HIGH SCHOOL D×D ―――(再)――― (ダーク・シリウス)
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修行編
エピソード1


『何故お前はそんなにも弱い、お前より年下の子に負けるとは情けない!』

 

『この家の恥晒しが、どうしてお前はそんなに弱いのだ。我が―――のでお前が一番弱い』

 

『無能が・・・・・』

 

『それではあのお方の力にすらなれぬ。せいぜい他の者たちの練習台ぐらいにしかなれぬだろう』

 

 

 

『見て、可哀想に・・・・・顔どころか体中痣だらけよ』

 

『あの子だけですって、子供の中で一番弱い子って。息子から良く聞くわ。無能がいるって』

 

『あらま、そうなのぉ?』

 

『この家に生まれた者として情けないわね』

 

 

 

 

『なぁ!また俺達の練習台になれよ!』

 

『それしか役に立たないって師範代も言っていたから良いよな?』

 

『俺、関節技を試してみたい!』

 

『んじゃ、俺は最近学んだ剣術な!』

 

 

 

『おい、この無能な弟。俺の目に映る所にいるんじゃねぇよ』

 

『・・・・・兄ちゃん』

 

『誰が兄ちゃんだゴラッ!お前みたいな力のない弱い兄弟なんて必要ないんだよ!お前は俺の弟じゃねぇっ!』

 

『・・・・・っ』

 

『さっさと俺の目の前から失せろ!お前みたいな弱い弟を持つと俺の評判が悪くなるんだよっ!たくっ、どうして俺の身内にこんな弱い奴が・・・・・父さんと母さん、何でこいつまで産んだんだよ。俺だけで充分だろって産んでいいのはさ』

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

山の深奥にある滝が怒濤に溜まっている水へ流れ落ちる。その様子を体中傷だらけで

瞳に生気が宿っていない

子供が無表情で眺めていた後に大きな木へ対峙して、無言の正拳突きを何度も何度もした。

皮膚が破れ、血が流れ、木の表面に赤く染まろうとも子供は拳を繰り出す。

 

「・・・・・同じ人間なのに」

 

ドッ・・・ドッ・・・ドッ・・・。

 

「・・・・・才能、身体能力・・・・・」

 

ドッ・・・ドッ・・・ドッ・・・。

 

「僕に何が足りないと言うんだ・・・・・」

 

しばらくして木に殴ることを止めた。腹の虫が鳴りだし、子供は辺りを見渡す。

 

「・・・・・」

 

滝の流れている場所に木の実があることを分かり、険しい崖と成っている場所に近づき

見上げる。高さは数メートル。足場となる場所はあまりないがそれでも子供は木の実を

採ろうとしてよじ登り始めた。しかし、腕や腹に力が入らず背中から落ちて強打する。

 

「・・・・・」

 

身体を起こしてそのまま丸める。もう何もかも絶望したとそんな態度や雰囲気をする子供は

どこまでも暗い顔で埋めていると、茂みがガサガサと動き出した。

子供は無反応でいるが茂みからひょこっと二つの幼い子供の顔が出てきた。

 

「・・・・・やっぱり、ここにいた」

 

「探しましたよ」

 

二人の女の子。茂みから出ると両手に抱えている飲み物とたくさんの果物を子供の前に置いた。

 

「はい、一緒に食べよう?」

 

「お昼、まだですよね?」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

子供にとって心の拠り所である二人の女の子の気使いに感謝を籠めて

 

「・・・・・ありがとう」

 

「「どう致しまして」」

 

そう発した。三人は寄り添うように果物を食べ、時折喋ったりして時が過ぎていくのを

感じていると第三者が現れた。

 

「悠璃さま、楼羅さま」

 

「そろそろお戻りの時間です」

 

「源氏さまもご心配しておりますぞ」

 

「「・・・・・分かりました」」

 

迎えが来た。残念そうに女の子達は子供に一瞥して去って行った。

そして残った子供は・・・・・。

 

ドガッ!バキッ!ドスッ!

 

二人の大人によって理不尽な暴力に遭う。

 

「―――お前たち、この子に何をしている」

 

「「っ!?」」

 

「お前たちにこの子がなにをしたというのですか?無力な子供に大人のあなたたちを」

 

鋭利な刃物を暴力を振るっている大人の首元に、突き付ける銀髪のメイド服を身に包む

女性が絶対零度の双眸で睨んでいた。

 

「貴様・・・・・っ」

 

「証拠も私の手元にあります。源氏さまにご報告を致しましょうか?そうすれば如何に

あなたたちとは言え処罰が下されますでしょう」

 

「くっ・・・・・!」

 

「早々に立ち去ってください」

 

メイドの冷たい言葉に二人の大人は首元から離れた刃物を見てすぐさま

この場から逃げるようにしていなくなる。

そして、子供とメイドだけが残りメイドは子供を抱きしめた。

 

「一誠さま・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「また、なのですね・・・・・」

 

子供の身に起きている事実を察し、悲痛な面持ちで強く、それでいて優しく抱き締める。

この場所は子供にとっては地獄そのもの。唯一の救いは接してくれる者がいること。

 

「・・・・・帰りましょう」

 

「・・・・・いやだ」

 

「一誠さま・・・・・」

 

「家に帰たって、僕の居場所はここと同じでないよ」

 

「居場所は有ります。あなたの優しいお父さまとお母さまがいるではありませんか」

 

「・・・・・仕事で殆どいない。兄ちゃんに酷いことをされるだけの家なんて

帰ってもこことは変わらないよ」

 

「・・・・・っ」

 

子供の指摘にメイドは歯を食いしばり、子供の心と精神が崩れかかっている事実に心底

悔いを抱いていた。

 

「・・・・・リーラさん、兄ちゃんと一緒に寝ていることが多いよね」

 

「それは・・・・・」

 

「いいよ、僕のことは気にしないで兄ちゃんと一緒に寝て?僕はこの森で寝ているからさ」

 

「一誠さま・・・・・っ!?」

 

メイドの腕の中から抜け出して子供はさらに森の奥へと消えてしまった。

追いかけようにも子供の兄を待たせている。

どっちを優先すべきかとメイドは葛藤し―――踵返したのだった。

 

 

 

 

『・・・・・辛い思いをさせているな』

 

「いえ・・・・・大丈夫です」

 

『・・・・・ごめんなさい、直ぐに仕事を終わらせて家に戻るわ。

その時は・・・・・』

 

「はい、解っております。誠さま、一香さま」

 

通信状態の携帯を切り、車に乗り出すメイド。

 

「お父さんとお母さん何だって?」

 

「はい、今日も仕事で遅くなるようです」

 

「ふーん。じゃあ、俺とリーラさんしかいないんだね」

 

後部座席に踏ん反り返って座っている男がメイドにそう言うが、違うとメイドは言い返す。

 

「一誠さまも後に帰りますよ」

 

「いいよあんな奴。俺の弟じゃないから家に入れなくても」

 

「そんなこと申してはいけません。あの方も貴方様の御家族なんですよ」

 

「俺に弱い家族なんていらない。それよりもさリーラさん、今夜も一緒に寝ていい?」

 

後ろから身を乗り出してメイドの頬に手を触れた。

 

「俺、夜一人で寝るの怖いんだよ。ね、いいでしょう?」

 

その手はそのまま首筋をなぞるように動き、鎖骨に触れそうになると。

 

「いけません」

 

軽くあしらい、アクセルを踏んで車を前進させる。

 

「誠輝さまはもう暗闇を怖がるような歳でも精神でもございません。

そろそろ一人で寝るようにならなければ立派な男性になれませんよ」

 

「・・・・・チェッ、いいじゃん。俺とリーラさんは恋人じゃんか」

 

「私は誠輝さまと一誠さまのお世話をする一介のメイドです」

 

「そのメイドさんがあの弱い弟を置き去りにして俺だけ家に送っているのに?」

 

子供の言葉にメイドは無表情を貫く。心の中は穏やかではないが

それを悟らせるわけにはいかないと隠して運転に集中する。

 

「ねぇ、俺とアイツどっちが好き?」

 

「ノーコメントでございます」

 

「俺のこと好きでいてくれたらリーラさんを幸せにするのに。ね、俺のこと好きになってよ」

 

「男を磨いて出直してください自惚れ野郎」

 

「・・・・・たまに毒舌だよねリーラさんって」

 

「なんのことでしょうか」

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「・・・・・」

 

陽は完全に落ちて一人暗闇の森の中で寝転がっている子供は身体を丸めて意識が落ちる

その時まで待っていた。そんな子供に話しかける人物など―――。

 

『相も変わらず、人間のすることは反吐が出るとは思わないか?』

 

存在した。子供の頭の中に直接話しかける何者かがいた。

 

『俺のこと気付いているだろう。いい加減に返事をしたらどうだ』

 

催促する者。子供はこの声が止まない限り眠れないことを溜息を吐き、

 

―――今日も話しかけてくるお前は誰なの?

 

と、返した。

 

『ようやく返してくれたか。お前の答えに応えれば俺はお前の中に宿るドラゴンだ』

 

―――ドラゴン、

 

『驚かないのだな?』

 

―――見たことあるから対して驚かない。

 

『愚問な質問だったな』

 

喉の奥で笑う者は何故か嬉しさが言葉に籠っていた。

 

『お前には力がある。知りたくないか?』

 

―――うん。

 

『素直な人間だな。それはこの私ドラゴンの力だ』

 

―――・・・・・。

 

『無反応だな』

 

―――力あっても使い方が分からないんじゃ意味ないよ。それに僕は僕自身の身体で

  勝たないと意味がない。

 

『ふむ・・・・・今まで見てきたが確かに武術が主な訓練をしているな。

だがそれだけで強くなれるとは限らん』

 

―――何が言いたいの。

 

『見返したいとは思わんか?』

 

と問う者の言葉に子供は沈黙した。

 

『私なら、お前の力ならそれが可能だ。お前の中に宿るだけではつまらん。

俺の力を振るってみたいとは思わないか?』

 

―――それ以前にどうやって振るえば良いんだよ。

 

『お前の心次第だ。感情がそれを左右する』

 

―――僕の心次第、か。

 

『何時か振るえる時が必ず来る。その時まで強くあれ』

 

それが最後に子供を話しかける声は止んだ。これでようやく寝れるかと

思いきや・・・・・。

 

「・・・・・」

 

厳格な中年の男性が音も無く気の枝の上に現れた。

しばらくその目は下にいる子供に見降ろすとザッと地面に降り立った。

 

「子供がこんなところで寝るなぞ十年早い。寝るなら自分の家で寝ろ」

 

「・・・・・誰」

 

「誰でもいいだろう。自分の足で戻れるな?」

 

「・・・・・家に帰りたくない」

 

「・・・・・」

 

「家に帰っても僕の居場所はない。・・・・・この森だけ僕の居場所なんだ」

 

子供は頑になってこの場から動こうとしない。厳格な中年男性はそんな子供に腕を

伸ばそうとした時だった、この場に幾何学的な魔方陣が出現して

美しい亜麻色の髪をウェーブに伸ばす女性が光と共に現れた。

 

「・・・・・何をしに来た」

 

「息子を、迎えに来ました」

 

「お前たちがなにをしているが知らんが、少々自分の息子達をあのメイドに

任せ過ぎではないかと思うか」

 

「・・・・・返す言葉もありません」

 

「もうお前のこの子供は深く心に傷を作り過ぎている。ちょっとやそっとでは治らん」

 

女性は目を閉じ、子供の傍によって抱き抱えた。

 

「お前の長男だけここに連れてくるがいい。もうその子供は連れてくるな。地獄を見るだけだ」

 

「・・・・・この子は会いたがっている」

 

「・・・・・月に二度ぐらいはお前達がいる家に送ってやる。羅輝がな」

 

「ありがとうございます・・・・・」

 

中年男性は踵を返す。

 

「去れ、ここは兵藤家の領土。理由もなく式森家に追放された者ですら

入ってはならぬ場所だ。俺が見ていない間に行け」

 

「・・・・・はい」

 

女性は子供を抱きかかえたまま出現する魔方陣の光と共に姿を消した。

 

「・・・・・弱さは罪である。強い者は正義。この意味を最近の者共は気付かぬようだな」

 

静かに、深い溜息を吐く中年男性もあっという間に姿を消したのだった。

 

 

 

 

「連れてきたか」

 

「ええ・・・・・もうこんなにボロボロになるまで・・・・・」

 

「すまない、すまない一誠っ・・・・・」

 

「どうしてこの子だけこんな酷い目にっ・・・・・」

 

「明日はこの子を―――が会いに来る」

 

「その時も私達は傍にいないわね・・・・・」

 

「誠輝もなぜ自分の弟をここまで否定的になるんだ。そんな育て方をしていなかったはずだ」

 

「私達があまりにもこの子達から離れて過ぎたからせいだわ」

 

「だよなぁ・・・・・リーラには本当苦労を掛ける・・・・・」

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「ん・・・・・」

 

 

朝日の日差しが子供の目を照らし、眠りから覚まさせた。そして体を起こすと

負っていた傷が綺麗に一つも残さず治っていた。辺りを見渡せば見慣れた子供の自室。

質素であまり子供らしい部屋とは思えないほど必要な家具しかなかった。

娯楽な物は一つもない。部屋から出て一階のリビングキッチンに足を運ぶと、

 

「おはようございます」

 

安心させる笑みを浮かべるメイドが子供を出迎えた。子供は辺りを見渡し十一時の時計を見たら、

 

「兄ちゃんは?」

 

「学校のご友人と遊びに行かれました」

 

「・・・・・」

 

メイドの言葉に子供は何も言わず椅子に座ると湯気が立つ料理が目の前にあった。

すると、メイドは子供にあることを告げた。

 

「一誠さま、12時には一誠さまをお会いにいらっしゃるお客様がいます。

食べ終えたら支度をしてください」

 

「今日は誰?」

 

「オー爺ちゃんですよ」

 

「っ!」

 

一誠と言う子供が目を輝かせて笑みを浮かべた。メイドが知る一誠の笑みを浮かべる

瞬間は来客が来る時、数少ない友達と遊ぶ時だけ。久し振りに見る一誠の笑みにメイド、

リーラは嬉しく微笑む。

 

「じゃあ、早く食べなきゃ。いただきますっ」

 

「はい、ゆっくり食べてくださいね?」

 

「はーいっ」

 

 

―――一時間後―――

 

 

「ふぉっほっほっ、孫よ。オー爺ちゃんが遊びに来たぞ―い」

 

「わーい!オー爺ちゃんだぁ!」

 

「お久しぶりでございますオーディンさま」

 

「うむうむ、お主も相変わらず綺麗じゃのぉ。どうじゃ、ワシのヴァルキリーにならんかの?」

 

「私は生涯、メイドとしているつもりでございます」

 

古ぼけた帽子を被った隻眼の老人。白いヒゲを生やしており、床につきそうなぐらい長い。

服装も豪華絢爛というよりは質素なローブ。杖をしているが、一誠の両脇に手を差し込んで

持ち上げるほどなので腰を痛めているわけではない。

 

「今日はお連れの方を連れていないのですか?」

 

「まいてやったのじゃ」

 

親指を立ててお茶目にウィンクを舌を出すオーディンに深い溜息を吐いたリーラであった。

 

「貴方というお人は・・・・・帰ったら叱られますよ?何の為のヴァルキリーですかって」

 

「今時ワシを狙う輩なぞおらんじゃろうて」

 

「オー爺ちゃんを狙う人は僕が倒してやる!」

 

「嬉しいのう嬉しいのう。じゃが、もう少し成長して強くなったら改めて

ワシを守って欲しいのじゃ」

 

「分かった。絶対に強くなる」

 

一誠の純粋な気持ちをリーラとオーディンは微笑ましく笑う。

 

「ところでリーラよ。今日はワシだけかの?」

 

「予定ではそのはずですがなにか?」

 

「ふむ、あいつらのことじゃ。ワシのようにお忍びで来ておると思ったがまあいい」

 

オーディンはリーラを見詰める。

 

「誠と一香は?」

 

「はい、今日もです」

 

「ふむ・・・・・他の神話体系から依頼される仕事が長引いておるのかの」

 

「オーディンさまもご依頼なされたことがありますよね」

 

「勿論じゃ。あの二人だけじゃからのぉ、この世界に存在する神々と交流を持っとる者は。

じゃからパイプ役にも適しておる」

 

「色んな神様がいて面白いね!またイノシシの上に乗りたい!」

 

「フレイヤも孫と会いたがっておる。―――将来が楽しみじゃと言うほどにの」

 

意味深なオーディンの言葉に「?」と疑問符を浮かべる一誠に、リーラは静かに息を吐いた。

 

「そういえば、リーラよ。ほれ、ワシからのお土産じゃ」

 

ローブから大きな槍が出てきた。それを見てリーラは目を丸くした。

 

「オーディンさま、それはまさか・・・・・」

 

「レプリカじゃよ。本物ではないが威力はオリジナルと遜色ない」

 

「ですが、まさかと思いますがそれは・・・・・」

 

「いや、リーラに託そうと思っておる。いずれ必要な時が来るはずじゃ」

 

オーディンから槍を受け取ったリーラ。槍は光に包まれ小さくなっていき、

やがてキーホルダーみたいな大きさになった。

 

「・・・・・ありがとうございます」

 

「なに、お主らには楽しい思いをさせてもらっておるからの」

 

一誠の頭を撫でて微笑むオーディン。何の事だかわからないが、

取り敢えずオーディンが撫でる手の平を堪能している一誠が扉の方に向いた。

 

「どうしました?」

 

「なんか、来る」

 

「ほう・・・・・孫が気付くとはの」

 

何かを察した一誠に安心したオーディンも扉に振り向いた瞬間に

 

ドドドドドドドッ!

 

地震が発生したかのような地鳴りが轟き、どんどん音が近づいてくる。

 

『坊主ぅぅぅ!遊びに来たぞぉおおおおおおおっ!』

 

『デハハハハ!』

 

『ガハハハハ!』

 

『一誠ちゃぁんっ!』

 

野太い声と笑い声と共に。

 

「・・・・・あの方たちはまったく・・・・・」

 

額に手を当てて呻くリーラに、

 

「やはり来おったのぉ」

 

白いヒゲを触りながら予想していたとばかり漏らすオーディン、

 

「今の声、神王のおじさんと魔王のおじさん、海と空の神さまの声だよね?」

 

目をキラキラと輝かす一誠。その日、来訪して来たオーディンたちが帰るまで

家は騒々しかったのは別の話。

 

 

―――☆☆☆―――

 

その日の夜。インターホンが鳴りだした。いち早く一誠が玄関に向かって扉を開け放った。

扉の向こうはすっかり暗く、玄関の明かりだけが来訪者の姿を照らす。

 

「よぉー、一誠ただいま」

 

「帰ったわよー」

 

「父さんと母さん!」

 

「と、この子たちもだぞ」

 

二人の若い男性と女性が笑みを浮かべながら家の中に入る。兵藤誠、兵藤一香。

一誠と誠輝の両親で世界中を飛び回る仕事をしているとしか一誠は知らない。

誠は誰かを通すように道を開け招いた。

 

「あっ!」

 

「こんばんわ、一誠くん!」

 

「こんばんわ、今日も泊まりに来た」

 

活発そうな茶髪の子供とダークカラーが強い銀髪の子供が一誠の目の前に現れながら挨拶をした。

 

「イリナとヴァーリじゃないか!でも、電話してこなかったね?」

 

「あれ、知らない?リーラさんに伝えたんだけど」

 

「僕、聞いてないんだけど」

 

「んじゃ、リーラが一誠を驚かそうと思って内緒にしていたんだろう。今日の夕飯は何だ?」

 

「カレー!」

 

「これはもう確定ね。大勢で食べれる夕飯にしたんだから」

 

一誠の両親と友達が揃ってリビングキッチンに足を運んだ。イリナとヴァーリという

子供の手には鞄が持っていて泊まりに来ると言うのは本当らしく一誠に話しかけた。

 

「今日も一誠くんと一緒に寝るね」

 

「よろしく」

 

「いいよー。また三人で寝ようね」

 

五人がリビングキッチンに入った時、大きなテーブルに複数の皿に盛られたカレーが

用意されていて、リーラが入って来たと同時にお辞儀をした。テレビの前に設置された

ソファには誠輝が笑いながら座っていた。

 

「お帰りなさいませ。そしてイリナさま、ヴァーリさまようこそ」

 

「「ただいま」」

 

「「お邪魔します」」

 

軽く挨拶を終えて、互いが向かい合うように座りだす。後に誠輝もテレビから離れ座る。

 

「父さんと母さん、仕事はもういいの?」

 

「お前らに会いたくて父さん達は早く終わらせてきたんだ」

 

「今回の仕事はちょっと大変だったけど楽しかったわね。

あなたも仕事先でまた喧嘩するんですもの」

 

「向こうから吹っかけてきたんだぞ?俺が喧嘩っ早いんじゃないからな?」

 

「それで父さんは勝ったの?」

 

「勿論だ」

 

友人を交えて家族団欒の食事。放送される面白い番組より、一誠と誠輝は誠と一香の

仕事の話を聞いた方が面白いと食べながら尋ねる。

 

「リーラさんの料理、わた―――僕のお母さんより美味しいっ」

 

「イリナさまのお母さまの手料理も美味しいですよ」

 

「・・・・・でも、美味しい」

 

太鼓判を打つイリナとヴァーリに一誠も肯定と頷いた。

 

「僕もリーラさんから料理の作り方を学んでるけど、まだまだ勝てないや」

 

一香は急に顔を曇らす。

 

「一誠、あの腕で勝てないなんて言わないでちょうだい。

お母さん、一誠の料理にプライドがもう粉々なのよ・・・・・」

 

「はははっ、一誠の料理もお母さんに劣らず美味しいもんな」

 

「うん、目標はお母さんを超えることだもん。その後はリーラさんだ」

 

「―――リーラ、一誠に料理を作らせないでちょうだい。お願いだから」

 

「一香さま・・・・・」

 

懇願する一香を思わず苦笑いを浮かべるリーラだった。

しばらくしてカレーを完食したイリナが羨望の眼差しを一誠に送った。

 

「将来、一誠くんのお嫁さんになる人はいいなー」

 

「あら、どうして?」

 

「だって美味しいんでしょ?だったら毎日美味しいご飯が食べれるし幸せだよ」

 

「ふふっ、だったらキミがイッセーとずっと傍にいたらそれが毎日できるじゃないか?」

 

「ふぇっ!?」

 

「勿論、ヴァーリもだよ?」

 

「・・・・・」

 

笑みを浮かべたまま意味深に言う誠の言葉に顔を赤く染めた。

「そうなの?」と一誠は小首を傾げ、イリナとヴァーリを交互に見詰める。

そんな時、誠が一誠に話しかける。

 

「一誠、もっと成長して大人になったら二人に毎日美味しい料理を作ってやりなさい」

 

「ん?別にいいけど」

 

アッサリと答えたらイリナとヴァーリはもっと赤くなった。

 

「あらあらあなた。何も分からない一誠に誘導はいけないわよ?

それは一誠たちの問題なんだから」

 

「おっと、俺は別にそんなつもりで言ったわけじゃないぜ?なぁ、誠輝」

 

「・・・・・俺知らない」

 

フンとつまらなさそうにそっぽ向いた誠輝。それには苦笑いを浮かべた誠は何か

思い出した仕草をして一誠と誠輝を交互に見て言った。

 

「仕事先で貰ったり、買ってきた土産があるんだ。後で二人に渡そう」

 

「本当!?」

 

直ぐに誠輝が反応した。お土産だやった!と大はしゃぎする誠輝と対して

一誠は笑みを浮かべ感謝の言葉を発する。

 

「イッセーくん、後で見せてね?」

 

「うん、いいよ」

 

「一誠のお父さんたちのお土産は面白い物ばかりだからね。今度はどんなお土産だろう?」

 

「箱を開けたらグローブが飛び出すビックリ箱はもう勘弁だよ・・・・・」

 

「それが面白くて良いじゃない」

 

和気藹々と話し合う余所に、

 

「リーラ、今夜は寝かせないわよ?」

 

「久々に大人三人で話し合おうか」

 

「お手柔らかに」

 

「なになに?俺も一緒に話を聞きたいよ」

 

「良い子は寝なきゃだめだぞ誠輝。大人の時間に子供が参加するのは十年早い」

 

「俺は子供じゃない!もう立派な大人だ!なんたって纏めて五人を倒す程だからね!」

 

「おー、そうかそうか。因みにお父さんはたったの一撃で山を壊す程だが?」

 

「・・・・・マジで?」

 

誠達も賑やかに喋っていたのだった。

 

 

~~~しばらくして~~~

 

 

「お父さんとお母さん、本当にどんな仕事をしたらこんな珍しいのを貰ってくるんだろう?」

 

「これ、異国の玩具よね?」

 

「お菓子もある。美味しそう」

 

「夜はお菓子食べちゃいけないって言われているから明日の朝に食べよう」

 

一誠の寝室に集って誠と一香から貰ったお土産を広げて好奇心に一つ一つ触れていく。

 

「この箱・・・・・まさかだよね?」

 

「一誠くん。もう大丈夫よきっと」

 

「今まで見てきた箱より何だか古いけど中身は何だろうな?」

 

六つの目、三人の視線を集中させる一つの箱。一誠にとっては最大に警戒するべき箱。

 

「絶対にビックリ箱」

 

「もう、一誠くんは警戒し過ぎだよ」

 

「・・・・・開けてみようか?」

 

買って出たヴァーリ。その申し出に助かると思うも、

なんだか情けなく思い始めヴァーリの提案を断わった。

 

「僕が開ける」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

「イリナ、楽しんでいない?」

 

「なんのことかしら?」

 

イリナとヴァーリが見守る中で箱の蓋に触れた。

ゴクリと緊張の面持ちでゆっくりと箱を開けた―――。

 

バッ!

 

開けた瞬間、一誠は壁際にまで下がった。次に起こるでろうビックリに備えるためにだ。

が、何時まで経っても何も起きらない。離れた一誠の代わりにイリナとヴァーリが

箱の中身を覗きこんだ。

 

「ビックリ箱じゃないみたいだね」

 

「なんか入っているけどね」

 

「・・・・・なにそれ?」

 

「これよ」

 

ヒョイっと箱から取り出したイリナの手には大きな紫の玉だった。

次の瞬間、扉が開け放たれる。

 

「おい、そっちのお土産はなんだったんだ?」

 

誠輝が我が物顔で入り込んで一誠の部屋に広がったお土産を品定めする目つきで見渡す。

 

「へぇ、俺のお土産と違ってこっちは別なんだな」

 

「・・・・・兄ちゃんのはなんだったのさ」

 

「へっ、お前と違って俺は良いお土産ばっかりだぜ。羨ましいだろう?」

 

「・・・・・実際に見てないから羨ましくないよ」

 

ガサガサと広げたお土産を袋に入れ始める。その様子を最後まで見た誠輝が取った行動は。

 

「おい、交換しようぜ」

 

「・・・・・交換ってなんだよ急に」

 

「いらないお土産があってよ。この格好良くて優しい俺が弱虫のお前にそう言ってんだ。

ありがたく思え」

 

ポイと一誠達の目の前で放り投げた。それは黄色の玉だった。

 

「なんかの宝石かと思ったんだけどよ。それ、ただの石なんだぜ?父さんたち、

こんなのまでお土産にするなんて俺たちを驚かそうとしたんだろうな。

だけど俺はそんな驚かし方には通用しないからいらないんだ」

 

誠輝は一誠のお土産が詰まった袋を強引に一誠から奪った。

当然のようにこれと交換だとばかり笑みを浮かべ、

 

「ちょっと!一誠くんのお土産なんだよ!それを奪っちゃダメ!」

 

「交換だって言っただろうが。文句あるかよ」

 

「大有りよ!この玉一つで一誠くんのお土産の殆どと交換なんて割り合わないじゃない!」

 

「弱者は強者に負ける。弱者の持っている全てのものは強者の物。

だからその弱い奴の物は全部俺の物なんだ。分かったか」

 

捨て台詞に等しい言葉を言い放ち、袋を肩に担いで部屋から出ようとする誠輝の背に

ヴァーリは立ち上がって言い放った。

 

「・・・・・キミは嫌な奴だね」

 

「んだと?」

 

眉根を寄せ、苛立ちを覚えた誠輝はヴァーリに振り返り、

ヴァーリは睨まれても尚言い続ける。

 

「強いからって何でも許されるなんて思ったら大間違いだよ。

それだったらキミのお父さんだって強いからキミから何でも奪っていいことになるじゃないか。

違うかい?」

 

「・・・・・」

 

「何も答えれないなら、その通りなんだと言うことだ。

何も言い返さず、自分が一番偉いなんて思っているキミみたいな男、一番嫌いだ」

 

次の瞬間。誠輝の拳がヴァーリの顔面に突き刺さった―――と思ったが、

 

「・・・・・っ」

 

間一髪、一誠がヴァーリを庇い、誠輝の拳を額で受け止めた。

頭とを通り越して脳に衝撃が伝わって意識を失いそうになる。

しかし、一誠は必死に堪え逆に額を誠輝の拳を押し付ける。

 

「どけよ」

 

「僕の友達に手を出すなっ・・・・・」

 

「―――はっ、弱い者同士が庇い合ってみっともないったらありゃしねぇな!」

 

思いっきり一誠の腹に拳を突き刺し、

 

「所詮弱者ができることといえば誰かと身代わりになるだけだよな!」

 

顔を殴り、殴られて床に倒れ込む一誠。

 

「二度と俺に逆らうんじゃねぇよ雑魚。お前は俺の命令を従うだけの弱い奴なんだからな」

 

嘲笑する誠輝は袋を掴んで笑いながら出て行った。その後、イリナとヴァーリは一誠に寄った。

 

「い、一誠くん!」

 

「・・・・・大丈夫だよ」

 

「どうして・・・・・どうしてあんなことをしたんだ・・・・・!」

 

二人に身体を起こされつつ一誠はヴァーリを見詰める。

 

「目の前で殴られる友達を何もしないなんてできない。僕のせいで友達が殴られる

ぐらいなら僕が殴られた方がいい」

 

「そこまで・・・・・そこまでしなくていいんだよっ。

もっと自分を大切にして欲しい・・・・・!」

 

「殴られるの、慣れているんだ。だから痛くも痒くも・・・・・」

 

「ていっ」

 

ズビシッ!

 

「っ!?」

 

イリナが一誠の頭を手刀で叩き込んだ。

いきなり叩かれ、叩かれた頭を押さえながら困惑した表情をイリナに向ける。

 

「な、何を・・・・・」

 

「一誠くん。そんなこと言わないの」

 

「え・・・・・?」

 

「ほら、もう寝ましょうよ。九時過ぎちゃってるし」

 

有無を言わせない。扉を閉め、明りを消した。暗闇の部屋の中で三つの影が揃って

一誠のベッドの中に潜り込んだ。

 

「ちょっ、イリナ・・・・・」

 

「寝るの」

 

「でも」

 

「寝るの!」

 

頬を膨らませ、自分を「怒っているんだよ」と睨んでくるイリナから顔を逸らして

ヴァーリに助けを求めたが、

 

「イリナの言うことを聞いた方がいいよ一誠」

 

小さく短い一誠の腕を抱き枕のように両腕で絡めるヴァーリから諦めろとばかり返された。

 

「・・・・・おやすみ」

 

「「おやすみ」」

 

 

 

 

 

寝静まる三人の子供の様子を紫と黄色の玉が見ていた。

 

『・・・・・とても良い人間の子供ですね』

 

『ふん、隙を突かれあの人間共と神々に封印されたと思えばこの人間に

力を貸し与えろと言うことか』

 

『聖書の神でさえ、―――と同様に手を出せない貴方が封印されようとは驚きですね』

 

その声音に含む笑いは紫の玉を不貞腐れるのに十分だった。

 

『その聖書の神と他の神話体系の神々がこぞって人間達と襲撃して来たんだ。

いくら俺でも多勢に無勢だ』

 

『ふふっ、そういうことでしたか』

 

『お前はどうなのだ』

 

『私は自らこのようになることを望みました』

 

と、簡潔に述べた黄色の玉に対し紫の玉は底意地の悪い言葉を発した。

 

『だが、あの人間の子供はお前を捨てたがな』

 

『・・・・・そうですね。私とあなたが封印された理由はこの人間の兄弟にそれぞれ宿し、

兄弟共に協力し合って生きて欲しかったようですが、生憎あの人間はそれを気付かず

目の前の欲望に目を眩んだ』

 

『人間という生き物は皆そう言うものだ』

 

『ただし、目の前の子どもはそうではなさそうですがね』

 

黄色の玉は浮遊してベッドに眠る一誠の真上に漂う。

 

『この純粋な子供なら、喜んで受け入れましょう』

 

ゆったりと降下し、一誠の頭に溶け込んだ。しばらくして紫の玉も浮きだして、

 

『この人間が俺の力を使いこなせる以前の問題、相応しいか見届けようか』

 

一誠の頭の中に溶け込む紫の玉。

 

 

―――――誰だお前ら!?

 

―――――おや、先客がいたようですね。

 

―――――話し相手がまだいたか。これからよろしく頼むぞ。

 

 

とある日、一誠は公園にいた。祝日である為、

友人と遊ぶ約束をしていてここで集まることになっていた。

一人でブランコに乗って待ち人を待っている一誠の耳に

 

「イッセーく~ん!」

 

と発する声が聞こえ、声がした方へ振り向くと活発的な印象を与える茶髪の子供と、

ダークカラーが強い銀髪の子供が駆けよって来た。

 

「待った?」

 

「ん、ちょっとだけ」

 

「そっか、じゃあ遊ぼう!ね、ヴァーリ」

 

「うん・・・・・」

 

「今日もイリナと一緒に来たんだね」

 

ヴァーリと呼ばれた子供の頭を撫でる一誠に「家が近いからね」とイリナと

呼ばれた茶髪の子供がそう言うのだった。

 

「ね、新しいお家の人達はどう?」

 

「・・・・・ぶたれない」

 

「その返事はどうかと思うけど、良かった」

 

一誠と茶髪の子供、ダークカラーが強い銀髪の子供たちは時間が許す限り公園を

駆使して遊んだ、二人は笑い合い楽しんだ。

 

その最中、休憩とブランコに乗ってゆったりと漕いでいる茶髪の子供が一誠に問うた。

 

「ね、ねぇ、一誠くん」

 

「なに?」

 

「わた―――僕達、まだ子供だけどさ一誠くん、好きな人とか・・・・・いる?」

 

「好きな人・・・・・?」

 

コクリとイリナが頷く。ヴァーリもイリナと同様に心なしか瞳に不安な色が

浮かんでいるが一誠は気付く訳でもなく悩みに悩んでこう答えた。

 

「お父さんとお母さん、それにリーラさんかな?」

 

「それって家族としての意味で?」

 

「あれ、違うの?」

 

「う、ううん。いいの、それで合ってるの」

 

訊きたかった答えとは違うのか、少し残念そうに顔を曇らす。だがイリナの胸の内は―――。

 

「(もしかしたら、一誠くんは好きな人がいない・・・・・これってチャンスだよね)」

 

疑問符を浮かべている一誠の余所にイリナは片手でガッツポーズをした。

 

「どうしたの?」

 

「なーんでもなーいよ」

 

はぐらかすイリナはぴょんとブランコから降りて一誠に手を伸ばす。

 

「ほら、もっと遊ぼうよ!」

 

 

~~~しばらくして~~~

 

 

家に帰る時間と成り、イリナとヴァーリと分かれ真っ直ぐ家に帰った一誠。

楽しい気分が一誠を笑わせ、今日のことをリーラに教えようと早足で戻った。

 

「ただいまー!」

 

大声で言いながら玄関のドアノブを掴んだ。だが、開く気配が無く小首を傾げながら

何度もドアノブを動かすも扉は開かない。

 

「リーラさん、お買い物に行ったのかな?」

 

家にいるはずのリーラがどこかに行った。兄は友達と遊びに行くと分かっている。

そう認識した一誠は玄関の前で待つことにした。リーラが帰ってくるその時まで。

だが・・・・・いくら待っても、夜になってもリーラや兄が帰ってこない。

 

それどころか家に明かりがついて誰かいると分かってドアを叩き、

インターホンを鳴らしても玄関の扉が開く他、外で洗濯物を干す場所へ出入りする

ガラス窓にも叩いてもカーテンで完全に閉められて中を覗くことができないでいる。

 

「・・・・・何で開けてくれないんだ」

 

一誠は自棄気味になって扉を叩いた。すると、

 

『さっきからうるせぇぞ!』

 

「っ!」

 

中から兄の声が聞こえてきた。いるなら開けて欲しいと必死に言う。

 

「兄ちゃん!いるなら開けてよ!僕、入れないよ!」

 

『この家は俺と父さんと母さん、リーラさんしか入ってはいけない決まりがあるんだよ。

お前みたいな弱い奴は外で寝ていればいいんだ』

 

「そんなの誰が決めたんだよ!」

 

『父さんと母さんに決まっているだろう?

言っていたぞ、お前みたいな弱い奴は父さんたちの子供じゃないってさ!』

 

兄から告げたれた話を一誠は悲痛な面持ちで否定した。

「嘘だ!」と叫んで扉の向こうにいる兄に言うが無視したのか返事が返ってこなくなった。

家に入れない寂しさと不安に駆られ、一誠は扉を何度も叩いた。

 

ガチャッ。

 

すると、玄関の扉が開いた。兄が開けてくれたと一誠は喜んだ。

 

「うるせぇって言ってんだろうが!」

 

突き出された拳が一誠の顔面に突き刺さり、後ろへ転がった。

気持ちが一変して、悲しみと怒りが混ざった表情で兄を見詰める。

 

「どうして、どうして兄ちゃんは何時も僕を意地悪するんだよっ」

 

「意地悪?なんのことだ」

 

「え・・・・・?」

 

「弱い奴は強い奴に苛められるのが当たり前なんだよ。

道場の先生は『強い者こそが正義であり、弱い者は―――』」

 

鈍く光る何かが一誠の兄の手にあり、ソレを躊躇なく一誠の腹部に突き刺した。

 

「『罪である』つまり、お前が弱いのはお前が悪いんだって言ってたぜ」

 

「・・・・・」

 

お腹から感じる鈍痛に一誠は下に視線を落とす。そこに映る物は見慣れた包丁だった。

リーラがよく使用している包丁であった。

 

「それ、くれてやるよ。リーラさんは俺がもらうがな」

 

「にい・・・・・ちゃん・・・・・」

 

「さっさとどっかに行けよ。二度とこの家に帰ってくんな無能な弟」

 

無慈悲な兄の言葉に一誠はフラリと家から離れた。突き刺さった包丁の間から血が流れ、

コンクリートで敷き詰められた路面に点々と落とし、歩き続ける。

 

「・・・・・寒い・・・・・」

 

歩く歩幅も短くなり、

 

―――――お前の兄、心底クズだな。

 

宿るドラゴンが話しかけるも、一誠の意識は既に朦朧としていてなぜここに来たのか

分からない公園に足を踏み入れた。

 

「イリナ・・・・・ヴァーリ・・・・・」

 

―――――しっかりしろっ!ここで死んだらお前の親が悲しむぞ!

 

「・・・・・ごめん、だけど眠たいんだよ・・・・・」

 

ついに力尽きたのか、地面に倒れた。

仰向けで倒れる一誠の眼に映る夜空はキラキラと輝く星。

憎いほど瀕死の重体の一誠を観させる。まるで最期の手向けとばかりに。

 

―――――クソが・・・・・もうお別れか。

 

「ごめん・・・・・ね?」

 

―――――謝る位なら根性で気を保っていろ。あのメイドが気付いてここに来るまでぐらいにな。

 

「・・・・・それ・・・・・もう、無理。だけど・・・・・」

 

―――――なんだ?

 

「・・・・・お前の名前、まだ知らない」

 

ドラゴンは沈黙した。今まで一方的に話しかけたばかりでようやく最近、

会話という会話らしくなってきたところでこの様だ。宿主である一誠に

 

―――――『魔煌の絶禍龍(カオス・ブレイカー・ドラゴン)』ネメシス。

 

と、最期に名乗った。ドラゴンの名前を最期に訊けて小さく笑んだ一誠は。

 

「また・・・・・会えたらいいな、ネメシス」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

暗闇の夜の公園に死に逝きそうになっていた一誠は気付いていなかった。

黒いワンピースを身に着け、細い四肢を覗かせている腰まである黒髪の小柄な少女が

ジッと一誠を見詰めていたことを。

 

「・・・・・この者、懐かしい匂いをする」

 

既に虫の息である一誠に顔を寄せて匂いを嗅ぐ少女は何かに吸い寄せられるように

この公園に来た。理由も分からない。ただのきまぐれか、それともドラゴンの波動が

気になったのか、少女は自問自答しても小首を傾げると少女に話しかける存在がいた。

 

―――――なぜ、お前がここにいる。

 

「我も分からない。この者から懐かしい匂いがする」

 

―――――そうか、お前の考えには理解できないが一つ頼まれてくれ。

   この子供を助けてはくれないか?

 

「我、治癒はできない」

 

一誠の中に宿るドラゴンが少女と会話。だが、藁に縋る思いは絶えた。

 

―――――無限の体現者でもできないことがあるか。

 

「我は無限。ただそれだけ」

 

―――――ちっ、今度別の宿主に頼むか。兵藤家を根絶やしにして欲しいと。

 

ピクリと少女は反応した。「兵藤家」と。

 

「・・・・・この者、兵藤の者?」

 

確認するように尋ねた少女にドラゴンは意外そうに返した。

 

―――――知っていたのか?お前という者がな。

 

「我、兵藤誠と兵藤一香と友達」

 

―――――なるほど、それなら好都合だ。聞け、この子供はその二人の人間の子供だ。

 

「・・・・・誠と一香の子供?」

 

―――――あの二人が一誠の死を知ればさぞかし悲しむことだろう。

   どうにかしてこの人間を助けてくれ。

 

「・・・・・」

 

少女はドラゴンの願いを聞く。もしもそれが本当ならば助けてやりたい。

だが、どうすればいい?自分は治癒の能力なんて無い。だから故に素朴な質問をした。

 

「我、どうすればいい?」

 

―――――・・・・・そう言えば、この人間はグレートレッドと会った過去がある。

    あの真龍と協力して蘇生をできやしないか?この人間の魂は俺がどうにか抑えておく。

 

ドラゴンの言葉に、少女は「意外」と漏らしつつ肯定と頷いた。

一誠を抱えて公園から姿を消した。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「誠輝さま、どういうことかご説明をして貰います」

 

「リーラさん、どうしてそんな怖い顔をするの?

というかその銃を突き付けないで欲しいんですけど」

 

「私の顔の事よりご説明を願います。そして私の下着を散らかして変態な

行動をしている貴方様にお仕置きをしようとしているだけです」

 

「お仕置きどころかそれは完全にDEADだよね!?」

 

リーラが帰宅して異変を感じた。一誠の両親の仕事の手伝いで遅くなり、

急いで家に戻れば点々とどこかに続く赤い血が。

頭の中でまさかと嫌なビジョンが過ぎってしまい、

 

家の中をくまなく探し人を探すがその際、気になる点を見つけた。

包丁が一つ無くなっているのだ。リーラは自分の部屋で下着が入っているタンスを開けて

床に散らばせて寝転がっている誠輝に銃弾を放ってから冒頭が始まっていたのであった。

 

「どうして私が使用している包丁が一つなくなり、

一誠さまがまだ帰っていないのか誠輝さまならご存知のはずです」

 

「俺は知らないよ?それよりもリーラさん、今晩の夕飯は何?」

 

ガチャリッ。

 

「私は誠輝さまと一誠さまのお世話を任されているメイドでございます。

私の質問を先にお答えしてくれれば直ぐに夕飯を作ってあげます」

 

「だから俺は知らないってリーラさん。信じてよ」

 

「・・・・・そうですか」

 

銃を下ろして誠輝を見降ろす。明らかに知っているはずだが敢えて告げようとせず

のらりくらりと話を平行線にしようとしている。

 

「リーラさん」

 

誠輝は徐にリーラへ抱きついた。

 

「もう、あんな奴なんか放っておいて俺と一緒に暮らそうよ?

俺、本当にリーラさんのことが好きなんだ」

 

バッ!とリーラを押し倒して覆い、彼女の顔を挟んで自分の唇を押し付けた。

そしてそのまま欲望の赴くままリーラのメイド服を剥いで何時も揉んでみたいと思っていた

胸を飽きるまで触って、自分の子供を産ませる。

そんな脳裏でイメージをしていた誠輝。誠輝は

イメージ通りに押し倒そうとしたが・・・・・。

 

「へ?」

 

何時の間にかリーラが目の前にいなくなっていた。

誠輝はキョトンとしたが一階に下りてリーラを探してみたが姿形がないどころか、

 

 

ポツンと割り箸と湯気を出しているカップ麺が机の上にあった。

 

 

「一誠さまっ!」

 

点々と続く血痕を辿って行けば公園に着き、辺りを見渡しても一誠の姿が見当たらない。

だが、明らかに血が一定量に溜まっている個所があり、倒れていた事実が確認したものの

一誠がいないとすれば・・・・・。

 

「誰かが一誠さまを連れて行った・・・・・?」

 

焦心を駆られた心は冷静に落ち着きを取り戻し携帯を取り出してどこかに繋げた。

 

『リーラ、どうしたんだ?』

 

「・・・・・誠さま、申し訳ございません」

 

『何が遭った』

 

一誠の父親に連絡をし開口一番に謝罪の言葉を言うリーラに真剣な声音が聞こえてくる。

 

「一誠さまが誰かに連れ去られたようです」

 

『・・・・・なんだとっ!?』

 

「その上、大量の血が公園で発見しました。一誠さまは重傷の状態で何者かに

連れて行かれたもようです」

 

『・・・・・なんで一誠がこんな時間に外へ出歩く。まさか・・・・・・誠輝なのか?』

 

その問いをしばし躊躇して肯定の言葉を放った。

 

「私が使っている包丁が一つ無くなっております。

誠輝さまは知らないと申しますが・・・・・」

 

『・・・・・』

 

誠の返事がない。夜中の公園に佇むリーラの周りは静寂が包み相手の返答を待つこと数分。

 

『三大勢力のトップに頼んで欲しい。できるか?』

 

「・・・・・誠に申し訳ございません」

 

『いや・・・・・俺達が悪いんだ。子供を放ったからしにして仕事に集中していた俺達が』

 

「お二人はとてもご立派に仕事を成されておるのです。ですから、自分を責めないでください」

 

『・・・・・それはこっちの台詞だリーラ。お前もな』

 

通信が切れ、携帯を懐に仕舞いこんだリーラは天を仰いだ。

 

「一誠さま・・・・・っ」



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エピソード2

世界と世界の狭間にある空間―――次元の狭間。古にかつてこの空間の支配権を掛けて

争った二匹の龍がいた。その争いを一匹の龍が勝利してもう一匹の龍を下界に

追いやってから光陰矢のごとしというぐらい時が過ぎて、次元の狭間を支配している

龍の眼前に久方ぶりの小さき二人の来訪者が現れた。

 

一人はグッタリしていて、見る限り命の危険性に瀕している様子。

もう一人はかつてこの空間を争い敗れた気配を感じさせる少女。

龍は泳ぐように飛行していた動きを止めて、

 

『我に何の用だオーフィス』

 

目の前の少女に問いだす赤い龍に一言。

 

「この者、助けて欲しい」

 

差しだされる子供、一誠を見て金色の双眸が細くなる。また諦めずこの空間を懸けた

勝負を吹っかけに来たかと思えば、子供を助けて欲しいと目の前の少女を

知る赤い龍にとって、どういう風の吹き回しだと思う程に珍しいものを見る目で問うた。

 

『用件はそれか?だが、その人間がどうなろうと我の知ったことではない』

 

「この者、兵藤誠と兵藤一香の子供」

 

『・・・・・』

 

「グレートレッド、会ったことがある子供。我もこの人間の家族知ってる」

 

オーフィスという少女が淡々と話す。兵藤誠、兵藤一香という言葉に一瞬だけ反応を

示した赤い龍ことグレートレッドは一誠を凝視する。

 

『・・・・・ふん、あの時の赤子か。面影は確かにある。

それで自分ができないからと我に頼んできた、そういうわけだな?』

 

「ん。我、誠と一香が悲しむのは良くないと思う。だから、協力する」

 

『助けることができたとしても、人間を辞める形になるがそれでもか?』

 

「あの二人、解ってくれる」

 

純粋に助けたい気持ちを窺わせるオーフィス。グレートレッドは過去を思い出す。

人間二人が戦いを挑んできて自分に破れた。

当然の摂理であるがあの時の人間達は何か違い、驚かされたのも事実。

それ以来向こうから現れては話しかけてくるようになったが最近は来なくなった。

 

が、代わりに現れたのはあの時の人間の子供。これは何かの運命か?それとも必然的?

親子揃って自分の前に現れるなぞ想像もしなかった。

厳密に言えば一誠が当時赤子だった頃に紹介されたことはあったがたった一度だけ。

赤の他人と過言と等しいが、

 

『・・・・・我とオーフィス、真龍と龍神、夢幻と無限の力を持つ存在・・・・・くくくっ』

 

「グレートレッド?」

 

『これは良い余興になるやもしれん。いいだろう、協力して助けようではないか。

我らの力を持つ唯一の人間、いや世界中でたった一匹のドラゴンの誕生を見えようか』

 

―――☆☆☆―――

 

「バカ野郎がっ!」

 

ドッ!

 

「ぎゃっ!?」

 

「誠輝、お前は何て事をしたんだ!どうして弟を殺そうとしたんだこのバカ息子が!」

 

蹴られ、壁に叩きつけられた誠輝。見たことのない父親の怒りの形相に顔を酷く歪め、

身体を震わす。精神的にも緊張を通り越して今度は自分までもが殺されると恐怖心で

一杯になっていた。

 

「リーラからお前と一誠のことは聞いているが、まさかここまでするとはな」

 

「と、父さん・・・・・!ち、違うんだ。全部、全部アイツが悪いんだ。

弱いアイツが、アイツが悪いんだ!」

 

「もはや自分の弟の名さえ言わなくなるほどか・・・・・」

 

目を手で覆い、天を仰ぐ誠。その傍にはリーラと母親の一香が遠巻きで様子を見ていた。

 

「俺達の教育がいかに悪かったのかお前でよーく分からされた。

これは俺達が悪いせいで一誠を追い詰めてしまったんだ。

しかも兵藤家の教えや質が悪いようだ・・・・・」

 

「あなた・・・・・」

 

「ちくしょうっ。一誠・・・・・親失格な俺達をどうか許して欲しい・・・・・。

いや、許さなくて良い。それがお前の生き甲斐とあらば受け入れる・・・・・」

 

「父さん・・・・・!父さんは悪くないよっ。

道場の師範代が弱い奴が全部悪いって言うから・・・・・!」

 

「ああ・・・・・そう言うことか。俺が教えられた指導とは全然違うじゃねぇか

クソ親父。兵藤の教えの質が奈落の底まで落ちちゃいねぇか?」

 

頭を抱えながらソファに座りこむ誠。

 

「ま・・・・・今の俺に何を言っても無意味だろうが、父親としては一言

言いたいぐらいに俺はキチまっているぜ。リーラ、報告はあるか?」

 

「いえ誠さま・・・・・。協力してくださっている者達からは何も・・・・・」

 

「・・・・・そうか。変な奴らに攫われていなきゃいいんだが・・・・・」

 

その時、この空間に幾つものの魔方陣が出現し、数人の男女が現れた。

 

「誠・・・・・」

 

「ああ、悪いな面倒を掛けさせて」

 

「気にするな。俺達は友達だろう?それよりもあの坊主のことが優先だ」

 

浴衣を身に包むの中年男性が溜息を零せば、赤い髪の青年が口を開く。

 

「それで、アレから何か手掛かりは?」

 

「こっちも色々と探したが神隠しにあったかのように・・・・・な」

 

「最近、変な連中を見掛ける。そいつらに捕まってなきゃいいんだがよ」

 

「どんな連中だ?」

 

黒と金髪の中年男性は首を横に振り「まだ分からね」と言うだけで終わった。

 

「と、父さん・・・・・その人達は誰・・・・・?」

 

「そう言えばそうだな。おい、この坊主は誰だ?」

 

誠輝と和服の中年男性の質問に誠は答えた。

 

「ユーストマの質問に応えると、こいつは一誠の兄の誠輝って言うんだ」

 

「あの子の兄だと?私は知らないぞ」

 

「当然さ。俺は敢えて一誠しかお前らと会わせていなかったんだからな。

知らないのも仕方がない。それで誠輝の質問だな。誠輝、こいつらは四大勢力のうち、

悪魔と束ねる魔王、天使を束ねる神と神をフォローする神王、堕天使を束ねる総督。

砕いて言えば兵藤家現当主である兵藤源氏みたいなお偉いさんだ。

全員、一誠と何度も出会っている」

 

誠の説明に目を大きく見開く誠輝。勢力のトップ達がこうも顔を揃えて家にいるから

驚くのも無理もない。

 

「な、何でそんなすごい人達があの弱い奴なんかと・・・・・」

 

「あー、なんだ誠・・・・・ぶっちゃけ言っていいか?」

 

「いいぞ」

 

「この坊主。根っから腐っているじゃねぇか」

 

「それを今俺達も思い知らされたんだよ・・・・・。ちゃんと育てればこんな性格に

ならなかっただろうと後の祭りに後悔している」

 

また溜息を吐く誠。何とも言えない雰囲気が漂い始め、おずおずとながら誠輝が尋ねる。

 

「父さん・・・・・なんでアイツだけこの人達と会わせていたの?

俺だって会っても・・・・・」

 

偉い人と出会えれば自慢の一つにできると一誠に嫉妬を覚える誠輝。

誠は冷めた目で誠輝に説明した。

 

「・・・・・一誠は周りから酷い仕打ちを受けている度に心が閉ざしつつ、

感情も出さなくなっていた。それを危惧した俺と一香、リーラはそれ以上悪化させない為に、

どこにでもいる子供のように明るく笑ってもらえるよう一誠には

ここにいる皆を含め他の神さま達と会わせて心のケアを施していたんだ。

だけど、今現在最悪なことになったんだ。そう、お前のおかげでな誠輝」

 

ギロリと蛇に睨まれる蛙の如く、誠輝は身体を硬直させた。

タイミングを見計らってリーラは告げる。

 

「近所の話では夜、子供の叫び声が聞こえたということです。

それは間違いなく一誠さまの声だと思います」

 

「夜までですって・・・・・?」

 

「はい、私が家にいない間です」

 

「おいおい・・・・・それじゃ、坊主がメイドの帰りを待っていたってことになるのか?」

 

「いえ、既に誠輝さまは家にいたようで・・・・・」

 

リーラの説明に誠輝以外の面々が一斉に誠輝を見やる。夜になっても家に入れず、

兄に凶器で傷を負わされた時の心と精神がどうなるか想像は難しくない。

 

「誠輝、あなたって子は何て事を・・・・・っ!」

 

「母さん・・・・・俺は、俺は何も悪くは・・・・・!」

 

「黙りなさい!どうしてあなたはお兄ちゃんとして弟の面倒を見なかったの!?」

 

「だって、だって弱い奴が悪いんだって・・・・・!

それにあいつの所為で俺はバカにされて・・・・・!」

 

母とこの会話のやり取りを見ていた面々の反応はこうだった。

 

「・・・・・訂正だ誠。この坊主、心から腐ってる。

今の兵藤家はどういうことを学ばせているんだ」

 

「悪魔よりも性質が悪いですね・・・・・」

 

「きっと、あの子は心を深い傷を追ったに違いない。

もう誰にも信用することすら・・・・・」

 

誰もが一誠の心情を察し、深く安否を心配した。

 

「・・・・・一誠」

 

―――その時。この部屋の空間に裂け目が生まれた。いきなりの現象に誰もが警戒し、

臨戦態勢になった。

 

「ふん、神と神王に魔王に悪魔に堕天使、天使がこぞって何をしていることやら」

 

裂け目から聞こえる女の声。

全員が何時でも攻防ができるように態勢と成り身構えていると謎の人物が姿を現した。

 

「こうして会うのは久しいな人間」

 

「・・・・・まさか・・・・・グレートレッドなの?」

 

赤いドレスを纏う腰まで伸びた真紅の長髪、鋭い金色の双眸に豊満な身体の女性。

一香の指摘に小さく口角を上げた女性。

 

「そう、我は『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッドだ」

 

「おいおい・・・・・あの真龍がどうしてこの家に現れるんだよ」

 

「警戒するな神王。お前らに届け物を持ってきただけだ」

 

「届け物だと?」

 

「ああ、おい」

 

グレートレッドは裂け目に呼びかけた。その声に呼応して小さな少女がひょっこりと

姿を現した。真紅の髪の子供を背負って。

 

「オ、オーフィスッ!?」

 

「んなっ!?マ、マジかよ・・・・・」

 

「真龍と龍神が揃う瞬間を見るとは驚きですね・・・・・」

 

「というか、オーフィスが背負っている子供って・・・・・」

 

皆、グレートレッドとオーフィス、オーフィスの背にいる子供に交互で見た。

信じたがい光景であると皆の気持ちが一つになった瞬間でもあった。

 

「誠、一香。久しい」

 

「ああ、オーフィス。本当に久し振りだね」

 

「でも、どうしてあなたがこの町に?」

 

「我も分からない。なんとなくここに来た。そしたら、この者がいた」

 

背負っていた子供を誠と一香に見せた。真紅の髪で誰だか分らなかったが、

二人はようやく気付いた。

 

「「一誠!?」」

 

「ん、一香と誠の子供がいた」

 

「オーフィスが助けた・・・・・?」

 

「違う、グレートレッドも一緒。我一人じゃダメだった。

だからグレートレッドにも協力してもらった」

 

「・・・・・信じがたい話しだが目の前の光景を見てしまったら時点でそうなんだろうな」

 

一誠の安否を確かめている誠と一香の様子を眺めている面々。

二人の顔に安堵で息を吐き、誠は口を開いた。

 

「問題ない。一誠は無事だ」

 

「当たり前だ。我とオーフィスが既に死んだ身体を換えたのだ。

その際、その人間の腹にこれが刺さっていたがな」

 

グレートレットが床に投げ放ったそれは鈍く光る銀の包丁。それを一目で見たリーラは呟く。

 

「私の包丁です」

 

「この者のお腹に刺さっていた」

 

「・・・・・誠輝、お前という奴は・・・・・!」

 

「ひっ!?」

 

「待て誠。ガキに構っている暇じゃないだろう」

 

金と黒の中年男性は一誠を一瞥してグレートレッドに問うた。

 

「一つ訊きたい。どうしてあのガキからお前らの力を感じる?」

 

「決まっている。その人間の身体は死んでいたのだ。

ならば我の身体の一部を与え、オーフィスの力も加われば当然のことだろう」

 

「つまりなんだ・・・・・?グレートレッドとオーフィスの力が坊主に宿っていると

いうことか?」

 

「夢幻と無限の力を持つ人間から転生したドラゴン。

つまり我の身体を持つその人間は小さい我と同じグレートレッドということだ。

無限の力を持つもう一匹のグレートレッド。

ふふふっ、中々愉快なドラゴンが生まれたであろう?」

 

底意地の悪い笑みを浮かべ、誠を見据えるグレートレッドにまた深い溜息を吐いた誠は。

 

「・・・・・余計なことを、と言いたいところだがここは感謝するところだろう」

 

深々とその場で土下座をした。

 

「ありがとうグレートレッド。息子の命を助けてくれたことに深く感謝している」

 

続いて一香も土下座し、リーラも土下座をした。

 

「私たちからも。本当にありがとう」

 

「ふん・・・・・気にするな。オーフィスに礼を言うがいい」

 

「えっへん」

 

小さな胸を張るオーフィス。その仕草は誠達を苦笑させるのに十分だった。

 

「ただし、その人間はもう人間ではないドラゴンだ。そのこと努々忘れるなよ」

 

「ああ、人間じゃなくても一誠は一誠だ。何も変わらねぇよ」

 

「ならばいい。ああ、我の子供でもあるから故、そいつを我が鍛えてやる。

未熟なドラゴンのままでは何かと不便であろう」

 

「・・・・・そのことについては俺達から話す」

 

「ふふっ。面白くなってきた。まさか我に我の分身、子供ができようとはな―――」

 

グレートレッドは裂け目の中に入り、完全に裂け目が閉じたことでいなくなった。

 

「しかし、この地球が誕生して以来の前代未聞な事が起きたな」

 

「グレートレッドとオーフィスの力を有する人間、ドラゴン・・・・・」

 

「こりゃ、監視もとい見張っていなきゃいけないんじゃね?」

 

「とんでもない存在にグレートアップして帰って来やがったな。

こいつ、この年であっさり俺達を上回ったんじゃないか?」

 

「いや、力の扱い方を知らないならそれはまだない。

だが、将来的に考えるとそうなる可能性は高いな」

 

「じゃあ、こういうのはどうかね?」

 

細身の銀髪の中年男性が笑みを浮かべながら提案した。

 

「冥界・天界に一時的にこの子を引き取って力の扱い方を教えつつ私達が面倒をみると言うのは」

 

「ほう?そいつはつまり、この場にいる俺達が坊主を引き取って鍛えるってことか?」

 

「そういうことだ。グレートレッドも鍛えたいと言うほどだからね。

いま、無限の魔力を有した彼に魔力の扱い方も教えないといけないだろう?」

 

「悪くない考えですね。ですが、それ以前にこの子がそれを望むかどうかの問題です」

 

金髪の女性が一誠を抱き抱えるリーラに近づき一誠の頬を触れる。

蒼い瞳に慈愛が満ちていて女性は口元をつい綻ばす。

 

「それについては俺と一香に任せて欲しい。一誠はもう以前のように生活はできないからな」

 

「そうね・・・・・」

 

誠と一香は若干顔を曇らせながらも瞳に強い決意が宿っている。

 

「他の神話体系のところにも預けてみるかいっそのこと」

 

「仙術を極めた闘戦勝仏にもお願いしようかしらね」

 

「帝釈天が腹を抱えて笑うイメージが浮かぶな」

 

「『何その有り得ないドラゴンはよ!』って?ふふ、そうかもしれないわね」

 

「んじゃ、仮に望んだとして引き取る期限も決めようぜ」

 

「一年ぐらいでいいじゃないですか?」

 

「妥当な期間だな」

 

「ああ、アザゼル。研究材料として解剖なんてしないでほしい。

したらどうなるか・・・・・」

 

「しねぇからな!?俺だって命は欲しい!」

 

「アザゼルはやりかねないですからね・・・・・」

 

「本当にね」

 

シリアスなムードが一変して和気藹々と笑いが生じる。

その様子を窺い、コッソリとどこかへ行こうとする誠輝の頭を強く掴む誠だった。

 

「さて・・・・・誠輝、お前にはとことん失望したぞ」

 

「と、父さん!?い、痛いよ!放して、放してよ!」

 

「お前がやったという証拠は揃った。これよりお前にお仕置きをする」

 

誠は全身から闘気、一香は魔力を迸らせる。

 

「取り敢えず、今日に関する記憶は完全に消去だな」

 

「その後この子、どうする?」

 

一香の問いは誠の口から残酷な言葉を出させた。

 

「家族を大事にしない奴はもはや俺と一香の息子じゃねぇ。誠輝、お前は新しい人生を歩め」

 

無慈悲な現実を突き付けられ、悲痛に顔を歪め涙を流しながら叫ぶ。

 

「そ、そんなぁっ!?嫌だよっ、父さん母さん!許してよ!俺、いい子になるから!

あいつと仲良くする!ねぇ、お願い!俺を捨てないで!リーラさん助けて!」

 

「・・・・・」

 

瞑目するリーラにも懇願する誠輝に一言。

 

「私は貴方のような者に仕える気など毛頭もございません」

 

「安心しろ。お前には良いお友達が兵藤家にいるじゃないか」

 

頭を掴む手に力を籠め、徐々に誠輝の意識を落とし始める。

 

「あがっ!がっ、あっ!」

 

「残念だ・・・・・最初は仲が良い子でいたお前が兵藤家に武術を学ばせるにつれ

性格がどんどん歪んだ」

 

「それは私たち親の責任でもあるわ。でもね誠輝・・・・・弟を邪魔だからと

殺す考えをさせるほど私達はそんな風に育てた覚えはないの。

だから、これが最後の親としての会話」

 

「「さようなら」」

 

誠輝の意識を完全に狩った。口から泡を噴きだし床に倒れる誠輝を無視してこの場に

集まった面々に告げた。

 

「変なところを見せたな」

 

「他人の家族の事情に口出しはしないよ」

 

「そう言ってもらえるとありがたい」

 

「でも、いいのかい?息子を絶縁なんて」

 

「一応縁は切らないでやる。ただ、俺達と離れて暮らしてもらうだけだ」

 

「万が一に賭けて誠輝が改変したら許すわ」

 

「万が一・・・・・ねぇ」

 

そんな可能性があるのか疑わしいと誠輝の言動を見ていた面々は思った。

後に魔方陣を足元に展開させた。

 

「それじゃ、俺達も帰るとしようか」

 

「安心できたことだしな」

 

「それじゃ、またお会いしましょう」

 

「ええ、また」

 

「近いうちに会いそうだがな」

 

魔方陣の光と共にいなくなり、誠と一香にリーラ、一誠と誠輝だけとなった。

 

「リーラ、今夜は一誠と寝てくれないか?」

 

「はい、喜んで」

 

「私達はこのバカ息子を兵藤家に捨てて仕事に戻らないとね」

 

「理由を説明したら『さっさと探しに行けバカヤローッ!』って言われたほどだしな」

 

一香と誠の足元にも魔方陣が出現した。誠輝を片手で掴む誠は、

 

「襲うなよ?」

 

と意味深な発言と共にいなくなったのであった。

 

「・・・・・ようやく、一誠さまと寝れる日が来ましたね」

 

愛おしいと腕の中で眠る一誠を覗きこむ。

 

「一誠さま。このリーラは一誠さまの味方でございます。誠様も一香様もそうですからね?」

 

眠る一誠を自室へ連れて行き共に夜を過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 

「と、そう言う事だからよろしく頼んだ親父」

 

「・・・・・追放された身内の子供が弟を殺すほどか」

 

「俺が言っちゃあ何なんだが兵藤家の奴ら、質が落ちてるぞ」

 

「・・・・・言われんでも分かっている」

 

「ま、そっち的には悪くないだろう?優秀な一族が一人増えたんだからな」

 

「・・・・・ふん、性格に難があるお前の息子が優秀かどうかなど、高が知れている」

 

「なんだよ。一誠の方がいいってのか?」

 

「昔はともかく、今は違う。鍛えようがある」

 

「残念、三大勢力と神話体系の友人に鍛えさせるつもりだから兵藤家に鍛えさせる

機会はない」

 

「・・・・・悠璃と楼羅は泣くかもしれんな」

 

「人王の姫という立場のあの子達も相当苦労を強いられるな。

だが、いつか一誠が何とかしてくれるだろうよ」

 

「ほう?面白い発言をしてくれるなバカ息子」

 

「もう前の一誠とは違うんだよバカ親父。それじゃあな」

 

 

 

「前とは違う・・・・・か」

 

「あなた・・・・・?」

 

「どうした?」

 

「話を聞かせてもらいました。

ですが、もう少し親子らしい会話はできないのですか?」

 

「なんだ、していないとでも?」

 

「はぁ・・・・・気付かないとは。それだからあの子達に敬遠されてしまうんですよ?」

 

「・・・・・善処する」



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エピソード3

翌朝。リビングキッチンに手鏡を持って自分の顔を見る一誠がいた。

黒髪に黒目だったはずの、真紅の髪と垂直のスリット状の金色の瞳に変わっていることに

目をパチクリしていて、まじまじと前髪を触れたり自分の目玉を覗きこんだりと確認していた。

 

「一誠さま・・・・・どうですか?」

 

「目がライオンみたいになってるね」

 

「・・・・・」

 

特別、生まれ変わった自分に動揺や不安など感じていなかった一誠。

ただ単純に髪の色と目が違うねーという感覚であっさり受け入れたのだった。

リーラはそれを喜んでいいのか、もう少し危機感を抱いても良いのではと

複雑な気持ちで何とも言えなかった。

 

「それに・・・・・刺されたはずなのに何で治ったんだろう」

 

「っ・・・・・」

 

自分の腹に手を添える一誠をリーラは一瞬だけ顔を歪めた。

兄である誠輝は既にこの家にいない上に戻ってこれない。一誠に誠輝のことは触れていない。いや、触れていいものではない。肉親に殺される気持ちを

また思い出させるなどしたくないのだリーラは。

 

「リーラさん、兄ちゃんはどうしたの?」

 

「聞いて・・・・・どうするのですか?」

 

自分と同じ目に遭わせたいと言うなら尚更教えるわけにもいかない。一誠に尋ねたところ、

自分に目掛けて拳を突き出してきた。

 

「殴る」

 

「・・・・・はい?」

 

「一発殴りたい。いくらなんでもあれは酷かったし痛かったよ。だから思いっきりぶん殴りたい」

 

―――ただ殴る。それだけで兄を許そうとするのかとリーラは今度こそ信じられないと顔に浮かべた。

 

「それだけで、許すのですか一誠さまは」

 

「・・・・・弱いのはいけないことだって何度も教えられたしその通りだと思う。

だから僕はあんな目に遭った。なんでだろう。こういうことって凄く怒っても良いと

思うのに、身体の奥から溢れる何かが兄ちゃんを倒すことなんて容易いって

思わせるんだ。だから一先ず殴りたい」

 

小さな手を固く、強く握りしめた瞬間に赤いオーラを帯びた。

まるで一誠の怒りを表しているようなオーラだった。

 

「それで見返すんだ。どっちが弱いんだって。はは・・・・・ほんと、何で僕は

こんなことを言えるようになっているのか分からないや」

 

「・・・・・」

 

ドラゴンの力が一誠の性格や心、気持ちを変えているのかもしれない。

今の一誠はここまで好戦的じゃなかった。もっと大人しくて優しい子供―――。

 

「って、僕の手が何か光ってるよリーラさん!?」

 

―――これ、どうしたらいいの!?と慌てふためく一誠にリーラは、

 

「・・・・・ぷっ」

 

「え、どうしてそこで笑うの?」

 

今さらな反応に思わず噴いてしまった。変わっているところがあれば変わっていないところもある。

 

「大丈夫ですよ一誠さま」

 

跪き優しく手に帯びている赤いオーラを両手で包み、

 

「貴方は必ずや立派で強い男の子になります」

 

「兄ちゃんよりも?」

 

「ええ」

 

「僕を虐める皆よりも?」

 

「ええ。そうです」

 

勇気、自信を付けさせ安心させる笑みを浮かべるリーラに釣られて

「そっか」と一誠も子供らしく笑みを浮かべた。

 

「ですが、その為には一誠さま。修行をしないといけません」

 

「・・・・・何時も行くあそこでするんでしょう?」

 

若干声音を落とす一誠の気持ちを察し、リーラは首を横に振った。

 

「いえ、一誠さまの身の回りで少し事情が生じまして、神王のおじさんや魔王のおじさん、

それにオー爺ちゃん、一誠さまのたくさんのお友達のところで修行する事になりました」

 

「え・・・・・そうなの?」

 

「はい、そうです。それは一誠さまがもっと強くなりたいと望むのであれば修行を始めれます。

誠さまと一香さまもお許しをいただいて貰っております。後は一誠さまがこれからも

修行をしたい、もう修行を止めて普通の生活をしたいという二つを選ぶだけです」

 

真っ直ぐ一誠の目の前で人差しと中指を立てて告げた。

その二つの指を見据える一誠に言い続ける。

 

「一誠さま、あなたはどうしたいですか?」

 

「・・・・・」

 

リーラの質問にただただ無言でリーラの琥珀の瞳を見据える。頭の中でどう思っているのか

一誠の頭の中を覗きこむしか分からない展開に、

 

「・・・・・もうあんな思いはしたくない」

 

立てる二つの指ごとリーラの手を掴んだ。

 

「もう弱いままいたくない。もう苛められたくない。見返すんだ。

今度は僕があいつらに思い知らせるんだ。僕はお前らより強いんだって」

 

「一誠さま・・・・・」

 

「そして、皆を守りたい」

 

瞳に宿る強い意志。真剣な表情をリーラに向けて、

 

「リーラさんもだよ。僕の大切な人なんだからね」

 

発する一誠に、不覚にもドキッと胸が高鳴った。今まで見たことのない表情をする

一誠の顔から目が離せない。動悸が止まらない。胸の奥から湧き上がる熱い気持ち、

感情がリーラの瞳を潤わせて一誠を抱き締めさせる。

 

「ご期待してお待ちしております。我が主よ」

 

そして、一誠の額に唇を落としたのだった。

 

 

 

「我、忘れられている?」

 

モグモグと食事をしていたオーフィスの呟きは誰も返さなかった。

 

 

 

 

『そうか、一誠がそう言ったんだな?』

 

「あのようなことが遭ったのに・・・・・とても一誠さまは強いお方です」

 

『あいつは俺に似ているからな!』

 

嬉しそうに携帯越しから聞こえる誠の声。報告とリーラが連絡をしているのだった。

 

『だとするとさてはて・・・・・誰から鍛えてもらおうか』

 

「鍛えてもらうのは良いとして、

一誠さまには神器(セイクリッド・ギア)を宿されていないのでしょうか?」

 

『一誠自身のを調べてもらうには、それはヤハウェかアザゼルに調べてもらう他分からないな。

・・・・・よし、最初は冥界にするか』

 

「悪魔側ですか?それとも堕天使側ですか?」

 

リーラの携帯から届く声を誠は直ぐに答えた。

 

『堕天使側だな。あそこにあの子もいるし一誠には丁度良いだろう?』

 

「では」

 

『最初の一年は堕天使たちに鍛えてもらおうか』

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「えっ・・・・・どこか行っちゃうの?」

 

「うん・・・・・そうなんだ」

 

公園で一誠はイリナとヴァーリに別れを告げていた。

二人にとって衝撃的な話で悲しげに顔を曇らす。

 

「そう・・・・・なんだ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

一人の友人が遠い場所へ行って会えなくなる。だから寂しいあまりに涙ぐむのは当然の反応だ。

二人の涙を見て釣られ一誠自身も泣きそうになりイリナとヴァーリを抱き締めた。

 

「必ず、僕は必ずこの町に帰ってくるよ。だからその時まで待っててくれる?」

 

「うん・・・・・うん・・・・・絶対だよ?」

 

「・・・・・待ってる」

 

涙を流すイリナとヴァーリも抱きしめ返し抱擁を交わす。

 

「イッセーくん、絶対に帰って来てよねっ」

 

「そうだよ。・・・・・待ち続けているから」

 

「分かってる。絶対にこの町に帰る。また再会したら遊ぼうね」

 

「「うんっ」」

 

イリナとヴァーリに手を振り続けて公園を後にした一誠は家に戻ると

丁度玄関にリーラとオーフィスが現れた。もう行く時間だと一誠は思い、

 

「行きましょうか一誠さま」

 

「うん、けどこれからどこに行くの?」

 

「冥界です。そしてこれから一年間お世話になる場所には堕天使のおじさんがいます」

 

「堕天使のおじさん?」

 

「はい、あの方は戦闘経験が豊富できっと一誠さまを強くして貰えますでしょう。

その為には冥界に行かねばなりません」

 

「どうやって?」と一誠は問うた。一誠が冥界に言ったことは赤ん坊の頃だけで

一誠を会いにわざわざ遠いところから来てくれる人達が多い。

冥界や天界と別の世界の異空間に言ったことは今まで一度もないのだ。

 

「迎えが来るそうです。その人と一緒に私達は冥界に行きます」

 

リーラと話していると、一誠の視界の前に魔方陣が出現して光と共に現れる不審な男が

不機嫌な顔で現れた。一誠は嫌そうな顔を浮かべ、警戒する。

 

「お待ちしておりましたコカビエルさま」

 

リーラの言葉に振り返る男は、視線を下に向けた途端に狂喜の笑みを浮かべた。

 

「・・・・・ほう、本当にオーフィスがいるんだな。前は老人の姿をしていたと

聞いていたが今の姿は人間のか。で、あの二人の人間の子供というのが・・・・・お前か」

 

赤い目が一誠を捉え、愉快そうに喉の奥から笑う男を警戒している様子を分かると、

 

「くくくっ、凄まじい力を感じる。こうして立っているだけで肌に感じて仕方がない。

あの時の赤子がなんとまぁ、おかしい成長をしたものだな。

だがそれも一興。精々強くなって俺を楽しませるぐらいになれ」

 

絶えず笑みを浮かべ続けるコカビエル。

 

「一誠さまは貴方の欲求を満たす為に強くなろうとしているわけではございません」

 

「ふん、だったらあの人間達で満たすまでだ」

 

不意に、足元に展開した魔方陣。目を丸くする一誠を余所に魔方陣はより一層に光る

強さが増す。

 

 

―――しばらくして、光が治まり一誠の視界が回復した頃には別の世界が視界に飛び込んだ。

空は紫色で、辺りは薄暗い。更に眼前には聳え立つ大きな建物が見える。

 

「よう、待っていたぜ」

 

黒と金の髪の中年男性が手を挙げて一誠達を出迎えた。

コカビエルは目の前の建物とは反対方向へ歩きだした。

 

「おい、コカビエル。どこに行くんだって」

 

「俺の勝手だ。後はお前の好きにすればいい」

 

黒い十枚の翼を生やして空へ飛んで行ったのを中年男性は溜息を吐いて見送った。

 

「しゃーねーな。さて坊主」

 

「久し振り、おじさん」

 

「おう、久し振りだな」

 

「これからお世話になりますアザゼルさま」

 

おじさんと呼ばれた中年男性はアザゼル。リーラ達を建物内へ招き入れどんどん奥へ進む。

 

「最初にイッセーには健康診断もとい身体の検査をする。

オーフィスの魔力もあることだし、魔力の扱い方もマスターしないとな。

それと神器(セイクリッド・ギア)もだ」

 

神器(セイクリッド・ギア)・・・・・?」

 

「なんだ、知らないのか?神器(セイクリッド・ギア)ってのは簡単に言えば神さまが

人間、もしくは人間の血を流す異種族のみに与える摩訶不思議な能力のことだ。

能力は様々で、中にはドラゴンだったり獣だったりそう言った生物の魂が封じられいている

神器(セイクリッド・ギア)があるんだ」

 

アザゼルから教えられる専門用語。説明され、なるほどーと一誠は納得してこう言った。

 

「じゃあ、僕の中にいるドラゴンもその神器(セイクリッド・ギア)なんだね」

 

ピタッ

 

「・・・・・なんだと?」

 

「一誠さま、今なんとおっしゃいました?」

 

足を停め、一誠に振り向くアザゼルとリーラに再度発した。

 

「僕の中にいるドラゴンと言ったんだけど・・・・・」

 

「・・・・・おい、オーフィス。イッセーの中にいるドラゴンは本当か?」

 

何故かオーフィスに確認するアザゼルの尋ねにオーフィスはコクリと頷いて肯定した。

 

「本当、イッセーの中に邪龍がいる。他にもう二匹も」

 

「―――邪龍だと!?」

 

アザゼルの行動は早かった。一誠を瞬時で掴み、どこぞの治療室の寝台の上に

寝転がせて身動きが取れないように拘束した後に寝台を囲む機械を操作し始めた。

そして何か分かったのか呻きだす。

 

「・・・・・マジか、邪龍の筆頭格の一角『魔煌の絶禍龍(カオス・ブレイカー・ドラゴン)』ネメシス。

しかも他のドラゴン共は有名なドラゴンじゃねぇか。何時の間に封印されていたんだ。

いや、そもそもどうしてイッセーの中に宿ったんだ?」

 

ブツブツと思考の海に潜ってしまったアザゼルを余所にようやく

追い付いてきたリーラが一誠の身を拘束する拘束具を解く。

 

「一誠さま、何時ドラゴンがいるとお気づきにならなれたのですか?」

 

「二週間ぐらい前だったかな・・・・・。急に話し掛けてくるようになって来たんだよ」

 

「どうしてそれを私達に申さなかったのですか?」

 

「・・・・・それどころじゃなかった。周りに苛められてあんな目に遭ったんだから」

 

そう言われ、物凄く申し訳なさそうに顔を曇らすリーラ。その中で異変を教えろと

言う方が無理があるかもしれない。

 

「おいイッセー」

 

思考の海から出てきたアザゼルに尋ねられた。身長的に一誠は見上げる形でアザゼルに

上目遣いで見るようになる。

 

「ネメシスはともかく、他の二匹のドラゴンがいることを説明してくれ」

 

「他のドラゴン?まだ僕の中にいたの?」

 

「・・・・・知らなかった?だが、一人の人間に一度で神器(セイクリッド・ギア)

複数宿る事例はない。あるとすれば後天的に他者から抜き取って

奪うしかないんだが・・・・・」

 

「一誠さまはそんなことしません」

 

「分かってる。だが、納得がいかないんだよ。

他にも神器(セイクリッド・ギア)があることも判明したしどうなってんだよこりゃ」

 

頭を引っ掻くアザゼル。しばらくしてアザゼルは息を一つ吐いて気を取り直す。

 

「何時までも分からないことに頭を悩ませても仕方がねぇ。

他の奴らにもこのことを報告するとして、

イッセーは神器(セイクリッド・ギア)を使った経験はあるか?」

 

「・・・・・ないよ。使い方もわからないし」

 

「ネメシスと会話できるぐらいなら発現できても当然なんだがな・・・・・。

いや、あんな家じゃ使えるもんも使えなくなるか」

 

「多分そうだと思います。一誠さまは本家でも全身に酷い傷を負い、

暗い森の中で寝ることも何度かありました」

 

「・・・・・お前、どんだけ酷い目に遭ってんだよ」

 

「弱いんだからしょうがないじゃん・・・・・。

大人も僕と同じ子に認められていないんだからさ」

 

不貞腐れ、寝台から降りてしまった一誠。「だったら」とアザゼルは一誠と目線が合うように跪く。

 

「お前は強くならなきゃならないな。この一年間、俺がお前を強くしてやる。

そんで見返してやれ」

 

「・・・・・お願いします」

 

深々と真紅の頭を垂らしお辞儀をする一誠に撫でるアザゼル。

 

「オーフィス、お前にもちょっとばっかし手伝ってもらうぜ」

 

「我、イッセーの手伝いをする。我、家族だから」

 

コクリと素直に頷いたオーフィスを顎に手をやって神妙そうに言うアザゼル。

 

「あの龍神がここまで言うとはねぇ。誠と一香、それにイッセーの魅力によるものか?」

 

「不思議な力に引き寄せられているのは間違いないでしょう。この私もその一人です」

 

「ははっ!そうかそうか。ま、俺もその中に入りそうだな。さて、イッセー。

多分今のお前ならネメシスの力を発現できると思うが試してみるか?

ネメシスは封印される前じゃあ、相手の動きや能力を封じる特殊な力を持っていたそうだ。

力こそはないが、その特殊な能力が故に例え神であろうと一時的に能力を封じることができた」

 

「へぇ、それって凄いの?」

 

「凄いぞー。なんたって自慢の攻撃が封印されたら攻撃ができなくなるし、

相手は無防備になるんだ。攻撃ができない相手に倒すことはどれだけ簡単だと思う?」

 

アザゼルの説明を聞き、感嘆の声を漏らす。攻撃=能力を封印する。そうすれば相手を

もっと簡単に倒すことができると頭の中で復唱していると、催促の声が掛かった。

 

「ほら、やってみろ」

 

「どうやって?」

 

神器(セイクリッド・ギア)は宿主の想いに応えてくれる規格外な力だ。

だからお前が強く何かをしたいと思えっていればお前の気持ちに応えてくれる」

 

「・・・・・」

 

「今出来なくても時間はたっぷりある。ゆっくり時間を賭けて―――」

 

ガチャッ

 

「アザゼル、例の子供は来たか―――(ジャラララッ!)ぁぁあああああああっ!?」

 

「あ、バラキエル」

 

「あ、できた」

 

「しかも亀甲縛りに鎖ですか・・・・・」

 

「イッセー、できた」

 

入って来た大男の身体は、空間が波紋のように歪みつつ光りながら

飛び出した鎖によって拘束された。最初は当惑していたが次第に恍惚の表情を浮かべ

「イイ・・・・・」と漏らす始末。

 

「一発でできたか。幸先がいいなこれは」

 

「これでいいの?」

 

「そうだ。良くできたなー。因みに聞くがどうして鎖なんだ?」

 

「動きを封じるって言ったから鎖が良いかなって思った」

 

「なるほどな。バラキエルには災難だったが・・・・・当のこいつは思わぬ快感を

得ちまったな」

 

一瞬で光の槍を具現化したアザゼルはあっさりと大男の身体に巻きついている鎖を斬り捨てる。

 

「おい、子供の前で何て顔をしてんだ。朱乃にバラすぞ」

 

「はっ!?」

 

意識を取り戻し、素早く立ち上がり気まずい雰囲気を感じる暇もなく一誠達に話しかけられた。

 

「お久しぶりでございますバラキエルさま」

 

「あ、ああ。誠と一香の従者だったな。そしてイッセーくん。久し振りだ」

 

「ごめんなさい、痛くなかった?」

 

「大丈夫だ。寧ろ―――いや、なんでもない」

 

「バラキエル、おかしい」

 

「元々こいつはそうなんだよオーフィス」

 

新たなアザゼルの仲間が現れたことでバラキエルという大男はアザゼルにあることを尋ねた。

 

「アザゼル、ここに来ているということはそう言うことでいいのだな」

 

「ああ、最初は俺たちが鍛える。こいつは世界で唯一真龍と龍神の力と肉体を持つドラゴンだ。

くくくっ、鍛え甲斐があるというやつだぜ。こんなドラゴンはもう

これから先現れないだろうからよ」

 

目を爛々と輝かせ一誠を見詰めるアザゼルにバラキエルはある提案を述べた。

 

「ならば寝泊りする場所も確保しなければなるまい。

アザゼル、朱璃と朱乃がいる俺の家に住まわせるがいいな?」

 

「別に構わないがいいのか?あいつらに断わりも無く勝手に決めてよ」

 

「説得するだけだ。それに朱乃に友達を接する幸せを与えたい」

 

「・・・・・そうか」

 

バラキエルの提案を特に否定もせず「念のためにこっちも用意しておく」と言うだけで

話はついた。

 

「では、来たそうそうで悪いが俺の家に来てもらおう」

 

「お世話になります」

 

感謝の意を籠めて頭を短く下げた途端に魔方陣が出現してアザゼルの目の前から姿を消した。

 

「兵藤一誠・・・・・か。あいつ将来とんでもねぇ化け物になりそうだ」

 

「帰った」

 

「ん?おー、帰って来たか」

 

「・・・・・誰かいたのか?」

 

「擦れ違ったな。ま、明日になれば会えるだろう」

 

「誰と?」

 

「それは明日になってからのお楽しみという奴だ」

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

平屋建ての小さな家の前に一つの魔方陣が発現して光と共に一誠たちが現れた。

 

「ここが俺の家だ」

 

バラキエルはそれだけ言い、家の玄関の扉を開け放った。

その音に反応してかトタトタと軽い足音が近づいてきて、玄関に現れた。

 

「お父さま!」

 

「おお、朱乃。ただいま。良い子で待っていたか?」

 

「うん!あれ、この人たちは誰なの?」

 

背中まで伸びた黒い髪に紫の瞳の少女。バラキエルの娘、

朱乃の瞳は一誠たちに真っ直ぐ向いていた。バラキエルは「朱璃は?」と問い、

 

「お部屋にいるよ」

 

「そうか、朱乃も教えないといけないことがあるから一緒にいなさい」

 

「はーい」

 

返事をする朱乃。バラキエルは一誠たちを家の中へ招き入れ居間に案内した。

 

「朱璃、帰ったぞ」

 

「お帰りなさい。あら・・・・・この方たちは?」

 

「俺の友人の子供と従者だ。訳があってな、しばらく俺たちが預かることになったんだ。

朱璃、この家に一緒に住まわせてもらえないか?」

 

朱乃に似た女性が一誠たちを見詰め、バラキエルが頼み始めた。いきなり一緒に

住まわせて欲しいと言われて渋るか、悩むんじゃないかって一誠は思っていたが。

 

「ふふっ、わかりました。朱乃にお友達ができるわね」

 

「お友達?母さま、どういうこと?」

 

「朱乃、今日からこの人たちは私たちと一緒に暮らすことになったの。

あの男の子と女の子は朱乃のお友達になってくれるはずよ」

 

「友達・・・・・」

 

ジッと、朱乃は一誠とオーフィスを見詰め恐る恐ると言った。

 

「朱乃と、友達になってくれる?」

 

瞳に不安の色が浮かび、尋ねる朱乃に一誠はリーラを見た。

リーラは視線を向けてくる一誠に優しく言った。

 

「大丈夫です。仲良くなれますよ」

 

「・・・・・分かった」

 

ゆっくりと朱乃に手を伸ばす一誠。

 

「僕、兵藤一誠。よろしくね」

 

「っ!」

 

パァと顔を明るくし朱乃は一誠の手を掴んで、

 

「姫島朱乃だよ!よろしくね一誠!」

 

「我、オーフィス」

 

「よろしくねオーフィスちゃん!」

 

オーフィスの手も掴んで嬉しそうに笑みを浮かべた。

「お外で遊ぼうよ!」と朱乃に引っ張られる形で一誠とオーフィスは今からいなくなった。

 

「大変お喜びのようですね」

 

「ええ・・・・・やっぱり同年代の子供と遊ばせる喜びが感じることができて嬉しいようね」

 

「あの子には感謝しなければな。リーラ殿、狭く質素な家だが妻と娘をよろしく頼む」

 

「はい、朱璃さまと朱乃さまは私にお任せくださいませ」

 

三人同時に頭を下げ、一誠たちの新しい生活は今始まった。



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エピソード4

バラキエルの家族の家に夜を過ごして翌朝。

 

「いやだー!今日も一誠くんとオーフィスちゃんと遊びたいの!」

 

朱乃の我がままの声が一日目の生活が始まった。

 

 

 

 

 

「で、親バカなバラキエルさんよ。結局お前は連れて来てしまったわけだ」

 

「・・・・・すまん」

 

「たった一日でもうイッセーは朱乃に気に入られたってか。将来、女キラーになるんじゃね?」

 

「あの子はお前のようなやつにならないっ!」

 

「それはどういう意味だバラキエル!」

 

失礼な物言いを言ってきたバラキエルに不機嫌な面持になるアザゼルの横から。

 

「大勢の女性を手に掛け、誰一人として結ばれようとしない女癖が

神クラスのアザゼルさまのように一誠さまはならないとバラキエルさまは申しております」

 

「第一印象・・・・・毒舌を吐くような女じゃないと思ったんだがな・・・・・」

 

「否定できる材料がございますのであればどうぞ申し上げてください」

 

冷たい視線をくるリーラから逃れるように顔を逸らすアザゼル。

そしてこの話を逸らす材料はないかと必死に思考を張り巡らし、

アザゼルに「?」と疑問符を浮かべている一誠たちを見て・・・・・。

 

「よーし、イッセー。修行を始めるぞ!俺について来い!」

 

「「逃げた・・・・・」」

 

一誠を荷物のように脇で抱えてどこかへとこの場から逃げるように

魔方陣を展開して光と共に去って行った。

 

「アザゼルおじさん、ここはどこなの?」

 

「昨日、知り合いに頼んでお前に相応しい師匠との待ち合わせばだ」

 

「アザゼルおじさんが師匠じゃないの?」

 

「俺もそうだぞ。だが、俺の専門は神器の扱い方やそれに関する指導だ」

 

どこかの山の山岳にいた。そこで誰かと待ち合わせの様子。

後にリーラやオーフィス、朱乃もバラキエルに送られて山岳に現れた。

 

「アザゼル、ここで何をするつもりだ?」

 

「ああ、サバイバルだ。そろそろ来る頃だが・・・・・」

 

空を見上げるアザゼル。その仕草に誰もが不思議そうに釣られ、視線を紫の空へ見上げた。

すると、オーフィスが一言。

 

「懐かしい龍の波動」

 

アザゼルたちの視界に巨大な影が空に、こちらへ猛スピードで向かってくる。

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

地響きと共にそれは目の前にそれは目の前に飛来してくる。盛り上がった地形にいた為、

一誠と朱乃のような小さい身体の子供は地面に転んでしまった。

土煙が舞い、それが収まった後、眼前に現れたのは―――。

 

「・・・・・ドラゴン?」

 

「おう、お前と同じドラゴンだ。元がつくがな」

 

ニヤニヤと口角をアザゼルは上げながら述べた。全長十五メートルほどある巨大生物。

大きく裂けた口、生え揃う凶暴そうな牙、野太い腕に、丸太みたいに太い脚、

横に広がる両翼。目の前のドラゴンは目元を細め、

 

「これはなんの冗談だ。オーフィスにあり得ないドラゴンが目の前にいるなどとても信じられん」

 

「タンニーン、久しぶり」

 

「お、大きい・・・・・」

 

「ドラゴン・・・・・」

 

オーフィス、朱乃、一誠と順に漏らす。目の前にドラゴンがいると一誠は目を輝かせ、

朱乃は初めて見る凶暴そうな生物に委縮して一誠の背中に隠れる。

―――その様子をバラキエルは物凄く複雑そうで表情にも浮かばせるほどだった。

 

「アザゼル、よくもまあ悪魔の領土に堂々と入れたものだな、

と言いたいところだが俺の疑問を解消してくれるな?」

 

「オーフィスの存在と、イッセーのことだろう?」

 

「ああ、そうだ」

 

タンニーンと言うドラゴンは頷き、ジッと一誠とオーフィスを見詰める。

 

「オーフィスはイッセーの親と交流していてな、訳あってオーフィスはイッセーと共にいるんだ」

 

「その理由は後ほど聞こう。それでこの者についてだ」

 

「イッセーは死に掛けたんだ。自分の兄貴にやられてな。

丁度そこへオーフィスが現れてイッセーはあの両親の子供だと知り、

自分じゃ助けれないからグレートレッドに助けを求めた結果、

グレートレッドの肉体の一部とオーフィスの力を得て復活した訳だ」

 

「・・・・・本当なのかオーフィス」

 

「本当。我、グレートレッドに助けを求めた」

 

一誠の命を救ったオーフィスがハッキリと肯定する。

オーフィスに向ける視線を一誠に戻し、ガリガリと頭を掻いた。

 

「どうしてグレートレッドまで出てくるのが不思議でならないが、

お前たちの話は本当なのだろう。でなければその小僧からオーフィスとグレートレッドの波動を

感じるわけがない。―――長く生きて様々なドラゴンを見てきた俺がこんなに驚く

ドラゴンが生まれるとは驚愕を通り越して実に愉快だ」

 

「だろう?俺もコイツに興味津々でしょうがないんだ」

 

「で、俺は何をすればいい。俺を驚かせたくて人伝で呼んだのではないのだろう」

 

「ああ、イッセーにドラゴンの力の使い方を一から教えてやって欲しいんだよ」

 

アザゼルはタンニーンにそう頼み込む。「ドラゴンの力?」とイッセーは小首を傾げる。

 

「今のお前はドラゴンだ。それはもう分かってるな?」

 

「うん、何度も聞くし」

 

「だからお前を強くするにはドラゴンの力も勉強しないといけない。分かってくれるな?」

 

「分かった」

 

素直に頷いて納得する一誠。子供の判断力は若干危うい。

 

「普通に聞き受けるなその小僧。何一つ疑うという感じがしないぞ」

 

「アザゼルおじさんは僕を強くしてくれるって約束したんだもん」

 

瞳の奥から純粋な光が見え、タンニーンはアザゼルに一言。

 

「アザゼル、子供の純粋を付けこんで弄ぶではないぞ」

 

「俺はどこまで外道な奴なんだよ!?つーか、信用しろ!」

 

「ん、僕は信用してるよアザゼルおじさん」

 

「・・・・・お前の言葉を聞くと、目から汗が出てくるぜ」

 

キラリとアザゼルの目に光る何かが―――。

 

「しかし・・・・・小僧の中にいるドラゴンもまた興味深いものだ。聞こえているのだろう?」

 

一誠に、いや一誠のうちにいるドラゴンに語りかけるように話しかける。

すると、山岳地帯に三つの巨大な魔方陣が出現してそこから巨大な生物が出現した。

 

「うわ!ドラゴンだ!」

 

『やはり驚いたか。いや、私たちもまた驚いているがな』

 

「封印されているにも拘らず龍門(ドラゴンゲート)から出てくるとはな」

 

『この子が有する魔力がとても膨大ですのでね。その魔力を借りることで現世に出れるようになったのです』

 

『オーフィスの魔力による恩恵、だな』

 

前足が長い背中に六枚の金色の天使のような翼を生やし、

頭上に金色の輪後輪がある全身が金色のドラゴン、

 

凶暴で獰猛そうな血のように赤い目の全身が紫なドラゴン、

 

肩に突起物のようなものが二つある他、背中と肩、腕や太ももにも赤黒い輪後光が

二重にあって体は尾と繋がっており、四対八枚の翼に黒が赤に浸食された感じで

入り混じっていた。手首と足の甲に鋭利な刃物状な物が生えて頭部に鋭い一本の角にも

赤黒い二つの輪後光がある。胸に妖しく光る赤い宝玉のようなものがある

ドラゴンたちの姿が晒す。

 

『すっかり悪魔に慣れたようだなタンニーン』

 

「ふん、あの邪龍の筆頭格の一角のお前が封印されていたとは知らなかったぞネメシス」

 

「邪龍?なにそれ?」

 

タンニーンの会話に気になった単語を復唱した一誠をアザゼルは説明口調で言う。

 

「邪な龍、または邪悪な龍と言う。普通のドラゴンより凶暴で力も強い。

お前が宿していたこの邪龍は他の邪龍より凄い邪龍なんだ」

 

「じゃあ、他にどんな邪龍がいるの?」

 

アザゼルの説明を真摯に訊き、目を輝かす。

 

「一番有名なのは『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハ、

魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザント・ドラゴン)』アジ・ダハーカ、

原初なる晦冥龍(エクリプス・ドラゴン)』アポプスだな」

 

「おお・・・・・っ!」

 

「・・・・・おい、まさかだと思うが会いたいなんて思っちゃいないよな?」

 

「ダメなの?」

 

思わず額に手を当てるアザゼル。ドラゴンに、それもドラゴンの中でも

最も出会いたくないドラゴンを求め始めた一誠に。理由はきっと単純だろう。

 

「会ってどうしたい?」

 

「見てみたい!」

 

珍しいものを見る目で瞳を輝かせる一誠。邪龍を可愛い動物でも

思っているのではないかとアザゼルは危惧する。

 

「無理だ。今言った三匹は今どこにいるか分からないし、

アジ・ダハーカに至ってはどこかに封印の形で退治されたって話だ」

 

『クロウ・クルワッハなら、生前見掛けたことがあるがな』

 

「なに?あの邪龍、まだ生きていたのか?」

 

『人間の姿でな、人間界と冥界を行き来して見聞しているそうだ。修行を兼ねてな』

 

とんでもない情報を入手した。邪龍の筆頭格の一匹はまだどこかに生きているという情報を。

 

「あのドラゴンはまだ退治か封印されていなかったのだな。意外だ」

 

『邪龍の中で最強の邪龍だぞ。そう簡単にやられはしない』

 

「それもそうだな。さて、話はここまでにして修行を始めるか」

 

「具体的にどんなことするの?」

 

「なに、俺と勝負をするのさ」

 

タンニーンは目を細めながら口角を上げる。

対してそんなタンニーンを品定めするように視線を上下に動かして一言。

 

「・・・・・身体の大きさが全然違うんだけど」

 

「身体の大きさが問題ではない。お前はグレートレッドの肉体で作られた身体を

有しているんだ。人間だった頃よりはかなり頑丈で丈夫な身体になっているはずだ」

 

「そうなの?全然分からないんだけど」

 

「ああ、取り敢えず俺を殴ってみろ」

 

そう言うタンニーンの言う通り一誠は、殴りかかった。身体の大きさが違い過ぎる故に、

一生懸命走ってくる一誠を見下ろすタンニーンは、

 

「えいっ!」

 

ドッ!

 

「ぬっ!?」

 

地面を抉りながら十メートル先まで吹っ飛んだ。タンニーンの足は巨大な為、

タンニーンにとってはちょっとしか吹っ飛ばされていない感覚だが、

アザゼルたちは目を丸くして開いた口が塞がらないでいた。

 

「・・・・・こいつは驚いたな。見掛けに反して凄い力だ」

 

プラプラと殴った手を振るう一誠を見据え、「末恐ろしいドラゴンだ」と心の中で漏らした。

 

「(今はともかく将来性を考え下手すると生前の二天龍を上回る強さになるかもしれん)」

 

それは本人次第だがなと付け加え、一誠にこう言った。

 

「新米のドラゴンのお前に俺たちドラゴンの戦いを教えてやる。覚悟しろよ」

 

「お願いします!」

 

 

―――○●○―――

 

 

「つ、疲れた・・・・・」

 

「だ、大丈夫・・・・・?」

 

「なんとか・・・・・想像していた修行より凄かった・・・・・」

 

堕天使の領土にあるとある建物の一室にうつ伏せで倒れる一誠に朱乃は心配そうに

見詰めていた。その背にちょこんとオーフィスが乗っかっている。

 

「何時もしていた修行より過酷・・・・・」

 

「一誠くん、大きな火の球から逃げてばっかりだもんね」

 

「ドラゴンの身体だからってアレは熱いよ」

 

「タンニーンの力、魔王並み」

 

「魔王ってどれぐらい強いの・・・・・?」と漏らす一誠。

朱乃は純粋な眼差しで一誠に言葉を放った。

 

「でもでも、お父さまも驚いていたよ?『まだ小さいのに良くあれだけ動けるな』って」

 

「イッセー、頑張った」

 

「それ、褒めているの・・・・・?」

 

「「褒めてる」」

 

二人同時に言われ、「そうか」と短く言うだけで、眠気が徐々に一誠を襲う。

 

「眠い・・・・・」

 

「じゃあ、一緒に寝る?」

 

朱乃がそう言った時、扉が開いた。一誠はリーラさんかな?と思って目を扉に向けると、

予想していた人物ではない人物が信じられないとした表情と共に目を丸くしていて

一誠を見詰めていた。

 

「・・・・・なんで、ここに・・・・・?」

 

「え、ヴァーリ?」

 

「・・・・・」

 

ダークカラーが強い銀髪の子供、一誠の友達であるヴァーリがいた。

お互いここにいるとは露も思わず、

しばらく呆然としていたがヴァーリが先に動いた。

 

「一誠・・・・・!」

 

「わっ」

 

オーフィスが背に乗っかられたまま身動きが取れない一誠に飛び付くヴァーリ。

誰もヴァーリを止める者は存在しないかと思えば、

 

『待てヴァーリ』

 

「青い、翼・・・・・?」

 

突如広がるように光る青い翼が生え出して声と共に青い翼が点滅する。

その声に制止され、ヴァーリは不機嫌な顔だけ後に向ける。だが、翼は言い続ける。

 

『久しいな、オーフィス』

 

「久しい、アルビオン」

 

青い翼に返事をするオーフィスに一誠と朱乃、ヴァ―ルが「うん?」と小首を傾げた。

 

「オーフィス、ヴァーリはアルビオンって名前じゃないよ?」

 

「アルビオン、オーフィスとは?」

 

一誠とヴァーリから疑問をぶつけられるも、オーフィスは一誠に答えた。

 

「違う、あの翼がアルビオン。イッセーと同じドラゴンを宿してる」

 

「えっ、ヴァーリもドラゴンを宿してるの?」

 

「・・・・・っ」

 

ビクリと身体を震わせ、何かに脅えるように小さく頷いた。オーフィスを背からどかして

ヴァーリに近づいた一誠は、

 

「僕と同じだねヴァーリ!なんか嬉しい!」

 

「・・・・・え」

 

満面の笑みを浮かべる一誠に「どうしてそんな反応をするんだ?」と

心底不思議そうに目を丸くした。

 

「受け入れて、くれるの?」

 

「ん?ヴァーリはヴァーリでしょう?ねね、どんなドラゴンを宿してるの?僕は邪龍と二匹のドラゴンだよ」

 

『邪龍だと?いや・・・・・やはりそうだったか』

 

青い翼は点滅しながら納得したとばかり自己完結する。

 

「一誠・・・・・」

 

「なに?」

 

「怖がらない・・・・・?ドラゴンを宿している友達に」

 

「それだったら僕のことどう思うのさ。僕自身、ドラゴンみたいなんだよ?」

 

「まだドラゴンらしいことはできないけどさ」と一誠は少し残念そうに言う。

 

「一誠が・・・・ドラゴン?」

 

『間違いないぞヴァーリ。この人間、龍が放つオーラを感じる。完全にドラゴンだ。

ただし、人型ドラゴンと言った方が良いだろう』

 

「イッセーは、グレートレッドの肉体の一部と我の力で復活した」

 

『イレギュラーなドラゴンだ。そんなドラゴンが成長したら二天龍より上回るではないか?』

 

「イッセーはグレートレッドの子供。でも、誠と一香を悲しませたくないから

我の力も与えた。だからイッセーは我と同じ存在」

 

『真龍と龍神の子供か。ドライグが聞いたらさぞかし驚くだろう』

 

アルビオンから「ドライグ」という名を聞きオーフィスに誰なのか一誠は聞いた。

 

「ドライグはアルビオンと同じ存在、ドライグとアルビオンは二天龍と呼ばれている」

 

「じゃあ、ドライグとアルビオンはどれだけ強いの?」

 

「我より弱い」

 

「・・・・・?」

 

オーフィスが強い?と不思議そうに小首を傾げる一誠だった。

そんな仕草を窺わせる一誠にアルビオンは声を掛けた。

 

『イッセーとやら。オーフィスのこと知らないのか?』

 

「オーフィスはオーフィスでしょ?」

 

『・・・・・どうやら知らないようだな』

 

アルビオンは一誠の反応を読み取り、オーフィスのことを説明した。

 

『オーフィスはお前と同じドラゴンだ。「無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)」オーフィス。

無限の体現者であり、俺とドライグ、二天龍を上回るドラゴンの中で最強のドラゴンだ』

 

「ん、アルビオンの言う通り」

 

「へぇ、オーフィスってドラゴンなんだねぇー」

 

『さっきからそう思わせぶりな発言を発していたんだがな。しかも軽く受け入れられているし』

 

「だって、オーフィスは僕の家族だもん」

 

ギュッとオーフィスを抱きしめながら笑む一誠。オーフィスもまた一誠を抱き締めた。

 

「むーっ」

 

「朱乃ちゃん?」

 

「朱乃のお家に一緒に住んでいるのに朱乃は一誠にとって家族じゃないの?」

 

頬を膨らませる朱乃。何だか仲間外れされている気分で瞳を潤わせ、

今にでも泣きそうな顔をする。その顔を一誠に向けて答えを言うまで待っていると。

 

「違うよ」

 

「え?」

 

一誠から「違う」と言われ、心の底からショックを受けた。

家族=友達と認識している朱乃にとって否定される事はどれだけ酷く―――。

 

「今のはアルビオンにそう答えただけで、朱乃ちゃんは僕と一緒に寝たからもう家族なんだよ?」

 

「っ!」

 

泣き顔から一変して明るい顔と成り、朱乃は一誠に抱きついた。

 

「朱乃も!朱乃も一誠と家族だからね!」

 

「イッセー、我も」

 

「分かってるよ」

 

抱き合う三人を見詰め、羨望の眼差しを向けるヴァーリ。

何だか自分と一誠がいる距離と立場が違うと思わされ、

静かにここから離れようと足が動いた時、

 

「ヴァーリ!」

 

背中から抱きついてきた一誠に驚くヴァーリ。

 

「どこに行こうとするのさ?ヴァーリも僕の家族なんだから一緒にいようよ?」

 

「・・・・・家族?」

 

「うん!仲が良い友達はみんな家族だってお父さんとお母さんが言ってたもん。

だからヴァーリも僕の家族だよー」

 

 

 

 

 

「良かったですねアザゼルさま」

 

「何がだ」

 

「ヴァーリさま、喜んでいますよ?」

 

「ふん、あいつはイッセーの傍にいるだけで喜ぶんだよ」

 

「当然です。一誠さまは優しいのですから」

 

「それで無自覚で自分に好意を抱かせた後が大変だと言うことをあいつは知らないんだぜ?」

 

「大丈夫です。最後はどうなろうとアザゼルさまのようにだけはなりませんし

させませんから」

 

「・・・・・お前、嫌いだ」



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エピソード5

「アザゼル」

 

「珍しいな、お前から俺に話しかけてくるなんてよ。んで、なんだ?」

 

「あの人間のガキの成長はどうだ?」

 

神器(セイクリッド・ギア)の方は俺から教えてやってるぜ。

ドラゴンとしての戦い方はタンニーンに任せている」

 

「ほう、あの元龍王か。それなら期待できるが強くなっているのか?」

 

「まだまだ成長は止まらないって言わせてもらう」

 

 

―――○●○―――

 

 

「当たれっ!」

 

真紅の光が一筋に空に浮いているタンニーンに向かう。

 

「いい塩梅だ!だが、それだけでは相手に当たらんぞ!」

 

軽く避けて口から連続で火炎球を地上にいる一誠に向けて放つタンニーン。

まだ空を飛べない一誠は地上で這いずり回る様に動いて避けたりドラゴンの力で防いだりして

まるで龍虎の戦いを思わせる戦闘をしている。―――しばらくして、

 

「空飛ぶなんてズルイ!」

 

休憩中、一誠がタンニーンに向かって文句を言うのだった。朱乃やオーフィスもいる。

 

「何を言うか、お前とて空を飛べるのだぞ」

 

「翼、出ないもん」

 

頬を膨らませて抗議する。ドラゴンとして復活したから一度も翼が生えたことはない。

どうやって出すのか信頼している大人に訊いてもその人物ではない為に

結局ちんぷんかんぷんで空を飛べないでいた。

 

「何度も空に落としてもらっても出せないし・・・・・」

 

「今時の子供が自分から地上から千メートルの高さから落として欲しいと願う奴も

珍しいと思うがな」

 

「だって、落ちるまで空にいるしその間翼を生やすことができるんじゃん」

 

「理解はできるがこれはお前自身の問題だ。お前にはまだ時間はたっぷりあるのだから

焦らずにできるようになればいい」

 

「はーい」

 

つまらなさそうに返事をする。その光景は父と子に見えなくはない。

ただし、ドラゴンと人間の子供でなければみえていたはずだろう。

 

「ねぇねぇ、タンニーン。ドラゴンって他にいるの?」

 

「ああ、俺の領土に行けば色んなドラゴンがいるぞ」

 

「そうなんだ。僕、色んなドラゴンに会いたい!」

 

「お前もドラゴンだがな」

 

「まーね。でも、人間じゃない色んな種族と友達になるのって楽しいな」

 

「ほう、どんな種族と出会っているのだ?」

 

好奇心から来た質問をするタンニーンに「うーんとね」と一誠は答えた。

 

「エルフとかドワーフとか、妖精とか。あと、海の神さまのお城にいる人魚とか色々!」

 

「・・・・・人間だった頃のお前はどうやったらそれだけの種族と出会えるのだ」

 

絶句したタンニーンであった時に地面に光が走り、やがて陣が描かれ赤く光り出した。

 

「あの魔方陣の紋様は・・・・・」

 

魔方陣の光が弾けた。光が止むと魔方陣が出現した場所に

赤い髪の青年が佇んでいたのを一誠の視界が捉える。

 

「やぁ、久し振りだね」

 

「やはりサーゼクス、お前だったか」

 

タンニーンが現れた青年に話しかける。そして一誠にもサーゼクスは声を掛けた。

 

「一誠くん、久し振り元気にしているかな?」

 

「サーゼクスお兄ちゃん!」

 

一誠が元気よくそう呼んだ次の瞬間。

 

「・・・・・ふふっ、やはり兄と呼んでもらうこの喜びは堪らないな」

 

サーゼクスの顔がだらしないほど緩くなった。

 

「お前は何て顔をしているのだ。それで、様子を見に来ただけではないのだろう?」

 

呆れ顔で盛大に溜息を吐いたタンニーンの言葉にキリッと顔を整えだし頷く。

 

「そうだね、ルシファーさまから様子を見て報告書を提出してくるように

言われているが実はね?」

 

もう一つ赤い魔方陣が現れ、赤い髪の少女が出現した。

 

「彼にリアスを会わせたくて」

 

「既成事実など企むなよ」

 

「なんのことだろうか?」

 

タンニーンとサーゼクスが話している間にリアスという少女は一誠の顔を覗きこんでいた。

 

「私の髪と同じ色なのね。目はなんだか獣みたい」

 

「えっと・・・・・」

 

「ね、名前なんて言うの?私はリアス・グレモリー」

 

「兵藤一誠だよ」

 

「じゃあ、イッセーで決定!」

 

いきなりそう言われ、そんなリアスに戸惑う一誠。

 

「ねぇ、私と遊ばない?」

 

「え、ダメだよ。僕、強くなるために修行しているんだ。今は休憩中だけど」

 

「じゃあいいいじゃない。ね、遊びましょ?」

 

困ったように一誠はタンニーンに助けを請う。

 

「タンニーン、どうしよう」

 

「遊んでやるがいい。この山はグレモリー、つまりサーゼクスの家の物なんだ。

山を貸してくれるグレモリーの者に感謝の意味を籠めて言うことを聞くことも大事だぞ」

 

「・・・・・分かった」

 

「やった!お兄さま、お家に連れてって!」

 

「ああ、いいよ。だけど、この子たちも入れてあげなさい」

 

朱乃とオーフィスに視線を向けるサーゼクス。リアスは二人を見て直ぐに頷いた。

 

「それじゃタンニーン、しばらく彼はグレモリー家に預からせてもらうよ」

 

「一時間後、この山に連れてきてくればアザゼルが迎えに来てくれる」

 

「分かった」

 

一誠、オーフィス、朱乃はサーゼクスとリアスの家に行く事と成った。

サーゼクスが発動する魔方陣の光に包まれ視界は真っ白に染まり何も見えなくなるが、

あっという間に巨大な洋風の城の門前が見えた。

 

「え、何時の間に?」

 

「ふふっ、もう少し大人になったら分かるよ」

 

「もしかして、サーゼクスお兄ちゃんが?」

 

「そうだよ?」

 

一誠の瞳にキラキラと光が宿り、まるでサーゼクスがヒーローのように見えてきたらしいのか、

 

「サーゼクスお兄ちゃん、凄い!格好良い!」

 

「ふふふっ!そうかい?いやー、照れるなぁー!」

 

「私のお兄さまは凄いから当然よ!」

 

「モテモテだな私は!よーし、お兄ちゃんが良いものを見せてやろう!リアスと一緒に

待ってていなさい!」

 

ふはははっ!とサーゼクスは高笑いをしながらどこかへと行ってしまった。

一誠たちはリアスの先導の下で城の中に入るのだった。

 

「大きいお家だねリアス」

 

「そう?これが普通じゃないの?」

 

「僕が前に住んでいた家と違い過ぎるよ」

 

「朱乃の家と全然違う」

 

「広い」

 

と、そう話しながら歩いているとリアスの家に仕えるメイドと出会った。

 

「お嬢さま、サーゼクスさまはどちらに?」

 

「グレイフィア。お兄さまは笑いながらどこかに行ってしまったわ」

 

「姉から伝言を承っていたのですがそうですか・・・・・。ところで、その方々は?」

 

一誠たちに目を向ける。心なしか、警戒心を目に宿している。

そんなこと露知らない一誠はペコリと頭を下げた。

 

「こんにちは、僕兵藤一誠です。こっちはオーフィス、こっちは姫島朱乃」

 

「兵藤一誠・・・・・オーフィス・・・・・っ!」

 

グレイフィアは目を丸くするも冷静になり自己紹介した。

 

「私はグレモリー家にお仕えするメイドのグレイフィアと申します。お聞きしますが、

兵藤一誠さまは兵藤誠さま、兵藤一香さまの子供でしょうか?」

 

「あれ、父さんと母さんのこと知っているの?」

 

「はい、この城に何度も来訪しにきますので」

 

「そうなんだー」

 

「リアスさま、お帰りになられたのであれば旦那さまにお伝えしないといけませんよ」

 

「うん、分かってるわ。一誠、いいかしら?」

 

リアスからの訊ねに問題ないと頷いて、グレイフィアも同行する事になり幾つものの

扉を素通りして目的の扉には開け放った。

 

「お父さま。お母さま。ただ今戻りました」

 

入るなり挨拶をするリアス。白いシーツが敷かれた大きな横長のテーブルに天井は

豪華絢爛なシャンデリアが吊るしていて、赤い髪の中年男性と亜麻色の髪を伸ばす

若い女性が椅子に座っていた。

 

「あら、リアス。早いお帰りね」

 

「おや、お友達かな?」

 

「うん、兵藤一誠とオーフィス、姫島朱乃って言うの」

 

「「なっ!?」」

 

リアスの両親が同時に立ち上がった。

その驚きように何かいけないことをしたのかとリアスの表情に焦りと不安の色が浮かぶ。

だが、それは杞憂に終わった。リアスの両親は一誠に近づき、

 

「一誠くんか!髪と目が変わっているが顔つきは変わっていないな!」

 

「あの可愛い子がこんなに育ってビックリしたわ!」

 

えーと・・・・・?一誠は困惑していた。見ず知らずの大人たちに、

まるで誠と一香のように接してくる。

今回が初めて会うリアスの両親から自分の子供のように可愛がられる中、

 

「ああ、ごめんなさいね?覚えていないでしょうけど一誠くんがまだ赤ちゃんだった頃、

貴方の両親に抱かせてもらったことがあるの」

 

リアスの母親からそう教えられ、納得した一誠。

 

「その時はリアスも一緒だったんだ」

 

「え、そうなの?」

 

父親の一言に気になって問うとリアスの母親が肯定した。

 

「そうよ?だけど、一誠くんの髪、リアスと同じ鮮やかな赤い髪ね」

 

「サーゼクスから話は聞いていたが、なるほど・・・・・ドラゴンの力を感じるな。

これは将来が楽しみではないか」

 

「あなた、それじゃ―――」

 

「ああ、そろそろ―――」

 

急に声を殺して何か会話をする二人に幼少組+ドラゴンは首を傾げたその時、

外から何やら音が聞こえた。全員が城から出て庭に足を運ぶと、

 

バッ!

 

「デビルレッド!」

 

「デビルブルー!」

 

「デビルグリーンだよ~」

 

「デビルピンク♡」

 

「デ、デビルイエロー・・・・・」

 

 

「五人揃って!」

 

 

「「「「「デビル戦隊デビレンジャー!」」」」」

 

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 

五色のスーツと覆面を全身に見に包む五人の男女がそれぞれポーズをした後に、

キメ台詞と共にキメポーズをした瞬間背後に大爆発が生じた。

 

「お、お姉さま・・・・・不憫です・・・・・」

 

グレイフィアは何故か同情していたが、逆に一誠は目を爛々と輝かせ高々に声を上げた。

 

「格好良いっ!」

 

「不思議」

 

「えーと・・・・・」

 

「デビレンジャー!」

 

四人の少年少女たちの反応は様々であった。リアスの両親は溜息を吐きながらも苦笑を浮かべ、

ワラワラと現れた怪人たちと急な展開のバトルに一誠たちは最後まで応援をしている

中で興奮気味に観覧したのだった。

 

―――○●○―――

 

「それでねそれでねサーゼクスお兄ちゃん!デビルレッドが格好良く蹴りやパンチをしたの!」

 

「ふふふ、そうかそうか。私もデビルレッドと共に戦って怪人たちと戦ってみたかったものだ」

 

「お兄ちゃんはどこに行っていたの?」

 

「ゴメンね?ちょっとお仕事で行かないといけなかったんだ」

 

リアスの家に来てかれこれ三十分が経過した。興奮が収まらない一誠に何時までも

笑みを絶やさないサーゼクス、

二人は何時までも話を続けていると頬を膨らますリアスが異議を唱えた。

 

「一誠、お兄さまと話しばかりじゃなくて私と遊びましょうよ!」

 

「あっ、そういえばそうだったね。でも、何して遊ぶの?」

 

「私の部屋に来れば遊べるおもちゃはあるわ」

 

「それじゃ、リアスのお部屋に朱乃とオーフィス、行こうか」

 

四人はダイニングルームからいなくなり、残ったサーゼクスとリアスの父親と母親、

二人の銀髪のメイドだけと成った。

 

「まったくサーゼクス。貴方も良い大人なんだからあんなお茶目なこともほどほどに

しなさい?」

 

「母上、彼は喜んでくれたからいいじゃないか」

 

「始終、楽しんでいたのは間違いないな。あの子の中のお前の株がぐんと上がっただろう」

 

「アルマスさま。褒めるべきはそこでもありませんし、ここは注意すべきです」

 

「ふふふ、デビルレッド格好良い・・・・・サーゼクスお兄ちゃん・・・・・。

今日はなんていい日だろうか」

 

思い出しただけで顔が緩むサーゼクスをグレイフィアと同じ容姿を持つメイドが窘める。

 

「ニヤけ過ぎですサーゼクスさま。・・・・・しかし、驚きました。

まさかオーフィスまでも共にしていたとは」

 

「一部しか知られていない事実だが、いずれ冥界や天界、

人間界や他の神話体系の神々にまで知れ渡るだろう」

 

「あの子はグレートレッドとオーフィスの力を有しているとサーゼクス、

お前から聞いても半信半疑だったが間近で見て確かにその通りだった」

 

「まだ幼いあの子なら中級悪魔でも容易に捕まえることができるでしょう。それだけは回避しないとダメです」

 

「特に神器(セイクリッド・ギア)の保持者である異種族の者を眷属にしようとする

悪魔も少なくはない」

 

何時しか真剣な話になり、表情も真面目な顔つきになっていた。

 

「あの子は一年間冥界に過ごすのよね?」

 

「はい、その通りです。堕天使の総督アザゼルの下で」

 

「あの総督のところなら一誠くんは強くなるだろうな。だが、安心はできない」

 

「できる限り、陰で支えましょう」

 

 

『やっぱり嫌だぁーっ!』

 

 

その時、一誠の悲鳴が聞こえた。「なんだ?」とサーゼクスたちは疑問を抱いていると、

ダイニングルームの扉が勢いよく開け放たれて、

 

「サーゼクスお兄ちゃん、助けて!」

 

フリルが付いたピンクと白のドレスと頭に可愛い大きなリボンを身に付けた涙目な

一誠が飛び込んできた。

 

「か、可愛いっ!あなた、あなた写真!写真よぉっ!」

 

「既に写真を撮っているぞヴェネラナァーッ!(カシャッカシャッカシャッ!)」

 

「・・・・・っ」

 

「破壊力抜群ですね」

 

「ふむ、同じ服をリアスに来てもらいたい程だ」

 

サーゼクスはの自分に向かって避難する一誠や追ってきたリアスと朱乃、

オーフィスを目にした。

 

「こら一誠!逃げちゃダメ!」

 

「そうだよ!」

 

「僕は男だよ!?女の子の服を着たらおかしいじゃないかぁっ!」

 

「「それがいいじゃない」」

 

見事にハモったリアスと朱乃。退治する三人を見守るサーゼクスたち。

 

「ほら、私の部屋に戻りましょうよ」

 

「一誠くんを可愛くしてあげるから」

 

「いやっ!僕は格好良いのが良いの!デビルレッドみたいに!」

 

「い、一誠くん・・・・・!」

 

何故か歓喜極まるサーゼクス。リアスの父親と母親はシャッターを押し続けたり、

撮影をしていたのは放っておいて一誠たちの間に漂う雰囲気が怪しくなる。

 

「もう、私の言うことを聞きなさい!じゃないとあの山は使えなくなるわよ?」

 

「う・・・・・」

 

「タンニーンだってあの山を貸しているグレモリー家に感謝を籠めて言う事を聞くのも

大切だって言ってたでしょう。一誠、貴方は恩知らずなヒトになりたいの?」

 

「ううう・・・・・っ」

 

何も言い返せない。リアスが言うことは正しいと全てが分からずともそう感じ取れるのだ。

勝ったと余裕、優越感の笑みを浮かべるリアスは最後のトドメを言い放った。

 

「一誠、私の言う事を聞きなさい。今のあなたは私のものなんだから」

 

「・・・・・」

 

次の瞬間。場の空気が一変した。一誠の目がどこまでも冷たく、リアスを見据える。

 

「・・・・・キミまで、そんなこと言うんだね」

 

「え?」

 

「僕が弱いから、弱い人が持っている者は全部強い人のものだって言いたいんでしょ」

 

「一誠くん・・・・・?」

 

次第に一誠の全身から揺らめく紅いオーラ。まるで何かを訴えているようにも窺える。

 

「皆そうなんだ、弱い人を虐めるのが好きなんだねっ。

僕が弱いから嫌がることを平気でするんだから」

 

「違う、一誠くん。それは―――」

 

「じゃあいいよ、もうあの山はいらない!それだったらキミの言うことなんて聞かなくて

いいんだよね!?そうだよね!」

 

ゴウッ!と一誠を中心に激しい風が巻き起こり、誰にも寄せ付けないほど魔力も迸る。

 

「この魔力・・・・・上級悪魔を凌駕すると言うのか・・・・・!」

 

「一誠くん、キミと言う子は・・・・・!」

 

驚愕しているサーゼクスとリアスの父親。だが、状況は危険であることは変わりない。

 

「僕を苛める皆なんて大嫌いだ!僕の嫌がる事をする皆も!リアスも朱乃も大嫌いだぁ!」

 

この場から逃げたいと一心だったのだろう。壁に突っ込んでは壁を破壊して、

衝動的に駆られたのか中々出すことができなかったドラゴンの翼を生やし

紫色の空に向かって飛んで行ってしまった。

 

「一誠くん!?」

 

「まずい、あの子がどこかに行ってしまったか!サーゼクス、追うのだ!」

 

「分かってます!」

 

―――○●○―――

 

蝙蝠のような黒い翼を生やして冥界の空に高速で飛行する一誠に遠くから追うサーゼクス。

徐々に距離を縮める中で苦笑を浮かべ出す。

 

「速いな・・・・・このままでは魔王の領土に着くのも時間の問題か」

 

そこでサーゼクスは小型の魔方陣を顔の傍に展開した。

しばらくすると、立体映像のように一人の男性が姿を現す。

 

『やぁ、どうしたのかな?』

 

「お仕事中申し訳ございません。至急にお知らせしたいことがございまして」

 

『あの子のことかね?何か遭ったかい?』

 

まさにその通りだとサーゼクスは思い、一誠を見失わないように時折視線を前に向けた。

 

「ええ、私の妹と喧嘩をしてしまい、家から飛び出してしまいました」

 

『はははっ、子供の喧嘩で私に連絡する事でもないだろうに。

寧ろ喧嘩させた方が後に仲良くなるもんじゃないかな?』

 

「そう思ったのですが、何分あの子の速度は思った以上に早く

このままでは貴方さまの領土に着いてしまうのも時間の問題ですので」

 

『最悪、戦闘に発展してしまうとそう言いたいのね?』

 

肯定と頷き、男性に言った。

 

「あの子にこれ以上刺激を与えない為に手を出さないでください。

ここで真龍と龍神の力を発揮させられては貴方さまの領土が消滅しかねないので」

 

『ふむ、私が自ら出ればそれだけで騒ぎになる。

あの子の存在も冥界に知れ渡るのはできる限り避けたい。

分かった、キミに任せるがこちらもある助っ人を用意しようじゃないか』

 

「助っ人ですか?」

 

男性はクスリと笑みを浮かべた。

 

『私はねサーゼクスちゃん、愛娘たちと会わせたがっていたんだよ。

子供の対応は大人も必要だけど時には子供も必要になるしね』

 

 

 

 

無我夢中で飛び出してしまい、かなり遠いところまで飛行した一誠は建物が見えた。

人気のない裏路地に降り立って膝を抱えて身体を丸くし、そのままジッと座りこんだ。

 

「・・・・・僕を虐める皆なんて大嫌いだ」

 

一誠の上空にサーゼクスがいることに気付かないまま座りこんでいると腹の虫が鳴った。

 

「そう言えば、お昼食べていなかったや。

でも、お金持っていないし・・・・・そもそもここはどこ?」

 

一気に不安感が湧き起こり、リーラやオーフィスたちがいる場所まで戻る方法がない

現実を突き付けられ、

 

「お家、帰りたいな・・・・・」

 

「あら、迷子かにゃん?」

 

「え?」

 

恋しくなった一誠に声を掛ける女の声。声がした方へ振り向けば胸元を大きく

肌蹴させている黒い着物を身に包む、頭や腰に猫耳や二つの尻尾を生やす女性がいた。

その耳と尻尾を見て一誠は察した。

 

「冥界に妖怪さんがいるなんてね」

 

女性は感心したように一誠を見た。で会ってすぐに自分の素性を見破ったのだ。

同時に一誠はただの人間ではないこともまた事実女性は気付いている。

 

「へぇ、私が妖怪なんてどうして分かるの?」

 

「だって狐のお姉さんと同じ耳と九本の尻尾を生やしているもん。

お姉ちゃんは二つしかないけど」

 

「・・・・・もしかして九尾の御大将のこと?キミ、会ったことがあるの?」

 

「うん、あるよ。妖怪だけじゃなくてドワーフやエルフ、妖精さんや人魚、

それに悪魔や天使、堕天使とかアザゼルのおじさんにミカエルのお兄さん、

神王のおじさん、サーゼクスお兄ちゃん、海の神さまに空の神さま、

あとあと冥府って場所にいる骸骨のお爺ちゃんとか他に―――ってお姉さん、

どうして固まっているの?」

 

「にゃ、にゃんでもないにゃん・・・・・」

 

―――なに、この子。自分がどれだけ凄いヒトたちと会っているのか分かっていないの!?

 

「キ、キミ・・・・・名前はなんて言うの?」

 

「僕は兵藤一誠だよ」

 

「兵・・・・・藤・・・・・!?」

 

女性は今度こそ戦慄した。

あの有名な―――の出身の子がどうしてこの冥界に一人でいるのか理由は分からない。

特に一誠の護衛らしき人物はこの辺りにはいない。

 

「(・・・・・そうだ)」

 

女性はとあることを閃いた。その為にはまず実行しないと全てが始まらない。

 

「にゃー、イッセー。お腹空いていたりする?」

 

「・・・・・知らない人にはついて行かないよ」

 

「私のことよりイッセーに会わせたい子がいるの。私の妹にゃん」

 

「妹?」

 

「そ、妹は友達がいなくて、姉である私も一人ぐらいはいて欲しいと思っていたの。

ね、妹のお友達になってくれない?多分キミより年下の子だにゃん。

だからキミがお兄ちゃんで私の妹、白音が妹になるわ」

 

「・・・・・」

 

疑心の色を瞳に宿す一誠に随分と警戒心が強い子供と女性、黒歌は思った。

だが・・・・・、

 

「嘘ついたら、怒るからね」

 

「っ!だーいじょうぶ。この黒歌お姉さんは嘘は言わないにゃん。

からかうのは好きだけどねん♪」

 

妹の友になってくれることを承諾した一誠にそう言った女性の言葉に気になる単語が

一誠の口からオウム返しをした。

 

「黒歌?」

 

「そ、それが私の名前。自己紹介し遅れてごめんね?」

 

「ううん、いいよ。お姉さんの目を見ればわかるし」

 

そう言われ、「ふーん?」と気になった。

 

「何が分かるの?私の目を見てさ」

 

「嘘を言っているか言っていないかだよ。お姉さんの金色の目、綺麗だからね。

汚れていないよ。だから分かるの」

 

「・・・・・」

 

開いた口が塞がらない。黒歌は急に大人びいた一誠から目が離せないでいた。

生まれてから一度もそんなこと言われた記憶はない。まだ子供だと言うのに、

どうしてそこまで言い切れるのか不思議でしょうがない。

 

「(この子と出会って良かったかもしれない・・・・・。

悪いけど妹のことはこの子に任せよう)」

 

何かを企む黒歌が何かを察知した。こちらに凄いスピードで迫ってくる魔力を感じ、

 

「それじゃ、妹がいるところに行こうかにゃん」

 

黒歌を中心に霧が発生した。一誠の全身も呑みこみ、

上空から飛来するサーゼクスが迫るの一足遅く。

 

「やられた・・・・・っ!だが、あの黒歌という『悪魔』の居場所は把握している。

フォーベシイさまにお伝えしなければ・・・・・」

 



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エピソード6

晴れる霧に一誠の目に飛び込んできたのは豪勢な城。

 

「サーゼクスお兄ちゃんの家よりちょっと小さい」

 

「そりゃ、グレモリー家は公爵家だからね」

 

「公爵家?」

 

「偉い人の称号、順位って言え分かるかにゃ?」

 

「・・・・・偉い人・・・・・」

 

急に難しい面持ちになる一誠。黒歌は知らない。

強者と弱者という概念に激しく反応をする一誠がどんな生活を送って来たのかを。

 

「黒歌お姉ちゃん、偉い人?」

 

「にゃはは、私は偉くないにゃん。寧ろ偉いのは私を拾ってくれた主よ」

 

「その人、優しい人?」

 

「それは秘密」

 

一誠の小さな手を引いて、城の中に入る。たまに執事やメイドと擦れ違うものの

その視線を無視して目的の部屋に辿り着いた。扉を開け放ち、黒歌は笑みを浮かべながら入る。

 

「ただいまー、白音」

 

「姉さま!」

 

小柄な白い髪に猫耳や尻尾を生やす少女が黒歌の帰りに心から歓迎して抱きついた。

 

「いい子にしていたかにゃ?」

 

「はい!」

 

「よしよし、そんな良い子の白音に紹介したい子を連れてきたにゃん」

 

「私にですか?」

 

「そっ」と黒歌は一誠と少女を突き合わせた。互いが初めて顔を合わせた瞬間だった。

 

「白音、この子は兵藤一誠って言って、妖怪の事を知っているから白音のこと

怖がらないから安心して?」

 

「人、ですか?」

 

「違う、僕はドラゴンだよ」

 

「「え?」」

 

一誠の否定に黒歌までもが驚いた表情をした。

 

「イッセー、あなた、ドラゴンなの?」

 

「翼とか尻尾とかまだ出せないけど、

何度かグレートレッドの肉体やオーフィスの力で復活したって良く聞くよ」

 

「・・・・・マジかにゃん。イッセー、どれだけ自分が凄い立場や存在になっているか

分かってる?」

 

「なにそれ?」

 

コテンと小首を傾げる一誠。白音も分からないとばかり黒歌に意味深な視線を送るも、

黒歌は黒歌で少し後の祭り状態。

 

「(逆だった。イッセーをここに連れてくるんじゃなくて

白音をイッセーのところに連れてくるべきだったっ)」

 

今ならまだ間に合うか?と顎に手をやって難しい顔をする黒歌だったが

苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべた。

 

「おい、黒歌。聞きたいことがある」

 

閉めたはずの扉が再び開け放たれた。そして開けた青年が入って来て開口一番に言う。

 

「妙なガキを連れて来たって報告があったぞ。それが・・・・・こいつか?」

 

「・・・・・黙って入れたことには悪いと思っているけれど、

直ぐにこの子の家に帰す。それぐらい許してちょうだい」

 

「そんなことはどうでもいい。さっきから感じる力強い力の正体を知りたくてな」

 

口角を上げ、青年は一誠と視線が合うように膝を曲げて直視する。

 

「ガキにしちゃあ・・・・・そのちいせぇ身体から発する力が隠しきれていないな。

おい、お前は人間じゃないな?」

 

「ん?うん、そうだよ?ドラゴンだけどそれが?」

 

素直に正体を明かしてしまった一誠を見て心の中で舌打ちをした黒歌。この青年の性格を知っていれば正体を明かさなかっただろうにと黒歌は思わずにはいられなかった。

案の定、青年は愉快そうに口の端を吊り上げた。

 

「こいつは面白い、こいつを強くすれば必然的に俺の眷属も強くなるかもしれねぇ」

 

「あんた、何を考えているのよ」

 

「決まってる。こいつも俺の眷属にする」

 

眷属、その言葉に一誠は分からないでいるが黒歌は激しく異議を唱えた。

 

「ふざけないで!この子はアンタの為に連れてきたわけじゃないの!

この子の人生をあんたがどうこうする権利はないにゃん!」

 

「この冥界にいるってことはどこかの頭の悪い悪魔が眷属にする前に逃げられたんだろう?

なら、これは早い者勝ちだ。しかも相手はガキだ。身の変化が分かるはずないだろ」

 

「この子だけは手を出してはいけない!あんた、身を滅ぼす気?」

 

「おいおい、ガキに手を出したら俺がどうなるって?そんな証拠このガキにあるわけ無いだろう」

 

青年が一誠に手を伸ばす。しかし、一誠自身がその手を払った。

 

「話は分からないけど、これだけは分かるよ。お兄さん、嫌な人だね」

 

最初はキョトンと一誠を見詰めていたが青年は一拍して笑い始めた。

 

「嫌な人も何も、俺は悪魔だぜ?悪魔に良い人も悪い人も関係ないんだよガキ」

 

「・・・・・帰る」

 

「おっと、帰さないぜ。お前に帰る家はないんだからな」

 

扉を閉め、一誠の前に立ちはだかる青年。

 

「今日からここがお前の家で、俺はお前のご主人様となる。お前は俺の物だぜガキ」

 

「―――俺の物?」

 

ピクリと眉根を上げた。この悪魔は知らない。一誠にタブーがあることを。

 

「ああそうだ。お前みたいな珍しい奴は皆、俺たち悪魔が出世のため、ステータスの為、

名声や栄光を得るための一部でしかないんだからな。強くなきゃ何も得れないし、

弱いままじゃ強い奴らに全て奪われちまう。だからこそ俺は眷属の向上能力をどんな

手を使ってでも伸ばすんだ。だからガキ、お前も俺の為に働いてもらうぞ」

 

不敵な笑みとそんな理不尽な物言いの青年をただただ一誠は見詰め耳を傾けていた。

 

「・・・・・悪魔って皆そうなの?」

 

「ああ、そうだぜ。ゲームに勝つにはまず眷属を集めないといけない。

その眷属を集めるのにも苦労するぜ。より優秀な人間や異種族、

特に神器(セイクリッド・ギア)の保持者は悪魔が喉から手が出るほど欲して、正式な契約、

不法な契約をして眷属にするんだ。実際、俺の眷属にも神器(セイクリッド・ギア)を持ってる

奴はいる。お前はまだガキだから分からないが、

その隠しきれない力は俺の眷属()に相応しい―――!」

 

「うるさい」

 

「・・・・・なんだと?」

 

「うるさいって言ったんだよ悪魔」

 

長々と語る青年に低い声音と共に怒りの炎を宿す目を細める。

 

「もういい。僕は帰る。そこどいて」

 

「帰らせないって言ってんだろう」

 

「帰るからどいて」

 

「何度も同じことを―――」

 

「邪魔をするなら、お前を倒す」

 

そう言った次の瞬間。青年の周囲の空間が歪み、複数の鎖が出現して両手足を拘束したのだった。

 

「な、鎖!?お前、神器(セイクリッド・ギア)を持っていやがったのか!」

 

「悪い?」

 

「だったら尚更お前を野放しにするつもりはない!」

 

複数の小型の魔方陣が出現した。青年は大きく口を開いて、

 

「全員!逃げるガキを掴まえろ!生きていれば手足の一本なくても構わない!」

 

「―――白音ちゃん、黒歌お姉ちゃん、逃げるよ!」

 

「「え?」」

 

「早く!こんな悪魔のところにいたらいけないんだ!」

 

白音と黒歌の手を掴んで引っ張る。廊下に出て出口に向かって走る。

 

「イッセー!私は良いから白音と一緒に逃げて!」

 

「ダメ!絶対に一緒に逃げるの!黒歌お姉ちゃんを道具みたいな言い方をするあんな

悪魔の傍にいさせたくない!」

 

「あいつの敵に回すぐらいなら私だけでいいの!あんたには白音を幸せにして欲しいのに!」

 

「黒歌姉さま?それってどういうことなんですか?」

 

 

『いたぞっ!』

 

『あの赤い髪の人間を捕まえろ!』

 

 

曲がり角から兵士が現れる。背後からにもガシャガシャと鉄と鉄が擦れ合う音を鳴らす衛兵達も。

 

「―――邪魔だよっ!」

 

白音の手から放して前にいる兵士に手の平を突き出し、

極太のエネルギー砲を放って吹っ飛ばした。

 

「すごっ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

たったの一撃で敵を倒すその威力。一誠がドラゴンである証拠を見せ付けられ、

溜息を吐いた黒歌。

 

「ねぇ、イッセー」

 

「なに?」

 

「もしかして、魔王って人も会ったりしている?」

 

「フォーベシイおじさんだったら知ってるよ」

 

「決まりね」

 

黒歌は何か決心した様子。眼前から迫る筋骨隆起の男性と刀を手にして駆けてくる

女性を目にして一誠に問うた。

 

「ここで騒ぎを起こせばそのフォーベシイおじさんが助けにくるはずにゃん」

 

「本当?」

 

「ただし、この城にいる悪魔たちを殺しちゃダメにゃん。分かった?」

 

「うん、分かった」

 

「よーし、良い子良い子。白音、あんたは私の背にしがみ付いて」

 

「は、はい」

 

四人の男女と子供が交差した。空間を歪ませ飛びだす数多の鎖を敵の身体に巻きつき動きを封じ、

拳に薄い黒色のオーラを纏わせ、相手の胸に打ち込む黒歌と一誠。

 

「黒歌・・・・・なぜ・・・・・」

 

「ごめんなさいにゃん♪私、血縁者や眷属の能力向上を無理矢理するマスターを

見限ってこの子に着いて行くにゃん」

 

「そうか・・・・・」

 

「大丈夫、アンタたちにも何とか自由にしてくれるよ。この子がね」

 

擦れ違いざまの会話。最後の仲間の会話をし、黒歌は一誠と廊下を駆ける。

 

「いいの?黒歌お姉ちゃん」

 

「にゃはは、今更ね。私を強引にマスターから抜こうとしている子が気を使うなんて。

いいの。あいつらも私と同じく辛い目に遭って来た仲間だからね。だからイッセー」

 

にんまりと一誠に意味深な笑みを浮かべた。

 

「私を含め、私の仲間も救ってね?」

 

「僕自身の力じゃ何もできないけど、精一杯皆にお願いするよ!」

 

「子供らしい考えだにゃん!」

 

足を止めずに駆け続ける。立ち塞がる敵を薙ぎ倒し、蹴散らし、

ついに外に繋がる巨大な門を手で開けず魔力でぶっ壊して開け放った。

 

「よう、待ってたぜガキ」

 

「・・・・・先回りしていたなんて・・・・・!」

 

大勢の近衛隊、衛兵、兵士、青年の眷属と思しき面々に青年が悠然と佇んでいて

城の門を塞ぐ形でいた。

 

「随分と城の中を暴れくれたな。それに黒歌!」

 

「あら、何かしら?」

 

「お前、俺を裏切るって言うんじゃねぇだろうな。

誰のおかげでその妹と衣食住を提供してやったと思っていやがる」

 

「血縁者まで無理矢理能力向上をするマスターなんて知っていれば私は悪魔なんて

転生しなかったにゃん」

 

「俺が主なんだ!俺の為に勝利し、俺の為に貢献するのは当然のことだろう!」

 

声を荒げて一誠に指を差す。

 

「今すぐそいつを捕まえたら許す。妹を傷付けられたくなければ俺の言う通りにしろ」

 

「「・・・・・」」

 

一誠と黒歌、どちらからでもなく視線を向けあった。

 

「イッセー、私と妹の為に捕まってくれる気、ある?」

 

「嫌だよ。あんな嫌な悪魔の物になりたくない。だからその代わりだけど」

 

子供らしくない不敵な笑みを浮かべた。

 

「この場にいる全員、倒して二人を自由にする」

 

「―――にゃはは」

 

一誠の愚かな言動に失笑する黒歌。だけど、なぜだろうか。

この子供に懸けてみたくなった。出会ってまだ三十分も経っていないこの子供に、

任せて良いと思うのだ。この愚かな姉猫に妹猫共々守ると誓った男の子に。

 

「じゃあさ」

 

「うん?」

 

「私と白音の首にイッセーの猫だという証、

鎖でも首輪でもいいからイッセーの手で付けて欲しいにゃん。

その責任を償いをしてもらわないと」

 

「首輪はちょっと・・・・・でも、家族になってくれればそれでいいよ」

 

「じゃ、決まり。これからよろしく頼んだにゃん私のご主人様♪」

 

話は終わりだと前に向いて臨戦態勢の構えをする二人。

 

「なるほど・・・・・自ら『はぐれ』になるか黒歌」

 

「はぐれじゃないし。気まぐれな猫が居心地がいいご主人様の下で暮らすだけにゃん」

 

「・・・・・分かった。よーく分かった」

 

青年は手の平に魔力球を具現化した。

 

「ガキを捕まえた後、お前をたっぷり調教してやる。覚悟しろ!」

 

「絶対に捕まらない!」

 

一誠も圧縮に圧縮を掛けた赤い魔力球を青年と同時に投げ放った。二つの魔力がぶつかった

その瞬間こそが開戦の合図であるのはこの場にいる全員が認知している。

 

「―――その開戦、待ってもらえるかな?」

 

二つの魔力球が急カーブして遥か上空に飛んで行って―――大爆発が生じた。

 

「誰だ!?」

 

青年だけではなく、全員も横やりを入れた者の姿を探す。

一誠と青年の間に二つの魔方陣が出現して、

細身で銀髪の中年男性、サーゼクスが出現した。

 

「サーゼクスお兄ちゃんに、フォーベシイおじさん?」

 

「魔王さま!?」

 

戦いを邪魔したのは二人にとっても見知った人物。

銀髪の中年男性は「ふむ」と辺りを見渡し、最後に一誠の方へ顔を向けた。

 

「やあ、一誠ちゃん。久し振りだね、元気だったかい?」

 

「うん、元気だけどどうしてここに?」

 

「なに、サーゼクスちゃんからキミがこの城に入ったと言う情報を聞いてね。

色々と準備をしてからようやくこれたんだよ」

 

トコトコと近づく一誠にフォーベシイは抱き締めた。

そんな様子に青年は上擦った声で話しかける。

 

「ま、魔王さま・・・・・そのガキ、いえ、人間とお知り合いですか?」

 

「知り合いも何もこの子は将来私の娘たちと結ばれる予定なのだよ?

いわば、私の義理の息子になる」

 

フォーベシイの言葉に「え?」と一誠が漏らした直後。

 

 

『『『ええええええええええええええええええええええええええええっ!?』』』

 

 

黒歌を含め、フォーベシイとサーゼクス、白音以外の悪魔は全員驚愕の声を上げたのだった。

 

「待って下さい魔王さま!そんな人間と魔王さまの娘と婚約などありえないですよ!」

 

「だったら、人間界を統べる兵藤家か式森家の元当主の子供だったらどうだね?」

 

「ま、まさか・・・・・っ!」

 

顔を青ざめ、震える身体は止まることを知らない。

 

「あの三大勢力戦争に介入したもう一つの勢力、

人族でそれぞれの家で生まれた兵藤家、式森家の現当主の間に生まれ、

またその息子と娘のそれぞれの間に生まれたこの子の名前は兵藤一誠と言うんだ。

見ての通り、私とこの子は顔を何度も会わせているから大の仲良しなんだよ」

 

「・・・・・(ガタガタガタッ)」

 

一誠の素性を知り、青年は先ほどの態度から百八十度変わり、一誠に恐れを成した。

 

「いやー、危なかったよ。この子が暴れるのもそうだけれど、

もしもこの子が悪魔に理不尽で転生されたら悪魔と人間の戦争が勃発していたかもしれない。

その時、キミはどう責任を取っていたかな?」

 

「お、お言葉ですが魔王さま・・・・・!そ、その子供が本当に兵藤の者だとしても

どうしてこの冥界に・・・・・!」

 

「それを君が知る必要ないよ。だけどこの子は弱い自分が嫌で、

今は堕天使の総督アザゼル殿に預かられている状況なんだ」

 

「な、なんですって・・・・・!?」

 

「おっと、口が滑った。ま、そう言う事だからこの子を引き取りに来たよ。

それとキミに対する罰は―――」

 

ビクッ!と全身を跳ね上がらす青年から視線を逸らし一誠に向ける。

 

「一誠ちゃん、何かこの悪魔にして欲しいこと、やって欲しいことはあるかな?

今のキミなら何でもできるよ?」

 

「魔王さま・・・・・!?なぜその子供に・・・・・!」

 

「キミはこの子に対して多大な迷惑を掛けていることは分かっているよ。

だから罰するのは私ではなくこの子にあると判断したまでだ」

 

フォーベシイからの問いかけに一誠は「なんでも?」と返す。

 

「ああ、勿論だとも」

 

「じゃあ・・・・・あいつの眷属って人たちを全員解放。

あと、眷属集め禁止ね。ゲームしたいなら一人ですればいいし」

 

青年は「なっ!?」と酷く驚く。一誠はそんな青年を眼中になく、

黒歌と白音に視線を向け「これでいいよね?」と視線に乗せて訴えた。

だが、フォーベシイは難色を浮かべる

 

「眷属解放はちょっと難しいかな。魔王の権利でも簡単に眷属を解散させることは

できないのだよ」

 

「何でもって言ったのに、嘘つくの?」

 

「悪魔の世界にも事情があるのだよ一誠ちゃん。分かって欲しい」

 

「じゃあ、フォーベシイおじさんの眷属にしてくれない?」

 

その一言でざわめきが生じた。一誠の指摘にフォーベシイは何かを思い出しながら

顎に手をやり考え込む。

 

「私の眷属か・・・・・確かに眷属はいないが・・・・・いや、保護という形ならできるか」

 

「それならいいよ。フォーベシイおじさん守ってあげて」

 

「ふふっ、未来の義息子にそう言われてはなしょうがない!

分かったキミの望みは正式な形で叶えよう!」

 

「ありがとうフォーベシイおじさん!」

 

嬉しいあまりにギュッとフォーベシイに抱きつく一誠。そして降りて黒歌に抱きつく。

 

「黒歌お姉ちゃん、白音。僕たち家族になったよー!」

 

「本当、イッセーは凄いにゃん!」

 

「よろしく、お願いします・・・・・お、お兄さま」

 

一誠は姉妹猫をハッピーエンドにしたのだった。そう、本来の―――とは違う形で。

後日、この騒動は程なくして終息し、

 

「「ごめんなさい!」」

 

猛反省したリアスと朱乃からの謝罪を受け、渋々ながら了承し一誠は修行を再会したのであった。



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エピソード7

それから時が過ぎ、半年と一カ月が過ぎた頃。一誠もだいぶ成長した。

 

「それじゃバラキエルのおじさん、勝負!」

 

「朱乃と朱璃の手前、負けんぞイッセーくん!」

 

家の小さな庭でネットが無いバトミントンをしていた。

羽を網に当てて一誠向けて打つバラキエルにその羽を打ち返す一誠。

どちらも激しい勝負を繰り広げたり、有り得ない動きで地面すれすれの位置から

羽を打ち返し、時折真っ直ぐな打ち返しでは、上空に向けて打ち返すとバラキエルが

黒い翼を生やして羽の真上に飛んでそこから―――。

 

「バラキエルさま、翼を出して飛ぶ行為はバトミントン公式ルールに反します。よって反則負けです」

 

「なん・・・・・だとっ・・・・・!?」

 

「―――と、本来はそう申し上げますがこれは遊びですのでセーフでございます」

 

「てりゃっ!」

 

「なぬぅうううっ!?」

 

ズビシッ!と落ちてきた羽を一誠はバラキエルの足元に叩き落とす。

後に気まずい雰囲気がバラキエルを包みリーラに言葉を投げた。

 

「リーラ殿、今の策謀はいかがかと・・・・・」

 

「策謀ではありません、注意事項でございます」

 

涼しい顔で言ってのけるリーラ。喜ぶ一誠は「ありがとう」とリーラへ感謝する。

 

「しかし、イッセーくんも成長したな。タンニーン殿との特訓がここまで強くなるのか」

 

「嬉しい半分、本当にこのような人生を歩ませてよいものか複雑ですが、

一誠さまが選んだ道であれば正しい方へ導くこそ私の役目でございます」

 

「リーラ殿は素晴らしい従者でイッセーくんも幸せだな」

 

「御褒めの言葉ありがとうございます」と軽くお辞儀をするリーラの目に、

朱乃とバトミントンをしている一誠。その顔はとても楽しげに笑みを浮かべている。

 

「残り半年で彼はいなくなるか」

 

「朱乃さまには悲しい思いをさせます」

 

「別れは自ずと来るものだ。仕方があるまい」

 

あの笑顔が悲しみに変わってしまうのは父親としてバラキエルも望んでいない。

だが、何時か『そう』なる時が来るのだ。

 

「ところでバラキエルさま」

 

「なんだろうか?」

 

「昨夜、一誠さまが見たそうなのです」

 

「・・・・・なにをだろうか」

 

思い当たる節があるのか、うっすらと額に汗が浮かぶ。

リーラは感情が浮かんでいない顔を真っ直ぐ前にに向けたまま言い放つ。

 

「大変失礼を承知して申し上げます。朱璃さまとバラキエルさまのご趣味にとやかく

申しませんが、そういう愛し合い方をしたい時はそれとなく申し上げてください。

一誠さまにはもっと純粋と純情で女性を愛して欲しいですので」

 

「・・・・・すまない」

 

―――見られていた。昨夜の朱璃との情事を。

とても子供に見せられるものではない朱璃とバラキエルの性癖と趣味を。

 

 

カランカランカラン。

 

 

甲高い音が平屋建ての小さな家の庭にまで聞こえてきた。リーラはスッと立ち上がる。

 

「リーラ殿?」

 

「どうやらお客様が来たようですので」

 

リーラが言うお客さま。バラキエルもこの家に訪れる者は滅多にいない。

二人の脳裏に浮かぶものは―――穏やかな客ではないことだ。

 

「・・・・・共にしても?」

 

「お願いします。一誠さま」

 

「なに?」

 

呼ばれ近づく一誠と視線が合うように跪き、

 

「朱乃さまと朱璃さまとお家の中にいらしてください」

 

「うん、分かった」

 

リーラの言葉に頷き、一誠は言う通りに動いた。

 

「心底信頼しているのだな」

 

「相手を疑うのは初めて会うもの限定のようです。

逆に言えば、心を許した者にはどこまでも信用や信頼をし、疑う事などしないのです」

 

「純粋な子だ」

 

庭から離れ、家の玄関に移動してしばらく佇む。

そして敵意を隠さず露わにして謎の集団が得物を持って姿を現す。

 

「堕天使、貴様を殺し巫女を洗脳から解かせてもらう」

 

「・・・・・朱璃の親類の者たちか・・・・・っ」

 

「覚悟っ!」

 

バッ!と謎の集団たちが襲いかかって来た。

光の槍と剣を魔力で具現化し臨戦態勢になるバラキエルの余所に、

 

「オーディンさま。あなたさまの仰る通りこの槍を必要とする時が来ましたね」

 

首に垂らしていた小さな槍を手にした途端に発光し、

槍はあっという間に大きくなりリーラの手に収まった。

 

「その槍は・・・・・?」

 

「以前、オーディンさまから承ったレプリカのグンニグルです」

 

「なっ!」と思いもしない武器がリーラの手にあることを驚愕し、瞬時で理解した。

 

「イッセーくんを守るためにか。あの子はどこまで人を魅了する力が凄まじいんだろうか」

 

「おかげで私は力のないメイドでは無くなったことを心から感謝しております」

 

槍の切っ先を謎の集団に突き付けた。

 

「―――グンニグル」

 

刹那―――。

 

ブゥゥゥウウウウウウウウンッ!

 

槍から極大のオーラが放出され、空気を貫くような鋭い音があたり一面に響き渡った。

 

「流石ですオーディンさま。力の調整が可能なレプリカの神具を与えてくださって」

 

「これは・・・・・」

 

謎の集団は一人も残らずいなくなっていた。戦闘の痕跡も無く、

何事もなかったように風が吹く。

 

「バラキエルさま、ここは危険かもしれません」

 

「なんだと?」

 

「あの者たちは朱璃さまの親類であるならば、また襲撃してくる可能性はあります。

先ほどの一撃は敵を倒す程の威力は放っていません。ですので、安全な場所に避難して

移住した方が賢明です」

 

「・・・・・だが、どこに移住をすれば良いのだ?人間界での俺の力は微々たるもの」

 

バラキエルの問いにリーラは、

 

「冥界しか安全な場所はないかと。あそこならバラキエルさまも安心して傍に置け、

堕天使としての仕事ができるはずです。もしくは朱乃さまのご友人と成ったリアスさま。

そのご両親に事情を説明して匿ってもらうべきかと

 

「むぅ・・・・・」

 

「バラキエルさまがいない間に襲撃されたら朱乃さまは酷く悲しまれます。

父親としてそれはいかがですか?」

 

悩むバラキエルに説得するリーラ。朱乃はただの人間ではない。人間と堕天使のハーフ。

朱乃と朱璃の幸せを願い迷惑をかけたくない思いもある。だが、冥界に暮らさせるのは

バラキエルにとって難色を示す程。

 

「私が仰っている意味は分からないようですが、

何も冥界で一生住んでもらうわけではございません。朱乃さまが成人、

それも高校生に成る歳まで冥界にお過ごしになってもらうのです。

アザゼルさまも力をお貸ししてくれるはずです」

 

「・・・・・」

 

「バラキエルさま、ご決断を」

 

 

 

 

 

「堕天使の配下と思しき者がいようとは・・・・・」

 

「あの従者、ただ者ではございませぬぞ」

 

「どうしますか」

 

「・・・・・万事屋に頼もう。あの何でも屋であれば全てが解決する」

 

―――○●○―――

 

その日の夜。バラキエルは冥界に戻った。リーラの説得を受け入れ、準備をする為に。

 

「一誠、あーん」

 

「(パクッ)・・・・・ん、美味しい」

 

「本当?やった。それ、母さまと一緒に作ったんだよ?」

 

「そうなんだ?朱乃は料理が作るの上手だね」

 

「えへへ♪」

 

朱乃は笑みを浮かべ嬉しそうに一誠を見詰める。朱璃は微笑ましいと見詰め、

リーラも小さく笑みを浮かべる。

 

「我、お代りを所望する」

 

「わかりました」

 

「オーフィス、米粒付いてるよ?」

 

「そう言う一誠もだよ?」

 

「ふふっ、朱乃もよ?」

 

「「えっ、あ、本当だ」」

 

小さな小屋で質素な生活。だが、充実な幸せを送り、楽しい生活が笑みを浮かばせている。

 

「・・・・・?」

 

不意に、オーフィスが顔を明後日の方へ向けた。リーラはオーフィスの様子に問うた。

 

「どうかしましたか?」

 

「とても強い力が複数、こっちに来る」

 

「・・・・・まさか」

 

リーラは察して真剣な表情を浮かべた。立ち上がって、一誠たちを見渡す。

 

「オーフィスさま、一緒に来てください」

 

「リーラさん?」

 

「一誠さま、朱璃さまと朱乃さまを守ってください。どうやら悪いお客さまが来たようです」

 

「・・・・・分かった」

 

オーフィスを連れ、リーラは玄関の方へ移動した。

レプリカのグンニグルを顕現し何時でも対応ができるように態勢の構えをしていたが、

玄関の扉を開ける前にノックをする音が聞こえ開けられた。

 

「お邪魔しまーすっと」

 

「・・・・・敵にしては随分と礼儀正しいですね。

ただし、私が開けた後ならばの話ですが」

 

「どうやら俺たちが来るのを分かっていたようだな。

しかも美人で良い人材そうじゃないか。できることなら―――」

 

一人の男はそう言うと背後から女性が入って来て男の頭を叩いた。

 

「大将、また女を連れ込むと奥方に今度こそ愛想を尽かれるぞ。良いのか?」

 

「おいおい、俺の性分を理解しているだろう?」

 

「はぁ・・・・・妾は知らんからの。それより仕事をするのじゃ」

 

「分かってる。仕事内容は堕天使の子供を依頼主に渡すか―――最悪、殺害だ」

 

次の瞬間、リーダらしき男はリーラとオーフィスの間をすり抜けようとした。

 

「悪いが俺は女には手を出さない主義だ。イヅナ、ここは―――」

 

「行かせない」

 

オーフィスがリーダの足のズボンを掴んで引きとめた。

 

「うごっ!?」

 

足が動かせずその急な停止に廊下に強く倒れてしまった。

 

「こ、この女の子が俺の速度に対応できるなんて・・・・・!」

 

「誰だか分かりませんが、この子を知っているのであれば早々に立ち去ってください。

―――『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィスが暴れる前に」

 

リーラの紹介に敵は目を丸くした。

 

「オ、オーフィスだと!?」

 

「そ、そんなドラゴンがいると依頼内容には書いておらんかったのじゃ!」

 

敵はオーフィスの存在を知っていたらしい。無限の体現者、ドラゴンの中で最強のドラゴン。

女性は警戒の色が濃くしてリーダに問うた。

 

「大将、どうするのじゃ。流石にオーフィスまでいるとなるとこれは仕事どころでは―――!」

 

「オーフィスさま、その者を逃げないように手足を掴んでいてください。ああ、力強くです」

 

「わかった」

 

「いででででで!た、タンマタンマー!もげる、手足がもげるー!」

 

「大将ー!?」

 

リーダがあっさりと組み伏せられ、グンニグルの切っ先を女性の首元に突き付けた。

 

「動かないでください。これはレプリカとはいえオリジナルのグンニグルと

遜色のない威力がございますので」

 

「な、なんじゃと・・・・・」

 

「マジか!?それ、欲しい!(ボキッ!)あっ」

 

「いや大将。アンタはオーフィスをどうにかしてほしいのじゃが」

 

「無理言うな!?身体が小さくて軽いのに手足の関節が外されているんだぞ!」

 

何とも言えないこの状況にリーラは問うた。

 

「貴方方だけですか。この家に襲撃して来たのは」

 

「さ、さーの・・・・・妾と大将だけと思うのなら―――」

 

目を泳がせ、あからさまにはぐらかすイヅナにリーラは容赦なかった。

 

「オーフィスさま、次は首です」

 

「分かった」

 

「イヅナさぁああああああんっ!?」

 

「もう一人おる!もう一人おるから大将を殺さないで欲しいのじゃ!」

 

―――もう一人。目の前に二人がいると言うことはリーラの脳裏に嫌な感じを覚えた。

 

「・・・・・囮!」

 

 

 

 

 

「まだ幼いと言うのに、しぶとい少年だ」

 

「うぐっ・・・・・!」

 

壁は斬り刻まれ、外と部屋の中が隔てる物は一切なくなって

もう一人の襲撃者と一誠は戦っていたが

全身に切り傷を作って、今しがた強く蹴られ壁に叩きつけられていた。

 

「堕天使の子供をこちらに渡せば命までは取らない」

 

「どうして、どうして朱乃を狙うんだよっ・・・・・」

 

「そういう仕事だからだ少年。俺たちみたいな裏社会で汚れ役を請け負い、

依頼された仕事は全てこなさなければ生きていけないからな」

 

「もっと他にも、仕事があるじゃないか!何もそんな仕事をしなくてもいいじゃないか!」

 

「こういう仕事が自分にピッタリだと思う人間は数多くいる。俺もその一人だ」

 

鈍く光る銀色の刀身を朱璃に抱き締められている朱乃へ突き付ける。

 

「堕天使の子供、母親と友達を助けたいなら俺と共に来い」

 

「この子は渡しません!この子は私の大切な娘です!

そして、あの人の大切で大事な娘!絶対に!絶対に渡しません!」

 

朱乃を庇うようにして朱璃が叫ぶ。男は眉根を寄せて少し躊躇する。

 

「・・・・・困ったな。標的以外、

手を出すことは禁じられているが邪魔をする者は容赦するなともルールだ」

 

刀をゆっくりと振り上げた。男の目にもはや躊躇する意思がない。

 

「致し方ない。最悪標的の殺害も許されている。娘諸共母親もあの世に送ろう」

 

一筋の銀が朱乃と朱璃に躊躇なく振り下ろされた。

 

ザンッ!

 

「―――っ!」

 

男の目が丸くなった。斬った対象の血飛沫が宙を舞うが

その血は朱乃と朱璃のものではなかった。

割り込んできた一誠の血液だった。

 

「一誠くん!?」

 

「一誠ぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 

袈裟切り、肩から斜めに斬られた一誠。子供が身を呈してまで相手を

一時的に守り切ったことを男は一誠の評価を改め、

 

「一撃で苦しまずに葬る」

 

横から一線の斬撃を放った。これでこの少年の命は狩った。

もしもこんな出会い方をしていなく、少年の事を知っていれば大将は絶対に

この子を引き取っていただろうと男は思いながら一誠の首筋に刀を振るった。

 

「・・・・・」

 

完全に振り切った刀。目の前で一誠の死を直面し朱璃と朱乃は悲鳴を上げ、涙を流す。

 

「(・・・・・おかしい)」

 

心の中で怪訝に傾げる男。

 

「(斬った感触が感じない・・・・・)」

 

刀を見やるや、刀身の半分が何かに削り取られたような痕を残して消失していた。

 

「(なんだこれは、特別製の刀が削られた?なにに?)」

 

男の疑問が付きない。一誠を確認しようと思った直後・・・・・。

 

「・・・・・い」

 

何かを呟き始めた一誠。

 

「・・・・・負け・・・・・ない」

 

「・・・・・」

 

「負け・・・・・たく・・・・・ない」

 

勝利に対する執念であろうかと男は思った。

半分しかない刀を鞘に収め、二つの小太刀を手にする。

 

「残念だが、お前は俺には勝てないぞ少年」

 

最後の言葉と別れとばかりに小太刀を左右から振った。

 

「・・・・・勝て、ない?・・・・・僕、勝てない・・・・・?」

 

自問自答をする一誠。

 

「弱いままじゃ・・・・・勝てない・・・・・守れない・・・・・」

 

今でも流す血で瀕死の重体であるのに、

何かに支えられているのか、倒れる気配は一切感じない。

 

「もっと、もっと力が・・・・・力が欲しい・・・・・。

相手を倒す・・・・・皆を守れる力を・・・・・っ」

 

 

刹那―――。

 

 

一誠を覆う禍々しいオーラが迸り男の小太刀の刀身を完全に消失した。

 

「この力は・・・・・!?」

 

初めて動揺の色を浮かべた男。一誠を包む紫と黒のオーラに赤い光が目を開いたように煌めく。

 

『良いだろう。お前の欲する力を与え今からお前を我が主として認める。

その勝利に対する執念と、弱い自分に対する怒りと悲しみ。

そして、強者に対する敵意を思うその気持ちと感情に称賛してなぁっ!』

 

荒れ狂う魔力による暴風。全てを薙ぎ払い、壁や天井でさえ崩壊するほどの猛威を振るった。

 

禁手化(バランス・ブレイク)ッ!』「禁手化(バランス・ブレイク)ッ!」

 

オーラに包み込まれる一誠の全身は鎧と化して、更に包み込んでいた。

 

禁手(バランス・ブレイカー)・・・・・に至ったと言うのか・・・・・この局面で!」

 

暗闇の外に晒す一誠の姿。全身は黒と紫の鎧を装着し、各部分に赤い宝玉があり、

背中に大きな紫の翼や腰に尻尾も生やしていた。

 

「―――ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

「っ!」

 

獣のような咆哮をした一誠が両手からマシンガンの如く魔力弾を放った。

一誠の攻撃が遅く見えるのか、かすりもせずに避け続けている。

 

「いくら覚醒したとしても、まだまだ戦闘経験が浅い少年だ」

 

『はたしてそうかな?』

 

赤い宝玉から不敵な声が発せられた。男は怪訝に思った直後。

背後から迫る魔力を感じ、跳躍して避けたその瞬間、目の前に魔力弾が迫っていた。

 

「―――放った魔力を自分の意思でコントロールできるのかっ!」

 

それすらも回避して着地した男の死角から魔力弾が迫る。

男は完全に朱乃のことより一誠に意識を向けざるを得なくなっていた。

魔力弾が消失しない限り一誠の思うがままに動き続け男は避け続ける。

 

「武器が無いいま、未知数な相手と戦うのは避けた方がいいか」

 

「―――――」

 

複数の魔力弾が男を取り囲んだ状態で動きが停止した瞬間に魔力弾が一気に膨張して

男を呑みこんだ。そして、魔力の塊が無くなると男の姿が見当たらなかった。

地面が激しく抉れているだけしか残っていなかった。

 

『動体視力と反射神経が逸脱している。主、敵は逃げてしまったようだ。致命傷も与えずにな』

 

「・・・・・そう、か」

 

『初めての禁手(バランス・ブレイカー)にしては上出来だ。半年の期間の修行の成果が発揮した』

 

赤い宝玉から送られる称賛に一誠は力なく地面に倒れた。

鎧も光の粒子と化となって消失し、生身の体が晒された。

 

「一誠くん!」

 

「一誠!」

 

朱璃と朱乃が一斉に駆け寄る。抱き起こせば深い傷を負った一誠を目にし、涙を流す。

 

「ごめんなさい、私たちの為に身を呈してくれて・・・・・」

 

「ありがとう・・・・・ありがとう一誠・・・・・」

 

後に、リーラとオーフィスが戻り、バラキエルも戻ってきて傷の手当てを

堕天使の領地で行われた。

 

 

 

 

「大将、なんだその姿は」

 

「予想もしなかった敵にやられたんだよ」

 

「本当、有り得ない敵がいたのじゃ。オーフィスがいたのじゃぞ。あのオーフィスが」

 

「オーフィス、あの無限の体現者と言われているドラゴン最強の?」

 

「レプリカのグンニグルを持つ従者にオーフィス・・・・・で、そっちは?」

 

「・・・・・子供だ」

 

「子供?」

 

「ああ、俺の得物を全て破壊してくれた上に禁手(バランス・ブレイカー)に至ったんだ。

瀕死の重体だと言うのにあの局面で至り、俺が仕事を放棄せざるを得ないほどの

未知数な力を有していた」

 

「うわ、烏間の武器を破壊しただけじゃなくて退けたって?とてもじゃないけど

信じられないのじゃ」

 

「・・・・・おい、その少年の名前は分からなくても顔は見ているんだよな?」

 

「大将、まさかだと思うが調べる気か?身元不明の少年だぞ」

 

「分かってる。それに今回の依頼は依頼主の誤報による失敗だ。

しかもオーフィスまでいるなら今回の依頼なんて請け負わなかったぜ。

請け負うにも依頼金の十倍は払って欲しいぐらいだ」

 

「で、どーすんの大将。仕事、続行する?いまなら行けるんじゃない?」

 

「いや、これ以上したら確実に俺たちが危なくなる。久し振りに失敗したぜ」

 

「ああ、あの時以来だな」

 

「追放されたとある一族の男と女を殺害、その亡骸を運んでくるあれ?

確かにあの二人、既に人間を止めたって思うほどの強さだったのぉ」

 

「今でも生存は確認している。そして二人の子供の存在もな」

 

「今じゃ聞かなくなってるがな。ま、この話はもう止めにして帰ろうぜ」

 

「若がビックリするな」

 

「そうじゃのー」

 

 

 

 

 

 

 

「ははっ、イッセーの奴がついに至ったか」

 

「あの子がいなければ朱璃や朱乃は殺されたいただろう。

話を聞けば三人組の手慣れによる襲撃だそうだ」

 

「お前も苦労しているなバラキエル。だが、皮肉にもそいつらのおかげで

イッセーは強くなった。『幻想喰龍(イリュージョン・イーター・ドラゴン)』ゾラードの司る力は

消滅と無効。ヤハウェさえ恐れていたあのドラゴンはイッセーに力を貸した。大したもんだよ」

 

「タンニーンも危なくなるではないか?」

 

「問題ないさ。イッセーは体力の向上を目指させているからよ」

 

「そうか・・・・・」

 

「さて、残りの半年あいつをヴァーリと共に強くしていこうかねぇ。くく、楽しくなって来たぜ」

 

「ほどほどにな」



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エピソード8

「今日は私と一緒にいるの!」

 

「リアスばっかりズルい!一誠は私と一緒にいるの!」

 

「朱乃は何時も一誠と一緒じゃない!ちょっとぐらい私も一誠といさせてよ!」

 

「いや!もっと一緒にいるの!」

 

「朱乃のバカ!我がまま!」

 

「リアスだって我がままじゃない!」

 

 

わー!きゃー!わー!

 

 

「・・・・・お兄さま、止めないんですか?」

 

「喧嘩するほど仲が良いってリーラさんが言っていたから放っておく」

 

「イッセー、良い性格をしているにゃん♪」

 

「そう?どう思うオーフィス?」

 

「我、分からない」

 

グレモリー家に遊びに来た一誠たち。白音と黒歌はグレモリー家に預けられ、

朱乃と朱璃は堕天使側の領土で移住する事になった。

必然的に一誠たちも堕天使の領土で暮らすことになったが、

特に文句も言わず残りの期間まで暮らしている。

 

「にゃー、イッセーもだいぶいい感じに強くなってるねー」

 

「自分じゃ分からないよ強くなったのか」

 

「いやいや、仙術で分かるにゃん。イッセー、最初にあった頃より力も増大しているし」

 

「仙術?なにそれ」

 

「仙術って仙人しか扱えない特別な力の名前。相手の気、生命エネルギーを―――」

 

と黒歌から仙術の詳細をふむふむと聞いていると、一誠たちがいる庭の向こうから

 

「こんにちは一誠ちゃん」

 

「あっ、フォーベシイおじちゃん」

 

細身で銀髪の中年男性が青い髪の二人の少女とメイド服を見に包む女性を

引き連れて近づいてきた。

 

「黒歌、グレモリー家の生活はどうかな?」

 

「良くして貰っているにゃん。魔王フォーベシイ、心から感謝しているわ」

 

「お礼を言うなら一誠ちゃんに。私は特に何もしていないよ?それよりも一誠ちゃん、

キミに紹介したい子がいるんだ」

 

何だかデジャブを感じたと黒歌は思いつつフォーベシイの足元にいる少女たちを見据える。

姉妹なのか容姿がとても似ている。子猫より身長があり、

一誠と同年代だろう少女たちはフォーベシイの手に頭を載せられた状態で紹介された。

 

「私の娘、ネリネちゃんとリコリスちゃんだ」

 

「初めまして、私はネリネです」

 

「初めまして!あなたがイッセーくん?お父さまから話を何度も聞いていたよ。

あと私の名前はリコリスって言うのよろしくね」

 

「兵藤一誠だよ、よろしくね」

 

三人は握手をし合う。ネリネは大人しい子でリコリスは活発な子らしく、

ペコリとお辞儀をしたり笑みを浮かべながら挨拶をした。

 

「ところで一誠ちゃん、リアスちゃんと朱乃ちゃんが喧嘩をしてるみたいだけど」

 

「僕と一緒にいたがっているんだけど、あとで仲良くなるかもしれないから放っておいているの」

 

「ふむ、一理あるが時には男の子が喧嘩を止めさせることも大事だよ?」

 

「そうなの?」

 

「うむ、試しに私の言う通りにしてみなさい」

 

一誠はフォーベシイの指導のもと、喧嘩を止める方法を教授を受け未だに喧嘩している

リアスと朱乃に近づく。

 

「一誠!私と一緒にいたいよね?」

 

「一誠はリアスよりも私と一緒にいたいよね?」

 

近づいてきた一誠に気付き、必死に尋ねるリアスと朱乃に一誠は二人の頬に唇を押し付けた。

 

「「え・・・・・?」」

 

そして、小さい体で二人の女の子の身体に腕を回したのだった。

 

「僕の為に喧嘩しないでよ。大好きな二人が喧嘩したら僕は嫌だし傷付くももっとヤダよ」

 

「「・・・・・」」

 

耳元で囁かれ、リアスと朱乃はしばらく何をされたのか、

何を言われたのか処理が追い付かないでいたが理解した時には耳まで顔を赤くした。

 

「い、いいいいい一誠!?」

 

「えっと、あ、あの、そ、それって・・・・・あうあうあうあう・・・・・っ」

 

次の瞬間。一誠を突き飛ばし、どこかへ行ってしまった。

 

「・・・・・え?」

 

フォーベシイに言われたとおりにして、二人が喧嘩を止めるはずだとも言われたが

怒ったように顔を赤くし突き飛ばされ、どこかに行ってしまった二人に呆然とした。

 

「・・・・・フォーベシイおじさん」

 

これでよかったの?とフォーベシイに求め振り返るとそこには、

 

『フォーベシイさま、一誠さまになんて不埒なことをさせているのですか!』

 

『パーパー!まだ幼い一誠くんに変なことを教え込んでくれやがりましたねぇっ!』

 

『リ、リーラちゃんにママ!わ、私はただ女の子の喧嘩を止める方法を教えただけだよぉっ!?』

 

『『その方法が子供に悪影響を与えると言う事を知ってて教えたあなたに天誅ですっ!』』

 

必死に逃げるフォーベシイにグンニグルを片手に追うリーラと何時の間にかいた

見知らぬメイドが足に雷撃を纏って凄まじい速度で追いかけていた光景が

一誠の目に飛び込んできた。

 

「・・・・・黒歌お姉ちゃん、リーラさんたち何してるの?」

 

「にゃははは、大人だけの追いかけっこにゃん。ところでイッセー。

お姉ちゃんにもさっきのして欲しいにゃ」

 

「ん?いいよー・・・・・ごめん、リーラさんが怖い顔を向けてくるからダメみたい」

 

「一番手強いのは、やっぱりあのメイドねぇ・・・・・」

 

後日、リーラから二度とあんな方法で女の子同士の喧嘩を止めることを禁じられ、

正しい喧嘩の方法をリーラに上書きされる形で教え込まれた。

全身黒コゲでオーフィスに突かれて気絶しているフォーベシイの後ろで。

 

 

―――翌日―――

 

 

『ははは、そんなことがあったのかい』

 

「笑いごとではございません誠さま。あの魔王には感謝するけれど、純粋な一誠さまに

穢れができてしまう言動を教え込まれては傍迷惑なのです」

 

『そうね。あの子だけでも純粋にいてくれないと可愛くなくなるわ。リーラ、引き続き

一誠に悪影響を与えないように監視もとい御世話してね』

 

「分かっております」

 

『それと、例の襲撃して来た奴らのことなんだけれど万事屋「九十九」って

何でも屋って事が分かった。俺と一香も面識ある』

 

「そうでしたか・・・・・知らずとはいえ、敵対になったことに運命とは

分からないものですね」

 

『仕事に関して私情は挟まない。裏社会では有名な組織だ。

今頃、お前たちの情報を得ている頃だろうさ』

 

『それにしても、彼らを撃退したあなたとオーフィスはともかく、

「九十九」メンバーでナンバー2の烏間を撃退した一誠は凄いわ。

彼の強さは私たちも認めるほどだし』

 

『大将に至っては完全にお前たちを侮っていたからオーフィスにやられた。気をつけろよ、

あいつは俺に怪我を負わすぐらい強敵だ』

 

通信式魔方陣で誠と一香と連絡するリーラ。今まで起きた事をこうして現れる魔方陣を介して

今までリーラは報告をしていたのである。

 

「血は、争えないってことでしょうか」

 

『今回は偶然結果がそうなっただけだ。次もそうなるとは限らない。

運も実力の内と言うがそれはどこまで続くか』

 

『アザゼルからも報告を聞いているけど、誠輝に渡した宝玉は一誠に渡されたらしいわね』

 

「はっ、そのようで。私は知りませんでしたが」

 

『今となってはそれが良かったかもしれない。邪龍ネメシスも俺たちがこっそり

一誠に宿したんだがな』

 

「―――お二人が、ですか」

 

元々宿っていたわけではないあの邪龍は後天的な方法で一誠に宿されていた。

初めて知る事実であり、何時の間にかそんな事をしていた二人に心の中で溜息を吐いた。

 

「それで、お二人は今どこで何を成されておりますか?」

 

『いまか?インドにいる神さまたちと宴会しているぜ』

 

『一誠も連れて来たかったわぁー。パールヴァティーやサラスヴァティーが

会いたがっていたもの』

 

・・・・・この二人はとんでもないことをすることに関して留まりなど知らない。

そんな二人の血は濃く一誠も受け継いでいるのかもしれない。

 

『ところで一誠は今どうしている?バラキエルの娘やサーゼクスの妹に振り回されているか?』

 

「いえ、一誠さまに会いにアジュカさまが来訪していまして」

 

『アジュカ?アジュカ・アスタロトが一誠に?』

 

「はい。いま、私の目の前でお話をしています」

 

部屋の隅で誠と一香と会話していたリーラの視界に応接室の机を挟んで座っている

一誠と怪しい雰囲気を醸し出している男が映り込んでいる。

 

「ふむふむ。実に興味深い。グレートレッドの肉体とオーフィスの力によって生まれたドラゴンか」

 

「・・・・・」

 

「ああ、そう警戒しなくても虐めたりしないから安心して欲しい。俺はサーゼクスと友達だよ」

 

「・・・・・サーゼクスお兄ちゃんと?」

 

「そうだ。なんならサーゼクスの小さい頃の話をしようか?

ふふ、あいつの恥ずかしいことも知ってるよ?」

 

ジッとアジュカの目の底を覗きこむように一誠は凝視したらフルフルと首を横に振った。

 

「おや、いいのかい?」

 

「嘘じゃないみたいだから良い」

 

「信用してくれてありがとう」

 

朗らかに感謝をし展開していた魔方陣を消した。

 

「兵藤一誠くん、ドラゴンに興味あるかな?タンニーンとの特訓もしているそうだし」

 

「うん、興味あるよ。他の二天龍とか邪龍とか会ってみたい」

 

「ふふ、兵藤一誠くん。真龍、龍神、天龍、邪龍の他にも代表的なドラゴンがいるんだよ?」

 

意味深な物言いを言うアジュカの目に「なに?どんなドラゴン?」と目を輝かす一誠が映る。

人型ドラゴンとはいえ、精神的はまだまだ子供。好奇心や興味なものがあると誰でも

知りたがるのは悪魔とて同じことだ。

 

「五大龍王という五匹の強いドラゴンがいるんだ。俺はそのうちの一匹と友達でね、

真龍と龍神によって誕生したキミなら彼女も友達になってくれるはずだ。

どうだい、会ってみるかな?」

 

「会う!」

 

勢いよく挙手をしてハッキリと願った。アジュカは小さく笑みを浮かべリーラに顔を

向けると、話を聞いていたようでコクリとリーラが頷いた。

 

「私も同伴させてもらいます」

 

「あとオーフィスとヴァーリも!」

 

―――○●○―――

 

一誠、リーラ、オーフィス、ヴァーリ、そしてアジュカは妖しげな森林の中に

魔方陣の光と共に出現した。そして開口一番、

 

「ここ来たことがあるよ?」

 

「おや、そうだったのかい」

 

「誠さまと一香さまがサファリパーク気分で一誠さまをここにお連れしたことがあります」

 

「ここは人間が知らない場所であるんだがね。彼らの行動力は凄まじい」

 

アジュカの先導のもと、一誠たちはどこかへと案内され続く。

 

「アジュカお兄ちゃん、どんなドラゴンなの?」

 

「―――蒼穹のごとき鱗を持つ龍の女王、『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマット。

悪魔のゲーム、レーティングゲームの真の審判者であり、真の管理者の一角だよ」

 

すると、一誠の右手に禍々しいオーラが発生し、黒と紫が入り混じった赤い宝玉がある籠手。

ヴァーリの背中に青い翼が生え出した。

 

『ティアマットか。懐かしいドラゴンと会うのだな』

 

『我らが揃って会えば驚くかもしれんぞ?』

 

と、一誠とヴァーリの中に宿っているドラゴンが会話をした。

 

「あれ、知ってるんだ?」

 

『ティアマットは五大龍王の中で最強のドラゴンだ。

ドラゴンの世界でティアマットの事を知らないドラゴンはいないぞ』

 

「・・・・・ねぇ僕、知らなかったけどいけなかったのかな?」

 

『元々人間だった兵藤一誠が知らないのは無理もない。

ヴァーリも最近になって知ったばかりだからな』

 

アルビオンにフォローされる。「そっか」と一誠は納得しアジュカの背を見ながらついていく。

 

『しかし、ティアマットが退治されていなかったのはアジュカと盟友の関係だったからなのだな』

 

「過去に彼女と接触できた機会があってね」

 

『そうか。この調子ではドライグと会える可能性が大きいな』

 

『なんか因縁があるようだが?』

 

『私はどうでもいいがな。赤いのとは宿命のライバルでしかない。しかし今世代の宿主は、

宿命の戦いよりも別の興味対象に夢中で戦いよりも―――』

 

「アルビオン、それ以上言うな」

 

若干、顔を真っ赤にしたヴァーリが青い翼に叱咤する。

でも、アルビオンは喉の奥から鳴らすような笑いを発し、

 

『何時か知られる時が来るからそろそろ良いのではないかヴァーリよ』

 

「・・・・・今はこれでいいんだ」

 

「ヴァーリ、何がいいの?」

 

「っ!な、何でもない・・・・・」

 

一誠に声を掛けられ、はぐらかしながらリーラの後ろに隠れた。

そんなヴァーリに小首を傾げ、リーラに「どうしたの?」と視線で問うと、

 

「大丈夫ですよ一誠さま。ヴァーリさまは一誠さまのことが大好きですから」

 

「そうなんだ?僕には好きという気持ちがまだ分からないけど」

 

「今は分からずとも、ヴァーリさまの思いもいずれ分かる時が来ます」

 

「ふーん?うん、分からないけど分かった」

 

取り敢えず納得しようと頷いた一誠や一誠たちに影が覆い始めた。

 

「どうやら、向こうから来てくれたようだ」

 

アジュカに着いて行く形で歩いていた一誠たちは、広々とした木々に囲まれた場所にいた。

アジュカの言葉に全員が上に視線を向けた時、

巨大な蒼き生物―――ドラゴンが力強く翼を羽ばたかせながらゆっくりと舞い降りた。

そして、ドラゴンが喋った。

 

『この地に珍客が来るとはな』

 

ドラゴンはオーフィス、ヴァーリ、最後に一誠を見回す。

 

「久しい、ティアマット」

 

『久し振りだな』

 

オーフィスとアルビオンが挨拶をした。

件のドラゴン『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマットが一誠たちの前に姿を現した。

 

『オーフィスにアルビオン。最後に見たのは何時だったか。そして不思議だ』

 

青い鱗に覆われた顔と金色の双眸を一誠に近づけた。

 

『この人間からオーフィスとあのグレートレッドの波動を感じる。ましてや、

邪龍とゾラード、メリアもいるではないか』

 

「イッセーはグレートレッドの一部の肉体、そして我の力を与えて復活した元人間。

だから、イッセーは小型のグレートレッドであり我、オーフィスの力を有している人型ドラゴン」

 

『・・・・・そんなドラゴン、見聞したことが無い』

 

ティアマットは心底、驚愕した様子を窺わせる。アジュカが初めて声を掛けた。

 

「ティアマット、この子を見た感想はどうだい?」

 

『アジュカよ。この子を見せる為に連れて来たと?』

 

「兵藤一誠くんがとてもドラゴンに興味や好奇心が旺盛でね。キミのことを教えたら―――」

 

「・・・・・」

 

目をキラキラと輝かせ、満面の笑みを浮かべる一誠を一瞥し、

 

「ご覧の通り、キミに会いたがってね。だから会わせに来たんだ」

 

『兵藤・・・・・噂に訊いたことがある人間の一族の者か。

オーフィスとグレートレッドと面識があったとは驚きだ。では、兵藤一誠。質問をいいか?』

 

「なに?」

 

『私と出会った。では、私に何を求める?』

 

「家族!家族になって!」

 

ぴょんぴょんとその場で何度も跳ねる一誠が間も置かず言い切ったのだった。

これにはティアマットは開いた口が塞がらず「ほう、あんな表情をした彼女は初めて見た」

とアジュカが面白いものを見る目で漏らす程だ。

 

『・・・・・家族?』

 

「うん、同じドラゴンだから家族!」

 

『・・・・・』

 

ティアマットの視線はヴァーリ(アルビオン)に向く。

 

『アルビオン、この者は私に仕えて欲しいと言っているのか?』

 

『純粋にお前と友達になりたい、そう言いたいのだろう。私も同じことを言われたぞ』

 

「我も。我、イッセーの家族」

 

オーフィスも付け加える。オーフィスの言葉も聞きアジュカへ視線を変える。

 

『アジュカ。お前はどう思う?この者に対して』

 

「この子は将来、とんでもない成長をして俺たちを驚かしてくれると思っているよ。

実際、聞いただけだが他の神話体系の神々とこの子は何度も会っているほどらしいからね」

 

『他の神話体系の神々と・・・・・』

 

「はい、ヤハウェさま、オーディンさまやゼウスさま、ポセイドンさま、ハーデスさま、

帝釈天さまを始め一誠さまはこの歳で様々な神々とお会いしています。

この一誠さま専属従者のリーラ・シャルンホルストもお会いしております」

 

リーラもそうだと申し、ティアマットは無言で一誠を見据える。

 

『兵藤一誠。お前は私を使い魔にしたいとは思わないか?』

 

「なにそれ?美味しいの?」

 

『・・・・・ふふふ、有り得ないドラゴンとなっても心は人間の子供のままなのだな』

 

「?????」

 

疑問符を浮かべる一誠に顔を近づけた。

 

『お前から見て、私をどんなドラゴンだと思っている?』

 

「青い空みたいな身体で綺麗だと思うよ?もしかして空から生まれたドラゴンなの?」

 

『・・・・・くくく、はははははははっ!』

 

唐突にティアマットが高らかに笑った。笑う要素はどこにもない。

純粋な子供の答えに、的外れな答えに笑わずにはいられなかった。久しく笑った。

最後に笑ったのは何時だろうと空に向かって笑うティアマットは思った。一頻り笑うと、

 

『はー笑ったぞ。すまないな、バカにして笑ったわけではないからな』

 

「おかしかった?」

 

『ある意味、な。だが、お前のようなドラゴンと出会えてよかったと思うぞ兵藤一誠』

 

目を細めるティアマット声が弾んだようにも聞こえる。

 

『お前といれば楽しいことが起こりそうだ。私はこう見ても好戦的でな、

暴れることも好んでいる。いまは盟友アジュカの各種ゲームにおいて

重要なポストについている。予想だにしないイレギュラーに対処する為だ』

 

「強いからあっという間に解決しちゃうよね」

 

『その出番は滅多にこないがな。―――兵藤一誠、真龍グレートレッドと龍神オーフィスの力を

有しているドラゴンのお前に力を貸そう』

 

「ん?」

 

意味が分からないと小首を傾げる一誠にアジュカが解釈する。

 

「ティアマットがキミの家族になると言っているんだよ」

 

「そうなの?やった!ありがとうティアマット!」

 

喜ぶ一誠を余所にアジュカはティアマットに問うた。

 

「彼の使い魔になるとそう思っても良いのかな?」

 

『アジュカ、お前が言っただろう?彼の子の家族になると。私は誰かに使われる気も

仕える気もないのだ』

 

「・・・・・なるほど、言いたいことが分かった。

兵藤一誠・・・・・彼の魅力はどこまで凄まじいのか」

 

 

 

 

 

 

『ティアマットまでもが加わるとはビックリしましたよ』

 

『なに、私は嘘を吐いていないぞ。何度も好き勝手に暴れたこともある』

 

『我が主は「力」を引き寄せる才能があるようだ』

 

『最初に引き寄せたのはオーフィスに続きグレートレッド。普通の人間では何度転生したって

真龍と龍神と同時に出会うことは皆無に等しいぞ』

 

『次はどんなドラゴンと出会いたがるのやら』

 

『観ていて飽きない、飽きさせないのは確かだな』

 

『見守りましょう』

 

『グレートレッドとオーフィスの力を有するドラゴン。

これからどんな人生を歩むのか観させてもらう』



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エピソード9

「さーて、神器(セイクリッド・ギア)についてこの俺、堕天使の総督兼神器(セイクリッド・ギア)マニアの

アザゼル先生が説明するからよーく聞けよ」

 

「はーい」

 

ホワイトボードの前に立つアザゼルが一誠やヴァーリ、朱乃、オーフィスに先生のように知識を披露する。

 

「まず、神器(セイクリッド・ギア)というのは天界にいる『聖書の神』ことヤハウェという

神が作りだした『システム』によって人間、もしくは人間の血を流す種族のみ宿るという

摩訶不思議な能力だ。現にイッセーとヴァーリには神器(セイクリッド・ギア)を有しているな」

 

一誠とヴァーリはコクコクと頷く。二人ともドラゴン系統の神器(セイクリッド・ギア)である。

 

神器(セイクリッド・ギア)は様々な力があってその数は星の数にも等しい。

俺たち『神の子を見張る者(グリゴリ)』が調査した段階で軽く1000以上の

神器(セイクリッド・ギア)はあると踏んでいる。だが、人間や人間の血を持つハーフの種族が

絶対に神器(セイクリッド・ギア)を気付きそれを使いこなせるとは言えない」

 

「なんでなの?」

 

「摩訶不思議な力があると気付かないことが多いからだ。しかも、あることを知っていても

神器(セイクリッド・ギア)は様々で自分がどんな力を有しているのか分からないからな。

さらにその発動条件も様々だ。いつどうやって神器(セイクリッド・ギア)を使えるように

なるのか時の運次第が多い」

 

感嘆の声を漏らす一誠たち。そう言う事なら自分たちは運がいいということになる。

 

「まっ、過去の偉人たちも神器(セイクリッド・ギア)を有しているから後世にまで

語り告げられているわけだ。さて、質問はあるか?」

 

「はい、アザゼル先生」

 

「なんだイッセー」

 

挙手する一誠はアザゼルに問いかけた。一誠の問いは単純なものだった。

 

「一番強い神器(セイクリッド・ギア)はなに?」

 

「現在一番強い神器(セイクリッド・ギア)は『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』だ。

神を滅ぼすことが可能とされている―――そういう類いの神すら滅ぼすことが可能な力を

持つと言われる特殊な神器(セイクリッド・ギア)は『神滅具(ロンギヌス)』と称されていてな、

それは現時点で15種が確認されている」

 

神滅具(ロンギヌス)・・・・・・?」と聞き慣れない単語に首を傾げた一誠にアザゼルは頷いた。

 

「そうだ。神滅具(ロンギヌス)には2種類以上の能力をあわせ持つ特徴がある。

ヴァーリが持つ神器(セイクリッド・ギア)もまた神滅具(ロンギヌス)。名前は白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)だ」

 

「へぇー、そうなんだ」

 

「主な能力は『半減』。相手の力を半分にした力は自分の力に糧とするチートな能力だ」

 

「うわ、それ絶対に負けないんじゃない?」

 

「相手に触れないとその効果は発揮できないがな。触れなくてもできるがな」

 

「どっちなのさ?」

 

さらにアザゼルは『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』、『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』、『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』、『絶霧(ディメンション・ロスト)』、

魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』、『獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)』『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』、『蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)』、

永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』、『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』、『究極の羯磨(テロス・カツマ)』、『時空間と次元の自由航路(スペースタイム・ディメンション・ルート)』、『神愛護珠(ゴッド・ラブ・ディフェンス)』と各神滅具(ロンギヌス)の存在を説明した。

 

「と、他の神滅具(ロンギヌス)の名前は以上だ。能力についてはまた今度教える」

 

「ん、分かった。でも今日はタンニーンと修行の日じゃないよね?」

 

「ああ、お前はタンニーンと砲撃や火炎球の合戦をしているが魔力は砲撃が芸だけじゃないんだ。

魔力は他にも様々な使い方がある。それをお前はとある悪魔に教わることになっている」

 

「誰?」

 

アザゼルは敢えて教えず、一誠だけ魔方陣で共にその悪魔の許へと赴いたのであった。

―――そこは石造りの城だった。リアスの家よりも遥かに大きいかもしれないと

一誠は思ったが反応は薄かった。

 

「どうした、驚かないか?」

 

「なんか、こういう家ばっかり見ているから見慣れた」

 

「ああ、そういうことか。そんじゃ俺は帰るぜ」

 

「え?」

 

一緒に来てくれないの?と視線をアザゼルに向けたが魔方陣の光と共にいなくなった。

そんな自分を置いてけぼりにしたアザゼルと擦れ違う感じで城から一人の女性が現れた。

 

「いらっしゃい、あなたが兵藤一誠くんね」

 

「・・・・・誰?」

 

「私はアスモデウス。五大魔王の一人よ?フォーベシイさんと同じ魔王と言えば分かるかしら」

 

長い翠の髪、金色の瞳、整った輪郭、豊満な身体の持ち主の女性が口元を緩ましながら言う。

 

「フォーベシイおじさんと同じ魔王?」

 

「ええ、そしてあなたに魔力の扱い方を教える先生でもあるの。さ、こちらにおいで」

 

踵返すアスモデウスに続く。城の中に入り、壁に画や甲冑が所々に飾られている廊下を歩き、

一誠はとある部屋の扉を開け放って入るアスモデウスの背を追いかけると、

 

「いらっしゃい、待っていたわよ」

 

「こんにちは兵藤一誠くん」

 

「来たな」

 

「・・・・・はい?」

 

見知らぬ女性たちが一誠を出迎えたのだった―――。

 

「えっと、兵藤一誠です。お姉さんたちは誰?」

 

自分を知っている人物たち。この三人も先生なのかもしれないと一誠は自己紹介した。

 

「私はルシファー。フォーベシイさんとアスモデウスと同じ魔王よ。この三人も五大魔王の一人」

 

血のように真っ赤な髪に黒い瞳の女性が一誠を見下ろしながら名乗る。

 

「私はレヴィアタン。よろしくね兵藤一誠くん」

 

青い長髪に紫の女性が一誠と握手を交わしながら名乗ると

最後に黄色のロングストレートに鋭い翠の瞳の女性が口を開く。

 

「ベルゼブブだ。私は魔法より剣術を教えることができるから魔力に関しては

この三人に訊いて欲しい」

 

「じゃあ、何でここにいるんだろう?」と思わずにはいられない一誠。

だが、魔力の扱い方を教えてくれるのは確かでありそうだ。

 

「それじゃ、軽く自己紹介を終えたことであなたに魔力の扱い方を学んでもらいましょうか」

 

「ん、よろしくお願いします」

 

一誠の魔力に関する修行は五大魔王の内の四人の指導のもとで始まるのだった。

 

「魔力を大きな球にできるかしら?」

 

「球?」

 

「タンニーンにビームを放っているでしょ?あれを今度は球にするの」

 

どうしてそんな事を知っているのか不思議だったが、言われた通り魔力を球状にして見せた。

 

「ちょっ、そんな大きくしなくて良いのよ!?」

 

「まだ子供だというのにこの魔力量は・・・・・」

 

「中々ではないか」

 

「ただ魔力を放つだけしか芸はないことを教えないとダメね」

 

部屋の天井まで届きそうなほど大きな赤い魔力球を作りだす一誠。

魔力を少なくして小さくし、手の平サイズにしたことで次に進む。

 

「それじゃ」

 

レヴィアタンが手の平に何もない場所から水を具現化させた。

 

「・・・・・マジック?」

 

「違うわよ。彼女は魔力で水を操ったの。まだ子供の一誠くんにはわからないでしょうけどね」

 

「魔力って凄いんだねー」

 

「そうよ?慣れれば慣れるほど、火や水、雷だって操ることができる。

キミもできるその可能性を秘めているわ」

 

目を輝かす一誠。明るい顔を浮かべ、「頑張るぞー!」とやる気を出した。

 

「子供ね、可愛いわ」

 

「うん、数年後したら格好いい男の子になるよねきっと」

 

「その頃、さらに強くなっているだろう」

 

「育て甲斐があるわね」

 

四人の魔王は笑みを浮かべ、教えを乞う一誠にあれこれと魔力の扱い方を教えていく。

 

―――○●○―――

 

「・・・・・おいおい、何してんだお前」

 

とある日のこと。アザゼルは目の前の光景に驚きを隠せないでいた。

広い敷地で氷の銅像が立ち並び、その前に一誠がいた。

 

「あ、アザゼルのおじさん。見て見て、こんなことできるようになったんだよ」

 

「・・・・・完全に魔力を遊び道具にしているな。・・・・・しかもこれ、俺か?」

 

自分に似た銅像があることを知り、手鏡で自分の顔と見比べるアザゼルだった。

あまり完成度は高くないが、ここまで上達した一誠に気になって問うた。

 

「お前、どこまで教わってできるようになった?」

 

「ん?火や水、雷を操ることはできたよ。面白いねー魔力って。

ビームみたいに撃つ他にもこんなことができるなんて凄いや」

 

楽しげに今度は氷の人魚を象った銅像を創り上げた。

 

「(魔力の才能・・・・・というより想像力が長けているのか?)おい、一誠」

 

「なに?」

 

「本当に操れるようになったのかちょいっと俺に見せてくれや」

 

「いいよー?」

 

アザゼルの言われた通り、一誠は巨大な火炎を発現し、火炎に雷を帯びさせ、

火炎と雷ごと凍らせた。

 

「はい、できたよ?」

 

「・・・・・子供って意外と成長が早いんだな」

 

「僕に魔力の扱い方を教えてくれたアスモデウスお姉さんたちも驚いていたよ。

もう教えることが少なくなったって」

 

「ああ・・・・・そうなんだ」

 

目に浮かぶ五大魔王の驚き顔。一誠の凄まじい学習能力に舌を巻いたはずだ。

それと同時に新たな力を得た一誠はまた一段と強くなった。

 

「イッセー、魔力をコントロールできるのがいいが、それを人間界では絶対にするなよ。

お前は人間じゃないドラゴンだ。人間界を騒がしちゃあいけない。わかったな?」

 

「ダメなの?うーん、分かったよ」

 

本当に分かってくれたのか怪しいところだが、後で一誠のメイドにも

言っておこうとアザゼルは思った。

 

「そう言えばアザゼルのおじさんって神器(セイクリッド・ギア)のこと詳しいよねー?」

 

「なんだ?それがどうかしたか?」

 

「うん、そのことをアスモデウスお姉さんたちに話したらさ。こんなものをくれたんだけど」

 

―――――それはアザゼルにとって最も黒歴史に等しい代物だった。

 

 

   『☆ぼくが考えた最強の神器(セイクリッド・ギア)資料集!☆』

 

 

                             

 

                             

                             「なまえ あざぜる」

 

 

ってタイトルで長々と設定が書かれていた上に自筆らしいイラストまで添えて

アザゼルの名前も記されていた。

 

 

「これ、元々天使だったアザゼルのおじさんが書いたものだってくれたんだ。

この|閃光と暗黒の龍絶剣《ブレイザー・シャイニング・オア・ダークネス・ブレード》

って神器(セイクリッド・ギア)の剣。凄く格好いいよ!アザゼルのおじさんって

子供のころから神器(セイクリッド・ギア)に興味があったんだねぇ」

 

純粋に褒めてる一誠。だがしかし、当のアザゼルは身体を震わせ顔を真っ赤にし、

 

「そ、それをよこせぇっ!俺の唯一の黒歴史ぃっ!」

 

「な、何でぇっ!?」

 

せっかくもらったものを無理矢理奪おうとするアザゼルから逃げ出す一誠。

 

「待て!その資料を俺によこせ!」

 

「やだっ!これは僕のだから絶対にあげない!」

 

「こういう時だけ頑固になるんじゃねぇー!」

 

逃走する一誠を追いかけるアザゼル。建物の中に入り、アザゼルと同じ堕天使たちを横切れば

「なんだ?」「どうした?」と一誠を追いかけるアザゼルに不思議がるが

当の本人たちはそれに気付かない。

 

「なんだですか、騒々しいですね」

 

その時、一人の堕天使が一誠の目の前に現れた途端にアザゼルが叫んだ。

 

「シェムハザか!一誠を捕まえろ!」

 

「は?」

 

「助けてー!アザゼルのおじさんに襲われちゃうー!」

 

シャムハザと呼ばれた堕天使は一瞬だけ一誠を選ぶかアザゼルを選ぶか脳裏で考えた。

 

「アザゼル、子供に大人げないですよ」

 

「はぁああああああああああ!?」

 

一誠を庇い。アザゼルを捕まえたシェムハザ。

同胞に庇われる一誠を捕まえようともがくアザゼルだったが、

シェムハザだけでなく他の堕天使たちにも「総督がご乱心だ!」と抑えられてしまい、

それは難しくなった。

 

「待て!俺はイッセーじゃなくてイッセーの手にある物に用があるんだ!」

 

「奇遇ですね。私もアザゼルに用があったのですよ」

 

「お前の用件は後回しにしてくれ!俺の黒歴史が再び再発されたくないんだぁ!」

 

「おかしなことを言いますね。あなたの何の黒歴史なんですか?」

 

「これ」

 

と、一誠がシェムハザに設定資料を見せた。それを見た途端にシェムハザは良い笑みを浮かべた。

 

「ああ・・・・これですか。懐かしいじゃないですか。

ねぇ|閃光と暗黒の龍絶剣《ブレイザー・シャイニング・オア・ダークネス・ブレード》総督?」

 

「お、お前ええええええええええええええええええっ!」

 

顔が羞恥心で真っ赤になるアザゼルとアザゼルを抑えていた

堕天使たちが生温かい視線を送っていた。

 

「なんだ、アザゼルが叫んでいるではないか」

 

「なになに?」

 

アザゼルの叫びが他の堕天使たちを呼びだす水の波紋と化となった。

 

「あら、一誠くんじゃない。その紙は何?」

 

キリッとした切れ長の目、薄紫の長髪の女性が一誠と視線が合うように跪き

設定資料に興味を抱いた。

 

「見せてくれない?」

 

「いいよー」

 

「み、見せるな一誠ぃいいいいいいいっ!」

 

アザゼルの切なる想いが籠った叫びは空しくも―――。

 

「―――アッハッハッハッハッ!まだこんなものがあったなんてあの時を思い出すわ!」

 

「ベネムネ、何を見て笑っている?」

 

「これよこれタミエル。いやー、ハッハッハッ!

 ダメ、久々にツボがッ・・・・・・!」

 

ベネムネと呼ばれた女性から受け取った紙を見てブロンドの髪に装飾が凝った

ローブを纏う男性も笑みを浮かべた。

 

「ハハハ、なるほど。笑う価値があるなこれは」

 

「おいゴラ!?人の黒歴史を見て笑う価値があるとはなんだ価値とは!」

 

「これはキミのかな?ああ、大事にとっておきなさい。

今分からずともアザゼルをからかう時は必ずやってくる」

 

「無視すんな!ふざけんな!そんなこと俺がさせるかぁっ!」

 

「ほら、お姉さんと一緒に逃げよっか。こんなこわーいおじさんに捕まれたら

何されるか分からないしねー?」

 

一誠を抱きかかえて逃げるといいつつもゆっくりとした歩調で去るベネムネだった。

 

 

『てめらぁっ!いい加減に俺を放せ!』

 

『アザゼル、私の用件を終わらせてからでも遅くはないですのでダメです』

 

『そうだな、私も丁度アザゼルに用があったんだ』

 

『絶対にないだろう!今適当なことを思いついたって顔をしているし!』

 

『『・・・・・レッツゴー』』

 

『『『はっ!』』』

 

『あからさまな反応をして俺をどこかに連れていくなお前らぁっー!嫌だやめろ!

 俺はまたあんな恥ずかしい思いはしたくないんだぁッッ!』

 

 

どこかへ連れて行かれるアザゼルを一誠は見た。

 

「お姉さん、どうしてアザゼルおじさんはあんなに必死なの?」

 

「一誠くんは気にしなくて良いことよ。それよりその紙を他の皆に見せて回りましょ?

きっとアザゼルも悦ぶわ」

 

「ん?お姉さんがそう言うならそうしよっか」

 

「ふふふ、可愛いわねー!お姉さん、一誠くんのその純粋が好きだわ!」

 

後日。堕天使の領土ではアザゼルの呼び名がもう一つ増えたことになったのは別の話。

 

「ちくしょおおおおおおおおおお!悪魔と戦争じゃああああああああああああああ!」

 

「「「「止めんかこのバカ!」」」」

 

「その言葉を俺はずっと待っていたぞ!さぁ、戦争だアザゼルゥッ!」

 

「「「「お前もだこのバカ!」」」」



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エピソード10

『さて、リーラ。そろそろ一年経つが一誠はどうだ?』

 

「一誠さまは心身共に強くなりました。友を作り、仲間も増えました。

もうあの頃の一誠さまは影の形もございません」

 

『・・・・・そうか』

 

「どうかなさいました?」

 

『いやな、親父が一誠と会わせろとうるさいんだ。主な理由は娘が

「一誠と会わしてくれないとおじさんと呼ぶ」って脅されているそうでな』

 

「・・・・・」

 

『・・・・・だんまりしないでくれるか?』

 

「いえ、情けない父親で苦労しますね誠さま」

 

『本人には言うなよ?』

 

「わかっております。個人的にもあの家には二度と行きたくも一誠さまを連れて

行かせたくないのですが、仕方がありませんね」

 

『ありがとう。だが、兵藤家に連れて行かなくて良いんだ。川神院に連れて行って欲しい』

 

「川神院・・・・・ですか?」

 

『連れて来て欲しい日に丁度兵藤家と川神家の共同稽古が行うんだ。覚えているだろう?』

 

「・・・・・もしかして、次の一年間を過ごす場所は」

 

『ああ―――一誠の心を鍛える意味で川神院に過ごしてもらう。総代とも話はついている』

 

―――○●○―――

 

「「行っちゃやだぁっー!」」

 

「お兄さま行かないで!」

 

「一誠・・・・・いなくなるの?」

 

「にゃー、ペットを置いていくなんてしないわよね?」

 

朱乃、リアス、白音、ヴァーリ、黒歌に囲まれ一誠は困惑状態に陥っていた。人間界に

一年間過ごすという事実を一誠が伝えたら離れたくないと一心で一誠を引き留める。

 

「ま、また会いに来るから・・・・・ね?」

 

「「いやっ!」」

 

一誠を行かせまいと抱きつく朱乃とリアス。ヴァーリと白音はジッと意味深な視線を送り、

黒歌はその様子を見守る。

 

「一誠、どうして人間界に行っちゃうの?冥界で暮らせばいいじゃない」

 

「僕、強くなるために色んなところで修行するんだ。だから、冥界で強くなったら

今度は別の場所に行くんだ」

 

「ここじゃダメなの・・・・・?」

 

「うん」と一誠が申し訳なさそうに頷いた時、リーラがアザゼルとバラキエル、

サーゼクスとフォーベシイにリコリスとネリネを引き連れてきた。

 

「リーラさん、助けて・・・・・」

 

「くくく、そのぐらいのことで根を上げたら強くなれないぜ?」

 

底意地の悪い笑みを浮かべ、一誠に対してそう言うと頬を膨らませて

「強くなるもん!」と抗議した。

 

「アザゼル、イッセーくんに意地悪なことを言わないものだぞ」

 

「そうだぞ。彼のタブーはもう分かり切っているのだからな」

 

「それで逆切れして縛られたのはどこの誰ですか?」

 

「うぐっ・・・・・」

 

呻くアザゼルから離れ、一誠に近づくリーラ。

 

「一誠さま。これから一誠さまは悪口を言われても決して怒らないと私と約束してください」

 

「うん、分かった」

 

「「本当に素直だな」」

 

アザゼルとバラキエルが異口同音で言うほど、あっさり言う事を聞く一誠あ頷いた。

 

「一誠さまは約束は必ず守る良い子です。ですから約束を破ったことは一度もございません」

 

微笑むリーラは一誠の頭を撫でる。心底信頼しているリーラに撫でられ目を細め撫でる

その手の温もりを感じる一誠の目に、

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

少女たちがつまらなさそうに、怒っているような顔で見ていたのが視界に入った。

そして何故か顔を突き出し合いながら喋り出したのだった。

 

『一誠・・・・・リーラさんみたいな美人な人がいいのかしら』

 

『リアス、私たちはまだ子供だから一誠は・・・・・』

 

『お兄さま・・・・・私もなのに・・・・・』

 

『絶対にこっちに振り向かせるんだからね・・・・・』

 

『が、頑張ります・・・・・』

 

『もう少し成長したら女の魅力も分からせてあげるにゃん・・・・・』

 

何やら女性陣が不穏な空気を漂わせている。そんな中、サーゼクスが魔方陣を展開した。

 

「それじゃ人間界に行くとしようか」

 

赤い魔方陣の光に包まれ、一誠たちは一瞬で人間界へ転移した―――。

 

―――人間界―――

 

とある場所で発現し、一誠たちが魔方陣の光と共に出現した。

晴天だが肌に突き刺す冷気に一言。

 

「寒いっ!?」

 

「そういや12月の人間界は冬真っ直中だったな。どうりで寒いわけだ」

 

「冥界は冬なんて季節は無いからね。すっかり忘れていた」

 

軽装な服装で人間界に来た一誠たちには厳しい環境の中だった。雪は積もっていて辺り

一面雪景色。でも、一誠たちは銀世界の風景を見て、感嘆を心から漏らしていた。

だがやはり、寒いものは寒いのだ。

 

「一誠、寒いわ」

 

「それ、僕や他の皆も同じだから我慢しようね」

 

「コタツに入りたいにゃー」

 

寒さに身体を振るわせつつ、一行は目的の場所に赴く。

 

「・・・・・あ」

 

大きな門が見えたところで、二人の男女が佇んでいる様子を一誠は発見した。

一誠にとって一年近い再会だ。

 

「お父さん!お母さん!」

 

雪道を駆けだし、一誠は凄い勢いで男性、誠に飛び付いた。

 

「おーっととと!久し振りだなぁ一誠!元気にしてたか?」

 

「うん!僕、頑張って強くなったよ!」

 

「見ない間に凛々しくなっちゃって。お母さん、嬉しい半面ちょっと寂しいわ。近くで

成長する一誠が見れなかったもの」

 

一誠の頭を撫でる一香にも抱きつき、互いの温もりを堪能する。

 

「よーう、誠と一香。久し振りだな」

 

「アザゼル。世話になったな」

 

「いーや、寧ろこっちが楽しい思いをさせてもらったぜ。できる事ならもうしばらく

預からせてくれるか?」

 

「はははっ、この子を預ける場所はもう予約済みなんだ」

 

「次はここらしいな?ま、俺が勝手に来るだけだがな。

まだまだイッセーに教えることはヴァーリ同様山ほどある」

 

リーラたちも合流を果たし、しばし雑談する。

 

「彼には助かったこともある。この子を預からせてくれたお前たちになんと例を言えば良いのか」

 

「バラキエル。もうそのことは気にするな。おかげで一誠も強くなったんだ」

 

「そのおかげで朱乃は一誠くんがいなくなるのは嫌だと駄々をこねてしょうがないがな」

 

「ふふっ。一誠のこと気に入っちゃったのね。さて、中に入りましょう?待たせているから」

 

一香の催促に全員は門を潜り川神院に侵入する。するとどこからともなく

気合が入った声が断続的に聞こえる。誰かが何かをしているようだが生憎

その声の場所にはいかず誠と一香の後に着いてくと建物の中に入った途端。

 

「お待ちしておりました。総代がこちらでお待ちしております」

 

坊主頭の道着を身に包んだ男性が待ち構えていてさらに一行を中へ案内した。

木造でできた床と壁に天井から一切冷たい空気を感じさせないのが不思議でしょうがない一誠は

忙しなく辺りに視線を向けていると、

 

「どうしたの?」

 

「寒くないなって。それになんだか、変な力を感じる」

 

「変な力?」

 

「温かいけどなんか強い。うーん・・・・・コタツみたいな?」

 

曖昧な表現に幼少組のリアスたちは何を言っているのか分からない様子で首を傾げているが、

 

「へぇ・・・・・イッセー。気を感じれるんだねー」

 

「黒歌さま、何か教えたのですか?」

 

「んにゃ。人の身体に流れている気ってことを教えただけ。本格的に仙人しか扱えない

仙術は教えていないにゃん。イッセーはなんとなくそれを感じ取っているのよ」

 

黒歌は一誠が言いたいことを察して感心していた。そこへ誠も割り込んできた。

 

「仙術か。俺たちも闘戦勝仏から学んだぜ。この仙術は気の扱いが長けた奴にとって

最大の武器になる」

 

淡い光が手に帯びさせる誠。一香も仙術を学んだようで「そうね」と肯定したほどだ。

 

「・・・・・イッセーの両親だけあってもう何でもアリなのね」

 

「別に不死身ってわけじゃないからな?」

 

「もしもそうだったら、神クラスの連中しか渡り合えないわよ」

 

「シヴァが一番強過ぎだって。唯一、俺と一香が全力でやって引き分け何だからな」

 

アザゼル、バラキエル、サーゼクスは大いに驚いた。インド神話の神と戦って互角の勝負。

そしてその子供が一誠と・・・・・誠輝なのだ。

 

「化ける。イッセーは絶対に化けるぞ」

 

「末恐ろしいね。彼が悪魔に転生したら魔王候補として輩出されるかもしれない」

 

「彼の人生はまだまだ・・・・・か」

 

「―――こちらです。どうぞお入りください」

 

案内人がとある扉の前に立ち止まり。一行から離れて行ってしまう。

そして、誠がガラッ!と開け放った。

 

「お邪魔するぜ」

 

「「・・・・・」」

 

誠が開け放った一室の中には白い袴姿に白いヒゲを長く伸ばした老人に、

厳つい中年男性が正座して座りこんでいた。その厳つい中年男性の左右に小さな少女が二人いた。

 

「相変わらず礼儀のない入り方をする。このバカ息子めが」

 

「生憎、兵藤家から長い間追放された身でね。礼儀なんて作法はすっかり忘れたよクソ親父」

 

「ならば、もう一度兵藤家に戻って一から作法を叩きこんでやろうか」

 

「やだね。今の生活の方が充実しているんだよ。アンタみたいな頑固者に

他の神話体系の神々と打ち解けれるか?―――無理だね」

 

刹那。二人から凄まじい力が迸ってこの場で戦闘をしてもおかしくないぐらい緊迫した

空気が包まれた。

 

「碌に子供の世話もできない父親がどの口を言う」

 

「最近落ち目な兵藤家の現当主に言われる筋合いなんてねぇよ」

 

「「やるか・・・・・?」」

 

いがみ合う二人。だが次の瞬間。

 

「いっくんだっ!」

 

「一誠さま!」

 

座っていた二人の少女が一誠に抱きついた。いきなり抱きつかれたが少女が誰なのか察

すると、笑みを浮かべた。

 

「悠璃に楼羅!久し振り!」

 

「久し振り、じゃないよっ。ずっとずっといっくんが来なくなって寂しかったんだから!」

 

「そうです。いままでどこでなにをしていたんですかっ」

 

「あう・・・・・ごめん・・・・・」

 

シュンと落ち込み、頭を垂らす一誠だったが、

二人の少女の黒髪で赤と紫のオッドアイの悠璃に長い黒髪を一つに結い上げた

赤い双眸の楼羅は強く抱く力を増して。

 

「でも・・・・・いっくんが元気で良かった。ね、楼羅」

 

「何時も無口で、話しかけても元気がなかったですから・・・・・それに何だか、格好良いです」

 

「うん、髪と目の色が違うね。どうしたの?でも、直ぐにいっくんだって分かったよ」

 

「私もです。後でお父さまに感謝しないと」

 

「あう・・・・・二人ともちょっと苦しいよ」

 

ベタベタと一誠に密着する悠璃と楼羅に、厳つい中年男性の目にキラリと光った。

 

「・・・・・やっと、お父さまと呼んでくれた・・・・・っ!」

 

「お父さーん!」

 

「貴様に呼ばれると反吐が出るわ!」

 

「・・・・・この父親、絶対にぶん殴るっ」

 

怒りで拳を握る誠。他は苦笑いを浮かべ、広い畳の床に座り始め老人と対峙した。

 

「ごほん。ようやく皆が来たところで名乗ろうかの。

ワシはこの川神院の総師範代を務めておる川神鉄心じゃ」

 

「俺は堕天使の総督アザゼルだ」

 

「私はサーゼクス・グレモリー。悪魔です。以御お見知りおきを」

 

「堕天使に悪魔か。実際にこの目にしたのは初めてじゃ。

この町には悪魔や堕天使、ましてや天使などおらんからの」

 

初めて会う異種族に臆さない川神鉄心。一誠はじーっと悠璃と楼羅に

抱き絞められながら見詰めていると、

 

「ふむ。尋常じゃない力を感じるの。闘気とは全く別物じゃ」

 

「闘気?」

 

「生物が皆、持っておる生命エネルギーのことじゃ。お主もそれを持っておる」

 

「ふーん、仙術みたいな感じだね」と一誠は心の中で思い、視線を感じると厳つい中年

男性がこちらを見ていた。

 

「・・・・・あの時の子供が、見ない間に随分と異質な力を身に付けたようだな」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・ふん」

 

厳つい男性が徐に一誠の頭へ伸ばして撫でた。

 

「・・・・・?」

 

「自分の人生だ。お前はお前の道へ自信を持って進むがいい。我が孫よ」

 

「お爺ちゃん?」と自分に孫という厳つい中年男性の顔が若干緩んだ。

 

「うむ、そう―――」

 

「いや違うぞ一誠。このおっさんは頑固ジジイって言うんだわかったな?」

 

厳つい中年男性の言葉を遮って一誠に教え込む誠だった。

そして誠の言動やその意図を察して―――。

 

「貴様・・・・・表に出ろ!せっかくお爺ちゃんと呼んでくれたのに

横から余計なことを言いおってからに!」

 

「お前みたいな頑固親父にはそう言われた方がピッタリなんだよ!」

 

「なんだとっ。そう言うお前には兵藤家の教えを再び叩きこんでやる!覚悟しろ!」

 

「はっ!殻に閉じこもって世界を見ない一族の長に、世界中を見て回ってきた

俺に勝てるかってーの!」

 

急に展開した親子ゲンカ。部屋から縁へ、雪が積もった外へ出ると

二人は拳を突き出し合い、蹴り合い、時にはエネルギー砲を放ったりし出した。

 

「母さん、お爺ちゃんでいいの?頑固ジジイでいいの?」

 

「お爺ちゃんでいいのよ一誠」

 

「ほっほっほっ。相変わらずじゃなぁー」

 

「どっちも子供みたいじゃないか?」

 

「ああいう親子のコミュニケーションもあると言うことだよアザゼル」

 

―――程なくして、親子ゲンカも終えた二人は川神院の修行僧に手当をされながらも一誠を

この家に預ける話は進んでいく。

 

「この子に川神院の教えを学ばせたい」

 

「うむ、構わぬぞい。一年間でいいのじゃな?」

 

「ええ、この子をウチにも預からせて欲しいと色んなところから願われているから」

 

「ほっほっほっ。人気者じゃな」

 

「一誠は人を引き寄せる魅力があるらしく。それを活かして幸せになって欲しいんだ」

 

別の部屋で、見えるところで遊んでいる一誠たちを尻目で見る一香と誠。

 

「川神院の流派は教えれんが、それでも良いなら喜んで引き取ろう」

 

「お願いします。できる限りあの子には人としての幸せを得ることを望んでいるので」

 

「分かった。ワシの孫娘もおるし、退屈な生活は送らんじゃろう。

じゃが、兵藤家の共同稽古は明日じゃと言うのに一日早く来たの?」

 

「ちょっと、家の事情がありまして・・・・・」

 

「ふむ・・・・・まあ良かろう。お主らにも事情があるのならワシも力を貸すぞい」

 

「ありがとうございます」と頭を下げる一香。

 

「して、今夜はこの家に泊まるかの?」

 

「泊まっても良いんですか?」

 

「よいよい。久し振りの親子水入らず、あの子はまだ子供で親に甘えたい年頃じゃ。

遠慮せんで泊まるが良い」

 

「では、お言葉に甘えて」

 

話は決まり、誠と一香は川神院に寝泊まることになった。

 

「一誠!今日はお父さんと風呂を入ろうか!」

 

「入るー!」

 

「いっくんが入るなら私も入る!」

 

「私も!」

 

誠の言葉を嬉しそうに賛同する一誠に続き、私も!私も!と女性陣までもが一誠と

入ることを望んだが、

 

「混浴は俺が許さん!男は男、女は女と別々に入ればいいのだ!」

 

「まったくお主はケチじゃのぉ。ワシも孫娘と一緒に入りたい気持ちはあるのじゃぞ」

 

「これが頑固の由来なんだよ。もっとおおらかな性格でいればいいのに」

 

「うむうむ。お主の言う通りじゃ。これでは女の裸を覗き―――」

 

「俺の女の裸を見させないからな?」

 

「同感だ。悠璃と楼羅の裸を見たい犯罪者を見張るか」

 

「ぬぅっ!?そこでなに息ピッタリ合わす必要があるのじゃっ!お主ら、仲が悪いと言うに!」

 

「「大切な家族をエロジジイから守る為だ!」」

 

一部の男性陣がこれからお世話になる老人に飛び掛かった。そしてその日の夜。

男と女は別々で風呂に入ることなり、一部の女性陣は不満を漏らしつつも風呂に入り、

寝るまでずっと片時から一誠と離れずにいたのであった。

 

「一誠と一緒に寝れるなんて久し振りね」

 

「そうだなー」

 

「僕、嬉しいよ?」

 

「私も一緒とは・・・・・嬉しいです」

 

「我も」

 

 

―――○●○―――

 

 

「ホワァァァアアアアアアッ!」

 

緑のジャージを着込んだ男性が気合の一声。全身から溢れる力=気で

瞬く間に雪を蒸発させ、融かしていった。

 

「うわぁ・・・・・・」

 

その様子を一誠は目を輝かせて見ていた。

 

「へぇー、仙術とはいかないまでも気を扱える人間がいるなんて世界は広いにゃー」

 

「ワタシハ、長い間に特訓を積み重ねてきたからネ。これぐらいできないト、

師範代にはなれないのサ」

 

「師範代って?」

 

疑問を浮かべた一誠に師範に代わって学問・技芸などを教える人と黒歌は簡潔に説明した。

 

「じゃあ、強いんだねあの人」

 

「ワタシの名前はルーだヨ」

 

「僕は兵藤一誠。よろしくお願いします」

 

「ほう、兵藤・・・・・ム?もしやキミ、この川神院に来たことあるかネ?」

 

「・・・・・一度だけ」

 

何か思い出したのか暗い表情を浮かべた。黒歌はそんな一誠を抱きかかえて、

どこかへ連れて行ってしまった。

 

「去年きた兵藤家の中で周りから侮蔑さレ、一人だけ仲間外れのような扱い方を

されていた子カ・・・・・」

 

遠い目で去って行った一誠を見るルーは再び作業に取り掛かった。

 

―――一時間後―――

 

闘技場に設けられたリングと客席。既に大人と子供が客席の殆ど座ってこれから

行う行事を開催されるその瞬間まで待っていた。そしてその時がいよいよ迫った。

 

『これより、兵藤家と川神家の共同稽古を始めます!』

 

共同稽古とは言っても実際は試合みたいなもので、切磋琢磨と互いを競い合い、

自分自身を磨き上げるための稽古試合に等しい行事である。

大人の部と子供の部と試合は分けられており、最初は大人の部から始まる。

 

「そんじゃ、張り切って倒しまくりに行くかな」

 

「え、お父さん。参加するの?」

 

「この行事は部外者も参加して良いことになっているんだ。

ただし、魔法使いの参加は禁止させられている。己の身体だけで戦うルールの試合からだ。

だから一誠、お前も魔力を使うのは禁止だ。勿論神器(セイクリッド・ギア)の使用もな」

 

「って、僕・・・・・参加する気ないんだけど」

 

「おいおい、一誠」

 

誠がピラッと参加用紙を見せ付けた。

 

「そうは問屋が卸せない。お前の参加エントリーは俺が済ませた」

 

「えええっ!僕の意思は完全無視なの!?お父さん酷い!」

 

望まぬ戦いに一誠は誠に非難する。だが、誠の顔に真面目な表情になった。

 

「いや、お前は戦うべきだ。もうお前は昔のお前じゃない」

 

「父さん・・・・・」

 

「お前の為に冥界の奴らが協力してくれたから強くなったんだろう?お前が強くなったことを

ここで証明し、感謝を籠めて勝ってみろ。優勝を目指せとは言わない。お前をバカにした

奴らに見返してやれ。お前らと違う方法でよ分かった俺はここまで強くなったんだ!ってよ」

 

それだけ言い残し、誠はリングに上がった。相手は兵藤家の参加者。

 

 

 

「・・・・・追放された兵藤家の当主の息子が相手とはな」

 

「誰かと思えば・・・・・誰だっけ?」

 

「その飄々とした態度も、相変わらずのようだな貴様は」

 

「はははっ、外の世界は刺激が満ち溢れていてお前ら兵藤家のことなんてすっかり忘れていたぜ」

 

「兵藤家は全人類の頂点に立つ栄光ある一族だ。世界をどれだけ回っても

我らが兵藤家に敵う人間はいない!」

 

「『人間』限定だけどな?だけどよ、人間じゃない異種族の奴らだったらお前ら勝てるかなー?」

 

試合開始のゴングが鳴りだし、相手は刀を前に構え闘気を全身に纏う。

 

「戯言を!」

 

一瞬で誠の背後に回った相手は無防備な背後からの斬撃を放った。

 

「(もらったっ!)」

 

刀は吸い込まれるように誠を一刀両断した。―――しかし、

 

ガシッ

 

「―――おせぇ」

 

斬った誠は残像でしかなく、本物の誠は更に相手の背後に回っていて、

 

「な―――!」

 

「おらよっ!」

 

相手の首を掴んだまま横に回しながら上へ放り投げた。そして、爆発的な脚力で空を蹴り、

空中を移動するその技法に観客は誰もが目を丸くし口が閉じないでいた。

 

「おらおらおらおらっ!」

 

高速で動きつつ打撃を与える誠。ただし、誠の姿は一部の者以外見えないでいて、

相手が勝手にあっちにこっちに吹っ飛ばされているしか目に映らないでいる。

そして誠はトドメに相手の腹部に思いっきり踵落としを食らわせリング外に叩き付けた。

勝敗は当然、兵藤誠である。

 

「うわ、弱いなー。子供時代の俺を指導してくれた先生、お前ぐらいの歳の人だったが

あの人の方がよっぽど強かったぞ。当然だけど移動する速度や剣技もだ」

 

敗者に無様と言葉を投げ掛ける誠。返ってこない返事を期待していない様子でさっさと

リングから降り立った。―――その後、大人の部の試合は圧倒的な実力を持った誠の勝利に収まった。

 

「父さん・・・・・あんなに強かったの?」

 

「そうだぜ?なんせ、三大勢力のトップを相手にして生き残るほどだ。

しかも俺たちを苦戦に強いるほどにな」

 

「ああ、急に思い出したぞ。あの時の戦争を」

 

「ふふっ、懐かしいわねー♪」

 

「一番敵に回したくないものとは人だと思い知らされた。

だからこそ我々は休戦ではなく和平を結んだのだ」

 

大人しか知らない戦争の真相とやらを一香たちは懐かしげに語った。

 

「ねぇ、誠」

 

「なんだ一香」

 

「一誠がもう少し成長したらあの封印・・・・・解かない?」

 

「・・・・・一誠が全ての修行を終えたらそうしよう」

 

「大丈夫、あの子なら絶対に・・・・・ね」



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エピソード11

続いては子供の部。一誠も望んでいない試合に出ないといけない。

誠から神器(セイクリッド・ギア)と魔力の使用は禁止と言われ、

体術か武器で戦うことしか許されない現状に少し溜息を吐いた。

 

「武器の扱い方・・・・・学べばよかったな」

 

「ん?見掛けない顔だなお前」

 

一誠に投げる声の主に振り返ると、一人の子供がいた。黒髪に赤い目の女の子だった。

道着を着て試合に出る気満々を醸し出している。

 

「外から参加して来た子?」

 

「あーうん。多分そんなところ」

 

「そっか。ま、私といきなりぶつかったら遠慮なく殴り倒してやる」

 

「女の子なのにそんなこと言っちゃダメだよ」

 

「試合いなんだ。相手を倒さずどうする?」

 

尤もな意見に一誠はぐうの音も出ない。すると少女は一誠の頬を添えるように摑んで

金色の目を覗きこんだ。

 

「お前、格好良い目をしているな」

 

「格好良い?そうかな?」

 

「ああ、獣みたいでギラギラしている目だ。うん、何かお前は面白そうな奴だ」

 

女の子は手を広げて差し出してきた。ん?と首を傾げていると、

 

「お前、絶対に決勝戦まで勝ち上がって来いよ。そしたらお前と私はその瞬間友達だ」

 

「今じゃダメなの?」

 

「それもいいが、どうせなら拳と拳をぶつけ合ってどっちかが負けたり勝ったりした後の方が

お互い心から分かりあえると思うんだ」

 

「へぇ・・・・・珍しい友達のなり方だね。うん、わかった。じゃあ名前の言い合いも

その後でいいよね」

 

「いや、審判が名前で呼ぶから直ぐに分かるぞ」

 

 

『次、川神百代!』

 

 

「ほら」

 

審判に呼ばれた川神百代。一誠は「それもそっか」と納得し、未だに差しだされている

手を掴んだ。

 

「兵藤一誠だよ」

 

「なんだ、向こうの家の奴か」

 

「ううん。あの家とは関係ないよ」

 

「ふーん?ま、いいや」

 

一誠から離れ、百代はリングに上がって相手と対峙する。百代の戦いを見ようと一誠は一瞬の動作も見逃さない姿勢に入る。そして、試合が始まった。

―――しかし、百代の一撃で相手はリング外まで吹っ飛びKO勝ちで終わった。

 

「・・・・・強い」

 

相手に一礼してぴょんとリングから降りた百代に労いを掛ける。

 

「お疲れ、強いんだね」

 

「何時もこんな感じだ。だけど、もっと強い奴がいるかもしれないから

ワクワクして楽しみなんだ。去年はあっさりと勝ってつまらなかったし」

 

「・・・・・そう」

 

二人が試合を見守る中、消去的に試合が進み、強い者は弱い者をリング外に落とすか、リングでひれ伏させる。弱い者は強い者に食い下がるも最後の運命は敗北。

 

 

『次、兵藤一誠』

 

 

「やっとお前の出番だな。勝って来い」

 

「・・・・・うん」

 

緊張の面持ちで一誠は望まぬ試合をする為、リングに上がる。相手は刀を持っていた。

 

「―――――っ」

 

一誠は相手を見て顔を険しくした。相手はそんな一誠を見て首を傾げると・・・・・。

 

「お前、もしかして俺たちの中で一番弱かった弱虫か?」

 

相手はダンマリする一誠はかつて苛めていた子供であると分かり口角を吊り上げた。

 

「なーんだ!弱虫が試合に出てくるなんてラッキー!この試合、僕の勝ちだね!」

 

固く唇を閉ざす一誠。開けば相手になんてことを言うのか分からないし、

自分をバカにする相手に何を言われようと決して怒らないとリーラと約束をした。

したから、一誠は悔しくても、怒りたくても我慢をし、拳を構えた。

そして、試合開始のゴングが鳴った。

 

「弱虫!アレから強くなった僕の剣術でまた練習台になれよ!」

 

駆けだす相手。一誠はただただその様子を見守るだけで微動だにしなかった。

 

「―――一誠!最初は相手の動きを見て、かわし続けてみろ!」

 

急に聞こえた誠の声。一誠は返事をせず、その通りに相手の動きを見極めることから始めた。

上段から、下段から、斜め前、突き、薙ぎ払いを繰り返す相手の動きを紙一重で避け続ける。

 

「(朱乃を狙った男の人のより・・・・・遅い)」

 

今の目の前の相手の刀の振るい方は朱乃を狙ってきた襲撃者より月とスッポン―――いや、

それ以上の違いが明白だった。

 

「このっ!このっ!何時までも避けているんじゃねぇよ!弱虫のくせに!」

 

相手は自分よりも各下であると疑わず、勝利を確信していたのに掠りもしないことで

焦心に駆られ、振り方も雑になってきた。そして刀を大きく振った直後、

 

「一誠殴れ!」

 

「っ!」

 

一誠の左拳が相手の顔面に深く突き刺さった。拳を戻して相手の様子を窺うと、

 

「―――うああああああああああああんっ!痛い、痛いよぉぉおおおおおおおっ!」

 

たったの一撃で相手は手で顔を覆い泣きわめき始めた。

審判は戦闘の続行は不可能と判断したのだろう、

 

「勝者、兵藤一誠!」

 

一誠に勝利宣告を告げたのだった。

 

「・・・・・僕、勝ったの?」

 

信じられないと唖然としていた一誠の身体がふわりと浮きあがり、

リング外よりさらに外の観客先まで浮かされた。

 

「やったじゃねぇか一誠!」

 

「偉いわよ一誠!」

 

誠と一香に抱きとめられ、嬉しそうな顔をする自分の両親を見た一誠も次第に笑みを浮かべた。

 

「よしよし、良くやったな一誠。タンニーンとの修行は無駄じゃなかっただろう?」

 

「初めての戦闘であるのに最後まで冷静に戦えた。それが勝利に繋がったんだ」

 

「頑張ったな、一誠くん」

 

アザゼル、サーゼクス、バラキエルも一誠に労をねぎらい、

下に降ろせばリアスたちも称賛の言葉を送った。その様子を見ていた百代が、

 

「・・・・・よし、万が一に思ってあいつがもしも私に勝ったら・・・・・」

 

と、意味深な言葉を発し、次々と行われる試合を眺めた。百代と一誠も試合に勝ち進み、

ついには二人があと一試合で勝てば決勝戦にまで上り詰めた。百代の相手は―――兵藤誠輝、

一誠の相手は―――兵藤照。初めは百代と誠輝の試合が行われた。

誠輝相手に百代は今まで戦ってきた相手よりも強いと思った。

試合が始まって数分ぐらい時間が経つと。

 

「秘密兵器を使ってやる!」

 

誠輝が左手を前に突き出した瞬間、光が発生して誠輝の左手に籠手が装着した。

『Boost!』と音声が流れると誠輝から感じる力が増大した。

 

「父さん、アレいいの?」

 

「この試合にアレを使ってはいけないルールはないからな」

 

「でも、僕は使ってはいけないって言ったじゃん」

 

「一誠の神器(セイクリッド・ギア)はな?他の神器(セイクリッド・ギア)よりも強力で

あっという間に相手を倒してしまうんだ。そんな強力な力だけ振るっても本当の意味で

強くならないんだ。頼っていた力が無くなると実力が一気に半減する。

だから一誠は体術だけで勝ち進まないといけないんだ」

 

それでも一誠は何か言いたげな目で誠に向ける。苦笑を浮かべ、リングの方へ誠は差した。

 

「それに一誠、アレを見ろ」

 

「ん?」

 

 

ドガッ!

 

 

「どんな強力で強大な力を持っても、使っても戦い方一つで勝敗が決するんだ」

 

百代に殴られリング外にまで吹っ飛ばされた誠輝に目を丸くした一誠。

 

「分かったな?神器(セイクリッド・ギア)は万能な力じゃないんだ。戦い方や状況次第で

負ける時もある。お父さんもお母さんもそんなことは何度も経験して、強くなったんだ」

 

「・・・・・父さんの言う通りにする」

 

「よーし、良い子だ。ほれ、次はお前の番だ」

 

背中を押されリングへ。一誠の相手は堂々とした立ち振る舞いで上がってきた。

 

「よぉ、弱虫。見ない間に随分と強くなったようだな?」

 

「・・・・・」

 

「あんまり調子に乗ると痛い目に会うぜゴラ」

 

照は一誠に挑発、威圧を掛ける。一誠は照の言動に無言で見詰めるだけで何も言い返さない。

―――ただし、獣みたいな垂直のスリット状の金色の双眸はギラギラと輝いて

獲物を捉えている鷹の目みたいになっている。

 

「生意気な目だ。それに何だ、イメチェンか?」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・ダンマリかよ弱虫がよっ!」

 

試合開始のゴングが鳴った瞬間。照が凄い勢いで一誠の懐に飛び込んだ。

下からうねりを上げる拳が一誠の顔面に迫った。

豪快に空気を切る音が紙一重でかわした一誠の耳に届く。

 

「お前の行動パターンはもう分かってるんだよ!相手の動きを読み、見慣れてから攻撃してくるんだよな!」

 

その通りだとばかり、一誠は照の繰り出される攻撃をかわし続ける。しかし、照という

相手は今までの相手とは違っていた。

 

 

ガシッ!

 

 

「捕まえたぁ・・・・・」

 

「っ!」

 

「こっからはサンドバックになる時間だ。覚悟は良いな?」

 

照は一誠の胸倉を掴んでそう言うなり一誠の顔面に拳を突き刺した。普通の人間であれば、

例えどんなに過酷な修行をして鍛えても怯みはする。激痛で隙を作る。

そうなれば攻撃はより当て易くなるものである。

 

「・・・・・あ?」

 

ただし―――!

 

「お前の攻撃なんて、ドラゴンが吐く火炎球より全然大したことがない」

 

一誠の顔面に照の拳が直撃していたらの話だ。一誠の右手が照の拳を受け止めていた。

その状態でギロリと一誠が照を零距離で睨みつけた。背筋を凍らす照。

目の前にいる弱虫は人間じゃない。あの弱かった弱虫がこんな目をしていなかった。

こんな睨みつけながら笑みを浮かべるような奴じゃなかった。

そして―――こんな力強く手を握るような奴じゃなかった。

 

「リーラさんや父さんたちには色々と言われて約束している。でもその代わりに」

 

ゴッ!

 

「僕を散々虐めてきた、バカにしてきたお前ら兵藤家の奴らに今の僕の強さを

思い知らせてやる!」

 

照の顎を下から突き上げ宙に浮かせた。その瞬間に鋭く右の正拳突きを放って吹っ飛ばした。

リングの上で滑りながら倒れる相手に一誠はゆっくりと近づく。

 

「立ってよ、強者」

 

「う・・・・・ぐ・・・・・っ」

 

「・・・・・」

 

敵意、怒りが籠った金色の双眸が照を射抜く。フラフラと立ち上がって激痛で歪む顔と

全身で息をする照。

 

「辛そうだね。大丈夫?なんて心配はしないよ。

だって、キミは僕を虐めた時は笑っていたし助けてくれなかったもんね」

 

「い、虐めたぐらいで・・・・・そんなに怒るのかよ・・・・・っ」

 

「・・・・・じゃあ、今からキミを虐めてもキミは絶対に怒らない?」

 

「なんっ・・・・・!」

 

照の顔面に拳が突き刺さった。

 

「こんな風に、キミは僕を虐めたね」

 

「がっ・・・・・!」

 

顔を両手で押さえ痛みに悶える照を見据える一誠。

その隙に照の腕を掴んでなにをするのかと観戦客は思ったところで、

 

ドンッ!ゴンッ!ガッ!

 

子供でありながら軽く照の身体を振るい上げ、何度も何度もリングに叩き付けた。

それを一誠は五回ほどそうして、

 

「よいしょっと!」

 

最後は投げ放ってリングに何度もバンドし、観客に向かって突っ込んだ照。

 

「・・・・・ちょっとスッキリしたかな。―――まだ、僕を苛めた奴らはいるしね」

 

その呟きを聞こえた兵藤家の子供たちはビクリと身体を震わせた。

今度は自分たちの番かもしれない、あいつに苛め返させられる。

そんな兵藤家の子供たちの心境を知らない一誠は審判から勝利宣言を受け、特に喜ばず

 

「弱いと言って僕を苛めた皆。驚いた?」

 

一誠は兵藤家に向かって訊ねた。

 

「僕はこの一年間、僕を苛めた兵藤家に見返そうと一生懸命頑張って強くなったよ」

 

現実的にそれを可能としてまずは一歩、その目標の足を進めた。

 

「次は何時か、大人のお前たちにも見返してやる。その時を待ってて首を洗っていてね」

 

兵藤家に宣戦布告をし、リングに上がってきた百代と対峙する。

 

「それじゃ、勝負だよ」

 

「ああ、私と同年代で強い奴がこんなにもいるなんて嬉しい。特にお前が一番強そうだ」

 

「まだまだ弱いよ。だからこのお家にお世話になってもっと強くなるんだからさ」

 

「ははっ!じゃあ、この家で暮らすんだな?嬉しいな、だったら罰ゲームを決めよう」

 

百代は笑みを浮かべながらビシッと一誠に指差す。

 

「お前が負けたら私の弟になれ。舎弟だ」

 

「僕がお兄ちゃん、じゃダメ?」

 

「それはお前が私に勝てたらいいぞ」

 

「ん、分かった。絶対そうする」

 

拳を構え、百代に戦う意思を窺わせる。百代も楽しげに拳を構えた。

そして、二人は―――どちらからでもなく蹴り出して、互いに向けて拳を突き出した。

 

 

 

 

「いやー、啖呵を切るほど成長したとは。父親としてこの上にない嬉しさだ!」

 

「立派に強くなっちゃって・・・・・」

 

「兵藤家の奴ら、悔しそうな顔をしてた奴もいたな。はっ、良い気味だぜ」

 

「あなたと一誠、兵藤家との間に深い溝ができたんじゃないの?」

 

「いいよ別に。顔を出す程度だし、慣れ合う気なんてねぇーよ」

 

「そう、あなたがそう言うなら私は何も言わないわ」

 

「ははは、この事、これから行く神ンとこで自慢してやろうっと!」

 

 

 

 

「サーゼクス、あいつはもう強くなったな」

 

「ああ、リアスが熱い視線を向けていたほどだ」

 

「眷属悪魔にしたがるのではないか?」

 

「有り得るね。だけど、あの子は悪魔なんてならないと思うよ。

というより私個人的にそれはお勧めしたくないな」

 

「ほう、その心は?」

 

「誰かと結ばれた方が後々の為にいいじゃないかとは思わないかね?」

 

「・・・・・なるほど、彼との間に強い子供が誕生すると言うことか」

 

 

 

 

 

「おい、ジジイ。あの小僧、俺に任せてくれや。百代同様、俺が鍛えてやりてぇ」

 

「釈迦堂!お前に任せたラ、あの子は乱暴な子になル!」

 

「んじゃ、俺たちも勝負すっか?俺は大歓迎だぜ」

 

「これこれ、じゃったらお主ら二人が交互に面倒見ればよかろうて。あの子はお主らの

どちらも相性が良さそうじゃからの」

 

「・・・・・ちっ、しゃーねーな」

 

「総代の提案であの子を育てよウ」

 

 

 

 

「百代、これからもよろしくねー」

 

「一誠、次は絶対に勝つからな」

 

「それは僕だってそうだよ。あんな結果で終わっちゃったし、納得していないでしょ?」

 

「うん、だけど・・・・・悪くないと思っている。引き分けだけど力を出し切った感じが清々しい」

 

「僕は本気を出しきれなかったよ。リーラさんに止められているし」

 

「なんだと?だったらもう一回勝負だ!今度は全力で!」

 

「うわっ!リーラさん、助けてっ!」

 

―――○●○―――

 

兵藤家と川神家の交流試合は終了した。一誠たちは兵藤家と隔てるように

特別な者、川神院の者しか入れない一室で身を寄せ合うように集まって昼食をしていた。

 

「どーだ一誠。お父さんは凄かっただろう」

 

「うん、凄かった!空を蹴るなんて初めて見たよ!」

 

「ははは、気合でやれば案外何でもできるんだぜ?一誠も練習しながら成長すれば絶対にできる。

頑張れよ」

 

「頑張る!」

 

「魔力無しで人間が空を移動できるたぁ、恐れ入ったぜ」

 

「人間、不可能を可能にする・・・・・か」

 

「だからこそ、英雄や勇者という者も現れる。誠もその類に零れないのだろう」

 

川神院から提供された昼食を食べつつ雑談。一誠はリアスたちから食べさせられたり、

構ってと話しかけられたりされ、忙しなく相手をしていた時に扉が開いた。

全員が誰だ?とばかり開いた扉に視線を向ければ厳つい中年男性が入ってきた。

 

「なんだ、親父か」

 

「ふん、兵藤家の中でも選り抜きされた者たちを一蹴するお前に祝いの言葉を持ってきたぞ」

 

「・・・・・あいつらが?おいおい、昔の先生たちの方が強かっただろう。あの人たちはどうしているんだ?」

 

「隠居中だ」

 

「マジで?通りで見掛けなかったわけだよ。ま、先生たちと戦っても俺が勝つだろうしな」

 

不敵に笑む誠。厳つい中年男性は戸を閉めてその場で座り込む。

 

「誠、一つ訊くぞ。世界にはどれだけ強い者たちがいる?」

 

その言葉と共に真剣な表情で問われ、鼻を鳴らして誠は答えた。

 

「兵藤家なんてちっぽけだと思うほどの数がいる。その中には勿論神話体系の神々も含めてな」

 

「・・・・・そうか」

 

「なんだ、豪胆な親父にしちゃらしくない質問をしてくるな」

 

不思議に思った誠が厳つい中年男性を見詰める。自分たちが最強とか言わないが、

誇りは人一倍、いや三倍は持っていた。そんな自分の父親を見ていると、

 

「今兵藤家は荒れていてな。追放された兵藤家の者がなぜあんなに強いのだと水面下で

混乱しているのだ」

 

「はっ、自分が最強と自惚れていないのはいいとして、そりゃ世界中の強者と戦わず、

身内しか負けたことが無いんじゃ成長しない」

 

誠の手は一誠の頭に置かれた。

 

「一誠も兵藤家で修行しても強くならなかった。親父、いや―――兵藤源氏。分かるか?

