憤怒と雁夜 (グリゴリ00号)
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憤怒召喚


どうもです。
初めての作品ですがどうかよろしくお願いします



薄暗い蔵の中がとてつもなく濃密な魔力(マナ)で満たされている

 

 

蔵の中には人影が二つ。今にも崩れ落ちそうな白髪の男、それを見て口元に歪んだ笑みを浮かべた老人。

 

 

「ーーーーー告げる」

 

呪文を詠唱するごとに白髪の男の顔が皮膚の中で何かが蠢いているよう隆起する、所によっては皮膚が内側から破かれ蟲の足のようなものが見えている。老人はそれを見てさらに歪んだ笑みを浮かべる

 

 

「――――告げる。  汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

それでも男は呪文を詠唱し続ける。まるで死ぬこともいとわぬかのように

 

 

「誓いを此処に。  我は常世総ての善と成る者、  我は常世総ての悪を敷く者―ー―されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。

 

 

詠唱が進むにつれて魔方陣が光輝き蔵の中の魔力もより濃密になっていく。そして男は目や耳といった通常ではあり得ない部位から血を流す

 

 

汝三大の言霊を纏う七天、  抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 

そして詠唱が終わると同時に魔方陣からこれまで以上の光が放たれ、蔵の中をまばゆい光が包み込む

 

 

光が収まると老人が感嘆したような声を漏らす。

 

 

魔方陣の中心に男が立っている

白いカッターシャツのような物を着たおよそ20代ほどの眼帯を着けた男。腰には二本のサーベルがついていることからサーヴァントと言うことはわかるが、格好があまりにも現代的過ぎる。そしてその身に纏う雰囲気。歴戦の戦士というのか、その場に立っているだけで感じられる圧倒的存在感。そして男は目の前に立つ男を見て口を開いた

 

 

「人間。おまえが私のマスターかね?」

 

 

 

 

 

Ⅰ雁夜サイドⅠ

 

 

 

俺の家は魔術の家系だ。魔術の世界では御三家と呼ばれ優秀な家柄らしい

 

 

だがそれも過去の話、魔術師としての才は代を重ねるごとに劣化し、俺は普通の魔術師並みの魔術回路しかもっていない。兄貴は魔術回路を持ってすらいない

 

 

そして俺は魔術を嫌悪している。理由はこの家の魔術と自分の父親である間桐臓硯が理由だ

父親といっても臓硯は400年以上を生きる妖怪。間桐の秘術によって肉体を蟲に変え、いまなお生き続けている。本当の両親は幼い頃に俺たちの目の前で蟲の餌にされた

 

 

俺はそんな家が嫌で嫌で逃げ出した。世界を見て回ると理由をつけたが本音はこの家から逃げたかっただけだ

 

 

逃げ出した後はルポライターとして生計をたてていた。それでも時々この冬木に戻っていた。理由は幼馴染みであり、愛している女性である葵さんに会いたかったからだ

 

 

今では彼女も結婚し二人の子供を持つ母親だ。相手は遠坂時臣。自分も知り合いの男で、御三家の1つである遠坂家の当主だ。結婚すると聞いた時、すぐには諦められなかったが自分の家よりは遥かにましだと思い、彼女の幸せを祝福することができた。……割りきることはできなかったが

 

 

何度目かの帰郷の時彼女から娘の一人である桜ちゃんが間桐の家の養子になったと聞いた。何でも臓硯からどちらかを養子にと言われ、これ幸いと養子に出したらしい。

 

 

確かに魔術を継承できるのは1人だけだ。魔術師としての娘の才能を生かしたいと思っての事だろう

 

 

それでも理解できない。確かに家は魔術師の家系かもしれない、だけど魔術師である前に人としておかしい。子供がいきなり養子に出され二度と家族と会えないと言われるのは、家族に捨てられたと同じだ

 

 

それよりも

なぜ間桐を選んだ。

例え知らなかったとしても、子供を思っての事だとしても、間桐だけはだめだ。あんなもの魔術でも何でもないただの拷問だ

 

 

その話を聞いた後、俺は11年帰っていなかった間桐に帰った。自分の愛した女性の娘を救うために

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーー告げる」

 

 

苦しい。痛い。このまま死んでしまうのではないかと思うほどの痛み、たった一年ではまともな魔術師にさえなれなかった。そして魔術師になるために受けた訓練と称した拷問、その影響か髪は根本から白くなり顔は半分が壊死仕掛けている。もともと端正な顔とは言えなかったが今ではゾンビのような顔になってしまっている。これじゃあもう凛ちゃんたちに会えないな、と自嘲気味に笑う

 

 

召喚には聖遺物を用意していない。手に入らなかったと言っていたが妖怪の事だ、どうせ初めから用意する気なんてなかったんだろう

 

 

「――――告げる。  汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

腹が立つ

 

 

もともと魔術なんて興味なかった、俺はただ普通の幸せが欲しかっただけなのになんで聖杯戦争なんて殺しあいに参加しなくてはいけないのか。桜ちゃんも魔術なんてなければこんなめに合わなくてすんだ。なんで時臣は俺が望んでも手に入らない物を簡単に捨てるのか。俺が唯一望んだ小さな幸せを

 

 

 

「誓いを此処に。  我は常世総ての善と成る者、  我は常世総ての悪を敷く者―ー―されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。

 

 

さらに体の中の刻印蟲が内から貪って行く

 

 

腹が立つ

 

 

なぜ魔術の家になんか生まれてしまったのか。別に別に裕福な家でなくてもいい、ただ普通に生きたかっただけなのに

 

 

憎い

 

 

こんな目に合わせる臓硯も

 

 

俺が望んでも手に入らない物を簡単に捨てる時臣も

 

 

魔術なんてものがある世界も

 

 

何より

 

 

嫌っていたはずの魔術を使ってしか救えない自分の弱さが

 

 

殺してしまいたいほどに

 

 

汝三大の言霊を纏う七天、  抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 

魔方陣から光が放たれ、蔵の中が光に包まれた。

魔力を無理やり使った反動か、いたる所から血が流れる

 

 

光が収まると魔方陣の中心に人影が見えた

いまだぼんやりとしか見えないが召喚に成功したらしい

 

 

「ほう」

 

 

臓硯から声が上がった、あの妖怪が驚くなんてどんなのが召喚されたんだ?バーサーカーを召喚したはずだがあまり魔力を吸われている感じがしない。まさかとてつもなく雑魚なのか?

 

 

不安になりながらもはっきりとしてきた目で確認する

 

 

なんだ?眼帯つけた男?

じっと見ているとサーヴァントらしき青年と目が合った

 

 

「人間。君が私のマスターかね?」

 

 

 

 

Ⅰ雁夜サイドアウトⅠ

 

 

 

「あ、ああ俺がお前のマスターだ」

 

 

雁夜が戸惑いなが答えると男は雁夜を一瞥し、感心したような反応を見せた。

 

 

「なるほど………私はバーサーカーのクラスで現界した。それより名はなんと言う人間」

 

 

「やっぱりそうなのか……」

 

 

雁夜バーサーカーのクラスで現界したのにも関わらず狂っていないのをしり若干混乱したが、ランクが低いせいだと思い確認したところ、そこそこのランクだったためさらに混乱することになった

 

 

「答えろ人間、名をなんと言う」

 

 

「へっ?あっはいっ俺は間桐雁夜です」

 

 

有無を言わさぬ威圧感に自然に敬語になってしまった

マスターであるにも関わらず軽く主従逆転している。客観的に見たらどちらが上か言うまでもないが

 

 

そう答えるとバーサーカーはにこやかに笑いながら

 

 

「そうか、ではこれからよろしく頼むよ。雁夜くん」

 

 

あまりにもバーサーカーらしくない雰囲気で挨拶した。というか他のサーヴァントでもあり得ないだろう

 

 

「かっかっかっ。バーサーカーの癖に狂っておらんとは、なかなか面白いサーヴァントを引き当てたではないか」

 

