岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】 (雷鳥)
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【白野と猫と家族の日常】

こんいちは。また初めまして。白野転生シリーズ第二弾です。

初回と言う事で主人公である白野自身の説明と家族構成の説明回。ぶっちゃけ前半に茶番入れたけど……感想次第では消しても問題ないからその辺は反応次第。

それと原作読んでないと分からないキャラがいきなり二名程登場しちゃっています。一応説明も入れているし、違和感なく絡められているとは思います。



アラヤ「ああ、困った。困ったな」

 

ガイア「んん~どうしたぁアラヤぁ? そんな慌ててぇ」

 

アラヤ「相変わらず呑気だなガイア。このままだと我々の『人間界(せかい)』がオワタになるんだぞ」

 

ガイア「ま~じで」

 

アヤラ「ほら、お前も『世界の行く末』を視てみるがいい」

 

ガイア「……オウフ。マジじゃ~ん。ヤッベ~どうしよう。誰か適当に抑止にしとくぅ?」

 

アラヤ「抑す? 抑す?」

 

ガイア「抑す」

 

アラヤ「だが、果たして誰か適任が居るかな?」

 

プリンセス「フフフ、お困りのようにゃねぇ」

 

ガイア・アラヤ「「ムーンプリンセス、何故ここに!?」

 

プリンセス「いや~なんかあちしに限り無く限りな~くうっすいけど似た気配がしたから探ったらこんなの拾ったのにゃん」

 

アラヤ「ふむ。随分と異質な魂だな。しかも我々の影響を受け付けないとは生意気な。消す? 消しちゃう?」

 

ガイア「こらこら~。命は大事にだよぉ。世界は更に大事だよぉ。で、プリンセス。これがどうかしたのかぁ?」

 

プリンセス「これを抑止に使うってのはどうよ? どうやらコレ、死んだら別の世界に行っちゃうみたいだし、使い捨て――ごほん、生贄にするのも有りじゃにゃ~い?」

 

アラヤ「おやおや生贄とは酷い。世界と人々の世を護る救世主様だぞ」

 

ガイア「救世主と書いて抑止力と読むぅ~」

 

プリンセス「そして抑止力と書いて人柱と読む~」

 

アヤラ・ガイア・プリンセス「「「ワロスWWWW」」」

 

プリンセス「で、どうするにゃ? そろそろこいつ転生しちゃうよ?」

 

アラヤ「いいのではないか? どことなく不幸属性を感じる。私としては薄幸な者がもがく姿は観ていて楽しい」

 

ガイア「流石愉悦部顧問のアラヤだねぇ。君が毎回選ぶ抑止の人間は大抵薄幸な上に人として欠陥を抱えているよねぇ。まぁ、ボクちんもぉこのタマシィでいいかなぁ。この子の記録を見る限りぃ、親しい相手が居る内は世界をどうこうしようなんて考え無さそうだしぃ~」

 

プリンセス「ガイアも相変わらず世界至上主義にゃね~。そんなんだから人形みたいな奴しか抑止にできないにゃよ」

 

アラヤ・ガイア「「お前は欲望に忠実すぎるがな」」

 

プリンセス「にゃはは褒めないで欲しいね~」

 

アラヤ「で、この魂で良いとして、このままじゃ抑止足りえない。弱過ぎる」

 

プリンセス「そうかにゃ? かなり質の良い【浄眼】を持っているにゃ。肉体が上質な物なら負担は少ないにゃ」

 

アラヤ「うん? ほほう。どうやらこいつは【心眼】も持っているな。それも元々才能があった物が鍛えられて真の心眼となっている。肉体が上質ならこいつに見切れないモノはないだろうな」

 

アラヤ・ガイア・プリンセス「「「だが肉体は普通だ! ワハハハハハ!!」」」

 

ガイア「あ~笑った。じゃあほら、現世のなんだっけ、セイなんとかギア? あれ、あげちゃおうかぁ?」

 

アラヤ「そうだな、そうしよう。ガイア、世界のどっかに都合の良さそうなものはあるか?」

 

ガイア「う~ん。強過ぎると逆に反逆されそうだし~。弱過ぎると抑止足りえない~。あ、これでいいか」

 

プリンセス「何々?」

 

ガイア「王の証(リア・ファル)

 

アラヤ「ほう。面白い物が埋まっているものだ」

 

プリンセス「にゃはは、でもこれ自体には大した力は無いにゃん。どうするの?」

 

ガイア「何を言っているんだプリンセス。彼はこれから厄介事に巻き込まれるんだよ? きっと全ての秘宝を集めるさ、うんうん」

 

アラヤ「ふむ、面白い。では外見は生前のモノにしてやろう。ふふ、この顔どう歪むか、今から楽しみだ」

 

プリンセス「何それ愉悦」

 

ガイア「では最後に……みんなで……器に向かって魂をシュウウゥゥーー!!」

 

プリンセス・ガイア・アラヤ「「超エキサイティイイイイイイイン!!」」

 

 

ガイア「フハハハハハ!!!」

 

アラヤ「ハハハハハハハハハハ!!」

 

プリンセス「ニャホホホホホホ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ホホホ。まさか人が寝ている間に『寝床ごと』勝手に連れ出されるとは思わなんだ』

 

『おじいちゃんも運が無いねぇ。それにしても酷いことするなぁ……君はボクと同じだねぇ。勝手に作られて勝手に捨てられてぇ。うん。可哀想だからボクが力を貸してあげるぅ』

 

『ふむ。では眠りの龍姫よ。お主に提案があるのじゃが、乗る気は無いか?』

 

『なになに~?』

 

『うむ。彼の者の神器……で……という具合に……しようと思うのじゃ』

 

『なるほどねぇ。いいよ~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御主人様起きるにゃ~」

 

 額をペチペチと叩かれて目を覚ます。するとそこには一匹の黒猫が、頭の方から自分を覗き込んでいた。

 

「ああ、黒歌(くろか)。おはよう」

 

「おはようにゃん♪。うなされていたけどまた悪夢を見たにゃん?」

 

「ああ。偶に見るいつものやつだ」

 

 酷い頭痛がして、ゆっくり身体を起こして額に手を当てて溜息を吐く。

 

 シルエットしか分からなかったが、お姫様の格好をした化け猫と渋い声なのに無理に若者言葉を使う神父服の男性、それとなんか独特な口調のマッチョな巨漢。そんな彼らが何かを話して自分を蹴り飛ばす悪夢だ。話の内容は覚えていないが、この悪夢を見ると毎回頭痛がするから出来れば二度と見たくないのだが……不定期に見る辺り、何者かの陰謀ではないかと真剣に悩んでいる。

 

 まぁ頭痛は起きてしばらくすれば収まるからいいけど。

 

 ベッドから起きて一階の洗面所で顔と歯を洗い、冷蔵庫からスポーツ飲料を取り出して少しだけ飲んで喉を潤し、一度自分の部屋に戻ってランニング用のジャージに着替えてタオルとスポーツ飲料をリュックに仕舞って、黒歌と出会ってからは日課になった彼女を交えての朝稽古を行うために山の麓の雑木林に向かって軽いランニングを行う。その間黒歌は自分の頭の上に器用に乗っている。

 

「さて、身体も温まったし今日の稽古を始めよう」

 

「了解にゃん」

 

 黒歌が地面に降り立ちボン、という軽快な音と煙と共に和服の女性が姿を現す。

 

「ん~。猫の姿も嫌いじゃないけど。やっぱり元の姿の方がしっくりくるわ」

 

 黒い耳と二股の尻尾を生やし、黒い髪を桜の柄が入った髪留めで後ろで纏め、赤と黒の単色の着物を羽織、それを花柄の金の腰帯で止めている。もっとも、上も下も着崩しているため、彼女の大きな胸の上半分が露出しているし、動きやすいようにか着物の裾にスリットがあるため綺麗でしなやか太股がこれでもかと露出している。その姿が、種族は違うが生前のキャスターを彷彿させる。というか殆ど同じな気がする。

 

 目の前の女性は黒歌の本来の姿で在り、彼女の正体は猫又という妖だ。

 

 子供の頃に怪我をしているところを拾ってから家で暮らしている。因みに彼女が妖怪というのは家族は全員知っている。そのため家族しか居ない時は平然と喋る。まぁ人型になれるのは秘密にしているが。

 

「さてそれじゃあ今日も仙術のレッスンを開始するにゃん」

 

「ああ。頼む」

 

 そう言って彼女と組み手を行う。もっとも、ただの人間の自分に妖怪の彼女とまともに打ち合ったらこちらが即ミンチ、または即骨折コースなので、かなり手加減してもらっている。

 

 元々は一人で行っていた早朝訓練。黒歌が家族となって猫のまま一緒について来た時に、彼女にどうして身体を鍛えるのか尋ねられた。

 

 一言で言えば不安だからだ。

 

 黒歌のような存在がいること、不可思議な力があること、他にも色々な理由はあるが普通の世界ではないのは確定だろう。

 

 だから鍛える。何かあった時に自分の身と自分のこの手の届く範囲くらいは護れるように。

 

 黒歌にそう伝えると、黒歌は初めて人型で自分の前に現れて、仙術について教えてくれた。

 

 仙術というのは生命力を操る術の総称で、生命力は基本的にはオーラ、気、チャクラ等と呼ばれている。

 

 仙術は肉体、生命力、その他のエネルギーと言った物に作用する術が多い。

 己の肉体を強化したり、対象の生命力を活性化して治癒力を高めたり、他にも自然を操ったりなんかも出来る。

 逆も然りで肉体を壊したり、生命力の流れを壊したり、自然の命を無理矢理吸収したりといったことも出来る。

 

 毎日黒歌に仙術、正確にはオーラを扱った戦闘訓練を施して貰って数年。お陰で少しは強くなれたと思う。【簡易魔術(コードキャスト)】を再現させる事にも成功した。初めて成功した時は黒歌が凄く驚いていたのを覚えている。

 

 二時間の早朝訓練を終えて家に帰る。するとキッチンから料理の良い匂いがする。

 

「お帰りなさい(はく)ちゃん。クロちゃん」

 

「ただいま母さん」

 

「ただいまにゃん」

 

 キッチンに続くドアから顔を出した母さんに挨拶する。因みにクロちゃんというのは彼女の通称だ。なんでも彼女は少し問題を抱えているので本名は控えて欲しいと言っていた。その為家族はみんな基本クロちゃんと呼び、自分も二人きりの時以外はクロと呼んでいる。

 

「ふんふふ~ん♪」

 

 月野(つきの) かぐや。それが自分の母さんの名前だ。

 年はもうすぐ50代だというのに高学年の小学生に間違われるくらいの身長と童顔という詐欺みたいな外見をしている。

 因みにロリババアと言うと絶対零度の笑みと共に相手を威圧し、それが男ならば自身の身長を活かした、助走を付けた弾丸パンチをかます。金的に。

 

「ふぁあ~。おはよう白野(はくの)、クロちゃん。相変わらず早起きだね」

 

 一階の夫婦の寝室から父さんが水玉模様のパジャマ姿で現れる。因みに母さんとペアルックである。母さんが赤で父さんが青の水玉だ。

 

 父さんの名前は月野 帝(つきの みかど)

 母さんと同い年だが、30歳と言われても通じるくらいの美形で引き締まった身体をしている。職業はそこそこな稼ぎのある会社の営業サラリーマンらしい、詳しく知らない。

 

 才色兼備な父さんの唯一の欠点は真正のロリコンだと言う事か。

 誰にでも欠点はある。父さんはちっぱいが好きで、ちっこいが好きな人だ。だが手は出さないと言う変態紳士界でも有名にして高名な紳士。と、友人の一人が語っていた。知りたくない事実であった。

 

 因みに母さんとは幼馴染で、子供の頃に将来を誓い合った仲でそのままゴールインという超熱烈純愛夫婦だ。もうすぐ50歳だというのに行ってらっしゃいのキスをするくらいの仲だ。まぁ端から見たらお父さんにキスする娘の姿にしか見えないという別の問題もある訳だが、御近所さんも自分も見慣れてしまっているため問題にはなっていない。

 

「おはよう父さん。父さんも十分早起きだと思うよ」

 

 いつもより絞まりの無い緩んだ顔の父さんにそう返す。

 

「そうかい? あ、先にシャワーいいよ」

 

「ありがとう。行こうクロ」

 

「ふふん優しく洗ってにゃん♪」

 

 すっかり飼い猫状態の妖に苦笑しつつ要望どおりに優しく身体を洗ってあげる。偶に『あん』とか『いやん』とかこちらをからかう様に喘ぐ時は、ちょっと強めに洗ってお仕置きする。一時期家族にそういう趣味がと疑われたからだ。勘弁して欲しい。

 

 黒歌を洗い終えて自分も身体を洗って脱衣所に上がりドライヤーで黒歌の毛と自分の髪を乾かして用意しておいたシャツとパンツを履く。

 

 その時洗面台に自分の顔が映り込む。

 

 鏡に映るのは生前と変わらない顔。あれだけ個性的な両親から生まれたとは思えない普通な顔立ちだ。身長も高くも無く低くも無い平均値だ。

 

「どうしたにゃ?」

 

「いや、あの二人から生まれたにしては普通な顔だなぁと思って」

 

 自分が転生者じゃなかったら絶対捨て子か何かと勘違いしそうだよなぁ。

 

 岸波白野(きしなみはくの)。それが生前の自分の名前だ。今は月野白野。名前が同じなのは何かの運命の悪戯だろう。

 

 ムーンセルオートマトン。通称ムーンセルと呼ばれる月の観測機。

 

 そこにはSERIAL PHANTASM。通称SE・RA・PH(セラフ)と呼ばれる霊子虚構世界という現実とは違う電脳世界が存在していた。もっとも、電脳世界といっても実際に魂を構成する霊子(りょうし)世界の方が電子の電脳世界よりも遥かに高次元の作りになっている。

 

 そのムーンセルで一つの戦いが繰り広げられていた。

 

【聖杯戦争】

 

 電脳世界に魂ごとダイブする特別な力を持つ『魔術師(ウィザード)』達が古の英霊をパートナーとし、願いを叶える聖杯を巡って決闘し合う過酷な生存競争、それが聖杯戦争だ。

 

 戦争の最中は魔術師をマスター、パートナーの英霊をサーヴァントと呼称し、更に相手に正体を隠すためにマスターは基本英霊をクラス名で呼ぶ。クラスはセイバー、アーチャー、キャスター、ランサー、ライダー、アサシン、バーサーカーの七つのカテゴリーが存在する。

 

 自分はその霊子世界で生まれたNPCデータだ。それがバグによって『意思』を持ったが為に戦争に参加してしまった一般人レベルの最弱マスター、それが生前の自分だった。

 

 そんな自分は様々な戦いと別れで『心』を手にし、最強を退け勝利し、命と引き換えに二度と聖杯戦争が起こらないように願い、消えるはずだった。

 

 しかし何の因果か、自分は今もこうして生きている。

 

 原因はムーンセルのせいだ。何を間違えたのか、自分は『異世界に転生を繰り返す』なんて者に作りかえられた。しかも転生した世界で死んで別の世界に行くと、前の世界の記憶を覚えていないという仕様まで加えられている。

 

 この情報すら、自身の精神の深く、心象世界で自分を待っていてくれた桜に教えて貰ったものだ。もっとも、どうしてそんな事が起きたのかすら思い出せない訳だが。

 

 だが、彼女と最後に語り合った内容だけは、今でもしっかりと覚えている。

 

 ありがとうとさようなら。

 愛しているとごめんなさい。

 初恋の成就と失恋の訪れ。

 

 簡潔に纏めて文字にしてしまうとたった三行程度の出来事だが、自分にとってはとても大切な出来事だった。

 

 あの出来事があったからこそ、今日も自分は精一杯この世界を生きていけるし、別の世界の思い出が無くても、絆は確かに自分の魂に残されていると確信できる。

 

「ぶっちゃけママさんパパさんの個性が強すぎるだけにゃん。御主人様は普通にイケメンだし、なにより魂がイケメン! 略してイケタマだから顔なんて気にしないくていいにゃん」

 

 鏡を見詰めながら昔を思い出している自分を見て、黒歌が外見を気にしていると勘違いしたのか、気遣うようにこちらを見上げる。

 

「ありがとう。まぁ別に自分の容姿が嫌いなわけじゃないからいいんだけどね」

 

 それとそのイケタマというのは君達妖怪の共通言語なのかい? 生前のキャスターも言っていたんだけど。

 

 そんな事を考えながら今日もまたいつものようにテレビでニュースを見ながら四人で楽しく朝食を摂り、母さんと一緒に父さんを見送り、自分も駒王(くおう)学園に向かう為に学園指定の男子制服に身を包む。

 

「それじゃあ母さん、クロ、行ってきます」

 

「いってらっしゃい。気をつけてね白ちゃん」

 

「にゃ~あんまり自分から危険なことに首を突っ込まないでね御主人様」

 

 気をつけてなんとかなればいいけどね。それと黒歌、こちらの不安を煽るのは止めてくれ。

 

 そんな内心を口には出さずに二人に頷いて答え、今日も『普通ではない学園』へと向かうのだった。

 

 




と言うわけでアニメしか見たことない人には誰?って感じの原作キャラ、黒歌がいきなり登場してます。(後一人は性別変えちゃってますが、あの方です)

うん。ごめん。お話の都合上、彼女くらいしか主人公の師匠ポジションが浮かばなかったんだ。(強キャラで賑やかしキャラとかなり楽させてもらいました)
あとは原作読むと分かりますが、普通に幸せにしたいキャラなんですよねぇ黒歌。と言うわけで早々に白野の餌食(フラグという名の)になりました。この作品の記念すべき最初のヒロインです!



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【普通じゃない学園での日常】


今回もある意味舞台の説明回。




 通学路を歩いていると徐々に同じ制服を着た生徒達を見かけるようになる。

 

【駒王学園】

 

 元々は女子高だったが、今は共学になり男子生徒も女子より少ないが在籍している。この町では一番有名な学園だと思う。もっとも、自分が選んだ理由は家から近いからという安易な理由だが。

 

「おはよう白野!」

 

「ん? ああ、おはよう一誠」

 

 登校中に近所に住む幼馴染の兵藤 一誠(ひょうどう いっせい)に声を掛けられた。

 

「ふふふ……」

 

「どうしたそんなニヤけた顔して? 一誠がそういう顔をする時は大抵エロ方面で良い事があった時だけど」

 

 一誠は良い奴だ。明るく熱血漢で女の子に優しい。顔だって黙っていれば悪くない。まぁカッコイイ系よりはカワイイ系かもしれない。

 

 しかしそんな一誠はドスケベだ。『ド』が付くほどのスケベなのだ。そして三度の飯よりおっぱいが好きと言うおっぱいキングを自称する男でもある。

 

 そんな彼がイヤらしい笑みを浮かべるのだから、そっち方面と考えた自分は悪くないと思う。

 

 しかし一誠は両手を交差させてバツ印を作って首を横に振った。

 

「残念。今回は違うんだなぁ~。なな、なんと! オレにもついに彼女が出来ました!」

 

「おお、それは普通にめでたいじゃないか。おめでとう一誠」

 

 笑顔で軽く拍手し祝福すると、一誠はしばらく動かなくなり、途端に滝の様に涙を流して自分の腕で拭い始めた。

 

「ううぅ。やっぱ祝福してくれるのはお前だけだよ親友! 松田(まつだ)元浜(もとはま)は信じてくれやしないし、母さんと父さんも『二次元乙』なんて台詞で一蹴するし!」

 

 まぁ普段の一誠の行動を見ていたらそう思うのも仕方ないけど、確かにそれはひどいな。因みに松田と元浜の二人も自分とは友人であり、一誠を含めた彼らは学園では三馬鹿エロトリオとして有名だ。去年自分だけクラスが違ったので、幸運にもそのトリオに自分が含まれることは無かった。

 

「で、どんな子なんだ?」

 

「ああ、夕麻(ゆうま)ちゃんっていって、スゲー可憐で可愛い子なんだ! 写メあるから待ってろ」

 

 そう言って一誠はスマフォを取り出して操作する。自分も携帯を開いて添付された画像を開くと、そこには黒の長髪にどこかの学生服を着た大人しそうな可愛い少女が映っていた。

 

「へ~可愛い子だな」

 

「だろ~。もう超可愛いだろ! でさ明日から夕麻ちゃんと登下校する事になったからさ。付き合い悪くなると思うんだよね」

 

 これ以上ないくらいに惚気た顔をする一誠。ま、幸せ真っ只中だからな。生前のパートナーの正義の味方のように『爆ぜろ』と言うのは我慢しよう。

 

「構わないよ。やっと掴んだ青春だもんな」

 

「おう! 今迄は青春だったが、これからのオレの学園生活はまさに『性春』だぜ!」

 

 肩に手を置いて激励すると、一誠は親指を立ててイイ笑顔で最低な発言をかましやがった。

 

「……とりあえず彼女の前じゃそう言う下ネタは控えろよ」

 

「馬鹿やろう。言えるわけ無いだろ」

 

 変な所でシャイだった。まぁ、これなら大丈夫か。

 

 結局一誠の彼女自慢はお互いのクラスへと別れるまで続いた。

 

「おはよう」

 

 自分のクラスの扉を開けながら挨拶を交わし、席に向かう。

 

「おはよう白野君。何かあったのかい? 少し嬉しそうに見えるけど」

 

「ん? ああ祐斗《ゆうと》か。いや一誠に恋人が出来たらしくてな。ずっと惚気られていたんだ」

 

 教室に入って自分の席に付くと、後ろの席の木場 祐斗(きば ゆうと)がいつもの爽やかな笑顔と共にこちらに話し掛けて来た。

 

 木場祐斗。

 二年男子でもっとも付き合いたい男ナンバー1にして学園一のイケメンと噂される男子生徒。

 

 容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、性格も気遣いのできる優しい性格と、まさにウチの父親同様パーフェクトイケメンである。

 

 一年の頃に同じクラスになった時からの付き合いで、どこか壁を感じる彼に自分がおせっかいに話しかけたのが最初の切っ掛けだった。

 

 あれから少しは仲良くなれたと思う。少なくとも向こうから親しげに話しかけてくれる位には進展した。

 

「普通は惚気話を聞かされたら呆れたり疲れたりするんじゃないかい?」

 

「そうか? 親友が喜んでいるんだ。喜びを分かち合うのは当然だし、他の人は信じてくれなかったみたいだしな。惚気話くらい付き合うさ」

 

 そもそも好きな人の話で惚気ない事なんてあるのだろうか? うちの両親なんて惚気まくりだぞ?

 

「ふふ。やっぱり変わっているね白野君は。それにしても兵藤君に彼女かぁ」

 

「まぁあいつは良い奴だし、ルックスも悪くないしな。いつかは出来ると思っていた」

 

 因みに祐斗と一誠は自分経由で少しだけ交友がある。もっとも、一誠と松田と元浜が『イケメン死すべし!』と言って泣いて避けたり、女子が『木場君を汚すな!』と妨害してくるのであまり全員で行動する事はなかったが。

 

 一年の頃は極力祐斗と一緒に行動していたなぁ……まぁそのせいで変な噂が広まったが。

 

 周りの女子の一部がヒソヒソ話を始め、その声が耳に届く。

 

「見て。あの木場君がまた自分から月野に声をかけたわよ」

 

「木場君優しいけど自分から積極的には行かないのにね」

 

「やっぱ一年かけて攻略しちゃったんだって」

 

「月×木……やはり鉄板か。今年のソリッドブックの題材は決まったな」

 

「木場きゅんハァハァ。月野きゅんハァハァ」

 

 くそう。腐ってやがる遅すぎたんだ。あと、最後の奴、テメーは男だろ! 近付いたら逃げるからな!!

 

 BなLの疑惑に頭を悩ませながら、今日も変態なクラスメイト達と授業を受ける。

 

 

 

 

 いつもの授業を終えた放課後。学園で特にやる事もなく、祐斗と一誠はそれぞれ用事があるので今日は遊びにいけない。松田と元浜は呪詛撒き散らしながら『イッセー死すべし!』と連呼していたのでスルーする事にした。ああいう時に話しかけると放課後にピンク色のDVD観賞祭りとかに付き合わせられるから。あれは一体何が楽しいのだろう。

 

 ……帰るか。

 

 特に用事も無いので鞄を手に取って下駄箱に向かう。その途中で意外な人達と出くわした。

 

「あら、月野君。今日はもう帰るのね」

 

「あら白野、今日は祐斗と一緒じゃないのね」

 

「こんにちは白野君。では一撫でを」

 

「こんにちは支取(しとり)先輩、今日はみんな用事があるみたいなので。それとグレモリー先輩、別に祐斗とは四六時中一緒にいる訳じゃありませんよ。そして自然な動作で他人の尻を撫でないで下さい。撫で返しますよ朱乃(あけの)先輩?」

 

「ええどうぞ?」

 

「では……てい」

 

「きゃん」

 

 平然と尻を向けようとした朱乃先輩に軽くデコピンを入れる。尻? いや触ったらセクハラだろ。

 

 下駄箱付近でばったりと出会ったのは三年の先輩にしてこの学園の三年では知らぬ者は居ない三大美女に上げられる有名人の三人。

 

 自分に普通に挨拶してくれたのはこの学園の生徒会長を勤める支取 蒼那(しとり そうな)先輩。

 

 ボブショートカットの綺麗な黒髪とメガネ、そしてスレンダーな体型が特徴的な人で、ツリ目の印象そのままに冷静で厳格な性格の人だ。ただ同時にどんな生徒にも別け隔てなく接する所もあり、個人的には外見や口調が厳しいだけで人一倍優しい先輩だと思っている。

 

 その隣で楽しそうに笑っている紅い長髪と大きな胸が特徴的な先輩の名前はリアス・グレモリー先輩。

 

 グレモリー先輩は北欧出身で家の事情で日本にやって来たらしい。らしいというのは自分がその辺りを詳しく知らないからだ。確かに外見は日本人離れしている。

 性格はまんまお嬢様な感じだ。友人思いの優しいところもあるが、負けず嫌いな所もある。その為勝負事にはかなり熱くなる性格をしている。

 

 そしてグレモリー先輩の親友で、人のお尻を勝手に撫でた黒髪ポニーテールの先輩が姫島 朱乃(ひめじま あけの)先輩。

 

 大和撫子を地で行くような優しくおしとやかな性格で、豊満な胸同様包容力があり、気遣いも出来る女性でグレモリー先輩と共に『二大お姉様』と呼ばれる有名な人だ。特に朱乃先輩は『甘えたいお姉さま』と呼ばれている為、生徒や教師に頼られることが多いようだ。

 

 グレモリー先輩と朱乃先輩は祐斗と友人となってしばらく経ったある日、突然向こうから接触してきた。どうやら二人共祐斗と同じ部活の先輩で、部活中に祐斗の話題で自分の名前が出るようになって興味が湧いたのが切っ掛けらしい。

 

 支取先輩とは図書館で何度か顔を合わせてあいさつする程度で、そこまで深い知り合いではなかったが、グレモリー先輩と仲が良いらしく、彼女の紹介で少しだが話すようになった。

 

 まぁ問題は朱乃先輩だな。

 

 だいぶ前に彼女を保健室に連れて行ったことがあるのだが、それ以来自分は彼女から今回の様に妙にセクハラ紛いなスキンシップをされる。更に上級生命令と言われて名前で呼ぶように言われ、それ以来朱乃先輩と呼ぶようになった。

 

 とりあえずいつものように朱乃先輩に注意する。

 

「女の子がそう簡単に返事しない。あと男子のお尻を触るとか、そういうアプローチは誘惑しているみたいに取られるから止めた方がいいと何度も言っているじゃないですか朱乃先輩」

 

「ふふごめんなさい。半年も続けていると、こう、一日一回白野君と触れ合っていないと調子が出なくて」

 

 困ったわ。なんて言いながら何故かデコピンされたのに嬉しそうに微笑む朱乃先輩に溜息を漏らし、彼女の親友であるグレモリー先輩に視線を向ける。

 

「グレモリー先輩も止めてください」

 

「嫌よ。私としては朱乃の面白い一面が見れるから、このやり取りは気に入っているもの。それに恥かしがる白野も可愛いしね」

 

 面白い見世物を見るかのような無邪気な笑顔で答えるグレモリー先輩。この人はダメだ。そう思い支取先輩に視線を移す。

 

「支取先輩」

 

「私はむしろもっと強く抵抗しないあなたに原因があると思うわ」

 

「いや自分は男ですから、同性なら兎も角、異性に身体撫でられるくらいなら我慢できますから。とにかく、勘違いする人は多いでしょうから注意してください」

 

「ええ。気をつけますわ。それでは白野君また明日」

 

「じゃあね白野。今後も祐斗や朱乃と仲良くしてあげてね」

 

「それでは月野君。帰宅するなら寄り道せずに帰りなさい」

 

 うふふ。と笑いながら三人が校舎から出て行く。

 

 内心で溜息を吐き、靴に履き替えて茜色の空を見上げながら心の中で呟いた。

 

 『悪魔』も人間と同じで千差万別なんだなぁ。

 

 黒歌、祐斗、グレモリー先輩、朱乃先輩、支取先輩。そして他数名の学生の背中から生える半透明の小さな黒い蝙蝠のような翼を思い出しながら、今日も平和に一日を過ごせた事に安堵し、帰路へと着いた。

 

 




という訳で朱乃さんも殆ど攻略済みです。というのも今後の展開上、ハクノンに気持ちをある程度移しておかないと、原作通り一誠にフラグが流れてしまうのでこのような形になりました。

次回はリアス視点で他人から見たハクノンの話になります。



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【三年生達の恋バナ】

という訳でリアス視点です。もっとも話の内容は朱乃さんがメインですが(苦笑)



 白野と別れた私達は旧校舎に向かいながら彼について話し合う。

 

「ねえ朱乃。あなた白野のこと、本当はどう思っているの?」

 

「あら、どういう意味ですか部長?」

 

 学園内なのでリアスではなく部長と私を呼んで口調を崩さない親友のいつもの姿を見ると余計に白野に対する態度を面白いと思う反面、疑問を感じる。

 

「純粋な好奇心よ。本気で好きなのかなって?」

 

「異性としては一番気にいってはいますわ」

 

「あら、それは意外ね」

 

 隣で聞き耳を立てていたソーナが言葉通りに意外といった感じに目を少しだけ見開く。もちろん私も意外だ。

 

 月野白野。

 今年駒王学園二年に進級した優等生。故に祐斗と同じ成績が優秀な生徒が多いクラスに配属されている。

 容姿は個人的な見解になるが上の中で十分美男子と言える部類だと思う。

 

 それと彼自身はとても感情豊かな性格だが、どうやら表情は少し硬いようで表情から感情を読み取るのが難しい。

 

 その代わりに声と目元が特徴的なのよね。

 

 彼の声はとても良く通る澄んだ声をしている。そのため声色の違いがはっきりしている分、その言葉にどんな感情が乗っているのかが分かりやすい。

 

 他にも目元の変化でこちらをどう思っているのか判別できる。目は口ほどに物を言うという諺を地で行くような男の子だ。

 

 素直で分かりやすい子。それに気遣いもできる。小猫(こねこ)と祐斗を足したようなタイプね。

 

 親しい後輩二人に似たタイプなだけに、私も朱乃程ではないが彼を気に入っている。しかし。

 

「朱乃がそこまで気に入るような素敵イベントなんて、あったかしら?」

 

「ふふ、部長が読んでいる恋愛小説でも良く書かれているではありませんか。恋はタイミングだと」

 

「つまり姫島さんはそのタイミングで彼のことが気になり始めたと?」

 

 ソーナもなんだかんだでこういう話、好きよね。本人にはそういう浮ついた話は一切聞かないけど。

 

「ねえ朱乃。よかったらその切っ掛けを教えて貰えるかしら?」

 

 好奇心全開で私が尋ねると、朱乃は仕方ありませんわ。と言いつつ満更でもない顔で語り始めた。

 

「一年前の母の命日の事です。その日は部長が体調を崩してお休みしていた日でした」

 

 ああそう言えばあったわね。

 

 朱乃のお母様は既に他界している。父親は生きているが、今は疎遠だ。朱乃にとって父親の話はタブーなため、私からも話題に出すこともほとんど無い。

 

「その日はお弁当を持って行くのも忘れて食堂で食事を摂っていましたが……私のテーブルにだけ誰も座りませんでした」

 

「……まぁ、あなた達は憧れの的ですからね。恐れ多いと思ったのでしょう」

 

 朱乃の事情を知るソーナも、少しだけ表情を曇らせながら返答する。

 

「ええ。普段だったら気にしないのだけど……大勢の喧騒の中で久しぶりに一人きりだと思ったら、何故か急に寂しくなり、正直泣きそうになりましたわ」

 

 朱乃は自分の感情に素直だから、一回落ち込むと凄いのよねぇ。

 

 意外かもしれないが朱乃は自分自身の事になると感情の浮き沈みが激しい。普段まともな分、余計にそう見えてしまう。

 

「そんな時に、白野君に声を掛けて貰ったのですわ。笑いながら『相席いいですか』って」

 

 おお。なんというか、凄いわね白野。

 

 ド定番なシチュエーションに心が少し躍ると同時に白野の意外な度胸に驚く。

 

「当時は部長と一緒に挨拶した程度の知り合いでしたが、一人でいたくなかった私は了承し、食事が終わるまで一緒にお喋りして過ごしました。学園についてだったり木場君や部長についてだったり、勉強についてだったり、気付いたら昼休みも終わりに差し掛かっていて、彼との会話を楽しんでいた自分に気付かされました」

 

 思い出を語る朱乃の表情は完全に恋する乙女のそれだった。少し羨ましいわね。

 

「それで好きになったの?」

 

「あら部長、私はそんなちょろインではありませんわ」

 

 ちょろイン? え? 何それ?

 

 朱乃の言葉に首を傾げるが、彼女は気にせずに続きを語る。

 

「一緒にトレーを片付けている時に、たまたまドリンクを買いにやって来た兵藤君が白野君に向かって言ったのです『あれ? お前お弁当食べたのになんで空の食器なんて持ってるんだ?』って」

 

「……つまり」

 

「ええ。彼は私とお話しするためだけにわざわざ昼食を二度摂ったわけです」

 

 ……意外だわ。確かに気遣いの出来る男の子だとは思ったけど、まさかそこまでとは。なるほど。そこまでされたら好意を持たない訳が無い。

 

「なるほど。それで好意を寄せ、恋に発展したのね!」

 

「いいえ」

 

 あれ~?

 

 自信満々に答えた私に朱乃が首をまたしても横に振る。

 

「確かにそれで好意を持ったのは間違いありませんわ。重要なのはそのあとですわ」

 

 まだ何かあるの? いったい私が体調を崩している間にどれだけのイベントが起きたのよ! 

 

 そんな面白そうなイベントに関われなかったことを心底悔やみながら、朱乃の話に耳を傾ける。

 

「私は翌日に彼へのお礼をと思い――腕を組んで胸を押し付けましたわ」

 

「――ん?」

 

「――はい?」

 

 ソーナと共に首を傾げる。おかしい。さっきまで恋愛少女漫画ばりの展開だった筈なのに、急に漫画自体の趣向が迷子になった気がするわ。

 

「ごめんなさい朱乃。もう一回言って」

 

「腕を組んで胸を押し付けた。ですわ」

 

「あ、聞き間違いじゃなかったわ」

 

 なんで感謝のお礼がそれなのか、これは問い質さなければならないわね。

 

 ソーナも同じ思いなのか、険しい表情の彼女と視線が合う。お互いに頷き合い、まずはソーナが質問した。

 

「姫島さん。なぜそのようなお礼をしたのか、生徒会長としても詳しく聞かせてもらう必要があるわ」

 

「私、身体にはそこそこ自信がありますから男の子の白野君ならきっと喜ぶだろうと思いまして。生徒達の噂にも私や部長の胸に触れられるなら死んでもいいと言う噂がありましたし」

 

 ――待って朱乃。それは間違い無く極一部の者達の言葉だと思うの。ていうか、あなた今男子に限定しなかったわね。え? いるの? そういう趣味の子?

 

 ソーナが眼鏡を外して眉間を掴みながら、それで。と続きを尋ねる。

 

「それが逆に心配されてしまって。『大丈夫ですか? すぐに保健室に連れて行きます!』なんて言って所謂お姫様抱っこで保健室に運ばれました。そして保健室のベッドに強制的に寝かせられ……」

 

 そこで朱乃は一度言葉を切ると、更に恍惚とした表情で溜息を吐いた。

 

「『何かあったか知りませんが、偶には甘えるのも悪くないと思いますよ? 姫島先輩は色々背負い込みすぎなんですよきっと。自分なら気にしませんから、どんと甘えちゃってください。とりあえず落ち着くまで一緒に居ますから』なんて言ってきゃ~♪」

 

 朱乃!? キャラが、キャラが壊れてるわよ!?

 

 その場でくねくねと身体をくねらせる親友の姿を見ながら、白野の言葉と行動を客観的にもう一度改めて見直し……ある結論に至ってソーナに耳打ちする。

 

「ねぇソーナ。もしかして白野がその時執った行動って……」

 

「ええ。憶測だけど、姫島さんが普段から周りの期待による疲れで前後不覚になっていると思ったのでしょうね」

 

 やっぱりそうよね。

 

「じゃあ白野にその気は一切無い」

 

「でしょうね」

 

 二人で結論を出して朱乃の方へと視線を戻す。

 

「私、男の人にそんな事を言われたのは初めてでしたわ。その日以来、私は彼の言葉が本当かどうか色々試して来ました」

 

「あなたのしているセクハラってそういう意味だったの?」

 

「最近は趣味半分、役得半分ですわね。気に入った殿方を公然と触れるというのは、なかなかに良いものですわ」

 

 ……白野。親友として許可するから一度真剣に叱りなさい。でないとあなた、これからもセクハラされまくるわよ。

 

「――じゃ。私は仕事があるからこれで」

 

 あ! 面倒臭くなって逃げたわねソーナ!

 

 眼鏡を掛け直したソーナが元々用事のあった花壇のある中庭の方へと足早に去っていく。その背中が『話しかけるな』という無言の拒絶を語っていた。あれはきっと声を掛けても止まらないわね。

 

「はぁ。白野の言葉じゃないけど、他の子にまでそんなことしないで――」

 

「する訳無いでしょ」

 

 私が全部言い終える前に朱乃が底冷えするような冷たい声色で即答する。そんな彼女の瞳には……光が無くって無い!? 無いわよ朱乃! 目に光が無いわよ!!

 

「私がそういうことをするのは白野君だけよ。フフフ。私、見た目通り貞淑な淑女ですわよ部長」 

 

「ア、ハイ」

 

 朱乃は興奮するとドSな所はあったけど、こんな面もあったのね。正直怖いわ。

 

 親友の意外過ぎる一面に戸惑いながら、私はそんな親友に気に入られた白野に少しだけ同情した。

 




朱乃さんを完全に惚れさせるか迷いましたが、ちょっとここで完全に惚れて本編並みのアタックをされると今後の展開がキツイでの寸止め状態を維持することにしました。



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【堕天使との邂逅】


今回は主人公の浄眼についての説明です。型月の『浄眼』設定が曖昧なので、いくつか独自設定を織り交ぜています。原作通りではないので注意してください。(そもそも原作に明確に登場しているは志貴のお父さんの話の時だけかな?)

あと、今回登場するキャラが原作より残念になっています。タイトルで誰かは分かると思う。




 帰りにお気に入りの和菓子屋でタイヤキをいくつか購入し、この辺りでは比較的大きい公園に足を運ぶ。

 

 食べ歩きは流石に帰宅ラッシュ時は人に迷惑だからなぁ。

 

 噴水近くのベンチに座って学園での事を思い出し、自分の特異な眼、【浄眼(じょうがん)】について考える。

 

 そもそも浄眼という言葉を教えてくれたのはキャスターだ。切っ掛けはある『化物』との戦い。

 

 そいつに切られた瞬間、サーヴァントの行動が『完全に殺される』のだ。攻撃という行為を殺され、防御という行為を殺され、果てにはスキル能力まで殺される。

 

 ……よく勝てたな。

 

 多分向こうが本気じゃなかったのだろう。自分達の前に99体のサーヴァントと戦っていたみたいだし、獲物もナイフだった。倒した後も余力を残した感じで去っていった。

 

 でも、どこか放っておけない感じの人だったな。

 

 化物と形容したが、相手は人間だったしかも女性。彼女が言うにはムーンセルに『迷い込んでしまった』だけらしい。きっと藤村先生のせいに違いない。

 

 そんな彼女が使っていた能力。セイバーやアーチャーは経験則と直感でどういったものかは理解していたみたいだが、キャスターは正確に見抜いていた。

 

『御主人様、あれは『死を視る』能力者です』

 

 戦闘後のマイルームで化物について考察している時にキャスターが教えてくれ。

 

【死を視る眼】

 

 位置づけとしては魔眼でもいいらしい。あまりにも珍しく正確な名は存在していないんだそうだ。

 

 能力はその名の通り『物の死』を視覚的に捉え、その死を切るなり突くなり破壊するなどすることでどん存在でも殺せると言う。なんとも反則じみた能力だ。

 

『いいですか御主人様、アレはダメです。決して自ら欲してはいけませよ』

 

 珍しく真剣な表情で語る彼女に更に詳しく尋ねると、まずその『死を視る眼』になった時点で世界が一変すると教えられた。

 

『あの化物がどのように世界が視えているか分かりませんが、まともな世界でないのは間違いありません。想像してみてください。常に死の見える世界を』

 

 キャスターの言葉に自分も頷いた。それはそうだろう。『死』なんてものが現実世界と合わさって常に見えるということは、それはもう『別世界』と言ってもいい程の違いがあるはずだ。

 

『まぁ適性があったのか、あの化物はあの眼を使いこなしていたので、多分視覚化の強弱くらいは出来ているとは思います』

 

 とりあえず『視え無くなる』ことはないが『視え難くする』ことはできるらしい。もっとも、それにはかなりの集中力がいるので、常に気を張っていないといけないらしい。

 

 魔眼の類について興味が湧いたので更に色々とキャスターに尋ねると、彼女は自分に頼られたのが嬉しいのか、嬉々として色々と教えてくれた。その中にあったのが浄眼だ。

 

 浄眼とは簡単に言えば『人ならざる物を見極める』眼の事だ。

 

 まず浄眼に共通しているのは『異質を見抜く』ことであり、結界の類や呪詛などの異質な現象も視界に捉えれば『感じ取る』ことができる。

 

 しかしその在り方は宿す者の性質で変わるらしく自分は相手の『魂』を視る事に特化した浄眼だった。

 

 浄眼は死を視る眼同様に常に発動していて、視覚化の強弱が可能だ。通常時は相手の魂の本質がもっとも解りやすい形として視覚できる。

 

 悪魔なら背中に悪魔の羽、動物の妖怪なら耳や尻尾といった物が半透明で確認できる。因みにハーフや別の種族が別の種族に生まれ変わった時にその種族の特性が残っている時は両方見える。黒歌が良い例で、彼女は猫又から悪魔に転生した為、耳と尻尾以外にも悪魔の羽が見える。

 

 集中する事でより詳しく具体的に視覚できるようになる。まず見えていた特長はそのままに、体の中心に魂の核であるソフトボール大位の光る『球体』が浮びあがる。

 

 核の色も種族によって違う。人間や動物は水色。悪魔が赤紫。妖怪は青だ。黒歌は赤紫と青が含まれた魂だ。

 

 ここまではなんら問題ない。だが、ここから更に集中し、自分が【完全開眼】と名付けた領域まで眼の力を上げると……世界が灰色へと一変する。

 

 まるで写真から色を抜き取ったような景色となり、色がついているのは核である『魂』と、それを護るように灯る『炎』と、そこから放たれる『光の線』だけになる。

 

 魂とは精神の器でもある。炎はその精神を視覚化したもので、炎の大きさ、灯る色、色の明暗が相手の感情によって変化し、それを視覚する事で相手が何を考えているのかを直感で理解できる。

 

 更にその炎から光りの線が放たれる。炎は精神そのもので、光の線が『これからこう動く』という思念の『予告線』として視覚化されているみたいだ。戦闘時には助かるが、正直日常生活ではあまり見たくない光景だ。

 

 もっとも浄眼を完全開眼する事は戦闘時でもないかりぎり殆ど無い。何せ魂と炎と線にしか色がない世界になってしまうのだ。正直居心地が悪い。もしかしたら死の眼もこんな感じに別世界に見えていたのかもしれない。

 

 それに完全開眼した後に元に戻すと眩暈が起きることから、少なからず身体か脳に負担が掛かっているとみて間違いない。最悪見える世界が元に戻らなくなる可能性がるのではないかと思っている。

 

 正直浄眼はせいぜい大勢の中から特定の相手を見つけたり、相手の嘘を看破するくらいにしか役に立たないと思っている。相手の気配や動きを探るなら別に黒歌に教わっている仙術による気配察知で十分だ。

 

 そんな事を考えながら、買ってきたタイヤキの入った袋をいざ開けようとしたその時――突然目の前にありえないモノが空から降り立った。

 

「うん。やっぱり候補の中じゃ、ヤるならここよね」

 

 黒い鳥のような羽が生えた痴女が現れた!?

 

「人通りも少ないし、ここにしましょ――」

 

 目の前に降り立った際どいボンテージスーツを身に纏った女性は、こちらに気付いた様子もなく、大きな胸と黒く長い髪を揺らして得意げに頷き、こちらに振り返った瞬間……その得意げな笑みのまま硬直した。

 

「…………」

 

「…………」

 

 なんとも言えない時が流れた。どうしよう。声掛けるべきか?

 

「……タイヤキ食べます?」

 

「あ、これはどうも」

 

「いえいえ。では私はこれで」

 

 袋からタイヤキを取り出して人外の女性に手渡し、そそくさとその場を後にしようとしたその時、背後から思いっきり肩を掴まれた。

 

「待ちなさい! 今あなたって、これウマっ!?」

 

 焦ったような怒ったような顔でこちらに迫る女性だったが、タイヤキを口に含んだ瞬間に驚きの表情を浮かべる。というか、この状況で食べるか普通。

 

「ちょ、もぐ、待ってなさい! いい、んぐ、命令よ!」

 

「あ、はい」

 

 必至にタイヤキをもぐもぐする仕草が妙に可愛くてつい言う通りに指差されたベンチに座ってしまった。

 

 それからしばらくして満足気な顔でタイヤキを食べ終えた女性は、先程までの緩んだ顔から引き締まった表情でこちらに振り返る。

 

「……ふぅ。さて人間、わたしの正体を見たからには――」

 

「口の端に餡子ついてます。どうぞ」

 

 台詞の途中でどうしても気になったのでハンカチを取り出して注意すると、女性はしばらく固まったあと、胸元から手鏡を取り出して、渡したハンカチで口元を拭った。というか今の手鏡、胸の谷間から出てきたぞ!?

 

「………ふっ。では人間、私の正体を見たからには、生かしては帰さないわ」

 

 理不尽だ。勝手に目の前に降りて来たのに。そしてなんだこの可愛いドジっ娘。

 

「そもそもお姉さんは何者ですか? 鴉の妖怪?」

 

「あんな雑食動物と一緒にするんじゃないわよ! そうね。自分を殺す相手くらいは教えてあげるわ。いい? わたしはレイナーレ! この世でもっとも崇高な種族である堕天使よ。覚えておきなさい」

 

 高笑いと共にドヤ顔で宣言される。堕天使、そうか、あれが堕天使の羽なのか。

 

「そうですか。自分は月野白野って言います。殺されるのは嫌なので……タイヤキで手を打ちませんか? 色々種類がありますよ?」

 

 そう言って、彼女がタイヤキを頬張っている間に考えていたこの場を収める方法を実行する。まぁ成功する可能性は極めて低い作戦な訳だが。なんせ食べ物で釣るだけだし。

 

 袋の中からタイヤキを取り出して堕天使の女性、レイナーレに見せる。

 

「……いくつ?」

 

 タイヤキを見るなりそう口にした。真剣な目で。あ、これ行けるかもしれない。

 

「四つ。味は白餡、栗餡、カスタード、チョコ!」

 

「…………いいわ。美味しくなかったら殺してあげるから、あなたはそこで座って待っていなさい」

 

 間をたっぷり空けた彼女は、同じペンチに少し離れて座り、タイヤキを頬張り始めた。それにしても、際どい衣装のままタイヤキを食う女性の絵と言うのは……なんともシュールである。

 

「これは……カスタードがこんなに……チョコの香ばしさが際立って……和菓子、侮れないわ。まさか餡の違いでここまで違うなんて……」

 

 四つのタイヤキを完食したレイナーレは、渡したハンカチで今度はちゃんと口元拭き、『ふぅ~』とご満悦な表情で溜息を吐いた。

 

「まさか人間界にこんなに美味しい物があるとは。ま、いいわ。今回は見逃してあげる。でもいいわね。私の事は誰にも喋るんじゃないわよ。ま、話したところで信じないでしょうけどね。フフフ」

 

 これ以上話すことはないと言いたげに飛び立つレイナーレ。そして気付く。

 

「あ、ハンカチ返して貰ってない」

 

 まあハンカチを持っていなかったみたいだし、プレゼントしたと思えばいいか。

 

「よっと」

 

『エネルギー』を消費して小倉味のタイヤキを『作り』、口に含む。

 

「う~ん自分で作って自分で食べても意味無いんだけど、まあ食べることに意味があるよね。うん、やっぱりここのタイヤキは美味しい」

 

 自分で作り出した味と触感が完全再現されたタイヤキを食べながら、自分のこの能力は便利だなぁと改めて思い知った。

 




と言うわけで原作よりもレイナーレが残念美人になってしまいました。

……いや、なんかね。何故かアニメや小説のレイナーレを見ていたら甘い物に弱いイメージが浮かんだんですよ。結果こうなりました。




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【お菓子な力と親友の相談】


今回は主人公のある能力についての説明回。



 帰宅後はいつも通りに家族と過ごし、寝る前に黒歌に公園であった出来事を相談する。すると黒歌は凄い険しい表情でうなった。

 

「御主人様、しばらく【神器(セイクリッドギア)】の使用は控えるにゃ」

 

「神器の使用を?」

 

 黒歌は頷いて理由を説明してくれた。なんでも堕天使の中核を担っている【神の子を見張る者(グリゴリ)】と言う組織は神器を持つ人間を見張っているらしい。

 

 無害なら特に干渉してこないらしいが、神器の中には特殊な物や危険な物も在り、そういった神器を宿した者を仲間に引き入れたり、時には神器が暴走する前に宿した人間を殺したり、神器を抜き取ることもあるそうだ。それと肉体から神器を抜くと抜かれた相手は死んでしまうらしい。原因は解かっていないんだそうだ。

 

 まぁ確かに自分の神器は特殊だよなぁ。

 

 気付いたら自分は『エネルギーで食べ物・飲み物を生成する』能力を得ていた。この能力が神器の力によるものだと教えてくれたのは黒歌だ。

 

 神器とは聖書の神が人間に与えた神秘の力なんだそうだ。純潔の人間以外でも、ハーフのように人間の性質が混じっていればどんな種族でも神器を得ることがあるらしい。

 

 自分のこの力で生み出される料理は美味しく食べれる適温で生成され更に味の再現も可能であり、消費は嵩むが自分でアレンジも可能だ。因みにその消費には器の生成も含まれるみたいなので、基本器を必要としない飴やクッキー等のお菓子を中心に生成している。

 

 そしてこのエネルギーだが、オーラと同じ精気や体力といった生命エネルギーを消費するらしく、限界近くなると、身体が重くなって疲労感に襲われる。

 

 逆にこの力で作られた物を食べると、生命力や体力、他にも魔力や妖力までも回復する。黒歌との話し合いで、多分『生きるのに必要なエネルギー』を補給させ、回復させているのではないかという結論に至った。ただし怪我などは治せない。病気には逆にすごい効果を発揮する。なんせ40度越えの熱が一日で治る程だ。

 

 黒歌と共に能力の把握に努めて数年。そこそこ詳細を把握することができた。

 

『生成していられる時間は24時間。24時間経つと粒子となって消えてしまう』

 

『食べ物は質ではなく量で消費エネルギーが変わる』

 

『食べ物を生成する際に元々の状態から自分でアレンジを加える場合は消費エネルギーが極端に増加する』

 

『『口に含む』段階で効果を発揮して回復が始まり、『飲み込む』ことで一気に回復する。そのため一定時間回復を継続させたい場合は飴等の口内に残る物の方が良い場合もある』

 

『口に含んだまま生命力を消費する行為を行うと、口内の食べ物の減りも加速する』

 

『料理を全て食べ切らなくても食べた分だけちゃんと回復する』

 

『基本自分のエネルギーで作った物を自分で食べても、プラマイゼロで意味が無い。むしろ器なんかは食べられないので場合によってはマイナスになる』

 

 今のところ解明しているのはこのくらいだろうか。

 

 名前が無いと不便と言う事で能力に肖り【豊穣神の器(ダグダ・グラダリス)】と名付けた。

 

「まぁ天使も悪魔も似た様なもんにゃ。天使側の教会連中は異教徒と判断したら人間でも問答無用で殺しに来る奴らもいるし、悪魔は優秀な者なら相手の事情関わらず悪魔に転生させようとするにゃ。正直この三種族には関わらない方が身の為にゃ」

 

 黒歌はその三種族、特に悪魔の話の時に物凄く不機嫌そうな顔で忠告する。彼女の背中にも悪魔の羽があるが、もしかしたら何か酷い目にあったのかもしれない。実際最初に出会ったときはボロボロだったわけだし。

 

「兎に角。ただでさえ悪魔が巣食う学園に通っているんだから、これからはより一層の注意を払って行動しなさい。もしその堕天使が許可無くこの地にいるならその内この町を治めている悪魔か教会の悪魔祓い(エクソシスト)が滅するだろうし、もし許可を貰っているなら目的を果たした後に立ち去るはずにゃ」

 

「分かった。出来る限り周りに注意するよ」

 

 黒歌の忠告をありがたく受け入れる。

 

 その日の夜、黒歌が珍しく人型で一緒に寝たいと我侭を言うので一緒の布団で眠る。こういうときの黒歌は昔を思い出して気持ちが落ち込んでいるのを知っている自分は、彼女の我侭を受け入れて腕枕して先に彼女が寝るまで背中を撫でてあげる。

 

 しばらくして黒歌から寝息がこぼれ始め、自分も目蓋を閉じる。

 

「……ん……白音(しろね)……ごめんね……」

 

 白音……か。黒歌の寝言で時折呟く名前。気にならないと言えば嘘になるが、自分からは一度も尋ねた事は無い。いつか彼女自身から伝えてくれると信じて、自分もまた夢の世界へと意識を落としていった。

 

 

 

 

 堕天使との出会いから四日が経ち、学園に行くと一誠がクラスの前で待ていて自分を見つけるなり腕を掴んでいつも祐斗を除いた四人で話す一階階段下に連れて行かれる。なぜここがたまり場なのかと言えば、女子のスカートの中が覗けるからという、なんとも低俗な理由である。自分は興味ないので基本三人が問題を起こした時にすぐに逃げれる場所に立っている事が多い。

 

「どうした一誠?」

 

「ああ、実はな白野。明日夕麻ちゃんとデートなんだよ」

 

「ああ、あの例の彼女か。そう言えば一度も会ってないな」

 

「お前今週やけに早く学園に行くから紹介できなかったんだよ」

 

「あ~すまん。ちょっと用事があってさ。で、デートがどうした?」

 

 朝の学園の教室は静かだから瞑想にもってこいなんだよな。それに今は堕天使を警戒して早朝訓練を休んでいるのでぶっちゃけ暇なのだ。家にいると黒歌が二度寝の誘惑をしてくるし。

 

 話を戻す為に一誠に尋ねると明日の休みに彼女とデートで何処に行けばいいか分からないから同じクラスの祐斗に聞いて欲しい。というお願いだった。

 

 確かに祐斗はモてる。が、自分は知っている。アイツは実は受身だ。

 

「多分無駄だぞ。祐斗自分からあれこれってタイプじゃないから、多分『彼女に行きたい場所を聞いてそこに行けばいいんじゃないかな?』なんて答えると思う」

 

「そ、そうなのか? 意外な発見だ。あ~でもどうしよう。やっぱここは王道路線で行くべきか?」

 

「その夕麻ちゃんに趣味とかないのか?」

 

 誰にだって一つくらいあるだろう。

 

「そう言えば。最近妙に下校時に食べ歩きする機会が多かった気がする」

 

 へー食べ歩きか。まぁ美味しい店の開拓は面白いし、意外に趣味が合うかもな。

 

「じゃあ美味いお菓子の店の食べ歩きでいいんじゃないか? 二人で軽くつまみながらウィンドーショッピングしたり、映画とかに寄ったり」

 

「おおいいね。じゃあさっそくルート決めだ! もちろん付き合ってくれるだろ?」

 

「ああ。提案したのは自分だし、この辺の料理店や喫茶店は見て周っているしな」

 

 結局その日は一日中一誠のデートプランを練るのに付き合わされた。

 

「じゃ、頑張れよ一誠」

 

「おう! 俺は明日、大人になるぜ!」

 

「気が早い」

 

 まぁなんだかんだで一誠は女性に嫌な事はしない奴だし、無理矢理迫ったりはしないだろう。

 

 一誠の家の前で別れ自分の家で夕食時に両親に一誠のデートの話を聞かせると、

 

「白ちゃんはいつ恋人作るの? まさかパパみたいに変な性癖があるの? お母さんそこだけが心配なのよ」

 

「父さんもだ。白野は子供の頃から少し成長が早い子だったが、まだ十代だ。恋人の一人でも作って青春しなさい。ただしロリの子にはYESロリータNOタッチの精神を忘れるな。合法で合意ならGOタッチだ」

 

「そうにゃそうにゃ。誰とは言わないけど魅惑なボディのお姉さんに手を出さないなんて間違ってるにゃ!」

 

 と、何故か心配されてしまった。そして父さん、あまり紳士の部分を見せないでくれ。残念イケメンにしか見えなくなってしまう。ついでに黒歌、それはお前の事か? 手を出して欲しいのか? だが出さんぞ。少なくともお前の問題を解決するまではな。

 

 恋人ねぇ。ま、なるようにしかならんよなぁ。

 

 口にするとまた家族に何か言われそうなので心の中で呟きながら黙々と食事を続けた。やはり母さんのご飯は美味い。

 




ようやく今回で白野に関しての解説回を消化し切りました。(残りの疑問は本編でちょっとずつ解明していきます)

因みに『豊穣神の器』は完全にアーシアの『聖母の微笑み』と同系統の能力です。あっちは怪我は治せても病気は治せませんからね。

次回から本格的にイベント開始。

因みに一誠がドライグ宿している時点でもう分かると思いますが、普通に彼は悪魔化します。つまり彼には原作通りにハーレムを持たせますので、少なくともリアスとアーシアは一誠ハーレムに流れます。期待していた方は申し訳ない。



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【親友が悪魔になりました】


ようやくオカルト研究部と接触はっぱり予想していたより話数が行った(予定では四話だったんだけどなぁ)




「白野いるか!!」

 

「その声は一誠か? 挨拶も無しに――!?」

 

 夜もいい時間に突然一誠が息を切らせて我が家にやって来た。

 

 一誠はデートの翌日体調を崩したとかで学園を休んでいた。そして今日来た一誠は――背中に半透明の悪魔の羽を生やしていた。

 

「実は――」

 

「ちょっと上がれ!」

 

 慌てて一誠を家に上げて部屋に連れて行く。部屋に入ると黒歌が険しい表情をしていた。多分気配を察知して警戒していたのだろう。

 

「単刀直入に訊く。一誠、お前ここ数日で何があった」

 

「――その前に白野、俺もお前に聞きたい事がある……夕麻ちゃんを覚えてるか?」

 

「お前の彼女だろ? それよ――」

 

「お前は覚えてるんだな!!」

 

 一誠が突然こちらの両肩を掴み、何処か救いを求めるような真剣な表情で詰め寄る。

 

「いや覚えてるって、そんな忘れっぽくはないぞ。携帯にも残ってる……ほら」

 

 自分の携帯を取り出して以前一誠に貰った画像を見せる。すると一誠は食い入るようにその画像を見詰め、盛大に溜息を吐いた。

 

「はぁあ~……良かった。やっぱり夕麻ちゃんは居たんだ」

 

「……本当に何があったんだ一誠? 順に教えてくれ」

 

「あ、ああ。実はよう……」

 

 一誠はあのデートの日、夕麻ちゃんと確かにデートしたらしい。そしてその後の事を話そうとすると前置きに『夢だと思うんだけど』と言って続きを語った。

 

「実はその、デートの最後に夕麻ちゃんがなんかこう、急に雰囲気変わったと思ったら、際どい衣装の綺麗なお姉様に変身して、背中から黒い色の天使? みたいな翼を出して、それで光の槍? みないなのに刺されて、ああ俺死んだ。って思ったら、そこにリアス・グレモリー先輩が現れて……って何言ってんだか。ワリィ、やっぱこの辺は夢だから気にしないでくれ」

 

 ありえないとばかりに頭を振って一誠はそこで一度話を切って溜息を吐く。

 

 その間に一度『先日の堕天使の仕業か?』という表情で黒歌に視線を向けると、黒歌もこちらの意図を理解してくれたのか、険しい表情で頷く。

 

「と、とにかくそんな夢を見た翌日体調が悪くて休んだんだ。今日も身体がだるかったんだけど、夜になったら昨日よりは楽だったから両親に夕麻ちゃんの事を訊いたら、二人共そんな娘知らないって言うんだ。俺の携帯の彼女のメアドや電話番号、写真も消えてて。番号は覚えていたから直に掛けたんだけど通話不能で……それで直接会ってる松田と元浜に連絡したら二人も『知らない。お得意の妄想か』って笑われて、それで次に写真を持ってる白野の所に来たんだ」

 

 一誠はもう訳が分からないといった表情で俯く。

 

 彼女の存在が無かった事にされている? いや、無かった事にしたが、正しいのか。それに一誠の話で出てきたグレモリー先輩……そして一誠の翼の件。

 

 黒歌が以前言っていた悪魔が力ある者を悪魔に転生させているという話を思い出す。

 

 この答えを得る方法は一つしかない。が、そんな性急に動いてもいいものだろうか?

 仮にグレモリー先輩が一誠を生き返らせたとして、何故放置した?

 

「……悩んでも仕方ないか。一誠、とりあえず明日は学園には行けそうか?」

 

「あ、ああ。でも夕麻ちゃんの事はどうするんだ?」

 

「きっと彼女なら全ての答えを知っているはずだ」

 

「彼女?」

 

「ああ。リアス・グレモリー先輩だ」

 

 

 

 

 一誠と共に学園に登校した自分は、先に教室に来ていた祐斗の席へと一誠と一緒に向かう。

 

「やあおはよう二人共。どうしたんだい、いつもと雰囲気が違うけど?」

 

「祐斗……放課後一誠をオカルト部に案内してあげてくれないか?」

 

「随分急だね。本当にどうしたんだい白野君?」

 

 祐斗の様子を伺うと、本当に驚いていると言うか、困惑している感じだった。もしかしてグレモリー先輩は一誠の件をまだ祐斗には話していないのかもしれない。

 

「オカルト部に相応しい話を一誠が体験してさ。なんでも黒い翼の女に殺されたり生き返してもらったり、特定の人物の記憶を消されたりといったものらしい」

 

「――っ!?」

 

 祐斗が驚いたように目を見開く。なんというか、一誠もそうだが祐斗も大分解かりやすい性格をしていると思う。まぁ人の事言えないけど。

 

「オカルトじみてて普通の人には話し難くてな。そういうのに詳しそうな人に話を聞いて欲しいんだ……頼む」

 

 頭を下げて頼み込むと、慌てて一誠が間に入る。

 

「お、おい白野。何も頭を下げなくても」

 

「……分かった、連絡を入れておくよ。だから頭を上げて白野君。君にそんなことをされたら僕は困ってしまうよ」

 

 苦笑しながらいつもの気遣いのある口調で祐斗に促されて頭を上げる。

 

「ありがとう。一誠、放課後祐斗が迎えに行くから教室にいてくれ」

 

「あ、ああ。それで夕麻ちゃんの事が分かるんだったら何時間だって待ってやるぜ!」

 

 拳を握って無駄に力強く叫んでクラスに戻る一誠を見送る。そして祐斗が小声でこちらに尋ねてきた。

 

「白野君は来ないのかい?」

 

「自分はいいよ。正直困っている一誠に何かしてやりたかっただけだし」

 

 言葉に嘘は無い。実際一誠が心配だから少し性急に接触したわけだし。ただ自分という存在が逆に場を乱してしまうかもしれない可能性もある。それに黒歌にも警告されているから出来る限り避けられるなら避けたい。

 

 ま、祐斗がいれば大抵の事はなんとかなるから、自分がいなくても大丈夫だろう。

 

 

 

 

 そう思っていた時期が、自分にもありましたよっと。

 

 放課後。三人で旧校舎へと向かう……何故だ!?

 

「なあ? なんで自分も?」

 

 祐斗に理由を尋ねると苦笑しながら答えてくれた。なんでも一誠の話をしたらグレモリー先輩に一緒に連れて来て欲しいと頼まれたんだそうだ。

 

「それにしてもオカルト部って旧校舎にあるんだな。そう言えば偶に旧校舎の二階の窓から先輩を見かけてたなぁ」

 

 一誠がそう言いながら物珍しそうに校舎内を見回して付いて来る。夕麻ちゃんの事はいいのだろうか?

 

 それにしても外観はともかく、建物内は綺麗だ。

 

 外観は古い印象を受ける様相だったが、木造二階建ての旧校舎の校内は綺麗に掃除されていて蜘蛛の巣も窓枠や壁の端にも堪った埃も無い。まるでここだけ別の空間のようだった。

 

 祐斗の後に続いて二階に上がり、更に二階の奥の教室へと向かう。そして目的の場所に着いたのか、祐斗が足を止めた。

 

「ここが普段僕らが活動している拠点、『オカルト研究部』だ」

 

 確かに教室のプレイートには『オカルト研究部』と書かれていた。

 

「リアス・グレモリー先輩がオカルト部に所属しているって噂、マジだったんだな」

 

 一誠がありえないと言った感じに呟く。

 

 確かに普段の彼女、というかグレモリー先輩も含め祐斗も朱乃先輩も想像つかない。まぁ悪魔だからきっと色々事情があるのだろう。

 

 一誠と一緒にプレートを眺めている間に祐斗が扉をノックし、中からグレモリー先輩が答え、まず祐斗が、続いて自分と一誠が入室する。

 

「な、なんじゃこりゃ!?」

 

 一誠が驚くのも無理はない。なんせ壁や床に見知らぬ文字がいくつも描かれ、部屋の中央には巨大な魔法陣が描かれていたのだから。

 

 これ事情を知らなかったら危ない集団一歩手前な気がする。

 

 自宅ならともかく公共の施設にこんな事したら普通に犯罪である。

 

 部屋の奥には本棚とテーブルを囲うように豪華そうなソファーが幾つか配置され、仕事用かデスクも複数置かれていた。そのソファーには朱乃先輩の他に銀髪でショートカットの小柄な女の子が座っていた。

 

「あ、あれは一年の塔城小猫(とうじょうこねこ)ちゃん!」

 

「知っているのか一誠!」

 

「おう。ってなんで知らないんだよ一年じゃ有名だろ! 寡黙で無表情のクールビューティーでありながら、その愛らしい外見から一部の男子と大多数の女子生徒から可愛いと評判のマスコット系後輩! それが塔城小猫ちゃんだ!」

 

 拳を握って力説する一誠。塔城さんはそんな一誠を一瞥すると特に何も言わずに視線を食べていた羊羹に戻して食事を再開した。なるほど確かにクールだ。が、個人的にはそこではなく彼女の背中の頭とお尻から出ている半透明の悪魔の羽と白い猫耳と二又の尻尾が気になる。多分黒歌と同じ猫又の妖で、後から悪魔に転生したのだろう。もしくはハーフか。

 

「部長。連れてきました。僕の右手側にいるのが兵藤一誠君です。白野君の紹介は不要ですよね?」

 

 そしてこちらのやり取りをスルーして、祐斗が正面の上座のソファーに足を組んで座るグレモリー先輩へ話し掛ける。

 

「ええ、ありがとう祐斗。さて、はじめまして兵藤一誠君」

 

「えっあっ、は、はじめまして兵藤一誠です! あ、あの俺――」

 

「落ち着け一誠。ほれ、深呼吸」

 

「あ、ああ。す~~はぁ~~」

 

 ここに来て早く夕麻ちゃんについて知りたいという思いから、焦ってしどろもどろになる一誠を落ち着かせる。

 

「白野の言う通りよ。焦らないでもちゃんと答えてあげるから。そしてその為に、まずは伝えておくわ……私達は悪魔なの。そして……あなたも」

 

 グレモリー先輩が立ち上がり悪魔の翼を広げる。すると他のみんなも立ち上がって一斉に翼を広げ、そして一誠の翼も呼応するように広げられた。

 

 なるほど。本物の翼が広げられると半透明の方は消えるのか。黒歌も耳と尻尾を出すと半透明の方は消える。もっとも翼の方は逆に半透明のままだった……二重に視えると邪魔だから消えるのだろうか? 

 

 一部の者の半透明の部分には触れずにそんな事を考える。きっと事情があるのだろうから自分からは追求しないつもりだ。

 

「え、えええぇぇぇーー!?」

 

 新たな発見と情報に心の中で頷く自分の横で、一誠が今日一番の驚愕の悲鳴を上げた。

 

 




原作では一誠が死んでから数日経ってますが、この作品では死んでからせいぜい二日、三日程度ですね。ですので二度目の堕天使との遭遇は無くなります。



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【オカルト部からの勧誘】

今回はオカルト部での一誠の神器覚醒の回です。



「なんじゃああああこりゃあああーー!?」

 

 本日二度目の一誠の驚愕の悲鳴を聞きながら、ソファーに座って朱乃先輩が淹れてくれたお茶を飲みつつ、先程までの事を思い出す。

 

 まずは一誠の事情からと、グレモリー先輩と一誠の話し合いが行われた。

 

 最初に一誠が尋ねたのはもちろん夕麻ちゃんについてだ。

 

 グレモリー先輩は一誠の状況から彼女を堕天使と断定したらしい。

 

 この時初めて知ったが、堕天使は最初から堕天使として生まれる者と、天使が自己の欲望によって堕ちた者の二種類が居る。大抵純潔の堕天使は後者で、前者は人間とのハーフが多いと教えて貰った。

 

 そしてグレモリー先輩は一誠が夕麻ちゃんに殺されたあとに自身が生き返らせた事を告げた。

 

 どうやら偶々デートの日に悪魔が願いを叶える為に配っている召喚用のチラシを貰っていた一誠は、死ぬ間際に強く死にたくないと願った為、グレモリー先輩が呼ばれ、その場で一誠を悪魔に転生させたらしい。

 

 もちろんそこには彼女の打算があった。そしてそれが一誠が狙われた理由でもあった。なんと一誠も神器持ちだったのだ。

 

 つまり、一誠は運悪く『神の子を見張る者』の連中の目に留まってしまい、一誠の神器が危ないかどうかを調べる為にレイナーレが派遣され、そして危険と判断されて殺された。といったところか。

 

 そしてここからグレモリー先輩の打算の話になる。

 

 なんでも悪魔は以前の天使と堕天使との三つ巴の戦争で純粋な種の数を大幅に減らしてしまったらしい。

 

 元々出産率が低いらしく、このままでは堕天使や天使に滅ぼされる可能性があると判断した悪魔達は素質のある他種族を悪魔に転生させて眷属を増やす事にしたんだそうだ。

 

 それはグレモリー先輩も例に漏れず。死に掛けた一誠を見て、状況から堕天使に殺されたと判断した彼女は強力な神器を持つ可能性のある一誠を下僕にするため悪魔に転生させた。

 

 そして今、夕麻ちゃんの一軒から少しだけ落ち着きを取り戻した一誠が神器のレクチャーを受け、初めて神器を出して叫んだと言うわけだ。というか出せるものなんだと初めて知った。

 

 一誠の手には手の甲に緑色の宝玉を付け、手首辺りまで赤く鋭角なフォルムで覆われた籠手らしき物が装着されている。

 

 そんな一誠の神器に対して、自分の場合は手の平からオーラのようなものが出てそれが形を成す。距離が離れた場所に出す時は、手の平と出したい場所に空間の歪みが現れ、手の平からオーラが空間に吸い込まれ、もう一つの空間の上に料理や飲み物が生成されて現れる。

 

「それが一誠の神器よ。一度出れば後は自由に出し入れできるわ……さて、それじゃあこちらも、もう一つの本題に入りましょうか」

 

 一誠からこちらに視線を移すグレモリー先輩。どうやらようやく自分を呼んだ理由を説明してくれるらしい。

 

「白野、あなたをこの場所に呼んで正体を晒した理由は……あなたを守る為よ」

 

「自分を?」

 

 首を傾げながら尋ねるとリアス先輩が頷いた。

 

「運悪く堕天使の痕跡消去を免れてしまったあなたに、一誠を殺した堕天使が接触して来るかもしれないわ。本来なら暗示で記憶を消すのが一番なのだけど……朱乃と祐斗が反対してね」

 

「そうなのか……みんなの記憶が消えるのは嫌だったな。ありがとうございます朱乃先輩。祐斗」

 

 二人のお礼を伝えると二人共嬉しそうに答えてくれた。

 

「うふふ。気にしないで下さい」

 

「そうだよ。僕もいきなり白野君に態度を変えられたら寂しいしね」

 

「まぁあなたなら私達の正体を知っても他言しないだろうし、今まで通り接してくれると判断して正体を明かす事にしたって訳よ。それと安全の為にこれを持っていて」

 

 そう言ってグレモリー先輩は一枚のチラシを机の上に置いた。チラシには『あなたの願い叶えます』という文字と魔方陣が描かれていた。裏面にはアンケートのような物が書かれている。

 

「もし堕天使と接触する事があったらそれで私達を呼びなさい。部室には一応私か朱乃がいるから、どちらかが駆けつけられると思うわ」

 

「分かりました」

 

 こちらがチラシを受け取るのを見届けたリアス先輩は、満足そうに頷くと口元に笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「ところで白野、あなたも神器持ちよね?」

 

「……はい。名前はさっき知りましたけど」

 

 黒歌に聞いて知っていたが、知っていると言うと黒歌の事を話さないといけないので、知らぬ振りをする。

 

「あら? 隠さないのね」

 

「だって先輩、顔が笑っていますよ。どうせ確信を持って言っているんでしょ?」

 

 そう答えるとグレモリー先輩が舌を出しながら、あらバレちゃった。とお茶目にウインクする。その仕草を見て一誠が顔を赤らめて、可愛い。と呟く。まぁ可愛い事は否定しない。

 

「この部屋には色々と防衛の為に結界が張ってあってね。一誠が来るから一応神器に反応する結界を起動しておいたの。そしたら一誠だけじゃなくてあなたにも反応があってビックリよ」

 

 なるほど。流石に悪魔の拠点だけあって色々と処置が施されているんだな。

 

「先輩の神器は覚醒済みなのですか?」

 

 搭城さんが少し興味を抱いた目でこちらを見つめながらそう尋ねてくる。思えば初めての会話な気がする。

 

「うん。ただ神器の事は今日初めて知ったから勝手に名前をつけて使っていたんだけど。能力はエネルギーを食べ物や飲み物に変換して相手に与える事で相手の生命力を回復する回復系だね」

 

「食べ物ですか?」

 

 首を傾げながら塔城さんが興味津々な目をする……可愛い。妹がいたらこんな感じだろうか?

 

「ああ。味から食感まで完全に再現できる。アレンジも可。こんな感じだね」

 

 そう言って神器を発動して、塔城さんの前の空の器に二切れの芋羊羹を出す。

 

「因みに温度は熱い物は温かい状態で、冷たい物は冷えた状態で出る。ある程度は冷めたり温まったりするけど、基本それが美味しく食べられる適温に保たれる」

 

「……では、はむ。んん~♪」

 

 芋羊羹を口に運ぶと塔城さんは幸せそうな表情で噛み締め。ずず~と緑茶を飲んで更に恍惚とした表情をする。

 

「確かに食べた瞬間に身体が温かくなって、力が湧いている気がします」

 

「へ~面白い神器ね」

 

 ついでとばかりに自分が今まで纏めた能力の内容を説明する。もちろん黒歌の事は内緒にしているのでいくつかの部分を意図的に省いた説明になるが、それでも基本的な事は変わらないので問題ないだろう。

 

「まるで聖杯の元になったケルト神話に出てくるダグダの大釜のようね。飢餓や病気を治す為に生命力や体力といったエネルギーを回復するってところが近いわ」

 

「ええ。ですから自分はこの能力を勝手にこう呼んでいました。『豊穣神の器』と」

 

「なるほど。なかなか洒落ているわね。ところで白野……あなたも悪魔になってみない?」

 

 グレモリー先輩が笑顔でなんか怪しい気配を放つ赤いチェスの駒を取り出す。確かこの駒の形は『騎士(ナイト)』だったか?

 

「それは?」

 

「これは【悪魔の駒(イーヴィル・ピース)】。色々効果はあるけど、今はとりあえずこれを使えば悪魔に転生させられるってことだけ覚えてくれていればいいわ。それでどうかしら?」

 

「いいじゃねーか白野! 一緒に悪魔になろうぜ!」

 

「いや軽すぎるだろ。そんな一緒にトイレ行こうぜ的なノリでは決められないって。というか、自分は人間のままでいいです」

 

 一誠の言葉にツッコミを入れつつグレモリー先輩の申し出を断る。そして黒歌が悪魔に転生できた理由も分かった。どうやらあれで悪魔になったのだろう。後で彼女から詳しい事情を聞くとしよう。

 

「そう。まぁ強制はしないわ。ただあなたも神器を持っている以上は気をつけなさい。教会で訓練された人間ならともかく、私達の世界は一般人では簡単に死んでしまう裏の世界だから」

 

「ええ。一応自分に変な力があると分かってから鍛えてはいますが、身の程は弁えています。でも、もしも自分の力が必要だったら遠慮無く言ってください」

 

 どの道見て見ぬ振りが出来ない性格だし……まぁ桜との約束があるから、無茶はしても無理はしない。

 

「……そうね。あなたの力が必要な時は、遠慮無く頼らせて貰うわ。あなたも、私達みたいな連中絡みで何かあったら遠慮なく頼ってね。私の下僕達の友達なのだから」

 

 少し含みのある笑みを浮かべてそう提案するグレモリー先輩。もしかしたらまだ自分の勧誘を諦めていないのかもしれない。

 

「ありがとうございますグレモリー先輩。みんな、ただの人間だけど、これからもよろしく」

 

「おう!」

 

「うん」

 

「よろしくおねがいします」

 

「ふふ。楽しくなりそうですわ」

 

 こうして自分は日常から非日常の世界へと本格的に足を踏み入れた。そして帰って黒歌に事情を説明しないといけないことに気付き、頭を抱えた。

 




と言うわけで白野は悪魔にならず、本格的な入部もしませんでした。
基本自由に動ける立場のままで居て欲しいので、どこかに所属させる事はしません。

そして部室の神器の感知系の結界は完全に独自設定です。いや、正直本拠地なのに防衛機能が手薄すぎる気がしたんですよ。原作だと壁や床に無数の文字があるという描写があるし『彼』も封印さているから、まぁそういう感知系の術式が書かれていてもいいかと思い、今回の形になりました。



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【黒歌の過去とこれから】

という訳でタイトルどおりに黒歌の回。まぁ前半は悪魔の駒の説明だけどね。



「あれほど関わっちゃダメって言ったのに。御主人様はお馬鹿にゃん?」

 

家に帰り黒歌に事情を説明すると、彼女は自分に正座を強要し、膝を前足でベシベシと叩きながら不機嫌そうな声で説教を始めた。

 

「仕方ないだろ。一誠が困っていたんだし……あ、話変わるけど、黒歌が悪魔に転生したのは悪魔の駒のせい?」

 

「……そうにゃ。あまり思い出したくないけど今後の為にも説明しておくにゃん」

 

 説教回避のために話題を変えると、黒歌は大きく溜息を吐いたあとに渋々といった感じに乗っかってくれた。そして黒歌による悪魔の駒の説明会が開始された。

 

 悪魔の駒。

 力のある悪魔が己の眷属悪魔を増やす為に作られたアイテム。

 他種族は勿論、同族にも使用できるアイテムであり、死んですぐの者にも使用できる。

 駒その物はチェスに肖っている為、駒の種類や数、呼称はチェスと同じらしい。それぞれの駒の特徴も教えて貰った。

 

 『(キング)』。数は一つ。悪魔の駒の所有者の証であり眷属の主の象徴。悪魔の駒の使用が可能以外はこれと言った特徴はない。

 

 『女王(クイーン)』。数は一つ。他の駒である『兵士』『騎士』『戦車』『僧侶』の特性を全て有した駒であるため、この駒を持つ者はもっとも『王』に信頼されていると言われている。

 

 『騎士(ナイト)』。数は二つ。スピード強化の特性を持つ駒。

 

 『僧侶(ビショップ)』。数は二つ。魔力系強化の特性を持つ駒。

 

 『戦車(ルーク)』。数は二つ。力と防御力強化の特性を持つ駒。他にもキングと位置を入れ替えるキャスリングという能力を有する。

 

 『兵士(ポーン)』。数は八つ。特性は特になし。変わりに敵の最深部に到達した時に好きな駒の特性を得られるプロモーションという能力を有している。

 

 駒の説明をする時に黒歌はどの駒を使われたのか尋ねると、彼女は『僧侶』を二個使って悪魔に転生したと少しだけ誇らしげに胸を張って見せた。

 

 悪魔に転生する際に駒を使用するのだが、駒の消費が大きければ大きいほど、その存在の強さを示すと教えられた。因みに僧侶は兵士の駒三つ分の価値があるというのでつまり黒歌はまだ弱かった頃で既に兵士六個分の価値を持っていた事になる。

 

「じゃあ黒歌の主は今もいるのか?」

 

 駒の説明が一通り終わったので、いままで聞けなかった事を黒歌に尋ねる。黒歌は顔を伏せ、しばらく悩んだあと、人の姿になってから口を開いた。

 

「もういないわ。私が殺したから」

 

 いつものおちゃめな表情でも、寂しそうな表情もなく。真剣な、覚悟を決めたような眼差しで黒歌がそう答える。

 

「そっか……じゃあ黒歌が突然呼び戻されるとかはないんだな。良かったぁ」

 

「そ、それだけ?」

 

 安堵する自分に、更に事情を追及されると思っていたらしい黒歌が戸惑った表情をする。

 

 もちろん気にならないと言えば嘘になる。だがどうしても、自分には黒歌が無意味に誰かを殺す事が想像出来なかった。

 

「黒歌は確かに気分屋だし悪戯好きだし嫌いな相手に容赦無いのも知ってる」

 

 この前野良がちょっかいかけて来たときなんて大人気無くオーラ纏った爪無し猫パンチで執拗に殴っていたし、無神経に撫でようとする大人には引っ掻く。優しくされたいお年頃なのだろう。

 

「い、言いたい放題ね」

 

「でも子供には甘いし、気に入った相手には頼られると断れない優しくい所があるのも知っているよ」

 

 微笑みながら黒歌の良い部分を伝えると、彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめて唸る。

 

「だからかな。自分の意思で誰かを殺すのは想像できても、誰かに命令されて他人の命を奪うのが想像できない。となると、黒歌は自分の意思で主を殺した事になる。でも悪魔の世界でも殺人は罪が重いんじゃない?」

 

 個人的には悪魔の社会はもっとカオスなものを想像していたけど、グレモリー先輩とかを見ると自分達の社会とそう変わらないと思い、そのあたりのことを尋ねる。

 

「ええ。悪魔に限らず天使も堕天使も、犯罪を犯せば罰が与えられるわ。それが嫌で逃げた者や罰として追放された者は【はぐれ】と呼称される。特に危険な者は討伐対象にされる。まぁ基本『はぐれ』に対してこの世界は残酷よ。なんせ見敵必殺(サーチ・アンド・デストロイ)が許されるんだから。特に眷属の悪魔が主を殺すのは悪魔界ではかなりの罪になるわ」

 

 それはなんというか、酷い。だがその話を聞いてますます黒歌が自分の為に行動する事が想像できなくなった。基本的に自分の事に関しては楽しい事以外はあまり頑張らないのが黒歌だ。

 

「じゃあやっぱり悪いのは黒歌にその行動を取らせた元主じゃないか?」

 

「にゃ~御主人様はどうしても私をイイ者にしたいのねぇ」

 

 黒歌が困ったような顔で苦笑し、頬を軽く指で掻く。

 

「当然だよ。黒歌は大切な家族なんだから。例え世界が、その他大勢が黒歌の敵に回っても、自分は黒歌の味方だよ」

 

 出来るだけ真剣な表情で彼女に伝える。

 

「いずれその罪が黒歌の前に立ちはだかる時が来たとしても、自分も一緒に解決する為に手助けする。だから黒歌……君はここに居ていいし、居て欲しい。全部話して出て行くことは許さない」

 

「っ――で、でも私がいるせいで、もしかしたら悪魔や天使、堕天使にも襲われるかもしれないわよ?」

 

 黒歌の反応と言葉を聞いて、やはり彼女は何かあった時はここを去る気でいたのだと知り、彼女を説得できる今の内にそれを知ることが出来て良かったと、心の中で安堵の溜息を吐く。

 

「むしろ黒歌の過去が迫るよりも、自分のせいで厄介事に巻き込まれる黒歌しか想像できないんだけど?」

 

 生前からトラブルに巻き込まれやすい性質だった。今思えば犯罪者の黒歌を拾ったり、危険な神器を持つ一誠と幼馴染だったり、悪魔の居る学園に通ってしまったりと、既にトラブルの切っ掛け自体は前々から抱え込んでいたことになる。自分も神器持ち出し。

 

「――まぁ、確かに今回の一軒も御主人様の行動のせいよねぇ」

 

 黒歌はこちらの言葉を否定せずに真剣な表情で俯いてしまう。ごめんね後先考えない御主人様で。

 

「だからさ。一緒に守っていこうよ。今の幸せをさ。自分はただの人間だから黒歌が鍛えてくれないと下手したら死んじゃうし」

 

「自覚があるならもう少し慎重に行動して欲しいにゃ……でもまぁ、仕方ないにゃ」

 

 そう言って黒歌は自分が初めて彼女にプレゼントした首輪代わりの桜の刺繍が施された白いチョーカーに触れながら、にっこりといつもの悪戯っ子の様な笑顔を見せてくれた。

 

「今の私は『首輪付き』だから、御主人様を守ってやるにゃん!」

 

 そう言って彼女はいきなりこちらにダイブしてくる。慌てて抱き止めるがそのまま押し倒される形になる。因みに正座の体勢のままだったので、太股がすごい突っ張り悲鳴を上げる。っていうか痛い痛い!!

 

「ちょっ黒歌、まじでこの体勢はダメだって攣る! ていうか攣ってる攣ってる!!」

 

「にゃははは! 人の事を悪く言った罰にゃ!」

 

 楽しそうに笑う彼女の声を聞きながら、なんとか彼女の抱擁から抜け出そうともがく。が、足が痺れて更に身動きが取れなくなり、結局彼女の抱擁から抜け出せたのは三十分後だった。

 

 

 

 

 ――寝たかにゃ?

 

 いつものようにベッドで御主人様である月野白野と共に眠りに付き、腕枕してくれる御主人様の表情をうかがう。

 

 規則正しい寝息を立てるその寝顔が可愛らしくて自然と顔が綻ぶ。

 

 私は愛おしさに突き動かされるように、より体温を感じたくて御主人様の方に身体を寄せて密着する。

 

 にゃぁ御主人様の体温は暖かいにゃん。

 

 あのあと、私は御主人様に抱きついたまま私の全てを御主人様に伝えた。妹の白音の事。元主の悪魔を殺した理由。私のこれまでの過去も。

 

 ご主人様は全てを聞き終えると、いつもの笑顔で『頑張ったね。もう大丈夫だよ』と言って私の頭を撫でてくれた。それが心地よくて、嬉しくて、柄にもなく少し泣いてしまった。

 

 御主人様は気付いているのかしら。さっきの言葉、実は前にも一度言ってくれた事があることに。

 

 私は御主人様の寝顔を見ながら、今でも鮮明に思い出せるあの日の事を思い出す。

 

 元々私と妹の白音は人間界で暮らしていた猫又だ。当時の生活は正直酷いものだった。白音だけが唯一の支えだった。

 

 そんな私達の妖の力に興味があったらしい前の主に生活を保障してやるからと転生を持ちかけられ、私は悪魔に転生した。

 

 悪魔の元での生活は、正直きつかった。あいつは強くなる為ならなんでも試す人格が歪んだ奴だった。

 

 自惚れになるかもしれないが、私には才能があった。魔法もすぐに上達し、仙術を覚え、妖術を操り、気付けば主である奴の力量を遥かに超える強さを得ていた。

 

 だが白音は違う。

 

 白音に才能が無いとは思わない。だがそれ以上に白音はまだ色々と幼かった。特に仙術や妖術は扱いが難しい。性急に事を運べば力に耐えられずに暴走――最悪死んでしまう。

 

 その危険を理解しながら、奴は白音に無理矢理修行をさせようとした。

 

 私は悩んだ。もちろん殺す事ではなく、白音を連れて行くかをだ。

 

 悩んだ末に、私は白音を置いて行くことにした。

 

 これから先ずっと逃亡生活を続けなければならない。そんな生活に妹を巻き込みたくはなかった。

 

 幸い近くの領地には悪魔界でも有名な愛情深いグレモリー家が存在している。運が良ければそこに引き取って貰えるか、擁護して貰えるかもしれないという可能性に賭ける事にした。残念ながら当時の私に妹の将来を確実に幸せにしてあげられる力は無かった。

 

 そして私は主である悪魔を殺し、追手に追われながら人間界へと逃れた。人間界に逃げたのは少しでも追っての目から白音を遠ざけたかったのと、人間界は領地によっては悪魔以外の者が納めている所もあるので、追っ手を撒きやすいと思ったからだ。

 

 だが私が思っていたよりも追っ手の攻撃は苛烈であり、その時の怪我と疲労、何よりずっと一緒だった妹が居なくなった事への精神的負担で、私は猫の姿で倒れてしまった。

 

 雨の中、道の端で横たわる生きた私を、通行人達はまるで死体を見るかのような不愉快そうな視線で一瞥し、去って行く。

 

 普段の私だったら怒りを覚え、その怒りを糧に立ち上がり、白音の元へと戻っていただろう。

 

 だが、白音はもう居ない。私にはもう……帰る場所が無い。

 

 その事を自覚した瞬間、何もかもがどうでもよくなってしまった。

 

 ああ、ここで死ぬのか。

 

 そんな考えが過ぎると同時に、身体から力が抜けて行くのが分かった。

 

 ごめんね白音。

 

 ゆっくりと目蓋を閉じて最後の支えの糸が切れかけたその時……私は誰かに抱かかえられた。

 

『頑張ったね。もう大丈夫だよ』 

 

 その透き通った声に目蓋を開けると、そこには男の子が居た。

 

 男の子は傘も差さずに両手で私をしっかりと抱かかえ、心から安堵した表情で私を見詰めてくれていた。それが、私と御主人様の出会いだった。

 

 御主人様はそのまま私を抱えて家へと連れ帰ると、パパさんとママさんに事情を説明し、すぐに暖かいお湯にタオルを用意してくれた。なんでもママさんが猫を飼っていたらしく随分と手際が良かったのを覚えている。

 

 あとで知ったが、この時に出された微温湯の飲み水は、御主人様が神器で生成した物だったらしい。そのお陰で私はすぐに回復したのだろう。

 

 そのあと御主人様が私を普通の猫ではないことを知りながら助けたと知って驚き、ママさん達も私が喋っても『妖怪なんて初めてみたわ』なんて言って優しく笑うだけで受け入れてくれた。

 

「にゃぁ。自由な野良が性に合っていると思ったのに、すっかり飼い馴らされちゃったわ」

 

 それもこれもこの家族が優しいから、御主人様が私を甘やかすからいけないのよ。

 

 居心地が良いこの場所を、今更手放す事は出来ない。それこそ、飼われた者の証である『首輪』を受け入れたその日から、私はきっと御主人様の物になってしまったのだろう。

 

「ん……」

 

「にゃふふ。寝顔は年相応なのに、偶に男らしいんだから……」

 

 静かに眠る御主人様の横顔を見ながら、私は今度こそこの生活を、大切な人を傍で守ると決意する。

 

「もう二度と……大切な人から離れたりしないわ」

 

 軽く御主人様の頬にキスし、抱きしめて眠りに付く。

 

 おやすみなさい。私の御主人様。 

 




ぶっちゃけこの作品の黒歌のポジションは幽白の蔵馬ポジジョンと同じだったりする(別の世界から追われて人間界に逃げ込んだら、逃げ込んだ先に情が移って離れられなくなった感じ)

それと原作読むと黒歌や小猫の過去は軽くしか語られていないので、色々個人的に補完してます。



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【悪魔召喚と二度目の邂逅】


「手札から悪魔召喚を発動!!」

という訳で原作での一誠の悪魔召喚回。



 黒歌の秘密を知ってから数日が経った。その間に多少だが色々あった。

 

 まず一誠は悪魔になったが今まで通り友人として付き合っている。最近はよく二人で登校する時に悪魔の仕事との愚痴を聞いている。

 

 なんでも悪魔召喚のチラシを欲望を持つ人間の住む家のポストに投函しているらしい。それも毎晩。しかも自転車で。完全にチラシ配りのアルバイトである。

 

 祐斗の説明ではチラシ配りは悪魔なら誰もが通る道らしい。それとリアス先輩と小猫ちゃんから名前呼びの許可が貰えたのでこれからは名前で呼ぶ事にした。

 

 それと一誠が深夜の活動が許されているのは一誠の両親にリアス先輩が深夜の行動を認めるように暗示をかけたからだそうだ。やっぱり悪魔はすごい。何でも有りだと思った。

 

 他にも支取先輩と生徒会副会長の真羅椿姫(しんらつばき)先輩が放課後に会いに来た事もあった。どうやらリアス先輩から事情を聞いたらしく、自分達も悪魔だと向こうから教えてくれた。

 

 なんでもこの学園、というよりもこの街はリアス先輩の実家が管理している土地らしく、今はグレモリー先輩が代表として管理を任されているらしい。

 

 ただこの学園に関しては、日の出ている表の時間の学園の秩序と管理を護るのが支取先輩達生徒会の役割で、夜の間の裏の仕事の管理をするのがグレモリー先輩達オカルト部の役割らしい。

 

 因みに支取先輩の本名はソーナ・シトリーと言う名前で、グレモリー先輩と同じ純血悪魔で生徒会は全員彼女の眷属なんだそうだ。更に言うと二人共上流階級の家の生まれらしい。リアルお嬢様だった。

 

『あなたは人間です。あまり我々の世界には関わらない方がいいと私は思います』

 

 いつもの少し引き締めすぎとも思う厳しい表情で忠告してくれた支取先輩に、リアス先輩と同じ答えを返すと、支取先輩はその表情を僅かに緩め、苦笑しながら『あなたはやっぱり変わり者ね』と言って去って行った。その話を遊びに行った部室でしたら朱乃先輩にセクハラされた。

 

 他にも神器には色々なタイプがあることを知ることが出来た。

 

 発動時に一誠の様に武器や防具の様に物理的な形を成す物もあれば、祐斗や自分の様に肉体に融合して力だけ現れる物もある。

 

 祐斗の神器については一誠と神器の話をしている時に祐斗本人が教えてくれた。

 

 祐斗はあらゆる属性の魔剣を生成できる『魔剣創造(ソード・バース)』という神器を持っているらしい。厨ニ全開でカッコイイ。

 

 そう言えば一誠の神器は結局なんなのだろ? リアス先輩も詳しく調べると言って、それっきりだ。個人的には妙な気配をあの神器から感じるので出来れば早く正体を突き止めて欲しいと思う。

 

 他には悪魔や天使、堕天使について一誠と一緒に勉強したりした。一誠にはリアス先輩がメインに教え、自分には朱乃先輩が教えてくれたが、何故か『あらあら、うふふ』と言いながら胸を押し当てられる事が多かった。セクハラである。

 

 ……なんか朱乃先輩にセクハラされた記憶しかない。あんな人だったっけ?

 

 とまぁ大して日常の変化は無く。今日は部室に寄らずに帰っていると、

 

「あっ」

 

「あっ」

 

 移動販売のクレープの列に並んでるレイナーレを見つけた。

 服装は流石にあの際どいのではなく白のブラウスの胸元のボタンを大胆に開け、スカートは黒でスリッドが深めに入ったタイトスカートを穿いていた。

 

 ……どうしたもんかなぁ。

 

 彼女に幼馴染である一誠を殺された。その負の感情は確かに自分の心にある。だが最初の印象が印象だけに、何故か憎みきれない。

 

「あ~うん。見なかった事にっぐえ!?」

 

「待ちなさい。丁度良かった。ここのクレープ一人一つの限定販売なの。私の為に並んで買いなさい」

 

「ええ!? 何故!?」

 

 結局押し切られて一緒に並ばされ、彼女の食べたいと言ったクレープを注文し、近くのベンチに着くなり、二つとも彼女に奪われた。流石堕天使、なんてずるい!

 

「じゃ、もう帰っていいわよ」

 

「ここまで行くともはや何も言えない。ところでレイナーレはなんでこの町にいるんだ?」

 

 一誠の事を言いたいが、それでまた狙われても困る。とりあえず情報を得られないかと、会話を続ける事にした。あと、年上だろうけど、これまでがこれまでなので、さん付けはしない。

 

「なんであんたにそんな事を教えなきゃいけないのよ?」

 

「そうか。じゃあそのクレープの代金を貰おうか」

 

「な、何て卑劣な! これだから人間は!!」

 

 ありえないと言った表情のレイナーレ、それはこっちの台詞である。なんとこの堕天使、クレープのお金を出していない。

 

『私に貢げるんだから光栄に思いなさい』と言われた。そろそろ本気でしばいてもいいんじゃないかと思っている。

 

 因みに払いを渋った理由を尋ねたら、自由に使える程のお金を持っていないらしい。堕天使の組織は以外に経費に厳しいのだろうか?