こいつは兵藤家の奴らに散々虐められ、孤立していたから強くならなかったんだ。

だけど、今の一誠には弱かった時の一誠に無かった掛け替えのないものを得ている」

 

「・・・・・それはなんだ?」

 

「―――出会い、そして友達や仲間だ」

 

ハッキリと誠は自分の父親に、兵藤源氏に言い切った時、悠璃と楼羅が一誠に抱き付きながら

異議を唱えた。

 

「私と楼羅は最初からいっくんの友達だよ」

 

「そうです」

 

「はは、そうだったな。お前らには一誠を支えてくれて感謝しているよ。

じゃなきゃ、一誠は完全に心を壊れていただろうし」

 

主張する悠璃と楼羅の少女たちに朗らかに感謝する。

 

「「だから―――」」

 

リアスたちにも目を向けた悠璃と楼羅の二人は、

 

「「絶対に負けないから」」

 

宣戦布告とも言える悠璃と楼羅の言葉にリアスたちの目に恋する乙女の炎が宿った。

 

「さて、話も聞けたからお暇させてもらおう」

 

兵藤源氏は腰を上げて、誠たちに背を向けた。

 

「問うが、もしも兵藤家に戻れるとしたらお前はどうする?」

 

「断固拒否だ。あんな堅苦しい家と一族よりも、一家族として自由に暮らし世界を

見渡せる生活が気に入っているんだ。世界は親父が思っているよりも小さくもないんだぜ?」

 

「・・・・・ふん、そうか」

 

特にそれ以上は何も言わず、兵藤源氏はいなくなった。

 

「・・・・・お父さん、兵藤家に戻らないの?」

 

「一誠は戻りたいのか?」

 

「いやだ」

 

「だろう?俺だって嫌だぜあんな家。こんな面白い世界があるなんて知ったら家に帰りたく

なくなるんだ。兵藤家に戻れば自由な生活はできない。そんな生活は嫌だろう?」

 

直ぐに一誠は頷いた。一誠にとっても、色んな人や生物と出会えることができたのは

誠と一香のおかげだ。それができなくなると思うと、帰りたくなくなるのも分からなくないのだ。

 

「しっかし、さっきから聞くけど。お前、兵藤家に追放されるほどなんかやらかしたのか?」

 

「別に?ただルールを破っただけだ」

 

「思いっきりやらかしてんじゃないか。で、何をしたんだよ?」

 

「いや、一香と結婚したぐらいだ。だから一香も式森家から追放されたわけだがな」

 

「人族の代表の両家が結ばれてはいけないとはおかしな話だね」

 

「その理由を教えられているから納得できるんだけどな。

だが、敢えて俺は他の女より、一香と結婚したんだ。自ら家を出てな」

 

「理由か・・・・・それはなんなのだ?」

 

バラキエルの訊ねに、「それは秘密だ」と誠は明かそうとしなかった。

 

「・・・・・」

 

不意に一誠が立ち上がった。しかもリーラを連れてどこかに行ってしまった。

そんな一誠の行動に誰もが疑問を浮かべた時だった。扉が再び開いたと思えば、

 

「父さんと母さん、久し振り!」

 

誠輝が部屋の中に入って来て誠と一香に抱きついたのであった。

 

 

 

 

「・・・・・一誠さま」

 

「・・・・・会っちゃうと、殴っちゃいそうだから」

 

「・・・・・偉いですよ。一誠さま・・・・・時には我慢も必要なのですから・・・・・」

 

「・・・・・うん」



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エピソード12

川神院の朝は、稽古から始まりそれから朝食、さらにそれから掃除を終えれば大人と

子供は自由時間で一日が終わる。

 

「初めての稽古なのに一誠、課せられた稽古のノルマを達成するなんてな」

 

「ドラゴンと毎日鬼ごっこしたり勝負したりすれば強くなるもんだよ」

 

「ドラゴン?」

 

「うん、ドラゴン」

 

道着を身に包む一誠と百代は拳を交わし合ってから翌日。あっという間に仲良くなり

今現在も軽く模擬戦をしていた。

 

「一誠、お前は強いけど戦い方が何か慣れていない感じがするな」

 

「稽古自体は兵藤家で慣れているけど、戦ったことはあまりないんだよ」

 

「それで強いってお前は凄いじゃないか。だったらこの家にいる間にもっと強くなれ」

 

「勿論だよ!」

 

「ははっ、お前みたいな奴といると俄然楽しくなるな!ほら、ギアを上げるぞ!」

 

もはや模擬戦ではなく勝負になった。それから三十分もすれば、両者はダウン。

 

「女の子なのに、どれだけ体力があるってのさ・・・・・」

 

「何度も攻撃が当たってるってのに体が頑丈過ぎだろう・・・・・」

 

疲労困憊と全身に汗が浮かんでいて、地面に寝転がる二人の頭に影が生まれた。

 

「お主ら、まだまだ一日は長いと言うのにここで体力を使いきってどうするのじゃ」

 

二人の顔を覗きこむ鉄心。呆れ顔で起きるように催促して

「稽古の時間になる前に汗を流してこんかい」と伝えると家の中に入って行った。

 

「稽古ってどんなことするの?朝とは違うのって感じはするけど」

 

「私たちの師匠から武術を習うんだ。だけど一誠は川神の人間じゃないから

川神流の技は教えれない」

 

「それは分かってるよ。でも、気の扱い方は教えて欲しいかな」

 

「うん、それだったら師匠やルー師範代も教えてくれるはずだ。とにかく風呂に入ろう」

 

その後の一誠と百代は風呂に入り、さっぱりしたらそれぞれの師匠の指導のもとで

武術を学んだのだった。

 

「フム、型は完全に文句の付けようはないネ。兵藤家でも朝の稽古と似たようなことを

していたのだろウ」

 

「うん、それだけはできていたよ」

 

「ならバ、戦い方を教えようカ」

 

「気の扱い方を教えてくれないの?」

 

「それはまだ早イ。もう少しキミが武術に関する基本と心得を学んでから遅くはないヨ。いいネ?」

 

「ん、分かった」

 

素直に言う事を聞き、ルーからの指導を受けた一誠であった。

 

「いいかネ?勝負事ハ、何事も相手に対して礼儀を持たなければならなイ。

でなけれバ、相手に対して失礼だからネ」

 

「悪い人にも?」

 

「ウーン。悪い人にも清い心があればそうするべきだと思うヨ」

 

「うん、分かった」

 

「そして、キミが拳に何を籠めるのかそれは何の為か教えてもらおうカ」

 

そう言われ、直ぐに答えた。

 

「僕をバカにする皆を見返す為、大切な人を守る為」

 

「ホウ、大切な人とは誰のことかネ?」

 

「僕の家族!」

 

間も置かず言い切った一誠に綻ぶルー。

 

「(・・・・・力に溺れズ、真っ直ぐ目的に進むこの子ハ誤った道に進まないだろウ。

私ガ心配する必要もないネ)」

 

自分の話を聞く姿勢のままジッと見つめてくる一誠にルーは心得を学ばせることに意識する。

 

「(願わくバ、危なっかしい百代の清涼剤となって欲しいネ)」

 

そしてその日の夜。一誠とリーラ、オーフィスは寝る準備をしていた。

黒歌と白音はグレモリーの食客故に川神院に寝泊まることができず、人間界にも自由に

行き来できない為、冥界へ移住した朱乃の他にもヴァーリ、リアス、ネリネ、リコリス

ですら同じ状態である。

 

「一誠さま、今日はどうでしたか?」

 

「兵藤家よりこっちの方が断然良いや。大人の人たちも優しいし、百代も強くて楽しくて」

 

「そうですか。それはなによりです」

 

一誠の感想に心から嬉しく思うリーラは安堵する。

これから一年間この川神院に暮らし、一誠にとってプラスな事が多くあるはずだと願うほど。

 

「・・・・・」

 

ふと、オーフィスが外に繋がる戸へ顔を向けた。そして一言。

 

「前に感じた強い者が来る」

 

「っ!?」

 

リーラは即時行動した。レプリカのグンニグルを手にして臨戦態勢を構えた瞬間、

目の前の戸が一気に開いた。暗闇の向こうから三人の男女が姿を現す。

 

「よう、久し振りだな」

 

「万事屋『九十九』・・・・・」

 

「やっぱ、気付いていたか。こっちも同じだがな」

 

戦意を感じない。だが、油断はできず一誠ですら警戒する。相手は肩を竦め話しかけてきた。

 

「兵藤誠と兵藤一香の息子の兵藤一誠にその従者のリーラ・シャルンホルスト、

そしてオーフィス。お前らの情報を調べさせてもらった。

この間は知らずとはいえ攻撃して悪かったな。仕事に私情を挟まないのがモットーなんでな」

 

「・・・・・それだけ言いに来たのですか」

 

「いやー、何て言うかアレだ。また依頼が入ってよ。―――兵藤一誠を抹消しろって依頼がな」

 

「「っ!?」」

 

隠す必要もないぐらいアッサリと目的を告げた男、オーフィスにやられた大将。

オーフィスが一誠の前に立ち、攻撃しようとする様子に大将が両手で横を振った。

 

「待て待て!話を聞け、まだ話の途中だから!」

 

「・・・・・オーフィスさま」

 

「・・・・・分かった」

 

攻撃態勢を崩しても一誠の前に立ち続ける。大将はホッと安堵で胸を撫で下ろし、言い続ける。

 

「こっちとしても、烏間を退けたあの二人の子供や最強のドラゴンと事を起こしたくない。

もう前回でお前らと関わり合うとこっちが危なっかしいと分かったからよ。

だから、今回の依頼を破棄しに来た事実とお前らを狙わないと言う話しを教えに来たんだ」

 

「口約束としか思えません」

 

「分かってる。別に信用しろなんて言わない。取り敢えず、

俺たちの気持ちを伝えに来ただけだ。それとちょっとした情報をお前らに提供したい」

 

「・・・・・提供ですか」

 

警戒するリーラに「そうだ」と大将は頷く。

 

「お前らは白い天龍と知り合いだろう?ああ、どうして知ったのかは企業秘密だからな。ここからが重要だ。もう一匹の天龍、『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』ドライグを宿す人物を知っている。そいつを知りたくないか?」

 

大将から発せられたもう一匹の天龍の宿主を一誠とリーラは目を丸くした。

 

「別に知りたくないよ」

 

「なんでだ?ドラゴンと会いたいんだろう?って、そこのメイド。携帯を取り出してどこに繋げている?」

 

「警察にです。ここまでプライベートな情報を持っているなど人権に侵害ものですから」

 

「待て待て!俺らの仕事上そうせざるを得ないんだからしょうがないだろうが!」

 

慌てだす大将に口を冷たく開いた。

 

「なら、あなたたちのプロフィールも寄こしてくださいますよね?」

 

「は?」

 

「―――オーフィスさま」

 

「ん」

 

濃密な魔力のオーラを手に集めたオーフィスから三人は風の如く逃げ去った。

その逃げっぷりに一誠は恐る恐るリーラに問うた。どうして?と視線に込めて。

 

「リ、リーラさん?」

 

「大丈夫です。少しばかりからかっただけですので。オーフィスさまもありがとうございます」

 

 

 

 

 

「やっぱ、あいつらには関わりたくない」

 

「じゃな。こっちの命が危うい一方じゃ」

 

「だが、また関わるだろう。とにかく若がいる家に帰ろうか」

 

―――○●○―――

 

 

「よーし、坊主。今度は俺がお前を鍛えてやるぜ」

 

「お願いします」

 

「一誠と鍛練は初めてだ」

 

翌日、一誠と百代はもう一人の師範代の前に立っていた。質素な服装で目つきが鋭い男。

 

「釈迦堂さん。一誠は強いぞ」

 

「わーってるって。こいつは磨けばお前同様凄い男になるぜ」

 

「おーそうなのか」

 

「さーて、話はここまでだ。まずは軽く体力づくりだ。腕立て、腹筋、スクワットその他諸々な」

 

「「はい」」

 

時間を費やし、課せられたトレーニングメニューをこなした。そして次に一休憩した後は模擬戦。

 

「てやっ!」

 

「おほっ、一撃一撃がすげー重いな!だが、まだまだ脇とか腰とかあめーぞ」

 

軽く釈迦堂に弄ばれ、頬を膨らます一誠。

 

「バカにして!」

 

「一朝一夕、ンな簡単に強くなれるほど世の中は甘くないってもんだ」

 

「むー、全力で戦えばアッと驚かせれるのに」

 

「へぇ?んじゃ、その全力とやらを俺に見せてみろよ」

 

「ん?良いの?」

 

釈迦堂はいやらしい笑みを浮かべながら頷いた。

百代とリングで戦った姿の一誠を見ていた釈迦堂。

ただの人間ではないことは重々承知しているし、

一誠はどれだけ強さを秘めているのか確かめたくてしょうがないでいた。

あわよくば自分の色に染めるのも悪くはない。

何せ力を求めている一誠と釈迦堂は似ているからだ。

 

「それじゃあ・・・・・」

 

一誠は釈迦堂に対する攻撃態勢の構えをする。全力、一誠から闘気とは違う力が滲みでてきた。

 

「(っ、おいおい・・・・・こいつはとんでもねぇ化けもんじゃねぇか・・・・・)」

 

「驚いた?」

 

問いかけてきた一誠に、「ああ」と素直に答えた。こっちも全力で戦えば

なんとかという可能性で勝利するだろう。だが、相手は化け物クラスになろうとしている存在。

これから激しい戦いが始まるかと思い、釈迦堂の口角は上がった時、

 

「じゃあ、いいや」

 

「あ?」

 

あの異質な力が、一誠から感じる戦意が風船から空気が抜けるようになくなった。

 

「どうした?」

 

「だって、ここでやったら家が壊れちゃうもん。

それにそうならなくてもリーラさんから人間相手に全力はしてはならないと約束したし」

 

あの従者かと脳裏に銀髪のメイド服を身に包む女性を浮かべ、舌打ちをした。

 

「ちっ、つまらねぇな。男なら約束の一つぐらい破れ」

 

「やだよ。嫌われたくないし。それよりも稽古お願い」

 

「そうだぞ師匠」

 

二人にそう言われ、頭をガシガシと掻きしょうがないとばかり溜息を吐いた。

 

「坊主、俺の稽古は厳しいぜ」

 

「大丈夫。ドラゴンと勝負したことがあるから平気だよ」

 

「・・・・・お前、ここに来る前に一体どこで何をしてたんだ?」

 

「冥界でドラゴンと追いかけっこ」

 

「その歳でお前はどんな経験をしてんだよ・・・・・」

 

 

~~~しばらくして~~~

 

 

稽古の時間は終わり、百代に催促され川原へ向かった。

 

「なぁ、一誠。お前の親ってどんな人なんだ?」

 

「殆ど仕事で家にいないことが多いや。でも、父さんと母さんの友達が僕に

会いに来てくれるから別に寂しくはないんだー」

 

「そっか。それは良かったな。私もジジイや川神院にいる皆がいるから寂しくはないが、

遊び相手がいないから何時も修行修行でストレスが溜まる」

 

「友達いないの?」

 

「学校には当然行っているが、私と釣り合う友達がいないんだ。今は違うけどな」

 

百代は一誠に笑みを浮かべた。対して一誠はポツリと呟いた。

 

「学校・・・・・か」

 

「どうした?」

 

「うん、僕・・・・・学校通ったことが無いなって思い出したんだ」

 

「え”?」と百代は驚いて目を丸くした。自分と同じ年ぐらいの子供が学校に行ったことが

無いなんて有り得ないと思ったらしく、

 

「なんだ、お前は友達はいないのか?」

 

「いや、それはいるよ。でも、学校には行ったことが無いんだ。

僕自身も行きたいなんて思ったことが一度もなかったし、

リーラさんや兵藤家が勉強を教えてくれるから・・・・・」

 

どういう家庭に生まれたんだと百代は突っ込みたくなるのを、

 

「おまえん家、変わってるな」

 

「ん?そう?」

 

我慢できなかった。

 

「ま、いいや。それより一誠。川原に来たんだがなにしようか」

 

「遊び道具もないのに遊べることって限られてるよ」

 

オーフィスはリーラと共に買い物へ行っている。なので一誠と百代の二人だけだ。

二人だけで遊戯は限られる。

 

「ボールぐらい持ってくればよかったか」

 

「だねー」

 

川原の原っぱに二人はただただ呆然と流れる川を眺める。特に何もすることはなく、

川を見詰めていると

 

「「暇だ・・・・・」」

 

退屈そうに溜息を吐いた。そして顔を向けあう。

 

「鍛練しよっか」

 

「私たちにはそれが性に合っていそうだな」

 

そうと決まればと二人は川原に向かって正拳突きをし始めた。

 

「そう言えば、お前の父親は蹴って空を飛んでいたよな」

 

「そうだねー。僕も何時かあんな移動をしてみたいな」

 

「お前の父親は武術を習っていたのか?」

 

「分かんない。でも、父さんも兵藤家の人間だったみたいだよ」

 

他愛のない話しを鍛練しながらする。

 

「私の両親はルー師範代に負けて世界中へ武者修行の旅に出ているんだ」

 

「じゃあ、きっとどこかで僕たちの父さんと母さんが会っていたりしたりして」

 

「そうだといいな。―――よし、型の鍛練はこの辺で良いだろう。一誠、今度は模擬戦―――」

 

と、百代が言いながら一誠に目を向けた瞬間に言葉が出なかった。

何時の間にか一誠の真後ろに刀を振り下ろそうとしている覆面の存在を見たからだ。

 

「一誠、後!」

 

「え?」

 

百代の必死な叫び声に当惑した一誠。後ろに何が?と思った面持ちで背後へ顔を向けた

途端に銀の一筋が

 

「死ね」

 

一誠に襲った。

 

 

ガキンッ!

 

 

「ギ、ギリギリ・・・・・ッ!」

 

斬られたかと思った百代の眼前で歪む空間から出る鎖で刀を受け止めて、

首の皮一枚免れた一誠であった。

 

『主、今のは危なかったぞ』

 

一誠の手の甲に赤い宝玉が浮かび、そう語ったのはゾラード。

確かにその通りだと内心肯定する一誠に対して、

 

「ちっ!」

 

襲撃者は一誠から距離を置いて再び斬りかかった。狙われる理由は毛頭もない一誠に

とって傍迷惑に等しく、周囲の空間を歪ませ、数多の鎖を展開させ防御態勢にはいる。

 

「だ、誰!?どうして僕を狙うんだよ!」

 

激しく刀を振り続ける襲撃者に問いだたすが、返事は一誠を斬らんとする斬撃だけ。

全身黒ずくめで顔は仮面で隠して正体をバレさせない変装をしている。

鎖で斬撃を防ぐが、相手は離れては近づいて、一誠を囲むように移動しつつ斬りかかる攻撃パターンを繰り返すも一誠から攻撃はしない。

 

「ううう・・・・・人間に攻撃しちゃいけない・・・・・」

 

『主、今はそれどころではないぞ』

 

「分かっているけれど・・・・・」

 

『川神百代がいる。あの敵は何時でも川神百代を攻撃する事ができる。主が守らないで

誰が守るのだ』

 

リーラとの約束を忠実に守ろうとするがゾラードの言葉で

「ごめんなさい」と心の中で謝罪の念をし、

 

「百代を守る」

 

一誠の瞳に戦意の炎が宿った。そして、周囲に展開した鎖が甲高い音と共に消失した。

襲撃者は一誠の意図に気付かず疑問を浮かべるが、それが好機だと認識して

無防備になった標的(一誠)の懐に飛び込もうと飛び掛かる。

 

「―――禁手化(バランス・ブレイク)

 

静かに何かの発動キーを発した刹那、一誠を覆う禍々しい黒と紫が入り乱れた魔力のオーラ。

振った刀の刀身がその魔力に削られ、消失した。

魔力は次第に一誠の全身を鎧と化となって包みこみ、紫と黒が入り乱れた、

龍を象った全身鎧を装着した。

 

「・・・・・まだ、くる?」

 

「こ、この・・・化け物がっ!」

 

畏怖の念を抱き、震える声を発しながらも異質な力を見せ付けた一誠に襲撃者は罵倒を言いつつ

無手の状態で飛び掛かった。一誠は周囲に魔力球を具現化し襲撃者に攻撃しようと思った矢先に、

 

「坊主に手を出すんじゃねぇやあっ!」

 

 

ドッゴオオオオオオオオオオンッ!

 

 

「「・・・・・」」

 

和服を身に包んだ中年男性が襲撃者の胸に向けて自身の腕を叩きつけて吹っ飛ばした。

その光景に一誠だけじゃなく百代も目を丸くし開いた口が塞がらないでいる。

 

「よう、坊主。良く頑張ったな」

 

「し、神王の・・・・・おじさん?」

 

「ああ、ちょっとばっかしここで待っててくれ。いまあのバカのお仕置きをしてくるからよ」

 

神王はぐったりと動かない襲撃者に向かって大股で近づく。

その様子を見ていると「一誠さま!」と呼ぶ女性の声が聞こえた。

 

「リーラさん」

 

鎧を解いて、自分を呼ぶ女性に振り返った途端に抱き絞められた。

 

―――川神院―――

 

「尋問したらあいつは・・・・・いや、坊主の前で言えるもんじゃねぇな。

それよりも無事で何よりだぜ」

 

「神王のおじさん。どうしてここに?」

 

「勿論、坊主に会いに来たんだぜ?それに人間界だったら俺の娘にも会わせれるからよ」

 

「ですが、一誠さまと百代さまが度とに外出している為、

ユーストマさまと一緒に探しに来たのですよ」

 

ニカッ!と笑う一誠が言う神王のおじさんことユーストマ。

その隣に小豆色の髪に円らな瞳の小さな女の子が座っていた。

 

「坊主、俺の娘のリシアンサスって言うんだ。仲良くしてくれや」

 

「リシアンサスです!言いづらかったらシアって呼んでね?」

 

「分かった。僕は兵藤一誠だよ」

 

「じゃあ、一誠くんだね。よろしくね」

 

小さな手同士が握手を交わすことで二人は繋がったようになった。

一誠とシアの様子を満足気に見ていたがユーストマは眉を顰める。

 

「しっかし、さっきの奴はふてぇ輩だ。まだ子供の坊主に襲うなんてよ」

 

「ユーストマさま、一誠さまを守っていただき誠にありがとうございました」

 

リーラが深々と頭を下げ感謝の念を伝えるが、首を横に振りだすユーストマ。

 

「いんや、俺が手を出さずとも坊主が勝っていただろうな。

さっきの鎧、あれは消滅の力が具現化したものだからよ。

逆にあのまま何もしないでいたら間違いなく坊主を襲った襲撃者は触れただけで

身体の何パーセントか削られていたはずだ。良くて重傷、最悪の場合は死んでいた」

 

「・・・・・そこまでの威力なんですか」

 

「ヤハウェさますら容易に近づきたくないドラゴンらしい。

そんなドラゴンが封印されているなんて知らなかったぜ。だからな坊主」

 

真剣な面持ちで一誠に忠告した。

 

「あの力は使うなとは言わない。ただし鎧を装着する時だけは約束してくれ。

周りに誰もいない状態か絶対に勝てないと思った敵にだけして鎧を纏え。

坊主が宿しているゾラードの力は簡単に関係のないものまで消してしまい、

人の命を奪ってしまう危険性がある。

それは勿論、坊主がゾラードの力を制御できていなければの話だがな」

 

「・・・・・」

 

「いいな?男と男の約束だ」

 

ユーストマが拳を突き出す。その意図を察し、

コクリと頷いて一誠も小さな拳をユーストマの大きな拳に突き出した。

 

「わかった。守る」

 

「おし、いい子だぜ坊主!」

 

ワシャワシャと一誠の髪をグシャグシャにする勢いで撫でまわす。

 

「ユーストマさま、人間界には何時頃まで滞在になされるおつもりで?」

 

「夕方には帰るぜ。その間にこの家の長と将棋でもしながら話をしている」

 

「お父さん、一誠くんと遊んでいい?」

 

「おう、いっぱい遊んでこい。坊主、シアと遊んでくれよ」

 

ユーストマからのお願いを受け入れ頷いた一誠はシアに催促された。

 

「一誠くん、遊ぶッス!」

 

「百代、四人だったら遊べれるね」

 

「だな。よし、ボールを持ってくるから玄関に待っててくれ」

 

「分かった、オーフィス行こう」

 

「ん」

 

幼少組(うち二人はドラゴン)は立ち上がって居間からいなくなる。

 

「・・・・・ユーストマさま、襲撃者は・・・・・」

 

「軽く殴ったら喋ったぜ。―――兵藤家の奴だ」

 

「・・・・・っ」

 

「もう一発殴って理由を吐かせたらよ。くだらねぇ理由だったぜ。

『追放された兵藤の者の弱者が調子に乗ったからだ』―――くだらねえだろ」

 

「ええ・・・・・誠にそうですね」

 

リーラから怒気のオーラが静かに発した。

腹の中は激しく煮え繰り返っているだろうなとユーストマは内心察して話題を変えず言い続ける。

 

「だからな、できる限り坊主を一人にしない方がいいだろう。

いつどこでまた襲撃されるかわかったもんじゃない」

 

「・・・・・以後そうします」

 

『リーラさん!一緒にあそぼー!』

 

遠くから一誠の声がリーラを呼ぶ。主が待っているとばかりユーストマへ

お辞儀をして一誠のもとへ赴くリーラ。

 

「・・・・・まー坊に出遅れた分、俺もどんどん攻めさせてもらうぜぇ?」

 

そして残ったユーストマの顔は何かを企んでいるような怪しい顔つきになった。

「ふっふっふっ」と、とても天使を束ね、

神を支える熾天使とは別の役割を持つ王とは思えないほどであった。



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エピソード13

「ルー先生。闘気の扱い方を教えてください。父さんみたいに空を移動してみたい!」

 

「あの技法はワタシでも無理だヨ。というより、闘気を扱うには過酷な特訓を―――」

 

「もしかして、闘気ってドラゴンと鬼ごっこしたらできるの?」

 

「・・・・・キミ、自分がどれだけ凄い体験をしているのか分かっているのかネ?」

 

「え?ルー先生もしたから強くなったんじゃないの?」

 

「・・・・・とにかく、もう少し時間を掛けてだネ」

 

「(あっ、話を逸らした)」

 

 

 

「釈迦堂先生、ドラゴンと追いかけっこしたことある?」

 

「お前の中の俺はどんな評価されているんだぁ?というかそんなことしたら俺が食われちまう」

 

「評価?なにそれ?というか大丈夫だよ。厳しいけど優しいドラゴンだからさ」

 

「知らねぇのかよ。ま、まだガキだからしょうがないか。

生憎、俺はドラゴンと会ったことがないぜ」

 

「ふーん、そうなんだ。ところで闘気ってどうやればできるの?」

 

「あ?ああ、何て言うかアレだ。身体に感じる力を手の平に集めればできるもんだぜ」

 

 

 

 

 

「うーん・・・・・釈迦堂先生から聞いてやっているんだけど・・・・・魔力しか出てこないやぁ」

 

手の平に浮かぶ赤い魔力球。それを恨めしいとばかり見詰め眉根を寄せる。

平日は学校に通っている百代が川神院にいない為、オーフィスと一緒に縁に座って

闘気を出そうと頑張っている。

 

「オーフィス、オーフィスは気の出し方分かる?」

 

「我、分からない」

 

「そっか。うーん・・・・・魔力だけだと空っぽになった時に大変だから闘気だけでも

戦えるようにしたいんだよなぁ」

 

「イッセーの魔力は無限、なくなることはない」

 

「どれだけ使っても?」

 

「(コクリ)そう」

 

オーフィスの肯定に一誠は感嘆して魔力球を消した。

 

「お主、そこで何をボーっとしておるのじゃ?」

 

「お爺ちゃん」

 

「子供は元気で外に遊ぶもんじゃぞい」

 

背後から鉄心が近づくが、一誠は首を横に振る。

 

「百代がいないから外で遊んでも楽しくないよ。

それに、しばらく外に出ちゃダメって言われてるから

闘気を出そうと頑張ってるんだけれど中々出てこないの」

 

「ふむ・・・・・鍛練は全部こなしたんじゃな?」

 

「その三回もやったよ」

 

「・・・・・子供の身体でそれだけやってもケロリしておるとはの」

 

体力バカかと思うほどの一誠の体力は鉄心を少なからず驚かせる。そしてつまらなさそうに

手の平に何度も赤い魔力球を出しては消して、出しては消してと

「闘気じゃない」とぼやく一誠の頭へ徐に手を置いた。

 

「それほど知りたいならこれを感じてみるがいい」

 

「へ?」

 

次の瞬間。鉄心の手から感じる一誠が感じたことが無い力が流れ込んでくるような感覚を覚えた。

 

「・・・・・これ、なに?」

 

「お主が知りたがっていた気じゃよ。人間誰しも持っておる生命エネルギーじゃ」

 

「・・・・・温かいなー。それにこの家全体に感じるものと一緒だね」

 

「ほう、この寺院を包む闘気を感じるのか。ならば話が早いの」

 

一誠の頭から手を放して髭を擦る鉄心に「なにがなの?」と小首を傾げる。

 

「気は何も出してできるものではないのじゃ。座禅をして無心になるがよい」

 

「座禅って?」

 

「こうじゃよ」

 

隣で腰を下ろし、座る鉄心の姿を見て一誠も見よう見真似をする。

 

「そして目を瞑り、頭と心を無にして集中するのじゃ。当然、寝てはダメじゃぞい。

心を穏やかにして気持ちを落ち着かせ、自然を全身で感じることが一番大事で重要なポイントじゃ」

 

「自然を感じる・・・・・川とか森とか?」

 

「そうじゃ」

 

「わかった。じゃあ、川原でそうしてるね。オーフィス行こう?」

 

縁から降りてオーフィスと共に川原へ向かった。二人を見送る鉄心は優しげな顔で

 

「ほっほっほ。頑張るんじゃぞい幼い若者よ」

 

と、応援をしたのだったのだが何か思い出したように首を捻った。

 

「む?外出禁止と言われたおったのじゃったな。これはワシから言っておかんといけないな」

 

「でしたら、俺が付き沿ってやりますぜ。ここにいても暇ですんで」

 

「釈迦堂か。わかった、気を付けるんじゃぞい」

 

「敵が来たらサクッと倒しますよ。寧ろ俺はその方がいいですわ」

 

 

―――川原―――

 

 

「「・・・・・」」

 

 

川原に辿り着くや否や、一誠は座禅を組んで無心になる。必死に無心になろうとせず、

忠実に鉄心の教え通りに心を落ち着かせ、何も考えずただただ自然を全身で感じる。

ずっと座り込み目を瞑る一誠をオーフィスはジッと見つめ、

 

「(うへぇ・・・・・本気でやっていやがるぜ。ガキなら直ぐに止めちまうもんだろうによぉ)」

 

遠くから釈迦堂がそんな二人を監視する態勢で見張っていた。特に何の変化も無いまま

時間が過ぎようとしている中で釈迦堂は原っぱに寝転がりながら様子を見る。

 

「こっちが眠たくなりそうだぜ。今更あのガキにちょっかいを出す輩なんて

いるわけがないってのによ」

 

だが、ある意味そう問屋が卸さなくなった。数人の不良らしき若者が一誠を

見て悪い笑みを浮かべ地面にある石ころで一誠に鋭く豪快に投げ放ったのだ。

しかし、一誠の傍にはオーフィスがいて、飛来する石ころを受け止めた。

 

「おいおい・・・・・あのお嬢ちゃんどんな反応速度や反射神経なんだよ」

 

不良たちは遠くからでも分かるほど目を大きく見開いて、性懲りもなく石を拾って投げつける。

その数多の石さえも容易に一誠の邪魔をさせないと手で受け止め続ける。

 

「はははっ、百代並だぜありゃ。―――おっと、俺の出番だな」

 

釈迦堂の目に映る一誠とオーフィスに近づく不良たち。

何をしようと仕出かすのか分かり切っている為、

 

「はいはーいお前ら・・・・・ちょっとばっかしの間、おじさんと向こうで話をしようぜ?」

 

有無を言わせない釈迦堂が殴り飛ばし、蹴り飛ばして遠くへ吹っ飛ばした。

その後、不良たちはボコボコにされた上に気絶をした。―――それから数時間後。

 

「・・・・・お?」

 

そう漏らす程釈迦堂が異変を察知した。まだ寒い季節であり空気も冷たい。

それなのに川神院に感じるものとは違うが温かくなったような気がした。

 

「掴めそうになっている・・・・・そんな段階ってか?・・・・・って、なんだありゃ?」

 

目の錯覚か?目に映る光景に我が目を疑う。一誠の腰辺りに何時の間にか尻尾が生えていた。

獣の、それも狐の尻尾みたいなものだった。あれはどうなってるんだと釈迦堂は気になり、

気配を殺して近づいてみた。

 

「おい嬢ちゃん」

 

「ん?」

 

「ガキに生えているソレ、本物か?」

 

オーフィスに尋ねてみれば、それを軽く触ってみたオーフィスはコクリと頷いた。

 

「本物」

 

「マジか・・・・・もしかしてガキの正体は狐だったりするか?」

 

「違う、イッセーはドラゴン」

 

「ドラゴンだと?」

 

冗談かなにか、適当に言ったのかと思うが、

オーフィスは揺れる尻尾を目で追うことで忙しいようで

釈迦堂に目もくれない。すると、一本だった尾が一本、二本、三本と増え続け

最終的に九本まで増えた。

 

「九尾の狐ってかぁ?」

 

「イッセー、不思議」

 

オーフィスと釈迦堂がそう言った時だった。一誠から感じる―――闘気が迸ったのだ。

思わず釈迦堂は狂喜の如く高らかに笑った。

 

「はははははっ!おいおいおいなんだぁ!?こいつはすげぇじゃねぇかおい!」

 

一誠を中心に気は迸り、突風も発生する。釈迦堂の顔に笑みが絶えず、嬉々として一誠を見やる。

 

「潜在能力を秘めていたガキだな。流石は兵藤家ってか!」

 

しばらくして迸る気は止み、オーフィスと釈迦堂が見守る最中で一誠が目を開けた。

 

「よう、ガキ。気分はどーだぁ?」

 

「あ、釈迦堂先生。いたんだ?」

 

今更な反応に呆れ顔で話しかける。

 

「どんだけ無心になっていたんだよ。気付いちゃいなかったのか」

 

「お爺ちゃんの言う通りにしたら狐のお姉さんがいてね?どうしたら気を扱えるのか

教えてもらっていたの。そしたら―――――」

 

一誠が言うには無心になっていたらいきなり引きずり込まれた矢先に女性がいた。

その女性はどうやら狐の妖怪で小さい頃から一誠の中にいたらしく、

自分の願いを叶えてくれれば気の扱い方を教えるとのことで一誠は狐の妖怪の願いを

叶えると約束をした結果、膨大な力で抑え込まれていた気が解放したと言う。

 

「で、その妖怪さんはお前になんてお願いをしたんだ?」

 

「うーんとね、京都に封印されたお姉さんの身体を取り戻して欲しいって。

僕がもっと成長してからでも良いらしいから」

 

 

―――○●○―――

 

 

「まさか、教えて早数時間で覚醒したとはの」

 

「総代が教えたからでしょうガ」

 

「いやいや、一生懸命な子供にちょっとしたヒントを言っただけじゃ」

 

「ジジイ、あのガキはとんでもねぇ化け物だぜ?そんで面白い奴だ」

 

「じゃろうな。ここからでも感じておった。あの者には本格的な修行を課した方が良さそうじゃの」

 

「それで、あの子は今なにをしているのでス?」

 

「大喜びで気を使って色々としているな、百代とよ」

 

目の前でしている一誠と百代。扱えるようになった気を球状にして投げ合いをしている。

百代も既に気を扱えるようになっていたのか、軽々と受け止めて一誠に投げ返している。

 

「総代、百代は気を扱えるようになっていましたっケ?」

 

「いや、ワシが知る限りでは放出することもまだできていなかったはずじゃが」

 

「だとすると、あのガキの影響でできるようになったんじゃね?」

 

「もしもそうじゃったらあの者の影響力は凄まじいの。しかし、あの二人は楽しげにやっておるわい」

 

何時しか気の塊は増えてお手玉みたいになった。

あんな風に気弾を扱う者は鉄心すら初めて見たのか感嘆した。

 

「器用じゃな」

 

「まだまだ子供であるのニ」

 

「投げ方ががむしゃらのように見えて実際は野球って感じだ」

 

―――数日後―――

 

「・・・・・ジジイ、あいつらの成長速度は異常じゃね?」

 

「・・・・・じゃな」

 

「二人が互いに高め合っているのかもしれませんネ」

 

高速で地面を蹴って反複横飛びを裸足でしている一誠と百代。そんな二人の前には誠がいた。

 

「空を移動する際、爆発的な脚力で空を蹴る必要がある。

脚を鍛えることで瞬発力も向上するんだ。極力、土煙や砂煙を出すことなく移動できれば

空を移動できる進歩に繋がる。いいな」

 

「「はいっ!」」

 

「ふふっ、微笑ましいわね」

 

誠に指導されている一誠と百代を一香は笑みを浮かべ、

オーフィスを膝の上に乗せながら見守っている。

鉄心も「そうじゃな」と頷き、一香の言葉を肯定する。

 

「よーし、今日はここまでだ」

 

「え?まだまだ大丈夫だよ」

 

「一誠の言う通りだ」

 

「一朝一夕でできるか。こう言うのは鍛練と同じで飽きるほどこなせば自然とできるんだよ。

例えば、反複横飛びを極めた俺がすると―――なんと、俺が複数に見えるのだ!」

 

「「おおっ!」」

 

シュバババッ!と誠が反複横飛びをすれば数人の誠が増えたように見えるほど

速い動きをしてくれる。

 

「忍者だ!」

 

「ははは、影分身のことか?生憎俺は忍法はできない。努力の賜による成果だ」

 

「じゃあじゃあ、気を放つことができる?ビームみたいに」

 

「できるぞ?まあ、一誠はまだまだできないだろう―――」

 

「できるよ、ほら」

 

手の平に具現化した気弾を誠に向けて投げ放った。同時に百代も便乗して気弾を放った。

それらの気弾を両手で受け止めた誠の目を丸くした。

 

「・・・・・お前、何時の間にこんなことできるようになったんだ?」

 

「えへへ、凄いでしょう?」

 

「―――凄いじゃないかっ!流石は俺の息子だい!」

 

歓喜極まり、一誠に飛び込んで抱き上げた。

 

「俺がいつか教えようとしたことをもう習得しやがって!なんだ、誰かに教えてもらったのか?」

 

「狐のお姉ちゃんが力を貸してくれたの」

 

「狐のお姉ちゃん?・・・・・九尾の御大将がここにきたってのか?」

 

あの場所から動けないはずなんだが内心思う誠に首を横に振り胸に手を触れる一誠。

 

「ううん、僕の中にいるの」

 

「・・・・・お前の中にだと?・・・・・ちょいっと一誠、ジッとしててくれ」

 

「ん?分かった」

 

徐に一誠の額へ自分の額を押し付け瞑目した。それから数十秒後、誠は一誠から離れ

納得したとばかり息を一つ零した。

 

「本当にいやがった。兵藤家の歴史にも記されていた妖怪がな。おい一誠、尻尾とか出せるか?」

 

「できるよー」

 

頭に狐の耳、ブワッと九本の狐の尾が一誠の腰から生え出した。間近で見ていた誠と百代、

遠くから見ていた一香と鉄心が目を丸くするほど驚く表情を窺わせる。

 

「一誠・・・・・お前、憑依されているのを分かっているか?」

 

「ひょうい?」

 

「おお、フワフワでモコモコだっ」

 

百代が尻尾を抱きしめて感触を堪能している間に一香と鉄心が近づいてくる。

 

「誠、これはどういうことなの?」

 

「ワシにも教えてくれんかのぉー?」

 

尋ねられた誠は頬を掻き、一誠の頭に手を置いた。

 

「まあ、あれだ。一誠は妖怪に憑かれているんだ九尾の狐に。

あの平安時代、安倍清明を産んだと謳われている妖弧にだ」

 

「・・・・・嘘でしょ」

 

「冗談じゃろう?」

 

「俺が嘘を言うわけ無いだろう。名前も聞いたんだ」

 

そう言う誠だが、一誠は何のことだろうと小首を傾げる。

百代と交じり、オーフィスもちゃっかりと尻尾を触れる。

一誠の尾を触れる二人や触れられる一誠を見詰め一香は息を吐く。

 

「・・・・・式森家の方にも兵藤家の歴史について調べたことがあるけど、

その中に記されている妖怪がこの子に・・・・・」

 

「肉体はどっか厳重に封印されているのは分かっているが、詳細は俺も分からない。

親父も分からないだろうな」

 

「あら、意外ね。そういう事は当主が知ってるものじゃないの?」

 

「逆だ。封印しているものを管理している兵藤家の一部しか知らないんだ。

代々その役割を務め当主にすら教えられない。魂と分けられた肉体は妖力諸共封印されて

いるらしいから、九尾の力を取り込めばどうなるか分かったもんじゃない。

そんなバカな輩に知らせない、奪わせない為にその墓守の番人如くの極一部の

兵藤家の奴が存在する」

 

「兵藤家も一枚岩ではなさそうじゃな」

 

ヒゲを擦りながらそんな感想を述べた鉄心に誠は「そうだな」と頷く。

 

「尻尾と耳を出せるのは取り憑かれているからだろうが、妖力は無いはずだ」

 

「気と魔力・・・・・誠、一誠は大丈夫なの・・・・・?」

 

「オーフィスの魔力だから反応しないのはもう前から分かっていることだろう?」

 

「そうだけど・・・・・」

 

意味深な会話をし、一香は不安げに一誠を見詰めると驚きの光景が。

 

「右に魔力、左に気!僕、二つの力の球が作れちゃうや!」

 

「それ、くっつけたらどうなるんだ?」

 

「分からないよ」

 

「じゃあ、試しにやって見せてくれ」

 

「分かった」

 

親の心子知らず、百代の指摘に一誠は違う力を合わせようとした瞬間。

 

「「ちょっと待てぇえええいっ!」」

 

「っ!?」

 

急に叫ぶ自分の両親に驚いて全身が跳ね上がった際に気と魔力、二つの力をくっつけてしまった。

 

 

カッッッ!

 

 

と一瞬の閃光が発して一誠を包む謎の無透明なオーラ。―――一つの偶然が奇跡を起こした。

 

「一誠・・・・・なんだ、その状態は?」

 

「魔力と気が融合した・・・・・?」

 

「不思議じゃな」

 

謎の現象に誰もが目を疑い、興味深そうに一誠を見やる。

 

「・・・・・一誠、父さんとちょいっと勝負しようか」

 

「ん?分かった」

 

いきなり勝負を申し出る誠に一誠は疑う事も無く誠と対峙して、最初に一誠が動き出した。

 

「っ!?」

 

目を大きく見開いた。誠の前に何時の間にか一誠が懐に飛び込んで来ていた。

侮っていたわけではない。気を抜いていたわけでもない。

一誠の速度、動きを見切れるぐらいなんてことなかった。だが、不思議なオーラに覆われた

状態の一誠は何倍ものの速度で、鋭く突き出された短い腕と共に拳が誠の腹部を貫いた。

 

「(迅っ!)」

 

しかし、誠がその拳を受け流して瞬時に真上から手刀を叩きこんだ。

 

「いだっ!?」

 

「はいっ?」

 

軽く瓦千枚を割ることができるほどの威力の手刀。人型ドラゴンとはいえ、子供の頭は

こんなにも硬かったっけ?と誠を疑問に首を傾げる。

 

「うー、ちょっと痛い」

 

「ちょっと?え、マジで?」

 

「うん」

 

叩きこまれた頭を手でさする一誠が頷く。そして痛みが和らぎ無くなると一誠は

攻撃再開と誠に向けて脚を振るった。当然誠は常識を覆す脚力で空を蹴り浮いた直後、

鎌風が発生して建物の一部を斬った。

 

「はいっ!?なんじゃそりゃ!」

 

「蹴りで、斬撃を放ったですって・・・・・?」

 

「どうやら、鎌風を起こしたようじゃな」

 

冷静に分析した鉄心に一香はギョッと目を丸くした。そんなことが現実的に可能をした

一誠に誠でさえ驚かす体技がまた一つ生まれたのだ。さらに、一誠は誠のところまでジャンプをした。

 

「てやっ!」

 

「あぶねっ!」

 

あの鎌風を起こして放った一誠から蹴りで空を移動し離れる。

だが、一誠がこっちに向かおうとする体勢が見て分かる。まだまだ空を蹴って移動できるほど

一誠は上達していない。故にここまでこれるほど一誠の身体能力は―――。

 

「絶対にそっちに行ってやる!」

 

一誠自身もまだまだ修行が足りないと分かってでも脚に力を籠めて空を、空気を蹴ろうと試みた。

無様な姿を見せても、失敗して地上に落ちようともその気持ちだけは揺らぐことはない。

一生懸命な自分を誰かに見て見返すという思いが一誠を―――。

 

「行くよ!」

 

空気を叩く音と共に一誠は空を再びその足で移動し、誠の腹部に頭突きを食らわせた。

 

「なん・・・・・だと・・・・・!?」

 

目を疑い、自分に初めて一撃を食らわせた一誠に絶句した。

その後、一誠が重力の力によって地上へ落ちようとする気配を察して、

誠は一誠の首に手刀を叩きこんだ。

 

「うっ!?」

 

ガクリと一誠の全身から力が抜け、不思議なオーラも消失して地上に落ちる一誠を

脇で抱え、誠が地上に降り立ったが片膝を屈する。

 

「あ、あなた!?」

 

「つぅー、何て石頭で頭突きしてくるんだこいつは。地味に効いたぞ」

 

「いま、一誠があなたと同じように空を移動したように見えたのけれど」

 

「俺から見ても間違いない。一回だけだったがこいつは空を蹴って俺のところまで来た。

それにさっきの摩訶不思議な現象の効果がなんとなく分かってきた」

 

一誠を縁にまで運んでそこへ寝転がした。

 

「身体能力の向上、いや肉体強化ってところか?それに加速と物理防御だろう」

 

「気と魔力を融合させた形で得る恩恵・・・・・」

 

「魔力も融合している時点で魔法に対する何かも備わっているはず。もしかしたら他にもな」

 

「だとすると魔力を持たない兵藤家、気を扱えない式森家が

一誠と同じことをすれば・・・・・」

 

不意に一香と誠が顔を向けあった。

 

「やってみる価値ありそうだとは思わないか?」

 

「そうね。試してみましょうか私たちも」

 

気と魔力を片手に具現化させ、躊躇も無く二人は二つの力を融合させた―――。



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エピソード14

川神院に住みついてから時は経ち、季節は春を迎えた。百代は小学六年生となった。

空を縁からオーフィスと眺めていると、百代が一誠に歩み寄る。

 

「おい一誠。あの尻尾触らせてくれ」

 

「いいよー(ポン)」

 

「おおー。フワフワだ、モコモコだ」

 

「好きだねー?」

 

「当然だ。触れるならライオンの毛だって触ってみたいぞ」

 

「あっ、同感だね。でも僕的には虎に乗ってみたいや」

 

「ジャングルの王者の背か。お前、ワイルドなところがあるじゃないか」

 

目を輝かせ、一誠の狐の尾を抱き枕のように抱えつつ柔らかさと温もりを堪能する百代から

ワイルドと言う単語に小首を傾げる。

 

「なにそれ?」

 

「格好良い意味だぞ」

 

「そっか」

 

特に喜ばず、百代に尻尾を触らせ続ける。それからしばらくすれば、尻尾から離れて

一誠の前に立ちはだかる百代が催促した。

 

「一誠、外に遊びに行こう」

 

「じゃあ、バトミントンでもしようよ」

 

「私としては野球をやってみたいぞ」

 

「オーフィスと百代だけじゃ人が足りないよ」

 

「なら、外にいる暇そうな奴を探して誘えば良い」

 

「うーん、それもそうだね」

 

リーラと鉄心に一言告げて三人はバットと人数分のグローブ、

ボールを袋に入れたり手で持ったりとして外へ出かけた。

 

「お、あいつら外に行くのか。俺も陰ながら見張ってやるか」

 

「―――って、釈迦堂先生が言うと思うから一緒に行こうよ」

 

「・・・・・おいおい、バレていやがったのか」

 

玄関を出たところで一誠、オーフィス、百代に待ち構えられていた釈迦堂であった。

大人も連れて行けばどんなところにでも行けると密かに百代が呟いたので一誠は

釈迦堂を連れて行こうと決めたのだった。理由は暇そうだから。一誠たちは釈迦堂を

仲間に入れて、改めて外に出た。

 

「師匠、子供だから手加減してほしい」

 

「バカ言うな。子供のくせに大人並みに強いお前らに手加減できると思うか?」

 

「じゃあ、僕らも本気を出して良いんだね?」

 

「お前らは力をセーブしろセーブ」

 

「「ケチ」」

 

「ケチもへったくりもねぇよ。んで、どこまで暇そうな奴らを探しに行くんだ?」

 

そう問われ、一誠と百代は「んー」と悩む仕草をした。

 

「百代、人が集まる場所に行けばもしかしたらいるんじゃない?」

 

「その場所と言えば市街地だな。よし、ついでに親不孝通りに行こうか。

師匠もいるから問題ないだろう」

 

「昼は梅屋で良いな?理由は俺が食いてぇ」

 

「梅干し?」

 

そんなこんなで四人の暇な子供を探す冒険が始まった。

多馬大橋を渡り、暇そうな子供を求め歩き続ける。

 

―――親不孝通り―――

 

環境・治安諸共悪く、違法な売買を日常茶飯事な場所に訪れた一行。

不良の溜まり場でもあり怪しげな見せもちらほらと見掛ける。

 

「来たは良いが、こんなところにガキがいるかぁ?」

 

「師匠、ついでだって言っただろう」

 

「それにさ釈迦堂先生。思わないところで凄いめぐり合いがあるって父さんと母さんが

言ってたよ?」

 

「ああ、それについては同感だわな。特に坊主、お前だ」

 

「坊主じゃないよ兵藤一誠だよ」

 

環境が悪い市街地を歩き続けてしばらく経った。釈迦堂がいることで百代はどんどん奥へ歩き進む。

ピクニック気分で来たことのない市街地を見渡し観た建造物を目に焼き付け、

脳裏に記憶していると、足を止めた釈迦堂から待ったの声が掛けられた。

 

「これ以上は行かないぞ」

 

「え?どうして?」

 

「ああ、坊主と嬢ちゃんは知らないだろうがな。

この奥には強くてこわーいおじさんたちがいっぱいいるんだわな。

警察でさえもこの先を武装しない限り行かないほどだ」

 

「そうなんだ、でも釈迦堂先生」

 

「なんだ」

 

「百代、先生の話を聞いて嬉しそうに凄い速さで行っちゃったけど」

 

指を差した方へ釈迦堂が目を向けたら風の如く走っている百代の後ろ姿が。

後に深い溜息を吐いて顔を手で覆った。

 

「あいつ、最初からここにくる為に俺を連れて来やがったのか・・・・・おい坊主。

ここで待つか俺と一緒に百代を連れ戻しに来るのとどっちがいい?」

 

「一緒に行く」

 

「よし、俺からしっかり離れずついてこいよ」

 

「うん」

 

一誠とオーフィスと釈迦堂は駈け出した。百代の気を探知して探す釈迦堂について行く。親不孝通りの市街地を駆けまわること数分後に―――。

 

「はははっ!」

 

「なんだこのガキは!?」

 

「すばしっこい上になんて強い!」

 

強面の大人の男性と喧嘩もとい刀剣類を振りまわす相手に戦っていた。

その光景を釈迦堂がまた深い溜息を吐いた。

 

「あとでジジイにどやされそうだぜまったく」

 

「僕からあまり怒らないでって言うよ」

 

「雀の涙ぐらいの配慮だな」

 

釈迦堂はまずしたことは―――。

 

「おらよっと、ゴメン遊ばせ」

 

 

ゲシッ!

 

 

嬉々として蹴り飛ばしたのだった。

 

「・・・・・先生、自分から攻撃してどーするのさ」

 

「何言ってんだ坊主。ああでもしないと百代を連れて来られないだろう?」

 

「百代は普通に怖いおじさんたちの攻撃を交わしたり攻撃していたんだけど?」

 

暗に釈迦堂がそんなことしなくても呼び寄せればそれでいいんじゃないの?と

一誠はそう言いたげに視線を飛ばす。釈迦堂は釈迦堂で一誠の物言いたげな視線を一蹴した。

 

「俺もストレスってもんが溜まっているんだ」

 

「あ、スポーツをして発散するアレ?」

 

「そうそうその通りだ。分かってくれたな?」

 

「うん、分かった」

 

「(・・・・・こいつ、実は騙されやすいんじゃねーのか?)」

 

そう疑惑な視線を一誠に向ける釈迦堂の視界の端にズタボロになっている

四人の少年と少女がひれ伏していた。

 

「なんだ?あいつらは随分とやられてるなぁ」

 

「ああ、私がこの場に駆けつけていたら師匠が蹴り飛ばした大人があいつらを

寄ってたかった虐めていたんだ。理由は金を奪おうとしたらからだって」

 

百代が説明した。なるほどと釈迦堂は頷き、

鉄心に対する正当な言い訳もできたと内心ガッツポーズをしたが

向こうからぞろぞろと強面の大人たちが得物を持って駆けてくる。

 

「まさかだと思うけど、全員倒さないよね?」

 

「流石にしないわな。ここは後ろに振り返って走る方が重要だ」

 

と、逃走を図ろうとしたが突如発生した氷の壁に逃げ道が塞がれた。

 

「あ?氷だと?」

 

「凄い、これ削ったらかき氷ができるね」

 

「ド阿呆、それよりもこいつを破壊しないことには―――」

 

横に身体をずらした際、一人の少女がナイフを地面に突き立てながら降ってきた。

 

「おほっ、こいつはすげぇや。人を傷つける躊躇や戸惑いなんて感じさせない一撃だったぜ」

 

「―――私の家族を傷つけたお前にそれを感じる必要があるか?」

 

「んや、ねーわな。てなわけで坊主」

 

「うん?」

 

「この嬢ちゃんの相手をしてくれねぇか?」

 

一誠を謎の少女の前に立たせ、そんな事をさせようとする釈迦堂に顔だけ動かして

指摘の言葉を発する。

 

「釈迦堂先生。ここは謝った方がいいと思うよ、ごめんなさいって」

 

「向こうの嬢ちゃんの目を見てそう言えるか?」

 

釈迦堂の指摘に少女の青い目を覗きこんだ。

ギラギラと敵意と殺意、戦意が混ざっていてとても平和的に話もできなさそうだった。

 

「・・・・・できないかも」

 

「だろ?お前が嬢ちゃんを相手にしている間に百代にあのガキ共を連れて逃げさせる。

オーフィスの嬢ちゃんもな」

 

「えー、私は戦いたいぞ」

 

「ジジイにこっぴどく死ぬほど叱られたいか?しかも坊主のメイドにまで叱られる

可能性は大きいぜ」

 

「うっ・・・・・」と呻き、渋々と頷いた百代。釈迦堂は強面の大人たちに振り返る。

 

「それじゃ、頼んだぜ」

 

「オーフィス、氷を壊すから頼んだよ」

 

「「わかった」」

 

四人は一斉に動き始めた。一誠は横殴りに氷の壁を叩いて粉砕してみせれば、

瞬時で倒れている四人の子供たちを掴んで壊れた氷の壁を通ってこの場から離れた。

釈迦堂と一誠はそれぞれ戦い始める。

 

「私の家族を傷つけたお前たちを許さない!」

 

「僕はなにもしていないけどね!?」

 

「同じだ、だから氷漬けになるか串刺しになれ!」

 

空気中の水分を一瞬で凍結させ、氷の槍を数多に具現化させた少女が一誠に向けて

手を伸ばしたのを呼応して、氷の槍は一誠に向かって飛ぶ。

 

「氷が飛んできたぁー!?」

 

目を丸くして驚愕しながらも一誠の周囲の空間が歪みだして数多の鎖が意思を持って

いるかのように飛び出しては、一誠を守ろうと数多の鎖は氷の槍に巻きつき絞めつけ砕いた。

砕け散る氷の槍を目を丸くした少女は問うた。

 

「鎖だと・・・・・?お前、その力はなんだ・・・・・」

 

「それはこっちの台詞だよ。キミ、神器(セイクリッド・ギア)の所有者だったなんてね」

 

「セイグリット・ギア・・・・・?」

 

「知らない?神さまが与えてくれる不思議な力だよ。

多分その氷の力は神器(セイクリッド・ギア)による能力だよ。

キミや僕みたいな人間は世界中にいるんだ。でも実際に神器(セイクリッド・ギア)

持っている人と戦うのはキミで二人目―――」

 

最後まで言い掛けた口が閉じなかった。氷を操る少女が涙を流しながら笑みを浮かべているからだ。

 

「そうか・・・・・私は化け物ではないのだな」

 

「・・・・・?」

 

自分を化け物と呼ぶ少女に小首を傾げる。どうしてそういうのかと疑心を抱いていると、

少女がポツポツと零す。

 

「私は物心が付いてしばらく経った時、この氷の力を操ることができた。

だが、そんな私を大人や子供が畏怖の念を抱き、恐れ戦き、中には化け物と呼ぶ人間が現れた。

それ以来、私は家族と一緒に過ごすことで言われずに済んでいる。

だから―――私を化け物と知ってて大切にしてくれる家族を傷つけたお前たちは許さないんだ」

 

「・・・・・」

 

少女の話を聞き、一誠は背中にドラゴンの翼を展開した。

 

「キミより僕の方が化け物かな?僕、ドラゴンだしさ」

 

「・・・・・ドラゴン、だと?」

 

「うん、僕は兄ちゃんに包丁で刺されて一度死んだんだ。

だけど、僕はとあるドラゴンたちに助けてもらってドラゴンになったんだ。

だから人間のキミから僕を見れば、僕は人間じゃないから化け物だよね?」

 

「・・・・・」

 

肉親に、兄弟に殺されたと聞いた少女は信じられないと最初に思った。

だが、翼を生やす目の前の一誠を見てなぜだろうか・・・・・。

 

「僕はキミと戦いたくない。

だけど、これ以上キミが戦いを望むというなら・・・・・」

 

紫と黒が入り乱れた龍を模した全身鎧を装着した一誠を見て―――。

 

「強いキミに本気を出さないといけない」

 

「・・・・・」

 

少女は一誠の変わりように口角を上げだした。

 

「気に入ったぞお前」

 

「ん?そう?」

 

「私を化け物ではないと言いながら自分を化け物と言う。

そしてその証拠たる姿を私に見せた。ならば化け物のお前に問おう。―――お前は誰だ?」

 

少女の問いかけに一誠は鎧を解除して発した。

 

「名前は兵藤一誠だよ。元人間だったドラゴンの、名前だよ」

 

「私はエスデスだ」

 

「よろしくエスデス。友達がいないなら僕が友達になるよ」

 

満面の笑みを浮かべ、手を差し伸べてくる一誠にエスデスは踵返した。

 

「・・・・・その気持ちはありがたく受け取る。また来い、そしたら今日の続きをしよう」

 

「そっちから来る気があるなら僕は川神院にいるからねー」

 

返事をせず、去っていくエスデスを見送る一誠。

釈迦堂と戦って敗れた大人たちも負傷した状態で蜘蛛の子のように散った。

 

「坊主、口説いたのか?」

 

「違うよ、友達になったの」

 

「へっ、そうかよ。んじゃ、俺たちも戻ろうぜ」

 

「はーい」

 

釈迦堂と一誠も待っているであろうオーフィスと百代のもとへ赴く。

 

 

 

 

 

 

 

「兵藤・・・・・一誠・・・・・か。・・・・・ふふ、ふふふ、ははははははっ!」

 

 

 

―――○●○―――

 

 

 

「お主の言い訳はよーく分かったぞい」

 

「おいおい、正当な理由と言えよジジイ」

 

「阿呆、いくらお主がいるとは言え預かっている者を危険な場所に連れていくとは何事じゃ。

そして百代!」

 

「ぅっ!」

 

「今回は目を瞑るが、もしも独断で行動をし理由も無く大人に攻撃をしたら今後一切

お小遣いは一切無し!外への出入りも高校生になるまで禁止にするぞい!」

 

「そ、そんな横暴なぁっ!」

 

川神院に戻った一誠たちに待ち受けていたものは四人の子供を保護した釈迦堂への追及と

百代に対する厳しい説教だった。

 

「リーラさん、大丈夫かな?」

 

「酷い暴行を加えられていますが、命に別状はございません」

 

「そっか」

 

「一誠さま。知らなかったとはいえ大人になるまではその危険な場所に行ってはなりません」

 

「友達ができたのになぁ・・・・・」

 

「友達ですか?」

 

布団の中で眠る四人の子供を見降ろす一誠がリーラのオウム返しに頷く。

 

「うん、神器(セイクリッド・ギア)を持っていた子だよ。氷を操るんだ」

 

「・・・・・」

 

「リーラさんがそう言うならしょうがないや。

ここにいるって教えたし、何時か来てくれるのを待つよ」

 

少し残念そうにはにかむ一誠。リーラは心の中で複雑に思いながらも一誠の為だと心を

鬼にしなければと気持ちを抱いていると、

 

「で、釈迦堂。あの子らを連れて来てその後はどうするんじゃ?」

 

「取り敢えず、事情を聞くしかないでしょうや。そんで親のもとに帰す」

 

「わかった。あの子らをお前に一任するがよいな」

 

「へいへい、最後まで面倒みますよっと」

 

鉄心と釈迦堂は話が付いた様子。

 

「釈迦堂先生、これからどうするの?」

 

「こいつらが起きないことには始まらない。だったらこいつらが起きるまで待つしかないだろう」

 

「いえ、その必要はございません。既に起きておりますので」

 

リーラが唐突にそう言いだすと少女と少年がバッと起き上がって掛け布団をリーラたちに投げ放つ。

視界を遮らせその隙に二人の少女を掴んで逃げようとする二人の子供に、

 

「おっと、ボコられていたくせに元気じゃねーの」

 

先回りした釈迦堂が逃げ道を防いだ。

 

「どけや!」

 

「お前らを助けた大人に対する礼儀がなっちゃいねぇな?取り敢えず、大人しくしてろ」

 

あっという間に二人の子供を抑えつけるその手際に一誠は「おおー」と感嘆の声を漏らす。

 

「ちくしょうがっ、俺たちを警察にでも突き出す気か!」

 

「なんだ?おまわりさんに世話になるようなことをしてきたような言い方をするじゃーねーの。

ここは俺の家だ。お前らに手を出すような奴はいねーよ。なんなら飯でも食うか?」

 

「アタシらがそんな手に乗ると―――(キュウウウ)」

 

「てめぇみたいな怪しい奴の世話になって―――(グゥ)」

 

盛大に腹の虫が鳴った。三大欲求の一つである食欲に素直な二人の子供たちだった。

釈迦堂は底意地の悪い笑みを浮かべ、

 

「今日はすき焼きだが・・・・・そうかそうか、いらないんだな?」

 

「「・・・・・」」

 

「釈迦堂先生、意地悪しちゃダメだよ。お腹が空いているなら食べさせなきゃ死んじゃうよ。

リーラさん、ご飯の用意をしてくれない?」

 

「わかりました」

 

軽くお辞儀をしてリーラはこの場からいなくなる。

 

「おいおい、お前は甘すぎるって」

 

「いいよ甘くて。困っている人を見かけたら助けるんだぞって父さんに言われたんだもん」

 

「偽善者って言われても文句は言えねぇぞ」

 

「ぎぜんしゃ?なにそれ?」

 

首を捻る一誠に無視して抑えつけている子供たちに視線を向ける。

全身打撲による怪我で痛々しい姿になっている。

服も一度も洗濯していないのかかなり汚れていて

清潔感が感じさせない。子供にしては粗暴で荒々しい言動をする。

 

「お前ら、親はいるか?」

 

「知るかよ!俺たちを捨てたクソなやつらなんて!」

 

「なんだなんだ。お前ら四人だけで生きていたってのか。そいつはご苦労なこって」

 

「同情するなら金を寄こせってんだ!」

 

「あー、そうかい。お前ら、四人で他人から金や物を奪って生きながらえていたんだな?

だが、今回は相手が悪くて返り討ちに遭ったと」

 

ようやく合点したと納得し、抑えつけていた手を放した。

 

「親がいねぇなら好都合だ。お前ら、今日はこの家に泊まれ」

 

「は?なにを企んでいやがる」

 

「気まぐれなおじさんの言葉に耳を傾けるもんだぜ。と言っても俺はまだまだ二十代だがな」

 

「「「えっ」」」

 

「おい待て坊主。お前までなに驚いていがる?」

 

心外とばかり一誠に振り返る釈迦堂に一誠はこう言った。

 

「髭が生えているからてっきりおじさんかと思ったんだけど」

 

「二十代の若者でも髭が生える奴はいるんだ。よーく覚えていやがれ」

 

「そっかぁ、わかった」

 

頷く一誠は二人の子供に近寄った。

 

「僕は兵藤一誠だよ。キミ達は何て名前?」

 

「・・・・・板垣亜巳、こっちは弟の板垣竜兵だよ」

 

「そっか、よろしくね。亜巳と竜兵」

 

ニコニコと笑みを浮かべるとリーラが大きな鍋を持って部屋に入ってきた。

その後ろに修行僧の男たちも続いて入り、食器やテーブルなど食事の準備をしていなくなった。

 

「お待たせしました一誠さま」

 

「うん、ありがとう」

 

リーラに笑みを浮かべ感謝の言葉を述べると、

 

「んぁ・・・・・?」

 

「いい匂いがするぅ・・・・・」

 

ムクリと眠っていた二人の子供が起き上がった。

 

「天、タツ!」

 

「アミ姉ぇ・・・・・お、美味しそうなたべもんがあるじゃねぇかっ!」

 

「わぁ・・・・・これ、どうしたの?食べていいの?」

 

「ええ、どうぞ食べてください」

 

リーラからの了承に起き上がった二人の少女がワッと食べ始めた。

 

「うめぇ!うめぇっ!」

 

「アミ姉とリュウ、これ美味しいよー?」

 

「・・・・・ちったぁ警戒しろよな」

 

「まったくだね・・・・・こっちがバカみたいじゃないか」

 

「実際お前らバカだ。おら、とっとと食わないと全部あいつらに食われちまうぞ」

 

釈迦堂の催促に亜巳と竜兵も渋々と食べ始めるが―――。

 

「あっ、テメェ天!俺の肉を取るんじゃねぇっ!」

 

「へへん!奪われる方が悪いんだよ!」

 

「じゃあ、天ちゃんのところにあるお肉貰うねー」

 

「アンタはアタシ達の中で背が低いから肉よりも野菜を食べな」

 

ワイルドな食いっぷりと共に和気藹々と賑やかな食事を展開した。

その様子を見ていた釈迦堂は顎に手をやった。

 

「・・・・・ちょいっとジジイに相談してみっか。事が進めば暇な退屈もしなくなるだろうしな」



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エピソード15

 

 

 

 

―――数日後―――

 

「ZZZ・・・・・」

 

「ま、またこれ・・・・・?」

 

当惑する一誠にガッチリとひっついて寝ている青髪の少女。そして、一誠を覆うように

オーフィスが寝ていて隣にはリーラが上半身を起こして小さく苦笑いを浮かべていた。

 

「リーラさん、オーフィスは分かるけどなんでこの子まで・・・・・?」

 

「私にも分かり兼ねますが・・・・・一誠さまのお傍で寝ると心地よいのではないでしょうか」

 

「僕は驚かされる方が多いよ・・・・・」

 

板垣兄弟姉妹が川神院に住みつくようになった。釈迦堂が鉄心に、

 

『あいつらを川神の養子として引き取らないか?』

 

と話を持ちかけ色々と話し合った結果。釈迦堂が成人するまで面倒を見る条件で四人を

養子として川神院に引き取ることに決まった。

その後、一誠の隣に寝ている少女、板垣辰子は

馬が合ったのか、それとも必然なのか一誠と目が合った瞬間に、

 

『この子、私の弟にするー』

 

と、抱きつきながらそう言いだしたのだ。

その後、百代が異論を言いだし、一誠は誰の弟になるか言い合いになったほどだ。

 

「オーフィスさまと彼女を起こして朝食の準備をしましょう」

 

「ん、わかった」

 

兵藤一誠、リーラ・シャルンホルストの一日は今日も変わらず始まるのだった。

 

 

 

 

「よーし、今日はここまデ!」

 

「ありがとうございました!」

 

ルーから課せられる鍛練のノルマをこなし、元気よく返事をする一誠。

道着を身に包んだままルーから離れ、

 

「一誠く~ん!」

 

「うわっ!?」

 

「うふふー」

 

流した汗を風呂でと思いながら家の中に入ろうとしたところで辰子に抱きつかれた。

 

「た、辰子?いま汗掻いているから・・・・・」

 

「だいじょうぶだよー」

 

「―――こら辰子!鍛練が終わってすぐにどこかに行ったと思えばやっぱり一誠のところか!」

 

自分は怒っているぞ!と身体全体で怒りを表現し、現れた百代は辰子に掴みかかる。

 

「一誠はこの後私と川原で気の打ち合いをするんだ!」

 

「一緒にお昼寝をするのー!」

 

負けじと辰子も百代に掴みかかり、その場で喧嘩をし始めた。そこで一誠は一言、

 

「だったら、百代とそれを終わったら辰子の言う通りのことを百代も一緒にすればいいんじゃない?」

 

「「・・・・・」」

 

ピタッと停止して二人は「それもそうか」とアッサリ喧嘩を止めた。

 

「ほら、二人とも釈迦堂先生との稽古で汗を流しているんだからお風呂に入ろうよ」

 

「そうだな」

 

「じゃあ、一誠くんもはいろー?」

 

「いや、僕は―――」

 

 

ガシッ!

 

 

「「問答無用」」

 

「リーラさん!この二人を止めてぇー!?」

 

 

―――川原―――

 

 

「そーら!一誠、やるぞ!」

 

「今度は負けないからね!」

 

川原で、両手から小さな気弾をマシンガンの如く放ち続ける一誠と百代。

一発でも当たれば勝者というゲームをやるようになってから二人は闘争心が燃えあがり、

一定の時間が経つと、

 

「「はぁっ!」」

 

片手で気のエネルギー砲を放ち始め、どちらかが追いつめられるかと言う勝負もするようになった。

二つの気が激しくぶつかり合い、押し合いが二人の気が空っぽになるまで続く。

 

「はははっ!楽しいなーこういうのっ!一誠、もっと全力で来い!」

 

「あっ、いいんだ?それじゃ、全力!」

 

膨張した一誠のレーザービーム状の砲撃。百代の気の砲撃も力が強まるが

軍配は決まったのも当然だ。

 

「くそっ、負けた!」

 

「本気だったら百代に負けていたよ」

 

「私が本気で一誠は全力・・・・・。それが今回の勝敗の決め手かぁ」

 

打ち合い後、草原で寝転がる四人。一誠を真ん中にして百代と辰子が寄り添うように

寝転がっている。オーフィスは一誠の腹の上に寝そべり辰子は一誠が寝転がった瞬間に

寝始めたが、まだ二人は高揚感が収まらないか雑談をしている。

 

「なら、今度は全力で勝負だ」

 

「明日ね?もう全然出る気がしないよ」

 

「だな、私もだ」

 

少し休憩もしくは寝ればある程度体力は回復する。寝転がった状態で時間を過ごす

二人に影が生まれた。

 

「こんにちは」

 

恭しくお辞儀をする執事服を身に包む銀髪の老人。その隣には威圧的な視線を送って

くる銀髪の老人と同じ服を着ている金髪の老人。気を使い果たし、

まだ思うように身体を動かせれない状態で

 

「誰だジジイ?」

 

「ダメだよそんな尋ね方をしたら。気持ちは分かるけど・・・・・もしかして誘拐しにきたの?」

 

警戒する。

 

「いえいえ、私たちはそのような真似はしませんよ」

 

「・・・・・そっちの金のおじさんが怖い顔をしているのに?」

 

一誠の指摘に銀髪の老人は息を一つ漏らす。

 

「ヒューム、ここは私が聞きますのであなたは帰ってくれませんかね?」

 

「・・・・・」

 

ヒュームと呼ばれた金髪の老人は鋭い眼光で物言いたげな視線を銀髪の老人に送る。

その視線の意味を読み取り、一誠たちに話しかける。

 

「先ほどの戦いを御拝見させていただきました。お二人とも、名前を教えてくれませんかね?」

 

「何で教えないといけないの?」

 

「だな。それに知らない奴についていくな、教えるなってうるさく言われているんだこっちは」

 

「うん、知らないおじさんに教えるほど僕たちは世間知らずじゃないからね」

 

ジト目で二人の老人に視線を向ける一誠と百代。そんな言動に金髪の老人は目を爛々と輝かせる。

 

「赤子が、俺たちの質問に答えろ。それとも少し大人に対する態度を教えてからにでもいいが?」

 

指の関節を片手で鳴らし威圧を掛けると、

 

「暴力反対!大人が子供を虐めるなんてどういう神経しているのさ!

そんな大人がいるから虐待なんて言葉があるんだ!」

 

「そうだそうだ!お前は私のジジイか!」

 

非難の言葉が一誠と百代の口から発せられたのだった。

 

「・・・・・クラウディオ」

 

「ヒューム、ダメですからね」

 

額に青筋を浮かべるヒュームに「連れてきたのが間違いでしたね」と小さく漏らす

クラウディオと呼ばれた銀髪の老人。

 

「申し訳ございません。私はクラウディオ・ネエロと申します。以御お見知りおきを」

 

「・・・・・」

 

「このムスッとした方はヒューム・ヘルシングですのでどうかお見知りおきを」

 

「・・・・・名前を言ったからって僕らにとっては知らない人当然だよ」

 

「はい、重々承知の上です。ですが、質問に答えて欲しいだけですのでよろしければお話だけでも」

 

クラウディオの話を聞き一誠と百代は顔を見合わせ―――辰子を背負い、

オーフィスを百代が抱えて少しばかり回復した体力で逃走をしたのだった。

 

「・・・・・警戒心が凄まじいですね」

 

「ふん、赤子の考えることは見え透いているがな。泳がせるぞ」

 

「そうですね―――っ!?」

 

刹那、空間が歪みだして鎖が飛び出す。

鎖は意志を持っているかのように動きヒュームとクラウディオを縛りあげた。

 

「これは・・・・・」

 

「小癪な真似を・・・・・」

 

―――川神院―――

 

凄い勢いで門を潜り川神院に戻った二人(四人)。

 

「つ、疲れた・・・・・」

 

「子供の身体で二人を背負って走るのはしんどいな・・・・・」

 

「で、でも・・・・・ここまでくれば。それに縛ったから僕たちを見失っているはずだよね」

 

「いえ、見失っていませんよ」

 

シュタッと軽やかに二人の背後に現れたヒュームとクラウディオ。

一誠は振り返ったその瞬間に空間を歪ませて鎖を発現し―――。

 

「同じ手は効かんことを知らない赤子だな」

 

あっという間に鎖を束ね掴み上げるヒュームに一誠をギョッと目を丸くして唖然とした。

 

「川神院・・・・・なるほど、あなたたちは川神院の関係者ですね?」

 

「だから何だって言うんだよ・・・・・」

 

「いえ、あなた方の戦闘を興味が湧きましてね。

もしよければ将来、九鬼財閥に働く気は無いかと御誘いをとございまして」

 

「くき・・・・・ざいばつ?」

 

クラウディオは「ええ」安心させる笑顔で肯定する。

 

「今は原石ですが将来性を考慮し、あなた方が成長した頃には磨き上げた原石は

宝石になると思っております。どうでしょう?あなたたちのご両親と面会させてもらいませんか?」

 

「僕、父さんと母さんはいないよ」

 

「いまはどこに?」

 

「知らない。世界中を飛び回ってるし、どんな仕事をしているのか分からないんだもん」

 

ジリジリと空間から数多の鎖を展開し逃げる素振りを窺わせながら後退する。

どこまでも警戒する一誠に釣られ、百代も警戒する目で勧誘するクラウディオに見据える。

 

「それに、そう言って騙す人かもしれないし僕を狙う人かもしれない。だから信用できないよ」

 

「赤子にしては十年早い判断だな」

 

「それと赤子じゃないよそこの金髪のおじさん!絶対に僕たちをバカにしてるでしょう!」

 

「赤子は赤子だ。お前は俺からしてみれば赤子のような存在だ」

 

と、眼光鋭く威圧感を放ち言い放つヒュームは知らない。

一誠にとって許し難い事を言われるのは尤も嫌う事を。

 

「・・・・・じゃあ、赤子じゃないって証明するよ」

 

辰子を下ろして、金色の双眸に敵意と怒りが宿る。

 

「ほう?どうやってだ」

 

「こうだよ」

 

右手に魔力、左手に気を具現化し二つの力を合わせ融合。

一誠の全身に摩訶不思議なオーラが包まれ、ヒュームに飛び掛かる。

しかし、上半身だけ逸らして一誠の突貫からかわした際に小さな足を掴んで地面に叩き付けた。

 

「見たことが無い力に、赤子とは思えない速度だったが、まだまだお前は赤子よ」

 

「一誠!」

 

百代が駆けつけ、地面に叩きつけられた一誠を起こす。

 

「大丈夫か?」

 

「ちょ、ちょっと痛かったけど・・・・・あのおじさん、強いよ」

 

「そうなのか・・・・・」

 

敵意が籠った目で百代はヒュームを睨む。

 

「・・・・・あんなことされたというのにダメージが無いとは。

あのオーラによってダメージが軽減された、

もしくは物理防御が飛躍的に高める結果があるのでしょうかね」

 

「どちらにしろ俺の敵ではない。さて、どうする続けるか?」

 

冷静に分析するクラウディオに長髪的な態度をするヒューム。

 

「・・・・・イッセーを苛める者、我は許さない」

 

目が覚めたオーフィスの手に淡い光が帯び始める。場は緊張に包まれた時―――。

 

「お主ら、何を騒いでおるのじゃ」

 

この場に鉄心が現れた。隣にリーラが付き沿っている。

 

「じじい!」

 

「リーラさん・・・・・」

 

「じじい?なるほど・・・・・この赤子は貴様の孫だったとは。久しいな鉄心」

 

「お主もなヒューム。じゃが、川神院が預かっている子供を容赦なく地面に叩きつける

お主は相も変わらず容赦がないと言うか鬼畜と言うか困った奴じゃ」

 

呆れる鉄心に「預かっている子供?」と反応するヒュームとクラウディオ。

 

「鉄心さま、それは文字通りのことですか?」

 

「そうじゃよ。ワシの隣におるメイドと一緒にな」

 

「ふん、そこの従者が赤子の世話役と言うならば躾になっていないな。

失格と烙印を押しても良い。赤子を赤子と呼んで当然なことを

怒りに身を任せて攻撃してきたのだからな」

 

「お主、バカにされた者が怒らないわけがなかろうて―――」

 

刹那―――。

 

 

ブゥゥゥウウウウウウウウンッ!

 

 

と鳴るオーラが放出され、空気を貫くような鋭い音があたり一面に響き渡った。

それはヒュームの頬を掠め伸びてだ。

 

「失礼、手が滑ってしまいました」

 

涼しげな顔でレプリカ・グンニグルを片手に突き出した状態で言うリーラ。

 

「初対面の子供に罵倒を放つ執事も失格と烙印を押してもよろしいかとございます。

そして一誠さまに対する愚行を、このリーラ・シャルンホルストが許しません」

 

一誠を守る様に前へ立ち、絶対零度の目をヒュームに向ける。

 

「貴様・・・・・・九鬼財閥に敵を回す気か?」

 

「九鬼財閥・・・・・なるほど、その財閥の従者でしたか。ですがそれがなにか?」

 

「なに・・・・・?」

 

「もう一度改めて自己紹介をさせていただきます」

 

スカートの端を摘まんでお辞儀をしだすリーラの口から発せられた。

 

「兵藤家元当主である兵藤誠さまと式森家元当主である式森一香さまのご子息である

兵藤一誠さまの専属メイドであるリーラ・シャルンホルストでございます。

以御、お見知りおきを。一財閥の従者さま」

 

「「―――――っ!?」」

 

「元とは言え、兵藤家の一族の者に手を上げた者とその関係者を兵藤家は黙っておられません。

兵藤家と式森家のこと―――ご説明せずともお分かりであることを願っております」

 

ヒュームとクラウディオが目を丸くした。それが事実であれば自分たちは

崖っぷちに立たされた状態でいることが直ぐに思い知らされた。

 

「―――この事実を兵藤家に現在の当主に直接お伝えさせてもらいます。

現当主は元当主である兵藤誠さまの実の父親であり、

一誠さまは現当主にとってお孫さまなのですから話は通じます」

 

携帯を取り出してどこかに連絡しようと素振りをするリーラにクラウディオが待ったを掛けた。

 

「なにか」

 

「・・・・・彼の兵藤家現当主のお孫さまであることを知らずに

ご無礼な言動をしてしまい誠に申し訳ございません。

何卒、今回の件に関してましては兵藤家にご報告をお伝えしないで欲しいと申し上げる所存です」

 

深く頭を下げ腰を折るクラウディオに冷たい視線を浴びせるリーラはヒュームを

一瞥してクラウディに問うた。

 

「そちらの者が兵藤家に罵倒した件はどうなさりますか?

名誉棄損罪、侮辱罪を起訴しても法律にも通じます」

 

「・・・・・私どもがそれ相応の罰と謝罪として数々の品を送らせてもらいます」

 

「私たちは川神院にお世話になっている身です。

数々の品を送られても川神院にいます皆さんのご迷惑になるだけですのでいりません。それに―――」

 

ヒュームを見据えるリーラ。

 

「あなたの相方は頭を下げるようなことをしておりません。

よほどプライドのお高いお方なのでしょう。反省の色も全く見えませんのであなたが

謝罪を述べても一誠さまの心が晴れません」

 

「・・・・・ヒューム」

 

「・・・・・」

 

窘めるクラウディオ。ヒュームは険しい表情を浮かべ、

頭を下げる気配を感じたところで一誠が声を掛けた。

 

「リーラさん、いいよ」

 

「一誠さま?」

 

「嫌々で謝れても僕は納得できないし僕も悪いところがあるんだ。

バカにされて怒っちゃってリーラさんとの約束を破った感じなんだ。だからお相子」

 

「・・・・・」

 

「あっ、でも僕が成長しても九鬼財閥って所に働く気は無いからねこれは絶対」

 

と、勧誘をこの場で断った一誠にヒュームとクラウディオに向けてリーラの目が据わった。

 

「・・・・・なんのことでしょうか?あなた方が働いている財閥に働くと言う話は」

 

「い、いえその・・・・・子供であるのに凄まじい戦闘をしていたので将来有望と思いまして・・・・・」

 

「兵藤家である一誠さまが一財閥に働くと言う事実を世間に知らして知名度を高める予定ですか?」

 

「滅相もございません。それ以前に私たちは一誠さまを兵藤家の者であることすら

知りませんでしたので・・・・・」

 

「気安く一誠さまの名を口にしないでください」

 

「申し訳ございません」

 

身の蓋もない会話のキャッチボール。有無も言わせないほどでリーラから発する冷気と威圧に

クラウディオは心の中で汗を流す。

 

「・・・・・やはり制裁が必要のようですね」

 

眩く輝く槍を構えるリーラ。

 

「九鬼財閥のトップをお連れして謝罪をしに来てください。

さもなくば兵藤家で九鬼財閥を吸収、もしくは潰させてもらいます。いいですね」

 

答えは聞かない。二人は一瞬で光の奔流と化となったオーラに呑みこまれ川神院から

吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

「のう」

 

「なに?」

 

「お主の従者、怖いのぅ」

 

「そう?まだ優しい方だと思うけど」

 

「・・・・・どんだけ怖いんじゃ。お主の従者は」

 

「うーん、始めて怒ったところを見たから分かんないや」



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エピソード16

「フハハハ!九鬼英雄降臨である!」

 

「同じく九鬼揚羽顕現である!」

 

「・・・・・リーラさん、誰?」

 

「九鬼家の者かと思います一誠さま」

 

「ふーん、なんかヘリコプターがいっぱい飛んでいてうるさいね。それに人が多いし

何をしに来たんだろう?」

 

バラバラと上空に騒音を川神院に轟かせる無数のヘリに川神院を囲む執事服を身に包む従者たち。

そして額に☓の傷跡がある少年と少女や両親らしき男性と女性が登場する。

 

「おーおー、なんだなんだぁ?随分と参拝客が多いじゃねぇか」

 

「釈迦堂先生、鍛練の時間だけどこれじゃできないんじゃないの?」

 

「あー、確かにこれはできやしねぇな。今日の鍛練は休みってことで自由にして良いぞ」

 

「はーい」と一誠は返事をしたその時。

 

「あー、ここに兵藤家の人間がいると聞いたがどいつだ?」

 

額に☓の傷跡がある男性がキョロキョロと求人を探す仕草をする。

 

「あなたは?」

 

「ん?俺は食い財閥現当主の九鬼帝だ。うちの部下が迷惑を掛けたみたいだからよ。

謝りにに来たんだわ」

 

「謝りに・・・・・それにしてはそのような振る舞い方ではないとお見受けします」

 

「それはすまんな。俺はこう言う奴で堅いことが苦手なんだわ」

 

「そうですか。そのような者は身近におりますのでその気持ちは分からなくはございません」

 

「おっ、そうなのか?そいつは嬉しいねぇ。是非とも会ってみたいもんだ」

 

朗らかに笑い「でだ」と話を言い続ける。

 

「兵藤一誠ってお前で良いんだな?」

 

「・・・・・」

 

尻尾があれば毛と共に逆立たせて威嚇している様子を思わせる一誠に帝は頬を掻く。

 

「物凄く警戒されてんなこりゃ。いや、本当にうちの部下が失礼なことをしてしまって

本当に申し訳ない」

 

腰を折って合掌するように両手を合わせて謝罪する帝。女性も静かに恭しくお辞儀をする。

二人の謝罪の念を感じたのか、一誠は言い放った。

 

「貸し、一つだよ」

 

「兵藤家の貸しはデケェな。うちの企業を潰されないなら何だって願いを

叶えるつもりで来たんだがな」

 

苦笑を浮かべる帝は安堵で胸を撫で下ろし、指をパチンとはじき鳴らした瞬間。

帝の指示による呼応の行動か手に大小様々な箱が持って現れた多くの従者たちが

次々と重ねて置いていく。

 

「いらないと言われたらしいが、こいつは謝罪の込めたプレゼントとお近づきの印と

して用意させてもらった。それと俺の息子と娘と遊んではくれないか?」

 

「・・・・・その子たちと?」

 

「おう、きっとお前にとって良い友達になると俺は信じてるぜ。

それじゃ、俺は仕事で行かないといけない。後のことはクラウディオに任せる。じゃあな」

 

嵐のように現れては嵐のように去る。大量の箱を置いて子息と令嬢、一人の執事を残して去って。

 

「・・・・・リーラさん、どうすればいい?」

 

「あの方の飄々とした態度に察するとあまりいい思いではありません・・・・・」

 

眉間にしわを寄せるリーラ。兵藤家の者と交流することはそれなりにリスクがあり

利益にも繋がるとリーラは思っている。特に利益の方はリスクよりも大きいだろう。

一誠を利用して企業を拡大するという考えを帝はしているだろうと思えばあまりにも

不愉快。一誠を兵藤家のパイプとして自身の子と接しさせ、あわよくば娘の婿として

迎い入れて兵藤家と固い繋がりを得ようと企んでいるのかもしれない。

 

「(一誠さまを政略結婚の道具になんかさせません)」

 

企業の娘、九鬼揚羽を一瞥して誰にも気づかれず息を零すリーラ。

 

「一誠、話は終わったかー?」

 

「あ、百代。うん、終わったっぽい」

 

「なら、川原で野球をしに行こう」

 

「いいよー。丁度二人増えたから野球はもっと楽しくなるね」

 

「二人?ああ・・・・・そいつらか。ま、別に今更増えようが変わりないがな」

 

百代の視界にも九鬼姉弟の姿が映り込む。対して気にしないとばかり一誠に視線を戻す。

 

「ねえ、野球をやるけどどう?」

 

「野球?フハハハ!我が得意とするスポーツではないか。よかろう、我も参加してやろうではないか!」

 

「・・・・・なあ、何であいつはあんな偉そうに上から目線で物言いを?」

 

「分かんないよ。まあ、悪い奴じゃないから気にしないでいいんじゃない?」

 

「一誠がそう言うなら」

 

「ん、じゃあリーラさん。野球をしに川原の原っぱに行ってくるね」

 

「はい、お気をつけてください。オーフィスさま、一誠さまをお願いします」

 

「ん、分かった(ピョン)」

 

「って、オーフィス。最近僕の肩に乗っかる様になったけどちょっと歩きづらいよ・・・・・」

 

九鬼姉弟を引き連れ外へ出かける一誠と百代の様子を微笑ましく見詰めるリーラ。

 

「仲睦ましいのー」

 

「そうですね。ですが、逆に一誠さまが引き寄せる力に目を付ける輩がいないとは限りません。

それが心配ですが―――鉄心さま」

 

「なんじゃ?」

 

「腕の一本を失う覚悟がおありですなら、

私のお尻に触ろうとするその腕に攻撃してもよろしいですね?(ギリギリッ!)」

 

「いだ、いだだだだっ・・・・・・!?」

 

「総代・・・・・なにをしておられるのですカ」

 

「セクハラジジイが辿る末路はこんなもんだろ」

 

ルーと釈迦堂から呆れの溜息が零れる。後に釈迦堂も暇潰しとばかり一誠たちの後を追う。

 

 

―――○●○―――

 

 

カキーン!

 

「フハハハ!ホームランである!」

 

「むぅ・・・・・本当に得意だなんて」

 

「だが、まだまだこっちが有利だ。このまま勝つぞ一誠」

 

誰もいない原っぱで野球をする一誠たち。釈迦堂を万年キャッチャー役に仕立て上げ、

一誠、百代、オーフィス、辰子(+釈迦堂)チームVS英雄、揚羽、亜巳、竜兵、天チームと別れて

勝負の真っ最中。

 

「皆様、そろそろ御昼食の時間です」

 

「おっ、九鬼の従者さんは気が利くねぇ」

 

「私にできないことはございませんので」

 

クラウディオが大きめのブルーシートを敷いて昼食用に用意されていたのだろう数々の

重箱が展開していて、一誠たちに声を掛けた。野球を一時中断してお昼タイムに入る。

 

「誠に野球は楽しいであるな!」

 

「野球が強い人が入るとやり甲斐があるよね」

 

「片方が強過ぎると力のバランスが崩れて一方的な勝負となりつまらぬからな。

だが、お前たちとする野球は心が躍る。食べ終え休憩したらもう一度野球をしようぞ!」

 

英雄が高らかに笑う。心底楽しんでいると誰から見ても明らかでクラウディオが微笑む。

 

「良かったですね英雄さま」

 

「うむ、休暇の際は川神院に訪れお前たちと遊ぶことに没頭しよう。時に兵藤よ」

 

「ん?」とアスパラのベーコン巻を咀嚼中の一誠に英雄は尋ねた。

 

「兵藤はどこの学校なのだ?」

 

「んと、学校なんて行ってないよ」

 

「む?行っていないだと?」

 

「そうだよ。僕も別に行きたいとは思っていないし別にいいんだ」

 

「それでは社会に出た時にはどうするのだ」

 

「さぁ、リーラさんから勉強や色々と教わっているからね。

未来のことは未来にならないと分からないよ」

 

のほほんと述べる一誠に不思議そうに見つめる揚羽が声を掛けた。

 

「友達ができないのではないのか?」

 

「友達?百代やオーフィス、辰子や竜兵、天や亜巳の他にもたくさんの友達がいるけど?」

 

「む、そうだったのか。意外と社交的なのだな」

 

「父さんと母さんたちの方が社交的だよ。僕は父さんたちに紹介されて友達になっている感じだから」

 

「学校に行かなくても困るようなことは無い」と言ってのける一誠だった。

 

「おいおい坊主。学校を通うことは大切なんだぞ?そんなこと言って

将来右も左も分からない状態で状況を作ったらどうするんだ?」

 

「釈迦堂先生は学校に行ったことがあるの?」

 

純粋無垢な質問に釈迦堂はサッと一誠から顔を逸らした。

 

「・・・・・ないんだ?意外。釈迦堂先生が学校に行かないまま大人になっただなんて」

 

「私たちもこんな大人になるのかねぇー」

 

「ま、ウチらはウチらで生きてればいいんじゃね?」

 

「社会に馴染めたいなんて思っちゃいないしな」

 

「うーん、一誠くんと一緒に生きれるなら私はそれで・・・・・ZZZ」

 

学校に行っていないメンバーが釈迦堂に一瞥しつつそう発する。

 

「うっせ、学校なんてな最低限の知識を与えるだけであとは自分の力で生き抜くもんだよ」

 

「じゃあ、小学校を卒業したら僕たちは大人になるの?お酒も飲める?」

 

「そいつはノーコメントだ」

 

「あー!はぐらかしたぁー!」と一誠の叫びに場は賑やかになる。

 

「だが兵藤よ。学校に行くことは大切であるぞ」

 

「んー、兵藤家にいたときは色々と学んだから学校なんて行かなくても良いと思うんだよ。

今でもリーラさんから教わってるし」

 

「そこまで申すのであれば・・・・・クラウディオ、6年生の数学テストのプリントを」

 

「はっ、ここに」

 

クラウディオから渡される鉛筆と消しゴム、一枚の紙を受け取った英雄が一誠に突き出す。

 

「ん?」

 

「この算数の全ての問題の答えを書いてみせろ」

 

「分かった」

 

英雄から受け取り、その場でサラサラと筆を走らせることを三分後。

 

「できたよ」

 

「む、早いな。クラウディオ、採点を頼む」

 

「かしこまりました」

 

赤ペンを片手に採点を始める。そして終わればクラウディオの口から。

 

「お見事でございます兵藤さま。満点でございます」

 

と一誠を称賛する言葉が発せられた。受け取ったプリントに全問赤い丸のマークがあり、

100点と書かれていたのを見て英雄は問いかける。

 

「兵藤、お前は歳はいくつなのだ?」

 

「えっと、百代より一つ歳が下だよ」

 

「ということはお前は小学四年生ってことか。よく六年生の算数問題を解けたな」

 

「だって、今やってる算数は中学二年生の問題なんだもん」

 

「「な、なんと・・・・・」」

 

「兵藤さまは英才教育が施されているようですね。

それならば学校に行かずとも問題ございませんでしょう」

 

九鬼姉弟が驚く最中、クラウディオが納得の面持ちで顎に手をやった。

 

「ですが兵藤さま。学校に行くことは将来において大切なことですよ?」

 

「僕にそう言われても・・・・・」

 

困ったように首を捻る一誠。

 

「んー・・・・・一誠くん、尻尾出してー」

 

「いいよ(ポン)」

 

その申し出に一誠はアッサリ了承し九本の狐の尾を生やせば、辰子はそのうちの一本に

抱き枕のように抱きしめ寝始める。

 

「・・・・・兵藤さま、その尾は一体・・・・・?」

 

「狐だけど?」

 

「狐・・・・・兵藤さまは妖怪でいらっしゃるのですか?」

 

「違うよ、ドラゴンだよ」

 

「ん、イッセーはドラゴン」

 

オーフィスまでもが肯定し、クラウディオは一誠が学校に行かない理由を悟った。

 

「(・・・・・なるほど、深い事情が御有りのようですね・・・・・)」

 

敢えて口から発する事無く、百代とオーフィスも尾にしがみ付く光景を見据える。

 

「か、可愛い・・・・・」

 

「姉上?」

 

揚羽が立ち上がり、一誠の頭に生える獣耳を触れる。

それから尻尾を触れると抱き抱え始め顔を押し付けてすり寄せ始める。

 

「兵藤っ」

 

「ふぇ?」

 

「ああ、モコモコして温かいではないか。我の布団の中でも抱き枕にして

寝たらさぞかし寝心地がよいだろうな」

 

ギュッと力強く、それでいて割れ物のように優しく抱きしめ一誠の尾を堪能する。

 

「決めた、今日からお前は我のペットとなるがよい!」

 

「いやだ!」

 

心の底から否定する。揚羽ごと尻尾を豪快に動かして振り払った。突然の出来事に

尻尾から離れてしまいクラウディオの腕の中に収まった揚羽に窘める言葉が。

 

「揚羽さま、兵藤さまにそのような事を言ってはいけません」

 

「む・・・・・だが・・・・・」

 

「揚羽さまもペットになれなど言われたら嫌だと仰るはずです。

兵藤さまは事情があるのです。ですから相手の人権を害する発言をお止めになられてください」

 

ふーっ!と全部の尻尾を逆立たせて揚羽を睨む一誠。完全に獣の威嚇のような姿は

百代を楽しませ、弄られる。

 

「おい嬢ちゃん。ここに坊主のメイドがいなかったことに幸運だと思えよ」

 

「どういうことだ?」

 

「お前の発言でメイドは怒り、九鬼家が制裁される時間の問題だったってことだよ。

兵藤家って知ってるだろう?日本を代表する王さま。日本の総理大臣より偉い一族を。

そこの坊主はその兵藤家の人間なんだ。だから嬢ちゃんの両親の家が

なくすことなんてワケが無いんだ」

 

「っ!?」

 

「理解したか?ペットにするなんて坊主に言えば兵藤家に対して喧嘩を売ったと

認識されてもおかしくないんだわ。その時、嬢ちゃんの家は―――あっと言う間に無くなるぜ。

嬢ちゃんのせいでよ」

 

釈迦堂に指摘され揚羽は自分がとんでもない発言で家は崩壊すると思い知らされた。

そして、一誠に深く揚羽は謝罪して二人の間に溝を作らずに済んだのだった。

 

―――○●○―――

 

その日の夜、一誠は何時ものように今回はルーから課せられる鍛練をこなし終えた時だった。

風呂で汗を流しさっぱりしてリーラのところに顔を出そうとすれば、

心底信頼と信用をしている従者の目の前に見知らぬ男が座っていた。

 

「・・・・・誰?」

 

「一誠さま」

 

「こちらへ」とリーラが自分の隣に座るように催促され、その通りにすれば見知らぬ

男がお辞儀をした。

 

「お目に掛かります。私は兵藤源氏さまにお仕える側近でございます」

 

現当主の側近。そのような者がどうしてここにいるのか一誠は不思議でならない。

聞く姿勢を保ったまま金色の双眸を側近の者に目を向ける。

 

「私たちに何かご用でしょうか。当主の側近の御方がわざわざここまでお越しになる

理由をお聞かせ願います」

 

「・・・・・単刀直入に申し上げます。元現当主である兵藤誠殿のご子息、兵藤一誠を

兵藤家に預からせてもらいたい所存でございます」

 

「「・・・・・」」

 

側近から発せられた一誠を兵藤家に引き取りたいと言う申し出。

それには驚愕を通り越して一誠は目元を細めて睨むように側近を見詰めた。

 

「なぜ、いまさら一誠さまを求めるのですか」

 

冷徹に心も氷のように冷たく冷静でいようと気持ちで理由を求めた。側近の者はこう答える。

 

「兵藤家の者は文字通り門外不出でなければなりませぬ。

たとえ、追放された同族のご子息であろうと

他の流派の武術を会得しようとなどあってはなりません」

 

「私たちがここに滞在している理由は川神の流派を会得するつもりではないです。

一誠さまに心得を学ばせたいと誠さまがそう仰り、私たちはここにおるのです。

ですが、兵藤家はこの川神院のように清い心得を学ばせるほどの

師範代はおられるのですか?―――一誠さまを弱いと言うだけで大人も子供も蔑ろに

し続けたあなた方兵藤家に一誠さまを心身共に強くなされることはできるのですか?」

 

「・・・・・」

 

リーラの発言に沈黙する側近の者。一誠がどんな非道な仕打ちに遭っているのか

側近の者も耳に入っているし見掛けたこともある。

一誠を蔑ろにしてきた兵藤家にリーラはもう縁を切りたいほど兵藤家を毛嫌いしている。

 

「それにそちらには一誠さまよりお強い誠輝さまがおられるはずです。

弱い一誠さまなど眼中にないのではございませんか?

さらに言えば、以前兵藤家の者が一誠さまを襲撃した件・・・・・お忘れではないはずです。

なのに、一誠さまを狙っている輩がいるであろう兵藤家に預からせるなど信用も信頼もできません」

 

「・・・・・それについては誠に申し訳ございませぬ」

 

「謝罪をされても私たちは兵藤家に信用と信頼など皆無に等しいです。

現当主の願いであろうとこのお方に兵藤家と関わらせないでください」

 

バッサリと切り捨てるリーラ。これで諦めて欲しいと切に願うが、側近の者が口を開いた。

 

「・・・・・いえ、預からせて欲しいという願いは建前でもあります」

 

「建前ですか。それはなんですか」

 

「はい・・・・・悠璃さまと楼羅さまも日に日にお強くなられております」

 

「よかったですね」

 

「いえ、リーラ殿がお考えになられているお強くなられたという意味が違います。

その・・・・・禁断症状が発病すると申し上げますか・・・・・」

 

側近は苦渋の面持ちで漏らした。

 

禁手(バランス・ブレイカー)に至っては兵藤一誠を会わせろと現当主に脅―――いえ、

お願いをされることが多くなってきておられるのです」

 

リーラは思わず額に手を当て出す。今思えばあの二人が一誠に久しく会いに来てはいない。

一誠を心底好意を抱いている二人の少女が会いたいという願いが溜まりに溜まって

側近の者がここに現れたと言うことは既にその思いが起爆寸前と言う事なのだろう。

最悪の場合、兵藤家から抜け出して誠と一香のような行動をしてしまう恐れがあると側近は

それを危惧して一誠を預からせて欲しいと言う事なのだろう。

 

「つまり兵藤家全体と言うより、現当主とあなたはあのお二人を一誠さまに

お鎮めてほしいということなのですか?」

 

「お恥ずかしいながら・・・・・その通りでございます。私はこの場にいることも独断でいます」

 

バッ!と側近の者は深く土下座をした。

 

「一週間!いえ、五日間だけでも構いませぬ!どうか兵藤一誠を兵藤家に預からせてください!

もう現当主では頼りないほど実娘に迫れて奥方に任せっきりで、奥方も抑えるのに

もう限界に近いのです!このままでは内乱もとい争乱になりかねないのです!

どうか、どうか我ら兵藤家にお慈悲を!」

 

「「・・・・・」」

 

あまりにも必死な側近に一誠はリーラの服をクイクイと引っ張った。

 

「兵藤家は嫌いだけど、この人・・・・・可哀想と思ってきたよリーラさん」

 

「あのお二人をお鎮めにできるとすれば現当主とその奥方、

誠さまか一誠さましかおりませんですし・・・・・」

 

「悠璃と楼羅の二人をここに連れて来られないの?それだったら僕は嬉しいけど」

 

「申し訳ございませぬ。あのお二方を容易に外の世界へ連れ出すのは

禁じられておりますゆえ・・・・・」

 

申し訳なさそうに側近の者は頭を下げた。

 

「・・・・・僕、兵藤家が嫌い」

 

「承知の上でございます」

 

「でも、あの二人に会いたいな」

 

「そのお言葉を悠璃さまと楼羅さまにお伝えして欲しいです。さぞかしお喜びになるでしょう」

 

と、述べた側近に一誠はこう述べた。

 

「じゃあ、僕とリーラさん、オーフィスを他の兵藤の皆と会わせないようにしてくれる?」

 

「現当主と奥方、悠璃さまや楼羅さま、私だけしか入れない部屋でお過ごしになられば可能です」

 

「じゃあ次ね。僕、兵藤家の鍛練なんてしたくないから。

苛められたら僕、皆をどうしちゃうか僕自身でも分からないんだけど・・・・・いいよね?

苛められたその百倍やり返しちゃうよ?それでもいいなら参加するよ」

 

「勿論でございます。鍛練に参加せず悠璃さまと楼羅さまとお過ごしになられてください」

 

若い芽を詰まられては堪ったものではないと内心そう思いながら清々しい土下座をする側近の者。

 

「い、一誠さま・・・・・」

 

「ん?なに?」

 

「いえ・・・・・なんでもございません」

 

何時の間に誰かを脅す事ができるようになったのかリーラは当惑や困惑で一杯でいた。

 

「兵藤家・・・・・くふふ・・・・・楽しみだなぁ・・・・・」

 

幻覚だろうか。一誠から黒い靄が出ているのを側近の者とリーラは見えてしまった。

 

「・・・・・兵藤家で過ごした日々を思い出しながら笑う一誠さま・・・・・そこまで御心が・・・・・」

 

「も、申し訳ございませぬ・・・・・今世代の若い者たちは血気盛んで・・・・・」

 

「言ったはずです。今さら謝罪など意味がないのです。私からもフォローはします」

 

「助かります」

 

「貴方には関係ないことですが誠さまにこの事をお伝えします。よろしいですね」

 

「・・・・・はっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なるほど。一誠も大変だな』

 

「はい、本心ではあのような場所になど行きたくもないはずですのに・・・・・」

 

『同感だな。俺も親父がよほどのことでもない限り自分から行く気なんてない。

が、一誠は行くんだろう?』

 

「私とオーフィスも同行します。ご心配を掛けません」

 

『お前がそう言うならこっちは気兼ねなく仕事に専念させてもらう。悪いな』

 

「今はどちらに?」

 

『ああ、魔術教会―――いや、魔法使いの協会の理事メフィストのところにいるよ。

いま一香とメフィストが契約について話しこんでいる』

 

「契約、ですか。悪魔か魔物と契約なされるのですか?必要ないとお聞きしたのですが」

 

『一香も追放されたとはいえ式森家の魔法使いだ。一香に相応しい契約者を

メフィストも手伝っているんだ』

 

「それで、一香さまにお目に掛かった立候補はおりましたか?」

 

『彼女ほどのクラスなら五大魔王の悪魔クラスが最適だろうな。

いまはまだ―――おっ、決まったようだ。って、本気かよ一香』

 

「誠さま?」

 

『ああ・・・・・一香がな魔物と契約をしたいって言いだしたんだ。

魔物は魔物でもドラゴンだけどよ』

 

「・・・・・まさかとは思いますが。一香さまが望んでいらっしゃるのは」

 

『リーラが思っている通りだと思うぜ。そう、一香が契約したい相手は―――一誠だ』



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エピソード17

一時的に川神院から離れ兵藤家に帰郷した一誠たち一行。夜は未だ明けていなく、

生物も寝静まり返っている時間帯で兵藤家に繋がる門前に辿り着いた

そんな一行に待ち受けたものは―――。

 

「いっくん!いっくんだっ!」

 

「一誠さまぁっ!」

 

悠璃と楼羅が一誠に抱き付き、歓喜の声を上げながら連れて行かれる光景をリーラと

オーフィスはただただ見送ることしかできなかったことだった。

 

「・・・・・感謝するぞ」

 

「源氏さま」

 

後に現当主兵藤源氏と妙齢の女性が現れる。リーラは源氏に向かって一言。

 

「父親として情けないかと存じ上げます」

 

「うぐっ」

 

「誠さまにもお伝えしたら伝言を受け賜わっています。

『おい親父、誰が育て方が悪いんだっけ?人のこと言えないだろうバーカバーカ!』

・・・・・と以上でございます」

 

「ふふふっ。あなた、実の息子に言われたい放題ですね」

 

女性が扇子で口元を隠しながら笑む。源氏は源氏で誠の伝言を聞きフルフルと身体を怒りと屈辱で震わせる。

 

「羅輝さま、お久しぶりでございます」

 

「ええ、リーラお久しぶりね。元気そうで何よりです」

 

「ご苦労を成されていると側近の者からお聞きしました。五日間の間はこの家にお世話になります」

 

「あの子にとって嫌な記憶と思い出しかない場所でしょうけど、あの子たちを抑えるのにも

苦労したわ。稽古や舞いに集中してくれなくて・・・・・」

 

「ほほほ」と苦笑を浮かべる羅輝。それだけで人を魅了させる何かがあり、同性である

リーラも美しいと称賛するほどの美人である。

 

「それにしてもあなたが背負っているソレは?」

 

「この家には遊具がないのでこちらからご用意させていただきました。

部屋に籠りっぱなしでは一誠さまも退屈するはずですので」

 

「兵藤家にそのようなものは必要ない」

 

腕を組んで視線に捨てろと乗せるほど見詰める源氏に。

 

「・・・・・残念です。これは悠璃さまと楼羅さまも楽しんでもらう為に用意してきた

遊具ですが、源氏さまがそう仰られるのであれば破棄するしかないですね。

御息女である悠璃さまや楼羅さまに一誠さまと楽しむ時に笑顔を浮かべて

欲しかったのですが・・・・・仕方ありません」

 

「ぐっ・・・・・」

 

呻く源氏。兵藤家に遊具など必要ないと言った手前に今更撤回するほどプライドが

邪魔して次に発する言葉は喉につっかえた状態で出ることができないでいると。

 

「あなた、こちらからお願いしている身なのですから些細なことでも

許してあげることも親の務めではなくて?それだからあの二人に今の今まで目ですら

合わせてもらえないじゃないですか。リーラ、この人の言う事を全部無視して

良いから気にしないで過ごしてね?」

 

「お心遣い感謝します羅輝さま」

 

羅輝がやんわりとフォローした。兵藤家現当主、当主としての貫禄や父親としての

威厳はリーラから見れば微塵も感じないほど落ち込んでいた。

 

「それじゃ、私たちしか入れない一室に案内するわ。

子供の頃の誠も使っていた部屋だけどいいかしら?」

 

「構いません。寧ろ一誠さまはお喜びなるかと」

 

「ふふっ。そうね。ほら、あなた。何時までも落ち込まず今頃

笑みを浮かべているあの子たちの顔を見て来て来なさい」

 

羅輝がそう言うと何かに駆られた源氏が一瞬で走り去って行った。

 

「親バカですね源氏さま」

 

「待望の女の子が生まれたから嬉しいのよあの人は」

 

「いまさらですが誠さまの妹という関係になりますよね?」

 

「そうね。ま、誠も妹ができたと知った時は

『親父は俺よりも何倍に可愛がるだろうな』って不貞腐れていたのよ?」

 

「それは知りませんでした」

 

微笑み合う二人も巨大な門を潜り兵藤家に足を運ぶ。一方、一誠は悠璃と楼羅の部屋で

二人に抱きつかれて片時も離して貰えず、抱き枕のようにされていたのであった。

 

―――○●○―――

 

「お、おはよう・・・・・」

 

「おはようございます一誠さま。どうやら昨夜はお疲れのようですね」

 

リーラとオーフィスしかいない一室に一誠が現れた。悠璃と楼羅に抱きつかれたままの状態で。

 

「寝れたことは寝れたけど・・・・・寝た気がしない」

 

「じゃあ、もう一度寝る?」

 

「私たちも一緒に・・・・・」

 

これはもはや禁断症状どころか重病の間違いではないのか?とリーラは内心嘆息して

一誠にひっ付く悠璃と楼羅を見詰める。朝食はこの部屋でして舞の時間になると悠璃と

楼羅は羅輝が迎えに来ると駄々をこねて―――。

 

「舞を頑張ってる悠璃と楼羅を見てみたいな」

 

と一誠の一言で二人はやる気を出して、舞を教える女性や羅輝たちは今まで集中や

真面目にできなかった二人の変わりようにホッと胸を撫で下ろし安心させるほど効果的であった。

 

「あの子の言葉一つであの子たちがここまで真剣に舞を学んでくれるなんて・・・・・愛は偉大ね」

 

「気持ちは分からなくはありませんが。

まさかそこまで一誠さまのことを想っていようとは・・・・・」

 

「一誠が苛められ一人ぼっちでいるところ見て放っておけなかったようなの。最初は弟のように面倒を見ていたようだけれど、今はちょっと違うみたいね」

 

「何時の間にか恋を抱いたと、そういうことですか」

 

「そう、だからこそあの二人は最近禁手(バランス・ブレイカー)に至った」

 

苦笑を浮かべる羅輝と何とも言えない表情をするリーラ。

 

「どのような能力が?」

 

「簡単に言えば闇と影の能力だわ。まだ詳細は不明だけど戦わせるつもりは毛頭もないつもりよ。

女の子らしく立ち振る舞いをしていれば私は満足だから」

 

「婚姻の際は波乱が起きましょう」

 

「そうねー。私は数多立候補した女の中で唯一選ばれたのだけれど、

誠が兵藤家から自ら出て行って追放の形でいなくなってしまったから

夫が再び当主にならざるを得なくなった。誠は知らないでしょうけど期待していたのよ?

新たな当主として兵藤を導いてくれることを」

 

「ですが、禁忌を破ってしまったが為に・・・・・」

 

重々しく首を縦に振る羅輝。

 

「神の悪戯か偶然、または必然的な出会いなのか。式森家の当主だった一香と

恋に落ち駆け落ちをしてしまった。別に恋は禁止されていなかった。

だけど、子供を作ることだけが許されなかった」

 

「何故ですか?一誠さまと・・・・・誠輝さまはどこにでもいる子供のように生まれ

成長なされているのです。なのにどうして子を成すことが禁忌なのですか?」

 

「・・・・・ごめんなさい。それ以上のことは教えることができないの。

夫が固く禁忌のことを口にしないから」

 

目を瞑り羅輝は言う。

 

「でも、誠と一香なら知っているはずだわ。知りたかったらあの子たちから聞いてちょうだい?

今更禁忌なんて誠は気にしないで喋るでしょうし」

 

と、重大なことであるはずのことを微笑みながら述べる羅輝に対して度肝を抜かれた

感じなリーラだった。

 

「いいのですか?一介の従者である私が知っても・・・・・」

 

「兵藤家と式森家の間にかわした禁忌。だけど他の人が私たちの禁忌を知っても興味を

示すか示さないかだけで終わるんじゃないかしら?それにあなただから知って欲しい

気持ちもあるかもしれない。誠の息子を夫の孫を見守るあなたに」

 

「・・・・・」

 

無言で深くお辞儀をするリーラ。羅輝の寛大な心に感服したのかそれとも

そうするほどのことを羅輝から感じたのかリーラはただただ腰を折って頭を下げたのだった。

 

「これからもあの子の傍にいてあげてくれるかしら?」

 

「はい・・・・・私の身体と心は全て一誠さまのために尽くす所存です」

 

「うふふっ。ここにもあの子に恋する乙女がいたわね」

 

サッと顔を赤くするリーラだったが、真剣味がある表情を浮かべ問いかけた。

 

「羅輝さま、誠輝さまはどうお過ごしですか?」

 

「ああ、あの子・・・・・。私はあまり知らないけれど、

話じゃあとても優秀らしく兵藤家の若手の中で一位二位を争うほどの強い子になっているらしいわ」

 

「川神院で敗北なされましたが・・・・・川神百代さまとの実力の差が違うのですかね」

 

「あら、負けたの?まぁ、敗北はしておいて損しないわね。

一誠は、孫は負けたことがあるかしら?」

 

「一度だけ、誠さまと勝負して負けました」と説明すると扇子で口元を隠しだす羅輝。

 

「そう、父親と勝負して負けるなんていい機会じゃない。

これからもそうして成長すれば孫はあなたに相応しい男の子になるはずよ」

 

「・・・・・どう反応をしていいのか迷います。あまりからわかないでください」

 

「素直に喜びなさい?女の悦びを一度もしたことが無いなんて損な人生じゃない。

もう少し一誠が成長したら―――あなたから夜這などしてみたらどう?私も夫にしたほどだわ」

 

「なっ・・・・・羅輝さまっ」

 

「いいこと?ライバルが多いほど燃えあがるの女はね。

だからリーラ、従者である前にあなたは一人の女。たまには女として生きてみるのもいいわ。

一誠もきっとそんなあなたを見たくて接したいはずよ」

 

リーラの手を包むように両手で掴みながら羅輝はキラキラと目を輝かせる。

 

「羅輝さま・・・・・なんだかお楽しそうですね」

 

ちょっと苦笑いを浮かべそう言うと羅輝がカラカラと笑いながら言う。

 

「あら、そう?でもそうかもしれないわね。久し振りに恋バナなんてしたものですから。

立場上、私を敬遠や尊敬で兵藤の女たちと話をしても私に合わせて話をするばかりだから

ちょっと退屈で・・・・・」

 

自分で言って頬を片手で添えて恥ずかしげに笑む羅輝。

現当主の奥方と言う肩書も苦労をするのだとリーラは察する。

すると羅輝がリーラの顔を覗きこみながら尋ねた。

 

「ねぇ、あの子たちが遊んでいる間に私たちもお話しないかしら?

あの子たちの目の届く場所でなら安心していられるでしょう?」

 

「私でよければお相手をさせてもらいます」

 

リーラの同意に羅輝は嬉しそうに笑み、手を掴んで引っ張った。

 

「それじゃ、甘い物と紅茶を用意して色々とお話をしましょう!ああ、楽しくなってきたわぁ!」

 

活き活きとリーラを引き連れて一誠たちがいる部屋へと赴く。

当の一誠はリーラが持ってきてくれた遊具でオーフィスも交えて悠璃と楼羅と一緒に

遊んでいたが、後に現れた羅輝とリーラの話に

悠璃と楼羅は気になったのか大人の女性の会話に交じった。

 

「いい?二人はまだまだ子供だけど大人になれば意中の男を落とす方法は多種多彩!

その中でも効果的なのは男の胃袋を掴むこと。

男の人って料理を作る女性を当然好きだけれど気が利く料理を作ってくれる

女性にもっとも弱いの。今の二人にとってこのリーラは、

一誠の好きな料理を熟知しているからかなりの強敵。だから二人とも、頑張りなさい?」

 

羅輝の説明と応援に二人は当然と言うべきか、その日から料理を自ら手伝い、

作るようになって魅力的な女性を目指す為に花嫁修業をするようになった。

 

「「絶対にオトす!」」

 

「え、なにを?」

 

「いっくんを!」

 

「一誠さまを!」

 

「・・・・・リーラさん、二人の様子が何だか変だよ?」

 

「子供とは言え一誠さまは鈍感ですね」

 

「?????」



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エピソード18

悠璃と楼羅を宥める為、兵藤家に居着くようになって早三日。一誠が清涼剤としての役目が

発揮し、爆発寸前であった二人を押さえる効果が出て一部の兵藤家の者は安堵で胸を撫で下ろす。

そして今日も一誠と言う存在がいるだけで物事は順調に進む。

 

「え?僕も海外に?」

 

昼食時間中に源氏から発せられた海外の同伴。源氏は頷き言い続ける。

 

「選り抜きされた兵藤家の女性が舞を海外のとある会場で披露する。

世界各地に存在する会社や企業といったトップの人間たちが兵藤家の舞を観に集まる

行事が明後日行われるのだ」

 

「じゃあ、悠璃や楼羅も舞をするんだね?」

 

「その通りだ。だが、明日の為に舞を練習しないとダメだったのだが・・・・・」

 

「もしかすると一誠さまを呼び寄せたのは、舞を成功させたい為に悠璃さまと楼羅さまの

やる気を出す為だったのですか?」

 

リーラの指摘にまた頷く。

 

「兵藤家の舞は大切な行事の一つだ。世界に舞を見てもらえば次は二日後、

日本の神々にご披露せねばならないのだ。そんな大事な日に娘たちが本格的の踊りの

練習を怠ったままイザナギさまやイザナミさま、アマテラスさまやスサノオさまと

言った日本中に存在する神々に舞を観させるわけにはいかぬのだ」

 

「・・・・・なるほど、側近の方も必死になるわけです」

 

「今回、悠璃と楼羅は初めて人前で舞を披露する。その為に一誠。お前と言う存在が

二人の緊張を解す役割になってもらいたいのだ。頼めるか?」

 

「うん、いいよー。僕も観てみたいし二人の頑張って踊ってるところさ」

 

あっさりと了承した一誠。悠璃と楼羅に顔を向け笑顔で応援した。

 

「悠璃、楼羅。頑張って踊ってね?僕も応援するから」

 

「うん、いっぱい応援してくれたら舞を成功させるね」

 

「観ていてください一誠さま。私たちの舞を」

 

二人もやる気が満ち溢れていることに源氏は満足気に頷いた。

 

「と、すれば・・・・・誠さまも観に来そうですね。元当主であった方なので

この時を把握しているのではないでしょうか?」

 

「来たら来たで追い返してやるわ」

 

腕を組んでそんな物言いを言う源氏だった。だがしかし、誰もが気付かない。

その日はとんでもないことが起きるとは一人とて思ってなどいなかった。

 

―――○●○―――

 

 

某国のとある場所で敷かれたレッドカーペットに豪華絢爛と宝石を身に付け衣装の姿で

歩く男性と女性に数多のカメラのフラッシュが浴びせられる。その中には九鬼財閥の

一家も姿を現し後にメインとばかり最後に現れた兵藤家。

 

「やっぱり、キミたちも来たんだねー」

 

「フハハハッ。当然であろう。我が九鬼財閥も参加せな場ならぬ大イベントでもあるからな」

 

「母上も楽しんでおるほどだ。我らも見たいからな」

 

まだ人が集まっていないまばらな会場のホール、最前席で腰を下ろして待機している

一誠、英雄、揚羽が雑談する。リーラは表で誰かを出迎えるためこの場にいない。

オーフィスも一緒である。扇子状に席が設けられ、

 

「キミたちの両親は?」

 

「舞が始まる時間はまだあるからな。パーティ会場で他の企業のトップの者たちと

交流をしている。我らはここで待っておることにしたのだ。丁度お主もおるし」

 

英雄の言う言葉に一誠は「そっか」と返して赤い幕で隠されているステージを見詰める。

源氏もまたパーティ会場におり、周りから話しかけられているだろうと頭の中で思いながら悟る。

 

「ところで、執事さんは?銀髪の」

 

「陰ながら我らを見守っておるはずだ」

 

「ふーん、見当たらないけどどこかにいるんだ」

 

「クラウディオほどの者は姿を隠すぐらい造作もないのだ」

 

「おおー、凄いね。忍者みたいなこともできるのかな?」

 

「きっとできる。今度頼んでみよう」

 

三人の子供の会話は舞が始まるその時まで絶えなく雑談して待っていたと、

遠くから監視していたクラウディオの視界に入っていたのだった。

 

 

 

 

 

「久し振りだな。リーラとオーフィス。一誠は中か?」

 

「はい、お友達もおりますので会場の席にてお待ちしております」

 

「あらそうなの。一誠も段々友達が増えていくわね」

 

待ち人が正装の状態で現れた。リーラは誠と一香を出迎え会話の花を咲かせる。

 

「悠璃と楼羅、舞の方はどうだ?」

 

「一誠さまが見ている手前、お見事な舞をご披露してくれます」

 

「恋する乙女の力は絶大ね。さて、私たちも入りましょうか。先に現当主に顔を出しましょ?」

 

にこやかにほほ笑む一香の発言にここ一番嫌そうな顔を浮かべ出した誠が

 

「一香、それは別にいいだろ」

 

「ダメよ(ガシッ!)」

 

「ちょっ、一香?どうしてそんな力強くこういう時だけ俺の意思を無視するんだっ!?」

 

一香に襟を掴まれ、ズルズルとどこかへ連れて行かれる姿をリーラやオーフィス、

カメラマンに捉えられていた。

 

「・・・・・」

 

その時、誠が真剣な表情を浮かべた。

 

「一香、放してくれ」

 

「ダメよ。一誠のところに逃げるんでしょ?」

 

「そうじゃない。気になるものがあるんだ」

 

「気になるもの?」

 

そう言われ襟を解放した一香。誠はリーラに問うた。

 

「ここの警備の配置は分かるか?」

 

「建物中には九鬼財閥の従者や警備員、この周囲の建物の中や屋上にはスナイパーが

配備されていますがなにか?」

 

「ん」

 

誠がある場所へ指を差した方へ視線を向ければ、何かを包んでいる物を抱き抱えて

何かを待っているように微動だにしないフードを深く被っている子供がいた。

 

「あの抱きかかえている物が気になってな。まるで誰かに奪われさせないような抱え方だ」

 

「言われてみれば・・・・・もしかして、何かの売買?」

 

「それだったら何もこんな重要人物たちが集まる場所、この厳重に警戒している

空間にいるわけがない。尚もここに留まる理由は限られる。―――自爆テロとかな」

 

一香とリーラが息を呑む。―――その時、上空から爆発音が聞こえた。

誰もがその音の原因を知ろうと、見ようとして視線を意識して上へ向けた直後。とある高層ビルの建物が黒煙を燃え盛る炎と共に発生していた。

 

「やっぱりテロかっ!」

 

「―――見て、航空機が!」

 

明らかに様子がおかしい飛行機が真っ直ぐ火災が発生している建物に向かって―――自ら突っ込んで

再び大爆発が起きた。その建物は最悪にも兵藤源氏たちがいる建物だった。

 

「ヤバいなっ。親父はしぶといから生きるだろうから放っておいても問題ないが、

他の人間はそうじゃない」

 

「誠、助けに行きましょう」

 

「分かってる。リーラ、お前は一誠のところに戻って外に避難していろ」

 

「分かりました。オーフィスさま」

 

「ん」

 

誠と一香が会場から離れた様子を一瞥してオーフィスとリーラは一誠のところへ戻ろうとした。

だが―――何かを包んだものを抱き抱えた複数の子供が何時の間にかリーラたちよりも

早く動いていて会場の出入り口に入って言った瞬間。眩い閃光と共に凄まじい衝撃と

熱風がリーラとオーフィスを襲った。

 

―――○●○―――

 

「ん?何か揺れたような」

 

「我は感じないが、姉上は?」

 

「我もだ」

 

「んー、気のせいだったのかな?」

 

一瞬感じた震動。だが、会場は完全防音に耐震動で設けられた施設である。外で起きている事件など

子供である一誠たちは知る由もないし露にも思わない。加えて携帯や無線の使用を

由緒ある踊りをする兵藤家の前にそれは無粋で愚行な行為だと許されずジャミングが完璧に施されている。

クラウディオが外部からの連絡も伝わらない。ただし、機械での伝達のみであればそうだったろう。

一誠たちを遠くから監視していたクラウディオに九鬼家従者部隊の一人が焦った表情で駆け寄り耳打ちした。

 

「テロですっ。この会場を狙ったテロリストによる攻撃が行われております。

玄関ホールは爆発によって塞がれ外へ出ることができません」

 

「わかりました。では、非常口に会場の皆様を誘導しましょう。

他の者たちにもこの事を伝え警戒するように」

 

「はっ!」

 

最悪な展開が起こった。予想をしていたことだが実際に起こるとはクラウディオに

とっても起きて欲しくない現実である。そう―――目の前で天井が崩落し、

観客席に落ちるその光景さえもだ。

 

「まさか・・・・・ここまでしてくるとは・・・・・!」

 

今回のテロリストにしてはあまりにも用意周到でこの会場を狙ったその手際に舌を巻く。

会場は瓦礫によって煙が充満し視界が遮られ状況が把握できない。

その頃、誠はどうしているのかと言うと―――。

 

「この穴の中にくぐれば外に出られる!慌てずこの穴の中に!」

 

誠が空間を歪ませて開けた穴の向こうは会場の外の光景が見えて誘導する誠の言葉に

我先と取り残されている人々が穴の中へ殺到する様子を見守ると、

直ぐに上階へ昇っては同じように非難を誘導させる。何度もして階段に昇って行くと、

 

「親父!」

 

「誠か!」

 

パーティ会場と思しきフロアに到着した。テーブルや料理が散乱していて、

下へ降りようと避難する人たちと声が見聞する。

 

「何が起きている。分かっていることを説明しろ」

 

「どうやらテロのようだぜ」

 

「テロ・・・・・だと」

 

「いま一香はこの建物の外を見張っている。航空機が二機も直撃して来やがったんだ。

また来るかもしれない。しかも、一誠がいる会場にも自爆テロが起きて凄惨としか

言えようがない事態になってる」

 

状況を説明した誠の服に小さな手が四つ引っ張る。

 

「いっくんは?いっくんは大丈夫なの!?」

 

「大丈夫ですよね?一誠さまは・・・・・大丈夫ですよね!?」

 

着物の姿の悠璃と楼羅が不安の色を顔に浮かばせて問う。誠は一瞬悩むが二人の視線と

合うように跪きポンと頭に手を乗せた。

 

「大丈夫だ。あいつは俺の息子だ。絶対に無事にいるはずだ」

 

安心させる笑みを浮かべ、誠は立ち上がる。

 

「親父、取り敢えずアンタらも非難しておけ。兵藤家の現当主がここで怪我なんてだけ

でも大騒ぎなんだからな」

 

「ふん、もう既に大騒ぎになっておるわ」

 

空間に穴を広げ、外に繋げながら誠は源氏に声を掛けた。

 

「ここにこれを設置しておく。じゃあな」

 

あっという間に源氏たちから離れて上階へ向かった。

 

「お父さん・・・・・」

 

「大丈夫だ。さあ、外に出よう」

 

既にパーティ会場には人っ子一人もいない。源氏と悠璃、楼羅だけとなっていて

三人は誠が作ってくれた穴の中へ潜って建物の外へと脱出に成功したのだった。

そして、一誠たちがいる会場では・・・・・。

 

「だ、大丈夫・・・・・?」

 

天井から落下してきた瓦礫を波紋のように揺らがせながら空間から伸びる幾多の鎖が

宙で瓦礫を受け止めていて押し潰されずに済んでいた。揚羽と英雄も無事であったが

一誠は辛そうな表情を浮かべている。頭から血を流し、顔は血で濡れ汚れていて

首から下までが瓦礫で挟まれている状態で意識だけが鎖を保ち続けている。

 

「ひょ、兵藤・・・・・っ」

 

「先・・・・・謝っておくね。押し潰されて死んじゃったら言えなくなるし」

 

「バカなことを申すな!きっとクラウディオやヒュームが助けに来てくれる!それまで

意識を保っていろ!」

 

「簡単に言ってくれるけど・・・・・息がし辛くて結構きつい状態なんだよ」

 

肺に圧迫している瓦礫が血管さえ多大な負担を掛けている。ドラゴンの身体とはいえ、

負荷が掛かる影響は人体に及ぼすことは変わりない。長時間全身を圧迫すれば血液の流動が

少しずつ遅くなり、心臓や肺といった臓器に送れずやがて最悪死亡する。

 

「英雄、この瓦礫をどかすぞ」

 

「うむ!」

 

揚羽と英雄が動き始め、瓦礫を協力してどかし始める。

 

「兵藤、死ぬなよっ」

 

「お前が死ねば我らも死んでしまうのだからなっ」

 

どかしながら語りかける。一誠の意識を保たせる為に絶えず言葉を投げかける。

しかし、そんな二人の頑張りを嘲笑うかのようにどかした瓦礫によってさらに

積み重なっていたところが崩れやすくなってしまいガラガラと大量に落ちてくる。

揚羽と英雄はその光景を唖然と見ていることしかできなく

空間から出てきた鎖に落ちてくる瓦礫を防いでくれたおかげでピンチは免れた。

 

「瓦礫をどかすなら・・・・・慎重にどかさないと・・・・・」

 

「兵藤・・・・・!」

 

「今のでもう限界・・・・・瓦礫を支えるのも苦労するんだからね」

 

絶え絶えに言葉を発する一誠。鎖もギシギシと軋み一誠の言う通り

支えが不安定になっていることが分かる。

気を抜けば大質量の瓦礫が一気に振って来て今度こそ三人の子供を押し潰すだろう。

揚羽と英雄は瓦礫をどかすのを止めて静かに一誠へ話しかけるだけに専念した。

 

「すまぬ、我らが役立たずで・・・・・」

 

「ううん。その気持ちだけも嬉しいよ」

 

「ヒュームやクラウディオはまだか・・・・・っ。

このままでは兵藤の命が危うい・・・・・!」

 

「携帯の電波が繋がっていてくれるとありがたいが」

 

携帯を取り出して確認しようとする英雄。

 

「生憎、我らは携帯など持っておらん」

 

―――取り出す仕草をした英雄に揚羽が溜息を吐く。携帯があると思わせた英雄に一誠がツッコンだ。

 

「・・・・・ジョークだよ九鬼くん」

 

「ふはははっ。無事に生還したら父上に頼んで携帯を用意してもらおう。その時は兵藤、

お前の分も用意してやろう」

 

「・・・・・使う機会が無いと思うからいいよ」

 

「遠慮するではない。いずれ世界を統べる我が言うのだ。貰っておいて損は無いぞ」

 

「・・・・・兵藤家に喧嘩するんだ」

 

「い、いや・・・・・そうではない」

 

じゃあ、どうなんだよと内心思う一誠に危険な状況が続く。

ふと、視界の端に小さい影が映った。黒い長髪に黒い瞳、まるで人形のような女の子がいた。

 

「キミ、大丈夫?」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

「む、我らと同じく生き埋めになっていた者がいたとは」

 

「こちらに来い。そんなところよりこちらの方が安全だ。今はな」

 

九鬼姉弟の催促に少女は近づく。死ぬ恐怖故に言葉が喋れないのかジッと

純粋な目が一誠に向けられる。

 

「・・・・・こんな時になんだけどさ」

 

「なんだ?」

 

「二人って仲良いよね」

 

ポツリと呟いた一誠の言葉を揚羽と英雄は顔を見合わせた。

 

「姉弟であるからな。当然であろう?」

 

「当然・・・・・か」

 

「なんだ、兵藤はもう一人兄弟はおるのか?」

 

「・・・・・いたね・・・・。そんな人が」

 

いた・・・・・?英雄が漏らした呟きに一誠は肯定した。

 

「うん。仲が良い二人を見ていると何だか羨ましいと思う。

僕なんて・・・・・兄弟じゃないって散々否定されてきたから・・・・・」

 

「「っ!?」」

 

「でも、兄弟がいなくても幸せだよ。友達だっているし、大好きな家族も傍にいてくれるからね」

 

そこで一息吐き、そのまま無言になる。

 

「お、おい・・・・・?」

 

「なに?」

 

無言になった一誠が直ぐに返事をした事で英雄と揚羽が安堵で胸を撫で下ろした。

 

「無言になるな。心配するだろう」

 

「ああ・・・・・ごめん、けど話すのも疲れてきたから無言になっているよ」

 

「無言になるな。死んでしまったのかと思うのだ」

 

「目を覗きこんでくれれば死んだかどうかわかるでしょ・・・・・」

 

溜息混じりの息を吐き無言になっていると揚羽が一誠の目を覗きこみ始めた。

 

「「・・・・・」」

 

何とも言えない空間に一誠は堪え切れず揚羽の視線から逃れるように顔を背けたら、

 

「見えない、背けるな」

 

顔を両手で掴まれて元の位置に修正された。その状態のまま一誠の垂直のスリット状の

金色の双眸は揚羽の目に覗きこまれる。

 

「・・・・・ふむ」

 

「な、なに・・・・・?」

 

「兵藤、お前の目を改めて見たが中々どうして・・・・・」

 

揚羽の意図を掴めない一誠。自分の目を見てれば分かると言ったものの、

やはり凝視されては緊張や羞恥で顔を動かし揚羽からの視線を逃れたいと必死になる。

 

「こら、動かすな」

 

「やっぱり止めて。恥ずかしい・・・・・」

 

「男のくせに何を恥ずかしがる。お前が言いだしたことであろう。さあ、我に見させろ」

 

「ううう・・・・・」

 

「ふふふっ、初々しい反応をするお前を見ておると弄りたくなるではないか。ほれほれ」

 

「姉上、あまり兵藤をからかうではありませんぞ」

 

「よいではないかよいではないか」

 

「それ、時代劇に出てくる悪い殿さまの台詞っぽいよ」

 

こんな危険な状態と状況の中でいるからか、楽しげな雰囲気が包まれ始める。

 

 

ビシッ!

 

 

瓦礫を支えている鎖に罅が入るまでは。

 

「・・・・・本当に止めて、気が散って支えることができなくなるから」

 

「・・・・・すまぬ」

 

一気に緊張感が一誠たちを包みこみ、静まり返った。

 

「悠璃と楼羅・・・・・大丈夫かな・・・・・」

 

「誰だ?その者は」

 

「僕の友達だよ。今日、舞を踊る予定だったんだ」

 

「そうなのか・・・・・」

 

「うん、頑張っている姿を見たかった・・・・・」

 

遠い目で語る一誠の視界に罅が生じた鎖。そろそろ限界が近いと感じた時に他の鎖にも

罅が生じ始めた。

 

「ごめん・・・・・限界かも」

 

「いや、お前はよくやった」

 

「そうだ。死ぬ時は一緒である」

 

「・・・・・」

 

揚羽と英雄は一誠を責めず笑みを浮かべる。死期を悟り、

死を受け入れる年齢にしてはまだまだ早過ぎる。

あまりにも早過ぎる死、あまりにも大人びいている三人についに―――鎖が支えきれず

甲高い音と共に引き千切れ、大質量の瓦礫が押し寄せてきた。

 

「(・・・・・ごめん、皆)」

 

その光景を他人事のように見詰め、心の中で謝罪をした瞬間。

 

―――このまま死ぬつもりですか。

 

一誠に話しかける存在がこの時になって現れた。

 

―――守れる力を有している貴方がこのまま死ぬつもりですか。

 

「(キミは・・・・・)」

 

―――あなたはまだ死ぬべきではありません。さあ、最後の力を振り絞り限界を超えて

この窮地から脱してください。

 

「(力を・・・・・貸してくれるの?まだ―――わからないっていうのに・・・・・)」

 

―――これから分かってもらえばそれでいいんです。

 

弾む声。声の主は微笑んでいるような気がして一誠は迫りくる瓦礫を目にしながらも

口角を上げた。

 

―――力強く想ってください。あなたが守りたいと心から想う力が人々を救える力が

発揮できます我が主よ!

 

声の主の言う通り心から強く想った次の瞬間。一誠たちは瓦礫に呑みこまれた。

 

―――○●○―――

 

外では阿鼻叫喚が崩れた会場の光景に広がっていた。中にいるだろう大勢の人間が

生き埋めされて―――、

 

「くそったれがぁっ!」

 

「まさか、ここまでも狙われていただなんてっ」

 

「一誠さまッ!」

 

一香が魔法で瓦礫を大量に浮かせてはどかし、リーラと誠は手で瓦礫をどかす。

他の人々も果敢に瓦礫をどかす作業をしていた。

 

「一誠、また死ぬなんてことになったら閻魔に出会って脅してでもお前を連れて帰るからなぁっ!」

 

「天国だったら私たちも天国に行って迎えにいくわよ!」

 

色々と常識ではあり得ないことを口にする二人。

日本語で喋っているから通訳の必要な人からしてみれば、必死に生き埋め状態でも生き延びて

いるであろう人々を助けようとしている光景しか見えないだろう。

言葉が解らずとも、二人のその必死な行動を見れば誰もがそう思ってしまう。

 

「・・・・・」

 

黙々と瓦礫をどかしていたオーフィスの手が停まった。

ジッとある一点に視線を向けたまま微動だにしないでいると、

 

「オーフィスさま?」

 

「リーラ、ここから離れる」

 

「え?」

 

―――ゴゴゴゴゴッ!

 

リーラを瓦礫の山から連れ出した時だった。突然、瓦礫の山が震え始めた。誰もが地震か!?

と縦に揺れる瓦礫の山を見る野次馬や救助を試みている人々がそう思ってしばらくすると、

崩れた瓦礫の山の隙間から神々しい光を放ち始めた。場に似合わぬ光をリーラや誠、

一香や他の野次馬が「なんだこれは」と愕然していると瓦礫の山がさらに激しく震え、

 

ゴッ!

 

巨大な金色の光の柱が瓦礫の山から生え斜め上から天に向かって伸びた。

 

「・・・・・まさか」

 

その様子を見つめていると瓦礫を掻き分けるように巨大なトカゲみたいな顔をした生物が出てきた。

顔を出せば、首が、四肢の胴体が、尾が瓦礫の山から現れその全貌を晒した。

全身から神々しい光を放つ金色の巨大な生物が目の前に姿を現したのだ。

その背に三人の子供がチョコンと乗っていた。

 

「メリア、なのか?」

 

誠が信じられないと漏らした次の瞬間。金色の巨大な生物が傾き始め倒れた。

 

「お、おいっ!?」

 

誠はいてもたってもいられなく、金色の巨大な生物のもとへと跳躍して近づいた。

そして生物の顔に近寄った。

 

『や、やっとでれたぁ・・・・・』

 

と、生物が人語を発した。その声は・・・・・と誠は信じがたい目で見る。

 

「おおっ、人だ!そこの者よ、こいつを助けてくれ!」

 

「我らを助けてくれた恩人なのだ!いや、ドラゴンなのだっ!」

 

必死に救いを求める子供たちに誠は唖然とする。

力を使い果たしたのかグッタリしている。

 

「このドラゴンはどうしたんだ?」

 

「信じてもらえないだろうが、このドラゴンは人間だったのだ」

 

「・・・・・いや、それだけ聞けば信じれる」

 

このドラゴンは誠がよく知っている。一香やオーフィス、リーラも金色のドラゴンを

触れて安否を確かめている。だが、思わしくない状況なのは変わりない。

どこぞのメディアやカメラマンが瓦礫の山にいるドラゴンに向けリアル生中継をし始めたのだ。

 

「誠、これは・・・・・」

 

「あまり良くない兆候だな」

 

難しい面持ちで顔をしかめる。

 

「これはこれは・・・・・」

 

「ん?あ、九鬼家の・・・・・」

 

「クラウディオでございます。この生物のお陰で我々も外に出られました」

 

恭しくお辞儀するクラウディオが出てきたであろう巨大な穴から大勢の人々が出てきた。

負傷者もいるが、九鬼家従者部隊の者たちに支えられながら歩いて

 

「クラウディオ、無事であったか!」

 

「誠に申し訳ございません。私の力及ばすお二人に危険を晒してしまいました」

 

「そんなことはどうでもよい!今はこのドラゴンを、兵藤をなんとか助けるのだ!」

 

「はっ、ただちに」

 

しかし、事態は悪い方へと進む。警察が大勢やってきて拳銃をドラゴンに向けて構えたのだ。

誠たちをドラゴンから強引に離そうとする。

 

「ちょっ、待て!」

 

「なにするのよ!?」

 

「キケンデス!ハナレテ!」

 

「ふざけるな!あのドラゴンは―――!」

 

誠は激昂し、一誠は俺の息子だと言い張ろうとしたが咽喉につっかえて言えなくなった。

ドラゴンなど、現世の人間たちにとっては存在しないと思いこんでいる。

していると言えば謎の巨大生物、UMAとしか認識していない。

一誠自身も人型ドラゴンであり、人間だと言い切れることはできない。

 

『父さん・・・・・?』

 

ドラゴンが、一誠がゆっくりと体を起こし誠に近づけば野次馬たちも必然的に下がる。

身体が美しい金色でも未知の生物が近づいてくるそのプレッシャーは凄まじい。

 

「一誠、身体は何ともないか?」

 

『うん、何だか小さくなったねー?』

 

「いや、それはお前が大きいからだろう。で、元の姿に戻れそうか?」

 

『わかんない。ところで、今どんな状況?あ、そういえば』

 

鎌首を下にいる九鬼姉弟と黒髪の少女に向けて声を掛けた。

 

『大丈夫?』

 

「お前のおかげでな。凄いではないか、ドラゴンになるなど」

 

『僕も驚いているけどねー』

 

朗らかに会話をすると黒髪の少女がペタペタと金色の鱗を触れる。

 

「・・・・・綺麗」

 

『そう?』

 

「・・・・・うん」

 

黒髪の少女が一誠に微笑み一誠も釣られて笑った。

 

「(さて、これはどうしたものか)」

 

「(そうね。幸い、一誠の正体を知っている人は極一部)」

 

誠と一香はこの状況をどう打破するか頭の中で策を考える。上空にヘリが飛び交って一誠の姿を

お茶の間に放送しているだろう。一誠を連れ出すことは容易だが、

一誠を元の姿に戻す方法が分からない二人は悩んだ時だった。

 

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 

どこからともなく大きな獣のような咆哮が聞こえる。誠たちは聞こえた声の場所を探すと、

太陽をバックにしてこっちに飛んでくる全長五メートルの飛行生物の群れをオーフィスが見つけた。

 

「あれ、ドラゴン」

 

「なんだとっ!?何でドラゴンがこんな場所に現れるんだよしかもあんな数で!」

 

誰もが上空から現れたドラゴンの群れに恐れを成して我先へと安全な場所と

思える場所に逃げる矢先、地面が激しく縦に揺れ土煙と噴煙と共に盛り上がった。

同時に巨大な鋭い二本角が特徴のモンスターが二匹飛び出してきて、

尾にある巨大なコブでパトカーやトラックを横薙ぎに叩きつけて吹っ飛ばした。

ヘリもドラゴンに追い立てられる。

 

「なっ、なにがどうなっていやがる!?」

 

「この急展開はあまり良い方じゃないわね!」

 

「ですが、一誠さまを囲むように現れましたね」

 

「イッセーを守っている・・・・・?」

 

揚羽たちもクラウディオの手によって避難された。あの黒髪の少女も。

誠たちは一誠の傍にいたおかげかドラゴンたちに被害は無かった。

 

「・・・・・このドラゴンたちの意図は分かりませんが、一誠さまを助けに来たって考えでいいのでしょうか」

 

「今はそう思いましょう」

 

しばらくして一誠たちがいた場所から人がいなくなった。建物の中にも人がいるものの、

ドラゴンたちは建物まで襲うことは無いようで一誠を囲み警戒して建物の屋上にもドラゴンたちが

降りて警戒している。―――すると上空の空間に大きな裂け目が生まれ、凶暴で獰猛そうな

ドラゴンの顔が覗けた。

 

『なっ!?』

 

その驚愕の声は当然漏れ出した。空間の裂け目から巨大な手が飛び出してきて

一誠を掴み上げた。

 

『父さん!母さん!これなに!?』

 

避け目に引きずり込まれる一誠は困惑して抜け出そうにも力強く掴まれている。

逃げることは不可能と判断した誠と一香はリーラとオーフィスを引き連れて追いかける。

 

―――○●○―――

 

「・・・・・えーと、ここはどこだ?」

 

「そして、目の前にいる巨人より大きい生物はなにかしらね」

 

「「・・・・・」」

 

『・・・・・』

 

薄暗い巨大な空間に入り込んだ誠たちの目の前には全長二百メートルはあろう、

人型のドラゴンが金色のドラゴンと共々手に乗っている誠たちを凝視している。

 

「私たち、これからどうなるのでしょうか?」

 

「分からない。この者、天龍よりちょっと下だけど強い」

 

「二天龍以下ってことは変わりないのね」

 

「しっかしでっかいなぁー。グレートレッドより大きいんじゃないか?」

 

今の状況を把握しつつあるが、この四人は冷静でいる。

 

『なんだ、このチビどもは』

 

「おっ、喋れるのか」

 

『喋れるとも。ここは監獄。主に邪龍や反省をさせるドラゴンの為の異空間だ』

 

「監獄か。と言うとお前は監獄長ってところか?」

 

『その通りだ。分かったら人間界に帰れ。俺はこのドラゴンを原始龍さまのところへ

お連れせねばならぬのだ』

 

原始龍。監獄長のドラゴンが敬語で言うほどの者が金色のドラゴンを捕まえるように

指示を出した張本人であることを四人は理解し、

 

「悪いが、俺たちもその原始龍って所に連れて行ってくれるか?」

 

「この子は私たちの子供なの。親である私たちも連れて行きなさい」

 

「さもなくば、私たちはここで暴れます」

 

「我も」

 

金色のドラゴンに寄り添いながら戦意を滾らせる。監獄長は眉間にしわを寄せる。

与えられた使命を問題なくこなせたが余計なものまで入り込んできたことや、

親らしき人間にそう言われ、自分の一存では決められない事実に難しい顔をする。

が、監獄長の目の前に魔方陣が出現してしばらくした後に消失した。

 

『・・・・・感謝しろ。原始龍さまがお前たちも一緒に連れて来いとお達しだ』

 

「話が分かる長だ。助かる」

 

『可笑しな真似はするなよ。さもなくばこの世界に住むドラゴンが人間界を襲撃し、

人間を滅ぼす』

 

「この世界に住む・・・・・ドラゴン?」

 

『これから外に出る。そうすれば分かるだろう』

 

監獄長がズンズンとどこかへ進む。その中で素通りする檻の中には凶暴で獰猛そうな

ドラゴンたちが敵意や殺意を剥き出しに睨んでくる。そのドラゴンたちを見て一誠は感嘆に近い言葉を漏らす。

 

『わー!ドラゴンがいっぱい!』

 

『人間界が平和でいられるのは俺が邪龍を捕まえているからだ。

まぁ、他にも有り得ない力を持った人間たちが同胞を封印、または退治しているらしいがな』

 

「それでも生きているドラゴンたちはいるわ」

 

話し合っているうちに監獄長は監獄の外に出た。誠たちが見た光景は、視界に入る風景は―――。

 

「はははっ・・・・・まだ、こんな世界が存在していただなんてな・・・・・!」

 

笑みを浮かべた誠はバッと両手を広げた。

 

「だから俺は―――心躍るこの光景を、世界を見て回りたいから冒険をしたいんだよぉっ!

あのクソ親父がぁあああああっ!」

 

我が物顔で空を力強く翼を羽ばたかせ、自由に飛行する姿形が様々なドラゴンたちがいた。

 

「こんなにドラゴンがいる。我、初めて見た」

 

「ドラゴンが住んでいる世界・・・・・」

 

「・・・・・冥界や天界のような異次元空間なのでしょうかこの世界は」

 

他の三人も目を丸くしてドラゴンたちを見据えていると目の前に巨大な魔方陣が出現した。

 

龍門(ドラゴン・ゲート)と言う。知っているか知らないが知らないが、

この中に潜れば原始龍さまのところに着く。失礼のない態度でいろ』

 

誠たちの返事を聞かずその魔方陣に潜った監獄長。視界が真っ白に染まり、何も見えなくなった。

 

「「「「・・・・・」」」」

 

視界が回復した頃には、

円状な空間で壁一面にはキラキラと星屑が下に落ち続ける神秘的な現象が絶え間なく起きている。

床は四匹の龍が太陽を囲むような姿勢が描かれているのに対して、

天井は満月を囲む四匹の龍の彫刻が施されている。

そして、この空間の奥に天井にまで伸びた背もたれの椅子に座る女性がいた。

緑色の髪から突き出る翡翠の二つの角。身に包んでいる衣服は、緑と青を基調とした着物だった。

 

『お連れしました、原始龍さま』

 

監獄長が恭しく跪き、一誠たちをそっと床に置いた。

 

「ご苦労さまです。何時も頼んでばかり申し訳ございません。

今日はゆっくりとお休みになっていてください」

 

『はっ、ありがたき言葉です。では・・・・・』

 

誠たちを睨むように一瞥して、足元に展開した魔方陣の光に包まれながら姿を消した。

最後に睨んできたのは失礼のない態度で会話しろと籠っていたかもしれない。

 

「―――ようこそ、この子のご両親方」

 

椅子に座っている女性が声を掛けてきた。誠たちは自然体で佇み、

女性に目を向けたまま耳を傾ける。

 

「私は原始龍。世界が生んだ龍を生み出すシステムみたいなものです。以御お見知りおきを」

 

「龍を生み出す、世界が生んだシステム?」

 

「この世に存在する全てのドラゴンは様々な形で生まれています。

それは私と言うシステムが現存しているからこそ誕生しているのです。

次元の狭間に生まれたグレートレッドやオーフィスもまたそうです。ですが――」

 

腕をゆっくりと前方、誠たちに伸ばすと『え?』と一誠が浮き始め女性のところまで連れて行かれる。

 

「グレートレッドの肉体の一部とオーフィスの力を有する元人間であるこの人型ドラゴン、

私やこの世界でも予想もしなかったイレギュラーなドラゴン。実に興味深いです」

 

優しく一誠の顔を触れれば誠たちの視界から見れば、一誠が光に包まれ見る見るうちに

小さくなり小さな真紅の髪を持つ子供へと戻っていった。

 

「・・・・・あれだけの動作で、一誠を元の姿に戻すとは」

 

「さっきの話、嘘じゃないみたいね」

 

小さく漏らす誠と一香。未だに子供、一誠を腕の中に収めて頬や髪を撫で続けている原始龍に、

 

「「で、いつまでそうしている?返してくれない?」」

 

「話が終わるまでダメでしょうか?」

 

指摘したら可愛く小首を傾げる原始龍。誠たちはまた一人魅了したのかと内心呆れを

通り越して感嘆を漏らす。

 

「しょうがない。だが、質問に答えてくれるよな?」

 

「なんなりと」

 

「それじゃ、一誠を助けたのはなぜだ?あんなドラゴンたちを差し向けて今頃世界は

大騒ぎになっているだろうに」

 

誠の質問に原始龍はただ頷いた。

 

「私は人間界や冥界といった様々な世界に存在するドラゴンたちを見守る義務があります。

人間界がどうなろうが私には一切関係のないこと」

 

人差し指を何もない空間にトンと何かを叩く感じで動かすとこの空間に

数多のモニターらしき映像が浮かびあがり、その映像に様々なドラゴンが映っている。

中には人もいる。

 

「これ・・・・・全部ドラゴン?」

 

「人の形でいるドラゴンもいますがそうです。

これが人間界、冥界と言った異世界に生存しているドラゴンたちです。

私は瞬きをするように存在しているドラゴンたちの意場所さえわかるのです」

 

「我も?」

 

「ええ、オーフィスの行動も見守っていました」

 

微笑む原始龍にマジマジとオーフィスは原始龍というシステムを見やる。

 

「質問の答えを続けますね。龍化したままのこの子を人間から遠ざける為、

保護をする為に事を起こしました」

 

「保護ですって?」

 

「ドラゴンは皆、私から生まれた。ですから邪龍でさえも見守る義務がある私にとって

人間たちの手に渡るようなことは避けたかった。現代の人間たちの科学や知識はバカに

したものではない。人間たちにドラゴンの生態や秘密を暴くことでさえ容易いでしょうから」

 

「・・・・・まさかだと思うが、人間を恐れているのか?」

 

「ええ、恐れています。強いて言えば人間に秘められた潜在能力に」

 

あっさりと肯定した。誠たちは何度もドラゴンたちと出会い戦ったこともある。

そのドラゴンたちは牙を剥き喰い殺さんと襲ってきた。どのドラゴンも誠や一香を

恐れていなかったが、原始龍は人間を恐れている。

 

「俺が言っちゃあ何だが、人間は対して強くは無いぞ?」

 

「太古から英雄、勇者といった人間たちがドラゴンと戦い勝利してきたのです。

今世代の人間たちもまた、ドラゴンを封印、退治する力を有している。

聖書の神が作りだした『神のシステム』によって生み出された神器(セイクリッド・ギア)というもので」

 

「「「・・・・・」」」

 

神器(セイクリッド・ギア)。それを所有している誠と一香もまた原始龍にとって恐れている

人間の一人に対象されているのだと知った。原始龍にとっても摩訶不思議な能力を

宿すことができる人間たちに警戒心を抱かざるを得ないのだろう。

原始龍は一誠を一香のところまで浮かせた。

 

「その子をこの世界に連れてきたのは龍化を解く為です。

人間であれば気を失っていると龍化は解かれますが、ドラゴンに転生したその子の身体は

ドラゴンそのもの。自分の意思で解かなければ姿は変わらないのです」

 

「そうか、礼を言う」

 

「それと、私からプレゼントです」

 

一瞬の閃光が弾け、原始龍の前に浮かぶそれは宇宙にいると思わせる程の常闇に

星の輝きをする宝玉が柄から剣先まで埋め込まれてあり、刃の部分は白銀を輝かせ

至るところに不思議な文様が浮かんでいる装飾と意匠が凝った金色の大剣。

 

「その大剣は・・・・・」

 

「これがその子に授ける剣、『封龍剣「神滅龍一門」』です」

 

「封龍剣『神滅龍一門』・・・・・」

 

「あなた方の子供はドラゴンの世界でも無視できない存在で狙われる可能性もあります。

私はその子の生きざまを何時までも見てみたい。だから私はこの世界で二本しかない

封龍剣を授け与えます」

 

「なにせ」と原始龍は苦笑を浮かべた。

 

「邪龍と会いたいと申すぐらいの子です。戦闘に発展する可能性は非常に高いですから

生き残って欲しい。封龍剣はドラゴンを封印、滅ぼす事が可能な効果を持っております。

私自身が創りだしたこの世界に存在する一対の封龍剣ですのでどうかその子に使かって欲しいです」

 

大剣は誠の方まで浮く。それを手にした誠が、

 

「っ!?」

 

凄まじい重力に逆らえないと思わせるほど床に落ちた大剣に目を丸くした。

 

「お、重っ・・・・・!?」

 

「その大剣は私が認めたドラゴンしか使いこなせません。兵藤一誠、あなたが持って下さい」

 

催促され、一誠は誠と変わって大剣を軽々しく持った。その光景を見て誠はジト目で原始龍に問うた。

 

「・・・・・おい、それを知ってて俺に渡すってどういう了見だ?」

 

「ちょっとしたお茶目です」

 

「さらっと言うわね」

 

涼しい顔で言う原始龍は笑みを浮かべていた。

 

「では、やることを終えましたのであなた方を人間界に送り返します」

 

誠たちの足元に翡翠色の魔方陣が出現して光が包みこもうとする。

 

「また、この世界に来れるか?」

 

「この世界はドラゴンだけでしかこれることはできません。

容易にこの世界へ人間だけでなく異種族すら侵入を拒みます」

 

「ドラゴンを守る為か?」

 

原始龍はその問いに答えず無言で光に包まれた誠たちが弾けて消失した。

 

「兵藤一誠・・・・・あなたの成長を見守っています。このドラゴンの祖である原始龍が」



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エピソード19

外国から戻り、兵藤家を後にした一誠たちは数日振りの川神家に戻った。

帰ってきた一誠に百代と辰子からは凄まじいホールドで出迎え、

それから時が過ぎたとある日のこと。

 

「おーい、一誠」

 

「んー?」

 

のんびりと釈迦堂やオーフィスや辰子と寝転がっていると遠くから

百代が一誠を呼びながら近づいてきた。また拳を交わし合いたいのかと思いながら

腕が枕代わりにされている状態で動けないまま一誠は百代に返事をするしかなかった。

 

「どうしたの?」

 

「ああ、依頼が入ったんだ。所謂用心棒だ」

 

「ふーん、それで?」

 

「私を用心棒に頼んできた奴が後日来るからその時はお前や竜兵も誘おうと思っているんだ。

どうだ?」

 

「んー、百代を頼んできた人って誰なの?」

 

「さぁ、初めて会った奴だけど報酬は貰った以上やらないとダメだろう?」

 

手にある野球のキラカード(ウルトラレア)を一誠に見せつける。

対して一誠は「んー」と悩んだ顔をする。

 

「なんだ、一緒に用心棒しないのか?」

 

「その用心棒って何時までするの?僕、一年しかここにいられないよ?

百代はそこのところ考えた上で知らない奴からの依頼を引き受けたんじゃないよね?」

 

「・・・・・」

 

百代は一誠の指摘に何も言えず、サッと顔を逸らした。依頼を聞いて報酬を受け取った。

更なる用心棒の詳細を聞かず安易に引き受けた百代に呆れ顔で、

 

「それ、返して来なさい」

 

まるで捨て犬を拾った子供に母親が厳しく否定した言葉に似ていた。

 

「えー!」

 

案の定、百代は不満の声を上げた。

 

「嫌ならもう一度百代に用心棒を頼んだ奴と何時まですればいいのか話し合ってから

貰いなよそれ。もしも一生死ぬまで用心棒してくれと言われたらカード一枚で引き受けるなんて

百代は安すぎるよ。百代って石ころ一つでも相手の依頼を引き受けちゃうの?

僕はそんな百代は幻滅するよ。いいね?」

 

「う・・・・・分かった」

 

一誠からくどくどしく言われ項垂れていると、寝転がっている釈迦堂が笑みを浮かべていた。

 

「はははっ、坊主に言い負かされてるんじゃねぇか百代」

 

「あ、先生起きてたの?」

 

「百代の声で起きたんだよ」

 

釈迦堂が「よっこらせ」と起き上がって一誠と百代を交互に見る。

 

「まっ、坊主の言うことも一理あるぜ百代。何か頼まれる時はしっかりと真剣に考えて

決めるか周りと相談して決めることは大事だ。簡単に相手のお願いを引き受けた

奴がとんでもない酷い目に遭っているやつは世界中にいるんだからな」

 

「師匠まで・・・・・」

 

「人生はそういう駆け引きもあるって坊主がそう言いたいんだ。駆け引きが巧い且つ

狡猾で口車に乗せる上手な奴だっているんだ。どうせ、お前に用心棒を願ってきた奴は

ガキ共なんだろうが大人だったら真剣に警戒して決めろ。じゃないとジジイにどやされるぜ」

 

「うっ、それだけは絶対に嫌だ」

 

嫌そうな顔を浮かべ、キラカードを見詰める。一誠に百代は安すぎると言われなんだかショックを受けた。ここで百代はあることを学んだ。

 

 

―――教訓・頼まれ事、駆け引きは慎重にしましょう―――

 

 

―――そしてその後日。百代と共に一誠、オーフィス、亜巳、竜兵、辰子、天使が

門前にいると数人の小学生が近寄ってきた。

 

「来たな。早速私たちを倒して欲しい奴のところに案内してもらおうか」

 

「・・・・・なんか増えてますけど?」

 

「気にするな。こいつらも連れていく。文句ないよな?」

 

「強いのですか?」

 

「うん、少なくともお前よりは強い奴らばかりだぞ。この通り武器もあるしな」

 

亜巳と天使が木の棒を見せつけた。

 

「ほら、案内しろ」

 

「・・・・・分かりました」

 

怪訝に一誠たちを見詰める小学生だが一先ず目的のために案内する事に優先した。

小学生の先導のもと、百代たち一行はついて行ったその時、

 

「あ」

 

「ん?」

 

数人の強面の男性たちに囲まれながら青い髪を背中まで伸ばす少女と一誠とバッタリ

出会った。一誠は一瞬だけキョトンとしたが相手は誰だか分かると笑みを浮かべ、

 

「エスデス!」

 

「ぐ、偶然だな兵藤っ」

 

エスデスもここで再会するとは思いもしなかったのか声が上擦った。

一誠は嬉しそうに頷いた。

 

「うん、偶然だねー。ああ、そっちに行けなくてごめんね?そっちに行っちゃダメ

だって言われちゃったからさ行けれなかったんだ」

 

「気にするな。子供一人があの場所に来ようとする方が危ないんだ」

 

「エスデスだって子供じゃんか」

 

「私はこの通り、家族と一緒に買い物をする時でも一緒に行動をするんだ」

 

「うーん、僕もそうしてもらった方がいいのかなー」

 

久方ぶりに再会した氷使いのエスデスとの会話の花を咲かせる。だが、百代に襟を掴まれ

さっさと行くぞとばかり引き摺られていく。

 

「待て」

 

「なんだ?」

 

百代の手を掴んで睨むエスデスに百代は真正面からエスデスを見据える。

 

「こいつを置いて行け。しばらく話をしたい」

 

「断わる。一誠はこれから私と用心棒をしに行くんだ」

 

「用心棒・・・・・?」

 

「うん、本当だよー。あ、暇だったらエスデスも来る?大人も一緒だったらどこでも行けれるしさ」

 

一誠は強面の大人たちに目を向ける。エスデスも男性たちに目を向ける。

 

「いいか?」

 

「少々お待ちを」

 

一人の男性が携帯でどこかへ連絡することしばらくして、

 

「夕方になったら帰るようにとボスからの伝言です」

 

「っ!」

 

エスデスは一瞬だけ嬉しそうな顔を浮かべ、百代に挑発的な笑みを浮かべる。

 

「ということだ。私も一緒に同行しよう」

 

「ついてくるな。私と一誠だけでもあっという間に終わる」

 

「ぬかせ、私の力の前では全てが凍るのだ」

 

強面の男性たちが焦りだした。

 

「だ、ダメですお嬢!人に氷の力を使ってはいけません!」

 

「ボスもそう言われておりまですでしょうに!」

 

「む・・・・・兵藤に見せたいのに。ダメか?」

 

「「ダメです!」」

 

と、口を揃えてダメだしされたエスデスだった。

 

「なんか百代がルー先生に叱られている時と一緒だね」

 

「そう言う一誠だって叱られている時があるだろう」

 

他人事のように思えない一誠と百代はどこかエスデスと通じるところがあるようだ。

エスデスも加わり、用心棒としての仕事を小学生が案内した広い原っぱに遊んでいる

身長も年齢も一誠や百代より高い小学生(15人)が標的らしく。

 

「一誠、どっちが早く先に五人ぐらい倒すか競争しようか」

 

「ん?別にいいよー」

 

「俺たち兄弟姉妹は一人一人ずつってことか?」

 

「まぁ、師匠にしごかれているから大人じゃなければ勝てない相手じゃないね。辰、本気を出しな」

 

「辰姉を本気させるって・・・・・あーあー、あいつら・・・・・死んだかもな」

 

「私も一人ぐらいは素手で倒そうか」

 

―――小さい身体だがまるで津波の如く襲いかかってきた一誠や百代たちに反撃する暇も

余裕すら与えられずに駆逐された標的たち。

 

「人質とってお前の耳に風穴を空けた奴はどいつだ?」

 

「こいつだけど」

 

「ひぃぃ」

 

頭にバンダナを巻いた少年が情けない声を出す少年に指差した。百代はその少年に近づきながら発する。

 

「こいつにはさらなる恐怖を植え付けるか」

 

「や、やめろよ俺は釜中の三宅くんを知ってるんだぞ!」

 

雀の涙、藁にも縋る思いで上ずった声で脅迫するが相手が本当に悪かった。

百代はそいつは強いのか?とワクワクと気持ちが弾みながら促した。

 

「よし。今度連れて来いそいつも壊す」

 

「やめろ、やめろよ!」

 

一歩一歩近づいてくる百代に腰が抜けた状態で後退りする少年に対して

止める気は無いと歩み寄るその足を止めず。

 

「命乞いは、媚びてするものだぞ」

 

「俺は本当の悪なんだ!子猫を平気でイジメ殺せる!お前も殺すぞこのアマ!」

 

―――地雷、いやこの少年は核弾頭ミサイルのスイッチを押してしまった。

 

「へぇ・・・・・子猫をイジメ殺せるんだ?」

 

百代と挟む形で少年の背後に何時の間にか回っていた

一誠がギラギラと怒りに満ちた目で見降ろしていた。

 

「な、なんだ!嘘じゃねぇぞ本当だぞ!」

 

「小さい動物の命をキミは平気でイジメて殺すんだ・・・・・」

 

「お前も殺してやろうかああ!?」

 

「じゃあ、殺してみてよ」

 

「は?」

 

一誠の信じられない発言に少年は愕然とした。百代たちもキョトンとしていて理解に苦しんでいた。

 

「どうしたの?子猫をイジメ殺せるなら人だってイジメ殺せるんでしょ?

ほら、早く僕を殺してみなよ」

 

本気で言っているのかと少年は疑う。気が狂っているんじゃないかってすら思ってしまう最中、一誠はニコニコと笑みを浮かべた。

 

「ああ、でも。僕は人間じゃないからなー。キミじゃ僕を殺せないかも」

 

「な、何を言っているんだよお前・・・・・」

 

「はははっ、そう思うよね?うん、じゃあ教えてあげるよ。子猫を平気でイジメ殺す

お前みたいな奴には―――」

 

光が一誠を包み始め、その光はどんどん大きくなり、人の形を崩し別の形へと変わっていく。

 

『キミに殺された子猫に変わって今度は僕がお前をイジメてやるよ徹底的にねぇっ!』

 

全身が金色で四肢の身体であるフォルムがトカゲの姿を晒す一誠が少年に向かって咆哮した。

 

 

ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

 

「ひっ、ひぃいいいいやあああああああああああああああああああっ!」

 

少年が叫びだすとそれに呼応して少年の仲間が蜘蛛の子が散るように我先と逃げ去っていく。

目の前の化け物に喰い殺されると精神的にもパニックを起こして逃げだそうとするが、

巨大な手が蝿を叩くように少年に振られた。

 

『どうやって子猫をイジメ殺したのか知らないけど、僕もお前をイジメて―――殺してあげようか?』

 

「いやだああああ!し、死にたくない!死にたくないぎゃっ!」

 

『あははははっ!面白いぐらい転がるねぇ?ほら、もっと転がってよ。もっと転がすからさ!』

 

笑いながら少年を何度も平手で転がす。その様子を見ていた用心棒を頼んだ少年とその

仲間たちの腰が引いていて、百代たちは唖然と何時までも一誠の姿を転がされ

続けている少年を見やると、

 

「イッセー」

 

オーフィスが一誠の頭の上に乗っかった。

 

『なーに?』

 

「イッセー、もう止める。それ以上したらリーラが怒る」

 

『・・・・・ん、分かった。でも最後に』

 

口を開け、凶悪で生え揃えた鋭利な牙を覗かせる。

 

『また生き物を殺したら―――お前を食べるから』

 

べろりと少年を舐める。それに心底恐怖を刻まれ、

泣き叫びながらこの場から逃げるように走っていく。その様子を見送ると、

 

「凄いっ!」

 

エスデスが青い目をキラキラと輝かせて一誠を見上げている。

 

「お前、そんな姿になれるのか!」

 

『うん、そーだよー。乗ってみる?空は飛べれないけど』

 

尻尾を動かしてエスデスに寄せるとその尻尾の上に乗って走り、一誠の背に辿り着くと

大はしゃぎした。ただし、エスデスだけではなかった。

 

「すっげぇー!怪獣、ドラゴンじゃないかっ!」

 

バンダナを巻いた少年も目を輝かせ「俺も俺も!」と一誠に近づいた。

 

「よし、飛べぇっ!」

 

『飛べれないって。今の僕、目立っちゃうから』

 

「えええー!いいじゃんか目立って!」

 

『じゃあ、翼だけ出すからそれで勘弁してよね』

 

背中から金色の巨大な翼が生え出した。神々しく、神秘的な光を放ち、

広い原っぱはまるで聖地のような場所に変わっていく。

 

「おおお・・・・・っ!」

 

「わぁー!きれー!」

 

翼はしな垂れ、滑り台のようになった。その翼の上にバンダナを巻いた少年が飛び付く。

 

「うっはっ!すっげぇモコモコとフワフワだ!布団よりやわらけぇー!」

 

「ア、アタシも乗ってみたい!」

 

「ウチも乗ってやるぜ!」

 

何時しか殆どの少年少女たちが一誠に群がり、翼の上に乗ってはしゃぎ始めた。だがしかし、

 

 

 

「一誠さま。外では二度とドラゴンの姿になってはいけません。いいですね?」

 

「ううう・・・・・はい、わかりました」

 

リーラにきつく叱られてしまい、二度と外では龍化をしない決まりが一誠に植え付けられた。

その様子を半分だけ戸から出して様子を見ていたオーフィスが一言。

 

「結局、イッセーはリーラに怒られた」



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エピソード20

とある日、用心棒の一件以来で一誠たちは直江大和、風間翔一、岡本一子、

島津岳人、師岡卓也と交流をするようになった。

エスデスも大人を同行させて共に遊ぶようになり、川神院にも訪れる日が多くなった。

 

「百代、次こそは決着をつけるぞ」

 

「何がなんでもこれだけは譲れないんだっ」

 

「「・・・・・」」

 

二人の間に緊張が包み、互いの顔と目は真剣味があり、一触即発の状態だった。

場所は川神院のとある和室。緊張感で張り詰めた空間の中で握りしめていた拳を―――。

 

「「―――さいしょはグー!ジャンケンポンッ!」」

 

フリフリと九つの尾を揺らす一誠の前で熱烈なジャンケン勝負を繰り広げていた。

 

 

 

「フワフワタイム♪フワフワタイム♪」

 

「・・・・・一誠・・・・・」

 

「百代は我慢をする時も必要だと思う。というか、夜になれば触らせてあげるから我慢してよ」

 

満面の笑みを浮かべるオーフィスの他にもエスデスは狐の尾の上に乗って布団のように

寝転がり堪能していた。

負けて悔しそうに羨望の眼差しをエスデスに向ける百代を呆れ窘める一誠。

 

「それで百代。用心棒の件、どうなったの?」

 

「ああ、破棄してきた」

 

「あっそうなの?」

 

「契約であろうが無かろうと頼まれば助けてやることにしたんだ。勿論、相手の話を聞いた上でだ」

 

そう言う百代の目は嘘偽りがなかった。ジィーと百代の目を覗きこむように見詰めている

一誠もコクリと頷いた。

 

「どうした?」

 

「ううん、今の百代。好印象的だなって思っただけだよ」

 

「ふふん、そうかそうか」

 

褒められては嬉しくないわけがない。百代は一誠の前に座って背中を一誠にも胸に預けた。

 

「お前の言う通り、今はこれで我慢する」

 

「ん、いい子いい子」

 

百代の頭を撫でる一誠の首に後ろから細い腕が回された。―――力強く。

 

「私を除け者にしないでほしいな」

 

「エ、エスデス?」

 

「私を構って貰わないと怒るぞ」

 

可愛らしく頬を膨らませ、面白くないと表現を窺わせるエスデスに尾で頭を撫でた。

 

「ごめんごめん。もう尻尾は良いの?」

 

「お前と話しをしたくなった」

 

ギュッと腕に力を籠めて一誠の頬に自分の頬をすり寄せる。まるで親猫に甘える子猫のようだった。

 

「んっ、くすぐったいよ」

 

「お前を気に入っているからな。聞けば歳は私の方が上だと言う」

 

「だから?」

 

「うむ、お前みたいな可愛い弟が欲しいと常に思っていた。―――ちょっと待っていろ」

 

エスデスが一誠から離れどこかに行ってしまった。

百代と「なんだ?」と首を傾げていると程なくして戻ってきた。二つの杯と酒瓶を持ってきた。

 

「よし飲むぞ」

 

「いやいや、それ酒だろ。私たち小学生が飲んではダメだ」

 

「僕は学校行っていないけどね」と訂正の言葉を発する一誠をスルーしながらエスデスは言う。

 

「共に盃を交わす仲だ。一回ぐらいは良いだろう」

 

「杯を交わす?なにをするつもりなの?」

 

「誓いだ」

 

トクトクと盃に酒を注ぎこむエスデスの言葉に二人は小首を傾げた。

そんな二人にエスデスは説明する。

 

「私の家ではな。血の繋がっていない者同士が兄弟になるとき酒が入った盃を交わして、共に飲むんだ」

 

「へぇー、何だか格好良いね」

 

「そう思うだろう?私も父さんがそうしていくのを見て来て何時か私もやってみたいと思ったんだ」

 

盃に酒を入れ終え、畳に置くとエスデスは杯を持った。

 

「この家には桜が無いのは残念だ。まあ、風景に目を瞑ろう」

 

「悪かったな。家に桜が無くて」

 

「だったら桜を植えてくれ」

 

そう言い合うエスデスと百代を余所に一誠は盃を手にした。

 

「じゃ、やろっか。僕もやってみたいし」

 

「決まりだ」

 

嬉しそうに笑むエスデスは手に持った盃を一誠に向かって伸ばそうとした。

 

「ちょっと待て!」

 

百代の待ったが掛けられ、キョトンとする一誠に不満そうな表情を浮かべる

エスデスが百代へ顔を向けた。

 

「なんだ?」

 

「どうして一誠だけその誓いをするつもりなんだ!私も交ぜろ!」

 

「まだするなよ!」と百代がエスデスのようにどこかへ行って程なくして盃を持って現れた。

 

「お前としたいとは思っていない」

 

「いいじゃん、二人より三人の方が何だか楽しいよ?」

 

「む、一誠がそう言うなら交ぜてやらんこともない」

 

「お前はどうして上から目線でその物言いをするんだ」

 

エスデスの発言に百代は不満げに漏らす。百代も盃に酒を入れ終えれば三人は高々に杯を持った手を掲げた。

そのままの状態でいると、

 

「これだけで兄弟になれるものなの?」

 

「なんだか味気が無いな」

 

「む・・・・・父さんたちがしてきた誓いとは違って確かに花が無いな・・・・・」

 

何とも言えない空気が三人を包む。だが、その空気を払うように一誠が提案の声を発した。

 

「じゃあさ、皆で何か言い合いながらしようよ」

 

「何て言えばいいんだ?」

 

「うーん、思い付きでいいんじゃない?無言でするよりはいいじゃない」

 

「恥ずかしい台詞を言わないようにすればいいか」

 

雰囲気的に一誠の提案に賛同した。まずは自分からとばかり一誠が口を開いた。

 

「僕たち三人、この場に以って兄弟姉妹の誓いを交わす!」

 

続いて百代が口を開く。

 

「生まれし日、時は違えども兄弟姉妹の契りを結ぶからには、心を同じくして助け合い」

 

最後にエスデスが杯を掲げながら発する。

 

「例え、違う道に生きようとも、私たち三人の心は何時も一つ!」

 

三人の盃が交じり合い、この瞬間を以って兵藤一誠、川神百代、エスデスは義理の兄弟姉妹となった。

 

「ところで、僕がお兄ちゃんだよね?」

 

期待に満ちた瞳で二人に尋ねる一誠だが、現実は残酷である。

 

「何を言っているんだ?お前は当然弟ポジションだ」

 

「え?」

 

「ふふふっ。可愛がってやるぞ兵藤・・・・・いや、一誠」

 

「え?」

 

 

ポンッ。

 

 

一誠の肩にオーフィスの手が置かれた。

 

「イッセーは我の弟」

 

「えええええええええええっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「ほほう・・・・・あやつら、まだまだ子供じゃと言うのに面白いことをしおって」

 

「三国志で言う桃園の誓い・・・・・ですか」

 

「本当にこの家にはが桜の木すら無いから桃園の誓いとはほど遠いがな」

 

ギャー!ギャー!と一誠が異議を言い、お兄ちゃんが良いの!と一誠の申し出に百代と

エスデスは笑みを浮かべながら却下する光景をリーラと鉄心、釈迦堂にルーが見守っていた。

 

「酒と杯を持って行ったと聞いテ、何をするかと思えばこの事でしたカ」

 

「実際に酒は飲んでおらんからの。まあ、今回だけは目を瞑ろうかの」

 

「器用に瓶の中に入れ戻していますね」

 

「証拠隠滅じゃねーの?」

 

楽しげに釈迦堂が言う。

 

「まだまだ幼い芽じゃが。これからあの子らの成長が楽しみでしょうがないのぉー」

 

「はい、真っ直ぐ成長してくれると嬉しい限りです」

 

「どいつもこいつも危なっかしいがな」

 

「それを正しく導くのが我らの役目だよ釈迦堂」

 

「うむ、ルーの言う通りじゃて」

 

―――○●○―――

 

季節は夏となった。一誠は数多くの友人を得て、力も増していく。そんなある日のこと、

 

「き、気持ち悪い・・・・・」

 

夏風邪を引いてしまった一誠であった。

 

「38.7・・・・・」

 

「こりゃ、念のために病院に連れていった方がよいじゃろう」

 

「ですネ」

 

鉄心たちはそうしたほうが良いと話し合うがリーラだけは難しい面持ちをする。

 

「どうしたんだ?」

 

「兵藤家の子供、その上ドラゴンである一誠さまを一般の病院に連れていくのは

正直不安なので反対なんです」

 

「ふむ、そう言われると確かにそうじゃが、今はそうもいかんじゃろう」

 

「そもそも人間とドラゴンの違いが、医者が解るものか?ま、俺が病院に連れていってやるよ。

その格好じゃ、目立つ上にかえって坊主はただ者じゃないって思われちまうからな」

 

「もしも、問題が起きた場合はハ我々に任せて欲しイ。九鬼家の方にも助力を求めル」

 

と、周りからの説得にリーラは未だに不安を胸に抱きつつも一誠は葵紋病院に連れて

行くことに決まった。百代は一誠の看護をしたいと言うが平日の為、

学校に行かなければならなかった。

 

 

―――葵紋病院―――

 

 

「夏風邪ですね」

 

「ああ、それはわかっているって先生よ。早く風邪に効く薬をくれねぇか?

この坊主を預かっている身だからもしも大変なことになったら偉い目に遇うんだよ」

 

「分かりました。では、薬を用意します。受付の方へとお戻りください」

 

医師からの指示に釈迦堂は従い、辛そうに全身で息をする一誠を待合室へ連れていく。

 

「おい坊主。大丈夫じゃないだろうが大丈夫か?」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

「もうちっとだけ頑張れよ」

 

言葉で応援するしかない状態の釈迦堂は薬を用意してくれる医師を待つこと数分。

 

「お待たせしました」

 

釈迦堂に話しかける男性の声が聞こえた。ようやくかと思い立って顔を男性の方に向けると、

 

「兵藤くんの『入院』の手続きが完了しました。さぁ、ご一緒に来てください」

 

「あ?入院だと?」

 

薬を貰い受けに来ただけなのに入院とはどういうことだと内心怪訝に思いつつ、

眼鏡を掛けた物腰が柔らかそうな中年男性を見詰める。

 

「誰だアンタ」

 

「これは失礼、私は当病院の院長を務めております葵紋と申します」

 

「ああ、院長さんか。で、どういうことだ。俺は薬を貰いに来ただけなんだぜ」

 

「薬よりもここで入院して頂いた方が最も合理的かつ風邪を早く治せます」

 

「あー、確かにそうだろうけどな。だが―――」

 

「ここで私どもが口論をしても兵藤くんの病態が悪化するばかりです」

 

院長がパチンと指を弾くと数人の医師と車輪付きの寝台が現れた。

釈迦堂の有無を言わさず一誠を寝台に乗せてガラガラとどこかへ連れて行ってしまった。

 

「おいおい、勝手に家で預かっている坊主を連れていくんじゃねーよ。

何度も言うが俺は薬を貰いに来ただけだってのによ」

 

「いいえ、そうもまいりません。私はこの病院の院長であり一人の医師でもあります。

怪我や病気を治すのは我々医者の務めであり使命なのです。―――かの兵藤家のお子さんを

粗末な扱いなどできませんし、当病院に来てもらえるなどこれ以上のない光栄の

極まりなのですからね」

 

そこで釈迦堂は気付いた。この院長は兵藤家の人間を治療し、

兵藤家に感謝と自分の病院のPR、ゆくゆくは日本の天皇である兵藤家と

お近づきを得ようと考えているのかもしれないと。

 

「・・・・・あの坊主は治療する必要は無いぜ。ただの夏風邪だからな」

 

「精密な健診もし、当病院でゆっくりと回復してもらうことを望んでおります」

 

「そうかい、そいつはありがたいねぇ。でよ、坊主が運ばれた病室はどこなんだ?まさか、

川神院が預かっている兵藤家の坊主を横取り、独占して利益を得ようと考えちゃいねぇだろうな?」

 

野性味たっぷりな笑みを浮かべ、院長にあからさまに勘ぐる。院長は釈迦堂の物言いに苦笑を浮かべながら否定した。

 

「そんな誠に末恐ろしいことを私がするわけがございません。そのようなことをすれば

この病院は物理的に文字通り潰されてしまいます。そんなことになればこの病院を頼りに

している一般人の方々のご迷惑をおかけします」

 

「ま、それもそうわな。んじゃ、坊主の病室を教えてくれないか?

じゃないと坊主の両親に来てもらって分からないんじゃ困るだろうからな」

 

さらっと「1352号室です」と釈迦堂の申し出に応じた院長だった。

 

「その部屋だな?わかった、一旦家に戻らせてもらうぜ。また来るがよ」

 

「またの御来訪をお待ちにしております」

 

深々とお辞儀をする院長に背を向け、玄関の方へと歩き始める釈迦堂だったが、

 

「ああ、そうそう。一つだけ言い忘れていた」

 

院長に振り返り一言。

 

「あの坊主、九鬼家と交流をしているんだわ。また来る時、

九鬼家の坊ちゃんと嬢ちゃんを連れていくからそこんとこ覚えておいてくれや」

 

 

―――○●○―――

 

 

「で、あなたは薬どころか一誠さまを病院に置いて自分だけノコノコと帰って来やがったのですね?」

 

「あー・・・・・坊主のメイド?そのすげぇ力を感じる槍を突き付けないでくれないか?」

 

「自分で買って出て相手に言い包められて、一誠さまを病院に任せてしまった

貴方がどの口を言うんですか?」

 

「はい、本当に心から申し訳ございませんでした」

 

絶対零度を纏いしリーラが釈迦堂へレプリカのグンニグルを突き付ける。

冷や汗が止まらない釈迦堂は他人事のように今日は命日かなーと思いながら

乾いた笑みを浮かべることしかできないでいれば、リーラは嘆息した。

 

「だから私は反対したのです。兵藤家から離れた兵藤家の者はある意味格好の餌食なんです。

事情を知らない者たちからすれば、兵藤家に恩を売れば売るほど、

貸しを作れば作るほど自分に返ってくる利益は凄いのだと思う輩がごまんといるのです。

一誠さまはそのような無粋な者たちに近づけたくなかった」

 

「で、結局どうするのじゃ?」

 

「病院に入院してしまった以上は、手出しはできません。私はこれから一誠さまの

ご様子を見に行きます。オーフィスさま、ご一緒に」

 

歩き始めるリーラに続くオーフィス。一誠がいる病院へと赴く気満々なのが伝わり、

誰も止めようとはしなかったが、外から聞こえる騒音が二人の足を止めた。

 

 

『ふははははっ!九鬼揚羽、降臨である!』

 

『同じく九鬼英雄、参上である!』

 

 

高らかに名乗り上げる男女の声。この場にいる全員が知っている子供の名前であった。

 

「あいつがいないってのに、随分騒がしいガキ共が来たじゃないか」

 

「そうじゃのー」

 

全員が縁に現れると黒い執事姿の大人たちがずらりと立ち並んでいて、

上空には一機のヘリ。そしてたった今ヘリから降りて来たばかりの

二人の子供が威風堂々と立っていた。

 

「一誠はいるか?我らが遊びに来たぞ!」

 

「そして我らを助けてくれたお礼をしたく、プレゼントも用意してきた!」

 

大小様々な箱を執事たちが上に掲げて見せ付けた。だが、当人たちの求める人物はこの場にいない。

 

「申し訳ございませんが、一誠さまはいまこちらにはおりません」

 

「む?いないだと?どこかに遊びにでも行ったのか?」

 

「いえ、葵紋病院にいます。夏風邪を引きましてしばらく入院するかと思います」

 

一誠のいない事情を説明したリーラ。これからその病院に行くところだが

このタイミングで現れた九鬼姉弟を蔑ろにするわけにもいかなく教えなければならない。

例え、教えなくても説明しなくても九鬼家は様々な力と動員を行使して情報を集めだすだろう。

 

「なに、風邪だと!?」

 

「ドラゴンでも風邪を引くのだな・・・・・」

 

「あ、そう言えばそうだな?」

 

「そうじゃの。あの子は元人間とは言え、風邪を引くんじゃな」

 

「意外ですネ」

 

ドラゴンが体調を崩すと言う事実にドラゴンを見たことが無い鉄心たちにとって

興味を抱かないわけがないのだった。

 

「ならば我らもお見舞に行く。構わぬか?兵藤の従者よ」

 

「ええ、構いません。一誠さまもお喜びになるでしょう」

 

「クラウディオ、お前も付いて来い。プレゼントは一先ず中に入れさせてもらおう」

 

「はっ、かしこまりました」

 

恭しくお辞儀をするクラウディオに英雄は「それにしても」と呟いた。

 

「兵藤がトーマの父親の病院に入院するとはな」

 

「トーマとは?」

 

「うむ、葵冬馬。同じ学校にいる我が友の名前であり渾名だ」

 

「そうでしたか。それは知りませんでした。因みに英雄さま、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」

 

「なんだ?申すがいい」

 

「あなたさまは、一誠さまとはどういう関係ですか?」

 

何かを確かめる視線で英雄を見詰め、尋ねるリーラ。一誠と交流をしているとはいえ、

それはただのお付き合いで共にしているのか、

それとも友人として交流しているのか・・・・・。

 

「ふはははっ、決まっておる。兵藤とは、あやつとは―――」

 

英雄の発した答えは・・・・・リーラを小さく笑みを浮かばせるものだった。

 

 

―――葵紋病院―――

 

 

再び病院に戻った釈迦堂の他にもリーラたちが訪れた。一誠がいる1352号室に赴く。

 

「お、ここだ」

 

見つけたと釈迦堂が漏らし、面談拒絶というプレートを眼中無しとばかり扉を開け放った。

 

「・・・・・なんだぁ?」

 

病室の中は美人なナースが数人ベッドに取り囲み、

ベッドの中で目を開けている一誠を世話している。まるで王さまのような扱いで

お持て成しされていて一誠は寝るにも寝れない状態でいた。

そんな様子を見ていると釈迦堂たちが戦慄するほどの一瞬のプレッシャーを感じたと

同時にナースたちが急に崩れ落ち、床に倒れ込んだ。

 

「・・・・いまの、お前か?」

 

「なんのことでしょうか」

 

釈迦堂の問いにリーラはしれっとした態度で返事をする。

 

「ただの威圧で他者の意識を落とすとは・・・・・流石は兵藤家の従者ですな」

 

「何のことだか分かりませんが、訂正してください。元従者でございます。

私は一誠様専属のメイドなのですから」

 

「これはこれは申し訳ございませんでした」

 

微笑みながら謝罪の言葉を発するが、それでもクラウディオは言葉を変えようとは思わない。

一誠の傍に近寄り、そっと顔を近づけたリーラ。

 

「一誠さま、ご気分はいかがですか・・・・・?」

 

「・・・・・寝かしてくれないから、困っていた」

 

「今ならばゆっくりと眠れますよ」

 

安心させる笑顔を浮かべ、そっと一誠の頬を撫でる。

リーラのひんやりとした手が一誠の心を穏やかにさせ落ち着かせる不思議で一誠が好きな手だ。

撫でられ、嬉しそうに目を細めると

 

「うん、ありがとう。あ、九鬼くんたち来たんだ」

 

英雄たちの存在に気付き目を向ける。英雄と揚羽は一誠の傍により口を開いた。

 

「大丈夫であるか?」

 

「ん、なんとか」

 

「お前が風を引くとは思わなかったぞ」

 

「ドラゴンでも風邪引くんだね。僕もそう思ったよ。

ね、リーラさん。ドラゴンでも大人が作った薬が効くのかな?」

 

「申し訳ございません。私でも分かり兼ねます。後にアザゼルさまにお伺いしたしますので」

 

リーラの返答に「わかった」と返事をする。

 

「ところで僕、この病院で寝なきゃいけないの?」

 

「ああ、そういうことになるだろうな。どうした?メイドと寝れなくなるから嫌か?」

 

「ううん、嫌だから」

 

「嫌?」何に対して一誠は嫌がっているのかこの場にいる全員が小首を傾げる。

 

「おい坊主、何が嫌なんだ?」

 

「院長って人、目の奥が黒いんだもん。あの目、僕を苛める人と同じだよ。

優しく話しかけてくるけどさ、きっと後で僕を何かするつもりだよ。だから嫌なんだよ」

 

「「「・・・・・」」」

 

リーラと釈迦堂、クラウディオはオーフィスと英雄、揚羽を残して部屋から出た。

 

「おいメイド。坊主が言っていることはどう思う?」

 

「一誠さまがふざけて言う御方ではございません。

まだ孤独だった時に一誠さまが得た人の善し悪しを見極める才能・・・・・によるものでしょう」

 

長念一誠の傍にいたリーラだからこそ知る一誠の過去。

皮肉にもその才能がここで発揮するとは複雑極まりない。

そして、もしも一誠の言葉が本当ならば周りからの評価が高く、評判も良いこの病院に

闇を抱えているのかもしれない。

 

「ふむ、少し九鬼家が探りを入れましょうか」

 

「あ?急に何言いだすんだ?」

 

「いえいえ、まだ先のことですが九鬼家にとっても重要な事を実施します。ですので、

街の闇を事前に排除しなければならないのです。まぁ、それも遅かれ早かれしないと

いけないことですがね」

 

クラウディオは意味深な事を言う。リーラと釈迦堂は勿論その意図も理由も理解に苦しむ。

 

「兵藤さまはまだ子供だと言うのに慧眼の持ち主ですな。九鬼家の為に働いてもらえると

よき従者になるでしょう。序列もきっと一桁に昇り詰める潜在能力がございます」

 

「九鬼家に働かせるほど一誠さまは安くないです」

 

バッサリと切り捨てるリーラ。クラウディオは大して気にせず微笑むだけ。

 

「ですが、そのようなことをしてよいのですか?」

 

「大丈夫でございます。しばらく入念な調査をする為お時間は掛かりますでしょうが

問題はございません」

 

「九鬼家が動くと企業の裏とか闇が裸にされるなこりゃ、おー怖い怖い」

 

大袈裟な反応を示す釈迦堂。だが、後に九鬼家は葵紋病院を徹底的に入念な調査の結果。

葵院長は黒だと断定し九鬼家による制裁が行われたのだったが、

警察沙汰にはならず密かに一つの闇は摘まれた。



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エピソード21

「一誠さま、御身体の方は大丈夫ですか?」

 

「アザゼルおじさんがくれた薬で元気だよー」

 

「そりゃそうだわな。人間とドラゴンの身体の構築は根本から違うんだからな。

人間の薬がどこまで効果を発揮するか俺ですら分からん」

 

冥界、堕天使領にて一誠とリーラ、オーフィスたちはいて一誠の病態は回復した。

人間界の葵紋病院で入院している最中、一誠に「ドラゴンでも人間の薬は効くのか」と

問われたリーラがそのことをアザゼルに伝えると返ってきた言葉はNOであったが為に、

闇に紛れて一誠を冥界の堕天使領に連れてそこで安静していたのだった。

 

「人間界はどうだ?」

 

「うん、楽しいよ。僕と同じぐらい強い子もいるし」

 

「ああ、あの子供か。確かに子供にしちゃ強そうだったな」

 

「それでね?僕、ドラゴンになれるようになったんだよ」

 

「ほほう、ドラゴンか。・・・・・ドラゴン?」

 

アザゼルがもう一度言い直し、どういうことだと一誠に問うたところ。

 

「それについては聞くよりも実際に拝見してもらった方がお早いかと」

 

リーラが横から話しかけてきた。アザゼルもリーラの言葉に同意したようで頷き、

一誠を表に連れだした。紫の空の下、広々とした場所で四人はいた。

 

「そんじゃ、ドラゴンになってもらおうか」

 

「はーい」

 

一誠は返事をした後に金色のオーラが突如一誠を包み始める。そして、みるみる大きくなり、

 

「おおっ!」

 

アザゼルが感嘆を漏らす。目の前に視界に飛び込む一誠の姿。

神々しく光を発光する全身が金色の巨大生物。顔はトカゲのようなフォルムで

その頭上に金色の輪後光、背中に巨大な金色の翼を生やしてリーラたちを上から見下ろす。

 

「龍化か!なるほど、お前はメリアの姿になれるようになったのか!」

 

『うん、今はまだこの姿にしかなれないけどね』

 

「はははっ、お前は凄いな。その歳でドラゴンになれるとはよ」

 

『僕凄い?』

 

「ああ、凄いぞー」

 

嬉しそうにアザゼルの言葉を聞き眼を細めた。オーフィスが一誠の頭の上に乗り出した

ところで翼を力強く羽ばたかせて紫の空へ飛びだした。その間リーラはアザゼルに

ある話を告げていた。

 

「ドラゴンしかいない世界・・・・・そしてその長、龍を生み出すシステム・・・・・原始龍だと」

 

「はい、アザゼルさまはご存知でしたか?」

 

難しい顔を浮かべ、アザゼルは首を横に振った。聞いたことが無いと否定したのだ。

 

「初めて訊く。俺が天使だった頃からそんなドラゴンやその世界があるなんて聞いた

こともなければ聖書の神、ヤハウェだって知らないだろう」

 

「そうですか・・・・・」

 

「龍を生み出す原始龍・・・・・まるで純粋な天使を生むヤハウェみたいな存在だな」

 

程なくして一誠はこちらに急降下してきた。その時、後ろから誰かが来た。

 

「アザゼル、あのドラゴンはなんだ?」

 

「リーラさん、お久しぶりです」

 

「お久しぶりでございます。ヴァーリさま、朱乃さま」

 

ダークカラーが強い銀髪の子供と黒髪を一つに結い上げた子供。ヴァーリと朱乃であった。

 

「おう、ヴァーリと朱乃。丁度良い所に来たな」

 

「「?」」

 

疑問符を浮かべ小首を傾げる二人に金色のドラゴンが舞い降りた。

 

『ヴァーリと朱乃、久し振り!』

 

「え・・・・・」

 

「その声、一誠・・・・・なのか?」

 

信じられないと眼を丸くする二人。金色のドラゴンが一瞬の閃光を発して見る見るうちに小さくなり、

やがて人の形となり光りから一誠が姿を現したが

 

「うわっ!」

 

頭に乗ったオーフィスの重さに耐えきれず、地面に倒れた。

 

「イッセー、大丈夫?」

 

「ど、どいてくれると助かる・・・・・」

 

ピョンとオーフィスがどいた矢先、一誠は再び倒れ込んだ。

 

「一誠!」

 

「一誠くん!」

 

ヴァーリと朱乃によって。その光景を微笑ましくアザゼルとリーラは見守っていた。

 

「ははは、やっぱりこうなるわけだな」

 

「ええ、そうですね」

 

「しっかし、あいつは見ない間に随分と強くなったな」

 

「出会いがそうさせるのです」

 

「出会い・・・・・か」

 

何故か空に向かって遠い目で見始める。リーラはそんなアザゼルのハートをグンニグルで差した。

 

「アザゼルさまは神クラスの出会いのお持ちなので、伴侶をお求めなのであれば身を

固めるべきかと存じ上げます」

 

グサァッ!

 

「お前・・・・・、しつこく俺に対して女の話を持ち上げるな。俺はお前に対してなにかしたかよ」

 

「アザゼルさまの話を挙げるとすればアザゼルに関する神話、豊富な神器(セイクリッド・ギア)の知識、

そして数多の女性に手を掛けた堕天使の総督としか思い浮かべませんので」

 

「ぐっ・・・・・」

 

呻くアザゼル。あながち間違っていない為、否定する材料もない。

 

「他に何か武勇伝がおありでしたらお聞かせ願いますがよろしいでしょうか?」

 

「・・・・・お前なんて嫌いだっ」

 

「お言葉ですが、私はアザゼルさまに対して尊敬の念を抱いていると同時に

女に情けない堕天使に軽蔑をしておりますので」

 

「・・・・・ぐすっ(泣)」

 

アザゼルの目に光るものが。そしてリーラに対して一言。

 

「あいつは絶対にお前みたいな毒舌野郎になるな」

 

「・・・・・」

 

親の背中を見て育つ、蛙の子は蛙と言いたげなアザゼルに一瞥して。

 

「一誠さま」

 

「うん?なにリーラさん」

 

「私はしばらくアザゼルさまと鬼ごっこをしたくなりましたので、一誠さまはお二人と

しばらく遊んでいてくださいませ」

 

「なっ!?」とアザゼルが目を丸くして驚愕するが一誠はリーラの言葉の意図を気付かないまま、

頷いた。

 

「わかった。頑張ってアザゼルおじさんを捕まえてね?」

 

「はい、必ず捕まえます」

 

レプリカのグンニグルを具現化してアザゼルに振り返った。

 

「ではアザゼルさま。一介のメイドと御遊戯を付き合ってください」

 

「ちょっと待て!グンニグルを片手に鬼ごっこをする遊びなんて俺は絶対にしたくねぇっ!

お前、怒っているだろう!?」

 

「0です」

 

「いきなりってどわっ!?」

 

膨大な光から間一髪躱したアザゼルの頬を掠めた。攻撃したリーラから心なしか異様な

プレッシャーとオーラを感じるのは錯覚であることをアザゼルは願った。

 

「・・・・・ちっ」

 

「舌打ち!?」

 

「次は外しません」

 

「くそったれ!相手になれるかよ!」

 

 

ダダダダッ!

 

 

アザゼルが逃走を始め、追うリーラ。

 

「リーラさん、何だか楽しそうだね」

 

「・・・・・あれが楽しいのか?」

 

「かなり怒っているような感じするよ?」

 

「ん?そう?それよりも久し振りに僕たちも何か遊ぼうよ」

 

怒号と悲鳴が聞こえてくる中、一誠たち子供はその原因を露知らず遊ぶ。

 

―――後に堕天使領に住む堕天使たちの間で『槍を持った銀髪のバルキリーを怒らすな』

という暗黙の了承が生まれ同時に畏怖の念を抱くようになった。

堕天使の総督を追うバルキリーに幹部を含めて全員が返り討ちに遭ったからだ。

 

―――○●○―――

 

「おい兵藤。俺さまの剛球を打てなかったらアイス棒を買え!」

 

「じゃ、僕が打てたらその逆。風間に選んでもらいたいから僕たちに奢ってよね」

 

ピッチャー・ガタイの良い少年、島津岳人。バッター・兵藤一誠がそう言い合い、

ガクトの投げ放ったボールは吸い込まれるようにキャッチャー・直江大和が構えるグローブに向かう。

 

「てやっ!」

 

力強く勢いよく振られた木製のバッドにボールを狙い違わず当てて、青い空に向かって打ち上げた。

勝負も賭けにも負けたガクトは顔を引き攣らせた。

 

「うげっ、マジかよ・・・・・」

 

「男に二言は無いよね?」

 

「うぐっ・・・・・ちっ、わかってら」

 

渋々と一誠の指摘に認め、了承した。その後、一誠たちは原っぱで一頻り遊んだ。

 

「はー、楽しかったー」

 

「お前は強過ぎだ!」

 

「百代だって強いじゃないか。だから僕と百代が分かれて野球をしたんじゃん。

文句を言うなら百代に言ってよ」

 

「だ、そうだが?文句があるなら私に言え」

 

「イエ、ナンデモゴザイマセン」

 

冷や汗を掻き、ロボットのようにカタ言葉を発した逃げ腰の島津。

 

「えーと、僕と辰子、亜巳、天、竜兵、オーフィスの分を買ってね島津」

 

因みに百代、大和、一子、翔一、モロ、ガクトとチームに分けて野球をしていたのである。

 

「・・・・・な、なぁ兵藤。ものは相談だが二人で一本ってことで手を打たないか?」

 

「ダメだよ。最初にアイス棒を賭けた話を持ち出したのは島津でしょ?

男らしく潔く僕たちに六本分買ってよね」

 

「そーだぞ。素直に負けを認めろよ」

 

「くそぅ・・・・・なんで俺さまはあんなことを言ったんだよ」

 

「ふっ、子供だなガクト。ちゃんと計画的に考えないからだ」

 

「大和、テメェだって子供だろうが!」

 

と、賑やかな空間が一誠たちを包み、楽しい時間を過ごしていると一誠の金色の双眸が

遠くにいる二人の少女を見つけた。どちらも離れていて互いが気付いていないが

こちらを見詰め羨望の眼差しを見詰めていることだけが同じだった。

 

「ん、きーめた」

 

バサッと天使のような金色の翼を生やしだした一誠。外でドラゴンになるなと

リーラから告げられている。だが、もう一度あの翼を出してくれと周りからせがまれた時に

困っていると部分的にドラゴンの力を籠めれば可能だとオーフィスの助言により、

背中に金色の翼を出せるようになったのである。周りから声が掛けられるものの

無視して空を飛び、一人の少女の目の前に降りた。

 

「ね、こっちを見ていたけど遊びたいの?」

 

「・・・・・うん」

 

「じゃ、一緒に遊ぼうよ」

 

少女に手を差し伸べる一誠。少女は恐る恐ると上目遣いで一誠に問うた。

 

「いいの・・・・・?」

 

「勿論だよ」

 

優しく受け入れる一誠に少女は明るい顔を浮かべた。

 

「ありがとう!」

 

「どういたしまして。僕は兵藤一誠って言うけどキミは?」

 

名を問われた少女は口を閉ざした。一誠は首を傾げ様子を見ていると意を決した表情で、

 

「・・・・・ゆ・・・・・き」

 

少女は名を名乗った。

 

「僕の名前は、こゆき!」

 

こゆきと言う少女を得た一誠は背を向けた。

 

「僕の背中に乗って?」

 

「うん!」

 

こゆきは一誠の背中に飛び付くと、子供が子供の重さで空を飛べないはずだが、

そこは魔力の力で飛べるようにしてもう一人の少女のもとへ飛んで行く。

 

「おーい」

 

「っ!」

 

「ねね、遊びたいなら一緒に遊ぼ?」

 

もう一人の少女の目の前に降り立って誘う一誠。少女は一言で言うと暗く、

何を考えているのか分からない少女だった。

 

「・・・・・きれい」

 

「ん?これのこと?」

 

金色の翼を羽ばたかせると、少女はコクリと頷いた。

一誠は嬉しそうに「ありがとう」と言って翼を近づけた。

 

「触る?こゆきもさっきから触りまくっているから大丈夫だよ」

 

「うん、フワフワのモコモコだよー」

 

一誠とこゆきの言葉に少女はおずおずと翼を触れた。

 

「ぁ・・・・・」

 

一瞬だけ目を丸くした少女は触るにつれポンポンと翼の弾力を確かめたり肌触りも

感じる触り方になる。

 

「温かい、それと本当に柔らかい・・・・・」

 

「こういうこともできるよ?」

 

翼が消失した代わりに九本の狐の尻尾を生やしだした。頭にも狐の耳がピクピクと動かして見せる。

 

「狐だ!・・・・・キツネうどん・・・・・食べれる?」

 

「僕は食べれないからね!?」

 

ズレた考えのこゆきに身体を震わす一誠の後ろにいた少女は狐の尾を触れた。

 

「・・・・・犬の尻尾みたい」

 

「狐だよ?」

 

「わかってる・・・・・だけど、動物と同じ尻尾なんだよね?」

 

「え?うーん・・・・・たぶんそうかな?」

 

「僕も触るー!」

 

二人の少女が一誠の耳や尻尾を触っていれば、百代たちが気になって近づいてくるのは

必然的だろう。

 

「おい、一誠。そいつらは誰なんだ?」

 

「遊びたがっていたから誘ったの。仲間に入れてもいいでしょ?」

 

と、百代たちに問いかけた時だった。

 

「げっ!椎名菌じゃねぇか!」

 

ガクトが嫌そうな顔を浮かべ、一人の少女に向かってそう言った。

 

「しいなきん?それが名前なの?」

 

「違うって兵藤!お前は知らないだろうけどそいつはバイキンを持っているんだよ!」

 

「ん?だったら帰って石鹸で洗えば良いじゃん」

 

不思議そうに小首を傾げる一誠に対して少女を知ってるとばかり表情や反応を示す

大和、一子、卓也、ガクト。一誠は疑問符が尽きないでいる。

 

「いや、だからよ・・・・・」

 

「じゃあなに?」

 

「う・・・・・大和、代わりに説明してやれ」

 

「俺かよ。ま、無知な兵藤に教えてやるか」

 

大和がしょうがないと一誠に説明した。少女の名前は椎名京で学校では椎名菌と

呼ばれ苛められていることを。その理由は母親がインバイって病気だから

その子供の京も病気なんだと説明を一誠は受けた。

 

「・・・・・」

 

イジメということが分かり、一誠は怒気を孕んだ目でガクトを睨んだ。

 

「な、なんだよ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

ナデナデ(京の頭を撫でる) ペタッ(ガクトの手を触れた音)

 

「ぎゃあっ!テメェ兵藤、俺さまに椎名菌をくっつけるんじゃねぇよ!」

 

「うるさいよ」

 

ガッ!

 

ガクトの顔に強く殴った。その行動の一誠に誰もが目を丸くした。

 

「い、いきなり何しやがる!?」

 

「ねぇ、その椎名菌ってどんな病気なのかキミは知ってるの?」

 

「し、知るかよ・・・・・っ」

 

「知らないのに、キミはイジメるんだ?男なのに女の子を守らない

どころかキミまでこの子をイジメるなんて島津は嫌な奴だね」

 

一誠は学校に通っている組、百代たちにも振り返った。

 

「キミたちもこの子をイジメているの?だったらキミたちも嫌な奴だよね」

 

「なっ、私はイジメていないぞ!?」

 

「アタシもよ!」

 

「俺だってそうだ!」

 

「俺も関わりたくないからイジメているやつらとつるんでいない」

 

と、反論した百代たち。視線をガクトに戻す。

 

「悪ふざけでもこの子をイジメているなら僕は許さないよ。

イジメなんてする奴らなんて僕は大嫌いだからね」

 

「な、なんだよ・・・・・初めて会った奴にどうしてそこまでお前は椎名に肩を貸すんだよ」

 

ガクトが一誠に質問した。学校を行っていない一誠が京を庇う理由もない。だから疑念を口にした。

 

「―――――僕もイジメられていたからだよ。多分、この子より酷かったよ」

 

オーフィスと百代以外の面々が驚いた表情を浮かべる。

 

「教えようか?僕はどうやってイジメられていたのか」

 

真剣な表情で一誠は過去に起きた自分に対するイジメを全て打ち明けた。

一子がもう聞きたくないと両手で両耳を押さえ、大和と翔一、ガクトと卓也が顔を青ざめ、

百代すら息を呑んだほどだ。

 

「だから、この子の辛さだって分かるんだ。

イジメている人は楽しいけどイジメられている子は辛いんだ。

それをキミたちは分かろうとした?してないよね?

直江がイジメに関わりたくないって言うほどだから」

 

「ひょ、兵藤・・・・・」

 

「・・・・・もう僕は帰る。遊ぶ気が無くなったよキミたちとなんか」

 

背を向け、一誠は椎名とこゆきを連れてオーフィスも続き原っぱからいなくなった。

 

「あ、あいつ・・・・・そんな壮絶で凄惨なイジメを受けていたのかよ・・・・・」

 

「彼が怒るのも無理がないよ」

 

「ううう・・・・・聞くだけでも怖かったよ・・・・・」

 

「・・・・・だけど、イジメられているほうが悪いんだ」

 

大和がポツリとそう発した。

 

「なんだと?」

 

「イジメられたくないならもっと合理的じゃないとダメなんだ。

きっと兵藤だってイジメられる原因を作ったからやられているんだ」

 

「・・・・・」

 

百代が大和の話を聞くにつれあることを思い出した。

一誠はどうしてそんなに強くなりたいのかと聞いた時があった。

 

『僕をイジメた、僕が弱いからとイジメた奴らに見返す為だからだよ。

あの時の大会がその始まりなんだ』

 

稽古をしながら聞いた一誠の答え。まさか一誠は百代自身が思っていた以上のイジメを

受けていたとは今日まで知らなかった。だから強くなろうと努力しているのだと今日、

ようやく理解した。

 

「(一誠・・・・・お前は・・・・・)」



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エピソード22

「やっほー!遊びに来たよー!」

 

「・・・・・来たよ」

 

川神院に二人の少女が入って来て稽古中の百代と一誠の前に現れた。

 

「あ、来たね。後もうちょっとだけ待ってて。今稽古しているところだからさ」

 

「うん!」

 

「・・・・・分かった」

 

隅の方で大人しく待っている間でも二人は話し合っている。その様子を見守っていた

リーラと釈迦堂が話をし出した。

 

「どっちもイジメを受けている嬢ちゃんたち何だってな?」

 

「ええ・・・・・京さまは学校でイジメを受けているそうです。こゆきさまは異様に

痩せていて身体には多数の打撲痕がありました。きっと虐待による怪我なのでしょう」

 

「んで、あの坊主は放っておけないってあの嬢ちゃんたちと遊ぶようになったわけだ」

 

「最近のイジメは流行っているなぁ」と他人事のような物言いを発する釈迦堂。

 

「それで、学校でイジメを受けている嬢ちゃんはともかく、親から虐待を受けている

あの嬢ちゃん、どうする気だ?知ってて尚も知らない振りを貫き通すか?

今回ばかりは親に捨てられた辰子たちとはわけが違うぜ」

 

「一介のメイドである私にどうしろと申し上げるのですか?川神院が引き取ってくれると申すのですか?」

 

「そこまでうちはお人好しじゃねぇよ。ま、ただの質問だ」

 

「・・・・・」

 

リーラは無言でこゆきを見詰める。いずれ川神院から離れざるを得ない。

親から親権を剥奪してもその後、義理の親と成ってくれる者の存在を探さなければならない。

 

「なんなら、九鬼家にでも相談するかぁ?」

 

「相談・・・・・そうですね。九鬼家に貸しを返してもらいましょうか」

 

兵藤家に作った貸しはデカい。リーラは携帯を手にしてどこかへ連絡を入れた。

 

「・・・・・もしもし、リーラでございます。クラウディオさま、お時間は大丈夫ですか?」

 

―――九鬼家極東本部―――

 

「よぉ、坊主。うちの息子と娘を助けてくれて感謝するぜ」

 

「気にしないでいいよ。もう終わったことなんだしさ」

 

「そうか。それなら今後とも息子と娘とよろしく頼むぜ。あいつらも俺が帰って来た時は

必ずお前のことを話すからよ。相当気に入っている様子だしな」

 

「はーい」

 

とある日、リーラは一誠とオーフィスを連れて九鬼財閥のとある一室にいた。

そこで九鬼帝、英雄と揚羽の父親が一誠と話を終えるとリーラに尋ねた。

 

「で、九鬼家にあることをして欲しいとはなんだ?」

 

「ただの親捜しでございます。それも義理の親です」

 

「義理の親捜し?なんだそりゃ」

 

「虐待を受けている一誠さまのご友人がおります。ので、九鬼家からその親の親権を

剥奪し尚且つその子の新しい親と成ってもらえる義理の両親を探して欲しいのです」

 

帝はリーラの話を聞き、とある質問をした。

 

「その程度の事で九鬼家にやって欲しいと?」

 

「同じ親として帝さまも子を蔑ろにする親に対して良い感情を抱かないはずです」

 

「そりゃそうわな。だが、俺には関係のない赤の他人だ。坊主の友達がそんな目に遭っていようが、

それはそいつの親が悪いだけで俺たち九鬼家が他人の家の事情を横から介入する理由がない。

兵藤家のお前がしたほうがいいんじゃねーの?」

 

「私は元兵藤家当主にお仕えしている一介のメイドに過ぎません。兵藤家から追放された者は

兵藤家の威厳と権利、全ての力は振るえないのです」

 

「というと、お前はただのメイドとして俺に頼んで来ているとそういうわけだな?」

 

肯定と頷きリーラは言い続ける。

 

「断われる前提でお願いをしに参りました。

九鬼家の力でまだ未来がある若い一人の人間を助けてください」

 

「お願いします」

 

一誠がお辞儀をする。この件は一誠が連れてきた一人の少女から始まったもの。

完全に赤の他人の為に九鬼家が動くなどと帝は頭を掻きどうしたものかと悩んでいると、

 

「父上、我らからもお願い申し上げます」

 

扉が開いたと同時に揚羽と英雄が入ってきた。

 

「お前ら、聞いていたのか?」

 

「クラウディオから兵藤が来ると聞きまして、

迎えにここへきたら何やら話しこんでいる様子で聞いておりました」

 

「それから窺っておりましたので事情は把握しました。父上、兵藤は我ら姉弟の命の恩人です。

ですから我らからもその者を救ってください。我らは恩を返したいのです」

 

英雄と揚羽までもが帝に向かって深々と頭を下げた。その背後にはクラウディオと

ヒューム、着物を身に包み額に☓の傷跡がある中年の女性が現れた。

 

「帝さま。ここはひとつ、この子たちの願いを叶えてください」

 

「おいおい、お前もかよ・・・・・」

 

「この私も兵藤さまに御命を救われましたので。私からもお願いできませんでしょうかね?」

 

「って、クラウディオもかよ。で、ヒューム。お前も同じか?」

 

「私は別の考えですな帝さま。追放されたとはいえ、元当主の子供・・・・・。

兵藤家の血を流す子供が後々に九鬼家にとっても有意義な存在となるはずです」

 

「んー」と腕を組んで悩む帝。ここまで言われちゃ当主として動かざるを得ない。

恩人であることは確かに間違いない。親として、一誠に感謝の念を抱いていることも

また事実なのである。

 

「・・・・・ん、よし、分かった。家族にそこまで言われちゃ坊主の願いを

聞かないわけにはいかないな」

 

「ありがとうございます!」

 

まだ先の話ではあるが後に九鬼家がこゆきの両親、母親に対して警察を動かし、

弁護士も引き連れあっという間に虐待の罪で逮捕、親権を剥奪された。

その後のこゆきは葵紋病院に勤めている一人の女性が義理の母親となることを承諾したので、

榊原小雪と新たな人生を送ることになった。

 

 

 

「ところで坊主」

 

「ん?」

 

「お前、揚羽を見てどう思う?」

 

「どう思うってなにが?」

 

「んー、可愛いとか綺麗だとか男として揚羽を女として意識をしてどう思うってことだよ」

 

「九鬼ちゃんのこと?大人になったら綺麗になるんじゃないかって思ってるよ」

 

「そうかそうか」

 

「・・・・・帝さま、何をお考えになられているのです?」

 

「いやなに。ただの質問だけだぜ?というか九鬼ちゃんか・・・・・まだ名前で

呼び合う仲じゃないのが残念だな」

 

「まだまだ時間がたっぷり残っておりますゆえ、焦らず揚羽さまと接することが大切ですよ帝さま」

 

「そうみたいだなー。将来、もしかしたら俺の跡を継いでくれる奴が増えるかもしれないしな」

 

「まぁ、気が早いですわよ帝さま」

 

「はははっ、それもそうだな」

 

―――○●○―――

 

それから時が過ぎた。一誠は百代と共に実力を身に付け、

川神院の修行僧たちを体術だけで倒せるようになり、

 

「はぁっ!」

 

「中々やるようになってきやがったじゃねぇかおい坊主!」

 

「師匠、私も忘れちゃ困るぞ!」

 

現在の稽古は釈迦堂と模擬戦をするようになった。

釈迦堂自身もこの時を待っていたかのように楽し気に口角を始終上げていた。

 

「ちょいっとばかし本気を出させてもらうぜ。いけよリングッ!」

 

チャクラムの形状の闘気が二つ一誠と百代に放たれた。

 

「なにそれっ!?」

 

「師匠の必殺技だ!」

 

百代が叫ぶ感じで告げる。その間にも釈迦堂の必殺技が迫った。

 

「真剣白刃取りッ!」

 

リングにぶつかる寸前に両手で挟み受け止めた一誠。

 

「おっ、凄いな一誠ッ!だが、私もできるぞ!川神流・真剣白刃取りッ!」

 

一誠と同じ技で受け止めた百代。

 

「百代!」

 

「わかった!」

 

「あ?なーにしてくる―――」

 

「「せーのっ!」」

 

二人の様子を警戒しながらも窺っていると

チャクラムを挟んだまま、共に反対へ回りながら

二人はそれを遠心力で勢いよく、力強くチャクラムを釈迦堂に向けて投げ放った。

 

「マジかよ!なーんてな」

 

「「はい?」」

 

一誠と百代の考えることはお見通しとばかり自身の技を人差し指と中指で容易く挟んだ。

 

「投げ返してくるとは思いもしなかったが、まっ、俺には効かないぜ。出直してきな!」

 

チャクラムを再び投げ放った。一誠と百代がソレをかわした瞬間。釈迦堂は二人の懐に

迫って頭を掴みそのまま地面へ押し付けようとした。

 

ガッ!

 

「あ?」

 

「この時を」

 

「待っていたぞ師匠」

 

倒されそうになっても足は地面から離れていない。上半身が海老反りに成りかけている

一誠と百代は逆に釈迦堂の手首や腕を掴んだ。

 

「今日こそは」

 

「僕たちの勝ち!」

 

腕に力を込めてあり得ない体勢で釈迦堂を引っ張る形で持ち上げた。

 

「こなくそっ!」

 

バッ!と百代の顔を掴む手を強引に振り払い、一誠に体重を掛けて押し付けようと考えた。

だが、釈迦堂の思惑通りにはならなかった。

 

「んぎぎぎぎっ!」

 

「・・・・・マジかよおい」

 

大の大人の体重を一誠が一人だけ逆立ち状態の釈迦堂を持ち上げるように支えた。

 

ドッ!

 

「あ?」

 

腹部から感じた鈍痛。逆立ち状態だった体勢が傾き始めた。

そして、円に描かれた線を釈迦堂は体勢を立て直してでも越えてしまった。

 

「いたっ」

 

後に一誠も倒れた。線からはみ出たが百代と一誠は笑みを浮かべた。

 

「私たちの勝ち、だよな?」

 

「線から出たもんねー?」

 

「・・・・・」

 

二人の指摘にため息混じりに肩を竦め、

 

「わーったよ。今回はお前らの勝ちだ」

 

「「よっしゃー!」」

 

歓喜を露にして喜びを分かち合う一誠と百代。

そんな二人の様子を見ている釈迦堂に数人が近寄った。

 

「おやおや、釈迦堂が負けるとはネ」

 

「うるせー。ルー、てめぇだって俺より早く負けただろうが」

 

「負けは負けじゃよ釈迦堂。よもや、お主までが負かされるとはのぉ」

 

「今度はジジイの番だぞ。孫と坊主の可愛さに手加減すんじゃねぇぞ」

 

「ぬかせ。ワシが闘いに手を抜くとは笑止千万もいいところじゃ」

 

「へっ、どーだかな」

 

円の外、もしくは地面に倒れたら負けということを一誠と百代が考え、最初は川神院の

修行僧たちを全員。次は師範代、最後は総代と順に倒す決まりを作った。

それを何日も掛けては繰り返し、ようやく師範代の二人を、ルーと釈迦堂を倒したのだ。

残りは総代である鉄心のみである。

 

「ジジイ、勝負!」

 

「勝つよー!」

 

「ほっほっほっ。元気が有り余っておるようじゃの。よかろう、相手をしてやる」

 

「あまり、大人気ないことをしないでくださいヨ」

 

不敵に笑みを浮かべつつ、鉄心は円の中へ。そして―――。

 

ドサッ!

 

「ま、まいったのじゃ・・・・・」

 

「「おい」」

 

呆気なく鉄心が円の中で倒れた。その理由は敢えて言わないでおこう。

そして、とある日。

 

「・・・・・」

 

百代が何時になくそわそわしていた。一誠たちは「何をそんなに?」と不思議そうに

小首を傾げる。なので、鉄心やルー、釈迦堂に聞けば。

 

「ああ、お主らは知らんかったの。もうすぐ百代の誕生日なんじゃよ」

 

「にしても、確かに何時になくソワソワしていたな」

 

「何時もの百代なら。威風堂々と待っていたガ・・・・・」

 

三人とも百代がソワソワする理由は誕生日を楽しみにしているだけとは思っていなく、

やはり不思議そうに首を傾げていた。だから一誠たちは直接聞いた。愚直に素直に。

 

「百代、なんか欲しい物とかある?」

 

「な、何だ急に?」

 

「だって、お前の誕生日がもう直ぐだって師匠たちから聞いたぜ」

 

「あ、ああ・・・・・そう言うことか。別に何でもいいぞ」

 

「何でもって言われると石ころでもいいってことかよ」

 

「竜、お前は女にそんな物をプレゼントする最低で嫌な奴か」

 

「んー・・・・・ZZZ」

 

「ま、あんまり期待しないでおいでよ」

 

欲しい物の情報を得られず、一誠たちは試行錯誤の思いで百代に渡すプレゼントを探し求めた。

それぞれ五百円玉を握って集団で街に出かけた。

 

「なぁ、アイツが好きなものってなんだ?」

 

「野球のカードしか知らないよ」

 

「カードなんて大人になるにつれいらなくなるさね」

 

「食べもんだと、あっという間に食べられるからダメじゃねぇか?」

 

「ずっと残るものでいいんじゃないかなー」

 

悩む一行。

 

「亜巳と天、辰子、オーフィスだったら何が欲しいの?」

 

「は?急に言われても思い付かねーよ」

 

「天の言う通りだね」

 

「私は一誠くんが欲しいなー」

 

「我も」

 

「辰姉とオーフィス。もっとマシな答えを言えよ」

 

「「本気」」

 

一部、欲望に正直な答えを言う者の六人は街中を歩く。直ぐに無くなるものはダメ、

ずっと残るものをプレゼントにしようと決め合い、形ある物を探し求める。

様々な店を物色してプレゼントを探していると、一誠は知人と遭遇した。

 

「あ、エス―――」

 

「兵藤、兵藤じゃないか!」

 

ガバッ!と一誠と出会えたことに青い髪の少女、エスデスが嬉しいあまりに抱き付いてきた。

 

「偶然だな。また外で出会うとは嬉しいぞ。ま、まさかだと思うが・・・・・私を探しに?」

 

「ううん。もうすぐ百代の誕生日なんだ。だから皆とプレゼントを買いに来たんだよ」

 

「・・・・・あいつの誕生日?何時なんだ?」

 

「八月三十一日だってよ」

 

「なんだ、もうすぐじゃないか。それで、何か買ったのか?」

 

全員が首を横に振る。

 

「女の子にプレゼントするのって僕たち始めてだから迷ってるんだ。

あ、エスデスだったらプレゼント、何が欲しい?」

 

「お前だ、兵藤」

 

「・・・・・ここにもいたぜ、まったく」

 

「僕は物じゃないよっ」

 

呆れる竜兵に頬を膨らます一誠。ちゃんとした答えが返ってこないと女の子に対する

贈り物に頭を悩ます一誠。ふと、エスデスと一緒にいる強面の大人たちに目が入った。

 

「ねね、女の子が好きそうな送り物って何か知ってる?」

 

「俺たちに訊いているのか?」

 

「うん、知ってたら教えて?」

 

期待に満ちた一誠の瞳に向けられた大人たちは、顔を見合わせ自分の意見を述べた。

 

「女ってのは輝く物が好きなのが定番だ。宝石とかネックレス、指環とかな」

 

「枯れてしまうが花束も悪くない」

 

「宝石をプレゼントしたいなら誕生石で送ると良いぞ」

 

「誕生石?」と気になった単語をオウム返しをした一誠の言葉に大人は頷いた。

 

「色んな宝石に誕生日を象った言葉が籠った宝石がある。八月の誕生石はえーと、

確かペリドットとサードニックスっていう宝石だな。宝石を売っている店の店員から

聞けば教えてくれる」

 

「宝石・・・・指環・・・・・。うん、決めた宝石にしよっ!」

 

大人たちは本気か?と思った。まだ子供だから金銭的にもたかが知れている。

一つ数万のする宝石があればもっと何十、何百、何千倍という値段の宝石がある。

プレゼントを買いたいのに買えない現実を突き付けられ絶望してしまうだろうと思った矢先。

 

「エスデスって誕生日いつ?」

 

「十二月だ」

 

「十二月だね?分かった。誕生日になったらエスデスにも宝石を買ってあげるね

誕生日石の。じゃあね!」

 

行くぞ宝石を買いにー!とようやく決まったプレゼントを買いに一行は宝石店へと向かった。

 

「おい・・・・・どうするんだよ」

 

「可哀想なことをしたかもな」

 

「お嬢にも買ってあげるとか言ったぞ」

 

大人たちは恐る恐るとエスデスに目を向けた。

 

「・・・・・楽しみだなぁ・・・・・」

 

目を潤わせ、胸の前に手を組んだ。―――恋する乙女そのものであった。

 

「・・・・・お前ら、いくらある?」

 

「・・・・・足りないと思うぞきっと」

 

「・・・・・俺たちの命日は十二月か」

 

静かに死を悟った大人たち。その頃、宝石店に辿り着き、店員にペリドットと

サードニックスという宝石を見せてもらい、その値段に物凄く落ち込んだ。

 

「あう・・・・・高い」

 

「ウチらが合わせても買えないじゃんか」

 

「なんとなく予想していたけどね」

 

「それ以前に宝石は実際高いだろ。一誠、知らなかったのかよ?」

 

「うーん・・・・・」

 

「残念」

 

宝石店の店員でさえ可哀想にと思うほど落ち込む一誠。指環以外にもネックレスを

見ても結果は同じで、戦に敗れた兵のように店から出た。

 

―――○●○―――

 

「一誠さま、プレゼントはお決まりになさったのですか?」

 

「決まったんだけど、買えなかったよ。誕生石欲しかったんだけど」

 

「そうでしたか」

 

「だから代わりに玩具の指環とか、

皆でずっと残るものを買ったんだけど・・・・・やっぱり宝石が欲しいな。指環の」

 

パタパタと敷かれた布団に寝転がって、脚を動かし未練が残っていると意思表示をする。

 

「お気持ちは分かりますが一誠さま。そのお気持ちだけでも

きっと百代さまは喜んでくださると思いますよ?」

 

「・・・・・そうなの?」

 

「はい」

 

「じゃあさ」

 

起き上がってリーラと対面した。淡いピンクのシルクのパジャマを身に包んでいて、

束ねている銀の髪はロングストレートに伸ばしている。

 

「リーラさんはプレゼントされた時、何を貰ったら嬉しいの?」

 

「私ですか」

 

「うん」

 

ジィーとリーラを見詰める一誠。リーラ自身も何度か誕生日の時は祝福され、

一誠たちからプレゼントを受けている。誠と一香と違って、

子供らしく微笑ましいプレゼントをもらっている。

 

「私は・・・・・」

 

具体的な物は特にない。リーラは欲しい物は特にない。

リーラ・シャルンホルストという人物は欲がない。ただし、強いて言えば。

 

「・・・・・」

 

スッと両腕を伸ばし、一誠を自身の胸に抱き寄せた。

 

「リーラさん?」

 

「私は一誠さまやオーフィスさま、誠さまや一香さまと過ごす時間が幸せです」

 

「うん、僕もそうだと思うよ」

 

「ですので、私は物によるプレゼントより、一誠さまと過ごせるこの時間が大好きなのです」

 

一誠を見下ろすリーラの表情。一誠がリーラを見上げれば目を細め安心させる微笑みを浮かべていた。

 

「それが何時も私にくれる一誠さまたちからのプレゼントです。

人は形があるものやない物をプレゼントされると嬉しいのですよ?」

 

「そうなんだ」

 

「はい。だから無理に考えず一誠さまは用意できる物でプレゼントを差し上げれば十分なのです」

 

「僕が用意できること・・・・・」

 

思案顔で思考の海に潜る。そんな一誠の頭を優しく撫でていると眠気が襲って来たようで重たげに目蓋が閉じかけている。

 

「おやすみなさい我が主さま」

 

「・・・・・ん」

 

リーラと共々寝転がり、しばらくして寝息を立て始める一誠だった。

 

「(そう・・・・・私は形ある物より、あなたとこうして共に過ごす時間が何より大切なのです)」

 

「我も寝る」

 

彼女とは反対側、一誠の隣に寝転がって寝始めるオーフィス。クスリと微笑み、

明りを消して―――。

 

「おやすみなさいませ」

 

眠る一誠の頬に唇を押し付けた。



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エピソード23

『主、主・・・・・』

 

「ん・・・・・」

 

誰かに起こされ、閉じていた目蓋を重たげに開き、目をパチクリした一誠の目の前に

数体のドラゴンが暗い空間の中だがハッキリと姿を晒して見詰めていた。

 

「あれ・・・・・ここって・・・・・」

 

『主の意識を神器(セイクリッド・ギア)の中へ引き込みました』

 

「どうして?」

 

『主は宝石を欲しがっておりましたね?』

 

「あ、見てたんだ?うん、だけど買えなかったから諦めたよ?」

 

『まだ諦めるのは早いですよ』

 

金色のドラゴン、メリアが一誠に対してそう告げた。諦めるのは早いとはどういうことなのか一誠はチンプンカンプンで疑問符を浮かべる。

 

「どういうこと?」

 

『主は私の力を使いこなせていない。私は封印される前では、有機物・無機物、万物を

創造できる力を司るドラゴンでした。だから主、私の本来の力を使えるようになれば

宝石や指環すら創造できるようになるのです』

 

「本当?それって凄いじゃない!」

 

キラキラと目を輝かせてメリアを見上げるとメリアは苦笑を浮かべた。

 

『私は創造を司るドラゴンであるが為に、他の神話体系の神々に良く狙われていましたけどね』

 

「オー爺ちゃんもメリアを狙っていたの?」

 

『いえ、あの神はそうではありはありまん。極一部の神が私を狙っていたのです』

 

『メリアの能力は神器(セイクリッド・ギア)を作ることはできないが、悪魔、天使、

堕天使、神、様々な種族に対して有効な万物を創造できる。

無論、俺たちドラゴンを倒すことができる武器でさえもな』

 

メリアの話に凶暴で凶悪そうなドラゴン、ゾラードも補足した。

 

「でも、メリアの姿・・・・・ドラゴンになるのが神器(セイクリッド・ギア)の能力じゃないの?」

 

『あれは別の形で発現しただけに過ぎません。私の本来の力は創造。万物を作ることです』

 

「じゃあ、本当の神器(セイクリッド・ギア)の力じゃないんだね」

 

頭を垂らし「残念」と身体全体で伝える一誠。

 

『大丈夫です。主の想いが神器(セイクリッド・ギア)は応えてくれます。

自分を信じて私の本来の力、創造を駆使してください』

 

その言葉を最後に一誠の意識は再び闇の中へ落ちたのだった。

 

 

―――○●○―――

 

 

『ううう・・・・・これじゃないのに』

 

ズーンと金色の大きなドラゴンが肩を落として頭を垂らしている姿が川神院で見れた。

落ち込む一誠を余所に、オーフィスや百代、辰子が背に乗って思いのまま楽しんでいる。

 

「・・・・・あいつ、朝から何やってんだ?」

 

「本当の力を使いこなしたいと仰っておりますが・・・・・」

 

「あ?本当の力?」

 

「御存じであるかどうかは分かりませんが、私たち人間、もしくは人間の血を流す者に

神器(セイクリッド・ギア)という摩訶不思議な能力が宿しておられるのです。

一誠さまは本来の神器(セイクリッド・ギア)の力を発現したいと起きて直ぐに仰りました」

 

「へぇ、そいつはファンタジー的なことじゃねぇか。

もしかすると、今のあの坊主の姿もその摩訶不思議な能力によるものなのかい?」

 

壁に背を預け腕を組む釈迦堂の問いに肯定と頷くリーラ。

 

「驚かないのですね。一誠さまのあの姿を」

 

「今さら百代が楽しげに遊んでいるアレを見ても驚かねぇよ」

 

人型に戻った一誠が再び光に包まれると、金色のドラゴンとなってしまい落ち込む。

 

「摩訶不思議な能力ねぇ・・・・・俺もその力を宿しているってことだよな?」

 

「ええ、そうです」

 

「その力を使える方法ってなんだ?使えるなら使ってみてぇ」

 

口角を上げてもしも使えたらその力で暴れてみたいと脳裏で思ってリーラに視線を向けると、

 

「心・・・・・想いが主に左右するそうです。

それで神器(セイクリッド・ギア)が応じ、発現するとか」

 

「けっ、ジジイやルーが口酸っぱく言っているもんと一緒かよ。

んじゃ、俺には一生使えない代物だな」

 

つまらなさそうに舌打ちした。力こそが全て、正義と考えの釈迦堂に鉄心とルーの

考えには賛同できない様子だ。

 

「そうでしょうか?知らないよりマシでありますよ。殆どの人間が有しているのに

一生気付かず一生を終えるケースが多いと誠さまが仰っておりましたから」

 

「俺はラッキーってところかよ。使え方が分かっても俺に不適合なことじゃどうしようもないわな」

 

肩を竦めた釈迦堂と同時に『できたぁっー!』と歓喜の声が聞こえてきた。

リーラと釈迦堂は一誠の方へ顔を向けたら、金色の杖を持っていた。

杖自体が十字架を模した形で大きな十二枚の金色の天使の翼を生やし、輪後光もついている。

それを嬉しそうに持ったままリーラに近づいた。

 

「リーラさん、リーラさん。見て見て、僕の神器(セイクリッド・ギア)!」

 

「お見事でございます。一誠さま」

 

「ほー、何だか変わった杖だな。それが摩訶不思議な能力のやつか?」

 

「これで何でも作れるかもしれないよ。えーと、どうすればいいんだろう?思えばいいのかな?」

 

「だと思います。試しに何か物を思い浮かべてごらんください」

 

一誠は頷き、杖を前に立て構えて瞑目した直後、翼が広がり輪後光に光が帯び始め、

先端に光が収束し―――空へと打ち上がった。

 

「一誠、なにをしたんだ?」

 

「んーと、雪!」

 

「雪?おいおい坊主。暑くなってきたこの時期に雪なんてできるわけが―――」

 

と、釈迦堂が否定の言葉を最後まで言えなくなった。空から白く小さな物がたくさん振ってきたのだ。

 

「・・・・・雪ですね」

 

「マジかよ・・・・・本当に雪が降って来やがったのかよ」

 

「降ってきたー!」

 

「おおっ!」

 

「イッセー、できた」

 

この日、季節外れの雪が川神市に降り注ぎ、後に数日間ニュースで話題になった。

 

「ねね、リーラさん。この後ちょっと手伝って欲しいんだけど」

 

「私にできる事ならなんなりとお申し付けください」

 

「んふふふっ、百代を絶対に驚かすんだぁー♪」

 

そして、創造の力をさらに扱える練習をする最中、ついに百代の誕生日となったのだった。

川神院は何時もより増して賑やかになった。人間界で交流した者たちが百代の誕生日を祝いに集い、

豪華な料理やたくさんの酒やジュースなど用意され誕生日パーティが幕を開いた。

 

「今回の誕生日は何時にも増して賑やかだ!」

 

嬉しそうに、楽しそうに子供相応しく笑う百代。たくさんのプレゼントをもらって上機嫌だった。

 

「だが、まだ物足りないぞ。お前だけだ、貰ってないのは」

 

得物を狙う鷹の目如く、一誠を捉えてビシッと手を差し伸べた。

 

「一誠、お前のプレゼントはなんだ?早く私にくれ」

 

「ん、分かった。ちょっと待っててね」

 

退出した一誠。また戻ってきた時には小さい箱と長細い箱を手に持っていた。

 

「はい、百代。誕生日おめでとう」

 

「開けていいか?」

 

「勿論だよ」

 

「中身は何だろうなー♪」

 

好奇心で二つの箱を包むリボンを解き、箱を開けた。

 

「・・・・・これは」

 

「僕の自信作!」

 

それぞれの箱にはネックレスと指環が入っていた。

八月の誕生石、サードニックスとペリドットの装飾品。

四つ葉のクローバーの形で凝った意匠に装飾が百代の誕生日プレゼントとして贈られた。

 

「ほう、これはこれは」

 

クラウディオが一誠が作った装飾品を見詰める。

 

「兵藤さま、これはあなたさまが作ったのですか?」

 

「そうだよー。こうやってね」

 

金色の杖をなんなく発現して能力を発動した。翼と輪後光が光を放ち、

虚空から様々な宝石が一誠の周囲に具現化した。

 

「この杖のおかげで僕は色んな物を作れるようになったんだー」

 

「摩訶不思議な能力ですね。一つ、宝石を貰っても?」

 

「うん、いいよ」

 

アメジストの宝石を手にしてマジマジと見つめるクラウディオから視線を逸らし百代に問うた。

 

「百代、どう?」

 

「驚いたぞ・・・・・こんなに女の子してる贈り物だとは思わなかった」

 

「ははっ、驚いてくれて嬉しいよ。ほら、指環の方を嵌めてあげるね」

 

ペリドットの指環を右手の薬指に嵌めた後、サードニックスのネックレスを首に装着させた。

 

「うん、ピッタリだねー。似合ってるよ」

 

にひーと笑みを浮かべる。対して百代はジッと指環を見詰める。

キラリと輝くオリーブグリーンが百代の目を逸らさせない何かが宿っており、

 

「指環の方は何時か指に嵌めれなくなるけど、ネックレスの方はずっと首に身に付けれるからね。

大事に付けてね百代」

 

と、一誠が満足気にそう言うと、

 

「・・・・・ああ・・・・・その・・・・・何て言っていいのか」

 

百代が顔を赤くして赤い目が潤い始めた。

 

「あ、ありがとな一誠・・・・・」

 

指環とネックレスと順に触れて、

 

「お前から貰ったこれ・・・・・大切にする」

 

「えへへ♪喜んでくれて僕は嬉しいよー」

 

杖を持ったままクルクルと回って嬉しさを表現した。

 

「・・・・・オチたかの?」

 

「うんや、まだまだじゃねーの?精々五分五分ってことろだろ」

 

「百代のあんな顔ハ、初めて見るネ」

 

「ふむ・・・・・あの子と百代か・・・・・案外悪くないかもしれんのぉ・・・・・」

 

「仮に結ばれてガキを産んだら・・・・・」

 

「その子供は間違いなく最強だろウ」

 

「もしもその子供が生まれれば川神院は安泰じゃな」

 

鉄心の目が怪しく光る。ルーと釈迦堂は鉄心の思惑に無意識で互いに顔を見合わせ

一拍してから苦笑を浮かべた。

 

「面倒くせぇことになるなこりゃ」

 

「あの子に幸あらんことを願うヨ」

 

 

『一誠』

 

『何エスデス?』

 

『やっぱり、私も今欲しい』

 

『誕生日プレゼント?でも、まだ早いんじゃないの?』

 

『いや、女の子に贈り物をする日は何時でもいいんだ。誕生日は誕生日でだ』

 

『うーん?エスデスがそこまで言うなら・・・・・』

 

『よし、ならば貰うぞ』

 

『え?』

 

『んっ・・・・・』

 

 

「いや、ルー。女難の相があるみたいだぜ」

 

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた釈迦堂の目に、一誠とエスデスの唇が重なった光景が入る。

場は静まり返り、誰もが一誠とエスデスのキスシーンを見入る。

エスデスが一誠から離れると白い顔の肌に朱が全体に広がった。

 

「お前の・・・・・ファーストキス、貰ったぞ・・・・・」

 

「ファーストキス・・・・・?なにそれ?ね、リーラ・・・・・ひぅっ!」

 

短く悲鳴を上げた一誠。身体が委縮してガタガタと震わせ始めるその理由は、

顔に表情が消え、氷のように冷ややかなオーラを身に纏い、視線を向けているリーラである。

 

「リ、リーラ・・・・・さん・・・・・?」

 

「一誠さま」

 

「は、はいっ」

 

何時ものリーラではないと本能が察し、逆らえばどうなるか分からないと一誠は

恐怖心による衝動的な返事をした。リーラはスッと跪き、一誠の顔を覗きこんだ。

 

「今日は私と一緒にお風呂を入りましょう」

 

「え?」

 

「その後、私と一緒に寝ましょう」

 

「えっと、それは何時もと変わらないような・・・・・」

 

「寝る前に私とキスをしましょう」

 

刹那。

 

「「「まてまて!子供になんて要求をするんだ!」」」

 

大人たちが一誠にリーラへ突っ込んだ。

 

「なにか」

 

それでも平然と対応するリーラ。

 

「何かってお前・・・・・犯罪間際な事をするんじゃねーって」

 

「外国では当然の行為でございます。そして私は一誠さまのことが好きなのです。

―――一人の女として」

 

「年齢を考えて言いなさイ!既にそれは保護者として失格の範疇を超えているヨ!」

 

「手は出しません。まだ・・・・・ですが」

 

「前提であるとはのぉ・・・・・。お主、嫉妬しておるのか」

 

「そうですがそれがなにか。それに何か勘違いをされていますが、

私が言うキスは頬に唇を押し付ける行為の事を指しております」

 

開き直るリーラは立とうとする小鹿のように震えている一誠を抱きしめる。

 

「・・・・・お前から言うことは勘違いどころか本当に犯罪の一歩、

片足を踏んでいるような言い方にしか聞こえねぇ」

 

「間際らしいにもほどがあるわい」

 

「一番身近な所ニ・・・・・灯台下暗しとはこのことかも―――イエ、ナンデモアリマセン」

 

リーラに睨まれ、ルーが委縮するその間にも乙女の戦いが始まっていたのは別の話である。

 

―――○●○――

 

百代の誕生日が過ぎてからもうすぐ秋の季節に入ろうとしている。

鍛練も既に慣れた一誠にとってまた強くなった証に等しい。

 

「・・・・・」

 

横で鍛練する百代がチラチラと一誠を見るようにもなった。

一誠から貰った装飾品は稽古の間身に付けず、自由な時間だけ装着する。

二人の稽古の様子をほのぼのと見守る大人組。

 

「もうすぐ秋じゃのー。焼き芋を食べたくなってきわぃ」

 

「山籠りの一つでもすれば、野生のイノシシやキノコとか手に入るしなぁ」

 

「食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋、芸術の秋と言葉があるほどですからネ」

 

ルーの言葉に内心同意とし、澄んだ青い空を視界に入れる。

 

「そう言えば、百代の学校では体育祭が近いじゃったな」

 

「だからどうしたって?何時も通り行けばいいだろうが」

 

「もしや、あの子も連れていくト?」

 

「そうじゃ。ま、何も問題は起きらんじゃろ」

 

と、鉄心はそう言うが当日ではとんでもないことが起きるのである。

 

 

―――体育祭―――

 

 

「・・・・・なぜお前までここにいるのだ」

 

「・・・・・そいつは俺が知りてぇよクソ親父」

 

「えへへ♪」

 

「ま、息子の頼みとあれば親として叶えたいという思いは本当だろう?」

 

「お前ではなく孫からの頼みだからOFFを使って来てやってるのだ」

 

兵藤家現当主と元当主の親子が百代の体育祭を観たいが為に一誠に呼ばれて来訪したのであった。

 

「久し振りー、お父さんとお母さん、お爺ちゃんとお婆ちゃ―――じゃないお姉ちゃん」

 

「・・・・・羅輝、孫に何を言わせておるのだ。家族構成では―――すまぬ、何でもない」

 

「お、お袋・・・・・」

 

ニコニコスマイルな兵藤羅輝だが、その笑みを見てどこか怖ろしく感じた一誠と源氏。

誠でさえ冷や汗を流す程の威圧、プレッシャーを感じたのだった。

 

「一香さま・・・・・」

 

「触れちゃダメよ。こういう世渡りも必要なのだから」

 

 

教訓・女性に対して年齢に関する話は厳禁。

 

 

「しかし、運動会か・・・・・随分と懐かしいじゃないか」

 

「兵藤家と式森家の両家対抗運動会振りよね?」

 

「ああ、そこでお前と出会ったんだからいい思い出だわ」

 

「うふふっ、私もよ」

 

指を絡ませ手を重ね合い、肩を寄り添って幸せオーラ、桃色の空間を展開した誠と一香。

 

「そんな出会いを二度とさせんが為に廃止したがな」

 

無粋な発言を威風堂々と腕を組む源氏が一刀両断した結果。

 

「この外道!皆の幸せな出会いを潰しやがって最低な奴だな!」

 

「堂々と禁忌を破ったお前にだけは言われたくは無いわ!」

 

「うるせっ!過去の歴史の紐を解けば―――!」

 

「それ以上は言わせるかァッ!」

 

場所が場所な為、殴り合う二人はかなり目立っていた。喧嘩をする二人を見て、

頬に手を添えながら微笑む羅輝が言う。

 

「相変わらず言葉は乱暴で態度も悪いけど、仲だけは良いわね」

 

「あれが・・・・・仲が良いと?」

 

「本気で殴り合っているところを見ても流石の私ですらそうは思えないわ・・・・・」

 

「喧嘩するほど仲がいいってことかな?」

 

「ふふっ、その通りよ一誠ちゃん♪さ、鉄心さんのところに行きましょうか。あの二人は放っておいても来るでしょうし」

 

場所取りは川神院の修行僧が抑えておる為、鉄心たちは既に学校の中へ。

一誠たちも百代が通う学校へと足を運んだ。

学校の校庭はこの日の為に購入したと思われる最新式の(ビデオ)カメラを片手に集っている

家族が勢揃い。仲でも一気は異様な集団が一角の場所を陣取っていた。

道着を身に包みブルーシートを大きく敷いて座っている一団や誰も関わりたくないと

雰囲気を伝わせる強面の大人たちの集団の二つだ。一誠たちはその一角に赴く。

 

「おお、これはこれは」

 

「久しいな鉄心。孫に呼ばれてお前の孫娘の応援をしに来た」

 

「それは光栄極まりないことじゃ。狭いがどうぞごゆりとしてくさいませ」

 

何時の間にか誠と喧嘩していたはずの源氏が鉄心と話をしていた。

一誠が不意に視線を上に向けると誠の姿が目に映った。

 

「おお、やはり来たな一誠」

 

「あっ、エスデス」

 

「私も百代の応援をしに来たぞ。家族とだ」

 

ズラリと強面のおじさんが一誠たちに向けて頭を下げた。エスデスの隣には青い髪に髭面の中年男性が

柔和な笑みを浮かべる。

 

「お前が娘から聞く一誠という子だな?俺はエスデスの父親のガルドだ。よろしく」

 

「初めまして、兵藤一誠です」

 

「これからも娘と末長く仲良くしてくれ。何分、色んな事情で友達がいないもんでな、娘が笑うようになってくれて安心している。こうやって俺たちに頼んで友達の運動会に

顔を出す程だ。父親として嬉しい限りだ」

 

「ほほう・・・・・なんだか気の合いそうな男だ」

 

誠が自然とガルドに近づいて傍に腰を下ろした。

 

「初めまして、俺は一誠の父親の兵藤誠だ。お互いの子供が仲良くしているように

父親同士の俺たちも仲良くしようぜ」

 

「兵藤・・・・・ならば、兵藤家の者か」

 

「ああ。あそこにいる現当主の息子だ」

 

「なるほど。堂々とマフィアのボスを構えている俺に近づくだけの度胸がある。

お前とは良い関係ができそうだ」

 

出会ってすぐに一誠とエスデスのことで会話の花を咲かせ、何時しか意気投合をし始めた。

 

「初対面の方ともうあそこまで・・・・・」

 

「あれが誠の魅力の一つよ。警戒心を抱かせず、誰とも打ち解けるんだからね」

 

「僕もお父さんのようになりたい!」

 

「一誠なら絶対になれるわよ。その為には色んな人と話しかけ、相手の善し悪しを見抜けなくちゃね」

 

「うん、頑張る!」

 

一誠は返事をする。そうこうしているうちに体育祭が開幕した。

百代が出る競技になると一誠たちは応援をし、大和たちの姿を見れば応援をする。

 

「一誠、どうしたの?」

 

ジィーと運動会の様子を見ていたら一香が声を掛けてきた。「うん」と頷きこう言った。

 

「何だか学校って楽しそうだなぁーって。今も楽しいけど、運動会って楽しそうだね」

 

「・・・・・」

 

「あっ、学校を通いたいなんて言わないよ?

だって、僕は人間じゃないし学校に行けるとは思えないもん。

それどころか怒って他の皆に迷惑を掛けちゃいそうだよ」

 

学校を行く必要がないと思っていた一誠が学校に興味を抱き始めた。それはとても喜ばしいが、

一誠を親として学校に通わせれない理由は様々ある。だから、一香は心の中で謝り頭を撫でる。

 

「将来、一誠が大きくなったら学校に行けるわ。それまでもうちょっとだけ修行を頑張りなさい」

 

「うん?別に学校なんて行かなくてもいいんじゃない?」

 

「今は良いわ。だけど、将来は行く必要があるの。だから今は修行に集中しなさい」

 

「うーん、はーい」

 

分かっているようで分かっていない返事。それから運動会は順調に進行し、昼食タイムに突入した。

 

「お疲れ百代。ずっと一番で勝ってて凄いね」

 

「そうだろう?まっ、当然の結果だがな。お前と一緒に鍛練したらもっと強くなっていくんだぞ私は」

 

「むー、僕だって百代と一緒に強くなるよ」

 

顔を膨らませちょっと不機嫌になる一誠の言葉に百代は照れた。

 

「そっか、一緒に強くなるか・・・・・ジジイ、預けた私の返してくれ」

 

「ほいほい」

 

鉄心からネックレスと指環を受け取り、

短い時間の中だがそれでも付けたいと思う気持ちからか身に付けた。

 

「百代?」

 

「付けれる時に付けたいだけだ。お前から貰ったこれ、気に入っているからさ」

 

プレゼントした装飾品を目の前で付けてもらい、やっぱり嬉しいと満面の笑みを浮かべる一誠。

 

「あっ、そうだそうだ。お母さん、見て見て」

 

「なにかしら?」

 

一誠は金色の杖を具現化させて自慢げに見せびらかした。

 

「僕の神器(セイクリッド・ギア)!ちゃんと本当の力を使えるようになったんだよ?」

 

「あら、それは凄いじゃない。だけど一誠。ここでそれを出しちゃダメよ?」

 

「ダメなの?宝石を作れるところ見て欲しいんだけど」

 

「メリアの創造の力ね?ええ、それは家に帰ってから見せてちょうだい」

 

「はーい」

 

金色の杖が消失して弁当を食べ始める様子を見守った一香は源氏に声を掛けられた。

伺うように尋ねられて。

 

「孫にも神器(セイクリッド・ギア)が持っていたとはな」

 

「三つ、いえ四つもあります」

 

「複数だと?なぜそんなに持っておるのだ」

 

「内一つは一誠自身の神器(セイクリッド・ギア)で他の三つは後天的、つまり私と誠が一誠に宿したのです。

正確には誠輝にも渡して二つだったけれど何故か三つに。その三つともドラゴン系統の神器(セイクリッド・ギア)です」

 

難しく険しい表情を浮かべる源氏に説明をした一香。

 

「ドラゴン系統のか・・・・・。それらは全て使いこなせておるのか孫は?」

 

「聞いた限りでは一部の神器(セイクリッド・ギア)禁手(バランス・ブレイカー)に至れたようで、

他はまだみたいですがそれなりに使えるようになっている様子です」

 

「順調のようだな」

 

「まだまだこれから。この子の成長は止まりません」

 

 

―――○●○―――

 

 

その日の夕方。一誠は百代に呼ばれて二人きり川原に来ていた。

 

「どーしたの?こんなところで話がしたいって」

 

「ああ、ちょっと聞きたいことがあってな。家じゃ聞きづらくて」

 

コテンと首を傾げ百代に尋ねると、百代は一誠に振り返った。

朱に染まる空、穏やかに流れ続ける多馬川の水面に夕日が映り、一誠の目に焼き付ける。

 

「お前・・・・・好きな子はいるか?」

 

「好きな子?」

 

「そうだ。家では私や辰子。外ではエスデス、京、こゆきがお前の傍にいる。オーフィスはお前の家族だから問題ないと思っている。だから私を除いた四人のなかで好きな奴はいるか?」

 

「・・・・・んー」

 

百代の言いたいことがあまり分からない。好きとは相手を思う気持ちだと周りから説明されていて、

一誠は一緒にいて楽しい存在に対して好きという気持ちで伝えている。

 

「ごめん、百代の言いたいことがあまりわからない。女の子に好きなんて気持ちが分からないよ」

 

「・・・・・そうか」

 

「うん、それにちょっと苦手なんだよね」

 

「苦手?」と百代は不思議そうに聞く。一誠は頷いてこう答えた。

 

「教えたよね。僕はイジメられていたって」

 

「ああ、そうだな」

 

「僕、今こうして百代と話せれるけどさ。大人や僕たちと同じ年の子供と接するのが苦手なんだ。

話したこともない子供、見たこともない大人に悪口言われたりイジメられていたから。

その中には女の子もいた」

 

「・・・・・」

 

「まだ子供だから僕は百代が言いたい好きと言う意味は分からないだけかもしれない。

リーラさんや釈迦堂先生たちに訊いてもチンプンカンプンだと思う」

 

一誠の話を耳に傾ける百代に一誠は言い続ける。

 

「百代は僕のことどう思っているの?」

 

「私がお前のことを?」

 

「うん」

 

「お前のことが凄く気に入っている」

 

返事が直ぐに返ってきた。百代は夕日によって朱に染まる水面を見詰めた。

 

「お前以外にも確かに強い奴はいた。お前の家のお前や私と同年代のやつらがな。

見ていて興奮した、楽しく見ていたのは確かだ。私と戦った準決勝の奴もな」

 

「・・・・・っ」

 

ズキッと胸に痛みが生じた一誠を露知らず百代は語り続ける。

 

「だが、あいつらなんかよりお前の方がよっぽど強い」

 

一誠に振り返り瞳を覗きこんできた。

 

「私はお前と同じように子供だ。世界にはもっと強い奴らがいるだろう。

だから今はお前が私と並ぶぐらい強い男だ」

 

「百代?」

 

「この目を見た瞬間からお前はただ者ではないと思っていた」

 

金色で垂直のスリット状の双眸と赤い双眸がぶつかる。

 

「何度見ても飽きないお前の眼は格好良いな。

私はこの目を、私と初めて戦って引き分けの勝負をしたお前を凄く気に入っているんだ」

 

そして百代は一世一代の台詞を言った。

 

「私はお前のことが好きだ一誠。ずっと何時までもどこまでも私の隣に並んで、

一緒に生きよう」

 

その後、エスデスのように一誠の唇へ自分の唇を押し付けた。

 

「知ってたか?」

 

「え?」

 

「男と女が口をくっつけることってお互いが好きだったらできることなんだ。

その逆、一方的に相手の口に自分の口を押し付けることもあるがキスとは

好きな者同士が行うことなんだ。こんな感じでな」

 

もう一度軽く触れ合う程度のキス。百代一誠に口づけ、キスのことについて説明した。

 

「・・・・・そうなんだ」

 

「一誠、私とキスをしても・・・・・分からないのか?

私はちょっと恥ずかしいんだが・・・・・いや、聞くのは野暮だったな」

 

「・・・・・?」

 

「分からないなら、分からせればいいだけだ。お前を私の色に染めてやる。ただそれだけだ」

 

急に狩人の眼つきとなった百代。なぜだか知らないが、今の百代は危険だと本能がそう言う。

 

「も、百代?そろそろ帰らない?皆、心配するよ」

 

「そうだな。帰るとしようか」

 

あっさりと当然のように言い、川神院へと帰ろうとする百代。

一誠の手を掴んで上機嫌に鼻歌までする。

 

「一誠、私はお前のことが好きだ。今分からなくても私の気持ちだけは覚えてくれ」

 

「うん、覚えるよ。百代の気持ちを」

 

「ははっ、分かるようになった時の一誠の顔を見てみたいなぁー♪」

 

遠くない未来、最も強い者同士が激突し合い最高の戦いを繰り広げる。

その時まで一誠と百代は知らず共に切磋琢磨をしていくのであった。



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エピソード24

川神院の一角にて集めた落ち葉をアルミホイルで包んだ薩摩芋ごと焼き、

その時が来るのをワクワクしながら待っている面々がいた。

 

「焼けた?焼けた?」

 

「まだじゃぞぃ」

 

「じっくりと芋に熱を与えることが大事なんダ。あともう少しだから我慢ネ」

 

「田舎に帰郷した修行僧の奴が大量に薩摩芋を持って来やがったからな。

今年はその対処に困らなくて済みそうだ」

 

「一誠たちや亜巳たちがいるからな」

 

パチパチと枯れ葉を焼く音とその匂いが面々の鼻に刺激を与える。燃え盛る火を見続けていると、

二人の少女が駆け走ってきた。遅れて強面の大人に囲まれながら近づいてくる少女も。

一誠はその三人に挨拶をして出迎えた。

 

「そろそろ焼けたかのぉ」

 

「では、取り出すとしましょうカ」

 

薩摩芋を取り出し包んでいたアルミホイルを取ったルーは二つに割って具合を確かめた。

 

「うん、いい出来具合ダ。食べれるヨ」

 

「オッシャー!食うぜ!」

 

「いただきまーす」

 

「焼き芋なんて初めてだぜ」

 

「遠慮なく食べるよ」

 

待っていましたとばかり亜巳たちが食べ始めたことで一誠たちも続いて食べ始める。

そんな一時はあっという間に過ぎたとある日、川神院に揚羽と英雄が遊びに来ていた時だった。

 

「百代、一誠よ」

 

「なんだジジイ。今忙しいんだぞっ」

 

「ジェンガをやっておるお主を見れば楽しそうに遊んでおるしか見えんのじゃがな」

 

「因みに天と竜が一番負けているんだよねー」

 

「「うるせっ!」」と反論する当の二人は事実であるが為、顔中に墨でいたずら書きをされていた。

百代にも一つだけ書かれている。

 

「それでどうしたの?」

 

「うむ、二人とも出かける明日に備えて支度をしなさい」

 

「出掛ける?僕と百代だけ?」

 

「向こうは百代の強さを是非とも学ばせて欲しいと手紙に書かれておるのじゃがお主も

連れて行こうと思っての」

 

「どこにだ?」と百代が問うと鉄心は告げた。

 

「今回が初めてのケースじゃが、兵藤家で共に鍛練を行いたいと誘ってきた」

 

「・・・・・」

 

「兵藤家のところでか・・・・・」

 

一誠に視線を向けると、ジェンガをしていた時の表情とは一変して無表情になった。

過去、兵藤家でどんな目に遭っていたのか百代は知っている。だからこそ、百代は言った。

 

「ジジイ、一誠はダメだ」

 

「む?」

 

「兵藤家のところに一誠を連れて行きたくない。私も行きたくない」

 

「理由はなんじゃ?」

 

「一誠が嫌がるから私も嫌なだけだ」

 

否定の言葉と共に強い眼差しを鉄心に向けて固い意志を籠める。

鉄心は一誠と百代の顔を交互に見て白いヒゲを擦る。

 

「(よもや百代が誰かの為に庇うとはのぉ・・・・・それにこの子と

兵藤家の間になにがあるんじゃ?)」

 

「兵藤家で鍛練をか。我は是非とも参加してみたいものだ」

 

「姉上は学校があるではないですか」

 

「一日ぐらい休んでも今後に支障や影響を及ぶわけがなかろう」

 

揚羽は興味を抱き、参加の意思表示をする。鉄心はさらに補足する。

 

「うむ、合同鍛練は一日で終了する。一泊二日の強化合宿みたいなものじゃ」

 

「おお、そうなのか。それでは我も参加してもよろしいでしょうか?」

 

「それは、百代とこの子次第じゃな」

 

百代と一誠に視線を向け、答えを待つ。

 

「・・・・・(コクリ)」

 

「一誠・・・・・!?」

 

しばらく経った時、一誠は無言で頷いた。百代は理解しがたいと目を丸くし驚愕したが、

 

「・・・・・大丈夫、僕は一人じゃないから・・・・・」

 

安心させる笑みを浮かべた一誠に息を一つ吐いて徐に一誠の頭へ手を置いた。

 

「・・・・・分かった。お前は私が守ってやるからな」

 

「む、聞き捨てにならんな。我の命を救ってくれた一誠を今度は我が守ってやるのだ。何からなのか未だに理解しがたいが」

 

百代の発言にそう言うも首を傾げる揚羽。三人の言動に「決まりじゃな」と微笑ましく見て

優しい声で発した。

 

「では、明日の七時には出発する。それまで支度をするようにの」

 

 

―――翌日―――

 

 

鉄心、釈迦堂、ヒューム、百代、一誠、揚羽、オーフィス、リーラが

川神院から出発して兵藤家に赴いた。

 

「オーフィス。リーラさんを守ってね。お爺ちゃんや悠璃、楼羅、

おば・・・・・お姉ちゃん以外の人から」

 

「分かった。リーラを守る」

 

「一誠さま、私は大丈夫ですよ。私を狙う者など兵藤家にはおりません」

 

「・・・・・誰も近づけさせたくないんだよ」

 

「・・・・・一誠さま」

 

一誠の意図を気付き、口元を緩ますリーラだった。最強の龍に守られるメイド。

財宝を守るドラゴンは神話にも登場しており、一誠にとってリーラは宝そのものと等しく

触れさせたくない―――嫉妬をしたのだ。だが、一誠の頭の中では別の理由も浮かんでいるが

リーラはそのことには当然気付かない。

 

「ここに来るのも数十年振りじゃなぁ」

 

「俺はぁ始めてきたが、こいつは凄ぇな。壮大さがハンパねぇ」

 

鉄心と釈迦堂の話を聞きながら装飾と意匠が凝った巨大な門の両側に拳や足を

突き合いだしている人の像が鎮座している門の前に辿り着いた。

二人の門番が得物を手にして佇んでいる様子を見て鉄心が口を開いた。

 

「川神院の川神鉄心じゃ。兵藤家からの申し出を受けに馳せ参じてきたのじゃ」

 

「手紙を」

 

懐から鉄心は手紙を取り出して促した門番に手渡した。内容を確認し門番がもう一人の門番に頷いた。

 

「ようこそ兵藤家へ。兵藤家はあなた方を歓迎致します」

 

重たく鈍い音が聞こえず、門は左右にガラガラとスライドするように動き開いた。

 

「は?そっちかよ?」

 

思っていた展開にならず思わず突っ込んだ釈迦堂だった。

壮大な門がスーパーマーケットのガラス扉のように開いて、拍子抜けた。

 

「さ、お入りください。ご案内いたします」

 

「うむ、あの山の自然は相も変わらず豊かでいいの」

 

「ありがとうございます」

 

門を潜り兵藤家の敷地に侵入を果たすことが叶った。

始めてくる百代と揚羽は忙しなく顔と視線を周囲に向ける。

 

「凄いな。私の家より大きくて広いぞ」

 

「京都のような雰囲気を覚える。雅かな・・・・・」

 

案内する門番に続く。広々とした敷地で人口で作られた川を跨ぐ橋を渡れば古風で

巨大な建物に近づけた。釈迦堂も辺りを見渡しながら漏らす。

 

「山の麓によくとまぁこんな家を建てられたな」

 

「遥か昔、先々代の当主がこの地を兵藤家の聖地として造られたのです。

あの大きな山は我々兵藤家が修行をすることもあります」

 

「山を丸々使ってか。そいつは凄ぇな」

 

案内人の説明に感嘆を漏らす。それから歩いていると数百人の少年少女たちが

固まって集っている広場の一角に歩み寄った。すると、一誠の表情が険しくなった。

苦く辛い思いと記憶が湧きあがり―――。

 

「いっくぅんっ!」

 

「へ?」

 

 

ドンッ!

 

 

何かに襲われ一誠はゴロゴロと転がり数メートル先で止まった。

百代と揚羽が唖然と見ていると、一誠を覆い被さるように黒い長髪の少女がいたことに気付く。

 

「あ、あいつ・・・・・」

 

「知っておるのか?」

 

「ああ、確か兵藤悠璃ってやつだったな」

 

「いっくん」と何度も連呼して嬉しさを身体全体で伝える少女。

だが、いつまでもそうしていられなかった。

 

「悠璃。自分の列に戻れ」

 

子供たちの前で立っていた一人、源氏が厳しく催促した。

不満げな面持ちで源氏を見やるが、渋々と従い並んでいたところに戻ったところで

鉄心が話しかけた。

 

「源氏殿、今日はよろしくお頼みますぞ」

 

「感謝する鉄心殿。そなたの孫娘の強さを若き兵藤家の者たちの刺激になるだろう」

 

「ほっほっほっ。刺激が強過ぎてグロッキーにならんとよいがの」

 

朗らかに笑う鉄心から視線を外し、一誠たちに目元を細める源氏。

 

「何人か招かざる客がいるが・・・・・」

 

「なに刺激多いほど成長するじゃろ?ワシの孫娘のようにこの子らも強いぞー」

 

「・・・・・逆にこちらの刺激が強過ぎてどうなるかわからんぞ?」

 

「売られたケンカは孫娘が全て買う。それでよいじゃろ」

 

不敵に口角を上げて言う。兵藤家との稽古で一誠と百代はその強さを見せつけた。

だから何も心配は無いとばかり逆に挑発したのだ。

 

「ふん、特別に許してやる。―――さて、お前たち」

 

整列している少年少女たちに視線を向けながら山の方へと指を差した。

 

「一時間以内に山の頂上にある寺院から人数分置いている札をここに持ってくるがいい。

この場にいる者が全員ライバル。札をもって来た者から奪っても良し、攻撃しても構わない。

最初の鍛練は野戦。それが終えれば何時ものトレーニングと組み手だ」

 

『ハイッ!』

 

「では位置に付け」

 

ザッと何時も体験をしているのか無駄のない動きをして走る姿勢に構えた。

静寂と緊張に包まれたこの場で源氏は腕を組んだまま口を開いた。

 

「スタートだ」

 

 

ワァアアアアアアアアアアアアアッ!

 

 

一斉に山の方へと駆けだす少年少女たち。対して一誠たちは―――。

 

「一誠、勝負だ!」

 

「我とて負けん!」

 

「それじゃ、オーフィス。頼んだよー」

 

「いっくん、一緒に行こう?」

 

「お供します一誠さま」

 

三人から五人に増えて遅れながらも山へと向かった。

 

 

―――○●○―――

 

 

ザザザザッ!

 

「この辺りの木は太くて枝も丈夫だから上から移動した方が速いんだ」

 

「ほう、山の事を知り尽くしているんだな」

 

「・・・・・うん、まぁね。しょっちゅうこの山に来ているから」

 

木から木へと飛び移り、蹴って移動し続ける一誠たち。下では懸命に急斜面な山を登る子供たちがいて

一誠たちの存在に気付いていない。悠璃と楼羅も知っているかのように

軽々と一誠の動きに合わせている。

 

「だけど、寺院があるなんて知らなかったなぁ。二人は知ってた?」

 

「ううん、こないだまでは知らなかったよ」

 

「最近こんなことをするようになりましたので」

 

と、雑談をしながら登っていく。木から降りて地面を駆けたり他の子供たちを

通り越して行き続ければ古ぼけた外壁が見えてきた。一誠は後ろへ一瞥して前に向き歩き始めた。

 

「よう、遅かったな」

 

「・・・・・」

 

腕を組んで不敵に口角を上げて一誠を嘲笑うような仕草をする金髪に黒目の少年と取り巻きらしき複数の少年もいた。

 

「まさか、あんな弱虫が早く来るとはな。絶対に最後辺りでくるだろうと思ったのにな」

 

「・・・・・」

 

無言で話しかけてくる少年に見詰めると少年はニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「なんだ、ビビってるのか?女に囲まれてる貧弱なお前が俺たちに―――」

 

一誠は難しい顔で首を傾げ、話しかけて掛けてくる金髪の少年に指を突き付けた。

 

「お前、誰?」

 

「・・・・・」

 

『・・・・・』

 

一言で場の空気が静寂に包まれた。金髪の少年と取り巻きの少年たちもその言葉に

「え?」「は?」と呆然としていた。

 

「一誠、知らない奴だったのか?」

 

「金髪のあいつとは初めてだよ」

 

「そうか、それじゃ札を取るか」

 

スタスタと百代が動き始める。金髪の少年たちの背後の寺院の中に入れば大量の

木の札が番号を記していて百代はその札を自分のも含めて五枚を手にし、

寺院から出ると一誠たちに手渡した。

 

「これで終わりか。随分と呆気ない」

 

「いっくん。帰ろう?」

 

「後は戻るだけですからのんびりと行きましょう」

 

寺院の門を潜って外に出た瞬間。「ちょっと待てやおいっ!」と呼び止める声が

聞こえたが一誠たちは木の枝を伝って山から降りて行った。

 

「ただいまー」

 

一度も戦いで足止めされず、無事に五人は兵藤家に戻れて五つの札を源氏に渡した。

札を確認し一度頷く源氏は問うた。

 

「他の者たちは?」

 

「何度も擦れ違いました。既に到着していた男子がいましたがのんびりと寛いでいたので」

 

「・・・・・」

 

表情には出さないが内心嘆息していた源氏だった。しばらくして金髪の少年たちも戻ってきた。

 

「おい!本当に分からねぇのか!」

 

「誰だよ金髪」

 

「誠輝だ!誠輝!」

 

「・・・・・誠輝?・・・・・ああ、どうしたのその髪」

 

「お前にだけは言われたくない!先にイメチェンをしたのはお前なんだからな!

だから女にモテるようになったんだろうが!」

 

勘違いも良いところだと一誠は思った。好きでこの姿になったわけじゃないのだ。

それに、

 

「モテるってなにさ」

 

「・・・・・フザケているのかっ」

 

「・・・・・?」

 

純粋な眼差しで小首を傾げる一誠。本当に理解ができないとそう感じていると、

 

「お前は好きという気持ちすら分からないからな。モテるなんてどういうことなのか分からないだろ」

 

百代が優しくポンポンと一誠の頭を叩く。

 

「一誠、簡単に言うぞ。お前は男で私たちは女だよな?」

 

「ん?うん」

 

「んで、あっちには女が一人もいない」

 

「そうだね。で?」

 

「つまり、四人の女の私たちがお前と一緒にいるから

あいつはモテていると思っている。モテるということは

複数の女に話しかけられたり、一緒にいたり、遊んだりしている男女の様子の事を言うんだ。

分かったか?」

 

コクリと百代の説明を理解したのか首を縦に振って頷いた一誠。

 

「それって好きな人と一緒にいたいって気持ちに関係ある?」

 

「大有りだぞ一誠。現に私はお前のことが好きだぞ?」

 

「「なっ!」」

 

悠璃と楼羅が始めて目を丸くした。一誠に好意を寄せる敵が傍にいたとは

思いもしなかった故に行動も早かった。

 

「いっくんは私と楼羅が先に好きになったの!」

 

「一誠さまは渡しません!」

 

一誠の両腕を抱き付いて自分のものだとアピールしたのだ。だが、百代は態度を変える

どころか優越感を浸っていた。

 

「それだけで満足するならいいぞ。私は―――一誠と口づけをしたのだからな」

 

「「―――――っ!?」」

 

石のように固まった二人に始終笑みを絶やさない百代。揚羽は中立の立場で様子を見守っていた。

 

「・・・・・許さない」

 

「・・・・・一誠さまのファーストキスを・・・・・」

 

「あ、一誠の始めてを奪ったのは別の女だからな?私はセカンド・キスだ」

 

油に火を注ぐ百代。二人の怒りのボルテージがMAXを越え―――闇と影が生まれた。

 

「お、なんだ?」

 

「「殺す」」

 

闇と影が百代に襲いかかってきた。百代は驚きながらも

 

「ははは!なんだそれは、一誠と同じ力を持っているのか!」

 

ソレらを避け続けながらも面白そうに笑っていた。

 

「いかんな・・・・・」

 

源氏は険しい表情を浮かべ、怒りで我を忘れているのかもしれない愛娘の二人を見やる。

一度経験した闇と影を一瞥して一誠に声を掛けた。

 

「悠璃と楼羅を止めよ」

 

「え?僕が?」

 

「方法はお前に任せる」

 

そう言われ、頷くと歪んだ空間から鎖が飛び出して百代に襲いかかる闇と影を縛りあげた後に。

 

「えっと、ごめんね」

 

悠璃と楼羅の身体を縛った瞬間に闇と影が消失した。

 

「これでいいの?」

 

「ああ、すまぬな。しかし、それは能力を封印する類いのものだったか」

 

「まーねー」

 

縛られた二人は懇願する。

 

「これ解いて!今すぐあいつを殺す!」

 

「ダメだよ、百代に攻撃すると嫌いになるよ」

 

「そ、そんな殺生な・・・・・!」

 

恋する乙女は盲目ということか・・・・・。

源氏は思わず天を仰ぎ、この場を治められる人物を求めた。

 

「羅輝、羅輝!」

 

叫びだす源氏に呼応して縁からすっと現れた着物姿の女性。

 

「あらあら、なにか?」

 

「この二人を止めてやってくれ。暴走しそうだ」

 

「そうですの。あら、一誠ちゃん・・・・・ふふっ、丁度良いですわ。

一誠ちゃん、ちょっと協力してくれる?」

 

「なーに?」

 

縛られたままの悠璃と楼羅を掴み上げて一誠と共にどこかへいなくなった。

 

―――数分後―――。

 

「「・・・・・」」

 

耳まで真っ赤な二人の少女が戻ってきた。その後ろに羅輝と一誠もいて、

リーラが一誠に声を殺して聞いた。

 

「一誠さま、なにをなされたのですか?」

 

「おば・・・・・お姉ちゃんの言う通りにしただけだよ?」

 

「・・・・・羅輝さま」

 

「ほほほ、怖い顔をしたら一誠ちゃんに怖がられますよ?大丈夫、二人の特効薬という一誠ちゃんに

ちょっと大人の階段を一段、登らせただけですわ」

 

意味深な発言をする羅輝。リーラは一誠がなにをしたのか大体把握した。

そうこうしていると、山から次々と少年少女たちが降りてきた。中には戦って怪我や

汚れが目立つ子供が少なくなかった。その後、休憩をした後に数十分時間を掛けての

トレーニングが行われた。

 

「次は組み手だ。山から札を持ってきた数字で呼ぶ。

武器を使いたい者は用意した武器か自分の武器を使うがいい」

 

源氏の説明を聞き、一誠はリーラに話しかけた。

 

「リーラさん。あの剣を使っていい?」

 

「構いませんが大丈夫ですか?武器を扱ったことなどなかったはずです」

 

「何事もチャレンジだって父さんたちが言ってたから。それに負けるつもりは無いよ」

 

不敵に笑む一誠に了承したリーラは懐から一枚のカードを手渡した。

源氏が数字で二人を呼び始め、数百人の少年少女たちの前で組み手を始めだした。

組み手の様子をジッと一誠は一瞬も見逃さず組み手の一部始終を見ることしばらくして、

 

「二番と四十一番」

 

一誠がようやく呼ばれた。少年少女たちに円状で囲まれる中、一誠と相手が中央に。

相手は力が自慢なのか身の丈を超える質素な大剣を担いでいた。

 

「素手で武器を持っている俺と戦うのか?ま、手加減はしねぇけどな」

 

「別に手加減しなくて良いよ。それに僕も武器があるし」

 

「どこにだよ?」

 

「ここだよ」

 

リーラから貰ったカードが光と成って弾け

宇宙にいると思わせる程の常闇に星の輝きをする宝玉が柄から剣先まで埋め込まれてあり、

刃の部分は白銀を輝かせ至る所に不思議な文様が浮かんでいる装飾と意匠が凝った

金色の大剣が一誠の目の前に現れた。

 

「な、なんだよそれ・・・・・」

 

「僕の武器だよ。まだこれで戦うのは慣れていないからちょうどいいや」

 

柄を掴み、前に構えた一誠に相手も構えた。審判を務める源氏が発した。

 

「始めっ!」

 

両者が地面を蹴り出して前へ大剣を振り下ろした。鈍く鋭い音が二人の戦いの合図と成り、

慣れない武器で戦う一誠の戦いは始まる。

 

「こんのぉっ!」

 

両手で横薙ぎに払う相手に対して一誠も上段から思いっきり振り下ろして受け止めた。

 

「この、バカ力が!」

 

「キミにだけは言われたくない!」

 

どちらも一歩譲らず、鍔迫り合いが続くかと思えば二人同時後退して再び斬りかかった。

振り下ろし合って刃と刃をぶつけ合い、手にまで伝わる震動と衝撃に握力の感覚がマヒをしかける

まで互いは相手を負かす勢いを籠めて武器を振るい続けた。

 

「―――ここだっ!」

 

「っ!」

 

一誠の大剣が相手に上へ弾かれてしまった。

 

「武器がないんじゃ、戦えないよな!」

 

肉薄する相手に武器を失った一誠は両手を合わせ腰にまで姿勢と共に落とした。

 

「僕の武器は一つだけじゃないよ」

 

両手の間に光る球体が集束した。空高く飛びあがって大剣を振り下ろす相手の顔には

勝利を確信した表情から一変をし、

 

「もう一つの武器は僕の身体なんだからね」

 

不敵に漏らす一誠が両手を前へ突き出して、集束した気を放った。

 

ドウッ!

 

と極太の気のエネルギー砲が相手を呑みこんだ。

誰もがその光景に開いた口が塞がらず目を大きく見開いていた。

突然起きた目の前の現象に息を呑み、思考が停止するほどだ。

 

「・・・・・ふぅ」

 

いい仕事したとばかり、溜息を吐いて上に弾かれて落ちてきた大剣をキャッチした後に言った。

 

「イェイ、勝ったよ!」

 

ドサッと落ちてきた相手に背を向け、リーラにピースサインをした一誠であった。

 

「(よもや・・・・・あの孫がここまで成長するとは・・・・・)」

 

源氏はあの頃の弱い一誠の姿形、影すら残っていないことに小さく口元を緩ました。

腹立たしいが、誠の行動も認めなければならんと心の中で思い、リーラに笑む一誠に

百代と揚羽が抱き付き、悠璃と楼羅が熱い視線を向ける光景を一瞥して組み手を進めた。

百代と揚羽も組み手を参加し、相手を負かす結果は必然的であった。



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エピソード25

川神院に居座るようになり一年が経とうとした。一誠は次の修行と場となる行き先を

父、誠から聞いていた。

 

「一誠、次は天界だ。天国がある異世界だぞ」

 

「神王のおじさんがいるところだったよね?」

 

「ああ、そうだ。実際、天界でどんな修行をしてくれるのか俺も予想付かないんだが」

 

小首を傾げ「ふーん」と一誠が相槌する。実際、一誠も天界はどんな所なのか分からない為、

誠の言うことも分からなくは無いと言った感じだ。

 

「父さんと母さんは天界行ったことがあるの?」

 

「いやーはは、重要人物と会うだけで天界に行ったことがないんだこれが」

 

「だから、一誠と行くのが楽しみなのよ」

 

一香も同意し朗らかに笑んだ。釣られて一誠も笑みを浮かべる。

 

「そういや、兵藤家で鍛練したんだって?どうだった」

 

「うーん、僕と組み手した子は強かったよ。勝ったけどね」

 

「くくくっ、そうかそうか。その調子でどんどん強くなって兵藤家を見返してやれ」

 

「うんっ!」

 

目的の一つであることに力強く返事をした。すると、この場の金色の魔方陣が出現した。

光と共に装飾が凝った中年男性が現れ豪快な笑みを浮かべた。

 

「よう坊主。久し振りだな」

 

「久し振り神王のおじさん!」

 

「ユーストマ?どうしてここに?」

 

神王ユーストマの登場に誠と一香が不思議そうな顔で見る。

 

「ああ、次は天界にくるんだろ?そのことで話しをしに来たんだ。お前らもいて助かった」

 

その場で腰を折って座りだす。そして申し訳なさそうな顔であることを告げた。

 

「天界に来ることは構わないが、坊主は違う場所で強くなってもらいたい」

 

「どういうこと?」

 

「問題は無いんだ。だが、坊主が修行する場所がないんだ。俺もミカエルもヤハウェさまも

そのことについて相談しているが如何せん・・・・・な」

 

頭をガリガリと掻きながら説明するユーストマを一誠は追求した。

 

「どこにいけばいいの?」

 

「ヨーロッパだ」

 

「「ヨーロッパッ!?」」

 

天界ではなく異国のヨーロッパに修行する事となった一誠。誠と一香は声を揃えるほど驚愕した。

後に誠は思案顔で呟く。

 

「天界がヨーロッパに関わりあるものと言えばローマ教皇を中心した教会。

まさか、一誠を協会に預けるというのか?」

 

「そうだ。教会に預けるからには坊主にとってちょっとキツイ生活習慣を強いられるがどうだ?」

 

ユーストマの問いに一誠はどんな風に強くなれるのか尋ねた。

 

「そこで僕はどんな修行ができるの?」

 

「主なことは実戦経験を得ることだな。教会は主に魔に属する者と戦うことが多い。

魔物とか吸血鬼とかな」

 

「実戦・・・・・タンニーンとの修行みたいな感じなんだね」

 

「おっ、元龍王と組み手をしたのか。そいつは良い経験だ。だが坊主。

今回お前が修行する場は命を懸けた戦い、坊主が弱かったら魔物に殺されるそういう

ところだ。それでも強くなる為に敢えて望むか?」

 

真剣な表情となったユーストマ。無理強いはしない。もしも嫌と言うならこの話は

無かったことにし、別の場所で修行してもらう予定でいる。

 

「うん、強くなりたいから僕頑張るよ」

 

だが、愚直なまでの純粋な一誠はそれを望んだ。ユーストマは敢えて心を鬼にして言った。

 

「嫌だと一言でも俺の耳に聞こえたら坊主の修行を止めさせるからな?」

 

「それでもいいよ。僕は父さんのように強くなりたいもん」

 

「ああもう、嬉しことを言ってくれるぜ我が息子は!」

 

嬉しさのあまり誠は一誠を抱きしめた。一香は複雑そうな表情を浮かべるが一誠が

決めた事なら口出しはしないという姿勢でいる。リーラとオーフィスは無表情で

何を考えているのかは分からない。だが、どこまでも一誠について行く気は満々だ。

 

「男に二言はないぞ?」

 

「言わないもん」

 

「よーし、言ったな?なら俺から何も言うことは無い。坊主たちが住む場所は俺が

確保してやる。毎朝教会に顔を出すようにな。俺もたまに顔を出すぜ」

 

腰を上げて立ち上がったユーストマは魔方陣を展開した。

 

「それじゃ、また来るぜ」

 

それだけ言い残してユーストマはいなくなった。

 

「ヨーロッパか・・・・・ギリシア、北欧神話に出てくる神や人物が大勢いるところじゃないか」

 

「良かったわね一誠。オー爺ちゃんと会えるかもしれないわよ?」

 

「え、そうなの?会ってみたいなぁー。会えるかな?」

 

「あの御方が住んでいる場所は特殊なところですので難しいかと思いますが・・・・・

お二人はどうやってオーディンさまとお会いになられたのですか?」

 

「ん?それっぽい所に一香の魔法で入ったんだ」

 

「ええ、普通に入れたわ。一誠がヨーロッパにいると知らせたら来てくれるかもね」

 

―――やっぱりこの二人は有り得ないとリーラは思った瞬間だった。

 

「ま、神々と会いに行くのは良いとして一誠。吸血鬼は気をつけろよ」

 

「強いの?」

 

頷いた誠は説明し始めた。

 

「一誠からしてみれば厄介だろうな。力が強く変幻自在、神出鬼没で虫や動物の姿に

成ったりすれば操ることもできる。弱点を言えばニンニクや十字架で刺す、

太陽や聖なる光に弱いな。特徴は顔色が悪く、影がないことだ。

もしも吸血鬼に出会ったらメリアの力を使え」

 

「メリアの?創造の力で?」

 

「メリアは聖なる光の力を有しているドラゴンだ。翼を照らせば吸血鬼は逃げるだろうが、

諦めずまた襲いかかってくる可能性がある。もしもそんな時になったら教会に逃げ込め。

自分から吸血鬼と戦う必要ないからな」

 

「分かった」

 

誠から吸血鬼の情報を得て、対処方法も理解した。後はヨーロッパに行く日を待つだけである。

 

 

―――○●○―――

 

 

季節は冬。既に雪が降り始めていて気温も低下。

吐く息が白く、身体を震わすほど寒い冷気を感じる最中

川神院はクリスマスパーティーを行っていた。川神院に住むメンバーだけではなく、

 

「久し振りね一誠!ああ、見ない間になんか格好良くなっちゃって・・・・・」

 

「今日一日は一誠から離れないからね!」

 

「にゃー、飼い猫を放ったからしにする悪いご主人様にゃん」

 

「お兄さま、色々とお話を聞かせてください」

 

「一誠、強くなったんだね。以前より力を感じるよ」

 

リアスを始め、冥界から久し振りに再会したメンバーもいれば、源氏と羅輝、悠璃と楼羅もいて

 

「よー、まー坊。今日はとことん飲むぜぇ!」

 

「勿論だよ神ちゃん。ほら誠ちゃんも飲もう飲もう」

 

「久し振りに飲み比べでもするか!な、アザゼルよ」

 

「おいおい、俺まで誘うかぁ?いいぜ、やってやろうじゃん」

 

「デハハハハハッ!ワシらも参加するぞぉっ!」

 

「ガハハハハハッ!どんどん酒を持ってこぉい!」

 

「久し振りのクリスマスパーティじゃのぉ孫よ」

 

「そうだねー」

 

《相変わらず騒がしい奴らだ》

 

「いいじゃねぇーの。こうして集まるのは今日一日だけじゃて」

 

―――百代たちにとって見たこともない存在までもが川神院にいた。明らかに人間ではない者たちもいる。

 

「な、なんか凄い」

 

「ガイコツだ。ガイコツがいるぞ」

 

「猿みたいなやつもいるね・・・・・」

 

「むー、一誠くんと一緒にいたいのに・・・・・」

 

亜巳たち兄弟姉妹(辰子を除く)は異様なメンバーを目の当たりにして緊張で委縮状態。

そんな中、一誠はエスデスにあるものを渡していた。

 

「はい、エスデス。約束通り創ったよ。誕生日プレゼント!」

 

「あ、開けていいか・・・・・?」

 

「勿論」

 

二つの箱を開けて中身を取り出すエスデスの目は歓喜の色で一杯だった。

百代と同じネックレスと指環が納められていた。宝石はラピスラズリ。日本では瑠璃色と呼ばれている。

 

「綺麗だ・・・・・」

 

「気に入ってくれた?」

 

「気に入らない訳がないだろうっ」

 

嬉しさで涙目になるエスデスは涙を腕で拭いて、ラピスラズリの指環を一誠に手渡して

日照り手を突き付けた。

 

「お前の手で薬指に嵌めてくれないか?」

 

「ん?うん、わかった」

 

一瞬疑問したが、エスデスの頼みに指環を薬指に嵌めてやった。薬指に嵌められた

指環を愛おしそうに見詰めた後、エスデスは一誠に目を向けて口を動かした。

 

「ありがとう。お前からくれた物は大事にする」

 

「うん、そうしてくれると僕は嬉しいよ」

 

「勿論だ。だからお返しに私からもプレゼントだ。目を瞑ってくれないか?」

 

素直に言うことを聞き目を瞑ったら口に生温かい感触が伝わり、耳から絶叫が聞こえた。

 

 

『あなたっ!一誠にな、なななんてことっ!』

 

『ふはははっ!一誠とキスを二度もしてやった!』

 

『に、二度?二度もしたの!?』

 

『楼羅、こいつだけは殺すよ!』

 

『この方でしたか・・・・・一誠さまの始めてを奪った女はっ!』

 

『エスデス、お前は少し調子乗り過ぎだぁっ!』

 

『私も一誠くんとするー!』

 

『わ、私も・・・・・』

 

『ふむ、我もやってみようか』

 

 

「・・・・・?」

 

もうそろそろ目を開けていいのかな?と思った一誠は目を開けるとエスデスたちの姿がなく、

外からけたたましい音が聞こえ、そちらに振り返るとエスデスVS複数、女の戦いが勃発していた。

 

「皆、どうしたの?」

 

「一誠さま、アザゼルさまのようにはならないでください」

 

「ん?どういうことなのか分からないけど分かった・・・・・って九鬼ちゃん?」

 

「揚羽と呼べ」

 

揚羽が一誠の前で跪きながら言い、顔を掴んだ。

 

「揚羽?」

 

「うむ、これからはそう言うがいい。我が命を救ってくれた一誠よ」

 

「それはもう済んだことだから気にしなくても良いんだよ?」

 

「我もそう思っておるのだが如何せん・・・・・お前の顔が頭から離れぬのだ。

お前のことを考えることが多く、人はこれを恋と言うのだ。

だから一誠、お前は我の婿と成り夫となれ」

 

有無を言わさず一誠の唇を奪った揚羽。だから必然的にリアスたちの攻撃の矛は揚羽にも向けられる。

 

「おい、お前はどんだけ女に好かれるんだぁ?」

 

「僕のこと好きなの?好きってことがあまりわからないけど」

 

「・・・・・人としての当たり前のことを疎くなっているのか。―――おーい、お前ら」

 

アザゼルは外にいるリアスたちに声を掛けた。殺気立っているリアスたちは取り敢えず

耳だけはアザゼルに向けている。

 

「俺が許す!一誠とチューをしまくれっ!遠慮はいらないぞぉー!」

 

「え?なんでそんなこと・・・・・ひぅっ!」

 

ゴゴゴゴ・・・・・ッと異様なプレッシャーを感じ、一誠は身体を竦めた。

 

「アザゼル、それじゃ逆に彼が女の子に恐怖心を抱くんじゃないか?」

 

「あー・・・・・みたいだな」

 

失敗したとばかり狩人の目つきと成っているリアスたちをアザゼルは見て苦笑を浮かべた。

一方、一誠はリーラに縋って震えていた。

 

「リーラさん・・・・・なんか、今のリアスたちが怖いよ・・・・・っ」

 

「大丈夫です。私が命を掛けてお守りいたします。

その前にアザゼルさまにはお灸をしなくてはなりませんね」

 

「んなっ!?」

 

「・・・・・うん、何だか僕もそう思ってきた」

 

ジャラリと空間から数多の鎖が出て来てそれら全てがアザゼルに向けられている。

身の危険を自分まで感じたアザゼルは無駄な弁解を始めた。

 

「えーと、イッセー?女の子に好きということを知る勉強なんだぞこれは?

だからその鎖を仕舞え、な?」

 

「あんな怖い今のリアスたちが僕のことを好きだとは思えないよ!寧ろ身の危険を感じるんだもん!」

 

『―――っっっ!?(ガーンッ!)』

 

「・・・・・あー、お前、今の言葉であいつらすんごいショックを受けたぞ?」

 

可哀想な子を見る目で視線を送ったアザゼルの視界に、降り続ける雪の中で四つ這いに

なって落ち込むリアスたちが映り込んだ。後にアザゼルはバラキエルに羨望の眼差しを

向けられながら鎖に拘束され、酔っ払った大人と神々の弓矢の的とされる中で

クリスマスの時間を過ごしたのだった。



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エピソード26

そして、ついに別れの日がやってきた。

一誠とオーフィス、リーラは川神院に居座ってから交流するようになった面々に見送られている。

 

「一誠、また・・・・・会えるよな?」

 

「うん、絶対に戻ってくるよ」

 

「じゃあ、戻ってきたら私と勝負してくれよな」

 

「分かった。その時は決着も付けようね」

 

「お前が戻ってきた頃に私は今より強くなっているだろうがな」

 

「それは僕も同じだよ」

 

百代と一誠は拳を突き付けて最後の別れを告げた。

 

「亜巳、竜兵、辰子、天。キミたちも元気でね」

 

「絶対に帰って来いよな!」

 

「まっ、お前に心配されるようなヘマはしないさ」

 

「お前も元気でいろよ」

 

「ううう・・・・・一誠くんがいなくなっちゃうのはやだよ・・・・・」

 

四者四様、一誠と別れの挨拶を告げた。辰子は渋っていたが一誠が徐に金色の杖を

具現化させて力を振るった。一誠がなにを作りだしたかと思えば。

 

「はい、これを僕だと思って寝てね?」

 

金色の長細い枕。一誠は所謂抱き枕を辰子に作ってやり渡した。

 

「・・・・・うん、これで我慢する」

 

ギュッと枕を抱きしめると立ったまま寝始めた辰子から視線を逸らした。

 

「エスデス、学校に行けれるようになったら友達を作ってね」

 

「できたらな。だが男との友達は作る気は無い。お前だけでいいからな」

 

「もう、そんなこと言っちゃダメだよ?」

 

苦笑いを浮かべているとエスデスが抱き付いてきた。

 

「外国に行っても、私のことを忘れるなよ」

 

「忘れないよ。エスデスと最初に出会った時はとても凄かったんだからね」

 

「あ、あの時のことは忘れろっ」

 

淡く朱を顔に散らばませてプイと顔を逸らしたエスデス。

 

「揚羽、僕はいなくなるけど元気でね?」

 

「お前がヨーロッパにいる間、我ももしかしたらヨーロッパに行くかもしれん。

その時はお前のことを探し出してやるからな」

 

「じゃあ、その時はお土産をちょうだい?」

 

「分かった。では、楽しみにしているがいい」

 

不敵に笑む揚羽と握手を交わしたあと、

 

「こゆき、京。元気でね」

 

「「うー・・・・・一誠、行かないでよ・・・・・」」

 

「二人揃って同じことを言わないでよ」

 

困った顔をして、抱きついてくる二人に抱きしめ返した。

 

「京、イジメに負けないでね?百代に頼ることも大事だから」

 

「・・・・・うん、分かった」

 

「こゆき、いっぱい友達を作って元気でいてね」

 

「うん、頑張る」

 

それからお世話になった鉄心やルー、釈迦堂にも別れの挨拶をしたら

リーラから促しの声が掛かった。これが最後だとばかり、一誠は満面の笑みを浮かべ

大きく手を振った。

 

「それじゃ、行ってくるね皆!」

 

皆に見送られる中、一誠たちは空港へ向かった。

 

「行ってしまったのぉ・・・・・」

 

「あいつらといた一年は忘れられねぇな」

 

「そうだネ。いい思い出を残してくれたヨ」

 

「師匠、早速稽古をしよう!」

 

「なんだ、坊主がいなくなって寂しがるのかと思ったらやる気あるじゃねぇか」

 

「一誠はもっともっと強くなるんだ。再会したときに私が弱いままなんて嫌だ!

だから私も一誠と張り合える位の強さを身に付ける!」

 

「ははっ、そうかよ。たくっ、しょうがねぇな。ほら、お前らもついてこい、稽古をするぞ」

 

「(釈迦堂の心にも変化が起きているようですネ)」

 

「(ほっほっほっ。あの子には感謝することができたのぉ。川神院は安泰じゃ)」

 

だが、ほんの数時間後。一誠たちは災難な目に遇っていた。

 

―――○●○―――

 

東京の波嶺騨空港に到着しヨーロッパ行きの飛行機に乗り込み、問題もなく出発した。

真っ直ぐヨーロッパへ飛行する最中、初めての飛行機に目を輝かせてオーフィスと窓の

外、空を見ていた。

 

「オーフィス、凄い眺めだね」

 

「雲がわたあめみたい」

 

「そうだねー」

 

西に飛行する乗客、乗員合わせて百人以上の人を乗せる飛行機。

ヨーロッパはどんなところなのか、胸に期待を膨らませて睡魔に襲われながら思って眠った。

 

 

―――数時間後―――。

 

 

突然だった。ガクンッ!と、飛行機が揺らいだのだ。

 

「ん、なに?」

 

「揺れた」

 

眠っていた一誠が目を覚まし、オーフィスがポツリと原因を告げた。

乗客たちも異変を感じたようでざわめき始める。

 

「リーラさん、どうしたの?」

 

「いえ、気流とぶつかった模様かと」

 

「ふーん」

 

気流と言われてもまだ幼い一誠にとってチンプンカンプンなことで何気なく

窓の外を眺めた。眠っている間、随分遠いところまで飛んでいたようで最後に

見た光景とは違い、銀色の大地が見えていた。そして銀に覆われた巨大な山が見えくる。

 

「綺麗だねー。雪山かな?」

 

「アルボルズ山脈の中部ダマーヴァンド山でしょう」

 

リーラが一誠の肩から顔を出す感じで窓の外を見た。リーラと共々しばらく外を見ていると

ヌゥッと窓の向こうからギョロリと獣のような目が雪山を遮ってこちらを覗くように動かしていた。

 

「・・・・・リーラさん、これ、なに?」

 

「・・・・・まさか」

 

―――刹那。

 

『見つけた』

 

鋭い鉤爪が、巨大な手が飛行機の壁を突き破って一誠たちを外へ引き摺りだした。

その結果、飛行機は損傷してかなり危険な状態で飛行する光景を目の当たりにした

一誠は金色の杖を具現化して、

 

「氷れっ!」

 

開いた穴に氷を張って塞いだ。そのおかげか飛行機は状態を保ったまま航空するが、

一誠たちは雪だらけの地上へ落下していくばかり。

 

「リーラさん、ドラゴンになって良い!?」

 

「構いません!」

 

「よーし!」

 

一瞬の閃光が一誠を包み弾け、金色の巨大なドラゴンへと成った一誠は空中でリーラと

オーフィスを背で受け止めた。

 

『ううう・・・・・ここ寒い』

 

「しばらくのご辛抱を。ですが、今のは一体・・・・・」

 

「イッセー、上から来る」

 

『え?』

 

オーフィスの指摘に一誠が目を上に向けた瞬間、黒い巨大な影が迫っていた。

慌てて間一髪避けると影は通り過ぎた。

 

『今のなに!?』

 

「あれ、ドラゴン。懐かしいドラゴン」

 

「オーフィスさまが御存じのドラゴンですか。では、あのドラゴンはなんですか?」

 

「天龍と邪龍に近いドラゴン・・・・・『天の邪龍』アリュウ」

 

入り乱れた神々しさと禍々しいオーラが纏う頭部に二本角を生やしたドラゴン。

タンニーンより二回り大きく、白と黒の紋様みたいな模様が全身に広がり、

尾が二尾なドラゴン。ニ対の巨大な翼を生やし、紫の双眸が一誠を見据える。

 

『オーフィス。このような場所で龍神のお前と会うとはな』

 

「久しい、アリュウ。でも、どうしてここにいる?」

 

『答える必要があると思うか?』

 

「どっちでもいい。けど、我とイッセーは戦うつもりは無い」

 

『そうはいかん。珍妙なドラゴンが目の前にいるのだ。

ひとつ、どれだけの実力なのか試してやる。―――久方ぶりに死闘を興じようぞ』

 

咆哮を上げたアリュウ。戦意が満ちた双眸が一誠に向けた。

 

「イッセー、逃げる」

 

『逃げるってどこに!?』

 

「アリュウは邪龍と同じぐらい厄介。アルビオンとドライグの次に強い。

もう一匹の天龍と謳われているドラゴン。だから、今のイッセーじゃ勝てない」

 

『それって実際どれだけ強い―――うわっ!』

 

身体全体からレーザービームのような光線を放ったアリュウから離れる。

一つ一つのビームの威力は強大で、銀色の大地に次々とクレーターを作るほどだった。

 

「とにかく逃げる」

 

「オーフィスさまなら倒せるのでは?」

 

「あいつ、ドラゴンから奪った魔力を探知して襲いかかってくる。

我も奪われたら追いかけられるから無理」

 

「魔力を吸収能力があると言うことですか。ならば物理的な攻撃でならば」

 

「ん、アリュウを倒すならそれがいい。でも、アリュウは強い」

 

逃げ惑う一誠の背で話し合っている二人だが、執拗にアリュウは追いかけてくる。

 

『どうした。お前はその程度か!』

 

『僕はまだ子供だよ!それに戦う理由もないのにどうして戦わないといけないのさ!』

 

『その姿はハッタリか。お前からオーフィスの力を感じるというのにな!』

 

『僕はまだ修行中だいっ!』

 

『ならば、今はそれが修行だと思え!』

 

『無理ぃっ!』

 

どこに行こうとも、逃げようとも追いかけてくるアリュウ。

そんなアリュウにリーラはグンニグルを展開して攻撃を始めた。だが、軽やかに回避されてしまった。

 

「けん制ではまったく通じませんか」

 

「イッセー、頑張る」

 

『何気にこの状態はタンニーンと修行したような感覚だよ!』

 

『ほう、タンニーンと出会ったのか。そいつはどこにいるか聞かせてもらおうか!』

 

『何か殺る気が増した!?』

 

山にまで逃げる一誠。背後から光線が放たれ、

直撃コースではリーラとオーフィスが相殺し防いでいくが

 

『しつこいと嫌われちゃうの知らないの!?』

 

『生憎だが、俺に好く物好きなドラゴンはいない』

 

『いたらどうする?』

 

『邪魔だから消す』

 

『・・・・・』

 

このドラゴンは会いたくなかったと一誠は心の中で泣いた。

しばらく逃げ惑い、山に沿って急上昇する際にリーラが指摘した。

 

「一誠さま、山に向かって攻撃してください!」

 

『分かった!』

 

口内からタンニーンと同じような攻撃をと思い浮かべ、火炎球を吐けば、

リーラとオーフィスも山に攻撃を始めた。すると、その衝撃で山に積もっている雪が

波のように激しく怒濤に迫ってきた。

 

「そのまま真っ直ぐ!」

 

リーラの指示に従い、雪崩に突っ込む一誠。グンニグルの一撃が一誠の進む道となり

雪の中を突き進みついには抜け出した。

 

『で、出られた・・・・・。さ、寒い・・・・・』

 

「あの雪崩でアリュウが身動き取れていなければいいのですが」

 

「・・・・・アリュウの気配が感じなくなった?」

 

オーフィスの疑念は一誠とリーラにも伝わり、アリュウの姿を捉えようと目を辺りに動かすと。

 

『―――俺はここだ』

 

『えっ!?』

 

突如、一誠の至近距離から歪んだ空間から顔を出すアリュウが極太のエネルギー砲を放った。

回避する暇もなく、リーラとオーフィスを包むように手で覆って全身に金色の球体状の膜を

張った瞬間に攻撃に当たってそのままダマーヴァント山に墜ちる。

 

ドゴゴゴゴゴゴゴッ!

 

勢いは留まらず、穴を作りながら地下深くまで突き進む。

それほどまでアリュウの攻撃の威力は凄まじいと認識させられる。

そして一誠たちは空洞があるところで止まった。

 

『だ、大丈夫・・・・・?』

 

「一誠さまこそ、お怪我は」

 

『全力でガードしたから怪我はないよ』

 

ここで何時までも隠れているわけにはいかないと一誠は思うが、

戦いやすくするため龍化を解いた。

 

「この姿なら負けないぞっ」

 

ドラゴンの翼を展開して意気込む。神器(セイクリッド・ギア)を使えるようになり、

ネメシスの能力を駆使すれば相手の力を封じることも可能だ。一誠はネメシスの力を使って

早々に逃げる算段だ。リーラとオーフィスに自分の身体にしがみ付くようにと言おうとした矢先、

ズシンと鈍い音が聞こえてきた。

 

『―――――フハハ。こいつは珍しい。珍しすぎて愉快だ』

 

「今度は誰!?」

 

『こっちだ』

 

ジャラリと金属同士が擦れる音。音がした方へ振り向くが常闇のように真っ暗な洞穴で何も見えない。

ドラゴンの翼を仕舞うと天使のような金色の翼を生やして発光させた。眩い光が洞穴を照らすと

一誠たちの目にとんでもない光景が飛びこんできた。

 

手足を獣の皮で作った縄で縛り、鉄の杭と鎖で動きと開かないように口を封じられている

三つ首の生物。黒光りする鱗は時折紫色の発光現象を起こし、

その姿は名だたる生物であることを窺わせてくれる。

 

「ドラ・・・・・ゴン?」

 

困惑する一誠が漏らした言葉に三つ首の生物ことドラゴンはニヤリと口角を上げた。

 

『久しいなネメシス。なんだ、お前も封印されたのか。くくく、皮肉だなぁ?』

 

「え、ネメシスのこと知ってるの?―――――うん、分かった」

 

聞いた一誠が誰かと話し合ったような言い方をした時、

一誠の前に一つの巨大な魔方陣が出現をして一瞬の閃光と共に巨大なドラゴンが出現した。

 

『その言葉そっくり返してくれる。よもや、こんな山の地下深く幽閉されていたとはな』

 

「ネメシス、知っているの?このドラゴン」

 

一誠の言葉にネメシスは一誠へ一瞥しながら答えた。

 

『こいつは「魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)」アジ・ダハーカ。

堕天使の総督から邪龍の事を聞いた時に出た名の邪龍の筆頭格の一匹だ』

 

「おおー!アジ・ダハーカなんだ!」

 

『・・・・・なんだこいつ、妙に嬉しそうだな』

 

目を爛々と輝かせて尊敬の眼差しを向ける一誠に、アジ・ダハーカは怪訝な眼つきで見ていると、

ネメシスが答えた。

 

『この人間、いやドラゴンはお前を含めた邪龍の筆頭格と会いたがっていたんだ。

そのうちの一匹であるお前と会えたから嬉しいんだろう』

 

『邪龍に会いたいなどもの好きなドラゴンだな』

 

『アジ・ダハーカ。聞いて驚け、この兵藤一誠は元人間だ。身体はグレートレッドの

肉体の一部とオーフィスの力で復活した元人間であり人型のドラゴンだ』

 

アジ・ダハーカの目が丸くなった。それを見てネメシスは愉快そうに笑みを絶やさない。

 

『・・・・・嘘ではないのだな』

 

『私が嘘を吐く以前に感じているはずだが?目の前にオーフィスがいるのにもう一つ

オーフィスの力を感じ、グレートレッドの力を感じているのを』

 

『・・・・・』

 

当の一誠は、何故かアジ・ダハーカを拘束している鎖を懸命に解こうとしている。

その行動に訝しいと目を細める。

 

『何をしている』

 

「え?痛そうだから釘を抜こうと思って」

 

『俺は暗黒龍と呼ばれ、人間を喰らう凶悪なドラゴンだぞ。

そんなドラゴンを解き放とうとお前はしているんだが?』

 

「そうなの?」

 

『間違ってはいないな』

 

あっさりと同じ邪龍のネメシスが肯定した途端に難しい顔を浮かべた。

 

「そうなんだ・・・・・うーん、家族になって欲しいんだけどなぁ・・・・・」

 

『・・・・・家族だと?』

 

『こいつ、アルビオンやティアマット、タンニーンと友達になってという

物好きなドラゴンだぞ?』

 

『あの天龍と龍王、元龍王にもか!フハハハハ!本当に物好きなドラゴンだ!

始めてみるぞこんなバカなドラゴンを!』

 

杭で口が塞がれて開けれないが、アジ・ダハーカは盛大に笑った。笑われて一誠は頬を膨らます。

 

「笑うなよ!」

 

『これが笑わずにいられるかっ。俺がここまで笑ったのは本当に久し振りだ。

おい、ネメシス。クロウ・クルワッハとアポプスはどうなっているか知っているか?』

 

アジ・ダハーカは同じ邪龍の情報を聞きだした。一度ネメシスは首を縦に振って答えた。

 

『アポプスは忘れたが、クロウ・クルワッハは人間界と冥界を行き来して

修行と鍛練の為に見聞している』

 

『なるほど、あいつはまだしぶとく生きているか。アポプスは封印されているかも

しれないがどうでもいい。それより、外で暴れていたようだな?誰と暴れている』

 

『ああ、厄介なことにアリュウと出会ってしまってな』

 

目元を細め出すアジ・ダハーカ。アジ・ダハーカもアリュウの存在を知っていたらしく、

若干嫌そうな顔を浮かべた。

 

『奴か・・・・・それは厄介だな』

 

『どうだ、一緒にアリュウを撃退しないか?今の今までこの洞穴の中で封印の形で

幽閉されていたんだ。暴れたいところだろう』

 

いきなり共闘を申し込んだネメシス。リーラとオーフィスは静観の態勢でいて、

何故か一誠はアジ・ダハーカの頭の上に乗った。

 

『その後の俺はどうすればいい?お前の能力なら俺を倒せんでも

封印することぐらいは可能だろう。が、俺は封印される気はないがな』

 

不敵な物言いを言うアジ・ダハーカ。ネメシスは人差し指を立てて提案した。

 

『まだ成長途上の兵藤一誠と、私たちとついてこないか?』

 

『なんだと?』

 

『こいつらといると退屈な時間がなくなる。ドラゴンは力を呼ぶ特性だからな。

勝手に向こうから強者が現れて―――』

 

ドッガアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

洞穴に風穴が開いた。そして翼の羽ばたく音と共にアリュウが侵入してきた。

 

『見ての通り、強い奴が来てくれたぞ』

 

ネメシスがアジ・ダハーカに背を向け、アリュウと対峙する。

アリュウは一誠たちを見渡し、口角を上げる。

 

『なんだこれは。こんな場所に邪龍の筆頭格が二匹もいるではないか。

しかもどうやら封印されている様子のままだなアジ・ダハーカ』

 

『こんな無様な姿でお前と再会なんて願い下げだったがな』

 

ジャラリと鎖を揺らしながら発するアジ・ダハーカ。アリュウから視線を逸らし、

ネメシスに話しかけた。

 

『取り敢えず、目の前の厄介なあいつと戦うのは構わない。が、その後のことは終わってからだ』

 

『決まりだな』

 

歪みだす空間から飛び出す幾重の鎖がアジ・ダハーカの動きを封じる杭や鎖に巻き付き、

 

『久方ぶりのシャバの空気を思う存分吸うが良いアジ・ダハーカ』

 

その言葉と共に杭と鎖があっという間に解かれて、

邪龍の筆頭格の一匹『魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』アジ・ダハーカの

解放と復活の瞬間が一誠たちの目の前で起きた。

 

ギェエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

激しく咆哮を上げるアジ・ダハーカが洞穴の中で猛突進してアリュウを

外まで追いやれば六枚の巨大な翼を生やして空を舞う。

 

『フハハハハッ!久し振りの自由という気分は実に愉快で最高だっ!アリュウ、覚悟しろ!』

 

『邪龍の筆頭格と数えられている戦の魔法を駆使する邪龍が相手ならば不足ではないな!』

 

空に二匹のドラゴンが舞い戦闘を始めた。幾重の魔方陣を展開し魔力弾を放つ応戦、

肉弾戦の様子を一誠たちは見ていた。

 

「すごーい」

 

『あれが邪龍同士の戦いだ。いや、アリュウは天龍にも近いドラゴンだったな』

 

「天龍なの?邪龍なの?どっちも近いってオーフィスから聞いたんだけど」

 

『性格的には邪龍だ。それはそうと兵藤一誠どうする?』

 

「なにが?」

 

『今ならアリュウをアジ・ダハーカに任せて目的の地へ向かうことができる。だが、アジ・ダハーカを放っておけばいずれお前の脅威となる』

 

ネメシスの言いたいことをリーラは悟る。だが、これは一誠自身が答えなければならない

問いで静かに一誠へ視線を向けて耳を傾ける。と、リーラの目に複数の魔方陣が出現したのを

確認した。魔方陣の光と共に見覚えのある人物たちが出現した。

 

「あ、父さんと母さん、神王のおじさん・・・・・と誰?」

 

「ああ・・・・・良かった。無事なのねっ」

 

「・・・・・心配したぞまったく」

 

誠と一香が一誠とリーラの姿を見て安堵で胸を撫で下ろす。ユーストマと頭上に

金色の輪っかを浮かべている男性がアリュウとアジ・ダハーカを見て目を丸くしていた。

 

「こいつはどういうことだ。アジ・ダハーカとアリュウが戦っているだと?」

 

「アジ・ダハーカについては退治されていたはずでは・・・・・」

 

二人の背後からネメシスが意外そうに話しかけた。

 

『神王と大天使か。お前らまで来るとはな』

 

「「ネメシス・・・・・っ!」」

 

警戒するがネメシスの前に一誠が庇うように立って頬を膨らます。

その姿にユーストマと男性は誤解されていると察知し弁解を試みた。

 

「悪い坊主。ただネメシスが表に出ていることに驚いているだけだ」

 

「申し訳ございません」

 

「むー」

 

『兵藤一誠、私は気にしていないからそう怒るな』

 

ネメシスからもそう言われ、一誠は頷いた。それから一誠とリーラに事情聴取。

 

「これはどういう状態なんだリーラ」

 

「はい、私たちは飛行機で問題なくヨーロッパに向かっていましたが、

途中でアリュウと遭遇し私たちを見つけては一誠さまに興味と好奇心を抱いた模様で

力を示せと襲いかかってきたのです。ですが、今の一誠さまでは敵うはずもなく、

このダマーヴァンド山の地下深くまで追いやられたところ、封印の形で幽閉されていた

アジ・ダハーカと出会い、アリュウを撃退に協力してもらっているところです」

 

リーラの説明を聞き、四人は頬を引き攣らせた。

 

「・・・・・一誠、お前はどれだけ力を引き寄せるんだ」

 

「一度にしかもこの場でドラゴンを二匹と出くわして」

 

「邪龍の筆頭格のドラゴンに協力を得るなんて」

 

「本来絶対に有り得ないことなのですが」

 

「????」

 

何のことだか分からないと小首を傾げ疑問符を頭の上に何度も浮かばせる一誠。

その間にもアリュウとアジ・ダハーカは熾烈な戦いを繰り広げている。

 

「そう言えば一誠。お前、あの剣を使わなかったのか?」

 

「使う暇がなかったよ。ドラゴンになって逃げ回っていたんだし」

 

「あー、そりゃそうか。んじゃ、今使え」

 

「分かった」

 

リーラからカードを受け取り何時ぞやの装飾と意匠が凝った金色の大剣を具現化して手に持った。

 

「お、何だ坊主その剣は?」

 

「神聖な力を感じますね」

 

「ユーストマとミカエルは知らなくて当然か。この大剣は原始龍、

ドラゴンを生み出すシステムという存在がドラゴンを封印もしくは倒す為に創った

この世界で数少ないドラゴンスレイヤーだ」

 

誠の説明を聞き驚くユーストマとミカエルという男性。もっと色々と聞きたいところだが、

まずこの現状を治めることが最優先と判断した。

 

「一誠、試しにその剣でアリュウと戦って来い」

 

「ん、分かった。ネメシス、行こう」

 

『ああ、私も久々に戦うとしようか』

 

ネメシスと共に空を駆け、アリュウに攻撃を仕掛けた。

 

「勝負っ!」

 

『私たちも交ぜてもらう』

 

周囲の空間が波紋を生じ数多の鎖が飛び出してアリュウに伸びて行くも

数多の光線がそれを消し去った。横からアジ・ダハーカの攻撃を避け、

小さい体で高速に動く一誠からも躱し態勢を整えると幾重にも魔力による攻撃をした。

 

『流石に多勢に無勢か。しかも厄介な能力を持つドラゴンが二匹も同時に相手じゃ面倒だ』

 

アリュウの背後の空間が歪みだして穴が開いた。

 

『今回は退こう。だが、次はもっと戦いを興じようぞ。それまで―――兵藤一誠』

 

「ん?」

 

『グレートレッドとオーフィスの力を宿すドラゴンとしてお前の成長を期待している。

俺が再びお前の前に現れた時は―――』

 

最後まで言わず、開いた空間に姿を暗ました。空間も元に戻るように閉じた。

一つの脅威が去ったことで一誠は一安心とアジ・ダハーカに声を掛けた。

 

「アジ・ダハーカ、大丈夫?」

 

『お前に心配されるほど俺は弱くは無い』

 

『その割には人間に封印されて弱体化していないか?あの時より力も覇気を感じないが?』

 

『その言葉そっくりそのままお前に返してやろうか』

 

「あー喧嘩はダメだよー!」

 

戦意が籠った双眸で睨み合う邪龍の間に両腕をパタパタと動かして止めようとする。

それが削がれたのかネメシスはアジ・ダハーカに問うた。

 

『アリュウはいなくなった。残る問題はお前だ』

 

『ふん、俺を封印でもするか?さっきも言ったがせっかく自由になったんだ。

そう簡単に再び封印されるほど俺は甘くない』

 

「じゃあ、一緒に行かない?」

 

純粋に一誠は誘いの言葉を投げた。怪訝な視線を送ると、一誠はこう答えた。

 

「ねね、僕と家族になってよ!」

 

『またそんな事を言うか。それとも俺の力が目的か?』

 

「違うよ。アジ・ダハーカ格好良いもん。

それに他のドラゴンや邪龍と出会って家族にすることが僕の夢の一つだからね」

 

『・・・・・』

 

「ダメ?帰る場所がないなら一緒に行こうよ」

 

ドラゴンとはいえ一誠の戯言に付き合う気は無いとアジ・ダハーカは思っている。

封印を解いて自由にしてくれたことに関しては貸しとして受け止めている。

 

『オーフィスを取りこんで次はグレートレッドも取り込む気か?』

 

「ううん、グレートレッドって言うドラゴンとは戦ってみたいなぁー」

 

『なに?』

 

「だって、オーフィスより強いドラゴンなんでしょ?それにオーフィスと一緒に

僕を生き返らしてくれたドラゴンでもあるからさ。ありがとうと言って、オーフィスと

グレートレッドが生き返らせてくれた僕がどれだけ強くなったのか何時か戦って証明したい。

倒せなくてもね?」

 

―――バカげている。あの不動の存在と自ら戦いたがるドラゴンはいない。

感謝の印に自らの強さを証明する考えを持つドラゴンは後にも先にも

目の前の小さなドラゴンしか現れないだろう。

 

『お前が思っているよりグレートレッドは強いぞ。分かっているだろうな?』

 

「ドラゴンは皆強いってことぐらいは分かっているつもりだよ」

 

当然のように一誠は発した

 

『・・・・・ならば、証明してみろ』

 

「証明?」

 

アジ・ダハーカは口角を吊り上げた。

 

『お前の心の強さを俺に証明してみせろ!もしも俺を倒せた暁にはお前の望みを叶えてやる!』

 

アジ・ダハーカが襲いかかった。一誠はギョッと目を丸くするが、自分を試しているんだと悟り

大剣を前に構えた後にアジ・ダハーカへ勇敢にも飛び掛かった。

やらなければやられる。倒さないと自分が倒される。その思いが一誠を駆らせ支配し、

持てる全ての力を以って、一誠は邪龍に立ち向かった。



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エピソード27

「一時はどうなるかと思ったが、俺たちの息子は急激な成長をしているな」

 

「もしかすると私たちを凌駕するほど強くなるんじゃないかしら」

 

「ははっ!そいつはいい、もしもその可能性が現れたなら直々に俺たちが稽古をしよう」

 

「楽しみがまた一つ増えたわねー」

 

―――ヨーロッパInイタリアの首都ローマ―――に一行は足を踏んでいた。世間では日本人

二人の子供、ドイツ人らしき女性が一人飛行機から落下して行方不明と

知れ渡っているが一誠たちは知らないでいる。誠と一香と合流を果たし、

一年間住むイタリア、ローマを観光気分で出歩いているのだから。

 

「ここの国の料理はパスタやパンが主食なのよね。一誠はスパゲッティが好きだから

本場のパスタ料理を作るここイタリアを好きになるはずだわ」

 

「本当?食べてみたいな!」

 

嬉しそうに顔を輝かせた一誠。それから五人はとある場所の前に立っていた。

 

「一誠、お前の修行と場となる教会と深い関係のカトリック教会の総本山、サン・ピエトロ大聖堂だ」

 

「おおー、大きいねー」

 

「だろう?」

 

外見は石造りで作られた建物。心なしか不思議な力を感じる一誠。中まで見学はできない為、

一行は次へと足を運んだ。人口2863322人のローマはどこにいても人がいて

当然のように擦れ違う。異国の人の顔を珍しそうに見詰め、聞こえてくる言葉と発音は

初めて訊く。歩いていると海が見えてきた。

 

「ここってたまに人魚の気配を感じるのよね」

 

「今は?」

 

「んー、残念だけどいないな」

 

「人魚さんと会いたいなー」

 

「近いうちに会えるわよ」

 

微笑む一香が一誠の手を掴んだまま歩く。そうして時間を費やしてローマの街を歩き続けて数時間たった頃、

一行はとある施設に足を運んだ。施設の前にはシスターが一人立っていて出迎えていた。

 

「お待ちしておりました。兵藤さま方ですね?」

 

物腰が柔らかく、柔和に声を掛けてくるシスター。誠と一香の二人は挨拶と握手を

交わした後に話を進める。

 

「―――では、そういうことでよろしいのですね?」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

「わかりました。では兵藤一誠くん。私と一緒に来てください」

 

「あれ、リーラさんとオーフィスは?」

 

何時も一緒に生活していた二人が呼ばれていない為不思議そうに首を傾げている。

どうしてなのかと誠と一香を見上げた。

 

「一誠、リーラとオーフィスと離れて修行しなくちゃいけないの」

 

「え、そうなの?」

 

不安な色が目に浮かび、寂しげな顔を浮かべた。今まで片時も離れて暮らしたことがなく、

心から安心できる家族と離れて暮らすのは今回が初めて。

 

「大丈夫だ。祝日の日になればリーラとオーフィスはお前のところに来るから心配するな」

 

「・・・・・一緒に暮らせるんだよね?」

 

「ええ、勿論よ」

 

優しく諭す一香にリーラとオーフィスを見詰めた。

 

「一誠さま、これを」

 

「ん?」

 

リーラから一つのペンダントを受け取った。開閉式のようで開けば一香と誠、リーラと

オーフィスの写真が収まっていた。

 

「肌身離さずこれを身に付けていれば私たちは一誠さまと繋がっています」

 

「繋がる?」

 

「はい、心が繋がります。どこにいても離れても私たちの心はあなたを想っております。

互いの心が互いを思いやることで繋がりを得ることができます」

 

優しく一誠を包むリーラは温かい言葉を送る。

 

「頑張ってください一誠さま。私たちはあなたを陰から見守っていますよ」

 

「じゃあ、見つけたら一緒にいてね?」

 

「ふふっ、簡単には見つかりませんよ?」

 

「絶対に見つけるもん」

 

プクーと頬を膨らます一誠を微笑ましくリーラは見詰め、一誠の額に唇を落とした。

 

「いってらっしゃいませ。私の愛しき御主人さま」

 

「うー、行ってきます」

 

納得がいかないと思いながらもシスターの手に引かれて施設の中へと連れて行かれる

光景を四人は見送る。

 

「寂しいわね」

 

「これも大切なこととはいえ、手元から無くなる感覚がハンパない」

 

「我、寂しい」

 

「祝日の日に迎えに行きますよ必ず」

 

「リーラとオーフィス、二人はどうするの?」

 

「ユーストマさまが用意して下さった家に滞在するつもりでございます。これからその家に向かいます」

 

「そう、それだったら私たちもついて行きましょう。ここも吸血鬼が出没するし

何かしらの魔方陣を張っておくわ」

 

「だな。俺たちも週に一度は顔を出すか」

 

「ありがとうございます」

 

―――○●○―――

 

「新しくこの施設に入ることになった兵藤一誠くんです。皆さん、温かく出迎えましょう。これも主のお導きであります。アーメン」

 

神父服を着込んだ一誠の隣にシスターが手を組んで祈りを捧げればそれに呼応して、

一誠の目の前にいる少年少女たちも手を組み「アーメン」と祈りを捧げた。

 

「・・・・・?」

 

一誠もすればいいのかと見よう見真似で手を組んだ。が、チンプンカンプンだった。

 

「シスターグリゼルダ」

 

「はい」

 

十代後半と思しき少女が返事をした。

 

「この子のお世話をして貰いますがよろしいですね?」

 

「これも主のお導きとあれば」

 

恭しく了承したシスターは一誠に向かって微笑んだ。

 

「では、兵藤一誠くんは・・・・・そうですねレシティア・J・D・ルーラの隣の席に」

 

「・・・・・?」

 

どこの誰の事?と疑問符を浮かべていると金髪にアメジストの少女が手を挙げて場所を示した。

一誠は少女が座る席に近づきチョコンと座った。

 

「初めまして、私はレティシア・J・D・ルーラです」

 

「兵藤一誠だよ。よろしくね」

 

軽く挨拶を交わす。後に一誠の前に教材と思う本が置かれた。が、

 

「・・・・・・・・・・・」

 

イタリア語で記された文字がびっしり。一誠は難しい面持ちに、困惑、当惑と異国の

苦労をすぐに思い知らされ、困難とぶつかった。そうしている間にもシスターが静かに

それでいて清んだ声であれこれと喋りだした。

 

―――一時間後―――

 

「・・・・・・・・・・」

 

魂が抜けて真っ白な一誠。シスターの話しを聞くばかりで本に書かれていることなど

一文字も理解できなかった。理解しようと必死にイタリア語を見たが、見たこともない

文字を見ただけでは解りもしない。ので、理解不能と頭が処理して屍状態

 

「だ、だいじょうぶですか・・・・・?」

 

「・・・・・(フルフル)」

 

レティシアの問いかけに否定した。

 

「次、解らなかったら聞いてくださいね?教えてあげますから」

 

「(ガバッ)ありがとう、キミは天使だよ!」

 

「えええっ!?」

 

レティシアは満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに目を輝かせた一誠の言葉に驚きつつ

顔を朱に染め照れた。

 

「次は模擬戦だけど、場所は分からないですよね?一緒に行きましょう」

 

「模擬戦なら大丈夫かも」

 

「そうなのですか?」

 

「うん」

 

修練場に案内される。そこは剣を携える天使の像が広場を囲んで数人の老人、

中年男性がいてその目の前には集まりつつある神父服を身に包んでいる少年少女たち。

 

「ねね」

 

「はい?」

 

「あのおっきなお爺ちゃん。凄いね」

 

一誠が言うおっきなお爺ちゃんとは、その者は、しわくちゃの面貌だった。

顔だけ見れば、七十過ぎの老人だろう。しかし、顔の下がそれを否定する。有り得ない

ほどに太い首、分厚い胸板、巨木の幹ほどはある両腕、成人の人間の胴回りよりも幅が

あるだろう脚。何よりも背丈だ。二メートルはあるであろう不釣り合いなほどに見事な

若々しい肉体だった。レティシアが慌てふためく。

 

「だ、ダメですっ。ストラーダ猊下におっきなお爺ちゃんと言っては・・・・・!」

 

「ストラーダ猊下・・・・・?」

 

なにそれ?とばかり小首を傾げる一誠。レティシアは説明しようと口を開いたが、

一誠とレティシアに差し奥の声が投げ掛けられてしまって説明する事も出来ず列に並んだ。

それから中年男性が腰を下ろすように催促した。

 

「ね、これから模擬戦って何をするの?」

 

「悪魔や吸血鬼との戦い方を教えてくれます。私たちはそれを習うのですよ」

 

「吸血鬼はともかく、悪魔ならちょっとだけ戦ったことがあるよ?」

 

「兵藤くん、それはいくらなんでも嘘ですよね?嘘は言っちゃダメですよ」

 

「むー、本当だよ」

 

膝を抱えたまま不機嫌な面持ちで口を尖らす。

そんな一誠にとある中年男性と老人は見ていて声を殺して話し合っていた。

 

「一人だけ、異質な者がいますな」

 

「ユーストマさまから聞いた者に間違いないだろう」

 

「人間にしては本来有していないはずの力を感じますが?」

 

「一年間とあるものを鍛えてくれと頼まれたからには指導者たる我々はその通りにするだけだ」

 

「それはそうでありますが・・・・・ストラーダ猊下、少し試させては貰えませんでしょうかね?」

 

「気になるか?クリスタルディ猊下よ」

 

中年男性は柔和に笑みを浮かべながら頷いた。

ストラーダ猊下は何も言わず目で訴えれば、

クリスタルディ猊下という中年男性は足を動かし始めた。そして一誠の横に立つと

一緒に来るようにと引き連れてどこかへ行った。

 

「この辺でいいだろう」

 

レティシアたちと離れたが姿が肉眼で捉えれる範囲の、広場の隅っこにまで移動した二人。

 

「キミ、名前はなんていう?」

 

「兵藤一誠です」

 

「兵藤・・・・・なるほど、ユーストマさまとミカエルさまから直々に

頼まれるほどの事であることは間違いないか」

 

「神王のおじさんを知ってるの?」

 

「知っているとも。教会にいる人は全員、神さまの名前や存在を把握しているのだからね」

 

にこやかに語るクリスタルディ猊下の耳にとんでもない発言が聞こえてきた。

 

「じゃあ、海の神さまと空の神さま。あと、北欧の神さまのオー爺ちゃんと

冥府ってところにいる骸骨の神さまや帝釈天って言う人と孫悟空ってお爺ちゃんも

知ってるんだね?あとあと、神さまじゃないけどアザゼルおじさんとか魔王のおじさん、

フォーベシイって言うけど知ってる?僕会ったことがあるんだけどさ」

 

「・・・・・」

 

クリスタルディ猊下が岩のように固まった。

 

「(この子は一体何者なんだろうか・・・・・とても嘘を言っているような眼じゃない)」

 

「ねぇ?」

 

「あ、ああ知っているとも。流石に会ったことは無いがキミは会ったことがあるんだね?」

 

「父さんと母さんが友達だから僕も会うんだー」

 

「因みにご両親の名前は?」

 

「兵藤誠と兵藤一香って言うの」

 

「(―――あの者たちの子供!?)」

 

愕然とし、また固まったクリスタルディ猊下だった。怪訝な視線が向けられて来るのを

気付き、気を取り直して話を進めた。

 

「キミをここに連れてきたのはちょっとお話と腕試しをしようと思ってね。いいかな?」

 

「うん、いいよー」

 

「じゃあ、まずは腕試しだ。武器は―――」

 

「あるよ」

 

カードを取り出して、対ドラゴン用の意匠と装飾が凝った神々しい大剣を発現して、手にした。

 

「・・・・・それは」

 

「えっと、僕専用の武器だって。僕しか持てないらしいから」

 

「本当かい?」

 

「持ってみる?」

 

「よいしょっと」と大剣を地面に突き刺した。クリスタルディ猊下はあっさりと

その柄を掴んで手に力を籠めて持ち上げようとしたがピクリとも大剣は

持ち上がることは敵わなかった。両手でしても地面から持ち上がることは無かった為、

クリスタルディ猊下は当惑の色を目に浮かべた。

 

「剣が持ち主を選んでいるというのか・・・・・?」

 

「わかんない」

 

一誠が柄を持つと軽々と動いた。呆然と見入るクリスタルディ猊下だが、

手首に巻きつけていた紐に手を翳すと、紐は意志を持っているかのように動き始め、

形が変わり日本刀のような刀にへと変貌した。

 

「わ、なにそれ?」

 

「これは聖なる剣と書いて聖剣と言うんだ」

 

「聖剣・・・・・格好良い・・・・・」

 

「褒めてくれてありがとう。さて、ちょっとした模擬戦を始めようか」

 

「よろしくお願いします」

 

ペコリとお辞儀をして大剣を前に構えた。クリスタルディ猊下は自然とした態度で

一誠の行動の様子を見守ると、子供とは思えないほどの凄い速度で懐に潜り込み

下斜めからの斬撃を繰り出した。それを難なく受け流すクリスタルディ猊下。

 

「速い、そして重いな。だが、攻撃にムラがあり雑な降り方だ」

 

「うー、武器で戦うのは今回で三回目なんだよー」

 

「・・・・・色々と驚かせてくれる」

 

苦笑を浮かべ、軽く武器を振るう。垂直のスリット状の金色の双眸はソレを捉え、さばく。

が、刀身が鞭のようにしなってあらぬ方向から襲いかかってきた。

 

「うわっ!?」

 

「ほう、避けるとは」

 

「なにそれ!」

 

「この聖剣は形を自由に変えることができる特性を持っていてね。持ち運びにも便利なのだよ」

 

「いいなー!」と言いながら一誠は四方八方から来る突きと斬撃を躱し、弾き返したりする。

 

「(戦い慣れている・・・・・わけでもないな。また発展途上中というところか。

あの方々が一年間鍛えてくれと申し上げてきたのは分かってきたぞ)」

 

「その刀を止めてやる!」

 

周囲の空間が歪み数多の鎖が飛びだして伸びる刀身を拘束した。

 

「―――神器(セイクリッド・ギア)かっ」

 

「正解っ!」

 

凄まじい速度で懐に潜ろうとした一誠。だが、クリスタルディ猊下が

もう一本帯剣していた得物を握りしめた瞬間に姿がブレて消失した。

 

「あれ?」

 

「私はここだ」

 

鎖が斬られ、拘束していた刀身が解放されクリスタルディ猊下の手に

二つの武器があった。

 

「なんか、急に速くなった?」

 

「良く分かった。こっちの聖剣は所有者の速度と攻撃速度を上げる特性があるのだよ」

 

「聖剣っていっぱいあるものなの?」

 

「それは今後の勉学で知ることだから敢えて教えないよ」

 

微笑めば先ほどの何倍の速度で刀身が伸びて一誠に斬りかかった。

鎖で拘束しようにも逆に無効化され、一誠は防戦一方になる。

 

「うー。こうなったら」

 

距離を置いた一誠はあることした。右手に魔力、左手に気の塊を具現化して

二つの塊を合わせ融合させれば摩訶不思議なオーラが一誠を包み始めた。

その状態を満足気に「よしっ」と発しては大剣を構えた。

 

「兵藤くん・・・・・今のは一体なんだい?」

 

「んーと、僕自身も分からないや。魔力と気を合わせたらできちゃったんだ」

 

「魔力と気の融合でその状態になれるというのか・・・・・」

 

驚嘆に値すると一誠の状態を見詰めていると、クリスタルディ猊下の目の前から消失した一誠。

次に現れたのは真後ろだった。

 

「おっと」

 

横薙ぎに払った大剣から背を一誠の方へ逸らしてかわしたまま一誠に問うた。

 

「急激に動きと攻撃の速度が上がったな。身体能力向上の恩恵があるのかな?」

 

「あっ、もうバレちゃった」

 

「相手に能力を看破されるとピンチに陥る。次は気をつけなさい」

 

何時の間にか一誠の胴体に刀身が縄のように巻きつけて浮いた状態でいさせられる。

それでも一誠は諦めていないのか、金色の翼を展開して空に飛ぼうとする。

が、しっかりと一誠を拘束している故に羽ばたかせるだけで決着がついた。

 

「と、飛べない・・・・・」

 

「キミは神器(セイクリッド・ギア)を所有しているというのだ・・・・・」

 

「えーと、ドラゴン系の神器(セイクリッド・ギア)は三つで、後もう一つはあるって聞いたよ」

 

「―――四つだと。これは驚いたな。今日はここまでだ」

 

一誠を地面に降ろして拘束を解いた。二つの得物を腰に差すクリスタルディ猊下を

見て一誠も大剣をカードの中に収納した。

 

「あの、お願いがあるんだけど」

 

「なにかな?」

 

「さっきの伸びる刀を触らして下さい」

 

「ふむ・・・・・まあ、いいだろう」

 

聖剣を扱える者は滅多にいない。一誠も扱えない一人だと思ったから

クリスタルディ猊下は聖剣を特別に触らした。渡された聖剣の感触を手の平で感じて

品定めする感じで見るが、一誠の思うようにはならなかった。

 

「うーん・・・・・形が変わんない」

 

「形を変えるイメージをすればいいのだよ」

 

「あっ、そうなの?」

 

扱い方を教えてもらった。後はその通りにするだけとばかり

一誠は―――大剣の形を念じたのか、聖剣が大剣の形になった。

 

「できたー!」

 

「・・・・・Sono stato sorpreso(おどろいた)

 

イタリア語で驚愕したクリスタルディ猊下。遠くからもストラーダ猊下の目にも

驚嘆の色が浮かんでいた。

 

「・・・・・天然の聖剣使いが目の前にいたか」

 

「ん?皆もできるんでしょ?」

 

「いや、そういうわけではないのだ。が、キミには色々と試したいことができたな。

今日から一年間。兵藤くん、キミを他の戦士たちと同様に鍛えよう。二倍も三倍にもね」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

こうして、一誠は協会に一年間鍛えられることになったのであった。

 

「クリスタルディ猊下。戦ってどうだった」

 

「ストラーダ猊下。あの子は中々の逸材です。今すぐにでも魔物討伐に出しても

問題ないかと思いますよ」

 

「今後の戦士育成に精が出るだろうな」

 

「もしかすれば、他の聖剣も扱えるのではないでしょうか」

 

「試してみる価値があるな。もしもあの聖剣を扱えるのであれば直々に鍛えてやるとしよう」

 

その日の夜、シスターグリゼルダに案内された個人部屋のベッドにゴロリと寝転がっていた。

 

「・・・・・暇」

 

傍らにいたリーラやオーフィスがいない虚無感に漏らした一言。辺りには遊具の一つも無く、

最低限必要な物しか置いていない、一緒に就寝する者もいない。

 

「うー、眠れないよ」

 

人肌が恋しいのか、他者からの温もりがないと落ち着いて眠れないようになっていた一誠は起き上がった。

そして、コッソリと扉を開けて暗い廊下へ顔を出し人の気配を感じなければ部屋から抜け出して

広場に向かった。

 

「ここなら大丈夫かも」

 

長い椅子を創造した上に金色の翼で自分自身を包み寝袋の状態でスヤスヤと寝始めた。

だが、翌朝。一誠がいないことに気付いたシスターたちが慌てて探し出して広場で

寝ている一誠を見つけては

 

「用意された部屋で寝るように!」

 

と叩き起こして厳しく注意したのであった。

 

―――○●○―――

 

「兵藤くん、外で寝たら風邪引きますよ」

 

「あの部屋だと眠れなかったんだよ・・・・・」

 

「じゃあ、どんな部屋なら寝れますか?」

 

「誰かと一緒に寝れるならいいかな」

 

椅子に座ってレティシアと話をしていた。

 

「今まで誰かと一緒に寝ていたから、急に一人で寝るようになったから寂しくて・・・・・」

 

「そうだったんですか」

 

「うん、今日も外で寝るつもりだよ」

 

「シスターに怒られたばかりじゃないですか」

 

「だって、外で寝ると夜空に輝く星が見えるんだよ?それを見ながら寝ると楽しいんだ」

 

ニコニコと笑みを浮かべた一誠。何を言っても外で寝るつもりなのだろうと

レティシアは呆れながらも、外で寝ると楽しいのか?という疑念を抱く。

 

「ねね、日程表とかないの?」

 

「決まった時間に決まった事をするんです」

 

「僕来たばかりだから分からないよ」

 

「毎日同じことをするからその内に把握できるようになりますよ」

 

微笑むレティシアが優しく答えた。そして、今日も一日一誠は教会の者として勉学を励む。

 

―――数時間後―――

 

「ううう・・・・・外国の言葉、イタリア語ってなんなのさぁ・・・・・」

 

「そ、そう言われても・・・・・」

 

一朝一夕、外国の文字を全て分かるわけでもない。相手の言葉が分かっても読み書きが

できなければコミュニケーションは完璧とは言えないのだから。

 

「レティシア先生。僕にこの国の読み書きを教えてください」

 

唯一無二の一誠が気を許せる少女に深々と椅子の上で器用に土下座をした。

最初は目を丸くしたレティシアだが、クスクスと一誠の言動に堪え切れず笑ってしまった。

 

「分かりました。私でよければ読み書きを教えます」

 

「お願いします!」

 

「では、時間までまず挨拶から教えますね」

 

休憩の合間、レティシア個人授業で一誠は知識を得ていくのであった。

そして次の授業の時間が迫った。移動して広場に赴くと祭服を身に包むクリスタルディ猊下、

ストラーダ猊下がいた。今日も悪魔と吸血鬼との戦いの授業をするのだろうかと

思いながら列に並んだ。

 

「集まったところで今日は魔獣が出没する地へと赴きコレを討伐をしに行く」

 

「魔獣?」

 

レティシアに問えば、魔の獣と書いて魔獣。人を襲う悪しき生物であり、

魔法使いの使い魔にもなる獣と教われ一誠は理解した。

 

「でも、魔獣ってどこにいるの?」

 

「森の中とか夜になると現れます。街にも現れることもあるので私たちは

魔獣から人を守る義務があるのです」

 

「へー、そうなんだ。魔獣って強いのかな?」

 

「強いですよ。でも、一緒に協力すれば絶対に勝てます」

 

「うん、頑張ろうね」

 

気合を入れる一誠と共に戦おうとレティシア。

クリスタルディ猊下から魔獣討伐の詳細の説明を聞き、その時を待つ。

 

 

―――そして、その時はようやく訪れた。とある場所で武器を持ったレティシアたちが

真剣な面持ちで歩き続けていた。集団ではなく、ツーマンセルで組んで警戒しつつ足を

運ぶ。一誠とレティシア、そしてストラーダ猊下。

 

「ねね、魔獣と戦ったことがあるんだよね?」

 

「え、えーと・・・・・実は今回が二回目なんです」

 

「ん?そうなの?」

 

「まだまだ若き信徒に日常茶飯事の如く戦闘を行わせるわけではないのだ。

教会と通じる者に手に負えない依頼が来れば我々が動き解決することが主なのだ」

 

ストラーダ猊下が説明をしたことで「へー」と相槌を打った一誠。

 

「じゃあ、吸血鬼と悪魔ってどうやって見つけるの?」

 

「悪魔は世界中にいるから同士たちの情報の元で発見し討伐する。

吸血鬼はここヨーロッパを中心に生息し夜間の間だけ活動する。

だからこうして動いている時でも遭遇する可能性は低くないのだ。

魔獣は吸血鬼が使役している時もあるのだからな」

 

「悪魔はともかく、吸血鬼って悪い人しかいないの?」

 

「なぜだ?」

 

「んー、いたら友達になりたいなって」

 

レティシアが目を丸くして驚き、ストラーダ猊下は首を横に振った。

 

「殆ど出会う吸血鬼は人の血を吸い、殺し、自分の眷属として増やす。

仮にいたとしても極一部しかいないだろう」

 

「そっか、残念」

 

「えっと、吸血鬼って危ないのですよ?会ったことがないですけど」

 

「喧嘩をすれば仲がよくなるって父さんが言うから僕もそうすればいいかなって

思っているんだけど?」

 

「ぼ、暴力で仲良くなることはあまりないかと・・・・・」

 

一誠の父親のことはクリスタルディ猊下から聞いているストラーダ猊下。

本人には言っていないが、かつて誠と戦ったことがある。

その子供の一誠が誠の血と才能を受け継いでいるというのであれば色々と納得ができる。

 

「(まだ11、12の歳でエクソシストと遜色のない実力を持つ子供。

この子供がこのまま教会の戦士と生きれば間違いなく異例の出世を目指せる。

今代の若い戦士より逸脱した戦士になるに違いない)」

 

内心そう思っていたストラーダ猊下。実力だけではなく、幅広い常識を覆す程の交流。

神王ユーストマを始めとする神話体系の神々と交流している。こんな子供がこの世に

存在しているとは思いもしなかったストラーダ猊下。

 

「ん?」

 

「どうしました?」

 

「・・・・・なんか、黒いのが来る」

 

「黒い・・・・・?」

 

「(ほう・・・・・)」

 

何かを察した一誠がジッと暗闇の向こうを見詰めた。

ストラーダ猊下が関心して様子を見守っていると、

複数の足音が聞こえてきた。足音の正体は―――。

 

 

ズンッと鈍い音を鳴らす体長三メートルの巨大な黒い獣だった。

 

 

「お、大きい・・・・・っ」

 

「おっきぃー」

 

「リーダー格の魔獣のようだな。よもや、私たちのところに現れるとは・・・・・」

 

思っていた魔獣と違ってレティシアは緊張と恐怖で身体を震わす一方、一誠は感嘆の一声。

 

「先生、これが魔獣?」

 

「そうだ。倒せそうにないかな?」

 

「倒せるもん!」

 

軽い挑発に直ぐに反応する一誠。若いと思うものの、

一誠はどうやって倒すのかお手並み拝見と姿勢でいることにした。

 

「レティシア、頑張って倒すよ!」

 

「は、はい」

 

すでに獣はこちらに食い殺さんと駆けて来ている。初撃の前足での振り払いを三人は避けた。

 

「捕まえる!」

 

獣の周囲の空間が歪み、数多の鎖が飛び出しては首と四肢に巻き付き動きを封じた。

相手の動きを止めた隙に神々しい大剣をカードから具現化してレティシアと共に攻撃を開始した。

が、獣は強引で鎖を引き千切り自分の身体に武器を突き刺していたレティシアに

向かって口を開け迫った。

 

「危ないっ!」

 

友達を庇い、逆に一誠は獣の口の中に。

 

「んぎぎぎぎっ!」

 

両手で必死に閉じかけられる上顎を支える。これは危ないかとストラーダ猊下が

動こうとしたが一誠から力を感じ始めた。一誠が眩い光を放ち、獣は背筋が凍る程の

プレッシャーを感じたのか一誠を解放した瞬間だった。身体の形を変えてグングンと

大きくなる。そして、一誠は金色の身体のドラゴンへと変わった。

 

『このっ!よくも僕を食べようとしてくれたなっ!』

 

獣と同じぐらい大きさのドラゴンが怒って迫っては殴った。

 

「・・・・・ドラゴンだと」

 

「綺麗・・・・・」

 

天使のような金色の翼に金色の輪っかがあるドラゴンをレティシアと

ストラーダ猊下の視界に飛び込む。ドラゴンと獣の戦いは圧巻と言えよう。

もはや一誠は人間ではなくドラゴンとして獣と戦うことにしたのだろう。

殴っては引っ掻かれ、頭突きをすれば鋭い歯に噛まれてと拮抗の戦いが繰り広げられた。

そして獣が奥の手とばかり一誠に向かって火炎を吐いた。

 

『あちっ!』

 

怯んだドラゴンに獣は金色の翼を生やす背へ乗るように跨っては首に噛みついた。

激痛に咆哮を上げるドラゴンに

レティシアはただただ呆然と見守ることしかできないでいた。

 

「戦士レティシアよ。お前は見ているだけか?」

 

「っ!?」

 

「戦士一誠は魔獣を倒そうとしている。お前は見ているだけか?このままでは戦士一誠は―――死ぬぞ」

 

ストラーダ猊下に指摘されレティシアは地にひれ伏される一誠を見た途端に駆けだした。

獣は一誠に夢中で背後から迫る小さな敵に気付かない。横を走り、獣の顔を捉えると

支給された武器を構えて飛びだし、血のように赤い眼を突き刺した。

 

グオオオオオオオオッ!

 

『この、やろう・・・・・!』

 

目を突き刺された際に生じる激痛に思わず噛みついていた一誠の首から離れてしまった。

だから、一誠は起き上がって逆に獣の咽喉に噛みついて力強くスイングして地面に叩き付けた。

脳天から鈍い音と咽喉から迸る獣の血液。獣の全身に力が無くなり再び起き上がることはなかった。

後に一誠も横に倒れ、元の人型の姿に戻った。

 

「ひょ、兵藤くんっ」

 

慌てて一誠に近づくレティシア。だが―――獣が最後の力とばかり顔を上げて二人に襲いかかった。

―――刹那。獣の首が宙を回った。

 

「愚かな。あのままでいれば助かっていたのかもしれないものを」

 

青と金色の剣を持ったストラーダ猊下が近づきながら漏らす。

そして唖然と見詰めてくるレティシアを余所に肩腕で一誠を抱きかかえた。

 

「魔獣討伐は終了した。帰還するぞ」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

自分が不甲斐ないばかりにと思っているのか、レティシアの表情は暗かった。

前を向いたまま歩くストラーダ猊下は自分を追うように歩くレティシアに一言。

 

「戦士レティシアのあの攻撃がなければ戦士一誠は助からなかっただろう」

 

「・・・・・っ!」

 

「最後は私の手で葬ったがよく戦ったと私は称賛に値すると思っている。

だから、意識が回復した戦士一誠と喜びを分かち合え。ではないと、戦士一誠はお前を心配するぞ」

 

返事は返ってこなかったが伝わっただろう。ストラーダ猊下は腕の中で意識を

失っている一誠に視線を落とした。

 

「(噂に聞く創造を司るドラゴンがこの子に宿っていたとは・・・・・)」

 

自分かクリスタルディ猊下でなければ騒ぎが発生にしていたに違いないと、

今後一誠の扱いとその対処について考案する必要があると思いながら集合場所に赴く。



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エピソード28

魔物討伐から三日後。一誠はベッドの中で目を開けた。起き上がろうとしたら

全身に痛みが生じた。痛みによって体を動かすことができず眼だけ動かすと

包帯だらけの身体に見舞いに来ていたのかレティシアが直ぐ傍で蹲って寝ていた。

 

「なに、この状況」

 

『お前が気絶している間にその人間は朝昼晩欠かさず見舞いに来ていたぞ』

 

一誠に宿るドラゴンが説明した。そして一誠に語り続ける。

 

『無茶をする。もっと別の戦い方でやればあのような獣にやられはしなかっただろう』

 

―――だって、ドラゴンの方が戦いやすいのかと思ったもん。

 

『それで負けそうになっては元も子もないだろう』

 

―――あう・・・・・。

 

『まぁ、勉強になっただろう。幸い全治一週間という重症で済んだのだからな』

 

―――それ、幸いって言うの?

 

『皮肉を言っただけだ。お前が弱かったから今回の結果になったに過ぎない』

 

―――ううう・・・・・もっと強くならないと。

 

『無茶だけはするなよ。それと、お前の傷を治しに天界から誰かが来るそうだ』

 

―――誰が?

 

ドラゴンに訊ねた時、レティシアが身動きした。

見舞いしに来てくれた少女に視線を送っていると朧気なアメジストの瞳とぶつかった。

 

「おはよー、レティシア」

 

「・・・・・」

 

挨拶した一誠に対しレティシアは怒ったような面持ちで一誠の頬を引っ張る。

 

「れ、れしぃふぃあ?」

 

「私は怒っているんですよ兵藤くん」

 

「ふぇ?」

 

つねられる力はそれほど強くなく、レティシアに「何に?」と視線に乗せると、

レティシアは一誠の視線の意図に気づき。

 

「あんな無茶な戦い方をした貴方に怒っているんですよー!」

 

「い、いふぁいいいいいっ!」

 

ギュウッと指に力が最初より込められて痛がり始めた一誠。しばらくソレが続くかと

思ったが、急に顔を俯いた。

 

「ごめんなさい・・・・・」

 

「レティシア?」

 

「私、足手纏いでしたよね・・・・・?」

 

哀しみが籠った声音。レティシアからの謝罪の言葉を聞き、小さな少女の頭に手を置いて撫でた。

 

「ううん、助けてくれたからレティシアは足手纏いなんかじゃないよ。

それに一緒に倒したんだから謝る必要はないよ?」

 

「兵藤くん・・・・・」

 

「次も頑張ろう?レティシア」

 

励まされ、心が軽くなった。そして笑う一誠に釣られレティシアも口許が綻び笑みを浮かべた。

 

「「「「・・・・・」」」」

 

そんな微笑ましい光景に大の大人が数人扉の隙間から覗き込んでいた。

 

「くぅっ!いい光景じゃねぇか・・・・・!」

 

「良き友情愛ですね」

 

「ええ、そう思いますがそろそろ入ってもよろしいのでは・・・・・?」

 

「・・・・・」

 

扉の向こうでは覗きこむ四人の大人とそれを苦笑いで見守っている二人のシスターたち。

 

 

『あ、神王のおじさん!』

 

『ひょ、兵藤くん!神王さまにおじさんって言ってはダメですよー!』

 

『え?たまに家に遊びに来てくれるのに?』

 

『あ、遊びに・・・・・?』

 

『だけど、羽目を外すぎて神王のおじさんと一緒に来ている

大人のお姉さんに殴られる時もあるんだけどねー』

 

 

「ユーストマさま・・・・・?」

 

「だっはっはっ!あながち間違ってはいないぜ」

 

まるで言われちまったなとユーストマが笑うとストラーダ猊下が息を一つ零した。

 

「神王としての振る舞いをしてくだされ。信徒たちに示しがつきませんぞ」

 

「プライベートで行ってんだ。気にするなって」

 

ストラーダ猊下の背中をバンバン叩いた後、堂々と中に入ったのであった。

 

「本当にあの子は出会っていたのですな」

 

「ミカエルさまもお会いになられたので?」

 

金色の輪っかを頭上に浮かばせる金髪の好青年は静かに首を横に振った。

 

「私が最後に彼と会ったのはまだ赤子の頃でしたよ。あの子だけ天界に連れて行き、

ヤハウェさまや同じセラフの者たちにも腕に抱かせたぐらいです」

 

「赤子とは言え、彼は面識が主やセラフの方々とあったとは・・・・・」

 

「特にガブリエルは大層あの子を気に入って、あまりの可愛さに自分の手で育てたいと

漏らしていたほどです」

 

その時のことを思い出したのだろう。若干苦笑いしたミカエル。

 

「つかぬことをお聞きしますが、その後は?」

 

「と、言うと?」

 

「戦士一誠を育てたいと願望を漏らしたのです。ガブリエルさまは彼の子をその後

どうしたのでしたかな?」

 

クリスタルディ猊下とストラーダ猊下の問いかけに遠い目で窓の外を見詰めながら答えた。

 

「ええ、私とユーストマと共々お返ししましたが・・・・・」

 

 

『一年、いえ、十年間だけ私に育てさせてください』

 

『・・・・・ちょっと、ツラ貸してくれないかしら?』

 

 

「ガブリエルと兵藤一香が女性の戦いを・・・・・ええ・・・・・小さな島国を一つ

犠牲にして収まったぐらいです。天龍同士の戦いよりも凄まじいかったですよ」

 

「「・・・・・」」

 

何をしていたのだセラフのガブリエルさまと兵藤一香は―――と二人が心の中で突っ込まずには

いられなかった。

 

「・・・・・もしや、天界ではなくこの教会の施設に選んだのは・・・・・」

 

「あなたが心の中で浮かんでいる思いの通りですよクリスタルディ」

 

「・・・・・天界は平和ですな」

 

「平和すぎて今度は天界まで争われては一溜まりもございませんので」

 

その言葉は冗談で言ったようには思えないと心から思った二人であった。

 

―――数日後―――

 

ミカエルの力によって傷は治りまた数日が経過した。レティシアから読み書きを習い、

一日一日を大事に過ごしていくと。

 

「一誠くん。これは―――ですよ」

 

「ル、ルーラ・・・もう一回お願い」

 

二人は名前で呼び合う仲になるほど進展した。同時に少しずつ他の少年少女たちと

話をするようになり、仲を進展していくそんなある日のこと。

一誠の世話役のシスターグリゼルダが声を掛けてきた。

 

「一誠くん、お迎えが来ましたよ」

 

「はーい」

 

今日は祝日の日であることを知っていた。だから一誠はシスターグリゼルダと表に出ると

久し振りにリーラとオーフィスと再会した。

 

「お久しぶりです一誠さま」

 

「イッセー、久しい」

 

「久し振りー!」

 

オーフィスと抱きしめた後にリーラにも抱き付いた。

 

「どうですか?お友達はできましたか?」

 

「うん。それにこの国の読み書きを教わっているんだよ。最初は何を言っているのか

分からなかったけど、教えてもらっているから今はなんとなくだけど分かってきたよ」

 

「それについては誠に申し訳ございませんでした。私が事前に教えていれば・・・・・」

 

一誠は気にしていないと首を横に振った。それからシスターグリゼルが見送る中、久しく

集った三人は足を運び市街地へと向かった。今日一日だけの祝日を一瞬の時間でも無駄にしない為に。

こうして祝日の日はリーラとオーフィスと会う日として、それまで施設で信徒として

生きる一誠は今日も勉学や修行をして励んでいる。勉学では―――

 

「せいじん?なにそれ」

 

「聖人とは教会に存在する役職の中で特別な称号みたいなものなんです」

 

ルーラから教会にとって当たり前な知識をご教授してもらっている。

 

「聖人には特徴的に聖なる痕こと聖痕を身体のどこかにあるのです。聖痕がある人は

攻撃の一つ一つが聖なる力を発揮し、悪しき者たちに浄化を可能とするんですよ。

そうシスターに教わりました」

 

「ルーラは会ったことがあるの?」

 

「残念ですがありません。聖人は私たち信徒と違い、特別な場所で暮らしているそうなのです」

 

「そうなんだ。会えたらラッキーなのかな」

 

幸運という言葉に同意するルーラ。

 

「そうですね。滅多にお見えに掛からないので会えたらそれは主に感謝しなくてはなりません」

 

手を組んで祈りを捧げるルーラを見て「うーん、そんなに会いたいなら」と一誠は一言述べた。

 

「神王のおじさんから聞いてみればいいんじゃない?」

 

「だ、だから神王さまにおじさんなんて言ってはダメですっ!(ギュゥッ!)」

 

「い、いふぁい、いふぁいー!」

 

「「「(仲が良いなー)」」」

 

「「「(仲が良いねー)」」

 

周りから温かい視線が向けられていることを二人は気付いていない。

 

 

そして修行では、ストラーダ猊下から金と青の剣を突き付けられていた。

小首を傾げるも雰囲気的に剣を受け取り品定めする視線で剣を見詰めると声を掛けられた。

 

「それは私が若き日から共に戦いぬいてきた聖剣デュランダルという名の剣だ」

 

「デュランダル?」

 

「デュランダルの特徴は全てを斬ること。デュランダルの本質は純粋なパワーだ。

私はデュランダルを使って敵を倒してきた」

 

「悪魔や堕天使とかも?」

 

「そうだ。最上級悪魔や堕天使の幹部も相手にしたこともある」

 

「おおー」と感嘆を漏らした一誠にストラーダ猊下は指摘した。

 

「刀身に力を籠めろ」

 

「?????」

 

と言われてもどうすればいいのか分からないと、疑問符を浮かべた一誠を見かねて

苦笑を浮かべたストラーダ猊下。

 

「すまぬ。まだ子供なお前には分からぬことだったな。こういうことだ」

 

デュランダルを手にしてストラーダ猊下は刀身に一誠にとって初めて見て感じる力の

オーラが迸り包みこんだ。

 

「聖剣に聖なるオーラを包みこめばこんな風になる」

 

「聖なるオーラ・・・・・」

 

「戦士一誠も聖なる力を持っているはずだ」

 

「え、僕にも?ドラゴンなのに?」

 

キョトンと疑問をぶつけた。ストラーダ猊下は敢えて一誠がドラゴンなのか聞かず、

ただ頷いた。

 

「金色のドラゴンを宿しているな?」

 

「うん、メリアのことだよね」

 

「そうだ。創造を司るドラゴンを宿しているならばできるはずだ。なぜなら聖なる力も

有しているのだからな」

 

ストラーダ猊下の言葉を聞き、一誠は内に宿るドラゴンに問うた。

 

 

―――メリア、本当?

 

『はい、確かに聖なる力を持っております。主が放った炎も聖なるオーラが混ざっておりますから』

 

―――じゃあ、先生のように僕もできるのかな?

 

『可能ですよ。ですが今すぐにとはいきません。身体に宿し流れる魔力と気と

同じぐらい聖なる力を初めて扱うのは大変です』

 

―――分かった。

 

 

「今はその聖なる力は扱えないけど、一年の間絶対に扱えるようにするよ」

 

「良い心がけだ。では、お前の武器を出すがいい。剣を持っているのに使わないとは

宝の持ち腐れに等しい」

 

「はい!」

 

カードから大剣を発現して構え教会随一強い人間と幼い人型ドラゴンが剣を交えた―――。

 

―――○●○―――

 

だが、一誠にとって生まれて初めて身の危険を覚える日がやってきた。

それは二度目の討伐の日。深夜、某場所で一誠たちは魔獣と戦い終えた時だった。

 

「この前戦った魔獣より強くなかったけど、これで安全になったよね」

 

「はい、きっとそうですよ。あっ、一誠くん血が・・・・・」

 

「ん?きっと茂みで切っちゃったんだね」

 

腕に一筋の赤い血液が垂れていた。それをなんとでもなさそうに見ていたがルーラは

ハンカチでふき取った。

 

「施設に戻ったら消毒しないと」

 

「それじゃ一旦集合場所に戻ろっか。集まっているかもしれないし」

 

「ですね」

 

踵返して同士、仲間たちがいる場所へ足を運んだ。二人は和やかに話をしながらも警戒は怠らない。

―――だからこそ、こんな深夜に装飾が凝った白い服を身に包み、白い髪に金の双眸から

歓喜の色と狂喜の笑みを浮かべている男を発見する事も容易かった。一誠は男を見て

背筋に走る悪寒を感じ、バサッ!と金色の翼を展開すると男が高らかに笑い始めた。

 

「今宵はなんと素敵な日だろうか!ちょっと遠出してみれば天使の美少年と出会ったではないか!」

 

目の前の男は危険だと第六感の警報が鳴り止まない。一誠は容赦なく聖なる光を男や

周囲に向けて放ったが、闇を裂く光に生まれる影は男を味方にして光りから守った。

影の中に潜り込み一誠の真後ろに移動すると、

 

「どれ・・・・・キミの血の味を堪能しようか」

 

「ひぅっ!?」

 

ビクリと硬直した身体と思考が一誠を次の行動を送らせた。その結果、男が覗かせる

牙が一誠の首の皮と突き破り、血を吸われていく。

「い、一誠くん!」とルーラが悲鳴を上げる中、男の目が丸くなっていた。

 

「(これは・・・・・美味い・・・・・そして、なんて熱く濃厚な血潮・・・・・!)」

 

男はそれだけではないと悟る。血を啜る度に溢れんばかりのパワーが身体の奥底から

湧き上がって仕方がない。この少年の血を全て吸い切ったら自分はどうなってしまうのか

という好奇心と不安が混ざるも一誠を解放しようとしない。

 

「(いや、こんな美少年を一時で終わらせては勿体ないっ!故にこの血をあの方にも―――!)」

 

そう思いながらも懐から複数の小瓶を取り出して一誠の首筋に流れる血を採取した時だった。

 

―――ゾッ!

 

身の危険を、悪寒を感じた。男は本能的に離れるとさらに目の前に剣の切っ先が飛びこんできた。

 

「っ!?」

 

間一髪かわした男だが頬に炎で焼かれたような痛みを感じた。その剣は自分を滅ぼすことが

可能な剣であることを認知して影の中へ潜り込んだ。剣を持った者、ストラーダ猊下は

厳しい目つきで周囲に警戒しているとこの場からいなくなったことを察知してぐったり

している一誠と涙目のルーラに振り返った。

 

「吸血鬼が現れたか」

 

「先生!一誠くんが、一誠くんが!」

 

「分かっている。戦士一誠の光を見た時は何か遭ったのだと悟って駆けつけたのだ。

・・・・・どうやら間に合ったようだ」

 

心の中で安堵の息を漏らし一誠を抱きかかえた。

 

「だが、手当をする必要がある。至急に戻るぞ」

 

「はいっ!」

 

一方、九死に一生を得た男は全身で息をしながらも目的地に辿り着いていた。

息を整えある場所に赴けば赤い絨毯にパチパチと薪を燃やす暖炉、

洋風なアンティークの家具の空間が。そこに巨大な獣が寝そべっていて獣に寄り掛かるように

腰を下ろしてグラスに注いだワインを揺らす黒い長髪に黒いドレス、

赤い瞳の少女と黒い騎士甲冑を着込んだ男がいた。男が自分の目の前に現れるや否や、

 

「敵にやられたの?その頬の傷」

 

と口の端を吊り上げて嫌味な言葉を投げたが、男は気にせずに苦笑を浮かべた。

 

「つい生まれて初めて至高の血を持つ美少年に夢中でして」

 

「ふーん、至高の血ね。―――その血を飲んだから力を増しているのかしら?」

 

少女の問いに目を輝かせ、満面の笑みを浮かべた。

 

「ええ!そうなんですよ!あの美少年はただの人間ではありません!

私が美少年の血だけ吸い続けた中で至高の血を持つ美少年でしたよ!

だから私は若い血を持つ美少年が大好きなのですよ!」

 

「そ、そう・・・・・」

 

「ああ、またあの美少年と会いたい・・・・・っ!私、どうやら惚れてしまったようです姫!」

 

恍惚とした表情を浮かべる男に少女の口元が引き付き、騎士甲冑を着込む男は

関わりたくないとばかり目を閉じていた。

 

「あっ、因みに美少年の血を持ってきました」

 

懐から少量ながらも血が入っている複数の小瓶を取り出した。少女と騎士甲冑の男に

渡すと少女はジッと血を見た。

 

「ふーん・・・・・これがあなたが惚れ込んだ人間の血ね」

 

蓋を開けてまずは血の匂いを嗅いだ。その後まだグラスに残っているワインに赤い血液を

半分ほど入れて、グラスを傾かせワインと血を混ぜるようにして直ぐに口元に寄せて一口。

 

ドクンッ!

 

「「・・・・・っ!」」

 

少女と騎士甲冑の男が目を張った。一誠の血を直接飲んだ男のように感想は似たようなものだった。

 

「この血の味・・・・・確かにただの人間ではないわね」

 

「・・・・・ただの人間どころか、人間ではなさそうですな姫よ」

 

騎士甲冑の男の言葉に同意と少女は血を提供した男に問うた。

 

「その人間は本当に人間だったかしら?」

 

「姿形はまさしく。ですが、天使の翼を展開していました」

 

「・・・・・天使の血はこんなにも美味しかったのかしら」

 

「お前はよく血を吸えたものだな」

 

「相手はまだ子供だったから吸えたんだよ。できることなら私のコレクションに加えたい程だ」

 

また恍惚な表情となった男を無視して未だ瓶に残っている血を見詰めた後、

口の中に直接入れて飲みほした。

 

「つまらない意地とプライドを張っているカーミラ派とツェペシュ派にこの血の存在を

教えるのも何だか癪だわね」

 

「一応、我々もツェペシュ派なのですが?」

 

「私たちの領土がたまたまここだったからツェペシュの派閥になったに過ぎないわよ。

私は一言もどっちの派閥の吸血鬼とは告げていないし加担した覚えもない。

妹も私と似たところでしょうね」

 

「それとも、あなたたちはツェペシュ派、カーミラ派の吸血鬼だったかしら?」

と意味深と笑みを二人の男に目を配れば少女の前に跪いた。

 

「私はあなただけの騎士でありますよ姫」

 

「右に同じく」

 

「ふふっ。なら、何時までも私の傍にいなさい?私の白騎士と黒騎士、

リィゾ=バール・シュトラウト、フィナ=ヴラド・スヴェルルデン。いいわね?」

 

「「はっ!」」

 

『・・・・・』

 

「ああ、あなたも傍にいてちょうだいねプライミッツ・マーダー」

 

自分が寄りかかっている獣から感じる視線に気付き、声を掛けると短く鳴いた。

 

「にしても、興味が湧いたわね。その子」

 

「・・・・・姫、まさかだと思いますが。敵地に乗り込むおつもりですか?」

 

「乗りこむなんて心外ね。私の騎士が惚れ込んだ美少年を見に行くだけよ」

 

「勿論」と少女は獣の背中に触れた。

 

「あなたたちも来なさい。出掛けるわよ」

 

「待ってました!」

 

「やれやれ・・・・・」

 

一人は歓喜に、一人は呆れで少女に付き従うのであった。



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エピソード29

吸血鬼に襲われ一誠はしばらく寝込んでしまった。初めて本当に身の危険を感じ、

目が覚めても身体を震わすことが多く周りから心配の声が掛けられる。

ルーラも例外ではない。片時も離れず少しでも襲われたショックを紛らわせようと必死だった。

一誠の様子を見ていたストラーダ猊下とクリスタルディ猊下が揃って息を吐いた。

 

「相手が相手だった為にな・・・・・」

 

「同性の血しか吸わないという吸血鬼でしたな?」

 

「ドラゴンの血で通常よりも強くなっていた吸血鬼を逃してしまったことが失態だった。

血の味を覚えてまた襲いかかってこないと限らん」

 

「次の討伐の際には警護しないと・・・・・」

 

「クリスタルディ猊下。共に来てくれるか?」

 

「ドラゴンは力を呼び寄せる特徴がありますからな」

 

暗に共にするという発言だった。一誠を見守っているとシスターが近寄ってくる。

とても真剣な表情で口を開きだした。

 

「お話し中のところ申し訳ございません。事件が起きました」

 

「討伐か」

 

「はい。某所で全身の血が抜かれた死体を発見したと報告が」

 

顔を見合わせ頷いた。今回は最初から吸血鬼が絡んでいる事件であると。

 

「仕事だ、クリスタルディ猊下」

 

「主に代わって民を守り天罰を与えましょう」

 

全ては主の為にと心から誓って吸血鬼討伐に赴く二人であった。

 

その日の夜―――。

 

一誠は心を許した相手と共に寝ることでちょっとした不安は直ぐに無くなり安心して眠るようになる。

故に心配をしているルーラが夜も付きっきりで傍にいて一緒に寝ることもある。

共に夜を過ごす日が多くなり一誠もルーラも当然のように今夜も寄り添うようにベッドの中で寝ていた。

二人が寝る部屋は静寂に包まれ虫の鳴き声も聞こえない無の空間。月明かりが部屋に―――

 

ガチャッ。

 

『・・・・・』

 

器用に扉を開けた巨大な白い獣が照らした。獣は足音を立たせずそれでいて自然な動きで

ベッドに眠る一誠とルーラに近づく。だが、獣は若干どうすればいいだろうかと

当惑の色が目に浮かぶ。

 

『いい?赤い髪の人間を連れて来て頂戴』

 

目的の人間を見つけたのはいいが、予想外にも共に密着して寝ている存在がいた。

引き離そうにもどっちかが目を覚まし騒ぎとなるに違いないと獣は考えついた。

だったらどうする?自問自答をした結果。獣は上掛け布団を二人を纏めて包みこみ、咥えて、

来た道に踵返して戻った。その際、獣は一人のシスターと出くわすものの施設から

出ることが成功し、イタリアの夜の市街地へと駆けだす。

 

―――一時間後―――

 

「してやられた・・・・・っ!」

 

討伐から帰ってきたクリスタルディ猊下が目元を厳しく細めて上掛け布団がないベッドを見て

八つ当たり気味に壁へ拳を叩き付けた。事件があった場所に赴いて件の吸血鬼を探したが

発見できず、施設に戻ったところで白い獣と遭遇したシスターから

「一誠の部屋から巨大な獣が何かを咥えて去って行った」と説明を受けた。

 

「吸血鬼は紹介されたことのない建物には一切入れない。だとすれば魔物を使役して

連れ去ったか」

 

ストラーダ猊下も声音を低くして今まで無かった例外に自分の失態だと猛省していると

バタバタと駆け足の音が聞こえ、顔に汗を浮かんだシスターがやってきた。

 

「レティシアがおりません!」

 

「戦士一誠と寝ていたはずだ。だとすれば一緒に連れて行かれた可能性は大きい」

 

「吸血鬼の根城はルーマニアのどこか・・・・・それだけ分かっていますが

どこにあるのかだけは未だに・・・・・」

 

敵が向かう先は分かっているが、その場所は把握できていない状況ということで

これ以上ストラーダ猊下とクリスタルディ猊下がどうこうすることなどできない。

万事休すという思いが浮かぶが、

 

「・・・・・戦士一誠の家族に報告をする」

 

「・・・・・兵藤誠と兵藤一香の耳に伝われば・・・・・」

 

「我々より世界を見聞している。きっと吸血鬼の根城も把握しているだろう。

そう願って報告をせねばならない」

 

 

 

ストラーダ猊下が部屋から出て、一拍してクリスタルディ猊下も扉を閉めて後を追う。

そして、知らぬ間に連れ去られた一誠たちは建物の屋上にいる複数の影に視線を向けられていた。

ただ一人荒い息をして今にでも襲いかからんとばかり危険な状態だった。

 

「へぇ、寝顔が可愛いじゃない。なぜだか人間の女の子までいるけど」

 

『・・・・・』

 

「仕方なく連れて来たのでしょ?いいわ。この子も連れて行きましょう私たちの城に」

 

「この場で捨て置いた方が今後の為では?」

 

黒い騎士甲冑を身に包む男が後顧の憂いをなくすための発言をしたが少女は指を顎に

触れながら返事をした。

 

「確かにそうでしょうけど、後々になって面倒なことになりかねるかもしれないから

生かしておくわ。なにより感じるわ。この子から発する力を・・・・・」

 

少女は静かに口角を上げて一誠の頬を触れた。子供特有の肌の感触と弾力に笑みを零す。

 

「出会ったことは無いけど、天使でもなさそうね。聖なる力を感じないもの」

 

「では一体・・・・・」

 

「さぁ・・・・・起きたら聞きましょう、その方が早いわ」

 

獣は再び二人を咥えると少女が獣乗せに跨り、二人の男たちと共に屋上から飛び降りて

闇に消えた。

 

―――○●○―――

 

「んー・・・・・」

 

一誠は何時も通りの時間帯に起床した。目覚めたばかりで思考が鈍く甘い匂いと

心地いい温もりと手に感じるゴワゴワと硬い髪の毛のような白い塊―――。

 

「ん?」

 

本来感じない何かに疑問を抱き、一誠は振り向いた先には。

 

「・・・・・犬?」

 

巨大な白い獣が一誠とルーラーを寄り添って目を閉じ、規則正しい寝息を立てていた。

 

「何で犬がここに?」

 

改めて周囲を見回したところで一誠の目が大きく見開いた。自分が寝ていた自室ではなく、

 

「やぁ、おはよう美少年」

 

いつぞやの白い髪の男が至近距離で満面の笑みを浮かべて挨拶をしたところで、

 

「お」

 

「お?」

 

「襲われるぅうううっ!」

 

一誠が絶叫を上げては金色の翼を広げて神々しい光を放った。

 

「ちょっ、待ちたまえ―――!」

 

ドォンッ!

 

光の砲撃は男に当たらず壁に風穴を空けて冷気が入ってくる。

その結果、ルーラーと巨大な犬が目を覚ました。

 

「ど、どうしたの!?・・・・・え、ここは・・・・・?」

 

ルーラーも見慣れない空間に当惑したところで、暴れるなとばかり白い犬がその大きな

身体でのし掛かり押さえつけた。

 

「お、おもっ・・・・・!」

 

「一体全体なにが・・・・・っ」

 

「なんの騒ぎ・・・・・あら、起きたのね?」

 

一人の少女が目の前に現れた。後に黒い髪の男も現れたのだった。

 

「だ、誰?それにここはどこ?」

 

「質問に答えるから大人しくしてくれるかしら?」

 

「それよりも・・・・・重いんだけど・・・・・」

 

「プライミッツ・マーダ」

 

犬の名前なのだろう、巨大な犬が立ち上がって横にずれると一誠とルーラーを

監視すような視線を向け始めた。

敵意は無いことに二人は視線を目の前の少女に向けると少女が口を開いた。

 

「さて、お互い自己紹介をしましょうか。私はアルトルージュ・ブリュンスタッド。吸血鬼よ」

 

「吸血鬼・・・・・?」

 

「・・・・・っ」

 

小首を傾げる一誠に顔を強張らせるルーラ。アルトルージュは二人の反応の違いに

不思議そうに問うた。

 

「吸血鬼と会うのは始めてかしら?」

 

「話だけなら何度も聞いたけど、キミみたいなちっちゃい吸血鬼もいるんだね。僕と同じ年かな?」

 

「見た目で判断してはいけないってお父さんやお母さんに言われていないかしらね」

 

対して気にせず、寧ろ面白いと小さく口角を上げた。

 

「それで、あなたたちの名前はなんて言うのかしら?」

 

「僕は兵藤一誠だよ。こっちはレティシア・J・D・ルーラって娘なんだ」

 

「―――兵藤?」

 

風邪の噂で聞いたことがある名前だった。極東の島国の人間を統括している一族の名前である。

対してアルトルージュは他国の情報を気にせず生きていたが、

目の前に兵藤と名乗る子供、一誠が兵藤と名乗った。

 

「知ってる?」

 

「ええ、直接兵藤の人間と会うのは初めてだけどね」

 

「じゃあ、お父さんとお母さんと会ったことがないんだね」

 

「あら、ご両親も兵藤家なのね?」

 

「うん」と一誠は肯定した後、

 

「僕のお父さんとお母さんは色んな神さまとお友達なんだよ。

空の神さまとか海の神さまとか、北欧の主神っていうオー爺ちゃんとか、

帝釈天っていうおじさんや神王のおじさん―――いふぁい、いふぁいよ!」

 

「もう、神王さまにおじさんって言ってはダメって何度言えば分かるんですかー!」

 

「「・・・・・」」

 

度肝を抜かれているアルトルージュと黒い髪の男を余所に一誠とルーラは何時もの

光景を繰り広げたのだった。

 

「ねぇ・・・・・嘘、言っていると思う?」

 

「分かり兼ねます・・・・・ですが、嘘を言っているようには思えません」

 

「私たち・・・・・もしかしたらとんでもない子を連れて来ちゃったかしら・・・・・」

 

「・・・・・ゼウスにポセイドン、オーディンが攻め込まれてもおかしくないかと」

 

「その時、吸血鬼という種族が滅ぼされちゃったりして」

 

ありえると黒い髪の男がうっすらと冷や汗を流した。すると何か物足りないと感じた。

 

「フィナがいませんな」

 

「あら、そういえばそうね」

 

「ん?誰のこと?」

 

「白い髪の男の人知らない?」

 

「ん(壁の風穴に差す)」

 

一誠が指す方へ視線を向けた二人と一匹、今更ながらどうして壁に穴が

空いているのかと問うたところ、

 

「白い髪の男の人が襲ってきたから吹っ飛ばした」

 

「違うからね!?」

 

「ひぅっ!?」

 

どこからともなく現れた白い髪の男に一誠は身体を跳ね上がらせ、

犬の影に隠れた。だが、その犬に襟を咥えられて隠れさせてくてることは叶わなかった。

 

「フィナ、お前の原因で壁に穴が空いたのだな。後で直しておけ」

 

「私が!?ただ美少年の寝顔を見ていただけなのに!」

 

喚く男に無視して黒騎士は一誠に声を掛ける。

 

「少年、この男だけは手加減なしに、遠慮なしに攻撃して良いからな。

主に自分の身を守るための意味で」

 

「待てリィゾ!同じ姫を守る騎士仲間としてその発言はいかがだと思う!」

 

「お前の言動で姫の城を壊されかねないのだ。お前が自重すればいいだけの話ではないのか」

 

「私の目の前に今世紀最大の美少年がいるというのにそれは無理な話である!」

 

聞いていた吸血鬼の話とは違うなーと他人事のように言い合う二人を見た一誠とルーラ。

 

「怖く・・・・・ないのかな?」

 

「多分、この吸血鬼だけだと思います」

 

「まぁ、大体この二人はこんな感じだから賑やかなのよね」

 

と、アルトルージュが話に加わってきた。

 

「一誠って呼んでいいかしら?」

 

「うん、いいよ」

 

「それじゃ一誠くん。あの白い髪の吸血鬼、私の騎士フィナって吸血鬼だけどね?

一度、あなたの血を吸ったことで力が前より増大したの。それは今も変わっていないの」

 

私もそうだけどと付け加えて一誠にあることを尋ねた。

 

「一誠、あなたは何者?天使の翼も生やせるみたいだしね」

 

「僕は僕だよ?でも、人間じゃないけどね」

 

「というと?」

 

「皆が言うにはグレートレッドの肉体とオーフィスの力で復活したんだって。

だから今の僕はちっちゃいドラゴンなんだって」

 

「―――っ」

 

グレートレッド、オーフィス。どちらも聞いたことがあるドラゴンの名前だ。

その上極東の島国では有名な兵藤という一族の者の血を引いている。

 

「(だから力が増大したのね。これで納得できたわ)」

 

真龍と龍神の話は一先ずおいといて、一誠がドラゴンであることは確信した。

だが同時に一誠をこのまま野放しにできなくなった。他の吸血鬼たちが一誠の存在を知り、

血の味を知ってしまえば独占しようと躍起になるはずだ。

 

「(面倒な子を招いちゃったわけね。これもよくに駆られた私たちに対する自業自得、

罰なのかしら?でも、それ以上に興味深い子であることは確か)」

 

「ねね、この犬の名前は?」

 

「プライミッツ・マーダー。姫と我々だけしか―――」

 

「プライミッツ・マーダー、お手!」

 

『・・・・・(ガブッ)』

 

「ムグッ―――!?(バタバタッ)」

 

差し出されたてと一誠の発言を理解できるのか、物凄く不機嫌そうな面持ちで

プライミッツ・マーダーは大きく口を開けて頭から一誠を噛みついたのだった。

 

「ちょ、一誠くーん!?」

 

「言い忘れたが、プライミッツ・マーダーは犬扱いすると不機嫌になるからな」

 

「それを早く言ってくださいよ!って、一誠くんを外に放り投げないでー!」

 

「そのまま私がキャッチをして熱い抱擁をしようではないか!(バッ!)」

 

「お前が行くと余計に騒ぎになるからダメだ(ガシッ!)」

 

何だか何時も以上に賑やかとなってしまった。アルトルージュはクスクスと騒ぎの

中心である四人と一匹を見詰め楽しげに見詰めていた。

 

「(ま、なるようになるでしょう。時間が許されるまで楽しませてもらいましょうか)」

 

その後、壁に空いた穴は元通りに修復したことでアルトルージュとフィナ、リィゾは

自室に戻った。一誠たちと違って吸血鬼の活動は日中は休み、夜に活動する種族なので、

純血に近い吸血鬼ほどそんな生活習慣を送らければならない。だから昼間活動する

一誠とルーラは二人の監視役のプライミッツ・マーダーと部屋に取り残された。

 

「一誠くん、今なら脱出できるのでは?」

 

「そうだね、それじゃ」

 

廊下へ繋がる扉に近づこうとした一誠に反応したプライミッツ・マーダーが

あっという間に近づき、襟を咥えてズルズルとローラのところまで引き摺っては放置した。

 

「まだまだ!」

 

翼を生やして一気に窓のある方へ羽ばたいて突き破り脱出を試みようとした一誠を兆弾の如く、

凄まじい跳躍力で天井に跳び、そこから一気に一誠の背後から襲いかかって圧し掛かる。

 

「・・・・・ダメだ。この犬から逃げられそうにないよ」

 

「ドラゴンになったらどうでしょうか?」

 

ズルズルと再びルーラのところまで引き摺られる一誠に尋ねたら一誠は首を横に振った。

 

「大騒ぎになってアルトルージュたちが起きて捕まえられちゃいそうな予感がする」

 

「・・・・・完全に私たちは誘拐されたのですね」

 

落胆するルーラと一誠。諦めた雰囲気を感じ取りプライミッツ・マーダーは

楽な姿勢になって瞑目した。

そんなプライミッツ・マーダーを見て恐る恐る足音を立てないように歩いても

気配で察知し、逃げるなと籠った目が開いて睨まれる。

 

「ごめんね、ルーラ。僕のせいで・・・・・」

 

「気にしないでください。寧ろ一誠くんと連れ去られて良かったです」

 

「どうしてそんな事を言うの?」

 

「だって―――」

 

一誠の手を握って微笑んだ。

 

「心配するよりも一緒にいた方が心配もせずにいられて安心できますから」

 

「・・・・・」

 

「ほら、朝食と用意された果物でも食べましょう。食べないと空腹で何もできませんし」

 

元気づけようとルーラは現在の現状を受け入れようとしている。

一誠も申し訳なさそうにコクリと頷き、籠にある様々な果物に手をつけた。

 

 

―――一方、その頃リーラに事の詳細を告げていたストラーダ猊下とクリスタルディ猊下。

 

 

「・・・・・」

 

「「・・・・・(汗)」」

 

吸血鬼に連れ去られてしまった事件をリーラに報告をした瞬間に、

百戦錬磨であるストラーダ猊下が冷や汗を流す程、感情が無くなり琥珀の双眸から

何とも言えない冷たいものが帯び、怒りを通り越して冷静過ぎて

それが今のリーラの考えを分からさせない為逆に―――怖い。

 

「申し訳ない」

 

クリスタルディ猊下が話を、謝罪を切りだした。

何時までもこの無言の状態に堪え切れないと思ったが故に。

 

「いえ。こちらから頼んでいる身、お二人に咎める気はございません」

 

リーラは二人に怒りをぶつけようとしなかった。

 

「そ、そう言ってもらえるとありがたい・・・・・」

 

「ええ、一誠さまを連れ去った吸血鬼を見つけ次第―――この世から抹消しますので」

 

「「・・・・・」」

 

やっぱりこのメイドはどこか怖いと二人の猊下は思わずにはいられなかった。

 

「ところで、吸血鬼が住んでいる場所は把握しているのですか?」

 

「ルーマニアのどこか・・・・・としか今の協会はそれしか把握できていない。

何分、不思議な結界を張っているのか特定することができていないのだ」

 

「ルーマニアですか。わかりました」

 

腰を上げたリーラはストラーダ猊下とクリスタルディ猊下に言った。

 

「では行きましょうか」

 

「と・・・・・言うと?」

 

「ルーマニアへです。まさか私とオーフィスさまだけ行かせて自分たちだけ行かないと

申し上げるのですか?ああ、先ほど咎める気は無いと申し上げたのですが―――」

 

冷たい笑みを浮かべた。

 

「お二人には少なからず教会の施設に敵対している勢力から手は出されないと

天狗になっていた『監督責任』がありますので責任は果たしてもらいます」

 

「「・・・・・」」

 

二人は有無を言わさず、拒否も否定も拒絶もできずリーラの発言に

ただただ従う他なかったのであった。

 

―――○●○―――

 

「・・・・・暇だね」

 

「・・・・・暇ですね」

 

プライミッツ・マーダーの横っ腹に寄り掛かる形で漏らす二人。

最初ルーラは警戒していたものの、今ではすっかり現状に馴染んでいた。

 

「窓の外でも見たいんだけど」

 

「何度もそうして離されますけどね」

 

苦笑を浮かべるルーラ。窓から何度も離される一誠と離すプライミッツ・マーダーの

光景が未だに頭から離れないでいるのだ。ある意味漫才のようだった。

 

「うー、この犬。なんなのさぁ・・・・・」

 

不貞腐れる一誠の言葉に呼応したのは、右手の甲に赤い宝玉が浮かんで光が点滅しながら声を発した。

 

『そいつは魔獣だ主』

 

「ゾラード?」

 

『だが、ただの魔物じゃなさそうだな。これはとても珍しい』

 

興味を示すゾラードだったが、一誠とルーラにとってはどういうことなのか分からないでいる。

 

『しかし、主は色々と苦労しているな。吸血鬼に好奇心を抱かれるとは』

 

喉の奥から漏らす笑い声に一誠は首を傾げる。

 

「そう言われても・・・・・そうだ。ね、ゾラード。ここどこだか分かる?」

 

『雪山に囲まれた場所としか分からない。それに強大な結界によって外と隔離している。

教会の者たちが吸血鬼の根城を発見できずにいるのは結界によるものだろうな』

 

「もしかして、僕がドラゴンになっても出られない?」

 

『それ以前に、この極寒の中でどの方角に戻ればいいのか分からないまま脱出するのは

良い選択ではない。ましてや主、人間の子供を庇いながら吸血鬼と戦うのは今の主では

無謀だ。今は主の家族がこの吸血鬼の根城を探り当て乗りこんでくることを願って

待つしか方法は無い』

 

「あう・・・・・僕が弱いからなんだね」

 

ズーンと落ち込む一誠を慰めるルーラ。

 

『それより、暇なのであれば修行でもすればいいのではないか?』

 

「んーそれもそうだね」

 

腕立ての態勢になるとルーラに顔を向けた。

 

「ルーラ、僕の背中に乗ってくれない?」

 

「え?でも・・・・・」

 

『重い物があればさらに鍛えられるのだ。ここは主の―――』

 

「わ、私は重くありません!」

 

声を張り上げるルーラが機嫌が斜めになって顔をそっぽ向いた。

すると、一誠の左の手の甲に緑の宝玉が浮かび上がって光が点滅した。

 

『ゾラード、人間の女性に重いなどと失礼なことを言ってはなりませんよ』

 

『なんだと?俺は別にそんな意味で言ったわけではないのだぞ』

 

『彼女がそう捉えた時点で、あなたは誤解を招く発言をしたのです』

 

『むぅ・・・・・』

 

ドラゴン同士の話を聞きながら「まだ・・・・・?」とルーラに視線を送る一誠。

 

「ルーラは重くないよ。だから乗ってくれない?」

 

「・・・・・本当ですか?」

 

「うん」

 

「・・・・・じゃあ、乗りますね」

 

そっと腰を一誠の背中に落とした。ルーラが背中に乗ってくれたことで一誠は

腕立て伏せを開始した。

 

 

―――数時間後―――

 

 

夕方になると外は薄暗くなり始め、吸血鬼たちが活動をし始める。

当然、眠りに入っていた者たちも起き上がって―――。

 

「おはよう、一誠とレティシア・・・・・退屈していなかったようね」

 

「ん?」

 

火の塊を両手でジャグリングしている一誠を見て苦笑を浮かべたアルトルージュ・ブリュンスタッド。

 

「ああ、これ?遊ぶ物もないし外にも行けないし、

窓から外を覗くこともできないから前習った魔力を炎に変えて遊んでいたんだよ。

ルーラは持てないから僕一人で」

 

「・・・・・」

 

ドラゴンが一人で魔力を別の属性に変えて遊んでいる。

こんな変な光景を見たのはきっと自分だけだろうと呆れを通り越して感嘆してしまう。

 

「さて、朝食にしましょうか」

 

「もう夕方だけど・・・・・」

 

「人間と一誠(ドラゴン)はそう思うけど私たち純血の吸血鬼は夜こそが朝みたいな感じなの。

ところで、吸血鬼が主な食事とは何か分かっているかしら?」

 

「「っ!?」」

 

ここに来て初めて二人は緊張の色を浮かび警戒を抱いた。

 

「ルーラには手を出さない!」

 

「元より私は一誠の血に興味があるの。ドラゴンの血ってどうやら吸血鬼の力を

増加させるみたいだしね?」

 

「・・・・・そうなの?」

 

「私も初めてだから本当のところどうだか分からないわ。けどね。

こんな言い方をしたくないけどあなたたち二人の命は私の手の中にあるの。

どういうことだかわかるかしら?」

 

一誠とルーラは無言でアルトルージュを見据えるだけで答えなかった。

その様子にアルトルージュは分からないのだと判断し説明した。

 

「今現在、あなたたち二人の存在を知る者は私とフィナ、リィゾ、

プライミッツ・マーダーだけ。私の城から出ればあなたたちにとって本当の敵の吸血鬼が大勢いる。

女であるあなたは慰みものとして男の吸血鬼に赤子を孕ませられ、

まだ子供のドラゴンである一誠はあなたの血を知ったら全身の血という血を吸い尽くされ

良くて眷属、最悪殺されちゃう可能性があるの。そんなこと絶対に嫌でしょ?」

 

「「・・・・・」」

 

「大丈夫。あなたたちがしばらくの間私の言うことを聞いてくれればあの教会の施設に

戻してあげる。約束するわ、このアルトルージュ・ブリュンスタットの名と誇りに懸けて」

 

自分の胸に手を添えながら真っ直ぐ一誠とルーラを見据えながら述べたアルトルージュ。

ルーラはより一層に警戒心を抱き「絶対に嘘だ」と頭で思い、一誠の服を掴みながら睨んだ。

対して一誠はジッとアルトルージュの赤い双眸を覗きこむ視線を送り続けていた。

嘘か本当かを判断以前に彼女が良い吸血鬼か悪い吸血鬼かその目で確かめ判断する為に。

 

「・・・・・本当に約束してくれるの?」

 

「ええ、勿論」

 

「もしも嘘ついたら、僕の中にいるドラゴンを外に出して暴れさせるからね」

 

「・・・・・ドラゴン?」とアルトルージュはどういうことなのかと小首を傾げた

ところ一誠が答えた。

 

「僕の中には四匹のドラゴンがいるんだ」

 

「・・・・・嘘でしょ?」

 

アルトルージュは信じられないとそう述べたが一誠の両手の甲に浮かぶ宝玉が肯定した。

 

『本当ですよ吸血鬼』

 

『我が主に嘘を付けば、主の願いを叶える為にこの吸血鬼の世界を滅ぼしてくれる。

主に主の中に宿っているもう二匹の邪龍がな』

 

「―――――っ!?」

 

ドラゴンがドラゴンを宿すなど聞いたことがない。だが、目の前の現実を

突き付けられては認めるしかない。大きく張った目を何時までも一誠から離れない。

 

「(兵藤一誠・・・・・あなたは一体何者だというの・・・・・)」

 

「ん」

 

唐突に肩腕をアルトルージュへ伸ばした。そんな一誠の意図が分からないルーラだった。

 

「ルーラの血は吸わないで。代わりに僕の血で我慢して」

 

「そんなっ、一誠くん・・・・・!」

 

自己犠牲な行動をしようとしている一誠に悲鳴染みた声と反応。ルーラに安心させる

笑みを浮かべて言いだした。

 

「大丈夫、アルトルージュは約束してくれるから僕のことを殺さないよ」

 

ある意味それは脅しみたいなものだ。アルトルージュは約束を守る気はあったが、少々

イメージダウンをしてしまった様子だ。だが、それが吸血鬼であるからしょうがないのだ。

一誠の腕を撫でるように添えて口に近づけた。

 

「誓うわ。あなたたちがこの城にいある間、一誠だけの血を吸わないことを。

彼女の身の安全を保証する事も」

 

「絶対だよ」

 

「約束するわよ。それじゃ―――」

 

アルトルージュの口から鋭い牙が覗き、ソレは一誠の腕に皮と肉を突き破った。

 

「んっ」

 

注射を刺された以上の感触と痛みに呻く一誠。

アルトルージュは朝食である新鮮なドラゴンの血を満足するまで吸い続けた。

 

「はぁ―――――」

 

程なくして、一誠の腕から口を離すと恍惚とした表情のまま熱の篭った吐息を零す。

今まで味わった血より熱く濃厚な血・・・・・。噛まれた腕を擦る一誠を見ながら

熱くなった全身を両腕で抱き絞められずにはいられなかった。

 

「(この血・・・・・病み付きになりそうだわ・・・・・)」

 

潤んだ瞳を一誠に向けて艶めかしい笑みを浮かべた。心の中で約束なんてしなければ

良かったと心底後悔したが既に後の祭りだ。一誠の血を呑んだことで約束は

交わされたと当然であるから。

 

「(・・・・・なら、私色に染めて私から離れないようにすればいいだけのことね)」

 

幸いアルトルージュは一誠とルーラを返す期日と時間を言っていない。それを有効活用して

自分好みに育て上げ、この美少年好きが見つけた至高の血を流す一誠を自分に

惚れこむことで帰る気を失わせればいい。ルーラは何時しか邪魔になるだろうが、

一誠が身を呈して守るほどの少女だからおいそれと手を下すことはできない。

 

「(ま、しばらくは一緒に可愛がってやりましょう)」

 

そう決めたアルトルージュは深い笑みを浮かべた。



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エピソード30

()

 

吸血鬼の根城に誘拐され早三日。一誠とルーラは部屋に閉じ込められた監禁状態も続いたが、

リィゾやプライミッツ・マーダーと同伴なら町に出ても良いとようやく監禁状態から解放された。

 

「え、私は・・・・・?」

 

「お前は隙あらば襲い掛かるだろうからダメだ。

その上、怖がられているから監視もとい護衛は無理だろう」

 

「Oh・・・・・」

 

二人は久し振りの外に出かけた。が、一誠とルーラは重要なことを頭の中から抜けていた。

 

「「寒いっ!」」

 

―――防寒着を着ていないことをだ。寒がる反応をする二人へリィゾは話しかけた。

 

「お前たちの必要なものを買わないといけないな。それに寝間着姿のままでは格好もつかないだろう」

 

「プライミッツ・マーダー、僕たちを乗せて!」

 

「というか、私たちを靴も無しに歩かせることを

考慮していなかったのですか・・・・・」

 

二人の子供を乗せる巨大な白い魔獣。それでも寒い為、

ルーラは一誠の背中にしがみ付いて温もりを感じる。それでも寒い為、

 

「ね、翼出していい・・・・・?」

 

寝袋みたいに翼でルーラと一緒に包まれたいと切なる思いで懇願したが、

 

「ダメだ。他所者であるお前が天使の翼とやらを出してみろ。

直ぐに敵だと認知され捕まって殺されるぞ」

 

「他所者って、僕たちを寝ている間に連れてきたくせにそれはあんまりだよ・・・・・」

 

「そうです理不尽です。他所者が邪魔なら今すぐ私たちが暮らしていた施設に送ってください」

 

「・・・・・」

 

渾身の攻撃を食らい、痛いところを突かれリィゾは返す言葉も見つからず

プライミッツ・マーダーと共に町へ赴いた。そこで寒さに震えながら一誠とルーラが

目にしたものは―――純白の雪に包まれた見知らぬ町並み。

テレビでよく見かけるヨーロッパ風の造りの建物がずらりと並んでいた。

 

「ねね、リィゾお兄ちゃん」

 

「・・・・・なんだ」

 

「リィゾお兄ちゃんって一人で出掛ける時ある?」

 

「血を吸いに時々な」

 

「それ以外は?」

 

「ない」

 

他愛のない雑談をしつつ、プライミッツ・マーダーの背に乗りながら服屋を目的地に向かう一行。

その際、ちらりちらりと一誠とルーラに視線を送る町の住民=吸血鬼が多いことに気付く。

 

「僕たちのことを見てくるね」

 

「他所から来た者だと気付いたみたいだからな」

 

「この町にいる住民は全員、吸血鬼・・・・・」

 

「教会が長年探し求めていた本拠地だ。教会はともかく天界の天使や神すら

好きこのんで足を踏み入れる場所ではないからな」

 

ザッザッザッと雪を踏みしめながらルーラの呟きを拾って答えたリィゾ。

何時の間にか繁華街に辿り着いて目的地である服屋に辿り着いた。

 

―――数十分後―――

 

「暖かい!」

 

「これで少しは安心できました」

 

「ありがとうございました!」と元気よく感謝の言葉を送られたリィゾは黒い目を一誠とルーラに向けた。

 

「もうすぐ冬の季節は通り過ぎるが、人間のお前とドラゴンのお前たちでは

この環境には慣れないだろう」

 

「吸血鬼は冬に強いの?」

 

「強い弱いとは無縁でな。ただ単に寒いという概念は無いだけだ」

 

「へぇ、いいなぁー寒くないって。それだったら一日中外に遊んでも風邪引かないよね」

 

「そういうものか?」

 

「うん、そういうものだよー」

 

プライミッツ・マーダーの背に乗らず自分の足で立つ一誠の目にある物が飛び込んできた。

 

「おっきい城があるね。あれ、王さまが住んでいるの?」

 

遠くにある巨大な石造りの城。石造りの古めかしい趣であり、異形が住む独特の魔の

オーラも城全体から醸し出している。その城に興味を引かれている一誠にリィゾが警告した。

 

「あの城には近づくなよ。お前たちにとって危険な場所だ」

 

「はーい」

 

「・・・・・本当に分かっているのか?」

 

少し怪しいが、素直に返事をしたからには取り敢えずこの話を終わりにして

次に行こうと歩き始める。リィゾについていく二人と一匹。主に一誠とルーラが満足するまで

リィゾとプライミッツ・マーダーは付き合わなければならない。

 

「そう言えばさリィゾお兄ちゃん」

 

「なんだ」

 

「吸血鬼って本当に太陽の光に浴びると死んじゃうの?」

 

パクリと料理屋でロールキャベツやグリルされた肉料理など食べる一誠がそう質問してきた。

その問いにリィゾはこう答えた。

 

「死ぬというよりは弱点に過ぎない。夜の住人、闇の住人と称されている吸血鬼は

その通り夜しか動けないのだからな」

 

「でも、朝でも起きていたよね?」

 

「太陽の光を直接当たらなければ問題なく活動できるのだ。

この場所も濃い霧の結界で太陽の光を遮断しているから、私たち吸血鬼は昼夜問わず

活動できる。ただし、この結界から出て人間の町に行く時は夜しか動くことができない」

 

「だから吸血鬼は夜しか遭遇しないのですね」

 

スープを口の中に入れながらルーラは納得したと話に加わる。

 

「じゃあ、寝る時も吸血鬼は朝になると寝ないといけないの?」

 

「そう言うわけでもない。朝のうちに外へ出掛ければ人間から吸血鬼になった者たちが

城下町をうろついているか店を構えている。姫は夜型の吸血鬼で人間の私生活と真逆な

生活を送っているに過ぎない」

 

「アルトルージュは純粋な吸血鬼なのですか?」

 

「それがどうかしたか?」

 

「いえ、あまりにも身長が私たちと同じぐらいなのにどこか大人みたいな立ち振る舞いをしているので」

 

「そういうことか」とリィゾはルーラにこう答えた。

 

「無理もないな。姫は病で亡くなった父上の代わりに家を継いでおられるのだ」

 

「お母さんは?」

 

「教会の者に殺された。だからこそ姫は立派な吸血鬼になろうと頑張っておられるのだ。

先代から付き従っている私とフィナはそんな姫の騎士として忠誠を誓っている」

 

と、リィゾは昔を思い出しながら口にすると一誠はポツリと呟いた。

 

「そっか、アルトルージュも頑張っているんだね」

 

「・・・・・何が言いたい?」

 

「うん」と一誠は答える。

 

「僕も強くなろうと頑張っているんだよ。だからアルトルージュも頑張っているんだなって」

 

「なぜ強くなりたいと思う?」

 

「見返す為」

 

「誰にですか?」

 

「兵藤家の皆に。僕、皆から『弱い』、『弱虫』ってただ弱いだけでイジメられていたんだ。

その上、僕は兄ちゃんに殺された」

 

ルーラは目を見張り、リィゾは無表情で一誠の話に耳を傾ける。

一誠は何か思い出したのか言葉を訂正した。

 

「ああでも、死に掛けていたって言えばいいのかな。お腹に包丁を刺されて公園で

倒れていたらオーフィスが現れて、グレートレッドのところに連れて行かれて一緒に

僕を助けたって聞いたから」

 

「酷い・・・・・」

 

「仕方がないよ。僕が弱かったのは本当だし・・・・・イジメられるのも当然だったかもしれない」

 

と、言うが。

 

「弱いからってイジメが正当化されるわけないじゃないですか!」

 

ルーラが声を張り上げた。

 

「一誠くんはその時もっと抵抗するべきなんですよ!

だから他の皆さんが抵抗しない一誠くんをイジメるんです!」

 

「・・・・・最初は抵抗したよ。でも、僕一人じゃどうしようもなかった。

僕に味方をする大人や子供は一人もいなかったもん。寧ろ大人まで僕をイジメていた」

 

「そんな・・・・・!」

 

「でも、二人だけいたよ。それが唯一の救いだった」

 

朗らかに笑みを浮かべ、「だから今の僕がいるんだよね」と言い続ける。

 

「だから僕は決心したんだ。ドラゴンに生まれ変わったんだから皆を見返してやるって。

人間じゃなくなったけど、それでもやれることはある。まずは強くなって皆を見返す。

それが今の僕の目標なんだ」

 

「お前を殺した兄はどうする気だ?」

 

リィゾは尋ねた。一誠は首を縦に振って言い切った。

 

「思いっきり殴る」

 

「・・・・・それだけか?お前を殺しかけた兄に対する扱いは?」

 

「今はこれしか思わないよ。もっと成長したら他の事をするかもしれないけどね」

 

「逆に自分も殺そうとは思わないのか?」

 

「殺したら人殺しになるじゃないか。それだけは絶対に嫌だししないよ。

例え、大嫌いな人でもそんなことしない」

 

「殺さなければ大切な人間が死んでしまうとしてでもか?」

 

「もしもそうだったら僕は庇って守るよ」

 

一誠から返ってくる答えにリィゾが最初に思った言葉は「甘い」だった。

別段と復讐心を抱いているわけでもなく、ただただ子供らしい「仕返し」を望んでいるだけだ。

確かに今はまだ子供な一誠がそれだけしか思えないのは当然と言うべきか。

だが、成長した一誠は仕返しをする対象の兵藤家と兄にどんな方法で対処するのだろうか。

 

「甘いな・・・・・」

 

「僕はケーキじゃないよ?」

 

「・・・・・そう言う意味で言ったわけではない。分からないのならば気にするな」

 

「わかった。気にしないね」

 

―――対応力が凄いな。

 

「ふぅー、お腹一杯。ごちそうさまでした」

 

「美味しかったですね」

 

「そうだねー。アルトルージュの城にキッチンがあったら料理したい」

 

「子供なのにできるのか?」

 

「できるよ?簡単なものしか作れないけど。もしかしてある?」

 

期待の目がリィゾに向けられる。リィゾは肯定と頷けば、

 

「じゃ、帰ったらキッチンの場所を教えて?皆の分を作るから」

 

「プライミッツ・マーダーの監視の下でならばいいぞ」

 

「いいよそれでも。いつまでもあの部屋にいると暇でしょうがないもん」

 

放っておいても勝手に生きるだろうと思っているリィゾだが、何時までも監禁状態を

続けていると何を仕出かすか分からないと考えを改めた。

一誠は確かに力を有しているし本気で事を起こせば脱出は不可能じゃない。

 

「分かった。城に戻ったら案内しよう」

 

「やったっ」

 

「よかったですね。良かったら私も手伝いますよ?」

 

「じゃあ、一緒に作ろうねー」

 

笑みを浮かべる一誠にルーラも笑みで頷いた。

 

「・・・・・(奇妙な生活になりそうだなこれは)」

 

吸血鬼と教会の人間、ドラゴンという奇妙な生活。リィゾはそう思わずにはいられなかった。

 

―――○●○―――

 

 

それからまた数日が経つ。アルトルージュの城に変化が訪れた。

 

コンコン。

 

「アルトルージュー。朝食の準備ができたから起きてよ」

 

とある扉の前で扉にノックをする一誠と一緒にいるルーラとプライミッツ・マーダー。

城の主からの返事がなく、「むー」と唸る一誠は何かを閃いたのか、横にいる獣に頼んだ。

 

「プライミッツ・マーダー。悪いけど起こしに行ってくれない?」

 

『・・・・・』

 

「何でそんな事をしないといけないんだと」眉間にシワを寄せるプライミッツ・マーダー。

だがしかし、

 

「僕が中に入って起こしに行ってもいいならいいけど?」

 

『・・・・・』

 

一誠がそう述べて扉に手を掛けた。主の部屋に他所者が入らせるわけにはいかないと思ったようで、

渋々とながら自分から扉を開けて中に入り。

 

『プライミッツ・マーダー・・・・・?あなたがこの部屋に入ってくるなんて

珍しい・・・・・ってどうして私を咥えるの?』

 

中からそんなやり取りの声が聞こえてくると、ネグリジェ姿のアルトルージュが

プライミッツ・マーダーに咥えられて出てきた。

 

「おはよう、アルトルージュ」

 

「・・・・・私は眠いのだけれど」

 

「だーめ。朝食ができたから起きるの。食べ終わったら寝ていいから」

 

「・・・・・朝食ですって?」

 

目の前に朝食があるのにどういうことなのと思うアルトルージュだが、一誠はルーラと

一緒にどこかへ向かった。

 

「リィゾお兄ちゃん。朝食の時間だよー」

 

 