 

臓硯を見たバーサーカーが露骨に不快感をあらわにする

 

 

「雁夜くん、何かね?この化け物は。これほど醜い化け物は初めて見るが」

 

 

「醜いとはいってくれるのう儂はお主のマスターの父親じゃ。つまりマスターのマスターと言ったところかの?」

 

 

「…………雁夜くん、これを殺してもいいかね?」

 

 

バーサーカーと臓硯の会話に入れなかった雁夜は耳を疑った。臓硯を殺す?こいつは不完全とはいえ不老不死だ、サーヴァントでも殺すことは難しい筈だ。けどこいつをここで殺せるなら………

 

 

「何をいっとるんじゃ、儂を殺せばマスターも死ぬぞ?」

 

 

「どうするかね?雁夜くん?」

 

 

バーサーカーは雁夜に意見を求める。臓硯はうつむいたまま反応しない雁夜を一瞥し、嘲るようにして笑い始めた

 

 

「かっかお主やはり狂っておるな、マスターが死を望むわけ「殺せ」なんじゃと?」

 

 

臓硯は驚き雁夜の方を向く。雁夜の目には1つの感情しか映っていなかった、それは

 

 

怒り

 

 

死を凌駕するほどの憎悪

 

 

雁夜は顔を上げ、臓硯を見据えてバーサーカーに命令を下す

 

 

「必ずここで殺せ!バーサーカー!!!」

 

 

バーサーカーが先ほどとは違う邪悪な笑みをうかべ浮かべる

 

 

「やはり君は私のマスターに相応しい」

 

 

言い終わると同時にバーサーカーは腰についている2本のサーベル内の一本を抜き。臓硯を横にまっぷたつにする。

 

 

「うがあぁ゛ぁ゛あ゛!!!」

 

 

絶叫が響く

 

 

ただしそれは臓硯からではなく雁夜から響いた声だった

 

 

まっぷたつにされた臓硯の肉体がが蟲になり、1つの山となるとそこから傷一つない臓硯が現れた。しかし臓硯はかなり焦りを声に混ぜながら雁夜に問いかける

 

 

「正気か?儂が不死身だと知っておるじゃろう。もし儂が死んだらお主の刻印蟲が体を食い殺す。桜を解放するのではなかったのか?」

 

 

臓硯に危害を加えたことによって既に雁夜の体内の刻印蟲が暴れ始めており、立っていることもできなくなっている

 

 

「はぁはぁ……おまぇを…殺せば間桐は……終わるグフッ…俺1人の命で桜ちゃんが…救えるなら……こんな命…くれてやる!」

 

 

雁夜はうつ伏せになりながらも殺すという意思を変えない。それを感じた臓硯は呆れたようにため息をついた

 

 

「はぁ……お主は少しは使えると思っていたが……どうやら思い違いじゃったようじゃのう」

 

 

バーサーカーは雁夜の事などお構いなしに臓硯を切る。そのたびに雁夜の絶叫が響くが臓硯は何度切られても無傷で再生する

 

 

そんなことが何十回か続いたころ臓硯がバーサーカーに向けて声をかけた

 

 

「なんじゃ。お主切ることしかできんのか、これでは聖杯戦争も無理じゃったな」

 

 

それを聞いたバーサーカーは手を止めて臓硯と向き直る

 

 

「確かに、少しは体術もできるが私は切ることしかできんよ。だがな……」

 

 

バーサーカーはこれまで以上のスピードで臓硯の右胸辺りを突き刺した。同じように臓硯は直そうとするが、はしから蟲が崩れていく。それに気づいた臓硯は驚愕の表情を浮かべる

 

 

「傲るなよ人間が」

 

 

「なん……じゃと…」

 

 

バーサーカーはサーベルを引き抜き、一振りし鞘に納める

 

 

「なぜ儂の本体を!?」

 

 

そう叫ぶ間にも臓硯の体は崩れていく

 

 

「あれほど切っていれば本体を見つける事など容易いわ」

 

 

「そ、そんな……」

 

 

いくらサーヴァントといえど数多いる蟲の中で本体を見つけるのは不可能に近い。ましては見えていない蟲を探すなど絶対に不可能だ。それをこのバーサーカーは当たり前のようにやってのけた。その異常に気がつかぬまま臓硯はもがいている

 

 

「い嫌じゃ、儂は不死身に…」

 

 

「さらばだ。人間の分際で届かぬ夢を求めた者よ」

 

 

バーサーカーがそう言うと完全に崩れ落ちた。こうして400年以上生きた人間は人ならざる者の手によって滅びた。かつての理想を思い出せぬまま……

 

 

 

バーサーカーが雁夜の方を向くと、血の海に雁夜が横たわっていた。既に蟲は体のを食い破っており、十人に聞けば十人が死んでいると答えるほどの状態だったが、奇跡的に生きていた。それでも数分で死ぬことに変わりはないが

 

 

バーサーカーが近づこうとすると蔵の扉が開き、そこから紫の髪の少女が顔を覗かせた。

 

 

「おじさん!?」

 

 

雁夜の姿を見ると血相を変え雁夜に近づき、そのまま抱き抱えた

 

 

「おじさん!死なないでよ!」

 

 

「……さくら…ちゃん……か…?」

 

 

「そうだよ!?しっかりして!!!」

 

 

「……ごめんね……もう……めが…みえ……ないんだ……だけど…だい……じょうぶ……もう……おうち…に……かえ………れる…から」

 

 

「やだよぉ!さくらのおうちはここなの!だから1人にしないで!!」

 

 

バーサーカーがその様子を見守っていると、桜がバーサーカーの腕をつかむ

 

 

「お願い!!おじさんをたすけて!!?」

 

 

既に桜の顔は涙でぐちゃぐちゃになっている、バーサーカーは雁夜に近づいていき、問いかける

 

 

「生きたいかね?」

 

 

「……ああ……さくら…を……ひとりには………させら……れ…ない………から」

 

 

「そうか、ならばチャンスを与えよう」

 

 

そう言ってバーサーカーはポケットから小さな瓶を取り出した。中には血のように赤い液体が入っている

 

 

「…それ……は」

 

 

「これは賢者の石というものだ、今からこれを君の中に入れる、うまくいけば生き残れる」

 

 

「………そう……か……いれて……くれ」

 

 

「もし成功したとしても君は人間では無くなる。それでもいいかね?」

 

 

桜は顔をさらに青くさせる。おそらく臓硯のような人外が思い浮かんだのだろう、それでも止めない辺り本当に助かってほしいと思っているようだ

 

 

「……いま…さらだ……ろ」

 

 

「違いない」

 

 

バーサーカーは微笑むと雁夜の傷口に賢者の石である液体を流し込んだ

 

 

 

そして

先ほどの絶叫以上の絶叫が蔵の中で響き渡った

 

 

 




召喚されたのは対戦車爺でお馴染みのキング・ブラットレイですね。
召喚された時期を変更しました。よくよく考えたら経験を引き継いでるし原作の二倍の身体能力って最強ですね


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ホムンクルス


一話ですがキング・ブラッドレイの年齢を若い頃に変えました。


個人的には原作の年齢のほうが好きですけどね


蔵の中に響く絶叫

雁夜の肉体は再生と破壊を繰り返し死者の怨念と戦い続ける。

 

 

桜はその姿を見て絶望する。この人は助けてくれるのでは無かったのか。これが命を救うためとは到底思えない、これではまるで

 

 

死に続けているものではないか

 

 

「なにをしたの!?おじさんをたすけてくれるんじゃあなかったの!!!?」

 

 

「そうだ。いま雁夜くんは生きるために戦っている、私たちには何もできない」

 

 

バーサーカーが雁夜から目を離さぬまま答えると、桜は雁夜の姿をバーサーカーと共に見守り続ける

 

 

数分の間絶叫が響き続けたが、糸が切れたかのように叫びが途絶えた。

 

 

桜はすぐに雁夜に駆け寄ると安心したような声をこぼした

 

