて、あと1回だけでも!)」

 

 

更に揺れを増す世界。不安定ながらも確かな足取りで地を踏みしめ、クラウチングスタートの態勢をとって電気を纏う。身体に纏った電気が、細いながらも引き締まった永時の身体中の筋力を刺激し、筋力を強制的に強化することで通常より高いパフォーマンスを披露できる状態にする。

 

 

「……っ!」

 

 

強化された足で地を踏みしめ、轟音を鳴らしながら一気に飛び出した。人間離れした速度に乗ってアンリマユとの距離を徐々に縮めていき刺された日本刀に手を伸ばした。

 

 

『言ったはずだぞ?時間切れだと』

 

 

しかし間に合うことはなく、急に辺りが真っ白に染まり、意識が遠のいていく。

 

 

 

薄れていく意識の中、彼女が最後に見たのは口端から血を垂れ流す、殺し損ねた者の勝ち誇った笑みであった。

 

 

 

 

 

 

 

『本当は奴の狂気のようなものを知りたかったが……まあ仕方ない。おっとその前に、貴様の持つ“あれ”を貰っておくぞ?失くしたとはいえ、落とし物は元に持ち主に返さなくてはならんのだからな』

例の奴ら(刺客)も動き出したか……これでようやく舞台は整った。後はのんびり鑑賞させてもらうとしよう』

『期待しておるぞ……悪を宿した人間(自称悪)よ。貴様の悪とやら、じっくり見させてもらうぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーさて、突然だが今話が終わる前に、貴様らに言っておきたいことがある」

 

「これから始まるのは終幕(エピローグ)への第1歩。物語において必ずしも存在するありがちなものだ。そう悲観することはない」

 

「ただそれが、いい形(ハッピーエンド)で終わるか、悪い形(バットエンド)で終わるか、そのどちらか決まるだけなのだから」

 

「だからこそ刮目せよ!ポップコーン片手に、これから起こるであろう戦いを目に焼き付けるがいい!」

 

 

 

 

 

 

「ーーーさあ、最終決戦(ファイナルバトル)の開幕だ」

 

 

 

 





*補足

椿アネモネ

かつて終永時、否、ネバーとなる前の男が生涯の中で唯一愛した女性。それが親愛か情愛か、愛情かどうかは彼しか分からない。
戸籍上は義姉だったようだが。まあ彼も若い時代だったから仕方ないと言えばそうなのかもしれない。

彼女が死んだ後、未練が若干あった彼だったが、ある日気づけば自分宛のメッセージが残っており、後に二重人格ということに気づいた。

日本刀の扱いが上手く、その点においては永時は勝利を収めることができなかったようだ。
母のような優しさを持ち、永時の優しさは彼女の影響も大きい。

※後に追加する可能性あり。


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目覚める悪意



〜自称普通のあらすじ〜


「ブロrーーーノットです……よく来たな、礼を言う。

……何ィ?自己紹介だけ丁寧だと?フンッ、これは癖だから気にするな。

前回、自身の悪を紛い物の悪に語ったネバー。遂に彼女と再会して喜んだ。
よく頑張った(ここまで付き合ってくれたようだ)がとうとう終わリーの時が来たのだ。


















……と思っていたのか?

残念ながらまだ終わリーの時ではない。これからが本番なのだからな……さあ、お楽しみの血祭りの時間だ。



ネバー、お前は大事なものを守り続け、無事取り返したようだが気を抜くなよ……1度失ったらもう、後悔しても戻れないからな………」





 

 

「……ク、ソ……が………!」

 

 

何も見えない真っ暗な世界。そこにビギナーこと、ノット・バット・ノーマルは水の中を浮くような妙な浮遊感を感じながら漂っていた。

 

 

「クソがァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

そんな彼は今、怒り狂う鬼の如き形相で雄叫びを上げ続けていた。

 

理由としては主に衛宮切嗣などにいいように利用されてしまったこと。

そして、

 

 

「また誰も、救えなかった……!」

 

 

守ろうと決めた人をこの手にかけてしまったことによる後悔と自分自身への怒りであった。

 

 

アイリスフィール・フォン・アインツベルン。

 

何故か分からないが、出会った時から彼女を必死で助けようと躍起にさせた女。

 

生まれがホムンクルスだから知らないが、世間知らずで好奇心旺盛。だが、同時にそれなりの教養と気品を持った芯の通った女。

いざ付き合ってみれば、夫である衛宮切嗣を愛し、心から信頼を寄せており、どこか柔和で母性的な部分を感じさせられる姫君。というのがノットから見た人物像である。

 

何故見知らぬ他人にここまで尽くしてきたのか、それは未だに謎だった。

 

 

ーーーじゃあ……アイリスフィールって女性にえらくこだわっとるようだが……まさか彼女と重ねてる訳じゃーーー何のつもり?

 

 

そう、あの一言を言われるまでは。

 

 

(まさかとは思ったが……)

 

 

彼の脳裏に浮かんだのは、お淑やかで温厚で、柔和な笑みをいつも向けてきた抱擁力のある平和主義者(お人好し)な女。

彼が今まで出会った中で癒しという言葉が最も似合う友の姿であった。

 

 

(まさかここでお前のような奴に出会うとは思わなかったぞ……)

 

 

どうやら自分は、彼女のことをかつての友に重ねていただけなのかもしれない。結論的にそう思わざるを得なかった。

 

 

(だが、もう遅い……)

 

 

しかし今頃気づいたところで、衛宮切嗣に裏切られ、アイリスフィールをこの手にかけた事実は、変わらないのだから。

 

 

「俺は……誰も救うことは出来んのか?」

 

 

精神的に参ってしまったのか、思わずポツリと漏らした本音。いくら肉体が強靭な伝説の悪魔とはいえ、中身は普通を目指しているただの男。参ってしまうのは仕方ないことだろう。

 

 

(もう、疲れた……所詮俺は破壊することしかできぬクズなのだ………)

『そうだ。それがお前、ノット・バット・ノーマルという男だ』

「……なんだぁ?」

 

 

突然の返答に対しノットは驚愕する気力もなく完全に気力は削がれているようだ。

 

 

『全てがどうでもよくなったのだろう?』

「ああ……」

 

 

何もやる気の起こらないこのやるせなさ。まるで大切な友が死んだ時と同じであった。

 

 

ーーーコントロールの効かなくなったお前は、もはや俺の足手まといになるだけだ……かわいそうだがブロリー、お前もこの星と共に死ぬのだ。

 

ーーーアイリスフィールという女を救いたいのだろう?ならば俺の使い魔について来い。行き着く先に目的の人と俺はいるはずだがら。

 

ーーー令呪を以って命ずる……今の己の全力を以って、聖杯を破壊せよ。

 

 

そして脳裏に浮かんだのは自分を利用した奴ら(クズ共)の言葉。(2番目はアーチャーの所へ突っ込む前の時に使い魔を経由して永時に言われた言葉だが、利用されたとはいえ、ちゃんとアイリスフィールの所へと案内したのは事実である)

 

だからこそ、それと同時に湧いてくる怒りは仕方ないことであろう。

 

 

ーーー何故だ。何故奴らは俺の邪魔をする……!ただ友に会いたいだけなのにだ!

 

ーーー思えば奴もそうだった。2度に渡って敗北したあの男も、いざ殺そうとしたら邪魔が入って殺すことが叶わなかった!

 

ーーーこのやるせない怒り……どうすればいい?

 

 

『ならば俺に委ねろ。お前の邪魔するものを破壊してやろう』

 

 

ーーーそうだ。その手があった。

 

ーーー邪魔するものがいれば全て破壊すればいい。

 

 

『「それが、悪魔と呼ばれた。俺という存在(ブロリー)なのだからーーー!!」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー対象Xによる抑止力への干渉を確認。

 

ーーー被害状況を報告。ある対象の設定への干渉を行った模様。呼称名バット=エンドと推定。修正は不可能と見られる。

 

ーーーしかし運営には影響はなく、状況は様子見の状態で維持。

 

ーーー同時に対象Xを自然的排除から強制排除へと昇格。直ちに排除準備に取り掛かる。

 

ーーー対象の排除への成功率の高い存在を検索中………確認終了。

 

ーーー現在3名程確認。内1名は参加している模様。

 

ーーー直ちに霊基の再生を開始。

 

ーーー適合終了。『ノット・バット・ノーマル(ビギナー)』再起動。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、冬木公民館とその周辺は緑の光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれは!?」

 

 

介抱を終わらせ、怪我人を安全なところへ避難させた心優しき戦闘狂は発生した謎の光の真相を探るため、光源に向かって走り出した。

 

自分の予想が外れることを願って……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あーあ……折角細工して姐さんを現存出来るようにしたのにこれとは……絶対あの子行ってるよなぁ………そこまでして排除したいのか?)

(……だけど目的は変わらない。あんな面白い人間はそうそういない。流石に失わせる訳にはいかないからな)

 

 

とある男はお気に入りの人を守るため、覚悟を決めて彼は向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……エイ……ジ………!」

 

 

倒れ伏す少女は、1人の男の名を力ある限り叫び、立ち上がった。

 

全ては男の隣に立つために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

倒れ伏していた魔王は目を覚まし、少しずつだが身体を動かし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《今の光……見たか?》

「ああ……チッ、面倒なことになった……!」

 

 

そして、自称悪はというと……崩壊しつつある建物上空を飛んで移動していた。

 

燃え盛る炎の海に包まれ、灼熱地獄と化した公民館周辺。

 

その地獄の中を長くなった髪を乱雑に切り落としながら移動していた。

 

 

「くそ……まさかこんなにも計画が狂うとはな……」

《どこの奴かは知らんが、見事にやってくれたものだな》

 

 

どうやら計画を狂わされたことに苛立ちを覚えているようだが、彼に

宿る声の主は逆に感心すら持っていた。

 

 

《確か……貴様の計画では奴を取り返した後、私の力で脱出。悪因である大聖杯とやらを潰す予定……だったか?》

「ああ……だから敢えて戦力的に拮抗する状態になるよう組み合わせて足止めさせてたんだよ」

《まあそれが狂ってしまったわけだが……》

「どこかの馬鹿が聖杯を壊すとか誰が思うんだ?」

《人間とは何をするか分からんものだ……》

 

 

だからこそ面白いのだ、と笑みを浮かべているのが想像出来そうな笑いをしていた。

 

 

「楽しそうだな……」

《今はそういう時だということだ。いずれ貴様にも訪れよう》

「ふーん、そんなものか?」

《そんなものだ……ところでだが、貴様。大聖杯の当てはあるのか?》

「無論だ。前々から調べはついtーーーッ!?」

 

 

それは突然のことだった。

 

グニャリと視界が歪み、力が緩み、地へとその身を頭から落とした。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

しかし、落ちる直前で何とか意識を取り戻し、念動力を発動。スレスレのところで身体を無理矢理浮かせ、そのスピードを停止させることでなんとか衝突は免れた。

 

 

《今のは危なかったな》

「……あ、ああ………」

 

 

そして緩やかに身体を縦に半回転させて地に足をつけた永時。しかしその表情は安堵、というよりは焦燥の色の方が濃かった。

 

 

《ふむ……薬が切れたのか?》

「いや、効果が切れるのはまだのはずだが……もう切れたのか?」

 

 

まるで身体の調子を確かめるかのように手を開いたり閉じたりしている永時。

 

 

《一時的なドーピングとは言え、薬に頼らなくては本気を出すことも叶わぬ身体になるとは、不便極まりないものだな》

「本当にな……」

 

 

まあ俺も好きでこんな身体になった訳じゃねえよと文句を垂れながら、懐から薄い黄緑色の液体が入った注射器を取り出した。

 

 

《……7時の方向だ》

「……ッ!?」

 

 

いざ刺そうと構えるも方向を示唆する声を耳にするや否や、動きが鈍くなった身体を無理矢理動かして咄嗟の判断で横に跳んだ。

 

すると跳んだ直後、飛来してきたのであろう何かが、永時の元いた場所を粉砕した。

 

 

「チッ……敵か?」

《ああ、それも……面倒なのがな》

 

 

面倒ねぇ、と呟きながら襲撃地点を眺める永時。そんな彼の前に襲撃者であろう人物が空から降り立った。

 

病弱に見えもするが、どこか芸術性のあるような美しさ、妖艶な雰囲気を醸し出す青白い肌を闇のような漆黒を基調とした重装の鎧で包んだ、まさに黒騎士と例えるのに相応しい。そんな人物であった。

 

 

「イメチェンか?……と言って終われば楽なんだがな」

 

 

しかもそれは顔見知りときたものだ。金色に染まったその両目で、視線だけで殺せそうな勢いで睨んでおり、とても穏やかな雰囲気は感じることはできなかった。

 

 

「んで?わざわざイメチェンまでして何しに来たんだ……セイバー」

「貴方を殺しに来たと言ったら、信じますか?」

 

 

漆黒と深紅で染まった聖剣らしき得物と禍々しい黒く可視化できる程の濃厚な魔力を永時へと向けるセイバーあったはずの女。

しかし永時は何の反応も示さず、無表情を維持したまま彼女をじっと見る。

 

 

「おいおい、一応これでもお前のマスターなんだが……?」

「それは左手を見てから言ってください」

 

 

そう言われて見てみると……令呪が消えていた。

 

 

「なるほどね。ん……?じゃあなんで現界できている?」

「マスター替えをしたということですよ」

「ふむ……なら殺されても仕方ないな」

「そういうことです」

 

 

サーヴァントとしての契約が切れた以上2人を繋ぐものは何もなく、所詮仮の主従関係から知り合い程度へとランクダウンしたのだ。これならば躊躇う必要もないなと永時は納得していた。

 

そのマスターとやらが誰か、感じる魔力的に分かっているのにだ。

 

 

(まだ生きていたのかあの野郎は)

《(しぶとさだけは貴様とそっくりのようだな)》

(うるさい。しかし……クラスの真面目な学級委員長を形にした女みたいな奴がこちら側()に来るとはな……)

《(……貴様が原因ではないか?)》

(……なに?)

《(貴様があの小娘をこちら()に引き込むに十分な影響を与えたということだ。『罪被りし偽善遣い(ギルティーズ・ヒポクリエイト)』により悪を知り、貴様と話すことで見解を広げた。つまりは貴様との生活で悪という存在の理解を深めておったのだ。穢れに気が付かぬ振りをしていたのに気づいてしまい、悩んでしまった。その隙を突かれた、ただそれだけのことだ)》

 

最も、『罪被り偽善遣い』によって流れた悪意が主な原因かもしれんがなと説明する声の主。しかし永時は少し思い詰めた表情でセイバーを観察するように見つめていた。

 

 

「なるほどな……俺が原因って訳か」

「何を突然?」

「いや、そう思ったから言った。それだけのことだ」

「……それが遺言ととってよろしいですか?」

「いや、悪いが今相手してる程暇じゃないんでね……逃げさせてもらう」

 

 

言うだけ言って永時はお得意の瞬間移動(テレポート)でその場から離脱する。

しかしセイバーは勝ち誇った笑みを浮かべ、それに疑問を浮かべたまま彼は数十メートル先へと次元移動をする。

 

 

「ええ、分かってましたよエイジ。だからこそ先手を打たせてもらいました」

「何……?」

 

 

しかし飛んだのはたった4メートル程。

 

計算が狂ったか?と別の方角へ飛ぶようにもう一度やってみるも、何故か行けなかった。

 

 

「ん……?」

 

 

しかし永時は気づいた。よく目を凝らさなくては分からないが、小さい欠片のようなものが宙に、それも数十個も浮いており、更に瞬間移動の合間にさっきまで見ていたはずの灼熱地獄から一変していたのだ。

 

辺りを見渡せばゴロゴロと山に廃棄された粗大ゴミのように転がっている西洋鎧の山々。中には赤黒い錆のようなものがこびり付いているものもある。

次には強烈な死臭と鉄のような匂いが鼻を刺激した。幸い慣れきったものなので大したことないのだが、死とあまり縁のない者は思わず吐き出してしまいそうなぐらいのキツいものであると言っておこう。

 

そんな状況を冷静に見やりながら、その雰囲気に似合わない何かの欠片に触れようと手を伸ばすと、その手が急に止まった。

 

 

「ん?こいつは……」

《どうやら見えない壁のようなものに妨げられているな》

 

 

殴ったり、蹴ったり、銃で撃ったりして試してみるものの、どうやら壊れるには至らず、溜め息を吐いた。寧ろ銃に至っては弾丸が跳ね返ってきた程の硬度である。

 

 

「なるほどな……そっちは?」

《見たところかなり高度な防壁だ。この私ですら干渉が困難とは……それに外への交信なども不可能となっておる。実に興味深い》

「……で、これがお前の先手ってやつか?」

 

 

そう言って死屍累々の中で特に大きいものの頂上を見やった。そこには永時の質問に簡潔に答えたであろう人物……セイバーの姿があった。その顔は自信に溢れており、その様子だと破壊は不可能のようだと判断したのだが、何処か悲痛を醸し出しているかのようにも感じられた。

 

 

「えらく自信があるようだが……こんな宝具を持ち合わせていたのか?」

「……いえ、これは先程新たなマスターから返還して頂いたものです」

「……何?」

「正確には貴方が所持していたものですよ」

 

 

所持していたものと言われ、思考すること数秒。あっ、と間の抜けた声で出した。どうやら当てが思いついたようだ。

 

 

「まさか……アヴァロンか?」

「ええ、そう通りですよ。新しいマスター曰く『落とし物は元の持ち主のところへ返さなくてはならない』と」

「あの野郎、余計なことを……」

 

 

永時の脳裏には勝ち誇った笑みを浮かべるあの女の姿。イラッときたのですぐさま消し去って気分を落ち着かせた。

 

 

「……敢えて説明させていただますが、これは『全て遠き理想郷(アヴァロン)』だったもの。いや、今の私を表して命名するなら……『存在しない理想郷(アヴァロン・ネバーワズ)』としましょう。本来のものでは不老不死と無限の治癒能力を与え、あらゆる攻撃や干渉を防ぐ結界宝具だったのですが……こんな姿になった影響か、色々と欠陥が出てますがね」

 

 

余程自信があるのか、それともマスターだった(よしみ)であったから説明したのか、それか別の理由があったのか。残念ながらその心境はセイバー本人しか分からない。

 

 

「欠陥ねえ……」

「例えば、この結界は本来使用者を妖精郷へと隔離するという代物だったようですが……どうやら変わってしまったようですね」

「……カムランの丘か?」

「よく分かりましたね」

「なんとなくだ」

 

 

正確には前に見た夢と転がっている騎士の死骸の山々から推察した結果なのだが言う必要はないと判断した。

しかし、その説明を受けて永時はある疑問が浮かび上がった。

 

 

「……ちょっと待て。ならなんで自分だけを守らせない?俺を殺すなら一緒に閉じ込めたら結界宝具としての意味がないだろう?」

「そこは簡単なこと、『存在しない理想郷(アヴァロン・ネバーワズ)』の中に閉じ込め、貴方を逃さないことが目的だからですよ」

 

 

つまりは瞬間移動(テレポート)で逃げる永時を逃さないために一緒に入れたということらしい。余程殺せる自信があるのか、他に何か当てがあるのか気になるところだが確信に迫ることは話さないだろうと思い、諦めた。

 

 

「オーケー、つまり俺は逃げられずお前と殺り合わねばならんということは分かった……ならまた疑問が出来るわけだが……お前が俺を殺すメリット(意味)のことについてな」

「なるほど……それは単に全てがどうでも良くなったから、ということにしておいてください」

「嘘をつくならもう少しマシな嘘をつけよ。全てがどうでも良いのなら、わざわざ冬木公民館から離れた俺を追いかける必要もないだろうが……そもそも全てがどうでもいいのならそのままくたばっちまった方が楽なのにどうして現界したって疑問が出るが?」

「……」

 

 

図星だったのか無言になるセイバー。それを見て満足したのか薄く笑みを浮かべた。

 

 

「まあいいや。理由なんぞ知る必要はどこにもないわけだし?知った所で何か変わるわけでもないから構わんがな」

「……」

 

 

とりあえず、と永時は持っていた注射器をようやく自身に打ち込んだ。

何か企んでいるのかと考え、様子見に徹しているのかと思っていたが、何故か疑問を浮かべたような顔をするセイバーを視界の中心に収めながら注射器を抜き取り、放り捨てた。

 

 

「(……あの注射の中身、どこかで見覚えがあるような気が………気のせいか?)」

「ーーーやるか」

 

 

深い闇のような左目が深紅に染まる。

 

それと同時に肌でビリビリと感じる重圧がセイバーを襲い、突然のことにセイバーは目を見開き、元凶であろう永時を睨みつけた。

 

 

「クカカカ………」

 

 

しかし、そこにいたのは獰猛な笑みを浮かべ、まるで自分を狩猟対象である獲物のような目で見る、まさに狩りをしようとする悪鬼のようだった。そこには優しい父の顔を持ち、なんだかんだ言って面倒を見てくれる兄のような男の姿などは欠片もなかった。

 

無意識かは知らないが、周りに散っている瓦礫や鉄片、終いには車やほぼ崩壊した家などが独りでに浮かび上がっており、ここで初めて永時が生半可な超能力者ではないということをはっきりと理解した瞬間でもあった。

 

 

「まさか、ここまでの力を隠していたとは……」

「フン、なんのためにわざわざサーヴァントの戦いに乱入したと思う?それは簡単な答えだ。ただ単に自分の力量を確認していた、ただそれだけだ」

「なるほど、私との手合わせもその一環だと?」

 

 

その通りだと答える永時。余裕があるのか遂には葉巻を吸い出す始末である。

 

 

「煙草、吸っていたのですね……」

「ウチにはガキがいるからな……煙草はやめろとベルフェの奴に止められてたんだが……やはり吸うと落ち着くものだ」

 

 

呑気に紫煙を吐き出し、さっき見せた獰猛な笑みが嘘かのようにリラックスしている永時をただセイバーは観察するように凝視していた。

自身と契約した新たなマスターからある程度話を聞いていたので分かったことだが、本来の永時は不意打ちなどは当たり前、勝つためには手段をあまり選ばない男とのこと。ならばいつ攻撃されても可笑しくないようにセイバーはただ臨戦態勢を維持し続けていた。

 

 

「「……」」

 

 

両者様子見をするかのように沈黙する中、そんな静寂を先に破ったのは、永時だった。

 

 

「……お前を見習って、マスターの誼ということで敢えて言うが……案外俺を殺すのは簡単だぞ?」

「……?」

 

 

いきなりの弱者宣言に何を言ってんだこいつ?みたいな怪訝な表情を見せるセイバー。

それを見た永時は葉巻を摘んで口から離し、自嘲的な笑みをただただ浮かべているだけ。

 

 

「だって俺さ……こう見えて不治の病にかかってんだぜ?今でもこうしてる間に弱体する程、酷いのをな?」

「!?」

 

 

不治の病と聞き、驚くセイバー。そんなセイバーを永時は見つめ、葉巻を指で正面へと弾き飛ばした。

 

ゆっくりと落ちていく葉巻。セイバーは罠かと思い、構えを解かずに警戒しながら葉巻を凝視し、

 

 

「ーーーblast(爆ぜろ)

 

 

案の定それは爆発した。

黒い紫炎が一瞬にして広がり、セイバーの視界を塞ぐ。

 

 

「……やはりか!姑息なことを!」

 

 

聞いていた通りの汚い男だ。内心そう悪態を吐きながらセイバーは後ろへと跳んだ。

推測でしかないが恐らくこれは目くらましのためのもの。つまり本命はこれを利用した正面からの銃撃だろうと踏んだ。

 

 

「敢えて言ってやる……汚いは褒め言葉だってな」

 

 

だが、セイバーの跳ぶ先では鉄パイプや長く尖った鉄片がこちらに向かって迫っていた。それもかつて自分が操ったバイク並みの速さで。

 

 

「ッ!小癪な!」

 

 

片足を地面に置き、そのまま身体を捻って後ろへと半回転し、飛来物を斬り伏せた。そしてそのまま勢いを殺さぬままクルリと永時の方を向き、

 

 

「……!?」

 

 

視界に捉えたのは電撃を見に纏い、右拳をこちらに向けて振るっている永時の姿であった。

 

構わず殴り抜く永時。しかし気づいたセイバーの方が早かったようで剣を横を横に向けて面の広い部分で受け止めた。

 

 

「「……ッ!」」

 

 

力が拮抗し、火花が散る。永時は空いている手に持ったナイフを首に向けて薙ぐように振るい、セイバーは屈んで避け、剣を持つ手を戻して切り上げる。

 

だが永時は重心を左へ傾け、迫る剣を紙一重で避ける。

避けられたセイバーは切り上げた剣を斜めに振り下ろしながら身体を捻って回り、回転斬りを繰り出す。剣先が永時の胴を捉え、その身を両断する。

 

 

「ーーー!?」

「オラッ!」

 

 

しかし、彼には瞬間移動(テレポート)がある。

瞬間移動(テレポート)によって消えた永時はそのままの態勢でセイバーの頭上に現れ、隙だらけの頭部に回転蹴りをぶつけた。

 

頭を蹴られたセイバーは吹っ飛ぶも態勢を整えて地を踏みつけて立ち上がる。

 

 

「……お見事、と言っておきましょうか?」

「そりゃどうも。まさかこれ(テレポート)が卑怯とは言わないよな?」

「まさか!それ(超能力)も貴方の持つ武器の1つ。使うなというのは酷というものでしょう?」

「まあそれはそれで助かるが、なっ!」

「!」

 

 

両者ともに睨み合い、再びぶつかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……なあ、頼みがあるがいいか?)」

《(ほう……なんだ?)》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフ……ハハハ………フハハハハハハッ!」

 

 

冬木公民館だった廃墟であろう瓦礫の上。そこにそれはいた。

 

逆立った黄緑色の髪、可視化できる程の緑がかった黄金のオーラを漂わし、身体中が盛り上がった筋肉の鎧に包まれた3メートル近くはある大男。

 

 

「そうだ……そうだ!これでこそ本来の俺……これが俺なのだ」

 

 

異常と言っていい程盛り上がった筋肉の付いた身体を観察するかのように己の手を開いたり閉じたりする。しかし有り余るぐらい溢れ出る力に歓喜どころか寧ろ哀愁のようなものを漂わせているのは気のせいだろうか?

 

 

「久々になったこの状態。後にやることと言えば1つ……やはり力試しをしたいものよな………そう思わんか?バット=エンドよ?」

「……」

 

 

そう言って悪魔のような顔つきに似合う白目がその者を捉えた。轟音を鳴らし、地面の形を変えながら急停止する少女を。丁度その位置は男の目の前であり、身長差的に見下げる形となっていた。

 

しかし、彼女が向ける視線は仲間に向けるような親愛ではなく、懸念と怒気が混ざった明らかな敵意だった。

 

 

「お前……何してる?」

「何だと……?俺がこうなったのだ。後はどうなるのか想像がつくだろう?」

「……本気か?」

「ああ、本気だとも」

 

 

以前仲間として付き合ってた身としてこれからノットがしようとしていることは何か理解出来ていた。だが、前と何か違うと彼女の直感は告げていた。それは以前仲間として(向こうはどう思ってるかは知れないが)それなりの付き合いがあり、なおかつ仲間に執着心を持っているバットだからこそ感覚的に分かることなのだ。

 

そんな指摘を受けた男は少し驚く顔を見せたがすぐにそれは笑みへと変わっていった。

 

 

「フン、流石は仲間を大切にするお前らしいな。だが、それも全てすぐに終わる」

「お前……何する気だ?ノット」

 

 

そう言って男、最後に会った時とは大違いの変化を遂げたノット・バット・ノーマルである男を、不安を孕ませた視線で睨みつけた。

しかし、男は分かりきっていた反応なので何食わぬ顔で受け流していた。

 

 

「別にお前が怒ろうが俺には関係ないこと。俺は俺らしく生きる、それだけだ」

「俺らしく?お前!まさか……!」

「当たり前だ。俺は奴らに散々利用され、ゴミのように切り捨てられた……このやるせない怒り、全てを破壊せねば収めることは出来ぬっ!」

「……!」

 

 

今度は逆に向こうが怒気を醸し出す始末。しかも余程怒っているのか、怒気だけで周りの空気が揺がし、地震が起こったかのように感じる程の空間の揺れが感じられる。更に彼の足元の瓦礫は消え去り、彼を中心に巨大なクレーターを作り上げていた。

つまり、この男が強者であることを意味することでもあった。

 

 

「だが、昔ある奴に負けたことで俺は学んだ。お前らをまとめて相手すると骨が折れることに気づいたのだ。だからこの機を狙っていたのだ。お前らが散り散りになるこの時をなっ!」

「ッ!?」

 

 

突然、緑弾を作り出し投擲してきたノット。それを回避するバット。緑のエフェクトを横目で見ながらノットをきつく睨みつける。

しかし彼女の怒気は収まるどころかまた更に強くなるばかりであった。

 

 

「そうだ、その目だ……お前が戦う意思を見せなければ、俺はこの星を破壊し尽くすだけだぁ!」

「やめろノット!こんなことしてもあいつは喜ばねえぞ!」

「うるさい!俺に……命令するな………!」

 

 

そう怒りを吐露するノットだが突然姿を消した。

多分高速移動したことによりそうなっているだろうと推察したバット。どこに来るのか感覚と目を凝らし……

 

 

「ーーーフンッ!」

 

 

後ろから突然現れた殺気。それを敏感に感じ取り、彼女は前へ重心を傾けて転がった。すると遅れてノットの拳が風を切って振り下ろされた。振り下ろされた拳は2メートル程のクレーターのような陥没が出来上がり、その男の強さを物語っていた。

 

 

「………相変わらずすばしっこい奴だ」

「フンッ(勝てねえって分かってるけど……やるしかねえなこりゃあ!)」

 

 

緑弾を構え、殺る気満々のノット。前やりあった時のことを踏まえこれは不味いとバットは判断した。ほっといて逃げるのも考えたが相手は怒りで理性がない。ほっとけば何を仕出かすか分からないと思ったからである。例え、勝てないと分かっていてもだ。

 

 

「これでも昔は竜狩りで生計を立ててたんでな。元がつくとは言え、『竜狩りの姫君(スレイヤー・クイーン)』を舐めんじゃねえぞ!」

 

 

そう言って石突(いしつき)を地面に叩きつけるように振り下ろし、ガンッ!と金属音と共にそれは現れた。

 

雷雲と清水が彼女の身を包み、変化させていく。

黒一色の服装は漆黒の鎧へと早変わりし、持っていた三叉槍は紺の色が特徴的な2叉の槍が左手に。穂先が1つになった黒に近い黄が入った深緑の入ったものを右手へと手にしていた。それはランサー、ディルムッド・オディナの持つ2振りの槍を連想させる部分があるが違うところが2つある。

1つはその長さ、『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』はディルムッドの身長程の紅い長槍であったが、彼女の場合、2本とも彼女の身長の約倍はあるであろう長さを持っており、紺の方が深緑のものより少し短めである。そんな長さの得物をその小さな身体で扱おうとする彼女の力強さを物語っていた。

 

これこそバット=エンドと呼ばれる本来の姿、『最速の黒槍姫』という女の姿であった。

 

 

「フフフッ……そうこなくちゃ面白くない」

 

 

もう1つは能力。ディルムッドの2振り程ではないかもしれないがそれに劣らぬような槍であることは自負していた。

紺のものからは清さを感じられる水流が、深緑のものからは嵐を連想させられそうな暴風と(いかづち)がその役割を示すかのように槍に纏われた後、主の命を待つかのように鳴りを潜めていた。

 

2振りの槍を構え、挑発的な笑みを浮かべて彼女は言う。

 

 

「……来いよノット。少し、頭冷やそうか?」

「ほう、元仲間とは言えこの俺に情けをかけるか……流石バットと褒めてやりたいところだ」

「……俺は、俺のしたいように生きて死ぬ。お前もそうだったろ?」

 

 

減らず口を……とノットは少し大きめの緑弾を左手に持つ。対してバットは負けじと思い、それに応えるかのように紺の槍が光を放ちながら激流として右腕ごと槍を包み込む。

 

2人は今できる最大限まで力を溜める。

 

 

「イレイザーキャノン!!」

「『祝福の排水龍(ゲオルギウス・シューダー)』!!」

 

 

放たれたのはほぼ同時。溜め終わった2人は同時に力を解放する。

 

片方はただの緑弾だが、手から離れた瞬間1回り程肥大化。その威力は星の一部を削るには充分な、まさにイレイザーキャノン(消し去る砲)の名の通りの技である。

 

対してもう片方は暖かい光と共に螺旋状に渦巻く激流の如き清水。名を言い放つと同時にそれは放たれた。

一層輝きが増す光と共に激流の嵐が槍のように形を成して、彼女の前方へと敵を貫かんと真っ直ぐ突き進む。

 

 

 

 

 

 

「来るがいいバット!まずお前から血祭りに上げてやる!!」

 

 

 

 

 

かつての英雄(ヒロイン)反英雄(裏ボス)の力を持つ男。因縁とも言えるぶつかり合い(殺し合い)が始まった瞬間であった。

 

 

ーーー終わりの時はすぐそこだ。

 

 






*追記項目


ビギナー 伝説化

【概要】悪の泥によって復帰したノット。しかし、悪の泥の影響かステータスなどが本来のものより下がっている。

《 》の表示は本来の表記の予定。

【ステータス】
・筋力A《A+++》
・耐久EX
・敏捷A《A+++》
・魔力C《B+》
・幸運D《C》

【保有スキル】
・狂化B+《EX》(普段会話ができるが、細かな指示や命令などは難しいとされる)

・加虐体質A

・魔力放出A(気)

・単独行動C《A》

・戦闘続行B+《A》

・千里眼B《A》

・直感C《B》

・破壊衝動A++
(伝説化限定のスキルで1度戦い始めると滅多なことがない限り破壊活動をし続ける。逆に言えば高い追跡スキルがついたようなもの〈長所とは言えないが……〉)

・サイヤ人体質A
(サイヤ人特有の死にかけたら戦闘力が上がるチート設定。戦闘による瀕死又は重傷を負って回復した場合、筋力・耐久・敏捷のいずれかが1ランク上がる)

・アンチヒーローB《A》
(ボスとか裏ボス的存在であるブロリーだからこそついたスキル。相手が英雄の場合、加虐体質・戦闘続行のランクがA+になる……というのが本来のものだが、無理な受肉の影響で加虐体質がA+になる代わりに戦闘続行のランクがBに下がる)

・覚醒の悪魔B《A+》
(親父ぃのコントロールをものともしなかった伝説の超サイヤ人化限定のスキル。あらゆる精神干渉や狂化などを無視する。そう、まるでスルーで有名なパンツのように……と思っていたのか?残念ながら今回は精神干渉が低確率だが効くようになっている)

・祖龍の寵愛C《B》
(無視できぬ程の完全な異常故に上がった。あらゆる属性攻撃の耐性が上がる、はずだが悪の泥のせいで前のままである)

・伝説の超サイヤ人A《EX》
(異常体質が変化したもので、伝説化限定のスキル。死ぬまで力が無限に溢れるスキル。本来なら26秒毎に幸運以外のステータスが高確率で1ランク上がるが、その分マスターの負荷もかかるというものなのだが、弱体の影響で確立が中確立にダウン)


【廃棄スキル】
・騎乗B-








*バット=エンド宝具説明


『竜狩りの姫君』

スレイヤークイーン

ランクA

竜狩りの一族に伝わる鎧を纏う。その防具はかつて岩を纏った龍から作られたとされ、非常に頑強とされている。

ドラゴンスレイヤーの異名もあるため武器や鎧に竜に関わる者に追加ダメージを与える補正がつき、耐久が1ランク上がる。


『祝福の排水龍』

ゲオルギウス・シューダー

ランクB+

かつて討伐した修陀というその大きさ故に、龍と呼ばれた大蛇を元に作った2又の槍。それの体液は祝福された聖なる水となっている。その属性故に吸血鬼や邪竜などに強いとされ、生前邪竜殺しの武器として重宝していた。

竜に関わる者に追加ダメージを与え、更に悪に属する者にも追加ダメージを与える。

真名開放で祝福と流水が混ざり、槍となって敵を貫く。









*セイバーオルタ宝具説明


『存在しない理想郷』

アヴァロン・ネバーワズ

ランク?

この世全ての悪(アンリマユ)によって返還された『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』の鞘である。しかし、持ち主諸共悪意に汚染されたため性能が変質してしまったようだ。

例えば中は妖精郷ではなく、セイバーにとっては忘れられない記憶とも言えるカムランの丘となっており、そのせいで防御結界が固有結界へと変質している。これは悪意に呑まれたセイバーにとって最も印象に残っている世界がここであったため、妖精郷より影響が大きくこのような結果となってしまったようだ。
もしかしたら騎士王(アーサー王)としてではなく、セイバー(アルトリア)としての闇そのものを映しているのかもしれないが。

他にも欠陥があるだがそれはまた次の機会で記述する。





〜後に変更や追記あり〜




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染まりしも変わらぬ愚者



〜前回のあらすじ(by自称悪の義姉)〜


「ご機嫌よう皆様、今回担当させていただきます椿アネモネでございます。

今回は2話連続更新なので次のあらすじはお休みになってますので気をつけてください。

では、早速ですが本題に入らせていただきますね。

前回、また大切な人を救うことが出来なかった悪魔君。遂にやけになっちゃってさあ大変。バットちゃんが止めようとしてるけど、どうなるかしら……?とにかくバットちゃん頑張って!きっと、貴女の王子様(と言う名のロリー好き紳士)が来てくれるはずだから……

一方計画が大きく狂い、苛立ちながらも目的を達成するためにどこかへ向かう彼。しかしそんな彼にイメチェン(?)したセイバーちゃんが立ちはだかったのです。どうやら全てがどうでも良くなったと言ってますが……果たしてそうなのでしょうか?






……正直に言えば2人の殺し合いは反対です。これはあくまで義姉としての勘なのですが彼女はあの子にとって必要な娘なんだと思うんです……ええ、もしあの子に彼女が出来るならばああいう娘が必要なんだと思うんですよね。

……もうこの世にいない私の代わりとして、あの娘ならきっと………」





 

 

冬木にある永時の拠点内。そこには警備兼護衛として残されたアリスと祈るかのような姿勢を取るネルフェの姿があった。

 

 

「お父様……お母様……」

「ネルフェ様……」

 

 

余程両親が心配なのかずっとそわそわしているネルフェにアリスはどう声を掛けるべきか分からず困り果てていた。

 

 

(『大丈夫、きっと帰ってきますよ』……は無責任な気がしますし……かと言って『帰ってこないかもしれない』は酷だと推察できますし……)

 

 

こればかりは機械である自分が恨めしく思う反面、これが情というものかと感心を覚えてすらもいた。

正直なところ今小型の偵察機で様子を見ているのでその様子を見せるのもありだったが、流石にそれは躊躇った。

 

理由は2つあるのだが、まず1つとして途中で永時の姿が消え、見失ったから。

 

そしてもう1つ、ネルフェ自身の特徴とも言える性格にある。

ネルフェ・B・終という少女は非合法な研究の生まれであり、魔王と永時の体細胞を用いて生み出されたホムンクルス。親の2人の影響を受けてないのが不思議なくらい、かなり変わった性格の子ども達がいる中で今のところ唯一まともと言える性格である。

 

 

「どうしましょうアリスさん!もしお父様達が帰ってこないかと思うとーーー死にたくなってきました」

 

 

だが残念ながら“あの終永時とベルフェの遺伝子を持つ子ども”が普通な訳がない。

 

今言ったのは冗談とか比喩の表現ではない。これは彼女の本心で、本気なのだ。

現に懐からカッターナイフを取り出し、あろうことか自身の首に向けており、

 

 

「ッ!?ネルフェ様!」

 

 

気づいたアリスによって、取り上げられた。

 

 

「あっ……」

「あっ、じゃありません!またですか?マスターとボケマs……ベルフェ様に止められたはずですが?」

「ご、ごめんなさい……」

 

 

いつも仕事しないベルフェを見るような凍りつきそうな鋭い目付きで見られ、思わず俯いて謝る。

そんなネルフェを見やり思わず溜め息のようなものを出すアリス。

 

そう、そもそもあの一癖も二癖もある魔王達の娘が普通な訳がない。

中でも“普通そうに見える”ネルフェにある特徴的な部分。それは、極度の依存性である。

 

研究所で生まれ、身体を弄られ、薬漬けにされてなお性格が歪まずに今のような感じでいられたのは、愛が欲しい。その一心で今日まで生きてきたからだ。

やがてとある被験体の暴走により研究所は大破。その隙に研究所からなんとか脱出し、調べにやってきたベルフェによって保護された。

その後自身の娘と知ったベルフェは研究心を抑えつつとりあえず永時の判断に任せようと紹介したのが始まりである。(ちなみにベルフェはこの後、純真無垢な表面により母性が刺激されて半ば親バカになった)

 

研究所にいた研究員(屑共)より強く、逞しく、優しく、何より歪な出自の自分を子どものように愛してくれる。

 

生まれが生まれなので愛情の欠片もない場所で育ったのだ。愛情持って接してくれたことにより念願が叶ったのだ。こうなってしまうのは仕方ないのかもしれない。

 

 

「で、でも……」

「でももクソもありません。あの方々がどうなるか分からない以上私達は信じる他道がありません」

 

 

とは言っているものの、魔界に住んでいた娘をわざわざ呼び寄せたのだ。恐らく永時の方は……

 

 

「ーーー」

(ええい、何を弱気になっているのです!私はあの方々から作られた娘のようなもの。つまり姉のような存在である私が信じなければ誰が信じると言うのです!)