 

「ちっ。まぁいいわ。ただの人間のあんたには解からないでしょうけど。この世界には不思議な力を持つ人間がいるわ。私達堕天使はその人間の持つ力が危険かどうか監視しているわけよ。つまり人間界を護っているのは私達って訳、感謝して敬いなさい」

 

「はいはい。で? その任務でこの町に?」

 

「だんだん対応が雑になって来たわねあなた。まぁそんな所よ。じゃあ私は行くわ。流石に三度目は無いでしょう。さようなら」

 

 レイナーレはそう言って投げキッスして決まったって顔をしたので言ってやった。

 

「鼻の頭にクリームが付いてる」

 

「先に言いなさいよ馬鹿!」

 

 自分が以前渡したハンカチをポケットから取り出したレイナーレはそれで鼻を拭って走り去って行った。ナルシストなドジっ娘かぁ、新しいジャンルだ。

 

 そんな事を考えていると携帯が鳴った。一誠?

 

「もしもし?」

 

『白野か? 実は今日、初めての召喚を行うんだ! できればお前にも立ち会って欲しいんだ』

 

 ほう。ついに一誠も悪魔として召喚か。確かにそれは見たい。

 

「分かった。立ち会うよ」

 

『ホントか! じゃあ夜になったら迎えに行くよ!』

 

「そ、そうか。じゃあ待ってるよ」

 

 ようやくチラシ配りから開放されるのが嬉しいのか、テンションの高い一誠の声に若干気後れしながら携帯を切る。さて、それじゃあ二人に夜の外泊の事を伝えないとな。

 

 

 

 

「でさ、今日の放課後町でアーシアって言う超絶美少女シスターに出会ってさ。日本語が苦手らしくて困っていたから教会まで案内してあげたんだよ。悪魔になったお陰で今の俺は全ての言語を操るインターナショナル一誠に生まれ変わったからな。道案内くらい楽勝だったぜ!」

 

「ああ、そう言えば悪魔講座で言っていたっけ。ではそんなインターナショナル一誠に、この筆記の英文の解答を英文で――」

 

「調子乗ってスンマセンでした!!」

 

 華麗な土下座を決める一誠。うん。あくまで全ての国の言語を理解できるようになっただけで、本人が書けるようになった訳じゃないからね。まぁ知っててやらせようとした理由は、ドヤ顔にちょっとイラっときたからだ。

 

 それにしても悪魔がシスターを助けるか……一誠らしいと言えばらしいか。

 

 約束通りに一誠が家に迎えに来たので二人で部室に向かうと、部室では朱乃先輩が魔方陣を弄っていた。どうやら転移術式に一誠の情報を登録しているらしく、しばらく待っていて欲しいと言われたいので二人で雑談しながら待つことになった。

 

「それでその子も俺達と同じ神器持ちでさ、傷を癒す能力なんだ。体力は回復させられないみたいだけど」

 

「へ~自分の能力と反対だな。自分は体力は回復できても傷は無理だし」

 

「ホント、その子が教会関係者じゃなければスカウトしたかったわ。重要な回復要員が一気に二人増えると思ったのに」

 

 心底残念だと言いたげに大げさに頭を振って溜息を吐くリアス先輩。そんな先輩だが、この話を一誠から聞いた当初は一誠をかなり強めに叱ったらしい。

 

 なんでも悪魔は聖なる気に弱く、教会などの神聖な場所に行ったり、聖水や十字架等の道具に触れると、効果が弱くても悪魔本人の強さにもよるが、軽い頭痛を感じたり触れた部分を軽く火傷したりするらしい。更に危険なのが天使や堕天使が持つ『光力(こうりょく)』という魔力の対となるエネルギーで、天使も堕天使もこの力で術を扱い、悪魔に深いダメージを与えてくるのだとか。

 

 その光力は祝福という形で人間にも扱えるように出来るらしく、光力を纏う武器を用いて戦う者達を『悪魔祓い(エクソシスト)』と呼ぶ。メイン武装は『光剣』と呼ばれる刀身が光力で形成された剣と『封魔銃』と言う光の弾を打ち出す銃の二つが有名らしい。

 

 これらの話を聞いてリアス先輩が怒るのも無理はないと思った。下手したら一誠はその教会で天使側の連中に消滅させられていたかもしれないのだから。

 

「さて、無駄話は終わり。準備ができたわ一誠。そこの魔方陣に立って」

 

「了解です部長!」

 

 元気の良い返事と共に一誠が嬉しそうにリアス先輩の指示に従う。何故か飼い主に構って貰えて喜ぶ犬の姿が浮んだ。

 

「さっきも言ったけど、今回は小猫の依頼がタブルブッキングしてしまった為、片方には一誠に行って貰って事情説明と共に願いを叶え、見合った対価を貰って来て貰うわ」

 

「ふふ。では一誠君、手を出してください」

 

 朱乃先輩が一誠の手に触れると、一誠の手の甲に部室にある魔方陣と同じ魔法陣が浮ぶ。

 

 悪魔にとって魔方陣は家紋のようなもので、眷属は全て例え外から見えなくても身体に大小の魔方陣が刻まれているらしく、魔力を扱う行為を行う時にも魔方陣は現れるらしい。

 

「OKですわ部長」

 

「これであなたもこの部室の魔方陣にいつでも転移できるようになったわ。魔方陣同士の転移は特殊でね。魔力の消費をかなり抑えられるし、眷属しか移動できない。それにこの魔方陣に刻印を刻めば刻んだ相手に何かあったときに光って知らせてくれる」

 

 おお随分と便利機能満載な魔方陣だ。

 

「白野は刻めないんですか?」

 

「私、というよりグレモリーの眷属である事が絶対条件だから、白野が使うには悪魔になるしかないわ。どう?」

 

「いや、流れで返事しませんから、そんな期待の籠もった顔をしないで下さい」

 

 あら残念。と、全然残念そうじゃない顔で笑うリアス先輩。相変わらずおちゃめな人だ。

 

「では一誠君。転移させますわね」

 

「は、はい!」

 

 緊張から声がうわずる一誠。大丈夫だろうか?

 

 そんな一誠の緊張の高まりと同じく、魔方陣の光は強くなりそして――一瞬で消えた。魔方陣の光の方が。

 

「え?」

 

「は?」

 

「あらら?」

 

「……あ、朱乃?」

 

 その場に居る全員が唖然とした表情で魔方陣と一誠を見詰め、しばらくして正気に戻ったリアス先輩が朱乃さんに声を掛ける。

 

 朱乃さんもその声に我に返って魔方陣を出してそれに触れながら、何かを確認するように目を動かし……困ったような笑みを浮かべた。

 

「え~と、その、誠に言い難いのですが。どうやら一誠君の魔力が少な過ぎて魔方陣が起動しないみたいです」

 

「「……は?」」

 

 自分と一誠の声が重なり、リアス先輩は驚きのあまり表情を固めてしまった。そして……。

 

 

 

「ちくしょぉぉおおおおおおお!!」

 

 一誠は真夜中の町を号泣しながらチャリを爆走させて依頼主の元へと向かった。

 そんな一誠を校門で見送った自分は、彼の背中に向けて自然と敬礼を取っていた。

 

 頑張れ一誠。史上初のチャリ通悪魔として、強く生きろ!!

 




「リバースカードオープン! 魔力不足を発動し、悪魔召喚を無効にする!!」

という訳で転移に失敗しましたとさ。原作読んだ時はマジで『えぇ?』ってなりましたよ。

ぶっちゃけるとこの回はアーシアというシスターの情報を白野が手に入れるためだけの回だったりする。

当初はアーシアと接触させる案もあったのですが……それだと一誠の覚醒フラグが折れると思い直して今回の形になりました。



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【三度の邂逅と白野の魔術】

と言うわけで彼女がまたもや登場。そして現在の白野の持つ能力最後の一つの紹介。



 一誠の悪魔としての仕事が始まって数日だ経った。登校の時に一誠が初めての戦闘について興奮気味に語ってくれた。なんでもはぐれ悪魔と戦ったそうだ。

 

『もし主が酷い奴で、自分を守る為に殺すなんていう理由だったら?』

 

 黒歌の件もあるのでその日の放課後にそれとなくリアス先輩に尋ねたら、捕まえた悪魔次第だろうと言われた。支取先輩も似たような答えだった。やはり黒歌についてはもう少し様子を見てから相談した方がいいかもしれない。

 

 他にも『はぐれ悪魔祓い』と呼ばれる所謂教会を追われた神父やシスターもいる。基本組織から追われた連中は『はぐれ』呼ばわりされるのかもしれない。

 

 そして一誠の始めての戦闘だが、一誠自身は戦っていないらしい。悪魔の駒の説明と実戦を知って欲しかったみたいだ。

 

 戦った悪魔は上半身裸で胸から硫酸を出す下半身が蜘蛛みたいな悪魔だったらしい。なんでも悪魔は力に飲まれて正気を失うと人の形を保てなくなってくるんだとか。やっぱり悪魔の世界は怖い。そりゃ黒歌が妹を助ける為に一線を越えるわけだ。

 

 悪魔の駒についてや、悪魔界でもっとも盛んな『レーティングゲーム』なるものを教えて貰ったが、レーティングゲームに人間の自分が参加する事は無いだろうからあまり覚えていない。

 

 そんな感じで今日も一誠の悪魔の話から始まり、いつものように授業を終えて家に帰った自分だったが、妙な胸騒ぎがした。

 

 なんか嫌な予感がするんだよなぁ。

 

 虫の知らせとはこういうことを言うのだろうか? さっきから気持ちがザワついて仕方が無い。

 

 ……少し散歩にでも行ってみるか。

 

「どうしたにゃ?」

 

「ちょっと嫌な予感がするから散歩に行ってくる」

 

「……にゃ? 嫌な予感がするのに出歩くの!?」

 

 一瞬意味が分からずに固まった黒歌だったが、言葉を意味を理解した瞬間にありえないとばかりに目を見開いた。いやだって部屋に居ても嫌な予感するんじゃ、仕方ないだろ?

 

「にゃ~、じゃあ私も隠れながら付いて行くにゃ」

 

「いやでも……」

 

 黒歌の提案に少しだけ難しい顔をする。彼女がもしリアス先輩達に見つかった時の事を考えると、できれば家に居て欲しいというのが本音だ。

 

「悪いけど引かないにゃん。嫌な予感がするなら尚更にゃん」

 

 猫の姿ではあるが、彼女は真剣な表情でこちらを見上げ、更に闘気を漲らせて威圧までしてくる。

 

「……はぁ。分かったよ」

 

 立場が逆なら自分もそうすると思うので、溜息を吐きつつ頷く。それを見届けた黒歌は満足そうな笑顔で頷き、闘気を散らしていつものように自分の頭の上に乗っかる。

 

 二人で両親にちょっと気晴らしに散歩に行くと伝えて家を出て、嫌な予感に突き動かされるまま、とりあえずいつものランニングコースを歩く。黒歌は既に自分の頭から降りて夜の闇に隠れながら自分を見守っている。

 

 その途中――空から聞き覚えのある声に呼びかけられた。

 

「止まりなさい」

 

「その声は、レイナーレ?」

 

 声のした方へ視線を向けると、そこには初めて出会った時の格好で空中で腕を組み、真剣な表情でこちらを見下ろすレイナーレが浮かんでいた。どうやらあれが堕天使時の彼女の正装らしい。やだヤラシイ。

 

「三度目ね白野。よくよく縁があるわ。ええ本当に……」

 

 表情は険しいまま、レイナーレは探るような視線をこちらに向ける。

 

「何か用か? 急いでいるんだけど?」

 

「……実はさっき私の加護を受けた下僕が悪魔と交戦したらしくてね」

 

 レイナーレはこちらの言葉を無視して語り始める。

 

「私が出向いた時にはそこにはもう悪魔はいなかったけれど、下僕の話じゃどうやら交戦したのは私が殺したはずの兵藤一誠というガキだということが解かったの」

 

 ……まずいかもな。

 

 レイナーレの話を聞き、目を逸らさないままゆっくりと身体に『気』を練る。気配がより感じやすくなる。ふと見ると彼女の背後の道の影で黒歌が鋭い目で彼女を睨んでいた。あまり言いたくないが――あれは確実に殺る目をしている。間違い無くヒットマンの目だ。

 

 今の自分ではこの技は一発が限界。つまり確実に当てないと……レイナーレが死んじゃうな。

 

 正直に言えばせいぜい知人程度の知り合いのレイナーレにそこまで気を使うのもどうかとは思う。が、どうしても夕暮れで出会った時に見せてくれた人らしい仕草をする彼女が頭にチラついてしまう。

 

「正直、もう私の中では彼の事なんてどうでもよくなっていたのよ……でもね。本当に、本当に偶々思い出したのよ。彼には『幼馴染がいる』という話題と、その幼馴染さんの名前を……ね」

 

「そうなのか。それはまた、随分と唐突だな」

 

 まったく。そのまま忘れてくれれば良かったのに。

 

「ええ本当に。さて、ここまで言えば解かるわよね幼馴染さん。確か日本には『三度目の正直』という諺があるらしいわね……それじゃあ今度こそ……さようなら」

 

 レイナーレが別れの言葉を放つと同時に光の槍をその手に生み出しこちらに投擲する。その瞬間、その場を飛び退き光の槍を回避しながら彼女に向かって手の平にオーラを収束させる。

 

「《code:rel_mgi(b)》!」

 

 腕の周りに数列が浮び、そこから三日月形の青白い光が放たれる。

 

「なっ!? きゃああああ!?」

 

 反撃を予想していなかったのか、レイナーレはこちらの放った一撃を頭部にまともに受けると、軽く弾かれそのまま地面に向かって落下してくる。

 

 まずい!!

 

 慌てて駆け出し、地面とレイナーレの間に自分の身体を滑り込ませる様にダイブする。

 

「ぐっ!」

 

 落下してきた彼女を受け止めながら、地面に背面を強く打ちつける。

 

「いっつぅ」

 

 つい助けてしまった。

 

 演技だったらどうしようと思いながらレイナーレに視線を向けるが、彼女はどうやら今の一撃で気絶したらしい。この場合、立場的には当たり所が良かったと言うべきなのだろうか?

 

「――御主人様。なんでそいつを助けたのかしら?」

 

 そんなどうでもいい事を考えていると、いつの間にか黒歌が人の姿で背後に立ち、物凄い冷たい視線でこちらを見下ろしていた。正直チビりそうなので止めてください。

 

「……ちょっと腑に落ちないところがあるから」

 

「どういうこと?」

 

 助けた理由の大部分が個人的感情なのは間違いないが、他にもちゃんと理由がある。

 

「どうしてレイナーレは自分を殺そうとしたのかなってさ」

 

「にゃ?」

 

 黒歌が意味が解からないと首を傾げる。

 

「だってそうだろ? 確かに自分は一誠と知り合いだが普通の人間だ。レイナーレは自分に神器があるとは気付いていなかったようだし、それなら無用な殺人を犯すよりも、他の連中にしたように暗示なりして記憶を消した方が穏便に済む」

 

 自分の説明を聞くうちに、黒歌も『それもそうね』と言って顎に手を当てて理由を考え始める。

 

「とりあえず家に連れて帰ろう。で、理由を聞く。場合によってはリアス先輩達に引き渡す」

 

「……ふぅ。まぁ私の存在に気付けない程度の力の堕天使なら瞬殺できるから、といらえず今はそれで納得するにゃん」

 

 彼女を背中に背負い、黒歌が猫化して頭に乗る。

 

 ……美女と猫を運ぶ自分の姿をいったい周りの人はどう見るだろう。

 

 そんな不毛な事を考えながら、重い足取りで来た道を引き返すために踵を返す。

 

 にしても、上手くいって良かった。黒歌との訓練では何度か使ったけど、実戦では初めてだし。

 

 歩きながら先程レイナーレに放った一撃を思い出す。

 

 先程の術は元々は生前居た世界で使用していた『簡易術式(コードキャスト)』と呼ばれる詠唱等の工程を必要とせず魔力を通して念じるだけで発動できる魔術スキルの一つだ。

 

 もっとも、自分の力量不足でこの世界では発動に一小節必要だ。

 

 そもそも元の世界でも自分は礼装と呼ばれる装備品が無ければ簡易術式どころか魔術すら使えなかったのだから、当然と言えば当然の結果だ。

 

 この世界を生きる上で、肉体を鍛える以外で強さを求めた時に最初に浮かんだのが生前の霊子魔術だった。

 

 元々オーラは形無き身体エネルギーである生命力を精神力で扱う為、魔力と殆ど変わらない力だ。

 

 生前の知識とこの世界の魔術を知る黒歌の協力を得て、お互いに話し合い、試行錯誤してようやく基礎が完成したのが一年前だ。

 

 改めて凜やラニ、慎二が、いかに優秀な魔術師だったかを身を持って実感させられた。なんせ自分と黒歌が数年近く頑張って作った物を、彼らは高速に、正確に、短時間で行い、実行可能にしてしまっていたのだから。

 

 しかも神器と違ってサポートが無いから扱いが難しいしエネルギーの消費も激しいんだよなぁ。

 

 その為効果に段階を付けることでネルギー消費の無駄を抑える事にした。

 

 だいたい(a)が二倍。(b)が七割。(c)が五割。(d)が三割の増減基準となる。攻撃や回復の場合はそのままランクが高いほど高威力であり消費エネルギーも高くなる。

 

 それより、この状況についてなんて説明すればいいんだろう。

 

 帰宅後の両親への説明や安全を考えたりと、やる事が一気に増えたなと思いながら、そう言えばレイナーレが一誠が戦闘したと言っていたのを思い出す。

 

 連絡が無いって事は少なくとも大事には至っていないって事かな? 嫌な予感も無くなったし、一応後で無事かどうかの確認はしておこう。

 

 帰ってからやることが一つ増え、心の中で溜息を吐いた。

 

 




と言うわけで生前の世界の霊子魔術の使用が、最後の能力ですね。

まじこいではハンターハンターの法則でオーラその物で『模倣』してましたが、こっちはちゃんと術式を組んでいるので模倣ではなく完全に『再現』しちゃっています。

その分上位の礼装の魔術(完全回復や攻撃無効化など)やサーヴァントのスキルなんかは消費が激しいので滅多に使用できない感じですね。まぁ、だからこそ主人公にエネルギー回復系の能力を持たせた訳ですが。


【原作の技・装備解説】
『注意:効果の名称が略称で正式名が分からない物もあるのでルビは振っていません。申し訳ない』

装備名:『空気撃ち/ニの太刀』
効果:『rel_mgi(b) ○ボタンで2手スタン+低レベルの敵撃破』
解説:『魔力放出ランクBを使用できる』

フィールドで○ボタン押すと敵に向かって魔力が飛び、当たれば消滅するか、バトル時に相手が二手行動不能にできる礼装です。
正直使い勝手はいまいち(敵が動きまくるし、ゲームの性質上戦ってパネルを開けないといけないので)

解説を見る限り、原作の魔力放出とは仕様が違うようなので、普通に魔弾の扱いとしました。

因みに三の太刀も有り、解説だとランクは上ですが効果が下回るせいか消費MPは二の太刀の方が上だったりします


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【レイナーレの計画】

ちょっと流れが不自然だったので当初考えていた展開を大幅に変えていたら時間が掛かった。とりあえず原作の例の計画が露見する回です。



 レイナーレを連れて帰ったら凄い騒ぎになった。

 

「白ちゃんが痴女を連れて帰って来た! そういう趣味だったの?」

 

「そうか白野はそっち系なのか。お父さんとは逆のベクトルだが、応援するよ」

 

 なんてヒドイ。なぜ家の両親は恋愛面でこうも残念なのか。

 

 気が引けるが本当の事を言う訳にもいかないので、黒歌の妖怪仲間で怪我しているから連れ帰ったと言ってなんとか納得してもらった。

 

 レイナーレをベッドに寝かせ、念のためにビニール紐で手と足を縛る事にした。その際に黒歌が悪戯っ子の様な悪い笑みを浮かべ、彼女の両手足を一纏めにして結ぶ。なんかドーナツみたいな円の形が面白かったので、携帯で写真に収めた。その様子を見て黒歌が爆笑していた。

 

 暴れたらこれをリアス先輩経由で悪魔と堕天使の世界に拡散して貰おう。

 

「さて次は一誠か」

 

 電話を掛けてしばらくすると一誠が電話に出たが、声に心なしか元気がなかった。

 

『で、どうしたんだ白野? 夜中に電話だなんて』

 

「いや、嫌な予感がしたからとりあえず電話してみたんだが……どうかしたのか一誠?」

 

『あ~うん……なぁ白野。もしも、もしもさ。自分を助けてくれた恩人と、自分が助けたいと思った相手、どちらかしか救えないとしたら……お前ならどうする?』

 

 ……本当に何があったんだ?

 

 思い詰めたような声色で質問する一誠が心配になると同時に、この質問こそが今の彼を悩ませる問題なのだろうと理解し、既に自分の中では答えが出ている以上、偽り無く答えた。

 

「自分なら、今しか救えない方を救う。その後のことはその時に考える」

 

 自分の即答に、一誠の息を呑む声が聞こえた。それからしばらく無言が続くと、一誠は小さな声で『そうだよな』と呟いた。

 

『そうだよな。部長には沢山の仲間が居るけど、アーシアにはきっといない。それにアイツ等と、人を平然と殺せる奴等なんかと一緒にいるなんて間違ってる。決めたぜ。俺はアーシアをあそこから連れ出してやる。あとはなるようになれだ! サンキューな白野。そうと決まったらさっさと寝て身体を治してやる!』

 

 そう言って一誠は電話を切ってしまった。

 

 しまった。結局事情を聞けなかった。

 

 とりあえず明日にでも一誠に事情を聞くことにして携帯を仕舞う。

 

「一応目覚めた時の為に徹夜で交代して監視しようか」

 

「了解」

 

 黒歌と今後の行動を話し合い、改めてレイナーレに視線を向ける。

 

「うふふ。アザゼル様~。シェムハザ様~グフフ」

 

「……この子想像以上に残念な子ね」

 

「そうだね」

 

 二人でなんとも言えない表情で良い笑顔で寝言を呟くレイナーレを見下ろす。なんか生前戦ったエリザを思い出す。エリザも残念美少女だったからなぁ。あ、でもエリザはやる時はやる子だったから今のところ向うが上か。

 

 

 

 

 結局レイナーレは朝になっても起きる気配が無かった。

 

 いつものように朝食を摂って部屋に戻ってしばらく経つと、いつもと違って外行きの服を着た母さんがやって来た。もちろんレイナーレの身体は布団で隠して頭だけ出して普通に寝ているように見せているから、彼女がドーナツになっている事に気付く事はないだろう。黒歌の悪戯好きも困ったものだ。

 

「お友達の様子はどう? 私今日は町内会の主婦のみんなと旅行だから、もう出なくちゃいけないんだけど?」

 

 ああそう言えばそうだった。それに父さんも今日は会社に泊まると言っていた。ふむ。ということは少なくとも二人の安全は確保されたわけか。

 

「心配だから看病しているよ」

 

「分かったわ。じゃあ学園には病気って事にしておくわね。白ちゃんファイト!」

 

「いや何が!?」

 

 なぜか激励して母さんはイイ笑顔で去って行った。完全に誤解されている気がする。

 

「にゃはは。大丈夫、そんな事は『私が許さない』にゃん♪」

 

 黒歌、語尾に『にゃん』を付けても目が笑ってないよ。目が。

 

 こちらを物凄い鋭い眼差しで見詰める黒歌から目を逸らして溜息を吐きつつ玄関まで母さんを見送る。

 

 さて、とりあえず一度起こすべきか。

 

 部屋に戻ってレイナーレに声を掛けながら身体を揺する。

 

「おいレイナーレ」

 

「うぅ……ん? はく……のっ!? っていったあああぁぁぁ!?」

 

 目蓋をゆくりと開けたレイナーレとしばらく見詰め合うと、彼女は昨夜の事を思い出したのか、自分がどういう体勢か気付かないまま身体に力を入れたせいだろう。盛大に悲鳴を上げた。

 

「ふふふ。御主人様を殺そうとした罰よ」

 

 ……何故いつの間にか元の姿になったんですか黒歌さん? そしてなんで全力で威圧してるんですか? こっちまで恐怖で震えるんですが!?

 

「ひっ!? な、何者よあんた!」

 

 慣れている自分ですらビビっているのだ。直に叩き付けられているレイナーレは顔を青くし身体を震わせていた。縛られた格好のまま。

 

「黒歌。それじゃあレイナーレが質問に答えられない」

 

「ぶーぶー。御主人様は甘すぎるわ」

 

 そう言って黒歌は威圧を弱めるが、その目は鋭くレイナーレを見据え続ける。

 

「はあ。とりあえず……昨日の晩の事は覚えているよな?」

 

「ええ覚えてるわよ。白野……あなた何者なの?」

 

 レイナーレは青い顔のまま、それでも気丈にこちらを睨みながら質問に答え、そして今度はレイナーレから質問が返される。

 

「ただの人間」

 

「嘘付きなさいよ! 普通の人間に、そんな上級悪魔クラスの化物を従えられるはずが無いわ!」

 

「おお。一応その辺りの目利きはできるのね。ちょっと意外にゃん」

 

 レイナーレの質問に答えるが、彼女は声を荒げながら唯一自由な首を激しく振って否定し、黒歌は感心したように声を上げる。

 

「あ~まぁほら、お互いの事はこの際脇に置くとして……このままだとレイナーレ、殺されるよ?」

 

「……あっ」

 

 自分の言葉に一瞬訳が分からないといった感じに呆けるレイナーレだったが、自身の現状を思い出したのか、また顔を青くさせ、落ち着き無く視線を彷徨わせる。

 

「とりあえずなんで自分を殺そうとしたのかを教えてくれる?」

 

「……そ、それは」

 

「さっさと答えないと消し炭にするにゃん」

 

「わ、私の正体を知っているからよ!」

 

 黒歌が手に炎を出して威嚇すると、レイナーレはすぐに答えた……ちょっとチョロ過ぎないか?

 

「レイナーレの正体を知っていると何か問題なのか?」

 

「……私と仲間はこの街である計画を行っていたわ。そして兵藤一誠がその計画に必要な重要人物と接触していたことが下僕の話で分かったのよ。ここまで来て計画を断念なんて出来ない。だから計画に支障が出る前に、あなたを殺して私の情報を隠匿しようとしたのよ」

 

 ……ふむ。一応筋は通っているか。

 

「なるほど。で? その計画の内容は?」

 

「はぁ? 言えるわけないでしょ!」

 

「殺すにゃん」

 

「ううぅぅ……分かったわよ話すわよ!」

 

 無表情でさっきよりも強い炎を出してレイナーレに近付く黒歌。そんな彼女に完全にビビっているレイナーレは涙を浮かべながら計画の内容を話した。

 

 計画の内容を簡潔にまとめると、レイナーレとその仲間は組織に内密に独自に動き、ある人物から神器を取り出してそれを自分自身の物にするつもりだったらしい。なんとも大胆なことだ。

 

「そんなことができるのか?」

 

「堕天使は他の陣営に比べて神器の研究が進んでいるのよ。とにかくその人物の神器は破格の能力なのよ。もっとも、抜かれた人間は死んじゃうけど」

 

 ……まじか。いや当然か。レイナーレは人間を見下している部分がある。人間の生死なんて、彼女からすればどうでもいい事なのかもしれない。

 

「……その人物の名は?」

 

「……アーシア・アルジェントよ」

 

 確か一誠と知り合ったシスターか。そうか、彼女は『はぐれ』なのか。

 

「レイナーレ、もしその計画を中止するなら……仲間と一緒に見逃してあげてもいい」

 

「そんな、無理に決まっているじゃないの!」

 

「じゃあどうする? 一誠と君の下僕がもめた以上、グレモリー家は堕天使がまだ自分達の街にいることに気付いたはずだ。ここに残れば彼らに殺され、逆に一度でも揉めれば独断行動である以上、組織の連中に何かしらの罰を与えられる。でも今ならまだ問題も起きていない。多分逃げる最後のチャンスだと思うよ」

 

「因みに私はさっさと貴女を殺したいのだけどねぇ」

 

 黒歌の言葉にレイナーレは小さな悲鳴を上げ俯いて口を閉ざしてしまう。正直以外だ。彼女のこれまでの行動を鑑みれば、すぐにでも頷いて逃げると思ったのだが。

 

「……どうしてそうまでして神器が、力が欲しいんだ? あんな光の槍だって出せるのに」

 

「……人間のあんたには分からないでしょうね」

 

 そう言ってレイナーレは呆れたように笑って理由を説明しはじめる。

 

「そもそも私達堕天使は悪魔や天使のように人間の欲望や信仰による恩恵を得られない。完全に持って生まれた才能が優劣を決める世界なのよ。私はその中でも平凡な堕天使。そんな私が強くなるには、あの方々の役に立ち、一目置かれる為には、特殊な神器を奪うしかないのよ」

 

「……う~ん。レイナーレってさ。努力するのは格好悪いって思うタイプでしょ」

 

 自分の言葉にレイナーレが訝しんだ表情をする。

 

「悪いけど、レイナーレの悩みなんて人間の世界じゃごく普通の悩みだよ。だから人間は努力するんだよ。諦めないで、それこそ何十年も」

 

「なっ!? 人間の一生と一緒にしないで! 私なんかが努力したって、あの方々に追いつけるわけ無い。いいえ。よしんば追いつけるとしても一体何千年かかると思っているのよ!」

 

「え? それの何が問題なの?」

 

 レイナーレの言葉にそう返すと、彼女は固まってしまった。何かおかしな事を言っただろうか?

 

「だってレイナーレの実力は普通なんだろ? だったら強くなるのに時間がかかるのは当たり前なんだから、それだけの対価を払うのは当然だろう? まぁ、今回のように一気に強くなるために賭けに出るのも有りだとは思うけど……たいてい失敗した時は命を失うのがお決まりだ。で、レイナーレは既に賭けに負けてる」

 

 そう。彼女が自分に破れ、正体がばれ、計画を暴露した時点で完全に詰んでいるのだ。

 

「さっきの提案は言ってしまえば賭けそのものを放棄する事で命だけは助かるといったものだ。もう一度、生きてやり直すなら、提案を受け入れて欲しい。もしダメなら……その時は悪いけど、自分は一誠とアーシアを優先させてもらう」

 

 そう言って彼女の縄を解くように黒歌に頼むと、黒歌は呆れた表情で溜息を吐きながらも、縄を解いてくれた。

 

「……どういうつもり?」

 

「窓を開けておくから、進む道を決めたらそこから出ていきなよ。自分達はリビングで昼寝だ。昨日は徹夜で監視してて眠いからね」

 

「待ちなさい!」

 

 そう言って部屋を出ようと立ち上がると、レイナーレが強くこちらを制止する。振り返ると彼女は真剣な表情でこちらを睨み、そして――。

 

「……体が戻らないわ」

 

 ――と訴えた。

 

「……マジで?」

 

 その後三十分近く黒歌と二人でレイナーレの身体を揉み解す事になった。まぁ黒歌はちょいちょい強めに揉んで苛めているだけだったが。やれやれ、相変わらず最後まで締まらない娘だよ、この娘は。

 




と言うわけで計画が露見したので原作と少しだけ流れが変わります。まぁ具体的には戦う相手が変わるだけですが。

それと堕天使の設定はこの作品オリジナルです。アザゼルが人工神器作っているのも、弱い部下を強くさせる為にっていうのが本当の理由なんじゃないかな~と思ったので。(趣味と実益を兼ねている感じで)

さて、もう少しでバトル回だ。一誠と白野の見せ場まで頑張ろう。



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【堕天使の決断とその結果】

今回とくに前置きで書く事がない……。



「……行くの?」

 

「……っ!? あ、あなたねぇ、そうやって気配殺して現れないでよ。ビックリするでしょ!」

 

 御主人様が寝たあともずっと寝た振りで起きていた私は、彼女が行動を起こしたのを察知し、猫の姿で御主人様の部屋の窓の下の塀へと先回りし、堕天使を出迎える。彼女は私が声を掛けるまで気付かなかったのか、ビクっと肩を震わせ驚いた表情で振り返った。人の目があるせいか、服がスーツに変わっていた。

 

 にゃはは御主人様が殺すの躊躇うのも無理ないにゃ、こいつ面白い。弄る意味で。

 

 なんというか、自分に正直に生きてるって感じで、何故か憎めない。

 

「で、何よ? やっぱり私を殺しにきたの?」

 

 彼女は窓の縁に腰を下ろす。ふむ。一応認識を誤魔化す魔法は使っているみたいね。流石にその辺りはちゃんとしているみたい。

 

「御主人様が見逃すと言ったから見逃すにゃん」

 

「そう。――ねぇ、アイツって何者なの」

 

 堕天使はしばらく黙ると、視線を逸らしてそう訪ねてきた。

 

 まぁ、もう会う事もないだろうからいいか。

 

 私は餞別とばかりに御主人様の秘密を告げる。

 

「御主人様は転生者。それも記憶持ちなのよ」

 

「記憶を持った転生者、珍しいわね」

 

 そう珍しい。転生自体はこの世界では数多く存在するが、転生者が生前の記憶を持っているのは稀だ。

 

「私は詳しく知らないけど、以前『自分は女の子一人助けられない。それどころか逆に庇われる程弱かった』って言っていたにゃん」

 

 仙術を用いた組み手での訓練の時に御主人様が寂しげな表情で言っていた言葉を堕天使に伝えると、彼女は『そう』と呟いて、難しい表情をした後、覚悟を決めた表情をした。

 

「ま、アイツのことなんてどうでもいいわ。じゃあね化け猫。あんたが私にした屈辱、絶対忘れないからね」

 

 どうやらこの街から撤退する事を選んだようね。

 

 堕天使の言動からそう察した私は笑いながらその挑発に答える。

 

「にゃはは。私は天才の上に強くなることに貪欲だから、あんたが追いつくのはず~~~~~と先になるにゃん」

 

「ムキ~! 今に見てなさいよ!」

 

 渾身の余裕の笑みを浮かべ返すと、堕天使は顔を赤くして唸り、その場から離れ、一度だけ振り返った。

 

「あいつに、おせっかいも程々にしないと死ぬわよって言っておきなさい」

 

「……にゃ」

 

 彼女のその言葉には全面的に同意なのでしっかりと頷き返す。そして今度こそ堕天使、レイナーレは私達の元から飛び去った。

 

 私はそれを見届け、リビングへと戻る。そこには先程と同じ、敵かもしれない相手がいるというのに、平然と眠っている御主人様の姿があった。

 

 はぁ。呆れればいいのか。それとも豪胆だと頼もしく思えばいいのか。

 

 レイナーレが自分に危害を加えるとはこれっぽっちも思っていない御主人様の態度に、溜息を吐きつつ自分も彼の体に擦り寄り、懐で丸くなる。

 

 ま、これで事件は解決。あとはグレモリーの連中の問題だし、私には関係ない。と言うわけで私もさっさと眠るにゃん。

 

 昼の暖かい日差しが心地よく。私の意識はすぐに薄れ、眠りについた。

 

 

 

 

「じゃあレイナーレは街から出て行ったのか」

 

「断言しなかったけどね」

 

 眠りから目覚めると徹夜の影響もあってか、すでに日が傾き夕暮れ時を迎えていた。その後夕食の準備をしながら黒歌にレイナーレの事を教えてもらう。どうやら彼女は生きる選択をしたらしい。

 

「上手く説得できるといいけどね」

 

「ま、そこはアイツ次第にゃん」

 

 それもそうだなと黒歌に答える。

 

 そう言えば一誠は大丈夫だろうか。レイナーレが逃げたのならアーシアって娘も無事のはずだけど。

 

 昨日の一誠の事が気になったので電話を掛けるが、反応が無かった。

 

 どうしたんだ?

 

 気になって今度は祐斗に連絡する。

 

『白野君? 病気だって聞いたけど、もう大丈夫なのかい?』

 

「ああ。寝たら治ったよ。それより一誠が携帯に出ないんだ。何か知らないか?」

 

『……ゴメン。僕は知らないな。僕からも連絡を入れてみるよ』

 

「……そうか。すまないけど頼む。ところで、今日は部活はやるのか?」

 

『いや。今日はお休みだよ。白野君も今日は出歩かないでゆっくり休むんだよ』

 

「ああ。そうさせてもらうよ」

 

 携帯を切って溜息を吐く。

 

 祐斗は嘘が下手だな。

 

 電話での祐斗の言動から、間違いなく何かあったに違いない。そしてその出来事に一誠が深く関わっている。

 

 さて、どうするか。家から出るなって事はつまり危ないってことだよな。

 

 自分はただの人間だ。対して部活のみんなは悪魔だ。一誠だって本人は自覚していないが今では身体能力では自分よりも上だ。

 

 もしも荒事になったら人間の自分は足手纏いになるだろう。

 

 だが、もしかしたら、自分が行く事で何かしらの手助けはできるかもしれない。

 

 どちらに転ぶか分からない。ならば迷わず『行く』それが自分の信条だ。

 

「……学園。いや、学園にいる可能性は祐斗の反応を見る限り低いか。あと可能性が高そうなのは、シスターを送った教会か、レイナーレに殺された公園くらいか……」

 

 今の一誠が行きそうな場所を思い浮かべながら出かける準備をしようとしたその時、玄関から何かがぶつかる音が聞こえた。

 

「……黒歌」

 

「ええ」

 

 二人で気配を読む。すると、その気配には覚えがあり、弱っている感じを受けた。

 

「これはレイナーレか?」

 

「御主人様、私が見に行くわ」

 

 黒歌が人の姿のまま玄関へと向かう。その目は真剣そのもので、最悪その場でレイナーレを殺すつもりかもしれない。

 

「……分かった」

 

 もしもの場合に備えて術式を展開する。

 

 緊張しながらリビングで待っていると……傷付いたレイナーレを担いだ黒歌が戻って来た。

 

「レイナーレ!?」

 

 慌てて駆け寄って《code:heal(b)》で回復する。

 

「うぅ……あら白野。さっきぶりね……ていうか、回復魔法まで使えたのね」

 

「何があった」

 

 呻く彼女を浄眼で観察する。どうやら命に別状は無さそうだが、たった数時間でいったい何があったのだろう。

 

「ふ。結局私なんてこの程度だったって訳ね」

 

 回復を続けながら彼女は自虐的な笑みを浮かべる。

 

「……仲間にやられたのかしら?」

 

 黒歌が見下ろしながら問うと、レイナーレは小さく頷いた。

 

「ええ。この計画から加わった新参にね。まさか一日戻らなかっただけで死んだ事にされたていた挙句、説得中に後ろから攻撃されるとは流石に思わなかったわ。ま、他の二人は逃がせたから別にいいんだけどね」

 

「……以外だわ。私、てっきりあなたはぼっちかと……」

 

「誰がぼっちよ!っていたた」

 

「黒歌」

 

「う。ごめんなさい」

 

 ちょっと強めに睨むと黒歌がしゅんと耳を尻尾を下げる。くそ、可愛い。キャスターでケモナーにでも目覚めてしまったのだろうか。ああ、あのフサフサが少しだけ恋しい。

 

 っと、馬鹿なこと考えてないで今はレイナーレから話を聞かないと。

 

「そのあとどうしたんだ?」

 

「見ての通りよ。飛べるだけの力も無くなったから必至に逃げたのよ……ま、自分でもなんでここに戻ったのか、不思議でしょうがないんだけどね……」

 

 彼女はそう言って痛みで顔を顰めながらも、口には笑みを浮かべた。

 

「私を裏切った堕天使の名はドーナシーク。そいつはこの街の捨てられた教会にいるわ。そして既に儀式の準備を始めている」

 

「そうか。それじゃあ――」

 

 ――急いで行かないとな。

 

「また首を突っ込みに行くの?」

 

「ああ。事情が変わった。黒歌はレイナーレを頼む。何かあったら連絡をくれ」

 

「レイナーレ、あの伝言、直接言っていいわよ」

 

「おせっかいも過ぎると死ぬわよ。あんた」

 

 黒歌から責める様な視線を受け、レイナーレも似たような表情でこちらが気にしている事をはっきりと叩きつけてくる。だが、それで止まるならそもそも黒歌やレイナーレと接していない。

 

「耳に痛いが……諦めてくれ。何より……」

 

 そう何よりも、自分自身がそのドーナシークに落とし前を付けさせなければ気がすまない。

 

「レイナーレの悩んで出した答えを、卑怯なやり方で汚したそいつを、許す訳には行かない」

 

 二人に振り返ってそう答え、上着を羽織ながら家を出る。出る瞬間、二人共顔が少し赤かった気がするが、気のせいだろう。

 

 

 

 

「御主人様のイケメンタイムキターーーー!!」

 

 覚悟を完了した真剣な表情をした御主人様を直視した瞬間、胸がキュンと高鳴り、御主人様が出て行ったのを見計らってこの想いを高らかに叫んだ。

 

「ちょ、痛い痛いって! 傷口に手を添えたまま叫ぶんじゃないわよこの淫獣!」

 

 あ、しまった忘れてたわ。でもコイツ、今ちょっと女の顔をしたのよねぇ。

 

「はっ。御主人様のキメ顔で頬を赤くしといてよく言うわよ」

 

「なっ!? わ、私は別に赤くなってないわよ! これは怪我による熱よ! だいたい私のタイプはアザゼル様のようなワイルド系なの!」

 

 おやおや随分と焦っているわね。こりゃちょっと注意しないと。

 

 だが一応怪我人なのでこれ以上興奮させるのはまずいと思い、レイナーレに落ち着くように言って御主人様の部屋で仙術の気功医術でレイナーレの自然治癒力を高めてあげる。

 

「それじゃあ私は御主人様を追いかけるけど、あんたはしばらく休んでいなさいよ」

 

「……分かったわ」

 

 レイナーレをその場に残して窓から猫の姿飛び出し、御主人様の匂いを追跡する。やれやれ、私も大変な人を好きになったものだ。

 




と言うわけで短い家出でしたとさ(笑)
うん。まぁ二話に分けるか悩んだんだけど(レイナーレの説得シーン)
正直ドーナシーク以外の二人を登場させてもそれほど意味が無いのでカットする事に。
次回は一誠君の見せ場です。そしてこの作品ではアーシアが初登場します。


原作技・装備解説

装備名:『鳳凰のマフラー』『人魚の羽織り』『麒麟のマント』
効果:『heal サーヴァントのHPを回復(左から順に小・中・大)』
解説:『シルクのマフラーに鳳凰の羽をあしらったおしゃれマフラー』
   『人魚の鱗を縫いつけた古めかしい羽飾り』
   『千年生きた麒麟の皮を丁寧に処理して作られた匠の一品』

サーヴァントのHPを回復するスキルです。
原作ではサーヴァントのHPを小で三割、中で五割、大で七割回復します。




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【救いたい悪魔と救う人間】

一巻の一番の見せ場です。そしてこの作品では初のバトル回です。



「アーシアもうすぐだ! もうすぐ自由になる! これからいっぱい遊べるぞ!」

 

 教会の地下から木場と小猫ちゃんのお陰で脱出した俺はアーシアを抱き抱えたまま聖堂に辿り着く。

 

 自分の腕の中で青い顔で今にも途切れそうな小さな呼吸を繰り返す金髪の少女。誰もよりも優しくて、笑った笑顔が可愛いくて、少し天然でおっちょこちょい。それがアーシア・アルジェントと言う少女だった。少なくとも俺にとっては。

 

 なのになんで、なんでこんな良い子がこんな目に遭わなきゃいけないんだ!

 

 アーシアはずっと一人だった。それは彼女が持っていた神器のせいだ。

 

聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)

 

 どんな傷でも完治させる脅威の回復力を持つ神器。

 アーシアはこの神器のせいで教会に『聖女』として祭り上げられた。

 

 聖女として祭り上げられた彼女に自由は無いに等しかったと、三度目の邂逅の時に彼女が語ってくれた。

 

 一度目は偶然だった。

 

 彼女がこの町にやって来た時に日本語が殆ど出来ない彼女に、自分が教会まで案内した。途中で怪我をした子供を躊躇無く神器で助ける彼女の姿は、正に聖母そのものだった。

 

 二度目は突然だった。

 

 悪魔の依頼で伺った家に向かうと、家族は皆はぐれ悪魔祓いによって殺されていた。その現場に、アーシアもいた。彼女は俺が悪魔であることを知りながら……俺を庇ってくれた。

 

 三度目は運命だったと思う。

 

 二度目の出会いの翌日。白野に勇気付けられた俺は、アーシアを探した。そして彼女と初めて出会った場所で再開した。その時に彼女の境遇を初めて知った。

 

 アーシアはかつてその神器を使って悪魔を癒した。驚く事に彼女の神器の効果に種族という垣根は存在しなかった。俺からすれば優しいアーシアの心を体現したような慈愛に満ちた素晴らしい力だとしか思わなかった。

 

 しかし教会の連中はそうは思わなかった。やつらは今迄聖女と祭り上げておきながら、悪魔を癒したアーシアを異端扱いし、魔女と呼んで破門した。孤児である彼女に、教会以外に帰る場所なんて無いって言うのに!

 

 アーシアの過去と思いを聞いた俺は彼女を連れて遊びに出かけた。

 

 一緒にご飯を食べ、一緒に遊び、一緒に笑い合った。

 

 アーシアの楽しそうに笑う笑顔を見る度に、俺も嬉しくなった。ああ、幸せな時間て、こういう事を言うんだろうなって思った。

 

 ――なのにどうして……。

 

「一誠さん……ありがとう、ございます……」

 

「アーシア?」

 

 アーシアの唐突なお礼に足を止める。

 

「私……幸せでした……少しの間だけでも……友達ができて……」

 

「何を……言ってんだよ。これからも友達だ! いいじゃないか悪魔とシスターが友達だって! だってアーシアは悪魔を助けてくれたんだ! なら今度は悪魔の俺が君を助ける番だろ!」

 

 そうさ。たとえ神様や教会の連中がアーシアを見捨てても! 俺だけは絶対に君を見捨てたりしない!

 

「ふふ。やっぱり……一誠さんは、優しい悪魔さん……です。もし生まれ変わったら……」

 

「そんなこと言わないでくれ! 神器はかならず取り返す! だから頑張れアーシア! 君はもっと幸せにならなきゃダメだ!!」

 

 そう。幸せにするはずだった。しかしそんな時間を、突然現れたドーナシークという男の堕天使に奪われてしまった。

 

『元々この娘の神器を取り除くのが目的だ。肉体の方がどうなろうが知ったことではない』

 

 そう言って冷たく笑うドーナシークの笑みを、俺は忘れない。

 

 神器を取り除くなんて事をすれば、相手はほぼ確実に死ぬ。そうリアス部長に教えられた俺は部長の忠告を無視して奴らが儀式を行っている教会へと向かった。もっとも、部長は部長で俺の行動を読んで木場と小猫ちゃんを援軍としてよこしてくれた。

 

 だが――遅かった。

 

 俺の目の前でアーシアの神器が取り除かれ、その神器はドーナシークに取り込まれて今は奴の物だ。その時の奴の癪に障る高笑いが耳から離れない。

 

 ちくしょう! ちくしょう、ちくしょう!!

 

 涙が溢れて止まらない。

 何も出来ない自分が悔しくて。

 今もゆっくり死に向かうアーシアの姿が悲しくて。

 

「神様お願いだアーシアを助けてくれよ! この子はずっと、あんたを信じてきたじゃないか! あんたのためにずっと一人で頑張ってきたんじゃないか! なんであんたは何もしてくれないんだよ! あんたはずっと見ていたんじゃないのか! なあ神様!!」

 

 叫ばずにはいられなかった。だってそうだろ。ここで助けてくれなかったら、一体神様は誰のために存在しているんだって話だ。

 

「ありがとう一誠さん……私のために泣いてくれて……怒ってくれて……」

 

 っ――!?

 

 アーシアの温もりが一気に消えて行くのが分かる。

 

 ダメだダメだダメだ!!

 

「神様お願いだよ!! 天使様でも魔王様でもこの際堕天使でもなんでもいいから、アーシアを助けてくれ!!」

 

 しかし誰も助けてくれない。自分は助けられない。一秒毎に死に向かうアーシアを、誰も助けられない。

 

 ふざけんなよ。神様も魔王様も天使も悪魔も堕天使も、結局命一つ助けられないじゃないか!

 

「一誠さん……あなたに出会えて……」

 

 彼女の目蓋が下り始め、握っていた腕から力が抜ける。

 

「っ――誰でもいいからアーシアを助けてくれよおおおおお!!」

 

 その場に座り込み、アーシアの手を掴んで精一杯叫んだ。それしかできないから、それしか術が無いから。

 

 けれどその叫びは―――確かに届いた。

 

「え?」

 

 ドアが勢い良く開かれる音と共に、目の前にどこかで見た事のある空間の歪みが現れたかと思うと、突然そこから白い飴のような物が現れた。そしてそれと同時に聴き慣れた声が聞こえた。

 

「その飴をその子の口に入れろイッセェェエエエエ!!」

 

「っ――!!」

 

 頭よりも先に身体が声に突き動かされて飴を掴んでアーシアの口に放る。次の瞬間、アーシアの身体を光が包む。

 

 感じる! 消えていく一方だったアーシアの温もりを! 弱くなる一方だったアーシアの鼓動を!

 

「安心するな一誠! 今の飴に込めたエネルギーじゃ、一時的に彼女の消費を抑えることしかできない! もっと生命力を与えるか根本を解決するしかない!」

 

 傍までやって来た相手が、今迄見たこと無い真剣な表情でアーシアの状態を確認し、シャンとしろとばかりに俺の背中を叩く。

 

「ああ……ああ! 絶対アーシアを助ける。でも今、これだけは言わせてくれ……ありがとう、白野」

 

「お前が叫んでいたからな。きっとヤバイ事態だと思って生成準備を済ませておいて良かったよ」

 

 いつもの少し無表情な顔に頼もしい笑みを浮かべる幼馴染。

 

 俺の声は神様には届かなかった。

 俺の声は魔王様にも届かなかった。

 天使にも、悪魔にも、堕天使にも、なんでもできそうな連中には届かなかった。

 

 でも……ただの人間で、大切な友人に、俺の叫びは確かに届いていた。その事実が嬉しかった。

 

 

「一誠、さん……なんで……?」

 

「待っててくれアーシア。必ず助ける。俺が、いや俺達が助ける! 力を貸してくれ白野!」

 

 自分が生きている事に戸惑っているアーシアを今度こそ椅子に横たわらせる。

 そして白野に助けを求める。ここに来る時は人間だからと気を遣った。その結果アーシアは死に掛けた。白野がいればその能力で彼女をもっと早くに助けられたかもしれないのに。

 

「ああもちろん――来るぞ!」

 

 白野が険しい表情で教会の祭壇の方へと振り返ると同時に、祭壇の傍の床を突き破ってドーナシークが現れる。

 

「ふむ。グレモリーの眷属もこの程度とは、まぁ治癒能力を得た我に適う筈などないか」

 

 スーツが地下で見た時よりも少し解れさせたドーナシークがつまらなそうに呟き、こちらに視線を向けた。

 

「む? 何故そいつがまだ生きている。既に死に絶えているはずだ。それにその男は人間? 人間が何故ここにいる?」

 

「一誠、自分の後ろについて来い。あの子には時間が無い」

 

「あ、ああ。でも木場と小猫ちゃんがやられた相手に勝てるのか?」

 

「勝つんだ。お前は自分が守ってやる。だからお前があの子を守れ!」

 

「っ!」

 

 そうだ。勝たなきゃいけないんだ! アーシアはまだ助かっていないじゃないか! せっかく白野が作ってくれたチャンスを逃して堪るか!!

 

「ああそうだ。俺が護るんだ! 白野もアーシアも! だから俺の神器さんよぉ。二人を護る力を俺にくれ!!」

 

『explosion!』

 

 今迄『Boost!』としか叫ばなかった俺の神器が姿を変える。手首程にしか無かった籠手が上腕全てを覆うガントレットの様になり、手の甲の宝玉から別の音声が響くと共に全身に力が駆け巡った。

 

 ドーナシークは俺の神器を『自身の能力を2倍にする神器』と言っていたが、2倍どころじゃない力が自分の全身を駆け巡る。

 

「それが、一誠の力か?」

 

「あ、ああ。でも一発が限界だ」

 

 解かる。何故か解かる。この力は一発限り、一回使ったら消えてしまう。

 

「上等だ。道は自分が作る。一誠は余計な事を一切気にしないで、キツイ一発を思いっきり叩き込め」

 

「――分かった! 俺はお前を信じて付いていく!」

 

 俺の答えを聞いた白野は力強く頷くとドーナシーク目掛けて駆け出す。俺もすぐにその後に続く。

 

「人間を盾に玉砕覚悟の特攻とは、下級の中でも貴様は更に下のプライドの無い畜生だったようだな。慈悲だ。人間ごと串刺しにしてやろう」

 

 ドーナシークが地面に降り立ちその手に巨大な光の槍を生み出してこちらに放る。

 

 怖い。一度あれで殺され、二度目は腹に突き刺された俺からすればトラウマでしかない攻撃だ。

 

 怖い。でも、逃げない!

 

 何故なら目の前を走る白野に一切の迷いが無いから。背中越しに感じる力強い何かが、自分をその恐怖から守ってくれている。自分を奮い立たせてくれている。

 

 だから今は信じて進め! あの背中に向かって!

 

「おおお!!」

 

 叫びと共に光の槍が白野の手に触れた瞬間、光の矢が白野の手に吸い込まれるように収束し、一瞬で包み紙に包まれた飴玉に変わった。

 

「なっにぃい!?」

 

 ドーナシークが驚愕の表情で慄く。当然だ俺も驚いている。白野お前、自分以外のエネルギーでも食べ物に変えられるのか!?

 

「祐斗! 小猫! いつまで傍観しているつもりだ!! こっちを助ける気がないならアーシアにこれを届けてくれ!!」

 

 そう言って白野が後方に飴玉を放る。すると視界の脇の物陰から小猫ちゃんが現れてそれをキャッチしに向かう。その姿を一瞥しすぐに前に向き直る。

 

 自分の役割はドーナシークを倒すこと。だから他の事は全部仲間に任せる! 隠れていた事情なんて後回しだ!

 

「くっ! ならば空に――」

 

「させないよ!」

 

 空へと逃げようとしたドーナシークの翼を、天井から降って来た木場が切り落とす。

 

「があああ!? 貴様等、まさかワザとやられた振りを!?」

 

「行け、一誠」

 

 ドーナシークが木場に注意が行った瞬間、振り返った白野が小さく、しかしはっきりと俺に向かって言い放ち、横に跳んで進路を開けてくれる。

 

 その先には――憎くて仕方なかったドーナシークが居た。

 

「っ―――おおぉぉーー!!」

 

 奴の顔を見た瞬間、頭の中で何かが切れる音と同時に、奴をぶっ飛ばす以外の考えが頭から消え失せた。人生で一番と言ってもいいくらい全力で駆け、拳を振り上げながら奴目掛けて全力で跳ぶ。

 

「ドォォナシィィクゥゥウウ!!」

 

「しまっごふぉ――!?」

 

 驚き戸惑っていた奴の顔面目掛けて拳を叩きつけて吹き飛ばす。殴られた奴は錐揉みしながら吹き飛び教会の壁を突き破って外へと出てしまう。

 

「はぁ、はぁ、木場、確認しに行ってくれ。とどめを、神器を取り返さないと」

 

「分かった。すぐに戻るから君は休んで」

 

 俺が辛そうに呼吸しながら頼むと、木場は頷きすぐにドーナシークが跳ばされた方へ向かった。流石は『騎士』だ。もう姿が見えない。

 

「はぁ、やっぱ、限界まで使うとしんどい」

 

「お、おい大丈夫か白野!?」

 

 俺と同じように呼吸を荒くして座り込む白野に慌てて駆け寄る。

 

「大丈夫だ。それより励ます相手が違う。あの子の傍にいてやれ」

 

「あ、ああ。でも無理すんなよ!」

 

 白野に促されて疲れた体を無理矢理動かしてアーシアの元に向かう。アーシアは白野が作った新しい飴を口の中でもごもごさせているが、顔色は先程と変わらない。やはり白野の言う通り、あくまで気休めでしかないのかもしれない。

 

「アーシア……あっ!」

 

 しっかりしろと声を掛けようとしたその時、突然アーシアの身体の上に見覚えのある二つのリングが現れた。

 

 間違いない。アーシアの神器だ!

 

 神器がアーシアの身体に吸い込まれると、アーシアの顔色が徐々に良くなっていった。

 

「……魂の消費症状が止まった。もう大丈夫だ」

 

 座ったままの白野が全員に聴こえるように伝える。その言葉に安心した俺はいっきに力が抜けてその場で仰向けに大の字に倒れた。

 

「はあ~~。良かった。本当に良かった」

 

 今更疲れが来てもう身体を起こす気力も無かった。

 

 聞きたい事や尋ねたい事は沢山ある。でも、今はそんなことはどうでもいい。

 

 俺は心の中で改めて白野に感謝を述べた。

 

 ありがとう白野。お前のお陰で、俺は大切な者を守る事が出来たよ。

 




と言うわけで白野の能力はぶっちゃけると『物理攻撃以外のエネルギー系攻撃の無効化』というチート能力でした。

まぁ幻想殺しと同じで対象に触れないといけないのと、現状ではエネルギー量次第で変換に時間が掛かる点ですね。この辺は次回か次々回で詳しく説明します。



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【事件解決】

もともと一つだった話を分割。今回はオカ研メンバーがメイン。



はぁ。よく解からないが、とりあえず事件解決で良いのか?

 

 教会に行ったら一誠の悲痛な叫び声が聴こえたため、浄眼を発動させ、体力の限界ギリギリまでエネルギーを込めてすぐに回復してやれるように生成準備だけは済ませていた。

 

 そしていざ突入すれば一誠の抱く女の子の魂から光が放出されていて、彼女の魂がどんどん縮んで行くのが見て取れた。

 

 その現象を自分は一度だけ見たことがあった。黒歌と始めて出会った時だ。

 

 黒歌を見つけたのは本当に偶然だった。偶々浄眼の性能をチェックしている時に、彼女を見つけたのだ。その時の黒歌も、魂から光を放出して、今にも魂が消滅してしまいそうだった。どうやらあの現象が『死に向かう』という現象らしい。

 

 にしても、流石に体力ギリギリでの全力疾走は疲れたな。ま、女の子は助けられたんだし、良かった良かった。お、なんか武器になりそうな銃と柄らしき物が落ちているけど、これが『悪魔祓い』が使っている武器か?

 

「大丈夫かい白野君?」

 

「ああ、大丈夫だ。スタミナ切れみたいなものだから休めば問題ないよ」

 

 傍に落ちていた武器らしき物を拾ってベルトの内側に挿して仕舞っていると、祐斗が心配そうに見下ろしながら手を伸ばしてくれた。その手を掴んで立ち上がり、一緒に一誠の元に向かう。

 

「一誠。その子は大丈夫か?」

 

「あ、ああ。今は気絶してる。その、白野、本当にありがとうな。お前が居なかったらアーシアは死んでた」

 

「気にするな。友達が泣いて叫んでいた。なら助ける為に動くだろ?」

 

 当たり前の事を言ってやると、祐斗と小猫ちゃんは少しだけ申し訳なさそうな顔をして視線を下げた。多分隠れていた事に罪悪感を感じているのかもしれない。

 

「あ~、祐斗、小猫ちゃん。これは自分の性分みたいなもんだから気にするな、二人には事情があったんだろ?」

 

「事情? あ、そうだよ! どうして二人共やられた振りなんてしたんだ?」

 

「それについては私が説明するわ」

 

 一誠が二人に尋ねると同時に、目の前にグレモリーの魔方陣が現れそこからリアス先輩声が放たれ、すぐに二人が召喚される。

 

「遅くなってごめんなさい一誠。ドーナシークの仲間と思しき堕天使を葬りに行ったのだけど……どうやら彼以外の堕天使は、もうこの街にはいないみたい」

 

 リアス先輩の言葉に内心でほっとする。良かった。どうやらレイナーレと彼女の仲間は逃げ切れたみたいだ。

 

「部長。そんな事を……すいません。俺、部長の気も知らないで酷い事を」

 

「いいのよ。あの時の私の言葉は本心でもあるし、祐斗や小猫にもある事を指示していたし」

 

「ある事?」

 

「ええ。あなたが堕天使と戦う際、その子が生きていれば一誠とその子を護るように伝えてあった。けれどもし、その子が死んでしまった場合は、ギリギリまで一誠に一人で堕天使と戦わせるように言い含めていたのよ」

 

 リアス先輩の言葉に一誠が困惑の表情を浮かべて目を見開く。

 

「な、なんでそんな事を!?」

 

「神器は宿主の強い想いに答える性質がある。今回の一件で一誠に更なる強さを手に入れて欲しい。そう考えて出した指示よ。だから一誠、責めるのなら私を責めなさい」

 

 リアス先輩は一誠の前に歩み出て、一誠と視線を交し合う。

 

「……いえ。もういいんすよ。結果的にはそのお陰であのムカつく堕天使の裏をかけた訳だし。アーシアも生きてる。だから、いいんです」

 

「そう……ありがとう、一誠」

 

 リアス先輩と一誠はお互いに見詰めあったあと、一緒に笑顔を浮かべ合う。ふむ。中々に良い雰囲気じゃないか。邪魔するのは野暮だな。月野白野はクールに去るぜ。

 

 ゆっくり教会から去る為に階段の方に足を進める――が、それは途中で肩を掴まれて止められた。

 

「あらあら、どこに行くのかしら白野君?」

 

「あ、朱乃先輩?」

 

 振り返るといつものニコニコ笑顔の朱乃先輩がいた。しかし何故かその笑顔が今は少し怖かった。

 

「逃がしませんわよ。さあ白野君。色々教えて頂きますわ。うふふ」

 

 気付くと朱乃先輩の傍に小猫ちゃんが申し訳なさそうな顔で立っているた。

 

 小猫ちゃんまさかさっきの戦闘の出来事を喋っちゃったのかってそりゃそうだよ。相手は学年も立場も先輩なんだから、尋ねられたら報告するのは当たり前じゃないか!

 

「落ち着きなさい朱乃。とりあえず今はそのシスターを安全な場所で休ませましょう。白野も疲れているし、よく事態を理解していないでしょうから、明日部室で改めて話し合いましょう」

 

「そうしていただけると助かります」

 

 リアス先輩の助け舟に全力で乗っからせて貰う。すると朱乃先輩も仕方ないと言いたげな表情で手を放してくれた。

 

「もう……折角白野君を弄れると思ったのに……」

 

 朱乃先輩が振り返り様に物凄く物騒な事を呟きながら去っていった。まさかこの人、ドSでドMなのか?

 

 結局その場で解散となり、アーシアという少女は一誠が連れて帰った。

 

 

 

 

 家に戻ると黒歌が出迎えてくれた。

 

「お帰り御主人様。格好良かったにゃん!」

 

「やっぱりあれは黒歌か」

 

 浄眼発動中だった時に、遠目に見知った魂が視えたので気になっていたがやはり黒歌の魂だったみたいだ。

 

「一緒に帰れば良かったのに」

 

 途中からいなくなったことにも気付いてたのでそう尋ねると、彼女は視線を彷徨わせ複雑な表情をする。

 

「にゃ~それがあそこに居たくない事情が出来たと言うか……まぁ、一度は捨てた未練。今更拾って、また居場所を、御主人様と離れるのは嫌にゃん。私は二兎を追うくらいなら一兎を選ぶわ」

 

 そう言って彼女は言葉を濁す。まぁ話したくないことを無理に訊くつもりは無い。

 

「そうか。それとレイナーレは?」

 

 仕切り直す意味で気になっていた事を尋ねる。

 

「もう仲間と一緒にこの街を脱出したにゃん。伝言があるわよ」

 

『あまり無茶が過ぎると私が殺しに行くわよ。せいぜい人間らしく暮らしなさい』

 

 なんとも彼女らしい。

 

伝言を聞いて思わず笑みがこぼれる。

 

 ま、自分も死にたくはない。今回は偶々友人が巻き込まれただけだ。こんな大事は滅多にないだろう。

 

 一誠も新しい力を手に入れたし、積極的に自分が助けなくても大丈夫だろう。

 

「ん~。さて、心配事も終わったし、お風呂に入って寝ようか」

 

「にゃん。そうするにゃん」

 

 いつものように黒歌と一緒にお風呂に向かい、いつものように一緒に布団に入る。ようやく自分の日常が戻って来た事を実感しながら、疲れからだろう。すぐに意識は眠りについた。

 

 

 

 

「ア、アーシア・アルジェントと申します。よよ、よろしくおねがいします!」

 

「という訳で、悪魔に転生して貰いました♪」

 

 事件の翌日。いつものように朝食を済ませて学園に行くと、祐斗が正門で待っていて一緒に部室に来て欲しいと言われて一緒に部室に向かう。そこには駒王学園の制服を着た昨日見かけたシスターの少女がいた。悪魔の翼を生やして。

 

「へへ驚いただろ白野。昨日アーシアと先輩と三人で話し合ってアーシアもこの学園に通わせて貰える事になったんだ。まぁまだ先の事だけどな。あ、それとアーシアが悪魔に転生したのは本人の意思だから、俺達は強制してないからな」

 

「そう、なのか?」

 

 一誠が笑顔で話しかけてくるが、こちらとしては昨日の事情も知らないし、彼女については名前以外まだ何も知らないので、どう答えていいのか分からなかった。

 

 その事を伝えると全員が『あ』と言って表情を固めた。朱乃先輩が慌てて簡単にだが彼女の事情を説明してくれた。涙無しには聞いていられない内容だった。なんて健気な少女だろう。そして一誠、相変わらず友達想いの良い奴だ。

 

「でも本当に悪魔になって良かったのですか?」

 

「はい。その、一誠さんと長く一緒に、はぅなんでも無いんです! そそそその、みなさんともっと一緒に居たくて部長さんの申し出を受け入れる事にしました」

 

 小猫ちゃんの問いに赤くなりながら答えるアーシア。なるほど。一誠と一緒にいたいから、か。十分立派な理由だ。とりあえず自己紹介しておくか。

 

「自己紹介がまだだったな。自分は月野白野。一誠の幼馴染の人間だよ。よろしくアルジェント」

 

「アーシアで構いませんよ月野さん。それとありがとうございました。月野さんの神器のお陰で、私は死なずに済んだんですよね?」

 

「いいさお礼なんて。それと白野でいいよ。これから一緒に行動する事も多いだろうし、名前で呼ばれる方が嬉しい」

 

「分かりました白野さん。皆さんと出会えた事を主に感謝しあうっ!?」

 

 祈る体勢を取った途端、アーシアは頭を抑えて蹲ってしまった。

 

「アーシア、あなたはもう悪魔なんだからそりゃ主に祈ればそうなるわよ」

 

「うう、そうでした」

 

 涙目で項垂れるアーシア。うん可愛い。小猫ちゃんとは別の可愛さがあるな。

 

 アーシアは一誠と同じクラスに配属されるらしい。まぁ一誠が助けた子だ。一誠が面倒を見るのが当然といえる。本人も鼻息荒くしてやる気まんまんだったしな。

 

「さて、アーシアの紹介はこれで終わりとして、次はあなたの事よ白野」

 

 全員の視線が自分に向かう。

 

「神器の能力については聞いたわ。まさか自分以外のエネルギーも変換できるなんてね。どうして黙っていたの?」

 

「正確には黙っていたというより確証が無かった。というのが正しいです。エネルギーを別のエネルギーに変換する力なのだから、もしかしたら魔力や光力で作られた術にも効果が出るんじゃないかと思ってやったら出来たって感じです」

 

 実は魔力の方は興味本位で黒歌との訓練中に試した事があるのだ。それでも光力にも使用できるかは判らなかったから、ある意味賭けであった事に変わりは無い。

 

「おいまさか、ぶっつけ本番で試したのか!?」

 

 一誠が驚きのあまり立ち上がる。

 

「意外です」

 

「うん。白野君はもう少し慎重派かと思っていたよ」

 

 小猫ちゃんと祐斗も口を揃えて驚きの表情を浮かべる。

 

「慎重、というより冷静ですわね。状況に応じて大胆な行動も取れる。軍師にも向いているかもしれませんわね」

 

 朱乃先輩は少し意外そうに頷きながらもしっかりと分析していた。

 

「なるほど。次の質問だけど、あなた、アーシアの魂が死にかけているとか、一誠に言ったそうだけど、それについて説明して貰えるかしら」

 

 浄眼についての説明を求められてどうしたものか、少しだけ悩んだ。

 

 ……まぁいいか。こちらも後で頼みたいことがあるし。

 

「それはですね……」

 

 現状で解かっている浄眼の情報をリアス先輩達に伝えると、全員驚いた表情のあと、妙に納得した顔をした。

 

「……違和感はあったのよ。私達が正体を晒しても妙に冷静だったり、一誠を私達の所にすぐに連れてきたり」

 

「あ~っと、なんかすいません。多分隠して生活してるんだろうからと、こちらから言う訳にもいかなかったので」

 

 苦笑する自分に、リアス先輩は溜息を吐くが、それ以上追求はしてこなかった。表情を見る限り、考える事が多すぎる為に一旦放棄したのかもしれない。

 

「ふう。いいわ。あなたから訊きたかったのはそれだけよ」

 

「あのリアス先輩、今度はこちらから質問させて貰っても構いませんか?」

 

「ええ、別に構わないわよ」

 

「一誠の神器について教えて貰えますか。彼の神器に『魂』が宿っているみたいなんですが……」

 

「ええ!?」

 

 何故か当の一誠本人が驚いている。まさか気付かなかったのか?

 

「ああ、そう言えば一誠にも軽くしか説明していなかったわね。丁度いいわ。一誠にももう少し詳しくその神器について説明してあげる」

 

 リアス先輩が朱乃先輩にお茶のおかわりを頼み、改めて一誠の神器の説明をしてくれた。

 

 神器の中には『神滅具(ロンギヌス)』と呼ばれる神をも滅ぼせるほどの強力な力を持つ物が数点存在するらしい。一誠の神器もその一つで【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】と呼ばれているらしい。

 

 神滅具の特徴としては他の神器と違って世に一つしか存在しない唯一無二の神器である事と、二つ以上の能力を有しているという二つの特徴があると教えられた。

 

 更に一誠の赤龍帝の籠手にはかつて悪魔、天使、堕天使の三陣営に大打撃を与えた二天龍と呼ばれるドラゴンの内の一体である【赤龍帝ドライグ】が封印されているらしい。どうやら自分が見た魂はそれのようだ。実際魂の色は今まで見た事のない白だった。

 

「一誠は気付かなかったのか?」

 

「あ、ああ」

 

「ということはまだ目覚めていないのかもしれないわね。文献では所有者と共に在るとあったから、その内目覚めるかもしれないわ。そうなったら真っ先に教えるのよ一誠」

 

「はい! 分かりました!」

 

 リアス先輩が心配そうな表情で一誠に忠告し、そんなリアス先輩に一誠は笑顔で頷く。相変わらず良い主従関係だ。

 

 とりあえず聞きたい事は聞けたが……自分からも言わなければならない事がある事を思い出す。レイナーレのことだ。

 

 やっぱり黙ったままはまずいよな。

 

「一誠……実はお前に伝えなければならない事がある」

 

「俺に?」

 

「……色々事情があったんだが……自分はお前を殺した堕天使を逃がした」

 

「……え?」

 

「……詳しく教えなさい」

 

 唖然とする一誠と、一変して険しい顔で事情を追求するリアス先輩。当然の反応だろうと頷きながら、自分はレイナーレとの事を包み隠さずに話した。

 




『白野は新しい武器を手に入れた!』ちゃらら~♪

原作ではちょっとしか登場しなかったけど、あの二つは結構便利そうなので他人の私物を強奪するRPGよろしくゲットさせました(誰の物かはもう判りますよね?)



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【堕天使長からのプレゼント】


と言うわけで事件後の後編です。



「で、これがその時の写真」

 

「ぷっ」

 

 小猫ちゃんが堪らず顔を逸らし噴出す。

 

「はわわ、あのレイナーレさんがこんな格好を!?」

 

 アーシアは心底意外そうな顔で写真を覗き込む。

 

「なんか複雑だ。初恋の女の子が辱めを受けている写真を見るなんて」

 

「強く生きろ一誠」

 

「お前が言うな! というか夕麻ちゃんが突然食に目覚めたのはお前が原因かよ!」

 

 複雑な表情の一誠の肩を叩いて慰めると泣きながら掴みかかってきた。

 

「いやだってタイヤキ渡さなかったら殺されてたし」

 

「タイヤキで助かる命もどうなんだろう?」

 

「それにしても人の有無をちゃんと確認せずに現れるなんて」

 

「しかも得意げな笑みを浮かべてドヤっていた」

 

「「ぷっ」」

 

 想像したのかついに祐斗と朱乃先輩も堪らず噴出す。

 

レイナーレの事情を説明し始めた当初は緊迫した空気だったが、彼女との出会いから語り始め、彼女の残念な行動を話す内に、いつの間にか空気はがらりと変わってしまった。

 

「にしても複雑だ。俺を殺したのも夕麻ちゃんなら、アーシアを救う手助けをしてくれたのも夕麻ちゃんだなんて」

 

「……まぁ、悪魔にも色々あるように、堕天使にも色々立場があるんだろうさ。いつかもし出会う事があったら、今度はしっかり話してみるのもいいんじゃないか」

 

 一誠が溜息を吐く。正直に言えばレイナーレの話をするか迷ったのは一誠が理由だ。

 

 一誠にとっては少なからず心に傷を負う出来事だったはずだ。多分、レイナーレが主犯として計画通りにアーシアを殺していたら……一誠にとっては恋そのものがかなりのトラウマになっていたかもしれない。

 

 幸いそこまで気にしている様子はない。少しは時間が掛かるかもしれないが、一誠もいずれはまた新しい恋をするだろう。なんせ切っ掛けはすぐ傍に沢山転がっているわけだし。

 

「そうだな。そうするよ」

 

 一誠の返事と共にこの話は終わり、それを見計らってリアス先輩が椅子から立ち上がって手をパンパンと打ち鳴らす。

 

「さて、それじゃあ話し合いはこんな所ね。ただ白野、今後はレイナーレのような事があったらちゃんと話して頂戴。『問題を起こした相手を逃がした』なんて、この地の領主としての管理能力を疑われてしまうわ」

 

「分かりました。気をつけます」

 

 すいませんリアス先輩。場合によっては隠すと思います。

 

 悪魔がはぐれを殺す事に躊躇いが無い以上は、黒歌の事もあるので素直に報告するのは避けた方がいいだろう。

 

 リアス先輩に対して罪悪感が浮かぶが、致し方ないと割り切る。

 

「よろしい。それと白野、今回の一件であなたはあなた自身で、自身の言葉に嘘が無いことを証明してくれたわ。だから私も改めて約束するわ。あなたは眷属ではないし人間だけど、私達の大切な仲間よ。だから私達があなたを守るし、何かあれば力になるわ。これらかもよろしくね」

 

「よろしくお願いしますわ白野君」

 

「よろしくお願いします白野先輩」

 

「よよ、よろしくお願いします白野さん!」

 

「これからもよろしく白野君」

 

「よろしくな白野!」

 

 リアス先輩の握手から始まり、みんなと握手し合う。嬉しさから自然と笑みがこぼれる。

 

「ああ。よろしくなみんな!」

 

 自分もまた、みんなを見据えて力強く答えを返した。

 

 

 

 

「あれ、黒歌?」

 

 帰宅する途中で散歩帰りの黒歌と出会った。黒歌は嬉しそうにこちらに駆け寄り、指定席である頭の上に上る。

 

 人がいないかを確認し、黒歌に小声で話しかける。

 

「黒歌は散歩?」

 

「ん~まぁそんなトコにゃ」

 

 堕天使がいると分かってから外出を控えていたのでそう尋ねると、彼女はなんと答えるべきか迷うように曖昧な返事を返した。何かあったのだろうか?

 

 家に帰ってから改めて尋ねてみようと思いながら帰宅し自室に戻る。

 

「は?」

 

「にゃ?」

 

 すると、そこには人一人余裕で入れそうな巨大なリボンが付いたプレゼント箱のような物が放置されていた――無断で誰かが家に入ったのだ。

 

 だ、誰だ!?

 

「黒歌!」

 

「ええ!」

 

 黒歌が元の姿に戻り、二人で周りを警戒する。

 

 ダメだ。自分の気配感知では何も感じない。ん?

 

 改めて部屋を見回すと、勉強机の上に朝には無かった便箋が置いてあった。オーラを目に集中させて便箋に何か仕掛けられていないかを探る。

 

 特に気配は何も感じないな。他に手掛かりもないし、仕方ないか。

 

「黒歌、何か感知出来た?」

 

「駄目ね。その箱も気配遮断が施されているのか、中の気配がイマイチ読めないわ。何か生き物がいるのは分かるのだけど」

 

 黒歌でもダメか。

 

 黒歌に周囲を警戒するように頼み、自分は慎重に手紙を開封し、中の手紙を取り出す。

 

「いっ!?」

 

「御主人様!?」

 

「大丈夫。ちょっと切っただけだ」

 

 手紙が新品だったのか、軽く指を切る。なんで紙とかで指を切ると思っている以上に痛いんだろう。しかも地味に。

 

 痛みを我慢し、切った親指を舐めて血を拭い、手紙に視線を向ける。

 

『はじめまして人間。俺は堕天使の総督をやっているアザゼルってもんだ。まぁ堅苦しい話は抜きにして、今回はウチのもんが世話になったな。シスターの嬢ちゃんにはいつか正式に謝りに行かせて貰うわ。それと単独行動だったとは言え、ウチの連中を悪魔から助けてくれた事には変わりない。と言うわけで、お前にお礼を贈らせて貰った。ま、せいぜい有効活用してやってくれや』

 

「――因みにその箱は誰かの血が触れる事で開封されるようになっている……か」

 

 ……つまりあれか? レイナーレ達を助けたお礼を堕天使のトップ自ら赴き、わざわざ置いていったってことか?

 

「胡散臭いわ」

 

「うん。胡散臭いね」

 

 絶対に裏がある。それだけは鈍感な自分でも理解できる。

 

 だが同時に、この大きな箱を家から出すのはかなり目立つし、何より危ない物だったら御近所に迷惑が掛かる。

 

 幸い母さん達は家にいない。開けるなら今か。

 

「私が開けるわ御主人様」

 

「……いや、自分が開ける。黒歌、自分に何かあったらすぐに助けてくれると嬉しい」

 

「任せて。全力で抱き抱えて逃げるわ!」

 

 何故か鼻息を荒くし、目を爛々と輝かせながら凄い勢いで頷く黒歌。正直不安の方が大きくなった。

 

 とりあえずその不安を無視し。血の出ている親指を箱に押し付ける。

 

 瞬間、箱から一枚の光る紙が現れる。すると自分の右手の甲と手紙に同じ紋章が浮かぶと同時に、箱に結ばれていたリボンに文字が浮かんで消滅する。

 

「にゃ!? それギアスロールじゃないの!!」

 

 ギアスロール。確か魔術師等が契約を厳守する際に用いる特殊なスクロールだったと記憶している。しまった。もしかしてこれが狙いか。

 

 黒歌と一緒に急いでギアスロールの内容を確認する。

 

『契約成立。契約者は以下の内容を厳守する。

 堕天使レイナーレは月野白野を主とし、彼の下僕となり心身共に奉仕する事。

 契約の解除は堕天使アザゼルの許可が必要。

 堕天使レイナーレが月野白野に反抗的な行動を行った場合、月野白野はレイナーレに対して主権を行使して行動及び光力の使用を封じる事が出来る。ただし言動は縛れない。

 この契約は月野白野が死亡するまで有効である』

 

 ……何この奴隷契約みたいな契約書!? それに、いや、まさか、そんな……。

 

 黒歌とお互いに目を合わせる。黒歌も戸惑った表情をしながら、頬を引くつかせていた。

 

「……とりあえず、開けるぞ」 

 

 意を決し、自分達の考えが外れてくれる事を祈りながら、ゆっくりと箱の蓋を開けた。

 

「……」

 

 そこには大きな旅行鞄と茫然自失といった感じで真っ白に燃え尽きたレイナーレが、膝を抱えて横たわっていた……縛られて。

 

「……ふっ。笑いなさいよ。どこかの馬鹿を真似て正直になった結果がこれよ……」

 

「いや笑えないし、むしろ同情で泣きそうだよこっちは」

 

「なんかごめんねレイナーレ。これからは優しくするわ」

 

 やさぐれて自虐的な笑みを浮かべて力無く呟くレイナーレに、ツッコミを入れつつ黒歌に縄を切るように頼む。

 

 とりあえずアザゼルとかいう堕天使には、会ったら文句の一つでも言おうと心に誓った。

 




いつからレイナーレが出ないと錯覚していた!

まぁお話の出番は今後はそんなに出ないんだけどね。ある意味白野の戦力アップの為と賑やかし要員って感じです。

あとギアスロールは色々設定変えてますがFate/Zeroで切嗣が使っていた奴が元ネタですね。いや~あれは酷かったね。

多分次のエピローグ回で一巻分は終了ですね。その後は一巻分での解説回を入れるかもしれない。(原作との違いの説明とか)まぁ読まなくても問題ないようにはするので、気になった人用ですね(あとは自分のためかな?)



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【新しい日常】


と言うわけで今回で原作一巻は終了です。
次回から二巻、つまり焼き鳥様の登場になります。




 う~ん。今日は風が気持ち良いね。

 

 にしても、ようやく落ち着いたかな。レイナーレもこの街には少しは慣れたみたいだし。

 

 頭上に広がる青空を見上げながら、レイナーレがやって来てから今日までの出来事を振り返る。

 

 レイナーレがやって来たその日の内に彼女をオカルト研究部に連れて行った。リアス先輩からも警告されていたし、なるべく早く彼女の存在を伝えて安全を確保すべきだと思ったからだ。

 

『なんか堕天使のお偉いさんに押し付けられました』

 

 そう伝えた時の部員達の呆れとも同情とも取れる表情は今でも思い出せる。約一名、朱乃さんだけはレイナーレを睨んでいたが、堕天使がそんなに嫌いなのだろうか?

 

 そんなオカルト研究部の反応が気に入らなかったのか、レイナーレはいつものすまし顔でふん。と鼻を鳴らした。

 

『ふん。アザゼル様のお願いじゃなければ人間に隷属するなんて絶対にありえないのに。いい悪魔ども、私に迷惑を掛けるんじゃないわよ』

 

 予想通りの反応だったので、ちょっとお灸を据える。

 

『言い過ぎだぞドジっ子堕天使』

 

『気をつけるわドジっ子堕天使』

 

『ご安心を。関わる気はありませんわドジっ子残念無能堕天使』

 

『ガンバ、ドジっ子堕天使』

 

『うう。まさか初恋の相手が残念美人な上に親友にNTRされるなんて!』

 

『現実は非常だね。一誠君』

 

『あわわわわ』

 

『誰がドチっ子堕天使よ! あっ、白野あなた! あの事を喋ったのね。酷いわこの人でなし!』

 

 高圧的な態度で威圧するつもりだったであろうレイナーレを全員で弄る。すると彼女は顔を真っ赤にして涙目で地団駄を踏み、自分を睨む。うん。可愛い。

 

 その後もレイナーレが高圧的な態度を取る度にレイナーレ弄りは続き、仕舞いにはレイナーレが耐えきれずに膝を抱えて座ってしまい、不憫に思ったのかアーシアが慰め続け、話し合いの最後の方では二人はすっかり仲良しになっていた。

 

 そんなレイナーレは普段は家の近くにあるデザートの美味しい店でウェイトレスをしている。働かざる者食うべからずの精神で、家に居候させる代わりに働きに出したという訳だ。

 

『黒歌は働いていないじゃない!』

 

 と最初は言って働こうとしなかったので、なら鳥にでもなってくれと言ったら出来ないといわれた。

 

 黒歌が『じゃぁ人型のままペット生活するにゃん♪』と、新しい玩具を見つけたようなイイ笑顔でレイナーレに告げた瞬間、彼女はすぐに働き口を探し始めた。結構評判になっているらしい。本人も楽しんでいるからまぁ問題ないだろう。因みに黒歌はペット兼家政婦を自称している。まぁ実際普段は猫の姿だし、元の姿で家事の手伝いもしているので間違ってはいない。

 

 それとレイナーレを隷属させた事で彼女の加護を得たらしく、オーラを光力に変えて扱えるようになった。そのお陰で拾った柄と銃が扱えるようになったのは大きい戦力アップだ。

 

 整備の仕方はレイナーレに教えて貰った。もっとも彼女も最低限のやり方しか知らなかったので、色々試行錯誤中である。構造はある程度把握できたので、刻まれていた堕天使の術式についてはレイナーレに訊きながら勉強している。いつかもっと使い易い武器に改造するのが自分の目標だ。

 

 それと最近は黒歌も堕天使の術式に興味を示してレイナーレに色々質問していたりする。なんだかんだで彼女も強くなることに貪欲だ。逆に黒歌は見返りとして魔法を教えている。そもそも堕天使は種族の特性上、光力と魔力の両方を扱える。基本的に天使の頃に使っていた光力の方が扱い易いのと、悪魔との戦いを考慮してそちらを安易に使う堕天使は多いらしい。レイナーレもその一人だ。

 

『にゃああ! 違うにゃ! そこはこうにゃ!』

 

『痛い! ちょ、叩く事ないじゃ!』

 

 と言った会話が最近自分の部屋で繰り広げられている。なんだかんだで黒歌は面倒見が良い。そして訓練のときは何気にスパルタなのだ。頑張れレイナーレ。

 

 最後に、一番大きく変わったのが一誠だ。

 

 一誠はあの事件以降、アーシアと暮し、アーシアの面倒を見ている。悪魔の下積みの手伝いも一緒だし、願いを叶える時も何かあったときの為に一緒に付いて行く。

 

 過保護過ぎるかもと思ったが、彼女は一度命を狙われているし、目の前で死に掛けたという経験をしている一誠からすれば、当然の行動なのかもしれない。

 

「おっす白野!」

 

「おはようございます白野さん」

 

「ん? ああ二人共おはよう」

 

 まるで恋人のように揃って歩く二人に背後から声を掛けられ、三人で雑談しながら学園へと向かう。これがここ数日で定番となった、新しい日常の一つだ。

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「あらあらお帰りレイナちゃん。お仕事お疲れ様」

 

「お帰りにゃん。レイナーレ」

 

「ただいまお母様。黒歌。今日もデザートを買ってきたわ」

 

「あらありがとう。レイナちゃんが働くお店のデザート、美味しいわよねぇ」

 

「当然よ。私が暇を見つけて食べ歩いて味を確かめ、雇用の条件と従業員特権を吟味して選んだお店なんだから」

 

「にゃあ。その情熱をもっと別の事に活かした方がいいと思うにゃん」

 

 母さん達と楽しげにお喋りするレイナーレ。ホント、彼女は順応能力が高いと思う。

 

 彼女の居候が決定した日に、改めてレイナーレを両親に紹介した。とりあえず掻い摘んで事情を説明すると、両親はこちらがお願いする前に『じゃあうちに居候しなさい』と言う流れになった。我が両親ながら大らか過ぎる。

 

 今まで見下してきた人間と対等に接することになり、いまいち距離感が解からずにいたレイナーレも、今ではその図々しい性格を徐々に発揮し、すっかり地で母さんと父さんに接している。

 

「で、どうなの? 白ちゃんとはBまで行った?」

 

「ななな!? わ、私は白野に興味なんて無いわ。私の好みはワイルドで野生的な男なの!」

 

「うふふ。それはまだまだレイナちゃんが若いからだよ~。男はみんなワイルドウルフなんだから。むしろそうじゃないなら男として終わってるとお母さんは思うなぁ~チラリ」

 

「はいはい。どうせ自分は草食系男子です」

 

「御主人様は渡さないわ!」

 

 そう言って黒歌が人型になる。

 

「ええ。もちろん黒歌ちゃんでもいいわよ~」

 

 と、笑顔のお母様。いやホント、うちの両親は懐が深すぎて泣けてくるね。

 

 レイナーレという存在に何かの危機感でも覚えたのか、黒歌は自分が人型になれる事を夕食時に自分から暴露、その場で元の姿に戻った。

 

 最初は父さんも母さんも驚いていたが『まあ妖怪ならそんなものなのかもね』とすぐに笑顔で受け入れてしまった。

 

 結局我が家で変わったことと言えば、黒歌が元の姿で食事を摂るようになったこと、家事を手伝うようになったこと。そして母さんがレイナーレと黒歌に自分の貞操を奪わせるような発言が増えたことか。

 

 ま、手は出してないからいいけど。

 

 実際手を出してはいない。お仕置き意外で。

 

 お仕置きの内容はお尻ペンペン。いい歳の大人がお尻ぺんぺん。精神的に凄いダメージが来るみたいで、流石のレイナーレも泣きながら謝罪した。因みに実体験でもある。あの日以降、母さんだけは決して怒らせないようにしようと心に誓った。因みにこの家で母さんのお仕置きを受けていないのは黒歌だけだ。

 

「はぁ。早く孫の顔がみたいわ」

 

 ……まぁ、その台詞を発しても問題ない年ではあるけど。外見の違和感が凄い。

 

「ただいま。おや、四人とも楽しそうだね」

 

 レイナーレから少し遅れて父さんが帰宅し、騒がしくもいつも通りの夕食を過ごして自室に戻る。現在レイナーレと黒歌は空き部屋の一つを二人で使っている。まぁ黒歌は寝る時は猫の姿で殆ど自分の部屋に来るから殆どレイナーレの一人部屋だ。

 

 まぁ、緊急時に召喚できるから離れていても問題はない。

 

 日課の筋トレとオーラ操作の練習に学園の勉強を終わらせ、猫の黒歌と一緒にお風呂に入って布団に潜り込んで眠りに付いた。一応枕元に封魔銃と光剣をしのばせてある。何かあったときの為の保険だ。

 

 黒歌の幸せそうな寝顔を見ながら、この新しくも楽しい日常が明日も続きますようにと、月に祈りつつ眠りに着いた。

 




現在の月野家の力関係→母>越えられない壁>父>白野>黒歌>レイナーレ。

月野家のお仕置きはどうするか悩みましたが、三巻で一誠達がやられたのを見てこうなりました。『見た目幼女に良い大人が叩かれる図』……ダメ人間待ったなしな絵図らである!




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【ワカメと焼き鳥の親和性について……】

……うん。すまない。タイトルでちょっと遊んでみたかったんだ。不評だったらいつもの安直な方に直すよ(まぁ嘘は書いてないし……)
と言うわけでフェニックス編開始です。




 ドーナシークの事件が語られなくなって数十日のある朝、一誠がどこか上の空で登校してきた。アーシアも心配そうにしていたので事情を尋ねると、一誠がゆっくりと話してくれた。

 

 まず昨日の深夜、一誠とアーシアが帰宅したあと、何故かリアス先輩が一誠の部屋に転移してきたらしい。そして開口一番『私を抱きなさい』宣言の下、服を脱いで全裸で一誠をベッドに押し倒したらしい。一誠曰く軟らかくも弾力のある素晴らしい双球だったそうだ。

 

 話が進むに連れてアーシアが少しむくれた顔をする。可愛いとは思うが後が怖い気もするので、口を挟まずに一誠の説明を聞き続ける。

 

 一誠も流石に何かあったと思い、スケベ心を血の涙を流しながら押し殺してリアス先輩に事情を尋ねていると、突然グレモリー家のメイドのグレイフィアと名乗る銀髪悪魔がやって来たらしい。一誠曰く服の上からも判る美乳

だったらしい。

 

 アーシアが涙目で頬を膨らませる。一誠、あとで機嫌を取るのが大変だぞこれは。あと、お前はいちいち胸の情報を入れないと気が済まないのか?

 

 そして今朝はリアス先輩から訓練中止のメールを貰ったが、家に居てもモンモンとしてしまうので、自主的に行ったが、結局今現在もモンモンとしている。ということだ。モヤモヤではなくモンモンな辺りが一誠らしいというかなんというか、もはや別の感情な気がする。

 

「部長、すごい切羽詰った顔してたんだよ。一体何があったんだろう……」

 

「心配ですね」

 

 アーシアも一誠の心配そうな表情を見て、リアス先輩のことが気になったのか、先程とは打って変わって心配そうな表情をする。彼女のこういう切り替えの早さは素晴らしいと思う。

 

「とりあえず朱乃先輩なら事情を知っていそうだし、部活中にでも聞いてみたらどうだ?」

 

「そうだな。そうするか」

 

 正直情報が少なすぎて事情は分からないが、たぶん厄介ごとだろうなぁ。

 

 昨日と同じ朝なのに、何故か平穏の日々が遠退いた気がした。

 

 

 

 

「ごめん。僕も事情は知らないな。でも部長がそこまで悩むということは、たぶんグレモリー家関連の悩みかもね」

 

 旧校舎に向かう途中で自分と祐斗、一誠とアーシアの四人でリアス先輩の悩みについて話し合う。

 

 結局あのあと一緒に部室に寄ってくれと言う一誠の申し出を断れずに、付いて来てしまった。まぁ話し合いに参加するだけだから大丈夫だろう。部室には何度か遊びには行っているわけだし。

 

「実家問題か。俺はそういうの無縁だけど、中々難しそうだよなぁ」

 

「まぁまだ実家の問題とは決まって――っ。一誠、祐斗、アーシア、神器を出せ。何かいる」

 

 旧校舎に一歩踏み込んだ瞬間、強烈な魔力の気配を察知する。

 

 護身用にいつも鞄に入れて持ち歩いている光剣の柄を取り出して力を送って光刃を出現させる。銃の方は流石に持って来てはいない。警察に見付かったら言い訳できないし。柄だけのこっちなら玩具で通せそうだしね。

 

「お、おいどうした?」

 

「強い気配がする。殺気は感じないが……」

 

 しかし知り合いの気配でもないので用心に越した事はない。

 

「……っ! 本当だ」

 

 祐斗も気配に気付くとその手にロングソードサイズの魔剣を出現させる。

 

「えっと、はい! 準備できました」

 

「俺もだ!」

 

 アーシアが念じると、彼女の両の薬指に緑色に光る指輪が現れる。二人に少し送れて一誠も神器を出す。

 

 アーシアを中心にして守るように前と左右で固めて警戒しながら旧校舎を進む。

 

 敵意は無いが、ならもっと気配を抑えるはずだ。何が目的だ?

 

 気配はオカルト研究部に近付く度に強くなる。

 

「……一誠はアーシアを守ってくれ。祐斗、ノックして扉を開けてくれ。自分は一応剣を構えておく。殺意は感じないが一応な」

 

「分かった」

 

 一誠とアーシアを背にして、祐斗が扉をノックすると中から少し不機嫌なリアス先輩の返事が聞こえ、祐斗に目配せして扉を開けてもらう。

 

 武装状態で表れた自分達に驚いた表情をするリアス先輩から視線を移して、先程から濃厚な気配を放つ銀髪のメイド、多分一誠が言っていたグレイフィアさんという女性に声を掛けた。

 

「できればその物騒な魔力の気配を消してもらえませんか?」

 

「……ふむ。いいでしょう。中々の探知能力です」

 

 僅かに口元に笑みを浮かべたグレイフィアさんから溢れていた気配が収まる。やっぱりわざとだったか。こちらも武装を解除する。それを見届けたあと、リアス先輩が溜息と共にグレイフィアさんへと視線を向けた。

 

「満足したかしらグレイフィア?」

 

「ええ。とは言っても私の気配に一早く気付いたのが人間というのは正直どうかと思いますが、中々将来有望そうな下僕達で何よりで御座います」

 

 なるほど。こちらの技量を確かめる為のテストか何かでもしていたのか。抜き打ちなのはその方が本来の実力が測れるからか?

 

「ごめんなさいね四人とも。どうしても私の眷属の実力を知りたいと言って聞かなくて」

 

「申し訳御座いませんお嬢さま」

 

 うわ。全然申し訳ないと思って無いなこの人。

 

 優雅で自然な動作の謝罪だったが、表情には変化が無く、自分の行いに対して一切迷いが無い目をしていた。

 

「まぁいいわ。これで全員揃ったし、部活の前に少しみんなに話があるわ。ついでだから白野も聞いていって」

 

「お嬢さま、私がお話し致しましょうか?」

 

 グレイフィアさんの申し出をリアス先輩が首を横に振って断る。

 

「……実は――っ!?」

 

 リアス先輩が意を決して話そうとしたその時、床の魔方陣が光ると、グレモリーの紋章から別の紋章へと変化する。

 

「これはフェニックス家の紋章……」

 

 祐斗の口から呟きが漏れ、それからしばらくして魔方陣から炎と共に人影が現れる。シルエットと的には男性に見えた。

 

 一誠がこちらに跳んでくる火の粉からアーシアを守りながらアチアチと言っていた。確かに熱い。なんとも傍迷惑な登場の仕方だ。

 

 人影が腕を振るうと、炎が晴れてそこから赤いスーツを着崩して胸元を露出させた二十代後半くらいの金髪の男が、前髪をかき上げながら現れた。

 

 あれが祐斗が言っていたフェニックスって奴か? 