 

「……よかった…………おじさんいきてる」

 

 

「どうやら成功したようだな」

 

 

バーサーカーは満足そうに笑うと、気絶した雁夜を抱える

 

 

「さあ、おじさんを暖かいベットに運ぶぞ。今日はもう遅い、桜ちゃんももう寝なさい」

 

 

そう言い桜の手を引きながら蔵からでていった

 

 

 

 

目が覚めるといつもと同じ天井が見えた。

どうやらあのまま気絶したところバーサーカーがベットまで運んでくれたらしい

 

 

「よっと、あ…」

 

 

ベットから起き上がろうすると横に桜が寝ていた事に気がついた。その寝顔をみていると以前と違い安心しきった顔をしている。桜の頭を軽くなでベットから桜を起こさないように出ると、部屋にある鏡に自分の姿が映った

 

 

そこにいたのは一年前の魔術を習う前の自分。髪の色は黒く顔の半分もしっかりともとに戻っている

 

 

「……本当に人間じゃなくなったんだな…」

 

 

そう呟き胸に手を置くと心音の変わりに死者の叫びが頭の中で響く。己の体がこれまでにないほど魔力のようなエネルギーで溢れているのを感じる

 

 

「バーサーカー」

 

 

「なにかね?」

 

 

バーサーカーを呼ぶとすぐ斜め後ろに姿を現した

 

 

「バーサーカー、昨日のあれはいったいなんだ。俺はいったい何になったんだ」

 

 

雁夜は鏡に映るバーサーカーを睨み付ける

 

 

「いっただろう、あれは賢者の石だ。まあ、不完全なものだがね」

 

 

「そんなことを訊いているんじゃない!」

 

 

雁夜は目の前にある鏡を殴り付ける。鏡には皹が入り、雁夜の手からは鏡で切ったせいか血が流れる

 

 

「なんなんだよ……これ」

 

 

しかし切ったはずの手から赤い稲妻のようなものが走り、すぐに傷はなくなった

 

 

「君は今自分が何になったか聞いたな?簡単に言えば君は不死身のホムンクルスになった」

 

 

さすがに限界はあるがね、と付け加えバーサーカーは微笑む

 

 

「………臓硯と同じか………」

 

 

雁夜の胸中は複雑だった、生き残るために必要だったとはいえ自分が何よりも憎んだ臓硯と同じ存在になってしまったのだ

 

 

「……おじさん?」

 

 

「さ、桜ちゃん」

 

 

さっき鏡を殴った音で目が覚めたのか桜が雁夜を信じられないような目で見ている

 

 

「ち、違うんだ!これはちょっとした手品見たいなもの「おじさん!」うご!?」

 

 

言い訳しようとしたが、ベットから飛び込んできた桜にタックルを食らう形になり、そのまま床に倒れた

 

 

「さ、桜ちゃんこれは「いいの、ぜんぶバーサーカーのおにいちゃんから聞いたよ」……でも」

 

 

「おじさんはなにもかわってないよ。だから」

 

 

一緒にいて。最後はもう聞き取れないほどの声の大きさだったが、その一言で雁夜は覚悟を決めることができた

 

 

「バーサーカー、この戦い必ず勝つぞ」

 

 

「了解したマスター。この剣にかけ必ず聖杯をもたらそう」

 

 

 

 

 

「なあバーサーカー、お前のなんで狂ってないんだ?」

 

 

先ほどのまでの殺伐とした空気はどこへやら。今は三人でこたつに入り温まっている。雁夜の正面にバーサーカーが座り、桜は雁夜の膝の上に座っている。バーサーカーと言えばこたつの上においてあるミカンを食べている。別に霊体化を命じてはいないが、馴染みすぎだろうと思わないでもない

 

 

「それは私が憤怒を象徴するホムンクルスだからだ。私の感情は怒りしかないからね」

 

 

「やっぱりバーサーカーも、ホムンクルスだったのか。ってそれよりも怒りの感情しかない?それが何か関係あるのか?」

 

 

「……雁夜くん、少し考えればわかるではないか。私は生前憤怒を象徴していたのだ。生前から怒り狂っていたら英霊になれる訳がないだろう」

 

 

雁夜は納得したようだが、桜の方はわからないようで首をかしげていた

 

 

「なるほどね……ん?なあ、さっき俺のマスターって呼んでたのにまた雁夜君に戻ってるんだけど」

 

 

「ああいったことはしっかりしなくてはならないだろう。心配するな、他の参加者の前ではマスターと呼ぶ」

 

 

「……ようするに呼びにくいから呼んでないだけか。ダメサーヴァントだな」

 

 

「失礼な。公私を分けているだけだろう」

 

 

しれっとそんなことを言う自分のサーヴァントに雁夜は苦笑いすることしかできない。すると先程まで黙ってテレビを見ていた桜が口を開いた

 

 

「ねぇ、おにいちゃんはなまえなんていうの?」

 

 

子供だからこその純粋な疑問だったが、雁夜は思い出したかのように質問を重ねる

 

 

「そうだよ。俺まだバーサーカーの真名聞いてないぞ」

 

 

その質問にバーサーカーは呆れたようにため息をつく。バーサーカーには関係ないが聖杯戦争において真名はかなり重要なものだ。英霊のうちほとんどが神話などによって現代まで伝わっており、真名がばれるとその英霊が持つ宝具が知られ、対策を建てられる可能性があるからだ。それゆえ自分のサーヴァントの真名というのは聖杯戦争において基本中の基本である。それだけにそんなことを忘れるとは……と今までのなかで一番呆れたバーサーカーだった

 

 

「私に真名はない。生前はキング・ブラッドレイと呼ばれていたが、それも与えられたものでしかなかったが」

 

 

「真名がないのか……そんなサーヴァントもいるんだな。でも偽名にキングってついてるし王様でもやってたのか?」

 

 

普通なら真名が無いことを疑問に思う所だが、そこは三流クオリティ。真名よりも偽名の方に疑問を持ったようだ

 

 

「私は生前、アメストリスという国を納めていた。まあなかなかの暴君だったがね」

 

 

バーサーカーは自嘲気味に笑っているが、雁夜は暴君と聞いて少し不安になった。その事に気がついたバーサーカーが訂正する

 

 

「勘違しているようだが、そのときは目的があってしていたまでだ。今はそんな気少しも持ち合わせておらんよ」

 

 

「そうか……アメストリス?そんな国聞いたこと無いぞ?」

 

 

雁夜はルポライターとして世界各地を回っていた、そうしていると自然に国や情勢について詳しくなる。聖杯戦争の関係で調べている者ほどは知らないが、一般人よりは詳しいというのは自負している

 

 

「恐らくこの世界とは別の世界なのだろう、私がいた世界では錬金術が発達していた。ここの世界にもあるらしいが随分と毛色が違うようだな」

 

 

「別の世界………平行世界ってことか。それでも別の世界の英霊も呼ばれるもんなんだな」

 

 

「可能性は低いかもしれないがありえん話ではない。座には古今東西、過去未来の英霊が存在している、中には私のような平行世界の英霊もいるだろう」

 

 

なるほどねと雁夜が呟くと雁夜が見回らせていた使い魔のうちの一匹に反応があった。雁夜はもともと使い魔を操るのは数百匹が限界だったが、ホムンクルスになった影響で十全に使えるようになった魔術回路と賢者の石によるごり押しで数万に及ぶ使い魔を使役できるようになっていた。その中の視蟲と呼ばれる使い魔が遠坂邸における戦闘を発見したのだか、内容はアサシンと思われるサーヴァントが金色のサーヴァントに蹂躙されるという実に呆気ないものだったが、雁夜は時臣のと思われる金色のサーヴァントをみた瞬間怒りが沸き上がり始めた

 

 

 

 

「どうしたのかね?」

 

 

そう聞いてくるバーサーカーに今の戦闘の内容を伝えようとするが、桜にはあまり知られたくないため別の部屋に移動する

 

