ぼっちアートオンライン(再) (凪沙双海)
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はじめに

はじめまして、お久しぶりです。

二つ同時に挨拶させていただきました、凪沙双海と申します。

 

プロローグへ入る前に、初見でこのぼっちアートオンラインを読んでださる方、そして以前のぼっちアートを読んでくださった方への前書きのようなものです。

まさか投稿する為に字数がないといけないことを知って必死に字数埋めております。1000文字から投稿できるなんて聞いてません。

 

ぼっちアートオンラインでは、基本SAO原作沿いで進むものの、ところどころオリジナルの設定を盛り込ませて進めさせていきます。

また、それによりSAO内での時系列やイベント、事件の起こりやそれに起因する人物の心情が原作と異なることがございますのでご容赦くださいませ。

ゲーム内のシステムにおいても、オリジナルのシステムなどもありますので合わせてご容赦くださいませ。

 

俺ガイル、はまちことやはり俺の青春ラブコメはまちがっている。について、原作八巻終了後、九巻に進まずあの重々しい展開のまま冬休みを迎えてしまった状態からのスタートとなります。

これにより、SAOもスタートが冬からのスタートとなるので一部時系列が原作と異なります。

 

全体的に見てALO編までやっての完結予定で、ALO編はさらにオリジナル展開盛り込みまくり予定です。

 

また八幡についても原作を読んだ私の独自の解釈による行動や感情の変化などが多々ありますので、キャラ崩壊などが多分に行われる可能性がありますのでお許しください。

また、この八幡はそれなり以上のネトゲ経験者である。というオリジナル設定がございますのでよろしくお願いします。

 

SAOについて、キリトはアスナとくっつきません。この二人を至上とする方にはすいません。

全体的にハッピーエンドを目指すものの、原作を読んで自分がこうだったらな。なんて思った部分などをオリジナルで加えておりますので、展開の変更は結構あります。

原作生存キャラの死亡などはありませんのでそこはご安心ください。

 

 

改定前のぼっちアートと比較して、八幡の心境や思考、また展開や二つ名などいろいろ変化します。

同じではあるものの、別物として改めて読んでくださるととてもありがたいです。

 

 

 

自分のやりたいことをやりたいように書くだけのもので、しかも元々あったものを凍結してまでやり直すというワガママをさせていただきますが、それでもよろしければ皆様、どうかお付き合いお願いします。

絶対に完結させます。



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プロローグ1

新しく始まりました、ぼっちアートオンライン。
感想をくれたみなさん、ありがとうございます。
改めまして凪沙双海です。
また長い間のお付き合いとなりますが、よろしくお願いします。

差し当たり、転職先への勤務開始日までの自宅待機中に書きまくるか……ではでは、始まります。


「……はい、雪ノ下です」

 

 

「よう、俺だ。比企谷だ」

 

 

「っ……」

 

 

「てっきり出ないかと思ったんだがな。知らない番号だろ、お互いに」

 

 

「……由比ヶ浜さんにこれからかかってくる電話には絶対に出るようにと言われたのよ。その時点で誰からかかってくるかくらい、おおよその検討はついていたわ」

 

 

「そうかよ。まぁ、余計なやり取りがないだけいいかもしれないけどな」

 

 

冬休みに入ってすぐの週末。俺は自室で上擦りそうな声を必死で抑えていた。

電話の相手はあの雪ノ下雪乃。これからのこと、今のこと、何より俺らしからぬことにスマホを持つ手も震えている。

 

 

「……何の用?」

 

 

「来週の水曜日、空いてるか?」

 

 

「来週? ……ええ、空いてるけど……まさか、あなた私を誘うつもり? この状況で?」

 

 

「お前だけじゃねぇ。由比ヶ浜もだ。

……悪いがな、もうこんなのは終わりにしよう。お前はあのときわかってくれると思ってたと言ったな。なら、わかってやる。その代わり俺のこともわかってもらう。らしくもない、本音で話してやる。上っ面だけの付き合いなんてするつもりはねぇからな」

 

 

「比企谷くん……」

 

 

生徒会の件で、俺はいつもとは違う方法を試みた。結果としてそれは成功したが、雪ノ下に下手な仮面を着けさせてしまうことにもなった。

単なる問題の解消ではなく、守りたい、無くしたくないと思った場所を守るためのこと。まったくもって俺らしくもない。

 

 

「軽くない、どうでもよくない。奉仕部は、俺にとってなくせない場所だ。奉仕部だけじゃねぇ」

 

 

暗に、お前や由比ヶ浜のこともそうだと込めて。俺はひとまず言葉を切った。

 

 

「……そんなわけで、部長なら部員の言葉に耳を傾けてくれ。それでなおそのエセ強化外骨格を付けるならそうしろ。お前の中で俺や由比ヶ浜はその程度の存在だったんだろう」

 

 

俺は本当にそうだとしても、おそらく由比ヶ浜は違うはず。こんなことを言われて、雪ノ下雪乃は黙っていられるほど大人でも、強くもない。唯一といっていい弱点だ。

 

 

「……なるほど、伊達に半年以上同じ部活に入っていないと言うことね。いいでしょう、受けて立ちます。

何も、言いたいことがあるのはあなたや由比ヶ浜さんだけではないのよ」

 

 

「なら、最初からそうしろっての」

 

 

負けず嫌いな雪ノ下が乗らないわけがない。わかりきった答えを聞いた俺は、けれど安堵から脱力しつつ憎まれ口をきいておく。というか、ほんとこれ。

言いたいことははっきり言いましょう。俺? そんなこと言える相手もいないけどな。

 

 

「……ふふ、比企谷くん」

 

 

「なんだよ」

 

 

「――ありがとう」

 

 

「っ……まだ早いだろ。由比ヶ浜もいないぞ」

 

 

「前受け金と思っておきなさい」

 

 

「……そういうことにしておく。じゃあ、雪ノ下、一時に学校で。どうせ空いてるだろ」

 

 

「そうね。部室で待ってるわ。最後にいいかしら?」

 

 

「内容にもよる。なんだよ」

 

 

「変わらなくてもいいといっていたあなたの、この変化は何があったのか、気になったの」

 

 

「別に、大したことじゃない。平塚先生にまんまとやられた、とでも思ってればいい」

 

 

「……そう。少し、納得がいったわ」

 

 

「なら良かった。じゃあ、切るぞ」

 

 

「ええ。またね、比企谷くん」

 

 

「……またな」

 

 

電話を切って、大きく大きくため息を吐いた。

少ししか時間が経ってはいなかったが、長い時間話していたようにも思えた。

らしくないなんて知らない。決めたなら、俺は俺の好きな俺であるためにやる。今回のこれは雪ノ下と由比ヶ浜に、この俺の言葉を伝える。それが自分の為になるからやるだけのことだ。くれぐれも上っ面だけの軽いものではない。

 

 

「――本物、か」

 

 

あの失敗を省みて、何がダメで、何がおかしかったのかを考えた。

雪ノ下の姉である陽乃さん曰く"理性の化け物"らしい俺は、なるほど感情と言うものは思考にない。

持てるものを全て利用して、自分が満足行く結果を出すために関係者の感情をも計算に入れて、打算漬けにして解を出す。必要なところに必要な役所を。その際に悪意の集約先が必要なだけで、それはボッチかつ影の薄い俺が担当するのは無駄のない采配だった。

感情に任せるから失敗して、絶望する。なら、感情など排他して、利用して計算の枠に入れてしまえばいい。

やがて、俺は感情というものに酷く鈍くなっていたらしい。そんな俺が、感情についてまだ子供のように何も知らない俺が多少でも感情に任せて動けばあんなことにもなる。奉仕部を失いたくない。僅かでもあったその感情に任せたせいで、雪ノ下をああにした。

それからずっと考えた。考えた結果、膨らみ続ける一つの感情が俺に答えを出した。

 

 

「俺は、本物が欲しい」

 

 

何かは知らない。漠然としすぎて自分でもおかしくなる。が、これは俺の求めているもので、あの二人と築きたいものである。

葉山達と関わるにつれて、上っ面だけの関係にも水面下での努力の必要を知って、上っ面だけの関係でも芯の通った関係も知って、ふと、あの二人と自分の関係に、同じものを求めてしまった。

だから、本物が欲しい。

 

 

「……ちゃんと言わないとな。約束を守らないとうるさいからな、雪ノ下は」

 

 

だから、言おう。どうなろうと言おう。

比企谷八幡が比企谷八幡を好きで居続けるために。他でもない、俺のために。

 

 

「……よし、一段落だな」

 

 

時刻は昼に差し掛かる頃。俺は机に置いてあるヘッドギアを見つめた。

雪ノ下に早めに電話をした理由でもあるのが、このヘッドギア……通称ナーヴギアだ。これは今日からサービス開始になるフルダイヴ型VRMMOのソードアート・オンラインのハードで、小町が福引きで当てたものである。

実はかなりのネトゲーマーである俺としては、あれほどの宣伝をされていて興味がないわけがない。小町様々だ。あとでやりたいと言ってたのでサービス稼働してから同にかもうひとつ工面してやりたいところである。まぁ、受験終わってからだけどな。

 

 

「そろそろか」

 

 

ベッドに横になってナーヴギアを装着する。小町には昼はいらないと言ってあるし、憂いは全て断った。

ナーヴギアの存在をギリギリまで忘れてるくらいには考えたんだ、らしくなくとも言いたいことは言うべきだ。

 

 

「よし、リンクスタート」

 

 

時間とともにゲームへとダイヴする。

――この時はまだ、まさか自分にあんなにも感情が存在するのか、奉仕部への執着が深いのか、思ってもいなかった。

そして、俺を友達と呼ぶ奴らが現れるなんてことも、思ってもいなかった――




前では結構後になって入れてた八幡の独白をプロローグへ。これによりSAO内での八幡の立ち回りに意味が増えるかな、と。
完全に僕の独自解釈が入ってます。10巻も読みましたが、なかなか雲行きが怪しく、当作品のガイル勢は原作の9巻以降とは別キャラになってしまいます。
八幡なんて、失敗しつつ9巻がなかったまま答えを見つけてしまったので奉仕部に操を捧げる状態ですし。

そして今回書いてて思ったのですが、下手するとこれ、前回のぼっちアートより文章量が多くなるぞ……


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プロローグ2

お待たせしました。
前に比べまったりペースで失礼します。
ほんと、やりたいこと書きたいこと書いてるとどんどん長くなっていきますね。
ではでは、よろしくお願いします。


「クリエイトか……」

 

 

オンラインゲームのはじめと言えばこれだよな。とりあえず顔は当たり障りのない顔にして、名前は……ハチマンでいいか。

あまり見ない名前だし、本名だと思われないだろう。

服のカラーは黒っぽい青で、と。

 

 

「見た目はこんなもんでいいだろ。で、ステ振りは……」

 

 

オンラインゲームのキャラクリエイトと同じくらい大事な要素。ステータスの割り振りだ。

とは言え、ある程度決めてはあるけど。

 

 

「とりあえず八割敏捷。残り二割を腕力だな」

 

 

基本的に俺はオンラインゲームでもぼっちだ。

リアルと違ってコミュニケーションも取れるしフレンドもいるが、チームやギルドには入らないし、ソロで活動する。

ソロは必然的に多数との戦いが増えるため、咄嗟に逃げれる敏捷を振っておくととても楽でいい。

速ければそれだけ攻撃にも使えるしな。一方的に、戦闘にすらならない。させない。そういうステ振りと立ち回りを覚えてきてるからな、俺は。

戦闘とか嫌だろ、普通に考えても。やるなら一方的だ。ガッチガチのタンクとは相性が悪いものの、そんなのは一握りだし、相手しなければいい。

ただの盾職なら、反応できない速さで攻撃してやればいい。速さこそ正義。だからその分リアルでは動きが遅くても仕方ない。八幡悪くない。

 

 

「よし、こんなところか」

 

 

武器を曲刀に選択して、俺ははじまりの街へと降り立った。

途端に視界がファンタジー風の世界に埋め尽くされて、その再現度の高さ、ポリゴンの完成度の高さに俺は言葉を失った。

こんなの、完全に異世界じゃねぇか。凄いな、日本の技術って。

 

 

「とりあえずレベル上げるか。チュートリアルも流しておきたいしな」

 

 

目の前の男のプレイヤーに手を上げられたから同じように返しておく。

俺の(ネトゲ内での)コミュ力を侮ることなかれ。リアルみたいな立ち回りしてるとあっという間に集団にPKとかされるんだぞ。嫌でもこのくらいは覚える。

だからその分リアルでよりぼっちになっても仕方ない。もう一回言う。八幡悪くない。

 

 

「さて、と」

 

 

フィールドに出て大方のチュートリアルを終えた俺はモンスターの前に立って曲刀を構えた。男なら刀だろ。と思ったものの刀がなかったので似てるこれにしてわけである。刀は初期にないってことは途中で解禁でもされるのだろうか。この手のゲームでないってことはないとは思うが。

 

 

「よっ――っとと。なんだこれ、速すぎやしないか?」

 

 

モンスターに斬りかかろうとして、自分の速さに思わず走り抜ける。いくらリアルに酷似してるとはいえゲームはゲームだろうと油断していた。

なるほど、システムがサポートしてくれるとはいえほとんど自分の身体を動かす感覚なのか。ってことはこの速さに慣れないとだな……

 

 

「――すげぇな、VRMMO」

 

 

フィクションのキャラクターよろしく人間離れしたことをここでならできる。

そんなの、男なら楽しみじゃないわけがないので、俺は思わずにやりと笑ったのだった。

 

 

―――――

 

 

「こんなもんか」

 

 

自分の身体に慣らしつつ、延々とモンスターを狩り続ける。

レベルはそれなりに上がってきて、スキルの熟練度なるものを発見した。

とりあえず使用武器である曲刀と、一つ気になったスキルの熟練度を上げることにする。

曲刀はどうも派生があるようで、手数で押すのか単発ダメージで押すのかで選べるらしい。俺は手数より一太刀派なのでそちらへ熟練度を上げていくことにする。

なんでかって? かっこいいと思ってたし思ってるんだよ、一閃で斬り捨てるって。

 

 

「にしても、まさかリアルステルスヒッキーする日が来るとはな……」

 

 

正確にはリアルじゃないが、もう一つ熟練度を振ったのが隠蔽スキルとやらで、ステルスヒッキーができてしまうスキルなわけである。索敵スキルに引っ掛かりにくくなる、レーダーに映りにくくなる、などなど。

最初の取得スキルは影を纏ってヘイトと非ロックを薄めつつ、ゲーム内での存在感を薄めるものである。

完全に上手く行くと本当に消える。エネミーが俺を探してうろちょろするのが面白い。

 

 

「で、その隙に……」

 

 

一太刀で四足歩行の犬のようなモンスターの首を斬りつける。犬のようなってだけで、犬っぽさはまるでないので罪悪感とかも特にはない。

まぁ、このゲームだと後々対人戦とかで人も斬ったり斬られたりするんだろうけど。

 

 

「こんなもんか。ソードスキルこそまだ上手く使えないが、そこそこ動けるようにはなってきたか……?」

 

 

まだ他のプレイヤーを見ないからか、どんなものかはわからないがあらかじめ定めていた動きはできてると言っていい。高望みとか別にしてないし、これだけ動けてるだけでわりと満足してたりする。

 

 

「――おっ! おいキリト、人がいるぞ!」

 

 

「マジか。もうここまで来てるプレイヤーが他にもいたなんてな」

 

 

「ん?」

 

 

曲刀を刀のように納刀して、声のした方へ振り返る。

黒づくめの男とバンダナを巻いた男が立っていた。

パーティ組んでるってのはなんとなくわかる。

 

 

「よう、お前さん一人か?」

 

 

「見ての通りだ」

 

 

「なるほどな。知ってるか? ここ、最前線らしいぜ。俺ら含めまだ数人しかこの辺りにはいないとか。お前さん、もしかしてベータテスターか?」

 

 

「いや、抽選落ちてやってねぇ。まぁ、忙しすぎて通ってもベータテストどころではなかったかもしれないが。お前たちこそ、ベータテスターのパーティか?」

 

 

「俺は違うけど、こっちのキリトがそうなんだ。こいつ、めちゃくちゃ上手いんだ」

 

 

キリト。と呼ばれた黒づくめの男は品定めをするように俺を見ていた。まぁ、ベータテスターで上手いってならそうもなるか。

確かに、キリトとやらの立ち振舞いはネトゲ初心者よそれではない気がする。

 

 

「曲刀使いなんだな。えっと……」

 

 

「ハチマンだ。手数でごり押すのは性に合わなくてな。曲刀は派生で単発攻撃も多く覚えると聞いた」

 

 

「なるほど。と、改めて俺はキリトだ」

 

 

「俺はクライン。よろしくな、ハチマン」

 

 

「ん」

 

 

見よこのコミュ力! リアルでは考えられないくらいの会話!

目が腐らず、PKされないための社交辞令を身に付ければこれくらい余裕!

リアル? あー、リアルでもPKされるならやるかもな。いや、即やられておしまいか。モブにすらなれないとかさすが過ぎだろ俺。

 

 

「ってこと、キリトはソードスキル使えるのか?」

 

 

「当たり前だろ。……え、まさかハチマン。ここまでソロで来ててソードスキル使えないのか?」

 

 

「正当率は微妙だな。この辺りのなら通常攻撃でごり押しできてるし、別にそこまでアレなことはしてないと思うが」

 

 

「……ちょっと、戦ってるの見せてくれ」

 

 

「別にいいけど、面白くもなんともないぞ」

 

 

おー。なんて捲し立てるクラインと、じっとこっちを見てるキリト。

……なんというか、やりづらい。

 

 

「まぁ、別にやることは変わらないが」

 

 

ポップしたモンスターへ駆けていく。最短距離を短い歩数で駆けるそれは、むしろ小さく飛んでいると言っている方が正しいかもしれない。

 

 

「はやっ……」

 

 

「……」

 

 

クラインの声を後ろに置き去りにして、俺は隠蔽スキルを発動させた。こちらは本来の物陰に身を隠して気配を遮断するタイプの派生とは違う、敵やPCには見つかりやすいものの、目の前にいようが姿を現していようが、ヘイトを下げて注意をそらす。というものだ。

ステルスヒッキーは隠れる必要はない。堂々と、目の前から消えてやればいい。

……実は俺ってキセキの世代入れるんじゃね?

