砲雷撃戦(物理)するには提督は必要ですか? ~はい。提督は脳筋仕様の化け物です~ (elsnoir)
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零話

「……んぁ…朝…」

 

 カーテンの隙間から差し込んでくる光がまぶしくて目を開けた。少しだけ見える空を見ると青空。快晴かどうかはわからないが晴れいてるようだ。

 

「………時間…」

 

 現在朝の7時48分。

 

「あれ…今日何曜日…」

 

 時計に表示されている曜日を見ると火曜日。確かゴミ収集の日。燃えるごみの日。明日火曜日だから捨てに行こうとして玄関に置いた燃えるごみ。などと徐々に思い出してきた。それでごみ収集の時間は8時締切……

 

「嘘だろぉっ!?!?」

 

 布団をはねのけ、ダッシュで玄関に向かい、ゴミ袋を手に取り走り出した。次の燃えるごみは1週間先。ここで捨てなければまたたまっていく。

 

 

 自分の出せる限りの力を発揮して、ゴミ回収地点に走った。目と鼻の先でゴミ収集車が動き出そうとしていた。

 

「おーーーーい!!待ってくれ!!」

 

 出せる限りの声で叫んだ。ゴミ収集車は止まり、作業員らしき人が二人降りてきた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ………行ったかと思ったよ…」

「とんでもねぇ…」

 

 ゴミを渡そうとして一歩踏み出した。彼らはゴミ袋ではなく、ゴミ収集車の中に手を伸ばした。そこから鈍色に光る鉄の塊。

 

「待ってたんだ」

 

 彼らの手にサブマシンガンが握られていた。

 

「!?」

 

 それに気づいたころには遅かった。もう鉛の雨が自分の体を真っ赤に染めているのだから。

 

「…ごふっ」

 

 意識がなくなり、視界が真っ暗になった。

 

 

「はっ!!」

 

 体を起こす。さっきとは違い暗くはっきりとしなかった。先ほどのことを思い返し、体を触る。包帯もなく、弾痕もない。どうやら夢で終わっていたようだ。

 

「…司令官」

 

 目の前に一人の少女が自分の体に馬乗りになっていた。そして体を押し倒された。

 

「お、おいそういったことは…」

 

 夜戦(意味深)するには時間的に問題ないが、さすがにと思った。が、そんな甘い考えは一瞬で消えた。グサリという鈍い音が聞こえた。

 

「え?」

 

 突然の出来事に変な声が出た。何が起きたかわかっていなかった。だが、何が起きたかすぐに理解できてしまった。自分の体に激痛が走ったから。

 

「ああああああああああああああああ!!」

 

 自分の胸に包丁が深々と突き刺さっていた。痛いとかそういったレベルじゃない。そう言った表現をすることができない。気道をやられたのかもしれない。息苦しい。体が冷たい。

 

「…だめじゃないか…大声を出しちゃ」

 

 少女が耳元でささやく。

 

「て、てめぇ…」

「…でも、全部、司令官が悪いんだからね」

 

 ガコン。鈍い音が部屋に響いた。二つの銃口が自分の顔面に向けられていた。12.7cm連装砲。駆逐艦の主砲。それが今自分に向けられている。

 

「ぁ…」

「…………さよなら」

 

 少女がニコリと笑う。そしてドォン!!と砲が放たれた。弾は自分の顔面を破壊し、少女とあたりを真っ赤に染めた。

 

 

「うわあああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 またも布団から起き上がる。今度は窓から光が差し込んでいる。自分の胸と顔はどうだ。胸を触り、顔もペタペタと触る。どうやら何事もなく、単なる悪夢のようだ。

 

「し、司令官さん…?」

 

 ガチャリとドアがゆっくり開けられた。ドアの隙間からひょこっと顔を出す少し大人しげな少女。

 

「電…すまん、起こしてしまったか?」

 

 彼女の様子を見る限り、髪は後ろで結んであり、服も乱れていない。たぶん起こしに来たか俺が叫んだことに異変を感じて起こしに来たんだと思う。

 

「あ、あの、司令官さんがなにか叫んでいたから…」

「ああ、すまん、酷い悪夢を見ていただけだ」

 

 ゴミを出したと思ったら、作業員二人にマシンガンでハチの巣にされるわ、少女に胸を包丁で突き刺された後、顔面を砲撃で吹っ飛ばされる。これが悪夢じゃなければなんになるのだろうか…。

 

「えっと、朝ごはんできてますよ…」

「すまん、すぐ行く」

 

 布団を畳み、クローゼットの中から肩に装飾の付いた一着の白い軍服を取り出した。

 

「……似合わないな」

 

 軍服に着替え、ボタンは第一だけ外した。着崩したところで指示する人間はほとんどいない。総司令部は結果だけを見ている。たかがボタン一つ外したところで何も言われないはずだ。そして自分が白色がかなり似合わないことを知った。



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壱話 提督の役目

★主人公
朝霧 渚(あさぎり なぎさ)
男性 19歳
身長 180cm
髪  白
瞳色 黒

★特徴
脳筋
筋肉モリモリマッチョマンの変態ではない



●朝食

 

★廊下

side:渚

 

 執務室を出た渚は廊下で一人の艦娘と出会った。今の時点で戦闘ができない艦の一人。鮮やかなピンク色のの長い髪が特徴で少し活発そうな表情の女性。

 

「あっ、提督。おはようございます」

 

 明石。名前だけは知っている。正確に言えば名前しか知らされていない。それと自分は現時点で戦闘ができないということを。あと何人か戦闘ができない艦娘がいたりする。そのうち2人は戦闘向きでなく、1人は艤装と呼ばれる装備がないだけで、艤装さえあれば戦える艦娘はいる。

 

「おはよう明石。今日は冷えるな」

 

 ネタ交じりで言ってみた。

 

「…提督、私より厚着して寒いなんてことは絶対ありません。それに私ちっとも寒くありません」

「……………マジレスすんなよぉ…」

 

 ネタで言ったつもりなのにここまで言われると思わなかった。彼女はボケ殺しなのか?

 

 

★小宴会場

 

 ここはもともとあった旅館を改造して作られたそうだ。昔はオーシャンビューがきれいということで、かなり人気だったそうだが、連中が攻めてきたおかげでそんな観光に行けるような場所ではなくなった。そこで海もよく見えるこの場所に鎮守府を作るということになったわけだ。ここは400人以上泊まることができるかなり大規模の旅館。客室の8割が艦娘の部屋ということになるのだが、今はまだ空室ばかりだ。ここには今のところ5人の艦娘と提督しかいない。今その艦娘たちが全員そろっている。

 自分の右隣にいる、茶髪の髪を後ろで縛った大人しそうな少女。自分が初めて出会った艦娘。名前は電。艦種は駆逐。ちょっとドジで優しい子。悪夢にうなされたときも心配してくれた。左隣には眼鏡をかけた女性。名前は大淀。彼女が艤装さえあれば戦うことができる艦娘。艦種は軽巡。大淀曰く任務や自分のサポートに回るのが基本的な仕事らしい。大淀の隣に明石。明石の隣には割烹着を着た茶髪の女性。名前は間宮。給糧艦と呼ばれる艦種で、基本的には戦わない。簡単に言えば、文字通り食料を与えてくれる。だが対象は基本艦娘だ。そして間宮の隣にいるのが同じく割烹着を着た黒髪の少女。この子も給糧艦。名前は伊良湖。計6人で大きなちゃぶ台を囲んでいる。

 

「いただきます」

 

 目の前には白いご飯、味噌汁、焼き鮭、卵焼きに海苔。いたってシンプルな和食だ。むしろそれがいい。私だって日本人だ。

 今はこうやってちゃぶ台を6人で囲んでいるが、後々ラウンジに移動して食事をとる予定だ。ちなみにこのちゃぶ台にあと2人ぐらいは座れると思う。それまではこの小宴会場で食べるつもりだ。

 

 

●提督の仕事その1

 

★執務室

side;渚

 

「さて、これから何をすればいいかだ」

 

 シンプルな机と椅子と資料しか入ってない古びた本棚しかないこの部屋でつぶやいた。

 

「では、まずこれを」

 

 大淀が一つのタブレットを差し出してきた。画面には任務リストというタイトルで大量にミッションのようなものが表示されていた。その中に「初めての開発」、「初めての建造」という項目にチェックがついていた。

 

「このチェックしてある項目をやればいいんだな」

「はい。ではまず工廠に行きましょう」

 

 

★工廠

 

 工廠は旅館とは別館になっている。工廠の中には資材の倉庫、無数のクレーン、工具などなど。そして溶鉱炉もあった。その溶鉱炉のせいでかなり蒸し暑い。そんななかでありえない世界が広がっていた。普通じゃありえないサイズの人?らしき生物が資材を持って走ったり、荷物を持ったり、作業している。

 

「なあ、なんだあれら。俺はいったいいつからファンタジーな世界に迷い込んだ」

「失礼ですね。妖精さんです。皆さん、集合お願いします」

 

 妖精と呼ばれた小人はこっちに集まってきた。

 

「こちらの方は今日から新しく着任した提督です」

「ああ、朝霧 渚だ。階級は大佐だ」

 

 妖精たちがびしっと敬礼する。

 

「この子たち妖精は艤装と呼ばれる武装の妖精であったり、この工廠の妖精だったりします。それでこの子たちに開発、もしくは建造を依頼すれば仕事を始めます。では早速依頼してみましょう」

 

 妖精たちの中で白衣を着た目立つ妖精がいた。どうやらこの子がトップらしい。手にボードとペンも握られている。

 

「…とりあえず、資材あまり持ってないからそれぞれ30で建造を頼む」

 

 そういうと先ほどの白衣を着た妖精がそれぞれの要請に指示を出した。皆せっせと走ったり荷物を運んだり、工具を扱ったりとしていた。同時にタブレットには残り一時間の文字が表示されていた。

 

「一時間後に新しい艦娘がやってくるということか」

「そういうことです。ではそれまで雑学ときましょう」

 

 脳筋の自分にとっては雑学ほどつらいものはないが、仕方ないと自分に言い聞かせた。

 

 

 1時間後、ふたたび工廠に戻ってきた。そこで一人の少女が待っていた。だいたい15~18ぐらいの子だ。藍色のツインテールが特徴だった。

 

「初めましてだな。俺は朝霧 渚。階級は大佐。先日着任したばっかだから、わからないことも数多くある。これからよろしくな」

「五十鈴です。水雷戦隊の指揮ならお任せ。よろしくね」

 

 お互いに握手を交わした。

 五十鈴。データベースによれば艦種は軽巡。対空、対潜にステータスが高いようだ。彼女が二人目の戦力となる。今電は部屋の掃除をしているが、後で紹介しなければならない。



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弐話 提督はおかしい

●提督の体はどうなっているのか

 

★鎮守府玄関前

side:五十鈴

 

「電ー斧持ってきたー?」

「はい、持ってきたのですー」

 

 提督に頼まれた斧とタオルとペットボトルの水を抱えて玄関前に出てきた。斧は倉庫から。どうしてそんなものがあるかは知らない。ただわかった時点で倉庫の中にはいろいろなものが詰まっている。旅館の倉庫ってこんな感じなのかと言わんばかりのものがたくさんあった。さっきの斧、バット、グローブ、釣竿、使えそうな冷蔵庫、折り畳み式ベッドなどなどホームセンターの中にあるものが全ておいてあると言っても過言でないくらいのものが詰まっている。

 

「司令官さん、遅いのです」

「そうね……」

 

 提督が鎮守府を出てきてからかれこれ一時間たっている。最初30分ごろに様子を見に来たが、いなかった。その時に斧を探すのを忘れていて倉庫に戻って見つけて戻ってきたら一時間後。そして今にあたる。

 

「………荷物置いて戻りましょうか」

「はいなのです」

 

 荷物を置いて間宮さんのところでお茶にしようと思った次の瞬間、目の前にある森から一人の男性が歩いてきた。上はタンクトップ、下は作業着のようなズボン。まあ、それはそれでいい。問題はその手だ。右手にはチェーンソーが握られていた。そして左肩には自分と電の身長を足しても足りないぐらい長く太い丸太が担がれていた。それを何一つ表情変えずこちらに向かってきてる自分の指揮官がいる。後ろで木こりのテーマでも流れているんだろう。

 

「おっ、斧見つかったかー。よかったよかった。余計な出費がなくて」

「て、提督……なに…それ?」

 

 渚の左肩に担いでいる丸太を指さし言った。

 

「何って丸太だ。あっちの山から切って持ってきた」

 

 両手が埋まっているため、右手のチェーンソーで方向を指し言った。

 

「は、はわわわ……」

 

 ばたんと電は気絶してしまった。あまりにも強烈すぎる光景に度肝を抜いたんだろう。当然と言ってしまえば当然だろう。そこまで筋肉質でない人間がかなり大きな丸太を片手で担いでやってきたのだから。

 

「い、電っ!?」

 

 倒れた電を起こす。

 

「体調不良か?すまん、早いとこ寝かせてやってくれ」

「あなたのせいよ!!」

「?」

 

 渚はキョトンとした。自分が何をしたのか、その行為がどれだけ異常だか気づいていないようだ。まるで当たり前とも言わんばかりに。

 

「何かあった………んで…すか?」

 

 大声に気づいたのか、明石が玄関から出てきた。明石に続いて大淀も玄関からやってきた。

 

「提………と…く?」

「ん?二人してどうした」

 

 渚が声をかける。

 

「どうしたも何もおかしいに決まっているじゃない!!ほら、明石に大淀も白目むいてるじゃない!!」

 

 二人は唖然とした表情で白目をむきながら、立ち尽くしていた。

 

「……まあいい。とりあえず皆は休憩しててくれ、雑談するなりお茶するなり自由にしてくれ。俺はこれからこの丸太を薪にするから」

 

 そう言って少し離れた場所にある切り株の近くに向かって歩いて行った。そしてそれを一つ一つ切っていった。五十鈴は思った。この提督に喧嘩吹っかけたら勝ち目がないと。人は見かけによらないというが彼がまさしくその言葉にあてはまるだろう。

 

 

●戦闘。やっぱり提督は体だけでなく頭もおかしいと思う。

side:渚

 

 深海棲艦。人類の敵で自分たちが倒すべきもの。彼らの出所は不明。噂によれば昔沈んだ艦艇が何らかの変化を遂げ浮上したものらしい。そしてその深海棲艦に対抗できるただ一つの手段。それが艦娘。いわゆる電や五十鈴といった彼女たちにあたる。なぜ彼女たちでなければいけないのか、どうして彼女たちだけ深海棲艦に対抗できるのかそういった点は不明。選ばれた人だけがここにいる。そもそも誰に選ばれたのかも不明。正直言って謎だらけ。自分たちの味方はなんなのか。戦っている敵はなんなのか。それすらわからないレベルだ。今はただ明日の未来のために戦うことしかできない。学者たちがいろいろ頑張っているが解明されるのは当分先のはずだ。

 そしてその深海棲艦の一隊がこちらに侵攻を開始している。敵は一体。艦種は駆逐。偵察のつもりかもしれない。だが駆逐艦一体で無数の被害が出ている。この鎮守府は日本から少し離れた小さな島にある。当然輸入されるものもある。だが深海棲艦のおかげでその輸入ルートが全て断たれている。海はさっき言った通り駆逐艦、軽巡、重巡といった水上艦に加え潜水艦に沈められ、空路は空母による艦載機の攻撃。そして対空砲火。それらによって無数の食糧、資材、生活用品といったものが沈められている。今この島は自給自足で何とか生活できている。そしてこの島には自分たちを含め約600人が生活している。おまけにこの生活を続けて3か月たったそうだ。いつものがなくなってもおかしくない状態だ。

 自分がここに送られてきた理由は一つ。この絶望的な状況を打破するために提督として送られた。どうやってきたって?ジェット機に乗ってやってきた。空軍でもないのに急ピッチでジェット機の操縦方法を教わり、やってきたわけなのだが、道中艦載機による歓迎を受け撃墜された。その後パラシュートで脱出。なんとか無事?たどり着くことができた。

 

「…さて、初陣になるが二人とも大丈夫か?」

 

 二人はこくんと頷いた。自信はそれなりにあるようだ。

 

「うん。頼んだ。ゆくゆくはこの島の人たちの未来がかかってる」

「ええ。行くわよ電」

「はい、なのです」

 

 二人は執務室を後にしていった。その時電は少し不安そうな表情をしていた。

 

 

★出撃ゲート

side:電

 

 この旅館から直接船が出せるように一部分が海と接触している。そこから艤装を装備し海に出ることになる。戦場がすぐそばに広がる。

 

「電、大丈夫?」

 

 艤装を装備しながら五十鈴が声をかける。

 

「大丈夫なのです……怖いのは変わらないのですが…」

「そうね…私も怖くないって言ったら嘘になる。でも戦わなければならない。市民のために、提督のために」

 

 ガチャリと音を立て銃に砲弾をつめた。引き金を引けばすぐに撃てる状態だ。砲弾を詰めるのは自分ではなく妖精の仕事。自分は目の前の敵を殲滅することが仕事になる。

 

「大丈夫。いざとなったら私が守る。行くよっ」

「あっ、はいなのです!」

 

 舵を取り海を滑るかのように足についている艤装が動き出す。

 

 

★鎮守府正面海域

 

 海を滑り出して5分。深海棲艦が現れたというポイントに到着した。

 

「ここね」

 

 五十鈴が肩にかけていた砲を構えた。五十鈴の兵装は14cm単装砲に三連装魚雷二基だ。それに対し電は12.7cm連装砲と三連装魚雷を同じく二基。駆逐艦を倒すには十分すぎるかもしれないが、これが初陣となる。訓練は積んできたが心配なことに変わりはない。渚が少ない資材を勉強ついでに開発してできた物を装備している。

 

「………どこにいるの…?」

 

 あたりを見渡す。気配はない。本来なら目だけでなく電探と言ったレーダーで探すのが一番だがこの鎮守府にはそんなものはない。

 全神経を集中させ、気配を探る。どこからかやってくるかわからない。正面もしくは背後。最悪真下ということもあり得る。

 

「………」

 

 目を閉じ集中する。揺れる海面が今以上に揺れた気がする。何かが迫っているような音がする。

 

「…そこなのですっ!」

 

 装填装備している魚雷を計六本海面に撃ちこんだ。海中を六つの魚雷が突き進み何かに激突した。爆音と同時に高い水しぶきが上がった。そこに黒い巨大な影があった。大きさは大体観光バスより少し小さいぐらいだ。鯨のような体をしているが表面は黒く装甲なようなものに身を包んでいる。その口は情報によれば商船の一つや二つを簡単に噛み千切ったという。その駆逐艦の緑色の目が光り、こちらを向く。名前はイ級。他にも幾つか別の駆逐艦がいたと思う。

「これが…」

「くっ、砲雷撃戦、始めるわ!」

 

 五十鈴が砲をイ級に構え一撃を放った。砲弾は一直線に空を突き進みイ級に直撃した。爆炎がイ級を包んだ。イ級に直撃したにもかかわらず傷らしきものはなかった。

 

「当たり所が悪かったのね!」

「砲撃、来るのです!」

 

 イ級が口を大きく開け喉から筒らしきものを出した。そこから轟音が響き砲弾が放たれた。

 

「電、避けて!!」

 

 五十鈴が声を上げる。電は砲弾を避け、海面を滑りイ級に近づく。この連装砲の射程は基本的には近距離だ。遠距離戦では向かない。大きなダメージを与えるにはできる限り近づかなければならない。イ級を錯乱させるかのように海面をジグザグに滑る。体勢をさらに前かがみにし速度を上げる。足の艤装は体重移動によって移動する向きや速度が変わる。

 

「電、無理しないで!!」

「はいなのです!」

 

 海面を滑りながら砲をイ級に向ける。イ級はこちらに向き、照準を定めている。こちらも標準を定める。

 

「撃つのです!」

 

 手に大きな衝撃が走る。二つの砲身から放たれた弾丸は空を切り、イ級の口の中に直撃した。その直後イ級が爆発し、黒煙を上げた。

 

「や…やった…のですか…?」

「そうね…よくやったわね」

 

 そう言って五十鈴が鎮守府のほうを向いた。

 

「帰りましょうか」

「はいっ」

 

 黒煙に背をむき、動き出した。次の瞬間、自分たちの視線の先で海面が突如巨大な水しぶきを上げた。

 

「な、なに…?」

 

 恐る恐る後ろを振り向く。そこには人の形をした何かが海面に浮かんでいた。その両手は異形と化していて、一種の盾の様だった。だがそこにはいくつもの筒が見えた。

 

「う、ウソでしょ……」

 

 足が震える。電も同じように震えていた。目の前の存在は青色の瞳を輝かせこちらを見ていた。戦艦ル級。深海棲艦による最初の被害はル級によるものだった。豪華客船をたった一隻で沈めたという。それもわずか三分で。そんな危険な存在が今目の前にいる。

 

 

★鎮守府 執務室

side;:渚

 

 双眼鏡をのぞき電と五十鈴が敵対している存在に気付いた。人。艦娘ではない人のような何か。タブレットのデータベースを見ればそいつのデータがあった。戦艦ル級。一番最初に世の中に深海棲艦の被害を出した存在。このル級がそいつとは限らないが、その一撃はかなりのものになる。彼女たちが一撃で沈む可能性だって否定できない。

 

「……俺はただ見てることしかできないのかっ!!」

 

 海上から水しぶきと煙が上がる。二人ともうまく立ち回りル級に砲撃を与えているがダメージを受けている様子が全くと言っていいほどない。そんな中ル級は彼女たちを蹂躙していった。砲撃は直撃し彼女たちの艤装を破壊していく。電にしては砲はすでに使い物にならなくなり、魚雷も発射管がひしゃげ、魚雷を打つことすらできない。五十鈴も服が裂けたり、砲が破壊されたりと被害は大きい。

 

「………くそっ!!」

 

 一つだけ出撃ゲートに予備の武装と艤装があったことを思い出した。ダメもとでもいい。ただ今は彼女たちを支援することにした。そうでもしなければ彼女たちの命はない。自分たち提督の変わりはきく。ただ艦娘の変わりはいない。

 

 

★出撃ゲート

 

 艤装と言っても足の部分しかない。そして武装は12cm単装砲と三連装魚雷一基のみ。魚雷を腰に装備し、単装砲を握り海上を滑りかけた。

 

「頼むもう少しだけ持ってくれ」

 

 自分がそこに行ったところでどうなるかわからない。むしろ悪化するかもしれない。それでも動かずにはいられなかった。

 

 

★鎮守府正面海域

side:電

 

 電と五十鈴はル級の猛攻によりボロボロになり、反撃することすらできなくなっていた。砲に関しては砲身が潰れ砲弾を打つことができない。魚雷にしたって発射管がひしゃげている。魚雷が引っかかって打つことができない。引き抜いて投げるという選択肢もあるがそんなことをしている間に敵の砲弾に撃ちぬかれる。そもそも魚雷で大したダメージを与えられるかどうかすらわからない。

 

「…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 ル級は大したダメージもなく立ち尽くしている。標準はこちらに向いている。

 

「……司令…官…さん……」

 

 涙があふれてきた。目の前の敵に何もすることができなかった。五十鈴も悔しそうに歯を食いしばっている。

 

「……ごめんなさい」

 

 そう謝ると同時にル級の砲身から砲弾が放たれた。対象は電。これで終わり。そう思った瞬間、電とル級の間で砲弾が爆発した。

 

「電!五十鈴!!」

 

 男の声が響いた。出会ってまだ三日程度。ここにいるはずのない人間がそこにいた。渚が艤装を装備してやってきた。

 

「提督!何してるの!!早く逃げて!!」

 

 五十鈴が残された力を振り絞って叫ぶ。

 

「……逃げるのはお前たちだ!」

 

 

side:渚

 

 海上を滑りながら砲弾を放つ。銃身から放たれた砲弾のいくつかはル級に直撃するがそれ以外は空を切り外れて行った。直撃しても大したダメージは与えられていない。それどころか電や五十鈴以下のダメージを与えている可能性が高い。

 

「なんで…」

「俺はお前たち艦娘の帰りを笑顔で迎えるのが一つの仕事だと思っている。でも俺が…提督が艦娘を守るのも一つの仕事だと思っている!だから戦う。お前たちは退け!」

 

 かすり傷すら見えない。やはり自分ではだめなのだろうか。それでも諦めるわけにはいかない。

 

「この…………くそったれがああああああああああああああ!!!!」

 

 渚は叫び、全体重を前に向け艤装を全速力で滑らせた。ル級は高速で接近する渚に標準を向け砲弾を放つ。砲弾は海面を、渚の通った空間を突き抜けて行った。艦娘と違って自分はただの一般人。当たれば運良くて重症。それ以外は死。たとえ生きたところで追撃をもらい死に至るだろう。

 

「あんたなんかに、殺されてたまるかァッ!!」

 

 腰に装備した魚雷を左手の指と指で三本ずつはさみそれを中距離で思いっきり投げた。渚の手から放たれた魚雷はくるくると回転しル級へ飛んで行った。ル級はその魚雷を落とそうにも落とすことができなかった。まず高度の問題。投げられた魚雷は顔に向けられていた。そして速さの問題だった。自信の移動速度に加えて、彼の腕力による速度で対応ができなかった。

 三本の魚雷はすべてル級に直撃した。爆炎がル級を包む。煙が晴れるとル級の顔にはやけどのような傷があった。ようやくまともなダメージを与えた。

 

「…砲撃がだめなら…」

 

 砲を握る手を強く握りしめた。砲撃がだめなら残された手段は一つしかなかった。海面を高速で滑りル級に肉薄する。そして、ブレーキをかけるかのように足の向きを変えた。

 

「12cm………」

 

 踏み込めない海面を全力で踏み込んだ。そして

 

「単装砲ッッッッ!!!!!!」

 

 叫びながらル級を右手に握られた単装砲で全力で殴った。漫画とかなら「ドゴォ」という効果音がなってもおかしくないフォームでかつ重い一撃だった。砲身が顔面に突き刺さると同時に引き金を引き零距離で砲弾を当てた。

 渚に殴られたル級は吹っ飛んだ。吹っ飛ばされたル級はそのまま沈んでいった。

 

「ああ…」

「はわわ…」

 

 その光景を見ていた二人の艦娘は唖然としていた。当然かもしれない。兵器で倒せなかった敵が大体物理攻撃によって沈んでいったのだから無理もない。

 

 

★鎮守府 執務室

 

「まあ、何がともあれお疲れ様。今日はゆっくり休め」

 

 ボロボロになった電と五十鈴に声をかけ二人をさがらせた。初陣であんなハプニングがあるとは思っていなかった。当然何か起こるということは頭の中にあった。

 

「さて………大淀、明石。お手柔らかに頼むよ」

 

 二人が去って行ったあと、扉の隙間から二つほど恐ろしい視線を感じていた。

 その後渚は一時間ほどこっぴどく説教された。

 

 

●艦娘の日記

 

 今日から司令官さんが日記を書いていけって話があったのです。記録を残せば自分たちがいた証拠になる。次の人たちへの手助けにもなる。そう言っていたのです。それは別として、今日は大変だったのです。でも司令官さんが助けてくれたから、こうやって日記を書いていられるのです。でも、司令官さん…ちょっとおかしいのかもしれないのです。戦艦相手に魚雷を投げてその後殴ったのです。でもあの時助けてくれた司令官さんは、ちょっとかっこよかったのです。




遅くなりました本当に申し訳ありません。ちょっと強引すぎるところがあるかもしれません。

独自解釈にしてはかなり特殊だと思います。

また更新は離れると思います。


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参話 捕捉

★工廠

side:渚

 

 調子乗って適当に建造した。適当に資材指定してお願いした。その後五十鈴に注意された。そして結果は1時間22分と1時間25分。そしてその間大淀から逃げていた。青い服を着たペレー帽をかぶったスタイルのいい艦娘と銀色の髪を緑色のリボンで縛った艦娘。青い服の艦娘と比べ胸は貧相だった。

 

「朝霧 渚だ。これからよろしく」

「高雄です。よろしくお願いします」

「兵装実験軽重夕張です」

 

 新たな戦力として二人が加わった。駆逐、軽巡、重巡。3つの艦種がそろった。戦力も大幅も上昇するだろう。少しでも早く輸送ルートを確保しなければならない。

 

 

★執務室

 

 簡単な自己紹介をしている間に本部から一つ伝文が入った。今まで通っていた輸送ルートを確認したいから少し偵察をしてほしいとのこと。要するにちょっと偵察ついでに簡単に深海棲艦殴って来い。ということだ。で、今は電、五十鈴、夕張、高雄をそろえ小さなミーティングを開いている。

 

「ああ、本日輸送ルートの確認ということで、少し偵察に出ることになった。偵察という名目で戦闘ということになる。完全な輸送ルートを確保するには大分時間がかかるが、いつかはできるはずだ。というわけで鎮守府から少し離れたところにあるこのポイント」

 

 そう言って地図を広げる。そしてそのポイントを指でぐるぐるとなぞる。前回戦闘したところからちょっと遠くに行った場所だ。

 

「よし、皆準備はいいな?」

 

 目の前にいる艦娘は皆自信満々にうなずく。

 

 

★鎮守府正面海域

 

「で、どうして提督が出撃しているんですか?」

 

 夕張が声を出した。高雄も困惑している。どうして提督が出撃する必要があるのか。普通提督は鎮守府にいて指示を出すはずだ。なのに今は艦娘たちと同じように砲を手に持ち海面を滑っている。

 

「理由はいつか話す。今はただ戦闘だけに気を使っておけ。何が起こるかわからないからな。前に戦艦が殴り込みしてきたこともあった」

 

 その時は俺が殴り込みして戦艦を殴り沈めたが。

 殴り沈めたときに一つあることが証明できた。自分に深海棲艦に対抗する力があるということ。

 

 

side:高雄

 

 そして砲雷撃戦が始まった。始まりの轟音。その次には

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 提督の雄叫びだった。どうしてこうなってしまったのだろう。

 

「あ、あの五十鈴さん、提督が何で深海棲艦相手に単装砲で殴りつけているんですか…?」

 

 目の前の提督は高速で接近しては深海棲艦相手に砲撃など行わず接近戦しか行っていない。放たれる砲弾は牽制程度だ。恐ろしいことにダメージを受けていないことと砲身がだめになっていないことだ。

 

「高雄さん、提督にツッコミを入れたら間に合わないわよ。あと喧嘩吹っかけるのもダメ」

 

 喧嘩を吹っ掛けることはないと思うけど、深海棲艦相手に殴り込みしているのだから喧嘩しに行く人もなかなかだと思う。

 そんなことを考えている暇はない。前方からイ級が二つ組み合わさったようなタイプの船。クラスは軽巡。名称はト級だ。今のところ重巡クラスの艦は全部渚が殴り沈めた。渚の艦種クラスは駆逐だというが、本当に駆逐艦クラスなのだろうか。戦果を見れば完全に重巡か戦艦レベルだ。

 

「砲雷撃戦っ、用意!!」

 

 高らかに声を上げ、腰に付属している艤装から砲弾が放たれた。砲弾はト級に直撃した。こちらから見て左側が破損していた。追撃をかけようと次発装填を開始した。が、

 

「ふぅんす!!」

 

 隙あらば殴りに来る渚。もう全部彼一人に任せちゃってもいいんじゃないかな。

 

 

 戦闘はあっさり終わった。数もそれなりに多かったと思うが渚が暴れてくれたおかげで無駄な弾丸を使わずに済んだ。

 

「帰るぞ」

 

 と渚が声を出した。彼の後に続こうとした瞬間、ひっそり動かしていた索敵機から連絡が入った。九時の方向に深海棲艦と交戦中の艦娘を捕捉。とのことだ。そのことを提督に話す。

 

「どうしますか?」

「行くに決まってる!」

 

 当然の答えだ。

 

 

★海域 ???

side:???