~~~しばらくして~~~

 

 

アルトルージュ、リィゾ、フィナの三人は一誠とルーラの部屋に集まって

目の前に置かれた数々の料理に目を向けていた。

 

「・・・・・これ、どうしたっていうの?」

 

「私には分かり兼ねます」

 

「あの美少年の料理とならば食べずにはいられないだろう!」

 

一人は嬉々としていた。そして三人を呼び寄せた張本人は、

 

「はい、プライミッツ・マーダーのご飯だよ」

 

『・・・・・』

 

大きな皿に盛られた数枚の分厚いベーコンと大量のサラダ。そしてスープ。

これが自分の餌であると言うことにプライミッツ・マーダーは目を疑った。

 

「それじゃ食べよっか。いただきます」

 

「一誠くん、ここは主に感謝の祈りを捧げるべきだと私は思うのです」

 

「うーん、でも、ここは施設じゃないしアルトルージュの城だよ?」

 

「それはそうですけど・・・・・」

 

「帰ったらちゃんとお祈りするから、今は食べよう?お腹空いているでしょ?」

 

「うっ・・・・・」

 

そう言われるとその意識をしてしまった上にグゥーとルーラのお腹から鳴った。

ルーラは恥ずかしげに真っ赤になった顔を俯かせるとコクリと小さく頷いた。

 

「でしょ?じゃあ早く食べよ?冷めたら美味しくなくなるもん」

 

「わ、分かりました・・・・・」

 

「じゃ、改めていただきます!」

 

「いただきます・・・・・」

 

両手を合わせて述べる一誠を真似てルーラもした。なんとなく置いてけぼりな吸血鬼組は、

 

「・・・・・しょうがないから食べましょうか」

 

「・・・・・はっ」

 

「いただきます!」

 

『・・・・・』

 

三人と一匹も手作り料理を食べ始めた。ベーコンに目玉焼き、サラダにご飯、パンとシンプルな朝食。

 

「あら・・・・・意外と美味しいのね」

 

「子供が作ったにしては・・・・・」

 

「シンプルだがこれは美味しい。それにプライミッツ・マーダーも満更ではない様子で」

 

ハグハグと程良く焼かれスパイスが効いている分厚いベーコンを頬張る

プライミッツ・マーダーの姿を指摘したフィナ。

 

「やったね、ルーラ」

 

「はい。初めて料理をしましたが喜んでくれてなによりです」

 

小さな二人のシェフは三人と一匹の反応と様子に嬉しそうだった。

 

 

―――同時刻―――

 

 

リーラたちはルーマニアに辿り着いて吸血鬼の本拠地の情報を収集していたが

情報どころか手掛かりすら得れない状態でいた。

 

「やはり、簡単に集まりませんか・・・・・オーフィスさま、どうですか?」

 

「イッセーの龍の波動を感じない。この町にはいない。吸血鬼も」

 

「そうですか・・・・・」

 

肩にオーフィスを乗せたままリーラは歩き続け捜索をしていた。ストラーダ猊下と

クリスタルディ猊下と二手に別れているものの、自分と同じく情報を得られないでいるだろう。

 

「吸血鬼の存在は知っていましたが・・・・・この町に潜んでいないとすれば・・・・・」

 

不意にリーラは山に目を向けた。異形が住むには世間の目を掻い潜り尚且つ、

滅多に人間がやってこれないような場所で暮らしている。それは冥界も天界も

神話体系が住んでいる領域も同じ。

 

「山・・・・・でしょうか」

 

「リーラ、誠と一香に教えない?」

 

「・・・・・いえ、これは私たちで見つけなければいけません。誠さまと一香さまの

手を煩わせるわけにも参りません」

 

頑なに最も有効的な手段をしようとしないリーラ。これはメイドとしてのプライドではなく、

一誠を愛する一人の女として意地でも見つけたいと切なる想いから来る行動。

オーフィスはそれ以上追求せず、一誠から感じる波動を探知しようとしていると、

 

「・・・・・この龍の波動」

 

「見つけましたか?」

 

オーフィスが漏らした龍の波動。期待が籠った声音のリーラに一誠のものではないと

首を横に振った。

 

「リーラ、あっち」

 

「・・・・・なにかあるんですか?」

 

「ん、知ってる龍の波動を感じる」

 

町と人に溶け込んで紛れている龍がいるとリーラは悟りオーフィスが指す方向へ歩み始めた。

人と擦れ違い続け、店を通り過ぎ、横断歩道を渡り―――。

 

「久しい」

 

黒いコートを身に包み金と黒が入り乱れた長髪の女性にオーフィスは声を掛けた。

女性はゆっくりとリーラに振り返る。金と黒の双眸がリーラとオーフィスを確かに捉え、

口の端を愉快そうに吊り上げた。

 

「これは奇遇だな。こんな所でオーフィスと出会うとは・・・・・。

それとも私が探知していなかったから気付かなかっただけかな?」

 

「・・・・・オーフィスさま、このお方は?」

 

オーフィスと面識がある女性。ただ者ではないと肌で感じるリーラはオーフィスに問うたところ、

 

「この者『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハ」

 

「―――邪龍・・・・・!?」

 

邪龍の筆頭格の一匹である最強の邪龍がルーマニアに、しかも人間界に紛れて堂々と

横断歩道を渡ろうとしていた。その上、人の形をしてリーラは驚きの色を隠せないでいた。

 

「戦うか、オーフィス」

 

向こうは戦う場所は無関係だとばかり、構えだし身体からプレッシャーを放ち始めた。

だがしかし、オーフィスは一言述べた。

 

「我、忙しいから戦わない」

 

速攻で拒否されたクロウ・クルワッハは、しばし固まった。そして構えを解いた。

 

「忙しいとはどういうことだ」

 

「我とリーラ、イッセーを探している」

 

「イッセー?」

 

「我らの家族」

 

と、オーフィスは告げた。クロウ・クルワッハはオーフィスとリーラを何度か交互に見て問うた。

 

「その者を見つければ私と戦えるか?」

 

「ん、戦える」

 

それを聞いてクロウ・クルワッハは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「なら、私も探してやる。名前と特徴を言え」

 

「名前は兵藤一誠。グレートレッドの一部の肉体と我の力で復活したドラゴンだから

直ぐに見つけられると思う」

 

「・・・・・何だそのドラゴン。グレートレッドの肉体を持ったドラゴン?」

 

「イッセーは一度死に掛けていた。我がイッセーを助けるため、

グレートレッドと一緒に助けた結果そうなった」

 

淡々と述べるオーフィスから一誠に関する情報を聞くたびに

クロウ・クルワッハは笑みを絶やさなかった。

 

「面白い・・・・・そのようなドラゴンが強くなれば楽しめそうだ」

 

「ん、今のイッセーはちょっとだけ強い。イッセーは他のドラゴンを宿している。

クロウ・クルワッハと同じ邪龍のネメシスとアジ・ダハーカも」

 

「なんだと、本当か?」

 

「我、嘘は言わない」

 

次の瞬間だった。クロウ・クルワッハから不気味な魔力のオーラが迸った。

その迸りはまるで歓喜を露わしているかのようだった。

事実、最強の邪龍の顔は狂喜染みた笑みを浮かべていた。

 

「くははははっ。あのネメシスとアジ・ダハーカを宿している。

しかもあの兵藤の一族の者でグレートレッドの肉体とオーフィスの力を持つドラゴン。

―――これほど愉快で心躍ることは今までなかったぞ。

いいだろう、本格的にお前と協力してイッセーとやらを見つけてやる」

 

「イッセーは吸血鬼に連れ去られた」

 

「吸血鬼か・・・・・分かった。私が見つけ次第、直ぐにお前のところに連れて来よう」

 

翼を広げてクロウ・クルワッハは空へと消えて行った。

 

「・・・・・オーフィスさま、あの邪龍に頼んで大丈夫でしょうか?」

 

「他の邪龍よりちょっとだけマシ」

 

「そうですか・・・・・」

 

最強の協力者も得たリーラとオーフィス。引き続き探索を続けるのであった。



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エピソード31

()

 

最強の邪龍が迫っていることを気付かないまま吸血鬼の本拠地にて一誠とルーラは

吸血鬼の城に居座り続けて一週間が経とうとする。

 

チューチューチュー

 

今日もアルトルージュの朝食は一誠の血。飲むにつれ、目が潤い熱に浮かされたように

ほんのりと顔が朱に染まる。自分の血を吸われ生きた心地がしない一誠は不安げな顔で

アルトルージュを見詰める。

 

「ん・・・・・いつ飲んでも一誠の血は至高の味ね・・・・・」

 

「こっちは怖い思いをしているんだけど・・・・・」

 

「慣れないと精神的にキツくなるわよ?」

 

「じゃあ吸わないでくれる?」

 

「それは無理」

 

「即答!?」と目を張る一誠にペロリと一誠の腕に流れる血を艶めかしく舐め取る

仕草をしたアルトルージュ。

 

「だって、この味を知ったから止められないもの」

 

「うう・・・・・病み付きになったの・・・・・?」

 

「そうね、ふふふっ」

 

意味深に笑うアルトルージュは熱い視線を一誠に向けるようになっていた。

 

「ところで一誠」

 

「うん?」

 

「あなたって好きな人はいる?」

 

いきなりそんなことを聞いてきた。ルーラーは目を丸くしているのを気にせずに一誠は答えた。

 

「いないよ。でも、僕のことが好きだって言う女の子が一杯いるよ」

 

バンッ!

 

「では、私と毎夜熱く過ごす関係になろうではないかぁっ!」

 

扉を破壊しながらル○ン並のジャンプ力で一誠に飛び掛かったフィナ。

 

「プライミッツ・マーダ」

 

冷たくどこまでも低い声音でアルトルージュは命令した。

主の命令に忠実に動くプライミッツ・マーダはフィナを巨大な身体で体当たりして

のし掛かり、

 

「プライミッツ・マーダ!?は、放したまえ!私は麗しき美少年の一誠と

私の棺桶の中で一時を過ごす役目が―――!」

 

『・・・・・』

 

どこかへと引きずられていくのであった。その光景を一誠とルーラーは冷や汗を流す。

 

「ねえ、あのヒト・・・・・」

 

「なにも言わないでちょうだい」

 

「意外と吸血鬼も様々なんですね・・・・・」

 

「私の父上の代からいる凄腕の吸血鬼なのだけれど、昔からのあんな感じだったみたい」

 

「「・・・・・」」

 

そうなんだぁ・・・・・と二人の心が一つになった瞬間だった。

 

「でも、あんな私の騎士だけど私の大切な家族でもあるから好きよ。

リィゾやプライミッツ・マーダもね」

 

「・・・・・ははっ!」

 

「どうして笑うのよ?」

 

おかしなことでも言ったかと一誠に見据えると、

 

「アルトルージュも家族を大切に思っている優しい女の子なんだなって知ったから、

僕と同じだから嬉しいんだよ」

 

「・・・・・」

 

純粋無垢なアルトルージュに対する発言。

一誠からそう言われて最初は思考が停止仕掛けたが理解するにつれ次第に

耳まで朱に染まっていく。

 

「な、なによ・・・・・いきなりっ」

 

あまりにも照れ臭く、ツンデレのような反応をしたアルトルージュに一誠は朗らかに言い続けた。

 

「別にいきなりじゃないよ?リィゾお兄ちゃんからキミの話を聞いているから。

一生懸命立派な吸血鬼になろうとしていて、お父さんの家を継いでいる

自分たちの主は誇り高い吸血鬼だってね」

 

「(―――っ。あいつ、何勝手にヒトの話をベラベラと・・・・・ッ!)」

 

「だからそんなアルトルージュは良い吸血鬼だと僕は思ってるからね。

だからリィゾお兄ちゃんやプライミッツ・マーダ、・・・・・フィナお兄ちゃんが

アルトルージュの傍にいるんだよきっと。アルトルージュのお父さんの娘だから

じゃなくて一人の女の子として、立派になろうとしている一人の吸血鬼としてさ」

 

トクン・・・・・ッ

 

アルトルージュの胸が小さく高鳴った。まだ子供なのに一誠は大人のようなことを述べて―――。

 

「ね、ルーラー」

 

「・・・・・協会の信徒としては複雑ですけど、あなたは良い吸血鬼だと知ったからには

嫌いにはなれません。好きにもなれませんが・・・・・」

 

「もう、素直じゃないなぁー」

 

「こ、これは素直とかそうじゃないの問題ではありませんっ」

 

「僕はルーラーが可愛い女の子で優しいことを解っているのに」

 

一誠の発言で顔が真っ赤になったルーラーたちから音もなく部屋から出たところで、

 

「姫、顔が赤いのですが・・・・・」

 

「・・・・・(キッ)」

 

ゲシゲシッ!

 

「ひ、姫?何故足に蹴りつけるのですか?」

 

「うるさいうるさいうるさいッ!リィゾ、あなた私のことを喋ったわね!?

聞いていて恥ずかしかったわよ!」

 

「・・・・・ははぁ、なるほど姫」

 

「なにかしら・・・・・」

 

フィナが爽やかに言った。

 

「美少年に褒められて照れておられているのですな?」

 

「んなっ!」

 

『・・・・・』

 

扉の向こうに待機していたリィゾ、フィナ、プライミッツ・マーダと出くわした。

そしてフィナに指摘されリンゴのようにまた真っ赤になった。

 

「リィゾ、もっと美少年に姫の良さを教えたら姫を崇拝するのでは?」

 

「・・・・・悪くないな」

 

「なら、姫の幼少時代の写真でも見せて―――」

 

ゴゴゴ・・・・・ッ!

 

「貴方たち、覚悟はいいかしら・・・・・っ」

 

アルトルージュの声音はどこまでも低く、怒りで空間に歪みができるほどキレていた。

リィゾとフィナは姫の怒りとそのオーラに息がピッタリで

 

「「・・・・・」」

 

―――ダッ!(逃走)

 

「こらぁっ!待ちなさい二人ともぉーっ!」

 

逃走し、逃走する二人の騎士を追いかける。その様子をプライミッツ・マーダは

見送り一誠とルーラーがいる部屋に入らずにどこかへと行った。

 

それからしばらくしてアルトルージュが疲れた表情で一誠とルーラーのところに

戻ったとき・・・・・、

 

「あっ、お帰りー」

 

「・・・・・子供の頃のあなたの写真を見させてもらっています」

 

深紅の表紙の本みたいな物を開いていた。それはアルトルージュの過去の写真が収まっている

アルバムであったので、甲高い悲鳴を上げたアルトルージュ。

そして、二人の手にあるアルバムは一体誰の手によって渡らせたのか―――。

 

「―――プライミッツ・マーダァァアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

怒号が城の外まで轟いたのを城下町の住人(吸血鬼)たちが聞こえた程だった。

 

 

 

 

「二人とプライミッツ・マーダー・・・・・大丈夫?」

 

「大きいタンコブですね・・・・・」

 

「ははは、あんな姫を見たのは初めてだったからつい」

 

フィナが苦笑いをするも頭に痛々しいほど大きなタンコブを作っていた。

 

「それもキミたちのおかげだろう」

 

「僕たち?別に何もしていないよ」

 

「お前たちという存在が姫を楽しませているのだ」

 

リィゾも話に加わり、二人に視線を送る。

 

「兵藤一誠、姫と親しい関係になって欲しい」

 

「なんで?」

 

「姫は友人という存在がいないのだ。フィナと共々、

騎士として姫を守りプライミッツ・マーダーは姫のマスコットみたいな存在だ」

 

「姫には妹君がいるのだが、仲がとても悪くて姫と話し相手になってくれる存在がいないんだ」

 

二人の話を聞き、一誠とルーラは顔を見合わせた。そして一誠は二人と一匹に向かって言った。

 

「僕は嫌だよ。アルトルージュと親しくなるなんて」

 

「「・・・・・」」

 

拒否され、二人はやはりか・・・・・とどこか落胆の気持ちが―――。

 

「友達じゃなくて家族だったらいいよ。そしたら友達以上の関係になれるからね。

リィゾお兄ちゃんやフィナお兄ちゃん、プライミッツ・マーダーみたいにさ」

 

一誠の言葉を聞き目を丸くした。

 

「私とリィゾ、プライミッツ・マーダーは姫の家族・・・・・だって?」

 

「僕はそう思っているよ?だってお互い仲が良いし大切に想い合っているじゃない。

僕が言う家族ってさ、皆が相手のことを大切に思っていて一緒にいたいっていう気持ちがある、

そう言う意味なんだよ」

 

不意にリィゾとフィナは顔を見合わせる。一誠が家族になりたいという気持ちが

あるということは、アルトルージュを受け入れてくれるのではないかと思い始めた。

 

「姫を受け入れてくれるのか?」

 

「アルトルージュみたいな面白くて楽しい、良い吸血鬼がいるって分かったから家族になりたいな」

 

「美少年がいた施設は教会と通じている。教会が姫に襲うようなことがあればキミはどうする?

今キミの隣にはその教会の関係者がいるのに」

 

「僕は一年間、あそこで暮らして強くなるためにいるんだ。

だから関係ないと言い切れないけど僕は大切な家族を守りたい」

 

そう言い切った一誠。金色の瞳の奥からでも固い意志と決意が覗きこめる。

一誠の話を聞き一度目を瞑ったリィゾは頭の中であることを考え、

 

「そうか・・・・・なら―――」

 

リィゾが剣をルーラに突き付けた。その行動をするリィゾを誰もが目を丸くしたが

リィゾは一誠に真っ直ぐ向かって語りかけた。

 

「この者と姫、お前はどちらしか救えないという選択を迫られたらどうする?

姫を選択して姫を救う―――。この者を選択してこの者を救う―――。お前はどちらを選ぶ?」

 

「おい、リィゾ。まだ子供の美少年にその選択は・・・・・」

 

「黙っていろ。何時かぶつかる辛い選択だってある。二つに一つしか選べれない

現実に強いられてどちらも―――」

 

と、リィゾの剣の切っ先を触れた一誠。―――刹那。一誠は黒と紫が入り乱れたオーラに包まれ、

剣がそのオーラに包まれながらリィゾの手に届こうとした。

 

「っ!?」

 

その剣を手放すことで剣だけが消失した。信じがたい光景を目の当たりにし、

当の一誠は黒と紫が入り乱れた、赤い宝玉が各部分にある龍を象った全身鎧を装着した状態で

リィゾに向かって返事をした。

 

「僕は二人とも助けるよ。例え僕が死んでも、死んでも助ける」

 

「その姿は・・・・・っ!」

 

「僕の中にいるドラゴンの力だよ」

 

禍々しいオーラが一誠から発し、吸血鬼の二人と魔獣のプライミッツ・マーダーを

警戒させるほど濃厚で濃密なオーラを窺わせる。

 

「僕は強くなって僕をイジメる皆を見返す他にも、

大切な人を守りたいから強くなりたいと思っている。

だから、ルーラもアルトルージュも何がなんでも僕が守るよ」

 

鎧が光と化となって消失し、生身の姿の一誠が現れた。

 

「今の鎧はとっておきなんだ。なんたって全部削って消しちゃうんだからね。

リィゾお兄ちゃんが持っていた剣のようにさ」

 

「消滅の力か・・・・・」

 

「うん、そう。だけど余計なものまで消しちゃうからまだまだ上達しないとダメなんだよねー」

 

「あはは」と苦笑いを浮かべる一誠だったが、二人の騎士は冷や汗ものだった。

 

「(あ、あっぶない力を持っていたとはこの美少年は・・・・・)」

 

「(末恐ろしいドラゴンだ。いつしか私たちを超える実力を身に付けるだろう)」

 

敵になるのならば今ここで始末していた方が後顧の憂いを絶つことができるものの、

家族になりたいとさっき宣言した手前、そうすることはできない。

 

「あっ、そろそろ夕飯の時間だね。ルーラ、作りに行こう?」

 

「あ、はい。わかりました」

 

年少組は厨房へと向かい、二人と一匹から離れた。二人がいなくなろうとしている

後姿を見ながらフィナが苦笑を浮かべながら言葉を漏らす。

 

「・・・・・家族、か」

 

「誰かにそう言われるとは思わなかったな」

 

「そうだね。それにあの二人がいると、あの二人と接すると私たちは何らかの変化が

生じていく。それは良い意味でなのか悪い意味でなのか分からないが」

 

「今までの日常よりはマシな感じはすることだけは確かだ」

 

『・・・・・(コクリ)』

 

プライミッツ・マーダーも同意と頷く。すると、一誠とルーラの声が聞こえてきた。

 

 

『一誠くん、今日の夕飯なにしましょうか?』

 

『ニンニク入りの肉料理でもしようかなー』

 

『そうですね。思いっきりニンニクを入れてみましょう』

 

『吸血鬼ってニンニクがダメだって言うし、好き嫌いはダメだからね』

 

 

「「――――――」」

 

聞き捨てにならない発現が聞こえたのは幻聴ではないはずだ。だから―――。

 

「「ちょっと待て殺す気かっ!?」」

 

吸血鬼が苦手とする一つが発揮される前に慌てて吸血鬼キラーな小さいシェフの二人に駆け寄って

ニンニクだけは入れるな!と激しく注意する二人の騎士だった。

その様子を見ていた兵士や侍従は苦笑を浮かべていたのは気のせいではなかった。

 

―――○●○―――

 

その日の夜。ニンニク入りの肉料理ではないグリルされた肉料理やサラダ、

ご飯にスープを食べていた最中だった。一人の兵士が扉を開けてはリィゾに耳打ちをし、

リィゾがアルトルージュに近づき耳打ちをすると嫌そうな面持になった。

 

「何で呼ばれなきゃならないのよ・・・・・」

 

「ですが、行かなければなりません」

 

「面倒くさいけどしょうがないわね・・・・・」

 

アルトルージュはどこかに行かないといけない雰囲気を醸し出す。一誠は気になり質問をした。

 

「どこかに行くの?」

 

「ええ、王さまのところにね。あ、行く前に一誠。ちょっとだけ血を吸わせて」

 

椅子から降り、一誠の血を吸えばフィナを同伴させてこの場からいなくなった。

 

「この国の王さまって・・・・・」

 

「教会側は知っているだろうが、ここはツェペシュという吸血鬼が王の座に座っている。

姫はその王がいる城へお向かえになられたのだ」

 

「どうして呼ぶんだろうね?」

 

「わからない。だが、今の吸血鬼の世界は面倒なことになっていてな」

 

「と、いうと?」

 

ルーラの反応に「知らないのか?」とリィゾが不思議そうに答えた。

吸血鬼の敵である教会が吸血鬼の世界の事情と状況を全てではなくとも

把握しているはずだと思っている。

 

「私たちは吸血鬼との戦いを教わっているのですが、吸血鬼の世界の社会までは

まだあまり教わっていないんです」

 

「そうか。知らないなら教えよう。今の吸血鬼は二つに分かれているのだ」

 

「二つ?」

 

「噛み砕いて言えば男が吸血鬼を纏めるか、女が吸血鬼を纏めるかと揉め合っていてな。

今じゃ男尊派のツェペシュ王のツェペシュ派、女尊派のカーミラ王女のカーミラ派という

二つの派閥が分かれている」

 

「じゃあ、あのおっきなお城って」

 

「ツェペシュという吸血鬼の王さまが住んでいる城だ」

 

 

 

広大な室内。下には真っ赤で大きな絨毯が敷かれており、魔物を象った始終が金色に

輝いていた。絨毯の先には―――一段高い所に王座が置かれていた。

王座に座るのは中年の男性。その王座から少し離れた位置に若い男性や中年、

初老の男性も列席している。

 

「アルトルージュ・ブリュンスタッド。王の前に馳せ参じてまいりました」

 

王座の前で跪き恭しく頭を下げるアルトルージュとフィナ。心の中では王に敬意と

忠誠などないが形だけでもと失礼のない言動をすると、王座に座っている吸血鬼が静かに口を開いた。

 

「アルトルージュ・ブリュンスタッド。最近、お前の騎士と魔獣と共に城下町で余所者が

見掛けると噂を小耳にしてな。その余所者について聞かせてもらいたくお前を呼んだのだ」

 

「・・・・・」

 

やはりこうなってしまったかと心中溜息を吐き、何とかあの二人に迷惑をかけないように

しなくてはと頭の回転を早くして真実と嘘を混ぜた説明をする。

 

「私の騎士一人が同性でまだ幼い人間の血だけしか飲まないのです。

人間の血を吸血しようと騎士が少し遠出をしたところお目当ての人間を見つけ

気に入ってしまい、私の城に閉じ込めているだけに過ぎません」

 

「まだ吸血鬼になっていない様子を見るにお前の騎士は敢えて生かしておるのか家畜として」

 

「・・・・・ええ、何分、私も気に入りましたから」

 

嘘は言っていない。王座に座る吸血鬼―――ツェペシュ王は怪訝な視線をアルトルージュに

向けてくるも言い続ける。

 

「私の眷属にしてしまえば、余所者の血を飲めなくなりますしわざわざ危険を冒して

人間たちが住んでいる町まで行かなくて済みます。そう思い余所者を敢えて生かし、

私たちの食事のポンプとして住ませております」

 

「・・・・・」

 

「これが全てでございます王よ」

 

それ以降、沈黙がこの場を支配し、アルトルージュは何とも形容し難い不安が徐々に

胸の奥から湧き上がる。

 

「アルトルージュ・ブリュンスタッド」

 

ツェペシュ王がアルトルージュに声を投げた。何を言われるのか、アルトルージュは静かに耳を傾ける。

 

「この地に余所者をいつまでもいさせるわけにはいかない。その余所者をここに連れてまいれ」

 

「っ・・・・・!」

 

予想だにしなかった言葉にアルトルージュとフィナは目を見張った。

なぜ、そんな事を言い出すのか理解しがたい思いで驚愕の色を浮かべたのだ。

 

「なぜ、あれは私の物です。王とは言え私の―――」

 

「私を謀る気か?その余所者、人間ではないのであろう」

 

「・・・・・っ」

 

「その証拠に一日も欠かさず余所者の血を吸っていたのだろう。

その結果、隠しきれていない力のオーラを感じてしょうがないのだよ。それがただの

他所者ではないという証だ」

 

しまったと、アルトルージュは思わず顔をしかめた。

 

「猶予は与えん。今すぐここへ連れてまいれ。逆らえば反逆罪とみなしブリュンスタッド家を消す」

 

「なっ、そんな横暴な・・・・・!」

 

「去れ。謁見は終わりだ」

 

短く突き放す言葉でアルトルージュは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、

フィナと王座の間から退出した。

 

「(一誠を連れて来なければ家が潰される。だけど、この王に一誠を渡せばどうなるか

分かったもんじゃない。どうすれば・・・・・!)」

 

 

 

アルトルージュとフィナが戻ってきた。だが、顔が暗いアルトルージュに一誠と

ルーラ、リィゾは何が遭ったのかと心配をした。

 

「どうしたの、アルトルージュ」

 

「・・・・・」

 

心配し、近づいて声を掛けると・・・・・。一誠は何か思い出したような言動をした。

 

「あ、そうだ。アルトルージュ。キミにあげたい物があるんだよ」

 

アルトルージュの心情を知らない一誠は金色の杖を具現化して能力を発動する。

眩い光が一誠たちを照らし、やがて光が消える頃には上から

赤い宝石の指環とネックレスが落ちて来てソレを一誠はキャッチした。

 

「はい」

 

「・・・・・これは?」

 

「落ち込んでいる子がいればプレゼントすると元気になるってお母さんが言ってたから。

だからプレゼントだよ。元気出して?」

 

「―――――っ」

 

自分を心配し尚且つプレゼントをしてくるなんて・・・・・。

驚きのあまりアルトルージュは「貰っていいの?」と尋ねた。

 

「うん、アルトルージュは僕たちの家族だからね」

 

「家族・・・・・?」

 

「僕とルーラ、リィゾお兄ちゃんとフィナお兄ちゃん、プライミッツ・マーダーは

アルトルージュが大切だから家族なんだよ?」

 

どこからともなく取り出した赤くて大きな首輪を出した一誠だが、残念そうに漏らす。

 

「これ、プライミッツ・マーダーの首輪だけど、

嫌がって付けてくれないんだよね・・・・・」

 

一誠の視線を受け顔を逸らすプライミッツ・マーダー。さらには「付けてよ」と首輪を

近づければ「誰がそんな物を付けるか」と大きな足でベシッと叩き、

身体全体からも醸し出している。そんな一人と一匹の様子にアルトルージュは小さく噴いた。

 

「プライミッツ・マーダーはプライドの高い魔獣だから犬のような扱いは絶対に嫌うの」

 

「・・・・・お手」

 

『・・・・・』

 

ポンッ

 

一誠が差し出した手より高く、大きな手が一誠の頭の上に乗っけられた。

自分のほうが偉いんだぞと威厳を示したプライミッツ・マーダーにちゃんと

手の平に乗っけてくれないことに一誠は不満げに頬を膨らます。

 

「いやはや、何とも珍妙な光景だろうか」

 

「美少年と野獣・・・・・悪くないか?いや、私という吸血鬼と美少年でなければ認めんぞ!」

 

「それ以前に一誠くんに敬遠されがちなあなたと慣れ合うことができるのでしょうか?」

 

「それは難しいところね」

 

いつしか和やかなムードとなり、プライミッツ・マーダーに犬の躾をし始めるものの、

一誠をあしらい、逆にしつこいと顔を引っ掻いた。

 

「ふぎゃっ!?」

 

「ああ、一誠くんっ」

 

痛そうにゴロゴロと床に転がる一誠を心配そうにルーラが声を掛けた。

その光景が微笑ましく、暗かったアルトルージュも既に明るくなっていた―――その時だった。

ドタドタと騒々しい足音が近づいてきた。

閉められていた扉が勢いよく開け放たれ、中に入ってきた兵士が慌てた様子で告げた。

 

「た、大変ですっ。ツェペシュ王の兵士がこの城を囲んでおります!」

 

「―――なんですって?」

 

「・・・・・美少年をただで渡さないと踏んだんだろう」

 

「え、どういうこと?」

 

状況が把握できない一誠とルーラ。リィゾは窓に近づき外を眺めた途端に目元を細めた。

 

「完全に囲まれているな。数は圧倒的にあっちの方が上だ。フィナ、王の城で何が遭った?」

 

アルトルージュとフィナしか知らない事実を、説明を求めた。

外では武装した吸血鬼たちがズラリと囲むように佇んでいて、

何時でも戦争が起きてもおかしくない状況と状態だった。

 

「・・・・・美少年を連れて来いと姫に命令したのだ。美少年の血のことを知られて」

 

「・・・・・そういうことだったのか」

 

ならばこの状況を回避する方法は限られる。

 

「王さまが僕と会いたいの?」

 

「そのようだな。だが、相手は吸血鬼だ。お前の血を吸いたいと思わない方がおかしい相手だぞ」

 

「その時は龍になってでも逃げるよ」

 

「では、いいのだな?」

 

確かめるリィゾをアルトルージュはその意図に気付く。

 

「待ちなさい。一誠をツェペシュに差し出すつもりなの・・・・・?」

 

「姫、この状況を打開する為にはこの手しかないかと存じ上げます」

 

「ダメよ。それだけは」

 

「では、他に打開する方法が御有りなのですか?よもやツェペシュ派の吸血鬼を

全て敵に回してでも兵藤一誠を気に入っているのですか?先代の家をあなたの代で

潰す覚悟はお有りか?」

 

リィゾからの質問に出掛けた言葉が咽喉につっかえて何も言えなくなる。

 

「姫、あなたが思っている兵藤一誠は弱くなど有りません。

もしも兵藤一誠が自分の力で逃走をできたならば陰ながら

私たちがあの教会の施設までフォローすればいい」

 

「帰って良いの?」

 

「お前たちの帰るべき場所はここではないからな」

 

「そっか、ちょっと寂しいかなー」

 

「では、私と永遠の愛を誓ってー!」

 

「ごめんなさい」

 

ズバッ!と拒否するのであった。

 

「僕がここにいると迷惑を掛けちゃうから行くね」

 

「だ、だめです一誠くん!」

 

ルーラーは吸血鬼が一誠の身の安全を保証するはずがないと思いで

制止の言葉を発するが安心させる笑みを浮かべた一誠に言われた。

 

「大丈夫。二、三日したら逃げるよ。必ずね。そしたらまた施設でイタリア語を教えてね」

 

「一誠くん・・・・・」

 

「それじゃ行ってきます」



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エピソード32

「「・・・・・」」

 

ツェペシュの城に連行され、王の間で一誠とツェペシュ王は無言で見つめあっていた。

 

「・・・・・お前がアルトルージュ・ブリュンスタッドの城にいる余所者か。

子供とは思いもしなかったな・・・・・」

 

「そう?大人だと思った?」

 

「少なくともな」

 

「ふーん」

 

緊張感のない返事。辺りを見回せば自分を見下し、人として見ていない目を、視線を向けてくる。

 

「ひとつ聞こう。お前が血を与えている者で間違いないな?」

 

「与えているというか、吸われている方なんだけど・・・・・」

 

「当然だ。吸血鬼は人間の血を糧として生きる闇の住人。人間を無くしては生きていけぬ吸血鬼だ」

 

「野菜とか肉とか食べたら良いじゃないの?」

 

「無論、人間のように食事はする。だがな、我々吸血鬼は人間の血を吸うことこそが本懐なのだ」

 

「血じゃなくてトマトジュースじゃダメ?」

 

とても子供とは思えない精神と態度。普通に男尊派の王と会話している。静観していれば、

一誠の言葉にツェペシュ王は顔を顰めた。

 

「あれは好きになれない」

 

「うん、僕もあまり好きじゃないや」

 

聞いておいてこの子供も自分と同じかと思った時、気まぐれであることを聞いた。

 

「・・・・・聞いていなかったな。お前の名は?」

 

「兵藤一誠だよ」

 

「兵藤・・・・・?」

 

極東の島国に存在する人間の一族の名前だったなと頭の中で思い浮かべる。はるばるこの国に、

この地にいるのはどうも不思議でならない。

 

「何故この地にいる」

 

「アルトルージュたちに誘拐されたから」

 

「前はどこに住んでいた」

 

「施設だよ。協会の」

 

と、質問をされ続けられては答えていく。

 

「・・・・・解らんな。お前のような子供を協会から連れ出すほどの者とは思えない」

 

「僕の血が美味しいからって連れ去られたんだよ」

 

「そうだ、それだ」

 

ツェペシュ王が指摘した。

 

「お前たち兵藤家の存在は知っている。だが、この吸血鬼の世界に兵藤家の人間が

踏み込んできたのはお前が初めてだ。兵藤家の血はそれほどまで吸血鬼の

力を高めるものなのか?」

 

「吸血鬼じゃないから分かんないよ。もしかして、王さまも飲みたいの?」

 

「吸わせてくれるならな」

 

「嫌だ。代わりにこれあげるよ」

 

ポケットから赤い液体が入った瓶を取り出してツェペシュ王へ思いっきり投げた。

弧を描いてソレは難なくツェペシュ王の片手に収まった。

 

「・・・・・これは?」

 

「僕の血だよ。フィナお兄ちゃんに襲われたくないからお守りとして自分で溜めていたんだ」

 

手の平サイズの瓶にある一誠の血をしばし興味深そうに見詰めたツェペシュ王は、

蓋を開けてワインのように匂いを嗅いだ。

 

「(・・・・・何だこの匂いは。人間の血ではない・・・・・?)」

 

生まれてこの方、人間の血の味と匂いを嫌というほど舌と鼻で感じ熟知した。

だから人間と他の生物の血の匂いの違いを嗅いだだけで理解できる自信がある。

怪訝な心情を抱いているツェペシュ王は側近からグラスを受け取り血をグラスの中に注ぐ。

 

『!』

 

すると、王の間にいる吸血鬼たちが一斉にグラスへ視線を注いだ。他の吸血鬼たちも

血の匂いを敏感に反応したのである。ツェペシュ王の感想をジッと待つとツェペシュ王は

静かに血を口に含み舌全体で味を感じた後にゴクリと喉を鳴らし胃の中へ送った直後。

 

ドクンッ・・・・・。

 

「っ!?」

 

自分の身体に異変が起きた。全身の血液が沸騰しているのかと思うぐらい熱くなる。

 

「おおおお・・・・・っ!」

 

思わずといった感じで立ち上がるツェペシュ王の全身からオーラが迸り、

力が増大しているのが窺える。

 

「これが、兵藤家の人間の血の・・・・・っ!今まで糧としていた血が酒と称するならば、

この血は至高のワインと称するほどの味と効果・・・・・!だが、疑問がまた一つ浮かんだ」

 

一誠を見据え、威厳のある立ち居振る舞いをした。

 

「この血の味は人間ではない。お前は一体、何者なのだ。

私の力を、吸血鬼の力を増大させるこの血の味を感じさせるお前は何者なのだ」

 

「んと、ドラゴンだよ」

 

「ドラゴン・・・・・?真か・・・・・?」

 

「本当だよ」

 

「ほら」と、ドラゴンの翼を生やす一誠。ツェペシュ王を含む吸血鬼たちは目を丸くし、

それでいて納得した。ツェペシュ王から感じる増大した力の源は兵藤家の血だけではなく

ドラゴンの血も含まれているのだと。

 

「・・・・・アルトルージュ・ブリュンスタッドから感じる力の正体はこれだったわけなのだな。

今ならお前のことを気に入っていると言う理由が分かった」

 

「じゃあ、帰って良い?」

 

「どこにだ?」

 

「アルトルージュの城にだよ」と答えた一誠。ここに長居はしたくないと暗に醸し出す。

だが、

 

「父上よ」

 

一人の若い吸血鬼が初めて声を掛けた。

 

「なんだマリウス」

 

「そろそろ食事の時間でございます。どうでしょうか、この子も交えて食事など」

 

「・・・・・」

 

マリウスと呼んだ吸血鬼の提案をツェペシュ王は悩む仕草をした後に頷いた。

 

「わかった。そうしよう。お前も良いな?」

 

「変な物入れない?あの人の目、暗いから何か企んでいるっぽいし」

 

「これはこれは・・・・・嫌われてしまいましたね」

 

肩を竦めるマリウスだがあまり気にしていない様子だった。

 

「安心しろ。食事に変な物は入れない。嫌いな食べ物はあるのか?」

 

「この国の料理は初めて食べるものが多いから分かんない。残したらごめんなさい」

 

「気にするな。ドラゴンの口に合うかそれ自体も分からないからな。・・・・・そうだな、

娘も交えさせるか」

 

「娘?」

 

「直に分かる」

 

それだけ言い、「ついてこい」とも言われ一誠はツェペシュ王と王座の間から退出した。

 

「ドラゴンの血を飲んで力が増大するとなると・・・・・これは面白くなりそうですねぇ」

 

マリウスの口元が歪み、一誠の言う通り何かを企んでいる様子だった。

 

―――しばらくして―――

 

「わぁ・・・・・っ」

 

一誠の前に、横長いテーブルに置かれた豪華絢爛、様々な料理が勢揃いしていた。

そんな食事を用意させたツェペシュ王と砂色の色合いが強いブロンドを一本に束ねた少女。

そしてマリウスと三人の若い吸血鬼がいた。

 

「凄い料理。まだ作れない料理が多いや」

 

「その歳で料理を作れるのか」

 

「簡単な料理しか作れないけどねー。目玉焼きとかオムライスとか」

 

「オムライス・・・・・なんだそれは?」

 

「作らせてくれるなら作ってあげるよ」

 

手を合わせて「いただきまーす」と述べた一誠は食べ始める。料理の味はどれも美味しく太鼓判を打つ。

 

「―――お前、いや兵藤一誠」

 

「んむ?」

 

「ご両親は元気にしているか?」

 

ツェペシュ王が一誠に尋ねた。パスタを食べ終えてから答えた。

 

「しばらく会っていないけど元気にしていると思うよ」

 

「ご両親はやはり兵藤家の者なのだな?」

 

「お母さんは式森家の人だって聞いたことがあるよ」

 

「そうなのか。それで兵藤一誠をヨーロッパに連れてきた理由はなんなのだ?」

 

「僕がもっと強くなりたいから施設に預けられているんだー。今はストラーダ先生と

クリスタルディ先生に色々と教わっているよ」

 

吸血鬼にとって忌まわしき教会の戦士の名だった。

 

「・・・・・施設に預けてご両親はどうしている?」

 

「うーん、多分色んな神さまと会っているんじゃないかな?」

 

「神さま?例えば?」

 

そこで一誠から爆弾発言が連発する。

 

「んと、神王のおじさんや、空の神さまとか海の神さま、北欧の主神っていうオー爺ちゃんや

冥府にいる骸骨のお爺ちゃん、ハーデスって言うんだって。

後々、帝釈天っておじさんも神さまだったかな?他には魔王のフォーベシイおじさんや

アザゼルのおじさんとかもお友達だよ」

 

「「「「「「・・・・・」」」」」」

 

有り得ない―――それがツェペシュ王の心境だった。ツェペシュ王は口元を引くつかせ、尋ねた。

 

「・・・・・今言った者たちと兵藤一誠は会ったことがあるのかな?」

 

「うん、あるよ。たまに家に遊びに来てくれるからね」

 

「そ、そうなのか・・・・・」

 

「そうそう、後ドラゴンにも友達がいるんだよ。オーフィスとかティアマットとかタンニーンとか」

 

―――――吸血鬼の世界の滅亡の日がすぐそこまでだったりして。

それからしばらく雑談をしつつ料理を食べ終えた。

 

「ごちそうさまでしたー。どれも美味しかったよ」

 

「口に合って何よりだ。兵藤一誠、自己紹介が遅れたな。

この者が私の娘のヴァレリー・ツェペシュだ」

 

「あ、兵藤一誠です」

 

椅子の上で正座になって深々と頭を下げた一誠にヴァレリー・ツェペシュと紹介された

少女も恭しく笑みを浮かべながら頭を下げた。

 

「よろしくお願いします。私のことはヴァレリーと呼んでくださいね」

 

「じゃあ、ヴァレリー。僕のことも一誠と呼んでよ」

 

「ええ、一誠。これからよろしくね」

 

「ヴァレリー、兵藤一誠を部屋に案内しなさい」

 

「わかりました。それじゃ一誠、私とお話をしましょ?外の世界のこと知りたいわ」

 

「いいよー」

 

あっさりヴァレリーと仲良くなった一誠は手を引かれながらヴァレリーと共に

ツェペシュ王たちから離れ出ていった。一拍して揃って息を吐いた。

 

「なんなのだあの者は・・・・・神話体系の神々と友達とは・・・・・」

 

「今時の人間は神々と簡単に出会えるものなのでしょうか」

 

「末恐ろしい・・・・・」

 

「ブリュンスタッドめ・・・・・とんでもない余所者を連れて来おって・・・・・」

 

「私としては実に興味深いですがね。特にドラゴンの血、

アレは研究のために是非とも採取したい」

 

様々な反応と感想をするツェペシュ一家。

 

「父上、あの者を長居させるのは危険ですぞ」

 

「爆弾を抱えているようなもの。帰させてはよろしいかと存じ上げます。それにマリウス、

研究のためにあのドラゴンを刺激すれば暴れ出しかねない。そんなことをするな」

 

「正式にお願いをして貰えば問題ないですよ兄上。それに見たでしょう?

我らが父上の力は飛躍的に増大したのを。アレを見てあの場にいた同士たちが

どう思っているのか分からないと言うわけではあるまい?」

 

マリウスの発言はツェペシュ王たちを沈黙させるの十分なものだった。

一誠の血を狙う吸血鬼が現れてもおかしくは無い。ドラゴンとはいえ幼い。

ならば捕獲することは容易いと野心を抱いている吸血鬼が少なくないだろう。

 

―――○●○―――

 

一誠はヴァレリーに色々な話をしていた。笑ったり驚いたり、時には好奇心を抱いたり

苦笑を浮かべて興味津々と一誠の話を聞き逃さず耳を傾けるヴァレリー。

 

「それでねー」

 

「まぁ」

 

楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。

 

「ねぇ、女の子の服を着てくれない?(キラキラ)」

 

「嫌だ!絶対に着ないよ!」

 

「いいじゃない、ね?」

 

「ううう、やっ!」

 

自分自身の身体を天使の翼で覆い、顔だけだした蓑虫状態になった。

これで女の子の服を着させることはできないと不敵に笑みを浮かべた一誠だがヴァレリーは

翼に意識を向けた。

 

「あら、綺麗な翼ね・・・・・そうだ」

 

「え?」

 

「コロコロ~♪」

 

蓑虫状態の一誠を、雪だるまを作る感じで転がしだした。

転がす当人は面白いが転がされる当人は驚き、目を回らされるので辛いのが心情。

―――そんな様子をツェペシュ王とマリウスが扉の隙間から覗いていた。

 

 

『目、目が、目が回るぅっ!やめてぇ~!』

 

『あははっ、楽しいっ!』

 

 

「なんだか、楽しそうですね我が妹は」

 

「とてもドラゴンとは思えない光景だ・・・・・人間味が醸し出している」

 

しばらくその様子を見ていれば完全に目が回った一誠を難なくフリルがたくさん付いた

ドレスを着せ替え出すヴァレリー。頃合いだと二人は侵入する。

 

「ヴァレリー」

 

「あら、お兄さま。見てください、こんなに可愛いくなりましたわよ?」

 

「ううう・・・・・恥ずかしいよぉ」

 

「中々可愛くなったじゃないか。さて、キミに話をしに来たんだ。頼み事を聞いてもらいにね」

 

マリウスが微笑みながら話しかけた途端に、一誠は警戒心を抱いた。

 

「・・・・・なに?」

 

「どうだろう、キミの血を私たちに提供してくれないかな?」

 

「提供・・・・・?」

 

「アルトルージュ・ブリュンスタッドたちのように私たちにも血を飲ませて欲しいと言うことだよ」

 

分かりやすく改めて説明したマリウス。訝しむ一誠は「どうしてなのさ」と質問すれば、

 

「私たち吸血鬼は人間より優れているのに弱点が多いことを知っているかな?

その弱点を克服し尚且つもっと強い吸血鬼になりたいんだ。

強くなりたいキミも分からない話じゃない」

 

「吸血鬼は人間を襲うって聞いているよ」

 

「それは世界の摂理・・・・・と言っても分からないだろうね。

生まれた吸血鬼にとってはそれが当たり前で生きるためにどうしても必要なことなのさ。

私たち吸血鬼だって好きで人間を襲い血を吸いたいわけではない。

生きたいからそうせざるを得ないのだ」

 

「・・・・・トマトジュース飲めばいいじゃん」

 

「それで生きながらえるのであれば吸血鬼は苦労しませんよ」

 

苦笑を浮かべたマリウスは深々と頭を下げた。

 

「この通り、どうかキミの血を分けて欲しい」

 

ここまで頼みこまれても一誠はマリウスを警戒している。

どうしても目の奥に覗ける黒いものがあって吸血鬼は悪い種族と相まって目の前の吸血鬼は

悪いことを考えていると一誠は思わずにはいられない。だが、

 

「一誠。お兄さまのお願いをどうか聞いてくれないかしら。私からもお願い」

 

「ヴァレリー・・・・・」

 

「ね?」

 

「ううう・・・・・」

 

マリウスは仲良くなった吸血鬼の家族である。せっかく仲良くなった吸血鬼と

仲が悪くなるのは嫌だと言う思いが湧きあがり、渋々といった感じで一誠は了承した。

 

「でも、僕はもう直ぐ帰るよ。だから今日アルトルージュの城に帰る。それでいいよね」

 

期限付きの条件を言われ、マリウスはしばし顎に手をやって悩む仕草をした。

 

「・・・・・」

 

そして、ニッコリと微笑んでこう答えた。

 

「わかりました。それで構いません」

 

「ありがとう、一誠」

 

嬉しそうに笑むヴァレリーを見てこれで良かったのかなと少し悩んだ。

 

「それでは―――」

 

「ん」

 

自然に慣れた感じで腕を突き出す一誠。それを見てマリウスは疑問符を浮かべるほど首を傾げた。

 

「飲みたいんでしょ?だから吸っていいよ」

 

「・・・・・」

 

「あっ、全部飲まないでね。死んじゃうのは嫌だから」

 

―――考えが甘かった。マリウスが頭の中で考えていたことよりも一誠が思っていたことと違い、

こんな単純なことで終わらせようとしている一誠に心の中で苦笑を浮かべた。

 

「ヴァレリー、最初はあなたから」

 

「え・・・・・私も?」

 

「そうです。さあ」

 

「・・・・・」

 

自分まで仲良くなったヒトの血を吸わなければならないなんて露にも思わず。

さっき一誠にお願いした手前、こんなことになるなんてと罪悪感が湧く。

 

「ごめんなさいお兄さま。私は友達の血を吸うことができません」

 

「じゃあ、お兄さんが飲んだら僕は帰るね?」

 

「ええ、出会ってすぐに別れるなんて寂しいけれど、一誠にも家族がいるからね」

 

「またいつか会いにくるよ」

 

朗らかに別れの挨拶をする一誠とヴァレリーを余所にマリウスは踵返して部屋からいなくなろうとした。

 

「あれ、飲まないの?」

 

「ええ、急用を思い出しましてね。私は行かなければなりません」

 

「ふーん・・・・・じゃ、僕は帰るね」

 

ヴァレリーと握手を交わし、ツェペシュ王に玄関はどこにあるのかと尋ね、案内してもらう形で

無事にアルトルージュの城に辿り着いたのであった。

あっさりと帰ってきた一誠に驚くものの心から歓迎をし、一晩過ごした―――。

が、次の日。一誠の姿はアルトルージュの城から陰も残さず消えていた。

 

 

 

「ここか、吸血鬼の根城は・・・・・兵藤一誠・・・・・探し出して必ず見つけてやる」

 

 

―――○●○―――

 

「姫、城の隅々をくまなく探しましたが兵藤一誠は見当たりません」

 

「そんなはずは・・・・・確かに帰って来ていたのよ。

なのになぜ・・・・・フィナ、襲った・・・・・?」

 

「いやいや!確かに寝込んでいるところを襲いたいなーと思いますけどしていませんからね!?」

 

「・・・・・一番確率のある予想も違うか」

 

「リィゾ。私には道徳という美徳な考えもあるんだが・・・・・」

 

「「「『・・・・・』」」」

 

「え、なんだい。その『お前が襲ったから美少年は夜逃げしてしまったんじゃないか』って視線は。

私はこの中で一番信用がなさすぎやしないか!?」

 

「「一誠(くん)に関しては当然」」

 

「だな」

 

『・・・・・(コクリ)』

 

「・・・・・(泣)」

 

四人と一匹の言動で静かに天を仰ぎ、目に光る何かがフィナの頬に流れる。

 

「しかし妙過ぎるわね・・・・・ねぇ、一緒に寝た?」

 

「はい、寝る時は何時も同じタイミングで寝ますので」

 

「・・・・・彼女だけ残して美少年だけいなくなるなんてまずは考えられないですな」

 

「―――もしや、誰かが眠っている隙に連れだしたのでは?」

 

リィゾの指摘に三人は目を丸くし、「まさか」と信じがたい面持ちで呟いた。

 

「あの子の血を知っている吸血鬼と言えば・・・・・」

 

「ですが、それは有り得ないでは・・・・・?」

 

「吸血鬼は様々、よ。可能性はあるわ」

 

「では・・・・・一誠くんは」

 

不安気なルーラの意図を察しアルトルージュは答えた。

 

「ええ、彼はツェペシュの城にいる可能性はあるわ。ドラゴンの血を独占する為に」

 

確信したとアルトルージュが発した―――その時だった。

 

「なるほど―――良いことを聞かせてもらった」

 

「「「「っ!?」」」」

 

この場にいる全員が知らない静かに発する女性の言葉が聞こえた。一誠に声がした方へ振り返ると、

黒と金が入り乱れた長髪、黒いコートを身に包む黒と金のオッドアイの女性が扉のところにいた。

 

「誰だ・・・・・」

 

「兵藤一誠の微弱な龍の波動がこの城から感じて

中に侵入してみれば・・・・・どうやら入る城を間違えたようだ」

 

「誰だと聞いているのか分からないのか」

 

リィゾが全身からオーラを迸ると女性は組んでいた腕を解いてこう答えた。

 

「私は兵藤一誠の家族に頼まれてな。兵藤一誠を連れ戻さなければならない」

 

「なんですって・・・・・!」

 

「ではな」

 

女性はそれだけ言って姿を暗ました。残った面々は―――。

 

「ただ者ではない・・・・・」

 

「美少年とどういう関係が・・・・・」

 

冷や汗を浮かばせ、目元を厳しく細めるリィゾとフィナ。プライミッツ・マーダーすら

全身の毛を逆立たせるほどの警戒させる相手だった。

 

「・・・・・行くわ」

 

「え・・・・・?」

 

「冗談じゃないわよ・・・・・いきなり私の城に入って来ては、

一誠を連れ戻しに来たなんて言って直ぐにいなくなるなんて・・・・・何様のつもりよ」

 

アルトルージュが黒いオーラに包まれる。すると身体がオーラに包まれながら大きくなり、

服装も変わって赤と黒のドレスへと成っていた。髪も腰まで伸び、出ているところは

出て引っ込んでいるところは引っ込んでいる抜群なプロポーションの美しい女性へと

変貌したことでルーラは度肝を抜かれた。

 

「その姿は・・・・・」

 

「私の本気モードみたいなものよ。もう本当久々に本気を出そうじゃない。

このアルトルージュ・ブリュンスタッドの力を!」

 

勇ましく行動を起こそうとしている面々と一誠を求める謎の女性がツェペシュの城に

目指している同時刻、

 

「さぁ、皆さん。これを飲んでみてください」

 

マリウスが少年少女たちの前に置かれたグラスにある赤い液体を見せ付けて言う。

その中にはヴァレリーもいた。誰もがその液体はワインではない―――人間の血のような

ものであることは理解した。場所はどこかの研究所みたいな空間のところで

壁に幾つものの扉があり、様々な機材も鎮座していた。

 

「安心しなさい。これはただの血です。少々特別な血ですが身体に害はないですよ」

 

安心させる微笑みを浮かべて告げるマリウスの目の前にいる少年少女たちの

正体は―――人間と吸血鬼の間に生まれたハーフ。ヴァレリーもまたハーフなのだ。

自分たちを集めたマリウスにヴァレリーは疑問をぶつけた。

 

「お兄さま、急にどうしてこんなことを・・・・・?」

 

「なに、ちょっとしたパーティだよヴァレリー。純粋な吸血鬼が飲めば力は増大する

実証をしたからね。では、ハーフの者たちならばどうなる?という研究テーマなのさ」

 

「本当に害はないのですか?」

 

「勿論だ。ああ、美味しかったらお代りがあるから大丈夫だよ」

 

意味深に微笑むマリウスを誰もが追求せず、一人、また一人とグラスを手にした。

そして一人一人がグラスを手にして飲んだ瞬間。瞳が妖しく煌めき、

全身から力のオーラが迸る。そんな様子を見ているマリウスは興味深そうに見詰めているが、

瞳はどこか落胆の色が籠っていた。

 

―――ガゴンッ!

 

何かが衝突した音が聞こえてきた。誰もが辺りを見渡し、音の原因を確かめようと探っていると、

 

「今の音は気にしなくてもいいですよ。研究に失敗して爆発でもしたのでしょう」

 

と、マリウスがそう言った次の瞬間。一つの扉が吹っ飛び、白衣を着た若い男が吹っ飛んだ。

男が吹っ飛んだ光景を見て誰もが目を丸くして驚いていた矢先、

フラフラと一人の少年が全身にチューブを垂らし、チューブに流れる赤い液体を床に流して汚す。

 

「―――一誠?」

 

「・・・・・おや、もう目覚めたのですか」

 

ヴァレリーはその少年を見て唖然とし、マリウスは平然として少年に声を掛けた。

 

「寝ていてはダメじゃないですか。さぁ、中に戻って」

 

「お前・・・・・許さない・・・・・」

 

「何に対してでしょうか?私はあなたを保護しただけですよ」

 

「保護・・・・・?」と少年、一誠は敵意と怒りに満ちた瞳をマリウスに向けた。

 

「ええ、怖い吸血鬼の城から助けたのですよ。皆が寝静まり返っている中で危険を顧みずにね」

 

「―――嘘吐き。何が保護だよ。僕の身体中に動けない状態にして、

これを付けて血を抜き取っていたじゃないかっ」

 

チューブを強引に抜き取ってマリウスに投げつけた。

マリウスたちの目の前に落ちたチューブは赤い血液がまだ残っていて吸引していた証が

物語っている。

 

「帰させてもらうよ・・・・・アルトルージュの城にっ」

 

「それは困ります。あなたの血はまだまだこれから有効的に活用するのにとても必要なのです。

抜き取った三分の一程度の血では不十分―――」

 

刹那。巨大な魔力の砲撃がマリウスに目掛けて放たれたが、頬を掠め壁を外まで貫いた。

 

「ふざけるな・・・・・っ!僕の血だけ目当てで

自分の好き勝手にしたいだけじゃないか・・・・・!」

 

静かに激昂する一誠が魔力を迸る。狙いはただ一人、目の前にいる吸血鬼であるマリウス。

 

「・・・・・やれやれ、穏便に済ませれませんか。

丁度良い、キミたち。あのドラゴンを倒して来なさい。いい実戦になるでしょう」

 

血を飲んでパワーアップした少年少女たちに告げたマリウス。

ただ一人だけ除いてマリウスに懇願した。

 

「お兄さま一誠になんてことを・・・・・もうあの子を帰してやってください」

 

「私の研究に必要なのだよヴァレリー。あのドラゴンは私たち吸血鬼が独占するべき存在」

 

「こんな悲しいことお父さまやお兄さまたちが許すはずが・・・・・」

 

「ええ、これは私の独断です。だからヴァレリー、どうか内緒にしてくださいね」

 

醜悪な笑みを浮かべ、少年少女たちを促す。

気弱だったり気が小さいハーフの子供たちは一誠の血を飲んだことで

興奮状態で気持ちが高ぶり、吸血鬼の本能に従い、一誠に襲いかかった。

 

「キミたちもやっぱり吸血鬼なんだね・・・・・」

 

悲しげに漏らす一誠の周囲が、歪む空間から鎖が飛び出して

襲い掛かってくる吸血鬼たちを拘束して動きを封じる。

 

「がぁあああああああっ!」

 

一人の少女が叫んだ。ただそれだけで全てを薙ぎ払い、一誠さえも吹っ飛ばした。

 

「ほう・・・・・もしや神器(セイクリッド・ギア)を発動したのか?素晴らしい、

ドラゴンの血を飲むことで強制的に神器(セイクリッド・ギア)を扱えるようになれるようですね・・・・・」

 

釣り上がった口の端は何時までも下がらない。他に床を突き破って生える植物の蔓や、

無機質で構成された人型の巨人、氷の槍など具現化して―――。

 

「捕まえなさい」

 

終始、マリウスは笑みを絶やさず何時しか嬲られるであろう一誠を、

多勢に無勢の戦いに強いられる一誠を、数の暴力に逆らえなくなる一誠を見て、

吸血鬼たちに噛みつかれ血を吸われる一誠を見て、虫の息の状態の一誠を容易く捕まえてみせた。

 

「今回だけは神に感謝ですかねぇー。こんな貴重な実験材料を恵めてくれたのですから」

 

グッタリと身動き一つもしなくなった一誠を、今更ながら駆けつけてきた兵隊たちに告げた。

 

「このドラゴンを厳重に拘束して檻に閉じ込めてください―――」

 

「た、大変です!侵入者が―――!」

 

ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

何か発しようとした兵隊の声を遮る轟音が兵隊たちさえその余波で吹っ飛ぶと同時に

マリウスたちのところまで轟いた。そして立ち込める扉の向こうの煙に人影のシルエットが浮かぶ。

 

「なんだ、ここにも吸血鬼がいたか」

 

「・・・・・誰ですか」

 

「お前が掴んでいるドラゴンと同じ存在と言おうか」

 

静かな足音が近づいてくる。やがて煙から出てきた人物の黒と金のオッドアイはジッと

一誠を捉えた。

 

「あの者たちにどう言えば良いだろうな。満身創痍の者を助けたのでは私が情けないと思われるか?」

 

女性は口の端を吊り上げて問うた。

 

「なぁ、久しい邪龍たちよ」

 

「何を言っているのですか・・・・・?」

 

怪訝に漏らすマリウスだったが、一誠の両手の甲に宝玉が浮かんで点滅しだした。

 

『まさか、お前がそっちから来るとは思いもしなかった』

 

『久し振りだなぁ!どうやら今まで退治、封印すらされずに生きていたようだなぁ?』

 

「冥界と人間界を修行と兼ねて見聞していたのでね。そんな目に合うことは一切なかった」

 

『相変わらず修行をしていたのか。だが、どうしてお前がここにいる?』

 

「兵藤一誠の家族、オーフィスと出会ってな。兵藤一誠を連れてくれば戦ってくれる約束をした。

そしてグレートレッドの肉体の一部とオーフィスの力で復活したドラゴンを

会いたい気持ちも有り、この吸血鬼の根城にやってきたのだ」

 

宝玉と交わす謎の女性。マリウスは目元を細め、口を開いた。

 

「何者ですか」

 

「言っただろう。兵藤一誠と同じドラゴンだ。

ただし『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハという暗黒龍と称されし最強の邪龍の名が付くがな」

 

「―――――っ!?」

 

「返してもらおうか。そのドラゴンを」

 

クロウ・クルワッハがマリウスに近づくが少年少女たちが

神器(セイクリッド・ギア)を駆使して襲いかかってきた。

 

「ふん」

 

躱し、薙ぎ払い、受け流し、相殺、防御と一瞬でやり通して幼い吸血鬼たちを一蹴して倒した。

 

「なっ・・・・・!」

 

「全てが不足だ」

 

残るはヴァレリーとマリウス。戦意がないヴァレリーを一瞥もせずマリウスに近づく。

 

「なるほどな。衰弱しているせいか力はあまり感じないがオーフィスの力を感じる。

それにグレートレッドの肉体か・・・・・実に興味深いドラゴンだ」

 

愉快そうに小さく口元を緩ませる。腕を伸ばし一誠を掴もうとした瞬間。

 

「待ちなさいっ!一誠を返しなさい!」

 

クロウ・クルワッハが破壊した扉の向こうからアルトルージュたちが現れた。

 

「―――許さない」

 

その時・・・・・。

 

「僕を騙して血を奪う・・・・・」

 

一誠の身体から黒い何かが包む・・・・・。

 

「吸血鬼を許さない・・・・・」

 

マリウスが反射的に一誠を床に落とす。本能がそうしないと自分がやられると警告するほどに。

 

「僕から奪うなら・・・・・今度は僕が奪ってやる・・・・・」

 

バキ・・・・・バキ・・・・・バキ・・・・・ッ

 

何かの日々が生じる音が鈍く聞こえてくる。床でも機材でもない。

何か壊してはいけないものに罅が入っている。

 

「命を・・・・・力を・・・・・血を・・・・・」

 

床に蹲る一誠がポツポツと呟く。周りから見守られている最中にゆっくりと立ち上がる。

地面にしっかりと足を付け、腰を上げて状態を起こして爛々と殺意が籠った双眸を

マリウスたちに向けた。

 

「―――全て、奪い取るっ!」

 

バギィンッ!

 

甲高い完全に何かが壊れた音共に黒い何かが膨張して天井を突き破り、

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

吸血鬼の世界に闇が誕生した。

 

『帰るんだ!あの場所にぃッ!』

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

「どうした一香」

 

「・・・・・なんで・・・・・・どうして・・・・・」

 

「一香・・・・・?」

 

「封印が・・・・・あの子に施した封印が・・・・・壊れた」

 

 

 

 

 

「リーラ、あの黒い柱・・・・・」

 

「・・・・・ここからでも肌が突き刺さるようなこの感じは・・・・・」



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エピソード33

吸血鬼の世界に黒い柱が出現した。何時しか黒い柱は消えて無くなり太陽を遮っていた霧に

ぽっかりと穴が開いたため、外にいる吸血鬼たちは焦心に駆られて建物の中へ逃げ込んでいく

最中に太陽の日差しが吸血鬼たちの世界を照らす。

 

「くっ・・・・・太陽の光・・・・・っ!」

 

マリウスやアルトルージュたちさえ例外ではない。だが、ハーフである吸血鬼たちは光を浴びても

辛そうな表情を浮かべるだけで特に変化がない。

 

「・・・・・」

 

ただ一人だけ、天を仰いで眩しげに見上げるヴァレリーは。

 

「温かい・・・・・これが太陽なんですね・・・・・」

 

どこか嬉しそうに太陽の日差しを浴びながら感じていた。

 

「・・・・・なんだ、あれは」

 

クロウ・クルワッハは目の前の異形に目を細める。吸血鬼の世界に太陽を覗かせた原因は―――。

それは人の形を保ったままドラゴンのようなフォルムへと成っていた。両腕が長く太くなり、

鋭い爪が伸びていった。背中が隆起して六枚の翼が生え、足が逆関節と成っていて

頭部もドラゴンを思わせるような頭が三つに増え形成されている。鋭い牙が揃い、

角も生え、六つの双眸が怪しく輝く。

 

「―――アジ・ダハーカ?」

 

クロウ・クルワッハは似ているドラゴンに変化した一誠を見つめて漏らす。

しかし、瞳に光がない。あるのは―――殺意。

 

「・・・・・少しまずいか」

 

その場から離れた途端、手が降り下ろされて床を跪きながら強く叩いた

一誠の周囲の床から火柱が発生した。それは次々と発生しては広がって

自分と距離を離す為なのか、アルトルージュたちも遠ざかるを得なくなりつつ

クロウ・クルワッハが警告した。。

 

「吸血鬼たち。ここから離れていろ。巻き込まれるぞ」

 

「は?」

 

三つの大きく開いた口から覗ける光。一誠は巨大な攻撃をするのだと把握し、

クロウ・クルワッハ以外のアルトルージュたちは逃げ出す。

 

カッ!ドォオオオオオッ!

 

光のレーザー光線が放たれ、大爆発を起こした。その内の一つはクロウ・クルワッハに

向けられていたが、腕を上に向かって難なく弾いてみせた。

 

「きゃっ!」

 

「くっ・・・・・ッ!」

 

だが、他の攻撃は着弾し発生した爆風にアルトルージュたちの身体が風と

衝撃波によって吹っ飛ぶ。クロウ・クルワッハに倒されたハーフの子供たちさえ

簡単に枯れ葉のように吹き飛んだ。

 

『オオオオオオオオオッ!』

 

一誠は高々に咆哮をあげた。城下町の方にもその声が聞こえていて、

唖然とした面持ちで城の方へ視線を向けることを知らないまま戦いを止めようとしない。

そして再度、三つの口から再び光が覗けた瞬間、クロウ・クルワッハが飛び出して殴り飛ばした。

 

「怒りを鎮めろ兵藤一誠。相手が欲しいなら私がなってやる。さぁこい」

 

その言葉に一誠はクロウ・クルワッハに対峙した。身長も自分と同じぐらいに成長して

戦う相手としては申し分もない。その上、見た目は異形なドラゴン。

アジ・ダハーカみたいな人型の三つ首龍。鎌首を周囲に傾げ警戒をしている様子さえ窺える。

 

「同じドラゴンとして、お前みたいなドラゴンと戦うことを嬉しく思っている。

さて、どれだけ強いのか―――」

 

「見せてもらおう」とクロウ・クルワッハが飛びだしたと同時に一誠も床を蹴り飛びだして

拳を突き合わせた―――。その一方、難を逃れたアルトルージュたち。

太陽の日差しも霧で再び遮られたようで安全圏のところでドラゴン同士の戦いを観戦していた。

 

「あの女、何者よ・・・・・」

 

「あれは、美少年なのか・・・・・?」

 

「ドラゴンであることを聞いただろう。だがしかし、どうなっている・・・・・」

 

一誠の手に魔力が帯びるとそのまま空気を撫でるように横薙ぎに振るったら巨大な嵐が

発生してクロウ・クルワッハを呑みこませたが、クロウ・クルワッハは全周囲に波動を

放って嵐を弾け消せば一誠の真後ろに回り、

背中へ打撃を与えようとしたが一つの頭の目がソレを捉えていて、翼で受け止める。

 

「一誠くん・・・・・」

 

「一誠・・・・・」

 

激しい魔力の衝突が繰り広がり何もできずにいるとどこからともなく

大量の蝙蝠が飛来して戦っているクロウ・クルワッハと一誠に向かっては―――。

 

「ふっ!」

 

アルトルージュが一誠を殴り床へ叩き付けた。その一撃が効いたのか分からないが

一誠は倒れたまま動かなくなった。自分の手を見詰め、何かを感じている様子で漏らす。

 

「・・・・・ずっと一誠の血を飲んでいたからか、何時もより力が増しているみたいね」

 

「吸血鬼、邪魔をするな」

 

「邪魔した覚えは無いわよ。一誠に関してはね」

 

「お前では暴走気味のドラゴンをどうこうできるわけがない」

 

クロウ・クルワッハの指摘通り、首だけアルトルージュへ向けて灼熱の業火を放った。

全身を蝙蝠にして回避したアルトルージュに言葉を投げた。

 

「生半可な攻撃では通じんよ。ドラゴンという生物には特にな」

 

「殺す気でやらないとダメってことかしら?」

 

「―――吸血鬼ではドラゴンを倒すことはできない、そう言いたいだけだ」

 

迫りくる灼熱の炎から躱す二人。お前では勝てないと言われ屈辱とショックで

渋々リィゾとフィナのところに戻って一言。

 

「ムカつく!」

 

ドラゴン同士の戦いが始まってしばらく。騒ぎが起これば安全を守るための存在がやってくるもの。

それは吸血鬼の世界でも同じで研究所に鉄と鉄を擦る音を鳴らし続け

時代に取り残されたような鎧と剣という出で立ちの兵士たち、吸血鬼たちがやってくる。

しかし、タイミングがあまりにも悪過ぎた。

 

「化け物め!」

 

「捕えろぉっ!」

 

『・・・・・』

 

赤い眼がギロリとクロウ・クルワッハから兵士たちへ向ける。

相手が吸血鬼であることを認知すれば、自ら兵士たちに襲いかかった。

 

ズバッ!ザンッ!

 

鋭い爪で兵士の鎧ごと引き裂き一蹴する。

 

「私から逸れるな」

 

兵士たちから守ろうとするわけでもなく、一誠を倒してオーフィスのところに連れて

帰ることだけ意識があるクロウ・クルワッハは攻撃を仕掛ける。

攻撃を食らっても一誠は吸血鬼を根絶やしにすることを止めない。

 

「吸血鬼に対するその執着心・・・・・何が遭った?」

 

「―――血を、採られたからです」

 

静かに、戦場となったこの場に透き通った声がクロウ・クルワッハの耳に届く。

声がした方へ視線を向ければヴァレリーが赤い血が入ったグラスを両手で持って話しかけていた。

 

「私のお兄さまが一誠から無理矢理研究の為だと血を抜き取って私たちハーフに飲ませたんです。

一誠は怒り、それでもお兄さまは一誠を捕えようとして・・・・・」

 

「なるほどな、そう言うことだったか」

 

一誠の腕を掴んで遠くへ投げ放った。

 

「だとすれば、いまの暴走気味のあいつに映る吸血鬼は全て敵と判断するだろう。

私はどうでもいいが、これ以上暴れ出されては面倒だ。―――そろそろ倒すか」

 

濃厚なオーラを纏い、立ち上がった一誠のもとへ突貫した。

 

―――○●○―――

 

「一誠・・・・・」

 

クロウ・クルワッハの動きが更に俊敏にそして今にでも一誠を倒す勢いの攻撃。

一誠の攻撃は空振り翻弄されて隙を突かれて攻撃に受けるばかり。ヴァレリーは一誠を

どうすれば元の姿に戻れるのか考えた。自分たちのせいでひどい目に遭った。

だから、謝りたいと願う彼女の目に赤い液体が映った。

 

『ドラゴンの血を飲むことで強制的に神器(セイクリッド・ギア)を扱えるようになれるようですね・・・・・』

 

マリウスが言っていた言葉が頭の中で過った。自分はまだ飲んでいない。もしもこれを

飲んで一誠を止める力が目覚めれば・・・・・?

 

「・・・・・」

 

ジッとグラスの中を覗き込む視線を一誠へ変えて見ればクロウ・クルワッハと

力の根比べをしている。戦いはまだ終わらない。

 

「・・・・・っ」

 

意を決して一誠の血を、グラスを口に近づけ口に含んだ。舌に広がる鉄の味、

喉に通る冷たい温度を感じた瞬間。

 

ドクン―――!

 

今まで感じたことのない熱が全身に広がり、吸血鬼の力が湧き始める。

これで神器(セイクリッド・ギア)が発動するはず、後は―――。

 

「一誠・・・・・お願い、元の姿に戻って・・・・・」

 

一誠へゆっくりと近づき懇願するヴァレリー。

危険だと、アルトルージュから警告が発せられるがクロウ・クルワッハを強引に魔力で

吹き飛ばし、声を掛けてきた吸血鬼を殺そうと飛び掛かった。

 

「私は謝りたいの。だから、元の姿に戻って・・・・・」

 

鋭い爪がヴァレリーの顔に迫った。

 

「ね、一誠」

 

微笑むヴァレリーに―――その顔に爪が届いた。

 

―――刹那。

 

眩い光が発生した。一誠は降り下ろした爪をピタリと停止し、

何かを感じた様子でヴァレリーから離れた。

対してヴァレリーの全身から光が放たれていて当の本人も当惑した。

 

「何が・・・・・」

 

アルトルージュたちもヴァレリーから生じる摩訶不思議な現象に警戒と戸惑いの色を

浮かべる。すると、ヴァレリーの胸が波紋が生じ、ひとつの杯が出てきた。

 

「これが・・・・・私の―――」

 

杯を手にした。金色で装飾と意匠が凝った杯だが神秘的な何が感じる。

 

「・・・・・」

 

祈りを捧げる姿勢で瞑目するヴァレリーを再度襲い掛かった矢先、

杯が光に包まれたと思えば一誠の全身も光に包まれた。

 

「お願い・・・・・元の姿に戻って・・・・・」

 

願うヴァレリーに呼応し、一誠は完全に光によって包まれる。

何が起きるのか、これからどうなるのか分からないまま様子を見ている

アルトルージュたちの目に映るものは―――。光が消失して元のヒトの姿に戻った一誠が

倒れていた光景だった。

 

「まさか神器(セイクリッド・ギア)・・・・・?」

 

「そのようですね」

 

「一誠くん!」

 

争いは終わった。一誠のもとへ駆け寄るルーラーとヴァレリー。続いてアルトルージュたち。

最後にクロウ・クルワッハ。近寄る。

 

「問題はなさそうだな」

 

「そうみたいね。でも、その杯が何かなのは気になるわ神器(セイクリッド・ギア)みたいだけれど」

 

「どうでもいいな。私はただオーフィスのところに連れていくだけ」

 

「あっ、待ってください。私も一誠くんについていきます。一緒に協会の施設に住んでいるので」

 

「そういう話しは聞いていないが・・・・・まあいいだろう」

 

「ちょっと、彼らは私たちが送り返す約束をしてるの。それだけは譲れないわよ」

 

何故かにらみ合いが勃発したその時。この場に歓喜と拍手が聞こえてきた。

 

「素晴らしい!ヴァレリー、キミは凄い神器(セイクリッド・ギア)を発現したのだよ!」

 

「お兄さま・・・・・?」

 

「さあ、そのドラゴンと一緒にこっちへ来なさい。そのドラゴンはヴァレリーにとっても

必要不可欠なのだからね」

 

大勢の兵士を引き連れていたマリウスが手を差し伸べるもののアルトルージュが

ヴァレリーを庇うように腕で行くなと制止しながら問うた。

 

「あなた、彼女のこの杯を何か知っているようね」

 

「実際に見たのは初めてですがね。ですが、解りますよそれは。―――神滅具(ロンギヌス)であり、

イエスが最後の晩餐に使用したとも云われている生命を司る聖杯なのですからね」

 

「聖杯・・・・・ッ!?」

 

ルーラーが目を張った。教会でも神滅具(ロンギヌス)について教えられている。特に

イエス・キリストと関連している聖遺物を。その内の一つが聖杯。またの名を『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』。

 

「ええ、生命を司る神器(セイクリッド・ギア)ならば、吸血鬼の価値観を根底から

崩すことだって可能でしょう。私の想像が正しければ弱点の多い吸血鬼がその弱点を

全て克服できるとか」

 

『っ!?』

 

マリウスの言葉には吸血鬼であるアルトルージュたち、教会に育成されているルーラの

皆が心底驚愕した。

 

「ヴァレリーはドラゴンの血を飲んだことで我々吸血鬼にとって神の恩恵を得たのです。

ああ、その聖杯・・・・・実に興味深い・・・・・っ!」

 

歓喜極まりないと身体を震わすマリウス。研究者みたいに知的好奇心が

マリウスに刺激を与えるのだろう。それほどヴァレリーの聖杯は凄いことであることが疑問も抱く。

 

「そんなことが、本当に可能なの・・・・・?」

 

アルトルージュは疑心を強く抱き、マリウスに問うたところ。

 

「それについては実際にこれから研究をしなくてはなりませんね。研究をして色々と

試してみないことには何とも言えませんし始まりません。

まぁ、それらは所有者であるヴァレリーの使い方次第と成長次第でしょうがね」

 

冷笑を浮かべ、ヴァレリーと一誠をセットに見詰める。

 

「さぁ、ヴァレリー。こっちに来なさい。ああ、できればそのドラゴンも連れて来てください。

まだまだドラゴンの血を観察し、研究をしたいのでね。我々吸血鬼がドラゴンと戦って

勝てる確率は少なく、血を採取なんて無謀に等しいのにまだ幼いドラゴンが

やってきてくれたのです。これを有効に事を進め、扱わなくてはどうするのですかと

思うぐらいですよ?」

 

全ては研究の為にと生粋の学者肌であることを窺わせる発言だった。

 

「実の家族を研究材料みたいな言動をする王位継承者の一人だなんて、あなたは苦労するわね」

 

「私は王になろうとは思いませんよ。ただ神器(セイクリッド・ギア)を研究する者として

命ある限りずっとしていきますよ。ええ、神器(セイクリッド・ギア)の研究をね」

 

そうヴァレリーに話しかけるアルトルージュの言葉を否定するマリウスだった。

 

「それにそのドラゴンも神器(セイクリッド・ギア)を有しているようですしね。

どんなものなのか調べて独自で追究してみたいです」

 

「―――そう、させると思っているのかしら?」

 

相手が誰であれ、一誠を守るためにここへ来たのだ。アルトルージュは全身から魔力を迸らせる。

後に自分がどうなろうと今が最優先。後のことは後で考えるべきだとマリウスたちに牙を剥ける。

 

「仮にも王族である私に攻撃をするのですか?ブリュンスタッド家はツェペシュ派だと

思っていましたがね。いや、それすら私にとってもどうでもいいことですが」

 

「お生憎様だけど、私たちは一言も男尊派か女尊派の味方なんて言った覚えは無くってよ。

ただ単にツェペシュ派のところに私たちの城があるだけでそうなったに過ぎない。

言わば中立を保っている吸血鬼ってところね」

 

「なるほど、私も中立派としていれば好き勝手に研究を没頭できますね。これからそうしましょう」

 

片腕を上げたマリウスに反応して兵士たちが身構えた。

 

「取り敢えず、ブリュンスタッド家はツェペシュ王を仇なす反逆罪でこの場で捕まえるか

もしくは始末という処罰でもしましょうか。そこのドラゴンは吸血鬼同士の問題だけは

関わらないでもらいたい」

 

「そこに兵藤一誠が関わらないのであればいいがな」

 

「―――無理ですね」

 

ニッコリと微笑むマリウス。腕が振り下ろされ、アルトルージュたちに向かって突き

伸ばす腕に兵士たちがワッと動き出す。

 

「同族を裏切る形になったようだが?」

 

「お父さまに深く申し訳ないと杭で心臓を抉られるぐらい反省しているわ。でも後悔はしない。

約束したもの、一誠と彼女を何時か元の場所に返すと。この名に懸けてさ」

 

「・・・・・ならば、しばしの間は共闘でもするか?」

 

「ダンスの申し出ならお断りね。女同士じゃ華がないもの」

 

「兵藤一誠に頼めばいい」

 

「当然よ」

 

吸血鬼とドラゴン。二人揃ってドラキュラのコンビが誕生した瞬間だった。

目の前に楕円形の穴が虚空に開いたのだ。「誰の仕業?」と誰もが心の中で疑問を抱くが、

 

「・・・・・運任せで行く気あるかな?」

 

どこかに通じている可能性はあると踏んでの誘いだった。クロウ・クルワッハの誘いを

アルトルージュは、

 

「私は運が強いわけじゃないけれど・・・・・その前に」

 

身体から数匹の蝙蝠を生み出してどこかへ飛ばした。

 

「行くわよ」

 

「さっきの蝙蝠は?」

 

「ちょっとした伝令よ。―――この世界とお別れかもしれないしね。プライミッツ・マーダー、

一誠を背に乗せて」

 

主の命令にルーラがプライミッツ・マーダーの背中に一誠を乗せてやるとアルトルージュの傍に寄った。

 

「二人とも、私に付いてきてくれる?」

 

「「我が命は姫と共に」」

 

当然のようにフィナは笑みを浮かべ、リィゾは真っ直ぐ真摯な瞳をアルトルージュに向け忠誠を示した。

 

「レティシア、もしかしたら教会に連れて帰らす日は数年後ってことに

なるかもしれないけど・・・・・」

 

「ここにいても危険しかありません。一誠くんと一緒に教会に帰ります」

 

と、真っ直ぐ言い切ったルーラから視線を外しヴァレリーにも問うた。

 

「ここにはあなたの家族がいるんだし、あなたはあの研究しか頭にないお兄さんの

ところに戻った方がよいんじゃなくて?」

 

「・・・・・そうしたい気持ちがあるんですけれど」

 

何故か苦笑を浮かべるヴァレリーの視線は自分の服を掴んでいる一誠に向けられた。

 

「一誠がもうちょっとだけいて欲しいと言っているようですので。それにあの向こうは

どこかに繋がっているのですよね?私、外に出てみたいと思っていますの」

 

「・・・・・外に興味があるなんてね。あなたが思っているような

楽しい世界じゃないかもしれないわよ?」

 

「それでも」

 

ニコリと微笑んだ。

 

「皆さんと一緒ならばきっと楽しいと思います」

 

「・・・・・それじゃ、奴さんも迫ってきたし行きましょうか」

 

アルトルージュの言葉に呼応して一行は頷いた。楕円形の穴に全員が飛び込んだ瞬間、

穴があっという間に閉じて兵士たちが当惑の色を浮かべた。

 

「・・・・・逃げられましたか。ですが、いつか必ず見つけ出して・・・・・」

 

目に宿る炎はマリウスの執念を強くさせる。そして、一誠たちは―――。

 

「あなたたち・・・・・だれ?」

 

吊り上がった切れ長の瞳に無造作に切り揃えられた長い金髪。

そして、人間より長い耳を持つ少女が目をパチクリして

どこか薄暗い洞窟の中に突如現れた一誠たちに当惑した。



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エピソード34

ちょっとした劇場ほどもある巨大な空間にアルトルージュたちは一人の少女と出会った。

地面に何やら数冊の本や道具、杖みたいなものまで散乱していて少女の奥を見れば

十五メートルほどの大きな生物が佇んでいる。

 

「あなたたち・・・・・だれ?」

 

吊り上がった切れ長の瞳に無造作に切り揃えられた長い金髪。

そして、人間より長い耳を持つ少女が漏らすと、

 

「その台詞、そのままそっくり返していいかしら」

 

「ここは・・・・・洞窟の中か?それに・・・・・」

 

「匂いがキツイ」

 

「・・・・・海の香りがします」

 

「珍しいな。こんな所でドラゴンと出会うとはな」

 

「人間・・・・・ではないみたいですね」

 

一行は口を開きだした。すると喉の奥から笑う声が聞こえだす。

 

「長耳のはねっかえり。わらわの娘。どうやらお前は珍妙な者たちを召喚したようじゃな」

 

「召喚・・・・・?どういうことだ」

 

クロウ・クルワッハがドラゴンに問うた。紺色と見える鱗は、よく見るとくすんだ銀色をしていた。

滑らかな銀色の鱗は、光の加減で様々に色を変えた。頭からは珊瑚のような

二本の角が生え、その付け根には巨大なフジツボがいくつも付いていた。手足の間には、

分厚い水かきが見える。そんなドラゴンはクロウ・クルワッハを見詰め、

珍しいものを見る目で述べた。

 

「ここまで邪悪な竜を見たのは初めてじゃ。

じゃが、邪悪な竜とはどこか違うようじゃが・・・・・」

 

ドラゴンは一誠にも目を向けた後、「身体にドラゴンを宿すドラゴンを見るのも初めてじゃな」と言った。

 

「初見であるはずなのに、知能が極めて高いドラゴンのようだな」

 

「ふぇふぇふぇ。これでも長生きしているもんでね、大体のことはわかってしまうさね。

さてお前さん、名はなんという?」

 

クロウ・クルワッハは名を名乗るとドラゴンは一誠にも教えてくれと願った。

一誠の名を告げると「ほう」と意外そうに漏らした。

 

「兵藤・・・・・随分と懐かしい名を持つドラゴンじゃな」

 

「兵藤という者を知っているのか?」

 

「わらわにとって極最近。お前さんたちにとって長い年月が経っているだろう。

何の前触れもなくわらわの住処に人間の二人がやってきたのだ」

 

昔を思い出しながらドラゴンは楽しそうに目を細めて語り出した。

 

「二人の人間は世界を冒険していると言っておったの。それはわらわの住処にも例外ではなく、

何日かここで住んでおった。住みついてしばらく経った頃、わらわのゴミを見つければ

「どうしてこんなものがここにあるんだ!?」と大層驚いておったのぉー」

 

「ゴミ?」

 

「ああ。その時人間たちが言っていた言葉を思い出せば・・・・・そう、武器とか言っておったわ」

 

この洞窟のどこかに武器があるとは・・・・・一行は不思議そうにしていれば、

 

「あ、あの・・・・・ここってどこなんですか?具体的に言って」

 

「ここは長耳のはねっかえりの言葉で言えば『竜の巣』。わらわの住処であり、

今いる場所は海の中じゃ」

 

「海の中!?私たち、陸にいたはずなのに・・・・・どうやって海の中にある洞窟に来たって言うのよ」

 

アルトルージュが驚愕した。楕円形の穴に入っただけで海にある洞窟の中に移動した

事実を受け入れづらくなった。

 

「このわらわの娘が召喚魔法を行ったからじゃろう」

 

「そう言えば、先ほども召喚がどうのこうのと・・・・・」

 

ルーラがさっきから黙っている少女に目を向ける。どういうことなのかと視線を一身に

浴びせられる少女は息を一つ零した。

 

「おじさまに頼んで持ってきてくれた蛮人が使い魔を得る方法を私も真似してみただけだったの」

 

「蛮人とは?」

 

「人間のことよ」と少女が当然のように言う。

 

「使い魔を得る方法・・・・・魔方陣らしきものもないな」

 

「当然よ。唱えるだけで唱えた本人の言葉を聞き受け入れてくれた使い魔となる生物が

現れるものなんだから」

 

「それは何度もできることなのか?」

 

「いいえ。現れた使い魔を使い魔にする儀式をすれば、

もう呪文を唱えても新しい使い魔となる使い魔は目の前に現れないって書いてあるわ」

 

中々興味深い話を聞く一行。どこの国の人間がそんな事をしているのか興味もわき始める。

 

「で、あなたはどうしてそんな事をするためにわざわざこんな洞窟の中でしていたの?」

 

「蛮人みたいなことをするなって周りからうるさいからこっそりと・・・・・」

 

「同族がいるのね。耳が長いけど・・・・・人間なの?」

 

アルトルージュの指摘に少女は「冗談!私は蛮人じゃないわ!」と否定した。

 

「私はエルフよ。そんで名前はルクシャナ」

 

「エルフ?これはまた、奇妙な巡り合わせだな」

 

「そう言うあなたたちは何者なの?一応、私の召喚儀式に応えてくれたって感じじゃ

なさそうだけど」

 

「ちょっとね。あなたの召喚魔法が発動したところでトラブルが遭ったのよ。

ここに来たのはトラブルから逃れるため。あなたの使い魔になんてなる気はないわよ」

 

「こんな大勢の人間―――」

 

と言おうとしたルクシャナだったが、

 

「ああ、因みに私たちは吸血鬼よ」

 

「私はドラゴンだ」

 

「えっと、人間です」

 

「はいっ!?吸血鬼、ドラゴン!?嘘でしょ、どこからどう見ても人間でしょ!」

 

アルトルージュたちの(一人除いて)正体に目を張った。

 

「ルクシャナとやら、ここは竜の巣という場所らしいが全体的な場所で言うと

どの辺りなのだ?国の名前とかそういうエルフが住んでいる場所の名前があるなら教えて欲しい」

 

ルクシャナは顎に人差し指を添えながら「うーんと」と教えた。

 

「ここは離れた場所だけどエルフの国ネフテスの首都、アディールってなら存在しているわよ。

私はそこで暮らしているの」

 

「・・・・・聞いたことがない国ですね」

 

「私もだな。吸血鬼のお前たちはどうなのだ?」

 

「私たちはそんな遠い場所のことまでわかるわけがないわ」

 

「遠い場所へ行くのも一苦労する」

 

エルフの国の名を聞き覚えがない面々。それからもルクシャナから色々と

情報を提供してもらった。

 

「しかし、どうやって外に出ようかしら」

 

「海の中に潜らないと出られないなんて・・・・・」

 

「それ以前に美少年の意識が戻らないことに気がかりですぞ」

 

「仮に外へ出られたとしても太陽の光が俺たちを苦しめる」

 

「吸血鬼って本当に弱点が多いですね」

 

「「「仕方がないでしょ(だろう)そう言う種族だから」」」

 

純血の吸血鬼組が揃って言う。ヴァレリーが「それじゃ」と聖杯を持った手を突き出した。

 

「三人の弱点をなんとかこの聖杯でなくしましょう」

 

「発現したばかりで大丈夫なの?」

 

「頑張ります。皆一緒に太陽の下で歩けれるようになればきっと・・・・・」

 

聖杯を使って吸血鬼の弱点を無くそうと試みるヴァレリーの近く、

一誠の傍に居座るルーラは同じように気を失っている一誠を興味深そうに

視線を送っているルクシャナに言葉を掛けた。

 

「ところであなたはこの巣のところに良く来るのですか?」

 

「たまにしかこないわよ。えーと、名前は?」

 

「レティシア・J・D・ルーラです」

 

「蛮人みたいに長い名前ね」とルクシャナは言うとルーラはその言葉が気になったのか問うた。

 

「どうして人間を蛮人と呼ぶんですか?」

 

「人間は蛮人だとそう言う風に教えられているからよ。でも、嫌いじゃないわよ蛮人のことは」

 

「なぜ?」

 

「だって―――すっごく興味あるんですもの!」

 

急に目を輝かせるルクシャナ。何に興味あるのかルーラには分からないが、

ルクシャナは自分から言い出した。

 

「私ね、蛮人を研究する学者だから蛮人の世界に溢れている文化って

凄く面白くて興味が尽きないの。だから蛮人はどんな生活をしているのか、

蛮人の世界にどんな文化があるのかこの目で見聞したいほどよ!」

 

「そうだわ」とルクシャナがルーラに問い詰めた。

 

「あなた、蛮人だったわね?だったら蛮人の世界はどんな物があるのか、

どんな生活をしていたのか色々と詳しく教えてちょうだい」

 

「え、えええ・・・・・?」

 

「それじゃ質問するわね?」

 

「有無も言わせないのですか!というか、私の意思は無視?」

 

と、何かに憑かれたようなルクシャナが執拗にルーラへあれこれ質問攻めしている余所に

クロウ・クルワッハはドラゴンと別の洞窟にいた。

 

「ここが人間たちが住みついた場所さ」

 

「不思議だな。長い年月が経っていると聞いているがどれもこれも真新しい状態ではないか」

 

洞窟の中は昨日まで誰かが住んでいたような雰囲気を感じさせる椅子やテーブル、

キッチンや棚、ベッドに数多のランプが洞窟の至るところに設けられている。仕舞には―――。

 

「何故こんな所に人間たちの武器がある?」

 

黒と金のオッドアイの視界に映る武器が真新しい状態で並んでいた。

銃、剣、槍、盾、鎧、大砲、戦車・・・・・、そして戦闘機や潜水艦、

しかも金銀財宝まであった。

 

「あの人間たちもわらわが集めたゴミに大層驚いておったがなにをしたのか分からないが使えないゴミを使えるようにしたのじゃ。

それからここに来ては色んな物を置くようになった。最近は来ておらんがの」

 

ドラゴンが顔を愉快そうにクロウ・クルワッハに近づけながらそう言うと、

机の上に写真立てのようなものが置いてあったことに気付いた。

 

「・・・・・なるほど、兵藤一誠はこの者たちの・・・・・」

 

若い時の写真か、男と女が映っていた。それから本棚を一つ一つ開いては読んで

調べていると一冊だけ日記帳みたいな二つの本を見つけた。最初に青い日記帳を開いた。

 

 

○月☓日 一香と共にハルケギニアという国にやってきて今年で数年目。

今日は休暇だからハルケギニアの皆が恐れているエルフを会うついでに

この島にやってきた。海に潜って冒険をしてみれば穴があって奥はどうなっているのか

当然気にならない俺たちではない。

深奥まで潜ってみればなんと海母と呼ばれているドラゴンと出会った。

 

 

「海母―――、お前はそう言う名前だったのか」

 

「そう言えば名乗っておらんかったの。それで何か分かったかえ?」

 

「ああ、ハルケギニアという国もあるそうだな。そこでこの二人の人間が暮らしていたのか」

 

今度は回日記帳のページをめくると、

 

 

▽月♪日 誠と家から飛び出して色々な国に行って様々な神話体系の神と出会っては誠が

喧嘩っ早い神と殴り合い。たまに私に欲情して襲いかかってくる男の神に対しては、

その神が許しを乞うても目が笑っていない笑みを浮かべたまま攻撃をする。

うふふ、私って誠に心底愛されているわね。

でも大丈夫、私も誠に言い寄る女、女神を近づけさせないわよ。

近づいたら―――式森の禁断の魔法のオンパレードだから♪

 

 

「・・・・・この時から色んな神と出会ってきたのか」

 

これを元の場所に戻した方がよいだろうと思うが、この先に必ず必要なものになるはずだと

二つの分厚い日記帳を亜空間に仕舞った。

 

「海母よ。お前が言うこのゴミをいくつか持って行っていいか?」

 

「構わぬよ。わらわはゴミを守っているわけではないからの。それにあの坊やと関係があるのじゃろ?」

 

「子供だよ。多分だがこの兵藤誠と兵藤一香のな」

 

海母は目を丸くしたと思えば「久しく会っていない人間たちの子供と出会うとは、

長生きをするもんじゃの」と微笑ましく言った。クロウ・クルワッハは

これから必要になる物だけを亜空間に仕舞う物を物色し始めた。

 

「この様々な武具はただの武具ではないな。神聖な力、禍々しい力を感じる」

 

ふと、ある物に目を止めさせた。クロウ・クルワッハは信じがたいと目を丸くした。

 

「こんな物までここにあるとは・・・・・」

 

クロウ・クルワッハは一つの剣と槍を手にした。槍は穂が五本にも分かれている。

その槍を見て脳裏にある光景が浮かび思い出す。

 

「太陽神が持っていた槍と同じだ。これはレプリカか?」

 

一方、もう一つの剣も見た。鞘に入った状態だが、剣の柄を掴んで抜き取ると刀身が

見えないが、よく目を凝らすと、魔力によって構築された刀身を視認することができた。

 

「―――フラガラッハ。よもやこんな剣まで・・・・・」

 

「お前さんにとって因縁のある武器かえ?」

 

海母が声を掛けてきた。クロウ・クルワッハは剣を見詰めたまま頷いた。

 

「かつて私が暗黒龍として戦っていた時に元主を倒した一人の英雄が持っていた武器だ」

 

「ふぇふぇふぇ、それはまた因果を感じてしょうがないさね」

 

「ああ、アレから随分と時が経っているはずなんだが、

どうやってこの武器を手に入れたのか聞きたいぐらいだ」

 

「なら、会って聞けばいい。まだ生きているはずだろうて」

 

「・・・・・そうだな。そうしよう」

 

鞘に収め亜空間に仕舞いこむ。それから「これもか」とクロウ・クルワッハを驚嘆させる物も

ありそれも仕舞う。

 

「兵藤誠、兵藤一香。そして兵藤一誠・・・・・お前たちは一体世界にとってどんな

存在だというのだろうな」

 

同時刻。アルトルージュたちがいる洞窟では、呻き声を上げる一誠が重たげに目蓋を開けた。

 

「・・・・・ここ、どこ・・・・・?」

 

「あっ、一誠くんが起きました!」

 

ルーラが歓喜の声と共に面々へ知らせたことで一斉に集まり出す。

 

「一誠、大丈夫?」

 

「・・・・・身体がダルい」

 

「暴走気味で暴れていたから当然だろう」

 

「ここってどこなの・・・・・?牢屋?でも、海の匂いがするね」

 

「ここは海の中にある洞窟です」

 

何で自分と他の皆がこんな場所にいるのかと思うが、自分に声を掛けてくる

聞き覚えのない女の声が聞こえた。声がした方へ振り向けば自分を

見降ろす女性が近づいてきていた。

 

「気が付いたか、兵藤一誠」

 

「・・・・・えと、誰?」

 

一誠にとって初めて会う黒いコートを身に包む黒と金が入り乱れた長髪に黒と金のオッドアイの女性。

クロウ・クルワッハは名乗り上げた。

 

「ネメシスとアジ・ダハーカと同じ邪龍、『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハだ」

 

「邪龍!?」

 

その単語を聞いた途端に目を輝かせた。物凄く嬉しそうな顔をするなと思っていると

一誠の手の甲に宝玉が浮かんだ。

 

『こいつは色んなドラゴンと出会いたがっていてな。邪龍すら会いたいと言う

変わり者で物好きなドラゴンだ』

 

「そうか。私もグレートレッドとオーフィスの力を唯一有しているドラゴンを会いたかった。

兵藤一誠、お前を連れて帰るようにオーフィスから頼まれている」

 

「オーフィスと会ったの?じゃあ、リーラさんも会ったんだね」

 

「ああ、そうだが少々それが遅れそうになるな」

 

「どうして?」

 

「私たちはどうやら異国にやってきたのだからな。お前が寝ている間に」

 

「え?」と信じられないと漏らす。だが、今いる場所は吸血鬼の世界ではないことだけは分かる。

だが、ヨーロッパのどこか、海の近くの洞窟に隠れているんじゃないかと思う一誠に

問いかけの言葉が投げられた。

 

「兵藤一誠、お前はハルケギニアという国の名前を知っているか?」

 

「ハルケギニア?ううん、知らない」

 

「お前の両親、兵藤誠と兵藤一香がその異国で数年間住んでいた国らしい。これに書いてあった」

 

亜空間から分厚い日記帳を取り出して一誠の前に渡した。洞窟の壁が淡い光に包まれているのは、

発光性のコケが生えているおかげでぼんやりとだが日記帳の文字が見える。

しばらく日記帳を読んでいた一誠は漏らした。

 

「・・・・・お父さんと母さん、ここに来たことがあるんだ」

 

「不思議な縁だと思うぞ。これは偶然と片付けるには軽くないはずだ。お前の家族は一体何者だ?」

 

「そう言われても分からないよ・・・・・」

 

今どこで何をしているのか分からない自分の家族。何者だと言われても言えることは

自分の家族としか言えない。

 

「ところで、ここはどこなの?」

 

「海母というドラゴンが棲んでいる巣だ」

 

「ドラゴン?」

 

また目を輝かす一誠。本当にドラゴンと出会いたがっているのだなと理解した。

 

「ねね、クロウ・クルワッハ」

 

「なんだ?」

 

「僕の家族になってくれない?」

 

純粋な眼差しを向けてくる一誠をクロウ・クルワッハは逆に見つめ返す。

 

「家族とは?」

 

「友達だよ」

 

「友達か。オーフィスもお前の中に宿っているドラゴンたちも皆友達なのか?」

 

「うん、友達だよ。大切な家族」

 

嬉しそうに笑む一誠。同じドラゴン同士何か通じるものがあるのか、

それともそうすることで何か得られるのか、

一誠は何を考えて邪龍すら会いたがるかクロウ・クルワッハは分からない。

ただし、クロウ・クルワッハは思った。

 

「(このドラゴンを見ていけばドラゴンが行き着く先を見れるかもしれないな)」

 

同時にオーフィスから聞いたグレートレッドとオーフィスの力を唯一有する今まで

見聞したことがないドラゴン。同じドラゴンとして気にならない訳がない。

興味や好奇心が湧き、一誠に問うた。

 

「お前について行けば、私に何が得られる?」

 

「え、うーん・・・・・色んな人に出会える?」

 

「例えば?」

 

「僕は強くなりたいからさ。父さんと母さんが色んな人にお願いして僕を強くして貰っているんだ。

次はどんな人のところで強くなるか分からないけど、

きっとオー爺ちゃんや海の神さま、空の神さまとか帝釈天のおじさん、

孫悟空ってお猿のお爺ちゃんのところに行くかもしれない」

 

ドラゴンとはいえまだ子供な一誠。子供の戯言であると初めて

一誠と出会ったものが思うかもしれない言葉を―――。

 

「分かった。私も一緒について行こう」

 

『『『『返事早っっっ!』』』』

 

目を輝かしたクロウ・クルワッハにネメシスたちが揃ってツッコミを入れるほど

一誠と共に行くことを決めた最強の邪龍であった。一誠から発せられる

名前はどれもこれも有名で強い者たち。その者たちの手ほどきを受けれるのであれば

必ず強くなれる。人間界と冥界を見聞しながら修行しているクロウ・クルワッハにとっても

悪くない話しどころか寧ろその逆、最高に良い話しである。

 

「嘘ではないな?」

 

「嘘じゃないよ。魔王のおじさんとか神王のおじさんとか会ったことがあるんだもん」

 

「そうか、ふふっ。これからが楽しくなりそうだ」

 

口元を笑ますクロウ・クルワッハ。

 

『・・・・・クロウ・クルワッハまで傍に置かすとは』

 

『俺が言うのもなんだが、邪龍を魅了させる何かが持っているのか?』

 

『・・・・・ドラゴンキラー』

 

『メリア、それはドラゴンを殺す言葉だぞ・・・・・いや、ある意味そうなのか?』

 

新たな仲間、最強の邪龍『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハが加わった瞬間だった。



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エピソード35

「見事だ兵藤一誠」

 

「えへへ、そうかな」

 

「まさか、海を凍らせて進む方法なんて常識に捉えている者じゃ絶対に考えられない移動手段よ」

 

アルトルージュの言葉通り、海水を凍らせて人が通れるほどの穴を開け続け外に出ようと

言う一誠の考えに最初は誰もそんなことできるものか?と疑問を抱いたほどだ。

しかし、一誠はそれをやってのけている。透明度が高い氷のトンネルを魔力で

具現化しつつ海上へ出ようとしていく。海母と別れを告げ外へ出る一行についていく

ルクシャナから質問の言葉が投げられた。

 

「ねぇ、あなたたちはこれからどうするの?」

 

「家に帰るんだよ。アルトルージュたちは?」

 

太陽の日から守るため全身をすっぽり覆う白いローブを身に包むアルトルージュ、

リィゾ、フィナに問うた。

 

「帰るべき場所も家も無くなったからね。迷惑じゃなかったら一誠について行くわよ」

 

「ヴァレリーも?」

 

「私も世界を見てみたいの。だから一緒に行かせて?」

 

ヴァレリーも一誠について行くと願う。一誠は断る理由もない為、了承した。

そして、氷のトンネルはついに海上へと到達して海面を氷の大地に変えて一誠たちが現れた。

 

「出れたー!」

 

「本当に海が広がっているのね」

 

「後ろに水面から出ている岩が見えますね」

 

一誠たちを囲む大海原。ここから空で移動しようと一誠は金色のドラゴンに姿を変えた。

 

「わ、ドラゴンになった!」

 

『僕はドラゴンだからねー。ほら、乗って。キミの家に送るからさ』

 

「あら、そのまま私も蛮人の世界に連れて行って欲しいわ」

 

『ダーメ』

 

「ケチ」

 

ケチなの?と疑問を抱くものの、次々と空を飛べないルーラたちを背に乗せて青い空へと翼を羽ばたく。

 

 

 

 

一人の耳の長い若い男性は溜息を吐いていた。脳裏に浮かぶ少女がまたどこかへ

行って姿を暗ましていた。何度もお願いされ持って来てやった本と杖と共に無くなっているから

どこかで視線を感じない場所、誰にも見られない場所に行っているのだろう。

それに何度もいなくなることがあるからその内にまた戻ってくるだろうと慣れた

感じで思っていた矢先、

 

「おじさまー!」

 

ほら、聞き慣れた声が自分を呼んでいる。声がする方へ振り向くと・・・・・。

 

「・・・・・なに?」

 

金色のドラゴンが自分の目の前に舞い降りた。その背から顔を出す少女こそが

男性の頭の中で浮かんでいた少女であった。しかも、他にも誰かが一緒に乗っている。

敵ではないのだろうが男性は聞きださなければならない。同族が目を丸くして

唖然としている最中に自ら降りて来たドラゴンから降りた少女に開口一番。

 

「ルクシャナ、この者たちは誰だ」

 

「おじさま、蛮人の世界に行っていいかしら!」

 

話が噛み合わない。おじさまと呼ばれた男性はドラゴンの方へ視線を変える。

ドラゴンから降りてこない面々は警戒をしているのか分からないが

今はそうしている方が正しい選択かもしれない。最悪の想定に備えているだろう。

 

「私の質問に応えてくれたらキミの質問に答えよう。彼らは誰なんだ?」

 

「蛮人がやっている使い魔を召喚する召喚魔法をやったら蛮人たちがやってきたの」

 

「成功したと言うのか?」

 

「召喚したんだけど、あの人たち家に帰るって言うから私も蛮人の世界に行ってみたいわ。

ね、いいでしょ?」

 

ルクシャナが頼みこむ理由はそう言うことかと納得し、

男性はドラゴンに近づくとドラゴンがいきなりお辞儀をした。

 

『こんにちは』

 

「・・・・・喋れるのか。韻竜なのだな」

 

『いんりゅう?なにそれ?』

 

「お前みたいな喋るドラゴンのことだ」

 

『へー、そうなんだ』

 

子供か?確かに大きさは自分より高いが純粋な眼差しが向けられる。

男性は背に乗っている者たちに告げた。

 

「ドラゴンの背に乗っている者たち。悪いが早々にここから立ち去ってはくれないだろうか」

 

「えー!?」

 

背後から不満の声が聞こえてきたが尻目すらせず、真っ直ぐ前へ向けて述べる。

 

「私の姪を送り届けてくれたことに関しては感謝をするが、

この国はキミたちのような余所者を歓迎できないのだ。申し訳ない」

 

「別に気にしていないわ。どこの国でもそうでしょうし」

 

白いフードを被っている少女が気にしていない風に赤い双眸を男性に向ける。

ただの蛮人ではないなと思うが敵意を感じさせないからには

こちらも刺激を与える言動をしない。

 

「すまないな」

 

「いいわよ。私たちも彼女に助けられたからね。それじゃ行きましょうか」

 

『分かった。それじゃね』

 

「ちょっ!待て私も連れて行きなさーい!」

 

どこかへ行こうとするドラゴンの首に飛び出してしがみついた。

 

『え、ちょっ、離れてよっ』

 

「一日ぐらいでいいから私も蛮人の世界に生きたいわよっ」

 

『ダメだって!離れてよー!』

 

「いーやーよー!」

 

首にしがみ付くルクシャナをどうにかしてと男性に視線で訴える。

男性もこれ以上迷惑と騒ぎを起こしたくないが為、ルクシャナを首から剥がそうとする。

 

「何の騒ぎだ!」

 

ところが、わらわらと大勢の耳が長いヒトたちが騒ぎを嗅ぎつけてきた。

ドラゴンとドラゴンの背に乗っている者たちを見て同族ではないことが悟ると。

 

「侵入者か!捕まえろ!」

 

『え”』

 

何故か勘違いされてしまった。どうすればいいのかわからないまま、

床から手が伸び、四肢を掴まれた。その手が増えドラゴンの背中に乗っている者たちの

身体にまで絡め取る。

 

『う、動けないぃっ!』

 

「韻竜だと?」

 

ドラゴンが喋る=韻竜という認識なのだろう。叔父さまと呼ばれている男性がその男に弁解した。

 

「そうだ。彼女たちは私の姪を送り届けただけだ。決して敵ではない。

これから直ぐにでもここから立ち去ってくれるところだったのだ。だからあの拘束を解いてくれ」

 

「しかしですなビダーシャル殿。一度捉えた者たちを直ぐに解放などでは我々を舐められまする。

しかも相手は蛮人。この首都にどんな理由があっても一度この地を踏み入れたからには

それなりの―――」

 

話が平行線で続く様子をドラゴンの背に乗っている者たちは強硬手段を取った。

 

「一誠」

 

『ん?』

 

「逃げる準備だけはしていてね」

 

赤い双眸の少女がそう言った瞬間、自身の身体を蝙蝠に変えて拘束から逃れた敵に襲いかかる。

 

「な、なんだ!?」

 

「侵入者が暴れ出したぞぉー!」

 

たちまち騒ぎとなり、混乱が起きる。その混乱に乗じて他の者たちも拘束を強引に解き、

 

「眠って貰う」

 

次々と敵の意識を狩る。ドラゴンの身体に拘束する手も巨大な白い獣が

噛み千切りドラゴンを自由にしたところで。

 

「美少年飛び降りろ!」

 

『え?いいの?』

 

「早く!」

 

急かされたドラゴンは翼を羽ばたかせて空を飛んだ。

その際、敵と戦っていた者たちも飛び乗って無事に脱出した。

 

「・・・・・しまった。ルクシャナがしがみついていたままだった」

 

ビダーシャルは失念したとばかり、引き取る為に後を追いかける準備をする。

 

 

 

『結局、キミまで連れて逃げちゃったね』

 

「お前のせいで私たちは面倒な目に巻き込まれたがな」

 

「反省はしているけど後悔はしていないわ」

 

「血を吸い尽くして良いかしら・・・・・っ」

 

青い空の下で飛行する金色のドラゴン。国から追われる身となってしまった以上、

もう長居はできなくなった。目的であるあの場所へ帰ることを専念するが

招かざる客まで連れていく羽目になってしまった。

 

『下はどう見ても砂漠だけど、ここってどこなんだろうね。地図があったらいいんだけど』

 

「それ以前にこのエルフをどうする?あの国に置いていくにしても厳重な警戒が敷かれているはずだ」

 

「だから、私も蛮人の世界に連れて行ってってば」

 

「そこまで生きたいなら一人で行けばいいじゃない」

 

呆れるフードをから覗ける赤い双眸の少女の話にこう返したルクシャナ。

 

「私だってできたらそうしたいわよ。だけど勝手に蛮人の世界には行けれないし今しかない、

これしかないって思ったら私は行動をするのよね」

 

「後で自分はどうなってしまうのか考えないのですか?」

 

「そんなこと一度も考えないわよ。私、思い込んだら一直線で後のことなんて考えない方だから」

 

「前向きと言うよりは」

 

「何も考えない危なっかしいエルフだということか」

 

「何よー失礼しちゃうわねー」と頬を膨らますルクシャナ。

 

『ところで、ルクシャナが言う蛮人の世界がある場所ってこっちでいの?』

 

金色のドラゴンからの質問に「間違いない」とルクシャナは言い切った。

 

「叔父さまが言うことが正しければこの方角で進めばガリアって国につくはずよ。

その国だったらあなたたちが求めている物だって手に入るはず」

 

「そうか。未開の地に迷い込んだ私たちにとってありがたい情報だ。知っていることが

あれば教えて欲しい、兵藤一誠の家族のもとへ連れて帰るのが私の役目だからな」

 

『無事に帰れたらルーラから色々と教えて貰わなくちゃね』

 

「いっぱい教えてあげますよ一誠くん」

 

金色の鱗に手をつけながらそう言う彼女の目にある物が映り込んだ。

 

「ルクシャナさん。あの目の前に浮いている船はなんですか?」

 

ルーラの言葉を聞いた途端、焦心に駆られた様子で上半身だけ乗り出しては叫んだ。

 

「―――やばい、あれは哨戒艦よ!」

 

「もしかしなくても、私たちの敵ですか?」

 

「味方だったらとても心強いわね」

 

『じゃ、逃げるね』

 

グンと目の前の敵戦艦より上昇してそのまま飛行する。

そしてあっという間にすれ違って問題なく哨戒艦を通り越した。

 

「意外と呆気ないわね・・・・・と思ったらなんか船からドラゴンが出てきたわよ?」

 

『攻撃してきたらこっちも攻撃するだけだよ』

 

ガリアの国へと目指す一誠。背後から迫るドラゴンとドラゴンに乗っている

ルクシャナと同じ同族を無視して飛んでいると空気の渦が一誠の横を過ぎ去った。

 

『あぶなっ!』

 

「攻撃をするとしようか?」

 

クロウ・クルワッハは戦意を醸し出すが一誠は首を横に振った。

 

『僕たちの代わりに戦って貰うよ。だから―――お願いね』

 

意味深な一誠の言葉に呼応して三つの巨大な魔方陣が出現したと思えば、

その魔方陣から三匹のドラゴンが姿を現す。

 

『分かった。主は先に行ってくれ』

 

『直ぐに倒して追いつく』

 

『何の心配もしないで飛んでいろ』

 

三匹は踵返して迫りくる数多の敵に向かって―――蹂躙を始めた。

 

「あ、アレが一誠くんの中にいるドラゴン・・・・・」

 

「ネメシスとアジ・ダハーカ、久し振りに見たな」

 

「私たち、味方で良かったと思ったわ」

 

背後から悲鳴と轟音が聞こえてくるものの一誠は家族の言葉を真摯に受け真っ直ぐ飛んで行くのだった。

 

―――○●○―――

 

時間を掛け、一行は砂漠を越えたところで人が住んでいると思しき場所が見えてきた。

人目がある場所では降りることができない為、

人気のない場所で降りて堂々とガリアの王都リュティスに不法入国した。

 

「ここがガリアって国なんだねー」

 

「兵藤誠と兵藤一香がいたハルケギニアという全体の国の一部らしいが」

 

「その分厚い本にこの国のことが記されているの?」

 

「ああ、大まかなことだけ書かれているが・・・・・主にトリステインで過ごした

ことが多く書かれている」

 

分厚い本を開き何か手掛かりを探すクロウ・クルワッハの口からある場所を捉えて発せられた。

 

「それにあの巨大な白い塔のことも書かれている」

 

「あの塔ねぇ・・・・・」

 

無機質な白い塔は百メートル以上があった。

それがなんなのか、質問されたクロウ・クルワッハは答えた。

 

「どうやらあの塔は他の国にも存在するらしいな。ここガリアの他、トリステイン、

ゲルマニア、アルビオン、ロマリア連合皇国にも存在する。トリステインの塔は既に

兵藤誠と兵藤一香が四人の仲間と共に攻略済みで、塔の中に入ると攻略するまで二度と

外界には出られない。さらに塔の中は摩訶不思議な、ゲームで言えばステージが

攻略してくる者を待ち構えて牙を剥く。とそんな風に書かれている」

 

「他の国の塔に入らなかったのは?」

 

「その国の王が塔の攻略を許可しない限り入れないことも書かれているぞ。この日記は数十年前に記されたものだからまだ誰一人も攻略していないのだろう」

 

「一誠くんのご両親って・・・・・一体ここで何をしていたんでしょうか」

 

「・・・・・一言でいえば私みたいなことをしていたのだろうな」

 

クロウ・クルワッハが意味深なことを言いだす。

 

「と言うと?」

 

「色んな世界に赴きそこで見聞しつつ修行・・・・・そんなところだろう」

 

「クロウ・クルワッハは修行して強くなってそれからどうしたかったの?どうしたいの?」

 

一誠からの質問を青い空を見え上げて「そうだな」と漏らした。

 

「人間に退治されるドラゴンが行き着く先、それが滅びなのかそれとも共存、

はたまた違う道がるのかもしれないと思いながらただひたすらに強くなりたい

かもしれないな愚直なまでに。私は戦いと死を司る暗黒龍が故に

私は強くなって戦いを楽しみたい―――今はそんなところだろう」

 

「そうなんだ」

 

短い歩幅で前に歩く一誠が相槌する。クロウ・クルワッハの理由を聞いてドラゴンは

不思議だなと思ったが、

 

「兵藤一誠は強くなって何がしたい、どうしたい?」

 

同じ質問をされ、一誠は答えた。

 

「僕をイジメた皆に見返す。今はただそれだけだよ」

 

「ほう、ドラゴンにか?」

 

「違う、相手は人間だよ。僕、ドラゴンになる前は人間だったんだから」

 

『え?』

 

一誠のことをあまり知らない面々にとって初めて聞いた新事実。

 

「一誠くん、人間だったってどういうことです?」

 

「グレートレッドの身体とオーフィスの力で甦ったって言ってなかった?

僕、一度死んじゃっているんだよ」

 

「転生、したわけじゃないのね?」

 

転生という言葉を知らない一誠は怪訝に首を傾げる。

 

「転生?ううん、僕は兄ちゃんに包丁を刺されて死んじゃったんだよ」

 

『っ・・・・・』

 

「公園で倒れていたらオーフィスが来てグレートレッドと一緒に僕を助けたって聞いたよ」

 

一誠に兄がいることすら初めて聞き、しかもその兄に殺された。そんな過去があるとは

誰一人知らなかった事実。顔を曇らせ悲しい面持ちでヴァレリーは一誠に尋ねた。

 

「・・・・・一誠、お兄さんのこと、今どう思っている?」

 

「あの時は弱いってだけで僕を認めてくれなかったから正直寂しかったかな。

今は・・・・・わかんない」

 

「そう・・・・・」

 

「でも、僕は他にも家族や友達がいるからもう弟と認めてくれなくても良いけどね」

 

心の底からそう言っているのだと純粋な目が一緒に歩く面々に向けられる。

その後、人から情報を得て地図をある店からクロウ・クルワッハが竜の巣から

持ってきた金銀財宝で購入した。

 

「クロウ・クルワッハがお金を持っていたなんて驚いちゃった」

 

「これはお前の家族が溜めこんでいた金だがな」

 

「え、どこにあったの?」

 

「竜の巣にあった。別の洞窟でお前の家族の日記と同じ場所で見つけた。他にも様々な

人間の武器もあったが」

 

「嘘!?そんな場所があるなら教えて欲しかったわ!」

 

ルクシャナが頬を膨らませクロウ・クルワッハに「何で教えてくれなかったのよ」視線で訴えたが、

一蹴された。

 

「聞かれなかったからな。さて、そろそろ本題に入るとしようか」

 

どこかの建物の壁に魔力で購入した地図を広げ、ガリア王国の場所に指を差した。

 

「ここが今私たちがいる国だ」

 

「って、私たちがいるこの国とルーマニア、地図だけで見れば逆方向にあるじゃない」

 

「しかもハルケギニアってフランスの国に存在しているんだねー」

 

「それに私と一誠くんがいたイタリアと目と鼻の先です」

 

「なんだ、意外と早く美少年と少女が帰れるじゃないか」

 

「もっと遠い場所かと思ったがな」

 

帰る方角も分かった。なら今すぐにでも戻れば一誠とルーラは施設に帰ることができる。

が、そう問屋は卸さないのが現実なのだ。

 

「や、やっぱりだ・・・・・っ」

 

一誠たちに向けられる震えた声。

 

「た、大変だ!エルフがいるぞぉー!」

 

一人のガリア王国の民が周りに警告を発した。その言葉が呼応し、波紋が周囲に広がった。

 

「あ、しまった」

 

「ルクシャナ?」

 

額に手で当てて「あちゃー」と失念した様子を窺わせるルクシャナ。

 

「言い忘れていたことがあったわ。私たちエルフは蛮人と凄く仲が悪い上に蛮人が

エルフを凄く怖がっているのよね」

 

「・・・・・というと」

 

「うん、この国にこれ以上いるとかえって面倒なことになるわ。実際にホラ」

 

ルクシャナが指した方向へ顔を向けた面々の視界には、顔を強張らせ青ざめ、

恐怖で身体を震わし怯えている人たちがいた。

 

「ねっ」

 

「やれやれ、落ち着く暇もないと言うことか」

 

「あなたたちは強いでしょうから問題ないんじゃない?」

 

「それはそうだが、こうも注目を浴びるとお前の言う通り面倒なことになる」

 

実際に王都の警備隊らしき数名の人が一誠たちに駆け寄ってきている。

 

「さて、どうしたものか兵藤一誠」

 

「え、僕?」

 

「お前は私たちの中心みたいなものだ。だからお前が決めてみろ」

 

急にそう言われてもどうしようかと悩む。だが、とある龍の名前と同じ国に

行ってみたいと言う気持ちが湧きあがった。

 

「アルビオンって言う国に行ってから帰りたいな」

 

「え、一誠くん?」

 

「ごめん、ルーラ。もうちょっとだけ付き合ってくれない?」

 

一誠にそう言われてルーラはしばし無言になるが・・・・・息を一つ零した。

 

「しょうがないですね。いいですよ、私は一誠くんと一緒について行きます」

 

「ありがとう。それじゃ、行こうか」

 

アルトルージュたちも特に反対をしなかった。クロウ・クルワッハの言う通り、

一誠は自分たちの中心みたいな存在。ならば、ただついていくのみ。

龍化した一誠の背に跨り、また青い空へと飛びだった。

 

 

 

「なに、エルフがいたと?」

 

ガリア王国の宮殿ヴェルサルテイルにいる王への報告を兵士がしていた。

ハルケギニアにとってエルフは畏怖の念を本能的にも感じる存在。ハルケギニアの歴史の紐を解けば

エルフとハルケギニアの人間たちは約六千年も間、二つの種族は戦争をしていた。

その理由は何時か語られるであろう。

 

「はっ!ですがもうご安心を、エルフは尻尾巻いて逃げだしましたので」

 

「ならば報告は良い、下がれ。こちらは客人と大事な話をしているのだからな」

 

エルフが自国にいたという大事件なことより、客人との会話が重要であると述べた

青い髪と瞳の二十代後半の男性が兵を下がらせた。

 

「―――申し訳ない。久方ぶりに会えた貴殿らの会話に水を差してしまったね」

 

もう一人の青い髪と瞳の同じ年頃の男性が軽く謝罪を目の前にいる一組の男女に述べた。

 

「いいって、俺たちは気にしていない」

 

「そうか。それで、件の話の続きだが・・・・・本当にそんなことが現実になるのか?」

 

「この件の計画は既に実行されているの」

 

「もしも完成したら世界から注目されることは間違い無しだな」

 

と、楽しみだと口許を笑ます男性と女性。

 

「そうね。そしたら私たちの息子も楽しめるでしょうね」

 

「お前たちの息子は今どうしている?誠、一香よ」

 

その話を、質問をされて苦笑を浮かべた。誠は頭を掻き、一香は溜息を吐いた。

 

「あー、何でだか知らないが・・・・・吸血鬼に攫われているみたいなんだ」

 

「なんだと?大丈夫か?」

 

「ええ、何だか・・・・大丈夫そうね」

 

「・・・・・?どういうことだ?」

 

一香の言葉に疑問符が浮かぶ。

 

「感じたもの。あの子の魔力を。さっきエルフが現れたって言ったでしょ?

多分そのエルフと一緒にいるかもね」

 

「・・・・・今すぐ追いかけていけば会えるのではないか?」

 

「そうね、久しぶりに会おうかしら。この場で」

 

パチン、と指を弾いた瞬間にこの場に魔方陣が発現して―――。

 

『うわっ!?』

 

驚きの声と共に魔方陣から金色のドラゴンと大勢のヒトたちが出てきた。

冷たい床に不時着して呻くドラゴンに一香は声を掛けた。

 

「あら、なんかお友達もいるのね一誠」

 

『え、あっ、お母さんとお父さん!?』

 

「よー一誠。久しぶりだな。どうしてドラゴンの姿なんだ?」

 

『アルビオンって言う国に行こうかなって』

 

「あの国にか。なんでまた?」

 

『アルビオンだから』

 

まるで、そこに山があるからみたいな台詞だった。二人は金色のドラゴンに近づく。

 

「一誠、元の姿に戻りなさい」

 

『はーい』

 

ドラゴンが一瞬の閃光を発すると真紅の神に金色の双眸の子供が姿を現した途端に、

 

「「・・・・・」」

 

誠と一香に凝視される。

 

「えっと・・・・・どうしたの?」

 

「あなた、どう?」

 

「ドラゴンの血もとい兵藤家の血が・・・・・かなり少ない。

どうなっている?そのおかげで―――一香」

 

「ええ、解けたと思っていた封印はギリギリ保っていたようね。さて―――あなたたち」

 

『うっ・・・・・!』

 

「「色々と詳しく・・・・・聞かせてくれるかな?」」

 

闘気と魔力が激しく迸り、目が笑っていない笑みをアルトルージュたちに向けた。

 

「一誠を攫った吸血鬼って・・・・・あなたたちみたいだし?」

 

「俺たちの息子の血を随分と吸ったのだろう?ははは、なに、別に怒ってはいないぞ?ただなぁー」

 

「ええ・・・・・」

 

「「この落とし前をどう付けようかってことが重要だし覚悟はいい?」」

 

何時の間にか自分たちの方を掴んでいた誠と一香に反応できず、

心臓を直接鷲掴みされた気分だったと後に語ったアルトルージュ、リィゾ、フィナだった。

 

―――しばらくして―――

 

「怖い・・・・・怖い・・・・・怖い・・・・・怖い」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「・・・・・」

 

「だ、大丈夫ですか・・・・・?」

 

吸血鬼三人組が壊れたように身体を隅っこで身を寄せって震えていた。

 

「取り敢えず吸われたことは吸われたらしいな」

 

「まったく、吸血鬼ってろくでもない種族ね。しかもマリウス・ツェペシュ。

人の息子をなんだと思っているのよ。

太陽の光に直接当てさせるために強制転移でもしてやりましょうか」

 

「一誠、吸血鬼はどんな生き物なのかこれで分かっただろう。次は気をつけなさい」

 

「う、うん・・・・・分かった」

 

コクコクと何度も頷く一誠をルーラは思った。その顔は恐怖の色で染まり切っていて、

逆らったら自分もああなると本能で悟っているのだと。

 

「(一誠くん・・・・・色々と苦労しているんだね)」



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エピソード36

「一誠、どうしてあなたがここにいるの?」

 

「うーんと、僕じゃ分からないからクロウ・クルワッハたちに聞いてよ」

 

「クロウ・クルワッハって邪龍の?」

 

「私だ」

 

名乗り上げるクロウ・クルワッハは今までの出来事を誠と一香の質問を簡潔に告げた。

 

「この国の召喚魔法でこの国に来るなんて、なんて偶然なのかしら」

 

「その場所は竜の巣。お前たち二人の隠れ家であることは既に明白だ」

 

「おいおい。あの場所に召喚されたってのか。・・・・・まさか、何か持ってきたか?」

 

亜空間から例の二つの分厚い日記帳を取り出した瞬間。

 

「ああ、これ―――」

 

「ちょっ、なんて物を持ち出しているのよあなたはーっ!」

 

真っ赤な顔をして赤い日記帳を奪った一香に対して、

懐かしみつつ照れた顔で乾いた笑い声を発する誠。

 

「・・・・・見た?」

 

「この国の手掛かりが書かれているかもしれないと思って見た。

が、まだほんの一部しか見ていない」

 

「くっ・・・・・まさか、これを見つけられるなんて思いもしなかったわ」

 

「これを手にすると懐かしいよなー。ジョゼフとシャルルとの出会いも書いてあるんだよ」

 

誠は二人の若い男性に視線を送る。

一誠はその二人の男性に視界を入れると「知り合い?」と尋ねた。

 

「ああ、まだ父さんと母さんが若かった時からの付き合いだ」

 

「父さんと母さん、まだ若いのに?」

 

「あら、嬉しいことを言ってくれるわねこの子は。

ま、その時は色々と遭ったけど今はこの通り友達なのよね」

 

一香が一誠を抱きしめながら笑みを浮かべる。

 

「誠、ここまで封印が不安定なままでしておくと却って危ないかも」

 

「再封印は?」

 

「できないわけじゃないけど、そうしたら私の力が殆どなくなるわ」

 

「・・・・・そうだな。いっそのこと、ここで解いて一香の力を戻すとしようか」

 

「父さん、母さん?なにを言っているの?」

 

不思議に思った一誠だったが、一香は魔方陣から二つ赤い液体が入った大きな瓶と

筆を取り出した。宙に筆で赤い液体を付着させ、何か儀式の際に媒体として

使う摩訶不思議な円と紋様を描いていた。それを一回だけじゃなく、二回もなぞって。

 

「おい、そこの吸血鬼の少女」

 

「・・・・・私の事?」

 

「はい?」

 

アルトルージュとヴァレリーが反応する。誠はアルトルージュだけ呼んだつもりだが

掛ける言葉を間違えた。だが、今さら言い直すのもなんだしと敢えて肯定と頷き手まねきした。

 

「一誠の血を吸ってくれ。ああ、ちょっとだけな」

 

「「はい?」」

 

何で今そんな事をするの?二人は不思議に首を傾げるが誠の催促に一誠の両腕を突き出した。

 

「え、父さん?どうして二人に吸わせるの?」

 

「んー、必要なことだから」

 

と、言うだけで半ば強引に二人を一誠の血を吸わせた。吸血鬼としての力が増幅するが、

誠はそのことを気にも関せず、一香が描いた赤く煌めく魔方陣へ連れていく。

 

「ちょっとだけ痛くて苦しいだろうが・・・・・その分、お前を強くしてくれるはずだ。

何せ母さんの魔法を使えるようになるからな」

 

「魔法を?でも、僕は魔力が使えるよ?」

 

「それはドラゴンの魔力だろう?お前は一香の、式森家の血も受け継いでいる」

 

「・・・・・それって僕だけじゃないよね」

 

「言いたいことは分かる。だが、どうやら俺の血の方が濃く受け継いでいるようでな。

お前だけなんだ、兵藤家と式森家の血を濃く受け継いだ存在は」

 

どこか嬉しそうに自慢げに漏らす誠は一誠を赤い魔方陣に押し付けた瞬間、魔方陣が一誠を拘束した。

 

「お前に新たな力を、封印を解く。本当ならお前が数々の修行を終えた後にするつもりだったが、

封印が解けそうな状態であるからこの際、封印を解くことに決めた」

 

誠から闘気が、一香から魔力が迸り宙に描かれた魔方陣へ送るとさらに輝きが増した。

すると魔方陣が異変を起こし、意思が持っているかのように一誠が噛まれた傷口へと自ら侵入した。

 

ドクンッ!

 

「あうっ・・・・・!」

 

一誠にも変化が生じ苦痛の表情で漏らした。一誠の親は一体何をしているのか

苦しそうな一誠を見かねてルーラが質問した。

 

「あ、あの・・・・・一誠くんが苦しそうですっ」

 

「最初にも言った。だが、こうしないと一誠は今後もっと辛い思いをする。

辛い思いをするなら先に感じた方がいい」

 

「どうしてこんなことを・・・・・?」

 

「悪いが、これは俺たち親子の問題だ。だがな、こんなことをする理由は一誠の血、

兵藤家の血が大量に吸われた結果、一誠の身に危険が起きているからだ。

親として危険を排除したい」

 

真剣な面持ちでルーラに答える誠。すると、クロウ・クルワッハが日記帳を開いていて

今まで読んでいた様子で―――。

 

「兵藤家と式森家、か」

 

「・・・・・人の日記を読むのはプライバシーの侵害だぜ?

いや、暗黒龍だから人権の云々なんて言っても意味がないか」

 

「悪いな。私も兵藤家と式森家という人間の一族の存在は知っている。

だが、こうも目の前に起きている展開を見るとつい調べたくなった」

 

「だーが、そこにはなんにも書いていないだろう?」

 

不敵に笑む誠に同意と頷いたクロウ・クルワッハ。

 

「ああ、逆に赤裸々なことが書かれているな。

例えば、『一香を気絶させる回数を更新したぞいぇいっ!』とか」

 

「んなっ!?」

 

「『彼女は俺だけのものだ。一香は絶世の美女だからか他の男、

特に神が俺の女を孕まそうとする奴が多くて仕方がない。その度に俺は二度と手を出さないように、

相手が泣き喚こうが俺の気が済むまで殺り続けるがな』」

 

無表情で日記を読み上げるクロウ・クルワッハ。読まれ続けられる誠の顔は次第に赤く染まる。

 

「『二人目の子供が誕生した。次も男だったら三人目は女の子がそろそろ欲しいな。

一香、何度気絶しても俺はお前の中に新しい―――』」

 

「そ、それ以上言うなぁぁああああああああああっ!」

 

咆哮とも言える絶叫がクロウ・クルワッハの言葉を遮って中断させた。

それだけでは終わらず壁や床に罅が生まれていて、その音量は凄まじいと物語っている。

眉間にしわを寄せたクロウ・クルワッハが一言漏らす。

 

「・・・・・うるさい」

 

「うるさい、じゃない!なに人の日記を読んでいるんだ声を出して!」

 

「もう、実際に私はあなたに何度も気絶させられているのだけれど?

有言実行していただなんてあなたったら♪それに私はあなたのしか

感じられない身体になっちゃっているから―――」

 

「一香、一誠の目の前でそれは言わないでくれ」

 

「あら、そうだったわね・・・・・うふふっ」

 

『・・・・・』

 

ルーラ、アルトルージュ、ヴァレリーが顔を真っ赤にした。

クロウ・クルワッハはその手の知識がないのか、

何の事だかさっぱり分からないという風で首を傾げた。そうこうしているうちに、

完全に一誠の体内に入り込む赤い血の魔方陣。全身で息をする一誠もまた辛そうで―――、

 

「今日はお休みなさい」

 

一香が一誠の頭を触れた途端にバタリと床に倒れた。一香は倒れた一誠を抱きかかえると

誠が青い髪の男性に乞うた。

 

「ジョゼフ、悪いけど客室を借りて良いか?」

 

「色々と聞きたいことがあるが、分かった用意しよう」

 

「それとも今日は泊まるかい?」

 

「あら、いいの?それじゃお言葉に甘えるわ」

 

「ああ、そうしてくれ。お前たちの息子がいるのだ、娘たちも会わせたいからな」

 

「既成事実を作ろうとしても簡単にはいかないわよ?この子を狙っている娘は大勢いるんだから」

 

「モテているねぇー」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・しかし良かった。グレートレッドの身体なのか分からないが」

 

「ええ・・・・・相反する二つの力を完全に抑え込んでいる。

相反する力を融合できているなら既に尚更のことなのかしらね」

 

「互いの一族の歴史じゃ危険極まりないことだったらしいが、

これで実証できた。人間の身体じゃ―――」

 

「ヒトを捨て、新たな力を得る。何事にも代償が必要なのね」

 

「今は喜ぼう一香」

 

「・・・・・はい、あなた」

 

その後、一誠は客室の豪華絢爛な天蓋付きのベッドに眠る。

すると客室の扉がゆっくりと開き、ベッドに近づいて眠る一誠を見下ろす

青髪の二人の少女。一人は眼鏡を掛けている少女、もう一人は眼鏡を掛けていないが

眼鏡を掛けると顔が瓜二つな双子の姉妹。

 

「お姉さま、この男の子の寝顔可愛いですね」

 

「・・・・・(コクコク)」

 

一誠の寝ている姿を魅入られている双子はさらに魅入る。

 

「ん~だめだよ~くすぐったいよ~」

 

「「・・・・・っ」」

 

目を瞑ったまま笑っている一誠。夢の中で何者かによってくすぐられているのだろう。

その表情と猫撫での声が双子の気持ちを高ぶらせる。

 

「か、可愛い・・・・・っ」

 

「お父さまのお友達の子供だって言ってた。仲良くしなさいとも言われたから」

 

「じゃあ、仲良くなっちゃいましょう。一緒に寝ましょう」

 

「賛成」

 

二人の少女はもぞもぞと左右から高級羽毛が敷き詰められた上掛け布団と下掛け布団の間に潜り込み、

一誠の傍でヒョコっと顔だけだした。―――が、

 

「残念です。私が先にいました」

 

「ふふ、ごめんなさい?」

 

「「誰っ!?」」

 

さらに一誠を寄り添うように双子が頭を出していた時点で見知らぬ

二人の少女が顔を出していて一誠の隣で寝る目論見が阻まれた。

 

―――○●○―――

 

翌日、一誠たち一行は王宮を後にした。目的地であるアルビオンに向かうかと思えば

聳え立つ巨大な塔の前に立っていた。

 

「さーて、入るか!」

 

「入っていいの?」

 

「許可を貰ったからな。中にあるガリア王国の秘宝を渡してくれれば富の半分は俺たちにくれる話だ」

 

「数十年振りの攻略だわ。ふふっ、一誠と攻略する日が来るなんて思いもしなかった」

 

装飾と匠が凝った扉に触れる誠と一香。二人の顔は活き活きとしていて子供のようだった。

その表情をジッと一誠は見詰めると開け放った扉の向こうから光が一行たちを出迎える。

 

「それじゃ、出発!」

 

誠の発令に一行は扉を潜り塔の中へ侵入する―――。

 

 

『・・・・・』

 

塔の中へ入った一行。自分たちを待ち受けるその光景に誠と一香以外の面々は呆然としていた。

ガリア王国の城下町が一切見当たらない。別の世界に飛び込んでしまったと錯覚せざるを得ない状況下で

周囲を見渡す。

 

「ここ・・・・・どこ?」

 

どこか分からない洞窟に入り込んでいた。進める道は一つしかなく。

 

「考えたってしょうがない。行くぞ」

 

「ポジティブな思考なのね・・・・・」

 

「冒険はドキドキする事が多いからネガティブなんて考えは一度もしたことがないわよ?」

 

「一誠、冒険は、旅は楽しいぞー?」

 

「うん、楽しみ!早く行こう!」

 

『(この親子は・・・・・)』

 

親も親なら子も子だと冒険好きな一家について行くしかない面々。一香の魔法で光を灯し、

洞窟の中を歩き続けること十数分ぐらい経ったことだった。

 

「お、道が三つ・・・・・王道的だなぁ」

 

「お父さん、どっち?」

 

「こう言うのは全部調べてから決めるんだ。一香、久々に頼んだ」

 

「ええ、分かったわ」

 

誠は一香に頼み、一香は呪文のような言葉を口にし続けた。呪文が言い終えると一香が四人に増えた。

 

「お母さんが四人・・・・・?」

 

「一誠も後で教えるわ。この魔法はとっても便利だからね」

 

「分身魔法・・・・・?」

 

誰もが一香の魔法に不思議さと興味が湧きあがっている余所で三人の一香が真ん中の

洞窟を残して左右の洞窟に入り込んでいった。本物の一香は魔方陣を展開して、

三人の分身の視点から映る光景を立体映像に映し出す。

 

「凄い、確かにこれなら安全に調べられるわね。式森家は伊達ではないってことか」

 

「元式森家だけどね?」

 

アルトルージュの話に付け加えた。その後、三人の分身体の視点から移る光景に異変が生じた。

右の洞窟ではゴロゴロと転がる巨大な岩が迫っていて、逃げる分身体の先に巨大な

空間が広がって足場がない。

浮遊魔法で宙を浮かび、周囲に眩い光を発現したところで次の道に進めるような場所がなかった。

 

真ん中の分身体は巨大なワームが道を阻んでいたがその障害を突破し、

先に進んでも右の洞窟と同じ場所に行き着いた。

 

左の洞窟にいる分身体は特に何の異変も無く次のステージらしき扉に辿り着いた。

何の躊躇いなく扉を開けた瞬間―――無数の黒い生え揃えた牙をもつ触手に身体を貫かれては

身体を絡め取られ扉の奥に引きずり込まれ扉が閉まった。

 

「・・・・・左の洞窟、エグい・・・・・」

 

「分身だったから良かったものの・・・・・私、触手に食べられるなんて絶対に嫌だったわ」

 

「だが、右と真ん中の洞窟は同じ場所に行き着くのか。取り敢えず、真ん中の洞窟に行こう」

 

一行は真ん中の洞窟を突き進む。ワームが棲みついていた洞穴を通るものの異変は起きず、

二人の分人体が浮遊している空間に辿り着く。

 

「下が真っ暗です・・・・・」

 

「私も何か手掛かりになるようなものを探しましょうか」

 

身体から無数の蝙蝠を生み出し、散開させる。

 

「・・・・・」

 

ジッと常闇の空間で広がっている下を見続ける一誠。

 

「一誠、何を見ているの?」

 

ヴァレリーが話しかけてくる。ヴァレリーも下へ視線を落とすが何もない。見えない。

 

「上がなにもないなら下かなーって思ったけど、やっぱり見えないね」

 

「しょうがないわ、真っ暗だもの」

 

それから少し時間が経つ。無数の蝙蝠がアルトルージュの元に集まりだした。

 

「どうだった?」

 

「ダメね、入口らしきものなんて見つからない」

 

「いきなり詰みかよ」

 

「この辺ではないとすると・・・・・下なのかしら?」

 

光の球体を下に落とす一香。光はあっという間に常闇の中へと消えて無くなった。

 

「まるで暗雲に吸いこまれた感じだわね」

 

「あの程度の光では灯すこともできないのでは?」

 

クロウ・クルワッハの指摘にもう一度光る球体を今度は多く具現化させてゆっくりと下に落とす。

それでも常闇に包まれて光の役割を果たせないまま消失した。

 

「あそこ、何かあるようね」

 

「魔力がダメなら気でやってみるか」

 

軽く誠が宙へ跳躍したまま手に溜めた気を下に打ちこんだ。

レーザービームの如くの気は常闇に突き進み

何か直撃する轟音が響いた。常闇はその衝撃波で霧のように四散し―――入口を覗かせた。

 

「あそこか!」

 

「あの常闇は魔力を吸収していただなんてね」

 

見る見るうちに常闇は入口を隠そうと充満する。

 

「よし、もう一度する。入口が見えたら皆は一気に向かってくれ」

 

一行の反応を確認せずもう一度、常闇に向かって気のレーザービームを放った。

再び地面と直撃しその衝撃波で常闇は晴れ、入口が見えた瞬間に一香たちは入口へと飛び出した。

その間、常闇は入口を覆うとして迫る。その前に地面に辿り着き常闇が来る前に

入り口の中へ侵入を果たし、常闇が入ってこないように一香が障害物を作っては塞いで先へ進む。

 

「お、扉だ」

 

無機質な扉が一行を出迎えた。一香が分身を生み出して自分たちの代わりに開け放つ。

と―――扉の向こうから光が漏れだし、一行を包みこんだ。

 

『・・・・・』

 

光が消失し、一行が目を開け、目の前に広がる森林と一際目立つ巨大な木が。

自分たちが潜った扉に振り返ると崖しかなく来た道に戻ることはできなかった。

 

「あの大きな木に目指せってことかな?」

 

「多分な」

 

「そろそろモンスターみたいなものが現れてもおかしくないわね」

 

と、一香は述べるとクロウ・クルワッハがあることを聞いた。

 

「以前にも塔を攻略したそうだな?日記に書かれたいたが」

 

「ああ、友達四人と塔に入ってチャレンジしたんだ。今の俺たちほど強くなかったから

シビアだったなー」

 

「でも、何とかクリアできて私たちはトリステインの間じゃ英雄みたいな扱いを受けたわ」

 

「では、トリステインとやらに行けばお前たちのことが分かるんだな?」

 

「ああ、生きたいならばここを攻略しないとな」

 

一行は崖から降りて日差しが降り注ぐ森林の中を歩く。

ここが塔の中とは思えないほど

穏やかで空気が新鮮な場所である。

 

「今時の人間たちがこんなことできるなんて知らなかったわ」

 

「この塔は六千年前に現れた始祖ブリミルが何らかの理由で建造したらしいのよ。

エルフで言うと悪魔って呼び名よね?」

 

「ええ、大体そうね。

というか、この塔は悪魔が作っていただなんて・・・・・何を考えて作ったのかしら」

 

「そうね。何を考えて作ったのか分からないわね」

 

表情を険しく考える仕草をしたが一香の話で直ぐに止めたルクシャナ。

考えたって仕方がないし分かったところで自分がどうこうすることもできるわけでもない。

巨大な木まで歩き続けた一行。ピクニック気分でヴァレリーがなんだか楽しげに微笑み歩く。

 

「んー、何も起きないな」

 

「何も起きない方がいいでしょ?今回ばかりは」

 

「確かにそうかもな。あん時、バッカスとナルシスが大慌てして、

カリンが二人を慰めようとしたが急にテンパったり、

サンドリオンはそんな三人を抑え込もうと苦労の絶えなかったから笑ったよなー(笑)」

 

「懐かしいわねー。笑っている私たちに揃ってツッコンできたわよね」

 

「ああ、そうそうそんなこともあったよな」

 

誠と一香が昔を思い出しながら先へ進む。

 

「一誠くんのお父さんと母さんは明るい人たちですね」

 

「うん、だから好きなんだよねー」

 

「そうですか・・・・・」

 

「ルーラのお父さんとお母さんは?」

 

話の流れ的にそう訊かれてしまいルーラは答え辛そうに、苦笑を浮かべた。

 

「ごめんなさい、私は天涯孤独なんです。私を産んだ家族は教会の前に置いてどこかへ

行ってしまったみたいなのです」

 

「・・・・・じゃあ、家族がいないんだね」

 

寂しげに漏らしたが、一誠は何か閃いたのか急にルーラの手を掴んだ。

 

「じゃ、ルーラも家族にならない?」

 

「え?」

 

「お父さんとお母さんがいないなら家族になろうよ」

 

ニッコリと笑む一誠にルーラは目を張った時、ドドドドッ!と何かが迫ってくる音が聞こえてきた。

 

「やっぱ、何も起きらない方が不自然かな」

 

「この展開だと・・・・・走った方がいいわよね」

 

「そうだな。それじゃ皆、巨大な木に向かって走るぞ!」

 

ダッ!と駆けだす二人を追い掛ける一誠たち。何かが迫ってくるなら

それを対処したらいいじゃないかって思ったが尻目で背後に

視線を向けると・・・・・大量の巨大な虫らしき生物が口を開けて迫って来ていた。

―――確かに逃げた方が賢明であることを悟った。

木々を素通りしながら前へ前へ進む。追いかけてくる虫たちに食われない為、

必死に逃げる一行だったが、

 

「あっ!」

 

「きゃっ!」

 

ルーラとヴァレリーが躓いて転んでしまった。

一誠は二人に近寄って安否するその間にも虫たちが迫っていた。

 

「―――二人を守る!」

 

二人の女の子を守る一誠はあの禁断の鎧を纏う。

 

「ゾラード、力を貸して!禁手(バランス・ブレイカー)!」

 

禍々しい魔力のオーラが一誠を覆い隠し、魔力が鎧へと具現化する。

入り乱れた黒と紫の龍を模した全身鎧。各身体の部分に赤い宝玉があり赤い目で

眼前の虫たちを睨む。

 

「・・・・・僕の家族を傷つける敵は・・・・・許さない」

 

イメージは相手を全て消す。生半可な攻撃では守りたい者を守れない。

手と腕に魔力を纏うと薙ぎ払うように振るった。

 

「消えろぉっ!」

 

『―――っ!?』

 

完全に振られた腕と手から禍々しい魔力のオーラが激浪の如く虫たちに迫った。その際、

地面を激しく抉る。扇状で広がる滅びの魔力が森林を虫を全て削りこの世から消す。

成す術もなく虫たちは回避することもままならず一誠が放った攻撃によって消えて無くなる。

 

「―――凄い」

 

「あの一撃で荒地になったぞ」

 

「滅びの魔力・・・・・なんて力なの・・・・・!」

 

後に残った目の前の光景は抉れた地面だけ。

アレだけいた大量の巨大虫がたったの一撃で全て消えていなくなった。

 

「やっぱ、あの力を具現化した鎧は危険極まりないな」

 

「扱い方を誤れば余計なものまで消しかねない」

 

鎧を解いた一誠に感謝の言葉を送るルーラとヴァレリーを見守る誠と一香。

今後の一誠の課題が増えそうだと思った瞬間でもあった。

 

―――○●○―――

 

巨大な木の麓にある扉の前に辿り着いた。中に侵入すると木の階段が螺旋状に続いて

全員が視線を上に向けると何かがぶら下がっている物が見える。

それは何なのか分からないが、上に進むしか道がないと階段を登っていく。

 

「なんか、甘い匂いがするね」

 

「そう言えば・・・・・」

 

「この匂い、どこかで嗅いだような気がする」

 

上がるにつれ、ほのかな甘い香りがしてきた。その匂いを一誠はあるものだと気付き言った。

 

「あ、ハチミツだ」

 

「ハチミツ?」

 

「うん、絶対にハチミツだよこれ」

 

この中でハチミツなど持ってきていないしあるわけがない。

と、誰もが頭の中で考えたが―――どこからかブンブンと虫の羽のような音が聞こえてくる。

その正体は上空から現れ迫っていた。

 

「なるほど、蜂か」

 

「で、でかい・・・・・でかすぎでしょ・・・・・」

 

本来の蜂の大きさは大雑把で言えば手の平サイズ。

だが、一行の目の前に現れた蜂の大きさは優に数メートルを超えていた。

 

「毒針を突き刺してくるのかな」

 

「いや一誠。こう言う相手は大概―――」

 

蜂は生えている鋭い針を―――突き刺すのではなく連射式で飛ばしてきた。

 

「本来の常識と生態を覆すもんなんだ覚えておけ!」

 

「わかったー!」

 

飛ばしてくる針を躱、無抵抗なルーラとヴァレリーに向かう針を弾いたり防いだりする。

その状態が螺旋階段を登りきるまで続いた。

 

「あー鬱陶しいっ!」

 

誠がシビレを切らし巨大蜂に飛び掛かって殴打した。

 

ドカッ!バキッ!ゴンッ!