 

 

「そら……よっと」

 

 

モンスターが俺を見失い、そして見つける頃には既に一太刀目の斬撃を首へと叩き込んでいた。

ここから隠蔽スキルは効果が薄くなるものの、使用は問題ないし、このステ振りならそもそも捕まらない。

あれだ、消化試合ってやつだ。

 

 

「――驚いた。本当にビギナーかよ」

 

 

「ソードスキル全部ミスってただろ。あれが証拠だ」

 

 

モンスターの討伐を終えてキリトに肩を竦めてやる。

通常攻撃だけじゃやっぱり一太刀での斬り捨てもできないし、格好もつかない。驚かれてるところ悪いが、個人的にはとても不服だ。

 

 

「ステ振りは見たところ敏捷極振りで、スキルも隠蔽スキルが俺より高そうだな」

 

 

「スキルの高さはともかくとして、その通り、敏捷は極振りにしてある。最初は腕力も振ろうかと思ったんだが、クリティカル出れば結構なダメージになるからな」

 

 

「そこが何より驚いたよ。ハチマン、ゲーム上手いんだな」

 

 

「……どうだろうな、ネトゲ経験はそれなりにあるが」

 

 

やめろ、褒めるな。それはネトゲ内でもあまり耐性がない!

まぁ、身体を慣らすためにレベル上げつついろいろ動かしたりはしたから、普段の身体のつもりくらいには扱えてるとは思うが。

 

 

「せっかくだからハチマンもパーティ組もうぜ。キリトにソードスキル教えてもらって、ハチマンは俺にクリティカルの狙い方を教える。完璧だろ?」

 

 

「お前はまずソードスキルを安定して出せるようにしろよ。

ハチマン、いいか?」

 

 

「構わねぇよ。ソードスキルは使えるようにしておきたいしな」

 

 

パーティ申請、及びフレンド申請を受ける。

――これが、この先に年単位での付き合いになる最初の出会いだなんて、今はまだ知るわけがなかった。




今回のハチマンは、前よりも強い理由を明確にしようと決めてあります。
その代わりの彼なりの装備の苦労とか、前より細かく書きたいなと。
案外無駄の少ない八幡の性格をステ振りやスキル振りに入れることができたらな、と思います。
では、次回にて。


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プロローグ3

お待たせしました。八幡側のプロローグ完結です。
デスマーチ中の支えであった俺ガイル。原作を読み返してたら自分の書いてたものに不満が募りすぎたことが再筆の一番の理由です。
あと、感想でご指摘いただいたキリトのスキルについては苦し紛れではありますがこのような形で取得しているということでご容赦ください。


「っと」

 

 

あれからキリトやクラインとレベル上げを続けて何時間か経っていた。俺はもちろん、クラインもソードスキルを難なく出せるようになっていた。これ、あるのとないのじゃ大違いだな。だいぶ一閃で終わるようになってきた。

 

 

「ハチマン!」

 

 

「……スイッチ」

 

 

キリトを飛び越えるようにして、隠蔽スキルを発動させたままモンスターへ飛びかかる。

そのままスキルを解除して、手に持った曲刀がソードスキルを放つべく光を宿らせた。

 

 

「そら、おしまいだ」

 

 

一閃。残り少ない体力を削るのに、俺の攻撃は充分だったようだ。

レベルが上がり、スキルポイントが加算される。

曲刀の熟練度もだいぶ上がり、滑り出しは順調と言えた。ベータテスター様々だ。

 

 

「この三人パーティ、思ったよりもいい構成してるかもな」

 

 

「ハチマンの隠蔽スキルが効くやつにはハチマンを先鋒にして、そうでないなら俺かキリトが斬り込む。だな」

 

 

「ああ。三人とも得意分野が違うから組み合わせやすい。それに弱点も補いやすい」

 

 

「俺の攻撃が通らない相手なら、キリトが攻撃する。

キリトの追えない相手なら、俺が追いかける。持久戦を要するならクラインの出番、ってところか」

 

 

「そう。索敵要員が俺しかいないのがちょっときついけど」

 

 

キリトは隠蔽よりも先に索敵を取り始めていたそうで、なるほど敵が沸いたときの反応はとても速い。

ソロで続けていくならこれも取っておいた方がいいかもしれないな。

優先はステルスヒッキーだが。

 

 

「しっかし、キリトもハチマンも凄いな」

 

 

「俺のはステ極振りだからな。キリトはベータテスターだし、そんな大したことでもないだろ」

 

 

「……こう、他の人にまとめて大したことないって括られるのはちょっと言いたいことがなくもないが、ハチマンの言う通りだよ。クラインも充分やれてる。

むしろ、ハチマンが本当にビギナーなのかマジで疑いたくなってくる」

 

 

「どうしてだよ。あんなもん、走って後ろ取って首斬っておしまいじゃねぇか」

 

 

そのための敏捷極振りだ。他のプレイヤーより痛手を貰いやすいのは仕方ない。その辺りは防具や自分の回避でどうにかする。

当たらなければどうと言うことはないってどこぞのお偉いさんも言ってたからな。わりとよく被弾してたがあれは相手が強すぎだ。

 

 

「さすがにハチマンほどの極振りはできないから、あんな戦い方はできないな……」

 

 

「いいんだよ。速さは正義。速ければ逃げるのも攻めるのも一人である程度どうにかできるからな。ぼっち勢にはこれくらいがいい」

 

 

「……お前、もしかしてネトゲはソロが多かったりする?」

 

 

「……なんだよ、悪いかよ」

 

 

「いや、同志がいた」

 

 

なんでそんな嬉しそうな感じなんだよ。もしかしてキリトもぼっちプレイヤーなのか?

話してる感じそうは思えないが……

 

 

「さて、いい感じにレベルも上がってきたし、俺は落ちるわ。ピザ頼んであってよ、それ食ったらまたインするな」

 

 

「もうそんな時間か、俺もさすがに一回落ちるか」

 

 

昼はいいと言ってあるものの、夕飯まで遅れると小町に何を言われるかわかったもんじゃない。

食ったらまたログインしてレベル上げでもするか。

 

 

「じゃあ、もしインして暇ならメールくれよ。俺はもう少し狩ってるからさ」

 

 

まじかよ。こいつやる気ありすぎだろ……あれか、廃人ってやつか。

 

 

「よし、じゃあまた後でな」

 

 

軽く手を挙げるクラインは、しかしその場から動かず、キャラも消えることなく留まり続けていた。

このゲーム、ログアウトしてもキャラが残る仕様だったっけか?

 

 

「――あれ?」

 

 

「なんだ、落ちてなかったのか」

 

 

「いや、だってログアウトの項目がなくてよ。ハチマンも見てみろよ」

 

 

「は? そんなバカな……」

 

 

ログアウトログアウト……あれ、ない……?

え、どういうことだ? つまり、ログアウトができない……?

 

 

「やっぱり、無いよな?」

 

 

「……なんだこれ、不具合か? 公式は何か言ってない――っ!?」

 

 

ログアウトできない。その事実に幾ばくかの緊張を孕ませて公式からの通知を探そうとした矢先、大きな鐘の音が鳴った。

次いで画面が入れ替わり、はじまりの街の広場へと転送させられていた。

 

 

「キリトとクラインは……くそ、別のところか」

 

 

他のプレイヤーも集まっているようで、口々にログアウトできないことやこの事態について話しているようだ。

俺はと言えば、不自然なほど赤くなった空を見上げて言い様のない不安に襲われていた。

 

 

「……なんだ、あれ」

 

 

やがて、うっすらと姿を現すローブを纏った巨大な人影。

――それは、絶望の始まりだった。

 

 

―――――

 

 

「……なんだよ、それ……」

 

 

人影――このゲームの運営である茅場の言葉はこうだった。

曰く、このゲームにログアウトはない。

曰く、体力が自分の命。

曰く、それが尽きればゲームオーバー。

曰く、ゲームオーバーは現実世界での死を意味する。

100層まであるこのゲームを、デスペナルティがリアルでの死とイコールである状態で行えというのだ。

クリアさえすれば、このゲームから解放されるらしい。

それ、あと数日でできるのか?

――できるわけがない。

 

 

「俺は……俺には、約束があるんだ……なのに」

 

 

後悔。という言葉を初めて全身に受けているかもしれない。悩んだ末に出して、悩んだ末に起こした行動が、こんな、こんなゲームに打ち消される……

雪ノ下にも、由比ヶ浜にも、まだ何も言っていないのに……

 

 

「ふざけるな……ふざけるなよ……っ!」

 

 

どうすればいい。どうにもできない。

そもそもクリアできるとして、それは何年かかる。俺は――

 

 

「くそ……」

 

 

落ち着け、落ち着け。どうにかしてこのゲームから抜けないといけない。

死ぬ? 無理だ。リアルでの死が嘘には思えない。

――クリアするしか、ないのか。

 

 

「……くそが」

 

 

やってやる。否、やるしかない。

比企谷八幡は、何がなんでも雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣に会わなくてはならない。

本物を求める俺が、偽物のこの世界に、世界そのものが欺瞞であるこのゲームに留まることは許されない。

 

 

「……悪いな。雪ノ下、由比ヶ浜。思いきり遅刻しちまいそうだ。

……本当に……悪いな……」

 

 

声が震える。けれど、この震えは決意の震えだ。

例えどれほどかかろうとも、あの二人が俺を見限ろうとも、俺は絶対に、絶対にあの二人の元へ向かわなければならない。

そのためにはやるしかない。このクソゲーを、クリアする。例えどんな手を使って――

 

 

「――って、それじゃダメか。お前らはそれを喜ばないよな」

 

 

あいつらがいない以上、俺は俺らしく行動する。が、俺は外道でこそあれ人間だ。

自分の為だけに全てを犠牲にするようなやり方は、やはりあの二人は喜ばないだろう。俺も、顔向けができない。正しく、そして素直なあの二人の元へ帰るにはできる限り人間らしく振る舞わないといけない。

それこそ、奉仕部をここでも開かないといけないくらいには。

 

 

「……らしくないな、まったくもって。けどいい、今はいい。これだけが俺の指標だ」

 

 

大なり小なり変わる。ということや欺瞞に目を向けることができるようになった俺は、これくらいの指標は望むところだ。

本当なら今すぐにでもどうにかなりそうな心を保てるのは、俺らしくない感情と、この目標だけだ。

 

 

「……言うほど俺は理性の化け物でもなかったみたいですよ、雪ノ下さん」

 

 

この異常事態にあらゆるモノが麻痺していて、その末の行動や思考であることは朧気に自覚している。

けれど俺は、留まることを選ばなかった。

例え変わることがあるかもしれなくてもいいから、前へ進むべくはじまりの街を後にしたのだった。




前回との差として、八幡はあらかじめ自分で保険をかけさせています。
これからの展開も前回に比べ同じ軸を辿りつつ結構変わりそうです。
主にSAO組はハチマン攻略にとても苦労することになるでしょう。ということで(笑)
では、次回でプロローグは終わりになります。またよろしくお願いします。


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プロローグ4☆

電車内暇だったのでプロローグだけでも、と。
今回でプロローグは終わります。

また、前回同様に現実側の話はサブタイトルに☆が付きますのでご確認の際にどうぞお願いします。


――雪ノ下雪乃――

 

 

「――由比ヶ浜さんっ!」

 

 

「ゆきのん! ヒッキーが……ヒッキーがぁ…… 」

 

 

なりふり構わず病室を開けて中へ入ると、椅子に座って泣き崩れた由比ヶ浜さんとベッドに寄り添う小町さん。

心ここに在らずといった様子でベッドを見つめる二人の男女――おそらく彼の両親がいた。

そして、ベッドには――

 

 

「ひきがや……くん……」

 

 

目を閉じていれば美形だ。なんて言っていた通り、眠る彼は確かに整った容姿をしていた。

現実から逃れたくて仕方のない私の思考はそんな場違いなことを脳内に浮かばせた。

眠る彼の……比企谷くんの頭に付けられているヘッドギアのようなそれは、この大規模犯罪の凶器。ナーヴギア。

 

 

「……何を、のんきに寝ているの?」

 

 

「雪乃ちゃん……」

 

 

「雪ノ下、来たか」

 

 

先んじて来ていたらしい姉さんと、平塚先生に視線だけ向ける。

比企谷くん、あなたは数時間前に私と話していたでしょう? なんでそんな堂々と睡眠していられるのかしら。ほら、会いに来たのよ。話したいことがあるんでしょう? 話しなさい。早く……はやく……

 

 

「姉さん、彼のいるゲームは、いつ終わるのかしら」

 

 

「……それは私にも。何をしてゲームクリアなのか、どうすれば終わるのか。彼は、今どこにいるのかもわからないよ」

 

 

「……嘘つき、嘘つきよ比企谷くん。あなた、わざわざ私に電話までしてあんなことを言って、由比ヶ浜さんにすら嘘をついたのよ?

ほら、早く目を開けなさい。比企谷くん……お願いだから、目を開けて」

 

 

わかっている。彼が今、どんな状況にいるか。

わかっているからこそ、我慢ならない。あの電話から今まで、ずっと彼と由比ヶ浜さんのことを考えていて、比企谷くんと、由比ヶ浜さんと向き合おうなんてやっと決めれたのに、それなのに、こんな――

 

 

「……八幡に、こんなに可愛い女の子の知り合いが二人もいたんですね」

 

 

「え?」

 

 

「彼女達だけではありません。他にも何人も。

比企谷は否定するかもしれませんが、彼の理解者にはなれずとも、彼を理解してみようと、親しくなろうとしている生徒は他にもいます」

 

 

「……ずっと、あの子はいつも大人しくて無口で、やることなすこと一人でできてしまってたから、お兄ちゃんの八幡は大人だからって……放任なんかですらない。

私……八幡のこと、何も知らない……」

 

 

「お母さん……」

 

 

比企谷さんのお母さんが泣き崩れる様を見て、他人事のようにああ、後悔しているのね。と思った。

――違う、他人事のように思わないと、その後悔は今にも私を押し潰してしまうから、ずっと現実から逃げていると言うのが正しかった。

 

 

「……比企谷は優秀な生徒です。彼がここにいる人を置いてどうこうなるとは思えない。

きっと、帰って来ます」

 

 

平塚先生の言葉は気休めのように聞こえる。けれど、決して気休めではない。

彼は、人の負を肯定できる人間で、人の痛みをわかる人間だ。たまにおそろしく客観的な観点から言葉を発するけれど、そこは変わらない。

そして、彼は場の乱れを嫌う。本人の自覚なしに嫌がる。その解消法があの無茶な悪意の集束。

彼は間違いなく優秀だ。今まで奉仕部の依頼も彼が無理矢理こなしてしまったし、選挙の件だって、上手く終わらせてはいる。認めよう。でも、だからこそ。

 

 

「彼は、どうにかできる人間だから、してしまう」

 

 

「雪乃ちゃん?」

 

 

「感情よりも理性が先に働く人だから、だからこそ、不安なのよ」

 

 

「……比企谷くんが、暴走するってこと?」

 

 

「そう。そのことの方が怖いわ」

 

 

「うーん……比企谷くん、あれで何故か人を惹き付けるからなぁ。むしろ、私は彼がこのゲームで大切なものを得たりしそうだなんて思ってたり。

それこそ、雪乃ちゃんやガハマちゃんに相当するようなね」

 

 

「そんなの……」

 

 

彼にとって、そもそも私達がそこまで大切か――大切、なのかしら。

あの口ぶりでは、少なくとも比企谷くんにとって奉仕部は大切な場所のようではあった。それに相当するような大切なもの?

そんなものが、彼にできると言うの……?

 

 

「理性の化け物は、感情を持つ人に生まれ変わったとしたらどうなるのかしらね。そして、その感情の向かうところもね。

雪乃ちゃん、断言してあげる。比企谷くんは黙ってあなた達の前からいなくなるような子じゃないわ。帰ってくるわよ、絶対に」

 

 

「……不思議なものね、姉さんが言うと気休めに聞こえないわ」

 

 

得体の知れない焦燥も合わさって、滲む視界の向こうにいる比企谷くんを見つめる。

らしくないと言われても、私は待つことしかできない。

――お願い、比企谷くん。どうか無事でいて。

 

 

Fin




重いです。
あねのんにはやはり不敵なままでいてもらいたく、あんな感じになりました。
由比ヶ浜、小町などは先の現実側の話とかでモノローグをしていきたいと思います。

どうも俺ガイル側の話はそこまで明るくなりきれないものがありますが、どうかご容赦くださいませ。


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Episode1,part1

大変お待たせしました。
多忙でした、とだけ。言い訳はそれしかできませぬ。

そのわりに劇場版サイコパスだとかはちゃっかり見てましたが。
俺ガイル二期楽しみですね。今期は三つしかアニメ見ていないので来期はもう少し見たいところです。

では、久方ぶりですが始まります。


「レベルアップ……か」

 

 

デスゲーム開始から一月。既にこのゲームでの死者は二千人ほど出てしまった。

自殺を試みる者やベータテスターがその中の多数を占めており、ベータテスターに関してはベータテスト時の知識を頼りに狩り場を独占しようとして、結果死亡となっていることが多いようである。

俺はと言えば、極力無茶はしない方向で着実にレベルを上げていた。途中、ベータテスターの情報屋とやらと知り合うことができたおかげか情報面についても充実している。

……奉仕部の理念の元に動いて情報屋と知り合ってしまったせいか、情報屋を通して間接的に依頼をされることもあるが。

 

 

「やり過ぎた、かもな。まぁいい、いい加減進むか」

 

 

迷宮区。ここのどこかにボス部屋があり、そのボスを討伐すれば次の階層へと歩ける。

レベル上げも兼ねて攻略はしてるものの、おっかなびっくり攻略をする人間が多く思うように進まないのが現状だ。

フレンド欄にいるキリトやクラインはまだ生きてはいるようで、キリトに関してはあの実力だ。あいつも攻略をしているのではないかと思う。

メンタルに何もなければ、だが。

 

 

「――はっ、いろいろありまくりの人間が何を言ってるんだかな」

 

 

当たり前だが、約束の日までに俺は戻ることができなかった。

約束の日、発狂しそうな自分を抑えてモンスターを狩ってたが死にかけてどうにか冷静になることができた。

その際に見た景色が、どうしようもないくらいに綺麗で……あまりの綺麗さに言葉を失って……こんな紛い物の世界に目を奪われた自分が気にくわない。どんなに綺麗でも、認めてしまうわけにはいかない。

比企谷八幡は、比企谷八幡であるためにこのゲームを認めてはいけない。奉仕部の二人へまた会うために、それ以外を許容するわけにはいかない。

 

 

「ハチマン……?」

 

 

「あ?」

 

 

不意に後ろから声がかけられた。俺の名前を知ってる人間なんてそんなにいないから、必然的に誰かは搾られる。

振り向けば、そこにはキリトの服を着た少年が立っていた。

 

 

「お前、キリトか?」

 

 

「ハチマンなんだな! 良かった、無事みたいで」

 

 

「……まぁ、な」

 

 

およそ精神的には無事とは言い難いがこいつに言ったところで何も変わらないだろう。

にしても若いなこいつ。幼いって言えばいいのか?