 

 あれからいったいどれだけ砲弾を撃ち続けただろう。どれだけ被弾しただろう。もう動けない。ただの立ち砲台だ。目の前で一人の艦娘が自分を必死にかばっている。彼女もボロボロになっている。

 

「…結局……守れないんですか………」

 

 あの時もそうだ。何もできずただ空をにらみ立ち尽くした。今度はそうならないようにしたかった。でも今も同じだ。目の前の戦場をにらむことしかできない。艤装の砲はひしゃげて使い物にならなくなっている。妖精も倒れ、これ以上の戦闘はかなり困難だ。

 目の前の彼女が被弾する。彼女の艤装の砲身も潰れ、砲弾を撃つことはできなくなってしまった。

 

「……ここまでね…」

 

 彼女が諦めたようにつぶやく。残された手段は沈められるの一択だ。奇跡でも起こらない限りこの先の未来はない。かすんだ視界の中でゆらりゆらりと敵艦隊が近づく。たった二艦。それでも戦力はかなり大きい。

 

「…提督…お姉さま……皆さん………ごめんなさい」

 

 涙が零れ落ちる。悲し涙と、悔し涙。守れるものも守れなかった。

 

「………シズメ」

 

 背後に巨大な影を従える一つの艦が呟いた。このあと砲弾は自分に直撃し、それで沈む。そのあとは終焉だ。

 

「………少しでも生きる希望さえ…」

 

 ないと思っていた。かすんだ視界で何かが動く。

 

 

side:渚

 

「ストレェェトオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 雄たけびを上げながらなんだかよくわからない巨大な艦を従えた人型の艦に全力で殴りつけてやった。

 

「「「!?!?」」」

 

 その場にいたボロボロの艦娘二人に残りの人型の艦一隻は目を丸くしていた。

 

「おい、生きてるか!!」

 

 敵艦から離れながらボロボロの艦娘に声をかける。セーラー服のような服装の女性と巫女服のような服の女性。どちらもボロボロで砲身は使い物にならず、服も破けていた。

 

「電、五十鈴!二人を撤退させろ!!」

「はいなのです!」

「わかったわ!提督っ、これを!!」

 

 五十鈴が持っていた装備を投げる。14cm単装砲と三連装魚雷二基。これだけでそれなりに戦える。14cm単装砲を左手に。魚雷は腰に付けた。

 

「…オマエハ…」

 

 深海棲艦のような帽子をかぶった人型の艦が喋った。目から出ている蒼い炎のような軌跡が目立つ。

 

「朝霧 渚、提督だ!」

「…ソウ……ナラ、シズメテアゲル」

 

 先ほど殴りつけた艦が言った。ちょっといらっと来た。

 

「ほう…………面白い奴だ」

 

 渚の顔に少しだけ笑みがこぼれていた。

 

「気に入った」

 

 少し楽しそうにつぶやく。向こうも愉快そうな表情をしている。が、次のセリフで一転した。

 

「沈めるのは最後にしてやる」

 

 渚の目は決して笑っていなかった。殺意しかなかった。




大変お待たせいたしました!!本当にすみませんでした!!


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四話 提督は和解するつもりもなく拳で語る

★海域 ???

side:渚

 

 挑発すると同時に海面を全速力で滑り出す。目的はでかい奴。渚が接近すると気づき巨大な影から砲弾が放たれた。それを横に体重を傾け回避行動をとる。放たれた砲弾は海面に直撃し高い水しぶきを上げた。だいたい高層ビル程度の。

 

「おいおい…シャレになってねぇよ…」

 

 空高く上がった水しぶきを見上げ言葉を漏らした。その視界に青色に光る黒色の飛翔する物体を見つけた。それを敵の艦載機と判断するのが先だったか、腰に装備している魚雷に手を触れるのが先だったかわからない。もし先に魚雷に触れているのなら、「飛んでいるから撃ち落とせばいい」という単純な理由で触れたんだと思う。

 魚雷を三本指で挟み、それを飛翔する艦載機めがけてぶん投げた。くるくると回転しながら飛んで行った魚雷は六本。それが一つの艦載機に直撃し爆発を起こした。その爆発に誘爆してほかの艦載機も爆破する。目の前のでかい奴より先に動きを止める奴がいた。先ほどの艦載機を飛ばしてくる深海棲艦の帽子をかぶった人型の艦。空母だ。名前はヲ級。ただまとっているオーラが違う。おまけに目から蒼い炎が出ている。

 

「邪魔だっ!!」

 

 滑る方向をヲ級に向け、接近した。

 

「高雄!提督を援護!!」

「わかってます!!」

 

 夕張は手に持っていた砲を握り、放つ。同時に高雄も砲弾を放つ。放たれた砲弾は空を切り裂き、ヲ級に直撃するもあまりダメージはないようだ。渚はそのまま海面を滑りヲ級に接近する。ヲ級はこちらをにらみ艦載機を飛ばそうとする。

 

「させるか!」

 

 再び魚雷を指で挟みぶん投げた。今度は被弾するまいと回避行動をとるがさすがに六本を回避するには無理があったようだ。投げられたうちの二本が直撃する。爆炎がヲ級を包む。そして視界を奪っている間に渚は、

 

「こんのぉ!!」

 

 と声を上げ全力の腹パンを繰り出した。もちろん単装砲付きで。腹を殴られたヲ級は怯み、顔を上げこちらをにらむ。その顔に

 

「おらぁっ!!」

 

 今度は左ストレートだ。同じように単装砲をめり込ませる。そこに追い打ちをかけるかのように、右手を一度下げ

 

「ブロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 もう一度全力のブロー(腹パン)をお見舞いしてやった。おまけに零距離での砲撃を加えてやった。ブローの威力に加え零距離の砲撃でヲ級の体が上空へ上がった。ある程度ダメージは与えたから今度はでかい奴だ。

 

「オオオオオオオ!!」

 

 背後の巨大な影が雄たけびを上げる。雄たけびに答えるかのように肩らしき部分に付属している砲身が火を噴く。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 渚は同じように雄たけびを上げながら放たれた砲弾を避ける。全速力で海面を滑り巨大な影に迫っていく。赤色の瞳がこちらを睨みつける。渚も同じように睨めつけながら砲弾の弾幕を避け突き進む。

 

 

「シズメッ!」

 

 砲弾を避けていたがうまく誘導されるように砲弾を放っていたようだ。近くに着弾した砲弾が高い水しぶきを上げ視界を奪う。そして水しぶきの奥から砲弾が放たれた。砲弾は着弾し高い水しぶきを上げた。

 

 

side:高雄

 

 渚が砲弾に直撃してしまった。

 

「提督!!」

 

 提督は艦娘ではない。ただの人だ。そんな人がイージス艦をたかが一発で沈められる弾丸を直撃したんだ。生きているわけがない。着任してたった数時間、自分の指揮官を失った。

 

「……よくも……よくも、提督を!!」

 

 怒りがこみ上げる。今装填されている砲弾を全て放った。巨大な影が爆風に包まれるも大きなダメージを受けた様子は一切ない。お返しと言わんばかりに砲弾が飛んできた。それを避ける間もなく当たった。

 

「うああっ!!」

 

 服が焼け落ち、艤装が破損する。肌も焼け落ちるかのように痛い。向こうはまだ撃つつもりだ。そうはさせまいと夕張も砲弾を放つが、高雄の二の舞になってしまった。

 

「そんなっ…」

 

 砲身が動き角度を合わせる。今度は沈める。人型の艦の赤い瞳からそう伝わってきた。

 

「シズメ」

 

 まるで死刑宣告でもするかのようにつぶやいた。それと同時に人型の艦のすぐ近くから水しぶきが上がった。そこにボロボロの白い軍服を身にまとった一人の青年がいた。そう、渚だ。

 

「提督!!」

 

 

side:渚

 

 砲弾が直撃する前に足の艤装のエンジンを止めた。そして海中に潜ったものの威力は全部消えることなく少し被弾した。そして少しの間海中に潜って隙をうかがっていた。そして今艤装のエンジンをフルスロットさせ、海上に飛び上がったわけだ。

 目の前には巨大な影の口が見える。なんでも砕きそうな咢だ。この巨大な艦のどこに眼らしきものがないが、それがありそうな部分を両手の砲で殴りつけることにした。

 

「チェストオオオオオオオ!!」

 

 それにしてもよく叫んだと思う。ことあることに叫んでる気がする。今はそんなことを気にしている場合ではない。

 

「オオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 砲がめり込み、巨大な艦が声を上げた。その艦についている腕らしきものが渚をつかもうと動き出した。

 

「捕まるかよッ!」

 

 逆上がりの要領で口らしき部分を蹴り、艦から離れる。そして砲を一度ホルスターに収納させ、指に魚雷をはさみ投げた。その魚雷は口の中に放り込まれた。次の瞬間、巨大な艦が爆発した。

 

「キャアッ!」

 

 爆風で人型の艦が吹き飛ぶ。これで単なる人型の艦だ。おそらくこの艦に戦闘手段は残されていないだろう。渚はゆっくりとその人型の艦に近づき捕まえる。首もとのケーブルを持ってだ。

 

「お前を最後に沈めるといったな」

 

 視線を横にやる。いまだにボロボロになったヲ級がいる。

 

「ソ、ソウダ……タスケテ…」

 

 左足をゆっくりと引く。ケーブルをつかむ手をはなす。そして「ボ」という効果音が付属するであろうフォームでその人型の艦を左足で蹴り飛ばした。当然左足だけエンジンで加速した状態でだ。蹴り飛ばされ上空に上がった人型の艦。それが落下するポイントに向けて海面を滑る。

 

「………あれは嘘だ」

 

 と言い、速度を乗せた状態で右手に握る14cm単装砲で落下してきた人型の艦の顔を全力で殴ってやった。もちろん零距離砲撃もつけてだ。

 

 

★鎮守府 執務室

 

 その後ちゃんとヲ級も殴り沈め、無事帰還することができた。すぐにでも高雄と夕張を入居させたかったのだが……

 

「……………どうんすだこれ」

 

 入渠ドッグ。艦娘によって入渠の形は違うが、今は二人とも布団に寝かせておいた。電の話によればぐっすり眠っているらしい。そして艦娘が入渠に入ると時間が表示されるのだが、時間が時間だ。聞きたいことが山ほどある。

 

「二十時間と七時間だと……」

 

 艦娘の体力をすぐに回復させる魔法のような道具があるのだが、大淀に話を聞けばここにはないらしい。




お気づきかと思いますが、敵艦はヲ級フラグ改とダイソン……戦艦凄姫です。


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五話 襲撃

●艦娘の日記

side:高雄

 

 電ちゃんから渡されたけど、どういったことを書けばいいかわからないわ。提督についてなら書けそうな気がする。初対面の印象は良かったけど戦場に出てから印象は変わったわ。でも、少しだけかっこよかったわ。あくまで少しだけね。

 

 

★鎮守府 客室

side:???

 

 薄暗い部屋で、起き上がる自分がいた。外は黒い空に丸い月が浮かんでいた。

 

「………」

 

 自分の服装は浴衣だった。ここに連れてこられて着せさせられたのだろう。自分の隣に目をやる。一人の女性が寝息を立てている。

 

「………榛名、ごめんちょっと離れるね」

 

 布団から出て、客室を出る。

 

 

★鎮守府 廊下

side:???

 

 廊下は少しの明かりしかついていなかった。でも歩くのには十分だ。危険は少ないはずだ。

 

「…ここが鎮守府ならどこかに提督がいるはずね」

 

 木製の床をとてとてと歩く。歩いていると見えてきたのは明かりが漏れている一つの部屋だった。

 

 

★鎮守府 ラウンジ

side:渚

 

 渚は十二時ごろからずっとラウンジの椅子に座ってぼうっとしていた。縦長の部屋で数多くのテーブルと椅子があるこの部屋で入口に近いところだ。

 

「やっと起きたか」

 

 席を立ちあがる。目線の先には藍色浴衣を着た長い髪が特徴の女性。もう一人の艦娘とは違って真面目そうな表情だ。

 

「あなたが提督ね」

「ああ。朝霧 渚。階級は大佐だ。ところで」

 

 後ろを振り向き時計を見る。

 

「腹減ったろ」

「そ、そんなことないわ!」

 

 彼女がそう声を出した瞬間、ぐうと音が鳴る。

 

「嘘をつくな。どうせ腹が減ってると思って料理は作ってある。今電子レンジで温めるから少し待っててくれ」

 

 気分転換も含め近所のコンビニに行ってきて適当に弁当を買ってきたわけだ。そして温まったメロディーが流れる。

 

「ほら。親子丼だがアレルギーとかないよな?」

「ないわ。でも、いただいていいのかしら」

「ああ。食べたら今日は寝ろ。聞きたいことは後で聞く。今は体力の回復に努めてくれ」

 

 彼女は黙々とご飯を食べて「ごちそうさま」と言ってラウンジを出て行った。名前を聞こうとしたがやめた。次に会った時にまとめて聞けばいい。

 

 

★鎮守府 玄関

 

 翌日、夕張が設計図とやらを渡してきた。敵艦が時々持っているようだ。どうしてそんなものを持っているかどうかわからない。もしかすれば昔沈んだ艦の断片が何らかの変化を起こしてそうなったのかもしれない。そして新たに新しい戦力が加わった。藍色のセーラー服を身にまとった少女。

 

「吹雪です!よろしくお願いします!」

 

 びしっと敬礼までしてくる。渚も同じように敬礼して答えた。

 

「朝霧 渚だ。階級は大佐だ。これからよろしく頼む」

 

 簡単に挨拶を済ませた。

 

「さっそく、鎮守府を」

 

 案内しようか。と言おうとしたがそれは簡単に巨大なサイレン音にさえぎられた。

 

「皆さん、聞こえますか!!」

 

 サイレンと同時に大淀の声が響く。

 

「何事だ!」

「多数の敵艦隊がこちらに接近中です!敵旗艦を叩けば撤退するかと思われます!!」

「全員出られるな!!吹雪、早速実戦だ。行けるな?」

「はい!」

 

 

★鎮守府 出撃ゲート

side:吹雪

 

 全員で地下に向けて走る。ここから海域に出ることができる。普段はゲートの扉は締まっているが、緊急事態のため開いている。

 そこにある艤装をさっさと装備する。新しく吹雪の艤装もある。

 

「準備いいよ!」

 

 夕張が声を上げる。その声に続いて高雄、五十鈴、電も声を上げる。

 

「吹雪、いつでも行けます!!」

「よし!艦隊、出撃だ!!暁の水平線に勝利を刻め!!」

「「「了解!!」」」

 

 出撃ゲートを通り過ぎ、海面を滑る影は六つ。皆一列になって滑っている。単縦陣だ。旗艦は高雄だ。

 

「あれ…六つ?」

 

 おかしい。自分を含めて艦娘は五人しかいないはずだ。そう渚から直接言われた。前から数えていく。高雄、夕張、五十鈴、電、吹雪。ではもう一人は?ゆっくりと後ろを振り向く。そこにいたのはあってまだ三分と立ってない白い髪の男性。

 

「し、司令官!?なんでいるんですか!?」

「吹雪ちゃん、突っ込んだら負けよ」

「負けってなんですか!?」

「おしゃべりはここまでだ。敵艦隊を発見した。殲滅する。」

 

 

★鎮守府正面海域 エリアA

side:渚

 

「敵対する者は死ぬ」

 

 そう呟くと同時に加速する。

 

「とりあえず倒せ!いいな!!」

 

 滅茶苦茶の指示を出して、突き進む。やることは一つ。敵艦隊を殲滅する。それだけの単純作業だ。

 

「砲雷撃戦……初めっ!!」

 

 本日新たに装備を新調した。両手に14cm単装砲。腰には三連装魚雷を二基だ。これでクラスは軽巡まで上がったと思われる。

 一番近くにいた人型の艦。このタイプから艦娘に近くなってくるが肌が異常に白い。重巡リ級。そのリ級は赤いオーラをまとっていた。このタイプはエリートクラスと呼ばれるタイプで、通常のタイプより強化されている。だがそんなことは知らない。いつも通り顔面を殴ってやった。ちゃんと砲撃がめり込んだ瞬間にトリガーも引いた。

 

「次だ!!」

 

 近くにいる艦を見つけては殴るを繰り返す。時々魚雷を投げたりしている。周りを見渡すと皆少しずつでも戦果を挙げている。それでもあまり数は減っていない気がする。

 

「いったいどれだけいる!?」

 

 いくら沈めても数が減っていない。

 

 

side:吹雪

 

「ひゃぁっ!!」

 

 砲弾が飛び交う中、吹雪は小さな悲鳴を上げた。目の前にあるは恐怖。握られているは倒す力。逃げたくても逃げることはできない。目の前で戦っているみんなに迷惑をかける。それに後ろにいる人々はどうなるのか。

 

「撃ちますッ!」

 

 引き金を引く。12.7cm連装砲から放たれた砲弾は赤いオーラをまとうイ級に向けて飛ぶ。飛んできた砲弾にあたるがダメージはないようだ。赤い瞳がこちらを見る。イ級がこちらに迫ってくる。なんとかダメージを与えようと引き金を引く。直撃するもイ級は止まらない。

 

「そんなっ!?」

 

 イ級が海面を飛んだ。そして口から砲をのぞかせる。

 

「…ぁぁ」

 

 小さな声を出す。たった数分の話だ。着任してすぐ殺される。戦場だから仕方ない。

 

 

side:渚

 

「ぶっ壊れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 吹雪を襲おうとしている赤いオーラをまとったイ級に向けて全力で殴りかかる。前に出した砲身はイ級の目をえぐり、砲身から砲弾が放たれ爆発を起こす。たて続きに左手で殴りかかる。今度は下から殴り上げた。砲身がめり込んだ。

 

「シャアアアアアアアアアア!!!!」

 

 イ級が声を上げる。その大きく開いた口に向けて右手の単装砲を向ける。そして砲弾を放つ。イ級が内部から爆発し、体がばらばらになった。

 

「おい!大丈夫か!?」

 

 とうの吹雪は今にも泣きそうな顔だった。

 

「司令官……私…生きてますか?」

「ああ!生きてるよ!!」

 

 単装砲の引き金を引きながら吹雪に声をかける。

 

「司令官……」

「生きたかったら立て!明日がほしかったら引き金を引け!!」

 

 自分たちの手には明日をつくるための武器がある。その引き金を引かなかったらこの武器は何のためにある。

 

「動かなければいつまでも明日は来ない!!明日、未来を生きたかったら戦え!!」

「……はい!!」

 

 吹雪の目に光がともった。

 

 

 かれこれ戦っていたが、少しずつ終わりが見えてきているような気がする。だが、その前にこちらの戦力が付きそうだ。こちらは全員中破している。服が破け、一部艤装の意味をなさなくなっている。

 

「ぐ……さすがに爆風だけでも痛いか……」

 

 左腕を爆風でやられた。軍服が焼け焦げ素肌があらわになっている。あらわになった素肌はやけどを負っている。皆ボロボロで傷だらけだ。

 

「……ちょっと…いや、かなり不味いか…」

 

 前方には金色のオーラをまとった深海棲艦がいくつもいる。その中に一つだけ赤い影が見る。だが、そいつだけ異質であった。黒いパーカーを着た少女。白い髪はから覗く瞳がまた嫌な目つきをしている。その背後には彼女から尻尾のように生えた異質の化け物。蛇のような竜の頭のような。そいつから砲が見える。

 

「…クヒヒッ、カンムスモタイシタコトナイネ」

 

 片言の言葉で喋る。

 

「ああそうかい。実は本気だしてないだけでね」

「ソウカイ。ジャアコッチハサイショカラ、ホンキダスヨ」

 

 彼女の目つきが変わる。笑うことのない。殺意のみの表情だ。

 

「……ははっ」

 

 皮肉を言う気力もない。

 

「………今日は厄日だな」



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六話 榛の矢は敵を射抜く

★鎮守府 出撃ゲート

side:???

 

 二人の艦娘が出撃ゲートに向けて走っている。明石が言っていた。「二人の艤装を一度だけ今までの状態で使えるように修理しました。ですが、使ってしまった後は壊れてしまいます」と。それでもいい。今は守りたい人がいる。借りを作った人がいる。今その人は戦場に出ていて、艦娘と一緒に戦っている。自分たちを生かしてくれた、一人の人。

 

「「抜錨!!!」」

 

 二人の艦娘が海面を高速で滑り出した。

 

 

★鎮守府正面海域 Bエリア

side:渚

 

 状況は劣勢だ。渚を除く全艦が大破。戦える状況ではない。渚に至っては左手を押さえ息を切らしている。

 

「…ぐ……状況は劣勢…だが……まだ終わったわけでは…!」

 

 痛む体に鞭を撃ち、相手をにらむ。戦艦、重巡、軽巡、雷巡、駆逐それぞれが二体ずつ。どれも金色のオーラをまとっている。そして赤いオーラをまとうフードの少女。

 

「アハハッ!マダナニカスルツモリ?イイカゲンシズンダラ?」

「黙れっ!!俺はまだ戦えっ、ぅぐ………くそ………体が…」

 

 体が悲鳴を上げている。

 

「ジャア、オワリニシテアゲル」

 

 異形の頭から砲弾が放たれる。

 

「…くそっ!」

 

 悔しかった。守ることができなかった。

 

「……ごめん、皆」

 

 放たれた砲弾は一直線に渚に向かっていった。

 

「勝手は榛名が許しません!!!!」

 

 突然通信が入り、一人の女性の声が聞こえた。凛としていてどこか柔らかな声。次の瞬間、砲弾がパーカーの少女と渚の間で爆発した。

 

「なっ」

「ナニ…?」

 

 三時の方向から二つの影が見えた。

 

「あれって…」

 

 先日やられそうになっているところを助けた艦娘。その二人が今や立場が逆転していて助けてもらっているところになるだろう。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 腰に巨大な艤装を付けた巫女服のような服を身にまとった艦娘が言った。彼女の艤装にある主砲と思われる砲には白と黒の線が引いてあった。名前だけは知っている。ダズル迷彩と呼ばれる迷彩だ。もう一人の艦娘、彼女は先日の夜ご飯を食べさせた覚えはある。真面目な表情で凛とした目つきで戦場を見つめている。

 

「なんとか…な」

「後は榛名たちに任せてください!!今のあなた達じゃ、レ級は相手できませんから!!」

 

 そう叫び、砲弾を放つ。前方にいた重巡に直撃し高い水しぶきを上げた。一撃で重巡を葬った。

 

「早くお願いします!」

「全艦撤退だ!」

 

 自分の背後で五人の艦娘が海面を滑り撤退した。

 

「提督、貴方もよ!!」

「悪いが、お前たち艦娘にすべてを投げるわけには、いかないんでね!!」

 

 海面を高速で滑る。そしてもう一体の重巡に肉薄する。その重巡がこちらに向けて砲弾を放ってくる。一直線に進む砲弾を最低限の動きで避ける。零距離まで接近した瞬間に、拳を振るい、単装砲を顔にめり込ませる。それでも沈まないから、さらに追撃を加えるべく、腹にも殴る。

 

「沈めえええええええええええええええええええ!!」

 

 もう一度顔面に全力のストレートをぶつける。ぶつけてから力を押し出した瞬間に、その重巡の頭が吹っ飛んだ。文字通り吹っ飛んだ。そして頭を失った体は倒れこみ、深い海に沈んだ。

 

「行くわよ!」

 

 もう一人の艦娘も砲弾を放つ。放った砲弾は二つ。それを的確に雷巡、チ級に直撃させる。そしてそのまま沈んでいった。

 

「…フザケルナ!!」

 

 フードの少女が砲弾を放つ。砲弾の行く先は渚。

 砲弾が迫る。避けるつもりはない。これは証明だ。一人の提督としての決意と覚悟を。見せてやろう。あの化け物に。俺の、俺たちの覚悟を。空を切って飛んできた砲弾は渚の振るった左手に直撃した。正確には単装砲にだ。

 

「「提督!!」」

 

 渚が爆炎に包まれた。その景色を見たレ級は高笑いしている。

 

「…高笑いとは余裕だな」

 

 煙が晴れるととボロボロになった渚が立っていた。軍服のほとんどが焼け焦げていて、顔もさっきより傷だらけになっていた。左手に持っていた単装砲も使い物にならなくなっている。

 

「生半可な覚悟じゃ、守るものも守れない。俺はこいつたちを守るって決めた。守られる側だけでなく、守る側であり続けてやる!!」

 

 左手に握っている単装砲を海に投げ捨て、海面を走り出した。

 

 

side:矢矧

 

「私たちの提督と違って、変わった人ね」

 

 目の前でル級相手に殴っている提督を見て笑みをこぼす。

 

「砲雷撃戦、始めます!」

 

 前方にいる駆逐艦、ハ級に向けて砲弾を放つ。

 

 

side:榛名

 

 前方で接近戦を行っている提督に対して榛名は後方で支援をしていた。片一方のル級を渚に向かわせないために。

 