 

「す、素手で殴っている・・・・・」

 

「本当に人間なの・・・・・?」

 

巨大蜂を果敢に殴っては蹴る誠に異種族の吸血鬼とエルフからしてみれば異常な光景だろう。

 

「ストラーダ猊下みたい」

 

「あら、やっぱり知っているのね」

 

「はい?」

 

「誠、ストラーダ猊下と戦った過去があるわよ。どっちも常識外れで逸脱した戦いだったわねー」

 

のほほんと魔方陣を展開して飛来してくる巨大な針を防ぐ一香の言葉にルーラは目を張る。

 

「そ、そうなんですか?ど、どっちが勝ったのですか・・・・・?」

 

「誠が勝ったわよ。神器(セイクリッド・ギア)と剣技でね」

 

「そうなんですか!?」

 

敵なしだと思っていたストラーダ猊下が負けていた。

誠が勝っていたとは教会に育てられている身として信じ難かった。

 

「お父さんって神器(セイクリッド・ギア)、持っていたんだ」

 

「そうよー?私も持っているし」

 

「どんなのー?」

 

息子に興味身心で聞かれ、ちょっと自慢げに一香は誠と自分の神器(セイクリッド・ギア)を説明した。

 

「誠のは『時空間と次元の自由航路(スペースタイム・ディメンション・ルート)』。私のは『神愛護珠(ゴッド・ラブ・ディフェンス)』。

それが私たちの神器(セイクリッド・ギア)であり神滅具(ロンギヌス)―――」

 

神滅具(ロンギヌス)!?そんな、一誠くんの家族が二つも揃って神滅具(ロンギヌス)を―――!」

 

「あら、一誠だって神滅具(ロンギヌス)と認定や認知されてもおかしくない

神器(セイクリッド・ギア)を持っているわよ?それも二つ、ゾラードとメリアの力がそう」

 

「へーそうなんだ」

 

―――あっさり受け入れるんだ!?とても重要性が分かっていないんじゃないか!?

 

「まぁ、私たちって神滅具(ロンギヌス)の力を滅多に使わないのよ」

 

「どうしてー?」

 

「だって、使わなくても私には魔法、誠は物理的な攻撃の方が強いもの。

それに昔はともかく今の時世、戦いなんてそんな頻繁に起きやしないしね」

 

そう言いながらも、微笑みながら魔方陣から巨大な業火球が放たれて巨大蜂を焼き尽くす。

その轟音と熱風、衝撃波も完全に防ぐその技量。

 

「(ハ、ハンパ・・・・・ない)」

 

「(人間の中で逸脱した強さではないか・・・・・?)」

 

「(敵だったら倒されていたかも・・・・・)」

 

アルトルージュとリィゾ、フィナが心底畏怖の念を感じるに値する一香の強さ。

これでもまだ一部だろうが素手で倒す誠と魔法で倒す一香を見て自分たちはなんて親の

子供と関わってしまったのだろうかと思わずにはいられない心情でいると

ようやく螺旋階段を上がり切った。天井には巨大な楕円形の物体がぶら下がっていて

一行を巨大な蜂たちが出迎えていた。

 

「あらあら、やっぱり多いわね」

 

「どーするの?」

 

「そうね。久々に力を解放しましょうか。誠ー」

 

「おー、わかった」

 

二人は肩を並べ「禁手(バランス・ブレイカー)」と言い放った。

一香の亜麻色でウェーブが掛かった髪が金色に変わり、

頭上に金色の輪っか、瞳が蒼と碧のオッドアイ、背中に六対十二枚の天使の翼が生え出した。

 

「・・・・・あれ、お父さん?」

 

「なんだ?」

 

禁手(バランス・ブレイカー)になっていないの?」

 

身の変化がない誠に一誠が疑問をぶつけた。

 

「ああ、なっているが目には見えないんだ。見ていな」

 

そう言って誠は―――音もなく姿を消したと思えば、一刹那も掛からない時間で戻ってきた。

 

「・・・・・え?」

 

刹那。巨大蜂が勝手に粉々になって吹き飛んだ。その光景と様子に一誠たちは目を疑う。

 

「一体・・・・・なにが?」

 

「俺の神器(セイクリッド・ギア)は時間を無くす能力だ。例えば移動する時間、

攻撃する時間、防御する時間を全てなくして行うんだ。まー大雑把で言えば

光の速度以上の動きができるんだ。百メートルを0秒で走り切る以上の速度でな。

逆に標的の時間をコントロールできる。他にも能力はあるが―――」

 

十二枚の金色の翼から閃光を放って巨大蜂や巨大な蜂の巣と思しき楕円形の塊に

当て続ける一香を見て誠は告げた。

 

「今は目の前の敵を倒すことに専念しようか」

 

「ようやく戦いらしい戦いができそうだ」

 

クロウ・クルワッハが何気に嬉しそうに構えて巨大蜂に攻撃を仕掛けた。

 

「あ、一誠。お前はあのゾラードの力を具現化した鎧、味方が大勢いる間使用禁止な」

 

「えええええ!?」

 

『解せん・・・・・』

 

禁止命令が下され驚愕する一誠と納得がいかないゾラードであった。その後、小一時間で

敵を倒し尽くし、巨大な巣を崩落したら天井に穴が開いた。その穴へ飛びだして潜ると

青い空、緑の草原に侵入した。

 

「本当、この塔はどんな仕組みをしているんだか」

 

「面白くて良いじゃない?さて、三回もクリアしたからボスみたいな相手が出て来ても良さそうだけど」

 

誠と一香の話を聞き、警戒する一行。―――と、

 

ヒュンっ

 

「え?」

 

微かな風を切る音が聞こえ、一誠はとある方へ顔を向けた時、突風が吹いたかと思えば

何かに踏まれた感じで倒れた。

 

「重いー!?」

 

「え?一誠、何を言って―――」

 

アルトルージュが吹っ飛んだ。周りも何事だと目を張るも自分たちも何かによって吹っ飛ばされた。

 

「なんだ、どこから攻撃が・・・・・?」

 

「見えない攻撃、それとも見えない敵?」

 

「兵藤一誠が倒れている状態なのがおかしい」

 

クロウ・クルワッハが魔力弾を一誠の上に向かって放った。

しかし、何かに吸いこまれていくように消え去った。

 

「・・・・・なるほど」

 

たった一回の攻撃で何かを悟ったのか、今度は駈け出して一誠の傍で横薙ぎに蹴った

瞬間に何か硬い感触が足から伝わった。直ぐさま拳を突き出したが空ぶった。

 

「あ、軽くなった」

 

そう言って立ち上がった一誠。周囲に視線を配るが影の形も見当たらず気配も感じない。

 

「クロウ・クルワッハ。何を気付いた?」

 

「相手は見えない敵というぐらいだけだ。そして魔力を吸収する」

 

「そうなのか?気配を探知しているが全然感じない」

 

「きっとそれすら感じさせないのだろう。だが、確かに身体はある」

 

「見えない敵・・・・・透明な身体を持つ敵と考えた方が良さそうね。

だったらこうしたほうがいいかしら」

 

遥か上空、そして数キロにわたる超巨大な魔方陣を展開した一香の見えない敵に対する攻略方―――。

魔方陣からポツポツと降ってくる水滴―――雨。

 

「雨?」

 

「身体まで幽霊みたいに透けていなければ形が浮かぶはずよ」

 

不敵に漏らす一香。全身ずぶ濡れになる一行だが、敵を倒すにはこれしかないのだと頭は理解する。

振り続ける雨の中でどこから襲ってくるか警戒していた一行の、リィゾの上空から何かが迫った。

 

「―――なるほど、確かにこれなら見える」

 

腰に帯剣していた剣を抜き放ち振るった。確実に刃は敵の身体に傷を負わしたが

傷らしい傷は見当たらず血液も見えない。が、痛みで叫ぶ獣のような声が雨の中で聞こえる。

味方が何かによって弾き飛ばされる最中、アルトルージュは身体から無数の蝙蝠を

生み出して見えない敵に張り付くことで雨がなくてもハッキリと敵の姿を捉えることができた。

長い首、四肢の身体に長い尾の敵だった。

 

「一誠、ネメシスの能力で縛れ!」

 

「うん!」

 

空間を歪ませ蝙蝠だらけの敵を厳重に縛りあげた。

激しく鎖が揺れ、それは鎖の拘束から解かれようともがいている様子だった。

雨を降らす魔方陣は一香の意思で消され、鎖で縛られた敵は―――。

 

「形的にドラゴンっぽそうだから僕の中に封印してくれる?」

 

と一誠の提案で、ネメシスの能力によって一誠の中に封印されたのだった。



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エピソード37

 

 

「そういやー一誠、あの大剣はどうした?」

 

「施設に置いて来ちゃった」

 

「んじゃ、今手元に武器は無いのか」

 

「今は神器(セイクリッド・ギア)や皆がいるから大丈夫だよ」

 

見えない敵を倒した一行。最後の敵はボス的存在だったらしく、

扉が出現すると扉の向こうは宝物庫であるかのような金銀財宝が大量に置かれていた。

その財宝に囲まれている一つのお香があって、財宝と共に回収し外界へ脱出した後

ガリア王にそのお香を渡し、財産の半分を貰ってはトリステインへ旅立った。

 

「ところで一誠、身体は大丈夫か?」

 

「うん?別に痛くとも苦しくもないよ」

 

「そうか、ならいい」

 

誠の質問に疑問符を何個も浮かべる一誠だった。トリステインまでは馬でも徒歩でも

数日はかかる距離だが、一香の魔法であっという間に―――。

 

「はい、トリステインに到着」

 

『早い!』

 

「そして、あの大きな像がある場所にはガリア王国にもあった塔と同じ塔があったんだ」

 

誠の説明を聞き一行は「へー」と相槌を打った。大きな像は六人のマントを羽織り、

背中を合わせてレイピアを天へ突き出しているポーズの像だった。

 

「他四人はいまどうしているの?」

 

「さぁーな。全然会っていないから分からないな。久し振りに会ってみるか」

 

「場所、知ってるの?」

 

「いんや、知らん。知っていそうなヤツから聞く」

 

誠は一誠だけを引き連れて一香たちと別れた。大きな像より数キロ離れた場所のかなり

古びれた木造の家の前にたどり着き、扉をノックした。

 

「ここ?」

 

「まだいるならここのはずだな」

 

周囲には猫一匹すらいない無人の区域。ここでなにか悪巧みをする者たちにとっては

最良の場所であろう。ノックをしてから十秒以上過ぎた頃、扉が開いた。

二人を出迎える存在は居らず、勝手に扉が開いたような感じであった。

 

『入ってらっしゃい』

 

どこからか女の声が聞こえた。誠は堂々と建物の中へ入る。一誠も続いて中に入ると

生活感がない空間が出迎えた。誠は直ぐに上に行ける階段を登って二階の廊下に出て

直ぐ横の通路へ歩み、さらに曲がり角へ足を運ぶと一つの木製の扉があって

一人の男性が静かに佇んでいた。その男性は何も言わず扉を開け放って誠と一香を招き入れた。

 

「うわ・・・・・」

 

一誠は信じられないと漏らした。外見と中身が古臭かったのにこの一室だけは次元が違っていた。

テーブルとベッドぐらいしか家庭に使う家具が無く、それ以外の殆どがチューブやコード、

コンピューターや数えきれないテレビが様々な風景や市街地、国を映していた。

その機械的な空間に一人の少女が椅子の上で胡坐を掻き、忙しなくキーボードに指を

叩きつけていた。すると、前を向いたまま少女が声を掛けてきた。

 

「聞いているわよーあなたともう一人の魔法使いの女性の話。

今まで誰にも発見されなかったはずの自分の仕事場を見つけた人間がいたって」

 

「というと、キミは新しくこの国に配属された―――下級悪魔、世界を監視するガーゴイルの子か」

 

「ガーゴイル?」

 

「そ、前任者・・・・・あなたたちが見つけた以前のこの国を監視するガーゴイルは

十年ぐらい前に別の国へ配属されちゃったわよ」

 

椅子は回転式の物だったらしく、ぐるりと誠と一誠に振り返った。

桃色の髪に悪魔の翼を模したカチューシャ、人を見ただけで魅了させるような瞳、

スレンダーな体なのに豊満な胸を強調させるフリルが付いている黒いシャツを身に包んでいる少女だった。

 

「まさか、前任者同様にここへ来るなんてね。私、これでも忙しいのだけれど?」

 

「はは、悪いな。とある人物の意場所を教えて欲しくてな」

 

「そのぐらい他の人間たちに訊けばすぐに分かるんじゃないの?」

 

首を傾げるガーゴイルに誠はこう告げた。

 

「世界を監視するガーゴイルの情報網は世界各国の重要機密すら入手するほどの腕前だ。

だからガーゴイルのお前たちに訊く方が早いんだよ」

 

「あら、力がない下級悪魔の私たちにそこまで買ってくれるヒトは滅多にいないから嬉しいわ。

ところで、その子供はあなたの息子?」

 

「ああ、そうだ。兵藤一誠だ。ただし、夢幻を司るグレートレッドと

無限を司るオーフィスの力を有する唯一のドラゴンだけどな」

 

ガーゴイルは一誠の正体を聞き目を張り、その真実を知らせようと思ったのか

身体をパソコンに振り向きダダダダッ!とキーボードを叩いた。

 

「・・・・・他の国にいるガーゴイルたちが驚いているわよ。

そんなドラゴンがいるわけがないって」

 

「魔王フォーベシイは知っているのにか?」

 

その発言に尻目だけで誠へ向けガーゴイルは溜息した。

 

「・・・・兵藤誠、兵藤一香。あなたたちのことは私たちガーゴイルの中で話題が尽きない存在。

何時だったか、ヨーロッパ行きの飛行機が謎の現象で中破したって話は聞いたこと

あるけど原因は不明なのよね」

 

「あ、アリュウってドラゴンに襲われたときだね。その後、アジ・ダハーカと出会ったんだよ」

 

「・・・・・揃いも揃ってアンタら親子はエンターテイメント的な存在か」

 

当時の飛行機の事件の真相を知り、あきれ返ったガーゴイル。

 

「ところで名前はなんて言うんだ?」

 

「ナヴィよ。よろしく。んで、聞きたいことって何?」

 

「ああ、サンドリオンっていう男の現在の居場所を知りたい」

 

「サンドリオン、ね。あの英雄の魔法衛士隊の一人の名前だったわね。

前任のガーゴイルが残してくれたデータに記録されているかも。ちょっと待ってて」

 

調べ始めるナヴィ。その間、ボーと立ち続ける二人。

何もすること無く無機質な音が部屋中に響き渡る。しばらくして、タンとキーを押した

ナヴィが空中に発生した一瞬の閃光から現れた紙を手にし、誠に突き出した。

 

「はい、この紙にあなたが探し求めている人物がいる場所を記してあるわ」

 

「ありがとう。助かった」

 

「さて、下級とはいえ私は悪魔よ?それなりの代価を貰いたいのだけれど」

 

抜け目がないと誠は思ったが悪魔に対して当然のことかと思った。

 

「できる範囲ならば何でも言ってくれ。休暇が欲しいなら魔王に頼むが?」

 

「そうね・・・・・」

 

ナヴィは代価を何にしようかと悩む。直ぐに思いつかない

自分の欲望を考えていると―――彼女の直ぐ傍に魔方陣が浮かんだ。

耳を傾け、相槌を打つ姿を見ているとナヴィは「はぁっ!?」と叫んだ。

 

「ちょっ、それってどういうことなの!?私、仕事をしっかりこなして―――え、

新人がここに?じゃあ私は―――は?マジで?」

 

「「・・・・・?」」

 

何やら話が見えない。しばし静観の態勢でいると魔方陣が消えて無くなり

ナヴィは深く溜息を吐いた後、指を忙しくキーボードに叩きつけだす。

 

「ねぇ、どうしたの?」

 

「私、次の国に転属することになったわ。その為に今まで記録したデーターを残す作業をしているの」

 

「新人が来るらしいな?」

 

「ええ、本当なら違う国で能力を向上させる予定だったのだけれど、

新人は予想以上の処理能力で直ぐに実戦に投入しても問題ないみたいなの。

普通、ガーゴイルが配属された国に最低でも十年はいなくちゃいけないのに・・・・・」

 

「私はまだ七年しか経っていないのに・・・・・」と愚痴るナヴィに一誠は聞いた。

 

「次の国ってどこなの?」

 

「日本よ。だから―――」

 

ナヴィは二人に向かって言い放った。

 

「平等な代価とは言えないけれど、私をあなたたちの家に住まわせてくれないかしら?

勿論、私もあなたたちに協力する」

 

「ここはどうするんだ?」

 

「次にこの国に来るガーゴイルの為に残しておくの。

基本、ガーゴイルは動かない悪魔だから使い魔を使役する方が多いのよ。

それにこの建物自体、人避けの結界を張っているから普通誰も

近寄ってこないのだけれど・・・・・」

 

「あなたたちがそんなの無視してくるんだから異常よ」と漏らすナヴィだった。

しかし、誠は腕を組んで首を傾げた。

 

「うーん、俺たちはまだ日本に帰るつもりはないんだ。先に家にいてくれるなら住んでも良いが」

 

「それじゃ、あなたたちが帰ってくるまで留守番をしているわ」

 

話は決まったとナヴィは目の前の機械の電源を切った。

 

「はぁー、せっかくこの狭いところで七年間もいたのに。嫌なっちゃうわ」

 

「最低でも十年間って言っていたけど、期間を過ぎたら次はどうするの?」

 

「別にどうでもないわよ?ガーゴイルを眷属にしようという物好きな上級悪魔が

いるわけないし、そもそもガーゴイルは戦闘できない弱い悪魔。

一万年掛かっても上級悪魔になれるわけじゃないしね」

 

「悪魔なのに魔力で攻撃とかできないの?」

 

「ガーゴイルの宿命は世界を監視すること。戦うことより世界を見聞して

全てを把握することが重要なの。情報は武器にもなるからよーく覚えておきなさい?」

 

口元を緩ますナヴィに一誠は感嘆の声を発する。

 

「なんか、凄いね」

 

「ん?そうかしら?」

 

「そうだよ。情報が武器にもなるなんて初めて知った、戦い方も色々あるんだねー」

 

純粋な眼差しを向ける一誠から、照れたのかナヴィは向けられて来る視線から顔を逸らす。

 

「別に凄くないわよ。結局勝つのは物理的な攻撃だし」

 

「そうかな?先に相手の弱点を調べて分かるならそれはそれで凄いじゃん」

 

「・・・・・それって、褒めてるの?」

 

「うん。お仕事も頑張っているし、そんな凄い能力があるのに認められていないなんて残念だよね。もっと人を助けるためにとか、悪い人を捕まえたりとか活躍できそうなのにさ」

 

―――っ。

 

ガーゴイルの宿命からか、当然のように、当たり前のように情報を集め続けた

ナヴィにとって生まれて初めて自分を認めてくれるような言葉だった。まだ幼い子供に

そう言われてナヴィは―――。

 

「じゃあさ兵藤一誠くん」

 

「ん?」

 

「私がもっと活躍できるようなことを与えてくれないかしら?今じゃなくても何時かきっとさ」

 

一誠にそう言っていたのだった。最初はキョトンとしていたものの一誠は

「うん」と笑顔で肯定した。

 

「約束する。何時かきっとね」

 

「ふふっ、決まりね。キミを気に入っちゃったわ。これからもよろしく」

 

「よろしくね、ナヴィお姉ちゃん」

 

「ナヴィでいいわよ」

 

握手を交わし合う一誠とナヴィ。そんな微笑ましい光景を見守る誠は思った。

 

「(ドラゴンの特性か、一誠は魅力の塊か・・・・・?どんどん仲間を、

一誠にとっては家族を増やしていく。ま、別に悪いわけじゃないか。

寧ろそれが一誠の力の源になるなら―――面白いことだ)」

 

―――○●○―――

 

「誰ですかそのヒトはぁっ!」

 

帰ってきた二人+ナヴィに激しく反応したルーラから小一時間後。

誠と一香の探し人がいる居場所へ何故か誠の提案でアジ・ダハーカに乗って移動することになった。

 

「ねぇ、どうしてアジ・ダハーカの背中で行くの?普通に飛んで行けばいいんじゃない?」

 

「それは一誠がドラゴンになってだろう?それと大して変わらない。それに―――」

 

「それに?」

 

「人を驚かす気持ちが分かれば、一誠も驚かしたくなるだろうさ」

 

ニヤーと誠が悪戯っ子の笑みを浮かべた。疑問符を浮かべる一誠は自分の父親の笑みを

見て驚かしたいんだなーっと他人事のように思った。

 

「私がアジ・ダハーカの背に乗る日が来るとは・・・・・」

 

『それはこっちのセリフだ。どうして俺が乗せねばならんのだ』

 

「邪龍の身体って硬いんですねー」

 

「初めて乗るわよ、邪龍の背中なんて」

 

光の反射で黒曜石みたいな鱗に触れる面々。そうしている間にも刻一刻と目的地に

巨大な黒い影が自ら迫っていく。馬車では数日かかる場所をこのアジ・ダハーカの速度

では―――一時間も掛からない内に辿り着く。

降りる場所を目的地である中世ヨーロッパみたいな岩で積み上げられた外壁を容易く通り越し、

湖がある庭園の方へと着地をした。当然、巨大な黒い三つ首龍の襲来を門番や衛兵が

気付かないわけがなく。騒ぎを起こし始めた。

 

「ねぇ、お父さん」

 

「なんだ?」

 

「黙って入ったらいけないんじゃない?ちゃんと玄関から入ろうよ」

 

と当然の常識を投げた一誠。息子の言葉に「わかってないなぁ」とばかり溜息を吐いた誠は言った。

 

「一誠、友達ならどんな入り方をしていい時代なんだ」

 

「そうなの?」

 

『(そんなわけないから!)』

 

軽く常識を変えられそうになる一誠。そんな時、嵐が一誠たちを囲んだ。

 

「お、この風は・・・・・」

 

「相変わらずの魔法ねー」

 

誠と一香は知った風な口で述べる。一香の指が弾いたと思えば嵐が消失した。一拍して、

 

「ド、ドラゴン!私が相手だ!」

 

下から女の声が聞こえた。一誠がひょこっと顔を出すと金色の双眸に映り込む下の様子、

桃色のポニーテールに鳶色の瞳に恐怖の色が浮かんでいて小さな手に杖らしきものが持っていた。

気丈に振る舞っているのが良く分かる。

 

「・・・・・勘違いしちゃってるよね絶対」

 

『傍迷惑な話しだな。踏みつぶして良いか?』

 

「ダメ」

 

「よし、一誠。あの子とちょっと話してみろ」

 

と同時に一誠は下へ放り投げられた。思考が停止し、

自分はどうして落ちているのか分からないまま少女の目の前に顔から落ちた。

 

「・・・・・痛い」

 

「だ、大丈夫か・・・・・?」

 

「あ、うん・・・・・心配してくれてありがとう。それとごめんね勝手に入って来ちゃって」

 

ペコリと謝った一誠。流石の少女も謝れて毒気が抜かれてしまい、

「あ、ああ・・・・・」と意気消沈。

 

「何の騒ぎだこれは」

 

と、低い声音が一誠の耳に入った。顔を上げると威厳に満ちた立ち振る舞いをしつつ

近づいてくるモノクルを左目に嵌めた男性がとドレスを身に纏う桃色の髪を纏め結い上げた女性。

どちらも臨戦態勢の姿勢で目の前の巨大なドラゴンに厳しい目を向ける。

何時でも戦いができるような構えを自然体でしている。

 

「平民がこのドラゴンを乗って来たと?」

 

「ご、ごめんなさい・・・・・」

 

「・・・・・」

 

男性はジッと委縮する一誠を見詰め、視線をドラゴンに向ける。

 

「何をしにこのラ・ヴァリエール領地に土足で入ってきた?」

 

「お、お父さんとお母さんが・・・・・」

 

「お父さん、お母さん?」

 

コクコクとそうだと首を縦に振る一誠。訝しいと目元を細め周囲に視線を配ると―――。

 

「よっ、老けたなサンドリオン」

 

「っ!?」

 

男性の背後から声を掛けられた。一誠が何時の間に?と目を丸くし誠に目を向けている。

二人の男女は反射的に後ろへ振り返る瞬間、

 

「あら、あなた・・・・・カリンかしら?」

 

女性の目の前に一香が女性の顔を覗きこんでいた。

その行動も何時の間にかしていたのか分からず一瞬だけ思考が停止した女性は、

 

「ぶ、無礼者!」

 

杖を振るおうとしたが、その杖をアッサリ奪われた。杖が無ければなにもできないらしく

攻撃をしなくなった。奪った杖を手の中で弄ぶ一香は女性に話しかけた。

久々に出会った友人のように接する感じで。

 

「ちょっと、久し振りにあった戦友にそれはないんじゃない?しかも変わらないわね。

あっさりと私に杖を奪われる所と直ぐに怒るところも」

 

「なんですって・・・・・」

 

鋭い眼差しを向けられるも涼しい顔で一香は受け流す。

 

「・・・・・もしや、お前たち」

 

男性は誠と一香を見詰め・・・・・漏らした。

 

「誠と一香なのか・・・・・?」

 

その問いかけに二人は口元を緩ました。

 

「ようやく気付いたか。ま、こっちも一瞬誰かと思ったけどその立ち振る舞いと声を

訊いたらお前だって理解したぞサンドリオン」

 

「―――っ!」

 

目を張るサンドリオンという男性。女性、カリンもようやくといった感じで目を丸くする。

 

「はっはっはっ!よう、久し振りだな!数十年振りか?サンドリオンとカリン!

まーさか二人が結婚していたなんて驚いたぞ!」

 

「・・・・・お前という男を忘れていた。人を驚かすことが好きな奴だったことをな」

 

「カリン、眼つきが鋭くなっちゃって。

女性らしく可愛らしさが大事だって前から言っていたでしょう?」

 

「あの時は・・・・・私の事情を知っていたでしょう。それにこれは生まれつきです」

 

急に和やかなムードと成り、一誠と少女は首を傾げる。

 

「父上と母上の知り合い・・・・・?」

 

「みたいだねー」

 

互いの子供たちが様子を見ていると、誠がサンドリオンの肩に腕を回した。

 

「しかもお互い子供がいるとはな。いやー実に愉快なことじゃないか。サンドリオン、

暇なら一緒に昔のことを語ろうぜー。因みに決定事項だからな?」

 

「まったく・・・・・そういうところも変わっていないな」

 

「あなたの娘?男装していたあなたと瓜二つじゃない。

可愛いわー。やっぱりあなたのように目指しているの?」

 

「ええ、私たちの話を聞いて・・・・・困ったことに立派な騎士になりたいと言いだして」

 

「「応援するべき(グッ!)」」

 

二人して親指を立てると女性は額に手を当てながら苦笑を浮かべる。

 

「そういう息が合っている仕草も懐かしいですね。というか、なぜまだ若いまま?

いえ、若干歳を取っているみたいだけどそれにしては・・・・・」

 

「あら、羨ましい?」

 

「久々に私の風が吹きそうね・・・・・っ!」

 

「あなたの杖、私が持っているから使えないわよ?ま、返すけどね」

 

杖を女性に手渡し、サンドリオンと話をしている誠に声を掛けた。

 

「誠、来たのはいいけれどこれからどうするの?」

 

「ん?ああ、やっぱ直ぐに行くぞ」

 

と、あっさりこの場から離れることを言いだした誠にサンドリオンは怪訝な面持ちで誠に問うた。

 

「どこに行く気だ?」

 

「息子がアルビオンに行きたいって言うから俺たちはアルビオンに向かうところだ」

 

「数十年振りに再会したのにもう行くというのか。もう少しゆっくりしていけばいいだろう」

 

「悪いなー。こう見ても俺たちは世界中を飛び回って忙しいんだ。

俺たちの息子も修行中で世界を飛び回っているし」

 

「親子揃って普通に生活はできんのか」

 

と、サンドリオンが溜息を吐いた。

 

「ま、そういう一家もいることっていいだろう?

サンドリオン、何時か極東の国に遊びに来いよ。歓迎するぜ」

 

「ふん、行く機会があったらな」

 

一誠を抱きかかえアジ・ダハーカに乗ると、サンドリオンたちに別れを告げて

アジ・ダハーカが翼を羽ばたかせ空の彼方へ向かった。

 

「父上、母上、あの方たちは一体・・・・・」

 

「まだ私とカリーヌが魔法衛士隊だった頃―――同じ隊の仲間であり戦友だった二人だ」

 

「っ!じゃあ、あの方たちも父上と母上と同じ―――!」

 

「ええ、共に塔を攻略した英雄たちですカリン。・・・・・相変わらず元気そうでよかったわ」

 

「ナルシスとバッカスにも梟便で教えてやるとしよう。きっと驚くか悔しがるだろうな」

 

愉快そうに口元を緩ますサンドリオンは踵返して城の中へと戻る。少女は目を輝かせて

カリンに言った。

 

「母上、私は母上たちのような騎士になります!」

 

「・・・・・まったくあなたは本当に私とそっくりですね」



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エピソード38

空を飛んでしばらく経った頃に雲の切れ間から、黒々と大陸が覗いていた。

大陸は遥か視界の続く限り延びている。地表には山がそびえ、川が流れていた。

その川、大河から溢れた水が、空に落ち込んでいる。

 

「大きいー!」

 

「絶景と言うべきか」

 

「壮大でもあっているわよ」

 

「人間界に堂々と浮いているな」

 

「何らかの魔力で浮いているのでしょうかね姫」

 

「ああ、あれは名残よ」

 

名残、ナヴィの口から出た言葉が面々の視線を集めるのに十分だった。

 

「大昔、ハルケギニアに大規模な地震と地割れが遭ったの。

その時、巨大な広さと深さの地盤が何かによって持ち上がり宙に浮いた。その原因は風石って言う

風の精霊の力を結晶化した石の力で浮いているらしいわ。当時その時他にも大地が

浮いていたけどその殆どが海や大地に還った。

今現在残っているのがあのアルビオン大陸って言われているアレだけよ」

 

「おー、そうなのか。それは知らなかったな。流石はガーゴイル」

 

「の、ハーフだけどね私」

 

「ハーフだったの?」

 

「言うタイミングが無かったから言えなかっただけ。

さて、最近のアルビオン王国の状況はどうなっていたかしらねぇー」

 

ノートパソコンを開くと同時、周囲に立体映像の魔方陣が出現して

カタカタとキーボードを叩く音が聞こえる。

 

「ああ、そうだったわね」

 

「どうしたの?」

 

「現アルビオン王国の弟で財務官だった人が反逆罪で処刑されていたわ」

 

いきなり良い話しじゃない情報がナヴィの口から出た。

どういうことなのかという雰囲気を感じ取ったのか、

ナヴィは聞かれたわけでもないのに話した。

 

「簡単に省略すると、愛人のエルフとそのハーフの子供の存在がバレてその結果、

投獄され殺されたのよ。まだその愛人のエルフとハーフの子供は見つかっていないみたいね。

でも、何時か見つかる可能性はある」

 

「穏やかな話しじゃないな。しかし、今時珍しいなエルフと人間が結ばれるなんて」

 

「いいことじゃない。だけど、それを聞いたからには放っておけないわよ」

 

誠と一香の言動に予想していたようで口元を吊り上げた。

 

「だと思って言ったけどね。その二人の居場所も把握しているけれど―――ね、キミはどうしたい?」

 

一誠に尋ねるナヴィ。意味深な視線を送るが一誠はその視線の意図を気付かないまま当然のように言った。

 

「助けたい!」

 

「よーし、言い切ったな一誠。それじゃ―――一誠とクロウ・クルワッハ、

お前たちはエルフを救う役割をしてもらう。攻撃されるかもしれないが遠慮なく戦え」

 

「任された」

 

「うん、頑張るよ」

 

「吸血鬼組は二人の援護だ。いいな?」

 

「ヴァレリー、あなたは待機ね」

 

「はい」

 

「久々に同性の若い血を吸おうかなー」

 

「ほどほどにしておけよ」

 

―――???―――

 

とある家に大勢の騎士と兵士がなだれ込み、囲んでいて家の中を荒々しく入り家探しをする。

何時しか探す場所が徐々になくなりついには―――。

 

「見つけたぞ!」

 

財宝が収納されている宝物庫に踏み込んだ騎士と兵士たちの目の前にはウェーブが掛かった

神々しい金髪、青い瞳、すらりとした細身の身体と相当な豊満の胸の女性が一人だけいた。

女性はただ静かにその場で佇み、全てを受け入れようとした姿勢でいる。

その青い瞳からは恐怖も不安も、負の色が一切窺えない。

真っ直ぐ杖を突き付けてくる人間たちに見据えだけで半数の人間が弱腰になった。

それでも杖を構えて先端に炎を迸らせる者たちはいた。

 

「始祖ブリミルの名の元に貴様を断罪してくれるっ!」

 

身勝手、自己満足、一方的、異種族。様々な言葉が出てくる。

女性は両腕を広げ口を開いた瞬間だった。

目の前に二つの魔方陣が出現し、一人の少年と一人の女性が召喚された。

 

「え・・・・・」

 

「誰だ!?」

 

両者は突然現れた二人に目を丸くした。頭よりも先に分かったことは―――。

 

「えっと、ごめんなさい」

 

「手加減ぐらいはしてやる」

 

ドッ!

 

子供と女性が今まさに攻撃しようとしていた騎士や兵士に攻撃したことで

敵、味方と認識したことだった。

 

「き、貴様ら―――!ぐべぇ!?」

 

「ここで暴れれば敵が勝手に来ると思うが?」

 

「全部倒すのは大変だと思うから―――上に逃げようよ」

 

「分かった」

 

女性が徐に腕を天井へ上げて手から極太の黒い魔力が放たれたことで、天井に巨大な穴が開いた。

宝物庫の出入り口に幾重の鎖で塞ぎ、敵の進入を拒んだ。

 

「これでしばらく入ってこないよ」

 

「なら、今のうちに」

 

「あ、あなたたちは・・・・・?」

 

敵ではないことだけは分かったが自分のことを知って庇ってくれたのだろうか?

子供と女性はハッキリと言った。

 

「僕たちは敵じゃないよ?助けに来たんだ」

 

「ハーフの子供はどこだ?ここから脱出する」

 

「その後・・・・・私たちをどうする気なのですか?」

 

「一緒に僕たちと安全な場所で暮らさない?」

 

まだ幼い子供が提案を述べてくる。女性は当惑した面持ちで二人を見詰める。

 

「こう言ってはなんだが、お前の愛していた男は死んでいるそうだ」

 

「・・・・・」

 

「その男の為に生き続けるべきだ。―――兵藤一誠、いたか?」

 

クロウ・クルワッハが子供に尋ねた時だった。宝物庫の壁が吹き飛び、騎士たちが入り込んできた。

 

「うてぇっー!」

 

杖の先から氷の槍、火炎、風の刃が放たれた。女性は目を瞑り自分の運命を受け入れようとした。が。

 

「その程度か」

 

背中から翼を生やして女性ごと身を包み全ての攻撃を防いだ。

 

「なに・・・・・!?」

 

「一誠」

 

「見つけたよー」

 

一誠の傍に金髪に青い瞳の少女の手を掴んでいた。相手が唖然としているうちに

女性の腰に腕を回してでき寄せては翼を羽ばたかせて宙に浮く。

 

「このエルフたちは私たちがいただく。文句は無いな?」

 

「ふ、ふざけるな!エルフは我々始祖ブリミル教の敵である!」

 

「この世界のことに関して私たちは関わるつもりは無い。好きにすればいい」

 

天井に開けた穴へ吸い込まれるように出ていく。

 

「それじゃーねー」

 

続いて一誠も少女を抱き寄せた状態でクロウ・クルワッハの後を追う。

二人は空に飛んで逃げるが騎士たちまでもが空を飛んで二人を追いかけてくる。

その時、どこからともなく大量の蝙蝠が飛来してきて騎士たちを阻み吸血行為されては

騎士たちは地に墜ちるしかなかった。

 

「んー、若くない血が多いな」

 

「よ、妖魔・・・・・!?」

 

「バカなっ、どうしてこの国に妖魔がいるのだ・・・・・!」

 

地上では妖魔こと吸血鬼の出現に騎士と兵士たちがどよめく。白い髪や白い騎士甲冑を

着込むフィナが口の端に騎士の生き血を全て吸った痕跡を流した。足元に数人の兵士が

全ての血を吸われミイラみたいな状態で倒れていた。

 

「さてさて、お前たちは美味しいかなー?」

 

「ひっ、ひぃいいいいいいいいいいいっ!」

 

「妖魔だ!妖魔が現れたぁっ!逃げろぉーっ!」

 

騎士と兵士が心底恐れを抱き、我先と逃げる。だが、逃げた先には黒い髪に黒い騎士

甲冑を着込むリィゾがいて剣を一閃。あっという間に敵を屠った。

 

「もっと穏便にできないのかお前は」

 

「問題ないだろう?それより、そっちはいいのか?当分血は吸えないと思うけど?」

 

「・・・・・建物の中にいた人間たちから吸ったから問題ない」

 

「お前の方が穏便じゃないだろう絶対」

 

脳裏でミイラだらけの建物の中を思い浮かべ嫌そうな顔を浮かべる。

 

「さて、戻るとしようか」

 

「美少年が私を待っているからな!」

 

「・・・・・面倒な奴に目をつけられたアイツは大変だな」

 

―――○●○―――

 

「へぇ・・・・・あなたが蛮人とエルフのハーフの子かぁー」

 

「あ、あの・・・・・」

 

「あ、私はルクシャナって言うの。あなたと同じ血を流しているエルフよ?

あなたの名前を教えてくれない?」

 

「ティ、ティファニア・・・・・」

 

「んじゃ、あなたのことをテファって呼ぶわ。よろしくね?」

 

森がある場所へ身を隠し、早速ルクシャナはエルフと人間のハーフ、ティファニアに

話しかけている。そんな二人の近くにエルフの女性は誠と一香と何やら話しあっていた。

 

「一誠、アルビオンに来たのはいいが私たちは長居できない状態になったぞ?」

 

「うーん、しょうがないけど戻るしかないね」

 

「何週間ぶりでしょうか、あの施設に戻るのも。ですが・・・・・」

 

ルーラは一誠へ視線を向けて微笑んだ。

 

「冒険って刺激あるものでした。主に祈りを捧げ、教会の為に思って信仰をしてきた

日々の生活より、あなたとの過ごす日々がとても有意義で・・・・・楽しかったです」

 

「うん、僕も楽しかったよルーラ」

 

「それと一誠くん。家族になる話なんですが・・・・・」

 

目を輝かす一誠。家族になってくれるのかなと期待の目を向けていたが、

 

「ごめんなさい。私はまだ一誠くんたちの家族になれません」

 

「・・・・・そっか」

 

ルーラの答えに心底残念がり頭を垂らす一誠だった。

 

「落ち込まないでください。まだ、なのでいつかあなたの家族になりたいと思っています」

 

「いつかって?」

 

オウム返ししてきた一誠に真剣な色がアメジストの瞳に宿った。

 

「私が一誠くんの隣に立てるぐらい強くなった時に家族として傍にいることを約束します。

今回の冒険で私はなにもできなかった。戦うことも守ることも。

だから一誠くん、私がもっと強くなったら―――」

 

一誠の手は温かく柔らかい小さな手によって掴まれ包まれた。

 

「私を・・・・・一誠くんの傍に置かせてください」

 

「ルーラ・・・・・」

 

「約束ですよ?一誠くん」

 

小指を立てながら言うルーラに「うん」と同じく小指を立てルーラの小指と絡める一誠。

 

「あー、良い雰囲気のところ悪いが」

 

誠が意識を自分へ一身に向けさせた。これから何を言うのか、面々は静かに耳を傾けた。

 

「一誠の言う通り、アルビオンにはいられなくなった。だからイタリアに戻るつもりだが」

 

「だが?」

 

「一誠とレティシアちゃん以外のお前らはしばらく俺と一香と一緒に行動してもらうぞ。

てか、そうするしかないんだがな」

 

「あー」と面々は気のない言葉を漏らす。一誠とルーラーは施設に住んでいるので

吸血鬼、エルフ、悪魔の一行は同じ場所に住めるわけがない。逆に討伐されかねない。

 

「ちょっと、私はどうなるの?」

 

「魔王にしばらく俺たちが預かると言っておく」

 

「魔王って・・・・・」

 

ナヴィが信じられないものを見る目で誠に視線を向け漏らす。

 

「お父さんとお母さんはそれからどこに行くの?」

 

「中国の四神のところにでも顔を出す予定だ。クロウ・クルワッハ、

お前も当然こっち側だからな。お前を協会に置かせるわけにも行かないしよ」

 

「だ、そうだ兵藤一誠。すまないが私はお前の家族と共に行動する」

 

「・・・・・申し訳なさそうに言うけど、顔が嬉しそうだよクロウ・クルワッハ」

 

「戦いを司る暗黒龍の名に恥じないですね」

 

口元を緩ますクロウ・クルワッハを呆れる一誠とルーラーだった。

 

「そうだ兵藤一誠。イタリアに戻ったら武器を渡そう」

 

「クロウ・クルワッハの武器?」

 

「正確にはあの竜の巣にあった武器だ」

 

「おまっ、あそこに保管していた武器も猫糞していたのか!」

 

ドラゴンが武器を必要とするなんて思いもしなかった故に驚愕した誠。

一誠に目を向けながらクロウ・クルワッハは答えた。

 

「必要になると思ってな。だが、いいだろう?」

 

「そりゃ、いつか一誠に渡そうとしていた武器もあったが・・・・・」

 

「因みに持ってきたのはこれだけだ」

 

亜空間から様々な武具を出したところで溜め息を吐く誠だったが、

鞘しかないソレを一誠の背中に備えさせながら告げた。

 

「一誠、ストラーダやクリスタルディから剣術を教えてもらえ。絶対にな。

クロウ・クルワッハが持ってきた剣と槍を何時かお前の手で振るう時が必ず起きる」

 

「はーい」

 

「それじゃ、イタリアへ直行だ一香」

 

誠の話を聞いて魔方陣を展開した一香。一行はその魔方陣の光に包まれ

アルビオン大陸から姿を消した。

 

―――ローマ―――

 

何週間振りのローマに一誠とルーラは舞い戻った。

魔方陣で移動した場所は―――どこかの家の中だった。

それなりに広く、一誠たちがいてもまだ余裕があった。その部屋の住人は突然現れた

一誠たちに固まって視線を向けていた。

 

「あっ、オーフィスとリーラさん!久し振り―――」

 

と住人に向かって挨拶をした一誠が姿を暗ました。突然のことで数人が目を白黒させる。

 

「い、一誠くん・・・・・?」

 

「・・・・・どうやら、しばらくそっとしておいた方が良さそうだな」

 

「え、どういうことですか?」

 

「抑えていたものが爆発的に解放されて、その衝動に駆られた結果の行動・・・・・でしょうね」

 

一香がどこかへ行った。気になったのかルーラとヴァレリーもついて行き、

とある扉にそっと開けた一香と一緒に隙間から覗きこんだ部屋の中の光景は・・・・・。

 

『一誠さま・・・・・もう二度と放しません』

 

『リ、リーラさん・・・・・』

 

『ああ・・・・・久し振りの一誠さまの匂いと温もり・・・・・』

 

下着姿のリーラに覆い被されて上着を脱がされた一誠がベッドにいた。

 

「―――って、リーラ!流石にそれは子供には早過ぎるわぁっ!というか犯罪を犯そうとするんじゃないの!」

 

バンッ!と扉を勢いよく開いて詰め寄る一香にリーラは度肝を抜かす言葉を言い放った。

 

「いくら一香さまとはいえ、これから一誠さまに―――子供の作り方を教える勉強の邪魔をさせません」

 

「ンなに言っちゃってんのよあなたはー!?純粋な一誠には

「空からコウノトリが赤ちゃんを運んでくるのよ☆」って教えればそれでいいのよ!

それが一番可愛いでしょうが!」

 

「いえ、ここは正直に教え、学ばせてもっと男らしく磨くべきなのです!」

 

「男の娘ならともかく、アザゼルみたいな男のように育てたくないのよ!」

 

「大丈夫です。そのことについては深く同意です。

ですが、一誠さまはこの先大勢の女性を魅了させるでしょうから、女性を悦ばす方法を

学ばせるべきであると思います」

 

「だからそれは今じゃなくてもいいのよ!」

 

ワー!キャー!

 

『・・・・・』

 

何時しか様子を見に来た誠たちも顔の半分だけ出して言い争う一香とリーラへ視線を送っていた。

 

「あれ、なにしてんの?」

 

「さぁ・・・・・」

 

不思議そうに、怪訝に視線を送っていると黒いゴスロリを身に包む四肢を覗かせる

黒い長髪の少女が自然に部屋の中へ入って行き、

 

「イッセー、我と一緒に寝る」

 

「え?」

 

当然のように一誠の隣で寝転がり、一誠に抱き付きながらジーと見詰める―――オーフィスだった。

その後、一誠とルーラは久し振りに施設へ戻ったところでストラーダ猊下、

クリスタルディ猊下を始めとする施設にいる者たちから帰還を祝福された。



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エピソード39

「まさか、この歳になってこの剣に触れることができるとは・・・・・」

 

「この鞘・・・・・まさか・・・・・」

 

クロウ・クルワッハから得た武具を一誠はどんなものなのか剣術の師である二人の猊下に見せたところ、

感嘆と驚嘆の声が漏れだした。

 

「わかる?」

 

「実物を見たのは初めてだが、伝承で知っていた。ああ、わかるとも。

これは素晴らしい剣だ戦士一誠。この剣の名は聖剣『フラガラッハ』。

この剣の一撃は凄まじい切れ味を発揮する。

そしてこの鞘に収まっている剣は『クラウ・ソラス』という剣で、光の剣または

輝く剣という魔法の剣なのだ」

 

「光るんだ?」

 

「悪魔にはとても有効的な魔法の剣だ。しかし、これをどこで見つけたのだ?」

 

ストラーダ猊下の質問に「僕も聞いただけで分からないけど」と言いながらも答えた。

 

「お父さんとお母さんが持っていたみたいなんだー」

 

「・・・・・太陽神ルーが所有していたはずなんだがな。クリスタルディ猊下、そちらはどうだ?」

 

ジッと青と金の装飾と意匠が凝った盾にも使える鞘を見詰めているクリスタルディ猊下に問うたところ。

 

「間違いないです・・・・・エクスカリバーの鞘に間違いないですぞ・・・・・!」

 

歓喜に身体を震わすクリスタルディ猊下。

 

「兵藤一誠くん、これもキミの両親が持っていたのかい?」

 

「持っていたというより保管していたみたい。クロウ・クルワッハから聞いたら

色んな武器や盾があったみたいだよ?」

 

「・・・・・クロウ・クルワッハ?」

 

「うん、邪龍のクロウ・クルワッハ。僕の新しい家族になってくれたドラゴンの名前だよ」

 

ストラーダ猊下とクリスタルディ猊下は度肝を抜かれた気分で一誠を見やる。

この少年は暗黒龍と称されていた邪龍を味方に付けたその魅力は凄まじいと言うべきか。

 

「そのクロウ・クルワッハは今どうしている?」

 

「お父さんとお母さんと一緒に中国の四神に会いに行っているよ」

 

「・・・・・キミたち親子はもうわからなくなってきた・・・・・」

 

苦笑を浮かべ一誠に鞘の事を聞いた。心なしか顔に真剣味が帯びていてここが正念場とばかり

声に力が籠っていた。

 

「兵藤一誠くん。この鞘を教会が預かって良いかな?」

 

クリスタルディ猊下の話を聞き、困ったように一誠は言った。

 

「うーん、お父さんとお母さんのだからダメかも。

それにこれを肌身離さず持っていろって言われているし」

 

「あの二人を説得しないとダメなのか・・・・・」

 

「良いではないか。今現在行方不明の一本の聖剣エクスカリバーも大事だが、

誰がそのエクスカリバーの鞘を所有しているのか分かっていればその方がいい」

 

若干肩を落とすクリスタルディ猊下を窘めるストラーダ猊下も一誠に尋ねた。

 

「戦士一誠、このフラガラッハを―――」

 

「それも同じ理由だからダメだよ?」

 

「ストラーダ猊下・・・・・」

 

「・・・・・やはり、説得が必要か」

 

「でしょうな」

 

苦笑を浮かべあう二人。教会にとって保管、保存したい剣と鞘を持つ一誠から無理矢理

奪い取るのも可能だがそれでは教会の戦士として恥ずべき行為。話の分かる相手だから

説得して手に入れる算段も考慮するかソレを持つに値するほど鍛え上げるべきなのだろう。

 

「それじゃ、久し振りに稽古をお願いします」

 

やる気が満ちている双眸で剣を構える一誠をクリスタルディ猊下が応える。

その隣にルーラも剣を構えていた。

 

「キミもかな?」

 

「一誠くんの隣に立てるぐらい強くなりたいのです」

 

「友愛か・・・・・良い心がけだ。ストラーダ猊下、彼女のお相手お願いしてもいいですかな?」

 

「いいだろう。―――何時しか戦士一誠がフラガラッハのような名剣を振るって戦える時が

心待ちにしている」

 

「聖剣も七本全て揃い、鞘に収まる日も願うばかりです」

 

二人の教会の戦士と二人の幼い戦士は剣を交える日がようやく始まったのであった。

 

 

とある日、ヴァチカンに幼い神父やシスターの服を身に包んだ少年と少女たちが訪れていた。

その団体は自由時間になると思い思いに時間が許されるまで過ごす中で一人の少女が

クリスタルディ猊下に聖剣エクスカリバーの扱い方を教えていた。

 

「と―――各エクスカリバーの特性の話は以上だが他に質問はあるかな?」

 

「大丈夫です。しっかり覚えました!」

 

「うむ、では私は用事があるので失礼するよ」

 

「どちらへ行かれるのですか?」

 

少女にとってクリスタルディ猊下の行動が気になった。何時もならもう少し

エクスカリバーの説明を聞かせてくれるはずだったのだが何時もより早く終わらせた。

 

「ああ、今年新しく入ってきた戦士に剣術を学ばせていてね。

ユーストマさまの直々のお願いでもある」

 

「神王さまからの直々ですか!?」

 

「そうだ。あの方からお願いされるほどの戦士も素晴らし逸材でね。エクスカリバーを

扱える天然の聖剣使いだったんだ」

 

クリスタルディ猊下が朗らかに笑む。天然の聖剣使い。未だ聖剣を扱える信者、

戦士は生まれていないこの時に天然の聖剣使いの存在に少女は目を丸くした。

そしてどんな人なのだろうと興味も湧く。

 

「あの、お邪魔しませんので稽古の様子を見させてください」

 

「どんな戦士なのか興味が湧いたんだね?」

 

「うっ・・・・・」

 

アッサリ見抜かれて誤魔化そうとしても目が泳いでしまったからか、

その通りであるとクリスタルディ猊下に伝わってしまった。

 

「わかった。邪魔にならない所から見ていなさい」

 

クリスタルディ猊下の了承を得て、共に修錬場へと赴いた少女。既にその場所には

二人の少年と少女、初老の男性がいて少女と初老の男性が剣を交えていた。

 

「・・・・・え」

 

少女は目を疑った。あの後ろ髪、赤い髪に見覚えがあるのだ。

ここにいるはずのない遠い極東の地にいるはずの少年の髪の色と同じで―――。

 

「待たせたね。さて、始めようか」

 

その少年に声を掛けるクリスタルディ猊下の言葉に反応して振り返った少年は、

自分の目の前にいる少女に視界が入り、キョトンとした表情で見詰めた。

 

「あれ、イリナ・・・・・?」

 

「―――――っ!」

 

間違いない。この声はあの少年と同じものだった。少年の顔も完全に一致する。

イリナと呼ばれた少女は言葉よりも先に体が動き、

 

「会いたかったわ一誠くぅんっ!」

 

身体全体で喜びを表し、一誠に飛び付いた。突然のことで受け止めきれずイリナと

地面に倒れたがイリナはそんな事を気にせず一誠に抱き付く。

 

「イリナ、どうしてここに?」

 

「それはこっちの台詞だよ一誠くん!どうして一誠くんはここにいるの?」

 

「僕は色んなところで修行をしているんだ。今回はこの場所で強くなろうしていているんだよ」

 

前にも言ったはずだけど、と一誠は思うが目の前にいる懐かしいイリナの顔を見る。

最後に会った時から少し成長している少女。髪も長くなってツインテールに結んでいる。

 

「というか・・・・・イリナって」

 

「なに?」

 

「男だと思っていたけど女の子だったなんて知らなかったよ」

 

・・・・・。

 

無言でイリナはペシペシと一誠を叩く。

 

「いたっ!いたっ!」

 

「私は女の子よ!もう一誠くんの意地悪!」

 

「だ、だって一緒にヒーローごっことか、川遊びとか砂遊びとか遊んでいたじゃんか!

女の子の服だって着ていなかったしさぁっ!」

 

「うっ、それを言われると・・・・・」

 

過去の自分を改めて思い返せば女の子らしいことなど一切していなかった。

天真爛漫、無邪気に男の子っぽくはしゃいで一誠の傍にいた。

 

「・・・・・キミたち知り合いだったのかい?」

 

二人の様子を見守っていたクリスタルディ猊下は見かねて訊ねた。一誠とイリナは揃って頷く。

 

「私と一誠くんは日本で良く遊んでいたのです」

 

「うん、ヴァーリと遊んでいたよねー。そのヴァーリも会ったけどさ」

 

「え?どこで?」

 

「冥界、一年間ずっとヴァーリと何度も会ったよ?」

 

ピキッ。

 

イリナの顔に怒りのマークが浮かんだ。顔を垂らして一誠に質問をし出す。

 

「それって、何時から会っていたの?」

 

「イリナとヴァーリと別れて直ぐ・・・・・だったかな?アザゼルのおじさんのところで会ったよ」

 

「へぇ・・・・・つまり、一誠くんはヴァーリと会っていたんだね?」

 

「イリナ・・・・・?」

 

顔を覗きこもうとする一誠。しかし、顔を上げたイリナの表情は―――怒りで満ちていた。

 

「ズルい!一年間ずっとヴァーリと会っていただなんてぇっ!一誠くんのばかぁっ!」

 

「ぶへっ!?」

 

強く頬を叩かれ、地面に倒れる一誠を余所にイリナは涙目で去って行った。

 

「ううう・・・・・痛い。僕がなにをしたって言うんだ・・・・・」

 

「い、一誠くん・・・・・」

 

「(嫉妬による行動だったにしろ、まさか堕天使の総督と暮らしていた

時期があったとは・・・・・)」

 

「(ヴァーリという者は・・・・・確か報告で聞いた現白龍皇だったか。

その白龍皇と戦士イリナ、戦士一誠と繋がりがあるとはな)」

 

一誠を慰めるルーラもあることを想っていた。

 

「(あのイリナって子は一誠くんと友達みたいだけれど・・・・・いきなり怒って

叩くなんて乱暴な女の子)」

 

そんな乱暴な子から一誠を守ると胸に強く秘めたルーラー中でイリナの印象は良くなかった。

 

―――○●○―――

 

それから言うのの一誠は剣術を学び、ルーラーと絆を深めた。

そんなある日、二人に討伐の話しが持ち上がった。

 

「化け物?」

 

「聞いた話では下水道に巨大な蜘蛛がいたそうだ。発見者は命からがら逃げて警察に

調査を要請し、調査員が派遣されたのだが―――誰一人として帰ってこなかったようだ」

 

「それで、私たちは討伐をしに行けばいいんですか?」

 

「そうだ。これ以上被害が出さない為にも巨大な蜘蛛、魔物を討伐する必要がある」

 

「今日の夜?」

 

「早い方が良いだろうからね」

 

―――深夜に討伐することとなった。市街地にいる人々が寝静まり返ったところを行動して

マンホールの蓋を開けて下水道に忍び込むクリスタルディ猊下と一誠とルーラ。

異臭を放つ下水道を眩く照らし続ける一誠の金色の翼。

 

「あ、ネズミだ」

 

「兵藤一誠くんの光る翼で周囲が良く見える」

 

「天使そのものみたいな翼でフワフワして柔らかいです」

 

後ろからポンポンと翼を触れるルーラ。真っ暗な空間は眩い光を放つ翼によって

照らされて一誠たちの足取りを重くさせないでいて、光は下水道全体に照らされて

十メートルぐらい先まで照らしている。

 

「先生、発見した場所はどの辺りか分かりますか?」

 

「この下水道は迷路のように入り組んでいて降りてきたマンホールから

数メートル離れた場所で見つけたらしい」

 

「それって直ぐじゃないですか。良く助かりましたね」

 

「発見した時はたまたま持っていたライトの光で見つけたんだ。ちょうど、

あの曲がり角で蜘蛛の足と目が見えたらしくてね」

 

クリスタルディ猊下が光が届いている曲がり角に指を突き付けた―――次の瞬間。

その曲がり角から大量の蜘蛛が現れて壁にも天井にも張って一誠たちに近づいてきた。

 

「く、蜘蛛・・・・・虫・・・・・・!」

 

「・・・・・気持ち悪い。殺虫スプレーを持ってくればよかったかも」

 

「子供にはきつい光景だ」

 

苦笑を浮かべるクリスタルディ猊下。形を自由自在に変化する聖剣で大量の蜘蛛を一蹴する。

 

「おー!」

 

「ここで派手な攻撃はできない。強力な攻撃もすれば下水道が壊れかねないから

この『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』の出番というわけだ」

 

鞭のように刀身がしなり、蜘蛛を水の中に落としたり、一刀両断していく。

 

「あの蜘蛛が来ている向こうに親玉がいるかもしれない。注意してくれ」

 

「「はい」」

 

攻撃が制限されたこの状態で一誠はどうやって戦おうか脳裏で考えを巡らせていた時、

三人が横切ったトンネルから、

 

―――シュバッ!

 

「え?」

 

大量の糸が飛び出して一誠の全身を巻きつけてどこかへ引き連れ込む。

 

「またこの展開ー!?」

 

「い、一誠くーんっ!」

 

「くっ・・・・・!」

 

聖剣を伸ばして一誠を捕えようとするが、大量の蜘蛛が赤い目を煌めかせ迫ってくる

様子を横眼で捉えた結果―――。ルーラを抱きかかえ一誠の後を追うことにした

クリスタルディ猊下。二人を照らす光は念のために持ってきた『クラウ・ソラス』を

鞘から抜き放ったルーラの手にある剣のみ。

 

 

そして、糸に巻きつかれ身動きが取れない一誠は下水道の深奥の天井にぶら下がった状態のままでも

光で照らしている。その光はある物まで照らしている。今の一誠の状態と同じく、

天井にぶら下がっている複数の繭。中に何かがいるらしく、一誠が放つ光に激しく

反応をしている。顔だけ出している一誠は今の自分の心境を表しブラブラと動き続ける。

 

「どうしよう・・・・・このままじゃ食べられちゃうかも」

 

自分自身の安否を心配したところで何かの足音が聞こえてくる。その足音の方へ、

後ろへ向きを変えようとブランブランと揺らがせる一誠だったが

固定されているかのように後ろへ向けることができず突然一誠の眼前に人の顔が飛び込んできた。

 

「ひぅっ!?」

 

肌は灰色で髪は洗っていないのか清潔感が全くないボサボサで傷んだ金髪であることが若干分かる。

目に光が宿っておらず、ジッとその目で一誠を見据える。

 

「こ、こんばんわ・・・・・?」

 

震えながらも挨拶をした一誠は相手の全体も光で見えた。上半身は人の形をして

下半身は巨大な蜘蛛。まるでケンタロウスみたいだなーと一誠はどこかズレた感想を心の中で延べた。

 

『・・・・・今度は子供。何をしに来た』

 

「え、えっと・・・・・巨大な蜘蛛を倒しに来たんだけど、お姉さんだったの?」

 

『この人間たちと同じ理由か。なら、帰らす訳にはいかない。ここで朽ち果てなさい』

 

喰われるかと思ったが実際はただぶら下げられている状態で相手はそのままジッと動かない。

一誠はあの二人が来るまで―――暇だから声を投げた。

 

「ねね、僕は兵藤一誠って言うけどお姉さんの名前は?」

 

『・・・・・』

 

「僕、人間みたいだけど本当はドラゴンなんだよ。お姉さんと似てるよねー?」

 

『・・・・・』

 

「お姉さん、どうしてここにいるの?人を捕まえているだけで

悪いことをしていないなら・・・・・あ、ごめんなさい。他の人に怖がれるからできないんだよね」

 

『・・・・・』

 

「・・・・・」

 

一誠が急に喋らなくなった。あれほど明るく話しかけて来ていた物好きな

人間の子供がと蜘蛛女は、どうでもいいがなんとなく尻目で一誠を見たら。

 

「ううう・・・・・無視しないでよ(泣)」

 

なんと、一誠が涙目で蜘蛛女を見詰めていたではないか。このまま無視を貫き通しても

いいと思うが、泣き喚いて仲間を呼ばれても困る。仕方なく、蜘蛛女は漏らした。

 

『・・・・・アラクネー、そう呼ばれていた』

 

「っ!」

 

ようやく返事をしてくれて泣きそうな顔から一変して嬉しそうに揺れる一誠。

何気に他の繭にもぶつかった際、その繭から呻き声が聞こえるが一誠は気にしない。

 

「よろしくね、アラクネお姉ちゃん」

 

『・・・・・』

 

人間の子供、いやドラゴンと言った揺れ動く一誠をアラクネーは振り向き、

動かないように新たな糸で張った。

 

「う、動けない」

 

『・・・・・動き回るな。鬱陶しい』

 

「じゃあ、喋ろうよ。暇なんだしさ」

 

『・・・・・』

 

「・・・・・(泣)」

 

『・・・・・わかった』

 

「だからその泣き顔は止めろ」と付け加えるアラクネーは仕方なく一誠の話し相手になったのだった。

 

 

一方、ルーラとクリスタルディ猊下は一誠を探し求め下水道を駆け走っている。

大量の蜘蛛に追われながらも懸命に探索を続けていた。

 

「先生、私たちだけじゃ・・・・・」

 

「言いたいことは分かるが、これは時間との問題だ。しかも兵藤一誠くんが

また連れ去られたなんて公になってしまったら・・・・・」

 

「しまったら・・・・・?」

 

「―――――彼の家族に今度は肉体的に何をされるか分かったものではない」

 

とある銀髪のメイドのあの顔を思い出し、クリスタルディ猊下は苦笑を浮かべた。

ルーラは小首を傾げ「はぁ・・・・・?」と気のない相槌を打つ。

 

「ですが、一誠くんを発見できません。どこまで連れて行かれたのでしょうか」

 

「そうだな。ここは迷路のような構図で今現在、私たちは地上のどの辺りにいるのかも分からない」

 

「・・・・・迷子、ですか?」

 

「半分だけだ。それにこんなこともあろうかと、キミたちに内緒で服にある物を仕込んである」

 

クリスタルディ猊下は腰から携帯を手にして画面を窺った。画面はあみだくじみたいに

入り組んだ道の構図と点滅している二つの黄色い点が表示されている。

 

「それはいったい・・・・・」

 

「最近の科学は発達しているから便利なものだよ。キミたちの服に発信器を付けて、

もしもまた攫われるようなことが起きればこれで探すことにしたのさ」

 

「なるほどー。では、この離れた場所で点滅しているところに」

 

「兵藤一誠くんがいるのだよ。いま、そこに向かっているところだ」

 

ルーラが尊敬の眼差しを向ける。が、

 

「お言葉ですが、主を崇めている私たち信徒が機械に頼っても良いのですか?

こう、相手の聖なるオーラを探知して見つけるそんな風な、主の導きで発見したと

そんな感じでないと何と言うかその・・・・・」

 

その指摘にクリスタルディ猊下は「ふっ」と漏らした。

 

「我々、人間にもできないことはあるのだよ」

 

ああ、そうなんですかー。ルーラの心境はソレだった。

 

「それはそうと、兵藤一誠くんとどうだね?」

 

「なにがですか?」

 

「施設にいる大勢の幼い信徒の中で兵藤一誠くんと接しているキミだ。彼のことどう思っている?」

 

「一誠くんの隣にいたいです」

 

断言したルーラ。しかも答えるのも早かった。クリスタルディ猊下は朗らかに笑んだ。

 

「愛を司る神さまもきっと喜んでおられるであろうな。

さて、そろそろ彼のいる空間に辿り着くから用心したまえよ」

 

「はいっ」

 

駆け走る二人を追いかける大量の蜘蛛は次第に数を減らし、

一誠がいる空間に近づいた時には一匹もいなくなった。

そしてついに曲がり角に曲がって―――。

 

「それでねそれでね?お猿の爺ちゃんと一緒に金色の雲に乗って空を飛んだんだよー」

 

『・・・・・そう』

 

顔だけ出して繭みたいに糸で包まれ蜘蛛の巣に張り付けられている一誠と一誠の話を

聞き相槌を打っているアラクネーの姿をルーラとクリスタルディ猊下の目に飛び込んできた。

 

「・・・・・普通に捕まっているのに普通に和んで会話している」

 

「い、一誠くん・・・・・」

 

心配した自分たちは何だったのかと呆れを通り越して、何とも言えない気持ちが湧く。

 

「・・・・・ん?あ、先生とルーラ!」

 

二人の姿を捉え気付く一誠。巨大な蜘蛛女は臨戦態勢になるが、

 

「アラクネーお姉さん、大丈夫だよ。お姉さんを攻撃しないからさ」

 

一誠の制止を訝しい表情を浮かべるも警戒心は解かず、臨戦態勢の構えを解いた。

 

「大丈夫、のようだね?」

 

「アラクネーお姉さんといっぱい喋っていたから怖くなかったよ」

 

「そ、そうなんですか・・・・・」

 

「あ、僕の後ろに捕まっている人たちがいるんだ。まだ生きているみたいだよ。

アラクネーお姉さんはこの人たちを殺すつもりもないんだって」

 

一誠の話を聞きクリスタルディ猊下じゃ安堵で息を漏らす。生存しているならば対処はできる。

残す問題は―――。

 

「アラクネー・・・・・伝承ではゼウスの娘のアテネに呪いを掛けられた者だったな。

まさか、こんな所で出会うとは・・・・・」

 

目の前の巨大な蜘蛛をどうするかだ。

 

『・・・・・この姿で地上を闊歩できるわけもない。私はあの愚かなことを後悔し、

一度は死んだはずだった。なのに、あの女神は何を思ったからか私を蜘蛛に転生させた。

それ以来ここで静かに生きていた』

 

「だが、発見されてしまい、こんな結果になってしまったのだな。

一つ訊く、人間に危害を加えないのだな?」

 

『・・・・・ない。だが、私の姿を見た者は帰す訳にはいかない。私は化け物だからな』

 

自嘲的な笑みを浮かべるアラクネーは臨戦態勢の構えを取った。

やはりこうなったかと聖剣の柄を掴んだ。

 

「化け物だからって人を襲っちゃダメだよ」

 

一誠がアラクネーに対してそう言った。

 

「それだったら僕はどーなのさ。僕、ドラゴンだよ」

 

『・・・・・見た目は人間のお前が言っても説得力無い』

 

「むぅー、じゃあドラゴンになるよ」

 

光に包まれる一誠。人の形を崩す最中、内側から掛かる圧力に堪え切れず繭が引き千切れ、

ドラゴンになった一誠がアラクネーと対峙した。

 

『どうだ!』

 

『・・・・・本当にドラゴンだったのか』

 

『これでアラクネーお姉さんと一緒だよ?』

 

『・・・・・』

 

『蜘蛛の身体だから外に出れないなら人の姿になればいいじゃない。

できないなら僕が何とかしてあげる』

 

アラクネーの意思を訊かず人の姿に戻った一誠は金色の杖を発現して問うた。

 

「できるよね?メリア」

 

金色の杖から声が発せられる。

 

『形だけなら可能です。ですが、彼女の存在の概念、蜘蛛に転生される以前の―――』

 

「そこまでいいよ。僕がしたいのはアラクネーお姉さんの身体を人間の身体に戻したいだけ」

 

純粋な一誠の願い。今はできることをしたいと発する自分の主にメリアは一誠の中で

小さく口の端を吊り上げた。

 

『そうですか。ならば主よ思い浮かべてください』

 

「うん」

 

アラクネーに向けて杖を翳し瞑目した一誠に呼応して、

金色の翼が大きく広げて輪後光が光り輝く。

その光がアラクネーの全身を照射して包まれていく最中。

 

『(・・・・・温かい)』

 

忘れていた温もりがアラクネーは思い出す。かつて父が抱きしめてくれた時と

あの温もりと同じ・・・・・。下水道は温かく眩い光に支配され、

 

「なんて温かい光なのだろうか・・・・・」

 

「・・・・・(泣)」

 

クリスタルディ猊下が感嘆し、ルーラは静かに涙を流す。

 

「アラクネーお姉さん。帰る場所がないなら、人の姿になったら僕たちと一緒に生きよう?

僕の家族になってねー」

 

『・・・・・お前は』

 

「お前じゃないよ。兵藤一誠って名前があるよ」

 

最後に一誠の笑顔を見てアラクネーの意識が遠のいた。冷たい暗闇に潜む巨大な蜘蛛は

光ある温かい場所に出る日はそう遠くなかった。後日、行方不明になった人たちは無事に救助され、

改めて今度は武装した人間たちが下水道に訪れても巨大な蜘蛛を発見できなかった。

代わりに―――。

 

タンタン・・・・・タンタン・・・・・。

 

「精が出ますね」

 

とある家から一定のリズムで鳴る音が聞こえてくる。その家を覗きこむと織機を巧みに

ウェーブが掛かった金の長髪が緩やかに揺らし懐かしむ顔と光がある双眸を持つ女性が

タスペトリーを織っていた。メイド服を身に包み、紅茶と菓子を乗せたお盆を持って

近づくと女性は織りながら答えた。

 

「ああ、腕が鈍っていないか心配だったが杞憂のようだ」

 

そういう女性の直ぐ横に黒いゴスロリを着ている少女が興味身心に見ている。

タスペトリーは八割ぐらいまで完成していてどんなテーマを織り込んでいるのかなんとなく把握できる。

 

「これはどんな主題なのですか?」

 

「・・・・・ああ、そうだな」

 

女性の目の前に完成間近のタペストリー、殆どが真っ黒で何とも不気味さを醸し出すが

赤い髪を持つ少年が金色の杖を光らし、その光に照射され包まれている下半身が蜘蛛で

上半身が女性は少年に手を伸ばしている姿。そのタペストリーをそっと撫で、

 

「哀れな一匹の蜘蛛に救済の光をもたらした小さき少年―――そんなところだろう」

 

口元を緩めそう命名した時、扉が開く音が聞こえ誰かが三人がいる空間に近づいてくる。

 

「ただいまー!あ、もう完成したの!?」

 

「お帰りなさいませ。ですが、まだ完成ではございませんよ」

 

「なーんだ。早く完成したタペストリーを見てみたいや」

 

織り込み中のタペストリーを見詰める少年の頭に手を置いて女性は言う。

 

「焦らずとも近いうちに完成する。待っていなさい」

 

「うん、分かった」

 

少年は頷き視線を女性の足に向けた。肉付きのいい太もも、

ほっそりとした素足の自分の両足を見てくる少年に女性はどうした?と聞いた。

 

「―――アラクネーお姉さんの足、綺麗だなって」

 

「・・・・・この足はあなたがくれた。だから傷一つ、シミ一つも作らないさ」

 

「そこまで気を使わなくても良いよ。次はアラクネーお姉さんを蜘蛛から本当の意味で

人間に戻すことを頑張るからさ」

 

アラクネーお姉さんと言われた女性は両腕を少年の背中に回して豊満な胸に押し付ける

感じで抱きしめた。

 

「期待しないで待っている」

 

「むー、期待しててよ」

 

「いや、しないよ。なぜなら・・・・・」

 

頬を膨らます一誠に向かって笑みを浮かべたアラクネーは唇を一誠の額に落とした。

 

―――今が幸せだからもう充分に満足している。この私に温かい居場所を、再び人間の足を

与えてくれたあなた心から感謝をしているから・・・・・。



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エピソード40

一誠がヨーロッパで修行すること半年以上が経過した。定期的に通信用魔方陣で一誠と

連絡する誠と一香たち。あっちも様々な神々と出会い、そこで修業したりと世界を

見聞していて楽しんでいる様子だった。

 

「一誠くん」

 

「ん?なにルーラ」

 

「えへへ、呼んでみただけです」

 

施設の中では一誠とルーラが一緒にいることが当たり前のようになり、授業も討伐も常に一緒だ。

一誠がいるところにルーラがあり、ルーラがいるところに一誠がありと別れるその日まで続いた。

 

「戦士一誠。この一年間でお前は確実に強くなった。誇っても良い」

 

「ストラーダ先生やクリスタルディ先生の稽古のおかげだよー」

 

「非常に惜しい。このまま教会の戦士としていてくれれば私たちの後継者になって

ほしかったところだ」

 

「うーん、ごめんなさい」

 

「謝る必要は無い。私たちが教えたことを忘れなければそれでいいのだからな」

 

その日、何時ものように広場で剣術を稽古してもらっていた。気温も低くなり冬が

近いせいか若干漏らす息が白くなる。一誠の修業期間が近づいてくると、

話の話題が別れに関することばかりでしんみりとした雰囲気になる。

 

「ところで戦士一誠」

 

「ん?」

 

ストラーダ猊下が一誠を見下ろしながら問うた。

 

「お前は敵対している者たちを次々と味方にしているな」

 

「味方じゃないよ、家族だよ」

 

少々ストラーダ猊下の言い方に不満げで言う一誠。一誠にとっては味方にしたいなど考えていない。

周りからしてみれば敵を味方にしているとしか見えないだろう。

 

「ああ、お前からしてはそうだな。だが、我々教会の戦士にとっては複雑極まりないのだよ。

特に吸血鬼を味方にしたのは。もしも戦士一誠が教会の戦士として敵である吸血鬼と

仲良くなってしまったらお前は他の吸血鬼を討伐することはできたかな?仲良くなった

吸血鬼の目の前で吸血鬼にとって同胞の吸血鬼を。それで仲が悪くなってしまったら

戦士一誠はどうする」

 

「・・・・・」

 

その問いに一誠は戸惑いの色を隠さずにはいられなかった。

ストラーダ猊下は一誠のことを認めている。その純粋さと力、潜在能力さえも。

だが、ストラーダ猊下は・・・・・一誠は教会の戦士に不向きであることを悟った。

教会が敵とする存在を間違っても仲良くなってはならない。一誠の甘さが味方を

危険に晒す可能性がある。―――――倒すべき敵を倒さなければ意味がないのだ。

物言いたげな視線をクリスタルディ猊下から感じる。

 

「ストラーダ猊下・・・・・」

 

「分かっている。戦士一誠にとっては酷な質問だろう。

戦士一誠、答えは言わなくても良い。ただ私からの一方的な質問だ。すまんな」

 

「・・・・・うん、でも、これだけは言えるよ」

 

「「?」」

 

首を傾げる二人を見詰める一誠がこう答えた。

 

「友達になれないヒトがいることは分かっている。襲われて死ぬのは嫌だし、

もしもその友達が僕を殺そうとして襲いかかってきたなら・・・・・生きるために

戦うしかないと思う」

 

「稽古ありがとうございました」とお辞儀をして二人から離れた一誠。

残されたストラーダ猊下とクリスタルディ猊下は。

 

「・・・・・自分なりの答えを出したか」

 

「兵藤一誠くんにとって辛い選択でしょうな。あの子は純粋だがかなり甘い部分がある。

(さき)の討伐もそうだったように」

 

「そうだな。あの者が教会の戦士として育てれないのが残念だったが、

この方が良かったかもしれないな」

 

去って行った一誠が歩いた方へ視線を向ける。人の出会い方次第で人は変わる。

自分に置かれた状況と状態、人生と環境さえ善し悪しが左右される。

 

 

その日の夜。一誠はイタリア語を一人で勉強していた。

マスターとはいかないが最初のころより大分読み書きできるようになった。

無言で集中し勉強していると扉が叩かれる音が聞こえた。そのノックの音を反応して

「誰だろう?」と呟きつつ扉に近づき開け放った。

 

「まだ起きていたんですか?もう寝る時間ですよ」

 

「グリゼルダお姉さん?」

 

一誠の世話役のシスター・グリゼルダが様子を見に来たらしく、まだ起きている一誠を窘めた。

中に入るとイタリア語が書かれているノートに目をやり息を一つ。

 

「勉強も良いですが、決められた時間に寝ないと明日に響きます。いいですね?」

 

「はーい」

 

「はい、です」

 

「はい」

 

「結構、それと彼女はどこにいるか知りませんか?」

 

彼女?小首を傾げる一誠に「レティシアのことです」とシスター・グリゼルダが言う。

 

「部屋にいないのでここかと思いましたが・・・・・違うようですね」

 

「僕がこの部屋に戻って来てからルーラは来てなかったよ?」

 

「そうですか。では、私はあの子を探しに行きますのであなたは早く寝るのですよ。いいですね」

 

それだけ言い残してシスター・グリゼルダは部屋からいなくなろうとしたら一誠に呼び

止められ、一誠に振り返ると、

 

「見て見て、ヤドカリー」

 

頭とハサミを象った手だけ掛け布団の中から出してシスター・グリゼルダに見せると、

 

「・・・・・」

 

無言で扉が閉められた。無反応でいなくなってしまったことでショックを受けるものの

一誠は言われた通りに明かりを消してベッドに潜り込んで目を瞑った時、

再び扉が開く音が聞こえた。

 

「・・・・・誰?」

 

侵入者に問いを投げる一誠。窓から射す月明かりでその侵入者の姿を照らした。

 

「こんばんわ、一誠くん」

 

「ルーラ?」

 

「しぃー」と静かにしてと言動をするルーラ。そんなルーラに小首を傾げると、

 

「一誠くんと話がしたくなって部屋から抜けだしたんです」

 

「ああ、そういうことだったんだね。さっきグリゼルダお姉さんが探しに来ていたよ」

 

「そうだったんですか」

 

「明かり・・・・・付けたらまた来ちゃうからダメだね。ほら、布団の中で話ししよう?」

 

上掛け布団を捲り入ってくるように促す。ルーラは嬉しそうに肯定し、

明かりを付けないままベッドにいる一誠の傍に寄る。

二人同時に寝転がって顔を向け合い雑談を始めた。

 

「もうすぐクリスマスですね」

 

「そうだねー、イタリアのクリスマスってどんな感じなのか楽しみだよ」

 

楽しげな会話は程なくして終わりを告げルーラは一誠に訊いた。

 

「一誠くん、このまま教会にいてくれないですか?」

 

「ごめん、ここにいるのは一年間だけだって決められているから」

 

「・・・・・そうですか。じゃあ、一誠くんともう会えないんですね」

 

寂しそうに顔を曇らすルーラの手を掴んだ。

 

「ううん、会えるよ。だって僕がいつかまた、ルーラに会いに行くから」

 

「本当ですか・・・・・?」

 

「うん、本当。絶対に会いにくるよ」

 

言い切る一誠に嬉しく感じ、さらに一誠に寄る。

 

「約束ですよ」

 

「うん、待っててくれる?」

 

「はい、ずっと待っています。一誠くんの傍にいられるぐらい強くなっている間でも」

 

「その間僕はもっと強くなっているよー?」

 

挑発的に笑みを浮かべる一誠と「負けません」と一誠に釣られて笑むルーラ。

程なくして二人は眠りにつき、互いを放さないとばかり抱き合っている様子を―――。

 

「まったく・・・・・この子たちときたら・・・・・」

 

溜息を零し、呆れるがどこか微笑ましいとシスター・グリゼルダが見ていたのであった。

 

―――○●○―――

 

そしてクリスマスの日が訪れた。その日の教会は一段と賑やかで特にカトリック教会の

総本山とも云われているサン・ピエトロ大聖堂に一誠たち教会の施設にいる幼い信徒や

教会の戦士たちが集い―――今までしなかった前代未聞の事例を行っていた。

それは大聖堂の中で食事をすることだった。純白で清楚な白いシーツを横長のテーブルに敷き、

数々の料理の前に立っている一誠たちと同じく神父やシスターも同席していた。

今回の事例の無い展開に誰もが内心不思議がっているが、

これは神―――神によって―――と教会上層部から説明を受け納得した後に祈りを捧げた。

 

「戦士兵藤一誠、こちらに来なさい」

 

「ん?」

 

クリスタルディ猊下に呼ばれトコトコと近づけば一本の剣を手渡された。

 

「この剣は聖剣『祝福の聖剣(エクスカリバー・ブレッシング)』といい、

私たち教会の者を祝福の光を照らすことができる聖剣。

この聖剣を使って私たち信徒に祝福してくれ」

 

「どうやって使えばいいのか分からないよ?」

 

「大丈夫、皆が幸せになることを祈り、願う聖剣は応じてくれる。キミならできる」

 

促され、一誠は聖剣を頭上に構えて見せた。

 

「あ、そうだ」

 

なにを思ったのか、一誠は金色の杖を発現して聖剣と合わせた。

一誠はルーラに言われたことがある。

 

『一誠くんが放ったあの光、凄く好きになりました。きっと一誠くんがアラクネーに

強く思ったから、私の心だけじゃなく身体も温かくなったんですよ?』

 

そう言われたことを思い出して、あの時のように、アラクネーの身体を人間に戻すその時の

気持ちを思い出しながら杖と剣に想いを籠めた結果、

二つの得物が光に包まれ神々しい閃光を大聖堂全体に散らばせた。

その光を浴びた信徒たちの身体が光る。特に変化は無い。

だが、心が温かくなるのを一誠以外の信徒は感じた。

それはまるで神から祝福されているかのような―――。

 

「信仰がなければこれほどまでの祝福の光が無い。

いや、彼自身の純粋さが相乗効果を発揮しているのか・・・・・!」

 

聖剣による祝福の力と創造を司るメリアの力が具現化した杖。

一誠の他者に対する祝福の想いが創造の力によって具現化し、光と成って効果を発揮する。

 

―――それはイタリア全土、いや、全世界にも光が届き数々の奇跡さえももたらした。

 

例えば国同士の戦争が治まり、大勢の乗客を乗せたトラブルが起きた飛行機は山に

墜落しても乗員も含めて全員助かり救助され、生き別れになった者同士が再会を果たし、

貧困に苦しんでいる者たちに幸福が訪れ、不治の病で苦しんで病院にいた病人全てが治った。

その他にも様々な奇跡が起こり世界中は今回の一件で『奇跡の一日』と称することとなった。

 

「クリスタルディ猊下」

 

「ストラーダ猊下?」

 

「戦士一誠は教会の戦士としては不向きだと私は言ったな」

 

身体が光に包まれているストラーダ猊下がクリスタルディ猊下に声を掛けた。

その目は真っ直ぐ光に包まれている一誠に向けられている。

 

「あの時の言葉を撤回するつもりはないが、やはり戦士一誠は教会にとって惜しい存在だな」

 

「・・・・・そうですね。私もそう思います」

 

やがて光が治まり、一誠がいい仕事をしたとばかり息を一つ零すと周囲から拍手が送られた。

ルーラに抱き付かれる様子を見て口元を緩ます。

 

「説得、してみるとしようか」

 

「手伝いますよ」

 

教会の戦士として、一人の信徒、信者として本気で一誠を教会に属させようと試みる

エクスカリバーとデュランダル使いの一誠の師であった。

その後、一誠は自分に剣術を教えてくれた二人の師と世話役の女性と何時も傍にいてくれた少女と

寂しげに別れを告げ次の修行の場へと家族と共に馳せ参じていくのだった。

 

「一誠くん、またきっと会いましょーう!」

 

「元気でね、ルーラァーッ!」



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本番編
キャラクター情報


大雑把です。


兵藤一誠 好きなもの 家族(兵藤誠、兵藤一香、リーラetc) 嫌いなもの 弱い者いじめ

 

周りから子供から大人まで肉体と言葉による暴力が絶えず、

皮肉にも相手の善し悪しを見極める慧眼を得た。兄、兵藤誠輝によって包丁を腹部に刺され

公園に彷徨って最期に命が絶った(と思ったがドラゴンが一誠の魂を何らかの方法で留めていた)。

後に現れたオーフィスが助力を求めたグレートレッドによって有り得ない

ドラゴンとして転生を果たし生き長らえた。その後、今まで暴力を振るってきた

者たちに見返す為、世界各地に赴き修行をする。

 

兵藤誠輝 好きなもの 女 力 嫌いなもの 弱者(一誠)

 

双子の長男として生を受け、最初は仲の良い兄弟だったと誠が漏らす程、力が全てだと

兵藤家の教えに強く影響を受け信じ、弱く不甲斐ない一誠を心底嫌い、リーラに好意を

抱いている。ジャイアニズムでもあり、一誠から度々ものを奪っている上に一誠の

存在を否定し、家の中へ入れさせないどころか追い出す為、リーラの愛用の包丁を

使って酷い仕打ちをした。その為、リーラたちにバレてしまった結果、

親の子の縁を切られ(一応様子見として保留)。記憶を消されたまま兵藤家に預けられた。

 

兵藤誠 好きなもの 家族 冒険 嫌いなもの 大切にしないこと

 

元兵藤家の当主だった男。兵藤家の掟を自ら破り、当主の座を捨て妻の一香と共に家出当然で離れた。

世界中に冒険して様々な神話体系の神々と周りから言わせれば「有り得ない」と

言わせるほど出会っては交流を続けたり、友人となったりもした。息子の一誠と誠輝の

不仲には「どうしてこうなった」と嘆息する。

後に強くなりたいと願う一誠の為に一香と世界各地に飛び回り神話体系の神々や知り合い、

友人に修行を付けてもらうように乞うた。

 

兵藤一香 好きなもの 家族 嫌いなもの 誠に言い寄る女、不純な気持ちで迫ってくる男(神)

 

元式森家の当主だった女。当主の座を捨て夫の誠と共に家出当然で離れた。

世界中に冒険して様々な神話体系の神々と周りから言わせれば「有り得ない」と

言わせるほど出会っては交流を続けたり、友人となったりもした。息子の一誠と誠輝の

不仲には「どうしてこうなった」と嘆息する。

後に強くなりたいと願う一誠の為に一香と世界各地に飛び回り神話体系の神々や知り合い、

友人に修行を付けてもらうように乞うた。

 

リーラ・シャルンホルスト 好きなもの 一誠 嫌いなもの 誠輝

 

兵藤家一家のたった一人のメイド。主に一誠と誠輝の世話役で誠と一香のサポートもしていた。

不純な気持ちで迫れたり、理由を付けて二人きりになりたがる誠輝に度々毒舌を吐くこともしばしば。

誠輝と一緒に寝ることが多いと一誠に言われたが、本人にしか知らない事実があり

それは何時か語られる。家から点々と続く血痕が一誠のだと悟り誠輝に追求したものの、

家から続く血痕を辿っていくと公園に溜まった大量の血だけが見つかり、

何者かに連れ去られたと思ったがそれはある意味正解だった。

誠輝と決別し、一誠専属のメイドとして傍に居続け一誠の修行の旅に喜んでついていく。

が、リーラに禁断症状があるようでまだ幼い子供の一誠を文字通り肉体的な意味で襲おうとした。

 

兵藤源氏 好きなもの 兵藤家 嫌いなもの 敵対するもの

 

兵藤家現当主であり誠の父親にして一誠と誠輝の祖父、後に誠の妹となる悠璃と楼羅の父親。現在の兵藤家の質が低下していることに嘆き、一誠に対する止まない暴力に嘆息し、誠と出会うたびに喧嘩腰になる(一誠から見れば仲が良い)。

 

 

兵藤羅輝 好きなもの 和菓子 恋バナ 嫌いなもの あまりない

 

兵藤家現当主の妻であり誠の母親にして一誠と誠輝の祖母―――もといお姉さん。

後に誠の妹となる悠璃と楼羅の母親にもなる。不満はあまりないが、普通に一人の

人間、女としての当たり前なことに羨望し、接してもらいたい願望もある。故にリーラとの話は楽しみの一つ。

 

兵藤悠璃、兵藤楼羅 好きなもの 家族、一誠 嫌いなもの 一誠を蔑ろにする者

 

兵藤家当主の娘、悠璃(姉)が楼羅(妹)で姉妹同士で歳離れた誠の妹にあたる。幼少の一誠を知る一人で当時から一誠に好意を抱いていた。虐めを受けていたことも知っていて何時も一誠の傍にいた。一誠がやってこなかった時期では落ち込んだが兵藤家と川神家の合同稽古と稽古試合で再会した一誠に喜んだものの、会えるのに会えない不満と苛立ちを募らせ、源氏と羅輝を困らせるほど溺愛している。

 

無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィス 好きなもの 一誠、リーラ 嫌いなもの 特にない(強いて言えば一誠とリーラに危害を加えるもの)

 

公園で倒れている一誠を見つけた第一発見者、ドラゴンの中で最強と称されているドラゴン。

昔であったことがある誠と一香の子供だと知り、グレートレッドに助力を求め無事に

命を救った一誠にとって恩人もとい恩龍。その後は一誠とリーラと共に行動し二人を見守る。

 

ヴァーリ 好きなもの 一誠、イリナ 嫌いなもの 一誠とイリナを害するもの

 

とある理由で堕天使たちがいる冥界の堕天使の領土に暮らしている。一誠とイリナとは

友達で一誠に好意的な気持ちを抱いている様子。二天龍の白龍皇アルビオンを宿し神滅具(ロンギヌス)の一つ白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)を所有している。

 

イリナ 好きなもの 遊び 一誠とヴァーリ 嫌いなもの 一誠とヴァーリを害するもの

 

一誠とヴァーリと仲がいい女の子。一誠はイリナを女のこと気付かずずっと男の子だと思っていた。

イリナは一誠に好意を抱き、一誠が修行の旅に出るまでヴァーリと共々遊んでいたが、

ヨーロッパで修行していた一誠と再会を果たすものの別れている間にヴァーリと

会っていたと聞いて嫉妬で叩いてしまい、そのまま一誠と別れてしまった。

 

堕天使の総督アザゼル 好きなもの 神器(セイクリッド・ギア)に関するもの 女 

           嫌いなもの 自分の楽しみを邪魔するもの

 

神話関連に登場する勢力の一つ、堕天使のトップの堕天使。

誠と一香とは古い付き合いで神器(セイクリッド・ギア)マニアでもある。

女に関してハーレムを築き上げた男でもありその逆でもある。一誠に多大な興味を抱き、

しばらく一誠を見守る側となる。

 

バラキエル 好きなもの 朱乃 朱璃 嫌いなもの 家族に危害を与えるもの

 

堕天使の幹部で娘の朱乃が好きな親バカ。妻の朱璃とはいかがわしい趣味で夜を過ごすことも(一誠談 裸でおじさんが縛られておばさんがおじさんに鞭を叩いていた)。

朱璃の親類に襲撃を受け、後に親類が雇ったと思しきてだれの三人組から朱璃と朱乃を

守ってくれた一誠とリーラ、オーフィスに深く感謝の念を抱いている。

 

姫島朱璃 好きなもの 朱乃 バラキエル 嫌いなもの 特になし

 

バラキエルの妻で朱乃の母親。朱乃の友達と成ってくれた一誠とオーフィスを感謝し、

しばらくリーラと二人を快く家に住まわせてくれた優しい女性だが、

どうやらバラキエルと夜な夜ないかがわしい趣味をしている様子。親類が雇ったと

思しき男から朱乃と共々命と体を張って守った一誠に感謝の念を抱く。

 

姫島朱乃 好きなもの 朱璃 バラキエル 一誠 嫌いなもの 不明

 

朱璃とバラキエルの娘であり人間と堕天使のハーフ。ずっと朱璃とバラキエルと質素に暮らしていたところ、

バラキエルの計らいで一誠たちを家に住まわせた結果、初めてできた同年代の友達に

はしゃぎ直ぐに懐く。朱乃を狙う襲撃者から守ってくれた一誠に恋心を抱き、リアスと

一誠の取り合いが絶えなかった。

 

黒歌、 好きなもの 白音 嫌いなもの 白音に害するもの

 

母親を亡くし、白音を不自由のない生活をさせるために転生悪魔となった猫の妖怪。

一誠と出会い、妹である白音と会わせ友達になってもらおうと黒歌の主である悪魔の城に連れてきたが、

その悪魔は縁者でさえも眷属悪魔に過酷な能力向上を施していた。そんな悪魔が

まだ幼い人型ドラゴンである一誠に目を付けた結果、一誠に不快感を買い、

駆けつけた五大魔王の一人フォーベシイによって眷属は保護という名目で解散。黒歌も

自由と成りリアスの家、グレモリー家の食客として白音共々不自由のない生活を送り、

一誠の飼い猫もとい家族となった。

 

白音 好きなもの 黒歌 嫌いなもの 黒歌に害するもの

 

まだ幼い白音は姉の黒歌に育てられ、黒歌が好き。黒歌と不自由なく暮らせ、

幸せだったが黒歌によって出会った一誠が状況を把握できないまま黒歌の主である

悪魔に罰し、グレモリー眷属の食客となった。後に兄と慕う。

 

ルシファー 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

冥界の悪魔を統べる五大魔王の一人。

 

レヴィアタン 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

冥界の悪魔を統べる五大魔王の一人。

 

ベルゼブブ 好きなもの 剣術 嫌いなもの 不明

 

冥界の悪魔を統べる五大魔王の一人。

 

アスモデウス 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

冥界の悪魔を統べる五大魔王の一人。一誠に魔力の扱い方を教えた師でもある。

まだ子供だからか遊び半分であっという間に魔力の扱い方を覚えたことで驚きを隠せなかったようだ。

 

フォーベシイ 好きなもの 家族、家事 嫌いなもの 家族を害するもの

 

冥界の悪魔を統べる五大魔王の一人。他の魔王と違い長く魔王として君臨している。

メイドの妻や娘は二人いて親バカでもある。

一誠と娘と結婚させようと考えており、黒歌と白音の一件でも一誠の願いを聞き受けた。

 

ネリネ 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

フォーベシイの娘で冥界の姫。姉のリコリスとは仲がいい。

 

リコリス 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

フォーベシイの娘で冥界の姫。妹のネリネとは仲がいい。

 

リアス・グレモリー 好きなもの 家族 嫌いなもの 不明

 

サーゼクス・グレモリー 好きなもの リアス、両親 嫌いなもの 不明

 

アルマス・グレモリー 好きなもの 家族 嫌いなもの 不明

 

ヴェネラナ・グレモリー 好きなもの 家族 嫌いなもの 不明

 

川神鉄心 好きなもの 百代 女 嫌いなもの 悪口

 

武の総本山とも称されている川神院の総代を務める老人。孫娘である百代を可愛がる。

 

ルー 好きなもの 清い心の持ち主 嫌いなもの 悪

 

川神院の師範代で一誠の師匠。一誠に心構えを学ばせた。

一誠の強さが悪い方へ向かうのではないかと危惧していたが一誠の純粋さを知り後顧の憂いを無くす。

 

釈迦堂刑部 好きなもの 力 梅屋 嫌いなもの 面倒なこと 

 

ルーと同じ川神院の師範代で一誠と百代の師匠。一誠に武術を学ばせた。

川神院の中で一誠と長く接したのは釈迦堂で、一誠の強さを気に入り成長を見守る。

 

川神百代 好きなもの 一誠 ピーチジュース 強者 嫌いなもの 退屈、弱い者いじめ

 

川神鉄心の孫娘でまだ小学生でありながらその強さは年上(小学生)を圧倒する。

兵藤家との交流稽古試合で知り合い、決勝戦まで勝ち残った一誠を気に入り、

それ以来川神院に居着いた一誠と鍛練をしたり遊んだりと常に傍にいた。

何時しか一誠の正体も知り、その強さも魅かれ次第に好意を抱くようになった。

 

エスデス 好きなもの 家族、一誠 嫌いなもの 家族を害するもの全般

 

マフィアのボスの娘。氷系統の神器(セイクリッド・ギア)を所有している模様。

自他共に許す化け物だと思って過ごしていたところ「自分が本物化け物」とドラゴンで

ある一誠に言われて、

その証さえ見せつけられたエスデスはそれ以来、一誠と度々接して行くうちに好意を抱く。

 

板垣亜巳 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明 

 

辰子と竜兵、天使の長女。親不孝通りでマフィアに暴行を加えられているところを

一誠、釈迦堂、百代、オーフィスが出くわし救出後四人を釈迦堂が川神院の養子として受け入れた。

 

板垣辰子 好きなもの 昼寝、一誠、家族 嫌いなもの 家族を害するもの全般 昼寝の邪魔

 

四人兄弟姉妹の次女。何時も寝ることが好きでどこでも寝ることが可能。一誠を一目で

気に入り弟にしたいと宣言するほど。

 

板垣竜兵 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

亜巳と辰子の弟、言動と言葉は悪いものの亜巳たち家族を大切に思っている節がある様子。

 

板垣天使 好きなもの 楽しいこと ゲーム 嫌いなこと つまらないこと

 

兄弟姉妹の末娘で―――以上(ウチの説明が極端に少な過ぎだろう!)

 

直江大和

 

風間翔一

 

岡本一子

 

島津岳人

 

師岡卓也

 

椎名京 好きなもの 読書 嫌いなもの いじめ

 

椎名菌と母親の関係で同じ学校の小学生にイジメを受けていた。一誠たちが遊んでいた

ところを見掛け、羨望の眼差しを向けていると一誠から誘われ、一誠と遊ぶようになる。

 

(榊原)こゆき 好きなもの ましゅまろ、一誠 嫌いなもの 不明

 

京と同時刻、一誠たちを見かけ羨望の眼差しを向けていると一誠から誘われ、一誠と遊ぶようになり、

親から虐待されていることを発覚し、一誠とリーラの働きにより九鬼家を動かし、

母親から親権を剥奪し、新たな義理の母親のもとで暮らすようになる。

 

九鬼揚羽 好きなもの かりんとう 家族 一誠 嫌いなもの 家族がいするもの 

 

世界最大の財閥の一つ、九鬼財閥の長女。額に☓の傷跡が特徴で喋り方が古い

そんな揚羽は一誠と出会い、兵藤家の舞を見に海外へやってきて一誠とその始まる時まで

待っていたがテロ攻撃に巻き込まれ、一誠が命を張って守ったことで揚羽は

一誠のことばかり思うことが多くなり好意を抱く。

 

九鬼英雄 好きなもの 自分 家族 嫌いなもの 不明

 

世界最大の財閥の一つ、九鬼財閥の弟。揚羽同様に☓の傷跡がある額が特徴で

テロ攻撃から守ってくれた一誠を心から認めた。

 

九鬼帝 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

揚羽と英雄の父親で九鬼財閥の当主テロ攻撃で揚羽と英雄を救った一誠に感謝している。

こゆきの件で周りから懇願され義理の親捜しを実行した。

 

ヒューム・ヘルシング 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

我が強くプライドも高い老執事。鉄心とは旧知の仲。

 

クラウディオ・ネエロ 好きなもの 不明 嫌いなもの不明

 

一誠に初めて声を掛けた老執事。テロ攻撃で一誠の行動により無事被害者たちを引き連れて脱出し

命を救われたことでこゆきの件で帝に進言した。

 

ユーストマ 好きなもの 家族、男気がある男 嫌いなもの 天界、家族に害するもの

 

熾天使(セラフ)とは違う存在でもありつつ同等の存在。神王として熾天使(セラフ)と共々

天使や教会、人間を見守る。一誠を心から気に入り、娘のリシアンサスと出会わせる。

魔王フォーベシイとは仲が良く勢力、種の壁をブチ壊してたまに冥界か人間界へ訪れては

酒を飲みかわす。

 

リシアンサス 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

ユーストマの娘で天界の姫でもある天使。

 

シスター・グリゼルダ 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

施設にいるシスター。一誠の世話役として任される。

 

レティシア・J・D・ルーラー 好きなもの 聖書 嫌いなもの 人間に害するもの

 

一誠と初めて友達になった少女。

イタリア語が分からない一誠からの懇願に読み書きを教え、討伐でも共に組む。

しかし、魔獣を討伐した時に出くわした同性の血しか飲まない吸血鬼に一誠が襲われて

何もできなかった自分に悔しさと申し訳なさで一誠を守れるぐらい強くなりたいと願い

始めたところで魔獣に一誠共々吸血鬼の世界へ誘拐された。

そこで一誠と渋々暮らしつつ楽しい生活を送っていた。

が、一誠の存在を男尊派のツェペシュ王の耳に入り一度は城に向かった一誠が戻って来て

喜んだのも束の間、忽然と姿を消して一誠がいるであろう王の城へ吸血鬼たちと

駆けつけた時には暴走気味の一誠がいたのだが、

人間と吸血鬼のハーフのヴァレリーの力により沈黙した。その後、別の場所に通れる

ゲートに潜ると一人のエルフの少女とドラゴンと出会い、色々と遭ってエルフとその国と

世界を駆け回っていると一誠の両親とも合流を果たし何故かハーフの悪魔が加わり、

さらにエルフとハーフエルフの母娘を救った後に無事にイタリアに戻って来られた。

一誠の傍に立ちたい、生きたいという願いも強まり、一誠に好意的な感情を抱くようにもなった。

 

ストラーダ猊下 好きなもの 信仰、戦士 嫌いなもの 神、天使に害するもの

 

一誠の剣術の師、老人でもあるのに拘わらずまだまだ現役であると醸し出す強靭な肉体の持ち主。

聖剣デュランダルを扱い魔に属するものを一瞬で倒す程の実力者。一誠の素性を知り

教会の戦士として育てたいという意欲が湧きあがり、吸血鬼に誘拐され戻ってきた

一誠が持ってきた数々の神話に関する伝説の武具に感嘆する。しかし、敵と仲良くなる

一誠に教会の戦士として不向きであると烙印を押すものの一誠が放つ祝福の光に教会に

とって惜しい存在であると漏らす。

 

クリスタルディ猊下 好きなもの 信仰 嫌いなもの 神、天使に害するもの

 

一誠のもう一人の剣術の師。聖剣エクスカリバーの使い手で一誠とルーラの討伐に同行する時もある。

吸血鬼に誘拐され教会の施設にまで侵入してこないであろうと踏んでいた

自分の他愛のなさと不甲斐なさに悔んでいた。一誠がエクスカリバーの天然の適正者で

あることを判明し、祝福の聖剣(エクスカリバー・ブレッシング)の祝福の力を使役させた。

 

アルトルージュ・ブリュンスタッド 好きなもの 一誠の血 嫌いなもの ニンニク

 

一誠を連れてくるように魔獣プライミッツ・マーダーに指示した張本人。

招かざる客(ルーラ)も連れて吸血鬼の世界へ連れ込んだ。当初は一誠の血を飲むことを

楽しみにしていたのだが一緒に住むようになってから料理を作る一誠とルーラに

食べさせられたり恥ずかしい自分の過去の写真を見せられたりと賑やかな生活を楽しむ

ようになったのだが、ツェペシュ王に一誠の存在を気付かれ連れて来いと命令された

ことで父親の城を守るか一誠を守るか悩んだところで一誠から励ましのプレゼントを送られた。

一度あっさりと戻ってこれた一誠に驚くが安心して出迎えたのも束の間、

いなくなっている一誠はツェペシュ王の城にいることを悟り、二人の騎士と魔獣、

ルーラを引き連れて一誠がいる研究所に現れたのだが、吸血鬼に殺意を抱いた暴走気味の一誠と

出くわし、クロウ・クルワッハとヴァレリーのおかげで一誠は治まり、

違う場所に移動できるゲートが出現すると一誠と共に生きることを決意した。

 

リィゾ=バール・シュトラウト 好きなもの 不明 嫌いなもの ニンニク

 

アルトルージュから黒騎士と呼ばれている吸血鬼。

純血な吸血鬼なのだがどうしてアルトルージュの父親の代から仕えていたのかは不明。フィナの趣味と性癖に呆れていて一誠に容赦するなと言うほど。

 

フィナ=ヴラド・スヴェルルデン 好きなもの 同性の血(美少年or幼い子供) 

                嫌いなもの ニンニク料理

 

一誠の血の味を知って一誠のことをアルトルージュに告げ、

吸血鬼の世界へ誘拐することになった元凶とも言える吸血鬼。同性の血しか飲まない

変わり者の吸血鬼で、一誠と一誠の血を夜這でも朝這でも遅い狙ってもおかしくは

無いほど。一誠とルーラから凄く警戒されていて敬遠されている。

 

プライミッツ・マーダー 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

アルトルージュの使い魔みたいな魔獣。プライドが高く犬扱いをされるのを毛嫌い、

一誠に犬扱いされると逆に偉そうな態度を取り、あまりにもしつこいと鋭い爪でひっかく。

 

ツェペシュ王 好きなもの 血 嫌いなもの 吸血鬼の弱点

 

一誠の存在を知り直接一誠と話し合ってただの人間ではないと悟る。

血を飲んでパワーアップを果たしたがそれは最悪の予兆でもあった。

 

マリウス・ツェペシュ 好きなもの 研究 嫌いなもの 不明

 

王位継承第五位の王族、純血の吸血鬼だが研究者でもある為、王位の継承には興味がない。

一誠の血の効果を知り多大な興味と好奇心で接するが一誠に警戒されてしまい、一度は返すが何らかの方法で再び今度は城の研究所に閉じ込めドラゴンの血を抜き取り

ハーフヴァンパイアたちに血を飲ませることでどんな変化が起きるのか試した。

その結果、神器(セイクリッド・ギア)を発現、発動することが分かりヴァレリーの

神器(セイクリッド・ギア)は生命の理を覆すことができる神滅具(ロンギヌス)幽世の聖杯(セフィロト・グラール)も発現した。

 

ヴァレリー・ツェペシュ 好きなもの 着せ替え 嫌いなもの 不明

 

吸血鬼と人間のハーフ。マリウスの計らいで血を飲ませようとしたが一誠が自分の血を

抜き取ったマリウスに怒るが神器(セイクリッド・ギア)を発現したハーフの吸血鬼たちに

よって倒された光景を見てしまい、罪悪感を抱く。後に暴走気味になった一誠を止める為、

一誠のドラゴンの血を飲んでマリウスが絶賛する幽世の聖杯(セフィロト・グラール)の力で治めた。

その後ヴァレリーは一誠たちと共に行動をし外の世界へ旅立つことができたのだった。

 

 

ルクシャナ 好きなもの 人間観察 嫌いなもの 不明

 

人間を蛮人と呼ばせる育て方をされていたので当然のように人間に対してそう呼ぶが悪意は無い。

学者で人間の文化や風習、私生活に興味があり使い魔を召喚する召喚魔法で一誠たちが現れたことで

 

強引にイタリアへ帰ろうとする一誠たちと共に行動する。

 

ナヴィ 好きなもの 観察 嫌いなもの 狭い所

 

世界を監視する下級悪魔の一族。誠からの願いを聞き受け入れた見返りに異動する

ことなった日本で共に過ごすことを要求した。

 

ティファニア 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

エルフと人間のハーフ。父親の親族によって送り込まれた騎士たちに殺され

掛けたところで一誠とクロウ・クルワッハに母親ともども助けられ後、共に行動をする。

 

シャジャル 好きなもの 家族 嫌いなもの 不明

 

アルビオン王国の王の弟の妾でティファニアの母親。ハルケギニアは長年エルフが住んでいる場所に『聖地』があることからその場所を巡って六千年間も争っていた為にエルフを嫌悪、畏怖の念を抱かれている。そのエルフを愛人として密かにサウスゴータへ隠すようにひっそりとティファニア共々暮らしていたある日。自分たちの存在を知って亡き者にしようと現国王が送った兵に殺され掛けたところで一誠とクロウ・クルワッハにティファニアと一緒に救われた後、一緒に暮らすようになった。一誠とティファニアが結ばれたことを心から祝福する。

 

 

アラクネー 好きなもの タスペトリー 嫌いなもの 不明

 

タペストリーの競い合いの末にアテネによる呪いを受けてしまい蜘蛛に転生してしまった元人間。

下水道にひっそりと生きていたが人間に発見され、殺すには忍びないと敢えて捕獲して

生かしていたが一誠とルーラ、クリスタルディ猊下を招く結果となった。

一誠を捕まえたのは良いが逆にそれが運の尽きだった。明るく言葉を投げられ続け、

仕方なく返事をしているとクリスタルディ猊下とルーラが現れ、

二人も捕獲しようとしたが一誠の制止と人間の足を与えられ、

アラクネーは再びタペストリーを織ることができたのだった。

 

 

三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)クロウ・クルワッハ 好きなもの 戦い 修行 嫌いなもの 不明

 

邪龍の筆頭格と呼ばれる最強の邪龍。誘拐された一誠を探すリーラとオーフィスと出会い、

一誠の素性を知るや否や積極的に吸血鬼の世界へ入り込み、暴走気味の一誠と戦う。

その後、一誠の誘いを受け行動を共にするようになる。

 

天の邪龍 アリュウ 好きなもの 戦い 嫌いなもの 不明

 

天龍と邪龍に近いドラゴン。邪龍みたく戦いを好み、イタリアに向かって飛行機に乗っていた

一誠たちを引きずり降ろし戦いを挑んだものの一誠と山の深奥に封印されていた

アジ・ダハーカと現世に召喚されたネメシスにより撃退の形で再戦を望む言葉を言い残し姿を暗ました。

 

魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザント・ドラゴン)アジ・ダハーカ 好きなもの 戦い 嫌いなもの 不明

 

ダマーヴァント山の深奥に封印されていた邪龍の筆頭格の一匹、千の魔法を駆使し、

善神の集団に牙を剥いたというドラゴン。

一誠とネメシスとアリュウを追い払い、後に一誠と戦った末に共に生きる事となった。

 

天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)ティアマット 好きなもの 暴れること 嫌いなもの 不明

 

五大龍王唯一の女性でありの最強のドラゴン。アジュカの盟友にして

レーティングゲームの重要なポストの存在。一誠から友達になろうという言葉と

話し合った結果、ティアマットは一誠を認めた。

 

魔煌の絶禍龍(カオス・ブレイカー・ドラゴン)ネメシス 好きなもの 会話 嫌いなもの 兵藤家

 

一誠の中に宿るドラゴン。生前は力がないが特殊な力で相手の動きや能力を封じる力を持っていた。

幼い一誠を見ていたので一誠と長い付き合いで今後の成長を楽しく見守っている。

 

ゾラード 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

消滅と無効化を司る聖書の神でさえ近づきたくないドラゴン。誠と一香、様々な神に

神器(セイクリッド・ギア)として肉体諸共魂を封印されメリアと一緒に一誠の中へ宿る。

朱乃を狙った襲撃の際、一誠を主と認め力を貸すようになった。

 

メリア 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

創造を司るドラゴン故に一部の神から狙われていた。自ら神器(セイクリッド・ギア)として

なることを望み誠と一香の計らいで本来誠輝に渡るはずだったものの誠輝はただの石だと

認知してしまい一誠の手に渡った。ゾラードと一誠の中へ宿りメリアの姿(龍化)が主に使われる。

 

グレートレッド 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

一誠の命の恩人もとい恩龍。世界と世界の狭間、次元の狭間に棲む不動の存在。

オーフィスと一誠を有り得ないドラゴンに転生させる形で復活させる。

 

 

―――国立バーベナ駒王学園―――

 

 

2-F

 

金剛 好きなもの 妹 ティータイム 嫌いなもの 兵藤

 

英国子女の神器(セイクリッド・ギア)所有者。一年前、兵藤誠輝を含む数人の兵藤に比叡、榛名、霧島の精神、自我を崩壊させるほどのことをされたため、金剛は兵藤家を憎んでいる。編入してきた一誠を少なからず警戒していたものの、編入した際に傍若無人な働きをしに来た数人の兵藤家を躊躇も無く倒したことで信用。神器(セイクリッド・ギア)の性能故に戦いは困難だったが一誠の知恵によってフェニックス戦では活躍。そして祝福の聖剣(エクスカリバー・ブレッシング)とメリアの創造の力によって植物状態に近く一年も眠り続けていた三人の妹たちが目覚め、金銭的な援助もしてもらったことで金剛は心底喜び、一誠に対する感謝と想いを告げて一誠のハートを掴むことを頑張る、

 

パチュリー・ノーレッジ 好きなもの読書 嫌いなもの兵藤

 

金剛の友人。魔女であるが生まれつきの喘息と貧血で碌に魔法や魔力を扱うことができない。一誠が持つゼルレッチの本に興奮する以前に読書するのが好きであり趣味である。一誠に対する感情は友達以上恋人未満(かな?)。兵藤には何時も警戒してボイコットしてでも図書室で読みたい思いは、一誠が気を利かせ魔法で構築した分身体でボディーガードによって叶えられた。

 

比叡、榛名、霧島 好きなもの 金剛 ティータイム 嫌いなもの 兵藤

 

兵藤誠輝を含む数人の兵藤に精神と自我を崩壊させられ、一年も眠りに付いていた金剛の妹たち。目が覚めたのは一誠のおかげ、金剛を助けたという事実に少なからず感謝の念を抱く。それから一誠は他の兵藤とは違う事を知って、受け入れる。

 

 

2-C

 

兵藤の言動の影響でF~Dまで三クラスが女子しかいないクラス以外で唯一、女子がいる教室。

 

 

式森和樹 好きなもの 魔法に関するもの 嫌いなもの 友人を傷付ける者

 

式森家当主の実の息子。魔法使いとしての実力は一流でクラスメートからも信頼は厚い。一誠が魔法を使えない兵藤家なのに魔法を扱えた事に疑問を抱きコンタクトを取ってから、興味を抱き一誠は現当主の姉と元当主だった兵藤の間に生まれた者と知り驚く。

 

神城龍牙 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

万屋『九十九屋』の経営している兄の弟。好青年みたく優しい雰囲気を何時も醸し出して和樹、カリン、清楚と何時も一緒にいる。仕事に暗殺のような汚れの仕事があることを把握しつつ家族を応援する。とある日、剣の達人の家族が手も足も出せなかった話を聞き、純粋に驚いた。その原因は当時幼少のころだった一誠であると知って驚愕。

 

 

カリン・デジレ・ド・マイヤール・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール

 

好きなもの 正義、嫌いなもの 悪

 

ハルケギニアの貴族の四姉妹の妹。留学生として駒王学園にやってきた魔法使いでもある。和樹に「ちゃん」付けされる度に怒り、兵藤に対しても軽蔑、敵意。

実は一誠と小さい頃に少しだけ会って一誠自身もそれを思い出したがそれ以降特に進展は無い。

 

 

葉桜清楚(覇王項羽) 好きなもの 杏仁豆腐 嫌いなもの 理不尽

 

清楚な雰囲気と言動をする少女。だが、その正体は西楚の覇王・項羽の魂を受け継いでいる古の英雄と関わりある人物だった。曹操に看破され酷く驚く。

強いらしく、和樹と龍牙が認めるほどの実力者。主に前線には出ずにいるので

本当かどうかは定かではない。

 

 

川神学園

 

魔人シオリ 好きなもの 一誠 嫌いなもの 不明

 

三大勢力戦争に悪魔側として戦っていた魔人の子孫。数が少ない分、能力は協力で相手の魔力や気(闘気)を奪うなどと兵藤家や式森家にとって天敵に等しい種族。

戦争が続くにつれ、元々少ない数がどんどん減っていき、やがて種の存続が危ぶまれると戦争から離脱。種の繁栄と存続の為に冥界の辺境や人間界で暮らしハーフでも血と力を絶やさないようにしていたが戦争が終わっていない次期、三大勢力に利用されるか討伐されるかで魔人はついに悪魔を敵として接触を拒むようになっていると兵藤家と式森家の介入によって戦争は終わり、それからシオリの話だとどこかで息を潜めて暮らしているらしい。魔人の儀式は魔人同士、互いの魂を半分に分け与えることで魔人の力を更に高め絶やすことはなくなる。その儀式をした一誠とシオリの結果、サマエルによって肉体を失った一誠は無意識にシオリの中に宿り、魂を一つになったことで意識を覚醒したらしい。同時にシオリは一誠の力を完全に振るえ、兵藤家次期当主選抜大会で一誠と参加していた人間と化した二人の五大龍王を圧倒。

 

 

英雄派

 

曹操 好きなもの 一誠 嫌いなもの 不明

 

テロリストの一派、英雄の子孫と末裔、魂を受け継ぐ者、神器(セイクリッド・ギア)の所有者が集った集団のリーダー的存在。修行としてやってきた一誠と一年間共に過ごし、太古の英雄みたいな偉業を果たす凄い人間になると目標を語った。一誠は曹操を応援し自分の代わりにやってくれと願ったことで今の曹操ができた。

英雄派のリーダーとして旧友の一誠をハーデスと何十ものの契約をした末に得た究極のドラゴンスレイヤー龍喰者(ドラゴン・イーター)サマエルを用いて一誠から全ての力と命を奪った。しかし、魂を二つに分けあったシオリの中に一誠が宿っていたことで肉体を失っただけで殺したとは言い切れなかった。後に復活した一誠、リゼヴィムがリーラーを殺して精神が崩壊、異世界からやってきた兵藤一誠、グレートレッド(ガイア)、オーフィス、トドメはグレートレッドによって倒され、隙をついて一誠を拉致、記憶を封印して洗脳、男女の関係となる。しかし、吸血鬼の世界で一誠はサマエルの毒と呪いを受け、ゲオルクとジークフリートとヘラクレスの独断行動により一誠を含みリース、呂綺、セカンド・オーフィスが脱走・脱退したことで怒り狂う。

人間界の騒動に駆けつけ、一誠を取り戻そうとするが誠の存在によって英雄派は一網打尽。だが後に一誠の策によって英雄派は再び活動する機会が得ることになる。

 

ゲオルク 好きなもの 魔法に関する事 嫌いなもの 不明

 

悪魔メフィストと最初に契約したゲオルク・ファウストの子孫。

豊富な術式を扱え、一誠が保有していたゼルレッチの魔法の本の知識を得たことで和樹を圧倒する実力を得た。新しく入ってきたリースには危険分子として常に目を光らせながらも曹操をサポートして来た。一誠がサマエルの毒と呪いを受け、治療の施しがないと非情に冷徹な判断で斬り捨てると発した。リースがそれを阻もうとすることを想定にヘラクレスとジークフリートに裏切りを伝え、仮に二人を突破するようなことを起きた場合に備えて外に待機していたがセカンド・オーフィスの働きによってゲオルクは相手にされることは無く曹操にお仕置きされ、誠に捕まり捕縛された。

 

ジークフリート 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

英雄シグルドの末裔。六つの魔剣+光の剣を駆使して戦う元教会の戦士。

教会繋がりで一誠とルーラーを知っていて剣の腕は凄まじい。

一誠との稽古や特訓で更に実力を増し、クロメや暗殺稼業で躊躇のないアカメの巧みな動きとコンビネーションを難なく対応するほど。だが、ゲオルクの発案で一誠の暗殺に協力、リースを阻んで共に亡き者にしようとしたが戦いの気配を感じ取った呂綺によって一蹴され、怒り狂う曹操にお仕置きされる。

 

ヘラクレス 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

英雄ヘラクレスの魂を受け継ぐ巨漢の男。

一誠との稽古や特訓で以前よりも強さを得て神器(セイクリッド・ギア)もパワーアップした。一誠を認めていたのだがゲオルクの発案により暗殺に協力、最初にリースを阻んだが軽く相手にされず脱走を許してしまった。ジークフリートに足止めされているリースを追い詰め、一誠を捕まえたまでは良かったものの、呂綺の介入により暗殺は失敗、怒り狂う曹操にお仕置きされる。

 

 

レオナルド 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

神滅具(ロンギヌス)魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)の所有者の子供。

一誠との特訓の成果で様々な耐性、衝撃を吸収し外へ逃がしたり魔力を吸収、小型魔獣は魔法使いであれば魔法、魔力を吸収どころか魔法使いを呑みこむことで魔法使いの力を放つことができる歴代の魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)を超える逸脱した能力を得たが、リゼヴィムに強引で所有者のキャパシティを超える魔獣=魔龍を創造され意識を失った。

 

 

モルドレッド 好きなもの 不明 嫌いなもの アーサー

 

アーサー王伝説に出てくるモルドレッドの末裔。アーサーを超える為に

追いかけていたら英雄派に所属していた少女。一誠と共通するところがあり、

一誠を打倒しエクスカリバーを得る約束をした。

記憶を封印され、洗脳された一誠とは一気に距離を縮め、雰囲気の流れ的に

肉体関係とまで発展した。

 

セカンド・オーフィス 好きなもの 不明 嫌いなもの 不明

 

一誠やオーフィスの力を奪って再構築した一誠の分身とも言える少女。

その実力はオリジナルのオーフィスと張り合えるほど。

拉致された一誠を好奇心神、興味を持っていて英雄派として存在する一誠の傍にいた。

曹操が一誠と艶めかしく濃厚なキスシーンを見て、見よう見真似で一誠とキスをすると気に入ってそのまま身体を重ねた。それから一誠にキスをするようになり、毎日一緒に寝るようになった。

 

リース・ローラント 好きなもの 国 家族 一誠 嫌いなもの リゼヴィム

 

ローラント王国の女王だった少女。リゼヴィムによって国は滅茶苦茶にされ、家族は目の前で殺されたと凄惨な目に遭う。復讐を誓い、途方に暮れるリースにリゼヴィムを追い掛けてきた一誠と出会い、力と復讐の機会を与えると誘惑に魅かれ誘いに乗って英雄派のメンバーとなった。後に人間からドラゴンに転生され、一誠によってドラゴンとしての力を身につけ、槍を扱えることからブリューナクを貸し与えられている。

リースも身体を重ね、一誠に好意を抱く。だが、ゲオルクとジークフリート、ヘラクレスの一誠暗殺を聞いて殺される前に敵対している勢力(厳密にはリーラたち)に引き渡して治療をして貰おうと決意をして脱走を図ったもののヘラクレスとジークフリートに阻まれ、殺され掛けた。呂綺とセカンド・オーフィスの助力によって次元の狭間にいたグレートレッドの背に乗って逃げ延びた。その後、人間界と冥界の騒動を知った一誠と共に行動してリゼヴィムが創造した魔龍を協力して倒した。しかし、現れたリーラによって歯牙も掛けられずに一蹴され冥界の辺境にある施設に収容されたが、一誠の策により再びリゼヴィムに対する復讐を続けられるようになる。



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エピソード1

世界各地で修行を初めて数年後の朝―――。

 

ジリリリリリリリッ!

 

「・・・・・んー」

 

けたたましく鳴る音を停めようと腕を伸ばす。適度に鍛えられた腕は音がする方へ

伸びて―――第三者の手によって音を停められた。

 

「おはようございます」

 

「・・・・・ぐー」

 

「起きてください、朝ですよ?」

 

第三者の言葉が寝ている者の意識をぼんやりと覚醒させる。一緒に寝ている黒い長髪の

少女の隣で身体を起こすと真紅の頭に寝癖があることを気付き、

サッと長い銀髪を一つに結ったメイドが梳かすと少年に訊ねられた。

 

「・・・・・今日はいつまでいたの?」

 

「一時間ぐらいですが?」

 

「・・・・・何時も思うけどさリーラ。俺の寝顔を毎日見てもつまらないと思うけど?」

 

どうやら習慣らしく、目覚めた者の寝顔を見ていたメイドが「そんなことはございません」と述べた。

 

「寝言も漏らす時もありますのでつまらなくはございませんよ」

 

「・・・・・プライバシーの侵害じゃない?」

 

「家族ですから侵害も問題にはなりません」

 

家族と言われ、真紅の髪に垂直のスリット状の金色の瞳を持つ少年は言い返すことができず、

息を漏らした。

 

「その言葉を使うと俺が弱くなることを知っててズルイよ」

 

「申し訳ございません一誠さま」

 

「ん・・・・・おはよ」

 

黒髪の少女が起き上がるもまだ眠気があるようで一誠に寄り掛かった。

そんな少女にオーフィスと呼び頭を撫でた。

 

「既に朝食のご用意ができております」

 

「わかった。それじゃリビングキッチンに行くとしよう」

 

オーフィスを抱きかかえリーラと共に目的地へと歩む。一誠は全ての修行を終え、

それ以降とある場所で暮らしている。今現在そんな場所で暮らしているメンバーは

一誠とリーラ、オーフィスは当然として―――。

 

「おはよう美少年!今日も私と熱いベーゼを―――(ガシッ!)」

 

「・・・・・何時も身内のバカが迷惑を掛ける」

 

「プライミッツ・マーダ、リィゾと一緒にフィナを見張ってて」

 

『・・・・・(コクリ)』

 

「飽きないわねぇー?同性の血を飲むなんてそんなにいいのかしらねテファ?」

 

「さ、さぁ・・・・・私には分からないわルクシャナ。ね、お母さま」

 

「ふふ、そうね」

 

「でも、一誠の血は吸血鬼にとって美味しいのは確かよ?」

 

「ドラゴン同士が飲めばどうなるのだろうな。少し興味がある」

 

「あんまり変わんないじゃない?ま、試して効果があったら私に教えてねー?」

 

「おはよう、一誠とオーフィス」

 

男女の十人と一匹。全員人間ではなく、一誠がこれまで世界各地で修行していた中で

出会い、一誠の家族となったメンバーである。リーラが視線をある人物に向けた。

 

「―――咲夜。私たちも座りましょうか」

 

「はい、リーラさん」

 

メイド服を着ている銀髪の少女が頷き、全員が席に座ったことで朝食の時間が始まった。

ご飯、味噌汁、おかずに焼き魚とたくあん、のり、納豆とポピュラーな料理を食べる

面々は雑談も投げる。

 

「一誠さま」

 

「なんだ?」

 

「一誠さまはもう修行を終わりになられましたので、これからはどうしたいのですか?」

 

そう問われ、一誠は頭を捻った。特に修行以外はやることはない。

社会に出ても恥ずかしくない最低限なことはリーラから教わっている。一誠がリーラの

質問にどう答えようか悩んでいると。

 

「思い付かないんならさ、下界に出て見てくればいいじゃない?」

 

「ナヴィ?」

 

「考えることよりも行動で決めた方が良い時もあるわけよ。なによりも―――」

 

ガーゴイルと人間のハーフであるナヴィがそう提案した。

そして意味深に言い続けたナヴィの口から。

 

「今現在、人間界は悪魔、堕天使、天使、人間たちで溢れかえっているから私たちも

外に出て問題ないと思うわよ?」

 

ナヴィの提案で一行は外に出かけることに決まった。朝食を食べ終えた面々は支度を

整え町に繰り出す。

 

「んー久し振りの外は良いわね。ヴァレリーのおかげで太陽の下でも活動できるように

なったから感謝だわ」

 

幽世の聖杯(セフィロト・グラール)が役に立ってなによりです」

 

「昼夜問わず美少年の血を吸えるなんて最高だ!」

 

「あまりはしゃぐな。視線が集まってくるだろう」

 

晴天の下を歩く一誠たち。美男美女の集団が町中を歩けば、

周りから二重の意味で視線を集めて注目の的となる。

リィゾはそれをあまり好まなく、フィナの言動で周りからの視線を無視。

 

「だけど、何時の間に人間界に悪魔と堕天使と天使が闊歩できるようになったんだ?」

 

「十年前から人間界で共存しようという話しは持ち上がっていたわよ。

その為には色々と面倒なことが起きたり遭ったり、それでもようやく長い月日と年月を

費やして異種族の共存を象徴とするこの町を零から創り上げて完成させたのよね」

 

「私たちにとって敵だらけな町ね。オチオチ気を抜いていられないわよ」

 

「大丈夫よ。特に人間に害を与えた異種族はそれぞれの世界で百年も人間界の出入りを

禁止されちゃうからさ」

 

「私たちエルフと吸血鬼、ドラゴン、魔獣、人間の混合集団だけどそれも適応するのかしら?」

 

「私が抜けているわよ。でも、どうかしらね。

この町は基本、悪魔と堕天使、天使が共存して人間と共に暮らしているからわからないわね」

 

ナヴィがこの町の情報を一誠たちに告げ、認識を植え付けた。

確かにナヴィの言う通り、歩くだけでも悪魔や堕天使、天使たちが堂々と人間界の町を

歩いて楽しげに笑っていたりする。

 

「異種族同士が交流する市街地・・・・・ある意味ファンタジー的な光景だよ」

 

「堂々と人間界で正体がバレても構わない町に暮らせていいんじゃない?」

 

「この町だけじゃなく世界中もそうだったらいいのに」

 

「ヴァレリーさま。それはそれで世界がパニックになりますよ」

 

「そうだな。人間に危害を加える異種族もいるから限定的な場所でしかできないはずだ」

 

理想は儚い。町中を歩きまわり、休憩と兼ねてとあるレストランで昼食をし、

一行は正体がバレても問題のない町で気兼ねなく楽しんだ。

 

 

 

 

 

「素敵な町ですわね。それに私のような存在でも堂々と外に出歩けれるなんて

嬉しい限りですわ。魔王さま方には感謝しないと」

 

「です、色々と規制がありますのでご注意してください」

 

「分かってますわよ。人間に危害を加えたら百年は冥界で暮らさないといけないなんて

イヤですもの」

 

西洋風のドレスを身に包み金髪のツイン縦ロールの少女と顔に半分だけの仮面を

付けている女性がそう話をしていた。二人ともあくまでこの町を訪問しに来た理由は

ショッピングである。親に心配され兄の制止を振り切ってまで付き人を

引き連れてショッピングを楽しもうとする。

 

「まったく、お兄さまも心配し過ぎなのですわ。悪魔に敵う人間なんてそうそういないですのに」

 

「レイヴェルさまを思ってこその発言だと思いますよ」

 

「兄としては尊敬と敬愛をしますが一人の男としては品が無い兄ですわよ。

昼夜問わず猿のように発情する姿を見てはウンザリしますもの」

 

「・・・・・」

 

「あなたのようなヒトがお兄さまのどこに惹かれたのか分かりませんけどね。

貶すつもりはありませんけど」

 

付き人はレイヴェルの発言に何とも言えない表情で無言になる。

心当たりがあるようで付き人にもレイヴェルのジト目が向けられる。

 

「・・・・・レイヴェルさまにもきっと素敵な殿方が見つかるかと」

 

「悪魔の殿方はともかく、人間の殿方で私に見合う者など―――」

 

とレイヴェルが言いかけた瞬間、集団で歩いていた一人の男と軽くぶつかってしまった。

本来のレイヴェルの性格からすれば一言文句を言うが人間界でことを

起こしてはならない決まりがあることを耳に胼胝ができるぐらい言われて、

 

「申し訳ございませんわ」

 

と軽く頭を下げて礼儀正しく謝罪をした。これで些細な問題はなくなったと思い、付き人と歩く。

 

「いてて!いまぶつかったところから激痛がぁ!」

 

「え?」

 

「あー、お前ダチになんてことをしてくれやがったんだ?これはあれだな。重傷ものだぜ」

 

レイヴェルは目と耳を疑った。ぶつかったにせよ激痛がするほどの衝撃ではなかったはず。

ぶつかった相手は痛みが生じている部分に手で押さえ、痛いと大袈裟に言う。

 

「治療費、軽く十万ぐらいでいいか?」

 

「は?なにを言って・・・・・」

 

「あああ?お前がぶつかってきたせいでダチが痛がっているからだろうが。

病院に連れて行くから診察料と治療費を含めて十万を払えって言ってんだ。

なんか文句あるのかよ?」

 

「そうそう、しかもお前が怪我したこいつはあの兵藤家の人間なんだぜ?

お前、逆らってどうなるか知らないわけじゃないだろう?」

 

兵藤家・・・・・。その単語を聞きレイヴェルは緊張が走った。もしも本当に兵藤家なら、

この国を統べている一族の者であればただでは済まないはずだ。

 

「レイヴェルさま・・・・・」

 

「・・・・・分かっておりますわ」

 

問題を起こせば家や家族に迷惑を掛ける。ショッピングの為に持ってきた札束の

一部を抜こうと可愛らしいポシェットに手を突っ込んだ時だった。

 

「あー、見るに堪えない三流の紙芝居にも等しい演技だな」

 

呆れた声が聞こえてきた。レイヴェルはポシェットに手を突っこんだままの状態で声が

聞こえた方へ振り向くと、男女の集団が近づいてきた。

しかも全員、片手にクレープを持っている。

 

「つまらない演技で金をだまし取ろうとするなみっともない」

 

「誰だテメェ!外野は引っ込んでいろ!」

 

「一応、お前らに警告しているんだけど?その二人は悪魔だからさ」

 

―――初見で自分の正体を見破った。あの真紅の髪に金色の双眸の男性は誰なのだろうと

レイヴェルは視線を男たちと真紅の髪の男に目を向けると、

 

「だからどうした。悪魔が人間に手を出してはいけない決まりがあるんだぜ」

 

「そうみたいだな。実際、俺たちもこの町に来たのは今日が初めてだから

この町のルールなんてあまり知らない。だが、悪魔を騙せば人間のお前らにだって

ただでは済まさないはずだ」

 

「人聞きの悪いことを言うな。見ろ、ダチが痛がっているだろうが」

 

「なら、今すぐこの場で救急車を呼んだ方が早いとは思わないか?金を請求するなら

それからでも遅くは無い」

 

真紅の髪の男が携帯を見せびらかす。確かに病院へ連れていくには移動中でも

治療してもらう方が効率が良いかもしれない。その方が応急処置でも施せるからだ。

指摘された男たちから余裕の表情が消え、苦虫を噛み潰したかのような表情となった。

 

「えっと、病院の番号はーっと」

 

「てめぇ!」

 

突然、男が真紅の髪の男に殴りかかった。付き人が動き出そうとしたが

この町のルールを思い出したのか歯がゆい思いを下唇を噛みしめた。手助けができずに

 

ゴッ!

 

真紅の髪の男の頬に拳が突き刺さった。側にいる面々は一歩も動かず、様子を見守る

姿勢になっているのがどうにも気になる。

 

「・・・・・殴ったな?」

 

「なに・・・・・?」

 

「―――えっと、確かに悪魔と天使、堕天使が人間に危害を加えてはいけない。

でも逆に襲われてしまったら正当防衛として度が過ぎた攻撃をしなければ

軽く反抗しても良いというこの町のルールがあることを知らないわけじゃないよねー?」

 

桃色の少女の発言で男たちは目を丸くし、「計ったな!?」と叫んだ。

 

「計った?お前らを謀る為に俺がワザと殴られたと?殴り返す為に?

おいおい、俺は決してお前らに肉体的なダメージを与えるつもりは毛頭もないぞ」

 

「んだと・・・・・?」

 

「くくくっ、だって・・・・・」

 

ザザザッ!

 

「恐喝、恫喝、詐欺罪の容疑と暴行の現行犯でお前たちを拘束する!」

 

自分と同じ同族の者たちが空から舞い降りて男たちを囲んだ。

 

「この町を守る警備隊へとっくに連絡していたからな」

 

その時の真紅の男の表情はとても悪魔ぽかったとレイヴェルは心の中で漏らした。

手を出さず、こんな方法で男たちを無力にした真紅の髪の男に深く頭を下げた。

 

「助けていただき誠にありがとうございます」

 

「ん、別にいいよ。ただ気になった言葉が聞こえてきたからな」

 

「気になった言葉・・・・・ですか?」

 

「ああ、まっ、どうでもいいことだ。もう気にしないことにした」

 

曖昧な返事をされた。だが、レイヴェルには心残りがある。

 

「兵藤家の者が捕まってしまいましたが・・・・・どうなるのでしょうか?」

 

「別にどうもならないだろう。金をだまし取るのが兵藤の人間のやる事ならそれは兵藤が悪い。お前が悪いわけじゃないから気にするな」

 

「ですが・・・・・」

 

レイヴェルは気がかりで仕方がないと醸し出す。そんなレイヴェルに呆れた真紅の髪の

男は言った。

 

「これで問題が発展するとなるなら兵藤家は高が知れる。だからお前はもう気にするな。

せっかく人間界に来て楽しもうとしているのにそんなんじゃ楽しむことが楽しめないだろう」

 

そう言ってクレープを手渡された。

 

「え、これは・・・・・」

 

「まだ食べていないから大丈夫だ。これで今日の一件は終わりにしてくれ」

 

「そんじゃ、またどこかで会おうな」と言い残し、真紅の髪の男と他の面々は

レイヴェルと付き人から離れて去った。

 

「・・・・・あの殿方は一体何だったのでしょうか」

 

「ですが助けられました。申し訳ございません。私が不甲斐ないばかりに」

 

「いえ、あなたのせいではございませんわ。相手を見抜くことができなかった私が悪いのです」

 

今日のことを兄と両親に伝えるかはそれと別でと思いつつ手渡されたクレープを見詰め、

小さくパクリと食べた。

 

「・・・・・甘くて美味しいですわ」

 

―――○●○―――

 

家に戻った一行に待っていた二人組がいた。一行がよく知る人物でのんびりと

リビングキッチンにいた。

 

「よー、一誠と皆。久し振りだな」

 

「元気そうでなによりね」

 

「父さんと母さん!いつここに?」

 

「三十分ぐらい前だな。どうやら皆、町に繰り出していたようだし?」

 

朗らかに言ってどこに行っていたのかも見抜かれた。徐に各々と座りだす一誠たちに

一香が声を掛けた。

 

「一誠、そろそろあなたは当然のことをして貰うわよ」

 

「当然って・・・・・なに?」

 

「勿論、学校に行くことよ?」

 

「・・・・・え”」

 

嫌な反応を示す一誠だった。なぜ今頃になって学校に行かないといけないのか納得できない。

このまま家族と楽しく暮らせばそれでいいと思っていた一誠に誠と一香が言う。

 

「お前ぐらいの奴は高校にも通っているんだ。リーラに知識と勉強を教わっているから

社会に出ても問題ないと思っているだろうが、それだけじゃダメなんだ」

 

「世界を知ったあなたは確かに強くなっている。だけど、同年代の相手と競い合う

楽しさをあなたは知らない。知っているとしても片手で数えるぐらいでしょ?」

 

「全ての修行を終えたお前のことだ。今度は何をしようか考えているだろうと思ってな。

俺と一香はお前たちに学校へ行かせることにした」

 

その時、一誠を含め他の面々が「お前たち?」と疑問を漏らした。

 

「あの、一誠さまだけじゃないようにも聞こえましたが」

 

「ああ、この場にいる全員は学校に行って貰う。それぞれ教師と生徒としてな」

 

「既に私たちで手配をさせてもらったわよ。これは決定事項、異論は認めないから」

 

「・・・・・私たち吸血鬼も?」

 

アルトルージュが自分で指を差せば、一香が頷いた。

 

「ティファニアのお母さん、シャルジャルさんにも学校に行って貰います」

 

「あの、私は一体何をすればいいんでしょうか?人に教えるほどのことはできませんし・・・・・」

 

「ふふっ、あなたは後で教えてあげるわ。きっと驚くでしょうね」

 

意味深な笑みを浮かべ、困惑するティファニアの母親。そんな彼女に賛同する面々もいた。

 

「私たちも他の者に教えるようなことはできないが」

 

「一体この親たちは何を考えているんだろうか」

 

口々にそう漏らす面々を余所に一誠は誠に訊ねていた。

 

「学校に行っても良いの?」

 

「勿論だぞ。元々お前は今の歳になったら学校に行かせる予定だったんだからな。

あの異種族が共存している町にある学校へ」

 

「それって・・・・・」

 

「一誠にとっても負担にならない環境で勉学を励むことができれば私たちは安心できるわ。

そこで友達を作ったりそこで自分が誇れるようなことをして、ガールフレンドとか

作るのも良いわ。学校は青春が溢れかえっている面白い施設なのだからあなたも通うべきよ」

 

「学校の理事長は俺たちと交流している悪魔だからお前のことも知っている。

だから何も心配しないで楽しんでくれ」

 

そう言われてしまい、渋々と一誠は首を縦に振った。

 

「因みに一週間後に入ってもらう予定だからよろしくな」

 

「それで、どこの学校に行くのですか?」

 

その問いかけに誠と一香は顔を見合わせ言った。

 

「国立バーベナ駒王学園という四種の種族が交流する学校だ。

なんなら今夜、その学校に忍び込んでみるか?」

 

誠の言葉で一誠は頷いた。



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エピソード2

国立バーベナ駒王学園。人間、悪魔、天使、堕天使たちが通う学校。敷地は東京ドーム

十個分と広大さを誇る。様々な部活用の施設が学校内にあり小中高一貫のマンモス校。

世界が神器(セイクリッド・ギア)の存在を知り普及する今、

神器(セイクリッド・ギア)が現代の軍事兵器として扱われ所有者を血眼になって捜し、

他国から勧誘、あらゆる手段・方法で自国に属すことも珍しくは無い。神器(セイクリッド・ギア)の所有者の数が

多ければ多いほど、他国にけん制及び圧力を掛けれる黙認の了承すらなっていて、

神を滅ぼすことが可能とされている神滅具(ロンギヌス)の所有者には、

絶対的な権利が与えられVIP扱いされる。

 

―――そんな世界となり異種族同士が通い交流する唯一の学園に崩壊の危機が迫っていることを一誠たちは知らなかった。

 

 

「フハハハ、では始めようか。この場所で俺だけでも戦争を再び起こして始める最初の余興を!」

 

装飾が凝ったローブを羽織り、背中に漆黒の十枚の翼を生やす男が

聖なるオーラを放つ剣を持つ神父服を身に包む白髪の少年と初老の男性を付き従わせて

そう言い放った。学園のグラウンド中に魔方陣が浮かび上がっていて、

最悪な状況であると彷彿させる。その場に黒い戦闘服を身に包む五人の少女たちや

他にも大勢のヒトがいた。

 

「そうはさせない!ボクたちの聖剣を返してもらうよ!」

 

「ああ、お前に奪われた聖剣を奪還し神の名の下で断罪してくれる」

 

「フォーメンションは変わらず戦う。いいな」

 

「はい、問題ありません」

 

「あなたたちは私たちのサポートをお願いね?」

 

茶髪のツインテールの少女が背後にいる面々にそう言い、他の四人と地を蹴って敵に飛び掛かった。

 

「はぁ・・・・・どうしてこうなったのかしら」

 

「相手が相手だ。仕方がないだろう」

 

「サイラオーグ、あなたは堕天使の幹部相手に勝てるかしら?

この町を消滅させる術式が発動する時間前に」

 

黒髪で紫の瞳、ガタイのいい男に鮮やかな赤い髪を腰まで伸ばしているスタイル抜群の

女性が問うた。

サイラオーグと呼ばれた男は五人の女性と戦う堕天使が召喚した巨大な複数の

三つ首の獣と神父の白髪の少年と見ながら返事した。

 

「共に戦えばなんとかなるだろう。だが、教会側がそれを望んでいない。

外にソーナ・シトリー、シーグヴァイラ・アガレスとその眷属たちが結界を張って貰っている。

外に影響はよほどの限り起きないだろうが―――」

 

「今は彼女達の武運を祈るしかないってことなのね」

 

一匹の三つ首の獣がサイラオーグたちに向けて灼熱の炎を吐きだす。それを―――

 

「はぁっ!」

 

一人の金髪の美少女が剣で炎を凍らせた。

 

「―――イザイヤッ!」

 

「申し訳ございません部長。話は後で、今は目の前にある聖剣と僕にとって許し難い

元凶を倒すことに専念させてください」

 

真剣な面持ちと強い意志が宿って鋭くなっている目つきのイザイヤと呼ばれた少女が

獣の足を両断して獣の命を狩った後、聖なるオーラを放つ剣を持つ神父の少年に飛び掛かった。

 

「帰ってきましたわねリアス」

 

「・・・・・ええ、朱乃。今はそれだけが救いだわ。全てが終えたら色々と話しをしないとね」

 

「さて、俺も獣を沈黙させるか」

 

そう言ったサイラオーグの姿が消え、次に現れたのは三つ首の獣の背中を力強く打撃を

与えた時だった。

 

「流石は若手ナンバーワンの実力者ですわねリアス」

 

「ええ、そうね。とても頼れる従兄弟よ」

 

微笑むリアス。獣もしばらくして全て駆逐されたが、

 

「へいへいへい!クソビッチども、ボスに奪われてこの六つのエクスになった

カリバーちゃん相手になにができるってんですかねぇっ!今の俺さまは超ビックで

ハイテンションなんだからそんなただの剣で俺さまを倒せるわけがないっしょっ!」

 

五人の少女たちを苦戦に追い詰める神父の少年。素早い動きで翻弄し、

伸びる刀身で相手をけん制し、破壊力がある一撃で確実に倒そうとしてく。

 

「ふっ、お前がそこまで言うなら私も本当の武器で戦おうじゃないか」

 

青い髪に緑のメッシュが入った目つきが鋭い女性が横に腕を突き出した。

 

「ペトロ、バシレイオス、デュオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」

 

何かの言霊を発し始めた。一部を除いて疑問を感じている面々の視界ではメッシュが

入った青髪の女性が突き出した手の先に空間が歪む。歪みの中心に女性が手を入れ

無造作に探り、何かを掴むと次元の狭間から一気に一本の聖なるオーラを放つ剣を

取り出した。刃が金で剣の腹は青い剣だった。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。―――デュランダル!」

 

―――――デュランダル。ストラーダ猊下が使っていたあの聖剣が少女の手に渡っていた。

その剣を金髪にアメジストの瞳を持つ少女が意味深に見詰めた。敵はその剣を見聞し

驚きの色を浮かべ隠せないでいた。

 

「・・・・・私も解放しましょう」

 

虚空から一つの旗が具現化してそれを手にした少女。

その旗には戦乙女がドラゴンの背に乗っている様子を刺繍されているものだった。

 

禁手化(バランス・ブレイク)

 

静かに発した少女を中心に火柱が発生した。黒い戦闘服が燃え尽き、

代わりに騎士甲冑を身に纏い手に燃える銀の剣を持つ。

 

紅蓮の聖女(ラ・ピュセル)

 

神器(セイクリッド・ギア)を覚醒させた力を具現化させ身に纏った少女。

左手に変わりのない旗と燃える銀の剣。火柱の中から姿を現した少女に堕天使は興味深そうに見やる。

 

「ほう、教会に神器(セイクリッド・ギア)を持つ者がいたとはな」

 

「誓ったんです。私はあの人の隣に立てるほど強くなると。

それが今の私の姿が具現化したものです」

 

「くくく、神に信仰を捧げる者が神と信仰より男を取るとはなんとも愉快な話だ。

なんなら俺と共に来るか?そうすればお前が欲しがっている男も何時か見つけられる

可能性があるぞ」

 

堕天使の誘惑に少女は一刀両断で断わった。文字通り燃える剣を堕天使に目掛けて炎を

極太の剣に具現化して振り下ろす意味で。堕天使は光の剣で受け止め口の端を吊り上げ

狂喜の笑みを浮かべた。

 

「面白い、これは酷く面白い!いまの攻撃速度と問答無用、

無慈悲な剣技はデュランダルの先代の使い手のようだ!」

 

「ええ、私はそのデュランダルの先代の使い手の弟子です。

ですので、ストラーダ猊下のようにはいかないかもしれませんが、

あなたに傷を負わすことぐらいなら可能でしょう!」

 

それを聞いて堕天使はますます笑みを深めた。しかし、どこか残念そうに息を漏らした。

 

「それだったらその娘の持つデュランダルを使えば俺を倒せるかもしれない確率があっただろうにな」

 

「デュランダルは私ではなく彼女を選んだ。ただそれだけのことです堕天使の幹部コカビエル」

 

「フン!ならば仕方あるまい。こい、あの男の弟子とやら。お前の強さを俺に示すがいい!

俺を倒さなければこの町は崩壊する!フリード、貴様はデュランダル使いの娘と相手してやれ」

 

「はいなボス!そんじゃ、はりきっちゃいましょうかねぇっ!」

 

戦いは本格化となり、この学園どころか町の崩壊が迫っている。リアスたちも堕天使

コカビエルを倒そうと臨戦態勢の構えを取った。―――その時だった。

この学園を覆う結界がガラス細工のように甲高い音と共に砕け散り巨大な影が戦場に

轟音と共に舞い降りた。誰もが巻き起こる煙から感じる禍々しいオーラと六つの赤い目に警戒した。

 

 

―――ギェエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

 

轟く咆哮。煙が吹き飛ばされ黒い身体に紫が発光し、四肢の身体、六枚の翼、三つ首、

三つの頭、六つの赤い目を持つドラゴンがグラウンドに降臨した。

 

「ドラゴンだと・・・・・・!」

 

「しかもこの感じ・・・・・まさか、邪龍!?」

 

「何故このタイミングで・・・・・っ!」

 

敵味方関係なく現れた禍々しいドラゴンに戦慄する。―――ただ一人を除いて。

 

「この戦場に漂う様々な力に引き寄せられたか。まるであの時の三つ巴戦争に現れた天龍のようだな!」

 

コカビエルは嬉々として三つ首龍に戦いを挑んだ。極太の光の槍を一瞬で作り投げ放った。

ドラゴンは三重の魔方陣を展開して光の槍を防ぎ周囲に数多の魔方陣を展開させて極太の魔力弾を放った。

 

ドオンッ!ドゴォンッ!ドガァンッ!

 

「フハハハ!これだ、この感じこそ俺が求めていた戦争の雰囲気!」

 

紙一重で魔力弾を避け、受け流し、防いだりしてドラゴンの猛攻に心底楽しんでいたら。

横から風を切りながら鞭のように振るった尾に直撃してグラウンドに叩き付けられた。

そのコカビエルの真上に大きな魔方陣が出現し、重力を掛けた。

動きを封じたのだろう。ドラゴンはコカビエルから視線を逸らし鎌首を燃える銀の剣を

持つ少女に垂らして顔を近づけた。

 

「危ないっ!」

 

長い黒髪の少女がドラゴンに切りかかった。仲間を助けようとした行動だったのだが

それを助けられる側だったはずの少女が聖なる光の膜を展開してドラゴンを守った。

 

「ル、ルーラー!?」

 

「攻撃しないでください!このドラゴンは大丈夫です!」

 

「何か知っているのかい?」

 

ヴァイオリンを思わせる大きな盾を右腕に装着している銀髪の女性の問いに答えた。

 

「はい、このドラゴンは私の友達です。今はこの姿になっていますがって」

 

突然ドラゴンが少女の会話を遮る感じで頬に甘えるように鼻先をすり寄せた。

 

「も、もう、くすぐったいですよ!久し振りに会って嬉しいのは分かりますが

今はそれどころじゃありませんってば」

 

「「「「・・・・・」」」」」

 

開いた口が塞がらないでいる四人の少女たち。あまりにも異様な光景で少女に甘える

ドラゴンなど聞いたこともない。

 

「って、なに俺さまを置いてけぼりにしていやがるんですかねー!」

 

聖なるオーラを放つ剣をドラゴンに叩き付けたフリード。一つの頭を破壊力ある一撃で押し潰した。

邪魔されたことに怒りを覚えたようでギロリとフリードに睨み、魔方陣で吹っ飛ばしたドラゴン。

その直後、コカビエルを押し付けていた魔方陣が粉砕され解放されたコカビエルが宙に浮かんだ。

 

「やってくれたな。だが、いいぞ。こうではなくては面白くない」

 

『・・・・・』

 

ドラゴンに変化が訪れた。禍々しいオーラが包むように迸り、

姿が見えない状態でドラゴンの身体は小さくなりつつ人の形へとなっていく。

腰まで伸びた真紅の髪に瞳は金色の垂直のスリット状の少年に―――。

 

「―――――久し振りだなコカビエルさん」

 

「・・・・・お前は」

 

「覚えているかどうか分からないけど、取り敢えず質問だ。どうしてこんなことしている?」

 

目を細めコカビエルを睨む少年。質問をされたコカビエルが深い笑みを浮かべ出した。

 

「戦争だ!俺は戦争がしたくてしょうがないんだよ!あのアザゼルとシェムハザは

二度と戦争なんてしないなんてほざくからな!だから俺だけでもあの時の三つ巴、

いや三つ巴戦争に介入した人間共と戦争したあの戦いをもう一度起こす為に俺は

こんなことしているんだ!その手始めとしてこの町を崩壊させる!

なんたって三大勢力の種族と人間が交流する象徴だ。直ぐにでも戦争が起きるだろう!」

 

「・・・・・」

 

コカビエルの理由を聞き、深い溜息を吐いた。そしてグラウンドに浮かびあがる

魔方陣を一目で、片足を踏んだだけで学校や町を崩壊させる術式を打ち消したのだった。

 

「別にこんなことしなくても、父さんと戦って満足すればいいだけじゃないか。

こんなことしてアンタはただで済むはずがない。アザゼルのおじさんや他の仲間が悲しむぞ」

 

「あいつらのことなんてもはやどうでもいい。俺は今が暇で暇で仕方がないんだよ。

研究に没頭するあいつらに何の期待をしても無駄だろうからな」

 

「・・・・・そうか。だったらアンタを力尽くで止めるしかないんだな」

 

「そう言うことだ。町の崩壊を引き起こす術式が消されたようだがお前の出現でもっと

楽しめそうだ。あれから強くなったんだろうな?」

 

十枚の漆黒の翼を生やし、両手に光の剣を持って構えたコカビエルに対して少年は

デュランダルを持つ少女に目を向けた。

 

「デュランダル・・・・・丁度良いな。それ、借りるぞ」

 

「は?」

 

緑のメッシュが入った青髪の女性の手から何時の間にかデュランダルは無く、

真紅の髪の少年の手にデュランダルが収まっていた。

 

「―――ルーラー」

 

「はい」

 

「強くなったか?俺の隣に立てるぐらいの強さに」

 

ルーラーと呼ばれた少女は燃える銀の剣と旗を構えて少年の隣に堂々と並んだ。

 

「論より証拠、見てください」

 

「ああ、そうする。そして俺も・・・・・」

 

柄を力強く握った時、デュランダルの刀身に聖なるオーラが濃密な聖なるオーラが

滲みだしてきた。それは止まることなく、どんどん高まっていく。

純粋で、濃厚で、コカビエルが身震いするほどの聖なる力が生み出されていた。

 

「・・・・・あの時できなかったことを、いま果たせるっ」

 

―――背中に六対十二枚の金色の翼、頭上に金色の輪っか、

金色の長髪、碧と蒼のオッドアイの姿となった少年が力強く漏らした。

 

「ふふふ・・・・・・ふふふふふっ・・・・・・・」

 

コカビエルが笑みを零し、次第にそれは高らかに哄笑となった。

 

「クハハハハハッ!俺はこの時を待っていた!―――グレートレッドとオーフィスの力を

有するドラゴン、兵藤一誠、お前との戦いをなぁっ!」

 

「いくぞ、コカビエルさん!俺の今の力、その身の全てで味わえ!」

 

「いいぞ、受け入れてやる!世界中で修行してきた今のお前の強さを俺が見定めてやる!」

 

濃厚なオーラを迸るコカビエルが兵藤一誠の懐に飛び込む勢いで迫った。

それをさせまいとデュランダルを横に薙ぎ払った。上に飛んでかわされたが

デュランダルの攻撃の余波はまだ終わっていなかった。―――空間ごと学校という建物に

横一文字の痕跡を残しただけで建物は一切崩れようともしなかった。

余波で窓ガラスすら割れていないほどに。

 

「嘘・・・・・」

 

「なんだ、アレがデュランダルの本当の力だというのか・・・・・!?」

 

三人の戦いは激しくなっていく。十枚の漆黒の翼を硬質化にし刃状とすればソレらを

一誠とルーラーに振るった。それを予期していたように一誠も十二枚の翼を刃状にして

コカビエルの翼を受け止め、残りの二枚の翼をコカビエルに突き伸ばしたものの

光の剣で受け止められる。だが、ルーラーの燃える剣が残っていた。それには魔方陣で

受け止めたコカビエルは笑みを絶やさない。

 

「いいぞ、俺を楽しませるだけ強くなったことは確かだな。だが、まだまだ俺はこんなもんではない!」

 

魔方陣で波動を放ち、一誠とルーラーを浮かせるとそれぞれ二人の腹部に蹴りを入れた

―――と思ったが歪んだ空間から伸びる鎖に足が縛られていた。

 

「ちっ!」

 

頭上に魔方陣を展開して光の槍を放ち、足に絡みついていた鎖を貫いて二人から距離を置いた。

 

「―――そんなことすると思っていたよ」

 

「っ!?」

 

直ぐ後ろから一誠の声が聞こえた。振り返るよりも腰を落として上体を低くしたところで

デュランダルが振られた。さらにその体勢になったコカビエルに炎の剣が振り下ろされる。

黒い翼で受け止められたが、デュランダルがコカビエルを襲う。

 

「ちょっとぉっ!俺さまを忘れられちゃ困るってもんでしょうが!」

 

復活したフリード。剣でデュランダルを受け止め鍔迫り合いをした。

 

「お前、邪魔だわ」

 

一誠が漏らすと歪んだ空間から数多の鎖が飛び出してフリードの身体に絡みつき拘束した。

 

「んなんじゃこりゃっ!?くそ、動けねぇッす!」

 

「それとこれ貰うな」

 

「あっ、(ゲシッ!)どろぼー!」

 

蹴られ、吹っ飛ばされながら剣を奪った一誠に文句を言ったフリードは退場という光景に

ルーラーが一言漏らした。

 

「・・・・・物凄く扱いが酷かったような」

 

「気にするな(ポイッ)」

 

「聖剣の扱い方も酷いですね!?」

 

放り投げた剣を見てルーラーがツッコンだ。真上から降ってくる光の槍からルーラーを抱えて避ける。

 

「え、今の聖剣なの?」

 

「六つ全ての聖剣を一つにした聖剣だったのですが・・・・・」

 

「ま、いいや。いまはデュランダルがあるし」

 

デュランダルを幾度も振るい、斬撃を放った。デュランダルの切れ味を知っているのか、

防ごうとはせず避け続けるコカビエルは魔方陣を展開し、マシンガンのように光の槍を

放ち続けた。それらを一誠とルーラーは避けたり、受け流したり、防いだりとして再び

コカビエルへ接近し斬り合った。

 

「おおおおおおっ!」

 

「はぁああああっ!」

 

「ぬぉああああっ!」

 

一誠はルーラーをフォローしつつ三人が斬り合っている時間は、濃密に圧縮された攻防線と思えるほど、我流、型が飛び交い、ぶつかり合うものだった。上段から斬りおろし、

下段から斬り上げ、時折突きも混ぜて、あるいはそれを払い、大振りに放ち、

小振りにも打つ―――。一誠とコカビエルが翼も駆使してルーラーが炎の斬撃を放ち、

二人と一人は相手をこの場で倒さんという意欲と雰囲気が遠くで見ている

リアスたちにも伝わっている。

 

「これならどうだ!」

 

四方八方真上からも一誠とルーラーを囲む形で魔方陣が出現した。

それらから光の槍が二人の身体を串刺しせんとばかり飛来してくる。

 

「防ぎます!」

 

旗を振るった瞬間に光の膜が二人を包み、光の槍を防ぎ続けた。

 

「これがルーラーの力か。防御系統の神器(セイクリッド・ギア)なんだな」

 

「はい、今は禁手化(バランス・ブレイク)の状態なんですがね」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

それを聞き、凄いじゃないかと言いつつルーラーの頭を撫でた。

 

「い、一誠くん・・・・・?」

 

「数年振りの再会だから綺麗になったな。それに元気そうで何よりだ」

 

デュランダルに聖なるオーラを集束させる一誠の言葉を聞き、ルーラーは照れたのか

顔に朱を散らばせ視線を下に向けた。

 

「そ、それは私も同じことですよ。一誠くん、あの時は可愛かったのに今は格好良くて

元気そうで安心しました」

 

「んじゃ、さっさとこの戦いを終わらせてのんびりと話しでもしようか。

丁度この学校に皆がいるんだ。アルトルージュたちもな」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ、遠くから見ているよ。だからルーラー。一緒に攻撃をしようか」

 

既に光の剣と化と成っているデュランダルを真上に掲げた。

その言動をする一誠に呼応して剣に大質量の炎を纏わせ真上に掲げた。

 

「いくぞ」

 

「はい!」

 

―――一閃!

 

全ての光の槍を斬り捨て、聖なる光の斬撃波に纏う炎がコカビエルに迫った。

 

「おおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!」

 

一誠とルーラーの攻撃を受け止めようとするコカビエル。愚直なまでの戦闘凶で

戦いでしか快楽を得られない一人の堕天使は傷付くことで高揚感を高め、

相手を倒した喜びが心を震わす。何十ものの魔方陣に全ての魔力を注ぎ込んで受け止める姿勢な

コカビエル。次々と防御魔方陣が斬られ、砕かれ確実にコカビエルの身体に迫っていた。

 

そして―――。

 

バキンッ!

 

最後の防御壁の魔方陣が破壊されコカビエルを飲みこんだ。

 

「フハハハッ!フハハハハハ!アーハッハッハッハッ!」

 

笑いながら聖なる炎の斬撃を受け、炎は天高く柱のように昇った。程なくして柱は消え去り、

学校のグラウンドに静寂が訪れた。服がボロボロで満身創痍のコカビエルが意識を

失って倒れていた。それを確認した一誠とルーラーは。

 

「よし、倒したぁっ!」

 

「やりましたっ!」

 

歓喜して拳を夜空に向かって突き合いだした。その直後、拍手の音がどこからか聞こえてくる。

 

「おー、凄いな一誠。コンビとはいえコカビエルを倒すなんて成長したな」

 

「お疲れ様、一誠」

 

ぞろぞろと一誠に声を掛けながら誠と一香、他の面々が闇から姿を現した。そこへ戦いを

見守っていたリアスたちが近づいてきた。

 

「あなたたちは一体・・・・・」

 

「ん?ああ、俺は兵藤誠、兵藤一誠の父親だ。リアスちゃんとは何度か会っていた

はずだが忘れているのかな?」

 

「ひょ、兵藤!?一誠のお父さま!?―――って、朱乃!?」

 

「一誠、久しぶりですわぁっ!」

 

朱乃が瞳を潤わせて一誠に抱き付いた。それが呼び水となったのか、他にも―――。

 

「お兄さま、お久しぶりです!」

 

「にゃー、久し振りにご主人さまと会えたにゃー!」

 

「一誠くん!あの時叩いてごめんなさい!そしてお久しぶり!」

 

一誠を知る面々が一誠に抱き付いた。

 

「えっと・・・・・なにがどうなっているんだろうね」

 

「コカビエルが倒れ、エクスカリバーは奪還できた」

 

「事件は解決されたと言うべきではないか?あの少年のおかげでな」

 

リアスも出遅れながら一誠に抱き付き、ルーラーが嫉妬して一誠を光の膜で包み抱きつかせなくした。

 

「一誠くんの隣は私だけです!」

 

『なんですって!上等よ!』

 

 

 

そして、遥か上空では龍を模した白い全身鎧を装着していた一人の存在が。

 

「・・・・・降りるタイミングが無くした」

 

と、寂しげに漏らすものの何かを目指して学校へ急降下したのだった。



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エピソード3

「えっと・・・・・話とはなんですか?」

 

黒い長髪の少女が困惑した表情で問うた。コカビエルとフリードはいきなり現れたドラゴンを

模した白い全身鎧の者によって「一週間後、この学校に来なさい」と誠からそう言われ、

「コカビエルさんとはまた戦いたいからアザゼルのおじさんによろしく言っておいて」と

一誠からも言われ何も言わずに連れ去ってしまった。初老の男性については一香の魔法で

どこかへ転送された。今現在、一行がいる場所は高級の高層マンションの最上階。

最上階の部屋をすべて買い取り、壁を壊して他の部屋と繋げては一誠の力で

真新しい部屋に作り替えられた。白い横長のテーブルに五人の少女たちは座って

誠と一香と対面している。

 

「なーに、コカビエルと聖剣のことに関しては俺たちも予想外な事件だったからな。

もう終わったこととはいえ、俺たちにも教えてはくれないか?」

 

「・・・・・申し訳ないが、例え兵藤の者とはいえども無関係なことに首を―――」

 

「そっか、んじゃ『敵に聖剣を全て奪われたようだな教会とお前の戦士たちは』って

ストラーダとクリスタルディにからかってやるか」

 

―――それは脅しだ!と誰もが思わずにはいられなかった。事実茶髪のツインテールの少女と

緑のメッシュが入っている青髪の少女、黒い長髪の少女の頬が引き攣っている。

 

「・・・・・一応、私からもその件について上層部にお伝えしますのでご遠慮ください」

 

「ん?えーと名前はなんだ?」

 

「申し遅れました。私はリーズバイフェ・ストリンドヴァリ。今回聖剣の奪還に編成されたメンバーのまとめ役です。どうぞ、リーズと呼んでください」

 

銀髪をポニーテールに結んだ銀の瞳の少女が恭しく自己紹介をした。

 

「兵藤誠だ。それでこっちは俺の妻の兵藤一香。あっちにいるのは俺の息子の兵藤一誠だ」

 

誠が自分の家族を紹介したが、一誠はリーラとキッチンで何かを作っている。

リーズは頭を軽く垂らした。感謝の意味を籠めて。

 

「兵藤家の者が知らなかったとはいえ、私たちに協力していただき感謝します」

 

「はは、学校に忍び込もうとしたら結界が張られているからどうしたのかと思った。

結界を張っている娘たちから聞けばコカビエルが暴れていると言うからな。

一誠だけ差し向けて様子見していただけだ。礼を言われるようなことじゃないさ。

それと俺たちは兵藤だが兵藤じゃない」

 

「どういうことなのですか?」

 

「私たちは兵藤家じゃないってことよリーズちゃん。

だから別に私たちはただの一般人で特に偉いわけじゃない。だから敬語で話さなくてもいいのよ?」

 

微笑みながら言う一香にリーズは思案顔で顎に手をやるが首を横に振った。

 

「いえ、目上の者に対しては常にこの喋り方なので変えようがないです」

 

「そう、ならしょうがないな」

 

「おまたせー」

 

軽く話しかけた一誠の手には人数分のシチュー。目の前に置かれてリーズたちは

美味しそうだと心中漏らす。

 

「だけどびっくりしたよ。イリナとルーラーがコカビエルさんと戦っているなんてさ」

 

「それはこっちも同じよ。一誠くんがドラゴンになれるなんて」

 

「私は知っていましたけどね」

 

茶髪のツインテールの少女、一誠の長馴染みのイリナの会話を聞いてルーラーが当然のように言った。

ルーラーの言葉に一誠も肯定した。

 

「何度かルーラーの前でドラゴンになったもんね」

 

「はい、前より大きくなったみたいですし乗せてくれますか?」

 

「いいよ。またいつかね。取り敢えず温かいうちに食べてよ」

 

一誠の催促にリーズたちは食べ始める。その間でも今回の一件についてルーラーが語る。

 

「・・・・・兵藤一誠」

 

「ん?」

 

「今更ながら思い出したよ。キミは確か、一年ぐらいカトリックの施設にいた男だったね。

ルーラーと何時も一緒だった」

 

緑のメッシュが入った青髪の少女の言葉に思い出した一誠は手をポンと叩いた。

 

「あ、そう言えば。喋ったことはあんまりなかったけど、お前もあの施設にいたよな」

 

「ゼノヴィアだ。まさかストラーダ猊下の剣、デュランダルをあそこまで

使いこなせるなんて凄いではないか」

 

「触れたのはあれで二度目で、デュランダルを使って戦ったのはコカビエルさんとの

戦いで初めてだった」

 

「嘘!?それってぶっつけ本番みたいな感じじゃないの!」

 

イリナが驚愕した。初めて扱った聖剣を熟練の達人のように振るったのだ。

驚くなと言う方が無理なのかもしれない。

 

「ストラーダ先生からデュランダルの特性と本質を教えてもらったからな。その通りにしただけだ。

全てを斬るパワーの塊の聖剣、ってね。剣術もストラーダ先生やクリスタルディ先生、

他の修行場で習ったから大分武器で戦えるようにもなった」

 

「そうですか。それじゃ一誠くんは強くなったんですね」

 

「ああ、もう人間の中では無類の強さを誇っていると俺は思っている。

ただし、相手が人間だったらの場合だ」

 

「世界は広く様々な勢力と種族、ヒトがいる。私と誠の自慢の息子はまだ本当の意味で

強いというわけじゃないから今後の伸び代に期待しているけどね」

 

誠と一香が一誠はまだ弱いとそう言う。父親と母親にそう言われ、

不貞腐れるかと思ったが一誠は当たり前のように受け入れている様子で苦笑を浮かべていた。

 

「一誠くん、あなたはこれからどうするつもりなんですか?」

 

「父さんと母さんに言われてな。あの学校に通うことになったんだよ」

 

「そ、そうなのですか?」

 

「初めての学校の下見が戦闘だなんて、普通は有り得ないだろう」

 

息を深く吐いて「結局、中まで見ることはできなかったし」と漏らした。

 

「ほへぇ・・・・・」

 

黒髪の少女がマジマジと一誠を見始めた。何やら視線を感じ、

一誠はその少女に顔を向け首を傾げた。

 

「なんだ?」

 

「えっと、ルーラーからキミのことを色々と聞いていたから、聞いていた以上の人なんだなーって」

 

「ルーラーから何を言われているんだ?

 

「えっと―――むぐっ」

 

「い、言わないでくださいっ」

 

何故か黒髪の少女の口を押さえて真っ赤な顔で発言を阻止して一誠に「おかわり!」と要求した。

 

「あらあら、ライバルがまた増えたようよあなた」

 

「イリナちゃん、頑張りなよ?」

 

「ちょっ、おじさま!へ、変なことを言わないでください!

というか私たちは後日ヨーロッパに帰らないといけないんですから一誠くんの

傍にいられるわけが・・・・・」

 

「そうか?一誠の、ドラゴンの特性は分かっているだろう?

ドラゴンの特性は様々な力を呼び寄せる。だから一誠の魅力でまたこの地に

イリナちゃんたちが来る可能性だってあるんだぜ?」

 

ニヤニヤと面白そうにイリナへ向けて誠は笑う。そう言われてイリナは顔を赤くして

チラチラとシチューを皿に入れに行っている一誠に視線を向けた。

 

「せっかくだ。今日はこの家に泊まりなさい。どこで拠点としているか分からないが

ここなら色々と整っているから問題は無いだろう。ああ、お代りもしていいぞ」

 

「「えええっ!?」」

 

「ありがとう、お言葉に甘えてそうさせてもらう」

 

「イリナが変な画を買ってしまったせいで・・・・・昨日から何も食べていなかった。

ですのでその、お代りをお願いしたいのですが」

 

「ボ、ボクも・・・・・・」

 

おずおずと空になった皿を突き出す二人。それを聞いて一香は苦笑を浮かべ、

リーラと他の料理を作り始めたその後、広いお風呂に入って満足気なリーズたちが出てきた。

ベッド派と布団派が別れてしまったのでその両方を用意し、

 

「一誠くん・・・・・あの、昔のように一緒に寝ませんか?」

 

「わ、私も一誠くんと寝たいかも!」

 

「私の屍を越えてからにしてくださいますか?」

 

「「じょ、上等・・・・・っ!」」

 

一部、ヤンチャな出来事があったが翌日の朝、リーズたちは無事に本国へと帰って行ったのだった。

 

―――○●○―――

 

そして、一誠たちが学校に通う日となった。着なれない学生服を身に包む一誠を誠と

一香は感慨に浸る。

 

「この日が来るとはな・・・・・」

 

「ようやく、一誠も人並みの人生を送れるのね・・・・・」

 

「一誠の嫁候補についてはもう問題は無いだろう」

 

「より取り見取りだもの。誠、あなたも昔はモテていたしね」

 

「はっはっはっ。だが今は俺の最高の女が隣にいるから大満足だけどな!」

 

「もう、あなたったら・・・・・」

 

自分の目の前でイチャつきだす両親に一誠たちはスルーして互いの姿を見比べする。

 

「俺とオーフィス、咲夜、ヴァレリー、ルクシャナ、テファ、アルトルージュ、

なぜかクロウ・クルワッハ、アラクネーまでが学生として・・・・・なのか?」

 

「私とリィゾさま、フィナさまはどうやら教師のようですね」

 

「私は何を教えろというのだ?」

 

「右に同意見だ」

 

「「・・・・・」」

 

一誠とリーラは無言でとある人物に目を向けた。そして一言。

 

「「・・・・・若返って・・・・・学生・・・・・」」

 

「あう・・・・・その、変でしょうか」

 

テファの母親、シャジャルが一誠と変わらない年齢になっていて

女子制服を身に包んでいるのだった。本人も困惑してモジモジと恥ずかしげに一誠たちに訊ねた。

 

 

いや、変どころか凄く似合っているし可愛い―――。それが一誠たちの心境だった。

 

 

「ふっふっふっ。俺の神滅具(ロンギヌス)の能力の一つ、時間を戻す力で彼女の身体に

刻まれた成長の時を戻して十代に戻したのだ」

 

誇らしげに、自慢げに誠が種明かしをした。

 

「マジで?」

 

「大マジさ。ちなみに元に戻すことが可能だが、元に戻す気はさらさらない。

彼女も学生として学校を楽しんでもらいたいからな。だからティファニアちゃん」

 

「は、はい」

 

「学校にいる間はシャジャルさんのことを姉として接しないとダメだ。

学校でお母さんと呼んでしまなわいように」

 

そんなこと言われ目を丸くするティファニア。

母親を姉として接しないといけないなんて夢にも思わないだろう。一誠は誠に問うた。

 

「何で学生なの?」

 

「んー、というかそうするしかないんだ。彼女、物事を教えることはできないし、

今から勉強なんて一朝一夕じゃ無理だ。いくら異種族が交流できる町と学校があるとはいえ

危険がないわけじゃない。だから、楽しく過ごしてもらうには常に頼れる存在の傍で

いてもらう他ない。とう言うことで一誠、お前が守らないといけないから頑張れよ」

 

「うん、それは当然だけど父さん」

 

「なんだ?」

 

「プライミッツ・マーダーはどうするの?」

 

魔獣のプライミッツ・マーダーを一瞥して疑問をぶつけた。

一匹だけいさせるのもなんだが忍びなく、誠と一香も部屋に帰ってくることはあまりない。

だからどうするのだと聞けば、誠はこう答えた。

 

「フィナくんの見張り役かな。女性ならいざしらず、同性の血しか飲まないなんて

ある意味危険だろう」

 

マジですか!?と驚愕する声が聞こえたが一誠は納得した面持ちで頷いた。

 

「魔獣なんだけど大丈夫?」

 

「問題ない。理事長から説明して納得させて了承を貰った。生徒や他の教師に危害を

加えなければ問題ないってよ。ああ攻撃されたら迎撃して良いからな?

ただし、石ころを投げられてもバカにされても我慢するんだ。鬱憤はフィナくんで晴らせ」

 

「だ、そうよプライミッツ・マーダー」

 

アルトルージュからも言われて魔獣プライミッツ・マーダーは小さく頷いた。

 

「私の扱い・・・・・なんか酷くないか?」

 

「日ごろの行いが悪いからだろう」

 

「ひどっ!私は何も悪いことなどしていないではないか!」

 

「一誠を襲った前科があるわよ?」

 

「モウシワケゴザイマセンデシタ」

 

一香から発するプレッシャーに耐えきれず、片言で謝罪し頭を下げたフィナ。

ちょっと同情するがしょうがないと思いつつ一誠はあることを聞いた。

 

「俺たちって一緒のクラス?」

 

「いんや、流石に同じクラスにするには多すぎるから無理だ。

数人ずつ分かれてクラスに編入してもらうぞ。会いたいなら休憩時間に会えばいい」

 

「うん、わかった」

 

こうして一誠たちは誠と一香に見送られながら学校へ向かった。

 

「それじゃ、私は仕事をしなきゃいけないから」

 

「そういう約束だからな。だけどいいのか?お前も学校にいけばいいだろうに教師として」

 

「気が向いたら考えてもいいわ」

 

ナヴィは去る誠と一香を見送った後、自分の仕事場に戻って

一誠たちが帰ってくるまで使い魔を使役して仕事に没頭するのだった。

 

―――国立バーベナ駒王学園―――

 

「改めて見て大きい学校だ」

 

そう学園を見渡して漏らした一誠。造りは西洋風で先ほど和風の木製で出来た門を

潜ってきたところで、学校はもしかすると和風と洋風で作られているのかもしれないと

思いつつ職員室へと赴く。

 

「私、学校なんて行くの初めて」

 

「そうね、私もどんなことを体験できるのかワクワクするわ」

 

ヴァレリーとルクシャナが興味身心に周囲を見渡す。ティファニアやシャジャルも

初めて見る景色に好奇心の色が目に浮かんでいる。靴箱がある玄関に入り

広い玄関ホールに足を踏み入れた。天井にはシャンデリアが吊るされていて、

高級ホテルに足を運んだような気分であった。

 

「今さら何だけどさリーラと咲夜」

 

「「はい?」」

 

「良くメイド服で通えることを父さんと母さんは了承してもらったんだなって」

 

「そうだな。私は黒いコートからこのような服で登校させられるのにな」

 

一誠の言葉に同意とクロウ・クルワッハが自分の今の女子制服のスカートを摘まんで指摘する。

 

「「メイドですので」」

 

「ああ、それだけで片付けられるなんてメイドは凄いな」

 

何か最強の呪文を唱えられた気分でそれ以上何も言わないことにした一誠だった。

国立バーベナ駒王学園は五階建ての学園で一階は一年生、二階は教師たちが集う職員室と二年生、

三階は三年生と順にそれぞれの学年がある教室。四階、五階は多目的室や移動授業に使われる

各専用の教室、学校から出れば庭園や休憩スペースがある。

学校の裏には東京ドーム二個分のグラウンド、その周囲に部活動ができる施設や倉庫など

設けられていてスポーツを楽しむ者だけが使用されることが多い。

さらに場所を戻って一階には学生食堂、図書室etc・・・・・。

 

「二階に職員室があるなんて、他の学校もみんなそんな感じの構造なのか?」

 

「いえ、他の学校とは異なる学校ですので絶対に言い切れませんがここだけではないでしょうか」

 

咲夜の答えにそれもそうかと納得する。他の学校とは根本的に違う。

ここは神話体系の勢力が集う場所。どうしてここまで自分たちの正体を明かす場所を作り、

町に堂々と闊歩させ人間界に暮らせるようにしたのか誰も知らない、気付かないのが現状である。

 

「えーと、職員室ってどこだ・・・・・てっ、ここか。直ぐ近くにあるもんなんだな」

 

職員室と書かれたプレートを階段を登ってすぐ横にあることを気付く。

いざ、職員室の扉を開けて足を踏み入れた。入室の際の挨拶を忘れず発し、

自分たちの存在を意識させる。そうすることで数人の男女が歩み寄ってきた。

 

「キミたちが編入してきた子たちだね?理事長から聞いている」

 

「えっと、今日から教師と成ってくれる人たちも一緒のようですね。こちらに来てください」

 

「はい、では一誠さま。しばしのお別れです」

 

「お昼休みになったら一緒に食べよう」

 

「我が麗しき美少年。私にも何か一言を―――!?」

 

「行くぞ」

 

『・・・・・』

 

リィゾとプライミッツ・マーダーがフィナを引き摺り職員質の中へと消えた。

リーラも一誠たちから離れる。

 

「さて、俺のクラスの生徒となる・・・・・はぁ」

 

「・・・・・なぜそこで溜息を吐く?」

 

「ああ・・・・・すまないね。俺が請け負っているクラスは

事情があって・・・・・ま、キミなら大丈夫かな。理事長の友達の息子だというし」

 

何故か一誠を見て憂い顔を浮かべる教師。どうしてそんな言動をするのか一誠たちは理解できず、

一誠、オーフィス、咲夜、ヴァレリー。クロウ・クルワッハ、アラクネー、

ルクシャナ、ティファニア、シャジャルとそれぞれのクラスに配属される形で別れた。

 

―――2-F―――

 

「・・・・・先生」

 

「なんだ?」

 

「ここ、本当に教室?」

 

一誠から疑問をぶつけられ、教師は苦笑いをするしかなかった。

なぜなら―――個人エアコン、冷蔵庫、リクライニングシートが当たり前のように設けられているのだ。

冷蔵庫には当然のように各種飲料やお菓子を含めた様々な食料が、エアコンは教室どころか

各人に一台。それぞれが好みの温度に調整できるようになっている。さらに一誠たちが見渡せば、

教室は一般の体育館並みの広さでキッチンまで存在し、壁には格調高い絵画や観葉植物が

さりげなく置かれていた。ここはまるで高級ホテルのようだった。

だが、そんな光景に一誠たちは何とも言えない気分に浸っている時間は無かった。

 

「(・・・・・うわ、凄い敵意と警戒・・・・・)」

 

「(殆どの方が一誠さまを見てそうですね)」

 

「(しかも、女の子しかいないのね)」

 

「(イッセーを守る)」

 

四人がFクラスに配属。そこは何故か一人も男がいない教室で全員が女子生徒。

さらに一誠を睨むことを止めない。警戒心と敵意を隠そうとはしない。

 

「あー、今日からこのクラスに編入した十六夜咲夜、ヴァレリー・ツェペシュ、

無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス」

 

教師は一誠を見て溜息を吐いた。

 

「・・・・・兵藤一誠くんだ」

 

『・・・・・』

 

次の瞬間、ブーイングの嵐が生じた。

 

「ちょっとっ!どうしてこのクラスに男、しかも兵藤が入ってくるんですか!」

 

「学校側は一体何を考えているんですか!」

 

「男はいらない!女だけ置いて出て行け!」

 

「「(・・・・・学級が一瞬で崩壊した)」」

 

しかも一誠に筆記用具、魔法使いや悪魔、堕天使もいるのか魔力弾や光の槍まで飛来する。

それには目を丸くして、防御魔方陣で咲夜たちも守った。

 

「・・・・・どうやら一誠さまというより、兵藤家の男性に関係しているようですね」

 

「まさかと思うが・・・・・先生、この学校に兵藤家の誰かがいるんですか?」

 

魔方陣で守られている教師に問うと、深い溜息を吐いて頷いた。

 

「この学校は完成してからまだ日が浅い。

だから知名度を上げる為にも上層部は悪魔や天使、堕天使だけではなく、

兵藤家や式森家の子供たちも通わせることに決まったんだけどね・・・・・兵藤家、

特に男子が傍若無人、理不尽な言動、自己中心、この学校のルールを

『俺たちは天皇兵藤家だからなにをしても許される。邪魔をした奴らは兵藤家の威厳と

絶対的な権利で一家路頭に迷わせる。兵藤家に逆らうな痛い目に遭いたくなければな』と

平然と破り、授業中に抜け出したり、同じクラスメートや他のクラスの女子にセクハラ

どころか世間に言えようのない事件が度々起きているというより起こしているんだ」

 

「「「・・・・・」」」

 

「このクラスにいる女子たちもその被害者かその関係者、また自ら望んできた女子たちだ。

このクラスには男子もいたんだけど、あまりにも女子が同じクラスメートの兵藤家の男子たちと

いるのを拒んだから理事長は苦渋の選択をし、任意を含め男子と女子とクラスを分けた。

F~Dが女子のクラス、C~Sまでが男子のクラスとしてね。

キミが、新しく入ってきた兵藤がこの教室に配属されることを

懸念していたんだんだが・・・・・ほぼ、予想通りの反応をしてくれたけどね」

 

いや、その反応は最悪でしょう。

 

「・・・・・俺も他の兵藤と同じ扱いをされているということか」

 

突然、防御魔方陣を消したことで魔力弾や光の槍が一誠に直撃した。

 

『・・・・・』

 

女子たちはいきなり無防備になって自分たちの攻撃を受けた一誠に思わず攻撃の手を止めた。

 

「―――お前たちが兵藤家に酷い目に遭っていることを、俺は知らない。

深く心身ともに傷付いていることも俺は今日まで知らない。だけどな」

 

身体に突き刺さっている光の槍を抜き放って握り潰した。血が噴き出しているにも拘らず一誠は真っ直ぐ女子たちに向かって言いきった。

 

「信用してくれとは言わない。だけど、俺は他の兵藤家の奴らとは違う。

一緒にしないでくれ。それと俺は兵藤家の人間じゃないんでそことんとこよろしく」

 

「・・・・・そんなこと、信用できるわけがない」

 

一人の女子生徒が漏らしたのを聞き苦笑を浮かべた一誠が言った。

 

「信用できないならそれでいいって。逆に少しずつ信頼をしてもらうから」

 

その時、この教室に数人の男子が入ってきた。教師はすかさず反応して叱咤した。

 

「キミたち!いまはHR中だから自分の教室に戻りなさい!」

 

「先公の言うことを俺たち兵藤家が聞くと思ってんの?」

 

「うはっ!なんかメイドがいるぜ!ご奉仕してもらおうっかなー!」

 

「あ?なんで男がここにいるんだよ。ここって女の溜まり場のはずだろう」

 

三人の男子が一誠たちに気付く。兵藤家の男だと分かった女子たちが悲鳴を上げたり

敵意を籠めて睨んだり、警戒態勢で席から立ち上がっている。

 

「おいお前、そこのメイドをこっちに渡せ」

 

「なんでだ?」

 

「俺たち兵藤家に逆らうのか?逆らったらお前は―――」

 

「ああ、酷い目に遭うんだって?―――上等だよ」

 

そう言った一誠に顔が狂喜の笑みを浮かべ出した。

 

「お前らの言うことなんて俺が聞くと思っているのか?」

 

「はっ!身の程知らずが、俺たちに敵うと思うなよ?」

 

「今日から俺はこのクラスの一員だ。だからクラスメートが酷い目に遭うのを俺は

黙っているつもりは無い」

 

自然体で守ると言い放った一誠。対して相手は一誠に敵意を抱いた。

 

「こいつ、邪魔だよな?」

 

「ああ、俺たちを邪魔するし、どうやら俺たちの怖さを知らないらしいしな」

 

「んじゃ、決定だな。俺たちの強さを思い知らせて一家諸共路頭に迷わせようぜ」

 

三人の男子が一誠に飛び掛かった。女子生徒たちはただ一誠が殴られると思い見守っていると―――。

 

「先生」

 

「え?」

 

「すいません、窓ガラスを壊しますので」

 

一誠が教師に一人の男子の腕を掴みながら言った。

言葉通り、その男子を思いっきり投げ放ち窓ガラスを壊して外に。

 

「てめぇっ!」

 

「この野郎ぉっ!」

 

「お前らも同じ運命を辿れ」

 

残りの二人の男子から突き出される拳をかわし、首を掴めば最初の一人の男子のように

外へ向かって投げ放った。

 

「天気は変わりやすいから気をつけろよ・・・・・って言っても聞こえないか」

 

次の瞬間、雷が落ちてまだ宙にいた三人組に直撃した。その光景を唖然と女子たちが

見詰めていれば雷は止み、全身黒コゲの兵藤家の三人が地面に倒れていた。

その後、一誠は何事もなかったように窓ガラスを金色の杖を具現化してその杖の能力で治した。

 

「えっと、改めて俺は兵藤一誠だ。見ての通り、俺は他の兵藤家とは違うんで

一緒にだけはしないでくれ」

 

この日から一誠は波乱万丈な学校生活を送ることとなった。

 



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エピソード4

一誠たちの自己紹介を終えて授業は始まった。最初は各神話体系について教師が

教科書を見ながら読みあげると、

 

「へー、海の神さまの勢力は浮気が流行だったんだ・・・・・」

 

と、一誠が度肝を抜かす発言をした。

 

次の授業は調理実習、

 

「ちょっ、兵藤くんキミ!」

 

「ん?」

 

「どうして、簡単なデザート作りなのにマカロンを作っちゃうんだー!?

食材はどうした食材は!」

 

「え、自由に作っていいんじゃ・・・・・?」

 

「そんな、純粋な目で首をかしげない!(パクッ)しかも美味しいし!」

 

そのまた次の授業は錬金術の授業。大きな錬金釜が置かれて教師が試しに

何でもいいから錬金をと催促し鎌の前に立つ材料を持った一誠だったが、

 

「・・・・・兵藤くん」

 

「はい?」

 

「その手にあるものはなに?」

 

「えっと、オリハルコン、脱草、スライム、水銀や王冠―――」

 

「・・・・・キミは何を錬金しようとしている?」

 

「メタルキング―――」

 

「ネタバレ禁止!」

 

そして次は、数学。

 

「・・・・・キミは欠点という概念がないみたいだね」

 

「え?」

 

「そこまで複雑に答えなくていいんだよ」

 

『・・・・・』

 

一誠はリーラという完璧超人、スーパーメイドに育てられた故の結果であった。そして昼休み、

 

「ね・・・・・」

 

「何?」

 

「その大きな箱はまさかとは思うけど弁当箱なの?」

 

「そうどけど。でもこれ、俺だけが食べる訳じゃないし」

 

二つの豪勢な箱を鞄から取り出した一誠に見かねて訪ねた女子。

 

「な、広い場所ってどこにあるか教えてくれないか?食べるに最適な場所」

 

「・・・・・屋上かな」

 

「屋上か。ありがとな」

 

軽く感謝されて弁当箱を持ち一誠とオーフィス、咲夜、ヴァレリーが教室から去った。

 

―――屋上―――

 

「おー、聞いた通り広いな」

 

「ここなら大勢いても食べれるわ」」

 

「そうですね・・・・・オーフィスさま、どうかしましたか」

 

「クロウ・クルワッハたち、くる」

 

オーフィスが言った直後にクロウ・クルワッハたちや教師のリーラたちが現れた。

 

「もう、先にどこかへ行かないでよ」

 

現れるや否や、愚痴を漏らすルクシャナ。一誠は悪いと謝り、

弁当箱を置く前にどこからともなく取り出したブルーシートを敷いて改めて弁当を置いて広げた。

各々箸を持って料理を摘まんで口に運びながら今日のことを話し合った。

 

「クロウ・クルワッハたちのクラスはどうだ?」

 

「男が一人もいなかったな」

 

「訊いたら兵藤家の男たちが女子に酷いことをしているようね。

皆、兵藤家の男子に良い感情を持っていなかったわよ」

 

その時のことを思い浮かんだようでアルトルージュは溜息を吐いた。

 

「それと、いきなり雷が降って来たんだけどあれって誰が?」

 

「ああ、俺だわ。件の兵藤家の連中が入って来て、咲夜を寄こせって言うからな」

 

人の家族に手を出す輩は許さないと口にした一誠にリーラがやんわりと窘める。

事を大きくさせて学校生活ができなくなる考慮をした上での注意だ。

 

「一誠さま、あまり兵藤家に刺激を与えないほうがよろしいかと・・・・・」

 

「分かってるよ。こっちから手を出す気はさらさらない。

ただし、あっちから手を出してきた場合は容赦はしない。

それはそうと、リーラたちはどうなんだ?リィゾとフィナ、二人は?」

 

「私はアルトルージュさまたちのクラスの副担任として配属されました。

リィゾさまとフィナさまは何故か警備員に」

 

「なんで警備員?いや、教師よりも大分楽でいいかもしれないけど」

 

「吸血鬼の能力で学校全体の警備をして欲しいそうだ」

 

「人気のない場所が多々あるからね。私たちが蝙蝠と化と成って学校全体をくまなく調べて

問題を起こしている生徒がいれば私とリィゾ、プライミッツ・マーダーが対処する手筈だ」

 

吸血鬼の能力だからこそできる芸道なのだろう。

すると、一匹の蝙蝠が屋上に現れてリィゾの顔に近づいた。

 

「・・・・・仕事だフィナ」

 

「早速ですか。やれやれ、初日で仕事が発生するなんて。ああ、美少年の血を飲みたい!」

 

陰に隠れて何か悪意的なことを仕出かしている生徒を見つけたのだろう。

二人は身体を数多の蝙蝠と化してどこかへ飛んで行った。

 

「二人の働きで少しは学校の治安が良くなるといいんだがな」

 

「兵藤家の者たちが改心しない限りはどうにもならないかと」

 

「・・・・・やっぱ、そうなるよな」

 

あいつらは改心するのかと嘆息し、希望のないことに気に掛けることなどしない。

 

「ルクシャナ、人間の学校じゃないがどうだ?学者として心躍っているか?」

 

「ええ、楽しませてもらっているわ。私、この国に来て良かったと思っている。

一誠、ありがとうね」

 

「あの時強引についてきた結果がこれか」

 

ポツリとクロウ・クルワッハが漏らしたことで周囲から苦笑いや乾いた声が漏れた。

 

「クロウ・クルワッハ、アルトルージュ。そっちにいる皆を守ってくれ」

 

「できる範囲でなら何とか守ってあげる」

 

「相手が強ければ私は嬉しいがな」

 

純血の吸血鬼と最強の邪龍のコンビ、この二人の手に掛かれば

よほどの相手ではない限り安全と言えよう。

 

「ところで、理事長って誰なんだ?」

 

唐突にそんな話をし出した一誠の疑問を誰もが答えられないでいると、リーラが口にした。

 

「この町、この国は事実上、天皇である兵藤家が支配しているのですが、

現兵藤家当主である兵藤源氏さまは多忙の身でありますので、この学校と関わりを持っていません」

 

「じゃあ、誰が理事長を?」

 

「理事長は三人おります。冥界、人間界、天界から一人だけ理事長を選抜して共に

この学校を機能させております。・・・・・直ぐにお会いになられるかと思いますので」

 

最後に発したリーラの顔は珍しく疲れている表情だった。

 

―――○●○―――

 

時刻は午後となり、午後の授業が始まる。

 

「えー、次は体育の授業だが今日編入してきた兵藤くんたちに説明をしないとな」

 

「「「よろしくお願いします」」」

 

「よろしく」

 

「・・・・・普通に礼儀正しいな。さて、説明する。

この学校の体育は特殊で他の学年とクラスの対抗実戦が行われる。

主に戦闘経験、もしくは武術を嗜んでいる者であれば誰でも参加していい。

実際、このクラスには神器(セイクリッド・ギア)の所有者や戦闘経験のあるクラスメートがいる」

 

「へー」と興味深そうに漏らす一誠は誰だろうと周囲に目を配ったところでこっちを

見るなとばかり睨まれてしまい、教師に目を向けざるを得なかった。

 

「(頑張れ兵藤くん)何か質問はあるかな?」

 

「んじゃ、何人まで参加して良いんですか?」

 

「冥界で行われているレーティングゲームを知っているかな?あのゲームと同じ参加人数は16人までだ。ただし上級悪魔に眷属悪魔がいるならその眷属悪魔と

一緒に戦わないといけないわけだが、まぁ関係ないだろう。他はあるか?」

 

「仮に勝ったとして勝ったクラスは何か恩恵はあるんですか?」

 

「そうだな。勝ち続ければ悪魔、天使、堕天使に自分の種族にならないかと勧誘されることもある。

後、体育の評価は今後のステータスにもなる。神器(セイクリッド・ギア)の所有者なら

他国に勧誘され、その国の兵力として迎えられる。特に神滅具(ロンギヌス)の上位種は

軍隊や近代の兵器以上の能力を有しているからどこの国も血眼に草の根を分けて

探し出す勢いで捜索中だしな」

 

教師は教室の時計を見て話を打ち切った。

 

「そろそろ体育の授業が始まる。参加したい奴は立ち上がれ。それ以外の生徒は自習だ」

 

その言葉を待っていたとばかり一誠は立ち上がった。オーフィスも立ち上がったが、

一誠は制した。

 

「オーフィスは咲夜たちの傍にいてくれ。また兵藤のバカが来る可能性があるからな」

 

「ん、わかった」

 

「・・・・・一人だけか?流石に一人だけ行かせるわけには

いかないんだが・・・・・」

 

一誠以外誰も立ち上がろうとはしなかった。立ち上がった男は兵藤家の人間だから一人

でも大丈夫だろうという雰囲気が漂い始める。

 

「いや、無理強いさせたくないんで。俺一人でも―――」

 

「HEY!なら、この金剛が参加しますネー!」

 

と、元気溌剌な茶髪で花を象った結び方をした金と黒のヘアバンドを頭に身に付けた

少女が名乗り上げた。

 

「金剛か・・・・・いいのか?」

 

「YES!この子は他の兵藤と違うことは分かっているから問題ないデース!」

 

「・・・・・(ジーン)」

 

彼女の言葉を聞いた途端、静かに感動する一誠。

 

「―――それに兵藤家にはちょっとした恨みもあるので、

もしもぶつかったら全身全霊を以って潰したいですからネー」

 

金剛の顔に影が宿り、陽気な雰囲気が一変して冷たくなるまでは。

一誠は金剛の言動に罪悪感が一杯だった。

彼女もまた大切な何かを傷付けられた一人なのだと知って。

 

「・・・・・他にいないな?いないならこの二人だけにするぞ。できれば二人だけでも

行かせたくは無いんだがな」

 

そうは言うものの、二人以外参加を望む女子はしばらく待っても名乗り上げず、

結果・・・・・一誠と金剛の二人で体育の授業をすることとなった。二人は教師に

引き連れられてとある空き教室に案内される。そこには光り輝く魔方陣が浮かんでいて

教師は魔方陣の中に入れと催促した。

 

「体育の授業の制限時間は三十分。それまで相手を全員倒しきれば勝利となる。

かなりきつい戦いになるだろうが気をつけろよ」

 

「がんばりマース!」

 

「相手がどこのクラスだか分からないんですか?」

 

「それはこれから送られる体育の授業の為に作られた異空間に行けば分かるさ」

 

教師の言葉はそれで最後だった。一誠と金剛が光に包まれてどこかへと転移したのだった。

 

―――○●○―――

 

「・・・・・ここってどこだ?学校・・・・・にいるようだが」

 

「体育の授業で使われる異空間デス」

 

「というと、もう移動したのか?」

 

「YES!その通りダヨ!」

 

「―――空き教室にいたはずなのにどうしてトイレの中だ?

しかも女子トイレみたいなんだが・・・・・」

 

雰囲気を感じ取って今いる場所を把握する。臭いなど感じさせず、壁を確かめれば

本物みたいな冷たく硬い感触。すると、どこからかアナウンスが流れた。

 

『それでは、体育の授業を始めます。2-F VS 3-C 制限時間は三十分。

勝利条件は相手のクラスを全滅、もしくは制限時間まで相手より人数が

残っていること―――試合開始です』

 

心の準備をする暇もなく授業は始まった模様。金剛と一緒にトイレから出て、

 

「よし、探険だ」

 

「WHY?どうしてなのですカ?早く敵を倒さないと負けちゃうネ」

 

「この学校に始めて来た俺が学校の構図を知っているはずがないだろう?」

 

「あ、それもそうですネ。では、この金剛が案内しマース!」

 

「敵を見つけたら速攻で倒すか」

 

「YES!」

 

と、授業を半分そっちのけで移動を開始した。体育の授業は冥界で行われている

レーティングゲームと同じ異空間、次元の狭間で構築したバトルフィールドで行われる。

審判や教師たちに見守られる中、クラス対抗戦が行われる。金剛に案内されること数分。

 

「うお、こんなものまで再現されているのか!すげーな!」

 

「HAHAHA!良い反応をするネー!」

 

教師陣は思った。この二人、何をしているんだろうと。

だが、程なくして校舎の中を歩き回っていた二人の前に、一誠にとって初めて出会った相手と対面した。

 

「・・・・・お前、なに付けてんの?」

 

「ん?どこかの民族の仮面」

 

美術室から掻っ払ってきた仮面を被っていた。

 

「・・・・・先輩、相手はたった二人のようです」

 

「二人か。よし、俺たちだけでも倒せそうだな花戒」

 

相手は一誠と金剛以上の人数がいる模様。相手が身構えをした時、

 

「聞くけど、お前ら人間か?」

 

「は?いや、悪魔だけど」

 

「そうか・・・・・なら、お前らはこの場で倒れるな」

 

相手の素性を知り、一誠は右拳に淡い光が帯びた。右拳を一度引いて―――。

 

「はぁッ!」

 

気合一閃と共に右の正拳が撃ち出された。相手二人は離れた場所で拳を突き出すなんて―――と

表情に出ていたが、ドンッ!と拳圧の衝撃によって吹っ飛ばされ、一瞬で苦痛の色に塗り替えられた。

 

 

「んー、壊しちゃいけないから力をセーブしたからか、一撃で倒すことができなかったか」

 

「OH・・・・・」

 

ただの衝撃波だけではないようで吹っ飛ばされた相手二人はその場で苦しんでいた。

そんな様子を一瞥して金剛に問うた。

 

「な、ここって壊しても問題ないのか?」

 

「Of course! ジャンジャン壊してもいいのネー!」

 

「ん、なら遠慮なく」

 

―――一拍して、学校の一角が激しく轟音と共に崩壊し、

相手二人のリタイア宣告がアナウンスによって流れた。

 

「よし、次行こう」

 

「GOGO!」

 

 

 

校舎の中を歩き回って十五分経過し、相手が見つからないので外に赴いた。

 

「金剛って神器(セイクリッド・ギア)を持っているのか?」

 

「そうデスヨー。ですが、私の力は役に立ちませんネー」

 

「ん?コントロールができないのか?」

 

「や、そういうわけじゃないんですがネ。見てもらえば分かるかモ」

 

金剛の身体が光に包まれ、様子を見守る一誠の目に想像を絶する飛び込んできた。

―――「戦艦を身に纏っている」―――と一言に尽きる。四つの主砲を備えていて

服装は軽装の巫女服みたいなものと変わっていた。

 

「・・・・・」

 

無言で姿が変わった金剛を見やる一誠に少しドギマギする金剛。何かおかしいのかと思った時、

 

「格好良い・・・・・」

 

「へ?」

 

「いいなぁー。格好良いなぁー」

 

目を爛々と輝かせ、子供のように羨望の眼差しを金剛に向ける一誠。

 

「金剛!それ、なんて名前なんだ?凄いな、戦艦を身に纏うなんて初めて見たよ!」

 

「そ、そうですカー?」

 

「ああ、何だか強そうだ。それ主砲で相手に攻撃するんだよな?」

 

あれこれと金剛に問い、好奇心で身に纏う戦艦を触れる。

 

「(なんだか、この兵藤くんは子供みたいですネー・・・・・)」

 

ここまで自分の神器(セイクリッド・ギア)に興味を持つ人はいなかった。

外見だけならば誰もが感嘆を漏らすものの、実際に使えば手の平を返すような反応を示すことが多い。

きっとこの一誠もそうだろうと思いあることを伝える。

 

「兵藤くん」

 

「ん?あ、ごめんな。それで役に立たないとは?」

 

「こういうことデース」

 

片足を上げて前に動かした。

 

ズシンッ・・・・・。

 

もう片方の足も上げて前に。

 

ズシンッ・・・・・。

 

「・・・・・」

 

必死そうに歩く金剛。歩くだけで顔に汗が浮かび地面が軽く凹んでいる様を見て一誠は理解した。

 

「移動が遅いのか。その戦艦を背負っているから」

 

「YES、その通りなのデース。だから私は敵の攻撃の的になってしまって

私自身の攻撃すら当たりませン」

 

肩を深く落とし、頭も垂れる金剛。確かにこれでは役に立たない。移動おろか回避もできず、

砲台みたいな存在と成り下がる。移動しながら攻撃するこそ戦艦なのだ。一誠を腕を組んで首を捻る。

 

「んー、戦艦の重みで移動速度が遅いんなら・・・・・水の上だったらどうなんだ?

戦艦って海という戦場で真価が発揮するもんだろう?」

 

「あ、それは考えてませんでしたネ」

 

「なら、試すか」

 

金色の杖を具現化した一誠は杖を地面に突き刺した。

 

「―――錬金」

 

と、漏らした一誠に呼応して地面に波紋が生じ・・・・・あっという間に地面が水へと成り変わった。

そしてもう一つ。

 

「oh!私、浮かんでマース!」

 

金剛の足から水が音を立てて噴き上がって、水の上にも関わらず金剛が浮いていたのだった。

動けば蝶の如く動き回り、あの戦艦の重みで鈍かった動きと打って変わって

水の上では軽々と動き回っている。

 

「兵藤、兵藤!見ていますカー!?私、こんなに早く動き回れますヨー!」

 

「氷の上を滑っているようだな」

 

「トウッ!」

 

一誠に向かってダイビングした金剛。この場合、一誠は脳裏でどう対処するか悩んだ。

戦艦の重みで潰されるか、敢えて避けるべきか―――その二つの選択肢を選んでいると

水が獣の形と成って襲いかかってきたので、第三の選択肢である金剛に抱き付いて

水獣の攻撃から避けることに実行した。

 

「ひょ、兵藤・・・・・?」

 

「悪い、どうやら敵がきたようだから」

 

視線を上に向ければ数人の女子が一誠と金剛を見下ろしていた。

 

「あなたたち・・・・・授業を真面目に受けるつもりは無いんですか?」

 

言葉を冷たい視線と共に送る眼鏡を掛けたショートカットの女性。

 

「いや、今日この学校に入ってきたばかりで今回この体育の授業も初めての体験だから、

思いっきり楽しませてもらっているんだ」

 

「・・・・・なるほど、ですがその割には私の眷族を倒しましたね?」

 

「戦いに関しては慣れているからな」

 

一誠の周囲に氷の槍が具現化して相手に放った。

空気を裂きながら飛来する槍は、魔方陣や長刀で防がれた。

 

「魔法使いですか・・・・・。まさか、式森―――」

 

「違う。俺は兵藤だ」

 

言った瞬間、相手から感じるプレッシャーが膨れ上がった。

一誠を見る眼つきも厳しく、細くなった目を一誠に見下ろしながら漏らした。

 

「・・・・・兵藤、そうですか」

 

「あれ・・・・・?」

 

「・・・・・覚悟してください」

 

周囲の水が意思を持っているかのように揺らめき、弾丸のように一誠と金剛に襲い掛かった。

 

「なんかお怒りになられている!?」

 

「兵藤家にいい感情を持っている人のほうがおかしいデス!」

 

「・・・・・三年のところまでもそうなのかよ」

 

全ての水を凍らせた後に元の地面に戻し、大地を操り槍のように上空にいる

女子たちへ突き上げた。一誠の仕業であることを理解し、

土の槍を回避した女子たちの顔に驚愕の色が浮かんでいる。

 

「兵藤家が魔法を扱えるなど聞いたことが・・・・・ッ!」

 

「俺はそんじょそこらの兵藤のやつらとは違う」

 

「どうでしょうか、あなたも兵藤の名を持つ者なら傍若無人な振る舞いをし、

兵藤家の威光を嵩に懸ける―――」

 

眼鏡の女性が最後まで言えなかった。見下ろして視界に入れていた一誠の姿が虚空に消え、

瞬きをした瞬間に一誠は目の前にいて思考が働く前に首を掴まれた。

 

「もう一度言う。俺は他の兵藤の奴らとは違う」

 

「・・・・・っ!?」

 

首を掴まれているにも拘らず、大した握力で掴まれていなかった。

だが、一誠から発する形容しがたい何かで身体が動けない。

他の仲間も目を丸くして次の行動ができないでいる。

 

「俺と他の兵藤と一緒にしないでもらおうか。それだけは耐え難い屈辱何でな」

 

「・・・・・どうして、そこまで拘るのですか。同じ兵藤の名前を持つ者が」

 

「兵藤家は外見も中身も一致していると思うか?」

 

「・・・・・なんですって?」

 

「外見はさぞかし立派なイメージなんだろうが、蓋を開ければお前の言う通りの奴らが

当たり前のようにいる。自分たちは偉いんだから当然だ。強いから相手からなにを

奪おうと正当化される。そんな奴らがな」

 

女性は一誠から発せられる言葉にどこか疑問を浮かんだ。同じ兵藤家の人間が兵藤家を

否定するかのような言い方なのだ。摑まれていた首が解放され、目の前に佇む一誠が口を開く。

 

「俺は極一部を除いて兵藤家と兵藤の人間が大嫌いだ。それだけは覚えてくれ」

 

「・・・・・」

 

「さて、戦いを開始しようか」

 

空間を歪ませ穴を広げたら手を突っ込ませて装飾と意匠が凝った鞘に収まっている

剣を取り出した。

 

―――っ。

 

その剣を見た瞬間に女性たちは顔を強張らせた。

あの剣は―――自分たちを屠る為に作られた武器であることを認知したのだ。

 

「金剛、俺が撹乱しつつ隙を突くから頼んだぞ」

 

「OKー!」

 

地上から主砲を構える金剛と目の前に剣を構える。

人数はこっちが有利だが―――どうやら覆させられるかもしれない。そう女性は思った。



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エピソード5

体育の授業を終え、放課後となった。

 

「じゃあネー!」

 

金剛とはすっかり打ち解け、一誠とオーフィス、ヴァレリーと咲夜は

クロウ・クルワッハたちとも合流し、職員室に顔を出した。リーラとフィナ、リィゾ、

プライミッツ・マーダーは今後どうするのか聞く為に。

 

「申し訳ございません。私たちはまだしばらく仕事が片付けねばなりません。

お先にお帰りなされてください」

 

「そっか、それじゃあのマンションに帰っているから」

 

「かしこまりました」

 

リーラたちと別れ、一行は下校をしようと改めて玄関ホールへ足を運んだ。

―――しかし、一誠たちの歩みを停めざるを得ない人物がいた。

 

「よーう!坊主、久し振りじゃねぇーかー!」

 

「やぁ一誠ちゃん、久し振りだねぇー!」

 

片や筋骨隆起で和服を身に包んだ中年男性と黒い服を着て長い銀髪を背中まで伸ばす

細身の中年男性が一誠を捕まえたのだから。一誠は目を白黒にし、

 

「神王のおじさんに魔王のおじさん・・・・・?え、なんで?」

 

「なんでってそりゃおめぇ、俺とまー坊はこの学校の理事長をしているんだぜ?」

 

「そうとも。キミの戦いぶりを堪能させてもらったよ。

いやー、本気を出していないといえ美しい戦いだった」

 

「・・・・・神王ユーストマと魔王フォーベシイが理事長?」

 

一誠に笑みを浮かべている余所でアルトルージュは信じられないと漏らす。

周りの視線が集まりつつある中でユーストマとフォーベシイは好き勝手に話しかけてくる。

 

「おや、キミがアルトルージュだね?誠ちゃんや一香ちゃんから聞いている。

吸血鬼が太陽の下でも活動できるとは驚いているよ」

 

「お前とお前の配下には討伐しないように教会の連中に言い包めてあるから安心しとけ。

なんたって坊主の家族なんだからな」

 

「・・・・・ええ、複雑だけど感謝するわ」

 

複雑極まりないと本当にそう醸し出し、そう口にしたアルトルージュから視線を逸らして

ユーストマはクロウ・クルワッハに目を向けた。

 

「んで、お前はクロウ・クルワッハか。坊主の元にまた邪龍が集うなんて坊主は

ドラゴンを魅了させる才能があるようだな」

 

「ああ、そのようだな。それより機会があれば神王と一勝負してみたいが」

 

「おう、いいぜ?手加減しないからそこんとこよろしく」

 

「ふっ、兵藤一誠と共にいて正解だな」

 

嬉しそうに口の端を吊り上げた最強の邪龍。周囲からざわめきが聞こえ、

一誠たちは少し居心地が悪くなってきた。

 

「あの、ここじゃ話もなんですし」

 

「ん?ああ、野次馬が群がっていやがったな」

 

「では、応接室で話の続きをしよう。そこに客人も待たせているしね」

 

「・・・・・客人?」

 

誰のことだろうと思いつつ、一行は二人の理事長の先導のもと、応接室に赴いた。

一階に応接室があり、玄関ホールに侵入して右の通路へ進むめば直ぐに見つけ、

フォーベシイが扉を開け放ち、一誠たちを先に入れさせた時、

応接室に一人の女性がいた。ダークカラーが強い銀髪を背中まで伸ばし、白いシャツと

青いジーンズの姿で高級なソファに腰を下ろしている。

その女性は入ってきた一誠たちに気付き、笑みを浮かべた。

 

「一週間振りだね、一誠」

 

「・・・・・お前、ヴァーリ?」

 

「ああ、子供の頃は男のように振る舞っていたから気付かなかったか?確かに私は

あの時は勇気が出ずにいたが・・・・・今なら言える」

 

女性改め、イリナと同じ幼馴染であるヴァーリが立ち上がって一誠の前に立った。

 

「見ての通り、私は女だ。女らしく成長したと思うけどどうかな?」

 

細身で出ている部分は出ていて、引っ込んでいる部分は引っ込んでいる。

輪郭も整っていて、見詰めれば引き込まれるではないかと思う好き取った青い瞳。

そんな女性らしく成長したヴァーリを一誠は笑みを浮かべて頷いた。

 

「イリナの時もそうだったけど、全然ヴァーリが女のことだとは思わなかった。

―――綺麗だよ、ヴァーリ。そして久し振り。会えて嬉しいよ」

 

「―――ああ、その言葉を聞けて私は嬉しい」

 

歓喜極まって一誠に抱き付く。一誠も抱きしめ返し再会の喜びを分かち合う。

と、ヴァーリの背から青い翼が生え出した。

 

『クロウ・クルワッハとアジ・ダハーカ。それに妙なドラゴンまで増えたようだ。

兵藤一誠・・・・・お前は本当に邪龍まで家族にしたとは感服に値する』

 

「アルビオン、お前も久し振りだな」

 

「まさか、ここでアルビオンと出会えるとは私も思いもしなかった」

 

クロウ・クルワッハも青い翼に話しかけた。ここで邪龍と天龍が揃った瞬間で、

 

「勝負するか、アルビオンを宿す者よ」

 

「私は一誠に夢中だ。話ならアルビオンとしてくれ」

 

邪龍として天龍と戦いが為に喧嘩を売ったが、一刀両断で拒否された。

アルビオンは青い翼を点滅させながら発した。

 

『だ、そうだクロウ・クルワッハよ。今回の宿主は戦いよりも兵藤一誠に対する愛で頭が詰まっている』

 

「・・・・・愛、か。その感情はあまりわからないものだ」

 

『愛は偉大だそうだ。このヴァーリは兵藤一誠に対する愛という想いで強くなったぞ?

お前を倒す程とは言えないがな』

 

「・・・・・私も愛を覚えればさらに強くなるというのか・・・・・?」

 

顎に手をやって視線を一誠に向けたクロウ・クルワッハ。その意味深な言葉と送られる

視線にヴァーリは強く一誠を抱きしめた。

 

「一誠は渡さないぞ」

 

「ヴァーリ・・・・・?」

 

「一誠は私の恩人なんだ。あの時、私の手を力強く掴んで引っ張ってくれた一誠に

―――好きになったんだ」

 

ヴァーリの告白に目を丸くした一誠。他の面々も一誠に対する愛の告白に目を丸くし、

 

「一誠、きっとお前は世界中に点々と修行をしてきただろうからその時であった女に

好意を抱かれたはずだろう?―――その中で自分から好きだと言った女は誰だ?」

 

と、そんな不安の色を瞳に浮かべたヴァーリの質問に一誠は首を横に振った。

 

「まだ誰一人も言っていない。ただ・・・・・」

 

「ただ・・・・・?」

 

「・・・・・ようやく異性に対して好きという感情が分かったばかりで、初恋の人がいるんだ」

 

『っ!?』

 

恥ずかしげにヴァーリから視線を逸らす一誠の言動に女性陣は反応した。

無論、ヴァーリも例外ではない。

 

「「そいつは誰だ!?」」

 

ただし、反応しなくて良い二人までもが反応を示した。

 

「その初恋の相手はネリネちゃんかい!?それともリコリスちゃん!?」

 

「うちのシアか!?」

 

必死な表情でズイズイ顔を近づけてくるユーストマとフォーベシイに一誠は言葉を

失うしかなかった。何と言うか始めて抱いた二人に対する鬱陶しさ。

ここまで激しく反応することなのだろうかと思っていると。

 

「「早く、教え―――!」」

 

「―――ユーストマ?」

 

「っ!?(ビクゥッ!)」

 

身体を跳ね上げ、何かに驚きだすユーストマ。ユーストマの名を発した声は女性のもので、

 

「何時になっても報告をしに来ないのでどうしたのかと思えば・・・・・あなたは

何をしているんですか?」

 

ユーストマの背後に金髪で碧眼の女性が優しげに声を掛けていた。―――笑顔に陰がなければ

その矛盾さを気付かなかっただろうに。

 

「ヤ、ヤハウェ・・・・・さま」

 

「はい、聖書の神のと称されしヤハウェです。

ユーストマ、彼の初日の学校生活の報告の時間が過ぎていますがどうしてなのですか?」

 

「・・・・・(汗)」

 

―――数分後―――

 

隅っこで怯え震えるユーストマと顔を青ざめる(オーフィスとクロウ・クルワッハを除く)一誠たち。

ヤハウェの怒りの一端を見てしまい、

 

『(絶対に怒らせないようにしよう!)』

 

と、心が一つになった瞬間だった。

 

「さて、兵藤一誠くん」

 

「ひぅっ!?」

 

思わず子供の時みたいに怯えた一誠。怯えられていることにヤハウェは少々ショックを受け、

 

「ああ、申し訳ございません。怖がらせてしまいましたね」

 

自分の第一印象が悪くなる前にヤハウェは行動を起こした。

一誠を安心させるため、装飾が凝った白と金の生地で作られた服に一誠の頭に両腕を

回し引き寄せた。神ヤハウェの服を盛り上げる豊満な胸に顔を寄せられて一誠の心は

スッと落ち着きを取り戻した。

 

「・・・・・落ち着く」

 

「ふふっ、落ち着いてくれてなによりです」

 

まるで母親のように微笑みながら一誠の真紅の頭を撫でる。

―――何時しか、ヤハウェの温もりに睡魔が襲われ。

 

「・・・・・スー」

 

ヤハウェの腕の中で寝息を立てた。その一誠の寝顔を見たフォーベシイが微笑んだ。

 

「可愛らしい寝顔だ。とても穏やかに寝ている」

 

「赤子の時もそうでしたよ。それが成長した今でも変わりがないようですね」

 

嬉しそうに絶えず一誠の頭を撫でる。魔力で一誠を浮かせ、ソファに座るヤハウェに

膝枕の形で横になった一誠の寝顔はオーフィスたちにも晒した。

 

「ユーストマ、この子にあの件のことをお伝えしましたか?」

 

「え?・・・・・あ」

 

「・・・・・あなたは後で天界に戻ってきなさい」

 

しょうがないと深く嘆息したヤハウェ。ユーストマは何か伝えるべきの事を伝えず

今に至ってしまい今後起きる自分の身に娘や妻の名前を出して別れの言葉を漏らした。

 

「あ、あの・・・・・・あの件とはいったいなのことですか?」

 

ティファニアが恐る恐る委縮しつつヤハウェに訊ねた。訊ねられヤハウェは隠すまでも

ないとあることを伝えた。

 

「近いうちにこの学園で天界、冥界、人間界のトップが先日のコカビエルと聖剣の

ことについて会談をすることになったのです。

本来関わらないはずだったこの子がコカビエルを倒し、

聖剣の回収を協力してしまったので会談に出席していただきたく思っています」

 

「そういうことだよ。私からも伝えようかなと思っていたのだが・・・・・。

まぁ、一誠ちゃんのメイドさんに伝えれば問題ないだろうね」

 

「会談って具体的にどんな?」とルクシャナの問いにフォーベシイはこう答えた。

 

「それはその時にならないと言えないね。すまないが会談の時、

キミたちは家で待っていてくれたまえ」

 

―――○●○―――

 

「くはっ・・・・・眠い」

 

「あの神に抱き締められて眠るなんてね?」

 

「抱き絞められた瞬間、あっという間に眠くなってきたんだ。

まだ眠気なんてなかったはずなんだが」

 

「そういうことなら微弱な魔力でも流されたのだろうな。微かに魔力を感じたぞ」

 

一誠を起こして一行は帰宅中。ヴァーリも同伴して共に帰ろうとする。

 

「一誠、キミたちはどこに住んでいる?」

 

「この町の高級マンションを拠点としている。でも、本当の家は次元の狭間の中だ」

 

「次元の狭間に家?」

 

「ああ、そうだ。そう言うヴァーリは?」

 

「まだアザゼルの領土に暮らしている。そういえばこの学校にいる姫島朱乃とは会ったか?」

 

昔出会っている一人の少女の名とは会っていないと意味で首を横に振る。

 

「そうか。まぁ、仕方がないだろう。

彼女から聞けばこの学校は兵藤というキーワードがタブーに等しい。

一誠もその例に零れなかっただろう?」

 

「入った瞬間、睨まれて名乗った瞬間に筆記用具魔力弾や光の槍を投げられたぞ」

 

「・・・・・そいつらは誰だ、教えてくれ私がその倍返しをしてくるから」

 

目を細め、青い翼を展開したヴァーリを一誠が必死に宥めた。

その後、ヴァーリと多くのことを話し会えなかった時の分を埋めようとしていたが、

 

「よう」

 

学校の門を目と鼻の先にして一誠たちの前に三人の男子が現れた。

 

「なんだ、お前らか。何の用だ」

 

「俺らに手を出してタダで済むと思ったら大間違いだぞ。

兵藤家に敵を回したことを後悔させてやるっ!」

 

周囲に人はいない。それは一誠たち以外の学生の意味でだ。目の前の三人の言葉に呼応して

どこからともなく男子たちが現れた。一誠たちが目指す門の周囲は林が生えていて、

その木々の奥から男子たちは現れたのだ。

 

「・・・・・」

 

頭をガリガリと掻き、相手は全員兵藤家なのだろうと悟り―――。

 

「無関係な奴もいるというのに。俺に負けたぐらいで今度は大勢で攻め込んできたか。

戦術としては悪くないが、私情が含んだ個人的な喧嘩だったら―――お前らの品格、

程度が知れるというものだ」

 

侮蔑が含んだ言葉を発した。兵藤家の三人組は怒りと屈辱で顔を歪ませ言い返す。

 

「ざけんじゃねぇっ!」

 

「俺たち兵藤家をお前は敵に回したんだ!」

 

「後悔しても遅いぜ。お前をブチのめした後、そこの女共を楽しませてもらうからな!」

 

その言葉が開戦の合図だった。周りから凄まじい勢いで迫ってくる。

 

「―――お前らは本当に変わっていないな」

 

空間が歪み、歪んだ空間から数多の鎖が飛び出して兵藤家の男子たちの身体に拘束した。

 

「もうあの時とは逆だということを、その身に叩きこんだ方がいいかもしれないな」

 

縛られた兵藤家の男子たちの足元に雷、炎、吹雪が発生してダメージを与えた。

阿鼻叫喚、それが今この場に最もふさわしい言葉。

 

「い、一誠・・・・・もうやめて。これ以上したら・・・・・・」

 

「殺しはしない。だが、俺に逆らわないぐらいに徹底的に痛めつけないと

お前らに被害が及ぶからな」

 

「それでも、もう止めて・・・・・お願いだから・・・・・」

 

ティファニアの懇願。家族の願いに溜息を一つして一誠は「分かったよ」と漏らした。

魔方陣を消して兵藤家をどこかへ遠くに鎖で投げ放った。

 

「これでいいだろう?」

 

「・・・・・うん」

 

「それじゃ、今度こそ帰ろう。また襲われたら俺は問答無用に痛めつけたくなるからな」

 

その後、兵藤家の十数人の男子が満身創痍で倒れたいたのをとある男女の四人組が発見した。

 

「これは・・・・・」

 

「酷い・・・・・」

 

「顔に見覚えがある。こいつら、兵藤家だぞ」

 

「・・・・・この感じ、魔法でやられた?でも、一体誰に・・・・・」



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エピソード6

翌日の朝、朝食を終えて学校に登校する一行。昨日の下校の出来事が嘘だったかのように登校する生徒たちや教師を出迎える学校。

 

『・・・・・』

 

リーラたち教師、一誠とクロウ・クルワッハはそれぞれのクラスに入るや否や、一誠に対して敵意と警戒心を孕んだ視線が向けられる。「毎日こんな感じか」と内心溜息で自分の席に座ろうとしたら。

 

「HEY!兵藤、GOOD MORNING!」

 

元気に一人だけ一誠に挨拶をした女子、金剛。一誠は嬉しそうに顔を明るくして金剛に返事した。

 

「おはよう!」

 

『(か、可愛い・・・・・)』

 

何人かその顔を魅入られた。

 

「ホームルームを始めるぞー」

 

教師もしばらくして入ってきた。

 

「あー・・・・・兵藤」

 

「はい?」

 

「もしかしてなんだか・・・・・お前昨日何かしたか?」

 

具体的な質問をせず、曖昧に訊く教師に一誠は一度首をかしげた。

 

「昨日・・・・・?・・・・・あー、今度は大勢で襲ってきたバカどものことですか?

何か問題でも?」

 

呆気にとられ、しばらく教師は思考を停止した。

次にとった行動は。

 

「やっぱりお前かぁ・・・・・」

 

脱力感を醸し出す教師。教卓にだらけながら言い出した。

 

「お前にやられた兵藤の家族がモンスターペアレントの如く電話で抗議してきたぞ」

 

「じゃ、何もせずに黙ってやられていろと?俺の家族を強姦されるのを許せと先生は

そう言いたいのですか?」

 

「違う!もう少し穏やかに済ませろと言いたいんだ!」

 

「相手はあの傍若無人の兵藤ですが?そのもう少し穏やかに話で解決しているなら、

ここにいる女子の皆は被害を受けなかったはずだ。違うか?」

 

教師は喉から出そうになった言葉を詰まらせた。

女子は一誠と教師の話を聞き、一誠の指摘にその通りだと何人かが頷いた。

 

「先生、俺だって好きで攻撃をしているんじゃない。

相手から攻撃されての正当防衛―――過激だっただろうけど黙って攻撃を受けるほど俺は

物分かりはよくない。それが俺の大事な家族に手を出そうとする連中なら尚更だ」

 

「・・・・・」

 

「先生たち教師には申し訳ないないと思うけど、相手が直接手を出してくるなら俺は

容赦しないんで。例え停学になろうが退学になろうが関係なく」

 

威風堂々と言いきった一誠に対し教師は深く溜め息を吐く。

 

「一時間目は自習にする」

 

それだけ言い残して教師は教室から去った。

 

「一誠、あんなことを言って良かったの?」

 

「本当のことなんだからしょうがないだろう。ヴァレリー、咲夜、オーフィス、

他のクラスにいる、教師の仕事をしている皆も俺の家族なんだからな。

この手の届く範囲内でだが絶対に守る」

 

「・・・・・ありがたき言葉です一誠さま」

 

「我も、イッセーを守る」

 

「ありがとう」

 

三人の言葉を聞き満足げに頷いた。さて、教師がいなくなり自習という自由時間が生まれた。

クラスメートたちは読書したり、復習したり、友達と雑談したりと教室の中で過ごす。

一誠たちもまたそう過ごしている。オーフィスは一誠の傍にいたい為、

小柄な体を活用し、一誠の胸と太股に背中を預け跨がっている。

咲夜やヴァレリーは静かに読書、一誠も古ぼけた分厚い本を開いて読んでいた。

 

「兵藤、何を読んでいるノー?」

 

金剛が一誠に背後から訪ねた。背後にいる金剛に顔を向けて返事をした。

 

「魔法使いが読む本だ」

 

「OH! マジシャンのBOOKネ!」

 

好奇心で本の内容を理解しよう読んでみたものの。

 

「・・・・・全然解らないヨ」

 

と、根をあげた。一誠はそうだろうな、と心中で思い。

 

「俺も勉強中だから全部解らない。なにせこれって魔導元帥ゼルレッチから渡された

魔法の本だからよ」

 

ポンポンと手で本に軽く叩く一誠と誰のことだかさっぱり解らない金剛。

 

「―――魔導元帥ゼルレッチ、ですって?」

 

「「?」」

 

一人の女子がオウム返しをしたことで、知っていそうな人物を発見した一誠と金剛。

 

「知っているのてすカー?」

 

「知っているも何も、宝石翁、万華鏡、魔導元帥ゼルレッチと他多数の二つ名を

持っているキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグのことよ?」

 

若干興奮気味に説明する三日月の髪飾りを頭に、長い紫髪の先にリボンを付けている

紫の瞳の女子。顔をズイと一誠の本に近づけさせた途端に、

 

「凄い・・・・・ッ!本人の直筆で書かれた魔法の本が実在するなんてこの本は魔法

使いの世界では命よりも価値があり、あの魔術協会の理事長であるメフィスト・フェレスさえ

持っていない代物がこんなところで巡り会えるなんて!

―――うっ、はぁ、はぁ・・・・・」

 

「・・・・・大丈夫か?」

 

若干引き気味な一誠は女子に鞄から水筒を取り出して水を飲ませた。それから女子は気を取り直した。

 

「え、ええ・・・・・ありがとう。それであなた、魔法使いなの?

この貴重な本を持っているということは」

 

「や、魔法使いじゃないんだこれが。ただ魔法を使えるだけだ」

 

「それは魔法使いというのだけれど」

 

「それ言ったら魔方陣を媒介にして色々としている悪魔と天使、堕天使はどうなんのさ?」

 

「・・・・・そこを突かれると少々言いづらいわ」

 

女子は一誠から視線を逸らし、じーっと本に目を落とす。

 

「ところで、名前なんて言うんだ?」

 

「パチュリー・ノーレッジよ。これでも私、魔女なの」

 

「へぇー、魔女なんだ。でも、さっき苦しそうだったんだけどどうした?」

 

「喘息と貧血で興奮すると何時もこうよ。

だから魔女なのに魔力を碌に扱えない・・・・・役に立たない魔女って周囲に呼ばれていたわ」

 

自嘲するパチュリー。このクラスに魔女がいることなど知る由もなかった。

そしてパチュリーを知って他人事ではない、なんとなく自分に似ていると思いも浮かんだ。

 

「そうだったんですカー。でも、パチュリーは本が好きみたいですネー?

何時もBOOKを読んでいましたシ」

 

「ええ、本当なら授業なんてすっぽかして図書室で引き籠って読書をしたいのだけれど、

あの忌々しい兵藤が一人になった女性を襲う習性もあるみたいだから、

何時も一人で読書する私も格好の餌食となるし、不服だけど教室で読むせざるを得なくなった」

 

「・・・・・お前は襲われたのか?」

 

「いえ、友達に助けてもらったわ。あの子の人形にはとても助かってるの」

 

「友達?人形?」

 

「隣のクラスに私と同じ魔法使いがいるわ。・・・・・まだ時間はあるわね」

 

自分の席に戻ったかと思えば、椅子だけを持ってきて一誠の隣に置けば当然のように座り、

肩を寄せ合い読書していた本のページを最初から読もうと意思を示すパチュリーによって

一ページまで戻された。

 

―――○●○―――

 

自習の時間を終え、パチュリーとも魔法の知識講座で打ち解けた。この調子で一人ずつ

仲良くなっていきたいと一誠は思った。

 

「次の授業は・・・・・選択授業・・・・・?」

 

初めて知る一誠にとって不思議な授業。その内容は学校に編入したばかりの

一誠たちにとっては首を傾げる。

 

「YES!その通りネ!」

 

「うおっ!?」

 

一誠の背後から金剛がハイテンションで発した。

 

「金剛・・・・・?選択授業ってのはなんだ?」

 

「選択授業とはこの授業だけ他のクラスと色々な勉強をするのデース!」

 

「でも、F~Dまでの女子だけのクラスは男子がいるクラスとはしないけどね」

 

つまり、女子は女子で男子は男子でこの時間だけ

自分の好きな授業を受けることができるということであった。

 

「で、二人は何の授業に?」

 

「「自習」」

 

「授業じゃないやん!(ビシッ!)」

 

「OH!兵藤、突っ込みが鋭いネッ」

 

「なにを言っているの。自習もちゃんと含まれているのよ?」

 

そうなのかよ・・・・・と信じがたい気持で一誠は周囲を見渡す。

―――全員、誰一人も自習の体勢で授業を受けようなどしていなかった。

 

「他のクラスと授業ってどこかの教室で集まってするんだよな?」

 

「そうだけどそれがどうかしたの?」

 

「や、ただの確認。そっか、なら俺も自習にしようっと」

 

「って、どこにいくのですカー?」

 

「料理実習、甘い物でも作ろうかなって。

ここ、教室のはずなのに食材まで揃っているから―――腕の見せ所だ」

 

不敵に笑みを浮かべた一誠は咲夜とオーフィスを引き連れてキッチンへと向かったのだった。

 

―――十分後―――

 

「はい、デザートの出来上がりだ」

 

「OH!美味しそうなケーキやクッキー、ゼリーがいっぱいデース!」

 

爛々と目を輝かせる金剛の前に台車で運び込まれたデザートの数々。

飲み物も用意されていて、女子たちの意識を逸らすのに十分だった。

 

「・・・・・よく短時間で作れたわね」

 

「魔法って便利だよなー」

 

「本来の魔法の使い方ではないと思うのは私だけかしら・・・・・」

 

「まーそう言うなって。ほら、読書しながらティータイムは穏やかになるぞ」

 

「あら、気の利く言葉を言うのね。それじゃ紅茶とケーキをいただこうかしら」

 

「私はプリンと紅茶をPLEASE!」

 

甘いものには目がない。二人の女子は一誠たちが作ったデザートを一口食べると、

「美味しい」と高評価の言葉が出た。

 

「咲夜、悪いけど他の皆にも」

 

「かしこまりました」

 

男の自分では手渡ししても受け取らないだろうという考慮で咲夜に変わって頼んだ

結果、女子たちは咲夜からケーキや飲み物を受け取って飲食した。

 

 

『・・・・・美味しい』

 

『男がこんなにも美味しく作れるなんて・・・・・』

 

『くっ・・・・・ますます許せないじゃないっ』

 

 

負け惜しみの言葉も聞こえてくるものの評価は上々であった時、教室の扉が開いた。

 

「えっと・・・・・失礼します」

 

廊下から顔を出してきた一人の男子。女子の反応はとても薄く、冷たかった。

 

「・・・・・あ、キミ」

 

「・・・・・俺?」

 

「うん、そう。ちょっと来てくれるかな」

 

こっちに来るように手招きする男子に催促され、

一誠は怪訝な面持ちで教室から出ると直ぐに扉は閉められて男子と対面した。

 

「・・・・・」

 

呼びだした男子は一誠の身体を見定める。何かを確かめようとしているのが雰囲気で読み取れる。

程なくして、

 

「キミ、名前はなんて言うの?」

 

「相手の名を伺う時はまず自分からだって言われなかったか?俺はそう言われたぞ」

 

「はは・・・・・それもそうだったね。僕は2-Cクラスの式森和樹。よろしくね」

 

「兵藤一誠だ」

 

「兵藤・・・・・?・・・・・それ、偽名?」

 

何故か疑われ、ますます懸念を抱く一誠。

 

「何でわざわざ自分の名前に嘘を吐く。本当に俺は兵藤一誠だ」

 

「・・・・・兵藤は魔法を、魔力を持っていない一族だって知っている?」

 

「知らないな。ただ、俺の母さんが式森だからそれに関係しているんじゃないか?」

 

「・・・・・そのヒトの名前はなに?」

 

和樹は追求すると、一誠は目を細めた。

 

「お前、俺からなにを言わせたい?なにを思って俺と接している?俺ばかり聞いて

自分のことを話さないんだな。まるで警察みたいに事情聴取をされている気分だ」

 

「・・・・・」

 

「俺からお前が求めている情報を得たとしても何の変化もないと思うぞ。

他人にあれこれと教えるつもりは無いけどな」

 

教室の扉に手を伸ばした時にその腕が和樹に摑まれた。

 

「昨日の放課後、十数人の兵藤家の男子が魔法で倒された」

 

「だからなんだ?」

 

「あれ、キミがやったんでしょ?あの場に残留していた魔力はキミから感じる魔力と同じだ」

 

「―――これか?」

 

一誠の腕から滲み出る真紅のオーラ。思わずその腕から手を放した和樹。

二人の間に緊張が走る。この一触即発の状態の中で一誠は溜息を吐きだした。

 

「確かにあいつらは俺がやった。だからなんだ?」

 

「・・・・・」

 

「知りたかったらそれなりの行動を俺に示せ」

 

扉を開け放って教室に戻った一誠。残った和樹は無言で自分のクラスへと戻った。

 

―――2-C―――

 

男子しかいないクラス―――ではなくこのクラスは女子も存在していて、

本来あるべき姿を保ったまま学校生活を送っていた。その理由は色々とある。

色々な理由の中で最も重要なのが兵藤家と対なる式森家が女子を兵藤家から守っていること。

兵藤家や男に毛嫌いしているF~Dのクラスにいる女子たちとは違い、

この教室にいる女子は式森家や男に感謝の念を抱き、平穏な学校生活を送っているのだ。

 

「お帰りなさい。用事は済ませましたか?」

 

黒髪に黒い瞳と朗らかに和樹へ言葉を投げる男子。その傍には桃色の髪をポニーテール、

眼つきは親譲りなのか鋭い鳶色の双眸で小柄な女子。大和撫子のような、

清楚な雰囲気を醸し出す長い黒髪に琥珀の双眸の女子も和樹に振り返っている。

 

「うん、ちょっとだけね」

 

「なんだ、まだ済ませていないのか?」

 

「そうだね。まだ気になることがあるんだけど取り敢えずいいや」

 

「和樹くんがそう言うなら問題ないよね」

 

「少し曖昧で私は好きじゃないがな。ハッキリとしていないならしてくればいいだろう」

 

桃色の女子は腕を組んで和樹を見据える。和樹本人も苦笑して「そうだね」と肯定する。

 

「それで『あいつ』に頼んだ件はどうなってる?」

 

「ええ、非公式新聞部というだけあって情報を直ぐに整えてくれましたよ」

 

少年はブラックファイルを和樹に手渡した。

ファイルを開くと―――一誠の顔の写真が張られ、様々なことが書かれている。

 

「兵藤家の人たちを倒したのはどうやら同じ一族の兵藤一誠という人らしいです。

色々と詳細は不明なのであの人はこれしか調べれなかったそうです」

 

「家族構成も不明か・・・・・」

 

「ええ、ガードが堅いようです。もしくは数日前に編入してきたばかりだからか情報が少ないかと」

 

「和樹くん、この子がそんなに気になるの?」

 

清楚な少女が不思議そうに訊ねてくるその言葉に首を縦に振って頷いた。

 

「そうだね。この写真の男は興味がないと言えば嘘になる」

 

「・・・・・まさか、恋―――」

 

「違うからねカリンちゃん!?だから清楚さんも「そうなの?」とそんな顔をしないで!」

 

「名前に「ちゃん」を付けるなって言っているだろう!私の風で吹っ飛ばすぞ!」

 

「やれやれ、少しシリアスだった雰囲気が何時も通りに戻ってしまいましたね。

和樹さん、人の趣味にはとやかく言いませんが―――」

 

「龍牙、キミもそう言うなら僕は本気で魔法を使いたくなるから言わないでくれないかな?」

 

目が笑っていない和樹の全身から迸る魔力に三人は口を閉ざした。

 

「授業を始めるから席に座れ」

 

と教室に入ってくるなりこのクラスの教師が言った。

 

「あー、フライングだが次の体育の授業の相手を発表するぞ。相手は2-Fだ。

女ばかりだからって気を抜くんじゃないぞー」

 

と、このクラスの体育の授業相手が早くも発表された。

 

「へぇ・・・・・」

 

和樹の口の端がつり上がり『知りたかったらそれなりの行動を俺に示せ』一誠が和樹に

向かって言った発言が脳裏に過ぎった。

 

「(兵藤一誠・・・・・分かったよ。行動で示そうじゃないか。

僕が勝ったら全て教えてもらうよ)」

 

―――○●○―――

 

午後となり体育の授業が始まろうとしていた。

2-Fの一誠は金剛と再びタッグを組んで授業に臨む。

レーティングゲームを応用したバトルフィールドに転送された二人に待ち構える敵は―――。

 

「人多っ!」

 

「OH・・・・・」

 

相手クラスは十六人、参加人数の規定は十六人の為、相手―――2-Cクラスが体育の授業に

参加した生徒の数は全員だった。対する2-Fはたったの二人、八倍の数で圧倒された。

そんな二人に対し、

 

「え・・・・・そっちはたったの二人?」

 

目を大きく見開いて信じがたい光景を目の当たりにした和樹が漏らしたほどだった。

 

「兵藤、今回ばかりはDEFEATかもネ」

 

「いーや、まだ俺は負けた気分じゃない!数じゃ負けているけどさ!」

 

「ポ、ポシティブ何だねキミ・・・・・。まぁ、それはそれで僕はありがたいけどね。

キミに勝って色々と聞かせてもらうからさ」

 

「なんだよ、まだ俺に訊きたいことがあるのか」

 

「そりゃね。兵藤家なのに魔法を使えるなんておかしいじゃん」

 

腕を上げた和樹に呼応して数多の魔方陣が展開された。

 

「取り敢えず、授業を始めようか」

 

和樹は腕を下ろした。その直後に巨大な火炎球、巨大な氷塊、巨大な嵐、轟く雷が一誠と

金剛に襲いかかる。

 

「もしかして全員魔法使い!?」

 

「僕のクラスの大半は女子も含めてそうだよ」

 

魔法の攻撃は成す術もなかった一誠と金剛に直撃した。誰もがこれで終わったと

雰囲気を醸し出すが、和樹は目の前に向いたまま警戒している。

 

「和樹、どうしたのだ?私たちの勝ちなんだろう?」

 

「カリンちゃん。相手は仮にも兵藤を名乗っているんだ。

多分、まだ戦いは終わっていないと思うよ」

 

「なんだと?あれだけの魔法を無抵抗に受けて無事のはずが―――」

 

桃色の髪の少女ことカリンは訝しい目で一誠と金剛がいる方へと視線を向けた時、

 

「うはっ、すんげー威力だったなおい」

 

「んなっ!?」

 

声が聞こえた。その場所はなんと自分の真後ろだ。

和樹も目を見開いて背後へ衝動に駆られて振り返ると

無傷の一誠と金剛が立っていた。

 

「い、何時の間に・・・・・」

 

「カリンちゃんって呼んだ辺りから」

 

何時の間にか一誠は黒いローブを羽織っていた。

そのローブは何なのか気になっているのを察したようで一誠は口の端を吊り上げた。

 

「これか?これは骸骨のお爺ちゃん・・・・・ああ、冥府の神ハーデスって言えば

分かるか?このローブは身に纏った者の姿や気配を隠すことができる面白いものなんだ。

クリスマスの日に骸骨のお爺ちゃんから貰ったんだ」

 

改めてローブを纏うと目の前に一誠が消えた。一拍して再び一誠は姿を現した。

 

「な?」

 

「・・・・・冥府の神ハーデスって・・・・・本当に会ったことがあるのかい。

それがもしも本当ならそのローブは魔法道具Aランク並のものじゃないか・・・・・っ!」

 

「魔法道具Aランクってなんだそれ?」

 

「魔法使いの世界じゃ魔法が付加されている道具の価値のことだよ。最高はSランクだけど」

 

ご丁寧に和樹は金剛に透明ローブを渡している一誠に説明した。

 

「ふーん・・・・・じゃ、これはどのくらい価値がある?」

 

歪ませた空間から古ぼけた分厚い本を見せ付けた。

 

「これ、魔導元帥ゼルレッチから渡された本人直筆の魔法の本だって

クラスメートの魔女から聞いたんだけど」

 

刹那―――。

 

『な、なんだってぇっ!?』

 

和樹だけじゃなく、式森家の魔法使いらしき男子や女子が大声で驚愕した。

一誠は思った。やっぱりこれは魔法使いたちにとっては貴重なものらしい。

 

「ちょっ!あの伝説の魔法使いの一人と会ったことがあるのかい!?」

 

「え、あ、ああ・・・・・そうだけど」

 

「兵藤家のキミが、魔法使いでもないキミが、式森家でもないキミが

どうしてあの魔法使いと会えるんだ・・・・・!」

 

「そう言われても・・・・・世界中で修行していた中で時計塔にいたお爺ちゃんと

会って・・・・・」

 

「あの人にお爺ちゃんって呼ぶほど親しいのかキミは!?」

 

もう目の前の存在が訳分からないと頭を抱える和樹だった。

 

「・・・・・和樹、お前たちにとっては凄い魔法使いなのは分かるがそろそろ戦わないか?」

 

「・・・・・うん、そうしよう。取り敢えず勝って後で本を読ませてもらおうかな」

 

「何気にぽろっと欲望が出たな」

 

半ば呆れたカリンはレイピアを一誠に突き付け―――。

 

「ん?もう一人はどこに行った?」

 

「さぁ?あれを纏ったら俺しか分からないから教えてやらないがな。ところで・・・・・カリンか」

 

「なんだ?」

 

「や、俺が子供の頃にハルケギニアで会った桃色の髪の女の人と同じ名前だなって思って。

それにお前、どこかで会ったような感じがするんだが俺の気の所為か?」

 

そう言われたカリンは目を細め、一誠の話をオウム返しした。

 

「ハルケギニアに来たことがある?それは何時のことだ?」

 

「数年ぐらい前だな」

 

「・・・・・・」

 

数年前・・・・・と過去のことを思い出して・・・・・一度だけ衝撃的な

出来事が会った事を思い出した。突然現れた頭が三つある巨大なドラゴン。

ドラゴンから現れた赤い髪の子供に伝説の騎士の二人。

 

「―――思いだした。あの時の子供か!あの伝説の衛士隊である二人の子供の!」

 

「・・・・・あー、やっぱり見覚えがあるわ。お前、あの時の桃色の髪の女の子だったな」

 

「え・・・・・なに?二人とも知り合いだったの?」

 

若干置いてけぼりの和樹は言わずにはいられなかった。

 

「和樹、こいつは私に任せてくれ」

 

「へ?いやいや、カリンちゃん。いきなりどうしたんだよ?

目が爛々に輝いているし・・・・・」

 

「行くぞ兵藤!」

 

「聞いてないし」と突っ込む和樹を遮るようにカリンは杖に風を纏わせて巨大な竜巻を発生させた。

金色の杖を発現させ、地面に突き付けた一誠は一言。

 

「錬金」

 

周囲一帯が水となり、和樹だけじゃなくカリンの体勢を崩し竜巻が一誠に直撃する寸前に消失した。

一誠は宙に浮かんで水に呑みこまれずに済んでいる。

 

「んなっ!?」

 

「この大規模な錬金は見たことが・・・・・!」

 

「そんでサンダー攻撃と」

 

「「ちょっ!?」」

 

ビガッ!ガガガガガガガガガガッ!

 

水に伝わる電撃。水の中にいた和樹とカリンはモロに直撃し、感電してしまった。

 

「って、僕がこの程度で負けるわけがないだろう!」

 

「おおっ?」

 

感電しながらも水の中から脱出した和樹。カリンは光に包まれこの場から消失した。

 

「式森家を舐めるなよ!魔法抵抗力や魔法に関する攻撃には強いんだから!」

 

「んじゃ、物理的攻撃と防御力は低いんだな?」

 

「そう思うならやってみなよ」

 

「ああ、やらせてもらおうか。―――金剛!」

 

強く金剛の名を発した。宙にいた魔法使いたちに轟音と煙が発生する。

 

「なっ・・・・・!」

 

「この水は金剛の戦場を作ってやったに過ぎない」

 

HAHAHA!と笑い声が聞こえてくる。振り返ると仲間が見えない敵の砲撃に食らっていて

戦場から退場させられていたり、防御魔方陣で攻撃を防いでいたりとしていた。

だがしかし、その魔方陣に罅が生じており、何発か防いでいると魔方陣は砕け散り味方に直撃する。

 

「主砲の砲撃ってパンチよりも凄い威力があるんだよな」

 

「・・・・・やってくれるね。だけど、次はこっちの番だよ」

 

水上に魔方陣が出現し、水は瞬く間に凍っていく。

一誠がそれに目を丸くして、素早く金剛に近づき水から離した直後に全てが凍った。

 

「龍牙!」

 

「出番ですか?」

 

魔方陣を足場にしていた一人の男子が和樹のもとに。一誠と金剛も氷の大地に降り立った。

 

「本気で戦わないとダメっぽい」

 

「珍しいことを言いますね」

 

龍牙は意味深な笑みを和樹に向けながら浮かべこう言った。

 

「現式森家当主の息子であるあなたがそんな事を言うなんて」

 

・・・・・式森家の当主の息子?和樹に目を丸くし真意を問おうとした矢先、

和樹が一誠に声を掛けた。

 

「お互い腹を割って話していないからお互い様だよね」

 

「・・・・・ま、そうだわな。お前が式森家の当主の息子だってことも驚いたがどうでもいい」

 

「へぇ?」

 

「―――俺は兵藤家の皆に見返してやることで忙しいんだからな」

 

その意味はどういうことなのか知る由もない。

一誠の過去すら無知な和樹と龍牙は臨戦態勢の構えに入って一誠と金剛と対峙する。

 

「和樹さん、まずは僕からでも?」

 

「金剛、援護を頼む」

 

「うん、新たな強敵で張り切っちゃいそうだ」

 

「OK!」

 

互いの味方に話しかけ、前衛の二人が氷の大地を蹴って引き寄せられるように一誠と

龍牙は相手の懐に飛び込む。龍牙の手は歪ませた空間から、一誠の手は歪ませた空間から。

 

「「―――」」

 

一本の剣を取り出して相手に向かって振るった時、

二つの剣はぶつかり合い―――一誠の身体に突然傷が生じて血が噴き出した。

 

「接近戦なら負けませんよ」

 

「その剣に何かあるな?」

 

「どうでしょうか?僕自身の能力かもしれませんし」

 

「なら、確かめるまでだ」

 

飛びだす一誠が龍牙の目の前に消えた瞬間、龍牙は剣を後ろに構え、

振り下ろされた剣を受け止めた。再び一誠の身体に傷が生じダメージが蓄積する。

それでも一誠は剣を振るうことを止めず、自信が傷を負おうとも関心ながいように龍牙へ剣を振るう。

 

「・・・・・っ」

 

しかし、一誠が隙を作った。これを見逃さない龍牙が防御から攻撃に変えて剣を振り下ろした。

 

「金剛!」

 

「YES!」

 

今まで見守っていた一誠の味方が主砲を構えた。

龍牙は意識を一誠に向けさせて支援攻撃を成功させるコンビネーションだったのかと悟り、

一誠から金剛へと振り返り次に来る主砲の砲弾に備えて――。

 

「ナンチャッテ!」

 

「・・・・・はい?」

 

「本命はこっちだ」

 

「残念デシター!」と両腕を☓の形に構えていた金剛の言動に豆鉄砲を食った鳩のような顔を

している龍牙へ不敵の声を発した一誠に振り返る。

丁度一誠の真後ろに全身が鎖で縛られている和樹が見えた。

―――金剛を呼んだのはフェイントだったのか!全てはこの為に・・・・・!

 

「魔法使いの攻撃は面倒だから縛らせてもらった。あの鎖を解かない限り魔法を使うこと愚か、

魔力すら放つこともできない。そういう能力の鎖だからな」

 

「なら、鎖を斬るまでです」

 

「できるといいな」

 

再び構える両者。龍牙の剣と交える度に傷付く一誠は分が悪い。

しかし、一誠の目には諦めの色が浮かんでいない。今までこの体育の授業で何十、

何百と戦って来た中で五指の強さを誇っているかもしれない相手に対してこちらも

本気で戦いを望まないといけない。だからこそ龍牙は呟いた。

 

「『禁手(バランス・ブレイカー)』」

 

「っ・・・・・」

 

眩い金色の光に包まれていく中で全身に金色の鎧が装着する龍牙。本気になったと肌で

感じ取った一誠は剣を亜空間に仕舞って己自身の肉体で戦うことに切り替えた。

 

「その姿・・・・・ドラゴン系統の神器(セイクリッド・ギア)か」

 

「天龍や龍王ほど知名度はありませんが、僕の良き相棒です」

 

「どんなドラゴンなのか後で聞くとしようか」

 

龍牙へ肉薄する一誠。飛び掛かってきた一誠からドラゴンの翼で宙へ飛び距離を置いたら、

 

「アターック!」

 

金剛の主砲の砲撃を食らった。しかし、

 

「利きませんよ」

 

「ハイッ!?」

 

食らったと思った砲弾を剣で一刀両断した。

無効化にした龍牙の剣術の芸道に金剛は身体全体で驚きを表現するのだった。

 

「・・・・・なんだろう、その反射神経と反応速度。昔のあの男に思い出す」

 

苦い顔で漏らした一誠。昔のあの時の出来事と関係する人物の顔の男が鮮明に浮かびだす。

 

「おや、誰のことですか?」

 

「さーな。名前までは知らない。ただ、やたらと剣の扱いが凄くて反射神経と反応速度が

凄い裏社会の男だったな。黒髪で目つきが鋭くて、情の欠片のない人だった」

 

「・・・・・なぜでしょうか。ボクも凄く身近に心当たりがいるんですが・・・・・」

 

「そうか、それは奇遇だな」

 

「ええ、そうですね」

 

一誠と龍牙が「ははは」と笑った後に

 

「お前はあの男の関係者かぁっ!」

 

「あなたはあの人を退けた子供の人でしたかぁっ!」

 

互いは相手に向かって叫んだのだった。どうして分かったのかは二人とも答えれない。

ただ言える事と言えば―――「そう思った。それか第六感で」だろう。

 

「あなた、なにあの鬼の人を追い払ったんですか!どこまで凄いんですか!」

 

「知るか!こっちは友達の命が懸っていたんだぞ!必死になって当たり前だ!」

 

剣と拳が交じり合う。攻防の繰り返しの戦いが行われ、どちらも拮抗の状態で勝負がつかない。

そうこうしているうちに―――。アナウンスが流れた。

 

 

『制限時間の三十分が過ぎました。2-Fと2-Cの戦いの結果はドロー。引き分けです。戦いを止めて戻ってきてください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、バトルフィールドは光に包まれた直後、この戦いを見守る為の立体の魔方陣の映像に砂嵐が発生して見守っていた教師は騒然とし事態の把握に急いだ。



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エピソード7

「兵藤はいるかぁーっ!?」

 

「あ、カリンちゃん」

 

「あんな戦いで私に勝ったと思うな!正式に私と勝負しろ!

あと私を呼ぶ時に『ちゃん』付けするな!」

 

放課後になった瞬間にカリンが怒鳴り込んできた。そんな彼女の背後から和樹や龍牙、

清楚が顔を出す。

 

「ごめんね?止め切れなかったよ」

 

「そんな朗らかに言われてもな・・・・・もしかして泳がしたな?」

 

「意外と鋭いですね。いえ、なんでもございません」

 

「失礼します」

 

女子だけの教室に男二人が入ってきた。女子たちの反応は冷たく「入ってくんじゃねぇよ」

「帰ってよ」「男が来た」と声を殺して睨んだり完全に無視した態度でいる。

 

「・・・・・よくこの教室でいられるよ」

 

「最初なんて凄かったぞ。筆記用具や魔力弾、光の槍を投げてくるし学級が一瞬で崩壊したし」

 

「く、苦労しているんですね・・・・・」

 

「気持ちは分かるけどなー」

 

オーフィスが肩に乗ってきたことでヴァレリーと咲夜を引き連れて帰ろうとする。

 

「あれ、その子は?まだ子供みたいだけど」

 

清楚は一誠にオーフィスを見ながら訊ねた時、見下ろしながら名乗った。

 

「我、オーフィス」

 

「ああ、オーフィスって言うんだ・・・・・へ?」

 

「・・・・・(固)」

 

そして、

 

「兵藤一誠、なにをしている。帰るぞ」

 

「ああ、分かってるよクロウ・クルワッハ」

 

クロウ・クルワッハたちが迎えに来た。分かったと返事をし教室から出た一誠たちを

見送った和樹と龍牙は目を丸くする。

 

「・・・・・オーフィスって・・・・・本当?」

 

「ク、クロウ・クルワッハ・・・・・?し、信じられません・・・・・」

 

「「・・・・・?」」

 

 

 

金剛はとある場所に寄れば老若男女、子供の姿も見える。受付の係に告げ目的地に足を運ぶ。

白い廊下や壁、天井の中を歩き幾つものの扉を素通りにして行く金剛の足がようやく停まった。

 

「・・・・・」

 

取っ手を掴んで深呼吸した。

 

ガラッ!

 

「HEY!我が妹たちよ元気にしていたかナー!」

 

元気溌剌に笑みを浮かべ騒々しく入った金剛の視界に入った光景。三人の少女が

ベッドの布団の中で目を瞑って寝息を立てている。人工呼吸器を付けられていないのは

深刻な病を患っているわけではないがこの少女たちは―――心と精神が壊され植物状態に

近い病状を患ってからもうこの寝顔を見るのは一年になろうとしている。

 

「寝ながらでもいいから我が妹たち聞いて欲しいのネ。最近、私のクラスに

男の子が編入されてその子はとても強くて良い子で―――」

 

一人で三人の少女たちに言葉を投げ続ける。眠っている間は聞こえていないにも拘わらず、

金剛は楽しげに話を聞かせている。

 

コンコンッ。

 

「ハイ?」

 

「失礼するよ」

 

「OH、先生!」

 

「・・・・・今日も来たんだね」

 

中年の男性が寂しげに漏らした。金剛は当然のように明るく発した。

 

「私の大切なファミリーだからネ!何時か目を覚ますと信じていっぱい接するヨ」

 

「キミの妹さんたちは本当に不運と不幸で起きた事件に巻き込まれて不憫と同情の念を抱く。

相手が相手だから公にならず捕まらないでいる」

 

嘆かわしいとばかり息を吐いて真っ直ぐ金剛を見詰める。

金剛を見る瞳には一人の医師としての誇りと決意が強く光っている。

 

「私たち医者も手を尽くして彼女達の看病はする。最近は人間以外の種族の者たちから

様々な薬を提供してもらっているから医学界の間では大幅に進展した。

植物状態やアルツハイマー病も何時か完治する日が来ることを信じている」

 

「YES、よろしくお願いしますネ」

 

「・・・・・それと、言いづらいんだが。治療費の支払いが遅れている。

これ以上続くと病院は―――」

 

「だ、大丈夫でデス!お金のことはNo problem!問題ないネ!

必ず今まで遅れている分を支払うからSISTERたちをどうかお願いしまス!」

 

慌てて頭を何度も下げて懇願する金剛は「バイトに行ってきますネ!」と病室から去った。

 

「・・・・・この世に神がいるというのに一人の少女になんて残酷な人生を送らせるのだろうか」

 

窓の外を見ると走っていく金剛の姿。男性は三人の少女たちに話しかける。

 

「キミたちも何時までも寝ていないで早く起きて上げなさい。

お姉さんが起きて欲しがっているのだから」

 

 

 

その頃、一誠はオーフィスと一緒に外出していた。町の様子を見に行きたいと咲夜たちに

告げて国立バーベナ駒王学園の付近にある光陽町へと足を運んでいた。

人々が町に闊歩してショッピングや食事を楽しんでいたり、この町を観光しに来ている人も見掛ける。

そう言えば、恫喝されていたあの子はどうしているのだろうかと思っていると、

 

「あ、あの。困りますっ」

 

「ん?」

 

困惑の声が聞こえてきた。周囲に目を配る。丁度歩き過ぎようとしていた営業時間まで

シャッターが閉まっている店の前に金髪に緑色の少女と銀髪のツインテールに結んだ

少女が男たちに囲まれていた。

 

「いいじゃねぇか。俺たちとどこかに遊ぼうぜ」

 

「わ、私は教会に行かないといけないんです。だから・・・・・」

 

「シスターちゃん?うわっ可愛い!俺たちに慈悲をしてくれない?」

 

「主にシスターちゃんの体で俺たちの体を清めてくれれば超神さまに感謝するぜ」

 

「銀髪の女の子もしてくれると嬉しいな!」

 

・・・・・所謂ナンパか。一誠はどうしようもない男たちにたしなめようとし、

近いた時だった。一人の男が金髪の少女の手を掴んだ時。

 

「私の手に触れないでくれますか?」

 

 

『・・・・・は?』

 

 

あの純情で言動も雰囲気も困っていた気持ちを醸し出していた少女が、

似つかない言葉を発したのだ。

 

 

「ですから」

 

 

ニコリと金髪の少女は笑みを浮かべたまま言った。

その笑顔からプレッシャーを感じるのはなぜだろうか。

何も知らない、穢れすら知らないような少女が―――黒くなったような気がする。

 

「この薄汚い手を放してくださいって言いました」

 

素敵な笑顔を浮かべたままハッキリといった少女。

それからプレッシャーのある笑みを絶やさず、ナンパたちは畏怖の念を抱いたようで、

スゴスゴと去った。

 

「・・・・・」

 

心配するのは杞憂だったかと二人に向けていた足の方向を変えてどこかにいこうとした矢先。

 

「あの」

 

「?」

 

声を掛けられた。先ほどのシスターに。

 

「助けようとしてくれましたよね?」

 

伺う問い掛けに、返事を発しようとし一誠にお辞儀をしだした。

 

「ありがとうございました。あれでダメならどうしようかと思いました」

 

「そ、そっか(黒くなったことを言わない方が賢明か)」

 

「それであの、お聞きしたいことがありまして」

 

「なんだ?」

 

「この町にある教会はどこでしょうか?」

 

教会・・・・・?謎の金髪少女はシスターであることは知ったばかりだが、

シスターが教会の場所を知らないとはどういうことだろうかと不思議さを感じた。

銀髪の少女も気になるところだが、まずは訊ねられたことを解決するのが先決と―――頭を悩ませた。

 

「悪い、俺も教会の場所は知らない」

 

「あぅ・・・・・そうですか」

 

シュンと残念そうに目を瞑り、肩も落とした。金髪のアホ毛すら落ち込んだように垂れた。

だが、一誠は言い続ける。

 

「ちょっと待ってくれ。俺の家族が知っているかもしれないから」

 

小型の魔方陣を展開して直ぐに一誠の耳に女性の声が聞こえてきた。

女性と話し合っていれば真上から魔方陣が出現し、そこから紙が顔を覗かせてヒラヒラと

一誠たちの間に舞い降りた。その紙を金髪の少女が取って視線を紙に落とせば

教会までの行く道の地図が記されていた。

 

「そんじゃ行くか」

 

「え?」

 

「え?じゃないだろう。またナンパされて今度は強引に連れて行かれたりでもしたら

大変だろうが。おせっかい承知の上で一緒に目的地まで行かせてもらう」

 

話はこれで終わりと雰囲気を醸し出す一誠の金色の目は銀髪の少女に向けた。

凹凸が少ない身体にアメジストの瞳、赤い髪留めで銀髪をツインテールに結った少女。

 

「この子は?」

 

「あ、はい。一人で宛てもなく歩いていて不思議な子だったので話を掛けたら

先ほどの人たちが・・・・・」

 

つまり、ついさっき出会ったばかりでこの少女自身も詳細は不明、ナンパに声を掛けられて

ますます混乱に陥っていた。銀髪の少女と目を合わせるように腰を落とした。

 

「俺は・・・・・一誠だ。イッセーって言われたりしている」

 

「兵藤」の姓を敢えて言わない。兵藤の名を持つ者は嫌われている故、

二人の少女に名前だけ伝えたところ。

 

「イッセー・・・・・?」

 

初めて銀髪の少女がそう口にした。探るような目で一誠を見詰める少女にオーフィスが

一誠の代わりに答えた。

 

「ん、この者はイッセー」

 

「そういうことだ。えーと名前は?」

 

「・・・・・プリムラ」

 

「私はアーシア・アルジェントです。自己紹介が遅れてしまい申し訳ございませんでした」

 

「我、オーフィス」

 

と、互いが自己紹介をし終えて教会まで共に同行する一誠とオーフィスだった。

教会に着くまでの間、二人はあっという間に意気投合した理由があった。

 

「へぇ!ストラーダ猊下と会ったことがあるのか!」

 

「驚きました。イッセーさんもストラーダ猊下とお会いしていたことがあったなんて」

 

二人とも教会に所属していたことやとある人物と接した経験があり、会話の花が咲いたのだ。

 

「だけどどうしてアーシアがこの国に?」

 

「・・・・・私、教会に追放されてしまったんです」

 

悲しげに苦笑を浮かべて言った。

 

「教会の目の前に傷付いた悪魔がいて、傷を治してあげていたところを

他のシスターさんたちに見つかり避難されて、私はこの国の、この町のある教会に配属されて

しまいました。異端者として私は堕天使の教会でお世話になることになったのです」

 

「・・・・・嫌な記憶を思い出させたな」

 

「悪い」と顔を曇らせ謝罪した一誠を気にしてないと風に首を横に振ったアーシア。

光陽町から離れた場所まで歩けばひっそりと装飾や意匠が凝っていない

白い普通の教会へと辿り着いた。

 

「ここみたいだな。こんな所に教会があるなんて初めて知った」

 

「イッセーさんはこの町にきたばかりなのですか?」

 

「ああ、数日前からいる。まだまだこの町にいる日が浅い」

 

と、一誠は言った。

 

「この中に神父がいるんだよな?」

 

「ええ、そのはずですが」

 

「ちょっと俺も顔を出してみたいな。どんな人なのか気になる」

 

「そうですか。では一緒に行きましょうか」

 

四人が教会の木製の扉を開けて中に侵入した。数多の木製の横長の椅子が設けられていて、

壁際には何らかの像があるもののそれを否定するかのような顔がなく全て壊されていた。

 

「す、すいませーん!今日からこの教会に配属されることになりましたアーシア・アルジェントです!

誰かいませんかー?」

 

アーシアが教会中に轟くほど透き通った声を言い放った。

しかし、誰も彼女の呼び掛けに返事はなく静寂が支配する。

 

「この教会じゃなかったのか?他にも何箇所か教会はあるけど行ってみるか」

 

「多分そうかもしれませんね」

 

この場から離れようとした一行だったが、横長椅子の最前列のさらに前方の教卓が

重たげで勝手に横へずれ出した。それには一誠とアーシアは目を丸くして様子を見守っていると

黒い神父服を身に包んだ、胸に十字架のネックレスを垂らした中年の男性が出てきた。

 

「む、珍しいものだな。この弾かれた者しかこない教会に少年と少女がいるとは」

 

「・・・・・この教会の神父、管理人ですか?」

 

「ああ、そうだな。私はこの教会を任されている言峰綺礼だ。キミたちは誰かね」

 

「あ、はい。今日からこの教会に配属されたアーシア・アルジェントです」

 

「ほう、キミだったか。待っていた。いま歓迎の料理を地下で作っていたのでね。

先ほど我が上司とその部下に味見と評価を貰いたく料理を食べさせたところ

何故か寝込んでしまったのだ」

 

―――寝込んでしまうほどの料理とはなんだろうかと好奇心と不安が混ざった一誠。

顔に出さず、ここから一刻も早く離れた方がいいと第六感の警報が

うるさくなるほど―――神父が出てきた所からからそうな匂いがしてきたのだ。

 

「それじゃ、俺は用も済んだし帰るから」

 

「イッセーさん。ここまで一緒に来てもらってありがとうございました。

プリムラちゃんのことよろしくお願いします」

 

「おや、もう帰ってしまうのか。せっかくだから彼女の歓迎会に参加するのも一興だろうに」

 

「この子の親か知り合いを探さないといけないんで、そう長居はできませんから」

 

「ふむ、そう言う事ならば仕方ない。また来たまえ、その時は私の特製の麻婆豆腐を馳走しよう」

 

言峰綺礼の言葉に「機会があれば」と告げ、アーシアと別れて教会から出た一誠たち。

 

「さて、お前の知っていそうな人は分かるか?」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

「そうか。だったら言っていくれるか?そのヒトのところまで送ってやるからさ」

 

「・・・・・」

 

優しく話しかけた一誠の袖をギュッと掴んだプリムラ。その意図を気付かずどうした?

と訴える一誠の顔を見上げる形で、

 

「イッセーの家に住みたい」

 

「「・・・・・」」

 

予想を遥か斜め上の返答が返ってきたのだった。

 

 

 

 

「で、結局どうしようもなく連れて来ちゃったわけね」

 

「俺と一緒にいるの一点張りで・・・・・会ったことがない娘にここまで

懐かれることを俺はしていないぞ」

 

「ん、イッセーはしていない」

 

高級高層マンションの最上階、一誠は家に戻って来てナヴィに懇願した。

 

「ナヴィも初めての人物の情報を持っているわけ無いよな」

 

「あら、あなたが認めた私にできないことがあると?」

 

「できると?」

 

「勿論よ。久々に神器(セイクリッド・ギア)の力を使うわねー」

 

プリムラをジッと見つめるナヴィ。一誠からでは分からないが

ナヴィの視界にはプリムラの情報がステータス表示として虚空に展開されている。

 

『名前 プリムラ』 『種族 人工生命体三号』 『冥界、天界、人間界が作り出した

膨大な魔力を有する存在であるものの魔力が不安定な故、隔離施設に育てられていた者』

 

―――全ての情報源は世界から得られる。ただし、未確認なものに対しては部分的や

断片的な情報しか得られないこともある。

 

「・・・・・人工生命体三号って・・・・・うわ、もしかして私絶対に知っては

いけないものを見聞したかもしれない」

 

「なんだ?どうしたんだよ?」

 

「・・・・・取り敢えず、分かったことを言うとこの子は魔王と神王だったら知っているはずだわ」

 

「そうか。だったら話が早いな。今日のところはプリムラを一泊させて明日あの二人に―――」

 

「いや、イッセーといたい。ここに住む」

 

プリムラの意思はどこまでも固く、頑になって一誠にそう告げる。

 

「なぁ、どうして俺と一緒にいたいんだ?今日初めて会ったばかりの俺を」

 

「・・・・・お姉ちゃんたちから聞いた」

 

「お姉ちゃん?」

 

「・・・・・リコリスお姉ちゃん、ネリネお姉ちゃんたちから」

 

「―――凄く知っている名前が出たなおい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「神ちゃん、アザゼルちゃん、そういうわけだから例の件は一先ず安心できたよ」

 

『まったく・・・・・まさかあの坊主ンとこにいたとはな』

 

『成長しても驚かせてくれるな』

 

「アザゼルちゃんはまだ一誠ちゃんと会っていないようだね?」

 

『どうせ直ぐにでも会えるさ。それより一誠のハイスクールライフはどうだよ?』

 

『・・・・・溜息が出るばかりだぜ』

 

「若気の至りにしては少々お遊びが過ぎているね。式森家はともかく兵藤家が傍若無人で」

 

『あの若造も苦労しているな。兵藤家も一枚岩じゃないってことか』

 

『もしかしたらあの坊主と兵藤家、全面的に衝突するんじゃねぇか?』

 

『否定はできないな。なんせ―――あんなことが遭ったんだ。

相手はともかくあのガキはまだ鮮明に覚えているだろうよ』

 

「人間の方がよっぽど業が凄く、人間の方がよっぽど悪魔らしい種族だということを

改めて思いさせられた瞬間だったね、確かにアレは」

 

『そういや、お前らんとこの娘共はどうしている。あの学校に通わせていたがってたろう』

 

「そうしたいのは山々だが兵藤家が危険極まりないからね。

私の娘に護衛でも付けさせようと思っているのだよ。今はその検討中」

 

『まー坊と同じくだ』

 

『んじゃ、いっそのことあの有り得ないドラゴンに護衛でもさせたらどうだ?