とりあえず俺よりは年下そうだ。

 

 

「やっぱりハチマンも攻略に乗り出してたんだな」

 

 

「ああ。って、やっぱり?」

 

 

「アルゴからめちゃくちゃ足の速い曲刀使いの話を聞いてたんだよ。もしかしたらって思ってたんだけど、ハチマンがここにいるってことはそういうことなんだろうなって」

 

 

「あー、なるほどな。ってことはお前が盾を使わない片手剣使いか。なるほど、あの鼠を介してお互い情報だけは持ってたらしいな」

 

 

「なぁ、ハチマン。良かったらパーティ組まないか?

基本ソロで良かったんだけど、ハチマンなら問題ないし、攻略ペースも上げられそうだし」

 

 

キリトならまぁいいか。ゲームの理解度で言えば俺より上だろうし、間違いはないだろう。

 

 

「いいぞ。じゃあ次からは適当にメールでもくれ。攻略に付き合うから」

 

 

「おう」

 

 

それからしばらく、二人で延々と迷宮をさ迷うことになる。

一人でも安定して狩れるモンスターは、よりによってこのキリトと組んでるせいかよりいっそう楽に狩れている。

このデスゲームが始まって以来の、初めてのまともなパーティかもしれない。

 

 

「強いな、ハチマン。ベータテスターじゃないのが嘘みたいだ」

 

 

「ゲームは好きだからな。あと、思っていた以上に自分の理想に近い動きができるのが大きいな」

 

 

これはあれか、材木座的な黒歴史時代の名残なのか。

だとしたら喜ぶべきなのか悲しむべきなのか。

 

 

「……はっ」

 

 

材木座、な。あいつは俺がこんなところにいたらさぞ羨むだろうな。本当におとぎ話のような場所だ。

……いや、あいつがそんなやつじゃないことくらいわかってる。らしくなく言えば、信じている。

はぁ、戻った時に泣いてたらマッ缶でも奢ってやるか。

 

 

「どうしたんだ、ハチマン」

 

 

「なんでもない。行くぞキリト。そろそろ一層くらい攻略しておかないとな。

……立ち止まってる暇なんてない。絶対に」

 

 

「ああ、やろうぜハチマン! 絶対攻略してやる!」

 

 

毎日毎日決意を新たにする。リセットではなく、同じことの上書き。

挫けそうになる精神を理性で圧し殺し上書きする。

今までにないくらい窮屈な心の内側に、雪ノ下や由比ヶ浜も同じような窮屈さを感じていたことなんてあったのだろうか、と想いを馳せる。

自分の心のゆとりがほとんどないことなんて、とっくに承知済みだった。

そういう意味で、こうして笑顔を貫いていられるキリトが少し羨ましくて、こいつとパーティを組めることに少し安堵した。




前回と比べ、八幡の精神はより不安定に。景色を見たときの感想の抱き方とか、前よりキツキツです。
モノローグでも原作よろしくなノリよりシリアスチックな口調になってしまっているのも精神の余裕のなさです。
これをどうするか、頑張って書けたらと思います。

ではでは、また改めてよろしくお願いします。


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Episode1,part2

またまた遅れました。
俺ガイル二期、始まりましたね。ちょっと作画変わったかな?
でもみんなたくさん動いてて良かったです!そしていきなりの修学旅行……面白いとこだけど、ちょっと気分が…(笑)
では、始まります。


「……で、用事ってなんだよ。鼠」

 

 

キリトとパーティを組むようになって数日。俺は情報屋――通称"鼠のアルゴ"の拠点を訪れていた。

ベータテスターの情報屋で、このゲームを手助けする情報やそこそこ有名なプレイヤーの情報すら取り扱っている。

キリトや俺、そしておそらくクラインっぽそうなプレイヤーの情報がある。俺の情報も取り扱っていることには少し驚いたが。

 

 

「依頼ダ、ハッチ。依頼人はオレッチでナ」

 

 

「……は?」

 

 

そして、こいつは自分を介して俺へ依頼を投げてくる。知り合った際に奉仕部の理念を説明したら、間接的なお助けマンをやれと言われてしまったのだ。

普段なら意地でも断るところだが、今回は俺の意地と指標の為に受けている。内容は選ぶけどな。

 

 

「お前が、かよ」

 

 

「仕方ないダロ、オレッチ戦闘は無理だしナ」

 

 

「……内容は?」

 

 

「ハッチはこんな噂聞いたことあるカ?

"とある森の奥深くの洞窟に、ログアウトスポットがある"

実際、向かったプレイヤーの何人かは帰って来ないそうダ」

 

 

「何度か聞きはしたな。まぁ、ガセだろ」

 

 

「だろうナ。現に、帰って来ないプレイヤー達はその死を石碑に刻まれてル」

 

 

面白半分の嘘が噂になったのか、あまりの事態に狂った妄想が噂になったのか。

……すがりたい気持ちはわからなくもないが。

 

 

「で、ダ。この噂が、鼠のような情報屋から流れているって噂も立ってル。

……あとは、わかるナ?」

 

 

つまり、この出所の知れない噂は何故かこいつ……またはこいつに良く似た誰かによってもたらされたことになってるわけだ。

まぁ、情報屋からすればそんなガセネタを自分のせいにされたらたまったもんじゃないだろう。

 

 

「つまりは、お前の風評被害を減らすために手伝えと」

 

 

「その通リ! オレッチ自身のことはオレッチがやル。が、もしその場所にモンスターがいたらオレッチは戦えなイ」

 

 

「だから、代わりに戦う人間が欲しいわけだ」

 

 

「一応、ホーシブの理念には叶ってるだロ?」

 

 

「――まぁ、な。それに、お前がこれで情報を集めれないのは困る。俺だってまだ知らないことが多すぎるからな。ベータテスターには知識では及ばないし」

 

 

「攻略組の最前線プレイヤーが良く言うゼ」

 

 

「は? なんだよそれ」

 

 

「ハッチやキー坊のことサ。迷宮攻略するプレイヤー、さらにその前にいるトップ組。あれダ、ネトゲ廃人」

 

 

「身も蓋もない言い方だな……」

 

 

「事実だロ。現にハッチは、キー坊と並べるくらい強い。

攻略組のプレイヤーから、ハッチのことを聞かれるくらいにはナ」

 

 

「嫌な話だ。俺は寄生を連れてく気はないからな。

……行くなら行くぞ」

 

 

話を打ち切ってアルゴの拠点を出ることにする。

これ以上聞いていると、まるで自分のことなのに自分でないような気がしてきて、俺はそれから逃げることにした。

……やれやれだぜ。そういやこのセリフが有名なあの主人公年齢的に同じくらいなんだよな……

くだらいことを考える余裕がまだあったのか、なんて脱線する思考に沈みつつ、俺は歩き続けるのだった。

 

 

―――――

 

 

「ここか……」

 

 

西の森の洞窟。噂の場所はなんとなく人気のない場所だった。

こういうところはエリアボスとか、ちょっと強めの敵がいたりして初心者殺しとして有名になったりするんだよな。

今回のも例に漏れず、その類いだと思うが。

……希望なんて抱きもしない。運営がクリア方法を述べてるんだ。それ以外の抜け道なんてあるかわからない。

あったところで、リスクが大きい。もしアカウントがBANされればリアルからもBANだ。そんなバカな話あってたまるか。

……どうあっても、俺達は人質の立場なんだ。

 

 

「噂の出所自体はお前が突き止めろよ。そこまでは付き合わないからな」

 

 

「わかってル。ついでにしばらく情報料はまけてやル。今回のはさすがにナ」

 

 

「そうかよ。……っと、何かしら準備しとけ、アルゴ」

 

 

洞窟の中から何かが飛び出してくる。あれは、ギミックか?

いや、違う。あれは――

 

 

「ハッチ、あれプレイヤーダ!」

 

 

「わかってる……っ」

 

 

放り出されていたプレイヤーは、しかしその姿を消滅させないことからまだ生きていることがわかる。

が、ぐったりと倒れたまま動かない。いや、動けないんだろう。

絶望か、疲弊か。所詮バーチャルなこの身体は、しかし疲弊する。精神的に詰められるんだ。それは、現実で言うような肉体の疲労のように自身にまとわりつく。

 

 

「とりあえず、生きてはいるか」

 

 

声に出して再確認して、俺はそのまま剣を抜いた。

洞窟の奥からは呻き声、そして現れるのは牛頭の大きな斧を持ったモンスター。

ああ、よくいる強エネミーだ。間違いない。

 

 

「グォォォォォォッ!」

 

 

「――うるせぇな、喚くなよ」

 

 

背後を取って一太刀。できうる限り最速でソードスキルを準備して斬り払う。

あっけなく、そしてそれだけで戦闘は終わった。

思わず呆然と立ってしまう。

 

 

「……え、今ので死ぬのかよこいつ」

 

 

「それくらい強くなってるんだヨ、ハッチ」

 

 

アルゴがどこか得意気な顔でこちらへ歩いてくる。

なんでこいつこんなどや顔なんだ?

 

 

「キー坊の戦闘もハッチの戦闘も見たことあるけド、見てて熱くなるのはキー坊の方だナ。ハッチの戦闘は見てて寒気がすル。倒すよりも殺す。という言葉がよく合うナ」

 

 

「そいつは悪かったな。こういう戦闘方法しか知らねぇからな、他人の評価もどうでもいいし」

 

 

ボッチが培った知識による戦闘方法。それは少なくともこの世界では多分に役に立っている。

だからいい。それに、ここの他プレイヤーの評価なぞ興味もない。俺もトッププレイヤー扱いされるなら、それを利用したい人間を俺も利用する。利害の一致はしているだろう。

 

 

「相変わらずだナ」

 

 

「そんなもんだろ。クリアさえできればそれでいい。ところで、俺はそいつの面倒は見ないからな」

 

 

モンスターに投げられたであろうフードをかぶったユーザーにチラリと目を向ける。

 

 

「わかってル。そこまでは頼まないサ」

 

 

「……ならいい。お前からの依頼はここまでだな。じゃ、俺は行くぞ」

 

 

ぽい。と普通のポーションより強めの回復アイテムを渡して、俺はアルゴと、倒れているフードのプレイヤーから離れた。

……なんとなく、あのプレイヤーから見られているような、そんな感覚がしたが気のせいだろう。

ボッチは元々視線に敏感だからな、今ちょっと感覚が尖りすぎてるだけだろう。

 

 

――side アルゴ――

 

 

「……才能って言うのかネ、あれハ」

 

 

助けたプレイヤーは、まったくの素人。そのくせに尋常ではないセンスを秘めた女の子だった。

初めてキー坊……キリトやハチマンを見たときに近い感覚を覚える。

あの二人を見たときも同じだった。単純に見るものの目を奪うようなキリトの立ち回り、徹底的に相手を倒すために容赦なく殺しにかかるハチマンの攻撃。

そのどれでもない、けれどあの二人に同等のものを覚えた。

 

 

「――キリト、ハチマン、アスナ、か」

 

 

思わず素の口調になってしまう。どうせ誰もいない、だからいい。

きっと彼らは英雄になる。絶望的な未来が予想されるここで、彼らはきっと誰よりも前にいる。

ならば、私はどうする?

 

 

「適材適所。やれることをやればいい。やれないことは誰かにやらせとけ。

だったかナ、ハッチ」

 

 

初めて会ったときに言われたその言葉を思い出して、私も自分の拠点に戻ることにした。

そうそう、偽の噂を流した奴へのお仕置きも考えておかないとね。ハチマンに手伝ってもらった意味がなくなる。

 

 

「――大忙しだナ、お互いに」

 

 

独り言は、誰にも聞こえない。

私は一人笑ってその場を後にしたのだった。




今回はプログレッシブからです。ハチマン、アスナ(顔は見えてない)との初の遭遇。
前に比べ、プログレッシブの内容も挟んでいきます。つまり、アスナは比較的ちょろい。
矛盾が出来すぎないように、なるべくなら無いようにしっかり整合性取れたストーリーでいけるよう頑張りますのでまたまたよろしくお願いします。


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Episode1,part3

フロアボスまでがどうにも長い……ガイルらしさを出そうとするとそこに向かうまでの課程も頑張ってみようと思ってしまうのが原因か…
長くなると思いますがよろしくお願いします!


――side アスナ――

 

 

「……どこにいるのよ、あの人」

 

 

あのとき、あのままやられるはずであっただろう私を助けた剣士。そこに一緒にいたアルゴさんも教えてくれない、多分強いプレイヤー。

――強いか弱いかなんて、素人の私にはまだイマイチわからないけど。

あれから幾分か精神的にまともになった私は、あのプレイヤーを探しながら迷宮の攻略に出ていた。

今、この迷宮を攻略している人間には名も知らない、けど話題になってるプレイヤーがいる。

 

 

「部隊を率いて進む騎士と盾を持たない片手剣の使い手、そして、私を助けた青い影」

 

 

アルゴさんが言うには、私が探す人間はその青い影だそうで(結構なコルを持っていかれた)、その人もこのゲームのクリアを渇望しているらしい。

それは、さらに会ってみたくなる話だった。

私もそうだったから。諦めてからは、精一杯生きて死んでやろうなんて思ったりもしたけど、あの青い影の人は、どうしてリアルに戻りたいの気になった。

……支えが欲しいだけなのかもしれない。けど、でもそれは私をこうやって生かして、前に進ませる。

少なくとも、破滅願望のような何かは今の私にはなかった。

 

 

「ん? お前……」

 

 

「え……?」

 

 

ふと、横から声がかかる。そこには私より背の高い、黒い髪の男の人が立っていた。

程よい長さの髪の毛の頂点からぴょこんと一束の髪の毛……いわゆるアホ毛が立っていて、気だるそうな顔でこっちを見ている。

 

 

「……なにか?」

 

 

「――いや、人違いだったみたいだ。お前も攻略か?」

 

 

「そんなところです。あなたも?」

 

 

「まぁ、な」

 

 

男の人は少し暗い、まるで死んでるかのような目でチラリとこっちを見て軽く頷いた。こんな状況なのだから、暗い目になるのもわかる。

私だって、少し前まではこの人のような目だったと思う。

攻略組だからって、生き生きしてる人ばかりがいるとは限らない。

 

 

「ハチマン、どうしたんだ?」

 

 

「どうもこうもしねぇよ。続き回るぞ、いい加減ボス部屋見つけてここを終わらせたい」

 

 

声のした方には少し小柄な男の子。二人で回ってるのだろうか、ハチマンと呼ばれた人は私に背を向けて歩き出して、少し進んで止まった。

 

 

「……ソロは死にやすいからな、気を付けた方がいい」

 

 

それは、忠告のつもりだったのだろうか。私が答えるよりも早くその人は歩き出して、やがて姿が見えなくなる。

他の人とちゃんと話したの、久しぶりだったな……

 

 

――side ハチマン――

 

 

「……ここか」

 

 

アルゴ経由の依頼をこなしつつ攻略を進めること幾日か。ようやくボス部屋が見つかったらしい。

攻略組と呼ばれる俺達前線のプレイヤーは今日こうしてこれから会議を開き、ボスへと挑むわけである。

あの二人の元へ戻る為の第一歩だ。俺も参加しないわけがない。

 

 

「――なるほどな」

 

 

キリトの姿を見つけて、その近くにあの時洞窟から放り出されたフードのプレイヤーを見つける。

あの時は不意打ちか何かでやられただけで、あいつも攻略組の一人らしい。

アルゴが無駄に太鼓判を押すくらいだから、腕もあるのだろう。だからと言ってあいつの言う通りに面倒なんて見る気はないが。

 

 

「で、あれが見つけた一団、と」

 

 

攻略組の中で噂される三つの勢力。うち二つは個人のことだからあれだが。

まず一つの騎士のような男が率いる集団、というのはあそこの一派で間違いないだろう。なんとなく、葉山達を思い出す。爽やかそうにしやがって。

もう一つの盾無し片手剣の男は間違いなくキリトだろう。あいつ、強すぎるし。防御を取らないのは俺もだが、キリト攻撃は激しすぎるわ腕力高すぎだわで、俺の知る中で最強のプレイヤーと言える。

もう一つ、青い影。これはよくわからん。目撃例が青い影しかない。っていう変な話で、その影の正体を見たことあるらしいキリトやアルゴが言うにはそいつもとんでもなく強いらしい。何故かニヤつきながら言っていた。

あいつらの御墨付きなら間違いないだろうし、おそらくこの中にもいるだろう。せいぜい攻略に貢献してもらいたいもんだ。

 

 

「ハチマン!」

 

 

「……おう、一人か」

 

 

「見ればわかるだろ。――いよいよだな、ボス戦」

 

 

「ああ。ずいぶん楽しそうだな、お前」

 

 

「やっぱりゲーマーの血が騒いじゃうんだよ、悔しいけどな。ハチマンだって、やる気があるからここにいるんだろ?」

 

 

「まぁ、な。楽しめそうかどうかで言えばまた話は別になるけど」

 

 

憎しみばかりが募る。このゲームを初めてしまった自分へ、こんなゲームを作ったあの男へ。

ここにいる連中の中でも俺はおそらくトップクラスに余裕はないだろう。まぁいい、今はやれることをやるしかない。比企谷八幡に戻るためにハチマンを演じるだけだ。

 

 

「……」

 

 

「ん?」

 

 

ふと、フードのあいつと視線(?)が合った。厳密にはこっちを向いただけだからなんとも言えないが。

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

ぺこり。とフードが上下に動いたのを見て俺もそれに倣って会釈する。なるほど、視線が合ったらしい。

と言うか向こうも覚えてたのか。

 

 

「はい、みんな注目!」

 

 

不意に材木座と間違えそうなくらい似た声が聞こえて、今までの思考を全部吹き飛ばしながらそちらへ視線を向けると、騎士然とした装備をした男が広場の中央に立って注目を集めていた。会議が始まるらしい。

 

 

「葉山みたいな材木座か……」

 

 

ふとそんなことを思い付いて、その姿に内心笑って、俺はそちらへ意識を向けたのだった。

 

 




次回ようやくボス戦です!
ちゃんと戦闘描写を書けるように練っておかなくては!ではでは!