「榛名、全力で参ります!!」

 

 轟音と共に砲身から砲弾が放たれる。同じようにル級も砲弾を放つ。砲弾と砲弾同士がぶつかり合い、大爆発を起こす。煙のせいでル級の行動が見えない。それはあちらにも同じだ。ここは心理戦だ。攻撃に入るか、避けに入るか。

 

「………来ます」

 

 行動は避けだ。十時の方向に進みんだ。砲弾は一直線に先ほどいた場所を通り抜ける。敵はこちらに気付いていない。それがあだとなった。艤装から今装填されている砲弾を全て放った。砲弾がル級を襲い巨大な爆発を起こした。

 

 

side:渚

 

 榛名と矢矧が着々と敵艦を沈めているのを尻目に見て、前方のル級をにらむ。自分の装備が薄い分、倒すのは少し難しいかもしれない。こちらの装備は14cm単装砲一つに三連装魚雷一基だ。

 

「……どうする…あ」

 

 手っ取り早く武器を入手する方法があった。盗む。それが一番早い方法だ。敵の戦力ダウンをしながらもこちらの戦力を上げることができる。

 

「どう盗むか…とりあえず、殴るっ!」

 

 なんにせよ、脳筋であることに変わりはない。砲弾を避けながら海面を滑る。魚雷はいざって時に残しておく。妖精もへとへとのようだ。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 雄たけびをあげ、ル級に殴りかかる。拳は顔面をとらえる。そこに零距離の砲撃も加える。ル級の顔面で爆発が起きる。そして

 

「もらっていくぞ!!」

 

 ひるんだところでル級の左手に握られている盾のほうな巨大な砲を強奪した。ひるんだル級に追撃を加えるべく、今度はブローを決める。さらに強奪した砲で殴る。最後にもう一度顔面に単装砲をめり込ませ、爆破させた。

 ル級を沈め、前方にレ級と呼ばれる艦に目をやる。そのレ級が砲弾を放ってきた。その攻撃に合わせ、先ほど強奪した盾のような砲を構えた。爆音が近くで鳴り響く。レ級の一撃を喰らってもこの方は少しの損傷しか見せなかった。

 

「ナニッ!?」

 

 声を上げるレ級に向かって渚は海面を高速で滑り出す。盾を前に押し出し、攻撃にも対応できるようにしていた。突っ込んでくる渚に向けていくつか砲弾を放つレ級。その砲弾は砲にあたったり海面にあたったりしている。

 

「はあっ!!」

 

 海面を高速で滑ってきた渚はそのまま盾でレ級に激突した。激突されたレ級は怯み、のけぞった。そこに

 

「これでどうだッ!!」

 

 腹に単装砲付きで殴る。そこで砲撃を混ぜダメージをさらにとる。さらに追撃をかけるべく、今度は左手にある強奪した砲で殴った。それも顔面を。

 

「グッ!」

「まだだ!!」

 

 今度は左足で押し出すように蹴りを叩きこむ。腹部を蹴られたレ級はさらにひるむ。一切の攻撃も与えてはいけない。追撃をかけようとしたときに通信が入った。

 

「榛名です!敵艦隊殲滅しました!!あとはレ級だけです!!」 

 

 通信を耳にしながらレ級の顔面に単装砲をめり込ませる。

 

「よくやった!!」

 

 自分の背後から二人の艦娘が来た。

 

「「提督!」」

「ここらでフィニッシュかな」

 

 ボロボロになったレ級にそろそろ終わりの時間が来たようだ。

 

「向こうで連中に会う機会があったら伝えとけ、今度余計なことを言うと口を縫い合わすぞってな」

 

 実をいうとこのレ級の発言には大分腹が立っていた。その腹が立っていた分を全て拳に込めて、

 

「そんでもって………………………ブロオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 今出せる限りの全力のブロー。そこに零距離の砲撃を叩きこむ。レ級の体が大きく浮かび上がる。そこに榛名、矢矧は砲身をレ級に向けて。渚は右手の砲をレ級に向けて、左手の指には魚雷を挟ませた。

 

「勝手は…」

 

 榛名が呟く。この後の言葉は知っている。最初に通信で聞いた。間違ってたら恥ずかしいが。

 

「榛名が!」

「矢矧が!」

「渚が!!」

 

 それぞれ声を上げる。

 

「「「許しません(さない)!!!!!!」」」

 

 咆哮とともに一撃を放つ。砲弾を、魚雷を受けたレ級は大爆発した。

 

「終わったか……うあー、疲れたー……」

 

 ばっさーんと後ろに倒れこみ、海に浮かぶ渚。

 

「お疲れ様です」

「お疲れ様ね」

 

 榛名と矢矧が上から声をかけてくる。

 

「さて、帰るか」

 

 

★鎮守府

 

 今現在榛名、矢矧を含めた艦娘全ては大入浴場でお風呂。渚は大淀、明石の手によって治療をしてもらっている。塗り薬だったり、包帯だったり、湿布だったりと。とにかく、その日はまるでミイラのようになっていて、電が怖がって近づかなかった。

 

 

●艦娘の日記

side:五十鈴

 

 今日は一時期どうなるかと思ったわ。突然深海棲艦が襲撃してきたと思ったら、こっちは全員大破。そんなピンチに先日救出した二人の艦娘に助けられた。その後のことは知らないけど、みんな帰ってきてよかった。提督も包帯でぐるぐる巻きになってたけど、笑ってみんな帰ってきてよかったって言ってた。このまま誰も死なずに過ごせればいいわね。



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七話 お茶の淹れ方

今回は脳筋要素無しです


●艦娘の日記

side:夕張

 

 昨日の件はよく生きてたと思う。あの二人がいなかったら今頃海の底だったと思う。本当に感謝してる。それに提督にも。でも提督に言いたいことは一つある。あの装備をだれが修理するのか考えてほしい。昨日だって単装砲一つ海に捨てたし……もう少し丁寧に使ってほしいな…

 

 

★鎮守府 提督の部屋

side:渚

 

「お、来たな。そこのソファーに座ってくれ」

 

 榛名と矢矧を呼んで少し話をしようと思った。まずお茶を入れてのんびり聞きたいことを聞くことにした。

 

「まず、二人は一体どこから来たんだ?」

「地図はある?」

 

 矢矧の問いに答え引き出しをあさる渚。そこから丸められた地図を取り出す。それを机の上に広げる。その後二人でここ?と会話しながらいた場所を探す。そして

 

「ここ…ですね」

 

 榛名が華奢な指でさした。それはここからかなり離れた小さな島だ。今目標としている輸送ルートにはいくつもの孤島を挟んでいる。この鎮守府と彼女が指さした孤島とは、輸送ルートにある孤島と孤島を結ぶ距離ぐらい離れている。

 

「こちらは輸送ルートの偵察に戦闘していたところだが、そこから少し離れて合流した………そっちの鎮守府で何があったんだ?」

「私たちも昨日の迎撃戦のようなことをやっていたの。だけど、状況は劣勢で次第にほかの艦娘たちが沈んでいった………向こうの提督に「二人だけでも逃げろ」って言われて追撃されながら出会ったってわけ。私たちが逃げるころには島は燃え盛っていた。もう手の打ちようがないくらいね。鎮守府も大火事になっていた……でも、貴方たちが助けてくれたおかげで今ここにいる」

「榛名たちもお姉さまや皆さんと一緒に沈むんだろうなって思っていました。そこに提督達が助けてくれました。本当にありがとうございます」

 

 二人して笑顔で微笑みながら感謝する。

 

「…向こうの提督や、艦娘には申し訳ないと思っている。そんな状況も知らなくて……」

「知らなくて当然よ。向こうでは通信はほとんど切っていた。本部との連絡を絶っていたしね…」

「なぜそんなことを?」

「見捨てられたからよ」

 

 本部に見捨てられた。どういう意味か解らなかった。

 

「矢矧さんの言うとおり、榛名たちは見捨てられたんです。それは提督から聞きました。提督が本部との会議で提督が軍法会議にかけられていたんです。提督は戦果を上げていなくて、それで見捨てられたんです。最後まで守れるなら守って見せろって本部の方がそれを最後に通信を絶ったんです」

「なんて滅茶苦茶な……」

「でもっ、提督はいい人です!!」

 

 榛名は声を上げた。

 

「誰よりも榛名たち艦娘を大切にしてくれて、兵器としてでなく、一人の人として見てくれていたんです」

「そうね。そういう所は本当に良かったと思うわ」

 

 誰よりも艦娘を大切にする。一度その提督と話してみたいと思った。彼の思考を聞いてみたかった。

 

「………その提督の優しさゆえ戦果を上げられなかった……というやつか」

「…………」

「…………で、だ」

 

 話を切り替える渚。彼の目にはしみじみとした雰囲気はなかった。

 

「二人はこれからどうする?」

「どうする、とは?」

「二人は艤装を失った今、一人の人だ。これ以上戦いに参加する必要はない。俺は戦いが嫌なら強制するつもりはない」

「……榛名は戦います」

「私も戦うわ」

 

 二人ともすぐに答えを導き出した。二人の目には灯がともっていた。

 

「そうか……明石っ!」

 

 渚の声に答えるように扉があく。

 

「結果は?」

「ばっちりです!」

 

 アルカイックスマイルで答える明石。ちょっと可愛いと思った。

 

「二人の艤装は今までの状態で使えなくなると言いました。ですが、初期の状態であれば使うことができます」

「本当ですか!?」

「はい。ですが練度も最初から、慣れない装備での戦闘になります」

「それでもいいわ。今は守りたい人がいるから」

「それって俺か?」

 

 冗談交じりで言う渚。

 

「ええ、そうよ。私の指揮官として守る。変な意味はないわ」

 

 ちょっとぐさりと気がした。ちょっと毒舌なのかもしれない。

 

「でも、貴方を一人の人として守る日が、来てもいいかもしれないわね」

「おい、それって」

「冗談よ」

 

 ちょっとでも期待した俺が馬鹿に思えた。あれだ、艦娘との私用は絶対に避けよう。それを戦場に持ち込まれてはたまったもんじゃない。

 

「矢矧さん、それくらいにしたらどうですか?」

「榛名が言うならやめてあげるわ。これからよろしくね、提督」

「提督っ、よろしくお願いします」

 

 二人してぺこりと頭を下げる。

 

「よろしくな、榛名、矢矧。そう言えば俺の名前を言ってなかったな。俺は朝霧 渚だ。階級は大佐だ」

「大佐ね…一つ聞きたいけど、貴方本当に人間なの?」

「失敬な。幼いころからスパルタの親父に育て上げられただけだよ」

 

 筋肉モリモリマッチョマンの親父に育てられて、今の自分がいる。小学生の頃も細身でありながら喧嘩には強かったため、喧嘩を吹っ掛けてくるやつもいなかった。もともと親父が将来守るべきものを守れる力を持っておけと言い、それに従ったまでだ。海軍の士官学校に行って身体能力はかなりのものを見せた。学力は上の中ぐらいだった。トレーニングしている最中に勉強をするのが親父のやり方だった。

 

「電と五十鈴の初陣で、ル級が乱入してきて、そこに俺が乱入した。そこで砲撃とかのダメージをあまり与えられていなかったから、物理で攻撃したってわけ。砲撃でだめなら物理で倒せばいいっていう判断をしたまでだ。その結果が今の俺に至る」

「提督、無茶してはダメですからね」

「わかっているさ。あ、お茶飲むか?」

 

 二人はこくんと頷く。空になった湯呑にお茶を入れてあげる。

 

「提督のも入れてあげるわ」

 

 矢矧が手を伸ばし渚の湯飲みにもお茶を入れる。

 

「そういえば嫌いな人にもお茶を淹れる行為はぶっかけるためにあるらしいわ。いや、別に提督のことは嫌いじゃないのよ」

「もし、俺が二人に嫌われていたら」

「落ち着いたところでぶっかけていたわ」

 

 恐ろしいことを言う。その榛名はあたふたしていた。

 

「大丈夫よ。そんなことはしないと思うわ。榛名を泣かせたり、悲しませたら例外だけどね。お茶じゃなくて砲弾が飛ぶかもね」

 

 とりあえずわかったことはこの二人はかなり仲がいいことだ。

 

 

●艦娘の日記

side:吹雪

 

 着任してすぐに死ぬかと思いました。でも、司令官が助けてくれました。ここの司令官が普通なのか異常なのか……とにかく深海棲艦相手に物理攻撃をするなんておかしいと思いました。



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八話 提督=???

●艦娘の日記

side:矢矧

 

 あの時助けられた提督を助けて、これからともに戦うことになったわ。とても危なっかしい提督だけど、とても頼りになる提督。前の提督と同じぐらいかな。でも、戦場を駆け抜けて殴りに行くのは少し不安になるわ。でも、さすがにそこまで馬鹿じゃないようだし、ちゃんと私たちを守ろうとしている。ただ、提督には死んでほしくないわ。今書けることはそれだけね。

 

★鎮守府 正面海域 浅瀬

side:渚

 

「うおおおおおおお!!!!」

 

 的に向けて単装砲をめり込ませる渚。今は訓練だ。もともとは榛名と矢矧を過去の艤装に慣れさせるために始めた訓練だ。どうせならというわけで全員で訓練なのだが、このありさまだ。

 

「あ、あの、提督?的はそうやって…」

「榛名さん、提督にそれを言っても無駄ですよ…」

「そうよ…敵=殴り倒すの脳筋提督だから…」

 

 高雄と五十鈴が眉間を押さえながら呟いた。

 

「それに久々に体を動かせるからテンションも上がっているんでしょうか…」

 

 吹雪が呟く。あの日から今日にいたるまで三日。それだけの間体を思いっきり動かすことができなかった。その分この訓練で発散しているのだろう。

ちなみに離れた的になぜ殴りこんでいるかというと、最初は十発砲撃をしたのだが一発も的に当たらなかったため拳で的を撃ちぬくことにしたのだ。

 

 

★鎮守府 提督の部屋

 

 訓練から翌日、輸送ルートの確保に移ることにした。徐々に制海権を得て、最終的には本土とこの島を結ぶ安全な輸送ルートを作るのが目的だ、小さくても制海権を得れば次につながる。

 

「でだ。今回は榛名を旗艦とした主力艦隊と矢矧を旗艦とした支援艦隊として戦う。矢矧、夕張、電、吹雪の支援艦隊だ。今言われなかった艦は主力艦隊となる。俺は主力艦隊につく」

 

 渚が出撃するのは大前提となっていた。

 

「それでですね、提督」

 

 突然大淀が口を開く。

 

「今回提督には別の装備で出てもらいます。いつもの装備は補強中です。提督が扱っても壊れないように特別に補強しているところです」

「そうか。で、何を装備するんだ?」

「すみません、用意するのに時間がかかりますので、皆さんとは一緒に出撃できません」

「そうか。じゃあ、先に出撃していてくれ。後で全速力で追いかける」

 

 

★出撃ゲート

side:榛名

 

 今回艤装が増えたため、今までの形ではでは全部艤装をしまいきれなくなった。そこで、榛名と矢矧のいた鎮守府と同じようにすることにした。艤装を全て海中にしまいこみ、ゲートから出撃すると同時に装備する形になる。艦娘一人一人が走れるようなレーンも作られた。これを全て妖精がやったのだ。驚きだ。

 

「金剛型三番艦、榛名!全力で参ります!!」

 

 掛け声とともに海面を滑り出す。榛名が動き出すと同時にレーンのそばにあった鎖が動き出す。海面から巨大な艤装が引きずり出される。

 

「主力艦隊っ、抜錨します!!」

 

 腰に艤装が装備される。そのまま海面を滑り出す。榛名の後ろを高雄、五十鈴が追従する。さらにその後ろを

 

「阿賀野型三番艦、矢矧、出るわ!!」

 

 榛名と同じように海面から艤装が引きずり出され、背中に装備される。矢矧の後ろを夕張、電、吹雪の順でついてくる。

 

 

★鎮守府正面海域 エリアC

 

 事前にある程度の制海権は取得しているため、目的の海域に到着するには問題なかった。そして前方に敵の影が見える。

 

「報告します。敵はヲ級が四、ル級が二、タ級が一、チ級が五。さらに泊地凄姫が一体です!!」

 

 榛名の通信と同時に上空に艦載機が見えた。これが開戦の合図だった。

 

 

★出撃ゲート

side:渚

 

「やっとか!」

 

 待たされた挙句、渡された装備は貧相。どうしてこうなった。その言葉しか出なかった。

 

「朝霧 渚、出るぞ!!」

 

 海面を滑り出す。渚の装備も艦娘と同じように海中に保管されている。かといって艦娘のように大きな艤装を引きずりだすことはなく、使う武装だけ引きずり出される。海面から引きずり出された装備を手にし、海面を走り出す。

 

 

★鎮守府正面海域 エリアC

side:榛名

 

「榛名、全力で参ります!!」

 

 上空に向けて砲身を上に向ける。そして轟音と共に砲弾が放たれる。ただの砲弾ではない、対空用の砲弾だ。榛名の放った砲弾が突然爆発した。そこから大量の子弾が放たれた。無数の子弾が艦載機を襲い、上空を真っ赤に染め上げた。

 

「砲雷撃戦、始め!」

 

 高雄が声を上げ、腰の装備された艤装から砲弾を放つ。放たれた砲弾はル級に向かっていったが、惜しくも外れた。

 

「そう簡単には当たらないわね…」

「悔やんでる暇はないわ!まだ始まったばかりよ!!」

 

 矢矧が声を上げながら引き金を引く。砲弾はチ級に直撃する。一撃をもらったチ級は碧い眼を光らせ、反撃の砲弾を放ってきた。それが向かう先は矢矧ではなく、吹雪だった。

 

「くっ!」

 

 吹雪は迫る砲弾のことが見えていない。

 

「吹雪!!」

「えっ」

 

 矢矧が海面を滑り、吹雪の前に立つ。そして被弾した。

 

「矢矧さんっ!」

「平気よ……魚雷五、六本くらい打ち込まなければ、私は沈まないわ」

 

 矢矧の艤装は半壊していた。服も焼け焦げていた。

 

「吹雪、行けるわね?」

「はいっ!!」

 

 二人のやり取りを見て、少しだけ安堵した。前方には武装が半壊したル級がいる。

 

「これ以上は負けませんから!!」

 

 ル級をにらみ、砲弾を放つ。砲弾は直撃し、ル級を撃破する。

 

「次ですっ!」

 

 次の狙いを定めようとした瞬間、通信が入った。

 

「皆待たせたな!!」

 

 渚だ。ようやくご到着のようだ。

 

「提督!」

 

 背後に白い髪が特徴の提督が見えた。だが、いつもの彼とは違った。両手に握られているのは砲じゃなかったからだ。彼の近くで海面が揺れた。艤装を滑った時の波ではなく、全く別の波。何かくる。それはすぐにわかったことだ。

 水しぶきを上げ、海面からイ級が現れた。

 

「提督!!」

 

 イ級が口を開き、砲身を現す。

 

「さっそくやってみようじゃないの!」

 

 渚が大きく右腕を振るう。彼の手に握られているのは鎖。その先には……

 口を開けたい級の顔に灰色の巨大な何かが激突した。ごおうぅん、という空洞のあるような音を響かせて。鎖の先には輸送用のドラム缶がついていた。ただ真新しい銀色を放っていた。

 つづけさまに左手の鎖を振り下ろす。鎖に連動してイ級に向けてドラム缶が上空から高速で振り下ろされる。イ級を海面に叩きつける。そして再び右腕を振り、ドラム缶でイ級を殴りつける。次の瞬間、イ級が爆発した。

 

「「「なっ…」」」

 

 艦娘全員が唖然とした。敵艦も唖然としていた。その瞬間、渚以外のすべてが時が止まったような感じだった。

 

 

side:渚

 

 先ほどから振り回しているドラム缶、これを用意するために時間がかかっていた。出撃するまでにドラム缶を鋼材でコーティングしていた。それもかなりの厚さでだ。おかげで単装砲で殴りつけることと同じくらいの威力を引き出すことに成功した。念のために、14cm単装砲も持ってきているが、今は腰につけられている。

 

「おい、皆顔色悪いが大丈夫か?体調悪いなら今から撤退するぞ」

「あの……提督……」

「なんだ」

「……………なんでもありません」

 

 榛名は言いたいことをうちにしまって、砲身を敵艦に向けた。



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九話 大きな意志/小さな感情

★鎮守府正面海域 エリアC

side:矢矧

 

 目の前にいるのは自分たちの敵。背後にいるのは人の形をしたバケモノ(味方)。どうしてこうなってしまったのだろう。いや、正確にはどうしてこんな提督になってしまったのだろうか。仕方ないのか、それともこれが普通なのか。どちらにせよ異常すぎる。

 

「みんな無事か!?」

「私を除いて皆無傷よ」

 

 自分は吹雪をかばうために被弾した。艤装の一部が破損している。まだ戦うことはできる。

 

「その様子を見るとまだ艤装は使えるな?」

「ええ。問題ないわ」

「よし、行くぞっ!」

 

 渚が左手のドラム缶をぶんぶん振り回しながら突撃していった。

 

 

side:渚

 

 左のドラム缶を振り回しながら、ダメージを受けたチ級に向けて海面を走る。前面の敵を見ると深海棲艦すべての顔が青ざめているような気がした。もとから肌が白いからそう見えるかもしれないが、明らかに顔が恐怖にまみれているのだ。おまけに震えている。いったい何に恐怖しているか渚はわからなかった。

 

「なんだ、みんなして調子悪いのか。敵だからと言って容赦はしないぞ!!」

 

 自分がその原因だと知らずに特攻していく渚。おびえながらに砲弾を撃つチ級。その砲弾をかわし、振り回していたドラム缶をチ級に向けてぶつける。低い音が響き、チ級が爆発四散する。このドラム缶、鋼材で分厚くコーティングされていて、単装砲で殴ることと同じくらいダメージを与えることができる。もしかすると単装砲で殴るより凶悪かもしれない。自由はきかないが、少し離れた距離で当てることができる。

 引き続き殲滅に移る。今度はタ級。

 

 「あんたも戦艦か……だが知らん!」

 

 いつもと変わらず、接近する。このタ級もよく人の形と酷似している。ル級と比べ服装が薄着だ。艤装らしき武装は腰についている。誰が相手だろうとつぶす。それが渚の意志だ。

 

「ふぅんす!!」

 

 右手のドラム缶を押し出すようにぶん投げる。投げられたドラム缶は抵抗という言葉を知らず、タ級に飛んでいく。

 

「!?」

 

 飛んできたドラム缶に対応できず直撃する。タ級が顔を上げた時には渚はいつもの範囲に入っていた。

 

「はああああああああああああああああ!!」

 

 ドラム缶を持つかのように鎖を短くに握る。そしてそのままタ級の頭をドラム缶で殴る。ひるませたタ級にだめ押しの一撃。顔面をドラム缶で殴った。先ほどのチ級と同じように爆発した。

 渚が戦果を上げている間に、中破したヲ級一体と、泊地凄姫のみになっていた。

 

 

side:吹雪

 

 視界の中には中破したヲ級。艦載機を飛ばすことはできない。ならばこちらの番だ。

 

「いっけぇええええええええええ!!」

 

 腰に装備された魚雷を放つ。海中を高速で駆けぬけ、目標のヲ級に接近する。魚雷だけでは倒せないと判断し、12.7cm連装砲を構える。目標を定め、狙いを定める。

 吹雪の様相通り、魚雷はかわされた。だが、狙いは定めているままだ。

 

「当たってください!!」

 

 小さな砲身から飛んで行った砲弾は的確にヲ級に直撃する。頭部の帽子らしき部分に直撃し、煙を上げる。そこに追撃をかけるように夕張が単装砲の引き金を引く。夕張が放った砲弾もヲ級に直撃し、爆炎を上げた。さらに、電が追撃を仕掛ける。

 

「魚雷装点ですっ!」

 

 電も同じように横腹に装填された魚雷を海面に放つ。海中をかけた魚雷はヲ級に直撃する。そして巨大な水しぶきを上げ、ヲ級が沈んでいく。

 

「やったぁ!」

 

 これで残るは一つ。一つだけ形の違う特殊な艦。

 

 

side:渚

 

 吹雪たちがヲ級を沈め、残るは最後の艦。一つだけ違う形の艦。戦艦とか空母とかそういった類に分類されない特殊な艦。鬼や姫と呼ばれる特殊なクラスだ。過去に榛名たちを助けた時にいた巨大な深海棲艦を引き連れた艦は戦艦という分類になるらしい。視線の先にいる奴は榛名と矢矧の話を聞けば姫と呼ばれる鬼の上位クラスになる艦だ。

 

「クラスは姫。系統は戦艦になります。ですが艦載機による攻撃も仕掛けてきます。注意してください!」

 

 榛名が通信で声をかけながら砲撃を放つ。放たれた砲弾はバリアのような何かに弾かれ泊地凄姫には届かなかった。

 

「バリア…か?」

 

 バリアのような物を破れば攻撃が通る。だが通すまでが問題そうだ。そんなことを考えているうちに泊地凄姫が攻撃を仕掛けようとしてきた。近くに浮かぶ丸い球体が口を開ける。そこから砲身が伸びた。

 

「来るか!」

 

 渚の言うとおり、砲身から砲弾が放たれた。その砲弾を回避しながら泊地凄姫に向けて突き進む。

 

「こんのぉ!!」

 

 右手のドラム缶を投げる。榛名の撃った砲弾と同じように弾かれる。物理でもダメなようだ。

 

「榛名っ、矢矧っ、どうすればいい!?」

「ダメージを与え続けるしかないわ!」

 

 矢矧が艤装の引き金を引く。撃った砲弾はやはり弾かれる。榛名も艤装から砲弾を放つ。正直ダメージを与えている気がしない。でも、ダメージを与え続ければいつか突破できるはずだ。

 

「だったら…!」

 

 右手のドラム缶を背負い、腰に装備されている14cm単装砲を握る。

 

「当たってくれよ…!」

 

 訓練では一発も当たらなかった。だからこそ心配だ。狙いを定め引き金を引く。放たれた砲弾は空を突き進み、泊地凄姫に向かっていく。だが、直撃したのはやはりバリア。向こうの攻撃は通るのに、こちらの攻撃は通らない。それが何よりも辛い。

 泊地凄姫がさらに砲弾を放つ。放たれた砲弾は矢矧に向かって飛んで行った。ちょうど矢矧は砲弾を放った瞬間で、硬直していた。

 

「矢矧!!!!」

 

 14cm単装砲をしまい、両手にドラム缶に接続されている鎖を握る。それをさらに短く握る。幸い距離が近かったためすぐにかばうことができた。強烈な衝撃とともに熱風が渚を襲う。

 

「提督っ!?」

「…ぐ」

 

 両手のドラム缶を立てのように構え、放たれた一撃を防いだ。完全に防いだわけでなく衝撃、熱風、爆発は防げなかった。渚の軍服が焼け焦げ、素肌が見えている。素肌からは血がにじんでいる。一か所だけではない。何か所もだ。

 

「………矢矧、無事か…」

「なにやってるの……あなたは艦娘じゃない!普通の人のなのよ!私をかばうなんて……」

「…二人がいたところの提督なら同じことをしただろうな……」

「えっ?」

「………俺も、あの提督のようにお前たちを大切に思っている。兵器ではなく、一人の人として…だ」

 

 ボロボロの状態で言う。自分が思っていることをそのまま伝えた。

 

「………さあ、反撃だ!!」

 

 ドラム缶をおろし、海面を高速ですべる。右手の短く握っていた鎖を普通に持つ。ドラム缶が少し離れたところで風で揺らぐ。

 

「やるだけやってやる!!」

 

 右手を軽く振り、ドラム缶を前に投げる。渚は軽く跳躍する。そして前に浮かんだドラム缶を足につけた艤装の部分で泊地凄姫に向けて助走付きで蹴り飛ばす。重い巨大な筒が飛んでいく。ガィン!と音を立てて弾かれるドラム缶。何も握っていない右手に14cm単装砲を握る。そこに追撃を加える。蹴った瞬間に全速力で泊地凄姫に向かう。ドラム缶が弾かれたときにはすぐ近くにいた。

 

「ぶっ壊れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 雄たけびをあげ、右手の単装砲をバリアに向けて殴りつける。

 

「ムダナコトヲ……」

 