「……っとーーー」

 

 

ペシペシと頬を叩いて自身の奮わせるアリス。しかしそんな彼女の肩を叩く人物がいた。

 

 

「おーい。ちょっといいかい?」

「なんですか?今忙しいのですがーーー!?」

 

 

考え込んでいた時にかけられた声に苛立ちを覚え、強く当たってしまうアリス。しかし後ろを向いて目を見開いた。

 

 

「やあ、ブロリーです……じゃなくて、オメガさんですよ」

 

 

フフフ☆と言った感じの台詞が聞こえそうな爽やかでウザったらしい笑みを浮かべ、その脇には紫の髪の少女と黒い髪の美女2人を抱えている男がいた。しかも抱えている1人はやられたのかボロボロの姿であった。

 

 

「この反応……オメガ!?」

「えっ?ちょっと……?」

 

 

オメガの名を呼ぶや否や、ネルフェを後ろに隠して武装を展開した。

しかし武器を向けられたオメガは困惑していたものの、状況を理解したのか軽く溜め息を吐いていた。

 

 

「いやね……別に争いに来たわけじゃないのよ?」

 

 

ほれ、と譲り渡すように抱えていた2人を床に横たわらせる。アリスにはその行動の心意が読み取ることが出来ず、今度はこっちが困惑していた。

 

警戒していて張り詰めた空気となる中、ある1人だけは臆することなく話しかけた。

 

 

「あ、あの……!」

「ん?なんだい?」

「そ、その方達は一体……」

 

 

まあ言わずもがなあの永時の娘であるネルフェちゃんである。驚愕した表情であるも怯むことなく、しっかりとした意志のある目でオメガを見据え、話しかけていた。

 

そんな彼女の目を見て彼は面白そうにニヤリと笑っていた。

 

 

「この娘達かい?この娘はねぇ……君のお姉さん達だよ?」

「お姉さん?」

「そう、お姉さんだ。生まれ的にはね?」

 

 

後で出生地でも調べればいい、と言って彼は背を向けて去って行こうとする。

しかしアリスがそれだけで納得するはずもなかった。

 

 

「お待ちください」

「何か?」

「……何故わざわざこのようなことを?」

 

 

要するに意味が分からないと言っているアリスにオメガはただ1つだけ答えを出した。

 

 

「そんなこと決まっているさ……僕は気分屋。口調も、性格も、全てその場の気分でやっていく、それが生き方なんでね……そういやお嬢ちゃん」

「えっ?私ですか?」

「そう、僕から1つだけ贈り物を贈ろう……君が幸せになるためのおまじないをね」

 

 

そう言って1本の杖を渡すオメガ。渡されたネルフェとしてはどういう意味か理解出来ず、小首を傾げるだけとなった。

 

 

「杖?」

「……君はあのネバーの娘だ。それ故にこの先様々な困難が来るはずだ……されど希望は捨てるな。さすれば必ず、報われる日が来るだろう」

「??」

「僕は子どもの味方、とは断言出来ないがそういうことだと思ってくれればいいさ……きっと、いつか本当にそれが必要な時が来るはず、その時は……手を貸してあげることも、吝かではないさ」

 

 

そう言って彼は姿を消した。残されたアリスとネルフェとしてはまあ困ったものであり……。

 

 

「えっと……?」

「と、とりあえずこの方の治療をしましょう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(全く、本当に甘くなったもんだ。心境を表すなら親戚って気分かな?……だが、偶にはこんなことするのも面白い)

 

(ネバー……君という男はいつだってそうだ。自己満足のためだとか言ってプライドやモラルとか、終いには自分の命を平気で捨ててまでして誰かの為に戦う。その為には君は手段を選ばんだろうなきっと……)

 

(だからこそ僕は見させて貰うよ……君の進んだ道の結末がどうなるかを……ただし、もしあの世に行ったとしても姐さんを泣かしたら殴り飛ばすけどね♪)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……面倒だな」

 

 

血痕を身体に多少付けてはいるものの、傷跡がないように見られる永時はアサルトライフルを構えて発砲した。放たれた弾丸は何故か敵であるセイバーの横腹などを貫いた。

 

 

「それならば潔く殺されてください」

「断る……ッ!」

 

 

しかし、それも数刻経てば塞がってしまい永時は思わず内心舌打ちした。

撃たれたのに怯むことなくセイバーは永時に剣を振るう。

 

 

「チッ……!」

 

 

それを永時は左手に持った黒いオーラで包まれたナイフで受け止めることにより、火花が散る。そしてアサルトライフルを捨て、空いた手で拳銃を取り出して速射した。

 

対してセイバーは受け止められた剣を戻し、弾丸を避けて剣の柄を銃を持つ手にぶつけた。

 

 

「しまっ……!」

「終わりだ!」

 

 

思わず銃を手放して少し仰け反り、隙だらけとなった永時にセイバーは一刀両断しようと振り下ろした。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

だが苦痛の声を声を上げたのはセイバーの方。

何故なら脇腹を横から飛来したものによって貫かれたからだ。

 

 

「こ、姑息なことを……!」

 

 

すぐ再生させたセイバーが見たのは、ふわふわと浮いているさっき落としたはずの拳銃であった。

ネタを明かすと単に念動力(テレキネシス)で銃を操って撃ち抜いただけなのだ。

 

だが、これはセイバーにとっては死角からの攻撃方法があると教えられたもの、つまりは面倒な事態である。

 

 

「ハッ、結界内限定で交信遮断、不老不死と再生能力を持つお前が言えることか?」

「事実上不老不死を持ち、超能力染みたものを持つ貴方にだけは言われたくないですね」

 

 

言われてみればと永時は思う。現状として互いに死ぬことが困難となっている。だが向こうの方が再生能力は上回っている。

 

つまり、ほんの一瞬だけ隙を見せたら負ける可能性があるということだ。

 

 

「……無理か?」

「何がです?」

「いや、何でも(……あいつらが来れない以上、ジリ貧は確定か)」

 

 

ならば少しでも奴が不利になるような要素を増やすだけである。

 

 

(……おい、まだか?)

《(もう少し時間を稼いでくれ、流石の私でも時間は喰うのだ)》

(……了解)

 

 

斬りかかってきたセイバーの剣を避け、念話する永時。この会話で時間稼ぎがまだ必要なことは理解した。

 

 

「まあ時間稼ぎは不得手ではない」

「何?」

 

 

避け切った永時は自身の右手から黒炎を作り出し、セイバーへと撃ち放った。

空気中の酸素を喰らい、轟々と燃える黒炎が迫る中、セイバーは黙って剣先を黒炎へと向ける。

 

 

「甘い」

 

 

すると黒く染まった風の塊が収束し、剣先から放たれた。放たれたそれは黒炎とぶつかり、互いに消滅した。

 

 

「……その言葉、そのまま返してやるよ」

 

 

だが、セイバーの視線が捉えたのは黒いオーラを纏わせた左手を地面につけている永時の姿であった。

それを見たと同時、密着させていた手から黒炎が放たれたのだ。

 

放たれた黒炎は地を這うかのように燃え進み、セイバーへと猛スピードで迫るも見えているから何の問題もなく横へ移動することで回避された。

だが更に追撃として回避していた方向から金属片やバイクなどのガラクタなどが飛来してきた。

 

 

「……まあ分かっていました」

 

 

まあ分かりやすい一撃を入れてきたのだ。こんなことだろうと思っていたセイバーは振り払おうと剣を持つ手に力を入れてーーー更に前へと飛んで漆黒の暴風を撃ち放った。

 

 

「チッ」

 

 

暴風は目の前から飛んできた黒炎弾とぶつかって爆発。その後ろで苛立ちを見せる永時の舌打ちがはっきりと聞こえて内心ほくそ笑んだ。

 

 

「言ったはずですよ……甘いと」

 

 

そう言って彼女は永時へと懐へと肉薄し、クルリと身体を捻って自身の持つ美脚で、自分の胸元のナイフへと手を伸ばす永時の手を蹴り上げた。

 

 

「っ……!?」

 

 

蹴り上げられたことで持とうとしていたナイフを宙へと飛ばしてしまった永時。手も上に上げられ完全に隙だらけとなった彼に剣を切り上げるように振るった。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

反射的に永時は身体を後ろに逸らし、剣先が深く身体を抉ることなく浅いもので済んだ。だがそこで終わるはずがない。

 

 

「……がはっ!?」

 

 

切り上げから切り替え、突きを放ったセイバーの剣が彼の肉体を易々と貫いた。

吐血し、苦痛に歪めた顔を見てセイバーは嫌な笑みを浮かべた。

 

 

「ーーーッ!?」

 

 

だからこそ少し気が緩んで油断してしまったのは仕方ないことなのかもしれない。

 

細く、冷たい陶器ようなその手を掴まれたことによりセイバーの顔から笑みは消えた。

 

 

「馬鹿が、その程度で終わるとでも?」

 

 

そう彼が言い終わったと同時、掴まれたセイバーの手が爆発した。

 

 

「……あぁぁぁぁぁあぁぁっ!?」

 

 

遅れてやってきた苦悶しそうな痛みが彼女を襲った。

いくら高速の再生能力を、不老不死を持ったとしても刻み込まれる痛みだけは誤魔化すことは出来ないのである。

 

綺麗に吹き飛び、焦げ目だけを残す手首をもう片手で押さえながら後ずさり、傷を再生させている永時を睨みつける。

 

 

「な、何が……!?」

「ゲホッ……!『闇の活性』っていう、昔教えてもらった魔術だ」

「しかし!私には対魔力が……!」

 

 

そこでセイバーはようやく気づいた、よくよく考えたら自身には対魔力があることを1番知っているこの男がどうして魔術を撃ち込んでいるか。

それはダメージを受ける確信があるから放っているからではないかと今頃気づいた。

 

 

こちら()に堕ちてもなお、その凄みは消えてないようだが……どうやら対魔力が少し下がってるだろ?」

「……!?」

 

 

そう言われてセイバーの顔が少し強張った所を見るとどうやら図星のようである。

その顔を見て満足したのか永時はニタリと悪どい笑みを浮かべていた。

 

 

「この魔術は面白い性能でな。対象が人間を捨てている、或いはその内に闇を抱えるもの程威力が上がる代物なんだよこれが……今のお前には持ってこいのものだろ?」

「まさかそのような魔術を持ち合わせているとは……」

「つっても、代償はあるがな」

 

 

そう言って少し焦げ目の見える右手を苦笑しながら見せつけてきた。

 

 

「……なるほど、闇に抱える程威力が上がるということ。つまりは貴方もその対象だということですか」

「所詮俺もちょっと超能力を持っただけの、普通の人間だ。闇の1つや2つ抱えて当然だ」

「このようなものを取得していたとは……師はさぞ腕の立つ人物なのでしょうね」

「ああ……こんな俺に魔術を教えてくれた。常闇のような底知れぬ妖艶さと、燃え尽きぬ炎のように熱心な情で俺の師事をしてくれた。ただのクーデレ魔女……いや、まあ、俺個人としてはいい女だったよ」

 

 

少し変質したとはいえ、サーヴァントに生身で傷を与えれる魔術を師事した人物に興味はあったので聞いてみたがまさか答えてくれるとは思えず、懐かしそうに答える永時に少し驚いた。しかし逆にこんな疑問も浮かび出した。

 

 

「……思ったのですが、それを使えば簡単に自殺が出来たのでは?」

「何?」

「いえ、貴方は前に死に場所を探していると仰ってたので何故そうしないのかと思っただけです」

「なるほどな。まあ今の所自殺はする気はないさ。前は訳あって黙って消えるつもりだったが……今はやるべきことがあるしな。それに……」

「それに?」

「……前言ったと思うかもしれんが俺は悪だ。今まで俺は少なくともここにいる騎士共の亡骸よりも多くの命という命をこの手で葬ってきた。だからこそ俺は普通の死に方はしてはならないと、悪は悪らしく惨たらしい死に方をしなくてはならないと少なくとも俺はそう考えているんだよ」

 

 

だが彼は実質の不老不死。死とはほぼ縁がないとは、なんと皮肉染みたことであろうか。

 

 

「それにな。そんなこと(自害)に使用すれば、あの魔女さんに色々とどやされてしまうでな」

「……なるほど、それは良かった。私としては助かりますからね」

「何?……まあいい、無駄話はここまでだ。手が戻るまでに、出来るだけやっておくか」

「ッ!?」

 

 

変なことを言い残し、ようやく手が再生し始めたセイバーを見るや否、いきなり懐へと入り込み、ナイフを振るってきた永時。辛うじて直感が働いたことと、視界に捉えれたおかげで身体を後ろに反らすことで左胸辺りを少し掠らせることでなんとか済んだ。

 

だが、ただのナイフでやられた跡が焼け焦げているのを見たことで少し焦りが生まれた。

 

 

「くっ……!(まさかただのナイフで傷付くとは……やはりこれも『闇の活性』の効果を受けていたか!)」

「俺の魔術は特殊でな……こういうのでも持たなきゃあいつら(バケモノ共)と渡り合えんからな………」

 

 

そう言って新たに武器を取り出し、1歩踏み出す永時。それに対しセイバーは逆に1歩後ろへ下がった。

本来なら敵を前に引くことなどあってはならないと思っているが、片手がなく剣も満足に触れぬ状態で、更には相手は何を仕出かすか分からないのだ。これは仕方ないことだとそう自分に言い聞かせた。

 

ジリジリとにじり寄ってくる永時とゆっくりと下がっていくセイバー。客観的に見れば今まさに襲われようとしている美少女のようにも見えるだろう。まあ現にそうなのだが……

 

 

「さて、悪いがしばらく動かなくなって貰おうkーーーっ!?」

 

 

だが、そう甘くないのが現実というものである。

 

 

「ま、まさか……!?」

 

 

突然重力が何倍にも掛かったかのように膝から崩れ落ちた身体、そして驚愕する2人。しかしその意味はそれぞれ違うことを意味していた。

 

1人は予想が付くだろうが予想外な出来事によるもの、そしてもう1人は……思ったより早く身体が動かなくなってしまったことによる驚愕であった。

 

 

(嘘だろ……さっきよりも早く切れただと!?)

 

 

その証拠に動かそうにも震えることしか出来ぬ手足に彼はただ焦ることしか出来ずにいた。

 

 

「なるほど、そういうことですか」

 

 

急なことで呆然としていたセイバーが意識を戻したようで、戦闘前の強烈な気配が消えた所から全てを理解し、もう元通りとなった手をチラリと見て笑みを浮かべた。

 

 

「か……神様って、のは………酷い、よな?」

「そうですね。神は見守るだけの存在らしいのであながち間違いではないかと……」

 

 

そう言いながら剣を構えてこちらに歩み寄るセイバー。その顔には油断らしきものがあり、完全に動けないと判断されたようだ。

 

まあ事実動けないのが現状であるが。

 

 

(チッ……マズい。このままじゃあ確実になぶり殺しか斬殺されるか……何か打破する方法は……)

 

 

幸いまだ脳は動くので頭を回転させて現状打破の方法を思考する。だが、ゆっくりと迫るセイバーを見て焦りが積もっていく。

 

 

(……………あった)

 

 

あるではないか。まだ自分は負けた訳ではないようだ。

目の前で振り下ろされる凶器を前にして永時は内心笑みを浮かべた。

 

 

「これで、終わりです……!?」

 

 

振り下ろした剣が今度こそ永時の身を斬り裂いた……つもりだった。

 

いや、正確には斬ったのだが剣先が途中で止まってしまったのだ。何故かバチバチと音を鳴らす動かないはずの彼の左の手首によって。

 

 

「……ッ!?結構、いっ、たなぁっ……!」

 

 

そう言って彼はもう片手をセイバーと反対の方へと向ける。すると物理的に手が飛んで行った。さながらロケットパンチの如く。

 

 

「なっ……!?」

 

 

まさか手が飛ぶと思わず驚愕するセイバー。

 

手はロープのようなものを付け、尾のように揺らめかせながら遠ざかっていく。その方角は永時の後方、そこに突き刺さっている剣を強く掴んだ。

 

 

「ッ!?まだ動く力を残してたのか!?」

「(ワイヤー付きアーム……昔立体移動用に付けたものが役立つとは………人生何が役立つか分からんものよな)」

 

 

スパイ映画でよくありそうな感じでワイヤーに引っ張られてその場から高速で離脱する永時。

 

だが当然それをセイバーは追ってくるのは必然であり、現に剣を自身の背後に向けて暴風を放ち、ジェット噴射の要領でこちらに急接近しつつあるのを確認した。

 

 

「っ……!(喰らえっ!)」

 

 

ガシャンと金属音が鳴ったと思ったら、突然右肘にポッカリと空洞が出来た。

そして、その空洞からは複数の砲身が環状に並べられた……機関銃(ガトリング)と呼ばれるものが顔を見せた途端、突然火を吹いた。

 

 

「ぐっ……義肢か!」

 

 

まさか腕が義肢とは思わなかったようで、その証拠としてセイバーの顔が驚愕に染まっていた。

 

この義肢はベルフェによって作って貰ったもので、脳さえ機能すれば動いてくれる代物である。とは言っても、あのマッドな女がただの義肢を与えるはずもないのだが……。

 

 

「なっ……!?」

 

 

しかし、それは“剣を手放したこと”によって紙一重で回避された。

 

まさかあれだけ騎士道とか何とか拘っていた女が得物を手離すとは思えず、今度は逆に永時が驚愕。しかし風を放っていた剣の勢いは止まらず、弾丸を弾き飛ばして永時の肩に直撃した。

 

 

「うがっ……!?」

「はあっ!」

 

 

バランスを崩して降下、地面に身体が接することで減速。剣は回りながら地へと落下していく。

 

それをみすみす逃すつもりはないのかセイバーはそのまま足に力を込めて跳躍する。そしてそのまま剣を掴んだ彼女は跳躍の勢いを殺さぬまま、失速する永時の右腕を肩の接続部分ごとばっさりと切り落とした。

 

 

「……!」

 

 

青白い電気を僅かに放ちながら、弾丸を吐き出したままワイヤーに引っ張られて離れていく右腕。それにより距離を取るのに失敗。

 

だが永時は右腕だったものを黙って一瞥し、相も変わらずの嫌な笑みへと戻した。

 

 

「まさか義肢だったとは……貴方には驚かされてばかりですよ」

「寧ろただの人間が、魔王と戦ってきて……生身で残ってる方が不思議だろ?」

「ええ、確かにその通りです……ねっ!」

 

 

多少話をするなり間髪入れずに剣を振り下ろすセイバー。何故なら彼女の直感と今まで付き合ってきた際の経験と贋作によるもたらされた情報が物語っているのだ。

 

早く始末しなくては、長期戦になるとこの男は何を仕出かすか分からない。だから彼女は迷いなく剣を振り下ろしたのだ。

 

それに対して永時も簡単には殺されまいと残った左腕を動かすも剣の迫る方が早く、永時の身体を引き裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……エイジ!!」

 

 

と思いきや、残念ながら甲高い金属音と共に振り下ろされたはずの凶器は寸の所でまた止められた

 

しぶとさが売りなのが終永時という男である。

 

 

「……何っ!?」

 

 

もう止められることはないと確信してたが故に、セイバーは目を見開いた。

そして、自身の剣を止めたであろう見覚えのあるピンク頭の長身の美女の姿とその者が持つ太刀を見て、更に大きく目を見開いた。

 

 

「まさか貴女がここに入ってこれるとは思わなかったですよ……アスモ」

「……」

 

 

いつもほぼずっと笑みを浮かべていた時とは一変。憤怒の交えた、溢れ出す禍々しい殺意を視線に込めて睨んでいた。その姿はまさに魔王というには相応しいものと言えた。

 

 

「なるほど……魔王というのは伊達ではないということですね」

「……エイジ、これを」

「……黙ってた、つもり………だが、流石と言っておこうか(……何も言ってないのに来れるとはやるな)」

「まあ君の相棒のつもりだからね。君の魔力を辿って来てみれば……凄い所に来たね」

 

 

語りかけてくるセイバーを軽くスルーし、アスモであろう美女は永時の所へ歩み寄り、懐から黄緑の液体が入った1本の小瓶を取り出した。

 

 

「……飲める?」

「少し、時間が……かかる、がな」

「……そう、なら仕方ないね」

「それをさせるとでも?」

 

 

そこで、黙っていたセイバーがようやく動きを見せた。

まず、永時を庇うように自身の前に立ちはだかるアスモに剣を向けた。

 

 

「……小娘が、そう易々とこの男をやらせると思うなよ?」

(へえ、こいつが魔王らしくするとか……似合わんな)

 

 

来ると分かるや否や、更に殺気立つアスモ。それを見てらしくないと内心苦笑しつつ頼もしい相棒だと称賛する永時。

しかし彼は同時に思考する。いくらアスモが魔王でも彼女はその性格故に戦闘はあまり得意ではないはず……まさか戦うというのか?

 

一方、面倒なことになったと内心独り言つセイバー。まさかこんなにも早く来て、しかもここに入られるとは思ってもおらず目標が遠のいてしまったのだ。独り言つのも仕方ないことだろう。

 

 

「(どうやら永時は悪運が強いようだ……厄介な程に)」

 

 

今すぐ目標である永時をさっさと始末したいのだがそうは問屋が卸さないと言った所が現状である。護衛の様に永時の前に位置するアスモ。アスモが小瓶の中身を飲んでいるのが見えるが……目の前の女の行動に集中しなくてはならないためハッキリとは見えない……

 

 

「エイジ、ちょっと失礼するね?んっ……」

「……!」

 

 

前言撤回、何故かアスモと永時が接吻……まあ要するにキスをしているのがハッキリと見えてしまった。しかも深いやつを。

 

しかし、永時の目が見開いているのは気のせいだろうか?

 

 

「なっ……!」

 

 

知識としては知ってはいたものの、女としての経験がないため思わず手を緩め、目を見開いて凝視してしまう程驚愕していた。

だがそんなことはお構いなしに2人は続ける。

 

 

「ん……んく……んちゅ……」

「……」

「(あれがキス……流石は色欲の魔王というべきか)」

 

 

さっきまでのシリアスはどこに行ったのやら。コクコクと小さく喉を鳴らす永時に頬を染めながら口付けをするアスモ。

 

だがそれと同時になんとも言えない怒りがマグマの如く、グツグツと煮えたぎるように込み上げてきた。

まるで自分のおもちゃを取り上げられた子どものような気分。別の例えなら慕っていた兄に彼女が出来てしまった感じ。

 

まあ要するに嫉妬のようなものなのだが、彼女が気付くことはないだろう。

 

そして手を出すことも出来ず、眺めること30秒程。ようやく2人は口を離す。

 

 

「んっ、くちゅ……ぷはっ……これで良し、だよね?」

「……ああ」

 

 

恥ずかしそうにモジモジするアスモと動じることなく立ち上がる永時。

そして、最初の時に感じた重圧が(いかづち)を纏うことと共に元に戻っていた。

 

 

「すまないアスモ。助かった」

「別にいいよ。僕は君のもの、ならば助けるのは道理というものでしょ?」

「……少し語弊があるが、まあいい………んで、ベルフェの奴はどうした?」

「いやね、ここに向かう途中で彼女と合流したんだけど……どうやら入れなかったようだね」

 

 

お忘れではないだろうか?この結界は固有結界並みに落ちたと言えど、妖精郷を再現しようとしたものの成れの果てだったもの。その効果は内部からの攻撃による破壊や交信は不可能ということを永時が証明していたではないか?

だが、その逆のことは試してはいなかったのではないかと。

 

 

「(空間操作の能力を持つベルフェが無理となると……)やはりそういうことか」

 

 

そこでようやく気づいた。この結界の不備(欠陥らしきもの)に。

 

 

(今の所、ベルフェとアスモの違いを踏まえると……あいつ(セイバー)とそれなりに交流がある、或いは好感がそれなりにあった奴なら出来るが、一度敵対心を持つと出られんのかそれか元々出ることが出来ない仕組みかは定かではないが……同族は全て受け入れるか……まさにあいつの精神をトレースしたようなものだな)

 

 

また1つ欠陥らしきものを知れて少し喜ぶ永時だが、そうも言ってられない。今戦闘続行が出来た所でまた直ぐに薬が切れてしまうのが現状。しかも徐々に早くなっていると来たものだ。2人で優勢になった所か、寧ろ足を引っ張ってしまい不利なことには変わりようがなかった。

 

 

「(……どうする?アスモの奴と手を組んだ所で俺が足を引っ張るのは目に見えているが……何か打開策は………)」

「あっ……エイジ、いいこと考えたよ」

 

 

いつもの間の抜けた感じでまるで永時の内心を読んだのかのように話を切り出したアスモは永時へと近づいていき、そのまま抱きついた。すると突如永時の足元に魔法陣のようなものが浮き彫りになり、そのまま彼は光に包まれた。

 

 

「……!?」

 

 

光が晴れた時にはその姿は大きく変貌しており、セイバーはそれを凝視した。

 

黒をベースの戦闘服は紫色に染まった黒とで塗装され、淡いピンクのラインが入ったパワードスーツのようなものに早変わりしていた。

 

 

「こいつは……パワードスーツ?」

『昔使っていたのを参考に永時に纏う形で僕が変身したんだよ。ほぼ一心同体みたいなものだから動かない部分は僕が動かすから安心してね?』

 

 

説明を求める永時にいつの間にか太刀へと変化して左手に収まっているアスモが簡潔に説明し、聞くや否や永時は喜びを表に出した。

 

 

「ほう、そいつはいい……(流石アスモ、これなら薬が切れることを恐れずに済むというわけか。切られた右腕部分も動く………なるほど、一心同体というのはあながち間違いではないようだな)」

 

 

手を閉じたり開いたりし、動きに誤差がないことを確認する。

そしてガチャンと軽そうな金属音を鳴らしながらセイバーへと身体の向きを変え、まだ少し頬を赤らめている彼女を見て、ニヤリと愉快そうに笑みを浮かべた。

 

 

「何だ?小娘には刺激が強すぎたか?」

「そんなことではありません。戦場であのようなことをしている貴方達に驚愕しただけです。ええ、決して初めて見たことによる羞恥心ではないので悪しからず……」

 

 

そうかと楽しげに言う永時と言われて少しムキになって反論するセイバー。その姿はまるで少し前にもあったかどうか忘れたが、とにかく軽い口喧嘩をする兄妹のようにも思えてきて、もしかしたらこんな関係があったら面白かったのかもしれないと少し思う永時であった。

 

 

(……あいつ(アネモネ)なら『絶対彼女は貴方にとって必要不可欠なんですよ!お嫁さんにするならああいう人がいいと思うんですよねぇ……』とか言いそうだな)

 

 

今は肉体はなく人格だけの存在となった義姉のことを思い出し、思わずクスリと笑ってしまった。

しかし、そんな考えをしているなど知りもしないセイバーは小馬鹿にされたと思い、永時を睨みつけた。

 

 

「……何か?」

「いや、少し知り合いを思い出しただけだ。気にするな」

「そうですか……」

「そうだ……2つ、聞いていいか?」

「なんでしょうか?」

 

 

バイザー越しに見つめてくるのに妙な違和感を感じ取りながらもセイバーは応答した。

 

 

「お前がわざわざ俺を殺しにきた理由……どうせ聖杯を使用させてやる契約の元だと踏まえるが……どうだ?」

「ええ、そうですが?」

「了解、じゃあ2つ目だ……お前、もし聖杯を使えたとしてその後どうするんだ?」

「……その後?」

「だからな。何処まで戻すかは知らんが、もし選定の剣を選ぶところまで戻すのなら普通の小娘として過ごす。他には自身が再び王となって違うやり方をしてやり直してみるとかあるが……お前は具体的にどうするつもりなんだ?」

「そうですね……最初の内は選定の剣をやり直し、王としてではなく別の形で国を支えようと考えていましたが………今はもう一度王になるべきかと考えています。前のような甘さを捨てて行く、そういうつもりでいる所存です」

「なるほど、甘さを捨てるということは……圧政(暴君)か。なるほど、実にこちら側()らしい考えだ」

「あくまでそれは私の願い(私欲)のため。民のために尽くした結果が失敗ならば変えるまでのこと、そのためには圧政も辞さない覚悟です。しっかりとした規律と治安、そして統率。縛ることにより国は安泰を保てる、これこそが私が本当に求めた理想の王の政策なのかもしれません」

「なるほど……だが、圧政をしたところで到達点は同じだろうがな」

 

 

そう言って刃先をセイバーへと向けるように太刀を構える永時。

本当は何がと聞きたかったセイバーだが流石に何もしないのは不味いと剣を構えてから口を開いた。

 

 

「……それはどういうことでしょうか?」

「付き合いが短い俺でも気づけたんだ。悪いが自分で考えな(まさか奴の言う通りとは……腹が立つが今回は奴が情報源で良かった)」

 

 

これはお前が気付くべきことなんだよ、と彼は告げると剣を身体から垂直になるよう構え、そのまま踏み込み刀を下から振り上げた。

 

 

(……方針や思考を変えた所で、お前自身が根本的な所で変わらねば意味はないと気づかんとは……全く持って哀れだ。ああ、哀れ過ぎる……)

 

(だからこそ()がいるのだ。()()らしく、悪を貫くのみ……所詮は俺の自己満足だ。他人がどうこう言おうと、その歪んだ正義(正し過ぎる性根)は気に食わんから勝手に叩き直させてもらうぞ)

 

 

 



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加減知らずの破壊王



〜今回は2話連続のため、あらすじコーナーはお休みです〜






 

 

 

「くっ……!」

 

 

地を駆け巡るバットの後方が緑のエフェクトと共に爆破する。

爆発により地面は抉れて地形を一瞬にして変え、廃墟や瓦礫が塵となって消えていく。これでもうかれこれ2桁は達するであろう回数の爆発である。

 

完全に悪魔と化した男に抗っている彼女はというと苦戦、否、ほぼ一方的な蹂躙に必死に凌いでいた。

 

 

「フンッ!」

 

 

ノットによって放たれた1つの緑弾。それが小さく分裂し、散弾の雨の如くバットに降り注ぐ。

しかし、バットには一つひとつがはっきりと見えており、当たりそうなものを2槍を上手く扱って弾き、接近する。

 

 

「ッ!」

「オラァッ!」

 

 

その自慢の速さで後ろに回り込み、雷を纏わせた深緑の槍を振るう。

攻撃の時に出る殺気によって気づいたノットは腕を振るい、槍と激突した。

 

2つの力が激突し、拮抗状態によりバチバチと電撃と火花が色鮮やかに散る。

 

 

「どりゃっ!」

「ッ!」

 

 

先にその拮抗状態を崩したのはバット。空いていた片手にある『祝福の排水龍(ゲオルギウス・シューダー)』による激流の嵐がゼロ距離で腹部に放たれ、ノットはそれをもろに喰らってしまった。

 

 

「……」

 

 

遅れて吹き荒れる衝撃と砂埃をバットは荒れている息を整えながらも槍を構えてただ見据えていた。

 

 

「フッ」

「んなっ……!?」

 

 

しかし返ってきたのは手応えではなく、太い腕だった。砂埃を引き裂くようにそれは飛び出してきて、バットの頭を掴んだ。

 

 

「なんなんだ今のはぁ?」

「ッ!」

 

 

掴まれてすぐ飛んできた無傷のノットの大きな拳。それがバットの顔面に直撃し、彼女は吹き飛ばされた。

 

更に飛んだ自分に合わせたのかこちらに向けてダッシュしてきたノット。そのままラリアットを繰り出すもバットは槍を交差させて防御の姿勢で衝撃を和らげるもあまりのパワーに後ろに下がる結果となる。

 

 

「なっ!?」

「遅い!」

 

 

そんな彼女は次の攻撃を仕掛けようとしたが、その隙に後ろに回り込んだノットがそうはさせなかった。彼女の小さな体躯を掴み、そのまま上空へと蹴り上げた。

 

苦痛の声を漏らし上空へと打ち上げられたバット。だが地にいたノットは両足に力を込めて跳躍。

 

 

「死ぬがいい!」

「があっ……!?」

 

 

そのまま彼女の頭を掴んで、地面に叩きつけた。

 

 

「ぐっ……」

「フンッ!」

 

 

無慈悲にもノットは頭を掴む手を離さずそのまま持ち上げて彼女の腹部に拳を叩き込んだ。骨を砕くような音を響かせ、バットは吹き飛ばされて廃墟に頭から突っ込み、崩壊音と砂埃が視界と聴覚を一時的に阻害する。

 

 

「げほっ、ごぼっ!」

「これでくたばるがいい……!」

 

 

砂埃から吐血するような音が聞こえる。しかしそんなことは関係なしにノットは追い打ち、というより止めを刺そうと右手を彼女の方角へと向けて連続で撃ち込んだ。

放たれた複数の緑弾はそれぞれ緩いカーブを描きながら砂埃の中心部へと向かっていく。

 

 

「『祝福の排水龍(ゲオルギウス・シューダー)』!!」

 

 

だが、砂埃を切り裂いて出てきた激流。被弾する緑弾を破壊し、その後に口の端から血を流すバットが深緑の槍を帯電させて飛来してきた。

 

 

「おらっ!」

「死に損ないめぇ……!」

 

 

ノットは緑弾を右手に持ち、そのまま雷の槍を押しつぶすように押し出した。

2つが接触した瞬間、力の衝突により爆発。遅れて凄まじい衝撃と風圧がノットの身体へぶつかったも彼は応えた様子はない。

 

 

「……何ぃ?」

 

 

しかし目の前にいた筈のバットは消えていた。

逃げたのか?と捜索を始めようと辺りの気配を探るノット。特に不意打ちをされないように後ろは念入りにだ。

 

 

「…………ほう?」

 

 

これにはノットも驚愕した。後ろに振り向けばしたり顔でこちらに笑みを浮かべ、再び深緑の槍をこちらに向ける彼女がいるのだから。

 

 

「竜の鱗すら貫くこの槍……受けてみな!『真槍雷霆・竜堕とし(プレーステール・ケラウノス)』!!」

 

 

槍を持つ腕ごと包むかのように現れたのは嵐の如く荒れ狂う暴風と感電したら死に繋がりそうな凄まじい青い雷。それを纏った槍の矛先がノットの顔に向けられていた。

勿論、喰らったらただでは済まないのは明白で……

 

 

「よくやったようだが……その程度か?」

「……なっ!?」

 

 

だからこそ、投げる前に真っ直ぐ突っ込んできて槍をその手で掴んだ時はさぞかし驚いたことだろう。

 

本来なら焼肉のように肉を焦がすような音が聞こえるはずなのだが聞こえて来なかった。しかしそんなことを気にする間、僅かながら隙だらけとなってしまったバットの脇腹を蹴り抜く。そのあまりの力に吹き飛ばされてしまった。

 

 

「くっ……!」

 

 

飛ばされるも身体に力を入れて回転させ、足に力を集中させて地を蹴ってノットへと駆け出す。

 

しかし視界に捉えたのはノットの太い腕。巨体には合わぬ軽やかなステップで目の前に現れたことにより急ブレーキをかけようと足に力を入れるもノットの太い腕が目前へと迫っていた。そこで彼女は頭を下げることで紙一重で避ける。

 

 

「チッ!」

 

 

攻撃を外したノットはそのまま身体を後ろに倒し、振るった腕も自然と地面へと近づかせ、手をついてその勢いを利用して回転蹴りをするもバットは槍を軽く突き刺して棒高跳びの要領で飛脚、残った槍を片手で引き抜いて回避し、その間に『祝福の排水龍(ゲオルギウス・シューダー)』を背中へと背負う形で収める。

 

 

「何ぃ?」

「ホーリー!」

 

 

バットの口から呪文らしきものが言い放たれると同時、空いた手から光が収束し、それがやがて丸い光弾のようになり、

 

 

「ノット直伝……イレイザーブロウ!」

 

 

この技は昔バットが新たな戦闘法を考えていた際、ちょうどノットの戦う姿を見てピンときたようで頼み込んで1からやり方を教えて貰った結果得た技である。

 

されど放たれるのは悪魔のような破壊の一撃ではない。悪魔にとっては小さき一撃であろう。

 

だがそれは悪なるものを倒すための聖なる光を収縮させた一撃。当たれば効果がある保証はあった。

 

 

 

「はぁぁぁっ!」

 

 

しかしノットはそれに対し胸の前に緑弾を作って光弾とぶつけた。

それが上手く壁の役割を担い、衝突と同時に爆発。バットが吹き飛び、自身は無傷でなんとか事無きを得る。

 

 

「ぐぅっ……!(くそっ、しくじっちまった!)」

「……なるほどな。魔法、いや……その応用か?全く、槍以外でも攻撃方法があったことを忘れていたぞ(まあ効かんが……)そういやイレイザーブロウを昔教えたことがあったな」

 

 

ノットはその攻撃方法に関心を持っている中、バットの中で焦りはどんどん蓄積されていく。

 

槍=唯一の攻撃法と思い込んでいたであろうノット。それ故にその考えを突いた隠し玉とも言える攻撃をあろうことか防がれてしまったのだ。焦るのも無理からぬことだ。

 

 

「(どうする……使えるのはあと数回が限度。それにいくらルシファーの魔力を頼りにしてるとはいえ……それまでに決めれるか!?)」

「(あのゴミのような(クズ)がマスターというのは癪に触るが、無限に近いこの魔力量(バックアップ)には感謝しなくてはな……)さあ、俺の餌食になるがいい!」

 

 

表情から状況を読み取ったのか勝ち誇った笑みでバットを見やる。そして読み取られたのを悟ったのか覚悟を決めたような顔つきになるバット。

 

緊迫した状況の中先に動いたのは奴だった。

 

 

「でぇやっ!」

「クソッタレッ……!はあっ!」

 

 

両手に緑弾をつくり1つを投擲、だが余裕で見えているバットは悪態を吐きながらを槍で弾き飛ばす。

だが、弾いたと同時にもう1つの緑弾を構え、肉薄してきたのだ。

 

 

「ッ!?」

 

 

投げられたそれを紙一重で避け、攻撃をしようと体勢を整え直そうとノットを見やると投げたはずの手にまた緑弾がそれが彼女の目前迫っていた。

 

 

「くっ……!」

 

 

どうやら投げた後に再び緑弾を作っていたようですぐに避けるには無理な中途半端な体勢だった。

思ったより早かったようで避けられないと判断した彼女は槍を盾にするように持ち直す。

すると間に合ったようで受けの構えが出来たと同時に自身に着弾して爆発した。

 

 

「ぐあっ……!」

 

 

爆発に飲まれたバットはその小さな体躯を宙へと舞い上げてしまう。

これはマズいと体勢を整えようとクルリと半回転し、

 

 

「馬鹿めっ!」

 

 

緑のバリアに包まれたノットの追撃の体当たりをもろに食らった。

 

 

「あっ……がっ…………!」

 

 

そのまま押され、廃墟のビルらしき所に叩きつけられる。その勢いはバットの身体が埋もれ、型が取れるぐらい凄まじいものであると語っておこう。

だが、それでも彼女はまだ生きていた。

 

 

「ぐっ、あっ………!」

「……まだ生きていたのか?今、楽にしてやろう」

 

 

そう言ってノットはバックステップで後ろに下がると右手に緑弾を作り、投げ飛ばした。

手から放たれた緑弾は空気を引き裂き、真っ直ぐと進んでいく。

 

しかしそれは、横から割り込むように猛スピードで飛来したものによって軌道がずらされた。

 

ずらされたことにより緑弾はあらぬ方向へと飛んでいき爆発しバットは命拾いをしたのだ。

 

 

「何ぃ?」

『……ピー……チャン……………ーン……』

「ん?」

 

 

驚愕するのも束の間。何かの音を耳にし、ノットは戦闘をやめて音源らしき場所に視線を移す。

 

 

『ーーーピ-ポコピ-♪チャンチャンチャチャチャチャ-ンチャ-ンチャ-ン♪』

「ま、まさか……こいつは………!」

「ほう、ようやく来たか……」

 

 

その音楽、正確にはその歌い手の声にバットは驚愕に、ノットは楽しそうにほくそ笑んだ。

 

そして、音源を特定し、見たのはほぼ同時であった。

 

 

「……は?」

「……なに?」

『チャ-ンチャチャチャ-ン♪チャチャチャチャ-ン♪』

 

 

だが目にしたのは、誰もおらずラジカセがただひたすら音楽を大音量で奏でていた光景であった。

 

 

『チャチャ-ンーーー虫ケラさんかと思っていたのか?残念!俺だよ!バーカ!』

「ーーー!?」

 

 

曲の終わりと同時になんかよく分からないことを言っているのを認識したバット。

だがガンガンなっていたラジカセが鳴りを潜めたと同時、2人のいた場所が暗い影に覆われた。

 

 

「ーーーと、言う訳でお待ちかねの……ロードローラーだぁぁぁあっ!!」

 

 

次見たときにはノットの頭上にロードローラーが隕石の如く物凄い勢いで降り注ぎ、ノットを押し潰した。

 

 

「……悪い遅れた、姐さん」

「遅いぞドアホ」

 

 

ロードローラーの上に立つ男を見て彼女は安堵の笑みを浮かべたのも束の間のことでそれはすぐに崩れる。

 

何故なら潰していたロードローラーが突如、緑のエフェクトと共に爆発した。

幸い上にいた男は爆発前に跳躍していたので難を逃れた。だが轟々と燃える炎の中から悠々と特徴的なあの足音を鳴らしながら歩んで出て来たノット。しかも無傷で、怖いぐらい恐ろしい笑顔でだ。

 

 

「……クズが、わざわざ俺に殺されに来たか」

「久しいね、君が出るのはいつ振りか?本能(破壊王)さんよぉ」

「さあな、そんなことはどうでもいい……なあ、オメガァッ!」

「うわっ、獲物を定めた肉食獣のような目つき……えらく好戦的だねぇ」

「そりゃそうだ。貴様さえ殺せば後は雑魚。俺が勝ったも同然だからだ」

 

 

1人は歓喜。片やもう1人は呆れとそれぞれ違う反応をする2人。バットはただそれを黙って見守ることしかできなかった。

 

てか本能?つまり、今のあいつは本能のまま行動してるってことか?でも、それだけじゃないような……

 

ここで更に最初に感じた違和感に疑問が深まるバットだが、そんな彼女をほったらかしにして話は進んでいく。

 

 