 

そしてバーサーカーを召喚した蔵の中で見た内容を話し始めた

 

 

「どう思う?俺はなんか違和感感じたけど」

 

 

「……そういう所は気づくのだな。その違和感は間違っていない、これは十中八九やらせだろう」

 

 

「そうだよなって、なんだ?ばかにしてるのか?」

 

 

雁夜が睨むがバーサーカーはどこふく風。そのまま説明を始めた

 

 

「まず一番おかしかったのが金色のサーヴァントの反応が早すぎることだ。結界を破壊した直後ならわからんでもないが、話を聞いた限り結界を破壊するまえだ。アサシンには気配遮断のスキルがついている、サーヴァントでも気づくのは容易ではないだろう」

 

 

「時臣のサーヴァントが見張っていたとか」

 

 

「それは無いなだろう。金色のサーヴァントの特徴を聞いた限りかなり傲慢な輩のようだ。そんな者が見張りをすると思うかね?」

 

 

「なるほど………じゃあこれは時臣のサーヴァントの強さを見せつけるためのデモンストレーションということか………あいつがやりそうなことだ」

 

 

「さらに言えば恐らくその時臣とアサシンのマスターは同盟を組んでおり、アサシンもいまだ健在だろう」

 

 

「はあ?アサシンは殺されたといったじゃないか」

 

 

「確かにそのアサシンは死んだんだろう、だが今後の事を考えるとアサシンは敗退しないほうがいい。デモンストレーションだけならアサシンに重症をおわせ逃がしても問題はなかった。この世界の魔術とやらを使えば死んでいない限り治すことはできるだろうからな」

 

 

「つまり………アサシンは複数いる可能性があるということか」

 

 

雁夜の考察に満足気に頷く

 

 

「そうなるな。まったく人間らしい浅知恵を働かせおって……それでこれからどうするのかね?雁夜くん」

 

 

「……時臣を脱落させる。できるかバーサーカー」

 

 

「何、どれ程の武器を持っていたとしても打ち出すだけなら大砲と変わらんさ」

 

 

あの速度で打ち出される宝具を大砲と同じと言うバーサーカーに頼もしさを覚えるが、雁夜の頭は別の思考に支配されている

 

 

「マスターを殺すのかね?」

 

 

そうそれは時臣を殺すか殺さないか………確かに俺の本心はあいつを今すぐにでも殺したい。だが時臣を殺すと葵さん達が悲しむだろう。なにより養子に出されたからといっても、桜ちゃんの父親だ。できれば殺したくない

 

 

「…………今でも迷ってる。俺はすぐにでも殺したいけど、桜ちゃん達の事を考えると殺したくない」

 

 

「君はつくづく面白い人間だ、雁夜くん。己の身を焦がす程の怒りを抱えながら、それでも悩んでいる。私のようなホムンクルスには理解できないことだ」

 

 

今では君もホムンクルスだが、と付け加えバーサーカーは蔵から出ていく

 

 

誰もいなくなった蔵の中で雁夜は一人考える

 

 

なぜ桜を養子に出したのか。 別に魔術師としての成功なんて望んでいなかったかも知れないのに。

あいつは根っからの魔術師だ。どうせ聖杯に望む願いも根源に到達するとかだろう。別にその願いに文句はない、俺も自分のために聖杯を求めているようなものだから。だが、なぜその重荷を子供に背負わせる?やりたければ一人だけでやればいいのに

 

 

いくら一人で自問自答を繰り返しても答えは出ない。それならあいつと話そう、それで答えが出たならもう迷わない

 

 

それがどんな結末に繋がるかとしても

 

 



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初戦


おはこんにちわ


ギル様めっちゃ難しい
これからリアルが忙しくなりそうなんで更新速度遅くなりそうです




 

 

人気の無い真夜中の倉庫街。金属がぶつかり合う音が響く

 

 

争っているのは二本の槍を巧みに操るランサーと不可視の剣を持つセイバー。どちらも人間離れした動きで戦いを続ける

 

 

そんな戦いをバーサーカーと雁夜は近くの下水道の下で使い魔を通じて監視している。目で追うこともすらできない二体のサーヴァントの動きに唖然とした雁夜は焦ったようにバーサーカーに問いかける

 

 

「おっおいバーサーカー、あいつらに勝てるのか?」

 

 

「年老いた体ならば厳しかっただろうが、この体ならば負けることは無いよ」

 

 

そう言うが雁夜は若干の不安を覚えた。確かにバーサーカーは強いのだろう、だがバーサーカーには宝具が無い。しかしほとんどの英霊は強力な宝具を持っている、いくら技量があるからと言ってもその差は歴然だ

 

 

そんな事を考えていると戦局が動いた。ランサーが宝具を解放し、セイバーの宝具の一端を暴いたばかりか手傷を負わせたのである。それによりセイバーが押され始めた

 

 

「ふむ、魔力を無効化する長槍と治療不可の傷を負わせる短槍か……なかなかのものだな」

 

 

そう言うバーサーカーだが、目は笑っている。

 

 

「確かにお前に魔力無効化は関係ないけど、治療不可の方はどうなんだよ。たぶんホムンクルスでも回復できないぞ」

 

 

「ああ、言ってなかったね?私はホムンクルスだが再生能力は備わっていない。ようするにただの人間と変わらんのだよ」

 

 

「はあ!?聞いてないぞそんなこと!」

 

 

雁夜はその事を聞いてかなり動揺した。バーサーカーが自分の事をホムンクルスと言っていたため、自分と同じく不死身だと思い込んでいた。そのため宝具が無くてもなんとかなると思っていたのだが、不死身でないとなるとただの宝具が無いサーヴァントになってしまう。流石の雁夜も剣の技量だけで勝ち抜けるとは思えなかった

 

 

「まあ心配するな、私は生前から不死の肉体など持っていなかった。それ相応の戦いかたは心得ている」

 

 

「けど…「一ついい忘れていた」

 

 

雁夜の声を遮るようにバーサーカーが声をかけた。その声は先程とは違い威厳に溢れた声であった

 

 

「どうして私が軍人として英霊になれたと思う?」

 

 

そういうとバーサーカーの服装が変わる。身軽さを重点に置いた格好になり、ベルトには五本のサーベルがついていた

 

 

「私には無限に近い命も、強力な宝具も無い。だが」

 

 

そう言い、バーサーカーは着けていた眼帯を外す今まで閉じていた左目を開く

 

 

「私は無限の命や強力な宝具に匹敵する最強の目を持っているのだよ」

 

 

瞳の代わりのようにウロボロスの入れ墨が入っていた

 

 

バーサーカーがそう言い終わると、乱入してきたライダーが全てのサーヴァントの姿を見せろといい放った。素直にでてくるサーヴァントがいるとは思えなかったが、何故か金色のサーヴァントが現れた

 

 

「どうやら私も出たほうがよいようだな」

 

 

それを見たバーサーカーが下水道の出口に歩いていく

 

 

「………頼んだ。バーサーカー」

 

 

「了解したマスター。戦闘は私の好きにさせてもらう。心配するな第一目標は金のサーヴァントだ」

 

 

 

 

 

「我が拝謁の栄に浴してなお、この面貌を見知らぬと申すなら、そんな蒙昧は生かしておく価値すらない」

 

 

ウェイバー・ベルベットは後悔していた、聖杯戦争に参加したこと自体を。もともと叶えたい願いなど持ち合わせておらず、参加した理由も半ばヤケクソみたいなものだった。だから死ぬ覚悟も持ち合わせておらず、確固たる信念も無い。それなのに

 

 

圧倒的な力を持つアーチャーに殺されようとしている

 

 

「喜べ、王たる我が手を下してやるのだ」

 

 

そして後ろに覗く宝具が打ち出されようとした時

 

 

「盛り上がっているすまないね。私もかつて王を名乗った身、名乗りでない訳にはいかないだろう」

 

 