 

 何故か目の前の相手が生前友人だった『間桐慎二(まとうしんじ)』に似ている気がした。

 

 なんだろう外見や年齢は全然違うけど自尊心に満ちた表情や、キザな仕草が凄い似てる。なんというか、大人版慎二とでも言えばいいだろうか……絶対プライドが高くて我侭だろこいつ。

 

 そんなことを考えていると隣で一誠が『ワイルド系ホストみたい』と呟いていた。つい頷いてしまった。格好が格好な上に、現れた瞬間リアス先輩に近寄ってイヤらしい笑みを浮かべたし。

 

「やあ愛しのリアス。会いに来たぜ。そろそろ式の日取りも決めないといけないからな。こういうことは早い方がいい。俺って気が利く男だろ?」

 

 まるで『お前のためにしてるんだぜ』といった言い草で男はリアス先輩の腕を掴む。そういう自分勝手な子供っぽい所もそっくりだった。

 

 まずいな。こういうタイプは友人として付き合うのは面白いが、敵として相手すると色々面倒なんだよなぁ。

 

「放してちょうだい、ライザー」

 

 リアス先輩は冷めた眼差しでライザーと呼んだ男の手を払う。しかしライザーは苦笑するだけで特に何も言わない。ふむ。少しは慎二より大人みたいだ。

 

「おいあんた。部長に対して無礼だぞ。つーか女の子にする態度じゃねぇだろ今のは!」

 

 一誠が我慢の限界とばかりに声を荒げてライザーに物申す。

 

「あ? 誰、お前?」

 

「俺はぶ――リアス・グレモリー様の眷属の悪魔、『兵士』の一誠だ!」

 

 嫌悪感を隠そうともしないライザーに、ますます苛立った表情で名乗りを上げる一誠。そんな状態でもちゃんとリアス先輩を様付けで呼べた事を褒めてあげたい。

 

「あっそ。でなリアス……」

 

 が、ライザーは一誠の殺気も気にした様子もなくリアス先輩に向き直り、その姿に身構えていた一誠がずっこけそうになる。

 

「はぁ。おいあんた。いい大人なんだから、いい加減に自己紹介くらいしたらどうだ?」

 

 とりあえずそう言ってリアス先輩へのちょっかいを止めさせる。

 

「はぁ? お前誰だって……おい、こいつ人間か? なんで人間がここにいるんだリアス?」

 

「プっ。自己紹介も出来ないのか」

 

 流石にちょっとイラっと来たので向こうのプライドをくすぐるような言動で言い返す。

 

 さて、慎二はこういうやり方をすると反応したもんだが、こいつはどうかな。

 

「……ライザー・フェニックスだ人間。次に俺をそんな小馬鹿にしたような顔で見たら骨も残らずに燃やし尽くすぞ」

 

 やっぱり慎二と近い性格みたいだな。接し方としては慎二と同じでいいだろう。なんか懐かしいし。

 

 鋭く眼を細めてこちらに睨みながら自己紹介するライザー。しかしその程度の眼光や殺気には慣れっこなので受けん流しつつこちらも挨拶を返す。

 

「覚えておくよ。自分は月野白野、ただの人間だ。よろしく」

 

「ふん。それにしてもリアス、他の下僕達の反応を見る限り、俺のことをちゃんと伝えていなかったのか? 婚約者として悲しいぜ」

 

「こ、婚約者ぁぁああ?!」

 

 一誠が驚愕の表情で叫び、アーシアも口元を押さえて驚いていた。他のみんなは気にした様子がないから婚約者がいること自体は知っていたのかもしれない。ただ相手が目の前のライザーとは知らなかったみたいで、二人ともあまり好い顔はしていない。まぁ性格に難がありそうだもんなぁ。

 

 というか、いい加減誰かコイツの詳細を教えてくれ。まだ名前しか知らないぞ。

 




と言うわけでライザーフェニックスならぬシンジとライザーをフュージョンさせたシンザーさんの登場だ。(いや、なんかこの二人は近しい物を感じたので……)

因みにこの二人を実際に融合しても性格は変わらないし、性能も変わらないが、悪ノリは二倍になるからきっと弱体化するぞ!!(流石だぜ!)



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【巻き込まれていくスタイル!】

何故巻き込まれるのか? それは彼が白野だからさ! なんせ原作ではほぼ九割は巻き込まれているからな(しかも巻き込まれた後は自分から首を突っ込んでいくと言うドMっぷりである)



 ライザー・フェニックス。純血悪魔であるフェニックス家の三男。

 

 フェニックスとはまんま不死鳥フェニックスの事だった。流石に自分の家の事になると、頼んでもいないのにライザー自らが色々自慢気に語ってくれた。

 

 レーティングゲームという悪魔同士が戦うゲームが流行り、それがきっかけでフェニックスの再生能力の高さが同族である悪魔達にも明確化され、フェニックス家は一目置かれる純血悪魔となった。

 

 そして現在、フェニックス家は悪魔界で一番潤沢な財力を持つ家系にまで上り詰めたそうだ。

 

因みにゲームでは負けを認めたり、ダメージが危険域に達すると強制的に自動で転移する仕様なため、消滅してしまうほどの強力な一撃を受けたりしない限りは死ぬ危険性は低いらしい。スポーツやルールのある格闘技と言った感じだ。

 

 一通り話して満足したのか、ライザーはこちらへの興味を無くしてリアス先輩へのちょっかいを再開した。

 

 にしても不死身かぁ。その程度ならいっぱい見てきたし、今更だな。それよりなんで先輩の両親は婚約を許したんだろう。どう考えても相性が悪い気がするんだけど。

 

 リアス先輩は所謂典型的なお嬢様だ。本人は否定するかもしれないが、彼女には我侭な部分がある。が、同時に家や悪魔と言ったもののルールに対して従順な部分もある。

 

 そしてライザーもまた典型的な御曹司って感じだ。家柄に恥じぬ才を持つが故に、他者を見下すエリート思考。はっきりって我の強いこの二人が意見を合わせられるとはとても思えない。

 

「いい加減にして!!」

 

 頭を悩ませていると、突然リアス先輩が叫んだ。どうやら我慢の限界が来たらしい。

 

「以前にも言ったはずよライザー! 私はあなたとは結婚しない! 私の婿は私が決めるわ!」

 

「それは前にも聞いたよリアス。だがそういう訳にもいかないだろ? 既にグレモリー家に純血の跡取りを残せるのは君一人。まぁ君のご両親が子を成す可能性も無きにしも非ずだが、悪魔の出産率、それも純血同士の出産率が極めて低いのは君も理解しているだろ? もっとも、家のように宿りやすい家系があるのは認めるけどね。それだって他の家に比べればましな程度だ」

 

 純血……ああ、なるほど。だから同じ純血のフェニックス家って訳か。でも他にも純血はいるよな? 宿りやすいってところがポイントなのかな? でもそれって旦那が偉いんじゃなくて、奥さんが偉いんじゃない?

 

「最近じゃ君の所の様に神器を持つからという理由で人間からの転生悪魔も増えた。まあそういう新しい血を入れていくのもいいさ。同族が増えるのは嬉しい事だしね。でも純血は純血でこれまでの歴史を、そしてこれからの歴史を支える使命がある。途切れさせるわけにはいかない。俺達の結婚には悪魔の未来が掛かっている。君もそれくらいは理解しているだろう?」

 

 おっと、ライザーはどうやら個人的な理由では落とせないと考えて種族や家の問題で落としに来たらしい。せこい。せこいよライザー。

 

「理解しているわ。婿養子を迎える事だって認めている」

 

 リアス先輩はどこか達観した表情でそう呟いた。

 

「だったら――」

 

「けれどあなたとは結婚しない。私が婿に迎えるのは、私が認めた相手だけよ」

 

 しかしすぐに表情を引き締め、決意の篭った視線をライザーへと向ける。

 

 ライザーはリアス先輩の返答に心の底から呆れたような表情で嘆息し、鋭い目つきでリアス先輩を睨み返した。

 

「リアス、俺もフェニックスの看板を背負っている純血悪魔なんだよ。その名に泥をかけられる訳にはいかない。俺達の婚約はほとんど知れ渡っているからな」

 

 ライザーが立ち上がると、奴の周囲から殺気と共に炎が立ち上る。

 

「俺は君の下僕を燃やし尽くしてでも、君を冥界に連れ帰るぞ」

 

「そんなこと、させると思っているの?」

 

 二人の殺気を含んだ魔力が一気に部屋に充満する。一誠とアーシアは全身を震わせ、祐斗と小猫ちゃんは全身から汗を流して臨戦態勢を取るのがやっとな状態だった。

 

 不意に、右手を誰かに握られたので振り返ると、隣に座っていた朱乃先輩が緊張した面持ちでリアス先輩を見ていた。多分緊張から近くにあるものを無意識に掴んでしまったのかもしれない。

 

 次にその反対側に座って自分と同じように先程まで我関せずと言った感じに静かに周りを監視していたグレイフィアさんに視線を送る。

 

 あれ?

 

 視線を向けると、何故か彼女はこちらを見ていた。一体いつからこちらを見ていたのだろう。

 

 視線が合うと、グレイフィアさんは視線を逸らしてリアス先輩達へと移し、先程見かけた時と同じように成り行きを見守る姿勢をとる。

 

 何故こちらを見ていたんだ? 

 

「リアス……」

 

 グレイフィアさんに対しての疑問に感じていたその時、朱乃先輩の沈痛な呟きが聞こえた。

 

 ……はあぁ。しょうがない。

 

 自分は一度朱乃の先輩の手を強く握り、安心させるように笑ってから彼女の手を離して立ち上がり、できる限り大きな音でパンパンと拍手をする。

 

「はいはい、リアス先輩も、フェニックスも落ち着け。それとグレイフィアさん、いい加減何かあるなら二人に伝えては? その為にここにいるんでしょ?」

 

 先程から二人を眺めているだけだったグレイフィアさんへと話題向ける。

 

 そもそも彼女がここに居るのは、二人の婚約について何かしらの提案があるからだと推察できる。そうでなければわざわざここには来ないはずだ。リアス先輩だけに伝えるなら、それこそ実家で彼女だけに話せば済む話な訳だし。

 

「どういうこと?」

 

 リアス先輩が険しい表情のまま、とりあえずライザーから視線をこちらに移す。よし、誘導成功。

 

「客観的に見て、リアス先輩とフェニックスは仲が悪い。というかどっちも頑固でプライドが高い以上、婚約の話なんて絶対に成り立たない筈だ。となると最終的にさっきの二人のような危険な状況になる。だからグレイフィアさんは人間界に来たんじゃないんですか? 二人を止めるため、そして多分、いい加減この問題を解決させるために」

 

 自分が考えていた推察を説明する事でこの場にいる全員の注意をグイレイフィアさんへと向ける。これで彼女も理由を説明してくれるはずだ。

 

「……その通りです。私がここに来たのはお二人を止めるためでございます。お二人を同時に止める以上、私も全力で事に当たらせて頂きますが?」

 

 みんなの注目の中、グレイフィアさんは自分の言葉を肯定し、殺気は放たずに、涼しい顔で魔力だけを周囲に充満させる。その魔力の気配は二人を軽く凌駕していた。そして全力といいつつ、間違いなく手加減している。この人怖い。

 

「……最強の『女王』である貴女にそんなことを言われては、止めざるを得ないね」

 

 ライザーは少しだけ顔を青くさせつつ、深く深呼吸して自身を落ち着かせる。

 

「分かったわ。それで、後半の白野の台詞も肯定しているみたいだけど、解決させるための方法があるのね?」

 

「ございます。お二人の御両親および周りの者はこの縁談が穏便に纏まるとは思っておりませんでした。そして今回が話し合いで解決する最後の機会だったのです。ですが、それも破綻した以上、最終手段を取らせていただきます」

 

「最終手段?」

 

「レーティングゲームでございます。本来なら成熟した悪魔しか参加できませんが、非公式の純血同士でなら、半人前でも問題なく参加は可能です。勝った方のご意思を尊重する。それが両家の出した結論でございます」

 

「つ、つまり部長が勝てば、今後は部長自身が婿を選んで良いってこと、ですか?」

 

「その通りでございます」

 

 一誠の期待の篭った視線と言葉に、グレイフィアさんは表情を変えずに頷く。が、当の本人であるリアスは忌々しげな表情で拳を握っていた。

 

「聞こえは良いけど、それってつまり、私が拒否した時のために最終的にゲームで決めさせようって魂胆よね?」

 

「その通りでございます。それとも拒否なさいますか?」

 

 グレイフィアさんはリアス先輩の言葉を否定せず逆に問い返す。そしてその問いにリアス先輩首を横に振って答えた。

 

「いいえまさか。こんな好機を逃すつもりは無いわ。いいわ。ゲームで決着を付けましょう、ライザー」

 

「へぇ、受けるんだ。もちろん俺はかまわない。それよりリアス、俺はもう成熟した悪魔だから何度もレーティングゲームには参加している。それに勝ち星の方が多い。それでも本当に俺と戦うのか?」

 

「くどいわ。必ずあなたを消し飛ばしてみせる!」

 

「OK。じゃあ俺が勝ったら即結婚だ」

 

 フェニックスの言葉にリアス先輩が頷く。

 

「承知いたしました。では御両家には私からお伝えいたします。そして私がゲームの指揮を採らせていただきます。よろしいですね?」

 

 二人は互いに睨み合ったまま、短く返事を返し、グレイフィアさんは返事を聞くと律儀に頭を下げて了承したことを二人に伝える。

 

 やれやれ大変なことになった。

 

「よっしゃ。部長の為に『一緒』に頑張ろうぜ白野」

 

 ……んん?

 

 一誠に肩を組まれながら、今さっき発言した一誠の台詞をもう一度思い出す。

 

『一緒に頑張ろうぜ』

 

 あれ? もしかして自分、またなんか引き際を間違えたか?

 




と言うわけで引き際を間違えた白野でした(お約束だね!)
にしてもまた分割する羽目になった。そんなに内容は多い訳じゃないんだけどねぇ。



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【デスゲームに参加します(人間限定)】

という訳でまだまだライザー君のターン。まさか三話まで出張るとは、意外と出番多かったんだね彼は。



「あのね一誠。流石に人間がゲームに参加する事は不可能よ」

 

「え? そうなんですか?」

 

 一誠がグレイフェイアさんに視線を向けると、グレイフィアさんは、そうですね。と前置きしてから口を開いた。

 

「……正式なゲームではダメですが、今回のような非公式では人数や実力差に大きな差が出てしまう事もあるので、対戦者同士が認めた場合、助っ人の参加も認められております」

 

 淡々と告げるグレイフィアさん。そして参加はどうやら可能みたいだ。

 

「ふん。俺はべつに構わないよリアス。この場所にいるんだ。そいつも神器くらいは持っているんだろう? まぁ、人間相手となると手加減が難しくて殺してしまうかもしれないが」

 

 うわぁ侮られてるなぁ。ま、事実だけど。そもそも悪魔と自分では肉体のスペック、特に耐久面での差は歴然だ。まともに戦えば確実に殺される。

 

 でも、このままだとリアス先輩側が不利な気がする。少なくとも不死対策は必要だ。そうなると仙術や光力が使える自分が居た方が、何かの役には立つかもしれない。

 

「リアス先輩。とりあえず今は一人でも戦力を得るべきだ。役割を終えた後は最悪安全な場所に退避でもしておくよ」

 

「けれど……いえ、そうね。悩んでいる程の余裕なんて無いわ。私も白野の参加を承諾するわ」

 

「かしこまりました。ではグレモリー陣営に助っ人として月野白野の参加をお認めいたします。この事もお二人の御両親およびリアスお嬢様の兄であるサーゼクス様にもお伝えいたします」

 

 さて、提案した瞬間にレイナーレと黒歌によるダブルお説教の光景が脳裏を過ぎったが、まぁきっと現実のものとなるだろう。帰りたくない。

 

 ま、言っちゃったもんはしょうがない! あとは全力で勝ちに行くだけだが、情報が不足しすぎているな。ライザーは余裕そうだし、慢心してさらに情報を漏らしてくれないかな?

 

「それにしてもリアス。君には同情するよ。こんな木っ端人間の力も借りなきゃいけないなんて」

 

 そう言ってライザーがキザったらしく指をパチンと鳴らすと、彼の周りに魔方陣が浮かび、そこから十五名の様々な格好の女性が現れる。黒い半透明の悪魔の羽が見えるから、彼女達がライザーの眷属悪魔なのだろう。それにしても……。

 

「全員女性だね」

 

 祐斗の言葉に頷く。しかも格好と態度でどの駒なのか判り易い。

 

 魔法使いっぽいのは僧侶だろう。そして甲冑を着ているのが騎士。動きやすそうな武道家っぽいのは戦車かな。ライザーの一番傍で自信に満ちているのが女王。格好がまちまちなのは多分兵士だろう。武器を持っているものや杖やローブを着ているから得意なことが丸わかりだ。

 

 格式を大事にしているということだろうか? まぁゲームなんだから別にいいんだろうけど、自分だったら同じ制服で誰がどの駒かを隠すかな。

 

 とりあえず全員の容姿、衣装、武具を観察して頭に叩き込む。

 

「なんて奴だ……」

 

 その最中にそんな囁きが聞こえてそちらに振り返ると、号泣している一誠がいた。その姿にライザー、ライザー眷属の女性達はドン引き。グレイフィアさんは若干引き気味。ちなみに部活のみんなは呆れている。もちろん自分も。

 

 きっとハーレムの部分に感動しているのだろうが、流石にあれに憧れたら駄目だろう一誠、お前のキャラじゃないよ。

 

 ライザーがリアス先輩に理由を尋ねると、リアス先輩が眉間を抑えながら一誠がハーレムに憧れていることを伝える。するとライザーは一誠の方を見て、心底馬鹿にしたような嫌らしい笑みを浮かべ、眷属の女達も一誠を馬鹿にするような笑い声を上げる。

 

 ライザーはそんな彼女達止めるが、その顔は一誠を馬鹿にしたままであり、更に一誠に見せ付けるように、女王と思しき女性と所謂大人のキスを見せ付ける。まったく青少年になんてものを見せているんだ。

 

「ふぅ。どうだったかな下級悪魔君? ま、どうせ君にはこんな事、一生無理だろうけどな」

 

「う、うるせー! 俺が思っている事そのまま言うなー! ブーステッド・ギア!」

 

 あ、一誠もそう見えてたかって、おい!?

 

 一誠が悔しそうに叫んで神器を発動させる……おいおいこっちの情報の一つが洩れた。しかも間違い無く自分達のキーとなる神器の情報が。

 

「落ち着け一誠!」

 

「落ち着けるか! 大体こんな女誑しと部長は不釣合いだ!」

 

「おいおいお前だってハーレム目指してるんだろ? 俺は駄目でお前はいいのか? つうかそんな俺に憧れてるんだろ?」

 

 一誠が痛いところを疲れたという顔をするが、すぐに頭を振る。

 

「う、うるせぇ! それと部長の事は別だ! 大体そんなんじゃ、先輩と結婚しても他の女の子とイチャイチャする気だろ!」

 

 ……いや一誠。そりゃそうだよ。だって眷属にした以上は主として面倒を見ないと駄目だろう。じゃないとはぐれになっちゃう。っていうか、何故止めないリアス先輩!?

 

 リアス先輩に視線を向けるが、彼女は介入するそぶりが無い。それどころか口にはしていないが、一誠の態度を喜んでいるように見えた。まぁ個人的にその気持ちも解るが、上に立つ者なら、今は一誠を止めるべきだ。

 

「英雄、色を好む。確かお前ら人間界のことわざだったか? いい言葉だ」

 

「はっ。何が英雄だよ。お前なんてただエロいだけの種まき鳥じゃねえか! お、火の鳥だけに焼き鳥ってか!」

 

 一誠が改心の出来とばかりの挑発的な笑みを浮かべる。

 

「焼き鳥!? こ、この下級悪魔がぁぁああ! リアス! 下僕悪魔の教育がなってねぇぜ!」

 

 先程まで余裕の表情をしていたライザーだったが、流石に焼き鳥発言は許せなかったのか、顔を怒りに歪めてリアス先輩に注意するが、リアス先輩は鼻を鳴らしてそっぽを向いてライザーの言葉を無視する。

 

 まずい。非常にまずい。このままでは最悪一誠が暴走してこの場で相手に攻撃しかねない。もしそれで一誠が怪我をする。もしくは相手がわざと怪我をしてこちらに何かしらのペナルティを科そうとするかもしれない。

 

 まぁ後者は無いな。今のライザー陣営には強者としての余裕がる。現に主が馬鹿にされても眷属達は余裕の表情だ。そのくらいの暴言は許してやろうと言う寛大さが伺える。この辺が戦いに関する経験の差なのかもしれないな。

 

「ゲームなんて必要ない! 俺がここぜ全員ぶっ倒してやる!」

 

 自分の予想通り、一誠が暴走して気合の入った叫びを上げて構えるが、ライザーは心底冷めた目で受け止め、嘆息した。

 

「……ミラ、やれ」

 

「はい。ライザー様」

 

 ミラと呼ばれた棍を持った悪魔が一誠の前に出て構え、一誠も神器を構える。お互いに構えを取ったのを合図と判断したミラと呼ばれた少女の闘気が高まる。しかし一誠に動きが無い。

 

「備えろ一誠!!」

 

「……えっ?」

 

 一瞬だった。 

 

 一誠はこちらの声に反応できないまま、呆けた表情のまま腹に一撃貰い、そのまま壁まで吹き飛び叩きつけられた。

 

 ダメだ。一誠には今の動きが見えてない。

 

 幸いアーシアがすぐに回復してくれたおかげで一誠の怪我もたいした事はなさそうだ。だがこれでアーシアの能力も割れてしまった。

 

 情報をいっきに二つも失ったか。

 

「ミラはうちで一番弱い兵士だ。解かったか下級悪魔君? それが今のお前の実力だという事だ。もし俺が自分で手を下していれば腕一本くらいは消し飛んでしまっていただろうな。まぁ神器は左腕だし、右手は無くても発動するだろ?」

 

 つまらなそうに嘆息しながらライザーが一誠に向かって言い放つ。

 

「だが、赤龍帝の籠手の力への興味もある。そうだな……十日、十日の猶予をやろう。どうかなリアス?」

 

「……私にハンデをくれるって言うの?」

 

「嫌か? 屈辱か? だがな、レーティングゲームはそんなに甘くない。個人の感情や力だけで勝てるもんじゃない。一番重要になるのは部下の力を引き出し活かせるかだ。才能がいくらあろうがそれが出来なければ敗北する。俺はそういう奴らを嫌というほど見てきた。それに修行の期間を与えて万全に準備した君を倒せば、君も、そして君の下僕達も納得は出来なくても、否は唱えられないだろう。で、どうする?」

 

 ライザーが尋ねるが、リアス先輩は何も言わなかった。つまり、それが答えだ。

 

 ライザーは呆れたような笑みを浮かべて肩を一度竦めると、眷属達の元に向かい、足元に魔方陣を展開した。

 

「俺は君の才能も買っている。君なら十日もあれば少しは下僕をましにできるだろ。それと下級悪魔君。リアスに恥をかかせるなよ。まがりなりにもお前もリアスの兵士。お前の一撃が、主の一撃だと言う事を忘れるな」

 

 最後にそれだけ伝えてライザーは消えた。

 

 ……やっぱり自分はあいつが心底嫌いにはなれない。

 

 才能ある者の驕りからくる事実を突きつける為の発言。だがそれは同時に今の自分達の現状を明確に伝えてくれてもいる。つまり、こちらの弱い部分を教えてくれてたということだ。

 

 まぁ友好的じゃないし、高圧的だが、それは個性って事で我慢できるしね。

 

「さてっと」

 

 問題はこっちだな。

 

 立ち上がって溜息を吐くと、とりあえず一番最初に注意すべき相手の下へと向かう。

 

「リアス先輩」

 

「な、何かしら白野?」

 

 急に立ち上がって目の前に来た自分を怪訝な表情で見上げるリアス先輩。そんな彼女に向かって……はっきりと言ってやった。

 

「あなたは……王失格です」

 




ゲームシステム(EXの方の)で言えば身内が自爆して情報を二つ対戦相手に開示したような物ですね。

二巻のリアス先輩はねぇ。正直誰かが言ってやれよってくらいの無能王状態だから『失格!』言われても仕方ないね!



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【メイドの危惧】


かなり悩んだけどこのような形になりました。正直かなり書き直して、煮詰まりそうだったので一番良い出来のをさっさと上げる事にしました。色々言いたい事は後書きに~。




「……どういう意味かしら白野?」

 

「貴女には人の上に立つ資格が無い」

 

 人間。月野白野は先程と同じように、簡潔にはっきりと告げる。リアスはしばし唖然とした後、その目を不機嫌そうに歪めた。

 

 やれやれ、どうしたものかしらね。

 

 わたしは心の中で嘆息する。

 

 グレモリー家に仕えるメイドとしては、月野白野を止めるべきなのかもしれない。しかし彼の言葉は正しく。今のリアスには人の上に立つ資格は無い。

 

「待て待て待て! おい白野言い過ぎだ!」

 

 一触即発の雰囲気で睨み合う二人の間に、問題を起こした当人である兵藤一誠がリアスを庇うように割って入る。

 

「言い過ぎ? 自分の部下が怪我をするのが分かっていながら、それを止めずに見過ごしておいてか?」

 

 兵藤一誠とリアスが目を見開く。

 

 その通りね。力量を見誤るのは、まぁ経験不足として今は目を瞑るとしても、それまでのライザー・フェニックスへの暴言もまずい。本来ならあの時点でリアスは兵藤一誠を注意すべきだった。

 

 にしても、普通の人間が悪魔の動きを見切るか……月野白野の力量にも興味があるわね。

 

 そもそも彼には出会った当初からおかしな部分が多かった。

 

 わたしの気配を見抜く力量。

 

 ライザーが現れてからの彼に対しての対応。

 

 そしていざゲームの参加が決まった瞬間から、相手を測るかのような冷静な態度。

 

 彼の価値観はあまりに年齢とつり合っていない。少なくとも一般人が僅か数年で得るようなものではない。

 

 さて、その辺りの部分も気になるし、もう少し様子を見るとしましょう。

 

 わたしは月野白野の行動を止めず、あえて傍観に徹して彼を観察することにした。

 

「……リーダーの最低条件は、仲間の想いと未来を背負い立つこと。なのにリアス先輩はその事をまるで理解していない」

 

 面白い。今の言い方ではまるで月野白野はそれを理解しているかのような口ぶりだ。

 

 いや、事実理解しているのでしょうね。彼の目にはそれだけの力強さがある。

 

「わ、わたしはしっかりと覚悟を持ってこの場所に、彼らの主として立っているわ!」

 

「立っているだけで背負っていないだろう! 軽くないんだよ! あんたの眷属達の命や想いは!!」

 

「っ!?」

 

「リアス先輩だけじゃない! 他のみんなもだ! どうしてリアス先輩や一誠を落ち着かせなかった! 二人の性格は、お前らが一番よく知っているだろう! 仲間だからこそ、大事な時に暴走を止めてやるべきじゃないのか!」

 

 彼の言葉に三人は反論せずにただ悔しげに俯く。

 

 確かにあそこで朱乃がリアスを落ち着かせていれば、ここまで場は荒れなかったでしょう。そして祐斗や小猫の力量ならば兵藤一誠とミラの間に割って入り、彼を庇えたかもしれない。

 

 経験不足故に咄嗟に行動が起こせなかった。そんなところでしょう。

 

 もっとも、それ自体が問題だ。大事な時に適切な行動が取れないというのは、結局自分達の首を絞める結果に繋がる。彼らもまた、自分がいかに未熟であるのかを理解すべきだろう。

 

 ふむ……もしかしたら月野白野は、託された末にその立場になったのかもしれないわね。

 

 背負う側と託す側。そのどちらの視点も持っているかのような彼の言動に、わたしはそう結論付ける。

 

「もし今回のゲームに負けたら、お前達はずっと見続ける羽目になるんだぞ。辛そうにするリアスを、申し訳なさそうにする一誠達を。お前達はそれに耐えられるのか?」

 

 月野白野の言葉にリアスは再度言葉を失い、そして……周りを見渡す。

 

「……すんません。俺、部長が辛い顔でアイツと一緒に居たら……多分殴っちまうと思います。例えそのせいで殺されても」

 

「……僕も一誠君に同意です」

 

「そうね……わたしも、貴女の立場が良くなるなら、メイドの真似事や、身体くらいなら好きに触らせてしまうでしょうね。流石に本番は許さないけど」

 

「同じく」

 

「わ、わたしもです!」

 

「みんな…………」

 

 全員の言葉を聞き終えると、リアスはよろよろと力無く椅子に座り込んでしまう。その仕草はまるで重い物に圧されて立っていられなくなったかのような動きだった。

 

 ようやく気付いたようね。信頼という名の重圧、『責任』に。

 

 それは組織に属する者なら誰もが背負う物。ある意味このグループにもっとも欠落していた物と言ってもいい大事な物だ。

 

 なまじリアスと朱乃が優秀な上に財と権力があったのがいけなかったわね。そのせいで大抵の事がどうにかなってしまったから。

 

 もっとも、まだ十代のリアスをそんな立場にしてしまったわたしやサーゼクスにも責任がある。

 

 だからこそ、今回のゲームには勝って欲しいと思っている。その為にわたし達は現状で出来うる限りのサポートを行うつもりでいる。

 

「…………もし、もしも次のゲームに負けたら……わたしのせいで、みんなにそんな思いをさせてしまうの?」

 

 しばしの沈黙のあと、リアスは弱々しくそう尋ねた。

 

 誰もが沈黙する中で、やはり最初に答えたのは月野白野だった。

 

「その通りです」

 

 はっきりと。無慈悲に叩きつけるように放たれる。だがそれは誰かが言わなければならない言葉でもあった。

 

 損な性格をしているわね、彼は。

 

 少しだけ目の前の少年に同情すると共に、親近感が沸いた。思えば自分も似たような立場だ。

 

 少しでもいいから、あの人達もわたしの気苦労を背負ってくれないかしら。

 

 問題児だらけの友人達の行動に巻き込まれて後始末をしたり、そんな彼らを諌めるために厳しい言動が増えた。気付けば親しい者以外からはかなり恐れられてしまっている。

 

 わたしが自分自身の現状に内心で溜息を吐いていると、今度は月野が口を開く。

 

「でも戦わないという選択肢は無い。そんな事は自分達が許さない」

 

 確かにそうね。リアスが結婚を認めてしまえば回避できるけど、それは彼女の仲間が絶対に許さない。

 

「まだ十日ある。正直自分の情報分析だとマイナスからのスタートだと思う。でも同時に勝つ見込みもあると思う」

 

 月野はそう言って全員を見渡す。

 

 彼の言葉に、部員達は顔を上げる。誰もが疑問を感じている顔だった。もちろんわたしもだ。何を持って勝機があると思っているのか、実に興味深い。

 

「それはどうしてだい?」

 

「だってもう向こうは勝った気でいる。慢心してる。故にそこを突いて倒す」

 

 祐斗が尋ねると、月野は確信を持って頷き答えた。その答えにわたしは内心でなるほど。納得する。

 

 確かにライザー陣営に勝つには彼らの驕りを付くしかない。しかも先の一件で彼らはこの子達を完全に舐めきっている……中々どうして、よく視ている。

 

「慢心、するでしょうか?」

 

「するよ。だって負けた事が無いんだから。しかも相手から見ればこちらは格下も格下だ。慢心に慢心してゲームに挑むと思う。少なくとも彼らにとってはこの試合は『その程度』の重みしかないのさ」

 

「それはそれで腹立つな」

 

 小猫の言葉に月野は断言し、兵藤一誠がそれを聞いて憤る。

 

「それが、背負っている物、賭けている物への想いの差だよ一誠。それを自覚できているのと、できていないのとでは、戦いで大きな差が出る。みんなはもう自覚できたよな?」

 

 彼の言葉に、誰もが小さくではるが頷く。

 

「だったら大丈夫だ。それを自覚している限り、自分達は最後まで屈せずに戦える。諦めずに足掻ける!」

 

 熱が篭る月野の言葉。そしてその言葉の熱が伝播するかのように、彼らの顔に活力が戻って行く。

 

「勝つぞみんな!」

 

「当たり前だ! 絶対に負けねー!」

 

「はい! わたしも頑張ります!」

 

 拳を上げて高らかに宣言する月野の言葉に、まず兵藤一誠とアーシア・アルジェントが答えるように同じく拳を上げる。

 

「うん、勝とう。絶対に」

 

「はい」

 

「そうですわね」

 

 祐斗、小猫、朱乃もまた、先程での暗い表情から一変して決意の篭った力強い表情で頷き合う。

 

「みんな…………ええ、勝ちましょう。わたしだけの為じゃない。ここにいる『全員の未来』の為に!!」

 

 リアスは目尻に浮かんでいた涙を拭い、いつもの自信に満ちた表情と共に立ち上がり、全員を見据えて宣言した。

 

 ……凄いわね。

 

 純粋に感心する。経った数十分の叱咤激励。それだけで彼らの雰囲気はもはやライザーが現れた時のような学生気分など無くなり、今では絶対に負けられないと言う戦う者の顔をしている。

 

 だが、だからこそ危険だとも思う。

 

 今は月野が味方だからいいが、もし彼のその手腕が敵として振るわれる事になれば、間違いなく我々悪魔にとって脅威となるに違いない。

 

 故に、わたしは口を開く。今ここで、彼の正体を暴き、そして見定める為に。

 

「話は纏まったようですね。ではお嬢様……その者はいったい何者です」

 

 今まで無言を貫いていたわたしの声に、全員が注目し、リアスが僅かに戸惑う。

 

「何って、月野白野よ。貴女には言ったでしょう。神器を持った人間の男子生徒に正体を明かしたって」

 

「名前の件ではありません。この者は普通の人間ではない。神器が有る無しではなく、その精神構造があまりにも現在の年齢と釣り合っておりません。もう一度お尋ねいたします……あなたは何者です?」

 

 わたしは今度こそ明確な敵意を持って、月野を睨む。さあ、答えて貰いますよ。あなたの正体を。

 




ふふふ、実はこの話、五回も書き直してるんだぜ……orz。

いやね……正直原作読み返してもグレモリー側に突っ込み所が多過ぎるのよ、この場面。

そのせいで白野視点だと二話に跨ぎそうになったので、結局白野よりの第三者視点で描く事に。まあグレイフィアさんから見た白野の視点が書けたので嬉しい誤算ではありましたね。

あと全然関係ないけどこの話を読んでると白野がスキル:カリスマを持っているように思えて仕方が無い(実際一組織を率いたし、最低ランクのEくらいは所持してるかな?)




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【改めての協力関係】


という訳で前回の続き。



 出会って初めて、グレイフィアさんが殺気を放った。その殺気に中てられたのか、全員が息を呑む。

 

 だが彼女の反応は当然だと自分は思う。グレイフィアさんからすれば身内に得体の知れないものが近付いているのだ。警戒するのは仕方が無いだろう。

 

 だがどうしたものか……。

 

 正直、自分の事をある程度話す分には問題ない。むしろみんなにはゲームの為にも自分の事情を少しは説明しておいた方がいいだろう。

 

 問題は目の前のグレイフィアさんだ。

 

 彼女はあくまでもグレモリー家に仕えている者であり、自分とはそれほど深い関係でもない。

 

 それに彼女がリアス先輩にとって味方かどうかも分からない。なんていうか、仕事とプライベートは別けそうな気がする。さっきもリアス先輩を助ける素振りすら見せなかったし。

 

「……分かりました。ただし、全てを話すつもりはありません。あなたから情報が漏れる可能性もある。だから漏れても問題の無い範囲でお答えします」

 

 グレイフィアさんとしばし睨み合う。少なくともこちらは譲るつもりは無い。その意志を込めて彼女の瞳を捉え続ける。

 

「……いいでしょう。ではまず、あなたのその年齢と精神の不一致から聞かせていただけますか?」

 

「そうですね。自分は所謂転生者と呼ばれる者です」

 

「「ええええ!?」」

 

 自分の言葉に大げさだろうと言えるほどの叫びを上げる一誠とアーシア。なんというか、仲がいいね君達。もう付き合っちゃえよ。

 

「お、お前、転生って!? マジか!?」

 

「そんなに驚くことか? 一誠だって自分と同じ立場だぞ。違うのはただ人間か悪魔かの違いくらいだぞ。自分も生前、寿命で死んだ訳じゃないし」

 

「え、それって」

 

 朱乃先輩が少し戸惑うように呟く。

 

「生前。自分はまぁ、戦いに身を投じていた身なんだよ。リアス先輩に偉そうに説教した大半は、自分が尊敬する人達の受け売りと、自分が体験して身に沁みてる経験談だ。うん、思い返すと正直恥ずかしいな」

 

 苦笑しながら答えるが、場の空気は少し重い。

 

「ふむ、戦に従事していた、ですか。内容は?」

 

「悪いが教える訳には行かない」

 

 グレイフィアさんが眉を吊り上げる。それを無視して理由を説明する。

 

「人を殺したことがあるってだけでも十分な情報だと思います。それに自分にとっては良くも悪くも大事な思い出です。その思い出を赤の他人の貴女に説明する道理は無い」

 

「………いいでしょう。その目を見る限り、殺されても話しそうにありませんし、折れましょう。次にあなたのその力量は独学で?」

 

「仙術や格闘術の基礎を教えてくれた師匠は居ますが、名を明かすつもりはありません。光力に関しては堕天使と主従契約してから使えるようになりました。これはリアス先輩達も知っている情報ですね」

 

「白野あなた仙術が使えるの!?」

 

「仙術を用いた基礎の格闘術だけです。それだってまだまだ」

 

 驚きながら目を見張るリアス先輩に別に仙術の全てが使えるわけではないので一応釘を刺しておく。自分には黒歌のような才能は無いから地道に努力するしかないのだ。

 

 それと黒歌の事は伏せる事にした。黒歌についてはリアス先輩達にも明かすことは無いだろう。少なくとも彼女の身の安全が保障されるまでは。

 

「……神器、仙術、光力。なるほど、確かにそれらを上手く使えば下級悪魔くらいなら戦えるかもしれませんね……ふむ」

 

 グレイフィアさんはまだ何か言いたそうだったが、顎に手を当てて思案する。

 

 その僅かな沈黙を狙っていたかのように、朱乃先輩が口を開いた。

 

「グレイフィア様。もうよろしいのではないでしょうか? 彼は一度、兵藤君とアーシアちゃんを危険を冒してまで助けてくれましたわ。今回も、わたし達の為に戦ってくれると言ってくれました。流石にこれ以上はこちらの陣営に要らぬ不和を生む事になります」

 

「そうですね。何より、僕は彼を信じます。少なくとも負けを望んでいるような者ならあそこまで真剣に、僕達の為に怒ったりはしませんから」

 

「そうだぜ! 白野は約束は守る奴だってことは幼馴染の俺が一番よく知ってる! 例え白野がどんな過去を持っていても、俺達の仲間です!」

 

 一誠が叫ぶと、それに同意するように小猫ちゃんとアーシアが頷く。

 

「……そうね。グレイフィア、あなたの立場を考えると彼を怪しむのは分かるわ。でも今回の一件、彼を巻き込んだのはこちらよ。そして彼の力は今のわたし達に必要だわ。悪いけど、尋問はそこまでにして頂戴」

 

 ……正直意外だ。まさかこのタイミングでみんなに庇って貰えるとは思わなかった。

 

 みんなやっぱり、さっきの一件には少しは思う所があったてことなのかな?

 

 オカ研のみんなから睨まれる形となったグレイフィアさんは、その視線を真っ向から受け止めると、溜息を一つ吐いた。

 

「分かりました。わたしも別に不和を狙っている訳ではございません。それでは皆様方、ゲームの方、頑張って――」

 

「ま、待った!!」

 

 尋問を止めて帰ろうとするグレイフィアさんを慌てて止める。

 

「なんでしょうか?」

 

 さっきまでのこちらへの疑念が嘘のように、落ち着いた表情のまま、こちらに振りかえる。やっぱり私情と仕事は別けるタイプなのかもしれない。

 

「グレイフィアさんと交渉したいことがあります」

 

「交渉、ですか? 内容によりますわ」

 

 だろうな。でもこの交渉だけは、とりあえずしておいて損は無い。

 

「できればレーティングゲームのルールが記載された資料。それとフェニックスがレーティングゲームで儲かっていると言っていたから、その情報も教えて欲しいです」

 

 自分だけではなく殆どのグレモリー眷属はレーティングゲームの事もフェニックスの事も知らない。これは正直まずい。戦う以前の問題だ。

 

「あっ! そうよフェニックスの涙!」

 

 リアス先輩が思い出したように机を叩く。

 

「グレイフィア、わたしの部屋にもしも用のがあったはずよ。それを持ってきて。それとできれば資料は全員分お願い」

 

「かしこまりました。そのくらいならば問題ないでしょう。ではフェニックスが何故財力が潤沢なのかはお嬢様にお聞きくださいませ」

 

 そう言って、今度こそグレイフィアさんは去っていた。

 

「……あ、あの部長、フェニックスの涙って?」

 

「フェニックス家が生成しているアイテムよ。振り掛けるか飲むかすればあらゆる傷を癒す霊薬。その効果があまりに強い為に、ゲームでは二つまでしか使用できないという規制までされた霊薬よ」

 

 なるほど、読めた。

 

「つまりその霊薬が、フェニックス家の財政を潤していると言う訳ですね」

 

 自分の言葉にリアス先輩が頷く。

 

「その通りよ。フェニックス家はこれを高値で売っているわ。もっとも、数が出回ると恩恵が少ないから本当に高価な上にある程度信頼の置ける相手や付き合いのある者にしか売らない。まぁそれでも闇ルートで数点出回っているという噂は聞くわ」

 

 そうかそうか。つまりリアス先輩は、そんなゲームの勝敗を左右しかねない存在を、今の今まで忘れていたというわけか……。

 

「……リアス先輩。それ、結構重要な情報ですよね? それをさっきまで忘れていたんですか?」

 

 流石にこれは許しちゃ駄目だと思い、責めるように見詰めると、リアス先輩がバツの悪そうな顔で視線を泳がせる。

 

「うっ。お、思い出したんだからいい――」

 

「さっき背負うって言いましたよね? ちゃんと自覚してます?」

 

「……ごめんなさい。わたしが悪かったです」

 

 涙目で項垂れるリアス先輩。さっき庇ってくれた時は格好良かったのに、もっとしっかりして貰おう。なんかこの人、地味にレイナーレに似ている。大事なところで大ポカするタイプだ絶対。

 

「お待たせしました……どうしてお嬢様が項垂れているので?」

 

 その手に資料らしき紙束と、液体の入った掌サイズの綺麗な細工が施された二本のカラス瓶の入った手提げのついた籠を持って戻ってきたグレイフィアさんが、わずかに眉を曲げ、怪訝な表情をする。

 

「フェニックスの涙について忘れていた事を説教しています」

 

「ああ。それはお嬢様が悪い」

 

 しかし理由を知ると表情を戻して庇うどころか止めを刺した。流石だ、容赦が無い。

 

「ちょっ、グレイフィア! 少しは擁護してくれもいいじゃない!」

 

「良い機会です。王として自覚してくださいませ。では月野。こちらが所望のレーティングゲームの資料と、フェイックスの涙です」

 

「なんで白野に渡すのよ! 一応それ、わたしのなんだからね!」

 

 グレイフィアさんがリアス先輩を無視して自分に向けて荷物を差し出す……あれ? この人さっきまで自分をフルネームで呼んでいなかったか?

 

 ……ま、いいか。

 

 些細な事なのでとりあえず気にせずにお礼を言って受け取る。

 

「ありがとうございます、グレイフィアさん」

 

「いいえ。それでは皆様、ゲーム当日に会いましょう」

 

 グレイフィアさんは最後まで態度を変えずに今度こそ冥界へと帰還し、リアス先輩は改めて座り直して宣言した。

 

「さて、白野に関しては色々訊きたいけど、とりあえず無視するわ。今は一分一秒も無駄には出来ないのだから。という訳で合宿を行おうと思うわ。もちろん白野、あなたも参加して貰うわよ。わたし達にあれだけ言ってのけたのだから、期待させて貰うわ」

 

「ああもちろん!」

 

 リアス先輩の期待の篭った視線に、力強く頷いて答えて見せる。

 

 こうして自分達は十日間の合宿を行う事になった。

 

 

 

 

「ふむ。妥協点といったところでしょうか」

 

 わたしは屋敷に戻ると先程のリアス達の行動を思い出してそう呟く。

 

 前半のライザーへの対応は正直落第点と言ってもいい対応だったが、その反省を活かして月野をちゃんと庇えた点は少しは評価できる。

 

 

 光力に仙術。どちらも悪魔にとっては脅威だ。彼が何処まで扱えるかは知らないが、少なくともマイナスにはならない。むしろ勝つことを考えた場合、あそこで月野を庇い仲間に引き入れるのは当然の選択でしょう。

 

 わたしとしてはもう少し情報を得てから止めて貰いたかったのですが、しかたありません。

 

「さて、御両家にゲームの事をお伝えしなければ」

 

 頑張りなさいリアス。

 

 わたしは心の中で愛しい義妹(いもうと)へと激励を送り、両家への説明へと向かった。

 

 




ようやく次回から合宿。まだまだ先は長いなぁ。



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【合宿初日】

というわけでようやく合宿開始。



「フェニックスに喧嘩売るって、あんた馬鹿? いい、理解しなさいよ。あんたは人間なのよ? そりゃあ確かに普通の人間よりはやれるでしょうけど、限度があるわ。不死と名高いあのフェニックスを相手にするなんて、何? 英雄にでもなりたいの? つーかわたしも自動的に巻き込まれるじゃないの。どうしてくれるの? あんたが死んだらわたしもアザゼル様に殺されるかも知れないのよ。わたしの命も背負ってるんだから少しは自覚してくれる?」

 

「そうにゃそうにゃ。どうしてそう自分から首を突っ込むの? 馬鹿なの? 死ぬの? 死んじゃったらどうするの? わたしに悲しい思いさせたいの?」

 

 レイナーレと黒歌の説教と非難が止まりません。誰か助けてください。

 

 帰って二人に事情を説明した瞬間、正座させられてこの状況だ。

 

 そして二人の言葉を受けて、ある事に気付いた。

 

 リアス先輩が結婚したら管理者が変わるかもしれない。という事実にだ。

 

 そうなるとレイナーレは生き難くなるかもしれないし、黒歌は討伐されてしまうかもしれない。正直なところ今の自分達がこの町で平穏に暮らせているのはリアス先輩の存在が大きいと言える。

 

 そう考えると、今回巻き込まれたのは幸運だったのかもしれないな。

 

 少なくとも自分自身で足掻くチャンスは手に入れたのだから。

 

「……勝つしかない」

 

「は? ちょっとあんた、わたし達の話をちゃんと聞いてた!?」

 

「ああ、聞いてたよ。お陰で気付けた。リアス先輩を今失う訳には行かない」

 

「どういうことかしら御主人様?」

 

 自分が気付いた事実を二人に伝える。

 

「……確かに。あのお人好しのグレモリーがいなくなると厄介ね」

 

「そうね。御主人様の話だとシトリー家の娘もいるから、彼女が管理する事になる可能性もあるけど……典型的な悪魔至上主義な奴が管理者になったら間違い無くわたし達は生活し難くなる」

 

「うん。だから勝つしかない。ところで黒歌はレーティングゲームには参加した事はあるのか?」

 

 黒歌にそう尋ねると彼女は頷き首を傾げる。

 

「何回かは。それがどうかした?」

 

「実際のゲームがどんな感じか教えてくれると今度のゲームの作戦に役立つと思ってさ」

 

 どちらにしろ自分達は素人だ。ならば付け焼刃は多いに越した事はない。なんせ一太刀もてばいいのだから。

 

「分かったわ。わたしが覚えている限りの事は教えてあげる」

 

「ありがとう」

 

「ならお茶くらい淹れてあげるわ」

 

「レイナーレもありがとう」

 

「ふん」

 

 レイナーレがお茶を取りに行っている間に黒歌と一緒にレーティングゲームの資料を読みながら彼女の説明して貰い、ルールを頭に叩き込む。

 

 戦いはもう始まってる。明日からの合宿のためにも、やれることはやっておかないとな。

 

 結局寝る直前まで黒歌との話し合いは続いた。レイナーレもなんだかんだで付き合ってくれた。

 

 

 

 

「ひ~ひ~」

 

 一誠が死にそうな顔で巨大なリュックサックを背負って山道を登って行く。

 

「ふぅ。ふぅ。頑張れ、一誠」

 

 隣の一誠を励ましながら、一誠より少ないとはいえ、人間が持つにはいささか重量過多な荷物を背負いながら歩みを進める。

 

 合宿初日。一度学園に集まった自分達は、そこからグレモリー家が所有する山へと転移魔法で向かった。

 

 自分だけ眷属ではないので朱乃さんに手順を踏んで別の転移術式で送って貰った。

 

 試合には出られないが合宿にはレイナーレも誘おうとしたが、悪魔側にバレたら面倒だと言って断られた。

 

 別れ際に黒歌とレイナーレに『が、頑張りなさいよ』『頑張るにゃん御主人様』と激励してくれたのには純粋に嬉しかった。やっぱりレイナーレと黒歌は可愛い。

 

 そして現在、自分達は別荘へ向けて軽く整備された山道を重い荷物を背負ってひたすら登っていた。

 

 にしても、あの量が入るリュックサックがあることが不思議でならない。流石は悪魔や魔物が住む冥界。不思議アイテム盛りだくさんである。

 

 自分の三倍近い荷物を持った一誠の背中にある大きなリュックを眺めながら、そんな事を考えていると、誰かが軽快な足取りで自分達を抜き去った。

 

「部長。山菜を採ってきました」

 

「……お先」

 

 この山で採ったであろう山菜を抱えた一誠と同じ大きさのリュックを背負った祐斗と、一誠の数倍近い荷物を平然と担いでいる小猫ちゃんが悠然と通り過ぎる。き、規格外すぎる。これが悪魔と人間の差か。

 

「だああくっそ! 負けてたまるか!!」

 

 一誠が叫んで駆け出す。流石だ。ここでそれだけの元気があるとか、自分には到底真似できない。

 

「大丈夫ですか白野君? 汗が凄いですわ」

 

 隣を歩いていた朱乃さんが、タオルで自分の額の汗を拭いてくれる。

 

「ありがとうございます。それにしても、随分と荷物が多いですね」

 

「殆どは食料ですわ。良く食べ良く寝る事も強くなる為の秘訣です」

 

「確かに」

 

 でも多過ぎる気がするが、それとも悪魔はこれくらい平然と食べれてしまうのだろか? 

 

 そんな疑問を抱きながら、ようやく目的の別荘に到達する。私物の荷物を屋敷の中に入れ、それ以外は屋敷傍の倉庫らしき小屋に入れる……どうやって居れたとかは……やっぱ考えちゃ駄目なんだろうな。

 

「それじゃあ荷物も仕舞ったし、わたしと白野で考えた合宿の予定を伝えるわ」

 

 正直リアス先輩の立てた計画には無駄が多かった。悪魔や各陣営の要注意人物の暗記だとか、各種族の特色など、正直それらは今回のゲームが終わってからでもゆっくり覚えればいい。今は自分達がいかにして強くなるかを考えるべきだと彼女に進言したところ、以外にあっさり受け入れてくれた。彼女なりに何か思うことがあったのかもしれない。

 

 主な修行は基礎体力訓練と個人特訓。尚食事当番は料理が出来る者で特に上手い者をメインにローテーションし、サポートと要員に一人二人付けるという感じになった。

 

「個人特訓にはぞれぞれ課題を設けてあるわ。わたしは少しでも滅びの魔力を早く多く練れるようになる事。祐斗は状況にあった魔剣の素早い具現。小猫はパワー任せな所があるから素早さと気配察知の向上。朱乃は祐斗と同じ素早く状況にあった魔法を展開させる訓練。一誠は魔法の修得と基礎訓練による身体能力の向上。アーシアは魔法の習得と体力の向上。せめて身を守る術は覚えて頂戴。白野は光力と仙術の訓練。ただし組み手のときは光力は使用しないこと。仙術も大怪我させない範囲でお願いね」

 

 リアス先輩が全員がしっかりと頷くのを確認したあと、握り拳を掲げる。

 

「さて、それじゃあ今日は食事を摂ってさっそく基礎訓練よ!」

 

 全員が『おおー!』と声を上げて準備に取り掛かる。こうして自分達の合宿が始まった。

 




と言うわけで原作と訓練の内容が違います。いやだって、原作はなんか無駄が多かった気がするんですもん。



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【祐斗VS白野】

という訳で白野の初戦闘回。



「とりあえず白野、あなたの実力を知りたいわ」

 

 全員で軽い運動を済ませ広い場所に集まると、リアス先輩がそう提案した。

 

「まぁ当然か。それで、何をすれば?」

 

 実際自分も今のみんなの実力は知りたい。

 

「決闘方式で祐斗と戦ってみて。アーシアもいるしわたし達が作った魔弾を、あなたの神器で食べ物に変えれば体力も回復できるでしょ」

 

 確かにそうだけど、いきなり真剣勝負とは。

 

「祐斗は木刀を持たせるけど、あなたはどうする?」

 

「素手でいいですよ」

 

 そもそも徒手空拳しか黒歌には倣っていない。先日手に入れた剣や銃はあくまで戦術の幅を広げるだけの武器だ。そしてあれは光力でしか使えないから悪魔のみんなには正直使用しずらい。

 

「そう言えば、君とこんな事をするのは初めてだね」

 

「普通に生きてたら無いと思うぞ。こんな状況」

 

 祐斗の対面に立って構える。祐斗も木刀を正眼に構える。

 

「それじゃあ、始め!」

 

 リアス先輩の合図と当時に祐斗がこちらに駆け寄る。それをじっと構えたまま待ち受ける。

 

 祐斗の間合いになり、祐斗が木刀を左斜めに袈裟に振り下ろす。

 

 その攻撃を左足を引いて姿勢を低くして回避する。

 

 頭上を通り過ぎる木刀を感じながら、そのまま祐斗木刀を握る祐斗の腕を掴み、右足を軸に身体を反転させて一本背負いの要領で投げ飛ばす。

 

「くっ!」

 

 顔をすぐに上げる。祐斗が空中で姿勢を直すのを確認しながら先程と同じ構えを取る。決して自分からは攻撃しない。

 

『いいにゃん御主人様、人間と人外が戦う時にまずすべき事は『(けん)』にゃん。例えば人間同士なら突っ込んでくる相手に攻撃を合わせる所謂カウンターが決まれば、相手に何倍ものダメージを与えられるにゃん。でも基本悪魔の方が肉体の強度は上にゃん。極端に言っちゃえば突っ込んでくる車を殴るようなものね。その場合タイミングが合っていようが、ダメージを受けるのは攻撃した方って訳にゃん。だから兎に角『見』にまわるにゃん。そして相手の攻撃を避けたりいなしたりしながら、衝撃を透すキツイ一撃を当てて行くにゃん』

 

 格闘術を教えて貰う時に黒歌が最初に言った言葉だ。元々視覚性能が良かった自分には、この戦術は性に合っていた。

 

 黒歌との特訓で素早い動きへの反応が上がっている自分には、祐斗の今の速度なら『見てから』でも十分に避けられるレベルだ。

 

 対処された祐斗が少し驚いた表情をしたあと、どこか嬉しそうに笑って再度木刀を構えた。どうやら祐斗には意外にもバトルマニアな一面があったみたいだ。

 

「凄いよ白野君、まさか回避されるとは思わなかった」

 

「攻撃力が無い分、防御の技術を磨いているんだよ」

 

「じゃあ今後はもっと速く!」

 

 祐斗が更に加速する。

 

 彼の姿がブレる。が、まだ『視認』できる。

 

 その場で深く屈んで左足を軸に大きく弧を描くように回転して祐斗の突きを回避して彼の背後に回りそのまま肘で彼の頚椎に一撃入れる。

 

「ぐあ!?」

 

 祐斗が軽く前のめりになり、慌てて振り返る。その間に、彼の懐に潜り込む。

 

「はっ!!」

 

「がっ!?」

 

 祐斗が振り返る途中で、無防備な脇腹目掛けてオーラを纏った掌底を叩きつける。すると祐斗がその場から数歩吹き飛ばされる。

 

 衝撃による攻撃。

 

 中国武術の一つであり、仙術格闘術の基礎だ。

 

 物理的接触だけではなく。接触時の衝撃すら相手に与えて体内から破壊する。さらにオーラを一緒に叩きつけることで物理・衝撃両面の威力が増す上に相手のオーラの流れを乱せる。

 

 もっとも、オーラの流れを乱せるかは自分や相手の技量、それにオーラ量によるから絶対に出来る訳じゃないけど。

 

「凄い一撃だったよ。肉体の内側から破壊されるかと思った」

 

「普通はもっと苦しむモンらしい。やっぱり人間と悪魔だと基本のスペックが違うせいで威力が落ちるみたいだ」

 

 祐斗を観測する限り、本当に思いの外大きなダメージを負った程度のものらしい。普通に木刀構えてるし。

 

 確かにオーラの流れを断つ程の威力は込めなかったが、同じ人間なら多分今ので片膝着くくらいはしていたと思うんだけどなぁ。

 

「さ、まだまだ行くよ白野君!」

 

「やれやれ。人間相手に本気になるなよ!」

 

 その後、結局祐斗の攻撃を捌き続ける体力を無くした自分が徐々に祐斗の一撃を受けて気絶した。

 

 

 

 

「はあ、はあ」

 

 額に汗を流す木場がその場座る。その正面には傷付いた全身汗まみれの白野が倒れ、今はアーシアが回復して朱乃先輩が膝枕している。うらやまけしからん!

 

 にしても二人共凄かったな。

 

 木場は兎に角速かった。姿が常にブレブレで、何をしてるのか解からなかった。あれで騎士の駒の恩恵を使っていないのだから、恩恵を使ったらどうなるのか。

 

「ありがとう祐斗。でもわざと白野と攻防してくれなくても良かったのよ。数回攻撃を受けてもらって、あとは一撃で沈めてあげた方がお互いの体力や怪我も少なく済すんだだろうし」

 

「あ、そうだぞ木場! あんまり人間の白野を苛めるなよ。お前なら一撃で倒せただろう」

 

 リアス先輩と一緒に木場近寄ってそう注意する。すると、木場は珍しく少しだけ怒った様な顔で俺達二人へと振り返った。

 

「わざと? とんでもない。僕は全力だったよ。凄いのは白野君だ。手でいなされ、足でかわされ。攻撃が当たるようになっても急所にだけは絶対当たらない。それどころか攻撃が当たった事でこちらの動きが遅れると向こうの攻撃を叩き込まれる。それに彼の攻撃は一撃一撃が重くて痛い。正直、彼が悪魔で同じ肉体スペックだったら……多分立場は逆だったよ」

 

 祐斗の言葉に部長と一緒に口を噤む。

 

 確かに白野の全体の動きは俺でも見えていた。でも、偶に腕や足といった箇所がブレる時があった。多分あのブレているときに白野は木場の攻撃を捌いていたのだろう。それこそ全身から汗が出るほどに集中して。

 

「……祐斗、率直に聞くけど。白野は戦力になりそう?」

 

「……駒の特性にもよりますが、多分魔法専門の僧侶、それと兵士なら、彼でも十分に叩けると思います。正直あの衝撃を透す技で体内に光力を叩き込まれたらと思うと、正直ゾッとしますね」

 

 ああそっか。仙術には相手の体内にオーラを叩き込んで内側から技がある。その叩き込むのをオーラじゃなくて光力にされたら……怖っ!!

 

「ですが……」

 

 俺が自分の想像で顔を青くしていると、祐斗は残念そうな顔で白野の方へと振り返った。

 

「耐久力や物理的な攻撃力そのものはやはり人間である以上、凄く脆いし弱いです。恩恵全開の騎士や戦車だと、少し厳しいかもしれません。白野君もそのあたりは理解しているのか、掴まれたりしないように常に僕と一定の距離を保っていましたし、自分から攻め込むことはほとんどありませんでした」

 

 なるほど。確かに祐斗が攻めている事が多かったな。所謂カウンタータイプという奴だろうか?

 

「そう。一誠、合宿中は白野と出来るだけ戦いなさい。あなたも基本素手なのだから」

 

「はい!」

 

 よし。俺も白野に負けないように頑張るぜ!

 




という訳で白野は悪魔には勝てなかったよ。
まぁ本気出せない条件付けだとこんな感じですね。

一応原作読んだ上での、この時点での自分が考えている現在の純粋な肉弾戦の強さはこんな感じ↓

黒歌>>>>祐斗>白野>小猫>朱乃=一誠=リアス=レイナーレ

朱乃先輩以降は種族スペックによるので似たり寄ったりって感じです。
小猫も駒の恩恵が無ければ技術不足な感じ。でも当たれば白野には勝てる(一撃が重いので)
白野と祐斗は肉体スペックの差で白野が劣っている感じ。
黒歌は天才な上に白野に付き合って稽古もサボっていないので、衰え知らずな上に強くなっている感じです。(遠近で戦えるとか、ますますキャス狐に似てきた……)



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【小猫の過去】


という訳で今回は小猫の過去回です。
正直どうしても原作での過去の小猫の立場に違和感を拭えなかったので。かなりアレンジしました。一応現在の小猫に至るような流れにはしたつもりです。



 合宿三日目。

 

 今日はある程度魔法の基礎を学んだアーシアの強化方針について話し合う。

 

 アーシアには魔法を扱う才能があったようで、初日と二日で体内魔力の操作はある程度可能になったそうだ。因みに自分の魔術は教えていない。むしろみんなの前で披露したら朱乃先輩とリアス先輩に絶対に公の場では使うなと言われた。

 

 なんでも魔法とは土地や種族でその在り方が微妙に違うらしい。

 悪魔にとって魔法とは使えて当たり前の能力だが、人間からすると色々手順が必要なんだそうだ。

 

 まあちゃんとした魔法は師に教わるところから始まると言うからな。

 

 有名な西洋魔術はもちろん、ルーン魔術や錬金魔術だって、最初は必ず誰かに教わるものだ。でないとかならずミスが起きる。それくらい人間にとって魔法や魔術は扱いの難しい技術なんだそうだ。

 

 にもかかわらず。黒歌の協力があったとは言え、前世の魔術、この世界で言えばまだ世に出ていない新しい魔法体系を自分は確立してしまった。

 

 その事実がもしも過激な魔法使い集団にでもバレれば、身柄を拘束されて魔術の情報だけ奪われて殺されることもあるそうだ。

 

 二人の忠告をありがたく受け止め、今後は可能な限り魔術はバレないように使うことを約束した。

 

 おっと、自分のことはいいな。今はアーシアだ。

 

 思考がずれ始めたので話題を戻す。

 

「さて、自分が提案するのはアーシアの神器の強化だ」

 

「神器の強化、ですか?」

 

「ああ。アーシアの神器って、相手に接触するくらい近付かないとダメだろ?」

 

 自分の言葉にアーシアが頷く。

 

「でも実際触れなくても発動しているってことは、距離を取っても発動できるはずなんだよ。自分みたいに」

 

 そう言って机を挟んだ対面のアーシアの前に飴玉を出す。

 

「そう言えば白野は距離に関係なくお菓子を出せるわね」

 

「正確には視野の届く範囲ですね。距離が離れているから時間が掛かるという事も無いです。ただ、アーシアの場合は似たような能力ですが工程が違うので、自分と同じやり方ではダメだと思う」

 

「工程が違う?」

 

 一誠が首を傾げたので少しだけ説明する。

 

 自分の神器は発動・エネルギー変換・物質化という三つの工程が存在する。

 

 今のアーシアの場合は発動・発現という二工程しか存在しない。

 

「これが基本。で、自分が遠くにお菓子を出現させる場合はエネルギー変換の後に『出現座標設定』という工程が含まれる。多分アーシアがより効果範囲を広げるなら、自分を中心に治癒が発動する範囲を広げるのが一番だと思う。けど……」

 

「……それは危険ですわね」

 

 自分が言葉を濁すと、理由に気付いた朱乃先輩も渋い顔をする。

 

「どうしてダメなんですか?」

 

「小猫ちゃん、よく考えて。アーシアの神器の効果範囲に敵がいたとして、アーシアはその相手を癒さないと思う?」

 

「あ」

 

 小猫ちゃんがこちらが言いたい事に気付いて小さく声を漏らす。

 

 そう。アーシアは多分敵であろうと怪我した相手を無視できない。となるとアーシアの治癒範囲を広げるのは諸刃の剣でしかない。

 

「まぁそれでも敵が居ない場所でなら複数人を同時に回復できる訳だから覚えておいて損は無いと思う。でも今はより確実な方を練習しようと思う」

 

「練習ですか?」

 

「ああ。リアス先輩が言っていたが神器は持ち主の意志によって進化する。自分の能力もそうだったしね。だからアーシアの神器だって強くイメージすれば神器もその通りに進化すると思うんだ。と言うわけでアーシアには魔法を習いながら個人特訓で魔弾を飛ばす練習をして貰う」

 

「あっ! 解かったぞ白野。その魔弾を飛ばす要領でアーシアの治癒の力を飛ばすんだな」

 

 一誠の自信に満ちた回答にこちらも頷く。

 

「ああ。現状ではそれが一番確実だと思う。と言うわけなんだけど、いいかなアーシア?」

 

「は、はい! わたしも皆さんのお役に立てるように頑張ります!」

 

 真剣な表情で今まで黙っていたアーシアに話を振ると、彼女は凄い勢いで首を縦に振って両手に拳を握る。なんというか、子供が意気込んでいる様に見えて微笑ましい。

 

「さて、アーシアの個人練習もこれで纏まったし、それじゃあ今日の対人戦の組み分けを発表するわよ~」

 

 リアス先輩が立ち上がり、夜の対人戦の組み合わせが発表された。

 

 

 

 

「せい!」

 

「あっく!?」

 

 自分は小猫ちゃんの拳を回避し、勢い良く突っ込んできた彼女の膝裏に水平蹴りを浴びせて倒して距離を取る。

 

 今日の対戦相手は小猫ちゃんだった。今回自分達が戦っているのは林の中だ。障害物がある状況でも戦えるようにという配慮だ。

 

「う~ん。小猫ちゃんはまだまだ戦車の恩恵に頼りすぎてるかな。本来小柄な小猫ちゃんはもっと素早く細やかに動いて相手を翻弄する戦い方があってると思うよ。それと、本来攻撃は避けるものだから、極力くらわないように」

 

 多少の攻撃ではビクともしない故に、小猫ちゃんには攻撃に対する危険察知能力が低い。正直これは戦いに身を置く者として致命的だ。

 

 とりあえず自分と戦う時は駒の恩恵を消しているので、速力が祐斗以下の小猫ちゃんでは、自分に攻撃を当てることはできない。動きが大雑把だから疲れても避けられるしね。

 

「はい……」

 

「ところで小猫ちゃん。ちょっと踏み込んだ事を訊いてもいいかな?」

 

「はい、なんですか?」

 

 説明を聞き終え立ち上がった小猫ちゃんに、前々から気になっていた事を伝える。

 

「小猫ちゃんは妖怪からの転生だよね? どうして妖術を使わないの?」

 

「ど、どうしてそれを!?」

 

 ……あれ? もしかして隠してた?

 

 自分の言葉に小猫ちゃんは物凄く驚いたようで、目を見開きしばらく硬直してしまう。

 

 あ~そっか。みんなに浄眼の説明をした時は異質な存在を見分けるとしか言ってなかったもんな。

 

「自分の浄眼はね、相手の異質を見抜くから小猫ちゃんの妖怪の部分も見抜けるんだよ。だから朱乃先輩が堕天使からの転生なのも知ってる」

 

「……そうだったんですか」

 

「うん。だからかなぁ。どうして二人共本来の自分の力を使わないのかなって。もし使えるなら次のゲームでの戦いでもかなり有利になるのにって思ってさ」

 

 黒歌なんかは魔力・妖力という異なるエネルギーを平然と扱い、しかも合わせたりする。天才はやっぱり恐ろしい。

 

「……あの先輩、少しだけお話に付き合って貰えますか?」

 

 小猫ちゃんはそう言って不安げな表情でこちらを見上げる。

 

「いいよ」

 

 その場に腰を降ろす。小猫ちゃんも隣に座り、空を仰ぎながらぽつぽつと語り出した。

 

 

 

 

 わたしには年の離れた一人の姉がいた。

 物心ついた時から一緒だった、たった一人の家族。

 

 辛く苦しい生活でも、姉さまの笑顔が、温もりが、わたしを支えてくれた。

 

 ある日、一人の悪魔が姉さまに悪魔になる事を持ちかけた。

 

 当時の幼いわたしには解からなかったが、今なら解かる。姉さまは生活を保障して貰う代わりに悪魔となったのだ。

 

 悪魔になった姉さまとの生活は、当時はただ純粋に喜んだ。

 

 毎日得られる食事に暖かい寝床も与えられた。姉さまとは時々しか会えなくなってしまったが、それでも会いに来てくれた時はずっとわたしの傍に居てくれた。

 

 幼い当時のわたしは、幸せに浸っていたせいで見逃していたのだ。

 

 今思い返せば与えられた家に帰って来た時の姉さまは傷を負っていることが多かった。もっとも、姉さまはわたしがその傷について尋ねても――。

 

『にゃはは。強くなる為に修行してるんだから傷付くなんて当たり前よ白音』

 

 ――と言っていつものように明るく、そして優しげに笑うだけだった。

 

 わたしにとって姉さまの言葉は絶対だった。だからその言葉を信じた。

 

 あの日までは……。

 

 ある日、怖い顔の悪魔達がわたしが暮らす姉さまの主の別荘にやって来た。

 

 訳が分からないまま、わたしや屋敷に居た者達が全員捕まった。

 

 わたしは人間界で言う刑務所のような場所に連れて行かれ、そこで姉さまについて聞かされた。

 

『お前の姉は力に溺れて、暴走し、主を殺した。奴が行きそうな場所を教えろ』

 

 信じられなかった。

 

 だって姉さまは妹のわたしから見ても、所謂天才と呼ばれる部類の存在だったのだから。そして何よりも。

 

 姉さまはわたしを置いて行くなんてありえない!

 

 わたしは泣きながら姉さまはそんな事しないと叫んだ。だが実際に姉さまが仕えていた悪魔は殺されていた。わたしは結局そのまま拘留された。

 

 わたしは信じて待ち続けた。姉さまはきっと助けてくれると。姉さま自身がきっと自分の身の潔白を証明すると信じ続けた。

 

 そんな思いをずっと抱きながら、周りからの批難の声、罵倒に一人で耐えながら過ごす事になってから数日後に、わたしはグレモリー家に引き取られる事になった。

 

『辛い思いをさせてすまなかったね』

 

 そう言ってやってきたのは部長のお兄様であるサーゼクス様だった。

 

 正直、当時のわたしはお世辞にも愛想は良くなかったと思う。周りの声に神経をすり減らし過ぎたわたしは、殆ど感情を表に出さなくなっていた。

 

 グレモリー家に引き取れた時、わたしは姉さまについてサーゼクス様に尋ねた。

 

『君のお姉さんについては残念だが未だに見付かっていない。ただ討伐隊が深手を負わせたのは間違いないらしいから……正直どうなっているか……』

 

 大好きな姉さまが死んだかもしれない。

 

 その一言でわたしの心は……折れた。

 

 それからの数年は曖昧だ。おぼろげに覚えているのはリアス先輩が必至に話しかけてくれていた事くらいだ。

 

「――そして三、四年前にようやく今の状態にまで回復しました」

 

「……そっか。それで結局お姉さんは見付かったの?」

 

「……姉さまは一年前に死亡が確定されました」

 

 白野先輩が僅かに驚いたような表情したあと、すぐにこちらを気遣う視線を向ける。

 

 この人は本当によく目元に感情が現れる。

 

 わたしはどちらかと言えば感情の機微に疎い方だが、それでも白野先輩が何を思っているのかはなんとなく分かる。

 

 きっとそんな分かりやすい人だから、姉さまの事を話す気になったのかもしれません。

 

 なんと声を掛けるべきか迷っている白野先輩から視線を空に戻して理由を説明する。

 

「討伐隊が深手を負わせ、それから十年近く音沙汰がありませんでした。結果、姉さまは討伐隊との交戦時の怪我が元で死亡したと言うことで、事件は解決したという扱いになりました」

 

 結局わたしが何も解からないまま事件は終わってしまった。

 

「わたしも、もう姉さまは亡くなったと、自分自身を納得させました……それでも妖術や仙術を使おうとすると怖いんです。あの優秀な姉さまですら扱えなかった力を、わたしなんかが扱えるのかって」

 

「……なるほど」

 

 白野先輩は小さくそう呟き、溜息を吐いて頭を掻く。その表情は、どこか物憂げで、少しやり切れない感じに見えた。

 

「小猫ちゃん。とりあえず、いったん自分が言った事は忘れてくれ。わざわざトラウマを呼び起こして克服するよりは、今は技術を伸ばそう。今回のゲームを乗り越えればまだリアス先輩達とも一緒に居られるし、いずれ克服する機会も得られるさ」

 

 こちらを気遣うようにそう言って笑う白野先輩に、わたしは少し悩んだあと、小さく頷いた。

 

「そうですね。今は確実に強くなれる道を選びます」

 

 わたしも立ち上がり、昔を思い出して少し涙腺が緩みかけている為、無理矢理顔を引き締めて涙が浮かばないように堪える。

 

「よし、じゃあ続きをやろうか」

 

「はい」

 

 お互いに振り替えて立ち居地に戻る。

 

「――かに――した――かな」

 

 去り際に白野先輩が小さく誰かの名前をぼやいたが、風に吹かれた葉の音にかき消され、内容までは聞き取れなかった。

 

 急に重い話をしたから、白野先輩も戸惑ってるのかも。

 

 そうわたしは結論付け、自分が招いたこの場の空気を切り替えるために、わたしはいつもよりも大きな声で構えた。

 

「行きます!」

 

「ん! 来い!」

 

 わたしのそんな気持ちを汲んでくれたのか、白野先輩も表情を引き締め、大きな声で応えてくれた。

 

 その後、わたし達はしばらく組み手を行ってから別荘に戻った。結論から言えば結局わたしは白野先輩から一本も取れなかった。

 

 やっぱり今のわたしには新しい力に目移りする前に今ある力を鍛えた方が良さそうだ。

 




私はどうしても小猫が姉に不信を抱くのが納得できなかったのと、姉が罪を犯したのに原作だと小猫は捕まることなくその後も普通に生活していた感じに書かれていたので、そこもちょっと納得できなかったので、今回のような流れになりました。

あとなんで仙術教えなかったのかといえば、自分の妖力すら扱えないのに更に難しい技術を十日で修得するのは無理だろうと考えたためです。



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【かつて通った道】


男二人の夜会話回です。



 はぁ。黒歌になんて報告するか。

 

 まさか小猫ちゃんが黒歌の妹で、しかも冥界では黒歌は既に死亡扱いとは。

 

 小猫ちゃんの話に頭を悩ませながら、それでも日数は過ぎて合宿は五日目に突入していた。

 

 ここ最近の変化で言えば祐斗と朱乃さんはよく組み手をするようになった。

 

 二人は互いに魔法や剣の属性を変えながら瞬時に状況に合った攻撃を行う訓練をしている。

 

 小猫ちゃんはあの話以来、よく一緒に森で訓練している。そのお陰かよく話をするようになった。なんというか妹が出来た気分だ。

 

 訓練内容は仙術で気配を消したり感じたりができる自分が、小猫ちゃん目掛けて遠くから石を投擲し、それを避けるというものだ。もちろん組み手も行っている。

 

 最初の頃は小猫ちゃんも上手く避けられずによく石に当たっていたが、最近は五感をちゃんとフルに使って探るようになったのか、徐々に当たらなくなってきた。

 

 リアス先輩は個人練習の間は一人で黙々と滅びの魔力を練る練習をしている。

 

 山の彼方此方にクレーターが出来上がっている。そしてそれは日を追うごとに深く大きくなっている。さすがはリアス先輩、才能の塊だ。

 

 アーシアは魔法の才があったのか、基本の魔力操作は覚え、今は神器の訓練と同時に自身を守る為の魔法の練習をしている。

 

 そして最後に一誠。合宿開始時は燃えていた彼は……自信を喪失していた。

 

 一誠はけっして弱くない。が、やはり悪魔になり立てであり、実戦経験の少なさから、他のみんなに付いて行くのがやっとと言った感じだ。

 

 個人的にはそれでも十分凄いと思うが、一誠はそうは思えないらしく、悔しげに拳を握る姿を何度か見かけた。

 

 ……まぁ話すしかないよな。

 

 本当はリアス先輩あたりに慰めてもらった方が、一誠も喜ぶかもしれないが、彼女は彼女で今回のゲームへのプレッシャーを感じているせいか、少し気張り過ぎている気がする。

 

 なんとか上手い事二人っきりに出来ないものか。

 

 そんな事を考えながらリビングで本を読んでいるリアス先輩を横目に、男子が寝泊りする部屋に入ると、祐斗はもう眠っていたが、一誠が思い詰めた顔で天井を見ていた。

 

「あ、お帰り白野」

 

「ああ。なぁ一誠、少し話さないか?」

 

「え? ああ、まあいいけど」

 

「んじゃ、祐斗はもう寝てるし、バルコニーで話すか」

 

 各部屋に取り付けられたバルコニーに出て二人で空を見上げる。

 

「う~ん男二人で見ても悲しいだけだな」

 

「いや、そりゃそうだろ。何が悲しくて男と二人で夜景をみにゃならんのだ」

 

 こちらの言葉に一誠が盛大にツッコむ。さすがは一誠、落ち込んでいてもツッコミを忘れないのは素晴らしい。

 

「ははは、まったくだな。で? 随分悩んでるみたいだけど何を悩んでいるんだ? 話くらいなら聞くぞ?」

 

 バルコニーの手摺に腕を乗せて寄りかかってそう尋ねると、一誠はしばらく悩んだあと、バルコニーの手摺に背を預けてため息を吐いた。

 

「なあ白野。俺、本当にゲームで役に立つのかな?」

 

「どうしてそう思うんだ?」

 

「決まってるだろ。今回の合宿に参加した中じゃ、俺が一番弱い」

 

 悔しそうに、いや実際に悔しいのだろう。一誠は拳を握って眉を寄せる。

 

「お前には凄い神器があるじゃないか」

 

「でも俺にはそれを活かせるだけの強さがない。強くなる前にやられたんじゃ意味が無い。祐斗や小猫ちゃんと戦って、そのことがよく分かった。俺には戦いの才能なんかない。朱乃さんや部長の指導で分かった。俺に魔法を使う才能はない。アーシアやお前のように回復なんていう役に立つ能力も無い」

 

 俯く一誠。その姿が……かつての自分に重なった。

 

「……なあ一誠。自分は生前、どんな存在だったと思う?」

 

「え、昔のお前? ん~そりゃ、今みたいにみんなに頼られる、頼り甲斐のある奴だったんじゃないか?」

 

 一誠のその言葉につい笑いが込み上げる。なんせ正反対なんだから。

 

 自分の笑い声に一誠が怪訝な表情をしたので謝罪してから正解を伝える。

 

「正解は、一人では何も出来ない落ちこぼれだ」

 

「……は?」

 

 ありえないといった表情をする一誠に、自分は懐かしい気持ちを感じながらゆっくりと語った。

 

「自分はただ『魔術師としての才』があった一般人で、巻き込まれる形で争いに関わった。しかも魔術師としての才能はもっとも低いランクでギリギリ魔術が扱える程度のレベル。知識も経験も無い訓練も受けていないまさに最弱な魔術師、それが生前の自分だ……どうだ一誠、誰かに似てないか?」

 

 そう言って一誠を見ると彼は少し驚いたように目を見開いていた。

 

「強く見えるのはそれなりの理由がある。大抵辛い経験をしている。お前だって、アーシアを失いかけて強くなろうとしているだろ? つまり……ここにいるみんなはお前と同じように思って、強くなろうと鍛えてきたって事さ。スタートラインは同じだ。だから、諦めるな」

 

 そこで言葉を切って自分の手を見詰める。

 

「少なくとも自分はそうやって『強くなった』。時に厳しく、時に優しく、こんな最弱な自分を見限る事無く傍で見守り、助けてくれた仲間が居たから、諦めずに頑張れた。だからこそ、今の『強く見える』だけの力を得られた自分が在る」

 

 この手に宿る力は彼らとの絆によって培われた物だ。そしてそれは同時に、初めて自分で手にした『力』でもある。

 

 だからこそ。貫きたいと思う。自分の信念を。こんな自分を頼もしいと、好きだと言ってくれた。彼らの為にも。

 

「一誠、どうか自分の弱さから逃げないでくれ。弱い事を知ることは同時に強くなる為にどうすればいいかを考えられるってことなんだから」

 

「白野……」

 

「それとな一誠、自分達はお前と同じで『生きているんだ』。だから表面は大丈夫に見えても、弱気になっている人もいる。お前以上にな」

 

 手摺から身体を放して月を見上げる。

 

「俺以上に? だ、誰だよ?」

 

「リビングにいるリアス先輩に会いに行くといい。そしてさっき自分に言った事を実践して、彼女にもその弱い部分を話してみな。きっと自分よりも明確に答えをくれるはずだ。そして出来れば、彼女の話も聞いてあげてくれ」

 

「リビング……分かった、行ってみる」

 

 一誠は頷きバルコニーと部屋を繋ぐ扉の取っ手に手をかけるが、ドアを開けずに一度こちらに振り返った。

 

「ありがとうな白野。なんか少しだけ、気持ちが楽になった」

 

 一誠は照れた様子でそれだけ言うと今度こそ部屋へと戻る。

 

 あとは一誠の王であるリアス先輩と、リアス先輩の兵士である一誠の仕事だ。

 

 いずれは一誠も他のみんなも、自分なんて置いて前を走るようになるだろう。それこそ物理的にも、精神的にも。だからこそ、彼ら自身が強さを手に入れて進んで行くしかない。悩みながら、傷つきながら。

 

 頑張れよ一誠。自分は所詮はただの人間だ、してやれることなんて高が知れている。でもお前の友達で居られる間は、全力で支えてやるからな。

 

 

 

 

 翌日。一誠とリアス先輩の表情が晴れやかになっていた。どうやら二人共お互いに色々と立ち直ったらしい。

 

 二人揃ってお礼を言われたから、多分一誠が自分と話し合ったことを伝えたのだろう。

 

 因みに快気祝いのように二人揃って全力で倍加した魔力の魔弾と、全力で溜めた滅びの魔力の魔弾を放って近場の山の半分以上を消し飛ばした……私有地だからいいが、お前らそれは人の居る町では空に向けて放つ以外では絶対に使わせないからな。絶対に!!

 

 




という訳でリアスと一誠の励ましに介入するハクノン。
リアスと一誠の会話は原作とほとんど変わらないので丸々カット。ごめんよ二人共。



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【合宿終了】


今回で合宿終了です。次回からようやくゲームです。もうすぐフェニックス編も終わりだなぁ。



 合宿もついに八日目。

 

 最近ではみんな少し余裕が出来たのか数日前は部屋に戻るとすぐに泥のように寝ていたが、少なくともお喋りするだけの余裕が出来た。朱乃さんなんて自分がお風呂に入っている時に乱入してくるくらいだ。

 

 セクハラもいいところなので、合宿中は一人では風呂には入らない宣言したら朱乃さんが絶望の表情でその場に崩れ落ちた。彼女のそのセクハラにかける情熱は一体なんなのだろう?

 

 それと魔法の訓練をしていた一誠にも成果が現れ、一つの魔法を修得したらしい。本人は本番まで内緒と言って教えてくれなかったが、全容を知っている朱乃先輩が問題ないと判断したので追及はしなかった。

 

 そして自分との会話の中で一つの可能性に気付いた一誠は、その事を強く思いながら訓練をしていた最中に神器を進化させる事に成功した。

 

赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)

 

 増加させた力を他者に譲渡する能力で、使用時に『Transfer(トランスフォー)』という掛け声で発動する。現在の譲渡可能数は最大二人まで。だたしその場合譲渡する能力も分割される。

 

『俺はまだ弱い。なら強い奴を強化すればいい、逆転の発想だぜ! これでみんなのために戦える!』

 

 そう言って新たな能力をみんなに見せた一誠の顔はとても嬉しそうだった。他のみんなもそんな一誠の想いを理解しているか、自分の事のように喜んで一誠を褒め称えた。

 

 実際一誠のこの新たな能力は今度の戦いで間違い無く勝敗の鍵を握る能力となるに違いない。

 

 なにより最大のアドバンテージはこの情報をライザー陣営が知らないという事だろう。少なくとも毎晩周囲を偵察しているが部活のみんな以外の気配や魂を感じたことは無い。

 

 アーシアも防御系メインの魔法をいくつか修得したが、新たな神器の技は習得できていない。

 

 小猫ちゃんの格闘術も鍛えられ『騎士』の恩恵を使っていない祐斗になら勝ち越すようになった。後半では互い恩恵を使って決闘していたが、はやり恩恵有りでは祐斗の方が優勢なのは変わらないみたいだった。

 

 祐斗や朱乃先輩は属性の切り替えはだいぶ早くなった。

 

 特に朱乃先輩は色々な形で魔法を発動できるようになったと自分の背中に抱きつきながら耳元で何故か妖しく囁くように報告してくれた。セクハラである。

 

 リアス先輩も調子が良いようで、かなりの滅びの魔力を錬れる様になったらしい。

 

 そこいくと自分はあんま成長してないなぁ。

 

 自分がしていた個人特訓は祐斗に頼んで騎士の速度を体験させて貰ったのと、朱乃先輩に属性魔法を体験させて貰った事くらいか。

 

 正直『騎士』の恩恵を使った祐斗は目視できなかった。相手が動く前の段階で視覚と直感をフルに活用して行動を先読みして動かなければ回避は不可能と言っていい。

 

 そのタイミングを身体で覚える為に何度も祐斗の攻撃を受け続けた。現状では防ぐなら五割、回避はせいぜい三割と言ったところだろうか。

 

 もっとも、祐斗が狙いを甘くして威力を下げてくれているから防いだり出来てるだけで、実戦ではもっと苦戦するだろう。

 

 朱乃先輩の属性魔法も同じような訓練内容だ。

 

 火や風、土や氷といった普段では受けることの無い痛みを覚え、同時にそれらを実際に見る事で対処法を模索する。

 

 ……アーシアがいたから出来た修行方法だな。

 

 祐斗に木刀でボコボコにされ。朱乃先輩には火で身を焼かれ、氷で刺さられ、風で切られ、岩で殴られ、爆発で吹き飛ばされ、雷で痺れ、という拷問のような日々だった。

 

 ……ホント、よく生きてたな。

 

 自分がやって来た修行を思い出して涙が流れそうになる。しかしこの程度で泣いてはいけない。ゲームでは手加減無しでそれらを食らうのだ。事前にその痛みを知っておくのと、知らないのとでは動きにかなりの差が出る。少なくとも生前はそうして戦っていた。

 

 痛くても怖くても、目を逸らさずにそれらに耐えて勝機を探し続けた。自分と大切なパートナーの為に。

 

 今度の戦いでその経験が役に立てばいいが。

 

 そんな事を考えながら今日もみんなと一緒に修行し、そして合宿残り二日は体調を万全にするために修行はお休みして、屋敷のリビングでみんなでゲームの為の作戦を話し合った。

 

 

 

 

「ただいま~」

 

「おかえりなさい御主人様! 寂しかったにゃ~ん♪」

 

 猫モードの黒歌が玄関で出迎えると同時に自分の胸にジャンプしてくる。それをキャッチして、彼女の背中を撫でる。ああ、癒される。

 

「ただいま黒歌。お休みの間に何かあった?」

 

 頬をペロペロと舐める彼女に近況を尋ねる。

 

「特に何も無かったにゃん。で、修行はどうだったにゃん? 勝てそう?」

 

「う~ん、どうだろう。やれる事はやったし、考えられる事は考えつくしたと思う。あとは当日次第だね」

 

 黒歌を抱かかえたまま一度部屋に戻る。

 

 レイナーレはまだ仕事か。一応メールを入れておいて、あとは……。

 

「……なあ黒歌」

 

「なんにゃん?」

 

「フェニックスとの戦いについて、二人には伝えた方がいいかな?」

 

「……にゃぁ。難しい質問にゃ」

 

 二人と言うのはもちろん父さんと母さんだ。

 

 レーティングゲームの資料を見ると、確かに死亡者は殆どいない。そう、『殆ど』だ。つまり死んだ者もいるのだ。

 

 一番多いのは強大な力を受けて転移が間に合わずに消滅したり、受けた怪我が大き過ぎて転移後の治療が間に合わなかった場合だ。

 

 もちろんそういった事例が起き次第改善はされている。例えば相手の攻撃を見て、王がリタイアを申請して緊急転移させたりも出来るし、医療道具にフェニックスの涙を常備させたりして最悪な事態だけは避けられるようになってもいる。

 

 それでも運が悪ければ死者が出てしまうあたりは格闘技と同じだな。やはり戦いに絶対の安全なんて無いってことだな。

 

 しかも自分は人間だ。レーティングゲームのルールも『頑丈』な悪魔や人外を基準にしでいる。その為悪魔にとっては軽傷で済む怪我でも人間の自分では致命傷になる可能性がある。

 

 そういう意味で両親には伝えるべきだと思う自分と、心配をかけたくないと思う自分がいる。

 

「……やっぱり伝えない方がいいか」

 

 もしもの時はリアス先輩達に丸投げしてしまおう。

 

 今更ながら、ゲームに勝とうが負けようが、自分が怪我した場合は確実に母さんのおしおきが待っていることを悟り、他のみんなも巻き込む事にした。不幸は分かち合うべきなんだよ!!

 

 いきなりゲームへのモチベーションを若干下げながら、みんなで話し合って立てた作戦の草案を取り出し、黒歌を交えて改めて見直し、改善する。

 

 さて、やれることはやとかないとな。明日の結果次第で、自分達の今後が決まるのだから。

 




という訳で一誠には原作では試合中に得た技を合宿中に習得して貰いました。実力と切っ掛けさえあれば進化するらしいから別にいいよねってことで。

あと、本当は朱乃さんのイベントも入れるか最後まで悩みました。
でも、ここでトラウマ解消して光力使えちゃうと正直この合宿自体が無意味に(多分全力雷光くらったら今のライザーじゃ痛みに堪えられないと思うんだ……)



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【ゲーム開始】


やっとゲーム開始です。
さて、次回辺りから本格的にバトル描写が入るわけだが……不安しかねぇ。



 決戦当日。部屋で武具のチェックを終え、必要な物を全て装備する。

 

 格好は学園の制服だ。リアス先輩に動きやすい服で良いと言われたので、日常で一番着ている服にした。

 

 さて、光剣と封魔銃、祐斗から借りた手甲と具足、予備の回復用のお菓子も持った。因みにエネルギーはレイナーレと黒歌が提供してくれた。お陰で全員に手渡せた。

 

 ベルトの左側に回復用の菓子を入れたポーチを二つ取り付ける。一つは食べて回復する用。もう一つは口に入れることで常時回復する飴だ。反対側にはホルスターに収められた銃と剣を取り付ける。

 

 とりあえず片手は開けておかないとエネルギー攻撃を無効化できないからな。

 

「それじゃあ行って来るよ黒歌、レイナーレ。母さん達のこと、よろしく」

 

 二人に振り返りながら後の事を頼む。フェニックス陣営が何かしてくる可能性もゼロではないので、この家を守って貰う人員も必要だ。

 

 レイナーレがため息を吐いてこちらを指差す。

 

「いい。危なくなったら逃げるのよ。あんたに死なれたらわたしが困るんだから! べ、別にこの町だけでしか生きて行けない訳じゃないし」

 

 どうやら彼女なりに気にしてくれていたらしい。ばつが悪そうな顔をする彼女を安心させるために笑って応える。

 

「はは、ありがとう。死にそうになったらそうするよ。とりあえずは、頑張る」

 

「……そう。じゃあ頑張ってくれば……いい、光力の扱いも魔法と同じでイメージが大事よ」

 

 彼女はそう言って少しだけ頬を赤くし、助言をくれる。そしてもう言う事は無いと部屋に戻っていった。

 

 レイナーレが去るのを見届けると、黒歌は人型になって自分を抱きしめる。

 

「黒歌?」

 

「御主人様、絶対に帰ってきてね」

 

「……ああもちろん。黒歌にも……話さないといけない事があるしね」

 

「話すこと?」

 

「ああ。ま、それは帰ってきてからね」

 

 猫モードの時の様に頭を撫でて、いつもの挨拶をする。

 

「行って来ます」

 

「いってらっしゃい」

 

 黒歌の笑顔に送り出されながら、朱乃先輩から貰った転移術式が書かれたスクロールを起動させて、みんなが待つ学園へと転移する。

 

 視界が一度光で覆われ、次の瞬間には部室に立っていた。

 

「お待たせみんな。自分が最後か?」

 

「ええ。あの堕天使と何かあったのではと、心配していましたわ。そしてカッコイイですわ白野君」

 

 朱乃さんが一瞬怖い顔をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻って自分の格好を褒めてくれる。

 

「そうですか?」

 

「うん。似合っているよ白野君」

 

 近くに居た祐斗も笑顔で朱乃先輩に賛同する。

 

 なぜだろう。同じ格好なのに、祐斗が身につけると格好良さが三割り増しに見える。

 

「祐斗こそカッコイイじゃないか。自分の場合は逆に冒険者とか装備に拘りが無い傭兵みたいな感じだよな。まあ、らしいと言えばらしいか」

 

 戦士とか騎士って感じより自分としてはそっちのイメージの方が妙にしっくりくる。

 

 全員と軽く話したあと、荷物から資料を取り出してテーブルに広げて作戦に穴が無いかチェックしながら時間が来るのを待つ。

 

 全員が揃ってから二、三十分経ったその時、魔方陣が光りそこからグレイフィアさんが現れた。

 

「皆様準備はよろしいでしょうか? 開始十分前ですので、説明を開始いたします」

 

 全員がその言葉に頷きグレイフィアさんの元に集まる。

 

「開始時間になりましたらこの魔方陣で戦闘用に作られた異空間に転移して頂きます。異空間ですので被害を気にする必要はありません。思う存分全力を出してください」

 

 異空間か、生前戦ったアリーナや決闘場を思い出すな。

 

 そしてふと、まだ来ていない人物が居る事を思い出した。

 

「そういえば、もう一人の僧侶はどうしたんだ? この大事な戦いに参加しないのか?」

 

「あ、白野も気になってたか? 俺もそう思ってたんだよ」

 

 自分の言葉に一誠も頷き、一誠はリアス先輩に視線を向け、自分は周りに視線を向ける。すると全員が腫れ物に触るような表情をする。

 

「……残念だけど、もう一人の僧侶は来ないわ。あ、二人共勘違いしないで欲しいのだけど、『参加しない』のではなく『参加できない』のよ。だから今回は私達だけで戦う事になるわ……そう、そうね。あの子の思いも背負っているのだから、ますます負けられないわ」

 

 リアス先輩はそれだけ伝えると、拳を握り決意を固めた表情をする。その表情に一誠と自分はこれ以上訊いても無駄だと思い口を閉じる。そしてこちらの会話が終わったのを見計らってグレイフィアさんが口を開く。

 

「それと今回の戦いは両家の皆様も中継でご覧になっております」

 

 へぇ、観戦できるのか。そのあたりはやっぱり殺し合いよりスポーツに近いんだな。

 

「さらに今回の一戦は魔王ルシファー様も拝見なされておられます。その事をお忘れなきように」

 

「お兄さまが? そう、お兄さまが直接御覧になるのね」

 

「ええ!? ま、魔王様が部長のお兄さま!?」

 

 リアス先輩のお兄さま発言に一誠が驚きの声を上げる。無理もない。自分も声には出していないが驚いている。

 

 驚き戸惑っている自分達に、祐斗が苦笑しながら色々説明してくれた。

 

 なんでも既に初代魔王は亡くなっていて、魔王なくして悪魔は成り立たないという事で今では実力での襲名制度になったらしい。つまり家名に関係無く力のある四人の悪魔が魔王の頂点に位置する『ルシファー、ベルゼブブ、レヴィアタン、アスモデウス』の四魔王を名乗る事になっているらしい。

 

 本来はグレモリー家を継ぐはずだったリアス先輩のお兄さんはその襲名によって今はルシファー、魔王という扱いのため家督を告ぐ事ができなくなってしまい、その結果リアス先輩が家督を継ぐことになったらしい。

 

 魔王なんてセイバーとかギルガメッシュみたいな暴君を予想していたが、祐斗の話を聞くとだいぶイメージと違うみたいだ。

 

 と言うより、この制度って純血悪魔に真っ向から喧嘩売ってないか? だって純血からしたら、横から新しい自分達以外の魔王の家系が出来るわけだし……あれ? そう考えるとこの戦いの意味って?

 

「それと月野」

 

「あ、はい」

 

 祐斗の話を聞いて魔王について考えていた自分の思考が、グレイフィアさんの声に引き戻される。

 

「本来レーティングゲームに人間が参加する等と言うことは想定されていません。よって生命優先を掲げるゲームである以上、あなたの怪我の具合次第では、たとえあなたが戦える状態でも強制退場させる場合があることを覚えておきなさい」

 

「分かりました」

 

 ということは自分は軽い怪我でも退場させられるかもしれないのか、いきなりハードルが一段上がったな。まぁそれでも死ぬよりはマシか。

 

「では、そろそろ時間です。みなさま魔法陣に」

 

 色々考えている間に時間が来たらしく、全員がグレイフィアさんの傍の魔方陣の上に乗る。

 

 そして部室内を光が包み、次の瞬間には景色が一変する。なんて事は無かった。

 

「あ、あれ? 転移失敗ですか?」

 

 一誠が辺りを見回しながら尋ねる。何故なら自分達の周りの景色は一切変わっていないからだ。

 

 視界に広がるのは見慣れたオカルト研究部の部室。だが、ここが異空間なのは間違いない。なんせ空の色が変だし、自然の気が殆ど感じられない。

 

 しばらくするとグレイフィアさんの放送が流れ、ここが駒王学園を基に作られたレプリカの駒王学園だと知らせてくれた。

 

 さて、予想の一つが当たったが、にしてもどうやってここまで詳しく調べたのだろうか。家具の配置まで一緒なんだが。それとも結界展開時に自動的に解析しているのだろうか?