 泊地凄姫があざ笑う。

 

「無駄、か………そいつは……どうかな!!!」

 

 単装砲が接触している部分からバリアにひびが入り始めた。

 

「ナッ!?」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 左手に握られているドラム缶をバリアに向けて振り下ろす。ドラム缶が接触すると同時に今までの衝撃に耐えきれなかったバリアがガラス割れたような音を立てて砕け散る。バリアを失った泊地凄姫に向けて

 

「お返しの………ブロオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 右手の14cm単装砲を泊地凄姫の腹にめり込ませ、全力で振り上げる。そこに14cm単装砲の砲撃を零距離で加える。泊地凄姫の体が浮き上がる。

 

「榛名!」

 

 矢矧が声を上げる。

 

「はいっ!!」

 

 矢矧と榛名は艤装の砲身を浮いた泊地凄姫に向ける。

 

「「てーっ!!!」」

 

 装填されている砲弾をすべて撃つ。放たれた砲弾が泊地凄姫に直撃し、大爆発を起こす。

 

「よぅし!勝った!!」

 

 今回も渚たちの勝利になった。また新しく制海権を得ることができた。

 

 

★鎮守府 医務室

 

 帰投した瞬間に、榛名と矢矧に手を引っ張られる。そこで簡単な治療をすることになった。

 

「痛っ」

「我慢してください」

 

 軍服を脱ぎ、今は上半身は裸の状態だ。体に至る所に消毒を吸った綿で拭かれる。こうなったのは自分のせいだが、まさか榛名と矢矧に治療されるとは思っていなかった。

 

「提督…」

 

 矢矧手を動かしながらが口を開いた。ぺたぺたと絆創膏が体に張られる。

 

「………さっきは…その、ありがとう」

 

 少し顔を赤くしながら呟いた。

 

「…別に感謝されることはしていないが………俺が何かしたか?」

「私をかばったことよ。それに、あなたの言ったことが、嬉しかった…」

 

 少し俯きながら呟く。

 

「…………」

 

 渚が矢矧の頭に右手を置く。そして優しく撫でてあげた。矢矧が一瞬、びくっと体を震わす。その後矢矧の顔が真っ赤になっていた。うつむいても分かった。耳まで赤くなっていたからだ。

 矢矧の腕が止まっているなか、榛名は渚の治療を続けていた。

 

「…あの」

 

 手を動かしながら口を開く。彼女の目を見る。その目が何を訴えているかすぐに分かった。左手を榛名の頭に置き、矢矧と同じように優しく撫でてあげた。榛名は矢矧のように体を震わすことはなかった。うつむくこともなかったが、榛名の頬は少しだけ赤くなっていたような気がした。

 

「……………」

 

 無言で二人の頭を撫でる渚。矢矧に関しては撫でてあげればそのまま何も言わない。榛名に関しては撫でてほしい目線で訴えていた。二人の気持ちがよくわからなかった渚だった。渚の治療が再開されたのは撫で始めてから約八分くらいだ。

 

 

●艦娘の日記

side:榛名

 

 今日は出撃で、また制海権を得ることができました。渚さんのところに着いてから初めての正式な出撃です。最初から主力艦隊の旗艦にしてもらいました。やっぱり渚さんは変わっていて、これからが少し不安です……帰還して提督を治療して矢矧さんが撫でてもらっていたので、榛名も撫でてもらいました。提督に撫でられるとなんだかとっても安らぎました。温かくて懐かしいような……そんな感じです。



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拾話 歓喜するは/恐怖するは

渚がさらに凶悪になった回でした。


★工廠

side:渚

 

 本日久々に建造をしてみた。ボーキサイトを多く使ったレシピと、一番低いコストのレシピ。その結果、4時間10分と20分だった。渚は少し執務室を掃除しながら時間を待った。

 

 

 先に20分経過した後、交渉に戻った。そこには電に少し似た少女がいた。電と比べ活発そうな雰囲気を持っている。

 

「電…?」

「違うわ!電は私の妹。私は雷。「かみなり」じゃないわ!」

 

 間違ったのか少し怒られた。そこは申し訳ないと思う。

 

「すまなかった。俺は朝霧 渚だ。階級は大佐。よろしく頼むな」

「よろしくねっ、司令官っ!」

 

 にっこりと八重歯を見せながら笑う雷。渚は笑顔も見ていたが別のものを目にしていた。彼女が持つ錨だった。

 

 

side:明石

 

「いきなり呼び出して何の用ですか?」

 

 雷が着任してからすぐに渚に呼ばれた。渚が工廠で誰かを呼ぶということは今までになかった。もしかしたら新しいことを覚えようとしているのかもしれない。

 

「もしかして、何か新しいことを覚えようと思っていますか?」

「いや、そういうわけじゃない」

 

 そう思った自分が馬鹿に思えてきた。相手はあの脳筋の渚だ。そんなことあり得るわけない。

 

「雷が持ってたあの錨あるよな」

「ええ、あれがどうしたんですか?」

「あれを少し大きくしつつ、重い状態で作ってくれないか?」

 

 ………提督、お願いです。いつもの表情で目をキラッキラさせながらこっちを見ないでください。お願いします。断れそうにありませんから本当にやめてください。

 結局明石がOKを言うまでその目をやめなかった。

 

 

side:渚

 

 錨の作成を明石に依頼して、それからまた席を外して掃除をはじめた。そして4時間20分が経過した直後に工廠に向かった。そこにいたのは左手に巨大な弓を持つ女性。右手には盾のように装備された飛行甲板。背には矢筒。蒼色のツインテールの髪が目立つ。

 

「航空母艦、蒼龍です。これからよろしくおね」

「とんでもねぇ、待ってたんだ」

 

 蒼龍の言葉をさえぎり彼女の手を取り握手した。

 

「えっ、あの、その…朝霧 渚大佐…ですよね?」

「ああ。ここじゃ俺一人しか男はいないからすぐわかるだろうけど」

 

 白い髪の艦娘がいるかどうかわからないがな。

 

「さて、実践訓練とまいりますか」

 

 実を言うと工廠に来てすぐにアラートが鳴っていた。少数ではあるが、敵の艦隊が迫っていた。

 

 

★鎮守府正面海域 エリアA

side:蒼龍

 

 そろそろころあいだと思う。艦載機を飛ばすいいタイミングというやつだろうか。背に装備されている矢筒に手を伸ばす。そこから零式艦戦21型の矢を取り出す。海面を滑りながら、弓を構える。そして矢を放つ。放たれた矢が、徐々に燃え始めた。燃え尽きると同時に火から艦載機が現れた。十二の白い影が飛んでいく。艦載機に乗っている妖精が左手の親指をぐっと上げた。その行動に蒼龍も右手の親指をぐっと立てて、合図を返した。

 

「……………通信、入りました!」

「敵艦隊は?」

「タ級エリートが一、チ級フラグシップが二、ヲ級改フラグシップが一です!」

 

 数は圧倒的に少ない。だが、フラグシップ級がいる。フラグシップとは深海棲艦のなかでは上位クラスになる特殊な艦だ。それぞれ金色のオーラをまとっている。さらに「改」になると目から蒼い炎のような軌跡を現す。油断のできない相手だ。

 

「さて、行くぞ!!」

 

 前方で渚が声を上げる。提督が出撃していることに関しては出撃する前に榛名と矢矧に説明されて理解した。

 

「私は提督を援護します!」

 

 矢筒から九九式艦爆の矢を取り出し、放つ。続いて九七式艦攻の矢を取り出し、同じように放つ。空を無数の艦載機が飛んでいく。

 

「妖精の皆っ、よろしくね!」

 

 

side:渚

 

 右手に握る重みを確かめながら前方にいるチ級に目を向ける。明石に依頼した錨は完成した。それもすぐにだ。そして思い通りの、期待通りのものが出来上がった。それが今右手に握られている。

 

「明石、恩に着るぞ!!」

 

 放たれる砲撃を交わしながらチ級に接近する。そして距離が近くなった瞬間に右手を振り上げる。渚とチ級の距離がゼロなった瞬間に、右腕を振り下ろす。振り下ろされた錨はチ級の兜らしき部分をたたき割り、めり込む。そして爆発した。渚は一撃でチ級のフラグシップを葬り去った。

 

「ひゅーっ………次だな」

 

 この錨の一撃に感動を覚える。そして口元を大きくゆがませながらヲ級を視界に入れる。嫌なくらい不気味な笑顔で、敵対する者すべてに恐怖を与えた。

 

 

side:雷

 

「てーっ!!」

 

 榛名と矢矧を筆頭に支援してくれたおかげでチ級を倒すことができた。砲を持つ手が少し震えている。それでもれっきとした勝利だ。あとは渚だ。彼についてだがが、自分が持っている錨と酷似しているものを渚が持っているが、どう考えてもおかしい。自分の司令官はいったい何者なのか考えてしまった。

 

「雷ちゃん、司令官さんのことはあまり深く考えちゃだめなのです」

 

 視線の先で蒼龍の航空支援を受けながら、ヲ級を錨でフルボッコにしている。おまけに高笑いしている。

 

「ハハハハハハ!!!!!どうした、フラグシップ改だろ?そんなもんかよ!!手ごたえもないなぁ!!!ええ!?」

 

 錨を振り回しながらヲ級をぼこぼこにしていく。すごいテンションあがっている。狂喜乱舞という言葉が似合うかもしれない。

 前方の地獄絵図に気を取られている間に、タ級は逃げ出していた。艦娘全員はあっけを取られて見ていなかったが、渚は視界にとらえていた。

 

 

side:渚

 

 ヲ級を錨でフルボッコにしている間に視線の端っこでタ級が背を向けて、撤退していた。ぼこぼこで涙をぽろぽろ流しているヲ級から一度離れ、タ級を追い始めた。ひっそり逃げようとしてのか、速度は遅めだった。

 

「逃げるとはいい度胸だな!!」

 

 右手に握られている錨を全力で投げた。錨の持ち手には鎖でつながれている。渚が投げた速度のほかに海面を滑るときの速度も加わっている。それらが合わさって重量のある錨がかなりの速度で飛んでいる。速度を落とさず飛んでいった。

 

「ッ!?」

 

 気づいたころには遅かった。タ級の腹部に錨が触れかけていた。そしてそのままタ級の腹を突き破っていった。次の瞬間、水しぶきを上げながら爆発していった。倒したのを確認しながら鎖を巻き上げていく渚。何事もなかったような表情。

 

「さて、ヲ級はどうなったかな?」

 

 タ級を倒している間に、蒼龍が艦載機による攻撃で沈めていた。大きな被害もなく、迎撃に成功した。せめての被害と言えば渚の暴れっぷりを見てSAN値がガリガリ削られたぐらいだった。

 

 

●艦娘の日記

side:雷

 

 やっと着任することができたわ。これから司令官のために頑張るわ!それに頼ってもらうようにも頑張るわ!でも、ちょっと怖かったりするわね……深海棲艦相手に物理攻撃なんて不安だわ。今日なんてすごかったわ。いろいろな意味で……少しだけヲ級がかわいそうに見えたわ………力だけじゃ、ただ強いだけじゃだめだとおもうの。だから後で話すわ。わかってくれるといいな。




やっとまともな接近武器を手に入れて狂喜乱舞した渚提督でした。敵対する者すべてに恐怖の種を植え付けることでしょう。

★渚のステータス
耐久 不明
火力 50
装甲 不明
雷装 0
回避 40
対空 0
搭載 0
対潜 0
速力 可変
索敵 15
運  13
(0の部分は装備によって変動)
ドラム缶装備時火力+13
錨装備時火力+20


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★特別話 冬イベ 提督編

せっかくなのでイベント話を。それと本当にお待たせいたしました!!申し訳ないです!


★孤島海域?

side:渚

 

 海面を滑り続ける。前方には敵艦隊。背後には自分の艦たちがいる。連合艦隊による出撃だ。第一艦隊には鈴谷を旗艦とし、長門、金剛、五十鈴、千歳、龍驤だ。そして龍驤は中破していて、艦載機をろくに飛ばすことはできない。第二艦隊には北上、島風、雪風、榛名、矢矧、大井の艦隊だ。そして島風は中破している。

 敵艦隊は重巡ネ級が二体。空母ヲ級フラグシップが一体。戦艦ル級フラグシップが二体。そして戦艦水鬼。こいつを倒せばこの制海権を得ることができる。そうすれば本土をつなぐ輸送ルートをも少しでつなぐことができる。

 

「提督!」

「ああ!!敵支援艦隊は俺がたたく!頼んだぞ!」

 

 自分の装備の重さを確かめ海面を滑る。右手には巨大な主砲、41cm連装砲を持つ。その上にはバルジで加工した航空戦艦の飛行甲板。巨大な盾となっている。左手には主砲の甲板よりも巨大な盾のような飛行甲板だ。背中には比叡、霧島の艤装をベースとした改良型の艤装が×の字状に主砲が広がっている。おまけに龍田の薙刀、叢雲の槍もある。さらに太ももには四連装酸素魚雷を二基、腰には天龍の刀を二振りと暁型が持つ錨を改良したもの。足には12cm30連装噴進砲を合計二基。

 

「敵艦隊の支援艦隊を捕捉!これより迎撃する!!」

 

 渚が進行方向を変え、支援艦隊を攻撃し始めた。

 

 

 支援艦隊は駆逐イ級後記型が二体。重巡リ級改フラグシップが二体。戦艦ル級改フラグシップが一体。空母ヲ級改が一体。

 

「改装された提督の力、存分に見せてやろう!!」

 

 声を上げた時にはヲ級は艦載機を放っていた。白い球体上の艦載機。

 

「砲雷撃戦(ドンパチ)始めるぜ!!」

 

 足から無数の弾丸が放たれる。さらに背に着く艤装から砲弾が放たれた。砲弾は途中で爆ぜ、無数の弾丸を放った。三式弾だ。艦載機たちは攻撃を仕掛ける前に無数の砲弾の嵐の前に撃墜された。爆炎が空を染める。

 

「行くぞっ!」

 

 右手に握る砲のトリガーを引き、砲弾を放つ。砲弾はイ級に向かったが惜しくも外れる。隙を狙ったル級は攻撃を仕掛けてきた。空を切って飛んできた砲弾は渚の近くの海面に。そして一つは渚に向けて飛んで行った。渚は左手に握る盾を構え、一撃を防ぐ。

 

「遠距離戦は終わりだ!」

 

 主砲を背負い、腰から漆黒の刀を引き抜く。盾は構えたままだ。海面を滑り、リ級に接近する。青色の炎を揺らしながら砲弾を放つ。放たれた砲弾はすべて渚の持つ巨大な盾によって防がれる。

 

「お返しだ!」

 

 盾を構えたままリ級に激突する。ひるんだところに斬撃を叩きこむ。腕、腹を切り裂く。完全には切り裂くことができず、斬っただけに終わる。そこに押し出すように蹴りを加える。そして刀をしまい、腰にある錨を手に持ち、全力で頭に向けて振り降ろす。錨が頭部にめり込む。次の瞬間、盛大に爆発した。

 

「次だ!」

 

 振り向いた直後にリ級が撃ってきた。それをやはり盾で受け止める。ダメージを受けすぎたのか、少し衝撃が来るようになってきた。

 

「おおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 盾で自分の身を隠しながらリ級に向かって海面を滑る。錨をしまい、背にある巨大な連装砲を手に取る。海面を滑り、リ級の間合いにはいった。そこから

 

「本日も恒例のブロオオオオオオ!!」

 

 巨大な砲の砲身を腹部にめり込ませ、殴り上げた。上げると同時に引き金を引く。すぐ近くで轟音が響き、リ級が宙に舞いあがる。そして徐々に落下してきた。落下してくるポイントに向けて海面を滑る。

 

「ぶっ壊れろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 左手に握る飛行甲板(盾)の先端で落下してきたリ級の顔面を全力で殴った。その瞬間、リ級が爆ぜた。そろそろ日が暮れ始めている。夜になる前に倒さなくてはならない。

 

「全砲門、ひらけっ!!」

 

 背に着く艤装、右手に持つ主砲を構え、砲弾を放つ。放たれた砲弾はイ級二体に直撃する。巨大な水しぶきを上げ、爆発する。

 

「これで終わりにさせてもらうぜ」

 

 主砲と盾を背負う。そして両手に背から取り出した槍と薙刀を手に持つ。ル級から放たれる砲弾を、艦載機による攻撃をそれぞれかわしながら、高速で接近していく。

 

「叩き斬ってやる!!!!!」

 

 両手に持つ槍と薙刀を振るい、ヲ級に斬りかかる。振り降ろされた刃はヲ級を切り刻む。ヲ級に向いている渚に向けてル級が砲弾を放ってきた。

 

「っ!」

 

 左手に持つ薙刀を飛んできた砲弾へ向けて振るう。刃は砲弾を切り裂き、真っ二つになった。

 

「飛べっ!」

 

 右手に持つ槍をル級に向けてぶん投げる。放り投げられた槍は一直線に飛んでいく。

 

「ッ!?」

 

 飛んで行った槍はル級の顔面を突き刺した。そのまま巨大な水しぶきを上げ爆発する。

 

「爆ぜろっ!」

 

 ヲ級から離れ、背の艤装の主砲をヲ級に向ける。そして砲弾を放った。再び水しぶきを上げた。ヲ級を沈めたころには日が暮れ、夜になっていた。




次回艦娘編です。


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★特別話 冬イベ 艦娘編

side:長門

 

 提督が支援艦隊を攻撃している間にこちらは主力艦隊を叩く。自分の背後で艦載機が放たれる。敵のヲ級も艦載機を放つ。

 

「突撃するわ!」

 

 五十鈴が空に向かって弾丸を放つ。艦載機を撃ち落とす。いくつかは落としそびれたが、ダメージは抑えた。

 

「さあ、行くわよ!」

 

 通信から霧島の声が響く。霧島を旗艦とした支援艦隊が攻撃を開始した。遠距離から砲弾が放たれる。回避されることもあったが、弾丸が敵艦に直撃する。ネ級を沈め、戦艦水鬼に小さなダメージを与える。

 

「あとは頼んだわよ!」

 

 支援艦隊が撤退していく。これからが本番だ。

 

「大井っち!」

「北上さん!」

 

 二人の声が響く。彼女たちの手から魚雷が放たれる。魚雷は一直線に海を切り裂き、ル級とネ級に飛んでいった。ル級は水しぶきを上げ沈んでいった。ネ級は中破しただけに終わった。

 

「全主砲、斉射!」

 

 腰に着く艤装が動き、照準を定める。そして砲弾が放たれた。戦艦水鬼に直撃した。目立ったダメージはない。カウンターを当てるかのように相手も砲弾を放つ。狙った先は五十鈴だった。

 

「きゃぁ!」

 

 一撃で大破していた。

 

「くっ」

 

 たて続きに金剛も撃つ。ル級に飛ぶ。金剛が撃つと同時にル級も放っていた。その弾丸は海面に直撃し、少しの爆風が金剛を襲うだけに終わった。逆に金剛の放った砲弾は直撃し、大破していた。後ろから鈴谷も撃つ。ヲ級に向かって直撃したが特にダメージはなかった。そこにネ級が砲を放つ。今度は金剛に向けてだ。金剛に直撃した。たびたび重なった戦闘でダメージが来ていたのか、小破してしまった。ヲ級が艦載機を放つ。空に艦載機が放たれる。

 

「甘いな!」

 

 主砲から三式弾を放つ。砲弾から無数の弾丸が飛び、艦載機を撃ち落としていく。

 五十鈴がかろうじて撃てる艤装から砲弾を放つ。ネ級に当たったが大きなダメージはない。

 

「艦載機の皆さん、お願いします!」

 

 千歳が艦載機を放つ。艦載機が飛び、大破したル級に向かっていく。そして射程内に入った瞬間に、魚雷を落とす。魚雷が海面をきり、ル級を沈めた。これで残るは戦艦水鬼、ヲ級、ネ級のみだ。

 

「これでどうっ!」

 

 鈴谷が撃つ。一直線に空を切った砲弾はヲ級に直撃する。砲弾は顔面に当たり、中破させることができた。その撃った鈴谷を戦艦水鬼が狙っていた。

 

「鈴谷!!!」

「えっ」

 

 金剛が声を上げていた。そのころには戦艦水鬼が撃っていた。

 

「しまっ」

 

 鈴谷の前で大きな爆発が起こった。鈴谷の前に金剛が立っていた。艤装が壊れ、服も破けている。

 

「鈴谷…大丈夫ですカ?」

「大丈夫…でも、金剛が!」

「私のことは大丈夫デース。それより戦いに集中するネ!」

 

 大破しながらも砲弾を放つ金剛。そこに長門も砲弾を撃ち込む。敵の装甲が堅すぎる故、なかなかダメージが入らない。そして再び千歳が艦載機を放つ。今度は中破したネ級に向かってだ。同じく魚雷を放ち、ネ級に直撃する。直撃したネ級は爆発し沈んでいった。

 

「榛名!あとは頼んだぞ!!」

「はい!!!」

 

side:榛名

 

「勝手は榛名が許しませんから!!」

 

 主砲を戦艦水鬼に向けて放つ。やはり大きなダメージを与えることはない。戦艦水鬼が砲を構える。目標は島風。

 

「ダメですぅ!」

 

 雪風が海面を滑り、島風をかばった。

 

「雪風ちゃん!?」

「大丈夫です…まだ沈みませんからっ!」

 

 二人のやり取りをしり目に、大井と北上がヲ級に向けて砲撃を当てる。直撃はするものの、大きなダメージはない。島風と雪風も砲撃するが、やはりダメージは少ない。矢矧も戦艦水鬼に向けて一撃を撃つ。ダメージは通らない。

 

「魚雷、お願いします!」

 

 榛名の声に答え、矢矧、北上、大井が魚雷を装填し、魚雷を海面に放った。大井の放った魚雷はヲ級へ。残り二人の魚雷は戦艦水鬼へ。魚雷はヲ級に直撃し、爆発した。戦艦水鬼にしてもやはり痛手とはならない。魚雷を放ったころにはすでに夜になりかけていた。

 

「夜戦……行きましょう!」

 

 自分たちの背後で第一艦隊が撤退していく。ここからは自分たちがやるしかない。暗い視界の中、狙いを定める。敵は中破。こちらは誰も大破していない。

 

「ナキサケベ!!」

 

 戦艦水鬼が声を上げる。その時と同時に空が光る。

 

「光!?」

 

 空にゆっくりと落下していく光があった。照明弾だ。

 

「こちら渚、支援艦隊は叩いた!」

「さすがね!」

 

 矢矧が感嘆する。この照明弾、渚が撃ったものだ。

 

「シズンデイケ!!!」

 

 戦艦水鬼が榛名に向けて砲弾を放った。

 

「ああっ!」

 

 直撃する。そう思うしかなかった。巨大な爆炎が上がる。

 

「榛名!!!!」

 

 矢矧が声を上げる。煙が晴れたころに立っていたのは榛名とはまた違う影。

 

「榛名っ、無事か!」

「てー…とく…?」

 

 渚が目の前に立っていた。左手に持つ飛行甲板は完全に大破して使い物にならなくなっていた。少し軍服も裂けている。自分の服も少しだけ裂けていた。

 

「無事だな。まだやれるな!?」

「…はいっ!榛名は大丈夫です!!」

 

 左手に持つ甲板を海に捨てる。

 

「いい加減に沈んだらどう!」

 

 矢矧が装填されている砲弾を全て放つ。そこに島風と雪風が魚雷をすべて叩き込む。中破まで追い込んだ。

 

「「全砲門っ!」」

 

 榛名と渚が声を上げる。

 

「「開けぇっ!!!!」」

 

 榛名は装填されている砲弾を。渚は右手の主砲と背に着く艤装から砲弾を、太ももに着く魚雷を、足に着く噴進砲からロケット弾を装填されている分全て放った。無数の弾丸、砲弾、魚雷が戦艦水鬼を襲う。直撃し、巨大な水しぶきを上げる。水しぶきの中でも赤い瞳が見えた。

 

「北上っ、大井っ、一気に決めろ!!」

「りょーかいっ!行くよ大井っち!!」

「決めましょう、北上さん!!」

 

 二人の手から装填されている魚雷が放たれる。海面を切り裂き戦艦水鬼に向かっていく。その魚雷に何もすることができなかった戦艦水鬼は直撃し爆発した。

 

「やったあ!!」

 

 艦娘たちが喜びの声を上げた。

 

「お疲れ様っ」

 

 矢矧が声をかけてきた。

 

「ああ。お疲れ様」

 

 この後無事に帰路につき、鎮守府に戻った。

 

 

★鎮守府 港?

side:渚

 

 体がくたくただった。あれだけの装備を扱っていれば疲れるのも当然だった。

 

「あっ、あの…提督?」

 

 港で一人立っていたら後ろから榛名に声をかけられた。

 

「ん?どうした?」

「あの…ですね」

 

 榛名は少し顔を赤くしていた。

 

「もしよかったら…榛名のチョコレート……もらっていただけますか?」

 

 榛名の手にはきれいにラッピングされた小さな可愛らしい箱があった。

 

「…ありがとう」

 

 そのチョコレートを手に取る。

 

「そ、それではっ!」

 

 榛名は足早に去っていった。

 

 

★鎮守府 提督の私室

 

「………んあ?」

 

 外を見る。眩しい。

 

「……………なんかすごい盛大な夢だったな…」

 

 どんな夢だったか具体的には思い出せない。ただ盛大で最後には少し甘かった気がする。身支度をし、軍服を身にまとう。そして帽子を取ろうと机に近づいた時に、見慣れない小さな箱があった。夢の中で見たような小さな箱。たしか榛名が渡してきた箱。丁寧にラッピングされていた。夢と同じ色で同じ形のものだ。

 

「…………まさかな」

 

 そのチョコレートを手に取り、執務室に向かった。




盛大な夢落ちでした。私は丙作戦でクリアしました。資材が足らなかったのです(盛大な言い訳)。


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壱拾壱 二重の惨劇

★鎮守府 資料室

side:渚

 

 本日は出撃はしないことにした。たまには休暇も必要だった。というわけなので資料室を少し整理することに。

 

「矢矧、休憩するか?」

「そうね、そうさせてもらうわ」

 

 箒を壁に置き、矢矧は部屋を後にした。その後ろを渚がいらない資料等を段ボールに詰めた物を抱え、着いて行った。たまたま進路方向が一緒だから仕方ないと思った。箱のおかげで視界があまり確保できていない。

 

「あっ」

 

 真っ平らな床で躓くことは誰だってるかもしれない。それが今この状況で起きたのだ。ばこばこと音を鳴らし矢矧の頭部に箱がぶつかった。

 

「うあっ」

「きゃぁっ!?」

 

 どさりと矢矧が倒れこんだ。

 

「………ごめん」

「………面白いわね……いいわ」

 

 矢矧は何事もなかったように立ち上が有り、スカートをぱんぱんと叩きちりを払う。

 

「殺すのは最後にしてあげるわ」

「………………」

 

 生涯で初めて凍りついた瞬間だった。

 

 

★鎮守府 執務室

 

「……絶対に矢矧怒ってるよ…」

「矢矧さんはいい人ですから、ちゃんと謝れば許してもらえますよ」

 

 先ほどの資料室でよく使うと思われる資料があったのでそれを今榛名に棚にしまってもらっている。

 

「それに提督を殺すなんてしませんから」

「…だといいな」

 

 資料を運びながら、しまいながら会話していく。

 

「あっ提督」

 

 榛名が何か見つけたようだ。

 

「ん、どうした?」

「この資料っ」

 

 榛名が振り向き、一歩踏み出した。そしてつま先がどうも引っかかっているように見えた。いわゆるデジャブだ。

 

「てっ、ひゃあっ!?」

「ああ!?」

 

 榛名が躓き、渚を押し倒すかのように倒れた。体勢が悪かった。自分の左手に何か柔らかな感触が当たっていた。当たっていたというより、つかんでいたような感じもする。

 

「「………」」

 

 お互いの顔が近い。それぞれ目をそらした。ただハプニングだと思った。が、これで終わらなかった。扉が勢いよく開き、一人の艦娘が入ってきた。

 

「何か大きな音したけど、大丈夫!?」

 

 矢矧だった。

 

「「「あ」」」

 

 すぐに榛名が体をどかした。とうの榛名の顔は赤くなっていた。

 

「……提督、ちょっと話があるのだけどいい?」

 