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Episode1,part4

長らくお待たせしました。
これからはしっかり書き続けていけると思いますので、またよろしくお願いします。


「じゃあ、パーティを組んでくれ。当日はそのパーティで戦おう」

 

 

騎士のような男──本人もナイトを意識してるらしいディアベルの言葉に全員が思い思いに動き始める。

取り巻きのキバオウとかいうツンツン頭が少し問題を起こしかけたものの、黒人スキンヘッドプレイヤーのエギルとかいうのが介入して事なきを得た。

ベータテスターを排斥しようというキバオウの発言が場を呑まなくて良かったと安堵する。

現状、ここでキリトが動けないのはまずいからな。

 

 

「ハチマン、パーティ組もうぜ」

 

 

「おう。いいぞ」

 

 

基本ぼっちプレイヤーな俺とキリトはこうして二人パーティを組んで終わり。

さっきまでオドオドしてた姿はなくなり、いつもの調子に戻っている。

──さっき、あの空気をどうにかするために無理やりいつもの解消法を使いそうになったが、やらなくて良かったようだ。こいつは感受性豊かだからな、変に背負い込まれて攻略に影響が出ても困る。

 

 

「あとは……」

 

 

基本パーティはフォーマンセル──四人一組だ。と言っても俺はもちろん、キリトもコミュニケーション力に溢れる奴ではなく、故に……

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

進むわけではない。まぁ、変なの拾うくらいならこいつと組んでた方がいい。幸いボスはあの葉山っぽい奴──ディアベルの隊が受け持つようで、俺らは雑魚の処理が主な仕事だ。

死ぬリスク少なくボス攻略ができるならそれに越したことはない。

 

 

「……あ」

 

 

キリトがぽつりと声を出して向かった先はあのフードの細剣使い。あいつ、その場から動いてなかったのかよ。

 

 

「あのさ、良かったらパーティ組まない?」

 

 

「……」

 

 

こくり。俺の位置からでも見えるようにぺこりとお辞儀をして、細剣使いはキリトと何やら話をしている。

やがて、俺の視界の左下、パーティメンバーが映るそこにキリト以外の名前が浮かんだ。アスナ……か。

 

 

「ってことは、あいつ女か……?」

 

 

だからどうってわけでもないが、ここにいるのはみんな男ばかり。女だてらにというやつか、それとも廃人ネトゲーマーか……そもそも男の可能性もあるが。女キャラを作る男は名前もちゃんと女キャラにするからな。

 

 

「鼠みたいな例もあるから、どれも可能性があるか」

 

 

それなら姫プレイしないでくれさえすればいい。邪魔にならなければ。

 

 

「アスナ、こいつがハチマン。俺が知ってる中で一番強い曲刀使いだ」

 

 

「一言余計だ。──よろしく」

 

 

「……よろしく。あなた、迷宮にいた人よね……?」

 

 

「そりゃ、ここにいる奴はみんな迷宮にいた奴だろうよ」

 

 

「……そうよね、よろしく」

 

 

俺の知るこいつの印象は死にかけてた時の印象しかないが、ここにいるってことはそれなりにはできるんだろう。

確かに手を汚したり汚い方法を使うつもりはないが、邪魔と判断したら切り捨てる。

死を見捨てるつもりはないけど、俺は俺の目的の為に利用できるものは何もかも利用する。

 

 

「──と、どうやら解散らしいな」

 

 

「じゃあ、パーティの動きとか確認したいし少し一緒に行動しよう。二人とも、いいか?」

 

 

ただいまのパーティリーダーであるキリトの問いに頷いて、俺は席を立った。普段の俺なら無視して帰るところだろうが、相手はこのフロアのボス。これは遊びじゃない。間違えればリセットもコンテニューも効かない終わりだ。

……ゲームであって遊びではない。茅場の声が頭に響く。

ああ、ずいぶんなクソゲーだ。これなら現実世界の方が何倍もマシだ。

 

 

「……まずはお前からだ」

 

 

まだ見ぬボスへ恨み言を吐いて、俺はキリトについていったのだった。

 

 

──side アスナ──

 

 

「ハチマン! スイッチ!」

 

 

私達のパーティリーダーの彼──キリトくんの声に反応してハチマンくんが無言で躍り出る。

エネミーの目の前まで走って、それから彼の姿がブレて消える。

 

 

「これで終いだ」

 

 

いつの間にか首を跳ねられたエネミーはそのまま青い光になって消えていく。

その姿を濁った目で見つめて、ハチマンくんは曲刀を納めた。

 

 

「……相変わらずおっかねぇな……ハチマンのそれ」

 

 

「こんなもん、ポリゴンの塊だろ。俺らとは訳が違う。容赦するだけ無駄だろ。むしろどうでもいいのは無視するまである」

 

 

キリトくん、ハチマンくんの二人はとても強かった。

キリトくんは私に追い付きそうなくらい速いくせに、凄い手数と力でごり押して行くし、ハチマンくんは私でも追い付けれないくらい速くて、容赦がない。武器の性質と合わせて真っ直ぐ走ることに特化してる私だけど、彼はどの方向へ走るのも速い。代わりに、弱点部位を付けないとあまりダメージが出ないみたい。だから容赦なく首を狙うのかもしれない。

 

 

「こんなもんか。アスナ、だいたいわかった?」

 

 

「ええ、問題ないわ」

 

 

「じゃあ解散だな──と、言いたいとこだが。最後に確認したいことがある」

 

 

「どうしたんだ、ハチマン」

 

 

「ディアベル一味が全滅したときだ」

 

 

「「!?」」

 

 

驚く私とキリトくんを尻目にハチマンくんは表情を変えずに続けた。

 

 

「……まともじゃいられないだろうからな。俺は早々に退く。お前らも頭の中には入れておけよ」

 

 

じゃあな。と歩き去っていく彼を見つめてから、私はキリトくんと顔を見合わせたのだった。

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 

眠れない。明日ボス戦だと思うとやっぱり緊張する。

私達のパーティは人数のこともあって末端のボスの取り巻き担当。だから、何もないはず。けど、やっぱり落ち着かない。

私が泊まる宿のある村は夜になると人がまったくいなくなって、その中にいるせいか、余計に孤独を感じる。

 

 

「……向こうはどうなってるのかな」

 

 

心配してくれてはいると思う。けど、体裁を保つことも考えてると思う。

こんな風に考えてしまうこと、それと──こうして必死に戦っている今の方が生きている気がして、なんだか悔しかった。

 

 

「……うん?」

 

 

夜の村を、何かが横切った。普段なら見えないはずの暗さでも、ゲームの中の私の目はそれが誰だか認識させてくれた。あれは……

 

 

「ハチマンくん……?」

 

 

同じ村だったのね。なんて思いつつ、彼がどこへ向かうのか気になって後を追いかける。気づかれるかな? と思ったけど、そんなことはなくて、彼は森の中で向かってくるエネミーを片っ端から斬って捨てると、その奥にある休息場所で立ち止まった。

明日に向けての練習かな……?

 

 

「……くそ、くそ……」

 

 

がくり、と膝をついて小さな声が聞こえてくる。それは、あの何を考えてるかわからないハチマンくんの、私が初めて理解できた感情だった。

 

 

「怖がってる場合か……死なない。絶対に帰る……あいつらに会うまで死ぬわけにはいかないんだよ……くそ」

 

 

恐怖。それは、今の私ですら少し麻痺してしまった感情。

あんなに強いハチマンくんは、その恐怖に怯えていた。

 

 

「やる、やってやる。そのためにここまでやってるんだ」

 

 

無機質に見えた彼は、実は誰よりも人間らしいのかもしれない。

そう思えて、気が緩んでしまったのか。私は木の枝を踏んでしまった。変にリアルなこのゲームは、それでちゃんと音がする。

 

 

「っ、誰かいるのか?」

 

 

全速力でその場を後にする。彼の足の速さならすぐに追い付かれるだろうけど、それでも走る。あんなのを盗み見られるのなんて、絶対嫌に決まってる。だから、私はそこから逃げた。

幸いにも、ハチマンくんは追いかけてこなかった。

 

 

「……明日、がんばらないと」

 

 

知ってしまった一つの真実に、私は決意を新たに宿へと戻ったのだった。

 




今回、以前のぼっちアートとは違う、アスナ視点からのハチマンを見せてみたりと復帰早々違う試みをやってみたり。感想で教えていただいたやり方で──がちゃんとできてとても気持ちがいいです。
次回はようやくボス戦。そのままエピソード1の終わりになると思います。またまたよろしくお願いします。そしてこれからもお付き合いください。では、また。


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Episode1,part5

書き溜めしてるのはここで吐いていこうということで連続投稿です。
これで終わると言ったな、あれは嘘だ。
……次回で終わります。


「おはよう」

 

 

「あー、おはよう……?」

 

 

広場で会うなりいきなりアスナに挨拶された。どうしたんだ? あいつ……

まぁいい、今日はボス戦だ。昨日、あんなにも身体に纏わりついていた恐怖心は沸き上がることもなく、コンディションもそれなりだ。

この恐怖心を誤魔化せているだけかもしれないが、それでもいい。最初から躓くのだけは避ける必要がある。

 

 

「みんな、よく来てくれたね。首尾よくクリアしよう。そして、全員で生きて二層への扉を開くぞ!」

 

 

おぉー! という声がたくさん響いて、俺達は歩き始めた。

俺? もちろん言うわけないだろ。

 

 

─────

 

 

ボス部屋は、広く作られた空洞だった。洞窟と言えばいいのか、鍾乳洞と言えばいいのか、いかにもファンタジーな所ではある。

 

 

「キリト、アレとはやりあったことは?」

 

 

「ベータテスト時代はあいつ倒すまでで終わりだった。って言っても、ゾンビアタックしてたから参考にはならないけどな」

 

 

「まぁ、普通はそれが正解だからな」

 

 

ボスの名前や簡単な情報が現れて、次いで取り巻きの雑魚が複数現れる。

ディアベルの掛け声に合わせて、俺達は抜刀した。

 

 

「 キリト、アスナ」

 

 

「ああ」

 

 

「うん」

 

 

やる。やってやる。お前らなんて、俺があいつらの元へ帰るための最初の障害だ。足踏みなんてしてられるか。

そんなことしてる暇あるなら、その足で踏み潰してやる。

 

 

「っ……来るぞ」

 

 

俺は、一息で前へと駆け出した。

 

 

──side other──

 

 

「っは……」

 

 

取り巻きのモンスターを任された集団から弾かれたように青い影が躍り出た。それは誰の目にも止まらぬまま、影を伸ばしてモンスターの首もとに纏わりついて、その首を撥ね飛ばした。

 

 

「はやっ……」

 

 

そう呟いたのは誰か。影が人の形を作る頃には、彼に続いて二筋の光が舞った。

ソードスキルが発動している証であり、それらは影の主──ハチマンに続きモンスターを消滅させる。

呆気に取られていた他の攻略者達も、慌てて彼らに続いていた。

 

 

「一番手はハチマンだな、やっぱり。速すぎるぞ」

 

 

「ならお前ももっと敏捷に振ったらいいだろ」

 

 

「いや、無理」

 

 

力強い太刀筋がキリトの目の前に立つモンスターを切り裂く。片手で放たれたそれは、モンスターを左右へ分断していた。

 

 

「……バカ力か、お前」

 

 

「その言い方は酷くないか?」

 

 

「二人とも、集中して」

 

 

アスナの刺突により穴の空いたモンスターがポリゴンへ還り消滅する。

明らかに殲滅スピードの早いこの三人へ、他の攻略者達の視線が向くのも無理はなかった。

 

 

「とりあえず第二波も終わりだな」

 

 

「今のうちにポーション飲んどけよ。……あれだけしか被弾してないのにキリトより減ってるのか、俺」

 

 

「ハチマンくん、大丈夫?」

 

 

「見ての通りだ。死ななきゃ安い。ポーションあるうちだけな」

 

 

昨夜の出来事が頭から離れないアスナとしては、そう言った心配ではないもののハチマンが気づくはずもなく、彼は曲刀を肩に担いだ。

それからボスと戦うディアベル一派を眺めて、キリトへ視線を向ける。

 

 

「向こうも、攻略組で名前をあげてるだけはあるな。そう思うと、お前がここにいるのは宝の持ち腐れにしか思えないが……」

 

 

「どういうこと?」

 

 

「攻略組の盾無し片手剣士。あれ、こいつな」

 

 

チラリとキリトを見て言うハチマンに、少しの驚きを見せつつも納得気味のアスナ。

キリトの戦いぶりを見て、合点がいったらしい。

 

 

「そういうハチマンこそ、勿体ない」

 

 

「あ?」

 

 

「攻略組の青い影。あれ、ハチマンのことなんだぞ?」

 

 

「は?」

 

 

「えっ?」

 

 

反応こそ若干違うものの、キリトを見つめてハチマンとアスナが固まった。

そして、アスナはそのままハチマンへ顔を向けた。

 

 

「ハチマンてば全然気づかないんだもんな。自分が攻略組のトップに名を連ねてるって」

 

 

いたずらが成功したと言わんばかりのキリトに対して、ゲーム内での過剰な感情表現も相まってか顔を青くするハチマン。かつての自分の黒歴史時代を思い出してしまったらしい。彼は天井を見上げため息を吐いた。

 

 

「じゃあ、あなたが私を助けてくれた人……なの?」

 

 

「あ? ──あー、まぁそうか。あれはアルゴに頼まれてついてった先でお前がいたからな。助けた、って言うには語弊がある」

 

 

いつかの出来事を思い出してか、ハチマンは頭を軽く掻いて肯定する。

フード越しで顔が見えてないとは言え、自分に顔が向けられていることが嫌なのか、露骨にバツの悪そうな顔をしてハチマンはそっぽを向いた。

 

 

「話はおしまいだ。次が来るぞ」

 

 

そう言って話を打ち切って、ハチマンは再び黒い影となってモンスターの群れへと走り出したのだった。

 

 

──side ハチマン──

 

 

もうどれくらい戦っただろうか。何回目かの雑魚の殲滅の後、ボスが大きく咆哮した。見れば、体力は残り三割を切っておりあとわずか、と言ったところだ。

 

 

「武器が切り替わるぞ、気を付けろ」

 

 

「……そうなのか?」

 

 

ディアベルの叫び声に、俺はキリトへその事実を確かめた。

あいつももしかしてベータテスターか? なんだよそれ、ならキバオウの首ちゃんと繋いでおけよ……

 

 

「ああ」

 

 

短く肯定したキリトから、またボスの方へ視線を向ける。

野太刀を取り出したボスへ、ディアベル達は突撃していた。

 

 

「っ! バカ! 武器が違うぞ! 気を付けろ!」

 

 

「え?」

 

 

キリトの叫び声と、ボスの周囲に赤い和ができたのはほぼ同時だった。

ああ、あれは知ってる。見覚えがある。主に自分のスキルとして。

 

 

「うわっ!」

 

 

「ぐぁっ……」

 

 

範囲攻撃。しかも、食らった全員が座り込んだところを見るとあれは転倒の異常付きらしい。

盾で防いだディアベルを除き、全員が転んでいる。

 

 

「みんな、体勢を立て直して下がってるんだ! あとは俺がやる!」

 

 

「は? いやちょっと待てよ」

 

 

おかしいだろ、あと少しだからこそ万全を期すべきで、あいつ……何か狙ってるのか?

 

 

「これで終わらせてやる! でやぁぁぁぁっ!」

 

 

「やめろディアベル! 引け!」

 

 

キリトの叫び空しく、突撃したディアベルは宙へと浮き上がり、そして──

──ポリゴンとなって消滅した。

 

 

「……ぁ、ああ……」

 

 

「ディアベルはん……うそや……?」

 

 

止まるのはこちら。止まらないのは向こう。

最初の獲物を屠ったボスは、次の獲物に目をつける。そう、ディアベルのパーティへ。

 

 

「っ! おぉぉぉぉっ!」

 

 

俺よりも速く、キリトがボスの太刀を受けた。続いてアスナが、エギルがディアベルのパーティを後ろへ下げる。

この状況下で、戦うことはできる。できるが……

 

 

「無理だ……ディアベルがやられたら、俺達には……」

 

 

「やだ、死にたくない……あんな……」

 

 

士気は最悪。一対一でリーダーがやられた以上、この士気の低下は免れない。

 

 

「何言ってるんだ! ここでやらなきゃ、進めない!」

 

 

「そんなこと言っても、無理なものは無理だろ……どうするって言うんだよ……」

 

 

キリトが言葉を返せば、誰かが嘆く。ネガティブと言うのはポジティブよりも伝達しやすい。絶望。その二文字が場を支配していた。

 

 

 

「……いいかお前ら、よく聞け」

 

 

……ならば、やるしかない。適材でも適所でもない。俺はキリトやアスナに早々に退くと宣言していたはずなのに。

負けることには慣れているのに。敗けが当たり前なのに。

 

 

「ディアベルに万が一があったときに言えと言われてた言葉を伝える。証拠なら……そうだな、俺はベータテスターだ。これで奴に信頼される理由になるだろ」

 

 

「ハチマン……?」

 

 

「もしもディアベルに何かあれば、そこのキリトを筆頭に続け。それがあいつの言葉だ。信じるか信じないかは任せる。が、信じておけ。ここで勝てなきゃ俺らはどうせ死ぬぞ」

 

 

死人に口無し。嘘も誰も気づかなければ本当になる。

悪意の集束ではない、他の意思の集束。こんなところで上手く言えるとは、なんていう皮肉だろうな。

 

 

「けど……」

 

 

「でも……」

 

 

それでもまだ一押し足りない。まだ──

 

 

「全員! 注目!」

 

 

そんな俺の思考を遮ったのは、アスナの大声で。俺の視界に入ったのはフードを投げ捨てたアスナの姿だった。




プログレッシブだったり原作だったりオリジナルだったり。なんかいろいろごっちゃですが、それがぼっちアートだということでご容赦ください。
ガイル11巻早く買わねば……


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Episode1,part6

これにてエピソード1終わりです!
前と比べて自分の納得行くようにキャラの感情を動かせてるかな……と。久々の執筆でダメダメ感はありますが……
徐々に上手くやっていくよう精進です!