 

 悪魔の情報収集能力や魔法技術に驚きつつ、リアス先輩が全員に作戦会議を行う旨を告げる。

 

 全員がソファーに座るのを確認してから、リアス先輩が荷物から駒王学園の見取り図をテーブルに広げる。

 

「……まさか戦地の候補として『駒王学園』の可能性は考えていたけど、当たるとはね」

 

「こちらの為の配慮でしょう。人数が少ないからせめて慣れた場所と小規模フィールドにして頂けた。といったところでしょうか」

 

 リアス先輩の呟きに地図を見下ろしながら朱乃先輩が応える。

 

「まあいいわ。合宿での話し合いが無駄にならずに済むもの。それじゃあ改めて作戦の確認と修正を行うわ」

 

 リアス先輩の言葉に全員が頷き、それぞれの役割の最終確認を行う。

 

 いよいよゲームの開始だ!

 




一応四巻以降での旧魔王派との会話を読み解いた個人的な解釈がこちら↓

昔=魔王の血筋の者が実力に関係なく魔王の役職に選ばれていた。

今=魔王という役職以外の魔王姓を持つ悪魔は、ただの純血悪魔扱いになった。

多分こんな感じであっていると思う。(そうじゃないと原作での魔王の名をめぐる戦いの辻褄が……)



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【VSライザー 前編】

試合開始です!



 試合が始まり、自分、小猫ちゃん、一誠、祐斗の四人で進軍し、途中で一誠と祐斗は運動場の方へと向かい、自分と小猫ちゃんは新校舎へと続く体育館に向かう。

 

 朱乃先輩は単独で別行動、アーシア、リアス先輩は旧校舎で周辺で二人組で行動中だ。

 

「それじゃあ作戦通りに」

 

「おう。負けるなよ二人共!」

 

「一誠先輩が一番心配です」

 

「うぐ!?」

 

「はは。それじゃあ僕達も気を抜かないように頑張るよ」

 

 一誠の力強い励ましを小猫ちゃんがツッコミで粉砕し、泣き顔の一誠を祐斗が苦笑しながら慰めつつ連れて行く。

 

 今回のレーティングゲームの互いの拠点はこちらは旧校舎の部室で、向こうは新校舎の生徒会室となっている。

 

 そして新校舎と旧校舎へと向かうには、体育館と運動場のどちらかを通らなければならない。そのため、進行ルートの要となるその二つの場所の安全を確保するためにそれぞれの場所へと向かっていた。

 

 因みに校庭は論外である。隠れる場所もないしこちらには一誠と自分という空を飛べない足手纏いがいるため、空から狙い撃ちされたらその時点で終わる。

 

「あの、白野先輩」

 

「ん? なんだい?」

 

 移動中に小猫ちゃんの方から珍しく話しかけて来た。

 

「この後少し時間を貰えますか? お聞きしたい事があるので」

 

「いいよ。でも今は戦いに集中しよう」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 何かを気にする彼女に改めて今が戦闘中であることを思い出させて気を引き締めさせる。

 

 体育館正面は新校舎側なので裏口から潜入する。浄眼で確認したが、体育館内に魂は視えない。

 

 鍵がかかっている可能性も考えたが、どうやら大丈夫なようで二人で気配を消しながら体育館にある演壇の裏側を進んでいく。

 

 演壇の端から体育館内を探ろうとした瞬間、気配を感じて小猫ちゃんの方へと振り返る。彼女も感じたようで二人で首を縦に振る。

 

 さっそくか。今のうちに魔術を使っておくか。

 

「『code:move_speed(C)』、『code:gain_con(D)』」

 

 小声で発動させ、肉体の速度と耐久を上昇させてから、小猫ちゃんと一緒に演壇に姿を現す。

 

「あら、自ら姿を現すとは思わなかったわ」

 

 こちらが姿を現すと体育館の中央にいた四人の内のチャイナ服を着た女性が不敵な笑みを浮かべる。確かリアス先輩が入手した資料によれば戦車の駒だったはずだ。

 

 残りの三人の内、二人は同じ顔の双子で一人は一誠を倒した女の子、確かミラだったな。この三人は資料では確か兵士だったと記憶している。

 

「よく言うよ。自分達が入った瞬間に体育館内に気配がすれば、進入がバレたと思うのは当たり前だろう?」

 

 こちらの返しに向こうは『確かに』と笑って返す。

 

「白野先輩は兵士を、わたしは戦車を相手にします」

 

「三対一か……出来る限りやってみよう」

 

 アーチャーだったら『別に倒してしまってもかまわんのだろう?』とかいいそうだよなぁ。

 

 皮肉屋な正義の味方と違って、倒せると断言できないあたりが、自分の力不足を感じさせる。

 

「無理しないで下さいね」

 

「小猫ちゃんもね」

 

 二人で頷き合い、演壇を飛び降りて二人で標的に向かう。

 

 チャイナ服の女性は拳法の構えを、ミラはやはり棍を、そして双子は、電動チェンソーを構え……マジか!?

 

「バラバラに引き裂いてやろうか~♪」

 

「というかバラバラに引き裂いてやんよ~♪」

 

 おいおい運営! あんなのくらったら部位欠損するだろうが! あれか? 悪魔だからそのくらい余裕なのか!?

 

 横に振られたチェンソーを屈んで回避し、そこを狙って放たれたミラの突きを更に体を捻って回避して腰のフォルダーから銃を抜いて発砲する。

 

「くっ!?」

 

「うわ! これ悪魔祓いが使う奴じゃん!」

 

「ぶーぶー! 女の子になんて危ないもん使ってんのよ!!」

 

 ミラは棍で弾丸を防ぎ、双子は大げさにその場を飛び退きながらこちらに向かってブーイングしてくる。

 

「人間相手にチェーンソー振り回すお前らが言うな! それ避けるの凄い怖いんだからな!!」

 

 避ける際に耳元でドルルルなんて駆動音が聞こえるからマジで怖い。

 

 しかしやっぱり光力ってだけでも結構牽制になるもんなんだな。

 

 銃をフォルスターに仕舞って今度は光剣を右手に持つ。左手は常に空けて置く。でないと相手の遠距離攻撃時に神器を発動できないからな。

 

 光剣をその場で素振りすると、三人の顔に緊張が走る。

 

 女の子の体を傷つけるのは不本意だが……覚悟はしてきた。

 

「バラバラにすると言うんだ……そっちもされる覚悟は出来てるんだよな?」

 

 光剣を握った状態で上体を屈ませ、いつでも駆け出せる準備をする。すると三人はどうすべきか迷った表情を浮かべて動こうとしない。もしかしたら兵士の彼女達は光力を扱う相手と戦った経験が無いか、少ないのかもしれない。

 

 まぁそれならそれでこっちも時間稼ぎが出来るというものだ。

 

「怯むな! 相手はたかが人間一人だぞ!」

 

 隣で激しい打撃戦を行っていた戦車の女性が三人を叱責する。すると三人も数の有利を思い出したのか、表情を引き締めこちらに向かってくる。

 

 やっぱりそう簡単にはいかせて貰えないか。

 

「はああ!!」

 

 ミラが一直線にこちらに駆け、棍を突き出す。

 

 その棍を身体を反転させつつ屈んで回避し、棍の先端が顔の横を通り過ぎた瞬間に、棍の柄を掴んで突進の勢いを利用してそのまま一本背負いの要領で、ミラを棍ごと投げ飛ばす。

 

「くっ!」

 

 顔を顰めながらなんとか空中で姿勢を立て直そうとする彼女から視線を前に戻そうとした時、聞きたくも無い駆動音が響く。

 

「とった!」

 

「もらった!」

 

 視線を逸らした一瞬の隙をついて、チェーンソーを振り上げた少女達が眼前まで迫っていた。

 

「せい!」

 

 更に後方から棍が投げつけられる。

 

 剣を仕舞って自分から棍の方へと後ろを向いたまま跳び、飛んで来る棍が自分の脇を通り過ぎる瞬間に柄を掴む。

 

「ええ!?」

 

「「うそ!?」」

 

 驚きの声を上げる彼女達を無視して、掴んだ棍を大きく振りかぶり、目の前の双子のチェーンソー目掛けて思いっきり横薙ぎに叩きつける。

 

「きゃああ!?」

 

「ちょっ、うわああん!?」

 

 叩きつけられた双子の一人がチェーンソーの重さと勢いに引っ張られて吹き飛び、横並びだったもう一人の双子にぶつかり、二人揃って吹き飛ばされる。

 

 うん。兵士のスピードになら付いていけそうだな。

 

 ここまでの戦闘で相手の三人の力量と自分の力量を鑑みて、速度の面なら自分に分があると判断する。

 

 黒歌や祐斗のスピードに慣れたのが大きいかな。

 

 それでもやっぱり頑丈だよな。それに戦いなれてる。

 

 倒されながらもすぐに起き上がって防御体勢を整えた双子に感心と警戒を抱きながら、棍を遠くに捨てて銃を持つ。

 

 どうやら遠距離攻撃の類は持ち合わせていないみたいだし、銃を主体に牽制しつつ、指示を――。

 

『朱乃が対象を捕らえた。プランBを発動するわ。二人共撤退よ』

 

 指示を待とうと思ったその時、リアス先輩からその待っていた指示が送られる。

 

「了解」

 

「了解です」

 

 思ったよりも早かったな。

 

 小猫ちゃんが力いっぱい殴って戦車の女の子を吹き飛ばして距離を取り、そのまま近場の出入り口から体育館の外に出る。こちらも三人に向かって発砲しながら近くの出入り口から脱出する。

 

 そして自分が外に出ると同時に、体育館全体を巨大な光が飲み込んだ。

 

「ぐおおおお!?」

 

 あまりの一撃に余波を食らって軽く吹き飛ぶ。ちょ、もうちょい自分が離れてから撃ってくれもいいでしょう朱乃先輩!?

 

 爆風に軽く飲みこまれた事に憤りを覚えながら立ち上がると、学園中にグレイフィアさんの声が響いた。

 

『ライザーフェニックスの『兵士』三名。『戦車』一名。戦闘不能』

 

 よし。まずは作戦成功。

 

 重要拠点ごとライザーの眷属を倒す。それが今回の作戦の一つだ。

 

 小猫ちゃんを見つけ、そちらに向かうと、彼女もこちらに向かっているところだった。

 

「やったな小猫ちゃん」

 

「はい。作戦通りですね」

 

 二人で喜びの笑みを浮かべてハイタッチをする。

 

 ――その瞬間、自分達の足元に魔方陣が浮かび――爆発した。

 

 

 

 

「あっけないわね」

 

 土煙が起こる中、わたしは冷笑を浮かべて眼下を見下ろしていた。

 

 土煙が晴れると、そこにはライザー様を侮辱した人間と『戦車』の少女が横たわる姿があった。

 

撃破(テイク)。所詮は人間を助っ人にする素人集団ね」

 

 二人を一瞥してライザー様のもとに戻る為に踵を返す。

 

「何かを成した瞬間の獲物ほど、狩りやすい獲物はいない。良い勉強になったでしょう」

 

「ええまったくですわ」

 

「っ!? ぐああああ!?」

 

 突然聞こえた声と共に自身に振り注いだ雷の放流をもろに受け、成す術も無く地面に叩きつけられる。

 

(馬鹿、な!? あれだけの魔力の篭った一撃を放ってすぐに、これだけの魔法を放てるはずが、ない!?)

 

 激痛の中、わたしは悠然と空からこちらを見下ろす同じ役割を持つ『女王』、姫島朱乃を見据えながら驚愕に目を見開く。

 

「ぐっ、早く涙を」

 

 傷む体に鞭打って懐からフェニックスの涙を取り出した瞬間、腕に剣の柄の様な物がぶつかり、フェニックスの涙の入ったビンが弾かれて地面に落ちて割れてしまう。

 

「なっ!?」

 

 視線を柄の飛んできた方へと向けると、そこには何かを投擲した姿で佇む倒したはずの人間の姿があった。

 

 しかしその隣にいた筈の、戦車の少女の姿は無くなっていた。

 

「っ!? 上!!」

 

 その事実に気付いて気配のする方、自分の真上の空に視線を向ける。

 

 そこには自分に向かって落下してくるほぼ無傷の少女の姿があった。

 

「まさか最初から! この状況を狙ったというの!?」

 

 そこでわたしはようやく気付く。はめられたのは自分だということに。そんなわたしに姫島朱乃は私が浮かべたものと同じ笑みを浮かべて見下ろしていた。

 

「ええそうですわ。あなたが蔑んだ人間の、白野君が考えた作戦ですわ」

 

「終わりです」

 

 痛む体はすぐには行動できず、ただただ驚愕に目を見開くわたし目掛け、渾身の一撃が放たれた。

 

「がっはぁ!?」

 

 少女の体格からは決して想像できない重い一撃を鳩尾に受け……わたしはそのまま意識を失った。

 

 

 

 

『ライザーフェニックスの『女王』。戦闘不能』

 

 異空間にグレイフィアさんの宣言が響き渡った。

 

 流石に地面が爆発した時は焦ったな。事前に想定していなければやられていた。

 

 グレイフィアさんの宣言を耳にしながら投げた柄を回収し、安堵の溜息を吐きながら作戦の成功を内心で喜ぶ。

 

 作戦が成功した瞬間を狙う敵が居る可能性を考慮し、その相手を油断させて倒す。これが二つ目の作戦だ。

 

 朱乃先輩が単独行動をしていたのはその相手を探る為だ。そして体育館を攻撃したのは、その相手が自分と小猫ちゃんの側に居るのを発見したからに他ならない。

 

 もっとも、まさか女王が出てくるとは思わなかったけどな。

 

 彼女は『爆弾王妃』と呼ばれるくらい爆発の魔法を得意とするというのはリアス先輩が冥界から持ってきたライザーの試合の資料で知っていたので、どのように爆発の魔法を使うのかは頭に叩き込んであった。そのお陰ですぐに回避行動を取れた。

 

 あの爆発の瞬間、小猫ちゃんと自分はその場から大きく飛び退いてなんとか直撃を避けた。そして土煙を利用して相手から見えない内に自分は魔術で治癒し、小猫ちゃんはフェニックスの涙で怪我を治した。

 

 そして地面に倒れてやられた振りをしてみせる事で、相手を油断させて、そこを朱乃さんが攻撃したというわけだ。

 

「白野君がエネルギー回復用のお菓子をくれたお陰ですわね」

 

「役に立って良かったです」

 

 朱乃先輩が二度目の高威力の魔法を即座に使用できたのは自分が生成したお菓子の殆どを彼女に渡しておいたからだ。

 

「しかし貴重なフェニックスの涙を使ってしまいました」

 

「仕方ないさ。小猫ちゃんに回復手段が無いし、自分の回復魔術も、効果はたかがしれているしね」

 

 直撃は避けたとは言え、やられた振りをする以上、ノーダメージで切り抜けることは出来ないと踏んで、あらかじめ小猫ちゃんと一誠にはフェニックスの涙を持たせておいた。

 

 そもそもアーシアと行動を共にするリアス先輩には不要だしね。祐斗はその速度があれば上手く回避できるだろう。

 

 この辺りにはもう敵はいないか。

 

 気配と同時に浄眼を開眼させて魂を探索して周りに誰も居ない事を確認する。すると旧校舎近辺で爆発が起きる。

 

『ライザーフェニックスの『兵士』三名。戦闘不能』

 

「リアス先輩ですね。さすがに兵士程度じゃ滅びの魔弾には耐えられなかったみたいですね」

 

「ええ。そしてこれでもう兵士は一人。それくらいならリアスだけで問題無いですわ。わたし達は作戦通りに急いで兵藤君達と合流しましょう」

 

「「はい」」

 

 朱乃先輩の言葉に小猫ちゃんと一緒に頷き、自分を先頭に三人で周りを警戒しながら急いで一誠達の元に向かう。戦局は終盤に差し掛かり始めていた。

 




と言うわけで油断したライザー陣営は大量にリタイア。

というか、原作でも相手の女王の情報は持ってるんだからこのくらいの警戒や作戦は立てて当然だと思うのよ。


【原作の技・装備解説】
『注意:効果の名称が略称で正式名が分からない物もあるのでルビは振っていません。申し訳ない』


装備名:『守りの護符』『身代わりの護符』
効果:『gain_con サーヴァントの耐久を強化・大幅強化』
解説:『物理的衝撃を遮断する結界が張れる護符』 
   『主人の身代わりに災いを引き受ける護符』

内容はまんまサーヴァントの耐久値を上げるスキル。身代わりの方が効果が高い。

本作品内では込めたエネルギー量次第で上昇値が変化する仕様です。

装備名:『強化スパイク』
効果:『move_speed 移動速度を上昇』
解説:『駆け走る猫がトレードマークの特殊軽量スパイク』

主人公の移動スピードを上げるスキル。ギルの移動時のガチャガチャの煩さも増す。

こちらも同じく込めたエネルギー量次第で上昇値が変化します。



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【VSライザー 後編】

ついにライザーとの直接対決!




「もうすぐ運動場です」

 

「ああ――っと?」

 

 運動場が見えたそのとき、爆発音と共に目の前に大量の剣の刀身が地面から生えるという光景が飛び込んでくる

 

 これは、確か一誠の譲渡の力で威力が増した祐斗の魔剣創造か。

 

 合宿で一誠の譲渡能力で神器の強化をした時に見た光景だ。因みにアーシアと自分の場合は回復量が上がるだけだった。

 

『ライザーフェニックスの『兵士』一名、『騎士』二名、『僧侶』一名、戦闘不能』

 

 撃破宣告のアナウンスが響く。凄いな今の一撃で一気に四人も倒したのか。

 

「よし、これで人数は逆転した」

 

「凄いです」

 

「ええ。あとで二人を褒めてあげないといけませんわね」

 

 ライザーの眷属を大量に倒した知らせに三人で喜ぶ。

 

「あっ! おーい、みんなー!」

 

 自分達に気付いた一誠がこちらに駆け寄ってくる。一誠は少し疲れた様子だが、どうやら無事なようだ。

 

 祐斗の方を見ると彼もどうやら無事らしいが、どうも様子が変だ。何かを必至に探すように視線を巡らしている。

 

「どうした祐斗!」

 

「みんな戦車を探して! さっきので倒し損ねた!!」

 

  大声で尋ねると、祐斗が焦ったように早口で答え、その言葉に全員が険しい表情で同じように急いで辺りを見回す。

 

 戦車には『キャスリング』という戦車と王の位置を入れ替える特殊な能力がある。確かにこの状況でフェニックスに出てこられたら厄介だ。

 

 急いで浄眼で辺りを見回すが、頭上から突然プレッシャーを感じ、咄嗟に全員に叫んだ。

 

「上だ!!」

 

 自分の言葉に全員が空を見上げる。そこには悠然と宙に浮き、自信に満ちた表情でこちらを見下ろすライザーの姿があった。

 

「見事だリアスの下僕達。いやはや見違える強さだ。火力のみなら上級悪魔に匹敵するだろう」

 

 ぱちぱちと拍手しながらゆっくりと運動場に降り立つライザー、と同時にアナウンスが響く。

 

『ライザーフェニックスの『戦車』一名、戦闘不能』

 

「ふむ、耐えられなかったか。まぁキャスリングが間に合っただけ良しとしよう。さて、本当はリアスを一騎打ちに誘うつもりだったが、こうなっては趣向を変えざるをえないな。リアスが来るまでに、はたして何人残っていられるかな?」

 

「お兄さま……」

 

 挑発的な笑みを浮かべるライザー、その傍にドレスを纏った頭の左右をいわゆるドリルヘアーにしたツインテールの金髪の少女が降り立つ。よくみるとドレスのあちこちが破れていた。

 

「ん? ああレイヴェル、お前は生き残ったか。流石は俺の妹だ。だが、ここからは俺が相手をする。お前は安全な場所に下がるといい」

 

「ええ、そうさせていただきますわ。それとお兄さま、あのドラゴンの兵士、蓄えた力を譲渡する力を持っておりますわ。それと対象の纏っている物を剥ぎ取るなんていう破廉恥極まりない魔法も使ってきます。そのせいで、彼と戦っていた兵士と僧侶のお二人も、あの騎士の一撃を避け損ねてしまいましたわ」

 

 レイヴェルと呼ばれた女の子はそれだけ伝えると一誠を睨み『この変態!』と叫んで翼を広げて新校舎の方へ飛んで行ってしまった。

 

「――一誠?」

 

 どういうことだ。という視線を向けると、何故か一誠は誇らしげに胸を張りながら答えた。

 

「ふふん。俺の魔法の才能全てを注いで作ったオリジナル魔法で、女の子の服を吹き飛ばしてやったのさ。その名も女性限定で纏っている物を剥ぎ取る男のロマン魔法! 『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』だ!!」

 

 どうだと言わんばかりの自信に満ちた表情でこちらに振り向く一誠。

 

「……最低です」

 

 そんな一誠に小猫ちゃんが軽蔑な眼差しを向けながら無慈悲に告げる。うん。仕方ないよね。正直褒められたもんじゃない。というか、あとでいろんな人に怒られないか? 一応これって両家の親族の皆さんに観られているんだよね?

 

 そして分かっていないな一誠、一部が隠れているからこそ、興奮するのだ!

 

 セイバーの水着しかりキャスターの胸空けゴシックしかり!

 

 しかし生前は結局ラニのあの発言の真偽を確認できなかったのだけが悔やまれる。アトラス院は果たして本当に未来に生きているのかいなか……。

 

 って、今はどうでもいいな。

 

「……ごほん。さて、それじゃあまずは誰から相手して欲しい? 俺としてはお前を指名なんだが?」

 

 全員が自分と同じように唖然としていると、ライザーがワザとらしく咳をして注目を集め直し、改めてキザったらしい笑みを浮かべて自分を指差す。それと同時にリアス先輩から通信が入る。

 

『小猫、キャスリングするわ! こっちに着いたらアーシアを背負って急いで運動場に向かって!』

 

「了解です」

 

 通信が切れると同時に小猫ちゃんの姿が一瞬で消え、代わりにリアス先輩が現れる。

 

「やあリアス。君が来るとは予想外だよ」

 

「そう。こちらとしては今の状況も想定内よ」

 

 二人は互いに不敵な笑みを浮かべて睨み合う。

 

 リアス先輩の言葉はハッタリでもなんでもなく事実だ。合宿で色々イレギュラーな状況、不利な状況を連想して戦略を組み立てた。その中には今のような状況もあった。故に対策済みである。

 

「みんな、作戦通りにお願いね」

 

「「はい!」」

 

 リアス先輩は魔力を溜め始め、一誠がリアス先輩の傍で彼女を護るように立ち、自分、祐斗、朱乃さんが二人を守る為に前に出る。

 

「なるほど。下僕君がリアスの滅びの魔力を強化して俺を一撃で倒す、といったところか。その三人は時間稼ぎってことだな」

 

 ご名答。一誠の譲渡を知っただけで瞬時にそう判断できるあたり、やはりライザーは性格に問題はあるが頭は悪くない。

 

「流石にそれはヤバイな。という訳で三人纏めて倒させて貰おう」

 

 ライザーが掌をこちらに向けると、そこに巨大な炎の球体が生み出される。その球体は更に大きくなって行く。

おいおいどんだけの魔力を込めてんだよコイツは。

 

「さてこの攻撃に耐えられるかな?」

 

 ライザーの手から巨大な炎の球体が放たれ、地面を抉りながらこちらに向かってくる。

 

「自分が対処します! 二人はライザーの足止めを!」

 

「分かった!」

 

「お願いしますね白野君!」

 

 二人は空へと飛び上がり、自分は火の玉目掛けて駆け出す。

 

 近付く度に熱が肌を焼き、目もまともに開けられなくなる。オーラで保護しなければ既にこの距離で皮膚は焼かれ、失明しているだろう。

 

 熱い。怖い。肉体が、生存本能が、この場から逃げ出せと急き立てる。

 

「はあああああ!!」

 

 それらを全て雄叫びと共に吐き捨て、細めた目でしっかりと炎を見据えて神器を発動した左手で球体に触れる。

 

 瞬間、左腕に衝撃を感じ、炎はどんどん左手に収束して行く。

 

 くっ。思った以上に時間が掛かる。

 

 だがそれはこの一撃に込められた魔力の多さの証明でもある。せいぜい有効活用させて貰うとしよう。

 

「俺の炎を受け止め収束している? それが貴様の神器か人間!」

 

「ああ!」

 

 ライザーの問いに肯定の返事をする。むろん嘘だ。正直に答えてやる義理はない。勘違いしてくれるならしてくれた方が助かる。

 

 炎が収束する間に祐斗と朱乃先輩が行動に移る。

 

吸収反転剣(アンチブレード)!」

 

 祐斗が普段は使わない程の大きな透明の刀身の両手剣を作り出す。

 

 すぐに透明だった刀身が青く光り、そこから冷気が迸る。代わりにライザーの周囲にあった炎が弱まり、自分が吸収していた炎も少し弱まって行く。

 

「アンチ……まさかその剣! オレの炎を吸収し、逆属性の冷気に変換して放出しているのか!?」

 

 御名答。もっとも、扱いが難しくて今の木場ではあのサイズしか出せない上に集中するせいで身動きが取れない。その上吸収した属性の対属性にしか変換できない。

 

 それでも役割は十分に果たしているから問題ない。あくまでメインは朱乃先輩だ。

 

凍結閃光(フリーズ・レーザー)!!」

 

 朱乃先輩が手から青白い光線を放つ。一瞬にしてライザーの両足を分厚い氷が覆う。

 

「これは!?」

 

 ライザーが驚愕の表情を浮かべるが、すぐに身体から炎を放出して氷を溶かすが、すぐに朱乃先輩が同じ魔法でライザーを攻撃して氷結させ続ける。

 

 これが自分達三人で考えたライザーを足止めする為の作戦だ。

 

 まず祐斗がライザーの炎を吸収して冷気に変えて放出する。そうすることでライザーの身を守る炎を弱らせ、魔力を消費させ続ける。

 

 そして次に祐斗が放つ冷気によって氷結魔法の威力を底上げした朱乃先輩がライザーを氷付けにする。

 

 そんな二人と一誠達をライザーの遠距離攻撃から守るのが自分の役割だ。

 

 作戦が上手く行って誇らし気な笑みを浮かべる二人。そしてこちらもようやく火球の吸収が終わって一粒の包装紙に包まれた飴玉が現れ。素早く握る。

 

「なんだ今のは?」

 

「さあ? なんだろうね?」

 

 怪訝な表情を浮かべるライザーに挑発的な笑みを返しながら高エネルギーの飴をポケットに仕舞い、リアス先輩と通信する。

 

『あとどれくらい時間を稼げばいいですかリアス先輩?』

 

『一誠の現在の体力を考えると一分のパワーアップが限界ね。あと30秒耐えて』

 

『了解』

 

 視線を前に戻すと、ライザーが肩を震わせ次の瞬間―――愉快気に笑いながら顔を上げた。

 

「はは、はははは!! 素晴らしいぞリアス。やはりオレが見込んだ女だけはある。十日でここまで下僕を成長させるとはな。ますますお前が欲しくなったぞ!」

 

 ライザーが高笑いを浮かべて炎の出力を上げて自身を覆う氷を溶かす。が、その炎はすぐに弱まり、溶ける端から朱乃先輩が再度凍らせて行く。

 

「流石にこの連携はうっとおしいな……仕方ないアレをやるか」

 

 アレ?

 

 ライザーは炎を出すのを止める。その事に二人も怪訝な表情をするが、せっかく作ったこの場の優位を放棄する訳には行かないと行動を続ける。

 

「罠かどうか判らないが。ダメージは与えておくべきか」

 

 ポーチの菓子を食べて回復しつつ、封魔銃を構えてライザーに向けて連射する。ライザーの体に光の弾丸が何発も当たる。

 

「ぐっ。これは流石に少し痛むな。人間、覚えていろよ」

 

 光の弾丸を何発も受けてもライザーは少し顔を顰めるだけで、ダメージらしいダメージは受けていないようだった。それどころかこちをの睨む余裕まである。しかし反撃する様子は無い。いったい何を狙っているんだ?

 

 とりあえず自分も距離を詰める。兎に角あと20秒は時間を稼がないといけない。

 

 ん? 

 

 ライザーに近付くにつれて彼の変化に眉を顰める。

 ライザーの肌がどんどん赤く、彼の体の周りの僅かな空間だけ、まるで蜃気楼の様に歪んでいた。そして朱乃さんの魔法も、一度は凍結させるが、すぐにライザーに触れた箇所から溶けて行く。

 

 ライザーのあの様子、まるで熱を持った鉄板のようだが……っ!?

 

 瞬間、ライザーの狙いに気付いて足を止めて慌てて二人に向かって叫ぶ。

 

「二人共離れろぉぉおお!! ライザーは自爆するつもりだ!!」

 

「「!?」」

 

 二人が驚きに目を見開いた瞬間にライザーの口が釣り上がった。

 

「気付くのが遅かったなぁああ!!」

 

 ライザーの体が閃光のような強烈な光を放つと同時に爆発する。瞬間、奴の溜め込んでいた高熱の炎が爆発の勢いと共に自分達目掛けて放たれる。

 

 くそ、やられた。不死なのだから自爆を利用するのは当たり前だ。どうして気付けなかった!

 

 己の浅慮さを恨みながら、もはや周りに見られていることなど気にしている暇はないと、《code・gain_mgi(D)》を唱えて魔力耐性を強化し、全身をオーラで覆って炎の波の前に立つ。

 

「無茶だ白野!?」

 

「退く訳にも行かない! 一誠、受け取れ!!」

 

 一誠の制止を無視して、ポケットの飴をポーチに仕舞って残りの菓子共々一誠に投げ渡す。

 

「ポーチには悪魔対策にアーシアに教わって作った自作の聖水と十字架も入っている! 足止め程度の役には立つはずだ!!」

 

 視線を一誠から炎に戻す。あれも魔力で出来た炎である事に変わりは無い。ならば触れさえすれば防げるはずだ。

 

 朱乃さんと祐斗は自分達の方に放たれた炎に対してそれぞれ剣と魔法を展開して防ごうとしていた。正直二人を助けたいとも思うがこちらに向かう波を自分がなんとかしないとリアス先輩と一誠に力を使わせることになる。

 

「うおおおおおお!!」

 

 迫る炎が手に触れる。予測通り炎に触れた瞬間衝撃はあったがなんとか炎を受け止め、収束させる――が、その収束は途中で止まり、次に自分の視界に移ったのは目の前の切り裂かれた炎の波と――宙を舞う自分の肘から下の左腕だった。

 

「悪いが二度同じ手は食わん。お前から排除させて貰うぞ」

 

「――っ!?」

 

 切り裂かれた炎の波の向こう側には、炎を収束させて作り上げたであろう燃える剣を持ったライザーが立っていた。

 

 自分の腕は宙で燃え、地面に落ちるころには黒い墨と化していた。そしてそこまで見送って初めて左腕から激痛を感じ、顔を顰める。

 

「――っがあぁっ!?」

 

 痛い! 痛い!!

 

 痛みに顔を歪ませ地面をのた打ち回りたくなる。

 

 だがそんな恐怖と痛みに屈しそうになっているというのに、自分はライザーが目の前にいるという事実を確認し、思ってしまう。

 

 ――チャンスだ。っと。

 

 手が届く距離で無防備に立つ相手。

 

 しかもどうやら既にこちらに興味を失ったのか、追撃する様子すら無い。

 

 攻撃するなら今しかない!

 

 涙が溢れるのを、膝を付きたいのを我慢して目を見開き、自分が持てるエネルギーを全て右手に収束させる。

 

「おおおお!!」

 

 前のめりに倒れるくらいの勢いで思いっきりライザー目掛けて踏み込む。

 

「《code:shock(C)》!!」

 

 こちらの行動に驚いた表情を浮かべるライザーを睨みながら、右手のオーラの一部を使って魔術を行使し、残りを全て光力に変えてライザーの鳩尾に叩きつける。

 

「がっあああ!?」

 

 ライザーがその場に膝を付き、もがき苦しむ。当然の結果だろう。なんせ仙術で光力を体内に透したのだから。今のアイツは内側を光力で焼かれているようなものだ。

 

 熟練の者なら今の一撃でライザーの魔力の流れすら絶てるのだろうが、自分にはまだ無理だ。生前出会ったアサシンならやれると思う。というかむしろ元祖かあの人?

 

 なんて馬鹿な事を考えている内に意識が朦朧とし、足に力が入らなくて身体が崩れ落ちて行く。

 

 一応保険として肉体を麻痺させる魔術も使用してやったが、あまりオーラを込められなかったから効果は低いだろうなぁ。

 

 ま、無いよりましか。少なくともほんの僅かな間は通常通りには動けないだろう。ライザーは肉体を鍛えているようには見えないしな。

 

「何、をした!? 人間ごときがぁぁああ!!」

 

 怒りの形相で地べたを這いずるライザーを尻目に、左腕の激痛とオーラが底を付いた事による疲労でについに肉体が耐え切れなくなって身体が横に傾き、そのまま地面へと向かって行く。

 

『リアス・グレモリーの『騎士』一名、『女王』一名、『助っ人』一名、戦闘不能』

 

 ああ、祐斗達もダメだったが。

 

 視界を転移光が覆い、無情なアナウンスを耳にしながら、今度こそ意識を失った。

 




と言うわけで白野は退場しました。彼がライザーをボコにするのを期待した人は許してください。代わりに次回、彼がボコボコにしてくれますからフフフ。


【原作の技・装備解説】
『注意:効果の名称が略称で正式名が分からない物もあるのでルビは振っていません。申し訳ない』


装備名:『純銀のピアス』『純銀のアンクレット』
効果:『gain_mgi サーヴァントの魔力を強化・大幅強化』
解説:『マスターの魔力をサーヴァントに送る不思議なピアスとアンクレット』

そのままサーヴァントの魔力を強化するスキル。アンクレットの方が効果が高い。


装備名:『破邪刀』
効果:『shock 敵にダメージ+スタン』
解説:『かつて鬼を斬ったといわれる伝説の刀』

相手にダメージとショック(麻痺)という状態異常を与えるスキル(絶対ではない)
それと麻痺するのは原作では六回攻撃中に一回だけ(だった筈……)
地味に主人公のレベルの8倍近いダメージを与える最高威力の攻撃スキルでもある。

作品中では数秒の麻痺効果として表現しています。相手次第では未発動の場合もあり得る(今回はライザーが油断してたので発動した)



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【ライザー戦決着】

と言うわけで決着回です。さあ、フルボッコタイムだ!




「ライザァァアアア!!」

 

 俺は怒りのあまり叫んだ。よくも俺の仲間を! 俺の親友の腕を!!

 

「よくもわたしの仲間を! 一誠!!」

 

 先輩も同じ気持ちなのか目を吊り上げ鋭い声でオレに指示を飛ばす。

 

「分かっています部長!!」

 

 力は限界まで溜まってる。みんなが稼いだ時間を無駄になんかしない!

 

赤龍帝のからの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)!」

 

『Transfer』

 

 神器から放たれた譲渡の合図の音声と共に、部長の滅びの魔力が強化される。

 

「ライザー、これが今のわたしの全力よ!!」

 

 部長が鋭い眼光でライザーを一瞥し、そして、部長渾身の一撃が放たれた。ライザーは顔面を蒼白にさせながらしかしその場を動こうとしない。

 

いや、動けないんだ。白野が最後に放った一撃が効いてるんだ!

 

 白野が使う仙術を用いた体術は、オーラによる身体強化とオーラを打ち込んで体内にダメージ与えたり、気脈という生命力が流れる脈、俺達悪魔なら魔力が流れるそれにダメージを与える事に特化していると教わった。その上白野は相手を麻痺させる魔術も使えると言っていたから、多分最後に右手に発動したあの数字と英字の魔方陣がそれだったのかもしれない。

 

「うっうあああああああああ!?」

 

 ライザーは情けない声を挙げながら部長の滅びの魔力に飲み込まれる。

 

 部長の滅びの魔弾の勢いは止まらずライザーを消し飛ばし、そのまま運動場、校舎と斜線上の全てを抉りながら突き進み、ついには異空間の結界の端にぶつかり、まるで地震のように空間その物が振動する。

 

 こ、これ結界は大丈夫なのか?

 

 内心で心配していると、しばらくして振動は収まった。多分魔弾が消滅したんだと思う。

 

「……アナウンス、流れませんね」

 

「復活するかどうかを待っているのかも。もしくは両家でもめているか。ふっ、それはそうよね。だって最悪、ライザーはもう……」

 

 部長が目を伏せる。

 

 同族殺し。それがいま、部長が新たに背負うかもしれない責任。だが、他に手段が無かったのも事実だ。少なくとも部長はそれを覚悟で放った。

 

「部長、俺にも――っ!?」

 

 少しでも部長の重荷を軽くしようと、口を開きかけたその時、目の前で火柱が立ち上った。

 

「ぐっ。はあ、はあ、今の一撃の威力……リアス、お前!」

 

 生きてやがったかライザー。

 

 部長の一撃を受けたライザーはふらつきながらもなんとか立ち上がっていたが、体から汗を大量に流し、呼吸は荒く、どうみても満身創痍の様子だった。

 

「ええ。あなたを殺すつもりで撃ったわ。そのくらいしないと勝てない相手だというのは嫌と言うほど理解しているもの」

 

 ライザーの殺気を帯びた鋭い視線に対して、部長は先程までの表情から一変して同じく決意の篭った強い瞳で睨み返す。そんな彼女を美しいと思った俺は、心底彼女が好きなんだなと改めて実感した。付いて行きます部長!

 

「ぐっ。だが今の一撃で俺を降せなかったということは、もうお前達に手はないということだ! 違うかリアス!!」

 

「ええ違うわ」

 

「――――っ!?」

 

 絶句とはまさに今のライザーの状態を言うんだろうな。

 

 ライザーは表情を固め、言葉を発することなく、ただこちらに突きつけた指を、身体を震わせた。

 

 そりゃそうだ。今の部長の一撃。間違い無く俺達グレモリー眷属が放てる最強の一撃だ。

 

 だが『決定打』は違う。さあ……仕上げだ。

 

「う、嘘だ!!」

 

「嘘ではないわ。確かに今の一撃で貴方を倒せる。少なくとも『わたし』はそう思っていたわ」

 

 部長が時間を稼いでくれている間に俺は自身のすべき事を成す為に、白野に渡されたポシェットから全ての菓子を取り出し口に含む。

 

(ドライグ、どうだ?)

 

(ああ十分だ。対価分のエネルギーとしては申し分ない。ではそのエネルギーを対価に、一時的に至らせてやろう。『禁手(バランスブレイク)』へとな!)

 

 心の中で問いかけるオレの声に、そう返す者がいた。

 

 コイツの名はドライグ。赤龍帝の籠手に封印された二天龍と呼ばれ、かつて悪魔、天使、堕天使の三陣営に甚大な被害をもたらし、あの三陣営が共同戦線でようやく封印する事に成功したという赤の龍王。それがオレの相棒だ。もっとも、夢で会話するときは普通に龍の姿だが。

 

 ドライグと会話できるようになったのはオレが『赤龍帝の贈り物』を習得したときだった。合宿で全員にドライグの事を説明したときに、ドライグからあるチート技を教えて貰った。

 

 因みに相棒として扱うように言ってくれたのは白野だった。確かにこれから一生の付き合いになるのだから当然と思い。それ以来よく話すようにしている。

 

 準備を進めながらドライグについて改めて考えている間にも部長の説明は続いて行く。いや、時間を稼いでくれているのだろう。俺の準備のために。

 

「でも白野は言ったわ『ライザーにも背負っている物がある。背負う物がある奴は強い。だから奴はきっと立ち上がる』とね。ライザー、白野はあなたを信頼したのよ。あなたなら必ず立ち上がると! だから更にその先、わたしの一撃で弱り、抵抗できなくなったそこを狙う一手を用意したの!」

 

 部長の言葉にライザーが目を見開く。そりゃそうだろう。最初に聞いた俺達ですら驚き耳を疑ったもんだ。

 

『敵の強さを信頼し、立ち上がる事を想定して戦う』

 

 敵を信頼するなんて発想、話を聞くまで俺の中には想像にすら無かった。

 

 口の中のお菓子が一気に消えて体中に力が漲る。

 

「一誠。見せてあげなさい。わたし達の最後の作戦を! あなたの力を!!」

 

 俺の変化に気付いた部長が、俺に背を向けたままライザーに叩きつけるように宣言する。

 

「はい! 行くぜぇぇええ! オーバーブーストォッ!!」

 

『Welsh Dragon Over Booster!!』

 

 俺の全身を赤いオーラが包むと同時に身体に力が漲る。と同時に口に含んでいた物が一気に消滅する。

 

(今の対価じゃ五秒が限界だ。その間に決めろ)

 

(十分だ! 白野の置きみあげもあるしな!)

 

 全身のオーラが徐々に形を成していき、そしてオーラが止んだ瞬間。俺は頭も含んだ文字通り全身に赤く鋭角で龍のような装飾の全身鎧を纏っていた。

 

 籠手にあった宝玉は両手の甲、両腕、両肩、両膝、胴体中央にも現れ、背中にはロボットアニメよろしく独特な形状のロケットブースターのような推進装置がついている。

 

 以前鏡で見た時はどこの特撮ロボットだとツッコミをいれたほどSFチックな外見だ。

 

「鎧!? まさか赤龍帝の力を具現化させたのか!?」

 

「ああそうだ。これがオレの奥の手、禁手『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』だ!!」

 

 赤龍帝の鎧の能力。それは十秒の間だけ全力全開で戦えるゲームで言うなら所謂無双モードだ。

 

 ただし己の力で禁手に至れていない今のオレでは一時的にでも使用した場合三日は神器を使用できなくなる上に、対価を支払う必要があるというまさに諸刃の剣だ。

 

 最初は腕を差し出すことになるとドライグに言われ皆難しい顔をしたが、白野がその対価分のエネルギーを自身の神器で賄えないかと訊くと、ドライグは可能だと答た。

 

 感謝するぜドライグ、お前に出会えたお陰で、俺はあいつをぶっ飛ばせる力を手に出来た!

 

『Ⅴ』

 

 籠手の宝玉からカウントが始まると同時に俺は背中のブースターからエネルギーを放出して一気に加速してライザーへと肉薄する。

 

「受け取れライザー! これがオレの! オレに託されたみんなの思いだぁぁあああああ!!」

 

「がはっ!?」

 

 拳を振り上げ勢いのままライザーを殴り、軽く吹き跳ぶが、ブースターに倍化を連続掛けして瞬時に加速して追い付く。これでライザーが吹き飛ぶ速度よりも追い付く速度の方が上回った。そこからは時間が許す限りの連打をお見舞いする。

 

「ぐあっがっあがっあぶっ!?」

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

 

『Ⅱ』

 

 カウントが二秒を告げる。

 

 最初にライザーに向かって飛んだ時にもって来た白野のポシェットから聖水と十字架を取り出す。

 

 ジュウ。という籠手ごと腕を焼くような痛みが走るが、無視する。

 

「これでぇぇえええええ!!」

 

『Transfer』

 

 ライザーに肉薄した状態で残り時間分のエネルギーを聖水と十字架に譲渡する。纏っていた力が無くなり鎧が消滅し元の姿に戻る。そして倍加したことで更に左手への激痛が増す。

 

 痛てぇ! でも退かねぇ! 退けねぇ! 白野はもっと、もっと痛かったはずだからよぉぉおおお!!

 

「ラストだぁぁぁあああ!!」

 

 ライザーの鳩尾掛けて十字架と聖水が乗った掌底を叩きつけ、すぐに手を放す。

 

 瞬間、聖水はまるで高濃度の硫酸のように激しく音を立てながら付着したライザーの肉を焼き、先端が突き刺さった十字架は、まるでライザーを消滅させんとばかりに激しく輝く。

 

「ぎゃああぁぁあああぁあああがあがあああ―――!?」

 

 顔を歪ませ喉が裂けるんじゃないかと思うほどの悲鳴を上げたライザーがそのまま地面に崩れ落ちる。

 

 ライザーが倒れたと同時に奴の体がその場から消えると、すぐにグレイフィアさんのアナウンスが響き渡った。

 

『ライザー・フェニックスの『王』の撃破を確認。よってこの勝負はグレモリー側の勝利とします』

 

 ……勝った? 勝ったんだ! やったぞみんな!!

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 俺は傷む左手を忘れ、拳を握ってその場で勝利の雄叫びを上げた。

 

 




フルコンボでフルボッコだドン!!

と言うわけでもはや何がトラウマになってもおかしくない程痛めつけられたライザー君でした……これは再起できるのか?



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【栄誉という名の対価】

ライザー戦終了後です。
さて……ようやく悪魔陣営のイケメン代表のサーゼクスさんが出てくるぞっと。



「……ん?」

 

「白野君!」

 

「よかった。気が付いたんだね白野君」

 

 目覚めると旧校舎の天井が視界に広がり、朱乃先輩と祐斗が自分を安堵した表情で覗き込んでいた。

 

 ……ああ、そう言えば二人もあの攻撃でリタイアしたんだっけ。よっ……んん?

 

 ゆっくり体を起こすと、違和感を感じてそちらに視線を向ける。

 

 ――ああそうか。

 

 違和感の正体に気付いて納得する。そこには本来あった筈の物が無くなっていた。

 

 具体的に言えば左腕が肘から少し上辺りから綺麗さっぱり、完全に、無くなっていた。治療はされたようで、痛みは殆ど無く、切断された部分には包帯が巻かれていた。

 

 視線を上げると二人は凄く申し訳なさそうな顔で項垂れていた。

 

「白野君すまない。僕達がもっとしっかり君を気にかけていれば……」

 

「本当にごめんなさい。眷族でもない無関係なあなたにこんな……」

 

 ……まぁ気にするなって言うのは酷だよな。

 

 二人の気持ちは痛いほど分かる。なんせ生前の自分はサーヴァントに命令を出して戦わせていた身なのだ。こちらの拙い指示のせいでどれだけ大切な相棒を傷つけただろうか。

 

 それでも、彼らがそれが役割だと言って決して自分を責めなかった。代わりに褒め、叱って自分を導いてくれた。

 

『これから先……誰を敵に迎えようとも、誰を敵として討つ事になろうとも……。

 必ず、その結果を受け入れてほしい。迷いも悔いも、消えないのなら消さずともいい。

 ただ、結果を拒む事だけはしてはならない。すべてを糧に進め。覚悟とは、そういう事だ。

 それを見失ったまま進めば、君は必ず未練を残す』

 

 脳裏にかつて自分が敵として戦ったもっとも気高く誇り高かった老騎士、ダン・ブラックモアの言葉が過ぎる。

 

 己が不利になるのも厭わずに行う彼の潔い行動と、出会う度に自分に語ってくれた人生の先達としての教え。それは間違い無く自分を支えてくれた一つの絆だ。彼の言葉があったからこそ、自分は道程の大切さと過程の苦悩を知った。

 

「――起きた結果を拒む事だけはしてはならない。それはそこに到るまでに得た物を否定することだ。少なくとも自分はこの結果に納得は出来なくても満足しているし後悔は無い。だから二人も、たとえ苦しくても、辛くても、目を背けずにこの結果を受け留めて己の糧として前に進んで欲しい。いつか納得も出来て満足もいく最良ではない最高の結果を手にする為に」

 

 残っている方の右腕で拳を握って二人に向ける。二人はしばらく互いを見詰めたあと、こちらに視線を移して力強く頷いた。

 

「うん。僕はもっと強くなって君を、仲間を護れる騎士になるよ」

 

「ええ。わたしも、もっと魔法や戦術の技術に磨きをかけますわ」

 

 ……うん。大丈夫そうだな。

 

 二人の強い意志の宿った瞳を見て、後悔に押し潰される事はないだろう判断して腕を下ろす。

 

「そういえば他のみんなは?」

 

 二人の問題が解決したので、他のみんなの現状について尋ねる。

 

「部長と小猫ちゃんは一度来ましたが白野君は寝ていたので、部長は御両親方に挨拶に行きましたわ。小猫ちゃんは護衛として付き添いました。兵藤君とアーシアちゃんは別室で治療を受けていますわ。もっとも、アーシアちゃんの神器のおかげで殆ど傷は塞がっているので、あとは白野君同様に、兵藤君が目覚めるのを待つだけです」

 

「そうか、なら良かった」

 

 朱乃先輩からの全員無事だという知らせに安堵していると、扉がノックされる。朱乃先輩が返事をすると、グレイフィアさんとリアス先輩と同じ朱色の長髪をした穏和な顔立ちの優しそうな男性がやって来た。

 

「失礼いたします」

 

「失礼するよ」

 

「グレイフィアさん……と?」

 

「ルシファー様!?」

 

 朱乃先輩と祐斗がその場に片膝を着き頭を下げる。

 

 ルシファー……確かリアス先輩のお兄さんの苗字……あ、ということはこの人が魔王か。

 

 改めてルシファーさんを観察する。う~ん全然魔王に見えない。

 

 間違い無く強いし、自分なんて一瞬で殺せるほどの相手なのは一目見て解かったけど、自分の中の魔王像とあまりにも逆なため、本当にこの人が魔王なのかと思ってしまう。むしろ神様陣営なんじゃないかってくらい優しい目をしている。これも一種の偏見になるのだろうか?

 

「ああ畏まらなくていいよ。今回の主役は君達なのだからね」

 

 ルシファーさんは困ったような笑顔を浮かべながら二人に立つよう促し、一度咳払いした後に自分達を真剣な表情で見据える。

 

「まずは魔王として、今回のゲーム見事だった。正直に言えば我々は君達ではライザー・フェニックスに勝てる可能性は殆ど無いと思っていたし、事実妹のあの一撃を耐えられた時点でわたしも勝敗は決したと思った。だが、そんな我々の予測を覆し、君達は見事勝利を収めた。おめでとう。今回の勝利、君達は胸を張って誇っていい勝負だった」

 

「……ありがとうございます」

 

「……光栄ですわ」

 

 自分の腕の件をまだ気にしているのか、二人は少しだけ悩んだ仕草をしたが、最終的にはサーゼクスさんの言葉を受け入れ返事を返した。

 

 返事を貰ったルシファーさんは、引き締めていた表情を緩め、魔王の顔から先程入室してきた時の物へと変化させる。

 

「で、ここからは兄として、ボクの妹の願いを叶えてくれてありがとう」

 

 そう言ってルシファーさんはその場で深々と頭を下げた。

 

「お、お止めくださいルシファー様!」

 

 朱乃先輩が恐縮そうにしながら慌てる。そりゃそうだ。自分の陣営のトップに頭を下げられたら、誰だって慌てる。

 

 しかし当の本人であるルシファーさんは苦笑しながら頭を上げるだけで、全然気にしている様子はなかった。

 

「ははは、気にしすぎだよ朱乃ちゃん。ちゃんと兄としてって前置きしただろう? 王としては無理だが、兄として今回の一件には本当に感謝しているんだ。特に、月野白野君にはね」

 

「自分ですか?」

 

 成り行きを見守っているとルシファーさんは優しく微笑みを浮かべて頷く。その仕草一つ一つが優雅だ。何このイケメンさん。というか自分の周りにはイケメンが多過ぎる気がする。父さんとか祐斗とか。

 

「グレイフィアから君が転生者だと言う事は聞き及んでいるよ。そして君のその生前の知恵と指導のお陰で、妹は人の上に立つ者として一皮向けたようだ。それにここに来る前にリアスに話を聞いたが、今回の作戦の要所要所、つまりリアスの作戦の穴を埋める作戦を考えたのは君だと教えて貰った。それに赤龍帝の少年が最後に戦えた事、そしてライザー君の被害を最小限に抑えられたのは、君の神器があったからこそだろう。君こそが今回の戦いの一番の功労者だ」

 

「いえ。作戦はみんなで考えました。実行し、実際に成せたのはみんなの努力の結果です。自分だけの成果じゃありません」

 

 褒められるのは嬉しくはあるが、サーゼクスさんの称賛に首を横に振って否定する。なぜなら自分がやった事と言えばライザーやその眷属の足止めのみ。誰一人倒しちゃいないからだ。

 

「ふふ、謙虚なんだね。さて、本来は一番素晴らしい戦いを演じた者に名誉を勲章という形として送るのだが、人間の君には意味が無い。ということでここは悪魔らしい贈り物を贈ろうと思う」

 

「悪魔らしい贈り物ですか?」

 

「ああ。君の願いを一つ、今回の功績を対価として叶えようと思う。今回の功績の対価内の願いであれば、どんな願いでも叶えさせて貰うよ」

 

「白野君! 左腕を治して貰いましょう!」

 

「悪魔の願いを叶える魔法なら、可能だろうね」

 

 二人が嬉しそうに笑うが、まだ左腕の再生が可能範囲内かどうかは判っていない為、まずはその辺りを確認する。

 

「自分の左腕を治すのは対価の範囲に納まるんでしょうか?」

 

「その程度なら問題ないよ。そもそも切られた左腕が残っていればフェニックスの涙でくっつける事も可能だったのだけどね」

 

 その程度、か。ということはもう少し大きな願いでも問題ない。ということだな。

 

「ふむ。では『罪を無かった事にして欲しい』と言う願いは可能ですか?」

 

「「……え?」」

 

 その場に居た全員が表情を固める。逸早く立ち直ったのはルシファーさんだった。流石は魔王と言った所だろうか。

 

「それはどういう意味かな?」

 

「――言葉通りです。正確にはある悪魔の罪を記録から消して欲しい、ですが……」

 

「え、ま、待って下さい白野君。その知り合いは悪魔なのですか? それも罪を犯すような?」

 

 朱乃先輩が戸惑った表情で尋ね、彼女の言葉に頷く。

 

「ええ。彼女は悪魔の住む冥界から、犯罪を犯してこの人間世界に逃げた転生悪魔です」

 

「ふむ。難しい問題だが、とりあえずその犯罪者の危険度にもよるね。名前を明かして貰えるかな?」

 

「彼女の名は……黒歌。既に冥界で死亡扱いとなった……小猫ちゃんのお姉さんです」

 

 意を決して黒歌の名を口にすると、ルシファーさんもグレイフィアさんも驚き目を見開く。更にその時ドアが開く音がしてそちらを見ると、小猫ちゃんが信じられない物を見たかのように目を見開き、呆然と立ち尽くしていた。

 

「お姉さまが……じゃあやっぱり白野先輩から香った匂いは……」

 

「これはまた、まさかここでその名を聞くとはね。運命とでも言うのかな」

 

「……一度お互いに情報の交換をした方が良さそうな状況ですね」

 

 ルシファーさんにそう尋ねると、彼は少し困った笑顔で『そうだね』と言って小猫ちゃんを室内に呼び、そして黒歌についての情報の交換が行われた。

 

 まず自分が黒歌との出会いと、数年間ずっと妹の事を心配していた事、そして主である悪魔を殺した本当の理由等を説明する。

 

 話の聴いている間、小猫ちゃんはずっと俯き握り拳を握っていた。

 

 こちらの事情説明が終わると、今度はサーザクスさん側で黒歌がどういう扱いになっていたのかを説明してくれた。

 

 小猫ちゃんの話し通り、冥界では既に黒歌は死亡扱いとなっているらしく、はぐれ悪魔の討伐リストからも、指名手配からも外れているらしい。なんでも討伐隊がいい加減報酬をよこせと上級悪魔と一悶着あり、結局当時の状況から討伐は成功と見なされ、討伐隊に報酬が支払われ、黒歌の事件は完全に幕を閉じた。

 

「……あの、もし今黒歌の生存が発覚した場合、どうなりますか?」

 

 問題は生きていた場合だ。それによっては、今回の自分の発言は逆に彼女の首を絞めた結果になる。

 

 ――その時は、彼女を連れて逃げるか。

 

 それくらいの責任は取るべきだろう。

 

「正直、こちらとしても扱いが難しいね。彼女の主の悪魔が酷い行いをしていたのは調査で判明してはいるけど、彼女が罪を犯したのは事実。だがその後は罪を悔いて生活し、悪事も働いていない。しかも我々が死亡と認めてしまっている。ははは、グレイフィア、どうすればいいかな?」

 

「わたしにはなんとも。月野の願いを叶えると言ったのはルシファー様なのですから」

 

 グレイフィアさんがいつものクールな表情で突き放す。

 

 だが、自分は見つけてしまった。彼女の額から僅かに流れる汗を! あれは絶対『話を振らないで下さい』って汗に違いない。

 

「う~ん……よし。とりあえずその願いを叶えられるかどうかを確かめてからにしよう。もし可能なら彼女の罪はここで全て清算。以降は自由の身とする事を魔王の名の下に契約しよう」

 

 おお、さすがは魔王、太っ腹である。

 

「そう言えば願いが叶うかどうかって、どうやって調べるんですか?」

 

「専用の機械を使いますわ。それで相手の存在価値を測定する事でその願いを叶えるのにどれだけの対価が必要なのかが解かります。言うなれば運命力を測るようなものですわ白野君」

 

 朱乃先輩がなんか蝙蝠形の丸いスマホのような機械を取り出して親切に教えてくれたが……何故だろう。物凄くモヤっとする。『そこは魔法じゃないんかい!』とツッコミたい気分だ。

 

「魔王様も持っているんですか?」

 

「まあね。いや~便利な時代になったよね。昔は一々手順踏まないと正確に測れなかったからねぇ。さて、それじゃあ月野君の願いは今回の対価で可能かなっと」

 

 ルシファーさんがしばらく機材を見詰めるとすぐにこちらに向き直った。

 

「うん。君の願いは対価で十分叶えられるよ。じゃあその願いでいいかな?」

 

「はい。お願いします」

 

 サーゼクスさんが笑顔で頷くと、後の事はこちらで処理して後日リアス先輩経由で知らせると言って、彼らは去っていた。

 

 さて、魔王の訪問には驚いたけど……こっちの問題も片付けないと。

 

「……ねえ小猫ちゃん。良かったら黒歌に会いに来る。今回の一件も伝えないといけないし」

 

 いまだ俯く小猫ちゃんに声を掛ける。彼女はしばらく悩んだあと、首を立てに振った。

 




と言うわけで黒歌の罪を消すが、白野の願いでした。
えっ左腕は治さないのかって?
少なくともエクスカリバー編まではそのままです。



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【魔王の判断】


と言うわけでサーゼクスさん視点。ちょっと色々手間取った。



「まさか即決するとは思いませんでした」

 

 隣を歩く我が妻グレイフィアが視線だけをこちらに向ける。

 

「――むしろ即決すべきと判断したのさ」

 

 ボクの言葉にグレイフィアがどういう意味? といった視線を向けてくる。

 

「彼、月野白野君はどうやら運命に囚われた人間らしい」

 

「運命に囚われた?」

 

「ああ。今回は初めから対価が『素晴らしい戦いを演じた栄誉』と決まっていた。しかし一人の罪を無効にするとなれば、それ相応の対価が必要だ。とてもではないが『その程度』の栄誉では足りない」

 

 既に死亡が認定されているとは言え、それでも彼女が犯した事件の記録はある。それを完全に抹消して無かった事にするのだ。そうなれば例え殺された悪魔の一族が何を言おうと、もはや黒歌は裁けないし捉えることは出来ない。むしろ黒歌にそのような事をすれば逆に犯罪となってします。

 

 故に殺された一族や、転生悪魔を下に見ている上級悪魔達からすれば納得など出来ない無茶な願いだ。だが、その願いは簡単に叶えられてしまった。

 

「しかし彼の願いはその栄誉で足りた。それが関係しているのですか?」

 

「……その通り、はは、もし彼自身の何かを対価にしたらもっと小さい対価で願いを叶えられただろうね」

 

 それこそ血液やエネルギーを少々頂く程度で済んでしまった可能性がある。

 

「――ああ、だからルシファー様は先程の言葉を口にしたのですね」

 

 合点がいったグレイフィアが頷く。さすがはボクの嫁、聡明である。

 

「そう。人間には稀に彼のような『特別』な運命を背負った者が現れる。彼が数十年に一度の偉人となるのか、それとも数百年に一度の英雄となるのかは分からないが、彼はこの先も色々と苦労するだろうね。その点に関しては同情を禁じ得ない」

 

 運命に囚われた者と言うのは大抵は苦難を与えられるものだ。

 

「……彼はあのまま放って置いて良かったのですか? 見たことのない魔法も使っていましたが」

 

 グレイフィアが警戒心を隠さずにそう尋ねる。

 

「そうだね。彼の魔法、どこかアジュカの数式を用いた術式プログラムに似ていたね」

 

 しかしアジュカのそれとは起動の仕方や仕様が異なっていることから、独自に開発した術式なのだろう。それとも開発したのは黒歌かな? 彼女は魔法の才能もあったと聞くし。

 

「やはり監視すべきでは?」

 

「う~ん。たぶん大丈夫だよ。彼のように自分よりも他人を優先するタイプはむしろ敵対しない方が良い。それになによりボクは彼が気に入ったよ。できれば赤龍帝の兵藤一誠君と同じようにこちらの陣営に欲しいくらいだ」

 

 普通、大怪我した直後に自分よりも他人の為に行動するなんて出来るもんじゃない。

 

 しかし彼には一切の迷いが無かった。

 

 大切な者の為に己を賭けられる。そんな彼の在り方にボクは好感を覚えた。

 

 それにグレイフィアもそこまで彼を警戒しているわけではないようだしね。

 

 グレイフィアが本気なら、ボクに告げる前に監視をつける筈だし、何より。

 

 グレイフィアはどうでもいい相手や敵は公私共にフルネームで呼ぶけど、そうでない相手は苗字や名前で呼ぶという癖がある。まぁ、仕事中は状況に合わせて呼び方を変える徹底振りだけど。

 

 そういう意味では苗字を呼んでいる時点で彼女も白野をある程度は認めているし、信頼していると言うことになる。

 

 やれやれ、彼がこちらの陣営に来てくれれば冥界の改革も早まりそうなんだけどね。

 

 だが彼がこちらの陣営に、悪魔になることは無いだろう。運命に囚われるとはそういう事だ。

 

 何かが起きようとしているのかもしれないね。

 

「グレイフィア。これからはできるだけリーアを、リアスを気に掛けてあげてくれるかい。彼のような存在に、更にドラゴン、しかも赤龍帝だ。この土地で何かが起きようとしているのは間違いない」

 

「畏まりました……だからと言ってサボらないでくださいね?」

 

 あはは、バレたか。

 

 妹の心配と厳しい妻の監視を同時に解消できるかと思ったが、優秀な我が妻には一瞬で無抜かれてしまったようで、今は眉を攣り上げてこちらに冷やかな視線を向けてくる。

 

「さて、それじゃあフェニックス家と話し合いをしたあとぐすに、冥界で黒歌の手続きをしてしまおう」

 

「しかし今回の一件、フェニックス家はすぐに納得なされるでしょうか?」

 

「するとも。そもそも向こうはそれ程この婚姻を重要視していない。でなければライザー君がやられた時にもっと抗議してくるさ。むしろ負けて良かったと思っているみたいだね。それについてはボクも同意見だ」

 

 ライザー君には才能がある。それを誇るのは良い。だが、だからといって傲慢が許される訳ではない。

 

 まさかファッション感覚で妹を眷属にするとは、そりゃあ両家の親御さんも怒るよ。

 

 特にフェニックス氏は娘を溺愛していたからね。君がやられた時なんて『勝った!!』なんて言って大人気なくガッツポーズまでしちゃっていたよ。

 

 気持ちは分かるけどね!!

 

 まったく妹をなんだと思っているのか。そもそも妹というのは愛でるものだ。幸せを願い、その愛らしい眼差しに幸福を感じ、逆に我々は妹の幸福を見守る為に存在なのだ。

 

 決して縛って良いモノではないのだ!!

 

「……ふん!」

 

「ゴハっ――!?」

 

 お腹に衝撃を受けてその場に崩れ落ちる。

 

 こ、これはグレイフィアお得意のノーモーションからの腹パン……そうか、またボクは自分の世界に浸っていたか。

 

「まったく。あなたのシスコン、いえ家族全員だからファミコン? も重度よね」

 

「ハハハ、こればかりは仕方ないさ。グレモリーの血の性だね」

 

 周りを確認してから妻の顔で言葉を崩したグレイフィアに、ボクは苦笑しながら応える。

 

「ところでリアスの今後はどうするの?」

 

「どうやらリアスは赤龍帝君をいたく気に入っている様子だ。きっと彼の家に押しかけるだろうね。情熱的で一途なのもグレモリー家の特徴だよ」

 

 なんだかんだで今のところ父上と母上、ボクとグレイフィアも一目惚れで相手を口説き落とした恋愛結婚な訳だし。リーアもきっとそうなるだろう。

 

「……きっとリアスは一誠君を口説き落とすでしょうね。正直グレモリーのしつこさはストーカーと言っても過言ではないもの」

 

「ハハハ。ちょっと何言ってるか分からないなー」

 

「あら? では思い出させて上げましょうか? 戦場でいきなり告白したと思ったらその後戦闘中に恋文をこちらの武具に忍ばせたり、あまつさへ仲間に盗聴、盗視用の――」

 

「おっとそろそろ着いてしまうね! さあ夫婦の時間はここまでだよグレイフィア!」

 

 過去の黒歴史からの説教コンボを察したボクは、大きな声で彼女の言葉を遮り、早足で目的地へと向かう。

 

 そんなボクに呆れた表情を向けるが、グレイフィアはそれでも付いて来てくれる。うん、こういうところが可愛い。

 

「――あとでお話がありますからね」

 

「……はい」

 

 でもこういうところは怖い。

 

 結局説教は避けられないと悟り、肩を落として父上達が待つ部屋の扉を開けた。

 




グレイフィアさんの呼称の使い分け設定と、フェニックス家が簡単に今回の一軒を許した点は完全に独自設定です。
因みに妹を眷族にした理由は原作基準であり、原作でもその点は身内に怒られているライザー君……まぁそりゃそうだわ。



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【親の愛】


と言うわけで白野の片腕が無くなった後のお話です。



 見慣れた玄関が目の前に立ち塞がる。

 

 ああ帰って来ちゃったよ。怒るかなぁ怒るよなぁ。だって片腕無くなってるもん。どうしようかなぁ。

 

 家の扉の前で開けたくない。という思いと、腹を括るしかない。という思いがせめぎ合う。

 

「どうしたの白野?」

 

「そうだぜ。早く中に入って事情を説明しようぜ」

 

 後ろで控えていたリアス先輩と、左手に包帯を巻いた一誠が怪訝な表情を浮かべながら扉を開けるように促してくる。その更に後ろには他の部員達もいる。

 

 ああもう! 行くしかないか!

 

 退路が無い以上、進むしかないので意を決して扉を開ける。そこには猫化した黒歌とレイナーレが待っていてくれた。多分、こちらの気配を黒歌が察したのだろう。

 

「お帰りな――」

 

「にゃ、おかえ――」

 

 二人共自分の姿を見た時は笑顔だったが、左腕に気付くと表情が固まった。そして次の瞬間、レイナーレは物凄い驚いた表情でこちらに詰め寄り、黒歌は――一瞬で人型になると今まで見たことのない般若のような形相を浮かべた。

 

「ちょっ!? あんた腕! 腕無くなってるじゃない!!」

 

「誰だわたしの婿を傷物にしたドグサレ悪魔はあああああ!! 万倍にして返して閻魔の飯にしてやろうかああああ!!」

 

「「ひぃいいいい!!」」

 

 あまりの二人の、というよりも黒歌の変わり様に一誠とアーシアが悲鳴を上げ、原因であるリアス先輩の顔から血の気が引く。あ、めっちゃ震えてる。でも気持ちは解かる。だって背後から立ち昇る殺気が悪鬼羅刹みたいな姿で視覚化されてるもん。正直怖いです。

 

 レイナーレはレイナーレで無くなった腕を掴んで『大丈夫なの! 痛くない!』とか物凄く心配そうにしてくれる。こんなに想われてたのかと、ちょっと、いや、かなり嬉しい。

 

「……く、黒歌姉さま」

 

「あ゛あ゛?! ――あえぇ……?」

 

 小猫ちゃんが怯えながら、それでも小さくはっきりと姉と呼ぶと、黒歌はメンチビームでも出かねないほどの勢いで睨みつけたあと、一瞬で呆けた表情になり、最後には殺気も消し飛んでしまう。

 

「あ、え? いや、なんで白音が……」

 

「……とりあえず事情を説明するから父さんと母さんも呼んで貰えるかな。レイナーレも大丈夫だよ。アーシアにも治癒して貰ったから、もう痛みも無いし傷も塞がってる」

 

「……分かったわ。おじ様とおば様を呼んでくる」

 

 こうして普通の人ならみんなが寝静まっている真夜中に、月野家で事情説明という名の家族会議が始まった。

 

 

 

 

『この度は申し訳ありませんでした』

 

 グレモリー眷属全員の深々としたお辞儀と謝罪の言葉から、話し合いは始まった。それと黒歌と小猫ちゃんだけは二人きりで自分の部屋で話し合いが行われてる。その方が良いだろうという自分の判断だ。

 

 ペアルックのパジャマを着た父さんと母さんは始めこそ自分が腕を無くしていることに動揺していたが、話が進むに連れて真剣な表情になり、自分が腕を無くした話に入った時には難しい顔をさせてしまった。

 

「白野……」

 

「はい」

 

 父さんがこちらに振り返る。そこにはいつもの優しい笑顔はなく。ただただまっすぐ自分を見据えていた。

 

「後悔は無いんだね?」

 

「――はい」

 

 短いその言葉に、自分もまたしっかりと答えて返す。

 

 悔いはある。

 

 大好きな四人にこんな顔をさせてしまったことに対して辛いとも感じてるし申し訳ないとも思っている

 

 それでも後悔があるかと問われれば、後悔はない。何故ならこの悔いも含めて、自分は戦う事を選んだのだから。

 

「なら僕からは何も無いよ。ただ……今後は危ない事に関わる時は一言欲しいかな」

 

「うん。ごめん父さん……ありがとう」

 

 困ったような笑顔をする父さんに頭を下げる。すると今度は母さんが立ち上がって自分の無くなった腕を優しく包むように握る。

 

「まったく。ハクちゃんは普段はそうでもないのに、たまに頑固なんだから。でも、大抵そう言う時は誰かの為なのよねぇ。だから悲しいけど、腕の事は許しちゃう」

 

「母さん……ごめん。それとありがとう」

 

 母さんにも父さんと同じように返す。そして母さんはにっこりと微笑み返してくれ。

 

「――それはそれとして」

 

 が、何故かその笑顔のまま握る手に物凄い力が篭る。

 

 ……あ、嫌な予感がする。

 

「私達に色々と嘘を付いたよねハクちゃん。そりゃあ私達が心配だったのかもしれないけど、黒歌ちゃんとレイナーレちゃんのことは詳しく教えてくれても良かったわよねぇ~?」

 

 目蓋を開いた母さんの目には――光が無かった。

 

「うふふ。嘘付いたりする悪い子にはお仕置きだよ。さすがにここじゃ可哀想だから、わたし達の寝室に行こうか」

 

 ……アア、アレカ。

 

「――イエス、マム」

 

 全員の前でアレをしないのは母さんの恩情だろう。下手に抵抗したらこの場でやられるので大人しく付いていく。

 

「お、おいどうした白野? 目から光が無くなったぞ」

 

「イッセイ、キニシナイデ」

 

「な、なんで急に日本語の不自由な人の片言なんだい!?」

 

 心配する一誠と祐斗に機械的な作り笑顔で別れを告げ、自分は母さんと父さんの寝室へと向かった。

 

 

 

 

 い、いったいどんなお仕置きをされるんだ!?

 

 俺は目から光を消し、全てを諦めたような表情で連れて行かれた幼馴染の後姿を目で追う。見れば俺だけじゃなくて部員全員が心配そうに見詰めている。レイナーレだけは哀れみの表情をしていた。彼女はどうやら内容を知っているらしい。

 

「――さて、グレモリーさん」

 

「は、はい!」

 

 白野が退室するのを見届けると、白野の親父さんが改めて、と言った感じに口を開いた。

 

「息子の勝手にやった事ですが、今回の一件の責任を償う気はある。そうでしたよね?」

 

「……はい」

 

 親父さんが真剣な表情でリアス部長に尋ねる。部長は初めから出来る限りの責任は取ると言っていた。が、改めて突きつけられるとすごく心配になる。一体どんな責任の取り方をさせられるのか。

 

「なら償いは一誠君の両親に真実を伝える事。それで許します」

 

「え? う、家の親父達に、ですか?」

 

「どうせ言ってないんじゃないかい?」

 

 うっ。と、オレと部長が言葉に詰まるのを見て、親父さんは『やっぱりな』と溜息を吐いた。

 

「子供の心配をしない親は居ない。少なくとも今回僕と妻が怒っているのは危険な事柄に関わっていながらそれを隠し、嘘を付いた事くらいです。一誠君、君のご両親だって君が寝込んだ時はすごく心配していたんだよ」

 

「……はい」

 

 親父さんの言葉に、初めて悪魔になって寝込んだ数日を思い出す。思えば妙にお袋は優しかった気がする。夕飯が自分の好物だったし、親父の帰宅も早かった様な気がする。

 

「いいかい。大人として、そして親として言わせて貰うね。正体を隠さなければならないのは分かる。だが君達はもっと心配してくれる人の気持ちを考えるべきだ。それこそ命のやり取りがあると言うのなら、なおさらその人達には真摯に向き合いなさい」

 

「……分かりました」

 

「……必ず伝えます」

 

 親父さんの言葉に、俺とリアス部長は険しい表情で頷き返すのが精一杯だった。

 

「なら今回の件はこれまで。いや~すまないね。僕自身、できた大人でもないのに説教なんてしてしまったよ。ははは!」

 

「おじ様もおば様も優しすぎるわ。白野にはもっと説教してもいいし、コイツらにももっと色々言っていいはずよ?」

 

 傍で話を聞いていたレイナーレが納得できないといった表情でそう白野の親父さんに問いかけた。

 

「……実を言うとね。僕ら夫婦は覚悟していたのさ。もしかしたらいつかこんな日が来るんじゃないかって」

 

「え?」

 

 ど、どいうことだ?

 

 俺達がみんな似たような表情で固まっていると、白野の親父さんが静かに語った。

 

「家の息子はどこかおかしい。普通の子供と違う。それは成長するにつれて明確になり、そして黒歌という妖怪を拾ってきた時に確信になり、この子には何か特別な運命でもあるのではと危惧するようになった」

 

 当時を懐かしむように白野の親父さんが語る。

 

「だから僕も妻も決めたのさ。親として、例えどんな事が白野に降りかかろうと傍で見守って行くと」

 

「ど、どうして白野君に問いたださないですか?」

 

 朱乃先輩がおずおずといった感じに尋ねると、白野の親父さんは優しげに笑い、そしてどこか自慢気に答えた。

 

「もちろん息子を愛しているからさ。そして息子も、自分達を両親として深く愛してくれている。だったら十分だよ。息子にどんな秘密があろうが、僕達家族の愛情の前では些細なことさ。あ、もちろん白野が話してくれるなら、ボクらにはいつでも受け止める準備はできているよ」

 

 白野の親父さんはそう締めくくり、幼い頃にいつも俺達に向けてくれた安心感を感じる笑顔で笑った。

 

 その笑顔に……俺は少しだけ救われ、同時にこんな優しい人の家族を傷つけてしまった事に。申し訳ないという罪悪感の気持ちが溢れた。

 

 白野は……もう関わらせない方がいい。

 

 見ればみんなも自分と似たような、罪悪感と後悔が入り混じったような表情をしていた。

 

 みんなも気付いている。今後も自分達に関われば、白野が己を顧みずに俺達を助けてくれる事を……。

 

 でも、それはこの人達を悲しませる事でもある。何より白野は俺達転生悪魔と違って人間だ。まだ引き返せる場所に居ると思う。

 

 だからこそ、深く関わってはいけないと強く思った。

 

「――どうやら上の二人の話し合いも終わったみたいよ」

 

 話を聞いていたレイナーレがばつの悪そうな表情のまま顔を上げる。

 

 確かに階段を降りて来る音が聞こえた。

 

 しばらくしてリビングに目元を赤くした小猫ちゃんとお姉さんの黒歌さんが戻って来た。きっと二人共泣いたんだろう。なにせずっと離れていて、どんな形とはいえ再開したんだから。

 

「すいません。お待たせしました」

 

「にゃ? 御主人様は?」

 

「ぜっさんお仕置き中」

 

「把握にゃん」

 

 レイナーレの言葉に黒歌さんが乾いた笑い声を上げる。どうやら黒歌さんも白野がどんなオシオキをされているのかを知っているらしい。

 

「それで小猫、あなたはこれからどうするの?」

 

 部長がこちらにやって来た小猫ちゃんにそう尋ねる。部長にとっては気になっている問題の一つだろう。部長と小猫ちゃんはずっと一緒に暮らしていたと教えて貰った。

 

 ここでお姉さんと一緒に暮らすことになったら、部長はきっと寂しがるだろうなぁ。

 

「わたしはこれからも部長に付いていきます。白野さんのお陰で姉さまとはこうしていつでも会えるようになりましたし」

 

「ううぅ、白音とも一緒に暮らせると思ったのに~」

 

 黒歌さんはしょぼんという効果音が聞こえそうな程、肩を落として落ち込んでいた。

 

「妹離れしてください」

 

「再開初日に言う言葉かにゃそれ!!」

 

「わたしはもう姉さんは死んだと思って心の整理をしてしまったんですよ! 姉さまもしてくれなきゃ不公平です!」

 

「理不尽過ぎるにゃ! それに、それは捜索した悪魔の根性が足らなかったせいにゃ! むしろ見付からないようにって毎日臭い消ししたり、外出は極力近場のみにしたりとかの面倒臭い事して頑張っていた私の数年間はなんだったにゃ!」

 

 いえ、むしろそのお陰で今こうして自由の身なんじゃないですかねぇ?

 

 そうツッコミを入れそうになったが、二人の時間を邪魔するのも悪いと思って口には出さずに見守る。喧嘩するほど仲が良いという言葉が有るとおり、あの二人には喧嘩してでもお互いに言葉を交わし合いたいのかもしれない。

 

「俺、兄弟がいないから少しだけ羨ましいな」

 

「そうだね。見ていて微笑ましいよ」

 

「そんなに羨むほどのモノではないと思うけど?」

 

「それはリアスに兄弟が居るからですわ」

 

 ついそんな言葉がこぼれる。木場や朱乃さんが俺の呟きに賛同して頷き、唯一兄弟の居る部長だけは首を傾げた。

 

 結局二人は最後まで喧嘩したまま『また来い!』『いわれなくても来ますよ!』と、よく分からない別れ方をした。小猫ちゃんてこんな性格だったかな? と一瞬思ったが、彼女もまだ混乱しているのかもしれない。因みにオシオキから戻って来た白野は真っ白に燃え尽きていた。白野のお袋さんだけは怒らせないようにしようと心に誓った。

 




月野家式OSIOKIはだいぶ前に書いたから割愛。

で、まあ償いとしてはかなりの温情処置です。
一応半分は白野本人が言うとおり自己責任ですし(断ろうと思えば断れた訳だし)
月野夫婦の性格的にも具体的な罰を提示するよりは、相手自身がどう償って行くのかに重点を置くかなと考えて、こういう結果になりました。



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【新しい決意】

と言うわけでフェニックス編のラストです。



 ジリリリリリリリリ! という目覚まし時計の甲高い音に目を覚まし、時計を止める。

 

「ふぁあ~ん」

 

「にゃふぁ~」

 

 隣で猫の姿で丸くなっていた黒歌と共に欠伸をして同じように身体を伸ばす。

 

「ほら黒歌。早朝訓練に行くよ」

 

「うにゃ~久しぶりだから生活サイクルが狂ってるのよ~ちょっと待って欲しいのにゃ~」

 

 ダレている黒歌を抱かかえて脱衣所に向かい、黒歌を床に下ろして先に洗面台に向かって顔を洗う。

 

「ん。なんだかんだで慣れてきたよなぁ片手での生活」

 

 顔を洗いながら呟く。

 

 腕を失ってから一週間が経った。この一週間で色々変わった。

 

 まずオカルト部のみんなだが、自分の腕の件が思いの他応えたようで、それぞれ学園以外の時間に自主訓練をするようになった。

 

 それとリアス先輩からこれからは用事が無い限りは部室には来ない方が良いと言われてしまった。

 

『お父様とお母様をこれ以上悲しませるものではないわ』

 

 そう沈痛な面持ちで言われてしまってはこちらも頷くしかなく。ライザーとの一件以来、部室には寄っていない。それでも学園内ではみんなと変わらずに話すし、お昼も一緒に食べたりしている。朱乃先輩のセクハラも健在だ。むしろ数少ないセクハラチャンスとばかりに一回でのセクハラが激しくなったような気がする。

 

 他には一誠が両親に悪魔のことを話したらしい。物凄く驚かれたが言い争いにはならなかったと言っていた。

 

 そんな一誠の家には、現在アーシアの他にリアス先輩と小猫ちゃんが居候していると朱乃先輩に教えられた。なんでもライザーの一件でリアス先輩は一誠のことをかなり気に入ったらしく所謂婿候補と言うやつだそうだ。

 

 小猫ちゃんの方は黒歌にすぐに合えるからリアス先輩のついでにと転がり込んだらしい。意外と大胆な子だった。

 

 どうやら一誠のハーレムはちゃくちゃくと広がっているみたいだな。

 

「はい。黒歌の番」

 

「はーい」

 

 元の姿に戻った黒歌が寝ぼけ眼で顔を洗い始めたのでタオルを置き、先に部屋に戻る。にしても全裸は勘弁して欲しい。毎回見ないようにするこちらの身にもなって欲しいものだ。

 

 脱衣所から出て訓練の準備を始める。

 

 怪我をした翌日から、黒歌との早朝訓練を解禁した。もう色々周りに隠す必要も無いので大手を振って訓練できるという訳だ。が、その日常にも変化が生まれる。

 

 準備を終えて黒歌と共に玄関に向かうと、先に準備を終えた先客が頬を膨らませていた。

 

「遅いわよ二人共!」

 

「ごめんなレイナーレ」

 

「にゃん。待たせたわね」

 

 ジャージ姿のレイナーレがそう言ってこちらを睨む。どういう心境の変化か、彼女も早朝訓練に参加するようになった。

 

「「じゃ、行ってきます」」

 

 いつものように玄関から家に向かって挨拶を交わして三人で早朝訓練に向かう。これが今の自分の日常だ。

 

 

 

 

「やあ、おはよう白野君」

 

「おはよう祐斗」

 

 学園に行くと祐斗が率先して挨拶してくるようになった。それと以前よりもより一層気を遣ってくれるようになった。まぁ最初の頃はクラスメイトもそんな感じだったが、今は大分落ち着いた。落ち着いたが……。

 

「最近ますます二人の距離が近いわよね」

 

「事故で傷ついた親友の月野に寄り添う木場君。何これMO・E・RUu!!」

 

「ソリッドブッグのネタ入りましたーーー!!!」

 

「薔薇薔薇にしてやんよ! ヒャッハー!!」

 

 ――やはり自分のクラスは色々と濃ゆいクラスだと思う。というか男子諸君、クラスメイトが困っているんだから止めてくれ!

 

「おい知ってるか? 月野の奴、この前すげー黒髪美人の女性と二人で買い物してやがったんだよ」

 

「何!? オレは髪を纏めたボン、キュ、ボンなお姉さまと腕を組んで歩いているのを見たぞ!」

 

「俺、姫島先輩とお昼を食べているところを見た」

 

「ぼっきゅん。生徒会長と図書館で隣同士で談笑するところを見ちゃったんだな」

 

「…………」

 

 男子が一斉にこっちを振り向く。

 

「「爆ぜろ!! それか掘られてしまえ!!」」

 

 ――駄目だ。もはやこのクラスはギャグとノリで生きている奴等しかいない。

 

 因みにクラス、というよりも周囲には事故で腕を失った事なっている。広域暗示の魔法を、グレイフィアさん達が施したんだそうだ。

 

 どうやったのか尋ねたら『今は機械でポチ、ですよ』と言われてしまった。どこの宇宙人隠蔽組織ですかと物申したい。もっと頑張れよファンタジー要素!!

 

「あはは、また賑やかなクラスに戻ったね」

 

 いや祐斗よ、笑い事ではないぞ。クラス全員が自分達をカップルにしようとしているんだぞ? 何故そんな笑顔を浮かべられるんだ……ま、まさか本当ソッチ系じゃないよな?

 

 楽しげに笑う祐斗に対して、自分は引きつった笑顔を浮かべながら親友の真意を探るのに必至だった。

 

「ほら~もうすぐHRだぞ~席に付けぇ」

 

 担任が入ってきた事で馬鹿騒ぎは静まり、いつもの授業が始まる。

 

 ……なんだかんだでみんな授業は真面目に受けるから優秀な人が多いんだよねこのクラス。なのになんであんなノリが……解せない。

 

 我がクラスの最大の謎に頭を悩ませながら、昼休みは祐斗と一緒に一誠のクラスに行って、一誠、松田、元浜、アーシア、それとアーシアのお友達と紹介された桐生藍華(きりゅうあいか)を入れたみんなでお昼を食べた。

 

 藍華本人から呼び捨てで良いと言ってくれたので、呼び捨てにしている。こっちは何故か早々にハクノンとあだ名で呼ばれた。どうやら明るい子らしく、アーシアの恋を応援しているみたいでアーシアにあれこれ色仕掛け的な事を吹き込んだり、一誠にアーシアの良い所を伝えたりしていた。言動に少し遠慮が無いが、友達思いの良い子なのは間違いないだろう。この出会いも大事にしていきたいな。

 

 

 

 

「ん~。今日も平和だったなぁ」

 

 毎日こうなら良いのに。

 

 帰宅中、空に寂しく浮かぶ夕日を眺めながらそんな願望を抱く。

 

 しかし心の片隅でそれを否定する自分がいる。

 

 今年に入って二件。そう、二件もの事件に巻き込まれている。まぁ二件目は自分から巻き込まれに行ったんだがとりあえずそれは無視。

 

「……とりあえずの目標は出来る限りみんなを悲しませないようにすること、かな」

 

 ここで『出来る限り』なんてつけてしまっている時点で、守る気があるのかと自分自身に苦笑してしまう。

 

 だが部室に行く機会も減ったのだし、そうそう巻き込まれることは無いだろう。

 

 そんな風に楽観的に捉えつつ、今日の夕食に思いを馳せながら帰宅した。

 

 

 

 

 夜。いつもの日課の魔術訓練を終えてさて寝ようかと思ったその時、扉がノックされた。

 

「はい?」

 

「にゃ~御主人様ちょっといいかにゃ?」

 

 黒歌……と、この気配はレイナーレ?

 

 魔術訓練で感覚が敏感になっていたこともあり、扉の向こうに誰が居るか察する。

 

「いいよ~」

 

 いつもは遠慮無く入ってくるのに珍しいなと思いながら許可を出すと、真剣な表情の二人が入ってきた。

 

 何かあったのか?

 

 自分の正面に座った二人の雰囲気にただならない物を感じ、こちらも気を引き締める。

 

「御主人様。今回の一件でわたし達……決めました」

 

 黒歌が口を開き、レイナーレは何故か顔を赤くしてそっぽを向く。本当に何があったんだ?

 

「もう御主人様を性的な意味でくっちゃおう。と」

 

「…………おん?」

 

 ――イマ、クロカサンハ、ナント?

 

「すまない。よく聞こえなかったからもう一回頼む」

 

「強制子作りタイムです。御主人様」

 

 うおおおおおい!? 聞き間違いじゃなかった!

 

「ちょっと待て! なんでそうなる!?」

 

「だって御主人様はどうせ今後もまた無茶して色々巻き込まれるでしょ!」

 

 こちらに指を突きつけて断言する黒歌。ぐうぅ否定できない。

 

「いいですか? わたし達は御主人様を愛しています。一生を添い遂げたいと思っています」

 

「ちょっと待って。ちょいちょい『わたし達』って言ってるけど、え? レイナーレも?」

 

 黒歌は……なんとなくだけど、そうじゃないかとは思っていたけど、レイナーレはだってテンプレのごときツンデレさんではあるが、人間を見下してる堕天使だよ? 人間の子供が欲しいなんて思うはずは……。

 

「な、何よ! わわ、わたしがあんたを好きになっちゃいけないの? だ、だいたい! 命助けられてその後の生活の環境まで整えてくれ! す、好きになるに決まってるじゃない! 馬鹿! 鈍感!」

 

 泣きそうな顔で告白しながらこちらへの悪態をつく彼女の姿に、不本意にも胸がきゅんとしてしまった。なるほど、これがツンデレの破壊力か。侮れん。というか……。

 

「二人はその……一緒にその、まぁ、そういう関係になっても良いってことなの?」

 

「「そこは妥協しました」」

 

「妥協って……」

 

「「だってどうせまだまだ増えるだろうし」」

 

 なんでさっきから口調の違う二人が声を揃えて答えてるんだよ! 絶対に練習しただろ!

 

「ちょっと待って欲しい! それはさすがに名誉の為に抗議させて貰う! まるで人をナンパ男のように言わないで欲しい」

 

「黙りなさいこの天然人たらし!」

 

 天然人たらし!?

 

「御主人様、女の子は優しくされただけでコロっと行っちゃう子もいるにゃん。特にわたし達みたいに特殊な子は絶妙なタイミングで優しくされたら一気に傾くにゃん」

 

「絶妙なタイミングって、別に特別優しくした覚えは」

 

「だから天然だって言ってるのよ。このナチュラルフラグマンめ!」

 

 フラグマン!?

 

「残念ながら、わたし達に御主人様のフラグをブレイクする能力は無いわ。だから今の内にハーレム容認しつつ御主人様とそういう関係になって、少しでもフラグ拡大を防ぐ事にしたっていうのが、今日告白した理由の一つ」

 

 そんな人を感染系の病原菌みたいに……。

 

「……じゃあ他の理由は?」

 

 彼女達の発言に若干、というかかなりヘコみつつ別の理由も尋ねる。

 

「もう一つは――御主人様、わたし達に生きていて欲しいですか?」

 

「え? そ、そりゃあもちろん」

 

 理由を答える前に、真剣な表情でこちらに問いかけて来た黒歌に当然だと答える。

 

「では愛してください。あなたの愛をください。これから先、あなたが人間として死んだ後の数百、数千年を……生きるために。それがもう一つの理由です」

 

『そんな大げさな』

 

 とは――とても笑い飛ばせなかった。それほどまでに二人の表情は真剣そのものだった。

 

 何千年も生きる。それはきっと短命な人間には一生解からない事だと思えた。

 

「……このまま、あんたがわたし達を愛してくれないなら。あんたが死んだらわたし達も後を追うからね」

 

「それはダメだ!」

 

「じゃあ戦わないでって言ったらあんたは大人しくするの! 目の前で困ってる人を見捨てられるの!」

 

 レイナーレの願いに、言葉が返せない。何故ならそんな事は出来ない事を、誰よりも自分自身が自覚しているからだ。

 

「御主人様が片腕を失って戻って来た時、わたしは自分の半身を失ったんじゃないかって程のショックを受けたわ。そしてこのまま実際に御主人様を失ったら……生きる気力なんて無くなってしまう。そう思ったの」

 

「わたしもよ。まぁそのお陰で自覚できたんだけど……あんたが好きだって」 

 

 二人の言葉が突き刺さる。なんというか、鈍感なのは知っていたが、ここまで気付かないとは。何か別の力でも働いているんじゃないか?

 

 そんな事を考えてしまうほど、自分が女心に対して重度の鈍感だと思い知らされた。

 

 そして今度は、自分が二人をどう思っているかを考える。

 

 二人のことは……大好きだ。両親と同じ、掛け替えの無い存在だ。

 

 女性としても、その、魅力的だと思う。正直自分に惚れてくれるには勿体無いほどの良い女性だ。

 

 しかし自分は人間だ。彼女達の言う通り、この先彼女達と数百、数千年を共に生きられるわけじゃない。

 

 だったら自分ではなく。もっと相応しい者が、この先彼女達に現れ、彼女達を長く幸せに――。

 

 

『その時誓った――もう二度と俺は人間を愛すまいと』

 

 

 ――不意に、思考を続けていた脳裏に己の恋を一生抱えたまま死んだ男の言葉が過ぎった。

 

 ああそうだ。自分は知っているはずだ。

 

 自分は相応しくないと手を伸ばす事を止め、ただありもしない何者かが相手を報わせてくれると信じた結果、愛を失った人間嫌いの男を。

 

 学んで来たはずだ。教えられて来たはずだ。他ならない、事実として体験してきた彼らに。

 

 自分の未来は自分が動かなければ変えられないのだと。

 

 彼女達を『幸せにしてくれるであろう』という不確かな未来と、彼女達を『幸せにできるかもしれない』という不確かな可能性。

 

 違いがあるとすれば前者はただ結果を見ることしか出来ないこと。後者はただ過程を足掻くしか出来ないということ。

 

 なら――自分が選ぶ道など一つしかない。

 

「……黒歌、レイナーレ……不束者ですが、よろしくお願いします」

 

「そ、それはつまり……」

 

「まぁまだまだ子供だけど、二人を幸せにするように頑張るよ」

 

 その選択が彼女達の道程で果て、その未来を見届けられない人生だとしても。互いに幸せにしたいと共に歩んだ道を、意味が在る物にしたい。

 

 少なくとも白野が二人に笑っていて欲しいと望み続ける限り、その道が途絶えることは無いのだから。

 

「にゃあああ本人の了承キター! もう我慢できない!!」

 

 ちょっまっあ、アアァァーー!!

 

 そのままケモノノように興奮した黒歌に押し倒され―――

 

 

 

 

 ―――次に目が覚めると、自分を挟んで寝ている二人の幸せそうな笑顔があった。

 

 まったく。大変な事になった。

 

 結局自分の人生に平穏なんて無縁なのだろう。

 

 でも悪くない。

 

 心に宿る幸福感と新しい決意を噛み締めながら小さな笑みを浮かべて服を着て一階に下りる。

 

「「昨晩はお楽しみでしたね」」

 

 そこにはニヤニヤと笑いながイイ笑顔で息子を見詰める愛しい両親がスタンバッていた。

 

 あ、これしばらくはこの事でからかわれますわ。 

 

 やはりこの世に慈悲等ないらしい。

 




昔のゲームにちょいちょいある『大人になったら分かるネタ』が好きです。
まさか『さくばんはおたのしみでしたね』にそんな意味があったなんて……。

まぁハーレムにはするつもりだったからね。今後のためにも早めに手を出して貰った。後悔はしてない。



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【聖剣と親友】

今回からエクスカリバー編に突入です。



 左腕を無くしてから数日が経った。

 

 ようやくクラスメイト以外の生徒も自分の腕の事に慣れてくれたようで、自分にようやくいつもの日常が戻って来た。因みに黒歌とレイナーレとの交際は周囲に内緒である。まぁその内折を見て親しい人達には伝えるつもりだ。

 

「おはよう」

 

「やあ、おはよう白野君。少し話があるんだけどいいかい?」

 

 いつものように祐斗に挨拶すると、祐斗が席を寄せて尋ねる。

 

「ああ、なんだ?」

 

「今日の放課後みんなでイッセー君の家に行く事になってね。部長から君も誘って欲しいと頼まれたんだ」

 

「一誠の家か? 分かった。それにしても唐突だな」

 

「なんでもイッセー君のお母さんが部長にイッセー君のアルバムを見せたいと言ったらしいよ」

 

 なるほど。そう言えば以前、一誠のお母さんが『わたしの夢の一つは家に遊びに来た一誠の女の子友達に、一誠のアルバムを見せる事なのよ』と、どこか諦めの含んだ表情で言っていたが、その夢が叶う時が来たって事か。良かったね一誠のお母さん!