 承諾を得ることもなく襟をつかまれ、ずるずると連れていかれた。

 

 

★鎮守府 屋上

 

「提督、さっきのは何?」

 

 夜の屋上にて尋問が始まった。

 

「ハプニングだ」

「よろしい」

 

 矢矧が渚の体をひょいと担ぎ、端までやってきた。そして左手だけで渚の足を掴み、宙ぶらりんの状態にした。

 

「押さえているのは左手よ。利き腕ではないわ」

「ちょっとまて!?なんでこうならなくちゃいけないんだよ!?」

 

 今までの過程。資料室出た後に矢矧に段ボール箱ぶつけた→執務室で榛名に押し倒された→矢矧に屋上に連れて行かれた→そして宙ぶらりんになっている。

 

「あれがハプニングだというの?」

「ああ、ハプニングだ!」

「………榛名の胸、揉んだ感想は?」

「………………………大きく、やわらかかった」

「…………………」

 

 矢矧の目から光が消えた気がした。沈黙が続く。

 

「あなたを最後に殺すと約束したわね」

「そうだ!矢矧、だから引き上げてくれ」

「あれは嘘よ」

 

 矢矧の手が開かれ、渚が重力に従い落下していった。

 

「ウワアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ………………………」

 

 

★鎮守府 ラウンジ

side:矢矧

 

 夕食はこのラウンジで食事になる。そしてバイキング形式なのだが、本日は日曜日のためカレーだ。作ったのは榛名だ。

 

「あれ、矢矧さん、提督は?」

「はなしてやったわ」

「?」

 

 榛名はよくわかっていなかった。むしろよくわからなかった方がいいだろう。

 

「ちょっと頭にきてやっちゃったけど…大丈夫かしら」

 

 カレーを盛り付け、自分の席に向かおうとした。が、自分の後ろに頭に残る問題が解決された。ズタボロになった軍服を身にまとう提督、朝霧 渚だった。

 

「…………逝ったかと思ったわ」

 

 ため息交じりに矢矧が言った。

 

「とんでもねぇ、(この展開を)待ってたんだ」

 

 ちなみにこの鎮守府の屋上は七階だ。どうやって帰ってきたのかは聞いたところで無駄と思った。

 

 

●艦娘の日記

side:矢矧

 

 あの提督絶対に人じゃないわ。人の皮かぶった化け物に違いないわ。そもそもどうやって生還したのかしら………考えても無駄ね




なんか矢矧にこんなことさせてみたかったのです。矢矧提督の皆様、お許しください。

ちなみに私は榛名提督です。矢矧とか結構好きですよ。


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壱拾弐 動き出す道

★鎮守府 工廠

 

「初めまして!朝潮型駆逐艦、一番艦朝潮です!」

 

 びしっと敬礼した少女。やはり背の低いことは駆逐艦らしいところだった。

 

「朝霧 渚だ。これからよろしく。雷、電、吹雪、朝潮を案内してやってくれ」

「「「はい(なのです)」」」

 

 

★鎮守府

side:朝潮

 

 三人に案内されていろいろなところを歩いた。ここはもともと旅館でそこを改装して鎮守府としたらしい。そのついでに他の艦娘の紹介もあった。榛名と矢矧は分け合って別の鎮守府からきたと聞いた。この話は榛名から聞いた。矢矧を探していたのだが見つからなかったのだ。

 

「それで、ここが屋上なのです」

 

 どこまでも続く空が見え、風が吹く広い屋上にたどり着いた。そこにいたのは二つの人影。矢矧と提督だった。だがなぜか提督が矢矧の左手によって宙ぶらりんの状態だった。

 

「わあああああああああああああああああああ!!!!」

 

 吹雪が声を上げていた。皆で矢矧を止めようと駆け出した。

 

「あれは嘘よ」

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ…………」

 

 矢矧の左手から渚が放たれ、落下していった。

 

「司令官ーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 

 吹雪が悲鳴を上げながら矢矧に飛びついた。

 

「あら、どうしたの?」

「どどど、どうしたって、今司令官が!」

「ああ、平気よ」

 

 人を殺しておいて何で涼やかな顔をしているんだこの人は。

 

「し、司令官さんがぁ……」

 

 電に至っては泣き出している。

 

「ご、ごめんね…見苦しいところを見せたわね……」

 

 矢矧が電の頭を撫で、慰めている。どうしてこうなってしまった。

 今までの流れ。新たに鎮守府に着任した→司令官に挨拶した→ほかの駆逐艦たちに案内された→屋上に来たら提督が矢矧に殺された。

 

「……どうして…こうなってしまったんですか……」

「朝潮ね。私は矢矧。これからよろしくね。それとあの提督なら七階から落とした程度じゃ死なないわ」

 

 それはありえない。七階から落とされたら誰だって死ぬだろう。

 そんなことを考えていると屋上の扉が勢いよく開いた。

 

「矢矧さん!!ててて提督が!!!」

「ああ、榛名」

 

 巫女服の艦娘。戦艦榛名が泣きそうな顔でやってきた。

 

「提督が………提督がぁ……」

 

 そんな榛名も泣きだしてしまった。

 

「ああ……ごめんね、榛名。あなたを泣かせるつもりはなかったの。ごめんなさい」

「ぅぅ……提督……」

「…さて、一回に行きましょう」

 

 矢矧が髪を揺らし、出口に向かっていった。その後ろを榛名と電は泣きながら。吹雪は絶望しながら。朝潮は呆然としながらついて行った。

 

 

★鎮守府 玄関

 

「腕の骨が折れた…!」

「ほらね。死んでないでしょ」

 

 玄関にいたのは腕の骨を折ったとみられる渚。右腕を押さえている。軍服はズタズタになっていてびしょびしょ。びしょびしょなのはどうでもいいが、七階から落とされてどうして腕の骨を折るだけで済むのか不思議でしょうがなかった。

 

「提督ー!」

 

 榛名が駆け寄った。その後ろを雷や吹雪が近寄った。

 

「司令官、大丈夫?怪我したのは腕だけ?」

「ああ。体の至る所に裂傷があって腕の骨が折れただけだ」

 

 軍服が徐々に赤くなっている。なのにもかかわらず表情は苦しんでない。最初に出会った時と一緒だった。

 

「矢矧、今回は本気で死ぬと思ったぞ」

「とか言っておきながら死なないでしょ。言ったでしょ。食べ物の恨みは恐ろしいって」

 

 提督が屋上から落とされた理由は冷蔵庫にあったプリンを矢矧のものと知らず、渚が食べてしまった結果こうなった。後で買えば許してもらえるといったところ嘘で落下したらしい。

 その後提督は入渠に送られ、まさか意味ないだろうと思われていた高速修復材によって回復した。折れていた腕の骨も直っていた。

 

 

●艦娘の日記

side:朝潮

 

 本日は私が書くことになりました。着任初日からまさかまさかの日でした。提督が殺されたと思ったら生きていました。言い方がひどいですが人間じゃないと思います。でも話を聞く限りではとてもいい人とのことです。少し不安ですがここで皆さんと戦っていきます。これからよろしくお願いいたします。



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壱参話 騒がしきは?

●艦娘の日記

side:榛名

 

 本日は榛名です。特に書くことがないのですが一つ気になることがありました。この日記って提督は見ていませんですよね…?

 

 

★鎮守府 執務室

side:渚

 

「来客?」

 

 執務室で地図を見ていると大淀から連絡があった。

 

「はい。なんでも提督の知り合いとのことですが、入れますか?」

「その前にボディチェックだ!それぐらい分かるだろ!!」

 

 大淀を一喝しボディチェックさせた。男性二名とのこと。そして玄関に向かった。

 

 

★鎮守府 玄関

 

「九露!心葉!生きていたのか!」

「「勝手に人を殺さないでください」」

 

 玄関にいたのは黒いコートを身にまとった中性的な顔立ちの少年と青い髪のスーツの男性だった。コートの子は日暮 心葉(ひぐらし このは)。スーツの人は九露(くろ)。 ちょっとしたことで知り合った。

 

「今日はどうやった要件で?」

「たまたま近くに来たので挨拶です」

 

 心葉が言った。この子の性別は男だが、言われなければ男と気づかないと思う。ウィッグとスカートさえあれば女性に化けられると思う。

 

「それでですね、たまたま近くにやってきたのでこれを」

 

 九露の手から大きな瓶を渡された。

 

「なんだ?漬物?」

「ええ。おいしいですよ」

 

 九露は料理の手はなかなかのもので一度食べさせてもらったが店だしていても問題はないレベルだった。むしろ売れるレベルの実力。

 その後九露たちと別れた。夕食にさっそくもらった漬物を並べてみた。その結果大きな瓶だったのに一日でなくなった。自分も食べたが本当に美味しかった。

 

 

★鎮守府 正面海

 

 翌日たまたま早起きしたので散歩でもしようと思った。少し外が騒がしい。時々爆音が聞こえる。海の方を見るとひとりの少女が海面を滑っていた。

 

「…朝潮…?」

「司令官…?あっ、おはようございます!」

 

 海面を滑り、こちらの方までやってきた。

 

「訓練とは真面目だな」

「いえ、少しでも皆さんに追いつくために必要な努力です」

「そうか。あまり無理するなよ」

 

 そう釘を刺し、座り込んだ。目の前の朝潮は海面を高速で滑る。海面からいくつかポールがジグザグに突き出ていてそれを素早くかわしていく。決して当たることもなく滑っていく。そのポールを出たらすぐにUターンし、再びポールをかわし始めた。

 

「…やるな」

 

 小さくつぶやいていたが驚いていた。いったいどれぐらいからやっていたのか。見ているうちにそれがわかってきた。

 

「朝潮」

「はい」

 

 声をかけるとすぐにこちらにやってきた。

 

「今すぐ艤装を外して寝ろ」

「ですが」

「ですがもくそもあるか。お前、着任して夜中ずっと訓練してたろ」

 

 朝潮の目の下にはくまができていた。皆に追いつくためにずっと訓練していたのだろう。動きの中に時々ぐらつくことがあったがそれは慣れていないとかそう言った問題でなく、睡眠不足と言った面でのぐらつきだった。

 

「………少しでも早く、輸送ルートを確保しなければいけないんですよね」

「ああ。だがそれ以前にお前たち艦娘が万全の状態でないと敵と戦うことすら危険だ。もし俺が止めずに実践に送り出していたら、間違いなく沈んでいた」

「…すみません。でも私、司令官のお役にたちたいんです!」

「お前はまじめで優しいな。でも俺の代わりはいても、お前たち艦娘の変わりはいない。それだけはわかっていてくれ」

「そんなことありません!」

 

 朝潮が叫んだ。

 

「司令官は、この鎮守府でたった一人の司令官です。誰の代わりもいないたった一人の司令官です!」

「…そうだな、すまなかった。今日は休みにしておく。ゆっくり休んでくれ」

 

 朝潮を寝かせ、ランニングしはじめた。

 

 

★鎮守府 工廠

 

 ランニングしていたらいつの間にか九時になっていた。ちなみに朝潮と出会ったころは五時頃だ。まだ走れるがサイレンで「早く帰ってきてください」なんて言われたので帰投せざるを得なかった。ちなみに朝食は抜きとなった。別に食事制限の訓練も受けていたので致命傷ではない。

 呼ばれたのは工廠。だが少し騒がしい。いつもは妖精たちが作業するだけの音しか聞こえないのに人の声が無数にする。わいわいがやがや。そういった漫画のような声がすごい聞こえてくる。扉を開け中に入った。

 

「……大淀、明石、状況の説明を」

「提督がランニング中のところ一つ本部から連絡がありました」

「内容は?」

「「大佐ぁ!艦娘と腕の調子はどんなだ?輸送ルートの確保の状況はどのくらいだい?そろそろ資材並びに食料がまずいのではないのか?すぐにでも確保できるのなら確保してこちらに戻ってくるんだ」とのことです」

「ですので、妖精さんが溜めていた艦娘の設計図と建造して補給ができるレベルまで資材を使って建造しました」

 

 その結果目の前に沢山の艦娘がいる。

 

「なるほど。それはいい。よし集合!!」

 

 声を上げると今まで話していた艦娘たちは一列に並んだ。目の前にいる艦娘は合計十五人。

 

「右からそれぞれ名前を!」

 

 渚から見て右側の艦娘。セーラー服でメガネの子。彼女から最初だ。

 

「鳥海です!」

「金剛デース!」

「扶桑です」

「瑞鳳です」

「飛鷹よ」

「川内よ」

「陸奥よ」

「日向だ」

「隼鷹でーっす!」

「加賀です」

「利根じゃ」

「暁よ」

「響だ」

「島風です」

「神通です」

 

 駆逐から戦艦、空母までなかなかのメンツだった。潜水艦はいなかったが。

 

「皆よろしく!」

 

 たった一日でにぎやかになった鎮守府だった。

 

●艦娘の日記

side:鳥海

 

 本日この鎮守府に着任しました、鳥海です。これからよろしくお願いします。他の皆さんの分もありますので、これで終わりにします。

 

 

side:金剛

 

 Hey!私、金剛デース!なかなか楽しそうな鎮守府でこれからが楽しみネー!

 

 

side:扶桑

 

 初めまして。私扶桑です。まだ着任してはいないようだけど、妹の山城もよろしくお願いします。

 

 

side:瑞鳳

 

 新しく着任しました、瑞鳳ですっ!卵焼き作るのは得意です!これからよろしくね!

 

 

side:飛鷹

 

 飛鷹よ。軽空母として頑張るわ。これからよろしくね。




主「こんなの日記じゃないわ!挨拶の一言コメントよ!」
渚「だったら書けばいいだろ!」

本当に申し訳ありません。日記にてキャラ崩壊、並びに書くことが非常に難しいので一番の手抜きになりそうです。


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壱拾弐話 大規模遠征

●艦娘の日記?

side:加賀

 

 私の司令官はどうしてあんな人なの?彼の頭はどうかしているのかしら?

 

side:日向

 

 着任したと思ったらとんでもないところに着任したな。あんな人が提督だとこれからが不安だよ。

 

side:川内

 

 夜戦させてくれるならいいけど、ちょっと驚いたなー。

 

side:神通

 

 ちょっと驚きました。少し心配ですね…提督のご無事であることを祈ります。

 

side:利根

 

 深海棲艦相手に物理攻撃とは不思議な提督じゃのう…吾輩も驚いたぞ。少し心配になるのう…

 

side:暁

 

 一人前のレディを指揮するのにあんなのじゃだめよ!もっと紳士らしくしてほしいわ!

 

side:響

 

 恐ろしい司令官だった。深海棲艦相手に物理攻撃。そして被弾しても大したダメージはない…人間なのだろうか…だけど私たちには優しいようだ。

 

side:島風

 

 あの提督は敵を倒すことは速いのね!それ以外はあまり速くないけど…。

 

side:陸奥

 

 変わった人ね。ちょっと面白そうな人だけど同時にいろんな意味で怖い人ね…。

 

side:隼鷹

 

 いやー、派手にやる提督だね。あんな提督なら楽しくやっていけそうだよ。

 

 

★鎮守府 廊下

side:加賀

 

 先ほど出撃した。だが問題は一点。どうしてこうなってしまったのか。

 

「あ、加賀さんお疲れ様です」

「お疲れ様です」

 

 廊下で蒼龍に出会った。

 

「…蒼龍さん、頭のいかれた提督がいます。一人では手に負えません」

 

 つい先ほどの出撃での感想を述べた。

 

「…あー…そうね…提督に関してはあきらめた方がいいと思いますよ…」

 

 蒼龍が目をそらした。

 約一時間前のこと。

 

 

★鎮守府正面 海域

 

「ブロオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 深海棲艦相手に単装砲付きの拳でブローを繰り出す提督がいた。呆然としながらその光景を見つめつつ攻撃を開始する自分たち。

 

「……発艦初めてください」

 

 弓を引き絞り矢を放つ。放たれた矢が無数の艦載機へと変貌し、深海棲艦に攻撃を仕掛けた。

 

「………こんな提督で大丈夫でしょうか…」

 

 戦果は彼が大きく上げていた。先日着任した新しい艦娘全員で出撃だが、みんなして難しい顔しながら砲弾や魚雷、艦載機を放っていた。

 

 

★鎮守府 執務室

side:渚

 

「これは大変だ…」

 

 戦力は増強できた。だが資材が大きく減った。資材がある状態でかつ、戦力を増強したかった。資材と戦力は繋がっている。それを今知った。

 

「………遠征か……どこか資材のある場所………まてよ?」

 

 一つだけ思い当たる場所があった。もしかしたらどんな場所より資材があると思われる場所。

 

「…………大規模な遠征でも開くか。榛名矢矧を筆頭に軽巡駆逐を組み合わせた大規模な遠征」

「提督、それは一体どこですか…?」

 

 大淀が口を開く。その声に答える。

 

「そ、それって?」

「今は無人となっているはずだ。使われなくなったものを使うんだ。怒られはしないさ」

 

 

 大淀に作戦を伝え、了承を得たところで、艦娘全員を集めた。

 

「そろったな。じゃあ、作戦を伝えよう」

 

 艦娘全員がごくりと唾をのむ。

 

「明日、大規模遠征作戦を開始する!榛名、矢矧を筆頭に軽巡駆逐の艦娘は全員参加の作戦だ」

「遠征任務にどうして榛名さんを入れる必要があるんですか?」

 

 蒼龍が口を開いた。

 

「いい質問だ。それは遠征先にあるんだ」

「どこですか?」

「それは、榛名と矢矧がいた鎮守府だ」

「「「「「!!??」」」」」

 

 艦娘全員が驚いた。

 

「いまは廃墟となった鎮守府だ。誰もいないのが当然だ。そしてそこには使われなかった資材がある。そこでその資材を得ようという作戦だ」

「なるほど。でも、二人が許すかしら?」

 

 加賀が言う。二人とは榛名と矢矧のことだ。

 

「いいわ。ちょうどもう一度行ってみたかったし」

「ええ。榛名も行ってみたかったです」

「決まりだな。明日駆逐艦、暁、響、雷、電、吹雪、朝潮。軽巡、矢矧、五十鈴、夕張、川内、神通。そして榛名」

 

 このメンバーでの出撃となった。

 

 

★榛名と矢矧のいた鎮守府 玄関

 

 深海棲艦の攻撃を受け、ボロボロとなった鎮守府。波の音しかしない静かな場所。そこに轟音が響く。

 

「さて買い物の時間だ」

 

 両手に持つ連装砲で玄関を吹き飛ばした渚だった。



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壱拾参話 買い物の結果

今回文字少ないです


★榛名と矢矧のいた鎮守府

side:渚

 

 両手に持つ20.3cm連装砲で玄関を吹き飛ばした渚だった。皆が静止する前に砲撃を行っていたのだ。

 

「さすがね(白目)」

「ハラショー(白目)」

「榛名…感激です(白目)」

「さ、さすがですね!司令官!(白目)」

「そうだろう」

 

 矢矧、響、榛名、吹雪が同時に声を出した。当然だ。到着したと思えばただでさえボロボロな鎮守府に追い打ちをかけるかのように破壊行動を起こしたのだ。大きな穴の開いた重圧な玄関の扉が転がっている。

 

「さ、行くぞ。榛名、矢矧、案内頼む」

 

 それぞれ持ってきたドラム缶を背負い、榛名と矢矧に案内され、鎮守府を歩いた。

 

 

「変だな」

 

 少し歩いていると渚が声を出した。

 

「変…とは?」

 

 彼の声に答えた朝潮。 

 

「榛名と矢矧の話を聞いた限りでは大火事になっていたはずだ。なのに倒壊すらしていない。火事になったにはあまりにもきれいすぎる。スプリンクラーでも働いたか」

「きれいすぎる…ですか」

「ああ。もしかしたら誰かいるのかもしれないな」

「「「「「!?」」」」」

 

 全員が渚を見て驚いた。

 

「なんだ?あくまでの話だ。まさか幽霊でもいるというのか?」

「「「「「っ!!!」」」」」

 

 全員がびくりとする。

 

「…まあ、女の子だしそれくらいは怖いよな。で資材保管庫はどこだ?」

「あの先です」

 

 古びた扉。どうやらここに資材があるようだ。扉に手をかけ押す。ぎぃと音を鳴らし重圧な扉が開く。

 

「おお」

「すごい…」

 

 資材の管理はここの提督と榛名がやっていたようだ。それ以外の人は入ることはできず状況を知らなかった。ここにあったのは想像してたよりずっと多くの資材の数々。

 

「よし、それぞれ資材をドラム缶に詰めろ!」

 

 全員ドラム缶をおろしそれぞれ資材を詰め込んだ。数が多すぎて全部詰めるかどうかわからなくなってしまった。

 

「詰め終わった子から外に向かってくれ!」

「「「「了解!」」」」

 

 多くの資材を詰めていく。多くの資材を詰め込んだ。それでもまだ詰め切らない。

 

「一度で入りきらないか。また別の日だな」

 

 黙々と資材をドラム缶の中に入れていく。そして始めてから五分、

 

「よし、終わった」

 

 ドラム缶を背負い、歩き出そうとした。

 

「動かないで!!」

「!?」

 

 どこからか声が聞こえた。出口に一人の人の影がある。目を凝らしてみる。白い服に大きな赤いシミが幾つかついていた。

 

「………あんた……ウソだろ…!」

 

 誰もいないとか思っていたが、ここに人はいた。だが普通の人なら驚くことはない。そこにいたのはまさしく幽霊と言っても過言ではなかった人物。



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壱拾四話 存在しないはずの存在

★榛名と矢矧のいた鎮守府

side:渚

 

「動かないで!」

 

 声とともに突きつけられた殺意。彼女の右手に握るは鈍色。

 

「………あんた……ウソだろ…!」

 

 驚いたのはその姿だ。白い服にいくつか大きな赤いシミが幾つかある。怪我をしている。それとはまた別に驚く点が一点。

 

「……死んだんじゃなかったのか」

「………私は死んだっていう情報が回っているのね…それでここでな」

 

 ガコンッ。彼女の言葉をさえぎるかのように鈍い音が響く。

 

「……提…督…」

 

 入口に榛名が立っていた。

 

「榛名…」

「提督ーー!!!!」

 

 榛名が駆け寄り提督と呼ばれた女性に抱き着いた。

 

「は、榛名!どうしてここに!」

 

 銃を向けていた彼女は提督だった。榛名の話によれば鎮守府襲撃と同時に死んだ。その彼女が生きている。

 

「榛名、あの人は?」

 

 黒く長い髪を揺らし、振り向く。

 

「ていと…朝霧 渚さんです」

 

 榛名がこの行動の事情を説明した。榛名の言葉にうなずきながら彼女は聞いていた。

 

「そう…ごめんなさい。そういうことだったら全部もってっていいわ」

「ありがとう。それより体は大丈夫なのか?」

 

 白い軍服に赤色がある。怪我によるダメージだろうか。

 

「ええ。平気」

「そうか。無理はするなよ」

「お気遣い感謝するわ」

 

 そうは言っているがあまり大丈夫そうには見えない。

 

「渚…っていったっけ?」

「ああ」

「そう。工廠まで来てくれる?」

 

 彼女に案内されるがままに工廠に連れていかれた。

 

「彼女たちを託すわ」

「おいおい……本気かよ」

 

 そこにいたのは重武装の薄着の女性に、ボウガンを持った女性。

 

「私のところにいても動かすことはできても、戦うことは難しい。だからあなた達の元で戦ったほうがよっぽどいい」

「……戦艦空母を渡すっていうのか」

 

 二人の艦娘。名前は武蔵に大鳳。

 

「彼女たちだけは戦闘に入ってからすぐに入渠する事態に陥ったから、残っていた戦力よ」

「それなら納得がいくな」

「だから、渚大佐に託すわ。彼女たちを導いてあげて」

「…わかった」

 

 提督が彼女たちに話をする。二人とも一度驚きこちらを見る。そして頷き今度はこちらに近づいてきた。

 

「戦艦武蔵だ。よろしく頼むぞ」

「装甲空母大鳳です。よろしくお願いします」

「朝霧 渚だ。よろしく頼む」

 

 簡単に挨拶をかわし、外に向かった。

 

 

 外に出るとすでに帰る準備は整っていた。そして武蔵と大鳳が挨拶をする。

 

「よし背負ってやるから乗れ」

 

 体制を低くし、彼女を背負うとした。

 

「いいわ。私はここで沈んだ彼女たちとここにいるから」

「だが」

「それが私の役目。ここから居なくなったら彼女たちがさびしいでしょ」

 

 ここで守るために命を失った艦娘たち。その彼女たちを見守るためにここに残るといった。

 

「……わかった。元気でな」

「ええ。それとあなたにこれを渡すわ。私には使えなかったもの。絶対に一人で見てね」

 

 彼女から丁寧に包装された包を受け取った。

 

「…感謝する。よし、行くぞ!」

「はいっ!提督!今までありがとうございました!!」

「提督!向こうでも頑張るわ!」

「ええ!彼を守ってあげてね!!」

 

 海面を切り鎮守府から離れ始めた。

 

 

side:提督

 

「行ったね」

 

 彼女たちと提督を見送り、手を振る。

 

「………榛名、矢矧、武蔵、大鳳。彼を…渚を守ってあげって」

 

 その声と同時に終わりを告げた。



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壱拾五話 戦力と資材の引換には

side:渚

 

 資材を持ち海面を滑り始めた。背後であの提督が手を振りながら見送っている。

 

「…………なんだ…」

「どうしたんですか?」

「……胸騒ぎがする……今すぐここから離れたほうがいいとも言っている気がして、今すぐ戻れって言ってるような気がする……」

 

 少しだけ息苦しい。胸がざわざわする。体重移動が滅茶苦茶になっている。早く進もうと前に体重を傾けると、引き返そうと体重を後ろに傾ける。

 

「……提督?大丈夫?」

 

 矢矧が声をかけてきた。他の皆も心配そうに見つめている。

 

「………わからな」

 

 振り向きながら「わからない」と言おうとした。次の瞬間、熱風が渚たちを襲った。

 

「うっ!」

「きゃあ!?」

 

 突然の熱風。吹き出した方向は自分たちの背後。つまりは、さっきまでいた鎮守府。

 

「………嘘…だろ……」

 

 ついさっきまでいた鎮守府は黒い爆炎を上げ、炎上していた。油のにおいが立ち込めていた。

 

「……………油のにおい…燃料を…やられた…!」

 

 鎮守府全体を爆炎が包み込んでいた。彼女がいた場所すらも炎がある。

 

「………ぁ」

 

 ばしゃん、と何かが水に触れる音がする。背後を見る。そこにいたのは目から涙を流し膝をついた榛名だった。

 

「……………てい……とく……」

「榛名!榛名!!」

 

 肩を揺さぶり、声をかける。全く返事がない。

 

「………………………」

「くっ」

 

 背後を見る。爆炎と煙でよく見えないが海面に何かいる。深海棲艦だが一体だけ特殊なやつがいた。巨躯に赤い光が六つ見える。

 

「榛名!榛名!!」

「…………………」

「いい加減にしろ榛名!!」

 

 右手を開き、榛名の左頬をはたいた。ぺしん!と乾いた音が響く。

 

「つっ!!」

「今ここで止まっていたら、死んだアイツはどうなる!俺たちを逃がすためにあそこで気を引いていたあの提督の行為を無駄にするつもりか!」

「っ!」

「今は退くぞ!この状況で攻められたら俺たちすら沈む!今ここで沈んだらあいつに顔向けできないだろ!」

 

 榛名が俯く。渚は声をかけ続ける。

 

「いいな!」

「…………はい」

 

 かすれるような声で答えた榛名だった。声に力もなく立ち上がるのも力が見えなかった。彼女は涙を流しながら海面を滑り出した。

 

 

★鎮守府 執務室

 

 あれから五時間後。

 

「……資材の確保、並びに戦力の増強には成功…………だが…」

「……向こうの提督が死亡…そして残っていた資材も消失…」

 

 重い空気が充満していた。

 

「………榛名たちはどうだ…?」

「…………」

 

 首を横に振る大淀。それも当然だ。自分の慕っていた提督が死んだ。それがどれだけ辛いことか。

 

「…ちょっと出る」

 

 一言残し、執務室を出た。

 

 

★鎮守府 港

 

 榛名たちを探しているうちに港までやってきた。そして榛名は港にいた。

 

「……ひぐっ…っ………」

 

 膝を抱え泣いていた。

 

「……………」

 

 無言で近づき、彼女の隣に腰を掛けた。いつも張り切って、頼もしかった彼女が今はとても小さく見えた。

 

「…………あの時はすまなかった…」

「……いえ……榛名が…悪いんです……」

「…俺も昔な、大切な人を失ったことがあるんだ」

 

 昔の話。その時の自分は今の彼女のように膝を抱えて泣いていた。妹の話によれば頼りになる兄が誰よりも頼りなかったと。

 

「………士官学校に行く前、家族で旅行に出かけたんだ。その時に深海棲艦の被害にあったんだ。そして姉を守ろうとしてかばおうしたんだ。だけど俺の姉はかばおうとした俺を突き飛ばした。放たれた砲弾は直撃。奇跡的に生きたけど結局死んだ」

 

 その時自分が悔しかった。守れたはずの存在を守れなかった。

 

「血を流して、ズタボロになってかすれた声で俺に行った。「守ろうとしてくれてありがとう。私は大丈夫だから。強くなってお父さんとお母さんと妹を守ってあげて」ってな」

「……それで…士官学校に…」

「ああ。親父が昔すごい人でな。事故が起こる前から体は鍛えていたが、その日からさらに体を鍛えるようにした。そして今に当たる」

 

 その結果化け物じみた体を得て、守るべき力を得たような結果になった。

 

「……結局何が言いたいかというとな。死んだ人の意志を背負って、その人の分まで生きるってことを学んだんだ。だからあの提督の分まで俺たちは戦って生きていかなければいかない」

「……そうですよね」

「ああ。そうじゃなきゃ、上にいる彼女に顔向けできない」

 

 こうやっている間もきっと空から見守っているに違いない。

 

「…榛名、もう大丈夫か?」

「………はいっ、榛名は大丈夫です!」

 

 彼女の目には涙の痕があるが、笑顔で答えた。

 

 

★鎮守府 会議室

 

 翌日の朝、艦娘全員と大淀と明石を会議室に呼び出した。

 

「さて、本日集まってもらったのはほかでもない。そろそろ輸送ルートの確保を始めようとしているわけだ。そこで、明後日から作戦を発令する!」

「「「「「!!!」」」」」

 

 唐突で、驚きのある発言だった。

 

「この島は自給自足で補っている分が強く、食糧とかはすぐ困るようなところではないが、輸入物は一切なし、並びに資源の在庫というものがある。いずれはなくなる。そこで戦力が増強できた今、輸送ルートの確保へと移る!」

 

 

●艦娘の日記

side:武蔵

 

 驚く日だった。よくわからない提督と艦娘が来たと思ったら、その日のうちに提督が殺された。この作戦を決行している最中に仇がとれるはず。その時は必ず沈めて見せる…!