「彼の言うことは本当です! 私も聞きました。これでもまだ信用なりませんか?」

 

 

アスナは美少女だった。そんなどうでもいいことを考えれるくらいには頭が麻痺している。

あいつ、まさか乗ってきたのか……?

 

 

「──」

 

 

こちらを見て片目を閉じるアスナ。確信犯か。

……今回ばかりはそれに救われたが。

周りがなんとなく、俺とアスナの言葉に耳を傾けている。

 

 

「キリト、アスナ」

 

 

なら、もう少し。もう少しだけ、適所から外れよう。

雪ノ下と由比ヶ浜に会うためだ。その為なら、できることならなんでもやる。

多少の危険も請け負う。その上で死なないよう立ち回る。

 

 

「時間を少しやる。こいつら立て直して一気にやるぞ」

 

 

俺は二人の更に前へ。ボスと一対一で対峙するかのようにして立った。怖いさ、怖いとも。それでも、ここで躓いて、そのせいで雪ノ下達に永遠に会えなくなることの方がよっぽど怖い。

向き合うことによる死の恐怖より、逃げることで生まれる死の恐怖の方が怖いなんて、本当にらしくない。らしくない、が。

 

 

「ハチマン、まさか!」

 

 

「無理だと思うなら早く立て直してくれよ。俺も死にたくねぇ」

 

 

「……わかった。無理だけはするなよ!」

 

 

キリトの声が少し離れる。説得と、協力を呼び掛けに行ったのだろう。アスナも同じようだ。

ああ、俺みたいなぼっちよりもあいつらの方が数倍相手にされやすい。だから、適所ではないけど、適材。

 

 

「……ったくよ、それもこれも全部お前らの産みの親のせいだ。こんなところに閉じ込められて、こんなわけのわからないことに命かけさせられて、ふざけるなよな」

 

 

だから、切っ先を決意と共に改めて向ける。

 

 

「だから、まずはお前だ。お前からだ。

──殺すぞ、化物野郎」

 

 

野太刀を振り上げたボスへ、俺は真正面から駆け出した。

俺はここにいる誰よりも速い。だからこそ、軽い。

腕力がないからアレを受け止めることはできないし、重装備でもないから食らうことも許されない。

でも、だからこそ。

 

 

「当たるかよ、そんなもん」

 

 

見るからにパワータイプなこのボスとの相性はとてもいい。

すれ違い様に首を斬りつけて、振り返ると同時に背中へ一太刀。

当たったら終わりな俺は、だからこそ当たらないようにできている。ああ、これはきっと後で振り返って黒歴史確定なんだろうなぁ……

 

 

「一撃が弱いかやっぱ。硬いと一人じゃダメージ通しづらいな」

 

 

首を狙うにしても、向こうが俺しか見てないから簡単にはいかない。

一撃離脱を繰り返す俺の戦い方はあいつと打ち合い続けるわけにもいかない。というか打ち合いにすらならない。俺が吹き飛ばされておしまいだ。

 

 

「……はぁ」

 

 

再び、俺は深く腰を落として駆け出した。

真正面からの振り降ろしは横っ飛びで避ける。そのまま一撃見舞って背後まで全力疾走。後ろから何度も斬りつけて、すり抜け様に横一文字。さっきよりは手応えありか。

残り三割から長いな……

 

 

「いい加減もう終われ──」

 

 

手応えのあった一撃に呻きながら振り回した野太刀が身体を掠る。それだけで俺の体力の三割を削り、俺は慌てて後ろへ下がった。

 

 

「わかってはいたが、直撃したら終わりだな」

 

 

……足が進まない。ポーションは飲んだ、体力も戻した。が、目に見えた死の形に、俺は恐怖していた。

 

 

「……くそ」

 

 

ここで本物のヒーローなら動けるんだが、生憎と俺はアンチヒーローだ。そういった補正が働かないからこうして徹底的に立ち回るし、無理をしない。

つまりあれだ、また自分から攻めるには少し時間がいる。

死ねない。という強い意思ならいい。死にたくないという消極的な意思は俺の足を止めるには効果覿面だった。

このままではいたずらに時間だけが……

 

 

「ハチマン! 待たせた」

 

 

「……おせーよ」

 

 

そこでようやく、ようやくキリトがやってきた。

ぞろぞろと周りのやつらもやってきたようで、俺は曲刀を持った手をおろした。

 

 

「あとは任せたわ、キリト」

 

 

「ああ、ありがとう! お前ら行くぞ! クソ運営に目にモノ見せてやれ!」

 

 

おおおおおお! なんていう怒号と共にキリト他多数が突撃していく。

それを見つめながら俺は大きく息を吐いて立ち尽くすことにした。

 

 

「ありがとう、ハチマンくん」

 

 

すっかり美少女になったアスナが俺の隣へ立って、こちらへと笑いかける。

──やめろよ、勘違いしちゃうだろ。って普段なら言えるんだけどな。やっぱり、俺もどっか狂ってるらしい。

 

 

「美味しいとこはいくらでもやるから、もっと人使いを優しくしてほしいもんだ」

 

 

「ふふ。──ねぇ、ハチマンくん」

 

 

「あ?」

 

 

「ハチマンくんは、破滅願望ってない?」

 

 

「なにさらっと恐ろしいこと言ってるんだよ。あるわけないだろ」

 

 

「そっか。この状況に諦めたりとかってしなかったの?」

 

 

「諦めれるかよ。絶対に。これだけは諦めるわけにはいかない」

 

 

敗けしか知らない俺の、ただ一つ敗けるわけにはいかないこと。

どうしたんだこいついきなり。ボス戦はまだ終わってないってのに。

 

 

「キミは、強いんだね」

 

 

「はっ、そんなわけあるか」

 

 

こいつ、なんか勘違いしてないか? 俺が強かったとして、それはここだけでの話だぞ。

 

 

「ううん、一度でも折れてしまった私に比べればよっぽどだよ」

 

 

「……お前、意味わからない奴だな」

 

 

「あ、ひどい!」

 

 

何が楽しいのか、アスナは笑っていた。

アスナだけじゃない、キリトも、他のプレイヤーも。どういうわけかみんなどこか笑っている。

──ああ、そうだ。それが持つものの役割だ。リーダーシップと言うのはそういうものだ。俺が先陣切って一対一でやったくらいじゃできない。リーダーシップを取れる人間が持つ個性みたいなもんだ。

 

 

「これで、トドメだぁぁぁっ!」

 

 

俺の目の前で、キリトの一撃がボスを斬り裂いて消滅させていた。

 

 

「……勝った、な」

 

 

人知れず、俺は左手をグッと強く握ったのだった。

行ける。これなら、進むことはできる。

雪ノ下、由比ヶ浜、悪いな。遅れるけど、約束は絶対に守るから。待っていてくれ。

 

 

─────

 

 

「キリト」

 

 

「ハチマン! やったぜ!」

 

 

「ああ」

 

 

ラストアタックボーナス。トドメを刺した者に与えられるアイテムを入手したキリトは早速それを装備してこちらへと小走りでやってきた。……弟でもいたらこんな感じなのか。いや、小町みたいになつくか怪しいから一概には言い切れないが。

 

 

「……その、助かった」

 

 

「キバオウ……」

 

 

それだけ言って、キバオウは後ろへと消えていった。リーダーを失ったんだ、かける言葉はあるわけがない。

 

 

「ハチマン、俺らいいコンビになりそうだな」

 

 

「バカ言え、俺とお前とじゃ立ち位置が違う。お前はこれからこいつらを率いる身で、俺は率いられる身だ。こういうのは今回限りだ」

 

 

「ええ……そんなこと言うなよ。俺、ハチマンとは本当に友達になれると思ってるんだぜ」

 

 

「……もうフレンドだろうが」

 

 

気軽にそんな言葉を言わないでくれ。その言葉は、今の俺には──重い。

 

 

「そういう意味じゃなくってだなぁ──」

 

 

「何故だッ!」

 

 

それでも何か続けようとするキリトの言葉を、誰かの言葉が遮った。

モーゼよろしく人垣が割れて、そこにいたのはディアベルのお供の一人……名前は忘れた。そいつを先頭に何人かがこちらを──キリトを涙を浮かべ睨み付けている。

 

 

「何故、あのときにディアベルさんをすぐ助けなかった!

お前、ボスが持ち変えた武器がベータテストの時と違うことに気づいていただろう!」

 

 

「……それ、は……」

 

 

「実はラストアタックボーナスが欲しくて、ディアベルさんを見殺しにしたんじゃないのか!? なぁ!」

 

 

「おい、変な言いがかりはやめろよ。キリトはディアベルの遺言通りに──」

 

 

「それがおかしいんだ! お前達、全員グルになってるんじゃないだろうな? おかしいだろ、この層であの強さも」

 

 

……空気が、気持ち悪くなっていく。

ああ、これは知っている。よく経験したし見てきたし受けてきた。

出る杭は打たれる。異端の抹殺。日本人特有のくだらない和という奴だ。そして、ここはネットゲーム。リアルに近いとは言え、しかしゲームだ。

 

 

「……まさか、本当に……」

 

 

「あいつら……」

 

 

一人が声を大にして叫べば、疑心がある奴は勝手にその心を肥大させていく。

ましてやゲームの中じゃ、リアルにはない嫉妬や羨望が混ざる。

強い自分を見てほしい、自分はこんなにも戦える。それがどうだ、さっきまでボスに必死だったが終わってみれば活躍したのは一握り。そのうちの特に目立った者へそう言った負の感情が向くのはわかりやすいことだった。

 

 

「……はぁ」

 

 

キリトが何か深く落ち込んでいるようで、しかし次第にその口元を笑みの形へ変えていく。それで、なんとなくこいつの思考が理解できた。

……無駄なところでやろうとしてることが同じというか、それをこいつにやらせるわけにはいかない。キリトはこれからアスナや他のプレイヤーと共に攻略組の先頭に立たないといけない。そういった悪意の集束先は適任がここにいる。

 

 

「──悪いな、二人とも。戻ったらなるべくやらないようにするから、ここでは許してくれ」

 

 

悲しそうな顔でこちらを見る雪ノ下と由比ヶ浜が見えた。

あの二人の顔がなんであれ思い出せることに、俺は場違いな安堵を覚えていた。

 

 

「あのな、お前らバカか? なんでディアベルが死んだかって、アホみたいな単騎特攻したからだろうが。

仮にキリトがベータテスターだったからとは言え、ディアベルが死んだ理由にはならない。あいつが立場も実力も弁えなかった結果だ。現に俺はこうして生きてる。あいつと一対一でやりあってな」

 

 

「ハチマン……?」

 

 

「揃いも揃って情けないな、お前ら。ここはゲームなだけじゃないんだよ、失敗したらゲームオーバー。リセットもコンテニューもできない。弱ければ死ぬし、攻略できなければやっぱり死ぬ。ディアベルはおそらくラストアタックボーナスを知ってたとかじゃないのか? だからあんな特攻をやらかして、案の定散ってった」

 

 

「きっさま……」

 

 

「そろそろまともな言葉で反論してくれ。人を呼んで睨むだけなら誰でもできるぞ」

 

 

そう、これでいい。これが俺。

比企谷八幡の一番得意かつコストが少ない常套手段。

 

 

「示してくれよ、頼むから。これから先もこんなじゃいつか終わるぞお前ら。俺は攻略したくてここにいる。お守りしに来てるんじゃない」

 

 

この場において、ボスと一対一で戦った俺の言葉は重い。

奴らが俺をトッププレイヤー扱いしてくれるなら、せいぜいその肩書きも利用してやる。

 

 

「……なんだ、言いたいことあるなら言えよ」

 

 

全員の視線が俺に向く。これも知ってる。外敵を認識した時の視線だ。

いい、それでいい。

 

 

「安心しろよ、これから先攻略はしっかり進めてやるしボス討伐にも参加する。指示あれば従ってやるし役割は果たしてやる。

が、弱い奴のお守りまでは知らない。利用してやるから、せいぜいお前らも俺を利用してくれよ」

 

 

じゃあな。と切って終わりにする。

これだけ煽ればキリト達には悪意は向かいづらいだろうし、上手くすれば攻略組の水準も上がるだろ。

殺されそうにでもならない限りは俺は俺のポジションを貫こう。

どの和にも入らないイレギュラー。材木座の好きそうな言い方だな、これ。

 

 

「ハ、ハチマン……」

 

 

「あー、キリト。お前ももういいわ、そこそこ役に立ったし。そういうわけでもう用済みだから関わんな」

 

 

最後の仕上げをして、俺はその場を後にする。ボス部屋から出て、そこでフレンド欄を開いてキリトを指定。

 

 

──俺、ハチマンとは本当に友達になれると思ってるんだぜ。

 

 

「……悪いな。フレンドですらないぞ、俺とお前は」

 

 

フレンド削除。最後に残ったクラインは、どこかでなんとかやってるだろう。

こいつは別にいいか。攻略組に来るかもわからないしな。

 

 

「こんなことですら後ろめたく感じるなんてな」

 

 

何度目かわからないあの二人への謝罪を心で済ませ、俺はその場を後にしたのだった。

 

 

Episode1.Fin

 




前回と比べ、ハチマンは原作のアスナ的な思考に、アスナはプログレッシブ準拠な思考に。
めんどくさいキャラが一人消えたくせに一人のめんどくさいキャラが更にめんどくさくなったという罠。
キバオウの扱いも、こちらの方が先の展開に無理なくいけるということでプログレッシブ側に。
さて、次からエピソード2です。また改めてよろしくお願いします!


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Episode2,part1

前では現実サイドの話からでしたが、今回はいろいろな都合上SAO内からスタートになります。



「まさか、ゲーム内で一歳年取るとはな……」

 

 

一層攻略から半年ほどして、俺は二十一層の迷宮を歩きながら一人呟いた。あれから結構なペースで攻略は進み、かつ死者は攻略組のボス討伐グループからは出ていない。

上手くやれている、とは言えるだろう。

 

 

「っと、沸いたのか」

 

 

手に持った刀を構えて一閃。首と胴が離れたそいつはポリゴンとなって消えた。

あれから俺を含め、いくつか変化が起きた。まずはこの俺の武器。曲刀を順調に使い込んでいったら刀が使えるようになっていた。エクストラスキルというやつだそうで、その条件を満たしたらしい俺は曲刀のスキルを一通り覚えてからこちらの刀に武器を変えていた。より太刀筋少なく、クリティカルダメージを出すこの武器は俺向けだと言える。

 

 

「ん、レベルが上がったな。こっちもよし、と」

 

 

攻略組は今二つのギルドと二人──正確には一人のプレイヤーが中心になっている。

ギルドは主にアインクラッド解放軍と聖龍連合と言うギルドで、あのディアベルの取り巻きがそれぞれ興したギルドである。大規模な戦力を誇る軍と、攻略組を打数擁する聖龍連合。これらの存在は攻略組に入ったプレイヤー達にもありがたい存在だろう。すぐに仲間ができるのは一般的にはいいことだろうからな。

逆にソロプレイヤーはキリトとアスナ……主にアスナの元につくことになっている。というか、作戦とか立てる時は主にアスナが中心だ。あいつのカリスマ性というか、女でかつあの容姿と実力もあるんだろう。見事な姫騎士様だ。

そこ、くっころとか言わない。

他には、驚くべきことにクラインが率いる風林火山。リアルフレンドだけの少数ギルドだが、攻略組の中継として欠かせないポジションであり、そして全員の錬度も高い。

 

 

「っと、もう一匹──」

 

 

武器を振るう腕を斬り飛ばし、そのまま首を撥ねる。この倒し方が完全に定着してしまったせいか、あの妙なあだ名がつけられたのか……

 

 

「首斬りハチマンか。ずいぶんなこって」

 

 

他には影纏いとか。俺は一層のあれ以来完全ぼっちプレイヤーだから、どういう意味があってそんな名前がつけられてるかは知らないが。

これ、やっぱりリアルに帰ったら頭抱えそうな気がする。

 

 

「……あれ、ハチマンくん?」

 

 

「──お前か、アスナ」

 

 

首を撥ねて消えたモンスター越しに白を基調とした装備をつけたアスナが立っていた。

珍しいことでもなんでもない。お互い目的は同じだ。

 

 

「キミも攻略、よね?」

 

 

「当たり前だ。というかそれ以外に何があるんだよ」

 

 

「あはは、それもそうね。にしても、久しぶりね。ハチマンくん」

 

 

少し早歩きでこちらへ来て、アスナはにこりと笑顔を浮かべた。何を開き直ったのか吹っ切ったのか、おそらくこちらが素であろうこいつのこの明るい性格は攻略酌みでも大人気だ。アスナにいいところ見せたくて頑張ってるやつもいるだろうな。

 

 

「相変わらずね、首斬りさん」

 

 

「その呼び方やめろ」

 

 

「じゃあ影纏い?」

 

 

「……お前な」

 

 

「あはは、冗談です。ね、ハチマンくん。ちょっとパーティ組まない? 情報交換も兼ねて」

 

 

「お前の場合、断ってもついてくるじゃねぇか、ストーカーめ」

 

 

「あ、それひどい」

 

 

一層攻略後から、俺はアスナ(とあとキリトもか)にやたら付きまとわれる。どんなに辛辣な言葉をぶつけてもこの女怒りもしなければ諦めもしない。

キリトはキリトで毎回ボス攻略では人の近くにいるわ無言でパーティ申請送ってくるわで、正直怖い。

 

 

「お前らな、俺といたって何も得しないだろ」

 

 

「それは私やキリトくんが決めること。そもそも、そんな勘定をしてないよ。私も、きっとキリトくんも」

 

 

「いや、それはさすがに……」

 

 

おかしいだろ、こんな状況下で損得勘定なしに動くとか。そんなわけ──

 

 

「ハチマンくんがひねくれ過ぎなの。キミはあんな風に悪役演じて満足かもしれないけど、私達にとってはいい迷惑よ」

 

 

「演じたわけじゃねぇよ。本音で思ってる」

 

 

「キリトくんのことも?」

 

 

「……当たり前だろ」

 

 

「あ、今間があった。あとそっぽ向いた!」

 

 

こいつは……

 

 

「お前、めんどくさい女だな……」

 

 

「面倒な男の人に言われたくないわよ。ほら、行きましょ?」

 

 

ここまで強引な奴はあまり知らない。他にいたら迷惑過ぎるが……

ため息を吐いて、俺はアスナについていくのだった。

 

 

「よし、終わりっ!」

 

 

アスナの刺突がモンスターを消滅させて、ポップが一旦終了する。その隙にセーフティエリアへと入り、俺はベンチへ腰掛けた。隣にアスナが座るので、端に寄って距離をとる。

 

 

「……まぁ、いいとします」

 

 

不満そうな顔をこちらに向けるが、そんなものは知らない。

 

 

「何度も言うけどな、俺にとってお前らはゲームクリアの為に利用する存在で、お前らにとっても俺はゲームクリアの為の駒だ。それでいいし、そうであるのが理想だ。キリトもお前も、俺に関わる必要はないだろ」

 

 

「私も何度も言うけど、ハチマンくんを心配することの何がいけないの? キミの言葉を借りて言えば、ゲームクリアに必須なプレイヤーの安否を気遣うのは何も変なことじゃないと思うけど?」

 

 

「俺は心配される必要ねぇよ」

 

 

「どうかしら、ハチマンくんもそういうところは信用できなさそうだし」

 

 

ああ言えばこう言う……こんなタイプの奴は関わったことないから、とてもめんどくさい。

 

 

「信用なんてしなければいい。期待するだけ無駄だろ。

こんな嘘だらけの紛い物なゲームの中で、そんなところで築いたものなんてたかが知れてる。本物にはなれない」

 

 

俺が求めた本物は、俺の手で閉ざしかけてしまっている。

それをこんなところで求める必要はないし、そんなの、あいつらへの冒涜だ。

 

 

「ハチマンくん……?」

 

 

「……俺はこのゲームが開始した時から止まってる。だから関わるな。お前らは動けるんだから、動ける人間同士でやっておけ」

 

 

会話をそれっきり打ち切って立ち上がり、意味はないものの大きく伸びをする。

 

 

「続きやるなら行くぞ。行かないならここでお別れだ」

 

 

「あ、行く! 待って、ハチマンくん」

 

 

あいつらは、こんな俺を見てなんて言うだろうな……




ハチマン……攻略難度上がりすぎか……
前と違い、ハチマンの方向性がしっかりしちゃってるせいで大変意思の強い状態に……
でもあれですね、冷徹(のつもり)で振る舞って、イレギュラーに振り回されて動揺したりして「なんでお前は……」とかってデレてくキャラって王道だけど萌えますよね(笑)

では、次回にてまた!