 

「しかしみんなでって事は、一誠をからかう気まんまんだな。相変わらず楽しい事には容赦無いな」

 

「はは、そこが部長の良いところさ」

 

 二人で苦笑しながら互いの近況を話している内にHRが始まり、授業は進んでいった。

 

 

 

 

「でね。こっちが小学一年生の頃よ」

 

「あらあら全裸で海に。あら、白野君はちゃんと履いているのね。残念ですわ」

 

「……一誠先輩の赤裸々な過去がどんどん明かされていきますね」

 

「やめてぇぇええ見ないでぇぇええ!!」

 

 放課後。オカ研のメンバーと一緒に一誠の家に向かう。そして着いて数分と経たない内に今のカオスな状況は作り上げられた。

 

 一誠のお母さんは物凄い笑顔で数冊のアルバムを抱えてみんなが集まっている一誠の部屋にやって来て、それを平然と開いたのだ。

 

 朱乃先輩と小猫ちゃんはお母さんと一緒に楽しくアルバムを見ながらお喋りしている。これはまぁまだ良い方だろう。たまに朱乃さんが自分の写っている写真に反応するのは出来れば止めて欲しい。精神的によろしくないので。

 

 そして一誠はと言えば、叫び、悶絶し、今も羞恥から床で芋虫の様にひっくり返って奇妙な動きで悶えている。これもまぁ、当然の反応だろう。

 

 問題は――あっちだな。

 

「幼い一誠……小さい一誠……愛らしい一誠……きゃわゆい一誠……」

 

「部長さん。今の部長さんの気持ち、わたしも分かります」

 

「そう。流石アーシアね。さぁ、もっと一緒に幼な一誠を堪能しましょう」

 

「はい!」

 

 ……あかん。あれ、あかんやつや。

 

 一誠の小学校に上がる前の幼少期編と書かれたアルバムを、どこか恍惚とした表情で興奮しながら眺め続けるリアス先輩とアーシア。はっきり言おう……怖いです。

 

「ふ、二人共そんなにショタの俺がいいんですか。今の俺はダメダメですかぁあああ!!」

 

 過去の自分に負けて泣き崩れる一誠。なんというか……不憫過ぎてこっちまで泣きそうだ。なんだこの公開処刑。

 

「で、祐斗は助けないのか?」

 

「いやぁ流石にあの二人に飛び込むのはちょっと。かと言って一誠君のお母さんから楽しみを奪うのも気が引けるしね。僕に出来るのはこうやってアルバムを一つ確保してあげる事くらいさ」

 

「と言いつつ読むあたり、お前もいい性格してるよ。ま、自分も見るから同罪だが」

 

 祐斗と喋りながら祐斗が確保したアルバムを見る。これは多分小学校低学年の頃だな。

 

「所々に白野君も写っているんだね」

 

「まぁ幼馴染だからな。この頃は確かもう一人居たはずだ。えっと……あ、ほらこの子だ」

 

 懐かしくなってもう一人の幼馴染を探そうとページを捲ると、すぐにその子が写っている写真を見つけ、その子を指差して祐斗に教える。

 

 写真には栗色で短髪のやんちゃそうな顔をした短パン半袖の女の子が映っていた。

 

「名前はしど――」

 

「お前らまで見るなぁぁああ! つーか助けろ!」

 

「まあまあ。自分達はお前をからかったりしないからいいだろ。なぁ祐……と?」

 

 女の子の名前を言おうとした所で一誠が泣き叫びながらやって来たのでなんとか宥めつつ、祐斗に話しかけるが、返事は無く。気付けば祐斗は自分が指差した写真を凝視していた。

 

「祐斗?」

 

「おいどうした木場?」

 

 少し心配になって一誠と二人で祐斗の傍に近寄る。

 

 祐斗は自分達が近寄ると写真から目を逸らさずに口を開いた。

 

「イッセー君、これに見覚えは?」

 

「え? この子? あ、違う剣の方か? う~んよく覚えてないな」

 

「……白野君は?」

 

 祐斗から今まで聞いた事の無い低いトーンの声色が響く。

 

「特殊な剣だったのは覚えてる。清らかな気配を発していたから悪い物じゃないだろうが。それがどうかしたか?」

 

「いや、まさかこんな形で見かけるとは思わなくてね……」

 

 次の瞬間、祐斗から僅かに殺気が過ぎる。

 

「これはね……聖剣だよ」

 

 その日、その写真を見てからの祐斗は心ここに在らずといった感じで会話に混じる事はなかった。

 

 

 

 

 一誠の家に遊びに行ってから数日が経った。で、今日は球技大会な訳だが……。

 

「なあ祐斗」

 

「…………」

 

 祐斗に話しかけても彼は上の空で窓の外を眺め続ける。

 

 あの日、一誠の家で聖剣の写った写真を見てから祐斗はこんな感じだ。一誠の話では部活対抗の為に練習しているた時もこんな感じで上の空だったらしい。

 

 球技大会はクラス対抗試合、男女別競技、部活対抗試合の三つの枠に分けられていて、部活対抗以外は野球、サッカー、バスケ、テニス等の競技に人数さえ集まれば好きに参加できる。因みに自分は片手なのでクラスも男女別もテニスに出る。

 

「はあ~。祐斗!」

 

「え? あ、ごめん。なんの話だっけ?」

 

 大きめの声で話しかける事でようやく気付いた祐斗は、心底驚いた様子でこちらに振り返った。

 

「はあ。なあ、何かあるんなら相談に乗るぞ?」

 

「いや、いいよ。ごめん」

 

 全然申し訳なく思ってなさそうだな。

 

 上の空の表情のまま形だけの謝罪をする祐斗に盛大にため息を吐く。

 

「はぁ。祐斗、お前今日は部活対抗まで休め。もしくはリアス先輩にもなんらかの理由をでっち上げて部活対抗も休ませて貰え」

 

「いやでも……」

 

「周りを見てみ」

 

 反論しようとした祐斗に周りを見るように促す。そこには彼を心配そうに見詰めるクラスメイト達の姿があった。祐斗は初めてその事に気付いたようで、少しだけ申し訳なさそうな顔をした。

 

「木場君、体調が悪いんじゃない? 月野君の言う通り休んだ方がいいよ」

 

「そうだぜ。お前だ出るサッカーの方は月野が出てくれるって言うしよ。無理して怪我したら部活対抗にだって出れなくなるかもしれないだろ?」

 

「そうそう。お前ら文化部なのに凄い熱心に練習してたじゃん」

 

 クラスメイト達が祐斗を気遣って休むように促すと、祐斗はしばらく迷った後に頷いた。

 

「……うん。そうさせて貰うよ。ありがとうみんな」

 

「……そう思うならしっかりこっち見て御礼を言ってくれ。一人で行けるか?」

 

 祐斗が苦笑しながらまた謝罪を口にして教室を出て行く。

 

「なあ月野、木場に何かあったのか?」

 

「何かあったんだろうけど、教えてくれなきゃ分からん」

 

「親友のハクノンに教えないんじゃ誰も知らないよね~」

 

 クラス全員が頷く。頭を掻きながらため息を吐き、とりあえず気持ちを切り替え、球技大会へと向かった。

 

 

 

 

 クラス対抗試合は準優勝だった。

 自分がやったのはパスを渡すだけだったが、クラスのみんなからは的確なパスで凄かったと褒められた。少しだけ嬉しかったが、サッカー部の多いクラスには勝てなかった。まぁそんな物だろう。

 

 男子の部門ではテニスのシングルに出た。片手じゃサーブできないので、常に相手打って貰っていた。

 

 応援に知っている人が沢山来てくれて嬉しかったが、何故か一年の頃にクラスメイトだった匙元士郎(さじげんしろう)に、物凄い敵意の篭った目で睨まれた。

 

 彼は一誠が悪魔化する少し前に悪魔になった転生悪魔だ。確か今は生徒会にいるから多分支取先輩が転生させたのだろう。

 

『会長は渡さねぇぇええ!』

 

 元士郎は叫びながら悪魔の身体能力を惜しみなく発揮していた。結局負けた。総合的に勝てないから仕方ない。しかも相手は悪魔の力全開だったし。因みに試合の後に元士郎は支取先輩にこっ酷く説教されていた。まぁ人間相手に本気はまずいよね。

 

 そして部活対抗の時間になって観客席でオカルト研究部の活躍を応援する。種目はドッジボールだ。祐斗も参加しているようだが、いまだに表情は優れていない。大丈夫かねぇ。

 

 一悶着ありそうな予感を感じながら、それでも今は応援する事しかできないので、とりあえずオカルト部を力いっぱい応援し続けた。

 




 と言うわけで球技大会のダイジェストでした。エクスカリバー編って微妙にアニメと小説で細かい部分の流れが違うんですよねぇ。



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【祐斗と聖剣】

ちょっと時間掛かってます。
う~んオチまでの持っていきかたで悩む……。



 部活動対抗試合のドッジボールはオカルト研究部が優勝した。そりゃそうだ。だって悪魔だもん。それに参加している面子が学園でも有名な美少女だ。ボールを当てた日にはファンクラブからどんな目で見られるか分かったもんじゃない。

 

もっとも、部活のみんなは心から優勝を喜べてはいないのは間違いないので、クラスに戻る前にみんなの元に向かう。

 

 校舎に入ってすぐにみんなを見つけて声を掛けながら駆け寄ろうとしたその時、祐斗がリアス先輩に平手で叩かれた。

 

「どう? 目は覚めたかしら?」

 

 怒気を含んだ声色と不機嫌を隠さないイラついた表情で冷たく言い放つリアス先輩。正直かなり怖い。が、同時に当然だろうとも思う。

 

 祐斗は今回の試合で終始上の空だった。

 

 注意されればしばらくは動いているのだが、しばらくするとまた呆けて立ち止まる。その繰り返しだった。試合中、リアス先輩と一誠の表情がどんどん険しくなって行き、試合が終わってついに爆発したのだろう。そしてその行為を誰も止めないと言う事は、みんなそれぞれ思うところがあったと言うことだろう。

 

 一誠なんてリアス先輩の行動に凄い頷いている。まぁ一誠はこの日の為に部員全員分の鉢巻を作るくらい活き込んでいたからな。

 

 しばらく祐斗と一誠が何かを言い合っていたが、祐斗が頭を下げてみんなの元から去る。たく。何やってんだ。

 

「祐斗……」

 

「……白野君?」

 

 こちらに歩いて来た祐斗に声を掛ける。

 

「痛そうだな保健室に行くか?」

 

「大丈夫だよ。それと、今日は悪かったね」

 

 短くそう告げて祐斗はすぐに自分を通り過ぎる。そんな彼の背中に向けてある単語を告げる。

 

「聖剣」

 

 たった一言、それだけで彼は足を止めた。

 

「お前がおかしくなったのは一誠の家で聖剣を見てからだ。いったいお前と聖剣の間に何があった?」

 

「……君には関係ないよ」

 

「それで引くなら腕なんて無くしてない。諦めが悪い性格なのは知っているだろ? 事情を知っていようが居まいが……首を突っ込むぞ?」

 

 自分の決意を伝えると、祐斗は溜息を吐きながら空を見上げた。

 

「思い出したんだよ――僕が成さなければならない事を」

 

 そこで言葉を切った祐斗はこちらに振り返る。その顔は……憎悪で歪んでいた。

 

「聖剣エクスカリバーの破壊。それが僕の本当の戦う意味だった。その為に僕は……生かされたんだ」

 

 祐斗は今度こそ話は終わりだと言うようにその場を去ろうとする。

 

「それは……自分が腕を失った時に言った誓いよりも、成さねばならない目的か?」

 

 足音が止まる。

 

 しばらくそのままお互いに背を向けたまま沈黙する。

 

 そして……祐斗の足音が再開される。

 

 結局、祐斗は何も答えなかった。

 

 振り返りってどこか寂しげに沈んだ印象を受ける彼の背中を見送る。

 

 多分、今の祐斗に何を言っても自分の言葉は届かないだろう。今は少しだけ時間を置いて、祐斗が少しでも冷静になれる事を祈るしかない。

 

 さて、こっちはこっちで話を訊くか。

 

 自分達のやりとりを遠巻きに見守っていてくれた部活のみんなの元に向かう。

 

「白野、祐斗はどうだった?」

 

 リアス先輩が少し不安げな表情で開口一番にそう質問してくる。その問いに自分は首を横に振って答え。今度は自分からリアス先輩に質問する。

 

「先輩、祐斗と聖剣に何があったのか、教えて貰えますか。祐斗は言いました。エクスカリバーの破壊こそが、自分の戦う意味だと」

 

「……そう。ここ最近、特に白野と過ごすようになってから鳴りを潜めていた彼の復讐心が何かの切っ掛けで顔を出したという訳ね。……いいわ、教えてあげる。みんなにも説明するから、放課後部室に集まってちょうだい」

 

 リアス先輩の言葉に全員が頷き、一度その場で解散する事になった。

 

 

 

 

 教室でHRを終えて一誠とアーシアと共に部室に向かう。気付けば外は雨が降っていた。祐斗は大丈夫だろうか……。

 

 そんな事を考えながら部室で合流した小猫ちゃんと共に先輩方が来るのを待つ。

 

「お待たせ。それじゃあ話しましょうか、祐斗と聖剣について」

 

 やって来たリアス先輩はいつものソファーに座って神妙な面持ちで語ってくれた。

 

『聖剣計画』

 

 キリスト教内で行われた聖剣エクスカリバーを扱える者を育てる計画。

 

 聖剣は悪魔に対しての最大の武器である。その為扱える人間を増やすという考えのこの計画は教会、天使側から見れば当然の計画だとも思う。

 

 しかし計画は難航し、祐斗を含んだ同志達全員が、聖剣に適合できなかったらしい。

 

 その結果、祐斗以外の全員が処分された。ただ聖剣が扱えないというそんな理由で。祐斗が生き残れたのは祐斗の仲間が彼を逃がしたからだそうだ。

 

 共に育った仲間を殺された祐斗にとって、聖剣という存在、特にエクスカリバーは決して許せる存在では無かった。

 

「わたしが始めて祐斗と出会った時、彼は瀕死の重症だった。そんな状態でも彼の目には強い生への執着があったわ。だからわたしは彼を助けたの。その執着が例え憎悪と復讐の念だったとしても、そういう想いがある者は強くなる。実際、祐斗は剣士としてかなりの才能を有していた。いずれその想いと力を新たな生の為に振るって欲しいと思っていたのだけど……はぁ。世の中ままならないわね」

 

 リアス先輩は顔を顰めて眉間に手を当てながら溜息を吐く。

 

「木場にそんな過去があったなんて……」

 

「知りませんでした……」

 

 一誠とアーシア、小猫ちゃんが沈痛な面持ちで顔を下げる。

 

「――首謀者は?」

 

 可能な限り冷静さを失わないように勤めてリアス先輩に尋ねる。

 

「残念だけど解かっていないわ。流石に教会側の情報は得るのが難しいし、何より今の話も祐斗本人から聞かせて貰った話だもの」

 

 なるほど。その計画を進めた者が誰か分からないから……祐斗は復讐の対象を聖剣にしたと言うわけか。

 

 結局その後の話し合いは有益な内容とは成らず、結局見守るしかないと結論付けて解散する事になった。

 

 正直な話し、復讐の対象がいない以上はどうしようもないとも思う。自分達に出来る事は今まで通り祐斗に話しかけてあげることくらいだろう。

 

 何か切欠でもあればいいんだけどな。そんな事を考えながら家に帰ると黒歌が少し慌てた様子でやって来た。

 

「あ、お帰り御主人様。大丈夫だった?」

 

「ん? どういうことだ黒歌?」

 

「どうもこうも。家の周辺に二回もエクソシストの反応を感じたのよ。それで何かあったのかと思ってメールしたのに返事が無くて心配したわ。あ、レイナーレにはもう送って注意するってメールが来たわ」

 

「そ、そうか。色々あって確認してなかった。こっちは特に何も無かったよ」

 

 黒歌の罪が許され、晴れて自由の身になった彼女には、今はこの家を、父さんと母さんを守って貰っている。

 

 彼女は彼女でずっと独自に結界術の特訓を詰んでいたようで感知タイプの結界を家の周囲に球体状に張り、人間以外の者や光力を扱う悪魔祓いが結界内に侵入すると、彼女が感知するという仕組みだ。

 

「白音にもさっき注意するようにメールしたから多分グレモリーのお姫様にも話は行ってると思うにゃん」

 

 黒歌がスマフォを揺らしながら答える。レイナーレと黒歌が本格的にこの家に住む事になった時に彼女達の連絡用に買った物だ。因みに自分は携帯である。愛着があるのでずっと使っている。因みに黒歌はスマフォの扱いを一日で完全にマスターしてレイナーレが悔しそうにしていた。やはり黒歌の基本スペックは高いと思う。

 

「一応自分もリアス先輩にメールを入れて支取先輩にも伝えるように言っておくよ」

 

 黒歌の話の内容をメールで送る。

 

「それじゃあ今日はレイナーレを迎えに行こうか。何かあったら困るし」

 

「そうね。わたしも付いて行くにゃん」

 

 それにしてもまた何かが起きようとしているのか、今のオカルト部はバラバラだしなぁ。

 

 嫌な予感を感じながら、時間になるまでリビングで黒歌とボードゲームで遊びながら時間を潰し、レイナーレを迎えにいった。

 




因みにボードゲームは黒歌の圧勝である(ハクノンは実戦派だから仕方ない)



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【もう一人の幼馴染との再会】

ようやく話が進展する。彼女達の登場回です。



 黒歌が『悪魔祓い』の気配を感じてから三日経った。その三日の内にある変化があった。

 

 一つは祐斗の態度がますますおかしくなった事。

 部活にもほとんど顔を出さず、顔にも疲労が浮かんでいる。勉強中に居眠りまでする始末だ。そして理由を尋ねても答えられないの一点張りである。

 

 もう一つは『悪魔祓い』の気配が一気に減った事。

 黒歌が猫になって町をそれとなく探ったが、日を追うごとに気配の反応が減っているらしい。

 かすかに血の匂いが町の彼方此方にあることから、『悪魔祓い』達は何者かと交戦し、死んだのではないかと黒歌は言っていた。

 

 なんというか、嫌な感じだな。オカルト部のみんなもおかしいし。

 

 何故かみんな自分を避けるように行動している気がする。それに夜には出歩かない方がいいとも言われた。流石に何かあったのは間違いないが……多分、みんなは自分を巻き込みたくないのだろう。

 

 ここはみんなを信用して自分の周辺にのみ集中する事にした。

 

 そして久しぶりに一人で帰宅していた放課後――変な二人組を発見した。

 

「迷える子羊にお恵みを~」

 

「どうか、天の父に代わって哀れなわたし達にお慈悲をぉ~」

 

 厄介事の匂いがぷんぷんするぜ!

 

 フード付きの白いロープで顔を隠し、その手にお皿を持って悲壮感漂う声で慈悲を~と訴える二人組の女性。

 

 ……というか、あの背の高い方の女性が持っている布に包まれた長い筒と、小柄の女の子の胸元から何かを感じるな。

 

 不意に、浄眼が何かを訴えかけるように違和感を伝えてくる。浄眼の異質を見抜く力のお陰だろう。

 

 にしても、あの大きな変な絵はなんだ?

 

 二人の背後の壁には、教会や天使っぽい何かが書かれているので多分教会関係の偉人を描いたとおぼしき絵が立てかけられていた。

 

 正直、あれを理解するにはセイバーの美的センスが必要な気がした。

 

 ……そっとしておこう。

 

 触らぬ神に祟りなし。

 

 そう判断した自分が踵を返して足早にその場を去ろうとしたその時、小柄な女性がまるで計ったかのようにこちらに顔を向けた。もっとも、フードを深く被っているのでこちらからは顔がよく見えなかったが、自分を見た瞬間、その小柄な女性は急にこちら目掛けて走り寄って来た。

 

「やっぱり神様はわたしを見捨てなかった!!」

 

 ちょっ、なんだ!?

 

 駆け寄ってきた相手はこちらに向かって思いっきりダイブしてくる。よ、避けたら怪我するかも。

 

 一応相手が女の子と言うことで、避けずに受け止める。その瞬間、フードが外れて女の子の顔が露になる。

 

「……イリナ?」

 

 記憶にある人物の面影のある顔と栗色のツインテールを見て、幼馴染だった少女の名を口にする。

 

「おお! 凄いわハクノン! よくわたしって判ったわね。イッセー君は判らなかったのに」

 

 嬉しそうに見上げる相手は、やはりかつての幼馴染である紫藤イリナだった。

 

「イリナ知り合いか?」

 

「ええそうよゼノヴィア。わたしのもう一人の幼馴染の月野白野君。わたしはハクノンって呼んでるわ。正直一般人だから事が終わるまで接触するのは避けるつもりだったけど、この際形振り構っていられないわ。ほらゼノヴィアも一緒に!」

 

「あ、ああ」

 

 近寄ってきた青い髪で前髪に緑のメッシュをいれたイリナよりも背の高いゼノヴィアという女の子に、イリナが自分の事を紹介すると、イリナはすごい切羽詰った表情で振り返った。ゼノヴィアという女の子も困惑した表情で頷いたあと、同じように切羽詰った表情をする。

 

 な、なんだ? そんな切羽詰る程の何かが二人にあったのか?

 

「ハクノン!」

 

「あ、ああ?」

 

 緊張した面持ちで、二人の言葉を待つ。

 

「「ご飯奢って!」」

 

「…………あぁぁ……うん」

 

 そう言えばお金を恵んでくれって言ってたもんね。

 

 自分の返事を聞いた瞬間、嬉しそうに手を取り合って喜ぶ二人を眺めながら、何故この展開に気付かなかったのかと、自分の迂闊さに若干へこんだ。

 

 

 

 

「これが、これがジャパニーズ蕎麦。ずるる~。あ、今度はたぬきソバを!」

 

「あ、天丼おかわり。今度は海老天で♪」

 

 …………こいつら驕りだと思って容赦無いな。

 

 二人が教会関係者なのは間違いないので、とりあえず家には連れて行かず。イリナが日本食が食べたいというので近場の日本食のチェーン店へと入店した。

 

 したはいいが――どんだけ腹を空かしていたんだと言いたいほど、二人は食べ続ける。

 

「……そろそろ手持ちの勘定を越えそうなんですが? 足りない場合、自分は逃げるぞ」

 

 そう言って二人に笑顔で伝票を突きつける。

 

「しょ、しょうがないわ。あ、デザート! 餡蜜だけ! 餡蜜だけだから!」

 

「ふむ。ではわたしは抹茶アイスを頼みたい」

 

「……ホントにそれで最後だからな」

 

 ラストオーダの約束を取り付け、とりあえずドリンクバーで三人分のお茶のおかわりを淹れに向かう。

 

 

 

 

「ふむ。つまり、イリナの無駄遣いのせいで路銀が底をついた結果、物乞いしていたと」

 

「む、無駄遣いじゃないわ! 見なさいこの神々しい絵を!」

 

 自信満々に絵を掲げるイリナ。

 

「……どちらかというと禍々しいと思うんだけど」

 

 こう、地味に何を描いたか解かる分、狂気を感じるというか……見てみなさい。客も従業員もみんな目を背けているじゃないか。

 

「良かったよ。どうやら君は普通の感性を持っているようだ」

 

 ゼノヴィアが心底安堵したように呟いた。

 

 イリナはまだ納得がいかないのか、ブツブツと小声で文句を言っているが、不意に、何かを思い出したかのように動きを止めてこちらに振り返った。

 

「そう言えば、ずっと気になってたんだけど。白野、その腕はどうしたの?」

 

「ああ良かった気付いてないのかと思った」

 

「いや抱きついた時に気付いたんだけど流れ的に聞くタイミングがなくてははは……」

 

 うん。あの後すぐにご飯の事で頭が一杯だったもんなイリナ。

 

「まあちょっと事故にあってね」

 

 とりあえずそう答える。

 

「そう。でも元気そうで良かったわ」

 

 イリナがこちらを気遣うような表情で、改めて再開した事を喜ぶ仕草を見せる。

 

 こちらも苦笑しながらも、再開自体は嬉しかったので、イリナもな。と答える。

 

 まぁそれはそれとして、思わぬ所で教会関係者に出会ったな。

 

 黒歌から聞かされていた情報。そして木場の過去。色々と確認するには良いチャンスだ。

 

 デカイ借りも作ったしね。おかげで財布は軽くなったが……。

 

 さて、その為には自分の事も多少は話す必要があるだろうが、まあ仕方ないだろう。

 

「イリナ、ゼノヴィアさん。実は二人に教会関係について訊きたい事があるんだ」

 

 二人に聞こえる程度の声量で喋る。

 

「ふむ。施しを受けた身だ。答えられる事なら答える。それとわたしの事はゼノヴィアでいい」

 

 こちらが意図的に声を落としたことで何かを感じたのか、ゼノヴィアがお茶を飲みながら、しかしその眼は先程よりも少しだけ鋭くなった。

 

「そうか。じゃあ尋ねるが……『聖剣計画』と言うのを知っているか?」

 

 自分の言葉を聞いた瞬間――二人の顔つきが明確に変わった。

 

「……ふむ、聖剣計画か。すまない。質問を質問で返すが、どこでその言葉を?」

 

「自分の知人がその計画の被験者だった。どうやらその計画はかなり酷い物だったらしい。なにせ被験者の子供を皆殺しにしたと言っていた。その知人は運良く仲間に助けられたから生き残れたと言っていた……だがそのせいで今も苦しんでいる。自分の仲間を殺した『具体的に憎む相手』を知らないせいか、彼は聖剣その物を復讐の対象にしている。世界中の聖剣を壊すなんて、そんな復讐は不毛だ。二人もそう思うだろ?」

 

 二人にそう投げ掛けると、二人はなんと答えるべきか迷うようにお互いを見詰めたあと、イリナが口を開いた。

 

「ねえハクノン。もしかしてその相手って、木場祐斗?」

 

 祐斗は既に悪魔化している。つまり教会としては死亡扱いのはずだ。だが今のイリナの言い方は、まるで祐斗が生きている事を知っているかのような言い草だった。

 

ということは……。

 

「……そうか。理由は知らないが、既に『彼女等』と接触済みって事か」

 

「……相変わらず。こういう時は頭が回るのね」

 

 イリナが困ったように笑う。

 

 しばし互いに沈黙が訪れる。こちらは二人の返答待ちだ。

 

 二人も、自分の知人が祐斗であり、そして自分がグレモリーと関わりがある事に気付いたはずだ。あとは二人が話すか話さないかだ。

 

「……まあご飯も奢ってくれたし。彼はわたし達の先輩みたいなものだから、そのくらいは教えていいかな。無関係なのに復讐されても嫌だしね」

 

「そうだな」

 

 イリナがそう言いながらゼノヴィアに視線を向ける。ゼノヴィアもイリナの言葉に同意するように頷く。

 

「ありがとう二人共。それですまないが、最初に木場の仇の名を教えてくれるか」

 

「いいだろう。木場祐斗を含めた被験者を惨殺した者の名はバルパー・ガリレイ。聖剣計画の発案者であり、総責任者、そして今では『皆殺しの大司教』と呼ばれ、異端の烙印を押されて追放された男だ」

 

 




本来なら原作で一誠達と遭遇するはずが白野と遭遇してしまう二人。
さて、ここから大筋は一緒だけどだいぶ原作と違う流れになります。
因みに初期段階では彼女達はいるだけで一切登場の予定が無かった!



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【聖剣使い】

と言うわけで前回の続き。今回からだんだん物語が動いて行く予定。



 バルパー。そいつが全ての元凶か。

 

「それじゃあ次に聖剣計画について説明するわ。その前に、ハクノンはどれくらい聖剣計画について知っているかを教えてくれる?」

 

「ああ。自分が知っているのは――」

 

 とりあえず知っている聖剣計画の内容と、その実験で祐斗達に起こった出来事を二人に伝える。

 

 あまり気持ちの良い話ではないのは二人も理解しているのか、話の最中は難しい表情をしていた。

 

「……そう。まあ聖剣計画事態については殆ど理解しているのね。でも、誤解しないでね。バルパーがクズだっただけで、計画自体はとても素晴らしいものなのよ? 実際その木場祐斗の一件以降、計画の内容は見直され、わたし達聖剣使いが誕生したの」

 

「薬も使う者が愚かなら毒薬になる、の良い例だな」

 

 ……んん?

 

「え? 二人って聖剣使いなの? というか、それって教えて大丈夫なのか?」

 

 しれっと告げられた事実を二人に確認すると、二人共しばらく固まったあと、汗を流しながら視線を明後日の方へ逸らす。

 

「だだ、大丈夫うん。ほら、嘘はいけないじゃい? 信徒として!」

 

「そ、そうだな。正直者であることは悪い事ではない」

 

 あ、これ絶対知られたら後で怒られるな。

 

「……まあ別に言い触らすつもりも無いからいいけど……でもそう考えると気になる点がいくつ出てくるな」

 

「それは?」

 

「祐斗達を『子供』の段階で殺したことだ。普通、才能や素質というのは時間と言う水を与えて育てるモノのはずだろ? 事実二人はその聖剣使いとして適任だと思われるまで訓練をしてきたはずだ。にも関わらず祐斗達の場合は『適性が無い』と言うだけで殺した」

 

 リアス先輩から聞かされた祐斗の話と、二人から聞かされた話を頭の中で纏め、推理した結果を二人に伝える。

 

 こちらの推理を聞いた二人は驚いたように目を見開いたあと、真剣な表情で考え込む。

 

「……確かに。盲点だった。何故子供の段階で殺したのか、か」

 

「記録では用済みだから処分したと証言したらしいから、バルパーの趣味ってことは無いわね……」

 

「つまり、聖剣を使うにはなんらかの『必須条件』があって、バルパーはそれを知っているって事か……そう言えば、そのバルパーは今は何所に居るんだ? さすがにそんなヤバイ奴に監視をつけないって事は無いだろ?」

 

 とりあえず考えが煮詰まったので、今度はバルパーについての情報を収集する。

 

「奴は今、堕天使の陣営に組している。最後の監視記録がそうなっている」

 

「ええ。聖剣使いとして、彼の事を反面教師としてかなり教えられたからね。間違いないわ」

 

 ――ちょっと待て。

 

 何かが頭にはまりそうだった。

 

 足りないピースがあった。

 

 今日までの出来事。

 

 今日までに手に入れた情報。

 

 それを結ぶ大事な何かが足りなかった。

 

 ――その大事なピースを……目の前の『聖剣使いの二人』が持っている予感がした。

 

「単刀直入に訊く――」

 

 二人がこちらの変化に気付いたのか、何を言われるのかと、表情が険しくなる。

 

「――二人は何しにこの街に着た」

 

「わたし達は――っ!?」

 

「っ!? まさかそういうことなのか!?」

 

 自分の言葉の意味を最初は理解していなかったのか、イリナが首を傾げたが、すぐに何かに気付いて表情を険しくさせ、隣のゼノヴィアも何かに気付いて慌てる。

 

「そうよ。どうして気付かなかったの。奴なら聖剣の保管場所くらい熟知しているわ!」

 

「ああそうだ。そして聖剣を求める理由も『聖剣使いを作れる』理論を知っている奴なら求めて当然だ!」

 

 二人が慌しく立ち上がる。

 

「ごめんハクノン! 悪いけどわたし達、すぐに行動を開始するわ!」

 

「ああ。もしもコカビエルがただの陽動で、奴がこの街を出てしまったら、最悪の事態になる!」

 

「あ、おい!」

 

 二人はこちらが呼び止めるのも聞かずに慌てて出て行ってしまう。

 

 コカビエル。新しい名前だ。確か聖書に出てくる堕天使だったか。なるほど。つまり今この街で起きているのは、天使陣営と堕天使陣営の聖剣争奪戦っと言ったところか?

 

 推理としてはそれ程間違ってはいないはずだ。まずはこの情報をグレモリー眷属のみんなに伝えよう。少なくとも事件が起きている事はイリナ達が接触しているだろうから分かっているはずだし。

 

「……まずはレイナーレにコカビエルについて訊いてからだな」

 

 まずはもう少し情報を集めよう。

 

 さて、とりあえず会計を済ませよう。なんせ店員が物凄くこちらを見ているからだ。

 

 そりゃ同席していた奴らが駆け足で店を出て行けば当然の反応だよな……食い逃げなんてしませんよ。

 

 レジで店員さんにお金を払って店を出て、レイナーレに連絡を入れる。

 

 確か今日は非番の日のはず。

 

『もしもし?』

 

「あ、レイナーレか? 自分だけど」

 

『……偶に思うけど、自分の事を自分って呼ぶ奴って珍しいわよね。まあおかげで誰だか一発で判るんだけど』

 

 ほっといて欲しい。ずっとそうして生きてきたんだから今更変える気は無い。

 

「そんな事より訊きたい事があるんだ。コカビエルって堕天使を知っているか?」

 

『――ちょっと待ちなさい。なんでその名前を出したのかを説明しなさい。あんた、ぜえええええったい! またなんか厄介事に巻き込まれたでしょ!』

 

 す、鋭い。さすがのレイナーレも鍛えられてきたのかこっちの言動で何かを察したらしい。

 

『やっほ~御主人様~。だから何かあった時の放課後は早く帰宅するよにっていつも言ってるにゃん』

 

 レイナーレの叫びでやって来たのか、呆れたような声色の黒歌が携帯に出る。

 

「お説教は後で聞くから、今は情報が欲しい。コカビエルについて知ってるなら教えてくれ。どうやらこの街に潜伏しているらしい」

 

『――マジ?』

 

「ああ。奴を追っているらしい人物達からの情報だ」

 

『最悪だわ。どうしよう。そうよまずは逃げる準備を義母様(おかあさま)義父様(おとうさま)の安全確保を……』

 

『おおお落ち着きなさいレイナーレ! そんな判りやすくパニクってるんじゃ無いわよ』

 

『落ち着けるわけ無いでしょ! 堕天使の陣営でも戦いが大好きな戦闘狂で知られる幹部がこの街にいるのよ! 理由は知らないけど戦いの無い場所に奴は来ない! この街で幹部レベルの堕天使が力を振るったら、数分でこの一帯なんて焦土と化すわ!』

 

 携帯越しにレイナーレの必死な言葉が耳に届き、正直戸惑う。

 

 おいおい、そんなにヤバイのかよ。そのコカビエルって。

 

 だが組織の幹部だというのならそれも当然なのかもしれない。少なくとも魔王レベルなのは間違いないのだから。

 

「落ち着けレイナーレ! とりあず自分はすぐに帰宅する! その間に情報をグレモリーのみんなに伝えて対策を立てて貰う! 黒歌、悪いがレイナーレと一緒に母さん達の安全確保を頼む!」

 

 周りの人の視線を無視して可能な限り大声で喋ってレイナーレを落ち着かせ、傍に居るであろう黒歌に指示を出して携帯を切る。

 

 とりあえず冷静に対処してくれそうな人にまずは連絡を入れよう。

 

 そう考えたときに一番に浮かんだ相手に連絡を入れる。

 

 何かあった時のためにって、腕を無くした時に教えてくれたんだよな。まさかこんな形で役に立つなんて。

 

『はい。支取です?』

 

「あ、支取先輩ですか! 白野です!」

 

『そんなに大声じゃなくても聞こえています。それで、何があったのですか?』

 

 さすがは生徒会長! 連絡しただけで既に何かあったと察してくれたぞ。そこに痺れる憧れる!

 

 って、ふざけてる場合じゃない。

 

「はい。実は先程――」

 

 走りながら先程までイリナ達と話し合った内容やレイナーレから聞いたコカビエルの情報を出来るだけ簡潔にまとめて伝える。

 

『――なるほど。分かりました。対処はこちらで行います。あなたはそのまま帰宅してください。いいですね。決して関わってはいけませんよ。あなたは今、片腕なのですから』

 

「……分かりました」

 

 厳重に注意される。だが確かに、この街全体の規模となると人間の自分に出来る事なんて家族を守ることくらいだろう。

 

『よろしい。ではわたしもすぐに動きます。情報提供、ありがとうございます月野君』

 

 最後にお礼を言って支取先輩からの連絡が切られる。

 

 さて、伝える事は伝えた。あとはみんなにまかせよう。

 

 携帯を仕舞い、とりあえず今はレイナーレ達との合流を優先する事にした。

 




原作読んでて思っていた疑問点を上げ、それを推理した結果このような展開になりました……と言うわけで、イリナとゼノヴィア……特にイリナの出番はここで終了です。因みに擬態の聖剣は登場する(能力として)

イリナ「……え?」
擬態の聖剣(ドヤァ)



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【悪魔達の対策】

と言うわけで情報を聞いた悪魔側がメインです。



「――という事らしいわ」

 

「そう。想定していたよりも厄介な事件だったって事ね」

 

 ソーナの話を聞き終えたわたしは、目頭を押さえて溜息を吐いた。

 

 まさか堕天使の幹部であるコカビエルだけではなく。聖剣計画、それも祐斗の敵までこの街にいるなんて。いったいこの街になんの因果があるって言うの。

 

 自分を含めたここ最近の事件の連続に正直もう笑うしかない状況だ。

 

「部長、苦笑いを浮かべている場合では……」

 

「そうね。あのプライドの高いレイナーレが周りを気にせずに逃げるよう言ってくるって事は、やはり相当の相手って事ね」

 

 敵の幹部クラスとなるとこちらとしては魔王に来て貰うしかない……か。

 

 正直に言えば領主としてのプライドもある。だが、それ以上にこの街には守りたい者が沢山いる。

 

「……分かったわ。緊急連絡として至急魔王様方に連絡を入れます。来れる方に着て頂きましょう。悪いけどソーナ、そういう訳だからあなたのお姉さまのレヴィアタン様にも報告するわ」

 

「それは……」

 

 レヴィアタン様の名前を出した瞬間、ソーナが難しい顔をする。まあ気持ちは解かるが、そんな余裕は無いので無視する。

 

「事態は一刻を争うわ。悪いけど拒否は認めない。彼女の暴走は貴女が抑えて」

 

「……そう、ね。分かったわ。この街が焦土にならなければいいけど」

 

 レヴィアタン様は重度のシスコン。そのためソーナに何かあれば一目散にやってきてくれるだろうが、その時の彼女は周りを気にしないため、被害が出る可能性が高い。

 

 だから頑張ってねソーナ! 彼女が来たら本気で貴女にこの街の命運がかかる事になるのだから!

 

 心の中で親友を応援しつつ、使い魔を放って他のメンバーに召集をかける。

 

「足止めが必要になるかもしれませんね。魔王様方も多忙ですから」

 

「……その場合、攻撃に特化したわたし達グレモリー眷属が請け負うわ。シトリー眷属は結界を担当して。魔王様が間に合えばわたし達も結界維持に回るわ」

 

「ええ。それで行きましょう。あと問題は聖剣使いの二人ね」

 

 ソーナの言葉にどうしても眉間に皺が寄ってしまう。

 

「ホント、あの二人が余計な一言を言わなければ協力だって出来たかもしれないのに」

 

 先程までの出来事が脳裏を過ぎって怒りが湧き上がる。

 

「でも後悔は無いんでしょ?」

 

「当然よ。わたしの大事な眷属のアーシアを魔女呼ばわりした挙句、信仰を失っていないなら殺してやるだなんて!」

 

 つい先程まで、ここで聖剣使いの二人、ゼノヴィアと紫藤イリナが交渉、いや交渉というよりは一方的な事情説明にやってきていた。

 

 彼女達の要求はただ一つ。『今この街で起きている事件に、悪魔が干渉しないこと』という内容だった。

 

 教会は大昔の大戦で砕け、その後錬金術で新しく造り上げた七本の聖剣エクスカリバーの内、六本を管理していた。一本は三陣営の戦争で紛失したらしい。

 

 そのエクスカリバーを三本。数日前に堕天使に奪われたのが事の始まりだ。

 

 そして主犯であるコカビエルがこの街にいると掴んだ教会は、秘密裏に悪魔祓いを送り込んでいたが殆どを殺され、ついに同じ聖剣エクスカリバーを持つ聖剣使いの二人を送り込んで来た。というのが彼女達から聞かされた経緯だ。

 

 そこまでは良かったのだが、その後のアーシアへの言動でわたし達と彼女達で口論となってしまった。後悔は無いが、価値観の違いを改めて思い知らされた。

 

 白野みたいに、その者の『個』を大切にするようなタイプの方が珍しいって、解かっていた筈なのにねぇ。

 

「なんにしても、白野の情報でコカビエル程の大物がどうして今まで感知されなかったのか不思議だったけど、協力者がいることで納得できたわね」

 

「ええ。おそらく実行犯はバルパーとはぐれ悪魔祓いでしょう。そして最悪を想定するなら」

 

『そのはぐれ悪魔祓い達は聖剣を使っている』

 

 言葉にしなくてもお互いに何を考えているのかは理解できた。

 

 聖剣というのは触れただけでも下級悪魔にはダメージを与える。そしてかすっただけでもかなりのダメージを受けるのは、先の聖剣使い二人との決闘で確認済みだ。

 

 アーシアの一件で怒ったイッセーと聖剣に恨みを持つ祐斗の二人の挑発を聖剣使いの二人が買い、二対二の決闘が行われた。

 

 結果は惨敗だ。

 

 イッセーは良い線まで行ったのだが、聖剣の一撃を浅くとは言え受けてしまい、戦闘継続させるのは危険と判断して敗北。

 

 祐斗にいたっては私怨のせいで持ち味を生かせぬままパッワータイプのゼノヴィアにパワーで挑んで刀身の剣脊で叩かれて敗北と言う剣士にとっては屈辱な負け方をした。

 

 そのせいか、そのあと祐斗はこちらが止めるのも聞かずに一人でどこかへ言ってしまった。

 

 一応家に帰ったのは使い魔を尾行させて知っているからいいのだけど……この情報、はたして祐斗に伝えてもいいものか。

 

 祐斗にだけはまだ使い魔を送っていない。

 

 同士の仇がこの街に居る。それを知った祐斗は間違い無く単独行動を取って仇を討とうとするだろう。

 

「……ねえソーナ、祐斗には伝えてもいいと思う?」

 

「……貴女の判断に任せるわ。彼の主は貴女なのだから。ただ、私怨を優先されるのは共同作業するこちらとしては、正直キビシイわね」

 

 そうよね。逆の立場ならわたしも同じ事を言うと思う。

 

「……伝えましょう。少なくとも眼の届く範囲にいてくれた方が対処しやすいわ。それじゃあ準備を始めましょう。わたしが直接冥界に向かうわ。朱乃はソーナと一緒に作戦の内容を詰めながら、戻って来たみんなに事情説明をお願い」

 

「分かりましたわ」

 

「ええ。任せて」

 

 果たして間に合うか……お願いだから無茶しないでよね聖剣使いのお二人さん。

 

 わたしは急いで転移の魔方陣を起動させて実家へと向かった。

 

 

 

 

「ただいま。すまな……レイナーレはどうしてタンコブ作って倒れてるんだ?」

 

 リビングのソファーで大きなタンコブを作ってノびているレイナーレを一瞥し、その傍で元の姿で座っている黒歌に尋ねる。

 

「完全にパニックになっていたからいったん気絶させたわ。で? あの後どうなったの御主人様?」

 

「ああ。支取先輩に連絡を入れた。対策を講じると言っていたから、たぶん大丈夫だろう。対策内容が決まったら報告してくれる手はずになっている。母さんは?」

 

「ママさんはさっき駅に送って、隣街のパパさんの会社に向かわせたわ。パパさんにも連絡を入れて、二人にはそのまま隣街のホテルに泊まって貰うように説得しておいたわ」

 

 さすがは黒歌だ。手際が良い。

 

「それでわたし達はどうするの? しばらく静観?」

 

「ああ。とりあえず連絡が来るまでは待機。そのあと場合によっては街を脱出する」

 

「あら? てっきり御主人様の事だから介入するのかと思ったにゃん」

 

「……周りから釘も刺されているし、相手が相手だからな。はぐれ悪魔祓いの方なら対処できるが、何所にいるかも分からない奴らを探すくらいならレイナーレと黒歌を守る方を選ぶよ」

 

「にゃはは、嬉しいけど恥ずかしいわ。でも、そう思ってくれるなら告白した甲斐があるってものね」

 

 顔を赤くさせて耳と尻尾を嬉しそうに揺らす黒歌に、こちらも少し照れて頬が熱くなる。

 

「とりあえず私服に着替えて部屋に置いてある封魔銃を取って来るよ」

 

 黒歌にレイナーレの看病を頼んで部屋に戻って動き易い私服を選んで着替えてリュックに封魔銃と光剣の柄を仕舞う。

 

 一階に下りるとレイナーレが目を覚ましていた。

 

「お帰り。で? とりあえず逃げるのは後回しって聞いたけど?」

 

「ああ。情報が欲しいからな。逆に自分の場合、慌てて行動した結果、訳が分からないまま巻き込まれる可能性もある」

 

「……ああ、そうね。あなたのその体質を失念していたわ」

 

 自分の若干自虐の篭った説得にレイナーレは納得の表情を浮かべて頷いた。ちょっと悲しくなった。

 

「とりあえずお茶でも飲もう。少なくとも母さんと父さんの安全が確保されただけでも、かなり精神的に楽になった。二人共、ありがとう」

 

「わ、わたしにとっても大事な人達だもの当然よ」

 

「そうよ御主人様。孫を抱いて貰うまで死なせたりしないんだから」

 

 照れ隠しにそっぽを向くレイナーレに、お茶目にウィンクする黒歌。

 

「そうだな」

 

 もはやお礼を言う事の方が二人に失礼なのだろう。もう家族なのだから、家族を守るのは当たり前だ。

 

 それから『はぐれ悪魔祓い』や敵にもしも『聖剣使い』がいた場合の対処法を話し合いながら、支取先輩からの情報を待つ事になった。

 

 




正直原作でもこのくらいの対策はとっても良かったと思う。だって、勝てないって分かってるのに対策立てないとかありえないよね。



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【黒歌の実力】

と言うわけで戦闘回。ええそうです。しょうこりもなく首を突っ込む回です(笑)



「……連絡が来たな。どうやらコカビエルと魔王を戦わせるらしい。既にリアス先輩が冥界に向かったみたいだ」

 

「まあ妥当な作戦ね。倒せる者に来て貰うって言うのは」

 

「にゃあ。あのプライドの高いリアスがよくもまぁその作戦を了承したわね」

 

「彼女も彼女で成長しているのさ」

 

 黒歌の疑問に答えつつ、支取先輩から送られて来た作戦内容が記されたメールを読み進める。

 

「問題はどうやってコカビエルを見つけるか、そしてコカビエルと魔王をどこで戦わせるか。そのあたりはまだ決まっていないらしい」

 

「空中でドンパチだけは勘弁して欲しいわね」

 

 レイナーレがげんなりした表情で口にする。でも確かに気付いたらいきなり魔弾の空襲とかは勘弁して欲しい。

 

「――っ!?」

 

「黒歌?」

 

 話し合いの最中に黒歌が急に険しい表情で立ち上がる。

 

「……御主人様、結界に悪魔祓いの気配を感知。どうやら移動しているみたいにゃん」

 

「……尾行しよう」

 

「だと思ったわ」

 

 やり過ごすという手もあるが、それで事態が好転するとは思えない。少なくとも気配を消せる黒歌や、浄眼が使える自分は尾行する上ではかなり有利なはずだ。

 

「黒歌は先行して相手を尾行。尾行中は念話でやり取りを行う。自分とレイナーレは少し距離を取って後を追う」

 

 黒歌とレイナーレとは現在エネルギーのやり取りを行う為に肉体の『回路(パス)』を繋いでいる。イメージとしては見えない透明なパイプでお互いを繋いでいるみたいなものだ。方法は……まぁ気にしない方向で。

 

 二人からエネルギーを借り受けている自分が一番得している気がしてその事を二人に伝えると、

 

 『回路が繋がっているから御主人様の居場所の位置を感じられるし、オーラ残量を感じ取れるから何所でどんな無茶しているか、一発で解かるのはありがたいにゃん』

 

 と言っていた……もしかして首輪を填められたんじゃないだろうかと、その時は思ったが口には出さなかった。肯定されたら泣いてしまうから。

 

 他にも回路を繋げたお陰で一々術式を刻まなくても『念話』で会話できるようになったし、黒歌とも主従契約をしたのでいつでも二人を傍に転移できる。

 

 因みに本来念話を行う場合は、専用の術式をやり取りしたい相手と自分に施すらしい。もしくは術式を組んだ魔道具を装備したりするんだとか。

 

「了解にゃん。それじゃあ行ってくるわね」

 

 そう言って、黒歌が先に家を出て感知した相手を追う。

 

「自分達も行くぞレイナーレ」

 

「結局こうなるのよね。ま、分かってて好きになったからいいんだけど」

 

 黒歌を追う形で自分達も家を出る。

 

『御主人様、対象は三丁目方面に移動中。背格好は白髪に黒のコートの男よ』

 

『了解』

 

 黒歌の報告に返事を返しつつ少し距離を取って三丁目方面に向けて移動する。

 

 

 

 

 黒歌の指示通りに人気の少ない道を進んでいると、確かに強い気配を感じた。黒歌に人型になるように促し、更に人通りの少ない裏路地へと入る。

 

「ぎゃあああ!!」

 

「っ!?」

 

 路地に入った瞬間、悲鳴が響き渡り、感じていた気配の一つが完全に消えた。

 

「っちぃ!」

 

『レイナーレは隠れて周囲を警戒! 場合によってはすぐにグレモリーのみんなに連絡を!』

 

『分かったわ! 気をつけなさいよ!』

 

 レイナーレを残して黒歌と一緒に向かう。

 

 浄眼を開眼して不測の事態に備える。

 

 路地を抜けると広い雑木林が並ぶ場所に出る。そこには朽ちた家屋が一件あり、その家の前で人が一人血の池に倒れ、それを見下ろすように黄金のオーラを放つ血塗れの剣を携えた神父服を着た白髪の青年が立っていた。

 

 黒歌が念話で伝えた情報と一致するな。

 

「あらあららら? もしかして見付かっちった? あちゃ~やっぱ悲鳴はまずかったねぇオレちゃま反省!」

 

 ……なんだこいつは?

 

 自分達の姿を見るなり、青年はその場の空気を無視するかのように、どこか芝居かかった仕草でふざけた言動を繰り出す。

 

「おんや~そちらのボインちゃんは悪魔じゃありませんか~? もしかしてアレですかい? これから二人でくんずほぐれつな展開を繰り広げちゃうって感じですかい? いや~羨まけしからん! そんなんじゃ碌な大人になりませんと先生に習いませんでしか?」

 

 ……ガトーに似ているが、どうもガトー以上に話が通じなさそうだな。それに信仰深そうでもない。

 

 目の前の青年の狂気に少しの畏怖を覚えながら、とりあえず銃を構える。

 

「――あんたは何者だ? どうしてその人を殺した。見たところ同業者みたいだが? それとクロのあの姿を見ていいのは自分だけだ!」

 

 一応黒歌の本名は伏せておく。

 

「そうにゃ! って御主人様! 今さらっと嬉しい事を言ってくれませんでしたか!」

 

 流石は黒歌。臨戦体勢でもツッコミを忘れない。そんな君が大好きだけどその興奮した目は止めてね。時と場合を考えてね。

 

「おやおや悪魔と恋愛ごっこですかい? 最近の学生は進んでますねぇ~。っと、おんや~あんたが持ってるその銃は、まさかまさかのオイラの元相棒ちゃんではないですかい? 人の物を盗むと泥棒の始まりですよって、もう悪魔と付き合ってるなら人として終わってますからどうでもいいですか。そうですか。や~いこの泥棒!」

 

「っ――!? おまえ、あの教会にいたのか!」

 

 この銃はアーシアの事件で偶然拾った物だ。それを知っていると言う事は……こいつ、はぐれ悪魔祓いか!

 

「ふむふむ。その口振りからすると、あんたさん、もしかしてあの一誠とかいう下級悪魔とお知り合いで? かーどこまで俺の邪魔をすれば気が済むんですかねーグレモリーの連中は! ああ神の試練とかマジありえない! こんなに献身的に働いているのにガッデム!」

 

「……とりあえず倒しちゃいません」

 

 黒歌がうんざりした表情で今にも飛び掛ろうとするが、それを手で制する。

 

「止めとけクロ。ああいうタイプは言動で挑発して、ペースを乱したところを狙う。逆にこっちが何言っても無駄だ。冷静に行動するべきだ。何せ一目でクロを悪魔と見抜き、自分の武器を見破った観察眼があるんだから」

 

「っ!? そうね。分かったわ」

 

 ガトーがそうだった。支離滅裂で理解しがたい言動をしながら、実は思慮深くこちらの心情を読み解くところがあった。

 

「あんたも戦闘職とは言え神父だ。人の心を汲み取るのは得意な方だろう? と言うわけで『後ろの建物の相手』が出てくる前に勝負をつけさせてもらう!」

 

 そもそもこちらを攻撃する気満々だしなこいつ!

 

 目の前の相手からずっと放たれていた敵意から、こちらを見逃す気がないのは最初から解かっていたので、その場で発砲する。

 

「おととと! 銃刀法違反ですよ君! でもでも、これで正当防衛成立ってやつですよ奥さん! 過剰防衛? 何それ美味しいのってね!!」

 

 奴は持っていた剣を下段に構えてこちらに向かって駆け出す。

 

「御主人様下がって!」

 

「ああ!」

 

 オフェンスを黒歌に任せて後ろに下がりながら魔術で自身の速度を上げる。

 

 あとは銃で援護しながら黒歌が倒すのを待つ。

 

 銃を構えて黒歌を援護するように神父へと発砲する。

 

「おりゃりゃっと!」

 

「せい!」

 

「うおっと!」

 

 神父は飛んで来た光の弾丸を全て剣で切り伏せながら、黒歌の蹴りを素早く横に跳んで回避する。戦い馴れしている。それにどうも黒歌の様子が変だ。奴に近付いた瞬間、何か躊躇うような動きをした。

 

「どうしたクロ!」

 

「――御主人様、こいつの持っている剣は……聖剣です」

 

「何!?」

 

 確かに妙は気配は感じていたが、あれが聖剣だと!?

 

 あまりに今まで見た聖剣との印象の違いのせいで気付けなかった。

 

 生前に二度、そして今生で一度聖剣を見たが、どの聖剣もこちらの心に響く美しさがあった。

 

 しかしあの聖剣からはそれを感じない。悪く言えば輝きが鈍い、と言う感じか。

 

「ありゃりゃバレちまいましたか。ま、悪魔のボインちゃんなら近付けば解かりますよねぇ。何せ怖い怖い天敵ちゃんなんですから~」

 

「どういうことだ?」

 

「おっと僕ちんは無知ですねぇ。聖剣はそれ単体でも、ものすご~く強い聖なる波動を出しているんですよ。その為軽く斬られただけでも悪魔や堕天使にはそれなりに効果が出るって訳なのさ!」

 

 なるほど。だから黒歌の動きが少し悪かったのか。

 

 それを踏まえて上で、黒歌に尋ねる。

 

「クロ……勝てるか?」

 

 すると黒歌は口の端を吊り上げて笑った。

 

「もちです」

 

「なら戦闘継続だ」

 

「ああ?」

 

 黒歌と自分の返答に神父が目元をヒクつかせて眉を吊り上げる。

 

「おいおいおいこのビッチ悪魔ちゃんは解かってるんですかねぇ~聖剣ですよせ・い・け・ん。テメェなんてカスった瞬間に昇天御陀仏待った無しなんだよ!」

 

 瞬間、神父の姿がブレる。

 

 

 速い!

 

 自分では完全には取らえられないその速度に焦って黒歌の方へと視線を向ければ――そこにはその場で半身を逸らした黒歌と先程まで黒歌が立っていた場所に聖剣を振り下ろす神父の姿があった。

 

 そんな神父を黒歌は底冷えするような冷たい眼差しで見下し、告げた。

 

「――だから?」

 

「なん――ごぼっ!?」

 

 黒歌の蹴りが神父の鳩尾に深く突き刺さり、そのまま勢いに押されて神父が廃屋に吹き飛ばされる。

 

 ――怖っ!!

 

 多分オーラを纏っていたのだろうが、それでも凄い威力だ。

 

 黒歌がつまらなそうに鼻を鳴らして、吹き飛ばされた時に落としたであろう聖剣を足蹴にして廃屋から遠ざける。

 

「馬鹿なのあなた? スピードが互角なら反応速度や気配察知、何より攻撃力が上のわたしが勝つに決まってるでしょ。聖剣は脅威ですが、当たらなければ問題無いのよ」

 

 ……やっぱり黒歌って強すぎじゃない? というか、容赦無いな。

 

 浄眼を開眼して廃屋を警戒しながら、一応落ちてた聖剣を回収しに向かう。また使われても厄介だからな。

 

 聖剣を手に取る。あれ? 見た目より軽い?

 

 なんというか手に馴染む。聖剣だから特別仕様なのか?

 

 不可解な現象に頭を悩ませていると、自分達がやってきた路地から複数の足音が聞こえた。

 

「新手!?」

 

「いいえ違うわよ」

 

 黒歌が自分を庇うように前に出るが、その前にレイナーレが着地して否定する。そのすぐ後に足音の正体が現れた。

 

「え? 白野?」

 

「レイナーレさん?」

 

「それに姉様?」

 

 現れたのはこちらを呆けたような表情を浮かべる。オカルト部の面々と、生徒会の匙元士郎だった。

 

 




ようやく合流。グレモリー側からすれば『なんで!?』状態。そして白野も『あヤバイ深入りした』状態。
そしてこの回で一番辛かったのはフリードのキャラ表現言動の再現に物凄く戸惑った。できるだけ原作に近付けたと思うけど……どうだろうか?



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【悩みが増えるよやったねハクノン!】

と言うわけで合流回にして白野に色々問題が降りかかる回。



「……いったい何が?」

 

 一誠が口を開いた瞬間。廃屋の中から派手な音が響いた。

 

「だあああもう許さねえぇぞ! このビッチ&バッドボーイが!」

 

 廃屋から出てきたのは口から血を流しながら血走った目でこちらを睨む神父だった。黒歌のあれをくらって生きてるとか、あいつも化物じみてるな。

 

「フリード!」

 

「あ゛あ゛? っておいおいおいおいおい! ここに来てイッセー君に木場きゅんに知らない人に、更にはオチビな悪魔にア~シアたんのご登場ですって? 何この主人公のピンチに颯爽と仲間が駆けつけるみたいなシチュ、ゲロ吐きそうなんでやめて貰えませんかねぇ?」

 

 一誠がフリードと呼んだ神父は不満気な表情で髪を掻き毟りながら頭を振る。ところで知らない人と言うの元士郎の事か?

 

「いったいなんの騒ぎだフリード……ん?」

 

 そんなフリードの背後の廃屋、フリードが突っ込んで開けられた穴から、フリードと似たような神父服を纏った初老の男が現れる。どうやら廃屋で見えた魂は彼のモノらしい。

 

「バルパーのじいさん、見りゃ解かんでしょうよ? おいら達ぜっさん包囲網の中って訳ですよ」

 

「バルパーだと!?」

 

「てことはアイツが木場の仲間を!?」

 

 祐斗が親の仇といわんばかりにバルパーと呼ばれた男を睨み、一誠は驚きと戸惑いの表情を浮かべる。

 

 どうも自分の知らないところで色々と動きがあったようだな。

 

「貴様がバルパー・ガリレイか?」

 

「いかにも」

 

 祐斗の言葉に頷きながら、バルパーと呼ばれた老人がこちらに視線を向ける。

 

「ふぅ……どうやら聖剣の一本を奪い返されたようだな」

 

「いや~油断しちった。テヘペロ」

 

 そう言いながら舌を出して一切反省の色を見せないフリードに、バルパーが溜息を吐く。

 

「まぁいい。時間も押している。そいつが持っている剣は捨て置け。【透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンジー)】を使え。お前が所有する聖なる因子を全力で使えば使えるはずだ」

 

「ほほいのほいっと。んじゃ、みなさん次回をお楽しみにってね! ばいちゃ!」

 

 フリードが着ていたコートを広げると、そこにはもう一本の剣が存在し、それを握った瞬間にやつらの姿が消えていく。

 

 一瞬驚いたが――どうやら自分の眼の前では無意味だったようだ。

 

「黒歌! 右上の屋根の上だ!」

 

「はい!」

 

 黒歌が魔弾を作って指示した場所に放つ。

 

「うおおおい!? なんで見えてんですかバルパーのじいさん!?」

 

「解からん。が、どうやらあの男には我々の姿が見えているようだ」

 

 声は聞こえるし、魂も見えるが、やはり姿は見えない。あれは厄介な剣みたいだな。

 

「待てバルパー!」

 

 祐斗が騎士の恩恵を使って加速して追いかけようとした。

 

 まずい! 今祐斗を向かわせてもきっと勝てない!

 

 だが今の自分では祐斗に追いつけない。

 

 なんとか止めないと。そう思った瞬間、持っていた聖剣が光り、聖剣から力が流れ込み、手にした聖剣の『能力』が頭に送られてくる。

 

「待つのはお前だ祐斗!」

 

「っ!? 白野君、どうして!?」

 

 突然目の前に現れた自分に、祐斗が驚いた表情で足を止める。

 

「え? 白野いま……」

 

「加速……まさか御主人様、奴と同じように聖剣の能力を使ったの!?」

 

 黒歌の言葉に全員が目を見開き、次にこちらに視線を向けてくる。

 

「……ああ、どうやらそうみたいだ。理由は解からないが聖剣を使えるらしい。というかエクスカリバーって一つじゃないのか?」

 

 加速能力のエクスカリバーなんて聞いたことが無いぞ? それともガラティーンと一緒でこの世界では『聖剣』という意味でエクスカリバーと名乗っているのか?

 

「先輩、あのですね……」

 

 小猫ちゃんがやってきて聖剣について教えてくれた。

 

 なんでも真の聖剣エクスカリバーは大戦時に折れてしまったらしい。

 

 当時は打ち直す技術が無かったのか、それとも他に事情があったのかは分からないが、その後エクスカリバーは折れた刀身と備わっていた能力を七つに分ける事で、今のエクスカリバーシリーズとして蘇った。

 

 エクスカリバーが七本もあるって……なんというか、ちょっと冷めるな。

 

 生前自分が見た二本のエクスカリバーは担い手はもとより、聖剣その物に美しさと尊厳が備わった輝きを放っていた。

 

 しかし今手元にある聖剣からはそれが感じられない。まるで『殺す為』だけに作り直されたような、そんな鈍い輝きを放っている。

 

 まあ戦争中だったって話しだし、どんだけ言い繕っても聖剣も剣である以上は武器なんだから在り方としては間違ってないんだけど……なんか納得できない。

 

「ところで、みんなはどうしてここに?」

 

「俺達は聖剣使いを探していたんだ。その途中で争う音が聞こえて向かったらお前達がいたって感じだな」

 

 一誠が軽く事情を説明してくれた。纏めると、彼らは祐斗の為に独断でイリナ達と共同戦線を張る為に探していたが、その途中でリアス部長に招集を受け、事情を聞き、正式にイリナ達に共闘を持ちかける為に探していたんだそうだ。

 

「で? これからどうする?」

 

 事情を聞き終えた自分が一誠達にそう尋ねると、一誠と元士郎が難しい顔をする。

 

「とりあえず部長達に報告しないと、あと悪いんだけど白野達も来てくれ」

 

「そうだな直接戦ったのは白野達だし、俺達よりも詳しく説明してくれるだろう……ところで白野」

 

「ん? どうした元士郎?」

 

 元士郎が真剣な表情でこちらに詰め寄り、肩を掴む。

 

「その後ろのお二人とは、どういう関係だ!」

 

 ……この緊迫した場面で訊く事か?

 

「どんな関係って……」

 

 まあ良い機会か。

 

「結婚を前提とした恋人だけど?」

 

「「――え?」」

 

「御主人様からそんな言葉が! ニャアアアア! テンション上がってキタァァ♪」

 

「ちょ、そんなはっきり……まあ悪くないけど」

 

 黒歌が胸を押さえて喜色満面の笑みを浮かべ、レイナーレは恥ずかしそうに顔を赤くしてそっぽを向くが、口元には嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

「コノヤロウ!」

 

「ごふ!」

 

 なぜか一誠に涙を流されながら殴られた。馬鹿な見えなかっただと!?

 

「ちくしょう!」

 

「げふ!?」

 

 さらに追い討ちをかける様に涙を流した元士郎に殴られた。そしてこちらも動きを見切れなかった!

 

「な、何をする!?」

 

「「うるせー! お前なんて刺されて死じまえこの女たらしがぁぁ! 羨ましいぞちくしょぉぉおお!!」

 

 二人は叫び声を上げながら一目散にその場から駆け出して行った。

 

「自分がいったい何をしたと……」

 

「あの、その、おめでとうございます」

 

「……これからは義兄様(にいさま)と呼ぶべきでしょうか?」

 

 アーシアが顔を赤くしながらも興味津々と言った顔で拍手し、小猫ちゃんが真顔で顎に手を当てて考え込んでいる。

 

「……祐斗、どうすればいい?」

 

「……とりあえず部室に帰ろうか」

 

 周りのカオスっぷりに、さすがに祐斗の毒気も抜かれたのか、溜息を吐いて大人しく歩き出す。

 

 それを見届けて、自分も立ち上がって体を伸ばしながら溜息を吐く。

 

「ふう。やれやれ結局合流か」

 

「なぜかしら。遠回りに遠回りを重ねた結果、結局同じ道に戻って来たこの疲労感は……」

 

「仕方ないにゃん。もはや御主人様の業ね。巻き込まれた以上は被害を最小限に抑えるように頑張るしかないわ」

 

 三人揃って改めて盛大に溜息を吐きながら、自分達も祐斗達の後に続いて学園へと向かう事になった。

 

 

 

 

「結婚を前提に付き合ってください」

 

「―――」

 

 部室に入った瞬間に朱乃先輩に詰め寄られ、開口一番にそう告げられた。

 

「…………」

 

 周りに視線を向けるが、誰もが視線を逸らす。

 

 どうしろと?

 

 背後から黒歌とレイナーレから強烈なプレッシャーを受ける。

 

「えっと……冗談で――」

 

「冗談じゃありませんよ♪」

 

「ア、ハイ」

 

 物凄く怖い笑顔で否定された。

 

 ええぇぇ? だって朱乃先輩は自分の事が好きなような素振りなんて見せなかったじゃないか。セクハラしかされてないんだぞ。っは! まさか……。

 

「身体目当て!!」

 

「違い……いえ、最終的には致すのですから目当てと言えば身体も含まれますわね。あ、でも誤解しないでくださいね白野君。わたし、あなたの全てが目当てですわ♪」

 

 ………うああああ! 桜達と似たタイプだあああああ!?

 

 嘘だ! あの大和撫子だけどちょっと子供っぽい悪戯好きのおちゃめなお姉さん属性の朱乃先輩がなんでこうなった!?

 

「ちょおおおっと待った! 御主人様のハーレムに加わりたいと言うのなら!」

 

「こちらが提示する条件を満たして貰うわよ!」

 

 どこかのご隠居のお供よろしく、自分を庇うように前に出る黒歌とレイナーレって、ハーレム入りに条件なんてあるの? 本人が知らないよ!?

 

「……いいでしょう。まずはその条件を聞きましょう」

 

「それじゃあここで話したらみんなの迷惑になるからあっちで話すにゃん」

 

「じゃあちょっと隣の空き教室を借りるわねリアス・グレモリー」

 

 それだけ言って三人は部室を去っていった。

 

「……こ、これから重要な会議があるんじゃないのか? というか、その、もしかして、アレが朱乃先輩の素ですか?」

 

「……まあ、少なくともあなたに対してはアレが素の朱乃よ。そりゃまぁ、ずっと狙っていた恋人候補が既にハーレムを持っているって知ったら、ああなるわよね」

 

ちょっと待って欲しい。あれが自分に対しての素って、え? これからあの朱乃先輩と接していかないといけないの?

 

「若干病んでいた気もしないでもないですが……とりあえず我々だけで会議を再開しましょう。ほら、他の皆さんも怯えてないで着席しなさい」

 

 生徒会長らしく場を纏めた支取先輩が、数回手を打ち鳴らして先程の修羅の空気に怯えていたみんなを正気に戻す……でも当事者の自分にとっては問題を先送りにしただけにすぎない。

 

「こえぇ。あれが修羅場か、俺もハーレム持つときは気をつけないと」

 

「いやホント、さっきは殴って悪かったな白野。お前だけ絶賛別の事件の真っ最中だが、まあ頑張れ!」

 

「お前ら……」

 

 同情するなら助けろよ!

 

 同情したように優しく笑う一誠と元士郎を睨みつつ、今はコカビエル達が優先と我慢して二人への仕返しはせずに木場の隣に座る。

 

「さて、現在我々の申請で魔王様がこちらに向かっています。リアスの話では到着は早くても今から一時間後。そのあとは直接この地で指揮を取る事になりました。その間に我々は可能ならコカビエルを達を見つけ出してその動向を監視する予定でしたが……」

 

「まさかバルパーに聖剣を使うフリードまでいるなんて……今後の行動を見直さないと」

 

「その事なんですけど、少し疑問があるんです」

 

 リアス先輩と支取先輩の話しに割り込む。

 

「疑問ですか? いったい何に疑問を?」

 

「ええ。どうしてバルパーはまだこの街にいるんでしょうか? 自分と聖剣使いの二人、イリナとゼノヴィアはコカビエルはあくまで陽動であり、バルパーが聖剣を持って街を脱出していると、当初は考えていました。ですが……」

 

「……なるほど。その当のバルパーはいまだにこの街に潜伏している。更に言えば奴らはこちらを見ても慌てて逃げる素振りも、焦った様子も無かった。その行動に納得ができないって事だね」

 

 木場が自分の推理を引き継いで口にする。合っているので首を縦に振って肯定する。

 

「俺達悪魔と聖剣使いの監視で逃げられないからじゃないのか?」

 

「それだったらそもそも聖剣使いが来る前や、悪魔の監視が厳しくなる前に逃げるだろ?」

 

 一誠の問いにそう反論すると、一誠がそりゃそっか。と言って納得する。

 

 そう。逃げるなら早い方が良いに決まってるのに、なんで今日まで逃げなかったのか、それが問題だ。

 

「……もしかしたら彼らには何か別の目的があるのかもしれませんね」

 

「ええ。でもいったい何が目的なのかが解からない」

 

 支取先輩の言葉に全員が難しい顔で唸る。

 

「……とりあえず魔王様が来るのを待つしかないわね。後手に周るのは癪だけど、今は彼らが動いた時にすぐに動けるように警戒しておく事しかできないわ」

 

「と言う事は一時解散ですか?」

 

 一誠の言葉にリアス先輩が頷く。

 

「ええ。学園に寝泊りとも思ったけど、襲撃されて誰かに被害があるといけないわ。ここがわたし達の拠点だという事は向こうにもバレているでしょうけど、生徒会のメンバーやわたし達が寝泊りしている場所までは把握していないはずよ。だから魔王様もわたしが寝泊りしている一誠の家に転移して貰う様に頼んでおいたわ」

 

 おお、以外に考えられている。確かに拠点に待機していて、空から攻撃されたら終わりだ……やっぱ制空権って大事なんだなぁ。

 

「そういう訳で、学園には使い魔と感知結界を配置して監視します。全員学園に転移できるように正門前に転移術式を施しておきました。これから転移用のスクロールを渡します。全員召集の連絡が着たらこれを使って学園まで転移すること。いいですね?」

 

「「了解!」」

 

 リアス先輩と支取先輩の言葉に彼らの眷属が力強く返事を返す。

 

 ただ一人、祐斗だけはまだ浮かない顔をしていた。

 

 ……ま、それは自分もなんだけどね。

 

 聖剣の件……何故自分が使えたのかが、どうしても気なっていた。

 

 みんなは偶々適正があったと思っているみたいだが……以前、一度だけ別の聖剣を持った事がある。

 

 紫藤イリナの家にあった聖剣だ。

 

 あの聖剣の名前は知らないが……今回のようになんらかの反応を示すなんて事は無かった。

 

 それに聖剣を使った時に感じたあの感覚は『豊穣神の器』を使った時と同じだった……ありえるのかそんな事?

 

 これは一度確かめる必要があるな。

 

 聖剣について真剣に悩んでいる自分の耳に、扉が開かれる音が聞こえる。

 

 そして振り返って――そもそもそんな聖剣なんてどうでもよくなるくらいの問題が、目の前に現れた。

 

「不束者ですが、よろしくお願いしますね白野君♪」

 

 そこには笑顔の朱乃先輩と呆れた表情の黒歌とレイナーレが立っていた。無意識に頬が引きつり血の気が引いた。




いつから、エクスカリバー編の主役が祐斗や聖剣組だと錯覚していた……いやホントに、どうしてこんな流れに、作者が鏡花水月を喰らった気分だ!
でも流れ的に朱乃がここで行動しないのはおかしいので、仕方ないね!



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【朱乃の過去と決意】

お待たせしました。朱乃さんとの会話回です。



「ちゃんと話し合いましょう。いやホントに」

 

 戻ってきた三人に、とりあえず会議での内容を伝えて全員が一時帰宅した。

 

 黒歌とレイナーレはリビングで夜食を作っている。二人共暇があれば母さんに家事を教わっているから料理も普通に美味いのでエリザのような心配は無い。

 

 そして何故か朱乃先輩も着いてきて、今は自分の部屋で二人で話し合っている。

 

「それはそうと、ハーレム入りの条件はなんだったんですか?」

 

 個人的にそれが一番気になる。

 

「とりあえず白野君はみんなで共有すること。白野君との添い寝は一日交代で軽いスキンシップ可。子作りは合意ならOK。白野君の巻き込まれ体質及びフラグ建築体質を覚悟すること。ハーレムの仲間に対しては仲良くすること。白野君とそのご両親の意思と命を何よりも尊重すること。以上ですわ」

 

 ……い、意外としっかり作られてる上に自分のその日の夜の行動が決められている……休日をフリーにしてくれているのだから我侭は言えないか?

 

「え~と、うん。色々言いたい事はあるけど、その話はもういいです。次に本題ですが……なんで自分なんかを好きに?」

 

「そうですね……強いて言うなら落ち込んでいる時に優しくしてくれたからでしょうか?」

 

 ……なぜだろう。生前も、そしてつい最近も、似たようなことを言われた気がする。

 

「あの、自分は人間ですから朱乃先輩とは長く一緒にはいられませんよ?」

 

「ええ。承知していますわ。他の二人同様、わたしも白野君との間に子供が得られれば、きっと数百、数千年の時を耐えられると思います。それに……実は憧れていましたの」

 

「憧れですか?」

 

「はい。白野君のような優しい男性と、お付き合いできたらいいなって」

 

「……何かあったんですか?」

 

 憧れていたと言う割りに、彼女の表情はとても寂しげだった。

 

「……小猫ちゃんから聞いたのですが、白野君はわたしに堕天使の血が流れているのを知っていたんですね」

 

「ええ。小猫ちゃん同様に隠していると思ったので、必要でもない限りは自分から口にはしないようにしていました」

 

 それに必要だからって小猫ちゃにその事を問い詰めて不快な思いをさせちゃったから、余計に言い辛くなってしまったし。

 

「そうですね。わたしにとって、堕天使とは嫌悪の対象です。特に自分自身の血と、この翼は」

 

 そう言って朱乃先輩が背中から悪魔と堕天使の左右で異なった翼を生やした。

 

「……悪魔にとって翼とは一種の力の象徴です。そのせいか意識せずに出すとこうなってしまうんです」

 

 なるほど。だがそれは、それだけ朱乃先輩の堕天使としての力が強いということでもあるんじゃないか?

 

「どうしてその翼と、力が嫌いなんですか?」

 

「……父を、わたしと母を見殺しにした父を思い出すからです」

 

 そう言った朱乃先輩の表情には、悲哀と憎しみの色が浮かんだ。

 

「出来れば詳しく教えて貰えますか?」

 

「……ええ。白野君には、知って欲しいわ。でもそのあとで、わたしの質問にも答えて貰えるかしら?」

 

 彼女の何かを求めるような悲しい表情に、自分は頷いて答えた。

 

 そして、朱乃先輩の家庭事情が語られた。

 

 

 

 

 わたしの母は有名な神社の娘でした。名前は姫島 朱璃(ひめじま しゅり)。そして父は堕天使の幹部の一人のバラキエル。

 

 怪我をし弱っていた父を、母は父の正体を知りながらも助け匿い、献身的に介抱したそうです。

 

 そして二人は共に過ごす内に恋仲となり、神職に属する母は父とわたしの為に実家を出奔し、人里を離れて暮らすようになりました。

 

 ふふ。意外かもしれませんがわたし、小学校には通った事がないんですよ。

 

 母は家事とわたしの勉強を、父は堕天使としての仕事を続けました。父はたまにしか家に帰ってきませんでしたが……当時は家族が三人揃う事が何よりも嬉しかった。

 

 しかし、そんな些細な幸せは突然終わりを告げました。

 

 母の実家の者が、母は父に騙されているんだと言って術者を差し向けたのです。

 

 あとで知りましたが姫島は退魔の家系でした。それ故に神仏に反する堕天使や悪魔が許せなかったのでしょう。

 

 そしてあの日……わたしは母を失いました。

 

 その日、本来なら父は家に居るはずだった。なのに、あの人は仕事で家を空けた。

 

 分かっています。あの日襲撃があるなんて父は知らなかったし、少なくとも父が急いで戻ってきたからこそ、わたしの命は助かった。

 

 ――だからといって、許せるはずなんてない。

 

 母を殺した自分達以外を認めない人間達が憎い。

 

 母を死なせる原因を作ったわたし達堕天使が憎い。

 

 ……助けてくれなかった父が憎い。

 

 そう思わなければ、わたしはあの地獄を生きられなかった。

 

 母はわたしを庇って死に、わたしの拒絶によって父は去り、わたしはリアスに出合うまでたった一人で生きてきました。

 

 十になりたてと言ってもいい子供が生きるには、この世界は辛すぎました。

 

 それでも生きようと思ったのは母のためでした。わたしが死んだら母のことを覚えている者がいなくなる。そんな思いを抱きながら、わたしは母から教わった術で人間いついた妖怪や悪霊等を払い、その報酬として僅かばかりの金銭や食べ物を頂きながら生きてきました。

 

 それからリアスと出会い、彼女のお陰で姫島と条件付けですが交渉が行われ、わたしは許されリアスに求められて彼女の『女王』となりました。

 

 それからのわたしの生活は幸せだったと思います。

 

 得たかった友人を得て、可愛い後輩もでき、憧れだった学園生活も送れている。

 

 だからこそ一人で居ると、この翼を見ると、思い出してしまうんです。あの辛い日々と、わたしから大切なモノを奪っていた堕天使の業を――。

 

「――これがわたしの、姫島朱乃の過去です」

 

 わたしは自身の過去を告げ終え、閉じていた目蓋を開ける。

 

 白野君は真剣な顔で、しかしその瞳にはこちらを憂う悲しみの色が浮かんでいました。

 

 ……ああ、この人は本当に、隠し事が下手なんだから。

 

 ついつい嬉しいやら恥ずかしいやらで苦笑してしまう。

 

「……うまく言えませんが……その、ありがとうございます。話してくれて」

 

 真剣に悩みながら、白野君はそう告げる。謝罪じゃないところが彼らしいです。

 

「ええ。では、次はわたしから白野君に質問です……どうしてレイナーレを助けたんですか?」

 

 そう。わたしはずっとその事を訊きたかった。

 

「彼女はあなたの親友を殺し、未遂とは言えアーシアちゃんを殺そうとし、更に言えばあなた自身も彼女の都合で殺されるところだった……そんな相手を、あなたはどうして助けたんです? どうして今もこうして一緒に暮らせるんです? どうして……愛する事ができるんです?」

 

 わたしには、そこだけが理解できない。だから知りたい。憎んでもおかしくない相手を何故許せたのかを……わたしには出来なかったその答えを。

 

「……そう、ですね。どうして許したのか……たぶん、運が良かっただけです」

 

「……え?」

 

 白野君は真剣に悩みながらも、そう答えた。その答えに、わたしは意味が解からずに怪訝な表情を返す。

 

「一誠が死んだままなら、自分は彼女を許しませんでした。アーシアの件から手を引かなければ自分は彼女を見逃しませんでした。そして彼女が再度自分を殺そうとしたなら……殺していたと思います。たぶんどれか一つでも歯車が噛み合わなければ、彼女はこの場にいなかったと思います。いえ、むしろそうなる可能性の方が高かった」

 

「だから……ただ運が良かったと?」

 

 わたしの言葉に白野君は真剣な表情のまま頷いて答えた。

 

「ええ。朱乃先輩だって、きっと同じだったと思うんです。お父さんが間に合っていれば……朱乃先輩はお父さんを嫌いになっていなかったはずだから」

 

 それは……その通りだろう。そう言われてしまっては頷くしかない。

 レイナーレは運が良かった。わたしは運が悪かった。ただ、それだけの違いなのだと。

 

 納得できない。

 

「ではもしも。 彼女がここに来たのが『神の子を見張る者』の思惑でグレモリーの誰かが殺されたらあなたは――」

 

「殺します」

 

 わたしが言い切る前に……白野君は……こちらが萎縮してしまうほどの気迫と共に言い放った。

 

「正直ギアスロールがあるのでその可能性は低いと思っていますが、もしも彼女が自分達の絆よりも堕天使達の絆を選び、自分の仲間の誰かを手に掛けたのなら、自分はきっと……迷って、悲しむと思いますが、彼女を殺します」

 

「できるんですか。迷ったり悲しんだりして」

 

「……できますよ。だって……自分のこの手は既に『大切な人達の血』で、赤く染まっているから」

 

 悲しげに己の手を見詰める白野君。その姿を見て少しだけ頭が冷えて、自分が酷い事を言ってしまったと後悔する。

 

「……でも、だからこそ――諦めない」

 

 しかし彼はすぐにその表情を引き締め、拳を握り、決意の籠もった表情をさせる。

 

「最後の決断は躊躇わない。だからって、大人しく『その日が来るのを』待つつもりなんてない。言葉で、態度で、気持ちで、彼女の気持ちを変えてみせる。それが……自分の一生を掛けた戦いであり、覚悟です」

 

 そう言って、白野君は自信に満ちた不敵笑みを浮かべた。その表情は決して折れないと言う強い決意が宿っているように見えた。

 

 そしてわたしは、今の彼の言葉と表情で、この人を好きになった根本的な理由も、なんとなく理解できた。

 

 白野君は……お母様に似ている。

 

 どんな相手でも包み込む優しさがある。そして何よりも自分の信じる想いを貫く強い意思がある。

 

 自分の憧れの女性、その男性版が目の前にいるのだ。惚れない方がおかしい。

 

「それと、自分はレイナーレが好きになった訳で、堕天使という種その物を好きになった訳じゃありません。正直個人的に堕天使も、天使も、悪魔にも、色々と思うところがありますから」

 

 悪魔にも? 白野君の真剣な表情で放たれた言葉に疑問を感じるが、今は二人の話なので口にせずに心に留めておく。

 

「だから朱乃先輩が堕天使であろうと、自分はその堕天使である部分の全てを含めて『今の姫島朱乃』という存在が好きです」

 

 ただ『好き』だと言われただけで、胸がきゅんと締め付けられる感覚に襲われた。

 

 照れた表情で笑顔を向ける白野君のその笑顔を前に、動悸が激しくなる。

 

 やっぱり、わたしはこの人が好きだ。

 

「白野君、改めてお願いしますわ。わたしを、朱乃を、あなたの恋人にして下さい」

 

 わたしは彼に詰め寄りあえて自分の身体を密着させる。

 

「……大丈夫です。もう、そんな過剰なスキンシップなんてしなくても……自分は朱乃先輩を嫌いになんてなりませんから」

 

 しかし白野君はそんなわたしを優しく抱き止めると、耳元でそう囁き、優しくわたしの頭を撫でてくれた。 

 

 見透かされていましたか。

 

 過剰なスキンシップは、まあ半分既に趣味みたいなものですが、嫌われたくないという防衛本能が働いていたからなのだと、今なら自覚できる。

 

『わたしはあなたにここまでして上げられる。だからわたしを嫌わないで』

 

 そんな、自分でも恥ずかしい弱音を、彼に気付かれた。それがなんだか急に恥ずかしくなって彼の腕の中に顔を埋めて表情を隠す。

 

「朱乃先輩、もしも恋人になってくれると言うのなら……一つだけ、我儘を聞いて貰えますか?」

 

「我儘……ですか?」

 

 白野君はわたしを抱きしめたまま、頷き、そしてその我侭を口にする。

 

「自分の前では……この翼を、隠さないでください」

 

「それは……」

 

 わたしは言葉に迷った。彼はわたしの過去を知って、それでもこの翼を隠すなと言っているのだ。

 

「……だって、この翼だって朱乃先輩の一部なんです。それに……こんなにも綺麗な翼なのに隠すなんてもったいないです」

 

「き、綺麗……ですか? わたしの翼が?」

 

「はい。だから我儘を聞いて貰う代わりに、約束します。自分は、朱乃先輩がこの翼を見ても悲しくならないくらい……貴女を笑顔にしてみせます」

 

 ――っ!?

 

 それはまさに、わたしが求める中で最高のプロポーズだった。

 

 顔が火照るのが分かった。歓喜で涙が溢れるのが分かる。

 

 ああもう駄目だ。わたしはこの人から離れられない。この人無しの人生なんて在り得無い。

 

 ……ああ、だから彼女達は子供を欲しがっているのね。今ならわたしも理解できますわ。

 

 彼の居ない人生など有り得無い。しかし彼とは必ず別れが来る。だから、それに耐える為に彼との強い繋がりを欲して止まないのだ。

 

 ふふ。やはりわたし達は悪魔であり堕天使なのでしょうね。 

 

 別れを潔く受け入れられない自身の愛欲に、改めて自分は魔の側の存在なのだと自覚する。

 

 でも、構いませんよね白野君?

 

「白野君……」

 

「朱乃先輩? あ、だ、大丈夫ですか泣いて――んん!?」

 

 わたしは顔を起こして、泣いているわたしを見て慌てた彼の口を強引に奪う。

 

「ん……約束、守ってくださいね?」

 

「……ああ。全力で応えて見せるよ」

 

 彼の頼もしい笑顔にわたしも笑顔で答えながら、わたしもまた一つの決意をする。

 

 わたしからこの人を奪う事は絶対に許さない。それが例え……同じ悪魔や堕天使だとしても。

 

 その日、わたし姫島朱乃は、子供の頃に憧れていた最後の一つ、素敵な旦那様を手に入れ、そしてそれを生涯かけて守り抜くことを固く誓った。

 




と言うわけで朱乃の依存先が白野に変わりました。やったぜ!
結果、一気にリアス達への依存が減りました。そしてグレモリーと白野が敵対した場合、彼女は白野側に着くことが確定した瞬間である。




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【決戦と白野の決意】

と言うわけで決戦まじかの回。



 朱乃との話し合いが済んでリビングに向かうと二人が作り終えた夜食を用意して待っていた。

 

「お疲れにゃん。やっぱりハーレムに入れたのね」

 

「まあ分かっていた事だけどね。ただあんたはいいの? わたしは堕天使で黒歌は元悪魔殺し。色々とグレモリーには不利になる情報だと思うわよ?」

 

「心配ないわ。それに――その程度の妨害なんて蹴散らせるほどの力を持てばいいだけですわ」

 

 あ、朱乃のSっ気が発動してる。

 

 目を怪しく光らせて、ふふふ。と笑う彼女に恐ろしいモノを感じながらテーブルにつく。

 

 それと朱乃には家では素で居て欲しいと言ったら喋り方がだいぶ砕けてくれた。代わりに朱乃と呼ぶように強くお願いされてしまったが。

 

「とりあえず、すぐに動けるようにおにぎりとお味噌汁にしたわ」

 

「味噌汁はわたしで、おにぎりは黒歌ね……ちゃんと鮭以外も作ったわよね?」

 

「残念ながら鮭フーレクが足りなくてツナマヨとオカカもあるにゃん。梅干が無かったから漬物を切っといたわ」

 

 ……あれ? 黒歌さん、よく考えるとおにぎりの具の三分の三、元は魚じゃないかな?

 

 黒歌がさらっと話題を終わらせたせいで心の中だけでツッコむ。

 

「そう言えば白野君はお味噌汁やおにぎりは何が好きなかしら?」

 

「美味しければなんでも」

 

 自分の即答に朱乃が笑顔で口元を引くつかせる。

 

「あ~ダメよ姫島朱乃。白野は美味しければなんでも大好きな、ある意味で味音痴だから」

 

「にゃはは。まあ不味い時は不味いって言ってくれるから安心して。それに多少のゲテモノや激辛激甘激苦も行けちゃうから、失敗作もちゃんと食べてくれるしね」

 

「当たり前だよ。自分の為に作ってくれたんだから最低でも一口は絶対に食べて感想を言う」

 

 それにエリザの一件でかなり鍛えられたからな! ただ不味いだけの料理なんて脳を、内臓を、肉体を揺さぶってくる物理衝撃攻撃型金星料理に比べれば可愛いもんだ!

 

「な、なるほど。それでも好物はあるのでは?」

 

「う~ん。あんみつと飴かな」

 

 思えばデザートはあんみつがある時は頼む事が多いし、疲れて甘い物が欲しい時は飴を舐めている事が多い気がする。

 

「なるほど、覚えておきますわ。にしても、結構話し込んだと思いましたが、まだ相手に動きは無いみたいね」

 

 言われてみれば。

 

 おにぎりを口にしながら時計を見れば一時間は経っている。少なくとももう魔王はこの地にやってきている事になる。

 

 ちょうどいい。少し色々調べてこよう。

 

「黒歌、すまないが少しアレを試してみる。一緒に来てくれ……何かあったらよろしく頼む」

 

「アレって……大丈夫にゃん?」

 

「……疲れるとは思う」

 

 そう言って最後におにぎりを一個頬張り、味噌汁を飲み干し『ごちそうさま』と二人に感謝してから部屋へと向かう。

 

「あ、何かお手伝いしましょうか?」

 

「あ~、ゴメン。これは自分と黒歌でしかできないから大丈夫だよ。終わったらちゃんと説明するから」

 

 慣れた黒歌の方がこちらも安心できるので断ると、朱乃が物凄く落胆する。申し訳ないと思いつつも、いつ襲撃があるか分からないので私室へと向かう。

 

 私室に戻った自分は部屋の中央で座禅を組む。そして己の精神を可能な限り落ち着かせる。

 

 さて……やるか。

 

「じゃあ黒歌……意識の引き上げは頼んだ」

 

「了解。それにしても、『回路』を開拓するのを早めるなんて……やっぱり聖剣が気になるの?」

 

 さすが、付き合いが長いだけはある。

 

「ああ……どうにも引っかかる。それにコカビエルの件もある……心象世界と繋がるついでに自分の神器の情報を調べてくる。到達まであと少しだ……一時間経つか連絡あったら無理矢理起こしてくれ」

 

 瞑想によって己の内面世界へ意識を沈ませる。黒歌と修行を始めて数年間続けてようやく出来るようになった『魔術の基礎』の一つだ。

 

 気持ちを落ち着かせ、意識をゆっくりと沈ませて行く。

 

 音が無くなり、目蓋から感じていた光が無くなり、次第に五感の感覚が薄れ――次に目を開けた時には澄んだ青い海の中だった。

 

 よし、成功だ。

 

 水中にいるような浮遊感の中で、自分はその海中に通った一筋の『光の道』の中にいた。

 

 この光の道こそが己の意識と心象世界とを繋げて情報を引き出し送る為の大事な一本の回路。この道が開通し、機能したその時から、ようやく岸波白野の魔術は始まる。

 

 よし、行くか。

 

 意識は徐々に暗い深海へと突き進む。しばらくして光の道が途切れて強い抵抗感が襲う。

 

 まだ途中までしか進めていなかったからな――ここからは忍耐の勝負だ。

 

 体を動かして潜った瞬間、剥き出しの意識にあらゆる情報が送られてくる。

 

 いつ。どこで。誰と。誰から。どうやって。どのようにして。どういったもので。どういう構造で。どういう意味で。どういった用途で。どういった物で。

 

 感情を廃した無機質にして詳細で厖大な情報が縦横無尽に襲ってくる。

 

 常に鈍痛のような重い痛みを受け続ける。

 

 常に鋭く強烈な痛みが襲い掛かってくる。

 

 苦しいし痛い。これだけの痛みを受けながら、進んだ距離はわずか数cm。

 

 割に合わないと叫びそうになるが……それでも、その先に求める物があると信じて、意思は光の道を開拓して行く。

 

 

 ………………深海を沈む。

 

 

 ………深海を進む。

 

 

 ――そしてついに――――岸波白野の意思は――底へと至った。

 

 

 

 

「っがはっ! はぁ、はぁ……」

 

「御主人様、大丈夫?」

 

「ああ、ありがとう黒歌」

 

 仙術による気付けで意識が無理矢理覚醒させられる。

 

 さすがに疲れたな。

 

 黒歌に感謝を述べながら袖で汗を拭って呼吸を整える。その間に『回路』が繋がったかを確認する。

 

 ……よし。

 

 身体と魂と精神に一本の筋が通ったような感覚を感じて拳を握る。

 

「それでどうですか、パスは繋がったの?」

 

「ああ。ギリギリだったが、これで情報を引き出す事ができる。それと聖剣についても理由が分かったよ」

 

「それは――っ!?」

 

 黒歌が口を開いた瞬間――あまりにも強烈な気配に、二人揃って息を呑む。

 

「っ、黒歌外は!」

 

「大丈夫、誰の気配も感じないわ!」

 

 黒歌に気配を探させながら、急いで一階に降りて下の二人と合流して全員で外に出て様子を伺う。

 

「……おいおい、なんだあれ?」

 

 見ると学園の方で何やら光が迸っていた。それを確認すると同時に全員の携帯が鳴る。緊急招集の合図だ。

 

「すぐに準備をして転移するぞ」

 

 傍にあるとみんながピリピリするので自室に置いておいた聖剣を取りに向かう。

 

 私室で聖剣と他の準備を整えてリビングに戻ると、黒歌はいつもの黒い着物を、レイナーレは着慣れた際どいラバースーツ、朱乃はそのまま巫女服でリビングで待機していた。

 

「準備はいいですね。それでは転移します」

 

 全員が懐からスクロールを取り出して転移と告げると、スクロールから魔法陣が浮かび上がり一瞬視界が白くなる。

 

 次の瞬間には学園の正門前に立っていた。すぐ近くにリアス先輩達が居たので朱乃が話かける。

 

「部長、状況は?」

 

「……コカビエルは現在お兄様と異空間で戦っているわ。グレイフィア及び数名の上級悪魔がその空間の維持を行っているわ」

 

「コカビエルが見付かったんですか?」

 

「その辺りは全員集まってから説明するわ」

 

 確かに説明する手間もおしいか。みんなもすぐに来るだろうし。

 

 自分のその予想通り、数分の内に生徒会の面々、そしてオカルト部の全員、そして驚くことにアーシアと一誠と一緒にゼノヴィアまだ現れた。

 

「ゼノヴィア、良かった無事だったか。イリナは?」

 

「……彼女は戦線離脱だ。命に別状は無いが、正直アーシア・アルジェントに回復して貰わなければ危なかった」

 

 事情を訊くと、どうやら二人は途中でコカビエルと遭遇し、戦闘になって聖剣を奪われてしまったらしい。その際にイリナが自分を庇って怪我をし、アーシアの存在を知っていた彼女はイリナの治療の為に一誠の家へと向かい、治療を頼んだそうだ。

 

「恥知らずなのは承知している。だが他にイリナを助ける方法がなかった。アーシア・アルジェント、この戦いに生き残ったら、わたしに出来る形で貴女への暴言の罪と、仲間を癒してくれた感謝をさせて欲しい」

 

「そそ、そんな。わたしはただ、わたしに出来る事をしただけですから」

 

 ゼノヴィアの態度にアーシアが困惑した表情で慌てて拒絶する。

 

「……まあ考えておいてくれ。今は奴らを止めるのが優先だ」

 

 そう言ってゼノヴィアは突然詠唱を始める。するとその手にエクスカリバーが霞むほどの光り輝く大剣が現れる。

 

「それは……聖剣か?」

 

「御名答。聖剣デュランダル。わたしが本来使用する聖剣だ。イリナがわたしを庇った理由はエクスカリバーを無くしてもわたしならまだ戦力になると考えたからだろう」

 

 なるほど。確かに逸話通りの本物のデュランダルならば、大抵の者なら退治出来る気がする。

 

「と言うわけで、ゼノヴィアとも一時的に共同戦線を張るわ。それじゃあ時間が無いから手短に状況を説明するわよ」

 

 部長が全員に聞こえるように説明する。内容としては部長の家にサーゼクスさん達が到着して三十分後くらいにコカビエルが姿を現してサーゼクスさん達に決闘を申し込み、サーゼクスさんがそれを承諾し、今は悪魔側が用意した異空間で二人が戦っているらしい。

 

 そしてコカビエルが消えてから数分後にイリナを連れたゼノヴィアが現れ、彼女から彼らが何をしようとしていたのかを聞かされたらしい。

 

 なんでもバルパーとコカビエルは聖剣同士を結合させて、その際に生じる強大なエネルギーによってこの土地を破壊して再度の戦争を引き起こすことが目的だったらしい。

 

 そしてコカビエルがいなくなって更に三十分後に駒王学園から光が迸って今に至る。と言うわけだ。

 

「……ちょっと待った。ならなんでコカビエルはサーゼクスさんと戦っているんだ?」

 

「分からないわ。自分が居なくても問題ないのか、それとも魔王なんて倒せると思っているのか、それとも足止めか、とにかくわたし達のやるべき事は一つ。この先にいるバルパーを倒して儀式を止めることよ」

 

 リアス先輩がそう締めくくり、いまだ光を迸らせる学園の校庭へと視線を向ける。

 

「……確かに校庭の方に人間の魂が二つ。それと変な魂があるな」

 

 完全開眼で遮蔽物を無視して校庭の方を視ると、そこには人間の魂が二つに、見たことの無い魂が二つ存在していた。

 

「どうやら向こうもきっちり迎撃の用意はしていたみたいね。ソーナ」

 

「ええ。わたし達シトリー眷属が学園に防壁を張ります。グレモリー眷属はバルパーの撃破を。それと大変心苦しいですが、白野君達もバルパーの撃破をお願いします」

 

「「了解」」

 

 支取先輩の指示に従って、全員がそれぞれのやるべきことの為に駆け出す。

 

 

 

 

「……うっわぁ。ケルベロスって本当にいるんだな」

 

 校庭にやってきた自分達の目の前には巨大な光り輝く魔法陣と、その中央に光り輝く四本の剣、その脇には詠唱するバルパーと、その隣に控えるフリード。

 

 そして彼らを守るように二匹の巨大な三叉の首を持った犬の魔獣……そう、神話なんて知らない人でも名前くらいは知っているだろう有名な魔獣――魔犬ケルベロスが、狛犬の様にそこに鎮座していた。

 

「あれって本物ですか?」

 

「ええ。冥界の地獄の門周辺に生息しているわ」

 

 冷や汗を流す一誠に部長が険しい表情で頷く。というか生息って、そんなに沢山いるのかよ。フィールドモンスター扱いじゃないですかヤダー。

 

 冥界は恐ろしい所だと、改めて思い知った。

 

「アレをどうにかしないとバルパーを止められそうにないな」

 

 ゼノヴィアの言葉に頷きながら策を考える。

 

「……ここは三手に別れよう」

 

「というと?」

 

 興味深そうにリアス先輩が尋ねてくる。

 

「まずバルパーとあのフリードと言う神父だが……自分と祐斗で相手する」

 

「白野君……」

 

 祐斗が意外といった感じに目を見開く。

 

「……それは祐斗の為かしら?」

 

 リアス先輩が探るようにこちらを見詰める。そんな彼女に頷き返す。

 

「それもありますが、正直人間の自分があれを相手にするのは……いささか厳しい」

 

 十メートルはありそうな巨体に鋭く尖った爪や牙、更にはあの硬そうな体毛だ、攻撃が通るか怪しい。というかあれの相手をするって、恐竜を相手にするようなもんだろ。リアルジュラシックパークとか洒落にならん!