お前らにとっちゃあ色々と思惑通りになって一石二鳥どころか良いこと尽くめ―――』

 

『頭いい流石じゃねぇかアザ坊よ!そうだそうしよう!

んで、聖剣使いの嬢ちゃんたちもこの国に派遣しよう!』

 

『今若手ナンバーワンのバアルの子にもネリネちゃんやリコリスちゃんの任を与えようかな。

個人的にも彼は気に入っているしね』

 

「『それじゃ、また!』」

 

『・・・・・この親バカ共は思い立ったらすぐに行動しやがるな。

そこはある意味あの二人と似ていやがる』



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エピソード8

「それじゃプリムラ、一緒に行くか」

 

「・・・・・うん」

 

「話はつけてあるから一時的にも預けてもらいなさい。私といてもその子は

退屈な思いをさせるだけだけよ」

 

高層高級マンションから出発し、昨日出会った少女プリムラも率いて学園に向かう。

晴天で穏やかな気温と空気。一行の活動しやすい環境の中を闊歩し、

和気藹々と雑談しながら三十分で目的地である学園に辿り着く。

 

「では、プリムラさま。私たちと一緒にお会いになって貰う方のもとへ行きましょう」

 

「・・・・・」

 

「一誠さまとはまた夜にでもお会いすることができます。それまではしばらくあなたさまの姉とお過ごしになられてください」

 

リーラの説得でプリムラをどこかへ連れて行った。一誠たちはそれぞれの持ち場に移動する。

 

「・・・・・ところで兵藤一誠」

 

「ん?」

 

「―――本当にそんな姿になる必要はあるのか?」

 

隣のクラスに所属しているクロウ・クルワッハからの疑問。一誠は渋った顔でこう言った。

 

「毎回毎回睨まれるとこっちも気が削がれる。ならどうすればいい?と

父さんや母さんに訊いたらこうした方がいいとアドバイスを受けたんだから間違いないんだ」

 

「・・・・・イッセー、第三者から見てると絶対に面白がって騙されているわよ絶対に」

 

「ははは、父さんと母さんが俺をからかうわけがないだろう?」

 

ルクシャナの言葉に笑みを浮かべて否定した。それを危惧したようにアラクネーが漏らす。

 

「・・・・・心を開いた相手にはどこまでも純粋で信用と信頼をするのは、

時に身を滅ぼすような結果になることを知らないのだな」

 

「でも、今の一誠を見るとこれはこれで・・・・・」

 

アルトルージュの目がキラキラと輝いている。

今の一誠の姿は教室にいる女子しかいないクラスメートたちの反応で明らかとなる。

 

ガラッ。

 

「おはよう、皆」

 

『・・・・・。・・・・・?』

 

同じクラスメートの男が来たと半数は無視し、もう半数は一誠の姿を見て目を白黒させた。

この数日間一誠を視界に入れてきた女子たちの記憶に残っている一誠の姿とは全く違っていた。

身長は短く、小さくなっていて、真紅の髪から可愛らしくピコピコと狐の耳が生えている。

腰辺りにふんわりと抱き心地が良さそうな九本の尾も生えていた。

 

『・・・・・誰?』

 

「兵藤一誠だけど?」

 

首を傾げながら名乗った途端。初めてこのクラスにはいった時の反応とは違う―――。

 

『えええええええええええええええええっ!?』

 

殆どの女子が反応を示した。

 

「この姿でいれば睨まれることは無いだろうからな。これからはこの姿で教室にいるからよろしく」

 

あくまで自分の保身の為だと言い張った一誠。

 

「OH!兵藤、PRETTYデース!」

 

金剛が顔を明るくさせて一誠を抱きしめた。

 

「どうしたのですか兵藤?こんなPRETTYになってしまっテ。

というかこのTAILは本物なのデスカー?」

 

「うん、本物だよ。俺は妖怪ってわけじゃないけどね」

 

「ウーン、なんだか複雑な事情があるようですネ。ですが私は気にしませーン。なんたってこんなにPRETTYなのですから!」

 

一誠を抱きしめ頬をすり寄せる金剛は気に入った様子で一誠は誠と一香に感謝の念を抱きつつ笑みを浮かべた。

 

 

『・・・・・なに、あの可愛らしい生き物は・・・・・っ』

 

『・・・・・あの姿でいれば安全だと思っていい気に

 なってんじゃないわよ・・・・・!(ダバダバ)』

 

『ちょっ、そんな事を言いながら鼻血、鼻血が出ているわよあなた!まさかショタコンだったの!?』

 

『違う!私は―――ショタ狐萌えなのよ!』

 

『・・・・・大して変わらないんじゃないのよ』

 

 

女子たちの反応も様々だった。怒りや敵意は無く、寧ろ困惑と―――萌えの反応が表れた。

 

「・・・・・我は大きいイッセーが良い」

 

「うふふ・・・・・このままお家までいてくれたら可愛らしいお洋服を着せかえできるかも」

 

「・・・・・一誠さまの思惑通り、いえ、私の予想を斜めになっていますねこれは」

 

「席に着けー。授業を・・・・・ってなんだこの雰囲気?しかも兵藤、その姿はなんだ!?」

 

「ん?可愛いくない?」

 

「・・・・・ノーコメントだ」

 

教師も現れたことで場は治まりつつ授業が始まった。

 

「さーて、今日は一週間に一度のイベントがある。お前ら気張れよ」

 

意味深なことを言いだす教師に挙手をするヴァレリー。

 

「あの、なにをするんですか?」

 

「ん?そう言えば最近来たばかりのお前たちは知らなかったな。では、改めて説明してやろう」

 

一誠たちに説明する教師。

 

「簡単に言えば一クラス丸ごと色々なことをするんだ。

よくあるボランティア活動のようなことだ。海辺のゴミを拾ったり、

困っている人の手伝いをしたりと本当に色々とな」

 

この学校にそんな趣向があるとは思いもしなかった一誠たち。

 

「それって全校で?」

 

「ああ、そうだな。だがボランティア活動は二学年のF~Dまでのクラスだ」

 

「・・・・・たったの三クラス?なぜに?」

 

「兵藤」

 

遠い目で諭すように教師は一誠に告げた。

 

「あの兵藤家がボランティア活動を真っ当に、真面目にすると思っているか?」

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

「すいませんでした」

 

深々と頭を下げて謝った一誠だった。満足気に教師は頷き言い続ける。

 

「分かればいい。ま、そういうことはF~Dまでのクラスはするが、

他のクラスはこの国立バーベナ駒王学園に依頼してきた依頼者の任務を請け負う。

F~Sのランク付けの依頼をな」

 

「Sランクの依頼って?」

 

「主な内容は錬金術に使う必要な貴重な、重要な、高級な素材の収集、モンスターの討伐だな。

上級生になるとBかAの依頼を受ける機会が多くなるから三年生になるとSランクは

当たり前のように依頼が入ってくる」

 

「依頼を果たせば当然の報酬があるけどそれは?」

 

「それは戦果として成績に残る」

 

高ランクほど成績も評価が高くなる。だが、このクラスはSランクを依頼できるほどの

強さを持っている女子はあまりいない。

 

「一人だけSランクしても意味は無いんですよね?」

 

「良く分かったな。ああ、これはクラスが一致団結して行う。

絆を深めるための任務でもあるから単独行動は無意味だ。ゲームで言えばギルドってことになるな」

 

「ギルドか・・・・・」

 

「なんだ兵藤」

 

「んや、昔外国でとあるギルドに所属していたことがあったんで懐かしく思ったんですよ」

 

脳裏では幼い数人の男女と過ごした日々が過ぎる。

姉的な存在の赤髪の少女や毎日飽きず喧嘩をする桜髪と黒髪の少年たちと過ごした記憶が。

 

「そうか。お前がどんな所で過ごし生きていたのかは分からないが、

放課後このクラスと共に依頼をするからな」

 

「因みにどんなことを今回はするの?」

 

「ああ、前以て言っておくか」

 

教師は告げた。

 

「今回の依頼はSランク。依頼の内容は天界と冥界の姫の護衛だ。

当の本人たちは後日このクラスに編入されるから卒業まで仲良く接するように」

 

『・・・・・』

 

2-Fの教室に静寂が訪れた。教師から告げられた依頼のランクと内容に、

誰もが思考を停止し、次第に理解していくと殆どの者たちが絶叫を上げたのだった。

その後、HRは終わって次の授業の合間に一誠たちは話し合った。

 

「まさか、姫の護衛をすることになるなんてな」

 

「私でも役に立つのかしら」

 

不安げに漏らすヴァレリーは吸血鬼とはいえハーフなので純血の吸血鬼より力は劣る。

その気持ちを抱く家族の頭に手を置いて撫でる一誠は言う。

 

「皆でカバーしあってすれば問題は無いだろう。戦闘の面は俺に任せてくれ」

 

「お世話なら私にお任せください」

 

「我も頑張る」

 

最強の龍神もやる気を見せたところで一誠を呼ぶパチュリーが近づいてきた。

 

「あの魔法の本を読ませてくれないかしら?」

 

「ん?なら一緒に読むか」

 

鞄から古ぼけた厚い本を取り出してページを開いた。一誠の提案に異論は無いパチュリーは

ひょいと一誠を持ち上げて一誠の席を座り自分の膝に小さい一誠を乗せた形で

魔法の本を読むことに没頭する。

 

「パチュリー、ズルいデス!私も兵藤を抱きしめたいデス!」

 

「あら、彼も本を読みたいというのだからこうしないと一緒に読めないでしょ?」

 

涼しげな顔で発するパチュリーと可愛くなった一誠を自分も抱きしめたいという願望が

ある金剛が対立した瞬間だった。一誠は溜息を零す。

 

「俺は人形か何かか」

 

「人形さんならお洋服の着せ替えが自由にできていいのに」

 

「うふふ」と楽しげに笑みを零すヴァレリーの言葉は一誠を委縮させるのに十分だった。

 

「ねぇ、イッセー。毎日その身体で学校に行くなら可愛い恰好で、女の子の制服で行ってくれない?」

 

「絶対に嫌だ!」

 

断固拒否とばかり強く言った一誠。

 

 

 

 

「そう言えば、兵藤は部活なんてしたいかしら?」

 

「唐突な質問だな」

 

「だって、この学校は部活に入部するか自分で部活を創設するかしないと成績に関わるもの。

まぁ、別に無理しなくても部活をしなくてもいいけどね」

 

授業が終わるや否や、パチュリーがそう話しかけてきた。そんな規定があるとは

知らなかった一誠にとって首を傾げる思いだった。

 

「ここってあれか?実力主義とか格差社会とかなんかだったのか?」

 

「ええ、そうよ。クラスの順位は関係ないけれど個々の能力を見合った行動をしないと

社会に出る時、それが影響するらしいわよ」

 

「んで、俺にそういうパチュリーさんは何か部活をしているんだよな?」

 

「ええ、自分で創設したわ。図書館を管理する図書部を。私は部活の部長を務めているわ。

人員は中学生と小学生をも含めて二十人強」

 

「へぇ、小学生も含まれるんだ」

 

「初等と中等の後輩もそれぞれの部活をしていて高等部の部活の部長として

同じ部活をしている後輩たちの人数を把握するのは当然のことでもあるの」

 

奥が深そうだと一誠は感心し、パチュリーからあれこれと聞いた時。

 

「失礼。あ、いたいた。兵藤、あのゼルレッチの本を貸してくれない?」

 

休憩時間を利用して入ってきた2-Cの式森和樹。真っ直ぐ一誠に近づき本を要求した。

 

「丁度良い。お前、何の部活に入っている?」

 

「ん?部活?僕は魔法使いだから魔法に関する知識や研究を主な目的とする魔術部で、

創設して僕が部長なんだよ。因みに高等部だけでも二十人以上はいる」

 

和樹の部活を知り「魔術部か」と漏らし、和樹らしい部活に納得した。

 

「興味ある?兵藤家とは言え魔法を使えるなら一度体験入学をすることをお勧めするよ。

魔法を極めたいなら尚更ね」

 

軽く一誠を誘う和樹だった。

 

「魔術部と言うから魔法が付加されている道具もその対象に含まれている?」

 

「そうだね。壊れる前のエクスカリバーも魔法が付加されていると伝承で見聞するし

興味があるのは確かだね」

 

「なるほど、じゃあ、これらも興味があるんだよな?」

 

どういうことなのかと一誠を見詰めていると一誠は空間を歪ませ、

両手で何かを探るように空間の穴に手を突っ込ませた。そして穴から取り出したのは

様々な剣と鞘。和樹はその剣と鞘から感じる魔力に目を張った。

 

「これって・・・・・」

 

「ん、父さんと母さんが世界中に飛びまわった際に得た伝説の代物だって。

レプリカも含まれているみたいだけど本物と遜色がないらしい」

 

「・・・・・キミの親は一体何者なのさ」

 

信じがたいという気持ちが一杯の和樹の質問を一誠は答えた。

 

「自慢で俺の誇りだよ」

 

―――○●○―――

 

「部活か・・・・・」

 

昼休み、屋上で食事をしていた一誠がポツリと漏らした。

 

「部活がどうかしたの?」

 

ルクシャナが疑問をぶつけてくるので一誠は説明した。

 

「ああ、興味が湧いてな。この学校の部活は」

 

「そうですか。では、体験してみたらいかがですか?」

 

「そうするよ。もしも俺が部活を創設したらリーラが顧問の先生になってくれるか?」

 

「勿論です。私もそう望みます」

 

口元を小さく緩み微笑むリーラ。主の願いを叶えるのも従者の務めでもある。

それを抜きにしてもリーラは一誠の願いを叶えるだろう。

 

「それで、仮に部活を作るならどんな部活にするのだ?」

 

クロウ・クルワッハの質問に一誠を「うーん」と悩んだ。

 

「皆が楽しく自由にできるようなことをしたいな」

 

「例えばどんな?」

 

「探険とか?父さんと母さんみたく世界中に旅をして回って珍しいものを採取して部室に残したい」

 

「モンスターと出くわして倒した暁には記念にその証明となる物を残すことも必要だろうな」

 

着々と決まる部活の内容。するとその時、

 

「親も親なら子も子ってか」

 

どこからともなく聞こえてきた声と同時に一つの魔方陣が屋上に出現し、

魔方陣から一人の中年男性が現れた。その人物は一誠とリーラ、オーフィスがよく知る人物だった。

 

「あっ、アザゼルのおじさん!久し振り!」

 

「よー一誠。久し振りじゃねーか。随分と男らしく成長したもんだ」

 

久し振りに会ったアザゼルに一誠は抱きしめて抱擁を交わした。

アザゼルは一誠の家族の面々を見渡し溜息を零した。

 

「吸血鬼にエルフがお前の新たな家族か。そんで、お前は人間ではないな?」

 

「私は蜘蛛に転生したアラクネーと言う」

 

「アラクネー・・・・・・アテネの伝承に関わっている元人間だったな。

よく一誠と共に行動することになったもんだ。んで、お前もだクロウ・クルワッハ。

最強の邪龍のお前さんもまさか一誠と共にいるとはな」

 

「兵藤一誠と共にいれば面白そうだからな。事実、アルビオンと会えたわけだ」

 

不敵に口の端を吊り上げたクロウ・クルワッハ。

これからも一誠の傍にいて見守ることを心から抱き、楽しませてもらう様子だった。

 

「不安要素がまた一つ集まったか。目に届く場所にいてくれれば対処もできるわけだが―――」

 

アルトルージュとヴァレリーに目を向ける。

 

「どうして平然と太陽の下にいられる?」

 

吸血鬼は太陽の光に弱い種族でもあるとアザゼルは熟知している。存在しないものも存在して、

当然のように太陽の下にいる吸血鬼に疑問がつきない。だからこそ吸血鬼の二人に訊ねたのだ。

返ってきた答えはアザゼルの度肝を抜かす。

 

「ヴァレリーの神器(セイクリッド・ギア)で吸血鬼の弱点を無くすことができたのよ」

 

神器(セイクリッド・ギア)?お前さん、ハーフだったのか」

 

「はい。初めまして、私はヴァレリー・ツェペシュです」

 

「ツェペシュ・・・・・。男尊派のトップの吸血鬼がこんな場所にいるなんて驚いたな。

それで自分の神器(セイクリッド・ギア)のことはどこまで分かっているのか?」

 

その問いに装飾と意匠が凝った杯をヴァレリーは発現してアザゼルに見せつけた。

 

「マリウスお兄さまによれば吸血鬼の弱点を無くすことができるとかで。

実際にアルトルージュさまたちに水流や太陽の光、ニンニクなど吸血鬼の弱点を時間かけて

なくすことに成功しました。これのおかげでイッセーを止めることもできました」

 

ヴァレリーの話を耳に入れつつもアザゼルは目を大きく見張っていた。間違いなければ

これはとんでもない代物である神器(セイクリッド・ギア)

こんなものが一誠の傍に、所有者がいたとはアザゼルでさえ気付きもしなかった。

 

「・・・・・幽世の聖杯(セフィロト・グラール)か・・・・・!」

 

「それが、ヴァレリーの神器(セイクリッド・ギア)の名前?」

 

「ああ、神滅具(ロンギヌス)でもある。そのマリウスという吸血鬼も知っていたとなると

ここにこの聖杯があることはとても幸いだ。こいつを多用し乱用すると精神が汚染して

普通じゃいられなくなる。ヴァレリーとやら。もうその聖杯は滅多な出来事にしか使うなよ。

これはお前の為に思って言っているんだからな」

 

「そうですか?わかりました」

 

真剣な顔になるアザゼルがヴァレリーに警告するほどの代物。ヴァレリーもアザゼルからの

警告に素直に応じたがアザゼルはこれだけでは安心しきれないようで一誠に話しかけた。

 

「一誠、ヴァレリーをなにがなんでも守れ。ヴァレリーの聖杯を狙う輩はお前が友達だと

思っている連中でさえ傍に起きたい代物だ。

こいつは死んだものをも甦らす程の能力があるんだからな」

 

「・・・・・ヴァレリーの聖杯は父さんと母さんでさえ知らない。

知っている人はこの場にいる皆とアルトルージュの二人の騎士だけだ」

 

「誠と一香に関しては俺も信用しているから問題ないと思っている。

ヴァレリー、お前の聖杯を少しばかり調べさせて欲しい。時間が空いた時でもいいから

ユーストマかフォーベシイに言え」

 

「分かりました。ですが、これはそこまで凄いとは知りませんでした」

 

「知っていて損は無いからな。―――まったくどうして一誠の傍に有り得ないの一言で

語れる出来事が発生するんだよ」

 

足元に出現した魔方陣の光に包まれながら言うアザゼルはこの場から姿を消したのだった。

 

神滅具(ロンギヌス)・・・・・やっぱりそうだったんだな」

 

「なんであれ、その聖杯はとても重要なものらしいがな。

それを狙う輩が遅かれ早かれ現れてもおかしくは無い」

 

「では、何時も通り過ごしながら警戒をしましょうか」

 

場は一致して話を切り替えた。

 

「話を戻すけれど、そんな部活を作るなら私は賛成ね。また世界中にいる蛮人の文化や

風習を調べることができるし」

 

「誠さまと一香さまから様々な体験話をお聞き、その元で行うと効率が良いかと思います」

 

「なんだか、ピクニックな気分になりそうね」

 

場は賑やかとなり最終的には一誠が『冒険部』という部活を創設することを決意した。

 

 

 

―――放課後―――。一誠は生徒会室へと足を運んだ。部活の創設の申請をするには

生徒会室にいる生徒会会長の者に申し込まないといけないとパチュリーからの情報源で

向かっていた。生徒会室は一階の場所にあり、迷わず直ぐに辿りつけた。足を停め、

分厚そうな木製の扉に強めにノックをした。

一拍して扉が開くと一人の灰色の髪の男子が顔を出してきた。一誠の顔を見るなり、

 

「・・・・・子供?」

 

その男子は一誠が体育の授業で戦った中で知り合っていた人物だった。

一誠は覚えていても相手は今の一誠の姿で怪訝な眼つきで見下ろしていた。

そして自己完結したのか溜息を吐いた後に対応した。

 

「あー、小学校の子かな?ここは高校生しか入れない場所だから小学校に戻ろうか」

 

「―――おい、外見で判断するなと親に言われていないのかお前は」

 

指をパチンと鳴らして弾いた途端に一誠の身体がみるみる大きくなり、

元の姿に戻って男子生徒を驚かした。

 

「お、お前はぁっ!」

 

「ここ、生徒会室でいいんだよな?」

 

「な、何しに来やがった兵藤が!」

 

「・・・・・そこまで邪険にならなくてもいいじゃないか?

で、生徒会の会長と話をしたいんだが」

 

相手は凄く警戒して一誠を入らせないとばかり睨んでくる。

だが、扉の奥から一人の女子が顔を出した。

 

「サジ、一体何の騒ぎですか―――」

 

「ん?あ、久し振り」

 

「・・・・・兵藤」

 

眼鏡を掛けた女性すら若干鋭くなった目つきで一誠を見据える。

 

「何をしに来たのですか」

 

「会長はいるかなって。部活の創設の申請をしに来たからさ」

 

理由を告げる一誠。女子は無言で一誠を見続けると口を開いた。

 

「・・・・・どうぞ、お入りください」

 

「ふ、副会長!?」

 

男子が生徒会室に招き入れるとは思いもしなかったようで驚きの反応は大きかった。

 

「サジ、彼は部活の創設の話をしに来ただけです。それに彼と戦った私と会長は少なくとも

ほかの兵藤とは違うということぐらいは分かっているつもりです」

 

「本当・・・・・兵藤家のバカ共の所為で俺もほとほと困っている。

いっそのこと全員退学にできないのか?」

 

「それができたらこの学校は平和そのものです」

 

「やっぱりそうか。はぁ・・・・・」

 

唖然としている男子を余所に生徒会室に入る一誠。中に入ると書類整理やパソコンで

仕事していたり、紙に判子を押している姿の女子たちが目に入った。

 

「って、以前授業で戦ったメンバーじゃんか。まさか生徒会だったとはな」

 

一誠の声を聞こえた生徒会メンバーは手を停め、警戒を強めた。

その中で眼鏡を掛けた女子が口を開いた。

 

「・・・・・なにをしに来たのですか?」

 

「部活の創設の申請」

 

アッサリ答えた為、もう一人眼鏡を掛けた黒い短髪の女子が訊ねる。

 

「その内容は?」

 

「探険、冒険だ。世界中を空いた時間で行って珍しいものを採取して部室に展示する予定だ」

 

「・・・・・その為の費用は学園から出すとでも?」

 

「自腹で行くつもりだけど?冥界とかまだ行ったことがない天界も

理事長に頼んで行けるようにお願いするし」

 

と、朗らかに言った一誠。女子は怪訝な面持であることを問うた。

 

「部活を創設するからにはそれなりの実績が必要です。

それを私に認めさせなければ意味がありません」

 

「んー、例えばどうやってだ?」

 

「あなたなりに私を認めさせればいいだけです」

 

そう言われて一誠は頬をポリポリと掻いた。具体的にどうすればいいのか分からず、

 

「しょうがない。神王のおじさんと魔王のおじさんに訊くか」

 

そう言って踵返して生徒会室から去ろうとした一誠を女子は呼び止めた。

 

「今・・・・・誰のところに行こうとしましたか?」

 

「神王のおじさんと魔王のおじさん。ああ、この学校の二人の理事長だったっけ」

 

「・・・・・どうしておじさんと呼び方をするのですか?」

 

「だって、俺の父さんと母さんの友達だし、俺もあの二人とは何度も会っているから」

 

「それは本当なのですか?」

 

「本人に訊けば直ぐに分かることだ」

 

女子は顎に手をやって悩む仕草をする。仮に本当だとしてもこの目の前の兵藤を

そう簡単に部活の創成を認めるわけにはいかない理由がある。

 

「・・・・・では、他に交流している者がいればその名を挙げてもらいますか?」

 

「ん?それで認めてくれるのか?」

 

「それとは別の話です」

 

「何だよ」と肩を落とすものの、一誠は言った。

 

「冥界だとサーゼクスのお兄ちゃんとアジュカのお兄さん、魔王のおじさんを含んだ五大魔王。

あと堕天使の総督のアザゼルのおじさんかな。それと友達のヴァーリに朱乃、リアス、

白音と黒歌、ネリネとリコリス。ドラゴンだったらタンニーンとティアマット。

まだ行ったことがない天界側だと神王のおじさんとミカエルのお兄さんに

最近知り合ったヤハウェって女性。教会だとストラーダ猊下とクリスタルディ猊下。

友達はイリナとルーラー。神さまだったら北欧の主神のオー爺ちゃん、

海の神さまのおじさんと天空の神さまのおじさん、帝釈天っていうおじさんと孫悟空っていう

お猿のお爺ちゃん。冥界の冥府にいる骸骨のお爺ちゃん・・・・・他にもいるけど聞く?

疲れた表情をしているけど」

 

「・・・・・いえ、もう言わないでください。頭がパンクしそうですので」

 

眼鏡を掛けた女子が頭を抱えていたほどだった。嘘とは思えないほど純粋に、

楽しげに言うものだからまず間違いなく出会っているのだろう。

 

「分かりました。部活の創設を認めます。後は部員の確保と顧問の先生となる者を―――」

 

「ああ、それはもういるから問題ないな。

部員は五人以上だし顧問の先生はリーラ・シャルンホルスト」

 

「・・・・・では、この紙にその人たちの名前と部活の名前とその内容を書いて

後日提出してください」

 

「ん、分かった。えーと、名前は?」

 

「ソーナ・シトリーです。私もリアスの友達であり親友です」

 

「ははっ、そうか。あいつは元気にしている?」

 

紙を受け取りながら言うとソーナは頷いた。

 

「ええ、オカルト研究部と言う部活の部長をしています。会いに行けば喜ぶと思いますが?」

 

「そうだなー。でも今日は家族を待たせているからまた今度だな」

 

「認めてくれてありがとうな」と最後に言い残して

今度こそ生徒会室からいなくなった一誠を見送った後に。

 

『・・・・・はぁ』

 

と深い溜息が漏れ出した。

 

「会長・・・・・あいつ本当に兵藤家の奴なんですか?今まで見てきた

兵藤家の奴らとは根本的に違うんですけど」

 

「神話体系の神々や魔王と堕天使の総督。他にもリアス・グレモリーと友達だったとは」

 

「私は知っていましたよ。彼がリアスの友達だってことを。

ですが、まさかそのリアスの友達だったとは思いもしませんでしたが」

 

「会長。あの兵藤を本当に大丈夫なのですか?」

 

「最初は大人しく、周りの警戒心を解いて信用や信頼を得た後からやりたい放題にするんじゃ」

 

生徒会の部員たちからの危惧の声にソーナは首を横に振った。

 

「リアスの友達がそんな事をする男ではないと取り敢えず信用してみます。それに彼は

兵藤家を嫌っているという事実は既に明白ですので。特に最近の出来事を考慮すれば」

 

「ああ・・・・・何人もの兵藤家の奴らはやられていましたよね・・・・・ってまさか!?」

 

「ええ、そのまさかですよサジ。多分、彼の仕業で間違いないはずです」

 

一誠が閉めた扉にしばらく目を向けた後、仕事に集中するソーナ。

 

「(彼ならばもしかしたら・・・・・いえ、あまり期待せずに今まで通りにしましょう)」



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エピソード9

翌日。早々に『冒険部』という部活を正式に創設を認めてもらい、

晴れて一誠を部長とする部員や部活の顧問を務めてくれるリーラと言う存在もいて無事に

『冒険部』を創設した。常に傍にいた一誠の家族だけが部活に入部するかと思いきや、

 

「兵藤、私もその部活に入部するネ!」

 

金剛までもが入部することとなった。

 

「なぜに?」

 

「珍しい薬もあるかもしれないから私もそれを見つけてみたいデース」

 

と異様に気合が入っている金剛だった。理由はともかく珍しい物を採取する

『冒険部』は薬も例外ではないので金剛を軽く向かい入れた。メンバーは顧問のリーラで

部長の一誠、副部長はクロウ・クルワッハ。マスコットはオーフィスでルクシャナ、

ティファニア、シャジャル、アラクネー、アルトルージュ、ヴァレリー、金剛の十名だ。

冒険部の部室は五階の空き教室。理事長のユーストマとフォーベシイの権力で

何時の間に知ったのか一誠たちの為に新たな部屋を作って用意させたものである。

 

「・・・・・設備が完璧すぎだろ」

 

防音や耐震を始めとする魔力と物理的な防御結界。エアコンも設けられていて、

装飾と意匠が凝った椅子やテーブルなどあり、冒険部として必要のない風呂場や

寝室などもあった。他にも様々な物もあるが―――・

 

「いくらなんでも優遇しすぎだろ」

 

「・・・・・困ったヒトたちです。この好意を無化にできませんが限度と言うものを

知らないのでしょう」

 

「いいんじゃない?物置き部屋みたいな部屋よりこんなオシャレな部屋の部室だったら私

文句ないわよ」

 

ルクシャナは気に入った様子だったが、採取した珍しいものを展示する場所を

確保しなければならなかった。

 

「壁に飾れるようにすればいいか」

 

「貴重なものはドラゴンが踏んでも壊れないガラスのケースに保管しましょう」

 

「植物は?」

 

「アザゼルのおじさんに頼んで半永久保存できる保管庫を用意してもらおうかな。

できたらの話だけど」

 

と賑やかに決めていく一誠たちだった。HRが始まるころには解散して

それぞれの教室や職員室に戻った。

 

 

そして―――。一誠たちのクラスにある報告が待ち受けていた。

 

 

「えー、このクラスに編入生が入ってくる。皆、仲良くするようにな」

 

教師から告げられた新たなクラスメートの存在。また男子?と言う声も飛び交うが

それは杞憂となった。教室に入ってきた数人の少女たち。

活発そうな小豆色の長髪の少女、青い長髪と顔が似ている二人の少女、

茶髪のツインテールの少女と緑のメッシュが入っている青髪で鋭い目つきの少女、

長い金髪を一つに結んだアメジストの瞳の少女―――。

 

「―――え?」

 

間抜けな声を漏らした一誠。入ってきた少女たちは一誠にとって無関係ではない少女たち

ばかりだったからだ。少女たちの自己紹介が始まる。

 

「リシアンサスです。名前が長いからシアって呼んでください」

 

「ネリネです。どうかよろしくお願いします」

 

「私はリコリス。ネリネのお姉ちゃんだからよろしく!」

 

「私はゼノヴィアだ」

 

「自己紹介は短いわよゼノヴィア。あっ、私は紫藤イリナ。帰国子女なのでどうかよろしくね!」

 

「私はレティシア・J・D・ルーラーです。どうぞよろしくお願いします」

 

六人の少女が自己紹介を済ませた後にそれぞれの席に座った。

 

「・・・・・」

 

一誠の隣にイリナが座りだす。それを見守っているとイリナが一誠に向かってウィンクした。

 

「久し振りね一誠くん。まさかこんな女の子しかいないクラスにいるなんて驚いちゃったわ」

 

「それはこっちの台詞だ。どうしてこのクラスに?」

 

「時間が空いた時に説明するわ。―――そのちっちゃい姿になっていることも教えてね」

 

今は語れないとイリナは漏らす。一誠もその時を待つことにし、授業を受ける姿勢に入った。

それからイリナたちの様子を見守っていると日本語はマスターしているらしいものの

授業にはついていけないようで四苦八苦の姿が度々伺う。

それは昼休みまで続き、昼休みになると―――。

 

「一誠くん久し振りっす!」

 

「私たちのこと覚えているかな?」

 

「お、お久しぶりです一誠さま」

 

シアとネリネ、リコリスが一誠の傍に来て声を掛けてきた。

 

「ああ、覚えているよ。久し振りだな。数年振りじゃないか」

 

「ハイっす!もう、一誠くんが通っている学校に行けるぞってお父さんから言われた時は

小躍りをしちゃった程でした」

 

「ネリネは嬉しさのあまりに泣きそうだったもんね♪」

 

「そ、それは言わない約束じゃないですか・・・・・!」

 

ここで一誠は仮説を想定した。

 

「冥界と天界の姫って・・・・・三人のこと?」

 

「「「はい」」」

 

揃って肯定した。そして、イリナたちにも質問した。

 

「イリナたちは?」

 

「私たちは彼女たちの護衛なのよ」

 

「他にも二人いるのですが。それぞれ歳が違うので他の学年のクラスに所属する形になってしまいました」

 

「もう直来るだろう。ところで師匠。話ができる広い場所はあるか?」

 

―――――ん?

 

「師匠って?」

 

「お前のことだ兵藤一誠」

 

「なぜに俺は師匠と呼ばれる?」

 

「お前がデュランダルを私以上に使いこなせた。それをストラーダ猊下にお伝えすると」

 

 

『そうか、あの戦士一誠はそこまで成長したか。ならば戦士ゼノヴィア。

私の代わりに戦士一誠からデュランダルの本質を学ぶと良い。

きっとデュランダルの本質を受け入れたあの者の傍にいれば貴殿も

また私に継ぐデュランダル使いと成長するはずだ』

 

 

と、ストラーダ猊下はゼノヴィアに対してそう言ったらしい。

 

「・・・・・そこまで買い被られていたのか俺は」

 

「猊下が認める者ならば私は敬意を払って師匠と呼ぶことにしたんだ」

 

「ただ俺は色んな凄腕の剣の使い手と鍛練して剣術を学んだだけに過ぎないんだけど?」

 

「その腕を見込んで言っているんだ。だから今後ともよろしく頼んだぞ師匠」

 

手を差し出されてしまい、断われる雰囲気とタイミングではないので場の空気を読んで

ゼノヴィアの手を掴んで握手を交わした。

 

「イッセー、来たわよーって・・・・・なんか蛮人の女が増えているんだけど?」

 

「む、本当だな」

 

「誰かしら?」

 

「うふふ。ライバル登場ってところかしら?」

 

―――○●○―――

 

「えっと、1-Fの紺野木綿季って言います。シアさんの護衛として先輩たちと一緒に来ました」

 

「久し振りな人と初めての人がいるね。私は3-Fのリーズヴァイフェ・ストリンドヴァリ。

ユウキとイリナたちと同じ、護衛の任を請け負ってこの学校に来た」

 

屋上にて黒い長髪の少女と短い銀髪のポニーテールの少女が自己紹介を終えた。

 

「以前、コカビエルの時に出会った面々がこうも揃ってまた会えるとはな」

 

「そうね。ルーラーも久し振りじゃない」

 

「アルトルージュさんもお元気そうでなによりです。

ヴァレリーとルクシャナ、ティファニアもシャジャルさんも」

 

吸血鬼騒動とハルケギニア時にいたルーラーも久し振りに再会したアルトルージュたちに挨拶を交わす。

 

「シアの護衛は分かったけど、ネリネたちの護衛は誰だ?

―――いや、冥界と天界の姫の護衛を任されているから俺たちも含まれているのか」

 

「そういうことかもしれないね」

 

納得したと一誠は自己完結をし、ルーラーたちの顔を見渡す。

 

「ネリネたちの家はともかく、ルーラーたちはどこの家なんだ?」

 

「私たちは護衛として三人の直ぐ近くの家に構えています。本当なら一誠くんたちも

近くの家に住んでもらいたいのですがそう世の中は思い通りになりませんね」

 

「しょうがないさ。まさか俺の知っている人がこんな形でまた再会するなんて

思いもしなかった」

 

「・・・・・一誠くんのお父さんの言う通りになりましたね(ボソッ)」

 

声を殺して漏らしたルーラーへ「何か言ったか?」と訊ねてみたものの、

慌てて何でもないと首を横に振ったルーラーに首を捻るしかなかった。

 

「と、ところで一誠くん。どうしてその、ちっちゃくなっているんですか?」

 

「そうせざるを得ないクラスだったからとしか言えない」

 

具体的なことを告げた時、

 

「ねぇねぇ一誠くん!一誠くんは今までどこで何をしていたのか教えてくれない?」

 

「はい、もしよければお聞きしたいです」

 

「私も!」

 

三人の姫が興味身心に一誠の話を聞きたがって乞うた時だった。屋上に二つの魔方陣が出現し、

 

「ようシア!学校生活初日はどうだ?」

 

「やぁネリネちゃんとリコリスちゃんもどうかな?」

 

神王ユーストマと魔王フォーベシイが登場した。

 

「し、神王さま―――!」

 

「おっと、そのままでいい。直ぐに帰るからな」

 

「様子を見に来ただけだからね。一誠ちゃんと感動の再会を邪魔はしないよ」

 

予想だにしなかったそれぞれの勢力のトップの登場に教会に属すルーラーたちは

目を丸くしたほどだった。

 

「坊主。気付いていると思うが俺たちの娘のこと守ってくれよ」

 

「私たちの娘が学校にいることで三大勢力と人間たちと交流を交わす意味も現実味を増すからね」

 

「ああ、そういう意味も含まれているんだ。というかおじさんたちの言い方だと

三大勢力はまだ和平をしていないって風に聞こえるんだけど?」

 

一誠の疑問をぶつけられたユーストマとフォーベシイが苦笑いを浮かべた。

 

「ぶっちゃけ、坊主の言う通りだ」

 

「・・・・・は?」

 

ユーストマの発言に一誠の呆けた声はこの場にいる面々の気持ちを代弁したようなものだった。

 

「私と神ちゃんは気が合っているから別段と仲が悪くないんだよ。寧ろ仲が良い方だよ?」

 

「だが、一勢力の上を立つ者としては私情を挟むことは決して許されない。

堕天使の勢力も含めて俺とまー坊は世界の覇権を巡って戦争をしていたことは知っているな?

そん時に兵藤家と式森家、人間が一勢力として戦争に乱入して来やがったんだ」

 

「『俺たちの世界の覇権を渡すものか!』。それが彼らの戦う理由だった。

アダムとイヴから誕生した人間ものたちにとって、狙われる対象として迷惑なことだったらしいね」

 

「俺たちにとっちゃあ、あの時の戦争が一番厄介だったな。人間無しでは存続できない勢力、

種族同士が人間に襲われるなんて思いもしなかったわけだしよ」

 

「相手が相手だったしね。しかもそこで二天龍も横やりを入れてくるもんだから

あれがまさに地獄絵図、阿鼻叫喚、混沌と化となっていた」

 

ウンウンと昔の戦争を生き抜いた二人がその時のことを思い出しながら頷いている。

 

「んで、戦争どころじゃなくなったから俺たちに逆切れした天龍たちを倒してその後、

一時休戦ってなわけだ」

 

「それじゃ・・・・・何時でも戦争を起きてもおかしくは無いと?」

 

恐る恐る聞いたルーラーの質問にフォーベシイは頷いた。

 

「コカビエルが聖剣を使って戦争を引き起こそうとした。もしもコカビエルの野望が

成功したら第二次三大勢力戦争が起きていたかもしれないね」

 

「本当にやってくれやがったぜあいつには。だが、坊主たちのおかげで戦争は免れた。

それでもタダじゃ済まなくなっているからトップ同士の会談をすることになったわけだが」

 

「この機に私たちは本当に和平を結ぶつもりでいる。その時、誠ちゃんと一香ちゃんも

同席してもらう予定だ。何たって唯一、神話体系の神々と交流を持っている人間たちだからね」

 

「そんで坊主。お前はその息子と言うわけだ。だから必ず出席してもらう。

傍迷惑なことだろうけどな」

 

それだけ言い残してこの場から神王と魔王は姿を消した。

 

「会談って何時始めるんだろうな?」

 

『さぁ・・・・・』

 

疑問は増える一方であった。時間になれば当然のように自分のクラスに戻った一誠たち。

なのだが、二階に降りるとざわめきが聞こえてきた。

その原因はF~Dの、女子しかいない教室に大勢の男子たちが廊下から

教室を覗きこんでいる光景が一誠たちの目に入ったのだ。

 

「なんだこれ?」

 

「誰かを探しているようにも伺えますが」

 

「誰でしょうか?」

 

とこの光景に不思議でいるわけにもいかず教室へ向かったが、

やはり一誠たちのクラスにも人だかりができていた。

 

「おい、どいてくれるか?」

 

「なに言ってんだ。冥界と天界のお姫さまを見る為に俺は―――」

 

「冥界と天界の姫さま?」

 

「なんだよ。お前はまだ知らなかったのか?非公式新聞部によれば魔王と神王の娘が

この学校に編入されたってことをさ。どんな娘か一目でも見ようと・・・・・・」

 

一人の男子が一誠に振り向かないままそう言う。そういうことだったのかと納得し、

隣のクラスにいる男子たちもシアたちの姿を一目でも見ようと女子たちのクラスに

顔を出しているのだと悟った。

 

「因みにその姫さまのクラスはどこだか分かるか?」

 

「いや、そこまでは書かれてなかったな。というかさっきから何だお前―――」

 

「なるほど、それはとんだ迷惑千万だな」

 

虚空から数多の鎖が飛び出して男子たちの身体を拘束させて天井に吊るした。

 

「な、なんだぁっ!?」

 

「さっきから邪魔なんだ。そこでしばらくいろ」

 

天井に鎖でぶら下がっている男子たちは教室に入っていく女子たちをただただ見送る。

 

「ああ、それと」

 

一誠はシア、ネリネ、リコリスたちを見せ付けた。

 

「この三人がお前らが言う姫だ。満足したならさっさと自分の教室に戻れ」

 

『ちょっ・・・・・!?』

 

鎖が勝手に動き始め、この場から離れさせられていく男子たち。

念願の姫たちを見た男子たちにとっては、

 

『ちょっと待てぇええええええええええええっ!』

 

餌をお預けされた気分だっただろう。改めて教室に入った一誠の目に飛び込んできたのは、

先ほどの男子たちが鬱陶しいようで顔を顰めていたり、愚痴を漏らしていたりしていた。

 

「アハハ・・・・・なんだかごめんね」

 

「私たちの所為でお騒がせてしまい申し訳ございません」

 

「私たち、姫としてこの学校に来たわけじゃないんだけどねー」

 

当の三人も申し訳なさそうに漏らしていた。

その発言に溜息を突いて首を横に振った一誠は言った。

 

「姫の立場以前にお前らは顔の容姿とスタイルもいいから大勢の男たちがお前らを

気にしないはずがないだろう。しょうがないことだろうが、こんなことまた続くなら

こちらも対処したほうがいいかもな」

 

顎に手をやって考える一誠。だが、シアたちの顔がほんのりと朱に染まった

そのことを一誠は気付いていなく席に座った。

 

―――○●○―――

 

案の定、再び放課後になると男子たちがやってきた。

帰宅する女子たちにとってはこれ以上のない迷惑さで眉間に皺を寄せたり顔を顰めたりとしていた。

 

「うん、思いっきり邪魔だな」

 

一誠が鎖で再び天井に男子たちを吊り下げた。

 

「今の内に帰りたい女子は帰ってくれ」

 

そう告げた一誠にそうさせてもらうと帰宅する女子たちが続々と教室からいなくなっていく。

 

「あなた、神器(セイクリッド・ギア)を所有していたのね」

 

「まーな。見ての通り、対象を拘束することが俺の神器(セイクリッド・ギア)なんだ」

 

「そうなの。それは使えそうな力ね」

 

パチュリーも一誠と別れの挨拶をして去っていく。そして擦れ違うように、

 

「兵藤―――」

 

「あ」

 

ジャラッ!

 

「僕まで縛られるの!?」

 

顔を出した和樹に思わず縛ってしまった。一誠は直ぐに和樹を解放させて何か用かと

問いだたした。

 

「ああ、うん。というか、男子たちが天井にぶら下がっている光景は

とてもシュール過ぎるでしょう」

 

「行く道を邪魔するんだ。当然の結果だ。で、なんだ?俺たちも帰るところだったんだが」

 

「うんと、もしも良かったら僕の部活に顔を出さないかなって誘いに来たんだけどどう?」

 

「あー、悪い。もう俺も部活を創設したんだ。

『冒険部』と言って世界中の珍しいものを集めることが活動理由」

 

「へぇー、それって学園側が費用を出してくれるの?」

 

その問いかけに首を横に振って「自腹だ」と告げた一誠。

 

「行ける範囲まで行くつもりだ。冥界とかそう言った違う場所にさ」

 

「冥界か。僕も言ったことがないから気になるね。空が紫だとか聞くし」

 

微笑む和樹。一誠が部活を創設したというなら誘うのは止めて部活をする為部室へと足を運んだ。

一誠たちもクロウ・クルワッハたちと合流し、帰宅する。

 

「イッセー、何時部活をするの?」

 

「放課後じゃ時間は限られるから休みの日だな」

 

「最初はどこに?」

 

「冥界かな。人間界とは違って色々と根本的に違うから」

 

一誠がそう言うとルーラーとイリナが声を掛けてきた。

 

「冥界の名物や生物、植物を見つけるにはいい機会ですね」

 

「天界も天界しかないものがきっとあるわよ?」

 

「それは楽しみだ」とイリナの話を聞いて楽しげに返した。

校舎から出て校門のところでシアたちと別れた。イリナたちはシアとネリネ、リコリスの

三人の護衛のため一緒に帰る。それを見送り一誠たちも家へと戻る。

 

「イリナたちとまた会えるなんて驚いたわー」

 

「これも一誠が引き寄せている『力』によるものだろう」

 

意味深なことをクロウ・クルワッハは言う。ドラゴンの特性でもある力を引き寄せるソレは、

一誠の意思とは無関係に無自覚で周囲から集まってきたり引き寄せる。

イリナたちもまたドラゴンの特性によるもので引き寄せられたのだろうと

クロウ・クルワッハはそう言う。

商店街の中を歩き、この町で一番大きい高層高級マンションへと赴く最中。

 

「あれ?」

 

「うん?」

 

何故か別れたはずのシアたちと再び出会った。

 

「なんだ、まだ帰っていなかったのか?」

 

「ううん。なんか急にお父さんがこっちに来るようにと言われちゃって」

 

「こっちってどっち?」

 

「あそこっす」

 

シアが指した方向に顔を向けると、一誠たちが帰る場所だった。

 

「あそこが目印と言っていたっす」

 

・・・・・クロウ・クルワッハ。お前の言った通りになるかもしれないな。

一誠はそう思わずにはいられなかった。その後、シアたちを引き連れる形で

共にマンションへ向かった。一誠たちがマンションに辿り着くと

 

「よーう、待っていたぜ!」

 

「待っていたよ皆」

 

『・・・・・』

 

朗らかに手を挙げて振っている冥界と天界のトップ。

何でこんな所にいるのか全員が疑問を抱いた。

 

「お父さん!どうしてここにいるの!」

 

「ん?だって、ここが俺たちの家がある場所なんだからな」

 

「お家がある場所って・・・・・」

 

「目の前のマンションしかないんだけど・・・・・」

 

シアと一誠は辺りを見渡して告げる。一誠たちが住んでいるマンションの

他にユーストマとフォーベシイの家らしきものは無かった。

 

「今はその準備中でね。家はまだ完成していないのだよ」

 

「そろそろそれが完了してここに転送する手筈だ」

 

「転送・・・・・?」

 

周囲には一軒家が点々とある。道路だって設けられているしどこに転送するのかと

思った矢先、一誠たちが住んでいるマンションごと眩い光が迸り始め、

視界が白く塗り替えられた―――。

 

「・・・・・んなっ」

 

光が治まった時。一誠の目にとんでもない光景が飛び込んできた。

二人の権力乱用がまさに象徴しているものだと物語っている。

洋風と和風の大きな家が左右に何時の間にか存在して、

一誠たちが住んでいたマンションは姿も形もなく、代わりに敷地が広い豪華絢爛で

大きな家が建っていたのだった。五メートルもある無駄に大きい鉄柵付きの外壁と鉄柵の扉。

扉のところに兵藤という石のプレートに刻まれている。

 

「なんじゃこりゃああああああああっ!?」

 

周囲の目を気にするほど、余裕がないほど一誠は驚きを隠せなかった。

住み慣れてきたマンションが一瞬で豪華な一軒家へと変貌したのだ。

信じられない気持ちでユーストマとフォーベシイに視線を向けると。

 

「あのマンションは元々俺とまー坊が坊主たちのために用意した仮の家だったんだぜ?」

 

「・・・・・マジで?」

 

「おや、不思議に思わなかったかい?マンションなのに

他の者たちが入居していなかったこととかさ」

 

そう言われてみれば、確かに自分たち以外のヒトは住んでいなかった。

高級マンションとは言え、絶対に住めれないほど高いわけではない。

なのに何故か自分たちしか住んでいなかった。

―――その理由はこの二人の存在があったからこそだとは一誠も気付かなかった。

 

「こんなことは前々から決めていたことなんだぜ?誠と一香も既に了承済みだ」

 

「それに一誠ちゃんは私たちの愛娘の護衛役の一人だからね。

守るべき者の傍に常にいることは当然の摂理だ」

 

ガシッ!と一誠の両肩にユーストマとフォーベシイが力強く手を置いた。

 

「「だからこのままお義父さんと呼んでも構わんのだよ!」」

 

「・・・・・はい?」

 

この二人にはついて行けないと呆然と立ち竦むだけの一誠だった。

シアとネリネ、リコリスたちに目を向ければ顔を真っ赤にしていた。

 

「この状況、どう把握すればいい?」

 

「え、えっと・・・・・」

 

クロウ・クルワッハの問いにティファニアは困惑してしまう。

その間にも一誠を引き摺って家の中に移動したユーストマとフォーベシイ。

取り残された面々もその後に続いて家の中へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ほほう。これは面白い記事を書けそうだ。そう思わないか?我が同志よ」

 

「ふっふっふっ。これは本当に明日が楽しみなのですよー♪」



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エピソード10

新たな家になってから翌日。いつもとは違う朝を迎えた一誠たち一行は学校に向けて足を運ぶ。

朝から二人の親バカに見送られ、恥ずかしげに、苦笑いを浮かべつつ別れて市街地の中を通り、

事例のない学校へ赴く最中に、

 

『兵藤一誠ッ!』

 

屈強な男たちが敵意と殺意を醸し出して行く道を阻む。

 

「・・・・・誰でしょうか?」

 

と、不思議そうに漏らしたネリネに反応した男たちが告げた。

 

「俺たちはネリネちゃんファンクラブの者だ!」

 

「同じくシアちゃんファンクラブの者!」

 

「リコリスちゃんファンクラブの者であーる!」

 

軽く五十人はいる男たちが一誠に言い放った。

そのファンクラブの者たちが自分に何のようだと顔に出す。

男たちはビシッ!と一誠に指を突き付けた。

 

「貴様、わが校のアイドルたちを独占など言語道断!」

 

「今すぐアイドルたちから離れろ!」

 

「アイドルたちのことは我々親衛隊に任せればいい!」

 

竹刀や金属バット、ボクサーらしき者やエアガンを持った者たちが攻撃体勢になった。

 

「・・・・・ファンクラブとか言ったのに何で親衛隊と言うんだ?」

 

「イッセー、明らかに面倒そうな相手なんだけどどーすんのよ?」

 

ルクシャナから話し掛けられ、溜め息を吐く。その間、親衛隊たちは駆け出してきたのだった。

 

「全員を相手にしたら遅刻だろう」

 

「それで?」

 

「転移魔方陣でゴーだ」

 

一誠たちの足元に一つの大きな魔方陣が出現した。その魔方陣の光が一誠たちを包んだ

途端に弾け、襲い掛かってくる親衛隊の前から姿を暗ました。

 

 

 

「まいったわね・・・・・」

 

その日、パチュリーは図書室にいた。警戒しながら今日は本を読もうと思って朝早く、

図書室の鍵を借りてホームルームの時間まで読んでいた。が、没頭していたせいか

時間はあっという間に過ぎていて朝早くから一人でいたことに災いとなってしまった。

 

「どーこーにーいるのかーなー?」

 

「・・・・・ッ」

 

朝早くから図書室に来る者は、自分みたいな本の虫か人気のない場所で密会する者しか

来ないだろう。パチュリーは図書室の深奥、人気のない場所で本を読書していたため、

会いたくない者に追われる羽目となった。相手は―――兵藤である。楽しげにパチュリーを

追い詰めるその言動はまるで兎を狙う肉食獣。

 

「(扉は複数。だけど、扉に向かう前に捕まれる可能性が高い・・・・・)」

 

脳裏でこの場から脱出を計るものの、相手は身体能力が長けた男子。非力な女子、

しかも魔法使いなのに魔法を放てないほど貧弱な身体で抵抗は無意味に等しい。

 

「(アリスがいてくれればよかったのだけれど・・・・・しょうがないわね)」

 

強行突破。これしかないとパチュリーは決断をし、

ダッと駆けた矢先に目の前に男子が歪んだ笑みを浮かべて逃走経路を阻んだ。

 

「この間は逃げられたが今回は逃がさないぜ?」

 

「・・・・・この外道っ」

 

「外道?強い奴は何だって許されるんだ。それが兵藤家の教えなんだぜ?

それに犯罪を起こしても兵藤家が握り潰してくれるから俺たちはやりたい放題だ」

 

相手が一歩足を踏み出すとパチュリーも一歩後退する。そうしていく中で語る。

 

「・・・・・私が知っているあの兵藤とは大違いね」

 

「あ?誰のこと言ってんだよ」

 

「あら、知らないのかしら?最近あなたたち兵藤の者たちが

どこかの誰かさんにやられているじゃない」

 

パチュリーの発言に険しい表情となった兵藤。

心当たりがあるようで、返す言葉が見つからないのだと悟りパチュリーは心中嘲笑った。

 

「俺とやられたあいつらと一緒にするな」

 

「そう、ならどれだけ強いのかしら?」

 

「なんだ、強い男にしか靡かないってか?」

 

「私は知りたいだけよ。強い奴は何だって許されるなら―――あなたより強い人がいたら

あなたは最後までそう言い切れるのかしらね?」

 

意味深に笑みを浮かべたパチュリー。兵藤は目を細め怪訝な面持でパチュリーを睨んだ時、

 

「兵藤、申し訳ないけど倒してくれる?」

 

「っ!」

 

誰かに向かって言った言葉に兵藤が背後へ衝動的に振り返った瞬間・・・・・。

凄まじい力で顔を掴まれた。

 

「HR間近になっても教室にいないから探したぞ。気でな」

 

真紅の長髪に金色の瞳を持つ男子がそう漏らした。

 

「さっきから後ろにいたんだけどな。お前、全然気付かないし目の前の欲望に意識を

向けすぎなんじゃないか?」

 

「だ、誰だお前は・・・・・っ!」

 

「お前と同じ兵藤の名を持つ者だと言っておくよ。

お前らと一緒にされるなんて不愉快極まりないがな」

 

腕が段々と上がって兵藤の足が床から離れた。

 

「さて―――?強い奴は何だって許されるなら、俺も許されるよな?」

 

その言葉を聞いた瞬間に兵藤の目が大きく見開いた。今この状況は自分にとって不利な展開だ。

 

「ま、待てよっ!同じ兵藤が何で攻撃をするんだよ!?意味が分からねぇっ!」

 

「同じ兵藤のものだ攻撃をしてはならない決まりなんてあったっけ?俺は知らないがな」

 

後ろへ引いた拳に赤いオーラが帯び始めた。その一撃は計り知れない。兵藤が顔を青ざめる。

 

「ま、待て!お前もこいつを狙っていたなら譲るからその拳を下ろせ!」

 

「残念だが、俺はお前を狙っていた。お前ら兵藤家が散々、この学校に迷惑を掛けてきたからな。

俺までそうなのだろうと思われて嘆かわしいったらありゃしない」

 

少年の顔から表情が消え、躊躇の色さえもない。

 

「―――くたばれ」

 

赤い拳が凄まじい勢いで兵藤に突き出された。

 

「と、思ったが止めた」

 

顔に向かって放たれた拳は寸前で停め、掴んでいた手を緩めて兵藤を床に落とした。

 

「へ・・・・・?」

 

攻撃されず、解放されたことに呆ける兵藤に少年は声を掛ける。

 

「パチュリーにまだ手を出していないのに俺が手を出したら暴力事件になるだろうが。

それとも、痛い目に遭いたかったか?そういうことだったら俺は喜んでお前の腕を折ることも

躊躇しないぜ?」

 

「ひっ・・・・・!」

 

「ああ、二度とパチュリーに手を出すなよ?手を出したら・・・・・分かるな?」

 

最後にギロリと睨んでやると兵藤は情けない声を発しながら図書室からいなくなった。

それを見送ったパチュリーは少年に向かって感謝の言葉を発しようとしたが

 

「このバカが」

 

そう漏らす少年にデコピンされた。地味に痛かったようでデコピンされた箇所に

手で押さえつつ涙目で睨んだ。

 

「な、なにを・・・・・」

 

「お前自身が言ったことをどうしてしたんだよ。一人じゃ危険なら図書室になんて来るな。

俺が来なかったらお前は確実にヤられていたぞ」

 

ぐうの音も出ず、パチュリーは無言で頭を垂らす。

 

「・・・・・ここに来たかったら俺を誘え。用心棒代わりにぐらいなるだろう」

 

「・・・・・いいの?」

 

「ああ、その変わりと言っちゃあ何だが。

パチュリーはこの図書室にある本を熟知しているんだよな?」

 

それは当然とパチュリーは頷いた。司書と言う肩書は伊達ではないのだ。

 

「なら、珍しい品や植物、食べ物が記された本を教えて欲しいんだ」

 

「それって部活の為?」

 

「ああ、何事も情報が必要だからさ」

 

少年は朗らかに笑みを浮かべ、パチュリーに乞うた。

 

「そうすればパチュリーも気兼ねなく本を読めるだろう?」

 

「それはそうだけど・・・・・あなた、授業はどうするの?」

 

「問題ない。今はお前が心配で仕方がないんだよ。身体が弱いお前は狙われやすいしな」

 

そう指摘され嘆息する。それは自分の悩みでもあるからだと。

 

「・・・・・私だって、魔法を使えれば危険な目に遭わないわよ」

 

「身体の丈夫さが問題だよな。なんか、身体が強くなれる秘薬とかないのか?」

 

少年の質問に手を顎にやって思考の海に潜り込んだ。

 

「あるにはあるけれど、手に入らないかも」

 

「ん?」

 

「一番信憑性あるのはドラゴンの血なの。飲み続ければ体が丈夫になって身体能力も向上するとか。

実際に本で読んだ程度だから本当かどうか分からないわ」

 

パチュリーが例を上げた時に少年は溜息を吐いた。

 

「・・・・・また血か」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない。でも、ドラゴンの血ならここにあるぞ」

 

と、自分に向かって差す少年。それはどういうことなのかパチュリーは理解し難い気持ちでいた。

そんな反応をする彼女に少年はスッとパチュリーの耳元で漏らした。

意味深に笑みを浮かべ、ボソリと声を殺して―――。

 

「俺は人間じゃない。ドラゴンなんだ」

 

―――○●○―――

 

それから授業を問題なく受け、あっという間に放課後となった。

何時も通り、真っ直ぐ家に帰る支度をしていた面々だが、

 

「先に帰ってくれ。俺は寄る場所があるから」

 

と、一誠は一人だけ別行動をすると述べた。咲夜たちは深く追求もせず、

言われた通り先に帰宅した。

オーフィスだけは一誠の傍から離れないと肩に乗っていて共に行動する。

 

「イッセー、どこに行く?」

 

「リアスたちがいる部室だ。生徒会の会長から教えてもらったからな」

 

「リアス・・・・・グレモリー?」

 

肯定と頷く一誠。一階の廊下を踏み続け、学校・・・・・本校舎から離れた木造建ての

旧校舎に足を運んだ。手入れは整っているようで蜘蛛の巣やホコリなど一切ない。

上階へ行ける会談を登って、魔力が集結している部屋の扉の前に立った。

扉にノックをして待っていると内側から開いた。

少しして部屋の中から銀髪のメイド服を身に包んだ女性が顔を出した―――。

 

「あれ・・・・・グレイフィアさん・・・・・だっけ?」

 

「あなたは・・・・・兵藤一誠さまでしたね。お久しぶりでございます」

 

「久し振りー。元気にしてた?ところでリアスはいる?会いに来たんだけど」

 

「・・・・・居りますが生憎、話が立て込んでおりまして・・・・・」

 

どういうこと?と思いながらも「入って良いか?」と訊ねれば、グレイフィアは一誠と

オーフィスを招き入れてくれた部屋の中に入ると―――大勢の少女や女性、一人だけ男子がいた。

 

「なに、この状況・・・・・」

 

「・・・・・イッセー?」

 

紅の髪の少女が目を張って一誠を見詰める。その少女の目と合い、嬉しそうに笑みを

浮かべ挨拶をした。

 

「久し振りだなリアス。コカビエルさんの一件以来か」

 

「ど、どうしてここに・・・・・?」

 

「リアスを会いに来たからだけど?でも、この状況は何?」

 

説明を求めた時、一誠の目にとある少女が映り込んだ。何時だったか助けた少女である。

 

「お、お前も久し振りだな」

 

「え、ええ・・・・・お久しぶりですわ」

 

「あれからまた人間界に来ているか?来たら来たでまた変な奴らに絡まれるなよ?」

 

「わ、分かってますわよ」

 

金髪のツイン縦ロールに青い瞳、お嬢様が来ていそうなドレスを身に包んでいる少女と話していれば、

 

「なんだ貴様。俺の妹とどこかで知り合ったのか」

 

「妹・・・・・?お前、この子の兄か」

 

「ふん、俺のことを知らないなんてな。この悪魔と天使堕、天使、人間が交流する

学校ができてから最近の人間の教育はどうなっていることやら」

 

ホスト風な服装でイケメンだが性格が悪そうな男性に声を掛けられた。

 

「部外者はさっさといなくなってもらうとありがたいね。こっちは大事な話をしているんだからな」

 

「というと?」

 

グレイフィアに訊ねたらこう答えてきた。

 

「リアスさまとライザーさまの婚約の話をしておられます」

 

「へぇ・・・・・婚約。その割には雰囲気が最悪っぽいんだけど?

もしかして一悶着中だったりする?」

 

「ライザーさまとの婚約をリアスお嬢様は拒んでおられている事実は誠でございます」

 

なんというタイミングで来てしまったんだろうと半ば後悔した。

両者の婚約の件の話ならば、自分が横やりを入れるものではないと悟る一誠。

 

「ライザーって悪魔?」

 

「なにを当然なことを。お前、本当に知らないんだな」

 

「まだ悪魔に関する知識はないんでね。代わりに友達はいるけど」

 

「お前に悪魔の友達ねぇー?どうせ大した奴じゃないだろう?」

 

「いや、魔王のおじさん。フォーベシイって悪魔だけど?」

 

そう言った瞬間にライザーを含む面々が驚愕の色を浮かべた。

 

「おいおい、嘘を言うのは止めておけ。恥を掻くだけだぞ」

 

「ライザーさま。彼の仰ることは本当でございます。彼は魔王フォーベシイさまだけではなく

他の五大魔王の方がたと面識があり、ご友人として交流を持っておられます」

 

グレイフィアからも助け船によりライザーは目元を引くつかせた。

 

「小僧・・・・・貴様、何者だ?」

 

「名前を聞く時はまず自分からって家族に言われなかった?」

 

「・・・・・っ」

 

見ず知らずの者に付け上げられている気分でライザーのプライドに刺激が与えられる。

 

「言いたくないなら別に言わなくても良い。リアスに訊くだけだし」

 

ライザーから視線を外しリアスに向ける。それはまるで興味も無くなったと仕草や言動で、

一誠は懐かしげにリアスと話をし始めた。

 

「リアス、黒歌はどうしている?白音はここにいるのにさ」

 

「え、ええ・・・・・一緒に人間界に住んでいるわよ。黒歌はどこか散歩に行っているわよ」

 

「おー、そうなんだ。分かっているとは思うけど俺もちょっと離れた場所に住んでいるんだ。

部活が終わったら遊びに来ない?」

 

「・・・・・そうね。久々にあなたとゆっくり話をしたい気分だわ」

 

「あらあら、一誠。勿論私もいいわよね?」

 

「私もですお兄さま」

 

「いいぞー。しっかし懐かしいな。朱乃、綺麗な黒くて長い髪で美人になったな。

白音はあの時よりだいぶ成長したな。抱きしめて良いか?つーか抱き締める!」

 

―――完全に自分から意識を逸らして楽しげに話し合っている

。何時の間にか一誠が中心として和気藹々となっていた。

 

「貴様・・・・・リアスと大事な話をしているというのに話を乱すような真似はするな」

 

「うん?また今度にしてくれない?そう急ぎのことでもないんだろう?」

 

「―――――」

 

ライザーはキレた。全身から炎を滾らせて一誠に向かって飛びだし、

業火の火炎を纏った拳を突き出した。その行動に誰もが目を張った。

 

「ライザー―――!」

 

焦心に駆られ叫ぶリアス。グレイフィアが対処しようと動く前にオーフィスが動いた。

 

「イッセーを守る」

 

一誠の肩に乗ったままのオーフィスがライザーに向かって手を開いた瞬間、魔力による波動が発生し波動を受けたライザーは部屋の壁まで吹っ飛んだ。

その光景を見て一誠はオーフィスに声を掛けた。

 

「オーフィス。ありがとうな」

 

「ん」

 

「ぐっ・・・・・!今のは一体・・・・・!」

 

「オーフィスが俺を守ろうとして攻撃をしたんだ。ただそれだけのことだ」

 

胸に抱きつつオーフィスの黒髪を撫でながら発した一誠の説明を聞き、

憤怒の形相を浮かべたライザー。

 

「そのガキにこの俺が攻撃されただと・・・・・!」

 

「言っておくけど、オーフィスは俺より強いからな。

最強のドラゴンであり『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィスだ」

 

「んなっ・・・・・!?」

 

最強のドラゴンによる攻撃だと知り、ライザーは今度こそ絶句した。

 

「俺に攻撃しようとするとオーフィスは俺を守るために攻撃を仕掛ける。力を幾分かセーブしてな」

 

「くっ・・・・・だが、お前らに俺とリアスの婚約に首を突っ込むことはできないだろうが!」

 

「いや、本人同士の話なんだから俺は突っ込む気はさらさらないぞ。

というか、お前が攻撃を仕掛けてきたからこんなことになったんだけど?」

 

と、述べた一誠だったがリアスはあることを言いだした。

 

「ライザー。私は好きな人がいると前から言っているけど、

その好きな人とはこの兵藤一誠のことよ」

 

一誠に対する愛の告白だった。それには当の一誠は・・・・・、

 

「・・・・・え?」

 

目を丸くしてなにそれ?初めて聞いたぞとばかりの反応を示した。

 

「そして、私の・・・・・ファ、ファーストはイッセーに捧げたわっ!」

 

「んなっ!?」

 

「・・・・・はい?」

 

ライザーは驚くものの、一誠は身に覚えがないと首を傾げた。

というかファーストとはなんのことだ?

グレイフィアが何故か嘆息し、呆れ顔で首を横に振っていた。

 

「お気にせずにいてください」

 

声を殺して言ってくるグレイフィアだった。

と言うことはリアスが言っていることは真っ赤な嘘なのだろう。

しかし、ライザーは顔を酷く歪ませ身体が震わせている。

 

「リアスお前・・・・・純血悪魔同士の婚約はどれだけ大切なのか

わかっちゃいないようだな・・・・・。

このどこぞの馬の骨も知らない奴なんかに股を開いたってのか!」

 

「相変わらず下品な言い方ねライザー。だけど、どう捉えようとあなたの自由よ」

 

「―――――っ!?」

 

次の瞬間。灼熱の炎がライザーを中心に噴き上がった。

炎がが怒りを表現しているかのような荒々しく周囲の物を燃やさんばかりの勢いだった。

 

「おい・・・・・兵藤一誠と言ったか」

 

「え?」

 

鬼気迫る勢いでライザーに睨まれる。今なにを言っても耳を傾けないほどライザーの

腸は怒りで酷く煮え繰り返しているのだろう。

 

「貴様にリアスを懸けた決闘を申し込む!」

 

「はいっ!?」

 

リアスの婚約者に決闘を申し込まれ、愕然とした。

どうしてこんな展開になったのか理解に苦しむ。

その間にもライザーは言い続けていた。

 

「決闘は一週間後だ。その間に仲間となってくれる奴を集めて精々必死こいて修行するんだな!」

 

一方的な言い分で決められ、一誠の意思とは無関係にライザーは十数人の少女と女性たちと

展開した魔方陣から噴き上がる炎と共に姿を消したのだった。

 

「・・・・・」

 

ただただ呆然と一誠はその場で立ち竦む。リアスに会いたいと思って

この場に馳せ参じただけだったのに、なにこの急展開は。

 

「リアスお嬢様。後でお話しがございます」

 

「グ、グレイフィア・・・・・なんか、怖いわよ・・・・・・?」

 

「我が姉のシルヴィアにもきつく叱って貰いますのでどうか御覚悟を」

 

「うっ・・・・・!」

 

あっちはあっちで、再び一悶着がありそうだ。

 

「お、お兄さま・・・・・大丈夫ですか?」

 

「一誠、私もできればあなたの力になりたいのだけれど・・・・・」

 

「あ、うん。多分大丈夫だろう。ただ情報が欲しいな。

ナヴィに調べてもらうか。悪い、家に遊びに来る話はまた今度で」

 

と、言ったところでこの場に魔方陣が出現した。誰が来るのだろうと伺っていると、

炎が噴き上がり、炎と共に二人の女性と少女が現れた。

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「・・・・・突然の兄の申し出に兄の代わりに謝罪をしに来ましたわ」

 

軽く頭を下げた少女。それには一誠も驚いた。

 

「本来なら決闘、レーティングゲームはリアスさまとする予定だったはずですわ。

婚約を懸けた戦いをする為に。それを事実的無関係なあなたがお兄さまと

戦うことになるとは私も驚きましたの」

 

「ああ、俺もだけどな。というか、リアスの言っていることは嘘だからな?

あいつファーストを俺に捧げたと言って何か勘違いしているし」

 

「そ、そうでしたの・・・・・・」

 

それでは完全にライザーの勘違いであると少女は思った。

今回ばかりはこちらに非があると申し訳ない気持ちが胸で一杯で肩に下げていた

カバンから二つの瓶を取り出す。

 

「これが今私にできる精一杯の謝礼です。どうか受け取ってください」

 

「なんだこれ?」

 

半分だけ仮面を覆っている女性がここで初めて口を開いた。

 

「フェニックスの涙だ。正式のレーティングゲームにも使用されていて、

その涙を使えばどんな傷でさえ瞬く間に完治するフェニックス一族でしか作れない秘薬だ。

例え、手足が両断されても傷口とその手足をくっつけて涙を振りかければ治り、

以前と変わらず動かすことができる」

 

「へぇー、結構便利な秘薬だな。いいのか?敵に塩を送るようなことをして」

 

「こ、これは個人的な感謝と謝罪ですの。あの時助けてくれたお礼はまだでしたし、

今回はお兄さまにご迷惑をおかけしたのでこれぐらいのことをしなくては

申し訳なくてどうしようもないですから」

 

あの時と言われ苦笑を浮かべる。

 

「律儀な娘だな。まだ気にしていたのか。もう終わったことだろうに」

 

「・・・・・クレープ」

 

「うん?」

 

「私にクレープをくれました。アレのおかげで私はフェニックス家の者として

恩を返せませんでした。ですから今がその時だと思い恩を返したいと

フェニックスの涙を渡したのです」

 

照れたように顔を紅潮させ、口を尖らせる少女。その仕草はとても可愛らしく、

一誠は抱きしめたい衝動を何とか堪えた。

 

「では、次に会う時はゲームの時でしょうが予め言っておきます。私は戦いませんので

観戦の姿勢で徹します。どうかそのことを忘れずにいて下さいまし」

 

「りょーかい。お前だけは手を出さないようにするさ」

 

朗らかに笑みを浮かべ、魔方陣から噴き上がる炎に包まれながら姿を消す少女と女性を見送った。

 

「よし、さっそく部室に飾ろうっと」

 

「イ、イッセー?その秘薬を使わない気でいるの?」

 

リアスが一誠の言葉に疑問が浮かび問う。飾るとはせっかくの回復アイテムを

使わないでいるつもりなのだ。それを宝の持ち腐れにするのは考えられないのだ。

 

「一応所持するが多分使う機会は無いと思うぞ?」

 

「どうしてですの?」

 

朱乃の問いかけに一誠は不敵の笑みを浮かべた。

 

「流石にオーフィスを参加させたら相手が可哀想だ。どちらにしろ俺には心強い友達や仲間がいる。

一週間とは言わず明日にでもしてくれればよかったんだけどな」

 

そう言い切った一誠。その後、リアスたちと別れて真っ直ぐ帰宅した一誠だったのだが―――。

 

 

 

「これは面白い。同志よ、さっそく準備に取り掛かるぞ」

 

「ふふふっ、兵藤一誠くんか。あの男の子の周囲は面白い事だらけなのですよー♪」

 

 

後日。

 

『リアス・グレモリーを懸けた決闘!兵藤一誠VSライザー・フェニックスの

 レーティングゲームは一週間後と迫る!(尚、仲間を募集のこと!)』

 

と学園中にそれが新聞にデカデカと記事が載って一誠に頭を抱えさせるほどだった。



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エピソード11

「ここにきて一気に有名人になったわね?」

 

「・・・・・言うな」

 

「見て見て兵藤。兵藤の顔がこんなに大きく載っているヨ!」

 

「・・・・・見たくない」

 

頭を抱えて机に突っ伏す一誠がいた。パチュリーや金剛にからかわれ、

穴があったら入りたい気分の一誠であるが他の女子たちからも意味深な視線を

向けられているので、視線を下に落とすことで周りからの視線を逃れるようにしている。

 

「でも、ライザー・フェニックスって不死身の力が有名な元七十二柱の悪魔の一族だったわ。

勝算あるの?」

 

「不死身でも勝てないわけじゃない。勝算はある」

 

「OH!兵藤は勝つ気満々ネ!」

 

「そうだな。だから金剛。お前の力を俺に貸してくれるか?」

 

一誠からの突然の誘いに金剛は目をパチクリした。

 

「私もデスカ?」

 

「ああ、ダメか?」

 

まさか自分を誘ってくれるとは思いもせず、金剛はおずおずと訊ねた。

 

「私が出ても大丈夫なのですカー?水の上じゃないと役に立たないですヨ?」

 

「そこは俺がサポートするから問題ない。バトルフィールドを全て水に換えてでも戦いやすくする」

 

そう言われてしまったら金剛は断わることもできず、一誠と一緒に戦うことを決意した。

 

「ところで、リアス・グレモリーとどういう関係なの?」

 

「昔遊んだことがある友達だ」

 

「じゃあ、恋心を抱いているわけじゃないのね?」

 

「俺は巻き込まれた形で決闘をする羽目になったんだぞ?まぁ、本人の気持ちを無視した

結婚なんて嫌がるのも無理は無い。―――人の人生を我が物顔で決めるなんて

俺も許せないところがあるしよ」

 

目元を細め、声音を低くして漏らした一誠をパチュリーはゾクリと一瞬だけ恐怖を覚えた。

朗らかに言動する一誠が怒っているようにも見えたからだ。兵藤家を嫌う一誠も

また何か遭ったのだろうと確信した時だった。

 

「・・・・・それで、二人だけで戦うってわけじゃないでしょうね?」

 

「当然だ。俺一人で無双の如く働いたら楽しくないもん。相手が弱かろうが皆で戦って

勝つ喜びを味わってみたい」

 

「じゃあ、もう誰かを誘うのを決めているの?」

 

「もう殆ど俺の頭の中では決まっている」

 

残りの時間まではまだまだあるというのにメンバーは決まりつつある。

一誠は一体どんなメンバーを集めるのか興味が湧く。

 

「んー、今誘ってみるとするか」

 

「いま?この学校にいるの?」

 

「いや、他の学校に通っているはずだ」

 

徐に金色の杖を具現化させるとブツブツと呪文を呟くと―――一誠が分裂した。

 

「OH!?」

 

「これって・・・・・」

 

金剛とパチュリーが目を張った。まさかもう一人の一誠が現れるとは露にも思わなかったと。

 

「忍者で言うと分身の術ってやつ。魔法で分身体を作ったんだ。しかもちゃんと実体化している」

 

「そういうことだ。んで、オリジナル。俺はどうすればいい?」

 

「俺の代わりに授業を受けてくれ」

 

「了解。―――襲われるなよ」

 

「・・・・・善処する。オーフィス、放課後まで帰ってくるから待っていてくれ」

 

コクリと頷くオーフィスの頭を撫でてやると黒いローブをどこからともなく取り出しては羽織り、

全身を包んで教室から姿を消したのだった。

 

 

 

 

 

川神学園―――。その学園は実力主義、格差社会が実施されていて

数多くの生徒たちは武家、武を嗜んでいる者たちで溢れ返っている。その学園の中で

一、二位を争う少女たちが屋上にいた。

 

「HRからずっとここにいるな。なにをしている?」

 

「この青い空を眺めたくなってな」

 

「空を?そのぐらいの事なら教室の中からでも見れるだろう」

 

「こう言うのは一人だけで眺めたくなるんだよ。―――昔のことを思い出すとな」

 

遠い目で漏らす艶やかな腰まで伸びている黒い髪、血のように赤い眼の少女に強い意志が

籠っている青い双眸と同じ色の長い髪に黒髪の少女と同じ白い制服を内側から

盛り上げる豊かな胸と身長の少女は自然と胸に下げている瑠璃色のネックレスに触れた。

 

「・・・・・確かに、その気持ちは分からないわけではないな」

 

二人の少女の脳裏には一、二を争う幸せな時が浮かんでくる。

何時もこの昔と変わらない青い空の下には赤い髪の子供がいた。

 

「あいつ、学校に通っていれば私たちの後輩だよな」

 

「そうだな。『お兄ちゃんが良い!』と言っておきながら歳は私たちより下だ。

学年も下であるということは弟みたいなものじゃないか」

 

不意に笑みを零す二人だった。

 

「はははっ。あいつが兄風を吹くなんて絶対無理だろう」

 

「私たちに可愛がられる為に存在しているようなものだとは思わないか?」

 

「ああ、思うな。もしも再会したらたっぷりと可愛がってやる」

 

と、黒髪の少女が笑みを浮かべつつ言った時だった。

 

「「―――――」」

 

「―――――」

 

屋上に全身を覆う黒いローブを纏った虚空から姿を現した。

それを静かに察知し、ゆっくりと振り返る。

 

「さて、お前は誰なんだろうな?」

 

「返答次第では五体満足で見逃すが」

 

二人からの問いかけに、黒尽くめの人物は無言で佇むだけだ。

 

「だんまり・・・・・か。エスデス、この場合お前だったらどうする?」

 

「愚問な事を―――力尽くで聞きだした方が手っ取り早いものではないか」

 

青い髪の少女にエスデスと、黒い髪の少女に百代と呼び合った二人の少女は臨戦態勢の

構えを取った。

 

「ジジイには不法侵入してきた奴を捕える際に」

 

「戦闘になってしまったと」

 

「「言い訳が成立できるな」」

 

黒尽くめの人物に飛び掛かり、左右から迫ろうと二人は攻撃を仕掛けた。

どちらも実力は折り紙つきで片や氷を鋭利な刀剣に造形し、

片や軽くコンクリートの壁を壊す程の威力を持つ拳を相手に向かって突き出した。

 

「・・・・・」

 

それをいとも容易く上半身だけ逸らしてかわした黒尽くめの人物はこう指した

二人の腕を掴み、力強く青い空へ向かって放り投げた。

 

「なっ・・・・・!」

 

「私たちを同時に空へ・・・・・!?」

 

信じがたい体験に驚きを隠せないが気を取り直して体勢を立て直した矢先、

何時の間にか目の前に黒尽くめの人物が懐に飛び込んでいてそれぞれ蹴りを放ち

グラウンドへ叩き付けた。その光景に教室の中に、学校の中にいた生徒や教師が

目撃しグラウンドへ目を向け始めた。

 

「こんのぉ・・・・・いまのは効いたぞ」

 

「まったくだ・・・・・」

 

地面に背中から落ちず華麗に着地しながら漏らす。黒尽くめの人物もまた二人の前に着地した。

 

「いい度胸だ。私たちに喧嘩を売る奴は久し振りだ」

 

「身の程知らずが、倒れるがいい!」

 

エスデスが数えきれないほどの氷の槍を具現化して放った。その氷の槍から跳躍して

避けたところで百代が拳を突き出してくる。空中での格闘戦が繰り広げられ、

一瞬で肉眼では捉えないほどの手足で使う攻防戦が地面に着くまで続いた。

 

「―――面白いっ」

 

直接戦っている百代の顔に狂喜の笑みが浮かびだす。ここまで自分と肉弾戦が

できる者は片手で数えるぐらいしかいない。この小さな箱庭という学園と町しか

知らない百代にとって突然現れた強者に心底、熱く心が躍る。

 

「どけ、百代!」

 

エスデスからの催促に心の中で舌打ちをしつつ―――真上に振ってくる巨大な氷塊から離れた。

黒尽くめの人物はその氷塊を眺めた後に潰れた。

 

「「・・・・・」」

 

グラウンドに降った巨大な氷塊。あの黒尽くめの人物が避けることもなく

巨大な物質の量に圧縮され姿形も残さず潰れた。

しかし、百代とエスデスは警戒心を解くことは無かった。

 

ギェェェエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!

 

氷塊から聞こえる巨大な獣のような咆哮。その声の振動で氷塊が震え、何時しか崩壊したのだった。

崩壊した氷の向こうから姿を現す―――全身黒い鱗に覆われながらも太陽光で紫も発光させる

他に足が逆関節で、ベースは人型、三つの鎌首を持ち三つの頭部、六つの赤い目を

百代とエスデスを向ける体長二メートルを超える化け物―――ドラゴンが姿を晒す。

 

「―――さっきの、黒尽くめの奴の正体だというのか」

 

「今まで感じたことがないぐらい禍々しい力を感じさせてくれるな」

 

戦慄、畏怖の念を感じながらも百代とエスデスは―――目を爛々と一匹の化け物との戦いが

できるという事実に戦闘凶が歓喜極まった。

 

『・・・・・』

 

武術を嗜んでいる風体で、体勢を低くし拳を構え出すドラゴン。それには百代はさらに笑みを深めた。

 

「嬉しい、嬉しいぞ私は!最っ高に楽しくなりそうだぞ!」

 

「倒し甲斐が、狩り甲斐があるのはまず絶対に確実だな」

 

エスデスもまた氷の剣を作り出して構えた。

 

「言っておくが、譲る気は無い」

 

「それはこっちの台詞だ。だったら―――」

 

「「どっちが早く倒すか。それでいこうか!」」

 

百代とエスデスが肉薄する。ドラゴンはその巨体に似合わず体勢を低くした状態で

地を蹴って二人に向かって飛び出す。

 

「―――顕現の三・毘沙門天!」

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

コンマクラスの速さが空から降って来た、気で具現化した人の足によって二人と

一匹は避けることもできずに押し潰された。

 

「まったく、なにをはしゃいでおるのじゃお主らは」

 

「ジ、ジジイ・・・・・っ!」

 

起き上がり、百代が怒りで身体を震わしながらグラウンドに現れ溜息を吐く

白い袴を身に包む老人に食って掛かった。

 

「生徒と孫娘まで一緒に奥義を食らわすんじゃない!」

 

「両成敗じゃバカ者。それに手加減はしたからお主はチートな回復技、

瞬間回復をしない程度のダメージで済んだじゃろうが」

 

「エスデスは気絶してるだろう!明らかに生徒への暴力故意だろうが!」

 

「修行や鍛練が足りん。それだけのことじゃ」

 

この暴力変態ジジイ!と百代から罵倒を浴びされても老人は気にせず、

今起き上がったドラゴンに対峙した。

 

「さて、先ほどは手加減したが今度は本気でやるぞぃ。ワシが相手になる」

 

『・・・・・』

 

老人の言葉にドラゴンはしばらくその場で佇んだ。するとドラゴンは口を開いた。

 

『久し振りだな。お爺ちゃん』

 

「・・・・・なんじゃと?」

 

ドラゴンが人語を発した。それだけでも驚きなのに自分のことを親しみが含んだ

呼び方で声を掛けられた。

 

『今のは軽くと言われてもな。地味に俺も効いたぞ。どんだけ強いんだお爺ちゃんは?』

 

「・・・・・お主、誰なのじゃ?」

 

『やっぱ、この姿じゃ気付かないか』

 

頬らしき部分に鋭い爪で引っ掻くドラゴンが禍々しいオーラに包まれだした。

その中でなにが起きているのか分からなず百代と老人は見守る姿勢になる。

そして―――禍々しいオーラが人の手で薙ぎ払われ中にいたドラゴンが姿を現す。

 

「お主は・・・・・!」

 

「お前・・・・・!」

 

燃えるような真紅の長髪。獣のような垂直のスリット状の金色の瞳。

身長は百代と同じぐらいある少年が朗らかに笑みを浮かべた。

 

「久し振り、お爺ちゃんと百代」

 

「・・・・・一誠・・・・・!お前、一誠だったのか・・・・・!」

 

「おおとも、強くなったなー百代。エスデスも強くなっていたし嬉しい限りだ。

お爺ちゃんが介入してくるとは予想外だったけど」

 

「阿呆、化け物が学校に現れるなどワシが対処する他なかろうが」

 

「しょうがないじゃん。びっくりさせたかっただもん」

 

悪戯小僧のように笑みを浮かべる一誠に百代が抱き付いた。

 

「まだネックレスを付けているのか?」

 

「勿論だ。そしてお前が私の前に来ることをずっと心待ちしていたぞ」

 

「そっか、それは―――」

 

一誠は何かを言おうとしたがそれは―――エスデスの唇に塞がれ、遮られて言うことはできなかった。

百代がその光景に体を硬直させ、しばらくしたら一誠から顔を離すエスデス。

 

「一誠・・・・・ようやく私の元に来たのだな。さぁ、私と結ばれよう」

 

「へ?エスデス?いや、俺は―――」

 

「待て待てエスデス!一誠だけは譲らんぞ!と言うか私の目の前でまた抜け駆けしてくれたな!」

 

瞳を潤わせるエスデスから一誠を奪い、上書きとばかり濃厚な口づけを一誠の唇に

押し付ける百代だった。

 

「こいつは最初から私が狙っていたんだ。だからお前はダメだからな」

 

我が物顔でこいつは私の者だと強く一誠を胸に抱き寄せて示す百代に対し、

絶対零度のオーラを迸り百代を敵意と殺意が籠った目で睨むエスデス。

 

「そいつは聞き捨てならないな。お前とは色々と気が合うから仲良くしていたが、

一誠のことに関してだけは許せない、認めないぞ」

 

「だったらどうする?」

 

「それこそ愚問だな。私たちの様な者がすることはハッキリしているはずだろう」

 

周囲に氷の槍を展開したエスデスに対し、百代は闘気を迸った。

 

「そうだな。だったらこの場で決着をつけるか?」

 

「異論は無いぞ?」

 

敵意を剥き出しに対峙する二人に―――。第三者の手によって未だに

一誠を胸に抱き寄せている百代から奪取された。

 

「一誠くん、一緒にお昼寝しよー」

 

「ちょっ、辰子ー!?」

 

「僕も一緒に寝るー!」

 

「一誠の隣は誰にも渡さない!」

 

とても見覚えのある少女たちが一誠をどこかへ連れて行ったのであった。

その様子を見た百代とエスデスは―――。

 

―――一誠を奪い返し、私が隣で寝る!

 

その想いが二人を突き動かして一誠たちの後を追ったのだった。

 

―――○●○―――

 

「一誠、お前はこの学校に用があったのか?」

 

あの後こっぴどく叱られた面々は屋上で再び集った。右に百代、左にエスデス背中には

白い長髪に赤い瞳の少女、両足に頭を乗せている紫の髪の少女の他にも青い髪の少女は

幸せそうな寝顔で寝息を立てていた。

 

「学校と言うより百代とエスデスに会いに来たんだ」

 

「そ、そうなのか・・・・・じゃあ、何であの恰好を?」

 

「あの恰好だと姿を消せれるから百代とエスデスを探すのに丁度良かったんだ。

でも、二人とも屋上にいたから好都合だったからいいものの。ちょっと久し振りに見た

二人を懐かしんでいたらいきなり攻撃をしかけられたし」

 

「「うっ・・・・・」」

 

「まぁ、あれから数年経っているからどれだけ強くなったのか試しに俺も攻撃をすることにした」

 

百代とエスデスの行為に避難するわけでもなく、寧ろ手間が省けたような言い方で

朗らかに笑みを浮かべた。

 

「しかも、京と小雪、辰子までも会えるとは嬉しい誤算だったな。皆、綺麗に成長したよ」

 

「一誠も格好良くなったねー♪」

 

「一誠、私と結婚して?」

 

「ZZZ・・・・・一誠くんの温もりは良いよぉ・・・・・」

 

三者三様の様々な反応をする少女たち。一誠は久しく再会した少女たちと

静かに過ごしたい気持ちもあったがそうも言ってられない。

 

「百代とエスデス。二人に頼みたいことがある」

 

「なんだ?勝負事なら喜んで引き受けるぞ」

 

「ん、まさにその通りだ。二人にとって満足のできる戦いじゃないだろうけど

今ちょっとした事情で仲間を十六人まで集めているんだ。その内の一人として

仲間になってもらいたい」

 

と、一誠の誘いに百代とエスデスは笑みを浮かべて快く引き受けた。

 

「私たちは義姉弟なんだぞ?弟の言うことを姉は聞くものだ」

 

「そうだぞー?ま、その見返りに色々とお願いするがな?」

 

不敵に述べる姉の二人を「俺は兄じゃないのか」と不貞腐れた。

そんな一誠にエスデスが指摘した。

 

「お前は前世でも来世でも弟ポジションだ」

 

「来世も!?来世ぐらいは兄の立場が良い!」

 

「いーや、私が許さないぞ。こんな強くて可愛い上に格好良い弟は滅多にいないからな」

 

早速一誠を弄り始める。何時しか、京、小雪も話に加わり和やかな雰囲気に包まれた最中、

屋上に騒々しく現れた面々が声を掛けてきた。

 

「フハハハハッ!久し振りであるな一誠よ!」

 

「よーう兵藤、久し振りじゃねぇか!」

 

「本当だね。元気にしてた?」

 

「ヤッホー兵藤、お久しぶりじゃない!」

 

「風間ファミリーがやって来たぜぇー!」

 

「よう、元気そうでなによりだな」

 

複数の男女たちだった。一人一人一誠と面識がある。

 

「お前らか。お前らも成長したな」

 

「お前には驚かされたぞ。まさか、武神と氷帝と戦ってい化け物がお前だったなんてな。

お前、人間じゃなかったんだな」

 

「そのことについてはノーコメントだ」

 

「や、あんなの見てノーコメントは意味ないでしょう」

 

「師岡はツッコミ役なんだな」

 

と、苦笑を浮かべた一誠。それから一人見知らぬ金髪に青い瞳の少女と目が合った。

 

「新しい友達か?」

 

「ああ、クリスティアーネ・フリードリヒってんだ」

 

「そうか、俺は兵藤一誠だ。よろしく」

 

軽く挨拶を済ませた一誠にポニテールの少女が問いかける。

 

「それで兵藤はどうしてこの学校に来たの?それにその格好、どこかの学校の制服でしょ?」

 

「百代とエスデスに用があってな。もう済んだところだ」

 

「用って何?」

 

「うん、悪魔と試合することだ」

 

あっけらかんに言った一誠に対し、あっけらかんと一誠を見詰める面々。

 

「あ、悪魔って・・・・・あの?」

 

「人とは違う種族。人の欲望を叶えその対価を得る悪魔―――だと言いたいんだろう?

あながち間違っていない」

 

「ちょっ!そんな危険な奴とモモ先輩が戦って大丈夫なのかよ!?」

 

鍛え上げられた肉体を持つ男子が心配するが一誠は問題ないと首を縦に振った。

 

「大丈夫だ。百代みたいな強い奴だったら戦える。その資格もある」

 

「なら私もそうなのだな?」

 

エスデスからの質問にも一誠は頷く。

 

神器(セイクリッド・ギア)を所有しているからな。問題なく戦える」

 

「ふっ、ならば全てを凍らせてくれよう」

 

と、エスデスが漏らすとポニテールの女子が手を挙げた。

 

「はい!私も戦ってみたいわ!」

 

「んじゃ、俺さまも戦ってみようかなー」

 

「俺も俺も!」

 

「どんな戦いになるか分からないけど、作戦を考えるぐらいなら俺も参加できるか」

 

「我も悪魔とやらを見てみたいな!」

 

何故か参加する気満々の男女たち。一誠は苦笑を浮かべ、

 

「相手、女しかいないんだけどそれでもか?」

 

と説明すれば案の定、目をパチクリした面々だった。

 

「・・・・・マジで女しかいないの?」

 

「一人だけ男がいるけどな」

 

「ハーレムかよ!なんだよそいつはよぉっ!」

 

「・・・・・島津は何で血の涙を流すんだよ」

 

「ガクトは女の子にモテたいんだよ」

 

そう言われて呆れ顔で溜息を吐いた。

 

「岡本―――」

 

「あ、アタシは今、川神一子よ?川神院の養子となったの」

 

「ん?そうだったのか。んじゃ、一子と呼ばせてもらうな。

―――一子以外全員仲間にする気は無いんで」

 

と、否定の言葉をハッキリ言った。それには赤いバンダナを巻いた男子が不満そうに漏らす。

 

「いいじゃん。俺たちにも参加させてくれよ」

 

「ゲーム感覚で参加する気ならこっちからお断りだ。それに相手は悪魔だ。―――力のない奴は

負ける運命から抗うことはできないんだよ。特に直江、お前は考えるだけなら

仲間に加えるつもりは無いぞ。ハッキリ言って邪魔になるだけだ」

 

「・・・・・相手の攻撃をかわすことぐらいなら」

 

それでも一誠は首を横に振った。

 

「これはただの戦いじゃないんだ。俺の友達の人生が懸っている。

最低でも一子ぐらいの実力ならギリギリ認める」

 

「ならば一誠よ。我が姉ならば参加を認めてくれるのだな?」

 

「揚羽か・・・・・今どうしている?」

 

「世界中に飛び回って仕事をしておる。姉上の実力は武神も認めるほどだぞ?」

 

額に☓印の額がある銀髪に金の衣装を身に包む男子が腕を組みながら告げた。

百代へそうなのかと視線で訴えれば百代は肯定する。

 

「そうか。試合は六日後だけど休めれるか?」

 

「姉上や父上に事情を説明すればなんとかなるかもしれん」

 

「それじゃよろしくな」

 

五人目の仲間を得た一誠の後ろから声が掛かる。

 

「ねーねー。僕も参加していい?」

 

「小雪?いや、お前は・・・・・」

 

「僕も戦えるよー?不思議な力だってあるし」

 

小雪が一誠から離れると目の前で空気中の水分を凍らせて見せた。

エスデスはそんな小雪に近寄って頭を撫でた。

 

「私と同じ力を持っているんだ。問題あるまい?」

 

「それに寝ている辰子も本気になれば結構強いぞー?」

 

「・・・・・マジでか」

 

知らない間に色々な意味で成長していた友人達。結果、七人目となった。

 

「因みによ。その試合って観戦できるわけ?」

 

「それについては俺も分からない。ま、聞いてみるよ」

 

一誠は時が来たら迎えに来ると言い残し川神学園の屋上から姿を消したのだった。



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エピソード12

七人の仲間を得た一誠はその後、

 

「え、僕も?うん、勿論良いよ」

 

「あのフェニックス家と戦う機会を得て感謝します」

 

「私もか?ま、まぁ・・・・・参加してやらんことでもないぞ」

 

一誠と戦った和樹たち三人も加えた。

 

「私の情報収集も試合に必要?まぁ、私の神器(セイクリッド・ギア)ならあなたの役に立つわね」

 

「一誠くん、私の力をあなたに・・・・・」

 

「私も参戦するわー!」

 

「相手はフェニックス家だってな。デュランダルを振るうに値する剣士はいるかもしれない」

 

「ボ、ボクもですか?」

 

教会組の五人のうち四人をも仲間に加え正規人数をフルに揃えたのだった。

そのことを知らない自分の名を挙げようとする悪魔や堕天使、中には兵藤家と式森家も

参加すると名乗ったが。

 

「いらない。もうメンバーはフルに揃えたからな」

 

と、説明しても言うことを効かない者たちに対しては。物理的に排除したのだった。

そして試合開始の前日。メンバーを(揚羽以外)、兵藤邸に呼び寄せた。

 

「お前、こんな豪華な家に住んでいたのか」

 

「元々マンションだったんだけどね」

 

「それがどうしてなかなか・・・・・マンションから一転してこの家になるのだ?」

 

「魔法って便利だよな」

 

作戦会議を行う為、広い場所へ引き連れ、リビングキッチンに案内した。

数多の椅子が置かれている前に横長のテーブルや丸いテーブルなどあり、

向かい合わせることができる丸いテーブルへとメンバーを座らせた。

因みに一誠の隣はナヴィと水面下で勝ち取ったルーラーが座る。

 

「さてと、集まってもらったのは事前に俺も含めて明日行う戦いのことに関する話をする為だ」

 

「って、一誠も知らなかったのかよ」

 

「悪いな。だからこそ彼女に説明してもらう。ナヴィ」

 

「はいはい」

 

始めて彼女を見る面々にとっては興味深そうにナヴィを見詰める。

 

「その前に自己紹介ね。私はナヴィ。人間とガーゴイルっていう悪魔のハーフよ」

 

「ハーフ?悪魔とは人間と子供を作ることがあるのだな」

 

「あら、別に珍しいことじゃないわよ?ま、説明するから話をよーく聞いてね」

 

ナヴィが説明口調で語り始める。

 

「さて、明日行う試合。名前はレーティングゲームって言ってね。

数が減った悪魔たちが戦力を増強しようと、悪魔という種を絶やさない為にも

アジュカ・アスタロトって言う悪魔が基礎理論・構築したチェスを模した

リアルゲームだと思って。知っている人もいるでしょうけどね」

 

それからナヴィは言い続ける。

 

「チェスを模したゲームは『兵士(ポーン)』八つ、『戦車(ルーク)』二つ、『騎士(ナイト)』二つ、

僧侶(ビショップ)』二つ、『女王(クイーン)』一つ、『(キング)』一つと駒の代わりにヒトが戦うの」

 

「なるほど、試合って言うのもあながち納得するな」

 

「そうね。本来レーティングゲームは上級悪魔となった悪魔が(キング)を除いた十五の駒を

使って様々な種族に交渉して眷属悪魔となって貰うわけよ。

特に神器(セイクリッド・ギア)を所有している人間と人間の血を宿す種族を眷属にすることがブームなの」

 

「では、私も誘われる可能性があるのだな。悪魔になる気は無いがな」

 

エスデスが口元を緩ませて否定した。

 

「じゃ、一誠の眷属になれと言われたら?」

 

「違うな。私の眷属になって貰う。ふふふ、たっぷり可愛がってやるぞ」

 

得物を狙う鷹の目の如く一誠を見詰めるエスデスにブルリと震えた一誠がナヴィに話を続けさせた。

 

「いざゲームが始まると勝敗が決まるまで特殊な空間で戦うフィールドから出れないわ。

そして『兵士(ポーン)』にはちょっとしたシステムがあってね。

相手本陣に『兵士(ポーン)』が侵入を果たすと『(キング)』以外の駒に、

自分に合った駒になれるの。高い攻撃と防御の特性を持つ『戦車(ルーク)』、

機動性が飛躍的に上昇する『騎士(ナイト)』、この三つの駒の特性を兼ね備える『女王(クイーン)』にね」

 

「へぇ、レーティングゲームって凄いのね。

じゃあ、『兵士(ポーン)』の八人が全員『女王(クイーン)』になっちゃえば圧倒的に有利じゃない?」

 

「ええ、それは当然よ。だけどそれは相手も熟知しているしそうはさせまいと

女王(クイーン)』にプロモーションされる前の『兵士(ポーン)』を潰しに掛かるわ。

でも一誠が悪魔じゃないから私たちはその駒の特性の恩恵を得ることができないから

今の実力で戦わないといけないかもしれないわ」

 

「上等よ!川神魂で根性を見せつけてやるわ!」

 

一子がやる気満々と拳を握った。それを微笑ましく周りから視線を向けられている

最中、龍牙が質問した。

 

「相手の情報とか分かりますか?」

 

「ええ、『(キング)』であるライザー・フェニックスのプロフィールもね。

うふふっ、ライザー・フェニックスの好きな食べ物はハンバーグだなんて子供ね」

 

ナヴィが面白そうに笑い声を発する。一体どうやって調べたのか気になるほどで。

不意にナヴィは何かを思い出したかのような言動をする。

 

「ああ、勿論この場にいる全員の詳細も私の手中にあるからね」

 

『んなっ!?』

 

「物理的な攻撃力は無いに等しいけど、情報と言う武器に関してはガーゴイルの

右に出る者はいないわよ?例えば川神百代の好きな飲み物はピーチジュース。

いま夢中になっているのは同性との遊びと挑戦者との戦いとかね」

 

「・・・・・知らない間に調べられていただなんてな」

 

「あと、久し振りに再会した一誠から数日間。一誠の名前を呟く回数が十回以上とかもね」

 

「完全にプライバシーの侵害だぞ!?」

 

鼻の真ん中から一気に耳の端まで真っ赤になった百代がナヴィに食って掛かる。

当のナヴィは涼しい顔で面々の顔を見渡す。

 

「と、細かいところまで今現在も調べているから―――一誠以外、私に逆らわないように

してちょうだいね?」

 

『・・・・・』

 

もしかすると、ある意味ナヴィはこの中で一番最強じゃ・・・・・と思わずには

いられなかった一誠だった。

 

「因みに式森和樹に好意を抱いている女の子がいるけど知りたい?」

 

「え・・・・・マジで?」

 

「ええ、その逆も私は知っているけどねぇー?」

 

ふふふっ・・・・・と悪い笑みを浮かべて和樹の反応を楽しむ悪魔だった。

 

「ま、大体の説明はこの辺でいいでしょう。相手の眷属の情報は別にいらないかもねこの面子だと」

 

「え、どうしてですか?」

 

不思議とその気持ちを醸し出すルーラーにナヴィの代わりとして一誠が答えた。

 

「明日になれば多分分かるぞ」

 

「ふーん、そっか。ならいいや」

 

と、今日は解散と一誠の言葉で明日に備え各自、それぞれの家に戻ったのだった。

 

 

 

そして、決闘の当日―――。国立バーベナ駒王学園の放課後は決闘を見たいが為に

わざわざ残っている生徒が教室に多く存在し、部活も中止するところもあった。

 

「あなた、こんな時にでも分身を?」

 

「俺がいない間。兵藤の奴らがなにを仕出かすか分かったもんじゃないからよ」

 

「・・・・・私を守る為?」

 

「それも含まれているな」

 

「イッセー、頑張る」

 

「おう、オリジナルも聞こえていると思うぞオーフィス」

 

さて、ライザー・フェニックスとフェニックス眷属と戦う一誠たちは

リアスたちの部室に集結していた。そこには黒歌やヴァーリもいた。

 

「一誠・・・・・どうして私を誘ってくれなった?」

 

「いや、アルビオンの力はオーフィスの次に強いから勝負にならないって。黒歌もその理由で」

 

「・・・・・イリナがとても羨ましいぞ」

 

「大丈夫!ヴァーリの分までイッセーくんを守るから!」

 

「その役目は私だけで結構です」

 

「リアスがライザーと結婚したら必然的に白音もあのライザーのものになっちゃう。

だからご主人様、白音も守ると思って戦ってにゃん」

 

「分かってるよ黒歌。俺たちの戦いを見て応援してくれ」

 

「にゃん!」

 

と勝負前に和気藹々と話し合っている一誠だった。

 

「全員、ただ者じゃなさそうね。よくとまぁこれだけの面子を集めたわイッセーは」

 

「あらあら、しかも殆どが女の子。リアス、嫉妬しちゃってる?」

 

「・・・・・ちょっとだけよ」

 

不貞腐れているリアスに視界が入り、一誠はスッとリアスの頭に触れた。

 

「お前の人生は俺が守ってやるからなリアス」

 

「っ、イッセー・・・・・・」

 

「俺が勝ったら昔みたいに遊ぼうな」

 

笑みを浮かべた一誠の温かい言葉を聞いてリアスは胸の奥から何かが湧き上がるのを

感じたが我慢した。勝つことを信じ、勝ったらこの湧き上がるものを

一誠にぶつけようと決めたから―――。この場に複数の魔方陣が出現した。

全員の視線がその魔法陣に注がれる中、中年の男とメイドが現れた。

 

「よう一誠。また会ったな」

 

「アザゼルのおじさん。それに神王のおじさんと魔王のおじさん」

 

「今回の決闘は俺たちも見物させてもらうぜ?」

 

「私たちだけじゃないよ?冥界や天界、この人間界もこの決闘をお茶の間に放送されるからね」

 

そこまで注目されるほどの事かと全員は驚嘆する。

 

「ま、俺たちは俺たちで気にせず戦うだけだな」

 

「おう!その意気だぜ坊主。しっかりフェニックスの坊主を倒してこいや!」

 

ユーストマに背中を強く叩かれ苦笑いをする一誠。

 

「一誠ちゃん、フェニックスは不死身だが不死身ではないからね。そこを理解すれば必ず倒せるよ」

 

「アドバイスありがとう魔王のおじさん」

 

フォーベシイに話しかける一誠の耳が疑う言葉を発せられる。

 

「んまっ、お前には神滅具(ロンギヌス)を持っているし問題は無いだろう」

 

「え?神滅具(ロンギヌス)って俺、所有していないぞ?」

 

「いんや、持っているぜ?何せ認定したからなヤハウェさまがよ。

お前の中にいるゾラードとメリアの力をさ。

この世に存在する十五種だった神滅具(ロンギヌス)が十七種になった。だから誇って良いぜ」

 

ニカッと豪快に笑みを浮かべたユーストマやウンウンと頷くフォーベシイ。

 

「・・・・・ありがとう」

 

『はうっ』

 

数人の少女たちが照れてほんのりと朱を染める一誠にノックアウトした時だった。

一つの魔方陣が部室に現れ、何かを待っているように存在し続ける。

 

「どうやら時間のようだな。お前たちの初陣だ。勝っても負けても後悔だけはしてくるなよ」

 

「全力で戦っていきなさい。相手も全力で掛かってくるだろう」

 

「応援して見守っているからな!」

 

周囲からの声援を浴びつつ、バトルフィールドへと足を運ぶ一行。

 

「気を付けて・・・・・イッセー」

 

 



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エピソード13

『皆さま。このたびの「RG(レーティングゲーム)」の、「審判役(アービター)」を担う事になりました、グレモリー家の使用人シルヴィアでございます』

 

校内放送、一誠たちの耳に知らない女性の声が聞こえてくる。

 

『さっそくですが、今回のバトルフィールドは人間界の学び舎「国立バーベナ駒王学園」のレプリカを異空間にご用意いたしました』

 

アナウンスを聞き一誠たちは周囲に目を配った。似て非なる世界。窓を開けると空は緑のオーラみたいなものが面々の視界に映り込んだ。

 

『両陣営、転移された先が「本陣」でございます。今回のゲームをすることになった兵藤一誠さまの本陣が旧校舎のオカルト研究部。ライザーさまの「本陣」は新校舎の生徒会室。「『兵士(ポーン)』」の方は「プロモーション」をする際、相手の本陣の周囲まで赴いてください』

 

「私たちには関係ないけどね」

 

肩を竦めるナヴィ。悪魔とその眷属悪魔ではない限りプロモーションなどできない故に実力はそのままである。

一誠のチームの殆どは人間。悪魔が人間に敵うわけがないと思う観戦客もいるだろう。だがしかし、一誠が声を掛けたメンバーは観戦客の思いを覆す者たちばかりだ。

 

『試合開始まで残り五分でございます。それまで準備を済ませてくださいませ』

 

「だ、そうだが・・・・・準備は必要か?」

 

一誠からの問いかけにメンバーの全員は首を振ったり必要とないと無言で語った。

 

「じゃ、始まった瞬間に全員は屋根の上にいてくれ」

 

「屋根?なにをするつもりだ一誠?」

 

「常識はずれなことをするだけだ」

 

金剛に意味深な視線を送り、金剛もまたコクリと頷く。

 

「どちらも同じ人数だ。ただしライザー・フェニックスの眷属悪魔に金髪の少女がいる。そいつだけは手を出すなよ」

 

「なんでまた?」

 

「本人如く、観戦するだけで戦う気は無いだってさ。こっちも戦わないナヴィがいるしお相子だろう?」

 

絶対にそいつだけは手を出すなと釘を刺されたメンバーと共にゲーム開始まで待つこと数分。

 

『ゲームを始めます。試合開始です』

 

と開始宣言のアナウンスが放送された―――。

 

 

 

 

新校舎の生徒会室にライザー・フェニックスと女王(クイーン)がいた。

 

「さて、あの小僧はどれだけの人数を集めたか見物だが、俺の手でぶちのめさないと気が済まない」

 

一誠に対する怒りと決意がライザーのやる気を滾らせる。既に眷属悪魔たちの殆どが旧校舎や相手が攻めてくるであろう場所へ赴き出迎える為に待機している頃。ライザーはしばらくして耳に聞こえる自身の眷属悪魔の報告の声に相槌を打って優雅に待った。

 

「さぁ・・・・・この俺、ライザー・フェニックスと知ってどう打ってくるかな?小僧―――」

 

『ラ、ライザーさまッ!』

 

「―――なんだ」

 

焦りの声が聞こえてくる。まだ開始して間もないのにだ。相手に対して怯えているんじゃないだろうなとライザーは返答した。

 

「どうした?」

 

『バ、バトルフィールドが物凄い勢いで―――キャアアアアアアアアアアアッ!』

 

甲高い悲鳴がライザーの耳に飛び込んで、思わず顔を顰めるライザーだった。

だが、それ以降の報告は途絶えなにがどうなっているのか分からず「女王(クイーン)」に

確かめさせると。

 

「これは・・・・・」

 

「なにかわかったか?」

 

「・・・・・水によって戦場が変わってしまっています」

 

「戦場が変わっただと?水で?」

 

何かの間違いではないかとライザーは高をくくって今度は自分自身の目で確認しようと

生徒会室から出ようと扉を開け放った瞬間。大量の水がライザーたちがいる部屋まで入ってきた。

 

「なんだこれは・・・・・外は一体どうなっている!?」

 

 

 

「と、思っているだろうなー。あっはっはっはっ!」

 

『・・・・・』

 

面々は唖然として眼下を見下ろしていた。学園をベースに作られたレプリカの戦場が、

まるで津波によって建物が水に沈んだ光景に一変していたのだった。

それをしたのが兵藤一誠なのだから驚きは隠せないだろう。

 

「これだけの水をたったの一つの魔法でここまで換えてしまうなんて・・・・・」

 

「ハルケギニアの錬金って面白いよな。実際にここまでやったのは俺も初めてだが

これで金剛も戦いやすくなっただろう」

 

「って、私たちは戦い辛いだろが」

 

「ん?それも問題ないよ。今から足場を作る」

 

金色の杖を前方に突き付けて能力を発動する。次の瞬間、水の中から数多の石の足場が

続々と顔を出したのだった。

 

「これで問題は無いだろう?」

 

「お前・・・・・どんだけ凄いんだよ?」

 

「できることを俺はしているだけだ。さて?本陣も沈んだから

これで相手はプロモーションができなくなった。どう打ってくるのか見物だな」

 

屋根から飛び降りた一誠に続き、他の面々も石の足場に跳び移った。

敵も味方も誰一人欠けていなく目の前に現れるまで待つこと数分後。

濡れ鼠みたく、服がびしょ濡れのライザーの眷属たちが近づいてくるのを発見した。

 

「んじゃ、戦いの始まりだ。自己責任で行動しろ。ただしライザーは俺がやる」

 

一誠の指示に従い、一誠を味方とする面々は動き始めた―――。まず最初にぶつかったのは百代とチャイナドレスを着ている少女だった。

 

「水に滴るカワイコちゃんだな。お姉さんがたっぷりと可愛がってやる」

 

「そんなの、お断りよ!」

 

手足に炎を纏わせた状態で攻撃を仕掛けてくる。それを楽しげにかわし続ける百代は声を掛ける。

 

「あはっ、流石は悪魔だ。人間じゃできそうにないことをやってくれそうだな」

 

「そんな悪魔にただの人間が挑むなんて正気の沙汰じゃないわね!」

 

「そう思うか?」

 

炎を纏った手ごと百代が掴んで見せた。その行動に相手は目を見張った。

 

「そう言えば名乗ってなかったな。私は川神百代だ。お前を倒す武神と称されている美少女だ」

 

名乗りながら百代は相手の拳に気で変換し氷を覆わせていく。凍っていく自分の拳に信じがたいものを見る目で焦りが含んだ言葉を発する。

 

「なにこの力は―――!?」

 

「川神流・雪達磨。相手を凍らせる流派の一つだ」

 

ドッ!

 

驚いている隙に相手の腹部に拳を突き刺した。

「がはっ!」と肺からすべての酸素を吐き掴まれたまま身体を震わせて膝から崩れる

その様子に百代は首を傾げた。

 

「おいおい、今のは軽くだぞ?悪魔は丈夫じゃないのか?」

 

「こ、これで軽くだなんて・・・・・舐めないで!」

 

回し蹴りを放った相手の態勢より低くし、かわした刹那の間に百代は

 

「川神流・人間爆弾」

 

「っ!?」

 

ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

百代を中心に大爆発が生じた。やがて黒煙が消える頃には百代が無傷で立っていて、

相手はひれ伏して光に包まれていた。

 

「・・・・・なんだ、もう終わりなのか?」

 

「こ、この・・・・・化け物・・・・・」

 

それだけ言い残し、相手はこの場から光となって消失した。

 

『ライザーさまの「戦車(ルーク)」一名、リタイア』

 

リタイア宣言がアナウンスによって告げられた。それを聞いて百代は嘆息した。

 

「悪魔も人間よりは強いみたいだが・・・・・私を楽しませてくれるのには

まだまだ実力は不十分だな」

 

一方、別の場所ではイリナが一人の剣士と戦っていた。

 

「久し振りだなあの時の聖剣使い!まさかまた相見えるとは思いもしなかったぞ!」

 

「それはこちらの台詞よ!今回は成敗できないけど倒すわよアーメン!」

 

「やってみろ!」

 

擬態の聖剣(エクスカリバー・ギミック)』を駆使して相手剣士と互角の戦いを繰り広げる。

鋭く伸びる刀身に対応する相手はイリナと戦ったことがあるのだろう。中々決着がつかず、

袈裟、上段、下段、突き、受け流す剣術を繰り返していると、

 

「一つ訊いて良いか」

 

「なにかしら?」

 

ガキン!と刃を交わした後に後退した時に相手から訊ねられた。

 

「この場に現れたということはあの兵藤家の者に声を掛けられたのだな?」

 

「そーよ。彼は私の幼馴染なんだから戦う理由はあるわ」

 

「ならば問おう。あの者は剣術の使い手でもあるか?もしもそうならば、どれだけの強さなのか教えて欲しいのだが」

 

純粋な気持ちで訊ねられたイリナは自信に満ちた表情で言い切った。

 

「少なくとも私よりは強いわよ」

 

「ふっ、そうか。ならば―――!」

 

と、剣を上段の構えで飛び掛かってきた。

 

「お前を倒した後にあの男と剣を交えよう!」

 

「そんなこと私が許すもんですか!」

 

再び剣を交えた二人だった。他の場所では―――。

 

「ファイアボール!」

 

「その程度の技が効くと思っているのかしら?」

 

踊子のような衣装の出で立ちの少女が軽く避けて見せた。カリンは焦らず冷静に戦いを挑む。

武器らしいものは無く、相手は肉弾戦で戦うタイプのようだった。他にメイド服を着ている相手もいたが、

 

「はい、また会う時は強くなってくださいね」

 

「て、手も足も出ないなんて・・・・・!」

 

「バイバーイ」

 

「く、悔しい・・・・・っ!」

 

龍牙と小雪によって倒されていた。

 

「だったら、避けられない魔法を放つまで」

 

肉薄してくる相手を意識しながらレイピアを頭上に。

そして周りの水がカリンに従うようにうねり始め。

 

「沈め!」

 

膨大な量の水が渦潮の如く迫り、とてつもない攻撃の光景に足が竦み、

体が硬直して避けることすら頭から無くなってしまい、そのまま飲みこまれてしまった。

 

『ライザーさまの「兵士(ポーン)」三名、リタイアです』

 

「よし、勝ったぞ!」

 

カリンが勝ち鬨をあげている時と同じくして、水上を走っている金剛が着物を着ている

相手に集中砲火を食らわせ倒していた。

 

『ライザーさまの「僧侶(ビショップ)」一名、リタイアです』

 

また一人、ライザー・フェニックスの眷属が破れた。そのアナウンスが放送された直後。

 

「私の前に存在するものは全て氷る」

 

エスデスが一人の「兵士(ポーン)」と戦っていたが、エスデスの躊躇のない攻撃の前では歯牙にも掛けれず仮死状態で氷に閉じ込められていたのだった。

 

「悪魔でもやはり氷るか。・・・・・一誠はどうなのだろうな」

 

周囲に目を配るエスデス。上空から爆発の音が聞こえ、視線を上に向けると

和樹と「女王(クイーン)」が魔法合戦をしていた。

 

「式森と戦う時が来るなんてね・・・・・」

 

「どなたか知りませんが、爆発が主な攻撃みたいだね。まるでクラスメートの姉みたいだ」

 

「あら、それはどういう意味なのかしら?」

 

「うーん、爆弾魔?まぁ、あなたの方が優秀だと思いますよ。

ただし、可愛さならあなたは劣りますが」

 

その一言に相手の口元が引くついた。

 

「どうやらちょっとお仕置きが必要のようね」

 

「ごめんなさい。僕、嘘つくのが苦手で・・・・・・化粧も濃いですよ?」

 

「―――――吹き飛べ!」

 

「それはあなたがですよ?」

 

女王(クイーン)」の周囲に突然と現れた幾重の魔方陣が囲むように出現し、和樹に

放たれるはずだった攻撃が魔方陣の中で発動してしまい、自滅の形で食らった。

 

「はい、さようなら」

 

指をパチンと弾いた瞬間。上空に現れた巨大な魔方陣が雷を放って「女王(クイーン)」を貫いた。

悲鳴を上げる間も無く、バトルフィールドから光となって姿を消した。

 

『ライザーさまの「女王(クイーン)」リタイアです』

 

「まだまだ魔法と魔力がなってないね。修行して出直してきなよ」

 

そう漏らした和樹は上から戦況を確認する。

 

「こいつ、私の拳が効いていないのか・・・・・?」

 

「んー・・・・・ZZZ」

 

顔の半分が仮面で覆われているメッシュが入っている女性と立ったまま寝ている辰子に

殴る、蹴る、体勢を崩すなど、繰り返して攻撃しているが辰子にダメージらしい

ダメージは無い。一方的に無防備な相手に攻撃をするなど些か忍びないと思う女性なのだが、

いくらなんでも戦場に寝るなど信じられないのだ。

 

「あー、やっぱりこうなったか」

 

そこへ、様子を見に来たという風に現れた一誠。女性は事情を知っているだろう一誠に問い詰めた。

 

「お前、こいつは一体何なんだ」

 

「寝ることが家族の次に好きな俺の友達です」

 

「そんな者が戦えるわけがない。どうして戦わせる」

 

「こいつの姉が本気を出せば強いというから参加させたんだ。実際に俺も半信半疑だ」

 

そう言いつつ一誠は地面に倒れて寝ている辰子に一言。

 

「こう言えばいいって本当かな・・・・・辰子、俺の為に本気を出せ!」

 

と、叫んだ一誠に女性は伺っていた時―――。辰子の目が大きく見開き、

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

今まで感じなかった巨大な闘気、獣のような咆哮を発し、起き上がった。

一誠と女性はそれには目を見張って信じられないと表情をした。

 

「なんだこいつ、さっきまでと雰囲気が全然・・・・・!」

 

「一誠くんの敵を倒す!」

 

動揺、驚愕する女性に肉薄する辰子。女性は気を取り直し、拳を構えて辰子に

鋭い正拳を突き出すと獣のような俊敏さでかわし、本能に従った戦いをしだす。

捕まえようと手を突き出す辰子から避け続け、隙あらば―――。

 

「はっ!」

 

足で辰子の腹部を貫く勢いで蹴りつけた。しかし、辰子はその攻撃を怯む素振りをせず

逆にその脚を片手で力強く掴み、叫びながら女性を振り上げて地面に何度も何度も叩き付けた。

 

「・・・・・亜巳、お前の妹はとんでもないな。俺ですら驚いたぞ」

 

様子を見守っていると辰子は叩きつけるのを止め、女性の身体に跨って蹂躙、暴虐、

怒涛の拳のラッシュを行ったのだった。そして他のところでは、

 

「ちょっ!小さな子供がチェンソーを振りまわしてくるってどういうことなのよぉっ!?」

 

「「バーラバラ♪バーラバラ♪」」

 

一子が双子の女の子と苦戦していた。連携はともかく、

持つ武器が一子の武器と相性が悪過ぎるのだ。柄で防ごうとすれば両断され、

武器としての機能が格段に陥るのだからけん制しつつ対処方法を脳裏で考える。

 

「川神一子。我も助太刀するぞ」

 

「揚羽さん!?」

 

今日の為に仕事を放棄し、一誠の仲間となった九鬼揚羽が威風堂々と歩み寄ってきた。

 

「これはチーム戦なのだろう?ならば一人で戦わず協力し合うべきだ」

 

「はい!」

 

これで2対2となり、一子も戦いやすくなった。

 

「素手で勝てると思ったら」

 

「大間違いだよ!」

 

双子が二人に迫る。揚羽にとって子供の攻撃は止まって見るぐらい遅く、チェンソーを

振り回される前に懐に飛び込んでは―――。

 

「全てが甘く温い、修行をして出直すがいい!」

 

爆裂的な正拳突きが双子の一人の腹部に突き刺さった。

胃液を肺の中に合った酸素諸共吐き、水中に叩きつけられた感じで殴り飛ばされた。

 

「メル!?」

 

「余所見は厳禁!川神流・風林火山!」

 

長刀による怒涛の攻撃をモロに食らったもう一人の双子が悲鳴を上げる最中、

光となってバトルフィールドから姿を消した。

 

「あ、悪魔って色んな子がいるのね・・・・・ガクトだったら絶対に攻撃できないわよ」

 

「我も悪魔を見るのは初めてであるが、外見は人間なのだな。まるでドラゴンの一誠のようだ」

 

そんなこんなで「兵士(ポーン)」は殆ど倒されていて、最後の「騎士(ナイト)」もルーラーも交じって激しい戦いの末に一閃。「戦車(ルーク)」もようやく倒した。

 

「一人だけ倒してはいけない子がいるし・・・・・そろそろ彼の出番かな?」

 

和樹の予想は当たっていた。ナヴィを辰子の傍にいさせ一人だけライザーの元へと向かっていたのだった。水に浸かる新校舎の屋根の上にライザーが一人佇んでいる。

 

「どうやらお前以外の眷属悪魔は殆どやられたらしいな」

 

「・・・・・小僧・・・・・っ」

 

「小僧じゃない、俺は兵藤一誠って名前があるんだ。覚えておけ」

 

いよいよ一誠はライザーを見上げる位置にまで近づいた。

不敵にライザーを見上げる一誠と険しい表情で一誠を見下ろすライザー。

 

「俺たちもやろうか。『(キング)』同士の戦いをさ」

 

「どこまでも俺をコケにしてくれるっ・・・・・いいだろう、覚悟しろよ!」

 

背中に炎の両翼を展開して宙に浮かんだ。

 

「火の鳥と不死鳥フェニックスと称された我が一族の業火の炎で貴様を燃やし尽くしてくれるっ!」

 

有り得ないほどの質量の炎を身に纏って滑空してくるライザー。

 

「―――右手に魔力、左手に気」

 

それぞれの手の平に魔力と気を具現化し、それを合わせ始めた。

 

「―――感卦法―――」

 

二つの力が融合し、一誠の全身は光るオーラに包まれた。そして―――

 

「お前のチンケな炎で俺が消えるわけがないだろうっ!」

 

その状態で、生身の身体で、素手でライザーに殴りかかった。



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エピソード14

ドゴンッ!

 

「ぐっほ・・・・・!?」

 

互いの頬を殴り合った結果。ライザーが殴り飛ばされた。業火の炎を纏った拳は一誠の

頬を掠っていただけで当たることは無かった。

 

「こ、この俺の顔に殴るなど・・・・・っ」

 

「文句があるなら俺を倒せ不死鳥」

 

「おのれっ!」

 

炎の両翼を羽ばたかせ滑空してくるライザー。その姿は火の鳥のごとく。

 

「俺が知っている朱雀さんより大して迫力がないや」

 

嘆息し、真っ正面から迫り来るライザーからかわし、追尾性がある魔力弾を放ち続けた。

 

「この俺にその程度の攻撃を通じると思っているのか?」

 

「思っていたらそれは愚かだろう?」

 

体が貫かれ、弾けても炎がライザーの体を再生する。

 

「無駄だ。俺は何度でも再生する!お前は攻撃する度に魔力が無くなり、

疲れきってしまう未来なんだからな!」

 

「・・・・・俺の未来をお前が勝手に決めつけるなよ?

一つ聞くが。リアスのことどう思っている」

 

「リアスのことだと?」

 

「あいつはお前との婚約は嫌がっていた。それはお前が嫌い以前に自分の人生を勝手に

決めつけられたことのほうが大きい。だから、お前はリアスとの婚約を受け入れている

つもりだろうがお前の本音はどうなんだと聞いている」

 

唐突の訪ねに攻撃の手を緩めて一誠を見据え出すライザーはこう答えた。

 

「俺は貴族として生まれたフェニックス家の純血の上級悪魔だ。純血を、家を、誇りを

蔑ろにすることは断じてできない。リアスほどの良い女を手に入れられるのならば

悪くない話だがな」

 

「・・・・・」

 

リアスに向ける感情を理解した。ライザーはライザーなりの考えで婚約の件を

受け入れているつもりのようだが。―――リアスに向ける愛の感情が、気持ちが伝わってこなかった。

 

「・・・・・もしもだ」

 

「なんだ」

 

「お前の妹がリアスの立場だったらお前はどうする」

 

「レイヴェルがリアスの立場だと?」

 

「兄として勝手に決めつけられた結婚を心底嫌がり、妹がお前に助けを求めたらお前はどうする?」

 

例え話にライザーは沈黙した。

 

「本当ならこのゲームはお前とリアスの婚約を懸けた戦いになっていた。

もしもそうなったらお前の勝ちだろうな。その時、リアスは永遠に近い生の中で

理不尽な人生を強いられ心から喜ぶと思っているのか?―――違うだろうがッ!」

 

一誠を中心に膨大な深紅のオーラが膨れ上がった。

 

「例え、悪魔の未来が懸かっていたとしても俺は無理矢理ヒトの意思を蔑ろにする

奴等を許さない。俺たちは生きているんだ!誰かのために生きるのも、

己のために生きるのも、世界のために生きるのも、

それは―――自分の意思があるから誰かに指図されずに生きることができるということを

どうして解ろうとしない・・・・・!」

 

「・・・・・ッ」

 

「ライザー・フェニックス!俺はお前からリアスを、リアスたちを守る!」

 

オーラが次第に固形化していく。一誠の全身に深紅の鎧が包まれていく。鮮やかな赤、

その鎧は頭に鋭利な角を生やして金色の相貌、体の各部分に金色の宝玉が埋め込まれている。

腰に長い尾みたいなものもあり、その姿はまるで―――。

 

「赤龍帝・・・・・だと・・・・・!?」

 

赤いドラゴンであった。驚愕で目を見張ったライザーの前から一誠の姿が消えた。

焦心に駆られて辺りを見渡すが、真紅の軌道を残して真上から降りてきた

一誠に殴られて石の足場に叩きつけられた。

 

「あれが・・・・・『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』ですか・・・・・」

 

「『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』ドライグを宿していただなんて・・・・・」

 

驚嘆の声を漏らす味方を余所に一誠はライザーを見下ろし続けた。

しばらくすれば一誠の前でフラフラと立ち上がるライザーが発した。

 

「お前が赤龍帝だとは予想外だった・・・・・。だがな!」

 

「・・・・・」

 

「この婚約は悪魔の未来のために必要で大事なものなんだぞ!

お前のような何も知らない小僧がどうこうするようなことじゃない!それをわかっているのか!」

 

強く非難するライザーだった。だが、一誠は鎧の中で目を細め、指をライザーに突き刺す。

 

「言ったはずだ。俺は理不尽な人生を強いられる友達を守ると。

お前がリアスを一人の女として心から愛していたら、リアスも違う反応をしていた

かもしれない。―――だがな!」

 

業火の炎を投げ放つライザー。その炎を真正面から突き抜け、

 

ドゴンッ!!!!!

 

「ごっ!?」

 

「お前は本当の人を愛する、愛される意味を全然知らない大バカ野郎だ!」

 

正確に捉えた正拳突きがライザーの腹部に抉り、

突き刺さって一拍遅れて凄まじい勢いで吹っ飛んで行く。

水面を何度もバウンドしながら留まる事を知らないその様子に一誠は顔だけ表に晒し

淡々と発した。

 

「もうケリをつけようライザー」

 

足元に魔方陣が出現し、そこから一つの鞘に収まっている剣が出てきてその剣を

抜き放ったら刀身は光る金色だった。剣を頭上に掲げた時、バトルフィールド中から

光の粒子が発生し、一誠の剣に集う。

 

「これは・・・・・この光は一体・・・・・」

 

「あの剣は・・・・・まさか・・・・・もしかして・・・・・」

 

光が剣に集い、刀身が巨大化していく。神々しい極光の剣。

バトルフィールド中に発生する光の粒子の中で

真っ直ぐライザーを見据える一誠。振るう態勢に足を構えた時、

金色の衝撃波が周りの水を迸らせ、

 

エクス(約束された)―――ッ!」

 

一誠は真っ直ぐ高らかに神々しく極光の剣を―――。

 

カリバ(勝利の剣)ァァァアアアアアアアアアアアッ!」

 

水面に叩きつけるように振り下ろした。膨大な光の斬撃波は水を掻き分けながら

ライザーに向かって進み、伸びていく。

 

「―――――っ!?」

 

目の前の迫る悪魔にとって脅威の光にライザーはとある言葉を漏らした。

 

「・・・・・綺麗だ」

 

聖なる光に魅了し、避けることすら忘れて一誠の攻撃に呑みこまれる。痛みは感じない。

それどころか、清々しい気分になるライザーは薄れる意識の中で穏やかな笑みを浮かべ、

バトルフィールドから光となって姿を消した。同時に直撃した光の斬撃波は奔流と化と

なりながらも天に伸び一誠たちを照らしたのであった―――。

 

―――○●○―――

 

(キング)であるライザーを打倒した一誠たちは勝利し現実世界に戻れば、

リアスたち抱きつかれながら労いの言葉を送られた。

 

「ありがとう、ありがとうイッセー・・・・・っ」

 

「一誠、私はますますあなたを惚れましたわ・・・・・!」

 

「お兄さま、凄く格好良かったです!」

 

「本当よ。もう私、あなたに夢中になっちゃったにゃん」

 

周りから称賛される最中、ユーストマが声を掛けてきた。

 

「坊主、強くなったじゃねぇか!だが、あの剣はなんなんだ?

―――エクスカリバーは戦争の際に折れたはずだ。どうしてもう一本ある?」

 

一誠はその疑問にこう答えた。

 

「湖の乙女って女性に会ってエクスカリバーの鞘を見せると剣を作ってくれたんだ。

それがこのエクスカリバーだ」

 

腰に差している剣の柄を触れながら発する一誠。

 

「・・・・・折れる前のオリジナルの聖剣をまた見れるとはな。

しかも以前よりパワーアップしているようだ。

前のエクスカリバーは坊主が持っているエクスカリバーの力ほど無かったからな」

 

「鞘だけじゃ格好付かないからね。父さんと母さんに頼んでもらった甲斐があったよ」

 

「あの幻の湖をよく探し当てたもんだぜお前の親はよ」

 

「それより驚いたのは一誠ちゃんが赤龍帝だってことだよ」

 

フォーベシイが朗らかにそう言うと一誠は首を傾げた。

 

「赤龍帝?いや、違うよ」

 

「なに?だがしかし、あの赤いドラゴンの鎧はまさしく赤龍帝の鎧ではないのかね?」

 

「あれは魔力で具現化した鎧だよ。オーフィスの魔力を持っている、グレートレッドの

肉体を持っている俺だからできる新たな力」

 

真紅の鎧を纏う一誠。その姿をマジマジとユーストマやフォーベシイ、

アザゼルが探るように見詰める。

 

「言われてみれば、確かに赤龍帝の鎧じゃないな。似ているが違う部分がある」

 

「宝玉と鎧の形状、そしてこの角がそうだな」

 

「グレートレッドを模しているんだね。なるほど、赤龍帝と勘違いしてしまうのも仕方がないね」

 

見間違いであると認められ、鎧を解く一誠に懇願の声が掛けられた。

 

「師匠!その新しいエクスカリバーで私に稽古してくれ!」

 

「あっ、それはずるいわよゼノヴィア!私だってお願いしたいもん!」

 

「私もです一誠くん」

 

「ボクもお願いしちゃっていいですかー?」

 

教会組の聖剣使いが挙手をする。

 

「・・・・・私も、お願いしようかな」

 

「うん?誰だっけ」

 

泣きぼくろがある金髪と青い瞳の少女の名を「イザイヤよ」とリアスが教えてくれた。

 

「・・・・・その聖剣を超えれば私の同志の無念が張らせれるからね」

 

「同志?無念・・・・・?」

 

「彼女は『聖剣計画』の生き残りなの。イッセーは知らないでしょうけどね」

 

リアスは若干声のトーンを落としたが、ここで爆弾発言が出た。

 

「いや、奇跡的に全員生きているぞ」

 

「・・・・・え?」

 

「神王のおじさん?」

 

「何時言おうか悩んでいたんだが今言うわ。嬢ちゃん、お前と同じく

あの計画の被験者としていたガキ共は教会の者として生きているぞ」

 

―――――っ。

 

イザイヤの表情が強張った。そんなことは有り得ないといった雰囲気を醸し出し、

ユーストマを見やる。

 

「嘘だ、だって私を逃がしてくれた皆は毒ガスで・・・・・!」

 

「―――奇跡の一日」

 

「っ!」

 

「その日、全世界で様々な奇跡が起きていたのを知っているな。

お前さんも奇跡的にグレモリーの嬢ちゃんと出会い、悪魔として生き長らえたと同じく

あの忌まわしき計画の被験者としていたガキ共も奇跡的に一人も死なないで

今もなお生きている。聞けば神の守護を受けたように光の膜に包まれ毒ガスから

守られた上に命からがら逃走し、奇跡に等しい確率でとあるエクソシストと出会って

保護された。これが全て事実であり現実だ穣ちゃん」

 

優しく諭すユーストマ。その話を、事実を告げられイザイヤは目を丸くしたまま静かに

涙で頬を濡らし、頭を垂らしだすと嗚咽を漏らした。

 

「そう、なんだ・・・・・よかった・・・・・本当に・・・・・よかった・・・・・!」

 

「イザイヤ・・・・・」

 

リアスが優しく胸に抱き寄せ頭を撫で始める。その様子を見ていると、

 

「奇跡の一日・・・・・か。ボクもその日、重い病が急に回復して元気になった日だったなぁー。

この世に神さまがいるんだと信じて教会に入った理由でもあるんだけどね」

 

「そうだったんだな。そうは見えなかったぞ」

 

「えへへ、ボクは元気が取り柄だからね」

 

あの奇跡の一日で救われた者は多いのだということであった。

その日の原因は一誠であるが気付いていない。一誠はイザイヤに話しかけた。

 

「イザイヤ、だったか?俺と勝負するか?この聖剣を超える為にさ」

 

「・・・・・いや、もういいよ・・・・・同士が生きていたなら私の復讐なんて

もう意味も無いに等しいんだからね」

 

「そっか」

 

「でも、手合わせは願うよ。一人の剣士としてキミと戦ってみたい」

 

真っ直ぐ視線を向けられ、一誠は口元を緩まして頷いた。

 

「いいぞ。リアスの眷属悪魔は―――って、そう言えば朱乃と白音は

リアスの眷属悪魔となっているのか?」

 

「今更そこなの?まぁ、頼みこんで眷属悪魔になってもらったのよ」

 

「私も成ってもよかったけど、リアスは既に僧侶(ビショップ)の駒の枠として眷属に

入れた子がいるみたいだからグレモリー眷属になれなかったにゃ」

 

「悪魔になる抵抗はありませんでしたよ?色々とお世話になって貰っていますし、

お兄さまの繋がりで部長と仲が良いですから」

 

「うふふっ。私もですわ♪」

 

話を聞き納得の面持ちで頷くと、一人の男子に目を向けた。

 

「今更だけど、あいつもリアスの?」

 

「ええ、成神一成。堕天使によって死に掛けていたところを兵士(ポーン)を全て使って蘇生、

悪魔に転生させたの」

 

「ふーん、潜在能力がある方なんだな。身体能力は一般人並みのようだけど」

 

視線を男子から逸らし、ユウキの腰に差している剣に意識を向けた。

 

「その剣、確か祝福の聖剣(エクスカリバー・ブレッシング)だったな。一度使ったことがある」

 

「え、そうなんだ?」

 

「ああ、ちょいっと貸してくれるか?」

 

ユウキから聖剣を受け取ったのを見てルーラーは口を開いた。

 

「あの時みたいにするのですか一誠くん?」

 

「初のレーティングゲームに勝ったからな。それにもう一度やってみたくもなった」

 

「あの・・・・・なにを?」

 

「うん、こうするんだよ」

 

金色の杖を具現化し、聖剣と交差させると神々しい光が迸り始めた。金色の杖の能力、

創造が一誠の思いを具現化にし、さらに聖剣の祝福の力が相乗効果を

発揮し―――『奇跡の一日』のようなことが再現された。

 

「こ、これって・・・・・!」

 

「『奇跡の一日』と同じだ。ということは・・・・・・」

 

「イッセーくんが原因だったって言うの!?」

 

ルーラーを除く教会組が未だに能力を発動している一誠に目を向けた。一誠は奇跡の力を

放っているわけではない。ただ皆が幸せであるようにと願いを籠めて能力を

発動しているに過ぎない。故に面々が光に包まれている。あの時のように―――。

 

「俺も聞いただけだったが実際に目にするとすげーな」

 

「悪魔である私たちが何の変化もない。一誠ちゃんの純粋な思いによって悪魔にダメージがないんだね」

 

「こいつは面白いものを見させてくれた。創造の力はこんな応用もできるんだな」

 

しばらくして一誠は能力を解いて聖剣をユウキに返した。

 

「ん、ありがとうな」

 

「・・・・・いえ、感謝するのはこっちですよ先輩」

 

「なんのことだ?」

 

「あの『奇跡の一日』は先輩が放った光で起きた。

ボクの病気も治してくれたあの日は―――先輩のおかげだったんです」

 

ユウキは熱い視線を一誠に向け始めた。その視線を向けられ一誠は頬をポリポリと掻く。

 

「俺が直接何もしていないんだけどな。ただ、皆が幸せになって欲しいという願いを

籠めてやったに過ぎない」

 

「うん、ボクはいま幸せだよ先輩」

 

―――尻尾があれば振っていたかもしれないと、ユウキの満面の笑みを見て一誠は思った。

 

「先輩、ボクのことユウキって呼んでくださいね」

 

「ん、分かったユウキ」

 

何気なく頭を触れて見た。サラサラとした艶のある黒い髪は撫で心地がよく、

撫でられる側も目を細めて手から伝わる体温に感じている。

 

「ん(ズイ)」

 

「・・・・・なにその頭は?」

 

「僕も撫でて欲しいなー」

 

羨ましがっていたようで自分もと小雪の乞いに断わる理由もなく雪のように白い髪を

撫でる一誠だった。後に一誠へ頭を突き出す面々が増えていくのは別の話だった。

 

 

ピピピッ、ピピピッ

 

 

「ン?」

 

金剛の携帯が鳴り始め、隅っこで応対すると―――目を大きく見張って、

別れの言葉を告げずにどこかへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ダダダダダッ!

 

―――廊下を走らないでくださいッ!

 

と、叱咤する声が金剛に掛けられるが金剛の耳に届かず、真っ直ぐ目的地に駆ける。

必死な顔ではやる気持ちが押さえつけれず、目的地に辿り着くと白い扉を勢いよく開け放った。

 

「先生ッ!」

 

「・・・・・金剛くん」

 

部屋の中に数人の看護師と医師がいて、三人の少女たちの容体を確認していた。

全身で息をし、中に入ると金堂の目に飛び込んできたのは―――。

 

「・・・・・金剛、姉さま」

 

「姉さま・・・・・」

 

「金剛姉さま・・・・・」

 

上半身を起こして目を開けていて自分の名前を久し振りに口にした三人の少女。

金剛は、込み上がる何かを抑えきれず、ダムが崩壊したように涙が溢れかえって頬を

汚すように濡らし、歓喜の涙を流して三人の妹たちに飛び付いたのだった。



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エピソード15

翌日。何事もなく、嫉妬で襲いかかってくる男たちから転移魔方陣で学校に一直線登校した。

壁の至るところに新聞が張られ、一誠とライザーのレーティングゲームのことについて

書かれていた。周りから意味深な視線を感じつつ自分の教室に侵入した

一誠たちに出迎えたのは―――。

 

「HEY!兵藤、グットモーニング!」

 

金剛からの熱い抱擁だった。全身で使い一誠に飛び付きコアラのように両手両足で

抱き締めたのだった。

 

「い、いきなりどうした・・・・・?」

 

「兵藤のおかげで、兵藤のおかげで奇跡が起こったんデース!

だから、だからそれが嬉しくて仕方がないノー!」

 

「むぐっ」

 

顔が金剛の上半身、特に制服の上からでは分からない金剛の意外にある

胸に押し付けられ呼吸ができなくなりつつあった。

 

「あの、金剛?一誠が苦しそうだから放してあげない?」

 

「OH?あっ、本当ネ」

 

ヴァレリーの助け船によって三途の川を眺めていた一誠が意識を取り戻した。

 

「し、死ぬかと思った・・・・・奇跡のおかげってどういうことだ?」

 

「私の大切な人たちが目を覚ましたんデス!それは兵藤が起こした奇跡で目覚めたんだヨ!」

 

目を細め、喜びを体で表現する金剛。

 

「・・・・・そうか。そういう人たちもいるんだな」

 

「一誠さまのお力で人々が救われている事実が実証されましたね」

 

「イッセーは優しい」

 

「ええ、優しい子は大好きよ」

 

咲夜、オーフィス、ヴァレリーを始めイリナたちも同意の声を漏らす。

 

「目が覚めたってことは病院にいるんだよな?」

 

「YES、そうデスヨ?」

 

「その大切な人たちの親は入院費を払えているのか?」

 

・・・・・。

 

「ダ、ダイジョウブデス」

 

目を泳がせてカタコトで返事をする金剛。苦労しているんだなと悟り声を掛けた。

 

「金剛、ちょっと手を」

 

「うん?」

 

受け取る姿勢の金剛の手の上に発現し能力を発動した金色の杖。光る杖からポロポロと

冷たくそれでいて硬い感触が金剛の手に落ちて何度も伝わる。

なにを持たされているのか不思議でいる金剛を余所に一誠は杖を消失させ視線を落とす先には、

金剛の手に様々な宝石の塊が収まっていた。

 

「コ、コレって・・・・・!」

 

「これで金に換えれば入院費を払えるだろう」

 

「い、いいんデスカ・・・・・?」

 

恐る恐る尋ねた金剛の問いに頷いた。

 

「昨日の一件のお礼、として受け取ってくれ」

 

朗らかに笑う一誠に瞳を潤わせ感謝の気持ちで一杯になった金剛だった。

ここまでしてくれるとは思いもせず、一誠に対する金剛の中での好感度はMAXゲージを突破した。

 

「だ・・・・・・」

 

「ん?だ?」

 

「大好きデース!」

 

せっかくもらった宝石を放り投げて再び一誠に抱きついた。

 

「兵藤、ううん、イッセー!あなたのハートを絶対に手に入れマース!」

 

「なっ、一誠くんは誰にも渡しません!」

 

「ここで新たなライバルが出現だなんて!主よ、これも私に対する試練なのですか!?」

 

ルーラーとイリナが激しく反応し、金剛と恋のバトルをする日はそう遠くなかった。

 

「兵藤、一緒に図書室へきて」

 

「あいよ。分身でいいか?この状況から離れそうにない」

 

「仕方がないわね」

 

休憩時間になるや否や、金剛が一誠に抱きつき、それに負けじとイリナやルーラーも

ひっ付いた為、身動きが取れない。図書室で一人だけにさせるのは危険だと

分かっているパチュリーは一誠の分身と一緒に目的地へ向かった。

本物の一誠は教室に残り、次の授業に備えようと準備をしていたところで来訪客が現る。

 

「失礼する」

 

『―――っ』

 

男が入ってきた。女子たちは警戒心を抱くものの相手が誰なのか分かっているようで、

敵意や睨むことはしないと一誠の真逆の事をする。一誠より身長が高く鍛え抜かれた

その身体は制服越しでも伺え、ガタイのいい紫の瞳の黒髪の男子が威風堂々と

教室にいる一誠の元へと真っ直ぐ歩んだ。

 

「兵藤一誠だな?俺は3-Sのサイラオーグ・バアルだ」

 

「はぁ・・・・・」

 

「お前の戦いぶりを見させてもらった。何時かお前と戦ってみたいものだ」

 

と口元を緩ませ好戦的な発言をするサイラオーグに若干当惑気味の一誠。学園に通って

見たことがない男子に朗らかに接せられてとあることを口にした。

 

「普通の態度でいられるんだな」

 

「それはどういうことだ?」

 

「そのままの意味だ。兵藤家を嫌っている奴は多いんだから先輩もそんなんじゃないか?

ってだけ」

 

「確かに俺と同じ学年のクラスにも兵藤はいるが―――関係ない。問題を起こす者は誰で

あろうと警告する。それでもなおも止めないのであれば俺の拳で粛清するだけだ」

 

「―――――」

 

ここまで真っ直ぐ言い切る男は、兵藤家に対して恐れない男を見たのは初めてであった。

和樹も龍牙もそうだろうが直接聞いたことがないから一誠の目の前にいるサイラオーグが

初めてである。

 

「兵藤家を敵に回してもいいのか?」

 

「ここは学生が通う学び舎だ。大人が介入するのは自分の子供に対することだけで一勢力が

戦争を起こす程でもなくても動くと思うか?兵藤家も問題は起こそうともそこまで

過保護とは思えんがな」

 

「・・・・・」

 

話を聞き、サイラオーグの強い光が宿る瞳を覗きこみ、一誠は―――。

 

「クッ」

 

口から零れたものは哄笑だった。

 

「ハッハッハッハッハッ!」

 

笑い始める一誠を周囲の反応は唖然だった。それでも一誠は身体を震わせて笑い続ける。

程なくして笑うのを止める一誠は立ち上がった。

 

「はー、笑ったよ先輩。うん、こうして対峙するだけでも先輩は強いってことぐらいは分かる。

先輩となら楽しくなりそうだ戦いが」

 

「体育の授業で戦えると良いな」

 

「その時は時間が許されるその間まで戦おうな」

 

「そうしよう。では、時間を取らせた。また会おう」

 

踵返してこの教室から去ったサイラオーグを見送り再び椅子に座った。

 

「一誠くん・・・・・?」

 

ルーラーが一誠を視界に色んな気持ちを胸に抱きながら訊ねた。一誠がルーラに顔を

向けて真摯に言った。

 

「あの男は強いよ。特に心がな。それになんとなく俺と似ているところがある」

 

「それってどの辺り?」

 

「まだ分からない。でも、きっと近いうちに分かるだろうさ」

 

綺麗に笑みを浮かべる一誠の顔を身惚れたのは必然的だった。

 

―――○●○―――

 

「リアス」

 

「あら、短い休憩の一時に声を掛けくれるなんてどうしたの?」

 

「彼は、兵藤一誠くんは素敵な殿方ですね。リアスが執着するのも納得がいきます」

 

「うふふっ、ソーナもイッセーの魅力を知ったらすぐに虜になると思うわ。―――渡さないけど」

 

「あらあらうふふ。リアス、それは私も同じよ?」

 

「味方の女王(クイーン)まで言われては大変ですね」

 

「もう慣れているわよ。幼い頃からずっとイッセーを巡った仲ですもの」

 

三階の廊下で会話の花を咲かせる。廊下に立ち話をする者たちも少なからずいて、

昨日のレーティングゲームの話がちらほらと耳に入る。

 

「彼―――サイラオーグが興味を抱くのでは?」

 

「もう彼のところに行ったらしいわよ」

 

「そうですか。男の子同士しか分からないことでしょうが昨日の一件で注目されるように

なったはずですね」

 

「あら、何か言いたげね?」

 

眼鏡をクイと動かしたソーナに視線を向けると、小さくリアスの目の前で頷いた。

 

「彼が赤龍帝であるということを認識してしまった者たちもいるはず。

ですが、そうであろうがなかろうが、兵藤一誠くんの実力は上級悪魔に匹敵していると

思った方が良さそうでしょう。あのライザー・フェニックスを倒したのですからね」

 

「私じゃ倒せなかったでしょう相手を倒したのだから当然でしょう」

 

自分のことみたいに

 

たゆん×2

 

と、制服の上からでもわかる肉感的なプロモーションを誇る胸が、そう擬音が聞こえる

ぐらいに自然と揺らしてリアスは胸を張った。

 

「あなたは彼の元へ行かないのですか?」

 

「色々と忙しいから会いに行けないのが現状なのよ。それに」

 

「リアス、俺と付き合おうぜ」

 

「こういったプロポーズを断っている最中だったの」

 

一人の男子からのプロポーズに苦笑を浮かべる。その様子に「一難去ってはまた一難、

どこまでも苦労しますね」と心中察した。せっかく一誠に婚約を破棄してもらったのに、

フリーとなったリアスを狙ってここぞとばかりプロポーズしてくる男子たちが後を絶たない。

 

「ごめんなさい。好きな人がいるから」

 

「いいだろう?俺なら幸せにできるぜ。俺はひょ―――」

 

「私、この髪の色と同じで強い人が好きなの。

だからあなたは私の好みの男性じゃないから付き合えないわ」

 

相手の話を遮ってできる限り丁寧に断った。

 

「ハッキリと仰ればいいじゃないですか。

あなたの好みの男性はこの学校に唯一一人だけしかいないでしょう」

 

「あら、変わらないじゃない?」

 

クスクスと親友ソーナに微笑むリアス。相手はリアスの返答に険しい表情となり口を開けた。

 

「俺と付き合えばお前の望むものをなんだって手にはいるぞ。それでもか」

 

「あら、面白そうな話ね。本当に何でも?」

 

リアスの反応に男子は内心脈ありと歪んだ心情で肯定した。

 

「本当だぜ。なんならお前の願いを叶えてやる」

 

「じゃあ、私にプロポーズしないでくれるかしら?」

 

「・・・・・は?」

 

「私の望みを叶えてくれるのでしょう?なら、私にプロポーズをしないでちょうだい。

それができたら考えても良いわ一秒だけ」

 

意味深に笑みを浮かべるリアスに心の中で溜め息を吐くソーナ。

なんて身も蓋もない望みを要求するのだろうか。

 

「それに私の名前を軽々しく呼び捨てて接しないでくれるかしら。

加えて私は同じ悪魔ならともかく、礼儀のなっていない人が嫌いなの」

 

「それについては私も同感ですね」

 

頷いて肯定するソーナもリアスの気持ちを理解している。

この男子はリアスに執着して声を掛けてくることも知っているからだ。

 

「・・・・・お前っ」

 

声音を低くリアスに睨み付ける。自分の容姿と出生に自信があり、時には暴力で従わせてきた。

今回もリアス・グレモリーという肉感的で魅惑、艶美―――と男を魅了させるその容姿と身体に

目を付け、自分の物にしようと何度も接し、直球ストレートな告白をしてきたが、

こうもあっさり拒まれてはプライドに傷付く。なにがなんでも目の前の『肉』を手に入れようと、

 

「黙って俺の言うことを聞け。酷い目に遭いたくなかったらな。兵藤家を敵に回して

お前の家がどうなるか考えたくないだろう」

 

声を殺し、リアスに脅しを掛けた。これで大体の女は身体を震わせ、委縮し、

相手を恐れて順従する。今回は人間ではないがきっとこの女もその一人だろうと高をくくった。

しかし―――。

 

「同じ兵藤でも、私が知っている兵藤とは大違いね。

そうやって脅さないと女を手に入れないなんてあなたは小さいわ」

 

リアス・グレモリーという女は、真っ向から脅しを撥ね退け逆に侮蔑が孕んだ言葉を突き付けた。

侮辱され一気に真っ赤になった男子は頭まで沸騰する勢いで怒り、素早くリアスの腕を掴んだ。

 

「こっちに来い!誰が強いか徹底的に分からせてやる!」

 

「・・・・・誰が強いか、ね」

 

男子に冷たく睨みつけるリアス。女の扱いがなってはいない男子に心から嘆息した。

 

「この学年の中で一番強いヒトをもう忘れたのかしら」

 

「っ・・・・・!」

 

「さっきからあなたの後ろにいる男に気付かないなんてね」

 

意味深なことを言うリアスだった。だが、本当に男子の背後には一誠と会ってきた

サイラオーグ・バアルが堂々と立っていた。

 

「俺のいとこをどうしようとしているのか、聞かせてもらおうか」

 

「サ、サイラオーグ・・・・・ッ」

 

「最後通告だ。リアスを掴むその手を放せ。三秒以内にだ」

 

指の関節を鳴らし、警告を聞かなかったら即粛清する気満々のサイラオーグ。

男子は苦虫を噛み潰したような顔となって、

 

「誰が従うか、兵藤を舐めるんじゃねぇっ!」

 

サイラオーグに向かって拳を突き付けた。避ける素振りもしないサイラオーグの顔面に

拳が突き刺さっても怯むどころか、苦痛の色すら浮かばないでいる。

 

「・・・・・」

 

首をコキコキと左右に動かしながら鳴らし、

 

ドゴンッ!!!!!

 

仕返しとばかり男子の顔面に拳を突き付けた。それだけでは留まらず、廊下の奥まで吹っ飛んで

壁と激しく衝突した。それ以降身動きせず、気絶している様子の男子が聞こえようが聞こえまいが、

 

「覚えておけ、パンチとはこういうことだ」

 

そう言った後に拳を引いたサイラオーグをリアスが声を掛ける。

 

「相変わらずの拳の威力ね。人を軽々とふっ飛ばすなんて」

 

「兵藤一誠や川神百代と言う人間もできると踏んでいるが?」

 

「川神百代まで目を付けているのね」

 

「人間の身で、拳だけで戦ったのだ。兵藤一誠と同じくらい興味がある」

 

不敵に口の端を吊り上げ、リアスの肩に手をポンポンと叩いた。

 

「あの男を手放すなよ?逃したらお前の魅力はないということだからな」

 

挑発的な発言を残して自分のクラスへと戻った。リアスは口先を尖らして「わかってるわよ」

と不満げに漏らす見守っていたソーナも苦笑を浮かべていたのであった。

 

―――○●○―――

 

パチュリーはHRが終わると図書室に赴いて珍しい植物が記されている本を分身体の

一誠に教え読書する。

兵藤家を容易く倒す一誠の傍は安全ゾーンであり、趣味の読書に耽ることができ大満足。

図書室には上階へ行ける空間があり、二人は三階の一番奥でひっそりと設けられている

ソファへ座り、本のページを開いて目を落とす。

 

カキカキ・・・・・・。

 

直ぐ傍から筆を走らせる音が聞こえる。珍しい植物の詳細を書き写している様子で

互いが邪魔しない程度の配慮でそれぞれ没頭している。

 

「・・・・・」

 

なんとなく分身体の一誠に目を向ける。こうして傍にいるのに魔法で作られた分身体とは

思えないほどの存在感を感じる。魔女であるパチュリーですら知らなかった魔法の一種。

こうして目の前に存在しているのだから魔法使いの世界は広いらしい。

 

「ねぇ」

 

「なんだ」

 

目を本に落としたままでも返事をしてくれる。パチュリーは問うた。

 

「分身体のあなたがここにいるけど、オリジナルのあなたに何かの影響は無いの?」

 

「その気になれば意思疎通ができたり、俺がここにいる間の記憶はオリジナルに残した

映像を観させるビデオのように受け継がれる」

 

「あなたのご両親は魔法使いなの?」

 

「母さんが魔法使いだよ。式森家の出身で俺の父さんと結婚して俺が生まれた」

 

この国を治めている一族の子供というだけあってどこか納得できた。

 

「あなたは恵まれていたのね。有名な一族の間に生まれて幸せだったでしょ?」

 

パチュリーの発言を聞きピタリと一誠の筆を走らせる手が停まった。一拍して一誠は溜息を吐いた。

 

「恵まれているのは確かだけど、幸せだったわけじゃない」

 

「なぜ?欲しいものを何だって手に入られるものじゃないのかしら?」

 

「―――お前は俺をどんな風に見ているのかなぁー?」

 

徐にパチュリーの頬を摘まんで引っ張る。

いきなりの言動に焦って頬を引っ張る手を叩いて止めさせた。

 

「な、なにをするのよ・・・・・」

 

「俺は他の兵藤とは違うと言ったはずだぞ」

 

「それは同じ兵藤家の男子たちと一緒にするなという意味なんでしょ?」

 

「それもある。が、俺が言った言葉の意味はもっと深い」

 

意味はもっと深い・・・・・どういうことなのかとパチュリーは訊ねた。

 

「俺が幸せなら、どうして俺は同じ兵藤家に攻撃をしているのか考えたことは無いだろう」

 

「・・・・・」

 

「お前は俺の表面だけ知って裏面を知らない。裏面とは過去だ。

俺の過去を知らないからパチュリーはそう言えるだけに過ぎない」

 

話は終わりだとばかり筆を走らせだす。言われて無言で一誠を見詰めるが何も言わず、

気まずい雰囲気の中で読書に没頭する。

 

「(兵藤の過去・・・・・確かに私は知らない。

  同じ兵藤家を毛嫌いする理由も・・・・・)」

 

軽率な発言をしたかもしれない。謝る時は一誠の過去を知ってからでも遅くは無い。

だとすれば―――。

 

―――1-C―――

 

このクラスには紺野木綿季ことユウキが所属しているクラス。

ユウキは只今絶賛、昨日のゲームの質問攻めを受けていた。悪魔と戦ってどうだったかが

主に追及され目まぐるしく返答をするに必死だったところ。

 

「あの赤髪の・・・・・兵藤一誠先輩だっけ?格好良かったねー」

 

「う、うん・・・・・剣を構えた時の立ち姿が格好良かった」

 

「私的には炎を真正面から突きぬけて殴りながら愛を語ったあの時の姿に格好良かったよ」

 

「リアス先輩ってヒト、あんな素敵な男の人に助けてもらえていいなー。

私もピンチの時は助けられたい」

 

一部の女子が一誠のことについて語っていた。ユウキは一誠の印象が悪くないことに

嬉しく思っていた。

 

『・・・・・』

 

それに反して、面白くないと男子たちが不満げに話を聞いていたのをユウキは知らないでいた。

 

「ねね、紺野さん。一緒に戦ってどうだった?」

 

「へ?」

 

「兵藤一誠先輩のことだよ」

 

同級生に問われて気を取り直して苦笑いを浮かべた。

一緒に戦ったと言っても離れ離れで戦っていたから分からないと告げたが、

同級生たちは目を輝かせて「私たちに紹介してよ」と言われてしまった。

 

「い、一応訊いてみるよ。ダメだったらゴメンね」

 

「お願いね!」

 

キャー!と黄色い声が発生する。ユウキにとっては複雑な心境だったが、

一誠に対するイメージを悪くさせたくないが為にそう言うしかなかった。

何よりもこの学校生活を楽しみたい。ユウキは病気を患ってからずっと病院生活をしてきて

両親を亡くし、姉も同じ病で無くなり天涯孤独となってしまった。

自分も死ぬ運命だとどこかで悟り、受け入れようとしたところで―――『奇跡の一日』が

ユウキを救ったのだ。

 

「(先輩はボクのヒーローなんだ。本人はそうじゃないって苦笑いを浮かべるだろうけどね)」

 

間近で見たあの光景にそれ以来、敬愛以上の感情を抱きつつあるユウキだった。

 

―――○●○―――

 

放課後、一誠たちは休日に向けて初めての部活活動を行った。

部室に集まり、一誠の話を耳に傾ける姿勢に入る。

 

「パチュリーに手伝ってもらって珍しいものを調べた結果。当初の計画通り冥界で冒険する」

 

「町中を歩いたりする?」

 

冥界は人間界―――地球と同じ程度の面積があるけれど、悪魔は人間界ほど人口はない。

悪魔と堕天使、魔獣、それ以外の種族を含めてもそれほど多くない。

それと海も無いのでさらに土地が広い故、未開の地だらけの世界に行く

一誠たちにとっては冒険する場所に適していると言えよう。

 

「そうだな。そんな俺たちにガイドも付けたいと思っているがどうだ?」

 

「いいじゃない?迷子になりたくないわ」

 

ルクシャナの肯定にウンウンと頷く面々も同意した。

 

「それで、私たちを案内してくれる悪魔って誰?」

 

「俺が知っている悪魔、リアスに頼もうと思っている。

彼女の領土、グレモリー領にしか咲いていない植物があるしタンニーンの領土にも

行ってみたいな」

 

「ほう、タンニーンか。私もそれには賛成だ」

 

「クロウ・クルワッハはただ単に戦いたいだけでしょ?」

 

アルトルージュに指摘され、「そうだがそれが?」と風に返されたのだった。

 

「でも一誠。それだったらレーティングゲームが始まる前にも休日だったでしょ?

その時にでも行けば良かったんじゃない?」

 

「後顧の憂いを無くしたかったから後回しにした。今は問題もなにも抱えていないから

心おきなく部活を出来るだろう?」

 

「なるほど。そういうことだったのネー」

 

ヴァレリーの指摘に一誠の返答を聞き金剛は納得の面持ちで紅茶を飲みながら聞いていた。

 

「それにしても一誠さま。一緒に調べた方が効率が良かったのでは?」

 

「まぁ、部活の部員の家族と一緒に調べるのもいいけど・・・・・またあの教室に

兵藤家の奴らが来ないとは限らないし、分身に調べてもらった方が色々と効率がいいのさ」

 

「では、学校外の図書館でも全員でジャンルを決めて調べましょう」

 

一誠の咲夜に対する返答にリーラがそう言う。リーラの言葉を一誠は頷いた。

 

「行ったことがないけど、場所は―――ナヴィに訊けば済むか」

 

顎に手をやって頼もしい情報収集が得意とするハーフの悪魔の顔を頭に浮かべていると

シャジャルが挙手する。

 

「ネリネさんたちの護衛はどうするのですか?」

 

「・・・・・多分、魔王のおじさんにお願いする際に一緒に連れて行ってくれと

頼まれるかもしれないな。それに便乗して神王のおじさんもシアも連れて行けと

言うだろうし」

 

「イリナさんたちも同行するでしょうね一誠さん」

 

現時点でネリネ、リコリス、シアはイリナたちに護衛されながら帰宅している。

二十人近い人数で冒険というより観光旅行に近い状況になるだろう。

 

「・・・・・そう言えばリーラ」

 

「はい」

 

「非公式新聞部って部活どんなのか分かっている?」

 

一誠からの質問に場は『?』で支配された。どうして今そのことを訊くのだろうという思いでだ。

 

「残念ながら、生徒会に申請されていない部活のようでして部員の人数やその詳細、

部室など神隠しのように不明なのです。去年からそのような新聞部の存在が知られているらしく、

この学校の生徒であることは間違いないようですが未だ、

先ほど申し上げたように不明で・・・・・」

 

「そっか。各部活の欄にも非公式新聞部ってちゃっかり載っていたから気にはなっていたんだが」

 

「申し訳ございません。ですが、学校のイベントが始まると必ず非公式新聞部が

動くそうなのでそこを突けばあるいは」

 

「イベントか。今近いイベントってなんだ?」

 

「YES!私が説明するネ!」

 

勢いよく挙手をする金剛に視線が集まる。それに臆せず金剛はハキハキと述べる。

 

「夏休み前は交流運動会と海での水上体育祭、それよりも強化合宿!」

 

「強化合宿?なんのだ?」

 

「学年全体で学力や身体能力、神器(セイクリッド・ギア)の所有者には先生から

課せられた特訓で自分を強化することが目的なのデス。私も去年体験しましたヨ」

 

一誠たちにそう説明する。そのようなイベントがあることを

今年この学校に来た一誠たちにとっては知らなかった為、さらに説明を求めた。

 

「交流運動会は?」

 

「この学校と他の学校と一緒に運動会をするんデスヨ。

去年は負けましたけど今年は勝ちマース!」

 

勝利に燃えあがる金剛。この異種族同士が通う学園が負けていたとは驚きものだ。

 

「去年ってどこの学園と?」

 

「川神学園デスヨ?今年も川神学園と運動会をするんデス」

 

「ああ、納得できるわ。あの二人がいるんじゃ悪魔や堕天使、天使が負けるよそれじゃ」

 

二大巨頭ともいえるべき武神・百代と氷帝・エスデスが活躍すれば勝利は間違いないだろう。

だが今回の、今年の運動会は一味違う。それは川神学園も知っているかもしれない。

 

「先に強化合宿をするようだけど、合宿先はどこだ?」

 

「去年はここ学校でしましタ。ここの学校には寝泊まりできるスペースがあってデスネ、

食事は学食から支給されレ、お風呂もあるんデスヨ」

 

「まだ俺たちが知らない設備と学校の風習があるんだな」

 

と、一誠が代表して感嘆した。そしてその時が楽しみだと口の端を吊り上げたのだった。



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エピソード16

休日の日となり、冒険部の一誠たちは予定通りにグレモリー領へ行くことを学園の

理事長であり魔王のフォーベシイに頼みこむと案の定、ネリネとリコリスも連れて

行って欲しいと願われてユーストマからもシアを連れていくようにと願われ、

必然的にイリナたちもついて行く形で―――。

 

「おお・・・・・っ!冥界に行く為の列車があるなんて凄いな・・・・・!」

 

純粋な子供のように目を輝かせて一誠は―――次元の狭間を通過する列車の中ではしゃいでいた。

その姿に微笑ましくリーラたちは見詰めていた。

 

「まさか、教会に属する私たちも冥府に行くなんて思いもしなかったな」

 

「護衛対象が冥界に行くですもの。私たちも行かないと主に顔を向けれないわ」

 

「何とも皮肉なことだ。私たちは天国に行く為、主に仕えているのに天罰として地獄に

送った者たちと同じ世界に足を踏み入れるとは」

 

ゼノヴィアたちも天界側の、教会側の者として冥界に行くことを今でも何とも言えない

心情でいる。

 

「ふふっ、大いに楽しんでくれたまえ。この列車は私専用だから私の顔パスでキミたちの

安全を保証できる」

 

「ありがとう、魔王のおじさん」

 

「いやいや、気にしないでおくれ。でも、できればお礼はお義父さんと一言欲しいかな?」

 

優雅に腰を下ろしているフォーベシイの要求に一誠は躊躇もなく言った。

 

「ありがとう、お義父さん」

 

微笑みながらの感謝の言葉。フォーベシイは感無量とばかり「神ちゃんに勝ったぞぉっ!」

と心の中で高らかに歓喜の涙を流しつつ狂喜の乱舞をし出す。そんな事を表に出さず

ポーカーフェイスで隠し通して一誠の頭を撫でた。

 

「魔王さま、魔王専用の列車に乗せてくださるとは何とも光栄です」

 

そう発するリアスが頭を下げた。グレモリー領に向かうならグレモリー家専用の列車に

乗ればいい話しなのだが、フォーベシイは自分の列車で乗ることを勧め、

一誠たちを送っているのだ。

 

「私も魔王領に用があってね丁度良かったのだよ。帰りはグレモリー家の列車に

乗せてくれるかな?」

 

「はい、勿論です」

 

一誠たち一行を乗せる列車は順調にグレモリー領へと走って向かっていく。

 

「懐かしいな冥界。イリナと別れて以来だな」

 

「そこで一年間過ごしたんだっけ?」

 

「その上、リアスと朱乃、白音、黒歌、ネリネとリコリスと出会ったんだよ」

 

「ええ、あの時のことがもう昔に思えるまで時が過ぎたなんて早いわね」

 

「いいんじゃないか?こんなに綺麗に成長したんだから。サーゼクスのお兄さんも嬉しいだろう」

 

イリナとの会話にリアスも加わって来て一誠に赤い髪を撫でられ、

その手が下がり吸いつくようなリアスの頬の肌にまで触れられた。

 

「・・・・・イッセー」

 

一誠の手を触れて自らすり寄せる。好意を寄せている異性の手はとても心地のいい温もり。

男の手のはずなのに意外とゴツゴツしていないのが不思議で女の子みたいな感じの肌触り。

そして一誠の瞳とぶつかって心なしか二人だけの世界と雰囲気が―――。

 

『ゴホンッ!』

 

周囲から強い咳の声が聞こえてリアスの意識が戻された。周囲に目を配ればジト目で

見られていた。

 

「私たちの前でイチャイチャしないでください」

 

「一年間一誠くんといたからって幼馴染の絆の強さは舐めないでよね!」

 

ルーラーとイリナが一誠を慕う代表者としてリアスに恋の

ライバルの存在をいることを覚えさせた。

それにはムッと面白くないとばかりリアスは一誠を抱きしめた。

 

「いいじゃない。私はイッセーのことが好き。これだけは同じ想いのはずよ」

 

「それはそれ、これはこれです。一誠くんを知っているのはあなただけではないのですから」

 

「へぇ、面白いことを言うのね。―――じゃあ、一誠が女の子の服を着ると可愛いのは

知っているかしら?」

 

と、自信満々気に言い放ったリアス。リアスの思い通り、一誠に恋する乙女たちの反応は

低く名乗りでなかった。ただ一人除いて。

 

「私は知っていますよ?」

 

「え?」

 

「うふふっ、その時は天使の翼を出していてとても可愛かったです♪」

 

ヴァレリー・ツェペシュ。人間と吸血鬼のハーフの少女が懐かしげに口元を緩まして

リアスに言ったのだ。

 

「天使の翼を出している一誠の・・・・・ですって・・・・・!?」

 

背後に雷が落ちたような幻覚と、ヴァレリーの発言に愕然とするリアスに衝撃を

与えるのに十分だった。

 

「そ、その時のことをもっと詳しく・・・・・」

 

「は、はいすっ・・・・・!」

 

「う、うん・・・・・」

 

ネリネとシア、リコリスも大層興味心身にヴァレリーから聞こうとする。

三人だけじゃなく、イリナたちもヴァレリーに視線を送って訊く姿勢になっていた。

 

「師匠は女装趣味だったのか?」

 

「ンなわけあるかぁっ!」

 

「ちょっと、興味あるかも」

 

「待て、そんな純粋な目で俺を見るんじゃない」

 

ここで爆弾が投下された。

 

「一誠さまが女の子の服を着た時の写真はいくつかありますが?」

 

『な―――――っ』

 

まるで自分が一誠を知りつくしているとばかり、どこから取り出したのか分からない

写真が収まっている分厚いアルバムを見せ付けるリーラ。

 

「・・・・・リーラ、それはもしかしなくてもだが・・・・・俺のアルバムなのか?」

 

「誠さまや一香さま、そして私が共同してお生まれになった一誠さまの赤子の頃から

撮ってきました三百六十五日分の写真だけでなく、お風呂での入浴時や就寝時の寝顔、

神話体系の神々とお戯れている時の写真が全て収まっております」

 

「うぐ・・・・・っ!?」

 

一誠にとって恥ずかしい赤裸々が詰まった一品。それをリーラが持っていたとは知らなかった。

 

「冥界にお着きになられるまで時間はございます。ご覧になられますか?」

 

「ちょっ―――――!?」

 

『なられます!いえ、お見せください!』

 

「うぁああああああああああああっ!見るんじゃなぁああああああああああああああいっ!」

 

赤面でアルバムに飛び掛かるものの。フォーベシイによって邪魔をされてしまい、

 

 

『か、可愛い・・・・・っ!』

 

『ちいさいイッセー、ちいさいイッセー・・・・・あはぁっ』

 

『懐かしいわ!あっ、一緒に寝ている時のもあるなんて!』

 

『これ、何時の間に隠し撮り―――』

 

『ふむ、確かに女の子の服を着ている師匠の写真があるな』

 

『これ、コピーできませんか?』

 

 

グレモリー領に着くまで女子陣に赤裸々な過去の写真を見られてしまったのだった。

 

 

―――○●○―――

 

「・・・・・グス(泣)」

 

「もう、泣くことじゃないじゃないの」

 

「泣き顔が可愛いです(そうですよ一誠くん)」

 

「ルーラー。多分だが本音と建前が逆だと思うのだが」

 

無事にグレモリーの領土に辿り着いた一行。ただ一人だけ無言で涙を流し物凄く落ち込んでいた。

 

「もうやだ。帰って部屋に籠りたい」

 

「なにを言うのだ。せっかく冥界に来たのだぞ」

 

「アハハ・・・・・傷付いていますね先輩」

 

そんな一誠をリアスは呆れつつ声かけた。

 

「一誠、あなたは部長としてここにいるのだからしっかりしなさい」

 

「・・・・・じゃあ、サーゼクスのお兄さんに頼んでリアスのアルバムを見させてもらうぞ」

 

「いやっ!それだけはやめて!」

 

「そうだよそれだよ!その気持ちをずっと列車の中で抱いていたんだぞ!穴があったら

入りたい気持ちをお前らも絶対に知るだろう!」

 

赤面するリアスだけじゃなく、ビシッ!と女子陣に指して宣言した一誠。

 

「・・・・・まぁ、気を取り直そう」

 

深く息を吐いて何時までも落ち込んでいるわけにはいかないと気を取り直して一誠は言った。

 

「とある植物がグレモリーの領土に花を咲かせている。それを採取するのが今回の部活活動だ」

 

「私の領地にどんな花を求めるの?」

 

「ん、これだ」

 

どこからともなく取り出したファイルを広げ、一枚の写真付きの花の詳細が

記されているページを見せ付けた。

 

「・・・・・この花、私も知ってるわ」

 

「だろうな」

 

「でも、私もこの花の現物を見たことはないわよ?あくまで知識として知っていて

どこに咲いているのかハッキリ言って分からないの」

 

「この花のデーターがあるということはグレモリー一族の誰かが提供したんだろう?

だからリアスの家族に訊いてから探すんだ」

 

「なるほどね。なら頼んでおいて正解だったわ」

 

リアスは視線をとある方へ向けた。そこには馬車が何台も用意されていて、

その前には銀髪のメイドが佇んで一誠たちを出迎えていた。

 

「・・・・・グレイフィアさん、じゃないな。顔は似ているけど」

 

「あら、確か初めてだったはずだけれどよく気付いたわね」

 

銀髪の女性に手を翳しながらリアスが自己紹介を述べ始める。

 

「彼女は私のお兄さま、グレモリー家現当主のサーゼクス・グレモリーの『女王(クイーン)』であり

妻のシルヴィア。グレイフィアの姉でもあるの」

 

「初めまして、シルヴィアと申し上げます。以後お見知りおきを」

 

恭しく頭を一誠たちに垂らすシルヴィア。その仕草は優雅さも兼ねていてどこかの貴族の

姫さまのような洗礼された挨拶だった。

 

「あのお兄さんの妻?リアスとサーゼクスお兄さんってどこに住んでいるんだ?」

 

「私は人間界よ?お兄さまは冥界で当主として暮らしているわ」

 

「朱乃は?」

 

「私もお母さまと一緒にリアスと住んでいるわ。一人だけ女の子を住まわせるわけには

いかないとリアスのお母さまの提案で一緒に住むことになったの。

私だけじゃなく白音ちゃんや黒歌、イザイヤちゃん、

リアスの専属メイドのグレイフィアさんも一緒なのよ?」

 

改めて知ったリアスの家の事情。それから一行は別れて馬車に乗り出してリアスの家に赴いた。

因みに一誠はシルヴィアを始めとしてリーラ、オーフィス、イリナとリアスと一緒に乗っている。

 

「・・・・・兵藤一誠さま」

 

舗装された道にガタガタと進む馬車に揺れる中で声を掛けられた。シルヴィアに視線を

向けると突然頭を垂らした。

 

「リアスお嬢様の婚約の件について申し訳ございませんでした」

 

「ん?なんのことだ・・・・・?」

 

「あなたさまを巻き込ませたリアスさまの代わりに謝罪を申し上げております」

 

そう言われてようやく合点した一誠。リアスに視界を入れると目を丸くしていて

あの時のことかと他人事のように思いつつ首を横に振った。

 

「もう終わったことだから謝らなくて良いよ。でも、そっちはそっちで話しはどうなったんだ?」

 

「はい、グレモリー家とフェニックス家の間では何事も問題なく婚約の件は破棄とされました。

フェニックス卿もあなたに感謝の言葉を送っていたとか。

―――フェニックスは万能、無敵ではないということを一族の能力を過信していた

ライザーにとっていい薬になったと」

 

親がそこまで言うならライザーとの婚約を懸けた決闘は無駄ではないということ。

そして両家の間に問題が起きていないことを安堵で息を吐く。

 

「それが少し心残りだったけど訊いて安心したよ。それでライザーはどうなってんの?」

 

「あなたさまに負けてしばらく部屋に引き籠って落ち込んでいましたが、

直ぐに立ち直っているようです」

 

立ち直り早いなと思わず漏らした。プライドの塊みたいな男が立ち直るのにまだ時間が

かかるのかと思っていたのだが中々どうして。シルヴィアが一誠たちに一言。

 

「そろそろ御着きになられます。降りる準備をしてください」

 

 

 

 

懐かしいグレモリー城に辿り着いた一誠。他の面々もリアスの家の大きさに感嘆の声を漏らして

リアスとシルヴィアの後に続く。一誠に顔だけ振り返ってリアスは尋ねる。

 

「お父さまとお母さまから花の事を聞くのね?」

 

「うん、知っているかもしれないから」

 

「花、とは?」

 

「イッセーたちはグレモリー領にしか咲かない花を採取する為に訊きたいことがあるって」

 

「・・・・・もしかしてあの花のことでしょうか」

 

意外にもシルヴィアからも出た花の情報。知っているの?と

視線に想いを籠めて向けた一誠に口を開いた。

 

「グレモリー領にしかないというより代々グレモリー家当主が花を育てているだけです」

 

「育てている?自然に咲いているんじゃなくて?」

 

「あの花は少々特殊で深い愛情を持つ者でないと咲かないのです。

情愛深いグレモリー家ならではの花であり、咲けば永遠の愛が結ばれる曰く付きです」

 

シルヴィアからの情報を聞いた一誠は首をかしげて写し書きした情報と比べたが、

そこまでは記されていなかったようで不思議そうにしていた。

 

「普通に育てれば咲く?」

 

「育て方は人間界の花と同じです。なので、愛情深い者が育てることで花は咲きます」

 

「その種はある?」

 

「・・・・・育てるのですか?」

 

コクリと頷く一誠。シルヴィアは思案顔で顎に手をやって何か考えていると、

 

「・・・・・ついてきてください」

 

『・・・・・?』

 

敢えてただそれだけしか言わないシルヴィアを一誠たちは不思議な気持ちを抱きながら

リアスさえ見たことない花のある方へシルヴィアの転移魔方陣で向かった。

何度か転移魔方陣でジャンプしていくと最終的にたどり着いた場所はグレモリー領の辺境で、

そこからでも見える巨大な工場施設その周囲には花畑。そして―――。

あるものを発見した一誠たちは驚嘆、感嘆の声をあげた。

 

「あれ、植物って言うの?」

 

「それを言わずなんというのですか」

 

「そうだね。でも、」

 

「うん、それにしたって」

 

「ああ」

 

皆の心が一つになった!

 

『大きすぎるだろう!植物のレベルじゃないっ!』

 

工場施設や一誠たちが小さくなった気分を醸し出す森は巨大で木に巨大な花も咲いていて、

よく見れば木の花に悪魔たちが群がって何かをしているのがうっすらと見える。

 

「木に咲いている花がグレモリー家の特産品の蜜の原料である

ジャイアント・ハニー・フラワーです」

 

淡々と木に咲く花の名前を述べたシルヴィア。愕然と手元にある資料に目を落とす一誠。

 

「俺が調べた花と違うけど、アレは自然にあんな大きさにまでなったのか?」

 

一誠からの問いかけに遠い目で口を開いたシルヴィア。

 

「・・・・・まだ三大勢力戦争が続いていた頃の話です。とある悪魔の科学者が」

 

『自分自身が巨大化すれば魔力もそれ相応に増えて神を簡単に越えるかもしれない!』

 

「と、巨大化になる術を研究・開発した末に完成はしました。無機物・有機物、

様々な物に試しその悪魔の科学者の予想通りの結果となりました。試した物の全てが

巨大化したのです。あの森はその名残でもあるのです」

 

ほー、と悪魔の科学技術に感嘆する一行。

 

「その悪魔の科学者は今は?」

 

「・・・・・その効果は敵対勢力の士気を削ぐほどでした。

その時の悪魔の科学者は自ら巨大化となって、堕天使や天使を倒し、

悪魔側の勝利も目前かと思ったのでしたが・・・・・」

 

『・・・・・?』

 

「悪魔の弱点を解消したわけではなく、あっさりミカエルに葬られました」

 

巨大に成りすぎて大きな的となっていることを最期まで気付かなかったようだった。

ネリネはあることに気付く。

 

「甘い匂いがしますね」

 

「あの花の蜜はとても濃厚な甘みが凝縮されていて上級貴族が食すデザートにも使われています。

リアスお嬢様もよく厨房からこっそりと持ち出し、隠れながら食べていたほどです」

 

「シ、シルヴィア!イッセーたちの前でそんなこと言わなくて良いの!」

 

顔を真っ赤にして抗議するリアスの反応を本当なんだと悟った一誠たち。

 

「その蜜とサーゼクスお兄さん、どっちが好きだとか比べたこともある?」

 

「ええ、その時のご反応をどう思いますか?」

 

「甘い蜜の方じゃないか?」

 

一誠の答えにシルヴィアは口元を緩ます。

 

「いえ、両方が好きだと我がままな答えを仰いました」

 

「はははっ!かわいーやつめ!」

 

「ううう・・・・・っ」

 

恥ずかしい過去を曝され、リアスの顔は耳まで真っ赤になり羞恥心で涙目になる。

 

「一誠さまも似たようなことを仰りましたが?」

 

「え?どんなとき?」

 

「誠さまと一香さま、どちらが好きかと質問をされた時です。その時の一誠さまどっちも

好きだと言いました」

 

「そんな時があったんだ。でも」

 

一誠は真っ直ぐリーラの顔を見詰めた。白磁の肌に琥珀の瞳、

幻想的な銀色の髪のメイドに真っ直ぐ言ったのだ。

 

「家族としてはハッキリとそう言うけど、異性としては何時も傍にいてくれた

リーラが一番好きだよ」

 

「――――――」

 

突然の告白に冷静沈着なリーラは目を丸くした。このタイミングでそう言われるとは心底驚き、

同時に告白されたのを理解し、瞳が潤い始め胸が熱くなってくる。

 

「そのお言葉は・・・・・誠ですか・・・・・?」

 

「うん、ヤハウェさんに誓って偽りじゃない」

 

「・・・・・メイドと主が愛し合うことができるなんて・・・・・」

 

「シルヴィアさんとサーゼクスお兄さんのように幸せになろう?愛しているリーラ」

 

「・・・・・はいっ。我が主、兵藤一誠さま―――」

 

どちらからでもなく、二人は顔を寄せ合い唇を重ねた時だった。周囲の花畑に異変が起きる。

草色の広大な土地が一斉に花を咲かせてまるで二人を祝福するかのような甘い香りも漂い始めた。

 

「うー!イッセーくんが取られちゃった!」

 

「いえ、まだです。私は諦めませんよ!」

 

「YES!その通りデース!」

 

「嫉妬の前にまず祝福したらどうなんだ?」

 

「こんな時こそ祝福の聖剣(エクスカリバー・ブレッシング)の出番なのに持ってきてないよー!」

 

「素敵・・・・・」

 

「あれが愛と言う奴なのか・・・・・」

 

突然の告白シーンに様々な反応だが間違いなく祝福されている。

二人の幸せな時間と人生はこれから始まり、終わりが来るまで永遠に連れ添うだろう。

 

「・・・・・まさか、再現されるとは思いもしませんでした」

 

同じく祝福をするシルヴィアも脳裏に―――。

 

『私と結婚をしてくれないかシルヴィア』

 

サーゼクスにこの場で告白をされ自分が受けた時、一斉に咲いた花々に祝福された。

これこそ一誠たちが求めていたラヴ・フラワーなのであった。

 

「・・・・・私はあの赤い髪に恋し、彼もまた赤い髪の持ち主・・・・・どこか、

私たちに似ていますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

『あらあら!告白されちゃったの!?よかったわねーリーラ!』

 

『はっはっはっ!何時かこうなると俺は信じていて待っていたぜ!リーラ、幸せになれよ?』

 

「誠さま、私と一誠さまはまだそこまでは・・・・・」

 

『なーに言ってんだ?お前とリーラは同じ存在(・・・・)なんだ。

永遠に近い生の中で生きるんだからもう結婚したのも当然だ。

どこかでこっそりと結婚式でも挙げるか!』

 

『このこと、他の皆に知らせないと!あー、孫の顔が早くみたいわぁっ!』

 

「い、一香さま・・・・・っ!」

 

 

 

 

「・・・・・残念ですが、リアスお嬢様ではなくリーラさまをお選びになられました」

 

「そうか、リアスを選んでくれなかったか。いや、まだまだチャンスはある。

ハーレムと言う概念が存在する限り彼はリアスも受け入れてくれるだろう。

それにしてもあの場で告白か・・・・・私たちと同じだねシルヴィ?」

 

「はい・・・・・サーゼクス」

 

「後はグレイフィアも良き伴侶が見つかればキミも安心できるだろう?」

 

「それはそうですが・・・・・中々見つかりませんよ」

 

「ふふっ。それはどうかな?案外身近にいるかもしれないよ?」



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エピソード17

「坊主!シアを選んでくれないのはどういうことだぁっ!?

いや、世の中にはハーレムと言う概念がある!

是非シアも坊主の伴侶として迎え入れてくれやっ!絶対に!」

 

「ネリネちゃんもリコリスちゃんもだからね一誠ちゃん!」

 

騒々しい朝を出迎え、椅子やキックで沈められた二人の理事長。

 

「ご、ごめんっす」

 

「「ごめんなさい」」

 

「や、気にしてないから謝らなくて良いさ。二人の気持ちも分からないわけじゃないし」

 

朗らかに苦笑を浮かべ、そう言うとシアとネリネ、リコリスの頬が朱に染まる。

 

「じゃ、じゃあ・・・・・」

 

「今はまだその気にはなれない。小さい時に会っていたとはいえお互いのことをまだ

知らないだろう?知ってからでも遅くはないと思う」

 

「や、やったねネリネ!」

 

「は、はい・・・・・っ」

 

満更でもない返答に三人の姫は喜びあった。

 

「―――じゃあ、私たちも」

 

「―――そうですね。一誠くんは心が寛大だからきっと・・・・・」

 

「―――女としての魅力を磨きつつ攻めていけばいつか堕ちるわけね」

 

そして虎視眈々と狙う女子陣もいたのだった。肩にオーフィスを乗せ、ピッタリと手を

繋がずとも肩を寄せ合い歩く速度も幅も同じくなっている一誠とリーラ。

 

「先輩、冥界で得るものを得たんだけど次の休みも珍しいものを探すんですか?」

 

「そうだな、植物はクリアしたし。おまけに特産品を手に入れて試しにデザートを

作ったら美味だった」

 

「師匠が作ったデザートは美味しかったな」

 

熱が籠った息を零すゼノヴィア。甘みが凝縮されているというのは本当だった。

何度も食べても飽きはしないし、カロリー少なめのデザートだった為に後先考えず

デザートとが好きな女子はかなり食べた。

 

「クラスメートの女子たちに味見してもらうか。反応が良かったら人間界にも販売して

もらおうあの蜜を」

 

「天界のまんじゅうも美味しいっすよ?」

 

「そうなんだ?じゃあいつか食べさせてくれ」

 

「了解っす!」

 

ビシッと軍人のような挨拶をしたシアに微笑む。

 

「んで、話を戻すけど次は物かな」

 

「どんな物?」

 

「んー、錬金術に必要な希少価値な素材が望ましいけど創造の力でオリハルコンと

レアメタルとか用意できるからなぁ」

 

「それも部室に飾ればいいんじゃないの?」

 

イリナからの指摘に肯定と頷くも一誠は納得できないでいる。

全員で冒険をし、目的の物を手に入れる喜びを分かち合い、感じたがっている。

 

「(・・・・・まだ時間はある。ゆっくり皆と集めていけばいい)」

 

そう心の中で決めていると目の前に殺気立つファンクラブと出くわした。

 

「しつこいとシアたちに嫌われるぞー?」

 

『うるせぇーっ!!!!!』

 

からかうだけからかって、転移魔方陣であっという間に学校に辿り着いたのであった。

 

「あ、先輩」

 

「どうした後輩」

 

「何時でもいいので休み時間、ボクのクラスに来てください」

 

それだけ言い残してユウキは一階にある自分のクラスへと向かった。

 

「なぜにユウキのクラスへ?」

 

「うーん、イッセーくんと話をしたいからじゃない?」

 

「それだけか?」

 

「そう言われても・・・・・」

 

困ったように言うイリナを見詰める一誠は、もう一度去って行ったユウキが通った

廊下へ見送ると二階に上がり、教師であるリーラや警備員のリィゾ、フィナ、

プライミッツ・マーダーと別れ、一誠たちも自分の教室へと向かい、

 

「グットモーニング!イッセー!」

 

これから朝の習慣となるであろう金剛の柔らかく温かく、衝撃のあるホールドを受けるのであった。

 

「ウーン、小さいイッセーを抱き締めるのはなんとも心地イイデース」

 

「抱き絞められる側としてはもう少しだけ穏やかにして欲しいんだが」

 

金剛の椅子へと連れられ抱き絞められたままの一誠。

そう言いつつも尻尾がフリフリと満更でもなさそうに振っている。

 

「金剛ってお菓子作れる?」

 

「YES、そうデスガ?」

 

「なら、一緒に作らないか?今日は選択授業があったはずだ。

料理実習で冥界で得た蜜でお菓子を作ろうよ」

 

その誘いを金剛は断るわけがなく。満面の笑みを浮かべて頷き、

HRが始まるまで抱きかかえられていた。

 

 

そして、選択授業が始まるや否や、一誠と金剛、咲夜だけじゃなくオーフィスや

ヴァレリーも参加しお菓子作りが始まった。

 

「今回の主役の蜜を使うぞー」

 

大きな瓶の中に詰められた黄金色の液体。その蓋を開けた瞬間に甘い匂いが廊下に

まで散布する。その匂いに女子たちは意識を向けずにはいられなかったほど。

 

「イッセー、かき混ぜた」

 

「その割にはクリームが減っているが?」

 

「・・・・・ごちそうさま」

 

少々、つまみ食いされたもののなんと多種多彩なお菓子を作ることができた。

台車に乗せて咲夜や金剛に運ばせてもらい女子たちに提供するのだった。

 

 

『凄く甘い・・・・・』

 

『前食べたお菓子と同じなのに甘さが全然違うわ』

 

『舌に、口の中に広がるこの凝縮された甘みが解放されたかのように私を蕩けさせるっ』

 

評価は上々で高評価。後日リアスにあの蜜の販売を人間界にもして欲しいと乞うた。

 

「良かったですね一誠さま」

 

「ん、誰かに食べさせても恥ずかしくないお菓子ができたな。

もっとこの蜜で色んなお菓子を―――」

 

そう言い掛けた一誠の視界の端に扉から顔の半分だけ顔を出してこちらを見ている

黒髪に黒目の女子がジト目で見詰めていたのを気付き口を閉じた。

 

「・・・・・(ヒョイヒョイ)」

 

気になり取り敢えず手招きして入ってくるように催促した。

黒髪の少女はそんな一誠の催促に教室の中へと入り、真っ直ぐ近寄ってきた。

 

「甘い匂いに誘われたって感じでいいか?」

 

「・・・・・(コクコク)」

 

「んじゃ、食べていいぞ。まだまだお菓子はあるし」

 

「・・・・・いいの?」

 

「一人占め、独占しなければ許す」

 

一誠の手に棒状のバームクーヘンがあり、

それを手渡された少女は黒い眼を一誠に向けつつ口を開く。

 

「・・・・・クロメ」

 

「それが名前か?」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

初対面の一誠に緊張しているのか、それとも警戒して様子を窺っているのかわからない。

言葉数が少ないクロメを安心させる笑みで名乗った。

 

「俺は兵藤一誠だ。嫌われている兵藤家の男だが他の兵藤の奴らとは

一緒にだけはしてくれるなよ?」

 

互いの自己紹介が終え、クロメはジーと一誠を見詰めた後にバームクーヘンを食べ始めた。

 

「おかわり」

 

「はやっ!?」

 

掃除機で吸いこむような如くバームクーヘンがクロメの口の中に姿を消したのだった。

その食いっぷりをオーフィスは見ていたのか、自分もバームクーヘンを手にして

一気食いしたのだった。

 

「オーフィス、別に張り合うようなことじゃないんだけど」

 

「なんとなく」

 

そして一誠は知った。クロメは大のお菓子好きであると。一人占めしない程度のお菓子を

『クロメのおかし』という刺繍が縫った袋に詰め込んで感謝の言葉を送るといなくなった。

 

―――1-C―――

 

休憩時間となり、ユウキの元へと足を運ぶ。一階に下りて目的のクラスに辿り着き、

当然のように扉を開け放つ。

 

「失礼するぞ。ユウキ、来たんだが何か用か?」

 

ユウキに声を掛ける一誠の耳に黄色い声が。なんだ?と疑問を浮かんでいると視界に

申し訳なさそうに苦笑を浮かべ両手を合わせているユウキがいた。

 

「兵藤一誠先輩だわ!」

 

「テレビで見ているより格好良い!」

 

「赤い髪の毛が綺麗ですね・・・・・・」

 

―――どうなってるんだ?

 

一誠の心境がそれであり、ユウキがこの場に自分を呼んだ理由も未だに理解できずに

いれば数人の女子に手を掴まれたり後ろに回られて引っ張られ、

押し出され中にへと入れられた。

 

「・・・・・ユウキ、これはどういうことだ?」

 

「えっと・・・・・皆が先輩を紹介しろと言われちゃって・・・・・」

 

「ああ・・・・・そういうことね」

 

合点した。あのレーティングゲームの時、学生服で戦っている姿を全世界のお茶の間に

流されているのを思い出し、身近にいたユウキにそうお願いされるのも時間の

問題だったのだろう。

 

「あの、先輩。リアス先輩とはどういう関係なんですか?」

 

「友達だけど」

 

「嘘!ただの友達だったら婚約者から奪うようなことをしないはずですよ!」

 

「理不尽な人生を送ることを強いられて、それに嫌がる友達を助ける力を持っていた

からそうしただけだ」

 

殆どリアスに巻き込まれた形だけどよ、とは敢えて言わないでおくのはリアスの為だった。

 

「あ、あの、先輩って赤龍帝なんですか?」

 

「あー、やっぱ誤解しているか。俺は赤龍帝じゃないよ。

ただそんな風に見えるだけでしかないんだ」

 

「そ、そうなんですか」

 

「質問はまだあるか?ないなら教室に戻るが」

 

と、一誠はそう言うものの女子たちからの質面攻めは留まる事を知らず。

あれこれと質問を答える一誠だった。

 

「ところで、紺野さんとどういう関係なんですか?」

 

「ふぇっ!?」

 

「んー、強くて可愛い、自慢の後輩かな」

 

「じゃあ、紺野さんを異性としてお付き合いしたいと思っていますか?」

 

なに聞いちゃってんのキミはー!?と赤面した顔に愕然としているユウキの目に一誠が

そんな質問した女子の唇を人差し指で押すように触れてこう言っていた。

 

「それはノーコメントだ。本人の前では言えない恥ずかしいことを

教えれるわけじゃないだろう?」

 

「―――――っ!」

 

「まぁ、お互い近所に住んでいるから家も近いし、これからも付き合いもあると思うし

長いかもしれない。もしかしたらそうなるかも・・・・・な?」

 

女子に向かって意味深な発言をした。唇に触れられている女子もそれを見守っている女子たちも

一誠の言動に目を放せないでいて、されているわけでもないのに一誠の人差し指が

自分の唇を押さえつけられ微笑まれているシーンを―――。

 

『はぁ・・・・・っ』

 

熱い吐息を漏らし、女子たちの顔は真っ赤となり蕩けた瞳で一誠を見詰め出す。

まるで自分がドラマの女優で一誠は女優の恋人役・・・・・。その気分に思考が支配され

尽くしていき、一誠の何気ない仕草や動作で女子たちを魅了するのだった。

羨望と欲求が女子たちを昂らせる。

 

「・・・・・」

 

キュッと無言でユウキが一誠の制服と摘まんだ。

 

「ん?」

 

「先輩、何時までそうしているんですか?」

 

「もう少しだけ悪戯しちゃダメ?」

 

「変態になっちゃいますよ」

 

「それだけは嫌だな」

 

アッサリと女子の唇に押し付けていた指を放して、ユウキに振り返る。

 

「で、ユウキの願いは叶ったと思っていいのか?」

 

「あ、うん、そうですね。短い休憩の中わざわざ来てくれてありがとう」

 

「どういたしまして。ああ、昼。部室で食べるから部室に来てくれ」

 

「わかった」

 

ユウキにそのことを告げ、スタスタと一年生の教室から去った。残されたユウキたちは―――。

 

「こ、紺野さん・・・・・」

 

「うん?」

 

「その・・・・・」

 

恥ずかしげに顔を赤くし、潤った目をしてモジモジと

身体を揺らす(※大変よろしいプロモーションの持ち主)少女がユウキに問うた。

一誠に唇を人差し指で触れられていた女子がだ。

 

「あの先輩、付き合っている人がいる・・・・・?」

 

―――――もしかして、この子。恋しちゃってんの?

 

「う、うん・・・・・いるけど」

 

「そ、そうなんだ・・・・・」

 

案の定、肩を落とすユウキのクラスメートだった。

一瞬の初恋が一蹴され、初恋は実らなかったのであった。

 

「あ―――でも」

 

「・・・・・?」

 

「先輩、心が広いから。今は一人しかいないけどこれから先輩と恋人となる

人が増えるからキミもチャンスあるかもしれないよ?」

 

「っっっっっ!?」

 

―――○●○―――

 

「大体この部室も様になってきたな」

 

周囲を見渡すアラクネーの目に映り込む風景と設備。様々なものが設置していて

部室に小さな噴水もノリで創造してみたり、壁にはタペストリーが飾られて自分が

織った物を見て懐かしげに綻びる。アラクネーがここにいるのは休憩時間、

トイレに行くつもりで廊下に出た一誠とバッタリ会い、

どこに行くのか一誠に訊けば部室と言うことでついてきたのだ。

 

「まだまだ珍しい物は集まっていないがな。確かに部室とは思えないほどの設備だけど」

 

「しかし、よかったのか?休憩時間とはいえ部室に来て」

 

「良いんじゃないか?それに俺は悪いことをしにここへ来たわけじゃない。なんとなく

ここに来たかっただけだ」

 

「ふふっ。おかしな奴だなお前は」

 

隣に座っている一誠と雑談。二人しかいない空間にほのぼのとした雰囲気いが醸し出す。

 

「アラクネー。タペストリーはどう?」

 

「うん、次はどんなのにしようか考えていたが。お前とリーラの告白シーンを見て

あの時の光景にしようかなと思っているがどうだ?」

 

「何も知らない人にとっては微笑ましいだろうけど、当の本人である人にとっては恥ずかしぞ」

 

「はははっ。実を言うともう制作しているんだ。完成まで1年ぐらい掛かるかな」

 

朗らかに告げた事実を一誠は知らなかった。目を丸くして恥ずかしげにアラクネーに

赤くなった顔のまま「この部屋には絶対に飾らないで欲しい」と言いだしたのだった。

 

「それはどうしようかな?まぁ、期待して完成を待っていてくれ」

 

明るく笑うアラクネーに一誠は素直に頷いた。

 

「それにしても、やはり思った通りになったな」

 

「なんのことだ?」

 

「お前とリーラが付き合うことだ。何となく思っていたことだが現実になると対して

驚きもしなかった」

 

そうなんだ?と首を傾げる一誠を余所にアラクネーは何を思ったのか立ち上がった。

すると一誠の前に立っては太股の上に乗り出し、一誠と対面座位の形で腰を下ろし、

顔を向けあって自分の足を胴に回し巻きつけるアラクネー。元々蜘蛛だった下半身は

一誠の力によって人間の腰と足を与えられ完全ではないが人間らしい姿を取り戻すことができた。

深く一誠に感謝し今日まで共に過ごしてきた一人。

 

「アラクネー?」

 

「だが、寂しい気持ちも湧いた。お前はリーラだけのものとなると思えば私の中である

感情が強くなる」

 

「ある感情・・・・・?」

 

問うた一誠を不敵の笑みを浮かべ、アラクネーは一誠が今まで見たことのない表情、

目を爛々と輝かせ、獲物を捕食するかのような獰猛な笑みを浮かべ出したのだ。

 

「お前を食べたいという気持ちが抑えきれない」

 

恍惚とした表情、潤んだ瞳、何度も熱い吐息をするアラクネー。

それにはゾクッと恐怖と似た感情が一誠を襲い、

腕を伸ばされ、頭の後ろに回される。アラクネーは一誠と顔を突き合い、

 

「ははは、リーラに告白されて直ぐに私に襲われる気持ちはどうだ?」

 

「二重の意味で胸がドキドキしている」

 

「なら、もっとそのドキドキを―――私の身体で昂らせてやろう」

 

一誠は家族と思っていた女性からの唇を押し付けられた。容易くアラクネーの舌が

口内に侵入され、頬の裏の肉壁、歯茎、歯を執拗に舐めつくすと「んふっ」といった

鼻息を漏らしつつ一誠の舌を捉え蛇の交尾のように何度も絡め合い唾液を飲み、

唾液を飲ませたりとし続ければ口に溜まった唾液が二人の口の端から垂れこぼれ落ち、

制服を汚す。アラクネーは熱く濃厚なキスを一方的にしながら自分の身体を押し付け、

一誠を興奮させようと自分自身も刺激され、体中に電気が走るような甘美な刺激を

感じながらも止めようとせず行い続けるのだった。

 

「んっ、アラクネーっ」

 

「ゆっくりとお前を味わってからお前の全てをリーラが知る前に、

味わう前に私が知って味わってやる」

 

宣言したアラクネーは妖艶な笑みを浮かべ自分の制服を相手の反応を見つつ、ゆっくりと

一枚一枚脱ごうとしていくが―――。

 

「なにをなさっておられるのですか」

 

絶対零度の如く、熱が帯びたこの部室が一気に肌寒さを感じさせるほど冷たい雰囲気となった。

 

二人は声が聞こえてきた方へ振り向くと、そこには冷たく二人を見据えるリーラがいた。

 

「・・・・・アラクネーさま」

 

「なんだ?」

 

「一誠さまを襲いかかっているようにお見えになられますが、私の視力が落ちたのでしょうか?」

 

訊ねるようにアラクネーへ言葉を投げた。アラクネーは「フッ」と挑発的な笑みを浮かべ、

一誠を肌蹴た征服から覗ける黄色いブラジャーが包む豊満な胸に押し付けて見せびらかした。

 

「いや、私は蜘蛛に転生した女だからな。食べごろになった獲物を捕食したくて

どうしようもなくなったのだ。―――一人の女としても、な」

 

「・・・・・」

 

無表情のリーラの綺麗な銀の柳眉が、ピクッと動いた。アラクネーはそれを見逃さず

ますます口の端を吊り上げた。そして一誠の唇に深く押し付けた。

次の瞬間、リーラが動き始め一誠から強引に放すと上書きするように一誠の唇を奪った。

 

「・・・・・っ!?・・・・・っ!?」

 

リーラの舌が怒涛の如く一誠の舌を絡めては吸い上げ、ビクビクと震える一誠を―――気絶させた。

超絶な舌技によって気絶した一誠をアラクネーは無表情で見守るだけだった。

 

「・・・・・」

 

一誠の口からねっとりと艶めかしくまとわりつく一誠の唾液がコーティングされたリーラの舌。

それは何とも煽情的でリーラは表情を一つも変えず、それでいて自分の舌と一誠の口から

繋ぐ唾液の糸を途切れさせまいとしばらく繋げていたがプツっと切れてしまった。

 

「一誠さまを想うのことを私は同意します。ですが、独占をしようとせず共に愛し合いましょう」

 

「それが一誠さまを愛することを許す条件です」と述べたリーラだった。

 

「・・・・・やれやれ、一誠のことに関するとお前は強くなるな」

 

「私と一誠さまは一心同体。一誠さまの身のお世話は勿論、一誠さまに対する

この気持ちは十数年分です。共に生きてきたあなたたちに負ける要素は一切ございません」

 

一誠をお姫様抱っこをして部室からいなくなったリーラ。

 

「アラクネー。私はあなたに負けるつもりはないわ」

 

擦れ違いざまにリーラから掛けられた言葉。メイドとしてのリーラではなく

一人の女としてのリーラ・シャルンホルストとして。

 

 

 

そして一誠が目覚めた時は知らない天井が見えた。周囲を見ると白いカーテンが白いベッドに

眠る一誠を囲っていて表と遮っている。体調も良好で何事もなく起き上がった時、

カーテンが誰かの手によって開けられた。

 

「あら、目覚めた?」

 

赤十字が刺繍されている青い帽子を長い銀髪に被っている女性が声を掛けてくる。

服も特徴的だ。左右で色の分かれる特殊な配色の服を着ている。具体的には、

青と赤から成るツートンカラー。上の服は右が赤で左が青、スカートは上の服の左右逆の配色、

となっている。袖はフリルの付いた半袖。全体的に色合い以外はやや中華的な装いの

出で立ちで一誠を見下ろす。 また服のあちこちに星座のような描かれている

 

「ここは?」

 

「保健室よ。あなたは初めて見る患者だったけど特に問題は診られなかったから寝かしてたの」

 

女性は一誠の横に近づく。服の上からでも分かる豊満な胸と綺麗な紫の瞳。

 

「私は八意永琳。この保健室を担当している保険の先生よ」

 

「・・・・・一誠です」

 

「それは名前ね?姓は?」

 

言葉を選んで名乗ったが相手は上の名も求めた。「兵藤」はこの学校にとって禁句に

等しいようで一誠の担当教師も憂鬱そうに迎え入れたほどだ。

 

「兵藤、兵藤一誠です」

 

「兵藤・・・・・あなたも兵藤家の男の子ね?」

 

「否定したいけど、そうだよ」

 

「否定?なぜ?」

 

不思議がられて永琳はベッドの縁に腰を落とした。顔と目を真っ直ぐ一誠に向けてくるので

一誠は呟くように説明した。

 

「俺はあんな奴らとは一緒にされたくない。だけど、俺も兵藤だから一部を除いて

皆は俺も粗暴で乱暴で、理不尽なことを強いらせる男だと思っている」

 

「・・・・・何か事情があるようね。リーラ先生があなたを連れてきたから不思議だったけど」

 

「あなたも俺を他の兵藤と同じだと思っているか?」

 

その問いに永琳は顎に手をやりながら嘆息した。

 

「そうね。何度も私を『俺の女になれ』『今日からお前は俺たちの欲望処理だ』とか

私を女のとして、人間として見ないで襲われたことは何度も遭ったわ」

 

「その時はどうやって対処を?」

 

「私は神器(セイクリッド・ギア)の所有者なの」

 

「へぇ、そうだったんだ」

 

「それに最悪の場合秘密兵器もあるの」

 

あのロッカーを開けてみなさいと促されて、一誠は興味と好奇心でベッドから降り、

言われたとおりにロッカーを開け放った。

 

―――――そこには筋骨隆起、全身が肉の塊であると醸し出す体長二メートル以上はある

ピンクのビキニ一丁で、もみあげの部分に三つ編みしかないスキンヘッドの男が

目を瞑って静かにロッカーの中に収まっている。

 

「・・・・・(ドン引き)」

 

思考が完全に停止し、お化けよりも、もしかするとドラゴンより迫力があるかもしれない物が

ロッカーにいたことに一誠は目を開いたまま硬直したのだった。

 

「せ、先生・・・・・これが最終兵器?」

 

「ええ、とある物作りが好きな堕天使が事情を知ってくれて私の為に用意してくれた

『防犯システム蝶蝉ちゃん』というロボットなの」

 

「ロ、ロボット・・・・・?」

 

「効果は絶大。兵藤家の男の子たちを一蹴し、その姿は戦慄、畏怖の念を抱かせてくれる。

いまでは頼もしいロボットよ」

 

「私自身もジッと見つめれないけどね」と付け加える永琳であった。改めてロボットを

見詰めると今にでも目が開きそうな感じで確かにどこか怖ろしさを感じる。

静かにギィッと閉めて視界から外した。

 

「さて、意識が戻ったことだし自分のクラスに行きなさい」

 

一誠もそれには同意し廊下に出ようとした―――が。

 

「ん、そうしようかな・・・・・と思ったけど」

 

「どうしたの?」

 

「お客さんが来るから」

 

そう言った直後、扉が開き十人程度の男子たちが侵入してきた。保健室に来る者の大抵は

傷を大小を問わず負って治療して貰う為なのだが、入ってきた十人は傷を負っているわけ

でもなく、欲望の色が双眸から伺える。

 

「あら、大勢来てどうしたの?どこか怪我でもしたかしら?」

 

平然とした態度で接する永琳。男子たちはいやらしい笑みを浮かべてこう言う。

 

「ああ、薬を飲んだらココがはちきれんばかりに盛り上がっちゃって」

 

「どうにかして治療してくれよ」

 

「先生の手でさ」

 

とある部分を見せ付ける男子。永琳はその部分を見て深く溜息を吐いた。

 

「そこは私の専門じゃないから治療は無理よ」

 

「先生は女なんだから治療できるだろう?できないとは言わせないぜ」

 

囲むように近づく男子たち。永琳は指を当たり前のように弾いた時、ロッカーが勢いよく

開き中からハンパないプレッシャーを解き放つ防犯システムのロボットが出てきた。

 

「前にも来た子たちだったわね。怪我もないのに保健室に来られちゃ困るわ」

 

「俺たちは用があるんだ。それに何も考えてないでここに来たと思うか?」

 

一人の男子が一枚の紙を取り出してロボットに叩き付けた瞬間。ロボットが光に包まれて

姿を消した。

 

「・・・・・それは」

 

「式森家の奴から貰った簡易的な転移魔方陣。俺たちには魔力はないけどよ、

一人程度ならどこかに飛ばすことができるこの紙であの厄介なロボットには退場して

貰ったわけだ」

 

「これで気兼ねなく治療をしてもらえるぜ」と不敵に言う男子だった。

薬を飲んだというのは本当のようで、一誠に眼中がなく永琳という極上の肉体しか

目が向いていない。

 

「さーて!俺たちの保健体育の先生、ここで子作りの授業と洒落こもうじゃないか!」

 

その言葉を皮切りにしてワッ!と永琳へ飛び掛かったのだった。

しかし、永琳は無謀ではなかった。無防備でもなかった。

神器(セイクリッド・ギア)の所有者であり、ここには―――。

 

「俺のことすっかり眼中にないんだなお前ら」

 

ドラゴンが一匹、ここにいるのだから。波紋が生じる歪んだ空間から飛び出す数多の鎖が

男子たちの身体を絡みつけ強く縛りつける。―――亀甲縛りで。

 

「なっ、何だよこの鎖はぁっ!」

 

「俺の前で犯罪を犯されちゃいい迷惑だ」

 

ようやく一誠の存在が気付き、叫ぶように食って掛かった男子たちを鬱陶しいそうに

顔を険しくする。

 

「お前ら、そんな態度でいられるのはもうないかもしれないぞ。お前らの今の言動を

このカメラや録音機で証拠を収めんだからな」

 

一誠の発言に男子たちは目を張って、見せ付けられ、聞かされる録音機から聞こえる

自分たちの声と映像が残っているビデオカメラ。

 

「んなの、俺たちがしらばっくれればどうってことがない!」

 

「あっそう?じゃあこれを日本中のお茶の間に流してもいいよな?」

 

「て、てめぇっ!」

 

「おやおや、どうしてそんな反応をするんだ?兵藤家は七光りの奴らばかりで親に頼らないと、

兵藤家の威厳と威光、権力を傘にしないと強気にもなれないのか?

はっ!ちぃせぇなお前らの肝と玉はよ」

 

嘲笑する一誠。怒りで顔を歪ませる男子たちの一人が叫んだ。

 

「お前だな!俺たち兵藤家に逆らう兵藤一誠ってやつは!」

 

「おー、お前らの間まで知られているのか。別にどうでもいいがその通りだ。俺までお前らと

一緒にされちゃいい迷惑なんだ。しかも彼女を強姦しようとしたんだからな。

あー『それがなにが悪い!弱い奴は強い奴に何をされても当然なんだ!』ってみたいな

台詞は聞き飽きたから何も言わないでくれ」

 

男子たちにそう肩を竦めながら発した。永琳に振り返ってお辞儀をした。

 

「お邪魔しました。ああ、あのロボットはアザゼルのおじさんに言っておくのでご心配なく」

 

「え、ええ・・・・・わかった」

 

ズルズルと男子たちを引き摺って保健室から去った一誠を見送る。扉が閉まるとしばらく

その扉を見詰め、息を一つ。

 

「変わっている子ですね。兵藤一誠・・・・・少し興味が湧きました」

 

机に置いてあるカルテを手にして目を落とす。そこには様々なデータが記されている。

そして一誠は人間ではなく、ドラゴンだということも。

 

「寝ている間に調べさせてもらいましたが中々どうして・・・・・」

 

意味深に口元を緩ます永琳の心情を知るのは永琳自信である。

 

―――○●○―――

 

放課後、金剛は三人の妹たちと医師に頭を下げて病院を後にしていた。

ようやく意識が戻り、自我も正常になった。本人は何もしていないと言うが

アレがなかったらこの先も妹たちはあのままで自分もきっと一人で頑張っていたかもしれない。

金剛は三人の妹に笑みを浮かべながら一誠に感謝した。

残る問題は妹たちの復学。きっと同じ教室になるかもしれないがもしかすると

別々のクラスになるかもしれない。その時は会いに行ったり来たりして貰えばいいだけだ。

 

「姉さま。私たちの為にお辛いことを・・・・・」

 

「No problem!私は妹たちに、家族のために当然のことをしたまでデース!」

 

「お姉様・・・・・」

 

「サー!妹たちよ、久々に揃った四姉妹なのだからnegativeなことは考えず

positiveになろうじゃないカ!myhomeに戻ったらpartyネ!」

 

「は、はいっ。金剛お姉様・・・・・!」

 

金剛四姉妹。ここに再び集結し明るい未来へと向かうだろう。四人の足取りは

強く地面を踏みながら家に向かって歩むのである。

 

 

一方、オカルト研究部ではリアスは悪魔の家業をしていた最中に突然現れた

サーゼクス・グレモリーから発せられた授業参観という単語に頭を抱えたい気分でいた。

 

「お兄さま。私がいる教室では絶対に静かに立っていてください」

 

「おや、私が大はしゃぎをするとでも?大丈夫だリアス。

愛しい妹の姿をカメラに収めるだけだからね」

 

「それだけはやめてください!授業に集中できず逆に恥を掻いてしまうわ!」

 

「ふふふっ。恥ずかしがるリーアを見るのもまた兄としては愉快だよ」

 

親指を立てて白い歯をキラリと煌めかせ、満面の笑みを浮かべる兄バカがいた。

 

「それに父上も母上も来る。グレモリー家の名に恥じない姿でいないとダメだよリアス」

 

「・・・・・お兄さまとお父さまではなく、お母さまが・・・・・いえ、お母さまも

お母さまで何か言われそうでそれはそれで・・・・・」

 

ブツブツと呟くように発するリアスは次第に溜息を零した。

その様子を成神一成はイザイヤに訊ねていた。

 

「部長のお家族って怖いのか?」

 

「いや、そうじゃないよ。ただ部長にとってはできれば表に出て欲しくないだけかもね。

主に自分が恥ずかしい思いをしたくない程度に」

 

「そうなんだ・・・・・」

 

あんな部長を見るのは初めてだと漏らすところでサーゼクスはとあることを言った。

 

「授業参観と言えば私たちのような親類が来る。ということは一誠くんのご両親も

来るということだよ?」

 

「っ!?」

 

「もしかすると、リアスの授業の様子を見るかもしれない。もしもリアスがお淑やかに

授業を真剣に学ぶ姿ではなかったら一誠くんのご両親に笑われるではないかな?」

 

悪魔の囁きで一誠の両親と言うキーワードがリアスの考えを改めさせられる。

失敗は許されない。必ず成功しないとダメだと何かに対して燃えあがったのだった。

 



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エピソード18

兵藤邸の地下にて激しくぶつかり合い火花が飛び散るほど剣と剣が振られ、

切磋琢磨をしている五人の少女と一人の少年がいた。

 

エクス(約束された)―――」

 

少年が輝かす剣を見て金髪の少女が素早く動き旗を振るうと光の膜が自分も含め

仲間たちを包みこんで防御態勢に入った。さらにはその中でヴァイオリンみたいな盾を

持つ銀髪の少女も盾を構えている最中、

 

カリバ(勝利の剣)ァッ!」

 

五人の少女たちに向かって振り下ろされた極光の剣から放たれる斬撃波。

既に防御態勢の少女たちに伸びて問答無用な攻撃が直撃したのだった。

 

 

「ルーラーの神器(セイクリッド・ギア)。凄いな、まさか半分ぐらいの出力で放った

エクスカリバーの力を受け止めるなんて」

 

「あんな大技を出されたら必死になりますよ!」

 

「でも、次は全力で放っても大丈夫そうだな」

 

「先輩って意外と鬼ですね。あの攻撃の全力って言ったらライザー・フェニックスの

時はどのぐらいだったんですか?」

 

「全力だけど?」

 

模擬戦を終えてしばしの休憩をしているのは一誠と五人の教会組。

イリナたちに剣の稽古をしているのである。

 

「一誠くん、私的にはもっと普通に戦って欲しいんだけど」

 

「ダメダメ。稽古や修行に手を抜いたら強くなれないぞ」

 

「うん、師匠の言う通りだな」

 

「私、いつか死んじゃうわ。この稽古で」

 

「そうか?私は自分の為にもなるからゼノヴィアに同意するが」

 

「リーズ先輩。もう少しだけ妥協してもらいましょうよ。

ボクも冷や冷やしてどうしようもないんですってば」

 

ワイワイと地下で話し合う六人。地下は二階まであり、修行や稽古用の空間、(温水)

プールの空間が存在する。

 

「イリナたちは人間だから何らかの神器(セイクリッド・ギア)がありそうなんだけどな」

 

「あってもなくても私たちはこの聖剣で十分事が足りますけどね」

 

「そうね!」

 

「でも、聖剣を奪われたらルーラやゼノヴィアみたいには戦えないだろう?

リーズは盾があるから問題ないけど」

 

指摘された二人は「「うっ」」と事実を突き付けられてしまい、ぐうの音も言えなかった。

 

「いっそのこと、体術でも学んだ方がいいんじゃない?こう拳に聖なるオーラを纏って

打撃を与えるとかさ」

 

「ストラーダ猊下みたいな身体になれって言うの一誠くんは!?」

 

愕然と絶叫するイリナ。

 

「いや、イリナがストラーダ先生みたいになったら俺だって嫌だわ。

そうじゃなくて聖剣を使えるんだから身体に流れる聖なるオーラだって

コントロールできるはずだろう?」

 

「む、それはまぁ可能なことだが打撃より斬撃でこうズバッとダメージを与えは方が良いだろう?」

 

リーズが身体で表現する。ゼノヴィアも同意だとばかり頷くので一誠は首を捻る。

 

「確かにそうだけど、攻撃ができる手段が増えるといろいろと便利だぞ?」

 

「うーん、それはそうですけど私たち拳で戦うようなタイプじゃないですよ?」

 

「ルーラーの言うことは尤もだし、俺だって承知の上で言っているんだ。

でも、悪魔に対しては効率が良いと思うぞ。相手の虚を突くことだってできるし」

 

「師匠の言いたいことは分かるが、それはいま直ぐに学ぶ必要はないだろう?

今はこの聖剣とデュランダルで十分さ」

 

そんなこんなで戦い方、自分のスタイルの事で話しは盛り上がったのだった。

そして、地上のリビングキッチンでは通信式魔方陣でリーラは誠と一香と連絡していた。

 

『授業参観か。勿論行かせてもらうぜ』

 

「そうですか」

 

『私はともかく、誠は兵藤家と会うと一悶着が起きそうね』

 

「一香さまはどうなのですか?」

 

『私も行くわよ?でも、式森の人たちと出会うとどうなるかわからないけど』

 

どちらも不安要素を抱いている。それでも授業参観を参加しにやってくるのだから親子愛だろう。

 

『他に友達を連れて来ようかな。きっと一誠は驚くぞ』

 

「友達ですか。それはどちらさまで?」

 

『それは当日までお楽しみだ』

 

悪戯小僧みたく、笑みを浮かべたまま誠の姿を写し出していた立体映像の魔方陣が消失。

一香の姿を映し出す魔方陣も一拍遅れて消えた。

 

「一悶着・・・・・確かにその可能性は大きいですね」

 

意味深に漏らし、リーラはメイドとしての仕事をするのだった。

 

 

 

式森和樹は式森家次期当主の立場にいる。両親は二人とも式森家の者、

父親は式森数馬、母親は式森七海。二人の両親を尊敬し、何時しか一人の魔法使いとして

超えたい存在でもあった。そんな両親から授業参観のことで一人のメイドと二人暮らしの

生活をしている和樹に通信式魔方陣で連絡をしてきたのだった。

 

『ばっちりお前の様子を記録してやるからな』

 

「もうそんな歳じゃないんだから止めて欲しいんだけど」

 

『なにを言っているのよ。自慢の息子の晴姿に記録しないで親が務まらないじゃない』

 

何の晴姿なのかこの際ツッコミを入れない。言っても変わるわけがないのだから。

 

『シンシアと二人暮らし、学校生活もどうだ?』

 

「うん、助かってるよ。学校生活は去年より賑やかになってるし」

 

『そうか、楽しんでいるならお前を送り込んだ甲斐があるというものだ』

 

「ただ、兵藤家の同年代が粗暴で身勝手な言動が多々見受けれるから安心できないや」

 

『・・・・・そう、兵藤家の方は苦労しているのね』

 

他人事ではないと七海が声のトーンを落とす。和樹も当主となる男で、どうにかしたいと思う。

最近、兵藤家の同年代が接触してきているという話も聞く。

式森家の魔法を悪用する気ならば、こちらとて対処せざるを得ないのだ。

―――同じ兵藤なのに、なにが気に食わないのか身内を攻撃するあの兵藤一誠のように。

ふと一誠のことを思い出した。

 

「そういえばさ、最近気になる男がいるんだ」

 

『『・・・・・』』

 

何故か自分の両親は沈黙した。自分は何かおかしいことを言ったのか?

いや、言った覚えはないと自己完結した時。

 

 

 

『『息子がホモになりかけているうううううううううっ!?』』

 

 

 

目が飛び出す程、仰天した和樹の両親。そのあまりにも言い草に和樹も自分の発言は

失言であることを改めて気付き、大袈裟に驚く自分の両親に異議を唱えた。

 

「ちょっと待ってよ!?どうして二人の思考がそっちにいっちゃうの!

バカでしょ、ねえ、バカでしょっ!?」

 

『親に対して馬鹿とはなんだバカとは!バカと言った奴がバカなんだと知らないのか!

バーカバーカ!』

 

「アンタは子供か!?ええい、僕が言いたいのは兵藤なのに魔法を使っていることなんだよ!」

 

親子三人の口喧嘩もとい、コミュニケーションを眼鏡を掛けている長い銀髪にメイド服を

身に包んでいる女性が「またか」と風に呆れ顔で息を殺して溜息を吐いた。

すると、数馬と七海は怪訝そうにオウム返しをした。

 

『兵藤が魔法を?』

 

『それ、本当?』

 

その問いかけに和樹は肯定と頷く。

 

「うん、ほら二人も見たと思うけどライザー・フェニックスと兵藤一誠のレーティング

ゲームでも確認しているよ。錬金でバトルフィールドを水に換えているところもね」

 

『・・・・・あの子か。ああ、確かにこちらでも見ていたさ』

 

『あの子が、兵藤が魔法を・・・・・』

 

「こっちでも調べて見たんだけど、母親は式森なんだって。二人とも何か知ってる?」

 

伺うように訊く和樹に数馬と七海は再び沈黙した。それは肯定とも意味を取れる。

 

「父さん、母さん?」

 

『・・・・・母親が式森・・・・・ああ、あの人に間違いないな』

 

『・・・・・』

 

和樹にとって久し振りに見た真剣な顔をする両親。何か因縁でもあるのかと考え、

訊ねようと口を開いた。

 

『和樹、兵藤一誠と言う子供と接したか?』

 

「え?うん、まぁ・・・・・魔導元帥ゼルレッチの自筆の魔法の本を持っているし」

 

『・・・・・なんだそりゃ!?そんな超貴重な本を持っているのか!』

 

やっぱりこの人も一人の魔法使いだなと和樹は、その驚きっぷりに同感と心の中で頷いた。

数馬は咳をし、気を取り直して和樹にこう言った。

 

『和樹、あの子は言っちゃあ何だが―――はぐれだよ』

 

「・・・・・はぐれ?」

 

『兵藤家の者でもない、式森家でもない中途半端な存在だ』

 

数馬から意外な言葉を聞き、驚きの色を浮かべた。はぐれとは相手を蔑む言葉でもある。

それを尊敬する父親が口から発するなんて信じられなかった。

 

『いや、それ以前におかしい。兵藤家と式森家の力は相反するものだ。

一つの身体に相反する力を収めるのは死の意味をするのに

どうして魔法を使える・・・・・』

 

「―――――」

 

それは知らなかった。和樹は初めて聞く兵藤家と式森家の力。ただ単純に気が長けたり

魔法が長けていたりしている一族だからと思っていた。

なのにまるで元々は一つだったような言い方をするのだ。七海は数馬が自分の発言に

気付いていないことを悟り静かな焦りを―――。

 

『あなた、それは―――!』

 

『っ!』

 

今更ながら自分の発言は重大な事を漏らしていることを気付き、和樹にこの事を誰にも

言うなと釘を刺した。

 

「(兵藤一誠・・・・・・キミは一体、何者なんだい)」

 

―――○●○―――

 

そして、授業参観日の日がやってきた。小中高一貫の学校に大勢の父兄がやって来ては

自分の息子と娘の授業の様子を見にそれぞれ子供がいるクラスへと足を運ぶ。

 

「我が愛しい娘よ!お父さんが愛しいイリナの姿を撮りに来たぞぉっ!」

 

「ネリネちゃん!リコリスちゃん!パパもバッチリ撮ってあげるからねぇっ!」

 

「シアァッ!他の娘共に負けるんじゃねぇぞ!

 

高々に声を挙げて娘の名を発する男性もいたことを、名を挙げられた座っている

女の子が羞恥心でプルプルと身体を震わせ、何かを堪えていた。

 

「うううっ・・・・・主よ、これも私に対する試練なのですかぁ・・・・・?

これはあまりにも堪え難いです!」

 

「・・・・・頑張れ、イリナ」

 

応援するしかできない一誠。クラスメートの女子たちも同情や憐みの視線を向けている。

 

「お姉さま!私たちは静かに応援していますので頑張ってください!」

 

「HYE!私の妹たちよ、私の勇士を見ていてくださいネ!」

 

極一部だけ、完全に受け入れている。あれぐらいのポジティブがあれば恥ずかしがる

ことはなかっただろう。そんな一誠も例外ではなかった。

 

「一誠!初めての授業参観だからって緊張しちゃダメよー!」

 

「しっかり見守っているからなぁー!」

 

ゴンッ!

 

机に強く頭を振り下ろし、額をぶつけた一誠も羞恥心で心が一杯になった。

同士が直ぐ傍にいることでイリナは強気になった。

 

「一誠くん、お互いこの状況を乗り越えましょうっ」

 

「ああ、幼馴染がいれば怖いものなんてないっ」

 

「そうよ、その意気よ一誠くん!ああ、アーメン!」

 

「アーメン!」

 

絶対に乗り越えて見せると固く誓った。女子しかいないこの教室に授業参観が始まる

時間となると教師が教室に入って来て、堂々と授業を始めた。

 

「えー、国語の授業を始めたいと思います。まず皆には絵を書いてもらいます」

 

―――国語なのにどうして絵を描くことになるんだ?クラスメートの疑問が一致した。

 

「ただ絵を描くんじゃありません。絵に表現力がなければ意味がない。

これは文章を書くときだってとても大切なことなんです」

 

国語の教師がそう説明をする。表現力がテーマなら納得できないわけではない。

ただし、どんな絵を描けばいいのか分からないでいる一誠たちに教師はこう言った。

 

「絵は自由に。皆の手元に画用紙を配りますので色鉛筆を使って画いてください」

 

前から画用紙を受け取った瞬間、本格的に授業が始まった。

 

「お父さんとお母さんもどうぞ、絵を書いている様子を近づいて御覧なさっても良いですよ」

 

マジでか、余計なことを!と教師に心の中で愚痴る一誠の傍には早速、誠が寄ってきた。

 

「よう、久し振りだな我が息子よ」

 

「・・・・・父さん、授業参観ってこんなに恥ずかしい気分を感じるもんなんだね」

 

「はははっ、なにを言っているんだ一誠。俺は楽しいぞ?」

 

だったら息子と父親の立場を入れ替わってこの状況を感じて欲しいと切に願った。

一香はオーフィスのところに行っていて誠共々しばらくすれば咲夜やヴァレリーの方まで

平等で見に行く。

 

「お、お父さんっ。そんな、カメラを向けたままこっちを見ないで欲しいっす」

 

「なーに言ってんだ。娘の姿を撮らないで父親が務まるか!」

 

「お父さま、そのお恥ずかしいです」

 

「ううう・・・・・天界からの新たな拷問なのぉ・・・・・?」

 

お姫さまたちも苦労している様子だった。というか、理事長としての仕事はどうしたんだろう?

 

「「サボった」」

 

「人の心を読まないでくれ・・・・・」

 

しばらくすると、次々と絵を完成した女子たちが現れ、絵のテーマも言わされる。

一誠自身も絵を書き終えてクラスメートの前で発表する。

「家族と桜の木の下で集う」と発表した―――。

授業参観は程なくして順調に進み、大声で応援してくる両親たちに羞恥心を抱きつつ

昼食タイムまで頑張った。

 

「恥ずかしい、恥ずかしい・・・・・」

 

「授業参観ってこんなに精神が削るものだったとは・・・・・」

 

「もう、授業参観は嫌ぁ・・・・・」

 

親がいる面々は哀愁を漂わせて落胆していたほど。当の親たちは自分たちの

子供の晴姿にあーだーこーだと話し合って楽しそうに会話を弾ませている。

 

「おーい、何時までも恥ずかしがっているんじゃない。飯を食べに行くぞー」

 

「・・・・・今頃学食は満員だと思うけど」

 

「お前たちの部室で食べれば問題ないだろう?」

 

何時の間に部活をしていることを知ったのだろうか、と一誠は思うがリーラが報告を

したのだろう。

 

「サーゼクスとサーゼクスのご家族とも一緒に食べる約束をしているんだ。ほら、行くぞ」

 

何だか自分の子とみたいに楽しそうにしている。パチュリーや金剛と別れて廊下に出た。

 

「あっ」

 

「ん、和樹・・・・・とその家族か?」

 

「うん、そうだよ。丁度良かった」

 

バッタリ廊下に出くわす和樹と一誠。和樹の背後には数馬と七海が佇んでいて―――。

 

「「・・・・・」」

 

「・・・・・」

 

式森数馬と式森七海、兵藤一香が意味深な視線を交差する。

 

「式森・・・・・懐かしい一族と再会できたわね」

 

「・・・・・あなたが我らを捨て野に下ったことには未だに理解できません」

 

「捨てたわけじゃないのだけれど、そう思うのならご自由に。

私は家の事より愛を選んだ今ではただの一般人なのだから」

 

顔色を変えず述べた一香を数馬は険しい顔で問うた。

 

「その一般人がとんでもない子供を産んでしまったのを自覚をなさられていないのですか?

いつ、力が相反し逆流をして周囲を巻き込むことも考えずに」

 

「おっと、俺たちの息子はそんなヤワじゃないぜ式森。いや、俺の義弟くん」

 

「「えっ?」」

 

一誠と和樹が驚きの声を漏らした。

 

「お父さん、義弟って?」

 

「この式森数馬は一香の弟なんだ。だから一香と結婚した俺にとっては

義理の弟のようなもんだよ」

 

「誰が義弟かっ。俺は認めないぞ!」

 

数馬が吠えた。

 

「お前のせいで式森家は混乱に陥った。姉の代わりに俺が当主としてなったから何とか

治まったが、お前と姉は兵藤家と式森家が誕生して以来の一族の恥だ!」

 

「一族のこと、家のことも大事だが俺は後悔していない。好きな女と結ばれ、

世界をこの目で見てこの足で歩き回ったことで知ったんだ。兵藤家なんて式森家なんて

一族はちっぽけな存在だってな」

 

「―――――っ」

 

数馬から怒りを感じ、一誠は黒と紫が入り混じった籠手を具現化し装着した。

 

「その必要はない」

 

一誠を見ずに誠は言った。静かに籠手を解いて四人の様子を見守る姿勢に戻ったら、

 

「今俺たちが喧嘩腰になってもしょうがない。今日は授業参観日なんだ。

この成長を見守るのが親の務めだろう?一人の親としては分かっているはずだが?」

 

「・・・・・」

 

誠と数馬の間に静寂が生じたが、七海の促しに数馬は踵を返した。

 

「死んでも俺はお前を許す気はない」

 

「今度腹を割って喧嘩でもしような。負けるつもりはないけどよ」

 

「・・・・・」

 

一香を一瞥する数馬。一香はその視線に気付くが何も口にせず和樹と一緒に去る数馬と

七海を見送るだけだった。

 

「・・・・・父さんと母さんって大変だったの?一緒になるのに」

 

「お前が気にするよーなことじゃないって。もう終わったんだからな」

 

「今は、今を大事に生きれるならそれでいいのよ私たちは」

 

優しく一誠にそう話しかける。自分が生まれる前の頃にどんな波乱万丈なことが

起きていたのか、一誠は知る由もない上に聞けそうになかった。

 

「一誠くん、イリナのことをよろしく頼む。どうか幸せにしてくれ」

 

「おっと待ちな!うちのシアにも幸せにしてくれねェとダメだからな坊主!」

 

「私の愛娘たちもだよ一誠ちゃん!」

 

昼食時、親公認の結婚前提の付き合いを求められては四人の娘たちは顔を真っ赤にし、

一誠を困惑させたのは別の話である。

 

 

 

「・・・・・七海」

 

「あなた?」

 

「あの兵藤一誠と言う子供。式森の血をも受け継いでいるんだよな」

 

「・・・・・それがどうしたというのですか?」

 

「あの子の瞳を見て気付いたよ。顔に出さなかったが驚いた。―――あの子は人間じゃない」

 

「っ!?」

 

「悪魔でも堕天使でも天使でもない。なら他の種族の肉体なら反する力を

抑え込むことが可能とすれば納得はできる。

有り得ない話だがそれはドラゴンでもそうじゃないか?」

 

「ドラゴン・・・・・あなた、まさか・・・・・」

 

「あの男や俺の姉は確実に何かを知っていて、自分の息子の様子を見守っている。

式森家当主としては見過ごせないことかもしれないが、敢えて何も見なかったことにする」

 

 

 

授業参観が終わり兵藤邸で大の大人たちが酒を交わし合い、酔っ払い、今日撮影した

映像をテレビに映しては自慢げに語る。そんな大人たちの子供たちはと言うと隅っこで

肩を寄せ合い、恥ずかしげに身を縮みこませている。早くこの時が終われとばかり祈り続けるが、

 

『見てください、うちのリーアたんが先生に指されました』

 

『見よ!これが俺の息子が書いた傑作の一品!』

 

『シアは歴史という授業が苦手でな。

今回もわからないと恥ずかしげに言ったところがまた可愛いじゃねぇかっ!』

 

『ネリネちゃんもリコリスちゃんも可愛いね!』

 

『マイエンジェルはどうも国語が苦手で、だが結婚と言う国語だけは分かるのですよ!』

 

豪語に語るのだった親たちは。

 

「悪夢だわ・・・・・」

 

「もう授業参観なんて嫌だ・・・・・」

 

一誠とリアスはそう漏らし、逆に恥ずかしい思いをしていない面々は苦笑を浮かべたり、

呆れたりしていた。大人たちの打ち上げパーティはヒートアップしたところで

魔王フォーベシイが一誠たちにある話を持ち上げた。

 

「そうそう、トップ会談をやる日が決まったよ。明日だ」

 

『・・・・・はい?』



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エピソード19

「さぁ、いよいよ決行の時だがさてはてどんな結果となろうかな?」

 

「もう分かり切っていることじゃないか。だが、少なからず相手の情報を得られる」

 

「だな。それで、彼と彼女は?」

 

「『剣士として我慢はできない』。それだけ言っておく」

 

「血気盛んな奴らだ。だが―――私も分からなくはない。なぁ?私の友よ。お前はどう戦うかな?」

 

 

 

 

トップ会談。

 

コカビエルの一件で三大勢力のトップが集うシンプルな話。それに関わった者たちも

同席することとなり、深夜の時間帯で行われる。とある広い装飾が凝っている

部屋の中に魔王フォーベシイ、神王ユーストマ、堕天使の総督アザゼルが当然のように

テーブルを挟むようにし座っている。

 

そしてこの場に一人の人間も同席していた。一誠はおろか、リアスたちグレモリー眷属や

シトリー眷属、サイラオーグすら知らない人間だ。

さらに学校の外ではトップ同士の会談というだけあって悪魔、天使、堕天使の軍勢が

地上や空中に厳重な警備をしている。

その中で三大勢力のトップ同士が顔を突き合いだして会談をしようと考えているのだ。

 

「んじゃ、会談をしようじゃねぇーの?」

 

アザゼルが開口一番に不敵の表情で面々に言った。フォーベシイやユーストマは頷く。

 

「だな。とは言っても。話すことはあんまりないんじゃないか?」

 

「コカビエルの件についてはアザゼルちゃんの監督不届きだってことは

分かっているからね。コカビエルは今は?」

 

「本来は俺直々にコキュートスの刑を執行するつもりだがよ。

どこかの甘ちゃんがまた戦いたいからよろしくとヴァーリに言ったらしくてな。

俺が開発した堕天使の力を人間並みにまで封じた道具を首に付けて監視のもとで以前と

変わらない生活を送らせてやってるよ」

 

「おやおや、それは心優しい子がいたもんだ」

 

「見当はついているがな」

 

明らかな意味深の会話は一誠が心中苦笑いをさせるのに十分だった。それから―――。

 

「関係は今のままでいいだろう?てか、あの二人はまだ来ていないのか」

 

「同席を拒否されたよ。まぁ、私たちだけでも問題ないということなのだろうけど」

 

「今更この場で戦争を起こそうなんて気はないしな。

アザ坊の言う通り。三大勢力は現状維持、または正式に和平を結ぼうぜ?」

 

「俺の楽しみを邪魔しなければ何だっていいさ。ちょっくら迷惑を掛けると思うがな」

 

「度が過ぎなければ別にいいよ」

 

「さて」とフォーベシイは静かに座っている男に振り返った。

 

「キミはどう思うかね―――八重垣正臣ちゃん?」

 

八重垣正臣。それが男の名前であると一誠たちは知った。正臣は重たげに口を開いた。

 

「私は彼女と一緒にこの町を見守っているだけに過ぎません。

今の私がどうこうと魔王や神王さま、堕天使の総督に進言をしても意味がない」

 

この会談に関心がないのか、関わろうとしないのか分からないがそう言うだけ言って

口を閉ざしたところで問われた。

 

「・・・・・彼女はどうしているかな?」

 

「元気ですよ。娘と家の中にいます」

 

「・・・・・そうか」

 

フォーベシイとユーストマと正臣とはどんな関係なのだろうか。気を掛けているようにも見える。

友達・・・・・いや、それよりも何か深い関係?何かしらの関係があるようだが、今は

そんな事を気にしている暇はなさそうだ。

 

「さて、場は和平を結ぶことで一致した訳だ。俺たち意外、第三者からも質問するか。

世界の力の均衡を大きく崩すことができる―――天龍、現白龍皇のヴァーリと真龍と龍神の

力を有する兵藤一誠にな」

 

『―――――っ!?』

 

場がざわめきだす。主に―――一誠の本当の正体を知らない者たちがそうする。

 

「真龍と龍神の力を有している・・・・・だと?」

 

「一誠くんがそんな・・・・・」

 

ルーラーを除いた教会組のイリナたちすら驚いていた。ポリポリと頬を掻く一誠は

アザゼルに向かって口を開いた。

 

「場の流れで俺の事を言わないでくれよアザゼルのおじさん」

 

「場の空気を読むことが重要なんだぞ?それを把握しないと空気が読めない奴だと

思われちまうぜ」

 

「・・・・・俺とヴァーリにどんな質問をするんだ?」

 

話を進ませればアザゼルは言った。

 

「この世界をどうしたい?」

 

それが二人に対する質問。ヴァーリと一誠は互いに顔を向け合い、

視線を交えるとアザゼルの問いに答えた。

 

「世界がどうなろうと私は関係ない。一誠の傍にいられるなら、強者と戦えるならそれでいい」

 

「俺もヴァーリと似た感じかな。特に兵藤家はどうでもいい」

 

と、二人は答えたのだった。つまらなさそうに息を零し、こうアザゼルは言った。

 

「だいたい予想していた答えを言いやがったなお前ら。

特に一誠、お前は兵藤家はどうでもいいというがあの一族は一応重要な立場でいるんだぞ?」

 

「知っているだろう?俺と同年代の奴らが学校で何をしているのか。

あんな奴らがこの国を支配するなんて考えるともう色々とダメだろう。

社会的にも人間としてもさ」

 

「・・・・・お前、メイドみたいになってねぇーか?その毒舌が特にだ」

 

「ありのままの事実を言っただけだよ」

 

嫌そうな顔を浮かべるアザゼルへ朗らかに言った。

 

「一誠ちゃん、今でも兵藤家が嫌いかな?」

 

「俺と親しく接したお爺ちゃんやお姉さん、悠璃や楼羅を除いてね」

 

「今の力で兵藤家を潰そうなんて考えているのか?」

 

「嫌いだけであってそこまでするほど恨んでも憎んでもない。

ただの仕返しをしたいだけだよ俺は。いまならできそうだけどな」

 

喉の奥から笑みの声を零し、アザゼル達を何とも言い難い気持ちをさせる。

 

「坊主が兵藤家の当主としてなってくれれば万々歳何だがな」

 

「なんで?」

 

「親しい者同士と仲良く末長く付き合いたいじゃないか。

誠ちゃんも一香ちゃんもそうしているようにね」

 

言いたいことが分かった。ユーストマとフォーベシイは違う勢力同士の壁を通り越して

仲良くしているように、兵藤家もできれば仲良くしたいのだろう。

 

「・・・・・兵藤一誠くん」

 

正臣の視線が一誠に向けられる。その意味深な視線を向けられる一誠は「ん?」と首を捻った。

 

「キミのご両親には深く感謝の念を抱いている」

 

「はぁ・・・・・」

 

何の事だかさっぱり分からないが、誠と一香のことだから自分の知らないところで

色んな事をしていたのだろう。誰かと喧嘩したりしては救ったりして、

はたまた何かを発見したりしてとそんなことを世界中に旅をしながらだ。

きっとイレギュラーなことも体験したはずだ。―――そう。

 

 

一誠にとって初めての感覚に襲われることもだ。

 

 

「・・・・・ん?」

 

「普通にいやがるなお前。初めての体験だったろうによ」

 

意識を若干呆れ気味なアザゼルに向けた。だが、先ほどとは打って変わって状況が変わっている。

一部の者がそのままの姿勢、表情で動かずにいるのだ。正常と言えるべきか一誠と

ヴァーリ、フォーベシイ、ユーストマ、アザゼルは普通に動いている。

 

「どうなってんの?」

 

「テロ攻撃を受けているんだよ」

 

テロ攻撃。いきなり何を言い出すんだと思うが、外から悪魔でも堕天使でも天使でもない

別の数多の気配を感じるためまさにその通りなのだろう。

 

「皆の状態は?」

 

「簡単に言えば停止されてんだ」

 

「停止?」

 

「『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』。

リアスの『僧侶(ビショップ)』が所有する神器(セイクリッド・ギア)だよ」

 

―――リアスにはすでに僧侶(ビショップ)の眷属悪魔がいるにゃん。

 

黒歌が言っていたリアスの眷属悪魔のことを思い出す。

 

「どうしてここにいない?」

 

「今の彼女ではコントロールができない時を司る神器(セイクリッド・ギア)の下僕を

任されないでいるんだ」

 

「コントロールができないって・・・・・・」

 

「無意識に周囲を停止させるなど危険極まりないからね。

彼女がもう少し成長した頃には封印を解く予定だったのだが」

 

「どうやら奴さんはそこを突いて、何らかの方法で禁手(バランス・ブレイカー)状態に

したんだろうよ。大方強制的にな」

 

現状動けるものは少ない。攻撃を受けているが学校への被害は出ていない。

アザゼルが軽く光の槍で迎撃するが一行に攻撃の手が止まることがない。

 

「リアスたちはどうすれば動く?」

 

「捕まっているリアスの劵族悪魔を奪還しないと無理だ。

神器(セイクリッド・ギア)の能力で停められているんだからよ」

 

「能力・・・・・?それって異能でもある?」

 

「あ?まぁ、似たようなもんだがそれがなんだ?」

 

今さらな質問をされ怪訝になるアザゼル。一誠は籠手を装着してリアスの頭に触れた瞬間。

 

「・・・・・?」

 

停止されていたリアスが、目の前にいる一誠が自分の頭にどうして手を置いているのか

不思議そうに目をパチクリしていた。

 

「一誠、その籠手は」

 

「能力や異能ならゾラードの力で無効化にできる。聞いていて試したけど効果は抜群だな」

 

「なるほどな。世界中修業してきた甲斐があったわけだ」

 

笑みを浮かべるアザゼルを他所に次々と停止されている面々に触れて能力を解いた時に

一つの魔方陣が出現した。その魔方陣はフォーベシイが静かに目を張ったほど。

 

「まさか、どうして・・・・・」

 

魔方陣から光と共に眼鏡を掛けた女性が現れた。

 

「ごきげんよう魔王フォーベシイ」

 

「カテレア・・・・・何故だ?」

 

「現在の冥界は良い意味でも悪い意味でも変わってしまった。敵対していた勢力と

手を結ぼうなどそんなことあってはならない。あなたは最高の魔王でしたが同時に愚かな魔王。

今倒すべき敵を倒さずどうするのですか」

 

「・・・・・あの時の戦いで私たち悪魔は数多くの同胞を失い、

私と同じ魔王であり友を失った。これ以上失うことが起きればそれこそ悪魔と言う種が

滅んでしまう。それだけはなんとしてでも回避しなければならない」

 

「それでもなおも、私たちが戦わなければならない理由があった。世界の覇権を巡った

戦争が高が人間によって終止符を打たれるなど我らはそんな弱くないはずがない!」

 

「人間は私たちの糧でもある。堕天使も天使、神もまたそうだ。

人間なくして我らは存続はできない。彼ら極一部の人間の提案にこの場にいる私たちは

心から賛同して今現在の形となっているのだ。だから堂々と人間界を闊歩することができ、

種の滅亡も完全に回避できたのだ。今でもこう思う時もあるよカテレア。

―――数千年も前からこうしていれば戦争など、しなくて済み掛け替えのないものだって

失わずに済んでいたはずと」

 

なぜだろうか・・・・・普段のフォーベシイとはまた違うフォーベシイを見た気がする。

一人の親としてではない、一人の魔王としてのフォーベシイを初めて見た気がしてならない。

過去に起きた戦争は習っているから分かっている。実際に戦場に立って悪魔たちを

率いていた一人だったフォーベシイの言葉は重みを感じさせる。

 

「カテレア。表にいる襲撃者たちと関わりがあると思っていいのだね?」

 

「ええ、ここであなたや神王、堕天使の総督の誰か一人でも倒せばあのお方の願いも

叶うでしょうし」

 

「あのお方?誰のことか説明してもらおうか」

 

「そいつは俺が説明してやる」

 

ここにきてアザゼルが口を開く。

 

「カテレア・レヴィアタン。現魔王の妹で戦争の維持を唱えたが為に冥界の隅に追いやられた

元魔王の後継者の一人だった悪魔。いま、お前さんが所属している組織の背景と

名前ぐらいは分かっているぜ?そしてバックに何かがいることもな」

 

「アザ坊。そいつは誰なんだ?」

 

「急かすなユーストマ。おい、一誠。お前なら知っているはずだぜ。

なんせ会ったことがある奴なんだからな」

 

「・・・・・会ったことがある?」

 

首を傾げ、今まで出会ってきた者たちの顔を脳裏に浮かべる。

 

「んー?」

 

「って、分かるわけないか。それよりもこの状況を打破することが優先だな。

おいフォーベシイ、ヤッっちゃっていいのか?」

 

一応の確認を取るアザゼルに対し、フォーベシイは最終警告とばかり静かに訊ねた。

 

「カテレア、私たちに牙を剥くというんだね?」

 

「あなたを倒し、現魔王レヴィアタンを倒した暁には私が新たな魔王となり

新しい世界を作りかえるのです」

 

「・・・・・キミの気持ちは分かった。アザゼルちゃん」

 

刹那。天井が吹き飛び、アザゼルとカテレアが外に飛び出した。

 

「魔王さま、これは一体・・・・・」

 

「現在、見ての通り俺たちは襲撃に遭っている。嬢ちゃん、お前の眷属悪魔を

利用されている状態でな」

 

「・・・・・まさかっ」

 

「停止していたキミたちを一誠ちゃんが解いてくれた。

しかし、また停止される可能性は大きい。魔王として命ずるよ。

キミたちグレモリー眷属とリアス・グレモリーは捕まっている仲間を救いに行くといい。

ここは私たちだけで十分だ」

 

魔王として命令したフォーベシイにリアスとグレモリー眷属たちは真剣な面持ちで頷いた。

 

「部室には未使用の戦車(ルーク)がございます」

 

「なるほど、キャスリングか。それなら一誠ちゃん、キミの魔力をちょっとばかし借りて良いかな?」

 

「ん、いいよ」

 

一誠の魔力を借りての転移。リアスとリアスの下僕たちは一つの赤い戦車(ルーク)の駒と

入れ代るようにこの場から姿を消した。

 

「さて、俺たちも襲撃してくる奴らを潰しに掛かるか」

 

「久々の運動だねぇ。まさか神ちゃんと共闘だなんて天龍の時以来だよ」

 

「だっはっはっ!おう、そうだなまー坊!」

 

護衛?なにそれ、美味しいもの?そんな感じに二人は襲撃者たちのもとへ飛びだして

行ったのだった。

 

「・・・・・あの二人、一応王さまなんだよな?」

 

「・・・・・止めなくて良いんですか?」

 

「できるならやっていたと思う」

 

轟音が聞こえてきた。あの二人の手に掛かれば襲撃者は赤子当然なのだろう。

 

「俺たち、どう動こうか?」

 

「決まっています。学び舎を襲撃する輩を倒すのです」

 

ソーナが真っ直ぐ一誠の問いを答えた。ですよねーと気の抜けた返事をした。

正臣の護衛としてサイラオーグを残し、他の面々は壊れた天井から外へ出た。

外には魔法使いが着ていそうなローブを身に纏っていて、魔方陣を足場にして宙に浮いていた。

 

「おー、もしかして魔法使い?」

 

「そうみたいですね。ですが、式森家よりは強くないかと」

 

「あ、戦った口だな?どうせ負けたんでしょ?どうだった?」

 

「・・・・・さぁ、学び舎を脅かす輩を倒しに行きましょう」

 

はぐらかした。ソーナが飛び出せばそのフォローと艶のある長い黒髪を靡かせながら

眼鏡を掛けた少女は片手に長刀を持って共に駆けだし、イリナたちも行動した結果、

未だに行動していない一誠とヴァーリだけとなった。

 

「そんじゃ、俺たちも行くとしようか」

 

「ああ、そうだね」

 

二人も魔法使いに攻撃しようと話し合い、ヴァーリは鎧を纏い、

一誠はエクスカリバーを手にした。そして―――。

 

 

ガッ!ギィンッ!

 

 

三方向からの攻撃を剣と拳、金色の翼で防いだ一誠だった。

 

「・・・・・ヴァーリ?」

 

「悪いな一誠」

 

白い全身鎧を装着しているヴァーリが一誠に対して謝罪した。

 

「私も一応こっち側でね。一誠の敵なんだ」

 

「―――――っ!?」

 

幼馴染が、一誠に攻撃した。それだけでも一誠の心に多大な衝撃を与えるのだが、

アザゼルのあの言葉が脳裏に浮かぶ。

 

『お前が友達だと思っていた奴が狙う』

 

と―――。ある意味アザゼルの言う通りとなった。

 

「ヴァーリ、なんで・・・・・どうして・・・・・」

 

「一誠、世界中を旅してどうだった?強者はいたんだろう?私も世界中の強者と戦って

みたくなったんだ。だからとある組織に入ることにしたんだ」

 

『すまないな兵藤一誠。こんなことになってしまったが、ヴァーリを許してやってくれ』

 

点滅する青い翼から聞こえる。どこか苦笑いしているような呆れているよう声音だった。

きっと、アルビオンもしょうがない奴だと思っているのかもしれない。

一誠の手の甲に宝玉が浮かぶ。

 

『変わった白龍皇だと思っていたが、まさかそこまでとは思わなかったぞアルビオンよ?』

 

『お前の宿主には負ける』

 

『今回は赤い龍帝じゃなく、赤い龍の神帝の子供だが相手にとっては不足ではないだろう』

 

『今代はイレギュラーなことが多い。だが、それも悪くはないだろう。こういう時もある』

 

「赤龍帝の代わりみたいな形だが一誠。私と宿命の戦いをしようじゃないか」

 

「できれば幼馴染と戦いたくなかったんだけどな」

 

「それに」と一誠はヴァーリから視線を外し、剣を携えている二人組の男女に視線を向けた。

 

「敵はヴァーリだけじゃないみたいだけど誰だろうなお前ら」

 

一つに束ねた金色の髪、赤いレザージャケットにへそ出しの豊満な胸を覆うチューブトップと

腹部に大きな傷跡があり丈がかなり短いジーンズの出で立ちの少女。

手には真紅の剣を持っていた。そしてもう一人は漢服を着込んでいる白髪の優男。

その男が口を開いた。

 

「僕はジーク。彼女はモルドレッドと言う。初めまして、いや、久し振りと言うべきかな兵藤一誠」

 

「ん?どこかで会ったか?」

 

「話しかけたことはないけどね。僕も教会の出身で、ほら、聖剣使いの彼女たちと

一緒だと言えば分かるかな?」

 

「・・・・・そういうことか。で、わざわざ挨拶に来たってことか?」

 

「いや、僕たちはキミと戦いに来た。その第二の聖剣エクスカリバーを持つキミとね」

 

ジークは朗らかに剣の切っ先で一誠を突きつつ発する。

 

「ライザー・フェニックスとの戦いを見させてもらったよ。

あの極光の斬撃、剣士として戦いたくなった。だからモルドレッドと共にここへ来たんだけどね」

 

「オレはそのエクスカリバーを奪う為に来たようなものだがな」

 

と、モルドレッドの目的がエクスカリバーの強奪だった。

 

「そのエクスカリバーがあればオレはあの男に・・・・・っ」

 

何かを呟いていたモルドレッド。一誠には理解できないが、固い決意があるようだった。

一誠は回避できない戦いだと悟り、三対一の戦いを臨もうと―――。

 

「一誠くんになにをしようとしているんですかぁっ!」

 

怒りの炎が剣と具現化してジークとモルドレッドを襲ったのだった。

攻撃した後、ルーラーが一誠の前に移動して守る姿勢になった。

 

「大丈夫ですか一誠くん」

 

「ああ、うん、まだなにもされていなかったからな。ルーラーのおかげで」

 

「そうですか、よかったです」

 

相手はルーラーの攻撃をかわしていたようで無傷で一誠とルーラーと対峙する。

 

「聖剣使いのルーラーか」

 

「あなたは・・・・・なぜここに」

 

「僕がここにいる理由は至極単純、兵藤一誠と剣を交えてみたかったから」

 

「敵として、ですか?」

 

「そうだね。僕は今、ある組織に所属しているから」

 

テロの組織であることは明白だが、アザゼルは何か知っていた様子を思い出し、

後で聞こうと思いつつルーラーとジークの会話のやり取りを静観する。

 

「教会を、天界を裏切ったのですか?」

 

「おや、意外と普通だね。怒るのかと思ったのだけれど」

 

「私も教会を止めて彼の傍に立ちたいと思っているので他人事とは思えませんから」

 

「ふふっ。主に対する信仰や愛よりも異性と共に在りたいという想いが強いのか。それも

またいいんじゃないか?」

 

「賛同してくれてありがとうございます。が、一誠くんの敵は誰であろうと私が許しません」

 

燃え盛る剣を構えるルーラーにジークも構えた。ジークの手には禍々しい

剣が握られているのを把握し、一誠はモルドレッドと対峙する。

 

『主、あの人間の持つ剣には気を付けてください』

 

―――大丈夫、気付いているよ。どんな剣なのかは知らないけど

 

『主が保有する封龍剣と同じ効果があると思っても良いでしょう』

 

メリアと話し終えた直後にモルドレッドが肉薄してくる。剣を振り下ろし一誠の剣と

モルドレッドの剣が衝突し合った。同じくしてルーラーもジークとぶつかり合う。

 

 

 

 

一方、リアスたちはオカルト研究部に無事転移を果たし、捕まっていた僧侶(ビショップ)

救出を完了していた。小柄で金髪、赤い瞳の女子制服を身に包んでいた―――。

 

「この子はギャスパー・ヴラディ。この格好だけど男の子なのよ?」

 

「嘘だぁあああああああああああっ!こんな可愛い女の子が

男なんかあるはずがないんだぁああああああああああっ!」

 

成神一成が真実を受け入れず絶叫するほどの男の娘だった。

 

「あ、あの・・・・・部長、皆さん。こんな迷惑を掛けて役に立たない僕を助けるなんて」

 

「ギャスパー。あなたは私の下僕悪魔。私の眷属悪魔は皆家族のようなもの。

だからあなたも私の家族なのだから助けるのは当然なのだからそんなこと言わないでちょうだい」

 

「で、でも・・・・・」

 

「今の自分が嫌いならあなたは成長しなければならないわ。今私が言えるのはそれだけ。

ギャスパー、自信を持ちなさい?あなたは私の眷属なのだから」

 

優しく諭すリアスはギャスパーの頭を撫でる。

 

「部長、私たちも加勢しに行った方が」

 

「ええ、分かってるわ。一誠が終わらせていればいいのだけれど」

 

力強く頼り甲斐がある自分と同じ色の髪を持つ男の顔を思い浮かべ、

部室を後にし旧校舎から外へ出た途端だった。リアスたちの前に何かが落ちて来て

轟音と共に土煙が発生する。驚き、動揺するリアスたちの視界にアザゼルの姿が捉えた。

 

「アザゼル、あなた・・・・・」

 

「おお、無事に助けたようだな。こっちはこっちで色々と面倒なことになったけどよ」

 

「面倒?あなたという者がなにを言って―――」

 

言いかけた言葉が咽喉につっかえて言えなくなった。アザゼルと戦っていたカテレアの

傍には白龍皇のヴァーリがゆっくりと降りてきたのだ。

 

「―――――まさか」

 

「そのまさかだ。まったく、予想もしないことが立て続けに起きやがる」

 

ヴァーリが敵となっているという事実にリアスたちが驚きの色を浮かばせる。

 

「あなた、イッセーを裏切ったって言うの!?」

 

「リアス・グレモリー。私は彼に裏切ったつもりはない。

ただ単純に、私も世界中の強者と戦って一誠のように強くなってみたいという思いで

こっち側になっただけに過ぎない」

 

「イッセーが敵になったあなたを悲しむと思わないの・・・・・!」

 

「それを言われると心痛むが大丈夫だ。

さきほど別れと再会のキスをどさくさに紛れてしてきたからな」

 

「「んなっ!?」」

 

リアスだけじゃなく朱乃も驚いた。マスク越しに唇を触れて鎧の中で深く笑んだ。

 

「熱く、濃厚に、私と言う存在を心と体に刻みつけてやった。少々手痛いのを食らったけどね」

 

『人間の女の怒りは凄まじいと私も分からされてしまったがな』

 

アルビオンですら付け加えるほどのことを受けたのだろう。だがしかし、ここにも二人ほどいた。

一誠に恋する乙女が二人。

 

「俺もヤキが回ったもんだぜ。あいつに夢中だったから俺が心配するようなことは

ないと思っていたんだけどよ」

 

「悪いなアザゼル」

 

「そう思うならこっちに戻って来いっての」

 

と、悪態付いたアザゼルが何かを察知して飛び退いた瞬間、ヴァーリに赤い閃光がぶつかった。

 

「っ!?」

 

その反動で吹っ飛び、地面を何度もバウンドしていくとようやく止まった。

赤い閃光の正体は一誠かと誰もが思ったのだが―――。その予想を嘲笑うかのように赤い閃光の

正体はカテレアの頭を掴みだすと地面に叩き付けた。

 

「・・・・・このタイミングでこいつも現れるかっ」

 

険しい表情を浮かべるアザゼルが唸る。

 

「赤い龍の帝王・・・・・『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』ドライグを宿す赤龍帝がよ」

 

『なっ・・・・・!』

 

ソレは赤い龍を模した全身鎧。身体の各部分に緑の宝玉が埋め込まれていて

白龍皇アルビオンを宿すヴァーリの鎧姿とは似ている。

 

「赤龍帝と白龍皇・・・・・まさかこんな形で」

 

「ですが、敵ではないようですわ」

 

「それでも警戒するに越したことじゃねぇわな」

 

カテレアが一撃で倒された。赤龍帝はカテレアを掴み上げ、顔を一瞥するとゴミのように

旧校舎の方へ投げ放った。

 

「おい」

 

アザゼルが赤龍帝を呼び意識を向けさせた。

 

「ここで宿命のバトルをするって言うならそうはさせる気はないぞ」

 

光の槍を具現化し、常闇のような十二枚の黒い翼を生やすアザゼルを赤龍帝は手の平に

赤い魔力の塊を作り出したと思えば、ソレを未だにいる襲撃者たちに散弾丸の如く

放って倒していく。その行為は味方であると示すのであるものの、

アザゼルたちは安心できずにいる。

この後、赤龍帝はどんな行動を移すのか把握できないからだ。

しばらくして砲撃を止めるとアザゼルたちに振り返る。

 

「大丈夫か?」

 

「・・・・・なんだと?」

 

「俺が心配しているんだ。答えろよ」

 

鎧越しから聞こえる男の声。訝しい気持ちで一杯だが、肯定の言葉を発する。

 

「お前、どうしてここにいる」

 

「その理由を言うと思っているのか?」

 

「このタイミングで現れる方が気にならないってのは無理な話だ。

なにを企んでやがる現赤龍帝」

 

「雑魚の親玉に赤龍帝の俺が言うと思ってんの?」

 

見下す態度をする赤龍帝に先ほどの仕返しだとばかりどこからか魔力弾が放たれてきた。

迫りくる魔力弾を容易くかわし、そのままリアスたちのところまで向かって行った。

 

「部長!」

 

朱乃が防御式魔方陣を展開して魔力弾を防いだ。

 

「・・・・・敵でもなければ味方でもないってか。面倒な奴と出会ったよ」

 

「俺は俺の好きなようにするだけだ。強者は絶対、弱者は強者の奴隷」

 

赤龍帝の言葉はどこかで聞いたことがあるものだった。

 

「・・・・・その言葉、兵藤みたいな言い方するわね」

 

「ハッ!この学校にいる兵藤は口だけが達者な弱いやつらばかりだ。

最近、どっかの馬の骨も知らない奴にやられているらしいじゃねぇーの?

同じ兵藤家として情けないったらありゃしねぇ」

 

「その言い方だとお前も兵藤か。今回の赤龍帝は兵藤家の奴だとはな。一寸先は闇か」

 

嘆息する。アザゼルも学校のことを把握しているからこそ

また一つ悩みの種が増えたなと他人事のように思った。

 

「おい、俺を誰だと思ってやがる。お前らを殺すことだってできる赤龍帝だぞ?」

 

「ああ、そんなこともできることはお前に言われなくても分かっているぜ」

 

「わかっちゃないな。俺は歴代の赤龍帝の中で最強なんだ。何ならここで証明してやっても良いぜ」

 

攻撃の構えになる赤龍帝の言動を見ては肩を竦めだすアザゼル。

 

「最強という言葉はお前じゃなくイレギュラーな奴の為にある言葉だ。

お前はただ運が良いだけの人間に過ぎんよ」

 

「ンだと?」

 

「俺はよーく知っているぜ?現在最強だと思っているドラゴンを宿す奴らをな」

 

意味深に赤龍帝から視線を外せば、

 

 

『一誠・・・・・殴られた箇所が痛いんだ。一誠の手で痛みを和らいでくれ』

 

『ちょっ!どこに触らせているんだよ!?』

 

『どこって一誠に対する想いが詰まった胸だが?触りたくなかった?』

 

『時と場所を考えろ!もう少し羞恥心を持て!』

 

 

鎧を解いて服の上からでも分かる豊満な肉の塊を触らしているヴァーリと

動揺する一誠がいた。

―――なにイチャついてんだお前ら・・・・・っ。イラァッとアザゼルの中で募る

何かが炸裂しようとした時、夜空に浮かぶ月をバックに人影が一つ、アザゼルたちのもとへ

舞い降りた。神速で一誠とヴァーリの間に入り込んでくるのは

三国志の武将が身につけるような鎧の出で立ちの女だ。

 

「ヴァーリ、迎えに来たぜ」

 

「美猴か。なにをしに来た?」

 

不満げに漏らすヴァーリは美猴という女に問うた。

 

「もう時間だから迎えに来たんだっての。それに―――」

 

美猴は一誠を見るや否や、

 

「久し振りじゃねーの一誠やーい!」

 

嬉々として一誠に飛び掛かった美猴だった。それにはアザゼルたちは目を丸くしていた。

 

「ああ、そういえばあいつ。あの猿の勢力の方にも行ってたんだっけか。

それなら納得できるんだが」

 

呆れ顔で「お前はどれだけ女と出会えば気が済むんだ」とポリポリと頬を掻くアザゼル。

ますます不満な顔となったヴァーリは一誠の顔をすり寄せる美猴をベリッ!