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Episode2,part2

約半年ぶりの投稿となります。
ひっそりとまた再開……
一日って二四時間じゃ足りませんね……


「収穫は特になし、か」

 

 

レベルがいくつか上がっただけよしとするべきか。あれからアスナと別れた俺は拠点にしている宿がある村へ戻ってフラフラと歩いていた。

 

 

──ハチマンくん、"今まで"と"これから"じゃ、意味は大きく変わるんだからね!

 

 

別れ際のアスナの言葉はいまいちよくわからないが、気にかけられているのは嫌でもわかる。

おかしいだろ、付き合いだって特別長いわけでもない。パーティ組んだから? ならそれはただのつり橋効果だろう。

 

 

「自分の経験則やソースが役に立たないのは厄介だな」

 

 

今まで、良かれと思ってした行動ですら全部裏目に出て失敗してきたこの俺が、悪かれと思ってした行動ですら好意的に取られる。なんで今さら。そう、なんで今さら。

ここまで命懸けだから、奴らが全部打算じゃないことくらいわかってる。どこまでかはわからないが、言葉に嘘はないんだらう。でも、だからこそ──

──俺は、あいつらについてはいけない。あの時、自分から言い出しておいて雪ノ下を、由比ヶ浜を待たせてしまっている。何よりも本物が欲しいと思えた二人を置いて、俺がこんな紛い物の中で人との繋がりを得るなんてまちがっている。

リアルに戻り、あの二人へ謝って、そこから比企谷八幡はようやく動き出せる。だから、俺は──

 

 

「あれ、ハチマンじゃねぇか!」

 

 

「……あっ」

 

 

「──ん? クラインと……」

 

 

キリト、か。まずったな、同じ村にいたのか。

足早に去ろうとする俺は、風林火山の面々に囲まれてしまった。

なんだよこれ、強制エンカウントかよ。

 

 

「お前さんも迷宮攻略の帰りか?」

 

 

「……まーな。何もなかったけど」

 

 

「俺らもなんだよ。つーわけで、飯食おうぜハチマン」

 

 

「ことわ「却下。ほら、行こうぜハチマン」

 

 

有無を言わさず連れて行かれる。

……どうしてこう、ここの奴らは強引なのが多いんだ……

 

 

─────

 

 

「そういやハチマン、ギルドのメンバー全員刀になったぜ」

 

 

「そうか、良かったな」

 

 

連れてこられた飯屋で、俺とキリトを向かい合わせてそれを囲むように風林火山が座る。

ってかなんなのこれ、キリトもなんでそう気まずそうで嬉しそうなんだよ。

 

 

「……で、何の用だよ」

 

 

「いやー、攻略はどうだ?」

 

 

「特に何も。さっきも言った通りだ」

 

 

「だよなぁ。今回、結構深い迷宮なのかもな。敵の強さも上がってきてるし気をつけないとだな。

まだ、中級上がりの新規攻略組の奴で命を落とす奴もいるしな」

 

 

「何も最新の場所でレベル上げする必要はないんだがな。ネットゲーマーの習性なんだろうが、死んだら元も子もないし」

 

 

「難しいところだよな、そういう意味でお前さんやキリトは凄いと思うよ、俺は」

 

 

「別に、俺は勝手にやってるだけだ。言ったろ、クリアの為にお前らを利用して、俺を利用させてやってるって」

 

 

「またまたー。ハチマン、めんどくさがりだからそうやって簡単な解決法を使ってるだけなんじゃないのか?」

 

 

「どういう意味だよ」

 

 

「なんだかんだで、お前さん面倒見いいだろ。俺らも攻略組に入ったときに世話になったしな」

 

 

「利用価値があると思ったからに決まってるだろ。損得勘定抜きでやってられるかよ、こんなところ」

 

 

「──奉仕部」

 

 

「──! なんだよ、それ」

 

 

さっきまで黙っていたキリトが出した名前に、俺は一瞬言葉を失って、それから取り繕う。その名前は、俺には威力が高すぎるものだ。よく取り繕えたものだと思う。

 

 

「あれ、ハチマンのことだろ? 餌の取り方を教える。ってやつ」

 

 

「……知らないな」

 

 

なんで知ってるんだよ……あぁ、鼠か。あれが余計なことを言うとも思えないが……少し流されるがままに活動しすぎたか?

──らしくない。何もかもが俺らしくない。もっと外道で、堕落しているのが俺のはずで、ならばこれは誰なんだ。

 

 

「ごちそうさま、先に行くぞ」

 

 

長居は俺の精神衛生上よろしくない。このまま去ることにしよう。

ままならない、もっといつもみたいに俺なんてスルーしててくれていいのにな。

 

 

「ハ、ハチマン!」

 

 

「なんだよ」

 

 

「俺は、諦めないからな」

 

 

「いまいちよくわからんが、勝手に頑張ってくれ。じゃあな」

 

 

キリトの言葉を軽く流して、俺は店を後にした。明日も迷宮を攻略しなければならない。だから、余計なことは考えなくて済むように早く休もう。

ああ、リアルに戻ったらもはやニート志望になりそうだ。

 

 

──side キリト──

 

 

「ハチマン……大丈夫かな」

 

 

一層からずっと、ハチマンは一人だった。俺もそうだけど、あいつは俺とは違って、本当に一人だ。ずっと難しそうな顔をして、たまに悲痛な顔をして、笑うときもわざとらしい作ったような嫌な笑顔。

この世界はゲームという都合上、現実よりも感情の表現が過剰に演出される。だから、ポーカーフェイスはよっぽどでもない限りはできない。

あのとき、ハチマンはわざと悪役を演じたと思ってる。俺も同じことを考えていたから。どっちが先にやるか、それがあいつの方が早かっただけなんだって。

だからこそ余計に不安で、心配だ。わかってくれてる奴らはそれとなくハチマンのことを見てるみたいだけど、肝心のあいつがそれを気にした風でもないことが気になる。そのくせ突き放そうとするときはなんとなく嫌そうな顔で。

 

 

「悪いやつなもんか」

 

 

自分で自分を悪く言うやつは、決まって悪いやつじゃない。どんなものでもそれは一緒だ。

俺は諦めないからな、ハチマン。

 

 

────

 

 

……調子が狂う。俺はカースト最底辺で、孤高のぼっち。

奉仕部に入ってから少し方向がそれたものの、俺という存在は基本いないのと変わらない。

それは俺から見た向こう側もそうで、だからお互いに触れあうことのない世界のはずだ。

その中でも、奉仕部は……あそこだけはいつの間にか俺の居場所になっていて、自分でもわからない感情に振り回されて得体の知れない本物なんてものを探して──

 

 

「……なんなんだよ、これ」

 

 

ああいいだろう認めよう。俺は奉仕部に入ってきっと変わった。やり方とか在り方じゃない、正確には変わったと言うよりも素直になった。だからこそ、自分でもわからない本物という答えをきっと求めた。

だから、帰る。何がなんでも帰る。それ以外はどうでもいい、どうだっていいはずなのに。

 

 

「……なんで、あいつらは俺に関わろうとするんだよ」

 

 

こんなに切羽詰まった状態で、どうしてもっと打算的にならない。俺なんて利用するだけすればいいだろうに、どうして。

……いや、わかってる。そんなのわかっちゃいるんだ。だってそもそも俺が──

 

 

「珍しいナ、ハッチ。こんなところで黄昏てどうしタ?」

 

 

「……たまにはそういう時もある。なんだよ、アルゴ」

 

 

「依頼だゼ、ハッチ。餌の取り方を教えて欲しいそうダ」

 

 

「……あいよ。とっとと案内してくれ」

 

 

アルゴに中断させられて、俺の思考は途切れた。良かった、これ以上の思考は闇に嵌まる。

──俺が、俺自身があいつらに対して何の打算もなく接していたという事実に気づくだけで止まれたのは本当に良かったとしか言えないだろうから。

蓋をするようにこの事実を隠して、俺は腰の刀の位置を直したのだった。

 




どんどん八幡が思考に嵌まっていってしまう……
書いてて思うけど、本当に八幡って難しいです。ぽさを出しつつシリアス継続とか、難易度高すぎまする。


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Episode2,part3

落ち着いていられる時間があると書こうと気力が沸いてきます。
勢いが乗っているうちに、です!


「……うす」

 

 

「こんにちは、ハチマンくん」

 

 

あれから二月ほど。二十三層に進んだこのゲームのとある場所で行われる攻略会議に俺は顔を出していた。明後日、ボスの攻略が行われる。

その為の会議だ。ボス攻略に参加する以上、こちらにも出ないわけにはいかない。

 

 

「"首斬り"も来たことだし、始めようか」

 

 

「待てやリンド、なんであんたが仕切っとんのや」

 

 

ディアベルの取り巻きAとB──キバオウとリンドが睨み合うのをよそにアスナはため息を吐いて会議を始めた。

……どうでもいいけどリンドよ、俺のこと名前で呼んでくれない? 影纏いだの首斬りだの、そんなので呼ばれると頭抱えて転がりたくなる。

それと毎度毎度ボス攻略初参加の連中が「あれが……」

とか「首斬りのハチマン……」とか、いちいち反応するのもやめよう。お前らもう少し緊張感持てよ。

 

 

「……麻痺してるのか、慣れてるのか」

 

 

どちらもだろうな。かく言う俺も自分の立ち位置自体にはそこまで悩まなくなってきている。

呼び名はともかくとしてな。恐怖心が薄れるのはいいことだが、いつ誰が死んでどうぶり返すかわからない。ゲームだけど、死ぬことだけはリアルなんだ、ここは。

何度目かわからない、自戒の言葉を心の内で吐いて俺はアスナへ視線を向けた。

 

 

「偵察隊の話によると、こちらのボスは鎧を纏った武者の姿で、武装は腰に差した刀のみ。これは他の武装を扱う可能性もあるので一概には言えませんが、戦国時代の武者と言えば皆さんには伝わると思います」

 

 

「……へぇ」

 

 

知らず、声が出た。今まで純ファンタジーを貫くようなボスが多かった中、いきなり和風か。

和風って言えば、こちらでは風林火山か。あとは見た目的に言えば俺もだろうが……

 

 

「情報収集部隊にクエストを受けてもらい、情報屋からも集めた情報によれば、取り巻きも足軽のようなモンスター。また、ボスは"強き者"を求める性質とのことです」

 

 

「それはつまり、ヘイトの管理が容易ではないと言うことか?」

 

 

「私はそう思ってます。 平時通りタンクがヘイトを集め、他で削る。とはいかない可能性があるかと」

 

 

ふむ。と自分の質問への答えに満足したのかリンドは顎に手を当てた。

なるほど、となるとキリトなんかが攻撃するとそっちへヘイトが向かうようになるわけか。無論俺にも。

これまた初見殺しが酷いもんだ。

 

 

「なので、今回の主力にはハチマンとキリトの二名を推薦します」

 

 

「……は?」

 

 

「まぁ、そうなるよな」

 

 

いや、キリト。なにそのドヤ顔。んでなんでこっちをそんなびびりながら見てくるの?

いやまぁ、フレンド切って会っても変わらず適当にあしらってはいるけど。

ってそうじゃない。

 

 

「そこのはともかく、なんで俺もなんだよ」

 

 

「適材適所よ、ハチマンくん」

 

 

「なら軍なり連合なりでいつも通りにやればいいだろ」

 

 

「今回のボス戦では集団でボスを叩きづらい以上、単身での戦闘力が頭抜けて高い二人に向かってもらう必要があるわ。だから、適材適所。二人しか、そこに当てはまらないの」

 

 

「お前自分自身はどうなんだよ。"閃光"のアスナなんて呼ばれてるだろうに。俺よりよっぽどやれそうだろ」

 

 

「……まだ、私はあなた達には追い付けてない」

 

 

なんとな標的にならないようにと言った言葉は、心から悔しそうな声で掻き消された。

いや、そんなこともないだろ。と言いたくはあるんだが、アスナの目がそれを許さない。

 

 

「……アスナさん、俺は今回はその作戦に乗ることにする。"黒の剣士"と"首斬り"。なるほど確かに信頼できる」

 

 

「……一層で俺のこと思い切り睨んでたくせによく言うよ」

 

 

「あの発言は今でも撤回して欲しいと思っているし、許すつもりはない。が、こうして力を示されている以上俺は何も言えない。助けられたこともあるからな。

……それに、今は少なからずディアベルさんの気持ちがわかってしまう。わかってしまうから、お前を全否定することができない」

 

 

「……欲に目を眩ませるなよ。全損したHPを戻す手段はさすがに無いんだからな」

 

 

理解してしまったのだろう。ラストアタックボーナスのことを。ディアベルはこれを狙い死んだ。そして、リンドも自身が攻略組のトップの一角にいることでそのメリットを覚えてしまった。ラストアタックボーナスのアイテムは基本的に強い武器や防具、装飾品だ。俺のこのマフラーもラストアタックボーナスのものであり、隠蔽スキルの発動を速くして俺自身のステータスにも隠蔽に+が加算される。

俺へのアクセサリーとしては現時点では破格の性能だ。

故に、俺も思わず言ってしまった。言ってから気づく、これは失言だったと。

 

 

「忠告痛み入る。……意外だな、まさか首斬りから心配されるとは」

 

 

「……お前が死んだら士気が終わる。自分の利用価値くらい計算しておいてくれ」

 

 

ふ。と笑われる。あーくそ、何も考えなさ過ぎた。

……二十一層で思考に嵌まって以来、こんな失言が増えた。

考え無いようにしすぎるあまり、勢いで言葉が出るようにでもなったか。くそ、やっぱり調子が狂ってるな……

 

 

「では、これには反対意見はありませんね?」

 

 

「ああ」

 

 

「……けっ、次は軍が主力パーティやらせてもらう」

 

 

俺の意思を無視してどんどん進んでいく。

キリトは気がつけばやたら近くにいて、アスナも満足そうな笑顔。挙げ句風林火山に囲まれて、ここにハチマン包囲網は完成していた。

 

 

「ハチマン、よろしくな」

 

 

「……はぁ」

 

 

こめかみに手を当ててやれやれのポーズ。こちらに来ていつからか真似するようになった雪ノ下の呆れポーズをして、俺は大きく息を吐いたのだった。




前回のと少々違いますが、前のを読んでいた方はわかるでしょう、あのボスです。
そういえば、ぼっちアートらオリジナルボスやソードスキルがぽんと出てきたりするのですが、タグに入れておいた方がいいのですかね?
最近のSAO二次創作とかも、凄い細かくソードスキルとか書かれてるのでオリジナルは表記した方がいいのかなーと少し気になったり。
ではでは。


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Episode2,part4

ボス前夜祭。
前回のと比べるとアスナ側の問題がまるでないのに、ハチマンがどんどん袋小路に嵌まっていく……


──side アスナ──

 

 

「ハチマン、スイッチ」

 

 

「ん」

 

 

攻略会議を終えて、おそらく久々にパーティを組むであろう二人を無理矢理連れて私は迷宮にいた。

例え二人が攻略組トップのプレイヤーだとしても、二人してソロで動くし協調性に欠けるからとリハビリさせようとしたのに、その結果がこれだった。

 

 

「さすが!」

 

 

「大したことじゃないだろ……おい、不注意だぞ」

 

 

ハチマンくんの姿が黒く歪む。目の前にいるのにシステムでの確認が遅れる。ようやく認識できた時には彼はキリトくんの後ろにいたモンスターの背後から斬りかかって、ヘイトを自分へと向けていた。

 

 

「わかってるっての!」

 

 

ハチマンくんへ身体を向けたモンスターをキリトくんが両断する。

……片手剣で真っ二つってなんなのよ……

 

 

「やっぱりハチマンとはやり易いな。言わなくてもどうにでもなるっていうか」

 

 

「変わらねぇよ。別に」

 

 

どういうわけかハチマンくんはキリトくんへは明確に距離を置くようにしてる。キリトくんも明るく話しかけてるけど彼との距離感がわからないみたいで、難しそうな表情だ。

 

 

「あれが"影纏い"の正体なのね」

 

 