「……早速だが姐さんのために俺に倒されろ」

「フッ、それを言うのか?やっとやる気になったようだが、今のお前程度のパワーでこの俺を倒せると思っていたのか?」

「そりゃあどうかな?確かに今の俺1人じゃお前には勝てないかもしれんが……2人では変わるかもしれんぞ?」

「流石姐さん……よく言った。それでこそ僕が気に入った人だ」

 

 

だがその言葉にイラっとしたのか、オメガに変わり思わずそう言い放ったバットは槍をバトンのように器用にクルクルと回す。オメガはそんなバットの姿に喜びの表情を見せ、両手の指の間に日本刀を挟んだ。

対してノットはそれを見て尚も2人に対する態度を変えず、嘲笑っていた。

 

 

「クハハハハハ!雑魚が集まったところで無駄なのだっ!」

「本当、何がしたいんだか……」

「俺はただ鬱陶しいクズ共を殺すだけが目的だ。だが……早く俺を倒さなければ俺はバットも破壊するかもしれんぞ?」

「よし、殺す」

「フフフ……そう来なくちゃ面白くない」

 

 

槍を構えたバットと首を鳴らすオメガ。2人は互いに見合い、同時に飛び出した。

ノットは嬉々とした笑みを浮かべ、地を蹴って2人に向かって駆け出す。

 

 

「さあ来い!ここがお前達の……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「死に場所だあっ!!」」ってパクリーですかぁ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず先手はノットであった。

悪魔らしい悪どい笑みを浮かべながら向かってくる2人を見やるノット。すると突然何を思ったのか、その巨体から想像出来ぬ軽やかなサイドステップで移動し、1人に狙いを定めた。

 

 

「なっ!」

「しまっ……!?」

 

 

狙ったのは、丁度さっきの戦闘によりダメージを受けて弱っているであろうバットであった。

狙いを定めたノットは丸太以上に太い腕でラリアットを繰り出した。

 

 

「があっ……!?」

「なっ……姐さん!」

 

 

そのまま近くの壁に叩きつけられたバットは苦痛の声を上げ、あまりの速さに遅れてしまったオメガはその速さに驚きつつも急ブレーキをかけてバットへと方向転換した。

それを感じ取ったノットは腕を元に戻して彼を挑発するかのようにこう言った。

 

 

「オメガ!バットはカワイイかぁ?」

「そりゃ当たり前d……っておいぃぃぃ!?」

 

 

その確認をするや否やノットは軽やかに後ろに飛びながら緑弾をバットへと投げつけた。

前やった時より比べ物にならないぐらい加速している緑弾にオメガは驚きで声を上げるもすぐ様彼女へと駆け寄って、

 

 

「がはっ……!」

 

 

彼女を抱きかかえるようにして背中に被弾して吹き飛ばされた。しかし、彼女を守るように身体を捻り、背を地面に向けて落ちることで何とか彼女を守る。

 

 

「オメガ!?」

「ッ!?……くっ!」

「お、おい!?」

 

 

だが突然何を思ったのか、守るように抱えていた彼女を上空へと投げたのである。

 

何故なのか疑問と共に少し怒りが出て来るが、それはオメガがノットの両手を受け止めているのを見るまでのこと。

どうやら彼は迫り来る悪魔に対応するために自分を逃すついでに投げたとだと理解した。

 

 

「……その程度か?」

「何っ……!?(やっぱりパワーはそっちが上か!)」

「潰れろ!」

「ぐあぁぁっ!」

 

 

力比べで明らかに勝っていたノットはそのまま腕の力でオメガを肩より上に上げて、サマーソルトキックで自分の後ろに蹴り飛ばす。

そのままドップラー効果のように声を出しながら飛んでいって廃ビルへと突っ込んだ。

 

 

「フン、今トドメを刺してやr「甘いなっ!」」

 

 

追撃で手の平を向けるノットに上空にいたバットは槍を向けて強襲する。

だが、頭上にいることに気づいたノットは彼女を頭突きで反撃した。

 

 

「ぐあっ……!」

 

 

槍を物ともせず無理矢理頭突きで上へと打ち上げられたバット。そしてノットは悪魔のような笑みを浮かべ、足に力を入れて真上に跳んだ。

 

 

「ギガンティック……ダァーンクッ!!」

 

 

そして手に緑弾を練り上げ、それを上から叩きつけた。

 

爆発と同時に地へと落ちていくその姿はさながらバスケットボールでダンクシュートされたボールそのものだった。

 

しかしボールとは違い、地面に付くと同時に跳ねることなくその動きは止まった。

 

 

「うっ……ぐ、あっ……!」

「ククク……」

「南◯獄◯拳(もどき)!!」

 

 

足と腕に力を入れてゆっくりと立ち上がろうとするバット。

だがその上にいたノットは踏み潰そうと重力に従って降下する……つもりが、飛来して来たオメガの飛び蹴りによって失敗した。

 

 

「ッ!?クハハハ……」

「おいおいマジかよ……」

 

 

顔面を蹴られたことにより落下地点がズレたことに安堵するオメガ。しかし顔面を狙い、当たったはずなのに喰らった当の本人はただ笑っているだけだったことに思わず笑みを引きつらせてしまう。

 

 

「どりゃぁぁあっ!!」

 

 

だが立ち上がったバットが槍でノットに斬りかかったことにより、引き締まった表情となり、彼女の勇気に便乗して負けじと殴りかかる。

 

 

「……鬱陶しい!」

 

 

だが、それはノットにとっては蝿が集ると同意であったようで寧ろ苛立った口調で言うや否や、腕を横に広がるように伸ばし、2人の顔を掴んだ。

 

 

「ぐおっ……!?」

「むごっ……!?」

「……ぶっ飛べ」

 

 

そして、ただ純粋に腕を振るって手の力を抜く。それだけのことで掴まれていたバットは廃墟をいくつも貫きながら流星の如く視界から消えた。

 

 

「んんんっ!?っん、んんんんんんんんっ!!(姐さん!?って、離せや脳筋!!)」

「……チッ」

 

 

顔を掴まれてぐぐもった声で怒りを吐露し、掴んでいる腕を殴るオメガにノットは腹が立ち、

 

 

「うるさい」

「うがっ……!」

 

 

手を下の方へと持って行き、そのまま彼の後頭部に強く膝蹴りした。後頭部を蹴られ、脳を揺さぶられて身体は宙へと浮いたオメガ。

 

そしてそんな彼の顔を後頭部から鷲掴みし、顔から地面に叩きつけた。

 

 

「クハハハハハハ!!」

「がっ……!ごがっ……ぼはっ……!?」

 

 

しかも1度ならず、2、3、4と何度も何度も顔を地面に叩きつける。

叩きつける度に出血し、返り血が血飛沫となって顔にかかってしまうが寧ろ舐めて嬉々として続けていた。

 

その酷い行為は流石悪魔としか言いようがない諸行であった。

 

 

「……死ぬがいい!」

 

 

そして叩きつけた回数が2桁に到達した辺り。トドメと言わんばかりに血みどろの顔となったオメガを持つ手を緑色に発光させて……ロケットの如き速さで放り投げた。

 

 

「ぐぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

ミサイルの如く飛ばされて行った先で遅れて響くバットの叫び声。そう、オメガを投げたのはバット諸共攻撃する算段だったと言うことである。

 

敵を圧倒的な力でねじ伏せている。その事実に思わず悦に入ったのか爆風の音に混じって悪魔のように高笑いをしていた。

 

 

「フッ、フハハ……フハハハハハハーーーッ!」

 

 

しかしそれも束の間のこと。悦に入っていたノットが気づいたのはそれが目前へと迫っていたからだ。

 

しかし気づくのが遅く、それはノットの腹を突き刺した。

 

 

「グゥッ……!?」

 

 

流石にダメージが通ったのか少し後ろへと1歩後ずさるノット。だがすぐに元の体勢へと戻し、それを睨みつけた。

 

 

「バットォッ!」

「へへへ……ほんのちょっとは効いたようだな」

 

 

そこにはノットを突き刺した青い雷電を纏った槍をくるりと回す、したり顔のバット。

彼女の言う通りで放った、と言うより持ったまま一緒に突っ込んだ槍はノットの皮を少し抉る結果となっていたからだ。

 

 

「雑魚共がぁっ……!貴様らだけは簡単には死なさんぞぉっ!!」

 

 

だからこそ、滅多と攻撃が通らないこの男にとって目に入っているバットとその投擲者であるオメガを危険と判断したようだ。

 

怒声と共に彼に纏う気が膨れ上がり、それは一瞬世界を緑に染め上げる。それはまるで別世界ではないかと誤認するほど凄まじいものと言っておこう。

 

 

「おいおいマジかよ……!」

 

 

やがて染まった世界は元の色を取り戻すが、緑の光が彼の右手へと収束されていく。そこから感じる濃厚な殺気と膨大な力にバットは冷や汗を流す。

 

 

「これでくたばるがいい!」

 

 

迎撃しようかと考えたが、それに込められた禍々しい気が彼女の直感が警鐘を鳴らしており、気づけばその場からノットに向けて駆け出していた。

しかし辿り着く前に奴は放った。ノットの手の中に簡単に収まるぐらいの小さき緑弾、それをバットへと飛んで行く。

 

 

「なっ!?」

 

 

出遅れたのが原因か、駆け出した直後にはもう緑弾は目前へと迫っていた。

しかしそこは敏捷EXの女。軽やかな足取りでステップを踏むかのように横へと跳んで間一髪で躱した。

 

目標を逃した緑弾は廃墟と化した街の一角へと向かい、緑の光が包み込んだ。

光が晴れると同時、壮大な爆発音が辺りに響き渡る。遅れて爆発によって砂塵と爆風、そしてそれに吹き飛ばされた鉄片が数キロ離れたバットを襲った。

 

そして戻った視界で現状を確認した時、その光景に驚愕した。

 

 

「くっ……やり過ぎだろ!あいつ!」

 

 

その光景とは……緑弾が落ちたであろう街の一角が一瞬にして何もない荒地へと変貌していたからだ。

 

前見たことあるので慣れていたというのもあるが、まさか本気でやるとは思わず悪態付いた。

 

 

「ククク……クハハハハハハハハッ!!」

 

 

爆風に混じってノットの悪魔のような高笑いだけが耳に入り思わず彼女を声を荒げた。

 

 

「テメェ……少しは手加減しろよ!!」

「手加減ってなんだぁ……?」

 

 

ニタリと笑みを維持したまま小首を傾げるノット。それが単にふざけているからか、或いは本当に手加減というものを知らないのか、バットには分かっていたため舌打ちをした。

 

 

「チッ……」

「ククク……次は躱せるといいなぁ」

「えっ……?」

 

 

だがそれで終わった訳ではなく、寧ろこれからである。

 

またしても世界は緑に染まり光が収束する。ここまではさっきと変わらない。

 

だが、それが“本人の周りに収束しなければ”の話だが……

 

 

「嘘、だろ……!?」

「気が高まる……溢れる……!ウォォォオォォォオォッ!!」

 

 

叫びと共に見たのは、ノットを中心に無数の緑弾が雨の如く辺り一面に降り注ぐ光景だった。

 

 

「クソッタレ!(あいつ……当たらないからって適当に撃ってんな!?)」

 

 

降り注ぐ緑弾の雨を躱しながらどう現状を打破しようかと考えるバット。しかし、考えることが苦手なバットには何も思い浮かばず苛立ちと疲弊が募るばかりである。

 

 

「チッ……オメガ!!」

「あいよ!」

 

 

だからもう面倒になったので仲間に頼ることにした。

 

待ってましたと言わんばかりにバットの呼びかけに応え、彼女の目の前にいい笑顔(血塗れの顔)ですぐ様現れたオメガ。出てくるや否やどこからか取り出した大量の刃物類を連続で投擲する。

 

投擲された刃物類は全てこちらに飛来してくる緑弾へと当たり、緑の光と共に互いに消えていく。

 

 

「クズがぁ……!」

「こいつは……どうよ!」

 

 

そう言ってある物を両手で持ち上げて全力で放り投げる。それは2メートルは優に超える剣……いや、剣とはとてもいいにくい不恰好な石刀であった。

 

 

「フッフッフッ、こいつはその昔、騎士狩りと呼ばれた人物からパク……譲り受けた刀のレプリカ!そう安安と折れまーーー」

「フッ」

 

 

だがそれはがっしりと、それに余裕そうな笑みを浮かべて片手で受け止められた。そして、そのまま両端を両手で持って……膝でへし折った。

 

 

「……あれぇ?確かかなりの重量と硬さだったはずだけど……?」

「……その程度のもので、この俺を超えれると思っていたのか?」

「デスヨネー」

 

 

まあ分かってたよとオメガは苦笑。だが焦ってる様子は見られず、ノットは疑惑を抱いていた。

 

 

「貴様……何を企んでいる?」

「企む?ノンノン、企んでなんかいないさ。強いて言うならーーー」

 

 

言い切る直前。オメガの遥か後方、黒い世界を照らす光が光線となって闇夜を切り裂いてノットへと直撃した。

 

 

「!?」

「ーーー援軍を呼んだだけさ」

 

 

身体中を光線が貫くも、肉体には何の変化もなく健在であったがその顔には青筋が浮かび上がっていた。

 

 

「チィッ!」

 

 

不意打ちをされたことに苛立ったのか目の前のオメガ達を無視して緑弾を光線の飛来源へと放り投げた。

 

 

「ゴールデンプリズン!」

「へあぁっ!?」

 

 

しかし緑弾が手から離れる直前、急に視界が暗い闇に包まれた時は思わず声を上げてしまった。

 

それを側から見れば金色の膜のようなものがノットを球体状に囲い込んでいただけなのだが、中にいたノットには分かることのないことである。

 

 

「なんだあれ……金?」

「ーーー金は昔から富、権力、威厳、才能などがイメージされますが……つまりそれは全て人の欲、それこそまさに強欲と言えましょう!」

 

 

大声で演説を締め括ると同時、地から黄金の水が湧き出る。その光景にバットとオメガは呆然と固まった。

 

 

「そう、強欲こそわたくしのアイデンティティ!それがこのマモンなのです!」

 

 

そう大声で自画自賛と言う名の語りが終わった直後、オメガとバットの後方から黄金に輝く水が地から間欠泉のように湧き出て、そこから1つの人影が中から飛び出した。

 

まあ本人も言っている通りマモンなのだが、手をついて綺麗に着地すると綺麗なジョ◯ョ立ちを決めていた(3部Di◯風)

そしてそんな彼女の横に白銀が降り立った。

 

 

「えっと……?」

「やあマモンちゃん、ルシファーちゃん。よく来てくれたね」

「フン、別に貴様らの為にここに訪れた訳ではない」

 

 

オメガの声掛けを鼻であしらう白銀の女、ルシファー。それを見てマモンはただクスクスと苦笑していた。

 

 

「……なんだ強欲よ」

「フフフ……素直じゃないですわね」

「煩いぞ強欲。貴様の場合は素直過ぎて問題であろう?」

「仕方ありません。わたくしは強欲、自分に素直でなくては務まりませんので」

「貴様……『ァァァァァ!』フン、そういうことにしておいてやろう」

 

 

いつもなら口論が始まるのだが、今回は空気を読んだのかルシファーが引くことで話を強制的に終わらせた。

 

何故なら、ノットを囲んでいた金の膜にヒビが入る音を耳にしたからである。

 

 

「でぇやぁァァァァァっ!!」

 

 

案の定と言うべきか。次の瞬間、ヒビが入るとすぐに緑のエフェクトと共に爆発が起こり、ノットを縛っていた檻は跡形もなく蒸発した。

 

 

「ハァーッハッハッハッハッハ!!また虫ケラ共が死ににきたか!」

「うーん、結構固めにしたのですが……自信無くしてしまいますわ」

「文句を言うでないわ……とにかく奴を何とかして討伐する。後に続け貴様ら!」

「「「了解(しましたわ)!」」」

「ワハハハ……!所詮雑魚は雑魚!何をしようとこの俺を超えることは出来ぬのだ!」

 

 

 

ルシファーの一言に答え、全員が飛び出す。しかしそれでもなおノット(悪魔)はブレなかった。全員が手負いであることで勝利を確信。それに獲物が増えたことで喜びを感じ、嬉々として突撃していく。

 

馬鹿正直に突撃して来るノットにルシファーとマモンは飛び道具で応戦。ノットは腕で庇おうともせずに単純に真っ直ぐ突っ込んでいく。

 

 

「……やっぱりやめだ」

「はっ……?」

 

 

しかしオメガは違った。気分が変わったのか急に方向転換、バットへと走ってそのまま掴んで抱え込んだ。

 

 

「どこへ行くんだぁ……?」

「姐さんを連れて、避難するところだよっ!」

 

 

思ったより状態が酷いバットを思って戦略的撤退を選択したオメガ。バットの文句に対応せずして彼はノットから背を向けて逃亡を始めた。

 

だがそれを悪魔が見逃すはずもない。

 

 

「この俺が逃がすと思っていたのか?」

「まあ無理だよね……だから!」

 

 

そう言って彼はどこからかサングラスを取り出して装着し、ポケットから出した筒状の物を地面に叩きつけた。

 

叩きつけられたそれは爆破し、耳をつんざくような爆音と激しい閃光が辺りに拡散され、ノットを襲った。

 

 

「チィッ……!目くらましか!?」

「どうよ俺の太陽拳(物理)の威力、思い知ったか!」

 

 

どうやらスタングレネードの類だったようで目と耳がやられ、強制的に目を瞑らされ、若干だが足元がおぼつかなくなっており、彼でも一応効くことが証明された。

 

 

「下らんことをっ!」

 

 

だがそれも一瞬のこと、2秒も経たぬうちに地を軽く砕くぐらいの勢いと確かな足取りで強く踏みつけた。そして閉じていた目を大きく見開き、確実に戻った視界で(オメガ)を探す。

 

 

「……どこへ行った?」

「こっちだよ!」

 

 

しかし実際背後から声が聞こえ、すぐ様後ろへと振り向き……左胸辺りに衝撃が走った。

 

 

「……ぬうっ!?」

 

 

驚くことにまたもや怯み、後ろへと仰け反ってしまった。しかもさっきより数歩後ろへと下がってしまったのだ。

 

 

「……なんだと?」

 

 

それだけではない。驚くことに目の前にいる下手人らしい人物がオメガだと言うこと。そして僅かだが衝撃を受けた部分がビリビリと痺れを感じることにノットは二重の意味で驚愕した。

 

 

「クズが……まだそんな力を残していたのか?」

「まあフェアじゃないけど全快させて貰ったよ」

 

 

そう言うオメガの言葉にノットは気づく。よく見れば血だらけの顔が綺麗になり、身体にあった生傷が消えていたのだ。更にその後ろには同じく手負いではなくなった魔王2人の姿があった。

 

 

「クズが……大人しく殺されていれば痛い目に合わずに済んだものを……」

 

 

だがそれでも悪魔は無駄なことだと嘲笑う。こちらは薄皮1枚で再開するのだ。明らかに不利なのは分かっているはずなのにそれでもなお挑む姿は滑稽だと。バットの姿がないのが気になるがあの程度ならばどうにでもなると。

 

本来の彼ならば纏めてやるのは面倒なので個々撃破を狙う所だが、狂化と破壊衝動、加虐体質の重複のせいでまともな思考が出来ない。ただ敵を破壊する、それしか今の彼の頭にはなかったのである。

 

 

「だが……そう来なくては面白くない。すぐ壊れるなよ?」

「フン、滅びつつあるこの街のど真ん中に貴様の墓を建ててやろう!」

「ほざけ!逆に貴様らを血祭りに上げてやろう!」

 

 

ノットの言葉を合図に3人とノットは同時に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『真槍雷霆・竜堕とし』

プレーステール・ケラウノス(プレーステールはギリシャ語で暴風、ケラウノスは雷霆《らいてい》)

ランクA

バットの故郷にある竜狩りの槍。1度投げると嵐のような雷風が固い竜鱗を貫き、天翔る竜を地に堕とすと言われている。バットが戦士としてら生きていた頃からのもの故に扱いが1番上手い。

竜に関わるものに者に追加ダメージを与える。鎧と組み合わせるとかなりの大ダメージを期待できる





『ギガンティックダンク』

ノットが作ったオリジナルの技。
頭突きで敵を真上に打ち上げ、その後自身も真上に跳躍し、緑弾を作って上から叩きつけ、敵を地面へと打ちのめす技。
その威力は軽くクレーターを作る程で、実に彼らしい力技といえよう。




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嗤う悪魔



〜居候さんが送るあらすじ〜


「長らくお待たせしました皆様。お久しぶりの投稿でございます……うむ、あの自称人間(オメガ)に言われ、気分転換に椿アネモネのような口調に変えてみたが……自分で言うのもなんだが、不気味で仕方ないなこれは。

ゴホン……久しぶりだな皆の者。遠藤の奴が忙しかったようでかなり時間が掛かってしまったようだ。本当に申し訳ない。

前回破壊好き(?)の悪魔が暴れる中、援軍が現れる。傲慢、強欲、幼女好きが来るものの……果てさて勝てるだろうか?

奴はまさに悪そのもの。果たして勝てるかどうか……これは見ものであろうな。









おっと、言い忘れていた。今回も話の都合(?)で2話連続で投稿するそうだ。そこの所は注意してくれ……では、楽しんでくれ」





 

 

 

 

「ノット君、こっちに来て!」

「----……なんだぁ?」

 

 

割と最近か、はたまた大昔か、定かではないが少なくとも前のこと。

 

----に手招きされるがままゆっくりと側へと歩み寄るノット。朝っぱらだと言うのにこの元気は一体どこから来るのだろうか?と疑問に思いつつ近づいてみる。

 

 

「ほら、これを見て!」

「……」

 

 

招かれたのは景色を一望できるであろうテラス。その広さというと彼女はともかく、身体の大きいノットがいることで1歩横に踏み出せば互いに触れられるような広さとなっていた。

 

そして、そこから見えた景色。それはいつも通りの、のどかで平和な街の景色であった。

庭の手入れをする者、買い物をする主婦、荷物を運ぶ宅配業者らしき者、走り回る子ども達、それは極普通の平凡な人々の日常。

 

 

「……?」

 

 

だが彼は異常者。普通を求めたとはいえ、中身はあの悪魔であり、それが普通であるべき姿ということが分からなかったのだ。それ故にこうして理解出来ずに小首を傾げているのである。

それを見て彼女は苦笑、ノットに説明しようと口を開く。

 

 

「あらあら……じゃあ、あれを見てどう思う?」

「退屈と思える程のどかで平和な街だな……それがどうした?」

「あのねノット君。貴方にとってはどうかは分からないけど、私にとっては、こうして皆が笑顔で平和に過ごせることが当たり前のように出来る、それが普通だと思うの」

「平和が……普通?」

「そう……誰も血を流さず、花のような笑顔がずっと見られる………それって素敵なことじゃない?」

 

 

素敵な、とはよく分からないが少なくともいいものだと言いたげなのは何となく理解した。

 

 

「なるほど、これが普通なのか……」

「うーん、あくまで私にとってはずっとそうあるべき姿だからそれが普通とは限らないわよ?」

「いや、お前がそう言うのだ。あながち間違いではなかろう」

「あら?えらく信頼してくださるのね?」

「強いて言うならお前だから、それだけで充分だ」

「あらやだ、カッコいいこと言っちゃって!」

「……フン、お前がそう思うなら構わんが一応本気で言ったつもりだぞ」

「えっ…?本当なの?」

「本当だ」

 

 

聞くや否やおちゃらけた態度から一変。急に顔を赤く染めて俯く彼女にノットは首を傾げた。

 

 

「嬉しい……ありがとうノット君」

 

 

そう言って緑がかった髪を搔き上げる。見た目は10代後半、或いはそれ以下かもしれない見た目にはそぐわない気品のある仕草と、可憐さ、そして色気を醸し出しているのだがそれすらも靡くことはなく首を傾げた。

 

 

「ん?何のことだぁ?」

「……強いて言うなら、貴方のことがもっと大好きになったって所かしら?」

「……フン」

 

 

だが、ストレートな好意には流石に気づいたのか、照れ臭そうに顔を背けるノットを彼女は微笑みながら見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァーハッハッハッハッ!!」

 

 

そして現在。

 

滅びの一途を辿ろうとする新都にて、両腕を横に広げて飛行するノットの高笑いが響き渡る。だがその両腕に存在するものによって何をしているのかを物語っていた。

 

 

「ぐっ……!」

「がぁっ……!」

 

 

そう、前回あれ程威勢が良かった筈の3人、正確にはそのうちの2人、オメガとマモンがラリアットで運送されていた。

 

 

「ぐあっ……!」

 

 

複数の廃ビルを無理矢理突き破って真っ直ぐ進む。その途中でマモンが道路標識にぶつかることで腕から滑り落ちるもノットは気にせず更に突き進む。

 

そして、そのままオメガは近くにあった一際大きく、そこそこの強度があった廃ビルに叩きつけられた。その衝撃により、廃ビルはオメガを中心に巨大なクレーターを作り上げた。

 

 

「ふがっ……!」

「もう終わりか?」

 

 

そのままで飽き足らず手に力を込めて更に押し付けるノット。しかし、オメガはそこで終わるような存在ではない。

 

 

「ふんっ!」

「っ……!」

 

 

ノットの腕を掴み、下半身を上へと上げて左胸を蹴り上げる。

幸いにもヒット。全力で蹴ったのが効いたか、或いは向こうが気を抜いていたのか、定かではないがとにかく彼は怯み、ほんの少しだけ後ろへと後退した。更にはその影響か手の力が抜けて脱出することが出来た。

 

 

「チッ……」

 

 

思わず舌打ちするノット。視界から消えたオメガを見つけるべく首を下へと向ける。すると物凄いスピードでこちらに迫るカッターナイフを視界に捉えた。

 

しかし、そんなものが当然効くはずがない。遂に自棄になったかとノットはそのまま身体で受け止めて反撃しようと試み……

 

 

「馬鹿め……」

「……!?」

 

 

オメガがそう言葉を吐くと共に、カチッと何かのスイッチを押す仕草をする。そしてそれとほぼ同時、コンマ以下の遅れではあるがノットの左胸に当たったカッターナイフが爆発した。

 

 

「なにっ……!?」

 

 

だが致命傷などにはならず、少々焦げるだけでことは済んだ。だからと言って油断は出来なかった。

 

目の前に迫り来る次のカッターナイフを見たから。

 

 

「ぐおっ……!?」

 

 

至近距離で、更に先程よりかなり強烈な爆破に流石のノットも一瞬とはいえ、怯んでしまうもすぐに立ち直した。

 

だが、その一瞬があれば良かったのだ。

 

 

「カモン」

「言われなくとも分かっておるわ!」

 

 

粉塵が消え、クリアになった世界で捉えたのは数本の光線。それが全てさっき爆破された所へと被弾する。

 

 

「ぐぅぅぅぅ……!」

 

 

またもや怯んでしまうも先程より早く立ち直り、緑弾を投擲。そのまま光線の討ち手であるルシファーへと向かうも何重にも重ねられた盾の壁によって防がれたのである。

 

 

「なにっ……!?」

「クハハハハ!」

 

 

しかし、それはあくまで囮。本命は緑のバリアを張ってオメガに突撃するノット本人であった。

 

 

「でぇやっ!!」

「くっ!」

 

 

幸いにも見ていたため間一髪で転がるようにその場から避けるオメガ。遅れて落ちてきた悪魔は地面を余裕で陥没させる。

 

外れると理解していたのか立ち上がりは早く、手の平をオメガに向けて緑弾を撃ち出した。その数は3。

 

避けようかと考えて身体に力を込めて立ち上がろうとするオメガに声をかけられる。

 

 

「伏せてなさい!」

「おっ?」

 

 

その言葉に従って伏せるとその頭上を矢らしきものが高速で3本ほど通過した。

 

通過したそれはそれぞれ緑弾とぶつかって消滅する。

 

 

「……!」

 

 

ただし、数が丁度ならばの話。放った矢全てが緑弾にぶつかって消えたと思いきや、1本だけ緑のエフェクトに隠れるかのように光を切り裂いてノットへと向かってきたのだ。

 

しかし所詮ただの黄色い矢、手刀で弾き飛ばすことで解決し特に何も問題ないだろうと思って文字通りに行動した。

 

 

「変質」

「……あっ?」

 

 

されど、それがただの矢だといつ誰が言ったのか。マモンの次の言葉と共に矢は形を崩し、色を金へと変えた。

 

 

「ッ!ーーー!」

 

 

粘土のように姿を変えた矢だった金はそのまま自身を引き伸ばし、ノットの左胸へと槍のように鋭く変質して突っ込んだ。

 

一点に集中された強烈な打撲により筋肉は潰され、爆破により表皮を焼かれ、光線によって削られ、遂に鋼の要塞とも言えた肉体が“運悪く”も貫かれた瞬間であった。

 

 

「ば、馬鹿なっ!?」

 

 

遂に血を吹き出してしまった左胸を見て驚愕を隠せないノット。それと同時に、彼の中である考えが浮かび上がってきた。

 

 

(この俺の肉体が……昔より脆くなっているだと!?)

 

 

それは僅かながらかもしれない変化。悪の泥の影響により、耐久EXはEXでもギリギリの数値の末に成り立っているEXである事実に。

 

 

(あのクズがぁ……!何が無限の魔力供給(バックアップ)だ!弱くなっては意味がないだろうがクソッ!!全部終わったら破壊してやる……!)

 

 

今はこの場にいないマスター(クズ)に小さな報復を誓いつつも目の前の敵をどう対処すべきか考える。

 

文字通り傷を抉りとるような行為に腹が立つも逆に彼を冷静にさせ、普通求めし異常者(ノット・バット・ノーマル)へとほんの少しだけ思考(理性)が戻っていく。

 

 

(まあいい。こうなると分かっただけでも、寧ろこっちとしてはやりやすい……後はどう動くべきか)

 

 

しかし元々考えるのが苦手なノット。考えた所で何も浮かぶ訳もなく……

 

 

(とりあえず、1人ずつ潰せばいいか)

 

 

まずは……と目標を1人に絞って突撃する。

 

 

「来るぞ!」

「分かっております!」

 

 

緑弾を両手に持ってマモンへと急接近する。

 

まずは牽制で1発。しかし、案の定と言うべきか金を膜のように何重にも張って壁を作る。

 

 

「……はっ?」

 

 

しかし、それは急にカーブしてあろうことか後ろへと方向転換。一瞬とは言え呆然としてしまうマモン。

 

 

「フンッ!」

 

 

だが、壁に強い衝撃が走ったことで意識を無理矢理現実へと引き戻される。

あろうことかこの男、緑弾を投げる所か、両足で蹴ってきたのだ。

 

何をしたいのか分からず、自棄になったのかと思ったがそれも束の間のことでその意味をすぐに知ることとなる。

 

 

「でぇやっ!」

 

 

そのまま反動を利用して、反対方向、緑弾が飛んで行った方角へと飛んでいく彼を、正確にはその行き先を見て焦りが出た。

 

 

「ルシファーちゃん!」

「分かっておるわ!」

 

 

飛んできた緑弾と悪魔を見て漸く自分が狙いだと気付いたルシファー。盾を展開しようとするも向こうの方が圧倒的に早く、とても間に合いそうになかった。

 

 

「チッ……面倒な!」

 

 

だが彼女にはまだ『加速』という能力がある。例えるならば素数を愛する神父さんの最終形態の能力をイメージして貰えば分かりやすいのかもしれない。

 

とは言っても実際は自身や一部のものの時間を加速させることしか出来ぬが、それだけでも充分強力だと言えるだろう。

ただし、加速すると言っても自身にかけた場合は全てが加速するので体力などの消耗なども加速するので注意が必要ではあるが。

 

 

「ぐぅ……!?」

 

 

とにかくその能力で何とか前方だけだが展開を間に合わせ、遅れて飛来してきた緑弾が着弾する。

 

ダメージはなかったものの思っていたより衝撃が強く、少し後ろに後ずさる結果となってしまったが問題ない。

 

 

「でぇやぁっ!」

 

 

そう、この男にとっては問題ないのだ。何と言っても、本命はその次の一手なのだから。

 

気付いた時はもう遅い。盾で受け切った時にはもう、その男は彼女を横切り、無防備な背中目掛けて緑弾を投擲していたのだから。

 

 

「しまっーーー!?」

「ルシファー!?」

 

 

気付いた時はもう遅く、緑のエフェクトと共に彼女は吹き飛んだ。

 

駆けつけるマモンの視界に捉えたのは、左腕が見事に消し飛び、身体中が血化粧したかのように真っ赤に染まるルシファーの姿であった。

 

 

「ぁ……が………」

「チッ……まだ息はある」

 

 

だが、まだこれでも運が良かった方だ。運が悪ければ存在ごと消え去っていたのだからまだマシだと言えよう。そう彼女は心配しており、決して舌打ちなんかしていない。

 

だが、駆けつけたのは失態であった。

 

 

「馬鹿がっ!」

 

 

態々戦闘を中断して駆けつけるなど、悪魔にとっては格好の獲物だということに気付くべきだっただろう。

 

 

「なっ……!?」

 

 

気づけばそこに命を狙う死神の如く嘲笑う悪魔が、光弾を手にして急接近してきたのだから。

 

 

「オラァッ!」

 

 

しかし横から飛来した自動車によってノットが視界から消え去った。

 

 

「ぐっ……オメガァッ!」

 

 

横を見れば車の下敷きになっているノット。しかしそんなのは効くはずもなく、車を押しのけて立ち上がろうとしていた。

 

 

「セットアップ……点火!」

 

 

そこに追撃するかのように車を爆破させた。遅れて来る土煙と熱風が顔を直撃するも敵を見失わぬように直視し続ける。

 

 

「ァァァァ……オメガァァァァァァァァッ!」

 

 

案の定というべきか、胸の傷以外変化が全くないノットは憤怒と殺気を混ぜたドス黒い視線で睨みを利かすノットが炎の中から飛び出して来る。

 

ならばとオメガは近くにあるマンホールの蓋を手に取り、円盤投げのように投擲する。

 

飛んでいくマンホールの蓋に対して流石に学んだのか、緑弾を前方に投擲、そのまま後ろに追従するように走り出す。

 

 

「スローイングブラスター!!」

「流石に何回も無理……かっ!」

 

 

とりあえず緑弾とぶつかる直前で爆破。緑弾を消し去ることで脅威の1つは処理するも本命がまだ来ていないことで気を引き締める。

 

 

「オメガァァァッ!!」

「はいはい、そんなに呼ばなくともオメガさんはここにいますよってんだ」

 

 

爆破により発生した黒煙やらで見えなかったがそこから淡い緑が見えた時にはもう横へと移動していた。

 

遅れて放射線状に広がる淡い緑のビームらしきものが横切るも当たらない以上関係ないことである。当たらないビームを横目に見ながら一気に前進して懐へと入りこみ、足払いをした。

 

 

「チッ」

「嘘ん!?」

 

 

しかし、まるで鋼鉄でも蹴っているかのような感覚がしたと思えば蹴ったオメガ自身の足が痺れ、対してノットには何1つ効いておらず、ただただ嗤っていた。

 

 

「っ……」

 

 

ノットはお返しと言わんばかりに正面からオメガを殴り抜いた。

何とか両腕でガードするに成功するも骨の砕けるような嫌な音が聞こえ、後ろへ1メートル程吹き飛ぶ。

 

だが前方には自分に追従しようと足に力を込めて1歩前へと踏み出すノットの姿。

 

 

「あら?誰か忘れてませんか?」

「んっ?……!?」

 

 

そして、マモンの声と共に影に包まれるノット。気付いた時にはもう遅く、巨人のような黄金の腕らしきものの下敷きとなった。

 

 

「『黄金巨兵(アウルム・ペルグランデ)』!」

 

 

ドヤ顔を決めるマモンがいたのは黄金で出来た巨兵の肩。神秘の秘匿なぞ糞食らえと言っているような、10メートルは優に超えるであろう体格から繰り出される拳はいくらノットでも厳しいものだろう。

 

しかし、オメガはそうは思わなかった。

 

 

「うおぉあぁぁぁっ!!」

 

 

伝説の悪魔が、あのブロリーが、弱体化しているとはいえその程度でくたばったらどれだけ楽なことか。

 

 

「嘘でしょう!?」

「雑魚がぁぁ……粋がるなぁぁぁあっ!!」

 

 

しかし、彼にはそんな攻撃は蚊に刺されたようなもの、つまりは無意味ということである。

 

唐突にして動きを見せるノットを潰したはずの腕が、急に天に向かって浮き始めたのである。

 

流石に不味いと思ったのか、巨兵も腕に力を込めて下へ落とそうと努めるも虚しく、腕は簡単に浮かび上がってき、遂には無傷のノットの姿を確認するまでとなった。

 

 

「なっ……!?」

 

 

しかも、驚くことに片手でだ。自慢ではないが一応この巨兵はマモンの魔力の込めた黄金の人形。そこらのサーヴァントでも純粋な力比べでは負けないと自負していた。

 

 

「マズイねこれは!」

 

 

流石にヤバいと感じたオメガ、懐からショーテルを取り出し、ノットに向けて全力で投げつける。

 

投げつけたそれはノットの身体に当たり、今までにない大爆発を引き起こす。その威力は巨兵の手の一部と街の一部を削り取るぐらいである。当然至近距離にいるノットは無事では済まないだろう。

 

 

「クズが……邪魔をするな!」

「おいおいおいおい!相変わらずの硬さだな!?」

 

 

だがそれはノット(悪魔)には通用しない。あろうことか怒りを買うだけとなっている。

 

片手でだけ持ち上げ、鬼のような形相で睨みを利かし、空いた片手で緑弾を持ち……頭上にある邪魔なものにぶつけた。

 

 

「嘘、でしょう!?」

 

 

爆発と共に確認できたのは第1関節辺りまで消し飛んだ腕、爆風と衝撃により後ろへ倒れこむ巨兵、そしてその事実に驚愕しか出来ないマモンの姿であった。

 

 

「雑魚は……引っ込んでいろ!!」

「っ!?」

 

 

次に見たのは、倒れるこちらに向けて緑弾を放り込むノットの姿であった。

 

それによりマモンは冷静になり、巨兵に命令。緑弾の前にわざと立ちはだかるように位置させ、盾として爆発を逃れようとする。

 

 

「フフフ……でぇやっ!」

 

 

ノットはそれを一笑、投げた方と反対の手に膨大なまでの気を溜め、投げた緑弾へと送り込み、手を握る仕草をする。するとどうなるか?

 

 

「ーーーーー!?」

 

 

無論、緑弾は膨大なエネルギーに耐えられず自壊。それに伴い、オメガのとは比べられない程の大爆発を引き起こしたのである。

 

 

 

ギガンティックミーティア

 

 

 

ノットが現在出来る技で最高峰の威力を誇ると言っていいもの。本来のものとは別だが、それに少し応用を効かしたものである。

 

とにかく、何が言いたいのかと言うと……

 

 

「ぅぁっ………」

 

 

悪くて即死、運良ければ瀕死となるのは当然であろうということである。

 

 

「フン、大人しく殺されていれば痛い目に遭わずに済んだものを………」

 

 

そして手足があらぬ方向を向けて血塗れと化したマモンを一瞥すると視線をオメガへと変える。

 

流石のオメガもこの状況になって焦っているだろうと。すると案の定険しい顔で自身を見つめており……

 

 

「……ハハハ……ククク………クハハハハハハハッ!!」

 

 

急に狂ったかのように高笑いを始めた。追い詰められて狂ったか?と思うも、この男の性格上あり得ないと次の動きを見逃さないように凝視する。

 

 

「貴様……何を企んでいる?」

「ハハハ……クヒヒヒヒヒ……!何を企んでいる?在り来たりな問いかけにいつもならつまらんと無視する所だけど、今回は興が乗ったから答えてあげるよ……遂に来たのだ!」

 

 

両手を横に広げて大袈裟な仕草をするオメガ。しかし、ノットは警戒心を高めるばかりで特に何もすることなく見つめるだけに終わらせた。

 

 

「時は来た!本来なら主人公とかに来そうだが……世界は味方しているかと錯覚するぐらいの運が、いや、チャンスが……このオメガに回って来たのだ!」

「チャンス、だと?馬鹿が、状況を見てみろ……死に損ないの虫ケラ共、バットは知らんが後は貴様だけなのだぞ?それに貴様は全力を出せぬ状態……どうして勝つと言うのだ?」

 

 

故に愚かだと、彼は嘲笑う。しかし、それでも笑みを崩さぬオメガに更に警戒心を高めるノットを他所にオメガは語りを続ける。

 

 

「……まあ細かく説明した所で、君は理解出来ないかもしれないから敢えてこう言おうーーー」

 

 

そう言ってオメガは見せつけるように親指を立て、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー今から本気出さないと君……死ぬよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるでスイッチを入れるかのように親指を下ろし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オメガを中心に、爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今は何とかなっている……よな?」

 

 

そして、肝心のバットはというと、とある男と共に何とか物陰へと逃れていた。男は周りを確認して安全を確保すると抱きかかえていたバットを下へと横たわらせた。

だが、いざ手を離そうとする彼の手を彼女は力強く掴んだ。

 

 

「……なんで逃げた?」

「いや、ボロボロの人間を戦場に立たせるのは流石にどうかと思っただけだが?」

「けど、俺たちが抜けたらあいつらは……!」

「……今は3人だがね?」

「るせぇ……俺は、まだ負けてねぇし。まだやれる……!」

「肋骨3本、右腕粉砕、鼻、右足を折ってる人が言う台詞かね?」

 

 

 

そう言われ言葉を詰まらせたバット。事実男の言う通りの状態であり、今戦場に立っても役に立たないことは自分自身がよく理解していたからだ。

 

 

「とりあえず『ハァーハッハッハッハッ!!』……早く回復させようか」

 

 

怒声に近い声で叫びながら所構わず緑弾を投げまくっているノットを尻目に男は彼女にそっと触れる、それだけでまるで魔法のように傷一つない状態へと戻った。

 

 

「よし!これで「まあ待ちたまえ」ふぎゅっ!?」

 

 

と同時に飛び出そうとするバットの足を掴む男。掴まれたことによりまあ転ぶのは当たり前のことで、まあ怒るのも予想できるわけで……

 

 

「次に『何すんだよ!』と言う」

「何すんだよ!……ハッ!………って遊んでる暇なんかじゃないだろ!?」

「まあまあ落ち着いて……まずは冷静になって、静かにしようか」

 

 

大声で怒りをぶつけたい気持ちだが、男に咎められて渋々冷静になり、落ち着きを見せる。

 

 

「……んで、どうするんだ?まさか策でもあるとでも?」

「ない……」

「ふーん……はっ?」

 

 

まさかの即答に少し間を空けてから反応したバット。対して男はその反応を楽しむかのようにケラケラと笑うだけ。

 

 

「まあそうなると思ってたよ……まあ強いて言うならある」

「……それは?」

「それは……まあゴリ押しって奴さ」

 

 

またもや、はっ?と間の抜けた声で返事をするバット。それも仕方ないだろう。ゴリ押しなんてのは誰でもでもすぐ思いつくような、寧ろバットがさっきまで考えていたことですらあったからであろう。

 

 

「ゴリ押しって……」

「いや、正確にはとりあえず持ちうる手を出してみると言うことだよ。それでくたばれば万々歳、無理ならば策を講じるまでさ」

「なるほど……」

 

 

要するに彼は諦めずに力を出し切って、それでも無理なら考えろと言うことだろうと理解したバット。それによりやる気が出たのか跳ねたりして身体の調子を確かめ始めていた。

 

 

「……よし、じゃあやるか?」

「ああ……」

(っても、今使える中での8割。毒殺・爆殺・呪殺・即死系とか使い切ったけど無理だった……残りは肉弾戦がメイン………勝てるかな?)