と擬音が聞こえそうなぐらい一誠と引き離した。

 

「せ、先生・・・・・あいつは一体」

 

「闘戦勝仏の末裔。分かりやすく言えば孫悟空の力を受け継いだ猿だ」

 

「孫悟空って・・・・・」

 

「ある意味お似合いだなヴァーリと美猴はよ」

 

「ハハハッ!オレっちは仏になった闘戦勝仏と違って自由気ままに楽しく生きるんだ」

 

朗らかに美猴は一誠を片腕で抱き締めながら発した。

 

「にしてもお前もデカくなったな!一緒にジジイから追いかけられた時が懐かしいってばよ」

 

「いや、あの時はお前に巻き込まれた形だったぞ!お前、何をしでかしたんだよ」

 

「ちょっくらジジイの秘蔵の酒を全部溢した☆」

 

「そりゃ怒るよ!それにテヘペロして反省すらしていないな!?」

 

ギャーギャーと騒がしく食って掛かる一誠とそれを楽しげに接する美猴。

第三者から見れば仲の良い友人みたいで、アザゼルたちは呆れ、

苦笑いして見守っていたところで、赤い魔力弾が放たれた。

 

「なーに、敵と仲良くしてんの?」

 

手を一誠と美猴な突きだしたままの状態でいる、攻撃した張本人が呆れ返っていた。

 

「敵を倒さないとダメだろう。そんなことすら解らないのか弱者が」

 

次の瞬間。ヴァーリが片手で赤龍帝の魔力弾をどこかへ弾いてみせた。

赤龍帝は顎に手をやって自分の攻撃を防いだヴァーリに向かって言った。

 

「だが、お前イイ女だな。決ーめた、俺の物にしてやる。この兵藤家次期当主の一人の

兵藤誠輝さまのな」

 

「なんだと?」

 

―――兵藤誠輝。それは―――。

 

「ああ」

 

もう一人の赤い龍にとっては―――。

 

「お前か」

 

殺意、敵意、憎悪。負の力が一誠を瞬く間に包み込み黒い何かが胸の奥から募り出す程の

因縁のある人物だった。赤龍帝、兵藤誠輝は一誠に視線を剥けると

顔の部分のマスクをシュバッと開き、顔を覗かせて嘲笑の笑みを浮かべた。

 

「久し振りじゃん。弱虫、あれから必死こいて強くなったかなー?」

 

「川神百代に負けた奴に言われてもな。そっちこそ子供だったから負けたなんて

言い訳できないぐらい強くなったんだろうな?」

 

「ハッ!この赤龍帝の力があれば神だって倒せるんだよ!

この力こそが今の俺の最強の力!俺の為にあるような力なんだよ!」

 

「赤龍帝ドライグ・・・・・可哀想にな。嫌な男に宿ってしまってよ」

 

「なんだ、天龍を宿す俺に妬みか?ちぃせぇ奴だな」

 

数年ぶりに再開する兄弟とは思えないほどの口の悪い会話の交差。

遠くから見ていたリアスたちには疑問が尽きない光景だった。

 

「イッセーと・・・・・知り合い?」

 

「知り合いどころじゃねぇさ」

 

アザゼルはリアスの呟きを拾って一誠に対し可哀想なものを見る目で答えた。

 

「アザゼル・・・・・どういうこと?」

 

知り合いどころではない。それはもっと深い関係なのだとばかりアザゼルは意味深にそう言った。

リアスの疑問を深く溜息を吐いてこう告げた。

 

「お前らは知らないだろうな。あいつには、一誠には兄弟がいるってことをよ」

 

『えっ!?』

 

一誠に兄弟の存在。アザゼルの発したその言葉は一誠たちの方まで聞こえていた。

結果、イリナとヴァーリ以外の面々は目を大きく丸くして驚愕の色を浮かべる。

 

「嘘、聞いたことがないわ。イッセーに兄弟がいるなんて」

 

「言えるような奴じゃないんだよ。一誠と兵藤誠輝の兄弟中は嫌悪と言っても

いいぐらい一方的に悪かった」

 

「ああ、そうだぜ。こんな弱くて惨めで何時も泣いていた情けないったらありゃしない、

この世に存在しなくてもいい弟だからよ。俺は本当に迷惑だったぜ」

 

肯定と誠輝も侮蔑を含んだ言葉を発する。

 

「あの時の男か。その嫌な態度と性格は磨きが掛かっているようだな」

 

「本当よ!今の一誠くんのことを知らないあなたなんか一誠くんに勝てるわけ無いわ!」

 

ヴァーリとイリナが誠輝に対して軽蔑した態度で接するほど印象が最悪の様子。

 

「あ?ンだったら試しに戦ってやろうか。この弱虫と俺とどっちが強いのか」

 

「・・・・・」

 

攻撃態勢の構えになる誠輝と無言で睨む一誠。両者がぶつかり合うのかと思いヴァーリと

美猴が離れた時だった。

 

「ほう、ドライグと出会えるとはな。やはり兵藤一誠と一緒にいることが正解だったな」

 

「ドライグ、久しい」

 

この場に連れて来ていなかったはずのクロウ・クルワッハとオーフィスが一誠の横に

現れた魔方陣の光と共に出現した。疑問を呟く一誠。

 

「どうして?」

 

「力の波動が変わったからな。様子見をしに来た」

 

「ん、そう」

 

一誠の肩に乗るオーフィスと一誠の隣に立つクロウ・クルワッハ。誠輝は目を細め突然

現れた幼女と女性に「誰だあいつら」と疑問を浮かべていた時、

左の籠手の宝玉が点滅しだした。

 

『相棒、戦うのは止めておけ』

 

「あ?俺に指図するんじゃねぇ!」

 

『相手が悪すぎる。戦えばお前が死ぬかもしれないぞ』

 

「高が二人程度増えただけで臆病風に吹かれたってのかドライグ!

不気味な力を感じるだけあって神を倒すことができるこの力なら

俺に敵う奴なんているわけがねぇよ!」

 

『相手がドラゴンの中で最強のドラゴンと邪悪な龍の中で筆頭の最強の邪龍だと

言っても戦いたいのか相棒は』

 

冷たく呆れているような声音が宝玉から聞こえてくるのは

赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』ドライグの声なのだろう。

 

「最強のドラゴンと最強の邪龍だぁ?仮にそうだとして何でそんなドラゴンが

あの弱虫の傍にいやがるんだよっ!」

 

「それだけじゃない」

 

一誠が呟くように発した直後。この場に幾重の巨大な魔方陣が出現して―――続々と巨大な

ドラゴンたちが顕現した。

 

『ドライグ。久し振りじゃねぇか』

 

『・・・・・アジ・ダハーカ、まさかお前までいたとは驚きだ。退治されていたのだと

思っていたのだがな』

 

『ハハハッ!封印の形で退治されたんだこれが。俺はこの兵藤一誠と出会い

共にいることを決めたんでな。後アポプスの奴もいれば邪龍の筆頭格が揃うんだが、

結局は会えずにいる』

 

三つの口が揃って口角を上げて会話の花を咲かせるアジ・ダハーカを余所に誠輝へ

一歩だけ近づく全身が金色のドラゴン。

 

『久しぶりですね』

 

「何のことだ・・・・・」

 

『覚えていないのは無理もないでしょう。私とあなたの最初の出会いは黄色い玉の姿で

あなたの手に収まっていたのでしたから。ですがあなたはこの主、兵藤一誠に兵藤誠と

兵藤一香から渡されたお土産を交換だと言って私を捨てた。あの時の黄色い玉が私だったのです』

 

メリアの話を聞くにつれ、誠輝は思い出した。あの時、古い箱に入っていた黄色い玉。

最初は何かの宝石かと思ったが、ただの石だと思い処分する為に一誠のお土産と半ば

強引に交換した。

 

「―――あの時の玉がお前だと!?何かの間違いだろう!」

 

『私は自ら封印を受け入れた。あなたが私を受け入れてくれば、私の力である創造の力を

振るえたでしょう。ですが、あなたは何も知らずに私を手放し、後に私は主である兵藤一誠に

力を貸し与えることに決めたのです。あなたとは違い純粋で優しい主。

ある意味、あの時の選択が正解だったのかもしれません。あなたに天龍が宿ったのですから』

 

「―――――っ」

 

キツく一誠を睨む。あの時、一誠に渡さなければこのドラゴンは自分の力となっていた。

それだけではない。

 

「(何なんだこのドラゴンたちはよ!あの弱虫の中に宿っているというのかよ!)」

 

「天龍を宿す俺に妬み・・・・・だっけか?」

 

一誠が口を開いた。

 

「別に妬んでいないし。俺には色んなドラゴンたちがいるし大勢の家族がいる」

 

不敵に微笑み両腕を広げながら真っ直ぐ誠輝に言う。

 

「お前の方がよっぽどちっぽけな存在だよクソ兄貴。天龍を宿したぐらいで最強気どりか?」

 

「なにっ・・・・・!」

 

「俺は世界中に修行をしてきた。弱い自分を許せないからだ。

この十年近く修行してきた結果。俺はあの時より確実に強くなり力も得た。―――ゾラード!」

 

『はっ!』

 

全身を輝かせ、光の奔流と化となって一誠に向かう。

 

禁手化(バランス・ブレイク)ッ!」『禁手化(バランス・ブレイク)ッ!』

 

そして眩い閃光に包まれた。程なくして閃光が収まり、一誠は黒と紫が入り混じった赤い

宝玉が身体の各部分にある龍を模した全身鎧の出で立ちで誠輝と対峙した。

 

「『禁手化(バランス・ブレイク)』、『幻想喰龍者の鎧(イリュージョンイーター・スケイルメイル)』これが俺の力の一つだ」

 

禍々しいオーラを滾らせ、誠輝に見せびらかす。

 

『・・・・・相棒、あれは拙い』

 

「てめぇ、またか!」

 

『相棒には分からないのか?あの鎧から発する異様なプレッシャーを』

 

「黙っていろ!どんな力を持っていようが赤龍帝として負けることは許されないんだよ!」

 

ドライグに叱咤し赤い魔力弾を具現化して放った。

それはビーム状みたく太さも極めて大きく、一人の人間ぐらい飲みこむことぐらい

容易いほどの極太だった。避ける素振りもしない一誠に魔力がぶつかる直前。

誠輝の魔力の塊は何の前触れもなく消失した。

 

「この鎧に籠る力は無効化。全ての能力を無に帰す」

 

「ふざけんなぁっ!」

 

魔力がダメなら接近戦だと、己の肉体で戦おうとし一誠に肉薄する。懐に飛び込んだ

誠輝の拳がうねりをあげて一誠の急所を狙ったが分かっていたとばかり

片手で誠輝の拳を受け止めた瞬間、赤龍帝としての鎧がガラス細工が甲高く割れたような

音を発し、解除されて誠輝の生身の肉体が表に曝した。

 

「俺に触れた能力は全て無に帰す。―――アジ・ダハーカ!」

 

一誠も鎧を解いて光の奔流と化となったアジ・ダハーカと一つになり、三つの鎌首、

三つの頭部、六つの双眸を持つ人型のドラゴンと化となった。

 

「なっ・・・・・!?」

 

『―――GYEEEEEEEEEEEEEEAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!』

 

誠輝の耳元で咆哮をした。耳の中が激しく振動し、鼓膜や他の気管に損傷を与える。

 

「ぐぎゃああああああああっ!?」

 

さらには三つの口で誠輝の身体に深々と噛みついて宙に放り投げた。

 

『ネメシス!』

 

『おう!』

 

ネメシスも加わり、宙にいる誠輝の周囲から数多の鎖が飛び出して縛りあげた。

 

「メリア!」

 

『はっ!』

 

トドメはこれだと一誠は金色の杖を掲げ、一誠の創造で具現化した

巨大な光の十字架が誠輝の頭上に浮かぶ。神々しいのにとても威圧感があり、

誠輝は焦心に駆られて食って掛かる。

 

「て、てめぇっ!俺を殺す気か!?俺を殺したらお前はどうなるか分かっているんだろうな!」

 

「知るか。兵藤家の次期当主なんて他にもいるみたいだし、お前と同じ立場の奴らから

すれば候補の一人がいなくて万々歳だろう」

 

「ふ、ふざけんなッ!」

 

鎖を強引に引き千切ろうとするが鎧を纏えない事実に更に焦る。

 

「んだよこの鎖はぁっ!鎧を纏えないってどういうことだよ!」

 

「えーと、兵藤家のある方角は・・・・・こっちか」

 

十字架を誠輝ごととある方角へ換えて構える。そして―――。

 

「んじゃ、弱くて惨めで何時も泣いていた弟に初めて負けた赤龍帝ちゃん。

自分が最強なんてよく恥ずかしいことを言ったな?一生覚えて笑ってやるからな」

 

「て、てめぇえええええああああああああああああああああああああっ!」

 

「バイバイ」

 

誠輝に鋭く十字架が突き刺さり、鎖が解かれていないままどこか彼方へと飛んで行った。



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エピソード20

『速報!2-F 兵藤一誠は数体のドラゴンを宿すイレギュラーな存在であった! 

 

                                非公式新聞部』

 

「・・・・・なんでバレて知られているんだよぉおおおおおおおおっ!」

 

 

―――2-F―――

 

「あなた、この学校では誰も知らない人がいないほど有名人になったんじゃない?」

 

「言わないで!俺は静かに暮らしたいだけなんだ!」

 

「諦めなさい。もう世間はあなたを無視できないほどの注目しているのだから」

 

「でも、これで兵藤家のバカ共が静かになってくれば御の字じゃないか?」

 

「あら、そう言う見解もできるのね。もしもそうなったら嬉しい限りだけど身の程

知らない野獣だって出てくるわよ」

 

「デスヨネー」

 

狐耳をぺたんと垂らし、肩を落とすそんな一誠を内心「可愛いわね」と思った

パチュリーでもあった。女子しかいないクラスに立った一人の男子がいる。

その者の名は兵藤一誠。

今は訳あって体を小さくし、狐の耳に九本の尾を生やしての登校をしている。

その効果も相まって女子からの敵意と睨みが減り、今現在も大人しく教室にいるのだが、

それもできなくなりそうだ。

 

「イッセーは凄いデース!ドラゴンなんて滅多に出会えませんからネ!」

 

「ドラゴンならここにもいるけど」

 

「えっへん(ドヤァ)」

 

得意顔で胸を張っているオーフィス。見た目は人間、中身はドラゴンのオーフィスを、

 

「ああ、そう言えばそうだったわね」

 

「姿がhumanですから忘れますネー」

 

パチュリーと金剛は今さら思い出したかのような反応をしたのだった。

 

「(まぁ、俺もドラゴンなんだけど別に教えることでもないか)」

 

家族しか知らないもう一つの事実。自慢して言っても更に騒がれるだけであって、一誠も

目立ちたがらない性格が故に余計な事を口にしない。―――口は災いのもと―――。

 

「にしても、空いている席が三つ増えたな。金剛、何か知ってるか?」

 

「ナ、ナンデ私に聞くのデスカー?」

 

普通に話しかけられただけであるのに金剛は動揺した。

 

「や、さっきから妙にそわそわしているから」

 

「ええ、もう何かを待っているかのような感じでね」

 

二人からの指摘に落ち着きなく金剛は「アウアウ・・・・・」と何か悩んでいる言動をする。

 

「でも、これから分かる事なら聞かなくてもいいかもしれないわよ?」

 

「そうだな」

 

パチュリーの言葉に同意し、教師が入ってきたので―――パチュリーの膝の上から降りた一誠。

 

「えー、皆に知らせがある。このクラスにいたクラスメートが今日を以って復学することが

決まった」

 

ザワッ!

 

女子たちは一気に騒ぎ始めた。周囲の様子や顔を窺うと様々な反応と顔色が。

パンパンと教師が手を叩き、自分へ意識を向けさせ静めれば口を開く。

 

「そう言うことだから皆。復学する三人に気を使ってやってくれよ。特に兵藤」

 

「へ?」

 

「お前はその姿のままでいてくれ」

 

教師に改めてそんなこと言われたのは初めてだった。その意味と意図は何なのか

分からないでいる一誠の目に三人の女子が教室に入ってきた直後。

 

「イエーイッ!比叡、霧島、榛名ァーッ!」

 

今まで抑え込んでいたものが押さえきれず爆発したかのように金剛は立ち上がって一人

大騒ぎした。

 

「誰だろうね一誠くん」

 

「金剛の知り合いだろうけど・・・・・」

 

「ワーイ!」と身体で喜びを現す金剛を見つつ、イリナと漏らす。

 

「だけど、驚いたわ」

 

「ん?」

 

「まさか赤龍帝があいつだなんてね」

 

「・・・・・ああ、そうだな」

 

イリナが言うあいつと言う人物を思い出し顔を若干険しくする。これは最悪の予想を

考えた方がいいかもしれないと思った。

 

「あ・・・・・ゴメン」

 

「イリナが謝るようなことじゃない」

 

「でも・・・・・」

 

「いいから」

 

もうこの話は終わりだとイリナから完全に視界を外し、新たに加わった女子たちを見る。

背中まで伸びている黒い髪と黒の瞳の女子、見た目を判断するとクールビューティーな

黒髪と眼鏡を掛けた女子にボーイッシュ的な印象を与えさせる女子を見た。

 

 

――2-C―――

 

「兵藤一誠が複数のドラゴンを宿すイレギュラーな存在」

 

「この新聞を見て驚いちゃった。あの兵藤くんがドラゴンを宿していたなんてね」

 

「私でも有り得ないということぐらいは分かっている。だけど、そうドラゴンと出会えるのか?」

 

「いや、ドラゴンは人間が住めない場所に生息しているか人間界に紛れているかの

どっちかなんだ。どちらにしろ、意図的に見つけ出すのは困難だよ」

 

和樹たちは一枚の新聞を見落としていた。デカデカと一面には一誠のことを関する記事が

載せられていて、その他にどうやって撮影したのか分からないドラゴンたちの姿が

映っている写真もあった。

 

「僕たちと戦った時は本気すら出していなかったようだね」

 

「手を抜いていたってことなのか!?兵藤一誠、私たちを侮辱するなんて・・・・・!」

 

「カリンさん、力を隠すことも実力の内なのですよ。彼もそう易々と全てを

打ち明けるほど愚かではないということです」

 

「それに騒がれたくないから隠していたかもしれないよ?」

 

和樹の言葉に怒りを抱くカリンだったが、龍牙と清楚に宥められる。

 

「邪龍の筆頭格の一匹、アジ・ダハーカ。千の魔法を駆使するドラゴンだから興味あったけど、

まさかこんな形で出会えるとはね」

 

楽しげに微笑む和樹に龍牙は聞いた。

 

「もしも和樹さんに宿っていたら最強の魔法使いとなっていたでしょうね」

 

「それ以前に僕の言うことを訊いてくれるかが問題だよ」

 

「邪龍って怖そうだもんね」

 

「清楚、多分そっちじゃないと思うぞ私的に」

 

どこかズレた感想を述べる微笑む清楚にツッコミを入れるカリンだった。

 

―――○●○―――

 

「イッセー、この三人は私の妹たちなのデース!」

 

「妹?姉妹だったのか」

 

「YES!私の可愛い妹たちネ!」

 

誇らしく自慢げに三人の女子たちを抱き寄せる金剛。一誠に紹介するが当の三人は一誠を

見て怪訝そうに見詰めている。

 

「お姉さま、この子は一体誰なのです?」

 

「私のハニーだヨ」

 

「ハニー!?―――っ」

 

何故かボーイッシュ的な女子に睨まれる。自分は何をしたのだろうと理不尽な睨みに―――。

 

「・・・・・グス(泣)」

 

涙目になる。

 

「比叡?」

 

「お、お姉さま?」

 

「イッセーを泣かしてはダメデス!」

 

ボーイッシュ的な女子に叱咤し、一誠を抱きかかえた。

 

「イッセーは私たちの恩人なのデス。比叡たちは今まで眠っていたので分からないでしょうケド、

三人が意識を回復したのはイッセーのおかげダヨ!」

 

「・・・・・そうなのですか?」

 

「私のこと信じられないのデスカ?姉としてそれは寂しいのデスヨー」

 

暗い顔をして落ち込む金剛。三人の妹たちは慌てて金剛を宥めるその様子は親しい柄では

なければ見れない光景だった。金剛の熱い説得の末、一誠は金剛の三人の妹たちと会話

できるぐらいの交流を得たのだった。

 

「因みにですね兵藤くん」

 

知的な印象を与える黒髪に眼鏡を掛けた女子、霧島が一言。

 

「比叡はお姉さまのことだが大好きなので度々嫉妬するかもしれません。

そのことを重々ご理解いただきたいので」

 

「それとお姉さまが世話になっていらっしゃるようですね。

榛名も辛い思いをさせてしまったお姉さまに全力で尽くしますっ」

 

「OH!姉冥利尽きるよ榛名ァっ!」

 

「ああ!榛名ズルイズルイ!」

 

背中まで伸びている黒髪の女子、榛名に抱き付く金剛。そして霧島の発言通り金剛が

好きな比叡が姉に抱きつかれる榛名に羨ましがっている。霧島はそんな比叡を

「まぁまぁ」と宥め、榛名は微笑みを浮かべ金剛四姉妹は独特な空間を作り出す。

 

「わ、なんだか賑やかになったわね」

 

「そうですね。微笑ましい限りです」

 

「見ているこっちまで微笑ましくなる」

 

「我、嫌いじゃない」

 

四者四様の感想を述べる一誠たち。しかし、金剛たちの姉妹愛に刺激されたのか

イリナが異議を唱えた。

 

「むむっ、姉妹愛が凄いことは分かったけど、一誠くんとの幼馴染の絆だって凄いんだから!」

 

「OH!イリーナとイッセーは幼馴染の絆で対抗してくるならばこっちも負けませんヨー!」

 

「望むところよ!一誠くん、頑張りましょう!」

 

「・・・・・俺もかよ」

 

今更ながら一誠たちがこんなにワイワイと騒いでも教師が注意しないのは

選択授業なのであるからだ。無論、このクラスは自習を選択し、自分の時間を過ごしているのである。

 

「んじゃ、何時も通りお菓子作りでもするかな」

 

「おや、あなたはお菓子を作れるのですか?」

 

そう問うた霧島に頷く一誠は言葉を発した。

 

「大抵この時間帯は料理実習をしているからね。金剛のお墨付きでもあるぞ?」

 

「その通りネ!イッセーのお菓子はBest in the world!」

 

「そこまで美味しくないって。あまり買被らないでくれよ」

 

「―――いえ、美味しかったです」

 

何時の間にか黒髪に黒い瞳の女子がいて一誠のお菓子作りの腕を肯定した。

気配すら感じなかった女子にイリナたちは「何時の間に?」と呆然となった。

 

「お菓子を貰いに来ました。ある?」

 

「ああ、まだ作ってないからないんだ。これから作るけど待っててくれる?」

 

「ん、待つ」

 

クロメはコクリと頷く。週に一度の選択授業で作る一誠のお菓子を気に入った様子で

『クロメのお菓子2号』と刺繍された袋を持っているほどに。

その袋を見て一誠は苦笑いを浮かべ、咲夜とヴァレリー、オーフィスと一緒に

お菓子作りを始める。一誠の手作りお菓子と言うことで金剛四姉妹も拝見しようと

キッチンへ赴くのだった。

 

「おお、手際がいい・・・・・」

 

「あっ、あの蜜から甘い匂いがしますね」

 

「早い、もう完成?」

 

「それじゃ、ティータイムの時間デース!」

 

金剛の発言で2-Fはこの時を待っていたかのように一誠たちが作った

お菓子を食べ始めるのであった。それとは別の大量のお菓子がクロメの前に置かれた。

 

「はいよ。お菓子好きのお嬢さん。今日は何個か新しいお菓子も作ったから感想を

言ってくれるとありがたい」

 

「うん、ありがとう」

 

待ちに待ったとクロメは食べながら袋に詰めていく。その食べっぷりは圧巻させる。

頬が段々と膨らんでリスやハムスターのように口の中に溜めこんでは食べる喜びや味を

噛みしめている。

 

「ところで、クロメはどこのクラスだ?」

 

「(ゴクンッ)1-Bだよ」

 

「って、後輩だったのか。そっちのクラスは授業中じゃないのか?」

 

「この甘い誘惑には逆らえない」

 

つまり抜け出したということであった。お菓子を食べる為に。何と言う行動力と

理由であろうかと一誠は内心呆れ食べるクロメの頬をツンツン突っつく。

 

「ん、なに?」

 

「んー、食べるところが可愛いなって、微笑ましく思ってな」

 

「・・・・・先輩って人の食べるところを見て笑う変態だったの?」

 

「二度とお菓子を作ってやらないぞ」

 

「ごめんなさい。私が悪かったです」

 

迫力のある笑みを浮かべる一誠の脅し、クロメにとって堪え難いことに逆らえず

誠心誠意の謝罪をした。

 

「ねぇねぇ一誠くん。次の休みはどこに行くの?」

 

シアから部活動の事を聞かれた。数日後になれば休日で冒険部は部活をする。

旅行をしに行く気分でいるシアにしてみればまだ行ったこともない場所に行くことが

楽しみなのだ。それは他の面々も同じ気持ちでもある。

 

「んー、まだ考え中。また冥界でもいいんだけど他にも行きたいところがあるしな」

 

「そっか。じゃあ、楽しみにしてるね。ね、ネリネちゃんとリコリスちゃん」

 

「うん!一誠くんとどこかに行けるなら私は無人島でもいいよ」

 

「無人島・・・・・。・・・・・っ」

 

唐突にネリネの顔が真っ赤に染まった。一体何を考えたら羞恥心にも照れるような

気分になるのか一誠は分からずにいる。

 

「師匠、帰ったら稽古をつけてくれ」

 

「ゼノヴィア、そう毎日毎日稽古をしては一誠くんの時間を削ぐことになるから遠慮と

言うものを覚えなさい」

 

意気揚々と感じに稽古を求めるゼノヴィア。しかし、ルーラーがそれを良しとせず

窘めるのだが一誠は首を横に振った。

 

「いや、ルーラー。分身体にでもしてもらうからその心配はないんだ」

 

「・・・・・分身体、それは何人までできるのですか?」

 

「何人でもできるぞ。ハルケギニアの魔法って本当に面白い。

だから今図書室にいるパチュリーには分身体で護衛をしている。

分身体だから神器(セイクリッド・ギア)は使えないけどな」

 

「あ、そうなんですか?」

 

「ああ、そうなんだ。だけどその分、俺がもう一人増えたみたいなもんだから色々と

役立つことができる」

 

口角を上げて笑みを浮かべる。実体化の分身体がいれば一人ではできないことを

できるようになり、物事を二倍にも進めることができる。それが増えれば増えるほど

効率が良くなるのだ。護衛や監視、家事といったことに関しては。

 

「一誠さま、それは式森の魔法使いも可能なのでは?」

 

「さて、それはどーだろうな。知っていれば可能だとは思うけど知らないなら無理な話だ。

だけど、ハルケギニア出身の女の子がこの学校にいるから案外習得しているんじゃないか?

もしもそうだったらかなり厄介だ」

 

「一誠がそこまで強いと思うの?」

 

「ただ単に油断はできないってことだけだ。本気、全力で戦えるとしたら人が

いない場所にしかできない上に限られる」

 

「ん、今のイッセーは強い。その気になれば町一つ消滅することもできる」

 

最強の龍神までもが肯定した。可愛く頬にクリームを付けていて、

それを指で掬って舐め取る一誠だった。

 

「俺はそこまで暴君じゃないからな?」

 

「イッセーは優しい」

 

「ふふふっ。オーフィスは可愛いな♪」

 

満面の笑みを浮かべ、一誠はオーフィスの頭を撫でた。撫でられるオーフィスは目を細め、

一誠の心地の良い手の体温を感じる。撫でられるだけでオーフィスは何時か、不思議な

気分を感じられるようになり、もっとして欲しいという欲求も覚えるようになっている。

 

「イッセー、もっと」

 

「おや、お姉ちゃんは甘えん坊だな?」

 

「我はイッセーの家族。家族は甘えるものだと誠から聞いた。だから・・・・・」

 

一誠を椅子に座らせて、その太股に飛び乗っては対面座位の形で腰を下ろし、一誠の胸に顔を

すり寄せるように押し付ける。

 

「甘える。我はイッセーに。イッセーから感じる温もりは我の居場所」

 

黒い円らな瞳は見下ろす一誠の金色の瞳を捉える。

無表情なオーフィスは上目使いで一誠にハッキリと言った。

 

「いま我がいるべき場所はイッセーやリーラたちがいる家。それは我の第二の故郷」

 

そう思うようになったのは何時だったのかオーフィス自身も分からない。

しかし、怒気哀楽という感情が乏しい、疎いオーフィスは間違いなく一誠や

他の皆と一緒に居たいという思いは当然のように思う。それはある意味無限。

もしも自分が次元の狭間の支配の権限を得て、グレートレッドを追い出していれば

こんな思いを抱かなかっただろう。結果はどうであれオーフィスは今、

この状況を維持したいと思っている。静寂を得たかったあの時の気持ちは完全になくなり、

温もりを欲する今現在小さなドラゴンが一誠の足の上に乗って存在しているのだ。

 

「・・・・・ああ」

 

自分の足の上にいる小さなドラゴンを見落としている一誠は漏らした。

 

「オーフィスの気持ちは心から分かっているよ」

 

スッと黒髪に手を置いて梳かすように撫でる一誠は今までとは違う笑みを浮かべた。

慈愛が満ちた綺麗な微笑みだった。誰かを心底想い、深い愛情から顔に出るソレだった。

 

『・・・・・っ』

 

一誠を知る咲夜たちは顔を真っ赤に染める。ゼノヴィアや信仰が深いイリナと

信仰より愛を重んじるルーラーが思わず人の目を拘わらず跪き祈りを捧げるような

姿勢になったほどだ。

 

「俺はお前に助けられた。だから深く心から感謝もしている。

オーフィスがいなければ俺は死んでいたから。でも、それだけじゃない。

俺もオーフィスと一緒に今日まで生きて楽しいと思った。

これからも俺の、俺たちの傍に居て生きてくれるか?」

 

オーフィスの答えは、一誠の頬を添えるように掴んでコツンと額と額を合わせ、

零距離で目と目を合わせてから言った。

 

「我、『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィスはここに誓う。

 我、未来永劫イッセーたちを見守ると―――」



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エピソード21

夏休み間近のとある日。学年全体で三泊四日の強化合宿が始まろうとしていた。

学力や身体能力の向上、神器(セイクリッド・ギア)の所有者は先生から課せられた

特訓メニューによって修行をする。一誠たちも国立バーベナ駒王学園の生徒として

このイベントに参加しなくてはならない。

 

「それはいいんだけどさ?」

 

ポツリと肯定の言葉を発した一誠。その手の中にある一通の手紙を見て、

 

『2-F 兵藤一誠殿 貴殿は二学年の中で最も優れた生徒なのでよって、

 貴殿の強化合宿は川神学園で行われます』

 

「なーんで川神学園でしなくちゃならないのかなー?というかあの学園で

俺は何を強化すればいいんだって話なんだけど」

 

一人だけ一誠は川神学園にて一時的な学校生活を送る事となった。

目の前に聳え立つ木製の門を潜り、

川神学園に侵入する。真っ直ぐ迷わず玄関に辿り着く。

人気はなく、今の時間帯は教室にいるのだろう。

来訪者専用のげた箱で靴を履き替えて職員室に訪れる。

 

ガラッ。

 

「あのー、国立バーベナ駒王学園から来ました兵藤一誠ですが・・・・・」

 

職員室に顔を出しながら名乗った。職員室の中には数名の教員がいて、

一誠の声に反応した教員が近づいてきた。

男性だ。第一印象はオジサン。どこか頼りにならなそうな雰囲気を醸し出し、

 

「時間通りに来たな。俺は宇佐美巨人ってんだ」

 

「兵藤一誠です。これからしばらくお世話になります・・・・・?」

 

「何故疑問形で言う?」

 

「や、うちの学校では今日から強化合宿をする話だったんですけど、

俺だけこの学校で強化合宿をするみたいで・・・・・実際にどんなことするのか疑問なんですよ」

 

「強化合宿?」と不思議そうに首を傾げた宇佐美巨人だった。

そして、一誠の疑問を理解したのか説明口調で言う。

 

「ああ、今回が初めてなんだな?強化合宿とは建前でな。

そちらの学園とこちらの学園から学年ごと一人交換しては切磋琢磨をしようということなんだ。

この学校ではそちらの学校とは違うことがある。それを体験し、この学園に一時編入してきた

生徒たちをさらに向上させようという狙いがあるんだ」

 

「じゃあ、合宿ってのは?」

 

「言っただろう。それは建前だと。まぁ、実際にそちらの学園は学校で

強化合宿をするのだろうがな。さて、話はここまでにしてついて来い」

 

話を打ち切って一誠を引き連れて二階に上がる。その途中で話しかけられた。

 

「しかし、まさかお前が来るとは思いもしなかったな」

 

「迷惑?」

 

「あれだけ派手に目立った生徒が俺の一時的に生徒となるとは少しばかり委縮しちまうんだわ。

しかもお前さん、兵藤だろう?」

 

「ああ」と心の中で理解した。リアスの婚約を掛けた決闘に勝ったのは兵藤。

日本を支配する天皇兵藤家の者なのだから緊張するなと言うほうが無理な話なのだ。

 

「俺のことは普通に接してくれよ先生。俺は兵藤であっても兵藤じゃないんだからさ」

 

「なんだ、訳有りか?ま、フレンドリーに接しても良いなら俺はそうさせてもらうぜ。

というか、そうさせてくれるとオジサンは気持ちが落ち着く」

 

「苦労人?」

 

「何故その言葉が出るのか敢えて聞かないからな」

 

二階に辿り着き真っ直ぐ目的の教室に足を運ぶ二人だったが、一誠は途中足を停め、

宇佐美巨人も足を停めざるを得なかった。

 

「どうした?」

 

「ん、この教室に友達がいるなって」

 

「ああ、川神がいるクラスだな。いまはHR中だから入るなよ。

中にいる先生を怒らせたらキツいからな。まぁ・・・・・そこがいいんだけどよ」

 

女性の教師らしく宇佐美巨人は小さく声を殺して笑う。

 

―――2-S―――

 

ここが一誠が通う始める教室で宇佐美巨人が先に入ってから少し経った。

廊下で待機している一誠の他には誰もいなく、その時が来るのを待っていれば入室を

促す声が聞こえた。いざ教室に入り、教卓の前に立つ宇佐美巨人の横に立てば、

 

「む?」

 

「あー!」

 

知り合いと直ぐに目が合った。

 

「あー、今日から数日間の間このクラスの一員となる兵藤―――」

 

「一誠だぁっ!」

 

ピョーン!と腰辺りまで伸びている白い髪に赤い目の女子生徒が一誠に飛び付いた。

避けることもせず真正面からその少女を抱きとめて再会の抱擁を交わし合う。

 

「・・・・・一誠だ。お前ら、絶対に失礼のない言動をするようにな。怒らしたら俺は知らんぞ」

 

教師としてあるまじきの発言。自分の身が大切だとばかり言い切る宇佐美巨人だった。

 

「一誠、久し振りー!」

 

「小雪も久し振りだな。このクラスだったんだ?」

 

「うん!一誠と一緒に通えるなんて嬉しいよー!」

 

満面の笑みを浮かべる少女は小雪、榊原小雪。かつて川神院で修行をしていた間に

一誠と出会った一人。腕を一誠の背中に回して嬉しそうに顔が綻んでいる小雪。

大好きな異性と再会し、尚且つ一緒に学校生活を送れる現実に心が歓喜で一杯になる。

 

「・・・・・しゃーねーな。HRは自習とする。お前ら、他のクラスに迷惑を掛けないようにな」

 

それだけ言って宇佐美巨人は教室から去った。それでいいのか教師よ。

 

「フハハハハッ!まさかお前が来るとはなんてサプライであろうか!」

 

「よー英雄。お前もこのクラスだったんだな」

 

逆立てる銀髪に☓の傷跡が額にある金色の衣服を身に包む男子は九鬼英雄であった。

相変わらずのテンションだなーと思いつつ、言葉を交わす。

 

「何を言うか。このクラスはエリートの中で最も優れたエリートでしか

入れないクラスなのだぞ。我がこのクラスにいて当然である」

 

「うわ、そんなクラスだったのかよ。俺、普通のクラスがよかった」

 

「お前は自分の価値を分かってない。上に立つ者は何事にもトップでなければいかぬのだ」

 

「ふーん?じゃあ、英雄は二学年の中で何番目なの?学力の意味で」

 

その問いかけに英雄は堂々と言った。

 

「二番だ」

 

「・・・・・上に立つ者は何事にもトップではないとダメなんじゃないの?

二番じゃ一番だとは言えないぞ」

 

「ええい、細かいことを言う。小さいことを気にしては王の品格が知られるぞ」

 

「王って何のことだよ」と呆れる。未だに小雪のホールドは解除されず英雄と話しこんでいれば、

数人の男女が近づいてきた。

 

「英雄、私たちにも彼とお話をさせてもらえませんか?」

 

「我が友トーマか。いいだろう、許す」

 

褐色肌で眼鏡を掛けたイケメンの男子が英雄の許しを得て一誠に話しかけた。

 

「初めまして、私は葵冬馬です。以後お見知りおきを兵藤一誠くん」

 

「改めて兵藤一誠だ。よろしく」

 

続いてスキンヘッドの男子だった。

 

「俺は井上準だ。よろしくな」

 

「よろしく」

 

「ところで―――」

 

真顔で準は問うてきた。

 

「悪魔の小さい幼女は可愛かったか?」

 

「は?」

 

「あずみ」

 

「はいはーい☆変な質問をしないでくださいねー☆あ、私は英雄様の専属メイドの忍足あずみです☆」

 

瞬く間に縄で縛りあげて準を蹴り飛ばしたメイドの自己紹介に若干引いた一誠だった。

 

「・・・・・それ、演技でしょ」

 

「なんのことでしょうか?」

 

「俺、相手の善し悪しがわかるからさ。アンタのその被った仮面だってのは直ぐに分かったぞ」

 

声を殺してあずみに指摘すれば、英雄に顔を見られない角度であずみは口を開いた。

 

「お前、そのことを英雄さまに言うんじゃねぇぞ。バラしたら即―――」

 

「ああ、英雄のこと心底好きなんだな」

 

「んなっ・・・・・」

 

「なんてカマを掛けてみたけど本当なんだな」

 

ニヤリと口角を上げた一誠の言動を我に返ったあずみは苦虫を噛み潰したかのような表情となり

「こいつは油断できねェ」と口から零し一誠から離れた。

 

「私はマルギッテ・エーベルバッハと言うことを知りなさい」

 

軍服を着込んだ右目に眼帯を付けている女性が話しかけてきた。

 

「・・・・・大人の人、だよな?」

 

「それがなにか」

 

「この学校って大人も入れるのか?」

 

学校の規則はどうなっているんだと疑問を抱く一誠の背後から小雪がその疑問を解いた。

 

「マルギッテはFクラスにいる女の子の護衛としているんだよー?」

 

「それでも生徒としていられるなんてこの学校は変わってるよな。

いや、こっちもそういう家族がいるから同じか・・・・・」

 

「なにをブツブツ言っているのですか?それよりも私と戦いなさい」

 

「初対面の人に決闘を申し込まれちゃったよ小雪。どうすればいい?」

 

「んーと、決闘システムってのがあってさぁー。決闘を申し込まれた人が応じると

正式に戦うことができるんだよ。その時が学園長先生が審判として決闘を見守るんだけどねー」

 

小雪からの説明を聞きなるほどと納得する。だが、口だけで決闘は認められる

ものだろうかとまた疑問が生まれたところで、

 

「ほいほい。様子を見に来れば早速なんじゃな」

 

「あ、お爺ちゃん。久し振りだね」

 

川神鉄心が何時の間にか現れた。一誠とマルギッテの話を聞いていたのか、意味深なことを発する。

 

「よいぞ。ワシが責任を持って決闘を認める」

 

「その寛大な心に感謝します川神鉄心殿」

 

マルギッテが感謝の言葉を発する。一誠の意思に拘わらず決闘はあっさりと認められた。

 

「あー、お爺ちゃん」

 

「なんじゃ」

 

「多分、いや、絶対かもしれないから百代とエスデスの乱入を許してくれる?」

 

「・・・・・なるほどのぅ。あい分かった」

 

心当たりと言うか、あの二人の性格を鑑みればその時の予想と想像が容易に浮かぶ。

止めるよりも満足させるた為、好きにやらせた方が文句も言わないだろうと鉄心の考えだった。

二人の決闘は直ぐに行われる。第一グラウンドにて観戦客は教室の窓からという

ドームみたいな感じで一誠とマルギッテの戦いを見守る。鉄心が審判として

決着がつくまで見守る形で決闘は開始された。

 

「私のトンファーでの防御は要塞のごとく!崩せるものなら崩してみなさい!」

 

「それ、特殊な技術で加工されたただのトンファーじゃない?」

 

「そう思うなら私の猛攻を受けてみると良いです!」

 

体勢を低くし、獣の如く駆け走るマルギッテ。綺麗な赤い髪を走る際に生じる

空気抵抗によって激しく髪がゆらめく。迫るマルギッテを悠然と佇む一誠は振るられた

トンファーを片手で掴み―――握り潰した。

 

「な?」

 

「っ、まだですっ!」

 

もう片方のトンファーも振ろうとしたが、一誠の手から伸びる気で具現化した

刀身によって両断されて武器として使えなくなった。

 

「まだまだだな」

 

「それはこちらの台詞!」

 

武器を無くしてもマルギッテは戦意の炎を滾らせ、肉弾戦で戦いを臨む。

眼帯を外したマルギッテの動きがさらに俊敏となり、一誠に激しく攻撃を繰り出す。

受け流し、受け止め、躱すと防御に専念する一誠に

 

「どうしたのです。なぜ攻撃をしてこないのですか!」

 

シビレを切らしたマルギッテが吠えた。一誠は言い辛そうに頬をポリポリと掻く。

 

「あんまり弱いヒトと戦うのは好きじゃないんだ」

 

「―――私が弱いと、そう言うのですか」

 

「俺より弱いということは確かだ。それと百代とエスデスよりもだ」

 

弱いという言葉を突き付けられた。それは自分の誇りを、プライドを傷付け、逆撫でる言葉だった。

ここまでハッキリと言われたのは生まれて初めてである。

百代とエスデスと戦ったことがあってもそんなことは言わなかった。

だというのに目の前の男は―――。自分を否定した。

 

「ここで狩ってみせましょう!私の力を思い知りなさい!」

 

「や、もう終わりだ」

 

自分を認めさせる思い出飛び掛かる姿勢になったマルギッテの左手を掴み、

彼女の両足の上に足で踏んで身動きが取れないようにし、

身体を密着させては一誠の左手がマルギッテの背中に回されて人差し指を突き付けられた。

 

「このままアンタの背中を突き刺すこともできるけど?」

 

「・・・・・っ」

 

身長的にマルギッテを見上げる形になる一誠の金色の目には顔が強張る表情が映り込む。

激しく打ち鳴らす心臓の鼓動も感じ取り、不敵に笑みを浮かべた。

そして、眼帯が外された彼女の顔を見て一言。

 

「綺麗だな」

 

「なに?」

 

「マルギッテさんのことだよ。眼帯を付けたら可愛い顔が台無しじゃん。俺と同じ色の髪だしさ」

 

純粋に褒める一誠。だが、相手にとっては戦いのさなかに何を言っているのだと―――。

 

「・・・・・」

 

照れているのか、顔が真っ赤になって目は動揺しているのか泳いでいた。

一誠はふと思った。この人は褒められるのが慣れていないんじゃないかと。

少し、悪戯心が芽生えた時に二つの影が乱入してきた。

 

「一誠、何時まで密着しているのかなーん?」

 

「抱き付く相手を間違えてはいないか?ん?」

 

「・・・・・」

 

結構遅かったなと心中思い、マルギッテから離れ二人と対峙する。

 

「来ると思ったけど、少し遅かったんじゃないか?」

 

「ほう?私たちを誘き寄せていたんだな?」

 

「ならば、遅れた分を取り戻すつもりで―――」

 

「ああ」

 

「「お前と試合(死合い)をしようじゃないか」」

 

燃え盛る赤い炎と青い炎を迸る女子たち。攻撃の構えとなり一誠は笑みを浮かべた。

 

「んじゃ、始めようか百代とエスデス。俺のとっておきで纏めて倒してやる」

 

「あの赤い鎧のことか?いいぞ、そうでなくては面白くないというものだ!」

 

「右に同じく!」

 

嬉々として地を蹴って飛び出す。一誠は不敵の笑みを浮かべ―――闇を解放させた。

闇は一誠を包みこみ、異変をもたらす。

顔中に紋様のような刺青が浮かび、真紅の長髪は黒に塗りかえられ、金色の双眸だった

目は真っ黒となり背中に三対六枚の紋様状の翼が生え出して、

両腕に黒い装甲を纏った。腰にも尾が生えた。

 

 

 

 

 

「・・・・・あれはっ」

 

一人の女子が一誠の姿を見て目を張った。それは驚きも含まれているが、

一番大きかったのは歓喜に近い感情だった。予想だにしない展開となり、女子は口角を上げた。

 

「兵藤一誠・・・・・そう、あなたはその力は何なのか知らずに覚醒しちゃったのね。

―――ふふっ!」

 

笑う女子の視界には一誠の黒い手に触れた百代とエスデスが全身の力が抜けたように

地面へ倒れ込んだ。鉄心や他の観戦していた生徒たちも一体何が起きたのか

理解できず苦しんでいた。

 

「面白い子を見つけちゃったわ。さっそく接触を試みましょうかしらね」

 

ニヤリと女子は意味深に呟く。

 

―――○●○―――

 

登校初日に一誠はあっという間に有名人となった。かの武神と氷帝を一蹴したのだから

必然的なのだろう。だが、倒された当の本人たちは。

 

『お前、あれは卑怯だろうっ』

 

『触れられた瞬間に力を奪われるとはっ』

 

大いに不満を漏らしていた。想像していた戦いとは違って拳を交わすこともなく一誠に倒された。

それには苦笑を浮かべまた戦おうと約束をした一誠だった。二人と戦って以降、休憩中になる度に

 

『一誠、あなたの妻の京が会いに来たよー!』

 

『よーう、兵藤!』

 

椎名京を始めとする過去に一誠と交流を持っていた存在が教室に入ってくる。

当然、一誠に好意を抱いている小雪は京と対抗し言い合いするのだった。

 

「ひょ、兵藤くん」

 

「ん?」

 

黒髪のポニーテールの女子が話しかけてきた。何やら緊張の面持ちで隣にウェーブが

掛かった黒髪に、大胆にも制服の胸元を開いて煽情的な恰好をしている女子に

「ほら、頑張れ」と応援されている。

 

「義経は源義経と言う。よ、よろしくお願いする」

 

「私は武蔵坊弁慶。ま、内弁慶だからよろしくねー」

 

「源義経と武蔵坊弁慶?源氏物語に出てくる名前だな」

 

英雄が横から説明する。

 

「後、あそこで座って寝ている男の名前は那須与一と言ってな。

弁慶と義経、与一は我が九鬼財閥の技術で誕生した英雄のクローンなのである」

 

「クローン?じゃあ、英雄本人でもないのか」

 

「我は我だが?」

 

「英雄、そこはボケなくてもいいですよ」

 

「文字だけ見ればややこしいからな」

 

微笑む冬馬と呆れ顔の準が口を開く。英雄は英雄で「フハハハ、英雄ジョークである!

民衆たちよ笑うことを許す!」と上から目線で言っていた。

 

「や、笑えない」

 

「む、読めない奴だな」

 

「俺的にお前が一番読めない男だと思う」

 

「ああ、俺も思うぜ」

 

ウンウンと頷く準に振りむいて一言。

 

「そう言えば、悪魔の幼女がなんだって?」

 

「ああ、可愛かったかなーって」

 

「さぁ、俺は相手の親玉としか興味がなかったから眼中になかったわ」

 

「なんだ、紹介してもらえるかと思ったのに残念だわ」

 

どうして紹介しないといけないんだと思う。弁慶が息を一つ零してある事を教えてくれた。

 

「井上はロリコンだよ」

 

「凄く納得できた」

 

「同士ができた!」

 

「「「違う」」」

 

準の反応に英雄、小雪、冬馬からのツッコミ。そんなこんな賑やかなムードができれば、

 

「兵藤一誠!私と勝負しなさい!」

 

負けず嫌いなマルギッテが再戦を申し込んできた。それには―――

 

「小雪ー。俺の代わりに戦ってくれる?」

 

「うん、いいよー」

 

「小雪、マシュマロ一キロ分」

 

「一誠、頑張ってー!」

 

「餌で買収された・・・・・!?」

 

「いや、女の子に戦って貰う方が虫が良過ぎなんだってばお前は」

 

「小さい幼女が魔法少女の姿で戦っていたらお前はどう動く?」

 

「お兄ちゃんが身体を張って守るに決まってるじゃん!」

 

と、そんなこんなでマルギッテから勝負を吹っかけられたのを切っ掛けに賑やかになる。

宇佐美巨人の話では他校に刺激を与えつつ自身の能力を向上させるための強化合宿。

自分の何が向上するのか未だに不明な一誠。しかし、懐かしい友人と教室にいる

クラスメートとは直ぐに打ち解け、雑談をする。

 

「弁慶が持っている瓢箪はなに?」

 

「川神水だよ。ノンアルコールだから飲んでも大丈夫」

 

「水だけど場で酔えちゃうんだ。弁慶は一定以上飲むと壊れて義経はハラハラだ」

 

「壊れるってどんな風に?」

 

「気になる?なら壊れてみようか。私的に飲めれるから大歓迎だけどね」

 

「だ、ダメだ弁慶!兵藤くんも煽らないでくれ!」

 

弁慶と義経のやりとりは姉妹のようだった。マルギッテから感じる視線にも息を零し、

 

「じゃあ、その勝負を受けるけど勝ったら言うことを聞く罰ゲームね」

 

「いいでしょう」

 

「なら、シンプルな勝負をしよう。力比べだ」

 

机に肘を突いて手を開く。その様子の一誠に左眼だけパチクリとして呆然となったマルギッテ。

 

「力比べ、ですか?」

 

「こっちの方が早く済ませる。いいだろう?嫌なら勝負を吹っかけてこないでくれ」

 

「・・・・・わかりました」

 

自ら願ったことで賛否を決める権利は相手。渋々と言った感じなマルギッテは

一誠の手を掴めば弁慶が二人の手の上に手を置いた。

 

「なんか川神水の肴になりそうだから審判をやらせてもらうよ」

 

「ん、別にいいぞ」

 

「理由が少々不服ですが異論はないです」

 

「それじゃ・・・・・はい、始め」

 

開始宣言と共に腕相撲が始まった。華奢な身体と相まって細い腕から有り得ない

腕力が一誠の腕を圧倒する。かと、普通は思うが実際はそうじゃなかった。

若干震えつつも一誠は押される雰囲気を醸し出さない。

 

「女なのに中々どうして、力が凄いな」

 

「まだまだ私は本気を出していませんよっ」

 

「そう?じゃあ、本気を出される前に―――倒させてもらおうか」

 

言った直後。一誠の腕がマルギッテの腕を一気に倒す。その一瞬の光景に目を大きく開き、

眼帯を外すとピタリと手の甲が机にぶつかる直前に停止した。

 

「くっ・・・・・!」

 

「最初から全力でいけば違った結果だったと思うんだけど?

相手を見下したり侮りし過ぎだマルギッテ」

 

「まだだ、まだ終わりませんよっ!」

 

険しい表情を顔に出し、グググッとマルギッテの腕が持ち上がる。

火事場のバカ力が発揮したのか、元の位置に戻った―――。

 

「残念無念また来週っと」

 

ゴンッ!

 

軽い口調でアッサリ負かした。一誠の勝ちが周囲にも見届ける。

 

「さてさて、マルギッテ。罰ゲームといこうか」

 

「・・・・・なにをさせる気ですか」

 

物凄く警戒する。どんな体罰でも精神的な攻撃でも堪えてみせると思っていた

マルギッテに罰ゲームが実行した。

 

「ん」

 

一誠の手は真っ直ぐマルギッテの眼帯を取り上げた。そしてそれを自分の右目に装着したのだ。

その意味が分からないと一誠を見詰めるマルギッテにこう言った。

 

「これ貰う」

 

「は?」

 

「そんで、マルギッテは二度と眼帯を付けないこと」

 

―――それだけ?いや、高が遊びなのにどうしてそんなことが罰になるのか理解し難い。

自分の眼帯を付けた一誠に口を開いた。

 

「それを返してください。それがないと押さえている力が常に・・・・・」

 

「制御できないって?」

 

「いえ、高過ぎる自分にハンデとして付けているのです」

 

「・・・・・でもさ、俺に対して眼帯を付けても付けていなくても結果は同じじゃん?」

 

「ぐっ・・・・・」

 

痛恨の一撃がマルギッテに襲った。

 

「それに勝負を吹っかけてきたマルギッテがまさかルールを破るわけ無いよな?軍人なんだもん」

 

「それは・・・・・」

 

動揺するマルギッテ。

 

「眼帯を付けていない方が世界を見渡せるし、視野も広がる。それによ」

 

「他に何か・・・・・」

 

「眼帯付けていない方がマルギッテは可愛いじゃん」

 

「・・・・・っ!」

 

笑みを浮かべる一誠からの女の子として接せられ、マルギッテの顔がまた紅潮した。

 

「お、大人をからかうものじゃありませんっ!」

 

「大人だろうが子供だろうが、褒めるのは関係ないだろう。

思っていることを口にして良いことや悪いことぐらい俺だって分別できるわ」

 

「なぁ?」と冬馬に同意を求めれば微笑みながら冬馬も頷いた。

 

「ええ、マルギッテさんはとてもお美しい女性です。ですが、個人的には

兵藤くんに興味があるのですが」

 

「え?」

 

冬馬が一誠の顔に触れた。一誠の目に映る眼鏡を掛けた褐色肌の

イケメンはウットリとした表情で自分を見詰めている。

 

「兵藤くん、どうでしょうか?放課後私と一緒にデートでも」

 

徐々に二人の顔が縮まる。あと数ミリで互いの唇が―――。

 

「若ストーップ!」

 

「恐れていたことが起きてしまったかこの愚か者めが!」

 

準と英雄がバッ!と一誠から冬馬を引き離した。

なにがなんだか分からない一誠は首を傾げるばかりで、なぜか小雪に抱きつかれる。

 

「あんた、ナニしようとしてたんだ!?」

 

「なにを言うのですか準。私はただ彼の唇を―――」

 

「ええい!見境のない奴め!よりによって兵藤家の者にまで毒牙を掛けようとは!」

 

「毒牙とは失礼な。私の深い愛情を注ごうと・・・・・」

 

「「なおさら余計に悪いわ!」」

 

ポカ―ンと開いた口が塞がらない一誠は「大丈夫?唇奪われなかった?」と心配してくる

弁慶に聞いた。

 

「あいつ、なんなの?」

 

「あいつ、バイセクシャルだから気をつけなさい」

 

「バイセクシャル?」

 

何それとばかり首を傾げる一誠に再び魔の手が伸びた。

 

「分からないのであれば私が隅々まで教えましょう!」

 

「「お前は黙っとれ!」」

 

再び準と英雄に取り押さえられた。その様子に呆れ、一誠に耳打ちをする弁慶。

聞いているうちに一誠は驚愕の色を浮かばせた。

 

「・・・・・そう言う意味なのか?」

 

「知らないアンタの方が驚きなんだけどね。一般常識が掛けているんじゃない?」

 

「うん、それは自覚している。でも・・・・・・」

 

あのまま自分が冬馬の唇と重ねていたら自分は・・・・・。

 

「・・・・・(ガタガタ)」

 

「うん、それが普通の反応だよ。葵冬馬と接する時は警戒しなさい・・・・・ってなにその姿」

 

何時の間にか一誠が小さくなり、全身は金色の翼で包まれ

ある意味絶対防御壁の状態となった一誠。

 

「これなら襲われない!」

 

「寧ろ襲いたくなるじゃないですか!」

 

「ひぅっ!」

 

狂喜の笑みを浮かべる冬馬を見て一誠が顔まで翼を覆い、

とうとう繭みたいな状態となった。そんな一誠を弁慶が抱え義経に押し付けた。

 

「べ、弁慶?」

 

「しばらく義経が持っていて」

 

「よ、義経が?」

 

当惑する義経。繭の状態の一誠は腕の中でも分かるぐらい震えている。

 

「兵藤くん、大丈夫だから。ね?」

 

「ごめん、しばらくこうしたい」

 

繭からそう言われてしまい、ますます困り果てる。すると小雪が義経から一誠を取ると。

 

「ころころ~♪」

 

廊下で転がし始めた。繭の中の一誠はデジャブを感じつつ悲鳴を上げた。

それは2-Sの隣の教室、2-Fの教室まで届き、何事だと教室から顔を出せば、

往復して小雪が金色の繭を転がしている光景を目の当たりにした。

 

「小雪、なにしてるの?」

 

「あ、京。一誠を転がしてるんだぁー♪」

 

「一誠を転がしてる?」

 

「うん、これ一誠だよー」

 

満面の笑みを浮かべ、京に金色の繭を見せるとハラリと顔を覆っていた翼が解き、

目を回している一誠が見れて京は不思議そうにして小雪に問うた。

 

「・・・・・一誠、どうしてちっちゃくなっているの?」

 

「わかんない。でも、可愛いでしょー?」

 

「それは同感だね」

 

貸してと一誠を小雪から取り上げ、腕の中に収めた。

 

「・・・・・うう、目が回った。って、何で京が目の前に?」

 

「可愛い一誠をGETしたから」

 

「なにそれ」

 

「転がされるのはもう勘弁だ」と漏らし金色の繭と思っていたものがフワリと開き、

小さい一誠の姿が京の腕の中で現した。それから京から離れ廊下に立つ。

 

「ねーねー。どうしてそんなちっちゃくなったの?」

 

「ん?魔法の力だと言っておくかな」

 

指を弾いた一誠の身体に異変が起きる。淡い光に包まれつつ見る見るうちに大きくなり

元の姿となった。

 

「こんな感じでな」

 

「「おおー」」

 

感嘆の声を漏らす。魔法とは凄いものだと目の前で起きた現象に目を丸くする二人だった。

 

「もう一つ、どうして眼帯なんて付けているの?」

 

「ああ、マルギッテと軽い勝負をした故にだ」

 

「軽い勝負?」

 

「腕相撲でだ。そんじゃ、戻るか」

 

「じゃーねー」

 

一誠の腕を自分の元に引き寄せて共に2-Sへ戻る姿を京に見せつけた。

 

「あの女・・・・・私に対するあてつけだなぁっ・・・・・?」

 

―――○●○―――

 

「ねーねー一誠。あの翼を出してよー。触りたーい」

 

「はいはい、分かってるよ」

 

要望に答え、六対十二枚の翼を生やしだした。すると小雪が首を傾げた。

 

「あれ?増えたね」

 

昔は二枚しかなかったはずの翼が増えていた為、小雪の疑問は尤もだと一誠は頷いた。

 

「俺が強くなった証なんだ。これ以上は増えないけど」

 

「そうなんだ。とりあえずワーイと飛び付く!」

 

一誠自身ではなく、金色の片翼に飛び付き、急激に膨らんだ羽毛に埋もれ感触と弾力、

温もりを堪能する。

 

「うむ、昔と変わらず神々しい輝きを発する翼だな」

 

英雄もポンポンと触り出す。吸いつくような羽毛だが、やんわりと押し戻される感じが

無意識に口元が緩む。

 

「これは天使の翼なのか兵藤くん?」

 

「似ているけど違うな。ま、見た目は天使の翼と同じだから・・・・・触ってみる?」

 

「で、では・・・・・お言葉に甘える」

 

「私もね」

 

義経と弁慶も翼を堪能する。評価は上々で弁慶が寝てしまったほどだった。

そして、時は過ぎ昼食の時間となる。

 

「俺、弁当持ってきてないから今日は学食で食べるわ」

 

「僕もー!」

 

小雪もついてくる形で、小雪に学食がある場所へ案内してもらった。

広々とした空間、様々な料理やデザートの名前が壁に掛けられていて学食組の生徒は

それを見て何を食べようかと友人達か一人で悩んでいる姿が見れる。

 

「一誠は何を食べるのー?」

 

「カレーハンバーグかな」

 

「じゃあ、ボクはハヤシカレー!」

 

食べるものを決まれば食堂のおばちゃんに代金を払って作ってもらう。

しばらく待つと二人のカレーが出来上がったので座れる席に座って食べ始める。

 

「美味しいねー」

 

「そうだな」

 

他愛のない雑談。朝、決闘で勝った一誠がこの場にいることを周囲の生徒や教師が

意味深な視線を送る。そんな中、堂々と真っ直ぐ一誠と小雪に歩み寄る人物がいた。

 

「こんなところにいたか兵藤一誠」

 

「ん?―――お前は」

 

「お前もこの学校に来ていたとは知らなかったが、お前ほどの者ならば当然と言えるだろうな」

 

以前、一誠を会いに来た男―――サイラオーグ・バアルが再び一誠に声を掛けた。

 

「他にもこの学校に来ていたんだな」

 

「お前は今回が初めてだったな?強化合宿時に優秀な生徒は他校へ一時的に編入し他校に刺激を与え、自分も更に向上する。早速お前はこの学校の生徒の者たちに刺激を与えたがな」

 

片手で持っている料理をテーブルに置いて座り出すサイラオーグに問うた。

 

「先輩は初めてじゃないな?」

 

「今年で三度目だ。俺たちの他にも一年の後輩もいるはずだ」

 

「ふーん。そうなんだな」

 

特に興味がなさそうでサイラオーグとの話は平行線で進む。今回の強化合宿の事や、

互いの強さの秘訣と互いが興味を持つ話をしながら小雪の相手もした。

 

「所で兵藤一誠。あの力は何なのだ?」

 

「あの力?」

 

「お前が全身黒くなったアレだ」

 

百代とエスデスを一蹴した力だと指摘した。合点した一誠は朗らかに言った。

 

「分かんない」

 

「分からない?」

 

「修行しているうちにできたんだ。とある神さまと稽古してもらった時にな」

 

「神と稽古とは凄まじい体験をしてきたのだな。感服する」

 

自分とは違う修行に笑みを浮かべた。悪魔が他の神話体系の神々に稽古を

つけてもらえるなど有り得ない。だが、悪魔よりもさらにそんな機会を得ることは

難しい人間が体験した。あの強さの秘訣がそれならば十分過ぎるほど納得ができる。

 

「唯一分かっていることは相手の力、魔力や気といったものを全て奪ってしまうことなんだ。

神器(セイクリッド・ギア)じゃないみたいだし、俺自身の特殊能力みたいなものだとは思っているけど」

 

「リアスみたいな悪魔特有の力のような感じか。兵藤一誠の両親は人間なのだろう?

ならばそれより前、先代の者たちの中に悪魔みたいな異種族がいたかもしれないな」

 

「んー、そんな感じなのかな?」

 

食べ終えている一誠は自分の力に疑問を抱いている。誠や一香にすら分からない特殊な力。

だが、その力を以ってしても一誠は敗北した。

ただ、神は興味深そうに見聞していた印象が残っている。

 

「ちょっといいかしら?」

 

何も持たず声を掛けてきた女子。一誠たちがその女子に目を剥ける。

黒と紫が入り混じったロングストレートの髪。黒い瞳で長身的な特徴の女子だった。

一見普通の女子生徒に見えるが雰囲気はどこか不気味さを醸し出す。

 

「何か?」

 

「貴方が気になった一人の女だと思ってくれればいいわ。私はシオリ。よろしくね兵藤一誠くん」

 

「どうもよろしくお願いします」

 

挨拶を交わしたところで地鳴りが生じ、段々とこっちに近づいているのか大きくなり、

 

「こぉら一誠!姉の私を差し置いて別の歳上のお姉さんと仲良くなんて許さないぞ!」

 

百代が怒涛の勢いで駆け寄り、一誠を捕まえるとどこかへ強引に連れて去った。

 

―――○●○―――

 

 

「え”、どういうこと」

 

「どういうこともなにも、お主は強化合宿が終わるまでワシの家に居候してもらうだけじゃ」

 

「そんな話、学校でも聞いてないんだけど」

 

「ふむ、報告が行き届いておらんかったのかのぉ」

 

放課後となると鉄心が一誠に訪れ今後のことを告げたが、一誠にとっては聞き覚えのないことだった。

 

「着替えとかないんだけどどうすれば?」

 

「下着ぐらいは自分の小遣いで買ってくれんかの。その他必要な物はこちらで用意する」

 

「因みに俺と同じ目的でここにいる三年生の先輩は?」

 

「あの者なら島津寮に宿泊する。一年生と一緒にな」

 

「何で俺だけ川神院に?」

 

そう言う事なら自分も島津寮とやらの寮に泊まる流れではないのかと疑念を抱く。

鉄心は口元を緩まして朗らかに言った。

 

「お主はワシの個人的な私情で川神院に来てもらいたいのじゃよ。また昔のように、の」

 

「・・・・・このこと、百代や一子には?」

 

「まだ教えておらんよ。ああ、お主の家族には伝えておるからゆっくり川神院に来るといい」

 

それだけ言い残し、鉄心はいなくなると一誠はその言葉に甘えるように学園の中を歩き回る。

教室の中も除けば男女の生徒たちがいて、一誠がいるクラスとは異なっていた。いや、

これが当然の姿なのだろう。兵藤家の同年代が傍若無人、暴力、欲望のまま行動して

いなければ偏ったクラスにはならなかっただろう。歩きまわり、玄関に赴き靴を履き替えて

校舎から出た。部活動をしている光景も眺め、一誠は最後に弓道部へ足を進めた。

 

「失礼しまーす」

 

関係者以外立ち入り禁止上等とばかり、声を殺して中に入ってみれば、

弓道部の部員たちが神経を研ぎ澄ませ、心を落ち着かせ、集中して遠くにある的を

狙って矢を放っていた。静かにその様子を見守っていれば案の定、

部外者がいることを気付かれる。

 

「あなた、誰ですか?」

 

「あ、どうも。兵藤一誠と言う。部活の見学をしていた」

 

「兵藤一誠・・・・・ってあの兵藤!?」

 

ザワッ!

 

驚愕の声が部員たちの耳にまで届きざわめきが生じた。これでは部活どころでは無くなったと、

申し訳なさそうに頭を掻く一誠は一人の部員に告げた。

 

「なんか悪いな。邪魔したから帰るわ」

 

「い、いえいえっ!ど、どうぞ見学してください!顧問の先生はまだいませんけど!」

 

「あー、そんな緊張しないでくれ。普通の一般の生徒だと思ってくれ」

 

苦笑を浮かべお言葉に甘えた一誠は邪魔にならないところで静かに佇む―――かと思えば、

 

「俺もやってもいいか?」

 

「えっと・・・・・部長」

 

判断をできかねて弓道部の部長に乞うた。クールビューティーな眼鏡を掛けた女子が

顎に手をやって悩む仕草をした後に頷いた。

 

「ええ、構わないです」

 

「ん、ありがとう。久々に弓を射るな」

 

弓矢を受け取り、真っ直ぐ的に向かって立てば弓の弦に矢を備えて静かに力強く射る姿勢に入る。

一誠の様子を見守る部員たち。真剣な眼差しで的を見据え、

呼吸をしていないかのように静かすぎる中で

的の中央の部分を狙って矢を手放した。一拍遅れてタンッという音が的から聞こえた。

部員たちの目に入る矢が刺さった場所はど真ん中だった。

 

「ふぅ、腕は鈍っていないようだな」

 

自分の結果に冷や冷やしたと苦笑を浮かべた一誠に拍手が送られた。

 

「あ、あの、お上手ですね」

 

「狩猟が得意な神さまに鍛えられたからな」

 

「神さま・・・・・?」

 

「おう、神さまだ。止まっている的ならともかく動いている的を当てるのは結構難しくてな。

まぁ、久々に弓矢を持ったけど腕は落ちていないようで安心した」

 

弓矢を部員の一人に手渡し、この場から去る最中。

 

「ま、また来てくださいね!ご指導をお願いしたいので!」

 

背後から乞いの言葉が聞こえ片腕を上げながら川神院へ向かう。

既に空は主に染まり切って夕暮れの時刻。あの夕陽を見てある事を思い出す。

 

『お前のことが気に入った。私とずっと一緒にいてくれ』

 

あの頃はまだ恋愛の「れ」すら分からなかった一誠だったが、今は違う。愛しい女性と

遅くなったが結ばれた。それでも自分のことを好きだという異性は多くいる。

一誠は優しく言い方を悪くすれば優柔不断。誰一人として贔屓もせず、

平等に接したいと思っている。

 

「・・・・・そろそろ言わないとダメだよなぁ」

 

「何がだ?」

 

「ああ・・・・・って、なんでいるの?」

 

独り言として呟いたはずだったが何時の間にかいたエスデスが背後にいた。

 

「弓道部から出てきたお前を見掛けた。声を掛けようとしたら悩んでいたようでな。

で、なにを言わないとダメなのか教えてくれるか?」

 

抱き寄せられ、エスデスの体の柔らかさと甘い匂いを覚える。

そして同時にこの異性(エスデス)にも言わないといけないことも思い出す。

 

「エスデス、聞いて良いか?」

 

「ん?なんだ」

 

「優柔不断な男って嫌い?いや、好きな人がいるのにそれでも好きだという

女も好きになる男は嫌いか?まぁ、俺のことだけどさ」

 

遠慮がちに言う一誠の問いをキョトンとして―――一拍して盛大に笑いだす。

 

「・・・・・そこまで笑う?」

 

「お前のことだから『皆大好きだ』と言うのかと思っていたんだ。

なんだ意外と気にしていたのだな?

自分が女にだらしない浮気性のある男だと思われたくなかったからか?」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

口で言うのも何だか嫌で首を振って肯定した。最低な人間にだけはなりたくないと

一誠は常に思っていた。複数の異性と付き合うのも人としてどうなんだと思っているほどに。

 

「好きなようにすればいいだけだ」

 

「それだけ?」

 

「人間は好きなことができないとストレスが溜まる。それは生物や植物だってそうだ。

欲求を満たす為には欲求を満たす為の行動をする。私だって欲求が溜まっているんだぞ?」

 

ニヤリと一誠に向かって笑みを浮かべた。

 

「お前と言う男と何時までも接する時間が欲しい。昔言っただろう。お前のことが気に入った。

だから私の物にすると」

 

「・・・・・そうだったな」

 

「お前は強い女に好かれやすい体質だ。なら、言い寄ってくる女共を酒池肉林の如く娶れば

いいだろう」

 

「その中に私も加えてくれればそれでいい」と加えるエスデス。未だに一誠を想う気持ちは

変わっておらず、一誠と結ばれることを本望としている。                           

                                                  好きなようにすればいい。

 

 

誠と一香からもそう言われたことはある。それは自分の意思で決めろの他にも自分の

気持ちを偽らず、真っ直ぐ前に進むことを意味する。

一誠は心がスッと軽くなったような気分となった。

 

「うん、わかった。ありがとう」

 

「ふっ。弟の悩みを聞くのは姉の―――」

 

得意顔になったエスデスの言葉は最後まで言えなくなった。

一誠が唇をエスデスの唇に押し付けた後に感謝の言葉を送ったのだから。

 

「今日から俺は好きなようにしてみる。まずは俺のことを好きだと言ってくれる家族に

返事をしたいな。だからエスデス、俺もお前のことが好きだよ」

 

綺麗な笑みを浮かべ、感謝の言葉を送った一誠はエスデスを残して川神院に帰宅する。

 

「―――――っ」

 

そして、残されたエスデスは鼻から一気に耳まで真っ赤に染め、何時までもその場で

佇んでいたのだった。

 

―――○●○―――

 

その日の夜。

 

「で、一誠は数日間この家に居候することは理解した。

ああ、それは私にとっては喜ばしいことだ」

 

不敵に笑みを浮かべ一誠を見る百代。二人がいるのは川神院のとある居間。

優勝区を食べ終え用意された一誠の和風式の部屋で畳の上に腰を下ろして

二人っきりの状態で会話を交わす。

 

「ふふっ、またこの家に過ごすとはな。いっそのことこのまま川神院に住まないか?」

 

「や、それは無理。俺にも家族がいるんだし」

 

「つれないなぁー」

 

浴衣姿の百代は不満げに口を尖らし、ジト目で一誠を見る。

その視線を気付き苦笑を浮かべる一誠は今いる部屋を見渡す。

                                                「この部屋って昔俺が寝ていた場所だよな」  

「ん?ああ、そうだな。ジジイが気を利かせたんだろう」

 

「なるほど、通りで懐かしさを感じるわけだ」

 

閉じられている戸に目を向ける。外はすっかり暗くなって夜空には

数多の星がカーテンのように煌めいてる。

 

「あれからもう十年近く。お互い見ない間に凄まじい成長を遂げたな」

 

「お前の方がよっぽど凄いと思うぞ。ドラゴンになって戦うなんて

以前のお前はできていなかっただろう」

 

「まーなー。でも、世界中で修行してきた成果だ」

 

「・・・・・世界には私が知らない強者はいるのか?」

 

ポツリと百代は問うた。一誠は脳裏に色んな人物たちの顔を思い浮かべ、苦笑して頷いた。

 

「強い人どころか、神さまがいるんだ。俺が手も足も出せない神さまはごまんといた」

 

「お前でも勝てない神か・・・・・戦ってみたいなぁ・・・・・」

 

羨望の眼差しを向ける百代。強者と戦いたい戦闘凶の百代にとっては未知の相手。

相手はどんな戦い方をするのか、どんな能力を持っているのか、

どれほどまでの力の差があるのか、知りたい。そう百代は一誠の話を聞いて

思わずにはいられなかった。

 

「一誠が強くなったのも神さまと戦ったからか?」

 

「それだけじゃない。猛威を振るう自然とか人間ではたち入れない秘境の地にも行ったんだ。

様々な経験を積み重ね、数えきれないほどの敗北をした結果今の俺がいる」

 

「そうなんだな。あー、それを訊いたら戦いたくてうずうずしてきたぞ!」

 

全身で表現する。構えー!と言いつつ一誠に抱きついて。

 

「・・・・・そーいえば、お前」

 

「ん?」

 

「不思議なやり方をしていたな」

 

首を傾げ不思議そうにいる一誠に手を刀のように突き出す。

 

「手から剣みたいなものでマルギッテの武器を斬っただろ。あれだよ」

 

「ああ、あれ?気で具現化したんだよ」

 

「具現化?ジジイみたいな毘沙門天のような感じか?」

 

「そうそう、こんな感じにだ」

 

手に淡い光が纏うと、光が刀剣のように造形していく。

装飾も意匠も施されていない何の変哲もない光る刀身が百代の前で作られた。

 

「氷は人の手で造形していく。イメージでな。だから気にイメージを籠めてやれば

案外簡単にできるんだ。簡単とは言っても、少し苦労したけど」

 

「そんなやり方もあったんだな。ただぶっ放すことだけが気の本質かと思った」

 

「あれって無駄に気を消失するってば。100のパワーから10ぐらい減ったみたいな感じで。

気の砲撃を連発したらそんなの金を後先考えず無駄遣いしているようなもんじゃん。

自信の身体に流れる気は他の人から金を借りれるようなもんじゃないし」

 

「・・・・・」

 

「どうして俺から目を逸らす?」

 

何気に痛いことを突くなと心中思った。百代の金銭的な事情と問題を知らない一誠に

とっては怪訝な思いだった。百代の心情を気付かない一誠は言い続ける。

 

「百代もできると思うから頑張れよ」

 

「ああ、空いた時間でもやってみるさ」

 

気の刀身を解いては抱き付く百代を抱きしめた。

 

「お?」

 

「そう言えば、あの時の答えを言ってなかったな、告白の」

 

「・・・・・」

 

告白と言う単語に百代の心臓が跳ね上がった。一誠はもう子供ではない。百代は敢えて言わず、

しばらくは楽しむつもりでいたが、一誠から言われては意識をせざるを得ない。

 

「悪い、俺はもう付き合っている人がいるんだ」

 

「・・・・・エスデスか?」

 

「や、リーラ」

 

―――あのメイドか。銀髪に琥珀の瞳を持つ美人な女性。一誠が選んだ女性が彼女なら納得できる。

常に傍にいた彼女に恋してもおかしくはない。ただし、エスデスだったら対抗心を燃やしていた。

それが例えリーラでも変わりはないのだが。

 

「そっか、お前は『好き』と言う感情がとっくの昔に芽生えたんだな」

 

「うん、だから純粋に百代の告白も嬉しい」

 

「・・・・・ん?」

 

フラれた雰囲気だったのになぜか告白を受け入れられたような感じがするのはなぜだ?

自分の告白も嬉しいとはまるで―――。

 

「エスデスに聞いたんだよ。複数の女と付き合う男は嫌いかって、そしたらなんて言ったと思う?」

 

「・・・・・」

 

答えが出ない。エスデスの性格は熟知しているつもりだが、

有り得そうな言葉が多すぎて口に出し辛い。

答えを発する言葉が喉の奥につっかえている百代に一誠は言った。

 

「好きにすればいいってさ」

 

「好きにすればいい?」

 

「普通に呆れられるか、愛想尽かれるのかと思ったけど、肯定も否定もしてくれなかった。

『好きにすればいい』。ただそれだけだった。その言葉を訊いて俺は」

 

百代の腰に腕を回して自分の方へ引き寄せる。

胡坐を掻く一誠の上に乗せられ、百代は見下ろす形で一誠と密着する。

浴衣と言う一枚の布越しに二人の体温と心臓の鼓動を感じ取り、何とも甘い雰囲気となった。

 

「俺は自分の気持ちに嘘を吐かないことにした。俺のことを好きでいてくれる女を俺も

好きでいようと、愛そうと思う」

 

百代に見上げ綺麗な金色の双眸を窺わせる。その瞳からは純粋な輝きが放たれ、百代を苦笑させた。

 

「子供の言い分だな。そんな気持ちでいると一体お前に好意を持つ女はどれだけ

増えるのか分かっているのか?」

 

一誠の頭の後ろに腕を回して、自慢の胸に押し付けた。

むぎゅっと一誠の顔を埋まりそうな様子だが、

真っ直ぐ百代に向ける金色の眼は赤い眼を捉えている。その眼を見て―――。

 

「(ああ・・・・・あの時見た眼はますます綺麗で格好良くなったな・・・・・)」

 

魅入った。成長した一誠に呼応して様々な修羅場を潜った百代を魅入らせる眼は

純粋な強さを宿している。

 

「・・・・・なぁ、一誠?」

 

「なに?」

 

「お前に告白しておいて何なんだが、私は戦うこと以外あまり分からないぞ。それでも

いいんだな?」

 

「百代より俺はこの歳になるまで修行に明け暮れていたんだ。もしかすると一般常識が

疎いかもしれない。まだ百代の方が分かっていると思うぞ」

 

そう言われ、口元を緩んだ。それはそれで、違う知識を与えて恥を掻いた一誠の

慌てっぷりを見るのも面白そうだと悪戯心が湧く。

 

「一誠、お前といれば楽しいことは続くか?」

 

「百代が大好きな展開になるのはたぶん間違いないよ」

 

「私の好きな展開かー。それは楽しみだ」

 

子供のように笑みを浮かべた百代は一誠に顔を落とす。鼻先と鼻先が突きそうなぐらい

近づけて訊ねるように口を開く。

 

「回りくどい話になったが一誠。お前は私のことが好きなんだな?

あのメイドと付き合っているにも拘らず」

 

「大事な、大切なものを傍に起きたい。ドラゴンも宝を守ることだってある。

俺の宝物は俺を好きでいてくれる家族だ」

 

「はははっ。私も宝だって言うのか。変わった口説き方だ。でも、いいな私の価値を

そこまで評価してくれる。宝石だの、一輪の花だのと言われるよりそれらを

ひっくるめた評価がスッキリしていい」

 

軽く笑った後、自分の方へ顔を寄せる。

 

「ん、ン・・・・・ちゅ・・・・・んむ・・・・・」

 

唇を合わせる。押し付けるだけのキス。

 

「・・・・・一誠」

 

「目が蕩けているぞ百代。美人なのに可愛い表情だ」

 

「っ!」

 

耳元で囁かれ、ビクリと身体を震わす。耳に掛かる息が何ともこそばゆく、

くすぐったいと体をよじらせたが

 

「ん・・・・・ちゅ」

 

一誠が積極的に唇を合わせてきた。突然のことで目を丸くするが

次第に目を瞑って一誠とのキスを味わう。合わせるだけの口付けは熱く、

深く二人の精神を昂らせて舌を絡ませるようになるのはあっという間だった。

 

「じゅる・・・・・ん・・・・・ぷはっ・・・・・・」

 

「百代・・・・・・れろ・・・・・んふ・・・・・」

 

「お、お前・・・・・なんか・・・・・んは・・・・・・巧くないか・・・・・?」

 

そう言われ、ムスッと一誠は不満そうに言う。

 

「殆ど俺はキスをする側じゃなくてされる側だったんだ。

―――今度は俺が蹂躙する為に隠れながらキスの仕方や舌技を色々と覚えたんだからな」

 

「お前の傍にいる女の子たちが鍛えたんじゃないのか?」

 

「生憎だが、俺は異性との恋愛よりも修行に明け暮れていた。

だから、百代が思っているようなことは何一つしてないよ」

 

不敵に漏らす一誠だった。そして、百代の唇に三度重ねた。

今度は一方的に舌を巧みに動かし、百代の口内を蹂躙していく。

静寂な部屋から水音だけが響く。荒く熱い鼻息、百代の顔がどこまでも真っ赤になり、

舌と舌と絡めることで甘美な刺激が電流のように脳まで感じ、

全身が熱くなるにつれて思考をじわじわと鈍らせられ思わず一誠にしがみ付く手に力が籠るタイミングを計って顔を放せば、口と口に銀色の液が橋のように繋がり、

絶え絶えに息を蕩けた顔でする百代に問うた。

 

「・・・・・このままキスをしながら寝ようか」

 

「・・・・・最後までしてくれないの?」

 

強気な発言をする百代が切なさそうに乞うた。濃厚なキスで潤った目から期待の眼差しを

向けてくれる百代に「ああ」と言った。

 

「盗みしている人がいるからな。そこまでは応じれない」

 

「     」

 

甘い気分がスッと絶対零度のごとく冷え切り、ゆっくりと一誠から離れた百代を見て

指を弾いた瞬間。戸が一人で勝手に開き、ドサッ!と戸の向こうにいた鉄心や釈迦堂、

一子が雪崩込んで入ってきた。三人の前に立ち百代は静かに話しかけた。

 

「覗きをしていたなんていい度胸じゃないか」

 

闘気が迸るのを呼応した髪まで逆立った。怒る百代を前に一子は涙目で身体を震わし、

 

「なんだ、俺たちのことなんて気にせずもっとイチャつけばいいのによ」

 

「ひ孫ができるのもそう遠くないかもしれんのぉー」

 

反省の色が全くない釈迦堂と鉄心。―――次の瞬間、鬼気迫る勢いで自分の師匠と祖父に

殺さんばかり飛び掛かった。(一子は一誠の手で避難された)



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エピソード22

「まったく、あのスケベジジイだけじゃなく師匠まで覗きなんてするとは思わなかったぞっ」

 

「一子もどうして参加していたんだ?」

 

「釈迦堂師範代に強引で・・・・・」

 

晴天の下で登校する一誠と百代、一子の三人組。それだけじゃなく、

 

「百代が暴れるから寝れなかったんじゃんか!」

 

「ZZZ・・・・・一誠くんの背中、温かぁい・・・・・」

 

「天の言う通りだぜ」

 

川神院に養子として引き取った天、辰子、竜兵も共に登校している(亜巳は仕事)。

 

「ていうか、お前がウチに居候なんてまた川神院で修行するのかよ?」

 

「や、一時的だ。数日ぐらいすれば通っていた学校に戻る」

 

「あっち行ったりこっちに行ったりしてお前は風か」

 

「風は風でも嵐だったりして」

 

「いや、暴風だ」

 

多馬川が見える。のどかに川が流れ魚たちも悠々と泳いでいるだろう。

大きな橋、多馬大橋も肉眼で捉え、一行は橋に直行していたのだが橋の上に道着を

身に包んだ男性がいた。話を聞けば川神百代の挑戦者らしく百代は嬉々として挑戦を受けた。

 

 

バキッ!

 

 

0.1秒と一蹴して終わらした。

 

「つまらない」

 

「ただの人間じゃ百代に触れることもできないって」

 

倒された挑戦者を一瞥し、川神学園へと足を運ぶ。

 

「辰子はともかく天と竜兵が大人しく学校に行っているなんてな」

 

「最初は物凄く反抗して嫌がってたわよ。でも、じいちゃんが奥義を発動してでも

行かせる気だったから」

 

「・・・・・ほぼ脅しじゃん」

 

「だろう!?社会に馴染めないウチらが学校に行ってもしょうがないじゃん!」

 

「あのジジイはいつか絶対に張り倒すっ」

 

いや、それは無理だろう。百代は当然のように思った。現役を引退したと言っても

実力はあまり衰えていない。体力は落ちただろうがそれでも強さの壁を越えた一人だ。

百代が認めるほどの実力者でもある。

 

「オメーからもなんか言ってくれよ」

 

「そうだぜ。お前なら言うことを訊いてくれるじゃねぇか」

 

「多分、お前らの二の舞になる」

 

「「使えねぇ!あっ、悪い!だからアイアンクローはやめてくれェええええええええっ!?」」

 

―――2-S―――

 

そんなこんなで強化合宿はあっという間に最終日を迎えた。その間の放課後は弓道部に顔だし、

時間が許される限り稽古をつけてやったり、他はシオリという女子が度々会いに来たり、

百代とエスデスが一誠争奪戦を勃発したり、学食でサイラオーグと食べたりして時間が

過ぎたのだが、結局のところ。一誠の強化合宿は何の変化もなく終わろうとしていた。

 

「先輩、俺って来た意味あった?」

 

「俺に求める事ではないと思うが?」

 

「いや、思った以上どころかそれ以下だったし。や、友達や恋人もできたし

別に悪いわけじゃなかったし」

 

「ほう、恋人ができたのか?ならばリアスには告白しないのか?」

 

「え、リアス?好きだと言われないからただの友達だと思っていたんだけど」

 

「・・・・・リアスに問題があったか」

 

何やら意味深なことを呟くサイラオーグだった。最終日には何があるのかと訊ねると、

特にないと言われてしまい、このまま平穏に何事もなく終わるのかとちょっとつまらなく思った。

 

「そういえば、寮にいるんだよな?どう、寮生活は」

 

「個性的な人間がいて暇ではないな。寮にいる一人の男子生徒はヤドカリを飼育していて、

訊ねると数時間語られた」

 

「・・・・・それ、愛着以上の何かを感じるのは気のせいか?」

 

「並々ならぬ何かを感じたのは確かだったな。だが、人間とは面白い」

 

サイラオーグは口の端を吊り上げた。対して頭の上に?と疑問符を浮かべる一誠。

 

「十年前まで悪魔であることを隠して人間界に存在したいた。なのに今では当たり前のように

人間界を闊歩し、人間は悪魔だけではなく天使、堕天使も受け入れてくれる。

以前は悪魔として人間相手に契約し、それを糧に生きていた。

眷属として交渉し、共に強くなる。または悪魔であることを隠し人間の仕事をしたりと

陰ながら生きていたのにな」

 

「・・・・・」

 

「どうした黙って」

 

「んや、悪魔の世界も実力主義の社会なのは分かっているけど、アンタは冥界と人間界、

どっちを住んで幸せだと思うんだ?」

 

何となく聞いた質問をサイラオーグはこう答えた。

 

「俺の場合は幸せではなく、より強くしてくれる世界だな」

 

真っ直ぐサイラオーグは一誠と対峙した。何時になく真剣な面持ちでこれから語られる

サイラオーグの口から出る言葉に耳を傾けた一誠の耳にある決意の言葉が入ってきた。

 

「兵藤一誠、俺は魔王になることが目標としている」

 

「―――――」

 

「能力があれば誰でも有能として扱い、たとえ生まれがどうであろうと誰でも相応の

位置につける実力評価の世界を作りたいと思っている」

 

胸に強く握った手を当てるサイラオーグ。

 

「そう、力と志がある者に相応しい世界を俺は作る。

兵藤一誠、お前みたいな者の世界の為の世界だ」

 

力と志がある者に相応しい世界・・・・・。心の中で復唱し、一誠は何とも言えない表情となった。

 

「・・・・・今の人間界じゃそんな人間は少ないかもな」

 

「何故そう言い切れる?」

 

「言い切っていない。そんな感じがするだけだ。―――主に兵藤家が原因だけ」

 

「ならば、お前は人間界の王となればいい」

 

意外な言葉がサイラオーグから出た。自分が人間界の王?

 

「冥界は悪魔を束ねる魔王。天界は神をサポートし、天使を束ねる神王、

ならばこの国の天皇の兵藤家の当主よりも全ての人間の代表として人間界の王となればいい」

 

「・・・・・からかっているのか?俺は知っての通り人間じゃないんだぞ。

人間からしてみれば怪物だ。俺はそこまで高望みはしない」

 

「だったら聞こうか。お前は何の為に強くなった。何の為に生きている?」

 

「・・・・・」

 

理由を問われても一誠は言えなかった。理由がなくても人は生きていけれる。

 

―――兵藤家に見返す。

 

一誠は子供のような理由で強くなり、生きた。だが、逆に言えばたったのそれだけで

他はなにもない。

 

「・・・・・兵藤家を見返す。それだけだ」

 

「なるほど、認めてくれなかった者たちに見返す為か」

 

「―――っ」

 

いきなり核心を突いてくれた。サイラオーグは自分のことみたいに一誠を見詰める。

 

「お前はどこか俺と似ている」

 

「なんだと・・・・・?」

 

「お前の瞳を見れば俺とどこか似ている光を宿している。

出生、育った周囲の環境・・・・・そんなところか?」

 

「・・・・・」

 

「お前の身に何が起きて、真龍と龍神の力を有したのかは俺には分からない。

だが、その力を誤ったことに振るうなよ?もしもそんな事をすれば俺は全身全霊を

以ってお前を倒す」

 

釘を刺された。俺がそんなことするはずがないと言い切れない自分がいる。無言で頷くと、

サイラオーグは一誠の肩にポンと軽く叩き、去って行った。眼だけ去るサイラオーグを見送り、

 

「どこが似ているのか少しぐらいは教えて欲しいもんだ先輩よ」

 

息を一つ零した。

 

―――○●○―――

 

「おはよう、兵藤くん」

 

「おはよう、先輩。また来たんだ」

 

「あなたは有名人の以前に色々と気になるからね」

 

妖艶に微笑むシオリ。今日で最後の強化合宿である一誠がいなくなる前日でもあり、

シオリは最後に顔を出す為に姿を現した。―――屋上に。

 

「あなた、今は授業中よね?」

 

「んー、最後ぐらいはのんびりしたいから抜けた。というか人のこと言えないよな?」

 

「そうね。あなたと二人きりになる機会を狙っていたから丁度良かった」

 

「あっそう。それで、俺とどんな話をしたいんだ?これだけは分かるけど先輩は人間じゃないよな」

 

青い空の下で胡坐を掻いて屋上に座っている一誠の背後に佇むシオリ。

二人を邪魔するものは誰一人として存在しない。シオリにとっては絶好の好機。

 

「最初から分かっていた?」

 

「確証は今だってない。だけど、なんて言うんだろうな」

 

ガリガリと頭を掻き首を捻って尻目でシオリに向かって言った。

 

「俺の中で先輩は他人じゃないって言うんだ。初対面のはずだがなんでだろうな」

 

「それは私も同じよ兵藤一誠くん。いえ、兵藤家と式森家の人間の間に生まれた

中途半端な人型ドラゴンくん」

 

クスリと小さく口角を上げたシオリをジッと見つめる。

中途半端―――。そして自分を見抜いている彼女は何者なのか、未だに分からない。

 

「どうして中途半端と言う?俺は兵藤家の人間だぞ」

 

「姓をどう名乗ろうが、もう一つの血を流しているなら中途半端と呼ばれてもおかしくはないわ。

それにドラゴンの血だって流してる」

 

「ほんと、先輩は何者なのか気になる一方だ」

 

「なら、一つだけ教えましょうか」

 

「っ!」

 

闇が広がった。シオリの意味深な言葉と同時に闇が生まれ形になっていく。

そう、ソレは一誠が目を張って驚愕の色を浮かべるほどの―――。

 

「・・・・・なんで、その姿になれる」

 

「あなたと同じ存在、だからと言っておきましょうか」

 

黒い籠手が両腕に包み、顔に入れ墨のようなものが浮かび、

一対の黒い紋様状の翼が背中から生え出し、龍のような黒い尾も腰から伸びている。

―――自分だけしかなれない姿を目の前の女子の先輩が同じ姿になっている事実に

信じがたい気持ちで一杯になる。

 

「同じ存在って・・・・・先輩も兵藤家と式森家の・・・・・?」

 

「ちょっと違うわね。私はとある一族の末裔。兵藤と式森と関係があるのは確かなのだけれど」

 

「・・・・・関係?」

 

「あなた、魔人って知っている?」

 

魔人と言う単語に怪訝そうな面持ちで首を傾げる。知らないという意思表示をする一誠に

大した反応をせず説明口調で語り始めた。

 

「魔人は冥界に住んでいる一族。冥界ってこの人間界の地球みたく広いでしょ?

流石の現魔王や悪魔たちは冥界の裏まで知るわけがないわ」

 

「その一族がどうして人間界にいる?」

 

「血を絶やさない為よ。悪魔や天使、堕天使が世界の覇権を巡って戦い始めた頃から

魔人は存在していた。勿論その戦争に悪魔側の味方として参戦していたわ。

でも、知っての通りあなたたち兵藤家と式森家の人間が介入して戦争を終幕させた。でもね、

その戦争を終わらせた兵藤家と式森家は魔人と根深い関係があるのよ」

 

「どんな?」と話を催促させるとシオリは口元を緩ませて言った。

 

「兵藤と式森は元々一人の魔人と一人の人間から生まれた一族。

―――そう、魔人が人間と契りを結び、気が長けた子供と魔力が長けた子供の双子の誕生から

全てが始まった」

 

信じられない事実を語るシオリ。一誠の心情を知ってか古の歴史を語り始めた。

三大勢力戦争が勃発して間もない頃、魔人は戦争に疲れ果てていた。幾度も幾度も戦争。

どれだけ相手を倒しても戦争は終わらない。一族も数を減らしてゆき、

何時しか魔人という種が絶滅してしまう。魔人は悪魔より数が少なかった。

代わりに現在で言う最上級悪魔を凌駕する魔力や特殊な力を有していた。

 

しかし、堕天使と言う天敵もいる為に冥界で生きる為にも悪魔と協力して戦争に身を

投じざるを得なかった。一人、また一人と一族の者が倒れていく。

ついにはどの種族よりも数が減ってしまい、これを危機に感じた魔人たちは悪魔と

協力することを拒み、戦線離脱、純血でもハーフでも関係なく種の存続のために

子孫を増やし始めた。が、悪魔たちは数を増やす魔人たちを見つけては戦争の為、

悪魔の勝利の為、世界の覇権を手に入れる為と強引に戦争へ投じさせた。

 

そんな種族に魔人たちは思った。

 

『自分たちは悪魔の為に戦っているのではない。魔人という種の存続と繁栄のために

戦っているんだ!』

 

「魔人は完全に悪魔を敵とみなし、人間界へ姿を暗ました。まだ冥界にも戦争が終わってから

生き残ってる同胞がいるかもしれないけれど、表に出ないということは隠居みたいな

暮らしをしている可能性があるわね。もう、悪魔に従わない為に」

 

「・・・・・」

 

「人間界に移り住んだ魔人たちはハーフの魔人を増やした。

でもね、ハーフの魔人はまた人間と契りを結び、子供を作っているうちに魔人の血が

段々と薄れてしまい、ついには魔人の血は絶えてしまった」

 

息を吐いてはまた語り始める。

 

「さっきも言ったように気が長けた子供と魔力が長けた子供の双子が生まれたわ。

だけどお互いが魔人としての力は受け継いでいたけど持っていない力があり、

双子は羨望と嫉妬、ついにはどちらが強いのか双子は争い始めた。

それから双子はそれぞれ兵藤と式森という人間と結び、

体術や魔術を極め、どちらがより優れているのか度々衝突した」

 

「今は良好のようだけどな」

 

「それはそうよ。そんな関係を良しとしない両家の一部の人間が秘密裏で出会い、

裏で工作していたもの。それが誰だか分かるかしら?」

 

分かるわけがないと首を横に振った。昔の話を聞かされる自分に問われても

チンプンカンプンで、意味深に質問をしてくるシオリに目で訴えれば、

 

「現在の当主たちより前の四代目の当主たちよ。ああ、式森家の方は式森数馬の父親から数えてね」

 

「大分前の人物だな」

 

「まーね。まぁ、その人たちが裏で工作したおかげでお互いいがみ合うのを止めさせ、

日本を同等の立場で収めようと決め合った。天皇兵藤家と周りから呼ばれて兵藤家が

一番偉いだなんて思われてるけど、式森家が抗議の意を唱えちゃったら衝突は免れない。

最悪この国が真っ二つになるわよ」

 

「両家の歴史を見た瞬間だな」

 

「元を辿れば魔人と言う存在がいたからこそ今の兵藤と式森がいるようなものね。

別に自慢じゃないけど」

 

「でも、何気にドヤ顔だな」と指摘した一誠に「うっさい」と恥ずかしげに言い返したシオリ。

 

「俺は魔人だと言いたいのか?」

 

「まさか、今のあなたはドラゴンでしょう?でも、魔人の力を覚醒した

あなたは間違いなく私と同じ魔人の力を受け継いだ者として枠に入る」

 

「俺が魔人の力を受け継いだ・・・・・。なら質問だ。どうして俺だけが魔人の力を覚醒できた?」

 

真剣な面持ちでの質問。シオリは顎に手をやって何か考える仕草をする。

 

「これは私の予想だけど、気が長けている兵藤と魔力が長けた式森の力は元々一つ。

いえ、当時の魔人と人間の間に誕生したその双子にも魔人の血が流れていたけれど

魔人としての力も段々と子孫を残すにつれ薄れた。

だけど、相反する力が一つになった瞬間に遺伝子が強く反応して覚醒するんじゃないかしら?

まるで対立した双子のように―――あ、もしかして相反する理由は対立した双子の思い、

『こいつには負けない!』って意思が血や力となってまで子孫に受け継いだんじゃないかな?

だから気と魔力が一つになると相反しちゃう。ある意味納得できるわねもしもそうだったら」

 

面白可笑しそうに笑うシオリ。一誠もそれが理由だったら力って不思議だなと思う。

 

「だったら俺みたいにもう片方の血を体内に流せば魔人の力が覚醒できるわけか」

 

「だけど、それは諸刃の剣に過ぎないわよ。凄まじい力は得るだろうけれど相反する力が

体内で主張し合い、肉体に激しい痛みを起こし最悪暴発する」

 

「俺は平気だけど?」

 

ケロッとシオリに告げた一誠を指摘した。「あなたはドラゴンだからだ」と。

 

「人間よりドラゴンの方が頑丈だもの。相反する力を完全に抑え込んでいる。

同じこと言うけど人間だったら間違いなく凄まじい激痛によって苦しんでいたに違いないわ。

最悪死んでいるかも」

 

そう言う事なら自分は別に特別でもないかと他人事のように心中で述べた。相反する力を

ドラゴンの身体で宿すなんて危険極まりないことだが、グレートレッドとオーフィスに

感謝せねばと溜息を零す。

 

「兵藤一誠くん、あなたも同じ姿になってくれないかしら?」

 

「なんでだ?」

 

「いいじゃない、私は両親以外知らないもの。それにあなたが知らなかっただろう

この力を教えた代価だと思ってくれれば安いものでしょう?

それとも私から無理矢理喋らされたって言っても良いかしら?」

 

お、脅し・・・・・。なんて方法で促すシオリなのか、頬が引き攣った苦笑を浮かべるが

黒い眼から感じる「私はそれでもいいわよ?」と挑発的な視線。

渋々とシオリ命名『魔人化(カオス・ブレイク)』となった一誠。

 

「・・・・・改めてみると、他の魔人はこんな感じなのね。しかも男の子は」

 

頬を触れた瞬間、一誠は目を丸くした。

 

「平気なのか?」

 

「ああ、相手の力を奪っちゃうことかしら?私も初めてだけど聞いた限りじゃ、同族が

触れ合っても魔力は奪われないらしいの。どうやらそのようだけどね」

 

「気もそうみたいね」と付け加えた。ならば自分もとシオリが触れてくる手を添えてみれば、

確かに奪う感覚がない。自分の意思に否応なく相手の魔力や気を奪う

この力は魔人だけ効かないことを認知し、感嘆な心情でいる自分がいた―――。

 

「ちゅ・・・・・」

 

「ん!?」

 

いきなりシオリに唇を奪われた。またこの展開か!と首に腕を回されガッチリと顔を

動かせないことをしてくるシオリに対して目を丸くしていた時、足元に魔方陣が。

禍々しさを醸し出す常闇の魔方陣、紋様状の翼が魔方陣に描かれ、黒い光は二人を包みこむ。

 

ドクンッ!

 

全身が心臓の鼓動のように跳ね上がった。それでもシオリは口付けを止めないどころか

さらに熱く情熱的なキスを続ける。

 

「ちゅる・・・・・じゅる・・・・・んン・・・・・れろ・・・・・・はっ・・・・・んふ」

 

黒い光の中で二人は濃厚(一方的)なキスをする。自分の何かがシオリに、何かが自分の

中に入れ替わるそんな感覚を覚える。一誠はこの状況から逃れようとするも、

何かに縛られているみたいに身体が動かすことができない。

ならば、どうすればいい?自問自答し、自己完結した一誠は―――。

 

「んふっ!?」

 

一方的に舌を絡めてくるシオリに逆襲の形で自らも舌を相手を蹂躙せんと絡め始める。

 

 

魔方陣が程なくしてなくなると腰の骨が抜けたようにシオリは紅潮した顔で荒く呼吸を繰り返す。

一誠もまた絶え絶えに真っ赤な顔でシオリを見下ろしていた。

 

「な、なんてテクニックなの・・・・・。ファーストキスがこんな激しく情熱的なんて

思ってもみなかったわよ・・・・・っ」

 

「始めてだったのかよ。それで・・・・・今のは何なんだ」

 

落ち着きを取り戻すシオリは頷いてこう答えた。

 

「同じ魔人がする儀式みたいなものよ。互いの魂を半分だけ互いに分け与えて

一心同体になるの。ようは繋がりを持つの。儀式を終えた魔人は相手の魂から記憶だって

見ることだってできるんだから」

 

「シオリの記憶・・・・・」

 

「そして、人間と結ぶ魔人とは違い、魔人同士が今のように魔方陣を媒介して儀式を

行えばさらに魔人としての力が増大する。互いの力の半分も受け継ぐから後世まで

魔人の力は残せる」

 

話を聞いていた一誠はとある予感した。

 

「・・・・・なぁ、その儀式ってまるで結婚みたいな感じなんだが?」

 

「あら、そんな例えが真っ先に浮かべるなんてね。あながち間違ってないわよ」

 

「え”」

 

「ある意味は魔人同士の結婚よこの儀式は。でも、それは後世まで魔人の力を残す為の

儀式だから実際は違うの。だから安心してちょうだい。だけど・・・・・」

 

ほんのりとシオリは顔を赤らめて上目遣いで一誠を見る。

 

「あなたとのキス・・・・・癖になりそう。またしちゃってもいい?」

 

「先輩・・・・・」

 

「シオリって呼んで?この世界で唯一の魔人は私とあなただけなのだから・・・・・」

 

腕を伸ばしてくるシオリの手を掴み、引き寄せる。

 

「・・・・・っ」

 

シオリの視界に一誠の顔が険しくなったのが映り込んだ。どうしたのだろうと首を傾げ

たが、自分を立たせた一誠は険しい表情のまま屋上の鉄柵へと足を運びグラウンドへ

見下ろした。何があるのか?一誠の肩に並んで

下へ視線を下ろせば、一人の男が屋上にいる一誠とシオリに目を向けていた。

 

「あいつ・・・・・」

 

「知っているの?」

 

「ああ」

 

躊躇もなく屋上から飛び降りて金髪の少年の前に着地した。

 

「あの時以来か。今度は何だ」

 

穏やかな雰囲気を纏わず、冷たく声を掛ける一誠に開口一番相手が発した。

 

「てめぇだけは俺の手で倒さないと気がすまねぇっ」

 

「随分と俺に御熱心だなぁ?あんだけ俺を蔑んでいたのに。なんだ、お前はブラコンだったのか?」

 

「ふざけたことを言うな!お前の方が強いなんて有り得ねぇんだよ!兵藤の出来損ないがぁっ!」

 

怒りに満ちた瞳と顔を一誠に窺わせる。一誠の眼前にいる金髪と赤い双眸の男―――兵藤誠輝。

赤龍帝でもあり一誠の兄でもある誠輝は声を荒げながら全身から赤い閃光を迸らせ、龍を

模した赤い全身鎧を装着した。

 

「今度は油断しない!俺の方が強いとてめぇを倒して証明してやる!」

 

「・・・・・」

 

一方的な言動。自分の力を相手に誇示をする自己誇示欲に傲慢の誠輝に目が

どこまでも据わった。

意気揚々と自分の力を弟に示しつけるが為に背中のブーストを噴出させ凄まじい

勢いで肉薄する。

 

「・・・・・はぁ」

 

呆れ顔で溜息を一つ零す。誠輝の拳は間違いなく一誠の顔面に突き刺さった―――!

 

スカッ。

 

「あ?」

 

顔どころか、身体まで一誠の身体にぶつからず過ぎた。まるで幻を見ているかのような。

 

「(俺の目が見えないぐらい避けたってのか!)」

 

ならば掴むまでと真紅の髪に手を伸ばし、掴みかからんと五指に力を籠めて

触れようとしたものの、一誠の背中から胸まで誠輝の手が抜けた。

 

「なんだよ・・・・・これはっ!」

 

「・・・・・」

 

拳を突き出しても、足を振っても一誠は雲のように空ぶるばかり。一切の打撃が通じない、

 

「だったら魔力での攻撃だ!」

 

赤い魔力弾をマシンガンのように放つ。狙いを違わず一誠に直撃するが、

やはり身体に当たらずグラウンドの地面に穿つばかりだった。

 

「ンだよそれはぁっ!てめぇ、なんのトリックを使ってやがるんだよぉっ!!!!!」

 

「透過だ」

 

透過、その言葉が誠輝の耳に届いた。

 

「所謂透明人間だな。今の俺は」

 

「透明、人間だと・・・・・」

 

「そ、だからお前の攻撃なんて一切通用しないさ。ご自慢の赤龍帝の力はな」

 

言った直後に一誠は誠輝の背後に回っていた。背後から感じる気配を察知し、

腕を横薙ぎるが言葉通り身体が透明となっている一誠には当たらず空ぶり隙を作ってしまった。

 

「ん」

 

軽く誠輝の腹部に手を触れた時、ドンッ!と何度もグラウンドにバウンドしながら

吹っ飛び、立て直し一誠に目を向けていた時は、

 

「―――――」

 

真上に黒と紫が入り混じった籠手を装着している一誠が腕を突き出していた。

拳を叩きつけられ、地面にひれ伏す誠輝の身体に衝撃が伝わる。

 

「~~~っ!?」

 

生身の身体を守るように覆っていた鎧が解除され、一誠の拳をモロに直撃した。

一体いつの間に移動して攻撃をしたのか誠輝は気付かないでいた。

 

「これが俺とお前の力の差だ。殻に閉じ籠ってばかりのお前らと世界に羽ばたいていた俺とは」

 

自分の真下に展開した魔方陣で浮かされた誠輝の尻目に飛び込んできた光景。

赤龍帝としての鎧とは違う鮮やかな赤い全身鎧を纏っている一誠がいて―――。

 

「体験してきた修羅場と経験が違うんだよ!」

 

赤い塊が誠輝の顔面に突き刺さり、殴り飛ばした。

 

「・・・・・クソ、がっ」

 

フラフラと立ち上がる誠輝。自分の顔に殴り飛ばす一誠に何とも言い難い黒い感情が

一気に湧きあがる。

 

「ふっざっけんなぁああああああああっ!」

 

獣のように咆哮を上げる。目の前の強者を認めない、認めるわけにはいかない。自分が

最強なのだ、兵藤家の中で大人も含め倒した自分は―――誰よりも強いのだと信じて止まない。

 

「まだ、来るか」

 

拳を構える一誠。臨戦態勢になって今度こそ誠輝を無力にしてやろうと『魔人化(カオス・ブレイク)』の状態に

なった時、二人の間に陰が割り込み、あろうことか誠輝に向かって行き―――エルボーをかました。

 

「・・・・・え?」

 

たったの一撃のエルボーで誠輝はダウン、気絶した。

ポカーンと開いた口が塞がらない一誠の目は有り得ない人物が映り込む。

 

「おじいちゃん?」

 

「・・・・・久しいな、一誠」

 

意匠が凝った着物を着込んで顔が厳つい中年の男性、

現兵藤家当主の兵藤源氏が一誠の前に姿を現して誠輝を沈めた。

 

「えっと、なんでここに?」

 

「どこぞのバカが二度も無断で兵藤家からいなくなったと報告を訊いてな」

 

ノビている誠輝に向かって嘆息し一誠に視線を向ける。

 

「お前、その姿は何なのだ」

 

「へ?あ、ああこれ?」

 

「・・・・・まぁいい。取り敢えずこいつを連れて帰ろう」

 

誠輝の襟を掴み、とある方へ目を向けた。

 

「数馬殿、また頼まれてくれるかな?」

 

源氏が向ける視線の先に式森数馬、和樹の父親にして現式森家当主の男がいた。

 

「・・・・・」

 

一誠に一瞥した後、数馬の足元と源氏の足元に魔方陣が出現した。

 

「すまなかったな」

 

それだけ言い残して魔方陣の光が弾けたと同時にこの場から姿を消した。

 

「・・・・・なんだったんだ?」

 

一誠の疑問の呟きは吹く風によって掻き消され誰も答えることはなかった。

そして、一誠の強化合宿は終了した―――――。一誠にとって意味はあったのか定かではない。



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エピソード23

夏休み前に運動会や会場体育祭が行われる手筈だったが、今回は夏休みごと言う事となり

見送られた。その理由は不明だが、川神学園から戻ってきた一誠は久し振りに

国立バーベナ駒王学園に帰ってきて数日後のことだった。終業式を終えて学校は

夏休みムードとなり、長期の夏季休暇に心躍る生徒たちは夏休みの課題と言う

面倒くさい勉強を抱えつつも後悔のない青春の謳歌をしようと意気揚々と学校からいなくなる。

 

「イッセーと別れだなんてイヤデース!」

 

「一生の別れじゃないんだから、そんな嫌がらなくても」

 

このように、別れを惜しむ生徒もいる。金剛四姉妹は外国にいる家族のもとへ顔を出す

予定で日本にはいなくなる。ネリネとリコリスはこの夏期休暇を利用し冥界に帰郷し、

シアも天界へ帰郷。護衛のイリナたちは教会に収集が掛かり、ルーラーが物凄く拒んでいたが

結局ゼノヴィアとリーズに引き摺られながらヨーロッパ行きの便の飛行機に乗って

行ってしまった。さて、残ったメンバーたちは。

 

「プライミッツ・マーダー、お手っ」

 

『・・・・・』

 

 

ザシュッ(一誠の顔を引っ掻く音)

 

 

のんびりと過ごしていた。

 

「くっ、絶対に俺の手に乗せてやりたい・・・・・!」

 

「あなた、なにを意地を張ってるのよ」

 

「アルトルージュ。お前は知らないだろうがな」

 

「何をよ?」

 

「―――俺は動物に嫌われるんだ」

 

そんなドヤ顔で言われてもどう反応をすればいいのか分からないアルトルージュがいたとさ。

 

「ううう・・・・・ドラゴンになってからちっちゃい犬や猫でも警戒されたり吠えられたりして、

兎でさえ俺の周りに集まっても来やしないんだ」

 

「サファリアンチ属性・・・・・」

 

現にプライミッツ・マーダーがポンポンと『ふっ、お前には絶対に靡かんよ』と憎たらしい

眼つきと笑みを浮かべて一誠の頭に手を置いていた。

 

「だから動物園に行ったことがないんだよ」

 

「いいじゃない、ドラゴンに好かれているんだから」

 

「ん、その通り」

 

オーフィスが肯定する。プライミッツ・マーダーの背に乗ったままで。

 

「それで一誠。私たちはどう過ごしましょうか?」

 

「んー、自由気ままでいいんじゃないか?他の皆は自分の趣味を没頭したり、

外に行っていたりしているし。アルトルージュはフィナとリィゾとプライミッツ・マーダーと

どこか出掛けないのか?」

 

「行く場所が分からないから行くにも行けないの」

 

「じゃあ、どんな場所が好きなの?」

 

「あなたの傍」

 

「それは空間ではないか」

 

椅子に座る一誠の膝の上にアルトルージュが座った。身長は幼児ぐらいしかないので

オーフィス同様に一誠に覆い被さられるほどチョコンと座れる。

 

「・・・・・アルト、そこは我の場所」

 

座った瞬間に不機嫌な面持ちとなりオーフィスは異議を唱えた。アルトルージュは

澄ました顔でオーフィスに返事した。

 

「たまにはいいじゃない。座りたければあなたには一誠の肩があるしそこに座りなさい」

 

「一誠の肩は外用。膝は家の中にいる時に座る我の特等席」

 

「俺は車か?」と漏らす一誠の呟きはオーフィスに届かず、アルトルージュを一誠から

退かせば膝の上に陣取り、ここは自分のものだと腕を組んで胸を張る。

 

「・・・・・やってくれたわねっ」

 

負けじとアルトルージュもオーフィスを突き飛ばし、また一誠の膝の上に乗っかったが、

再びオーフィスに突き飛ばされて座を奪われた。

 

「「・・・・・」」

 

そんな事を繰り返していくと二人は静かに睨みあい、取っ組み合いがしそうな

雰囲気を醸し出したところでひょいっと二人を抱きかかえる一誠が二人もいた。

 

「俺の分身で我慢してくれ」

 

計三人目の一誠が杖を持ってそう言う。

 

 

 

玄関ホールに足を踏み入れたら、四肢を覗かせ、白い帽子や麦らわ帽子を被った耳が尖った

三人の少女たちとバッタリ出くわした。緑や白を基調とした薄地の服装で、三人の内の

二人の服を内側から大きく盛り上げるほどの豊かな胸を持つ少女たちや、

吊り目な双眸から強い意思が籠って背中に流す金髪がまた美しい。

三人の出で立ちに心中で称賛しつつ訊ねる。

 

「テファ、シャジャルさん、ルクシャナ、出掛けか?」

 

「ええ、最近知ったフローラって喫茶店に行こうと思っているの」

 

「そうか。だったらこれを持って行け」

 

ルクシャナたちに手渡したのはボタンがある腕輪だった。「なにこれ?」と首を傾げ

不思議そうに見ている三人に説明した。

 

「転移用魔方陣の術式を施した腕輪だ。厄介な奴に絡まれたり捕まえられたらボタンを

押してこの家に戻って来い。あと外には必ず警戒しろ」

 

「過保護で大げさねー。でも、あんな蛮人たちが闊歩していると思えば

必要なものかもしれないね。ありがたく受け取るわ」

 

兵藤家の男子たちを脳裏に浮かばせたルクシャナは腕に嵌めて一誠と別れ外出した。

 

 

 

「クロウ・クルワッハは冥界で修行か・・・・・」

 

最強の邪龍の部屋に訪れてみれば『冥界でしばらく修行してくる』と書き置きが残されていた。

ナヴィの部屋にも訪れてみれば、忙しなくキーボードを打っていてパソコンの画面と

睨めっこしていたのを思い出し、また後で声を掛けようと思った。アラクネーは既に

外出しており、タペストリーに必要な材料を切らして買出し。フィナは町に出かけ、

若い男を漁り、リィゾはそんなフィナのストッパーとして一緒に出かけ。

 

「今日に限ってリーラは父さんと母さんの手伝いか」

 

どこかの神さまと交流をしているのじゃないかと自慢の両親のところへ向かった愛しき彼女。

さて、この家にまだ一誠が背触していない人物と言えば―――。

 

バンッ!

 

「それはこの私、リアス・グレモリーよ!」

 

「勝手に入ってくるんじゃない!そして正解は咲夜だ!」

 

ハリセンで素早く威風堂々とドアを開け放った不法侵入者たる紅髪のお嬢さまの頭を

叩いてツッコンだ。

 

「い、痛い・・・・・っ」

 

「ああ、大丈夫?対して悪いとは思ってないけど」

 

「ひ、酷いわ。な、なんか私に対する扱い方が雑になってないじゃない?」

 

「いや、宝石のように大切にしているつもりだが」

 

「・・・・・にしたって、さっきのはないと思うのだけれど」

 

「不法侵入者がなにを言ってるのかなー?電話の一つぐらい寄こせ。で、どうしたんだよ一人で」

 

ポンポンとハリセンを肩に叩く一誠から問われ、リアスは答える。

 

「うん、イッセーを冥界に誘おうと思って」

 

「冥界に?もしかして帰郷?」

 

「そうなの。私はこの時期になれば冥界に戻って過ごすのよ。

だから私の眷属の他にもイッセーや他の皆も一緒にどうかしらと思って」

 

その誘いにどうしようかと悩んだ。行かない理由はなくはないが、

人間界でのんびりしたい自分もいる。

 

「それっていつからだ?」

 

「三日後よ。グレモリー領で夏休みの殆どはそこで過ごすつもりなの」

 

「夏休みの殆どか。途中で遊びに行く感じだったらいいか?

他の皆にも自分の時間が欲しいだろうし」

 

「そうね。あなただけでも構わないだけれど、無理強いはしないわ。

来る時は連絡してちょうだいね?迎えを出すから」

 

「あいよ。ああ、それとついでにリアスの眷属になっても良い奴がいたら連絡するからな」

 

付け加えられた発言に目を丸くしたリアスは「期待しているわ」と笑みを浮かべ

転移魔方陣で一誠の前から去った。

 

「さてと、俺は俺で外に出かけようかなっと」

 

―――○●○―――

 

外出しているティファニアたちはそれはもう注目の的でいた。

美しい顔つきと豊満なプロモーション。光陽町に現れた三姉妹の妖精と

思われるのも時間の問題だった。特にティファニアとシャジャルが歩く度に揺れる胸。

カップルですらその胸に圧巻され、彼氏が鼻の下を伸ばしていると彼女にビンタされ、

どこぞのカメラを持った小柄で青い髪の寡黙な少年が「・・・・・究極の胸っ(ブシャァッ!)」

と出血多量で死ぬんじゃないかと言うほど鼻血を出しながらもシャッターを

押すことを止めない。

ルクシャナにも凹凸が少ない身体付きでもその悠然とした歩き方や太陽の光で反射する

綺麗な金の髪が整った容姿を更に美しく映えさせる。

 

「あー、何だか視線が鬱陶しいわね。こんなことならイッセーにも付き合ってもらえば良かったわ」

 

「私たちのどこかおかしいのかな。やっぱりエルフだから?(キョロキョロ)」

 

「ティファニア、あまり周囲の目を気にしていたらダメです。もっと楽しく歩かないと」

 

「はい、お母さま」

 

―――――お母さま!?

 

話を聞いていた住民たちの心が揃った瞬間だった。どう見たっても姉妹にしか見えない!と

愕然とした面持ちで過ぎていく三人のエルフを見送る面々。

しばらくして目的の喫茶店に辿り着きそこでしばらく過ごした。

その時応対した店員は後ほど三人について語った。

 

「世の中にはあんなすごい胸を持ったヒトがいると改めて知りました」

 

と、そんな感想を店員に語らせたなど二人は露にも思ってもいない、

スイーツを思う存分に堪能して店から出た三人はどこに行っても視線を集める。

 

「やっぱり、気にしない方が無理があるわよ」

 

「あらあら」

 

うんざりとしたルクシャナの反応に朗らかに手を頬に添えるシャジャル。

 

「絶対に二人の胸に意識を向けてるわ」

 

「ル、ルクシャナ?どうしてそんな親の仇のようなに私とお母さまの胸を見るの?」

 

「自分の胸に手を当てて見れば分かるわよ・・・・・」

 

実際にそうした二人。服の上からでも分かるほどの柔らかく弾力がある質量が

たっぷりある胸に手を置いた。ムニュっと擬音が聞こえそうなほど二人の手は胸に埋没していく。

 

「「?」」

 

分からないと首を捻った親子に恨めしいと睨んだ。あまり気にしないほうだが、こうも

あからさまな視線を向けられるとジェラシーを覚えてしまう。

 

「(そう言えば、イッセーの周りは巨乳ばかりだったわね。本人は自覚ないけど)」

 

女を引き寄せる魅力を持ち合せている。一誠にもようやく付き合う女ができて

「まぁ、よかったわね」

と程度に祝った。付き合う二人を目の当たりにしても大して変わらない生活だった。

 

「さ、次は夏用の服でも買いに行きましょう」

 

「はい」

 

「だったら、一誠が心から褒めるほどの服でも買っちゃいましょうよ」

 

それでリーラが嫉妬したらそれはそれで面白味があると思って笑みを浮かべる。

ティファニアは恥ずかしげな反応、シャジャルはニコニコと微笑み面白そうに肯定した。

ルクシャナたちは最近知ったデパートへと足を運ぶ。

 

『・・・・・』

 

怪しい影の存在に気付かずに。赴いた場所は国立バーベナ駒王学園から少し離れたデパート。

敷地が広く、品揃えも豊富、ここでも異種族が足を運び購入する消費者が多くいるので

エルフのルクシャナたちが買い物に来ても店員たちは不思議がらない。清楚な空間と心

地の良い室温の中で目的の場所の服コーナーへと向かう。

 

「ふふっ、まさか私たちが堂々とお買い物ができるなんていつ思っても夢みたいだわ」

 

「お母さま・・・・・」

 

「あの人は亡くなってしまいましたが、あなたという娘が唯一のあの人と残した結晶。

幸せになって貰いたい気持ちは母親として当然の思い。だから良き殿方を見つけるのですよ」

 

「イッセーだったらいいんじゃない?」

 

「そうですね、あの子だったら安心して任せれます」

 

「ふ、二人とも!?」

 

顔を紅潮して慌てふためくティファニアはなんともからかいがあるだろうか。

エスカレータを乗りながら笑ったルクシャナの脳裏にある言葉が過ぎった。

 

『必ず警戒しろ』

 

どうして今になって一誠の言葉が思い出すのか。こんなに楽しく買い物をしているのに。

溜息を吐き過保護な一誠に呆れていた時、嫌な視線を感じた。外に出歩いた時に感じる

色んな視線とは全く違う。誰かに視られているような感覚。

まるで物を値踏みするかのような、普通の人には真似できない、無遠慮過ぎる視線。

 

「(・・・・・まさかね)」

 

誰だか分からないが警戒しないといけない買い物なんて面倒臭い。

腕に嵌めた腕輪を撫でるように触れ、ティファニアとシャジャルの会話に交じった。

階上のフロアに辿り着き様々な服を売っているコーナーへと足を運ぶ。

警戒しつつ楽しげに年相応の女の子らしい服を手にしては決め合い、

試着室へ直行して試着することもした。

 

「どう、かしら」

 

試着室から出てきたティファニア。黄緑の短衣にミニスカート。ルクシャナが半ば

強引に着させた服であって単純な服装の組み合わせだが、着こなしている素材が素材だ、

美しい金の長髪とも相まってこれ以上なくよく映えている。

そして、絶対的な主張を変わらずしている胸は男たちを煽情させること間違いなしだろう。

 

「なんか、負けた気分だわ」

 

「ルクシャナもティファニアみたいな可愛い服を着れば褒められるわよ」

 

「どうしてそこでイッセーが出てくるのよ」

 

「あら、誰もイッセーくんとは言っていないわよ?」

 

―――墓穴を掘った。いやいや、一誠に対する感情にソレはない。当然な疑問のはずだ、

ルクシャナは自己完結して笑い返した。

 

「だったらシャジャルもイッセーに褒められるような服を着ればきっと言ってくれるわよ」

 

「そうね。そろそろ何かあの子にお礼も兼ねて喜ばせるようなことでもしようかしら」

 

大人の対応力は凄かった。二人が話している間に元の服に着替え直した

ティファニアが試着室から出てきた。その後、ルクシャナもシャジャルも試着しては

感想を述べ合い、決まった服を購入してデパートを後にする。

寄り道せず、真っ直ぐ戻る最中でも三人は雑談をする。

 

「今日は楽しかったわね」

 

「ええ、またお買い物をしましょう」

 

「今度は他の皆とね」

 

結局、ルクシャナが思ったようなことは起こらず、心配して損したと内心で溜息を吐いた。

人々と擦れ違う中、歩き続けると悪魔や堕天使、人間が割と多く見受けれる。

一般人と枠に入る悪魔や堕天使が人間界に闊歩するなど何とも言えない気持ちとなる。

まるで人間扱いだ。人間界で異種族が事件を起こせば例外なく捕まる。

裁く者に対する為の法律だって存在する。他だって結婚制度もそうだ。

異種族同士の結婚は認められ、ハーフの子供が主に人間界で暮らしている。

一見、この町、この世界は幸せに満ち溢れているのだと思うが、

 

「(それは世界を自分の目で見ていない奴らにとってはそう思うわよね。でも、世界は

幸せに満ち溢れているわけじゃない)」

 

理不尽な目に遭っている。貧困の差。格差社会。環境汚染。不況。

様々な不という概念が世界中に蔓延っている。

逆に裕福な一部の人間がそうさせている。人間が人間を陥れ、時には騙し、裏切り、

見捨てられ、見捨てることなど極当たり前のように行われている。

ルクシャナは蛮人の世界で一誠たちと共に旅をして見聞してきた。

 

「(悪魔ってある意味では蛮人の方が悪魔らしいわね)」

 

戦争している国も見てきた。互いの主張が噛み合わず、結果、自分の主張を押し付ける

戦いは無関係な者たちまで巻き込む。人間は欲望の塊でできているんじゃないかと

思ったこともある。

 

「(あー、やだやだ。これ以上考えると蛮人を嫌う面倒くさいエルフと同じになりそうだわ)」

 

頭を軽く振って考えを止めた。知らないより知っていたほうが認識は違ってくる。

今は楽しくこの町で生きていればいい。それで充分じゃないか、そう思った矢先。

 

「ねぇ、良い仕事があるんだけど働いてみる気ない?」

 

「うわ、面倒くさい」

 

「え?」

 

思わず本音が漏れた。金髪で容姿が整って故意で焼いたのか褐色肌の男が声を掛けてきた。

 

「あ、ごめんなさい。思った事を口に出ちゃうから。それで、仕事ってなんなのよ?」

 

「テレビ出演だよ」

 

「あー、ごめんなさい。そういう目立つのは好きじゃないの」

 

軽くあしらって否定する。ティファニアとシャジャルも乗り気ではないようで二人にも

声を掛ける男に断わっている。

それでも男は執拗に「三人の容姿ならアイドルやモデルになれるのは間違いなし」

「給料もかなり高い」「一緒にお茶でも飲まないか」と話しかけてくる。

困り果てる親子を引き連れるように完全に無視するルクシャナ。大通りの信号を渡って

真っ直ぐ歩けば家が肉眼でも捉える。

 

「ねぇ、ちょっとでもいいから俺の話を聞いてくれない?」

 

「・・・・・はぁ」

 

もうウンザリだと呆れと共に零す息。話しかけてくる男に指した。

 

「あのね、さっきからこっちはウザったいほどあなたの話を聞いているの。

それを『俺の話を聞いてくれない?』なんてなによ。私たちは断わっているんだから

諦めが肝心だなんて思わないわけ?これ以上、何かの勧誘の話をしてくるなら大声で叫ぶわよ」

 

それからも鬱憤を晴らすかのようにクドクドと男に言い続ける。

周囲から奇異な視線を感じるがそれよりも目の前の男を追い払うのが先決。

 

「・・・・・」

 

ルクシャナの話を聞いて黙り込む男。これで諦めてくれたかと男に背を向け、

さっさと帰ろうと横断歩道を渡った。

 

「ル、ルクシャナ。あんなに言わなくても・・・・・」

 

「テファ。ああいう男と絡まれるとロクでもないって認識しなさいよ。

あなたのその優しい性格を突け込んで、とんでもない事とさせる人間がいるって

イッセーが口酸っぱくして言うほどなんだから」

 

「でも、そんな人には・・・・・」

 

純粋すぎる。ティファニアは穢れさえ知らない純粋なハーフエルフ。

外の世界に連れだされても誰かれ構わず優しく接する性格は美学だとも言えるが、

警戒することもしてほしいものだ。一誠のように相手の善し悪しを分かるぐらいは。

歩道を渡り切った三人はそのまま真っ直ぐ進んだ。車が何度も通り過ぎていく光景を

見つつ、左右に洋風と和風の大きな家に挟まれている豪華で大きな家を囲む壁には

天使と悪魔を象った意匠が施されているそんな家から

100メートルぐらいの距離まで歩いていた三人の横に甲高くブレーキしたワゴンの車の

扉が開いた。車から数人の男たちが出て来てルクシャナたちに掴みかかった。

 

「っ!」

 

ルクシャナは直ぐにティファニアとシャジャルの手を引いて掛け始める。

相手は自分たちを誘拐しようとしているのは明らかだった。

もう目の前なのだ一誠たちがいる家は。しかし、荷物を持っている上に女子の走る

スピードでは呆気なく男たちに捕まってしまった。

 

「ちょっ、私たちに触れないでよ!」

 

「黙れ!黙らないと痛い目に遭わせるぞ!」

 

「いやっ!放して!」

 

「私たちを捕まえて何をっ!」

 

ルクシャナたちは精一杯の抵抗をしたにも拘らず、腕を掴まれ強引に車の中へ

引きずり込まれた。

運転している男に催促し車を走らせた。あっという間に家を通り越してどこかへと

連れて行かれる。

 

「アイツが失敗したから俺たちが出しゃばらないといけなくなっちまうとはな」

 

「だが、見ろよ。結構極上な身体付きをしているじゃねぇか」

 

「巨乳と貧乳の・・・・・天使か?にしても耳が尖ってるな」

 

興味身心に男がティファニアの耳を触った。

 

「やっ!」

 

「うはっ、こいつ耳が弱点みたいだぜ。舐めまわしてぇ・・・・・!」

 

情欲が宿る目の男。不気味な笑みを漏らし、男たちはルクシャナたちを見詰める。

 

「(ボタンが押せない・・・・・っ)」

 

腕を掴まれている。ティファニアと一緒に座らされ、背後にシャジャルが座っている。

 

「いやっ、んんっ、さ、触らないで、あっ!」

 

「いいじゃねぇか。これからもっと気持ちのいいことをさせてやるんだからよォ」

 

シャジャルの悩ましい声が聞こえてくる。身体を触られているのだろう。

こんなゲスな蛮人たちにと苦虫を噛み潰したような表情で自分の腕を掴む男に睨む。

しかし、それは逆に相手を昂らせるだけだった。

気の強い女を屈服させることを快感に覚えている男はルクシャナの頬を舐め上げた。

 

「おいお前ら、勝手に盛ってんじゃねぇよ。手を出したらボスに殺されるぞ」

 

「うへぇ、それだけは勘弁だぜ」

 

「だが、前払い金を大量に払ってくれるなんて最近のガキは太っ腹だよなぁ」

 

「あいつらは女だったら誰だって良いんだよ。ただし美女、美少女限定だけどな」

 

「男としては当然だろって」

 

下品な笑い声が車の中で轟く。誘拐された三人は揺れる車の中で捕まることしばらくして、

停車した車から強引に下ろされた。レンガ造りの建物で建物の中に入り、廊下を歩かされると

艶めかしい声や悲鳴、絶叫がどこからともなく聞こえてくる。

 

「な、なによここ・・・・・」

 

「へへ、ここはお遊戯をする場所。男と女が気持よくなる為の極楽園ってな」

 

「・・・・・最低ねっ」

 

「そんな口はいつまでも言えるのか楽しみだぜ」

 

一番奥の部屋に連れられ、男が扉にノックをすれば扉が開き、ルクシャナたちを先に入れさせた。

そして、三人の目はとんでもない光景が飛び込んできた。

口から語れない、語りたくないほどの酷い光景だった。

―――強いて言えば大勢の全裸の女性が床にひれ伏していたり、

自我が崩壊している女性、嗚咽を漏らしている女性、男たちに媚びている女性もいれば、

痣や傷だらけの女性もいた。そして何よりもこの部屋に漂う居るに堪えない異臭だ。

 

「おーい、新しい玩具を見つけたぜ」

 

男の声に反応して数人の男が振りむいた。よく見れば一誠と歳は変わらないであろう

年頃の男もいた。

 

「ああ、ご苦労。今回は結構極上なメスを連れてきたな」

 

「へへ、だろう?後でいいから俺たちにもさせてくれよ」

 

「おいおい、お前たちにやったメスどもはどうしたんだよ?」

 

「あーダメだって。直ぐに壊れちまってよ」

 

「もう少し女の扱いを考えろって。ほら、残りの金だ」

 

複数の封筒に包まれた物が投げられた。床に落ちたそれを男たちは取って中身を

確認すると満足気に頷いた。

 

「んじゃ、お前たちは出て行ってくれ」

 

「へいへい、飽きたら俺たちにもくれよ?」

 

男たちは部屋から出て行った。今出て行ってもさっきの男たちに捕まるだけ。

今ならボタンを押せる機会―――!とルクシャナは二人の腕輪に触れようとしたが、

その腕を掴まれた。

 

「悪魔でも天使でも堕天使でもなさそうだな?

ま、お前らもこれから俺たちの奴隷となって貰うから関係ないがな」

 

「・・・・・あなたたちは何者よ」

 

「知りたいならそれ相応の行動をしてもらないとなぁ?」

 

嫌な笑みを浮かべ、ルクシャナの顎に手をやった男は顔を近づけてくる。

唇を合わそうとしているのが明白で、悔しさのあまり涙を溜めた。好きでもない

男に強引で身体を奪われる想像をし、

 

「(こんな蛮人に奪われるぐらいならあいつに奪って欲しかったわ・・・・・っ!)」

 

警戒しろと警告されていたにも結局こうなってしまった。

もっと真剣に警戒していればこんなことにはならなかったはず。後悔しても後の祭り―――。

 

ドオオオオオオオオンッ!

 

突如、轟音が聞こえてきた。この場にいる全員が驚き、目を丸くして疑問を抱いたと

同時に扉が凄まじい勢いで開け放たれた。

 

「た、大変だ!」

 

「うるさいな。何事だよ」

 

ルクシャナたちを拉致した一人の男だった。顔中に冷や汗を浮かばせ、焦心に駆られているのが明白だった。

 

「し、侵入者だ!仲間がやられた!それに表には数えきれないほどの悪魔と堕天使、

天使の警備隊がここを囲んでいる!どうにかしてくれよ!」

 

「・・・・・なんだと?」

 

信じがたい気持な男が眉根を上げた。情けなく懇願する男を見ていると―――。

 

「あー、そこどいてくれるか?」

 

軽い口調で訊ねてくる男の声が聞こえた直後、

 

「あ?」

 

男の全身が燃えあがった。自分が火に包まれるなんて露にも思わず間抜けな声を漏らしたが、

自分の身に何が起きているのか認識し、理解すると表情が驚愕、恐怖、絶望へと変わる。

灼熱の業火に肌や肉が燃え、その激痛に耐えかねない男が床に転げ回る。

 

そんなことした人物は、ルクシャナたちが知っている人物だった。

 

「・・・・・てめぇ、誰だ」

 

男性が睨み問うた。現れた男はルクシャナたちに一瞥してから答える。

 

「この三人のエルフの身内だ。世話になったようだし、お礼を兼ねてこうして来たんだよ」

 

「・・・・・表に警備隊がいるらしいな」

 

「ああ、そうみたいだな?いやー、びっくりだったぜ。あんなに大勢の警備隊の

目を盗んで入るのも大変だった。どこかの情報収集が長けた悪魔が

この場所を知らせたんじゃないか?犯罪者を捕まえさせるためによ」

 

勿論、お前らもその一人だと長い真紅の髪を持つ金色の目の男、兵藤一誠が敵意や

殺意が籠った双眸を輝かせる。放たれるプレッシャーに内心気後れるものの男は

一誠に向かってとある提案を述べた。

 

「取引をしよう。俺たちを逃せば後で金を払ってやる」

 

「ふーん、金額ってどのぐらいだ?」

 

「百万でどうだ」

 

鞄から札束を取り出しては一誠に向かって放り投げた―――最中で突然、ソレが燃えだし灰となった。

 

「くだらない。俺はそんな物より欲しいものがある」

 

「なん―――」

 

発しかけた言葉が咽喉につっかえてでなくなった。理由は至極簡単―――一誠が人の形を崩して、

人型の三つ首龍へと変貌したからだ。

 

『俺の家族に手を出したお前らの命だ』

 

 

ギェエエエエエヤアアアアアアアアアアアアエエエエエエエエヤアアアアアアアアアッ!

 

 

三つの猛禽類と同じ双眸と六つの眼球は敵を恐れ戦かせ、畏怖の念を抱かせ、委縮させるだろう。

人でもなければ動物でもないその姿はまさしくモンスターとしか思えない。

天井に届きそうな三つの頭と首はそれぞれ複数の男に向け、六つの眼で見据え

この世のものとは思えぬ絶叫を上げた。

 

「だ、だめ・・・・・っ!」

 

ティファニアが制止しようと足を動かそうとしたが、シャジャルに止められた。

巻き込まれると訴えられて。

 

「な、何だこの化け物はぁっ!?」

 

「い、いやあああああああああっ!」

 

「に、逃げるんだっ!!!!」

 

男だけじゃなく、女たちも逃走をしようと足を動かし始めた。ギョロリと赤い眼が男だけを捉え、

空気を叩いたような音を発したと同時に一人の男の頭えと手を伸ばし、

凄まじい勢いと力で壁に押し付けた。

グシャァッ!とトマトが潰れたように壁一面は赤く染まった。

 

窓から逃げようとする二人の男がいた。両腕をクロスの形で顔を守るように構えて

窓ガラスを破ってレンガの壁と挟まれた建物の外へと脱出を果たし、逃走を計った。

だがしかし、男を追うように妖怪ろくろく首のようにドラゴンの顔が首を伸ばし、

逃走する男の足をすくい上げる感じで噛みついた。悲鳴を上げ助けを請う声を

叫ぶものの部屋に引きずり込まれてしまい、最後に発した男たちの声は絶叫だった。

 

少年は全身を震わせ、巨大な手の中に掴まれて全身の骨という骨を握り潰され、

砕かれた大の二人の大人たちの末路を見てしまった。

二人の大人はゴミ当然のように壁へ叩きつける感じで放り投げられた。

そして残っているのは自分一人だけ。大人たちとは家族関係で毎日のように

女遊びをしているんだ、これが当たり前のことなんだと教えられて自分もそうするように

なってもう長い。女を思い通りにさせたり、甘美な快楽をもっと味わいたいと嫌がり、

泣き叫ぶ女たちを蹂躙していった。だというのに、なんで、どうして自分はこんなに

恐怖を覚えるような目に遭っているのだろうか?

自問自答し、下半身が素っ裸のまま失禁し、恐怖の色で染まった酷く歪んだ顔に

ガチガチと止まらない歯、全身で目の前の化け物から放たれるプレッシャーに

身体の震えが止まらない。

 

そして、ついに自分の番がやってきた。太い尾がしなり、鞭のように壁へ叩きつけられた。

それだけでは終わらず、何度も何度も激しく素早く尾で叩かれて、痣ができ、骨に嫌な

音が絶え間なく身体から聞こえてくる上に激痛が感じて止まない。

このまま死んでしまうのか、そう遠退く意識の中で思っていた―――。

 

―――身体に衝撃がこなくなった。遠心力がついた力強く振られる尻尾が自身の身体に来なくなった。

身体中から発する激痛に苦しみつつ不思議に思い、眼前に目を向けていると、

ティファニアが両腕を広げて自分を庇っていた。

 

『どけ』

 

どこまでも低い声音。殺気立っているのが赤い眼から窺える。自分の家族にこうして

止められたのは二度目だ。一度ならず二度までも、相手を庇う理由が理解に苦しむ。

 

「もう止めて。これ以上やったら本当に死んじゃうっ」

 

『そのつもりでやっているんだ。俺の家族に手を出した奴は万死に値する。

敢えてまだ生かしてある他の奴らも同様にな』

 

「私の知っているイッセーはこんなことしない!」

 

『今の俺は怒っているんだ。知らないのは当然だ。それともなにか?

お前は好きでもない男に無理やり襲われても平気だって言うのか?』

 

怒りに満ちた双眸を向けられるティファニアは恐怖で顔を強張らせる。

でも、真っ直ぐ眼だけは一誠に向けている。気丈に振る舞うその態度にますます一誠は

目を細める。

 

「違う、そうじゃない。例え許されないことをした人でも殺しちゃいけないの」

 

『この国に他の外国の法律には死罪と言う罰がある。

お前はその法律を許されないって言うんだな?』

 

「それ、は・・・・・」

 

『死んで当たり前だと思う人間は星の数ほどいる。そう言う奴らの考えは間違っているの

だとお前はそう言っているのは分かっていないのか?

いや、分かっているはずだ聡明なお前ならば』

 

ティファニアに語り続ける。

 

『こいつらは許されないことをした』

 

自我を失っている女性が数人ほどまだこの場にひれ伏している。

その内の一人の女性を掴んで、ティファニアに見せ付ける。

 

『この女性の友人、家族、もしかすれば恋人がいるだろう。

そんな人たちからしてみればこの女性は被害者であり、不幸な目に遭った人間だ。

―――そんな目に遭わせた人間をお前は許せと言いたいのか!』

 

「っ!」

 

ビクリと身体を跳ね上がらす。ここまで怒った一誠を見たことがないティファニアにとって、

今の姿も含めてまるで別人のように見える。

 

『俺は理不尽なことが家族に手を出す奴らの次に嫌いだ。そんな奴らを俺は絶対に

許すつもりはないぞテファ』

 

すると、この場に一つの魔方陣が発現した。

一誠たちの前に魔方陣から現れたのは・・・・・。

 

「そこまでだ、一誠」

 

兵藤誠と兵藤一香、一誠の両親だった。どちらも真剣な面持ちで一誠を見詰めている。

 

「ナヴィちゃんから連絡が来てな。お前が暴れているというから来てみれば・・・・・」

 

『・・・・・』

 

「お前はこんなことをする為に修行をしたわけじゃないだろう」

 

周囲を見渡し、悲惨な状況を目の当たりにして誠は溜息を零す。

 

『・・・・・家族を守っただけだ』

 

「限度と言うものがあるでしょう一誠。流石にやりすぎよ」

 

『・・・・・』

 

無言で沈黙を貫く。しばらくして、元の姿に戻っては自我を失った女性たちを魔力で浮かせ、

ティファニア、誠、一香、ルクシャナ、シャジャルの横を通り過ぎて扉に近づく。

 

「俺みたいな人間をこれからも増え続けていいの?」

 

『・・・・・』

 

「実の兄に殺された俺みたいな人がこれからも増え続けるんだね。

この世界は・・・・・残酷だよ」

 

それだけ嘆かわしいとばかり呟き、肩を落として扉の奥へと進んでこの場からいなくなった。

 

「一誠・・・・・お前はどれだけ何かに対して絶望しているんだ・・・・・?」

 

「違うの、違うのよ一誠・・・・・私たちは・・・・・」

 

「お母さま・・・・・私、間違っていたの・・・・・?」

 

「・・・・・」

 

「イッセー・・・・・」

 

 

 

―――後に日本だけでなく世界まで震撼させる出来事が起こったのはそう遠くない未来だった―――

 

 

 



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エピソード24

とある日の夜。一誠は一人だけ夜道を歩いていた。夜の市街地に様々な光が発し、

行き来する人や車を照らしている中で歩いていた。

あの一件以来、思いつめた表情で顔が暗くなり、夜になると何かを探し求め彷徨うよになった。

リーラたちは当然心配し、声を掛けるが返事もせずにいる。

 

「・・・・・」

 

ふと、目の前に若い女性が困り果てている。ナンパをされていて、

断わっても執拗に食って掛かっているようだ。さり気なくナンパに近づき、

 

ドッ!

 

急所に一撃を与えれば悶絶して跪いて倒れた。どよめきが生じるが一誠の仕業ではない

という事実を誰一人とて知らない。まっすぐ学園と目と鼻の先にある公園に足を運んだ。

夜の公園は誰もいなく、一誠は懐かしさを感じる。

 

「一人・・・・・」

 

嫌な記憶が脳内に浮かぶ。その記憶を再現するかのように公園の中央で寝転がり夜空に

浮かぶ輝く星を見上げる。

 

―――こうしていると、あの時を思い出すなネメシス。

 

『ああ、そうだな。それとお前はネガティブになってはいまいか?』

 

―――うん、なってるね。間違っているのは分かっているけれどさ?やっぱり許せないんだよ。

 

『周りの者を自分と合わせているからだろう。それはお前の自己満足なのでは?』

 

―――自己満足、それと偽善者かな。

 

ネメシスとの雑談はしばらく続く。

 

―――俺って赤龍帝には負けないほど強くなったのにどうして認めてくれないんだろう。

 

『負けず嫌いだから?』

 

―――うわ、子供だな。

 

『それはお前とて同じだぞ?』

 

―――あいつと一緒にすんな!

 

不愉快過ぎる指摘をするネメシスは「くくく」と喉の奥で笑い、一誠は不満げに顔を顰める。

あいつと同列なんて認めれない、明らかに実力の差はあったはずだ。

その気になれば一蹴だってできる。もしもまたやってきたら骨の髄まで教え込む必要がある。

 

―――どっちが弱者なのかを。

 

そう思っていた一誠に別の暗さ、影が差す。夜空に見上げていた目はとある人物の姿、

金髪に翡翠の目、活発的な印象を醸し出す少女で一杯となり、

一誠を感情が籠っていない目で見下ろしては無表情のまま口を開いた。

 

「こんなところでなにをしているんだ」

 

「それは俺の台詞でもあるぞ。敵がこんな所に理由もなく来るわけがないんだからな」

 

「ああ、そうだな」

 

手に携えていた剣を無防備に寝転がる一誠に突き付ける。

 

「オレと勝負しろ。お前に打ち勝ってエクスカリバーを手に入れる」

 

「・・・・・生憎、そんな気分じゃない。今の俺は憂鬱なんだよ」

 

はぁ、と溜息を吐く一誠に綺麗な金の柳眉を上げて怪訝そうに口を開いた。

 

「どうしたというんだ」

 

「この世界は残酷だよなってことだ」

 

この世界は残酷。ますます意味が分からない少女は目で催促するれば、一誠の口がまた開く。

 

「理不尽な目に遭っている奴らがいるのに、そんな目に遭わせている奴らが許せるわけがない。

因果応報、自業自得、そんな言葉がピッタリな目に遭えばいいとは思わないか?」

 

「・・・・・話が見えない。何を言いたい」

 

「俺もその理不尽な目に遭った一人なのさ」

 

それがどうしたと言うんだ。そう言う奴らは当たり前にいる。

それが残酷な世界と言うぐらいなら戦争に巻き込まれた人間も大勢いる。

 

「俺が強くなったのは仕返しと見返す為だった」

 

「誰に、だ」

 

「俺をバカにし、蔑んできた兵藤家に、実の兄にだ」

 

「・・・・・」

 

少女は知っていた。一誠に兄弟がいること、兵藤家であることを。

とある組織に属している少女にとっては変わった男だと思っている。

 

「嫌いなのか?」

 

「嫌いだね。兵藤家はただ弱いというだけで苛める。その時はまだ子供だったから

仕方がないとはいえ、大人も含めた暴力は凄かった。

それだけじゃない、俺の兄でさえ例外じゃなかった」

 

「そうか」

 

「ああ、俺に包丁を刺してくるほどだからな。その時もまだ子供だったころだぞ?」

 

少女は息を呑んだ。あまりにも予想外なことで子供が殺意を持っていたかいないかを

別にして、まだ幼い兄弟がそんなことをしていた、されていたなんて思いもしなかった。

 

「その兄は赤龍帝だな?」

 

「情報が早いな。そうだ」

 

「見返せたか?」

 

「当の本人が俺より弱いなんて認めないから見返せた気分はない。

今度会ったら骨の髄まで教え込むがな。俺の方がお前より強いんだと」

 

すると、一誠は起き上がって少女と対峙した。

 

「そう言うお前はどうなんだ。エクスカリバーで誰かと戦いたいのか」

 

「・・・・・」

 

まさか、あの時漏らした言葉を覚えていたとは驚きものだった。

そんな一誠と自分は―――似ている部分が確かにあって少女は思った。

こいつとは共感できる部分があると。だから敵同士であるのにある事を告げた。

 

「オレにも兄がいるんだ」

 

口にすれば次々と言葉が出てくる。聞いて欲しいとばかりに一誠を真っ直ぐ見詰めながら語る。

 

「オレも兄も剣術が長けていた。そしてある家系の生まれでオレは当然妹として育てられた。

兄は格好良く、誇り、自慢な男でもあった。そんな兄に憧れ、敬愛していた兄みたく

なりたいとオレも剣を取って修業したり稽古も付けてくれた。

―――だが、成長するにつれ兄はオレと接する態度が変わってきた。稽古も付けてもらえなくなり、

優しく語りかけてくれていたのに冷たくされ、もう一人の妹に笑い掛け接するようになった」

 

「・・・・・」

 

「なんでだ、どうしてオレに笑い掛けず、接してくれず、もう一人の妹にオレには

してくれないことをするのか理解できない。何一つ、兄に対して不愉快なことをした

覚えがない。オレはただ、兄のようになって兄の隣に並びたいと純粋な

想いでいたのに・・・・・」

 

そして、兄に問うたんだと少女は言った。―――どうして妹ばかりに接するんだと。

少女の口から出た言葉は。

 

『あなたは私と違います。あなたに剣は似合いません。それでも剣の道に進むので

あれば剣を持つあなたを認めるわけにはいきません。あなたが剣を持つ限り』

 

「剣を持つオレを認めてくれない。ただそれだけで兄は、

アーサーは俺の存在を否定する・・・っ!」

 

悔しさが全身に現れ、剣を持つ手に力が籠る。そんな少女の話を聞き、一誠は共感を覚えた。

同時にその兄の気持ちも少なからず理解できた。

 

「(一人の女として幸せになって欲しかったから・・・・・か?)」

 

憶測だが、そう思った。一誠が考えていると、少女の話は続きがあった。

 

「ショックを受けたオレはある日、父上と一緒に歩いていると兄の婚約話が持ち上がった。

相手は名高い一族の娘で、既に親同士が決めた婚約だった。オレは素直に祝福した。

兄に父上と共にそのことを教えようと訪れた時、見てしまったんだ。

家に仕える従者と道ならぬ恋をしていたところを」

 

「(うわ、それはタイミングが悪い)」

 

「父上は激怒し、その従者を家から追い出した。オレは許しを乞うたが父上は

聞き耳を持ってくれなかった。そして兄上は家宝である剣を持ち出して従者の後を追うように

家からいなくなった。その際、オレはその剣を持ち出す兄を制止した。だが―――!」

 

『あなたのせいで彼女はこの家から追い出されました。私はあなたを許しません。

 あなたという妹を持った私は不幸でしたよ』

 

どこまでも冷たく、妹の少女に向かってあるまじき発言を発した。

少女は涙を流しながらも兄を家に留まらせようと説得がダメなら実力行使もしたが―――。

 

「・・・・・この腹に剣を貫いて去ってしまった」

 

圧倒的な強さの前に破れ、家から出てしまったそうだ。

 

「傷が癒えた頃を見計らってオレも家を出て兄を追った。

今はとある組織に属しているが、そこで兄を見つけた」

 

「再会してどうだった?」

 

「直ぐに白龍皇のチームになってオレから離れてしまった」

 

かなりの嫌悪な関係の兄妹仲となったらしい。少女は深く肩を落として落ち込むほどに。

 

「だから決めたんだ。言葉でダメなら剣で語ると。だからこそ―――」

 

少女は決意が籠った瞳を一誠に向ける。

 

「エクスカリバーを持つお前と戦い、勝って奪い取り兄と戦って勝つことを目指すことにした」

 

「・・・・・」

 

言いたいことは分かった。気持ちも十分理解した。自分を認めさせるその想いだって

深く賛同する。だから執拗にエクスカリバーを欲していたんだなと一誠は理解した。

 

「(俺と似ているな、このモルドレッドと言う少女と)」

 

その気分じゃなかったが、話を聞いて似た者同士であることを分かり、

亜空間からエクスカリバーを取り出して構えた。

 

「・・・・・オレと戦う気分じゃなかったのか?」

 

「気が変わった。お前も感じただろうが俺たちは似た者同士だ。兄に対する気持ちも同じ、

認めさせるために強くなりたいその気持ちも同じだ。モルドレッド―――」

 

刀身を神々しい金色に輝かせる。一誠の戦意が具現化したように極光を発する。

 

「来い!俺はお前と言う存在の全てを受け入れる!お前も俺を受け入れこのエクスカリバーを

手に入れてみろ!」

 

「っ!」

 

モルドレッドは大きく目を張った。自分を受け入れる、そんな言葉を言われたのは

生まれて初めてのことだった。仲間や友人という存在がいても、

自分の過去を話したことも一誠が初めて。

 

「(やはり、こいつはオレにとって―――)」

 

改めて剣を構え、邪魔者が誰もいない公園で臨戦態勢の状態に入る。

 

「「・・・・・」」

 

真剣な眼差しを互いに向け、きっと騒ぎを駆けつけてやってくるであろう野次馬たちが来るまで、

剣を交えようとする意思が二人を突き動かす。

 

「ふっ!」

 

「はぁっ!」

 

 

 

 

 

 

 

「なんだかんだで、調子を取り戻したようねぇー」

 

機械だらけの空間で一誠とモルドレッドの様子を盗撮して見ていたナヴィは

テーブルに肘をついて頬を添える状態で溜息を吐いていた。

 

「良かったわね。彼氏が元気になって」

 

「・・・・・」

 

「あいつ、イッセーの気持ちは分からなくはないわよ?大切な人が傷付けられるなんて

我慢できるわけがないなんてさ。過去にどれだけ理不尽な目に、暴力を受けていれば

過激な対処してしまうのも仕方がないじゃない?」

 

静かに自分の背後に佇んでいるリーラに目もくれず真っ直ぐ魔方陣から映し出されて

いる立体映像を見て言う。

 

「まぁ、テファの言い分も分かるわ。人の命を奪って欲しくないから言ったのでしょうし、

自分たちは助けられたから十分だってそう言う思いもあったでしょう」

 

半ば暴走気味に主犯たちを蹂躙した一誠の様子も見ていたナヴィからしてみれば、

あの時の一誠はまさしく化け物だった。大切なものを奪われた生物が怒り狂うのは当然のこと。

逆に言えば、

 

「(イッセーって意外と独占欲があったのねー)」

 

独占欲の強さによって怒りの度合いも変化する。一誠が独占欲があったからこそ

過激な言動をしたのだ。

 

「(私も同じ目に遭ったらどのぐらい怒ってくれるかしら?)」

 

期待と淡いほのかな恋心を抱き、一誠とモルドレッドの戦いが終えた様子を見詰めた。

 

「そろそろ帰ってくると思うわよ。スッキリした表情でね」

 

「ありがとうございました」

 

「気にしないでいいわよ。私たちは家族なんだから心配するのは当然よ」

 

手をヒラヒラと動かして何とでもなさそうに答えるナヴィから音もなく部屋から出たリーラ。

 

「・・・・・でも、イッセーは危ういところもあるのは確かのよね」

 

―――○●○―――

 

―――兵藤家―――

 

早朝五時。聳え立つ山を背後にし、広大な土地を敷地にし、家を構える天皇兵藤家。

家の中へ上がる為の階段から見下ろすと、大勢の少年と少女たちが集結していた。

緊張の面持ちや、不敵な態度で自分たちの目の前に佇む現兵藤家当主の厳つい顔の

中年男性、兵藤源氏から発せられる言葉を待った。

 

「・・・・・」

 

厳しい眼で少年少女たちを見渡した源氏が静かに口を開いた。

 

「先日、とある者共が人としてあるまじき罪を犯した」

 

『・・・・・』

 

「この国を支配し、この国の代表たる兵藤家と式森家にとっても忌々しき事態」

 

透き通った声が響き渡り、集結している兵藤家の少年少女たちの耳に入る。

そのことはこの場に集まっている面々たちも知っている。

 

「だが、それ以前にも兵藤家の名を泥で汚し、名声や栄光、名誉、誇りを蔑ろに

する者たちがいる。兵藤家の家訓、『弱さは罪。強い者は正義』。

この意味を分かっていない者たちが特に、な」

 

源氏からジワリとプレッシャーを感じた。目の前にいる当主は怒っているのだと

誰でもそう感じていた。

 

「兵藤家の者が、馬の骨も知らない者にやられ」

 

『っ』

 

「兵藤家の者が、兵藤家の威光を嵩にし、あるまじき行いをしている者もいて」

 

『っっっ』

 

「周りの者に多大な迷惑を掛け、兵藤家の名を地に落としかねない言動をしている者たちがな」

 

『っっっっっ』

 

身に覚えのある者たちがみるみる顔を青ざめた。自分たちのことが当主の耳に

届いていたなど思いもしなかった。寧ろ舐められては兵藤家の名が廃るとばかり、

兵藤の威光を嵩にし、好き放題やりたい放題で周囲を委縮させ、

畏怖の念を抱かせてきた。しかし、それが怒りを買わせていたとは露にも思わず

源氏のプレッシャーは一気に膨れ上がり、

 

「国立バーベナ駒王学園に通っているお前たちのことだ。

このっバカ者どもがぁあああああああああああああああっ!!!!!」

 

大気を震わせ、地面さえただの大声で縦に揺らし、少年少女たちを戦慄させた。

 

「お前たちの様子は学園から報告されている。聞けば聞くほどお前たちは好き勝手にして、

共に通う者たちに怒り、憎しみ、恨みを買わせているばかりしか聞かない。

あまつさえ、女性に対して奴隷のように扱い、強姦や脅迫をしているという話しも

不幸な目に遭った女生徒の親たちが学園に押しかけ聞いたそうだ。

その女性とたちの一部は登校拒否、心を硬く閉ざし、男性恐怖症となり家から

出ることが一切なくなっているようだ。お前ら・・・・・とんでもないことをしてくれたな。

この兵藤家の恥晒し共がっ!」

 

当主の怒りが治まることを知らない。特に少年たちは自分たちのことを言っている当主に

恐怖で顔を歪め、中には許しを乞うほど土下座をして身体を丸めている者もいた。

 

「お前らは一体何様のつもりで兵藤家の名を語っている。お前たちは俺からすればただの

兵藤家の威光に縋っている有象無象の赤子に過ぎんわ。兵藤家とは兵藤家を創り上げた

初代兵藤家当主の者の意思を受け継ぐ役目を果たす為に式森家と同じ日本を代表する

一族なのだ。それを知らずお前らは好き勝手に威光を欲望のままに振り回しおって!」

 

全身から怒気のオーラが迸り、この場の雰囲気はどこまでも重かった。息もするのに苦しい

思いでいっぱいだ。

 

「次期兵藤家の当主を選別する時期が迫っている。だが、俺から言わせてもらえば

この中で次期兵藤家当主となる者は誰一人もおらん。全員、兵藤の名を捨てさせ

追放してもいいぐらいだ。それぐらいのことをお前たちはしているのだからな」

 

ギョッと目を丸くし、愕然とした面持ちで源氏を見る。兵藤家から追放。

そこまで自分たちは罪を犯していたなど信じがたい思いで、『そんなっ』と悲鳴にも

似た声がどこからともなく出てくる。

 

「・・・・・当主。では、当主の息女殿たちのどちらかで?」

 

影のように源氏の背後に今の今まで立っていた側近の男性が呟くように声を掛けた。

この場にいないというのであれば自分の娘しかいないということになる。

側近の言葉に源氏は無言で肯定も否定もしない。

 

「・・・・・『外』にいる兵藤の者になってもらおうなどお考えで?」

 

側近の脳内に浮かぶ二人の兵藤。一人は学園に通っていて、

実力は兵藤家の中でも一、二位を誇っている。

文句なしなのだが、その者の立場が邪魔して側近にとって複雑な思いだ。

もう一人は源氏との仲が?最悪な当主の実の息子である。

 

「ふん・・・・・お前から見てここにいる者たちが兵藤家に相応しい者がいると思うか?」

 

「・・・・・」

 

沈黙は肯定と取られる。が、側近の場合は「いいえ」とハッキリ答え辛い心情でいた。

無論、全員がそうであるとは源氏も分かっている。性格に難があるものの、純粋な力を

有している兵藤家を代表する子供もいるのだ。―――その一人が兵藤誠輝。赤龍帝だ。

 

「当主の選別の時期はもうすぐだ。いつまでも決めかねているわけにはいかない」

 

「では、どうなさるおつもりで・・・・・?」

 

「そうだな・・・・・」

 

顎に手をやって考え込む源氏。何時しか・・・・・誠と一誠が浮かべるような

人を驚かす考えを思い付いたような笑みを浮かべた。

 

「(その表情を見るのは久しぶりですぞ。―――悪戯を思い付いたその顔を)」

 

側近も同じ考えだったようで顔に出さないが内心溜息を吐いたのだった。

 

 

そして、夏期休暇の期間に突入した日本を震撼させるニュースがお茶の間に報道された。

 

 

―――(神以外)参加者無制限の次期兵藤家当主の選抜大会の催しが決まったことを。

 

 

「と、当主!?ご乱心ですか!?」

 

「兵藤家の誰かが勝ちぬけばいいだけの話だ」

 

「アンタも大概だ!厳格な方とは思っていましたが自分の息子と同じ性格だったとは

思いませんでしたよ!」

 

「むっ、それは聞き捨てにならないぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

「だっはっはっはっ!おいおい、クソ親父め。俺を笑わせてくれるなんて

そんな考えもできていたんだな!」

 

「でも、参加者が無制限って大丈夫なのかしら。

神々の参加は認められてないけれど・・・・・」

 

「まぁ、それでもごまんと強者がいるからな。これはとんでもないことになるぞー」

 

「誠、この大会に参加する気あるの?」

 

「ああ、一誠は必ず出てくるだろうからな。多分、面白半分で」

 

 

 

「お、お爺ちゃん・・・・・」

 

「悪魔も天使も堕天使も参加を認めるとは大それたことを・・・・・」

 

「異種族が兵藤家の当主となれるものなのか?」

 

「ある意味、戦争が勃発するんじゃない?日本を掌握できるようなもんだし」

 

「世界各地から様々な者たちが来るというわけか?見ている分は楽しめるが、実際は大変だろう」

 

「どうやって決めるのかしらね」

 

「美少年たちが私の元にやってくる!ああ、どんな血を飲もうか悩んでしまうではないか!」

 

「お前と言う奴はそれしか頭がないのか」

 

「ここにはいない、イリナたちも参加するのかしら?」

 

「ど、どうかしらね・・・・・・」

 

「参加したい人は自由です。だから誰が参加したいなどは分からないですよ」

 

 

 

 

「ヴァーリ!この大会に参加しようぜ!イッセーもぜってぇー参加するって!」

 

「ああ、赤龍帝も現れるだろうからそうするつもりだ」

 

「あはっ!楽しみだなぁ選抜大会!イッセーに凄いところを見せ付けてやるぜぃ!」

 

「それは私も同じことだ美猴。さて、他の三人にも声を掛けるか」

 

 

 

 

「ジーク、オレは出るつもりだがどうだ?」

 

「俺たちのことはあまり知られていないから大丈夫だとは思うけどリーダーに聞かないことには」

 

「そのリーダーは出る気満々でいたが?」

 

「そうかい・・・・・彼女がそのつもりならいいんじゃない?俺も兵藤一誠と剣を交えたいからね」



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エピソード25

「兵藤一誠、私は参加してみたいぞ(キラキラ)」

 

「うん、そんなに目を輝かせるんだからそう言うと思っていたよクロウ・クルワッハ」

 

「我、イッセーの為に頑張る」

 

「オーフィスが参加してもいいのか・・・・・?」

 

参加の意思を示す最強のドラゴン組と一誠。日本を震撼させるニュースから翌日になっても

朝のニュース番組は次期兵藤家当主選抜大会のことで盛り上がっている。

 

「私も参加したいと思います」

 

「リーラ?危ない戦いだと思うけど大丈夫なのか?」

 

「この大会で兵藤家の未来が左右しているのは一目瞭然です。兵藤家の当主となれば

日本を手に入れられると同じ意味なのです。冥界が勝てばこの国は第二の冥界となるでしょう。

天界が勝てば第二の天界となります。他の国が勝てば日本は日本で無くなります。

兵藤家がどうなろうと私たちには関係ないことでございますが、一誠さまの願望を

果たすことができる好機でもございますので」

 

一誠も兵藤家を見返す機会でもあるということは分かっている。当主になるかは別として、

この機会を逃す訳にはいかない一心で一誠は参加する気持ちでいる。大会の詳細は

後日ネットやテレビで伝えられる。その時までは―――。

 

「わかった。でも無理だったら直ぐに棄権して良いからな」

 

「お気遣い感謝します」

 

「オーフィス、私と勝負しろ」

 

「別にいい」

 

地下室へ向かう最強のドラゴンと最強の邪龍がいなくなり、二人きりとなった一誠とリーラ。

そんな状況下になった途端にリーラが一誠に抱き付き身体を密着させる。

リーラ・シャルンホルストと言う女性は二人きりになると今まで抑えていたものを解放し、

こうして一誠に抱き付くことが日課となっている。一誠もそれを察して、意図的にも

二人きりになるように仕向け、メイドと主としてではなく、一人の男と女として接する為に。

 

「甘えん坊な彼女で可愛いよ」

 

「・・・・・いつも家族とは言え他の女性と一緒にいるあなたを見ると羨ましく思うのです」

 

「それはどうしようもないけど、俺はリーラが一番好きだよ」

 

「一誠さま・・・・・」

 

「言葉だけじゃ納得できない?」

 

耳元で囁かれ、背中に一誠の腕が回され、抱擁を交わし合うリーラと一誠。

それはある合図でもあった。コクリとリーラが小さく頷くと一誠は自分の自室へ連れ込んだ。

中に入るや否やリーラが積極的に一誠の唇を深く押し付ける。

 

口の中に侵入してくる温かく弾力があり、甘い唾液がコーティングしているリーラの舌は

歯や歯茎を掃除するかのような丁寧さで舐めまわし、一誠の舌と接触すると最初は優しく

絡め合い、意図的に溜めた唾液を送り込めば嫌な顔を一つもせず喉を鳴らし飲みほしてくれる。

 

今度は自分の番だと一誠も唾液をリーラの口内へ送り込み、飲ませ続けた。

そうしていると二人の思考が鈍くなり、もっと深く、熱く、蕩けそうなぐらいキスをしたい

という欲求が昂り二人をそうさせた。

 

先ほどの優しいキスとは打って変わり、互いの両腕を相手の頭に回して情熱的で官能的なキスを

没頭し始める。口から水音がし、鼻息を荒くなっても片時から離れず舌と舌が

蛇の交尾のように絡み合い、二つの唾液が交じり合って煽情的なキスを繰り返す。

愛が籠ったキス。それだけでも多幸感を得れ―――。

 

「一誠さま・・・・・」

 

愛おしい女の蕩けた顔の頬を添えるように触れる。潤って熱が籠っている琥珀の瞳には

一誠の顔が映り込む。この顔を見れるのは自分だけという優越感と他の男には見せない、

触らせもしないという独占欲。

 

「一誠さま・・・・・もっと・・・・・」

 

愛しい人―――。自分の全てを捧げられる、愛しい人。温かな眼差しが好き。優しい声音が好き。

リーラの存在する理由となったと過言ではない一誠と濃密な関係となれ、

一人のメイドとして、一人の女としてとても感極まる多幸感で全身や心が震えるばかり。

縋るように甘えれば、背中や足の裏に腕を回されて一瞬の浮遊感を覚えると

キングベッドまで横抱きに抱えられる。そして、壊れやすい硝子細工のように寝転がされる。

 

「ああ・・・・・一誠さま・・・・・」

 

伸ばされる腕に首が絡まり、リーラへ引き寄せられる。

それ以降、寝転がる二人がいるベッドからも水音が艶めかしく何時までも続く―――。

 

「あんたら、良い趣味をしてるわね」

 

『・・・・・』

 

ナヴィの一室で全員(リィゾ、フィナを除く)が一誠とリーラの密会を

ガーゴイル特有の力で様子を覗き見していたのを知らずに。

 

―――○●○―――

 

とある日、外に出かけてある場所に向かっていた。

以前出会った少女はどうしているのだろうと、肩にオーフィスを乗せて歩いていた

ところ、一誠は金髪の女性の顔にアイアンクローをしていた。

 

「いだだだだっ!?割れるっ、頭がわ・れ・るぅーっ!」

 

「あ、ありがとうございます・・・・・」

 

「や、気にしないでくれ。白昼堂々と食い逃げを追いかけるその根性は逞しいですね」

 

どこかの店の店員が若干引き気味に感謝した。相も変わらず顔を掴まれている女性は

苦痛と悲鳴を上げ、今にでも頭蓋が悲鳴を上げて握り潰される雰囲気を醸し出している。

 

「ところでどれぐらい食べて逃げられたんですか?」

 

「もう一人、黒髪に赤い眼の女の子がいて計30万ほど・・・・・」

 

「(高級料理店でも食べたのか?)なぁ、そんな金持っているのか?」

 

顔から離して、金髪の女性に問うたところ。

 

「ない!」

 

豊満な胸を張って清々しいほどにそう言った。店員と顔を見合わせ頷いた。

 

「警察行きです。携帯持ってますか?」

 

「持っている。えと、警察の番号はーっと」

 

懐から取り出す携帯を金髪の女性が凄まじい速さで手ごと掴みだす。

 

「たんまたんま!警察沙汰は起こしたくないんだ!」

 

「食い逃げした時点でこうなる運命だったんだ」

 

「お姉さんの身体を張って金を稼いでちゃんと返すから!」

 

携帯を持つ手を掴まれて119を押せないでいる。身体を張って金を稼ぐと口で言われても

人は簡単に信用できない生き物なのだ。一誠はそんな事を言う女性に顔を訝しげにし、

口を開いた。

 

「エロい仕事でもしようってのか?」

 

「それは嫌だ。力仕事ならいい。こう見ても私は傭兵の仕事をしていたんだ」

 

「傭兵ね、戦えるんだな?」

 

「勿論だ」

 

戦闘経験があるという事実に考え込む。丁度、とある紅髪のお嬢様に

口約束をしたことが思い出した。

 

「なぁ、悪魔になる気はないか?」

 

「は?悪魔だと?」

 

「ああ、もしも戦うことが好きなら悪魔になるのをお勧めする。

丁度、人材を欲している悪魔がいてな。その悪魔の家は裕福で、将来有望な上級悪魔だ」

 

「・・・・・」

 

「俺がお前たちが食った分の代金を払う代わりに俺が紹介する悪魔の力となってくれないか?

まぁ、最終的に決めるのはお前だ。無理強いはしないと約束する」

 

「どうだ」と視線で訴える。女性は顎に手をやって考え込んでいるがコクリと頷いた。

 

「わかった。悪魔になるかならないかは別として力を貸すぐらいなら喜んで」

 

「決まりだな。えっと、すいません。そういうことでちょっと付き合ってもらえませんか?」

 

「へ?どこにですか?」

 

店員の疑問は直ぐに解消された。ポケットから数多の宝石を取り出して見せ付けた

一誠がこう言った。

 

「宝石店。この宝石を売る為に大人のあなたの同伴も必要なんで」

 

 

「いやー、助かったよ。金はあるんだけど美味し過ぎるあまり

思った以上の値段だったもんで払うことができず食い逃げするしかなかったんだ」

 

宝石を売って代金を肩代わりに払った一誠の隣で朗らかに話しかけてくる女性。

 

「あ、私はレオーネって言うんだ。よろしくな少年」

 

「兵藤一誠。俺の肩に乗っている子はオーフィスだ」

 

「ん、よろしく」

 

「よろしくー。さて、連れを探したいんだけどいいか?」

 

レオーネの乞いに一誠は頷こうとしたが止めた。

 

「その必要はないと思うぞ」

 

「うん?」

 

「向こうから来たみたいだし」

 

一誠が向ける視線の先に、ひざの裏まで伸びている黒髪に映えるほどの赤い目、

黒で統一した服装を身に包んでいる少女が近づいてきた。

 

「本当だ。おーい、アカメー」

 

「アカメ?」

 

どこか似た呼び方だった。とあるお菓子好きの後輩みたいだ。

改めてみると目の前の少女は自分が思っている後輩と顔が似ていた。

そう思っているとアカメはレオーネの前に立ち止まって声を掛けた。

 

「撒けたのか?」

 

「やー、この少年にアイアンクローされちゃって捕まったんだこれが。

でも、私たちが食った分の金を肩代わりに払ってくれたからもう問題無しだ」

 

「そうか、そう言う事ならお礼を言わないと。誰だか知らないが助かった。礼を言う」

 

深々と黒髪を垂らしつつお辞儀をした。礼儀正しい印象を感じて

一誠は朗らかに笑みを浮かべて言う。

 

「ああ、別に気にするな。お前の連れの力を貸してもらう約束もしたし」

 

アカメは不思議そうに「どういうことなんだ?」と漏らし、一誠とレオーネを交互に

見て問いかけてくる。これまでの経緯を説明すると、なるほどとコクリと頷いた。

 

「レオーネは悪魔にならないんだな?」

 

「強引に人の人生を変えるような真似はしない。相手の悪魔も話が分かるから

問題はない。でも、話や本人次第では悪魔に転生するだろう。ところで聞いて良いか?」

 

「うん」

 

「お前、妹っている?」

 

赤い目が大きく見張った。いきなりそんな家族構成を聞かれるなんてどういうことだと。

だが、教えれないほど重要でもない質問にコクリと頷いた。

 

「いる、だが、いない」

 

「ん?」

 

「小さい頃、私たちは親に売られ一緒に暗殺者として育てられた。だが、妹は暗殺者として

失格だと烙印を押されてしまって離れ離れにされたんだ」

 

無表情で答えてくれるアカメ。過去にそんな出来事があったとは見た目では

判断できないものだと真摯に耳を傾けつつ携帯を取り出す。

 

「そいつってクロメって名前か?」

 

「っっっ!?」

 

今まで見たことがない反応を窺わせてくれる。携帯の画面にとある画像をメインにし

アカメに見せびらかした。

 

―――口にお菓子を加えてオーフィスと競って食べているようにも見える光景の中で

黒い髪に黒い目の少女が映っている写真を。

レオーネも画面に覗きこめば、「あっ、アカメと似てるな」と漏らした。

 

「こいつだな?お前の妹は」

 

「・・・・・どこで撮った」

 

「学校だよ。国立バーベナ駒王学園。俺はクロメの先輩だが悪いな。

どこに住んでいるかは知らないんだ」

 

「・・・・・」

 

「だけど、これから行く場所に知っているかもしれない人物がいる。一緒に来るか?」

 

その誘いをアカメは無言で頷いた。決まりだと一誠は小型の魔方陣を展開して

 

「あ、リアスか?一誠だけどそっちに行っていいか?お前に紹介したい奴が

二人いるんだが・・・・・うん、そう。本人たちが了承しないならしょうがないからな?

あいよ、んじゃな」

 

リアス・グレモリーと話を終えて二人に向かって言った。

 

「迎えが来るから待ち合わせの場所に行く」

 

「どこに連れて行こうってんだ?」

 

「ん、悪魔や堕天使が住んでいる冥界だ」

 

「・・・・・お前は悪魔じゃないのか?」

 

「残念ながら違う。俺は―――」

 

背中にドラゴンの翼を生やす一誠は不敵の笑みを浮かべて行った。

「俺はドラゴンだ」―――と。

 

―――冥界―――

 

一行は冥界行きの列車に乗り、目的地の駅に降りた。紫色の空の下に歩くのは久し振りで

迎えに来てくれたシルヴィアとグレモリー領まで馬車で移動する。リアスのことを話を

聞けば、若手悪魔の会合やソーナとゲームをすることとなり、

リアスやグレモリー眷属は修行の真っ最中のことだと。

 

「結構、眷属の数が少ないから苦戦じゃないか?」

 

「それでも戦わなければなりません。ですが、一誠さまもゲームに参加してくれれば

リアスお嬢様たちの士気が高まるでしょう」

 

「うん、いいよ」

 

「はい?」

 

アッサリとシルヴィアが間抜けな返事をするほど参加すると述べた一誠だった。

話し合っていればグレモリー城に辿り着き、馬車から下りると久し振りに

再会するリアスが出迎えてくれた。

 

「ああ、久し振りイッセー!」

 

「久し振りだリアス。見ない間になんか綺麗になってないか?」

 

「も、もうっ。褒めたって何も出ないんだからね?」

 

「悪口を言えば出てくれるのか?」

 

「・・・・・あなた、天邪鬼なのかしら」

 

「ん?」と天然な反応をする一誠にリアスは幸せな気分が一気になくなり、

溜息を零すとアカメとレオーネに目を向けた。

 

「彼女たちが私に紹介したいという子ね?」

 

「色々と事情があってだけど出会ってな。戦闘経験があるから問題ないだろうと思って。所でサーゼクスのお兄さんはいるか?」

 

「ええ、いるわよ。会いたいの?」

 

「頼みたいことがあってね。それはシルヴィアさんに頼むけどリアスは二人と

交渉でもしていてくれるか?」

 

否定もせずリアスは首を縦に振って頷き、

一時三人と別れてシルヴィアの先導のもとでサーゼクスがいる場所へ。

サーゼクスは父親のアルマス、母親のヴェネラナ、朱乃の母親、朱璃とティータイムを

楽しんでいた。一誠が現れれば、心底歓迎してくれて一誠を出迎えてくれた。

 

「サーゼクスのお兄さん。お願いがあるんだけどいい?」

 

「私ができる限りのことだったら何でも頼みたまえ。

未来の義息子の為だったら全力を尽くそう(満面の笑み)」

 

「じゃあ、できるよね。魔王のおじさんと連絡か直接会いたいんだけど」

 

「魔王殿にかい?それはまたどうしてかな?」

 

「理事長として学園に通っているとある後輩の情報を知りたいんだ。

いま、その後輩の姉を連れて来てさ、生き別れの姉妹だってことが分かって会わせたいんだよ」

 

事情を知ったサーゼクスは一誠の乞いに了承して後輩の情報を聞き、「しばらく待ってくれ」と

言い残して姿を消した。

 

「一誠くん、見ない間に大きくなったな。うむ、逞しい身体付きではないか」

 

「悪魔って歳を取らないんですね。昔のままだ」

 

「うふふ、嬉しいことを言ってくれるわねこの子は」

 

「朱乃のお母さんも本当に久し振り。バラキエルのおじさんは元気?」

 

「ええ、朱乃に凄く熱心でこう言う時は親バカって言うのでしょうね。ふふっ♪」

 

楽しげに話し合う親と子。するとアルマスが鈴を鳴らせば銀髪のメイドが直ぐに現れた。

そのメイドに目をして「あっ」と嬉しそうに漏らし、

 

「お久しぶり、グレイフィアさん。こうしてみると本当にシルヴィアさんと瓜二つだね」

 

「はい、お久しぶりでございます兵藤一誠さま」

 

「一誠でいいよ。あんまり兵藤と呼ばれるのは好きじゃないから」

 

「・・・・・では、私のことは呼び捨てで構いません」

 

不思議そうにいいのかと思ったが本人の希望であればそう呼ぶことにした。

シルヴィアとグレイフィア。二人のメイドは本当に顔が同じで瞳も同じであれば身体付きも同じ。

最初はどっちがそうなのか迷ってしまいそうなのに一誠はハッキリと間違えずに呼んだ。

 

「言い遅れたが一誠くん。ライザー・フェニックスとのゲーム、おめでとう。

よくあれだけの将来有望な人間を集めたものだな」

 

「世界中に修行して巡り合った友達だったからね」

 

「もしも彼女たちがリアスの眷属となってくれればRG(レーティングゲーム)のランキング上位は堅いだろう」

 

「ははは、それは無理だと思うよ。特にあの二人だけは我が強過ぎてリアスじゃ

制御しきれないよ」

 

寧ろ弄ばれて心労が絶えないかもしれないと内心思わずにはいられなかった一誠は苦笑を浮かべる。

 

「一誠くん、これからどうするつもりかな?」

 

「うん、リアスがシトリー家とゲームをする話を聞いたから参加してみたいなーって

思っている。あ、悪魔にはならないから」

 

「おおっ。そうかそうか、もしも参加が認められたならば一誠くんとリアスの活躍が

華を咲くだろう!」

 

ウキウキと嬉しそうにはしゃぐアルマスに同意とヴェネラナも微笑んでいた。

 

「それはそうと、一誠くんはあの次期兵藤家当主選抜大会に参加するのかな?」

 

「うん、出るよ。当主になるつもりはないけど当初の目標が果たせる機会だから」

 

「目標って何かしら?」

 

そう問われると一誠は「内緒だよ」と笑みを浮かべて教えなかった時、

サーゼクスが一枚の紙を持って現れた。

 

「一誠くん。魔王殿から例の彼女の住所を教えてくれたよ」

 

「ありがとう、サーゼクスお兄ちゃん」

 

「・・・・・お兄ちゃん、いい・・・・・っ!」

 

ジーンと歓喜極まって感動するサーゼクスだった。紙を受け取り、クロメの居場所を

把握するとリアスたちのところへ今度はグレイフィアが案内をしてくれた。

 

「一誠さま、本当に参加なさるおつもりですか?」

 

「んー、参加を認めてくれるならの話になるけど」

 

「・・・・・悪魔に転生すればあなたは冥界を背負えるほどの者となりますのに」

 

「ははは、リアスも喜ぶだろうな。でも、俺を助けてくれた、

オーフィスとグレートレッドを裏切りたくないんだ。身体の一部と力をくれたドラゴンたちに」

 

どこか残念そうに、遠慮気味に漏らしたグレイフィアの言葉は一誠を苦笑させ

肩に乗っているオーフィスにも向けられた発言を発した。。

 

「それに俺を悪魔に転生させる駒なんてもうないんじゃないか?」

 

「・・・・・そうですね。変異の駒(ミューテーション・ピース)僧侶(ビショップ)のギャスパーさまに

使用されましたので」

 

「ギャスパー・・・・・ああ、あの男の娘のことか。あんまり知らないけどどんな奴なんだ?

神器(セイクリッド・ギア)の所有者だってことぐらいしか分からないんだけど」

 

グレイフィアは丁寧に教えた。

 

「ギャスパーさまは吸血鬼世界では上級階級の貴族、ブラディ家に

生まれたハーフヴァンパイアです。吸血鬼のことはご存知ですよね?」

 

「ああ、俺の家族にも吸血鬼が四人もいる。ヴァレリー・ツェペシュと

アルトルージュ・ブリュンスタッドの二人も元王族、上級の貴族だった」

 

「ツェペシュ家の御息女?」

 

意外な名が出たことでグレイフィアは若干驚いた。特にツェペシュ。男尊派のトップたる

王族の吸血鬼が一誠の傍にいたとは思わなかった。存在は知っていた。婚約を懸けた

ゲームで勝利した時に神王と魔王が主催とするパーティに見掛けた。

名前までは知らなかったがまさか王族の吸血鬼だったとは・・・・・と。

 

「そっか、今度会わせてみようかな。同じ吸血鬼同士なら直ぐ仲が良くなるだろう」

 

「・・・・・ええ、そうしてもらえるとリアスさまも喜びましょう」

 

話している間にリアスたちがいるであろう部屋に辿り着き、ノックをし、

入手つの許可を得ると扉を開いて中に入る。テーブルを挟んで対峙して座っている

リアス、レオーネ、アカメを見つけてサーゼクスから受け取った紙をアカメに手渡す。

 

「クロメがいる住所が分かったよ。そっちはどうだ?」

 

リアスに訊ねると笑みを浮かべ出した。

 

「レオーネは了承してくれたわ。説得した甲斐が得て良かった」

 

「そうなんだ、レオーネ?」

 

「ああ、私とアカメの面倒を見てくれる条件でな。それに私の力がフルに活用できる

場所があって楽しそうじゃないか」

 

不敵に笑むレオーネ。連れてきて良かったと思いアカメにも視線を向ける。

 

「アカメは?」

 

「まだ悩んでいる。レオーネに頼ってばかりで悪いと思っているが・・・・・」

 

紙に目を落として無言になる。

 

「(妹と違う種族になることを躊躇っているのか、それとも何か別の考えを

持っているから悩んでいるのか)」

 

そう想像する。しかし、本人の意思に尊重するのはリアスも同じで無理強いに眷属に

なって貰う気はない。アカメにゆっくり考えて決まったら改めて言って欲しいと

言えばアカメはコクリと頷いた。

 

「リアス、ソーナ先輩とゲームするんだってな」

 

「ええ、シルヴィアから聞いたのね?それで?」

 

「うん、もし認めてくれるなら俺もゲームに参加したいなって。リアスのチームに」

 

「へぇ、そうなの・・・・・ええええええええええええっ!?」

 

予想通りの反応にニヤニヤと一誠は楽しげに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセーが私の眷属に・・・・・イッセーが私の眷属に・・・・・」

 

「え、リアス?」

 

「よっしゃあああああああああっ!俄然ソーナに勝てる気が出たわよこんちくしょうがぁっ!」

 

「リアスさんんんんっ!?」

 

「・・・・・頭のネジが数十本も吹っ飛んだようですね」



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エピソード26

『おいおい、お前まで参加したらソーナは泣くぞ』

 

「アザゼルのおじさんがリアスたちの監督みたいなことをしていたなんて意外だ」

 

『ま、あいつらに俺の知識を叩きこんで実証していくのも楽しいからな。

それよかお前、大会に出るなら優勝しろよ。お前が当主となればあの頑固な若造と

違って楽しくなるからな』

 

「・・・・・考えておく。それよりもヴァーリはどうしているかわからない?」

 

『俺よりお前の方が知っているんじゃないか?それに―――あいつテロリストに入っても

簡単に内部情報を寄こしてくれるから扱いに悩んでいるんだよこっち側は』

 

小型の魔方陣から映し出されるアザゼルの苦い顔。ヴァーリは世界中の強者と戦う為に

テロリストの一員となった。白龍皇がテロリストになったことで冥界や天界、

他の神話体系の神々の間で震撼させたほどだ。

 

しかし、頼んでいるわけでもないのに白龍皇ヴァーリは定期的にテロリストの情報を

直接アザゼルに資料として魔方陣を介したやり方で渡してくる。まるでスパイのような

活動をしてくるため、アザゼルや五大魔王たちは

ヴァーリを本当にテロリストの扱いにしてもいいのか判断を悩んでいる。

 

「じゃあ、ジークとモルドレッドの二人のことも分かっているんだな?」

 

『ああ、そうだ。「英雄派」という派閥に所属している奴らに間違いない。

お前がエクスカリバーを持つ者として興味を抱くのも無理はないだろう』

 

「だよねー」

 

『軽く言うが、テロリストがこの町に現れた時点で大問題だからな?』

 

本当に分かっているのかと訝しい顔で言われ、どうやら内密にモルドレッドと

会っていることをバレているようで乾いた笑い声を発するしかなかった。

 

「で、俺の参加は認めてくれたの?」

 

『まだ決まってない。悪魔同士の戦いに人間、ドラゴンが参加しちゃ、

悪魔の成長や実績に影響が及ぶからよ。参加が決まったとしても、お前は倒してはならない

決まりに縛られるだろう』

 

「足止め程度ならそれでも勝機はあるね」

 

リアスの役に立てるならそれでも構わないと頭の中で思ったら、

 

『そう言えば、「幽世の聖杯(セフィロト・グラール)」の所有者、ヴァレリーはどうしている?』

 

「ん?普通に充実した生活の中で満喫しているけど」

 

『そうか、テロリストどもに勘付かれないならそれでいい』

 

懸念していたものは杞憂に終わった。そこで一誠はあることを聞いた。

 

「アザゼルのおじさんって三大勢力戦争の頃から生きているんだよね?」

 

『なんだ、俺は何歳だって聞きたいのかは止めておけよ』

 

「いや、興味ないし。そんなことよりある一族の事を知っているよね」

 

眉根を上げてある一族?とオウム返しをしたアザゼルに告げた。

 

「魔人族」

 

『っ!』

 

立体映像でもアザゼルが酷く驚いた顔が良く分かる。

当時、戦争をしていたものしか知らない事実の一つを

一誠は知っている事実に驚きの色を隠せなかった。目を細め、真剣な面持ちで口を開く。

 

『どこでその一族の名を知った?』

 

「アザゼルおじさん、怖い顔をしてるけど魔人族ってそんなに危険な種族だったの?」

 

初めて見る顔に一誠は問うた。アザゼルは重々しく頷いた。

 

『・・・・・俺たちを徹底的に追いこんだからな。悪魔より、魔王より性質が悪い。

魔力を奪い尽くす程なんだからよ。だからこそ、お前は知らないだろうが魔人族を

優先に狙って倒したほどだ』

 

シオリが語らなかったかもしれない事実にそうなんだと、相槌を打った。

 

『だからこそ、自分の種族が滅亡してしまう危機を感じたのか、

忽然と戦争からいなくなったこともあるし、度々姿を現すこともあった。

何時しか完全に戦争に顔を出さなくなったが、

そうか・・・・・まだどこかで生きているのか。敵となったら厄介だぞ』

 

「アザゼルおじさんでも敵わない相手?」

 

『いや、確かに厄介な能力を持っていたが対処はできた。物理的な攻撃で倒せたから

魔人族の数が急激に減ったんだ。で、一誠。お前はどこで魔人の情報を得たんだ』

 

再び訊ねられ、言っていいのかと悩んでしまう。が、アザゼルからの厳しい目が

何時までも一誠を捉えて言わなければ家にまで来そうな雰囲気だった。

 

「直接その魔人から聞いた」

 

『何でお前にだ?お前が有り得ないドラゴンだからだと知ってからか?』

 

「ううん、違う。これは俺の家族しか知らないことだけど、

神さまとの稽古の時に不思議な力を覚醒したんだ」

 

静かに聞く姿勢で耳を傾けるアザゼルに言い続ける。

 

「最初は分からなかったけど、魔人と出会ってようやく理解した。

この力は・・・・・魔人の力だってことを」

 

『なんだと・・・・・っ!?』

 

「アザゼルのおじさん。俺はグレートレッドの子供みたいなオーフィスの力を有する

有り得ないドラゴンで、兵藤家と式森家の血を流す元人間だった上に魔人族の血や力を

受け継いでいる子孫のようなんだよ」

 

魔人化(カオス・ブレイク)』となった一誠の姿により一層、

アザゼルは目が飛び出そうなぐらい驚いた。

 

『ちょっとそこで待っていろ!』

 

「へ?」

 

いきなり荒げた声で待機を命じられ、キョトンとしていると魔方陣が消えた。

そしてしばらく待って五分ぐらい経った頃、堕天使の魔方陣が出現してソコからアザゼルが現れた。

 

「・・・・・マジか」

 

「うん、マジだよ」

 

「・・・・・だー・・・・・お前、どれだけイレギュラーな存在となろうとしているんだよ」

 

疲れた顔で呆れ果てるアザゼル。ふと、何か思いついたのか一誠に訊ねた。

 

「ちょっと待て、お前がそうなら誠と一香の奴はどうなんだ」

 

二人の子供と言うだけであって、更に赤龍帝の存在も気になる。

魔人族の血を流しているならば他の兵藤家や式森家の者たちも必然的に

受け継いでいることになる。一誠は「うーん」と頬をポリポリと掻いた。

 

「えっと、結構曰くのある話も聞いたんだけど・・・・・聞きたい?」

 

「ああ、聞かせてもらおうじゃないか」

 

床に座り込むアザゼルに続き一誠も座り出す。そして、一誠はシオリから聞いた話を

そのままアザゼルに告げたのだった。

 

「・・・・・兵藤家と式森家が誕生した由来は魔人の奴が双子を産んだ

結果だったとはな・・・・・」

 

全ての話を聞き終えたアザゼル。手で顔を覆い、何とも言い難い気持ちで一杯になった。

目の前に座っているイレギュラーに目を向け、溜息を吐いた。

 

「お前が魔人の力を覚醒したのは二つの力を宿しているから、なんだな?」

 

「そうみたい。相反する力を身体に宿すと全身に襲う激しい苦痛、場合によっては最悪、

死ぬんだって聞いたし」

 

「それは人間の身体という器じゃ治まり切れないからだろうよ。ドラゴンの身体、

しかもグレートレッドの一部の肉体で構成された身体ならさぞかし巨大で不動な器と

なるだろうし、それに加えてオーフィスの力だ。それが蓋となって

押さえこんでいるのかもしれない」

 

「・・・・・赤龍帝はどうなの?魔人族の力得れる?」

 

声音のトーンが幾分か下がった質問をしてくる。アザゼルは自分の予測でこう答えた。

 

「微妙だな。鍛え上げられた肉体でも人間の身体に過ぎない。

魔人族の身体と一緒だと思わない方が良いだろう。

赤龍帝の血を流しているがもしも魔人族の力を覚醒したら奴の身体は持つかどうか

ハッキリと答えられん。もしも、堪えられたらお前の次に厄介な存在だ。だが、お前には勝てないよ」

 

「どうして?」

 

「お前には全ての力を無効化にする力を持っているからだ。魔人族の魔力吸収の能力も

無効化にできてダメージを与えられる。言わば最強の切り札の一つだ」

 

そう言われ、パァッと明るい笑みを浮かべた一誠をどこかおかしげに自分も釣られて笑った。

 

「(しっかし、こいつが魔人だったとは全然気付かなかった。人は見掛けによらないって

言葉はまさにこいつの為にあるようなもんだ)」

 

―――○●○―――

 

一誠たちはその日、冥界で行われる魔王主催のパーティに参加することになった。魔王

フォーベシイから必ず参加して欲しいと招待状まで用意したほどなのだから着慣れない

ドレスを身に包む女性もいれば、当たり前のように着こなす女性陣が別れた。

 

「は、恥ずかしい・・・・・」

 

「私的には動きやすいドレスが着れていいわ」

 

「ドレスなんて久し振りに着るわね」

 

「兵藤一誠、私も着ないとダメなのか?」

 

一部、不思議そうにドレスを着ている者もいるが、一誠にとっては一輪の花々が一気に

咲き誇ったような感覚で見詰める一方、

 

「お前のタキシード姿もいいじゃないか」

 

アラクネーのように逆に見詰められている。黒いタキシードに真紅の髪をポニーテールに

結い上げた出で立ちの一誠の魅力がまた一段と変わり、一誠に好意を抱く

リーラは何時までも一誠だけを見詰めていたほどに。そこへ、誰も現れない魔方陣が発現した。

事前に直接冥界まで転移する魔方陣を用意すると言われていたので、

躊躇もなく魔方陣に移動する。

 

とある場所で魔方陣の光と共に冥界へ姿を現した一行。その目の前にはドレス姿や

制服姿の少年と少女たち、十体のドラゴンたちと鉢合わせの状態で出会った。

 

「あ、タンニーン!久し振り!」

 

「おお、兵藤一誠か。久し振りだな。それにオーフィス・・・・・クロウ・クルワッハだと!?」

 

タンニーンと呼ばれたドラゴンがクロウ・クルワッハを見て愕然とし、思わず警戒の態勢になった。

クロウ・クルワッハはそんなタンニーンの様子に面白そうに笑みを浮かべ、

一誠は大丈夫だと説得に掛かった。

 

「兵藤一誠・・・・・お前と言う奴はまた他のドラゴンを傍に置いたというのか」

 

「勿論!あと、こいつもだ!」

 

巨大な魔方陣が空中に出現し、魔方陣が光を弾ければ三頭龍が哄笑を上げながら姿を現した。

 

『タンニーンか。最後に会ったのは何時振りだ?』

 

「アジ・ダハーカ・・・・・!?

まさか、お前まで兵藤一誠と一緒にいるとはな・・・・・」

 

『こいつといれば俺を楽しませてくれそうだからな。だからそう警戒してくれるなよ?

ますます攻撃をしたくなるじゃないか』

 

ギラギラと戦意を隠さない最強の邪龍の一角に十体のドラゴンたちが物凄く警戒していた。

一触即発の雰囲気が一誠たちまで伝わり、一誠は怒った顔で窘めた。

 

「ダメだぞアジ・ダハーカ。相手に喧嘩を買わせるような言動をしちゃ。戦いをしたい

ならまた今度相手になるから」

 

『そうか、お前がそう言うならこの場は大人しくしてやろう』

 

一誠たちの傍に降り立ち、一誠は魔方陣でリーラたちを乗せて三頭龍の背に乗せた。

 

「よもや、兵藤一誠は邪龍すらも魅了させるというのか・・・・・」

 

愕然とした面持ちで漏らし、タンニーンも少年と少女たち―――リアスたちを背中に乗せ、

特殊な結界を張ってパーティ会場へと向かった。

 

「兵藤一誠」

 

「ん、なんだ?」

 

「近い日、お前と少し話がしたい。いいな?」

 

「連絡してから来てくれれば・・・・・あ、そう言えばタンニーンってどうして悪魔に

なったんだ?」

 

『そうだな、俺も聞いてやらんわけではないぞ』

 

「我も聞く」

 

「私もだ」

 

「兵藤一誠はともかく、お前らは上から目線で言うか」

 

タンニーンは深い溜息を吐きつつ悪魔になった経緯を教えてくれる。砕いてだ。

 

「ドラゴンアップルという果実を知っているか?龍が食べる林檎のことだ」

 

「うぅん、初めて聞いたよ。てか、そのまんまの名前だ」

 

「とあるドラゴンの種族には、ドラゴンアップルでしか生存できないものもある。ところが、

人間界に実っていたそれらは環境の激変により絶滅してしまったのだ。もう、その果実が

実るのは冥界しかない。しかしな、ドラゴンは冥界では嫌われ者だ。悪魔にも堕天使にも

忌み嫌われている。ただで果実を与えるわけもないだろう?―――だから、俺が悪魔となって、

実のなっている地区を丸ごと領土にしたんだよ。上級悪魔以上になれば、魔王から冥界の

一部を領土として頂戴できる。俺はそこに目をつけたのだ」

 

「じゃあ、食べ物に困っていたそのドラゴンの種族はタンニーンの領土に住んでいるのか?」

 

「ああ、おかげさまでそいつらは絶滅を免れた。それと俺の領土内でそのドラゴンアップルを

人工的に実らせる研究も行っている。特別な果実だ、研究には時間がかかるだろう。

それでもその種族に未来があるのであれば、続けていったほうがいい」

 

「・・・・・」

 

一誠は同族を助けるためにそこまで龍王の肩書を捨ててまで助けたタンニーンと言う

ドラゴンに深く感動した。

 

「タンニーンは良いドラゴンだな!」

 

目を輝かせながら言った直後、タンニーンは大きく笑った。

 

「良いドラゴン?ガハハハハハハッ!そんな風に言われたのは初めてだ!

しかもグレートレッドとオーフィスの力を有するお前からの賛辞とは痛み入る!

しかしな、兵藤一誠。種族の存続をさせたいのはどの生き物と手同じこと。

人間も悪魔もドラゴンも同じなのだ。俺は同じドラゴンを救おうと思ったに過ぎない。

それが力を持つドラゴンが力のないドラゴンにできることだ」

 

「じゃあ、俺も何かできるんだよな?」

 

「ああ、お前ならできるだろう。目標があるならやり遂げてみろ」

 

そう言われ、一誠は兵藤家に見返す目標をやり遂げるという決意が固まった。

 

「なぁ、タンニーン。そのドラゴンアップルって美味しい?」

 

「勿論だ。なんだ兵藤一誠。ドラゴンとしてドラゴンアップルに興味を抱いたか?」

 

「そうだな。それにタンニーンの研究を手伝えるかもしれない」

 

肯定してタンニーンにとって信じがたい言葉を発した。

 

「どういうことだ?」

 

「ドラゴンアップルって果実は木から実るものなら、

豊穣の神さまにも協力してもらえば研究は捗るんじゃないか?」

 

「豊穣の神、だと?」

 

「うん。お父さんとお母さんが俺を色んな豊穣の神さまに会わせてくれたから。

特に豊穣の神さまでもあるフレイお兄さんとフレイヤお姉さんと仲良しだから

お願を訊いてくれるかも」

 

―――兵藤一誠、お友達は主にドラゴンと神話体系の神々です。

 

「・・・・・頼まれてくれるか?」

 

「頼まれた」

 

タンニーンに頼まれ、そんなこんなで小一時間ぐらい元龍王と一誠、最強の邪龍と時々龍神も

会話を始めていたら、建物が眼下に光明が広がっていた。

一行たちは会場となる場所へ着いたのだった。

魔王主催のパーティ会場となる超高層高級ホテルは、グレモリー領の端っこに

ある広大な面積の森の中にぽっかりと存在していた。一誠たちを乗せたドラゴンは、

スポーツ競技をする会場らしきところに降り立った。するとその競技会場の上空にいたとき、

下からライトが一斉に発光しアジ・ダハーカやタンニーンたちといったドラゴンを照らした。

 

「じゃあ、俺たちは大型の悪魔専用の待機スペースに行く」

 

『俺もそっちに行くか』

 

「お前は来るなっ!いらん誤解を招く!」

 

「なら私なら問題はないか」

 

「お前も問題外だ!」

 

「我は?」

 

「・・・・・もう言う気力がないわ」

 

タンニーンは苦労人もとい苦労龍であった。翼を羽ばたかせてどこかの敷地に向かって

飛んで行ったタンニーンたちを見送りつつ、アジ・ダハーカは一誠の中に戻った。

 

「ギャスパー男の娘」

 

「は、はいぃぃぃっ!」

 

「何故怖がる。というか、男なのにドレスなのね」

 

「だ、だってドレス着たかったもん」

 

女装癖ここに極まる、そう思った一誠はギャスパーの前にヴァレリーを連れてくれば。

 

「え」

 

「あら」

 

一誠にとって予想していたのと違った反応をした。ヴァレリーはギャスパーを

見て嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「ギャスパーじゃない。久し振り、うふふっ。女の子の服を今でも着ているなんて

変わってないのね。可愛いわw」

 

「ヴァ、ヴァレリー・・・・・!?キミがどうして・・・・・っ」

 

ここにいるはずもない人物がいて、ギャスパーは大いに驚いた。赤い目が極限まで

見張ってヴァレリーの姿から逸らさず、真っ直ぐ見詰めるほどに。

 

「私、一誠と一緒に吸血鬼の世界、ルーマニアから旅だったの」

 

微笑むヴァレリーは一誠の肩腕を引き寄せてギャスパーに言った。

 

「その時は色々と遭ったけれど、一誠と外に出れて色んな場所に行けたの。

とても楽しかったわ。今でも楽しいのよ?だって駒王学園っていう学校に通っているもの」

 

「ええええええええ!?そ、そうだったの!?兵藤先輩のことは知っていたけれども

ヴァレリーが通っていたなんて全然知らなかったよ!」

 

「そうなの?」

 

意外そうにギャスパーを見ているとリアスが口を開いた。

 

「この子、私の眷属になるまで周囲からの酷い仕打ちを受けていた上に私の管理力では

力不足だとトップ会談の時まで封印されていたのよ。ギャスパー自身も引き籠りだった

ものだから知らないのは無理もないわ」

 

「そうだったの。でも、今こうして外に出れているから大丈夫なのね?」

 

「う、うん・・・・・まだ人前に立つことが怖いけど・・・・・でも、ヴァレリーがいるなら」

 

「じゃあ、頑張って克服しないとね。そしたら皆と一緒に綺麗な場所でピクニックをしましょ?」

 

ヴァレリーとの約束にギャスパーは力強く頷く。これをみてリアスは一誠に笑いかけた。

 

「ありがとうイッセー。ギャスパーはこれで成長してくれるわ」

 

「偶然の出会いってやつが主だったがな。知り合いだとは思わなかった」

 

「私とギャスパーは親友なの一誠。あの城にいたときからね」

 

「ふーん、ギャスパーはどうやって吸血鬼の世界から飛びだしたのか後で聞くとして行かないか?中々来ないから向こうから来ちゃったみたいだし」

 

一誠の指摘にリアスはこれから行くホテルに送ってくれるであろう従業員がこっちに

近づいてくるのを視界に入れて苦笑を浮かべた。一行は遅れながらも高級な

リムジンの車に乗車し、ホテルへと向かった。

 

 

 

「いまさらだがリアス」

 

「なに?」

 

「赤い髪に相まってそのドレス姿、映えているぞ。綺麗だな」

 

「っ!あ、あなたもそのダンディな姿・・・・・素敵よイッセー・・・・・」

 

「ははは、お世辞を言っても何も出ないぞ?」

 

「なら、悪口を言えば出てくるのかしら?」

 

「ほほう・・・・仕返しか?だったら・・・・・」

 

「え?・・・・・(耳元で声を殺し囁かれ中)。・・・・・!?~~~~~っ!!!!!」

 

『(え、なに?なにを言われて赤くなっているの?)』

 

 

―――○●○―――

 

 

無事にホテルに到着した一行。未だに熱で浮かされたように赤くなっている

リアスだったが、ホテル内に入れば威風堂々と・・・・・。

 

「(^_-)-☆」

 

「∑(〃゚ o ゚〃) ハッ!!」

 

一誠と目が合うたびに赤面してしまい何時も通りの落ち着きを取り戻すのに少々時間が掛かった。

パーティ会場は最上階にある大フロア。そこまでの移動は一行が何回か別れて

最上階までエレベーターで行くことに。

 

「パーティなんて初めてだ」

 

若干緊張の面持ちの一誠にリーラはその緊張をほぐそうとして語りかけた。

 

「誠さまと一香さまは招待されていないにも拘らず、不法侵入をしてまで大いに楽しんでおりましたよ」

 

「・・・・・よく逮捕されなかったな」

 

「お二人の堂々たる姿、誠さまと一香さまの容姿と映える服装の出で立ち。

これらがお二人に疑問を抱くどころかどこかの重要な立場の者だと思って勘違いを

してしまうのです。そのおかげで、大統領の主催のパーティも忍び込んだ時、大統領を

暗殺をしに侵入した死神と称された暗殺者を未遂で捕まえて命を救って一躍有名人になった

ほどです」

 

「ごめん、流石の俺はそんなことできないや」

 

ますます緊張した面持ちとなり、逆効果だった。いや、そこまでして欲しいとはリーラも

思っていない。周囲を素早く窺い、自分たちを誰も見ていないか目を配ると一誠の肩に手を置いて、

 

チュッ

 

一誠の唇に自分の甘く柔らかい唇を押し付けた。目だけが大きく見開き驚く一誠だが、

 

「緊張はなくなりましたか?」

 

人前でキスをすることをしないリーラが頬をほんのりと羞恥で淡い朱を散らしていた。

自分の為にしてくれたことだと察知し、口の端を吊り上げて頷き、

リーラの白磁のような手を掴んだ。感謝を籠めて握り、笑みを浮かべる。

 

「ありがとう」

 

「はい」

 

エレベーターも到着し、一歩出ると会場入り口も開かれる―――。きらびやかな広間が一誠たちを

迎え入れてくれた。既にリアスたちは先にこのフロアへ向かった為、

一誠たちは最後に訪れたのだった。フロアいっぱいに大勢の悪魔と豪華な食事の数々、

天井は巨大なシャンデリアが吊るされていている。そんな中を侵入すると周囲から好意的、

好奇的、奇異的の混じった視線が一心に向けられ始める。

 

「あれは、ライザー・フェニックス殿に勝利した兵藤・・・・・」

 

「何故ここに?」

 

「しかし、彼の周囲にいる者たちも異様だが美しい者が多い」

 

『特にあの究極の胸(バスト)が存在するとはっ!(鼻血)』

 

男の悪魔がティファニアとシャジャルの胸を見て満面の笑みを浮かべながら鼻血を

噴射する様子に一誠は目を細めた。

 

「・・・・・バカばっかり」

 

「あううぅ、イッセー・・・・・」

 

「こう、あからさまに見られると委縮しますね」

 

二人も邪な視線に反応して一誠の背中に隠れた。その際、四つの果実が一誠の背中に

押し付けられ、一誠は今後、この二人の服装を心底考えた。その時、一誠の目の前に

とある女性が近づいてきた。

 

「またお会いしましたね一誠くん」

 

「リアスのお母さん。うん、お久しぶりです。このパーティにいたんだ?リアスのお父さんは?」

 

「・・・・・あの方はあの方で自由に楽しんでおりますわ」

 

はぁ、と溜息を吐くドレス姿のヴェネラナだった。理由は分からないがここには

いないことだけは分かった。そして彼女の背後にはグレイフィアもいる。

 

「リアスの様子を見に?」

 

「ええ、それもあります。けれど、あなたの様子を見に来ました。

こういった場所に入ったことがないから礼儀正しい挨拶や対応は学んでいないかと思って」

 

そう言われぐうの音も出なかった。修業に明け暮れ、勉学にも怠らなかった一誠だが、

ヴェネラナの言う通りこういった会場に必要な事を学んでいなかった。

 

「リーラさん、この子を少しだけお借りして良いかしら?」

 

「ヴェネラナさま。お言葉ですがその習い事ならば一誠さまの専属であるメイドの私が

教えます。奥方のあなたさま自身が指導をなさるのは如何でございますでしょうか」

 

「私はそれだけじゃなく娘のリアスのことについても話たいのです。どうか一時だけ」

 

深々とリーラに頭を下げた公爵家の婦人。リーラもハッキリと断る言葉が出なくなり、

グレイフィアに「あなたからも何か言ってください」と視線を飛ばすがグレイフィアは

無言で首を横に振った。

 

「リアスのお母さん、リアスの話だったらまた今度でもいいんじゃない?」

 

一誠も今はパーティを楽しみたいという気持ちで言うが、ヴェネラナの意思は固かった。

リーラは・・・・・内心渋々といった感じで了承した。

 

「わかりました。話を終えたら直ぐにお戻りになってください」

 

「感謝します。一誠くんの従者の心は寛大で痛み入りますわ」

 

ようやく頭を上げたヴェネラナは一誠を引っ張る感じでフロアからいなくなった。

 

「誠に申し訳ございません。リーラ」

 

「いえ、グレイフィア。私もまだまだ教えるべきことを教えていませんでした。

本来、このような場所とは無縁な生活をしてもらいたい思いで

いましたから・・・・・」

 

遠い目でグレイフィアと話し合う。リーラとグレイフィアとここにいないシルヴィア、

実は旧知の仲であって呼び捨てで呼ぶほど一人の女として同じメイドとして

話が通じるところがある。

 

「・・・・・彼は逞しくなりましたね。最初に出会ったのは赤子だったというのに」

 

「皮肉なことですがね。これまでの周囲の環境、生活の環境が一誠さまをそうさせたのです」

 

「リアスお嬢様もわがままなところがまだ抜けていなく、

もう少し淑女としての立ち振る舞いをしてもらいたいものです」

 

「一誠さまは尻を敷かれるような御方ではないので安心していますが、

その気でもないのに色んな女性を魅了させるので少々困っています」

 

「苦労していますね」

 

「お互いに。それはそうとグレイフィア」

 

目の前の自分と同じ銀髪のメイドにとある質問をした。

 

「気になる殿方はいませんか?」

 

「・・・・・急にどうしたのですか?」

 

「いえ、いないのであればお勧めしたい殿方がおります。

よろしければその殿方とどうかと思ったまでです」

 

「その好意を無化にできませんがどういった殿方ですか?」

 

リーラは小さく笑みを零す。

 

「優しく頼れる、温かい笑みをする赤い髪の男の子でございます」

 

一方、一誠は何故かホテルの外に連れ出され闇夜の森の中へと連れられる。

悪魔の手で手入れされているのか、

森の中だというのに歩き辛くはなかった。二人は程なくして広々とした森の空間に

立ち止まるとヴェネラナが魔方陣を展開すると魔方陣から音楽が流れ始めた。

 

「ここなら誰にも邪魔もせず、されず、迷惑も掛かりません」

 

「なるほど」

 

場所を選んだというヴェネラナに感嘆し、手を繋ぐように催促されてその通りにすれば

ヴェネラナが身体や足を動かし始めた。一誠も流れに従うように身体と足を動かす。

ダンスを指導を施すつもりだったが中々どうして・・・・・。

 

「・・・・・一誠くん、ダンスをしたことがあるのですか?」

 

ターンやステップ、ダンスに欠かせない足と体の動作を完全に慣れている

一誠に驚きを隠せなかった。

 

「世界中で修行している時に色んな女性の神さまとダンスをする機会があって、

段々としているうちに慣れちゃったんだ。だから―――」

 

片手を放した瞬間に一誠が発現したであろう魔方陣からも音楽流れだす。

今度は自分の番だと主導権を握り、目を丸くするヴェネラナをリードしだす。

 

「俺はゆったりしたダンスよりも激しく楽しいダンスが好きなんだよねリアスのお母さん」

 

「え、きゃっ」

 

年上の女性が可愛い悲鳴を上げた。一誠の片手がヴェネラナの腰に回され、

もう片方の手は逆に掴み上げられ激しく情熱的なダンスをし出す一誠に身体が引き寄せられる。

 

「ほら、リアスのお母さんも楽しもう」

 

「い、一誠くん・・・・・」

 

こんな踊りをしたことがない。だが、一誠はヴェネラナを優しくリードし、

どうすればいいのか、どうしてほしいのか一誠の口から発せられ、

ヴェネラナも公爵家夫人としてのプライドと誇りを懸けて粗相のないダンスをし、

いつしか自分の身体を一誠に身を寄せる。言っちゃあなんだが、ヴェネラナは自分の身体に

誇りを持っている。

 

だからこそ自分に向けられる視線を分別ができるのだが、目の前のまだ十数年しか

生きていない思春期真っただ中の少年の反応ぐらい手に取るように分かる。

しかし、一誠は押し付けられた熟した肉体よりも今この瞬間、

ヴェネラナとのダンスが心底楽しんでいることに、

 

ドクンッ。

 

「(え・・・・・)」

 

心臓の鼓動とは異なる心の鼓動が高鳴った。そう、遥か昔、アルマスと恋に落ちたような

感覚と似ている。楽しげに笑う一誠を見て意識をすれば、動悸が激しくなる。

 

「(嘘・・・・・まさか・・・・・)」

 

自覚するにつれ動揺の色が顔に出て隠しきれなくなる。ヴェネラナの心情を知らずとも

一誠は様子がおかしいと動きを止めて心配する言葉を掛けた。

 

「リアスのお母さんどうし―――」

 

「イッセーみっけ、ぽっこぺーん!」

 

「って、はぁあああああああああああっ!?」

 

横から中国の武将が身に包んでいた鎧を着込む少女が一誠に飛び掛かった。

気の探知をしていなかった一誠にとって不覚を取った。ゴロゴロと少女と転がり、

止まれば自分の下半身に跨って見下ろされていた。

 

「やぁやぁイッセー。こんなところで会うなんて奇遇だねぇい」

 

「び、美猴!?」

 

「オッス!オラ美猴!久し振り!」

 

ビシッと軍人のような敬礼をして楽しげに笑みを浮かべる孫悟空こと美猴。テロリストである。

驚愕の色を隠さず、目を大きく張り、空いた口が塞がらな一誠は動揺を口から漏らす。

 

「な、何でお前がここに?」

 

「やー、実はさ?冥界で待機命令が出てねぃ。オレやもう一人のお仲間といるんだけど

何もすることもないから暇で暇でしょうがなかったんだわ。でも、こんな森の中に音楽が

聞こえてきたから気になって来てみれば、イッセーがいたんで―――押し倒したくなった」

 

「するな!」

 

身体を起こすと鎧に顔を押し付けられた。硬い、冷たい・・・・・。

 

「踊るならオレっちとも踊ろうぜ?さっきも言ったように暇でしょうがないんだわ」

 

「いや、友達とは言え、敵対している関係なんですが?」

 

「んじゃ、敵と敵がやることはただ一つ、オレっちと勝負してみっか?そうすればイッセーは大義名分が得られるっしょ」

 

軽く一誠から飛び下がって長細い棍をクルリと回して戦意を窺わせる。

 

「・・・・・しゃーないな」

 

美猴の言う通り。敵と仲良くしてはいけないのは分かっているが、

敵以前に友達なのでやり辛いほどこの上にない。だが、相手の性格を熟知しているため、

一誠は戦う決意をした。分身を一人作り出してヴェネラナの護衛に回し、

エクスカリバーを手にして対峙する。

 

「いっくぜぃ!」

 

「ああ!」

 

二人は飛びだし、剣と棍が交じった―――。



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エピソード27

剣と棍が激しくぶつかり合う。横薙ぎ、突き、受け流し、上段、下段、袈裟、様々な方向から、

身体も忙しなく動かし、舞うように戦う猿の妖怪とドラゴン。

ヴェネラナは別の形のダンスを見ているように思っていた。

 

「ヤハハッ!久し振りにイッセーと戦うな、強くなったじゃねーの!」

 

「そいつは、お互い様だ!」

 

刀身に込めた魔力を飛ぶ斬撃として放つ。美猴はそれを真正面から棍で打ち砕き

霧散させながら一誠に目を向け不敵に発する。

 

「オレっちは仙術を得ているからこんなこともできるんだぜぃ?」

 

「分かってるよ。俺だってそうだってことを忘れてないよな?」

 

「勿論だってば。しっかし、その剣は危なっかしいねぃ。何時あの大技が炸裂するのかと

思うと冷や冷やしてしょうがないや」

 

カラカラと笑う美猴が警戒するのも無理はない。一誠は肩を竦めてこう言う。

 

「隙を突かれるからあの技は使わないよ」

 

「あり、そうかい?まぁ、その剣を見てうちの仲間が大層興味を抱いていたぜ?」

 

「大丈夫、既にこの剣を狙って襲ってくる輩がいるから」

 

「あれま、それは気の毒に」

 

話し合いは終わり、棍を巧みに扱って一誠に攻撃を仕掛ける。迫ってくる美猴に拳を

地面に突き出して土煙を巻き起こした。目くらましか!とそれでも果敢に飛びこんでは剣を

上段から振るっている一誠とぶつかり鍔迫り合いをしだした。

 

「オラァッ!」

 

「ふんっ!」

 

打撃と斬撃の乱舞が繰り広げられる。甲高い音だったり、鈍い音もして、二人の戦いは

最高潮に達しようとしたところで―――第三者が現れた。

 

「美猴ー。なに自分だけ盛り上がっているのにゃん」

 

その者は人間ではなかった。白銀の着物を身に包み胸元を大きく肌蹴させ豊満な胸の

谷間を晒し、意匠が凝ったかんざしを長い銀髪に差して結っている猫耳と二つの尻尾を

生やす女性だった。

 

「あ、銀華」

 

「あ、じゃないわよ。一人で勝手に行って・・・・・」

 

文句を言う銀華は美猴と相手をしている一誠に目を向けると、興味深そうに凝視した。

 

「んん?なーんか、妖怪の気配がするわねあの子。誰?」

 

「ヴァーリとオレっちが夢中なドラゴンだよ。

赤龍帝と白龍皇以外の強いドラゴンの力を宿しているんだぜぃ?」

 

「あー、噂に聞くグレートレッドとオーフィスの力を有する有り得ないドラゴン?

でも、妖怪の気配はするにゃん。微弱だけどさ」

 

銀華が疑問を抱いていると周囲に目を配り異変を感じたようで、目を細めた一誠が口を開いた。

 

「結界・・・・・か?」

 

「そ、これ以上騒ぎを起こしてここに大勢の悪魔が来られたら困るからねー」

 

「で、素直に帰ってくれるの?」

 

「どうしようかにゃー?キミのお願い次第で帰っても良いけどねー?」

 

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、どうする?と挑発的な視線を送ってくる銀華に対し、

分かったと了承し、一誠が見る見るうちに小さくなり子供となった。

 

「にゃ?」

 

身体を小さくしてどうする気なのかと疑問と不思議さでトコトコと近づいてくる一誠を

様子見していれば、一度は自分の前に立ち止まって―――。

 

「銀華お姉ちゃん、お家に帰ってくれないの?」

 

ウルウルと目を潤わせ、上目遣いで銀華を見上げつつ着物をキュッと掴んで親に

欲しいものを買ってもらいたいとお強請りするような眼差しを向けて言った。

 

「・・・・・」

 

結界の中に閉じ込められた空間に静寂が支配した。時が停まったように誰もが微動だにせず、

子供になった一誠を見詰めるばかり。しかし、沈黙を破ったのは―――。

 

ガシッ!

 

「え?」

 

「お持ち帰りにゃーん!」

 

銀華だった。一誠を抱きかかえて暗闇の森の中へと姿を消した。

 

「はっ!お、おい銀華ぁっ!イッセーはオレっちが最初に目をつけていたんだぜぃっ!

横取りは卑怯だってば!」

 

焦心に駆られて慌てる美猴もこの場から姿を消した。取り残されたヴェネラナは―――。

 

「た、大変っ。直ぐに救助しないと!」

 

「あー、大丈夫だリアスのお母さん。お持ち帰りされた一誠は分身だから」

 

「え?」

 

「土煙を起こしたでしょ?あの一瞬で俺と分身体が入れ替わって戦闘を続行したんだ。

―――お、結界も解けたようだな」

 

空間の変化を感じ取り、安堵で溜息を漏らす。

 

「そんじゃ、俺たちも帰りましょうか」

 

「本当にあの子は大丈夫なんですか・・・・・?」

 

「大丈夫、心配しなくても俺はリアスのお母さんから消えませんってば」

 

朗らかに笑みを浮かべた途端、目の前の空間に避け目が生まれて避け目から姿を現す

背広を着た眼鏡の若い男性。手に極大なまでの聖なるオーラを放つ剣が握られている。

 

「おや、擦れ違いになってしまいましたか。やれやれ・・・・・」

 

「誰だ?」

 

溜息を吐く男性に問えば、恭しくお辞儀をして名乗った。

 

「初めまして、真のエクスカリバーの使い手、兵藤一誠くん。

私はアーサー・ペンドラゴンと言います」

 

「アーサー・・・・・モルドレッドの兄か」

 

全然似てないなーとか、目の前の男がそうなんだと興味深に漏らした時、

 

「どうやら愚妹と出会ったようですね」

 

どこまでも冷たい声音で発した。今現在もモルドレッドのことを毛嫌いしている

様子だったので一誠は話を変えることに決めた。

 

「ああ、このエクスカリバーを狙ってな」

 

亜空間から鞘に差したままのエクスカリバーを見せ付けた。その状態のエクスカリバーを

見て感嘆の声を漏らすアーサーだった。

 

「三大勢力戦争時に折れる前の聖剣エクスカリバーに、魔女に奪われたはずの

エクスカリバーを収めていたという魔法の鞘・・・・・。

その二つが揃ってこの目で見られるとはとても私は幸運です」

 

「そっちの二つの剣も聖剣なんだろう?」

 

手と腰にある二つの剣を一瞥して問う一誠に隠すことでもないとばかり肯定と首を

縦に振ったのだった。

 

「ええ、こちらは聖王剣コールブランド。こちらは最後のエクスカリバーにして、

七本中最強のエクスカリバー。『支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)』ですよ」

 

一本だけ行方不明だった最後の聖剣が目の前にあった。口角を上げ、アーサーに問うた。

 

「それ、返してくれる気はないよな?」

 

「今のところはまだ。ですが、あなたのエクスカリバーとその鞘をモルドレッドの

手に渡るぐらいなら、私の手中に収めたいところです」

 

「悪いな、こいつはいずれ強くなったお前の妹に渡そうと思っている」

 

その言葉に怪訝な顔となったアーサー。

 

「仮にもテロリストに大切な自分の剣を与えるというのですか?」

 

「あいつは俺と似ている。俺はあいつに似ているからな」

 

「・・・・・」

 

理解に苦しむとアーサーは険しい顔になる。苦笑を浮かべ

「自分の弟と妹の気持ちが分からない兄は同じ反応なんだな」と内心思ったのだった。

 

「あいつとお前の過去、教えてもらったよ。相思相愛のメイドが家から追い出されたんだって?

メイドと恋愛も分かるよ。俺もメイドと恋愛中だからな」

 

「ならば、私が許せないこともわかるでしょう?」

 

「いーや、俺はお前やあいつじゃないから絶対に分かり切れない。

が、なんとなくの程度でお前はモルドレッドのことを認めない理由が分かる気がするよ」

 

「・・・・・ほう、そうですか」

 

「―――だからこそ、俺はモルドレッドといういち剣士を応援する。兄を超えたいという思いは

俺だってあるからな」

 

ドンと強く胸に握った拳を当てて言い切った。アーサーはしばし一誠を見詰めると

空間に避け目を作った後、

 

「あなたは不思議だ。いえ、だからこそその第二のエクスカリバーがあなたを使い手として

認めたのでしょうかね」

 

それだけ言い残して避け目の中に消えた。その後、あまりにも遅いと心配した面々が来ては

事情を説明されると驚いたのは必然的で、魔王主催のパーティはテロリスト襲来により

急遽中止となったのだった。

 

―――○●○―――

 

魔王領にある会談ルームにてこれまでの経緯を説明した一誠。この場に集まっている

五大魔王と堕天使の総督のアザゼルと幹部、神ヤハウェと神王ユーストマ、セラフが

深い溜息を吐いた。

 

「最後の七本目のエクスカリバーがテロリストの手に渡っていたとは・・・・・それも

聖王剣コールブランドの使い手とは」

 

「相手はテロリストの独立特殊部隊『ヴァーリチーム』の孫悟空『美猴』と猫魈『銀華』、

さらに英雄の魂を受け継いでいる『アーサー・ペンドラゴン』。一人一人が絶大な力を

有するチームの三名も来るとは・・・・・。だいたい悪魔の管理能力は―――」

 

堕天使の副総督の立場の男性がブツブツと小言を言いだしたものの、一誠に声を掛けられた。

 

「あー、タイミングが悪かったとしか言えないよシェムハザのお兄さん。相手も相手だったし、

ね?俺とリアスのお母さんは無傷で無事だったんだしいいじゃない」

 

「お前、美猴と仲が良かったから大した被害も無かっただけだろうって」

 

「そういうアザゼルのおじさんは今までどこに行ってたの?アルマスのおじさんのところ?」

 

呆れ顔で言ったら一誠に質問されてしまい―――。笑って言い返した。「ノーコメントだ」と。

途端に訝しい顔で「・・・・・どこかで絶対に遊んでいたなアザゼルのおじさんは」

とアザゼルの性格を考慮して呟いたら副総督から、

 

「・・・・・アザゼル?」

 

据わった目で睨まれ、そこのところ話してみやがれと言わんばかりの視線を

送ってくる始末だった。だからこそ、一誠に慌てふためくのだった。

 

「ちょっ、人聞きの悪いことを言うんじゃねぇやい!」

 

「じゃ、どこにいたのか言えるよねー?」

 

「うぐっ!」

 

口が裂けても言えない。自分がハメを外してカジノに夢中だったとは絶対にと。

スマイル顔で追究する一誠や「どうなんだ?」と周囲からも意味深な視線が

向けられる。アザゼルは最後の手段を取った。

 

「・・・・・一誠」

 

「うん?」

 

「後でお前のお願いを叶えてやるからこの話は勘弁してくれ・・・・・」

 

深々と堕天使の総督が年下の子供に頭を下げることで場の雰囲気は一変した。

 

「ふふっ、あの堕天使の総督が手玉を取られるなんてね」

 

「だっはっはっ!後で副総督に怒鳴られるのが目に浮かぶがな!」

 

「まったく、アザゼルあなたという堕天使は・・・・・」

 

反応は様々だが、約一部を除いて見逃してやろうと雰囲気を醸し出す。その時―――。

部屋の扉が開かれる。そこに姿を現す人物に誰もが度肝を抜かした。

 

「ふん。若造どもは老体の出迎えもできんのか」

 

古ぼけた帽子を被った隻眼の老人。白いヒゲを生やしており、床に着きそうなぐらい長い。

服装も豪華絢爛というよりは質素なローブ。杖をしているが、真っ直ぐ背筋を伸ばして

立っているために腰を痛めているわけでもなさそうだ。

 

「―――オーディン」

 

そう、正体は北欧の神々の主神―――オーディン。傍には鎧を着た戦乙女のヴァルキリーを

二人ほど引き連れてのご来場だった。アザゼルが口を開く前に「オー爺ちゃん!」と

嬉しそうに一誠がオーディンの方へと近寄った。

するとオーディンは朗らかに笑みを浮かべ、一誠と抱擁を交わしたのだった。

 

「久しいの、我が孫よ。見ない間に随分と大きくなりおって」

 

「オー爺ちゃんは変わらないねー?若くなれないの?」

 

「ほっほっほっ。そう言う秘薬もあるがこのお世話が必要なほど弱々しい姿でいれば

可愛い孫に構ってもらえるから飲まんよ」

 

「俺はオー爺ちゃんと再会して嬉しいけど?」

 

「わしもじゃて」

 

その様子をアザゼルたちはどこか驚嘆しつつ温かい目で見守っていた。

 

「普通に北欧の主神と話すことができる今時の若い奴は一誠しかいないだろうって」

 

「それ以前に私たちができないことをやってのけているわね」

 

「ええ、だからこそ期待してしまうのです。もしかすると世界が本当の意味で

一つになるのではないかと」

 

三大勢力のトップたちが言う。一誠が二人のヴァルキリーと

頭を下げて挨拶をしている姿も見て―――。

 

「孫よ。この堅いわしのお付きのヴァルキリーと付き合ってみないかのぉ?」

 

「オ、オーディンさま!?そんな、初対面の男の子になんてことを!」

 

「まったく、お前は堅いからわしが孫に紹介しておるのではないか。

わしの気持ちを察することもできんのかの」

 

「ど、どうせ、私は彼氏いない歴=年齢の戦乙女ですよ!

私だって、か、彼氏が欲しいのにぃ!うぅぅ!」

 

「・・・・・オーディンさま、ロスヴァイセを泣かせないでください。

慰める方も苦労するのですから」

 

「お主もそうじゃぞセルベリア」

 

「私は当たり前のようにいる勇者に全てを捧げるつもりはございません」

 

「・・・・・二人揃って堅いヴァルキリーじゃて」

 

嘆息するオーディンだが、何がなんだかどうなっている?と唖然とした一誠たちもどう

応えればいいのか困っていた。

 

「さて、フォーベシイ。ゲームの観戦の招待、来てやったぞい」

 

「ええ、来ていただき誠に恐縮でございますよ。一誠ちゃんも大変喜んでくれて

招待した甲斐がありました」

 

「うむ。お主の配慮に深く感謝する。ところで此度のゲームに孫は参加できないのかのぉ?

孫がここにいるとなると、成長した姿を見てみたくなるわい」

 

「それについては既にこちらで検討をしています。グレモリー家からも

今回のテロリスト襲撃の際、グレモリー家当主のサーゼクス・グレモリーの母君であらされる

ヴェネラナ・グレモリーを守った功績を称えて特別に参加させてやれないかと。

仮に参加できたとして、ゲームはあくまで悪魔同士の戦いですので悪魔同士の成長を

阻害する行動を控えて貰う決まりになるかと思いますが」

 

「むぅ、悪魔も堅いのぉー。じゃが、孫が出れるというならばますます楽しめるの」

 

髭を擦り、取り敢えずは納得したオーディンは一誠に話しかける。

 

「孫よ。あの大会に出るんじゃろう?わしは観戦しに行くからしっかり頑張るんじゃぞ」

 

「オー爺ちゃんを守る約束があるからな。見ていてくれ、強くなったところを」

 

力強い瞳を覗かせる。オーディンは満足気に頷き笑みを浮かべる。頼もしくなったと心中呟いて。

 

「(ドラゴンに転生した孫には驚いたが、何一つ変わっておらん。

孫はどんな姿になっても孫じゃなぁー)」

 

その後、グレモリー領に戻ってはグレモリー一家に改めて感謝された。パーティも開催し、

有意義な時間を過ごす。その中で一誠に熱い視線を向けるヴェネラナを見てしまった

グレイフィアはシルヴィアとリーラに耳打ちをして、静かに三人は頷いた。それからと

言うものの今日は泊まって欲しいと懇願され一行はその言葉に甘えてその日は泊まった。

しかし、一人で寝るには大きすぎるベッドだった為。

 

「・・・・・女体盛り」

 

殆どの女性陣が一誠の部屋に来ては寝る場所を占領して、身を寄せ合って寝てしまった。

 

コンコン。

 

ドアから控えめなノックオンが聞こえ、誰だろうと思いつつそっと扉を開けると

ヴェネラナが寝間着姿で立っていた。

 

「一誠くん、まだ起きていたのですか?」

 

「起きていたというより、占領された」

 

「・・・・・?・・・・・あら、家のベッドじゃ不満だったのかしら」

 

一つのベッドに密集している一誠の家族を見て漏らしたヴェネラナだが一誠の話を聞いて納得する。

 

「や、その逆。大き過ぎてなんだか落ち着かないんだってさ」

 

「そうだったの。何時も寝ている寝具と違って落ち着かないのも無理はないわね。

これからは確認を取ってから部屋をご用意させましょう」

 

苦笑を浮かべ、これからどうするの?と聞くヴェネラナに頬をポリポリと掻いた一誠は言った。

 

「リーラの部屋にでも行こうと思っているけど」

 

「家族とはいえ女性の部屋による忍び込んではいけませんよ」

 

「じゃあ、他に空き部屋とかありますか?」

 

「そうね。あることはありますが・・・・・一誠くん、ついてきてください」

 

ヴェネラナに従ってついていく。自分の部屋からかなり遠ざかった場所でヴェネラナが

ある扉の前に立ち止まって中に入ると生活臭がある、様々な家具がある部屋に入った。

 

「ここって・・・・・」

 

「はい、私の部屋です。今回は特別に私の部屋で寝てください」

 

何故かガチャリと音が聞こえる。

 

「ですがその前に、リアスのことについて少しだけお話をしませんか」

 

「別にいいけど、リアスのお母さんは大丈夫?眠いでしょ」

 

「私は大人ですから心配ご無用です。さ、ベッドに寝転がってください」

 

二人はベッドの中に沈み、横になって互いの顔を向けあい、リアスのことを語った。

 

「リアスとはもう付き合って?」

 

「いや、好きだなんて言われたことがないから普通に友達として」

 

「あなたはリアスのことが好きなの?」

 

「友達として好きかな?あの婚約騒動の時も友達を助ける気持ちがあったから」

 

「・・・・・そう」

 

一誠に気持ちを知って溜息を吐いた。恋愛に関しては鈍くない一誠だが、告白されなければ

全く気付かない様子だった。リアスが自分の気持ちを打ち明けて告白していれば、違った

答えが出ていたはずだ。ヴェネラナは真っ直ぐ一誠を視界に入れる。

 

「一誠くん、リーラさんとはお付き合いしているのね?」

 

「うん、そうだよ」

 

「順調?女性は優しい殿方は好きなのは当然です。

ですが・・・・・それ以上に幸せを感じさせ、満足感を毎日与えていかないと女性は

いずれ心と体も愛しい男性から離れてしまいます」

 

え”、とショックを受けた一誠にどこかおかしげに心中で笑みを零す。そしてある提案を言った。

 

「彼女とはもうキスをしたのですね?」

 

「どうしてそんなことも聞くの?」

 

「とても重要だからです。女性はキスのやり方次第で幸せになるのです。ですから一誠くん。

あなたのキスはどんな風なのか私にもしてみてください」

 

「んなっ!?」

 

どうしてそうなる!?と内心動揺して覆い被さってくるヴェネラナに唇を奪われた。

リアスとサーゼクスの母親、アルマスの妻相手にこんなことしちゃ・・・・・!

という罪悪感が胸に一杯になる。しかし、相手が相手なため、華奢な身体を強引に

突き飛ばす訳にもいかず結局は・・・・・。

 

「んっ・・・・・じゅるちゅっ・・・・・・ふっ・・・・・れろっ・・・・・んんっ・・・・・んふっ」

 

「はっ・・・・・れろっ・・・・・ちゅるっ・・・・・・んんんっ・・・・・はっ・・・・・・んっ」

 

寝室で水音の演奏が聞こえだす。満足させてこの場から出ようという魂胆で熟した唇と

濃厚に舌を巧みに動かすヴェネラナに激しく情熱的に蹂躙していく。

 

「(す、凄い・・・・・っ)」

 

大人としてダンスのようにリードしようかと思っていたが予想外の食い下がりに内心

ドキドキし、アルマスの妻、公爵家の婦人、リアスとサーゼクスの母親という意識が薄れて

逆に一人の女としての意識が最高潮に昂り、目の前の少年をどうにかしたい想いが

強まる一方だった。

 

「(こんな情熱的なキスを毎日リーラさんはしていたのね・・・・・)」

 

今時の若い女性に羨ましくなり、更にこの先の行為もどんな風なのか想像した時、身体が

ボッと火が噴いたように熱くなった。それはヴェネラナの舌を引っ張るように

じゅずぞぞぞぞっ!と一誠が吸い上げていたからだった。

 

「~~~っ」

 

頭が沸騰したように熱く、意識が朦朧とし、思考も鈍くなった。

身体に回される腕はシッカリと身動きを取らせない、逃がさないとばかり身体を

痛いほど密着させる。寝間着も肌蹴、熟し切った豊満な胸は一誠の胸板に押し潰され

歪みつつもいやらしく形を崩して何とも言い難い気持ちよさを一誠に感じさせ、

ヴェネラナ自身も感じた。

すると突然一誠が起き上がった。ヴェネラナも起き上がる形となり一誠はキスを止めた。

長く感じたキスは終えてしまい、荒く熱い息を絶え絶えに吐き、紅潮した顔、

潤った目が一誠に向けられる。

 

「どうしたのです・・・・・か?」

 

「俺のキスはどんな風なのか知りたいんでしょう?」

 

背後に回った一誠に何をするのだろうと思いつつ様子を窺っていると、

後ろから自分の胸を下から寄せ上げられる形で腕が回され、顔を後ろに向けられると

直ぐに唇を重ねられた。

 

「んふっ・・・・・」

 

「あふっ・・・・・い、一誠・・・・・・んんんっ」

 

ただキスをする。それ以外は何もしてこない。リーラとは何時もこんな風なキスをして

いるんだぞとヴェネラナの口に、身体に教え込んでいく。

 

「(ダ、ダメ・・・・・これ以上こんなキスをされたら私・・・・・)」

 

ヴェネラナと一誠の口付けは止まらなかった。

―――その様子を三人のメイドがクローゼットの中から覗きこんで

一人は真っ赤になり、一人は嫉妬で不満げな顔、一人は羨望の眼差しで見ていた。

 

「ヴェネラナさま・・・・・あなたという奥方は・・・・・」

 

「す、凄い。あ、あんなキスが・・・・・っ」

 

「サーゼクスの時でもあのようなキスなんて・・・・・」

 

というか、人妻がこんなことしているのに止めなくて良いのだろうかと思うところだ

が、この三人のメイドは敢えて静観し、成り行きを見守ることに徹する―――。

 

『一誠くん・・・・・も、もういいです・・・・・・』

 

『んちゅ、そう?もっと激しくて気持ちの良いキスの仕方もあるんだけど』

 

『こ、これ以上のキスがあるのですかっ?』

 

『リーラが気絶したほどのキス、だよ』

 

―――まだ続ける、教え込むのか!?と絶句する。

ここでヴェネラナが制止すれば終わることなのだが、

如何せん、一誠のキスによって思考が鈍くなったヴェネラナの心まで蕩けていた。

 

『・・・・・わ、私にも教えてください』

 

『分かったよリアスのお母さん。何だか可愛くなっちゃったね』

 

『ヴェ、ヴェネラナって今だけは呼んで下さらない?』

 

『分かったよ。可愛いヴェネラナ』

 

『あ、ああ・・・・・一誠くん・・・・・ちゅるっ、んはっ、んふ、じゅる、はふ』

 

続行したのだった。すっかり乙女に返り咲き、一誠とのキスを何時までも

 

「・・・・・」

 

リーラはゆっくりと動き出した。その顔はグレイフィアとシルヴィアの顔を

引き攣らせるほどだった。バンッ!とクローゼットの戸を開け放って

一誠とヴェネラナに近寄った。一誠とヴェネラナもリーラの存在に気付き、

 

「リ、リーラさん!?」

 

「あれ、リーラ・・・・・?」

 

何時の間にこの部屋にいたんだと反応をし、ヴェネラナは今の自分を見られ焦る一方、

リーラは眼中になしとばかりヴェネラナではなく一誠に告げた。

 

「一誠さま・・・・・選手交代です。私とキスをしてください」

 

「「え、あなたもするのですか?」」

 

「シ、シルヴィアにグレイフィア。あ、あなたたちまでそこでなにをしていたのですかっ!」

 

クローゼットの中から現れたメイドたちに愕然とするヴェネラナの発言に

姉妹揃って首を傾げて言った。

 

「「・・・・・公爵家夫人の浮気現場の取り押さえ・・・・・?」」

 

「違います!これはその、そう、大人の口付けを教えていたのです!」

 

苦しい言い訳をしている間にリーラは一誠と深いキスをしていた。

 

「ちゅっ、それにしてはヴェネラナさま・・・・・ふっ、んんっ・・・・・すっかり

顔が蕩けているじゃないですか・・・・・あふっ・・・・・一誠さまとのキスが

気に入ったご様子で・・・・・あっ」

 

「ヴェネラナは可愛かったよ。んちゅ、身体を震わせてしがみ付いてくるん

だから・・・・・んふっ、ちゅ、れろ・・・・・それに胸も柔らかったけど舌が

一番プリプリしてて・・・・・」

 

「私が一番柔ら・・・・・んんっ・・・・・一誠さま・・・・・欲しいです、

 あなたの蜜を・・・・・」

 

「ん、分かった・・・・・・」

 

「「「っ・・・・・」」」

 

口を開け舌をだらしなく出すリーラへ自分の唾液を流し込む一誠たちの様子は淫靡な

雰囲気を醸し出す。それを美味しそうにモゴモゴと動かし、

ゴクリと喉を鳴らして飲んだことを証明する為にまた口を開けた。

 

「あ、はぁ・・・・・んんっ!」

 

背筋に電流が走ったような衝撃がリーラの身体をゾクゾク!と興奮のあまりに震わせた。

目がどこまでも潤ってまただらしないほど蕩けた顔を熱に浮かされたように

一誠を熱く見詰めるリーラ。すると、何かに弾かれたように身に纏っている

衣服を手に掛け―――脱ごうとし出す。

 

「リ、リーラ・・・・・さん?」

 

「ヴェネラナさま・・・・・申し訳ございませぬがここで情事を重ねさせてもらいます」

 

「え・・・・・はい・・・・・?」

 

「一誠さまの愛が籠った唾液は・・・・・媚薬に等しい効果がございます。一定量以上を

摂取すれば、身体が熱くなり、自分では性的な疼きを解消することができません」

 

胸元を大きく肌蹴させ、下着も脱ぎ去り準備万端とばかり一誠に密着する。

 

「少なからずあなたさまも一誠さまとの口付けで味わったはずです。

一誠さまの唾液の味を・・・・・」

 

ドクンッ。

 

リーラに言われると急に体が熱くなる。その言葉がまるで起爆スイッチのようだった。

「あっ」と落ち着いていた精神が急激に興奮して、リーラが言う一定以上の唾液を

摂取したのだろう。久し振りに女の部分が疼き始め、自分の身体を抱き絞め、

この刺激を抑え込もうとうするその仕草が何とも煽情的だった。しかし、体内に流れた

一誠の唾液は興奮剤としても効果があるのか、自分では抑えきれないほどの高ぶりが

胸の奥から湧き上がる。

 

「無謀に一誠さまとキスしたことが仇となったのです。ヴェネラナさまはどうか、

アルマスさまと情事を重ねてください・・・・・ああんっ!」

 

甲高い声を上げたリーラ。その意味は見守っていたグレイフィアとシルヴィアすら顔を

真っ赤にしている時点で分かり切っていた。しかし、お預けを食らった

ヴェネラナの頭の中では今すぐアルマスのもとへ行くよりも直ぐ目の前にいる『男』に

身体を委ねたいことしかなかった。

 

「・・・・・っ」

 

肌蹴た寝間着を一誠とリーラに近づきながら更に脱ぎだし、

自分の『女』を一誠の横で晒し出した。

 

「一誠くん・・・・・私にも・・・・・」

 

「いいの・・・・・?」

 

「ダメ、もう今はあなたのことしか頭にないの・・・・・・お願い、

私をメチャクチャにして・・・・・」

 

「わかった・・・・・たっぷりと可愛がってあげる」

 

「一誠くん・・・・・・んんんっ!」

 

取り残されたシルヴィアとグレイフィア。本来ならば止めるべきなのだが、この淫靡な雰囲気と

三人の情事に目を奪われて生娘のように固まってしまう。が、鼻に入るツンとした

香りまでもが―――。

 

「「・・・・・っ!?」」

 

二人を興奮させるのだった。穴という穴にねっとりとした香りが

否応なく入り込んでくるような生理的に嫌な感じが襲うが、次第に二人の思考を蕩けさせるように鈍らせる。そしてこの部屋に漂う淫靡な空気、目の前に繰り広げられる情事を

見て感じ欲情が湧きあがる、何時しか羨望の眼差しを向け最後ははしたないと思いつつ

自分の身体を触れて刺激を貪ってみたが足りず更なる刺激、快楽、快感を欲し―――。

 

「くっ・・・・・も、もうダメです・・・・・」

 

「はぁっ・・・・・はぁっ・・・・・わ、私も・・・・・」

 

元々性欲が強かったシルヴィアと未経験のグレイフィアは己の快楽という欲望を満たす

為にフラフラと一誠のもとへと歩み寄った。

 

―――○●○―――

 

「ごめんなさい・・・・・」

 

第一声が謝罪だった。気が付けば、四人の魅力的な女性が全裸で同じく

全裸で寝ていた自分に寄り添って寝ていて記憶もあってか物凄く罪悪感に苛まれ、

好きでもない男と致してしまったことに深く猛省する一誠。

 

「謝らないでください一誠くん。

元はと言えば私が・・・・・その・・・・・誘惑をしたのですから」

 

「最初からその気だったの!?」

 

「・・・・・コクリ(赤面)」

 

ヴェネラナの発言に大層驚く一誠の他に、溜息を吐くリーラ。

 

「ですが、もうこれでお分かりになったでしょう。一誠さまに誘惑をすればこうなることを」

 

「ええ・・・・・もう、夫以上に元気で、力強くて、

あんなに激しく乱れたのは初めて・・・・・」

 

ポッと頬に淡い朱が散らばった。シルヴィアもそうなのか乱れた自分を思い出し紅潮していた。

 

「えっと、グレイフィアさん・・・・・本当にごめんなさい」

 

「いえ・・・・・謝らないでください。あなたが一方的に悪いというわけではございません。

そ、それに」

 

「?」

 

恥ずかしげに一誠から顔を逸らした。シルヴィア同様に情事のことを思い出し、真っ赤になった。

 

「すみません、なんでもないです」

 

「ふふっ、グレイフィアも素敵な体験ができて私は嬉しいわ。

相手が一誠くんなら幸せになるでしょう。・・・・・それでその、一誠くん。

お願いがあるんだけど」

 

「リアスたちには絶対に内緒します」

 

絶対誰にも言わない秘密だとヴェネラナの気持ちを悟って言ったが、

首を横に振られて一誠は首を傾げた。

 

「あの・・・・・また私がシたくなったら相手になってくれますか?」

 

「え?」

 

「私・・・・・どうやら夫のより一誠くんとの情事に魅力を感じちゃって・・・・・」

 

一誠に媚態するヴェネラナ。熱い視線を送ってくる人妻に困惑する一誠を庇うように

リーラが眉間に皺を寄せて異議を唱えた。

 

「ヴェネラナさま。あなたさまに夫のアルマスさまがいます。

堂々と浮気をしていいはずがございません」

 

「じゃあ、レッスンということでいいでしょう?」

 

「そういうことではないのです。一誠さまは私の主なのです。

そう簡単に身体を重ねられたら一誠さまは女にだらしないと周囲に蔑まされます」

 

「でも・・・・・リーラさんだけじゃ一誠くんの性欲を受け止めきれなかったでしょう?

私たち三人でもそうだったけれど」

 

「それは・・・・・」と返す言葉が見つからないでいるリーラに立て続けに言う。

 

「ドラゴンは力も強ければ性欲も強いの」

 

一誠にしな垂れかかり、全身を擦りつけ短い嬌声を上げだす。

 

「リーラさんは知らないでしょうけど、私とシルヴィアは夫が淡泊で子供を産んだら

自分の役目は終わりだとばかり相手にしてくれなくなっちゃったの。

この身を持て余してどうしようもないわ。女の辛さはあなただって分かっているはずよ?」

 

「・・・・・」

 

「沈黙は肯定と取らせてもらうわ」と意味深に微笑んだ。先ほどから一誠に身体を擦り

つけていると、身体に走る快感にうっとりと恍惚の表情を浮かべる。

 

「シルヴィア、あなたもサーゼクスに相手をして貰えなくなってかなり日が経っていますわね」

 

「そ、それは私とサーゼクスの問題で・・・・・」

 

「知ってるわよ。あなた、毎夜毎夜自室で―――」

 

「お、奥方さま!それ以上はこの子の前で仰らないでください!」

 

羞恥で赤面するシルヴィアを鈴の音を鳴らすようにヴェネラナは艶やかに微笑む。

ヴェネラナ発言に肯定であることを暗に認めてハッ!と自分の発言に気付いた時には―――。

 

「そんなに欲求不満の状態でこの子に一気にこの世のものとは思えない

快楽を与えられちゃったらサーゼクスじゃあ物足りなくなったじゃない?さっき思いっきり

乱れに乱れ、『あの人のよりイイッ!』と自分から激しく求めちゃったあなたは」

 

「だ、だからと言って!これは道徳に反し―――あんっ」

 

いきなり自分の身体に、下半身に触れられて思わず嬌声を上げてしまった。

 

「私たち悪魔が道徳なんて言葉は似合わないわよ?悪魔は欲望を叶え欲望を満たす種族。

あなた、さっきから一誠くんをアソコをチラチラとみているし、

ココもまだまだ欲しいって強請ってるじゃない」

 

「奥方さまがいきなり触るから―――んんっ、お願いですからもう触らないでください。

また―――あっ!」

 

「うふふ、可愛いわよシルヴィア」

 

何故かまた盛り上がってしまい、置いてけぼりにされた三人。

 

「・・・・・グレイフィア」

 

「・・・・・なんでしょうか」

 

「あなたも一誠さまの伴侶となる気はないですか?」

 

「「え」」

 

唐突なリーラの言葉に一誠と揃って間抜けな返事をした。

 

「このような形であなたの純潔を穢してしまい、処女も散らせたことには

私にも責任がございます。ですからその責任を果たす為に私と一緒に

一誠さまのメイドとして生きていきませんかと申し上げているおります」

 

「リーラ、私はリアスお嬢さまの専属のメイドですが・・・・・」

 

「リアスさまはいずれ一誠さまの伴侶の一人となります。そうなれば夫となる一誠さまの

お世話もすることになります。問題はございません。それに―――」

 

グレイフィアに近づき、下半身に手をやって一誠の方にも目を向けた。

 

「これだけの量を出されても一誠さまはまだ満足してはいないのです」

 

「あぅん!リ、リーラ・・・・・・」

 

「まだ時間があります。一誠さま、また私たちを可愛がってください」

 

「いいことを言うわリーラさん。ほら、シルヴィアも出来上がったわよ」

 

ヴェネラナに快楽を与えられたシルヴィアは熱で浮かされたように上気した赤面の顔が歪んでいたが恍惚の表情もしていた。荒い息を何度も繰り返し、蕩け潤った目に情欲の色が

ハッキリと浮かびただただ強い快楽を貪りたい一匹の牝と化となっていたのも事実。

 

「一誠くん、私の身体を自由にしていいのよ?」

 

「い、一誠さま・・・・・」

 

「あ、ああ・・・・・またあの快感が・・・・・・」

 

「一誠さま、私たちの意思に構わず、己の欲望を吐きだしてください」

 

欲情している四人の性欲が終わるのはまだまだ先になりそうだった。

一誠もまた四人の気持ちを応えるために再び性欲を貪るのだった。



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エピソード28

「やぁ、一誠くん。キミに朗報だ。なんと、キミもゲームの参加を認められたよ」

 

「おお、そうなんだ。ダメかと思ったんだけど」

 

「オーディンさまのお言葉が強かったからね。だが、やはり案の定といったか

一誠くんだけ規制が掛かっている。シトリー眷属を倒してはならないルールが課せられた」

 

「予想していたことだね」

 

「今回のゲームはライザー・フェニックスと戦ったバトルフィールドではないはずだ。

頑張ってくれたまえ」

 

サーゼクスから告げられたゲームの参加。これを聞いたリアスは狂喜の乱舞を踊ったほど喜んだ。

 

「私とイッセーの『愛』の力を見せ付けてやるわよ!」

 

そして―――ゲーム当日となった。グレモリーの居城地下にゲーム場へ移動する専用の巨大な

魔方陣が存在する。リアスと死明日の眷属、そして一誠はその魔方陣に集まり、

もうすぐ始まるゲーム場への移動に備えていた。

一誠と新たに眷属となったレオーネ以外、駒王学園の夏の制服姿。

 

「レオーネ、露出が高いな」

 

「この方が涼しい上に動きやすいからな」

 

一言でいえば水着姿。しかし、首にマフラーを身に包み腕や腰に巻いたベルトから太股を

晒しつつ変わった服装を着込んでいる。そして、レオーネと共に活動していたアカメは応援。

その他にアルマス、ヴェネラナ、シルヴィア、グレイフィア、一誠の家族が魔方陣の外から

声を掛けてくれる。応援の言葉を受ける中、魔方陣は輝きだす。

 

「一誠さま、御武運を」

 

リーラの言葉を最後に訊いて、一行は光と共に弾けゲーム場へと跳んで行った。

 

 

 

さて、一行が魔方陣でジャンプして到着したのはテーブルだらけの場所、所謂フードコート。

バトルフィールドは次元の狭間で作られるレプリカの異空間なので人っ子一人もいない。

逆に本物とそっくりな物資がリアルに置かれていて手ごろな食べ物すら用意されている。

 

「学園近くのデパートが舞台とは、予想してなかったわ」

 

「サーゼクスの兄さんが言っていたのはこのことか」

 

「でも、戦場がどこであれ、私たちは負ける気しないわ!イッセーがいるんだから!」

 

「おーい、俺を頼るなよー?倒せないんだからさー」

 

勝利に燃えあがるグレモリー眷属の(キング)に声を掛けるが聞こえていない様子だった。

 

「だけど、心強いのは確かだよ」

 

「足止め程度しかできない俺がか?その気になれば俺は全員を足止めして奴さんの大将まで

一直線に導けるんだけどそれじゃダメだろう」

 

「キミがそこまでできるとは驚きだけど、強者がいることで余裕が生まれるんだ私たちの気持ちが」

 

「仲間と戦うのは片手で数えるぐらいしかないから足を引っ張りかねないな」

 

「そこは私たちがフォローするから安心してよ兵藤くん」

 

朗らかにイザイヤと話をする。周りにも目を配れば各々と頷いていた。

 

『両陣営、転移された先が「本陣」でごじあます。リアスさまの本陣が二階の東側、

ソーナさまの「本陣」は一階西側でございます。「兵士(ポーン)」の方は

 「プロモーション」をする際、相手「本陣」まで赴いてください』

 

リアスたちとソーナたちの陣地はデパートの端。リアスたちは二階の一番東側。

ソーナたちは一階の一番西側。リアスたちの陣地の周囲には様々なコーナーが存在している。

一階も同様に様々なコーナーもあるが戦いが始まればお互いデパートの端を目指せば

いいだけの単純明快な戦いとなるだろう主に『兵士(ポーン)』は。

 

『今回特別なルールが二つあります。一つは陣営に資料が送られていますので、ご確認ください。

回復薬である「フェニックスの涙」は今回両チームに一つずつ支給されます。

なお、作戦を練る時間は三十分です。この時間内での相手との接触は禁じられております。

もう一つは今回特別ゲストとして参加するリアスさまの陣営におられる兵藤一誠さまも

出場しておりますが正式な眷属出ない為、ソーナさま率いる眷属を倒してはならないルールが

課されております。倒した場合、リアスさまたちの敗北と見做されますのでご了承ください』

 

「なんてルールなんだ!倒さないけどさ!」

 

『開始は三十分後に予定しております。それでは、作戦時間です』

 

アナウンス後、直ぐに皆で集まる。時間は一分も無駄にできないだろう。

 

「バトルフィールドは学園近くのデパートを模したもの。屋内戦ね。そして今回のルール、

『バトルフィールドとなるデパートを破壊し尽くさないこと』―――つまり。

ド派手な戦闘は行うなって意味ね」

 

「見た感じ、ド派手な戦闘ができそうなメンバーはその気になれば俺ぐらいじゃないか?」

 

「いいえ、一誠。部長もそうですわ。消滅の魔力が全てを削り消してしまうですもの。

知ってた?部長の二つ名『紅髪の滅殺姫(べにがみのルイン・プリンセス)』って言われてるの」

 

「あー知ってた。その理由がそれだったなんてな。なんか納得」

 

意中の異性に言われてなんだか複雑そうなリアス。ここで一誠に褒められるような

戦果をあげて、もっと好感度をUPする企みもあったようななかったような。

 

「レオーネはどんな戦い方だ?」

 

「肉弾戦!白音と戦って見たけど私より白音の方がよっぽど強かったぞ。仙術ってチートだろ」

 

「いえ、仙術を行使してなければ私はレオーネさんに手も足も出ません。実力は五分五分でしょう」

 

「なるほど、今回の戦いにピッタリだな」

 

「まっ、屋内戦なんて傭兵時代にしょっちゅうやってたから慣れっこだけどね」

 

「それは頼もしいわ。なら、あなたは私と、白音は一成と一緒に行動してもらいましょう」

 

「OK」と了承したレオーネ、白音を皮切りに、話は続く。

 

「剣術のイザイヤと格闘術、体術の白音とレオーネ、あと俺ぐらいが今回のルールに適している。

えっと成神だったな。お前はどんな戦い方をする?」

 

「イザイヤと同じ剣術だ。でも、俺は剣なんて今まで触ったことがない」

 

神器(セイクリッド・ギア)はあるか?」

 

「剣自体が神器(セイクリッド・ギア)だ。名前は『悪鬼纏身(インクルシオ)』。

アザゼル先生が言うにはドラゴン系統の神器(セイクリッド・ギア)らしいけど、まだ

禁手(バランス・ブレイカー)に至ってないんだ」

 

一成の腰に差している剣を見ては興味深そうに凝視する。

 

「アザゼルのおじさんが知っているなら至る方法も分かっているはずだよなー。多分、

お前の気持ち、感情次第で至るよ。俺もそうだったし」

 

「え、やっぱりそうなのか?」

 

「ああ、最初に至ったのは・・・・・朱乃を守ったあの時だったな。必死だったぞ。命を

狙われた女の子を守るのに無我夢中で自分より強い相手に守るたびに傷付いたんだからな。

負けたくない、助けたいという思いが俺の中にいるドラゴンが応えてくれて

禁手(バランス・ブレイカー)に至った」

 

懐かしげに語る一誠は笑みを浮かべていると朱乃に背後から抱き絞められ

「あの時は本当にありがとう」と耳元だ囁かれた。

 

「お前も誰か大切な人の為に戦うことができればきっと至るさ。俺の経験上から言わせてもらうけど」

 

芯がある言葉に耳を傾ける。目の前にいる真紅の髪の男は一体どんな人生を歩んできたのか

分からない。しかし、自分の主であるリアスとは全く異なる強さを有しているのは確か。

兵士(ポーン)』の駒4つ消費した自分とは比べもない次元を超えた強さを・・・・・。

 

「ま、パワーを上げる以前に色んな戦い方を学んで強くなるのも強さの秘訣だ。

今回は戦い辛い戦場だが、せまい場所でも戦えるようになれば苦にもならない。

俺に言われなくても分かってるだろうがな」

 

「ええ、こんな戦い方もあるのだと改めて思い知らされた。あなたの言う通り、

このゲームを勝って他のゲームにも勝つわよ皆」

 

『はい、部長』

 

 

 

 

―――一階西側―――

 

「会長。俺たちはあの兵藤に勝てますか?」

 

「サジ。彼は私たちを倒すことはできないルールです。ですので取り敢えず無視しても

構わないのですから目の前の本当の相手と戦って倒してください」

 

「ライザー・フェニックスを倒した赤龍帝・・・・・倒せずともグレモリー眷属より厄介な相手です」

 

「ええ、倒せないのであれば味方の為に足止めをしてくるでしょう。一人や二人、動かせなくなる覚悟を決めて事を進めます。ですので皆さん。相手の常識を覆す戦法で臨みたいと思います。いいですか?」

 

「どんな戦法なのですか?」

 

「一言でいえば、フィールド上を海のようにした彼のようなやり方に似た戦法ですね。皆さん説明した後は準備に取り掛かってください」

 

―――二階東側―――

 

「そう言えば、リアスたちはゲームの経験は?」

 

「無いわ。ゲームは成熟した悪魔しかできないものだから。今回は魔王さまが

若手悪魔同士のゲームをする予定だったみたいだからその白羽の矢が立ったのは

私とソーナってことなの」

 

「ソーナもゲームの経験がないんだな?」

 

「ええ、だからお互いフェアな戦いができるわ。眷属も一人(二人)増えたし、前より

余裕に物事を取り組めれるわ」

 

二人にとって初めてのゲーム。一誠は倒してはならない規制が掛かっているので、

足止め程度しかできない。ここで大いに役に立とうと思っていると、

リアスが手を動かし一誠の手を触れてきた。

 

「初めてのゲームだからこのゲームはなにがなんでも勝ちたい。

イッセー、私に勇気と力をちょうだい」

 

「その言葉に応えるぐらいの働きをさせてもらうさ」

 

リアスの紅髪に触れ梳かすように撫で続けると一誠にしな垂れかかり、

恋人のように身体を寄せ合った。

 

「あなたとこんな風にするのは初めてだわ」

 

「俺は慣れているけどな。主にオーフィス」

 

「子供の時はよく分からなかったけどあのオーフィスがイッセーといるなんて後になって

驚いたわ。どうやって出会ったの?」

 

「また今度教える。今は目の前の現実に集中しないと」

 

自分を上目遣いで見詰めてくるリアスの頭を優しくポンポンと叩く。「そうね」と頷く

一誠に好意を抱いているリアスは甘えるように一誠とくっつき続けていると反対側に

朱乃が座って来て自分と同じように寄り掛かって一誠は両手の花の状態となった。

 

「部長だけ勇気と力を与えるのは不公平だわ一誠。私にもちょうだい?」

 

「なっ、朱乃・・・・・!」と嫉妬で抗議しようとするが

 

「最近の年上のお姉さんは年下の男に甘えるのがブームなのか?」

 

「私が男の子に甘えるのは一誠だけよ?ところで一誠、女性の胸は好きかしら?」

 

「ん?人並みに好きだけど」

 

「うふふ、じゃあ、私の胸も好きなのね?」

 

たぷんと擬音が聞こえそうなほどの重量感がある朱乃の胸を押し付けられる。

すると負けじとリアスも自分の胸に一誠の腕を抱き寄せる。主の行動を見て微笑む

朱乃は一誠の耳元で囁く。

 

「私の胸、リアスより大きいのよ?バスト102」

 

「ぐっ!」

 

やや劣るリアス(バストサイズ99)に勝る武器の一つを誇らしげに艶のある声で告げる。

悔しげに顔を歪めるリアスが食って掛かる。

 

「大きさが胸の良さじゃないわ朱乃?触り心地だって必要だもの」

 

「あら、それじゃ一誠に確認してもらいましょうかこの場で。それも直で」

 

「こ、この場所で!?直で!?」

 

破廉恥きわまりない朱乃の言動に戦慄するリアス。しかし、二人の耳にある言葉が届く。

 

「あー、俺は胸よりも好きなことがあるんだけど」

 

「「え?」」

 

予想外な言葉が一誠の口から発せられた。男の子は胸が好きなんじゃ・・・・・と

信じがたい思いで心中そう漏らしていた朱乃や胸以外に何が好きなの・・・・・と

視線で訴えるリアスたちの様子に気付かない一誠は、

 

「白音ー」

 

透き通るほどの声が波紋のようにフードコートへ響く。すると、白い頭から白い猫耳を

生やしてピクピクと声に呼応して可愛く動かす小柄の少女が一誠の足の間からヌッと現れた。

口にホワイトソース味のフランクフルトを頬張っている。モグモグと全部食べ終えてから訊ねた。

 

「兄さま、なんですか?」

 

「膝の上に乗ってくれるか?」

 

「―――にゃんw」

 

嬉しそうにピョンと一誠の膝の上に乗っかって白音は全身を一誠の胸板にすり寄せる。

自分の華奢な身体に腕を回され、さらに密着度が増す。二人の様子を見ていたリアスと朱乃。

 

 

まさか、一誠はロリコン・・・・・?

 

 

と疑念を抱く二人に白音の頭を撫でながら一誠は言った。

 

「俺、胸よりもこうして抱き締める感じが好きなんだ。抱き心地の良いのが」

 

「「―――っ!」」

 

「二人の胸は嫌いじゃないけど、大き過ぎると白音みたいに胸のない女だとここまで

密着できないだろう?大きな胸が抱き合う二人を邪魔してしまうしさ。

それがちょっと嫌なんだよね」

 

巨乳に対する宣戦布告!リアスと朱乃に千のダメージがくらう!

 

「・・・・・」

 

石のように固まるリアスと朱乃の様子を交互に見た。白音の純粋無垢な眼差しは

ニヤリと優越感、挑発、嘲笑うように細め、口角も釣り上がって―――。

 

「部長、副部長・・・・・貧乳も捨てたものではありませんね?お二人ができないことを

僭越ながら私が代わりに堪能させてもらいますにゃん。(ボソッ)―――巨乳死に腐れ」

 

「「~~~~~っ!!!!!!!!!!」」

 

一誠が見たことがないほどリアスと朱乃が凄い顔になっていた。震える全身、引き攣った

笑みとなり、爛々とした目が白音に対する様々な負の色がハッキリと浮かんでいる。

 

 

 

「イザイヤ・・・・・」

 

「関わらない方が賢明だよ」

 

「こ、怖いですゥゥゥゥッ!」

 

「うはー。これ以上のない修羅場だなありゃー」

 

 

『イッセー!無乳よりも巨乳の方がいいってことを今ここで教えてあげるわっ!』

 

『何も無いよりはあった方が抱き心地も良いに決まっているっ!』

 

『ちょっ、二人とも!?ここで服を脱ぐ―――下着も取ろうとするな!サーゼクスのお兄さんたちが見ているんだぞ!』

 

『そうですお二人とも。無駄な抵抗は無意味です。無駄な脂肪の塊を晒して醜態と羞恥を味わうだけです』

 

『『上等っっっ!!!!!』』

 

『白音、お前も煽るなぁっ!』

 

―――○●○―――

 

何とか精神と体力を削いで二人を落ち着かせていれば―――定刻。

開始の時間を待っていると店内アナウンスが流れる。

 

『開始のお時間となりました。なお、このゲームの制限時間は三時間の短期決戦(ブリッツ)

形式を採用しております。それでは、ゲームスタートです』

 

ゲームスタート。リアスが椅子から立ち上がり、気合の入った表情で言う。

 

「指示はさっきの作戦通りよ。一成と白音、イザイヤとイッセーで二手に分かれるわ。

一成たちが店内からの進行。イザイヤたちは立体駐車場を経由しての進行。ギャスパーは

複数のコウモリに変化しての店内の監視と報告。進行具合によって、

私と朱乃とレオーネが一成側のルートを通って進むわ」

 

リアスの指示を聞き、全員耳に通信用のイヤホンマイクを取りつける。

 

「さて、今回は私たちの初陣。いきなり戦い辛い場所でのゲームとなったけれどそれこそ勝ち甲斐があるってもの。皆、勝ちに行くわよ!」

 

「白音ちゃん、行こうか」

 

「はい」

 

先に動いたのは成神一成と白音。フロアから飛び出し、その場を後にして進みだす。

走るわけでもなく、歩くわけでもない、微妙な歩幅で進んでいた。相手に悟られないための

配慮で慎重と緊張で進む。二人が歩く場所、店内は横に長い一直線のショッピングモール。

相手に発見されないようにするためには物影に隠れながら進むしかない。

なのであるところまで進んで、自動販売機の影に隠れて二人は前方の様子を窺う。

 

「・・・・・変な臭いがします」

 

「変な臭い?」

 

―――ガタッ、ゴトッ

 

すると、音が聞こえる。白音の獣耳がピコピコと動く。鼻につく嫌な臭いに険しく、訝しい顔で

原因を探ろうとしているのが一成の視界に入る。

 

「動いてます。三人です」

 

「わかるのかい?」

 

「はい。現在、仙術で把握しています。気の流れで把握できます。

流石に詳細までは分かりませんが・・・・・」

 

そこで白音の言葉が止まった。自動販売機の影に隠れている二人のところに液体が

ゆっくりと流れてきた。その液体から変な臭いがすると一成が思っていると。

 

「―――ッ!」

 

白音が突然、前方の天井を見上げた。

 

「上っ!」

 

なんなんだ?驚愕する白音の視線を追う一成の視界にフッと赤い物体が落ちてきた。

いきなりの平井物に思考が一瞬停止してその物体を凝視。数センチという近さまで

振ってきた物体はドゴンッ!と白音の回し蹴りにより吹っ飛んで間一髪免れた。

 

「あ、ありがとう白音ちゃん」

 

「いえ、ですが―――」

 

「へ?」

 

「まだ、来ます」

 

次の瞬間、天井から振って湧いたように何かが落ちてきた。思わず、腰に差した剣を

抜刀しかけたが数が数なだけに埒が明かないと悟り、一成は白音を催促して前方へ駆けだす。

 

「なんなんだよこれはー!?」

 

RPGでよくあるダンジョンで巨大な岩が迫るトラップみたいにタンスや椅子、テーブル、

様々な家具が二人の真上から落下する。

 

バシャンッ!