「さぁな、そもそも自称してるわけじゃないから俺自身どんなものかは知らん」

 

 

簡単な隠蔽スキルの即時発動。本来はターゲットにされてなければそのまま見つかりにくくなるもので、戦闘中に使うと少しだけターゲットの対象にされなくなる。というもの。敵にも味方にも有効なそれを発動させて、おそらく攻略組最速のハチマンくんの全力疾走。後ろを取ってバックアタックボーナスの恩恵を受けたまま首に一振り。うーん、なんていうか首斬りも影纏いも呼ばれて仕方ない気がする。

 

 

「ほんと、どこまでもソロ特化よね……」

 

 

「当たり前だろ。ぼっちが一人に強くなかったらどこで生きてくんだよ」

 

 

事も無げに言ってハチマンくんは刀を一振り。くるりと逆手に持ちかえるとゆっくり納刀した。その仕草は時代劇とかのアクションみたいで、私もキリトくんも何も言えずそんな彼をじっと見つめていた。

 

 

「……なんだよ」

 

 

「いや、なによそれ」

 

 

「納刀をちゃんとすると次の攻撃にクリティカルのボーナスが付くんだとよ。迷宮回るときは意識的にやってるんだよ」

 

 

へー、ほーと私とキリトくん。かっこつけとかかとおもっちゃったけど、あの効率重視の塊みたいなハチマンくんがそんなことするわけないか。

 

 

「しかし、本当に速いなハチマン。合わせれるけど、追い抜くのは無理そうだ」

 

 

「その分筋力とかはないからな。武器も酷使するからすぐ折れる。体術スキルもないからこれしかできないぞ」

 

 

「充分だよ、ハチマンのそれなら」

 

 

そう。キリトくんもキリトくんで体術スキルでモンスター殴り倒すわ片手剣で両断するわ、挙げ句ハチマンくんの影纏いにちゃんと対応して援護するわで、さらっととんでもないことをしすぎてる。

……やっぱり、この二人に比べるとどうしても私は見劣りしてしまう。閃光だなんて言われてもハチマンくんほど速くないし、キリトくんほど力もない。まだ、彼らに並べない。

 

 

「ハチマン。ボス戦はどういく?」

 

 

「スイッチの回数多めでいいだろ。俺もお前も基本直撃がそのまま終わりだからな、一人にヘイトを集めすぎない方がいい」

 

 

「オーケー。あとはクライン達に期待だな」

 

 

「……まぁ、せいぜい壁役を任せるさ」

 

 

あ、またいつものが始まった。他の人のことをなんとも思ってないように言って、それからハチマンくんはぼーっと上に視線を向ける。

ハチマンくんを見てて気づいたんだけど、こうなると彼は自分の思考に沈んでしまう。何を考えてるのかはわからないけど、やっぱりハチマンくんが心底私達を利用するだけにしか思ってないようには見えない。

キリトくんも話しかけようかどうか躊躇っていて、もしかしたらハチマンくんのこれに気づいているのかも。

 

 

「いい時間だし、俺は帰るぞ」

 

 

思考から帰ってきたらしいハチマンくんは、その濁った目をいつもより酷くして私達の返答も待たずに帰ってしまった。

残されるのは、私とキリトくん。

 

 

「なぁ、アスナ」

 

 

「どうしたの? キリトくん」

 

 

「どうすればハチマンと友達になれるのかな。俺さ、人と上手く話せないし、ああいうことになるとどうすればいいかわからないけど、ハチマンとは友達になりたいんだ。

一層で一緒にいたっきりでそれからはずっとそこまで近くに入れなかったけど……ハチマンのこと、もっと知りたいんだ。俺」

 

 

「なら、思い切りぶつかって行きましょう? キミが言ってたじゃない。ここは紛れもないリアルで、"本物"だって」

 

 

「……ああ、もちろんだ! 明日のボス戦楽しみになってきたぜ……」

 

 

「こらこら、浮かれすぎないようにね?」

 

 

「そこは大丈夫だ。油断なんてしないし、ハチマンにそんなとこ見られたらそれこそ終わる」

 

 

「言えてるかも」

 

 

顔を見合わせて私達は笑った。

最初こそ嫌悪されていた彼は、攻略組の人達にも一目置かれる存在になってる。きっと気づかないのは本人だけで、そもそも気づかないのか、気づこうとすらしないのか。

気になるあの人は、今頃どうしてるのかな。なんて思いながら迷宮の空を見上げたのだった。

 

 

──side ハチマン──

 

 

「──みんな、勝ちましょう」

 

 

一層以来続いてるボス戦前の合言葉。ディアベルが遺した勝とうという言葉はいまだにこうして使われている。

俺はもちろんおー!なんて言葉に合わせるわけもなく、腰の刀に添えた左手に力を込めた。

半年ほどで進行度は四割くらい。ここから加速するも減速するも今の俺達次第。──失敗するわけにはいかない。

 

 

「よろしく頼むぜ、影纏いさんよ」

 

 

「お前らこそ、ついてこれなければ置いてくからな」

 

 

風林火山の軽口に適当な返事をして、中へ入っていく。

隣のキリトもだが、こいつらはなにがこんなに楽しいんだ。

他の連中だってそうだ、リンドに始まり口々によろしくだの頼むだの言ってきて、そんなの俺にかける言葉じゃないだろ。

 

 

「なぁ、ハチマン」

 

 

「なんだよ」

 

 

ボス戦で集中しなくてはいけないのに、思考に乱される。

だからか、キリトへの返事も簡素なものになる。

 

 

「これが終わったらさ、俺と友達になってくれよ」

 

 

「……は?」

 

 

「というか、なるからな。拒否権とかなしだ」

 

 

「いや、おかしいだろ。どうしていきなりそんなことになるんだよ」

 

 

「俺が今でもハチマンと友達になりたいからだよ。言ったからな」

 

 

「なっ、ちょっと待て。おい」

 

 

──わかっている、キリトが、アスナが、打算も計算もなく俺に近づいていることなんて。

思考が思考を乱して、その思考が俺の心を鈍らせる。違う、関係ない。俺は帰って雪ノ下に、由比ヶ浜に会わないといけない。

こいつらがなんであろうが、無償であればあるほど、それに応えるわけにはいかない。いけないんだ。

 

 

「始めるぞ!」

 

 

キリトの一太刀がボスへ向けられ、それが開戦の合図となる。

理性を起こせ。感情に惑わされるな。俺は、俺の目的の為に。

 

 

「……やるぞ」

 

 

刀を抜いてゆっくり構える。頭の中では、まだキリトの言葉が渦巻いていた。




というわけで、次回ボス戦です。
より精神に余裕がない、けれど鈍くもないから察せてはいる。まったくもって面倒な男よのう、ハチマン。


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Episode2,part5

ここで終わるかなーと思ったんですが、やっぱり戦闘描写入ると長くなりますね。
戦闘描写が自分の一番の課題なので、いろいろ試しながら書いていこうと思います。というわけで前半戦です。


「ハチマ──」

 

 

「もういる」

 

 

キリトの横を蒼い影がすり抜けていく。ボス担当のパーティがその姿をハチマンと認識した時には既に彼の一撃がボスの脇腹へと振り抜かれた後だった。

 

 

「……さすがと言うかなんと言うか……」

 

 

「まじで置いてかれてそうだわ、俺ら」

 

 

「いいから続くぞ。気ぃ抜くな!」

 

 

クラインの激に風林火山の面々は武器を構え突撃していく。既に追い付いていたらしいキリトはハチマンと交互に前衛後衛を入れ替えながら、ボスを相手に高速の攻防を続けていた。

 

 

「スイッチ」

 

 

「任せろ!」

 

 

ゆらりと後ろへ下がるハチマンと入れ替わり、鋭く前に出て斬撃を放つキリト。

重さを感じさせないハチマンの動きとは違い、彼の動きは鋭く力強い。速さも並々ならぬものがある。

 

 

「……反則だろ、まじで」

 

 

腕力もあって、速さもある。もう一つ彼の強みはその反射神経にあった。

振られる刀に対して本人の余裕があるギリギリで捌く。ボス戦だからかいつもより早く回避動作を取っているものの、それでも張り付いて攻撃し続けることにおいて彼の右に出るものはいないだろう。

その攻撃性の高さにハチマンはぽつりと呟いた。

縦に振られた刀を半身反らして回避し、右手に持った剣で横に薙ぐ。武者の鎧に守られていても、彼の剣は脇腹へと刃をめり込ませた。そのままボスの横薙ぎを屈んで避けると左手を地面近くまでおろして構え、一閃。

体術スキルによるカウンターで腹部を打ち上げた。

 

 

「ハチマン! スイッチ!」

 

 

「ん」

 

 

しかしそれでも被弾は避けられず、防御力のない彼らは頻繁に入れ替わる。キリトが大きく後ろへ下がると同時に、蒼い影が彼の目の前に現れた。

 

 

「頼むぜ、ハチマン」

 

 

返事をすることもなく、ハチマンは一目散にボスの首へ向けて刀を振っていた。並みのモンスターならば一太刀で首を斬るそれも、ボスにはダメージとしてしか通らない。

わかっているのか何も言わず、彼は音もなくボスから離れた。

回避し、張り付くキリトとは違いハチマンの戦闘は一撃離脱。攻略組最速と謳われる速さを武器に死角からひたすら攻撃しては離脱を繰り返していく。側面から、背面から、影を纏う斬撃がボスへと何度も振り下ろされる。

 

 

「やっぱりすげぇよ、ハチマン」

 

 

「お前ら二人ともアホみたいな強さだぞ、俺から言わせりゃ」

 

 

ボスの周りに湧く取り巻きのモンスターを担当する風林火山のリーダー、クラインは苦笑いを浮かべてキリトを見つめた。

取り巻きの湧きはひとまず止んだようで、今攻略組のプレイヤーの視線はハチマンとキリトへ向けられているのである。

 

 

「……あいつもな、躊躇いなく冷たいこともバンバン言うけど、あんな風に立ち回られたらそら誰も何も言えないわな。というか、目標プレイヤーにされてるって、気づいてないんだろうなぁ」

 

 

クラインの独り言は隣のキリトにまで届いたのか否か。

スイッチ。という掛け声と共に自分の前にまで戻ってきたハチマンの肩に彼はとん。と手を置いた。

 

 

「お疲れさん、だいぶいいペースだな」

 

 

「このまま終わればいいんだけどな、まだ半分に差し掛かるかってところだ、何があるかわからないぞ」

 

 

「まーな、っと、湧いて来やがった。ハチマン、後ろは任せれてるからお前はキリトとあいつやっちまえ」

 

 

「当たり前だろ。こんなもん、とっとと終わらせるに限る」

 

 

ゆらゆらと脱力を保って刀を右手に持つハチマンは、キリトが下がると同時に影を纏って前へと進んで行った。

 

 

「よし、あと半分だ!」

 

 

そうして何回目かの斬撃がボスを捉え、HPバーを半分以下へと減らした。緑から黄色へと変わったそれを確認したキリトの声に合わせるように、ボスは大きく声をあげた。

 

 

「うるせぇな……咆哮か……?」

 

 

「ハチマン、パターンが変わるかもしれない! 気を付け──って、なんだよこれ」

 

 

「……なるほどな」

 

 

 

咆哮の終わりと共にハチマンとボスを囲む光の壁。見るからに外部との接触を遮断するそれは、やはりハチマンの隣へ行こうとしていたキリトを通さない。

独り、ボスと対面するハチマンは刀を肩に担いで小さく息を吐いた。

 

 

「強者を求めるってのはこういうことか。ボスとタイマンさせるとは、ずいぶん性格悪い奴だな、茅場も」

 

 

「ハチマン!」

 

 

「キリト! モンスターの湧きがおかしい! 数が多い!」

 

 

足軽の姿をしたモンスター達は、これまでの比にならない数が湧き彼らの前に立ちはだかる。

まるで、大将の一騎討ちを邪魔させぬようにと。

 

 

「っ! 全員モンスターを即殲滅! ハチマンくんを助けます!」

 

 

「ハチマン! すぐに助けるからな!」

 

 

「つっても、どうするよこれ」

 

 

「どうにかする! いいから絶対死ぬなよ!」

 

 

「……なるべく早めにな。怖すぎてどうにかなりそうだ」

 

 

「ああ!」

 

 

ハチマンの視界に映るマップから、キリトの姿が遠ざかる。

誰もいない完全な孤立。普段なら望ましいこの環境も今の彼にとっては絶望的な状況である。震える手を、ゆっくりと握る。

 

 

「……なんでこうなるんだかな。このゲームに来てからまともでいられた試しがない。挙げ句こんなヤバい状況で、怖くないわけがないだろ」

 

 

生きてきて、ここまで強く手を握ったこともないであろう。実際にやっていたら爪が食い込むほどに力を込めて、彼はボスを見上げた。

 

 

「……けどな、死ぬわけには行かない。俺は何がなんでも帰る。その為にここにいて、こんな適材でも適所でもないことをやってるんだ。これくらい、どうにかしてやる。ぼっちに孤立は最適環境だ。これだけは負けてたまるかよ。だからな──

──お前を殺すぞ、化け物野郎」

 

 

ブンと一振り。そのまま切っ先をボスへ向けて、彼はその濁った目で睨み付けていた。




前回のに比べ、ハチマンは余裕がありません。その解消法は決めているものの、どうしてもメンタル弱くなりがちです。書きたいことを上手く書くって難しいですね、ほんと。だからこそ楽しいんですけどね(笑)
ではでは。


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Episode2,part6

難産だった……かつまだちょっと納得できてないところもあったり……
書きたいものをそのまま文章化するってほんと難しいです。
というわけで、どうぞ。


──side ハチマン──

 

 

「っと……あぶねぇな」

 

 

被弾は今のところ無し。とは言え安全第一でやってるからこっちの攻撃も大して入ってないけど。

 

 

「っは」

 

 

当たれば即終わり。こっちが当ててもいつまで続くのか。気が狂いそうな時間と場所で、俺は今動いてるであろう脳細胞の全てをあのボスへと向けた。

 

 

「当たるか……よ……っ!」

 

 

キリトのようなギリギリの回避はできない。

俺は確認したら回避動作を取って、そのまま背後から一太刀浴びせる。

こんな緊張感、くそくらえだ……

 

 

「ちっ」

 

 

何度目かわからない舌打ちをして、刀を肩に担ぐ。

ダメージは確実に与えられてはいるが、倒すにはまだ遠い。

嫌な緊張感が纏わりついてくる。何より、ボスと対峙しているのが俺一人というのが、この緊張感を加速させている。

 

 

「……あほか。集中しろ」

 

 

先程まで周りに、背中に、隣にいた存在が例えどれ程大きかったとして、そんなもの意味はない。あるはずがない。

 

 

「ぼっちはぼっちらしく」

 

 

切っ先をボスへ向けて、大きく息を吸う。ここでは大して意味のない行動だが、落ち着くにはこれが一番いい。

 

 

「ハチマン! 無茶だけはするなよ!」

 

 

「……無茶なんて、最初からしっぱなしだ」

 

 

きっと俺の返答はキリトに聞こえてないだろう。聞こえるように言ったつもりがないからな。

ゆらりと下段に構えて、いつでも斬りかかれるように準備をしておく。

 

 

「そらよ……っ!」

 

 

目の前に行って、下段から切り上げ一閃。一対一である以上、ソードスキルを不用意に出すのは良くない。

だからこうして通常攻撃で攻めて、隙を見計らってソードスキルを確実に入れていく。

 

 

「おせぇ」

 

 

横へ振られた刀を後ろへ飛んで避けて、そのまま返すようにソードスキルをぶつける。

時間はかかるが、なんとかやり過ごせそうだ。

──そんなことを思いながら、俺は後ろへ吹き飛ばされていた。

 

 

「なっ……に……?」

 

 

何をやられた? 低下した体力は半分ほどで減少を止めて、俺は混乱する頭を整理すべく左右へ首を振った。

……まさか──

 

 

「カウンターか……」

 

 

あの通常攻撃にソードスキルで返した俺は、おそらくその硬直にボスのスキルを受けたのだろう。

がしゃり、と目の前に立つボスは、なるほど戦で首を取る武者そのものだ。

 

 

「くそが……」

 

 

最悪なことに、俺は転倒させられたらしい。

少しの間自由を奪われるこれは、つまり──

 

 

「──あ」

 

 

もがくことすら許されず、ボスの刀は俺へと振り下ろされたのだった。

 

 

「させ……るかぁっ!」

 

 

死を刻まれるよりも早く、俺の目の前に黒い人影が割ってきた。

そいつは今回のパーティ。同じアタッカーの剣士……

 

 

「……キリト」

 

 

「間に合って良かった……ハチマン、動けるか?」

 

 

「あ、あぁ」

 

 

ボスの刀を追い払ってひとまず下がったキリトは俺に振り向いたかと思えば、こつん。と俺の胸に拳を軽く当てた。

 

 

「無茶すんなって、言ったろ」

 

 

「したつもりはなかったんだが」

 

 

「嘘つけ。死ぬとこだったんだからな、ハチマン」

 

 

言葉こそ軽いが、その目は真剣そのもので。

視線を外したいのに、キリトから視線を外せない。

 

 

「俺さ、ハチマンが死ぬなんてやだよ。そんなの、絶対に嫌だ」

 

 

「……どうして、そこまで」

 

 

「俺の役を取られちゃったからな」

 

 

「は?」

 

 

「一層でかっこよくソロプレイヤーになってやろうと思ったのにさ」

 

 

「役って、あれは別にロールプレイしたわけじゃないんだが」

 

 

「どうだろうな」

 

 

へへ、とキリトはにやりと笑って、

 

 

「そうだとしても、そうでなくても。俺はハチマンのことが知りたいんだ。

俺は今、このゲームにいる。ここにいる。ハチマンもここにいる。ここは、少なくても今の俺にとって真実で、この気持ちも思いも全部本物だ。だから、その気持ちのままにいこうって思ったんだ。だから、まずはその一歩」

 

 

……本物。俺が何よりも欲しているもの。そんなもの、こんなゲームの中にあるはずがない。あってはいけない──

 

 

「みんなハチマンのこと、凄いやつって思ってるんだぜ。俺もそうだしな」

 

 

「……」

 

 

──が、わかってる。少なくともこいつらは、キリトは俺に何の打算もなく話しかけてくると。こいつだけじゃない。

今の攻略組において、命がけのここで、戦略的な打算こそあれど全部が全部リスクリターンを管理して動いてるやつなんていない。だから、こうして必死に戦っている。

……悔しいが、生きている。俺達はここにいる。

比企谷八幡は、ハチマンとしてここにいてしまっている。

 