コンテナの影からサーヴァントらしき男が現れた。ウェイバーは命が助かったことに安堵すると同時に、現れたサーヴァントに疑問を覚えた。既にアサシンは敗退しこれまでに現れていないサーヴァントを考えると、残りはバーサーカーとキャスターだけだ。だが今現れたのはどう見てもキャスターには見えず狂っているようにも見えない

 

 

それは他のマスターとサーヴァントも同じだった。その気持ちに答えるかのように男は口を開いた

 

 

「先に言っておくが私のクラスはバーサーカーだ。狂っていないのには理由があるが、今はそんなことどうでもいいことだろう」

 

 

バーサーカーは腰についている五本のサーベルの内の一本を引き抜く。その姿はバーサーカーとは思えず、まさに王と名乗るに相応しい姿だった

 

 

「マスターの命令でね。アーチャーくん、君はここで倒させて貰おう」

 

 

バーサーカーがそう言うと先程まで目に見えて不機嫌だったアーチャーだが、それ以上の殺気がバーサーカーに向けられた

 

 

「雑種共が王を名乗ったと思えば……よもや人形までもが王を名乗るとは。さらに我を倒すだと?」

 

 

ライダーに向けられていた宝具の先端がバーサーカーの方を向き

 

 

「身の程をわきまえよ!人形が!」

 

 

その言葉と同時に剣と槍が放たれた。打ち出されるスピードはもはや人間の目で追うことすらかなわず、誰もがバーサーカーが貫かれる姿を想像した

 

 

「ほう、なかなかの威力だ。正面から叩けばこちらが持たんな」

 

 

確かにバーサーカーに向かったはずだが、宝具は同じスピードのままバーサーカーの斜め上に飛んでいった

 

 

「は?あいつ何をした『ドシャ』うわ!?」

 

 

ライダーに何が起きたか聞こうとした瞬間

ウェイバーの後ろから何か大きい物が落ちる音が聞こえた。恐る恐る振り替えって見ると、そこにはアーチャーに殺され敗退したはずのアサシンが血の海に沈んでいた。みるとアサシンの身体にはアーチャーが放ったはずの宝具が突き刺

 

 

「……おい、ライダー……あいつまさか」

 

 

ウェイバーはライダーに問いかける。答えは既に出ていたが、それでもウェイバーは信じたくなかった

 

 

「ああ、バーサーカーは打ち出された宝具をアサシンに当たるように受け流したのだ……とんでもないやつだのう」

 

 

自分の推測が正しかった事を確認したウェイバーは愕然としたが、一番驚いたのはバーサーカーのマスターである雁夜その人だった

 

 

「……まじかよ」

 

 

薄暗い下水道の中で一人呟く

確かに大砲と変わらんとか言っていたが、まさかこれほどの事をやってのけるとは思っていなかった

 

 

「殺せ、バーサーカー」

 

 

その言葉は闇のなかに消えていった

 

 

 

 

「我の宝物を利用するとは……その不敬、万死に値する!!!」

 

 

そしてアーチャーの怒号が響き、アーチャーの背後の黄金の揺らぎが巨大化する。そこから大量の宝具が先端を覗かせ、中には巨大な剣や大きく歪んだ鎌など先程の宝具以上の威圧感がバーサーカーに向けられた。だがそれを見て、バーサーカーは呆れたようにため息をついた

 

 

「まったく、大量の宝具も宝の持ち腐れだな。打ち出す事しかしないとは」

 

 

アーチャーが右腕を挙げると大量の宝具がバーサーカーに降り注いだ

 

 

そして次の瞬間バーサーカーはアーチャーの目の前に移動していた、宝具を足場に利用したのだ。そしてそのままの勢いでアーチャーの胸にサーベルを突き刺そうとしたが

 

 

キンッという音が鳴り、サーベルが半ばから折れて宙を舞っていた

 

 

アーチャーはポールの上から落とされ、その原因となったバーサーカーを殺気と共に睨み付ける

 

 

「おのれぇ…王の鎧に傷をつけるか!」

 

 

「ずいぶんと硬い鎧だな……ならば次はその首切り落としてやろう」

 

 

アーチャーがさらに大量の宝具を打ち出そうとしたが

 

 

「……貴様ごときの諌言で、王たる我の怒りを鎮めろと?大きく出たな、時臣……」

 

 

アーチャーは怒りが収まらない様子だがバーサーカーから視線をはずし、他の三騎のサーヴァントにいい放つ

 

 

「雑種ども、次までに有象無象を間引いておけ。我と見えるのは真の英雄のみで良い」

 

 

そしてバーサーカーに視線を戻し

 

 

「だが貴様は別だ、人形。貴様は我が手を下す。期が満ちた時、貴様の最後だ」

 

 

「それはこちらのセリフだ、アーチャー」

 

 

その言葉を最後にアーチャーは霊体化しその場を去った

 

 

「さて……」

 

 

バーサーカーの動きに感心していたセイバーだが、不意に直感が働き頭を下げると

 

 

「ふむ、完全に落とせたと思ったのだがな」

 

 

バーサーカーの振り抜いたサーベルが頭上を通り過ぎていった

 

 

「なんのつもりだ!バーサーカー!」

 

 

セイバーは距離を取り、バーサーカーを睨み付けるが、バーサーカーはそんなことお構い無しにセイバーに追撃を仕掛ける

 

 

「くっ!」

 

 

セイバーも迎え撃つが、やはり片腕しか使えないというのは厳しく、そこにバーサーカーの圧倒的な技量が加わり。後手に回るしかなかった

 

 

「なっ!?」

 

 

そしてバーサーカーがセイバーの不可視の剣を蹴りあげ、セイバーの胴が晒された。バーサーカーはそのまま袈裟懸けに切ろうとしたが、その一撃はランサーによって防がれた

 

 

「なんの真似かね?ランサーくん」

 

 

「それはこちらのセリフだ、バーサーカー。そこのセイバーには、この俺との先約があってな。これ以上つまらん茶々を入れるつもりなら、俺とて黙ってはおらんぞ?」

 

 

「そんなこと私の知ったことではない」

 

 

そう言った瞬間、ランサーとバーサーカーの姿がぶれ、連続して甲高い鉄の音が響いた。お互いに今回の聖杯戦争中最速を誇る二騎の戦いは一瞬で数十回打ち合い、バーサーカーがランサーの腹に前蹴りを入れたことによりお互いに距離を取る。そして再び接近しようとしたが、ランサーの動きを何者かの声が遮った

 

 

『何をしている、ランサー。セイバーを討つならば今が好機だ、バーサーカーと共闘しセイバーを討ち取れ』

 

 

「……っ! セイバーは、必ずやこのディルムッド・オディナが誇りに懸けて討ち果たします!この私とセイバーとの決着だけは尋常に……!」

 

 

『主の命に歯向かうか、ならば令呪を使おう』

 

 

「…主!?」

 

 

ランサーの動きが一瞬とまり、次の瞬間セイバーに攻撃し始めた

 

 

「すまん……セイバー」

 

 

ランサーは苦悶の表情を浮かべたままセイバーに連撃を浴びせる、そこにバーサーカーが加わりセイバーが倒されるのも時間の問題かと思われたが

 

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

 

 

ライダーの戦車による突進に阻まれた

 

 

「バーサーカーよ、無粋な真似をするでない」

 

 

戦車による突進を余裕をもって回避したバーサーカーはライダーに向き合い口を開いた

 

 

「無粋な真似?何を言っている。戦場で弱った者から叩くのは当然の事だろう?私からすれば弱ったセイバーを討ち取ろうとしない君達のほうがおかしいと思うがね」

 

 

それを聞いたライダー真剣な表情のまま、問いを投げ掛ける

 

 

「確かにそういう考え方もできるが……バーサーカーよ、お前には英霊としての誇りは無いのか?」

 

 

それを聞いたバーサーカーは何事もないようにサーベルを鞘にしまう

 

 

「馬鹿馬鹿しい、これは騎士の決闘では無い。戦争に騎士道なんぞ持ち込むな」

 