 

「ぶはっ!?」

 

「・・・・・」

 

走っている最中に大量の液体が被った。思わず立ち止まり、うわぁーと嘆かわしい反応をする。

 

「臭っ!ベトベトするし!」

 

「・・・・・とても不愉快です」

 

濡れ鼠のように全身はずぶ濡れの状態。だが、ようやく理解した瞬間でもあった。

 

「これ、油か?」

 

「灯油でもありますね」

 

「―――ええ、その通りです」

 

第三者の声が凛として聞こえた。声が聞こえた方へ振り向くと、

そこには―――ソーナ・シトリーが手を後ろに組んで一人だけ二人の前に現れていた。

 

「なっ、会長ぉっ!?」

 

「そんな、どうして・・・・・」

 

冷静沈着に佇むソーナ。眼鏡の縁を動かし、静かに発した。

 

「あなたたちを倒す為ですが?」

 

「『(キング)』が護衛、それも『女王(クイーン)』すら

引き連れてないなんて・・・・・理解し難いです」

 

「私の事より、お二人は自分の心配をした方が賢明です」

 

後ろに回していた手を動かし、持っている物を見せ付けた。

 

「・・・・・マッチ?」

 

火を起こす道具の一つ。ソーナが持つには少し意外な物だった。

 

「私たちが今どこに立っているのかお気づきになられませんか?」

 

ソーナのその一言で白音は目を大きく見張った。

 

「まさか・・・・・生徒会長とあろう人がこんな作戦をするなんて・・・・・!」

 

「え、白音ちゃん?」

 

「成神一成君、この辺り一帯に撒き散らした物は全て火に引火する液体ばかりです。この

マッチ一本でも引火する液体に付けるとどうなるかあなたでもお分かりになるはずです」

 

淡々と述べるソーナ。そこまで言われてようやく意図に気付き、白音と同じ反応をする。

 

「ちょ、待って下さい。そんなことしたらこの建物は火災で建物が燃えて評価が

下がるじゃないですか!?」

 

「そうでしょう。ですが、それ以上に初めてのゲームに勝つことがなによりも優先です。

落ちた評価はお二人を燃やし尽くした後でも取り戻せばいいだけです」

 

冷徹な作戦を口にするソーナだった。そして、自分は本当にやるのだとマッチに火を付けた。

 

「―――先輩、ここは危険です!逃げます!」

 

「マ、マジかよ!?てか、俺たちにも油とか灯油とか浴びているから火達磨になっちまう!」

 

「その通りです。ではまず、お二人から退場してもらいましょう」

 

踵返してこの場から離れようとする二人の背後から声を掛けるソーナは火が付いた

マッチを下に落とした。―――そして、引火する液体に火が燃え盛って横に長い

一直線のショッピングモールに駆ける一成と白音を迫るように炎が燃え広がる。

 

「―――で、戻って来ちゃったわけね」

 

「「はい・・・・・」」

 

異臭を漂わせる二人に何とも言い難い気持ちになる。朱乃の魔力によって浄化中で、

燃え盛る炎の前では成す術がない。

 

「・・・・・」

 

報告を聞いてからリアスは考える仕草をする。あの、『ソーナ』が建物の崩壊を

しかねない火災を行うなんてらしくない。ソーナの性格は熟知していると言っても

過言ではない為、灯油やガソリンをバラまいて引火する作戦を考えるとは思いもしない。

何が狙いなのか―――。

 

『リアスさまの「僧侶(ビショップ)」一名、リタイアです』

 

リアスの眷属悪魔が一人倒された。そのアナウンスにリアスたちは驚きを隠せない。

 

「ギャスパー・・・・・?」

 

「早っ!?あいつ、どうしてやられたんだ!」

 

「これじゃ、監視も報告もできなくなったな。おい、どうする?」

 

「どうするも何も、まだゲームは始まったばっかり。一成、白音。

ショッピングモールから行けれないなら他のルートで行ってちょうだい」

 

指示を下すリアス。移動方法はまだ残されている。階上や階下に行き来できる階段や

エレベーターなのもあるのだから敵と鉢合わせになっても避けられない戦いなのだから

同じこと、そう思った矢先にリアスの耳が一誠の声を拾う。

 

『おい、どうしてそっちは動いてないんだ』

 

「イッセー、そっちはどんな状況?」

 

『今絶賛、「女王(クイーン)」と「戦車(ルーク)」の二人と交戦中だ。倒せない分、

面倒だよ。イザイヤに倒させる役目なんだからな」

 

立体駐車場では戦闘が始まっている。リアスはソーナの火計でショッピングモールに

進むことができなくなっていると報告した。

 

『火計?火災防犯システムは?』

 

「なんですって?」

 

『火災が発生しているなら防犯システムが作動しているはずだと思うが?

いや、レプリカのバトルフィールドだからそんなシステムまで起きないか』

 

一誠の疑問は面々の耳にも届く。リアスは朱乃に頷くと意図に気付き、フードコートの

火災防犯システムの機器に向かって火を放った朱乃。―――結果、機能はしなかった。

 

「イッセー、しないわ」

 

『そうか―――いや、油断するなよ』

 

「分かってるわ」

 

『いや、油断しているぞお前ら』

 

どういうこと・・・・・?そんな疑問がリアスたちに抱かせる。だが、次の一言で面々は

 

『お前らの近くに奴さんが揃って近づいているからな』

 

迫りくる魔力で変化させたのであろう様々な生物がフードコートに押し寄せてやってきた。

その中にはシトリー眷属悪魔も全員が交じって迫っている。

 

「なっ!?」

 

「本陣に乗り込んできただと!?」

 

「そう言うことだ成神ぃ!」

 

シトリー眷属の『兵士(ポーン)』二名が敵本陣にやってきた。その意味するものとは―――。

 

「まずい・・・・・っ!」

 

「「プロモーション、『女王(クイーン)』!」」

 

違う駒にプロモーションをすることができる絶対的な条件を満たしたことだ。

攻防、速度が数倍にも増し、

現在のグレモリー眷属では厳しい戦いに強いられるのは必然だった。水の生物たちは

意志を持っているかのようにリアスたちへ襲い、シトリー眷属も続いて襲いかかる。

 

「多少の破壊は止むを得ないわ!皆、打って出るわよ!」

 

『はいっ!』

 

―――立体駐車場―――

 

「どうやら、会長の作戦が成功したそうです」

 

シトリー眷属『女王(クイーン)』の眷属悪魔、真羅椿姫が不敵に漏らした。

武器は破壊され、目の前にいる一誠にエクスカリバーを突き付けられている状態で身動きが

取れない状態でいるが、倒したらグレモリー眷属の敗北という規制で倒せずにいる敵に

向かって発した。一誠はそのことを重々承知して返事をした。

 

「ショッピングモールの火災ってのは嘘だろう」

 

「ええ、『僧侶(ビショップ)』二人の幻術です。よく分かりましたね」

 

「火災の防犯システム以外にも疑問があった。有機物が燃える際の臭いや煙のことすら

口にしなかったんだからな。あいつらは逃げることに集中してそこまで気を回せなかった。

まだまだだよリアスも他の奴らも」

 

「ならば、直ぐに助けに向かわないのですか?」

 

リアスたちのピンチに駆けつけるべきではとそう促す。「確かにな」と一誠も肯定するが

首を横に振った。

 

「俺に依存されちゃ困る。ピンチは自分の手で乗り越えなきゃ成長なんてしないもんさ」

 

「厳しいですね」

 

「じゃなきゃ・・・・・強くはなれないだろう?」

 

「兵藤くん、待たせたね」

 

イザイヤが『戦車(ルーク)』を撃破した。残りは真羅椿姫ただ一人。

 

「さっさと倒して本陣に戻るぞ。本陣が奇襲に遭っている」

 

「っ!そうか、だったら尚更早く倒さないとね」

 

衝撃の事実に目を丸くするイザイヤが躊躇もなく、椿姫を撃破した。

 

「そんじゃ、行くとしますか」

 

「うん」

 

二人は本陣にいる味方の救助のため、フードコートへと戻るのだった。一方、リアスたちは

悪戦苦闘だった。敵の数は数人、自分たちと同じ数なのに様々な水の生物たちが

牙を剥いてくるので意識を避けざるを得なかった。

宙を浮く鷹、地を這う大蛇、勇ましい獅子、群れをなす狼、

そして凄まじい水圧を放つ巨大なドラゴン。

水の生物たちを撃破してもどこからともなく水が集まって再生するため限りがない。

 

「成神ぃっ!」

 

「匙!」

 

女王(クイーン)』へと昇華した相手との一対一の勝負。実力は火を見るよりも明らかだった。

黒い蛇が何匹もとぐろを巻いている右腕を振るうと、テーブルや椅子、

他に天井のライトなどに触手みたいなもので張りつけると

グイッ!と引っ張り、一成へ向かって引き寄せつつ自身も飛び出して二方向からの接近を

対処する羽目になった一成。剣でテーブルと椅子を斬り、そして匙に向かって飛び出した時、

何時の間にか匙の手には照明道具が持っていて―――。

 

カッ!

 

突然の光に視界が真っ白となり成神の視力は一時的に奪われた。その一瞬を匙は見逃さず、

まずは鳩尾に深く拳を抉り込み、続いて顎に鋭いアッパー、止めとばかり

 

「食らいやがれ!」

 

魔力弾を放っての一撃だった。「ぐはっ!」とモロに食らって床にひれ伏す成神。

 

「どーだ、成神。『兵士(ポーン)』と『女王(クイーン)』の差は痛いほど痛感しただろう。

だけどな」

 

匙は言葉を噤まず言い続ける。

 

「これでもまだあの兵藤に届いた気分がしない。でも、それでも俺は夢の為に戦うんだよ!」

 

吠える。一人の男が夢の為に戦うと吠えた。全身の痛みを感じながらも自分も

まだ負けられないという思いが成神を突き動かし、剣に握る力を込める。

 

「俺だって負けられねェ!」

 

「来い!成神!」

 

障害物が多い場所での剣術は少々不向き。しかも剣道で学んでもなければ剣を握った

こともない一成ではさらに厳しい。イザイヤという剣士の存在もあるのでそこそこ動ける。

剣を振るられる匙はその剣に向かって触手を伸ばして張りつけると、

逆に利用して引っ張り、放さない一成を巨大な柱や床、テーブルなどに叩きつける。

それだけの力があるのは『女王(クイーン)』の特性のおかげだろう。

 

「はぁ・・・・・!はぁ・・・・・!はぁ・・・・・!」

 

味方の救援は望めない。屋内戦が得意とするレオーネですら水の生物と『僧侶(ビショップ)』の

連係プレーに足止めを食らっている。水の生物が身体で防御し、『僧侶(ビショップ)』が魔力弾で

味方の水の生物ごと売ってレオーネに放つという荒技によってだ。

白音は大蛇に巻きつけられ、水の中に浮いているかのような状態でどれだけもがこうとも

脱出ができないでいる。グレモリー眷属の中でトップクラスのリアスと朱乃も、

 

「リアス、ここであなたを倒します!」

 

「ソーナ、今回の戦い方はあなたの性格を鑑みてもらしくない戦いだわ!」

 

「ええ、何度も見て来ましたし戦いもしました。常識を覆す戦いを。私はその真似ごとを

しているだけに過ぎません。リアス、あなたにとって私が有り得ないようなことをです」

 

「イッセーに影響されたってこと!?もう、イッセーのバカ!これ以上他の女の子に

影響を及ぼさないで欲しいものだわ!」

 

「あなたもその一人なのでは?」

 

(キング)』同士の戦いを繰り広げていたり、他のシトリー眷属と朱乃が戦ってもいたりしている。

 

「兵藤たちが足止めをされている間に俺たちは本陣に奇襲。

シンプルだろう?だが、そうしないと勝てない相手なんだよお前たちは」

 

匙は再び魔力弾を放とうとする。

 

「これで終わりだ!」

 

全身全霊の魔力弾。最初に打った魔力弾よりも大きいソレは真っ直ぐ一成に向かう。

 

―――避け―――っ!?

 

と、思ったが自分の背後には白音がいた。もしも目の前の魔力弾を避けたら間違いなく

白音に直撃してリタイアするだろう。自分の身の可愛さに味方を犠牲にするそんな考えを

持ち合せていない一成は決断する。

 

「(これ以上、仲間を傷付けさせはしないしさせねぇっ!部長にこのゲームを

  勝たせてやるんだ!)」

 

目に強い光が宿り、魂が熱く燃えあがる。

 

『感情次第でお前は至る』

 

アザゼルも一誠も似たようなことを自分に聞かせて言った。一成はこの思いを口にしようと

匙に向かって発した。

 

「俺は負けない!今は弱いだろうがこれからもっと修行して強くなるんだ!仲間と共に

部長にゲームを勝たせてやりたい!だから応えろ俺の神器(セイクリッド・ギア)ァッ!

お前の力を俺の思いに応えてくれぇっ!」

 

なりふり構わず床に剣を突き刺したその瞬間。

一成の足元に魔方陣が出現して背後から覆い被さるように何かが召喚した。

 

「なっ・・・・・!?」

 

驚愕する匙。魔力弾は召喚された人型のドラゴンみたいな生物によって弾かれた。

それだけではない、召喚した余波で水の生物たちが瞬く間に弾け飛んで

シトリー眷属とグレモリー眷属とだけとなった。

 

「オオオオオッ!インクルシオォオオオオオオオオオッ!」

 

ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

ドラゴンが一成に覆うと全身を鎧へとなり、成神と一体になるように装着していく。

 

「一成が、禁手(バランス・ブレイカー)に至った・・・・・!?」

 

「―――そーみたいだなー」

 

「っ!イッセー!」

 

リアスの絶句の言葉をフードコートに現れた一誠が拾った。

イザイヤも目の前の光景に目を丸くしていた。

 

「昂った感情が所有者の思いに応えた。ただそれだけだ。おめでとう、お前も晴れて力を

持つ者となったな」

 

マントがあるドラゴンのような全身鎧を纏う一成。自分の置かれた状況を把握し、

拳を力強く握った。

 

「これなら、いける!」

 

「土壇場で至るなんて・・・・・!くそ、だけどまだ戦いは終わっちゃいない!」

 

触手を複数のテーブルに張り付け、挟むように一成へ勢いよく引き寄せた。

そのテーブルを発現した槍で一閃、粉砕した。

 

「ンだとっ!?」

 

「この一撃に全てを籠める!目の前の敵を倒せ鎧が言うからな!」

 

槍を構えて飛び出す。姿が代わった敵に愕然と立ち竦む匙は肉薄する一成に反応する前に

気合の入った高々な声と共に振るられた槍に叩きつけられて壁まで吹っ飛んだ。

凹ませるほどに壁と激突した匙はぐったりと横たわり、戦闘不能だと判断されたのか、

全身が光だしバトルフィールドからいなくなった。

 

「お疲れさん。まー最後は神器(セイクリッド・ギア)に助けられた感じが多いけど

結果が良ければすべてが良しだな」

 

「お前、上から目線で言ってないか?」

 

「気のせいだ。ほら、戦いは終わっちゃいないんだ。戦うぞ、主にお前らが」

 

「お前も戦え!」

 

と、そんなこんなだがこの日のゲームはリアス・グレモリーとグレモリー眷属の勝利と

幕を閉じた。



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エピソード29

リアスとソーナのゲームが終え、祝杯としてパーティも行われ、その日の夜。

リーラとヴェネラナ、グレイフィア、シルヴィアが一誠と夜を過ごし、その翌朝

人間界に舞い戻ってから数日が立った時、新たな展開が始まっていた。

 

次期兵藤家当主選抜大会の詳細が発表されていたのだった。

 

参加人数は無制限(神は除く)。ルールは十二人の一チームを組んで、様々な戦いに

最後の一チームとなるまで戦う大会と報道されていた。

 

「んー、まあ前から考えていたチームで参加しようかなって思ってるけどな」

 

「どんなチームにするのですか?」

 

「うん、ちょっと集めに声を掛けてくるよ」

 

朗らかに言ってどこかに行った一誠。

 

そして―――大会当日の日が迫った頃に一つの事件が発生していたのを一部の者たちだけ

しか知らなかった。

 

大会は京都のドーム。兵藤家や式森家が次期当主を決める際に行われる聖域でもある。

世界中の国、そして神話体系に関わる伝説の存在が様々な欲望を抱き大会に参加する。

 

『―――皆さま、長らくお待たせしました。次期兵藤家当主選抜大会決定戦の開始時間と

なりました!』

 

一時間後、開始宣言ともいえる発言が発せられて一拍してドーム中から歓喜の歓声が沸いた。

悪魔、堕天使、天使、人間の他にも様々な異種族が交じって観客席に座って歓声を上げる。

 

『まず最初に、今回の次期兵藤家当主選抜大会を開催した主催者の方を発表します。

 現兵藤家当主の兵藤源氏さまです!』

 

紹介された源氏は威風堂々と立ち上がり自分の姿を披露させる。

ある程度姿を晒せば腰を下ろして座りこむ。

 

『続きましては今大会のサポートを担う五大魔王の一人、ルシファーさま、ベルゼブブさま、

レヴィアタンさま、アスモデウスさま、フォーベシイさまです』

 

呼ばれた五人の魔王が自分の名を呼ばれた時に立ち上がった。

五人のうち四人が女性なので観戦客(男性)が大歓声を上げた。

 

『続いて堕天使を束ねる堕天使のトップ。「神の子を見張る者(グリゴリ)」の堕天使の総督

アザゼルさまです』

 

紹介されたアザゼルも立ち上がる。

 

『天界に住まい、悪魔払い、シスターやエクソシスト、世界各地に存在する教会を束ねる

「聖書に記されし神」ことヤハウェさまと神の補佐、大天使長ミカエルと共に天使を束ねる王、

神王ユーストマさまです』

 

ヤハウェとユーストマも立ち上がる。観客からの歓声に恭しくお辞儀をして応えて座りだす。

 

『それでは次に移りたいと思います。次期兵藤家当主選抜大会決定戦に参加した

総勢千人以上の選手の入場です!』

 

歓喜が湧く。そんな中、中央のステージに巨大な魔方陣が出現した。

 

『悪魔、天使、堕天使、人間の他にも様々な種族の選手が参加しています。その中で異例中の

異例の参加者が最初の登場です!そのチームの名は―――ギガント・ジャイアント!』

 

カッ!と光と共に現れた参加者―――は人間の百倍の身長を誇る巨大な人間、巨人族だった。

 

「おいおい・・・・・こいつぁとんでもねぇ奴らが出てきやがったじゃないか」

 

「そうですね」

 

「どうやって参加したのか気になるところだわ」

 

『さぁ、続いて他の選手の入場です!』

 

そうアナウンスが流れれば選手入場入口から大勢の参加者が現れる最中でも説明は続く。

 

『ここで改めて今大会のルールを御復習いしましょう。今大会は予選と本選を分け、予選で

RG(レーティングゲーム)」を応用した戦いに勝ち抜いたチームは

明日、本選に出場する権利が与えられます。本選も「RG(レーティングゲーム)」を

応用して戦います。一つのチームに参加できる人数は十二人まで。

勝敗は相手の「(キング)」を倒すこと。そして本選に出場できるのはたったの四組のみです』

 

ザワッ・・・・・!

 

圧倒的な少ないチームの数に会場はざわめく。

 

『では、兵藤源氏さまから一言お願いいたします』

 

アナウンサーの言葉に兵藤源氏が立ち上がった。マイクを受け取り表情の色を変えず、

ゆっくりと口を開いて言葉を発する。

 

『まず、「RG(レーティングゲーム)」という冥界に住む悪魔たちが戦闘経験や実績、

功績を残す為に使用される異空間のバトルフィールドで試合を行う。

これは知っての通りのことだ。でなければ、この日本が壊滅的危機に陥ってしまうのでな。

安全な場所で死闘を繰り広げられる。これほど世界に優しいバトルフィールド上はないであろう』

 

うんうんと誰かが当然だとばかり頷いた。

 

『さて、予選の試合のルールを説明しよう。至極的単純だ。相手の「(キング)」を

倒し本選に出場権利を得ることができる四組になるまで戦い続ける。―――それだけだ』

 

『これからすぐに予選を始めたいと思います。皆さん、準備はよろしいですか?

―――では、始めたいと思います!』

 

短いような気がする源氏の言葉に続いてアナウンサーが事を進める。大会の出場者たちは

高らかに雄叫びを上げて賛同し、足元に展開した巨大な転移式魔方陣によって

ドームから姿を消した。参加者たちはそれぞれのチームの名を背に背負って参加している。

中でも英雄や勇者と関わりある集団やこの大会で自分の名を轟かせようとする集団、

日本を自国の領土とする集団もいるほどだ。巨人族といった異種族も参加していれば

当然その手の種族もわんさか参加している。悪魔堕天使、天使は勿論のこと、

獣人や妖怪もいる。ただの人間では太刀打ちできるものではないが、戦いとは常に何が

起きるか分からないものだ。それを懸けて挑戦者が参加をする。

 

さて、参加者たちは転移魔方陣でバトルフィールドに跳ばされた。次に参加者たちが

目にした光景は―――。青い空だった。そして遥か下には大海原と巨大な大陸が見える。

 

「は?」

 

自分たちは空にいる。その認識を受け入れるのに数十秒掛かった者もいた。

パラシュート無しで海面や地面に叩きつけられるビジョンが浮かぶのも容易かったその時。

 

『こんにちは皆さん!最初は戦うステージを落下しながら聞いてください!』

 

アナウンスの声が聞こえてくる。事実、参加者たちは叫び、悲鳴を上げながら落下していたのだ。

 

『無事にバトルフィールドである巨大な大陸に着陸した者からゲームを始めます。

ですが、無事に着地ができなかった者、あるいは着地できなさそうな

チームを発見すればこちら側の判断で強制退場させてもらいます。

そして勝利条件は皆様の眼下に見える建物のどこかに1~4の数字が書かれたボールが

設置されておりまして制限時間、三時間まで見つける短期決戦(ブリッツ)形式で

行わせてもらいます。それでは皆さま、御武運を!』

 

最後にそう言い残して聞こえなくなったアナウンス。

 

「―――だってよ、皆」

 

当然のように参加していた一誠はチームメンバーに話しかけた。

 

「ははは、面白い展開になったな。確実に人間たちはOUTだろう」

 

そう言う黒い髪に紫の光を放つ男が愉快そうに胡坐を組んだまま落下している。

さらに蒼穹のごとく蒼い髪に金の瞳の女性がとある方へ見詰めたまま無言でいるのを

クロウ・クルワッハが声を掛けた。

 

「どうしたティアマット」

 

「この場に二天龍がいると思うと私たちもただでは済まないなとな」

 

「なーに、戦いたいなら戦わせればいい。私たちは私たちで戦いを楽しめばいいだけのこと」

 

元々は黒髪だっただろう髪が赤色に浸食されたような髪の男は放っておけとばかり言い放った。

そこへ緑の髪にアロハシャツ、サングラスを額に掛けている男も口を開いた。

 

「しっかし、この面子が揃うなんて有り得ねー」

 

「ミドガルズオルムも誘ったんだけど、眠いから嫌だって断われちゃったんだよねー」

 

「いやいや、あの寝坊介が戦うわけ無いじゃん?ありゃ、終末の怪物の一匹だって」

 

「そう言うお前はよく兵藤一誠の誘いを乗ったな。玉龍(ウーロン)

 

紫の髪の偉丈夫の男の発言にハハハと笑った玉龍(ウーロン)

知り合いのようでフレンドリーに接する。

 

「あの若猿じゃねーけどよ。なんたって懐かしい面子が揃えるから参加してくれって

言われたからな。そいつらと一緒に戦って楽しむのも悪くはないだろうって思ったんよ。

てか、お前もそうだろタンニーン」

 

「ふっ、お前と同じ気持ちだと言っておく」

 

タンニーンと呼ばれた男も口元を緩ましてこの大会を楽しむ依存のようだ。

 

「主の魅力は留まる事を知らないですね」

 

「全くだ。これだけのドラゴンを鶴の一声もとい龍の一声で集めてしまうのだからな」

 

「イッセーは凄い」

 

金髪の女性と黒と紫が入り混じった男性は感嘆し、パチパチと拍手を送るオーフィス。

 

「さて、そろそろ地上だ。皆、思い思いに楽しんでくれ。ただし、殺しちゃダメだからね」

 

自由に戦わせる。それが一誠のチームの方針。異論はないとばかり

クロウ・クルワッハたちは頷いた後。―――大陸に着地したら、

殆どのメンバーは元の姿、龍となって他の参加者たちに攻撃態勢となった。

 

『もうないかもしれない龍神と龍王、邪龍の共闘戦の開始と行こうか!』

 

無事に着地した者から攻撃を始めるドラゴンチーム。

 

―――○●○―――

 

『な、なんと!参加者たちの中からドラゴンが出現したー!

これは予想外、イレギュラーな展開となりました!』

 

アナウンサーの実況にどよめきや歓声が会場中から湧き上がる。

まさかのまさか、ドラゴンまでもが参加していようとは誰が思うか?

初めて見るドラゴンに全世界は様々な反応や思いを抱く。

 

「ありゃ、優勝候補決定だな」

 

「あのドラゴンたちが共に戦う姿は生まれて初めて見ましたね」

 

「それをさせているのが坊主なんだから凄いぜ!」

 

「おや、早速巨人と戦い始めたようだよ」

 

ドラゴンと巨人の戦い。子供たちにとっては目を輝かせる光景だろう。斧や大剣、鎚、

巨大な盾を装備して巨人たちは戦いに臨む。あの巨大な武器をモロに直撃すれば

ドラゴンは一溜まりもない。ただし、相手をするドラゴンたちはただのドラゴンではない。

世界に、神話体系の神々にまで知られているドラゴンたちだらけだ。場所が場所な為―――本気で

攻撃できる。巨大な火炎球を吐き、巨人の武器を破壊し、焼き尽くし、

頑丈そうな身体まで火傷を負わせ、ダメージを与える。邪龍と龍王の強力な攻撃の前に

巨人は一人、また一人と倒れる。

 

「・・・・・やっぱ、強ぇわ」

 

「本人たちも久々の闘争に大はしゃぎしているだろうね」

 

「というか、もうあいつらの優勝でいいんじゃね?って思うほどだけどよ、

そーじゃないんだよなー」

 

アザゼルの意味深な言葉を同意とばかり異空間の中ではまたも予想外な展開を起こすのだった。

 

―――アジ・ダハーカの鎌首の一つが吹っ飛んだ。

 

「誰だ!?」

 

 

 

 

仲間の首が吹っ飛んだ光景は一誠からも見て取れた。目を丸くし、アジ・ダハーカのもとへと向かうと

一人の巨躯の身体を持つ老人と出くわし、エクスカリバーを振るって対峙した。

 

「納得できた!」

 

「ほう、戦士一誠か」

 

「久し振り、ストラーダ猊下!」

 

「ああ、久し振りだ。では、どこまで強くなったか私と剣戟をかわそうか」

 

かつて、一誠がルーラーと出会った教会にいた教会の老戦士、ヴァスコ・ストラーダ猊下。

その手にある剣を見て驚いた。

 

「デュランダル?」

 

「の、レプリカだ。オリジナルと比べると力は劣るが私が扱えばそのような

些細なことはカバーできるというものだ」

 

「・・・・・クリスタルディ猊下もいると思って・・・・・もしかしてイリナたちも?」

 

「ああ、いるとも」

 

一瞬の攻防を繰り広げ、周囲のものに余波で切り刻む。ストラーダ猊下は一誠の持つ

エクスカリバーを見て口元を緩ます。

 

「戦士イリナたちから聞いていた第二のエクスカリバーか。

レプリカとはいえこのデュランダルと刃を交えることができるとは中々だな」

 

「それは―――!」

 

口を開こうとしたところで一誠がストラーダ猊下から離れた直後、アジ・ダハーカの

魔力砲撃が過ぎた。

 

「あぶなっ!一言言ってくれ!」

 

『俺の首を斬った腹いせだ。気にするな』

 

「反省の色も無いわけね!」

 

ストラーダ猊下も回避していたようで、建物の壁と壁を蹴り上がりながら

アジ・ダハーカに向かって跳躍、デュランダルを一閃。

 

「させるか!」

 

それを防ぐエクスカリバー。空中で鍔迫り合いをしつつ、地上に落ちるまでの間激しい

斬り合いをおっぱじめる。

 

「世界中で修行してきた成果は確かに出ているな。だが、私はまだまだ本気も出していないぞ」

 

「・・・・・マジで?どれだけ強いの」

 

「では、少しギアを上げるとしようか」

 

デュランダルに聖なるオーラが滲みだす。それに対抗しようとエクスカリバーにも

聖なるオーラを纏わせ、二人は飛来する斬撃を放ち続けたところで第三者が左右から現れる。

 

「久し振りだな、オレと勝負―――!」

 

「兵藤一誠、見つけましたよ」

 

「んな、アーサーとモルドレッド!?」

 

タイミングが悪過ぎる!と愚痴を零した矢先、

 

「っ・・・・・アーサァアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

「愚妹が・・・・・また私の前に現れますか」

 

兄妹が一誠を無視して剣を交え始めた。「あ、やっぱりこの流れか」と他人事のように

察し、亜空間からもう一つの剣を取り出した。

 

「フラガラッハ!」

 

「ほう、今度はそれか。いいだろう。久々に稽古をつけてやる」

 

「そのデュランダルを斬って―――」

 

「いっやほーい!」

 

金色の雲に乗った女性が棍を一誠に突き刺してそのまま突き進む。

 

「やーやー、イッセー。また会ったぜぃ!」

 

「げほっ、美猴。お前か!」

 

「あん時の続きをしようぜ!」

 

嬉々として笑みを浮かべていた美猴。空中でストップして一誠と距離を離し、

臨戦態勢でいると一対の白い翼に金色の輪っかを頭上に浮かばせる

栗毛のツインテールの少女が斬りかかった。

 

「このお猿さん!イッセーくんに手を出すんじゃないわよ!」

 

「誰だい!」

 

「イッセーくんの幼馴染の紫藤イリナよ!」

 

あ、イリナ。今日は久し振りに会う人が多いなと思ってると、

一誠の後ろから抱き付く少女が現れる。

 

「一誠くん。お久しぶりです」

 

「ルーラー。久し振り、この大会に参加していたんだ?」

 

「はい、一誠くんが出ると思って猊下たちと一緒に。よかったです、一誠くんと再会できて」

 

「俺もだよルーラー。久し振りにルーラーの顔を見れて安心した」

 

「ああ・・・・・一誠くん」

 

目を潤わせて大会中にも拘らずラブラブオーラを展開していれば、

「おい!なにイチャついてんだ!」「ルーラーだけずるい!」と外野から聞こえてくる。

 

「む、あそこにいるのは師匠じゃないか!」

 

「あ、本当だ先輩だ!」

 

変わらぬ弟子と後輩も姿を現す。その背後にリーズとクリスタルディ猊下もやってくる。

 

「クリスタルディ猊下、お久しぶりです」

 

「ああ、久し振りだ。息災で何より、そしてそれが第二のエクスカリバーか・・・・・」

 

意味深に一誠の手にあるエクスカリバーを見詰めるクリスタルディ猊下。

 

「一誠くん、彼女のことは私たちに任せて他の場所で戦いなさい。

私たちはキミのフォローをしに来たようなものだからね」

 

「え、そうなの?」

 

「次期兵藤家の当主になろうと思って参加した訳ではない。―――本当の敵を見据えるためにも

極東の地に馳せ参じてきたのだからね」

 

笑みを浮かべ、聖なるオーラを剣に纏わせる。あ、そうだと一誠はあること告げた。

 

「知っているともうけど、最後のエクスカリバーを持っている背広を着た男がいるから。

聖王剣コールブラントの使い手だ」

 

「・・・・・なるほど、参加した甲斐ががあったというものだ。情報提供ありがとう」

 

一誠はルーラーたちと別れ、別の場所へ向かった。

 

「懐かしい者たちとよく会う」

 

「だな。もしかすると―――」

 

「一誠みーつけた」

 

「さて、一誠という狩りの始まりだ」

 

「うん、こういう奴らとも再会するんだよな」

 

川神百代とエスデス。たった二人だけで参加をしている様子だ。

 

「直江たちは?」

 

「あいつらには荷が重すぎるからな。置いてきた。代わりに―――」

 

代わりに?首を傾げていると、背後から細い腕が回され、誰かに抱き絞められた。

 

「揚羽さんを連れてきた」

 

「会いたかったぞ、一誠」

 

後ろに振り返ると自分より身長がやや高い額に☓の傷があり長い銀髪を伸ばし、

鋭い眼つきの女性がいた。

 

「揚羽―――久し振りだな。見ない間に随分と綺麗になって」

 

「そう言うお前も逞しくなったではないか。お前の活躍の話は聞いている」

 

「そっか。ああ、英雄と再会したぞ。相変わらずテンションの高い奴だったよ」

 

「その話も聞いておる。百代とエスデスを倒したそうじゃないか?お前も強くなっているのだな」

 

「そうじゃないと目標や大切な人を守れないよ」

 

大切な人と聞いて揚羽は問うた。その中に自分は入っているのかと。

一誠は当たり前のように抱き絞められながら頷いたのだった。

 

「俺のこと好きだって言ってくれたし嬉しかった。揚羽も守るよ」

 

「―――年下の男に守られるほど弱くはないが、嬉しい自分がいるのは確かだな。

一誠、この場で言わせてもらう。私はお前のことが好きである」

 

「うん、俺もだぞ揚羽」

 

「ならば、この大会を勝て。そして晴れて我と結婚しようではないか」

 

言い終えた直後に一誠の唇に自分の唇を押し付けた揚羽。触れるだけのキス。

離れるととてつもないプレッシャーが感じ始める。

 

「揚羽さん、それは聞き捨てならないなぁ?」

 

「ああ、百代と同じ気持ちだ。誰が誰と結婚するんだって?」

 

百代とエスデスが殺気立ち、揚羽を睨んでいる。

睨まれている揚羽は「ふん」と鼻で笑い飛ばしこう言う。

 

「我と一誠だが?なに、正妻の座は我だが愛人の座はお前たちにくれてやる」

 

「「・・・・・」」

 

揚羽の挑発で場の空気が一気に重くなったところで、他の参加者たちが姿を現した。

 

「百代、今は本選に出場することを専念しようか」

 

「そうだな。話は予選が終えた後じっくりとしよう」

 

「賢明な判断だな。ここでは一誠を巡った争いすらできん」

 

え、争いってなんなのさ。迫ってくる他の参加者たちに飛び掛かった三人を見送って一誠は別の場所へと赴く。

 

―――○●○―――

 

予選が始まって早一時間。参加者たちも大分数を減らす。主に巨大なドラゴンによる

蹂躙の攻撃で。しかし、それ以上に混沌と化となっていた。

 

「デビルレーッド!」

 

「デビルピンク♪」

 

「デビルグリーン!」

 

「デビルブル~」

 

「デ、デビルイエロー・・・・・」

 

 

「五人揃って!」

 

 

「「「「「デビル戦隊デビレンジャー参上!冥界からやってきた我ら

     デビル戦隊がお前たちに天誅を下す!」」」」」

 

覆面の集団が建物の屋上でポーズをして他の参加者たちに攻撃を仕掛けていれば、

 

「アザゼルの言うことを聞くのは癪だが、こんな愉快な戦いができるのであれば」

 

遥か上空に漆黒の翼を生やしている堕天使たちが地上に光の槍を放ち続け、爆発させる。

 

「楽しませてもらおうではないか!ふはははっ!」

 

見覚えのある堕天使が高らかに笑って攻撃を繰り返す。

 

「・・・・・なんか、皆楽しそうに戦っているな」

 

何チームか戦闘をして倒してきた一誠。それでもまだまだ数がいるそうだ。

気と探知すれば見知った気を持つ参加者が大勢いる。

 

ゴウッ!

 

すると、巨大な火柱が遠くで発生した。あそこまで強力な攻撃を出来る者はそういない。

気になり、火柱が発生した場所へと赴いた時、一誠は口角を上げた。気配を殺して遥か

上空から巨大な火炎球を生み出すととあるチームに向かって投げ放った。

これが直撃すれば周囲は火の海と化するだろう。そのぐらいの魔力を籠めて放った

一誠の思いを裏切るように巨大な火炎球は何か凄い力で吸い込まれ徐々に小さくなり

最後は消失した。

 

「やっぱ、倒せないか」

 

チームの前に降り立つ。一誠が現れて警戒する相手チームだが、相手が誰だか分かると

目を丸くし、そして笑みを浮かべた。

 

「よぉ!久し振りじゃねぇか!」

 

「ああ、久し振りだな」

 

桜髪の少年と一誠は笑みを浮かべ再会の言葉を放った。

 

「イッセー!」

 

「フェアリーテイルのナツ・ドラグニル!」

 

二人の拳に炎が纏い、地を蹴って殴りかかった。

互いの炎の拳がぶつかり合い、その衝撃で建物が揺れる。

 

「数年振りだな!」

 

「相変わらずの気性だ。エルザにこっぴどく叱られているだろう?」

 

「グレイが悪いんだ!」

 

「おいこら、人聞きの悪いことを言ってんじゃねぇよ」

 

黒髪に上半身が裸の少年が不愉快そうに文句を言う。

他に金髪の少女や赤い髪の姉妹、顔に傷跡がある金髪の男に黒髪のツインテールの

小柄な少女、眼つきの悪い黒髪の少年もいる。

 

「見たことがない奴もいるけど後に仲間となった奴らか」

 

「そうだ。つえーぞ!」

 

「そうか、ちなみにボールは見つけたか?」

 

「いやー、まだまだなんだ。そっちは?」

 

「こっちも同じだ」と言った一誠。目的のものは中々見つからず、

どこにあるのか分からないでいる。

 

ドオオオオオオオオンッ!

 

建物が崩壊した音が聞こえた。激しい攻撃がどこかで繰り広げられているのだろう。

一誠の肩に乗っかっているオーフィス以外のクロウ・クルワッハたちは敵だらけの

バトルフィールドで大いに楽しんでいるのだろう。

 

そんな時、一誠とナツの間に飛来してきた物体が転がり落ちてきた。

 

           

         ( ・_・)    (3番)    (・_・ )

 

 

コロコロと三番と書かれたボールが一誠たちの前にだ。それを見て―――、

 

「「見つけたぁっ!」」

 

本選出場に必要なボールを目の前に飛び出す一誠とナツ。しかし、ボールは一つだけ。

相手より早く得るには方法はただ一つ。

 

「倒す!」

 

「同意だな!」

 

案の定、二人の考えは一致して―――。

 

「なんてな」

 

「はっ?」

 

ナツは一誠の身体をすり抜けて、一誠は地面に拳を叩きつけるとボールの真下に魔方陣が

出現したと思えば魔方陣の光に包まれてボールは消えた。

 

「なっ!ボールが無くなったぞ!?」

 

「イッセー、なにをした?」

 

驚く相手に一誠はポケットの中に手を突っ込んで何かを取り出した。手の中にあるものは

消えたはずのボールだった。

 

 

ピポパポーンっ!

 

 

その時、リズムある音が聞こえる。なんだと意識を向けたらアナウンスが流れだした。

 

『はい、皆さんご報告です!たったいま、三番のボールがドラゴンチームの手に収まりました!

ですが、それで本選に出場できるほど簡単ではありません!』

 

「え?」

 

『ボールを持っているチームにはさらにボールを収める石板に収めないと本選に出場は

できません!その上、ボールは光を放ち続けますので他のチームに知らされちゃいまーす!

ですから頑張って石板を見つけて本選に出場しちゃってください!』

 

アナウンスが聞こえなくなるとボールは極光の光を放ち、天まで昇る勢いの輝きを発する。

 

「・・・・・マジで?」

 

「うわ・・・・・最後まで気が抜けれないゲームね」

 

「と、言うことはそのボールの所有権はまだお前のじゃないってことだな」

 

「ならば、私たちは二手に分かれよう。ボールを強奪する者と石板を見つける者とな」

 

ナツのチームが動き出す。唖然と光を放つボールに見続けていると

 

『いたぞぉっ!』

 

ボールを持つ一誠を探していた他のチームがやってきた。その事実に頬をポリポリと掻いて

悩みだす。

 

「・・・・・んーだったら、オーフィス」

 

魔力の塊を具現化させ、その塊を極光の光を天まで伸ばさせる光の玉と化させた。

 

「これを持って二手に分かれよう。もしも石板を見つけたら上に向かって魔力を放ってくれ」

 

「ん、分かった」

 

オーフィスは地面に降り立って一誠から光の玉を受け取った。それを見守るナツたちを余所に

一誠は亜空間から一つの杖を取り出して呪文のようなものを呟くと『分裂』した。

光ってるのは一誠は一人だけ。だが、分裂した一誠自身も光を放ってオリジナルの一誠は

誰なのか混乱させた。

 

「わ、わからねぇーっ!?」

 

「って、散らばっちゃったわ!」

 

「追うしかないだろう!どれがボールを持ったイッセーなのかわからないけどよ!」

 

蜘蛛の子のように散らばる一誠たちに追いかけるナツたち。それは他のチームも同じで

複数の一誠が見掛けると目を丸くし、驚くもののアナウンスで聞いた光るボールを持って

いるから一誠も光っているという認識で誰彼構わず例え偽物だと分かってても追いかけ、

攻撃をするしかなかった。

 

 

 

 

 

「あいつ、考えたな」

 

「光を目印とするしかないので手当たり次第見つけて倒すしかありませんね」

 

「本物はその混乱に乗じて石板を見つけて本選出場の権利を得るってことか」

 

「まず間違いなく一誠ちゃんは勝ったね。実力と作戦勝ちで」

 

現実世界から観戦しているアザゼルたちは感嘆を漏らす。ドームの中央に展開している

巨大な魔方陣から四つの立体映像の画面に映る一誠たちの行動は世界中にも知れ渡っている。

一誠の分身たちは自由気ままに動いて他チームの意識をかく乱させる。

わざと姿を現してその場で足止めたり、自分を追い掛けさせ、自分が本物であることを

思わせる攻撃をする。

 

「さーて、他の三チームは誰が出場するんだろうな?」

 

アザゼルは面白可笑しそうに笑みを浮かべ、ゲームの状況を楽しむ。



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エピソード30

「うわー、あんなに兵藤一誠さんがいますね和樹さん」

 

「そうだね。彼のおかげで予選のルールも把握できたのだけど、

同じ顔が持つ人があそこまでいるとなるとちょっとした不気味さを感じるよ」

 

式森和樹も大会に参加していた。チームメンバーは神城龍牙、カリン、

数人の式森家の者たちと建物の屋上から地上を見下ろして眺めていた。

 

「僕たちはどうします?運よく『石板』を見つけたのは良いですが肝心の数字のボールは

見つかってませんよ?」

 

龍牙の視線の先には窪みが四つある無機質な石板。偶然にも空から見つけた和樹たちは

ボール探しよりも

石板を隠蔽工作してそれ以降はずっと静観の姿勢を貫いていた。

 

「うーん、探しに行ってもらっている仲間からの連絡もないってことは見つかってないんだよね。

ここで僕たちの技や力を披露したら後々大変だ」

 

「力を温存したいのだろう?分かっているが、私はあんまり納得できないぞ」

 

「カリンちゃんの性格から鑑みればそうだろうけどさ。ここは辛抱強く我慢しててくれ」

 

「だ・か・ら!『ちゃん』付けはするなって言ってるだろう!」

 

レイピアに風を纏わせ振りかざそうとするカリンを他のチームメンバーに取り押さえられ、

居場所が把握される危険から難を逃れた。カリンの様子を苦笑いを浮かべ、周囲を見渡す。

 

「しかし、邪龍や龍王が好き勝手に暴れて見ているこっちが冷や冷やします。

攻撃の矛先が、流れ弾が来ないことを願いますよ」

 

「頭が二つしかないアジ・ダハーカの生命力も凄いよ。誰かと戦っている様子だけど

きっと僕たちより強い参加者となんだろうね」

 

「できればそんな相手と戦いたくはないですが、世の中は甘くないのでそうはいかないでしょう」

 

「だねー」

 

相槌をする和樹。この大会に参加した理由は特にない。あるとすれば父、数馬からの指示だった。

 

―――兵藤・式森以外の者たちを勝たせるな。

 

それが今の和樹が戦う理由だった。だからこそ、石板を隠蔽工作をして成り行きを

見守っているのだった。屋上に認識障害の結界を張って、自分たちの様子を観戦している

現実世界のものたちから姿を隠してまでだ。

 

「和樹さま」

 

チームメンバーの一人が声を掛けてきた。前を向いたまま、

「なに?」と返事をしたら・・・・・。

 

「・・・・・この結界を難なく入り込んで普通にボールを石板に置いている者がいるんですが」

 

「・・・・・は?」

 

式森の結界を難なく入ってきた?嘘でしょ?信じられない思いを胸に抱きつつ石板の

方へ振り向けば―――。確かに普通に視線を自分たちへ向けている二人の男女がいた。

 

「・・・・・」

 

開いた口が塞がらなかった。一体いつの間にこの場所を突き止め障壁を突破したのか。

入り込んでくる際、侵入してくる者の探知だって施していた。

それをあっさり無視したかのように自分たちの背後に立っているのだから

有り得ないの一言で尽きてしまった。

 

「久し振りだなえっと、和樹くんだったな?」

 

「え、は、はい・・・・・」

 

「この結界、凄いけどちょっと複雑すぎて穴が一つか二つあったわよ?まぁ、この建物の

中から入り込んだ私たちに気付かなかったのも無理はないでしょうけどね」

 

―――建物の中から侵入した!?幻術、罠を至るところに仕掛けたはずだったんですけど!?

和樹の心情を察したのか、女性―――兵藤一香が微笑した。

 

「まだまだ若いわね。完璧だった仕掛けは更にその上の仕掛けができる者からすれば

子供の悪戯みたいなものよ?だから、あなたが気付かないぐらい

全ての魔法を解除させてもらったわ」

 

「んな・・・・・っ!?」

 

「さて、この結界も解かせてもらうわよ?」

 

小型の魔方陣を展開した一香は、軽くデコピンをして魔方陣を割った次の瞬間。

和樹が目が飛び出そうなぐらい

張った障壁が一瞬にして解除された。そして自分たちの姿が世間に再び晒される。

 

『おおっと!?これは何時の間にでしょうか!一番のボールを石板に置いたチームがいました!

そのチームの名は、ラブ&ピースチーム!兵藤誠選手と兵藤一香選手が先に本選出場の

権利を得ましたぁっ!』

 

アナウンスがバトルフィールド中に流れる。

 

「・・・・・式森家元当主・・・・・式森家の歴代当主の中でも逸脱した魔法の才能が

あったあなたがどうしてそこまでできるのですか・・・・・?」

 

「世界にはいろんな魔法の法則があるの。式森家の魔法だけじゃない。世界中に様々な

魔法の文明や知識、力が溢れかえっている。私はその全ての魔法を勉強して

本当の意味で私は一流の魔法使いになった。まだまだゼルレッチさんからしてみれば

赤子当然だろうけどね」

 

光に包まれる二人を見詰めていれば、真紅の長髪の少年が和樹の背後に現れた。

そして、擦れ違うように消え去る誠と一香を見ては声を掛けようとしたものの叶わなかった。

 

「まさか、父さんと母さんまで参加していたなんてな。こりゃハードな戦いになりそうだ」

 

「・・・・・頑張りなよ?」

 

「ああ」と相槌を打つ少年は手に持っている三番のボールを石板の窪みに収めれば、

アナウンスが流れ、ドラゴンチームの本選出場の権利を得たと知らされる。

光に包まれ始める少年は和樹に手を振って消え去った。

 

「運命って、わからないものだねぇ・・・・・」

 

―――○●○―――

 

「はっはっはっ、よー一誠。お前もやっぱり参加していやがったな」

 

「それはこっちの台詞だよ。父さんと母さんが参加するなんてどういうこと?」

 

「なーに。あのクソ親父が面白い催しをするもんだから参加しないわけにはいかないだろう?」

 

「なんか納得したよ」

 

「それよりも一誠。あなたのチームメンバーは全員ドラゴンだなんて非常識も良いところよ?良い意味で」

 

「それでも家族を傷つけるほどの実力者がいたよ。アジ・ダハーカの首を斬り飛ばすほどだったし」

 

今は自分の中で回復している最中だけどと漏らす。

 

「見てたぜ。あの爺さんはまだまだ実力は劣っちゃいない。今のお前じゃまだ勝てないよ」

 

「デスヨネ・・・・・・」

 

「あなたの人生はまだまだこれからだからその内にストラーダさんを倒せるわ」

 

「その間にもっと歳を取っているから勝っても勝った気がしないから」

 

誠と一香と会話する一誠。VIPルームにて予選が終わるまでここで待機中。オーフィスとクロウ・クルワッハ、人型の姿でいるティアマットや玉龍(ウーロン)、タンニーンも一緒だ。五人は何やら話しこんでいるが、あの光景は中々見られないだろう。

 

「さーて、俺たちは必ずお前たちと当たるだろう。その時は手加減なしで掛かって来い。あ、オーフィスはダメだからな?絶対に勝てないから」

 

「オーフィスは戦わせないよ。俺も気が引くし」

 

「すっかりマスコットの位置に定着してるわね。可愛いから許す!」

 

何に対して許すのかはこの際気にしない方面でいこう。予選はまだまだ終わってない様子。この部屋からでも予選の様子は見られる。一誠と関わりのある者同士の奮戦がしばしば見れる。

 

「残りのチーム、一体誰が勝ち残るか見物だ」

 

「一番有力なのはあの五人の覆面とストラーダさんが率いる教会チーム、それと―――」

 

指を折りつつ候補の名を挙げる一香を余所に扉からノック音が聞こえる。

一誠が対応すると扉の向こうから一人の巫女装飾を身に包んだ九本の狐の尾や獣耳を生やす少女とその付き人である雰囲気を醸し出す山伏姿で鼻の長い老人が入ってきた。

 

「あら、もしかして八坂さんのお子さんかしら?」

 

「はい、初めまして私は九尾の御大将の娘、九重と申します」

 

「へぇ、最後に会ったのはキミがまだまだ赤ちゃんの時だったから俺たちのことは覚えてないだろうに」

 

「母上からお二人の事を教えて下さいました。面白い人間たちであると笑って・・・・・」

 

九重はそう言うが、どこか暗い顔をしている。落ち込んでいるようでも見える。

 

「どうした?」

 

「・・・・・」

 

返事をせずダンマリと何かと葛藤しているようにも窺える。そんな九重に付き添っている男性が重々しく口を開いた。

 

「実はお願いがありまする」

 

「ん?お願い?天狗の長のあなたが私たちに?」

 

首を傾げ「天狗?」と疑問を浮かべる一誠を誠は説明口調で語る。

 

「あー一誠は知らなかったな。この老人は烏天狗という妖怪の一族なんだ。九尾一族と古くから親交が深い。神話体系の神々より接しやすかったよ。物腰が柔らかくて何時も歓迎してくれるし。お前のことも知ってるぞ?赤ちゃんの時の話だがな」

 

「では、そこの少年はお二人の・・・・・おお、ご立派になられましたな」

 

「あ、どうも。兵藤一誠です。人間のように見えるけど一応ドラゴンです」

 

「ドラゴン?いえ、並々ならぬ力を感じるのでまさしくその証拠でしょう。私は黒雨と申します。以後お見知りおきを」

 

ペコリとお辞儀をして挨拶を交わすと本題とばかり黒雨はその場で土下座をして必死に懇願した。

 

「お願いがございます!どうか、八坂姫を救ってくだされ!」

 

「・・・・・八坂さんに何か遭ったの?」

 

真剣な面持ちとなる一香。黒雨は深々と土下座をしたまま頭を動かす。肯定と。

 

「此度の大会は私たち妖怪も協力しております。代々兵藤家や式森家とは古くから親交があり次期当主を決める際には支援をしておりました。今回も支援をと動いていたところ、突然八坂姫がお姿を消したのです」

 

「姿を消した・・・・・自分の娘を残すようなヒトじゃないから・・・・・何者かに誘拐された?」

 

「はい、仰る通りです。姿をお見せにならない八坂姫を捜索していたところ同行していた警護の烏天狗を保護しました。発見した時は瀕死の状態で『何者かに襲撃され、攫われた』と死の間際に告げて」

 

「・・・・・ただの人間が烏天狗を破って尚且つ八坂さんを攫うなんて無理だ。彼女自身も強いからな。

だとすれば―――」

 

思い当たることは一つだけ。―――テロリスト。

 

「このことは他の勢力には?」

 

「・・・・・いえ、告げていません」

 

「まだ、協力態勢を敷いていないからか?」

 

黒雨は首を横に振って懐から紙を取り出した。その紙を受け取った誠の視界にはある文字が書かれていた。

 

『八坂姫を無事に返してもらいたくば他の勢力に告げるな。こちらの要求に応じれば八坂姫を返す』

 

「・・・・・なるほど、これじゃ言えないわな。しかし何を要求しようとしているんだ?」

 

顎に手をやって考える。その紙は一香と一誠の手にも渡り、同じように考え込む。

 

「それも警護の烏天狗の傍にありました。ですが、それ以上のことはまだ不明のまま・・・・・」

 

「打つ手もない上に手をこまねいているというわけか」

 

「お二人の参加を知った時は最後の希望と思いました。私たちはお二人のお力をお借りしたいのです。

 兵藤家と式森家には伝えれませぬ。大事な時期にこのような騒ぎをお伝えしたら大変な迷惑をおかけします」

 

「「いや、迷惑掛けて良いけど?」」

 

「えー・・・・・」

 

自分の家をなんだと思っているんだこの二人はと内心呆れる。

 

「アザゼルのおじさんたちには言えない事なんだよね?」

 

「そうだな。後手の俺たちが打って出るには先に手を出す相手の動きを知ってからじゃないと何もできない。その時を待つしか方法がないな」

 

「それに、彼女はこの地に流れる様々な気を総括してバランスを保つ重要な役目を背負っている。京都全域の気が乱れてないからまだ身柄は無事ってことぐらいしか分からないけど」

 

「・・・・・」

 

誰が八坂を攫ったのか一誠は検討がついている。いまでもあのバトルフィールドにいるであろう自分の剣を狙っている一人の少女を思い浮かべる。

 

「黒雨のお爺さん。予選で敗退した人が現実世界に戻ってくる専用の場所があるよね?」

 

「はい、もちろんありますがそれがなにか?」

 

「うん、その場所を案内してくれない?」

 

一誠のお願いに怪訝な顔つきとなるが、黒雨は一誠が求める場所へと案内した。

 

 

敗退した選手。それは怪我をしている者たちも含まれ、目的地に辿り着いた頃には

多くの医師が怪我人の治療を施す為、その場所で待機をしていた。治療室は割と直ぐ近くにあり、

邪魔にならないところで一誠はずっと待ち人が現れるのを静かに佇んで待っている。

と―――。一誠の目にとある少女を見つけた。深い傷を負って立つのもやっとだとばかりのその少女に懐から取り出した高級そうな瓶の蓋を開けて突き付けた。

 

「フェニックスの涙だ、飲め」

 

「・・・・・」

 

少女は怪訝な面持ちで一誠を見るが、フェニックスの涙を最終的に飲んで傷を癒やした。

 

「さて、お前に聞きたいことがあるんだけどいいか?」

 

「オレに何の用だ?」

 

声を殺して言った。

 

「モルドレッド。九尾の御大将の八坂さんを知ってるな?」

 

その質問にモルドレッドは無言で一誠を見詰める。その状態はしばらく続くかと思いきや、口に出さず首を縦に振って肯定した。

 

「なら、要求ってなんだ?」

 

その問いかけにモルドレッドは指を一誠に突き立てた。

 

「お前だ」

 

「・・・・・?」

 

その指をマジマジと見詰め、自分の背後に目を向けるとそこには誰もいない。そしてまたモルドレッドの指を見詰めて―――。

 

「俺?」

 

自分で自分を指す一誠だった。

 

―――○●○―――

 

その日の夜。予選は無事に終わり、本選は三日後と持ち越す。京都のとあるホテル、サーゼクスホテルにて本選進出を決めた一誠たちを祝うパーティが開催されていた。

 

「ユーストマ!秘蔵の酒、あのソーマの神酒を飲むぞー!」

 

「あの酒か!?くぅっ!気前のいいやつだぁ!」

 

「一誠くんはわらしのものなんれすー!」

 

「違うわ!一誠くんはわらしのー!」

 

「この二人、酔っ払っているな」

 

パーティは大盛り上がり、面々は楽しげに料理の味を堪能したり、一誠を巡る言い争いをしたり、

久し振りに再会する者同士が会話の花を咲かせる。

 

「・・・・・(さて、どうしたものか)」

 

その中で一誠だけは思案顔で壁に背を預けていた。テロリストの狙いは一誠であること。

理由は不明だが、八坂を取り戻さなければこの京都に異変が生じ、娘の九重は悲しみ続ける。

しかし、自分が姿を暗ませば家族たちも悲しむ。むぅ・・・・・と難しい顔をしているとリーラが声を掛けてきた。

 

「悩み事ですか?」

 

「うん、そんなところ」

 

「お話はお伺いしております。八坂さまが攫われたと」

 

誠と一香から聞いたのだろうか、リーラは一誠の肩に並んで声を殺して言葉を発する。

 

「一誠さま、必ず帰ってきてください」

 

「・・・・・っ!?」

 

「帰ってきて下されば、私は何も言いません」

 

今自分が悩んでいることを知っているかのようなリーラの言葉に目を丸くする。

実際に本当に知っているのか分からないが、隠し事できる相手ではない事を昔から知っている。

愛しいメイドを見詰めていると、耳元で囁かれた。

 

「私の元に帰ってきてください。でないと私は使える主がいないと生き甲斐がない女になり果ててしまいます」

 

そう言われては帰らないわけにはいかなくなった。一誠は無言で頷き、リーラの唇に自分の唇を重ねるとパーティ会場から姿を消した。ホテルから飛び出し、京都の夜を駆ける。市街地は賑やかに人々が笑みを浮かべ、文化の町を闊歩している。その様子を見ながらとある場所に立ち止まった。人気のない場所。別に指定された場所でもないが、ここなら誰かと出会うのには最適の場所だと思って一誠は静かに待った。

 

「・・・・・?」

 

しばらく待つとぬるりとした生温かい感触が感じた一誠は視線を下に落とせば霧が発生していた。

 

「(霧・・・・・?)」

 

こんな場所で霧など発生できる現象はない。故意的でもしないと霧は生まれない。

訝しい顔で霧を見ていると気配が次から次へと探知した。

目の前から足音が聞こえ、警戒して目を向けていれば霧の中から複数の人影が現れた。

 

「来ると信じていたよ。キミはそういう男だとは昔から知っていたからね」

 

語りかける声の主の女。一誠とは知り合いのように話しかけてくるその女の姿がハッキリした時は一誠の目が大きく見開いた。

 

「お前は・・・・・」

 

「こうして会うのは久し振りだね。だが、今の私の立場からすれば初対面だ。自己紹介をしよう」

 

そう言う女は学生服を着た黒髪の女性。学生服の上から漢服を羽織っていて肩にトントンと金色の槍を動かしながら口を開いた。

 

「私は英雄派の頭をやってる―――曹操だ」



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エピソード31

曹操―――。三国志で蜀の劉備、孫呉の孫権、魏の曹操と天下統一を目指していた有名な武将の名前。

三国志で有名なのは天下三分の計や赤壁の戦いだろう。一誠は世界で修行をしている中で曹操と出会い、一年という期間の中で共に過ごした仲でもあった。

 

「お前がテロリストのトップだったなんて・・・・・」

 

「驚いた?それともショックだった?いや、その両方だろうねキミは」

 

真っ直ぐ一誠に話しかける曹操。関係なんて関係ないように接する友人に何とも言い難い気分となる。

ヴァーリが自分はテロリストになったと告げられた時と同じ心情だった。

 

「八坂さんを攫ったのはなんでだ?」

 

「モルドレッドから聞いているのだろう?」

 

「それでも不思議でしょうがないんだよ。英雄派ってのはどんな組織なのかはアザゼルのおじさんから聞いている。俺もお前たちにとって関心する要素があるのは自覚しているが、『どうして俺なんだ』?」

 

疑問をぶつけた。ぶつけられた曹操は槍を弄びつつ一誠の疑問に答えた。

 

「一誠、今のキミはこの状況が幸せかい?」

 

「・・・・・曹操?」

 

「本来、人間しかいなかったはずのこの世界はある日を境にして人間ではない種族までもが表に出て当然のように人間と同じ道を歩むことになった。しかし人間に被害が及ぶ数が何倍にも増した」

 

「・・・・・」

 

「今の状況が幸せだと思うものもいれば不幸だと思うものもいる。天使は人間の味方であるイメージがあるから安心できるだろう。だけど、悪魔と堕天使は人間を糧とし堕落させる悪いイメージの種族だ。そんな人間に危害を加える者と傍にいると自分に何をしてくるのか怖くてしょうがないはずじゃないか?」

 

曹操の話をジッと耳を傾ける。言いたいことは何となくの程度で分かるし同意見な言葉も出てくる。

どうして自分の友人はこうも敵になっているケースがあるのか疑問を抱くものの、

人は時が経つつれに変わるものなんだなと改めて認識した。

 

「―――と。建前な話はここまでにしよう。そろそろ本題に入ろうか」

 

朗らかにそう言う曹操を臨戦態勢の構えをして一誠は言う。

 

「じゃあ、俺がここに来た理由は分かるよな?八坂さんを返してもらおうか」

 

「いいよ」

 

・・・・・え?テロリストにしてはアッサリ過ぎる応じに間抜けな顔をしてしまった。

一誠の顔を見て可笑しそうに小さく笑って曹操は言う。

 

「ふふっ。意外そうな顔をしているね。もしかして、断われると思った?」

 

「・・・・・うん」

 

「彼女はキミを誘き寄せるただの人質だ。キミが来ればもう必要はないからね。ゲオルグ」

 

制服にローブを羽織った魔法使い風の眼鏡を掛けた青年が曹操に頷き一つの魔方陣を展開した。

すると一誠が求めていた八坂と言う女性が檻と共に両手首に手錠で嵌められた姿で現れた。

 

「だが―――そう簡単に返すと思ったら大間違いだよ?」

 

「・・・・・やっぱり?」

 

「キミを呼んだ理由はとある実験をしたいという理由で私たちは九尾の御大将を攫ったんだ」

 

英雄派の背後に禍々しい黒い光が生じる。魔方陣?その光を見ていると―――。

 

ズォォォォォォォオオオオオオオオオオオオ・・・・・ッ。

 

立っている場所に激しい揺れが襲った。

あまりにもドス黒く禍々しいオーラが魔方陣から発生していく。

ゾッとするほどの寒気。魔方陣からかつてないほどのプレッシャーが放たれている。

 

「(なんだ、この心身が底冷えするような・・・・・まるで蛇に睨まれたカエルっていうか・・・・・!)」

 

顔中脂汗が止まらない。手の震えも止まりはしない。圧倒的なプレッシャーの前に一誠だけではなく。

 

『・・・・・なんなのだ・・・・・この気配は。ドラゴンにだけ向けられた

圧倒的なまでの悪意を感じるぞ』

 

『こいつは・・・・・かなりやべぇぞ・・・・・』

 

『危険だ・・・・・アレは・・・・・私でさえも危険だと感じる・・・・・っ!』

 

ゾラードたちが何かを感じたのか、声を震えていた。

―――こいつらが怯えている?最強の邪龍の一角たちでもか・・・・・?

剛毅の塊であり威風堂々としたこいつらを怯えさせるだけの存在って一体―――。

 

禍々しい魔方陣から巨大な何かが徐々に姿を現していく。

頭部、胴体・・・・・黒い羽、十字架・・・・・。

十字架に張り付けになっている何者か。身体を強烈なまでに締め上げていそうな拘束具。

 

それが体中にがんじがらめに付けられており、その拘束具にも不気味な文字が浮かんでいた。

目にも拘束具が付けられ、隙間から血涙が流れている。

 

「―――ッ!」

 

魔方陣から全身が現れた瞬間、一誠はその異様な存在に息を呑んだ。

 

下半身は・・・・・蛇だった。否、鱗がある。・・・・・東洋のドラゴンのような長細い姿、

上半身が堕天使、下半身がドラゴンであった。両手、尾、

全身のあらゆるところ―――黒い羽にも無数の極太の釘が

打ちこまれていて見ているだけで痛々しい状態だ。

 

・・・・・拘束具をつけられた磔の堕天使のドラゴンのように見える。

よほどのことをしでかした罪人のような磔の仕方。

まるで裁いた者の怨恨を体現したかのような―――。

 

『オオオオオオォォォォォォォォォォオオオオオオオオオォォォォォォォォオ・・・・・』

 

磔の罪人の口から、不気味な声が発せられてこの場一帯に響き渡る。牙むき出しの口からは

血と共に唾液が吐き出されていった。苦しみ、妬み、痛み、恨み、ありとあらゆる負の感情が

入り混じったかのような低く苦悶に満ちた声音だった。見ているだけで誰かの憎悪を存分に

ぶつけられた存在だって分かった。その堕天使ドラゴンの身体から黒い霧とオーラが

京都の町に広がっていく。

それらは一誠の肌にビリビリと突き刺さるような感覚とぬくりとしたものが

全身に広がっていく。

 

「曹操・・・・・『ソレ』は一体何だ・・・・・っ!?」

 

「流石の一誠もコレには恐怖するようだね。グレートレッドの一部の肉体とオーフィスの力で甦ったキミはドラゴンだ」

 

「だから、何だというんだ?」

 

「グレートレッドの肉体を持つキミならグレートレッドの代わりに実証してくれるだろう。コレの毒と呪いに耐えられるかどうかを」

 

―――まさか!

 

「友達だから、付き合ってくれるよね?」

 

曹操の言葉と同時に謎の堕天使のようなドラゴンのような磔されている者の口が開くと黒い何かが飛び出して一誠に伸びていく。

 

「っ」

 

防ぐ、いや、考えを切り替えてかわすと黒い物体が避ける一誠に追いかけてくる。

 

『主!ここなら俺の力が使える!』

 

―――いや、それよりもアレは一体何だ!?

 

『分からない!あのドラゴンなのか堕天使なのか分からない奴からドラゴンにだけ向ける悪意を放つ奴は初めて見る!』

 

『まるでドラゴンキラーみたいだな』

 

ドラゴンキラー。ドラゴンを殺す意味を指すそれは迫りくる謎の黒い物体とあの謎の一誠たちにとって分からない者から発するドラゴンに対する悪意を鑑みれば言い得て妙だった。もしも本当にそれだったら一誠の命は危ない。

その様子を見ていた曹操は―――。

 

「逃げてばかりでは実験にならない。ヘラクレス、レオナルド、ゲオルク。動きを封じてくれ」

 

と、仲間に告げていた。逃げ惑う一誠の心は焦心に駆られている。ここまで悪意を感じるのは生まれて初めての経験だ。ここから逃げたしたいが八坂が目の前にいると曹操のいやらしい作戦に奥歯を噛みしめる。

すると、目の前にミサイルのようなものが飛来してきた。亜空間から取り出したエクスカリバーで一閃して斬り捨てると異様と異形の飛ぶモンスターたちまでもがどこからともなく出現して一誠に迫る。

 

「しゃらくせぇっ!」

 

自身を駒のように回転して光の竜巻のようにモンスターを肉薄し切り刻んでいくと目の前に発生した霧に包まれて次に出た場所に視界を入れると

 

「しま―――っ!?」

 

謎のドラゴンの目と鼻の先に移動させられていたことに気付き、一誠は回避をしようとした。

 

ギュンッ!

 

黒い物体が目の前から飛び出してきて成す術もなく一誠はエクスカリバーを手放した瞬間に

呑みこまれた。そして―――喰らわれた。

 

―――○●○―――

 

「・・・・・ゲオルク?」

 

「待ってくれ、いま吐きださせる」

 

少し予想外なことが起きた。ドラゴンが一誠を食らってしまい腹の中に収まってしまった。

これでは実験どころではない。最悪、一誠は死んでしまっているかもしれない。

ゲオルクは少々焦りつつ魔方陣を展開して操作をする。

 

「・・・・・」

 

モルドレッドは穏やかではなかった。曹操の考えは肯定も否定もしない。ただ、これで死んでしまうようなことがあれば自分の目の前に突き刺さったエクスカリバーを奪うには

意味が無くなる。一誠との約束が果たせなくなるからだ。

 

「(できれば、死ぬんじゃないぞ・・・・・・)」

 

そう思ったその時だった―――。ゲームを応用した異空間に魔方陣が出現した。英雄派は敵であると悟ると警戒し、魔方陣から出現する者に身構える。姿を現したのは一組の男女だった。

最初は曹操たち、次は謎のドラゴン、そして周囲を見渡してから曹操に一言。

 

「俺たちの息子はどこにいる?」

 

「まさか、そのへんなドラゴンみたいなものが食べちゃったってわけじゃないわよね?」

 

ゾッッッッッ!!!!!

 

今度は英雄派たちがかつてないプレッシャーを感じて顔を強張らせ険しい表情と歪め出す。

曹操ですら緊張の面持ちで男性と女性に声を掛けた。

 

「これはお久しぶりです、兵藤誠殿と兵藤一香殿。どうやってここにきたのですか?」

 

「息子の専属メイドが一誠に内緒で発信器を付けていたんだ。だが、途中で反応が無くなってな。大方異空間にでも閉じ込められたんだろうと一香の力でこれたのさ」

 

「曹操ちゃん。久し振りの再会で嬉しいのだけれど、一誠と八坂さんを返してくれるよね?」

 

返して欲しいではなく返してくれると要求する一香。

 

「―――捕縛する。霧よッ!」

 

一香の返事はゲオルクの霧での拘束。二人を包みこもうと霧が集まるが―――。

 

「ゲオルク・ファウスト。メフィストと契約した初代ファウストの関わりある魔法使いね?

 うふふ―――甘いわよ」

 

自分たちを包みこむ霧をそっと撫でるように手を動かした途端に霧が霧散した。

 

「―――ッ!あの挙動だけで我が霧を・・・・・ッ!神滅具(ロンギヌス)の力を散らすか!」

 

「魔法使いが驚いちゃダメよ?―――相手に隙を作ったらそこで魔法使いは負けなのだから」

 

「っ!?」

 

自分の足元に魔方陣が展開されていたのをゲオルクは後に気が付き―――激しい爆発に巻き込まれた。

 

「・・・・・兵藤一香、いえ、元式森家当主だったあなたは歴代の当主の中で最高の魔法使いでしたね」

 

そう言う曹操だが顔を引き攣らせていた。威力を最小限したのだろうがゲオルクの足は治療しない限り立てれない状況に追い込まれた。

 

「まだまだ三流の魔法使いよ世界からしてみればね。一流の魔法使いはパラレルワールド、並行世界と通じることができるほどの力がないとね」

 

「なるほど、自分に手厳しいお方だ」

 

「さて?一誠はどこにいるのかな?早く吐いた方が身の為だぞー?」

 

朗らかに言うが顔が全然笑っていない。誠が近づく度に英雄派はプレッシャーに怖気づいて下がる一方だ。

しかし、果敢に誠へ突貫する巨躯の男がいた。

 

「ヘラクレス!お前では無理だ!」

 

制止する曹操だが、すでにヘラクレスは拳を誠の腹部に突き刺さる。刹那―――炸裂音と共に誠が木端微塵に爆ぜた。

 

「ハッハッハー!曹操、俺がたかが兵藤家の男にやられると思っちゃ困るぜ?見ろよ、俺の神器(セイクリッド・ギア)、『巨人の悪戯(バリアント・デトネイション)』で木端微塵にしてやったぜ?」

 

曹操に向けて不敵に発するヘラクレス。しかし、曹操の表情は深く険しくなる。

 

「相手は並の兵藤家だったらまだマシも、お前の相手をした男は―――人間の常識を遥かに超越した男なんだぞ!」

 

「あ?曹操、なにを言って―――」

 

ガシッ!

 

ヘラクレスの頭が目の前から掴まれた。

 

「攻撃と同時に相手を爆破させる能力のようだが・・・・・俺にはまだまだ不十分なほどの威力だったぞ坊主」

 

「―――っ!?」

 

木端微塵となっていたはずの誠が服がボロボロになった程度で無傷のまま立っていた。

その現実に英雄派は目を丸くする。

 

「拳の突き出し方もなっちゃいない」

 

「お、お前―――!?」

 

「パンチとはな。もっとこう、深く、抉り込むように突き出すんだ。出直してこい」

 

誠が左拳をヘラクレスの腹部に鋭く抉り込みつつ突き出した。そのたったの一撃でヘラクレスの意識は落ちて

無意識のまま味方の方まで吹っ飛び巻き込み、ようやく止まった。

 

「たったの一撃で・・・・・曹操、彼は本当に僕たちと同じ人間なのかい・・・・・?」

 

「ああ、人間だよ。私たちが目指す先に彼と彼女が立っている。ある意味、彼らが真の強さを持つ人間、英雄―――!」

 

槍を誠に向けて伸ばす曹操。だがしかし、アッサリとその鋭い槍の突きを人差し指で止めてしまう。

 

「この程度、初代孫悟空でも止められるぞ曹操ちゃん」

 

「化け物染みた強さは変わらないようですね・・・・・っ」

 

「言っておくけどな。俺と一香より強い神さまがいるんだぞ?この程度で驚かれちゃこの先生きてられないからな。俺たちは片足だけ人間を止めた領域に踏み込んだだけに過ぎないよ」

 

それでも自分たちを赤子当然のようにあしらう力があるのだから叶うわけがないと曹操は口に出すことはしなかった。

 

「さぁ、一誠を返してもらおうか?」

 

「・・・・・」

 

槍の切っ先をドラゴンに向ける。

 

「彼はあの腹の中です」

 

「そうか」

 

スタスタと磔のドラゴンのもとへと近づく。数メートルの距離で立ち止まると手を固く握り腕を深く引いて溜めるよう仕草をしてから一気に拳を前に突き放った。直接は触れていない。代わりに放たれた拳圧がドラゴンの腹部を圧迫させて深く凹ました。

 

『オオオオオオオォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ・・・・・オエッ』

 

ドラゴンの口から一誠が出てきた。―――だが、腕の中に収まった一誠に異変が起きていたる。

 

「・・・・・これは」

 

「誠、八坂さんを取り戻したわ」

 

一香の方は八坂を救出。直ぐに剣を手にして一香のもとへと寄った誠。

 

「今回はこのぐらいにしてやる。だが、次に出会った時はお前たちを殲滅するつもりだから覚悟してくれ」

 

それだけ言い残して一香の魔方陣でこの場からいなくなった。後に残された英雄派は緊張の糸が解かれたようにそんの場で腰を下ろした。

 

「生きた心地がしなかった・・・・・」

 

「私もだ。この最強の神滅具(ロンギヌス)を以ってしても勝てないだろうなあの二人には」

 

「だけど、実験は成功じゃないか?」

 

「ああ、そのようだな。コレは、『龍喰者(ドラゴンイーター)』は赤龍神帝に及ぼすだけの力がある。そして、ちゃっかりと力を奪わせてもらった」

 

「お前の古くからの友達のようだが、良かったのか?」

 

モルドレッドの問いに「ああ」と頷いた。

 

「彼が生きている限りはこの関係は永劫に続くさ」

 

制服の中から指環を通したネックレスが出てきた。曹操は昔のことを思い出し意味深に笑んだのだった。

そして味方に告げる。

 

「ついでにコレの血も大量に採取しておこう。もう二度とお目に掛かれないだろうからな」

 

―――○●○―――

 

一誠と八坂を救助したものの深刻な状況は変わりなかった。八坂は意識を取り戻し、娘の九重と再会を果たしたが・・・・・。

 

「イッセー・・・・・ドラゴンの力、全くない」

 

ポツリとオーフィスは眠っている一誠を一目で見た途端に漏らした。クロウ・クルワッハもその状態の一誠を見詰め、思考の海に潜っている。

 

「ど、どうして・・・・・?どうして一誠くんがこんな・・・・・」

 

「死んでないわよね?ねぇ、イッセー・・・・・死んでないわよね・・・・・?」

 

一誠を慕う面々は信じがたい気持と悲しみで涙目になって一誠を囲う。そこから少し離れたところでトップたちが真剣な表情で話し合っていた。

 

「英雄派がそのようなドラゴンみたいなものを?」

 

「ああ、アレは一体何なのか俺も初めて見る。だが、一誠から丸っきり覇気すら感じなくなってるから力を奪えるだけの能力があったんだろう」

 

「お前から聞いたそのドラゴンみたいな特徴は・・・・・いや、まさか」

 

アザゼルが厳しい目で口ごもる。

 

「知っているのか?」

 

「・・・・・俺もそうだがヤハウェ、アンタも知っているはずだ。一番な」

 

「・・・・・」

 

沈黙を貫く『聖書の神』ヤハウェ。アザゼルとヤハウェに向けられる追及の視線はリアスたちからも向けられていることに察し、口を開いた。

 

「そのドラゴンは冥府のコキュートスに封じられていた代物に違いないでしょう」

 

「冥府・・・・・ハーデスのところにか?」

 

「ええ、そしてなによりもそのドラゴンは私と関わりがあります。アダムとイヴに知恵の実を食べさせた者なのですからね」

 

『―――っ!?』

 

あのドラゴンがアダムとイヴに禁断の果実を食べさせることに仕向けた張本人だったとは誠と一香は目を丸くした。

 

「私は彼に悪意と呪いを掛け、エデンの園から追放、これをコキュートスに封じたのです。ハーデスに管理を任せていたのですが・・・・・どうやらハーデスはテロリストと何らかの交渉の末で一時的に召喚を許したのかもしれません」

 

「それにアレはヤハウェの悪意、毒、呪いをその身に全て受けた存在だ。極度の蛇―――ドラゴン嫌いになったヤハウェは神聖であるはずの神の悪意は本来あり得ない。ゆえにそれだけの猛毒。ドラゴン以外にも影響が出る上、

ドラゴンを絶滅しかねない理由から、あいつにかけられた神の呪いは間違いなく究極の龍殺し(ドラゴンスレイヤー)。その凶悪な龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の腹ン中にいたとなると・・・・・」

 

言い辛そうに口籠る。だが、その続きを言ってくれと言う視線を感じ取りアザゼルは重々しく言った。

 

「もう死んでいるだろう」

 

「「っ・・・・・」」

 

―――ダダダダダダッ!

 

不意に足音が聞こえてきた。真っ直ぐこちらに向かってくるそんな足音はバンッ!と扉が開け放たれたと同時に止まり、入ってくる二人の少女が。

 

「いっくん!?」

 

「一誠さま!」

 

どちらも黒い髪の少女だった。話を聞いてここまで駆けつけたのだろう。二人は一誠のところに寄って―――嗚咽を漏らした。

 

「悠璃ちゃんと楼羅ちゃん・・・・・だとすれば、ここに連れてきたのはアンタかクソ親父」

 

扉に視線を向けると兵藤家現当主の兵藤源氏と兵藤羅輝、その他にも式森家現当主の式森数馬や式森七海、和樹、八坂、九重が現れる。

 

「八坂殿から話は聞いた」

 

「・・・・・だから何だって言うんだ。今さらアンタらがどうこうできる状況じゃなくなっているんだぞ。謝りに来たって言うんならさっさと帰ってくれ。今の俺はハッキリ言って感情が抑えきれないでいるんだからな」

 

どこまでも低い声音で実の父親にそう言う。

 

「いつもアンタはそうだ。後から来てよぉ・・・・・やることも成すことも全部遅いんだ。仕方のないことだってあったが、結局はアンタは何も変わっちゃいない。俺もそんなところもそっくりだったなんてな・・・・・」

 

俺も人のことは言えないと自嘲的な笑みを浮かべる。

 

「まだ十数年しか生きていないっていうのに神の悪意と毒、呪いを一身に浴びたんだ。見ろよ今の一誠を。全然気すら感じない魔力だってない。―――死んでいるんだってよ」

 

「・・・・・」

 

「見ろよあの子たちを。全員、一誠に慕っている子たちだ。中には一誠に助けられた者もいる。これから幸せになって貰いたかったのに・・・・・あいつが、一誠があんなんじゃ・・・・・逆に悲しませるだけだろうが」

 

誠も涙を流し始める。親として助けるのに駆けつけたのは既に遅かった。親として失格だと

漏らし続け、重くなった雰囲気と哀愁、誰もが悲しみに暮れていた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたが私の中に来るなんて驚いたわ。ええ、あなたもそうでしょう。・・・・・分かってるわ。あなたの望みを叶えましょう。私たちは一心同体なのだからね・・・・・ふふっ」



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エピソード32

三日後、本選が始まる当日となった。本選に出場するチームは四チーム。

この四チームの中でたったの一チームが優勝者として一人だけ次期兵藤家当主になれる。

身分も種族も関係ない。勝ち残った者は勝者なのだから。

 

『さぁ、次期兵藤家当主選抜大会も大詰めだぁ!皆さま、長らくお待たせしました!

いよいよ本選が始まります!』

 

観客たちは大盛り上がり。待望の瞬間が待ち遠しいと歓声や怒号を発する。大気が震え、

ドームの外まで轟き、全世界がこの瞬間をラジオやテレビ、インターネットの生放送で

見聞しようとしている。

 

『遠回しな発言はこの際なしとします!私としても早くどのチームが優勝するのか

楽しみで仕方がありません!それではこの本選に出場するチームの名を

もう一度お知らせしましょう!まずはこのチーム!』

 

ドームの中央に設けてある四方のリング場の上に巨大な魔方陣から立体映像が映し出される。

 

『参加者はたったの二人!しかもなんと夫婦です!夫婦愛は最強ということなのでしょうか

ラブ&ピースチームです!続いては十人中八人がドラゴンと言うイレギュラーなチームの

名前はドラゴンチーム!今大会を当然のように勝ち残った参加者は十二人の

兵藤家チーム!そして最後のチームは出場権をもぎ取った参加者は三人の川神チームです!』

 

各チームの名前と参加者の人数を告げ、進行を続ける。

 

『では、トーナメントの発表です!既に運営側が決めたトーナメントをご覧ください!』

 

シード ドラゴンチーム 

 

一回戦 川神チーム VS ラブ&ピースチーム

 

二回戦 ???チーム VS 兵藤家チーム

 

『なお、ドラゴンチームはシードという配置になっておりますその理由はですね、

運営側が分かり切った勝敗は見ても観客の皆さまには満足してもらうことはできないと

判断し、逆にドラゴンを勝ってこそ次期兵藤家当主になる者が相応しいとお考えになられた

結果なのです。無論、勝敗の条件はこの四方のリングの外に出たら即敗北!

またギブアップ宣言しても即敗北!勝利者は相手を敗者にすることこそが

絶対の勝利条件でございます!』

 

司会はそこまで言い終えると決めポーズを取って言い放った。

 

『それでは本選を本当に始めたいと思います!一回戦の出場チームはリングに集まってください!』

 

 

 

「ですって・・・・・誠」

 

「ああ・・・・・もう正直この大会はどうでもよくなっているがな」

 

「・・・・・そうね」

 

 

 

「一誠の両親と勝負か・・・・・」

 

「・・・・・落ち込んでいる暇はない、ここは全力で挑むべきだ」

 

「・・・・・死ぬなら、私の手で殺したかった」

 

「「お前は何を言っているんだ!?」」

 

 

 

「アイツが見掛けない?おい、見失ったんじゃないだろうな!?(携帯で連絡中)」

 

「ねぇ、またアイツなんか悪だくみをしてますわよ?」

 

「・・・・・放っておけ、俺たちの中で誰が当主になれるのかこの大会で決まるんだ」

 

「無理でしょ。当主、お冠だったもの。どこかの誰かさんたちのせいでね」

 

「本当だぜ、俺たちもあんな連中と一緒にされちゃ遺憾極まりない」

 

「ああ、その通りだ。俺たちは他の奴らと違うことを当主に証明してやらないとダメだ」

 

「その為には勝たないといけない。相手が誰であってもな」

 

 

 

リング場に誠たちが姿を現す。勝利条件はリング外に追い出すか相手を戦闘不能状態にする。

それまでは試合は続行。観客たちに被害が及ばないよう強固な結界を張って安全を確保。

―――その中で、大勢の観客たちに見守られる中で己の力を見せ付ける戦いが始まろうとしている。

 

「一誠の友達か・・・・・やるからには手加減はしないぞ」

 

「恐縮です。私たちはあなたたちを殺す気でいきます」

 

「いい覚悟ね。そうじゃないとあっという間に倒しちゃうわよ」

 

「簡単には負けはしない」

 

「あいつの最後の手向けとして・・・・・!」

 

そんなこんなで誠たちの戦いの火蓋は切って落とされた。一言で言おう。

その戦いはハリケーンのようだった。己の肉体で戦う誠と百代、揚羽の攻防の隣で

氷を操るエスデスに対し魔法で駆逐せんと放つ一香。もうこれが決勝戦でいいんじゃね?

とほどの凄まじい戦いぶりを見せ付けられては興奮しないはずがないのだ。

 

『壮絶!激しい!怒涛!何と目が離せない戦いを繰り広げるのでしょうか!

堕天使の総督アザゼルさん!?』

 

『いやー、人間の身であれほどの戦いを見せる奴は滅多にいないからな。見ていて壮観だぜ』

 

『人数は川神チームの方が一人多いですが、そんな物は些細だとばかりの戦いですね

ユーストマさん!』

 

『愚直なまでの戦闘経験がものを言うんだ。あの兵藤誠と兵藤一香はな、

冥界や神話体系の者たちと関わりを持ったり、時には神と戦ったりしているそうだからな』

 

『ほ、本当にそうなのですか?とても信じられません』

 

『彼らの友達は神話体系の神々や私たち五大魔王といった者たちが主なんだよ。

ほら、あそこで応援しているオリュンポスのゼウスとポセイドン、

アースガルズの北欧の主神、オーディンもそうなのだよ』

 

『・・・・・(唖然)』

 

司会のその反応に面白そうに微笑む。そして、誠たちの戦いも終わりを迎える。

 

ドドドドドドドドドドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

空中からの爆撃でリングがほぼ吹っ飛び、百代たちはリング外に吹き飛ばされ結果は

誠と一香のチームの勝利となった。

 

「うん、一部だけリングを残して後はふっ飛ばせば必然的に俺たちの勝利だ。せこい勝利だけどよ」

 

「制空権を得た者ができる特権ね」

 

何気にその一部のリング場はハートマークだったりする。

新たなリング場が設置されるまで時間との間が空く。選手控室に赴く二人の背後では

リングの撤去作業に取り掛かっているスタッフがワラワラと集まる。

その頃外では大勢のヒトでごった返ししている。

ドームの外からでも巨大なプラズマテレビが備えられて人の歩む道を阻まないように

その場で腰を下ろして座っている面々がいる。その中、顔を晒し身体はすっぽりと覆う

黒いローブを身に包んでいる少女が意味深にテレビへ視線を向けている。

 

「あなたの予想通り、あの二人が勝ったそうね」

 

一人で誰かと話しているように呟く少女。すると、急に笑みを浮かべた。

 

「そうね。行きましょうか」

 

フードを頭に被るとフッと少女の姿が透明になったように消えた。

 

そして、リングの換えが終わると試合は始まる。

ラブ&ピースチーム VS 兵藤家チームの戦いが。

 

「よー、誠輝。見ない間に随分と成長したみたいだな」

 

「でも、親に勝てるとは思ってないわよね?」

 

「いや、俺は強くなったんだ。二人に勝ってあいつにも勝って俺が強いんだって証明してやるんだ!」

 

数は六倍の差。一見、誠と一香が不利な試合になるだろうと思う者もいるだろうが

二人にとっては些細なこと。

 

「父さん、母さん。俺は赤龍帝だ!」

 

試合開始宣言と同時に誠輝は赤いオーラに包まれてドラゴンを模した赤い全身鎧の

出で立ちとなった。

 

『あーっと!兵藤家チームの兵藤誠輝が赤い鎧を纏ったー!』

 

『二天龍の「赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)」ドライグを宿している現赤龍帝だな』

 

『な、なんとそうでしたか!では、白龍皇は?』

 

『予選で敗退している。あいつはただ強者と戦いたかっただけのようだったな。

現在の赤龍帝と白龍皇の強さはほぼ互角だろう』

 

そう説明したアザゼルの顔はどこかつまらなさそうだった。司会は源氏にも話を振る。

 

『彼が兵藤家の次期当主となれば兵藤家は安泰ですね。現当主の兵藤源氏さん』

 

『いや、戦いとは最後まで見ないと分からないものだ。結果は終わってからではないと

決めつけることはできない』

 

リングでは二人に飛び掛かる兵藤家チーム。

 

「一香」

 

「わかったわ」

 

誠の意図を察しリングの縁まで後退した一香。そして一人で戦う意思の誠に兵藤家チームは

怪訝な顔となって口を開いた。

 

「一人で?おい、おっさん!一人で俺たちに敵うと思うなよ!」

 

「俺たち全員は神器(セイクリッド・ギア)の所有者だからな!」

 

「お覚悟を!」

 

勝利に確信、警戒して仲間とコンビネーション。そんな思いを胸に抱いて誠に攻撃を仕掛けた。

 

「はぁ・・・・・」

 

誠はポケットに手を突っこんだまま、自ら十二人の相手に向かう。

 

「お前ら、調子に乗り過ぎだ」

 

トン、と軽くジャンプをして―――足を横薙ぎに振るった瞬間だった。風が吹き上がり、

激しい竜巻が発生した。

 

「なっ―――!?」

 

竜巻に巻き込まれ、兵藤家チームは絶句する。足を薙ぎ払っただけで

ここまでの規模の竜巻を起こせるなんて信じがたい気持だった。

しかし突然、竜巻が治まったと思えば、数多の光の弾丸が迫っていた。

空中では身動きが取れない。

防御の構えをするが、気の弾丸の一つ一つは鋭く、そして重く兵藤家チームに何度も

直撃してリングの外へと叩きだした。

 

「俺や一香、一誠と違って殻に閉じ籠っている兵藤とは違うんだ。覚えておけ」

 

残りは一人とリングに戻っていた誠輝の前に飛び降りた。

 

「どうだ、父さんは強いだろー?これでもまだ本気すら出していないんだぜ?」

 

「・・・・・」

 

「さて、お前もあっさり負かして次のステージに行かせてもらおう。ドラゴンと戦いたいからな」

 

朗らかに誠は言う。アッサリと自分を残して負けた味方よりも赤龍帝であるのに

この敗北感は何だという思いが誠輝の思考を鈍らせる。次の瞬間。

 

ドサッ

 

「・・・・・あ?」

 

自分は空を見上げていた格好になっていた。どうして自分がこんなことしているのかと

疑問を抱いた時には―――。

 

「勝者!ラブ&ピース!」

 

誠と一香の勝利宣言が下されていた。後に、『赤龍帝が一蹴され敗北』という新聞の

記事が載せられるのは遠くない未来だった。

 

―――○●○―――

 

兵藤家チームは落ち込んだまま会場からいなくなった。その様子を見送る誠と一香の耳に

司会の声が届く。会場を盛り上がらせ、いよいよ決勝戦が始まる。

今まで戦ってきたチームより次元が違うというほど次の相手はドラゴン。

観客たちは押さえきれない興奮を胸に抱いて次の試合を待ち遠しい気持ちで一杯だった。

 

『さぁ!ドラゴンチームとラブ&ピースの試合を始めます!ドラゴンチームの皆さん

おいでなさってください!』

 

歓声が湧き、選手入場の催促をする。入場口の向こうからぞろぞろとオーフィス、

クロウ・クルワッハ、ティアマット、タンニーン、玉龍(ウーロン)が姿を現す。が―――。

 

『おや?他の選手が・・・・・』

 

数が足りない。いるはずの選手がいない。そう認識した司会は首を捻った。

会場も不思議そうにざわめき始める。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

一誠のいないドラゴンチーム。士気は全くない。ただただ無言で誠と一香に見詰めるばかりだった。

誠はドラゴンチームを棄権させるが為、司会に声を掛けようと口を開いた。

 

「司会の人、ドラゴンチームの兵藤一誠は―――」

 

その時だった。虚空から黒と紫が入り乱れたロングストレートの少女がフードを

外しながら姿を現した。

 

「こんにちは、元兵藤家当主の兵藤誠と元式森家当主の兵藤一香」

 

「女の子?あなた、誰かしら?」

 

「お気にせず、この場にいたはずのとある子の代わりにあなたたちと戦う為に馳せ参じてまいりにきただけなので」

 

意味深に発する少女だった。会場は突然現れた少女に怪訝な気持ちを抱いている。

 

「この大会はあなたたちの勝利となっても構わないわ。

そうね、エキビションマッチの形でどうかしら?三つ巴の戦いをしてね」

 

不敵に笑む少女の提案に司会は源氏に求める視線を向けると、

 

『いいだろう。俺が許す』

 

『よ、よろしいのですか?』

 

『あの乱入者の登場でドラゴンチームは試合の参加権利はなくなったのだからな。

最後の余興として楽しませてもらおう』

 

大胆不敵な物言いを発する源氏に決勝戦は急遽エキビションマッチを行うことに決定した。

 

「だ、そうよ?」

 

「・・・・・お前は何者なんだ?テロリストか?」

 

可笑しな質問だと少女は口元を緩ます。

 

「テロリストだったらこの場所に堂々と現れないでしょ?私がこの場に来た理由は、

あなたたち二人と戦うこと」

 

「・・・・・その理由は?」

 

「戦えば分かるわ」と不敵に告げた時、

 

『始めろ』

 

『え、は、はいっ。では、急遽エキビションマッチを始めます。試合、開始っ!』

 

源氏に催促される形で試合開始宣言を告げたと同時にオーフィス以外の面々が動き出す。

 

「うふふ、楽しくなりそうだわ」

 

「随分と余裕だな?」

 

ティアマットが口先に魔方陣を展開すると、無数の青白い魔力弾を放った。

少女は避ける素振りもせず、敢えてその攻撃を受けた。が、信じがたいことに

ぶつかる前に吸い込まれるようにティアマットの魔力弾は消失した。

 

「なんだ?」

 

「どけティアマット!ヤッハー!」

 

大はしゃぎな玉龍(ウーロン)。クロウ・クルワッハは一香、タンニーンは誠に攻撃を仕掛けている中で

少女に飛び膝蹴りを放った。

 

「五大龍王の一角のドラゴン、若手の龍王だったわね」

 

身体を横にずらし躱しながら確認するように発した少女の横からティアマットが

また魔力弾を放った。しかし、またしても吸い込まれるように消失した。

 

「魔力を吸い取る力か。厄介な能力を持っている」

 

「先祖代々から受け継いでいる自慢の能力よ。ドラゴンだって相手にできる」

 

「だったら相手になってもらおうじゃん!」

 

両腕を構えて低い態勢で肉薄する。玉龍(ウーロン)に手を突き出すと魔力弾を放ったものの

容易く弾かれて勢いよく両腕を前に突き出された。少女は笑みを浮かべ、

人差し指をスッと玉龍(ウーロン)の額に差した。

 

「・・・・・あ、れ」

 

次の瞬間、ティアマットは目を丸くした。若手とはいえ五大龍王の一角を担うドラゴン、

西海龍童(ミスチバス・ドラゴン)玉龍(ウーロン)が少女の前に倒れたのだから。

 

「お前・・・・・なにをした」

 

「別に大したことじゃないわ。ただ、力を全て奪って同時に眠らせたわ。

相手が五大龍王だから少し緊張するわ」

 

肩を竦め、倒れた人型ドラゴンをリングの外に放り投げた。

 

「ただの人間が、龍王クラスのドラゴンをこうもあっさり破ることはできない。

ただの人間ではないな」

 

ティアマットは警戒した。下手すれば自分も二の舞になると。だからこそ、

背中に翼を生やして宙に浮き、上空からの魔力弾を敵味方関係なく放った。

 

「魔力弾合戦をしましょうか」

 

少女も魔力弾を放った。一つ一つがティアマットの魔力弾と相殺し、観客の目をくぎ付けにする。

 

「手強いな・・・・・」

 

「そう?なら、もっと―――放ちましょうか」

 

いきなり少女が放つ魔力弾が極太のビームと変わってティアマットを肉薄する。

それにはもっと上昇して回避せざるを得なかった。少女は不敵に口の端を吊り上げて―――、

 

「やるやる♪じゃあ、これはどうかしら」

 

空で警戒するティアマットは拳を構えた。

どんな事でも対応する自信があると身体から醸し出し、

身構えていると少女が亜空間から取り出したとある五つの切っ先がある槍。

それを目にした誠は焦心に駆られてティアマットに叫んだ。

 

「その槍は・・・・・まずい、ティアマット!彼女の槍を投げさせるな!」

 

「なに?」

 

「―――ブリューナク!」

 

投げ放たれた槍が稲妻の如く、避けようとする最強の五大龍王のドラゴンの身体を貫いた。

 

「・・・・・っ!?」

 

腹にポッカリと開いた穴。目を最大に見開いて、そのままリング外に落ちた。

 

「ティアマットが、負けただと?」

 

「次はあなたたちよ」

 

槍は意志を持っているかのように今度はクロウ・クルワッハへ襲いかかった。

稲妻のように飛来してくる槍から避け続ける最強の邪龍を余所に誠は叫ぶ。

 

「その槍をどこで手に入れた!」

 

「借りたのよ」

 

「誰にだ!」

 

少女に飛び出す。その勢いは留まらずあっという間に懐に潜り込んで

華奢な体の少女の首を掴んでリングに叩きつける感じで押し倒した。

 

「答えろ、あの槍はどこでどうやって借りたというんだ」

 

鬼気迫る誠に少女は自分の首を掴んでいる手を力強く握りしめて言った。

 

「私と同じ同族の血を流す子からよ」

 

少女の全身が闇に包まれだす。闇は形となり両腕に黒い籠手と装着、

顔に入れ墨のようなものが浮かび、

三対の黒い紋様状の翼が背中から生え出し、龍のような黒い尾も腰から伸びだした。

 

「っ!?」

 

誠は大きく目を張った。身体から力が奪われる感覚に襲われ、

何時しか立つことがままらず、立ち上がった少女の前で跪いた。

 

「誠!?」

 

「なんだ、あの姿は・・・・・っ」

 

一香とタンニーンが思わず戦いを止めて少女の姿を見詰める。

会場からの意味深な視線を一身に浴びて、

ブリューナクを手元に戻した少女は両腕を広げてこう言った。

 

「さぁ、全力でかかってきなさい。それがこの子の願いなのだから」

 

「・・・・・誰の事を言ってるの?」

 

「あら、まだ気付かない?オーフィスとかクロウ・クルワッハ辺りなら気付いているのかと思ったけど・・・・・」

 

龍神と最強の邪龍に意味深な視線をくるが、当の二人は首を傾げるだけだった。

 

「そう・・・・・本当に察しないのね。いえ、私が故意で気配を隠しているからわからないのかしらね」

 

「あなた、なにを言いたいの。そして何者なのか教えてもらえないかしら?」

 

説明を乞われて少女は頃合いかしらと内心思い、ブリューナクを亜空間に仕舞ってから発した。

 

「・・・・・遥か昔、とある魔人が一人の人間と結ばれ生まれたその双子が後に兵藤、式森と名乗るようになったあなたたちの遠い親戚ってところかしら」

 

「魔人・・・・・?」

 

「あら、知らなかったの?意外ね、当主だったら知っているのかと思ったのだけれど。ああ、もしかして闇に葬られた事実なのかしら?」

 

ザワッ・・・・・!

 

会場が一気にざわめき始めた。そんな事実は聞いたことがないと兵藤家と式森家の事に関する知識を得ている者からすれば、信じられない話だった。

 

「・・・・・私たちの血にその魔人の血が流れていると言うの?」

 

「血と言うより力ね。血の方は殆ど無くなっているはずよ。人間と魔人のハーフがまた人間と結ばれ続ければ段々と血が薄くなって最後はなくなるもの」

 

「その姿は魔人の姿だって言うの・・・・・」

 

「これは力を解放した姿よ。魔人は人みたいな姿で私みたいに生きているわ」

 

そう、笑みを浮かべた少女の前に源氏が観客席から跳んで現れた。

 

「口を閉ざせ。それ以上は兵藤家と式森家にとって禁忌に触れる」

 

「・・・・・なるほど、あなたは知っているのね。でも、もう遅いわ。今の会話、世界中に知れ渡ったもの」

 

「貴様・・・・・っ」

 

源氏から異様なプレッシャーを感じ始め、少女は浮かべていた笑みを消して凜とした声で語った。

 

「とある幼い子供が同族の者に暴力を振るわれ続けました」

 

「っ!」

 

「子供は泣きました。何度も何度も、実の兄ですら暴力を振るわれ、外でも家でも子供にとっては嫌な場所でしかありませんでした」

 

おとぎ話を口にして読むように少女は口を動かし続ける

 

「それでも、子供には救いがありました。お友達、メイド、お父さんとお母さんの愛情。それを縋るように子供は毎日毎日生きてきました。ですがとある日のこと。子供は実の兄にお腹をメイドが愛用していた包丁で刺されて一人寂しく死んでしまいました」

 

「あなた、どうして、それを・・・・・っ!」

 

一香が声を震わせ動揺する。一部の者しか知らない嫌な事実を始めで出会った少女が知ったかぶりではなく、本当にその場にいたかのような口調で言うのだから。

 

「子供は最強のドラゴンと不動のドラゴンの力によってイレギュラーなドラゴンとして甦り、

そして子供は自分を苛めた同族に復讐を誓って世界中で修行をすることになりました。

これが子供の英雄譚。いえ冒険譚と言った方がピッタリかしら?―――兵藤家は嫌な一族ね。弱いと言うだけ大人も子供も関係なくその弱かった子供を虐めていたのだから。知っていたのに手を差し伸べようともしなかった現当主の兵藤源氏さん?」

 

「・・・・・」

 

源氏は無言で少女が言い続けるのを見守るだけだった。肯定も否定もしない。

 

「そして可哀想に。子供はテロリストによって殺された。九尾の御大将を救う為に自分の命を引き換えに、ね」

 

「・・・・・っ」

 

改めて言われると心に凄まじい痛みを覚える。息子が死んで悲しまない親はいないのだ。少女は跪いている誠にも一瞥して一香に視線を戻した。

 

「お話はここまでにして戦いましょうか。今度は私のとっておきの力を使ってね」

 

少女はそう言った直後、膨大な真紅色の魔力のオーラに包まれだし

 

「―――禁手化(バランス・ブレイク)!」

 

力強く発した途端に魔力は鎧へと造形していき、一香たちを驚かせる。

 

「その鎧は・・・・・っ」

 

「この姿の名前は・・・・・『真なる赤魔龍神帝(アポカリュプス・グレートカオス・ドラゴン)』ってちょっとの間だけそう呼んでくれるかしら?意味は・・・・・分かるわよね?」

 

頭部に鋭利な真紅の角を生やす身体の各部分に金色の宝玉がある龍を模した真紅の全身鎧。

 

『―――っ!?』

 

その鎧はこの世界で唯一纏える者がいた。しかし、その者は少女の言った通り亡くなっている。

 

なのになぜ、どうして、有り得ない、信じられない、理解できないと疑問や疑念が湧きあがるばかりだった。

 

何かの見間違いだと思いたい。しかし、自分が知っている真紅の鎧に黒い刺青のような紋様が全身に浮かんでいる似て非なるものであることを認識できるものの―――。

 

「あなた、その力をどこで手に入れた・・・・・ッ」

 

怒気が孕んだ声、一香から迸る魔力で風が吹き上がる。

 

「それは、私の息子の力。なのにどうしてあなたがその力を振るえるのっ」

 

「知りたいなら力づくで―――」

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

クロウ・クルワッハが少女の言葉を遮ってまで迫った。突き出される拳は

真紅の鎧に衝撃を与えた。

 

「イッセーを返せ」

 

「っ、反則でしょ」

 

最強の龍神も動きだした。少女の目の前に小さな手を開いたオーフィスがいて魔力の波動を放って少女に攻撃した。

 

「でも、グレートレッドに破れたあなたの攻撃をなんとか耐えるぐらいの強度はあるみたいね。冷や冷やするわ」

 

吹っ飛ばされながらも鎧は無傷であることを確認し、体勢を立て直して三人から距離を置いた。

 

「それ、どうした」

 

「返答次第ではタダじゃ済まさない」

 

「・・・・・でも、危険なのは変わりないみたいね」

 

鎧の中でうっすらと冷や汗を浮かばせる少女。すると、リングに続々と少年少女、大人までもが現れた。

 

「悪いけど、この大会は中止にさせてもらうよ源氏殿?」

 

「魔人・・・・・あの厄介な一族の生き残りが真龍の力を持っているからな」

 

「私たちの手で鎮圧させます」

 

「三大勢力のトップがたかが魔人の一人相手に警戒し過ぎでしょ!?」

 

神、魔王、堕天使の総督が誰よりも前に立ち、少女と対峙する。

 

「私の邪魔をしないでくれる?兵藤一香と兵藤誠と戦う為に来たんだから」

 

「何故彼女たちと戦う?今世代の魔人のキミは彼女たちと接点があるようには思えないね」

 

魔王フォーベシイが真っ直ぐ少女の姿を捉えて訊ねた。

 

「・・・・・」

 

少女はスッと自分の胸に手を当てて言った。

 

「私は代わりに戦う。意志を受け継いでいるだけに過ぎない」

 

「・・・・・誰のだい?」

 

「―――兵藤一誠、彼のよ」

 

度肝を抜かされた。兵藤一誠の意思を継ぐ者が一誠の代わりに戦いに来たなどと

関係者で無い限り実行などしない。

 

「キミは、彼の何だい」

 

「同じ力を受け継いでいる者、そして互いの魂を半分に分けあった一心同体」

 

「魂を分けた?」誰もがその意味が分からないでいると少女は肯定した。

 

「そうよ、だから私は彼しか持っていない力だって振るえる」

 

「・・・・・んなら、その魂を取り出して再び復活させることもできるんだな?」

 

「可能じゃない?だけど、真龍と龍神の力で創り上げられた肉体がない今、私から彼の魂を奪わせはしないわ」

 

少女は空高く跳躍して魔人の翼を生やしだすと手に強大な太陽と思わせる火炎球を作り出した。

 

「なにを―――!」

 

「兵藤一香の戦い他にも私は受け継いでいることがある。そっちも果たさないといけないから―――邪魔よ」

 

リングの中央にソレを砲撃として放った。迫りくる巨大な魔力にオーフィスがあっさりと小さな片手で明後日の方向へ受け流し―――宇宙にどこまでも伸びて行った。

 

「・・・・・オーフィス」

 

やはり一番厄介な存在と少女は思った。戦えば確実にこっちが不利。ならば―――少女は動く。真っ直ぐリングに向かって落下する。

 

「くるぞ!捕まえろ!」

 

アザゼルが叫びだすと同時に少年少女たちが一誠の力を受け継いでいる少女に飛び掛かった。

 

「邪魔よ」

 

周囲の空間が歪みだし、そこから数多の鎖が飛び出しては少女にとって邪魔者の身体を拘束して動きを封じた。

 

「こ、これは・・・・・!?」

 

見覚えのある能力を前にして少女は楽々と通り過ぎていく。

 

「お前、ただ能力を受け継いでいるわけじゃないな!」

 

自分に向けられる発言に無視して少女は―――無機物のリングを水の中に潜るようにして沈んだ。

 

「くっ、逃がしたか!」

 

苦々しい顔で唸るアザゼル。一方どこまでも深く常闇の中を潜り続けることしばらくして、ようやく地面から空洞の空間に抜け出て少女は着地した。

 

「ここね」

 

ドクン。

 

「分かってるわよ。そう急かさないで」

 

周囲に魔力を火炎球に換えて明かりを灯す。ぼんやりと数メートル先まで見えるようになり、

何かに導かれていくように進む。空気はひんやりと冷たく、少女の肌に冷気が感じさせる。

歩いていくにつれ、異様な力を感じ始める。結界の類なのだろう、と感じつつ歩みの速度を変えず歩き続けると、

そして―――目的地に辿り着いた。周囲の壁に掛け立てられている蝋燭に火を付けると何十ものの古い札が古い棺桶にビッシリと張られていた。

 

「これかしら、でも随分と古いわね。中身はミイラになってなければいいけど」

 

右手に黒と紫が入り乱れた赤い宝玉がある籠手を装着すれば、札に触れた途端に封印の力が四散した。

 

「さぁ・・・・・あなたのやり遂げたかった一つを果たして上げるわ」

 

―――○●○―――

 

地上では未だに観客が腰を座って見守っていた。ブーイングもしばしば飛び交っているが、当の本人たちはそれどころではなかった。

 

「魔人と一誠ちゃんが通じていた?」

 

「ああ、問題視するほどの危険性はないから野放しにしていたがな。

まさか、あいつの魂を半分とはいえ宿していたなんてな」

 

「直ぐに捜索隊を派遣しよう。害意はないとはいえ、見過ごすことはできない」

 

「一誠が甦らすことができる唯一の鍵」

 

「でも、逃げられた。探すのは困難では?」

 

「いや、あの女は知ってる。私が通っている川神学園の同級生だ」

 

「意外とすんなり素性が知れたな」

 

百代の情報で先手を手取れることができた。

 

「しかし、あの戦争から随分と時が経っているのに人間界に魔人の力を受け継いでいる子がいたなんてね」

 

「悪いな、アイツが問題ないって言うから敢えて言わなかったんだよ」

 

「私も話程度なら聞いたことがあるわ。悪魔より数は少ないけれど強力な能力を持っているって。もしかして魔力を消すことがそうなの?」

 

「いやリアス。それだけじゃない。消すんじゃなくて奪うんだ。その気になれば触れるだけで魔力を枯渇、または悪魔一人の魔力を全部奪って殺すことだってできる」

 

それはとても強い能力だとリアスは顔を強張らせた。魔力で戦う種族にとってはまさしく天敵な種族だろう。それが、一誠の魂を宿し意志を受け継いでいる謎の少女がそうなのだ。

 

「だが、誠の奴が倒されたとなると闘気をも奪うようだな。こいつは厄介だ。アイツが倒される所なんて初めて見たぞ」

 

「私もそうなるでしょうね。でも、兵藤と式森が魔人の血と力を・・・・・」

 

「色々と複雑なことになりそうですね」

 

ヤハウェが一香にそう言った時、オーフィスが口を動かした。

 

「ここから離れる」

 

「え?」

 

刹那―――リングだけでなくドーム全体に強い揺れが起こり、地面から眩い真紅の閃光が迸り始めた。

 

「こいつは―――!?」

 

「皆、リングから離れて!」

 

全員が危険を察知し、リングから離れた途端に真紅の壁が地面から生え出したように見えたが、それは膨大な魔力がリングを呑みこんで天まで昇った光景であることを一香たちが悟るのに数秒が掛かった。

 

「デ、デカい・・・・・っ!」

 

「あいつ、まだ逃げていなかったのか!」

 

次第に真紅の魔力は小さくなりやがて消失した時にはリングの影も形も残さないほどドームの中央はポッカリと大きな穴が残っていた。

 

「まさか・・・・・」

 

源氏が嫌な予感を覚えた。当主でも知らないはずのある物の封印が施された場所がここであることを知っていたからだ。奈落の底みたいに常闇しか見えない大きな穴。

―――その穴から翼を生やして昇ってきた少女が現れた。真紅の全身鎧は纏っていなかったが再び纏い、戦闘態勢に入った。

 

「お待たせ。それじゃ、もう一度始めましょうか?」

 

「魔人・・・・・!」

 

「・・・・・と、そうしたいけどもう大会どころじゃないから止めるわ」

 

急に戦意が感じなくなり面々は呆けた。

 

「言ったでしょ。私は大会で兵藤誠と兵藤一香と戦う兵藤一誠の意思を受け継いでいるって。なのに余計な人たちまでしゃしゃり出て来るし、しかも戦うなんて私自身も望んでいないの。わかる?それと真龍と龍神の肉体が用意できたら素直に彼の魂を返すわよ。それだけは約束する」

 

「・・・・・本当?」

 

「嘘は吐かないわ。私だって彼との間に子供、魔人の力を残したい思いもあるし」

 

『・・・・・は?』

 

「っと、口が滑った。まぁ、そんなわけで身体が出来上がるまで一誠の魂は預かっているわ。それじゃーね」

 

翼を羽ばたかせ空の彼方へと消えていく少女。後に残された面々は―――。

 

『ハァアアアアアアアアアアアアアッ!?』

 

と、絶叫したのだった。その後、大会はラブ&ピースの勝利と終わらせ、

誠は次期当主として再び当主に返り咲くを得なくなった。

 

 

 

 

「和樹さん、今の心境は?」

 

「わけが分からない、って気持ちが大きいね。もう、色々と衝撃がありすぎて当惑している」

 

「兵藤くん、死んでいたんだね・・・・・」

 

「それに同じ一族に虐められていたなんて」

 

「でも、これで納得できたよ。彼、兵藤一誠の強さの秘訣を」

 

 

 

 

「ヴァーリヴァーリ!イッセーが甦るってよ!よかったな!」

 

「・・・・・ああ、そうだな」

 

「ですので、その殺気を抑えてもらえませんか?それと英雄派に攻撃を仕掛けないでください」

 

「にゃはは、乙女な白龍皇だねー」

 

 

 

 

「曹操、これは驚いたんじゃないか?」

 

「ああ、まさか死んでいて魂の状態で魔人の中に宿っていたとはな」

 

「肉体は滅んでいると断言しても良いようだな。サマエルに食われる直前に全ての力を放ってその隙に脱出したというのか」

 

「・・・・・取り敢えず、しぶとく生きていると言うことだな(・・・・・よかった)」

 

 

 

 

「あの弱虫がドラゴンだったなんて俺は知らねぇぞ!」

 

「それを言うなら俺たちもそうだ。真龍と龍神の力で甦ったドラゴンだってな」

 

「ぼ、僕たちを復讐って本当なのかな・・・・・っ」

 

「まぁ、そう思いを抱くだけ他の奴らはあいつを虐めていたからな。俺たちも別に助けようなんてあの時は思ってもなかったし」

 

「それよりもあなたが実の弟を殺したという事実は本当なの?もしもそうなら軽蔑するわ」

 

「知らねぇよ!俺は女を思うがままに食ってきたとしても殺した覚えはねぇっ!」

 

「・・・・・どちらにしてもあなたは女の敵ね。私たちに近づかないでくれる?孕んじゃうわ」

 

「て、てめぇ・・・・・っ!」

 

「おい、当主がお呼びだ。行くぞ」

 

 

 

「ソーナ、私、彼の事全然知らなかったわ」

 

「リアスが気を病むことでもありません。誰でも言いたくない秘密だってあるものですから」

 

「その通りだリアス。俺たちは兵藤一誠の復活を待つだけだろう?」

 

「サイラオーグ・・・・・ええ、そうね・・・・・」

 

 

 

「んで、魔人の存在が浮いたがお前さんらはどうするよ?」

 

「どうするもなにも、放っておくわけにはいかないだろうよ」

 

「テロリストと接触する恐れがある。彼女は手を貸すとは思えませんが」

 

「あの子自身も魔人だなんて知らなかったわ・・・・・」

 

「魔人の力を受け継いでいる、ってのが正解だろうな」

 

「取り敢えず、しばらくの間彼女を監視しましょう。念には念を・・・・・」

 

 

 

―――シオリ

 

「なに?」

 

―――悪い、迷惑を掛ける。

 

「私とあなたは一心同体、気にしていないわ。それにこの機会で魔人たちが動いてくれるなら私は会ってみたい」

 

―――俺もだ。どんな奴らが現れるのか楽しみだ。

 

「それが敵だったら仕方ないわね」

 

―――その時は守ってやるよ。復活した次第に。

 

「今は私があなたを守っている形なのだけれどね。でも、ええ、期待してるわ私の旦那さま」

 

―――だ、旦那?



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エピソード33

衝撃的な事実が大会だった。世界中は兵藤家と式森家に奇異な視線や感情、心情に対し、

当の二つの一族は混乱と動揺をしながらも今回の件で会議を開くことになった。

 

「我らに魔人と言う種族の力が宿しているとは真実なのですか?」

 

「バカな、ではなぜ今まで誰一人として魔人の力を扱える者が現れなかったのだ」

 

「厳密に現れたでしょう、我らから離反した者たちの子が」

 

「兵藤と式森の間に子を成すことを禁忌だった。その理由は明白のはずだ」

 

「気と魔力が融合せず、逆に相反し合い身体に激痛、最悪死に至るなど言わずとも分かりますよ」

 

「だからこそ、片方の力を封印して何とか生を長らえる他なかった。

あの愚かな者共の子もその類に零れなかっただろう」

 

「けどですねぇ、その子が魔力を扱えることは学園から何度も聞いていますが?

さて、それは何ででしょうか?」

 

「・・・・・人間ではなく、ドラゴンの身体だったからだろう。

ならば、あの者は既に兵藤や式森の者でもないただの化け物」

 

一誠を危険視、好奇心の言葉が会議に飛び交う。

 

「・・・・・我らも互いの血を体内に流してみますか?」

 

「バカなことを!そのようなことは古から禁じられているのだ!それにもしも

魔人の力を解放できたとしてその瞬間、我らは魔人を認めてしまうことも道理!

我らは兵藤と式森、人間だ!魔人の力など不要!」

 

「ですが、興味がないとは嘘ですよね?人を止めて二つの血を体内に宿すことができれば

更なる強さを得ることが―――」

 

「人間を止めたくば勝手にそうすればいい。その瞬間、お前は我ら一族から永久追放だぞ」

 

「「・・・・・」」

 

この会議を静かに見守る両家の当主。会議を開いたものの、結局は何の会議なのか既に

分からなくなった。

 

「あの少女を捕まえて、他の魔人の居場所を吐きださせますか?」

 

「そんなことしてどうする。高が娘一人の為に軍隊を派遣しようなど我らの誇りが許さん」

 

「そうだ。そんなことよりも、正式に大会に勝利したとはいえ、再び兵藤家の当主として

招いて良いのか考えぬか?」

 

「それは兵藤家が御考えになること。式森の我らには関係ないことですぞ」

 

「関係なくはない。そちらの元当主が次期当主の―――」

 

「あの方は兵藤と名乗っている。出生がどうであれ、そちらの―――」

 

「静まれ」

 

シーン・・・・・。

 

源氏の鶴の一声で場が静まり返った。

 

「我らがこの場に集まったのは当主の件でも魔人の件でもない。今後の日本の在り方を

どうするべきか対話する為に集ったのだ。そのようなことは二の次、三の次だ」

 

「ですが当主。これも問題視しないわけにはっ」

 

「我らは日本を統べる兵藤と式森。日本の為に生きることが務めのはずだ。今の日本は

あの魔人の登場で騒がしくなっている。我らが魔人の一族ではないかと聞こえてくるではないか」

 

『・・・・・』

 

「今更魔人を捕えて存在を抹消しようなどそれこそ我らに後ろめたさがあるのと同じことだ。

魔人など放っておけ。我らに牙を剥くならば話は別だ」

 

「兵藤家の当主の言う通りだお前たち。問題視するなとは言わないが、俺たちが日本を

纏めず誰がするというのだ。いいか、我らなくして日本は成り立たない言うことを努々忘れるな」

 

『はっ』

 

 

 

「・・・・・しかし、やはり魔人は放っておけん」

 

「なら、どうするのだ」

 

「監視を付けるべきだ。それぐらいなら当主も許してくれよう」

 

「そうだな、我ら式森からも監視の者を派遣する」

 

 

 

 

一方、世界と世界の狭間こと次元の狭間では―――オーフィスとグレートレッドが

再び一誠の肉体を新生していた。自分の身体の一部とオーフィスの力で創り上げている

一誠の肉体を。真紅の岩肌と醸し出すグレートレッドの身体に繭のようなものが何度も光って

脈を打っているその様子を自身の魔力を繭に流し込みつつ小さな龍神はポツリと漏らした。

 

「グレートレッド、ありがとう」

 

『三度目はないからな』

 

「ん、我、イッセーを守る」

 

身体に乗っかっているオーフィスに内心溜息を吐く。自分の身体に乗っかって来たと

思えば両膝を折って、身体を丸めて頭を垂らしながら

『イッセーの身体をもう一度作って欲しい』と言ってきた。今回は何も自分の力を借りずとも

何とか一誠を復活できるだろうと思ってオーフィスの懇願を無視して自由気ままに

次元の狭間を泳いでいたのだが―――

 

一日 「・・・・・」 『・・・・・』

 

三日 「・・・・・」 『・・・・・』

 

一週間 「・・・・(ZZZ・・・・・)」 『・・・・・っ(イラァッ)』

 

ずっと土下座をしたまま身動きしないオーフィスに痺れを切らし、ついには真龍が折れた。

このまま身体の上に土下座をされては気になって仕方がない。

泳ぐどころではないと判断した結果、一誠の身体を再構築することになった。

 

『オーフィス、あの邪龍より面倒そうなドラゴンのこと知っていたか』

 

「我、見たことがない」

 

『サマエルと言ったか。我もここから覗いてあいつを見ていたが、アレはドラゴンに

とって究極の天敵に等しい。対峙したら逃げろ。お前でも勝ち目がない』

 

「わかった。そうする」

 

コクリと自分の忠告に応じる共のこの空間に生まれ落ちたドラゴンにこう言った。

 

『・・・・・出来上がったぞ。今度はそう易々と壊されるな。

我の肉体で作られたあいつの肉体を』

 

「我、絶対に守る」

 

その決意を小さな胸に秘めて一誠の身体を受け取ろうとした時だった。

次元の狭間に巨大な手が真龍と龍神を捕まえて穴の中に引きずり込まれた。

 

―――○●○―――

 

同時刻、不満げな顔で久方ぶりに壮大で巨大な木製の門を潜る一人の男が

美しい女性を引き連れた。

門番が二人を確認するや否や目を丸くした。二人が門を潜ったのは―――堅く閉じられた

その門を足で蹴り飛ばして開け放った直後だったのだから。

 

「あなた、物に八つ当たりしないの」

 

「仕方ないだろう。本人じゃなくてリーラに介して伝えん来たんだからよ」

 

「直接私たちと連絡できる手段はこの家に無いのだからしょうがないことよ」

 

「あー・・・・・・当主やめてー」

 

「一誠に当主としていい所見せたくないの?」

 

「俺は父親としていいところを見せたい!」

 

唖然と門を蹴破った誠に続く一香に見送る門番は顔を見合わせ、

 

「荒々しくなりそうだな」

 

「別の意味で賑やかになるなこりゃ」

 

「しかし・・・・・この足跡どうするよ。くっきり残ってんぞ」

 

「堅牢な門にここまで凹ませるとは・・・・・」

 

二人の話声を聞こえていない二人はどんどんと奥へ進み、

兵藤家しか入ることが許されない聖域と言っても過言ではない場所に侵入を果たす。

 

「はぁ・・・・・一誠、今頃復活しているかなぁ?」

 

「リーラから連絡が来るはずよ」

 

「その手筈だからな。早く息子の顔を見たいぜ」

 

 

 

 

「懲りないわね、あなたたち」

 

真紅の鎧を纏ったシオリが今しがた多馬川沿いで川神百代とエスデスを負かした。

シオリはここ数日、百代とエスデスから襲撃を受けていたが、

一誠の力+魔人の力で尽く撃破している。

 

「一誠のことに関してなら心配は不要よ」

 

「お前・・・・・どうして正体を隠していたんだ」

 

「教える必要性は感じないわ。あなたは私じゃないもの、実力を隠してはいけない

ルールなんてこの世界には無いわよ?」

 

「私たち二人相手に無傷で倒すなんてな・・・・・」

 

「私の力だけじゃなく一誠の力も凄いのよ。もうこれで懲りたなら二度と喧嘩を

吹っかけてこないでくれる?じゃないと今度は二人の力だけじゃなく二人の若さを

奪って年齢不相応なお婆ちゃんにしてやるわよ本気(マジ)で」

 

そんな自分を想像してゾッと顔を青ざめた二人に背を向けて鎧を解除、魔人の翼を展開して空を飛び、橋の鉄骨の上に乗りだすと腰を下ろしてここでしか見れない風景を

見渡す。風がシオリを撫でるように吹き、過ぎ去っていく感じに口の端を吊り上げて

青い空に向かって「いい風ね」と漏らす。

 

「・・・・・」

 

目を瞑ってこの瞬間を楽しむシオリ。常に一ヵ所には留まらない風が何時までもシオリを

撫でては過ぎていく時、瞑目したまま不愉快そうに口を開いた。

 

「今度はなによ」

 

「気分を害してしまわれたのであれば申し訳ございません」

 

目を開けた。目の前、空間に穴が空いていてその穴の向こうにはどこかの空間と繋がっているのか、

腰掛けたまま翡翠の髪を伸ばしている二つの角を生やした女性が真っ直ぐシオリに視線を向けていた。

 

「誰?」

 

「初めまして魔人シオリ。私は原始龍、ドラゴンの長です」

 

「ドラゴンの長・・・・・。そのヒトがどうして私に声を掛けてくるのかしら」

 

「あなたの中に宿っているドラゴンや兵藤一誠の魂を渡してもらいたくこうして現れたのです」

 

警戒レベルが上がる。まだ身体は完成していないかもしれない時に謎の人物が

ハッキリと一誠を狙っている言葉を口にした。

 

「彼の者の身体は完成しました」

 

自分の心を見透かし、読まれている気分で少し嫌悪感を覚える。

 

「そう、なら拒む理由はないわ。彼の身体の元へ行かせてもらうわよ」

 

「なら、こちらに。既にグレートレッドとオーフィスから肉体を用意してもらいましたので」

 

原始龍が一つ手招くと本人の意思とは無関係に身体が勝手に穴の中へ。

穴から潜り出た途端、円状な空間で壁一面にはキラキラと星屑が下に落ち続ける

神秘的な現象が絶え間なく起きている。

床は四匹の龍が太陽を囲むような姿勢が描かれているのに対して、

天井は満月を囲む四匹の龍の彫刻が施されている。

そして、この空間の奥に天井にまで伸びた背もたれの椅子に座る女性がいた。

翡翠の髪から突き出る翡翠の二つの角。身に包んでいる衣服は緑と青を基調とした着物だった。

シオリはそんな別世界の空間を見渡せば全長百メートルはあろう真紅のドラゴンとオーフィス、

さらに一つの人型の肉体が二人と一匹の間に置かれている。

 

「ここは・・・・・」

 

「ドラゴンの世界、そして私の城の王の間と言う場所です。本来はドラゴン以外の者を

この場に召喚するのは異例中の異例ですが、状況が状況です。こちらにきてください」

 

足を原始龍に向かって動かす。原始龍も王座から立ち上がって互いが手の届く距離で立ち止まる。

シオリの胸元に手を押し付け、離すとまるで磁石のような感じで原始龍の手に―――巨大な

魂がくっついて出てきた。

 

「大きい・・・・・」

 

「兵藤一誠の生命力を大きさに表したものです。この中に彼の者の中に宿っている

ドラゴンも含まれていますが・・・・・」

 

しかし、原始龍は眉間に皺を寄せた。

 

「どうしたの?」

 

「ドラゴン以外の魂が混ざっていますね。兵藤一誠の魂に取り憑いている・・・・・まぁ、いいです」

 

意味深なことを言いかけたが優先すべきことを成し遂げようと原始龍はその巨大な魂を床に寝転がっている人型の肉体に押し付けるように入れていく。その様子を静かに

見守っていくシオリたちの目にはようやく魂は肉体の中に収まった。

 

「起きなさい、あなたを待ち侘びている家族のために」

 

母親のように優しく言葉を投げた原始龍に、人型の肉体は―――ゆっくりとまぶたを開けた。

 

 

 

―――とある夜。花火大会が開催され、川神市のとある屋上から見ることにしていた百代たち。

夜空を彩る多種多彩な火の花を目に焼き付ける。それぞれ浴衣姿で

 

「たぁーまやぁー!」

 

「彼女募集中ぅぅぅううううううううううううううっ!特に年上の女性ぃぃぃいいいいいいっ!」

 

「おい、なんて叫びをするんだ」

 

「絶対に魂からの叫びだよね」

 

一人の友達に呆れ、苦笑いを浮かべる友人たち。それから花火を打ち終えるまで眺めていた。

その時―――夜空に咲く花火を覆い隠す謎の黒い影が通り過ぎた。

 

「・・・・・今のってなんだ?」

 

「でっかい何かが通り過ぎたよーな・・・・・」

 

「UFO?」

 

「えー、まさかー」

 

と、朗らかにそう話していた面々に金色の双眸が見詰めていた。その背後で。

 

「うん?・・・・・ぎゃー!怪物ぅー!?」

 

ポニーテールの少女が叫びだすと屋上にいる少年少女たちはバッと振り返った矢先に

一人の少女が降り立った。

 

「って・・・・・・お前は」

 

「こんばんわ。まぁ、直ぐにさようならするけどね」

 

ニコリと笑みを浮かべる少女が背後にいる巨大な赤い生物に向かって感謝の言葉を送ると、

翼を羽ばたかせてどこかへ行ってしまった。

 

「今のアレ、なんなんだ・・・・・?」

 

「見ての通りよ。それじゃ、またね」

 

紋様状の翼を展開して少女もどこかへ飛んで行った。

 

 

 

 

その影は夜空の下でどこかに真っ直ぐ向かっていた。

 

「快適」

 

黒いワンピースを身に包み四肢を覗かせる幼女がそう漏らし腰を下ろしているところは

全長百メートルはあろう真紅のドラゴンの頭部。一人と一匹はやがて異種族が共存している

現在夏祭りの状態の町の上空にまで飛行し、目的の場所を見つければ広い庭園に鈍い音を

地鳴らしつつ着地した。

 

「到着」

 

ピョンと頭部から降り立った少女―――オーフィスの前に少女や女性たちが駆けつけて

ドラゴンと交互に見た。

 

「オーフィス・・・・・あのドラゴンは・・・・・」

 

「グレートレッド、でも、グレートレッドじゃない」

 

「・・・・・では」

 

「ん、リーラ」

 

銀髪のメイドが何か察したように発し、光と化となって小さくなるドラゴンに琥珀の目の

視界に映り込み、

 

『・・・・・っ!』

 

この町でも花火大会が行われていて、その花火の一瞬の光がオーフィスの隣に立つ一人の

少年の姿を照らす。

 

「・・・・・ただいま、皆」

 

はにかみながら目の前にいる自分の家族に挨拶をした途端、銀髪のメイドを始め、少女や

女性たちが少年に向かって駆けだした。

 

『おかえりなさいっ!』



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エピソード34

『そうか、一誠は復活したんだな。あー・・・・・よかったぁ』

 

『それでいま、一誠はどうしているの?』

 

通信式魔方陣で誠と一香に定時連絡をしていたリーラ。「はい」と答え、大勢の少女や

女性たちが群がるように広い部屋に大きなベッドの上にいる少年に添い寝をしていた。

一番近く少年―――一誠の傍に報告をしているリーラの他にオーフィスが二度と放さないとばかり寝間着や首にしがみついている。腕や足にも似たようにそうしている少女や女性もいた。

その光景を一瞥して「健やかにお眠りになっております」と伝えた。

 

「お二人はどうなのですか?」

 

『取り敢えず久し振りの我が家で満喫はしているな』

 

『相変わらず口を開く度に喧嘩をして仲が悪くてしょうがないのよこの人』

 

実の父親のことだろう。リーラは相槌を打たず言い続ける。

 

「悠璃さまと楼羅さまに良い報告できますね」

 

『ああ、そのことなんだがな。まーた、そっちの学園に面倒事が起きそうだぞ』

 

「と、言うと」

 

『兵藤家の学校生活を知った当主が抑止力として誠輝を始めとする大会に出ていた

兵藤家の子供たちを編入させるそうだ。これで問題はなくなるとは思うが・・・・・別の問題が発生しそうでしょうがない』

 

溜息を吐く誠の言葉に同意だと「そうですか」と相槌を打った。

 

『一応、お前も気をつけろよ』

 

「肝に銘じておきます。何よりも私は一誠さまのメイドでございますから」

 

『あら、メイド=女でしょ?もう、リーラったら照れ屋さんなんだから♪』

 

指摘されてれも鋼の精神で動揺などせず一香の言葉を受け流した。

 

「兵藤家にお戻りになられたのであればもう神々の方とお会いにならないのですか?」

 

『なに言っているんだ?当然これからも世界中に飛び回るぜ!』

 

『ねぇ、知ってた?この家、私の家、式森の家よりも凄く窮屈なのよ?暇なのよ?

ただただ、家の中で何もせずにいるだけ。こんな家の中に残りの余生まで暮らすぐらい

なら外に出歩いて何か人の為にしていた方が有意義だと思うの』

 

―――まぁ、誠(一香)と場所を問わず愛し合うことができれば問題ないけどと異口同音で

最後に惚気られた。

 

『今もその最中だけど―――なっ』

 

『あんっ!もう、あなたったら・・・・・それじゃリーラ。一誠のことをよろしくね?』

 

「・・・・・はい」

 

さっさと魔方陣を消して息を零す。今頃、あっちでは熱い情愛を貪っているのだろうと

想像をしたところで愛おしい一誠の寝顔が視界に入った。

 

「・・・・・」

 

綺麗で細いリーラの指はほんのりと温かい温もりを感じさせる一誠の頬に触れた。

生きている―――一誠の生を感じ取り、未だに夢の中にいる面々の中で口元が綻ぶ。

 

「新しい肉体・・・・・」

 

と言うことは今現在の一誠の身体は新品同様・・・・・リーラが考えついた先には―――。

 

「また、あなたから貰えるのですね。ファースト(初めて)を」

 

熱い息を漏らし、今夜決行しようと決意した。

 

「起きなさい咲夜。朝食の準備を」

 

「ん、ああ・・・・・一誠さま・・・・・ダメ、そこは・・・・・」

 

「・・・・・」

 

パシンッ!

 

 

 

 

「・・・・・咲夜、どうしたその頬は」

 

「寝ながら自分の手で頬を押し付けていたようで痕が付きました」

 

「誰かに叩かれたような感じなんだけど・・・・・」

 

朝食時に咲夜の頬を指摘するものの本人が頑になってそう言うものだから追究をしなくなった。

 

「一誠さま、これからどうお過ごしになられますか?」

 

「ん?取り敢えず皆と過ごそうかなって思っているけど」

 

「では、外には出歩かないのですね?」

 

「そうだなー。皆の都合が良ければ一緒に家の中で過ごすけどな」

 

本人たちの気持ち次第で一誠といられる。相手の意思や気持ちを尊重する一誠を知っている

リーラたちにとっては躊躇もせず、悪びれもなくハッキリと自分の言動を言える為、

自分の心情を打ち明けれることができる。

 

「我、イッセーの傍にいる」

 

「久々にタペストリーを一緒に織りたいかな?」

 

「私は勝負の相手が欲しいな」

 

オーフィス、アラクネー、クロウ・クルワッハみたいな素直に自分の気持ちを打ち明け

 

「「「・・・・・」」」

 

どうしようかなと悩むルクシャナ、ティファニア、シャジャル、アルトルージュがいれば

 

「私は何時も通り部屋に籠って仕事するだけだから一緒にいてもつまらないと思うわよ?」

 

「ごめんなさい、今日はギャスパーとお出かけをする約束なの」

 

「リーラとメイドの仕事があるので」

 

予定があるとナヴィ、ヴァレリー、咲夜がいた。結果、一誠は―――。

 

「そう言えば一誠さま」

 

「?」

 

「―――ん」

 

不意を突かれリーラにファーストキスを奪われてから朝が始まったのだった。

 

 

オーフィス編

 

 

我、無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィス。我、イッセーの指定席(膝)に座っている。

 

「・・・・・」

 

イッセーが髪を撫でてくれる。でも、この姿は仮の姿。本当はもっと大きい。

でも、人間界に追いやられ過ごす為にも姿を変えていくうちに今はこの姿で定着した。

この姿ならイッセーに構ってもらえる。―――役得。

 

「ん・・・・・」

 

背中に感じさせる温かさを与えるイッセーの顔が見たい。身体を反転させ、顔を見上げれば

グレートレッドと同じ色の髪と瞳・・・・・。

 

「む・・・・・」

 

我、不満。我の力、無限があるはずなのに身体に表れていない。

肉体はグレートレッドだから当然。イッセーが我を見て不思議そうに首を傾げる。

「どうした」と聞かれたけど、何でもないと答えた。

身体全体でこの温もりを感じていると我は思い付いた。驚くイッセーを気にせず服を

全て脱ぎ終えると

我は裸のままイッセーの服の中に潜り込み、顔だけ出して両手を二つの指だけ立てると。

 

「我、ヤドカリ」

 

面白い、イッセーが顔を真っ赤にした。ちょっと窮屈だけどイッセーの胸やお腹と

ぴったりとくっついていられる上にさっきよりも暖かさを感じる。うん、これはいい。

リーラでさえできないことを我はできた。そんなこと思っているとイッセーは寝転がり

初めて我を見詰めてくる。我も真似してジーと見ていると、

金色の瞳に我の顔が映っていることに気付き覗いた。

そして、マシュマロみたいに柔らかそうな唇。リーラがよくイッセーと口と口を合わす。

 

「イッセー、リーラと口を合わすのはなぜ?」

 

「それは好きな人がすることだからだ」

 

好き・・・・・我には分からない。

 

「好きとはどんな感じになる?」

 

「心が温かくなったり、幸せを感じることがそうかな。この人と何時までも一緒にいたいと言う気持ちも感じることもそうだ」

 

「我、イッセーの傍にいたいと思っている。これ、好き?」

 

「んー、ちょっと違うかな?主に意味が」

 

違うと言われた。なら何?イッセーを見ていると我の気持ちを気付いたのかこう言った。

 

「でも、いつか必ず分かる時が来るさ」

 

「絶対?」

 

「絶対だ」

 

なら、その時が来るまで待つ。我は無限。無限の間まで必ず来るだろうから。

でも、これは我もしてみたい。

 

「ん」

 

イッセーの口と我の口を合わせてみた。そしたら急に胸が熱くなった。

 

これ・・・・・なに?

 

ぽかぽか・・・・・ふわふわもする。これ、心地が良い。

 

「イッセー、もう一度する」

 

言うが否や、我はまた唇を押し付けた。今度はイッセーの首に腕を回して

ずっとそのまましたら我の背中にギュッと腕が回された。

 

「んっ」

 

よりイッセーの心臓の鼓動を感じるようになって何だか嬉しくなって身体の奥から温かくなる。

 

「イッセー、またする」

 

「キスが好きになったか?」

 

「心地の良い。胸が熱く、ぽかぽかする」

 

「俺とキスをして幸せを感じているんだな」

 

微笑みながらイッセーは言った。

幸せ・・・・・この気分が幸せと言うらしい・・・・・。

でも、納得できる。我、このぽかぽかは何度も感じてきた。これが幸せ・・・・・。

これをもっと感じたい。だから我はまたシた。そしたら「口を開けて」と言われ、

その通りにしたら、イッセーの舌が我の口の中に入ってきてゆっくりと動かし始めた。

歯を舐められ、頬の裏側も舐められる。我もイッセーの口の中に入れようと動かしたら

舌がイッセーの舌と接触して・・・・・。

 

「んっ・・・ちゅっ・・・れろっ・・・ぺろっ・・・ふっ・・・んふっ・・・・・」

 

蛇のように絡め合うのに戸惑いも躊躇もなかった。コレ・・・・・もっと胸だけじゃなく

頭の中までもぽかぽかやふわふわする・・・・・。

 

「ちゅるっ・・・はむ・・・んぅ・・・・んん・・・・・」

 

もっと感じたい、もっとこの気分を知りたい、

もっとイッセーとキスをしたい・・・・・。

その想いが我を突き動かし、身体が熱くなるのを感じながらイッセーとキスをし続ける。

我・・・・・コレ、気に入った・・・・・。

 

クロウ・クルワッハ編

 

地下のトレーニングルームにて私は久方ぶりに兵藤一誠と模擬戦以上のことをしていた。

新調したグレートレッドとオーフィスの力を有する身体は前と変わらないみたいだ。

まだまだ私に傷を付けるほどの強さであるが倒す程の強さは無い。

それでも楽しませている。何割か本気を出せ、兵藤一誠を圧倒する。

 

「ま、まだ勝てそうにないな・・・・・」

 

「肉弾戦ではまだまだだな。しかし、神器(セイクリッド・ギア)を使えば―――」

 

「それを頼ってばかりじゃ、俺は強くなんてなれないよ。できる限りこの体で戦いたい」

 

私の話を遮って真っ直ぐそう言い切った。

 

「なら、お前を圧倒したサマエルとやらにもそうだったのか?」

 

「・・・・・っ」

 

ゾクっと兵藤一誠は身体を震わせた。恐怖・・・・・覚えていたのか。

ドラゴンを魅了させる兵藤一誠にここまで恐怖させるほどのものだったか

ドラゴン・イーターという者は。しかしイレギュラーなドラゴンとはいえ、

まだまだ未熟なドラゴンだ。人間でいえば子供。何かに怯えるのも仕方がないだろう。

 

「大丈夫だ」

 

リーラのように兵藤一誠を抱きしめた。互いの温もりを感じるほどに。

 

「恐怖を覚えるのは悪くない。恐怖を覚えず強くなろうなど傲慢なのだ」

 

耳元で囁きつつ真紅の髪を梳かすように撫でると私に体重を掛けて頭を胸に押し付けてきた。

 

「・・・・・分かってる」

 

それだけ呟いて、

 

「だけど、俺はまた死んだんだ。もうこれでリーラたちと会えなくなると思ったら怖くて堪らないっ」

 

「兵藤一誠・・・・・」

 

「俺はまだ・・・・・弱いっ!」

 

自分の力の無さに嘆く兵藤一誠。自分の強さに過信していないが、過小評価をしている。

弱い、力がないと・・・・・自分をどこまでも責めて強くなろうとする。

 

『一誠さまは自分の弱さで周囲の者から暴力を振るわれ、

実の兄でさせ認めてもらえずにいました。だからあのお方は理不尽な事、

自分の弱さに罵倒する者に対して許せず、それ以上に自分の弱さに怒りを覚えているのです』

 

・・・・・なるほどな。リーラ、兵藤一誠は子供だ。

自分の思い通りにならず直ぐに泣きわめくほどではないが、

意地になって自分の弱さを否定して強くなりたいと言う願望を胸に抱いている。

周囲に認めさせ自己満足するだろう、圧倒的な強さで優越感を浸るだろうそんな子供だが

中々どうして・・・・・。

 

「(今の兵藤一誠を見ていると・・・・・何とも言い難い気分になる。

  可愛がりたいではないか)」

 

 

人はそれを母性本能をくすぐられると言うがクロウ・クルワッハは知らないでいる。

 

 

「分かってるだろうが、弱いなら強くなればいい。ただそれだけでお前は強くなる」

 

「・・・・・」

 

「模擬戦の続きをしよう兵藤一誠」

 

促せば、私から離れて拳を構えた。それでいい、それでこそお前なのだ兵藤一誠。

そうでなければつまらない。私はお前の傍で強くなっていくさまを見届けてやる。

 

 

アラクネー編

 

 

私の仕事場であり自室でタペストリーを織っている。私と肩を並んで隣に座っている

兵藤一誠も目の前に設置されている織機と対峙して素人ではない手さばきで織っていく

様子を見て織機の扱い方を直々に教えた甲斐があったと口元を緩ませて作業に没頭する。

リズム感のある音に呼応して少しずつ形になっていくタペストリー、このペースで行けば

今月中には完成するだろう。緑の草原に咲たった一本の巨大な桜の木を囲む

人々の様子をテーマにしたタペストリーを。

 

「・・・・・」

 

横にいる少年に視線を向ける。真剣な眼差しを織っていくタペストリーに向けているが

どこか楽しげに手を動かして完成へ近づけていく。私の視線に気付いたのかこちらに

顔を向けてどうしたと聞かれる。

 

「そっちも形になってきたなと思っていた」

 

「かなり時間が掛かったけどもう少しで完成だ」

 

改めて見れば赤い龍の姿が織られている。

 

「その龍は?」

 

「グレートレッド。完成したらお礼としてあげたいんだ。

気に入ってくれるかどうか分からないけど」

 

迫力あるタペストリーの完成は楽しみだ。私もこのタペストリーを完成して更なる―――。

 

『認めるわ、あなたの実力を。だけど、これほどの出来栄えのタペストリーを織った

あなたが私のプライドに傷を付けた事だけは許さないっ!こんなもの―――っ!』

 

「っ・・・・・」

 

脳裏にあの時の記憶が過ぎった。酷く歪んだ顔で何度も私の頭を打ち据える

あの女神の顔が鮮明に・・・・・。

 

「アラクネー?」

 

いつの間にか私の顔を覗きこんでいた一誠。

―――その顔を見た途端、衝動的に駆られて一誠に抱き付いた。

私が蜘蛛に転生した切っ掛けになったあの時の記憶を少しでも今の幸せで上書きするために。

私を人並みの生活と温もりを与えてくれた少年に縋る。小さかった子供が今では大きくなった。

頼られる側が今では頼ってしまう側になった私は、安心させようと背中を擦る一誠の手と

その温もりを感じて心が落ち着いていく。

 

「どうした?」

 

「昔のことを思い出してな・・・・・」

 

「そうか」

 

それ以上深く聞いてこなかったが、私の気持ちを察してくれたのだろうか。

撫でる私の背中に回された手は止まって、ただただ一誠に抱きしめられる状態になった。

 

「・・・・・私は幸せ者だ。お前と言う少年と出会えて私は幸せを手に入れたのだから」

 

耳元で囁き、発した言葉に感謝の念を籠めた。一誠、ありがとうと。

 

「一誠」

 

「なんだ?」

 

「私とキスしよう」

 

きょとんと私の言葉を聞いた一誠は次に微笑みを浮かべながら頷き、

私の頬を添えるように触れて目を瞑った私に顔を近づけ唇を重ねた―――。

 

 

その日の夜。兵藤家の風呂は巨大な空間で浴槽は一つだけではなく片手では

数えきれないほどある。それが男湯と女湯と別れている為、

兵藤家唯一の男である一誠とリィゾ、フィナしか使用されていない。

リィゾとフィナは夜の町に(主にフィナの趣味の監視)出向いているので殆ど一誠しか

入っていないことが多い。今夜も一誠だけしかいない浴場の空間は静寂で包まれる―――かと思ったが、男湯に侵入する家族がいた。

 

「イッセー、一緒に入る(オーフィス)」

 

「相変わらず一人で入っているのだな。いっそのこと女湯に入ってくるか?(クロウ・クルワッハ)」

 

「クロウ、他の皆が驚くからダメだろう(アラクネー)」

 

「失礼いたします(リーラ)」

 

「は、恥ずかしいわね。でも、皆と入るとなんだか楽しい気分だわ(ナヴィー)」

 

「そうね、それにイッセーと一緒に入るなんて何年振りかしら(ルクシャナ)」

 

「だけど、やっぱり恥ずかしいわルクシャナ。母さまもそうでしょ?(ティファニア)」

 

「そうでもないのだけれど、ティファニアも耐性を付けないといけませんわよ?殿方と一緒に入浴をするのは当然なのですから(シャジャル)」

 

「まさか、皆も同じ考えだなんて・・・・・愛されているわね一誠?(アルトルージュ)」

 

「一誠さまの魅力がそうさせるのですよアルトルージュさま(咲夜)」

 

「私たちも一誠に魅了しているものね(ヴァレリー)」

 

―――っ!?

 

堂々と裸を晒す、豊満な体やスレンダーな体、小柄な体にタオルを巻く女性陣が

男湯に入ってきたことで一誠は大きく目を張って愕然としていた。

 

「ここ男湯なんですけど!?」

 

『知ってる』

 

あっさりと言われた。リーラたちはさも当然のように、当たり前のように一誠の傍に

よっては湯の中に腰を落とし、体を沈めた。

 

「ふふっ、久し振りに入るわね一誠くん」

 

「何で急に皆して入りに来たんだ・・・・・?」

 

「あなたと一緒に入りたいから、よ?」

 

微笑むシャジャルは一誠の胸に触れつつ視界にティファニアとルクシャナが一誠の隣に居座り、

アルトルージュとヴァレリーが一誠の背後から抱き絞める光景が入る。

 

「私たちはあなたと言う大切な家族を一度失った。あの時の痛みはもう感じたくない。一誠くんの姿を見ないとまたどこかで無茶しそうで不安。

ここにいる皆が違う考えだけれど思いは同じだってことです」

 

シャジャルやティファニアも自分の家族を守ろうとした夫や父親を失った。

 

一誠が死んだ今回もそれに似た喪失感ももう一度覚えた。

 

自分たちを救った家族が自分を賭して他人の家族を救おうと死んだ。

 

「だから、もう私たちを置いて死なないでください」

 

切なる想いを籠めて口から出した。一誠は周囲に目を向けるとシャジャルの気持ちと

同じようで向けてくる視線の意図を察した。

 

「・・・・・分かってる。三度目は無い。皆を置いてもう死なないから」

 

「約束ですよ?破ったら怒ります」

 

見た目は十代の少女。しかし中身は立派な女性。一人の女性として、

一誠の家族として釘を差す。無言で一誠はコクリと頷いてシャジャルと約束を交わす。

―――途端に一誠がシャジャルから目を逸らした。

 

「どうしました?」

 

「・・・・・色々と見えているから目のやり場が」

 

「?」

 

キョトンと小首を傾げる。綺麗な金髪は下に流れるように伸びていくうちに重量感と

肌の感触と弾力がいい脂肪がたっぷりと詰まって湯に浮かんでいる二つの双丘。

更に一誠たちが入っている浴槽は無色。

一誠の視界にはシャジャルの全てが飛びこんでいるのだ。家族として好意を抱いているが

異性として好意を抱いていない女性の身体を見てはご法度だろうとお湯とは別の意味で

顔を赤らめる。

 

―――一誠の心情を察したリーラはここぞとばかりシャジャルに耳打ちをした。

 

「っ・・・・・」

 

急にシャジャルが一誠に背を向けた。何を言われたのか想像がつくだろう。

尖った耳の先端まで真っ赤になっていて、白磁のような身体はほんのりと桜色みたいに染まった。

 

「どうしたの?顔が赤いわ」

 

「一誠?」

 

全裸のままティファニアとルクシャナに問われますます顔を赤くなった一誠。

ナヴィは面白可笑しそうに口角を上げて一言。

 

「普通の男なら喜びそうなシュチュエーションなのに、一緒に入る女の子がいると照れる

なんて可愛いところあるじゃない♪」

 

その言葉を聞いてティファニアとルクシャナは「?」とどうして照れるのか不思議でいた。

アルトルージュは積極的に小柄な体を押し付けて「私の身体、興奮しちゃう?」と囁く。

 

「テファ、一誠の腕を胸に挟んでみたら?」

 

「こ、こう?」

 

純粋なティファニアが一誠の腕を自分の胸の間に挟みこんだ。お湯とは別の腕の温もりが

主張してティファニアの胸に感じさせる。すると一誠は恨めしいとばかりナヴィを見詰めた。

 

「お前、楽しんでいるな」

 

「ふふっ、分かっちゃう?」

 

一誠の反応を楽しげに見守っているナヴィにアラクネーは「後で仕返しされても知らないぞ」

と心中呟いた。

 

「それでは」

 

リーラが短く言った。

 

「皆さんで一誠さまの身体を洗いましょう」

 

「え?」

 

 

―――兵藤家―――

 

 

「うふふ」

 

「あはは」

 

とある部屋で家族団欒を過ごす四人の男女と二人の少女。

 

「「・・・・・」」

 

黙々と無言で話しも交わさず料理を口に入れる誠と源氏。

 

「楼羅、重たくてしょうがないね」

 

「ここまでハッキリ仲が悪い人たちを見るのは初めてです」

 

溜息を同時に漏らす姉妹。何時もの食卓とは異なり、源氏と羅輝の息子とその嫁が共に

テーブルを囲んでの食事なのだが―――一香と羅輝はともかく、誠と源氏が目も合わさず

食事に没頭する。

 

「孫が復活したのね」

 

「ええ、きっと息子はリーラたちに囲まれているわ」

 

「愛されているわね」

 

ほのぼのと言葉を交わす母親組の会話に悠璃と楼羅が反応した。

一誠のことで盛り上がっていくと誠も話に参加し、さり気なく源氏も相槌をする。

 

「ねぇ、一誠もこの家に呼べないかしら?久々に顔を見たいわ」

 

「呼べなくはないけれど、あの子が嫌がるかも」

 

「大丈夫よ。この二人も会いたがっているし」

 

「「・・・・・(コクコク)」」

 

直ぐに頷く姉妹を見てそりゃそうでしょうねと一香は思った。最期に会ったのは魂の無い亡骸。

甦って復活したとならばもう一度会いたがる気持ちも十分理解できる。が、

 

「知っての通り、一誠は人間じゃないドラゴンよ。彼女たちとお二人が受け入れても

兵藤家が受け入れてくれないでしょう。それを分かってて言っているの?」

 

「もうあの子は弱くない。昔と比べてあの子は大丈夫よ。あなたの言う通りの結果になろうともね」

 

「・・・・・」

 

「それにできたら私はあの子が次期当主となって欲しかった。そうすれば他の誰よりも

強いと証明され、認めさせることができたのだから」

 

それについては同感だ。同意もする。しかし、世の中は思い通りにならないのだ。

誠はあることを告げる。

 

「あの大会の一件、俺たちに魔人の力が秘めていると知ってどんな反応だった?」

 

「最初は驚き、混乱、動揺したわ。でも、信じないものが多くていまでは

何時も通り過ごしているわ」

 

「前向きだな。まぁ、変な気を起こさないよりはマシか」

 

息を一つ零せば羅輝は誠と一香に問うた。

 

「あなたたちの息子、特に一誠はどうしてあの力を覚醒できたの?」

 

「あの子、小さい時に吸血鬼に攫われて血の殆どを吸われたの。

そして怒りと憎しみによる暴走。その後、偶然あの子と再会して施していた封印が

不安定な状態だったことに気付き、ドラゴンに転生したあの子の身体に掛けて封印を解いた。

結果は言わなくても分かるわよね?」

 

「吸血鬼か・・・・・人間の敵の種族に襲われるとは孫も災難だったな」

 

源氏がその言葉を漏らし、「そうね」と羅輝も頷いた。

 

「兵藤と式森の者の身体に宿る血ではなく、力で魔人の力が覚醒か。ならば、お前らの

もう一人の息子の封印も解けば魔人の力は覚醒できるのかもしれんな」

 

「おい親父。相反する力がどれだけ危険なのか知ってるだろう。

一誠がドラゴンだったから賭けは成功したが、誠輝は人間だ。人間の器で収まるほど

相反する力はできちゃいないんだ。というか、誠輝は兵藤家の血の方が濃かったから

封印するほどの危険性は無かっただけだ。あいつには式森の力なんて親父たちみたいにないんだよ」

 

「唯一、兵藤と式森の力と魔人の力を有するイレギュラーな兵藤のドラゴン、か」

 

腕を組み誠と一香を見詰める。すると、首を横に振った。

 

「なんだよ」

 

「いや、あの孫が本選で活躍しないで良かったかもしれないと思ってな。政府の者共の

目に留まらず幸いした」

 

「あー、確かにそうかもな」

 

「世界中の国のトップが黙っているわけ無いでしょうね。

自国に属させようとありとあらゆる手で勧誘してくるはずだから」

 

意味深な言葉を発する源氏に理解した。となれば今頃あの少女は―――。

 

 

 

 

 

「魔人シオリ。私たちと一緒に来てくれませんか」

 

ビシッと黒いスーツを黒いサングラスを身に付けた大勢の男性たちにシオリは囲まれていた。

 

「私、知らない人にはついて行くなって言われ育てられているのだけれど」

 

「・・・・・」

 

「それに私を魔人の名前を付けて言うほどだから私の力を欲している輩だってことかしらねー?」

 

相手は何も語らない。ただ使命を果たすだけ。

 

「やれやれ、分かりやすい反応ね。私、この国の生まれであるけれどあなたたちの為に

力を振るう気はないの。私の人生を変えるほどあなたたたちのトップは偉いのかしら?」

 

返事は返ってこない。ただし懐から何かを取り出そうとするのを見て―――。

 

「武力で制したいのならばご自由に。ただし、それは死を覚悟している者だと認識するわよ」

 

シオリの指摘を受け流す男性は懐に入れていた手には一枚の紙を持っていてそれを真っ

直ぐシオリに差し出した。

 

「我々は政府の者です。あなたを武力で制する指令は下りていません」

 

下りたならするつもりなのね、内心シオリはそう思い、指をパチンと鳴らしたら紙が

燃えだした。

 

「催眠術式の魔方陣が施された紙を手にするほど私はバカじゃないわよ」

 

「・・・・・っ」

 

「それと、この辺に施された人払いの結界と私を閉じ込める結界で―――」

 

刹那。硝子細工が割れたような甲高い音が周囲に響き渡る。そしてシオリの前に空から

落ちてきた一人の真紅の紙の少年が姿を現す。

 

「私を閉じ込めれると思ったら大間違いよ」

 

男たちは浮き足が立った。目の前に現れた少年の存在でだ。

 

「それじゃ、迎えが来てくれたから帰らせてもらうわ」

 

シオリは少年の首に腕を絡めて体を寄せたら、自分の腰に腕を回して引き寄せ背中に

翼を生やした少年によって空の彼方へと男たちから離れた。

 

「ありがとう、一誠」

 

「呼ばれて来てみればナンパされていたのかシオリ」

 

大勢の黒尽くめの男たちに囲まれてのナンパなんてそんなわけがないと思うものだが

シオリは敢えて笑みを浮かべて口を開いた。

 

「そんな感じね。でも、私はあなたにしか靡かないから安心してちょうだい」

 

「それを聞いたら逆に不安しそうだ」

 

どうして?とシオリは問うたら、

 

「俺に変装した奴らと間違えそうだからだ」

 

聞いた途端、シオリは笑った。大丈夫、例え姿形があなたと同じだろうと

これから再び魂を分け与える者同士の魂まで間違えるほど愚かではないと―――一誠の唇に

自分の唇を重ねながら魔人の力を有する者同士の儀式を空中で行った。



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エピソード35

のんびりと過ごしていた一誠の前に一つの魔方陣が出現した。玄関から入らない

無法者に成敗とばかりハリセンを持って―――。

 

「よーう、一誠。久し振り―――(スパンッ!)あだっ!?」

 

「久し振りアザゼルのおじさん。今度から玄関から入って来てね」

 

「・・・・・おう、分かった」

 

堕天使の総督ことアザゼルの頭を華麗に叩いたのだった。叩かれた箇所に手でさすりながら

口を開く。

 

「んー、一香からお前が復活したって聞いて来てみれば見た感じ前と変わってないな」

 

「三度目は無いってグレートレッドに言われたけどな」

 

「それでもお前を復活させた優しいところがいいじゃないか。よく復活したな一誠」

 

ポンポンと一誠の頭を叩いて笑みを浮かべるアザゼルは言い続ける。

 

「ヴァレリーはいるか?」

 

「ああ、丁度いるよ。ヴァレリー」

 

アザゼルはヴァレリーが一誠の肩と並ぶと同時に言い放った。

 

「ちょいっとお前さんの聖杯を調べさせてもらうがいいな?前から言っていたことだが

今の今まで調べることをしなかったから忘れかけていたところだった」

 

「はい」

 

小型の魔方陣を展開してヴァレリーの前で捜査していくにつれ「マジか」と漏らした。

 

「こいつは驚きだな。今回の宿主、ヴァレリーが持つ聖杯は亜種だ」

 

「亜種?」

 

「通常の神器(セイクリッド・ギア)と異なる能力を持っている意味だ。ヴァレリーの聖杯は三つあって、それが一つにセットしている」

 

「私の聖杯は三つあるんですか?それが一セット・・・・・?」

 

「ああ」と真っ直ぐヴァレリーを見ながら頷くアザゼル。

 

「二つ以上聖杯を引き抜かれたら確実に命の危険性が出る。周りに悟られずにこれからも生きていろ」

 

「わかりました」

 

「・・・・・」

 

二人の話を聞いてどう切り出して良いか悩んでいた一誠。だが、一誠は口を開いた。

 

「アザゼルのおじさん」

 

「どうした」

 

「んと、俺の神器(セイクリッド・ギア)だけど」

 

一誠を見詰めるアザゼルは絶句することになる。耳を傾け目を一誠に向けたアザゼルの前で

虚空から出てきた三つの聖杯を一誠が持った。

 

「は?」

 

「俺の四つ目の神器(セイクリッド・ギア)はどうも、相手に触れると複製した相手の能力を行使できるようになるみたいだ」

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

アザゼルの思考が停止した。頭が真っ白になった。だが、我に返ってヴァレリーにしたように一誠の神器(セイクリッド・ギア)を調べた―――。

 

「亜種の『強奪』・・・・・」

 

「強奪?」

 

「ああ、本来の強奪は相手の身体能力や知識を奪って自分に上乗せする能力だったんだが・・・・・おい、その聖杯だけじゃなく他にも誰かの能力を使えるようになっているか?」

 

「え?ああ、そうだけど」

 

「となると・・・・・強奪の亜種は『複製』の能力があるようだな。所謂コピーだ」

 

本物ではない偽物の力。なのだが、偽物でも使いようがある。そこにアザゼルは考えついた。

 

「まさかだとは思うが、ヴァーリの白龍皇の力もか?」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

その証拠とばかり一誠の背中には青い翼が生え出した。青い翼を見て頭をガリガリと掻くアザゼルは言った。

 

神滅具(ロンギヌス)も複製できるとなると・・・・・準神滅具(ロンギヌス)だなそりゃ」

 

「この力、父さんと母さんだけじゃなくリーラですら教えていないんだよね」

 

「なんでだ?別に教えてはいけない代物じゃないだろう」

 

「他人の力で強くなりたくなかったんだ。自分の力で強くなりたい。だから誰にも教えていなかったんだ。でも、アザゼルのおじさんに話して良かったかな。この力の在りようが分かったし」

 

「だが、コピーした力はお前のものだ。他人の力だって必要な時もあることを分かってないはずがないだろう。お前は自分の力でどうにかしたいと言う気持ちが強い。もうちょっと他の奴らに甘えろ」

 

三つの聖杯を仕舞いこむ一誠に指摘したが小首を傾げられた。

 

「甘え?していると思うけど」

 

「ならいい。それじゃ用も済んだから帰る。また学校でな」

 

アザゼルは転移魔方陣を展開してこの場から消えた―――それと擦れ違うようにまたアザゼルとは違う魔方陣が出現して誰かが姿を現した。

 

「こんにちは兵藤一誠」

 

「ミカエルのお兄さんとヤハウェさん?」

 

「あなたが復活したと聞いて様子を窺いに来ました」

 

「以前とは変わらないようでなによりです」

 

天界のトップの聖書の神ヤハウェ、熾天使(セラフ)の大天使長ミカエル。

 

「今日はあなたにある物を私に来ました。きっと役に立つでしょう」

 

ミカエルが両手で持つように手を動かすと眩い閃光が迸った直後に一本の剣が光に包まれながら発現した。

 

「っ」

 

その剣から感じる一誠にとって脅威的な力の波動を敏感に察知し思わず警戒した一誠に「大丈夫です」とヤハウェが宥める。

 

「その剣は何?」

 

「これは聖剣アスカロン。ドラゴンスレイヤー(龍殺し)の聖剣です。あなたの復活のお祝いとしてこれを授けようと思いまして」

 

「受け取ってくれますか?」

 

二人からのプレゼント。無化にできず一誠はアスカロンを手にした。

 

「(そう言えば、エクスカリバー・・・・・)」

 

脳裏に浮かぶ金髪の少女が持っていてくれれば、まぁ、良しとしようと内心思った一誠にヤハウェが話しかけた。

 

「もうすぐ体育祭ですね。その際、見学をしに来ますので頑張ってください」

 

「ええ、彼女もあなたに会いたがっていますので」

 

「彼女?」

 

「いずれ分かります。それでは」

 

意味深な言葉を残して一瞬の光を発し、瞬く間に一誠の前から姿を消した二人。

手の中にある聖剣をどうしようかと悩んでいた時、黒と紫が入り乱れた籠手が一人で一誠の意思とは無関係に装着し出した。

 

『主、その聖剣の波動を合わせてくれれば収納できるぞ』

 

「そうなんだ?じゃ、よろしく」

 

早速その通りにした結果、アスカロンは融合の形で収納を可能にした。

 

「おお、刀身が生えたな。これができるならもっと早くやっておくべきだった」

 

『ならば他の武器もそうするか主よ?』

 

「エクスカリバーは無くしちゃったけどな」

 

内に宿るゾラードの提案は肯定として次々と融合の形で収納していくのだった。

 

「さて、オーフィス?外にでも行くか?」

 

「ん、行く」

 

ピョンと一誠の肩に乗り出すオーフィスと共に―――燦々と太陽鉱が降り注ぐ町を歩く。伝説の武器を収納し終えたら何もすることがなく、当たり前のように自分の肩に乗っかっているオーフィスの重みを感じながら足を動かし続ける。市街地にやってくると、何も宛てもない散歩をしていると、路地裏に目が入った。しばらくジーと見ていると何か興味を惹かれたのか、スッと足のつま先の方向を変えて路地裏に入った。あまり光が無い薄暗い場所でジメジメとした湿気を感じつつ特別意味のない探険をする一誠の視界に―――ポツンとどうしてこんな場所に建物があるのか不思議でならない物が映る。

 

「・・・・・」

 

ネームプレートも看板もない建物。永らく雨風によって建物は痛んでいる上に人の気配も感じない。

それでも一誠を惹きつける何かがあるのか、小型の通信式魔方陣を展開してナヴィに目の前の建物について調べてもらうと―――。

 

『そこ、前まではとある魔法使いが潜んでいた場所ね。とっくの昔に討伐されているけれどあのゼルレッチから盗んだと言われている品が未だ見つかって無いの』

 

「あのお爺ちゃんからよく盗めれたなと感心するけど、何でまだ残っているんだ?」

 

『さぁ?取り壊す意味もないし、放っていたんじゃないの?取り敢えずその家の所有者すらいないから不法侵入しても何の問題ないわよ』

 

それを聞いて安心したと一誠は堂々と扉を開けて中に侵入した。

 

『あ、気を付けて』

 

「ん?」

 

『そこ、デるから』

 

なにが―――と思った矢先、何とも言い難い気配を察知した瞬間に、

 

スパンッ!

 

ハリセンを反射的に何かを叩いた。

 

「ん?当たったな?―――と」

 

スパパアンッ!

 

目には見えない闇を叩き続ける。何気に聖なるオーラをハリセンに込めているせいか、小気味の良い音を鳴らすことができていると、

 

『『『非常識にもほどがあるじゃないかぁーっ!』』』

 

人の形や異形の姿をした透けている存在が現れながら頭に大きなタンコブを作って異議を唱えた。

 

「幽霊か。なるほど、ナヴィがデるって言ったのはお前らのことか」

 

『ちっとは驚け!?私たちはこれでも悪霊や怨霊でもあるんだぞ!』

 

「そう言う割には明るいような気がするけど」

 

『お前のそのハリセンで負のオーラが弾かれたんだい!あっ、ハリセンを持った腕を振ろうとするな!これ以上やったら死んじゃう!』

 

とっくの昔に死んでいるじゃないかとツッコミを入れつつ、あげた腕を下ろした。

 

「この家の住民って認識でいいか?」

 

『キャハハッ!そうねぇー?ここは幽霊の私たちみたいな奴にとっては良心地がいいからねぇー?』

 

『好奇心で入って来た人間共の生命エネルギーを喰ったりしたり、驚かしているけどなぁー』

 

『そう言えば一昔やってきた魔法使いも美味しく食らってやった。あれが最近の新しい記憶だ』

 

思い出しながら漏らす幽霊の言葉に反応してあることを訊ねた。

 

「その魔法使いは何か持っていなかった?」

 

と、聞けば幽霊たちは顔を見合わせた。

 

『あーへんてこな本ならあったけど?なに、あの本を探してるの?』

 

その言葉に真っ直ぐ幽霊を見詰めながら頷いた。

 

「そんなところかな。知り合いの持ち物だって聞いたからさ」

 

『ふーん。ま、関係ないから教える気はないけれどね。教えてほしいならお前の生命エネルギーを吸い尽くさせてくれ』

 

透明で生きている証拠である温もりを感じさせない手が一誠の顔に伸ばした時、真顔で一誠は言った。

 

「天使の軍勢をここに呼ぶぞ。それか堕天使だ。というか、俺がここで死んだら三大勢力が調査しにくるぞ」

 

脅迫ぅっー!?と幽霊たちは愕然とした。そして本気だと悟った。目の前の人間は天使のような翼を背中から生やしてこちらを見詰めてくる。さぁ、どうする?と。一人の幽霊は行動が早かった。消滅されたくないと

必死で一誠の前から消えたと思えば、一つの本を持ってきた。

 

『これですっ!どうぞ受け取ってください!』

 

すんなりと自分の親しい老人の品を取り戻すことができた。

 

「ん、ありがとう。ここの建物のこととお前らのことは内密にしておく。また聞きたいことがあったらまた来る。いいな」

 

『『『アザースッ!』』』

 

悪霊、怨霊であるはずの幽霊たちが一誠に敬礼する有り得ない光景の後、通信式魔方陣で一香にゼルレッチの盗まれた盗品を送って報告したことで魔方陣を消した。

 

―――○●○―――

 

「ここに来るのも久し振りだな」

 

見詰める目の前に人知れず鎮座する教会。以前、アーシア・アルジェントを送って以来顔を出してなかった場所。

彼女は元気にしているのだろうかと思い、赴いてみれば外見はあまり変わって無かった。

扉を開けつつ言葉を放った。

 

「失礼しまーすっと」

 

顔や上半身がない銅像が壁に点々と設けられていてこの教会に人っ子一人の姿も見えない。

何とも形容し難い雰囲気を醸し出し、無人の教会を見渡すことしばらくして一誠は最前列のそのさらに前にある教卓に近づきずらしたような跡があることを発見しては「よいしょっ」と軽く気合を入れて教卓をずらすと―――隠し階段を見つけた。

 

「ぶっ!?」

 

すると、隠し階段から強烈な臭いが。思わず頭が仰け反って鼻を腕で押さえ少しでもこの強烈な異臭を嗅がないようにする。些細な抵抗ですら一誠の鼻を熾烈に刺激を与える。

 

「変な臭いがする」

 

龍神さまはその程度しか感じないようだった。しかし、一誠にとっては強烈過ぎる。眼すら痒くなり、涙目になってくる。どうしよう・・・・・と隠し階段を降りるか否か躊躇すること一分間、金色の杖を具現化しては

外部から全てを守るように金色の楕円形の膜を一誠を中心に作り上げれば階段を降り始めた。

階段は数十秒ぐらいで降り切り、閉じられている扉を見つけた。―――扉の向こうは何があるのだろうか。

好奇心と不安が混ざった思いを抱くまだ十数年しか生きていない少年の両手がゆっくりと扉を開けた。

 

「・・・・・ナニコレ」

 

「不思議」

 

扉の向こうは―――白いシーツが敷かれている横長のテーブルに赤い料理の食べ掛けのまま黒いローブを着た人たちがテーブルに突っ伏す感じで上半身を折ってる状態でピクリとも動かない。気は感じられる。気絶、昏睡状態なのか定かではないが、一応無事であることを察知して自分が求むアーシアを探すと、視界の端にキラキラと綺麗な金の髪が一点だけ見つけた。目的の人物を見つけたものの、心から喜べない自分がいる。金髪の人物に近づけば、

 

「・・・・・南無」

 

―――片手に白いレンゲを持って食べかけの赤い麻婆豆腐を前に頭を突っ伏している姿を見れば、

料理に毒を盛られたような雰囲気を醸し出す光景を目の当たりにして合掌。

 

「おい、大丈夫か?」

 

改めて安否の声を掛けてみたものの返事はない。ちらりと麻婆豆腐を見た。既に冷え切っている中国料理、これを食べて一人残らず気絶させるほどの何かが混ざっているのだろうか?

少女の手からレンゲを取って麻婆豆腐を掬って最初は匂いを嗅いだ。

 

「ぶはっ!?」

 

思わず噎せた。未だに金色の膜を張っているおかげでこの空間の漂う臭いを遮断していて鼻に直接嗅ぐまでは気付かなかったからだ。地上にまで漂ってきた苛烈で熾烈な臭いを発する料理であることを。

 

「こ、これを喰って気絶するんじゃ仕方がないかも・・・・・」

 

辛い、どころではない。簡単に麻婆豆腐の常識を覆しているだろう『辛さ』を醸し出す臭いが凄まじすぎる。

これを食べたらこの場にいる全員みたいになるかもしれない。そっとレンゲを置いて携帯を取り出した。

 

「あー救急車の手配をお願いします。全員、食中毒で倒れています。ええ、場所は―――」

 

奇妙なアーシア・アルジェントの再会となってしまった。―――後に教会の地下から大勢の神父たちが防護服を着込んだ特殊自衛隊たちによって病院に運ばれた事実は日本中に震撼させたほどになった。お茶の間にもニュースが報道され、その原因が麻婆豆腐であることを知って

 

『どうやったら病院に搬送されるほどの麻婆豆腐ができるんだろう』

 

と思わずにはいられなかった。

 

 

その頃、一誠がいない家では―――。

 

「あれ、彼がいないんですか?」

 

式森和樹、神城龍牙、葉桜清楚、カリンの四人が遊びにやって来ていた。四人に応じるのは咲夜。

 

「はい、外出なされました。一誠さまにご用で来ていただいたのに誠に申し訳ございません」

 

「大丈夫ですよ。事前に話し合いもせずに突然来てしまった僕たちが悪いんですから」

 

龍牙が朗らかにそう言う。今回の訪問の事の発端は龍牙だ。龍牙の家から連絡があり、一誠が復活したと聞いて友人である和樹や清楚、カリンに声を掛けて一誠の様子を見に行こうと提案したのだ。結果は外出して目的が果たせなかったが町に出ているならそれはそれでいいと結論に至った。

 

「もうしばらくすれば戻ってきますでしょうから中にお入りください」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

清楚が恭しくお辞儀をしてから中に入った。中に入ればレッドカーペットが敷かれた上階に登る階段まで伸びていて左右に視線を向ければ和風と洋風の扉があった。この家の敷地に入る際、和風と洋風の家があったことを思い出し、くっついているんだと察した。天井を見上げれば二階や三階とぐるりと繋がっている廊下が吊り下げられている豪華絢爛なシャンデリアを囲むように設けられている。相変わらず大きい家だなーと和樹は胸の内で漏らし、

咲夜が案内するリビングキッチンに足を運んだ時、クロウ・クルワッハが和樹たちと出くわした。最強の邪龍が目の前に現れ、和樹たちの間に緊張が走る。

 

「咲夜、一誠の友人たちか」

 

「はい、取り敢えずこの家の中に待たせようかと」

 

同じ家族同士だから緊張感を感じさせない会話のやり取りをする二人に視線を向けると龍牙に目を向けたクロウ・クルワッハ。

 

「そうか。なら私と勝負してもらえるかな。特にファーブニルを宿すお前と魔法使いの式森」

 

「「え、遠慮します」」

 

絶対に痛い目に遭う。勝つ負けるよりも邪龍とは戦いたくない気持ちで勝った。怖いわけではない。

一誠を会いに来ただけなのに邪龍と戦う羽目になるのはごめんなのだ。

断わられたクロウ・クルワッハは「そうか」と漏らしてどこかに行ってしまった。

 

「賢明なご判断かと。相手をすれば疲弊し切るのはまず間違いないので」

 

「そんな相手を彼はしていたんだね」

 

咲夜は「それでも勝てていませんが」と付け加えた。リビングキッチンの中に入り、ソファに座るように促されて腰を落とす四人。

 

「うん?」

 

和樹が元々テーブルに置かれていた本を目にした。年季が入った本らしく表紙が少し薄汚れている。

その表紙に銀の十字架が薄汚れた本とは思えないほどきれいに輝いている。

 

「咲夜さん、この本はなんですか?」

 

飲み物を持ってきた咲夜に質問したところ、和樹たちの前に茶菓子を置きつつ説明した。

 

「ええ、先ほど送り返されたものです」

 

「送り返された、誰にです?」

 

「一誠さまの母、一香さまからです。知り合いの盗まれた盗品でして一誠さまが見つけて一香さまに頼んで送ってもらったのですが、苦笑いで『坊主にくれてやる』と知り合いの方からの伝言を一香さまから承りました」

 

どうやら知り合いに送り返させられたらしい。

 

「これは何のか分かりますか?」

 

「魔法の本らしいです」と本を手にして咲夜は壁に向かって歩き出すと棚の上に置いた。

魔法の本と聞いて興味を持った和樹とカリンだったが、あそこに置いたということは自分たちには見せないということなのだろう。ちょっと残念がっていたところで清楚が口を開けた。

 

「他の皆さんはどうしているんですか?」

 

「自室にいたり一誠さまのように外出なさっておいでです」

 

「そうなんですか。それにしても不思議ですね」

 

話を聞いて小首を傾げる咲夜に清楚は告げた。

 

「兵藤くんの周りに色んな種族の人たちがいる。兵藤くんは色んな人に恵まれていますね」

 

「・・・・・ええ、一誠さまの傍にいると退屈な時間は無くなり、心が穏やかになります。強いて言えば心地がいいでしょうか」

 

綺麗に微笑む咲夜。自分だけではない。有り得ない存在すら一誠の傍にいるのだ。リーラ同様に慈しむ相手、一誠の魅力は種族無関係に心を和ます。咲夜もその一人だ。

 

「殆どあいつの周囲には女しかいないけどな」

 

「いやいやカリンちゃん。警備員の吸血鬼もいるじゃないか」

 

「僕、危うくその吸血鬼に血を吸われそうでしたよ。『美少年をはっけーん!』と言いながら襲われて・・・・・っ」

 

「大きい犬ともう一人の吸血鬼の人が止めに入らなかったら大変だったね」

 

和気藹々と喋り出す四人を咲夜は一瞥して仕事に取り掛かろうとしたその時、

大型のテレビが勝手に点いてはガーゴイルと人間のハーフのナヴィの顔が映りだした。

 

『ここから失礼、聞いて欲しいことがあるから』

 

「どうかしましたか?」

 

『ええ、面倒な客がもうすぐ来るから気を付けて』

 

真面目な声音で警告するナヴィは言い続けた。

 

『今さっき一誠を呼び戻したから直ぐに帰ってくるけれど・・・・・なんであいつがここにくるんだろう』

 

「ナヴィさま。誰ですか?ここに赴いてくる者は」

 

咲夜の質問に和樹たちですら目を張ったほどの返事が返ってきた。

 

『一誠の両親と他十数人の兵藤家の少年少女、中には―――赤龍帝、一誠の兄貴がやってくるわよ』

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

判明した来訪者と同時に一つの魔方陣が咲夜の背後に発現して魔方陣が発する光と共に一誠とオーフィスが現れた。

 

「ん?式森たちがいるなんてな。久し振りだ」

 

「う、うん久し振りだね。復活したと聞いて様子を見に来たんだけど・・・・・」

 

「ああ、ナヴィから聞いた。―――あいつがここに来るんだってな」

 

一誠の態度がガラリと変わる。どこまでも冷たい雰囲気を醸し出し、金色の瞳の奥から憤怒の色が窺える。

そしてナヴィから言われたのかこの場にいなかった一誠の家族が顔を出した。

 



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エピソード36

『・・・・・』

 

『・・・・・』

 

この場に今までにないほどの重圧を肌で感じる。それもそのはず、テーブルを挟んで座る一誠の目の前にはまるで映し鏡のように座っている―――赤い髪の兵藤誠輝がいるからだ。誠や一香たちがこの家に訪れて早十分。誰一人も喋らず、喋ることもできないこの緊張感と重苦しい空気に圧迫され、気が擦り減っていく一方だった。

 

「久しい、ドライグ」

 

『ああ、オーフィス』

 

「ここに何をしに来た?」

 

『それは相棒たちが言うだろう。俺から言うことは何もない』

 

オーフィスとドライグの会話も雀の涙程度でしかならなかった。

 

『はははっ、ここまで兵藤一誠が無言でしかも怒りや敵意を抱いているのは本当にドライグの宿主のことが心底嫌っている証だな。逆に愉快過ぎて笑いが出る』

 

『私は納得できる。散々兵藤家の者たちや自分の兄に罵倒や暴力を強いられ続けていたのだ。今さら安息できるこの家まで来て一体何を話しする必要がある?』

 

『どうせくだらないことだろう?だが、せっかく本当の意味で家族が揃ったんだ。ここは仲良くするのも―――』

 

「くらだらねぇことを言うんじゃねぇよアジ・ダハーカ」

 

凄みの利いた声を発する一誠を聞いて和樹と龍牙、清楚、カリンが内心驚いたのを気付かず言い続ける。

 

「向こうから兄弟の縁を切っているんだ。俺の真似をして髪を赤く染めた自称最強さんとは赤の他人に過ぎない。

俺は昔から兄なんていやしないんだよ。ああ、誰よりも最弱で理不尽な罵倒と暴力で泣きじゃくっていた時からな。だからアジ・ダハーカ、しばらく黙れ」

 

『・・・・・』

 

『物凄くアジ・ダハーカが落ち込んでいますが主・・・・・』

 

『言ってくれるなメリアよ。こいつの自業自得に過ぎない』

 

最強の邪龍に対して何て言い草をするんだろうと誠輝の中から見ているドライグは空いた口が塞がらなかった。

 

「父さん、母さん。どーしてこいつらを連れてきた?」

 

返答次第ではいくら大好きな二人でも怒るぞとばかり凄みを利いた睨みで訴える。

誠輝と兵藤家を毛嫌いしている事を熟知しているにも拘らず連れてきた両親にだ。

誠は頬をポリポリと掻きながらバツ悪そうに口を開いた。

 

「あー、本当だったら悠璃ちゃんや楼羅ちゃんだけここに連れて来ようとしたんだが・・・・・ついてきてしまったんだ」

 

「追い返せばいいだろう。二人ならできたはずだ」

 

二人の強さを少しだけ知っている一誠にとっては跳ね除けることぐらいできたはずだと風に述べた。

それをどうしてしないのか理解に苦しんでいた一誠に―――誠輝が不敵に口を開いた。

 

「次期当主と現当主の娘の護衛を兼ねて―――それが俺たちがここにいる理由だ化け物くんよぉ」

 

自分を化け物呼ばわり、人間ではないから自覚あるものの嘲笑いを浮かべる誠輝が言えば

一誠の目が据わるように細まり誠輝を見詰める。

 

「なんだ、父さんに一蹴された兵藤家チームのリーダで自分は最強だーと言ってたくせに負けて恥ずかしい思いをした赤龍帝」

 

「何時までも過去のことをほじくり返して女々しいどこぞの化け物に何を言われても何とも思えねぇよ」

 

「・・・・・力ばかり自慢しているから脳まで筋肉になっているんじゃないか?考えていることは力と女って典型的なバカだって知ってる?」

 

「最強のドラゴンに守られている弱い化け物が良く吠えるな」

 

「その最強のドラゴンと戦うことになったらお前は確実に負け決定だけどな。ああ、俺は自覚しているぞ?お前なんかに言われるまでもないわ」

 

本当に強大なのかと疑う子供並みの罵倒。聞く度に相手に対する罵倒が出るわ出るわ・・・・・・。

 

「(和樹さん、ここまで仲の悪い兄弟って聞いたことあります?)」

 

「(多分、この二人だけだと思うよ)」

 

「(気持ちは分からなくもないが・・・・・あまりにも酷い)」

 

「(居たたまれなくなっちゃうね)」

 

ヒソヒソと声を殺して言葉を交わす和樹たち―――に一誠がギロリと睨んだ。

 

「帰りたかったら帰って良いぞ止めはしないから。いても何も変わらないだろうからな」

 

「一誠、そんなことを言ってはいけないぞ」

 

誠が一誠に窘めたものの眉間に皺を寄せて言い返された。

 

「・・・・・俺がこんなに不機嫌になっているのは知っているだろう父さん。さっきから俺は我慢しているんだけど。―――目の前の俺と同じ髪に染めた男をこの力で消滅したいんだからな」

 

装着した黒と紫が入り乱れた籠手を見せ付け、禍々しい魔力のオーラを滲みださせる。

 

「前は金髪だったのに今度は赤い髪だ?何のつもりだよ」

 

「俺がどんな髪に色を染めようがお前には関係ないだろう化け物」

 

「お前の口から化け物って言葉しか聞こえないな。それしか言えなくなったのか?」

 

「はっ!人間じゃない奴に化け物と言って何が悪いんだ?知らないだろうがな、兵藤家の間じゃお前のことを化け物や兵藤家、式森の異端者、半端者だって言われているんだぜ?だからお前は―――」

 

誠輝は発した。「お前は完全に兵藤家じゃないただの化け物に成り下がった出来損ない」と。

 

『・・・・・』

 

 

刹那―――――。

 

 

この空間に殺気とプレッシャーが充満し出した。それには思わず誠と一香が敏感に反応して立ち上がり、一誠たちに制止の呼びかけをしようとしたが、一誠の手がゆっくりと上がって殺気を放つ家族を制した。

 

「出来損ない・・・・・ね。お前らもそう思っているんだな?」

 

誠輝の背後に立っている少年と少女に問いを投げた。ギラギラと獲物を狙うような鋭く目を輝かす猛禽類の双眸がはぐらかすことを許さないと訴える。問われ、一人の少年が言った。

 

「・・・・・俺たちは別に思ってはない」

 

「ふーん?じゃあ兵藤家は俺を受け入れてくれると?お前の一言で兵藤家全員の気持ちがそうだということになるがそこんとこどうなんだ?」

 

「っ・・・・・」

 

少年は口を噤んだ。下手に言えば周りからの非難されるのは明らかだ。誠輝の言う通り、周囲の兵藤家の大人たちが口を揃えて一誠に対し揶揄している。少年自身はどうでもいいことだが、自分の一言で周りの大人も皆そうだとありもしない気持ちと考えになってしまう。

 

「―――自分で言ったことを責任持てないんなら言うんじゃねぇよ」

 

怒気が孕んだ低い声音。

 

「どうせお前らも俺のこと見下しているんだろうな。そうでもなかろうと俺は兵藤家を許すつもりはない。恨みはするが憎むつもりもない」

 

「上から目線で随分と偉そうに言うじゃねぇか」

 

「本心を言ったまでだ」

 

「あっそ、でもまぁ、お前は兵藤家の奴じゃないから次の兵藤家の当主は必然的に俺になるだろうな。なんたって俺は父さんの息子だ。化け物の息子がいるなんて世間に知られたら日本や俺たちの評判が悪くなるって」

 

嘲笑する誠輝に一誠は訊いた。

 

「・・・・・俺は父さんと母さんの息子じゃないとそう言いたいのか赤龍帝」

 

「昔からそうだったろう。俺は弱い兄弟がいたなんて認めた覚えはねぇ!俺しかいなかったんだよ父さんと母さんに子供がいたという事実をさ!誰が化け物の子供がいるなんて言えるよ。魔人なんて力を、式森の魔法の力を振るえる兵藤家の人間になんてよぉ、いてたまるかってんだ」

 

―――久し振りに聞いたな。胸の内で漏らした。自分を弟して認めない言葉をまた聞いた。

別に今さらな事だしなんと思わない。

 

「しっかし、お前は随分と良い思いをしているんじゃねぇか。女に囲まれてよ」

 

「だからなんだ。お前も女の一人や二人いるだろう。ああ、どうせ相手の意思の尊重も無視してな」

 

「わかってるじゃねぇか。強者は弱者を蔑ろにできるってんだからな。この世界にいる弱者の女は俺たちみたいな強者の慰み者として扱われるのは当然の摂理だ」

 

「それが兵藤家の考え方か?」

 

「ああ、そうだぜ。兵藤家の人間じゃないお前には関係のないことだがな」

 

ゲラゲラとゲスな笑いをし、一誠をどこまでも嘲笑う現赤龍帝の兵藤誠輝。一誠はまた少年と少女たちに目を向けて発する。

 

「お前らもそんな考えだったとはな。全然気付かなかったよ」

 

「なっ、俺たちは違う!」

 

「赤龍帝がそれが兵藤家の考え方だって言ったんだぞ?兵藤家であるお前らもそう言う考え方をしていると思われても不思議じゃない。お前らがなにを言ったところで強者は弱者を蔑ろにすると風な兵藤家の教えだったはずだ。

その教えの下で生きて強くなったお前らがなにを言っても説得力はない」

 

「人権を剥奪する気か!?」

 

「―――そんな権利なんてあったか?言っておくがお前ら・・・・・ああ、そこの二人の少女を除いてお前らは一度俺を虐めてた連中だってことを覚えているからな」

 

っ―――。

 

少年たちは言葉が咽喉につっかえて言えなくなった。それが事実だということを認めたことで和樹たち四人は目を丸くし、信じがたい気持ちで兵藤家の少年たちに目を向けたところで誠輝が嘆息した。

 

「高が虐めを受けた程度で喚いてんじゃねぇよ」

 

「事実を再確認させただけだ。もう昔とは違うんだからな」

 

「へぇ、どう違うってんだよ。テロリストに情けなく殺された化け物さんよ」

 

不敵に漏らした誠輝の顔に影が差した。その影に気付いた時には一瞬だけの鈍い感触と壁と衝突して激しい痛みを一拍遅れてようやく自分が誰かに殴られたのだと察した時だった。

 

「さっきから聞けば・・・・・誠輝、お前、護衛と言う役目を軽い気持ちで思っているだろう」

 

堅く握られた拳を、腕を横に伸ばした状態で誠が感情が籠っていない声音で発した。

 

「誰が喋って良いと言った?護衛は護衛らしく俺たちの身の周辺の危険性を極力減らして黙って守っていればいいんだよ。それすら分からないのか」

 

尻目で背後に立つ少年と少女たちにも向けて言った。

 

「お前には、お前たちには護衛なんて役目は向いていないようだな。次期当主の俺を差し置いてべらべらと勝手に喋る。しかも相手を罵倒するばかりだ。お前は何さまのつもりだ。護衛の分際で偉そうにしているなよ」

 

「せ、赤龍帝の俺が護衛でいれば誰にも襲われずに―――」

 

「一時的に神をも上回る力を発揮でき、一定時間に力が増幅する。力に固執するお前にはピッタリな神滅具(ロンギヌス)だな。―――それがどうかした。赤龍帝だからって宿主がダメなら宝の持ち腐れに等しい。現状で満足しているって言うならお前はこれ以上強くなる見込みはハッキリ言ってない」

 

誠輝の顔色が初めて変わった。赤龍帝の自分が・・・・・?もうこれ以上強く成れないだと?

 

「お前たちもだ少年少女くんたち。兵藤家の教えが全てではない。兵藤家と言う卵の殻の中に閉じ籠っていると本当の強さなんて絶対に身に付けない。そんなお前らと対照的に一誠は世界中で修行して強くなった。

お前らと一誠の違いは世界を見ているか見ていないかの差だ」

 

徐に立ち上がり誠に一香も続いて立ち上がる。

 

「悠璃、楼羅。二人は今日この家に泊まって良いぞ。クソ親父には俺から言っておく」

 

「既成事実を作ってもいいからね。それじゃ」

 

誠と一香がさっさとリビングキッチンからいなくなった後。

 

「早く来いよっ!自分から護衛を買って出たくせに護衛する対象者に身の危険を晒して帰らす気か!?満足に護衛もできず、役立ちたいと意識していないようだな!護衛は遊びじゃないんだぞこのクソガキ共が!」

 

『はっ、はいっ!申し訳ございません!』

 

怒声で我に返った少年少女たち、誠輝の両腕を掴んで引き摺りながらリビングキッチンからいなくなった。

 

「・・・・・初めて聞いた。父さんが怒っている声」

 

「そ、そうなの?」

 

唖然と呟いた一誠の声に和樹が確かめるように訊けばコクリと頷いた。

 

「・・・・・化け物か」

 

意味深な呟きと共に息を零す。そして自嘲的な笑みを零した。

 

「ま、そうだろうな。悪魔、天使、堕天使はともかくドラゴンなんて昔から化け物として扱われているからな。

 今更な事だが、周りから俺を見てすれば化け物なんだろう」

 

リーラと咲夜が背後から一誠を優しく抱きしめた。オーフィスとアルトルージュが膝の上に乗りだして身体を一誠に寄せた。

アラクネーが一誠の右手を掴み、ティファニアが一誠の左手を掴んで包みこんだ。

クロウ・クルワッハ、ルクシャナ、シャジャル、ヴァレリーが側によると

 

「・・・・・ありがとう」

 

化け物でも自分の傍にいてくれる。言葉で発しなくてもこうして行動で示してくれる家族に心から感謝し、

涙を流した―――。

 

 

「兵藤くん・・・・・辛かったんだね」

 

「僕たちが思っていた以上に、ね」

 

「三人の姉がいる私でもあそこまでは悪くないのに・・・・・」

 

「どうしてあそこまで歪んでしまったんでしょうね」

 

今まで見守ってきた和樹たちが喋り出した。一誠の過去の一部を知り、意味深に周りから家族に抱き締められている一誠を見詰める。

 

「式森家は主に魔法の基礎理論や構築などの研究で一日を過ごす。だから実力主義じゃないから虐めなんてないんだけど、兵藤家は体術や武術が主だから必然的に実力主義になっちゃうのかなぁ」

 

「・・・・・あの赤龍帝が学園にやってくるようなことになればますます兵藤家のやつらが態度を大きくするぞ」

 

「ははは、カリンさん。冗談でもそれはないでしょう」

 

「うん、あの人たちだって立場があるだろうし学校には来ないよきっと」

 

有り得ないとカリンの言葉を否定し、苦笑いを浮かべた。しかし―――その言葉が現実となることを和樹たちは気付かないでいた。

 

―――○●○―――

 

「兵藤悠璃、いっくんとは幼馴染の関係だよ」

 

「兵藤楼羅です。一誠さまとは妹の悠璃と同じく幼馴染の関係です。以後お見知りおきを」

 

二人が挨拶を済ませたことで一誠、リーラ以外の面々は軽く歓迎した。

 

「イリナとヴァーリ以外にも幼馴染がいたのね一誠?」

 

ルクシャナは一誠に確かめるように言い放った。彼女たちの存在は知っていた。あの―――一誠が死んだときに。

こうして改めて名乗られたのは今回が初めてで肯定と頷く一誠を見て納得した。

 

「リーラ、イリナ、ヴァーリに続いて俺と昔から交流のある幼馴染だ。兵藤家の中では唯一、信用と信頼できる同年代の二人なんだよ。何時も励ましてくれた」

 

「そうなの。だから正直言って赤龍帝たちは嫌い。死んじゃってくれないかな」

 

「あの方の思考には私たちと同じだと思われたくないです。最近の兵藤家は質が落ちていると父も嘆いています」

 

片や過激な暴言、片や現状に憂いている父の心情。

 

「父は真新しい変化を求めていました。今のままでは確実に兵藤家は没落する。兵藤家の栄光と威光を嵩にして

欲望のままに人生を送る現代の兵藤家を見て確信しております」

 

「国のトップも大変ね。私たち吸血鬼の二大派閥も似たもんだわ」

 

アルトルージュが肩を竦め気持ちは分からなくないと漏らした。今ではどうなっているのか分からないけどと胸の内で付け加え呟いた。

 

「吸血鬼の世界の事情など知りませんが、ええ、確かに新しい変化を求めているのはどの世界も国も同じでしょう。―――だからこそ、父は内心では一誠さまに次期当主としてなって欲しかったかもしれません。あくまで予想ですが」

 

「どうして?」

 

「ドラゴンの身体を持つ兵藤の者に式森の血を受け継いでいるからかと。もしも一誠さまが私と悠璃との間に子供が生まれたとします」

 

「―――色々と突っ込みたい仮定だけど。まぁ、続けて」

 

と、アルトルージュが促す。

 

「熟知しておりますが、一誠さまはドラゴンです。ドラゴンのDNA、遺伝子が受け継がればより強い子供が生まれる可能性はあります。体術、武術など長けている兵藤家からしてみれば理想的な結果でしょう」

 

「まぁ、強い子供が生まれるのだけは確かだろうな」

 

何気なく同意したクロウ・クルワッハは一誠に視線を向けた。

 

「子供を作ると遺伝子が受け継がれるか・・・・・ふふっ」

 

「なんだ、その意味ありげな笑みは」

 

「いや?面白そうだなと思ったまでだ」

 

何が面白そうなのだと思った一誠だが、これ以上聞けば地雷を踏みそうな予感を察知して楼羅に視線を変えた。

 

「だけど、俺は成れなかったけどな」

 

「そうですね。でも、元の鞘に収まった形で元当主でした一誠さまのお父さまが次期当主と言う肩書を得てお戻りになりました。父からすれば結果オーライでしょうね」

 

「お父さんは強いからなー。お爺ちゃん的にはそれもまた良しとせざるを得なかったんじゃない?」

 

「顔を合わせる度にそっぽ向いたり、度々口喧嘩、時には身体を張ってでの喧嘩をすることもありますが・・・・・」

 

苦笑を浮かべる楼羅やその時の光景を思い出して疲れた表情をし出す悠璃。

 

「朝昼晩、あの無言の食卓は滅入るよいっくん。口喧嘩しながら食べるんだったらまだマシだけど、何も言わないで黙々と食べる食事は正直言ってウンザリ」

 

溜息を吐く悠璃を「兄弟も兄弟なら親子も親子ですね」とリーラが嘆息した。

 

「いっくんが次期当主だったら私たちは嬉しかった。でも、死んじゃってとても悲しかったよ」

 

「・・・・・ごめん」

 

「ううん、謝らなくて良いよ。生き返ってくれたから私は嬉しい」

 

「私もです一誠さま」

 

二人の幼馴染の笑みで憂い顔の一誠の心は晴れた。

 

「そうだ、いっくん。私たちも学校に行くことになったんだよ?」

 

「おっ、そうなんだ。どこの学校だ?」

 

「国立バーベナ駒王学園です。残念ですが一誠さまと同じ教室にはなれないでしょう」

 

「それはそれで残念だが、二人のことだから会いに来るんだろう?」

 

「「それはもちろん」」

 

一瞬の乱れの無い異口同音で答えた姉妹。するとティファニアが開口一番で聞いた。

 

「二人はイッセーのこと好きなの?」

 

「うん、大好き」

 

「兵藤家の男たちの中では一番と二番の次元の差が違うほどにです」

 

熱い眼差しを一誠に向ける二人の幼馴染に対して「やっぱりか」とどこか呆れ果てた一部の女性陣。

 

「いっくん、一緒にお風呂入ったり一緒に寝よ?」

 

「今日だけは私たちと一緒にいてくださいね」

 

「「絶対に」」

 

そして、一誠を思う気持ちはリーラほどであることを思い知らされた。



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エピソード37

夏期休暇は終わり、学校生活が再び始まった。まだまだ残暑が残っている学園の生徒たちはこの夏休みの間に劇的な変化で性格や態度、姿も変わって登校する。

 

「ついに体育祭が始まろうとしてるのね・・・・・」

 

ブルーなパチュリーを見て「ああ、運動がダメなんだっけ」と他人事のように久しく再会したクラスメートの反応に納得した。

 

「体育祭なんてこの世から概念ごとなくなればいいのに」

 

「さらっととんでもないことを言うなこの魔法使いは」

 

「運動が苦手な人の気持ちは分からないでしょうね」

 

ふっ、とどこか悟った笑みを浮かべるパチュリーは一誠を憐れな眼差しを向けた。

 

「水上体育祭はともかく、この学校の運動会は警戒しないことに越したことではないわよ」

 

「何で警戒するんだ?」

 

「当日になれば嫌でも分かるわ」

 

意味深に述べるパチュリーに理解できないと首を傾げる。

 

 

 

 

「えっと、次は―――」

 

時間は過ぎて教卓の前に立ち、黒板に体育祭に向けてでの競技名と参加するクラスメートの名前が書かれていく。

一人一種目は出ないといけない。一誠は借り物&障害物競走に出ることになった。女子しかいないクラスでは荷が重いだろうと一人分の参加権利を得たのだった。オーフィスたちはそれぞれ自分の意思でいろんな競技に参加する。

 

「あー、今回の体育祭はレーティングゲームで使用される異空間で行われることになった。前回のようなハチャメチャな事態を警戒してでな―――」

 

教師がいきなりそんなことを言いだした。前回とは一体、何が遭ったのだろうと一誠は露にも知らないでいる。

なので―――。

 

 

 

「前回の体育祭のことが知りたいと?」

 

「ん、そうだ」

 

生徒会長のソーナ・シトリーがいる教室に赴いて直接ソーナに聞き込みをした。

眼鏡の縁を触れて一誠の質問の前にこう言った。

 

「あなたは復活したのですね」

 

「あー、おかげさまでな」

 

「前回の体育祭、そうですね。一番大変だったのは三つ巴の騎馬戦でしたね」

 

「三つ巴の騎馬戦?」と首を傾げた。その競技名は確かクラスでも書かれていたがどうしてなのだろうと思っていると、ソーナは淡々と説明をした。

 

「悪魔と天使、堕天使の騎馬戦に人間を含めての競技でしたが・・・・・そこに動く人体模型たちが突如現れて騎馬戦に乱入。ご丁寧に鉢巻きを巻いてです」

 

「・・・・・」

 

「しかも、打倒する方法は鉢巻きを取ることのみ。魔力での攻撃、打撃での攻撃が無効化されやむを得ず私たちは人体模型と騎馬戦をするせざるを得なかったのでした。・・・・・生きているかのように臓器が脈を打つ瞬間を間近で見ながら」

 

一種のホラーみたいな体験をしたソーナだった。どうしてそんな相手とすることになったのか、不思議過ぎてソーナに問うたところ。

 

「ええ、誰があのような事を仕出かしたのは把握しているのですが部員までは未だに不明です」

 

「部員?」

 

「非公式新聞部。去年から存在している非公式の部活です。先ほど言った人体模型に撒かれた鉢巻きに『非公式新聞部募集っ!』と忌々しく書かれていたので・・・・・」

 

「当時の私は非力でした。ですが、今回ばかりは好き勝手にはさせるつもりはありません!」と意気込みの言葉と共に燃えあがった。その様子を見守っているとソーナは一誠をジッと見つめた後に口を開いた。

 

「丁度良いです。兵藤くん、お願いがありますがよろしいでしょうか」

 

「一誠でいいよ。家名は嫌いなんだ先輩」

 

「そうですか・・・・・。では、私のことをリアス同様呼び捨てで『ソーナ』と呼んでください」

 

ソーナの言葉にキョトンとした後に視線で「いいのか?」と訴えたところソーナは短く頷いた。

 

「ええ、親友のリアスを助けてくれましたしね。私ではできもしなかったことを成し遂げたあなたにはこれでも評価をしているのですよ?」

 

綺麗に微笑するソーナ。会長としてではなく一人の女、そしてリアスの親友としてでの顔が一誠の前で浮かばせた。

そう言うことならと納得し、改めてソーナと呼び捨てした一誠。

 

「で、俺に頼みたい事とって?」

 

「生徒会の仕事絡みなのですがいいでしょうか。体育祭に向けて生徒会は色々と忙しくなるので男手も必要になります。匙元士郎という男子が一人だけですので・・・・・」

 

「んー、個人的には手伝っても良いけどいいのか?他の生徒会メンバーの意見も聞かないでさ」

 

「構いませんよ。寧ろ助かる方です。無論、タダとは言いません。生徒会の権限で可能な事であれば一つだけ了承が得れる権利を与えます」

 

職権乱用ではないかと思えるが、生徒会と言う後ろ盾ができるとなれば部活の部長として、一人の生徒として色々と利用ができるかもしれない。ならば、断わるわけがないだろう。そんな思いを胸の内に抱き肯定と頷いた。

 

「了解、手伝うよ」

 

「ありがとうございます。では、早速放課後に生徒会室へ来てください。体育祭は五日後ですので急ピッチに準備を進めないといけませんから」

 

「わかった。んじゃ、また放課後に」

 

「ええ、よろしくお願いいたします」

 

一誠はソーナと別れ、悠々と教室を後にした。

 

―――○●○―――

 

そして昼食時。一誠は教室に集まってきた家族たちに生徒会からの依頼を包み隠さず告げた。

教室の奥に休憩スペースとして設けられた相対できるようにソファが四つ。長さは人が四人ぐらい座れるほどで

一誠たちはソファと同じ大きなテーブルを挟んで昼食の時間を有意義に過ごしている。

 

「それって私たちもしなくちゃいけないことですか?でも、私は一誠くんと一緒ならば構いませんけど」

 

「そうね!生徒会の仕事を手伝うという機会はあんまりないからちょっといいかも。悪魔だけどヒト助けとあらば主もお認めになってくれるはず!」

 

「ああ、体力や力なら自信があるぞ」

 

夏期休暇の間、ヨーロッパに戻っていた久しく見ていなかったルーラー、イリナ、ゼノヴィアたち教会組は手伝ってもいいと意思表示をする。

 

「ところで一誠、お前は何に出るんだ?」

 

「借り物&障害物競走だけど」

 

クロウ・クルワッハから質問され当然のように言い返した。お前は?と視線で訴えると、

「私もそうだ」と答えられた。

 

「一緒に競い合うことがあれば負けはしないぞ」

 

「それはこっちの台詞だよ」

 

小さい頃からの打倒の目標を掲げている相手との勝負。戦を司る最強の邪龍も楽しげに口角を上げた。

尖った耳が若干萎れるように表情も憂鬱そうにネリネが漏らした。

 

「私はあまり運動ができないですので、皆さんの足手まといになるかもしれません」

 

「大丈夫だよネリネ。皆で頑張れば絶対に勝てるんだから」

 

「そうっす!」

 

姉のリコリスと親友のリシアンサスことシアが励ましている間に、雑談をしつつ料理を食べる一誠たち。

クラスメートから見ればいつもの光景と思い、教室から出ることもなく弁当を食べ続ける。

一人しかいない男子の教室、麗しい花園。その男子に羨望と嫉妬が主に向けられるが一人しかいない男子にとってはクラスメートの女子に話しかけることもできない事情がある為、嫉妬はともかく羨ましがられるのは遺憾なのだ。男に警戒、敵意、苦手意識を向けられ居たたまれないのだ。

 

「金剛たちはまだ帰ってこないんだな」

 

『イッセーのハートを掴むのは私デース!』と恋愛に情熱を燃やしている帰国子女の少女やその姉妹たちは学校に顔を出していなかった。日本に帰国していないということは出発に遅れているからだろうかと面々は予想や想像をした。

 

「あの賑やかな声が聞けずにいると少しさびしいわね」

 

「私たちの中でルーラーの次にハッキリと一誠に対して好意的な意志表示をする女だからな」

 

そう言うアラクネーが一誠の隣に陣取って「私もそうだがな?」と一誠の耳元に囁く。

言い方がとても艶めかしく、囁かれた少年は嬉しそうにアラクネーへ微笑んだ。

 

「私も一誠くんのことが好きですからね?ずっと傍にいます」

 

アラクネーに対して反対側に座るルーラーも愛おしい異性に目を向けつつ告白した。

 

「我も、イッセーの傍にいる」

 

ちょこんと一誠の膝の上で座って食べるオーフィスも顔を見上げて発した。

そんなオーフィスの黒髪に手を置いて撫でてやればポケットの中に仕舞っている携帯の着信メロディが流れだした。誰だと思いつつ携帯を取り出して画面を見れば『川神百代』と表示していて通信状態にした。

 

「ああ、百代―――」

 

『復活したんなら一言私に言えよこのバカ!』

 

突風に吹かれ、その激しい風圧で顔や髪がぶつかって仰け反りそうな感じで絶叫に似た大きな叫びが一誠の耳を襲った。一誠の復活は川神市までも知れ渡っているようだ。

 

「悪い、言いそびれた」

 

『嘘だ!どうせお前は家族とイチャコラしていただろう!』

 

「一緒に過ごしていたのは間違ってないな」

 

『開き直るな!私がどれだけ―――』

 

「ああ、心配するほど泣いてくれたのか?」

 

もしも違って、それでも似た風な言葉が出てきたら嬉しいなぁと思った矢先。百代から帰ってきた言葉は・・・・・。

 

『私がどれだけ金を貸してくれる奴が減って苦労していると―――(ピッ)』

 

―――しばらく百代との通信を拒否しようと心から誓った。有言実行―――携帯を操作して川神百代との通信拒否を設定しながら清々しい笑みを浮かべて告げた。

 

「うん、ちょっと、付き合い方を考えないといけないかな」

 

「ええ、そうした方がいいです一誠さま。リーラさんもきっとそう思いを抱くでしょう」

 

重々しく好意を抱いているとは思えない発言をした百代の印象と好感度が変わった咲夜が頷く。

金だけ目当てで付き合っているのであればリーラ(先輩)と相談して川神百代(武神)と話し合いをする必要があると胸の内で思った。

 

 

『あいつ、通話を拒否している!?なんで!?』

 

『あのね、照れ隠しにもさっきの言葉は無いと思うわよ。あなたが一誠の傍にいる理由はお金目当てと言っているようなものだって』

 

『言葉を選んで言うべきだったな百代。これでライバルは一人減ったな(笑)』

 

『ち、違うんだ一誠!私は、私はお前のことを・・・・・っ!』

 

 

空耳かな、どこか遠くから一人の少女の悲鳴の声が聞こえてきた。

 

 

そして放課後―――。先に帰るオーフィスたちと別れて真っ直ぐ一階の生徒会室に訪れ、真羅椿姫に招かれてシトリー眷属と軽く挨拶をすませ体育祭に向けての会議や準備を始めた。

 

「まずは体育祭の日程の制作とイラストを書かなくてはいけません。日程の方はほぼ前回と同じなのでそこまで書くのに時間は掛からないでしょう」

 

そう言われながらソーナから前回の体育祭のスケジュール表を渡された。イラストを見れば可愛い悪魔と天使と堕天使のキャラクターが下から上から翼を広げて戦いをしようとしている感じだった。

 

「今回の体育祭の日程は前回と同じように書いて良いのか?」

 

「はい、構いません。イラストの方は一誠くんが考えて書いてくれますか?」

 

ソーナからの頼みを受け入れ、数枚の白紙に前回のスケジュール表と手書きでコピーしながら隅っこに悪魔と天使、堕天使のキャラクターを描く。日程を書き終えれば最後にデカデカと三大勢力のキャラクターに学園の紋章を描いて完成した。その時間はたったの十分。

 

「書いたぞ」

 

「早いですね・・・・・」

 

受け取った今回のスケジュール表をパラパラと軽く開いて内容を確認すれば問題無しとソーナは一誠に頷いた。

 

「上出来です。このイラストも採用しましょう。男の子なのに可愛く書けましたね」

 

「・・・・・変か?」

 

「ふふふっ、意外な一面、才能を知れて良かったです」

 

ソーナが小さく口元を緩ました途端に「会長が微笑んだ・・・・・!?」という驚きの声が聞こえた。

 

「ああ、そう言えば」

 

「なんでしょう」

 

「もしももっと手が欲しかったら冒険部の部員たちも手伝うってさ。どうする?」

 

「助かります。では、明日からお願い致します。やることが山積みなので正直助かります」

 

あっさりと一誠の提案を了承した。その後は細かい作業をするばかりで、ソーナが予想していた作業の段階は一誠と言う存在のおかげで殆ど終えてしまった。

 

―――○●○―――

 

『一誠の体育祭は絶対に見に行くかんなリーラ!』

 

『また思い出の写真が増えると思うと楽しみで仕方ないわね!』

 

弾んだ声が小型魔方陣から聞こえてくることをリーラは心を穏やかにして相槌を打っていた。

 

「羽目を外さなければ一誠さまもお喜びになるでしょう」

 

『はしゃがないようにだけはするさ。そうそう、一誠の友達やオーディンたちも誘ったからな!絶対に盛り上がるぞー』

 

『あの神たちも盛大に応援してくれるそうだから一誠も喜んでくれるわね』

 

―――さっそく仕出かしたかこの夫婦は。単独で神々を呼び集めることができるのは後にも先にもこの二人しかいないだろう。勝手な行動をする息子と嫁に兵藤源氏が頭を抱える姿は安易に思い浮かべれる。

 

「当主も来るのですね?」

 

『今回ばかりは来るだろう。というか、俺が来させてやる』

 

喧嘩ばかりしている誠がやる気の声を発した。自分も陰から応援するつもりでいる。愛おしい主、異性の初めての体育祭の晴れ舞台。特注のカメラを再び使う時が来たのだ―――。

 

 

 

 

学校に登校中。一誠は金髪の少女と再会を果たした。

 

「一誠、誰?」

 

「ああ、堕天使側のシスター、アーシア・アルジェントだ」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

ペコリと頭を下げる金髪の少女を見て、教会組のルーラーたちが反応した。

 

「もしかして、『魔女』のアーシア・アルジェントか?」

 

「まさか、この地で会うなんて驚きです」

 

ビクっとアーシアは身体を震わせた。その言葉はアーシアにとって辛いものらしい。

 

「あなたが一時期内部で噂になっていた『魔女』になった元『聖女』さん?悪魔や堕天使をも癒す能力を持っていたらしいわね?追放され、どこかに流れたと聞いたけれどここにいた何で思わなかったわ」

 

「・・・・・あ、あの・・・・・私は・・・・・」

 

三人に言い寄られ、対応に困ったア―シア。一誠の傍にかつて同じ教会に属していたものがここにいたとは知りもしなかった。そこに一誠が助け船を出した。

 

「んー、もう昔のことなんだろう?アーシアの性格上からして困っていたのは例え敵だったとしても放っておけなかったじゃないか?多分、俺もそうしていた」

 

「ボクも噂程度で聞いていたけれど、とても魔女だなんて言われる人とは思えないなー」

 

ユウキも感想を述べた。見た目はとても穢れを知らない純粋無垢な少女。そんな人が魔女と非難されるなんて考えにくい、それがユウキの考えであった。

 

「だが一誠、倒すべき相手を癒やすなど本末転倒だぞ?また敵として現れたらどうする」

 

「そん時はそん時、倒せばいいだけだろう?恩を仇で返す奴はルーラーたちの手で天罰を与えればいい」

 

「矛盾、と聞こえるが柔軟な考えだな。私は嫌いじゃない」

 

一誠の話を聞いてゼノヴィアは不敵に笑った。一誠はアーシアに訊ねた。

 

「それで、どうしてここにいるんだ?俺たち学校に行く所なんだけど」

 

「あ、あの、お礼とお願いがあって来ました」

 

「お願いはともかくお礼?」

 

「はい、私たちを病院に連絡してくれたのは一誠さんですよね?あの教会の場所を知っているのは同じ堕天使か一誠さんしかいないので」

 

アーシアは深々と感謝の言葉を述べながら腰を折りながら頭も垂らした。

 

「あの時か、あの料理、危険過ぎるだろう。他に食べる物は無かったのか?」

 

「調理する人が一人しかいませんので・・・・・殆ど毎日あの料理しか出ません」

 

うわぁ・・・・・。思わず頬を引き攣ってしまった。あの料理しか出ないということは食べる度に気絶しているのかもしれない。

 

「・・・・・話が見えませんがどんな料理を食べているのですか?」

 

リーラの問いにアーシアは「麻婆豆腐です」と答えた。

 

「しかも凄いぞ。隠し階段、地下から物凄い激臭が漂ってきたんだ。食べはしなかったけど臭いを嗅いだだけで昏倒しそうだった」

 

「そ、そんな料理がこの世に存在するんっすか!?」

 

シアは驚きのあまり叫んだ。一誠とアーシアは同時に頷く。

 

「食べ慣れてもあの料理だけは全部食べ切れません。味覚が全滅して味が分からなくなるほどなので・・・・・」

 

「なんだか、魔女なんて呼ばれるよりも物凄く辛い生活を送っているんだな」

 

最初にアーシアに対して魔女と言ったゼノヴィアが憐みの眼差しを向けるほど同情した。

 

「お礼は分かった。お願い事ってなんだ?」

 

「はい、アザゼルさまとお話がしたいのです。レイナーレさまから聞けば、この町の学園に通っていると仰っていました。一誠さんもあの学校に通っていることを知り、住んでいる場所を知らないので彷徨う感じに探していました。もう、あの料理を食べる度に苦しんでいる先輩を見るに堪えません・・・・・」

 

アーシアの懇願に誰もが納得した。そして一誠に視線を向けてどうする?と無言で訴えた時、一誠は頷く。

 

「わかった。アザゼルのおじさんとは友達だから話しはできる。リーラ、頼めれるか?」

 

「かしこまりました。ですがその間彼女はどこにいさせますか?」

 

「んー、リアスの部室でいいんじゃないか?俺からお事情を説明すれば一時的に貸してくれるだろう」

 

話は決まり、アーシアを引き連れて止めていた足を動かし学園に向かった。

 

―――職員室―――

 

「事情は分かった。というか、そんな危険な麻婆豆腐を作る神父がいたことを俺は全然知らなかったがな」

 

「あなたの監督の不行き届きでは?」

 

「わーってる。シスターと会うのは放課後でいいか?」

 

同僚と言う形で職員室にいる堕天使の総督アザゼルに話しかけているリーラ。

その提案に肯定と頷いたリーラ。アザゼルはリーラから視線を外し、顎に手をやってあることを口にした。

 

「悪魔や堕天使を癒やす力を持ったシスターか。それは間違いなく回復系統の神器(セイクリッド・ギア)を持っているな」

 

「そうでしたか。見掛けで判断できませんね」

 

「ああ、そうだな。・・・・・しかしそのシスターの力、有効に活用できるなあいつらと組ませたら」

 

アザゼルの最後の呟きを拾い、何か企んでいると胸の内で息を零したリーラはあることを教えた。

 

「体育祭の当日、異空間で行うようですね」

 

「そうだな。それがどうかしたか?」

 

「誠さまと一香さまが神話体系の神々を誘ったということですので、万が一に備えて襲撃など起こらない場所で体育祭が行われるのは幸いですねと思ったまでです」

 

ヒクっ、とアザゼルの頬が引き攣った。そして―――。

 

「あ、あいつらはああああああああっ!?」

 

あの二人、余計な仕事を増やしやがって!と勢いよく立ち上がって天に向かって魂から叫んだ堕天使の総督。

同じ職員室にいた教師たちは、なんたなんだ?と奇異な視線を向け始める。

 

「神々専用のスペースを用意しなくてはなりませんね」

 

「さらっとさも他人事のように言うな!国のトップよりも立場が高い奴らを簡単に呼ぶんじゃねぇ!」

 

「私ではなくあの二人に申してください。私もあの二人の行動力に呆れかえっているのですから」

 

「お前も何気なく苦労しているんだな」

 

げんなりとした顔でリーラに同情の言葉を発したが疲れた顔を一切出さないメイドは、

 

「身を固めないあなたよりはまだ楽です」

 

「おい、それはどういうことだ」

 

「自分の胸に手を当てれば直ぐにお答えが出るかと」

 

アザゼルは思った。―――やっぱりこいつ、嫌いだ!

 

 

 

その頃、クロウ・クルワッハ、ルクシャナ、シャジャル、ティファニア、アラクネーのクラスに編入生がやって来ていた。

 

「アカメだ。よろしくお願いします」

 

長い艶のある黒髪に血のように真っ赤な瞳の少女が淡々と自己紹介をした。

一目でアカメは強者であることをクロウ・クルワッハは悟り、薄く笑った。

この少女もきっとドラゴンの強い力に引き寄せられた一人だろうと一誠の姿を思い浮かべ、アカメを受け入れたクラスメートと、違うクラスにいる一誠と共にこれから卒業するまで過ごそうと胸の内で考えていた。

HRが終えると、さっそくクロウ・クルワッハは一誠の教室にアカメを引き連れた。久しく見たアカメに驚きつつも笑顔で向かい入れて話しかけた一誠。

 

「クロメに会えたか?」

 

「うん、会えた。妹と一緒に暮らしている。お前のおかげだ」

 

「それはなにより姉妹仲良くするんだぞ」

 

「分かっている。それよりもお前は死んでいたのではなかったのか?」

 

「復活した」と胸張って言いきったところで横から強い衝撃が襲った。

 

「イッセー、久し振りデース!」

 

キャー!と嬉しそうに今日のHRすら姿を現さなかった少女―――金剛が一誠に抱き付いた。

周りは驚く中、金剛に続いて比叡、霧島、榛名が教室に現れた。

 

「お久しぶりです」

 

「久し振りだな四人とも、昨日はどうしたんだ?」

 

「はい、夏休みは両親がドイツにいたので私たちもその国へ必然的に赴くことになったのですが」

 

霧島の話によれば、金剛の神器(セイクリッド・ギア)に注目したドイツの政府が軍事力に加えたいと勧誘をしてきた。当然、勧誘を断わったが神器(セイクリッド・ギア)の所有者は能力によって軍隊並の力を有する。

金剛の能力は戦艦並の砲撃。海上での戦闘に向いている為、政府は海軍として金剛を引き入れたかったらしい。

 

「偶然、私たちと同じように政府から勧誘されていた友達もいてですね。一緒に政府の目を盗んでなんとかこの国に戻って来たんですよ」

 

「そうなんだ。そっちもそっちで大変だったらしいな」

 

榛名からの説明を聞き労う。神器(セイクリッド・ギア)の所有者を血眼になって草根を分けてでも探しだし、自国の力としたい人間の欲望が理不尽に人の人権を蔑ろにするのだろう。

他国より優れているという見せしめや力の誇示が為に。眉間に皺を寄せて国の政府に対する不快感に若干険しい顔つきでいると頬を伸ばされた。金剛に。

 

「OH、イッセー?難しいことを考えちゃったらダメデース」

 

「金剛?」

 

「私たちはこうして日本に戻ってこれたのだから良いじゃないデスカ」

 

向日葵のように笑みを浮かべた金剛に同意と比叡たちはうんうんと頷いた。

玩具のように一誠の柔らかい頬を引っ張っている手は優しく添える感じで今度は包みこんだ。

元気溌剌、天真爛漫と言葉が似合う金剛を見て一誠はクスリと笑みを零した。

 

「そうだな。金剛、お帰り」

 

「YES!タダイマデース!」

 

真正面から一誠に抱き付き、一誠も金剛を抱きしめ返して二人は抱擁を交わす。

微笑ましい光景、大好きな姉に抱きしめられて一誠を羨ましがる妹や自分もと羨望の眼差しを向ける幼馴染等々に見守られる最中、廊下から騒ぎ声が聞こえてきた。不思議に思っていた面々も意識を廊下に向けると。

この教室に大勢の男子たちが卑劣な笑みを浮かべて入ってきた。

 

「ああ、兵藤家の野郎どもか」

 

クラスメートは一斉に一誠の背後まで避難した。その動きは熟練したもので、男が距離を詰めてきた瞬間に離れる業を身に付けた皮肉な本能による行動だった。

 

「よぉ、化け物。久し振りだな。復活したところでご愁傷様で可哀想だなぁ?あのまま死んでいたほうが良かったものの」

 

「全然成長してないようでこちらとて躊躇もなく屠ることができるが、なにか用か?」

 

「これ以上良い気になるんじゃねーぞってただの警告さ。なんたってこっちには赤龍帝がいるんだからな!」

 

―――――。

 

散々、一誠にやられていた兵藤家の少年たちが威張れる、強がれる理由はそういうことかと、目を細めた一誠や一誠と誠輝の間の事情を知るクロウ・クルワッハたちは納得した。

 

「だから?」

 

「あ?」

 

「赤龍帝だろうが白龍皇だろうが、俺には関係ない。そっちにどれだけ強い奴がいようが俺は負けるつもりはない。親の七光りのお前らには絶対によ。なんなら、今すぐ赤龍帝をここに呼んで俺と戦わせてみるか?いいぞ、俺は受けて立つ」

 

魔人化(カオス・ブレイク)と化し、一歩、また一歩と動揺する兵藤家の少年たちに近づく。

 

「て、てめぇ!本気で言ってるのか!?こっちにはあの赤龍帝がいるんだぞ!神滅具(ロンギヌス)の所有者だぞ!?」

 

「だからなんだ。そんな神の恩恵を得た奴よりも俺は色んな神さまと対峙してきた。赤龍帝何かよりよっぽど強い神さまとな」

 

「後悔しても知らねぇぞ化け物が!兵藤家を敵に回して―――!」

 

「一部の人を除いてなら構わないぜ。だったら最初はお前らから俺と戦うか?いま、ここで。兵藤家と化け物の戦いをおっぱじめるか」

 

『ぐぅっ・・・・・!』

 

揃って呻く兵藤家の少年たちは完全に圧倒されている。

 

「何の覚悟すらねぇお前らが俺の足元すら及ばねぇ。俺の家族に手を出してみろ。―――化け物としてお前らを泣き叫びながら懇願しても蹂躙し尽くしてやる。現世に生まれたことを後悔するほどにな」

 

敵意と殺意、威圧を放つ。目の前の一誠(化け物)は本気であることを悟り、心底身体を震わせ、顔を青ざめて弾かれるように一誠から離れ教室からいなくなった。

 

「あんな奴らに俺は虐められていたのかと思うとムカついてしょうがない」

 

舌打ちしそうなほど苛立って魔人化(カオス・ブレイク)を解きつつ背後に振り返ったところ、

 

「格好良いデース!」

 

歓喜極まった金剛が一誠に抱き付いた。クラスメートたちは良い気味だと何度も頷いていた。

 

―――○●○―――

 

放課後、一誠たち冒険部が生徒会と体育祭に向けての準備を進めている頃、就職も就かず部室に籠っているレオーネとオカルト研究部に取り残されている形で今まで待っていたアーシア・アルジェントはアザゼルを交えてリアスたちグレモリー眷属と会合を果たす。アーシアは今所属している教会の事情をアザゼルに説明し、助けを懇願した。

 

「分かった。俺からその神父をなんとかしてやる」

 

「あ、ありがとうございます!これで先輩たちや上司の皆さんも喜びます!」

 

「教会も教会で苦労していることが遭ったのね」

 

リアスは何とも言い難い心情でアーシアの気持ちを察した。

 

「ところで悪魔と堕天使を癒やす力があるんだってな。そいつは『聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』っていう神器(セイクリッド・ギア)なんだが、もっとその力を振るえる環境が欲しいとは思わないか?」

 

アザゼルの意味深な提案に悩み顔でおずおずと言葉を放った。

 

「私の力がお役に立てるならば頑張りたいのは確かなんですが・・・・・」

 

「んじゃ、決まりだな。お前をここに連れてきた兵藤一誠の恩を報いる為にもその力を存分に振るえ。それ以外でもその力を極限まで能力を高めれば傷どころか不治の病すら治してしまう回復系統の神器(セイクリッド・ギア)なんだからな。俺が直々に鍛えてやる。まだ未熟なグレモリー眷属と一緒にな」

 

不敵にグレモリー眷属にも目を向ける。リアスは(キング)としての成長を、朱乃はバラキエルを通して堕天使の力を、白音は黒歌に更なる仙術の特訓、イザイヤは『魔剣創造(ソード・バース)』の禁手(バランス・ブレイカー)に至らせる、一成は体力の消耗が激しい神器(セイクリッド・ギア)を使いこなせる為にも体力向上、ギャスパーは人見知りを直すだけ。

 

「(後半の奴らは一誠を交えて特訓でもさせれば自ずと成長するか?)」

 

ただ、一誠が指導が長けているかは別の話。今までの経験を生かしてグレモリー眷属を強くさせることができれば万々歳なところだ。

 

「アーシア・アルジェント。堕天使の総督として命令を下す。お前さんもこの学園の生徒と成って様々な事を学び、成長するんだ」

 

案の定、予想した、想像した通りにアーシアは緑の眼を大きく丸くして驚いた。

 

「住む場所はそうだな、リアスんとこの家でいいか?」

 

「ちょっと、勝手に話を進めないでくれる?」

 

腰に両手をやって不満げな顔で漏らす。自分だけの家ではなく、一成とギャスパーを除く女性陣が住んでいる家なのだ。今日初めて出会った堕天使側の少女を家に衣食住提供するなど直ぐには受け入れ難い、と心情でアザゼルに視線で訴えると、アザゼルは言い返してきた。

 

「いいだろう?心が広い女は男に好かれる。一誠もそのはずだぜ?」

 

「・・・・・そうなのかしら」

 

ちょろ過ぎる。好意を抱いている一誠を絡ませれば悪魔のお株を奪うような形で誘惑の囁きで堕ちるリアス。

悪魔とはいえども所詮は女。女の悦びを、欲望を満たす為には充実にならなければならないのだ。

ほら、案の定とアザゼルは一緒に住んでいる朱乃たちと相談し始めている。

 

「(今度から一誠の名前を出して話を、事を進めてみるか)」

 

だが、アザゼルは気付いていない。やりすぎると龍の逆鱗に触れてしまうことを。

 

 

 

―――???―――

 

「ねぇ、私たちの主神が他の神と交えて極東の国に行くらしいわね。私も行くけど」

 

「だからなんだ」

 

「あなた、他の神話体系と交流しようとしている主神に良い感情を抱いていないのでしょう?なら、好機じゃないかしらあなたにとって。一堂に集まる神々をあなたの子で噛み砕けるじゃない」

 

「・・・・・」

 

「それに知ってるわよ?あなた、テロリストに協力を求めているってことを。頑張りなさい?」

 

「知っていて尚、我を野放しにするとは何を考えている」

 

「ふふふっ、負けたらあなたに貸しているマントを返してもらいたいだけよ。もう返す期間は過ぎているのだしね」

 

「美の女神と思えない発言だ。我が負けるとでも?」

 

「直接神々は手を出さないでしょうけれど、他の者たちはどうでしょうね?愉しく見物させてもらうわよ」

 

「ふん。見ていろ。我と我が子たちのラグナロクをな」

 

「(ええ、見させてもらうわ。この私を魅了させた、どんな成長を遂げただろう久しく見ないあの子の魂を)」



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エピソード38

時間はあっという間に過ぎる。眠ることを惜しんで趣味や仕事に没頭するあまり、何時の間にか時間が過ぎていたなんてよくあること。それは何かを成し遂げる成し遂げたいという思いが共通しているからである。

老若男女、皆そうである。国立バーベナ駒王学園に体育祭の日が訪れるもまたそうなのである。

生徒の運動とクラスに貢献する働き振りを収めようとこの日の為に用意した九鬼家の技術者が作り上げた記録を残す機器を用意して始まるその時を待っていた両親以外にもテレビ局の人たちもいた。

 

体育祭の開催時間はもうすぐ。それまで生徒たちは―――。

 

「悪魔側に是非協力を!」

 

「可愛い堕天使の女の子がキミを待っているぜ!」

 

「天使に力を!人間の敵である悪魔と堕天使を倒せるヒーローになりたくないですかー!」

 

三大勢力、悪魔と天使と堕天使の生徒が人間の勧誘を熱烈に行われていた。

 

「なんで?」

 

「ここ、異種族同士の交流を目的とした学園なのだけれど、理事長たちが面白半分に次世代の子供たちが古の三大勢力戦争の模擬戦をさせてみたら良いじゃないかって、自分たちの代わりに戦わせようと決めたみたいなのよ」

 

廊下から聞こえてくる少年少女の勧誘の声に疑問を浮かべた一誠。パチュリーが説明してまた言い続ける。

 

「この学校の体育祭は数で勝敗を決めるようなものよ。でも、土壇場でどんでん返しの勝利劇が過去に何回かあったそうだけれどね」

 

決して数が多ければ良いのではないとパチュリーは言う。そっか、と一誠はどこか安堵の表情を浮かべた。

 

「どうしたの?」

 

「俺、悪魔でも天使でも堕天使でも人間でもないから、どうしようかと思った」

 

「あなた、そう言えばドラゴンだったわね。この学校にドラゴンなんてオーフィスとクロウ・クルワッハぐらいしかいないものね」

 

思い出したかのように言うパチュリーに元にも天使の生徒が勧誘しにきた。パチュリーはあっさりと肯定し白い鉢巻きを受け取った。

 

「参加しないかと思った」

 

「これも授業の一環なのよ。遺憾だけれどね。あなたたちはどこの勢力に属すつもり?さっさと決めないと無所属になって三大勢力の生徒とそれぞれの生徒に属す人間と勝負することになるわよ?」

 

「へー、無所属ってそういうのがあるんだ?」

 

「ほぼ全種目に出ないといけないから体力的にきついわよって、なにその笑みは」

 

「いやー、面白そうだなって」

 

終始ニヤニヤと楽しげに笑みを浮かべる一誠。失言だったかもしれない、とパチュリーは悟った。

このドラゴン、自らワザと窮地に陥って大番狂わせを狙っているのだと。しかし、その予想は外れた。

 

「因みに、去年の兵藤家はどこに属していたかわかるか?」

 

「無所属ですね」

 

「イリナー、俺も天使側になるわー」

 

「嘘、ほんと?やったー!」

 

結果、数の多さでは悪魔、堕天使、天使、無所属と順になった。無所属にはパチュリーの言った通り、兵藤家しかメンバーは(赤龍帝はいない)いなかった。白い鉢巻きを頭に巻いた一誠や冒険部メンバー。

グラウンドに全校生徒が赴けば自分たちを待っていた面々が―――。

 

「ごめん、帰る」

 

「ダメ!」

 

                   『頑張れ!兵藤一誠!』

 

 

と大きく描かれた横断幕や旗を振っている一団を見て一誠の羞恥心はMAXになった。

しかもそんなことしている一団の顔触れがまた凄まじい。神話体系の神々や妖怪、伝説の生物たちがいたのだ!

 

「凄いな・・・・・っ」

 

嬉しそうにクロウ・クルワッハが目を爛々と輝かせている。誰彼も強い力を持った超越者たちが一堂に集まることなんて滅多にない。それが一誠を応援をするために自分たちの世界からやってきたのだ。

お目に掛かれない存在がこの場にいることを三大勢力の者たちだけではなく民間人も緊張と興奮、畏怖、戦慄する。今回の体育祭の主人公たちが揃ったことでグラウンド中に展開し出す巨大な転移式魔方陣。

魔方陣は全員を異空間、学園を模した疑似空間へと転送した。

 

 

パン!パン!パン!

 

 

運動会の花火が鳴る。それが合図であるように上級生と下級生の代表者が一人ずつ理事長たちの前に移動して選手宣誓をして、開会式も閉じようとしていた。

 

「うわーっ、すんごくワクワクしてきた」

 

「本当にそうね。子供みたいにそわそわして」

 

「だって、この歳になるまで俺は学校に行かず修行に明け暮れていたんだぜ?全部楽しまないと損だろう」

 

満面の笑みを浮かべる。周りに迷惑をかけない程度ではしゃぐ一誠は早く始めないかと待ち遠しい思いでいた。

 

開会式が終了すれば三大勢力、悪魔と天使、堕天使、そして無所属はそれぞれの陣地に別れるように移動を始める。一誠たち冒険部も天使側なので体育祭に来ていた『聖書の神』ヤハウェを始めとする熾天使(セラフ)のメンバーに神王の下へ集う。

 

「天使に力を貸してくれる子たちよ。感謝の言葉が尽きません。その想いは私たちの力と成り皆さんの光と成って守り続けます」

 

慈愛に満ちた金の双眸が天使側の生徒たちに向けられる。生徒の天使、人間たちが神の感謝の言葉を聞けて感激し、その場で跪くか、手を組んで祈る、または顔を紅潮してヤハウェの美貌に魅入られている。

―――一誠はどちらでもなく真っ直ぐヤハウェの話を聞いていた。

 

「あなたたちに悪魔と堕天使、人間の友がいるでしょう。ですが、今回は皆さんの敵と成って全力で挑んでくる。私たちもこれを以って全力で相手にし勝利の栄光を掴むのです。皆さんの想いを一つにすれば不可能を可能にします。皆さん、頑張ってください」

 

『はいっ!』

 

よっしゃ、頑張るぞー!、神さまの為に頑張るわ!、ここで兵藤家の奴らをぶちのめすんだー!

と言う声が聞こえてきた。一誠に視界を入れてヤハウェはニコリと微笑んだ。一誠も笑い返し、親指を上げた。

任せてくれと雰囲気を醸し出して。

 

『国立バーベナ駒王学園体育祭を始めたいと思います!まず始めにぶっちゃけますが、今体育祭のスケジュール表の時間割は前回と同じなのですが、種目、競技の方は理事長方がランダムで決めさせたいと思います!生徒会の皆さま、無駄な労力を使わせて申し訳ございませんご苦労さまでした!』

 

その時、どこからか絶対零度の空気が感じたのは気のせいだと思いたい一誠だった。

 

『今回の体育祭の実況は私、元七十二柱ガミジン家のナウド・ガミジンが送り致します!』

 

実況付きの体育祭。他の学校でも実況者が付くものかと考えていると進行していく。

箱の中に剛腕で筋肉質なユーストマの手が実況者の横に置かれた箱の中にツッコンでガサゴソと中身を選んで取り出した。手の中には一枚の折られた紙。紙を開いて直ぐにナウドへ渡した。

 

『では最初の種目は―――いきなり騎馬戦でーす!』

 

ルールブレイカーも良いところだと場が盛り上がるなかで思い浮かべた。

全員参加の競技で一誠を騎手とした騎馬、先頭と後方は天使の生徒だ。

 

「なぜに?」

 

「お前を兵藤家の奴らと当たらせる為だ」

 

「なるほど」

 

あっ、いいんだ?と自分たちの気持ちを汲んでくれた一誠に対して意外に思った。

 

「兵藤家のやつらんとこだけ移動してくれよ?ああ、馬になってる兵藤家が手を出してくるかもしれないから気を付けるように」

 

本人もやる気を示す。ならば散々迷惑を掛けてくれた兵藤家の奴らに倒してもらおうと天使らしからぬ考えをする。

他の家族に目を向ければ殆ど騎手として参加している。

 

『それでは、騎馬戦スタートです!』()

 

アナウンスの掛け声と同時に各勢力の騎馬が戦意満々で飛び出していく。

 

「おりゃあああっ!カタストロフィだっ!死ね、天使どもぉぉっ!」

 

「天使を舐めるなぁぁぁ!最後の審判だっ!」

 

「天使も堕天使も共に滅べぇぇぇぇっ!」

 

皆、光力、魔力を絶大に放ちながら総力戦してる!まるで戦争じゃないか!騎手の帽子を取る競技のはずなんだけど!?唖然と初めての騎馬戦の光景、戦場を見据える一誠に下から「動くぞ」と呼び声。

天使たちの足は真っ直ぐ兵藤家に向かっている。

 

『毎度毎度、ここであの戦争の真似をするんじゃない!キミたちは生まれた世代が違うでしょうが!もっと一般の高校生らしくしろってんだろぉぉぉぉっ!ひゃっは―――っ!』

 

ナウドも絶叫を張り上げながら実はノリノリの様子で実況するのだった。

一誠はパチュリーの言葉をようやく理解した。確かに警戒するに越したことではない体育祭だった。

 

「なぁ、こんな感じだったか?去年も」

 

「そうだけど?」

 

「今回は去年より凄いなー」

 

「ルール関係なく魔力ぶっ放しているし、お前もしていいんじゃないか?」

 

と、天使の少年たちが言うので―――。兵藤家だけにさりげなく気付かれないように拳圧を放ってなぎ倒してみた。

 

「うはっ!すっきりするぜぇー!」

 

「どんどんやれー!」

 

「おらおら!お前らの敵が目の前にいるぞぉー!」

 

暴走族の如く戦場を縦横無尽に駆け巡る天使たちに若干引き気味の一誠。

 

「や、野郎化け物がぁっ!」

 

「兵藤一誠から潰すぞお前らぁっ!」

 

「足の奴らを崩せ!」

 

すっかり兵藤家の少年たちの標的とされた。攻撃される前に、一誠は天使たちに指示を下す。

 

「他の奴らのところに駆け抜けてくれ」

 

「「「おう!」」」

 

兵藤家に泡を吹かせたいのか素直に応じる。他の騎手たちの間に駆ける天使たちにその際、悪魔や堕天使の帽子をもぎ取っていく。そして、向かう先には天使と堕天使、無所属の兵藤家の生徒を吹っ飛ばしているサイラオーグと出くわす。

 

「む、兵藤一誠か」

 

「あっ、サイラオーグ・・・・・丁度良いや、兵藤家が寄ってたかってくるんだけど一緒にどう?」

 

迫って手を伸ばしてくる騎手の兵藤を逆にその手を掴んで思いっきり引っ張って体勢を崩し、帽子を奪った。

一誠の共闘の誘いとその様子を見て、サイラオーグは頷いた。

 

「ならば、どちらがより多く帽子を奪うか競争しようか」

 

「OK、んじゃ―――」

 

「「始めようか」」

 

サイラオーグと共に兵藤家の生徒たちの帽子を奪い、蹂躙し始めた。他の種族より少ない兵藤家の人数は二人の猛者の活躍によってほぼ壊滅状態にまで陥る。程なくして騎馬戦は終わり、一位は悪魔、二位は天使、三位、堕天使、四位無所属と結果となった。

 

「んー、サイラオーグに一枚差で負けた」

 

「楽しかったぞ?また競い合おう」

 

それぞれの陣地に別れ次の競技に臨む。

 

『えー続いては―――コスプレグラウンド一周マラソンーッ!』

 

え・・・・・?

 

会場が唖然とした。―――コスプレマラソン?なに、その嫌なネーミングの競技はと。ナウドは言い続ける。

 

『これから理事長方に各陣営の生徒の皆さんの名前が書かれた紙を七枚引いてもらい、更に生徒たちには学園側で用意した衣装を来てもらった状態でグラウンドを一周してもらうという競技でございます。では早速』

 

ユーストマ、フォーベシイ、八重垣正臣が紙を別のはこの穴の中から引いていく。

それが終わるや否や、ナウドが生徒の名前を発していくのだった。

 

『兵藤一誠!』

 

「―――――」

 

一誠もまた呼ばれたのだった。皆から憐みの視線を背に受けつつ指定された待機場所で味方と敵と待っていると、

良い笑顔で箱を抱えたフォーベシイがやってくる。全員が紙を引いて一斉に読み上げた。数字を。

 

「一番?」

 

「一番だね?はい」

 

フォーベシイからコスプレをする為の衣装が入っている袋を受け取り、最前列に並ばされ

一誠を含め四人の眼前には着替える為に設けられたボックスの中に入れさせられた。

 

『では、着替え終えたら赤いボタンを押して合図をください』

 

外から聞こえるナウドの声に渡された袋を開けて―――愕然とした。

 

一誠の走る姿を目に焼きつけようと開始の合図が待ち遠しく待っていた面々。

四つのボックスに赤いランプが一つ、また一つと光、最後は葛藤していたかのように他のボックスより遅くランプが付いた。

 

『それでは第一走者のスタートの合図を出します!位置について、よ~い・・・・・スタート!』

 

パンッ!と空砲が空気を振動させた。同時に四つのボックスから四つの影が勢いよく出てグラウンドを掛ける。

 

『ぶふぅっ!?』

 

誰もが噴いた。四人の姿に。一レースの兵藤家の選手の姿は顔だけ出している全身白いタイツと下半身に可愛らしいアヒルを模した顔と首が伸びているは着物を穿いて涙と屈辱で歪んだ顔で駆ける。二レースの悪魔は魔法少女の戦闘服の格好にハートの杖を持って疾走。三レースの堕天使は梨のキャラクターを模した着ぐるみを着ての逃走、

四レースの天使―――一誠は、

 

「・・・・・っ(泣)」

 

小さい幼女、フリルがたくさんついているピンクと白のスカートを穿き、腰に大きめな蝶結びで結ったリボンに上はひらがなで「いっせい」と刺繍された白い服。真紅の髪は金髪のかつらで隠されている上に揺れている大きなピンクのリボンという出で立ちで泣き顔のまま他の選手たちより速くゴールまで走り切ったのだった。

 

『一位、天使チーム!二位、無所属チーム!三位、悪魔チーム!四位、堕天使チーム!お疲れさまでしたー!―――笑っていいですか?』

 

「「「「ふざけるなぁーっ!(怒)」」」」」

 

―――○●○―――

 

それからと言うものの、他の六人も同じ羞恥と屈辱を味わいつつ完走した。次の競技が行われている最中、心に傷付いた生徒たちは味方に笑いを堪えながら慰められていた。

 

「うううっ・・・・・もう婿には行けないっ!」

 

一誠もまたその一人だった。

 

「・・・・・可愛いわね」

 

「うっさい!可愛いって言うな!?」

 

「イッセー、可愛い」

 

「オ、オーフィスまで・・・・・」

 

慰めてくれる者など一人もいなかった。好奇的な視線を向けられ、写真を取られるばかりだった。

未だに着替えられずにいるのは―――死刑台に立たされている気分で体育祭が終わるまで着替えてはならないと決められているからなのだった。

 

「・・・・・ちょっとゴメンね?」

 

ユウキが一誠を抱きしめた。なに?と涙目で上目遣いでユウキを見たら、

 

「はうっ・・・・・」

 

顔を赤らめて、愛おしそうにギュッと自分の胸に抱きしめた。

 

「ユウキ!次、次は私も!」

 

「私も!」

 

ルーラーたちが求める。一誠の可愛らしさに母性がくすぐられた。ユウキは応じてハイとルーラーに一誠を渡すと、多幸感極まり一誠の首筋に顔を埋める。その間、パン食い競争が終わりを迎えていた。

 

『続いての競技は―――借り物競走!』

 

ナウドのアナウンスによって元々参加する予定の生徒たちは動きを見せ始める―――。

 

『と、本来は生徒の皆さんがするはずの競技ですが今年はその趣向を変えて教師の皆さん、見学をしに来た親御さんや伝説の妖怪の皆さん、神話体系の神々が主に参加してもらいましょう!参加したいと思う方は是非気兼ねなくお越しください!女神さまなら大歓迎!』

 

会場がヒートアップ。まさかのルールブレイカーに生徒たちは一時見学者として両親や神々の言動を見守る姿勢になれたのだ。アナウンスの呼びがけに意気揚々と神々がグラウンドに移動を始める。

中には教師側であるアザゼルも交じっていた。

 

「うわー、どうなるんだろう」

 

「実に興味深い光景だ」

 

アラクネーに抱きしめられている一誠の呟きを拾って相槌を打った。見守っていると借り物競走が始まる。

参加した全員が一斉に。

 

「梨?・・・・・あそこにいたな、梨よぉおおおおおおっ!」

 

「ハンマーか・・・・・おいトール、お前のあの鎚を貸してくれ」

 

「シスコンは何処にぃっー!」

 

「デハハハハッ!おーい、ここに酒を持っておる者はいるかー!?」

 

色んな出題された借り物を仮に忙しなく動く参加者たち。その様子を見て笑う者や興味深そうに見ている者もいた。一誠もまた、楽しげに借り物競走をしている神々を見ていればこちらに近づいてくる女天使に視界を入れた。

 

「兵藤一誠くん、一緒に来てくれますか?」

 

「あ、俺?ん、分かった」

 

自分に関する出題を手にしたのだろうとアラクネーから離れ、焦らず女天使とゴールを果たす。

 

「うふふ」

 

「ん?」

 

「こうして会うのは二度目ですが、一誠くんは覚えてないでしょうね」

 

柔和に微笑む女天使は一誠の頭を撫でる。

 

「私は四大熾天使(セラフ)の一人、ガブリエルと申します」

 

「ガブリエルって有名な天使の名前だったね。やっぱり父さんと母さんの知り合い?」

 

「はい、特に一香さんとは親友のように親しい柄です」

 

悪魔でも魅入られそうな極上の笑み。ウェーブの掛かったブロンドでおっとり風のガブリエル。白い薄着を包む身体は豊かだった。膨よかな豊満の胸が服の内側から盛り上げ、ガブリエルの動きに呼応して艶めかしく揺れる。

くびれた腰から白く長いスカートの中に隠れているであろう白磁で健康的な太股。

天使だから金色の翼を生やしているだろうが今では仕舞っているのか、隠しているのか翼は見えない。

 

「一誠くんの話しは天界まで届いていますよ?強くなりましたね。真龍と龍神の力を有するドラゴンに転生したと聞いた時は驚きましたけれど、それを差し引いても一誠くんは昔のまま、可愛いです」

 

「可愛いはちょっと・・・・・」

 

「ふふっ。さて、他の神話体系の神々の皆さまが戻ってきたことですし、一誠くんも久し振りに話をしたいでしょうから接しに行きましょう」

 

ガブリエルの提案に一誠もゴールした神々や伝説の妖怪たちが自分の存在に気付き、近づいてくるのを分かっていた為応じる。

 

「デハハハハッ!坊主、可愛くなってしまっているなぁっ!」

 

「うむうむ、坊主が女だったらワシの愛人として受け入れてしまってたかもしれないな!」

 

「兵藤一誠、我が流派の技を廃らすではないぞ?」

 

「か、可愛い・・・・・私の傍で住んで欲しいな」

 

「HAHAHA!面白半分に参加してみるもんだZE☆よっ、ガキんちょ。久し振りじゃねぇーの」

 

「また強さを身に付けたようだね?今度勝負しよう」

 

「よー、坊主。久しいじゃねーの。元気にしてったか?ああ、バカが世話になったな。また会うことがあれば言っておいてくれ。見つけ次第お仕置きじゃとな」

 

「きゃー!可愛い、ねぇ、お持ち帰りしていい?」

 

色んなヒトと交流すること数分間。借り物競走はようやく終わりを迎え、昼食タイムに入った。



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エピソード39

『うふふ』

 

「・・・・・」

 

一誠の姿を記憶に残したいが為にガブリエルを筆頭に女性天使や女神たちが代わる代わるのツーショット写真を繰り広げていた。

 

「一誠、撮られる度に泣きそうな顔をしてるわね」

 

「姿が姿だからな。逆にあの者たちが面白がっているのも明白なのだが」

 

「一誠くん、ごめん、とても可愛いです」

 

「凄いギャップね・・・・・」

 

「あの光景も凄まじいのですが」

 

一誠と交流を持っている面々がグラウンドの一角に集って黄色い声が聞こえてくる場所へ目を向ける。

撮影会が始まってもう十分が経過しているのにまだ続いているのだ。撮影だけでは終わらないのか、人形のように抱き絞め、雑談も交わす。

 

「・・・・・そろそろ彼と話をしたいのだけれど、相手が相手だわ」

 

自分の立場の非力さに嘆息する。好意を抱いてるが格上の女性たちに啖呵を切るほど肝が据わってない。

勢力の悪化も避けたい故に手を拱いている。そんな時、リーラたちのもとに四人の男女が近づいてきた。

 

「やぁ、元気かな?」

 

「一誠のお父さまとお母さま!」

 

『っ!』

 

好意を抱く異性の両親に反射的な行動を示す少女たち。が、誠が手で制して動きを止めさせた。

 

「そのままでいいって。んで、俺の息子は既に牝の狼の群れに群がられているようだな・・・・・くくくっ」

 

「可愛い姿をちゃんと撮れて良かったわ♪」

 

自分の息子の現在の状態に面白がっている両親に何とも言い難い心情でいる。

 

 

『父さんと母さん?助けてー!』

 

『あら、もうちょっと私たちといましょうよ?』

 

『久し振りにお姉ちゃんとお風呂でも入りましょうか?』

 

『じゃ、私は一緒にお布団の中で・・・・・いやん♪』

 

 

食べられかけていますけど!?いいんですかご両親!?と誠と一香に目を向ければ、なんとでもなさそうにスルーする親子だった。そしてここに他の勢力の者たちがやってくる。

 

「おー、やってくれやがったなこの野郎」

 

「お久しぶりですねお二方」

 

「息災でなによりね」

 

「アザゼルにミカエルにルシファー」

 

友人に笑みを浮かべ手を上げて出迎えた誠に対しアザゼルは愚痴を漏らす。

 

「神話体系の神々を呼ぶなんてなんてことをしてくれやがった。こっちは対応と対策を考えるのに苦労するんだぞゴラ」

 

「ハッハッハッ、反省はしない!でもよ、自分の世界という殻から飛び出してがん首揃えてワイワイと楽しんでもらえれば協力の関係の姿勢だってできやすいんじゃねーの?」

 

「・・・・・お前、まさかそんなことを考えて・・・・・・」

 

ふざけた行動には真剣な考えがあったとは・・・・・アザゼルだけでなく、ミカエルやルシファーが感嘆した。

しかし、誠は首を横に振った。

 

「いんや、それはついでだな。本当の目的は一誠の成長した姿を見てもらいたいだけだ。まぁー?」

 

女性陣にもみくちゃされている一誠を見て笑う。

 

「あんな姿を見せられちゃ、格好良い姿を見せられないけどな」

 

「あの姿になるようにフォーベシイに頼んで正解だったわね」

 

とんでもない言葉が二人の口から出て「お前らが原因か!」とアザゼルがツッコンだ。

 

 

「・・・・・や、やっと解放された」

 

最終的にリーラの手で救われた。ゲッソリと疲れた表情を見せる一誠に憐れなと同情を抱かざるを得なかった。

 

「よっ、良い思いができたか?」

 

「逆に疲れたよ!呼んだのにどうして来てくれなかったのさ!」

 

「「楽しんでいたから」」

 

「うううっ、リーラっ」

 

涙目になってリーラに縋りつく。若干非難の視線を誠と一香に送りつつ慰める一誠のメイドに羨望の眼差しを向ける女性陣。

 

「いっくん、可愛い姿だね」

 

「なんでしょうか。この胸の奥から湧き上がる何とも言えない気持ちは」

 

目を輝かせる一誠の幼馴染、悠璃と楼羅。

 

「それは萌えね!」

 

「萌え・・・・・ああ、萌えですか・・・・・」

 

「楼羅?そっちの道に歩んじゃいけないと思うんだけど!?」

 

危惧する一誠の声が聞こえていないのか、恍惚と一誠を見詰めるばかりの楼羅だった。

 

「さて、俺たちも飯にしようぜ」

 

「そうね。すでに宴会気分で盛り上がっているところもあるし」

 

近所迷惑もいいところな程、盛り上がっている一角が。二人の催促に一誠たちもようやく盛り上がりながら昼食を始めた。その最中、神や女神、妖怪、同級生など話しかけられる。

それが主に一誠な為、笑い、呆れ、驚きの感情をコロコロと浮かべ対応する。

 

 

『お腹一杯食べて元気も出てきたところで午後の部を始めたいと思いますナウド・ガミジンでございます!』

 

アナウンスの放送に耳を傾け、午後の部の競技を始めようとする。

 

『最初の競技は―――玉入れです!では皆さん。それぞれのポジションについてください!』

 

悪魔、天使、堕天使、無所属の陣営は背の高い棒の先端に籠が設置されている周囲に置かれている大量のカラーの玉の前に立ったところでスタートを待つ。

 

『それでは天使、堕天使、悪魔、無所属、全員参加の玉入れ競技のスタートです!』

 

アナウンスの掛け声と共に地面の玉を大量に広い、かごに向けて放っていく。―――のはずだが、

 

「兵藤家どもに光を投げろォォッ!」

 

チュドォォォンッ!

 

「今までの恨みっ!」

 

ドォォォォォォォンッ!」

 

「今年こそは勝つぞ、こんちくしょうがぁぁぁっ!」

 

「「「兵藤家の奴らに集中攻撃じゃあああああああっ!」」」

 

ドドドドォォォォォォオオオオオオンッ!

 

「玉入れなんてやってられるかァッ!」

 

「兵藤家に攻撃しやがったことを後悔させてやる!」

 

「迎え討てぇっー!」

 

各所で炸裂音が鳴り響き、玉入れそっちのけでバトルが始まってしまった。

会場は呆然としているのかと思えば、逆に煽ぎの声が聞こえてくる。

この状況を心から見て楽しんでいる様子だった。

 

『コラーッ!人間相手に攻撃するんじゃない!今までどれだけ鬱憤や恨みを抱いているんだお前たち!兵藤家のキミたちも堂々と攻撃しない!』

 

この状況と状態を見て、現兵藤家当主の男は物凄く嘆息したのは別の話であった。

 

「パチュリー、お前の気持ちが良く分かったよ」

 

「そう、それはよかったわ」

 

攻撃に参加していない数少ない味方の一人と話し合って白い玉を籠の中に放っていく。

 

 

玉入れは当然と言うべきか中止となった。乱闘なんて競技は体育祭には無く、敵意が帯びた疑似空間の中でさっさと次の競技に事を進めるアナウンサー。

 

『次は障害物競走です!』

 

障害物競走、参加する予定だった競技に動き出す。どんな障害物が自分たちを阻むのか緊張の色を浮かべる他の参加者たちの顔色を一瞥して最初に走る一誠はスタートの合図を待った。

 

『位置について、よーいハルマゲドーンッ!!!』

 

ここにきて変わった合図が発せられた。グランドを駆ける一誠たちに様々な障害物が阻むものの、軽やかに苦もなく越えていく一誠に続く三人の選手。そんな四人の前に新たな障害物が阻む。歪む空間からヌッと顔を出したのは

 

―――幻想的なほど、銀色の毛並みが綺麗な巨大な狼。

 

一誠たちはその巨大な狼の姿に唖然と見惚れ―――

 

 

「一誠!その狼に近寄るな!」

 

 

アザゼルの必死な制止の呼び掛けと同時に狼の前足が薙ぎ払われた。その刹那の間、一誠は選択を迫られた。自分だけ逃げるか、自分を犠牲にして他者を守るかを。巨大で鋭利な爪が迫る。万物をも引き裂くことができそうな爪。改めて狼を見ればプライミッツ・マーダーよりプレッシャーを静かに滲み出している。感情の色が見えない眼と爪と同じ鋭利な牙。

 

「(やるしか、ないっ)」

 

今さら退避は難しい。考えれる限りの防御をした。歪ませた空間から数多の鎖で、腰から生やす九本の狐の尾で、背中から金色の十二枚の翼で他の三人も加えて狼の爪を防いだ。が―――。嘲笑うかのようにまるで、一誠の防御を、真龍の肉体を紙のように引き裂いてみせた。

 

「・・・・・やっぱり、だめか。でも」

 

目の前で自分の鮮血が宙に走る様を目にしながら一矢報いたいと数多の鎖を狼の全身に縛り付けた。しかし、狼が強引に拘束を破って生え揃う凶悪な鋭い牙を一誠に覗かせた。そして―――。

 

バグンッ!!!!!

 

肉に牙が突き刺さる鈍い音を他人事のように聞き、全身に一拍遅れて激痛を感じた。

 

「ぐはっ!」

 

未だ幼女の姿でいる一誠の身体を完全に貫いている。一誠の鮮血がフェンリルの口元を赤く濡らす。

 

「いっせえええええええええええええええええええっ!」

 

悲鳴が疑似空間に響き渡る。

 

 

 

予想だにしない『敵襲』にアザゼルたちは動揺を隠せなかった。不意を突かれ、攻撃を受けた一誠が敵の牙に掛かってしまった。

 

「あれは、フェンリルッ!?なぜこの場に!?」

 

「それ以前にあいつを、一誠を―――!」

 

あのままでは死んでしまうと誰かが発した時、―――神々が動いた。

 

「孫を放さんか」

 

「神の雷を食らうがいいぞ」

 

「その子を放しなさい!」

 

「HAHAHA、流れ的にやったほうが面白いか?」

 

「おんどりゃあああああっ!」

 

理不尽な神々の一撃が一匹の狼に振るわれた。女神ですら便乗してフェンリルに直接攻撃をしていたほど、一誠は神々に愛されているのだと明らかにされた。

 

 

ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!?

 

 

フェンリル、神喰いの狼と称されている伝説の魔物。神をその牙で噛み砕くことができる有名な狼。それが今、逆に屠られようとしていた。フェンリルが一誠を解放すると何かに弾かれたように後退した直後、宙に歪みが生じて一人の黒いローブを身に包んでいる男性が現れたことで一斉に警戒する三大勢力のトップたち。

 

「はっじめまして、諸君!我こそは北欧の悪神!ロキだ!」

 

マントをバッ広げ口の端を吊り上げて高らかに自己紹介を述べた。解放され、地面に血の海を作る一誠に駆け寄る面々を余所でグラウンドにいる全校生徒、教師、親御、三大勢力、神話体系の神々の視線を一身に浴びるロキは紳士のような立ち振る舞いで喋り出す。

 

「楽しい催しの最中、我と我の子の突然の来訪に許しを乞いたい。だが、我には成すべきことがある故、目的を果たせば直ぐ去ることを誓おうではないか」

 

ロキの言い分を聞き、アザゼルが口を開いた。

 

「これはロキ殿。確かあなたは兵藤誠と兵藤一香に誘われていたとは思っていたのですがな?遅れてやってきたのであればまだ―――弁解の余地は効きますが?」

 

アザゼルが冷静に問いかける。ロキは腕を組みながら口を開いた。

 

「確かに我も誘われた記憶はある。だがしかし、この催しよりも我は我が主神殿が、我らが神話体系を抜け出て、我ら以外の神話体系に接触するのが耐え難い苦痛でね。我慢できずに楽しい催しごと邪魔をしに来たのだ」

 

悪意前回の宣言。グラウンド中にざわめきとどよめきが生じ始めた。フェンリルを前にしても他の神話体系の神々は冷静に、平然とした態度でロキを見上げている。

 

「HAHAHA!こいつはとんでもねぇー見世物が見れそうだZE!なぁ、猿」

 

「アレの相手をして来いなんて、言うんじゃねーぜ。若い頃ならともかく、老いたわしじゃあっという間に食べられちまうってもんだぜぃ」

 

「オーディン、お前んとこの悪ガキがちょっかいだしてきた。どうする?」

 

「ここで俺たち神の力を振るったらこの空間なんぞ保つわけがない」

 

話しかけられる北欧の主神はやれやれと嘆息し、長い白ひげを擦りながらロキに問う。

 

「お前さん、この場にいるのは己の意思じゃな?」

 

「その通りだ。少々手伝ってもらったが、この場にいるのは我の意志だ」

 

「協力者がいたとはな。さしずめ―――テロリストかのぉ?」

 

意味深な発言に緊張が走りだした。

 

「我と向こうは同じ目的だが、一緒にされては困るというものだ。主神オーディン自ら他の神々に易々と接触されては問題だ。これでは我らが迎えるべき『神々の黄昏(ラグナロク)』が成就できないではないか」

 

「ロキさま!これは越権行為です!主神に牙を剥くなどと!許されることではありません!しかるべき公正な場で唱えるべきです!」

 

「今ならまだ間に合います。どうか考えを改めてください」

 

ロスヴァイセとセルベリアが瞬時にスーツから鎧に変わり、ロキに物申していた。しかし、相手は聞く耳を持たない。

 

「一介の戦乙女ごときが我が邪魔をしないでくれたまえ。オーディンと話をしているのだ」

 

そう言った直後。ロキに赤い閃光が走って直撃したのだった。何事かと目を配れば―――赤い龍を模した全身鎧を装着していた者が手を突き出した状態で構えていた。

 

「神だか何だかしらねぇーがよ。要は敵なんだろう?だったらさっさと倒しちまえってんだ。何のん気に話をしてるんだよ。お気楽だなぁ神さまってのは」

 

「赤龍帝・・・・・っ」

 

赤龍帝の兵藤誠輝。平然とそう言った誠輝は次に手をフェンリルに向けた。

 

「次はあの畜生だ」

 

極太の赤い魔力の砲撃を放つ。その威力は素人の目から見ても凄まじさが誇っている。フェンリルでも直撃すればタダでは済まさない、誰もがそう思った。―――フェンリルの前に北欧式の魔方陣が展開して完全に防がれるまでは。

 

「我が子をその辺の畜生と一緒にされても困るな。同時に我を倒した気でいることをもだ」

 

―――何事もなかったように空に浮くロキが誠輝を見下ろしていた。

 

「しかし赤龍帝か。こんなところで相見えるとは。だが、まだまだ神を相手にするには不足している」

 

「あ?俺がお前に勝てないって?」

 

「その言葉は我が子を倒してから言ってもらおうか赤龍帝よ」

 

ロキの意図を察してフェンリルが動く。神々の攻撃を食らって満身創痍なのだが、上等だと誠輝は声を高らかに上げた。

 

「おいお前ら!あの狼と神をぶっ倒すんぞ!俺たち兵藤家の力を見せ付けてやるんだ!」

 

味方である兵藤家の少年少女たちに呼び掛けた。全員で掛かれば神だろうが何だろうが赤龍帝の力も以ってすれば勝てる相手だと確信している。ここで神に勝てば自分の強さをこの場にいる全員に知らしめることができる。

 

だが―――。

 

シーン・・・・・・。

 

「・・・・・はっ?」

 

誰一人、いや、数人を除いて兵藤家の少年少女は返事どころか戦う意思すら無いでいる。

 

「おい・・・・・何だその無反応は」

 

信じ難いと問う。誰もが誠輝から視線を外し、ロキとフェンリルに戦意を失っている。委縮すらしている。

 

「お前ら、兵藤の人間のくせに何をビビってやがる」

 

『・・・・・』

 

誰一人として、誠輝に答えない。それどころか、

 

「お前、赤龍帝だからそんなに強がれるから良いよな」

 

「あ?」

 

だからなんだ、と口を開く少年を見詰める。

 

「神とあんな化け物に敵うわけ無いだろう」

 

神器(セイクリッド・ギア)の能力を使って戦っても勝てっこないって」

 

「しかもあいつを、化け物をあっさり倒した狼だぞ。俺たちが戦っても結果は火を見るより明らかだ」

 

「そうよ。私、死にたくない」

 

「俺もだ。死にたくねェよ」

 

口から出てくる言葉は―――負ける。戦いたくない。死にたくないと言う弱気な事ばかり。

 

「―――ふふっ、くはははっ、はーっはっはっはっ!こいつは傑作だ!いや、その反応と感情が正しいのだ!」

 

腹を抱え嘲笑う哄笑を上げるロキ。

 

「神である我と神を神殺す我が子に戦いを挑み、勝利を掴み取ろうと思う者など高が人間の中でいるわけがない!