 

 

その勝利は絶望的であることを伏せながら……彼は思考を続ける。

 

 

(2人ではパワー不足、せめてどっちも合わされば強いのだが……ん?合わせる?……あっ、そうだ)

「ねえ、姐さん?」

「なんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私にいい考えがあるって言ったら、信じて乗ってくれるかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フン、無駄なことを……今の奴らの実力では勝てないのだというのが分からんのか?』

「さあな?奴らなら秘策でも用意してそうだからあながち侮れんぞ……所で貴様ーーー」

『なんだぁ?』

「ーーー何故ここにいる?もう行ったのではないのか?」

『はっ?この俺がいつ行くと言った?』

「……(なるほど、そういうことか)なんでもない。まあ貴様が行く前に私が行くと言っていたからその確認だ。私自身はもう少し様子見してから行くつもりだが……」

『早くしろ。いつになったら行くのだ?』

「さあな?状況次第と答えておこうか」

『……まあいい。俺は獲物さえいればいいだけだぁ』

「そうか……(だがもし何かあったその時は、悪いが私の好き勝手にやらせて貰うぞ……)」

 

 

 

 

 

 

 








次回はセイバーvs永時へと再び話が戻ります。






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されど悪は堕天の騎士と踊る




今回はセイバーvs永時編。


注意:今回も(・・・)作者の自己満足な解釈や考えが入っており、矛盾とか生じるかもしれませんが悪しからず……

後、今回も2話連続投稿なので前話の読み忘れのないようご注意を。

それでも構わないと言う方はどうぞご覧ください。





 

 

 

「はあぁっ!」

「らあっ!」

 

 

黒い光の剣と黒い炎の刃がぶつかり、炎によって紅く照らされた世界は黒に飲まれ、辺りの酸素は喰らい尽くされる。

 

 

「ふっ!」

「んっ!?」

 

 

両者拮抗する中、それを先に崩したのはセイバーの方であった。

 

拮抗する剣に更に魔力放出を加えることで力を上げ、永時の太刀を押し切る。それにより永時は後ろに仰け反り、僅かながら隙を見せてしまう。そしてその隙を突くように斜めに振り下ろす。

 

しかし彼はその程度ではまだ餌食にはならない。太刀を持つ片手を離して黒炎を噴出。それをブレード状に形取ることで無理矢理前に突き出す。

 

 

「ほう……!」

「ふんっ!」

 

 

間一髪で剣と衝突。剣は身体を掠るだけで済み、剣筋をズラすことに成功。そして追撃するかのように剣を爆破させた。

至近距離の爆発により爆風と共に双方後ろへ吹き飛ばされる。だが2人とも身体を前屈みになるように地に手をつけて着地することで静止する。

 

 

「「……」」

 

 

互いを警戒し、沈黙。静寂に包まれた中、セイバーは口を開いた。

 

 

「まさかここまで出来る人だと思いませんでしたよ……」

「クカカカ……かの有名なアーサー王に褒められるとは、俺もまだまだ捨てたもんじゃあないな」

「それ故に気になるのです」

「何?」

「……そこまで強くなって、貴方は何がしたいのですか?」

 

 

殺し合いと分かってはいるが、それでも気になるのだ。何が彼をここまで動かしてきたのか。何故そこまでの力をつけたのかを。

 

そう言われて永時は固まった。答えに困ったからだとか、意外な質問に戸惑ったとかではない。ただ彼女の目が何か焦燥に駆られるような、何か迷いのある目をしていたからだ。

 

 

(こいつ……)

 

 

普段の彼ならば下らん、この一言で答えることだろう。だが今は戦闘による緊張感や興奮により気分が高ぶった状態、何が言いたいかと言えば、要するに気が緩んだことにより興が乗ったということである。

 

 

「何がしたい?……さて、どうしてかね?」

「惚けないで下さい」

 

 

惚けるな。つまりは答えを持っているということを確信した上で聞いているのだろうと推測された。そして答えをはぶらかしたりは出来ないとも。

 

 

「(……つっても、明確な答えなどは持ち合わせてないのだがな)」

 

 

とはいえ、この男には明確な答えなどは持っていないのだ。あると言えば自身の持つ自己満足で結論付けた思考のみである。

 

 

「哀れで救いようのねえ男の、下らねぇ妄言でよろしいのならお答えするが?」

「その下らない妄言が聞きたいのですよ私は」

「そうかよ」

 

 

下らない妄言でも良かったのだ。それが自分の納得のいく答えになるのならば。

 

そう思うセイバーを横目にネバーは口を開いた。

 

 

「聞いているかもしれんが俺は誰かの為になんざ戦わん、あくまで自分(自己満足)のために戦っているに過ぎん……ならどうして力を付けたのか?……その答えは簡単、思い通りに事を進ませる為に付けたに過ぎんと言うことだ」

「……つまり、目的のために仕方なく付けたと?」

「そういうことになる。力無くてはやりたいことも叶えられん」

「やりたいこと……」

「国の復興の際とか戦闘の際、考えとか講じるよな?けど結局の所それを実行に移すにはある程度の力が必要なんだよ。経済力然り組織力然り説得力然りって感じでな」

「そんな……」

 

 

それでは矛盾しているではないかとセイバーは思った。永時が目的の為に力を付けるのならば、死に場を求める自分自身の本心と矛盾しているのではないかと、その逆もまた然りと。

つまり、力を付けなくては目的は達成されず、かと言って逆に力を付ければただでさえ不老不死紛いなものの所為で低くなっている死の確率が下がるという事になってしまう。そうなればどちらも果たす事が出来ずにその矛盾に死ぬ時まで悩み苦しむのが容易に想像出来た。

 

 

「貴方は……それでいいのですか?」

「……何が?」

「いえ、それでは……」

 

 

それではあまりにも報われないではないか。

自己満足の為に戦って、その過程で誰かを助けたとしてもそれを悪として吐き捨てて、悪としての部分のみを世界に刻み込ませようとする。人に嫌われることを前提として生きているのだこの男は。

 

終わりなき道のり、これこそ悪循環。矛盾に押し潰されて朽ち果てて行くのが目に見えて分かる。

 

 

「報われない?……下らん。俺は正義の為だとか、救われる為だとか、別に他人に認めて貰いたいから戦っている訳じゃねえ。俺は自分勝手に満足して死ぬために生きているだけだ」

「満足……?」

「何度も言うとは思うが俺は自称とはいえ悪だ……正義の味方とやらに滅ぼされる運命の元生きる者。誰が何と言おうと紛うことなき悪だ。……だが、それ故に俺は探さねばならない。こんな俺を殺してくれる正義の味方とやらをな……今はそれが俺の目標の1つだ」

「しかしそれは……」

「正しいのかって言いたそうだな?……別に正しさなんざ求めねぇし、言われた所で考えはするが基本的には変える気なんざ更々ねえよ……最初に言ったろ?『下らねぇ妄言』だって」

 

 

確かにそうは言っていた。それは今悪に染まったセイバーには理解出来た。だが、それで納得するとなると話が変わってくる。

 

 

「……なら」

「何?」

「ならば何故、私を残したのですか……?」

 

 

そう、悪を名乗りそれに従って行動して来たこの男が、自分で言っては何だがどうして正義を重んじる自分を残そうと、共に聖杯を得ようと考えたのか、やろうと思えば自分を自害させて別のサーヴァントを呼ぶか、或いは不老を利用して次回まで持ち越せば良いものを……いや、訂正しよう。確か彼は副人格である彼女(椿アネモネ)を取り戻そうとしていたはずだ。だが、それでも彼は肉弾戦のみならたった1人でもある程度ならサーヴァントと匹敵する実力を持っているように見える、それなのに何故だと問いたいのだろう。

 

そう説明すると永時は邪悪さを感じる笑みを崩さぬまま、ただただ笑っていた。

 

 

「クカカカ……さてな、単に興味を持ったから、とかじゃ納得いかねぇだろう?」

「そうですね……」

「なぁに……単に知り合いに似てたから手を貸してやった、それだけのことよ」

 

 

 

そんな彼の脳裏を過ったのは魔術の師であった魔女。深淵や漆黒そのものを連想させられるような底知れぬ妖艶な雰囲気。されどそれに負けず劣らず、轟々と炎のように燃える炎のような、まるで紅を連想させられる情熱が、混ざることなく、濁ることもなく調和している。色で例えるなら紅蓮と言える、そんな女であった。

 

普段は冷静、話しかければ最低限の返答はするが自ら進んで話すことはない寡黙な女であった。ただし、魔術を師事する時は前述べた通り、持ち得る情熱に火が付き、水を得た魚のようによく喋る、一切の加減がない程厳しいなどの側面が現れた。その勢いは初めて師事を受けた永時をドン引きさせる程のものであった。

 

だがそんな彼女を気紛れで名前を呼んで見れば「師を名で呼ぶんじゃない馬鹿者」と言うものの嬉しそうに笑い、死地へと赴くと聞けば真っ先に駆け込んできて「お前には教えることはまだあるからな……こんな所で死ぬんじゃないぞ馬鹿者」と心配そうに声を掛けてくれた、そんな女だったような気がする。

 

永時から見て彼女はいい女と称しても過言ではない、そんな人物の素顔とそっくりだった、それだけのことである。

 

 

「それだけの為に、ですか?」

 

 

セイバーの声が耳に届き、思考の海に潜っていた永時の意識は持ち上げられる。

 

 

「それだけだが……?」

 

 

何故だ?と疑問を払拭出来ていないセイバーに永時は溜め息を吐くしかなかった。

 

 

(……結局悪として変わった所で、根本的(生真面目な程合理主義)な部分は変わらずか、まあ正直どっちも終着点は変わらないと予想が出来ると思うがなぁ……いかなる事情があろうともお前が効率のみを取り、そこに人の意思を、感情を、組み込んでいない時点で組織としての纏まりなど長く続く訳がないし、どの道滅びは確定しているようなもの……つっても、子供を愛することを選択しない単純な愛すら出来ぬ女が情を理解するなど、到底難しいだろうがな)

 

 

まあ精々頑張れやと他人行儀なことを思いながら彼は振り上げた凶刄を彼女に振り下ろそうと太刀を構える。

 

 

(と、言っても本音としては別のこと考えていた訳だが……)

 

 

実はそんな複雑なことをこの男は考えている訳ではなかった。

知り合いに似ていた?確かにそれもある。だが本音として、その続きが肝心な所であった。

 

 

(そう、あの女に似たお前ならきっとーーー)

《(おい……出来たぞ)》

 

 

するとタイミングを見計らっていたのか、都合よく居候(居着いてる者)から声を掛けられ、視線を構え直しているセイバーに留めたまま会話を始める。

 

 

(よし、いつでも出せるようにしておいてくれ)

《なら、貴様がよく使うものに付与しておいてやる……貸し1つだな?》

(へいへい、今度デートにでも連れてってやるよ)

《……フン。1度しか使えぬから上手くやることだな》

(そりゃどうも。ついでにあいつにも声かけといてくれ)

《いいだろう》

 

 

戦闘中故にすぐに会話を終わらせ、セイバーに意識を戻す。向こうはすでに構えが終わっていたのか、鋭い目つきでこちらの様子を伺っていた。

 

 

「さて、セイバーさんよぉ……納得出来る答えが出たかね?」

「いいえ、寧ろ分からなくなりました。自分のやろうとしていることが、正しいのかでさえ」

「はぁ……下らん。正しいとか正しくないのだの、んなもんどうでもいいだろ?要は人の助言を聞いて、考えて、自分が出した答えがそれなんだろ?ならば後はこれから先にやってくる困難に立ち向かう意志さえ持てばいいだけの話だろ?」

「意志、ですか?」

「俺は今までそうやってきた。例え愛した女や大事な知り合いが死んでも、後悔や反省はするが先に進むことはやめる気はなかった、それだけのことだ」

「その愛した女を何度も救おうと過去に抗った人の言葉とは思えませんね」

「まあな。言ったろ?『後悔や反省はするが』ってよ……別に昔のことを悔いるなとは言わん。俺たちは所詮人間だ、するなというのは酷だろう。だが、先に進むことをしないのはただの生きる屍とも言える大馬鹿者になるだけだと昔、何処ぞの筋肉馬鹿に教えられたものでね」

「先に進む……」

 

 

考えごとをするために思考の海に潜ろうと黙り込んだセイバー。しかし、永時が太刀に黒炎を纏わした音で意識を元に戻した。

 

 

「とりあえずお前は一回冷静になるべきだな……と言う訳で大人しく座に帰ってゆっくり考えな」

「お断りします」

「なら、言いたいことは分かるよな?」

「……では、その前に貴方を殺し、聖杯を手に入れるまでです」

 

 

両者得物に黒いオーラを纏わせ、ほぼ同時に動き出した。

 

先に動きを見せたのは永時であった。彼は太刀を片手に持ち替え、空いた手に黒い火球を作って、セイバーへと真っ直ぐ撃ち出した。それに対しセイバーはただ剣を中腰の姿勢で構えて真っ直ぐ突っ込み、当たる直前で剣を薙ぎ払うように振るう。それだけで黒火球は両断され、セイバーはその突進力を殺さぬまま重心を左へと傾ける。それだけで黒い炎の刃が彼女を横切った。

 

 

「チッ……!」

「貰った!」

 

 

片手で刀を振り下ろすも見事に外してしまい思わず舌打ちする永時。しかしそれはセイバーにとっては好機であり、左に右足を1歩踏み出してからそれを軸に半回転。遠心力を乗せて隙だらけの脇腹へと剣をぶつけるように振るう。

 

 

「何!?」

 

 

しかし、剣を振るった先には永時の姿はなかった。それにより剣は空を切る結果となる。

 

どこに行った?剣を振り切った後辺りを見渡し、直感や気配で探す。

 

 

「っ……!?」

 

 

唐突に生存本能や直感が過敏に後ろだと反応。それに従って後ろに向くと同時、2度の斬撃が連続して彼女を襲った。

 

1度目は腹部を裂かれるも、2度目は剣を上手く扱って受け流した。

 

 

「……やはりその程度では死にませんか」

 

 

斬撃が繰り出された場所に目をやれば4メートル距離が開いた所にその人物(永時)はいた。片手でまだ黒炎を纏ったままである太刀を持ち、余った左手は帯電させながらも頭部に添えてあった。

 

しかし、その声色は永時らしくない綺麗で柔らかいものであった。

 

 

「ようやく来ましたか……椿、アネモネ!」

 

 

どうやらあの一瞬で彼女に交代していたようで永時と同じ容姿であるものの、母が子どもに悪戯された時のような静かな怒気とそれを覆い隠す柔和な雰囲気へと変化していたことで気づいたようだ。

 

そう、永時の義姉である椿アネモネの出陣である。

 

 

「なるほど、その口ぶりからして私のことはご存知のようですね」

「ええ……初めましてと述べておきましょうか?」

「ええ、初めまして。義弟がお世話になりました、ねっ?」

 

 

挨拶を軽く述べると同時に一閃。空気を引き裂いて斬撃がセイバーへと飛来。しかし正面からの攻撃のため、見えているセイバーは斬撃に合わせて剣を振り下ろすことで斬撃は地を抉る結果となる。

 

 

「っ!?」

 

 

しかし、痛みが走ったことで端正な顔が苦痛に歪められる。痛みが走った所を見れば右の肩口がざっくりと切り裂かれていた。

 

一体いつの間にと驚愕するセイバー。そしてそれを愉快そうに微笑む彼女は口を開く。

 

 

「あらぁ?斬撃を飛ばしたことがそんなにも不思議かしら?」

「……(斬撃を放った?しかも魔術の補助をなしで?それに、永時とは全く違う型の持ち主。同じ姿なだけに厄介ですね……)」

「こんなことは極めれば魔術とか云々なしで誰だって出来るものよ?」

 

 

いや、普通は出来ないものである。では先程どうやって傷をつけることが出来たかという訳であるが、やったことは至って単純である。

1回目の斬撃を飛ばした後、セイバーが剣を使って地面に叩き落とした。その時僅かだがセイバーの視線は地へと落ちる斬撃へと集中された。その一瞬の間に次の斬撃を倍速で放っただけのことである。

 

どこぞの物干し竿持ち農民とは違い、同時に斬撃3つ飛ばしなどは出来ないものの、一瞬の隙さえあればサーヴァントすら反応出来ないものを放てる。これは元々永時より真剣の扱いが上手い彼女の巧みな技量と、人外と戦い過ぎていつの間にか人間越えてた永時の身体のスペックのおかげである。ただ、振るっただけで斬撃を飛ばし、尚且つ黒炎が消えないのはただ単にそれだけのことで納得していいものだろうか。

 

 

「黙ったままでは分かりませんよ?何か言ってみたらどうです?」

「……(正直な所言いたいことはある。だが会話に持ち込もうとする所を見るとどうやら話している途中に不意打ちするのが狙い……無闇に会話をするのは危険だ)」

 

 

先程のことから警戒して会話をしようとしないセイバー。軽く挑発染みたことを言ってみたものの、反応しないので結局アネモネの方が折れてしまった。

 

 

「やっぱりダメでしたか。大抵の雑草はこれで反応して隙を見せてくださるのですがねぇ。まあいいでしょう……」

 

 

会話がダメならさっさと殺すまでです。そう言い放ったと同時、空気が凍りついた。

そこから感じたのは背中に冷水を浴びせられたような感覚。対峙している人物が先程まで同一人物とは思えない狂気と覇気であった。

 

 

「ーーーあの子の邪魔をするのなら、全部斬り捨てればいいだけよねぇ?」

 

 

反応できたのは偶然であった。油断ならない相手だと視線を外すことなく見やり、その間に瞬きした一瞬。斬撃がセイバーを襲った。

幸いにも剣を構えていたのでそれを横にし、ぶつかると同時に剣先を少し後ろに引くことで受け流した。

 

 

「しかし、それは愚策とも言えましょう」

 

 

受け流し、いざ攻めに切り替えようと剣を構え直そうと考えた時。彼女は目前へと距離を詰めていた。

そのまま抜刀するかのように太刀を持つ手を捻り、斬り上げ。しかしセイバーは流れるような動きで足を横に動かして横にズレることで回避。意外だったのか驚く彼女に剣先を向け、弓のように少し後ろに引いた後、勢いよく彼女に突き出した。

 

 

「これは……!?」

 

 

されどそれはただの突きではない。そこから放たれるのは黒く染まった暴風の塊。ただ標的に向けて乱雑に放たれたそれは永時が纏っていた黒炎より黒く、悍ましく思えた。

 

それを例えるなら竜の息吹。乱雑だが強力な一撃と言えるそれは竜の因子を宿して誕生したとされる彼女にピッタリだろう。だが喰らえば死ぬのは目に見えていた。

 

 

「ですが……甘いわね」

 

 

しかし、彼女はそれでも嗤っていた。足を前に出して力強く踏み出す。それを軸にもう片足を勢いよく前へと出してそのまま蹴りを放った。

 

 

「なにっ!?」

 

 

ーーー狙いはセイバーではなく、今力を放とうとする剣の剣先へ向けての蹴り上げだった。

幸いにも剣を吹き飛ばされることはなかったものの、上に逸らされた剣は放つ相手がいない上空へと暴風を放ち、闇色の夜空へと消えて行った。

 

後に残ったのは剣を空へと掲げるように上に向けているセイバーと1人の狂者のみ。

 

 

「それじゃあ、サヨウナラ」

 

 

そんなセイバーに彼女は前ポケットから歪な短剣を取り出し、別れの挨拶と共にセイバーの胸に向けて突き刺した。

まるでビデオのスロー再生のように短剣がゆっくりと己の身体へと入っていくのを見開かせた碧眼が捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自爆だと……!?」

 

 

近くにいたノットに爆発が襲いかかるも、元よりオメガの動きに警戒していたので咄嗟にバリアを張ることで防ぐに成功する。

 

 

「無駄なことを……その程度のパワーで、この俺を倒せると思っていたのか?」

 

 

爆発が収まると同時にバリアを解除、腕の一振りで自身の周囲にある煙と砂塵を薙ぎ払う。

 

 

『いや、そうでもないぞ』

 

 

その声に、ノットは動きを止めた。先に言っておくが、別にその声に恐怖を感じたとかではない。

 

知っている声が同時に聞こえたこと、そして感じる気配が少し違うことに驚愕したためである。

 

 

「……どういうことだ?」

 

 

しかし、自身の視界の先にある砂塵の中に降り立った人影は1つ。聞き間違いかと思うが、次の言葉でそれは正しいと証明される。

 

 

『多分お前の考えは間違えてはいないぞ』

 

 

だが、やはり聞こえた声は1つ。しかし、どういうことだと彼はない頭で考える。

 

何処ぞの人参男(カ◯ロット?)とは違い、細かい気の認識が出来ぬが、大まかな気配察知ぐらいは出来る。だがその数は人影と違って2つ。それも何故かその人影から感じられるのだ。

 

もしかしたら重なっているように並んで立っているのだろうか?いや、何かが違うと直感が言っている。

 

 

(……分からん)

 

 

しかし考えるのが苦手な故に、発想性の乏しいノットでは答えに辿り着くのは時間がかかることであろう。

 

 

『多分分かっていないと思うから、敢えて教えてやるんだよ』

 

 

理解力の乏しい自分に対する呆れだろう。落胆するような言葉と共に、砂塵が一気に吹き飛ばされる。

 

だが、次に見た人影の正体にノットは驚愕することになる。

 

 

「……誰だお前?」

 

 

常人より少し高めの身長の女。深緑のコートらしきものの内で見られるすらっとした女体であるにも関わらず、程よい筋肉がついている肉体。艶のある純白の長い髪を垂らし、こちらを見る紅い瞳は今までにない凄みを感じられる程のものであった。

 

疑問を重ね、首を傾げて尋ねるノット。女に三叉槍を向けられ、そこでようやく、1人の人物が頭に思い浮かんだ。

 

 

「その槍……バット?だが白い?」

『残念ながらちょっと違うぜ……俺はオメガでもバットでもない、お前を倒す者だ』

「……ククク…………ハハハ……ハァッーハッハッハッハ!!」

 

 

聞いた途端、上を向いて大笑いするノット。それを見た女は癇に障ったのか不服そうに顔を歪めていた。

 

 

『……何がおかしい?』

「別にお前が何者でも変わらない。俺は、俺の意志で敵を倒すだけだぁっ!」

『そうかよ』

「さあ来い!ここがお前の死に場所だぁっ!」

 

 

それでも悪魔は嘲笑っていた。ただどうやって目の前の敵を血祭りに上げようかと考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








次回、いよいよ決着……予定










最近忙しいので、もしかしたら4月頃になるかもしれません。by遠藤凍







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さらば愛しき敵対者 おかえり嫌悪たる絶望



〜自称悪の送る前回のあらすじ〜


「大変長らくお待たせした。まずは4月に投稿するといって遅れてしまったことを謝らせてくれ……すまなかった。
それと随分と久々な投稿なので遠藤の奴も調子に乗っているかもしれんがそこは許してやってくれ。

前回……姉貴がセイバーと戦い、短剣を突き刺した所で終わり、一方ノットの前には謎の1人の女が奴の前に立ちはだかった。
まあ軽く述べるとこうなるが、気になるなら是非前話を読んでくれ。

まあ、こう見れば戦況は均衡?なのかは分からんが……急な変化もまた戦場ではあり得ること……油断禁物で行くとしよう。











……だがいざという時は………いや、今はやめておくべきか」







 

 

 

「『偽似創作・斬り離すは友縁の証(ルールブレイカー・オマージュ)』」

 

 

その言葉はセイバーの耳へ嫌という程はっきりと聞こえてきた。

理性を取り戻したのか、金から碧へと変えた瞳が、片手を自身の頭部に当てて電流を流す終永時の姿をした女(?)を捉える。

 

 

「あっ……」

 

 

その直後、パキンと自分の中で何かが壊れた音が聞こえる。

 

 

ーーー魔力が。

 

ーーー使命が。

 

ーーー殺意が。

 

ーーー意欲が。

 

ーーー悪意が。

 

 

セイバーへと送られていた全ての繋がりが、断たれた瞬間であった。

 

 

「……そうか、やったのか。流石は千の知識を持つと豪語するだけはある」

 

 

そして、ようやく流していた電流が止まったと思えば、相手から発せられた声色がセイバーのよく知る低いものへと変化していた。

 

 

「えい、じ……?」

「ああ……今、楽にしてやる」

 

 

困惑しているセイバーを他所に、まるであの悪魔のような台詞を言いながら頭部に当てていた手をセイバーの肩にそっと乗せた。

 

 

「『罪被りし偽善遣い(ギルティーズ・ヒポクリエイト)』」

 

 

聞き覚えのある低い声色によって発せられた言葉。その直後に黒い粒子のようなものがセイバーから抜け出て、蛇のように永時の腕に絡み向くように永時へと進んで行く。隙だらけの彼に剣を振るおうとするもそれを見ているとなんだが幾分身体が楽になっていくような気分になり徐々に殺る気が失せていくのだ。

 

 

「ぐっ……」

 

 

対して、永時は苦痛で顔を歪めていた。目は血走り、身体の至る所に覚えのない生傷が付いていた。こうして見ている間にも生傷は増えていくばかり。

 

 

「まさか……!?」

 

 

そこで思い出すのは先程述べた言葉の意味を理解した。

 

罪被りし偽善遣い(ギルティーズ・ヒポクリエイト)』は文字通り人の罪を被る偽善者。この場合「罪」は相手の負を意味し、傷や殺意などを吸収し己の糧とするものだ。

 

確かにそれなら吸収された方は楽になるだろう。しかし被った偽善者はどうなるか。罪を持っていたものと同じ境遇になる、つまりは傷や悪意を全て被ると言うことになるのである。

 

 

「何をしているのですか!?今すぐーーー「とりあえず、黙ってろ」……しかしそれでは!」

「それでは何だ?」

「それでは……」

 

 

敵に塩を送るようなものではないかと心配された。しかし永時はそれを鼻で笑って聞き流す。

 

 

「んなこと気にすんじゃねえよ馬鹿野郎。いつもの俺なら『下らんことに巻き込むな』とか言うだろうがな……なぁに、単に利用されて死ぬよかマシだろうと俺が勝手に介錯してやっただけに過ぎん」

 

 

つまりはこう言いたいのだ。お前を助けてやるのは自己満足だから気にするなと。

 

 

「……優しいのですね、貴方は」

「優しくなんかねえ。ただ単に甘いだけだ」

 

 

素直じゃない永時にようやく久々に微笑みを見せたセイバー。

 

そこからなのか時が経つことにより彼女の色素が抜けたような姿が徐々に色が付いていく。

 

薄い金が明るい金色へ、冷酷と傲慢を混じえた瞳は高潔さと気高さを持ったものへ、陶器のように冷たく生の感じられぬ真っ白い肌は生き生きとした明るみへと、黒き鎧は青い布地と銀光に照らされた鎧へと元の姫騎士へと戻っていく。

 

 

「あっ……」

 

 

彼女を汚染していた悪意は消えた。しかし、それは彼女がここにいる意味を失くしたことも示していた。

セイバーをこの世に残すための現し身が、明るい光の粒子となって夜空へと溶けていく。だが、残る方法がない訳ではない。

 

 

「もう一度、俺と契約しないのか?」

 

 

そう、消えてはいるものの元は契約関係であった2人。再びサーヴァントとして繋がればセイバーは現世に残ることが出来るのだ。そう永時は言いたいのだろう。

 

 

「いえ……嬉しいお話ですが断らせていただきます」

「ほう」

 

 

意外な返答だったのか、思わず永時の口から感心の声が漏れる。チラリとセイバーを見やれば、強い意志を感じられる瞳でこちらを見つめており、本気だと理解した。

 

 

「何故?と言いたいそうな顔をしているのでお答えしますが……ただ単に見方を変えるべきなのかと疑問を抱いてしまったからです」

「……」

「貴方は先に進もうとする強い意志が必要だと仰っていました。ですが、私は貴方のように強くはありません。例えるならば過去(祖国)という鎖に今も繋がれ続けている囚人です」

「……ああ、それで?」

 

瞳を揺らがせながらも真剣に語るセイバーの言葉一つひとつを聴き逃すまいと黙って耳を傾けている永時。その姿はまるで子どもの話を聞いてやっている不器用な父親のようにも、兄のようにも見えた。

 

やはり優しいではないかと敢えて口には出さず、セイバーは内心苦笑しつつ話を続ける。

 

 

「しかし、鎖に繋がれたままでも前に進めばいいと貴方は言って下さった……ですが、私には前に踏み出すだけの強い意志がありません」

「つまり、まだ迷っていると?」

「要するにそういうことです。だから……」

 

 

少し頭を冷やして考えていこうかと思っています。そう語るセイバーの顔は完全ではないが、少しスッキリしたような清々しい笑みであった。

 

 

「……そうか」

「ええそうです」

「ふん……」

「……そうだ、最後に1つ聞いてもいいですか?」

 

 

思い出したかのように述べるセイバーに永時は黙って頷くことで肯定を示した。

 

 

「嘘偽りなく、誤魔化すことなく答えてください」

「へいへい……そんなに信用ないのか俺は?」

「それは自身の心に問うてください」

「それでなんだ?」

「……貴方は先程、私のことを残したのは知り合いに似ていたからと言ってましたよね?」

「そうだ」

「本当にそれだけなのですか?知り合いに似ているだけではーーー」

「他人であるお前に妙に甘いってか?」

「ええ」

 

 

セイバーの話を聞き、自嘲気味に笑う永時。その様子からマズかったかと思うも、自分から最後に聞きたいと言ったので機会を逃すまいと敢えて何も言わなかった。

 

気を使って黙ってくれていたことに気づいた永時は感謝の意を表には出さず、返答するために言葉を紡ぐ。

 

 

「そう大したことじゃない。そう………あの女に……魔術の師であったあの女に似たお前ならきっと……道を違えようとする俺を……殺してでも止めてくれると勝手に期待してしまっていただけだ」

 

 

それだけ、たったそれだけのことである。

 

誰かに似ていたからきっとこうしてくれるかもしれない。似たような人物が目の前に現れたらそう淡い期待を持ってしまうのは仕方ないことなのかもしれない。

 

 

「失望したか?」

「……ふふっ」

「なんだ?」

 

 

そんな些細なことを気にしているのかと思わず笑いが漏れ出す。それをはっきりと聞いていた永時は少し不満気に尋ねた。

 

 

「いえ……貴方も人の子なのだと理解しただけですよ?」

「……まあいい、お前が納得したならそれでいい……お前の事情は一応聞かされているのでな」

「事情?」

「……お前がまだ死人ではないと言えば分かるか?」

 

 

その一言を聞いてセイバーは固まった。

 

何故この男はその事実を知っているのか、確かそれについては話していないはずではないか。

 

 

「どこでそれを?」

「とある自称事情通に齎されたってとこだ。悪いが詳しくは言えんがな……」

 

 

折角消えていこうと流れに身を任せようとした所にこれだ。そんなことを言われてしまったら気になって消えることを躊躇ってしまうではないか。

 

 

「全く、貴方という人は……」

「貴方という人は……なんだ?」

「どうしてこう……私を惑わせるのかと思っただけですよ」

 

 

そうだ。この男によって私は惑わされているのだ。

 

所詮他人事なのに、語り合い、見聞を広めただけで折角固く誓った信念にすら疑問を抱かせてしまった。これを惑わされたと言わずしてなんなのか。

 

 

「惑わせるか……それが不快に思ったのなら謝ろう。だが……俺は自分が思ったことを言ったまで。考えを変えさせるつもりで言ったわけじゃなねえ……だから、俺の話を聞いてどう思い、どう捉えようがそいつ自身の問題だろ?」

 

 

つまりはこう言いたいのだ。「自分は思ったことを言っただけで、意見などはしていない」と。

 

……ああ、確かに彼は悪なのだろう。言いたいことだけを言うだけ。フォローするとしたとしてもそれも自分がフォローしなくてはならないと思っているから。

 

それで、向こうの考えが変わった所で「そう決めたのはそいつの勝手」だと簡単に済ませるのだろう。

 

 

(貴方は本当に酷い人だ……正に悪に属する者だ)

 

 

文字通り悪い男に捕まってしまったようだ。だが、不思議と後悔のようなものはなかった。

 

 

そう……例えるならば甘美な毒。

 

空気のように身を潜め、侵されているとは知らずに何気なく過ごし、気づいた時には手遅れとなってしまう遅延性。気づいていたとしても未心地の良い夢のように陥ってしまって後戻りをさせない中毒性。その二面性を備えた毒、それが終永時という男の(カリスマ)なのだろう。

 

 

人間は例外はあれど1度強く心に決めこむとそれが正しいと思い込んでしまい、簡単に変えさせることは難しいものだ。特にそれが否定された時は寧ろ逆効果になることが多いのだ。

その点永時は上手いと言えた。否定的ではなく、あくまで参考程度にするように言ってから自分の考えを述べる。つまりは相手を尊重しつつ自分の考えを述べることで自身に印象付けさせた。

 

問題はそれを意識的にやったのかそうでないかが気になるがこの際どうでもいいことだろう。

 

 

「そうでした、貴方はそういう(自分勝手な)人でしたね」

「否定はしない。それが俺だからな……」

 

 

そろそろかと唐突に呟く永時。その視線を追ってみれば自身の身体。だが下半身が半分程既に消えていた。

 

 

「思ってたより長かったですね……」

「そのようだな」

 

 

ここだけの話だが、『罪被りし偽善者(ギルティーズ・ヒポクリエイト)』を応用してこっそりセイバーに魔力を流して延命していたのは内緒である。

 

 

「……エイジ」

「なんだ?」

「……ありがとうございました」

 

 

突然の礼の言葉が意外だったのだろう。表現してあれだがその時の永時の顔は間の抜けたような顔で呆けていた。

 

 

「意味が理解出来んのだが?」

「あれですよ……一時的とはいえ、お世話になりましたので」

「ふん、別に礼などはいらんぞ」

「(貴方なら絶対そう言うと思いましたよ……)」

 

 

だが本心は違う。一時的に世話になった礼とかではなく、何かと最後まで付き合ってくれた、それが嬉しく思ったからその礼である。

 

どうせ言った所で今みたいに「礼などいらん」とか言いそうなので敢えて誤魔化したのだ。

 

 

「……エイジ」

「なんだ?」

「お気をつけて……」

「あっ、ああ……」

 

 

忠告のつもりなのだろうか。永時としてはこれからしようと考えていたことが図星だったようで少し戸惑いを見せ、曖昧な返事で返した。

 

 

「ん?……何っ?」

 

 

だが、視界が緑色に染まったことで彼の意識が戻される。セイバーへと向けていた穏やかな視線は一変。鋭い目つきをある方向へと向けており、その視線の先には巨大な緑の光の柱が天に向かって伸びていた。

 

 

「あの光は……?」

「ノットの奴だ……だが、あの光の量………明らかにさっきより増している?」

「エイジ?」

 

 

下半身が消えかける中、思わず見ていた光の柱から永時へと視線を戻す。

 

驚愕を交えてはいるものの、鋭い目つきは変わってはいない。しかし、額から流れる汗が彼の焦りを物語っていた。

 

 

「セイバー……」

「何でしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー予定が変わった。悪いがもう少しだけ付き合ってくれ……全て終わらすためにもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男……ノットには今の現状がとてもじゃないが受け入れがたいものであった。

 

考えてみて欲しい。さっきまで雑魚だと思っていた、自分より華奢な女に吹き飛ばされているのだ。無理もないことなのかもしれない。

 

 

「クソがぁっ……!!バットォッ!」

『だから少し違うって言ったろ?』

 

 

地面に着地と同時にロケットのように飛び出し、そのままの勢いで殴りかかるも余裕な顔のまま避けられてしまう。

 

 

「チィッ……!」

『そうだな……』

 

 

そこからすぐ身体を捻って反転し、攻撃をしようとするも目の前には女の黒い拳が迫っていた。

ノットはすぐ様左に重心をズラすことで回避。そのまま手を握りしめて横腹に拳を振るう。

 

 

『とりあえず、バットとオメガの融合だから……バメガと名乗っておこう、かっ!』

 

 

だが彼女、バメガと名乗った女は手を伸ばしてノットの腕を横から押すことで拳をズラす。そのことによって顔が驚愕に染まるノット。そんな中バメガは押した勢いを利用して身体を回転させ、その勢いを殺さぬまま回し蹴りを顔に放った。

 

 

「うおぉっ!」

 

 

横から直撃し、そのまま身体が横へと傾くノット。すぐ様態勢を整えようとするも突然身体が引っ張られるような感覚に襲われる。見ればバメガの拳の黒が剥がれ、同色の鎖が拳から伸びて自身の腕へと絡め取られていた。

 

 

「こ、こいつ……ぐおぉっ!?」

 

 

そのまま引っ張られる……ことはなく寧ろ向こうから引っ張られるように急速に距離を詰め、腹部にバメガの肘が喰い込んだ。

 

 

「が、はっ……!」

 

 

今までにない腹部から走る激痛にあり得ないことと顔を歪ませるノット。それもそうだろう、さっきまでとは違い今度はこっちがあしらわれている。その事実が受け入れがたいものであった。

 

 

「…な……ちょう……しに、乗るなっ!」

 

 

認めてなるものかとノットは緑弾を3発連続して打ち出す。放たれたエネルギー弾はそれぞれ軌跡を描いてバメガへと迫る。

 

 

『よっ、ほっ……おりゃ!』

 

 

しかし彼女は巻きつかせていた鎖を戻し、軽い声を出しながら槍をクルクルと器用に回す。それだけで緑弾はあっさりと弾かれてしまった。

 

 

「うおおぉぉらぁぁっ!」

 

 

だが、それは囮に過ぎなかった。本命はその後ろで突貫してくるノット本人。

 

 

『おお、少しはやるな。だがよ……まだ甘いぜ』

 

 

しかしバメガには遅く感じるようで槍を半回転させて急接近。ラリアットの態勢で突っ込むノットに対して身体を左に傾けることであっさりと避け切り、すれ違い様に石突きの部分でノットの顎を打ち抜いた。

 

 

「がぁっ……!」

 

 

顎を打ち抜かれたことで意識が少しだけ揺らぎ、バランスを崩して後ろへと倒れ込む。辛うじて地面に身体が着く前に意識が覚醒。片手を地面についてそのまま上へ足を上げるように蹴り上げる。

 

 

『ぐぅぅぅっ!』

 

 

バメガの肩に当たり、ダメージが通ったのか苦悶の声を上げて少し後ろへ飛んでいく。その間にノットは態勢を整えて後ろへと跳んで距離を取った。

 

 

「はぁ……はぁ………はぁ……クソがぁ……」

『……いい加減諦めたらどうだ?』

 

 

とは言ったもののこちらは思ってたより体力が削られておりこの始末。それを見かねたバメガも降参を勧めるも返ってきた返事は怒りであった。

 

 

「諦めろ……だと?………お、俺に……命令するなぁぁぁァァァァァァァァァァ!!」

 

 

叫ぶと同時、力を溜めるポーズを取ると共に変化は起きた。

 

解放される力の余波で地はノットを中心に陥没して巨大なクレーターを作り上げ、同じく余波によって出来た瓦礫が浮かび上がる始末。

勿論情景だけではない。今でさえ大きい筋肉の鎧が更に一回り程肥大化したかのように膨れ上がり、身体の至る所から血管が浮き出ており、彼を包んでいた緑がかった黄金のオーラは崩壊したダムのように勢いを増して溢れ出ていた。

 

 

『こ、こいつは……!?』

 

 

まるで地震が起こったかのように激しく揺らぐ空間を感じて驚愕を隠せないバメガ。流石にマズいと感じて止めようと飛び出すもいつの間にか距離を縮めていたノットに蹴られて吹き飛ばされた。

 

 

『がっ……!やってくれたなこの野郎!』

「誰も俺に命令など出来ない……!俺は、俺の意思で戦う!」

 

 

吹き飛ぶバメガに追撃として緑弾を投擲。だがそれは彼女の持つ槍によってあっさりと弾かれて終わった。しかし、槍で弾いたはずにも関わらず手が麻痺したかのように痺れを起こしており彼女の目は驚愕で見開いていた。

 

 

「お前ら如きにこの俺の邪魔は出来ぬぅ!」

『ぐっ……!正気かお前!?』

「これでくたばるがいい……!」

 

 

頭に血が上ってしまっているのか、完全に言葉のキャッチボールが成り立っていない2人。バメガは抗議するもノットはそれを抵抗と見立てたようで、怒りの視線を外さぬまま緑の光を右手に収束させながら後ろへと下がった。

 

収束する光から溢れる禍々しい気配にすぐに決着をつけなくてはマズいとすら感じさせられた。

 

 

「とっておきだぁ……!」

 

 

収束し終わった緑の光弾。オメガブラスターと呼んでいるそれをバメガへと投げ飛ばした。

 

 

『だがな……遅い!!』

「ーーー!?」

 

 

はずだった。そう、だったのだ。

 

目の前の敵に放ったと思っていたつもりが、いつの間にか目前へと迫ってきたバメガによって右手を下から蹴り上げられ、光弾は手から離れて上空へと消えていった。

 

 

「なんだと……!?」

『言い忘れていたがな……俺たちは2人で1つになった存在!速さと瞬間的な筋力ならお前になら勝てんだよ!』

 

 

驚愕で目を見開くノット。しかし、敵はその隙を見逃すはずがなかった。

 

 

『終わりだ、ノットォッ!!』

 

 

そう言ってノットへと槍投げのように構えるバメガはどこか悲哀を混ぜたような声色で切り札である宝具の真名を言い放った。

 

 

ーーー『滅竜神槍・竜狩り(インフェルノ)

 

 

その直後に槍を投擲した。飛翔する槍は街を燃やしているのと同じ……いやそれより紅い炎が彼女の槍を紅蓮に染めていく。差し詰め、紅蓮の業火と言ったところだろうか。

 

 

「その程度のパワーで……俺を倒せると思っていたのか……!!」

 

 

至近距離で放たれてしまったため、絶対的な硬さを誇るバリアを張る時間すら与えて貰えないのにも関わらず、反射的に黄金のオーラが燃え盛るかのように大きく揺らがせながら、もう片方の手が燃える槍を掴んでいた。徐々に押され、槍が纏う炎は自身の手へと燃え移ってきているがそんなことはどうでも良いことだった。

 

 

「お……おおおおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

やがて動くようになったもう片方で掴む。すると押されていた状態から一変。徐々に拮抗し、逆に押し始めているではないか。

 

 

『何……!?』

 

 

まるで獣の咆哮のような声を上げ、徐々に押し返していくノット。だが彼女は驚きはするも焦ってはおらず、寧ろ逆に冷静になっていた。

 

 

『だが想定通り……頼んだぜ!』

「なるほど、概ね理解した」

 

 

彼女はそう叫ぶと爆音に近いエンジン音が聞こえた。その後聞こえたのはノットにとって嫌という程聞き覚えのある男の声であった。

 

 

「セイバー……宝具を放て!」

「ぬうっ!?」

 

 

サーヴァントの名前を呼ぶ。それだけ、たったそれだけのことをしただけだ。だが……拮抗している状態の直後の効果は絶大であった。

 

 

「束ねる星の息吹、輝ける命の奔流……闇夜を照らし、世界を切り開け……!」

「何ぃっ!?」

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』!!」

「な、なんだとぉぉぉ!?」

 

 

槍を掴んで押し返し出したノットの右方向。その方向からバイクに乗った永時、その頭上にはセイバー、アーサー王が視界へと飛び出してきて自身の持つ伝説の聖剣に光を纏わせて撃ち放った。

 

 

「ば、馬鹿なっ……!」

 

 

眩い光の束がノットに迫り込むもあまり頭の良くない彼はどうすればいいのか分からず、為す術なく槍ごと光に包まれた。

 

 

「ッ!?貴様ぁ……!?」

 

 

光に包まれる中、彼は見た。自身の中で最も印象に残されているあの男の姿を。

 

 

「ネバーァァ……ネバーあ゛あ゛ァァァァァァァぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

またもや嵌められたと思い込み、空気を大きく揺らがす断末魔のような雄叫びを上げ、吹き飛ばされながら夜空へと消えて行った。

 

 

『お、終わったか……』

 

 

そして、勝ったと確信。それによる小さな安堵の声が、燃える炎の音によって掻き消されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹き飛ばされ、いつの間にか手にしていた槍から漏れ出した炎がノットの身体を包み込む。

力を込めれば多少時間は要するも抜くことが可能なのだが、格下と思っていた存在に力で押し負けたということにより衝撃で意気消沈。力すら入ることもままならない状態へと陥っていたことが抜けない理由でもあった。

 

 

(俺は……何をしたかったのだ?)