 

「アレを相手にするなら、まだ人間のフリード達を相手にした方が戦えると思う。幸い、加速能力のある聖剣は自分が持っているしね」

 

 自分の言葉にリアス先輩が、なるほど。と言って頷く。

 

「ケルベロスの方の指揮はリアス先輩に任せます。どうでしょう?」

 

「そうね……分かったわ。白野の作戦で行きましょう。祐斗」

 

「はい」

 

 リアス先輩が真剣な表情で祐斗の肩に手を置く。

 

「終わらせてきなさい。そして……帰ってきなさい。いいわね?」

 

「……はい!」

 

 リアス先輩の言葉に、祐斗はしばらく目蓋を閉じ、開けた時には強い決意の炎が宿った瞳をしていた。

 

 ……これなら自分がもう何か言わなくても大丈夫かな。

 

「黒歌、朱乃、悪いけど二人はケルベロスの一体を相手に時間を稼いで。その間にわたし達は全力でもう一体の方を片付けるわ。光力を使えるレイナーレと聖剣を持つゼノヴィアを主軸に戦うわよ。アーシアは怪我をした相手を回復。一誠は譲渡やドラゴン・ショットで援護。小猫とゼノヴィアが前衛、レイナーレとわたしは空から攻撃する。いいわね!」

 

 リアス先輩の指示に全員が頷く。

 

「全員作戦開始!」

 

 そしてリアス先輩の号令と共に戦いの狼煙があがった。

 

 




黒歌達を指揮してケルベロスと戦わせるか最後まで悩んだけど、結局聖剣VS聖剣の方にしました。




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【そして少年は光を得る】

はい。タイトル通りの祐斗回です。



 グレモリーのみんなと黒歌達がケルベロスを引き付けてくれている間に、自分と祐斗は加速してバルパー達の下へと一気に詰め寄る。しかし突然正面に現れた自分達を見ても、バルパーは興味を示さず、フリードは愉快そうに笑って出迎えるだけだった。

 

「おやおや~? グレモリーの騎士の木場キュンに~生意気なバッドボーイ君。君達が俺達の相手かなぁ?」

 

「お前の相手は自分だ」

 

 そう言って握っていた聖剣を突き付ける

 

「おいおいやる気だねぇ~でもざ~んねんでした! 俺は今武器が無いからこの結界から出るつもりはありませ~んギャハハハハ!」

 

 舌を出してこちらを馬鹿にして大笑いするフリードにイラっと来たが、ガトーや慎二との友好で鍛えた鋼の精神で耐え抜く……あとで覚えてろよ。

 

 とりあえず剣を振って魔方陣から溢れる光の壁を攻撃するが、弾かれてしまう。

 

「……防壁か。破壊するか?」

 

「そうだね。僕達が全力で攻撃すればあるいは」

 

「止めておきたまえ」

 

 こちらを制止したのは呪文を詠唱していたバルパーだった。

 

「術式は既に発動した。後は聖剣が統合すれば完成する。そして完成後、二十分でこの街の霊脈へとエネルギーが送られる。その結果暴走した霊脈によって大規模な地震が発生し、この街は崩壊する。解かるかね? つまり今この魔方陣にはそれだけのエネルギーが込められているという事になる。それを不用意に壊せば……ふむ、少なくとも外にいる悪魔共も含めてこの一体が消し飛ぶだろうね」

 

「……説明どうも。性質が悪いな」

 

 なんてことはない。つまり術式が完成するまで手を出すなと言うことだ。

 

 自分の『豊穣神の器』ならいけるか……いや、リスクの方が高いか?

 

 今まで結界関係でこの力を使用した事がない。それに結界その物のエネルギーに作用させるなら術式が完成してからでも同じはずだ。

 

「手が出せないというのなら、こちらから幾つか質問させて貰おう」

 

「ふむ、構わんよ。わたしも君には少し興味があった。わたしをそんな親の敵のように睨む君にね」

 

 祐斗が魔剣を握ったまま一歩前に出る。

 

「僕は聖剣計画の生き残りだ」

 

「ほう、あの計画の。これは数奇な運命もあるものだ。それで、何が聞きたいのかね?」

 

「どうして僕の同士達を殺した」

 

 祐斗がバルパーを睨みつけながら質問する。しかし当人のバルパーは気にした様子も無く顎に手を当てて首を傾げる。

 

「どうして? 必要な事だったからだが。殺した方が手っ取り早い」

 

「なん、だって……」

 

「ちょっと待て。まさか聖剣計画には彼らを殺す事にも意味があったと言うのか?」

 

 絶句する祐斗に変わってバルパーに質問すると、彼は嬉しそうに笑いながら答えた。

 

「ああもちろん。では最初から説明するとしようか」

 

 そう言ってバルパーは訊いてもいないのに自身の半生を語り出した。

 

 子供の頃から聖剣に、特にエクスカリバーに強い憧れを抱いていたこと。

 

 聖剣使いになる為に訓練したこと。

 

 しかし自分には聖剣を扱う適性が存在しなと知り、絶望したこと。

 

 その後、自身が使えないが故に使える者に憧れたこと。

 

 その憧れはいつしか目標となり、バルパーは使える者を人工的に造る研究に没頭したこと。

 

「……そしてわたしは研究の末に突き止めたのさ。聖剣を使うには『聖なる因子』と呼ばれる生まれながらに持った素質が必要だと。そしてそれが一定値以上の数値が必要だと」

 

 ――おい、まさか。

 

 これまでの情報と、今のバルパーの『一定以上の数値が必要』という情報から、ある結論に達する。

 

「まさかお前――奪ったのか? 殺した連中から」

 

「ほう、そちらの少年は優秀だな。その通り、単純な事だったのだよ。足りないなら足せば良い。それだけのことだったのさ」

 

 だからか。だから……こいつは子供のまま祐斗の仲間を殺したのか。

 

 愉快そうな笑みを浮かべたバルパーが懐から一つの青白く輝く結晶を取り出す。

 

「これは君が居た実験場で作り上げた聖なる因子の結晶だ。これを人間に植え付けることで、その者を聖剣使いへと至らせる」

 

「ヒャハハ。もっとも、俺以外の奴は因子に耐えられずに死んじまったがな。う~んやっぱり俺様ってば生まれながらのスペシャル!」

 

 やはりリスクもあるのか。

 

「……聖なる因子への適性等は調べないのか?」

 

「必要あるまい。適応できるなら良し、ダメなら死体からまた聖なる因子を取り除いて再利用すればいいだけだ」

 

 ……だろうな。

 

 性格的にそう答えるのは分かっていたが、それでも疑問に思った事は尋ねてしまう自分の性格を呪う。

 

「お前達はどこまで多くの命を弄べば気が済むんだ」

 

 祐斗が射殺さんばかりにバルパーとフリードを睨む。

 

「ふん。ならばこいつは貴様にくれてやろう。既に量産の目処は立っている。研究用にと取って置いた物だが、もう用済みだ」

 

 そう言って、バルパーが結界越しに結晶をこちらに向かって放り投げると、結晶は結界に弾かれる事なくこちらにすり抜ける。マジかよコイツ!

 

 まるでゴミでも捨てるかのように投げ寄こしたそれを慌ててキャッチする。

 

「――お前っ」

 

 祐斗の同士達とも言える物をぞんざいに扱うバルパーを睨むが、奴は気にした様子も無く肩を竦める。

 

 頭にきたが……今は無視する。そして浄眼を開眼して結晶を見る。

 

 ――やっぱりだ。

 

 結晶の奥底から僅かに、本当に僅かにだが魂が視えた。この魂こそ、今祐斗がもっとも必要としている答えな気がした。

 

「祐斗、よく聞いてくれ。この結晶に、魂が宿っている」

 

「白野君……?」

 

「浄眼を通して見えるんだ、この結晶に宿る魂が。お前の同志は……ここにいる」

 

 そう言って結晶を祐斗に手渡す。

 

「みんな……僕は、僕はっうう」

 

 祐斗が結晶を握り締めて涙を流す。その涙が結晶に当たった瞬間、結晶に宿っていた魂が突然輝きを増したかと思うと、視界が一気に白く塗りつぶされた。

 

 

 

 

 ここは……。

 

 白野君から同志達の結晶を受け取り、それが輝いたかと思うと僕は見慣れたその場所に立っていた。

 

「ここはどこだ? それに……あの墓のように刺さった剣は?」

 

「白野君?」

 

 隣には『青い眼』、浄眼を完全開眼させた時の瞳の色をさせた白野君が立っていた。彼は不思議そうに目の前のそれを見詰めていた。

 

 僕は立ち上がって彼の隣に立って説明する。

 

「……君の考えている通りアレはお墓だよ。かつて僕が同志達への想いを込めて一つ一つ作り上げた墓標だ」

 

 見晴らしの良いその場所には同志達それぞれへの弔いの想いを込めて造り上げた魔剣がいくつも地面に突き刺さっている。

 

 そう。ある意味ここから『今の僕』は始まったと言っていい。

 

「それにしてもいったい何が……っ!?」

 

 白野君と共に現状に悩んでいると、墓の前に人型の光が集まる。

 

「……そうか。君達が祐斗を呼んだのか」

 

 白野君は何かに気付いたのか警戒を緩める。

 

 彼が警戒を解いたので、悪いものでは無いと判断して僕も視線を前に戻し――その光景に息を呑んだ。

 

 人型の光は次第にその姿を明確にし、墓の前に、一人、また一人と懐かしい姿が現れ始めた。

 

「みんな……」

 

『この結晶に、魂が宿っている』

 

 白野君の言葉を思い出す。僕の目の前に青白く半透明ではあるが、当時とまったく同じ姿で同士達はそこに立っていた。

 

 彼らは皆、優しく微笑んでいた。まるで僕を案じているかのようなこちらを気遣う笑顔だった。

 

 そんな同志達の優しさに、僕は溜まらず涙を流しながらその場で蹲った。

 

「僕はっ、ずっと、ずっと思っていた。僕だけが生きていていいのかって。僕だけが幸せになっていいのかって」

 

 僕よりも夢を持っていた同士がいた。

 

 僕よりも生きたいと望んだ同士がいた。

 

 僕よりも強い意志を持った同士がいた。

 

 僕よりも優しく頼もしい同士がいた。

 

 ただ運が良かった。それだけで僕は今日まで生かされて来た。

 

「良いに決まってる」

 

 強く断言するその声に、僕は声のした方へと振り返る。

 

「……白野君」

 

 そこには真剣な表情で僕を見詰める彼の姿があった。

 

「幸せを望まない生にいったいなんの価値がある。祐斗、お前は……もっと笑っていて良いんだ。彼らもそれを望んでいる」

 

 そう言って白野君が指差した先で、同士達は彼の言葉を肯定するように力強く頷いた。

 

「っくっ。あぁ、ああぁぁ!!」

 

 僕の中で燻っていた黒い何かが涙と共に流れてゆく。

 

 同士達は復讐なんて望んでいなかった。いや、考えてすらいなかった。

 

 ただ……ずっと僕を心配してくれていただけだった。

 

 それが嬉しくて、そして長年の苦悩の答えを得た安堵感で止めどなく涙が溢れてくる。

 

 そんな泣きじゃくる僕の耳に、懐かしい歌が聴こえた。

 

「うう、これ、は……聖歌?」

 

 顔を上げれば同士達が歌っていた。かつて研究所で互いに支え合う為に、明日を信じて生きる為に歌った詩だ。

 

 また慰められてしまった。

 

 ごめんみんな……ありがとう。

 

 僕は涙を袖で拭い、立ち上がって彼らと共に聖歌を口ずさむ。あの日のように、もう一度自分の為に明日を生きる為に。そして彼らに『もう大丈夫だよ』と伝える為に。 

 

 いつの間にか涙は止まっていた。同士の笑顔に釣られたかのように、僕も笑って聖歌を歌っていた。

 

 そして聖歌を歌い終えた僕は同士達をしっかりと見据えて頷いた。

 

「大丈夫だよみんな。僕は、生きて行くよ」

 

 僕の答えに満足したのか、同士達が一人、また一人と光の粒子となって一つになって行く。

 

 そして最後の一人消えると共に、墓の正面の地面に光り輝く一本の光の剣が突き刺さっていた。

 

「……祐斗、今のお前なら受け入れられるさ」

 

「……うん、僕にも聴こえたよ。彼らの声が」

 

 悪魔の自分に聖なる因子に耐えられるかは分からない。それでも、あれを誰かに譲るなんて選択肢は僕の中には無い。

 

 何よりも僕は……あれを僕に託してくれた同士達を信じる。

 

 だって最後に同士達は言ってくれたから。

 

『大丈夫だよ。僕らの心は、いつだって一つだから』

 

 僕はその光の剣の柄を握る。

 

「僕は――聖剣を受け入れる!」

 

 前に進む為に、そして今の僕の大切な人達を護る為に!

 

 新しい決意と共に、僕は光の剣を一気に引き抜いた――。

 

 

 

 

 ――気付けば元の場所、駒王学園へと戻っていた。

 

 先程までのは奴らが足止めの為に見せた幻覚か何かとも疑ったが……自分の中に生まれた暖かい力を感じて、その考えはすぐに吹き飛んだ。

 

「行けるか、祐斗?」

 

 そして隣に立っていた白野君が期待を込めた眼差しで僕に問いかけた。そんな彼に僕は頷き、はっきりと答えた。

 

「……ああ、もちろんだよ白野君!」

 

「それじゃあそろそろ始めよう。どうやら向こうも完成したみたいだしな」

 

 彼と共に倒すべき相手へと振り返る。そこには光り輝く一本の聖剣があった。

 




大変だ。祐斗が士郎してる!!

というか、彼の生い立ちや能力を考えるとまんまな気がしなくもない。きっと正義の味方になるマンに拾われていたら士郎と同じ道を辿った可能性もあったでしょうね。



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【聖剣VS聖剣】


タイトル通りの戦いです。多分白野がまともに戦うのは初めてかな。




「いやはや悪魔でも結晶に耐えられるとはな。今後の研究のテーマの一つに加えるとしよう」

 

 バルパーがパチパチパチと拍手しながら、興味深げに先程までの現象について口にする。

 

「さて、術は発動した。わたしはここで引き篭もらせて貰おうか。フリード、聖剣を使え」

 

「ほいほい」

 

 フリードが嬉々として一本になった両手剣の聖剣を掴む。瞬間、聖剣から眩い光が迸る。

 

「うほほう! 最高だぜバルパーの爺さん! 落ちたテンションが一気に爆上げ! こりゃもう誰かを殺すまで止まらねえぜ!」

 

 フリードがまるで新しい玩具を手に入れた子供の様にはしゃぎ、聖剣を軽く素振りしながら結界から出てくる。

 

 あの結界内に引き篭もるって事は、あの結界は少なくとも地震には耐えられるのだろう。そうでなければ彼らも地震に巻き込まれて死ぬ可能性があるのだから。

 

「……祐斗、バルパーは任せるぞ」

 

「……分かった。白野君、聖剣は任せるよ」

 

 祐斗がバルパーとフリード、正確にはフリードが持つ聖剣を交互に一瞥したあと……自ら聖剣に背を向ける。彼から託された想いを受け止め、フリードの前に立ち塞がる。

 

 時間もない。最初から……全力全開だ。

 

 聖剣を腰に帯刀し直す。

 

 肉体、脳、細胞、魂。あらゆる物を演算機とする。ただし意思だけは明確にそれを手繰り、己の意識を、先程作り上げた回路を通って『心象世界』へと接続する。

 

「おいおい天然で聖剣を扱えるからって、ずいぶんと舐められたもんだなぁ。ただの人間が、最強の聖剣を持った俺に勝てると思ってるのかぁ?」

 

 目の前でフリードがこちらを挑発するが、それを無視してフリードを警戒したまま背後に軽く視線だけを送る。

 

 後ろでは既にリアス先輩達の戦いは終わっていた。これなら大丈夫か。

 

『レイナーレ、黒歌、お前達の力を貰う』

 

『はい御主人様』

 

『ええ。持って行きなさい』

 

 念話で断りを入れて自分のエネルギーの不足分を、黒歌とレイナーレが活動に支障が出ない限界まで魔力と光力を貰う。

 

 概念情報の塊である心象世界から、一つの技能と一つの装具の情報を引き出す。

 

「『物質化制御(マテリアライズ)技能体現(スキルコード)――剣術」

 

 肉体に刺青のように術式が刻まれ浮かび上がる。その瞬間、肉体が『剣術も使える』体へと細胞レベルで変化する。

 

「『物質化制御:礼装具現(ミスティックコード)――永遠に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)

 

 肉体からオーラが掌に集まり……そして、その手に一人の正義の味方が抱き続けた黄金の夢が現れる。

 

「は?」

 

 目の前にいたフリードが呆けた表情をする。その間に、剣の柄を掴む。

 

 手に平から熱い何かが身体を駆け巡ると同時に、その手に掴んだ剣の輝きが増す。

 

 ――成功だ。

 

 この身に宿る力の体現、この手にした剣の具現、それら全ては見劣りする程の低ランク。

 

 それでも――これらは全て本物(実現)だ。

 

 己の目指した魔術の完成に心の中で歓喜する。

 

『情報の物質化』

 

 岸波白野が目指した魔術はそれのみ。

 

 ヒントはあった。

 

 聖杯が行っている英霊を実体化させる術式だ。

 

 あの術式は言ってしまえば『座』という英霊本体の情報が存在する場所から英霊の『霊子』、つまりその者を形作る情報をダウンロードし、魔力で作られた器である『擬似霊子』へとインストールする。

 

 擬似霊子にインストールされた霊子は固定化され『霊核』となる。自分達で言えば魂と同じだ。そして器である擬似霊子は送られた霊子通りの形を成す。

 

 演算機(ハイテク)に出来たのだから、人間(アナログ)でも同じことが出来るのでは無いかと考えた。

 

 己の心象世界を『座』とし、そこにある情報を『霊子』とし、それをエネルギーで作った『擬似霊子』に送る事で霊核として固定し、一時的にその情報を現実に物質化するというものだ。

 

 この魔術に複雑な手順はいらない。プログラムと一緒で必要なのは核となる『情報』と器となる『エネルギー』と、それを固定し維持する『意志力』のみ。

 

 複雑な事が出来ない自分にはこのくらいシンプルな方がいい。なんせやっている事は情報収集と肉体と精神を鍛えるだけだ。まさに脳筋極まれりな魔術だ。

 

 ……考察はあとだ。まだやるべき事がある。

 

 そして初めて『本来』の神器の名を口にする。

 

「【王の証(リア・ファル)――収得(アクイジション)】」

 

 帯刀していた聖剣に触れながら唱えると、聖剣は光となって自分の体に『収得』される。

 

 そして収得したエクスカリバーの能力情報が頭に送られてくる。

 

 なるほど予想していた通り『加速』能力か。

 

 もっとも解かるのはそれがどういった能力かだけだから『どういったことが出来るのか』までは分からない。豊穣神の器同様に模索して行く必要があるだろう……まぁ聖剣はゼノヴィア達に返すつもりだけど。

 

「は、おいおいなんだよそれ! バルパーの爺さん、こいつの聖剣はなんだ!? それになんで天閃の聖剣(エクスカリバー・ラビットリー)がこいつの体内に吸収された!」

 

「馬鹿な。ありえない。わたしの知らないエクスカリバーだと!?」

 

 初めてフリードとバルパーが二人揃ってうろたえる。

 

 その前で、祐斗もまた一本の剣を作り出そうとしていた。

 

「……僕の今までの思い。そしてこれからの願い。その二つを合わせる!」

 

 祐斗の両手に白と黒の光が浮かび、それがまるで螺旋を描くように収束し、一本の剣が現れる。

 

「禁手――『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。お前のその防壁と僕の剣、どちらが優れているか勝負しようじゃないか」

 

 そう宣言した祐斗が、こちらに一度視線を向けたので、強く頷き返すと同時に自分達はそれぞれの敵目掛けて駆け出した。

 

「はっ! そいつがなんだか知らねぇが! 統合された最強のエクスカリバーに勝てる訳がねぇ!」

 

 フリードが振り上げた聖剣を勢い良く振り下ろした瞬間、地面が砕けて石礫が襲い掛かってくる。

 

 その攻撃を『加速』を使って回避し、フリードの背後に周って剣を振り下ろすが、フリードは咄嗟にエクスカリバーを盾にする。

 

「なっぐお!?」

 

 剣と剣がぶつかり合って火花が散る。その場に着地すると同時に、身体の捻りを利用しながら、横に斜めに縦にと、踊るように連続で剣を振り続ける。

 

「な、ぐ、ああ、くそが!!」

 

 凄いな。

 

 肉体が耐えられる限界まで加速して動いているのに、フリードはこちらの剣撃を防ぐ。その事実に驚くが、勢いは緩めない。そもそも長時間戦えない以上、余力を残すつもりは最初から考えていない。

 

「うおおおおおお!!」

 

 体力の消耗を無視して体に流れる『剣術技能』に従って体を動かし続け、そしてついに捌き切れなくなったフリードの左肩を切り裂く。

 

「ぐああっ!? ふ、ふざけんな! なんで最強のエクスカリバーを持つ俺様が傷を! それも片手の奴なんかに!」

 

 フリードが再度地面に聖剣を叩きつけて地面を爆裂させる。咄嗟にその場から飛び退くが、無理矢理距離を取らされてしまった。

 

 戦い慣れしている上に機転も利く。それに確かエクスカリバーにはそれぞれ能力があった筈だ。となると姿を消されたら厄介だな。

 

 浄眼を開眼する。これで奴が姿を消しても魂で追えるので問題ない。もっとも、戦闘の熱に当てられたのか殺気のせいで気配はバレバレだから、浄眼を開眼しなくても見つけられる気はする。

 

「伸びろ!」

 

 接近戦を嫌がったのか、フリードの聖剣が鋭さはそのままに、まるで意思を持った蛇の様に無軌道に動いてこちらへと向かってくる。

 

 ……遅いしそもそも聖剣の気配が強すぎて死角を突く意味がまるでないな。

 

 上下左右に動き回って死角を突いて来るが、そのことごとくを迎撃して弾く。

 

「クソが、なんで当たらねぇ! 無敵の聖剣様なんだろ! 昔から最強伝説を語り継がれてきたんだろうが!」

 

 フリードは中々殺せないことに焦りを覚えたのか、苛立った表情で己が扱う聖剣に罵声を浴びせる。

 

 ――そろそろ限界か。

 

 物質化制御の限界を感じ、次で決める為に一度距離を取り、片手故に肩にかけるように『永遠に遥か黄金の剣』を構える。

 

 

 

「ああ? その目はあれですかぁ? 次ぎで決めてやるって目ですねぇ。ヒヒ、いいですよ受けて立とうじゃあっりませんか!」

 

 フリードの持つエクスカリバーが鞘の部分も含めて消え、フリードは上体を屈めて腕を引き、刺突の構えを取る。

 

 自分はその構えに注意を払いながら……一気に加速する。

 

「ぎゃははは! 串刺しになりな!」

 

「……悪いけど」

 

 急に『枝の様』にこちらへと伸ばされた複数の刀身の気配を感じながら、その気配を頼りに体や顔に切り傷を作りながら最短ルートを駆け抜ける。

 

「自分を串刺しにするなら地面から槍でも生やすんだな!!」

 

「はああ!? なんで避け――っ!?」

 

 驚愕するフリード目掛けて剣を振り降ろし、フリードの右肩から腹部目掛けて引き裂いた。

 

「ぎゃあああああああっ――!!」

 

 フリードは絶叫するがその絶叫は途中で止み、奴はそのまま白目を向いて倒れ伏す。誰がどう見ても致命傷だ。気絶したのはせめてもの生存本能だろう。もっとも、出血具合と傷の深さを考えると街がなく死ぬだろう。

 

 それを確認すると同時に『永遠に遥か黄金の剣』が砕け、身体の刺青が消える。物質化の限界時間に達したか。

 

 一気に肉体を疲労感が襲い、集中していた頭は頭痛で響くが、それらを堪えて傍に落ちていたい聖剣を『収得』で己の中に仕舞う。あとで全てゼノヴィアに返せば問題ないだろう。

 

 振り返って祐斗の方を見ると、どうやら向こうも決着がつくところのようだ。

 

 祐斗は突きの形で聖魔剣をバルパーの結界に突き刺していた。

 

 放電のような音を放ちながら徐々に防壁には皹が入り、それはどんどん広がって行く。

 

「馬鹿な。こんな馬鹿なことが有り得るのか!? 聖魔剣に八本目のエクスカリバーだと!? いいや、八本目の聖剣は兎も角、貴様の聖魔剣は絶対に有り得無い! 反発し合う聖と魔が合わさる等、ある筈が無い!」

 

 うろたえるバルパーはそのまま結界内で後ずさる。

 

「……終わりだバルパー。覚悟を決めてもらう」

 

 祐斗の宣言通りあと数秒で防壁は砕けるだろう。

 

 だというのに、バルパーはまるで別の事を考えるように恐怖に慄きながらブツブツと何かを呟き続ける

 

「……そうか、バランス。聖と魔のバランスがそもそも崩れているとしたら……だとしたら……魔王だけではなく」

 

 バルパーの呟きの最中。ついに防壁は砕かれ、祐斗はそのまま突貫し……バルパーの胸を貫いた。

 

「がはっ!? あが、か、がみも、すでにじんで……ごぼっ!?」

 

 祐斗が剣を引き抜くと共に、バルパーは最後に意味深な事を呟きながら仰向けに倒れ、血反吐を吐き……動かなくなる。

 

「……みんな、仇は取ったよ」

 

 祐斗は空へ向けて聖魔剣を掲げる。

 

 その姿を見届けたあと、背後へと振り返れば自分達を信じて戦いを見守ってくれていたみんなが駆け寄ってくるところだった。

 

 ……さて、良い雰囲気だが……あとはあれだな。

 

 自分は祐斗の立つ下で、今も尚輝く魔方陣をどう処理するか悩むのだった。とりあえず『豊穣神の器』を使ってみて、駄目だったらまた別の対処法を考えよう。

 

 そう考えながら、自分は掌を魔方陣へと置いた。

 




という訳で白野の新しい魔術と本来の神器の公開でした。正直イマージュはやりすぎたかもしれないと若干反省。しかし後悔は無い!



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【聖剣事件のその後】


いきなり後日談だと!?




「なんか釈然としないまま終わったんだが」

 

「まあ……な」

 

「身体は大丈夫なのかい白野君?」

 

「ああ。ただの生命力の消費による疲労と、身体を無理に動かした筋肉痛だけで済んだよ」

 

 祐斗、一誠、匙、自分の男四人でファミレスで話し合う……実は既にあの戦いから三日経っている。

 

「にしてもお前の神器、いやその神器に『収得』されている道具の能力マジでチートだな。魔方陣に込められた魔力すら吸収するのかよ」

 

 そう。結局魔方陣に込められていた魔力は自分の神器、いや神器だと思っていた『豊穣神の器』で全て生命エネルギーに変換する事ができた。お陰で自分が消費した分を回復できた。もっとも『物質化制御』で無茶な動きをした為にあのあと二日間ばかり筋肉痛で生活に苦労した。

 

「それにしても驚いたのは白野君の神器だよ。まさか本来の神器は別にあったなんて。よく気が付いたね?」

 

「知る機会が合っただけだよ」

 

 本来の自分の神器の名は『王の証』。

 

 その能力はシンプルだ。『ケルト神話派生の物の主権と所有権を得る。またその道具を己の概念に収納したり取り出したり出来る』と言ったものだ。

 

 前者は解かりやすく言えば自分はケルト神話の派生品なら無条件でそれを扱えるということ。後者は能力を行使できるという点を除けばギルガメッシュの王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)と殆ど変わらない。

 

 収納する時は『収得(アクイジション)』、取り出すときは『抜出す(エクストラクト)』と唱える必要がある。そして収得した状態でなら一つだけ能力を行使することが可能だ。

 

 もっとも、一番怖かったのは『なんで豊穣神の器を持っていたか』なんだけどね。

 

 そう。王の証は神器と言う理由はあるが、豊穣神の器の方も自分が生まれた時から持っていた物だ。

 

 ……誰かに渡された? だとしたら誰が?

 

「あとはあの白野の聖剣も凄かったよな。フリードが持ってた奴よりすげー綺麗だったし。前の白野仲間が使ってたんだよな?」

 

「ああ。あれはそれを再現したに過ぎない」

 

 一誠が興奮しながら自分が作った黄金の剣を褒める。

 

 みんなには物質化制御について詳しくは説明していない。過去の自分の仲間のスキルや武具、能力なんかを一時的に扱えるようにする魔術だとだけ答えた。

 

 理由は一応自分の切り札でもある為、他に情報を漏らされたくなかった。リアス先輩とかは聞かれたグレイフィアさんやサーゼクスさんに言っちゃうだろうしね。全容を知っているのは協力してくれた黒歌だけだろう。

 

霊子物質化制御(マテリアライズ)

 

 心象世界と繋がる事でそこにある知識と経験によって蓄えられた『情報』を数秒~数十分間『物質化』させ、それを魔力を送り続けて維持する。という魔術でその使用方法は三つの分類に分けられる。

 

 一つ目は技術や技能を己の身体に書き込み、その技術や技能を一時的に使いこなせるようになる『技能体現(スキルコード)』。

 

 デメリットは使用するのに肉体がその技術を扱うのにどの程度適しているかで肉体への負担が増減するところか、普段鍛えているのに剣を扱えるように変化させただけで二日も筋肉痛で身体を動かすのも辛かった。

 それとこのコードを使用すると右腕に刺青が浮かぶ。スキルを使っている証のようなものだ。能力が切れるにしたがって薄くなって行く。

 

 二つ目は一般的な装備品や道具から、概念礼装、サーヴァント達が使っていた武装等を具現化する。『礼装具現ミスティックコード』。

 

 特殊な効果を持つ物ほど具現時の消費が激しいが、その場合は効果を再現せずに武器として具現させれば、少しは消費を抑えられる。フリード戦ではこれを行った。ぶっちゃけサーヴァント達の武器ならその頑丈さだけでも十分に具現するに値する。

 

 それと試してみたが、どうやら自分がかつて所有していた礼装や特殊な品も、その説明文通りの性能を発揮するみらいだ。

 例えば『守り刀』を物質化したら、なんと破魔の力を宿した短刀が現れた。黒歌が言うには異形相手なら十分護身になりえる加護はあるらしい。短刀としては普通の強度なのであまり過信はできないとも言われた。

 

 三つ目は自分が目標としている『英霊顕現(サーヴァントコード)

 

 正直このために作った魔術だが、必要な魔力量が他を圧倒するほどの量となっている。

 サーヴァントの召喚には少なくとも魂、精神、肉体、保有スキル、保有装備と全ての情報を物質化する必要がある。そのため現在では自分、黒歌、レイナーレ、朱乃の全エネルギーを費やしても不可能だという結論に至った。

 

 そして一見万能そうな魔術だが、もちろん弱点がある。根本の弱点は二つ。

 

 一つ。物質化できるのは自分の内側にある情報のみということ。現実世界の情報は物質化できない。

 

 二つ。燃費が悪い。ただの武器として『永遠に遥か黄金の剣』を具現するのに黒歌とレイナーレのエネルギーをほぼ全て持っていかれた。剣術も、戦闘維持の為に常に自分のエネルギーを注いで維持していたが持って数分だった。

 

 まあ自分一人では物質化できるスキルや出来る品も限られる。それを上手く扱いながら、コードキャストと豊穣神の器を駆使して頑張るしかないだろう。

 

「にしても……やっぱり魔王様ってすげーんだな。広域暗示であの夜の出来事は俺達以外は誰も覚えてない」

 

 思案しかけた自分の意識が元士郎の言葉に引き戻される。

 

 またあの変な装置によるピカーだったんだよなぁ。もう少しこう、夢のある暗示の掛けかたがあったと思う。

 

「にしても、討伐に協力した白い龍のアルビオンの宿主ヴァーリか。まったく、どうせ宿命を背負うなら女の子との出会いなら良かったのに。あ、でも戦いの宿命って考えると男の方が良かったのか?」

 

 一誠が腕を組んで首を傾げつつ、若干どうでもいい事で悩み始める。

 

 それにしてもまた新しい奴が現れたのか。

 

 グレイフィアさんから聞かされたことだが、実際にコカビエルと戦ったのは、堕天使の長であるアザゼルがコカビエル粛清の為に差し向けたヴァーリという男性らしい。

 

 レイナーレが教えてくれたが、なんでもアザゼルが幼少の頃から面倒を見ていて、戦闘力だけで言えば堕天使の中でも一桁台には入る強者らしい。

 

 それに続くようにドライグが教えれくれたことだが、ヴァーリの神器は翼の形をした【白龍皇の光翼(ディバイ・ディバイディング)】と呼ばれる神器で、その能力は触れた物の力を十秒毎に半分にし、更に自分の糧に出来るというなんともチートな能力らしい。

 

 能力を効いた時に随分と反則だなぁと思った。チート能力の多い世界だ。羨ましい。

 

 それとドライグとアルビオンは互いの戦いに決着を付ける為に、自身を宿した人間を巻き込んで何度も戦い合っているらしい。

 

 この話を聞いた一誠がドライグに向かって怒りをぶつけていた。まぁ勝手にそんな戦いに巻き込まれていると知ったら、そりゃあ怒るわ。

 

「ヴァーリはコカビエルを圧倒したって言うし、今のままじゃ勝てそうにないな。俺ももっと強くならないと」

 

 一誠の良いところは自分の弱さを受け入れ、それを克服しようと努力するところだよな。

 

 一誠の諦めない姿勢に共感を覚えながら、他に起きた出来事を話し合う。

 

「そう言えば白野は良かったのか? せっかく聖剣が使えるって分かったのに教会に返しちゃってさ?」

 

「元々はゼノヴィア達の物だしね。それにあんな物を持ち続けたら教会に拉致監禁されて正規の聖剣使いにされそうで怖い」

 

 それに向こうが欲しいのは自分の神器だろう。便利な道具袋扱いされるのは目に見えている。なんせケルト神話がある西ヨーロッパは彼らのお膝元なのだから。

 

「……連中ならやりかねないね」

 

 元士郎の疑問に答えると、祐斗が呆れた表情で賛同してくれた。まぁ復讐を終えても、教会の組織に対する感情は別問題だから仕方ない。

 

「ま、今回の事件については今度の会談で話し合うって言っていたし、俺達下っ端は関係ないな」

 

「そう言えば部長が言ってたっけ。三陣営のトップ会談が開かれるって」

 

 ついに三陣営のトップ会談か。このタイミングと言う事はたぶん今後のお互いの方針についての話し合いだろう……しかし準備が良過ぎる気がする。もしかしてどの陣営も切っ掛けを待っていたって事か?

 

「それより一誠、白野、聞いたぞ……まずは一誠! お前今回頑張ったからって、アーシアちゃんとグレモリー先輩に裸エプロンで添い寝して貰ったんだってな! そして白野、おまえハーレムに姫島先輩まで加えたんだってな!」

 

 元士郎がこの世の全てを呪うかのような、おどろおどろしい表情を一誠と自分へと向ける。

 

「い、いや~あははは。まぁ、あれだ、うん。俺が言えることは一つ。あれは……良いものだ」

 

「まあ将来を誓っちゃったし」

 

「爆ぜろ!! なんだよこの差は! 俺だって頑張って結界張って次の日ヘトヘトになりながら学校行ったら『みんな良く頑張りました』で終わりだぞ!」

 

 元士郎がありえないとばかりに天を仰ぎながら叫ぶ。

 

「匙君落ち着いて、お店の迷惑になるから!」

 

 祐斗が必至に宥めるが効果はいまいちのようだ。

 

「はぁ~~。俺の会長を嫁にするって目標はまだまだ遠いなぁ。そういや、お前らの夢、つうか目標ってあるの?」

 

「俺はもちろんハーレム王だ!」

 

「知ってる。個人的にはそっちの二人に聞いてる」

 

 一誠が胸を張って答えるが、元士郎は雑に対応してこちらに話を振る。

 

「僕は……正直今はそういうのは無いかな。とりあえずみんなに迷惑をかけた分、これからはグレモリー眷属の『騎士』として精一杯頑張るつもりだよ。今度こそ、僕自身の意思でね」

 

 そう答えた祐斗の笑みは少し幼く見えたが、自信に満ちた曇りの無い良い笑顔だった。

 

「良いんじゃないか? 自分もそう言う夢とか無いし」

 

「へー意外だ。白野はなんと言うか、人生設計はもう考えてるのかと思ったよ」

 

「そうでもないさ………正直いきなり三人の嫁さんを得てしまってどうすればいいのか……どうやって養えば……」

 

 全員子供は欲しがってるから最低でも一人は作るとして、自分と父さん母さんを入れて将来九人の家族を養う方法……う~ん……もっと勉強は頑張った方がいいか? それとも手に職をつけるべきか?

 

「おおう、物凄く重い理由だった。なんかゴメン」

 

 自分が真剣に悩んでいると元士郎が物凄く慌てて謝って来た。

 

 一誠も『そうか、俺もそういうの考えないといけないのか』と感心すると共に似たような表情で悩み始めた。

 

「あ~この話題は止めよう。でもそっか、今更だけどこの中じゃ人間なのはもう白野だけな訳だから、俺達は大人になったらいずれ冥界に行かなきゃいけないんだな」

 

 元士郎の言葉に今度は祐斗も含めて全員が黙ってしまう。

 

 ……確かにそれは寂しいが、まあ仕方ない。

 

「まだまだ先の話だろ? とりあえず今は目先の事だな。これからもきっと何かあると思う」

 

 とりあえず空気を変える為に率先して話題を振ると、元士郎がそれに乗ってくれた。

 

「うわ~そう考えると今年一年はかなりしんどい事になりそうだ」

 

「そうだね。一誠君の死亡事件以来、まるで何かに引き寄せられるかのように色々な事が起きているよね」

 

「待て木場。その台詞だと俺が元凶みたいに聞こえるだろうが。確かにドライグの話だとドラゴンは災いを呼ぶらしいけど。あ、あと女の子も寄って来るらしいから今から楽しみだぜ!」

 

「おい白野、お前の魔術で壁を作ってくれ。壁パンの時間だ」

 

「嫌だよそんなエネルギーの無駄遣い。自腹で代行に頼んでくれ」

 

「あはは、一誠君はブレないね」

 

 結局その後は四人で他愛ない話をして、三人は悪魔の仕事があるので学園に向かい、自分だけで帰宅する。

 

 

 

 

 一誠達と別れて、改めて自分の陣営の戦力を鑑みる。

 

 基本家の最大戦力は黒歌だ。彼女は遠近どちらにも対応できるオールラウンダーとしての強さがあるし、仙術や魔術による結界術も得意で、普段からのサポートもこなせると、まさになんでもこなせる天才だ。

 

 逆にレイナーレは今のところ一番弱い。そのことは本人も自覚しているらしくサポートに徹すると公言している。黒歌や朱乃から魔術を色々教わっているらしい。縁の下の力持ちになりそうで今から楽しみだ。

 

 そして新しく加わった朱乃。彼女は完全な遠距離タイプだ。今はトラウマを克服する意味も含めてレイナーレから光力の扱いを習っている。レイナーレの性格が普段のリアス先輩に似ているせいか、そこまで険悪な関係にはなっていない。

 

 早朝訓練では主に体力作り以外では自分達のマネージャーのような感じになっている。そして平然とセクハラしてくる。流石に今後は注意を厳しくしている。じゃないと他の二人もやりかねないからな。

 

 そして今日……自分にはあるイベントが待っている。

 

「……お待たせしました白野君」

 

 やって来たのは裸に白無垢といった格好で、お風呂に入ったばかりなのだろう。肌を赤くし、髪を僅かに湿らせた朱乃がやって来た。

 

「……優しくしてくださいね」

 

 そういう彼女の瞳は……猛禽類の目をしていた。

 

 アカン。これまた自分が食われる側だわ。

 

 

 

 

 窓から差し込む朝日と雀の鳴き声で目が覚める。

 

 結局予想通りの結果となった……。

 

 襲われる女性の気持ちが解かった気がする。

 

 隣を見れば、幸せそうに寝息をたてる朱乃の可愛らしい笑顔があった。

 

 ……まあ幸せそうな寝顔が見れたからいいか。

 

 我ながら単純だなと思いながら、それでもそれで自分も幸せを感じるのだから、まぁいいかと開き直り、しばらくその寝顔を眺める事にした。

 

 




という訳でエクスカリバー編はこれ終了です。
急に時間飛ばした理由は後始末を書く労力と、全部白野の回想で済ませるのも内容的には一緒だと判断したので、丸々一話に纏めました。コカビエルも出ませんからね。
という訳で次回から三陣営の会談編ですね。ギャスパー君がやっと出てくるぞ!




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【堕天使総督との邂逅】


お待たせしました。
ようやく新章である会談編に入ります。




 聖剣事件から既に数十日。季節は夏へと移っていた。

 

 その間は特に目立った事も無く平和な日々を送っていた。

 

 黒歌とレイナーレと朱乃と早朝訓練したり、学園でみんなと笑い合ったり、朱乃のセクハラに対抗して黒歌とレイナーレのスキンシップが一時期過激になったり、以前よりもさらに親しくなった祐斗と自分を見てクラスメイトの一部が発狂したりと、まぁ特に変化の無い日々だ……あれ?

 

「どうしたにゃん御主人様?」

 

「何かあったの?」

 

「何か気になることでも?」

 

 休日の早朝訓練を終えた帰り道、平穏な日常の回想のはずなのにおかしな部分があったような気がして首を傾げる自分に、頭の上の黒歌と隣を歩くレイナーレと朱乃が訝しげな表情をする。

 

「いや、なんか感覚が麻痺しているような気が……うん、深く考えるのは止めよう」

 

 少なくとも命のやり取りがあった訳ではないのだから問題ないはずだ。

 

 そんな風に結論付けて考えるのを止めて視線を前に移す。

 

 すると目の前から透明な堕天使の翼を生やした黒髪の前髪に金のメッシュをいれ、顎鬚を蓄えた浴衣姿の男性がこちらに歩いてくるのが見え、足を止める。

 

 ここは悪魔の管轄だぞ。なんで堕天使が?

 

 コカビエルの件があるのでその場で注視していると、黒歌も気配に気付いたのかそちらに視線を向け、自分と黒歌の反応から何かあったのかとレイナーレが視線を向けた瞬間――彼女の目が驚愕に見開いた。

 

「そんな……なんであの御方が……」

 

「レイナーレ?」

 

 驚いた表情のまま固まる彼女に声を掛けるが、レイナーレは殆ど反応しない。

 

「ようレイナーレ、久しぶりだな。元気にしてたか?」

 

 声の届く距離まで男性が近付くと、彼は気だるげな表情のまま口元に笑みを浮かべて軽く手を振る。

 

 ……レイナーレを知っている? いや、堕天使なんだから当たり前か。

 

「なあレイナーレ、あの人は知り合いか?」

 

 とりあえず強めに彼女の肩を揺すって問いかけると、彼女は呆けた状態から意識を取り戻すと慌ててこちらへと振り返った。

 

「し、知り合いも何も! あの御方が堕天使達の総督であるアザゼル様よ!」

 

「ははは! ま、そういうことだ。興味深い人間」

 

 レイナーレの言葉を肯定しながら笑う男性。そうか、こいつがアザゼルか。

 

 ならばやることは一つ!

 

 ノーモーションから思いっきり拳を叩きつける。が、それはあっさり回避される。

 

「おいおい、いきなりなんだよ?」

 

「……自分に殴られているべきだったな。アザゼルさん」

 

「なに――ぐは!?」

 

 訝しんだ表情をしたアザゼルの横顔に黒歌のネコパンチ(本気(ガチ))が炸裂する。因みに本気と書いてガチと読むらしい。

 

「あ、アザゼル様ぁぁ!? ちょっと何してるのよ二人共!?」

 

「ふっ。わたし達は誓ったにゃん。いつかアザゼルと出会ったら……」

 

「とりあえず一発殴っておくと!」

 

 黒歌と共に倒れ伏すアザゼルを指差す。

 

「だからって殴り飛ばすことないじゃない!」

 

「でも本人もノリノリで吹っ飛んだぞ?」

 

「え?」

 

「そうにゃん。わたしのパンチが当たった瞬間に自分から後方に跳んで威力を減らしたにゃん。つまり、あそこで大げさに倒れてるのは演技にゃん」

 

 黒歌の拳は確かに当たっていたが、当たると同時にアザゼルは自分から後方に思いっきり跳ぶことで威力を軽減させた。その上であんな派手に吹っ飛んで見せたのだ。意外に芸人気質なのだろうか?

 

「おいおい人が折角ノってやったのにネタバラしするなよな」

 

 そう言って苦笑しながらアザゼルは立ち上がって浴衣の埃を落す。

 

「さて、とりあえず満足したかいお二人さん?」

 

 アザゼルの言葉に黒歌と共に頷く。

 

「それで? 堕天使の総督がいったい何の御用でしょうか?」

 

 朱乃が警戒心全開と言った感じで目を細めて尋ねると、アザゼルはとくに気にした様子も無く頭をかきながら答える。

 

「いやなに、今度この街で三陣営の会談を行う事になったからな。ついでに元部下の様子や赤龍帝、そして神器だけじゃなくて聖剣まで扱え、しかも妖怪、悪魔、堕天使を嫁にした奇特な人間を見に来たって訳だ」

 

 ふむ。敵情視察のようなものだろうか。一応この街は悪魔の支配圏な訳だし……って、なに?

 

「この街で三陣営の会談を行うのか!?」

 

「おう。場所はまだ決まってないがこの街で行うことだけは決定済みだ」

 

 それがどうかしたのかって顔で顎鬚を撫でるアザゼル。しかしこちらはそれどころではない。

 

 おいおい、そんな重要な事をこの街で行ったらこの街は更に危なくなるじゃないか。

 

 例えば三陣営の会談そのものに否定的な感情を持っている奴とかもいるはずだ。そいつらが攻めて来る可能性だってある。

 

「さて、話は変わるがまだ朝飯を食ってなくてな。どこかで落ち着いて食える店を教えて貰えるか? なんなら奢ってやるから一緒にどうだ?」

 

 どうやら堕天使の総督様はすんなり家には帰してくれそうにないみたいだ。

 

 はぁ。とりあえず話が長くなるようならファミレスでいいか。

 

 

 

 

 母さんに電話で友人とフェミレスでご飯を食べる事になったと伝え、気前良く奢ってやる発言をしたアザゼルさんと共にファミレスでモーニングを頼みながら向こうの質問に答えて行く。

 

 まぁもう周知の能力に関しては説明しても問題ないだろう。牽制にもなるし、細かい部分は言っていないしな。

 

「かあ~面白い研究材料が目の前にいるのに手を出せないっていうのは歯痒いぜ。いっそウチに来ないか? ウチは人間でも大歓迎だぞ?」

 

「お断りします。そもそも自分は三陣営のやり方には人間として思うところもあるので」

 

 例えば悪魔だが、彼らは力があるからという理由で『悪魔の駒』を使って他種族を悪魔に転生させている。

 

 天使は教会の人間を使っているが、アーシアやバルパーの対応、そして一誠から聞かされたゼノヴィアの来訪時の対応を見るに、正直一般人を護る気があるのか疑わしい。

 

 堕天使も神器を持つ人間を殺したりもしていることを考えると、人間としては三陣営のどこかに属するのは正直遠慮したい。

 

「ふむ。まぁ、人間のお前の立場だと俺達のような存在に思う所も多いだろうな。じゃあ良い話を一つ。実は俺は今回の会談で和平を申し出るつもりだ」

 

「なっ!? 本気ですかアザゼル様!」

 

 レイナーレがアイスの乗ったスプーンを落すほど動揺しながらアザゼルに再度尋ねると、彼はしっかりと頷いてみせる。朱乃先輩も驚き固まっている。関係の無い黒歌だけはもくもくと目の前のアイスを頬張っている。

 

「おう、本気も本気よ。つーか、他の二人、ミカエルとサーゼクスも口にはしてないか同じ考えだろうぜ。ぶっちゃけ和平自体は全員前々から考えていたのさ。だがその為の切っ掛けが足りなかった。しかし今回の一件には三種族全員が全員に『落ち度』があるって事に出来るわけだ」

 

「……堕天使が犯人であること、天使側の聖剣の管理不足、悪魔側が事が起きるまで事件を解決できなかった。こんなところかな?」

 

「……なるほど。それで現状の管理体制の脆さを理由に和平に持ち込んでしまおう。というのが所謂各陣営の穏健派の考えってことね」

 

 自分の言葉を引き継いで朱乃が答える。

 

 そういうこった。と言って笑うアザゼルはドリンクバーで作ったオリジナルミックスジュースを飲み、『う、これは失敗だな』と苦い顔をする。

 

「しかしアザゼルさん。穏健派が手を組む以上、過激派だって手を組むんじゃないか?」

 

 自分の言葉にアザゼルが、ごもっとも。と答える。

 

「白野の言う通りさ。でもだ白野、実は既に過激派の連中が種族間の枠を超えて手を結んでいたとしたらどうだ?」

 

 アザゼルさんの言葉に自分を含めた全員が目を見開く。だが……なるほどと納得も出来る。

 

「……その場合だとむしろこちらは後手に回っている以上、多少強引にでも理屈を作って協力関係を結ぶ必要がある。ということか?」

 

「ははは! ま、そういうことだ。そいつらの名は『禍の団(カオス・ブリゲード)』。種族の垣根を越えて互いの利害が一致していれば協力し合う所謂テロリストどもだ」

 

 頭が痛くなった。つまり何か? そいつらがもしかしたらこの街に責めてくるかもしれないのか?

 

 会談の場所がどこになるかは分からないが、少なくともリアス先輩が暮らしているのだから狙われる可能性はあるだろう。

 

 こちらが今後に不安を抱いているとアザゼルが苦笑する。

 

「さて、これは本来オフレコなんだが、近々お前に俺達三陣営から贈り物がある」

 

「……どうして人間の白野君に三陣営が?」

 

 朱乃が険しい表情でアザゼルに尋ねる。

 

「まず公的理由だが、今回の事件は三陣営に多大な被害を与えかねない事件だった。その手助けをした人間に褒美を与えるのは当然だろ? ま、褒美をやるから黙っててくれって意味もある」

 

 まあ当然と言えば当然の処置か。だがそれなら記憶を消したりすればいいと思うが……嫌な予感がするな。

 

「で、次に私的な理由だが……はっきり言う。俺達三陣営のトップは互いに口にはしてないが、お前が得ている戦力をこの街を守る為の一つの戦力と考えている。贈り物はその為の戦力増強って訳だ」

 

「なっ! そっちの事情に勝手に御主人様を巻き込むんじゃないわよ!」

 

 今まで興味を示さなかった黒歌が、初めて怒鳴り声を上げてテーブルを叩くが、アザゼルは苦笑して肩を竦めて見せる。

 

「安心しろ。別に組織に属しろとか、積極的に関われだとか、こっちの命令を聞けって言う訳じゃない。さっき白野は感付いていたが、この街はこれから色々荒れる可能性がある。お前らだって自分が住む街で問題が起きたら動かざるをえないだろ?」 

 

「そりゃ、そうだけど……」

 

 黒歌が言い淀む。そんな黒歌の変わりにアザゼルさんを見据える。

 

「つまり自分達は自衛として動くだけでいい、と言う訳ですね。それが結果的に事件解決に繋がれば良し、といった感じですか?」

 

「おう、その通りだ。お前らはただお前達の守りたいもんを守ってくれればいい……んじゃ、今後ともよろしくな」

 

 最後にそう言ってアザゼルさんは去って行った。

 

 やれやれ贈り物って、何を送ってくるつもりなんだか。

 

 だんだんと後戻りできない場所に踏む込みつつある不安を感じながら、みんなで溜息を吐いた。

 

 




個人的にはアザゼルは三陣営のトップでもかなり理解のある人だと思う。というか三陣営のために積極的に働いてるの、この人くらいな気がしてしょうがないのは私だけ?



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【プール回】

という訳で水着回です。それだけです(笑)




「あ~みんなどんな水着かなぁ。楽しみだ!」

 

「イッセー君鼻血!? 妄想だけでホントに鼻血出す人なんて初めて見たよ!?」

 

「……昨日女性陣だけで買い物に行ったのは水着買う為か」

 

 プールサイドで学校指定の水着だけ着て上半身を晒す男三人。一人は鼻血を出し、一人はそれに驚き、一人は片手無し……他人から見たらどう映るだろう。

 

 今日は休日だがオカルト部が掃除をする代わりに今日一日プールを貸し切って遊べる事になっている為、その手伝いをお願いされた。

 

 まぁ掃除と言っても藻が張り難い薬が使われているからそこまで大変ではない……小さい虫でキャーキャー言ってたのはリアス先輩とレイナーレくらいだろう。なんだかんだで他の人は無慈悲にさっさと駆除していた。あのアーシアですらやっていた。

 

『掃除中は虫への情けは無用ただし益虫は除くとシスターに教わりました』

 

 まぁ病気とかの元にもなるし仕方ないね。運が良い連中は逃げられただろう。

 

 そして掃除が終わり、女子を待っていること十数分……なんか紺色の桃源郷がやってきた。

 

「全員スク水とは意外」

 

「まあ、イッセー以外もいるし」

 

「白野君以外の殿方に肌を過多に見せるつもりはありませんわ」

 

 そう言って現れたのは学園指定の水着を着たリアス先輩と朱乃。

 

「本当はもっと過激なのにしようと思ったのだけど、まぁそれは夏のお楽しみにね♪」

 

「ふふふ、白野君も楽しみにしていてくださいね」

 

 ……あれ? もう海かプールに行くのが決まっているのか?

 

 楽しげに語り合う二人の会話に知らぬ間に夏休みの予定が一つ確定した気がした。

 

「……これはこれで圧迫された胸の躍動感が素晴らしい」

 

「気持ちは分かる」

 

 イッセーがなんというか、物凄くイイ笑顔で拳を握って小さくガッツポーズを取る。そんな一誠の言葉に同じようにガッツポーズしながら頷く。

 

「お待たせしました」

 

「……イッセー先輩は相変わらずです」

 

 次に現れたのはスク水を来たアーシアと小猫ちゃん。なんというか……二人を一言で表すなら――。

 

「王道は至高」

 

「然り」

 

 自分の言葉に一誠が短くも感嘆を込めて答えてくれた。さすがはソウルブラザーである。

 

「ふ~ん。これが人間界の水着にゃん」

 

「もっとセクシーなのが良かったわ」

 

 最後に現れたのは教師用の学園指定のワンピース型の水着を着た黒歌とレイナーレだ。

 

「……禁忌という名の甘美には叶わない」

 

「くっそ羨ましい! 羨ましいぞ白野!」

 

 本来ならセクシー系の水着を好んで着そうな二人が、逆に大人し目の水着を着ることで彼女達の本来の裸体の魅力を底上げする結果となった。まさにギャップ効果!

 

「というか、やっぱ美人は何着ても美人だって事が証明された気がするね」

 

「「確かに」」

 

 最後の纏めのように呟いた祐斗の言葉に男衆が頷いた。

 

 

 

 

「ごご、御主人様。放さないでね。放さないでね!」

 

「大丈夫だから」

 

 バタ足しさせながらこちらを不安そうに見詰めてくる黒歌の手を引きつつ答える。

 

「意外です。姉さまにも苦手な事があったなんて」

 

「一緒に練習できて嬉しそうだね小猫ちゃん」

 

 隣で同じく祐斗に手を引かれながらバタ足する小猫ちゃんが祐斗の言葉に頬を赤くさせる。

 

「すいません一誠さん」

 

「気にするなアーシア、誰にだって初めてはあるさ」

 

 更に隣でアーシアの手を引くのは一誠……どうしても彼の発言がエロ方面に聞こえてしまうのは自分が悪いのだろうか?

 

「くっ。なかなかやるわねレイナーレ」

 

「ふん。伊達に毎日訓練してないわ」

 

「あらあら」

 

 反対側のプールサイド側ではリアス先輩とレイナーレが勝負していた。朱乃先輩はそれを見ながら浮き輪に乗って優雅に微笑んでいた。

 

 しばらくは泳げない組みと泳ぎの練習をしたあと、ビーチボールで水中バレーをしたり、競争したりと、みんなで今年初のプールを堪能した。

 

 

◆ 

 

 

「ふう。堪能したなぁ……ん?」

 

 先程までの光景を思い出しながら、一足先に着替え終えた俺は集合場所の校門に向かう途中……そいつを見つけた。

 

 校門の前で校舎を見上げる銀髪の男性。正直絵画や写真にでも収めて飾れば全員が全員足を止めるのではないかと言うほど、男性のその姿は絵になっていた。それくら……目の前の男はイケメンだった。

 

 またイケメンか!

 

 内心でそう叫んでいると、男性がこちらへと振り返って口を開いた。ヤバイ、口に出してたか?

 

「やあ。いい学校だね」

 

「あ。そ、そうですね。はは……」

 

 内心焦りながら可能な限り爽やかに笑って答える。もしかして転校生かなんかか? でももうすぐ夏休みだし、もしかして若く見えるけど臨時の先生とか?

 

 そんな事を考えていると男性がこちらの予想とはまったく違う言葉を口にした。

 

「俺はヴァーリ、今代の白龍皇だ」

 

 男性、ヴァーリの言葉に自分が反応するよりも早く左腕がまるで脈を打ったかのような反応を見せる。

 

(ドライグ? まさか……)

 

(ああ間違いない。こいつが俺とお前の宿敵だ)

 

「初めまして。正直言えば前回の事件の時にでも邂逅できればと思ったのだが、まあ魔王が出てきた以上は仕方ない」

 

 そう言って静かに笑うヴァーリ。そんなヴァーリの思惑が解からずに困惑しながらも、ドライグを宿した事による本能なのか、咄嗟にその場で身構える。

 

 いや身構えた理由は解かってる。ヴァーリから放たれる静かな威圧感のせいだ。

 

 ただそこに居るだけなのに自分はヴァーリとの間に致命的な力の差を感じ取ってしまった。

 

 目的はわからない。だがもしも目的がドライグの言っていた宿命の対決だったりしたら……俺は間違い無く死ぬ。

 

 相手の意図が理解できない不安と明確な死への恐怖で身体が強張る。

 

 そんな俺の反応を見て、ヴァーリは不敵な笑みを浮かべる。

 

「そうだな。ここでもしも俺が兵藤一誠に魔術をかけるとしたら――」

 

 そう言ってヴァーリはほんの僅かな敵意を放った。

 

 次の瞬間――奴の背後から首元に聖魔剣を突き付ける木場が現れる。木場、わざわざ『騎士』の恩恵を使って駆けつけてくれたのか。

 

「……その手を下げて貰おうか」

 

 木場の一言にヴァーリはしかし不敵な笑みを崩さずに手だけを下ろす。

 

「気概は買うが無理しない方がいい。手が震えているぞ?」

 

 ヴァーリの言葉に、視線を祐斗に移せば、確かに祐斗はわずかに身体を震わせていた。

 

「……もっとも、あっちの彼には自分も驚かされているけどね」

 

 そう言ってヴァーリが俺から視線をずらし、校舎へと向ける。それに続くように俺も視線を移し――一度だけ身震いする。

 

 そこには今まで見た事が無いほどの真剣な表情でその手に青く光る札を構える白野の姿があった。

 

「彼もグレモリーの眷属かな? ここまでの鋭く射抜くような闘気を放たれたのは久しぶりだ。もし俺が兵藤一誠に触れていれば、彼は迷わずにあの奇妙な札を使っただろうね」

 

 そう言って、ヴァーリは敵意を完全に収める。それを見届けても祐斗も白野も攻撃態勢を解く事はしない。そしてヴァーリもそれを気にする様子がない。

 

「だが少し安心した。どうやら敵との力量差を見極められるだけの実力はあるみたいだな。コカビエルごときを倒せないと聞いて不安だったが」

 

 上から目線でそう口にするヴァーリ。本音を言えば言い返してやりたいが、奴から感じる力からグレイフィアさんが言っていた言葉が真実なのだと実感してしまった。

 

『白龍皇はコカビエルを圧倒しました』

 

 そんな相手に勝てるのか?

 

「ふむ、唐突だが兵藤一誠。君は自分がこの世界で何番目に強いと思う」

 

 ……は?

 

 言葉通りまさに唐突にヴァーリはそんなよく解からない質問を投げかけてきた。

 

「……少なくとも下から数えた方が早いのは自覚してるさ」

 

 自分なりに質問の意図を考えてそう答えると、ヴァーリは首を横に振る。

 

「そう謙遜する事はない。少なくとも四桁台の前半にはいるだろう」

 

 ……それは喜んでいいのか?

 

 あまりにも微妙すぎるヴァーリの答えに怪訝な表情をするが、当のヴァーリはこちらの表情が意外だったのか首を僅かに傾げたが、すぐに表情を戻して続きを口にする。

 

「この世界には強者が多い。知っているかい? 三陣営の幹部ですら、その実力は良くて二桁代だ。トップ10にすら入らない」

 

 おいおいマジかよ。魔王、それもサーゼクスさんですら二桁台だって。

 

「だが一位は決まっている――不動の存在がいる」

 

「……それが自分だって言いたいのか?」

 

 つまり力自慢か?

 

 そう思って答えたが、ヴァーリは苦笑して肩をすくめる。

 

「いいや違う。君もいずれ解かるさ。それとリアス・グレモリー、兵藤一誠は貴重な存在だ。しっかりと育てておくといい」

 

 ヴァーリがまた視線を俺の後ろに向ける。背後から足音が聞こえ、その音が隣で止まる。視線を向ければ不機嫌な表情で雄々しく立つ部長の姿があった。

 

「言われなくても。それで、堕天使の総督の懐刀がいったい何の用かしら?」

 

「そう警戒しなくいい。ただ俺もアザゼルと一緒で仕事以外の暇な時間に今度の会談の為に散歩していただけだ。もちろん、赤龍帝に運良く遭遇しないかと思っていたけどね。今日は本当にただの顔見せさ」

 

 ヴァーリはそれだけ言って踵を返す。

 

「祐斗」

 

 部長の言葉に木場が聖魔剣を下げて道を譲る。

 

 ヴァーリが数歩進み、最後に一度こちらに振り返る。

 

 いや、俺じゃない。

 

 最後にヴァーリが見たのは白野だった。見れば白野はいまだに札を構え、鋭い視線でヴァーリだけを見据えている。

 

「ふ……」

 

 ヴァーリは最後に小さく笑みを作って今度こそ俺達の前から去って行った。それを確認した白野が、ようやくその手から札を消す。

 

 楽しい気分がいっきに沈む。

 

 あれが、俺がいつか倒さなければならない相手。

 

 自分の両手を見据えながら、俺の心に僅かな不安が浮かび上がっていた。

 




という訳で原作と違って紺色桃源郷でした。
いやね。多分リアスや朱乃の流れ的にこっちになると思ったんです。
黒歌とかの過激な水着は……原作の夏休み編で書くかもしれない。



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【魔王少女が繋いだ絆】

という訳で授業参観回。メインはタイトル通りです(笑)




 ヴァーリとの邂逅から数日が経った。

 

 今でも思い出す度に背筋に寒気が走る。

 

 白竜皇のヴァーリ。奴は間違い無く強者だ。それも……やっかいなタイプ。

 

 サーゼクスさんやグレイフィアさんも存在するだけで『あ、勝てない』と思わせる気配を放っているが、彼らはそれを極力抑えている。

 

 しかしヴァーリは違う。奴は自然と漏れるその気配を隠すつもりすら見せなかった。つまり戦う気があるということだ。一誠が手を出していたら間違い無くあの場に自分や祐斗が居ても戦闘を始めていたかもしれない。

 

 まぁ軽くあしらわれて終わりだろうけど。

 

 それくらい、自分達と奴との戦闘力には差がある。

 

 ただし差があるからと言って勝てないわけじゃないけどな。問題は一誠だったが、なんとか持ち直したようで良かった。

 

 一誠はアーシアやリアス先輩の励ましでなんとか気持ちを持ち直したらしい。というよりも持ち直さないとやってられない行事がもうすぐ自分達に降りかかろうとしている。

 

 そう、公開授業の日だ。

 

 忘れがちだが駒王学園には高等部の他に中等部が存在する。

 

 その中等部の後輩や親御さんが高等部の授業の見学に来るのが公開授業なのだが……何故か高等部の生徒の御家族も見学できるようになっている……故に自分達高等部は公開授業とは呼ばず『授業参観』と呼んでいる。

 

「ふんふ~ん♪なに着て行こうかしら、あなた♪」

 

「ふふ、君は何を着ても可愛いけど、僕は無難にスーツだから逆に君が明るい服を着るのはどうかな?」

 

 なんて感じで今日も家の両親はイチャイチャと明日の授業参観に着て行く服を選んでいます。

 

「……わたしも行った方が良いかしら?」

 

「わたしも行きたいにゃ!」

 

「勘弁してください」

 

 期待した目を向ける二人に土下座して勘弁してもらう。どう紹介しろと言うのか。

 

 

 

 

「そして当日がやってきてしまった」

 

 誰にともなく呟く。

 

「今日は白野君のご両親も来るんだよね?」

 

「ああ……そう言えば今日うちがやる授業ってなんだっけ?」

 

 何故かド忘れてしまって少し慌てて祐斗に尋ねる。

 

「歴史だよ。因みにイッセー君のクラスは英語だね」

 

 ああそうだ思い出した思い出した。

 

 慌てて歴史の教科書を取り出す。

 

「ありがとう祐斗」

 

 お礼を伝えると祐斗は気にしないでと言うように笑って手を軽く上げて答えてくれた。最近の祐斗はだいぶ明るくなったと思う。

 

 前はどこか一歩引いて自分からは近付いてこない印象だったが、今はそういう気後れと言うものが無くなった。そのおかげか、クラスのみんなと話す姿をよく見かける。

 

 祐斗のそんな姿を確認していると、予鈴が鳴って教師がやってくる。そして後ろのドアから中等部の後輩達と見知った両親が入ってきた。

 

 ……母さん。桜色のワンピース、似合い過ぎです。

 

 周りから『え? なんで子供が』って感じの視線を向けられているにも拘らず二人は笑顔でこちらに手を振ってくる。

 

 さすがは数十年その視線を向けられていただけあって、二人共鋼の精神の持ち主だ。

 

 そんな両親に自分も手を振り返す。するとクラスメイト達がさすがに驚いてた。気持ちは痛いほど解かる。

 

 そして二度目のチャイムが鳴り、授業が開始される。

 

「さて、今回は少し趣向を変えます。隣では何故か英語なのに粘土を題材にしていますが、わたしはちゃんと歴史を踏まえて題材を出したいとも思います」

 

 ……何故英語なのに粘土?

 

 クラスメイト全員が首を傾げた。

 

 その間に先生が黒板に文字を書く

 

「せっかくですので本日は『英雄と歴史』についてです。大きな事柄には必ず後に英雄と呼ばれる程の偉業を成す者達が現れます。例えば源義経。彼は後に源氏の英雄的存在として語られますが、当時の彼は同じ源氏によって悪とされ裁かれてしまいます。しかし彼の行いは……」

 

 先生の授業はその後も英雄と歴史は切っても切れない存在である事を主軸として、日本や海外の有名な歴史の背景を主要人物の人生を主軸とする事で解かりやすく解説し、中等部の子達は面白そうに話に聞き入っていた。

 

 そして授業が終わった途端――クラスメイトから質問攻めに合った。

 

「あのロリっ子お前の妹か!?」

 

「あの男性はお兄さん!?」

 

 そいて自分はお決まりの台詞を言う。

 

「いいえ父と母です。もうすぐ四十後半です」

 

 そして恒例の一瞬の静寂……そして誰かが真顔で呟く。

 

『え? マジ?』と。

 

 こういう時のために家から証拠写真として自分が中学生の頃の家族写真を見せる。

 

 クラスメイト全員が愕然とする。

 

「馬鹿な。まさか噂の永遠の幼女(エターナルロリータ)が実在し、クラスメイトの母親だと!?」

 

「街の駅で噂の微笑みのリーマンがクラスメイトの父親だと!」

 

「おいなんだその二つ名は! 息子の自分も知らないぞ!」

 

「究極ロリと極限のイケメンの遺伝子……はっ! だから白野もモテる!」

 

「「それだ!!」」

 

 どれだ!?

 

 まだ後輩が全員退室していないのに、そんなの関係ないとばかりに騒ぐいつものクラスの状況に、頭がくらくらした。

 

 

 

 

「はあ、疲れた」

 

 紅茶のパックを飲んで一息入れる。昼休みに入って母さん達は一誠の両親と学園を見て周ると言って分かれた。

 

 レイナーレお手製のお弁当を祐斗と一緒に食べ終えたあと、ちょっと一息つきたかったので購買の自販機でお茶を買ってその場で飲み乾し、自分の教室へと向かう。因みにお弁当は日替わりで明日は黒歌のお弁当だ。

 

 黒歌は必ずお弁当にハートを描くからクラスで爆ぜろ祭りが繰り広げられるからなぁ。

 

「――でさ、さっき上の階の廊下で魔法少女の撮影会が行われてたみたいだぜ」

 

「いや魔法少女ってなんだよそれ。イタ過ぎるだろ。ところで――」

 

 通り過ぎ様に生徒達の噂話の断片が聞こえ、思考がお弁当からそちらに切り替わる。

 

 魔法少女……母さんはその辺りの分別はしっかりしてるからさすがに無いか。

 

 一瞬ヒラヒラの桜色のゴスロリファッションで関西弁の人形を連れた魔法少女の母親の姿が脳裏を過ぎったが、さすがにそれは無いだろうと苦笑と共に頭から追いやる。

 

「うお!?」

 

「きゃっ!?」

 

 そんな馬鹿な事を考えていたせいか、曲がり角から勢いよく飛び出してきた誰かとぶつかってしまい、不意打ちと相手の勢いが思いの他あったせいか、そのまま崩れるように仰向けに倒れる。

 

「ぐっ!」

 

 なんとか相手を抱き止める事に成功するが代わりに後頭部を打ち付けてしまう。物凄く痛い。

 

「あ、ごめんなさい」

 

「あっと、その声は支取先輩?」

 

 まだ視界が軽くぼやけているので尋ねると首を縦に振る仕草が見えた。

 

「え、ええ。本当にごめんなさい。すぐに保健室に行きましょう」

 

 自分の身体の上で支取先輩が上半身を起こす。その時、遠くから何かが落ちる音がした。

 

「そんな……」

 

「あ、お、お姉さま!?」

 

 んん? お姉さま?

 

 ようやく視界がはっきりして見上げると、自分にまたがり上半身を起こして驚いた表情で振り返っている支鳥先輩を捉える。

 

 何事かと首だけ動かしで彼女の視線の先を見ると……顔を青くさせた魔法少女らしき格好の女性がいた。

 

「どういうことなのソーナたん! わたしと言うお姉ちゃんがいながら白昼堂々と男の子を襲うなんて! 不純異性交遊反対! 不純同姓交遊賛成!」

 

 えぇぇ……。

 

 目の前で支取先輩の姉と名乗った女性は、涙目になりながらそんな見当違いなことを堂々と叫んだ。というかなんだ不純同姓交遊って! この学園でそんな発言したら本気にする奴が多発するから止めろ!!

 

「ちちちち違います! 月野君とは廊下でぶつかって!」

 

「ぶつかったらお互いに尻餅をつくもんだよ! なんで馬乗りなの!」

 

 ……確かにこの格好はまずい。

 

 冷静に考えると確かに今の自分達の格好はヤバイ。

 

 自分の腰の上に跨っている支取先輩の姿は確かに端から見ると誤解されそうである。

 

「これは、わたしが勢いをつけ過ぎて前のめりになったのを月野君が抱きしめて庇って――」

 

「抱きしめた!? 最近じゃわたしも全然して貰ってないし、していないハグを……よし、人間界を滅ぼそう」

 

 女性は先ほどまで子供のように喚いていたかと思ったら突然目から光を消して冷笑を浮かべながらとんでもない事を言い放った。

 

「ちょっ!? 支取先輩とりあえず自分はもう大丈夫なんで彼女を宥めに!」

 

「あ、ええそうね!」

 

 珍しく、本当に珍しくいつもの毅然とした表情を失って動揺した表情のまま慌てて自分の上から退いた支取先輩が女性の元に駆け寄る。

 

「お姉さま落ち付いてください!」

 

「……ハグしてくれた止めたげる☆」

 

 困った顔で詰め寄った支取先輩に、女性は表情を一変させてウインクしながらそう要求してきた。瞬間、支取先輩の表情が険しいものへと豹変した。

 

「……はあ。これでいいですかお姉さま?」

 

 呆れた表所で軽く抱きつく支取先輩。そんな先輩に抱きしめられた途端に相手は表情を破顔させる。

 

「ムハー! ソーナたんエナジーがガンガン補充される~☆」

 

 ……とりあえず危機は去ったかな。

 

 女性の気配が一気に緩いものに変わったのを感じて立ち上がって二人に近寄る。

 

「支取先輩、今更ですけどその人は? お姉さんって言ってましたけど」

 

「わたしの姉のセラフォルー・レヴィアタンです」

 

 レヴィアタン……てことは魔王の一人か……そうか魔王なんだ。

 

 イメージとしては確かにこの欲望に忠実な姿は悪魔の魔王っぽい。気配から只者では無いのも理解できる。先程なんて本気で死を覚悟したくらいだ。

 

 ……まぁプライベートだからこれだけ緩いのだろう。うん、きっとそうだ。

 

 無理矢理己を納得させる。その間に支取先輩はセラフォルーさんから離れる。

 

「あ~んもう少し」

 

「お姉さま本当に勘弁してください。何度も言いますがわたしにも立場があるんですよ?」

 

 心底疲れた表情で溜息を吐く支取先輩。なんというか、今後はもっと何か手伝える事があったら手伝おう。

 

 そんな風に支取先輩に同情しつつ、一応自己紹介くらいはした方がいいかと思い、先に名乗る事にする。

 

「えっと、初めまして月野白野です」

 

「あっ。君がサーゼクスちゃんが言ってた人間ちゃんか。きゃは☆ セラフォルー・レヴィアタンだよ☆ さっきはゴメンね~わたしソーナちゃんの事になると周りが見えなくなっちゃうんだよね」

 

 落ちていたステッキを拾い直してポーズをとってこちらにウインクしながら自己紹介してくれたセラフィルーさん。似合っているからいいが、さすがに身内のいる場所にこの格好で来るのはどうか。

 

「あの、セラフォルーさん。失礼を承知で尋ねしますが、その格好は?」

 

 周りには現在誰も居ないが、いつ誰が来るか解からないので一応声を抑えて尋ねる。

 

「役職は魔王だけどわたしは魔法少女に憧れてるの☆ きらめくステッキで天使も堕天使もまとめて抹殺なんだから☆」

 

 あかん。それ魔法少女ちゃう。ただの魔王や。

 

 なぜかエセ関西弁でのツッコミが脳裏を過ぎったがそれもぐっと堪える。なんせ変なツッコミを入れて先程みたいにヤバイ雰囲気になられても困る。

 

「えっと、その魔法少女の衣装には何か特別な能力が?」

 

「ううん無いよ☆ ソーナちゃんの学園に行くから気合入れたの☆」

 

「あ、衣装に特に意味は無いんですね」

 

 そうか。これが気合を入れた一張羅かぁ……キツイなぁ。

 

 隣の支取先輩に視線を送ると、もはや諦めの局地とでも言うべき表情をして落ち込んでいた。小声で『だから呼びたく無かったのよ』とまで言っていた。苦労してるんだなぁ。

 

 よし。支取先輩には日頃の恩もあるからそれを少しでも返すとしよう。

 

「えっと……そ、そうですか。でも衣服がただの服なら、せめて支取先輩の前では魔法少女の衣装ではない服で過ごされては? ほら、支取先輩ってまじめですからこの学園に居るときはセラフィルーさんで言うところの『仕事中』な訳で、場を混乱させる相手はたとえ身内でも怒ったり否定しないといけないと思うんです。つまり……」

 

「つまり?」

 

 小首をかしげるセラフォルーさんにここからが大事とばかりに真剣な表情で答えた。

 

「逆に場に合った衣装で現れれば支取先輩も『自慢の姉』と紹介しやすい!」

 

「――!?」

 

「更に運が良ければ魔法少女お決まりの変身シーンも行える!!」

 

「――――!!」

 

 まさに驚愕と言った表情で固まるセラフォルーさん……そんなにですか?

 

「月野ちゃん……あなたまさか……天才!?」

 

「いえ。ただの凡夫です。雑種です。非才の身です」

 

 そんな方面の天才なんて嫌過ぎるので即答した。

 

「支取先輩だって別に魔法少女に憧れるのは否定してないし、お姉さんを自慢の姉だって紹介したいですよね?」

 

 最後の止めの為に支取先輩に話を振ると、彼女は瞬時に状況を把握したのか力強く頷いた。その瞳には期待と希望が宿っていた。

 

「ええもちろんですお姉さま。わたしもせめて『格好』と『目立ちすぎる行動』さえなんとかしていただければ、今回のように授業参観の日を隠したりしませんし、一緒に歩いて友人達にだって紹介いたします!」

 

 あ、今日のこと隠したんだ。気持ちは分かるけど、ちょっとそれは家族として酷い……でもあの格好でこられる事を考えるとなぁ。

 

「そう。分かったよソーナちゃん! 今度から衣装は魔法少女コスじゃない普通の私服にするね!」

 

「っそ、そうですか! ではお姉さまは先にサーゼクスさま達の元へお戻り頂けますか? わたしは彼を保健室に連れて行きますので」

 

「う~ん一緒に戻りたかったけど仕方ないか。それじゃ月野ちゃん、良い助言ありがとね☆」

 

 そう言って手を振ってスキップしながら去って行くセラフォルーさんを見届けながら溜息を吐くと、支取先輩に肩を思いっきり掴まれて体の向きを変えられた。

 

「ありがとう月野君! 本当に、本当にありがとう!」

 

 そして目尻に涙を溜めながら、長年の悩みから開放されたような安堵した表情をした支取先輩に感謝された。

 

「いや……そんなに悩んでいたんですか?」

 

「ええ。もはや生涯解決しない悩みだと諦めていたわ。だから本当に感謝しているわ。ありがと月野君……そうね。よければ何かお礼をさせて頂戴。今回のお姉さまとの件もあるけど、この前の件でわたし達の手伝いをしてくれたのに、お礼の一つもしていなかったし」

 

「いえ。自衛の為にしただけですから」

 

 そう言って否定すると支取先輩は溜息を吐いて苦笑した。

 

「そうね。あなたはそう言うわね。では言い方を変えます。わたしが個人的にお礼をしたいのよ。わたしに出来る範囲で何かないかしら?」

 

 そう言われては断り難いな。

 

 組織的なお礼ではない以上、ここで断っても支取先輩は諦めないだろう。

 

 ふむ。となると……。

 

「えっと一つお訊きしますが、支取先輩は自分の事をどう思っていますか?」

 

「どう? そうねぇ……頼りになるけど無茶するから心配になる後輩、かしら?」

 

 おう。嬉しいのと申し訳ない気持ちになる返答だ。でもそっか、それなら。

 

「じゃあ自分と『友達』になってください。自分も支取先輩とは友達と知り合いの間柄みたいな感じでしたから。これからは友人として接して欲しいです」

 

「そんなことでいいの?」

 

「ええ。それに友達なら自分も遠慮無くがんがん頼れますから。支取先輩もどんどん頼ってください」

 

 そう言って笑顔で右手を差し出すと、支取先輩は何が可笑しかったのか、小さく笑った後に微笑みながら右手を握り返してくれた。

 

「なるほど。友人にはずうずうしいのね月野君は。それじゃあ遠慮無く接させて貰うわ」

 

「あ、じゃあ名前で呼んでくれると嬉しいです」

 

「あら、ならわたしは……そうね、蒼那と読んで貰おうかしら。偽名でも折角考えたのにリアスがソーナと呼ぶせいでほとんど呼んでくれないのよ。生徒会のみんなは会長だしね」

 

「分かりました蒼那先輩」

 

 お互いに手を握ったまま声に出して笑う。

 

 セラフォルーさんには感謝かな。おかげで蒼那先輩と友達になれたし。

 

 ひとしきり笑ったあとに保健室で一応診て貰ってから教室へと戻った。あとでクラスメイトに聞いたが、昼休み中リアス先輩が泣きながら走りまわり、蒼那先輩はずっと上機嫌だったらしい。

 

 そして帰宅後にリビングで盛大に自分の授業の様子が映された映像の鑑賞会が開かれ、その日は部屋の鍵を閉めて早々に現実から逃げ出した。

 




という訳でソーナとの絆ランクが上がりました。さて、小猫同様にいつでもフラグは立てられる状態にはしたぞっと(立てるかどうか分からないけどな!)



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【三陣営からの贈り物】

ようやく天使側の長が登場。そして白野の左腕が!!





 授業参観という名の羞恥刑から数日経ったある日、朱乃に放課後に予定を空けておいて欲しいと言われたので教室で待っていると、笑顔の朱乃が迎えに来て腕を絡められた。

 

 そのまま腕を絡めたままクラスを出た瞬間に男子からは『爆発しろ!』、一部の女子から『木場君とは遊びだったの!』と言う叫び声が上がった。前半は甘んじて受け止めたが後半は全力で否定した。若干祐斗が落ち込んでいるように見えたのは気のせいだと思いたい。

 

 そんな事もありつつ朱乃に事情を尋ねると、どうやら彼女の実家にお客さんが来るようで、そのお客は自分にも用事がある為、出来れば会いたいと向こうから頼まれたんだとか。

 

「確か朱乃の家、神社に行くんだよね?」

 

「ええ、その通りですわ」

 

 朱乃だけは家で暮らしていない。添い寝の日は泊まって行くが、それ以外では彼女が暮らしている神社に帰っている。

 

 朱乃がこちらに暮らす事になった時に家主が死んで放置されていた神社をグレモリーが買い取り改築して悪魔でも参拝できる神社に改築してくれたらしい。

 

 境内には鳥居と、拝殿本殿と母屋が一体となってる建物が一つ。小さな神社だが一人で暮らすには大き過ぎると寂しげに笑いながら朱乃が話してくれたのを覚えている。

 

「お客様……悪魔関係ですか?」

 

「いいえ。今回は天使陣営の方々です」

 

 朱乃の言葉に驚き目を見開く。

 

「え、いいの?」

 

「……どうやら会談の場所は駒王学園に本決まりになったようですわ。天使の長が今日やって来たのは和平を結ぶ為の下見なのでしょう。悪魔も訪れられる神社なら何かと便利ですから。そのついでに白野君に渡したい物があると言うので、家主のわたしが応対する事になったという言う訳ですわ」

 

 なるほど。一応筋は通っていると思うが、いったいなんの用だろうか。

 

「そのあとに兵藤君にも用事があるらしく、彼の家に赴くと仰っておりましたわ」

 

 ……そう言えばアザゼルも依頼人の振りして一誠と秘密裏に接触していたらしいし、サーゼクスさんも授業参観にかこつけて一誠の家に泊まって接触したって言うし、そんなに自由に動いていいのか幹部の皆様。

 

 そんな事を考えている間に神社の境内に到着すると、意外な人達が出迎えてくれた。

 

「あ、ハクノン! こっちこっちー!」

 

「……え? イリナとゼノヴィア?」

 

 そこに居たのは巫女服を着て笑顔を浮かべるイリナとゼノヴィアだった。

 

「久しぶりだな白野」

 

「ああ。ところで二人はなんで巫女服を?」

 

「あら? こっちでのシスターの制服はこれでしょ?」

 

 ……いや、間違ってないけど。そもそも信仰の対象が違うんじゃ?

 

 そんな事を考えいると空中に魔方陣が浮かび、そこから黄金に輝く二枚の天使の翼を生やした金髪の男性が現れた。

 

 サーゼクスさん達と同じ気配が肉体を刺激する……もしかしてこの人が。

 

「初めまして。わたしはミカエル。天使の長をしております」

 

 

 

 

「今回は急な訪問に応じて頂きありがとうございます」

 

「いえ。その、いったい自分になんの御用でしょうか?」

 

 朱乃に母屋の客間に案内され、座卓を挟んでミカエルさんと向き合う。

 

 イリナとゼノヴィアは彼の横に控え、こちらは万が一の為に黒歌も転移して貰って黒歌と朱乃が両隣に座っている。これで一応数の上では五分だ。レイナーレは仕事の為に呼ばなかった。

 

「そうですね。まず最初の用件ですが……我々天使陣営は今度の会談で和平を求めるつもりです」

 

 アザゼルと同じか。やっぱり今の穏健派のトップの行動方針は同じみたいだな。

 

「アサゼルやサーゼクスも同じ思いでしょう。でなければこのタイミングで三陣営の会談を行おうなどと言うはずがありませんからね。しかしそうなると一つ問題があります。それは三陣営が初の和平を結んだこの地の守護です。一応和平交渉が上手くいった時に悪魔、堕天使、天使それぞれから信頼出来る者をこの地に派遣する旨を各陣営に提案するつもりです」

 

 そこまで話したあと、ミカエルさんは一度言葉を切って朱乃が淹れたお茶で口を潤すと、真剣な表情を浮かべた。

 

「そしてこここからが本題なのですが、この街に暮らすあなた達にも、どうかこの街の守護に協力して頂きたいのです」

 

 やっぱりか。アザゼルと同じ内容にどう返事したものかと考えていると、ミカエルさんもアザゼルと同じように自身の組織に属する必要はない。あくまで自衛の範囲で構わないと言ってきた。

 

「……分かりました。自分達が自分達の意思で動けるのなら」

 

「ええ、それで構わないですよ」

 

 ミカエルさんは嬉しそうに表情綻ばせながら頷く。

 

「では次の用件に移りますね」

 

 そう言ってミカエルさんがお茶を脇にどかして手を前に軽く翳すと、彼の傍に二つの魔方陣が浮かんで、そこから白銀に輝く義手と僅かに聖なるオーラを放つ刃渡り五、六十センチの鞘に収められた短剣が座卓の上に現れる。

 

「こちらは今回の一件であなたを巻き込んだ事への三陣営トップからの謝罪と感謝を込めた贈り物です。悪魔や堕天使からでは色々あるので、わたしが代表として贈らせていただきます」

 

 ああ、これがアザゼルが言っていて贈り物か。確かに人間世界だと悪魔や堕天使からの贈り物だと色々騒ぐ組織が多いもんな。

 

「こちらが悪魔、堕天使からの贈り物でる『戦神の義手(ヌアザ・アガートラーム)』です。因みにアザゼル命名です」

 

 ヌアザ・アガートラーム……自分のダグザ・グラールと同じ、ダーナ神族に肖った名前が付けられた義手を見る。

 

 外見はなんと言うかSFチックな銀の腕に、籠手としてプレートや装飾を軽く施したようなシンプルな造りだ。腕を差し込む部分には穴が空いている。ここに左腕の切断面を入れろという事だろうか?

 

「その穴に腕を入れることで、まず月野君の肉体の神経とオーラが流れる経絡をリンクさせます。それと普通の人間には義手が人間の腕と同じ外見に見える術式が埋め込まれているので生活に支障はないはずです」

 

「それは嬉しい機能ですね。お気遣いありがとうございます」

 

 実際問題こんな精巧な義手を身に着けて学園に行ったらどこで手に入れたのか質問攻めに会いそうだし、普段の生活で凄く目立つのは間違いないので素直に喜び、お礼を伝える。

 

「ではどうぞ。あ、装着時に一度痛みがあるらしいので、それだけはご容赦を。との事です」

 

「……あ、やっぱり着ける流れですよね」

 

 なんか上手く嵌められた気がしないでもないが左腕が使えるようになるのは正直に言って嬉しい。

 

 ……よし!

 

 目の前の義手を手に取り覚悟を決めて嵌める。

 

 瞬間、左腕に電気のような衝撃と痛みが一度駆け抜けて顔を顰める。

 

「御主人様!?」

 

「大丈夫ですか白野君!?」

 

「あ、ああ。言われた通りちょと痛みが走っただけだ」

 

 心配する二人に答えながら義手を二度三度手を閉じたり開いたりする。

 

 ……うん。自分の腕を動かすのと同じ感覚だな。

 

 動作感覚の確認のあとは自分の身体や畳に触れ、右手で腕の部分に触れたり撫でたりする。

 

 うん、触感も自分の腕と変わらない。でも触り心地はやっぱり硬いな。

 

 こちらの様子を見て問題無いと判断したのか、ミカエルさんが満足気に頷く。

 

「その義手は月野君の弱点である肉体の脆さとエネルギー不足を補う為に可能な限り義手自体の強度を上げ、更にエネルギーを蓄積しておく機能と、エネルギーを消費して義手の破損を自動修復する機能もついているそうです」

 

 ……なるほど。いざと言う時の盾にもなるってことか。あとで黒歌と色々試してみよう。

 

「そしてこちらは我々かの贈り物です」

 

 義手の説明を終えたミカエルさんは今度は隣の鞘に納められた聖なる気配を感じる短剣をこちらに寄せる。

 

「妖精族に依頼してエクスカリバー六本の核である欠片だけで打ち直した文字通り純正の六つの能力を有したエクスカリバーです。剣の種類で言えばグラディウス程度の刀身になってしまいましたが、不純物を取り除いた分、剣自体の強度と聖なるオーラは増しています。つまり聖剣として本来の格へと戻ったという訳です……それで月野君、この剣の能力を複数同時に使えるか試していただけますか?」

 

「えっと、フリードがやったみたいな透過と擬態の同時使用みたいな感じですか?」

 

「ええ。元々エクスカリバーの所有者は保有する複数の能力を同時に使用することができます。口伝によれば全盛期のアーサー王は七つの能力を同時に使用できたそうです」

 

 ……え? 何そのチート性能。七つの能力同時使用って、どんだけハイスペックだったのさアーサー王!?

 

 もう一度ミカエルさんへ視線を向けると、彼はどこか期待した眼差しで自分を見詰めていた。

 

 ……何か思惑があるのだろうが別に能力が使用できるかどうか確認するくらいなら問題ないだろう。

 

 そう思ってエクスカリバーを手にして鞘からは抜かずにそのまま能力を発動する。

 

 まずは『加速』。

 

 身体に不思議な力が満たされる。以前感じたものと同じだ。

 

 次にゼノヴィアが使っていた『破壊』。

 

 更に身体に力が満ちる。現状では問題無い。

 

 次にイリナが使っていた擬態を――っ!?

 

 擬態の能力を発動しようとした瞬間、聖剣から強い抵抗を感じて能力の発動が強制的にカットされた。

 

「駄目ですね。自分では『二つまで』が限界です」

 

「……そうですか。『二つも』発動できるのですね」

 

 あれ? 思っていた言葉と違う。

 

 ミカエルさんの前に剣を置いて下げていた視線上げれば、そこには期待通りと言った顔をするミカエルさんと驚いている聖剣使いの二人が居た。

 

「先ほど説明しましたよね。以前と違ってエクスカリバーは真なる聖剣と云われた頃の格に戻ったと。現状、エクスカリバーの能力を『二つも』扱える者は……教会にはいません」

 

「……は?」

 

「因みにゼノヴィアもイリナもそれぞれ適性のある『破壊』と『擬態』を辛うじて扱えるレベルです。それも制御に集中を要する為、逆に戦力が下がる始末です」

 

 そこで一度言葉を切ったミカエルさんは大きく頷きこちらを見据える。

 

「ですがあなたは二つも能力を行使できた。多分今後鍛えれば同時に行使できる能力の数も増えるはずです……やはりこの剣はあなたに託すのが一番のようですね」

 

 そう言ってミカエルさんはエクスカリバーをもう一度こちらへ寄せる。

 

「……えっと、いいんですか? 聖剣ですよ?」

 

「とても言い難いのですが、現状我々では以前のようにバラバラに管理すれば今回の事件の二の舞いになりかねません。しかし貴方の神器ならばエクスカリバーを安全に保管できますし、エクスカリバーの力を活かせることも判りました。以上の理由から、それはあなたが持つべきだと判断したまでです」

 

 つまり宝を腐らせるくらいなら使える者に使って貰おうという事か。この街を守りたいと思っている自分なら立場的にも都合が良かったのだろう。

 

「この力があなた達に向くかも知れませんよ?」

 

 そう答えた瞬間にゼノヴィアとイリナの表情が険しくなるが、ミカエルさんは気にした様子も無く優しく微笑みを浮かべる。

 

「どのように振るうも月野君の自由ですよ」

 

「……はあ。分かりました。受け取っておきます」

 

 そう言って義手と同じくエクスカリバーを受け取る。

 

「では我々は今度は兵藤一誠君の家に向かいます。今後ともよろしくお願いしますね。あ、それと聖剣の鞘には聖なるオーラが漏れない様に細工しておきましたからお嫁さん達も安全だと思いますよ。気配までは無理でしたが」

 

「ではな白野」

 

「またねハクノン!」

 

 三人はその場で転移で姿を消す。それを見届けたあと、鞘に納められたエクスカリバーを見詰めながら、とりあえず『収得』で仕舞う。

 

 その瞬間に六つの能力の情報が送られてくる。

 

 いっきに送られて来た情報に軽い頭痛が起きたがすぐに収まった。

 

「ふう。なんというか……三陣営はどうしても自分を戦力として考えたいみたいだ」

 

「ま、力添えするかどうかはこちらが決めるってちゃんと言質取ってあるから大丈夫だとは思うわよ」

 

「そうですね。贈り物にしても白野君は別に固執している訳ではありませんから返還してしまうのも一つの手ですわ」

 

 黒歌と朱乃がそう言ってこちらを気遣ってくれる。

 

「ありがとう二人共。向こうが色々言ってきたらそうしよう。さて、それじゃあ帰るか」

 

「あ、そうですわ白野君。実はわたしも相談があるんです」

 

 立ち上がって帰ろうした時に朱乃が申し訳なさそうな表情でそう告げる。

 

「相談? 別に構わないよ」

 

「実は今回のコカビエルの対応への功績が認められ、上から神器を制御できないが故に軟禁状態だった『僧侶』の軟禁解除のお許しが出たのです」

 

「ああ、そう言えばフェニックスとのゲームの時に言っていたっけ」

 

「にゃ~大丈夫なの? そんな自分の力を制御できない奴と御主人様を会わせて?」

 

「むしろそのせいでその子は心を痛めているんです。これまで白野君は色々な人に影響を与えてきました。もしかしたら彼もあなたに会えば何かが変わるかもしれない。わたしとリアスはその変化を期待して一緒に来て欲しいとお願いする事にした。という訳ですわ」

 

「彼? あ、男ならいいわ。一発かましてくるにゃん御主人様」

 

 気にしていたのはそこかい黒歌?

 

 そんなホイホイ女性とそういう関係になると思われている事に若干ヘコみながら、朱乃のお願いを了承して三人で帰宅した。

 

 帰宅したときに自分に腕が生えている事にビックリした両親に事情を説明すると、二人は喜んでいたが『だからって無茶しないように』と忠告された。その気遣いが嬉しくて笑顔のまま『うん頑張る』と、なんとも矛盾した返答をして二人を苦笑させてしまった。

 




という訳でようやく義手登場。
あと以前一時だけ投稿していた義手の設定と変更しました。
そして聖剣の設定は原作の聖剣の脆さをカバーする為に考えた独自設定です。そして聖剣はまだ残り一本あるので、まだ強度が上がる設定だったりする(正直そのくらい硬くて良いと思うんだ。アロンダイトと同じ強度なんだから)
そして次回、ようやく彼が出ます。


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【引き篭もり吸血鬼は女装趣味】


はい。という訳でタイトル通りの彼が登場します。



 ミカエルさんから色々と貰った翌日。いきなり腕が生えたのに学園でも近所でも誰も気にしていなかった。

 

 リアス先輩に聞いたらやはり例のピカーという暗示が行われたんだとか……いい加減脳に影響が出るんじゃないか?

 

 そして放課後に一度全員がオカルト研究部に集まり、今は旧校舎にある『開かずの間』と呼ばれる部屋の前にやって来ていた。

 

 扉に張られていた札を小猫ちゃんと木場が剥がし、朱乃が扉の前で魔方陣を展開すると、扉にも魔方陣が浮かび、朱乃が自分の前に展開した魔方陣を指で弄りながら詠唱を始める。

 

 その間に封印されている眷属について何も知らない一誠と自分とアーシアがリアス先輩に色々と尋ねる。

 

「ここに封印されているんですか?」

 

「ええ。彼は元々は吸血鬼と人間のハーフだったの。人間の部分がある為に神器を宿し、更に日中でも動けるデイウォーカという吸血鬼でも希少な種で、本人には魔術の才能もある。純粋な能力値で言えば朱乃以上かもしれないわ」

 

「たしか封印されたのは力が制御できないからと朱乃から聞きましたが、具体的にどういった能力なんですか?」

 

 軟禁されるほどだ。余程強力で危険な神器なのは想像に難くない。

 

「神器の名前は『停止世界の邪眼(フォービトウン・バロール・ビュー)』能力は視界に映るモノの時間を停止させるといった厄介なものよ」

 

「じ、時間停止って、反則級の能力ですね」

 

「いや、お前の倍化能力だって似たようなものだろ」

 

 一誠が驚いているが彼の能力だって似たようなものなので一応ツッコミを入れておく。

 

「あなたの『王の証』だって十分破格よ。なんせ道具を収得すればその能力を使えるのだから」

 

 リアス先輩がそう言って苦笑して説明を再開する。

 

「問題はその神器を彼が制御できずに無意識に能力を発動させてしまっていること。しかも彼の場合はなまじ才能があったのか神器の力が自然と成長してしまっている。このまま行けば禁手にまで至ると言われているわ」

 

「……なるほど。時間停止なんて能力が、しかも禁手で暴走したら、いったいどんな被害が起こるか判らない。だからこその封印って事ですね?」

 

「ええ。ただフェニックス戦での一誠、そして先の事件での祐斗、二人の眷属が禁手を使って無事でいる事も評価されたことで彼の封印が解除される事になった訳よ」

 

 禁手。自分はまだ至っていないが、二人の力を見るにかなり危険な領域の力だ。

 

 ――大丈夫なのか?