 

「……構えろ、キリト。お喋りの時間は終わりみたいだぞ」

 

 

そして、それは俺だけではない。全員が全員そうだ。

目がどうとか、今までがどうとかじゃない。初対面なんだ。

……トラウマって凄いよな。あらかじめあらゆる保険と保身の方法を咄嗟にやらせてくる。

が、ここにいるハチマンにそれは関係ない。比企谷八幡ではないから。影纏いだの、首斬りだの呼ばれるハチマンだから。

 

 

「ハチマン、終わったら友達になるんだからな!」

 

 

「お前な、戦闘中にそういうこと言うなって。旗がきっちり立って死んじゃうかもしれないだろうが。

……だからまぁ、そういった話は終わってからな」

 

 

「……! ほんとか!?」

 

 

「嘘ついてどうするんだよ」

 

 

多少、吹っ切れた。俺はここでも比企谷八幡でいる必要はない。

ハチマンとしてここではいよう。いてみせよう。

……ああ、ますます生きて帰りたくなった。早く、早くあいつらに、小町に会いたい。あいつらはハチマンを、俺を見てなんて言うだろうか。

──何も言わず優しく笑ってきそうで、俺は一人苦笑いを浮かべた。なんだこれ、俺あいつらのこと好きすぎだろ。

いやまぁ、本物を欲してる相手ではあるが。

 

 

「じゃ、続きやるか」

 

 

「ハチマン……? どうしたんだ? なんか変わったけど……」

 

 

「いろいろあるんだよ。いいからやるぞ、あんな化け物、

とっとと殺すに限る」

 

 

少しばかり身体が軽くなった気がする。バーチャルなここで何言ってんだって話だが。

息を吸って吐く。また刀を下段に構えて、さっきはいなかった黒の剣士を再び隣に立たせて、俺はボスを睨み付けたのだった。




ようやく八幡がハチマンになりました。と同時にここからがハチマン攻略組のスタートになりますが。
うちのハチマン、いろんなもののドツボに嵌まってるというか、なんともちょろい。ちょろいはずなのに無駄に難易度が高い。
そして何よりも書くのが難しい。とても楽しいですけどね(笑)
というわけで、ではまた。


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Episode2,part7

ちょこちょこ更新でございます。
感想でも頂いたのですが、戦闘描写が私の課題だなと自分でも思っております。
自分なりに勉強してみてるので、ちょこちょこ書き方が変わったりするかもですが、その中で何かしら掴めたらと思います。
では、始まり始まり。


「=======!!」

 

 

大きな声と共に刀を振り上げ、先に前へ飛び出した俺へと風を斬る音と共に勢いよく振り下ろされる。

……その前の、振り上げた段階で後ろまで走ってるんだけどな。

 

 

「当たるかよ、そんなもん」

 

 

刀身が光り、俺は構えから斬撃へと手を振った。何回も何回も振りすぎて、アシストが働いてるかもわからない。ほれほどまでに手に馴染んだソードスキル。

得意の一太刀をその背中へと浴びせる。

 

 

「──おいおい、余所見してていいのかよ」

 

 

先程の決闘のようなやり取りから継続して俺にヘイトは向いているらしい。

のそりと鎧を鳴らしてこちらへ向き直るボスに、後ろから黒の剣士が迫っていく。

 

 

「おおおおおおっ!」

 

 

ザザザ……と刹那に三撃。そのまま振りかぶり袈裟斬りの四撃目。

隙をついて放たれたキリトのソードスキルは、その剣閃、威力、技量のどれもが最上級のものだ。

俺とキリトに挟まれ、ボスは攻撃された方に向き直っては後ろからから攻撃されてを繰り返す。

 

 

「……はっ、所詮はゲームだ。お前は偽物だ」

 

 

生きている……そして死んでしまう俺達とは違う。

俺達は組み込まれたパターンもなければ、同じ台詞を繰り返すこともない。

この俺ですら、ゲームクリアの仲間に組み込まれてしまう。それほどまでにこのゲームの死と──そして生は、紛れもなく本物だ。だから、ハチマン()はこうして存在する。他ならぬ比企谷八幡に戻る為に。

 

 

「キリト」

 

 

「おう」

 

 

「ちょっと……速くする」

 

 

「──ははっ、望むところだっ!」

 

 

──トン……トン……と軽く跳び跳ねる。ちょっとずつ、跳ねる高さを低くして、ちょっとずつ、跳ねる感覚を狭めて。

合わせるように、キリトも構えを変える。低く低く、いつでも標的目掛けて飛び出せるように。それは今にも矢を射る弓のようだった。

トントントン──ほとんどの跳ねていない、最低空のジャンプ。右足だけで跳ねて、左足は着地と同時にトン。と爪先のみを地面に意識的に当てるようにする。

 

 

「──行くぞ」

 

 

「おお! ハチマン!」

 

 

何回目かの着地。右足に遅れて接地した左足の爪先で、俺は思い切り地面を蹴り出した。

これが俺の出せる最高速。俺が俺に望むように強化した、俺だけの戦い方。

一定の信頼を認めざるを得ない、そんなやつと今組んでるからこそ、俺は躊躇わずに走る。

合わせて飛び出したキリトよりもいくらか速くボスへと袈裟斬りを放つ。ここからはスイッチも全て高速だ。

……ああくそ、これがただのゲームだったら良かったのに。

一瞬でもそんな思いが頭に過ったのを、俺はソードスキルでボスごとまとめて斬りつけた。

 

 

──side other──

 

 

「あれが、ハチマンくんの……キリトくんの本気」

 

 

目の前で行われる高速の攻撃に、アスナはぽつりと呟いた。

彼女の知る彼らはもちろん強い。個人の技量で言えば攻略組で間違いなく頭を張れるものである。だとしても──

 

 

「うおおおおおおおおおっ!」

 

 

恐怖などないとでも言うように、黒の剣士はボスの太刀を捌き続ける。そして、先程よりも素早く鋭く、一呼吸の間に自身の連撃を叩き込む。

その剣閃はもはや暴風のようで、雄叫びと共に何度も撃ち込まれていく。

 

 

「ハチマン!」

 

 

「わーってるよ」

 

 

暴風の止む瞬間──ソードスキルの硬直に合わせ横から後ろから斬撃が放たれる。

そして、右から放たれたなら左に、後ろから放たれたなら正面に、その斬撃の主は現れる。そしてまた影を纏って、再び斬撃が繰り返される。

 

 

「ったく、なんだありゃ……」

 

 

クラインの呟きはもっともだ。もはや最初のような模範的なパーティプレイではない。名前こそ呼んでいるが内容はただお互い得意で、かつ本気の攻撃を繰り返しているだけである。

 

 

「さすがに鎧が邪魔くさいな」

 

 

「でも、確実に削れてる」

 

 

「そりゃ、なっ」

 

 

すり抜け様にハチマンの斬撃がボスのうなじを捉える。そのまま着地したところで、ボスは大きく声をあげた。

 

 

「へへっ、今度は俺かっ!」

 

 

キリトとボスを中心にして円形の陣が広がり、外部と遮断する壁を作り上げる。

キリトのところへ戻ったハチマンが壁に背中を預けるようにして一息ついて、

 

 

「……キリト、お前ポーションは?」

 

 

「大丈夫、まだある。……だいぶ無くなったけど」

 

 

「俺ももう十個切ってる。……無くなる前には終わらせるから、適当にやっといてくれ」

 

 

「おう。とはいえ、別にアレ倒しちゃってもいいんだろ?」

 

 

「ばかか、それだとお前が死ぬぞ。洒落になってねぇ」

 

 

「お、やっぱりわかった? へへ、ハチマン絶対わかると思ってたよ。終わったらこういう話もしようぜ!」

 

 

「いいから、集中しろ。どんどん自分から旗を立ててくなっつの」

 

 

「わかってるって、任せろよ。だから任せたぜ?」

 

 

「……あいよ」

 

 

言い切る前に声が小さくなり、それは声の主が離れていくことを意味した。

背中に確かな安心感を覚えて、キリトは片手剣の切っ先をボスに向ける。

 

 

「さーて、やるぞ。ハチマンに任せて任されたんだ。思いっきりいくからな!」

 

 

ブン。と右手を振って風切り音を鳴らし、切っ先を下に向けるようにして左手を少し前に出す。そして身体は斜に構え、キリトはボスを見上げてニヤリと笑ったのだった。




本来ここでボス戦は終わる予定だったのですが、キリが良かったのと尺の都合でまだ終わらず。
ちょっと強すぎかなこの子らと思わないでもないですが、まだ序盤ですしこれくらい強くてもいいかなと。
戦闘描写、もっともっと勉強して満足いけるようになったらいいなと思います。
では、また次回で。


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Episode2,part8

寒くなってきましたねー。みなさん風邪とか大丈夫ですか?
かくいう私は肺炎寸前まで行きました(笑)
というわけで、はじまりはじまり。


──side ハチマン──

 

 

「はっ……」

 

 

一撃、二撃──振る毎に足軽モンスターの首を斬っていく。

今キリトがボスと決闘をしており、俺はあいつを解放する為に湧いた雑魚を掃討すべく走っていた。

 

 

「ハチマンくん、ちょっとハイペース過ぎじゃ……」

 

 

「いや、こうでもしないとまずい」

 

 

斬り捨てたモンスターの近くにいたアスナの心配そうな声に被せるようにして答える。

あんな軽いノリでやり取りしたものの、俺とキリトはここに来て弱点を晒している。だから、時間はかけられない。

 

 

「遅くなればなるほど、キリトや俺の死亡率は上がる」

 

 

「それってどういう……」

 

 

「ポーションがもう少ししかないんだよ、俺らは」

 

 

俺もキリトも超攻撃型のアタッカーだ。こんなボスでもない限りタンクと共に全力で削る。そしてタンクがいてもなお、俺のポーションの消費は多い。おそらくキリトもそうだろう。

 

 

「俺の持ってるポーションはもう十個を切ってる。あいつも少ないだろう。ここからは気軽に消費できないんだよ、俺らは」

 

 

それ故の弱点。被弾は避けられないボス戦において、俺達は攻撃的過ぎる。

 

 

「……わかったわ。ごめんハチマンくん。背中預けていい?」

 

 

「……知らん、こっちはこっちでどうにかするから、そっちはそっちでどうにかしてくれ」

 

 

まだ、そこまで慣れない。雪ノ下や由比ヶ浜からもきっと何かしら信頼は受けていたと思う。が、ここまで素直に信頼されてしまうと、どうもありのままに答えることができない。

違う、これは比企谷八幡()ではなくハチマンへの信頼だ。だから素直に受け取ってもいいものなのだろう。

ハチマンも、こいつらの実力には一定の信頼を置いているわけだから。

 

 

「はぁぁぁっ!」

 

 

閃光の異名たる理由の、アスナの突きがモンスターを貫く。

なんだあれ、もうビームじゃねぇか。

 

 

「初めてまともに見たけど、お前のそれえげつないな」

 

 

「む……首斬りさんには言われたくないんですけど」

 

 

俺へと振り下ろされた攻撃を回避して、そのままに首を斬り飛ばす。

ほら。なんてアスナの声は無視することにする。

……前よりか余裕が出てきたのが自分でもわかる。わかるからこそ戒める。これは、ハチマンのものだと。何も比企谷八幡をハチマンと結びつける必要はないと。

だから、身体が少しばかり軽く感じるんだろう。ここでまた思考の深みに嵌まるくらいなら、今はこれでいい。

 

 

「そこっ!」

 

 

アスナの刺突が一度に何度も刺さったとしか思えない速さで決まり、モンスターはポリゴンへ還っていく。

ちょうど全部終わったのか、壁が消滅して俺はそっちへと駆けていった。

 

 

「早かったな、ハチマン」

 

 

「随分余裕そうだな」

 

 

あれと一対一でやりあったキリトは変わらずに俺と並んだ。体力もまだまだ余裕があるし、化物かこいつは。

さすが攻略組トッププレイヤーというか。

真正面からの戦いでこいつより上手く戦えるやつはそういないだろう。

 

 

「まぁな。って言っても、もうポーションほとんどなくなっちまったけど」

 

 

「なくなったらおとなしく下がれよ。俺もそうするから」

 

 

「わかってるって」

 

 

とはいえ、奴のライフバーは残り少し。この攻撃特化パーティなら削りきれる範囲内だ。

攻略にかかる時間も、このままいけばかなり早い。まったくもって性に合わないが、踏ん張り所のようだ。

 

 

「さて、と」

 

 

再び俺は駆け出した。もう最高速から落とすつもりはない。

ただひたすらに駆け回り手当たり次第に斬りつける。隙を見つけたら首に斬りかかって、いつでもその首を飛ばせるんだと意思表示してやる。

 

 

「うおおおおおおおっ!」

 

 

キリトの雄叫びが後ろから聞こえてくる。

ここにきてもう一段階攻撃のギアが上がったと言うか、おそらく手数重視の攻め方に変えたのだろう。あのバカ力であの手数か……どんな火力になってるんだか。

 

 

「……シッ」

 

 

それでも俺は俺のまま。俺にはアスナやキリトのような刹那に多数の攻撃を叩き込むような戦い方はできない。

が、それでいい。俺にはこれがある。

死角から、認識されるよりも速く一太刀。認識されても、反応される前にもう一太刀。人間観察の賜物か、俺は狙いをつけた場所へ攻撃するのは得意なようで、それは俺だけの戦い方。

 

 

「こいつでぇぇっ!」

 

 

回転を加えつつ振り抜かれた剣が、鎧ごとボスのわき腹を抉る。

ライフバーはあと一割あるかないか。そこにきて、ボスは再び咆哮した。

 

 

「……最後の決闘ってわけか」

 

 

先程攻撃したキリトはそのまま駆け抜けて行ったので奴の視界にはいない。つまり、相手は必然俺となる。

俺は飛び跳ねるのをやめて、下段に刀を構えた。

 

 

「ハチマン、ポーションはあるのか?」

 

 

「あと五つはある。まぁ、お前らがあいつらとっとと全滅してくれれば大丈夫だろ」

 

 

「了解。って言っても、別にハチマンがアレ倒しちゃってもいいんだぜ?」

 

 

「おい、俺に死亡フラグ立てるな。俺には補正なんてかからないんだからな」

 

 

と、軽口はここまで。あと少し、もう少し。

 

 

「ハチマン、いってくる」

 

 

「……ん」

 

 

キリトが離れていく。さっきはやらかしたが、今は大丈夫だ。

心も、随分と落ちついてる。

 

 

「命だいじに、ではあるんだが。それでも俺の根本は揺るがない。

何度だって言ってやる。お前を殺すぞ、化物野郎。俺は俺に戻る為に、俺である為にこの俺を肯定する。

……これだけは、こんなふざけたゲームにだけは負けねぇ」

 

 

強く刀を握って、俺はボスを睨み付けた。

 

 

──side other──

 

 

先に動いたのはハチマン。先程の予備動作をなくしても尚その速さは攻略組最速と呼ばれるだけあり、最初の決闘からでは考えられないくらいの速度でボスへ斬りかかっていく。

 

 

「おせぇ」

 

 

ブンと横に払われた一撃は、ハチマンに当たる数拍前から空振りが確定している。何故なら、ハチマンはそこにいない。

真横からボスへ斬撃が入り、その反対側にハチマンが現れる。

 

 

「……」

 

 

最低限当たってはいけない攻撃にだけ意識を強く向け、基本的に回避重視で攻撃する。

大きく息を吐いてボスを見据える。ボスの体力ももうあとわずか。ハチマンはそこで、初めて口元を笑みの形にした。

 

 

「……お前をハチマンの最初の勝ちの相手にしてやるよ」

 

 

下段に構え、両肩を脱力させる。元々猫背なこともあってより低くなる体勢に、だらりと下がった手に握られた刀の刃が地面についた。

 

 

「……行くぞ」

 

 

らしくないことは本人が一番わかっている。小さく出た声はそれでもゲーム内ではこうあろうと思った彼の決意の現れであり、そのまま一目散にボスへと駆け出した。

先手は絶対的にハチマン。キリトが攻撃したであろう斬り跡の残る鎧のわき腹部分へ横薙ぎを放った。

 

 

「そら……よっ!」

 

 

背後に回り込んで振り向き様に一太刀浴びせる。ボスは、自分にまとわりつく影を振り払うように大きく手を振り回して距離を取ったハチマンへと振り返る。

 

「ポーションはあと四つ……」

 

 

手持ちの回復薬を確認して、再び駆け出す。

その巨体に似合わずボスの太刀筋は速く鋭い。よこへと一閃された攻撃を突撃しつつも回避したハチマンだが、ゲームとしての判定はヒットだったらしい。削られる自分の体力を見ながらも彼はその手に持った刀を振り下ろした。そのまま斬り抜けるようにしてボスの攻撃を回避して背後へと着地して、彼は回復薬を飲んだ。

 

 

「あと三つ。……いけるか」

 

 

少しでも体力が下がれば即死圏内。だからこそ油断なく、自分に恐怖を感じさせないように回復薬の使用は躊躇わない。

 

 

「……はっ」

 

 

思考時間少なく、得意の隠蔽スキルを発動させて影を纏い走り出す。

ボスの左手に現れて刀身を光らせて上から一閃。そこでボスに姿を認識されるが、構わず踏み込み斬り上げの一閃。

 

 

「これで、終われ……っ!」

 

 

反撃のソードスキルが横を通っていく。完全な回避はできなかったものの、その体力は半分ほどで減少を止める。

そして最後の一太刀。三連撃の最終段を、ボスの首へとありったけの力を込めて放った。

 

 

「……やった」

 

 

聞こえたのは誰の声か。ようやく視線を剣先へ向けたハチマンは、ボスの首が宙へ飛び上がりポリゴンへ還っていくのを確認して、討伐成功を現す文字が中空に出現するのを見つめていたを

 

 

「──我々の、勝利だ!」

 

 

歓声がそこかしこから上がる。

一度刀を軽く振って流れるように納刀したハチマンは、背中から聞こえてくる自分の名前を呼ぶ声を聞きながら深呼吸をして、肩の力を抜いたのだった。




これにてボス戦は終わり、話もあと二つほどやってエピソード2も終わりになります。
これからまたこんな頻度で書いていきますので、どうかよろしくお願いします!


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