 

 

弱体化していたとはいえ、何故負けたのか分からず彼は揺らめく炎を呆然と眺める。そんな彼の頭上には丸い月が浮かび上がっていた。烈烈と勢いが衰退することなく燃える地上とは違い、神秘的な光によって慎ましく、されど美しく存在を表明していた。

 

ふとそれに目がいった。されど炎に包まれていたノットにはそれが灼熱の太陽にすら見えていた。

 

同時に脳裏にある光景が過った。憎き男……そう、孫悟空と呼ばれていた男との死闘の記憶。明らかに優勢であった自分が気がつけば押し返され、吹き飛ばされてそのまま灼熱の太陽に叩きつけられた忌々しい記憶。

 

 

(俺は……また負けるのか!?)

 

 

次に浮かんだのは緑髪の少女。癒しという言葉がとても似合っていた……自分の友だった女が微笑む姿。

 

 

(……こんな所で、諦めろとでも言うのか!?)

 

 

そうだ、思い出した。自分は彼女に会いたいが為に参加したのではないのか?確かに召喚されてから現状を見て変えたが、それはあの女(アイリスフィール)が友に似ていたから助けてやろうと考えただけだ。その彼女亡き今、態々叶えてやる必要はない!

 

 

(…………るか………!!)

 

 

皮肉にも過去と似た状況に陥っていることで彼の中の忌まわしい記憶が彼を再び動かそうとしていく。

 

 

(……こ……で……お……か………!?)

 

 

自分は誰だ?そうだ、俺は友との安らぎを破壊しようとするクズ共を血祭りにあげる悪魔だ!

 

 

(……こんな所で、終わるのか………!?)

 

 

思い出せあの時の屈辱を!

 

 

ーーーあの男に無様に負けたあの時を!

 

ーーー再び負かされたあの時の自分の姿を!

 

ーーー友やそれに似た女ですら守れなかったあの時の自分を!

 

 

(……ロット!……カカロット!カカロットォッ!)

 

 

思い出せ!記憶の奥底で眠らせていた憎きあの男の名を……!俺の生きる動力であった感情を……!

 

 

『そこまでして負けたくないのか………仕方のない奴だ。今回は私も手を貸してやろう。だが……やりすぎるなよ』

 

 

自分を負かそうとする敵への憤怒と殺意、かつて負かした敵への復讐心、友との再開への執着心、そしてそれらの基盤となる深い悲しみが理性を染めていった。

 

 

「カカロットオオォォォォォォォォォォッ!!」

『さあ行くがいい……ノットよ!全てを終わらせる時が来たのだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー蘇生宝具『伝説よ再三にて蘇りて』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事が上手くいったことによる安堵なのか、思わず彼女は膝をついて高まっていた気持ちと疲労を抑える。

 

 

『あっ……マズい』

 

 

しかし、限度があったのだろう。突然身体が光だし、やがて光は2つに別れ、光が消えると元のオメガとバットの2人へと戻っていた。

 

 

「はぁ……はぁ………」

「姐さん、大丈夫かい?」

 

 

相変わらず笑みを浮かべたままだが、疲労の色を見せているオメガ。心配そうにバットに声を掛けるも、自分より疲労の色が濃い彼女は返事すらまともに出来る状態ではなかった。

 

 

「大丈夫……じゃ、ねえよなこりゃ……」

「えっ、ちょっと!?」

 

 

心配させまいと笑みを浮かべていた彼女だが、身体は正直に疲労を示しているかのように重心が揺らぎ……地へと倒れ伏した。

 

だがそこはオメガ。素早く無駄のない動きで受け止め……ることなく、何処からか取り出した布団にそっと寝かせた。

 

「なんなんだぁ?この無駄に無駄を重ねた無駄のない行動はぁ?」とどこかの誰かさんならこういうツッコミを入れるだろう。だが今はそんなことはどうでも良いことだろう。問題は彼女が倒れたことなのだから。

 

 

「相変わらず馬鹿だね君は」

「うっせえ」

 

 

恐らく性格上かなり無茶をしているだろう。あまりの馬鹿さ加減による呆れで怒るに怒れないオメガ。馬鹿と言われてバットは頬を膨らませることで怒りを表現していた。

 

 

「全く……いくら回復したとはいえ、融合時のベースが君である以上無茶はしないで欲しいね(やべぇ、今の可愛好きだろオイ!脳内保存脳内保存っと……)」

「うっせえなぁ……お前は俺のオカンか」

「どっちかというとオトン……いや、お兄さんですねこれは」

「なんだ?お兄ちゃんとでも呼べってかオイ?」

「いや、違うね……お兄たまと呼びたま「一回死んどけ」ーーーゴフッ!」

 

 

君が悪い発言をしたものの、流石の彼女も攻撃出来まいと考えていた自分が甘かったようだ。いつの間にか腕に巻きつけていた鎖を上手く扱ってロリコンクソ野郎の顔面に叩きつけていた。

 

 

「痛い……だが、これも愛の鞭と思えば……「もう2度と話さんぞ?」すいませんでした」

 

 

怒りを見せるや否や土下座までして謝罪するオメガ。この男にはプライドなどはないのだろうか?

 

 

「プライド?んなものあったら姐さん愛でられんでしょうが!」

「おい馬鹿やめろ」

彼ら(観測者の諸君)ならきっと分かるはず!可愛い幼女が居たら愛でたり弄ったりしたくなるこの俺の気持ちが!」

「何かよく分からんがやめろ……次やったら本気で話さんぞ」

「ウス」

 

 

流石にそれは勘弁とまたもや土下座するオメガ。彼にはプライd……これ以上すると同じことの繰り返しになりそうなのでやめておこう。

 

オメガの見事な態度の切り替えに流石のバットもツッコむ気にはならず、呆れと蔑みの視線を向けるだけ。

 

 

「あの……私達のことを忘れてませんか?」

「「あっ……」」

「……そんなことだろうと思った」

 

 

だがここで、漸く空気になってセイバーが言葉を放つことでやっと2人がいたことを思い出し、それを見て永時はいつものことだと深々と溜め息を吐き出した。

 

 

「と、とにかくセイバーちゃん。ネバー、助かったよ」

「いえ、お気になさらず」

「いつものことだから気にするなセイバー……「なあ、ちょっといいか?」何だ?」

「ん?」

「……勝てたと思うか?」

 

 

バットにそう質問され、答えようとするもオメガは困ってしまった。

 

それもそうだ。彼女(バット)の気持ちを考えれば否と答えるべきだ。だが、現状から推測すれば肯定せざるを得なくなるからだ。

 

 

(優しい彼女のことだ……前者と答えれば期待を持ちながらも探しに行くだろうし、見つけたら止めを刺すだろう。逆に後者ならば自分が殺したと思い詰めるだろう……さて、どうすれば良いのやら……)

 

 

悩ましいものだと頭を捻るオメガ。出来れば彼女を傷つけたくないと考えているため、どう返答すべきか分からないのである。

 

 

「あー……その、ねーーー」

 

 

曖昧な返答でとりあえず誤魔化そうと口を開くーーーも突然視界が緑に染まることで中断せざるを得なくなってしまった。

 

 

「!?」

「これは……?」

「こいつは!」

 

 

光を見た途端、浮かび上がる最悪の事態を想定した彼女。布団から起き上がり飛び出そうとするもその腕を咄嗟に掴むことで阻止するオメガ。彼女はそれを振り解こうと必死に抵抗するも、体力の消耗が激しい身体では敵うことが出来なかった。

 

 

「なんだよオメガ!離しやーーー!?」

 

 

ならば説得するしかないと後ろへと視線を向けて……そこで彼女の視界は黒く染まった。

 

 

「悪いな姐さん……」

 

 

原因は近くにいたオメガ。掴んでいた手に電気を纏わせることで彼の手はスタンガンの役割を果たし、彼女を気絶させたのである。

 

 

「アヴェンジャー!貴方一体何を……「セイバー」しかしエイジ「セイバー」……!?分かりました………」

 

 

無理矢理気絶させたことに抗議しようとするセイバーを永時は名前を呼んでアイコンタクトで何とか静かにさせ、それ以上何も語らずにオメガを見つめていた。

 

そしてオメガはというと倒れこむ彼女を支え、再び布団に横たわらせた。そして、人差し指をクイっと振るうような動作をする。たったそれだけで布団と共に彼女の姿が視界から消えたのである。

 

 

(行き先はルシファーちゃん家に送ったし大丈夫かな?……さて)

 

 

無事に着いたかどうか確認したい所だが、そうは言ってられない状況に陥っていることに溜め息を吐くことで自身を落ち着かせる。見せる相手がいなくなったことで貼り付けたような笑みを消して無表情へと切り替えたのだ。

 

 

「まだ生きてたんだ」

 

 

そう言って後ろへ振り向く。そこには見覚えのある筋肉隆々の男の姿があった。

 

元々大きかった身体は変わってはいない。だが、彼が纏う黄金のオーラは以前にも増して揺らぎ、何よりこちらに向ける殺気と威圧感がかなり増しているようにも感じられた。

 

 

「なんだい?まだ彼女のことを諦められないのかい?」

「……」

「それか、単に負けたくないとか?」

「……」

 

 

ダメだ。全くもって会話が成り立っていない。恐らくだが先程負けてしまったのが応えてしまったのか、こちらに向く殺気ばかりが強くなるばかりで、怒りのあまり無言になってしまっていた。

 

 

(……無理矢理サーヴァントとして現界してきたのがここで仇となるとは………ここまで弱体化ってのも些か問題だなこりゃ)

 

 

実を述べると彼という存在は本来この戦争……いや、そもそも聖杯戦争では召喚されることはない。だがあの3人が参加していると聞いたので万能性を駆使して本来あるべきではないクラスへと無理矢理押し込み、世界に強引に干渉してまでして召喚されたのだ。それによる反動、即ち弱体化は本人すら想像出来ない程酷いぐらいのものであり、勝てるかどうかとなれば否と答えざるを得ない状態まで落ちてしまっていた。

 

合体していた場合はもしかしたら…と考えるもそれでも無理だと悟ってしまっていた。

 

 

「……まあ、どっちにしても僕自身やることは変わらないから問題ないけどね」

「まさかまだ立ち上がってくるとは……」

「落ち込む暇があったら構えろセイバー」

 

 

だが彼にはそんなことは関係なかった。今はとても誰か(彼女)の為に戦ってみたい気分になったから。まあやる気を出し始めた2人に影響されたというのもあるのだが。

 

 

「……トォ……カ………ォォ………!」

「だけど、折角君とやるんだ。僕自身も君なりのやり方(DB風スタイル)でやってあげるよ」

 

 

彼は今宵も気分次第で動く気分屋なのだから。だから戦闘スタイルを少し変えるのも気分なのである。

 

 

「……カカロットォォォォォォォォォ!!」

「さあ、始めようか!」

 

 

漸く出した言葉らしき雄叫び。彼の叫ぶ言葉の意味を理解した上でオメガは構えて彼を迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーさあ、闘え英雄(ヒーロー)達よ。相対する相手は星すら容易く砕ける悪魔の中の悪魔。

 

 

ーーーそれ故に絶え間無き絶望へと恐怖を焚べ、終焉へと抗え。

 

 

ーーー所詮誰が終わろうと、終焉は全てを受け入れるのだから。

 

 

 

 

 

 






※補足事項

補足1 終永時

『偽似創作・斬り離すは友縁の証』

ルールブレイカー・オマージュ

ランクE

彼の中に住まう者が自身の知識を持ち得て作り上げた短剣。

ギリシャ神話におけるコルキスの王女メディア。彼女の逸話が具現化した短剣……を擬似的に作成したものである。それ故1度きりの使い捨てだが、効果はほぼオリジナルそのものであるため、作り手の技量の高さが伺えることだろう。





補足2 バット

『滅竜神槍・竜狩り』

インフェルノ

ランクA+

バットの持つ2つの槍を合わせた三又の槍。そこから漏れ出る炎は如何なる竜の鱗をも溶かし、肉をも焼き尽くす。

その炎はまさに神の如き炎。相手が人の身であれば当然ただでは済まない。当然、それを振るう者自身も。発動と共に投擲、敵を貫き、全てを燃やす。自身の片腕を代償に。

されど、今回は万能と融合したためにそれは無くなったようだ。つまりは万能が余程過保護とも言えよう。





補足3 ノット

『伝説よ再三にて蘇りて』

ランクEx

ノット・バット・ノーマルという男の力の元となっている悪魔の復活。1度蘇り、2度目は記憶を持たず、執念だけが受け継がせた同意個体として蘇ったその事実を宝具化したもの。

瀕死、致命傷など死に関わる程発動しやすくなり、1度発動すると全ての傷を癒し、万全の状態となる。更にスキル『サイヤ人体質』が併用され、復活する度に強くなっていく。しかし、低確率で狂化スキルが上がっていくが……元々狂っている彼には関係ないことだろう。

かの悪魔は常に万全の状態で蘇り、1人の男を殺したい程憎み続けた。それ故か蘇る度にその憎悪は増大し、狂暴さは増していった。




補足4 オメガ

『真正潰しの贋作者』

メイキング・リアリティー

ランク?

気分屋で万能と呼ばれた男の宝具。

生きてきた人生の中で見たありとあらゆる技能をそのまま模倣するだけの単純なもの。能力然り技術然り性格然り、気に入ったものだけを選び抜く。だがあくまで模倣なので弱点などもそのまま模倣するのは欠点とも言えよう。

だがそれと同時に、個性がないと晒しているようなものではないだろうか?




今回行ったのは某龍球漫画から融合(フュージョン)する技術を用いてバットと融合し、バメガとなっている。













*後に本編諸共修正するかもしれないが作者の力量不足故悪しからず。




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自称悪と自称悪魔



〜遠藤が送るあらすじ〜


「皆さまお久しぶりの遠藤でございます。

皆様が全員やって下さったということらしいので今回から最後まで、私遠藤が最終回までやらせていただきます。


前回、セイバーを元に戻した永時。2人は再び主従を結んだ。そんな2人はオメガとバットの融合、バメガとの戦いに加担することで見事ノットを撃退した。しかし、それはまだ悪夢の序章に過ぎなかった……


では、本編でも如何かな?」






 

 

「ーーー遂にあの宝具まで使用することになったか……これは雲行きが怪しくなってきたな」

 

 

テーブルと椅子、それ以外はゴミ山のような瓦礫や廃墟で飾られた空間で1人の中性的な声が響き渡る。その椅子に腰掛けているのは漆黒の髪を腰まで伸ばした1人の人物。紅い彼岸花の刺繍がついた黒い着物を見事なまでに着こなしており、性別は分からないが、端正な顔を憂鬱に染めている姿が似合うまさしく佳人と言ってもおかしくない人物であった。

 

 

「そうかしら?彼ら相手なら仕方ないと思うけれど?」

「……珍しい客が来たな」

「特に意味はありません。ただ暇だったもので、ね?」

「フン、それでこんな場所に来るとは……」

 

 

そこに1人の女が現れ、目を見開く黒き佳人。女はクスクスと笑いながら何処からか取り出した椅子に腰掛けていた。そして佳人は端正な顔を少し歪ませながらも女に気になることを尋ねてみた。

 

 

「そうだ……貴様はどちらが勝つと踏んでいる?」

「どちらが勝つか、ですか……」

 

 

問われた女は悩ましげに俯いて考える。少し置いた後、女は顔を上げた。しかし、その顔はまだ悩ましげなままであった。

 

 

「恐らく彼……と言いたい所ですが多分あの3人が勝つでしょう」

「ほう?貴様が奴を選ばんとは意外だな」

「私だって冷静に考えることは出来ます。ですが……」

「ですが?」

「……個人的には、彼が勝って欲しいと願っています」

 

 

そう答える女の顔は悩ましげな表情のまま。いや、少し哀愁のようなものを含んでいるようにも見える。佳人はそんなことは一切気にすることなく女に再度問う。

 

 

「理由は?」

「あの3人なら、今の彼を救ってくれると信じているからです」

「救う?殺すではなくか?」

「ええ……悲しみと憎悪、執念によって染まった彼を……何が正しいのかすら判断できなくなってしまった彼を。彼らならきっと、元の彼に戻してくれると。もういない私の代わりをしてくれると、そう信じているんです」

「……本気で奴を殺しに掛かっているのによく平気でいられるものだ」

 

 

半ば呆れ顔で述べる佳人に女は違いますとはっきりと否定した。そのことで佳人は少し目を細め、女の顔を凝視する。

 

 

「本当なら平気でいられるはずがありません。ですが……彼らも分かっているはずなんです。こうでもしないと彼は止められないと」

「つまり、奴の為に全力ですると?」

「そういうことです……それも彼らなりの不器用な信頼の表しなんだと思います」

 

 

確かにと佳人は少し古い記憶を蘇らせる。自身を悪とか何とか豪語しつつ人助けをする自称悪(クーデレ)。仲間の為にと自身を捨ててまでして戦おうとする竜狩り姫(馬鹿)。そして気分次第で敵味方別れる万能(気分屋)。よくよく考えれば3人とも素直ではないのだ。思い出しただけで思わず笑ってしまいそうなぐらいあの3人は素直ではないのだ。

 

 

「愛されているのだなあの男は……」

「そうですよ……だって彼とその周りにいる人達は根は良い人なんです。私が自慢したい程凄いお友達なんですから」

 

 

嬉しそうに語る女の言葉に納得したのか、佳人はそうかと呟く。すると椅子から立ち上がり、背を向けて歩き出した女を呼び止める。

 

 

「もう行くのか?」

「あら?寧ろ出て行って欲しそうな雰囲気を出してませんでしたか?」

 

 

女がそう問うと佳人は鼻で笑って軽くあしらい、返答する。

 

 

「フン……言わばここは世界の最果てにある掃き溜めのような場所。貴様のような純真な女が本来来るべき場所ではない……何せここには偶に来るイカれたものと無駄な時間、それに生命の残滓を喰らおうとする愚者ばかり募っていくものでな」

「それで?何が仰りたいのです?」

「要するに愚者が来たら捻り潰してやるからもう少し付き合えということだ」

「……それならもう少しだけお付き合いしましょう」

「……こう言うのも何だが、相変わらずお人好しだな貴様……まあいい。もう少し付き合って貰おうか……アムール・エフェメールよ」

「あっ、やっぱり交換条件出していいですか?」

 

 

ーーーここは世界の掃き溜め。終焉を迎えたものが集い、流れ着く終着点(ゴミ捨て場)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カカロットォォォォォォォォ!!」

 

 

ビリビリと空気が震えるような獣の咆哮のような雄叫びを上げ、名前らしき単語を口にし、直進する。進行方向に乱雑に放置された自動車や鉄塊があるも無理矢理跳ね飛ばし、そのままの勢いで永時へと衝突する。

 

しかし、衝突する直前で辛うじて瞬間移動(テレポート)が間に合うことでバイクごと上空へと回避する。

 

 

「……こいつ!」

 

 

そのままバイクから飛び降り、落下の勢いを利用して刀を降り下ろす。

 

 

「……チィッ!」

 

 

しかし、金属の擦れる音が響くだけで当然傷などはなく、ノットの憤怒の表情は変わることはなかった。

 

 

「ぐぅ……!」

 

 

鬱陶しそうに腕を横に振るい、横腹を抉られた永時はそのまま薙ぎ払われて後ろへと吹き飛ばされる。

 

 

「くそっ、たれ……!」

 

 

吹き飛ばされながらも手から黒い火炎球を作り、吹き飛ぶ方と反対方向へと投擲。追撃しようと走ってくるノットの進行方向へ着弾した。

 

外したかと嘲笑うノット。しかし着弾点に足を踏み入れた直後には変貌することになる。

 

 

「!?」

 

 

踏み抜いた瞬間。グシャリと泥のようなものを踏んだ感覚を覚えた時には足が少しなくなったことでノットから余裕の笑みが消えたのである。

 

まるで底なしの沼に足を入れてしまったかのように徐々に足が沈んでいくことでノットの顔に少し焦りが見え出す。

 

 

「やれ」

「うし!」

 

 

そしてタイミングを待ってましたかとばかりに左右に出現するセイバーとオメガの姿を見て、してやられたと怒りを込み上がってくるも同時にどうすべきかと考えていた。

 

 

「キルドライバー!」

「『風王鉄槌(ストライク・エア)』!」

 

 

右からは稲妻が走っている灰色の輪が、左からは風の鉄槌がそれぞれ迫り、移動出来ぬノットへと向かい、それぞれ爆発を引き起こした。

 

 

「……!?」

「はぁ……はあ……やっぱダメか」

 

 

だがそれも、彼の前には無意味と同意であった。

 

 

「……」

 

 

爆発が終わり、発生していた煙が消えて視界がはっきりとした時には緑色の壁が彼を守りきっていたこと。その確認が出来たからである。

 

 

「……でりゃっ!」

 

 

声をあげると共にバリアを解除、それと同時に彼を中心に無数の緑弾が左右の2人を襲った。

 

対して2人は咄嗟に得物を構え、無駄のない動きで緑弾を躱し、弾き飛すことで被害を受けることなくノットに接近。2人共それぞれのタイミングで得物を振るう。

 

しかし、左右から来る2人の攻撃を両手を使って器用に捌き、少しだけ出来た隙を突くようにオメガを蹴り飛ばし、セイバーの頭を掴んで下へと投げて叩きつける。

 

 

「ぐがっ……!」

 

 

叩きつけられたセイバー。更にノットはニタリと笑みを浮かべ、片足を上げてそのままセイバーの胴を踏み潰そうと勢いよく足を降ろした。

 

 

「……?」

 

 

思いっきり地面へと足を踏みつけた。何かを踏み潰した感覚がするが……以前やった人が踏んだ感覚とは程遠いものを感じ、何を踏んだのか足をズラして確認した。

 

 

「……!」

 

 

足裏にあった黒く丸い物体(手榴弾)を見た瞬間、光と爆発に飲まれるノット。無論ダメージはなかったものの、足裏にセイバーがいないことに気づき、辺りを見渡して探し始めた。

 

 

「ッ!カカロットォ……!」

 

 

そして見つけた。大体50メートル程離れた場所にいる彼女の手を引いて移動(テレポート)している男の姿を。

 

 

「カカロッ「まあ待ちたまえ」ぬうっ……!?」

 

 

すぐ様跳躍して距離を縮めようと足に力を入れるも両足に冷たい感覚を覚えた時には重心がブレて地面に倒れ込んでいた。

 

何事かと足を見やれば、足に巻きつけられた黒い鎖が後ろへと伸びており、辿ってみれば鎌のようなものを持ったオメガの姿があった。

 

 

「クズがぁ……!」

「エスケープ!」

 

 

少し力を入れて鎖を破壊し、緑弾を撃ち込む。しかし壊されることを理解していたオメガは既に逃げており、頭に血が上っているノットはそれを捕まえようと足に力を込めた。

 

 

「……!」

 

 

だが、バイクのエンジン音が聞こえたことでその動きを一時中断することとなる。

 

 

「ッ!カカロットォ……!?」

 

 

すぐに見てみればどうだ。バイクに跨ってエンジンを吹かしている永時とその横にあるサイドカーに乗り込むセイバーの姿があるではないか。

 

 

「どこへ行くんだぁっ!!」

 

 

溜めていた足の力で地面を踏みしめて一気に距離を詰める。目の前の敵が逃げようとしているのだ。追いかけてしまうのも無理なきことだ。

 

 

「っ……行くぞセイバー」

「了解です!」

「カカロットォォォォォォォォォ!!」

 

 

来ると分かるや否やバイクを飛ばして走り出し、廃墟の連なる街へと進み、その後を悪魔が追っていった。

 

 

「……はあ、疲れた」

 

 

姿が見えなくなった途端、地面に倒れ込んだオメガ。息は荒れ、頭部から血が流れ出ている。

 

 

(何でバイクでなのかは分からないけど……正直もう限界だったから丁度良かった……いや、それが分かっていたからこそ引き寄せてくれている?)

 

 

そこでふと浮かんだ疑問。しかしそれも一理あるのだ。何故ならただバイクを使って離脱するのなら態々エンジンを吹かす理由がないからである。

 

 

(まあクーデレな所あるし、多分そうなんだろうなぁ……)

 

 

すると、仕方ないなぁと動きが鈍っている身体に鞭打って立ち上がって歩き始める。

 

 

(残されたものの責務ってやつだっけ?面倒だとやることはやっときましょう……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方廃墟の連なる街へと飛び出した永時&セイバー。2人は現在、悪魔の猛攻を避けながら街中を逃げ回っていた。

 

 

「カカロットォォォォォォォォォ!!」

「チッ」

 

 

次々と投げ込んでくる緑弾を車体を左右に振るように動くことで躱し続け、避けられないものはサブマシンガンで迎撃し、どうしても無理なものはセイバーが独断で弾き飛ばしていた。

 

セイバーはただ闇雲に弾くだけでなく、永時が避けれるものは手を出さず、どうしても無理なものだけを弾いている。だがあれから数刻程続く攻撃だというのにも回避不可となったのはたったの2回程。永時のバイクテクニックや銃の取り回しなど、中々のものだとセイバーは感心していた。

 

 

「このバイク……以前壊されたものでは?」

「ああ、姐さんにやられたやつか……壊されると思って一応用意していた予備……だっ!」

「っ……!間一髪でしたね。お見事です」

「そりゃどうも……ちゃんと付いてきているようだな」

「はい。大方、貴方の予想通りと言ったところです。ただ……」

 

 

そこで一旦言葉を区切り、後ろで誰かの名らしき言葉を叫んでいる男を見やってから再び口を動かす。

 

 

「ずっと気になっていましたが……“かかろっと”とは?」

「………あいつが一方的に憎しみ続け、挙げ句の果てに殺された男の名だ。その男こそ今の奴を作り上げた原因の1つだと、そう聞かされている……何を勘違いしてるか知らんが、俺のことをそのカカロットと思い込んでるようだな」

「憎しみ続けた、ですか……」

 

 

その言葉が深くセイバーの中で残る。何故なら、自身も思い当たるような部分が数多くあったからだ。

 

特にブリテン崩壊の要因であった叛逆の騎士、モードレッド。かの人物と対峙した際は特に憎悪の交えた目でこちらを睨みつけていたことを未だ鮮明に覚えてさえいた。

 

 

「何だ?誰か思い出したのか?」

「……ええ、少しだけ」

「そう、かっ!」

 

 

急にバイクが右に傾き、その方向へと動く。すると遅れて緑弾が元いた場所を高速で通過していった。

 

 

「カカロットォォォォォォォォ!!」

「さて……どうするべきか」

 

 

ただ避けてばかりではジリ貧であることは理解している。しかし生半可な攻撃は効かないことも同時に理解しており、少し困り果てていた。

今は路地裏を走ったり、急に角を曲がったり、敢えて止まって通り過ぎていくのを狙ったりしたがそれも向こうが徐々に学習し始めたことで徐々に距離がかなり縮まってきたこともあり、時間はそんなに掛けられない状況であった。

 

 

(セイバーの宝具をもう一度ぶつけてみるのもありだが……確実に避けようとするだろう)

 

 

そこをどうやって当てるか。躱しながらただそれだけを考え始めていた。

 

突然沈黙を始めた永時にああまた考え事かとセイバーは理解していた。伊達に6ヶ月という月日を過ごしただけのことはあるのだろう。

 

 

「ん?待てよ……」

「エイジ、何かいい案でも?」

「まあな……始めるぞ?」

 

 

エイジの問いかけに無言で顔を見て頷くことで肯定を示すセイバー。それを見た永時は黙ってハンドルについた赤い髑髏のボタンを押した。

その直後、金属の擦れ、動く音が響き、後ろへ真っ直ぐ向いた2本の排気管が追加された。

 

 

「さて……派手に飛ばそうか」

 

 

永時がそう言うと排気管が火を吹き、その勢いを借りて走行速度を上げていきノットと距離を引き離していく。

しかしそれも一瞬のことで加速していると気づいたノットはスキル『伝説の超サイヤ人』により大幅に速度を上げていき、徐々に離れた距離を元へと……否、更に距離を縮めていた。

 

 

「エイジ!」

「もうすぐだ!」

 

 

距離が縮まったことで緑弾の命中率が上がり、弾くことに限界を感じ始めていたセイバーが思わず声を上げる中、永時は更にバイクのスピードを上げてそのまま真っ直ぐ突き進み、トンネルへと入って行った。

 

 

「よし、まずは第1段k『カカロットオオオオオオオオオオッ!!』……声が更にデカくなったな」

 

 

ただでさえ大きな声が更に大音量で響いてきたことでノットがトンネルへと侵入したことを理解した。

 

 

「それで、どうするのですか?」

「ああ、次はーーー「でやぁっ!」……っ!」

 

 

言おうと口を開くも緑弾が飛んできたことで中断させ、横にズレることでギリギリ回避に成功した。

 

 

「……」

 

 

だが躱されたにも関わらず、寧ろ口角を上げていたことに疑問を抱く。

 

 

「ッ!エイジ!」

 

 

その直後であった。セイバーの声で意識を引き戻され、彼女が睨みつけている前方を見やる。

 

するとどうだろうか?躱したと思われる緑弾。真っ直ぐ進んでいたそれは突然方向を変え、少し距離を置いた先の天井へと激突したからである。

 

 

「まさか……アスモ!」

『了解!』

「セイバー、しゃがんでろ!」

 

 

天井が爆発したことで前方から崩れた瓦礫が雨のように降り注ぐ。流石の永時もマズいだろうと理解したのか、相棒とその後に自分のサーヴァントの名を呼ぶ。

 

 

「……っ!」

 

 

その言葉に従ってその場に屈むと同時、永時の身体を中心に稲妻が解き放たれた。

 

解き放たれた稲妻は降り注ぐ瓦礫をあっさりと砕き、分解し、実際に来る被害を最小限にとどめることに成功した。

 

 

「……アスモ大丈夫か?」

『大丈夫、少し電気風呂に入った気分だよ……少し焦げたけど』

 

 

無表情ながらもどこか不安な交えたと思える表情で問いかける永時に少し上がる黒い煙と焦げ臭い匂いを漂わせているアーマー、変身しているアスモは元気そうに返答した。

 

永時が何故アーマーになったアスモを心配するのか、何故ならいくらアーマーとなったといえど纏っているのはアスモ自身なのである。稲妻が永時自身から放たれている以上、怪我はしていないのか心配するのも無理ないことである。

 

 

「なにっ?」

「……フンッ!」

 

 

だがそれも緑に光った拳を振りかぶる悪魔の姿が横から現れたことで驚愕へと変えられる。

 

 

「なら……こうしようか」

 

 

だが彼はすぐ冷静になり、バイクのブレーキを握って突然減速させた。

 

 

「何ぃ!?」

 

 

急な減速、更にそこからハンドル操作してクルリと向きを反転させることでノットの拳は空を切り、躱すことに成功したのである。そしてそのままスピードを上げて進みだした

 

だがノットはすぐさま笑みを浮かべることとなる。何故なら向きを反転、さっき来た道を引き返すということ。つまり……天井が崩れたことで瓦礫で塞がっている道へ戻るということでもあるのだ。

 

 

「はははっ!」

 

 

これこそ袋の鼠とも言うべきだと内心嘲笑いながらノットは再び距離を詰めていく。

 

だが彼は忘れている。この男がそんな馬鹿をするような人間ではないということを。

 

 

「道がないか……なら作ればいい」

 

 

そういうとセイバーに目線を合わせる。するとセイバーは黙って頷き、永時はそれを見るや否や懐から手榴弾を取り出して、ピンを抜いてセイバーに投げつけた。

 

 

「はあぁっ!」

 

 

それを剣の向きを変え、剣の側面をバットのように振るって前方へと打ち抜いた。

 

 

「捕まってろよ!」

 

 

程よい力加減で打ち抜いた手榴弾は真っ直ぐ進行方向へと飛んでいき、爆発。それと同時に排気管が火を吹き、爆発の中を突っ込んでいく。先程放った稲妻によりある程度は砕かれていたので爆発によりあっさりと道を切り開けたのである。

 

 

「ッ!カカロットォ……!」

 

 

爆炎と煙に紛れるかのように奥へと消えていこうとするバイクを追いかけようと同じく煙へと入っていく。

 

 

「チッ……」

 

 

しかし、勿論のことながら辺りは煙が充満。視界は良好ではなく、バイクのエンジン音と気配だけで探るしかなかった。

 

 

「……っ!」

 

 

予想より数秒遅くなったが煙から抜けることが出来た。しかしすぐに驚愕することとなる。

 

 

「何ぃ……?」

 

 

クリアになった視界が捉えたのはそこに誰もいない。いや、正確には煙を吐き出している筒状のものが地面に転がっている。そんな結果だけであった。

 

 

「どこだっ……!?」

 

 

少し辺りを見渡して探そうかと考えた直後、聞き覚えのある音が“自身の背後”から聞こえて来た。

 

 

「ッ!カカロットォッ!」

 

 

その音とは勿論バイクのエンジン音のことで反射的に後ろの煙へと再び入って走っていく。

 

 

「……!」

 

 

そしてそこに奴はいた。自分が殺すべき男の姿を。

 

 

「カカロットォォッ!」

 

 

見つけた瞬間すかさず飛び出すノット。緑色の気弾をその手に作り、投げた。

 

 

「……少しは疑うことを覚えるべきだったな」

 

 

しかし殺した手応えなどはなく、ただ邪魔なバイクの粉砕音。

 

 

「さあ、セイバー!魔力なんざ気にせずに遠慮なくぶっ放せ!」

「『約束されたーーー(エクスーーー)

 

 

そして、背後から来るのはあの男のサーヴァントの声と迫り来る膨大な光の束であった。

 

 

勝利の剣(カリバー)』ッ!!」

「なっ……馬鹿なっーーー!?」

 

 

急な不意打ちに対応する前に彼は再び光の束へと包まれた。

 

 

「上手くいったか……」

 

 

セイバーの後ろに現れ、少し安堵の交えた声でそう述べる永時。

 

ここで一旦説明するとやったことは単純だ。まずトンネルに入ったのはセイバーの宝具を確実に当てるため、横幅が狭く、縦に長いこの場を選んだのだ。

次にしたのはグレネード。これは単なる障害排除と共に視界を阻害し、次の一手への布石でもあった。その次の一手こそ重要である。

 

その一手こそ爆発に紛れて取り出した発煙筒(スモークグレネード)である。

辺りを煙で充満させたらセイバーをトンネルの隅に降ろし、自身はその向かいでバイクに乗って待機。奴が通り過ぎた所を狙って反対方向へ逃げることで姿を表し、奴が追いかけてくるのを狙ってセイバーに後ろから宝具を撃たせた。そういう算段であった。

 

流石のノットでもあれを諸に喰らえば耐え切れることは不可能だろうと彼は考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、それも無意味だとすぐに知らされることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ォォ!」

「えっ?」

「!?」

 

 

突然、ノットの声が聞こえたかと思えば次の瞬間2人は驚愕することとなる。

 

 

「カ………ォ…………カカロットォォオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 

驚くのも無理もない。何故ならあの男が伝説の聖剣による究極の一撃として放った光の束。それに逆らうかのように止まることなく突き進んでいるからだ。それもあの絶対性のあるバリアも貼らず生身でだ。

 

だがお忘れではないだろうか?この伝説とも言われる聖剣が星の力を収束させたものを放てど、対峙するのは星すら容易く砕く同じく伝説と呼ばれた悪魔なのだ。寧ろ先程ダメージを与えた方が奇跡に近かったのかもしれない。

 

 

「雑魚は、すっこんでいろ……!」

 

 

声を上げながら一気に突き進み、セイバーの目前で上半身だけを見せる。後ろへ手を引いて手の中に光を収束させている邪悪な笑みを浮かべた悪魔の姿を。

 

 

「がっ……!ああぁぁっ!」

 

 

頭部より同じ大きさの拳がセイバーの側頭部へと食い込み、更にその後光から発生した爆破によって吹き飛んでいった。

 

 

「チッーーー!」

 

 

マズいことになったと理解し、とりあえずセイバーをカバーしようと刀を持って後ろから接近。しかしそれを理解していたのかこちらに振り返ったと同時に殴りかかってきた。ならばと跳んで横へ回転しながら回避。そのままの勢いを利用して回転斬りを胸部へと繰り出した。

 

 

「カカロットォ!」

「……!」

 

 

胸部と刀がぶつかり、金属同士が擦れる音だけが響く。負けじと永時は回転数を増やすべく刀を振るう力を強め、遠心力を利用して回転を早める。

 

しかし、それも刀を掴まれることで動きを止められた。

 

 

「がっ……!?」

 

 

急速に止められたことで逃亡を図るもその前にノットの片手が永時の顔を掴んだのが先だったようだ。

 

そのまま手を下へと下ろし……自らの膝へと吸い込ませるように永時の顔をぶつける。

 

 

「ーーーッ!」

 

 

ゴキャリと鼻が砕けるような音が嫌という程周りに響かせながら永時は声なき声を上げる。

 

 

「……!」

 

 

そこでノットの攻撃は止まることはない。永時が少し浮いたその合間に両手を組んでそのまま胴へと振り下ろして地面に叩きつけた。

 

 

「あがっ……!?」

 

 

更に足を上げ、叩きつけられた永時を踏み潰そうと一気に足を振り下ろした。

 

 

「っ!?ほう……!」

 

 

しかしそれは彼の両手によって潰す前に勢いは止まっていた。そのことにノットは腹立つことはなく寧ろ感心すら覚えていた。

 

しかしそれはあくまで一時的なもの、すぐに押し返され、両腕の義手の各パーツが軋み、鈍い金属音を鳴らし始める。

 

 

「おおおおおおおっ!……なんてなっ!」

「あっ?」

 

 

負けると分かるや否や瞬間移動(テレポート)で離脱。急に消えたことで足はあっさりと振り下ろされ、地面を踏み砕く。

 

踏んだ手応えがないことに首を傾げる男の真横から出現。そのまま疾走し、すれ違いざまに斬りつけた。

 

 

「っ……そこか!」

 

 

勿論傷はなく、衝撃だけが身体を走る。ノットはすぐさま後ろへ振り返り緑弾を撃ち出した。

 

 

「……!?」

 

 

しかし、振り向いて撃ったと同時に再び身体に衝撃が走ったことで驚愕させられる。

 

 

「!?……!?……!?!?!?」

 

 

更に後ろを向くと走る衝撃。つまり、それの意味することはただ1つ。この男、ダメージを狙うことよりとにかく捕まらずにダメージを与え続ける一撃離脱へと戦法を変えたようだ。

 

確かにそれは賢いやり方だ。一撃が重いが故ノットには有効と言える手段だろう。

 

 

「鬱陶しい!」

 

 

だがそれもノットが周りを攻撃することをしなければの話である。常に後ろを取るように相手が動くのならそこもカバーすれば良いだけなのだから。

 

 

「うおっ!?」

 

 

突然自身を中心に緑弾を辺りに適当に撃ち放つことで永時は回避せざるを得ない状態へと持ち越される。

 

 

「……フハハハ!」

「チッ……」

 

 

回避に専念する永時の前方に緑弾をばら撒きながら突進してくる男を捉え、思わず舌打ち。避けたい所だがばら撒いている本人が近いため寧ろ飛んでくる数が増えて難しいと踏んでいた。

 

ならばと緊急回避として瞬間移動で少し距離を取ればいい。そして適当に弾幕を張って挑発し、怒らせて動きを単調にさせたらいいだけのことなのだから。

 

 

「……フン」

「……!?」

 

 

それは奴が瞬間移動先に現れたことで崩れる。確かに今の状況ではそうなると予測されていたのだろう。しかし数メートル先の物陰に出たつもりの者をどうして見つけられようか。

 

恐らくは直感と感覚で探し当てたのだろうが、外すことなく真っ直ぐここに来るとは、この男の執念(しつこさ)としか言い表しようのない事実であった。

 

 

「クソっ……!」

 

 

だが感心している場合ではない。今も緑弾をばら撒きながら体当たりをして来る男が目前へと迫ってきている。瞬間移動しようにも間に合いそうになかった。

 

 

「ええい、クソッタレ!」

 

 

だから永時は賭けに出た。

 

 

(目が覚めているなら、力を貸しやがれ……ルシファー!)