 

 神器は意志によって扱う力だ。意思が、心が弱っていてはちゃんと成長しないし制御できない代物だろう。なのにいきなり外に出すのは些か性急な気もする。

 

「彼はずっとこの部屋で暮らしていたんですか?」

 

「ええ。本当は深夜なら旧校舎を自由に歩けるのだけど、彼は自分の意思で部屋から出ようとしなかった。それと彼はわたし達グレモリーの仕事では一番の稼ぎ頭よ」

 

「引き篭もりなのに?」

 

「面と向かって会いたくないって人も多くてね。そういう類の相手には別の形で依頼と交渉を行うの。彼はそれをパソコンで行っていて、パソコンを介した依頼達成量では悪魔界でも上位に入るわ」

 

 ジナコがいたら『ひゃほう! ジナコさんマジの勝ち組に入れる~』なんて言ってすぐにでも悪魔に転生して引き篭もりそうだ。

 

 というか、これから会う相手がそんなタイプだったらどうしよう。キャラの濃いグレモリー眷属だ。その可能性も考慮して心の準備をしておこう。

 

「……部長、解除しましたわ」

 

 心の中で失礼な決意を固めていると、朱乃の解除が完了したのか扉の前の大きな魔方陣が光となって消えて行く。

 

「ありがとう。さて、それじゃあ小猫、祐斗、開けて頂戴」

 

 リアス先輩がそう指示を出すと、二人は左右から扉を開く――その瞬間、絹を裂いたような悲鳴が響き渡った。

 

「イヤァァァァアアアア!!」

 

 部屋の中で何かが動きバタバタと音が響き渡る。

 

 その様子にリアス先輩と朱乃が溜息を吐きつつ部屋へと進入する。

 

「入るわよギャスパー」

 

「お久しぶりねギャスパー君」

 

「ヒィィ!? なな、なんですか!?」

 

 んん? 相手の声が中世的過ぎないか? 男と聞いていたんだが?

 

「とりあえず俺達も入るか?」

 

「そうだな」

 

 一誠の言葉に賛成し、アーシアも居れて三人で部屋へと入る。

 

 ……ずいぶんとカワイイ感じの部屋だ。本当に男が住んでいるのか?

 

 閉められたカーテンはレースのピンク。壁際には可愛いらしいぬいぐるみが棚に飾られ、服が入っているだろうクローゼットが幾つかある。その脇に西洋の棺桶らしき物が置かれていた。そこにはマーブル柄の枕と小さなぬいぐるみが置いてあった……まさか寝床か?

 

「うおおぉぉおお! 凄い美少女が!」

 

「ヒィィイイッ。なななんですかぁぁ!?」

 

 自分が部屋を見回している間に一誠が目的の人物を見付けたのか、物凄く興奮した様子で叫んだ。

 

 彼の視線の先を見ると、そこには朱乃とリアス先輩に無理矢理引っ張られている小猫ちゃんと同じくらいの小柄な身長で、金髪を耳元辺りで切り揃えたボブカットの少女がいた。

 

 なぜ少女と判断したかと言えば女子の制服を着ていたからだ。外見も少女にしか見えない。

 

「……あの朱乃。肝心の僧侶は?」 

 

「この子ですわ。名前はギャスパー・ヴラディ。これでもれっきとした男の子ですわ」

 

「「……はい?」」

 

 三人で首を傾げる。

 

 え? だって、ええぇ?

 

 セイバーであるネロが男装した女性だと知った時以上の衝撃だった。

 

 不意に隣から何かが落ちる音が聞こえてそちらへ振り返ると、一誠が蹲っていた。

 

「――詐欺じゃねぇえええかぁあああ!」

 

 そして心の底から、腹の底からの叫びが放たれた。

 

「なんで引き篭もりなのに女装なんだよ! 誰得だよ! 普通女装って見せたり見られたりする為にするんじゃねえのかよ!!」

 

「ヒィィイイッだだ、だって女の子の服の方が可愛いんだもん!」

 

「だもんとか言うな! しかも似合っているのが余計に腹立つ! チクショオオオ! 一瞬夢見た俺のアーシアと並んだ金髪美少女セットの夢を返よぉぉおおおお!!」

 

 仕舞いにはまさかの号泣である。

 

 いや、気持ちは分かるが……そこまでか一誠よ。

 

 そんな一誠に小猫ちゃんが『人の夢と書いて儚い』なんて言って止めを刺していた。

 

 ……もう放って置こう。

 

「ああ、あの。この人達は誰なんですかぁ?」

 

 ギャスパーちゃん……じゃなかったキャスパー君がリアス先輩の背後から恐る恐ると言った感じにこちらを覗き込んで来る。

 

「あなたがここにいる間に増えた仲間と、事情を知っている人間の友人よ。そっちで落ち込んでいるのが『兵士』の兵藤一誠。そっちの金髪の女の子があなたと同じ『僧侶』のアーシア・アルジェント。そして最後が我々の信頼する友人、神器を持つ人間の月野白野よ」

 

「ううう……よろしくな」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「よろしく」

 

「ヒイイィィ! 人がいっぱいで怖いぃぃ」

 

 えぇぇ……。

 

 自己紹介した瞬間に軽い悲鳴を上げられた。おいおいジナコ以上に大変そうな子じゃないか。

 

「ギャスパー、お願いだから一度外に出ましょう。ね? せっかく封印が解かれて軟禁が解除されたのだから」

 

 子供に言い聞かせるように優しく諭すリアス先輩。しかしギャスパーは首を振って拒絶する。

 

「無理ですうぅぅ! 僕が外の世界で暮らすなんて無理です! 怖い! お外怖いぃぃ!」

 

 隣を見ると一誠の表情が険しくなっていた。うん、まあ気持ちは分かる。ちょっと卑屈過ぎないかなこの子?

 

「どうぜ僕なんかが外の世界に出ても、周りに迷惑をかけるだけなんですぅぅ!!」

 

 ……どうしよう。若干イラっと来たけどギャスパー君の事情が事情だけに怒っていいか迷う。

 

「だああもう、うだうだと! とりあえず部長が出ろって言ってるんだから一回出ようぜ!」

 

 一誠が我慢の限界に来たのか、ずかずかと進んで行ってギャスパーの腕を掴もうとしたその時――ギャスパーが悲鳴を上げる。

 

「ヒイイイィィィ!」

 

 瞬間、おかしな気配を感じて咄嗟に聖剣を取り出して二つの能力を発動した。

 




原作よりも可愛い物好きの男の娘成分多めになっております(どうせだからそっちにはっちゃけてみた)



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【そして吸血鬼は人間の手を取る】

書いてて思ったこと、この作品で本編でここまでヒロインしているキャラと白野が絡んだのって初めてじゃね? でした(実はハーレムの三人との会話ってメインとは別口のサブイベ扱いなんですよねぇ)

たぶん彼が一番ヒロインしていると思う(笑)




 気付けば世界が停止した。

 

「もう嫌だ。嫌だよぉぉ」

 

 ギャスパー君が悲鳴を上げて駆け出し部屋の隅で泣き始める。

 

 周りを見渡す。そこには先程の状況のまま、まるで精巧に作られたマネキンのように動かなくなった部員達がいた。

 

 ああ、これは……キツイな。

 

「なるほど。こんな光景が自分の意思と関係なく広がるのか、キツイ光景だな」

 

「……ふえぇ!?」

 

 周りの止まった光景を見回しながら声を上げると、ギャスパー君が物凄く驚いた表情でこちらに振り返った。

 

「どうして、だって僕の……」

 

「……能力の使用方法と発動条件が判っていれば対処しやすいよね」

 

 そう言って苦笑しながらエクスカリバーを後ろの腰に差して能力を解く。うん、どうやら初動さえ何とかできれば、彼の能力を防ぐ事は可能みたいだな。

 

 いや、今は彼が先だな。

 

 ギャスパー君の神器についての考察は後回しと、思考を切り替えてギャスパー君を怯えさせないようにゆっくりと近付き、彼の前で片膝を着く。

 

「……なあギャスパー君。これは自分の勝手な考えなんだが……君は本当は外に出たいんじゃないかい?」

 

 彼の『迷惑をかけたくない』という発言を思い出す。きっとジナコと一緒で長い間一人だったから自分に自信が持てずに卑屈になってしまっているのだろう。

 

 ギャスパー君はしばらく視線を不安気に彷徨わせたあと、俯いたまま口を開いた。

 

「……ぼ、僕も外に出れるなら、出たいですぅぅ。でも怖いです。外には怖いモノが多過ぎるんですぅぅ!」

 

 外には出たい。でも怖いのは嫌。そんな彼の臆病な叫びに自分は満足気に笑って彼の頭を撫でる。

 

「そっか。じゃあギャスパー君が今一番怖くて、一番なんとかしたいのは?」

 

「……僕は、この力を何とかしたいですぅぅ。もう嫌だよぉぉ。この力のせいでみんな怖がる。みんな嫌う! みんな止まっちゃう! みんな動かないうぅぅぅ!」

 

 泣き崩れながらそう叫ぶ彼の慟哭を、一語一句聞き逃さないように刻み付ける。

 

 ……多分。自分には彼の痛みの全てを理解できない。

 

 自分は持たざる者だ。故に持たない辛さは理解できるが、強過ぎるが故の辛さは理解できない。

 

 だから自分に出来るのは彼がどんな思いを抱え、どんな痛みを負い、そしてこれからどうしたいのかを全身全霊で理解しようと努める事だけ。

 

「……ありがとう教えてくれて。それじゃあ、それをなんとかしよう。自分が協力するよ」

 

「でも。でもでも……」

 

 涙目でこちらを不安気な表情のまま見上げるギャスパー君。そんな彼の瞳を、彼が最も嫌うその目をしっかりと見詰めて、誓いを口にする。

 

「――自分は君を嫌わない」

 

「っ!?」

 

 ギャスパー君が驚いたように目を開く。

 

「自分は君を恐れない。だから遠慮無く時間を止めてくれ。たとえ時を止められても……何度でも今回みたいにその呪縛を破って君に手を伸ばしてみせる。だから――」

 

 そこで一度言葉を切って立ち上がり、軽く屈んで手を差し出す。

 

「――どうか信じると言う気持ちからは……逃げないでくれ」

 

 もうジナコの時の様な思いをしない為に。

 

 そしてジナコに似ているこの子に、ジナコのような思いをさせない為に。

 

 今度は自分が底抜けに明るい破戒僧や、どこまでもお人好しな施しの英雄に代わって、手を差し伸ばす番だ。

 

「――僕は、僕は……っ」

 

 ギャスパー君が恐る恐ると言った感じに手を伸ばし、そして……彼の手が触れた瞬間に、しっかりと握り締めてゆっくりと彼を立ち上がらせる。

 

「ありがとう信じてくれて。これからよろしく、ギャスパー君」

 

「あうぇ。あの、よろしくお願いしますぅぅ」

 

 何故か頬を赤くして俯いたまま握った手をチラチラと見てくる。なんでこの場面でその反応?

 

「……ギャスパーってあれ?」

 

「なんで白野が前に?」

 

「ひっ!?」

 

 急にみんなが動き出して慌ててギャスパー君が自分の後ろに隠れる。

 

「……ずいぶん懐いたわね。『わたし達が止まっている間』に、何があったのかしら白野?」

 

 リアス先輩が目を細めて厭らしい笑みを浮かべる。さて、どこから説明しようか。

 

「リアス先輩にギャスパー君の能力については聞いていましたから対処していたんです。エクスカリバーの能力の『祝福』と『破壊』を使って」

 

 そう言って後ろの腰から鞘に収められたエクスカリバーを見せる。

 

「破壊って、セノヴィアが使っていた凄い破壊力の能力だろ? それでどうやって?」

 

「破壊ってついてるが、正確には『威力上昇』の効果なんだよ。で、『祝福』は聖なる気を纏って災厄を祓う効果。つまりさっき自分は『祝福』で自分を守り、その効果を『破壊』で上昇させたって訳だ。まあ、成功するかどうかは判らなかったが、これでギャスパー君の行使した力よりも強い力であれば、彼の能力の影響は少なくて済む事が解かったな」

 

 情報が欲しくて行った行為だったが上手く行って良かった。

 

「そのあとギャスパー君と約束したんです。彼の神器の制御に協力するって」

 

「そう。こちらとしては元々お願いするつもりだったからむしろありがたいのだけれど、本当にいいの?」

 

「良いも悪いも、彼は別に神器を制御できていない訳じゃないですから、たぶんそう時間は掛からないと思いますよ」

 

「「え?」」

 

 後ろに隠れていたギャスパー君と目の前のリアス先輩の声が重なる……え? まさか誰も気付いていないのか?

 

 一瞬、大丈夫かなこの子達と本気で心配になった。

 

 

 

 

 とりあえず場所をオカルト部の部室に移動した。ギャスパー君はまだ外と周りの視線が怖いのか、大き目のダンボールに入り込み、そこから恐る恐るといった感じに頭だけ出していた……捨て猫ならぬ捨てヴァンパイアである。

 

 ……今の彼を見たら吸血鬼の元ネタになったヴラドとエリザはどう思うだろう。

 

 エリザは嬉々としてイジメそうだ。ヴラドは……あ、彼の場合は宗教的にサーチアンドデストロイか。合わせちゃ駄目だな、うん。

 

 ダンボールに入ったギャスパー君に苦笑しながら、改めて彼の能力についての考察と今後の事を話し合う。

 

「まず彼の神器ですが、話を聞く限りではある程度は正常に機能していると思います。そうでなければギャスパー君が目を開けた瞬間にみんな止まっている筈です」

 

 そもそも暴走とは『勝手に動く』状態のことだ。特にこういった能力の場合は大抵力自体が本人の意思を無視して発動するものだが、ギャスパー君の場合、最初の方はちゃんとみんなと話していた点を考えると暴走しているとは言い難い。

 

「それはそうだけど。それじゃあ普段の無差別の発動はどうしてだい?」

 

 祐斗の疑問ももっともだ。だがその答えも彼と話を聞き、そして発動したタイミングを考えれば一つの仮説は立てることが出来る。

 

「これは仮説だが、ギャスパー君の神器は彼の感情に反応しているんだと思う。そして肝心のギャスパー君は能力を使用した事に気付いていない。そのせいで『勝手に能力が発動している』と、思い込んでいるんじゃないかと考えている」

 

「なるほど。確かに言われて見れば感情の高ぶりで発動する事が多かった気がしますわね」

 

 朱乃が感心したように頷く。

 

「理由は知りませんが、彼は過去の出来事の結果、多分防衛本能に従って『自動』で『視界全域』を止めるといった感じに無意識に神器を進化させてしまった。だから今後は『自分』で『特定の物』の時を止められるように、新たに神器の性能を上書きする。神器は宿主の意思でその使い勝手が望む形に変化するというのは一誠の赤龍帝の籠手やアーシアの聖母の微笑で証明されていますからね」

 

「なるほど。神器の特異性を利用するんですね」

 

 小猫ちゃんの言葉に頷き返し、ギャスパー君へと視線を移す。彼はまだ他人の視線に慣れていないのか、一度肩を大きくビクつかせると、顔を引っ込ませてしまう。

 

 その動作に苦笑しつつ彼が顔を出すのを待つ。おずおずといった感じに顔を覗かせた彼に、安心させるようにゆっくりと口にする。

 

 

「ギャスパー君。君にはこれから能力を使う感覚を体感で覚えて貰わないといけない」

 

「でで、でもでもどうやってですかぁ? 今までだって何も感じませんでしたぁ」

 

「……だったら余計に使って覚えて行くしかない。これは自分が仲間に言われた言葉の中でも結構気に入っている助言なんだが――」

 

『凡俗であるのなら数をこなせ。才能が無いのなら自信をつけよ』

 

「――ていう言葉がある」

 

「……なんかスゲー上から目線じゃね?」

 

「しかたない。実際凄く偉い立場だったし、何より言っている事は何一つ間違ってはいない」

 

 そう言ってみんなから改めてギャスパー君へと視線を向ける。

 

「ギャスパー君にはまず数をこなして自信を付けて貰う」

 

「うううう出来るでしょうか?」

 

「出来るまでやる」

 

「はうっ!? スパルタは嫌ですぅぅぅ! 優しくしてくださいいぃぃ!」

 

 ダンボールに完全に潜ってガタガタと震えながらもきっちり要望は言うのか。でも特訓自体は嫌だとは言わなかったなし、うん、一歩前進だな……というか意外と一言多いと言うか、実は毒舌タイプか?

 

「……相変わらず、ギャー君はへたれ吸血鬼です」

 

「うわあああああん! 小猫ちゃんがイジメるぅぅ!」

 

 溜息混じりにそう辛辣に告げる小猫ちゃん。それを受けてギャスパー君がますます泣く。

 

 ……意外と小猫ちゃんもSっ気が強いよなぁ。

 

 どこか泣いてるギャスパー君に対してこう、愉悦! みたいな表情をしている。今もなんかダンボールに近付いて軽く揺らしてギャスパー君の反応を楽しんでいる。

 

 まぁ同級生だもんな。あのくらいのじゃれ合いは普通か。

 

 自分も祐斗や一誠、最近では元次郎と居る時は色々と言い合っているし。

 

「……ねえ白野」

 

「はい?」

 

 二人の様子を微笑ましく眺めていると、真剣な表情をしたリアス先輩に声を掛けられた。

 

「ギャスパーの特訓に関してはあなたに一任したいの。その代わりに必要な物があるなら言って、出来る限り融通するわ」

 

「いいんですか?」

 

「ええ。元々ギャスパーはこっちに残る部員達に任せる予定だったの。わたしと朱乃は会談の件で、そして聖魔剣のことで祐斗は冥界に呼ばれているから二、三日空けてしまうの」

 

 なるほど。それは確かに心配だな。

 

「分かりました。それとこれは自分の要望ですが、ギャスパー君にもみんなと接するのに慣れて貰うために、彼の能力が安定するまではみんなで早朝訓練をしたいのですが、構いませんか?」

 

「ええもちろん。それじゃあ後で旧校舎の鍵とソーナに早朝登校の許可証を発行して貰うわね。ありがとう白野」

 

 こちらの提案に、リアス先輩は嬉しそうにお礼を述べながら快く了承する。あ、ついでに他の要望を言ってしまおう。

 

「それと、もしも先輩の実家にでも魔眼や邪眼封じの魔道具があったら持って帰ってきてもらえますか? それで神器の能力を抑えられるならそれも一つの手でしょう」

 

「……そう言えば神器だから無理だろうと決め付けてその手の事は調べていなかったわね。分かったわ。実家の蔵に何かないか調べてみるわ」

 

 やっぱり蔵があるくらいの大きな家に住んでいるのか。これなら少しは期待できるかな?

 

 とりあえずその日はリアス先輩と一緒に今後のプランを話し合って解散する事になった。さて、明日から少し大変だな。

 




ギャスパーの一連の流れはいっきに投稿したかったので頑張った。
因みに時止めの対処法は原作通りで、能力の考察は原作読んだ私の独自解釈です。


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【訓練開始】

という訳で訓練開始です。



 翌日からギャスパー君を交えたグレモリー眷族のみんなと一緒に早朝訓練が始まった。因みに場所は駒王学園の旧校舎の傍だ。一応黒歌に頼んで旧校舎周辺に人払いの結界は施して貰った。

 

「うう眠いですぅ。太陽が~日光が~」

 

 ジャージ姿で文句を言うギャスパー君。にしても、まさかパジャマまで女の子みたいなのだとは、まあ棺桶で寝ていたのは吸血鬼ぽかったな。

 

「こいつ本当に男にゃん?」

 

 眠そうにしながら愚痴るギャスパー君を指差しながら黒歌が訝しむ。

 

「まあ気持ちは分かる。だが男だ」

 

「で? 今日はどうするの?」

 

 レイナーレの言葉にとりあえず周りを見回す。

 

「自分はギャスパー君の訓練を見るから黒歌はみんなを頼む」

 

「了解にゃん。じゃあみんなまずはランニングで身体を温めるにゃん」

 

 黒歌の号令と共にみんなが学園を出てランニングへと向かう。

 

「さて、じゃあ自分達は神器の特訓だね」

 

 そう言って蒼那先輩の許可を貰って借りておいたバスケットボールをスポーツバックから取り出す。

 

 ギャスパー君が不可解そうな表情でボールと自分とを交互に見詰める。

 

「自分がボールを持っているから、ギャスパー君はこのボールだけを止めるつもりで力を使ってくれ。十秒ごとに落として止められているか確認するよ」

 

「で、でももしボールじゃなくて月野先輩を止めちゃったら……」

 

「それはそれで構わない。とにかく今はギャスパー君が能力を使ったかどうか自分で知覚できるようになるのが目的だからね。さ、それじゃあ始めよう」

 

「は、はい。頑張りますうぅ!」

 

 こうして早朝訓練が始まった。

 

 

 

 

 ボールは一回。自分の腕が左右合計で五回。全身が一回。発動失敗が九十三回か。

 

 昼休み。朱乃に作って貰ったお弁当を食べながら、ノートを広げて早朝訓練で百回程ギャスパー君に能力を使って貰った結果を纏める。

 

 結論から言えば予想通りギャスパー君は意識して能力を使うのが下手だった。

 

 何か魔術と同じでキーワードを決めてそれを宣言しながら発動して貰うか。

 

 ノートに色々と考察や今後の方針等をあれこれ書きつつその日のお昼は一人で過ごした。

 

 

 

 

開眼(オープン・アイズ)……ですか?」

 

 放課後、猫の姿で来て貰った黒歌に今朝同様に人払いの結界を張って貰ってギャスパー君との訓練を開始する。

 

「ああ。自分が以前浄眼を制御する時に使っていた詠唱、所謂発動の為の自己暗示だな。それと今回はオーラの流れを見て貰うために黒歌にも来て貰った」

 

「にゃん。今朝振りねギャー君。よろしくにゃん」

 

 そう言って頭の上に乗っていた黒歌が軽く前足を上げる。可愛い。

 

「か、可愛いですぅ」

 

 やはり可愛い物が好きなのか、ギャスパー君は少々怯えながらだが、その眼は少しだけキラキラしているように見えた。

 

「さて、それじゃあ練習するか。神器の特訓のあとはギャスパー君の運動神経も見るよ」

 

「運動は苦手ですぅ」

 

「大丈夫だ。小猫ちゃんが追い回してくれる。逃げるだけでいい」

 

 そう言って隣でニンニクの入った籠を高らかに掲げる小猫ちゃんを紹介した。

 

「ひいいぃぃガーリックいやああぁぁ!」

 

「あ、逃げたにゃん! 追うわよ白音!」

 

「はい!」

 

 ……猫の習性か?

 

 逃げ出したギャスパー君を黒歌と小猫ちゃんが笑顔で追いかけていった……まぁこれも勉強だ。頑張れギャスパー君。

 

 順序は逆になったが折角なのでストップウォッチを起動させてギャスパー君がどれくらいのスタミナがあるかを調べる。というか二人から逃げられている時点で素早いのは間違いないな……必至なだけか?

 

 とりあえず三人を見守りながらノートに色々とメモする。やはり身を守る際の発動率は高く、小猫ちゃんも黒歌も停止させられる回数が多かった。

 

 それと力の差によって停止時間が異なるという仮設はどうやら正しかったようで、黒歌の方が小猫ちゃんよりも停止時間が短かった。この辺りも今後は詰めて行った方がいいだろうな。

 

 結局追い回されたギャスパー君が疲れてダウンしてしまったので、その日の放課後訓練はお休みする事になった。

 

 

 

 

 特訓二日目の朝。やはり悪魔で吸血鬼の為かギャスパー君が日光に対して愚痴るので、苦笑と共に軽く励ましてから訓練を開始する。

 

「今回は対策を考えようと思う」

 

「対策ですか?」

 

「ああ。ギャスパーの能力を防ぐ方法だな。昨日の黒歌と小猫ちゃんとの追いかけっこを見た限り、ギャスパー君との力の差によって神器の効果時間に違いがあるのは間違いない。と言うわけで一誠に協力してもらう事になった」

 

「おう! 頑張ろうなギャスパー!」

 

「は、はい!」

 

 一誠が元気一杯に答えると、ギャスパーも釣られて大きな声で返事をする。うん、自分が見れない時は一誠にまかせれば大丈夫そうだな。

 

 普段のエロ発言で誤解されがちだが、一誠は面倒見が良いしコミュ力も高い方だ。朱乃の話だと夜の仕事の時などは部室で待機しているギャスパー君に自ら話しかけて気遣っているらしい。

 

「まずは倍化無しの一誠の停止時間を計って、次は倍化状態の一誠を止める。その後は自分が『祝福』で身を守った状態。それとオーラで身体強化したり、纏って守った状態ではどうなるかも調べよう。意図的に相手を止めるから、ギャスパー君には辛いかもしれないけど頑張って」

 

 ギャスパー君に向かって激励する。

 

「は、はいぃ。頑張ります!」

  

 少し動揺はしているようだが、彼も必要な事だと分かっているのだろう。小さくしかしはっきりと頷いてくれ。

 

「それじゃあ訓練スタートだ」

 

 

 

 

 早朝訓練を終え。今日も今日とて昼休みにギャスパー君の情報を纏める。

 

 まず神器への対策だが、自分が立てていた仮説通りだった。

 

 通常時の一誠は数分間停止していたが、倍化で強化されて行く度に一誠の停止時間が短くなって行った。

 

 れと『破壊』で効果を上げなくても『祝福』だけでも防ぐ事ができた。これは個人的には嬉しい結果だ。正直能力を二つ使ってしまうのは自分の事情としても厳しい状況だったのでありがたい。

 

 もっとも、彼が力をつければいずれは『祝福』だけでは防げないかもしれないが。

 

 それとついでに『豊穣神の器』で防げるか試したが、こっちでは防げなかった。

 

 他にも黒歌にオーラを纏って貰った状態で停止できるか試して貰ったところ、普通に防げた。

 

 これらの情報から、多分ギャスパー君の神器は目から魔力等を飛ばしているのではなく相手に直接干渉して止めている事になる。

 

 ただしその際に『行使された力』よりも『対象側の耐性や力量』が上回っていれば効果が弱まる。といった感じだろうか。

 

 こう考えるとなんか護符的なもんで防げないものか……いや、防ぎ方が解かっただけ良しとしよう。

 

 それにしても、やっぱり発動キーを決めたのは大きいな。

 

 今朝の神器百回使用で、停止箇所は安定しなかったが、発動ミスが初回よりも十回も減った。訓練初めて二日目なら上々の結果だ。

 

 ギャスパー君をその事で褒めたら、恥ずかしそうにしながらそれでも嬉しそうにはにかんでいた……だが男だ。一瞬、本気で可愛いと思ったが男だ。

 

 自分に言い聞かせ、とりあえず放課後の訓練プランを考える。

 

 

 

 

「『開眼』」

 

 ギャスパー君の言葉の後にボールから手を放す。ボールは見事に宙で停止している。

 

「うん。じゃあ今日はこれでお終い」

 

「え? じゃあ今日はもう終わりですか?」

 

 少しだけ期待の篭っている彼の視線に首を横に振る。

 

「いや、このあとは吸血鬼の力について教えて欲しい。何が出来るのかとか」

 

「は、はい。えっとですね」

 

 近くの木陰に並んで座り、吸血鬼に出来る事を尋ねる。

 

 まずは変化の能力。これは逸話でも多い。狼や無数の蝙蝠等に化ける奴だ。

 

 次は影を操る能力……凄い反則技だ。もっとも、自分の影以外を操るのはかなり難しいらしい。

 

 あとは月の満ち欠けによる再生能力。満月の日はほぼ不老不死に近い再生能力を有しているんだとか。ただギャスパー君はハーフな上に悪魔なのでこの能力の恩恵は低いらしい。

 

 あと魅了や暗示の魔眼。ギャスパー君はこれも神器のせいで上手く使いこなせないと教えてくれた。普通に魅了が使えていたらきっとそっち系の趣味の人達は一瞬で虜だったろうなぁ。

 

 吸血鬼の能力について説明を終えたギャスパー君は、何故か溜息を吐いて肩を落としてしまった。

 

「でも、僕はそれらヴァンパイアの能力が上手く扱えません。たぶん血を最低限にしか摂取していないから」

 

 訊けば吸血鬼の力は血の吸い方でだいぶ変わるらしい。

 

 生きた存在から血を十分に飲んでいる者ならその力は安定して振るえ、高威力を発揮できる。ただ生きて行く分には輸血用のパックでも十分なんだとか。

 

 そして逆に血が足りなければ発動すら出来なくなり、仕舞いには栄養失調のように身体を動かす事もままならなくなると教えてくれた。

 

「ん~じゃあギャスパー君は今はどれも安定して使えないってことか?」

 

「はいぃ」

 

「……ふむ。なら自分の血でも飲んでみるか?」

 

「えええ!? いい、いいです遠慮します! それに血って生臭くて好きじゃないんですぅぅ」

 

 ……血が好きじゃないって、もう吸血鬼として致命的じゃね?

 

 血よりも甘い物が欲しいです。と愚痴るギャスパー君を眺めながら、本人が嫌がっているのだから無理強いはよくないと判断し、とりあえず吸血鬼の能力に関してはそれ以上尋ねずに話題を変え、色々と質問したりされたりしながら残りの時間を過ごした。

 

 




正直原作よりも訓練をぬるくしてます。
というか原作の訓練って完全にギャスパーが能力を使える前程だったり、無理矢理能力発動させようとしたりで、正直能力制御の訓練としてはどうなの? という疑問があったのでこうなりました。



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【訓練続行】


 訓練はまだまだ続きます!




 放課後の訓練も三日目だ。今日は冥界から帰ってきたリアス先輩も見学している。

 

 ギャスパー君にいつものように神器で時間を止めてもらっていると元士郎がやって来た。

 

「よぉ! やってるな白野」

 

「珍しいな、元士郎がこっちに来るなんて。何か用事か?」

 

「いや、花壇の水やりのついでに噂の新しい眷属を見に来たんだよ。で、どの子?」

 

 元士郎が興味心身と言った感じに視線を巡らせる。とりあえず急な元士郎の登場で一目散に木の陰に隠れてこちらを伺うギャスパー君を指差す。

 

「あの子だけど」

 

「うおおおマジか! すっげぇ美少女じゃん!」

 

「ヒイイィィ!」

 

 慌ててギャスパー君が顔を引っ込めて木の陰に隠れる。

 

「あ、あれ? 俺ってそんな悲鳴を上げられるような事した?」

 

「あのな匙……」

 

 傍で筋トレしつつ自分達の様子を見守っていた一誠が哀れむような表情で匙の肩に手を置き、ギャスパー君の事情を説明する。もちろん男で女装癖がある事も含めてだ。

 

 その事実を知った瞬間、元士郎は物凄く肩を落として落胆した。

 

「マジかよ。つーかなんで見せもしないのに女装してんだよ。ちくしょう、可愛い分余計に悔しいぜ!」

 

「分かる。分かるぞ匙! 俺なんてあまりのショックにその場で号泣したんだ!」

 

 元士郎と一誠が互いに力強く握手して男の友情を深めていると、不意に強い気配がしてそちらに振り返る。

 

「――っ!? アザゼルさん!?」

 

「「え!?」」

 

「おう。やってるねー少年少女! う~んおじさんも青春時代が懐かしいぜ」

 

 そう言って笑いながら現れたのはアザゼルだった。というか毎回思うがなんでこの人はこうも堂々と敵陣に現れるんだろう。ネタか? 持ちネタなのか?

 

 突然現れた堕天使の長にこの場にいる全員が警戒する。一誠や元士郎も神器を出して備えている。

 

「……堕天使の総督がいったい何の用?」

 

 リアス先輩が警戒しながら尋ねると、アザゼルは気にした様子もなく答える。

 

「ま、今度の会談がこの学園に本決まりしたからな。下見ついでにうちのヴァーリが勝手に接触した挙句に軽く挑発したって聞いたからその侘びにな。悪かったなグレモリーの穣ちゃん、アイツはまぁ正直変な奴だが、それでも三陣営の会談前に問題を起こすような馬鹿じゃないから許してやってくれ」

 

 そう言って軽く謝罪するアザゼル。その顔はどことなく問題児を抱えるお父さんや先生のように見えなくもなかった。

 

「にしても良い感じに神器持ちが沢山いるじゃねーか。おい! そこの吸血鬼」

 

「はうっ!?」

 

 アザゼルが木の後ろから顔を出してこちらを伺っていたギャスパー君を指差す。

 

「お前の『停止世界の邪眼』だが、制御できなきゃただの害悪にしかならない神器だ。五感から発動するタイプは本人のキャパシティーが足りないと勝手に発動するからな」

 

 アザゼルの言葉にギャスパー君がその場で蹲って地面にのの字を書き始める。おいこら、折角人が持ち上げた自信を下げるんじゃない。

 

「因みにアザゼルさん、五感、特に視界を介する神器の場合、魔眼封じとかは有効でしょうか?」

 

「有効な場合もあるが『停止世界の邪眼』程の物となると難しいかもな。それだったら神器を直接制御する装置を着けちまった方が良い場合もある。ただ悪魔は神器の研究は殆ど進んでいないからまず持ってないだろうな」

 

 唐突な質問だったが、アザゼルは気にした様子もなく答えてくれた。しかし、予想はしていたが悪魔は神器の研究を殆どしていないのか。

 

「……まあ、転生させるなら『能力があった方が良い』と言うのが悪魔の方針だろうから仕方ないか。となるとやっぱい神器を抜き出す技術のある堕天使の方が神器に関してはかなり詳しそうだな」

 

「お、興味があるか? 俺もお前の神器には興味があるぜ。なんせ俺が今まで見たことのない神器だ。しかもその能力は魔道具を収納し、その能力を収得するなんていう破格の力だ。興味深いぜ」

 

 ここぞとばかりに勧誘してくるアザゼルに肩を竦めて首を横に振って断る。

 

「今は大事な後輩の面倒を見ないといけないので断らせてもらいます」

 

「そいつは残念。さて、ついでだからお前ら二人の神器についても軽くレクチャーしてやるよ」

 

 そう言ってアザゼルは嬉々として元士郎と一誠の元に向かい、神器の講義を始めた。二人はかなり戸惑っていたが、話自体には興味があるのか大人しく話を聞いているみたいだ。

 

 それを見届けたあと、アザゼルを監視するように眺めていたリアス先輩の元に向かう。

 

「ところでリアス先輩、頼んでいた件はどうなりました?」

 

「一応一つだけ眼鏡タイプの魔眼封じがあったから持ってきたけど、正直さっきのアザゼルの説明を考えるとちゃんと機能するかは判らないわね」

 

 そう言ってリアス先輩が取り出したのは深紅のフレームの眼鏡だった。見た感じ度は入っていない。

 

 とりあえずギャスパー君につけて貰おう。

 

「ギャスパー君、これを掛けてみてくれるか?」

 

「は、はい」

 

 傍にきて貰った彼に眼鏡を掛けて貰い、その状態で訓練をしてもらった。

 

 結果から言えば……ダメだった。やはり神器その物を制御するしかないみたいだな。

 

 因みに自分の浄眼には作用した為、浄眼が暴走した時の為に貸して貰えないかダメもとで尋ねると、使っていないからと普通に譲ってくれた。

 

 さっそく帰ったら解析の魔術で調べよう。物質化制御でいつでも作れるようになれば本体が壊れても一時的に代用可能だし、眼鏡に宿る魔眼封じの魔術術式を解析すれば魔眼効果低下か封印のコードキャストを組む事も出来そうだ。

 

 内心で新しいコードキャストの獲得に胸を躍らせていると、アザゼルから助言を受けた元士郎がやってきて訓練への協力を申し出てくれた。

 

 なんでも元士郎は先程まで自身の神器である『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』は、対象のパワーを吸い取って弱らせるだけの物だと思っていたらしいが、実はあらゆる物に彼の神器の触手を接続させて、自身が指定した流体、例えば神器のエネルギーや血液等も選択できるという事がアザゼルの助言で解かったらしい。

 

 さらに本人側のラインを別の人物に繋げる事で吸い取った力を送る事も出来るんだとか。やはり神器は色々試して自身でどのような使い方ができるかを考え続ける必要があるみたいだ。

 

 因みにアザゼルは木場の聖魔剣が本命だったらしく、いないと知ると二人のレクチャーを終えるとさっさと帰ってしまった。

 

 そんな訳で元士郎にギャスパー君の『停止時間の邪眼』のエネルギーを吸い取って貰いながら訓練を再開した。

 

 結論から言えばかなりマシになった。失敗回数が大幅に減り、停止ミスも減った。

 

 それを踏まえて後半は難易度を上げる事にした。今まで動かなかったボールを今度は動いた状態で止めるというものだ。

 

 その場でボールを地面に軽く叩きつけて跳ねさせる。最初はドリブルとかギャスパー君に向かって投げるとかも考えたが、停止ミスや停止に成功しても急に動いたりで突き指したりしたら危ないのでその場で跳ねさせる事にした。

 

 新しい訓練に入ると途端に失敗回数が増えた。やはり固定した状態と、動かした状態ではだいぶ差があるみたいだ。

 

「ううう。全然上手く行きませんでした」

 

「まだまだ初日だ、気にするな。大事なのは使ったかどうかを確認できるようになる事だからな。それでどうかな? 少しは何か感じるようになったかい?」

 

「……そう言えば、匙先輩に力を吸ってもらっていた時は、少しだけ何かを感じていたかもです」

 

 力を吸われていた時か……案外そのあたりにヒントがあるのかもしれないな。

 

「あとは月野先輩が考えてくれた発動キーを言うと発動しやすいってこと以外は……」

 

「そっか。まぁ気にするな。むしろ三日でこれだけ進めたんだから順調だよ。これからも一緒に頑張ろうな」

 

「は、はい!」

 

 嬉しそうに笑うギャスパー君。その笑顔を見た匙が悔し気な表情をし、拳を握って振るわせながら呟いた。

 

「くっそ可愛い。だが男だ」

 

 それに続けとばかりに一誠も同じ表情と格好で呟いた。

 

「くっそ神様はやっぱり敵なんだ!」

 

 ……気持ちは少し分かる。なんというか普段泣き顔が多いせいか、偶に見せるはにかんだ笑顔の破壊力が凄いのだ。

 

 そう考えるとギャスパー君はリップにも似ているのかもな。卑屈な癖に自分の要望はきっちり言ったり、一部の者にイジメられたり、嬉しそうに笑うとこっちも嬉しくなったり……きっと普通に悪魔の仕事をしてたら男女から大人気だったのではないだろうか? 

 

 そんな事を考えながら、今日の訓練を終えて帰宅した。

 




 ちゃっかり魔眼封じの礼装をゲットしたハクノン。そしてコードキャストを修得。ふふふ、これで魔眼の類も怖くないぜ。性能にするとだいたいこんな感じかな↓

礼装『魔眼封じの紅眼鏡』

解説:自他関係なく魔眼による呪いや効果を遮断する眼鏡。少し控え目な深い紅色がチャームポイント。

スキル名:《eye wear》

効果:魔眼への耐性を付加するバフ系スキル。ただし付加された耐性以上の能力を防ぐのは不可能。

物資化による性能:解説通りに魔眼の効果を遮断する。ただし眼鏡の性能以上の物は防げない。

まあ大体イメージとしてはこんな感じでしょうか。本当に登場させる場合はもう少し練ってから使わせます。



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【月野白野、怒る】


という訳で珍しく怒っている白野です。
正直このギャスパー君のイベントは同じ流れか別の形にするか迷ったけど、原作でも同様の流れで起きたから原作通りにしました。




「さて……月野白野君はオコですよ?」

 

「「すいませんでした」」

 

 翌日……というか深夜です。時間的には既に次の日だが体感では今日である。

 

 そんな自分は今、夜中に慌てふためいた朱乃に連れられて旧校舎に転移させられ、今はギャスパー君の部屋の前にいる。

 

 扉の前には青い顔で正座するリアス先輩と一誠、そして他のメンバーもどこか申し訳なさそうに俯いている。

 

 なぜかって? それは――。

 

『うわあああああああん!!』

 

 ――扉の向こうから聞こえるギャスパー君の泣き声のせいです。

 

 そんな訳で……ちょっと久しぶりに怒ってます。

 

「……説明はよう」

 

 無表情のまま告げると、一誠が青い顔でこの事態の説明を始めた。

 

 なんでも放課後の自分とギャスパー君のやり取りを見て、そろそろ悪魔の仕事をさせて他の人と接してみてはどうかと、リアス先輩がギャスパー君に提案したらしい。

 

 ギャスパー君は最初はかなり悩んでいたらしいが一誠と一緒に行動させること、そして無理だと判断したらすぐに帰らせるという条件で一誠のお得意さんの家に一緒に向かったらしい。

 

「……で、そこで男と知りながら襲われそうになった。と?」

 

「いや、襲おうとしたかは分からないけど。まぁうん、物凄い興奮して迫ってた姿はかなり怖かった」

 

 それを普通は襲っていると言うんだよ一誠。

 

 で、あまりの相手の行動にギャスパー君は動転して能力を無自覚に使ってしまい、そのお得様と一誠を止めてしまったと言う訳だ。

 

 あれだけ練習したにも関わらず感情のままその場の全員を止めてしまったギャスパー君は自信を喪失。しかも一誠がフォローに失敗した結果が――。

 

「――ごらんの有様だよ」

 

「「本当にすいませんでした」」

 

  精一杯の皮肉を込めて言ってやると、リアス先輩と一誠が更に縮こまりながら申し訳無さそうに頭を下げる。一誠なんて土下座までしてしまった。

 

「……はあ。とりあえず今はギャスパー君の方が優先だな」

 

 にしてもどうするか。とりあえず泣き止んで貰わないと。

 

 扉に手を掛けるが、鍵がかかっていた。

 

 ……仕方ない。

 

「壊します」

 

 収納していたエクスカリバーと取り出して破壊の力を込めて鍵部分を突き破る。

 

 破壊音と共に鍵が壊れ、無事な方の取っ手を掴んで扉を開ける。入室する前に背後に視線で『誰も入らないように』と睨み、全員が頷くのを見届けてから改めて扉を閉める。

 

「ひええぇ?」

 

 中に入ると音に驚いたのか、涙と鼻水でぐちょぐちょのギャスパー君が驚いてこちらを振り返っていた。

 

「あ、ああ、ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

 入って来たのが自分だと解かると、ギャスパー君は怒られるとでも思ったのか、凄く怯えた表情でその場で頭を抱えてしまい、何度も何度も謝り始める……正直見ていて痛々し過ぎるのですぐに駆け寄って彼を抱きしめた。

 

 意識してそうした訳ではない。ただ、自分が辛い時に母さんがこうしてくれたから自然と身体が動いただけだ。

 

 母さんは自分を優しく撫でてくれた。抱きしめてくれた。誰かの温もりを、優しさを感じられる。それだけで自分は凄く安心できた。だからその暖かさを、優しさを分け与えるように、彼の背中を撫でながら何度も何度も大丈夫だよ。と語り掛け続ける。

 

 どれくらいそうしていただろうか。しばらくして泣いていたギャスパー君が鼻を啜る音と一緒に『もう大丈夫ですぅ』と小さく答えた。

 

 そんな彼を解放して隣に座る。

 

「……災難だったね。あとで二人は説教しておくから」

 

「……いいんです。悪いのは僕だから。僕がもっと神器をちゃんと扱えれば、僕がもっとちゃんと他人と向き合えていれば……でも怖いんです」

 

 完全に気落ちしている彼をどうすれば助けてあげられるのかを懸命に考える。

 

「……ねえギャスパー君。自分が前に転生者だって言った事は覚えてる?」

 

 ギャスパー君には他のグレモリー眷属同様に自分の事情を説明してある。そのことを覚えているかどうか改めて確認すると、彼は頷いて答えた。

 

「はい。生前の記憶を持って転生した事や、これまでの事件をずっと部長達と一緒に解決したんですよね?」

 

 彼の言葉に苦笑まじりに頷く。

 

「はは、まぁ解決したのはみんなだし、自分はただ関わっただけだけどね。自分なんて所詮はただ神器を宿しただけの一般人だ。その証拠に色々と力不足を感じさせられてるよ。腕は燃やされるし、そのせいで家族を悲しませるし、前回の事件も下手したらヤバかった。ケルベロスなんて怪獣かと思ったよ。ははは」

 

 できる限り明るく話すがギャスパー君の表情は晴れない。

 

「……どうして、先輩はここまで僕に、僕達に関わるんですか? そんな沢山怖い思いをしてまで。大切な人を悲しませてまで関わるんですか? 今度こそ本当に死んじゃうかもしれないんですよ? 僕が……先輩をずっと止めてしまうかもしれないんですよ……」

 

 質問して行くうちに膝を抱えて蹲ってしまったギャスパー君。自分は彼の頭に手を置いて優しく撫で、彼がこちらをもう一度見上げてからその質問に答えた。

 

「簡単な理由だよ。自分がそうしたいと思ったからだ」

 

「……え? それだけ、ですか?」

 

 驚いたようにこちらを見上げる彼に、自分は苦笑しながら頷いた。

 

「うん、それだけ。自分は正直あれこれ考えて行動できるほど器用じゃない。だから損得や価値観より先に感情で行動してしまう。助けたいと思ったら助ける。その為に頭を働かせる。な? 単純だろ?」

 

 そう笑って答えると、ギャスパー君はどこか少し呆けた顔をしたあとに下を向いてしまう。

 

「じゃあ先輩が僕を助けてくれるのは……僕を助けたいから、ですか?」

 

「ああ。誰かの為に君を救いたいんじゃない。自分のために君を助けたいと思った。もちろんギャスパー君の境遇への同情とか色々思う事はあるけど、結局根底の動機はそれだけだな。それに、実は少しだけ……君が羨ましいと思った」

 

「羨ましい?」

 

 意味が分からずに困惑する彼に、自分は頷いて答えた。

 

「ああ。君の時を止める力を羨ましいと思った。だってその力を使えばあと一歩で届く手を……届かせる事ができるのだから」

 

 そう言って手を前に伸ばす。そこに、かつてこの手が届かずに救えなかった大切な人達の姿が重なる。

 

「君の力は『誰かを助けられる可能性を創る』力だ。つぎの瞬間には殺される者も、君ならその凶刃から助けられるかもしれない。数十分後に死んでしまう者も、君が治療できる場所まで連れて行けば助けれるかもしれない」

 

 そこで一度言葉を切って、もう一度しっかりとギャスパー君の瞳を見据えてから口を開く。

 

「君の力は、君が望めば誰かを助けられる力になるんだよ」

 

「僕の神器で誰かを助けられる……そんなこと考えたこともありませんでした……」

 

 そう言ってギャスパー君が自分の掌を見詰める。

 

「そっか。じゃあ今度からは考えよう。悪魔の力も、吸血鬼の力も、そして神器も、君の力なんだから。なんなら自分の血を飲むか? アザゼルさんの話が正しいなら吸血鬼としての力が上がれば案外神器も扱えるかもしれない」

 

「……実は生きた者から血を吸うのが怖いんです。神器も扱えないのに吸血鬼の力も強くなって、それでもし神器が暴走したらって思うと怖くて」

 

 なるほど。確かにその可能性も否定できない。しかし……。

 

「そうなったら自分達がきっちり正気に戻してやる。助けてやるさ。ギャスパー君はもっと周りに頼れ。そうじゃないから君を心配する連中が今回みたいにおせっかいをして失敗するのさ」

 

 そう言って背後の扉を振り向きながら指差す。

 

「あ……」

 

 そこには申し訳程度に扉を開けてこちらの様子を伺っているリアス先輩と一誠がいた。どうやらあの二人は鶴の恩返しで鶴を逃がすタイプだな。

 

 そんなどうでもいい事を考えながら、ギャスパー君の背中を軽く叩いて向こうに行くように促す。彼は少しだけ迷ったあと、立ち上がってこちらへと振り返る。

 

「あの、ありがとうございました先輩。その……嬉しかったです。僕の力が誰かを助ける為の力だって言って貰えて、僕をその……助けたいと言ってくれて」

 

「自分だけじゃない。オカ研のみんなだってずっとそう思っているよ」

 

 笑って答える自分に、ギャスパー君もぎこちなくだが微笑み、しっかりと自分の足で扉の方へと向かった。

 

 ……ふむ。年の離れた兄弟がいたらあんな感じなのかなぁ。

 

 実際には一歳しか違わないが、こっちは転生者で向こうは引きこもりだ。精神年齢的には結構な差があるような気がした。

 

 され、説教すると言ったが……今日はもう寝よう。

 

 心配事が解消された瞬間に眠気が襲ってきたので説教は後日に回す事にした。 

 




という訳で原作でもあったギャスパー君の大事な立ち直りイベントでした。
原作だと一誠がエロ方面で説得していたけど、こっちはまじめに説得。

実際、目の前で色々亡くしている白野にとっては時止めの能力はかなり魅力的に映っていると思う。まぁ白野の性格だとそこまでで終わりでしょうけど(無理矢理奪う等の発想に行かない)それが彼の良い所だと思う。



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【三陣営会談 前編】

という訳で前編後編です。



 ギャスパー君が再び引き篭もった事件から更に数日が経過した。

 

 ちょっと思うところがあって元士郎に生徒会の仕事を手伝う代わりに彼の神器の力を借りてギャスパー君の訓練を続けた結果、やはり神器の力を吸い取って減らすと神器発動の感覚を感じるらしい。

 

 もっとも力が低下している為、発動しても停止時間は縮むし対象次第では停止すらさせられないが、止める回数自体は大幅に増えた。

 

 ただ根本的な解決にはならないんだよなぁ。

 

 毎回元士郎に力を吸い取って貰う訳には行かない為、いずれは自力でその感覚を掴んでもらう必要がある。

 

 たが元士郎の協力のお陰で仮定ではあるが、ギャスパー君が上手く神器を扱えない根本的な理由に辿り着く事はできた。

 

 自分の予想が正しいならギャスパー君自身が一歩踏み出す必要がある。今日の会談の後にでも彼に伝えよう。

 

 そう、今日はこれから三陣営の会談が行われる大事な日だ。

 

 そんな大事な日に自分は何故かオカルト研究部の部室にいた。

 

「……なんで自分や黒歌、レイナーレまで出席しないといけないんでしょうか?」

 

「仕方ないわよ。三陣営のトップ全員からの呼び出しだもの。わたし達じゃ意見すら出来ないわ」

 

 そう。何故か三陣営からお呼びが懸かったのだ。正直勘弁して欲しい。

 

 溜息を吐きながら改めて頭の中で現状を整理する。

 

 会談場所は駒王学園の職員会議室。そこにそれぞれの陣営の長が護衛と共にやってくる事になっている。

 

 グレモリーは長であるリアス先輩と彼女の『女王』である朱乃。そして相手側の強い希望と部長の希望で一誠の三人が参加する。

 

 シトリーは長である蒼那先輩と彼女の『女王』である真羅先輩の二人。

 

 他のオカ研や生徒会のみんなは学園を覆う結界の警備としてやって来た天使や悪魔、堕天使達と一緒に防衛に充てられている。ゼノヴィアやイリナもこちらだ。

 

「にゃ~。寝不足はお肌の大敵なのに~」

 

「ちょっと黒歌、会議中に寝たりとか本当に勘弁してよね」

 

 黒歌は猫の姿で、レイナーレは以前見かけた時に着ていたスーツをきちんと着て傍に控えている。自分は制服に、一応何かあった時の為に腰にエクスカリバーを帯刀している。

 

「ところでギャスパー君はどうするんですか?」

 

「さすがにまだ制御が安定していない彼を連れて行くわけにはいかないわ」

 

 いや、むしろ一人にする方が問題な気がする……一応やれることはやっておこうか。

 

 先に行ったみんなを見送り、部屋に置かれた大きなダンボールに寂しそうに引き篭もっているギャスパー君へと静かに近付いた。

 

 

 

 

 会議室に入ると豪華絢爛な円卓が設置されていた。椅子が全部で六つ置かれ、北側に一席、西と東にも一席ずつ、そして南側に二席並んでいるものと、そこから少し離れた場所に一席置かれていた。

 

 席にはご丁寧にネームプレートまで設置され、全員がそれぞれ自分の名前の席に着く。南側の揃って置かれた席にはリアス先輩と蒼那先輩の二人が、その近くの一席に自分が座る。

 

 自分の膝の上に黒歌が飛び乗って丸くなり、背後にはレイナーレが待機し、同じく朱乃と一誠、真羅先輩がそれぞれの主の背後に待機する。

 

 全員が座ってから程なくして魔方陣が三つ表れ、そこから四人の男性と二人の女性が現れる。

 

 男性は全員知っている。サーゼクスさんとアザゼルとヴァーリ、そしてミカエルさんだ。

 

 女性の方は一人はグレイフィアさん。最後にミカエルさんと一緒に始めて見る女性の天使が表れた。名前はガブリエルさんと言うらしい。

 

 ウェーブのかかったブロンドに、おっとりした柔和で優しげな表情と雰囲気、そして包容力を形にしたかのような豊満な胸と安産型の大きくも整ったお尻。まさに天使のイメージをそのまま形にしたような女性だ。

 

 ミカエルさんに同行している事から彼女も幹部の一人で間違いないだろうな。というか一誠とアザゼルが物凄くイヤらしい目で凝視してる。気持ちは分かるが時と場所を選ぼうよ。

 

 そんな事を考えている内に全員が着席し、軽く自己紹介が行われるとサーゼクスさんが代表して口を開いた。

 

「さて、まずは我々悪魔陣営の要望を聞き、こうして集まって貰えた事に感謝する。さっそくだが、まずは前回の事件についてから話し合うとしようか。リアス、ソーナ」

 

「「はい」」

 

 サーゼクスさんの言葉にミカエルさんとアザゼルが頷き、リアス先輩と支鳥先輩が立ち上がり資料を片手にコカビエル事件の説明が開始された。

 

 

 

 

「――以上が我々、グレモリー眷属とシトリー眷属、そしてこちらの人間、月野白野が関与した事件の詳細です」

 

 最後にリアス先輩がそう締め、サーゼクス様が二人に着席の指示を送り、次にアザゼルの方へと向き直る。

 

「では次にコカビエルの処遇について、堕天使陣営から改めて説明を願う」

 

 サーゼクスさんの言葉にアザゼルがやれやれと言った感じに肩を竦めて説明を始める。

 

「もう資料を送ったから知っているとは思うが、コカビエルは捕縛後、我々『神の子を見張る者』の軍法会議で『地獄の最下層(コキュートス)』で永久冷凍の刑に処することを決定し、決行した。もう奴が外に出る事は一生ないだろう」

 

 必要最低限の説明をして席に座り直すアザゼルにミカエルさんが尋ねる。

 

「処置については理解しました。それでは今回の一軒はコカビエルの単独行動であり、組織としての総意ではない。そう言うことでよろしいのですね?」

 

「おう。つーかサーゼクスから戦闘中に奴が俺をこきおろしてたって説明はお前にもされただろうが」

 

「それでもあなたの口から直接聞く必要がありますから」

 

 ミカエルさんの言葉にアザゼルは面白く無さそうに耳をほじる。

 

「やれやれ信用ねぇな。わーたっよ。んじゃ俺の口から言おうじゃねぇか――俺達堕天使陣営は悪魔、天使と和平を結びたいと思っている」

 

 アザゼルの宣言に驚いてたのは一誠だけだった。やっぱりみんなある程度予想はしていたみたいだ。

 

「どうせお前らもそのつもりだろ?」

 

「……ええ。ですがその前に一つ気になる事があります」

 

「ああ。少なくともこの問題に答えて貰わないと堕天使とは和平を結べない」

 

「あん? なんだよ言ってみな?」

 

 ミカエルさんとサーゼクスさんの険しい表情に、アサゼルは訝しんだ表情で二人に続きを促す。

 

「では訊くが、何故最近堕天使陣営は神器所有者の人間を集めているんだ?」

 

「ええ。『白い龍』を手に入れたと知ったときには強い警戒心を抱いた程です」

 

「なんだそんな事かよ。まあ研究の為つーのが半分。もう半分は自衛の為さ」

 

「自衛? 和平を結ぶつもりでいたのに自衛ですか?」

 

「ああ。つってもそれはお前らに対してじゃない。ある意味、今後俺達にっとてはもっとも邪魔になる連中だな」

 

 そう言ってアザゼルが含みのある笑みを浮かべる。そんなアザゼルの姿に、サーゼクスさんは顎に手をやり、しばし考えたあとにある名を口にした。

 

「……『禍の団』か?」

 

「ほう。悪魔陣営も知っていたか」

 

「名前だけはな。上級悪魔の何人かに不信な動きが見られて調査している内にその名に辿り着いた」

 

「その様子だとアザゼルはその『禍の団』について既にある程度は知っているようですね」

 

 ミカエルさんの言葉にアザゼルが頷いて答える。

 

「つっても、組織名と背景が判かったはつい最近だ。構成員は三陣営でも危険分子と呼ばれる者や和平に反対な連中が殆どだ。シェムハザによれば神器持ちの人間も多くいるらしい」

 

 厄介な組織だな。確かにそんな存在を知ったら和平を結びたくなるのも頷ける。

 

 そんな中、次に発したアザゼルの言葉に一部の者達が絶句した。

 

「組織の頭は――オーフィスだ」

 

「……オーフィス、彼が動いたのか」

 

「……まさか『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』が手を貸すなんて」

 

 サーゼクスさんとミカエルさんが二人揃って神妙な顔で考え込んでしまう。オーフィスがどういった存在なのか知らなかったので念話で三人に尋ねると、朱乃が答えてくれた。

 

(無限を司ると言われている龍ですわ。龍神の中でも最強の一角と伝えられております。ただ文献では他者や物事への興味が薄く、次元の狭間を住処としていると記されておりました)

 

 なるほど。そんな凄い奴が出てきたから三人とも神妙な顔つきなのか。

 

「どうだ? 俺が自衛の為の戦力を集めた理由も納得だろ? なんなら和平の証として神器の研究情報を提供してもいいし戦力を貸してもいい。ま、それはそっちもだろうけどよ」

 

 アサゼルの言葉にサーゼクスさんが頷く。

 

「ああ。こちらも和平の準備は既に出来ている。戦力を集めていた理由も判明した以上、我々悪魔は和平を結ぶ事に異論は無い」

 

「ではわたしも。天使も両陣営と和平を結びます。もっとも、我々が提供できる物は少ないですが。正直情報や技術では完全に後れを取ってしまっていますからね」

 

「代わりに人間界じゃ一番動き易いし、色々と顔も効くだろ? ま、色々細かい事はこれから決めよう。まずは互いの状況を――」

 

 和平が成立した瞬間に三陣営のトップによる状況確認や情報交換が行われる。というか正直内容についていけないからあとでやって欲しい。

 

 とりあえず気になる単語や情報のみに絞って頭の中に叩き込みながら、膝の上で欠伸している黒歌と、胸元に隠れている『彼』を撫でて安心させながら、視線を巡らせる。

 

 一誠は既に会議から思考が外れ、何故かリアス先輩のうなじを凝視していた……円卓だからその位置だとほぼ三陣営のトップの三人からは丸見えだぞ一誠。

 

 更に視線を動かす。ヴァーリは端から興味が無いのか、壁に寄りかかって目を瞑っている。寝ては居ないようだが話も聞いていないようだ。

 

 グレイフィアさんはいつの間に取り出したのか、ティーセットが乗った銀台車を出してお茶の準備を始めていた。それを見て、ガブリエルさんとレイナーレ、他の護衛メンバーも手伝い始めた。

 

「はい白野」

 

「ありがとうレイナーレ」

 

 お茶を持って来てくれてレイナーレにお礼を言うと、彼女は嬉しそうに照れ笑いを浮かべたが、すぐに恥ずかしくなったのか慌てていつもの表情で戻ってしまう。

 

 そんなレイナーレの様子を微笑ましく思いながら、淹れて貰った紅茶を飲みながら話し合いが終わるのを待つ事にした。

 

 

 

 

「さて三陣営の話し合いも良い感じに進んだことだし、ちょっと話を訊きたい奴がいるんだが、いいかい?」

 

 情報交換がひと段落したところでアザゼルが急に話題を切り変え、こちらに意味有り気な視線を向けてくる。

 

「月野君がどうかしたのかい?」

 

「いやな、前にこいつと接触した時に気になることを言っていたからよぉ。こういう機会は多くないからな。今の内に訊きたい事があるなら聞いてやろうと思ってな」

 

 アザゼルの言葉に他の二人もなるほど、と頷いた。

 

 急に発言権が回ってきた事に驚いたが、せっかくの申し出なので、会議が始まってからずっと気になっていた事を尋ねる。

 

「じゃあとりあえず一番気になっている事から訊きますが……どうして神が来ないんですか?」

 

 自分の一言に、場の空気が変化した気がした。

 




オカルト研&セラフォルー「「あれ私達の出番は!?」」
作者「カットです」

はい。という訳で会談前編です。テンポ優先したので原作よりも流れが早いです。

それと原作よりも人数を大幅に減らしました。個人的にトップ会談なのだからそれぞれの陣営のボスと護衛の副官一人居れば十分だし、学園を良く知る人物が警備しなきゃ駄目だろ。という判断ですこうなりました。



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【三陣営会談 後編】

という訳で後編です。



「何かおかしな質問をしましたか?」

 

 場の空気が少しだけ緊迫したものに変わった中で、ミカエルさんへと視線を向けながら尋ねる。

 

「いえ……そうですね。良い機会なのではっきりと申しましょう――既に我々天使を束ねていた聖書の神は存在していません。そもそも聖魔剣を作れたのは聖と魔のバランスが大きく崩れたが故に生まれたイレギュラーな禁手なのです」

 

「なっ!?」

 

「神様が、既にいない!?」

 

 三陣営のトップとその脇に控えている者達以外が驚き目を見開くが、自分はやっぱりという気持ちの方が強かった。

 

 前回の事件でバルパーが今際の際に放った『バランスが崩れた。神もまた……』という言葉とミカエルさんがやって来た事を考えると『神の不在』という結論が一番納得が出来た。

 

 もっとも、まさか死んでいるとは思わなかった。そりゃ創造神の一人が亡くなればバランスは崩れるよなぁ。

 

「この事実は今まで三陣営でも一部の幹部しか知らない機密情報でした。特に我々天使は死活問題に直結しますから」

 

 そしてミカエルさんが今の天界について教えてくれた。

 

 なんでも天界には聖書の神が使っていた『システム』が存在し、今は天使達が扱っているらしい。

 

 しかし元々は神様仕様のシステムな為に十全には扱えず、いくつかの機能は使用不可。さらに使用できるシステムも効果を及ぼす範囲がかなり狭まってしまっているらしい。

 

 しかもそのシステムは物凄く繊細で、『熾天使(セラフ)』と呼ばれる幹部や上位天使以外の者で神の不在を知る者が近くに居ると不具合が出るらしい。

 

 その為天界は元々幾つかの層に分けられていたのだが、不具合がおきないように一定の層に防壁の結界が張られ、特定の者以外の立ち入りを禁止する事になったらしい。

 

 他にも一部の神器はシステムに影響が出てしまと教えられ、一誠が溜まらずに声を上げた。

 

「じゃあ、アーシアが追放されたのはそのせいで?」

 

「いえ。神器のせいではあるのですが、彼女の場合は彼女の行いその物がまずいのです。信徒が敵対者である悪魔や堕天使を癒す。その行いが知られれば信者の信仰に多大な影響を及ぼしてしまいます……言い換えれば我々天使や信徒の為だけに力を使っていただくのなら問題は無いと言うことになりますが……アーシア・アルジェントには無理なお願いだと思ったので追放するしかなかったのです」

 

 まぁそりゃそうだろう。そもそもアーシアは悪魔と知りながら助けてしまう優しい子なのだ。きっと同じような説明をされれば自分から教会を出て行ったに違いない。

 

 にしても神様がいない、か。

 

「良かったんですかそんな重大な情報を自分達に教えて?」

 

「確かに重大な事ですが天界の特定の階層に入らなければ問題ありません。それに今回の和平に伴い、全ての天使には知らせてありますし、教会所属で信頼できる者にも伝えてあります。むしろ疑問を抱いたまま大勢の人の前で神がいないことが露見され、それが広まる方が厄介なのですよ」

 

 なるほど。システムの安全も大事だが、同様に天使の存在に関わる信仰も大事と言うわけか。天使も大変なんだなぁ。

 

 ぶっちゃけ自分が信仰してるのは生前お世話になったり戦った英雄達への信仰だけである。あ、その流れで天照と御狐様も信仰しているか。

 

 とりあえず神様が来なかった理由は分かったので本命の話題に移る。

 

「あと天使の方々に尋ねたいのは聖剣計画です。現在はどういう形になっているのですか? イリナ達の話では死者は出ていないようですが」

 

 聖剣計画については祐斗も気になっているはずなので遠慮せずに尋ねると、ミカエルさんはこれにはすんなりと答えてくれた。

 

「やっている事はバルパーと同じです。戦闘職ではない者からきちんと事情を説明し、その上で正規の手順で聖なる因子を抜き取ります。ただ聖なる因子は兎も角その因子に耐えられる者を鍛える必要もありますから、現在の我々の技術では数年に一人か二人得られれば、と言ったところですね。もちろん命を奪う真似はしていませんよ」

 

 一応バルパーとは違って人道的に処置してくれているみたいだな。

 

「答えて頂きありがとうございます。次に悪魔陣営ですが……サーゼクさん、今冥界では転生悪魔はどういった扱いになっているのですか?」

 

 次にサーゼクスさんへと向き直り、そう尋ねる。

 

 彼は困ったような表情をしながらしばし思案したあとに口を開いた。

 

「純血や混血の翁達は悪魔の駒による転生悪魔を自分達より下位の存在と見ている。というのが現状だね」

 

「……改善は?」

 

「黒歌君の一件が明るみになって、ようはく転生悪魔への待遇改善に向けての政策に乗り出せた段階だよ。正直厳しい状況だ。僕に出来るのは精々僕と繋がりのある者達で可能な限り不当な扱いを受けている転生悪魔の保護を行う事ぐらいだ。何せ戦争では彼らに協力して貰った立場だからね。蔑ろにする訳にも行かない」

 

 なるほど。過去の大戦での恩がある故に今の悪魔の有り方に強く反発できないのか。その辺はなんというか貴族や商人を蔑ろにできない王族みたいだ……というかまんまか?

 

「……黒歌から転生悪魔について色々聞きました。神器持ちと言う理由で無理矢理転生させられた者もいると。もちろん転生した者達全てが不幸だとは思いません。ですが同時に上級悪魔の身勝手で節操の無い行いで苦しんでいる者、不遇な待遇を受けている者がいるのも事実です」

 

 少なくとも自分には現魔王には苦しんでいる転生悪魔を救う責任があると思っている。何故なら悪魔の駒を作ったのが彼らだからだ。

 

 故に『使われる側』として、そして何よりも『知り合いに使われた者』として、はっきりと言わなければならない。

 

「悪魔の駒はもっと厳選した上で渡すべきですし、最悪取り上げるべきだと思います。それと場合によっては眷属から開放し、ちゃんとした上級悪魔への斡旋や保護等の法もしっかりと作るべきかと」

 

 個人的には悪魔の駒を軽はずみに使うのもどうかと思うが、それは人間としての立場の話なので今回は口にしないでおいた。今大事なのは既に転生してしまった人達の安全や生活の改善だ。

 

 サーゼクスさんにそう尋ねると彼とグレイフィアさんは難しい顔をしてしまう。まあ当然だろうな。先にこの手の問題は難しいと言われたばかりなのに、こちらはそこに要求を突きつけたようなものなのだから。

 

「……分かった。今君が行った内容を踏まえて、草案だけは作らせて貰うよ。幸いにして今回の同盟が成れば戦力を増強する為に転生悪魔を増やすと言う当初の政策は見直す事が可能だ。僕自身も、せっかく転生してくれた同胞が傷付くのは気分が良いモノではなかったからね」

 

 サーゼクスさんは一度大きく頷いて真剣な表情で顔を上げると最後にそう了承してくれた。政策に期待できるかは微妙だが小猫ちゃんを助けてくれた実績もあるから最後の言葉はきっと本心だろう。あとは任せるしか無い。

 

 さて、最後は。

 

 アザゼルの方へと視線を向ける。彼はこちらがどんな発言をするのか楽しみにするかのように腕を組んで不敵な笑みを浮かべていた。

 

「……堕天使陣営について訊きたいのは神器の抜き取りについてです。命を失わずに神器を抜き取るのは可能ですか?」

 

「可能か不可能かで言えば『解からない』だ。そもそもそこに到達するのがその技術の目的だからな」

 

 アザゼルの言葉に会議室がザワつく。

 

「で、でも実際にはアーシアは死にかけた! それに俺だってその、レイナーレに殺されたんだぞ」

 

 一誠の言葉にレイナーレが顔を強張らせる。一誠も一瞬躊躇ったが、それでも口にせずにはいられなかったのだろう。

 

「同じ組織でも一枚岩じゃねーのはコカビエルの件で理解しただろ。そもそも対象の命を気にしなければ多少の実力と術式さえ知っていれば無理矢理剥ぐ事自体は誰にでも出来るんだ。その情報が堕天使内で流出しちまった結果、力欲しさに無理矢理奪う奴が出てきたって訳だ」

 

 まぁ、レイナーレの最初の反応を見る限り、堕天使からすれば人間なんて羽虫程度の扱いだろうから、そりゃこっちの命の考慮なんてしてくはくれないだろう。

 

「で、次にお前を殺した理由だが、お前の神器は抜き取り不可だ。なんせ神器その物にドライグが宿っちまっている。つまり、お前がただの人間の時点で殺すしか無かったのさ」

 

 確かに強大な力、それこそ悪魔になってようやく『赤龍帝の籠手』を扱えている一誠だ。人間のままだったら逆に力に飲み込まれて暴走していたかもしれない。

 

「だがそのせいで俺は悪魔だ」

 

「嫌か? 少なくとも今のお前の生活は随分と充実しているようじゃねぇか」

 

 アザゼルの言葉に一誠は難しい表情をさせたあとに口を開いた。

 

「嫌じゃない。悪魔になったお陰で色々経験できたし、嬉しい思いや楽しい思いもしている。けど――」

 

 理屈じゃないと言いたげに一誠が拳を握る。それは多分人間である彼の部分が納得できていないのだろう。

 

「……今更謝るつもりはねぇよ。そのアーシアって子にもな。代わりに俺にしか出来ない事でお前らへの貸しを返してやる。まあ期待してろ」

 

 そう言ってアザゼルは自信に満ちた笑みを浮かべて一誠の話を終わらせる。

 

「で? 赤龍帝に話を折られたが、神器の抜き取りがどうかしたのか?」

 

「……その技術、もっと進めて貰えませんか?」

 

「理由を聞こうか」

 

 アザゼルが興味を示したようで、彼は背凭れから離れて机に肘を付いて前屈みになる。

 

「今日まで自分が出会った神器持ちは、みんな神器に翻弄されて不幸な目に遭っています」

 

 一誠、アーシア、祐斗、そして自分に起きた出来事を思い返す。

 

「自分の周りだけでもそれだ。きっと、神器のせいで同じ人間に化物扱いされたりして普通の生活を送れなくなった者もいると思うんだ。だから、可能ならそういった者達から神器を取り出して普通の、当たり前の人間の世界に戻してあげて欲しい。抜き取った神器は三陣営で分配すればいいし、そちらとしても損は少ないはずだ」

 

 自分の提案に、アザゼルが口から笑みを消して真剣な表情で思案する。

 

「力を手放すのを拒んだら?」

 

「そしたら三陣営で戦力として組み込めば良い……どうせ悪魔の駒のデータで今後は転生天使や堕天使だって出てくるだろうから本人が望むなら転生させればいいし、転生させずにグリゴリや教会の戦士にしても良い……同じ境遇の者がいるだけでもだいぶ違うと思う。とにかく居場所を作ってあげたいんだ。自分らしくいられる居場所さえあれば、人間は立ち上がれるから」

 

 一誠や元士郎に居場所をくれたリアス先輩と蒼那先輩達へと視線を送ったあと、もう一度アザゼルへと視線を戻す。

 

「なるほど、悪くない話だ。悪魔側からの悪魔の駒の情報や神器を生み出した天界の神のシステムの情報が揃えば、また新しいアプローチも可能だろう……いいぜそっち方面の研究も進めておいてやる」

 

 アザゼルの言葉に神器を持つ一誠、そして何故か真羅先輩が嬉しそうな表情をした。もしかしたら彼女も神器持ちだったのかもしれない。

 

 とりあえず現状で言っておきたい事は言い終えたので最後にお礼を述べて頭を軽く下げる。

 

「白野が他に言っておきたい事が無いなら次は今代の白龍皇と赤龍帝に訊こうじゃないか。お前らは世界をどうしたい?」

 

 アザゼルが次に問いかけたのはその身にドラゴンを宿した二人、一誠は突然のことに慌て、もう一人は興味無さそうな表情をしながら閉じていた目を開ける。

 

「俺は戦えればそれで良い」

 

 それこそが自分の全てだと言いた気に、ヴァーリは短くもはっきりと答えてまた目を閉じる。

 

「やれやれ相変わらずか。で、赤龍帝は?」

 

「俺の名前は兵藤一誠だ」

 

 いい加減名前を呼ばれないのを不快に思ったのか、一誠が不機嫌そうな表情でそう言って訂正を求める。

 

「分かった分かった。じゃあ一誠、お前は世界をどうしたい?」

 

「俺は……ハーレム王になる!」

 

 大声でそう宣言する一誠。その姿に全員が目を開いて驚いている。もちろん自分もだ。

 

「んでもってハーレムの嫁さんみんなも! 俺の家族も! 仲間も! 全員もれなく笑ってる世界が、俺の欲しい世界です!!」

 

 力強く宣言して拳を握る……良かった。ハーレム王だけで台詞が終わっていたらどうしようかと本気で心配した!

 

 内心で焦りを抱いているとまずアザゼルが大笑いし、次にサーゼクスさんが笑い、ミカエルさんも控えめにだが小さく笑った。

 

「あはははは! なるほど単純だが好い世界じゃねぇか」

 

「ははは。本当にイッセー君は面白子だね。うん、リーアが気に入るのも分かるよ」

 

「ふふふ。しかし単純ですが中々に心躍る未来ですね」

 

 どうやら三陣営の印象はそれほど悪くは無いみたいだ。

 

「さて、二天龍を宿した二人の意見も聞けたし次は――っ!?」

 

 サーゼクスさんが次の話題を振ろうとしたその時――爆発音が響き渡った。

 

「どうしたの!?」

 

 来たか。嫌な予想ばかり当たるのはどうにかならないもんかねぇ。

 

 自分と黒歌とヴァーリ、そして三陣営のトップ以外の全員が立ち上がって窓側に近寄る。

 

「旧校舎から煙が!?」

 

「やっぱり狙ってきたか。『禍の団』、テロリスト共め」

 

 アザゼルが忌々しそうに吐き捨てる。

 

「っ!? まずいわ旧校舎にはギャスパーが!」

 

「なるほど。敵の狙いはギャスパー君が持つ『停止世界の邪眼』の力か」

 

 リアス先輩が顔を青くして旧校舎で待機しているギャスパー君の事を思い出して叫び、眉を顰めながらサーゼクスさんが旧校舎が狙われたであろう理由を口にする。

 

「わたし達の襲撃のついでに時止めの能力を奪う算段でしょうね。急いでそのキャスパー少年を救出に向かうべきだろうね」

 

「わたしが行きます!」

 

「俺も!」

 

 ミカエルさんの提案にギャスパー君の主であるリアス先輩と仲間の一誠が名乗り出る。

 

「いや、二人共大丈夫だ」

 

 そんな二人をそう呼び止め、立ち上がる。

 

「大丈夫ってどういう意味なの白野?」

 

「こういう意味です。出てきていいよ」

 

 そう言って『透過』の能力を解除する。

 

 瞬間――自分の胸元から一匹の蝙蝠が飛び出してその場で変化を解くと――頭にダンボールを被ったギャスパー君が現れた。

 

「「ええぇぇ!?」」

 

「ヒイイィィごめんなさいいぃぃ!!」

 

 一誠とリアス先輩が盛大に驚いてくれた。うん、その顔が見れて大満足である。これでギャスパー君を落ち込ませた件はチャラにしてあげよう。

 

 自分は三人の反応に満足気に頷きながら、全員へ事情を説明した。

 

 




神のシステムは原作と少し変えております。正直原作の設定だろ色々矛盾が出るので。

というか原作はアーシアはまだ信仰に影響が出ちゃうから分かるけど、ゼノヴィアは人間なんだから追放しなくても良かったと今でも思っています。

仮にゼノヴィアの行動範囲内が既に不具合お及ぼす範囲だと、テロリスト達がそこに押しかけた時点でシステムダウンで天使陣営が負けが確定しちゃうんですよねぇ(テロリストはほぼ全員神の不在を知っていたみたいだし)



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【そして人間は戦場に舞い戻る】


タイトル通りバトルへの導入回。あ、あと流血注意報。



「えっと、つまり白野はギャスパーが敵に狙われた場合を考えて、『透過』の能力でギャスパーを透明にして連れて来た。という事でいいのね?」

 

「ええ。以前フリードが使っていたのを覚えていたので。よく我慢してくれたねギャスパー君」

 

「はいぃぃ。知らない人が一杯で怖かったですぅ」

 

 そう言って頭のダンボールの端を詰まんで更に深く被るギャスパー君……うん、怪しい人にしか見えない。

 

「それにしてもよく襲撃に気付いたじゃねぇか」

 

「気付いたんじゃなくて、もしもそうなったらと危惧したんです。そしてギャスパー君の事を敵が知っていたとしたら会議をぶち壊すついでに彼の能力を狙うかもしれないと、そう考えただけです」

 

 そうアザゼルに答えると、彼は愉快そうに笑って確かにな、と答えた。

 

「さて、となると先手はこちらが取った形になるね。っと、来たようだね」

 

 サーゼクスさんの言葉と共に校庭に黒いローブに身を包んだ連中が現れると同時に、こちらに向けて魔弾を放ち始める。

 

「これはまずいね。ミカエル、アザゼル」

 

「ええ。了解です」

 

「ああ」

 

 三人が頷き合って魔方陣を展開させると新校舎が光り、校舎に魔弾が当たると同時に軽い衝撃が伝わる。

 

「僕ら三人で防げるレベルか。最低でも一人一人が中級悪魔程の強さを持った魔術師といったところか」

 

「外からの連絡は無し。どうやら結界内に直接転移しているようです」

 

「てことは、誰かが予めこの学園に転移術式を施していたってことか……案外この中に裏切り者がいるのかもな。仕方ない、ちっと激しく揺れるぞ」

 

 そう言ってアザゼルが別の魔方陣を展開させて、窓に向かって掌を翳す。すると空に無数の光の槍が現れ、アザゼルが無言で掌を下に振るうと、光の槍もまた天から地へと向けて降り注いだ。

 

 ……おう。

 

「はわはわわわわ」

 

「うげぇ」

 

 一瞬にして校庭は串刺し死体と血の池という地獄絵図に変わってしまった。串刺しにしていた光が消えると遺体だけが無残に残る。そして威力が強いせいか校舎の一部にも被害が出ていた。

 

 しかしすぐにまた新たに魔術師達が大量に現れる……というか、遺体が邪魔であいつら動けないんじゃないか?

 

「ちっ。きりがねぇな。かと言って俺が同じ事をしていたら校舎がもたねぇし。しゃーない。外の連中を呼ぶぞ。次に一掃したら転移させろ。どうやら相手は物量作戦みたいだしな」

 

「確かにそれしかありませんね。ガブリエル、グレイフィア殿、お願いします」

 

 ミカエルさんの言葉にグレイフィアさんとカブリエルさんが頷いて別の魔方陣を展開する。そしてアザゼルが再度光の槍の雨で魔術師達を一掃すると同時に、天使、悪魔、堕天使、それとオカルト研究部のみんなと生徒会のみんな、そして聖剣使いの二人が校庭や空に姿を現す。

 

 ……この光景を見て、みんなは大丈夫か?

 

 自分が心配した通り、目の前の光景に生徒会の一部の者とアーシアや小猫ちゃんが顔を青くさせて絶句している。

 

 祐斗は嫌な表情をさせているが怯える二人を気遣うように話しかけ、元士郎も顔は青いが周りの震えている生徒会の女の子達の方が心配なのか、祐斗と同じように声を掛けている。

 

 二人が居ればとりあえず彼らは大丈夫だろう。やはり二人共頼りになるイケメンである。

 

「ガブリエル、それとグレイフィア殿は敵の転移魔方陣を見つけ次第解析、その後封印してください。校舎や学園の結界はわたしとサーゼクスが担当します」

 

「うっし、それじゃあ全面戦争と行こうか。俺がコイツらを守ってやるから、お前らも行って来い。ヴァーリもだぞ。いいか、仲間を巻き込むなよ」

 

「やれやれ、周りに気を遣う方が大変だな――禁手化(バランスブレイク)

 

Vanishing(バニシング) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)

 

 ヴァーリが背中に光る翼を展開して禁手化と唱えると、背中の翼から一誠の籠手と同じように音声が響き、ヴァーリを白い全身鎧(フルプレート)が覆う。

 

 そしてそのままヴァーリは会議室の壁を破壊して飛び出す。その行いに蒼那先輩とリアス先輩が怒りの表情を浮かべるが、それどころではない為に二人はヴァーリを止める事はしなかった。

 

「あうう僕はどうすれば……」

 

「アザゼルさん。神器を抑制する道具とか持っていませんか?」

 

「あるぞ。ほれ」

 

 そう言ってアザゼルは懐から二つの文字列が幾重にも刻まれた腕輪を取り出してこっちに一つ、もう一つを一誠に放り渡した。

 

「兵藤一誠、お前はまだ自力で『禁手化』に至っていないんだろ? そいつを使えば一時的に対価無しで『禁手化』に至れる。ついでにお前の封印されている『兵士』の力も全部解放される。ただ体力と魔力の消耗は激しいだろうから使うなら計画的に使えよ」

 

「分かった」

 

「そっちの吸血鬼も嵌めれば神器の力を抑えられるから扱えるはずだ」

 

「ああ助かる。それとギャスパー君、これを飲んでくれないか」 

 

 そう言って『豊穣神の器』で作っておいた赤い液体の入った瓶を作り出して手渡す。

 

「なんですかこれ?」

 

「自分が『豊穣神の器』で生成した血だ。実は少し考えていたことがある。とりあえずこれを飲んでこの腕輪を着ければ、君も自分の身くらいは守れるようになると思う」

 

 そう言って二つの道具を手渡す。

 

「……先に行ってるわ」

 

「俺も行きます!」

 

「わたしも行きますわ」

 

「黒歌、レイナーレも先に行ってくれ」

 

「了解にゃん」

 

「ええ、分かったわ」

 

 ヴァーリが空けた穴から自分達以外のみんなが飛び出して行く。

 

「ううぅ。い、いきなり実戦なんて。もしも、もしも僕の神器が間違って味方を止めちゃったら」

 

 ダンボールを被ったまま震えるギャスパー君が縋るようにこちらを見上げてくる。

 

「……ギャスパー君」

 

 自分は彼と視線の高さを合わせ、その肩に手を置く。

 

「今日まで君は出来ることをやって来たと思う。だからといって戦えなんて言うつもりはない。そもそも個人的には戦いなんてモノに関わって欲しくないからね。それはあくまで君の身を守る為の手段として渡しただけだから」

 

 それだけ伝えて立ち上がり彼に背を向ける。

 

「あの!」

 

 そんな自分をギャスパー君が大きな声で呼び止める。

 

「先輩は……どうして戦うんですか! 怖くないんですか! 人間なのに、関係ないのに! あんな戦場に行こうとしてる!」

 

「……怖いよ。死ぬのは怖い。誰かを傷つけるのも怖い。傷付くのも怖い。自分の指示で傷つけてしまうのも怖い。戦いなんて怖い事だらけさ。特に命を賭けた戦いなんてやりたくもないし関わりたくも無い」

 

「じゃあどうして!」

 

「……知っているから」

 

 虚空へと手を伸ばす。そこに小さな焔の灯りが見えた気がした。

 

「自分が傷付く以上に、痛くて、苦しくて、悲しい事があるって事を……自分はもう知っているから」

 

 その焔を強く握り締めると同時に、誰よりも最初に自分の無様な足掻きを称賛してくれた愛すべき皇帝の言葉が過ぎる。

 

「だから傷付くと分かっていても、拳を握って、顔を上げて、踏み出すんだ。自分と自分の大切な者を護る為に」

 

 拳を握り締めたままギャスパー君へと振り返り、ずっと伝えたかった言葉を贈る。

 

「大丈夫だよギャスパー君。君はもう……一人でも踏み出せるよ」

 

 それだけ伝えて今度こそ自分も戦場に向けて駆け出す。

 

「《code:gain_all(d)》」

 

 個別強化を一つに纏めた全能力強化のコードキャストを発動させつつ地面に着地し、帯刀していたエクスカリバーを抜く。

 

 収得した状態で使える能力が一つである以上、神器の方は『豊穣神の器』の能力を使うしかない。というよりも他の選択肢を選べないほどに、この能力は防御面で優秀だ。あとはエクスカリバーの能力二つを状況に合わせて使って行く事が出来れば生存率はかなり上がるだろう。

 

 頭の中で戦術を組み立てながら『加速』の能力を使って一気に加速する。目標はこちらに気付いて魔弾を放とうとしている魔術師だ。

 

 放たれたのは巨大な炎の弾。それを強く踏み込み斜めに前進しながら回避し、相手が次ぎの攻撃を行う前に『破壊』で威力を上げたエクスカリバーを相手の首目掛けて横に水平に振り斬る。

 

「がっあぁ――!?」

 

 魔術師の首が苦悶の表情を浮かべながら短い悲鳴と共に地面に落下し、残された身体が力無く崩れ落ち、切断面から壊れた噴水の様に不規則な血飛沫をあげる。

 

 まるで野菜を切るかのように殆ど抵抗を感じぬまま切断できてしまった。

 

 それでも聖剣の切れ味に驚いたのは一瞬だった。柄から感じた感触。目の前の凄惨な光景を前に、なんとも言えない気持ちが押し寄せる。

 

 フリードに続いてこれで二人目か……やっぱり慣れないな。

 

 迷いは今もある。それでも、躊躇いはない。何故なら――。

 

「御主人様!」

 

「白野!」

 

「白野君!」

 

 ――自分には守るべき者がいるのだから。

 

 すぐに自分に気付いて周りを固めてくれた黒歌とレイナーレ、朱乃の姿に頼もしさと愛おしさが溢れる。

 

「朱乃はこっちに来て良かったのか?」

 

「こんな状況です。好きな殿方の傍に居たいと思うのが普通でしょう?」

 

 彼女の言葉にそうだね。と笑って答えて改めて気を引き締める。

 

「三人共、乱戦になるから周囲の警戒を怠らないように。念話での情報伝達を密に!」

 

「「了解!」」

 

 三人に指示を出しながら走り出す。平和を望む仲間を一人でも多く救うために。

 




という訳で本編では二人目の被害者は名も無きモブ魔術師でした。

余談だが、後半の嫁集合のシーン……朱乃を入れるどうするかで一日悩んだ(リアスの傍にいないとまずいとも思ったので)


オリジナルコードキャストその①
【《code:gain_all》】
解説:本編で語ったように『攻撃力』『防御力』『速力』『魔力』の強化を
   一纏めに行うゲームに無いオリジナルコードキャスト。
   個別強化よりも魔力の消費量は格段に高くなるが効率は良い。



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【そして吸血鬼は戦場へと走る】

ギャスパー回。久しぶりの別キャラ視点オンリーの回。




 目の前を駆けて行く背中を見詰める。

 

 僕の脳裏に、今日までの出来事が走馬灯のように駆け巡った。

 

 

 

 

 僕を救ってくれたリアス部長が、僕の封印が解除されて外出の許可が上から下りたと教えてくれたが、数年間引き篭もっていた僕にとって、外はとても怖い所でしかなかった。

 

 大勢の人の視線が怖い。みんなを止めてしまう力が怖い。止まった世界を見るのが怖い。

 

 そんな僕の恐怖心から、僕はまた大切な人達を止めてしまった。

 

 けれどその日はいつもと違った。僕が停止させた世界でも動ける人間が現れたのだ。

 

 その人は驚き戸惑う僕の手を力強く握ってくれた。僕は始めて、停止した世界で誰かの温もりを感じることができた。

 

 その人の名は月野白野。僕の一つ上の先輩だった。

 

 先輩は僕の話をよく聞いてくれた。

 

 急かす訳でもなく。強引に迫るでもなく。僕のペースに合わせて接してくれた。

 

 何故かは分からないが、先輩と居ると凄く安心できた。そして僕は先輩の申し出を受け入れ、その日から神器の制御の訓練を開始した。

 

 

 

 

 先輩は僕の為に早朝と放課後の時間を割いてくれた。同じ部活の先輩である木場先輩の話では、訓練から得た結果を元に、お昼休みも僕のために色々と考えてくれていたらしい。

 

 先輩は特訓の最中、注意はしても決して怒らなかった。

 

 僕が時を止めるのを失敗しても、止める対象を間違えても、無自覚に発動させてしまっても、先輩はいつも笑って『大丈夫だよ』って言って安心させてくれた。

 

 

 

 

 神器の訓練を始めて数日が経ち、先輩との訓練のお陰で少しだけ自分に自信が持てたと思った。

 

 そんな時にリアス部長に依頼人と直接会ってみないかと提案された。僕は最初は拒絶した。けれどイッセー先輩の付き添いでいいからと強くお願いされ、何より僕自身も、少しだけ期待していたのかもしれない。もしかしたら上手く行くのではないか、と。

 

 ――結果は散々だった。

 

 あれだけ先輩と一緒に頑張ったのに、僕はまた神器を暴走させて依頼人とイッセー先輩を止めてしまった。

 

 僕はまた自分の殻に閉じ篭った。

 

 悔しくて悲しくて、どれだけ頑張っても自分には無理なんだと思えた。

 

 そんな僕をもう一度奮い立たせてくれたのも、先輩だった。

 

 『君の力は誰かを救う可能性を持った力だよ』

 

 『ただ君を助けたいと思った』

 

 ――嬉しかった。

 

 忌み嫌い続けたこの力に、意味を与えて貰えた気がした。

 

 思えば先輩はいつだって僕を助けてくれた。見ていてくれた。

 

 だからもう一度頑張ろうと思った。先輩が見ていてくれるなら頑張れると思えたから。

 

 

 

 

 僕がもう一度立ち直ってから数日が経ち、ついに三種族の大事な会議が開かれた。

 

 僕は……もちろん旧校舎に置いて行かれる事になった。

 

 僕はそれを仕方ないと思った。実際、会議に参加するのは部長さん達で他のみんなは警備に回される。力が不安定な僕では警備の役には立たない。

 

 イッセー先輩が一人でも寂しくないように色々ゲームやお菓子を用意してくれたことは嬉しかった。

 

 それでも……僕は悔しかった。役に立てないことが。

 

 そんな僕に気付いたのか、先輩は以前袋で顔を隠すと安心することを覚えていたのか、小さなダンボールを僕に被せてから言った。

 

『もしかしたら敵が襲撃してくるかもしれない。一人で居るのは危険だから一緒に行こう』

 

 そう言って僕に蝙蝠に変身する様に言い、蝙蝠に変身した僕に『透過』の能力を施して服の内側に隠して会議に参加した。

 

 そして先輩の危惧は当たり、僕がいたであろう旧校舎が襲撃された。

 

 みんなの話では敵、禍の団とかいうテロリストは僕の神器の力を狙っているかもしれないと言っていた。

 

 怖かった。神器を抜かれたら死ぬ。こんなところで死にたくは無かった。もっとみんなと一緒に居たい。そう思う度に、足が震えた。

 

 僕が恐怖で竦んでいる間に、戦いは始まった。沢山の人が戦っていた。

 

 その戦場に、僕を助けてくれた部長と副部長、先輩の次にいつも僕を気に掛けてくれるイッセー先輩が向かった。

 

 三人は口にはしなかったが、彼らの目は僕に『待っている』と云っているような気がした。

 

 そしてそれに続いて先輩が僕に血の入った瓶と神器の力を抑制する腕輪を手渡してくれた。

 

 僕はどうすればいいか分からずに、先輩に答えを求めた。

 

 けれど先輩の答えは『自分で決めろ』と言うものだった。

 

 それでも僕は答えられなくて、背中を向けて戦場に向かう先輩にあの日と同じように叫ぶように尋ねた。

 

 怖くは無いんですか、と。

 

 先輩は怖いと答えた。僕は怖いのになんで立ち向かうのか理解できなくて、ならどうして、と尋ねると……先輩は空へと手を伸ばし、力強く何かを掴むように拳を握りながら答えてくれた。

 

『自分が傷付く以上に、痛くて、苦しくて、悲しい事があるって事を自分はもう知っているから。だから傷付くと分かっていても、拳を握って、顔を上げて、踏み出すんだ。自分と、自分の大切なモノを護る為に』

 

 そして先輩は最後にこちらに振り返り――。

 

『大丈夫だよギャスパー君。君はもう……一人でも踏み出せるよ』

 

 ――そう言っていつものように優しく笑ってくれた。

 

 その笑顔を最後に背を向けて走り出す先輩が……ずっと自分を見守ってくれていた背中が……ひどく遠く行ってしまうような気がした。

 

 怖い。戦うのは怖い。痛いのも怖い。でもそれ以上に……。

 

 みんなが居なくなるのが怖い! 一人になるのが怖い!!

 

 嫌だ。もう置いていかれるのは嫌だ!

 

 胸の奥で何かが、あの背中を、あの灯りを追えと急き立てる。

 

 僕は涙目になりながらダンボールを外して腕輪をつけ、渡された瓶の血を飲む。

 

 血を飲み下した瞬間、身体に熱が巡り、思考が冴え渡る。

 

「僕は……僕も……みんなと一緒にいたい!!」

 

 五感がかつてないほどに研ぎ澄まされる中で、先輩の言葉を心の中で唱える。

 

『拳を握れ』

 

 震える手を拳に変える。

 

『顔を上げろ』

 

 涙を拭って顔を上げる。

 

『踏み出せ』

 

 そしてみんなが『待ってくれている』戦場へと、蝙蝠に変化して飛び出す。

 

「僕もみんなを守るんだ!!」

 

 

 

 

「ヒュ~。あのオドオドしたヴァンパイアの少年が、いっちょまえにイイ顔して出て行ったじゃねぇか」

 

 それにあの血を飲んだ瞬間に少年の力が増した。何かしたな白野の奴。

 

 にしてもあいつ。上手く誤魔化しやがったな。

 

 会議に参加していた連中、少なくともリアスとソーナ達の眷属、そして俺様はギャスパーが居る事に気付かなかった。

 

 黒歌のオーラを良い感じに利用しやがったな。

 

 白野からは聖剣と人外の気配は確かにしていた。しかし聖剣はこちらを警戒して、そして人外の気配は悪魔の物であり、膝の上の黒歌からこちらを警戒するように放たれていた為に彼女の物と勘違いした。いや、させられたというのが正しいだろう。

 

 これだから人間は面白くておっかねぇぜ。

 

「……大した者ですね月野君は。英雄の資質を備えていると言える」

 

 俺がそんな事を考えている横で、ミカエルの奴が頼もし気な表情で若い連中が戦う戦場へと視線を向ける。

 

「はっ。あいつが英雄? 無理無理、どう考えたって真逆だ。あいつは自分の大事なモンの為なら世界すら滅ぼすぜ」

 

 俺はミカエルの言葉にそう反論する。これでも色々な人間を見て来たからな、そこそこ人間観察には自信がある。

 

「だが彼のあの他者を惹き付ける魅力は得難い力だ。出来ることなら本格的に協力して貰いたいが、難しいだろうね」

 

 サーゼクスが心底惜しむような表情で溜息を吐く。

 

「あいつは自分のやり方を曲げられるような器用な奴じゃなさそうだし、アレでいいだろうよ。なんだかんだでこっちの頼みを聞くだけは聞いてくれるお人好しだしな」

 

「そうですね。我々に物怖じせずに意見できるのも、今後この街で問題が起きた時に頼もしく思います」

 

 今後この街は異種族に溢れる。それは俺達三人の共通認識だ。

 

 そんな連中の問題を解決したり支えになるのは、きっと白野のような現実の価値観に囚われない奴の存在だと俺達は考えている。

 

「さて、期待する以上は俺達もあいつ等の手助けをしないとな」

 

 校舎への攻撃が減ってサーゼクスとミカエルだけでも結界の維持は十分だと判断し、俺も加勢に行こうとしたその時、地面に魔方陣が浮かび上がる。この魔方陣は確か……。

 

「これは旧魔王レヴィアタンの紋章!?」

 

 おおそうだそうだ。てことは……今回の首謀者はあいつか。

 

 魔方陣から現れたのは胸元を大きく開き、スリッドが深く入った露出の高いドレスを着た眼鏡を掛けた女悪魔、魔王レヴィアタンの血を引く純潔悪魔のカテレア・レヴィアタンだった。

 

「御機嫌ようサーゼクス殿」

 

「カテレア……これはどういう事かな?」

 

 サーゼクスが探るように尋ねると、カテレアは挑戦的な笑みを浮かべて答えた。

 

「我々旧魔王派の殆どは『禍の団』に協力する事に決めました」

 

「はっ。ついに新旧魔王同士の確執もそこまでいったか」

 

 同じ組織の長として同情するぜサーゼクス。

 

 元々旧魔王派は戦争時に最後まで徹底抗戦を宣言し続けた好戦派だった。そのため現魔王とは主張がぶつかり合い、その結果旧魔王派は冥界の隅に追いやられたと聞いていたが、その立場を利用して色々と動いていたって事か。ホント、自分のトコもそうだが、どの陣営も敵が身内にいるっていうのは色々キツイぜ。

 

「何故だカテレア?」

 

「我々はただあなた達とは逆の考えに至っただけです。本来の神も魔王もいないのなら、新しく世界を作り直すべきだと、そう結論付けました」

 

「……神の不在をどこで知ったかはあとで追求するとしてだ。オーフィスの奴はそこまで未来を見通しているのか? 奴の性格を考えるとそこまで深く考えているとは思えないが?」

 

 俺が問い質すと、カテレアは俺を馬鹿にしたような笑みを浮かべながら答えた。

 

「彼は力の象徴として力を集結させる役割を担うだけです。彼の力を借り、世界を一度滅ぼして新たな世界をわたし達が創造するのです!」

 

 なんだそりゃ? やってる事は『強い用心棒が居るんだぜ』と粋がるその辺の小悪党と同じじゃねぇか。

 

「お尋ねしますがカテレア・レヴィアタン。あなたの言った世界の変革。それがあなた達『禍の団』の総意と取ってよろしいのですね?」

 

「ええ、その通り。今この世界を支配する法と理念を破壊し、オーフィスを新たな神として我々が新たな『システム』を構築し、世界を管理します。故に、あなた達はもはや不要なのです」

 

 ああ、駄目だわ。うん、耐えられん。

 

「ハハハハハ!」

 

「……何が可笑しいのですアザゼル」

 

 その顔に明確な怒りの色を浮かべてこちらを睨むカテレアに、俺は笑いながら言ってやった。

 

「これが笑わずにいられるかよ。御大層に色々言っているが、結局お前ら『禍の団』の連中は自分の現状が気に食わないからいっそ世界を壊そうぜって事だろ? 人間だってもっと我慢強いぞ」

 

 俺の言葉にカテレアが目を細めて殺気と魔力を溢れさせる。

 

「我々を愚弄するか! アザゼル!」

 

「愚弄? ああするね。お前らの陳腐で幼稚な目的なんて俺達からすれば傍迷惑もいいところだ。思い通りにならなくて当然なのにそれを良しと出来きず、その現状を打破しようと足掻きもしない。悪いがそんな連中に滅ぼされてやるほど、俺の命は軽くねーんだよ」

 

 俺も翼を広げてカテレアの魔力に対抗する。さて、さすがにここで戦うわけには行かないな。

 

「サーゼクス、ミカエル、俺がやる。きっちり結界を維持しろよ」

 

「カテレア……降るつもりは無いんだね」

 

「ええ。サーゼクス、あなたは確かに良き魔王ですが、最高の魔王ではなかった。故に我々は新しい魔王を目指します」

 

 カテレアのその言葉を合図に、俺とカテレアはヴァーリが空けた穴から外へと飛び出す。さて、いっちょ頑張るかね。

 

 実際、カテレア・レヴィアタンの実力は上位クラスだ。こういう性質の悪い連中に限って強くてしぶといのはどうにかして貰いたいぜ。

 

 内心で愚痴を漏らしながら、上空で俺とカテレアは激突した。

 




男の子なギャスパー君を目指した! でも絵的には女装のままだぞ(ダメじゃん!)