 

「貴様……騎士道を侮辱するか!」

 

 

バーサーカーの言葉に声を荒げたのはセイバーだ。バーサーカーの言う通りここでセイバーに対して二人で攻めればすぐにセイバーを倒せるだろう。騎士としての誇りを捨てて戦えなど我慢ならなかった

 

 

「確かに君達は生前、騎士道を持って誇りある戦いをしてきたのだろう。だが時代が違う、勝つために全てを捨てる。それが戦争だ」

 

 

それはまったくの正論であり、セイバーとランサーは言い返す事ができなかった

 

 

「逆に訊こう、ランサーくん。君の行いは騎士として正しいのかね?」

 

 

「何だと!?」

 

 

「騎士というものは主に仕え、忠を尽くすものだと記憶していたが。君は主の命に背き、あまつさえ切り札とも言える令呪さえも使わせなお抵抗している。それは騎士として正しい行いなのかと聞いている」

 

 

「違う。私は!」

 

 

「まあ、私は客観的な意見を述べたまでだ。君は君の思う騎士道を貫けばいい、それが主に忠を尽くすことになるとは思えんがね」

 

 

その言葉を最後にバーサーカーも霊体化し、その場から離れた。こうして第四次聖杯戦争の初戦は重い空気と共に幕を閉じた

 

 





やってしまった……

深夜のテンションも重なってブラッドレイがすごいことになっていますが、原作でも戦車の弾切ってたりしてたんで若ければそれぐらいできそうですよね


あと騎士道については自己解釈しています。ブラッドレイならこんぐらい思ってそうですしね




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決闘と戦争

 

ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは悩んでいた。先程セイバーを討ち取れなかったランサーを糾弾しようとしていたのだが、戻ってきたはいいが霊体化をとかず、いくら呼んでも姿を現さないのだ。理由は恐らくバーサーカーだろうが、それはランサーだけではない

 

 

「…決闘ではない……か」

 

 

ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは自他共に認める天才だ。家は九代続く名家であ、時計塔では最年少で一級講師に就任し数々の功績を残してきた。今回、現代における最高峰の魔術儀式である聖杯戦争に参加したのも戦歴と言う名の『箔』のためであり、聖杯における願い等持ち合わせてはいなかった

 

 

だがこの聖杯戦争はその名の通り願望器である聖杯を巡る戦争だ。己の願いを叶えるため参加している者がほとんどだろう

 

 

バーサーカーが言っていたことは正しい。アサシンというのはその名の通り暗殺者であり、通常他サーヴァントと正面から戦う事はなく、サーヴァントの隙をつきマスターを殺す。そんなクラスが存在した時点で魔術師同士の決闘であるはずがなかった

 

 

『勝つために全てを捨てる。それが戦争だ』

 

 

バーサーカーの言葉が頭の中で反芻する。魔術師でなかったとしても、世界に召し上げられたほどの英雄の言葉。それに重みが無いわけがなかった

 

 

「認識を改めねばならんな………」

 

 

そう呟いた数分後、ランサーが霊体化を解き姿を現した

 

 

「……私の願いは、騎士として主に忠義し聖杯を捧げることです」

 

 

「………」

 

 

「主は私の騎士道を必要としておられますか?」

 

 

「………私が欲するのは、主に忠実な使い魔だ。お前の言う騎士道は不要だと思っている」

 

 

「そうですか……ならば」

 

 

ランサーはケイネスの前に跪く

 

 

「私は騎士ではなく兵として、誇りではなく勝利のために、戦い、主に聖杯をもたらしましょう」

 

 

ケイネスはその言葉に己の信念を捨てても主に勝利を誓うという覚悟を感じた。だからこそ

 

 

「ならば私の命お前に預けた。必ず勝利を捧げよ、ランサー」

 

 

「はっ」

 

 

ケイネスはランサーを信頼すると決めた

 

 

この瞬間、本当の意味でランサー陣営が誕生した

 

 

 

 

バーサーカーの言葉に揺れいていたのは騎士王であるセイバーも同じだった。確かに自分は戦争というものを美化していたかも知れない。ランサーとの戦いも騎士の決闘だと思っていた。だがあの時ライダーが直接アイリスフィールを狙っていたら、偽とはいえマスターを失う事になっていただろう。バーサーカーが自分を狙ったのも納得がいく、自分はランサーの宝具により左手が使えなくなってしまっている、自惚れではないが自分は最良とまで言われるセイバーだ。倒すのなら万全ではない時を狙うのは当たり前だ

 

 

(……それでも)

 

 

騎士道を捨てるということはできない。騎士である自分にとって騎士道とは誇りであり、命よりも重いものだそれを捨てるというのは死ぬと同義だ

 

 

「……大丈夫?セイバー」

 

 

「あっ、気にしないで下さい。私なら大丈夫です」

 

 

そんなセイバーを心配してアイリスフィールが声をかける。さすがにこんな空気の中で車を飛ばそうとは思わず、しばらく無言の時間が過ぎた。セイバーはいまだ思考の海に沈んでいたが、ふとサーヴァントの気配を感じた

 

 

「!アイリスフィール、止めて下さい」

 

 

「え!?ええ……」

 

 

二人が車から降りると、黒いローブを羽織ったキャスターらしきサーヴァントが跪いていた

 

 

「……キャスターか」

 

 

セイバーが威嚇するように問いかけるとキャスターらしきサーヴァントが顔をあげ

 

 

「お迎えに上がりました、聖処女よ」

 

 

 

その頃各陣営を驚かせたバーサーカー陣営はというと……

 

 

「あっ、おまえそのミカン四個目だろ!おれ一つしか食べてないんだからくれよ」

 

 

「私は今日働いたんだ、それ相応の報酬として受け取って然るべきだと思うがね?」

 

 

「そんなこと言って、おまえアーチャー逃がしただろ。マスターの命令果たせなかったくせに何が報酬だ!」

 

 

「あれは逃がしたわけではない。泳がせたのだよ」

 

 

「もう、桜のあげるからけんかしないで!」

 

 

ゆるい空気の中でダラダラしていた。ランサーが見たら、あんな事言っておいて!とかいってキレていただろう

 

 

「それは桜ちゃんが食べていいよ。それは桜ちゃんのだからね」

 

 

「すまないね。有り難く貰うとしよう」

 

 

「ああ!お前貰ってんなよ!それは桜ちゃんのだぞ!?」

 

 

「くれるといった物を貰って何が悪いのかね?」

 

 

雁夜はバーサーカーに突っ掛かりバーサーカーは素知らぬ顔、桜はそんな姿を楽しそうに眺めていた。雁夜が望んだ幸せな生活、特殊な形ではあるが雁夜はそんな今を噛み締めていた

 

 

「まったくお前は……うん?」

 

 

「どうしたの?」

 

 

そんな空気の中、冬木中に飛ばしていた使い魔の一体が、セイバーが相対するキャスターらしきサーヴァントを捉えた。すぐに雁夜はその映像をバーサーカーに見せた

 

 

「お!これならキャスターもすぐに脱落しそうだな」

 

 

「いや、まだわからんぞ」

 

 

「は?だってセイバー対キャスターだぞ?決まったも同然じゃないか」

 

 

映像を見ていると。何やら言い合っていた二騎だが、痺れを切らしたのかセイバーがキャスターに向かって不可視の剣を降り下ろした。雁夜はそれでやっぱりなと言おうとしたが、セイバーの放った斬撃はキャスターの横の道路に深い傷痕を残しただけにとどまり、何を思ったかキャスターを倒さずそのまま車に乗り、走り去っていった

 

 

「おいおい、倒さないのかよ。絶好のチャンスだったじゃないか」

 

 

「まったく、これも騎士道とやらか。倒せる敵も倒さんとは…………」

 

 

バーサーカーは心底呆れたといった顔でミカンを剥く作業に戻った

 

 

「で。どうする?キャスターを倒しにいくか?」

 

 