 

 

永時は心の内でそう強く叫ぶ。するとそれに呼応するかのように見覚えのある白黒の盾が重なって壁として永時の前に積み重なった。

 

 

「何ぃ?」

 

 

この状況を打破するには避けることより、塞ぐことが重要になると踏んのだ。では運良く耐えるか?いや、ならば賭けに出てやろう。どの道喰らうのならそっちの方が幾分マシである。

 

本来この魔王の武具の召喚は持ち主である本人の意識がある状態でなければ使用できないという点があるが、使えた所を見ればそんなことは些細なことであろう。

 

 

「チィッ!」

 

 

大きく舌打ちし、拳に力を込めて殴る。一撃でダメなら更にもう一撃。もう一撃と拳のラッシュが始まった。

 

 

「ぐっ……」

 

 

どうすればこの状況を打破出来るか、いや……あるにはある。とっておきと言っていいものが永時はまだ残っていた。しかしその手は向こうは一応知っており、かなり部の悪い賭けであった。

 

 

(だが……こいつ相手に出し惜しみはしない方がいいだろうな)

 

 

ああ、分かっている。そんなことは分かっているのだ。ただ、これは運が良ければ恐らく勝てると踏んでいる。

 

例え姐さんが悲しむ結果となろうと、自分は勝たなくてはならないのだ。

 

 

(それでいい……罪を被る(悪になる)のは俺だけでいい)

 

 

彼女が情愛を抱く男を今から殺す。こんな自分を仲間と呼んでくれたお姫様を絶望へと落とすようなことを俺はする。

 

影に手を沈ませ、更に得物を取り出す。自身の胴程、赤錆色の1本の剣であった。だが一眼見ればその形は少し違うものと理解し出来る。

 

具体的に挙げるとすれば刀身。その中央部は細長い筒状となっており、その上下には刃がそれぞれ地と天へと向いている。更には柄の部分には引き金らしきものが取り付けられている。

切っ先や刃そのものは一部として残っており、まるで太刀の刀身部分に筒状のものを詰め込んだもの……まるで銃剣のようだと例えた方が分かりやすいかもしれない。

 

 

「でりゃあっ!」

 

 

新たな得物を取り出した直後、ノットの拳が遂に盾を砕く。そのまま勢いは止まらず、永時の顔面へと入った。

 

 

「終わりだ!」

 

 

吹き飛ばされて瓦礫の山へ頭から入った永時。普通ならここで一旦様子見するが、今のノットは警戒心というものを持っていた。それ故間髪入れずに緑弾を撃ち込むのは当然のことといえよう。

 

だが、それは飛来した黒い瘴気に包まれた弾丸によって弾かれる。

 

 

「……まだ生きていたか」

 

 

瓦礫の山を見やれば、そこにはさっき使っていた刀を杖代わりにして立ち上がる永時の姿。しかし彼を纏う鎧は消えており、その代わりに周囲は黒い炎に包まれて……いや、それ自体彼自身から漏れ出ているものであった。

変化はそれだけではない。切断されていたのか、右肩の関節部より先にあるはずの腕、それらしいものは見当たらず代わりに漆黒の黒い異形の手が刀を掴んでいた。大きさは普通の人のそれだが、指先に生えた鋭利な爪が鉤爪のように形をなしていた。

 

 

「ああそうだ……」

 

 

彼は何か思い出したのか、1本の注射器を取り出すと自身の首元へ打ち込んだ。

 

 

「っ……別に勝たなくてもいいんだよ……相打ちなり何なり、要はお前を殺せばいいんだからな」

「それがどうした?逆に血祭りに上げてやる……」

 

 

ーーー来いよ自称悪魔。堕ちるとこまで叩き落としてやるよ。

 

 

深淵の如き底見えぬ黒い瞳。その両目の奥には業火の如き悪意が揺らいでいた。

 

 

 

 

 

 

ーーーさあ、悪に堕ちろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





補足事項



『弾罪刀・嵐雨』

ランクA

とある気分屋が気分で作った銃剣。とある悪の断罪者に相応しいものという考えの元に作り上げた作品の1つ。

魔力を流すことで切れ味は増す。銃弾は『闇の活性』の篭った魔力弾を使用。魔力が尽きぬ限り使用できる。更に1発に込める魔力を増やすことで威力が増す。
色は赤……なのだろうが錆びが酷くほぼ赤錆色となっており、そのことよりかなり酷使してきたのか使い込んできたのどちらかということが窺える。いや、僅かに血臭がする為、もしかしたら血によって錆びたのかもしれないが。

これ自体性能はここまでのようだが、あることをすれば……?




『朧月』

ランクA

かつて愛した女の遺品の1つである刀。元々装飾用のものであったが、幾多もの人や人外を殺め続けた結果、その刃は血や油、闇に染まった。しかしその凶刃は欠ける所か寧ろ、鋭くなるばかりでかなり手に馴染むものとなっている。

油と闇により黒き炎を纏う。『闇の活性』の元となったそれは常人ならば闇に侵されてしまうはずだが悪の加護によるものなのか持ち主は闇に染まることはなくそれ故苦悩し続けた。一層染まってしまえば楽になると理解しながらも彼は刃を振るい続けた。その姿は見えない罪を被る罪人のようであり、所詮は彼も自称悪党ということの表れなのかもしれない。

貪欲な闇は刃へと宿り、闇や生命を喰らい続ける。特に人ならざる者には容赦なく貪ろうとするだろう。























ふと浮かんだ前回の蛇足的なおまけ小話(台本式)


〜令呪〜

セイバー「1つ思ったのですが……契約するのは構いません。ですが令呪はどうされたのですか?確か失くされたのでは?」

永時「教会跡らしき所からパクってきた」

セイバー「……」




〜融合〜

バット「こ、こうか?」

オメガ「違う違う、もっと指を真っ直ぐにピシッと!」

バット「こ、こうかよ?」

オメガ「もっと背筋を真っ直ぐに!恥ずかしがらないで!」

バット「お、おう……(俺一体何してんだろ?)」

オメガ「ちがぁぁぁぁうっ!もっとない胸を張って!」

バット「プツン」

オメガ「あっ……」

バット「……野郎ぶっ殺してやるぁぁぁァァァァァァァァァァ!!」








……ってなことがあったとかなかったとか?





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人外惨禍




どうも皆様、遠藤でございます。

昨日に引き続きの投稿です。


本来なら前回でノット戦を終わらせよう……などと、その気になっていた私の姿はお笑いだったぜw

だが、今話で終わらせること、つまりはノットを終わらせれば私の心配の要素は最早おらん!

これで安心して最終回へと歩を進めていける……というわけだぁ!





ゑ?お前の心境などどうでも良い?……では、本編でも如何かな?



ちなみにタイトル名は『人外惨禍(じんがいさんか)』です。





 

 

ーーー男は見続けた。愛する彼女の最後を見る為に。

 

 

ーーー男は考え続けた。何故彼女ばかりこのような目に合わねばならないのか。

 

 

ーーー男は悩み続けた。平和を望んだ彼女との約束を守るべきなのか否か。

 

 

ーーー男は苦しみ続けた。深い悲しみと共にやって来る本能に抗う。

 

 

ーーー男は最後は暴れ続けた。考えることをやめた為だ。

 

 

ーーー否、もしかすれば。ただ単に誤魔化す為なのかもしれない。

 

 

ーーー愛する者の死を、深い悲しみを、誤魔化す為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フハハハハ!」

「クカカカカカッ!」

 

 

夜の冬木の街に2人の男の高笑いが響く。金属のぶつかる音、骨が軋み、砕ける音、血が噴き出す音を鳴らしながら、文字通り命を削ってぶつかり合っていた。しかし、金属音以外の音源は全て永時から鳴っていると補足が入るが。

 

 

「カカロットォォォォォォォォ!!」

「ぐおっ……!」

 

 

ノットの拳が胸部へと突き刺さる。骨が砕ける音が聞こえ、その後手が緑色に光ると爆発。そのまま永時を吹き飛ばした。

 

 

「カカカ……クカカカカカッ!」

 

 

しかし、永時は寧ろ悪どい笑みを浮かべ、すぐ立ち上がるとその場から飛び出していく。

 

緑弾を両手に持ってひたすら投擲するノット。永時はそれを新たな得物を含めた2本を振るい、時には銃剣から弾丸を撃つことで弾き飛ばして接近していく。

 

 

「死ぬがいい!」

「お前がなっ!」

 

 

ぶつかる拳と刀。緑と黒が凌ぎあっていた。

 

これにはノットは驚いた。いくら何でもあの3人の中で最も弱かった男が自分の拳と凌ぎ合う。その事実に目を見開く。

 

 

「チッ」

「!?」

 

 

凌ぎ合う途中に空いた片手にある銃剣を向け、発泡。黒い瘴気に包まれた弾丸は頬を掠める程度で終わり、刀を引き離して後ろへ跳ぶことで距離を取る。

 

 

「っ!」

 

 

しかし、頬に生温かい感触にノットは驚いた。そっと触って手を見れば赤い液体。

 

血だ……誰の?勿論自分の血であろう。だが、何故今になって傷がついた?

 

ノットは潰そうと躍起になる本能を一時的に抑えて敵を観察する。何が変わって、何をどう作用しているのか。それだけはしなくては前のような無様な結果にはなりたくないからだ。

 

 

「……っ!貴様!」

 

 

だがそこで気づいた。紫電を纏うことで身体の傷は治癒し、同じく紫電を照らす刀、そして銃剣にも先程より強い禍々しい黒い炎を強く揺らめかせ、理性で何とかしているようだが、その目はギラギラと獰猛な獣の如く血走っていた。

 

そこで彼は思い出す。確かこいつには自分のような規格外を傷つけることが可能な手段を持ち合わせていたではないか?確かそれは……

 

 

「『闇の活性』……!」

「ご名答、お前にしてはよく覚えていたな。まあ……前より単純に出力上げてるだけだからバレるのも仕方ない」

 

 

なるほど、なら魔力源は?と疑問を抱くがすぐそれも何となく理解する。

先程からずっと気になっていたのだが、彼を中心に黒い粒子のようなものが様々な方角から集っており、恐らくそれによるものだろうと推測していた。

 

名前こそ出なかったが当たってはいる。『罪被りし偽善遣い(ギルティーズ・ヒポクリエイト)』で辺りから無差別に吸引して魔力を稼ぎ、それを自身の強化や『闇の活性』の出力上げに回しているだけである。しかしそれはあまり時間を掛けられない戦い方、まさに短期決戦で決める気なのだと理解させられる。文字通り命を削っているのだから。

 

 

「死に損ないが……!どうやら相当死にたいようだな!」

「そうかもな……だが、ただ1人で行くのは寂しいものでな。仲良く逝こうじゃねえか」

「断る!」

 

 

そこから一気に踏み込み、永時の腹部を強く蹴る。それにより永時は吹き飛ぶがノットはそこから飛翔。素早く回り込んで頭上から足を振り下ろす。

 

 

「……っ」

「!?」

 

 

だが、見覚えのある盾の出現によって止められる。一瞬止まったノットに永時は今までにない速さで身体を捻って空へと向き、3発発砲した。

 

 

「ぬうう……!?」

 

 

咄嗟に腕を盾にすることで銃弾を防ぐ。弾丸は自身の想定より速い速度で自身へと到達し、腕に丸い焦げ目を3つ作り上げ、ノットは顔を歪ませる。

 

 

「……チッ」

 

 

今度は弾丸が速くなった。何故だと再び疑問を抱くも盾の存在を思い出して思わず舌打ちした。

 

盾……確かあれはルシファーの持ち物の1つであり、能力は加速だったような気がする。つまりは自身やその他の物体の動きを速くするだったか。それに、あれを出している間に使えるということも、使うと体力も使うということも理解していた。

 

 

「貴様……どうやら死ぬつもりかぁ?」

「だから言ったろ?そうかもなってな」

 

 

ノットはそこから一気に加速して盾の後ろへ回り込んで蹴りを入れる。だが永時は更にそこから電撃を纏うことで筋肉を刺激させて機動力を上げさせることで寸の所で回避した。

 

ならばノットは拳を振るい、蹴りを放つを繰り返して攻撃を繋いでいく。

 

それを避けている永時は同時に少しばかり思考していた。

 

 

(……あれだけどんちゃん騒ぎを起こしているというのに、誰も来ないとは……誰か裏で糸を引いている?)

 

 

そう、気になっていたのは先程から誰も来ず、増してや援軍すら来ない状態。明らかに可笑しいのは気づいていた。

とはいえ自身は目の前の男の対処で手一杯。現実としてはどうにもならない状況であった。

 

 

(援軍は期待しない方が良さそうだn……かはっ!?)

 

 

そう結論付けた直後、永時の腹部に蹴りが入って思わず膝をつくもすぐに立ち上がった。

 

これだけ見れば流石のノットも気づく、奴は死ぬ気で自分を潰す気でいるのだと。

 

 

「いいだろう……ならお前を血祭りに上げてやろう」

 

 

ならばやるべきことは1つ。自分もそれ相応の力で血祭りに上げ、捩じ伏せてやるまでのことである。

 

 

「さあ来い!ここがお前の死に場所だぁっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、別の場では……

 

 

「どけぇっ!」

 

 

ルシファーの叫びと共に振るわれる棘鉄球……星球武器(モーニングスター)が黒い人影を貫き、上半身を吹き飛ばす。

 

 

「一体何なのですかこれは!?ルシファー、貴女の仕業じゃありませんよね!?」

 

 

艶めかしい身体を黄金の軽鎧で身を包んだマモンはそう文句を垂れながら黄金の矢を射って人影の頭を撃ち抜く。

 

 

「ええい、知るか!というより強欲よ!無駄口叩く暇があるならばさっさと奴らを始末しろ!」

「分かっております……わっ!」

 

 

キャスター討伐の時のように口喧嘩はしているものの、2人ともそれぞれ人影を確実に潰している辺り、やることはちゃんとしているようだ。

 

 

「うむ……やはりこやつら」

「ええ……明らかにわたくし達を動かさないおつもりのようですわね」

 

 

さて、何故この2人が共戦しているのか。それは2人が目覚めた時に遡る。

 

 

まず目覚めたのはマモンの方であった。辺りを見ればあの悪魔の姿はなく、周りにはルシファーただ1人。

 

これはしめたと思うマモン。今ここでルシファーより先に永時の所へと颯爽と駆けつければ好感度が上がるのではないかと浅ましい考えが浮かんだようだ。

 

ならば早速と折れた手足を黄金で代用し、歩を進めようとした直後。突如自分の目の前から黒い人影が現れ、自分を襲ってきたのである。

 

最初は3体ほどだったので1人で対処し、潰した。だが潰したと思えば復活。更に増援として10体以上どんどん増え始めたのである。これはマズいと慌てたマモンは止むを得ずルシファーは蹴り起こし、現在に至るのである。

 

 

「と、いうより貴様!さっさといつもの人形使って殲滅すれば良かろう!?」

「あれは疲れるのですが……なり振り構ってはいられませんわね……!黄金巨兵(アウルム・ペルグランデ)!」

 

 

適当な銀行跡地を見つけ、そこにある金を拝借してノットの時に使用した黄金の巨兵を3体程を一瞬で作り上げる。

 

 

「さあ、貴方たち!わたくしを妨げるゴミを掃除しなさい!」

 

 

マモンの命令(主人のオーダー)に巨兵は敬礼をし、各々が人影へと突っ込んでいった。

 

乱戦状態となった戦場を確認すると更に増援を呼ぼうと考えたマモンはルシファーに思い出したかように提案する。

 

 

「あっ……というよりルシファー。確か貴女部下を連れてらしているのではなくて?」

「知るかあんな阿呆!さっき呼び出したが『桜さんが寝てくれないとマイティアさんから連絡来ましたのでちょっと寝かしつけて来ます』と言うのだぞ!」

「あらら……」

 

 

完全に見捨てられたルシファーに流石に御愁傷様としか言えなかった。

 

 

「ええい、妾を哀れむでない!そんなことより貴様もさっさと部下を呼ばんか!」

「いえね、あの人達は多分店の経営で忙しいかと……まあ仕方ないですわね」

 

 

緊急事態とも言えましょう。とマモンは地面に液体状にした金を垂らす。するとそれは黄金の魔法陣を形成し、金色に輝き出した。

 

 

「まあ妾が露払いをせねばならんよな……」

 

 

それを見やりながら邪魔させてはならないと人影に武器を振るい、露払いを行う。一方マモンはこっそり懐からサングラスを取り出して自身に掛けていた。

 

そして黄金の輝きが最高潮に達した時、巨大な宝石(ダイヤモンド)が轟音と共に落ちてきた。

 

 

「ダイヤ、じゃな。ということはまさか……」

 

 

嫌そうに見やると突然ダイヤモンドが震え出し、形を変化させ始めた。細長い棒状のものが4つ飛び出し、無骨な形は圧縮されて人型へと整っていく。

 

 

『……只今馳せ参じました』

 

 

そして顔らしきものが出来上がり、低い男の声が出ると同時。人型は膝をつく。するとカメラのフラッシュのように眩い光が放たれた。

 

 

「やはりかーーーって、眩しっ……!」

「御機嫌よう。その話し方は……ディアさんですわね?」

 

 

事前にサングラスを掛けていたので事なきを得たマモンだがもろに受けてしまったルシファーは目潰しされた。

 

悶えるルシファーは置いておいてマモンはディアと呼ばれる人物の額。そこに浮き出ているひし形……(ダイヤ)の形を見てそう呼んだ。

 

 

『……ダイヤモンド・ディアマンテ。お嬢様のお呼び出しに応え、こちらに伺った次第です……して、如何なるご命令ですか?』

「他の方は来られないのですか?」

『いえ……彼らは警備、接客、運営で回っております。更にシルバート様は採掘に夢中故悪しからず』

「そうですか……」

 

 

まあ仕事で忙しいのは仕方ないだろう。しかし、一応主人のピンチなので出来れば全員来て欲しかったと彼女は内心そう嘆いていた。

 

 

「……まあ、仕方ありませんね。貴方がいれば防御面は何とかなるでしょう……」

『了解致しました』

「……そうそう、ディアさん」

 

 

膝をついたまま自身の主人へと目を向ける。しかし思わずその目を逸らしたくなった。

 

彼女から放たれた圧倒的な威圧と共に、強烈な殺気と重圧が彼を襲ったからだ。彼女の魔王としての顔が一瞬見えた瞬間であった。

 

 

『っ……い、如何なさいましたか?』

「今のわたくしは機嫌が悪いのです……ディアさん。『今すぐ仕事を放棄。今すぐわたくしの元へ集え』と皆に伝えなさい」

『ですが……』

「……何か?それとも、わたくしの命令(オーダー)が聞けませんか?」

『了解しました……今の会話を記録しました。すぐお送りします』

「それで良いのです」

 

 

そうこうしている内に巨兵とルシファーが撃ち漏らした人影がこちらに迫って来ているではないか。

 

 

「ディアさん、わたくしの壁になりなさい。わたくしは後方から狙撃致します」

『はい。このダイヤモンド・ディアマンテ……お嬢様の盾となり、剣となることを保証いたしましょう』

「ええ、期待してますわよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でも良いが来たならさっさと手伝え貴様ら!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カカロットォォォォォォォォッ!」

 

 

ノットの拳が永時の背中へと突き刺さり、骨を砕いていく。

 

あれから数分経つも永時が有利になることは1度もなく、ただただノットの攻撃を捌き……いや、殆ど堪えるに等しい状況であった。

 

 

「な、何故だ……!?」

 

 

しかし、明らかな優勢だというのにノットの顔は焦燥と疑念しかなかった。

 

緑弾をぶつけた、蹴りで顔面の骨を砕いた、踏み潰した、ギガンティックブローで吹き飛ばした、手刀で内臓ごと貫いた、適当な岩盤に叩きつけた、車に突っ込んだのでそのまま車ごと握り潰して地面に叩きつけた。

 

 

「何故くたばらん!?」

 

 

なのに、なのにだ。それでも何故この男は立ち上がってくるのだ!?

 

いや、別に簡単にくたばらないのは分かっていたのだ。それは昔に体験済みだった為理解していた。だが、とある病によって今この時でも弱体化する身体だというのに、いつも並のタフさを見せられる。

その姿はノットには君悪く見え、同時に倒れないことへの怒りを抱いていた。

 

そんなノットを見かねてか、永時は血祭りに上げられた状態だというのに立ち上がる。そして、未だ尽きぬ闘志の持つ目で見やるとこう述べた。

 

 

「そんなのお前と一緒だ……ただ単に執念深いだけ、それだけだろう?あと気合と根性」

 

 

あっけらんとした表情でそう答える永時に流石のノットも怒りが胡散。呆然とした表情を思わず見せてしまう。

 

しかし、それが戻るのもほんの少しだけだった。

 

 

「ああ、悪い……あまりに隙だらけだったものでな」

 

 

咄嗟に腕を振るうことでそれは防げた。突然会話中に弾丸を頭に撃ち込んできたのだ。

確かに敵と会話する途中に攻撃するのは理にかなっている。義姉も同じことをやっていたので案外似た者姉弟なのかもしれない。

 

だがそれはノットの怒りを呼び戻すのには充分であった。

 

 

「カカロットォ……!」

 

 

ああ、そうだ……こいつはそういう男だ。ならば俺がするべきことは昔から変わらない。

 

圧倒的な力で捩じ伏せ、力尽くで奴の策を、生命力を攻略する。実に単純だが実に彼らしいやり方であった。

 

 

「そう来るか……ならっ!」

 

 

だが先手を打ったのは永時の方であった。自身の前へ再び盾を複数展開。それを壁にして、ルシファーのように光線を撃たせながら突進し始めた。

 

 

「でやっ!」

 

 

光線を物ともせず正面から突進し、そのままの勢いで緑弾を握りしめて正面から叩きつける。

 

 

「ぐうっ……!」

 

 

それを盾で防ぐ。幸いヒビは入るも砕ける寸前の所で持ち堪え、盾の隙間から銃口を向けて引き金を引いた。

 

 

「……!」

「……フッ」

 

 

しかし軽やかな動きで横にズレて紙一重で躱す。驚く永時を他所にすかさず加速、そのまま後ろへ回り込んで永時の背を蹴り飛ばした。

 

 

「があっ……!」

 

 

転がりながらも永時は受け身を取って立ち上がり、その姿を消した。

 

 

「……っ!?」

 

 

その直後、弾丸が自身へと迫ってきた。周囲、360度から張り巡らされたと補足されるが。

 

なるほど、瞬間移動(テレポート)した後に加速して撃ち込んだのだろう。それならこうなるのも理解できる。無理にバリアを貼れば格好の獲物なのだろう。

 

ならばどうすべきか。そう、吹き飛ばせば良いのだ。

 

 

「でりゃあっ!」

 

 

やったことは単純。緑弾を作り上げ、それを地面に叩きつけるだけ。それだけのことで辺りは吹き飛び、弾丸は消滅し、舞い上がる砂塵だけが残った。

 

 

「っ……!」

 

 

しかし砂塵を割いて自身の顔面大の弾丸が迫り、ノットの左肩を抉り取った。

 

 

「ぐうぅ……!」

 

 

幸い浅かったようだが、垂れ流れる赤い血液が更にノットの怒りを加速させる。

 

しくじると分かっていたのか、次弾を撃ち放ってきた永時。それを気を纏わせた手刀で弾き飛ばし接近、その気を球体にして永時の横を通り過ぎる……と見せかけて腹部に緑弾を押し付け、そのまま押し出すと爆発した。

 

 

「がぁぁっ!?」

 

 

またもや吹き飛ぶ。しかし、すぐに立ち上がって銃口をこちらに向けて発泡してきた。

 

 

「チッ……」

 

 

余りのしつこさに思わず舌打ちしながら気を纏った手刀で叩き落とす。すると永時は刃物2本で切り掛かってきたので拳の連打をぶつける。

 

 

「フハハハハハッ!!」

「ッーーー!!」

 

 

 

高笑いで殴打を続け、必死の顔で盾や異形の腕を上手く扱って捌いていく永時。だがそれと同時にある考えがノットの頭にはあった。

 

 

(……しつこい奴だ。このまま続けた所とて無駄なのだが、前のような事がある……)

 

 

永時の余りのしぶとさに面倒になったノット。早くしなくては前のように形成逆転されると面倒になったからだ。

 

 

「だあっ!」

「うぐっ……!?」

 

 

殴る速度を少し上げて永時が対応出来なくなった所で殴り飛ばし、吹き飛ぶ合間に上空へと移動する。しかしまだ永時は諦めずに盾を展開して立ち上がっているではないか。

 

 

「無駄なことを……今、楽にしてやる!」

 

 

そう言った途端、世界は緑一色に染まった。

 

 

「これは……!?」

 

 

永時がマズいと思った所でもう遅い。やがて緑は引いていき世界に色が戻る。だが緑は禍々しい殺気と共にノットの左手へと収束される。

 

 

「……フンッ!」

 

 

やがて手のひらに収まる程小さくなったそれを、立ち上がったばかりの永時、正確には少し横へズラして放り投げた。

 

 

「チッ……っ!?」

 

 

あれは確かノットが誇る必殺の一撃、ギガンティックミーティア。今は小さいがなにかしらの衝撃で膨大する厄介な攻撃だったはずだ。ならば回避するまでだと瞬間移動(テレポート)しようとしたがそれは後ろを見てしまったことで中断される。

 

永時の後方……そこは彼の住処も含めた、町の一角があったからだ。

 

 

「テメェ、考えやがったな!?」

 

 

思わずそう悪態付いた永時。先に言っておくが永時は正義の味方とかそんなのではない。永時ならきっと『面倒だからやりたかねぇよ』と述べることだろう。それ故、別に見知らぬ赤の他人が死のうが関係はない。だが、その範囲が知り合いや娘が巻き込まれるとなると話は別だ。

 

昔、彼が終焉を名乗る人物と本気で殺しあった際の被害は凄まじく、辺りの国を3つ程壊滅させていた程、その内1つは今の一撃によるものでそれを永時はこの目で見ていたのだ。範囲が予測出来ない以上それだけは避けたかったことだった。

 

要するにこれは永時を確実に逃さず、殺すためにわざとこの方向へも放ったものだと容易に推測できた。

 

 

「クソッタレがっ!」

 

 

ならばどうすべきか、奴の策に乗るのは癪だが真正面から受け止め、どうにかするしかないようだ。

 

とはいえ、永時の顔にまだ諦めが見えない以上、そこまで焦っている訳ではないようだ。

 

 

「ぐっ……予想より早いが、まあいい」

 

 

迫る緑弾に立ちはだかるように位置し、異形の手が持つ刀を銃剣へと突き刺した。

 

すると刀は黒い粒子となって銃剣へと進んで消えていく。刀が完全に消えた時には突き刺したというのに銃剣には傷1つもついていない。

 

 

「……!させるかっ!」

 

 

ノットにとってそれは見覚えのあった光景であり、緑弾を1つ先へと飛ぶ緑弾へと撃ち出した。緑弾同士が当たると同時、互いに1つとなったそれは2人の視界が緑一色になる程に肥大化した。

 

 

「いや、間に合わせるさ。無理矢理でもな……加速せよ」

 

 

盾を2つ出して飛来する瓦礫を払いながら加速していく。

 

一体何を?……そんなのは決まっている、動く必要も修復させる必要もない。必要なのは決め手となるものを放つまでの時間(チャージ)だ。

 

 

「……時間だ」

《いいだろう……》

 

 

ここで、今まで黙り込んでいたダークが声を出す。すると赤錆色の銃剣に変化が起こった。

 

刃を含む銃身が黒い瘴気と共にひとりでに震えだしたのだ。見れば銃口からそれは漏れ出し、ただでさえ血を連想させられそうな色合いを持つというのに黒い瘴気の所為で更に禍々しいさまで醸し出していた。

 

 

《いつも通り演算はしてやろう……外すなよ?》

「ああ……」

 

 

震える銃剣を右手で抑え、迫ってきた巨大な緑弾へと銃口を向ける。

 

 

「……なあ」

《なんだ?》

「今こいつを撃てば……流石に死ぬか?」

《さあな……》

「そうか……」

 

 

語り終え、緑弾と向き合う永時。しかしその顔は少し暗みがあるがどこか達観した様子であった。

 

 

《どの道貴様のことだ……しぶとく生き残っていることだろう》

 

 

だからいつも通り躊躇いなく引くが良い。そう言われ永時は引き金に指を掛ける。

 

 

「我を縛るは封印の鎖。開放されしは貪食の悪意。我は深淵にて闇を焚べ、滅びの時を待つ者なり……見事超えてみせよ我が悪意(試練)を……」

「さあ、蝕除(しょくじ)の時間だ……悪に堕ちろ!『人外惨禍・自称悪道(エゴイズム)!!』」

 

 

詠唱と共に引き金を引き、膨大なドス黒い瘴気が前方に解き放たれた。

 

 

「っ……!?」

 

 

解き放たれた瘴気が帯状へと形を成し、緑弾へとぶつかる。流石のノットもそれに気づいたようだ。

 

 

「無駄だっ!雑魚がいくらパワーを上げたとて、この俺を越えることは出来ぬっ!!」

 

 

ならばと後ろから緑弾を複数撃ち込み出す。すると巨大なそれに当たると同時勢いが増したではないか。

 

 

「はぁ、はぁ……クソがっ!舐めるなよ……!」

 

 

だが侮る事なかれ。

 

自称悪が撃ち放ったのは悪意。刀……『朧月』に宿った闇の奔流。

 

『闇の活性』の元となった貪欲な闇はあらゆるものへと宿り、闇や生命を好んで貪る。特に双方が強い、人ならざる者なら尚の事。人外が惨禍に呑まれると評するに相応しいものだ。

 

 

 

仮に彼がサーヴァントならこう表記されるだろう……『対人外宝具』と。

 

 

 

 

「……?」

 

 

それは突然だった。いや、必然だったのかもしれない。

 

勢いが増し、押していた感覚に突然違和感が生じたのだ。何事かと思いきや、何かが割れる音がした。

 

 

「っ!?」

 

 

その音が緑弾の砕けた音と気づいた時にはもう遅い。貪欲な闇は緑弾を喰らい、それにより徐々に勢いは増していき、更なる獲物を求めてノットへと迫る。

 

 

「くっ……カカロットォッ!」

 

 

だがまだ負けてはいないと緑弾を数発、迫り来る闇へと放つ。

 

しかし貪欲な闇は緑弾すらも喰らい、止まることなくノットへと迫り続けた。

 

 

「何だと!?」

 

 

流石のノットもこれはマズいと思った……訳はなかった。

 

 

「馬鹿が……その程度でこの俺が死ぬと思っていたのか!?」

 

 

焦ったのは一瞬。しかし、そうなることはノットには想定内だった。

 

やったことは単純。迫ると同時に変身を解いて再びあれを使っただけだ。自身の名前でもある宝具の1つを。

 

 

「なっ……!?」

「『普通求めし異常者(ノット・バット・ノーマル)』!!俺は普通の人間である!」

 

 

発動と同時に闇は迫る。だが普通の人間だと自身へ干渉。強制的に認識(刷り込み)させられた闇は普通の人間である彼に興味を失くし、彼を通り過ぎて夜空へと消えていく。

 

確かに、人ならざる者に対しては有効。ならば化け物であるノットにはよく効くのは分かりきったこと。

だが相手を理解しているのは向こう(ノット)も同じ。細かい効果は忘れたが自分にとって脅威となることは覚えている。それだけでも充分であったが、あろうことか対策すら取っていた。

 

異常がダメなら普通になればいい。賭けに近いそれだがどうやら成功したようだ。

 

 

「クックックッ……ハァーハッハッハッハッ!」

 

 

通り過ぎていく闇の中、偶に喰らってくる闇を気にしない程、己の感情が高ぶって笑い声を上げる。向こうは撃つことで夢中、しかも瀕死に近い状態で無理している為にほぼ動くことは出来ていない。

 

ならば後は止めを刺すだけだ。片手に緑弾を作る準備だけをしておき、時を待つ。

 

狙うのは奴が撃ち終えた時、そうすれば奴は魔力を使い切ったことで動くことすらままならない。そこに今出せる全力の力で存在ごと消し去ればいいだけのこと。このまま撃つことも可能だが、それで闇に過剰に反応されると面倒なので保険も兼ねてあるのだ。

 

 

「よく頑張ったがとうとう終わりの時が来たようだな……!」

 

 

我ながら完璧だと思って数秒、すっかり勢いが衰えてきた奔流を見て思わず笑みが浮かぶ。

 

 

「ぐっ……!クソがっ!」

 

 

緩んだ奔流をもう一度撃ち直そうと『罪被りし偽善遣い(ギルティーズ・ヒポクリエイト)』を使用して魔力を貯めようとするも、魔力と体力の消耗により身体が動かず、その場で膝をついて倒れぬように踏ん張るのがやっとの状態だった。

 

 

「さあ、止めを刺してやろう!」

 

 

勢いが止まると同時、ノットは左手に今出来るありったけの力を緑弾へと集中させる。変身前程威力はない。だが、目の前の死に損ないを跡形もなく消し去るには充分すぎるものであった。

 

 

「死ぬがいい!」

 

 

左手に持った緑弾。イレイザーキャノンを目の前の死に損ないに向けて投げ放つ。

 

動けない永時は悔しげに歯を食いしばり、迫るその時を眺めるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実とは非情であり、奇跡なんざ起きることなく緑弾は迫り、永時を光に包んで大爆発を引き起こし、爆発による轟音に混じってノットの高笑いが街の一角にて響き渡った。

 

 

「クハハハ……ハハハ……ハッハッハッハッハッハッ!!」

 

 

時間が掛かってしまったがここまで来れたことに悦に浸っている。それもそうだ。あれだけしぶとく立ち上がって来たのだ、やりごたえがあったかどうかは兎も角、充分やった感覚は得ていた。

 

 

「……どれ、一応死体は見ておくか」

 

 

だが彼は油断しない。昔それで原因で負けたことがあった為に少し思慮深くなっているのだ。流石に死体を見ないと完全に倒した気はならなかったので確認しようと下へと降りる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーはずだった。

 

 

「……っ!?」

 

 

空気が暴発するような音が聞こえ、後ろを振り向こうとするとグチャリと生々しい音が静かになった街に響き、反響して自分の耳へ届く。そして音と共に自身の身体が少しだけ前に押されるような感覚を覚えた。

 

どこからの音だ?そう思い首を下へと動かす。

 

 

「……あっ?」

 

 

するとどうだろうか?何と自身の胸部が真っ赤に染まった刀に後ろから貫かれているではないか。

 

 

「……なん、だと!?」

 

 

それを知った途端。胸部から激痛が走り出した。しかも遅れて呼吸が苦しくなり、口の端からは赤い何かが垂れ流れ出したではないか。

 

 

「……君の負けだよ。ノット」

 

 

焦燥と混乱に駆られるノットに後ろから声を掛けられる。その特徴的な語り方と中性的な声色は久しく聞いていなかったある人物のものであった。

 

 

「アスモ……デ、ウス………!?」

「そうだよノット……」

「何故、だ……?き、さま、が……俺が……きぬ……そんな速度……ない!」

 

 

呼吸が難しくなって来たのか、掠れた声でそういうノット。要約するならば『貴様が俺が気づかず反応出来ぬ程の速度が出せる訳がない』と言っている。

 

つまりは遅く接近すれば流石に気づくが、逆に気付かさず反応出来ない速度を出せるわけないだろと言いたいのだろう。

 

 

「あれ見ても?」

 

 

胸部へと刺さっている刀、正確には足から生えたそれが深く入っていく。暴れようとするもどうやら心臓部をやられたようで上手く身体が言うことを聞かず、仕方なくアスモの視線を辿る。

 

 

「『風王……鉄槌(ストライク……エア)』!」

 

 

そこには息を切らして剣の切っ先をこちらに向ける女……セイバーの姿がそこにはあった。

 

そこで彼は思い出す。確かその名はその剣から暴風の塊を排出することが可能なはず、ならばその風に乗って無理矢理飛んで来たのではないかと言う仮説が成り立ってしまった。

 

 

「何ぃっ!?な、なんて奴らだ……!」

「まあ何考えているか知らないけど……大体分かった感じかな?でも、お別れだよ……」

「ぬうっ……!?」

 

 

そう言って刀、正確には足から生えたそれを引き抜く。胸部へと刺さっていたものが抜けたことで支えとなったものが消え、重力に従って落ちていく。

 

 

「ばぁかぁなぁぁぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あああァァァァァァァァァァ!!」

 

 

力が抜けていくのを感じるも怒りと憎み、それらが混ざり合った叫びを冬木に響き渡らせながら、異常者は地へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熱戦とか撃戦とかにありそうな感動的なものではない、何とも泥臭い勝利であった。

 

 

 

 

 

 





補足事項



『人外惨禍・自称悪道』

エゴイズム

ランク?

対人外宝具

嵐雨と朧月、この2つを合体させて撃ち込む特殊銃。1度撃つにはそれなりの充填か魔力が必要。

真名解放で『闇の活性』のオリジナルとなる全てを喰らう闇の奔流を前方に撃ち放つ。貪欲な闇は人間ならざる者に過敏に反応し、喰らおうと勢いを増す。

つまり効果は対人外。人間をやめた者程威力が増すというまさに人外キラー。ただし人間である場合は威力はかなり落ちる。
最弱が最強へと勝つために相応しいものといえる。

例えどんなものが阻もうとも自称悪は突き進む。それこそ悪、自称悪故致し方なし。


















次回、遂に最終回。








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残りし者、消えし者




ご機嫌よう皆様。遠藤でございます。


遂に来た……!この小説を初めて約3年!

今ここに、読者の皆様を迎え、無事最終回という悲願は達成されました。




これも全て、読者の皆様の支えあったのこt……おや?どうされました主人公(終永時)殿?……長くなるからやめろ?さもなくばFGOやらのデータを消す?

……永時殿、お待ちください!明日まで、明日までお待ちください!せめて頼光ママンだけは引かせてください!

……え?ノット殿なら「出来ぬぅっ!」と言うだろうなですって?……くそぅ!