あと基本的にこの作品ではアザゼルはまともな部類です。原作見ちゃうと言ってる事が一部ブーメランだけど、でも他の二人の長に言わせるよりはアザゼルに言わせるのが一番説得力があると思った(なんだかんだで一番部下やその家族の為に裏で色々働いてるしね)

あとカテレアはアニメの絵が物凄く好みだったので……嫁入りさせるか心の底から悩んだ!



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【意外な相手の裏切り】


という訳で乱戦と彼の裏切り回。そして若干のタイトル詐欺。原作でも彼はフラグビンビンでしたから意外でもなんでもないというね。



 この世の地獄が開園しちゃったよ!

 

 天上ではハルマゲドンなみのドンパチが始まり、地上では血生臭い戦争である。これを地獄と言わずなんという――って、愚痴っている場合じゃない!

 

 味方に向けて攻撃態勢に移ろうとした複数の一団を見つけて二人に指示を出す。

 

「黒歌と朱乃は三時と六時の集団に攻撃! レイナーレはあの一帯に威嚇攻撃を!」

 

「了解よ! 特大の魔弾をくらいなさい!」

 

「わたしの新たな力、雷光の力に沈みなさい!」

 

「わたしだって光の槍を複数出せるようになったのよ!」

 

 黒歌が強力な魔弾で敵を吹き飛ばし、朱乃が敵の頭上から光と雷の力が宿った稲妻で焼き尽くし、レイナーレがサイズは小さいがその分数の多い小型の光の槍を飛ばしてこちらの陣営を攻撃しようとしていた魔法使い達を牽制する。

 

 不意に敵意を感じてそちらに振り向けば、魔術師の一人がこちらに魔法で造り上げた角錐型の大きな岩を飛ばしてくる。

 

「ふっ!」

 

 その攻撃を『豊穣神の器』を発動して左腕で止めて分解吸収する。そしてそのまま身体に流れ込んできたエネルギーを食べ物に変換せずに左腕に送って蓄積させる。

 

 やっぱり便利だな、この左腕は。

 

 『豊穣神の器』は既存のエネルギーを『分解吸収』し、その後『再構築』を経て生命力や体力を回復する食べ物や飲み物に変える。

 

 だったら食べ物をイメージせずに能力を行使したらどうなるのか?

 

 結果は単純だ。分解吸収で自分の肉体に生命エネルギーが吸収されるのだ。

 

 だが、この方法には一つ問題がある。

 

 エネルギー量が多い場合その生命エネルギーをすぐに消費するならいいが、肉体に蓄えてしまうと自分の肉体に異常をきたしてしまうのだ。

 

 乗り物酔いしたみたいに気持ち悪くなったり、感覚が鋭くなり過ぎて逆に体の動きが鈍くなったり、体が燃えるように熱くなって気絶したりする。何事も一度に一気には良くないと言う事だな。

 

 しかし今の自分にはそのデメリットを解消する左腕が有る。吸収された全身に巡る余分なエネルギーを左腕に送って『蓄積』させる。

 

 いわばこの左腕は予備バッテリーの様なものだ。こいつのお陰で『物質制御』や『コードキャスト』の行使がしやすくなった。

 

「《code:rel_mgi(魔力開放)(C)》!」

 

 エクスカリバーを振り抜き三日月形の斬撃を飛ばしてこちらを攻撃した魔術師を吹き飛ばす。

 

 吹き飛ばされた魔術師への追撃はせずに視線を動かして空からの攻撃や、形勢不利な者達を目指して動き回る。

 

「三人共こっちに落ちてくる。掴まれ!」

 

 エクスカリバーの柄を口で噛み、両手を伸ばして左右を走っていたレイナーレと朱乃の手を掴み、『加速』で一気にその場を駆け抜ける。黒歌は自分と並走して付いて来る。

 

 直後に自分達が居た場所に魔弾が落下して近くに居た魔術師と三陣営の戦士達がまとめて吹き飛ばされる。

 

 ちっ。やりたい放題だなあの女悪魔。

 

 先程から地上の者を気にせずに攻撃しているのはアザゼルと戦っている女悪魔の方だ。アザゼルはさすがに同盟を結ぼうって時に自分が仲間や同盟相手を殺す訳には行かないのか、地上へ及ぶような攻撃は行っていない。むしろ積極的に相手の攻撃を防いでこっちの被害を減らしてくれているように見える。

 

 改めてエクスカリバーを再度手に取って指示を出そうとしたその時、大きな蝙蝠が自分の肩に降り立った。

 

 大きさは違うこの姿は――。

 

「先輩! 僕も戦いますぅぅ!」

 

 蝙蝠から発せられたのは予想通りキャスパー君の声だった。よくよく見渡してみれば、傷付いた仲間を避難させている者達を護る様に蝙蝠が一、二匹追走して敵の攻撃を止めていた。

 

 どうやらあの蝙蝠全てがギャスパー君の分身でこの蝙蝠が本体か。というか分身でも神器が使えるって、凄いなギャスパー君。

 

「ギャスパー君、能力は安定しているかい?」

 

「はい。先輩の血を飲んで、この装置を着けたら自分で使えるようになりました!」

 

「それとあの戦い方は自分で考えたのかギャスパー君?」

 

「は、はいぃ」

 

「そうか……頑張ったなギャスパー君、よくやった」

 

 蝙蝠になっている彼の頭に手を乗せ、戦闘中と言うこともあって短く、それでもはっきりと想いを込めて告げた。恐怖を乗り越えてこの場に立つことを選んだ彼の勇気を称えるために。

 

「うう、うわあああああん! 先輩!」

 

 ギャスパー君が突然大泣きし始める。蝙蝠の姿なのでなんともシュールだ。

 

「す、すまない。何か気に障ることを言ったか!?」

 

 褒めたつもりだったのだが。

 

 慌てている自分に、ギャスパー君は『違いますぅぅぅ』と泣きながら否定した。

 

「僕、自分のした事で褒められたの初めてなんですぅぅぅ!」

 

 ……うん。もしも彼の親族に会う事があれば一言言ってやろう。

 

「つうかリアス先輩達は何をやってんの。悪魔の業績上位なんだから褒めようよ」

 

「褒めていましたよ。でもギャスパー君自身がそれは相手と直接会わないからだって、卑屈になっちゃって」

 

「……あ~」

 

 確かにギャスパー君ならそうなるだろうなと、納得してしまった。

 

「……まあいい! とにかく嬉し泣きなのは分かったよ。でもギャスパー君、まだ戦闘は終わっていない! 期待しているから……付いて来てくれ」

 

「――っずぅぅ! はい! 頑張りますぅぅぅ!!」

 

 ギャスパー君が鼻を啜り、羽で涙を拭ってしっかりと返事をする。なんか仕草が可愛い。

 

「よし! ギャスパー君、訊くが魔術師から血や魔力を吸えるかい? それとそのエネルギーは君に還元されるか確認して貰えるかな?」

 

「や、やってみます」

 

 蝙蝠が停止中の魔術師に噛み付く。噛まれた魔術師は徐々に顔を青くさせて仕舞いにはまるで体力を奪われたかのように力無くその場に倒れこんだ。

 

「で、できました! それと力が溢れてきますぅぅ!」

 

 やっぱりか。

 

 浄眼を通して見たその光景に自分の仮説が正しかった事に無言で頷く。

 

「よし。ならこれから一匹は停止した魔術師から血と魔力を適度に補給するんだ! そうすれば君は現状の強さを維持できるはず――っ全員後ろに下がれ!」

 

 魔弾が落ちてきたので『豊穣神の器』で吸収する。自分が吸収している間に黒歌、レイナーレ、朱乃が周辺の敵を一掃し、急いでその場から離脱する。その最中にギャスパー君が先程の行動の意味を尋ねてくる。

 

「先輩、さっきの言葉の意味はどういうことですか?」

 

「……君が吸血鬼の力を使えなかったり、神器の力を上手く扱えなかった要因の一つは……栄養不足だ!」

 

「「えええええ!?」」

 

 自分の発言に全員が驚きの声を上げた。

 

「君は才能が有りすぎたんだ。神器はどんどん強くなるのに、君は吸血鬼の力、つまり肉体に直結する力を得ることを恐れて生きる上で必要最低限の血だけしか採らなかった。その結果、器の方の肉体が神器に追いつけていなかったんだ」

 

 そう。浄眼には彼の分身が魔術師から血と魔力を吸う度に、それを吸収したギャスパー君の魂の輝きが増すのが見て取れた。まるでその姿こそが本当の彼の魂の形だと言う様に。

 

「……なるほどねぇ。だから御主人様は自分の血を『豊穣神の器』を使って生成したのね。この子に足りない血と生命力を補わせる為に」

 

「正確には血を摂取して能力が安定するか見る為に用意したんだけどね。神器のエネルギーを下げる事で能力が安定するなら、逆に肉体を強化することでも安定すると思ったんだ」

 

 黒歌に苦笑しながら以前自分が立てた仮説を説明する。

 

 さて、彼がつけている装置がどれだけ持つか判らない以上、彼の力を出し惜しむ理由は無いな。

 

「ギャスパー君、君の力が持続すればするほど沢山の人が助かる! だから回復できるときは回復するんだ。それが敵から遠慮はいらない!」

 

「はい!」

 

 これで地上の被害はだいぶ押さえられるな。問題はあっちか。

 

 目の前の魔弾を吸収し、驚いている隙に魔術師を力任せに斬り裂きながら空へと視線を向けた瞬間――女悪魔の力がいきなり増大した。

 

 なんだ?

 

 パワーアップしたのは間違いないが、その前に何かを飲んでいたような気がする。

 

『戦っている皆さん、転送術式の封印に成功しました。結界が破られない限りもう増援は来ません!』

 

 この声はガブリエルさんか!

 

 多分魔法によるものだろう。戦場に響いたガブリエルさんの声に戦っている者達の志気が一気に上がる。

 

 女悪魔のパワーアップについては気になるが、アザゼルなら――っ!?

 

 不意に、おかしな動きをした者を見つけ、その者が行おうとしている行動に驚きつつも咄嗟に大声で叫んだ。

 

「避けろアザゼル!!」

 

 自分の声が聞こえたのか、それともアザゼルが気配に気付いたのか、アザゼルはすんでのところで新たな襲撃者の一撃を回避することに成功した。

 

「そんな、なんであいつが……ヴァーリがアザゼル様を攻撃するの!?」

 

 レイナーレが不可解そうな表情をしながら、そう叫んだ。

 




という訳でヴァーリ君裏切るの巻!
うん、まぁ予定調和です。あと、ギャスパー君の解釈は完全にこの作品の独自設定です。
原作読むと分かるけど、彼のポテンシャルだと、そもそも神器が扱えないということ自体がありえないんだよねぇ。なので、肉体と精神が弱っているからという理由にしました。


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【一誠キレる】


と言う訳で原作のあの回です。



 な、なんでヴァーリの奴が仲間のアザゼルを攻撃しているんだ!?

 

 上空でヴァーリの一撃を辛うじて回避したアザゼルが、露出の高いセクシーなドレスを纏った女悪魔のお姉さまと並ぶヴァーリを睨む。

 

「――っチ。このタイミングで反旗かヴァーリ?」

 

「そうだアザゼル。もっとも、宣戦布告の先制攻撃はかわされてしまったが」

 

 フルヘルムのフェイス部分が収納されて顔が露になる。あっ。あれってそんな事も出来るんだ。俺の『赤龍帝の鎧』でもできるかな?

 

「……もっと早く裏切ってもよかったのではなくて白龍皇? それに当初の作戦と違って正直慌てたわよ」

 

「ちゃんと奇襲の準備はしたし、俺はそちらの軍勢を誰も殺していない。気絶させてそちらのアジトに転送しておいた。不備の償いは十分だと思うが?」

 

 お姉さまが不機嫌そうに隣に立つヴァーリを睨むが、ヴァーリは気にした様子も無く肩を竦めてそう反論する。

 

「……たく、俺も焼きが回ったもんだ……いつからだ?」

 

 アザゼルが後頭部を掻きながら問い質すと、ヴァーリは素直に答えた。

 

「コカビエルの身を預かって帰還する途中でオファーを受けた。悪いなアザゼル。こっちの方が面白そうなんだ」

 

「よくアルビオンがオーフィスの下に就くのを許したな?」

 

「俺はただ協力するだけで正式に降る気は無い。魅力的なオファーをされてね。『アースガルズと戦ってみないか?』なんて言われては、自分の力を試したい俺としては協力せざるを得ない。和平が成立すれば俺が戦う機会も減ってしまうだろうしな」

 

 アースガルズ……どっかで聞いたような?

 

「アース神族。つまりオーディン達ヴァルハラの神族達よイッセー」

 

 俺がヴァーリの言葉に首を傾げていると、俺の内心を察してくれたのか隣に立っていた部長が俺と同じように上空の三人を警戒しながら説明してくれた。

 

「ってことは、あいつ別の土地の神様に喧嘩売ろうってことですか!?」

 

「ええ。まあ『禍の団』の目的が新世界の構築だから、他の神々とぶつかるのは必至でしょうけど、そんな事になったら人間界もわたし達三陣営にも多大な被害が出るわ」

 

 マジかよ。物騒な発言が多い奴だとは思ったけど、どこまでバトルジャンキーなんだよ! 他人を巻き込むなよな!

 

「俺はお前に『強くなれ』と教えはしたが、『世界を滅ぼす要因だけは作るな』とも言い聞かせたはずだ」

 

「関係ない。俺は永遠に戦えればそれでいい」

 

 ヴァーリの返答にアザゼルの顔が一瞬曇ったあと、大きな溜息を吐いてどこか寂しそうに苦笑した。

 

「まあ、こうなる可能性はあったわな。お前は出会った頃からずっと強い者との戦いを望んでいたもんな」

 

「彼の本質を見抜いておきながら放置とは、あなたらしくない。結果、自分の首を絞めることになりましたわね」

 

 お姉さまが嘲笑を浮かべ、アザゼルは苦笑する。そんな二人のやり取りを見ていると、突然ヴァーリが自分の胸に手を当ててこちらへと向き直った。

 

「俺の名はヴァーリ……ヴァーリ・ルシファーだ」

 

 そう言って奴は光る翼の他に複数の悪魔の羽を出現させた。

 

 ……え?

 

 コイツは今なんて言った? ルシファー? え、だってルシファーは部長のお兄さんが……。

 

 困惑している俺を無視してヴァーリは続ける。

 

「俺は死んだ先代魔王ルシファーの孫である父と人間の母の混血児だ。そして半分人間だった為に俺は神器、それも『白い龍』を宿して誕生した。奇跡や運命があるとしたら俺のことかもしれない――なんてな」

 

 最後に苦笑して見せたヴァーリ。奴の出生を聞いて俺自身驚いているが、それ以上に隣の部長が慄き、困惑していた。

 

「……そんな、嘘よ……」

 

「いいや事実だリアス・グレモリー。はっ、転生チートでも貰ったって言われた方がまだ納得できちまうくらいの冗談みたいな存在が、こいつだ。おろらくこのまま行けば過去未来含めて最強の白龍皇になるだろうさ」

 

 最強。そんなのが俺の宿敵なのか? 勘弁してくれ。こっちはようやく戦えているって段階なのに。つーか神器持ち多くないか? 特別なんじゃないの? それとも俺の周りが特別おかしいの?

 

 ……止めよう。とりあえずおっぱいを見て落ち着こう。

 

 俺はパンクしそうになった頭を冷やす為に視線をお姉さまの方へと向ける。うん、ナイスおみ足! ナイスパンチラ! そしてナイスおっぱい。下乳最高!!

 

「……厭らしい視線を感じるわね。あの残念なのがあなたの宿敵?」

 

「ああ残念ながらそうだ」

 

「ざ、残念残念言うな! 俺だって必至に生きてるんだぞコノヤロウ! つーかいい加減そのお姉さま系悪魔さんの名前くらい教えろ!」

 

「……本当に残念な子みたいね。今ここで殺すのかしら?」

 

 こちらを侮蔑するように睨むお姉さま。自分にM属性は無いので普通に心に突き刺さる。

 

「正直迷っているところだ」

 

 ヴァーリが真剣な表情で考え込む。おい待てこら! 人の生き死にを勝手に決めんじゃねぇ!

 

「まあいいわ。アザゼルはわたしが相手します。白龍皇はそのあたりを見定めてみては?」

 

「……そうするとしようか」

 

 ヴァーリがゆっくりと地面に降り立ち悪魔の翼を消してこちらに近付く。

 

「「イッセー!」」

 

「「一誠君!」」

 

 ヴァーリが足を進めた瞬間、オカルト研究部のみんなとイリナ、ゼノヴィア、そして人型に戻ったギャスパーと一緒に白野達が俺の周りに集まる。

 

 全員で身構えると、ある程度距離を保ってヴァーリが足を止める。

 

「兵藤一誠……君は運命は残酷だと思わないかい?」

 

「――は?」

 

 奴は突然そう口にした。意味が解からずに訝しむ。

 

「俺のように伝説の悪魔に伝説のドラゴンという思いつく限り最強の組み合わせの存在が居る反面、君のようにただの人間にドラゴンが憑くこともある。いくらなんでもこの偶然は残酷だ。ライバル同士のドラゴンは同等の力だというのに、その宿主の力の溝はあまりにも大きい」

 

 ヴァーリは心の底から同情するようにこちらを見詰めてくる。正直ライザーみたいに笑って馬鹿にされた方がまだましだ。地味に傷付くだろうが!

 

「君の事は調べた。君の両親や血族の祖先まで遡ったが、君の家系は怪異や魔術に一切関わりの無いただの人間だった。君の両親も父親はただのサラリーマンで母親は専業主婦でたまにパートに出るだけのごくごく普通な夫婦だ。もちろん息子の君も悪魔に転生するまでただの一般人だった……そう、特別なのは『赤龍帝の籠手』を宿したという一点のみだ」

 

 ヴァーリは哀れみの視線をこちらに向けながら呆れたように嘲笑した。

 

「君の事を調べつくした時、俺はそのあまりの普通さにつまらなすぎて落胆より先に笑ってしまった。『ああこれが俺の生涯のライバルなのか。まいったな』とね。正直に言えば……そっちの三人の方がまだ心が踊った」

 

 そう言ってヴァーリが指差したのは俺の左右にいる木場と白野、そしてギャスパーだった。

 

「ギャスパー・ヴラド。吸血鬼と人間のハーフで更に強力な神威具の神器を宿している。その神器が『赤の龍』だったのなら、まさに俺達は互いにぶつかり合う宿命を宿していたと、俺は思っただろう」

 

「ひいいいい! こんな危ない人に一生狙われるなん嫌ですぅぅ! お巡りさんストーカーですぅぅぅ!!」

 

 ギャスパーは涙目で白野の背中に隠れる。気持ちは解かる。こいつは本当に戦いのことしか考えていない。

 

「……ま、そんな性格じゃ俺も興ざめでさっさと殺してしまっていただろうがな。そして次は君だ木場祐斗。君は生まれこそ兵藤一誠と同じだがその後の過程が違う。幼くして同士を殺され、悪魔となり、あのサーゼクスの眷属に師事し鍛え続けた。君の神器が『赤い龍』ならば期待して見守る選択を即決していただろうな」

 

「……どうやら今代の白龍皇は地雷を踏み抜くのが好きみたいだね」

 

 木場の瞳が鋭く細められ、全身から殺気を迸らせて聖魔剣を正眼に構える。

 

「ああ心地良い殺気だ。きっと楽しい戦いが出来ただろうに残念だ。そして……君だ月野白野」

 

 木場の殺気を受け流して、ヴァーリが白野を指差す。

 

「君の事も調べた。君も転生者と言う一点を除けば兵藤一誠と同じく特別な家系ではなく、その身に神器を宿しただけの人間だ。しかし唯一彼と違う点がある。それは君が戦う運命にあるということだ」

 

「……どういう意味だ?」

 

 白野が鋭い視線でヴァーリを睨み返す。その鋭い気配にヴァーリの口元に笑みが浮かぶ。

 

「自覚は無いのか? 君ほど特別な人間は居ないだろう。転生者として生まれ。神器を宿して成長し。その過程で妖怪の黒歌と出会い仙術を学び。更に堕天使のレイナーレを篭絡させて光力を手に入れた。挙句に先の戦いで聖剣と義手まで三陣営から施された。君は確実に戦う運命に有り、そして戦う度に力を得ている。俺が特別な生まれだとするなら、君はまさに特別な人生を持った存在としか言いようが無い」

 

 ヴァーリが興奮気味に断言する。その言葉に……俺は少しだけ納得してしまった。

 

 見れば他のみんなも自分と似たような表情をしていた。否定したいのに、どこかで納得してしまっている。そんな複雑な表情を。

 

 唯一白野だけは、その言葉を受けても顔色一つ変えずにヴァーリだけを見据えていた。

 

「そこで俺はあるプランを考えた。兵藤一誠の可能性も確かめられて、彼がダメだった時の為の保険にもなるプランだ」

 

 ヴァーリが自信に満ちた顔を浮かべる。正直この戦闘狂の事だ。ろくな内容じゃないだろう。

 

「まず木場祐斗の例を鑑みて、兵藤一誠の大切な者を殺そうと思う。とりあえず両親、そしてアーシア・アルジェントの三人だ」

 

 ………………あ?

 

「大切な者が死んで木場祐斗は強くなった。それで君が『赤い龍』の後継者として強くなるなら人間二人、悪魔一人の命も安いもんだろう?」

 

 …………何言ってんだ?

 

「それで強くならないのなら君を殺し、月野白野を殺して悪魔の駒で転生して貰おう。人間のままよりもずっと強くなれるはずだ」

 

 ……誰の何を殺すって?

 

 おかしな話だ。頭はどこまでも冷めているのに、奴の言葉が、意図が、何もかもが理解できない。

 

 ただ唯一理解できたのは、その冷えた思考すら吹き飛ばす程のどす黒い何かが、心の底から湧き上がって来ている事だけだ。

 

 そしてその何かが溢れた瞬間にその正体に気付くと同時に――口が勝手に動いていた。

 

「――殺すぞテメェ」

 

『Welsh Dragon Over Booster!』

 

 俺の『殺意』に呼応するように禁手は発動し――俺はヴァーリ目掛けて突撃した。

 




ぶっちゃけると、このお話時点の原作のヴァーリは喋り方が一々芝居かかっていて、自分に酔っている感じがしてかなり小物臭が酷いです。
そのせいか三陣営の会談以降の天然で落ち着きのある彼とは正直印象がまるで逆で、同一人物かと言いたくなります。
その為この作品では原作後半の彼の口調に変えてあります。



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【赤龍帝VS白龍皇】

「なんでテメェなんかに俺の大事な親父とお袋を! アーシアや白野を殺されなきゃなんねぇんだよ!!」

 

 一誠がブースターを噴かして一気にヴァーリまで肉薄する。

 

「凄いな怒りで力がいっきに上がったぞ!」

 

 一誠の力が上がったことが嬉しいのか、愉快そうに笑うヴァーリに、宝玉が光って答えた。

 

『神器は単純で強い思いほど力の糧とする。それに真っ直ぐな者ほどドラゴンの力を引き出しやすい』

 

「なるほど。そういう意味では兵藤一誠の方がドラゴンとの相性が良い訳か!」

 

 怒りで強くなった一誠にヴァーリはその口を凶悪に歪めフェイスを閉じて空へと上がる。

 

「……今の一誠君に勝てるの?」

 

「イッセー君にはアスカロンがあるわ。でも……」

 

「アスカロン? 確かドラゴンスレイヤーで有名な剣だったか?」

 

 隣に立ったイリナから気になる単語が聞こえたので尋ね返す。

 

「ええそうよ。ミカエル様から友好の証としてイッセー君、正確には悪魔や竜属性の者でも扱えるように調整したのを少し前に渡したの。今は確か『赤龍帝の籠手』に収納されている筈よ」

 

 イリナの説明を聞きながら空を見上げていると、一誠の左の籠手から刀身だけが現れ、一誠はそれをがむしゃらに振るう。

 

 ……あれがアスカロンか。だが……。

 

「お前だけは絶対に許さねぇ! ヴァーリィィイイ!!」

 

「せっかくの龍殺しも当たらなければ意味は無い!」

 

 一誠の単調で大振りの一撃は悉く回避され、ついにヴァーリの一撃を一誠が受けてしまう。

 

「まずい。これで一誠君の力は半減されてしまう」

 

「赤龍帝の鎧は確か倍化能力を好きに発動できるんだったか……だがその分魔力と体力を減らすはず。このままだとまずいな」

 

 それに……。

 

「……友人を馬鹿にされ、その両親を殺すなんて言ったんだ……口にした責任は取って貰うぞヴァーリ」

 

 何よりヴァーリは完全に遊んでる。相手をなめて戦っている。片や一誠は絶対に倒すという意思を持って戦ってる。

 

 その差が、お前追い詰めると知れ。

 

「自分達がすべきなのは一誠の頑張りを無駄にしないことだ。だからみんな……協力してくれ」

 

 振り返ってその場にいる全員に協力を願い出る。全員が自分と一誠を交互に見て、力強く頷いてくれた。

 

 

◆ 

 

 

 くっそぉ、当たらねぇ!!

 

 一撃、一撃だけは絶対にかまさないと気がすまないのに――その一撃が遠い。

 

Divide(ディバイド)

 

『Boost』

 

 減った力を即座に戻す。

 

 しかし奴には減らした力を自分の物にする力があり、更に上限を超える力は背中の光る羽から排出し、調整している。つまりは奴は常に最高の状態を維持できるって事だ。

 

(相棒。このままだとスタミナ切れで負ける。アスカロンは収納して龍殺しの特性を拳に宿せ)

 

(ああ分かった! それと一つ、作戦も浮かんだ)

 

「単調な攻撃と動きだ。それに力の使い方も下手だ。期待外れだな」

 

 ああそうさ。今の俺にできることなんて……それだけなんだよ!

 

 俺は一気にブースターを噴射してヴァーリへと向かう。もう何度も行ってきた行動だ。

 

 ヴァーリは魔弾をいくつも作り出してこちらに向かって放ち続ける。

 

 ――構うもんかよ!!

 

 ブースターを吹かし続けて魔弾を受けながらも加速を続ける。

 

 鎧のあちこちが割れ、肉体に重い衝撃と痛みが走るが無視する。そんな事よりアイツを一発ぶん殴る方が大事だからな!

 

「うおおおおおおお!!」

 

「またただの突貫か。君は本当につまらないな」

 

 ヴァーリが前面にシールドを展開する。それを待ってたんだよ!

 

 回避ではなく防御を選択したヴァーリ目掛けて俺は突っ込み、左手に宿るアスカロンの龍殺しの力を『譲渡』で一気に上昇させる。

 

 そしてそのままシールドに左腕を殴りつける。

 

「なっがっ!?」

 

 シールドは一瞬で砕け、奴が驚いている隙に奴の顔面にそのまま左腕を叩き付ける。

 

 ヴァーリにも予想外だったのか、奴は回避する間もなく兜とフェイスの一部が破壊される。

 

 ここだ!

 

 そして奴の体勢がくずれた瞬間を狙って俺は奴の神器に触れる。

 

「便利な力だな! 強化してやるよ!!」

 

 俺は一気に倍加の能力を使ってその蓄えた力を奴の神器に『譲渡』する。

 

 そしてすぐに離れて倍加の力で自分の力をいっきに最高までもって行く。そして、その時は訪れた。

 

『Divide』

 

「ぐあああああ!?」

 

 一気に俺から力が抜けると同時にヴァーリが初めて悲鳴を上げた。

 

 はっ。ざまぁみろ!

 

 俺は口に改心の笑みを浮かべる。

 

 奴の神器の能力は言ってしまえば吸い取る力と吐き出す力がセットになっている。その力の一方を強化すればどうなるかは……見ての通りだ。

 

 既に自分の力の上限に達していたヴァーリは、俺の力を極限まで奪って過剰すぎる強化が行われた。にも拘らず排出する力は変わらない為に過剰な力の摂取で神器が異常を起こしたという訳だ。

 

 その異常事態にヴァーリの鎧の宝玉が赤や青と言った色々な色に点滅し、奴の動きが止まる。

 

 ここで行くしかねぇ!

 

 俺はすぐに自分の力を倍加で最高値にまで戻して動きを止めたヴァーリに突貫する。

 

『まずいヴァーリ! 体勢を立て直せ!』

 

 アルビオンの叫びにヴァーリが咄嗟に腕をクロスさせて俺の攻撃を迎え撃つ。だが俺はその腕目掛けて拳を振り下ろす!

 

「おらあああ!」

 

「ぐあ!?」

 

 右拳で奴のガードを崩し、すぐさま奴の腹部に空いている方の左拳、つまり龍殺しの宿った方で殴り飛ばす。

 

 奴の白い鎧が全て破壊されてそのまま俺の拳は奴の鳩尾に深く突き刺さる。龍殺しの威力に驚嘆するが、すぐに左腕を引いて、よろける奴の顔面目掛けて全力の左ストレートをおみまいする。

 

「がっはっ!?」

 

 奴はそのまま吹き飛ばされて地面に激突する。

 

 とりあえず親父とお袋、そしてアーシアと白野を狙った分の怒りは叩き返してやった。

 

『代わりにかなりの力を消耗したがな。もう限界まじかだ』

 

 ドライグが警告してくる。

 

(分かってる。きっちり弱らせるさ。そしたらあとはみんながなんとかしてくれる)

 

 他力本願もいいところだが、今の俺がこいつに勝てるなんて思わない。だが引いてやるつもりも無い。俺が負けても『俺達』が勝てばそれでいいんだからな!

 

 それでもムカつくコイツに負けるのはやっぱり悔しいから力の限り粘らせてもらうつもりだ。

 

「……ハハハ! 俺の神器を吹き飛ばすとは、やれば出来るじゃないか。なるほど。その機転の良さは戦わなければ分からなかった。君の実力を少しは認めよう」

 

 立ち上がったヴァーリは、口の端から血を流しながらもこの戦いが思いの他楽しめていることが嬉しいのか、好戦的な笑みを浮かべて俺を称えやがった。こいつ本当になんなんだよ。

 

 戦闘狂の思考についていけずに眉を顰めると、奴は砕けたはずの鎧を纏う。

 

(おいドライグどういうことだ!?)

 

(所有者が死なない限り神器は再生される。勿論神器の力で生み出されたあの鎧もしかりだ。しかしこれはまずいな。本格的に時間が足りない)

 

 ドライグの声にも焦りの声が混じる。くそ、またアイツに殴られたら力を半減させられちまう。

 

 どう対処すべきか悩んでいたその時、足元の青い宝玉に目が留まる。

 

 ……これしかない!

 

 俺はその宝玉を手に取る。

 

(どうした相棒、アルビオンの宝玉なんて手にとって?)

 

(なあドライグ、神器は宿主の思いを糧に進化するんだよな……だったら)

 

 俺は自分のイメージをドライグに伝える。

 

(っ!? 正気か相棒……確かにこの方法が成功すれば現状を打破できるかもしれないが……死ぬかもしれないぞ?)

 

(……死ぬつもりなんてねぇよ。でもよぉ、死ぬ気にならなきゃ届かないってんなら覚悟くらい決めてやるさ!)

 

 白野がそうやって俺達を助けてくれたように!

 

(は、ハハハハハハハ! 良い覚悟だ! いいだろう俺も覚悟を決めた! 共に生きて超えようじゃないか相棒! いや、兵藤一誠!!)

 

 初めて、ドライグが俺の名前を呼んでくれた。それはつまり、ようやく心から俺を相棒と認めてくれたってことなのかもしれない。

 

 それが嬉しくて、俺の心が更に燃え上がった。

 

(ああ超えてやろうぜ相棒!!)

 

「ヴァーリ、アルビオン! お前達の力、頂くぜ!」

 

「何?」

 

 俺は右手の宝玉を破壊する。そしてそこにアルビオンの宝玉を填め込む。

 

 瞬間、激痛が体中を駆け巡った。

 



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【一つの夢が終わる時】

 ……無茶をするなぁ。

 

 人の事は言えないが、一誠の行動に共感を抱きながら自分はその瞬間を待つ。

 

 みんなは痛みによって絶叫する一誠を見守っている。

 

 一誠の体から稲妻の様な閃光が走り続ける。赤い龍と白い龍の力を得る。多分木場の聖魔剣を参考にしたのだろうが、一誠の場合は自分の肉体に宿すようなものだ。あの激痛はその為だろう。

 

 ……頑張れ一誠。

 

 必至に新たな力を得て、生還する為に足掻く親友を一瞥したあと、もう一つの戦いへと視線を向ける。

 

 そっちではアザゼルがいつの間にか黄金の鎧を纏っていた。どことなくドライグと似たような雰囲気を感じる。

 

 そして女悪魔とアザゼルが交差した瞬間――女悪魔の体が切り裂かれる。

 

「まだです!」

 

 女悪魔の腕が触手のように伸びてアザゼルの左腕に撒き付く。

 

「せめてあなただけでも道連れにします!」

 

「自爆か。しかもこの触手、呪詛まで流し込んでやがるな……仕方たねぇな」

 

 アザゼルは嘆息すると――躊躇い無く自分の左腕を切り落とし、持っていた光の槍をそのまま相手へと投擲した。

 

「そん……な……」

 

「左腕くらいくれてやるよ」

 

 フェイスを開けて余裕の笑みを浮かべるアザゼルを驚愕の表情で見詰めていた女悪魔だったが、すぐに体が灰となって崩れ落ち、消滅する。

 

 向こうは終わったか。

 

 一誠達の方へ改めて視線を向けながら自分も準備に入る。

 

 物質化制御(マテリアライズ)――心象接続(コネクト)

 

 ――武装――ギルガメッシュの黄金双剣――具現(ダウンロード)

 

 瞬間。頭痛が生じる。

 

 ぐっ。やっぱりサーヴァントの武器はキツイな。

 

 脳と身体に負担がかかる。出来る限りそれを抑える為に処理速度を落として時間を掛けて物質化制御を行い、投影する。

 

 黄金の双剣。名は無い。だがギルガメッシュは剣を使う時はこの剣を好んで使っていた。

 

 アーチャーの双剣とは違い、刀身部分が長く太い為、片手剣として十分に振るえることから単体でも使用していたのを覚えている。

 

 徐々に黄金の双剣が形を成すにしたがって体からエネルギーが消えて行く。

 

 ……みんなからエネルギーを貰っておいたお蔭でなんとかなりそうだな。

 

 脳と肉体の疲労は凄まじいが命を削る事は無さそうだ。

 

 そしてついに――黄金の双剣が形を成す。

 

「みんな、準備が完了した」

 

 全員にそう伝えながら顔を上げる。どうやら一誠の方も佳境だ。黄金の双剣の維持に集中しながら、残ったエネルギーを使って切り札である彼女を強化する。

 

「《code:gain_all(C)》」

 

 さて、あとは上手く行く事を祈ろう。

 

 

 

 

 激痛に叫び続ける俺とドライグ。それでも俺達は痛みに屈せず、そして……ついにそいつを仰する。

 

 自分の右腕が光り輝き、そしてそこには白い装甲に青い宝玉を宿した白い籠手が出現した。

 

「へへ、やったぜ。さしずめ『白龍皇の籠手(ディバイディング・ギア)』ってところか」

 

 疲れ果てた身体に鞭打って、新たな力を得た右手を構える。そんな俺の姿に、ヴァーリは心底嬉しそうに笑った。

 

「はははは! すごいぞ兵藤一誠! いいだろう。俺も少しばかり本気になるとしよう」

 

 そう言って奴は突然校庭の脇にある木々へと手を向ける。

 

『Half Dimension!』

 

 奴の宝玉から音声が響くと同時に木々の空間が歪み、一瞬にしてその付近の木のサイズが半分になる。

 

「これが禁手状態で使える白龍皇の能力『全てを半分にする力』だ」

 

「……はああああ!?」

 

 俺はそのあまりにもチートな能力に思わず叫んだ。ふざけんな! こっちは死ぬ思いでお前の相手の力を半分にする能力を得たって言うのに、今度は触れもしないでしかも物理的に半分にするだと!

 

「さあ勝負だ兵藤一誠!」

 

 打って来いと言いたげに構えるヴァーリに、もはや悩んでいる暇は無いと一気に飛び掛る。

 

「おおおおお!!」

 

 右腕を奴の顔面に叩き付ける。そして『Divide』という宣言と共に奴の力が半減し、すかさず左の拳をヘッド部分に叩き付けると、先程と同じように砕け散る。

 

「くっ。なるほど、自分で受けてみて初めてこの力の有用さを実感する。右で装甲を弱らせ左の龍殺しで追撃、中々のコンビネーションだ。さて、お返しだ!」

 

 ヴァーリが口元から軽く血を流しながら手を前に出す。

 

 嫌な予感がして咄嗟にその場を飛び退く。しかし足が間に合わなかったのか脚部の装甲が砕け散る。

 

「鎧が盾になって防がれたか。喰らっていれば左足を細められたんだがな」

 

「そんな不恰好になるのはゴメンだ――っ!?」

 

 急に力を失う感覚を感じてその場に膝をつく。

 

 まさか!?

 

『そのまさかだ……白龍皇の籠手を得るのに無茶をしすぎた……限界だ相棒。むしろ一撃入れるまでよく保てたと褒めたいところだ』

 

 ドライグがどこか無念そうにそう告げると同時に……赤龍帝の鎧が一気に霧散してしまう。

 

「ぐっくっそぉぉ!?」

 

 つけていた腕輪も粉々に砕け散り、左手の赤龍帝の籠手も気を抜けばすぐに意識と共に消えてしまいそうだった。

 

「……ここまで――」

 

 ヴァーリが口を開こうとした瞬間――奴の傍を三日月形の黄金の軌跡が走り、ヴァーリがそれを後ろに下がって回避する。

 

「ぐっ!」

 

「悪いが君からは意識を逸らさなかったよ! 例え『透明』でも君の気配は分かる!」

 

 地面が砕ける音と共に白野が金塊で作ったかのような文字通りの『黄金の片手剣』を振りぬいた姿で俺の前で膝を着く。

 

 どうやら先程の一撃はヴァーリの油断を利用した白野が、聖剣の『透過』と『加速』の力を使って奇襲したみたいだ。しかしヴァーリには初めから見抜かれていたらしい。

 

「そうだな。宣言通り……君にはここで悪魔に転生して貰おう!」

 

 ヴァーリがその手を手刀の形にして大きく振りかぶる。白野はもう限界なのか、持っていた剣は砕け、悔しげに項垂れるだけだった。

 

「くそ、やめ――!?」

 

 俺がヴァーリを睨み声を上げたその瞬間――気付けば吹き飛ばされていた。

 

「うわあああ!?」

 

「っ――!!」

 

 白野と一緒に吹き飛ばされ、地面を二転三転してようやく止まる。

 

「いっつぅ。なんだよ今の」

 

 急に目の前で何かが爆発したような強い衝撃を受けて吹き飛ばされた。

 

「くっ」

 

 隣で同じ様に身体を強く打ちつけ蹲っていた白野が痛みを我慢した顔で立ち上がり、そして土煙が舞う先程まで俺達が居た場所に向かって呼びかけた。

 

「黒歌!」

 

 黒歌? え、何? まさかさっきの爆発は黒歌さんの仕業なのか?

 

 白野が呼びかけると、爆心地の土煙の向こうに人影が浮かび、そして……黄金の軌跡が一閃すると同時に土煙が払われる。

 

「御主人様――勝ったわ!」

 

「……うおぅ」

 

 現れた黒歌さんの姿は、なんというか、喜ぶに喜べない姿だった。

 

 着ていた着物のあちこちが破けて胸は完全に露出し、下半身の下着も露出している。

 

 これだけだったら白野には悪いが眼福眼福となるのだが、彼女は身体は血で濡れ、足と手には酷い裂傷を幾つも負い、そこから血が滴り落ちていてとても痛々しい姿をしている。

 

 それでも、何故か黒歌さんは誇らし気な顔を白野に向け、白野は安堵の表情を浮かべながら、同じ様な表情で頷き、黒歌さんの元へと向かう。

 

 俺も後を追うように疲れた身体に鞭を打って立ち上がり、歩みを進める。黒歌さんの方を改めて見ると、彼女の元にはいつの間にかアーシアがいて、すでに治療を開始していた。

 

 そしてそんな二人を護るように他のグレモリーのみんなとゼノヴィアとイリナが護衛していた。

 

 というか、なんか地味にクレーターが出来てるじゃねぇか。

 

 彼らがいる場所は軽く陥没して小さなクレーターが出来ていた。

 

「――え?」

 

 そして近付いてようやく、忘れていた存在に気付いた。

 

 クレーターの中央。みんなが黒歌さんから護る様に警戒している先には、ヴァーリが横たわっていた……頭の無い状態で。

 

『――馬鹿な』

 

 驚愕の声を上げたのはヴァーリの相棒のアルビオンだった。そのありえないと言った感じの声色は、まさに俺とドライグの気持ちをも代弁していた。

 

 俺はまだ信じられずに、目の前の光景をただ見詰めることしかできなかった。

 

 

 

 

 地に伏し、フルプレートのヴァーリの身体が徐々に消滅して行く。

 

『一体何が起きたというのだ!?』

 

 背中の光る翼からアルビオンの困惑した声だけが響く。

 

 そんなアルビオンに、近くまで来た自分が答えた。

 

「作戦はいったって単純だ。お前達がずっと意識していた自分を囮に初撃を行い、お前達が避けた所をコードキャストで強化した黒歌が止めを刺す。それだけだ。まぁ、黒歌にはかなり無理して貰ったけど、そのくらいしないとお前達には勝てないだろうからな」

 

『馬鹿な。そんな……』

 

 アルビオンからありえないと言った感じの叫びが上がる。

 

「何をそんなに驚く事がある。彼女は仙術の穏行でオーラも消せて初動を覚らせず、魔力操作に長けているから魔力放出で一瞬でトップスピードまで加速でき、妖怪の身体能力による高い攻撃力もある。黒歌は間違い無く自分達の中では最高戦力だ」

 

 そう。初めから自分がヴァーリを討てるだなんて考えていなかった。浄眼でヴァーリがこちらを常に意識していたのも知っていた。

 

 だからこそ自分が『囮役』を買って出たのだ。

 

『だ、だがヴァーリの肉体をあんな簡単に斬り裂くなど、あの剣はなんだ!?』

 

「あれだって特別な能力は無い。ただの頑丈な『双剣』だよ。もっとも、技術の無い強者が剛腕に任せて振っても壊れない程のな。それだけだって立派な名刀だ」

 

 混乱気味に放たれるアルビオンの質問に淡々と答えて行く。

 

 そう。あの双剣に特別な能力なんて無い。ただ考えてみて欲しい。あのギルガメッシュが力に任せて『全力で振っても壊れない』のだ。それだけであの剣の強度の高さが分かるというものだ。

 

「お前達は特別に拘り過ぎたんだ。自分や一誠に集中し過ぎて、一番強い黒歌から目を放した……それがお前達の敗因だ」

 

 もはや消え掛けている光の翼にそう宣言する。

 

『負け……まさかこのような形で今代のドライグとの戦いが終わるとはなぁ』

 

『ああ、俺も予想外だ。だが白野の言葉通りだろう。俺達はお互いに意識し過ぎていた……立場が違えば俺がそうなっていただろうな』

 

 力ないアルビオンに、ドライグはどこか寂し気に返事を返す。

 

『ふっ。ドライグの主……こっちに来てくれ』

 

「お、俺?」

 

 呼ばれた一誠が困惑気味に自分を指差す。

 

『時間が無い。急いで私に右手で触れるのだ』

 

『相棒、俺からも頼む』

 

 二人のドラゴンに乞われた一誠がアルビオンの光る翼に触れる。すると一誠の右腕が白く輝き、そこには先ほど見た白い篭手が装着されていた。

 

『私の力を定着させた。進化することは無いだろうが有効に使うのだな……ではなドライグ』

 

『ああ』

 

 アルビオンはその言葉を最後に消滅し、ドライグは短くそれだけ返して沈黙する。

 

「……悪いなドライグ。お前達の宿命は理解するが……それよりも自分は自身の都合を優先する」

 

 彼の理想はいずれ人間界が戦場になる物だ。そんな物は許す訳には行かないし、自分を殺そうというのだから身を守るためにこうするしかなかった。

 

『仕方ないだろう、気にするな白野。それに我々の別れは一時のものだ。いずれまたどこかでアルビオンは復活し、また戦う事になるだろう』

 

「……ありがとう」

 

 許してくれたドライグに短くお礼を述べながら、物質化制御の維持を解いて周りを見渡す。どうやら魔術師達は全員倒しきったみたいだ。残ったのは死屍累々の光景と疲れたように蹲る友人達と戦士達。

 

 やっぱり戦いは好きじゃないな。

 

 確かに戦いや争いは時に人を大きく成長させるだろう。故に理解も、納得もしよう。

 

 だがそれでも――自分は決して受け入れたりなんてしない。

 

 これから先も、自分はこの矛盾を抱えたまま戦っていくことになるだろうが、それが自分で選んだ道だ。後悔は無い。

 

「……はあ。色々と疲れた」

 

 肉体的にも精神的にも疲れ果てた自分は、その場に座り込んで大きく息を吐いた。

 

「大丈夫か白野?」

 

「そっちこそ。無茶し過ぎだ」

 

「お前にだけは言われたくない」

 

 傍で似たように座り込んでいる一誠の言葉にそう返しながら二人揃って苦笑する。

 

「大丈夫にゃん、御主人様?」

 

「ああ、黒歌に比べたら問題ないよ。ただの打ち身と魔術の使い過ぎによる頭痛だ」

 

 今回黒歌には無理をして貰った。あのヴァーリを一撃で仕留めるには速さが何よりも必要だった。その為に強化を施した上で黒歌に足へのダメージを考慮せずに思いっきり魔力放出込みで踏み込んで貰ったのだ。

 

 腕の怪我は予想外だったが、急加速の中で無理矢理動かせば、まぁそうなるよな。やっぱり自分はまだまだ未熟だ。

 

「黒歌、無茶な願いを聞いてくれてありがとう。怪我の具合は?」

 

「ふふ。アーシアちゃんに治して貰ったから問題ないにゃん。何より御主人様の為に負った傷なら、わたしとしても誇らしいわ」

 

 治して貰った黒歌の腕と足には、いくつか傷跡が残ってしまっていた。しかし黒歌はその傷を愛おしそうな目で撫でるだけで自分を責める事は無かった。

 

「イッセー!」

 

「白野君!」

 

 大きな声と共に振り返ると、仲間達が笑顔で駆け寄ってくるのが見えた。

 

 これから色々あるだろうが……ま、みんなと一緒ならなんとかやっていけるだろう。

 

 そんな事を考えながら、一誠と二人で立ち上がって仲間の下へと足を進めた。

 

 

 

 

 眼下での戦いが終わり、俺は灰となったヴァーリの傍に降り立つ。

 

「……なぁ満足かヴァーリ、戦いの中で死ねてよぉ?」

 

 頭を過ぎるのはガキの頃のヴァーリの姿だった。

 

 どうやら意外と俺様もセンチメンタルな方だったらしいな。

 

 僅かに心を蝕む苛立ちと寂しさに頭を掻く。

 

 この事態は想定していなかった。それくらいの強さを、あいつは持っていた。

 

 だが、長いこと戦場に居なくて忘れていた。

 

「戦いに絶対は無い。忘れてたぜ」

 

 どれだけ強かろうが死ぬ時は死ぬ。それが戦いだ。ましてや今回、ヴァーリは完全に油断していた。

 

 ま、一番悪いのはあいつの考えを改められなかった俺だわな。

 

 大事な戦力であり『仲間』だった男に軽く黙祷を捧げ、俺はサーゼクス達の元へと向かった。

 

 生き残った俺達にはすぐにでもやるべき事が山のように残っている。だから悲しんでいる暇は無い。

 

 俺達三種族の新しい未来は、まだ始まってすらいないのだから。

 




はい。と言うわけで……彼の夢は終わりを迎えました。

実はかなり悩みました。基本的に私、原作キャラは原作で死んだキャラ以外は極力殺さないようにしています。ヴァーリも好きなキャラでしたしね。

しかし、この物語での現段階での白野とヴァーリの関係を考えると……たぶんこの流れがもっとも自然だと判断しました。

さらに決断の後押しの要因になったのは、ヴァーリが一誠達と本格的に共闘する理由がこの作品では存在しなくなるからです(つまり原作の後半のボスポジである黒幕の二人が出てきません)

以上の理由でこうなりました。成長した一誠とヴァーリの決闘を楽しみにしていた人は申し訳ない。



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【夏が始まる】


 と言うわけで三陣営会談編のエピローグです。次がこの話のエンディングにまります。



「――てな訳で今後ともよろしくな、お前ら」

 

「よろしくね、みんな」

 

「よろしく頼む」

 

 会談襲撃事件から数日後のオカルト研究部の部室、そこにはなんとも言えない空気が広がっていた。

 

 原因その一であるスーツを着崩した堕天使総督のアザゼルは暢気にお茶を飲み、原因その二であるイリナとゼノヴィアは、何故か駒王学園の制服を着て羊羹を頬張っている……いや、なんだこの状況。

 

「えっと、話を纏めるとアザゼル総督はオカルト研究部の顧問と言う名目で僕達グレモリー眷属とシトリー眷属を鍛える。ゼノヴィア達はガブリエルさんと共に天使陣営からこの土地の守護としての任務の為に学生としてやってきた。ということですか?」

 

 さすがは祐斗、こんな時でも冷静だ。

 

 今の祐斗の言葉通り、三人はこの土地の守護として派遣されたらしい。まぁ歴史的な土地となった上に、そこに三陣営の関係者が暮らしているんだから当然の処置とも言える。

 

「その通りだ。今後は私とイリナ、そしてガブリエル様が姫島朱乃の神社で暮らす事になった」

 

 ゼノヴィアの発言を受けて朱乃に確認の視線を向けると、彼女は頷いて説明してくれた。

 

「私が暮らしていた神社は悪魔や堕天使も訪れることが出来ますから。他にも神社に勤める事で参拝者の信仰の一部を日本の神々に譲渡することを条件に、天使が常駐することを容認して貰ったそうですわ」

 

 なるほど。まぁその辺りは神様同士での取り決めなんかがあるのかもしれない。

 

「朱乃は良かったのか? 居候が増えるんだろ?」

 

「問題ありませんわ。私は今後、白野君の家に住みますから。あ、もちろんご両親の許可は貰っておりますわ♪」

 

 ……おやぁ聞いてないなぁ?

 

 おおかた父さん達が自分を驚かせようと黙っていたのだろう……まあ嫌じゃないからいいけど、心臓に悪いから止めて欲しい。

 

「まあそういう訳だ。基本この街の拠点として駒王学園を使うが、そこが使用できない場合は今言った神社を拠点とする」

 

 そう言ってアザゼルは次の話題に移る。

 

「さて、俺の方の説明を改めてするが、旧魔王派からルシファーとレヴィアタンの妹達、そしてその眷属が標的にされる可能性は非常に高い。となるとお前らオカ研と生徒会の連中の戦力強化は三陣営の今後の為にも必要不可欠な案件って訳だ。特にそっちの二人は扱いを間違えれば大惨事を引き起こしかねない代物だしな」

 

「うっ」

 

「あうう」

 

 アザゼルが一誠とギャスパー君の二人を順に指差しながら指摘する。指摘された二人は自分の現状をしっかり理解しているのか言葉を詰まらせて項垂れる。

 

 アザゼルの言い分は理解できる。それに魔力と光力を操り、神器に精通している彼以外にこの案件の適任者はいないだろう。

 

「てことで、改めてよろしくな。でだ白野、お前達は俺の管轄外だ。好きに――」

 

「いや、待ってくれアザゼルさん」

 

 アザゼルさんの言葉を遮る。自分の行動に周りのみんなが困惑した表情をさせる。

 

 その中で、家族全員で話し合って決めていた事を告げる。

 

「自分達も正式に『禍の団』討伐に加えて欲しい」

 

「……どういう風の吹き回しだ、あれだけ嫌がってたろ?」

 

 アザゼルの疑問ももっともだ。

 

「それでも、自分はあの戦いでヴァーリはもちろん魔術師達も沢山殺した。それだけの事をしたんだ、向こうも自分達を許すことは無いだろう。そう考えると自分達のグループだけが単独判断していては、みんなの足を引っ張ってしまうかもしれない。それにできれば情報をすぐに貰える立場で居た方がより生存率が上がる」

 

 そう。あの戦いに参加した時点で、自分達はもう狙われる側、つまり後戻りできない場所に立ってしまったと言っていい。ならば知らずに巻き込まれて慌てるよりは、覚悟を持って渦中に飛び込んだ方が冷静でいられると言うものだ。

 

「いいの白野?」

 

「はい。これは全員で決めた事です。もちろん朱乃にも話してあります」

 

 そう言って朱乃へと視線を向けると、彼女はその視線に答えるように微笑みながら頷いてくれた。

 

「そうか。ならお前らの戦力も当てにさせて貰うぜ。一応表向きは俺がヴァーリを殺したことにしてあるが、本格的に参戦するなら気をつけろよ。情報はどこから漏れるか分からないからな」

 

 アザゼルの忠告に頷いて答える。

 

「それで、訓練の方は基本的にどういう感じになるんですか?」

 

「基本は今迄どおり自由だ。そんでお前らの実力を測って課題を出す。それをこなしたらまた新しい課題をって感じだな。一応俺も教師の仕事や総督としての仕事があるから毎日は無理だが助言が欲しかったら俺が部室に顔を出した時にでも相談しにこい。もちろん白野達もな」

 

 祐斗が訓練の内容を尋ねると、アザゼルがそれに答える。やっぱりなんだかんだで面倒見がいいよなぁこの人。

 

 そんな事を考えていると、会話が途切れたのを見計らって一誠が質問した。

 

「そう言えば、その腕はどうしたんですか? 確か前の戦いで無くなったはずじゃ?」

 

 アザゼルの腕には一誠の言う通り新しい腕が生えていた。正直組織の長くらいになれば腕くらい生やしそうだからそこまで気にしていなかった。

 

「ん? ああこれか? 折角だから人工神器の研究を元に作った本物そっくりの義手だ。光力式レーザーにロケット砲、更にはロケットパンチも可能だ。しかも操作可能!」

 

 一誠の質問にアザゼルは子供のように目を輝かせて左腕をドリルに変形させて発射する。

 

 ドリルはキュイイインと言った嫌な回転音を発しながらしばらくアザゼルの頭上を飛び回り、それを見て自分と一誠は『おお!』と、年甲斐も無く感嘆の声を上げた。

 

 それに満足したのか、アザゼルは嬉しそうな笑顔で腕を元に戻す。敢えて言おう……カッコイイと!

 

「か、かっけえええ!」

 

「確かにカッコイイ」

 

「おお、この良さが分かるか兵藤一誠、いやイッセー! そして白野! 実は白野の義手もこんな感じにしたかったんだが、如何せん燃費が悪くてなぁ。白野だとすぐにオーラ不足になるから必要な機能だけに留める事になった」

 

「くっ、己のオーラ不足が憎い!」

 

 レーザーはともかくロケットパンチはちょっとやりたかった! リップパンチとかちょっと言いたかった!!

 

 悔しさのあまりその場に膝を付く。

 

「そ、そんなにかい?」

 

「いや、まあちょっと残念だけどそこまでじゃない。ノリでやっただけだ」

 

 祐斗が困惑気味に尋ねてきたので、そう返事してすぐに立ち上がる。

 

「ははは! お前は外面が無表情だが、意外とノリが良いから俺様は好きだぜ。さて、話が脱線したが、まぁそんな感じだ。それと悪魔の連中は夏休みになったらしばらく冥界で過ごす事になる。リアスは理由を知っているな?」

 

「ええ。名門、旧家、その手の若手悪魔が何名か集まって顔合わせを行うわ。まぁ一つの慣わしね」

 

 リアス先輩の説明にアザゼルが頷く。

 

「ああ。それとこれはまだ少し先の話だが、サーゼクスの提案で近々若手同士のレーティングゲームが執り行われるって話だ」

 

「テロがあったばかりなのにですかぁ!」

 

 ギャスパー君が驚きの声を上げると、アザゼルが理由を説明してくれた。

 

「当然だろ。むしろ現状じゃ『死なずに戦闘経験を積める場』なんだぞ? やらなきゃ損ってもんだ。それに……」

 

 そこで一度言葉を切ったアザゼルはお茶を飲んで喉を潤してから愉快そうに笑った。

 

「俺はレーティングゲームは今回みたいなのを想定して作られたシステムなんじゃないかと考えている。状況把握、多人数相手の対処、各種族の能力への対応、どれも戦争じゃ知っておくべきスキルだ。しかも大衆の娯楽になって金にもなる。ホント、抜け目ねぇぜサーゼクスは」

 

 アザゼルはそう言って笑いながら肩を竦めて見せる。にしても、冥界で行われるレーティングゲームかぁ、自分は参加できないな。

 

 基本的に冥界は人間が行っていい場所じゃない。場所が場所なら瘴気に当てられて死んでしまう場所もあるらしい。まぁ、黒歌が言うには大きな街なら人間界とさほど変わらないとは言っていた……それでいいのか悪魔よ。

 

「そう言えばお前らにもう一つ伝えておく事があったな。近々冥界天界で新しい特撮アニメが始まる」

 

「特撮アニメ、ですか?」

 

 首を傾げる小猫ちゃんにアザゼルが頷き説明する。

 

「冥界で『サタンレンジャー』っつぅ特撮アニメがやっていたのはリアス達なら知っているな? あれの後番組として、そしてより三陣営の結束を高める目的で色々な種族が入り混じった新たな戦隊ヒーロー物が始まるんだよ。俺とセラフォルー、あと天使陣営から一人来て三人で脚本と演出、撮影の指揮を執る。まかせろ! 面白いもんにしてやるからよ!」

 

 いい笑顔をするアザゼルに一抹の不安を抱えながら、自分達は夏休みを迎えようとしていた。

 




ドライグ「この世界には乳龍帝はいないんですねヤッター!!」

作者「戦隊の一人としているし、一誠はおっぱいで強くなるけどね(笑)」

ドライグ「うわああ俺を一人にしないでくれ白いの! 白いのぉぉおおお!!(絶望)」

アルビオン(霊界)「頑張れドライグ、超頑張れ!!」



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【抑止の終わり。白野としての戦い】


と言うわけで前々から言っていた打ち切りENDです。
続編の英雄派達との戦いを投稿する時はこの作品のタイトルに【一期目】と付けて、別枠で【二期目】として投稿する予定です。




アラヤ「うむ。どうやら人類の滅びはとりあえずは回避されたようだな」

 

ガイア「そうみたいだなぁ~」

 

プリンセス「にしても、あのアニメのせいで世界が滅ぶとか地球ヤバ過ぎww」

 

ガイア「いいやぁ。この場合は人間ヤバ過ぎだろう」

 

アヤラ「ははは確かに。まさか『おっぱいドラゴン』などというおかしな特撮ヒーローのせいで世界がヤバイなど、いったい誰が信じようか」

 

ガイア「ワロスww」

 

プリンス「ワロスにゃんww」

 

プリンス「ま、でもこれでこの子の抑止としての役割は終わりって訳ね」

 

アラヤ「ああ。彼の苦労する姿が見れぬのは残念だが致し方無い。我々は所詮そういう存在なのだから」

 

ガイア「アラヤは愉悦部の癖に仕事はきっちりするよねぇ。じゃあまた世界に破滅が迫る時にでも」

 

アラヤ「うむ。欲望の果てに滅びが迫りくるその時に」

 

プリンス「あらら、二人とも帰っちゃったわ。淡白よねぇ。さてさて、それじゃあ白野、バイバイにゃん。運が良ければどっかの『私』とまた会えるかもね。にゃははは!」

 

 

 

 

 夢を見た。三つの人影が好き勝手に言って去るいつもの悪夢だ。

 

 しかし今日はそれだけではなかった。

 

 三つの影が去ったあとに新しく二つの人影が現れた。

 

「ふむ。なんとかなったかのう?」

 

 恰幅の良い体格の老人のような喋り方をする影が、隣に立つ長髪の女性のような影に訪ねる。

 

「そうだねぇ~。少なくとも彼らが言うのだから『人の滅び』は回避されたんじゃないかな~」

 

 中性的な声色と間延びした喋り方で答えた女性は宙に浮くと体を横にしながら答える。

 

「しかしまだ油断は出来ぬな。わしが与えた『大釜』はなんとか使いこなしておるようで安心じゃが、今後も少年は狙われるじゃろうな」

 

「巻き込まれ体質だからね~。まあ死ぬまで見守ってあげるけどね~」

 

「乗りかかった船と言う奴じゃな」

 

 そこまで言って、陰がこちらに振り返る仕草を見せる。

 

「そういう訳でもう抑止としての役割は終わったんだから、あまり無茶しないでね~。人生程々が一番だよ~」

 

「うむ。嫁も出来たことだしのう。わしも若い頃は女の為にヤンチャしたもんじゃが、あまり泣かせるでないぞ」

 

 最後にこちらを心配するような言葉を投げかけ、二つの影は消えていった。

 

 

 

 

「……なんか良い夢を見たような。いつもの悪夢を見たような……?」

 

 頭痛は無いがどうにもモヤモヤとした感覚を覚えながらベッドの横を見る。

 

「にゃ~おはよう御主人様」

 

 そこには人型の黒歌がなんとも艶かしい姿で気だるげに目をこすっていた。

 

「ああ、おはよう黒歌。ほら、女性優先なんだから顔を洗いに行ってきな」

 

「にゃ~い」

 

 黒歌はシーツから体を起こす。その際に生まれたままの姿を見てしまったが、すぐに猫化するのを見て心の中で安堵の溜息を吐く。

 

 まだ若干フラフラしている黒歌を苦笑しながら抱き上げて一階へと向かい、黒歌を脱衣所の前まで連れていって降ろす。

 

「ありがとう御主人様」

 

 そう言って人型になって脱衣所に入って行く全裸の黒歌……中に入ると同時にレイナーレの声が響いた。

 

「ちょっと黒歌、あんたはまた裸でうろついて!」

 

「にゃ~これが私のニュートラルな姿なんだから勘弁して欲しいわぁ」

 

「あら黒歌、おはよう」

 

「おはよう朱乃。あ、シャワー先!」

 

「ちょっと! 順番守りなさいよ! 次は私よ!」

 

 そんな会話を背後で聞きながら自分はキッチンへと向かう。

 

「おはよう母さん、父さん」

 

「ああ、おはよう白野」

 

「おはよう白ちゃん」

 

 キッチンでは母さんが朝食の準備をし、父さんは椅子に座ってコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。

 

 これが今の自分の朝の光景だ。いっきに女性が三人も増えたので、朝のシャワーは先に女性が入ることになっている。父さんと自分はその後だ。

 

「そう言えば今日は終業式か」

 

「うん。明日から夏休みだね」

 

 テレビをつけてニュースを聞きながら父さんに返事をする。

 

 それにしてもそっか、もう一学期も終わりかぁ。

 

 これまであった色々な事件が走馬灯のように脳裏を過ぎる。何回か死にそうな目にあったけど、まだ三ヶ月ちょっとなんだよなぁ。

 

 そう考えると少しだけ気が滅入ったが、明日から夏休みなのだからここで気落ちしては勿体無いと、別の事を考える。

 

「そう言えば今年も旅行に行くの?」

 

「当たり前だろ。この毎年の家族旅行の為に僕は頑張っているようなものだからね」

 

 父さんが自慢気に胸を張る。

 

 うちの両親は早くに親を亡くしていて地方に実家があるわけでもないので地方に帰省することはない。だが父さんと母さんはイベント好きなため、自分が小さい頃から学校が長期休校するときは、いつも小旅行に連れて行ってくれる。

 

「それと白野、安心しなさい。今年はちゃんと海かリゾートプールのある場所にするから!」

 

 父さんがイイ笑顔でサムズアップする。それに対して息子の自分は……笑顔でサムズアップを返す。

 

 自分だって男だ。大好きな彼女達の水着が見たいという健全な青年的欲求だって普通にある。

 

 ……でもみんなの普段着を考えると間違いなく過激な水着を着そうなんだよなぁ。それを周りに見られるのは色々と不安だ。身内だけならどんな水着を着られても問題ないんだけどねぇ。

 

 そんな事に頭を悩ませていると、身支度を終えたレイナーレと朱乃が入って来た。

 

「おはようダーリン」

 

「おはようございます旦那様」

 

「……うん。おはよう二人共」

 

 慣れない。

 

 事件のあと、朱乃が正式に家に住む事が決まった日からレイナーレと朱乃は家では自分の事をそう呼ぶ事にしたらしい。

 

 一応外では今まで通りなのだが、それでもなかなか慣れない。因みに黒歌は『もう御主人様って特別な呼び名で呼んでるから問題無いにゃん』と言って今まで通りだ。

 

「う~んさっぱりにゃん!」

 

 黒歌もやって来たので父さんと一緒に洗面所に向かう。

 

「いや~しかし家も賑やかになったね」

 

「ごめん父さん。二階の空き部屋全部使っちゃって」

 

 朱乃が来た事で二階の空き部屋がついに全て埋まってしまった。

 

「いや構わないさ。それはそうと白野……孫を楽しみにしているよ。可愛い孫に可愛い衣装を沢山着させてあげるのが、父さんの夢の一つなんだ!!」

 

 ……そんな願望があったんだ。

 

 父親の願望を知り、なんとも微笑ましい気持ちのまま朝の準備をする。できれば叶えられるように努力するが、こればっかりは本当に神頼みだからなぁ。

 

 

 

 

「おはようお二人さん!」

 

「おはようございます白野さん、朱乃さん」

 

「あらおはよう白野、朱乃」

 

「おはようございます先輩方」

 

 学園に行く途中で一誠達と合流し、自分達も挨拶を交わす。

 

「おはようみんな」

 

「おはようございます」

 

 そのまま一緒にお喋りしながら進む。一誠とは元々家が近所だったから一緒に学園に行くことも多かったが、最近では完全にオカ研グループだ。まぁ全員一緒に暮らしているんだから、合流するのは当たり前なんだけど。

 

 とりあえず歩道を占領してはいけないので、いつものように自分と一誠を先頭に縦に並んでお喋りする。

 

 一誠とあれこれ雑談している内に学園に到着すると、同じく到着した祐斗、ギャスパー、イリナ、ゼノヴィアと一緒に門を潜る。

 

「なんかこうやって一緒に歩くのが普通になってきたわね。ちょっと前まで敵同士だったのに」

 

 イリナが駒王学園の制服を摘まみながら感慨深げに呟く。

 

「ああ、そうだな。まさかアーシアとこんなに仲良くなれるとは思わなかった……本当にあの時はすまなかった」

 

「そうね。ごめんなさいアーシア」

 

 イリナとゼノヴィアが申し訳ない表情で謝罪すると、アーシアが慌てて両手を振る。

 

「いいんですよ! 確かに辛かったですけど、そのお陰で大切な人と出会えました。それに、新しい友達が二人も出来て、わたしの方が申し訳ないくらいです」

 

「っ眩しい!」

 

「天使、いや女神は居たのか!」

 

 アーシアの悪意ZEROの照れを含んだ笑顔に、イリナとゼノヴィアがまるで仏様とでも出会ったかのような反応をする。気持ちは分かる。

 

「ギャスパー君はもう学園に慣れたかい?」

 

「は、はいぃ。女の子達とはよく話すようになりましたぁ」

 

 ……それはちょっと、いや、何も言うまい。

 

「ギャー君、クラスでは恥ずかしがって男子とはあまりお話しないんです。まぁ男子は男子で危ない目でギャー君を見るので自業自得ですが。更に言うと既にギャー君のファンクラブまであります」

 

「……因みに訊くけど、そのファンクラブの会員は女子がメインだよね?」

 

「男女比はフィフティーフィフティーです。宣伝頑張りました」

 

 そう言ってやり遂げた顔でVサインする小猫ちゃん。小猫ちゃんは相変わらずギャスパー君を弄っているようだ。まぁそれが彼女の友人としての気遣いなのだろう。彼女にとっても学園に来る前では唯一の同年代の友人なのだから。

 

 一年生組が一緒になり、アーシアと聖剣組が並び、リアス先輩と朱乃は何やらどっちがラブラブしているかで口論している。そして残った二年の三人で他愛無い会話を繰り広げる。

 

 これが今の自分の学園での日常だ。

 

 ……まあ大変だけど楽しいよな。

 

 これからもきっとドタバタの連続だろうけど、みんなが居ればきっと大丈夫。

 

 笑顔で空を仰げば、そこにはそんな自分の気持ちを代弁するように広がる快晴の青空が広がっていた。

 

「どうした白野、早く行こうぜ!」

 

「白野君どうかしたかい?」

 

「いや、なんでもないさ」

 

 傍で自分を待ってくれている親友二人に答えながら、自分は今日も笑って人外の友人達の輪へと加わるのだった。

 

 




と言うわけでハイスクール編。一応の完結です。ハイスクールの今後の予定は前書きで書いた通りです。

このあとにあとがき回で詳しい事を色々説明します(ヴァーリを退場させた理由や、世界の連中が抑止として具体的に白野に何をさせたかったのか、白野神器をそういう能力にした理由等)

一年近くも作品に御付き合い頂き、本当にありがとうございました。



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【あとがき回】


はい。あとがき回です。
前半に作品内での大きな疑問の回答と各話の裏話。
中盤は現在の白野の能力や装備品の説明。
後半は白野を含めたメインどころのキャラの解説。
と言った感じになっていますので、興味がある所だけ読むのもありです。
まぁ今後次第では修正入ると思うので『現状ではこうです』程度の認識でお願いします。



と言うわけであとがい回と言う名のネタバレ回です。ここまで読んで頂きありがとうございます。

 

……思えば丸々一年使いましたね。まぁ目標だった一年で終わらせられて良かった良かった。

 

では最初はたぶん読者が気になったであろう大きな疑問に回答します。

 

 

【Q:最初の茶番の三人は誰?】

【A:世界の抑止力さん+月の意思さん(プリンセス)です】

 

Fate知らないと何それ? な人達が主人公を差し置いていきなりの登場。

知らない人(今更だけど)に端的に言えば『滅びを回避しようとする世界の意思』みたいな感じで覚えて頂ければOKです(詳しく説明すると長くなりますしね)

プリンセスの方は月という星の意思です。お隣さんが何やら楽しげな事をしようとしていたので見に来た感じですね。

この世界ではみんな明確な思考持ちで、且つ平行世界の自分達とも情報共有だけはしています。

ラストでプリンセスが意味深な事を言っているのは『月には白野の情報がある』からですね。

 

 

【Q:そもそも抑止ってなに?】

【A:滅びを回避させる運命を本人が知らぬ間に背負わされている存在です。守護者とは別扱いです】

 

これも今更ですが一応説明を。

内容は上で言ったとおり『世界の滅びの運命を変える』役目を担う人達です。彼らの行動が巡り巡って滅びを回避するわけです。

例を挙げるなら『A君がA研究所に就職した結果、世界崩壊ボタンが出来ちゃって世界が終わる』という未来が確約された瞬間に世界はBさんという抑止を用意します。

そして世界の流れを『A君がA研究所に就職する前にBさんが彼の才能に気付いてB研究所に誘う』という未来にシフトさせる。これが所謂『抑止』です。因みに強制ではないので本人の自由意志が優先されます。

 

つまり『抑止』は必ず滅びを回避させられる訳ではありません。その為に『守護者』が居ます。

『守護者』は『抑止』にも防げない滅び、または『抑止』が失敗してもう滅びが回避できないといった場合に『原因を物理的に排除する』為の存在です。

つまり『守護者』が呼ばれた時点で『排除』しか選択肢が無いわけです。しかもこちらは『抑止』と違って強制です。エミヤが『都合のいい掃除屋』と自身を皮肉っていたのはその為ですね(そりゃ性格歪みますわー)

 

 

【Q:そんな世界さん達は結局のところ白野に何をさせたかったの?】

【A:それゆけ乳龍帝の放映阻止です】

 

白野の抑止としての役割は原作のあの特撮アニメの放送阻止でした。

本編一話目での茶番会話で言っていますが、この作品の世界線では『滅び』が確定しています。

その理由となったのが、乳龍帝です。

端的にあの世界の流れを説明するとこんな感じです↓

 

『乳龍帝が放送される』→『乳龍帝のせいで沢山の黒幕さん達が動く』→『原作同様に一誠達が解決』→『三種族で神器持ちは優秀という考えが根付く』→『数百年後には神器持ちの人間の多くが転生されられるのが当たり前の世界になる』→『有能ゆえに野心を抱く者が増え始める』→『そして数百年後に三種族で新たな戦争が勃発』→『世界が終わる』

 

と言うのが、白野がやってくる前の世界の結末でした。

 

この結末阻止の為に白野は抑止として『事件に巻き込まれやすく』させられていた訳です。

その結果、一誠が本来活躍したり有名になったりする筈の出来事が起きず、彼の知名度は低いままだった為に、アニメの放送枠が別の物に変わった。と言うわけです。

 

以上が白野が抑止として与えられた使命でした。

 

 

【Q:なんでヴァーリを退場させたの?】

【A:活躍させられないからです】

 

本編や上でも言いましたが、この世界では『乳龍帝』が放送されません。

その結果、ヴァーリが本格的に活躍する筈の英雄派以降の原作である『邪龍編』や『666編』の黒幕が行動を起こさなくなりました。

つまりヴァーリの過去、そして考えを改める切っ掛けとなるはずの黒幕との邂逅、更に言えばドライグとアルビオンの和解すら起きない訳です。

 

以上の結果から、作者からすると正直に言って扱い難いキャラになってしまったと言う訳です。

私としては原作後半の彼はかなり好きなキャラです。しかしそこまで彼が行かない上に和解の道が無い以上、彼は敵対してきます。

 

そして彼が本気になったら、あの時点での白野グループやグレモリーグループでは勝てません。それくらいの強キャラです。

 

つまり、彼を作品内から退場させようと思ったら、あの油断している場面しかなかった訳です。

 

以上がヴァーリをあの段階で退場させた理由です。

 

 

【Q:白野の神器を『王の証』にした理由について】

【A:かなり迷走したんだ】

 

実は神器よりも先に白野にエクスカリバーを持たせる。というのが決まっていました。

理由としてはハイスクールのエクスカリバーが凄い便利な性能をしているからです。

ぶっちゃけこれくらいの一品を持っていないと、人間の白野では生きていけないし、活躍させれないと判断しました(Fate的にも持たせたかったし)

それが決まると今度は『じゃあどうやってエクスカリバーを扱えるようにするか?』という問題になります。

そこで目に付いたのが『ケルト神話』でした。

幸い原作では北欧神話が中心で、ケルト関連はギャスパー君くらいだったので、登場人物的にもいけると判断しました。

 

 

【Q:あの最後に出てきた影って誰と誰?】

【A:世界蛇ことミドガルズオルム(女性の影)とダーナ神族の最高神であるダグザ(おじいさんの影)です】

 

原作読んでる方はあの間延びした口調で分かったかもしれませんし、もう一人は完全にオリキャラですが持っていた宝具で予想できた方も居たと思います。

 

因みにオルムが女性なのは原作でのオルムさんのイメージに合う男性の人型が見つからず一番しっくり来たのが漫画『ヨルムンガンド』のココさんだったからです。博識・普段はのんびり過ごすのが好き・本人が動くとヤバイ。という共通点で選びました。

 

ダグザは戦える恵比寿様というのがイメージです。普段は温厚で優しい小太りなお爺ちゃんだけど、怒ると亀仙人の如く身体がマッチョ化する。みたいな感じです。

 

二人が何所に居るのかと言えば『王の証』の中に居ます。

オルムは自分の意思の一部を、ダクザは本体がいます。

ダグザが居た理由は『おいおい自分達の宝具を好きに扱える神器とかヤバ過ぎ』という理由で『王の証』を悪用させない為に自らを封印し、監視を行っていたからです。

 

この二人は二期目を見越してのキャラですが、一期目でも役割があります。

オルムはもしもの場合に白野に龍の力を与えて強化する為の要員、ダグザは『豊穣神の器』の為の要員でした。

まぁ龍化せずになんとか切り抜けられたので良かったです。

 

 

【Q:なんで白野はダグザの大釜を持っていたの?】

【A:白野の身を守る為に貸し与えました】

 

ダグザからすれば自分も巻き込まれた口ですが(寝てたらいきなり家ごと知らない場所に拉致られたレベル)

それ以上に勝手に巻き込まれた白野を不憫に思って貸して上げました。

 

 

【Q:後半の黒幕シスコンさんと黒幕おじいちゃんは出ないの?】

【A:出ません】

 

はい。彼らは出ません。というのも、彼らが事を起こした動機が乳龍帝だからです。シスコンさんはあれに感銘を受けて暇していたおじいちゃんに色々相談しに行く訳ですが、それが起きないのでおじいちゃんも退屈と言う檻から出る切っ掛けを失った訳です。

 

 

たぶん作品内での大きな疑問はこんなもんだったかなと思います(何かあれば感想を送って頂ければお答えします)

ここからは前回投稿した解説回の修正及び加筆版に入ります。

 

 

【各回の解説】

 

『アーシア編』

主人公の現状と能力の説明がメインのお話。

当初は主人公がアーシアと関わり、レイナーレが死ぬ流れだった。

しかし一誠の嫁はやはりアーシアだよなと思いなおす。

結果……主人公が物凄く暇になった。

『ヤベー、一誠が悪魔修行している間何させよう』

と悩んでいる時に、レイナーレ生存のイラストを見て……これだ!と思った。

結果、アーシア編からレイナーレ編になった。どういうことだ!?

 

『フェニックス編』

主人公が間接的に異形の世界に関わるのがメインのお話。

というか、作者的には色々原作で言いたい事が多かったことを白野に言わせたかった。

結果、試合に勝利して婚姻パーティが無くなった。

白野の腕を切ったのは今後の為でもあると同時に、人間として物理的な脆さを伝えたかった為。

ライザーの性格が少し原作よりましになっているが、同時に原作よりもボコボコにされた。果たして再登場はあるのか?

 

『エクスカリバー編』

白野の本来の神器と魔術、そして聖剣を手に入れるのがメインの話。

ライザーの一件で白野を遠ざけたオカ研とそれを汲んで白野も関わらないように行動する……結果、作者が色々と迷走した回。

聖剣組をメインとして行動させるか、祐斗メインとして共に行動させるか、それとも白野自身をメインにするか悩んだ。

結局一番話が纏まった白野をメインにしつつ、朱乃フラグを回収する事になった。その結果白野の女性面での苦労が増えた。

 

『三陣営会談編』

白野が義手と、自分の意思で本格的に『禍の団』対策に参戦するのがメインの話。

気付けばギャスパーが女性陣よりも完全にヒロインをしているお話に(笑)

そしてフェニックス編同様に、作者がこの時点での三陣営に言いたかった事を白野に言わせた回でもある。

ヴァーリの退場は最後まで悩む羽目になる。彼の退場後について一番不安を覚えているのは作者である私自身だったりする(どこまで纏められるか……)

 

 

【現在の白野の能力情報】

 

『神器:王の証(リア・ファル)

ケルト神話、またその派生(アーサー王など)に出てくる装具・道具の所有権限と使用権限を得る。

収得(アクイジション)』と唱える又は念じることで己の身の内に収納可能であり、収得されたままでも能力を行使することが可能。

ただし白野自身が能力を行使するので、何かに能力を行使する場合は白野が触れる必要がある。

持っているだけでは意味の無い神器だが、ケルトの装具を得れば無条件で行使できるため、力を集めて強くなるタイプの神器。因みに取り出すときは『抜出し(エクストラクト)』と唱える。

『収得』中に使用できる能力が一つだけなので、現状では『豊穣神の器』の能力専用と言っていい。

 

※王の証に関しての裏話

イメージはまんま概念武装と王の財貨を合わせた感じ。つまり白野自身が四次元ポケットである。

元々は原作でもイマイチ出番の少ないエクスカリバー(笑)を有効活用したかった事が始まり。

そこからダーナ神族ネタは原作でも確か出ていなかったので、それ系統の宝具を集めたり使える系の神器にする事になった。

個人的には目指した強過ぎず弱過ぎない感じの神器に仕上がったんじゃないかと思っている。

 

 

『コードキャスト』

基本詠唱=『code(コード):○○(○)』

 

プログラム言語を用いた簡易術式がメインの魔術。

魔術を詠唱や魔方陣等の手間を省き、一工程や一小節だけで発動を可能とする魔術理論。

分かり易く言えば士郎の投影の『トレース・オン』やアーチャーの簡易板固有結界発動の『体は剣で出来ている』と同じ。

 

予めその魔術を発動する為の簡易術式(プログラム)のコードを設計・製造しておく事で、あとはそのプログラムに魔力を通して発動コードを言うだけで行使できる。Fateで言えば魔術刻印に近い代物。

 

便利な反面、白野自身をこの魔術術式に特化させてしまった為に普通の方法では魔術を行使できなくなってしまった。

例えば火を起こすといった単純な魔術も、白野はそれを一度プログラム言語に直して簡易術式を組まないと行使できない。

 

原作と違って一部の魔術の効果にランクが設けられ、それで消費魔力と効果・威力を調整している。

Aランクで二倍。Bランクで七割。Cランクで五割。Dランクで三割の効果・威力を得る。

消費はゲーム的に言えばDで20、Cで40、Bで80、Aで160以上。といったイメージ(※あくまでイメージです)

 

※コードキャスト裏話

せっかく魔法が使える世界だからコードキャストが使いたかったので深く考えずに使わせた。

結果、下記で説明する物質化制御の為に改めてコードキャストについてゲームをプレイして消費や効果の上昇具合を調べたり、設定資料を読んだりしたら……こうなった↓

『え? 白野の攻撃魔法って、威力が倍々で増えて一番強いのだと自身のレベルの8倍相当のダメージなの?』

『え? サーヴァントへの支援効果って大幅アップだと二倍も上がるの?』

『え? そもそも簡易術式ってプログラムさえ組んじゃえば、どんだけ強力な魔術も一工程や一小節で発動可能にしちゃう魔術理論だったの?』

といった感じで調べた結果、実は物凄くチートな技術だったことが判明して頭を抱えた。

 

 

霊子物質化制御(マテリアライズ)』(※本編では物質化制御で統一します)

基本詠唱=『物質化制御(マテリアライズ)――○○○現(ダウンロード)

 

心象世界と繋がる事でそこにある知識と経験によって蓄えられた『情報』を数秒~数十分間『物質化』するという投影とは似て非なる魔術。

 

投影はあくまで元の武器の情報を元にイメージして作り出された物である。そのためイメージがしっかりしていないと強度に差が出てしまう。

しかし白野は情報その物を取り出して形にするため、イメージによる強度差は無い。だが同時に投影よりも柔軟性が失われている。

 

元々は白野が居た世界の現実世界で唯一行使されていた『物質の情報化』という魔術理論を元に作られた逆説の魔術理論。手順が逆なだけでやっている事も行使に必要な技術も同じである。

 

霊子物質化制御は主に三つに分けられる。

 

技能体現(スキル・コード)

名前の通り本来持ち得ない技術や技能の情報を己の身に宿すことでその技術や技能を一通り使いこなせるようになる。

使用時に右腕の手の甲に令呪のような刺青が浮かぶ。重ね掛けする度に刺青が増える。

使用する為にはその技術や技能に対してある程度の知識や経験による情報量が必要である。

肉体依存系スキルなので、肉体が再現し難いもの程、身体的負担がでかい。

 

礼装具現(ミスティック・コード)

一般的な装具から、概念礼装、サーヴァント達が使っていた武装等を具現化する。

特殊な効果を持つ物ほど具現時の消費が激しい。

効果を再現せずに武器としての強度のみを優先する事も可能。フリード戦ではこれを行った。

因みに白野が所有していた礼装や特殊な品もその説明文通りの性能を発揮する(※一部効果が明記されていない物は作者がコードキャストを見て考えると思います)

例えば『守り刀』を物質化すれば破魔の力を宿した短刀が現れるし『ヴォーパルの剣』なら対象に致命傷を与える事が出来る(ヴァーパルがチートアイテムだった、死にたい)

 

英霊顕現(サーヴァント・コード)

物質化制御の目標にして極地の一つ。

最大の切り札である英霊召喚。

英霊をしっかり呼ぶには最低でも魂、精神、肉体の情報を物質化する必要がある。更に戦闘させるなら保有スキルと保有装備も必要になってくる。

そのため現在では白野、黒歌、レイナーレ、朱乃の全エネルギーを費やしても戦闘要員として呼び出すのは不可能。

 

※物質化制御についての裏話

ぶっちゃければサーヴァントを出したいがために作った魔術。

当初はただの投影だった。

士郎が物の投影に特化しているように白野は魂(霊)の投影に特化させようと思っていた。

だが投影の項目を読むと正直英霊の投影とかまず無理だと思い断念。

その後色々悩んだ結果↓

『白野ってそもそもムーンセルが作ったんだから魂自体は聖杯の器みたいなもんじゃね?』

『それに人間でもサーヴァントはギリギリ四体までは収容可能らしいし、彼らの魂があっても問題ないんじゃね?』

という超理論へと至る。

そこからイリヤの聖杯の器設定を色々と弄りつつ劣化させて出来上がったのがこの物質化制御である。

 

 

英雄憑現(コギト・エルゴ・スム)

基本詠唱=『EXmode(イクスモード):○○』

 

物質化制御の極地の一つにして、まじこいで見せた英霊を模倣する技の完成形態。

英霊(霊子情報)をその身に宿す事で彼らの能力を一時的に行使できる技。例を挙げるなら士郎の『憑依経験』や東方プロジェクトの霊夢の『神降ろし』のようなもの。

まじこいのように特定の能力向上ではない完全再現なのでトータル的な強さで言えばこちらが上(服装も変わらない)

同時に肉体的負担や消費もまた上がっている為、おいそれとは使えない。

 

 

『浄眼』

異質を見抜く眼。

直死の魔眼と違って脳に直結している訳では無いが、魂に直結しているのでメデューサ同様に常時発動している。

白野はこれを訓練で制御に成功しているに過ぎない。

それでも直死のように脳に負担があるわけではないので、普通に使用する分には負担は無い。この状態を白野は『開眼』と呼称している。

より深く視る事も可能だが長時間それを続けると魂その物に影響が出て『見える世界』のチャンネルが戻らなくなる可能性がある(本来魂や精神は物質世界とは別の所謂精神世界で存在しているため)

この『より深く視る』状態を白野は『完全開眼』と呼称している。

 

※浄眼裏話

元々は魂を見分けるタイプの能力を持たせたいと思い、確か型月でそういうのがあったなと思い出して調べて出てきたのがこれ。

設定を読むと浄眼はどうも持つ人によって異質を見抜く手段が違うようなので、白野はそのまま魂の波長を視覚化できる設定にした。因みに月姫の主人公の志貴のお父さんは精神の波長を視覚化でき、志貴は原作の一部のルートでは異質な力の波長を視覚化していた。

後半のチャンネルが戻らなくなる設定はメデューサの設定を一部借りた。

 

 

『仙術格闘術』

仙術の基礎の一つであるオーラを用いた格闘術。

基本、白野は自分のオーラを操作する事はできるが自然界のオーラを操作するだけの才能は無い。

黒歌もそれに気付いているので基本的に自分のオーラを用いた基礎のみを叩き込んでいる。

 

 

 

【白野の保有武器&道具】

 

『光の剣・退魔銃』

元々はフリードの所有物だった悪魔祓いの基本装備。光の剣は光力を刀身とし、退魔銃は光力の弾丸を放つ。

フリードの行いを見る限り、普通に銃としても使えるみたいだが白野は使うつもりは無い。

 

豊穣神の器(ダグダ・グラダリス)

白野がずっと神器と勘違いしていたダーナ神族の宝具であるダグザの大釜。

能力は『吸収したエネルギーを生命エネルギーに変換し、食べ物・飲み物へと再構築して与える』という神話通りの能力。

道具として使う場合、大きな大釜が現れ、そこにエネルギーを送れば食べ物はお粥、飲み物は水限定で注いだエネルギー分湧き出てくる。

 

戦神の義手(ヌアザ・アガートラーム)

白野の欠点を補う為にシンプルに強度を優先して作られた銀の義手。

大抵の攻撃には耐えられる作りになっており、更にオーラを蓄える機能を持ち、修復機能も備わっている。他には生活しやすいように外見を普通の腕に見せる術式も刻まれている。

 

真聖剣(エクスカリバー)(未完成)』

白野が貰い受けた本物のエクスカリバー。

使われているのが聖剣の欠片のみなので以前よりも頑丈になったがその分短くなった。グラディウスのような形状をしている。

しかし片手を防御に回す白野にとってはこちらの方が使い易くて気に入っている。

六つの能力を持ち、白野の強さと適応具合で同時に使える能力の数が増える。現在は二種類が限界。

 

《破壊》

破壊とあるが効果自体は『威力上昇』能力である。

 

《加速》

文字通り『速度上昇』の能力。加速限界は肉体依存(現状で肉体が耐えられる限界速度)

投擲物を加速させる事も可能。ただし白野本人が投擲する必要がある上に狙いの調整が難しい。

 

《擬態》

自分自身、または触れている対象(無機物有機物問わず)の姿形を望んだ通りに変化させる能力。

変わるのは外見だけで中身は変わらない。その為声を出せばバレる。

 

《透過》

自分自身、または触れている対象(無機有機物問わず)の姿を透明にする能力。

実体が無くなったわけではないので音でバレる可能性がある。

更に仙術格闘術と同じで透し技が使えるようになる。

 

《夢幻》

対象に幻覚を見せたり、対象の夢を覗いたり見せたい夢を見せる能力。

 

《祝福》

自身、または自身が認めた対象に聖属性の加護を与える。

原作で能力を明確かされてなかったと思うので独自解釈した能力。

イメージとしては白野や周りの人に『聖・光属性』『耐魔・耐闇属性』を付加させる力と言った感じ。

元々聖・光属性の人は威力が向上し、魔・闇の弱点によるダメージを軽減させる。

逆に魔・闇属性の人は弱点の聖・光のダメージを軽減できる。と言った感じ。

 

『魔眼封じの眼鏡』

ギャスパーの為に用意して貰ったが効果が無く、その後白野が貰い受けたもの(ちゃっかりと情報収得済み)

自身の魔眼の効果を封じ、また対称からの魔眼の効果を遮断する。ただし遮断できるのは眼鏡に施された耐性以下の物のみ。

イメージはFateのメデューサや志貴の魔眼殺し。

 

 

【キャラ解説】(※メインどころのみ)

 

『月野白野』

生前は岸波白野。

根本的な性格自体は変わっていないが、少し大人びている。

まじこい世界で武術や武器、呪術関連の知識を色々収得済み。

『ハイスクールの世界』では『異種族の中で人間として戦う白野』がメインのストーリー。(あと早期にハーレムが形成される)

そしてこの世界での巻き込まれ率はかなり高い。

作者が深く調べずにコードキャスト持たせたせいで地味に初期からチート化。

今回の物質化制御の覚醒で能力だけなら完全にチート枠の仲間入りを果たす。やっちまったぜ(どうしよう…)

 

『黒歌』

原作ではどちらかと言えば自分勝手でわがままなキャラ。

しかしこちらでは本来ならテロリストである禍の団に入っているはずが白野が助け、数年間共に過ごす内に性格が丸くなった。

魔術や仙術の白野の師匠ポジションであり、実は白野が一番信頼している相方。

御主人様である白野第一な考えであり、白野に害をなす相手には容赦しない。

結構な構われたがりなので、猫モードでつねに白野の近くに居る。

 

『レイナーレ』

原作では一巻で殺される傲慢で自尊心の強いボスキャラ。

しかしこちらではただの甘い物好きのドジっ子堕天使。

白野に救われたあとのポジションで言えば彼の使い魔的立ち位置になる。

恋愛脳な為、ときめいたらすぐに相手を変えちゃうタイプだが、白野がハーレム入りさせたので今度は良妻願望が働き始めている。

仕事はデザート専門店の喫茶店で働いている。仕事帰りにお店のデザートを割引で買える事、休憩中にまかないとしてお店のデザートを一つ食べて良いと言う理由で決めた。従業員仲間との仲は良好である。

 

『兵藤一誠』

原作とそれほど変わっていないが、一誠のデートプランがそこそこ気に入ったレイナーレが原作ほど彼を辛辣な振り方をせず、さらにアーシア事件でもレイナーレは殆ど関わらなかったどころかアーシアの命の恩人の一人の為に、原作のように恋愛トラウマにはなっていない。

その為、結構アーシアやリアスと家でイチャイチャはしている。しかし一線はまだ越えていない。

 

『ドライグ』

原作と性格はほとんど一緒。ただしこちらの世界では既にライバルが霊界に旅立ってしまったが為に今後一誠のエロネタの被害を一手に引き受け、それを分かち合う相手すら居ないという悲惨な未来が確定してしまった。彼にはぜひとも強く生きて貰いたい。

 

『木場祐斗』

原作とそれほど変わっていない。

白野の親友ポジション。最初は匙がそのポジションだったが、変更された。

原作よりはじゃっかん明るめ。

 

『リアス・グレモリー』

グレモリー眷属では原作からだいぶ変わった人。

原作ではダメダメな主っぷりをはっきしていたが、この作品ではライザーの一件で一喝された結果、ある程度ましになっている。

原作で一誠のトラウマに一番苦しんでいたが、こっちではそれはないのでいつもラブラブである。

 

『姫島朱乃』

原作よりも病みが深くなってしまった怖い子。

依存先が白野に変更された為、リアスへの構いたがりがかなり減った。それもまたリアスの自立に繋がっている。

精神的に脆い部分はかわらないので、白野に何かあると激昂するか激しく落ち込む。

セクハラはもはや趣味なので継続されている。

 

『アーシア・アルジェント』

主人公との関わりが少ないせいで登場頻度が原作と逆転してしまっている可哀想な子。

性格や立場は原作と変わらない。

ただ、こっちは色々原作より学んでいるので若干戦力面では原作よりも強いとは思う。

 

『塔城小猫』

性格的には原作とそれ程変わっていない。

ただ過去の捉え方の違いと、姉である黒歌との早期の邂逅によって戦闘力はだいぶ上がっている。

白野に対しては姉を任せられる頼り甲斐のある人と言う認識なので不満は無い。

一誠夫婦に実の娘のように可愛がられている。そんな夫婦と恥かしいさと嬉しさを感じつつ過ごしているので、同居のバカップル達を他所に本人も楽しく暮らしている。

 

『ソーナ・シトリー』

原作とほとんど変わらない。

律儀で他人思いな為、人間の白野の介入には思うところがあると同時に、色々助けて貰っていることに感謝もしている。

なんだかんだで苦労人ポジションなせいか白野とは仲がいい。

たまに白野に生徒会の仕事を手伝って貰っている。

 

『匙元士郎』

原作とほとんど変わらない。

一年の頃は白野と同じクラスだったが、クラスメイトとして仲が良いだけだった。

現在は白野について色々教えて貰い、一緒に行動することも増えた為、仲の良い友人として付き合っている。

たまに白野に生徒会の仕事を手伝って貰っている。

 

『ゼノヴィア・クァルタ』

性格的には原作と変更は無い。

聖剣使いとして今後も出るが出番は原作よりも少ない。

この作品においては将来的にはイリナと同じく天使に転生する。

 

『紫藤イリナ』

性格的には原作との変更は無い。

描写してないけど実は既に原作で所持する聖剣『オートクレール』所持している。

原作同様に出番が少ない可能性は高い。

 

『アザゼル』

原作よりも面倒見が良くなっています。

強キャラ、権力持ち、面白い事好き、面倒見が良いと、作者的のご都合主義に合わせて色々出来るキャラなのでとても動かしやすい人物。先生なので出番は多い筈。

 

 

以上であとがき回を終了します。

 

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 




お疲れ様でした。読んでくれてありがとうございます。



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