「いや、やめておこうキャスター程度いつでも倒せる。なにより…」

 

 

バーサーカーの向いている場所に視線を向けると、眠たそうに目をこする桜がいた

 

 

「そうだな…………さあ、桜ちゃん。一緒に寝ようね」

 

 

桜は寝ぼけ眼で頷くと、雁夜にてを引かれ寝室に入っていった。バーサーカーはというと二人が寝室に入ったのを確認した後、霊体化し屋根の上で警戒を始めた。雁夜は色々文句をいっているが、他と比べるとできたサーヴァントなのである

 

 

「ほぉ」

 

 

バーサーカーの目には、かなりの距離があるがホテルが倒壊している光景が写っていた

 

 

「見所のある者もいるではないか」

 

 

その少し前…

 

 

ケイネスはソラウと話しているのだが、空気はとてつもなく思い。それはランサーの意見によることだった

戦争中に自分の大切な人を側に置いておくのは危険。確かにその通りだ。これは戦争だと認識した今、婚約者であるソラウを側においていれば戦闘などから守れるかもしれない。しかしケイネスは基本的にソラウを戦場には連れて行かない。これは危険を回避するための行いだったが、今回はそうはいかない。何せ時計塔でも悪名高い『魔術師殺し』の魔術使い。敗退していたと思われていたが未だに現界しているアサシン。そして勝利のために手段を選ばないだろうバーサーカー。これだけの面子が揃っている中で1人にしておくのは人質にしてくれと言っているようなものである。だからこそケイネスはソラウをこの冬木の地から遠ざけたいのだが

 

 

「いやよ、私は戻らないわ」

 

 

「いや君には戻ってもらうぞソラウ。私は君を失いたくないんだ」

 

 

「あら?自分じゃ守りきれないって言ってるように聞こえるけど、どうなの?神童さん?」

 

 

「……そういうわけではないが」

 

 

ソラウはそれをずっと拒否し続けていた。悔しいがソラウはランサーに惚れている。ランサーには愛の黒子という呪いがかかっている。魔術師ならばレジストする事も容易いがソラウは自分からその効果を受けているきらいがある。ケイネスはソラウの事を愛しているが、所詮は政略結婚のようなものだ。ソラウがケイネスに惚れていないのはランサーの事でわかっている

 

 

「それにランサーの魔力供給は私がしているのよ?魔力的な繋がりと言っても距離はそうそう離れられないわ」

 

 

「それは私が引き継ごう。確かに私の礼装が弱体化するのは否めないが、凡百の魔術師に破れるほどヤワな礼装ではない」

 

 

「………そう、なら私にの令呪を譲渡して貴方が帰ればいい。私は絶対にランサーの側にいるわ」

 

 

「こんなに言ってもわからないのか!?君は私の弱点になる!確実に勝つためにはこうする他ないんだよ」

 

 

「貴方こそ何故わからないの!?私は彼から離れたくないの!それをじゃまするというなら」

 

 

ソラウが何らかの魔術を使おうとした瞬間。霊体化していたランサーがソラウを気絶させた

 

 

「申し訳ありません、主。ですがこのままでは御身が危険に晒されると判断した結果です」

 

 

「………ああ、不問とする」

 

 

ケイネスは気絶しているソラウを覗き込み、一つため息をついた。ランサーに惚れているのは分かってはいたがこれほどまでに魅了されていたとは……

 

 

「………申し訳ありません。私がこのような呪いを持っていなければ……」

 

 

ランサーはそう言ってはいるが、ケイネスがランサーを疎ましく感じるのは変わらない。だが今はそんな事言っている余裕はない。すぐにソラウに暗示をかけ本国に帰らせなければ

 

 

そう考えていると、突然ホテルに火災発生を伝えるベルが鳴り響いた。ケイネスが窓から外を見下ろすと、沢山の一般人がホテルから脱出していたのが見えた

 

 

「主よ、どうなさりますか?」

 

 

「……どうやらマスターが潜入しようとしているようだな……魔術工房は凡百の魔術師に突破されるようなものではないが、対魔力を持ったサーヴァントなら軽く突破されてしまうだろう………ランサーお前はどう思う?」

 

 

「は、恐れ多くも今すぐにでもここから立ち退くのが最善と思われます」

 

 

「………なぜそう思った?」

 

 

ケイネスが聞き返すのも最もだろう。このホテルは外来のマスターからすれば最高の場所にある。霊地としては遠坂や間桐に及ばないがそれでも中々の物であり、更に最上階付近の階を全て貸し切ることによって大規模な工房を作ることができた。自分の用意できる最高の拠点だとケイネスは思っていたからだ

 

 

「マスターのいう通りここは最高の拠点でしょう。魔術的な工房は元より、高所にあるため攻撃するのも難しく。一般人が多くいることから秘匿も難しくなるかと思われます。しかし今回はその高さが問題となっているのです」

 

 

「高さが?」

 

 

「はい、このように高さがあるということは有利にもなりえますが。弱点として下からの攻撃に弱いということが挙げられます」

 

 

「なるほど………」

 

 

確かに柱を破壊されればこのホテルは一気に崩壊するだろう。更にこの聖杯戦争には魔術師殺しも参戦している。よく考えればホテルの人間を全員避難させたのも秘匿の為でなく。ここから逃がすため?そう考えると嫌な考えばかり浮かんでくる

 

 

「いかがなさいますか?」

 

 

「…………ここを捨て脱出する!?」

 

 

ケイネスがそう言った瞬間に下の方から巨大な爆発音が響いた。ケイネスは軽く舌打ちすると必要最低限のものだけ持ってソラウを抱き抱え、己の最高傑作とも言える礼装を発動させ。ケイネス達は銀色の液体に包まれていく

 

 

「ランサー!私たちを抱えて窓からとび降りろ!」

 

 

ケイネスがそう言うと、ランサーは最速という称号通りに銀の球体を抱え窓から飛び出し、トップスピードのままその場から脱出していった

 

 

ちなみに余談だが、ホテルを爆破した張本人である現代のゴルゴこと衛宮切嗣のサーヴァントのセイバーは、脱出したランサーと決着をつけようとしていたが完全に無視され、今回の聖杯戦争での唯一の癒しとも言えるランサーとの決闘もできず崩れ去った瓦礫を前にして深いため息をついていたという

 

 






ちなみにセイバーはアイリを送り届けて直感でホテルまで向かいました。完全に居ないものとして扱われちょっと辛いアルトリアちゃんでした


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覚悟



どうも、今年の運を使い果たしたであろうグリゴリです

fate/goですが今回のガチャで、確定10連ではモード、呼符でギルと金時、10連一度でカルナ、単発一度でアルジュナがでました………
(金時は二体目)

なんか一週間ぐらいで死にそうなきがする……


 

 

ホテルが崩壊した次の日、雁夜はそんな事知らずに心地いい朝日と共に目を覚ました。隣には桜が寝ていたはずだが桜の姿は見えない。一瞬ドキッとしたが、キッチンの方から漂う匂いとバーサーカーの笑い声で安心した

 

 

ベットから身を起こしてキッチンに立つ向かう、そういえば最近はこんな風に起きることもなかった。雁夜はこの一年間拷問とも言える鍛錬を臓硯から受け続け、その肉体は最早ゾンビとも言えるものになっていた。そして夜は体の蟲の激痛で眠れず。気を失うように眠りについてもさらなる激痛で意識を無理やり戻されるようなものだった。だから朝起きて朝食を食べるという人として当たり前の事さえ新鮮に感じ、思わず笑みがこぼれた

 

 

「あ!おじさんおはよう」

 

 

「やあ雁夜くん。やっと起きたのかね?」

 

 

「ああ、おはよう桜ちゃん……それでバーサーカー。その格好は一体なんだ?」

 

 

キッチンに入ると、バーサーカーと桜が楽しそうに話していた。桜はエプロンを掛けており、朝食を作ってくれたのかとホッコリした気分になるが。バーサーカーはいつも着ている青い軍服ではなく、どこから持ってきたのか冬という季節に合っていないアロハシャツを着込んでいた