 

 

side:大鳳

 

 提督が深海棲艦に殺されました。今は新しい提督の元で戦うことになりました。必ず提督の仇はとって見せます。




皆様の応援もあり、お気に入りの件数が200件を超えました。閲覧、お気に入り、評価してくださった皆様、本当にありがとうございます。これからもぜひよろしくお願いします。

普段は夜九時から書いています。その時は大体ツイCASもやっています。私の「elsnoir」検索していただければ見つかります。よろしかったら来てみてください。

再度言いますが、これからさらに渚を大きく暴走させますが、ぜひよろしくお願いします。
感想、意見等お待ちしております。


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壱拾六話 大船の案

★鎮守府 会議室

side:渚

 

「さて、まず状況からだ」

 

 自分の背後にはPCから出力されたスクリーン。そしてそこには本土とここのあたりを示した巨大な地図。

 

「現在俺らが獲得している制海権は大体このくらい」

 

 PCを操作する。スクリーン上で白い丸が現れた。自分の鎮守府を中心にいくつか広がっている。

 

「俺たちの制海権はこの白い部分だ。そしてこれから」

 

 スクリーン上でこの島と本土をつなぐように太い灰色の直線が引かれた。

 

「大体このあたりの制海権を取得するのが目的だ。輸送ルートを完全に復帰させるのが俺たちの仕事。この制海権を取得すれば大体輸送ルートは回復するはずだ」

 

 スクリーンを切り替える。

 

「これからの問題だ。まず作戦をいくつかのフェーズに分ける」

 

 スクリーンが切り替わり、いくつかの項目になる。

 

「まず第壱フェーズ。この島と本土を直線状でつなぐと無人島がある。その無人島の制海権をとれとは言わない。無人島までの制海権を取得する」

「無人島の攻略は次のフェーズってことね」

 

 矢矧が呟いた。

 

「そうだ。第弐フェーズは無人島の攻略となる。ここでは敵深海棲艦の小さな泊地があるはずだ。大きな戦闘が予測される」

「姫、鬼クラスのお出ましってことね」

「だろうな。そして第参フェーズ。ここからが問題だ」

 

 スクリーンを切り替える。無人島の全体図が現れた。

 

「上に聞いて無人島の航空写真を送ってもらった。この写真によればちょうど真ん中が大きく開いている。ここに俺たちの泊地をつくる」

「「「「「!!」」」」」

 

 会議室にざわめきが走る。

 

「これは俺たちだけでは対応は不可だ。妖精さんに頼るのが一番いい形かもしれないが、妖精さんには工廠や入居施設の砲に回ってもらう」

「なら誰が」

「それはこの島の人の力を借りる。優秀な大工の方々がたくさんいるらしいからな。よって第参フェーズはこの島にいる大工の方々、並びに協力してくれる方々を無人島に連れて行く。連れて行く際はボートに乗っててもらう。資材は俺たちがボートに乗せて運んだり、船に乗せたり、現地で回収したりだ」

 

 苦労するのはこの第参フェーズと思われる。

 

「そして第四フェーズ。泊地の作成。これはさっきも言った通り、大工の方々と協力してくれる方を中心に泊地の作成に入る。俺は泊地作成の手伝いに回る。何人かの艦娘は他で料理作ったり、食材確保したりと何かしらやってほしい。そのメンバーはまたあとで選び、報告する」

「泊地を作っている間、提督は鎮守府を留守にする。誰が指揮を執るの?並びにその間は何をしていればいいの?」

 

 矢矧が言う。

 

「すまないが、その点はまたあとで話す。秘書艦にでもやってもらおうかと考えたが……秘書艦すら決めてないな…」

 

 今更になるが重大な事実に気づいてしまった。

 

「秘書艦は明日決めることにしよう。今日は作戦のフェーズを説明した後に演習にしよう」

「………」

「矢矧、冷たい目で見ないでくれ………それで、最後のフェーズだ。第六フェーズ」

 

 画面を切り替える。無人島から本土を映している。

 

「情報によれば無人島と本土をつなぐラインは数多くの深海棲艦がいるようだ。これらを殲滅し、完全に本土と無人島をつなぎ、輸送ルートを再びつくる」

「図を見るだけではそこまでの距離ではないようね」

「ああ。本土と無人島は大体に三十分で行ける距離だ」

「そうなれば、一度で殲滅するつもり?」

「ああ。一度の出撃で極力撤退しないで殲滅する。この部分にも姫または鬼もしくはそれ以上のクラスのやつがいる。」

 

 よっぽどのことがなければ撤退はしないつもりだ。

 

「そう。それで編成とか戦い方とかあるの?」

「正面突破で制海権トータル!」

「「「「「……………」」」」」

 

 渚以外沈黙する艦娘。

 

「なんだ、大船に乗ったつもりでいろ!俺がいる!」

「……きっと泥船ね」

「……もしかしたら羽の付いたカヌーかもしれないわ…」

「言い方を変えればいいんだろ!だったらタイタニックに乗ったつもりでいろ!!」

「「「「「それ沈む大船じゃないですか!?」」」」」

 

 

●艦娘の日記

side:矢矧

 

 とうとう作戦が動き出すころね。早くでもこの島の人達を安心させなくちゃ……それ以前にこの戦い方で本当に制海権がとれるかどうか心配だけどね…



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壱拾七話 秘書艦戦争

★鎮守府 工廠

side:渚

 

 明石に呼び出され、工廠にやってきた渚。ドアを開けるといつもの熱気と生ぬるい風が吹く。

 

「明石ーいるかー」

「提督!待ってましたよ!」

 

 なにやら黒い布に包まれた細長い棒らしきものを持って駆けてきた明石。棒の先端には布にはおさめられなかったのか、鋭い銀色が見える。

 

「なんだそれ?」

「新しい装備です!」

 

 明石に渡され、布を取ってみる。そこにあったのは先端に巻物のようなものがついている長い杖だった。

 

「………ん?」

 

 巻物を押さえている紐に気付いた。その紐を取り巻物を開いてみた。巻物に描かれていたのは飛行甲板によく似た図。

 

「………軽空母か!」

「はい!ちょっと後で飛ばしてみてくれませんか?」

 

 明石の話によれば飛鷹の持つ飛行甲板を改良し、こうやったようだ。ただの巻物だと「提督のこと」だからといってうまく使えないと判断し、オプションで長い杖と矛を付けてくれたようだ。この時点で接近戦をしろとでも言っているようだった。

 

「さて、いい時間だ。そろそろ始めるか」

 

 

★鎮守府 正面海

 

「よし集まったな!」

 

 艤装を装備した艦娘が待機していた。全員が全員艤装を装備しているわけではない。艤装を装備しているのは榛名、矢矧、武蔵、金剛、大鳳、加賀、鳥海、陸奥の八人。

 

「これより、秘書艦を決める演習を始める!」

 

 秘書艦を決める方法は簡単。この九人で乱戦式で戦ってもらう。二発被弾したらアウト。それだけの話。そして残った艦が秘書艦となる。砲弾、魚雷は演習用の物。中には白い粉末が入っている。

 

「それぞれ、始めろ!」

 

 適当な合図の元秘書艦戦争が開始された。

 

 

side:榛名

 

「Hey!榛名!妹だからって手加減はしないネー!!」

「榛名も、お姉さまだからって手を抜くつもりはありません!全力で参ります!!」

 

 掛け声とともに砲弾を放つ。砲弾同士が直撃し、白い煙を上げる。

 

side:大鳳

 

 クロスボウを空に向ける。視線の先には同じように弓を構えた加賀。

 

「秘書艦の場所は譲れません」

「わ、私だって負けませんから!!」

 

 艦載機を放つ。互いの矢が爆ぜ、艦載機へと変貌する。空が艦載機で埋め尽くされる。

 

side:武蔵

 

「さて、始めようじゃないか。ビックセブンの陸奥」

「そうね、こうやって派手に砲撃できるなんてあまりないからね」

 

 轟音が響く。その時には白煙を上げていた。二人の表情がゆがむ。

 

 

side:鳥海

 

 視線の先には矢矧。艤装を構え、こちらを睨みつけている。だが目はずっとこちらを見ているわけではない。ちょくちょく目が動いている。周囲を見ている。

 

「………よく見てますね」

 

 そういう自分も目を動かし、周囲を見ている。一対一でお互いに撃っている。自分と矢矧を除いて全員一度被弾している。

 

「矢矧さん」

「鳥海」

 

 お互いに砲弾を放ちながら声をかける。言わずともわかる。この戦いは一対一で戦うものじゃない。

 

「一時休戦ですね」

「ええ」

 

 そして手を組んでも構わない。矢矧に背を預け、ほかの艦娘を視界に入れる。誰もこちらにはあまり目を向けていない。好機だ。こちらに気付かないうちに攻撃を仕掛ければ高確率で被弾するはずだ。

 

「…榛名、ごめんっ!」

 

 矢矧が声を上げ艤装の引き金を引き、二度砲弾を放つ。同時に向きを変え魚雷も放つ。放たれた砲弾は榛名と金剛へ。そして魚雷は武蔵へ。

 

「撃ちます!」

 

 自分も砲弾と魚雷を放つ。二度放たれた砲弾は加賀と大鳳へ。そして魚雷は陸奥へと。

 

「「「「「!!」」」」」

 

 全員が気づいたころにはすでに遅かった。直撃するまで残り1cm。逃げることは不可。同時に、

 

「後は矢矧さんだけですね」

 

 一対一になることだった。

 

「ええ。これで周りを気にせず戦える」

 

 矢矧がこちらを見つめる。今度は周りを見渡さない。自分だけを見つめている。

 

「秘書艦はどっちか。これで決まりますね」

「そうね」

 

 砲を構え直す。

 

「「秘書艦(提督の修正係)は私です(よ)!!」」

 

 声を上げると同時に海面を滑り出した。

 

 

side:渚

 

「なあ、秘書艦のところに全く違う意味でのルビなかったか?」

「当たり前なのです」

 

 無関心そうに、答える電。

 

「最近の電キツイや」

 

 

side:矢矧

 

「撃つ!」

 

 海面を高速で滑り、砲弾を放つ。お互いに一撃ずつ被弾している。次にあてたほうが勝ちだ。

 

「負けるわけにはいかない!」

 

 鳥海も放たれた砲弾を回避しながら、砲弾を放つ。矢矧も同じように砲弾を放ちながら回避する。砲弾が飛び交い、魚雷が海面を切る。お互いに睨めつけ、負けずと砲弾を放つ。

 

「当たって!」

 

 鳥海が立続きに砲弾を放つ。矢矧も同じように砲弾を放つ。砲弾同士が直撃する。白煙が立ち込める。

 

「…行くしかない!」

 

 自ら白煙の中に突っ込んだ。

 

 

side:鳥海

 

 白煙が立ち込める。白煙の先には矢矧がいる。

 

「…………」

 

 考えている時間は少ない。的確な計算を出さなくてはならない。彼女ならどうする。

 

「…!」

 

 導き出した結果は引き金。引き金を引き白煙に向けて、砲弾を放つ。放たれた砲弾は白煙を切り裂く。そしてあるのは矢矧ではなく、空間。

 

「なっ!?」

 

 当の彼女は

 

「私の勝ちね」

 

 白煙からは声は聞こえない。聞こえた先は自分の背後。砲弾を放ったと同時に自分の背後に回っていたのだ。

 

 

side:渚

 

「決まったな」

 

 勝敗は決した。数ある艦娘から矢矧が選ばれた。

 

「よろしくな矢矧」

「ええ。これからしっかりサポートしていくわ」

 

 これで秘書艦が決まった。

 

 

●艦娘の日記←訂正・秘書艦の日記

 

 これからほかの艦娘じゃなくて、私矢矧が書くわ。激戦の末に私が秘書艦になった。これから提督をサポートしていくけど、どうなるかわからない。でも私が提督を支えて、正しい道を導かなければならない。無理させないように気を付けないと…

 



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壱拾八話 後悔は再び

★鎮守府正面海域

side:矢矧

 

 深海棲艦の襲撃があった。渚は後で出撃するとのこと。そして自分がほかの艦娘を率いて海を滑っている。

 

「これから作戦始めるっていうのに…仕方ないわね!」

 

 

★鎮守府 出撃ゲート

side:渚

 

「早速出撃だな」

 

 左手に巻物の付いた槍を握り、海面を滑り出す。

 

「索敵機か」

 

 巻物を開き、端を槍の持ち手で固定し巻物を広げる。巻物の端に式神。

 

「頼むぜ!」

 

 槍を前に突き出し、式神を放つ。放たれた式神は二式艦上偵察機へと姿を変える。

 

「……あとは皆に追いつくことか」

 

 自らも海面を滑り艦娘の後を追った。

 

 

side:矢矧

 

「くっ、数が多い!」

 

 砲弾を放つ。一撃一撃を確実に与えているものの数があまり減っていない。

 

「臆するな!一体一体確実に沈めていけば、いずれ終わる!」

 

 砲撃を行いつつ、武蔵が声を上げる。

 

「喰らえ!」

 

 砲弾は確実に深海棲艦を葬っている。だがずっと攻撃を加えているわけではない。少なからず損傷が出ている。

 

「加賀!!上!」

「!」

 

 加賀の上空には艦載機。そして今爆撃を行う所だった。

 

「対空砲火、間に合わない!?」

 

 爆撃を止めることができない。

 

「うぅあっ!!」

「加賀さん!!」

 

 大鳳が声を上げた。その加賀は大きなダメージを追っていた。飛行甲板に大穴があき、衣服もボロボロとなっている。弓も半壊していた。

 

「電!加賀を連れて、撤退して!!」

「はいなのです!」

 

 電が加賀を引き連れ、撤退を開始した。

 

「…まずい…どうする…」

 

 被害はますます大きくなっていく。このままではこのまま進行を許してしまう。

 

「矢矧さん!敵主力艦隊を攻撃しましょう!」

 

 榛名の声が聞こえる。それが妥当と思われる状況。だがどれが主力かわからない。駆逐から軽巡、ならびに戦艦、空母までいる。そしてどれも似たり寄ったりで主力とは思えない。

 

「…………提督だったらどうする……」

 

 考える暇もない。彼ならどうするか。

 

「……考える必要も…ないわね!!」

 

 再び引き金を引く。彼なら迷うことなく殲滅に移るだろう。そして横目に移る彼。槍を振り回し、一撃一撃を確実に叩き込む。

 

 

side:渚

 

 後方で艦載機を飛ばし、自分は飛行甲板の巻物を丸め、槍の状態で深海棲艦を貫き、切り裂いている。刃先が青くどす黒い液体に染まる。

 

「失せろ!」

 

 チ級の首もとに矛を突き刺し、横に薙ぐ。首がはね液体が吹き出し爆ぜる。突き刺しては切り裂く。自分の周囲では艦載機が飛び交い、視界に移る深海棲艦を沈めている。

 

「さすがね、あなたの無茶っぷりは」

「いつものことだろっと!!」

 

 矛でイ級の脳天らしき部分を突き刺す。再び爆ぜる。後方で爆ぜる音が響く。他の艦娘が沈めているのだろう。

 

「つぎっ!」

 

 海面を滑り、ヲ級に迫る。帽子と思われる部分にある口からいくつか艦載機が放たれる。

 

「頼むぞ!妖精たち!」

 

 自分の声に答えるかのように背後から艦載機が過ぎ去っていく。そして自分はヲ級に向かって接近していく。艦載機から放たれる機銃の一撃、魚雷をかわしながら突撃していく。そして間合いに入った瞬間にヲ級の左目に向けて矛を突き出した。

 

「ッッッ!!??」

 

 さらに一撃を叩きこむべく、力を加える。それと同時に一つの悲鳴。

 

「きゃあぁっ!」

「矢矧!!」

 

 致命傷を受けたのか、艤装が大きく破損している。これ以上の戦闘は不可と言っても過言ではなかった。

 

「来ないで!!」

 

 矢矧が上げた声。彼女の前方には金色のオーラを纏うル級。

 

「矢矧ぃ!!」

 

 ヲ級から槍を引き抜き、全力で矢矧の元にかけた。そして飛行甲板を開き、固定する。矢矧の前に立ち飛行甲板を立てにするかのように槍を構える。

 

「くっ!」

 

 飛行甲板のせいで前が見えない。そして衝撃が来た。その衝撃は前方からでなく、右から。それも砲弾による一撃なんかではなく、誰かに押されたような感覚。

 

「なっ!?」

 

 横に倒れる自分の視界の中で一人の艦娘がいた。その姿は過去にかばおうとして逆にかばった自分の姉とだぶった。

 

「…提督、元気でね。海の底から見守ってるから」

「ぁ…」

 

 彼女が初めて自分に見せた笑顔。榛名やほかの艦娘には見せて自分には見せていなかった。その笑顔すらダブった。

 

「矢矧いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」




間に合わなかった…


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壱拾九話 不安と恐怖と支え

★鎮守府 提督の私室

side:矢矧

 

 たまたま真夜中に鎮守府を歩いていたら、自分の名が大声で呼ばれた。それも呼び出すかのような声ではなく、悲鳴じみた声。彼の部屋に入ってみれば、布団から半身を起き上がらせ、息を切らしていた渚。月明かりで照らされていた彼の顔は青ざめていた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

「………………提督?」

 

 小さな声で喋りかける。

 

「っ!?」

 

 びくりと体を震わす渚。そしてゆっくりとこちらを見る。彼のすぐ近くまで寄ってみた。

 

「…何があったの?突然私の名前なんか呼んっ…!?」

 

 渚が突然抱き着いてきた。

 

「……っ……ぐっ…………っ……!」

 

 渚が小さく震えながら泣いていた。いつも危険で頑丈そうな彼が今は子供のようでとても頼りなさそうに見えた。

 

「…………提督…」

 

 彼の背に手を回し、そっと抱いた。これでも彼はまだ十九の未成年だ。

 

 

 それから少しそのままの状態でいると落ち着いたようで、嗚咽もなくなってきた。

 

「……落ち着いた?」

「……ああ……」

 

 それでもまだ声は震えていた。よほどのことがあったのかもしれない。

 

「………ちょっと待ってて」

 

 彼から少し離れた。ラウンジの棚からココアの粉末を取り出し、マグカップ二つに入れお湯を注ぐ。そしてそれを手に持ち、渚の隣に座った。ベッドに腰を掛けている。渚は下を向き、うつむいていた。

 

「………教えてくれる…?何があったの…」

「……夢を…見たんだ」

 

 悪夢とでもいうのだろうか。そしてそれで自分の名前を呼んだのなら、その夢で自分が出てきたということになる。

 

「…………鎮守府が深海棲艦に襲撃されそうだった。そこで全員で出撃して、戦闘をしていた。そこまではよかった」

 

 震える声でつぶやく渚。彼の目にはうっすらと涙が見えた。その涙は今にも頬を伝いそうなくらいでもあった。

 

「………矢矧が一撃もらって、大破したんだ。そこで俺が矢矧の前に立ってかばった…………はずだったんだ」

「…はず?」

 

 自分の問いにゆっくりとうなずく渚。

 

「……そのままだったら俺が一撃もらって、大きなダメージを受けるぐらいで済んだはずだったんだ……砲弾が放たれる前に俺は誰かに飛ばされたんだ…」

「………それが私ってこと?」

「…ああ…………夢の中の矢矧はその時「提督、元気でね。海の底から見守ってるから」って一言残して、俺の代わりに被弾した」

「……………」

「俺はまた守れないのかって思った。大切な人を…仲間を…守れないのかって…」

「……またってどいうこと?」

 

 「また」。過去に一度守ろうとした人を守れなかったことがあるようだ。

 

「……………俺は…士官学校に入る前に家族で旅行に出たんだ…俺の家族は父と母。姉に妹と俺の五人。……船で移動しているときに、連中がやってきた」

 

 連中。おそらく深海棲艦のことだろう。

 

「…標準がこちらに向けられて、その時俺は姉をかばおうとしたんだ。でもそれは姉にとって望まないことだった………そんな俺を突き飛ばし、被弾して死んだ」

 

 湯気を放つココアを除きながら過去を話す渚。今はそれを聞くことしかできなかった。

 

「……その時の姉はにっこり笑っていた…………それが…さっきの夢で、矢矧と姉がダブって見えた……何から何まで全部…ダブって見えた…笑顔も死ぬところも」

「……それで…さっき大声を上げていたわけね…」

 

 ゆっくりとうなずく渚。

 

「……俺は………守れるのか……お前たちを…?」

 

 いつにもなく弱気な発言。彼らしくない。恐怖と不安が彼を支配しているようだ。

 

「………俺は…怖いんだ……お前たちが帰らぬ人となったら……って思うと……怖くて……怖くて………!」

 

 彼の頬を一つのしずくがつたう。そのしずくは彼の持つココアにぽちゃんと落ちる。一つだけじゃない。幾つも落下している。

 

「………提督……ううん…渚、秘書艦の私がいる。あなたを支え、助けるのが秘書艦の役目だと思ってる。渚が危なくなったら、私が助けるから。不安になったら励ますから。立ち直れなくなったら、支えるから…」

「……っ……矢矧…」

 

 二人してココアをテーブルの上に置く。さっきまで俯いていた彼がようやく顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃになった顔。本当に彼らしくなかった。

 

「……男の悲し涙ほど、見苦しいものはないわ。でも今だけは許してあげる。泣くだけなくといいわ。でも静かにね」

「ッ!」

 

 渚が再び矢矧に抱き着いた。女の子の用に抱き着き、再び泣き出した。

 

「……っ…矢矧………俺は………俺は……!」

「…大丈夫……私がいるから…大丈夫」

 

 渚が泣きやむまで時間がかかり、結局収まったのは四時ごろとなってしまった。

 

 

「矢矧、すまなかったな」

「いいのよ。これも秘書艦の務めだと言い聞かせればいいから」

 

 提督を支えるのも一つの仕事。

 

「……提督…渚」

「なんだ?」

 

 二度目の名前の呼び。特に大きな意味はない。それでも今はそう呼びたかった。

 

「……私がそばにいるから、同じ仲間として、そばにいるから」

「………………矢矧…」

 

 渚の目が再び潤み始めた。

 

「ちょ、ちょっと!?もう泣かないでよね!?」

「……お前の言葉が嬉しすぎただけだよ」

 

 涙をぬぐう渚。彼の瞳に数時間前の恐怖や不安はなかった。

 

「………大丈夫そうね。さて!提督、お仕事始めようかしら!」

「…ああ!」




大分遅刻しましたが、18・19話はエイプリルフールネタでした。初日から間に合わなかったのは本当に申し訳ありませんでした。リアルが非常に忙しかっただけなんです(言い訳)。

渚の意外な一面を出した回でした。ああ見えて非常に涙もろく、トラウマには結構弱い方です。


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弐拾話 TRR作戦 第一フェーズ開始

★鎮守府正面海域

side:渚

 

「ぶっ壊れろおおおオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 右手に握る巨大な主砲、36cm連装砲の砲身で重巡リ級を殴りつける。砲身が顔面にめり込み、みしみしと音を鳴らす。そして顔面が後方へ吹き飛び、爆ぜる。

 

「次はどいつだ!!」

 

 あたりを見渡し、敵を探す。そして捕捉する。戦艦ル級エリートがこちらを見つめていた。海面を滑り、肉薄する。放たれた砲弾を回避し、両手にある砲を握る手に力を込める。砲弾を回避し続けながら間合いに入った。そして左手に握る20.3cm連装砲で殴りつける。ひるんだところに右手に握る巨大な主砲で顔面を殴りつけ、引き金を引く。轟音と共に爆炎を放つ。確実に一撃を叩きこみ、沈めていく。

 作戦の第一フェーズは島までの海域を確保すること。確実に沈めちょっとずつ、制海権を広げていく。

 

「沈めえええええええええええええ!!!」

 

 雄たけびを上げ、艦載機を放とうとしていたヲ級に急速で接近し、全力で右手を振るう。砲身が頭部の帽子にもぐりこむ。そして渚が引き金を引いたと同時に、巨大な爆発を起こす。砲弾に艦載機が誘爆し、さらに炎上した。

 

 

side:矢矧

 

 暴れている渚を横目に見ながら敵を葬り去る。砲弾を、魚雷を放ち、確実に沈める。

 

「提督、動かないで!」

 

 渚の後ろに軽巡ヘ級が砲身をのぞかせ、こちらを狙っていた。今にも砲弾が放たれそうだった。その狙うヘ級に向けて魚雷を放つ。

 

「っ!」

 

 魚雷が海を切り裂き、渚の横をすり抜けていく。そのまま魚雷はヘ級に直撃し、爆炎を上げた。動かなくなったヘ級にとどめの一撃を放つ。渚の右手に持つ巨大な主砲が砲弾を放つ。砲弾は体に突き刺さり、爆発する。

 

「助かった」

「いいのよ。それより、次くるわよ!」

 

 自分の声に応じて渚が前に進む。自分の役目は彼のサポート。自分自身も砲弾、魚雷を放つが仕事の八割ほどは渚のサポートになる。彼が先行し、危険な目に合うかのせいもある。それを防ぐのが自分の仕事となる。

 

 

side:渚

 

「させるかっ!!!」

 

 腰に装備された魚雷を引き抜き、それをブーメランの要領で投げる。敵から放たれた砲弾を投げた魚雷で撃ち落とす。煙が立ち込める。その煙の中に突っ込み、魚雷とは別に装備された明石特製の刀、対艦刀の持ち手を左手で握る。

 

「受けてみろッ!!」

 

 抜刀。光り輝く銀色がチ級を切り裂く。青黒い液体が噴き出す。追い打ちをかけ、さらに刀を振るう。一度二度三度と何度も切り付け、腹部を蹴り飛ばす。蹴り飛ばすと同時に少し距離を取り、右手の主砲を構える。

 