……で、ではごゆっくり。







 

 

 

突然だが結論を述べよう。

 

 

 

あの惨状があった後異常者(ビギナー)気分屋(アヴェンジャー)、自称悪は姿を眩まし、行方知れずとなっていた。

 

だが一応いた痕跡はあった。円蔵山内部、『龍洞』にて物理的に破壊されたと見られる大聖杯だったものととあるサーヴァントの魔力の残渣。

 

その少し前に崩壊した冬木の地にて所々見られた緑のエフェクト。

 

そして、とある男の拠点では最近録音されたとされるカセットテープが見つかった。

 

カセットテープの内容は残された者への謝罪と残すことへと後悔、一部だけ述べられた真実などが記録されてあり、事実どうなったか分からないとのこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

では、その残された者、そしてその後について語るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼツ!また間違えましたね!?」

「も、申し訳ないです……」

 

 

とある場のキッチンにて、銀髪メイドのマイティアの怒鳴り声が響き渡る。どうやら料理をしているようで怒られているゼツがどうやら量配分を間違えたようだ。

 

 

「おいおい、気をつけろよ」

「バット!貴女もです!」

「はぁ!?」

「油少々って言ってあるでしょ?」

「いや……だから少々入れたろ?」

「だからってどうして新品の油が三分の一も減っているのですか!?」

「いや、俺の感覚で少々とーーー「死にたいですか?」……ごめんなさい」

 

 

反論していたバットだが包丁を取り出し、鬼のような剣幕で睨まれたことで蛇に睨まれた蛙の如く萎縮してしまった。

 

 

「すまんな煩くしてもうて」

「いえ……構いません」

 

 

そんな喧騒が続くキッチンのすぐ近く、木製のテーブルに挟まれる形で2人の人物が向かい合うように座っていた。

 

1人はマイティアと同じ銀髪の女、マイティアの主人であるルシファー。そして、その向かいには赤い髪の少年が座っていた。

 

 

「それで?貴様は料理は出来る方なのか?」

「ある程度なら一応。養父が全く出来ない人だったので……」

「ほう……ん?」

 

 

カランコロンとドアベルが鳴り、入り口を見やる。すると紫髪の1人の少女が入ってきたのを見やり、ルシファーの顔に笑みが浮かぶ。

 

 

「よく帰ってきたな、桜よ」

「只今戻りました、姉様」

「うむ……今日はえらく早いのだな」

「ええ、予想より早く学校が終わっちゃって……」

「サクラよ、お主は男とデートでも行かんのか?」

「行きませよ……後、そんな人いません」

「なんじゃつまらん」

 

 

少女も少女でルシファーを見ると花のような笑顔が浮かび、会話を楽しそうにしていた。

 

 

「……なら、すまぬが厨房に入ってあの料理の出来ん馬鹿共に教えてやってくれんか?分からんことはマイティアに聞くが良い」

「分かりました……あれ?」

 

 

そこで少女はようやく少年の存在に気づく。ああそういや言い忘れていたなとルシファーはとりあえず紹介することにした。

 

 

「言い忘れておったわ……此奴は間桐桜。妾の妹みたいなものじゃ」

「えっと……間桐桜です。お名前は?」

「衛宮士郎です。よろしくお願いします!」

「此奴はこれからここで働く者じゃ、面倒を見てやってやれ」

 

 

すると少年、衛宮士郎は立ち上がり、桜とルシファーに礼をした。

 

 

「分かりました、よろしくお願いしますね?衛宮さん」

「よろしくお願いします、間桐さん」

「……うむ、なら早速入って貰おうか」

 

 

ほれ、とエプロンを2人に差し出す。2人はすぐ様着替えると桜に案内される形で厨房へと入っていく。

 

 

「衛宮、か……まあとにかく何であろうと歓迎してやろう……」

 

 

そんな様子をルシファーは眺め、そう1人独り言ちた。

 

 

「(サクラは元気にやっておるぞ……カリヤよ)」

「いや、勝手殺さないでくれよ……」

「なんじゃ?貴様、帰って来ておったのか?」

「まあね……一緒に連れてった慎二君のアレが酷くなってさ……」

 

 

『桜〜!愛しき我が義妹よ!僕は帰って来「兄さん」……ん?何だいマイシスターよ?』

「くたばってください♪」

『こばっ……!こ、これもまた……愛か……ガクッ』

 

 

桜を見るや否や突撃する前髪海藻類の少年。それを見事なボディーブローで沈める桜。衛宮は困惑しているが他の面子からすればいつも通りのことなので大して突っ込みもせずに作業を続けていた。

 

 

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 

 

しかし彼は事情を知らぬ他人、衛宮としては困惑するのも無理はないことだった。

 

 

「何、あれはいつものこと。放っておけば元に戻る……屍もどきよ、此奴に自己紹介してやれ」

「まだその名で呼ぶのかい?……まあいいや。名前は間桐雁夜、普段はルポライターをしているものさ。それでそこにいる彼は間桐慎二君。俺の甥で桜の兄だよ」

「まあ義理じゃがな……しかし、彼奴のアレ(シスコン)は如何にかならんのか?」

「それはマイティアさんに言ってくれ……元々あの人のせいなんだからさ」

 

 

ワカメが何か違う?そりゃそうである。実は聖杯戦争が終わった直後、雁夜の兄である間桐鶴野。彼が息子を連れて家に帰って来たのが始まりだった。

 

どうやらあの間桐臓硯が死んだと聞きつけ、息子を連れて資産を持って海外に飛んで行こうと考えていたようだがそうは問屋が卸さない。留守番をしていたマイティアによってあっさり捕縛、帰って来たルシファーが話を聞いた後ルシファーの元の方が安全と考え、土下座して息子を託された。

最初の頃は馴染めずヤンチャな息子をしていたが最近子育てにハマったマイティアによる教育、特に桜の愛らしさを教え込み(刷り込み)、気づけば今のシスコン野郎にランクアップしたという訳だ。

 

ちなみに余りに酷いので雁夜のルポライターの仕事を手伝わせるという名目上で家を追い出して落ち着かせようとしてみたが逆効果のようだ。

 

 

「大丈夫ですか慎二様」

『ま、マイティアさん……僕はもうダメだ……後は頼んだよ……』

「何言っているのですか慎二様!桜様の手料理を食べないで眠るおつもりですか!?」

『よし、頂こうじゃないか』

「流石は慎二様、貴方こそ私の良き理解者です」

 

 

 

「……もうマイティアがアレの時点でダメじゃろう」

「だよねぇ」

「とりあえず、先に食事にするとしよう。屍もどきよ、準備を手伝え」

「了解」

「そうじゃ、言い忘れておったわ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ我が店舗『Single Flower』へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女達は今、残った間桐の財産を使い、喫茶店を開き始め、新たなスタートを始めていた。

 

ちなみに間桐雁夜の方はルシファーに認められたと言うこともあり、特別にゼツの呪いで今後の運気ダウンを犠牲にある程度生きられるようになったようだ。まあ代わりに何もない所で転けたり、酷い時はマフィアの抗争に巻き込まれたりしているようだが……まあそれでも元気にはやっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方魔界へと戻ったマモンは政務などをこなす日々を続けていた。

 

 

「ディアさん、次はこちらの書類をお願い致しますわ」

『御意』

 

 

書類の束を1つ片付けて、部下に持って行かせるマモン。あの変態っぷりからは想像出来ない程真面目な顔付きに本性を知る者なら思わず苦笑いをしてしまうだろう。

 

 

「……フン」

 

 

現にここにはその者はいた。嫉妬の娘リヴァイアサンである。

 

 

「どうされましたかリヴァイアさん?仕事は終わったのですか?」

「いや……あんな姿を見た後だからな、今真面目に仕事をしている貴様に違和感を覚えただけだ」

『失礼だぞリヴァイアサン、少し言葉を選べ』

「構いませんわよ」

 

 

言葉遣いの悪さに流石のディアも一言述べるが、それはマモンによって止められることとなる。

 

 

『いえ、しかし……』

「私達は義理とは言え親子関係なのです。言葉遣いぐらいは気にしませんわ」

『お嬢様がそう仰るなら、私は何も言いません』

 

 

そう言って去ろうと部屋の扉へと手をかける。しかし、不意に何か思い出したのか主人へと振り返り口を開いた。

 

 

『そうでしたそうでした……お嬢様』

「あら?どうなさいました?」

『終永時……程かどうかは定かではありませんが、またカジノ荒らしらしき者が現れました』

「……ほう」

 

 

カジノ荒らしと聞くや否や目を光らせるマモン。自分は伝えることを伝えたのかディアはそのまま黙って退出していった。

 

 

「これは面白い……リヴァイアさん、行きますわよ」

「カジノも良いが仕事はキチンとすればどうだ?」

「いえ、カジノ荒らしの懐を寒くするのもわたくしの務め、これこそ強運に生まれた宿命ですわ」

 

 

そう言い張るマモンの姿をリヴァイアサンは見つめていた……呆れと侮蔑の篭った眼差しでとつくが。

 

 

「……と言いつつ、単にギャンブルしたいだけだろう?」

「あら?バレてましたか」

 

 

別に特に隠しもせずあっさりとバラすマモンにリヴァイアサンは更に呆れるばかり。

 

 

「ギャンブルはいいですわよ?負けそうになった時の劣等感と今にも射抜かんと見やる鋭い目つき。そこから勝利した時に見る相手の絶望の顔、そして達成感……ああ、たまりませんわ!」

「(マゾなのかサディストなのか、はっきりして欲しいものだ)」

 

 

言ってて楽しくなってきたのか、鼻歌混じりに出て行くマモンの背をリヴァイアサンは追いかけって行った。

 

 

(とはいえ期待しているのだろうな……昔ここを荒らしたとされる父がいるのではないかと)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからというもの、シーは血の繋がりでベルゼブブの所で世話になっており、比較的仲良くしている。

しかしリヴァイアサンは親が親で、何よりこの娘がレヴィアタンを一方的に嫌っている為、一時的な措置としてマモンが引き取ることにした。

 

最も、時々蟠り(わだかまり)を解こうとレヴィアタン本人が会いに来ているようだが、同族嫌悪と言うべきかやはり喧嘩の絶えない親子であり、保護者のマモンとしては賑やかでこれはまたいいと現状を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー!?」

「ーーー!!」

 

 

とある廃ビルにある地下。そこで2人の少女らしき声と稲妻が走る音が響き渡っていた。

 

 

「……アハハハハハハハ!!」

「ネルフェ様!落ち着いてください!」

 

 

高笑いを上げるネルフェを止めようとしているアリス。だがそれも仕方ないことだろう。

 

何故なら彼女は今、自分を中心に周囲へと稲妻を撒き散らし、研究所を所構わず破壊し回っているのだから。

 

 

「ぐっ……失礼します!」

 

 

流石にやり過ぎたと感じたのか、強行手段を用いることにした。手の関節が外れ、中から銃口が見え、針のような弾丸を放った。

 

 

「ッ!」

 

 

しかし、辛うじて当たる直前で回避されてしまった。

 

 

「ネルフェ様!」

「……うるさい!私に命令しないで!」

「言わなきゃならないことを今言わなきゃいつ言うのですか!?」

「じゃあ、なんで!なんでお父様は帰って来ないの!?」

「……っ!?」

「私がいい子じゃないから?それともお父様に何かあったの?……ねえ、教えてよ!ねえっ!!」

 

 

悲痛に歪めた顔で感情の赴くままに電撃を所構わず放つネルフェにアリスは何も言えなかった。

 

あの後ベルフェの2人で捜索して見たものの、反応などなく、死体すら見つかっていない為死んだか、生きているのか、どちらか分からず困り果てており、はっきりしない為に素直に答えることは出来ない状態であった。

 

 

「それはーーー」

「それは……?うっ!?」

 

 

困り果てて現状を報告しようと口を開くが、ネルフェが足から崩れたことで中断し、倒れるネルフェを抱き抱えようと動くが先にそれをする人物がいた。

 

 

「大丈夫ですかネルフェさん」

「ニルマル様……」

 

 

そこにいたのは手に麻酔銃を持ったニルマルがいた。しかし、その顔は状況を理解していたのか、少し哀愁のような雰囲気を漂わせていた。

 

 

「……えっ?」

「申し訳ありません。暫しの間お眠りください。起きられた時には、ちゃんと事を話させていただきます」

「やだ………おと、う……さま……行かない、で………」

 

 

ようやく効いたのか彼女は静かに眠る。意識を飛ぶ直前、愛しき父のことを呼ぶ声が、アリスには酷く耳に残ってしまった。

 

 

「ネルフェちゃん……」

「ベルフェ様、戻られましたか……」

 

 

眠ったと同時、珍しく起きていたベルフェが部屋にやって来ていたようだ。しかし、娘を見るその顔にいつもの笑みに力はなく、どこか哀愁を漂わせてもいた。

 

 

「辛いんだろうね」

「それはそうでしょう。成熟しているとは言え、まだ10代に到達していない身。この方はまだ子どもなのです」

「そう言うものなのですか?」

「そう言うものですよアリスさん」

「……そうだね。私達がしっかりしないとね」

 

 

ネルフェはまだ子どもなのだ。父親がいなくなったことで不安になっているのだろう。ならば私達大人が支えてあげないと、そう誓うベルフェであった。

 

その日以降、間延びした口調は変わらないが、日が昇った時は極力起きてネルフェと一緒に過ごすベルフェの姿が見られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終永時が消えた今、不安要素があるものの、ベルフェゴール親子もゆっくりと未来に向けて進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……!ここは?」

 

 

気がつけばあのカムランの丘……ではなく、見覚えのありすぎる白い平原にセイバーは立ち尽くしていた。

 

 

「ま、まさか……」

「ーーーThat’s right!……と、言うわけで『第3回這い寄れ〇〇〇さん!〜感動と涙の最終回〜』開幕でーす!」

 

 

やはりかとセイバーは呆れ半分諦め半分で自身を包むアニメのような煙を見つめていた。

 

 

「……やはり貴方でしたか」

 

 

案の定と言うべきか、見覚えのあるテレビスタジオにセイバーは座らされており、もう慣れたのか呆れ顔で何も言わず、向かいに座る黒パーカーの男を睨み付けた。

 

 

「安心してくださいアーサー王。今回は最終回故真面目な話をさせていただきます」

「真面目な話ですか?」

「ええ……っと、まずその前にお茶をご用意しましょう」

 

 

男が指を鳴らす。すると後ろから白い女Aが現れて紅茶と茶菓子を置いていく。

 

 

「今回は前回同様バームクーヘンとワッフル、追加としてクッキーを追加させました」

 

 

ではごゆっくりと彼女は黙って去っていく。どうやらこの様子だと真面目な話は本当なのだろうと感づいていた。

 

 

「よく生き残りましたね……とりあえずはおめでとうと言っておきますね」

「ありがとうございます……して、何の御用で?」

「……それだけですよ?」

「……は?」

 

 

突拍子もない発言に思わず呆然とするセイバー。すると男はそんな彼女を見て小さく笑った。

 

 

「フフフ、まあ冗談ですがね」

「……はぁ」

「そんなことは置いといて、本題に入りましょう……アヴェンジャーについて」

 

 

いきなり核心を突いた本題に思わず強張るセイバー。それを見て男は肩の力を抜くよう促した。

 

 

「アヴェンジャー。その真の名はオメガ。君のマスター終永時を筆頭(リーダー)に作った対終焉に向けて作った民間軍事会社(PMC)もどき『終焉末路(カウンター・ラグナロク)』。その組織に属した『普通求めし異常者』『竜狩りの姫君』の2人と終永時を含めた4人が中心となって設立しました」

「対終焉……エンド・コールと呼ばれた人物のことですね?」

「おや?よくご存知で」

 

 

大体のことはエイジから聞かされていたと述べると男は頷いて納得していた。

 

 

「前話した常勝無敗の男、実はそれこそ彼のことでしてね。生まれたこの方負け知らずだったのですよ。しかも彼は生まれながらの天才にして調子に乗ることなく努力していた。それ故誰も彼に黒星を付けることは出来なかったのです」

「しかし、そんな彼が勝てないものが出てきたのです。その1つが終焉亡き後に起こった病疫、通称『終焉病』」

「終焉病?」

 

 

聞いたことない病の名にセイバーは首を傾げるだけで男が答えを述べるのを待つことにした。

 

 

「『終焉病』……かの終焉と戦った者、特に終焉の攻撃をかなり受けてしまった者を中心に起こった病気です」

「……症状は?」

「症状は至ってシンプルです……身体に残った終焉の残渣が潜伏した人物の全てを終わらせていく。それ故我々はそう名付けました」

「終わっていくとは何か?それは簡単です。才能、身体能力、知識。ありとあらゆるものが蝕まれるかのように弱っていき、やがて身体すら動けぬ状態となり、心身共に苦しんで死んでいく。そんな病気です」

「……患者は約20名以上。全員が組織の者である程度攻撃に耐え切った者がかかったようです。その中にはバット=エンド、そして、リーダー終永時も含まれていました」

「ッ!?」

 

 

 

『……お前を見習って、マスターの誼ということで敢えて言うが……案外俺を殺すのは簡単だぞ?』

 

『だって俺さ……こう見えて不治の病にかかってんだぜ?今でもこうしてる間に弱体する程、酷いのをな?』

 

 

 

その中に永時が入っていたことによる驚き、更に前言っていたことを思い出し、それが事実であったことにセイバーは言葉が出なかった。動揺させる為の嘘だろうとあの時思っており、まさか本当の病人を痛ぶっていたとは騎士道を重んじるセイバーにとっては知りたくない現実だった。

 

 

「それで……治療法は見つかったのてすか?」

「いいえ、あの病気のタチの悪い所はそこです。どんな治療法を、異能を駆使しても身体に残った終焉の残渣はそれを許さず無効化していく。勿論彼も色々したようですが全て失敗に終わり、結局は現代医療で延命するのが精一杯でした」

「そして、遂に彼女……バット=エンドが亡くなったのです」

「その時彼は始めて虚しい敗北感を覚えました、だがあくまでそれだけだったのですが、ほんの少しだけ後悔と怒りが浮かんだのです……彼女に対する運命とやらに」

「理不尽だとは分かっているです。ですがそれでも彼は遣る瀬無い怒りを如何にかしたかったのです……その後、終永時と『普通求めし異常者』の2人は行方を眩ました」

 

 

「なるほど……終焉に対する復讐者と言うわけですか」

「その認識で構いません……だから彼は現れたのです。もう一度自身の気に入った人を失くさない為に」

 

 

セイバーの印象としてはおちゃらけた雰囲気だった故に内情は意外と重みがあったことに驚きつつも、それを顔に出さぬよう努めていた。

 

 

「……話は以上です。長い間お付き合い頂き、ありがとうございます。これにて閉会とさせて頂きます」

 

 

そこで話を切り上げ、指を鳴らす。するとセイバーの背後に真っ白い扉が閉じたまま現れた。

 

 

「お帰りの際はあちらをご利用下さい」

 

 

手で扉を指し、遠回しに帰りを促す男。しかし、セイバーとしてはアヴェンジャーの謎を解けたので出て行こうと椅子から立ち上がって扉へと向かっていく。

 

 

「ああ、そうだ」

 

 

しかし、思い出したかのように声を上げる男によって歩みは止められ、後ろへと振り向く。

 

 

「何か?」

「いえ、ただ一言だけ言わせて頂きたい……ありがとう。ビギナーを止めて頂いて」

「感謝すべきはエイジの方だと思えますが……」

「いいえ、本来貴女は無関係な身上。それなのに彼を止めるのに一役買ってくれた、それは感謝されて、寧ろ英雄扱いされても当然のことだと思いましたので……かの悪魔を止めるのはそれだけの事なのです」

「そうですか……」

 

 

感謝の言葉を述べ、頭を下げる男。セイバーは断るも説明を聞いて対峙した相手の狂暴さを改めて認識し、頭を下げ続ける男を見て素直に受け入れることにした。

 

 

「……話はこれで打ち切りです。お疲れ様でした」

「では、失礼します……オメガ。いや……アヴェンジャー」

「……なんと」

 

 

まるで男がオメガのように確信めいた言い方をするセイバーに男は驚きはするものの、否定もせずに黒いフードをそっと外した。

 

 

「やはりでしたか……」

 

 

そこには永時に聞かされていたオメガという人物像、白髪で黒い瞳が晒され、セイバーは確信した。

 

 

「……よく分かったね」

「いえ、アヴェンジャーのことを語る際妙な程詳しいと思いまして、感情面に関しては特に。それ故違和感を覚え、後は直感で」

「そっかぁ……こりゃやられてしまったな」

 

 

お見事と言わんばかりの惜しみなく拍手を送る。

 

 

「騙して悪かったね……でも、ネバーと共にノットを止めてくれたことによる感謝は本物だ。それだけは念頭に置いておいてくれ」

「そうですか……」

 

 

感謝されたことは久々なのか、少し戸惑いを見せるセイバー。しかし、時間は有限。彼女を待ってはくれない。

 

突然オメガの横へ現れたA。彼女は懐から銀の懐中時計を取り出し、オメガに時間を見せていた。

 

 

「おっと、そろそろか……」

「時間ですか?」

「ええ、ですがまだ余裕はあります。今回は追い出しはしません」

 

 

つまりは自身の足で戻れと言うことなのだろう。そう認識した彼女は扉へと歩いていく。

 

 

「……では、失礼します」

 

 

そして、扉の前に立つと後ろにいる2人に一言述べ、扉に触れた。

 

その直後、扉はゆっくりと独りでに開き始め、セイバーは扉から漏れ出た光に飲まれた。

 

 

 

 

『這いよれ〇〇〇さん!』改め『這いよれオメガさん!』。これにて閉幕である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さあ、早く行こうか。皆が集まっているはずだ」

「はい、お義兄様」

「……んで、いつまでその遊びやるの?そんなカツラまで態々被ってさ」

「あら?別に私はいつでもいいわよ?これはこれで楽しいものだし」

「趣味が悪いよ……アムールちゃん」

「オメガ君に言われたくないわね」

「じゃあ今すぐやめてくれ」

「お断りします、お義兄様♪」

「(殺される……絶対バレたらノットに殺されるぅ……!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2度と来ないはずの俺視点……と言いたいがそれは置いといて、今俺の目の前とその横には見覚えのある人物が5人いた。

 

白い髪のウザったらしい笑みを向けてくる奴。

 

その横で腕を組んで少し仰け反って偉そうに座る着物の佳人。

 

緑色の髪で俺の苦手な柔和な笑みを浮かべる女。

 

背中まで伸ばした黒髪、顔だけ見れば優男だが、身長は2メートル強程あり、金剛力士のような無駄のない体型の大男。

 

そして、俺の隣で困惑した表情を見せる桃髪の女。

 

 

最後の奴以外丸テーブルを囲むように座っており、ご丁寧に俺たちの分なのか空いた椅子が2つ用意されている。

 

ちなみにいつの間にか失くなったはずの俺の身体の部位が元に戻っているがオメガがやったことだろうと気にしないことにした。

 

 

「……これは何の余興だ?」

「いや別に、特に意味ないけど?」

 

 

俺の質問に曖昧な答えを出す白髪、オメガ。意味深な笑みがかなりウザったらしい。

 

 

「お前らが突然いるのはもう何も言わん、だがこいつは予想外だぞーーー」

 

 

そう言って俺は着物の奴を指差す。そう、俺としては何故こいつがいるのか不思議で仕方ない。それにあり得ないと思った。

 

 

「ーーーどうしてここにいるんだ?エンド・コール」

 

 

そうだ、こいつエンド・コールの存在が俺の中の警戒心を強くする。かつて俺たちが殺したはずの奴がどうしてここにいるのか不思議でならなかった。

 

「それはこちらの台詞だ自称悪よ。折角休息をしていたというのに、護国の聖女を筆頭にゴロゴロ湧いてきよってからに……」

 

 

そう言ってエンド・コールは緑髪の女を指差す。

 

その意外性に思わず俺は目を見開いた。それは仕方ないことだ。よりによって殺し、殺された間柄の2人が仲良くしていたなんざ想像が出来ん。

 

だがこの女、アムールならあり得るとも思えた。よく考えてみろ、この大男、ノットの野郎の仲の良いお友達とやらを続けれているんだ。余程の馬鹿かお人好しでなければ付き合いきれん。

 

 

「お前……今アムールのことを馬鹿にしたな?」

 

 

ほらな?緑弾作ってすぐ殺る気満々の馬鹿の友人なんざ性格が限られてくるだろ?

 

 

「してねえよ……所でここは何処だ?俺はどうなった?」

 

 

とりあえず話題を変えようと気になったことを述べてみた。恐らく最悪オメガの奴は知っていると踏んで聞いてみた。

 

 

「ここは『世界の掃き溜め』。深淵の闇溜まりに最も近く、終焉を迎えたものが自然と集う終着点だ」

 

 

しかし、意外にも俺の問いに答えたのはエンド・コールだった。あっさり話したことに少し驚いたが情報を得られたので良しとしよう。それより更に気になるワードが飛び出たのでそちらが気になる。

 

 

「終焉を迎えたもの?」

「文字通り終わったものが全て集う。しかし、形として残るのは主だって無機物。意思あるものや生命があるものは深淵の闇に飲まれ消える。しかし一部には例外もあるのだ」

「それが俺だと?」

「そうだ……闇は気まぐれ、時に通り過ぎて他へと移ることもある。特に一度に多くのものが終わればその可能性は高まるのだ。その場合そのものはまだ生命や意思を残したまま流れ着くのだ」

 

 

成る程、要するに俺はまだ生きている可能性があって運良くここまで来られたという訳か。

 

 

「とはいえ、残った生命の残渣は深淵から湧き出る愚者共が喰らおうと活動し出す。大抵のものはどの道消える」

「……」

 

 

成る程、世の中それ程甘くはないという訳か。しかし、深淵か……えらく久しく聞いた名だな。

 

 

《そうだな、貴様との出会いもそこだった訳だからな》

「ほう……懐かしいものがいるではないか」

 

 

突然、俺自身の中からあいつの声が響き、エンド・コールはその声を懐かしそうに言った。

 

 

「久しいな……深淵の主人、ダークソウル。いや偽名だったな……そうだろ?悪の根源、アジ・ダハーカよ」

《ふん、その名で呼ばれるのは久しいな……終焉よ》

 

 

互いが互いに悪巧みするかのように悪どい笑いを漏らす2人。黒い雰囲気が漂い、誰もが声を掛けられない状況……だった。

 

 

「お話は終わった?なら、早く行きましょう」

 

 

そんな雰囲気の中声を出したのはアムールであった。まあこの女自身天然が入っているので若干空気を読まない部分があるが、今回は良い方向へとなったようだ。現に2人は元の素の声へと戻っているからだ。

 

 

「ああそうだ……探索する話だったか」

 

 

探索?……ああ、アムールが言い出したのか。この女自身子どもっぽい所があるからな。あり得んことはない。

 

 

「ここは偶に古い道具とかが流れて来るのでしょう?」

「そうだ……両手に持つ規格外な大盾など奇妙なものを見かけている」

 

 

大盾ねぇ……またふざけたものがあるもんだ。しかし……探索なぁ。

 

 

「危険はないのか?」

「俺がいるだろ?」

 

 

そう言うのは小首を傾げているノット。確かにまあ戦力としては問題なし、味方としては頼もしいが過剰戦力にも程があるがな。

 

 

「で?ネバー君行くの、行かないの?」

「……好きにしろ」

 

 

とりあえずやることもなくなったのだ。ここにいた所で暇そうだし安全面も考えて付いていくのが妥当だろう。

 

 

「よし、なら皆で行きましょう♪」

「……ああ」

 

 

相変わらずこの女は無茶を言いやがる……まあノットの奴と会うまでは箱入り娘だったはず。好奇心旺盛なのは良いことだ。逆に好奇心猫を殺すとも言うが……。

 

 

「所で、バットちゃんはどうするの?」

「あー……彼女はちょっと訳あって呼ばないんだよね〜」

 

 

ならば姐さんを呼ぼうと提案するアムール。まあ愛らしい弟子を置いて行きたくないと言うのが心境だろう。

 

 

「アムールちゃん、姐さんなら今は新しいスタートを切ったばかりで忙しい。暫く安定するまではそっとしてやってくれないかい?」

「まあ!それなら仕方ないわね」

 

 

オメガの奴に言われて納得するアムールに正直安心している。

考えてくれ、こっちには被害者(アムール)加害者(エンド・コール)がいるのだ。呼べば仲間思いで特にアムール大好きな彼女ならばエンド・コールとの殺し合いに発展しかねん。

 

だが姐さんが新しいスタート?……後で聞いておくべきことが増えたな。

 

「じゃあ行きましょう♪」

「どこへ行くんだぁ?」

「大丈夫よノット君、一応これでも戦えるのよ?」

「待て」

 

 

席から立って先々行こうとするアムールの手を掴み止めるノット。そしてそのまま引っ張って自身の側へと寄せていた。

 

 

「えっ……?あの……ノット君?」

「もう、俺の側から離れないでくれ……2度とお前を失いたくない」

 

 

そう言って彼女を抱き締めるノット。まあこうなるのは分からんでもない。愛するものを失う気持ちは痛い程分かるから何とも言えん。

 

だがこれで友人関係のままで止まっているのだ。何故それ以上にならんのか未だに不思議で仕方がない。

 

 

「(まあ、アムールの方は自覚しているようだがなぁ……)」

「ヒュ〜、ラブッラブですなぁ」

 

 

現に顔を真っ赤にして茹で蛸のようになっているから恐らく脈ありなんだろう。後オメガ、煽るな。

 

 

「……チッ」

 

 

まあその前に今にも立ち上がって手を出しそうなぐらい怒気を放つ終焉の奴をどうにかしなくてはならんのだがな。

 

 

「エンド・コール。今回は抑えておけ」

「……ああ、分かっている」

 

 

本当に抑えるのかどうかは定かとして、とにかく当初の本題に戻るとしよう。

 

 

「ノット、いちゃいちゃするのはやめて早く行くぞ」

「いちゃいちゃって……」

「ってなんだぁ……?まあいい」

 

 

更に顔を赤くしていくアムールの反応を楽しんだ所でノットは首を傾げて離れる。

 

 

「あっ……」

「ほら、さっさといくぞ」

 

 

とりあえず名残惜しそうにするアムールを放っておいて歩く俺たち。アムールはそれに気づいて慌てて追いかけてくる。

 

 

「……んで、どこを探索するんだ」

「目的は特にない。とりあえずは深淵に近づかないように進む。私はともかく、姫君は持たんからな……とりあえずはある場所へと赴くつもりで進むつもりだ」

「ある場所?」

「『影の国』……世界の果てに存在するとされる国の名だ。その領主の名はスカサハ。貴様も聞いたことがあるだろう?」

 

 

スカサハ……?ダメだ、全く知らん。今度勉強しておくか……。

 

 

「その様子では知らんか………なぁに、ここは世界の終着点。前に暇潰しで歩いていた際偶然侵入出来た場だ」

「つまりは今繋がっていると?」

 

 

そういうことだと述べるエンド・コールは歩き出す。

 

 

「影の国……なんかお化けが出そうな名前の国ね」

「安心しろ、俺はお前を襲う敵を血祭りに上げる悪魔だぁ……だから、何かあっても俺がお前を守ってやる」

「ノット君……」

「チィッ……!」

「まあまあまあ、その怒りは愚者にぶつけたまえ」

「……ふん」

 

 

仲良く歩く2人の前方、苛立ちを抑えるよう咎めるオメガと並ぶようにエンド・コールは歩き、その最後列を俺と刀になったアスモが付いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーだが1つ言わせろ……仲良く手を繋ぎながら歩くのは構わんが今すぐやめてくれお前ら、エンド・コールが今にもキレそうでこっちがヒヤヒヤするから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしまあ、あれだ……当てもない旅路。まるで俺たちの最初の頃を思い出すようで、懐かしく、それで持って少し楽しい気分になってしまったのは内緒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー彼は今日も己の道を突き進む。結局戻ることがなかった最弱の半英霊(アンリマユ)として、その身に悪の根源(アジ・ダハーカ)を宿し、側に色欲の悪魔(アスモデウス)を連れて彼は行く。

 

 

ーーー彼は今後も悪になり続けるだろう。

 

 

ーーーだが、それこそ終永時……

 

 

ーーーそれでこそ、自称悪に相応しい。

 

 

 

「……所詮、自分の欲を叶えようと生きていく強欲な男だという訳だ」

 

 

「とある奴の言葉を借りるなら世界を気ままに流離って、好きな時に戦い、美味いものを食い美味い酒に酔う……それが俺の信念(エゴ)。」

 

 

「それこそ俺の生き方。それでこそ悪に相応しい生き方……この性格は死んでも治らんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、またいずれ会おう……悪と共にあらんことを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






なんとまあ気になる所を残したと思いますが、この作品は此処で終了とさせていただきます。


消えた3人についてはまた書くかもしれないのでその際はまたよろしくお願いします。





皆様どうもありがとうございました!





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蛇足的な小話
Episode of Omega 〜終わりの共闘〜





やあ、皆お久しぶりだね。

……えっ?誰って?ほら、そこはタイトル見ておくれ。






分かった?……そうだよ、皆さんがよく知っている男。座右の銘は『面白ければ全て良し』のオメガさんだ。


今回は察していると思うけど、オメガさんの話ということで特別にやらせて貰ったわけだ。





……今回はノットやネバーと別れた後オメガは何をしていたのか?それについて見て頂いて貰う。

とは言ってもオメガさん自身理不尽の塊とネバー達に言われるぐらい意味分からん展開になるかもしれないけど、そこはご愛嬌ということで……



では、ごゆるりと……。




 

 

 

「はーい、どいたどいた〜!」

 

 

軽い調子で言いながら回し蹴りをそれの頭部へと放つ。放たれた足はオメガと敵対する黒い霞を纏った影のような人型の頭部と胴を断ち切った。

 

断ち切られた人型は形を崩し、塵となっていく。それを見て目的地へ向けて走って前進する。しかし同じ人型が視界の隅から5体程新たに敵として接近してくることで歩は止められることとなる。

 

 

(うげっ……またか)

 

 

新たに現れた敵対者にうんざりとした表情で見やる。

 

何があったのか少し遡るが、永時達と別れた後、やるべきことはやっていておこうと考えたオメガは重要なポイントを巡っていた。しかし、ある建物に侵入しようとした矢先にこれだ。しかしも何度潰しても先程からずっと同じことの繰り返し。うんざりするのも無理ないことだ。

 

 

(そんなにもここに入れたくないか……ケチだね〜)

 

 

とはいえ自身は死に体ではないものの、負傷した身。あんまり時間が掛けられないのも現状であった。

 

 

「(さて、この黒い奴……まあ何か予想出来るけど。同じことしかしないしなぁ……)」

 

 

正直に述べよう……飽きた。

 

いや、別に巫山戯ている訳ではない。

そこで思い出して欲しい。どんなことがあろうと彼は気分屋。その性格(キャラクター)は変わらないため、同じことの繰り返しというのは非常に嫌うのだ。

 

 

「ああ……面倒だ」

 

 

だから、彼が怒って瞬時に人型を葬ったのは気分なのだろう。

 

 

「あのねぇ……早く終わらせて姐さんを愛でるお仕事があるんで……さっさと通してくれたまえ」

 

 

理由はどうあれ彼は突き進む。自身のお気に入り達を死なさない為に。彼は彼の気分に従って歩み続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに彼が目指して場所はーーー円蔵山内部……大空洞。聖杯戦争にとって基盤となるものが存在する重大ポイントである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く進んだ後円蔵山付近へと着いた。しかし敵の猛攻を掻い潜り、目的地の寸前へと近づいたオメガを待っていたのは……数倍に増えた敵の軍勢だった。

 

 

「うざっ!しつこいなぁ君達!」

 

 

とか言いつつ、手を地につけて身体を捻り回転、足刀で敵の頭部をバターのようにあっさり切っていく所を見ると大丈夫そうだろう。

現にオメガ自身ノットにつけられた傷以外は見当たらない所からまだ余裕がある方なのだろう。

 

 

「うげっ……またか」

 

 

今捌いたばかりだと言うのに、湧いてくる敵の軍勢。一体一体は大したものではないが、流石に数の暴力は堪えるところがあり、少し面倒だと本気で思い始めていた。

 

 

(うざいなぁ……もう後先考えずに全部消しちゃおうか)

 

 

そろそろ終わらせないと面倒だと思ったオメガは自身の残存魔力を気にすることなくぶっ放そうと距離を取った時だった。

 

 

『……失せろ』

「おわっ!?」

 

 

突然、暗い緑の光が自身の目の前を横切り、敵の軍勢を包み込んだ。その威力は凄まじく、衝撃だけで自身が軽く吹っ飛んで尻餅をついた程。

 

 

「いてて……一体なんだい?」

 

 

ゆっくりとした動作で立ち上がると同時に光が晴れる。そこには地面が抉られ、ひっくり返された跡、それ以外何も残っていない光景だけが目に入った。

 

 

「これは……」

『所詮有象無象……無様なものだ』

 

 

目の前で起きたことに驚くオメガ。しかし、そんなことよりもこれを引き起こし、先程から聞こえている声の主が気になり始めていた。

 

 

『だが仕方なきことだ』

 

 

さっきより声が近いように感じる。どうやら近づいて来たようだ。

 

 

『逆らうことも、避けることも、増してや消すことなど出来ぬ……そう思わんかーーー』

 

 

一言告げる度に声は近くなり、オメガの緊張が少しずつ高まっていく。

 

 

「ーーーなあ、オメガよ?」

 

 

そしてそれは姿を現した。パッと見た感じはさっきからいる黒い影のような霞を纏った人型と同じ気配だ。だが、理性的で会話してきていること、それに聞き覚えのある声と姿形がオメガの中にあった疑問を解消させた。

 

 

「これはこれは……懐かしいお方だ」

 

 

目の前にいる着物を来た人物をオメガは素直に驚きの声を出す。そこには警戒心が醸し出し、少なからず好意的ではないことは理解できた。

 

しかし要因である本人は知って知らずか、何処吹く風と余裕ある表情で受け流していた。

 

 

「んで、何でここにいるのかな?」

「いや何、自称この世全ての悪と名乗るイかれた者に貴様の対抗馬として呼び出されたのだがな……貴様があまりに無様な姿を見せるものでな。手を貸してやろうかと思ったまでのこと」

「いや君一応向こう(敵側)でしょ?」

 

 

姿は同じ影のような人型、明らかに敵として登場しているのは明らかで味方ですと言われてもオメガは信用出来なかった。

 

 

「何を言う。私があの程度の存在に屈するとでも?神だろうが下す私がだぞ?」

「……まあ、そりゃそうだよね(流石、同じ血が流れているだけはあるね)」

 

 

まあ本人もああ言うのだ。お言葉に甘えようじゃないかとオメガは支援を頼むことにした。

 

 

「なら、お言葉に甘えさせてもらうよ」

「賢明な判断だ。そう来なくては面白くない」

「じゃあ背中は……任せたくないなぁ」

「フッ……安心しろ。貴様らを殺すのはこの私だ。有象無象如きにくれてやる訳がない」

「いや、それ信用出来ないんですけど!?」

 

 

味方?の発言にとりあえず背中は守っておこう。そう決断したオメガであった。

 

 

「とは言え今の私はサーヴァントでいう宝具が使えぬ身、今の貴様や自称悪はともかく、他のものに潰されるのが目に見えている」

「……それは戦力的に大丈夫かい?」

「安心しろ、この程度肩慣らしには丁度良いだろう……さっさと行け、私の気が変わらん内にな」

「それはありがたい!」

 

 

この感じだと一時的に味方をしてくれると判断したのか、目的地に向かって一気に駆け出す。そんな彼を阻もうと他の敵が迫るも、味方となった人物が立ち塞がることで道を塞いだ。

 

 

「終焉の時だ、有象無象共……少しは楽しませろ」

 

 

その人物が自身の後ろで敵陣に突っ込んでいたことを皮切りに人影共は戦闘を始め、それを一瞥するとオメガは一目散に目的地へと走り出した。

 

 

(なら今は信用しておこう……後は頼んだよ、エンド・コール)

 

 

エンド・コール。その名はかつて自称悪、黒槍姫、万能、異常者の4人が倒したとされる終焉の体現者の名であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、やって来ました!大聖杯〜!」

「これが大聖杯とはな」

 

 

龍洞内部。遂に大聖杯と呼ばれるものへと辿り着いたオメガ御一行。状況が状況だと言うのにオメガは相変わらず軽い感じ調子である。

 

 

「所で君、見張りはどうしたんだい?」

「飽きたからそこらを消し炭にしてきた……しかし、まさか魔法陣とはな……てっきり、黄金の杯をイメージしていたのだが……」

「あのねぇ、仕事してくださいよぉ」

 

 

呆れ気味に述べるオメガの苦言をまたもや何処吹く風で大聖杯の正体に驚きを隠さず、眺めていた。

 

 

「あれ?情報を入れられてないのかい?」

「貴様らを殺せと言われただけ、それ以外にはいらん考えなのだろう」

 

 

それはつまり使い捨てする気満々だったと言うことの表しでもある。しかしそれに怒ることもせず、それとは別に何か思い出した様子であった。

 

 

「怒らないんだね」

「いや何、とある愚者を思い出したものでな……あまりに滑稽すぎて怒る気も起こらんわ」

 

 

怒る所かくつくつと笑いを漏らす姿に胸を撫で下ろす。本心としては癇癪を起こして何をするか分かったものじゃないので溜飲が下がる思いだったようだ。

 

 

「……兎にも角にも、さっさとしろ。私の気が変わらん内にな」

「とは言っても……」

 

 

そう言って手の甲で虚空を叩く。するとその手は途中で見えない壁によって遮られることとなる。

 

 

「なるほど、障壁か……強度は?」

「恐らくある程度のレベルなら防げる。後、物理で壊しても即座に修復するっぽい」

「なら、一点集中すれば良い。幸い私自身全力を放つだけのパワーは残してある」

「そっか……なら頼むよ」

「上手く合わせろ……!」

 

 

両手を横に広げ、禍々しい暗い緑の光を両手に灯す。するとオメガは何か思い出したのか、そうだと素っ頓狂な声を上げた。

 

 

「あっ、そうだ……」

「こんな時に何だ?」

「君……助けた理由に僕が不甲斐ないからとか言ってたけど、嘘だよね?」

「そうだ……」

 

 

あっさりと嘘だとバラし、それに少し目を見開くオメガ。そんな姿を見て満足そうにクツクツと笑っていた。

 

 

「なぁに、とある女との交換条件を果たしてやっているだけだ」

「そう、かいっ!」

 

 

納得したのか、その場からオメガは跳躍。エンド・コールの正面になるように落下していき、

 

 

「さあ、始めるぞ(序でにくたばれ)

「ちょっ……ルビが酷いことにぃぃぃ!?」

 

 

着地する直後、広げた両手から極太の光線が2本放たれ、それに押される形で不味い発言(メメタァなこと)をしながらオメガは突き進んでいく。

 