 

 

「これかね?これは奥の部屋にあったものを拝借しただけだよ。なに、流石に常に軍服では肩が凝る。これぐらいは問題ないだろう?」

 

 

「ま、まあ問題ない……のか?」

 

 

バーサーカーが着ているアロハシャツは以前雁夜がジャーナリストとして海外を回っていた時に買ったアロハシャツだ。確かに問題は無いが何か釈然としない

 

 

「おじさん、桜が朝ごはん作ったの……ちょっと失敗しちゃったけど。食べてくれる?」

 

 

桜がこの年代の子供として普通のちょっと背伸びしているのを見ると、本当に良かったと思える。そう考えながら席に着くと、目の前には白いご飯、味噌汁、卵焼きを失敗したかのようなスクランブルエッグ、最早炭になった魚が並んでいた。普通に見える白いご飯も、水が足りなかったのかカチカチ。味噌汁も出汁を入れていないのか殆ど味がしなかった。スクランブルエッグにも殻が入っていて。正直美味しいとは言えなかったが、何よりも自分のために桜が作ってくれたという気持ちが嬉しかった

 

 

「………おいしい?」

 

 

「うーん、もうちょっと練習すればもっと美味しくなるよ」

 

 

不安げに見つめてくる桜を見て、すごく美味しいと言いそうになるがいつか嫁に出す事を考えると………嫁に出す……

 

 

「うがぁ!」

 

 

「おじさん!どうしたの?」

 

 

桜が誰とも知れない男と結婚するなんて考えたく無い。というか絶対に嫁に出したくない。その気持ちがオーバーロードした結果雁夜はテーブルに思い切り頭を叩きつけた。当然桜は自分の料理がいけなかったのかと泣きそうになり、雁夜はそれをなだめるためにアタフタし始める。そしてバーサーカーはその光景を見て朗らかに笑うのだった

 

 

こうして、間桐家の朝は過ぎていった

 

 

ちなみにバーサーカーは雁夜とパスが繋がっている事と、魔術師として三流だった事もあり雁夜の妄想はバーサーカーに筒抜けだったとか

 

 

 

 

そして雁夜が暖かい日常を過ごしていた日の夜。衛宮切嗣は冷たい保存食を食べて頭を抱え込んでいた。自分の作戦が悉く失敗しているからである。初戦でセイバーが癒えぬ傷を負い戦力半減、ランサーのマスターもホテルが崩壊する前に迅速に脱出し、慢心をつくことができなかった。そしてタチの悪いストーカーのキャスター、セイバーがキャスターを倒さなかった事を聞いたときは思わず舌打ちしてしまった。自分が一番恐れている言峰綺礼が未だ脱落しておらず暗躍しているかもしれないという可能性。そして何よりも重かったのが現代の英霊と思われるバーサーカーの存在だ

 

 

「………くそ」

 

 

誰もいない部屋でタバコをふかす、問題は山積みだ。セイバーが弱体化していることからまともに応戦できるのはキャスターぐらいだろう(アサシンはまずいるかどうかもわからないので除外)それにより他のサーヴァントがランサーを脱落させるまでまともに戦うことが出来ない。そしてそのランサーはセイバーとの決闘やらでここに攻め入ってくるだろう。そこで漁夫の利を狙ったバーサーカーが来る可能性もある。そこにキャスターが乱入したら最良とも言われるセイバーとしても勝てる可能性はゼロに近い

 

 

「切嗣………入るわよ?」

 

 

そう言って入ってきたのは切嗣の妻であり今回の聖杯でもあるアイリスフィールだ。アイリスフィールはいつも以上に死んだ目をしている切嗣を不安に思いながらも隣に座る

 

 

「…………ごめんなさい、あの時キャスターを倒せていれば……」

 

 

「……いや、大丈夫だよ。この程度なら想定の範囲内だ」

 

 

切嗣はそう言っているが、アイリスフィールにはどうにも無理をしているようにしか見えていなかった。生まれてから10年経っていないホムンクスルとはいえアイリスフィールは切嗣の妻だ、アイリスフィールの目にははっきりと焦燥が伝わってきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雁夜が桜を寝かした後にバーサーカーと雁夜は飛ばした使い魔からキャスターが子供達を連れて、アインツベルンの拠点がある城の方に向かっているということを知った

 

 

「セイバーとキャスターで潰しあってくれるなら問題はないけど……子供を連れてるって時点で嫌な予感しかしないな」

 

 

「ああ、あのキャスターは子供を生贄か何かにするつもりだろう」

 

 

「なっ、なんでそんな事分かるんだ?」

 

 

「まあ理由は多々あるが……一番の理由とすれば奴が青髭、ジルドレェという事が問題だな」

 

 

「はあ!?なんで正体わかってんだよ?」

 

 

雁夜は驚くがどうという事はない。この前セイバーとキャスターが邂逅した時に、キャスター自身がジルドレェと言っていたからだ。バーサーカーは生前子供の頃から王となるための訓練をさせられていた。そんなバーサーカーにとっては読唇術などたわいもない事であり、この世界の住人ではないバーサーカーがジルドレェの事を知っていたのは日中ジルドレェについて調べていたからである

 

 

「そんな事はどうでもいいだろう。それより問題はキャスターの真名ではなくキャスターがどういう存在かという事だ」

 

 

「そんなにヤバい奴なのか?」

 

 

「ああ、奴はかつてジャンヌダルクと共に戦い救国の英雄とまで呼ばれた存在だ。だがジャンヌダルクが処刑されたことにより正気を失った。その後は国家にも勝る経済力により子供達を犯し殺し続けた。そして今キャスターは子供を集めている。ここまでくればあの子供達がどうなるかはわかるだろう?」

 

 

それを聞いた雁夜の血の気が引くと同時に怒りが湧いてくる。何故バーサーカーがそんなことを知っているかはどうだっていい。雁夜はなんの関係もない子供達が犠牲になるのが許せなかった

 

 

「バーサーカー、あのキャスターを殺せるか?」

 

 

「それについては問題は無い、だが君はあの子供達を助けるつもりかね?君がここに残るにしても付いてくるとしても最悪死ぬことに変わりわない。そして何よりも意味がない、戦争で甘さは一番邪魔になる感情だ」

 

 

「………ああ、確かにバーサーカーの言う通りかも知れない。ここで俺が死ねば桜ちゃんはまた笑えなくかもしれない……それでも」

 

 

鋭い視線を向けていたバーサーカーに真っ直ぐに視線を合わせる

 

 

「だけどここで止まったら俺は昔に戻ってしまう。魔術から逃げてしまったあの頃の俺に」

 

 

あの時に逃げ出さなければ

 

桜ちゃんをあんな目に合わせることもなかった

 

 

あの時に逃げ出さなければ

 

臓硯を自らの力で殺せたかもしれない

 

 

あの時逃げ出さなければ……

 

 

「俺はもう力のなかったあの頃じゃない!ここで俺は変わらなくちゃいけないんだ。今更普通の人間ぶるつもりはさらさらない。傲慢かもしれないけど、俺は俺の手に届く範囲の人ぐらいは守れる化け物でありたいんだ!」

 

 

だから

 

 

「すぐに助けにいくぞ。俺に従え、バーサーカー」

 

 

そうバーサーカーに宣言する

 

 

「…………ふふ そうだ、その目だ。その目がある限り君は愚かで醜い人間であり続けられる。そしてそんな君だからこそ私が仕える価値がある」

 

 

バーサーカーは雁夜の前に跪く

 

 

「君を私の主と認めよう。これより私の運命は主と共にある、この剣に誓い必ずや勝利を捧げよう」

 

 

「………ああ、お前のマスターは俺だ。そして命令だ。すぐに子供達を救いに行く。付いて来いバーサーカー」

 

 

「了解した。主よ」

 

 

 

 

 

 

 

 



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