「堕ちろ!」

 

 轟音を響かせる。一直線に空を切った砲弾はズタボロになったチ級に直撃し、爆破炎上する。同時に他の場所でも爆破音が響いていた。他の艦娘も十分に戦果を上げていた。

 順調に敵艦隊を殲滅してきた。そろそろ第一フェーズの終盤にかかる。いくつかに分かれ他グループの中の蒼龍の索敵機から入電があった。敵は残り一艦。戦艦ル級フラグシップ。状況は中破。事前に榛名、大鳳を筆頭にダメージを与えていた。

 

「終わりにさせてもらうぞ」

 

 海面を高速で滑りつつ、接近する。両手に持つ巨大な盾のような主砲からは絶えず砲弾が放たれている。それらをかわしながら、右手に持つ主砲でガードしながら確実に進んでいた。

 

「この拳は……!」

 

 接近し、間合いに入った途端に左手を引き、力を込める。手に握るは20.3cm連装砲。

 

「俺の分ッ!!そしてェッッ!!」

「-------ッッッ!!!!!!」

 

 振るわれた拳は的確に顔面をとらえる。だがまだ沈めたわけではない。次の一撃を。

 

「俺の分ッ、ブロオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 右手に握る36cm連装砲による重圧なブローを腹部にお見舞いする。砲身がめり込んだと同時に引き金を引き、零距離での砲弾の一撃を加える。爆音とともにル級の体が宙に浮かび上がる。あと一手。それで沈められる。

 

「空で後悔しな」

 

 両手に持つ砲を浮かび上がったル級に向け、引き金を引いた。砲弾は一直線に飛び、直撃。そして巨大な爆発を起こした。

 

「TRR作戦、第一フェーズ終了。次回作戦より、第二フェーズに移行する」

 

 

★鎮守府 執務室

 

「ねぇ提督、あのTRR作戦の「TRR」って何の意味?」

「TransitRouteRecovery」

「なんとも簡単な作戦名ね…」

 

 特に作戦名が浮かばなかったため適当に考えた結果この作戦名となった。戦果は上々。一度の出撃で第一フェーズを終えることができた。次は第二フェーズになる。半島を襲撃し、半島の制海権を獲得する。

 

「……何も起きなければいいけどな……」

 

 

●矢矧の記録

 

 作戦の第一フェーズが終了。次からは第二フェーズに移行となるわ。第二フェーズは半島の制海権を獲得すること。順調に進めばいいけどね…何が起こるかわからないからこそ、この世界は怖いのよ。



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弐拾壱話 第弐フェーズ開始

★無人島近辺海域

side:渚

 

 第壱フェーズを終え、戦力を整え、翌日再び出撃。そして今度は第弐フェーズ。無人島を占拠する深海棲艦を叩く。無人島には第壱フェーズの時とは数の規模が違った。おそらく倍以上と思われる。だがやることは変わらない。敵を倒すことだけだ。

 

「全艦に通達!これより第弐フェーズに移行する!やることは一つ!連中を沈めてやれ!!」

「「「「「了解!!」」」」」

 

 轟音が響く。開幕の知らせだ。いつも通り砲撃は牽制。接近してからが本番だ。視界の先にはイ級エリート。向こうは絶えず砲弾を放ちづけている。放たれた砲弾を一つ一つかわしていき、確実に距離を詰める。砲身が届く範囲に入れば終わりのお知らせ。今、そのお知らせが届くころだ。

 

「喰らえっ!!!!」

 

 右手に握る36cm連装砲を振るい、一撃を叩きこむ。砲身が口の中にめり込む。砲身が口の中に入ったことを目視し、引き金を引き、一撃を叩きこむ。砲弾が内部で爆ぜ、イ級ごと爆発する。次々と深海棲艦を葬り去っていく。

 

「敵主力を捕捉!!」

 

 通信。榛名の声だ。

 

「クラスは姫。陸上型深海棲艦、港湾凄姫!三式弾の準備を!」

 

 前方には白い巨躯。その周りに飛行甲板や、クレーン、砲などが見える。そして深海棲艦でありながら、陸上に体がある。こういった深海棲艦を大体は鬼、姫などと呼ぶ。同時に陸上型深海棲艦が多い。そして陸上型深海棲艦に有効なのが、この三式弾。これは一つの砲弾の中に無数の子弾が詰まっている。もともと対空用のものだが、陸上型深海棲艦に有効なダメージを与えることが可能である。

 

「まずは一撃、放て!!」

 

 右手に持つ主砲を構え、引き金を引く。同時に他の艦娘たちも艤装から砲弾を放つ。放たれた砲弾は白い巨躯に向かって飛んでいく。空を切り裂いた砲弾は直撃する前に爆ぜ、無数の子弾をさらに放つ。だが、それらは何かに弾かれ、爆ぜた。

 

「やはりバリアか」

「一気に攻撃を仕掛けましょう!」

 

 榛名の声に応じて、全員が砲弾を放つ。敵がは陸上にいるため魚雷は無効化される。ただ魚雷は海面を通るもの。もし一撃当てるのであれば海を通さなければいいのだ。

 

「これでも喰らえっ!!」

 

 一度両手に持つ砲をホルスターにひっかけ、両腰に装備されている四連装魚雷に指をかけ、引き抜く。そして前方に見える白い巨体に向けてぶん投げた。渚の手から放たれた魚雷は空を切る。くるくると回転しながら放たれた魚雷はバリアに直撃する。そしてバリアに直撃し、爆ぜた。爆ぜた魚雷がほかの魚雷を誘爆し、大きな爆発を起こす。

 

「突っ込む!」

 

 全速力で海面を滑り、港湾凄姫に近づく。いまだに煙でお互いの状況は見えない。

 

「はっ!」

 

 海面を蹴り、跳躍する。高く飛び上がり港湾凄姫の斜め上まで飛ぶ。左手に20.3cm連装砲を握る。右手は何も持たず、大きく開く。そして後ろに引き、

 

「一撃粉砕ッ!!パイル、バンカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 掛け声とともに右手を押し出す。押し出された右手はバリアに触れる。振れると同時に周囲に電流のようなものが発生した。次の瞬間、ガラスが割れるような音を立て、バリアが壊れた。

 

「ッッ!?」

「ぶっ壊れろおおおオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 今度は左手に握る連装砲で顔面を殴りつけた。殴りつけた瞬間に、みしりという音が鳴る。手を押し出し、力をさらに加える。そして顔面に零距離の砲撃を叩きこむ。爆音と同時にがきんっ、という何かが折れるような音が鳴り響く。

 

「アアアアア!!!」

 

 港湾凄姫が左手を薙ぎ払い、渚を吹き飛ばす。巨大な手に吹き飛ばされた渚は空中で受け身を何とかとり、海面に着地する。

 

「ごほっ!」

 

 口から血を吐き出す。吐き出された血は海面を赤く染める。あれだけ巨大な手で薙ぎ払われたのだ。それだけのダメージはある。

 

「提督!」

「かはっ………まだ…行ける……さっさと倒すぞ!!」

 

 もう一度血を吐き出し、口元を袖でぬぐう。視線を前に向ける。先ほど殴りつけた港湾凄姫は巨大な右手で顔の右側を押さえていた。

 

「……ユルサナイ……シズメテヤル……!」

 

 港湾凄姫の右目からは青黒い液体が流れている。先ほど殴りつけた砲身が目をえぐったようだ。同時に額にある角は真ん中でへし折れていた。

 

「…沈めるのはこっちの方だ!」

 

 ホルスターにひっかけた36cm連装砲を右手に持ち、構えた。



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弐拾弐話 運航不可

★無人島近辺海域

side:渚

 

 戦闘を開始してからかれこれ三十分が経過した。戦況は変わるどころか悪化していた。港湾凄姫による攻撃がほとんど渚に集中している。艦載機による攻撃や砲撃がとんでもない勢いで飛んでくる。こちらも砲弾を放つが、届く前に艦載機によって破壊される。角をへし折ってから一切攻撃が届いていないのだ。

 

「提督……どうするの?!」

 

 矢矧が声を上げる。今矢矧が狙いを定めているのは随伴艦。倒しているのにもかかわらず絶えず湧き出ている。主力を攻撃しようにも随伴艦の攻撃が激しいがゆえに攻撃することも出来ない。

 

「沈めっ!!」

 

 左手に持つ20.3cm連装砲で砲撃を放ちながら、右手の36cm連装砲による物理攻撃によって確実に沈めていく。確実に一手を決めいていく。だが一向に数が減らない。

 

「この状況を打開するには……何か…………」

 

 周囲を見渡す。さまざまなクラスの深海棲艦が無数にいる。

 

「……アイツか」

 

 その中に一つだけイレギュラーな個体を発見した。小さいが放つプレッシャーはまるで別物だった。駆逐艦クラスに思える黒い個体。もしかすればこの個体が複数の深海棲艦に呼びかけている可能性が高い。

 

「全艦に次ぐ、敵随伴艦の中心部に特殊な敵艦を発見。なるべく早めに下に送り返してやれ!!」

「駆逐凄姫……納得がいくわね……皆いい?集中砲火よ!!」

 

 自分も駆逐凄姫に向けて高速で海面を滑り始める。左手に持つ20.3cm連装砲を一度ホルスターにかける。そして対艦刀を引き抜く。港湾凄姫の放った艦載機から飛ばされる砲弾や機銃を回避しながら確実に距離を詰めていく。

 

「全艦、砲撃はじめ!」

 

 矢矧が声を上げると同時に轟音が無数に響いた。他の深海棲艦に直撃したりするものの、大半は駆逐凄姫へと向かって飛んで行った。砲弾は駆逐凄姫に直撃する前に艦載機やら砲弾で防がれるものの、直撃した。だがやはりいつものバリアに防がれる。

 

「これでぇっ、どうだ!!!」

 

 左手に持つ対艦刀を全力で投げつける。空気を切り裂き、一直線に飛んで行った刀はバリアに防がれる。が、みしみしとバリアにひびを作った。

 

「マサカッ!?」

 

 渚の手から放たれた刀は威力を下げることなく、バリアを貫き、駆逐凄姫の頭部に突き刺さった。

 

「ぶっ壊れろおおおおおおおおおおおお!!」

 

 右手の36cm連装砲のトリガーを握り、全力でバリアに向けて殴りつける。当然場所は刀が貫通した部分だ。まるでガラスが割れるような音を鳴らし、バリアが砕け散る。砲弾を弾くようなバリアが、いとも簡単に破壊された。

 バリアが砕け散ったのを確認して、何も握っていない左手の手を大きく開く。そして後ろに引く。

 

「パイル、バンカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 駆逐凄姫との距離をさらに詰め、間合いに入った瞬間に全力で押し出す。押し出した手は顔面に触れる。確かな手ごたえを感じ、さらに力を込める。小さな体からみしみしと音が鳴る。小さな音が徐々に大きくなり、次第に数も増えてきた。そしてもう一度力を籠め、押し出す。次の瞬間、頭部がはるか後方に吹っ飛び、爆発を起こした。

 

「随伴艦を沈めろ!!」

 

 声を上げると艦娘たちが再び一斉に砲弾を放った。砲弾が飛び交い、轟音が海に響かせる。

 

「提督!!」

 

 矢矧が声を上げる。上空には無数の艦載機。今にも攻撃を仕掛けるといったところだった。

 

「ッ!?」

 

 空を見上げると同時に無数の弾丸、魚雷が降り注いできた。砲を構え、防ぐ。豪雨のように降り注ぐ一撃が艤装を破壊していく。弾丸の一つが足の艤装に直撃した。

 

「ぐぁっ?!」

 

 足元が不安定になる。足の艤装がやられ、機能しなくなっている。重心が徐々に傾く。艤装のほとんどが使い物にならないくらいにダメージを受けている。これ以上の戦闘はほぼ不可。

 

「…くそっ」

「渚!!!!!」

 

 矢矧が声を上げる。彼女の顔を見る。そして一言。

 

 

side:矢矧

 

 目の前で彼がこちらを見ている。まるで最後の一言を告げるかのような雰囲気だった。そして彼を狙う港湾凄姫。

 

「後は……頼むぞ!!!」

「まって……やめて!!!」

 

 海面を滑り、渚を守ろうとした。だが、彼が叫ぶと同時に港湾凄姫が砲弾を放った。放たれた砲弾は一直線に渚に飛んで行った。そしてそのまま直撃し、爆炎を上げる。

 

「ぐっ!」

 

 熱風が周囲に吹き荒れる。目を焼くかのような紅焔が周囲に広がる。

 

「うそ……そんな………」

 

 目を開けるとそこには人の姿はなかった。

 

「なぎさあああああああああああああああああああああああ!!!!!」



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弐拾参話 代償

★無人島周辺海域

side:矢矧

 

 渚が沈んだ。紅焔の中人影の姿はなく、あるのは破損した艤装のみ。また守ることができなかった。自分が守ると約束した。それなのに守れなかった。

 

「―――――ッッッ!!!!!」

 

 歯を食いしばり、港湾凄姫を睨みつける。海面を滑り出した。正面には渚を沈めた艦載機が空を漂っている。

 

「矢矧さん!!」

「矢矧、止まれ!!!!」

 

 榛名と武蔵が声を上げる。その声は届かない。今は渚を沈めたあれにしか目は届いていない。破壊する。それだけが今の自分を動かしていた。

 

 

side:榛名

 

 矢矧に声をかけたがまるで届いていない。敵艦載機から放たれる攻撃を確実に回避しながら港湾凄姫に接近していく。

 

「皆さん、矢矧さんを援護してください。今の彼女に何を言っても無駄なはずです」

 

 加賀が弓を構えながら言った。

 

「発艦はじめ!!」

 

 加賀の声に答え、大鳳が艦載機を放つ。続いて加賀、瑞鳳も艦載機を放った。

 

「……無理だけは……絶対に許しませんからね!!」

 

 三式弾を装填し、矢矧を狙う艦載機を目標に定めた。

 

 

side:矢矧

 

 砲を構え、撃ちながら接近する。渚がバリアを破壊したおかげで攻撃がすんなり通る。だが向こうも激しい攻撃を仕掛ける。弾丸に魚雷が迫る。

 

「倒すッ!!」

 

 速度をさらに上げる。放たれた砲弾が港湾凄姫に直撃し煙を上げる。まだ倒すというレベルには届かない。それでも戦っているのは自分だけではない。味方が艦載機を撃墜している。その間に距離を詰める。

 

「クルナ…」

 

 港湾凄姫が砲を構え、一撃を放った。横に動き、砲弾を回避する。一撃では済まず、二度も三度も放たれた。今度も横に避けた。だったのだが、三度目に放たれた砲弾が、回避するのに行動が送れ、被弾してしまった。艤装の左側が破損し、海に落下した。

 

「ッ!!」

 

 左手が焼ける。それでも立ち止まらずにさらに距離を詰める。港湾凄姫を睨みつけ、砲を構える。

 

「クルナ……クルナ……クルナ…!!」

 

 港湾凄姫の顔が恐怖に染まっていく。続けざまに砲弾を放つ。放たれた砲弾を的確に回避していく。そして距離がとうとう近くなった。

 

「破壊するッ!!」

 

 砲弾を放つ。一直線に飛んだ砲弾が港湾凄姫の顔面に直撃する。そして艤装のエンジンをフルスロットルさせ、海面を蹴り、跳躍する。

 

「ッッッ!?」

 

 港湾凄姫の正面に飛びかかり、右手に持つ艤装の砲身を顔面に殴りつける。

 

「…………ぐ………うあああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 声を上げ、力を込める。港湾凄姫から小さな悲鳴と共にミシミシという音が響く。港湾凄姫の重い体が一瞬軽く感じられた。次の瞬間、青黒い液体をばらまきながら爆発した。

 

「はあ…はあ……はあ……」

 

 がしゃんという音を鳴らし、装備していた艤装が外れ、地に落ちる。渚の仇はとった。だが仇を取ったところで彼が帰ってくるわけではない。

 

「…………っ」

 

 がくりと力が抜けたように膝をついてしまった。自然と涙があふれてきた。守るべきものすら守れなかったことの悔し涙。そして大切な仲間を失った悲し涙。

 

「………戻りましょう」

 

 いつの間にか後ろにいた榛名が、声をかけてきた。彼が沈んだところには破損した艤装と焼き切れた軍服とボロボロになった帽子が浮かんでいるだけだった。ズタボロの体を無理やり動かし、海面を再び滑り出す。そして焼き焦げ、穴の開いた帽子を拾う。

 

「………渚…あとは…私に任せて」

 

 そう一言言い、海域から去った。



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弐拾四話 残された者たちは

★鎮守府 広場

side:矢矧

 

 手に持っている帽子を地面に刺さっている十字にかける。

 

「………渚、ごめんなさい。あなたを守れなくて………」

 

 彼を守ると誓った。だがその誓いすら守ることができなかった。また同じことを繰り返したのだ。

 

「…………私は……本当に馬鹿ね…………守るものすら守れず…過去と同じことを繰り返す………」

 

 誰もいない鎮守府の広場に一つの風が吹く。

 

「……………………悔やんでいてもしょうがないよね…もしあなたが私の立場だったら、今頃次の作戦に取り組むはずよね……」

 

 この後の作戦には奪還した孤島に泊地をつくること。これに関してはすでに大淀が手配をしており、今建築中とのことだ。リーダーに話を聞けば大体一週間で出来上がるとのことだ。だが泊地をつくってそこから一部作戦を練り、ようやく最終フェーズに入ることができる。

 

「…今は」

 

 彼の墓に背を向け、歩き出した。不安はない。気のせいかもしれないが、どこかで彼が見守っているような気がした。

 

 

★鎮守府 渚の執務室

 

 彼の執務室となっていたこの部屋は今自分の執務室となってしまった。彼が残したものを自分が引き継いだ形になる。

 

「ああ見えて、結構きれいに整理されているのね………」

 

 彼の性格からして考えられないぐらいきれいに整理整頓されていた。ファイルから、書類まで。

 

「あ、これって」

 

 ファイルを見ている中、一つ目についた。タイトルは「簡易報告」。

 

「報告っていうより、日記ね」

 

 誰かに報告したようなことは見られないが、彼の日記のようだった。いろいろと細かく記されている。そしてまた一つ。ぺらりとめくると一つだけびっしりと書かれたページがあった。他のページは少し行を開けて細かく書かれていたが、行が一切開いていない。

 

「……なにこれ…………」

 

 報告書にはこう記されていた。

 

 

「先日の榛名と矢矧がいた鎮守府に夜中再度一人で探索に行ってみた。明石には一つ無理を言わせてしまった。鎮守府周囲に深海棲艦はいなかった。正体不明の深海棲艦の攻撃を受けた鎮守府は、当然消し炭状態。その中に焼き焦げた死体があった。きっとあの提督だろう。そして死体の手にはUSBメモリが握られていた。外部が少し溶けていたが、中身を確認してみればまだ生きていた。このデータに関してはまたあとで記載する。そして死体以外に何かあると言えば何もなかった。資材すらもない。生物すら存在していなかった」

 

 そして次の文。

 

「メモリの中には彼女が書いたと思われる日記があった。このデータは後で自分のパソコンに保管をしておく。日記を見る限り、俺たちと同じように輸送ルートの奪還を命じられていた。だが、戦果を上げることができず、見捨てられた。あそこには市民という市民はまるでいない。だが資材が豊富だった。主に石油や石炭といった化石エネルギー。これは非常に大きい。だが、今となっては正直掘れるかどうか疑問だ。次の話だ。彼女は戦うことよりも守ることを重視していた。だからこそ轟沈した艦はだれ一人いなかった。だがあるひ正体不明の深海棲艦の襲撃を受け、大ダメージを受けた。それこそ再起不可能なレベルまで。かなりの数いたはずの艦娘たちはほとんど沈められ、最後までたっていた榛名と矢矧を逃がした。その結果が俺たちとの出会いだ。元に戻そう。先ほどから書いている正体不明の深海棲艦。推測クラスは戦艦もしくは姫。一撃の火力は未知数。そして形。もしあの時見た異形の深海棲艦と彼女が見た正体不明の深海棲艦が同じ個体だとすれば、変形することが可能と思われる。俺が見たのは六つの紅く光る眼。彼女が見た物は目が四つだった。彼女が言うにはあんなタイプは見たことがない。とのことだ」

 

 自分たちの提督を葬ったのがその正体不明の深海棲艦だとすれば仇を取ることになる。だが輸送ルートの道中にいるとは思えない。

 

「特徴は白い長い髪、青色に光る眼。それとレ級のような尾を持っている。だがその尾は艦載機を放ったり、砲弾を撃つことはしないようだ。何か別の意味があるらしい。そして名前。仮ではあるが彼女は「深海棲皇」となずけた。もしかすれば輸送ルートのどこかにいる可能性もある。注意するように心掛ける」

 

 その後は特にこれといった記載はなかった。

 

「……………」

 

 何も言わずに、ファイルを元に戻した。

 

「…………渚……」

 

 窓の外を見て呟く。白く輝く月が海を照らしている。

 

「………………………渚…必ず…あなたの後は継いでみせる。だから今は…私たちを見守っていて」

 

 

★孤島 泊地 出撃ゲート

 

 大工たちの頑張りによって予定より早く完成することになった。ここでブリーフィングをし、出撃準備を整えた。

 

「これより、TRR作戦の最終フェーズに入るわ。彼の悲願を達成してみせるのよ。渚にできなかったことを私たちがする。だから、必ず生きて帰って戻る。いいわね?」

「「「はい」」」

 

 全員が声を上げる。出撃する艦娘は矢矧、榛名、大鳳、武蔵、陸奥、加賀、瑞鳳、高雄、利根、神通、川内、暁、響の計一三の艦娘で出撃することになった。なお他の艦娘は泊地にて待機。鎮守府は大淀と明石に任せてある。

 

「さて、行くわよ!!」

 

 声を上げ、艤装を装備する。鎮守府とはまた違う形で装備される。床が割れ、艤装が現れる。その艤装をロボットアームが持ち、装備させてくれる。全ての艤装を装備し終わり、海面を切り裂き、出撃する。自分の後ろを榛名たちが追従してくる。

 

「………渚……私…頑張るから…だから、私たちを…見守ってて」

 

 艤装のトリガーを握りながら、呟いた。




いよいよ大詰めです。

相変わらずお待たせいたしました。


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弐拾五話 絶対強者

★海域

side:矢矧

 

 爆音とが鳴り響く海域。潮風が煙の臭いを運ぶ。

 

「数が多いッ!」

 

 今までは泊地をつなぐまでのルートを攻撃していたが、今度は違う。本土をつなぐルートだ。そのせいか、数が異常に多い。一体一体破壊してもまるで減っているような気がしない。

 

「時間がかかってもいいです!確実に倒していきましょう!」

「榛名の言うとおりだ!!!皆、撃て!!」

 

 榛名の声に対し、武蔵も同じように声を上げる。大声に混じり、爆音が鳴り響く。自分も負けずと引き金を引く。砲弾はツ級の顔面に直撃、爆炎を上げる。それに合わせ、上空を舞う艦載機が急降下爆撃。それにより、大破炎上させる。そこに追い打ちをかけるべく、魚雷を放つ。海面を切り裂いた一撃は妨害されることなく直撃し、巨大な水しぶきを上げる。

 

「状況は!?」

「優勢……というにはまだ早いです!」

 

 敵を破壊してはいるが、一体破壊するたびに二体ほど深海から這い上がっているような気もしている。

 

「戦艦、空母を筆頭に戦っているのに……さすがに中枢部というだけあるわね……」

 

 だが時間がかかりすぎてもいけない。このまま長い戦闘を続けていれば途中で燃料と弾薬が尽きる可能性もある。だが、一度で勝ってこいというわけではない。だがこの激化した戦場の中敵に背を向けて鎮守府に戻ることができるかどうか。そこが問題なのだ。

 

「…………渚…あなたならどうしてる…?」

 

 今はいない彼のことを少し思う。彼ならどうしているだろうか。いつも通り滅茶苦茶な方法で数を的確に減らしていくか。それとも別の手段で数を減らすか。

 

「…………渚ならどうせ、目の前の敵から徹底的に倒しているかもね…………行くわ!」

 

 狙いを定め再び引き金を引く。今はそうすることでしか、彼のやり残したことを終わらせることはできない。

 

 

side:??? 