狙うはただ一点のみ、更に砕くと同時に侵入する勢いも必要。ならばと即座に考えた一撃。

 

 

「名付けて!『全て終わらす勝利の蹴り(ジエンド・オブ・オメガ)』!今の僕は全てを壊す最強の槍と化す!」

 

 

そのまま飛び蹴りの形で押され、突撃。放たれた一撃は無駄に万能性を駆使したオメガの前には熱い展開とも言える衝突からの拮抗なぞは当然なく、虚しくもあっさりと砕かれ、そのまま本体(大聖杯)を貫いていった。

 

 

「フン、終わったか……」

 

 

大聖杯を貫いた直後、完全に壊れた証拠として、自身へ来ていた魔力が途絶え、役目を失ったエンド・コールは塵となって消えていく。

 

 

「やはり終焉は良いものだ。特にのうのうと高みの見物する者、傲慢な愚者程、終わらせる時は特に心地よい」

 

「しかし……あの名だけは、致し方納得がいかんな……」

 

 

忌々しそうに大聖杯だった場を見つめ、完全に塵となって夜空へと舞い上がる。

 

エンド・コールの抗議も虚しく。誰にも聞こえることなく、溶けるように消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーすまない(あね)さん。どうやらここまでのようだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーってなことがあった訳よ?」

「へえ、オメガ君にしてはマトモなことしているじゃない」

「オメガ君にしてはって……」

 

 

やったことにドヤ顔で語り、鼻高になるオメガだがアムールの純粋な一言によってあっさりとへし折られてしまった。

 

 

「ふん、あんなセンスのない名をつける男だ。それだけで大体碌でなしというのは想像がつくだろう」

「酷い……じゃあ君ならなんてつけるんだいエンド・コール?」

 

 

しょんぼりした顔でエンド・コールに視線を向ける。するとエンド・コールは口角を上げてこう答えた。

 

 

「そうだな……『終末砲』はどうだ?」

「厨二乙」

「死ね」

「ぶべらっ!?」

 

 

何の躊躇いもなく、予備動作もなく割りかし殺す気で放った拳がオメガの顔面をひしゃげさせ、そのまま身体ごと吹き飛ばしていった。

 

 

「殺す気か!?」

「当たり前だ」

「いやいやダメでしょう?」

「知らんなぁ」

 

 

今したことに抗議するも肝心の容疑者は我関せずとどこ吹く風と聞き流すだけ。

 

こうなってはもう聞いてくれないと理解したオメガは深い溜め息を吐いて気持ちを切り替えることで諦めた。

 

 

「まあいいや……とりあえずトランプでもしない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、異常者と自称悪が揃うのはポーカーを3ゲーム程終えた辺りのことだった。

 

 

 

 

 

 

 



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Episode of Never 〜世界を飛ぶ悪達〜



……やあ皆様。遠藤でございます。


最終回に引き続き私が担当をやらして頂きます。

……前回オメガがやってただろ?あれは乗っ取られただけなので気にしないように。


では、今回は主人公ネバーこと終永時の話……全てが終わった中、彼がどのようにしてきたのか。それをご覧頂きたい。




 

 

 

「やったよ……セイバー」

「ええ、上手く行きましたね」

 

 

悪魔が落ちたと同時、アスモは地へと降り立ち、待っていたセイバーと喜びを分かち合っていた。しかし、その2人の顔は何処か悲しげな雰囲気を見せてもいた。

 

 

「……エイジは?」

「……分かりません」

 

 

そう、漸く倒したと言うのに肝心の永時の姿が見えない。そのことが2人の不安を加速させる要因であった。

 

そもそもこの過程に至ったのは永時の考えだ。向こうが大技を放ったのを見計らって自分が切り札を放ち、倒す。

もし仮に防ぐとしたら変身を解除して『普通求めし異常者(ノット・バット・ノーマル)』を使用するしか逃げ道はない。ならばその時が起こった時の保険として奴が油断した時にセイバーがアスモを飛ばし、普通の物理攻撃で止めを刺すよう頼んでいたのだ。永時の鎧が消え、薬を打ち込んでいたのはこの為である。

更に一応変身を解除せず負けた場合もセイバーには自分ごと宝具を撃たせる算段であったが、それは杞憂に終わったようだ。

 

 

そして現実としては永時は緑弾を諸に受け、その後は何も残っていない。だが希望は一応あった。

 

 

「ですが……私はまだ残っています」

 

 

そう、セイバーがまだ残っていること。つまりそれはマスターがまだ生きているという証明でもあった。

 

 

「そうだね、とりあえず探してみy「静かに」ーーーっ!?」

 

 

突然の声を上げたことに驚愕するアスモ、しかし言われた通りに静かにすると、何かを引きずるような音が聞こえたではないか。

 

 

「こっちです!」

 

 

聞くや否や駆け出すセイバーを急いで追いかける。

 

 

「……エイジ!?」

「!?」

 

 

そして間も無くして見つけた……身体を引きずって動いていた永時……しかし、両足と右腕がない状態でだ。

 

 

「……ああ、お前ら。やっと会えたな」

 

 

その痛々しい姿にセイバーは声が名前以外何も言えなかった。あれだけの攻撃を受けて尚、生きているのが奇跡に近いもの、彼の生命力の恐ろしさを改めて知った時であった。

 

一方アスモは免疫はあった為すぐ様側へと駆けつけ、永時を抱き抱える。しかし、その目は潤んでおり泣きそうのは明らかであった。

 

 

「よく、生きていたね」

「まあな……辛うじて避けられた所だ」

 

 

いつも通りの不敵な笑みを浮かべ、血濡れとなった赤い左手を開いたら閉じたりと動かした。

 

実を述べるとあの時直撃などはしておらず、辛うじて回避に成功していたのだ。

緑弾を飛ばされたあの時、残っていた左腕を動かしてセイバーと戦った時のように左手(ワイヤーアーム)を飛ばし、両足を分離(パージ)して自身を軽くすることでギリギリ回避に成功していたのだ。

しかし、それでも受けたダメージとそこから無理して『人外惨禍・自称悪道(エゴイズム)』を放った為に魔力や体力などは既に底をついており、平たく言えば死に体と言っても可笑しくない状態であった。

 

 

「……セイバー」

「何でしょうか?」

「助かった……それと、迷惑かけたな」

「気にしないでくださいエイジ、迷惑をかけたのは寧ろ私の方。私の我儘を聞いて下さり、尚且つ貴方の敵として立ちはだかった非礼を、お許しください」

「気にするな……迷惑掛けられるのは信頼の証と思っておくさ」

 

 

頭を下げるセイバーを永時は残った手で制する。セイバーとしては少し納得のいかない所だが永時はこうなった以上何を言っても意見を変えないことは理解している為、諦めることにした。

 

しかし、時間は有限である。

 

 

「……」

「もう来たか」

 

 

永時の魔力が底をついた今、供給する魔力は残っておらず、それ故セイバーが消え始めるのは必然であった。

 

 

「もう、お別れの時なのですね……」

「すまんな、聖杯をやれなくて」

「お気になさらず、寧ろ中身があれだと知って使う必要がないと思っていますから。それに……」

「それに?」

「貴方が言うように、先を見据えて生きてみるのも、一理あるのではないかと思いました」

 

 

そう語るセイバー。未知なる未来に対して少し不安げな様子が見られるも最初の頃に比べれば随分と落ち着いた顔になっているではないか。

 

 

「とりあえず願い事は保留ということで」

「そうかい……だが、偶には振り返ることも大切だ。過去というのは、自身の欠点や過失を見つめるいい機会だ。そして、そこから新しいやり方というのも見えてくるはず……少なくとも俺はそうして生きて来た」

「そうですか……分かりました。肝に命じておきましょう」

 

 

ある程度で会話を区切り、今度は視線をアスモへと向ける。

 

 

「ん?なんだい?」

「アスモ……エイジを頼みましたよ」

「勿論、任せて!」

「ですが……余り下品なことを言い過ぎないように。色欲とは言え、私やエイジはともかく、側から見れば白い目で見られますよ?」

「うぐっ!?き、気をつけるよ」

 

 

思わぬ正論を言われてぐうの音も出ないアスモ。そんな彼女をセイバーと永時は微笑ましく見つめていた。

 

そんな中永時は思い出したかような声を出した。

 

 

「最後に言わせてくれ」

「何でしょう?」

「……時には誰かを頼れ、いずれ1人では限界が来るんだ。その為に信頼出来るものを探せ。それが難しいなら……」

「難しいなら?」

「ある程度お前から誰かを信頼してみろ。そうすれば自ずと人は付いてくる」

 

 

死に体と言うのによく話すものだとアスモは呆れながら、セイバーは少し思い詰めた様子で黙り込むもすぐに永時と向き直った。

 

 

「一応言いますがそれは貴方も言えることでは?」

「自覚はしている」

「なら、構いません……エイジ」

「何だ?」

 

 

ブーメラン発言と自覚しつつも不貞腐れている永時にセイバーは微笑みを浮かべ、最後に彼に言いたいことを述べる。

 

 

「……ありがとう」

 

 

たったそれだけのこと。だが、ここまで付き合ってくれたことへの、話を聞いて考えてくれたことへの純粋な感謝の気持ちであった。

 

 

「それと……あれはお返ししますね」

「おい……チッ」

 

 

何かを言おうとした永時。しかし、その前に彼女は消えた。してやったりとイタズラが成功した子どものような笑みを浮かべ

 

 

「なぁにエイジ、もしかして照れてるの?」

「……うるせぇ」

「まあ褒められ慣れしてないもんねぇ……ん?」

 

 

顔を背けている相棒に可愛いなぁと内心思うアスモ。だがそれはすぐに変わることになる。

 

 

「エイジ、これ……」

「こいつは……」

 

 

アスモがセイバーのいた場所からある物を拾ってくる。それは、永時にとって見覚えのありすぎる物であった。

 

 

「『全て遠き理想郷(アヴァロン)』か……」

 

 

そこにあるのは黒き騎士王が使用していた宝具。永時が彼女を呼ぶ要因となったエクスカリバーの鞘そのものだった。

 

 

「あの女……」

 

 

そこで彼はようやく理解した。返すと述べた彼女の言葉の意味を……

 

 

「ふん、要らんことしやがって……」

 

 

それでも嬉しそうに笑みを浮かべる永時にアスモは微笑ましい視線を送る。しかしその気持ちもすぐに引かせ、本題に入ることにする。

 

 

「それでエイジ……後どのくらい持ちそう?」

「分からん。今回ばかりは死ぬことも前提に入れねばならん」

「そっか……じゃあ、次は何処に行く?」

「この状態だしな、すまんが拠点に戻ってくれないか?ただし、ネルフェには見つからないようにな」

「オッケーーーッ!エイジ!!」

 

 

二つ返事で返答し、翼を広げようとした所で突然声を上げるアスモ。見れば真っ黒な何かが自身へと迫り、アスモは身を呈して動けぬ永時に覆い被さった。

 

しかし予想していた痛みは来ず、恐る恐る目を開けると同時、妙な浮遊感が2人を襲っていた。

 

 

「ッ!お前!?」

「……借りは返したぞ」

 

 

それが吹き飛ばされていると気づいた時、永時はその目でしかと捉えた。

 

長い黒髪を垂れ流し、筋肉隆々の大男……本来の姿を晒したノット・バット・ノーマルと呼ばれた男。その男がしたり顔で黒い何かに飲み込まれて行く様を。永時は見続けるしかなかった。

 

 

『無駄なことを……!今楽にしてやる!!』

 

 

だが消えて少しした後、緑の光が黒い何かから漏れ出て、街の各地から緑のエフェクトが広がった。

 

 

「……行くぞアスモ。奴の覚悟は無駄には出来ん」

「そうだね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か聞こえないか?」

 

 

アスモに掴まれて飛翔して目的地へと向かう道中。急に永時はそのようなことを言い出した。

 

 

「えっ……?あっ、確かに聞こえるね」

 

 

そのことに永時とアスモは同じ疑問を抱いた。今此処は先程まで戦場であり、現在は元の灼熱地獄へと戻っているこの場。

 

いないかもしれない生存者を探す馬鹿でもいるのだろうか?2人はそう結論付けて先へと進む。

 

 

「……待って」

 

 

……はずが、アスモの一言と共に静止することとなる。

 

 

「エイジ、この声……君が知っている人の声だよ」

「何?」

「エミヤキリツグ、君のお弟子さんだった人だよ」

「そうか……すまんな」

「オッケー♪」

 

 

互いに目を合わせ、永時の謝罪の言葉と共にアスモは全てを理解し、声のする下へと降り立つ。

 

 

「っ!終永時!?」

 

 

降り立った場にいたのはかつて弟子だった衛宮切嗣その人だった。そして、その後ろには虚ろな目をした瀕死の少年もいた。

 

死んだ目に光は完全に消え、絶望しきった顔。しかし、切嗣には抵抗する気があるのか銃を引き抜こうと構える……も銃を持っておらずしまったと驚く顔を見せた。

 

 

「銃を失くすなんて、意外と抜けてる?それともマヌケなのかなぁ?」

「やめろアスモ」

 

 

銃がないや否や挑発するアスモ。まあ数年前に永時はこの弟子とやらに撃たれたのだ。そのことを根に持っているのだろう。

 

しかし、永時はそれを手で制すると動く身体を何とか動かして立たせた。

 

 

「何だその体たらくは?」

「……貴方には関係ない」

「大方、この現状に心折れちまった感じか……馬鹿が。紛争地域でも行きゃあこんなのいくらでも見れると教えただろうが」

「……れ」

「哀れなもんだ。仮にも正義の味方ならこの程度で折れてどうする?」

「……黙れ」

「まあ、所詮この程度だったというのは理解していたよ。平和の為に暴力という矛盾した方法で解決するなんざただの悪循環だからなぁ」

「……黙れ!」

 

 

そこで切嗣は声を荒げた。だが、大して永時は驚くことなく、ただ悪どい笑みを浮かべていた。

 

 

「平和の為に聖杯戦争に参加し、舞弥やアイリを犠牲にしてようやく平和に辿り着いたというのに……!」

「……なるほど」

 

 

そこで永時は理解した。この男は希望だった聖杯の正体を知ってしまったこと。そして……小聖杯を破壊した要因ではないかと。

 

だが彼は悔やみはするが怒りはしない。もう過ぎたことを言った所で無駄だと理解しているからだ。

 

 

「(希望が絶望に変わったってところか……だが、この調子じゃもう……)」

 

 

多分完全に心折れてしまっている。時間を掛けて話していけば治るかもしれないが、生憎そんな悠長な時間はなかった。

 

 

「……チッ、アスモ」

「えっ?いいの?」

 

 

再び目を合わせてアイコンタクトでやることを察したアスモ。すると自身が持っていた『全て遠き理想郷(アヴァロン)』を切嗣に向けて投げつけた。

 

 

「……っ」

「受け取れ……お前の知っている本物のアヴァロンだ。それで目の前のガキでも助けていろ」

「……何故?」

「何故だと?……ふん、あまりにお前が哀れすぎたのでな。せめてもの選別だ。それに、目の前でガキに死なれては後味が悪くなるだけだしな」

「……」

 

 

受け取った途端直ぐ様少年に入れる。その様子を眺めていた永時は彼を哀れみの視線を向けていた。

 

 

(本当に哀れだな……暴力で取れる平和なんざ限られている。そんな矛盾した行いをすれば破滅は目に見えているだろうに……)

 

(そもそも、見知らぬ大多数の為に身近な者(少数)を犠牲にしている時点で……)

 

 

「無駄に正義なんぞにこだわるからだ……行くぞ」

「う、うん……」

「……せめてそのガキだけでも、守り通してやれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拠点のある一室。無事に帰還した永時とアスモは現在、部屋の中を物色していた。

 

 

「……本当にいいの永時?ネルフェちゃんに会わなくても」

「ああ」

 

 

とは言え、死に体である永時は探さず、具体的な場所を指示するだけでアスモは指示された場所を探す。それを繰り返していた。

 

 

「……あっ、あったよ!」

 

 

そしてようやく見つけるとまるで自分のことのように喜んで永時に手渡すアスモ。その様子はさながら犬のようで尻尾をパタパタ振っている幻影が見えそうな気がする。

 

 

「すまんな」

「気にしないで!でも、これをくれってことは……」

「言うな」

 

 

それ以上言わせまいと手で制する永時。しかし何処かしら寂しげで、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

 

「……今ならベルントの奴の気持ちが分かるな」

「ああ、部下だったオーク君?懐かしいなぁ」

 

 

昔の部下のことを思い出し、懐かしそうに思うこともあるがそれより何故こんな時に彼が出たのか、アスモとしてはとても気になってしまった。

 

 

「それで?どうして彼が出たんだい?」

「……死を前にしたあいつは女を苦しませまいと消えようとした、その理由が、その覚悟が、今なら共感出来る」

 

 

1人の女の為に身を粉にして働き、命を尽くして守り、苦しませたくないと黙って消えようとした。孤独になり悲しませると分かっていても彼は覚悟を持って消えようとした。

 

全てが大事な者の為故の行動。現在娘がいる永時には共感出来る所があり、そこから連想する形で思い出してしまったようだ。

 

 

「でも、それって……」

「分かってる。どの道俺は病を抱えた身、今生き残った所で先は見えている」

「そっか……なら、最後まで付き合ってあげるよ」

「……別に無理しなくてもいいんだぞ?」

「残念。もうあの時から決めたんだ……地獄の底まで付いて行ってやるってね」

「……馬鹿だなお前」

「それはお互い様だよ」

 

 

そう言った途端沈黙。しかしすぐ様2人から笑い声が漏れ、2人は小さく笑い合った。

 

 

 

「ハハハ……さあ、早くしないと見つかっちゃうよ?」

「クカカ……そうだな」

 

 

そして永時はアスモの持ってきたカセットテープレコーダーのスイッチに指をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何?」

 

 

だが、気づけば彼は何もない白い大地に立っていた。

 

何事かと辺りを見渡せば廃墟。しかもよく見ればイギリス辺りで見れる煉瓦造りや石造りの建造物ばかり。

 

 

(どこだここは……?あの世、にしてはイメージとは違う。それに、何処か懐かしい気配がする?)

 

 

見覚えのない場所なのに何処か違和感を覚える永時。しかし、その場にいた所で何も変わらないのでとりあえず歩き回ってみることにした。

 

 

(土壌は白い砂……辺りは廃墟ばかりで人の気配なんぞ……ん?)

 

 

暫く歩いて、何もないと結論付けようとしたその時、物陰に人の気配を感じ取った。

 

敵の可能性もあるので警戒しながら覗いてみる。するとそこには見覚えのある桃髪の少女が立ち尽くしていた。

 

 

「アスモ……何しているんだ?」

「あっ、エイジ!探したんだよ!」

 

 

相棒の姿を見るや少し興奮気味になって駆けつけてくるアスモ。その様子はやはり犬のように思えてしまったのは内緒である。

 

 

「気がついたら急にいなくなったから2人して探していたんだよ!」

「2人?」

「ーーー私のことだ」

 

 

重圧感のある低い女の声がしたので後ろを振り返った。そこには先を三又になるよう括り、腰まで伸ばした漆黒の髪に褐色肌、その両肩にある竜の刻印が目に入る女であった。

 

 

「……なんだ、痴女k「アジ・ダハーカだ」……いや、知ってる」

 

 

彼がそう判断したのは仕方ないことだ。何故なら彼女?は黒いタンクトップに同色の下着1枚の服装で出て来たのだからそう言われても仕方ないことであった。

 

 

「お前、相変わらずそういう所はすぼらだよな」

「動きにくい洒落た姿なぞ面倒でな、それに……」

 

 

そう言って彼女は永時に密着しそうな距離へと近づいてくる。香水でも振ったのか、仄かに漂う意識が遠のきそうな甘い香りが周囲へと漂わせている。

 

 

「……貴様を夜伽へ誘うには、持ってこいの姿であろう?」

 

 

そう言って首元から見える大きな存在感を示す双丘を永時の腕へと当て……ようとして瞬間移動(テレポート)で真後ろへと逃げられてしまう。

 

 

「むっ?逃げるのか?」

「やめろやめろ、今はそう言う時じゃないだろ?(やはりノーブラか……)」

「……まあそうだな。これ以上すると色欲がまた煩そうなのでな、またの機会としようか」

「そうかい……(本当すぼらだな……今度買いに行かせーーーいや、敢えて姉貴と一緒に行かせるか)」

 

 

苦手な人物で意趣返しをしようと考えているとは露知らず、彼女は近くにあった岩場へと腰掛ける。どうやらその様子からして当分帰る気はないようだ。

 

だが、それはもういいことだろう。

 

 

「……む〜」

 

 

次はこっちで拗ねてる相棒(アスモ)をどうにかしなくてはならんのだろう。

アジ・ダハーカ(以下アジ)の誘惑を跳ね除けている中、そっぽを向いて自身の不機嫌をアピールしていた。

 

 

「アスモ、何を怒っている?」

「別に?怒ってないけど?エイジが誰といちゃついていようが僕には関係ないことだしね」

「(ククク……明らかに関係あるだr「(余計なことは言うな)」……つまらん)」

 

 

アジがニヤついている所を見ればどうやら怒ることが想定内であったのだろう。明らかに永時の反応を見て楽しんでいた。

 

そんなアジに余計なことを言わぬよう釘を刺した後、仕方ないとアスモの両頬を引っ張ってこちらに向ける。しかし、その手を振り払わず目線を晒すことで抵抗を示しているが、寧ろ可愛いらしく思えてしまう。

 

 

「お前がそう思えたのなら謝ろう……すまんかったな」

「ふーん……」

「……ああ分かったよ。今度2人でどっか行く。これで手を打たないk「オッケー♪」……はぁ」

 

 

要求を聞くや否やあっさりと機嫌を戻すアスモ。単純なのか、計算済みなのか何とも言えない永時であった。

 

 

「それで……ここは何だ?」

「うーん……よくわかんないや」

「……」

 

 

聞くとすぐに分からないと答えるアスモ。しかしアジの方は何か思い詰めた様子で辺りを見渡しており、一言も発することをしなかった。

 

 

「どうした?」

「……いや、懐かしい雰囲気を感じてな」

「……確かに」

 

 

言われた通りそんな気配は感じ取っていた。いい方と悪い方の両方の意味でだが。

 

 

「まあ、行けば分かることか」

《そういうことだ……早く行くぞ》

 

 

そう急かすアジ。しかし、そんなことを言いつつ、自分はいつの間にか姿を眩まし、ちゃっかり永時の中へと戻っていた。

 

 

「……アスモ、行こうか」

「りょ〜か〜い」

 

 

とりあえず戻った居候のことは考えず2人は先へと進むことにしたのであった。

 

 

そして、永時はあの4人と再会し、その後『世界の掃き溜め』にて探索をすることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー悪いな姉貴……あんたに会うのは、もう少し先になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 






アジ・ダハーカ

邪悪な者とされる3頭の毒龍。千の魔術を扱うとされる悪の根源、悪の化身。自称悪の探求者。
エンドコール討伐時代に出会い偉く気に入られた。人間時には腰まで伸ばし、先が三又に別れている漆黒の長髪に褐色肌。服装に関してはかなりすぼらで、黒のタンクトップに下は最低限の布地で隠している。両肩には龍の刻印がある。本来性別などの概念はなく、気分によって男や女になる、と言っても女が圧倒的に多く、恐らくは男である永時に気を使ってる?それか娯楽の一種として夜伽に誘うのが目的と見られる。

永時を気に入った理由としては「悪となるために悪を為すのではなく、悪を為すから悪を名乗る。それはそれで面白いではないか」と語っている。




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Episode of Not 〜悪魔の意地〜



ご機嫌よう皆様。遠藤でございます……。

昨日に引き続きの投稿です。

今回はいよいよ消えた3人の内の最後の1人。ノット・バット・ノーマルのお話です。


悪魔として暴れた彼は、敗北した後どうしたのか。その最後を書いております。

まあ予想出来ている人がいるやもしれませんが……おっと、これ以上するとまた永時殿にどやされるのでここまで。


……では、本編でも如何かな?





 

 

「ばぁかぁなぁぁぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あああァァァァァァァァァァ!!」

 

 

雄叫びと共に悪魔は落ちて行く。

 

溜め込んだ執念と失念、怨念に近い憤怒を声として、ただひたすら雄叫びとして上げ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー君……!!ノット君!

 

 

 

「カカロットォォォォ!!」

「きゃっ!?」

 

 

憎き男の名を叫んで飛び跳ねるように起きる。すると雄叫びに殆ど掻き消された少女の悲鳴が微かに聞こえた。

 

 

「……なんだぁ?」

 

 

遅れて聞こえた何かが落ちた音……ではなく、気づけば自分がベットで寝かされていたことに首を傾げる。

 

 

「いたたた……もう、相変わらずその声には驚くわよぉ……」

「……へあっ!?」

 

 

しかしそれは文句を垂れる少女の声が耳に届いた時、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

慌ててベットから飛び降り、少女の声の方へと駆け寄る。

 

 

「なん、だと……」

 

 

だが彼は驚いた。そこにいたのは尻餅をついた1人の少女。

 

流れるような緑色の長い髪、サファイアを連想させられそうな碧い瞳、白銀の胸当に紺衣のスカート、金衣の袖口の服装。控えめだがそれでも上品な美しさを持っており、その雰囲気、その姿形が見覚えのありすぎる人物であった為だ。

 

 

「……アムールだと?」

「ええ、貴方のことが大好きなお友達。アムール・エフェメール本人よ?」

「……ちなみに聞くが、俺の口癖は?」

 

 

念願の友との再会があっさり叶ったことで一瞬呆然とするもすぐに質問を飛ばした。

 

確かに姿は友であるアムール本人だ。だが、かと言って中身がアムールとは限らない。もしかすればアスモデウスが自分を騙す為に友に変装しているのではないかと疑ってしまったからだ。

 

 

「口癖は『血祭りに上げてやる』よね?」

「……なら、好きなものと嫌いなものは?」

「好きなものは私……は冗談として、好きなものは食べ物、嫌いなものは人参とアスパラガス」

「最後だ……食い物の中で好きなものは?」

「……私の手料理、特に人参なしカレーでしょ?」

「アムール!」

 

 

難関(ノットの中では)を見事終え、ようやく友と認めるやノットは彼女を抱き締めた。

 

 

「ちょっ、ちょっとノット君……苦しいわよぉ」

「会いたかった……!守れなくてすまんと、謝りたかった……!」

「ノット君……」

 

 

色々と感情が漏れ出て、混乱しているのだろう。そんな彼を彼女を母のような優しい視線を向けて、強く抱き締めた。友として、そして彼を愛する者として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そんなことがあったのね」

 

 

あれから少し落ち着いた後、座らされたノットは同じく向かい合うように座る彼女に全てを話した。

 

聖杯戦争とやらに参加したこと。アムールに似た女を見つけたこと。その女を守ると誓ったこと。だが守るべき女の夫、マスターがクズみたいな性格で予期せぬ裏切りにより守れなかったこと。ヤケになってネバー達を殺そうとしたこと。召喚されてからやったこと全てを語った。

 

黙って彼の話を聞いた彼女は口を開いてこう述べた。

 

 

「最後はあれだけど……何も問題はないんじゃない?」

「何ぃ?……軽蔑しないのか?」

「何を今更言っているの?貴方は自分が正しいと思ったことをしたのよね?なら貴方が後悔していないならそれでいいじゃない。それに……相手の悪い所を受け止めて、一緒に直していくのがお友達でしょ?」

「アムール……」

 

 

自身を否定しない発言に、じんわりとこみ上げてくる感情を抑え込んでいた。

 

 

「ーーーですが、仲間だった皆を傷つけたのは、流石に見過ごせないわよ?」

「うぐっ、だがなぁ……」

 

 

そう言って笑みを浮かべてこちらを見ている。しかしその雰囲気は笑っておらず静かに怒気を放っており、その強さはノットすら怯んでしまう程だった。

 

 

「大体何ですか?いくらノット君といえど、八つ当たりでお友達を攻撃するのは良くないと思うわよ?」

「……すまん」

 

 

殺しにかかったというのにそれを八つ当たりで済ます所は彼女の可愛らしい利点であり問題であるがそんなことはどうでも良いだろう。

 

 

「分かったならいいわ……なら、少しお話を聞かせて頂戴」

「話、だと?」

「ええ……私が死んじゃった後、ノット君達はどうしていたのかしら?」

「そんなに面白い話ではないぞ」

 

 

そこから彼は色々話した。いなくなった友の約束を果たすために一人旅を始めたこと、その道中風の噂でバットが死に、ネバーが行方不明になったこと。その後旅の道中事故で一時期変な世界に飛ばされたことなどを話した。

 

バットが死んだことを少し悲しむような素振りを見せるが、ノットを心配させまいと話を続けることにした。

 

 

「変な世界?」

「ああ……なんか欲深いマヌケなバケモノ共がうようよいたり、それに対抗する自称忍とか語る、自分を過信し過ぎて忍んでいない馬鹿共。機械に頼りっきりの雑魚の集まりとかが主だっていたなぁ……」

「凄く混沌とした場所なのね……ちょっと行ってみたいかも」

「やめておけ、あの世界ではお前のようないい女を餌食にしようとするクズが沢山いるからなぁ……」

「(いい女……)クズって……悪い人のことよね?ノット君はどうしたの?」

「無論血祭りに上げてやった、その後俺に惚れ込んだとか言ってついて来た馬鹿とかいた。それに復讐してきた雑魚どもがいたから見せしめで土地の3分の1程消してやった。なのにそれだけで大体は臆するようになりやがってな。思ったより雑魚で面白くなかった」

 

 

などと、主にノットが思い出話を述べるだけ。しかし、聞いている彼女の顔は穏やかでとても楽しそうであった。

 

 

「そう言えば衣住食はどうしたの?」

「それなら、最強と呼ばれていた女の世話になっていた。俺の(スーパー)サイヤ人状態を相手に唯一粘っていた奴でな。気に入ったからそいつの監視の元しばらく暮らすことになったのだ」

「その女性はどんな人?美人さん?」

 

 

女性と暮らしていたという事実に胸が痛む思いをし、少し嫉妬してしまう。だが、かといってどうこう言った所でそれは彼の行動を縛り付けるようなもの、いくら友人関係であるとは言え、束縛を嫌う彼にそんなことは言いたくなかったのが本音である。

 

 

「まあ多分美人だったが……俺がいうのも何だが、時々力量を測り間違える悪い癖、あっさり人質を取られて動けなくなってしまう甘い奴だった。だが、判断力と適応力、中々屈しない強い意思があったのは良いことだろう」

「いい人なのねぇ。ネバー君なら使えるようにシゴいてそうだけど……」

「まあな……ああ、それと済まんな」

「何かしら?」

「一時期とは言え、俺が女の所へいたことだ。お前は嫌なんだろ?」

 

 

それにそんなことを言わなくても彼は理解してくれていると信じているからだ。

 

 

「確かに嫌だけど……けど、それは貴方の人生でしょ?だったらお友達とは言え、貴方本人じゃない私がとやかく言うのは可笑しいでしょう?」

「よく分かっているなぁ……流石アムールと褒めてやりたい所だ」

「でも、ダメだと思ったことはちゃんと言わせてもらうわよ?」

「……そうか」

「じゃあ、続きを聞かせて頂戴。その世界で貴方は何をしたのかを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んで、結局そのバケモノのボスらしき雑魚を血祭りに上げてやったと言うわけだ。とはいえ、逃げ足だけは早くて半殺しだったがなぁ」

「あら?さりげなく人類救っちゃってるわねそれ」

 

 

数分か、或いは数時間か。それぐらいに感じる程長く語ってきた話はここで結末を述べ、彼女は友の凄さを改めて実感していた。

 

宇宙の悪魔なんざ呼ばれているが彼も人間、力の使い方を間違わなければただの暴れん坊な青年なのだと。彼女はそう理解している(信じてる)からだ。

 

 

「人類を救う……?ふん、くだらん」

 

 

そう、こうやって少し褒めたら照れ隠しでそっぽを向くような可愛いらしい一面がある子どものような青年なのだ。

 

 

「ふふっ……それで、話は戻していいかしら?」

「話を戻す?」

「ほら、これからのことよ」

「これからってなんだぁ?」

 

 

何が言いたいのか分からず、首を傾げるノット。それをアムールは笑みを崩さぬまま続きを述べた。

 

 

「何って……ネバー君達の所へ戻るのかどうかよ」

「……何ぃ?」

 

 

そう言われてノットは思わず怒気を放とうとしてしまったが、大事な友の前ということで辛うじて理性が打ち勝って収まっていく。

 

 

「戻っても……俺は何が出来るんだぁ?」

 

 

それは素直な吐露だった。

 

誰かの為に戦おうと誓い、よりによってその身内に裏切られ、あまつさえそこを黒い女(アンリマユ)につけ込まれ、身体ごと弄られて半ば乗っ取られた状態。それでなお罪なき人々を消し、街を破壊し、止めに来たかつての仲間を殺しにかかった。

 

そんな男を誰が頼るというのか、いや……奴らなら普通に頼ってくれるだろう。だが、それではノットとしては幾分辛いだけだった。

 

 

「……こーら」

「っ!」

 

 

そんな彼を見て額へデコピンをする。何のつもりだと訴えるように視線をやるも彼女は微笑むばかり。

 

 

「そんなに落ち込んだ所で何も変わる訳がないでしょ?これから自分が出来るを考えましょう」

「出来ること……ってなんだぁ?」

「それは自分で考えることよ。今貴方が出来ること、貴方がやりたいことをやればいいと思うわ」

「やりたいこと……」

 

 

彼女に論され、暫く黙り込んで思考するノット。そして少しだった頃彼は何か決断したのか、突然立ち上がって部屋の出口へと向かっていく。

 

 

「あら、決まったの?」

「ああ、すまんなアムール……俺は行く」

「いいわよ、いつまでも待っているから……それで、どうするの?」

「決まっている……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気に食わんクズを血祭りに上げてやるだけだぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう……」

 

 

悪戯をするような悪ガキのような笑みを浮かべ、それでいてどこか決心のついた顔つきで歩くノット。

 

彼女は止めることはしなかった。知り合いの男曰く、男はこうなると簡単には意志を曲げることはないと聞いていたからだ。

 

 

「……行ってくる」

「いってらっしゃいノット君」

 

 

2人は昔からしていたいつもの言葉を交わし、ノットは近くにあった扉を開いて消えていった。

 

 

「ねえ、ネバー君……男の子って大変なのねぇ」

 

 

ノットの消えた後、呟いた彼女の言葉は虚しくも部屋に響くだけで誰も答える者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

 

そして彼は目覚める。崩壊した冬木にて、全てを終わらせる為に。

 

 

「ーーーッ!エイジ!!」

 

 

……流石アムールだ。丁度いいタイミングだ。

 

黒い何かに襲われているネバーとアスモ。だが助ける者はいない。

 

なら何をすべきかは簡単だ。

 

 

「やるか……」

 

 

異常と言われる脚力で走り出し、2人を両手で掴んで遥か後方へと放り投げる。それだけのことだ。

 

 

「……借りは返したぞ」

 

 

借り…そう、奴ならきっと気にするなと照れるだろうが正気に戻したことに関しては感謝している。

それにこれで返したと思っていないが、一応言っておくべきと思ったから言っただけだ。

 

黒い何かに飲まれる中、目を見開いて自身を見る2人にしてやったりと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そして、その結果がこれというわけか?』

 

 

黒い何かに飲まれた直後、1人の女と向き合っていた。

 

自身をアンリマユと呼ぶ女は呆れた顔でノットのことを見やっていた。

 

 

「ふん……貴様の思い通りというのは癪なんでな。少し邪魔させてもらったぞ」

『別に問題はない』

 

 

したり顔のノットの言葉をあっさりと切り捨てたアンリマユ。だがノットは怒ることはなく、ただアンリマユに視線をやるだけだった。

 

 

「そうか……」

『しかし、貴様にしては驚いたことをしたもんだ。まさか奴を助けるとはな』

「……別に助けた訳ではない。俺の目的を達するには邪魔だったからだ」

『目的?』

 

 

首を傾げるアンリマユを前にノットは悪どい笑みを浮かべる。

 

 

「なあに、もう一度俺と契約しろということだ」

『ほう、何故だ?』

「今度こそネバーの奴に留めを刺すからだ。奴さえいなければ後は死に体共ばかり、全員殺した後聖杯を直し、もう一度聖杯戦争を起こして願いを叶えさせるだけだぁ」

 

 

戦いに負けないのか?奴らは自分のことを知っているから苦戦していたが、それ以外は所詮雑魚。彼の眼中にすらない。

 

自分の願い事?それは決まっている……アイリスフィールやイリヤやマイヤ。それと友であるアムールと共に平和に暮らしていく、それだけだ。衛宮切嗣?裏切ったクズなどは彼には必要ないのだ。

 

 

『まさか貴様から願い出るとはな……良かろう。丁度別の手駒を用意しようとしていた所だ』

「……待て」

 

 

黒い泥を動かし、ノットに纒わせようとするもその本人によって止められる。

 

 

『なんだ?』

「その泥はやめろ……個人的に気に食わん、お前が直接しろ」

 

 

そうしなければこの話はなしだという彼。脅しに近いそれを聞いてアンリマユは額に青筋を立てるも敵に回すと面倒なのは知っているので大人しく従うことにした。

 

 

『良かろう……なら、じっとしているのだぞ』

 

 

そう言ってアンリマユは歩んで距離を縮め、ノットの目と鼻の先へと近づく、その顔を改めて観察していたノットは不満で顔を歪ませていた。

 

 

『何だ?私の顔に何かついているのか?』

「いや……あまりにアイリスフィールに似ているもんでな」

『まあ仕方なかろう。今の私を形作るこれはアイリスフィールやらと同タイプのホムンクルスらしいからな』

「そうか……」

『そういうことだ』

 

 

人違いか……とノットは呟いた。

 

 

「ーーーなら安心してお前を殺せる」

 

 

その直後、ニタリと笑みを浮かべたノットは目前にいるアンリマユに手刀を放った。

 

 

『……甘い』

「がはっ……!?」

 

 

しかし、それは逆に飛んで来たアンリマユの手刀によって胸部を貫かれることで失敗に終わった。

 

手は豆腐のように胸部を突き進み、骨に当たって一度止まる。

 

 

『そんな見え透いた罠にかかるとでも?大方、『普通求めし異常者』でも使って私を殺す気だったようだが……失敗したようだな』

「……」

 

 

したり顔を見せるアンリマユだが、ノットはすぐ怒ることもなく、ただ黙って震えているだけだった。

 

 

「……」

『何だ?もう死に体か?』

 

 

あまりに動く気配がないので覗き込む。すると、下を見ていたノットは……嗤っていた。

 

 

「ククク……ハハハハハハハッ!その程度のパワーでこの俺を倒せると思っていたのか?」

『何ッ!?』

 

 

胸部を刺され、血を吐き出したにも関わらずがっしりと力強くアンリマユの身体を抱き締めるかのように拘束した。

 

 

『どこにそんな力が!?ええい離せ!』

「『普通求めし異常者(ノット・バット・ノーマル)』……今のお前はただの人だ」

『なっ……!?』

 

 

まさかの事態に必死に抵抗するも蟻が恐竜に抗っているようなもの、そんなチンケな力では拘束を解くことは不可能でありアンリマユの中に焦りが生まれる。

 

だが、それだけでは終わらなかった。

 

 

「とっておきだぁ……!」

 

 

不意にそんなこと呟くと同時、彼の身体から突然煙が上がり始め、アンリマユの焦りは加速する。

 

普通になってしまった今でも感じる、ノットの身体の中央へと増え続けていく膨大な力の渦。それによって全て悟ってしまったからだ。

 

 

『貴様、まさか……!?クソッ!離せ!……離せぇぇぇぇぇえ!!』

「無駄なことを……!今楽にしてやる!!」

 

 

アンリマユの叫びは虚しく、2人は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、冬木に緑の光が各地に広がったのを確認された。

 

 

まるで、全てを終わらせたことを告げる花火のように、暫しの間眩く光り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーおかえり、ノット君。

 

 

ーーーただいま、アムール。

 

 

 

 

 

 

 






アムール・エフェメール
性別:女
趣味:ガーデニング、ノットとデート、筋肉鑑賞
好きなもの:お友達、可愛いもの、ノット
嫌いなもの:特にない


ノットの友人である女。戦闘能力はあまりないが家に代々伝わるとされる奇跡の力を使い傷付いた者を治癒し、障壁を張って護り、聖なる光で悪しき者を討滅させたりでき、後衛として活躍している。本来一子相伝とか言われていたそうだが、バットに教えてくれと言われた時にそんなこと知るかと言わんばかりに普通に弟子入りを許して指導していた。

万能さん曰く、あの悪魔や自称悪、竜狩り姫ですら調子を狂わせる程の天然でおっとりとしたお人好しな女。しかし、悪いことは悪いとはっきりと言う人間なので芯の強い女性。更に相手のことを基本否定はせず受け入れてしまうため、彼女を慕う者は多く『天然の人たらし』とも言え、女としては理想とも言えよう。

しかし生まれは意外かもしれないがどこかの国の王家の一人娘とのこと。彼女自身訳あって命を狙われていた為に城に篭りっきりでそのせいか生粋の箱入り娘である。
それ故好奇心旺盛でよくノットを引っ張り回してふらふらとデート?している姿がよく目撃されている。

2つ名はエンド・コールが述べたように護国の聖女。
かつてエンド・コールとノットが戦っている最中、多くの国を奇跡の力で護り切った功績を称えられてそう呼ばれているが本人はあまり気に入っておらず、寧ろ『悪魔の花嫁』と呼んで欲しいと述べている。

ちなみにノットのことをお友達と言っているが抱く感情は友人以上。それが原因で今や筋肉フェチとなっており、筋肉の基準が超サイヤ人や伝説状態とどこか可笑しい基準となっている。




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