 

 騒がしい。そろそろころあいだろう。あの艦娘どもを沈めてもいいだろう。そのためには餌が必要。だがエサなどいくらでもある。ならば浮上しよう。それにもっとも害である提督はもういない。勝つことはたやすい。

 

 深海の中から海面を見上げる一つの影。その影がゆっくりと浮上を始めた。

 

 

side:矢矧

 

 戦闘中、突然空気が変わった。爆炎と煙の臭いが混じる熱風から、吹雪のような冷たい風に変わったような殺気と狂気を感じる。その空気は他の皆も感じている。自分の仲間だけではなく、敵の深海棲艦まで。この海にいるすべてが硬直している。

 

「何……」

「索敵機から通電です!敵深海棲艦中枢部より正体不明の深海棲艦が出現!」

 

 瑞鳳の艦載機から通電が入った。正体不明の深海棲艦。それに頭が疼く。渚の記録にあった深海棲艦だろうか。

 

「…………来る…!」

 

 自分の中で肌が逆立つような感じがした。この空気の殺気の出所は間違いなくそれであった。正面の深海棲艦が左右に裂け、その姿があらわとなった。小柄な体に真っ黒なコートのような服。深海棲艦特有の蒼白い肌、白く足まで伸びた髪、青い瞳、レ級のような尾。尾には凶悪そうな顔に、何もかもかみ砕きそうな鋭い牙がずらりと見えた。まるで鮫……恐竜のようだった。

 

「白い長い髪、青い瞳、レ級のような尾……!皆気を付けて!!!!」

 

 記録にあった深海棲皇と情報は一致する。あれが自分たちの鎮守府を破壊したものだ。だが今まで出会った深海棲艦と比べ、プレッシャー、覇気がまるで違う。鬼や姫クラスもしくはそれ以上のものだ。

 

「……喰ラウ」

 

 深海棲皇の尾が動き出した。動き出した尾はすぐ近くにいた重巡リ級フラグシップに向いていた。何をするのか。そう思った瞬間、尾は突然リ級を頭から食らいついた。

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 バキ、ゴキという音を鳴らし、ばしゃばしゃと青黒い液体をばらまきながら、リ級は尾に瞬く間に食べられてしまった。こんな情報はなかった。なぜ味方を喰らうのか。そんな疑問を抱いた瞬間に答えは帰ってきた。何も装備していない深海棲皇の左腕が徐々に異質な形へと変化し、それこそリ級の腕のようなものになっていた。

 

「まさか……捕食した深海棲艦の力を得るというのか…!?」

 

 武蔵の言った通りのようだ。深海棲皇は一度変化させただけでは済まず、さらに近くにいたイ級、ツ級、ネ級、タ級を喰らい始めた。その間攻撃することもなく、ただ見ていることしかできなかった。恐怖心が渦巻いているのだ。初めてであったこの道の深海棲艦に恐怖している。

 

「矢矧さん……」

「榛名………」

 

 手に握る砲を再度強く握りしめる。こうしている間にも深海棲皇はさらに変化を遂げている。最初に変化した左腕すら変化し、砲が増えるなどさらに凶悪性を増している。このまま放っておけばさらに進化していくだろう。

 

「皆、一斉砲撃を!!!」

 

 自分が声を上げると同時に複数の轟音が響く。自分の放った砲弾、左右から飛んでいく仲間の砲弾が一斉に深海棲皇に飛んでいく。だが飛んでいく途中で他の深海棲艦がかばったり、着弾する前に撃たれたりと届かない。

 

「……爆ゼロ」

 

 そう声を上げた瞬間、深海棲皇の右手の砲から放たれた弾丸が自分の顔の右をかすめた。外れた弾丸はそのまま海面に直撃するが、

 

「きゃあっ!?」

 

 海面に着弾すると同時にとてつもない爆風が襲ってきた。まるで追い風が台風クラスのようだった。自分だけではなく、他の皆もだ。

 

「なに……あの火力……!」

「まともに喰らったら轟沈は防げない………」

 

 目の前の化け物をどうにかしようと考えるが、難しいと思った。他の艦を捕食し火力を上げる。なら当然装甲も増えるのではないか。その推測が浮かんだ。その可能性は非常に大きい。

 

「どうすれば……」

「…ッ!敵機直上!!」

 

 加賀が声を上げた時には上空に無数の艦載機が上空を舞っていた。前方の脅威に集中していたせいで全く気が付かなかった。今すぐに対空砲火しようにも間に合わない。全ての艦載機が攻撃態勢に入っている。そして砲を構える暇もなく、攻撃が開始された。

 

「間に合って!!!!」

 

 被弾覚悟で砲を上に向け、引き金を引いた。同時に爆音、熱風が押し寄せてきた。

 

「ッ?!」

 

 やはり間に合わなかったようだ。奇跡的に自分だけには直撃しなかったようだが、悲鳴が聞こえない。あれだけの数の艦載機が攻撃を仕掛けてきたにもかかわらず、全員が無傷というのはおかしい。

 

「どいうことだ……」

「榛名たちは………生きてるのでしょうか…」

 

 そして今全員が攻撃をしてはいない。同時に全員無傷。軽く爆風を受けただけだ。ならば誰がやったというのだろうか。

 

「…………ナゼ………」

 

 正面にいる深海棲皇はこちらからは目をそらし、右を向いている。

 

「……索敵機から通電」

 

 加賀が口を開いた。

 

「…九時の方向……何か来ます………!」



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弐拾六話 変えていく未来

★鎮守府

side:明石

 

「どっちのほうがよかったのかな……」

 

 数日前に一つの決断をした。今ある資材を新戦力に投入するか、別のものに投入するか。自分は別のものに投入した。そしてそれは今矢矧たちを助けに行っている。

 

「……練度の低いままじゃ足手まといになる可能性もある……だからあれに託したんだよね…」

 

 後悔はしていない。むしろ正しい選択だったのかもしれない。今はただ信じることしかできなかった。

 

 

★海域

side:矢矧

 

「九時の方向……何か来ます……!」

 

 全員が加賀の言葉を聞き、方向を見た。水平線に何かいるのが見える。距離が離れていてわからない。

 

「……ヤレ!」

 

 深海棲皇が声を上げた。次の瞬間、周りにいた空母、軽空母が一斉にそちらの方向に艦載機を放った。その数、数百を超える。

 

「………ナゼ……ナゼ生キテイル!!」

 

 深海棲皇が吠える。さっきまで平穏を保っていたのにもその平穏は消え去っている。

 

『残念だったな』

 

 通信。聞き覚えのある声。

 

『トリックだよ。全砲門一斉射、放て!!』

 

 その声の後、放たれた艦載機が爆発した。三式弾、噴進砲に直撃したのだ。

 

「この声って………」

 

 目頭が熱い。もう死んだと思っていた。その彼が今同じ戦場に立っている。そして今再び深海棲艦に立ち向かっている。そんな彼の姿がとても心強く、今ならどんな敵にでも勝てそうな気がした。

 

「朝霧 渚、再び参る!!!」

 

 

side:渚

 

 自分が沈んで鎮守府に復帰してすぐに明石が内緒で自分専用の艤装を作ってくれていた。今までよりも重武装で火力がある。右手には41cm連装砲、左手には12.7cm連装砲。左腕にはバルジ加工された飛行甲板。これは盾として使う。背には金剛、榛名の艤装と比叡、霧島の艤装をベースに組み合わせた艤装。×の字型の艤装の下の部分を金剛と榛名の艤装のように組み替えた感じだ。どれも41cm連装砲を装備。そして背には巨大な対艦刀を二振り。武骨なフォルムだが、なんでも叩き切れそうだ。そして腰には四連装(酸素)魚雷。両足には12cm30噴進砲が一基ずつ。

 

「…明石、最後の最後で凄い手間をかかせたな……でもこれならやれる。感謝してる」

 

 その声に答えるべく、手始めに艦載機をまずは蹴散らしてやった。

 

「…………………」

 

 脳裏にある女性が浮かんだ。榛名と矢矧、武蔵に大鳳がもともといた鎮守府の提督だ。彼女は目の前にいる深海棲皇にやられた。その仇が今ここで取れる。

 

「…あんたの仇は…ここでとる。それともう誰も死なせはしない……だから…………上から見守っててくれ」

 

 そう一言つぶやき海面を滑る速度を上げた。前方には無数の深海棲艦と先ほどの深海棲皇。記録とは違っている。やはり何らかの方法で変化、進化しているようだ。

 

「渚!」

「すまなかったな」

「なぎさぁ!」

 

 矢矧が泣きそうな表情で近づいてくる。よほど寂しかったのか、それとも不安だったのだろうか。もしかすれば後悔か。あの時自分を守ると約束したのにもかかわらず守れなかったのだ。だがその心配はもうない。

 

「感動のお話はこいつらを蹴散らしてからだ。それで、あの深海棲皇の進化を止めるにはどうすればいい?」

「随伴艦を全て沈める…それが一番手っ取り早いわ」

 

 話を聞くと深海棲皇は仲間の深海棲艦を捕食し、自分の力にすることができるようだ。ゆえに進化や変化をし戦力を増大させているのだろう。

 

「なるほど……わかった。作戦変更だ。各自的確に破壊しろ!いいな!?」

「「「了解!!」」」

 

 彼女たちからすればいつも通りの滅茶苦茶かつ適当な指示かもしれないが、それでも自分は彼女たちを信じているからそんな指示をしているのだ。それも当然だ。いままでずっと闘ってきた仲間だ。信じなくてどうする。

 

「さあ、一気に行こうじゃないか!!」

 

 速度を一気にあげ、手前にいたル級に肉薄。そして砲弾を放つ隙も与えることなくまずは左手の連装砲で顔面に一撃お見舞いする。そして今度は右手の連装砲を腹部にあて引き金を引く。轟音、爆炎と共にル級が爆ぜ、吹き飛ぶ。次の攻撃対象を視界に入れ進路を変更し、攻撃する。右手の連装砲の引き金を引き、左手にある連装砲で殴りつけては砲弾を放ち、時には魚雷を、噴進砲を撃ち、対艦刀で叩き斬る。敵艦隊を自分一人で蹂躙している。

 

「オ前ハ……沈メル……!」

「沈められるものならやってみろ!!」

 

 深海棲皇と正面から激突する。手に持つ砲を一度艤装にひっかけ、両手に対艦刀を握る。深海棲皇の手にはル級が持つ盾のような砲。対艦刀を全力で振るう。振るわれた刃は空を切る。同時に砲弾が放たれる。放たれた砲弾を的確に斬りながら、再び距離を詰める。

 

「クッ!オマエ達、守レ!」

 

 他の深海棲艦が近寄り、深海棲皇の前に立ちはだかる。

 

「邪魔をするなら排除するのみ!」

 

 左手の対艦刀を再び背負い、12.7cm連装砲を手に握る。正面にはタ級が一体、ヲ級が一体、ツ級が一体計三体。手始めにタ級に接近。左腕に装備されている飛行看板で砲弾を防ぎながら速度を上げ、突き進む。

 

「ッ!?」

「ふんっ!!」

 

 盾で攻撃を防ぎながら激突する。シールドバッシュと呼ばれる攻撃法だ。一撃によろけたタ級に右手の対艦刀を腹部に突き刺す。青黒い液体が噴き出す。

 

「ゴフッ!?」

 

 さらに左手に握る連装砲で零距離射撃を12発叩き込む。爆音が連続で鳴り響き、視界を赤と黒で染め上げる。そして左足で蹴り飛ばす。つづけて追撃。背に装備している艤装を展開し、すべての砲をタ級に向ける。

 

「爆ぜろ!!」

 

 掛け声とともにすべての砲から放たれる。響くは爆音。視界を爆炎と煙で染める。その悪い視界の中で敵を捕らえる。手に持つは二振りの対艦刀。速度を上げ前進。二つの影の間を通り過ぎながら両手に握る対艦刀を振るい切り裂く。刃がとらえたのは首。

 

「これ以上の抵抗は、俺たちが許しはしない」

 

 首を失った深海棲艦をしり目に見、深海棲皇を追った。




なんかすごい久々になりました。完全にもうお前だけでいいだろ的な感じですね。あと二、三話で終わりな感じですね


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弐拾六話 終戦

★海域

side:渚

 

 深海棲皇を追いながら随伴艦を沈めていく。

 

「このまま行かせれば大陸に到着してもれなく日本は火の海になる……その前に必ず沈める…!!」

 

 艤装速度を上げる。敵は背を向けているが撃つ気になれなかった。本体の背は向いているが、その尾はこちらを見続けていた。赤い瞳に深海魚みたいなずらりと並んだ鋭い歯が目立つ。

 

「……あの尾が他の深海棲艦を捕食し、本体がその力を得る。ならばあの尾を破壊すれば弱体化はできる……」

 

 だがそれも難しそうであった。尾は深海棲艦の戦艦クラスのように硬い装甲を身にまとっている。直接破壊するには骨が折れる。精神的じゃなく物理的に。何度も自らの拳で深海棲艦を沈めてきたが、今回だけはかなり難しい。そもそものサイズが桁違いなのだ。レ級のように小さくはなく単体で姫クラス程巨大なのだ。敵駆逐艦ですら1口なのだ。

 

「提督、どうするつもり?」

 

 矢矧から声をかけられた。

 

「……あのまま戦ってもこちらが不利になるだけだ。あの尾を破壊することを優先したいが……」

「そうね……一つだけ案がある」

「その案にかけるぞ。言ってみろ」

「本体と尾本体を繋いでる部分。あそこを貴方の対艦刀で一刀両断」

 

 単純明快だった。本体と尾を繋いでる部分は肌がモロに見えている。ここなら叩き切れる。

 

「その手があったな。援護を頼むぞ!!」

 

 更に速度を上げ近づく。本体がこちらを見、砲撃を開始した。両手に持つル級が持つような巨大な砲が火を噴く。ジグザクに進みながら砲弾を回避し、背中にある艤装で威嚇射撃を行う。直接当てるのではなくあえてずらしている。自分だけでなく後方から支援の砲撃も飛んでくる。

 

「上手く行ってくれよ…!」

 

 艤装から砲弾を放ち深海棲皇の目の前で着弾させる。巨大な水しぶきがあがる。その横で矢矧たちが放った砲弾も爆発し煙と水しぶきをあげる。

 

「小癪ナ…!!」

 

 深海棲皇が砲弾を放った。砲弾は空を切り、煙をはらった。そこには渚の姿はない。

 

「!?」

「おせぇんだよ!!」

 

 自分は深海棲皇の後ろにいた。右手に持つ対艦刀を大きく振り上げた。刃は本体と尾を繋ぐ肌の部分を的確に捉えた。そのまま力任せに斬った。青黒い液体が飛び散る。斬ったと同時に対艦刀が真っ二つに折れてしまった。

 

「グアッ!?」

「それもういっちょ!!」

 

 折れた対艦刀を捨て、斬った尾を右手で持ちそのまま回りながら勢いを付けて尾で深海棲皇を殴りつけた。

 

「!!!???」

「敵弱体化を確認!!」

「皆、今よ!!」

 

 深海棲皇が怯み、榛名と矢矧が声を上げた。

 

「沈メ提督ガ!!」

 

 体勢をすぐに立て直した深海棲皇。巨大な砲は的確にこちらに向けていた。避ける間もなく砲弾は放たれ、直撃した。爆炎と煙を撒き散らし高い水しぶきがあがった。

 

「ああっ!!」

「大丈夫……」

 

 悲鳴を上げる榛名。その隣で矢矧が平然としていた。

 

「大丈夫…………私達の提督は………渚は……」

 

 風が吹き煙が晴れる。

 

「………とても凄い化物(ひと)だって、知ってるから…!!」

「……はっ、よく言ってくれるよ」

「「「提督!!!」」」

 

 そこに渚は立っていた。左手に装備していた盾は全壊。背中の艤装も6つのうち3つ破損。魚雷も噴進砲も使えなくなっていた。

 

「ナ、ナゼダ……」

 

 にやりと笑う。その表情はきっと誰が見ても悪い表情に見える。ゆっくりと進み、深海棲皇に近づく。

 

「……ク、クルナ…!!」

「どうした、声が震えてるぞ」

 

 背中の艤装から一つ連装砲を剥ぎ取り右手に装備する。

 

「クルナァ!!」

 

 深海棲皇の持つ砲から砲弾が放たれた。それを横に回避し、艤装の速度を今出せる全速力まで引き上げ急接近した。

 

「ッ!?」

「………これが……最後の…」

 

 口を開いた頃には間合いに入っていた。

 

「ブロオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!」

 

 右手に力を込め全力で深海棲皇の腹を殴りつけた。同時に引き金を引き砲弾を放つ。至近距離で砲弾を直撃させさらにブローで深海棲皇の体は空高くまで吹き飛んだ。

 

「全砲門、開け!!」

 

 榛名が声を上げた。これで最後だ。他の艦娘達も構えた。右手の連装砲を空に向け

 

「地獄に落ちろ、深海棲皇」

「撃てーー!!!!」

 

 矢矧が声を上げたと同時に爆音が何度も鳴り響いた。残っている弾丸を全て装填し全部放った。空に爆炎が舞い、黒煙が埋め尽くした。

 

「索敵機から通信………敵深海棲艦、全滅を確認」

「……終わったんだな………全部…」

 

 これで戦いは終わった。後は帰るだけだ。

 

「皆……お疲れ様!!」

 

 振り向き皆を見る。

 

「戦いは終わったけど……ちゃんと陸につくまでは終わってないからな!!」

「「「はいっ!!」」」

 

 皆笑って応えた。その笑顔はきっと今まで一緒に戦ってきた中で一番きれいに見えた。




お久しぶりです。ほぼ一年近く更新してませんでした。その間艦これも離れてしまってはいましたが、自分のもの読み返して更新しました。忘れてしまった方も多いとは思いますが、待っていた方大変お待たせしました。

多分次で最後になると思われます。


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エピローグ

★本土 港

side:渚

 深海棲皇を沈め、作戦は終了。残存している敵深海棲艦の姿もない。島と本土の輸送ルートは無事に繋がった。

 帰還し、陸についた頃には海軍のお偉いさんたちがお出迎えしていた。

 

「渚大佐、まだ誰か残っているのか?」

「(深海棲艦の)死体だけです」

「し、深海棲艦の死体だけです…!民間人は皆無事です」

 

 渚の発言に対し、矢矧がフォローを入れる。

 

「とにかく皆無事でよかった……大佐、良いニュースと悪いニュースがある」

「良いニュースだけ聞かせてくれ。悪いニュースはどうせ個人での話だろ?」

 

 悪いニュースについてはだいたい検討はついていた。

 

「近くのリゾートホテルを貸し切り状態にした。そこで3日間程ゆっくりと休むと良い」

「ありがとうございます」

 

 矢矧と一緒に頭を下げる。後ろではワイワイとはしゃぐ声が聞こえた。皆十分頑張った。自分もよくやったと言ってやりたい。

 

「大佐」

「はい」

「君の行動はかなりめちゃくちゃだったが、よくやってきた」

「ありがとうございます」

「提督、にやけてるわよ」

「うるせー」

 

 矢矧に言われたので、少し笑いながら適当に返してやった。

 

 

 さっそく皆色々楽しもうと思うが、先に修理が先だ。艤装は任せるとして体の方だ。皆ぼろぼろだ。自分も含めて。とりあえず入浴。高速修復材すぐに使ってあげた。自分も使ってみたが、ある程度治癒は早くなったが、最低4時間は安静にしていないとダメだったようだ。それでも4時間だと周りは絶句していたが。

 

「提督」

「ん……なんだ寝かせないつもりか」

 

 安静にしている間寝ていようと思ったが、矢矧が訪ねてきた。

 

「少しだけ言いたいことがあるだけ」

「ん。で、ご用件は?」

「…………ふぅ」

 

 小さく息を吐く矢矧。

 

「渚のばかぁ!!!」

 

 悲鳴にも近いような甲高い声で怒られた。それも当然だ。

 

「心配したのよ……貴方が沈んで…またあの人みたいに自分の提督を守れなかったって……約束を……貴方のそばにいるっていう約束を…守れなかったって……」

「……ごめんな……心配をかけた……」

 

 ゆっくりと体を起こし、矢矧に近づき

 

「っ!?」

 

 抱きしめてやった。

 

「な、ななななな…!」

 

 顔を真っ赤にして小さく震える矢矧。何も考えずに抱きしめたが、怒っている可能性があるのは抱きしめた後に気づいた。

 

「……こ、こんな形で……誤っても…許さない………」

 

 それも当然か。殴られる覚悟はできた。

 

「……でも、今回だけは許してあげる。ばーかっ」

 

 矢矧の手が自分の背に触れた。

 

 

side:榛名

 

 渚の様子を見に来たつもりだったが、先客がいた。それにちょうどいい雰囲気で入る気にもならなかった。

 

「…もう、大丈夫そうですね」

「そうだな」

 

 自分の目の前には武蔵と大鳳がいた。一緒に来たのだ。

 

「今後私達どうなるんですかね」

 

 大鳳が呟いた。

 

「いつも通り艦娘として深海棲艦を倒す。違うか?」

「ですよね……」

 

 当たり前の返答に苦笑いする大鳳。榛名もくすりと笑った。

 

「……だが」

「「だが?」」

 

 武蔵の表情が変わった。ブリーフィングの時によく見た深刻な表情。

 

「上の人が言っていたな。悪いニュースがあるって」

 

 確かに言っていた。それに対し渚はわかりきっていた口だった。

 

「個人のこと…確かそう言っていましたね」

「ですが提督は憶測で発言していた可能性もあります……もしかすれば…」

 

 渚の予想が外れていれば自分たちにも関連性のある話だ。戦う以外の選択肢となれば容易に想像ができる。

 

「……解体…ですかね…」

「「………」」

 

 榛名の答えに武蔵と大鳳は何も言わなかった。自分たちの役目は終わった。他の鎮守府に行くという選択肢もあるだろうが、もしそれがなかった場合、役目は終了する。

 

「………今は考えてもしょうがないな。提督からの指示通り、今は休む。そのうち報告があるだろう」

 

 そう言って武蔵は立ち去った。

 

「……何も無いといいですけど……」

 

 病室の扉の隙間から二人の様子を覗いて立ち去った。

 

 

★会議室

side:渚

 

 3日めにしてようやく悪いニュースについて話があると連絡があった。誰もよってこない小さな会議室でお偉いさんと二人で話になった。話の内容は予測していた内容と一緒だった。

 

「……まあ、わかりきっていた」

「…すまないな。これも国の為だと思ってくれ……」

「……確認だが、やっぱり支援も何一つ無いのか」

「…………そうだな…なるべくいい形で検討しておく」

 

 その一言を最後に立ち去った。

 この話を皆にすればなんて言うだろうか。怒るに決まっている。でも黙っているわけには絶対にいかない。

 話の内容として形だけみれば彼女たちに一切の関連性は無い話だが、それはただの兵器として扱っていた場合の話だ。彼女たちにも感情と言うものはある。最も最初からこうなる可能性は少しでも予測はできていた。

 

「……辛いことかもしれんが、あの子達のことを考えれば出発間際のほうが良いんだろうな……」

 

 今日話せば皆まず寝れないだろう。夕食の時に話をしたとしても食事がまずくなるのもよくない。必然的に出発間際としか考えは出なかった。

 

 

★客室

 

 3日間自分は一人一室で部屋を借りていた。2日間誰も来なかったが、3日目にして来客が来た。

 

「失礼する」

「……珍しい来客だな」

 

 矢矧でも榛名でもなく来たのは武蔵だった。

 

「……悪いニュースについて……だろ?」

 

 彼女の表情を見れば分かった。ブリーフィングの時によく見た深刻な表情だ。

 

「そのとおりだ。あの話、聞かせてはくれないか?」

「……条件が3つ。この話を皆が出発するまで誰にも言わない。決して後悔しないこと。そしてしっかり寝れることを約束すること」

「その覚悟はできている」

 

 彼女の目を見る。迷いの無い瞳だった。

 

「…いいだろう」

 

 話の内容とそれに対する自分の答えを武蔵に伝えた。武蔵は何も言わず理解してくれた。

 

「……そうか…確かにそうだな………」

「…皆からすればとても苦しい内容だろう………すまない…」

「提督が謝ることじゃない…提督が……渚がいなかったら今頃私たちはここにいないだろう」

「…ありがとう……この話を聞いて条件通り寝れるな?」

「…努力はする」

 

 こんな話を聞いて誰も驚かない訳がない。武蔵が立ち去った後、本当に寝れなかったのは自分だと後々痛感した。

 

 

★港

 

 翌日の朝、皆港に集まった。隣には矢矧がいる。

 

「提督、なんで皆を集めたの?」

「これから一緒にそれについて話す」

 

 皆を改めて見る。軽く息を吐き、口を開いた。

 

「皆…よく頑張ってきた。ありがとう。で、皆に伝えることが有る………今後のことについてだが……皆はこの後別の鎮守府にそれぞれ移動してもらう。誰がどこに行くかはこの後お偉いさんから発表があるだろう」

「提督は?」

「………俺は……海軍…いや軍を辞めることになった」

「「「!!!???」」」

 

 突然の報告に皆表情が凍りついた。

 

「な…なんでそんなことを黙っていたの!!」

 

 矢矧が胸ぐらをつかんだ。本気で怒っている。

 

「……これにはわけがある。俺も何も言うことができないぐらいの、大きなわけが」

「わけって……」

「……最後の戦い、各国の軍もしっかり見ていたんだ」

「そ、そんな理由で…わたし、上の人に…!!」

「待て!」

 

 矢矧が走り出そうとしたところを手を掴み止める。皆その気持はよくわかる。

 

「……皆よく考えてくれ。皆見ていたように、俺は深海棲艦相手に砲弾を生身で受けても大ダメージにはならず、武器は使わなくても拳だけで倒せる。これを深海棲艦無しで考えてみろ。戦車の砲弾、空爆を普通に受けきれる可能性があり、たった一人で大きな武器もたせれば制圧できる可能性だってある危険な人間だ。こんな人間を軍にいさせて、各国が黙っていると思うか?」

 

 防衛手段としては立派かもしれない。だがこの先未来の平和の関係上、邪魔でしか無い。少なくとも日本では軍にいられないだろう。どちらにせよ、彼女たちと離れることは変わらない。

 

「………くっ……」

 

 矢矧の手に力は入っていなかった。

 

「……確かに…そのとおりだわ……でも……いくらなんでも…急すぎない……?」

「……そうだな……すまない」

「………皆、提督の話は納得できたわね」

 

 皆無言で頷いた。彼女たちは泣いていたり、うつむいていたりといい表情ではなかった。

 

「…提督」

 

 武蔵が口を開いた。

 

「………昨日このことで話をした。だが、皆もある程度はわかっていたようだ。遅かれ早かれ提督と別れる日が来ると」

「…提督が寝ている間に、皆で話しあっていたんです。今後どうなるのかって」

「……予想通りの結果が来てしまったんですけどね……」

 

 榛名、大鳳が呟いた。

 

「さて、電」

「…ひぐっ、はい…なのです…」

 

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら大きな紙袋を持ってこちらに来た。電はあの鎮守府で最初に出会った艦娘だ。それから一緒に戦ってきた。電が持っている紙袋を渡された。

 

「…これは…?」

 

 中身は大量のポストカードのようだった。中には封筒も入ったりしている。一つ手にとって見てみた。途端に目が熱くなってきた。

 

「皆で書いたお礼のお手紙です」

 

 榛名が言った。手に取ったポストカードには長い文とともにありがとうと書いてあった。

 

「…はっ…何だよ……最後の最後で……こんなサプライズ用意して……」

「私達も書いたんですからね」

「ちゃんと読んで下さいね」

 

 大淀と明石が言った。

 

「……ああ…………皆……ありがとう……皆と戦えて…光栄でした……!!」

 

 震える声で頭を下げた。その途端、拍手が鳴り響いた。今ここにいる皆と戦えて幸せだったのだろう。

 その後記念写真を撮ることになった。秘書艦として自分の隣に矢矧を。そして中心に。他の皆は前に座ったり横に立ったり。皆で敬礼したりピースしたりと色々変えながら写真を撮った。全員だけでなく、駆逐艦たちと、戦艦達とそれぞれの艦種ごとにも撮った。

 

「さ、最後の1枚っ」

「最後?」

 

 皆離れ、矢矧と自分だけが残った。

 

「提督と秘書艦。そういうことでしょ」

 

 その形でのツーショットだった。二人して敬礼して撮ってもらった。

 

 

 写真を撮り終わると同時に、出発の時間が近づいていた。

 

「…提督……いや、もう提督じゃないか。渚っ」

 

 最後に矢矧が口を開いた。

 

「皆から代表して言うわ。貴方と戦えて光栄でした」

「こちらこそ」

 

 差し出された右手を握り握手を交わした。

 

「…もう会うことはないでしょう…なんて別れセリフも嫌。またいつか…どこかで会いましょう」

「ああ…またいつか」

 

 そう言うと矢矧が少し踏み出した。

 

「っ!?」

「……貴方に祝福がありますように」

 

 額に唇が一瞬だけ触れた。額へのキスの意味は友情・祝福だったはず。そして小さな声で言われた。

 

「渚、いままでありがとう!!!」

 

 驚いているうちに皆動き出していた。矢矧も走り出した。

 

「…皆……気をつけてなーーーーー!!!」

 

 手を思いっきり振り、彼女たちを見送った。

 

 

 それからのこと。渚は仕事を探すことから始まった。結局上の人達は探してくれてはいたが、分厚いリストを貰っただけで話は何一つつけてくれていなかった。要は仕事を探したが電話からなにやらは全部自分でやれ。ということだ。ちょっとぐらい何かしてほしかった感じはあるが、仕方ないと言ったら仕方ない。ただ、退職?金とか今までの分のお金が口座に振り込まれていたのだが、なんとも恐ろしい値段だった。親が見れば泡を吹くだろう。実際自分も金額を見た時にめまいがした。特別賞与とかなんとか色々有るらしいが、詳しいことは聞かないことにした。

 そして皆から貰った手紙。あれは全部じっくり読んでファイルした。一つ一つ読んでる時は涙をボロボロ流していた。シンプルに書かれたものやダイレクトに書かれたもの、封筒に入れ丁寧に書き込まれたものと様々だった。それと写真。撮ったものは全部枠に飾ってある。一つ見るだけでちょっと目が熱くなる。それだけ大切な思い出だ。

 

「お兄さん、お客様来てるけど?」

 

 部屋で仕事を探していると妹が来てそんなことを言った。来客。もしかして海軍だろうか。とりあえず出ることにした。

 

「またおっさん?」

「んーん?女性の人。黒い長い髪のきれいな人だったよ」

「んんんん!!!???」

 

 思い当たるフシはあるがありえない。そうは思っても体は走っていた。

 大きな音を立て扉をあけた。そこには

 

「び、びっくりした……扉の前に人がいるってこと忘れないでね」

「や、矢矧!!??」

 

 別の鎮守府に行ったはずの矢矧が私服姿で目の前にいた。自分の家は鎮守府から遠く離れた田舎。なのに何故だろうか。

 

「それについてはわたしから」

 

 矢矧の後ろから例のお偉いさんが出てきた。

 

「彼女が選んだ結果だ」

「選んだ結果?」

「そう。このまま艦娘として生きるか、一人の人として生きるか。わたしは後者を選んだ」

「というわけだ。住民票の登録もしてあるし、生活するには何も支障はない」

 

 自分の知らないところでいろんなことが起きていたようだ。話を聞いてみれば艦娘以外の選択肢を選んだのは矢矧だけだったそうだ。

 

「では、あとは頼んだよ」

 

 そう一言残しお偉いさんは去った。

 

「…………」

「ねぇ、渚」

「ん、え、ああ…なんだ」

 

 一瞬の出来事で呆然としていた。

 

「私は戦いたくないからここに来たんじゃない。私は貴方の秘書艦だった艦。私がいなくなった今、誰が貴方の面倒を見るのかなって…ね」

「それって…」

「ふふっ、これからよろしくねっ!、朝霧 渚元大佐っ!」

 

 にっこり笑って挨拶をした矢矧。

 

「ああ、改めてよろしくな!!」

 

~fin~




最後ちょっとハイペースな流れでしたが、これにて本編終了です。こちらの方はアフターの話は無いと思います。たぶん。

色々あって更新日付が遅かったりしまして申し訳ありませんでした。

メチャクチャな内容も多々ありましたが、見てくださった皆様ありがとうございました。


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