赤龍帝、お前も赤龍帝の力を使わず我らと戦い、『人』としての戦いぶりを見せ付けなければお前の言葉は何の意味も価値もないも当然だぞ?」

 

「―――っ!?」

 

「古の英雄や勇者たちは皆、剣や盾、魔法を使って偉業を成し遂げている。お前も人間であれば古の者たちのように戦え!我らはそれを受け入れてやろうではないか!」

 

堂々と宣言したロキ―――。鎧の中で奥歯を噛み砕かんばかり噛みしめ、ロキの言葉に屈辱とプライドを傷つけられたことに対して怒りを覚えていた。

 

 

その頃―――。一誠は面々に囲まれながら治癒を施されていた。

 

「心臓が突き破られているっ」

 

その意味は死を示していた。また一誠は、この少年は死んでしまったのかと誰もが絶望を抱いていた。

怒り、悲しみが一誠と交流を持っている面々の胸の内に抱く。しかし、少年を囲む面々は気付いていなかった。

 

―――あなたはまだ死ぬべき者ではない。

 

呼吸が止まって、意識もない一誠に呼び掛ける謎の声に。それは一誠しか聞こえていなかった。

 

―――本来、干渉してはいけないのですが、この先遠くない未来で私たちにあなたの物語を観させる義務があります。勝手であり申し訳ございませんがあなたを死なせるわけにはいきません。あなたに餞別と加護を与えましょう。

籠の力はたった一度きりしか使えませんので使い道を誤らないように。

 

だ・・・・・れ・・・・・。

 

―――違う世界に存在する転生を司る神ミカルです。また会いましょう私にこの名を与えてくれた兵藤一誠。

 

最後にその言葉を残した神は一誠に神の加護を施した。

 

 

 

「なんだ・・・・・これは」

 

前触れもなく繭みたく光に包まれる少年。アザゼルもルシファーもヤハウェも他の神々ですら覚えのない神格の波動を覚えさせる。

 

「なんだ、この波動は・・・・・」

 

「私たちと同じ神格を感じます。が、感じたことのない力です」

 

「何が起きているというんだ・・・・・?」

 

この誰からも愛されている少年に摩訶不思議な現象が起きている。神々の目に留まらせる神格の波動はロキですら奇異な視線を送らすほどだった。すると一香が、神々がとある方へ視線を向けた。

 

「誠」

 

「なんだ」

 

「どうやらのんびりしている場合じゃなくなったみたい」

 

「・・・・・そう言うことか。流石と言うべきか」

 

出るタイミングを分かっている奴らだと漏らした誠と同時に数多の魔方陣がレプリカの学園の上空に発現して続々とテロリストたちが現れた。

 

「次から次へと息子の晴れ舞台を滅茶苦茶にしやがって。そんなに相手になってもらいたいなら喜んでなってやるぞ」

 

苛立ちを覚える誠。戦える面々が身構えた。攻守、攻防―――。敵を攻めて一誠を守り、敵を攻撃して一誠に被る攻撃を防ぐ。戦える女神たちは一誠を守るように固まり、男神は臨戦態勢の構えになった。

 

「招かざる客が来たようだな。我には関係のないことだがこの機に乗じてオーディンを殺してくれる」

 

フェンリルに指示を下そうと腕を振り上げた次の瞬間だった。繭の表面にピシッとひび割れが生じた女神たちに見守られる中、繭に入る亀裂は徐々に大きくなり、

バキパキバキと卵の殻を破る音を立てて何かが孵化しようとしていた直後。突き破るように繭から飛び出した青白い光の中で繭とはまた別の青白い繭みたいなものが宙に浮いた。唖然、呆然と目を向けざるを得ない状況で

ヤハウェとガブリエルが何かに駆られて宙に浮いて青白い繭の傍に近づいた。

 

「これは・・・・・翼?」

 

二人の目からよく見ると繭だと持っていたソレは翼みたいなものだった。

 

「聖書の神とセラフのガブリエルだ!討ち取れば名が挙がるぞ!」

 

テロリストたちが寄ってたかって襲いかかる。そんな暴挙に一香と誠が許すまじと動こうとした瞬間。

青白い繭が凄まじい衝撃と共に波動を放ってテロリストたちを灰に変えた。

 

「んなっ!?」

 

「今ので二人を守ったのか・・・・・」

 

地上に影響は無い。上空でしか効果がないようだ。ヤハウェとガブリエルが繭の傍にいるものの影響は受けていない。迫ってきたテロリストを灰に変えた繭にも動きを見せた。ゆっくりと青白い繭だと思っていた翼が開いていくのを間近でヤハウェとガブリエルが見詰めていれば、翼が包んでいた中身が窺えるようになった。―――瞑目して元の大きさに戻っていた一誠を。だが、少し様子が違っていた。真紅色だった髪が、眉毛が翼の色と同じ青白くなっていた。全て開き切った六対十二枚の翼が横に大きく広がると頭上にも青白い輪っかが発現した。

そして―――瞼が開いた。

 

「「―――――」」

 

息を呑んだ神とセラフの天使。何時もの一誠とは違うことをハッキリと肌で感じ取った。

何よりも違いさを感じさせる要因は、

 

「・・・・・神化している・・・・・?」

 

オーフィスとグレートレッドの力を有するイレギュラーなドラゴンに転生したはずの存在から神の力を感じさせているということだった。どういうことだと、思って手を伸ばして頬を触れた。

 

「ん?」

 

ヤハウェに顔を向けた一誠。どうしたの?と視線で問う一誠の顔を凝視してはペタペタと身体や翼まで触れだした。

 

「何ともないんですか?」

 

「うん、半分死んだけど助けられた」

 

「誰にですか?」と訊ねられて「うーん」とどう答えれば良いか悩んだ末、きっぱりと答えた。

 

「転生を司る神ミカルって存在に」

 

「転生を司る神・・・・・?」

 

自分の知る限りでは聞いたことのない神の名前。覚えのない神格の波動がその証拠なのだろうが、

一誠自身に何が起きたのか理解に追いつけずにいると手の甲に宝玉が浮かび、ヤハウェに声を掛けた。

 

『我らにも転生の神の声が聞こえました。我らの知らない世界の力も感じました。主の言葉に嘘偽りはございません。主は異世界の神に助けられたのです』

 

メリアがこの空間にいる全員に聞こえる声で一誠の弁明をしてくれた。コクコクと一誠が首を縦に振ると、

 

「バカな!」

 

「そんな!」

 

その声は主に神々から聞こえてきた。異世界の神が異世界に干渉し、一誠を救ったと現実的にも有り得ない現象。

 

「覚えのない神格の波動を感じさせてくれるな。異世界の・・・・・転生の司る神?」

 

ロキがそう言うと、一誠は悪神と対峙した。

 

「俺と相手になって貰うぞロキの兄さん」

 

「我が子の牙を食らって恐れずにいるとは大した精神だ」

 

「ああ、助けてもらったからな。そのお返しにアンタを倒さないとあの神に顔向けができないってもんだ」

 

「ならば!もう一度我が子の牙に噛み砕かれろ!」

 

ロキの指示にフェンリルは牙を剥き、一誠に飛び掛かった。迎撃しようと構え出す一誠の前に、

 

「はぁっ!」

 

「てやぁっ!」

 

「ふんっ!」

 

三つの剣がフェンリルを退けたと同時に「魔剣創造(ソード・バース)ッ!」と強く発した少女の声に呼応して地面から大きな数多の剣が剣山のように飛び出してフェンリルにダメージを与え、

 

「雷光よっ!」

 

「滅びなさいっ!」

 

「やぁっ!」

 

光が帯びる雷に滅びの魔力、仙術が放たれる。

 

「―――川神流」

 

「九鬼家決戦奥義」

 

「無双正拳突きぃっ!」

 

「古龍昇天破っ!」

 

二人の女性と少女による凄まじい打撃の威力がフェンリルの身体に貫いた。

 

「―――氷れ」

 

フェンリルの足元が凍りつき、瞬く間に全身まで氷が包んでいった。

 

「なっ・・・・・!」

 

ロキは目を張った。一誠も果敢にフェンリルを攻撃した少女たちに驚きを隠せないでいた。

 

「今度は私たちも参加させてもらうわ」

 

「うふふっ。私たちも戦うことはできますわよ?」

 

「神を相手に一人で戦うな」

 

「今度は皆でだ」

 

「そうそう、一緒に戦えば相手が神さまだって倒せちゃうわ!」

 

「・・・・・私の氷を以ってしても倒せないでいるがな」

 

「ならば倒すまでよ。物理的にな」

 

「皆で倒しましょう」

 

殆ど、一誠と交流を持ち、異性として好意を抱いている少女たちばかりだった。

そしてさらに、自分たちもだとばかり一誠の真後ろから続々と戦意の炎を瞳の奥に宿している少年少女たちがやってくる。

 

「私もイッセーの力になりマース!」

 

「相手が神とフェンリルなんてね・・・・・式森の魔法を披露する甲斐があるってもんだよね」

 

「牙はくださいね?兄の手土産にしたいので」

 

「お母さま、見ていてください。カリンは正義の風を纏って悪を吹き飛ばします!」

 

 

「イッセー、俺たちも戦わせてもらうぜ?」

 

「燃えてきたぁーっ!」

 

「昔の家族の力となろう」

 

 

「椿姫、サジ。私たちも」

 

「「はい、会長」」

 

 

「俺の力も振るえる機会があるかな兵藤一誠」

 

 

「怪我をした方は私のところまで!頑張って癒やします!」

 

 

―――かつて、一人の少年は理不尽な暴力と罵倒を浴びて生きていた。兄弟の絆すら絶たれ、友人は片手で数えるぐらいしかいませんでした。だが、周囲を見返す為に世界中を旅して修業に明け暮れる長い時間と年月の末、少年は多くの友を得ました。そして今、その友人たちは一人の少年の為にあらん限りの力を貸し、共に勝利の光を浴びようとしている。

 

「お前ら・・・・・」

 

『行こう!()も一緒に戦うから!』

 

「・・・・・っ」

 

これほど嬉しいことはない。もう知っていた。自分は一人ではないことを。

 

「一誠・・・・・お前は良い友達が恵まれている」

 

「行きなさい。私たちはずっと見守ってあげるから」

 

「神に挑む者たち・・・・・か」

 

「どうやら、私たちの出番はなさそうですね」

 

「見守ってやろうじゃねぇーか!次世代の力をよぉっ!」

 

「ああ、そうしよう。頑張りたまえ、一誠ちゃんたち」

 

たくさんの面々に見守られる中。氷の牢獄から抜け出たフェンリルと並ぶロキ。

 

「そっちがその気ならばこちらも本気と成らざるを得ないな」

 

ロキが両腕を広げると両サイドの空間が激しく歪み、足元の影が広大になる。

空間の歪みから、何かが新たに出てくる。銀色の毛並み。鋭い爪。感情が籠らない双眸。そして、大きく裂けた口。足元の影からは大量の長い胴体のドラゴンが現れる。

 

「スコルッ!ハティッ!そして、量産型の五大龍王の一角ミドガルズオルムだ!」

 

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

 

『っ―――――』

 

フェンリルがもう二匹。そして、五大龍王の模造品が大量に加わって戦況が一気に変わった。

 

「フェンリルの爪と牙は気をつけろよ。それだけ言っておく」

 

『了解っ!』

 

要注意と共に戦う仲間たちに告げ、

 

「行くぞ!」

 

『おおおおおっ!』

 

 

「行け!我が子たちよ!」

 

神に挑戦する少年と少女たちに対して神は魔物を使役し、両者の戦いの火蓋が切って落とされた。

 



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エピソード40

「ああ・・・・・なんて・・・・・」

 

大勢の子供たちが、神と戦う姿を目に焼き付ける一人の女神がいた。愛を司る女神。

その女神はある特徴的な力があった。―――他者の魂の色を見えることである。

これまで女神は様々な魂の色を見てきた。これからも自分の下に来る魂の色を見て気に入った魂は可愛がるだろう。

 

―――そんな女神は初めて見る魂を見つけてしまった。魂は色で示すのではなく、景色で女神の目を留まらせた。

魂は触れていないのに穏やかにさせる温かさが伝わり、心が広いことを表すように広大な緑の草原、青い空、大海原。

しかしそれでいて、心に闇があるようにどこまでも深い海の底があった。

 

女神はその魂を見て、触れてしまい、感じてしまった。この魂を欲しい―――と。もしも死んでしまったら冥府よりも天界よりも早く掠め取って自分の胸の中で何時までも抱きしめたい。女神を魅了させる魂は戦うのに呼応して輝きが一層に鮮やかになる。

 

「この私を見初めた子がさらに輝きを増した。感じる、私だけしか伝わらないあの子の温もりを」

 

愛を司る女神である同時に美を司る女神でもある女神の微笑みはたまたま見てしまった一人の赤い悪魔を魅了させ、その傍にいた女性が絶対零度の如く睨み、頬を限りなくつねったのは女神は知る由もなかった。

 

 

「火竜の咆哮ぉっ!」

 

「アイスメイク―――」

 

「換装!」

 

桜髪の少年のナツの口から灼熱の炎を吐きだす、黒髪の少年グレイが氷を具現化して攻撃、赤髪の少女、エルザが着込んでいる鎧を別の武装へと変えて戦闘スタイルを変える。見たことない三人の言動を見て金剛、和樹、龍牙、カリンは驚き目を丸くした。ナツの放った火炎が一匹のドラゴンの顔に直撃し、ドラゴンが苦しむ様を窺わせた。

攻撃の効果は効いているのだと認知して和樹がナツに問うた。

 

「キミ、どこから炎を吐いているんだい?」

 

「あ?俺は滅竜魔導師だから普通にできんぞ」

 

滅竜・・・・・魔導師?訊いたことがないと胸の内に復唱する。ドラゴンを滅ぼす魔導師であると薄々理解したが、根本的には理解が追いつけないでいる。

 

「おいナツ。この国のやつらは俺たちの国の魔導師の事なんて知らねぇんだ。説明はこのドデカい蛇みてーなもんを倒してからにしろ」

 

いきなり上着を脱ぎだして上半身裸になるグレイに「何で服を脱ぐんだっ!?」と火が点いたように真っ赤な顔で驚くカリン。

 

「癖だ。気にするな」

 

「変態だ!変態がここにいる!」

 

「変態じゃねぇ。俺はグレイ・フルバスターって名前があるんだよ」

 

「とにかく服を着ろぉっ!戦いに集中ができない!」

 

「これが俺の戦闘スタイルなんだが」

 

うわぁ・・・・・変態だ・・・・・・。さり気なくグレイから―――数メートル離れた四人。

 

「おい、どーしてそんなに離れる」

 

「この国じゃその格好でいると猥褻行為って言ってね。―――犯罪になるんだよ。しかもその周囲にいる人たちまでも(嘘)」

 

「裸になった程度で捕まるのか!?」

 

「「「お前の国ではどんな概念と常識なんだ!?」」」

 

「そうデース!」

 

全員そっちの国では裸で生きているのかと声を揃えて絶句した和樹たち四人に対して、量産型のミドガルズオルムたちが襲いかかる。

 

「グレイ、この国にいる間は人前で服を脱ぐなな。私たちまで捕まってはお前のカバーはできない」

 

「だっはっはっ!グレイだっせー!」

 

「マジかよ・・・・・この国、厳しすぎるだろう」

 

片手に上着を掴んで突っ込んで来る量産型のミドガルズオルムから躱すグレイにナツ、エルザの三人。

気を取り直して戦い始めるのであった。

 

 

 

「悪神の手先!私たちの手で倒してあげるわアーメン!」

 

「一誠くんだけ戦わせはしない。今度は私たちも一誠くんと一緒に!」

 

「ああ、その通りだ!」

 

「絶対に勝つ!」

 

「奴らは素早い、動きを止めてから攻撃するのは妥当だ!」

 

教会組の、リーズをリーダーにしたメンバーは小さい一匹のフェンリル、ハティを取り囲む。

唸り声を上げ、目の前の敵に殺意が籠った眼で睨みつけるハティに攻撃態勢、臨戦態勢の構えになるリーズたち。

最初に動いたのはハティだった。親のフェンリルよりスペックは劣るものの神を噛み殺す牙は健在であり、

口を開けてユウキに迫って前足を振るった時、コントラバスの形をした大きな盾を片腕に装着しているリーズが

ハティの前に移動してユウキに振り下ろされる足を受け止め、防いだ。

その隙にユウキがリーズたちよりも小柄で背が低い身体を駆使してハティの懐に飛び込んでレイピアのように銀色の家に覆われている腹部に目掛けて突き刺していく。その数は十一。そしてユウキは血の滲むような修行をした末に編み出した連撃の技を魂込めて発した。

 

「マザーズ・ロザリオォッ!」

 

十字架を模して容赦のない怒涛の連続突きを果たした。ハティの腹部に深く刻まれ、聖痕のように光る痣ができた。直ぐに安全圏まで退いて真上に掲げた聖剣が光り輝きだす。その光に反応するハティの腹部に刻まれた聖痕。

 

「聖なる光に反応して魔に属する全ての種族にはダメージを与え続ける!」

 

これがマザーズ・ロザリオの真骨頂であった。

 

オオオオオオオォォォォォォォォォンッ!

 

「よし、そのままだユウキ」

 

「今度は私たちも!」

 

「ええ」

 

苦しむゼノヴィア、イリナ、ルーラーも動きだす。全ては神の敵を倒す為、一誠と共に敵と戦う為に―――。

 

一方、リアスたちも奮闘していた。サイラオーグの眷属悪魔を除いて眷属が全員揃っているリアスとソーナ。

フェンリルのもう一匹の子、スコルとサイラオーグを中心に戦闘を臨んでいる。

 

「ふんっ!」

 

悪魔特有の魔力を使わないサイラオーグの拳による打撃は伝説の魔物の子を数メートル先まで吹っ飛ばした。それにはリアスとソーナに二人の『女王(クイーン)』は感嘆、二人の眷属悪魔は驚嘆と唖然となる。

 

「やっぱすげーなあのヒト」

 

「ああ、もしかすれば兵藤とタイマン張れるんじゃないか?」

 

「どの兵藤だ?赤龍帝か?兵藤一誠の方か?ハッキリ言ってくれよ紛らわしいんだから」

 

「両方だよ。てかっ、下の名前を呼ばせてもらえるほど仲が良いわけじゃないんだから仕方がないだろう」

 

「だよなー。俺もそうだけどよ」

 

一成と匙は揃って息を零すと声を掛けられた。

 

「一成、ボーっとしていないでフェンリルの子を倒すわよ」

 

「匙、あなたの力が必要な時なのです。ここで大いに他の眷属の子たちと活躍をして貰わないと困ります」

 

「「はっ、はいっ!」」と自分たちの主の少々厳しい声にそれぞれ力を具現化させた。

 

禁手(バランス・ブレイカー)ッ!」

 

龍王変化(ヴリトラ・プロモーション)ッ!」

 

「・・・・・・え?」

 

片やドラゴンを模したマントが備えた全身鎧。片や漆黒の炎に包まれながら巨大なドラゴンへと変貌した匙元士郎だった。

 

「えええええええええ!?匙、お前っ」

 

『アザゼル総督にヴリトラの神器(セイクリッド・ギア)を全部埋め込められた上に会長の指示で俺は兵藤一誠や邪龍にしごかれた上で至った俺の力だ。・・・・・・地獄を見たぜ』

 

驚く一成に匙は自分の変化を告げた。どこか、遠い目で哀愁を漂わせるのは人生の中で死を垣間見た経験をしたからだろう。

 

「ソーナ、あなたそんなこと何時の間に・・・・・」

 

「体育祭の準備期間、裏でイッセーくんに頼んでもらいました。匙の言う通りヴリトラの力を全部埋め込まれましたのでいい機会だと思いまして」

 

「この短期間で彼がここまでの成長を遂げたなんて・・・・・って、イッセーくん?」

 

唖然と親友の下僕悪魔の成長に感嘆を漏らす。が、聞き捨てできない言葉を聞いたリアスだった。

 

「匙!あなたの力を悪神に見せ付けるのです!」

 

『了解しました会長ぉっ!』

 

尊敬する悪魔の主の意図を察して、匙は新たな力をフェンリル、ハティ、スコル、量産型のミドガルズオルムだけじゃなく、ロキまでその猛威を振るった。

 

『なんだ!?』

 

それが戦う者に抱かせた思いだった。あの三匹のフェンリルの動きを完全に動きを封じていた。

 

「くっ!なんだ、この炎は!?動けん!・・・・・・ぬぅ!力が徐々に抜けていっている!?こ、これはあの黒いドラゴンの力か!?特異な炎を操る龍王がいると聞いたことがあるが、まさか、これがッ!」

 

ロキも狼狽している様子だった。

 

「―――おお、匙か。この原因は」

 

リアスとソーナの間に降り立った一誠が呟く。

 

「イッセー、あなた本当に匙くんを強くしたの?」

 

「ん、あいつの中に龍王がいるって言うから興味が湧いてさ。手伝ってやったんだが、ロキの兄さんには完全に封じられないだろう。その間にっと」

 

一つの巨大な魔方陣を展開した。それは発する魔方陣の光と共にアジ・ダハーカを召喚し。

 

「テロリストたちを倒してくれ」

 

『ああ、喜んで相手をして来よう』

 

嬉々としてアジ・ダハーカは翼を羽ばたかせて空へ飛んで行った。

 

「・・・・・テロリストたちの方が可哀想に思ってきたわ」

 

「無慈悲な相手ですからね」

 

今しがた飛んで行った邪龍を見送り、成す術もなく倒されるテロリストに同情すら抱きそうになるリアスにソーナ。だが、相手が相手な為、許すつもりはない。なんせ、ここにもテロリストの魔の手が及んでいるからだ。封殺された魔物たちと変わるようにテロリストと成り下がった悪魔たちが現れているのだ。

 

「匙、お前はフェンリルたちの足止めを専念してくれるか」

 

『言われなくても!でも、大丈夫かよこの数を相手にできるのか?』

 

「お前のおかげで他の皆はフェンリルたちからテロリストに攻撃の対象を向けれるから大丈夫だ。今勝利の鍵はお前が握っているようなもんだぜ?しっかり気張ってくれよ」

 

「・・・・・」

 

自分の下僕悪魔にそこまで言ってくれるドラゴンに転生した少年に感謝の言葉を胸の内で発した。

 

「匙、彼の言う通りです。あなたはあなたしかできないことをやり通しなさい。私の眷属悪魔は目的をやり遂げることができない者などいないのですから」

 

『会長・・・・・っ』

 

激励に感動で浸る匙だった。それが匙のやる気を向上させたのか、フェンリルたちを抑えている炎が一段と増した。

 

『おっしゃー!やぁーってやるぜぇっー!』

 

「・・・・・分かりやすい反応だな」

 

「あなたももう少し分かりやすい子だったら可愛いのだけれどね」

 

「リアス、可愛いな」

 

「っ!?」

 

「ははっ、お前の方が分かりやすくて可愛いじゃないか」

 

戦いの最中にからかい合う二人。戦場で好意を寄せている異性からの褒められる心構えなんてしていないので、

思わず顔を赤くして息を呑んだリアスと言う少女。

 

「匙が魔物たちを抑えている間、俺たちはテロリストを倒しつつロキも相手をしないといけないが、二人は大丈夫か?」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

「まだまだ行けます。あなたばかりに任せられませんよ」

 

不敵に戦意を滾らせ、自らテロリストの集団へ赴いた二人の少女を見送り、戦場の戦況を確認する。

―――今しがた、腐っても神の力は匙の力を突破して自由の身となった。他は魔物たちが未だに動きを封じられている。魔物たちと戦っていた少年と少女たちはテロリストへ攻撃の矛先を変えていた。

 

「さて、俺も頑張るとしますか」

 

せっかく封殺しているフェンリルを解放されては元も子もないと思いながらロキに突貫した。

その時、背後から物凄い速さで迫ってくる魔力を感じて振り返った途端、眉間に皺を寄せた。

 

「なんであいつまで・・・・・」

 

敢えて道を譲ればロキに向かって飛行する―――赤龍帝を捉える。

 

「お前の相手は俺だぁっ!」

 

「ふん、赤龍帝か。我は忙しいのだ」

 

マントを広げ自身の影を広大させた。そこから―――また量産型のミドガルズオルムの一団が出現した。

 

「こいつらの相手でもしているがいい」

 

「ふざけんなぁっ!」

 

火炎を吐く、口を大きく開けて迫る量産型ミドガルズオルムの一団を無視してロキに攻撃を仕掛けた。

無視されても量産型ミドガルズオルムたちは執拗に赤龍帝を追い詰めた。

 

「―――邪魔だ、この蛇どもがぁっ!」

 

両手に発現した赤い魔力弾を散弾丸の如くミドガルズオルムたちに向けて放った。応戦する量産型のドラゴンたちの火炎球。魔力弾と火炎球の激しい攻防と衝突、爆発が繰り広げた。性格と態度、素行が悪く、世の中は力が全てだと思っている典型的なアレだった。それでも一誠が誠輝に対する思いと感情を抜きで実力を認めている。

だが―――二つほどの赤い魔力弾が外れてあらぬ方へ飛んで行った。なんとなく目で追っていくとその先にテロリストと戦っているロスヴァイセとセルベリアが映り込んだ。

 

「あんのバカがっ」

 

翼を羽ばたかせて光の速さで魔力弾に追いかけ、二人のヴァルキリーの元に近づきパンッ!と

誠輝の魔力弾を打ち消した。

 

「ひょ、兵藤一誠くん?」

 

「あっ、気にしないで続けて」

 

「え、ええ・・・・・?」

 

呆気に取られるロスヴァイセに未だ戦い続けるセルベリア。

 

「あの、ロキさまの方は・・・・・」

 

「赤龍帝が相手をしている。不本意だけど、一時任せる」

 

「では、共に戦いましょう。フェンリルの方はまだ大丈夫のようですし」

 

「分かった。それじゃ―――」

 

ロスヴァイセの共闘の誘いに肯定しかけた矢先、上空から豪雨のように敵味方関係なく降り注ぐ魔力が。

二人を引き寄せて翼で防いでいく。

 

「これは、ロキさまのっ」

 

「うわ、テロリストたちが次々と勝手に倒れて良い意味で誤算だな」

 

「待て、フェンリルたちを抑えている者もこの攻撃を受けているということは」

 

セルベリアの発言で一誠とロスヴァイセが「はっ」と何かに気付き、衝動的に駆られある場所へ視線を向けた。

 

『ぐっ、ぐぅうううっ・・・・・!』

 

黒い炎のドラゴンが全身にロキの攻撃を食らっていた。更に他の味方へ視野を入れると味方や自分自身を守るのに精一杯でいる。神の威力は疑似空間の風景や地形を変えてしまうほどだった。

 

「匙!」

 

ついに、一誠の目の前で黒い炎のドラゴンは倒れ―――最悪の事態、封殺していた魔物が解放してしまい自由の身と成った。

 

「さぁ、我が子らよ!まずはお前たちを封じ込めていたドラゴンを噛み砕け!」

 

三匹のフェンリル、量産型のミドガルズオルムたちが一斉に匙へ襲いかかった。ロキの考えは理解できる。

再び封じられる前に倒しておこうという魂胆だろうと一誠はロキの攻撃が止んだ瞬間に

匙へと転移式魔方陣で移動し襲いかかる魔物に迎撃態勢と入る。

 

『ひょ、兵藤・・・・・!』

 

またフェンリルにやれるぞ!っと込めて目で訴える。青白い十二枚の翼を生やす少年の背中を見るだけしかできないでいる匙に「頑張ったな」と称賛した。

 

「ソーナ、これを匙にやってくれ」

 

亜空間から取り出した高級そうな瓶。ソレを魔方陣で介して直接ソーナに渡した。

渡された物を理解し、一誠と匙から離れているソーナは直ぐに行動を開始した。

迫りくる伝説の魔物に対して同じ轍は踏まないと気持ちでいた一誠は―――。

 

「ナツゥッ!」

 

「おうよぉっ!」

 

誰よりも早く動き、あの攻撃の雨の中をここまでは知ってきた驚異的な行動力を示した一人の友人に呼びながら

一誠はフェンリル、ナツは量産型ミドガルズオルムに攻撃を仕掛けた。ハティとスコルを止める者はいない。

このままでは匙が神を噛み砕く牙の餌食となってしまう―――とその思いが覆らす出来事が起きた。

 

約束された(エクス)―――」

 

どこからか声が聞こえてきた。さらにこの疑似空間に光の一筋が現れ、

 

勝利の剣(カリバー)ァッ!」

 

膨大な極光の斬撃がスコルを呑みこみ、『Divid!』と音声と共にハティは光に弾かれた直後、

 

「にゃん♪」

 

「デカくなれ、如意棒ッ!」

 

「取り敢えず凶悪な爪と牙を斬っておきましょうか」

 

体勢を立て直したハティの足元が底なし沼と成り、身動きが取れずにいた矢先、目や爪、牙を抉り、削ぎ落された。

 

「はいっ!?」

 

ハティとスコルに攻撃した光景はとても見覚えがあった。フェンリルを殴り飛ばした後にとある方へ顔を向けた。

 

「久し振りだね一誠。その姿はなんだ?いや、とても格好良いからいいけど」

 

「復活したんだねぃイッセー!さっすがオレっちが認めている男だぜぇいっ!」

 

「お久しぶりー♪今度こそは逃がさないわよ?」

 

「息災でなによりですね兵藤一誠」

 

白い龍を模した全身鎧を装着している少女を含め四人の男女が朗らかに一誠へ話しかける。そしてもう一方に視線を向けると。

 

「・・・・・」

 

今手元にない聖剣を持っている金髪の少女がいた。スコルは先ほどの極光の斬撃で影も形もなく屠られたようだった。

 

「ヴァーリ、銀華、美猴、アーサー・・・・・モルドレッドまで・・・・・」

 

ヴァーリチームと英雄派!?と驚きの声が聞こえてくるが当の本人たちはさも気にせず、声を掛けてきた。

 

「突然割って入るような真似をして済まない。フェンリルは私たちに任せて良いか?」

 

「というかヴァーリはフェンリルを欲しがっているにゃん。ここは共闘ということで一緒に戦いましょう?」

 

「そーそー。困惑しているだろうけどさ。ここは素直に柔軟な考えで行こうぜぃ?」

 

「よろしいですね?」

 

いきなり現れて突拍子的な展開となった。ヴァーリがフェンリルを欲しがっている。その理由は分からないがもう一人の幼馴染とその仲間まで加わるということはとても心強い。

 

「ロキと戦わないのか?」

 

「一誠が一緒に戦って欲しいというなら喜んでやろう。フェンリルはアーサーたちだけでも十分だしな。こちらも色々と用意してきた。勿論助っ人もだ」

 

「助っ人?って、話している場合じゃないそうだ」

 

フェンリルが牙を剥いて一誠たちに襲いかかった。だが、銀華が魔方陣を展開して、地面から巨大で太い鎖が出現してくるのと同時に三つの影が現る。

 

「―――あの鎖は、あいつらは・・・・・」

 

「魔法の鎖、グレイプニル。フェンリルを捕縛する為の魔法の鎖だ。そして『彼女』たちは一誠が良く知っている人物だと思うけど?」

 

笑みを浮かべるヴァーリや銀華たちを始め、三人の女性たちが掴み、フェンリルの方へ投げつけた。

 

「ふはははははっ!無駄だ!グレイプニルの対策など、とうの昔に―――」

 

バヂヂヂヂヂヂヂッ!

 

ロキの哄笑空しく、魔法の鎖は意志を持つかのようにフェンリルの身体に巻き付いていく。

 

オオオオオオオオオオオオオオオオンッ・・・・・・!

 

巨大な狼が苦しそうに悲鳴を辺り一帯に響かせる。

 

「―――フェンリル、捕縛完了だ。アーサー」

 

「ええ、先に戻っていますよ?」

 

事を早く終わらせようという雰囲気を醸し出せるヴァーリ。アーサーが最後の折れたエクスカリバーを手にして

フェンリルの額に躊躇もなく突き刺したと同時に転移式魔方陣でこの場からどこかへ離れ行ってしまった。

 

「おのれ、白龍皇っ!」

 

横やりを食らい尚且つフェンリルを奪われた事実に怒りを抱いた悪神。

 

「悪神とはいえ神の一柱。相手にとって不足はでない」

 

「我が子を返すがいい!」

 

ハティと量産型ミドガルズオルムを嗾ける。だが、横から三つの影が飛び出してハティを吹っ飛ばした。

 

「・・・・・なんだか、今日は久し振りに顔を見る人が多いな」

 

「お前のことを話したらついてきてくれたぞ。愛されているな一誠。私も愛しているがな」

 

「ありがとう。やっぱり持つべきものは幼馴染や家族だな」

 

三人の女性が一誠の前に近寄った。

 

「おお、髪の色が違うがイッセーじゃ!久し振りじゃの!」

 

「わちらのこと覚えておるか?」

 

「覚えていないのであれば減点だ」

 

幼女と女性が親しげに一誠と言葉を放った。幼女の二人は双子のように顔が似ている。

そして女性の方は特徴を強いて言えば耳が人間より長細い。彼女はエルフである。

 

「ユーミル、エイリン、アレインのお姉さん。久し振り」

 

「「うむ!」」や「百点だ一誠」と三人は嬉しそうに再会の喜びを感じた。

 

「でも、どうしてここに?秘境の地で暮らしていたはずなのに」

 

「お主の幼馴染―――恋人と言う白龍皇が『一誠の為にグレイプニルを作って欲しい』と懇願されての」

 

「父上は白龍皇の事情と気持ちを汲んで作ってやったのじゃ」

 

「私は森の無法者を制裁しに襲ったらお前の幼馴染の証拠を突き付けられ、それから流れ的にここまでついてきた」

 

なるほど、わかった。でも―――俺はヴァーリと恋人同士ではないんだが?ジトーとヴァーリに見詰める一誠に対し、鎧で表情が見えないヴァーリは一誠に表情を見れないことをいいことにドヤ顔を浮かべていた。

 

「・・・・・兵藤一誠」

 

モルドレッドがズイっと剣を突き出した。

 

「預かっていたこれを返す」

 

「いいのか?このままお前の物しても奪い返す予定だったんだが」

 

「話が違うだろう。オレがお前を倒した暁に奪うと」

 

「お前を倒してもいないのにこの剣を持つオレは不相応」だと律儀な性格であるモルドレッド。

モルドレッドと剣を交互に見た後、受け取った。

 

「ありがとう。お前はいい女だな」

 

「オレを女と言うな!」

 

「その女の証であるメロンを備えて良く否定できるわねぇー?」

 

銀華がツンツンとモルドレッドの胸を突いた。「あんっ」と艶のある声を発した。

 

「あら、胸が弱いの?可愛いにゃん」

 

「う、うるさいこのセクハラ猫女!」と自身の胸を両腕で庇うように押さえるモルドレッドに「それ、悪口言っているつもり?」と呆れ気味な銀華の様子を視界に入る。

 

「久し振りに戻ってきたな」

 

コツと自分の額に剣の腹を当てて家族のように声を掛ける。それからしばらくそうしたままでいる一誠は剣を構えた。

 

「さて、そろそろ終わりにしようか」

 

身構える。両足を力強く地を踏みしめ、剣を上に掲げ―――。

 

「一世一代の大技を放つとしようか!もう二度と振るえないだろう神の力を!」

 

全身に闘気、魔力、神力を迸らせ充電するかのように力を刀身に溜め続ける。

 

ビリッと肌に突き刺さる刺激を感じたロキ。見下ろせば、見覚えのない神格の波動を放っている一誠が視界に映り込み、巨大な力を放とうと力んでいるのが窺えた。既に量産型のミドガルズオルムは殆ど倒され尽くし、ハティも

追い詰められ今しがた倒されていた。優勢だと思っていた、有利だと思っていた。なのに、あの兵藤一誠と言うドラゴンの存在で次から次へと力が集い、ロキの戦力が削がれた。これではオーディンを殺めることができない。

ロキは空中高く浮かび上がった。退却をする為に。

 

「ちょいと待てや!」

 

赤龍帝が追いかけてくるのを察知し、魔方陣を展開して最大火力の一撃を極限まで圧縮し、矢のように放てば

あっさりと赤い鎧を貫き、爆発に巻き込まれた。

 

「赤龍帝か。だが、無駄だな。我は一時退却する。ふははははは!しかし、再び我は訪れて混沌を―――」

 

邪魔者を倒した後、空間を歪ませて撤退を目論んだロキの頭上から轟音と共に雷光が煌めき、特大の一発がロキを包みこんだ。

 

「逃がしませんわ」

 

大和撫子風なポニーテールの少女が堕天使の翼を出してバチバチと手の平には漏電がしていた。

大したダメージではなかったが身体の機能が麻痺したかのように魔力ですら思うように扱えなくなった。

 

「な・・・・・何をした!」

 

煙をあげ、落下するロキに

 

ゴオオオオオオオオオオオオゥッ!

 

黒い炎が再びロキを包み込んだ。それは黒い龍王の炎であることを認知し、驚きの言葉を出した。

 

「バカなっ!一度は解いた炎の結界のはずだ!」

 

『神さまに集中できるようになったからな!さっきよりもそう簡単に解かされてたまるかってんだっ!』

 

傷が癒えた匙が吠えた。

 

『・・・・・やれ、一誠っ!』

 

最後はお前がトドメをさせとばかり促した。ロキは見た。全身が黄金に包まれ、更にそれ以上の輝きが一点に集中しているのを。そこに神の力が全て注ぎ込まれていることを。一誠が真っ直ぐロキを見据えていることを。

 

カッ!

 

一誠の姿が見えなくなるほど輝きが増し腕を下に振り下ろしたと思えば、

 

「シン・エクス―――カリバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

大気を震わせ、周囲に放電しながら巨大な顎を大きく開きロキに迫る巨大な雷の龍が出現した。

 

「見覚えのない神の力が宿った雷の龍・・・・・っ!!!!!」

 

赤い目が意志を持つかのようにロキを睨み、開けた顎を覗かせた。黒い炎をあっさり吹き飛ばし、自由の身となってもロキは身体が石化しているかのように動かず、さっきの仕返しとばかり雷龍の牙に噛まれ、噛み砕かれる。

 

「世界は、あのようなイレギュラーな存在を許すというのか・・・・・?あの者がいるだけで・・・・・力は集う・・・・・。今後もそうなるのならばアレは世界にとって・・・・・・」

 

それだけ言い残して、ロキは完全に意識を失った。

 

―――○●○―――

 

体育祭は中止となってしまい、普段よりも早く全校生徒は親御と共に帰宅をした。

ヴァーリたちやモルドレッドは戦いが終わるや否や、さっさと姿を消した。

その後。協力して戦いを臨んだ面々に神々を代表してオーディンが自ら勲章を与えていた。

この中で一番功績を残した―――匙に他の誰よりも高い勲章を与えられた。

 

「な、なんで俺なんすか?」

 

「お前さんは二度もロキのバカ者を封じたんじゃ。倒すことよりもとても大変なことをしたその働きを称えるのに何を戸惑う」

 

「い、いや、最後に倒したのは兵藤一誠なんだし。寧ろあいつにそれを・・・・・」

 

「お前が止めてなければロキの兄さんには逃げられていた。最後はお前のおかげなんだよ。というか、俺はあんまり戦ってないから勲章なんて貰える立場じゃないはずなんだけどな」

 

苦笑いを浮かべ、そう言うがオーディンに「孫も十分頑張ったじゃろうが」と一蹴された。

気を取り直し匙に話しかける。

 

「と言うわけじゃ。受けとれぃ。それとも神々の前でわしに恥を掛かす気かのぅ?」

 

「い、いえ!?よ、喜んで承ります」

 

「始めからそうしてればよいんじゃよ。欲深くない青い悪魔じゃて」

 

呆れつつ焦る匙の胸に位の高い勲章を与え付けた。

 

 

 

「よかったじゃないか匙」

 

「あ、ああ・・・・・今でもこれを貰っていいのか戸惑っているんだか」

 

「貰えるもんは貰っておけ。奪われない物なら尚更だ」

 

「兵藤、お前・・・・・」

 

「おい、フルネームはともかく家名で呼ばれるのは嫌いだ。あん時のように一誠って呼んでいいんだぞ?」

 

匙に笑い掛ける一誠がそう言う。まるで自分を友人のように接してくる有り得ない存在にやはり動揺する匙だった。

 

「て言うか呼べ。いいな。ソーナだってそう言っているんだし」

 

「命令口調か!・・・・・ソーナ?」

 

「呼び捨てで呼んでくれって言われているからな。ああ―――恋愛感情は無いから大丈夫だからな」

 

さらっと最後に声を殺してとんでもないことを口にする匙の肩に手を置いた。そして次の発言。

 

「―――まぁ、頑張りたまえさっちゃん」

 

「誰がさっちゃんだぁっ!?」

 

「可愛いじゃないですか。これからそう呼びましょうか?さっちゃん」

 

「か、会長までェッ!?」

 

『さっちゃん・・・・・。くっ・・・・・!』

 

「うおぉーい!?副会長とお前らまで!て言うか、今笑っただろう絶対に!?」

 

匙が叫び喚く。それが笑いの種となり、周囲から苦笑や笑いの声が聞こえてくる。

それから神々は一人一人、一誠たちに別れの挨拶をして自分の世界、領域に帰っていくのを一誠と誠、一香が見送る。

 

「驚いたなぁ。一誠お前、何時の間にい世界の神と交流していたんだ?」

 

「いや、一方的に話しかけられただけでなんかおかしなことを言っていたんだ」

 

「何を言われたの?」

 

二人に告げた。自分が異世界の神々に物語を観させる義務があるのだと。

 

「・・・・・一誠の物語、一誠のこれからの人生を娯楽の感じで見る為か?」

 

「助けてくれたことに関しては感謝するけれど、人の息子の人生を何だと思っているのかしら」

 

「「ちょっと、その神と話をしなくては・・・・・ふふふっ」」

 

転生を司る神ミカル。とんでもない二人に目を付けられてご愁傷様と念を抱かざるを得なかった。

黒い笑みを浮かべる自分の両親を見ていると背後から華奢な腕が回されたと同時に背中が柔らかい感触が伝わる。

 

「あら、フレイヤ・・・・・どうしたの?」

 

警戒心を剥き出しにする一香。隣にいる誠も不思議そうに声を掛けた。

 

「フレイヤさま・・・・・?―――イデデデッ!?み、耳を引っ張るな一香。魅了されてないから安心してくれっ!」

 

「フレイヤさま―――?既に魅了されているじゃない!誠のバカぁッ!」

 

いきなりこの二人は何をし出すのか怪訝な目で自分を抱きしめている女神に振り返った。

目が合うと途端に恍惚とした顔で自分を見詰め、熱い息を零した。

 

「はぁ・・・・・」

 

何かを達成したかのような吐息ではなく艶めかしい吐息だった。一誠の顎や頬、頭など優しく撫でて

愛おしく、子供を可愛がるような手つきで触れ続けるフレイヤ。

 

「フレイヤお姉ちゃん・・・・・?」

 

「成長したわね。ええ、ますます・・・・・」

 

慈愛に満ちた表情で一誠の頬を添える。フレイヤは一誠を、一誠の魂を見て感じている。直で伝わる体温よりも一誠の魂が放つ温もりと景色をだ。ロキの一戦以降、ますますフレイヤを魅了させるほど魂は成長したのだ。

機を見て直で触れたい渇望を果たした美の女神はジーッと目の前の少年を見詰める。

 

「―――可愛いくなっちゃって」

 

「そっち!?もうあの恰好じゃないんだけど!」

 

フレイヤの言葉で仰天し、あの時の格好を思い出したのか顔を紅潮させた。すると、魂が見せる景色が秋の季節のように紅葉だらけになった。山が朱に染まり、照れているかのような感じが今の一誠に呼応しているようだ。

ますます面白く、もっとこの魂を自分の近くで見てみたいという思いが強まった。視線を変え、誠に微笑みを浮かべ問うた。

 

「兵藤誠殿?」

 

「うぐっ、な、なんだ?」

 

美の女神の微笑みを間近で見て顔を赤らめる誠は必死に魅了されないと堪えつつ返事をした。

隣で殺気立つ一香にこれ以上怒られない為にフレイヤの顔を見詰めながら言葉を待った。

 

「私のお願いを聞いてくれたらとても嬉しいのだけれど。心の広いあなたなら受け入れてくれるわね?」

 

「な、内容次第では・・・・・」

 

「本当?」

 

向日葵のように顔を明るくして誠に笑みを向けたら「本当です!」と元気よく変じた矢先、殺気が濃くなった。

顔を若干青ざめ、震えだす一誠を安心させる口実を得て胸の中に抱き寄せるフレイヤは懇願した。

 

「それじゃ、私の願いを言うわね?」

 

 

 

 

 

「おい、本当にお前はここに残るつもりか?」

 

「ああ、前からマスターには伝えていた」

 

「お前がいなくなるとギルドが盛り上がらなくなるなー」

 

「私の姉がいるから問題ないだろう?なに、私の力が必要になったらコレで連絡してくればいい」

 

「そうか、まっ、どこにいようが俺たちの関係は何も変わらない」

 

「そうだな!お前がいない間に俺たちはもっと強くなってやるぜ!」

 

「それは私も同じだ。私がいなくなった穴はお前たちで塞いでくれ」

 

「「ああ、分かった」」

 

 

 

「返して良かったのかい?」

 

「オレなりのやり方で手に入れるんだ」

 

「キミがそう言うならもう何も言わないが、あんまり彼らと独断で接触し続けると危ないから気をつけなよ」

 

「分かってる。裏切るつもりはない」

 

「ならいい(だが、キミの本家は裏切る。さて、どうなることやら)」

 

 

 

「異世界の神を呼び寄せるたぁ恐れ入れるぜ。なぁ、ヤハウェ?」

 

「彼の何かがそうさせたのでしょう。ですが、それが分からない。それにまだ動きを見せない他の派閥のテロリストも気になります。アザゼル、こちらも動かないとダメかもしれません」

 

「わーってるよ。しかし、ガブリエルはよく暴走しなかったな。一香とてっきりヤリ合うのかと冷や冷やしていたんだが」

 

「彼の写真を大量に得たからではないのでしょうか?」

 

「・・・・・堕天仕掛けやしないか?」

 

「愛情ですので問題ありません・・・・・失礼。・・・・・なんですって?」

 

「どうした?」

 

「・・・・・ガブリエルが彼に会いに行くと下界に行きました」

 

「一香に見つかる前に急いで連れ戻せ!?」

 

―――○●○―――

 

「オー爺ちゃん、話って何?」

 

「孫と話をするのに理由は必要かの?」

 

「俺を誘ったのはオー爺ちゃんでしょ」

 

「そうじゃ。じゃからこそお主と話をしたかったのじゃ」

 

巨大な馬と繋がれている馬車の中にオーディン、大好きな老人と馬車の中で言葉を交わす一誠の前で

白い髪に覆われた頭が垂れた。

 

「すまんかった。孫の初めての運動会であっただろうにロキのバカ者に滅茶苦茶されてしまっての」

 

「謝らないでよ。それにまだ海で運動会をするイベントがあるんだ。そっちを楽しむよ」

 

「ほほう。面白そうじゃのー」とオーディンは髭を擦りながら相槌を打った。

 

「・・・・・修行をしにユグドラシルの場所で最後に会ってから見ない間に大きくなったもんじゃ」

 

「ドラゴンでも成長するんだよ。俺も未だに不思議でいるけど」

 

「ミドガルズオルムのように寝てばかりではいかんぞ?楽しいことが世界中で起きておるのじゃからな」

 

優しげに話してくるオーディンにコクリと口元を緩まして頷いた一誠。

 

「さて、わしを守ってくれた孫に良い物を授けよう」

 

「勲章だけじゃなかったの?」

 

「ふふふっ。まだ孫が小さい時、ワシの敵を倒してくれると言ってくれたのを覚えておるか?それを現実にしたのじゃからワシのささやかなプレゼントじゃ」

 

オーディンの手が広げると一瞬の閃光が迸り、複数の羊皮紙が一誠の前に発現した。

 

「巻物?」

 

「北欧の主神たるワシ直々の直筆で書いた―――兵藤一誠の勇者公認記録とロスヴァイセ、セルベリア・ブレスに渡して欲しい羊皮紙じゃ」

 

ソレを受け取って一つの巻物状に巻かれた羊皮紙を広げると一誠の顔と北欧の文字、判子が押された痕が記されていた。

 

「俺が勇者・・・・・?人間じゃない、ドラゴンなのに?」

 

「異例中の異例じゃが、今回の活躍と孫と交流を持っている他の神話体系の神々からも既に了承を得ておるわい。

それどころかお主の戦いぶりを見ていた女神たちから強い希望だったことが大きい」

 

「よかったのー」と何故かいやらしい目つきで言われると次は一誠に質問をした。

 

「孫よ。勇者とはなんだと思う?」

 

「勇気がある者、って感じだけど」

 

「では英雄とは?」

 

「才知・武勇が優れた常人にできないことを成し遂げた人のことを差している言葉、概念だよね?」

 

そうじゃな、と何度も首を振るオーディンの意図を理解できない一誠は首を傾げる。

 

「じゃがな、勇者や英雄などこの地球上に生きている人間たちが戦いでもなくとも誰でもなれる可能性が秘めておる」

 

「うん、そうだね」

 

「ならば、人間と異なる身体能力が高いであろう異種族でも勇者や英雄になれるのはずじゃろ?勇者と英雄と言う概念は主に全て人間という生き物が過去、古に自分より格上の相手に自分を賭して、命を懸けて挑み、人々を救ったりした結果で生まれた。

それは時々ワシら神々もその功績と戦績、評価を称えていて、陰ながら力を、手を貸したりもしたからでもある」

 

過去を懐かしみ、現在を楽しんでいる北欧の主神だけでなく神話体系の神々自身も様々な経験をして生存している。

 

「今まで生きてきた中で神に挑んで勝利した者たちは孫たちが初めてじゃ。この先ももしかすればどこかの神とも戦うかもしれない。用心するんじゃぞ」

 

「また神と・・・・・?」

 

「世界の覇権を狙っているのは三大勢力だけでないということじゃ。いや、もしかすれば今でも人間共は・・・」

 

言いかけた言葉を「何でもない」と横に首を振ってはぐらかした。

 

「それじゃ、ワシは帰るとするわぃ」

 

「え、帰るの?」

 

「うむ、先に帰った北欧の者たちを待たせておる。さっさと帰らんとうるさくて敵わん。『何時まで孫と一緒に!ズルい!』とかな」

 

苦笑を浮かべる。口では絶対に言わないが爺バカなのだこの北欧の主神は。一誠はふと気付いた。

 

「ロスヴァイセとセルベリアは?」

 

「置いておく。なに、その理由はその羊皮紙に記してあるから心配せんで良いからの」

 

「なら、フレイヤお姉ちゃんも連れて来ようか?」

 

「いや、あの自由奔放は勝手に帰ってくるじゃろう」

 

それから一言二言三言と話を交わした後、オーディンを乗せた馬車は空に向かって駆けて行った。

 

「また会いたいなー」

 

「きっともう一度会えますよ」

 

そう答えたリーラ。ずっと場所の外で待機していた一誠の愛おしいメイドであり女性。

羊皮紙を持つ一誠に訊ねると、嬉しそうに一誠は言った。

 

「リーラ、俺、勇者になったよ!」



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エピソード41

体育祭が頓挫してしまったものの国立バーベナ駒王学園は、まだ、体育祭は終わっていなかった。

カッ!と燦々と太陽の光がここ川神湾に降り注ぐ最中、水着姿の二つの学園の生徒たちが顔を突き合わせて

対峙していた。

 

『これより、第ン十回国立バーベナ駒王学園対川神学園の水上体育祭を行います!呼ばれればどこでも赴くアナウンスは毎度おなじみナウド・ガミジンでございます!』

 

 

ウオォオオオオオオオオオオオオッ!

 

ウワァアアアアアアアアアアアアッ!

 

 

この時を待っていたかのように二つの学園を合わせて千人以上の少年少女たちが雄叫びをあげる。

アナウンスの隣には学園のトップがパラソルと設けられているテーブルと椅子に座ってこの状況を楽しんでいた。

 

『いやー、今年もこの体育祭がやってきました!駒王学園の方では災難な事が遭ったにも拘わらず、ほぼ全員が参加しているようですね!』

 

『本当は中止にでもしようかと思っていたのだがね。一応、参加するか否か自分たちの判断で任せるとプリントを全校生徒の家に送ったのだけれど』

 

『俺たちが思っている以上に肝が据わっているようだな』

 

『それだけではないかもしれない。なにせ生徒たちはイベントが大好物なのだからな。この機会を逃さないと来たのだろう』

 

YES!その通り!と駒王学園から聞こえてきた。

 

『ではそんな皆様の為に選手宣誓をパパッと行い、水上体育祭を始めましょう!』

 

ナウドの宣言により、歓声の声で砂浜は賑やかになる。選手宣誓は速やかに行われ水上体育祭は開催された。

 

『前回は駒王学園式の水上体育祭でしたので今回は川神学園式の水上体育祭が行われます。では、川神学園の学園長、川神鉄心殿。最初の種目をこの箱から選んでください』

 

『うむ、良かろう。さてさて、何から出てくるかのー?』

 

『因みに、「ポロリもあるよ?女だらけの水上相撲勝負!」は除外させてもらいました。個人的には面白そうだったんですけど』

 

『な、なんじゃとぉっ!?』

 

どこからか悔しそうな声と罵倒の声が聞こえてくる。それもそのはず。駒王学園の男子はともかく女子は学園から支給された水着ではなく、個人で用意した新しい水着をその華奢で瑞々しい身体の部位に身に付けているのだ。

その辺のフリーダムな規則は女子にとってプラスな為に人気だった。自分の好きな水着を学校の行事でも身につけて良いのはとても嬉しいことなのだから。対して川神学園はスクール水着。羨望の眼差しを向けられる華やかな(女子の水着)駒王学園とは比較的に地味である。が、それを身に包む女子の土台が良ければ気にしないのが男子の心情である。

 

『・・・・・わしの口で決めてはダメかの?』

 

『ダメです』

 

却下され渋々と箱の中に突っ込んでいた手を出して掴んでいた物をナウドに渡した。

 

『まず最初の競技は―――ビーチバレー!まず一年の部から始めますので参加する男子と女子は集まってくださぁい!』

 

 

「一年か、ユウキは出るかな?」

 

「ここからでも見れますから応援でも」

 

「ん、だな」

 

 

 

最初の競技が始まり、一年生から開始した。二つの学園の生徒がビーチバレーを競い合い五分五分の戦いを繰り広げた。その光景をユウキは見ていた。ユウキもこの競技に参加を臨んでいるので相手の実力を分析して待っていれば、C組の番となった。

 

「いこっか」

 

「うん」

 

黒髪の少女、一誠に恋している少女とタッグを組んで同じ一年C組の川神学園の二人の女子と戦いに。

二人の相手は。

 

「プレ~ミアムに倒すわよ!」

 

「は、はい」

 

『まゆっちの動きに注~目!』

 

一人は凹凸が少ない小柄で勝気な少女だった。そしてもう一人は長い黒髪をツインテールに結んだ歳不相応な豊満の胸の持ち主で見た目はおどおどしている内気そうな少女。―――何故か馬のマスコットで腹話術をしている。

 

「デ、デカい・・・・・」

 

同じ一年なのに身長とスタイルが自分と比べて違いの差が・・・・・。同じ年代でこの違いは何だろうか。

試合が始まる前に負けたこの敗北感を味わっているユウキを余所に少女がマスコットを持っている少女に質問した?

 

「あ、あの、あなたは二年生ではないですか?」

 

「はうっ!?」

 

『何を言うんだこの娘はぁっ!まゆっちはれっきとした高校一年生だぜぃ!』

 

「・・・・・どうしてマスコットで腹話術を?」

 

黒髪の少女の質問にマスコットが説明した。

 

『オイラはまゆっちの最初の心の友と書いて親友、松風だぜお嬢ちゃん』

 

「「・・・・・」」

 

『こらぁー!その意味深な眼差しをオイラたちに向けるんじゃねーよ!』

 

松風が怒鳴るが、ユウキと少女は可哀想な子を見る目で視線を送る。取り敢えず試合は始まった。

マスコットで腹話術、内気そうな少女が―――。

 

「プレミアムに打ち上げたからには決めなさい黛さん!」

 

「はいっ!」

 

予想外も良いところ、黛という少女が無駄のない動きで強烈なスパイクを叩きこんで先制点を奪った。

 

「つ、強い・・・・・!?」

 

「・・・・・あの子、動きだけで分かっちゃったよ。―――戦いでも強いよきっと」

 

初めて会う人には黛の言動で惑わされる。内気な少女だと。だが、動かせば目覚める獅子の如く本領発揮する。

ユウキは真剣な眼差しで黛を見やる。

 

「プレミアムって言っている子も油断せずに勝ちに行くよ」

 

「うん、分かったけど私たちが勝てるかどうか・・・・・」

 

ユウキが認めるほどの相手に委縮しがちな少女。そんなクラスメートにユウキは魔法を使った。

 

「先輩が見ている手前、負けるにしても情けない負け方はできないよ?」

 

「っ!?」

 

少女は辺りを忙しなくキョロキョロと見渡す。と、とある一点に顔と視線が止まった。ユウキもその視線を辿っていくと真紅の髪を伸ばしている少年が発見した。いたいたとユウキも一誠を見詰めたら二人の後輩の視線に気付いた一誠が口を開いた。

 

「―――二人とも、頑張れ!」

 

「「―――――」」

 

羞恥を感じさせない激昂の言葉。自分たちの活躍を期待しているのだと分かってしまい、クラスメートに笑みを浮かべた。

 

「応援されちゃったよ?頑張らなくちゃいけなくなっちゃったね」

 

「・・・・・」

 

声を掛けられてもクラスメートは何時までも顔を赤くして一誠を見ていると審判から催促の声が掛かる。

ユウキたちは黛たちに振り向く。その際、自分のクラスメートに横目で見れば、黒い髪を手首に巻いていた紐で結び始めポニーテールに結び始めていた。少女はキュッと結い上げると真剣な眼差しで試合に臨んだ。

 

「プレミアムな私のボールを食らいなさい!」

 

ボールを打ってきた。自分たちのコートに飛来してくるボールをユウキがアンダーで宙に上げた。

 

「いけぇっ!」

 

高々にクラスメートを信じて声を出したユウキの気持ちを裏切らない、一誠の応援を無化にしない為に、

少女は常人を超える脚力でボールの真ん前に跳び、

 

「はぁあああああああっ!」

 

ドンッ!とボールが歪むほど手を振り下ろして黛たちのコートに叩きだす。驚異的な反射神経をする黛だったが、後一歩で届かずプレミアムと言う少女の前に着弾した直後、ボールが勢いが止まらず跳ね返り、

 

「ふぎゃっ!?」

 

顎に直撃をしてぶっ倒れた。

 

「「「あっ」」」

 

敵も味方も関係なく生徒が倒れる様を見て漏らした。ワザとやったわけでないことは周囲も承知のはずだろう。

審判が安否を確かめると首を横に振った。

 

「試合は中止、ドローとします。いいですね」

 

ある意味痛み分けな結果で一年C組のビーチバレーは終了した。

 

「・・・・・ごめんなさい」

 

「大丈夫だよ。ボクは気にしないって。寧ろあんな凄いスパイクが撃てれるなんて驚いたよ」

 

「う、うん・・・・・ちょっとセーブしていたから」

 

「セーブ?」

 

もしかして―――とユウキが言葉を言い続けようとした時、肩にオーフィスを乗せた一誠が近づいてきた。

 

「残念だったな」

 

「先輩」

 

「ま、まだまだ体育祭は始まったばかりだから楽しく頑張ろう」

 

朗らかに述べる先輩である一誠に「うん!」とユウキは頷き、黒髪の少女はコクリと小さく頷いた。

 

「そんじゃ、次は二年生のFクラスの番だから俺行くわ」

 

「先輩も参加するんですか?」

 

「全部参加したいところだが、午前と午後の部の競技を合わせてたったの二つしか競技に出られない。残念だけど早目に終わらせてのんびりと応援に徹するつもりだ」

 

ポンとユウキと少女の頭に触れてからコートへ赴く。

 

「応援よろしくな」

 

それだけ言い残し、オーフィスとタッグを組む一誠は―――。

 

 

『ああ、一誠!私と熱い運動をしてくれるんだね!』

 

『待て!お前は男じゃないから向こうだろう!おい、一子でもクリスでも良いからこいつを俺から離させろ!』

 

『あわわわっ!ごめーん!』

 

『こら京!相手に迷惑を掛けるなっ!』

 

『ああーん!一誠愛してるー!』

 

 

大勢の前で一誠に愛の告白をする京を見てしまい

 

「あれだけは絶対に応援はできない」

 

「アハハ・・・・・先輩って違う学校でもモテるんだねぇ・・・・・」

 

不機嫌な顔と成るクラスメートの気持ちを察して苦笑いを浮かべるユウキであった。

 

 

『さて、次の競技を決めるぞい』

 

ビーチバレーの競技が終われば次の種目が決められる。鉄心が引いた競技の書かれた紙をナウドが読み上げる。

 

『読み上げます。次の競技は―――男女混合水上リレー!』

 

水上リレー。海に浮かべた揺れる足場でリレーをするだけの競技。足場の横幅はわずか一メートル。

走れるだけの幅はあるが、思うように揺れる足場では全力の走りはできない団体戦。

 

『なお、海に落ちても失格となりませんので頑張ってバトンを渡してください。相手に妨害してもありなので川神学園流で言うと皆さん、頑張ってゴールまで切磋琢磨をしてください』

 

アナウンスの言葉を聞いてガッツポーズをした帰国子女がいた。リレーに出る選手は事前に決めた順番、自分のコースへ赴く。海に浮かべられた三つの大きな円形の足場の周囲にはスタッフが万が一に備えての配置で待機していた。

リレーに参加する者たち、一年、二年、三年生の配置が完了すれば声を高らかにマイク越しで張り叫んだ。

 

『それではレディーゴーッ!』

 

リレーは約七人で走り切りるルール。第一走者がスタート地点から駆けだす。波で少しでも揺れる足場に意識や神経を使っていると視野が狭くなりがちでつい足が滑ってしまうこともある。

 

「あっ」

 

一人の女子が海に落ちた。―――思いっきりワザとで。すると女子の身体が光に包まれたかと思えば―――。

 

「金剛行きマース!」

 

海を走るように第二走者まで足場で走るよりも速く突き進んだ。

 

『おおっと!駒王学園の第一走者が海の上で走りだしたぞー!ルール上、失格とはなりませんが神器(セイクリッド・ギア)を使用することに関してはどうでしょうか!?』

 

『んーいいんじゃね?それもルールに書かなかった俺たちが悪かったことで』

 

神器(セイクリッド・ギア)で邪魔するなら流石にダメだけどね?』

 

『と、言うことで認められました!ハイッ!』

 

アナウンスと理事長たちの会話を余所に一走者が次の二走者にバトンを渡す頃に差しかかる。

第二走者の中にはイザイヤがいた。現在二番目に遅れている同級生を見据えて先にバトンをした他のクラスや川神学園を余所に、

 

「ハイっ!」

 

「任せて」

 

バトンを受け取った瞬間。走りにくい足場を容易く走りぬき、一気に一番目の走者を追い抜いて二番目の走者よりも早く第三走者の清楚にバトンを渡す。

 

「落ちないように」

 

「うん、分かってる」

 

清楚が走る。少々危うい走り方であるものの、次に待っている第四走者の元へと駆ける―――。

 

『速い!これは速いぞ葉桜選手!揺れる足場を無視した清楚な走りを見せるぅっ!』

 

二番目の走者との距離をぐんぐん引き離して第四走者にバトンを手渡す。そして―――。

 

『一位、国立バーベナ駒王学園!』

 

二年生の男女混合水上リレーは駒王学園側の勝ちで幕を閉じた。

 

『続いての競技の発表をします。―――二年生限定益荒男決定戦・・・・・なんですか、この変なネーミングの競技の名前は』

 

訝しい視線を送るアナウンスのナウドに愉快そうに笑う鉄心。

 

『これぞワシが50年かかって考え出した決闘法。益荒男に必要なのは不動の精神力!これを競うのじゃ!では、ルールを説明するぞい』

 

 

    各クラスから一人ずつ選出された男は磔された状態で他の学園のクラスの女子の前に連行される。

 

ルール 他の学園のクラスの女子はその男子にどんな手を使ってでも誘惑をする。

    

    その際、身体には判定装置を取り付け血流の流れで女子に誘惑されたと判断すれば身体に電流が流れる。

 

 

『以上じゃ。益荒男である者はいかなる誘惑にも屈さない不動の精神力でなければならぬ』

 

『くぅっ!まさに男らしい競技じゃねぇーか気に入ったぜ!シアと言う婚約者がいる一誠に他の女に誘惑される男ではないと証明できるわけだしな!』

 

『ふむ、その点を考えれば一誠ちゃんにはネリネちゃん、リコリスちゃんと言う可愛い女の子がいるから他の美しい女性に誘惑、浮気はしないということを証明できるわけだね?』

 

―――名を挙げられた張本人は砂浜に穴を掘って中に入って蹲って耳を塞いでいた。

 

『では、各クラスから代表の益荒男を一名選出するんじゃ』

 

男一人しかいないクラスでは必然的にその男が選出する羽目となる。周りから意味深な視線を浴びつつ磔されていく各クラスの男子たちは川神学園のゾーンに連行された。

 

 

駒王学園In2-F

 

一誠のクラスの前に連行された川神学園の男子、その名も井上準であった。

しかし、井上は知らなかった。駒王学園の女子しかいないクラスは男を毛嫌い、警戒、、恐れを抱いている女子だらけなのだ。なので―――。

 

「あらら・・・・・女子たちが俺に見向きもしないなんてどういうことよ?」

 

不思議そうに磔された状態で首を傾げた井上だった。だが、このまま時間が過ぎていけば終われば容易く勝てると踏んだ。

 

「フハハハっ!元より俺は未成熟な幼女じゃなければ成熟した女なんて興味ないからな!どんな誘惑だろうと俺は耐えてみせる!」

 

うわー、キモー、ますます男なんて、とそんな声がちらほら聞こえてくる。軽蔑、侮蔑の視線を向けられても井上は平然として受け流していた。

 

「さーて、アイツ(一誠)はどうなっているかな?」

 

一時期同じクラスメートとなった少年のことを思い浮かべたところで井上準はある少女を視界に入れた。

 

 

「ちゅぱっ、ちゅぷっ、れろ、じゅるっ、んふっ、んっ、んっ、んっ、じゅずずずずっ」

 

 

無表情で両手で太めの棒状のアイスを口に深く頬張って食べているオーフィスを。

 

 

「し、しまったぁあああああああああああああァァァァァッ!!!!!」

 

 

幻覚とリアルに電気が発生した。井上準はロリコンである。オーフィスがアイスを食べている姿はロリコン者にとって興奮せずにいられないシュチュエーションだった。いきなり身体に流れる電流で人が焦げる匂いを放つロリコンに女子たちはギョッと目を丸くした。―――井上準、失格。

 

川神学園In2-S

 

 

「お前がここに来るとはな」

 

「しょうがないじゃん。俺一人しかいなかったんだからクラスの男子って」

 

「・・・・・悲しい状況だな。せめて磔されたお前を見ぬことが情けか」

 

九鬼英雄は席を外してしまった。

 

「よし、やり易くなったな。おいお前ら」

 

忍足あずみがクラスメートの女子たちに人の壁となって貰い、他の視界から遮らせた。

 

「ユキ取り敢えず十字架を倒せ」

 

「ほほい。倒れるよ!ズッシーン!」

 

一誠は十字架にくくりつけられたまま横にされた。そして複数の女子たちから視線を一身に浴びる。

 

「で、俺をどう料理しちゃう気なの?」

 

「では、まず私から」

 

「ちょっと待てぇえええええええええええッ!?」

 

いきなり覆い被さってくる褐色肌のイケメン、葵冬馬に叫ぶ。興奮するどころか恐れ戦く。

男に興奮を覚えたら自分は正常ではいられなくなると胸の内で絶叫する。

 

「大丈夫です。きっとあなたは気持ちよくなってこの後、数奇な運命を辿ることでしょうね」

 

「小雪!葵を俺から遠ざけたら俺ができる範囲ならば一つだけ何だってしてやる!」

 

「トーマ、ごめんねー?」

 

「む、その機転やりますね。残念です」

 

自分から遠ざかる男を見送って九死に一生を得た気分な一誠。

 

「ヤサ男がいなくなった今が本番だ」

 

不敵に言う忍足あずみ。だが、相手は手強い。

 

「言っておくけど、俺に身体を押し付けたりしても興奮しないからな」

 

「ちっ、可愛げのないガキだな。いや、ドラゴンか」

 

実際、小雪に抱きつかれてもなんとでもなさそうな顔をこちらに向けてくる。

チェリーではないか、それとも女に興味がないだけなのか判断はできかねる。

このまま無意味に時間を過ぎるだけならば―――。

 

「ユキ」

 

「んー?」

 

「お前、こいつのことが好きか?」

 

「うん!大好きー!」

 

純粋に答える小雪は忍足あずみに振り向く。その答えを聞いて黒い笑みを浮かべ出した。

 

「なら、兵藤一誠とキスはできるな?」

 

忍足あずみの会話を聞いて「え”」と何を考えているのか悟った。

小雪は嬉しそうに「勿論!」とそう言う。一誠に恋している乙女は恥じらいを見せない。

そんな純粋な小雪に悪魔の囁きが―――。

 

「だったら兵藤一誠とキスしろ。周りの視線を気にせずにな」

 

だから女子に人の壁となってもらったのかとようやく気付いた時には既に遅かった。

顔を近づける少女を目が合う。小雪は若干恥ずかしそうに頬を染める。でも、はにかみの表情を見せる。

 

「一誠、僕、一誠のことが好き・・・・・大好き」

 

「待て小雪。キスをするならせめてここじゃなくて―――」

 

一誠の制止を空しくも小雪の口で遮られた。目の前の少女のファーストキスを貰い複雑な心境でいっぱいになった。

 

「ん・・・・・これでいい?」

 

問われた忍足あずみは額に手を当ててそうじゃないと雰囲気を醸し出した。一誠は忍足あずみに不敵の笑みを浮かべた。

 

「純粋な小雪にはまだ早いんだよ。違うなら大人の女性の魅力を持っているお前が手本を見せたりしないのか?男を誘惑する方法なんて他にもあるだろう」

 

自分が思っていたのと違うことに内心は安堵した一誠が忍足あずみに挑発した。

 

「ぐっ・・・・・!?」

 

と、喉の奥に言葉を詰まらせたように呻く忍足あずみにキョトンと不思議そうな顔となる一誠は漏らす。

 

「その反応・・・・・ああ、男と付き合ったことがないんだ?」

 

彼女の反応は無言でそれは肯定と意味でもあり、へー?と底意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「よく何も知らない、経験もない小雪に偉そうにさせたな?自分のことを棚に上げて嫌な女だ」

 

「っ・・・・・!」

 

反論はできない。事実男と付き合ったことは皆無な彼女は歳では一日の長であるといいことに、ここぞとばかりまだ大人になっていない少女たちに命令していた。

 

「一誠、もう一度キスしよ?」

 

「って、小雪―――」

 

再びキスをし始めた。ただ触れるだけのキスだったが、横に近づいてきた弁慶がフォローの言葉を掛けた。

 

「小雪、舌も使うんだよ?兵藤一誠の舌と絡ませて」

 

「弁慶さんっ!?」

 

「おー、そうなんだー」

 

そんなキスもあるんだと小雪は早速シた。舌を使って一誠の口をこじ開けると舌を入れ込ませ、絡め始める。

 

「んっ・・・・・んんっ、んっ、んっ・・・・・んんぅっ、じゅるっ、ちゅっ、ちゅぱっ、れろれろ・・・・」

 

砂浜に波とは違う水音が聞こえる。キスをしている小雪とキスを受けている一誠。恨めしい視線を送ってキスの仕方を教えた飲兵衛から一瞥をして―――自分からも積極的に舌を使いだした。

 

「んんんっ」

 

ビクリと身体を震わした。おおっ?と小雪の反応に興味を示す弁慶は見聞した。

最初と打って変わって頬が桜色に染まり、目が蕩け、一誠に熱い視線を送っている小雪は女の顔となっていた。

じゅるじゅるっと吸い込む音も聞こえる。顔を交互に動かして熱いディープキスをし続ける二人を見て弁慶も

顔が火照り始めた。間近でカップルではない男女のキスを見て艶めかしいと思った。

激しくて熱いキスをしても一誠が誘惑されていないことにも驚きだが、それ以上に二人のキスから目が離せない自分がいることに分からされた。

 

『・・・・・っ』

 

人の壁となってもらっている女子たちがモジモジとして顔を赤らめていた。ああ、この女子たちも尻目で見ていたんだと悟る。現にチラチラと一誠と小雪に視線を送っている女子もいたから直ぐに理解できた弁慶はクスリと無自覚に妖艶な笑みを浮かべた。すると・・・・・鼻にツンと刺激する香りが漂い始め―――弁慶の女の部分を刺激した。

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・」

 

鏡で見れば恍惚とした表情で熱い吐息を漏らす自分に他人事のように受け止めてしまうかもしれない弁慶が

唾液で濡れた舌を限界まで伸ばしながら一誠に顔を近づける。接近してくるウェーブが掛かった黒髪の少女に気付き、小雪から顔を逸らすと同時に弁慶の唇と重なった。

 

「ああー、ずるーい・・・・・」

 

「んっ、ちゅっ、ごめんね・・・・・んぁっ、私もしたくなっちゃった・・・・・」

 

好きでも嫌いでもない男にファーストを捧げた。なのに、不愉快を感じない。不思議でいっぱいだが、この瞬間を楽しみたいと弁慶は終了の宣言が終わるまでちょくちょく小雪と入れ代ってキスを没頭したのだった。

それから午前の部の競技は終われば昼食の時間となる。日差しが強い砂浜で食事をするのはケアを怠らない女子にとって紫外線は敵だろう。巨大な木を彷彿させる百メートルほどの『女子専用』パラソルをいくつか設置していた一誠だった。D・E・Fの女子たちは怪訝な面持ちで一誠に視線を向けるが、日焼けを望まない、日差しから避けたい女子はパラソルの下に集う。

 

「ご苦労さまです」

 

一誠の家族たちもパラソルの下でのびのびと休憩の時間を満喫していた。咲夜が労いの声をと共に冷たい水を渡す。

 

「水上体育祭どうですか?」

 

「楽しんでいるつもりだ。午後の部も楽しみたいな」

 

ポツンと駒王学園側と川神学園側の間に設置したパラソルの下で過ごす面々。仲間外れ、はぶられた雰囲気が醸し出すものの―――。

 

駒王学園側からは―――

 

「一誠、どうしてあなたたちはこんな所で過ごすの?」

 

「もしよければ一緒に良いですか?」

 

川神学園からは―――

 

「デッカいパラソルだなー。私たちも入って良いか?というか入らせてもらうぞ」

 

「一誠!一つパラソルの下で私と熱い愛をぶつけ合おう!」

 

両学園から一誠と交流を持っている面々がやってくる。

 

「流石は一誠さま。思った通りになりましたね」

 

「なんとなくこういう奴らだと分かっているからな」

 

孤独感を感じさせないほど賑やかになるのだった(主に女子)。

 

賑やかな昼食は終わり、午後の部に突入した。

 

『対校!百メートルリレー水泳競争ぉっ!』

 

アナウンスが高らかに発表した。参加者と泳ぎは自由。先着十人とルール。

意気揚々と一誠が参加し、隣に立ち並ぶ対する川神学園の生徒を見れば見知った人物がいた。

 

「あ、弁慶」

 

「おや、この競技に参加していたなんてね」

 

「意外だな。だらけ弁慶がこの競技に参加するなんて。泳ぐんだぞ?」

 

「ふふっ、実はお前が参加するところを見てね。私も参加したんだー」

 

弁慶の考えに首を傾げたところで競技は始まった。二人は三番目に並んでおり、五十メートルを泳ぎって戻ってくる味方を見続けているとあっという間に一誠と弁慶の番となった。二番目の競泳者が戻って来て先に一誠は海へ入って泳ぎ始めた時―――。バシャッと背中に抱きつく弁慶。その弾みで一誠は海の中に沈みかけた。

 

「飲兵衛、何のマネだ?」

 

「どうせ同じことをするんなら一緒に行こう?」

 

「別々でも行けれると思うんだけど?」

 

「流石に百メートルも泳ぐのはしんどい、だるい、だから抱き心地が良いお前の背中に抱き付くことにしたんだ」

 

ええい、この妖怪だらけめ!しっかりと首に両腕を回して背中に密着していることで離れる気は無いと意思表示する弁慶に呆れと嘆息、愚痴を漏らすし、バシャバシャと海を泳ぐことに。

 

「おー、楽ちん楽ちんー」

 

「乗り心地はどうだよ」

 

「んー最高ー♪思いっきりのんびりできるからいいよ」

 

「働いている俺にとっちゃ割り合わねぇ労働だ」

 

デメリットしかない等とUターンする印として海に浮かべている浮輪に沿ってUターンする一誠の耳に囁いた。

 

「後で良いことしてあげるから我慢して?」

 

「川神水全部くれるなら良いぞ?」

 

「それだけはダメ」

 

真顔で拒否された。結局、弁慶を背負ったまま百メートルを泳ぎきって砂浜に辿り着いた。

四番目の競泳者が海へ駆け、泳ぎ切った生徒は自分の学園側に戻るのだが一誠は弁慶にひっつかれている。

 

「って、何時までくっつく」

 

「んー、もう少しこのまま」

 

と言って今度は落ちないように腰まで胴に巻きつかせる弁慶。溜息を吐き「コロコロと変わるな。今度は甘えん坊か」とそうは言うものの、弁慶の好きなようにさせる一誠が駒王学園側に戻っても、弁慶は義経たちが連れ戻しに来るまで一誠の膝に頭を乗せてのんびりと川神学園が勝利するまで寛いだ。

 

『いよいよ水上体育祭は大詰めとなりました!最後は学年交流水上綱引きー!文字通り、言葉通り海に浮かばせている足場に置かれている綱を引き寄せて相手を海に突き落とす!ローションをたっぷりと足場も滑り易くしているので直ぐに引っ張られないように心掛けてください!』

 

アナウンスの話を聞き、まず最初に駒王学園は三年S組、川神学園は二年A組と決まって海に浮かばれた足場まで続く道に歩いて移動する。遠目から見ている両学園の面々に見守られる中、準備が整った次第で競技が始まった。

 

『うわっ!す、滑るっ!』

 

『きゃあっ!』

 

統べる足場で足腰を力むことがままならない。だからあっさりと川神学園側の生徒たちが体勢を崩し、悲鳴を上げ足を滑らせ海に引きずられた。その様子を駒王、川神学園の生徒たちは負ければ自分たちもああなるのかと見聞する。

 

「うわー。やりにくそう」

 

「足場が引き寄せられていないのは固定されているからか」

 

「やり方を見ると、瞬発力がものを言いそうだ」

 

腕を組んで分析するクロウ・クルワッハに「そうみたいだな」と相槌を打つ一誠はうーんと悩ましげに漏らす。

 

「厳しいかな。踏ん張りが効かない足場じゃ女子しかいないクラスだとあっという間に引き摺られる」

 

「そうか?相手より先に綱を持って引けばいいだけじゃないか」

 

何を言っているんだと当然のように発する同僚ことゼノヴィアに対してイリナが半分呆れながら口にした。

 

「ゼノヴィアらしい考え方だけど実際その通りね」

 

「頑張るッす!」

 

「うん、あっという間に負けることだけは避けたいね」

 

「微力ながら私も・・・・・」

 

天界と冥界の二大姫の三人も頑張る意欲を示す。

 

「では、いかがでしょうか」

 

「リーラ?」

 

何時の間にかいたリーラが提案の言葉を発した。何を言うのか耳を傾けると。

 

「状況と状態は五分五分、ならばもしも勝利することがあれば一誠さまと邪魔されず二人きり過ごせる時間を得れるという権利を与えられるというのは?どのようにお過ごすかは自由です。ただし、人数が多い為に三十分間だけですが」

 

どうでしょうかとリーラが女子陣に訊ねると異様の空気が漂い始めた。

 

「「一誠くんと二人きり・・・・・」」

 

「師匠と・・・・・」

 

乙女心を煽ったリーラの巧みな話術は効果抜群。一誠と二人だけの時間と空間が得られるのであれば、何が何でも勝ちに行くという気迫も感じられる。

 

そして、一誠たち2-Fの番が来れば、

 

『引っ張れぇえええええええええっ!』

 

川神側の3-Sを相手に圧勝したのだった。恋する乙女の力は無限―――。

 

「それじゃ、休みの日に!」

 

「一誠くんと何をしようかなー」

 

「やりたいこと、したいことがいっぱいあって悩みます」

 

一誠と言う餌に群がる生物。意味深な視線をリーラに向けても無言のお辞儀をするだけで状況を覆すことはできなかった。



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エピソード42

水上体育祭は平穏で終わり、休日の日は家族たちの要望に応えるとある対応に追われていた。

 

「「イッセー、ここに工房を作って欲しいのじゃ」」

 

ドワーフのユーミルとエイリンの仕事場である工房の創造。新たに一誠の家族となった小さい種族の願いを叶える一誠が今いる場所は一階のとある部屋。そこはまだ空き部屋で、年上な二人は学校に行かずとも、ドワーフとしてできることをこの家の中でやる。それはいいのだが―――と胸の内で漏らした言葉を次は口で言い続けた

 

「何かを作るのは良いけど材料とはかどうするんだ?」

 

「ダークエルフの長が魔法で届けてくれるのじゃ」

 

「作っては売って、金が貯まれば店を開きたい。ドワーフの商品や武器や防具など売ってドワーフの良さを知ってもらい」

 

妹のエイリンの話を付け加えるように姉のユーミルは自分の思いを打ち明けた。

創造の力で次々と工房らしく作り続ける一誠は質問を口にする。

 

「二人は武器が作れるんだ?」

 

「当然じゃ。わしらは父や同族の傍らで見聞もしてもいれば、実際に自分の手で作っていることもある」

 

つまり経験はあるんだと胸を張ったユーミル。金属を加熱する大きな炉、加熱された金属を置く為の鉄床、鍛冶の為の設備を昔、修行の一環だと連れて来られた秘境の地、ドワーフが住んでいる場所で一年間過ごした時に自分も体験した鍛冶の経験を思い出しつつユーミルとエイリンの要求を聞きつつ創造する。

 

「じゃあ、魔法の剣とか作れる?」

 

これみたいな武器とかと、エクスカリバーを見せ付けたら返ってきた返事はNOだった。

 

「わちらは武器を作るだけじゃ。武器に魔法が付加されているのは精霊や魔法を扱える種族たちの特殊な方法によって出来上がる」

 

「それでも魔法が付加されている武器に負けない強い武器は作れるのじゃ。例えば素材次第で属性付きの武器とかの」

 

「属性付きの武器?火、風、雷、氷とか?」

 

「ああ、そうじゃ。属性付きの武器もある種の魔法の剣みたいなものじゃが、それの素材となる物は様々じゃ」

 

「錬金術で加工したり、モンスターしか得られない素材が必要になる」

 

錬金術・・・・・と興味深そうに耳を傾けた。

 

「まぁ、ドワーフのわしらが作れるとしたら属性攻撃ができる武器じゃ」

 

「その魔法の剣から精霊の力を感じるのじゃが作る者によって作る物が違う。じゃからイッセーが思うような武器は作れんぞ?」

 

「んー、分かった。それで、こんな感じか?」

 

「「うむ、ありがとう」」

 

話している間に鍛冶の為に必要な設備を創造した一誠に感謝する。

 

 

「・・・・・この量は何だ」

 

「整理していたらこんなことになった」

 

とある某国の出身、エルザ・スカーレットは一誠を呼び部屋に招くと・・・・・数多の鎧で埋め尽くされた部屋が一誠の目に飛び込んだ。わずかな歩くスペースとベッド、机と椅子、タンス、棚と生活用具が一ヵ所に集めていて殆どのスペースは鎧で一杯になっていた。圧巻に似た気持ちを一誠は抱き、見たことのない鎧を博物館と化した少女の部屋から視線をエルザに変えた。

 

「この色んな鎧、着る機会があるのか?」

 

「殆ど無い。それに魔法空間内な無限に貯蔵できないのだ」

 

・・・・・それを分かっててどうしてここまでの鎧を、そう思わずにはいられなかった。

一度はエルザの華奢で瑞々しい身体に纏い幾重の攻撃から守り、様々な冒険を共にしてきた鎧―――のはず。

片手では数えきれない鎧が部屋の中に鎮座していて既にここは物置き部屋。

 

「エルザ、何時も装着している鎧はどのぐらいある?」

 

「十種類以上はあるが特に―――」

 

一誠の目の前で戦闘時に装着している鎧・武具を見せ付けた。感嘆、驚き、称賛と一誠をそうさせる鎧や武器。

そして自身の鎧を紹介し終えるエルザに対し、

 

「この鎧、全部処分だな」

 

「なに!?」

 

使わない鎧はただの鉄の塊。一誠はそう悟った。

 

「待て待て!処分とは捨てるというのか!?この鎧たちは私の思いででもあるのだぞ!中にはお前と一緒に任務をした時に装着した鎧もあるんだ!」

 

目を丸くし、一誠に掴みかからん勢いの必死なエルザに無表情な顔で言われた。

 

「捨てるわけじゃない。でも、この国は戦闘なんて日常茶飯事に起こるわけがないからこの鎧は使う機会がそんなに無いわけだから」

 

一誠は人差し指と親指を鳴らした。それに呼応してエルザの部屋中の鎧たちが光り輝き、そして弾いた。

 

「コンパクトに仕舞うだけだ」

 

光が弾き、消失するとヒラヒラと鎧の数だけのカードが床に散らばった。

 

「取り敢えずカードにしておいた」

 

「カ、カード・・・・・・」

 

「魔法空間は無限に貯蔵できないんだろ?だったら別の形で貯蔵するだけのこと。ああ、カードに魔力を込めれば自由に・・・・・」

 

そこで言葉を止めた。一誠の中である考えが過ぎり、顎に手をやって思考の海に飛び込んだ。

 

「・・・・・」

 

「イッセー?」

 

呼び掛けにも反応しない。考えることに集中しているようだが、一拍遅れるようにエルザへ顔を向けた。

 

「エルザ、お前の魔法空間って武器や鎧以外にも何か収納できるか?」

 

「衣服とかならできるが、他は無いからわからない。それがどうかしたのか?」

 

「んとだな。お前の意志で鎧や武器が呼び出せたり、持ち替えることができるなら」

 

床に散らばったカードを一枚手に取り、

 

「もしもこのカードも魔法空間内に収納でき尚且つ何時も通り換装できるなら、入り切れない鎧と武器も収納&換装が可能になるんじゃないか?鎧とカードの質量は段違いだからな」

 

「・・・・・なるほど」

 

一誠の考えに理解しエルザは感心した。魔法空間に収納するカードと化となった鎧ならば鎧や武器丸ごと仕舞うより収納できる容量は格段に違いが出る。魔法空間で装着したいカードの鎧を換装できるとならばそれは嬉しい限りだ。

 

「流石私が認めた男。まるでカナの魔法の札みたいだ」

 

「それは今ギルドにいる?」

 

「ああ、大切な家族の一人だ」

 

酒豪と過言ではないほど酒好きな少女を脳裏で思い浮かべた。今でもきっと相変わらず酒を飲んでいるだろう。

必然的にエルザの家族たちの姿も思い浮かべる。

 

「では、イッセー。私に協力してくれるか?他にもそうして欲しいんだが」

 

「・・・・・まだ、鎧はあるというのか?」

 

「その通りだ。実はリーラさんに空き部屋を五つ借りて全部鎧の収納庫として仕舞っている」

 

エルザの発言に心底、一誠は呆れ返った。―――やはり、物理的に処分した方が良さそうではないかと

また思わずにはいられなかった。

 

 

 

エルフ、アレインは困り果てていた。

明らかに年下の自分と同じ青い瞳、腰まで伸びた金髪、エルフの証でもある長く尖った耳の少女に

目を輝かせて好奇心ありありに問い詰めてくる。

一誠の家に住みついて数日は経つが、このルクシャナと言うエルフに住んでいた故郷にいるエルフのことを興味身心で顔を合わせる度に訊いてくる。ルクシャナだけではなく、シャジャルやティファニアもエルフとしてアレインの口から出るであろう言葉を静かに耳を傾け待っていた。

 

「そう何度も毎日、私のことやエルフのことを聞かれても面白くは無いと思うが」

 

「私にとっては面白いのよ!イッセーもイッセーだわ。他のエルフと一緒に過ごしていただなんて言って欲しかったわ」

 

当時のルクシャナは一年間その場に止まる一誠より風の如く世界中に行く誠と一香について行くことが多かった為、一誠の傍にはリーラとオーフィスしかいなかった。なので、アレインとは初対面なのだ。

アレインを見た瞬間、ルクシャナの好奇心がどこまでもくすぐり良くも悪くもルクシャナの学者としての血が騒いだ。

 

「それよりもイッセーはどこだ?」

 

「リビングにいるか、自分の部屋にいるか、トレーニングルームにいるか、外にいるかって感じで今どこにいるか把握できないわ。この家大き過ぎするしナヴィなら知ってるんじゃないかしら」

 

「ナヴィ、彼女のことか」

 

自己紹介時に相対した悪魔と人間のハーフの少女。何時も部屋に籠って仕事をしていると知っているので

ナヴィの部屋に訪れることにした。

 

「失礼する」

 

ノックをして、侵入の了承を得た直ぐに入る。広々とした空間だが半分だけ機械で埋め尽くされている部屋でもあった。アレインにとって見たこともない無機物の塊にいる少女を見つけることは容易かった。

指を忙しなく動かし、カタカタと断続的に音を鳴らし「何か用?」とアレインに顔を向けず訊ねたナヴィ。

 

「イッセーの居場所を知りたいんだが」

 

「あー、イッセー?イッセーならトレーニングルームでオーフィスとクロウ・クルワッハと特訓してるわよ」

 

「そうか、ありがとう」

 

「入る時は気をつけなさい?ドラゴン同士の戦いは凄いんだから」

 

ナヴィの言葉を聞きながら部屋を後にし、真っ直ぐ階段の裏にあるエレベーターへ乗り込んで地下に繋がる機械を操作し、一誠がいるトレーニングルームへ。

 

「(ドラゴン同士の戦い・・・・・か)」

 

見たことのない戦いが始まっているのか、かつて一誠の師でもあったアレインは数年の間に成長した弟子の(ロキの件)戦闘振りを見て感嘆を漏らした。

 

『アレインお姉ちゃん!』

 

「ふふ・・・・・」

 

まだまだ幼く可愛に自身を姉と慕っていた時の過去を思い出しつい口元を緩ました。

生まれてこの方、感じたことのない感情、気持ちを始めて抱かせた一誠に対し、

アレインの中で大きい存在となっていた。やがてエレベーターは停止し、両開き目的の空間と繋がった。

その一歩、足を前に踏みしめてさらに足を動かしトレーニングルームに入り、一誠を直ぐに見つけ出した。

クロウ・クルワッハとオーフィス、唯一一誠と同じ種族であるドラゴンに見守られている中で、瞑目して何かしようとしている一誠を。

 

「・・・・・」

 

声を掛けようと思ったアレインはオーフィスとクロウ・クルワッハに目を向けた。―――何をしているんだ?と視線で訴えて。返ってきたのは人差し指を唇に当てて、「静かに」と目で訴えられた。

集中をしているのか、胡坐を掻いて据わっている一誠は微動もしていない大した集中力。

アレインも見守ることしばらくして。徐に瞑目していた一誠が目を開き立ち上がった。

 

「イメージトレーニングを終わったようだが完成したのだな?」

 

「ああ」

 

短く相槌を打った一誠。アレインに視線を向けるものの一瞥して瞳に真剣の色を帯び、両手を固く握りしめ、

一誠は力を溜め始めた。

 

「はぁああああああああああああああああああっ!」

 

気合の入った叫び声に呼応して真紅の魔力のオーラが迸り、周囲に散らす風は徐々に強さを増し、オーフィスたちの髪や服も激しく靡かせる。

 

「これは、何を・・・・・」

 

「イッセーの新しい力の開発」

 

「開発に成功したその瞬間を立ち会えるのはとても楽しいものだ。―――今回もそれだ」

 

二人の話を耳に入れながら一誠の様子を視界に入れる。迸る魔力は足から段々と鎧と化となって少年の全身に覆っていく。

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・はははっ。あー、やっぱり魔力をかなり使うなこれだけで」

 

鎧越しに苦い声が聞こえてくる。肌でも感じる『力』。とても正常とは思えない荒々しさがオーフィスたちが指摘するほどだった。

 

「完成、に近い状態だな。魔力の流れが正常ではない」

 

「二つの力を融合、難しい」

 

「まだまだ調整の余地があるか」

 

一分も経たずに鎧はガラスが割れたような甲高い音と共に砕け散り消失した。生の一誠が肩で息をしている姿を見つつ訊ねた。

 

「何をしていたんだ?」

 

「ん、とあるコピーした力を融合の試みをしていたんだ。本来有り得ない力の融合をな」

 

「それで失敗したのか」

 

納得したアレイン。どんな力を融合させようとしていたのかは分からないが、一誠は今の現状を満足しておらず、傲慢、怠惰などしてないことに嬉しく思った。

 

「やー、完成したらクロウ・クルワッハと特訓してもらう予定だったんだけど、まだかー」

 

「首を長くして待っている。焦る必要は無い」

 

「ん、あとちょっとでできる、と思う。頑張る」

 

「二人とも、感謝感謝」

 

それで、とアレインに話しかける一誠。

 

「どうしたんだアレイン。何かお願い事でもあるの?」

 

「ああ、久々に弟子のお前の強さを直で知りたいと思ってな」

 

かつての師の言葉の意図を察し、不敵の笑みを浮かべた。

 

「師を超える時が来たかな?」

 

「そう易々と抜かす程、私は緩くないぞ?」

 

「なら、抜かされないほど硬くしてくれ。―――もうあの時の俺とは違うからさ」

 

「当然だ」

 

まずは体術とばかり、どちらからでもなく引き寄せられるようにアレインと一誠は拳を突き合いだした。

 

 

 

「あの、リーラさん。私たちヴァルキリーなのですが・・・・・」

 

「郷に入っては郷に従えという諺がございますので」

 

「しかし、やはりあなたと同じ服を着るというのは」

 

「ヴァルキリーは英雄や勇者をもてなす役割を担っていると存じ上げております。英雄と勇者は人、ならば人をもてなすことに関しては―――メイドも同じことなのです。ですので、お二人もこの家に同居するのであれば一誠さまの身や周辺の世話をするのは当然のことです」

 

ヴァルキリーのロスヴァイセとセルベリアがリーラと同じメイド服を身に包んで佇んでいた。

一誠の付き人となって以来、二人はこの家に住みつくようになってからリーラが二人をメイドとして仕立て上げていた。勇者公認とされた一誠を護衛、または世話をする二人は学校に行かれてはどうしようもなく、帰ってくるまで家で留守番することが必然的多くなる。それまで二人は何もすることがないとメイド歴が長いリーラはその日、ロスヴァイセとセルベリアをメイド職に就かせようと考えついたのだった。

 

「無論、お給金は支払います。休日も週に二日。一誠さまが帰ってくる間家で何もしないでいさせるほど私は優しくございません」

 

「・・・・・お給金とはどのぐらいでしょうか?」

 

恐る恐ると訊ねるロスヴァイセにアッサリと口にした。その額はロスヴァイセにとって破格な給料。

セルベリアも「ヴァルハラにいたころと段違いだ」と思わず漏らす。

 

「ヴァルキリーとメイドの役割は同じです。一誠さまのお世話をするだけのこと。どうですか、悪くない話ではないでしょう」

 

「それは・・・・・」

 

「家事だけではなく戦闘の面でもお二人には動いてもらいます。その時にヴァルキリーとして一誠さまの傍にいて下さればそれで構いません」

 

言い終えた途端、リーラが深々と頭を下げたことで二人は驚いたように唖然としてリーラを見た。

 

「私のような非力なメイドでは、女性では一誠さまを守ることはできません。私の代わりにどうか、一誠さまを守ってください。最近になってあのお方は無茶をすることを躊躇もしないと理解しました。誰かが傍にいて見守らないと一誠さまはきっと」

 

リーラからのお願いに顔を見合わせた二人は分からされた。この家に住む新米の自分たちよりずっと深く、そして高く一誠のことを思っている。もしかしたら彼女の方がヴァルキリーとして似合っているのかもしれない。

 

「あなたの願いは真摯に感じる。それになんとなくだが、オーディンさまがヴァルキリーになって欲しい気持ちも頷ける」

 

「恥ずかしいです。勇者一誠さまのヴァルキリーになれたというのに。私たちよりあなたの方が・・・・・」

 

二人の発言を耳にし、顔を上げたら擦れ違うようにリーラに跪いていたロスヴァイセ、セルベリア。

 

「「一誠さまのヴァルキリーとして、あなたのその願いをしかと心に刻みます」」

 

「ありがとうございます」

 

では早速、とリーラは告げる。

 

「この家の構造を把握し尚且つ、家事、洗濯、清掃、他にも色々と教えてさしあげます」

 

 

 

美の女神フレイヤは外出していた。傍らには一誠がいて一誠にエスコートされている真っ最中。

オーディンが自由奔放と言うほど―――。

 

『・・・・・』

 

いや、ある意味自由奔放なのかもしれない。そこに立つだけで老若男女問わず自分に身惚れさせるフレイヤの『美』は留まることを知らない。美が具現化したような姿で表に出て惜しみなく美を晒す彼女に一誠は一言漏らす。

 

「皆、フレイヤお姉ちゃんに見惚れちゃってる」

 

「私はそう言う女神よ?」

 

綺麗に微笑むフレイヤを見ても周りの人たちのように魅了されない一誠。

いくら朴念仁でも美しいという概念が備わっていればフレイヤの美に魅了しないわけない。

一誠もその一人であるはずが、平然と普通の態度で肩を並べ共に歩く女神に魅了されない。

不思議と、明らかな抵抗感をしない、その様子を窺わせない一誠にそっと手を出した。

自身の指を一誠の指の間に難なく滑り込ませ、恋人のように手を握ってみて隣にいる少年の反応を見やると。

嬉しそうに笑みを浮かべ、そっと優しく握り返してくれた。それだけではない、フレイヤ特有の力である魂を見ることができるので一誠の魂の変化が起きていることにも気付いた。桃色の花弁を満開させる木々が

フレイヤを見させているそれは全てを虜にしかねない美の女神が唯一、虜になっているのは一誠の魂であった。これはきっと嬉しいという表現、光景なのだろうか?フレイヤの瞳に映る一誠の魂は子供のようにコロコロと景色を変え、表現として表す。

 

「フレイヤお姉ちゃん、何だか楽しそうだけどどうした?」

 

「楽しいから、よ」

 

「そっか」

 

特に追及も気にもせずに二人は町中を歩き続ける。フレイヤは一誠にどこか楽しいところへ連れてくれることを期待して。



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エピソード43

体育祭が終わってから学園は日常の学校生活が送る―――。

しかし、国立バーベナ駒王学園に力が集った。

 

―――2-S―――

 

「皆さん、今日からこのクラスに配属となりました。兵藤家の中で選り抜きの兵藤くんたちです。

皆さんの監視をする為に来たようなものですが、お手本と成り正しい在り方を教え、

導いてくれるでしょう」

 

兵藤家しかいないクラスに数人の男子が紹介されていた。兵藤家を除く全校生徒が忌み嫌う編入してきた兵藤家の少年たち。

 

「皆さん、彼らの存在に感謝をするように。兵藤家が周囲に舐められてはダメなのですからね。兵藤家は日本を統治する式森家と並ぶ名家。―――あの半端な化け物に後れを取るようでは兵藤と名乗るに値しません」

 

このクラスを担当をしている肥満体に背中まで無造作に伸ばし、髭も生やしている中年の男性も兵藤家の一員。

担当の教師の話を真摯に聞く姿勢でいる生徒たちの心は余裕を得れた。

兵藤家の中で選り抜きされた実力者ならばあの目障りなヤツをどうにかしてくれると確信している。

 

―――そんな心情のクラスメートたちに編入してきた兵藤家たちの内心では、思いはそれぞれ共通していたのは呆れだった。

 

「今日は体育があります。何時も通りに兵藤家の力を示し、相手を倒すのです」

 

「今日は誰なんですか?」

 

二年と三年が主に交流戦と言う形で体育を行うが、対戦相手を知るのは授業が始まるまで知らされない。

本来ならばそうなのだがこの教師はさらりと述べた。

 

「あの化け物がいるクラスとです。この中であの化け物を倒し名を挙げたいと思う優秀な兵藤家の者はいますか?」

 

教師の訊ねに―――殆どのクラスメートが手を挙げた異例中の出来事を一誠たちは知らない。

 

―――2-C―――

 

 

「兵藤楼羅です。皆さんよろしくお願いします」

 

「楼羅の妹、兵藤悠璃。よろしく」

 

和樹たちのクラスでも兵藤家の生徒が編入していた。一誠に恋する現当主の娘であり誠の妹にあたる二人だった。

 

「意外、ですね」

 

「うん、このクラスに入ってくるなんてね」

 

「他の兵藤とは違う奴で安心した」

 

「それに顔合わせたことがある娘たちだしね」

 

それなりに交流がある和樹たちにとっては安心できる兵藤家の者であり、一誠のことで会話の花を咲かせることができる。四人の話を聞いたクラスメートたちも「なら、安心か」と雰囲気を醸し出す。

 

「・・・・・やっぱり、いっくんがいない」

 

「休みの時間になれば会いに行けばいいだけです」

 

「うん、そうだね」

 

ほらね、と和樹は危害を加えるような、気分を害する兵藤家の者ではないと改めて理解した。

 

「それじゃHRの間は二人の質問攻めの時間としよう!遠慮はいらん!」

 

『サーイエッサー!』

 

「「・・・・・えっ?」」

 

教師の言葉に殆どの生徒は反応して困惑する二人に質問攻めをした。

 

 

―――2-F―――

 

「エルザもクラスに編入した・・・・・悠璃と楼羅、他の奴らも来たか」

 

瞑目のまま口を動かして一誠は悟ったように言葉を発した。その表情はとても晴れやかではなく、難しい顔で―――。

 

「イッセー?難しい顔をしてるデスネ?」

 

横から顔を近づけてくる金剛が一誠の顔を緩ませようと手で挟んでグニグニと揉み始める。

 

「・・・・・顔が歪むんだけど」

 

「アハッ☆」

 

向日葵のように笑い、金剛は一誠の膝の上に跨って対面座位の形で顔を近づけ一誠の額とコツと額をくっつけた。

 

「難しい顔をするイッセーは似合わないデース。もっと楽しそうな笑顔でなきゃ」

 

「そうもいかないんだよ。また兵藤の奴らが増えた」

 

「OH、そうなんデスカ」

 

少年の心情を察し、両腕を一誠の首に回して抱きついた。

 

「イッセーは温かいネー」

 

「金剛もな」

 

少女の背に腕を回してしばらく人目を気にせず一誠の温もりを感じ、金剛の仄かな甘い香りを体温と共に感じつつ―――比叡の嫉妬と羨ましさの声を耳にしながら少しの間だけ抱き合う。

 

「・・・・・相変わらず、仲が良いわね」

 

声を殺して発する一誠から借りた魔法の本に目を落とすパチュリーだった。

 

「パチュリーもイッセーと仲が良いデスヨー?」

 

「否定はしないわ」

 

「じゃあ、好きデスカー?」

 

「ノーコメントよ」

 

つれないなー、と苦笑いを浮かべる一誠だった。それでもパチュリーと仲が良いことは認められ苦笑いから笑みと変わる。視線を変えると、教科書とにらめっこしている眼鏡を掛けた緋色の髪の少女がいた。

その傍には咲夜が付き添ってあれこれと口に出して説明をしていた。

ヴァレリーやオーフィスは紅茶や菓子を美味しそうに飲食していた。

 

―――そんな一誠たちに、いやクラスメートの携帯が一斉に受信の合図が鳴った。

 

誰もが自分の携帯を手にして操作すると見覚えのないメールアドレスに非公式新聞部という名の宛先が。

メールを開くとその内容はこうだった。

 

『2-S組が総出で2-F組と勝負を挑む!』

 

教室の空気が一気に重くなり、静寂に包まれた。目が丸くなり、空いた口が塞がらない面々。

そして―――少女たちの驚愕の叫びが廊下まで轟いた。

 

「―――へぇ、上等じゃん」

 

ただ一人、その事実を受け入れ不敵に漏らす。その瞳の奥では戦意の炎が滾って燃え盛っている。

あの時できなかったことを今ここで果たす時が来たんだと無意識に口を上げた。

金剛は一誠の笑みを見て珍しく真剣な顔を浮かべ懇願した。

 

「イッセー、私も戦いたい。いい?」

 

「前みたいに戦いやすくするが、それ以上のことはしない。それでいいか?」

 

「いいよ。寧ろ、私は妹たちを酷い目に遭わした兵藤家を倒して妹たちに安心させたい」

 

一誠の視界に映る金剛の口から固い決意を感じた。目の前の少女もまた兵藤家を許さない一人。

気持ちを汲んで了承した。

 

「勝つぞ。あの傍若無人な奴らに俺たちの力を見せ付けてやるんだ」

 

「YES!」

 

対面座位のまま、二人は手を取り合って硬く握りしめ目標を立てた。

 

―――○●○―――

 

二階の上階、三年生が集う教室がある階では、異例の体育の授業に話題で盛り上がっていた。

圧倒的に2-Fが負けるだろうという声が多々聞こえるが口に出さず一誠を知っている上級生たちは勝つと信じていた。

 

「皆、一誠くんたち2-Fと兵藤家2-Sの話で盛り上がっていますわね」

 

「そうね。でも、私は信じているわ」

 

期待に満ちた目を瞑って朱乃と会話をするのはリアス。廊下で立ち話をし、壁に背を預ける格好で休憩時間を利用して色んなところから聞こえる話に耳を傾けている。リアスと朱乃に左右から友人がやってくる。

 

「話が盛り上がってますねリアス」

 

「その威風堂々とした態度からして見れば、兵藤一誠に不安なんてしてなさそうだな」

 

「ええ、そうねソーナ。それと当然じゃないサイラオーグ。―――一誠なのよ?」

 

意味深に返事をしたリアスをソーナとサイラオーグはそれぞれ肯定の言葉を漏らした。

 

「赤龍帝がこの学園に編入されたようです。また、騒々しい事にならなければいいのですが」

 

「この学園の警備員がそれを許すはずがない。あの吸血鬼たちのおかげで生徒会も風紀員も助かってるのではないのか?」

 

「そうですね。ですが、安心はできません」

 

Sクラスがある方へソーナは視線を向けた。同じ兵藤家として後輩の兵藤たちに有利な状況をと企んでいる可能性は無いわけではない。

 

「授業が始まれれば彼らは異空間に閉じ込められているのと道理です」

 

「ソーナ?」

 

「考えすぎかもしれませんが、念には念を・・・・・」

 

携帯を取り出して誰かにメールを送信した同時刻。一階の一年生の間でも話題となっていた。

 

―――1-C―――

 

「絶対に兵藤一誠先輩が勝つよね!何たって神さまを最後に凄い技で倒したもん!」

 

「その時の映像、親にしっかり録画してもらっているから何時でも見れるよ」

 

「ふふん、私なんて待ち受け画面にしてるもんね!」

 

黄色い声が絶えない教室にますます人気となっている一誠の話で盛り上がっていた。この教室だけじゃ限らず他のクラスの女子も一誠のファンが増え続けている。ファンだけなら何も問題は無いだろう。

 

「(うーん、先輩のこと良く思ってくれているのは嬉しいんだけど)」

 

その反面もあるというわけで、女子たちがそうしていれば何人かの男子たちがつまらなさそうに顔を顰めているのをチラリと一瞥した。

 

「(そう言う話しを学校では控えて欲しいかなー)」

 

本人たちは悪気がないのだろうが、嫌悪なムードにして欲しくないと切に思うユウキだった。

 

―――そして昼食―――。

 

教室の扉が開くと二つの影が席から立ち上がったばかりの一誠の胸に跳び込んだ。その勢いは凄まじく、体勢を崩さずにはできないまま、ゴロゴロとどこまでも転がってやがて壁と激突したことで止まり、自分の胸に身を寄せ背中に腕を回して抱き止めている二人の少女に言葉を飛ばした。

 

「久し振りだな。悠璃、楼羅」

 

「やっと会えたよー!」

 

「はい、お久しぶりです」

 

一誠に恋する幼馴染である兵藤悠璃と兵藤楼羅。嬉しそうに口元を緩ませ駒王学園の制服で包んでいる豊満な体をこれでもかと押し付け、一誠にひっつくのだった。

 

「あら、あの娘たちは・・・・・」

 

「なるほど、彼女たちもそういうことですか」

 

ヴァレリーと咲夜は察し、軽く出迎えた。

 

「むむむっ!私のお株を取られた気分デース!」

 

「そう言うことでしたらお姉さま、この比叡に跳びついてくださいっ!」

 

「意味が違いますよ比叡」

 

「親しそうですね・・・・・誰でしょうか?」

 

金剛姉妹のやりとりが賑やかで榛名の疑問にパチュリーが答えた。

 

「兵藤家の人らしいわよ。ほら」

 

ピンクの携帯の画面を見せ付ければ、当事者たちの画面とプロフィールが表示されていた。

それを見て「兵藤」と榛名は呟く。

 

「男より女の方が接しやすいのは確かね。男の兵藤の中じゃ、あっちの兵藤が好ましいけれど」

 

「好きなんですねパチュリー」

 

「マシってことよ」

 

パラッと本のページを捲るパチュリーを余所に、負けじと金剛も一誠に抱きつき、悠璃と張り合っている光景を繰り広げられている。

 

「イッセーのハートは私が掴みマース!」

 

「いっくんは楼羅と一緒に結婚するの!」

 

「・・・・・昼ご飯食べたいんだけど、言い合いしてないで一緒に食べようよ」

 

「「わかった」」

 

鶴の一声の如く一誠の言うことを効く恋する乙女たちだった時に数人の男女がやってきた。

 

「やぁ、失礼するよー」

 

「失礼します」

 

ギロッ

 

「・・・・・大勢の女子から睨まれる状況ってなんなのさ」

 

「身に覚えのないこの理不尽は一体・・・・・」

 

心から歓迎されてないことに和樹と龍牙は何とも形容し難い気分となる。二人の背後に苦笑を浮かべる清楚と呆れるカリン。

 

「だから言っただろう。私たちだけで良いって」

 

「あはは・・・・・」

 

四人は真っ直ぐ一誠に近づく。

 

「やっぱりここにいたか」

 

「ん?」

 

「ああ、二人は僕たちのクラスに配属されたんだよ。この時間になるや否や姿を暗ましてさ。一応と思って探しに来たんだ。予想通りというか案の定、キミの元にいた」

 

そう言うことかと納得し、立ち上がった。金剛たちも一緒に立ち上がれば和樹と龍牙は、

 

「知ったよ。兵藤家と勝負するらしいね。頑張って」

 

「目に見えた戦いですが、油断せずに」

 

一誠にエールを送る。一誠の実力を知っている者として勝敗は分かり切っているとばかり軽く言葉を発したのだ。

応援された一誠も軽く返事をしてクロウ・クルワッハたちが教室に入ってくるのを見て言った。

 

「お前らも一緒に飯を食べるか?」

 

「いいのかい?」

 

「ロキの兄さんと一緒に戦った戦友だし、いいだろう」

 

「それではお言葉に甘えて」

 

自分たちの弁当を見せ付ける。最初からそのつもりだったんじゃないかと用意が万全だった。

後にリーラも交じり、楽しい昼食となるかと思ったら―――。

 

「おい化け物ぉっ!」

 

数人の兵藤たちがゲスな笑みを浮かべて教室にやってきた。女子たちは自分の弁当を持って非難するその速さの早業に感嘆を抱き、懲りない奴らだと思っている兵藤たちに呆れながら応対する。

 

「なんだ、暇人ども」

 

「へっ、授業をやる前に言いに来たんだよ。どうせお前は俺たちに負けるんだからな。恥を掻く前に降参しろってな」

 

「こっちは全員でこのクラスと勝負するんだからな。大方、お前しか出ないんだろう?」

 

「数の暴力に勝てないんだよ」

 

「へへへっ、そうそう、昔お前を皆で苛めていた時のようになぁ?」

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

「悠璃、楼羅。こいつらは何時もこんな感じなんだけどどう思うよ同じ兵藤として」

 

と、幼馴染に訊ねたら侮蔑、軽蔑と兵藤たちにそんな視線を送りだした。

 

「同じ兵藤としてあるあるまじき言動です。―――現当主に報告をしましょう」

 

「めんどくさいから退学にして貰おうよ。この学校にいる兵藤を全員さ」

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

当主に報告する。この一言で兵藤たちは愕然とする。

 

「うわ・・・・・容赦ない」

 

式森家次期当主でもある和樹からすれば、悠璃と楼羅しかできない権限であり権利を振るう二人に思わず漏らした言葉には同じ一族なのに酌量の余地、同情の欠片もすら感じさせないほど躊躇が無いと籠っていた。

 

「夏休みの時、あれだけ当主に怒られて自分たちの言動を直してないとは愚かですね。言っておきますが、私たちがこの学園にいる理由はただ通うだけではございません。あなたたちの監視役的な意味でもあるんです」

 

「私と楼羅はそんなお前たちを退学にできる権限を持っているんだよ。学園側もそれを了承している」

 

「うわ・・・・・容赦ない」

 

一誠も和樹と同じ心情で漏らした。

 

「旅は道連れ、あなたたちのその行いのせいでこの学園にいる『全員』の兵藤は学校から離れなくなるとは当主もさぞかし嘆かわしい思いでしょう」

 

「ま、待て!」

 

「―――待て?当主の実の娘に対してなんですか?」

 

すわった目で兵藤たちに向ける。

 

「私たちとあなたたちと一緒にしないでください。これでも少なからず兵藤の者としてプライドがあるのですからね。相手を蔑み、罵倒、見下す言動とその態度、あなたたちと一緒にされては遺憾な思いです」

 

どこかで聞いたことのある言葉。パチュリーや金剛だけでなく、クラスメートの女子たちですらそう思わずにはいられなかった。それは後からこの学園にやってきた一誠と同じくやってきた悠璃と楼羅と―――酷似した発言だった。

当の一誠は深々とうんうんと首を縦に振って頷いていたほどだった。

 

「っ・・・・・。ま、待って下さい・・・・・」

 

「何を待てと言うのです?」

 

「ど、どうか、退学だけは・・・・・」

 

急に百八十度態度を変えた兵藤。全員が全員、顔を青ざめて必死そうな懇願を楼羅に求めた。

 

「どうして退学が嫌なのですか?寧ろあなたたちの存在自体なくなって欲しい人たちはこの学園に大勢いると思いますよ?兵藤家の威光、権力を嵩にして好き放題やりたい放題、警察には絶対捕まらないと高を括って甚だしいほど迷惑をさせてきたあなたたちをね」

 

「楼羅、退学したら今までみたいに好き放題もやりたい放題ができなくなるから嫌なだけなんじゃない?」

 

「ああ、そう言うことでしたか」

 

「ち、ちが―――っ!?」

 

「「何が違う?」」

 

逃げ道を塞ぎ、窮地に追い込ませる。そんなやり取りを見ていた和樹は一誠に意味深な視線を送りだした。

その視線に気付き和樹の目と合わせる一誠はアイコンタクトをする。

 

―――なんだ

 

―――いいの?

 

―――・・・・・お前があいつらに肩を持つとは意外だな

 

―――・・・・・そう言うわけじゃないけど

 

同情がないとは嘘になる。ただ、せめてちょっとぐらいチャンスを与えても良いんじゃないかと思った。

和樹の心境を察したのかカリンは口を開いた。

 

「和樹、お前はお人好しだ。私は賛成だぞ。風紀員の副部長としてあいつらの行いは許されるものじゃない。行いを改めることをしようとしないならこの学園からいなくなればいいと思っている」

 

「手厳しいですねカリンさん」

 

「仮にお前の大切な人が傷付いたらお前は怒りも悲しみも感じない無情な男でいられるか?もしそうだったら薄情な奴だな」

 

「・・・・・」

 

口を閉じてカリンの言い分に龍牙は無言になる。清楚はこの場の雰囲気と光景に不安そうな面持ちで見守っている。

 

「風紀員の先輩は言っていたぞ。『兵藤が学園に来てから風紀が乱れていて無法地帯になっている』と。だからこそこの女子しかいない教室が生まれてしまったんだ。少なからずこの学園と兵藤家には責任があると私は思う」

 

「・・・・・耳の痛い話しです」

 

「うん・・・・・」

 

悠璃と楼羅がバツ悪そうにカリンの話を聞いていた。―――だからこそ、と二人は言い放った。

 

「「退学、当主に報告」」

 

携帯を取り出してプッシュした。当主と連絡が繋がる前にと、兵藤が衝動的に駆られて飛び掛かる―――雰囲気を感じ取った一誠が虚空から鎖を放って縛り上げた。そして、楼羅から携帯を取り上げたと同時に。

 

「―――あ、お爺ちゃん?一誠だけどちょっとお願いが・・・・・うん、ちょっと許して欲しいことがあるんだ。まだこれからすることなんだけど・・・・・んと、これから兵藤と体育の授業で戦うんだよ。それでもしも勝ったら―――」

 

意味深な視線を兵藤たちに向けた。

 

「勝った方が負けた奴に何でも一度だけ言うことを聞かせる権利を」

 

『っ!?』

 

「悠璃と楼羅?一緒にいるよ。ちょっと兵藤を全員退学する気でいるんだけど、流石にそれはお爺ちゃんにとっても困るでしょ?・・・・・だよね?・・・・・ん、ありがとう。大好きだよお爺ちゃん」

 

話は終えたと通話を切って楼羅に返した。

 

「い、いっくん?」

 

「二人には悪いが、これはこのクラスとあいつら2-Sの問題なんだわ。だからこそ、俺からの提案だ」

 

人差し指を立てて一誠は告げた。

 

「俺が勝てばお前らクラス全員に一度だけ言うことを聞かせる権利を貰う。もしも俺たちが負ければ俺からお前らの退学の取り消しをなかったことにしてやる」

 

「なんだとっ・・・・・!」

 

「当主も了承した。お前らがどう足掻こうが覆すことができない状況だ。この提案を呑まなければお前らは確実にこの二人の権利で退学させられるが―――さぁ・・・・・?」

 

八方塞、崖っぷちに立たされた気分で苦虫を噛み潰したような表情と成り、奥歯を噛みしめている兵藤たちに一誠は突然虚空に目を向けた。何かを一点に見詰めると急に目を細めては、

 

「―――姿を隠してこの状況を盗み見とはな」

 

誰もがソレに反応する前から一誠の姿が消えたと思うと、少女の悲鳴が上がった。

そして、いなくなっていた一誠が廊下から教室に入ってきた。一人の少女を脇で抱えて。

 

「・・・・・誰ですか?」

 

「知らん。だけど、姿を隠してこの教室にいたことだけは確かだ」

 

黒髪で揉み上げが長い紫と黒のオッドアイの少女が床に放り投げられた。

 

「あれ?麻弓さん?」

 

「知ってんのか?」

 

「麻弓=タイム。同じクラスで写真部の子だよ」

 

あっそ、と対して関心がない態度で―――タヌキ寝入りしている麻弓に対して鼻に胡椒を振りかけた。

 

「―――ぶはっ!な、何を―――へっくしゅん!?くしゅん!」

 

「気絶したフリをする暇があるぐらいなら答えてもらおうか」

 

「な、何を・・・・・って、それは!」

 

「どうして姿を隠してコレにメモっていたのかなー?」

 

麻弓の持ち物らしく一誠の手の中にはメモ帳があった。その一ページには今までのやり取りをしていた一誠たちの言動をそのままに書き留めていたばかりだという内容が記されていた。

 

「―――――」

 

突き出されるメモ帳と一誠から冷や汗を浮かべ目を逸らす。そこで一誠は合点した。携帯を取り出してどこかに連絡を取ろうとする。

 

「カリン、こいつを生徒会室に連行だ」

 

「何でだ?」

 

「んー、こいつ非公式新聞部と関わりがあるからと言えば納得するか?」

 

「ちょっと待つのですよー!?何を根拠に―――!」

 

「根拠なら、どうしてお前のメモ帳に俺たちのやりとりをそのまんまに書いた理由を教えてもらおうじゃないか写真部の生徒さんよ」

 

一誠からの追究、周りからの「どうなんだ?」という視線。麻弓=タイムは居たたまれなくなり、居心地も悪くなる一方。一誠の携帯から少女の声が聞こえた。

 

『イッセーくん、その子をそのままに。今すぐ行きますので』

 

生徒会会長であるソーナ・シトリーの感情が籠っていない声が。有言実行、わざわざ階段を降りる時間すら惜しいとばかりに転移魔方陣で2-Fの教室に現れたソーナと椿姫。

 

「とても感謝します。非公式新聞部と思しき人物を捕まえてくれて」

 

「偶然だったけどな。まぁ、虎穴に入らずんば虎子を得ずだったんだろうが・・・・・」

 

麻弓に目を向けこう言った。

 

「こいつにとっては龍穴(教室)に入らずんば面白記事を得ずってやつか?生憎だが穴の中にいた龍は侵入者を見逃さないんだ。残念だったなぁ?」

 

「・・・・・ううう」

 

観念したように首を前に折って肩も落とす麻弓を一瞥しソーナは問うた。

 

「それで・・・・・この状況は何ですか?」

 

「んと、兵藤たちの退学を賭けた一勝負を決めていたところ」

 

「・・・・・詳しく説明を」

 

と、その瞬間。瞬く間に教室が煙幕だらけとなった。誰彼もが突如発生した煙幕に動揺し、慌てていると。

 

「ふはははっ!我が同志の存在を見抜けたことには褒めてやろう。だが、非公式新聞部は永久に不滅である!」

 

聞き覚えのない声と同時に煙幕が張れると捕まえていた麻弓の姿がいなくなっていた。

 

「今の声は・・・・・。・・・・・っ」

 

悔しそうに硬く手を握り締めるソーナに声を掛ける一誠。

 

「だが、麻弓の存在は大きかったんじゃないか?この学校の生徒である限り、クラスとか家の住所とか分かるだろう?」

 

「・・・・・そうですね。冷静に考えればそうです。ええ、絶対に主犯格も捕まえましょう」

 

「会長、私も手伝います」

 

生徒会と風紀員のタッグ。非公式新聞部はどう対応、対処するのか楽しみだと思いつつも。

 

「話が反れたが、お前たちに拒否権なんてないからな?」

 

兵藤たちに釘を差すのだった。これで話しが終わりかと思った時、一誠にとって忌々しい過去を思い出させる元凶が現れる。

 

「よぉ、久し振りじゃねぇか。―――化け物よぉ」

 

兵藤誠輝。嘲笑う顔で堂々と教室に入ってきた。

 

「っ!?」

 

金剛が誠輝を見た途端。神器(セイクリッド・ギア)を発動し、臨戦態勢の構えになってその行動に誰もが目を丸くするのだった。

 

「お前えぇっ!」

 

「金剛・・・・・っ?」

 

いきなり誠輝に攻撃を仕掛けようとする金剛に焦り、黒と紫が入り乱れた籠手を装着しては怒り狂う少女の肩を掴んで能力を発動する。金剛の神器(セイクリッド・ギア)が停止して、光と化と成って消失した。

 

「イッセー・・・・・!?」

 

恨めしいと初めてそんな顔を浮かべる金剛に驚きを隠せない。

 

「私の邪魔をするナ」

 

天真爛漫で活発な少女とは一変して、怒りと憎しみで満ちた顔と瞳に孕む冷たさ。

声も低く一誠に発した。金剛の姉妹にも目を向けると・・・・・。

顔を青ざめ、自分で自分を抱きしめて身体を震わしていた。

発作でも起こしたように断続的に息を荒く吐き続ける。

 

「・・・・・こいつと何が遭った」

 

金剛の反応と異変を察して一誠は訊ねた。誠輝に向かって鋭く指を突き刺して

怒気が孕んだ声で語った。

 

「あいつが私の妹たちを滅茶苦茶にした元凶!どうしてこいつが、ノコノコとここにいるの!?また私の妹を滅茶苦茶になるじゃない!」

 

その叫び声に悲しみが滲み出ていて、比叡たちはその場に膝を折って耳を塞いだ。

誠輝の声を聞く度に鮮明に思い浮かぶあの忌まわしき記憶が。

 

『・・・・・っ』

 

女子たちは誠輝に敵意の視線を向けた。―――やっぱり、兵藤という男は女の敵だと心から刻んだ。悠璃や楼羅ですらゴミを見るような目で誠輝を睨むほどに。

 

「・・・・・兵藤の誰かだとは知っていたが」

 

「まさか、あなたがそんな事をしていたとは・・・・・心底あなたには軽蔑させられます」

 

一誠とリーラが絶対零度の視線を向ける。だが、誠輝は億劫そうに向けられる視線を跳ね除けるように嘲笑いの声を発する。

 

「おいおい、俺はそんなことした覚えは無いんだが?今日初めてこの学校に来たってのに初対面の俺に対して適当なことを言ってんじゃねぇ。それとも、そんなことした証拠はあるってのか?」

 

「っっっ・・・・・!」

 

ますます顔を歪める。いけしゃあしゃあと、もっと誠輝に対して罵声を浴びさせたい気持ちがとうとう爆発しそうになった時。

 

「にしても、化け物がいるクラスってどんな所なのか見物をしに来てみれば何だこの教室。俺がいる教室より豪華じゃん。結構広いし、過ごしやすい環境だなええおい?」

 

品定めするような視線を周囲に向けつつ一誠に挑発的な態度で言う。

一誠も言い返す。

 

「どこぞのバカの一族がそうさせたんだよ。俺も驚いたぜ。ここが学校の教室なのかってな」

 

「お前みたいな弱虫で化け物に成り下がった奴には勿体ない場所だ。変われよ今すぐ」

 

「お前は何様だ?学園長でも理事長でもないただの未成年がそんなことできると思う傲慢な考えが口に出せるんだ」

 

「俺はいずれ兵藤家の次期当主から当主の座を譲ってもらう赤龍帝だが?家族のいないお前なんて直ぐに存在を消せるほどの権力だって得れるんだ」

 

「へぇー?それは何時の話になるんだかなー?それ以前にお前が当主の器か?」

 

「兵藤家の強さは人間の頂点だ。なら、神をも倒すことが可能な力を持っている赤龍帝の力を宿している俺が現時点で最強だとわからないのかなぁー?」

 

「可能性があるだけで、絶対じゃないからな?所有者がそれを左右する。そんなこともわからないのかなぁー?」

 

不毛な会話の平行線が繰り広げられる。

 

「ていうか、帰れ。こっちは飯を食ってるまっ最中なんだ」

 

「誰がお前の言うことなんて聞くか」

 

「じゃあ、私たちの言う事を聞いてね」

 

ここぞとばかり悠璃が話に加わった。

 

「現当主の娘の方がまだお前より権限はあるよ」

 

「ええ、あなた。よく私たちの前でそんなこと言えますね。あなたと同類されては堪ったものじゃありません」

 

「んだと・・・・・」

 

苛立ちを覚える誠輝にトドメの一言。

 

「次期当主の息子だから何?今一番偉いのは私と楼羅の父親だよ」

 

「あなたがしたいこと、私たちが実際にしてみましょうか?兵藤の者の一人や二人、存在が抹消されても皆、自分の身が可愛さに目を逸らすでしょうからね」

 

一誠は心強い幼馴染を得て頼もしいと感謝した。

 

「いっくん、やっぱり全員退学させた方がいいよ。こんなクズが学校にいちゃダメだよ」

 

「お父さまには私たちが説得します。いなくなったほうが学園は平和になるはずです」

 

二人の言い分に同意、肯定の雰囲気が醸し出す。一誠もそれには心から賛同する。

が―――。

 

「いや、それはそれでこいつらは自由になったらもっと被害者が続出する。親は自分の子供が可愛いから注意をするどころか暗黙して自由にさせるに違いない」

 

だからこそ、ソーナに意味深な視線を送ってまた誠輝たちに目を向ける。

 

「さっきの話を戻す。俺たちが負けたらお前らの退学は無かった事にする。俺たちが勝ったらお前らに一つだけ絶対権利の下で従わせる」

 

「ああ?なに勝手に俺の了承なしに決めちゃってんの?」

 

「誰もお前の了承を得ようなんて思っちゃいない。というか、もう俺たちはそうせざるを得ない状況になったかもしれないぜ?なんせ―――」

 

教室中に携帯のメロディが流れ始めた。一誠自身の携帯にも着信メールの知らせの音楽が流れ、メールを読み上げる。

 

『退学を賭けた2-S VS 2-Fの絶対命令を賭けたゲームが勃発!』

 

「とまぁ、勝手に全校生徒にこんな知らせが広まるんだよこの学校って」

 

「ふざけんなっ!お前のルールに誰が従うか!」

 

「じゃあ、お前ら退学だな。俺がお願いすれば今すぐにでも悠璃や楼羅が兵藤家現当主にお願いして学園にいる兵藤家を全員この学園から退学させることができるんだけど?」

 

「俺の知ったことじゃねぇよ!そんなゲームをしたければ勝手にすればいいだろうが!」

 

「兵藤家の当主になる男が、何の実績も戦果もなしでなれると思っているのか?それにこれはお前の意思とは無関係に決まっている。そこにいる兵藤たちと賭けをした時点でお前の意志なんて無化されるんだよ。兵藤家現当主も俺たちとお前たちの授業後の賭けを認めてくれた。もう成立してるんだよ。嫌なら当主に直接言って来い」

 

まぁ、そんな時間があればの話だがな?と挑発をするのだった。

既に下準備は整っているのだと、誠輝に向かって言い放つ。

自分の知らないところで勝手に決められた賭けに八つ当たり気味にクラスメートの机や椅子を無造作に蹴って、

 

「だったら、俺が勝ったらこの教室と女共―――リーラを俺の物にしてやる!」

 

それだけ言い残し、教室からいなくなった誠輝を追うように出ていく兵藤たち。

 

「くくくっ!徹底的に潰す。もう兵藤家の好きなようにはさせないぞ。―――ソーナ先輩、さっそくだが」

 

「ええ、兵藤家の首に首輪を付ける時です。風紀員部長と相談しましょう」

 

ソーナもノリノリで一誠の考えの意図を汲んだ。ソーナ自身もこの好機を逃す手は無いと、一誠の勝利を信じて兵藤家に対する賭けを考えるのである。

 

 

 

「「「お姉さま・・・・・」」」

 

不安、心配そうに比叡、榛名、霧島の三人は姉の金剛に話しかけたら安心させる笑みを浮かべた金剛。

 

「妹たちよ。姉の私の勇士をしかと見届けて欲しい。いいね?」

 

「「「・・・・・」」」

 

しかし、返事は無かった。不思議そうな顔で妹たちを見据えると、比叡たちが互いに顔を見合わせて霧島が二人の代表として口を開いた。

 

「お姉さま、私たちも一緒に戦場に立ちたいです」

 

「WHAT!?なんデ!」

 

意外な発言に金剛は素っ頓狂に声を荒げた。その理由は比叡と榛名が語った。

 

「何時もお姉さまに守られているけれど、私たちは何時もお姉さまの傍にいて一緒にいたいと思っていたんです」

 

「あの時の出来事は絶対に忘れられない。あの時の恐怖もまだ残っています」

 

「でも、何時までも今のままではいけないと分かっているつもりです。ならばどうすればいいかと言うと」

 

三人は揃って言い放った。

 

「「「皆で兵藤を倒して恐怖に打ち勝つことですお姉さま!」」」

 

「――――っ」

 

姉として妹たちを守ると当たり前のように思っていた。なのに、妹たちはあの時遭った出来事を前向きになって克服したいという気持ちを打ち明けた。驚き、妹たちの気持ちを尊重したい思いがあるがやはり金剛は賛成できなかった。

 

「金剛。お前が思っている以上にこの三人は強いようだぞ?」

 

「イ、イッセー・・・・・」

 

「俺がカバーをする。それなら問題は無いだろう」

 

だから一緒に戦わせてやれと一誠からの助け船も甲斐があって比叡たちは金剛と一緒に授業を受けれるようになった。

そしてその日、2-Sと2-Fの体育の授業は学園全体に知れ渡り、注目の的となった。

 



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エピソード44

そして、2-Sと2-Fの体育の授業が始まった。

全員で挑む2-Sに対して2-Fからは一誠、金剛四姉妹、初日に編入したエルザ。

 

「俺とエルザはともかく四人は格好の餌食だな。人質にされかねない」

 

「捕まっても私たちを気にせずに頑張ってくだサーイ」

 

自己犠牲とも言える金剛の額にデコピンした。

 

「もしも捕まっていたら助けてやるから安心しろ」

 

「イッセー・・・・・」

 

嬉しい言葉を言ってもらい歓喜極まる。一誠に抱きつきたい思いが高まるが金剛はぐっと堪えて我慢した。

するなら、この授業を終えたからだと決めて比叡、榛名、霧島という妹たちに目を向けまた一誠に顔を向ける。

 

「できれば妹たちも守って欲しいデース」

 

「分かってるよ。大切なお前とお前が大切にしている家族は俺が守ってやる。家族を大切に思っている人は好きだからな」

 

ああ・・・・・やっぱりこの男の子は・・・・・。金剛は熱い視線を一誠に飛ばす。

 

「・・・・・」

 

エルザはその様子を温かく見守っていた。誰でも優しく話しかけ心を温かくさせる。

それは時が経って成長しても変わっていないことに微笑ましく、そして嬉しい思いとなる。

だからこそ、兵藤一誠はフェアリーテイルというギルドの一員として馴染むのに一日も掛からなかった。

スッと握った拳を突き出した。

 

「相手がどれだけ強かろうと絆の強さで勝とうじゃないか」

 

「当然だ。一人も欠けずに勝つぞ」

 

一誠も拳を突き出した。二人の様子を見て金剛も拳を握って二人と同じように突き出す。

 

「私も力の限り頑張りマース!」

 

さらに比叡たちも場の空気を読んで拳を突き出す。

 

「―――勝つぞ!」

 

「「「「「おおっ!」」」」」

 

 

 

ドガッ!

 

「お前たちは余計な事をしてくれたな」

 

周りから軽蔑、蔑む視線が一誠たちと退学を賭けた切っ掛けを作った兵藤たちは向けられている。

今日編入してきた一人の少年は目を細め、殴った同族に言葉を掛ける。

 

「俺たちが負ければ何でも一つ命令できるだと?バカが、だからこそお前らのような愚か者の行動を監視する為に俺たちがここにいることを理解できないんだ」

 

「ただの降伏勧告をしただけじゃねぇか!それがこんなことになるなんて俺たちだって―――!」

 

「思いもしなかった?と言いたいのかお前。俺たちと同じ役割を担っている当主の息女の前で兵藤家としてあるまじき暴挙をすれば頭の良い奴、勘の良い奴は誰でも分かることだぞ。ああ、お前らみたいな脳の無い獣はどちらでも無かったか」

 

ゴミを見るような目で同胞に言い放つのは他の面々も同じだった。

 

「よりによって楼羅さまと悠璃さまになんて様を。許し難いですわ」

 

「当主がお怒りになるのも無理がないですわね」

 

「兵藤一誠だっけ。俺たちになんて命令をするのか正直考えるのも嫌なんだけど」

 

「こっちまでとばっちり来るんだろう?・・・・・最悪だぜ」

 

愚痴を漏らす兵藤は一人の少年にも話を振るった。

 

「おい、相手の口車に乗せられた赤龍帝。お前もの力が必要のようだぜ」

 

赤龍帝―――兵藤誠輝。誠輝は億劫そうに嘆息した。

 

「ふざけんな。誰が弱者に力を貸すかよ。俺は俺の戦いをするだけだ」

 

「・・・・・相変わらず兵藤の者としての自覚がないようだなお前は」

 

「はっ、兵藤家の教えは力が全て何だろう?力のない奴に構ってなんになる」

 

「典型的な力バカが。―――流石は元兵藤家に追放されていた親の子だぜ。今じゃその親は次期当主でその子供であるお前は晴れて次期当主の座に我が物顔で座っているお前が当主になっても誰が従うものか見物だ」

 

「従わないんなら力で捻じ伏せて従わせるだけだ雑魚が」

 

誠輝の発言で面々は隠すこともなく嫌悪感の色を浮かべる。

 

「とにかく相手が誰であれ連携は大事だ」

 

「連携?弱い奴らが一緒に頑張って倒そうってか?はっ、俺の足手纏いになるぐらいならお前らは戦わなくて良いんじゃねーの?」

 

侮蔑する誠輝に対し、不快感をますます強まって怒気が孕んだ瞳で睨みつける。

 

「やめなさい。同じ兵藤家の者が争ってどうするのですか」

 

「もう・・・・・男ってこんなのしかいないの?」

 

「てか、そろそろ時間だ。さっさと行こう」

 

呆れる二人の女子とは違う反応をする、腕に巻いた時計の針を見て授業を臨もうと促す少年の言葉に―――兵藤家は動いた。

 

 

 

 

―――理事長室―――

 

「さてさて、彼らはどう戦うか楽しみだ」

 

「今日だけは特別に学園全体に様子を見れるようにした」

 

「頑張れ坊主ー!」

 

 

―――職員室―――

 

「一クラスと六人って本当に異例な授業になるなこりゃ」

 

「数が多ければ一誠さまが負けると考えているのであればそれは愚かなことですね」

 

「心配はしてないようだな?」

 

「当然です。一誠さまは例え赤龍帝でも負けはしません」

 

「ほほう、それは面白い話しですなぁー」

 

「あなたは・・・・・」

 

「ですが、私のクラスの生徒は負けませんよ。皆優秀ですからねー?」

 

「あなたは世界を見たことがありますか?」

 

「世界?」

 

「あるお方の言葉です。―――世界に通じることができたら万にも通ずると。兵藤一誠はまさにそれです」

 

―――○●○―――

 

異空間に転移された場所はレプリカの学園ではなかった。レプリカの光陽町だった。

一誠と金剛は違う戦場に驚きを隠せずにいたがやることは変わりないと気持ちを入れ替えて

アナウンスの開始宣言と共に動いた。

 

一方、一クラス分総出でレプリカの光陽町に転移された兵藤たちはそれぞれ独自に動いていた。

チームワークも視野に入れて先に相手を見つけて打破する目論みである。

六人とはいえ中には悪神ロキを倒した一誠がいる。警戒する越したことではないが多勢に無勢と気が緩んでいた。

四方八方に移動する兵藤たちは屋根から屋根へと伝って移動したり、陸上選手よりも早く移動すると凄まじい身体能力を見せる―――が、唯一人間が抗えない現象があった。

 

レプリカの町が震動し出す。その原因は通路と言う通路に雪崩のような感じで進む膨大な量の水。

押し寄せてくる水はまさに津波。町にある全てを押し潰しては流し、町は浸水、冠水していく。

津波から避難すると家や建物の屋根に跳び移る。未だに誰一人としてリタイヤしていない兵藤たち。

が、移動する場所が限られてしまった。それでも兵藤たちは一誠たちを探し続けた。

 

「くそっ、地形を変えやがって」

 

一人の少年は沈没した町に愚痴を漏らす。辺りを見渡しても殆どの建物が津波によって沈んでいる光景や自分と同じように屋根の上から探している同族。どこだあの化け物は―――。

 

ジャラッ。

 

金属同士が擦れるような音が聞こえた。そして足が何かに摑まれているような感覚。

視線を下に落とすと魔方陣を踏んでいる足に大きな鉄球と繋がっている鎖が。

 

「な、なんだこれは!?」

 

「あー、さっそくトラップに引っ掛かったバカがいたか」

 

自分に向けられた言葉だと反射的に声が聞こえた方へ向けた瞬間、強く殴り飛ばされ水の中に落ちた。

 

「ぶはっ!?」

 

一度は水面から顔を出したものの、服が水を吸って更に重さを増すどころか、繋がれている鉄球の重みで少年は中々屋根に上がれず屋根にしがみ付く形でいる。その様子を腰を下ろして見ている一誠がいた。

 

「て、てめぇ!」

 

「俺にかまっている暇は無いぞ」

 

口角を上げて今の自分の様を見て嘲笑っているのが分かる。

 

「この町の水位を建物の屋根まで上げた。となると家を囲んでいる塀ですら精々お前を沈ませない為の浮輪か足場程度しかならないだろう。しかも縋る物がない場所では確実に溺れてしまう」

 

「―――っ!?」

 

「ついでに鉄球は水を吸い込めば吸い込むほど大きく重さが増す仕組みだ。―――どっちにしろ水の中に入った時点でお前の負けだ」

 

一誠の言っていることは事実だとばかり、足枷がどんどん重くなっていくのが感じるようになり、やがて少年の顔に焦燥の色が浮かぶ。

 

「じょ、冗談だろっ。おい、このまま俺はマジで―――」

 

「ああ、死ぬんじゃないか?お前の命なんてどうでもいいけど」

 

「ひ、人の命をなんだと!」

 

「人の命より人の人生を滅茶苦茶にしたお前たちにいい罰だ。っと、見つかったか。助かりたかったら他の奴らに乞え、じゃな」

 

一誠が逃げると追うように他の兵藤たちが自分の目の前に通り過ぎる。

 

「お、おい!俺を助けてくれっ!」

 

一人だけ足を停め、沈みかけている少年に振り返って言った。

 

「何やってんだ?遊んでないでさっさと上がってくればいいだろう」

 

「俺の足に鉄球が仕掛けられたんだよ!」

 

「鉄球?鉄球なんて昔足に鉄球を付けて泳いだ特訓をしただろうが」

 

最後に「アホくさ」と言い残して行ってしまい、

 

「ま、待ってくれ!頼む!頼むからよぉっ!?」

 

だが、非常にも誰一人として沈んでいく少年を流し目を送るだけで助けようとはしなかった。結局、顔をぐしゃぐしゃに泣き叫びながら水の中に沈んだ。

 

 

 

「換装!」

 

エルザ・スカーレットの魔法が発動する。魔法空間に収納した鎧と武器を自由に替え、装着できる魔法。

迫りくる兵藤たちに相手に立った一人で立ち向かうエルザは学生服から肩や腹部が露出し、胸を大きく開けた背中にニ対の銀の翼を展開している銀のドレスみたいな鎧を纏った。

 

「うほっ!良い女だ!」

 

「一気に倒さず捕まえて楽しむってのも有りだろう」

 

ゲスな笑みを浮かべる兵藤たちに真剣な眼差しを放ち魔法空間から出した二つの剣を構える。

 

「御託は良い。掛かって来い」

 

「上等だ!」

 

十人以上の少年たちが飛び掛かった。武器を持っている者がいれば持っていない者もいる。

無駄な動きが無いのは腐っても兵藤家の武術を骨の髄まで学んだからだろう。

 

「お前たちは魔法を使わないのか。なら、ただの人間と一緒か」

 

「なにをごちゃごちゃと―――!」

 

エルザが動き出した。兵藤たちに突貫し、擦れ違い様に五つの銀閃が宙に走った。

 

「天輪・五芒星の剣(ペンタグラムドード)!」

 

五芒星を描くような軌跡で斬撃を繰り返したエルザの斬撃を受け戦闘不能状態となった兵藤たち。武器ですら破壊してしまった。

 

「修行が足りんようだな。出直してこい」

 

光に包まれる兵藤たちに向けてエルザは次の相手へ跳び出す。

 

「いやー意外だな」

 

戦場の地形を変えた張本人たる一誠は漏らした。

 

「まさか、金剛の妹たちも同じ神器(セイクリッド・ギア)だったなんてな」

 

上空から落ちる雷に感電し続ける兵藤、炎に包まれてその身を焼かれ続ける兵藤、巨大な魚に具現化した水に襲われ呑みこまれ水中へ引きずられる兵藤、嵐に巻き込まれカマイタチで全身が切り刻まれる兵藤―――等々拷問染みた攻撃をしている一誠は水の上を走り、屋根の上に立っている兵藤たちに砲撃をしかけている金剛四姉妹を見て感嘆を漏らす。

 

「良い意味で予想外だった。さて、そろそろ本命が来るころだろう」

 

悲鳴と苦痛の演奏を聞き流し、周囲に目を配る。

 

「この―――!」

 

「あ、そこ踏まない方が良いぞ」

 

跳躍してきた兵藤から後退した一誠が指摘した時には既に遅くトラップが作動した。

魔方陣が出現して鋭く出てきた突起が兵藤の足、肩、腹部を貫いた。

 

「あーあー、だから言ったのに。ま、同情はしないがな」

 

どうせ治療されるんだからと光に包まれリタイヤした兵藤に対して思っていると、

一誠の目の前で水が人を模した巨人となった。

 

「これは・・・・・」

 

「へへっ、水を操れるのはお前だけじゃないぜ」

 

一人の兵藤が不敵に一誠の前に現れた。

 

「なーるほど、水系統の神器(セイクリッド・ギア)の所有者か」

 

「いくらお前でも呼吸ができない空間の中じゃどうしようもないだろう!」

 

水の巨人が襲いかかる。

 

「まぁ、こういう類の相手は何度もしてきた。対処方法は―――」

 

水を操っているであろう兵藤の背後に一瞬で回り、襟を掴んでは水の巨人に向かって投げ放った。

 

「操っている奴を攻撃すればいい」

 

『バカが!自分の首を絞めていることに気付かないのか!』

 

放り投げられ水の巨人の中にいる兵藤は再び捕まえようとした。どうやら所有者は水の中でも呼吸ができるようだった。

 

「逆だ。お前が自分の首を絞めている」

 

一誠の手が燃えだした。魔力で具現化した炎は水の巨人の手と同じぐらい大きくなり、炎は巨大な手となり水の手と掴みあった。―――水は火を消すってのに何を考えている?兵藤は訝しい顔で一誠を見た。しかし、炎の手は消えなかった。それどころか一誠はもう片方の手にも炎の巨大な手を具現化させて水の巨人の頭を掴むと激しく燃え盛った。

 

「お前、火は水で消えるのにっと思っているだろう?」

 

『・・・・・』

 

「考えは間違ってないけどさ。お前、そこから出た方が良いぞ」

 

何を言っている?兵藤はそう思っていた。水が火に負けるはずがないじゃないかと当然のように思っていた。

そう、次第に水の温度がどんどん高く、温かくなっていくまではそう思っていた。

 

「水は火に温まれてこそお湯になるんだ。じゃあ、水が温まり過ぎるとそれからどうなると思う?」

 

『お前、何を言って―――』

 

「水が熱せられて急激に気化し、高温・高圧の水蒸気となることによって引き起こされる現象。さて、その現象は一体なんでしょうか?」

 

そう言われて周囲の水の温度が肌に感じるほど熱くなった。そして―――気付いた。

 

『水蒸気爆発・・・・・っ!?』

 

「正解」

 

炎の手は形を崩し水の巨人を完全に包みこんだ。燃え盛る炎は水の塊を囲んで水を熱して―――轟くほどの音を発する爆発が発生した。

 

「火は水に弱いがそれでもそう簡単には消火できないことをわかんないのかなー?」

 

 

 

 

「・・・・・ソーナ、水を使う時は気をつけなさい」

 

「ええ、物凄く勉強と成りました」

 

現実世界では化学現象を起こした一誠にリアスとソーナは畏怖の念を抱いた。それを一誠は露にも知らないでいる。

 

―――○●○―――

 

六人の戦いぶりは目を張るものだった。エルザは剣の腕で兵藤たちを斬り捨て、金剛、比叡、榛名、霧島はコンビネーションで屋根の上にいる兵藤たちに砲撃、一誠は圧倒的な力で兵藤たちを一蹴する。一クラス分いる兵藤の数にこのまま勝てるのではないかと誰もが思った。

 

「残りはあいつらか」

 

数人の兵藤たちが一つの建物の屋根に集結して一誠たちと対峙した。相手は威風堂々とした態度で一誠たちを見返す。

 

「よくともまぁ、あれだけの数を余裕で倒せたもんだ。流石と言ったところか化け物」

 

「お前らもその化け物に倒されるんだけどその気分はどうだ?」

 

「俺たちを他の奴らと一緒にするんじゃねぇ」

 

「んはっ!それについては同感だ。俺も他の兵藤と一緒にだけはされたくない」

 

「理由は?」

 

求められた理由。一誠は言った。

 

「あんな自分たちは偉い、自分たちは兵藤なんだから何でもしていいと女性を強姦したり、奴隷のように扱い、傍若無人な振る舞いをする兵藤と同じだって誰が思われたい?」

 

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

「言っておくが、この四人も兵藤の被害者だ」

 

金剛たちに向ける言葉。

 

「特に三人の妹は兵藤に自我を壊され、植物状態で一年間も病院に眠っていた。姉はそんな妹たちの為に身体を張って頑張って生きていたんだ。―――お前らには関係ないからと鼻で笑うだろうな」

 

一誠は言い続ける。

 

「お前らに体験、経験はしたか。大事なものを失い、奪われたその瞬間を。―――無いだろう?お前らは兵藤家だからな」

 

「・・・・・何が言いたい」

 

「力のない奴は力のある奴に淘汰されるのが世の常―――どこかの兵藤の奴の言葉だ。お前らもそうなんだろう?相手を見下しているのが分かっているんだよお前らの目を見ればよ」

 

兵藤たちから雰囲気が変わったのを肌で感じ取った。

 

「エルザ、金剛、悪いけどあいつらは俺がやる」

 

「・・・・・因縁があるのか?」

 

「一応、同じ名前を名乗っているからな」

 

指を音を鳴らして弾いたと同時にエルザたちは金色の球体の中に包まれ宙に浮き始める。

 

「思っていた状況とは違うが、それでも俺の願望は叶う」

 

「何が願いなんだ」

 

「決まってる」

 

一誠はハッキリと言った。

 

「ただの子供みたいにお前ら兵藤家に見返すだけだ。お前らを一人残さず倒せば俺は兵藤家の中で一番強いということになるだろうしな」

 

腕を伸ばし手の平を突き出した。一誠が攻撃すると察知した兵藤たちは一斉に散った―――が。

 

「・・・・・まだ攻撃しないんだけど」

 

何とも形容し難い気分となる一誠に『間際らしいっ!』と兵藤たちが怒気が孕んだ声で叫ぶ。

改めて一誠は金色の杖を発現して手にする。それから呪文のようにブツブツと呟くと一誠はブレたかと思えば分裂した。

 

「こいつは!」

 

「兵藤家のお前らじゃ絶対にできない力だ。さらに―――」

 

数人の一誠の分身が真紅の光に包まれると真紅のドラゴンを模した全身鎧へと姿を変えた分身たち。

 

「「「「「―――っ」」」」」

 

「こんなやり方もできるわけだ」

 

他の一誠の分身たちが動き始め、二人の兵藤家に抱きついた。

 

「なんだ!?くそっ」

 

「放しやがれ!」

 

抵抗をする兵藤たち。足掻いても、もがいてもビクともしない分身たちが同時にカッ!と一瞬の閃光が弾いたと思えば、

 

チュッドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

直径十メートルほどの大きな爆発を起こして兵藤を巻き込んでの自爆をした。

 

「魔力で構築した分身体だ。なら、その魔力を歪め、逆流させるとどうなる?それに考えが至った俺は歩く爆弾装置を完成した」

 

「お、お前・・・・・!」

 

爆発した分身たちを説明する一誠に戦慄する兵藤たちだった。

 

 

 

「・・・・・和樹さん。あんなことできますか?」

 

魔法使いの和樹に問う龍牙。直径十メートルの爆発は至近距離から食らったらただでは済まない。

 

「やり方次第ではできなくないけど、あんなこと考えたことがないよ」

 

魔法使いとして純粋な魔力での砲撃や属性攻撃、様々な魔法を放つことが主なスタイル。和樹もそうであり、方法はどうであれ、魔力を故意で暴発させて爆発を発生させる魔法技は初めて見た。

 

「とても厄介だな。魔力を暴発させるなんて普通は危険過ぎるのにあの方法でやるなんて」

 

「兵藤くん・・・・・」

 

カリンと清楚は黒板に展開している立体映像の魔方陣が写している映像から目を離さず授業が終わるその時まで見守った。

 

 

 

「さぁ、次は誰を爆発に巻き込ませようか」

 

二人の兵藤がリタイアした。一誠の戦い方に顔を強張らせる兵藤たちは警戒の色を濃くする。

 

「とんでもねぇ思考をしやがるっ」

 

「あの赤い鎧の奴も爆発すると考えると・・・・・」

 

「不用意に近付けれねぇな」

 

必死に対策を考える。ここまで魔法が厄介だとは改めて思い知らされた。

 

「お前、兵藤のくせに魔法を使いやがって!正々堂々と―――」

 

「よく言うぜ。俺のこと化け物と言っておいて何ほざいている?だが、正々堂々とやって負かしてやろうじゃないか」

 

真っ向勝負を臨む兵藤と体術勝負を始めた。一誠の頬を化するように兵藤の拳が突き出される。交わされた拳をカバーするように左足が薙ぎ払う気配を察知し避けるどころか兵藤の懐に接近し、握っていた拳を目では追いつけない速さの正拳を顎に打ち上げた。

 

「がっ・・・・・!?」

 

グラグラと脳や視界が揺れる。普通に立ってもいられず、思わずその場で四つ這いになった兵藤に声を掛ける。

 

「脳震盪を食らったらまともに立ち上がれることもできないだろう。今この瞬間、お前の命を奪うことなんて造作もないんだけどそこんとこ意識してる?」

 

「―――――」

 

首筋に当てられる冷たい感触。それは自分の命を狩る死神の鎌に彷彿させるのに十分だった。

恐る恐ると顔を上げると直ぐに暗くなった。目の前に迫る何かが視界を黒く遮って、一瞬の衝撃に襲われると意識が遠のいた。意識を狩った兵藤を水の中に蹴り落として残存している敵に向き直る。

 

「どうした、化け物一匹も倒せないんじゃお前らの実力は底が知れてるもんだぞ」

 

その挑発に兵藤たちは怒涛の勢いで迫る。まず、懐に飛び込んできた兵藤が一誠の腹部に拳を突き刺した。味方に続けとばかり、手足を一誠の身体に叩き込む。

 

「っ!?」

 

「いっでぇー!?」

 

兵藤たちの手足にダメージが逆に与えられた。予想だにしなかった一誠の身体の硬さ。

自分たちの手足から敏感に痛みが脳髄まで信号が送られて堪えるように殴った手や蹴った足を抑えて振るえる。

 

「バカだなー」

 

徐に上着を脱ぎ捨てた。

 

「この仙術の応用で鋼鉄と同等の硬さにした俺の身体にお前らの打撃なんて聞くか。サイラオーグか川神百代ぐらいの打撃力じゃなければ俺を崩すことなんてできやしないぞ」

 

一誠の上半身は健康的な肌の色とは真逆の黒い光沢を発する鉄の身体と化していた。

兵藤たちはそんな信じられないものを見る目で大きく目を張って見詰めるばかりだった。

 

「な、何だその身体は・・・・・!」

 

「言っただろう。仙術を応用したって」

 

拳も鉄のように黒くなり、横薙ぎに兵藤の横っ腹に叩きつけられた時、兵藤は自身の骨が砕ける音がリアルに聞こえては何度も水面や屋根にバウンドしながら吹っ飛ばされた。

 

「こ、このぉっ!」

 

武器を持つ兵藤たちが一斉に振り下ろす。黒い身体に斬り付け、叩きこむが一誠の皮膚の硬さは武器の強度を上回り、刀身が砕けた。目を張って呆然とした兵藤たちの頭を掴んで思いっきり頭蓋が陥没、もしくは罅を入れるほど握りしめた。激痛で悲鳴を上げる兵藤たちは一誠の手で屋根に叩きつけられて問答無用に騙された。上半身が屋根に埋もれ、微動だにしない仲間に他の兵藤たちは顔を青ざめる。

 

「あ、あんなの。先生たちから教わって無いよ!」

 

「―――そりゃそうだろう」

 

悲鳴染みた情けない声を発した兵藤の真後ろに回った一誠が正拳突きを繰り出した。

 

「兵藤家の威光と権力を嵩に、胡坐を掻いて好き放題やりたい放題していたお前らと、世界を旅して様々な人と出会い、格上の相手に師として修行をしてきた俺との差が開き過ぎているんだからな」

 

遠くに吹っ飛ぶ兵藤には聞こえないことを承知で告げる。

 

「・・・・・」

 

視界に二人の少女が懐に入ってくる。畏怖の念、自分に恐れ戦いているのにも拘らず果敢に攻めかかってくる。

両腕を大きく広げだす一誠のその行動に何の意味があるのか理解できないでいると―――。

前からずっとタイミングを計って隠れていたかのように屋上を突き破って出てきた一誠の分身体が行く道を阻み、

 

「あ―――」

 

直径十メートルの爆発に巻き込まれた。無慈悲な攻撃、隙を作ったら回避不能に近い爆発でまた兵藤がバトルフィールドから姿を消す。

 

カッ!

 

爆発で生じた噴煙の中で一筋の極光が。煙を吹き飛ばし、神々しい光を纏う刀身の剣を掲げる一誠の姿。

 

「ちょっ!」

 

「あれって、まさか―――っ!?」

 

ロキ戦で見た一誠の大技。見覚えがあるその大技の兆候に残存している兵藤たちは剣を振るわせないと攻めかかったり、許される限り遠くへ逃げると二手に分かれた。そんな兵藤たちに光が放たれ町を、敵を全員光に呑み込む。

 

「つ、強い・・・・・っ」

 

「ち、ちきしょう・・・・・っ!」

 

手も足も出ず、歯牙にも掛けれなかった自分に悔しさを抱いこの場からいなくなる。

 

「・・・・・」

 

肉眼で探しても見当たらない。なら、気で探知しようとした時だった。結界が壊されたことを気づいてエルザたちに振り替えれば、

 

「イッセー・・・・・ッ!」

 

金剛たち四人が兵藤たちに捕まってしまっていた。エルザは無事で仲間を人質にしている兵藤たちに苦虫を噛み潰したような表情でただ睨むしかできないでいる。人質を取った兵藤と―――誠輝、さらに全身ずぶ濡れの、水中に逃げ込んで一誠の大技を避けた兵藤たちが現れた。

 

「・・・・・これが兵藤のやり方かっ・・・・・!」

 

勝つ為なら汚い手を使う事を躊躇もしない―――いや、戦場に卑怯な言動は合法とされると世界で学んだ一誠は自分の傲慢さに恨めしく思う。

 

「さて、化け物」

 

誠輝は嘲笑う。

 

「抵抗したらこいつらはどうなるか・・・・・わかってんだろうなぁ?」

 

「・・・・・っ」

 

甘い奴は大抵、こんな状況であればどんな行動をするのか手に取るように分かる。案の定―――。

一誠は剣を遠くへ放り投げて無防備になる。それを見て誠輝が告げる。

 

「―――徹底的に甚振ってやれ」



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エピソード45

「・・・・・あれが、兵藤のやり方なのですか」

 

授業の様子を見守るリーラが軽蔑する冷たさが籠った瞳を2-Sの担当教師の兵藤に向ける。

映像では一誠は兵藤たちに寄って集られて数の暴力に振るわれ、とても目を向けられる、視界に入れることが堪え切れない光景を全校生徒の前で繰り広げられているのだった。

 

「最近の子供は少々ヤンチャのようですな」

 

「あなたの教えがアレだと言うのであれば現当主にご報告させてもらいます」

 

「当主がこの学園に一切の関与をしないのですよ?あなたが言ったところで当主は高が子供の喧嘩に口を挟むはずがない」

 

子供の喧嘩・・・・・。

 

「あなたの目にはあの光景は高が喧嘩に見えるのであれば目が腐っていますね」

 

「おやおや、メイドがそんな口が悪いと仕えている主に愛想が尽かれてしまいますよ?」

 

「ご心配無用です。私の全てを受け入れてくださいますので」

 

「それはそれは心が寛大な主ですなー。いま、その主は昔のように周りから相手をして貰っていますがねぇ」

 

ニヤニヤと意味深な笑みを浮かべ、これは余興とばかり特上うな重を食べる。

 

 

―――1-C―――

 

 

「どうして、あんな酷いことをするの・・・・・?」

 

人質を取られ、無抵抗な一誠に暴力を振るうそのチンピラと不良と変わらない愚行の兵藤たち。

怒りを抑え、ジッと何かに堪えて真っ直ぐ映像を見詰めるユウキと肩を並ぶ黒髪の少女は泣きそうだった。

 

「大丈夫だよ。先輩は絶対に勝つよ」

 

「紺野ちゃん・・・・・」

 

「ボクは信じてる。だって、先輩は―――」

 

―――2-F―――

 

「何か考えがあるんだろう」

 

ゼノヴィアが開口一番に漏らした。

 

「考えってなによ?」

 

「分からん!」

 

「分からないなら知った風な口を利かないでくださいっ。寄って集って彼を虐めるなんて・・・・・ああ、主よ。あの愚か者どもにどうか天罰を与えてください」

 

イリナの問いに堂々と言うゼノヴィアに暴力を振るわれる一誠を見る度に苛立ちを募らせているルーラーが怒気が孕んだ声を発するのだった。

 

「大丈夫だよね・・・・・?イッセー、負けたりしないわよね?」

 

「とても見るに堪え切れないよアレは」

 

「「一誠さま・・・・・!」」

 

「一誠くん・・・・・!」

 

ヴァレリーたちも不安げに見守る。クラスメートたちも様々な思いを胸に抱き、ジッと見つめる。

 

「・・・・・」

 

オーフィスは黒い眼を瞬きもせずに一誠を見るだけで何も言葉を発しない。

 

―――2-C―――

 

「制裁しに行っていいか?」

 

ガタリとカリンは杖を手の中に収めて立ち上がった。人として恥を知れっ!と乗り込んで風魔法を放ちたい思いが抑えきれなくなった少女を焦心に駆られて慌てて押さえる清楚な少女。

 

「その許可が学園が下りたら僕も行きたいね」

 

「付き合いますよ和樹さん、カリンさん」

 

「ふ、二人とも!?」

 

「いいよ、私たちが許可する。―――というか、私も行きたいけど」

 

「同じく」

 

「ふ、二人も落ち着いて~!?」

 

和樹に同意する龍牙、禍々しいオーラを身体から滲ませる悠璃と楼羅に清楚な少女は必死で抑え込むのに気力を使い果たす。

 

―――3-S―――

 

サイラオーグは静かに見守っている。周りから攻撃されている一誠をどこか遠い目で見詰め、遠い遠い昔、過去を久しく思い出し始めた。

 

「ははははっ!おい、見ろよあの化け物、手も足も出せねぇでいやがる!俺たち兵藤に楯突くからあんな昔のようにやられるんだ!」

 

「ああ、確か周りから虐められていたんだよな。俺も強者として弱い奴はどうなるかいっぱい教え込んだぜ」

 

「赤龍帝もあんな化け物の弟を持って苦労するよなぁ。俺、一人っ子で良かった」

 

そんな話が不愉快にも聞こえてくる。

 

「(なるほど、そうか・・・・・お前もだったとはな)」

 

同情はしない。憐れみも抱かない。弱いなら強くなる努力をすればいい。強くなって見返―――。

 

『兵藤家の奴らに見返したい』

 

「・・・・・ああ、そういうことだったのか」

 

合点した。サイラオーグは静かに立ち上がり、

 

ドゴンッ!バキッ!ゴンッ!

 

一誠を侮蔑した者たちを問答無用に殴り飛ばした。

 

「俺の耳に兵藤一誠に対する悪意ある言葉を訊いたら問答無用に黙らす。無粋な事をするなよ」

 

『・・・・・っ』

 

―――唯一兵藤しかいないクラスに所属しているサイラオーグの威圧に恐れ戦き、戦慄を抱く兵藤たち。

何度も体験し、経験もしたサイラオーグの純粋でグラフに表せば天井知らずのパワー。

そんな相手の拳を食らえば一撃で倒され沈黙する。骨の髄まで分からされた圧倒的な力を逆らえるわけがないと生物の本能が強く働き、誰もが反論や異論などせず、ただただ黙って視線を下に向けることしか恐怖から逃れる術である。

 

「(見せてみろ。お前の力を)」

 

―――○●○―――

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・」

 

「ど、どうだ化け物・・・・・っ」

 

「これで懲りたら俺たちに二度とデカイ口で叩くんじゃねぇぞ」

 

息が切れるほど、殴る蹴るの暴行を加えた兵藤たち。足元にひれ伏している一誠に発する。

 

「お前ら・・・・・っ」

 

歯を強く噛みしめ、睨みで殺せそうなほど兵藤たちに怒りの形相を浮かべるエルザは未だに人質を取られている金剛たちの存在に手も足も出せないでいる。

 

「おい、持ってきたか」

 

誠輝が一人の兵藤に話しかける。声を掛けられた兵藤の手には一誠の剣が握られていて、誠輝はその剣を手にする。

 

「化け物が、こんなモンを持っていやがって。これも俺の物にしてやるぜ」

 

金剛たちから離れ、エルザの視界では真っ直ぐ一誠に歩み寄る赤龍帝。誠輝は一誠を立ち上がらせるように指示を下す。強引に立ち上がらせ見るも無残にボロ雑巾のようになっている男を見て口元を歪ませた。

 

「どうだ、昔を思い出したか?もしかしてトラウマでも起きたか?」

 

「・・・・・トラウマ、か。はっ・・・・・」

 

卑劣な行動で一方的な暴力を浴びても一誠の瞳に強い意思は残っている。

それはとても面白くなく。徐に剣を太股に突き刺した。

 

「っ・・・・・!?」

 

「へぇ、ドラゴンでも剣は突き刺させるんだな。良い剣だ。さすがは俺の剣だ」

 

「ふざけるな・・・・・そいつはお前じゃ扱えない」

 

「はっ!お前ができて俺ができないわけがないだろう」

 

引き抜いて血で汚れた剣を真っ直ぐ一誠の胸に突き付ける。抑えている兵藤たちはその血とこれからしようとしている誠輝に息を飲む余所に二人の会話を聞く。

 

「言え、『俺たちの負けです』って。言わなければこの剣をお前の心臓に突き刺してやる」

 

「・・・・・」

 

「死にたくないだろう?だったら言えるよな」

 

思いっきり悪役の誠輝。正義のヒーローのピンチに・・・・・。

 

「イッセー!私たちのことなんて気にせず、ソイツを倒して!」

 

金剛が悲鳴が入り混じった叫びを上げた。比叡たちも悲痛な表情を浮かべ、一誠に何か言いたげな視線を送る。

 

「・・・・・言っただろう」

 

対して一誠はハッキリと言った。

 

「捕まえられたら助けてやると。待ってろ、今―――お前らを助けてやる」

 

ニッと安心させる笑みを浮かべた一誠の腹部に凶刃が突き刺さった。

 

「正義のヒーロー気取りか?ばっかじゃねーの。俺よりも弱いお前は、誰一人も守れることはできねーよ」

 

実の弟の腹に突き刺した誠輝に違和感が襲った。

 

「(なんだ・・・・・?この歯ごたえの無さは)」

 

剣は深く背中にまで貫通している。なのに水の中に手を入れた感覚が伝わって衝撃も負担も一切無いまま一誠の身体に突き刺さった。怪訝に眉根を寄せ、一誠の顔を見詰める誠輝は目を丸くするほど驚いた。

 

ポンッ

 

一誠が煙と化した。狐につつまれたようにぽかんと開いた口が塞がらなかった。そんな誠輝たちの耳に聞こえてきた。

 

「誰が誰一人守れないんだって?」

 

ドサッ!と金剛たちを人質にしていた兵藤たちが誠輝たちの足元にまで放り投げられた。

 

「お前らの目が節穴で良かったよ。散々甚振っていた兵藤一誠は分身体なんだからな」

 

逆に理不尽なまでの暴力を振るわれていたはずの一誠は無傷で金剛たちの前に佇んでいるのを誠輝たちは信じられないと目を疑う。

 

「なんだとっ!?」

 

「くそっ!俺たちを騙しやがって!」

 

「人間は人を騙すことぐらいするもんだけどな?というか、計ったと言え計ったと。まぁ、そんなお前たちに面白い体験をさせてやろう。これでな」

 

空間を歪ませ穴を作り上げる一誠の手の平に杯が収まった。

 

「その杯が俺たちに何をさせるってんだ」

 

「まーまー、焦るなって。いま、やるからよ」

 

一誠の意志に反応する杯は光り輝き、誠輝たちを照らす。特別何らかの異常は無いと高を括る兵藤たち。

痛みも無ければ何ともないことに嘲笑する。

 

「どうしたどうした!俺たちは何ともないぞー!」

 

「不発ですかぁー!?」

 

兵藤たちの罵声にただただ笑みを浮かべる一誠だった。

 

「そう言っていられるのは今の内だ。さて、ここで一つ主に祈りを捧げようか」

 

「何が主に祈りだ!そんなもん何の役にも立ちやしねぇーよ!」

 

現実世界で『神を冒涜したわ!絶対に許さないんだから!』と栗毛のツインテールの少女が怒髪天を衝く。

無防備に立ち、ゆっくりと胸に十字架を切る一誠に飛び掛かる兵藤たち。

 

「アーメン」

 

―――刹那。例えのようない激痛、苦痛が兵藤たちに襲いだした。頭を抱えてその場で跪き悶絶する兵藤たち。

 

「どうした、祈りなんて何の役にも立たないんじゃなかったっけ?」

 

「いだだだだだぁぁあああああああああああああああああっ!?」

 

「って、聞いてないか」

 

祈りを止めると全身で息をする兵藤たち。―――また祈りを捧げると激しい激痛に襲われてまたしても頭を抑えて悶絶する。

 

『や、やめろぉおおおおおおっ!やめてくれぇっ!?』

 

 

―――職員室―――

 

「アザゼルさま、一誠さまは何をしたのですか?」

 

「俺にも分からん。見た感じ、聖杯で何かをして兵藤たちは『ああ』なったことぐらしか」

 

リーラの問いかけにアザゼルは興味深そうに一誠の様子を見ていた。聖杯の力を知っているアザゼルからすれば未知の能力。本来同じ神器(セイクリッド・ギア)は二つも存在しないはずのものであるのに、一誠はある方法でそれを可能にした。所有している者によって能力も違いがあるのかと、

 

「あの痛がる様子。まるで神の祝福を受けている悪魔みたいだな」

 

そう無意識に漏らした。―――悪魔?聖杯?

 

「・・・・・あいつ、まさか」

 

アザゼルはとある仮説に至った。聖杯は生命を司る能力を有している。もしも自分の考えが正しければ―――。

 

「(あいつ、悪魔に転生させる力を・・・・・?)」

 

 

 

額に脂汗を浮かばせ、肩で断続的に激しく息をする兵藤たち。ただの祈りでこんな激痛と苦痛を感じるなんておかし過ぎると一誠を睨み、自分たちの身に何が起きたのか問い質す。

 

「な、なにをしやがった!」

 

「知らない方がいいと思うぞ?」

 

「ふざけるなっ。その杯で何かしたってのは明白なんだよ!」

 

「あれ?なんともない、不発なんじゃないかって言われたのにおっかしぃなー?元々お前らの持病が発生したんじゃないのか?」

 

飄々と接する一誠に苛立ちが募り、今なら大丈夫だと自分に言い聞かせて駆けだした直後、また一誠は祈りを捧げることで激痛と苦痛が兵藤たちを抑える。

 

「いででででででっ!?」

 

「はっはっはっ、天罰でも下ったんじゃないか?」

 

「こ、このや―――『アーメン』あああああああああっ!?」

 

壮絶な痛みに耐えかね叫ぶ。いっそのこと倒して欲しいと願いたくなる思いだった。

 

「化け物、お前・・・・・俺たちに何をしやがったんだっ」

 

ユラリと立ち上がる誠輝。一誠に向ける敵意と殺意の視線に―――「アーメン」と祈りを捧げたことで誠輝にもダメージを与える。

 

「ぐおおおおおおおおおおっ!?」

 

「そんなに知りたいのならばこのまま教えてやるよ」

 

兵藤たちに祈りを捧げながら説明する。

 

「―――お前らを悪魔に転生させた」

 

『・・・・・っ!?』

 

一誠の言葉にい誰もが目を疑い、耳も疑った。

 

「悪魔は光や聖書、祈りでも効果抜群だ」

 

徐に誠輝へ近づき、自分の剣を奪い取っては

 

「勿論、悪魔は聖剣にもダメージが通り、悪魔にとって聖なるものは毒だ」

 

剣を肩に突き刺せば、誠輝が獣染みた叫びを上げる。

 

「見たか?聞いたか?ただ剣を刺しただけでこいつはこんなに悲鳴を上げた。これが悪魔にしか感じることができない現実だ」

 

―――天使の姿と成り、聖なる光を放てば一誠の祈りより更なるダメージを与えられ、悶絶する。もう立場が逆転し、兵藤たちは壮絶な拷問をされていると過言ではなかった。

 

「もう一度言う。お前らは人間じゃない。悪魔に転生した元人間だ」

 

「て、てめぇぇええええええええええっ!」

 

「これで俺のこと化け物なんて言えなくなったなぁ赤龍帝?」

 

翼が刃物と化と成り、大きく広がって兵藤たちの腹に突き刺さっては戦闘不能と判断されバトルフィールドから一斉に光と化と成って消失した。誠輝を残して。

 

「新米の悪魔くん。悪魔になった気分はどうだ?ああ、元の種族、人間に戻せることはできるぞ?ただし、この世でそれを可能にするのは俺だけだがな」

 

「っ・・・・・」

 

「そうだな、一部を除いた兵藤を全員悪魔にしてやるか。そうすればお前たちは兵藤として居られなくなる。今後の良い罰になりそうだ」

 

それを聞いて痛みに耐えながらも拳を突き出した。が、あっさりと受け止められ、思いっきり後ろへ殴り飛ばされた。戦いはこれからだと鎧を瞬時で装着して一誠に突貫する。

 

「俺はお前なんかに負けられるかよぉっ!」

 

「奇遇だな。そろそろお前と決着をつけようと思った。今日、この場所でな」

 

龍化―――。一誠の全身から神々しい光が迸り、天まで伸びる柱となる。光が膨れ上がるのと呼応して光に包まれる一誠は体の構造を激しく変え、巨大化していく。誠輝が魔力を放つと同時に金色のドラゴンが光柱から姿を露わして容易く明後日の方へ弾いた。

 

「はぁっ!?」

 

『ちっちぇな』

 

聖なる力が帯びた拳が誠輝に直撃する。それでも果敢に体勢を立て直してバカの一つ覚えのように一誠に猪突猛進をする。

 

『パワーにはテクニックだな』

 

金色のドラゴンと化となった一誠の口から極光のレーザーが放たれる。それを嘲笑うように避けた誠輝に

極光の魔力が軌道を変えて誘導弾の如く誠輝を追尾する。迫りくる光の魔力に何度も倍加した魔力で相殺しようと放った魔力と直撃する瞬間、一誠の魔力が分裂して四方八方から誠輝に襲いかかる。

 

「ふっざけんなぁっ!」

 

両手を横に広げて四方八方から来る魔力弾と相殺。だが、その態勢のまま虚空から飛び出してきた鎖に全身が絞め付けられて鎧が解かれ、生身が晒された。

 

『チェックメイトだ、兵藤誠輝!』

 

ドンッ!

 

真上、真下、真横から十字架のような光の柱に呑みこまれて一誠の完全勝利という形でバトルフィールドから姿を消した兵藤誠輝。

 

 

―――職員室―――

 

「ば、ばかな・・・・っ」

 

唖然と兵藤が声を漏らす。アザゼルは合点したと頷いて一誠に聖杯を貸してもらおうと考えている余所に

 

「お見事です。ようやく、ようやくあなたさまの願いが叶いましたね」

 

リーラは潤った瞳で金剛たちに抱きつかれる一誠を何時までも見守ったのだった。

 

―――1-C―――

 

『きゃあああああああっ!』

 

『やったーっ!』

 

一誠のファンたちが黄色い声を上げる。ユウキも黒髪の少女も抱き合って感動と歓喜を分けあった。

 

「・・・・・やっぱり、間違ってなかった」

 

「え?」

 

「・・・・・先輩」

 

―――2-F―――

 

「完・全・大・勝・利ぃっ!」

 

イリナが大はしゃぎをしてバンザーイ!と身体で喜びを表現する。ゼノヴィアとルーラーもガッツポーズをして

嬉しさの雰囲気を醸し出す。咲夜たちも安堵で息を漏らして一誠に祝福の言葉を漏らして笑みを浮かべる。

 

―――2-C―――

 

「勝っちゃったね。やっぱり」

 

「ええ、しかし金色のドラゴンって彼なのでしょうか?」

 

「見た感じだけど、うん、間違いないよ。ドラゴンになれるんだねー」

 

「何を言ってる。あいつは元々ドラゴンだから―――って、あの二人がいない!?」

 

―――3-S―――

 

「そ、そんな・・・・・赤龍帝がいるにも拘らず負けるなんて・・・・・」

 

愕然とショックで落ち込む兵藤たちクラスメートを見ながらサイラオーグは静かに笑みを浮かべる。

 

「今度は俺と勝負をしよう。兵藤一誠」

 

熱い戦いではなかったが、それでも得るものはあった。今後の期待と楽しみを胸の内に抱く。

 

 

―――2-S―――

 

「さてと、兵藤ども。心の準備は良いかなー?」

 

睨むことしかできない、敵意の視線を放ち、怒りと屈辱で顔を歪める兵藤たちに一誠と生徒会会長のソーナが2-Sの教卓の前に佇んでいる。その隣には悠璃と楼羅も。

悪魔に転生させた兵藤たちは屈辱を味わいつつも土下座で人間に戻してもらった。

 

「本来ならこのクラス全員が退学になるはずだったんだが、悠璃と楼羅、兵藤家当主の寛大な心で勝者は敗者に何でも一つだけ言うことを利かせる程度で退学は免れたわけだが・・・・・お前らはたったの六人に負けた弱者どもだ。どっちが雑魚何だか分からなくなったなぁ?」

 

ギリギリ・・・・・ッ

 

「さて、皮肉を言うのもここまでにして早速お前ら全員に告げる。今日編入してきた兵藤もいるが連帯責任ってことでよろしく」

 

ソーナに視線を向けると彼女は一枚の紙を兵藤たちに突き付けた。

 

「この契約書に書かれていることをして貰います」

 

その内容は―――。

 

① 兵藤家は卒業するまで朝早く登校して校内の掃除、登校してくる生徒に生徒会の指導の下、最後の一人まで挨拶を行うこと

 

② 兵藤家は卒業するまで生徒会の協力要請に全面的な協力をすること

 

③ 秘密or隠し事を一切禁じ暴露する

 

④ ③の項目にもしも人に害を及ぼしたものであれば、誠心誠意の謝罪をする

 

⑤ 二度と周囲に危害や迷惑をかけないことを誓う

 

⑥ 周りからどんな罵声を浴びても全て受け入れ、猛省すること。逆に周囲に対する罵声や暴力を禁ずる

 

⑦ 国立バーベナ駒王学園にいる間は兵藤家の威厳と権威、権力と威光は全て無効にし、周囲の学生と同じ立場でいること

 

⑧ ⑦の項目は学校外でも適用する(プライベート時でも可)

 

⑨ プライベートでも悪魔、堕天使、天使、人間に害する者は即退学、兵藤家から追放

 

⑩ 兵藤家(男子)は必要な時以外女性との接触を頑なに禁ずる(オカマは可)

 

⑪ 以下の項目に一つでも一人でも卒業するまで破ったら国立バーベナ駒王学園所属する兵藤家は全員退学とする

 

⑫ この契約書に書かれた項目全て兵藤と名乗る兵藤一誠、兵藤悠璃、兵藤楼羅の以下三名は対象外とする。

 

 

この契約書を了承とする判子が複数押されていた。生徒会会長 ソーナ・シトリーやまだ会ったことがない風紀員長の神埼長門。そして堕天使の代表としてアザゼル、この学園の理事長であるユーストマ、フォーベシイ、八重垣正臣のサインまでもが書かれていて事実上、この契約書は正式なものとなっていた。

 

「この契約書に書かれているあなたたちに対する指示は今日から発動します」

 

今の今まで契約書を読み上げていたソーナが淡々と兵藤たちに言葉を投げかける。

 

「私が在籍していたこの三年間。あなたたち兵藤家の行いや態度、立ち振る舞いを毎日見ていてとても目に余るものばかりでした。兵藤家はこの学校と関与しないので学園と共々とても歯痒い思いで一杯でした。

ですが、兵藤一誠くんのおかげでこの学園は変われそうです」

 

ここぞとばかりソーナは言い続けた。

 

「この契約書はこの学園が存続する限り学校の規則とします。日本を治める兵藤家が、あなたたち二年生が後輩に対して正しい指導と態度をするのは当然の義務のはずです。傍若無人な立ち振る舞い方が当然だと間違った教えをされては四大勢力の間に亀裂が生じます。それだけではない、あなたたちの言動は和平を結んだ四大勢力に対する勢力損害行為に値して悪魔、堕天使、天使にどれだけ迷惑を掛けてきたか考えたこともないでしょう。―――私はあなたたちのことを決して許すことはできません」

 

苦虫を噛み潰したような顔となる兵藤たち。今日編入した兵藤たちはとばっちりを受けて肩を落としたり嘆息を漏らしたりしていた。

 

「学校を辞めたいならどうぞご自由に。あなたたちみたいな生徒がいなくなれば喜ぶ生徒もいるでしょうから。それとも何か異論がありますか?」

 

どこまでも冷たく接する生徒会長に一つの手が挙がった。

 

「ソーナさん。これはあまりにも横暴ですぞ。一部、人権を奪っているではありませんか」

 

このクラスの担任の教師が異議を唱えた。しかし、ソーナは別の紙を教師に突き付けた。

 

「人権のことを持ち掛けるあなたはこのクラスの教師として、人としての自覚が全くありません。教師が教え子の間違った過ちを正すのは当然の義務ですのにそれを放し飼いのように今まで何もしませんでしたね」

 

「生徒たちの行いが陰でしていたので私は気付けませんでした」

 

いけしゃあしゃあと言ってのける教師にソーナの目がすわった。

 

「―――その程度で、あなたに課する罰が軽いと思わないでください」

 

ソーナのてにもつもう一枚の紙には

 

 

           『以下の者を清掃員に降格する』

 

 

と、教師の名前も書かれていた紙だった。

 

「生徒会の権限であなたは教師から清掃員に降格します」

 

「はっ?」

 

思わぬ出来事に教師は目を丸くした。自分が清掃員としてこの学校に働く?疑問が疑問を生み、尽きない謎に唖然、愕然としていればソーナは留めの言葉を言った。

 

「今までこんなことできなかったのは学園側が許可を下さなかったからでした。が、このクラスと2-Fの賭けに対する勝負で負けたクラスは教師にも責任があると判断され、2-Sの担当教師でもあるあなたにも責任が負います。言わば連帯責任です」

 

―――っ。兵藤たちは自分の担任が息を呑んだ雰囲気を感じ取った。ソーナからの無情な宣言で石のように固まり、空いた口が塞がらない担当教師は―――。

 

ガラッ!

 

「失礼しまーす!新しい清掃員となる子を迎えに来ましたわーん☆」

 

「どこの誰ですかな?」

 

「あそこで固まっている人です。手取り足取り零から十まで清掃の仕方を教え込んでください」

 

「あら、子豚ちゃんみたいにお肉がたっぷりと付いた可愛い男性ですねぇん。清掃を教える前にお髭を剃って可愛い身だしなみにしちゃおっと♪」

 

「もしも間違ったらちょっとしたお仕置きも・・・・・」

 

「「ぐふふふっ・・・・・」」

 

形容し難い中年の男性たちに連行された。一拍して担当教師の甲高い悲鳴が響き渡ってくる。

 

「・・・・・あの人たち、誰?」

 

「清掃委員の人たちです。他にも大勢いますが大半な『あんな』感じです」

 

「・・・・・そう」

 

全員はあの教師の末路を悟った。同情と憐れが雰囲気に醸し出すが、

 

「では、明日の朝八時に学園の校門前で一人も欠けずに集合していてください。遅刻した者にはあの清掃員たちと放課後マンツーマンで一時間ほど掃除をして貰います。これは規則ですので」

 

自分たちにも同じ末路を辿ってしまう恐れがあったのを改められて思い知らされた。

 

「よぉ、雑魚共」

 

一誠は最後に言った。

 

「お前らがずっとバカにしていた男はこんなにも強くなった。今度は俺がお前らをバカにできるなぁ?この雑魚共が」

 

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、挑発した途端。

 

―――カチンッ!

 

『『『『『ふっざけんなぁあああああああああああっ!』』』』』

 

「もう一回勝負しろゴラァッ!」

 

「今度は絶対に負けないからなぁっ!」

 

「俺たちの力はこんなもんじゃねぇっ!」

 

「いや、今からでも勝負しろてめぇっ!」

 

「そうだこの化け―――」

 

一人の兵藤が化け物と呼ぼうとした瞬間に周りからフルボッコされた。肉体的に強制的に禁じられた罵倒を発せない為に。言ったら最後、全員が退学となるからだ。

 

「はははっ、良い感じになってきたなぁー」

 

「楽しそうですね」

 

「俺の目標はある意味達成したようなもんだ。今度はこいつらを弄ることに楽しむ」

 

「そう言ってあんまり刺激を与えないでくださいよ」

 

「ほどほどにした方がいいよいっくん」

 

「わーってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

「おい、一誠。お前の聖杯を一つだけ貸してくれ、すげー調べてぇ!」

 

「やっぱり?」

 

「当たり前だ!簡単に悪魔の駒(イーヴィル・ピース)も無しに人間を悪魔に転生させるなんて俺は知らなかったぞ!」

 

「だって言ってないんだもん」

 

「・・・・・まさかだと思うが、他にも異種族に転生させることができるか?」

 

「うん(ドヤァ)」

 



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エピソード46

2-Sとの戦いから数日が経ち、学園は変わった。登校すれば2-Sの兵藤たちが頭を垂らして挨拶をする。2-Sと2-Fとの間に決められた契約内容を知ってから今までの憎しみと恨み、鬱憤を晴らす生徒たちも数多く現れ言葉の暴力や肉体による暴力が嵐のように激しく兵藤たちにぶつける。

蓋を開ければ怒りや私怨、憎悪の炎は火が点いたように燃えあがった。主生徒たちの怒りと憎しみに満ちた歪んだ顔に醸し出すプレッシャー、自分たちが兵藤家であることをもう気にすることは無いと言う躊躇の無い行動と言葉が2-Sの兵藤たちに委縮させるのに十分だった。―――自業自得、因果応報。今までの行いの報いが一誠たちの活躍によって兵藤家たちの被害者たちによる復讐と逆襲の切っ掛けとなった。

 

「まさか、暴動が起こるとは俺も予想外だった」

 

冒険部の部室で嘆息を吐く一誠は額に手を当てていた。他の生徒たちに対する抑止力だったつもりが、

まさか暴動を起こす切っ掛けになるとは露にも思わなかった。

 

「俺、間違っていたのかな・・・・・」

 

今でも聞こえる廊下からの怒声と悲鳴。契約内容では兵藤家に関することで、二年だけでなく一年と三年もその対象とされている。後輩も先輩も、下級生も上級生も兵藤家はいる。―――学園は荒れていた。

 

「間違ってなどおりません」

 

「・・・・・」

 

背後に立つ咲夜が一誠の言葉を否定した。

 

「例え、あの契約書が無くとも何かの切っ掛けで兵藤家の被害者たちは暴動を起こしていたでしょう。それがただ早まっただけです」

 

咲夜の言い分に何も言わない。言われて納得し、同感した一誠はもう一度嘆息する。

 

「自業自得、因果応報・・・・・か」

 

「ええ、そうでしょう。一誠さまが気に掛ける必要はありません。同じ兵藤家の被害者なのですから」

 

そう言われては今度こそ何も言えなくなった。同情することはないと咲夜も思っているのだろう。

今度は兵藤家の生徒たちがどんな酷い目に遭ってもそれは自業自得なのだから。

 

 

一人の兵藤は周りから脳暴力の嵐に襲われていた。抵抗しようにも

 

「俺たちに暴力を振るったら退学だってことは知ってるぜ」

 

契約書の内容を言われて手も足も出せず、殴られ、蹴られ続ける。どうしてこんな目に遭うんだと自問自答し、理不尽な状況に―――。

 

「おい、堂々と廊下で寄って集ってするんじゃねぇよ」

 

自分に暴力を振るうのが止んだ。何事だと視線を上に向ければ身体に鎖を巻きつかれて宙にぶら下げられた生徒たちがいて、この場に一誠と咲夜がいた。

 

「何をするんだ!」

 

「揃いも揃って同じことをするなってことだ」

 

「何が同じだ!俺はこいつに彼女を奪われたんだぞ!その後俺の彼女は―――!」

 

「ああ、だいたい予想はできる。が、お前らがしていることは兵藤家と変わらないぞ」

 

「それがどうかしたか!俺たちは、俺たちは兵藤に恨みがあるんだ!」

 

唾を飛ばす程一人の生徒の叫びで皮きりに他の生徒たちも口々に言いだす。その中には―――。

 

「お前だってどうせそこにいる兵藤と同じだろう!」

 

と、一誠にとって嫌いな言葉が飛んだ。

 

「―――俺がコイツと同じだと?」

 

次の瞬間。一誠は兵藤を蹴り飛ばした。

 

「ふざけるな。だったら何であの契約書をこっちが提出したと思っている」

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

「お前らが兵藤に対しての感情や気持ちだって俺自身も心から理解できる。俺だって兵藤の被害者だ。だけどな」

 

一つの小型の魔方陣を展開して、叫びだした。

 

「言っておくが俺、兵藤一誠は別に兵藤や兵藤の被害者のお前らの味方じゃない!兵藤に復讐や逆襲をする事に関してはお前らの自由だが、そんなことしているお前らも兵藤と同じことをしていると思え。お前らも兵藤と同じ言動をしていると認識、実感しろ」

 

一誠の声を聞いた全校生徒の心に様々な思いを抱かせた。ある生徒はこいつらと一緒になりたくないと暴力を止め、ある生徒は怒りを抑えきれず、兵藤に罵声と暴力を振るい続けた。

 

「なぜあのような事を・・・・・?」

 

「理由は無い。俺はどっちの味方じゃないからな」

 

「兵藤の被害者、金剛さまたちも味方ではないと道理の発言です」

 

「金剛たちは俺の家族だ。家族は味方だろう?」

 

「・・・・・失礼いたしました」

 

一誠の考えにリーラほどのメイドになるのはまだまだだと思わされた。きっとリーラは一誠の発言の意図を察していたはず。

 

―――放課後―――

 

アーシア・アルジェントはオカルト研究部の部員となった。堕天使側のシスターのままリアスたちに受け入れられて日々充実な生活を送っていた。

 

「アーシア。この学校には馴染めたかしら」

 

「はい。皆さん気を良くしてくれてお友達もできました」

 

「そう、それはよかったわね」

 

妹のように接するリアス。グレモリー眷属の朱乃たちもアーシアと親しくなって毎日聖母の微笑みのような笑みが絶えなかった。そんなシスターは最近、困っていることがあった。部室の扉がノック音を発し、朱乃が対応しに行った。ガチャと扉を開け放たれた矢先、虫をも殺せなさそうな優しげな青年が入ってきた。

 

「やぁ、アーシア・アルジェント」

 

「あぅ・・・・・ディオドラさん」

 

「今日こそ僕の愛を応じて欲しい」

 

3年生で悪魔のディオドラ・アスタロト。来訪者を見た途端に困り顔となるアーシアにリアスが応対する。

 

「あなた、アーシアが困ってるじゃない。私の部員を困らせないで」

 

「僕はアーシアが好きなだけだよリアス・グレモリー」

 

「好きになるのは構わないけど節度を持ちなさい。ここ最近、いえ毎日アーシアの教室だけじゃなくこの部室にまで来ていい迷惑だわ」

 

豊満な胸を下から支えるように腕を組むリアスは億劫そうに言う。

 

「それにアーシアは私の家族。私が認めない男に誰一人として付き合わせやしないわ」

 

「なら、キミを納得させ、僕を認めてくれれば正式にアーシアとの交際を認めてくれるんだね?」

 

「アーシアがあなたと付き合う意志が、気持ちがあればの話よ。それに彼女は堕天使側のシスター。堕天使の総督アザゼルから直々頼まれていて悪魔と堕天使の関係だって良好にしたい」

 

「だったら話が早い。僕とアーシアが結ばれれば悪魔と堕天使の勢力の関係は良好になる」

 

「別にあなたがそうしなくても他の悪魔と堕天使が結ばれているのだからそんなことしなくていいわ」

 

アーシアを求めアーシアを守るという平行線な会話のやり取りが繰り広げられている。

まだ誰かと付き合う気は無いアーシアにとって困っていたことだ。

 

「それにあなたのその愛は一方的過ぎるわ。相手の話を聞かず自分の思い通りにさせるそんな感じが醸し出してどうしようもないわ」

 

「それは心外だ。僕は女性に対してちゃんと優しく接するのに」

 

「どうかしらね。でも、何度アーシアに近づいても結果は同じよ。彼女は私の妹のようなもの。アーシアが自分の意思で誰かと付き合うまでは私が守る」

 

「僕とアーシアは運命の出会いを果たしている。だったら結ばれ―――」

 

「なんだぁ?なんか、修羅場みたいになってるじゃねぇか」

 

ディオドラの話を遮るようにして現れたアザゼルに続いて一誠も登場。

 

「一誠?どうしてここに?」

 

「ん、アーシアの様子を見に来たんだ。最近接してなかったからどうしてっかなって」

 

「リアスとディオドラか。丁度良い、次の若手悪魔同士のゲームの対戦相手はお前らだって伝えるのは手間が省けた」

 

あっさりとしたアザゼルの発言にリアスは目を丸くした。ディオドラは意味深な笑みを浮かべ、告げた。

 

「こうしよう。次のゲームで僕が勝てたらアーシアは僕が引き受ける。いいね?」

 

ディオドラに無言のプレッシャーを放つリアス。そんな手でしか女を手に入れられないような男に負けるわけにはいかないとヒシヒシ伝わる。

 

「一人の女を賭けた勝負・・・・・なんか、デジャブ」

 

ライザー・フェニックスとリアスの婚約騒動を思い出して、今度はアーシアがヒロインかーとどこか他人事のように胸の内に漏らす。

 

「そんなの却下よ。それにそんな決めごとをするぐらいなら―――」

 

リアスは一誠に目を向けた。

 

「あなたも男なら、男らしくイッセーからアーシアを奪うと良いわ」

 

「はい?」

 

なんか、またデジャブを感じ始めた一誠に

 

「彼とアーシアが一体どんな関係だと言うんだい?」

 

ディオドラの言葉を聞いてリアスはトドメの一言を。

 

「彼は密かにアーシアと付き合っているもの」

 

「・・・・・」

 

・・・・・この女、また俺に厄介事をっ。頬をピクピクと引き攣らせ、ディオドラの反応を窺うと。

 

「兵藤一誠・・・・・リアス・グレモリーの言っていることは本当かな?」

 

「ノーコメントだ」

 

バカでなければリアスの含みのある笑みを見て察するはずだ。しかし、どう受け取ったのか分からないが―――。

 

「いいだろう。兵藤一誠ごとリアス・グレモリーを倒してアーシア・アルジェントを僕のものにする」

 

ディオドラはグレモリー眷属+兵藤一誠との勝負を吹っかけていなくなった後。

 

「ふざけたことを言う口はコレかな~?」

 

ぎゅううううっ!と思いっきりリアスの頬を摘まんで、余計な事を!と念を込めて引っ張った。

その引っ張られる痛みにリアスは涙目になってじたばたする。

 

「お前、女に絡んだ事で巻き込まれる体質だな」

 

ニヤニヤと意味深な笑みを隠すことなくアザゼルは言うに対して嘆息する一誠はリアスの頬を放して言った。

 

「アーシアがはっきりと言わないからこんなことになったんだろう?」

 

「あぅ、申し訳ございません」

 

正論な指摘にしゅんと委縮するアーシアも迷惑を掛けて申し訳なさそうな顔をする。

 

「で、ディオドラとは一度どこかで会っているのか?運命の出会いを果たした―――って辺りからアザゼルのおじさんと一緒に入ったから」

 

「はい、私がまだ教会から追放される前に一度だけ」

 

同時にそれは教会から追放された理由でもあった。怪我をしたディオドラを見つけたアーシアが治癒を施しているところを他のシスターたちに見つかってしまって教会から追放されたと言う。

 

「・・・・・?」

 

一誠は徐に首を傾げたのでリアスは疑問をぶつけた。

 

「どうしたの?」

 

「アーシアってヨーロッパにいたんだよな?」

 

「ええ、そうですけど」

 

「ヨーロッパに悪魔が出没するのは珍しいかどうか分からないけどそれって最近のことだろう?」

 

コクリと肯定と頷くアーシアに眉根を寄せ出す。

 

「|なんでわざわざ傷付いたディオドラがお前がいる教会に現れたんだ《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》?

 

「え?」

 

なんでと言われて疑問を漏らした。

 

「今は異種族同士が共存できる環境だからこそ悪魔も堕天使も天使も人間界に闊歩できる。だけど、教会は良い悪魔もいることを分かっていても中にはまだ悪魔を敵視しているはずだ。傷付いた悪魔が教会の前に現れたら教会からすればトドメを差すことができる格好の相手。教会と悪魔は交流できようが教会は悪魔に手厚く介護するほどお人好しじゃない。そんなことすれば神に信仰を捧げている者に対しての冒涜だ」

 

「まぁ、確かにそうだな」

 

アザゼルも肯定した。

 

「三大勢力の関係は良好しているが、敵対していた相手がどうなろうと知ったことではないと言う考えはあるはず。だからこそ悪魔を治癒したアーシアは神に対する冒涜と犯したからと教会に追放されたんだ。神聖な光が穢れた光と混じると嫌な気分になる」

 

アーシアは一誠の口から出る言葉に段々と顔が暗くなる。だけど後悔はしていない。助けれる命があれば助けたい。苦しんでいる人を助けたいと言う純粋な思いがアーシア・アルジェントを動かす。

 

「だからこそ俺はディオドラが教会の前に傷付いていたのか疑問が尽きない。それ以前にその傷は誰によって、何によって負ったんだ?どうしてアーシアがいる教会に負傷してアーシアによって治癒されることができた?悪魔がわざわざ教会の前に現れるなんておかしすぎやしないか?」

 

それがディオドラに対する疑問だと一誠は告げた。聞いていたリアスたちも胸の内では疑問を漏らしていた。

イザイヤがリアスたちを代表に訊ねた。

 

「まさかだと思うのだけれど、ディオドラは何か仕組んでいたと?」

 

「さーな。ただ、あの執着心は異常だとは思わなかったか?初めて顔を合わせた俺でも感じたぞ。ある意味ライザーのようだった」

 

「ライザーって・・・・・」

 

その例えはどうかと何とも言い難い気分になる。頭を掻くアザゼルは言ってみた。

 

「お前の考え過ぎ何かじゃねぇーか?」

 

「俺、不思議な事とかおかしな事とか聞くと次から次へと疑問が浮かぶんだ。それにさ」

 

「うん?」

 

「俺に勝ってやると言ってる時点でおかしいと思うけど?」

 

公式のレーティングゲームにも出場しているライザーに打ち勝ち、悪神ロキを打倒、数人の仲間と共に兵藤家を打ち破った。一誠の活躍を知らないはずがない。傲慢と言われようが一誠の実力は世界にも通用しているとアザゼルも認めている。

 

「普通、関係のない俺をリアスたちと一緒に戦わせるあいつの思考だっておかしい」

 

若手悪魔同士のゲームに関係のない一誠を巻き込んで勝つとディオドラは言った。アザゼルは同意見だが一誠に言ってやった。

 

「それ以上言っても、考えてもしょうがないだろう一誠。そろそろお前は帰った方が良いんじゃないか?目的も果たしたことなんだしよ」

 

「むぅ・・・・・」

 

話を強引に帰られて不服そうに漏らす。だが、待たせている家族にこれ以上ここに留まるわけにはいかないと心情で一誠は「ナヴィに調べてもらお」と言い残してリアスの部室を後にした。

 

「アザゼル」

 

「なんだ」

 

「前のシーグヴァイラ・アガレスとディオドラ・アスタロトのゲームに疑念を抱いたのは確かなの」

 

だからと疑問をアザゼルにぶつける。

 

「私もイッセーに同意見よ。ディオドラは何か企んでいる、もしくは何か隠している。わざわざイッセーも一緒だなんておかしいもの」

 

「・・・・・」

 

こいつもか・・・・・とアザゼルは口から出さず胸の内に溜息を盛大に吐いた。

 

「アザゼル、私たちに何か隠してなんかないわよね?」

 

しかも今度は自分にまで疑惑を。アザゼルは一誠に対して恨むぞと愚痴る。

 

「教え子のお前らに隠し事なんてあるか。もしもあったら」

 

「あったら・・・・・?」

 

「一誠の寝顔をリーラに頼んで焼き回ししてお前らに渡す」

 

「隠し事があってほしいわね!」

 

「「・・・・・(コクコク)」」

 

目を輝かせだすリアスに同意見だと朱乃と白音が同じタイミングで頷きだす。

アザゼルはやはりと思った。一誠を餌にすればこいつらは御しやすいと。

 

―――○●○―――

 

ロスヴァイセ、セルベリア、咲夜と一緒に夕食の準備を進めているリーラ。

そこへ自分は悩んでいると顔に出すティファニアが近づいてきた。

飲み物を欲しいのかとリーラはハーフエルフの彼女に尋ねの言葉を言おうとする前にティファニアが口を開いた。

 

「リーラさん、お聞きしたいのですが」

 

「なんでしょうか」

 

「その・・・・・」

 

言い辛そうに一度は顔を下に、視線を床に落として黙ってしまうがティファニアは意を決したように顔をリーラに向けて恥ずかしげに訊ねた。

 

「私の胸は本物のでしょうか」

 

「・・・・・」

 

予想を遥か斜め上な質問をぶつけられた。作業をしていた咲夜たち三人も手を停めてティファニアに視線を向けていたほどだった。リーラは数秒ほど固まり、気を取り直して訊ねた。

 

「どうしてそのような質問を?」

 

「えっと、クラスの娘たちにお母さんと一緒に胸のことで指摘されたり、触られたり、男の子たちからは私たちの胸ばかりを見てくるの。『デケェ、あの胸って本物か?』、『何時も見てもすげぇ』、『本当に胸なのかよ』とか聞こえて・・・・・」

 

そういうことでしたか・・・・・・。リーラはティファニアと言う繊細で少し気が弱い、それでいて優しくて純粋な少女の心情を察して安心させる笑みを浮かべた。

 

「女性の胸はそれぞれです。他の皆さんはティファニアさまの胸に興味を抱いているだけです」

 

「興味を抱いている?」

 

「はい、あなたさまの立派な胸を見たことが無いので皆さまは好奇、奇異な視線を向けてしまいます」

 

自分ほどの胸を見たことがない・・・・・。不思議とそんな思いをティファニアは抱き、両腕で胸を下から持ち上げてぷるんと動かしてみた。

 

「私の胸、おかしくないんですか?自分では分からなくて・・・・・」

 

「他の皆さまは圧倒されているかと思います。それと同時に好奇心、興味も抱いておりましょう」

 

「・・・・・じゃあ」

 

ティファニアは言った。

 

「イッセーも私の胸に興味を抱いちゃってるの?」

 

 

 

「・・・・・リーラとその話をしていたと言うのは分かった」

 

「うん・・・・・」

 

場所は一誠の寝室。天蓋+カーテン付きのベッドに胡坐を掻く一誠と正座のティファニアは対面していた。

時刻は夜なのだが、ティファニアがベッドのカーテン(防音製)まで閉めてしまったのでさらに互いの姿が肉眼では見れなくなったが、一誠の手の甲に柔らかく小さな手が置かれていることで互いの位置を把握することでささやかな安心をティファニアに与えている。

 

「で、何でそこで俺の名前が出てくるんだ?」

 

「周りの男の子が私の胸を見てくるのって興味と好奇心を抱いているからってリーラさんが」

 

「うん」

 

「じゃあ、男の子なら同じ男の子のイッセーはどうなのって思って言ったら直接聞けば分かると言われて」

 

―――リーラ、お前はなんてことを・・・・・・。長年自分に付き添ってくれている恋人に呆れてしまった。

 

「イッセー・・・・・」

 

暗闇でティファニアは一誠の顔を見れないが逆に一誠はハッキリと目に映っていた。

エルフの象徴である尖った耳まで真っ赤に染まり切った顔は恥ずかしさと悩ましげな表情を浮かべ、

四つ這いで迫ってくる。手の甲に置いていた手は一誠の腕から肩、首へと移動し、居場所とその位置を確認すると

 

「イッセーは私の胸を見てどう思っているのか知りたい」

 

両肩に手を置かれ、緑色のシルクのパジャマの内側から盛り上げる自分の胸を見せ付けるティファニアに息を呑んだ。リーラより段違いの大きさ、朱乃や百代より大きい規格外の胸の感想を言えといわれても直ぐには答えられない。

対して何も答えない一誠にやっぱりそこでティファニアは気付いた。一誠が答えれないのはきっとこの暗さのせいだと。暗くて何も見えないのだと

察して一度ベッドのカーテンを開けようと立ち上がった途端に、

 

「いでっ、ちょ、テファ―――」

 

「あっ、ごめ―――きゃっ」

 

間違って一誠の太股に踏んでしまったのだろう。一誠が痛がる声を聞いて謝った矢先に暗くて何も見えない場所で立ち上がった為、さらにバランス感覚がままならない。その結果、ティファニアはベッドに倒れ込むようにこけた。ドサッと倒れてしまったティファニアは一誠の名前を呼んだ。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん・・・・・」

 

ベッドは柔らかったので大した衝撃と体に掛かる負担もない。今度は立ち上がらず四つ這いでベッドのカーテンを開けようとする。

 

「ごめんね、こんなに暗かったら何も見えないわよね」

 

「いや、ハッキリとテファの姿は見えているよ。ドラゴンの眼は割と良い方なんだ」

 

「そうなの?」

 

「ああ」と肯定の声が聞こえた。なら、と改めてティファニアは訊ねた。

 

「イッセー、私の胸、おかしくない?」

 

「どこもおかしくなんてないぞ。テファのはただ他の女より大きいだけだ」

 

「リーラさんも似たようなことを言ったわ。でも、それっていいことなの?」

 

「どうだろうな。俺は男だから分からないけど、テファは不便な事を感じてないのか?」

 

「・・・・・少し、肩が」

 

典型的な返事だった。そして同時に貧乳の女性に敵を回す発言でもあった。

苦笑を浮かべ、ティファニアに告げた。

 

「その重みがテファの胸の証だ。自信を持て」

 

「でも、皆からすれば私の胸はおかしいほど大きいのよね?」

 

「それは否定しない。テファとシャジャルは家族の中で一、二位を誇る大きさの胸の持ち主だからな」

 

「・・・・・イッセーは私の胸を見てどう思ってるの?」

 

また聞かられた質問。下手な返事はしないと「うーん」とティファニアに自分は悩んで、考えて答えようとしている意思表示をあからさまに漏らした後に答えた。

 

「小さい頃から一緒に育ってきた家族の胸は家族の一部だと思って生きていたから対して気にもしていない方が大きい、かな」

 

「興味なんてなかったってこと?」

 

「それ以前の話、家族にあからさまな卑猥の視線を向けれると思うか?」

 

変態にだけはなりたくないとティファニアに断言した。ティファニアもそれはちょっと、と内心困った心情であった。

 

「その胸はティファニアの魅力の一つだと思っている」

 

「これが、私の魅力・・・・・?」

 

始めて言われた言葉だった。リーラの言われて気付いた色んな視線と言葉の意味、クラスメートや他の男子たちの心情を知ったばかりにそれだけでなく、一誠に魅力的だと言われた。視線を谷間を作っている胸に落としながら言う。

 

「こんな大きな胸が魅力的なの・・・・・?」

 

「嫌だったか?」

 

「ううん、ちょっと驚いただけ」

 

そっか、イッセーにとってこの胸が私の魅力の一つなんだ・・・・・。それを知ってティファニアの心は穏やかになった。自分の胸は変だという認識が和らぎ、ちょっとだけ自信がついた。

 

「ありがとう、なんだかホッとしたわ」

 

「どういたしまして。さて、そろそろカーテンを開けようか」

 

そう言って立ち上がる一誠の腕をティファニアは縋るように掴んだ。

 

「テファ?」

 

「あの、お礼がしたいの・・・・・」

 

お礼?首を傾げる一誠を余所に、服を徐に脱ぎ始め異性の前で下着姿となった。

 

「私の胸が魅力的と言ってくれたイッセーなら、その・・・・・」

 

「・・・・・」

 

二人がいる空間は暗い。しかし、一誠の視界から見れば、暗さに負けないほどの綺麗な金の髪。そして華奢で健康的な色白の身体に相応しい高級そうな白い下着がティファニアを悩ました歳不相応過ぎる豊満な胸を包んでいる。

きめ細かな肌、キュッと引き締まってくびれた腰の下はブラと同じ色の下着と肉付きのいい太股から下がっていくとほっそりと綺麗な足が窺わせてくれる。下着姿のティファニアは言った。

 

「私の胸・・・・・・リーラさんのように触って・・・・・?」

 

「・・・・・リーラのように?」

 

どうしてリーラと同じように触れて欲しいのかと、目の前の一誠を魅了させてしまいそうになる少女よりも疑問が上回った。

 

「テファ、リーラのように触れてってどういうこと?」

 

「え?」

 

「・・・・・まさか、覗いていた?」

 

恐る恐ると聞いた一誠の言葉は、自分の失言に気付き、恥ずかしげに耳まで真っ赤に染まった顔を俯かせた。

それが肯定だと認知し、一誠までも髪の色と同じぐらい顔に朱を散らした。

 

「ナ、ナヴィ・・・・・っ。なんてことを・・・・・」

 

「ち、違うのっ。ナヴィさんのせいじゃないの。皆が―――」

 

「皆!?皆って誰のことだ!?」

 

信じ難い言葉がティファニアの口から出て縋るように問いだしたところ。

 

「え、えっと・・・・・・ロスヴァイセさん、セルベリアさん、アレインさん、ユーミルとエイリン、エルザとフレイヤさま以外の女の子」

 

ぬぉおおおおっ・・・・・・!と羞恥のあまりにベッドに沈んだ。人の情事を女性たちが覗き見していた事実に発覚し、恥ずかしいと呻いた。

 

「ご、ごめんね?お母さまもノリノリで・・・・・」

 

「・・・・・まさかだが、今でも覗かれている?」

 

「う、ううんっ。大丈夫、覗かないでってお願いしてあるから」

 

なんか不公平だと思わずにはいられなかった一誠。溜息を一つ零し、後でリーラに教えようと心に決めた。

 

「どうして触って欲しいとか言うんだ?」

 

「イッセーなら私の身体を触ってもイイと思ったから。私の胸は変じゃないって教えてくれたから。だから・・・・・」

 

イッセーだから触って欲しいの・・・・・言葉だけじゃなくて今度は触って私の胸は変じゃないって確かめて?

 

「・・・・・」

 

潤った瞳が懇願の色を浮かべる。自分の胸を差し出すように持ち上げるティファニアに手を上げて伸ばした。

その手は豊満な胸で無くティファニアのしっとりとした弾力がある頬に伸びて触れた。

 

「テファ、聞いて良いか?」

 

「なに?」

 

「俺のこと、家族としてでなく一人の異性として好きか?」

 

その問いはティファニアの未来の分岐点でもあった。ここまで自分に求める少女の身体を触れる前に確認を取らなければ色々と抑えられなくなる。家族としてならこれ以上はダメだと言葉を選んで説得する。異性として好きならば目の前のハーフエルフの全てを自分のものにする欲望をぶつけ、彼女にも分からさせる。お前は俺のものだと。

一誠の問いにティファニアは―――――。

 

「・・・・・イッセーは大切な家族と思っているよ。それと同じぐらいイッセーのこと大好き」

 

「・・・・・分かった」

 

頬に触れていた手はティファニアの顎を摘まんで

 

「俺もテファのことが好きだ」

 

「イッセー・・・・・」

 

「だから、お前を愛したい、いいな?」

 

返事を待たず一誠はティファニアの唇を奪った。ビクリと身体を強張らせ、突然のキスに目を丸くしたものの

次第に蕩けた目を瞑って両腕を自分の唇を奪った男の子の首に回して受け入れる仕草をした。

 

 

 

 

「なっ、ななななななんですかこれはっ!?」

 

「お、おおお・・・・・っ」

 

「「「・・・・・」」」

 

「イッセーとテファが・・・・・」

 

「す、凄いのじゃ・・・・・」

 

一誠たちの家に住みついてまだ日が浅いロスヴァイセたちは一誠とティファニアの情事を見させられていた。

顔を真っ赤にして動揺、羞恥で顔を真っ赤にするが視線は真っ直ぐ映像に向けられている、無言で見詰めていたり、真っ赤な顔のまま興味深く映像を観覧。

 

「良かったわねテファ・・・・・」

 

「ついに二人目かぁー。意外と遅かったわね」

 

「あの子は女にだらしなくないのだ。もっと節度を持って接してから徐々に愛し合う」

 

「アラクネーさんの言う通りよ?」

 

「何時見てもあんなに可愛かったのに、あんなに逞しくなって・・・・・」

 

「これはイリナさまたちには見せられない光景ですね」

 

「今夜はどんな愛し合いをするのか興味がある」

 

「我も」

 

リーラを除いた女性陣がナヴィの部屋で情事の観覧に没頭していた。一誠と付き合いの長い女性陣たちからしてみればもう見慣れた光景で恥も動揺もしない。

 

「ダ、ダメです!これは二人に対していけないことです!」

 

「メイドになったんだからあなたもいつかイッセーにあんなふうな感じで愛されちゃうわよ?知っておいて損は無いわよ」

 

「あっ、愛されっ・・・・・!?」

 

頭から煙が吹き出しそうなほど一気に真っ赤な顔となる周りに抗議をしたロスヴァイセ。

 

「あら、いよいよ」

 

すっかりこの状況に馴染んでしまったナヴィが待ってましたとばかり声を発した。

一誠とティファニアがついに本番をしようとしていた光景が映像に映って、期待と興奮、羞恥と好奇心が

ナヴィの部屋に集まった女性たちの心を―――。

 

「なにをなさっているのですか―――?」

 

ビクゥッッッ!

 

この場にいないはずのどこまでも低くて冷たい女性の声が女性たちの心を震わせた。

全員がゆっくりと声がした方へ、背後へ顔を向けるとそこには銀髪のメイドが仁王立ちしていた。

 

「咲夜だけじゃなく、ロスヴァイセやセルベリアも見掛けなくなって探してみれば・・・・・」

 

「ひっ!」

 

誰の悲鳴だか分からないが、その悲鳴は全員の気持ちを代弁にしたはず。

銀髪のメイドは激しく愛を貪っている一誠とティファニアの映像を見て、その映像の前にいる女性たちを見て―――。

 

「そういうことですか」

 

ガチャリと扉の鍵を掛けた。これで逃がさない。逃がしたとしても逃げ場は無い。

顔を青ざめ、身体を震わす女性もいれば、冷や汗を流し、この場からどう逃げようかと脳裏で考えている女性もいたら、もう弁解も言い訳もできないと諦める女性もいた。

 

「ナヴィさま」

 

「うっ・・・・・」

 

「あなたさまの悪魔としてのお仕事は盗撮でしたか。相手の弱みを握って自分の立場を有利にさせようとしている考えは悪魔そのものですね。このリーラ、感服いたしました」

 

絶対に感服してない!冷や汗どころか風呂で綺麗にしたはずの身体がダラダラと全身に流れる脂汗で汚れるがリーラから感じるプレッシャーに押しつぶされそうになる。

 

「オーフィスさま」

 

「・・・・・」

 

「数日間、一誠さまに近づかないでください」

 

無表情のオーフィスが目を丸くした。一誠に近づくなと言う罰にショックがハッキリと浮かんだのはきっと今回が初めてだろう。

 

「クロウ・クルワッハさま」

 

「む・・・・・」

 

「トレーニングルームの使用は禁止、では冥界で修行をするあなたには何の意味もありませんので、あなたは時と場合に寄るまで戦闘と修行は禁止。あなたさまにはメイドとしてこれから過ごしてもらいます」

 

冷たさを孕んだ琥珀の双眸が他の女性たちにも向けられる。

 

「この場にいる全員にお説教と罰をします。今夜は寝かしませんのでご了承を」

 

この日、女性陣たちは知った。龍神や最強の邪龍よりもリーラの方が迫力と怖さがあったと。



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エピソード47

圧倒されていた。並々ならぬ者の食事を。目の前に平らげられた空の食器が山積みになっていく様を。

生まれて十数年間、兵藤一誠は美味しそうに―――。

 

「おかわりいいでしょうか?」

 

「もう勘弁してくださぁーい!?」

 

早食い競争のイベントに参加している大和撫子風な少女とその少女の食いっぷりに店員はもう情けなく嘆いた姿を見て。

 

「・・・・・どうしてこうなった」

 

唖然と見ていた。

 

 

 

オーフィスを肩に乗せて町に出向いていた。何か面白いものは無いかという探検気分で散歩をしていた。

しばらく歩いていても特に変化や面白そうな事は見つからない。あるとすれば、自分に向けられる視線だけだった。一誠に気付けば「あ、兵藤一誠だ」と有名人、芸能人を見つけた反応を示す。

既にこの町では少なからず自分の存在を認知されていることに何とも形容し難い気分となる。

それでも、時間が許される限りオーフィスと一緒に歩いていれば―――。

 

「綺麗なお姉さん。俺たちとどこかに―――」

 

「はいはい、下手なナンパは古臭いからなー?」

 

「「「ああ?誰だ―――げぇっ!?兵藤一誠!」」」

 

どこぞの有名武将と出くわしたような反応をしだすナンパたちが恐れ戦いた表情を浮かべて脱兎の如く逃げてしまった。そんなナンパたちに

 

「・・・・・何もそこまで怖がること無いじゃん」

 

「イッセー、どんまい」

 

落胆する一誠を慰めるオーフィスという構図に救われた少女は戸惑った。

 

「えっと、助けてくれてありがとう・・・・・」

 

「ああ、どういたしまして。んじゃ」

 

「・・・・・あの、兵藤くん」

 

初めて会う少女に呼び止められ、その少女に振り返ると頭を下げられた。

 

「金剛さんたちと仲良くしてくれてありがとう」

 

金剛たちの事を言われるとは思いもしなかった。あの四姉妹の友達なのだろうかと「友達なのか?」と質問すれば肯定した。

 

「はい、とても仲のいいお友達です。あ、申し遅れました。私は日之丸大和と申します」

 

「ああ、これはどうも、兵藤一誠です。んで、肩にいる少女はオーフィス」

 

「我、オーフィス」

 

焦げ茶色の髪をポニーテールに茶色の瞳の少女と挨拶を果たす。

 

「金剛たちが他にも友達がいたなんてな。そう言う話しは訊いてなかったから知らなかった」

 

「交友はありますよ?ただ・・・・・」

 

「兵藤家の存在か」

 

「はい」と複雑そうに首を縦に振った。しかし、大和は言い続けた。

 

「ですが、あなたのおかげで学校は少しだけ良くなりました。これで不安も抱かずプライベートでも外に笑って歩けれます」

 

契約書の内容の事を言っているようで直ぐに大和の言葉の意図を察した。

 

「だけど、兵藤家じゃなくてもナンパされたな」

 

「あはは、そうですね。困っちゃいました」

 

どちらにしろ大和は災難な目に遭う。一誠はふとある事を訊いた。金剛たちの存在を知っているというのならば、

同じ学園に通っている生徒ではないかと。初めて大和と会う一誠にとって気になる対象だった。

 

「ところで金剛を知っているということは駒王の?」

 

「ええ、3-Aに所属しています。あなたの先輩ということになりますね」

 

「先輩か。んじゃ、日之丸先輩」

 

「大和、と呼んでください。金剛さんたち、特に金剛さんがあなたの事をよく話をするので色々と聞いています。

 とても格好良く、頼りがあり、可愛い男の子だと」

 

最後の可愛いは余計だと金剛に対して不満げに胸の内で漏らす一誠だった。

 

「俺のことは一誠って呼んでくれ。正直、兵藤って呼ばれるのは嫌いなんだ」

 

「わかりました。では一誠くん、もし時間があれば私と付き合ってくれませんか?これから昼食の時間ですし」

 

「嬉しい誘いだ。俺たちも暇だったから大和先輩の護衛役としても付き合おう」

 

「ふふっ、頼りにしますよ?」

 

こうして大和を加えて朝食に向かったのが最近オープンしたばかりの料理店に足を運んだ。

 

「あ、これは面白そうですね」

 

店の壁に貼り付けられているポスターを見て、大和は興味を示した。

 

『三十分以内に三キロ分の料理を完食すれば賞金三万円!』

 

「三キロ・・・・・結構な量だけどこれ一人で食べないとダメみたいだぞ?」

 

「大丈夫です。お金はありますので」

 

そう言う問題か?と首を捻る一誠を余所に大和は意気揚々と店に入った。一誠も続いて入ると、

オープン仕立ての店は大勢の客たちが賑やかに料理を食べていて一目で繁盛していると分かった。

 

「いらっしゃい―――って、兵藤一誠!?」

 

「うわ、ここでも俺は知られているのね」

 

これじゃどこの店に訪れても同じ反応をされるんじゃないかって思っていれば、どこからともなく取り出した物を店員は一誠に突き出した。―――サイン色紙である。

 

「サイン下さい!」

 

「サインを要求された!?」

 

驚く一誠だが、サイン色紙に自分の顔と名前に参上!と書いて渡せばようやく開いている席に案内され、座席に座った。そして直ぐに大和は注文した。

 

「早食い競争をします」

 

店員は驚愕して厨房の奥へと姿を暗ました。それから少しして・・・・・三キロ分の肉じゃがを持って現れた店員が戻ってきた。周りから奇異の視線を感じ始める中、大和の早食い大会が始まったのだった。

 

「・・・・・」

 

開いた口が塞がらないとはまさにこのことだろうと一誠は悟った。たくさんの肉じゃがをひょいひょいと小さくて可愛い口の中に吸い込まれてゆき、少しずつだが量が減っていく。それから制限時間三十分以内に大和は

 

「ごちそうさまでした」

 

全て平らげたのだった。少女のお腹にあの量の料理はどこに入ってしまったんだと膨れている気配を感じさせないほどに―――。そう思っていた矢先、

 

「あのすいません。もう一度、早食い競争をします」

 

「「え”」」

 

大和の口から跳んでもない言葉が出てきたのだった。そして―――二度目の早食い競争が勃発したのだった。

 

 

「・・・・・あの店員、泣いていたぞ」

 

「どうして泣いていたんでしょうか?」

 

言っていいのか分からない。オープンしたての店はこの日、割り合わな過ぎる赤字という結果と成り、

『もう二度と大食いだなんて―――』と呪詛を漏らしていたのを。あれから片手で数え切れそうにないぐらいの早食いをしたら店側がもう降参だと白旗を振って、大量の賞金を貰った大和と店から出た。

 

「私が大食い大会や早食い大会をすると店員の皆さんはいつもあんな感じで」

 

ハングリーモンスター!?

 

「もう一度同じ店でそうしようと思っていたら何故かやって無くてとても残念です」

 

その理由を分かれば大和は抑えるのだろうか・・・・・。咽喉につっかえた言葉は口から出さず、敢えて何も言わないことにした。

 

「失礼だけど、大和先輩の家は金持なのか?」

 

「お金持ちかどうかわかりませんが、私の両親は代々とあるホテルを受け継いで運営しています」

 

「知ってますか?日之丸ホテルって」と訊かれる一誠は首を横に振った。

 

「それってどこに?」

 

「某県にホテルというより実家があります。私は女子寮で暮らしていますので」

 

そこで大和は思い付いたように手を合わせた。

 

「そうだ、一誠くん。女子寮に来ませんか?」

 

「まず第一前提に男が女子寮に入って良いのかと疑問をぶつけたい」

 

「女子寮に金剛さんたちも一緒に暮らしているので会いにいらっしゃっては?」

 

「む・・・・・」

 

金剛たちに会えるのならば吝かではないと思ってしまった。それに女子寮に金剛たちがいるとは初耳。

 

「兵藤たちは女子寮に入らなかったのか?」

 

「一度だけ、入ってきました。その時は丁度金剛さんの妹たち以外誰もいない時で・・・・・」

 

訊いた途端に顔を暗くする先輩に失言したと気付き、直ぐに謝罪した。

大和はその謝罪を受け入れ、一誠とオーフィスを女子寮へと連れて行った。

 

 

金剛は比叡、榛名、霧島と優雅にティータイムを有意義に過ごしていた。この部屋は辛い思い出があり、周囲の者たちから部屋を変えた方がいいと進言するが、辛さから逃げるのはよくないと四人の意思が強く、現状維持で過ごしている。

 

「んー、榛名と霧島の茶菓子は美味しいデース」

 

「そう言ってくれると嬉しいです」

 

「流石に彼には及びませんが口に合って何よりです」

 

敬愛する姉の褒め言葉に柔和な笑みを浮かべる。穏やかに姉妹だけの時間を過ごすこの瞬間は金剛たちがなによりも大切にしていた。そんな時間を申し訳なくノックをしてから入る大和が現れた。

 

「こんにちは」

 

「OH!大和、どうかしまシター?」

 

「うん、金剛さんに会わせたい人がいるんだけど」

 

「私に?」

 

誰だろうと大和が廊下に声を掛ける姿に首を傾げていると、ひょこっと見慣れた髪と顔の容姿の子供が扉に顔を出した。その子供を見た途端に金剛は目を輝かせて

 

「イッセー!」

 

黄色い声を上げて子供に抱きついた。比叡たちも驚き、近づいた。

 

「大和さん。どうして彼と一緒に?」

 

「ナンパされていたところを助けてくれたんです。それから一緒に昼食を食べて、話をしているうちに金剛さんたちと会わせたくなって」

 

「なるほど、そういうことでしたか」

 

一誠だけじゃなく、オーフィスもいることに気付き、この二人も外に出かけていたという認識をした霧島。

大和が一誠を誘うのは理解できるし、一誠の事はよく自分の姉に訊かされている。直接目と耳で一誠を知って他の兵藤とは違うことを分かっただろう。

 

「大和さん、彼はどうでしたか?」

 

「優しいですね。それにこうして金剛さんと一誠くんの姿を見れば他の皆も納得してくれるでしょう」

 

「おや、名前で呼び合う仲まで進展したのですか」

 

自分が知る限り名前を呼び合う仲まで進展した異性はいなかった。胸に抱きかかえ、頬をすり合わせる金剛と一誠を見て大和と微笑む。

 

「彼は姓で呼ばれるのは嫌みたいですし、私も彼ならいいと思って」

 

呼ばれる抵抗感は全くないと雰囲気を醸し出す大和。一誠にじゃれている金剛は満足して大和、一誠とオーフィスを加えて、金剛たちのティータイムと過ごすことになったのだった。

 

「む、美味しい紅茶だ」

 

「この紅茶は霧島が用意してくれるのデース。私の一番好きな紅茶でもあるんデスヨー?」

 

「そっか、ならいつか俺も紅茶を用意して霧島に打ち勝つとしようか」

 

「ふふっ、負けませんよ?」

 

自分が一番であろうとする負けん気が発揮する一誠と霧島。それから霧島が思い出したように言う。

 

「そう言えば兵藤・・・・・いえ、一誠くん」

 

「呼び直してくれて素直に嬉しいな。で、なんだ?」

 

「携帯で非公式新聞部の情報で知ったのですがリアス先輩が率いる眷属と一緒に若手悪魔のゲームに参加するそうですね?」

 

金剛たちも霧島の問いにウンウンと頷き、興味津々で目を一誠へ向ける。

 

「一誠くんなら勝ちますでしょう。頑張ってください」

 

「私たちも応援してますからイッセーはガンガンFIGHTしてくだサーイ!」

 

「榛名、全力で応援します!」

 

「お姉さまの応援を無駄にするなよ!私も応援するけど」

 

「大和も応援しています。頑張ってくださいね?」

 

金剛四姉妹、大和たちからのエールを送られてしまい「負けられなくなったな」と笑みを浮かべる。

 

「うん、絶対にリアスたちと勝つよ」

 

「我も」

 

「オーフィスは無理だろう」

 

周りからクスクスと微笑ましい笑みが零れるそんな時、

 

「金剛、ここに大和はいるか―――?」

 

ノックをしてから扉が開く時間は数秒。開かれた扉の向こうから腰まで伸びたロングストレートの黒髪に真紅の瞳。どことなく久しく会っていない川神百代を彷彿させる女性だった。

 

「・・・・・」

 

真紅の瞳は一誠をロックオン。ツカツカと近づいたかと思えば、

 

「この女子寮に男子の出入りは禁止だ。例え子供でもな」

 

一誠の襟を掴んでどこかへ連れて行かれてしまった。後に「ああっ!イッセー!?」と金剛の絶叫で我に返った面々は慌てて連れて行った女性の後を追うのだった。

 

―――○●○―――

 

『―――アザゼル、例の件だがどうだ?』

 

「お前の情報を全て鵜呑みにはできないが、お前の情報の下で対処する予定だ」

 

『一誠なら私の事を全面的に信用してくれるのだがな』

 

「あいつの立場がそんなことできるんだ。俺とお前の立場は相手の情報を容易く信用しちゃならねぇ」

 

『だが、ディオドラの件に関しては信憑性が増してきただろう?』

 

「・・・・・ああ、そうだな。あいつらには悪い事をする」

 

 

 

「そろそろ時間ね」

 

「・・・・・こんな真っ昼間から若手悪魔同士のゲームをするなんてな。しかも授業ときたか」

 

リアスがそう言い、一誠は微妙な気分で発する。決戦日。グレモリー眷属+αとしてオカルト研究部の部室に集まっていた一誠。

 

「丁度、私のクラスはディオドラのクラスと戦う予定だったみたいなの。だから若手悪魔同士のレーティングゲームをするなら授業に則ってすれば一石二鳥だって言われたわ」

 

悪魔もぶっちゃけたな。一誠はこの学園にはいないはずの一人の眷属であるレオーネに話しかけた。

 

「レオーネは普段どこで何をしてるんだ?」

 

「自由気ままに生活してるぜ?勿論、家の仕事をこなしてるし」

 

「んじゃ、黒歌とは?」

 

「すっかり仲良しだ!」

 

仲がいいらしく、なるほどと納得する。中央の魔方陣に集まり、転送の瞬間を待つ。

 

「ああ、そうだ。リアス」

 

「なにかしら」

 

「ディオドラの事だが、色々と分かったことがある」

 

その一言でリアスの顔に真剣味が帯びた。

 

「言ってちょうだい」

 

「一言でいえばゲスなやつだ。あいつの眷属、元聖職者で構成されたメンバーしかいない」

 

「―――っ」

 

全て理解した訳ではないが、リアスは何かに気付き、怒気が孕んだ瞳に怒りの炎が。

 

「他に分かったことは?」

 

「元聖職者がどう言った事情で転生悪魔になったかは不明だけど、ディオドラの言動からすればオトしたんじゃないか?巧みな言葉でだったり、女性にとって嬉しいプレゼントを送ったりしてさ」

 

アーシアには聞こえない程の声でリアスの耳に囁く。

 

「聖職者をオトすことが生き甲斐、もしくは趣味。どっちにしろ、アーシアの敵に何ら変わりは無いってことだ」

 

「もしもそれが本当だったとしたら、ますますアーシアを渡す訳にはいかない。イッセー、遠慮はいらないわ。私たちの為なんて思いを捨てて思う存分に蹴散らしてちょうだい」

 

「前回のソーナ先輩みたいな規制がなければ、な?」

 

どちらにしろ、暴れさせてもらうと付け加えた。そんな頼もしい異性に心底信頼するリアス。

そして、魔方陣に光が走り、転送の時を迎えようとしていた―――。

 

 

 

「あっちはおっぱじめたようだよ」

 

「こちらも動くとしよう。私たちにとって強大な敵を足止めの形にしてくれるのだからね」

 

「だが、これは何の意味がある?」

 

「意味はあるさ。―――英雄のクローンなんて、そんなの英雄ではないただの模造品、私たちの偽物でしかない」

 

 

 

魔方陣の眩い輝きから視力が回復し、目を開けて見ると―――。そこはだだっ広い場所だった。一定間隔で太い柱が立って並んでいる。床は石造りだ。

周囲を見渡すと、後方に巨大な神殿の入口。ギリシャ辺りにありそうな神殿風景。

 

「授業の一環だから学校だと思ったけど、若手悪魔のゲームを優先にした違うフィールドにしたってところか?」

 

「私も詳しくは訊いてないのだけれど・・・・・」

 

一誠の訊ねにリアス自身は答えに困っていた。どんなフィールドでするのかは運営側が決定する手筈。

選手たるリアスたちからすれば現地に訪れるまでは何も知らされず転送される。

よって今回のようなフィールドであることも知らない。

 

「・・・・・おかしいわね」

 

リアスが言う。他のメンバーも怪訝そうにしていた。何時まで待っても、経っても審判役のアナウンスなど聞こえてこない。

 

「今までとは様子が明らかに違うな」

 

一誠も何かに察して身構えた時だった。神殿と逆方向に魔方陣が出現する。しかし、その魔方陣はリアス、一誠たちが驚かせるのだった。

 

「・・・・・アスタロトの紋様じゃない!」

 

イザイヤが叫び剣を構えた。一誠にとって見たことのない魔方陣が、数えきれない数の魔方陣が辺り一面、一行を囲むように出現していく。

 

「やられたな」

 

「イッセー、まさか知ってたって言うの?」

 

「知ってたら、とっくの昔に対処に動いていたさ。というか、俺だって驚いている。またこんな形でテロリストに襲撃されるんだからな」

 

となれば―――。

 

「あくまで予想だがもしかすると。現実世界=学校にも襲撃が遭っているのかもしれないな」

 

『―――っ!?』

 

 

 

一誠の予想はまさしく的を得ていた。平和的な学校生活は今日も変わらず過ごすと誰も当然のように思っていた。

だが、リアスたちがいなくなったと同時に―――白昼堂々と学園を囲むようにして数多の魔方陣が出現し、ローブを深く被る魔法使いのような一団、戦意と敵意の雰囲気を醸し出す悪魔の一団が一斉に現れては躊躇もなく攻撃を仕掛けた。

 

 

「まさかっ!」

 

「あくまで予想だ。そうでないかもしれない。しかし、目の前の現実を受け入れないとな」

 

「・・・・・そうね。ここから切り抜けないと次が進めないわ」

 

臨戦態勢の構えをするリアス。軽く周囲に視線を向けて確認するように告げた。

 

「大雑把で数えると千単位ぐらいだが、体力と魔力は保つか?」

 

「あなたという心強い味方がいるから大丈夫よ!」

 

と、リアスは力強く言った。そうか、と内心呟き口角を上げる。

 

「そう言ってもらえると、俺も頑張らなくちゃいけなくなるよ―――なっ!」

 

「―――」

 

アーシアの頬を掠りそうになるほど、振り向いた瞬間に正拳突きをした一誠の拳は

 

「ぶへらぁっ!?」

 

純粋無垢な少女に魔の手を伸ばしていたディオドラの顔面に突き刺さった。

ディオドラの気配を察知できていなかった面々は驚きで目を丸くし、唖然と一誠に視線を送った。

 

「よぉ、ドラゴンから簡単に奪えるなんて思ったら大間違いだぞディオドラ?」

 

顔を抑えて屈辱で塗れた歪んだ表情を一誠に睨みつけるディオドラ・アスタロトだった。

 

「さて、お前がアーシアを狙った時点でテロリストに加担しているという事は明白となったわけだが、何か弁解でもあるかな?」

 

「弁解・・・・・?ふふっ・・・・・バカだね」

 

「あ?」

 

ディオドラは両腕を横に広げて高らかに言い放った。

 

「キミが相手をしていた兵藤の奴ら以上の数とその実力以上を持っているエージェントに魔力が増大したこの僕に勝てると思っているのかい?」

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・・。

 

「傲慢になりたくないが。うん、勝てると普通に思ってるけど」

 

リアスと朱乃ですら、ウンウンと一誠に同意していた。

 

「というか、数で勝てる相手だと俺は思われているのか?だとしたらそれは大間違いだ」

 

「素直にアーシアを渡せばリアス・グレモリーたちを無事に現実世界へ戻せるのに愚かな奴だ」

 

「悪魔のお前がそんな口だけの事を信用できるか」

 

「そうかい。なら・・・・・ここで散ればいいさ!」

 

ディオドラの言葉が合図と判断し、テロリストたちが魔力弾を放った。

リアスたちは反応するが、一誠に制された。「俺がやる」と言って片腕を掲げて何をするのか様子を見ていた。

数多の魔力弾が何かに引き寄せられ一誠の手に集束し始めた。一つになり次第に大きく膨張していく光景に誰もが目を張った。

 

「返すぞ」

 

全ての攻撃を集めたソレを周囲へ乱れ撃ちを始めた。魔方陣で防御する悪魔もいたが、魔方陣ごと貫かれ消滅する事実に相殺し始める者には、魔力を打ち消されて貫かれてしまう運命を辿る。結果、返された攻撃で半数も減ったテロリストたち。

 

「んで」

 

チャクラムを模した聖なる光を投げ放った。それに付け加えるように極光の魔力の砲撃を当てれば一気に多く分離して縦横無尽に宙を駆けては残りのテロリストたちを切り裂き、チャクラムの真ん中の空間から形を崩して砲撃という遠距離攻撃を行って屠っていく。

 

「す、すげぇ・・・・・」

 

「私たちの出る幕がないわね」

 

「どんだけ強いんだよお前って」

 

リアスたちからの驚嘆に不敵に笑む。

 

「世界中に旅をして修行もすれば否が応でも強くなれるものさ。思いもしない攻撃の仕方やその方法、色んなバリエーションを試しては思考錯誤する。子供の頃からずっとしてきたことだぞ」

 

「兵藤家たちにこの技をしなかったのは?」

 

「別にする必要は無かったから―――だ」

 

地面に強く手を叩きつけた刹那。リアスたちやディオドラの周囲の地面から光の壁が出現した。

一拍して光の壁がなくなれば、テロリストたちの姿はどこにも見当たらなくなっていた。

 

「こんな広範囲の攻撃だってできるわけだしな」

 

圧巻と開いた口が塞がらなかった一行。もしかすれば、自分たちが思っていた以上の力を有しているのではないかと思わずにはいられなかった。

 

「と、こんな感じで俺は強さを見せつけたがディオドラ。まだ、戦う意思は残っているか?」

 

「っ」

 

ジリ、と足を後ろへ動かした。ここまでとは予想外も良いところだ。兵藤一誠の実力は計り知れないと悟るディオドラは冷や汗を浮かべながら不敵に笑みを浮かべた。

 

「大した強さだね。だけど、僕を倒すのにまだまだだよ」

 

「・・・・・」

 

「なんたって僕はアガレスを倒した。今度はサイラオーグにも勝つ予定だ。情愛深いだけが取り柄のグレモリーなんかに負けるはずがない。この、最強のドラゴンの力を得た僕にはね!」

 

手の平に浮かべる互いの尾を噛みつく二匹の蛇の紋様の魔方陣。

怪訝な顔つきとなる一誠はどういうことだと説明を求めた。

 

「いまのテロリストには二匹のドラゴンがトップに君臨している。その内の一匹が最強のドラゴン、第二のオーフィスがいるんだよ!」

 

―――っ!?

 

「そう、無様に負けた兵藤一誠。キミから奪ったオーフィスの力を具現化にしたもう一匹の龍神がから直々に最強の魔力を得たんだ!」

 

高らかに威勢よく告げられた新事実。リアスたちは絶句した。もう一匹の最強のドラゴン。オーフィスと遜色のない魔力とその実力であれば、今のテロリストは驚異的な存在と力を有している事になる。

ディオドラから増大する魔力を肌で感じ、嘘ではないという証明も明らかになった―――。

 

「だが、その使い方がなっちゃいなければ宝の持ち腐れだ」

 

何時の間にかディオドラの背後にいて、肩に手を置いた一誠。

 

「最強は最強だ。最強でも倒せれる。そんだけだ」

 

「なに―――っ!」

 

ゴッッッ!

 

顎に打撃を与えて脳震盪を起こさせた。

 

「がっ!?」

 

「眠れ」

 

胸倉を掴んで勢いよく地面に叩きつけてディオドラの顔を沈めた。

 

 

 

同時刻、現実世界では―――。

 

「ヴァーリの言った通りになってしまいやがったな」

 

「そのおかげで対処が整っていなければもっと被害が甚大だったはずだよアザゼルちゃん」

 

「娘っこには感謝しねぇとなっ!」

 

拳で殴り飛ばし、敵数人も巻き込ませるユーストマの打撃はハンパではなかった。

 

「しかも、妙に魔力が高い奴らばっかりだし、魔力を吸収する可笑しな力を使いやがるな」

 

「ソレは報告で聞いていないのかい?」

 

「残念ながらそこまでは聞いてねぇーよ。ヴァーリもどこまでも調べられるわけじゃないみたいだしよ」

 

数多の光の槍を豪雨の如く放ってテロリストの数を減らす。

 

「で、避難の方はどうだ?」

 

「大方順調だ。生徒たちは皆地下に向かってる」

 

「戦える生徒は自主的に前線に立ってもらい、後衛組は生徒の避難の誘導と護衛」

 

「殆ど前線に式森のガキどもしかいないってのがおかしな話だよな」

 

アザゼルが視線を見上げれば、空中に浮遊して迎撃に臨んでいる和樹たちの姿がいた。

他にもサイラオーグ、ソーナ、イリナたち教会組、クロウ・クルワッハと戦える一誠の家族たちも学園の防衛や迎撃していた。その中には兵藤家もいるが数少なかった。主に神器(セイクリッド・ギア)を有している兵藤しか前線にいない。

 

「あれだけ偉そうに踏ん踏ん反り返っていたガキ共は怯えて避難しているのかよ。男じゃねぇなおい」

 

「まーまー神ちゃん。戦える意志がある者だけが自分の意思で行動してくれたほうがこちらも大助かりだよ」

 

「邪魔にならないだけマシってことだな」

 

そんな三人の前に一人の男性が現れた。

 

「俺は真の魔王となる者、クルゼレイ・アスモデウス」

 

「今回の首謀者の一人が現れたか。こいつは好都合だ」

 

真の魔王となると言う悪魔に対して微妙な気分となる。

 

「お前、現魔王に対して何が不満だって言うんだ?」

 

「全てが不満なのだ!たかが人間たちに横やりを入れては本来勝てるはずだった戦争を終わらされた!しかもあの者は、あの現魔王たちは敵と手を組んでこのおかしな町を作り上げたのだぞ!なにが共存だ、何が平和だ!そして全ての元凶である兵藤家と式森家の一族!許し難い!」

 

全身から発する怒気のオーラ。アザゼルたちは一度だけ顔を見合わせる。

 

「もしかすっと、今回の襲撃は兵藤と式森を狙った?」

 

「だとすれば、いま前線にいる彼らは狙われているはずだね」

 

「だが、その割には普通だよな」

 

テロリストたちよりも実力が上回っている前線にいる和樹たち式森と赤龍帝である誠輝を筆頭に戦っている兵藤。

もしも狙われているのであれば執拗に襲われている。であるはずなのに、そんな雰囲気は感じないどころか戦いなんてしていない。

 

「ふん、俺たちの目的はこの目障りな学び舎の徹底的な破壊、そして―――」

 

クルゼレイはハッキリと言った。

 

「兵藤、式森の血を受け継いでいるグレートレッドとオーフィスの力を有するドラゴンの鹵獲、もしくは抹消だ」

 

「「「―――っ!」」」



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エピソード48

()

 

兵藤一誠の鹵獲、抹殺の目的のテロ行動。アザゼルは驚いたものの直ぐに否定した。

 

「そいつは無理だな。なんせ、あいつは世界中に存在する神々から稽古をつけられたとんでもねぇイレギュラーな存在だ。その実力はお前ら如きがどうすることもできない強さを有している」

 

「愚かな。例えそうであっても強者には必ず弱点というものがある」

 

弱点・・・・・その言葉にどうも嫌な予感を覚えた。まさかとアザゼルはある予想が浮かんだ矢先。

クルゼレイの肩に並ぶように二つの魔方陣が出現して―――。

 

「うっひゃっひゃっひゃっ!こんちわー!久し振りだねーどのぐらいっかな?」

 

「んなっ!?」

 

二人の男性。一人の男性はともかく、もう一人の男性―――いや、聞くに堪えない笑い声をする銀髪の初老の男性に酷くアザゼルは狼狽した。フォーベシイもユーストマも目が飛び出んばかりに見開いて絶句した。

 

「何の冗談だい・・・・・」

 

絶対零度のような冷たい声音で初老の男性に問いを求めたフォーベシイ。初老の男性は嬉々とした態度を変えず、言った。

 

「んーと、最近とんでもなく面白い事が起きたってとある情報を提供してくれたからさ、今度はもう一度その間近で見てみたいんだよねー?だ・か・ら。またその現象を見たくてテロになってみたんですハイ!」

 

「バカな、どうしてキミがそれだけの理由で・・・・・っ」

 

「おいおいフォーベシイのおじさん。それだけの理由はないだろう?俺ってば、半永久的な生の中で退屈で退屈で生きた屍のように生きていたんだぜ?ただ生きるだけのつまらない人生より、刺激を与え、与えてくれる生き甲斐を求めたくなるもんだって」

 

呆れ顔で溜息を吐く初老にアザゼルが話しかけるのだった。

 

「てめぇが表に出てくるとロクでもないことだけしかならない。今すぐ冥界でもう一度隠居でもしていろ。そうすればなにもなかったことにだけはしてやる」

 

「えー!いやだねー!べーだ!」

 

「こんのぉっ・・・・・!」

 

子供のように反抗する初老の男性を歪んだ顔で睨むアザゼルとユーストマ。対して初老の男性はクルゼレイたちに促した。

 

「そんじゃ、やることはやったし俺たちもゲームの中にレッツゴー!」

 

「やることはやった?どういうことだ」

 

「んー?ああ、それはねー?」

 

ここで初老の男性は狂喜の笑みを浮かべた。

 

「坊ちゃんの大切で大事でだーい好きなメイドを拉致ったんだよねー」

 

「・・・・・おい、まさかっ」

 

「ふっふっふー。俺たちが何をしようとしているのか知りたいならゲームの中に来てみれば分かるぜい☆」

 

アザゼルが何かを察し、焦心に駆られた言葉が出たことに初老の男性は嬉しそうに笑みを浮かべて―――。

 

「それじゃ味方の皆さん!ここはもういいや、次はゲームの中に行きますよー!」

 

他のテロリストの集団に声を掛ければ一足早く三人が魔方陣の光に包まれて消えていく。

 

「待てっ!」

 

 

 

 

「・・・・・外に出られない?」

 

「ええ、何か強力な力で遮られているような・・・・・」

 

ディオドラを捕縛して人間界に戻ろうと転移を試みたリアスだったが、戻れない事実に困り果てていた。

顎に手をやって考える一誠。それから色々と考えた結果を漏らす。

 

「いっそのこと、次元の狭間に突っ込んでそこから人間界に戻るか?」

 

「多分、いえ、きっとそれしかないわね」

 

「一誠くんだからこそできる荒技ですね」

 

「では、そうしましょう。外がどうなっているのか心配です」

 

一誠の提案に賛同する。「それじゃ」と準備に取り掛かろうとしたその時。また一行を囲むようにして魔方陣が出現した。

 

「連戦?第二派?」

 

「今度は私たちも戦いましょう」

 

「あらあらうふふ。ええ、そうしないと強く成れませんものね」

 

テロリストたちが姿を現す。だが、今度はどこか違った。格上の者らしき者たちが真っ直ぐリアスたちを見詰めているのを理解し、警戒の色を濃くした。

 

「あれれ?先に入ってもらった味方が一人もいないじゃん」

 

「ふん、無様な姿だなディオドラ・アスタロト」

 

「だが、作戦に支障はない」

 

誰・・・・・?リアスたちは警戒しつつ現れた三人に疑問を抱いた。一誠を除いて。

 

「なんで・・・・・」

 

「イッセー?」

 

「うわ・・・・・マジかよ」

 

残念そうに漏らす一誠に視線が集まる。

 

「イッセー、あの三人は誰だか知ってるの?」

 

「一人だけなら知ってる。あの初老の男性は特に」

 

一誠の声が聞こえたようで、笑みを浮かべながら降りてくる初老の男性。

 

「うひゃひゃひゃっ!おっひさー坊ちゃん。十年振り?それとも数年振りだっけ?」

 

「久し振りなのは変わらないよ。だけど、まさかお爺ちゃんまで敵になるなんてどうして?」

 

「へへっ!俺、もう一度坊ちゃんを介して見てみたいんだよねぇ?それと欲しい物も!」

 

何を?怪訝になったが直ぐに理解した。

 

「この世界に存在しない異世界の神と接触する瞬間!異世界は存在していると言う証をだよ!」

 

子供のようにもう一度見たいとはしゃぐ初老の男性。一誠だけじゃなくリアスたちも気付いた。

身に覚えのない神格を一誠に与えた神の事を。一誠自身も一方的ながら異世界の神と接触を果たした。

 

「お爺ちゃん、それをもう一度見たいにも俺が自由にできるわけじゃないんだけど」

 

一誠の困った顔と発する言葉にウンウンと頷く初老の男性。

 

「そうだよねー?そうだよねー?俺も分かっているよ坊ちゃん。―――だからさ、なにがなんでも見せてもらおうっと寸法なのさ」

 

二人の間に一つの魔方陣が現れる。魔方陣を見詰める一誠の視界に弾く光と同時に現れた銀髪のメイドに動揺する。

 

「リ、リーラ・・・・・?」

 

銀の十字架に張り付けられたリーラ・シャルンホルスト。本物かどうかなど、一誠は疑う前にどうしてこの場に現れ縛られているのかという戸惑いが強く、目を疑った。

 

「そう!坊ちゃんの大好きなメイドちゃんでーす!あれから随分と会ってもいないのに全然変わってないよねー?うひゃひゃひゃっ!」

 

「・・・・・お爺ちゃん、リーラをどうする気」

 

声に感情が無くなった。冷静であろうとする一誠の雰囲気を感じ取り、初老の男性はにんまりと口を歪めた。

 

「坊ちゃん。大切なものを目の前で失った経験はある?」

 

「―――まさか」

 

声を失う。初老の男性がしようとしていることを、一誠は明確に悟った。初老の男性は手元に魔方陣を展開してリーラの背中に向けて腕を伸ばした。

 

「ごめんねー?ボクちん、大切なものを失った経験は無くてさ。寧ろ奪う方なら何度もあっちゃったりするんだよね!」

 

「お、お爺ちゃん!や、やめ―――!」

 

「止めて欲しい?」

 

口角をどこまでも吊り上げて歪んだ笑みを浮かべる。魔方陣を展開したまま初老の男性はこう言う。

 

「んじゃぁさ?坊ちゃんが持っている聖杯をおじいちゃんにプレゼントして欲しいなぁー?」

 

「聖杯・・・・・?」

 

「そ、聖杯。坊ちゃんが持っているってのはもう分かっちゃっているんだぜぃ?だから、聖杯をくださいな。そーすれば坊ちゃんの大切なメイドを―――」

 

「持ってけドロボー!」

 

ブンッ!と初老の男性の言葉を遮って聖杯を投げ放った。真っ直ぐ聖杯は初老の男性にぶつかる前に男性の手の中に収まった。

 

「はやっ!?最後まで話を聞くもんだぜ坊ちゃん。でも、ありがとう!おじいちゃんは嬉しいです!それじゃ、ほれ」

 

リーラのメイド服の襟を掴んで一誠のところに放り投げる。向かってくるリーラを両腕を

広げて胸の中に収めようとする―――。その時、リーラがうっすらと目を開けた。

今の状況に気付いているのか、判断できているのかわからない。が、これだけ言えた。

 

「一誠さま・・・・・」

 

「リ―――」

 

カッ!と光に包まれリーラだった。その光景に思考と視界が一瞬だけ真っ白になり壮大な爆発音が弾けたような音を轟かせ―――リーラ・シャルンホルストは肉片と化となった。

 

「                                     」

 

目の前が真っ白になった。思考が停止し、石のように身体が動かなくなった。

 

 

いま、何が起きた・・・・・?

 

理解できない、どうなったのかもさっぱりわからない・・・・・・

 

顔に掛かるこの生温かく口の中に広がる鉄の味はいったい・・・・・

 

 

「そん、な・・・・・っ」

 

「ああ、あああ・・・・・っ」

 

「酷い・・・・・っ」

 

リアス、朱乃、白音が悲痛な面持ちで目の前の現実に受け入れ難くいた。こんなことがあって良いはずがない。

これからもあの人は愛しい人の傍で支えて生きて、幸せになるべきだった自分たちよりも深く一誠を知り、愛情を注いでいた女性が―――死を見せ付けられた。

 

「あの野郎っ・・・・・!」

 

「外道・・・・・っ!」

 

「ああ、絶対に許しちゃダメな類だ」

 

「・・・・・っ」

 

成神、イザイヤ、レオーネ、アーシアも同じ心境だった。目の前で殺すことを愉快に楽しんだ初老の男性に殺意さえ覚えた。アーシアは静かに涙を流し、悲しみにくれた。

 

「あれ~?」

 

不思議そうに初老の男性が首を捻った。

 

「坊ちゃん、なんか反応をしてよ。じゃなきゃ、俺がつまらないじゃん!」

 

「いや、今がチャンスだと思いますぞ」

 

「今すぐ兵藤一誠を捕えてから続きをするのも一興だと」

 

「んー、そうするとしてもまだ足りないのかなー。あ、そうだ。今度は坊ちゃんのおばちゃんとおっちゃんにもメイドちゃんみたくすれば―――今度こそ反応するよね?」

 

ピクッ。

 

僅かに反応した。それを良くした初老の男性だった。

 

「うひゃひゃひゃっ!うん、やっぱそうしよっと!そんじゃ、坊ちゃんを捕まえてくれるかなー?今なら、無抵抗でしょ」

 

「わかりました」

 

クルゼレイが合図を出せば、数人のテロリストが一誠の回りに降り立って具現化させた魔力の拘束具を施した。

 

「呆気ないものだな。たかが一人の人間の死だけでこうも無力となるものか」

 

「そりゃ、しょうがないっしょ?大切なものが目の前で無くなったんだからさー」

 

そう言うが、表情は明らかに嘲笑っていた。リアスたちの怒りは最高潮に達した矢先、

また新たな多くの魔方陣が出現した。

 

「お前ら!―――くそ、既に遅かったか!?」

 

「アザゼルっ!」

 

「え、これ・・・どういう状況?」

 

味方がやって来てくれたことに嬉しく思い、余裕ができた。事情を知る者や知らない者が周囲を見渡す。

魂がない、生きた屍のような一誠を見れば事情を知った者は酷く悲痛な面持ちとなる。知らない者は何か遭ったのかという疑問を抱く。

 

「一誠くん!」

 

ルーラーが声を掛けても無反応。

 

「リアス先輩、ここで一体何が起きたんですか?」

 

和樹はリアスに説明を求めた。

 

「・・・・・っ」

 

咲夜はボロボロに四散したメイド服の切れ端と一本の銀の糸で把握し、この状況に理解したようで目を丸くして涙を流した。

 

「・・・・・イッセー?」

 

オーフィスは周りにいたテロリストを無視して近づき一誠を揺らす。

 

「・・・・・」

 

クロウ・クルワッハは静かにこの状況を観察する。

 

「あーあー、アザゼルのおじさん。来るのが遅かったじゃん。もう終わっちゃったよ?」

 

呆れ顔で発する初老の男性の言葉にユーストマが怒りを露わにして殴りかかろうとした。しかし、アザゼルとフォーベシイに抑えられてしまった。迂闊に近づくなと思いを込めて。

 

「やめろ!」

 

「このくそアザゼル!坊主の気持ちが分からないってわけじゃないだろうがぁっ!まー坊も放しやがれぇっ!」

 

「アザゼルちゃんの言う通りだよ!まだ、何が起きるのか分からないんだから!」

 

三人の様子を見て状況を把握できない面々は怪訝になる。

 

「・・・・・アザゼル、彼らは一体誰なのか教えてちょうだい」

 

リアスが求める。この騒動の元凶であることは十中八九間違いない。暴れるユーストマを必死に抑えつつ、

答えた。

 

「現魔王の親類どもだ」

 

「まさかっ!?」

 

「一人はクルゼレイ・アスモデウス。もう一人は大方ベルゼブブの親類だろうよ。そしてあの銀髪の男は―――」

 

悔しげに奥歯を噛みしめ、告げた。

 

「前魔王のルシファーの長男であり現魔王ルシファーの弟。ヴァーリの祖父にあたるリゼヴィム・リヴァン・ルシファーだ」

 

『ルシファー!?』

 

「ちゃお~♪そーです、俺っちの名前はリゼヴィム・リヴァン・ルシファーです!たまにリリンなんて呼ばれているけどねー。そこんとこ夜・露・死・苦!うっひゃっひゃっひゃっ!」

 

少年少女たちが驚くもう一人のルシファーの存在。それがテロリストとして姿を現し、一誠に深いダメージを与えた。状況に察知できず、理解に追いつかないでいる。また謎が一つ増えたのだから。

 

「なんで、現魔王の弟がここにいるんですか・・・・・」

 

「それは勿論、坊ちゃんを介して異世界のことを知りたいからだぜ!」

 

「坊ちゃん・・・・・?」

 

龍牙が怪訝に皺を寄せたことでアザゼルが補足する。

 

「一誠のことだよ。あの野郎もまた、誠と一香と交流しているんだから一誠の事を知ってもおかしくは無い」

 

「そーいうこと!んで、今そのまっ最中なんだよねー。邪魔、しないでね?」

 

「邪魔って・・・・・」

 

「坊ちゃんにしかできないことだからさ。目の前で大切なものを失わせればもしかしたらって思って実行したんだけどさぁー?見ての通り、うんともすんともしなくなっちゃって困っているんだよ。早く異世界のこと知りたいのにさ」

 

大切なものを目の前で失わせる。事情を知っている者とリアスたち以外の面々は何の事だかわからない。

そんなことしてもどうにかなるもんじゃないことをわかっているはずだ。

 

「あなたは、彼の何を目の前で失わせたんですか?」

 

それは禁句だった。

 

「当然、坊ちゃんの大切なメイドに決まってるっしょ?」

 

『―――っ!?』

 

ハッキリと理解した。一誠が魂の無い抜け殻のようになっていることを。そして、リアスたちやアザゼルたちの反応も頷ける。

 

「殺した、の?リーラさんを」

 

震える声を発するイリナ。もしもそうだったら、一誠の精神はどうなるか分かり切っている。

 

「殺したというよりこうボンッ!って爆発してみました!いやー、爆発すると血が花火を見ているようで周囲に飛び散ったぜ!ほら、点々と赤くなってるでしょ?あれ、坊ちゃんのメイドの血だぜ?肉体なんて木端微塵だからなくなっちゃった。てへっ♪」

 

―――っ。

 

許せない―――。それがこの場にいる全員の気持ちだった。

 

「・・・・・アザゼル先生」

 

和樹が一歩、また一歩と前に進みだす。

 

「相手はテロリスト。生死は問いませんよね」

 

全身から滲みだす魔力が徐々に溢れる。

 

「彼の気持ち、兵藤一誠の気持ちはよく分かりますよ」

 

手に魔力を圧縮、集束させる。

 

「僕にも大切なメイドがいます。彼と同じ事が起きたらきっと僕もショックを受けるだろうから」

 

極限まで米粒ほどの魔力にすればリゼヴィムたちに向けた。

 

「彼がしたかった事を、彼が望む事を僕が代わりに果たしてみます」

 

「・・・・・それであいつの気が済んでもらえるなら構わない。やれ」

 

「ありがとうございます」

 

刹那。解放された米粒ほどの魔力は大気を震わせ、地面を深く抉り、レプリカのフィールドに亀裂を生じさせるほどの砲撃がリゼヴィムたちに襲いかかった。誰もが見えを見張るほどの極太の魔力の砲撃。

 

「流石は次期式森家当主と肩書を持っているだけのことがある。・・・・・だがな」

 

「はーっはっはっはっ!」

 

黒い十二の柱が笑い声と共に現れた。和樹の魔力は黒い柱に防がれ始め、あろうことか受け流したのだった。

 

「なんだとっ!?」

 

カリンが驚愕した。あんな膨大な魔力の砲撃を受け流したリゼヴィムは殆ど無傷でその場に立って、クルゼレイたちまで守り切ったのだった。

 

「うーん、さっすがは魔法使いの代名詞と称されたこともある式森くんだねー。うんうん、お爺ちゃん、っびっくらこいた!」

 

「・・・・・本気だったんだけど、酷くプライドを傷つけられちゃったよ」

 

チッチッチッ、「甘い甘い」と人差し指を左右に動かすリゼヴィム。

 

「これでも俺は前魔王の息子だぜぃ?実力も魔王並みなのさー!」

 

「だったら―――!」

 

ルーラーが禁手(バランス・ブレイカー)になって巨大化にした炎の剣をリゼヴィムに目掛けて振り下ろした。

 

「聖なる炎で焼失してしまえ!」

 

「待て!」

 

アザゼルの制止は既に遅く、リゼヴィムに炎の剣の刀身が届いた。のに、リゼヴィムは何事も無かったようにその場に立っていた。

 

「避けられた?」

 

「いや、間違いなく直撃していた」

 

「でも、じゃあなんで・・・・・」

 

ゼノヴィアやユウキからも直撃したと認知していた。しかしそれが疑問だった。

 

「お前ら良く聞け。あいつには、リゼヴィムの野郎には神器(セイクリッド・ギア)は効かん」

 

「効かないってどういう・・・・・」

 

そのまんまの意味だと全員に聞こえるように説明し出す。

 

「あいつは悪魔の中で特別な力を有している超越者の一人だ。『神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)』。あらゆる神器(セイクリッド・ギア)によって高められた力、能力は全て無効化する。だから、お前の神器(セイクリッド・ギア)でも無効化される」

 

「じゃあ・・・・・イッセーの神器(セイクリッド・ギア)も無効化されるってことなの!?」

 

「そうだ。だが、一誠の無効化の力も無効化されるかどうかは分からない。それでもあいつには神器(セイクリッド・ギア)の力は全て無効化され効かないんだ」

 

リゼヴィムの超越者としての能力にルーラーは歯を食いしばる。自分の力が討伐すべき相手にあっさりと無効化されるなんて屈辱ものだろう。

 

「そうそう。だから無駄な事は止めましょうねー」

 

「だったら、魔力でならどう!?」

 

「おっと、坊ちゃんまで当たるけどいいのかなー?」

 

「なっ・・・・・」

 

愛しい異性が盾にされては手も足も出せない。それはこの場にいる一誠の味方がそうだった。

 

「悪魔らしいやり方だわ!」

 

「褒め言葉として受けとくぜい!」

 

ゲラゲラと笑うリゼヴィムが真紅の頭にポンポンと調子よく叩き始める。

 

「さてと、坊ちゃんは捕まえたことだし俺たちも帰ろうぜ」

 

「我、させない」

 

「ぬぉうっ!?」

 

龍神としての力を発揮するオーフィス。リゼヴィムに向けて魔力を放って一誠から遠ざけた。

 

「お前ら、リーラを殺した。我、許さない」

 

「うっひゃっひゃっ!オリジナルの龍神ちゃんのお怒りだねー」

 

「オリジナル?」

 

「そ、なんだか英雄派の奴らが第二のオーフィスを作ったって言うんじゃん?実際に見に行ったら本当にいたんだよねー。いやー、凄い凄い」

 

パチパチと軽く拍手をするリゼヴィムに対してもう一人の自分がいることを知って「そう」と言うだけで大した関心を持たなかった。

 

「我は我。イッセーを守る。リーラの仇を取る」

 

それだけが今のオーフィスを突き動かす原動力だった。

 

「                                」

 

「?」

 

オーフィスが何かに反応を示した。一誠の唇を凝視すると微かに動いているのが分かった。

 

「・・・・・リーラ」

 

ポツリと漏らした一誠の声を今度はハッキリと聞こえたと思えば、

 

『リアス・グレモリーたち。今すぐこの場を離れろ。死にたくなければすぐに退去したほうがいい』

 

ゾラードの声。周囲にも聞こえるように発声した。敵味方関係なく足を停めた。どういうことだとリアスたちは怪訝な表情をした。

 

『そこの悪魔。リゼヴィムと言いましたね』

 

今度はメリアの声が聞こえる。

 

『―――愚かな事をしてくれた』

 

今度はアジ・ダハーカが。

 

『何よりもやってはいけないことをしたな』

 

ネメシスが何かを悟ったように発声し。

 

 

『『『『―――お前は選択を間違えた』』』』

 

 

一誠の内にいるドラゴンたちが心身を底冷えさせるほど、無感情の一声を発したのだった。

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!

 

地面が大きく揺れ、一誠が真紅のオーラを発していく。そのオーラは次第に高まり、大きくなっていって、周囲を赤い輝きで照らし始めた。

 

「あのオーラは・・・・・っ!」

 

「拙い、皆、一旦ここから退去するんだ!」

 

「全速力でだ!」

 

アザゼルたちが叱咤しつつ催促した。衝動的に駆られてその通りにする者もいれば。

 

「いっくん・・・・・?」

 

「一誠くん・・・・・」

 

「イッセー・・・・・」

 

唖然と一誠の異変に目を向けたまま動こうとしない面々もいた。そんな面々の視線の先に―――。

 

「リーラ・・・・・」

 

人の形を崩し、巨大化していく。

 

「リーラ・・・・・ッ」

 

人で無くなり極太で長い鎌首にトカゲのフォルムの頭部、

 

「あああ・・・・・・っ」

 

巨大な真紅の身体に巨大なニ対の翼が生え出し、岩をも切り裂くことができそうな巨大で鋭利な爪を大きくなって手と共に伸び、大地を踏みしめる巨大な足、全てを薙ぎ払う長大な尾。

 

『あああああああああああああああああああああああああっ!』

 

全長百メートルはあろう巨大な真紅へと変貌した一誠が天に向かって吠えた。

 

『リーラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッッッッッ!』

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 

獣の叫びにも似た声を発し、周囲に破壊を齎した。

 

 

 

世界と世界の狭間に存在する次元の狭間。無の世界とも言われているその場所にヴァーリたちが何かを探し求めて移動していた。

 

「なぁ、ヴァーリ。本当にここにいるのかよ。こんな次元の狭間に」

 

「いつかは見つかるさ。なにせ、オーフィスが見つけたんだからな」

 

「いや、オーフィスと同じようにそんなあっさりと」

 

美猴が話しかけてくる声から耳を逸らして何かを察した。

 

「(一誠・・・・・?これは・・・・・)」

 

ヴァーリは結界を張っているアーサーにつまらなさそうにしている美猴に告げた。

 

「予定変更だ。冥界に行く」

 

「あ?なんだよ急に」

 

「一誠の様子がおかしい。一応、見に行く」

 

「そう言う事なら大歓迎だぜ!」

 

先ほどの態度とは打って変わって嬉しそうにはしゃぐ美猴だった。そんな二人を余所にアーサーは何かを見つけた。

 

「ヴァーリ、どうやら向こうから見つけさせてもらったようですよ」

 

「なに?」

 

三人の目の前に迫る巨大な影が。ヴァーリは深い笑みを浮かべ、嬉しそうに声を弾ませた。

 

 

ゴオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!

 

「グレートレッド・・・・・っ!?」

 

変貌した一誠に戦慄する。壮大で畏怖の念を抱かせるのに十分な迫力とプレッシャー。

空中へ避難するリアスたちから見ても百メートルを超えているかもしれないその巨大さに

息をも呑む。

 

「あれが・・・・・イッセーの本当の姿・・・・・」

 

「そうだ。俺も実際に見るのは初めてだが・・・・・」

 

目を細めて「あれはヤバいな・・・・・」と警戒の色を含んだ声を漏らす。

 

「メイドを失ったショックと虚無感。そして怒りと悲しみと殺意と絶望が今のあいつの中でごっちゃ混ぜになって我を忘れている可能性が大きい。今の一誠は本能を赴くままに暴れ回るだろう正真正銘のドラゴンだ」

 

「オーフィスは、オーフィスはどこに?彼女ならイッセーを」

 

リアスの懇願の声にとある方へ指を差すアザゼルに顔を向けると、一誠の巨大な頭部の上にちょこんとオーフィスが座っていた。一誠を止めようとする気配がない。

 

「頼みの綱のオーフィスもイッセーと同じ気持ちのはずだ」

 

「そんな・・・・・」

 

絶望するリアス。そして一誠が動き始めた。巨大な手を振りかざし、勢いよく振るえば魔力が帯びた嵐が発生してテロリストたちを紙のように吹き飛ばし、屠る。

 

「あ、あれだけで・・・・・」

 

「本来の力をセーブしていたはずだ。ドラゴンとしての力を」

 

一誠の戦いぶりは壮絶だった。全身に魔力弾を受けても平然として立ち振る舞い、尾で薙ぎ払い、爪で切り裂き、

地面に向けて魔力を放てば一誠の周囲の地面から真紅の光がカッ!と迸り、無数の極太の柱がテロリストたちを呑みこんだ。

 

「あれが、イッセー・・・・・」

 

本来の姿、本来の力を振るう一誠の姿はまさしくドラゴンであり化け物。大切なものを失ったその衝撃は計りしれない。

 

「もうイッセーは誰にも止められないの・・・・・?」

 

力無く漏れる言葉は絶望の色がハッキリと籠っていた。一誠が天に向かって悲哀に包まれた咆哮をし始める。

 

「リゼヴィムたちは・・・・・っ」

 

「とっくの昔に逃げたようだ。今この場にいるのは俺たちしかいない」

 

「どうすれば元に戻るのですか?」

 

『・・・・・』

 

一誠が元に戻る―――。今のアザゼルたちにその方法と手段は無い。それどころか今の一誠に近づけば自分たちも敵と判断され攻撃をされかねない。

 

「困っているようだな?」

 

第三者の声。その時、空間に避け目が生まれる。人が潜れるだけの裂け目から現れたのは―――白龍皇ヴァーリ。そして、美猴とアーサー。

 

「ヴァーリ!?」

 

イリナが酷く驚いた。この場にもう一人の幼馴染が現れるとは思いもしなかったからだ。

ヴァーリが一誠を見詰める。

 

「あれが一誠か・・・・・何が遭った?」

 

「リーラが死んだ」

 

アザゼルが短く説明した。ヴァーリはリーラの死に目を丸くし驚いた。

 

「彼女が死んだ?」

 

「ああ、ついさっきリゼヴィムの野郎の手でな」

 

「―――リゼヴィム、だと」

 

その名を聞いた瞬間。ヴァーリの顔が怒りで歪み始め、アザゼルに「あいつはどこだ」と詰め寄った。

 

「もう逃げた。あいつ、異世界に興味を持ちやがって唯一異世界の神と接触した一誠を利用しようと試んだが、結果はああなった」

 

一誠の暴走。

 

「赤龍帝と白龍皇と違って覇龍(ジャガー・ノート・ドライヴ)じゃないから命の危険性は無いが、それでも・・・・・」

 

『リーラァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ!!!!!』

 

「今のあいつは危険極まりない」

 

「・・・・・」

 

アザゼルから背を向け、『白龍皇の翼(ディバイ・ディバイディング)』を展開した。

 

「この場になんとかできそうなのは私しかいないだろう。一誠の力を半減させ、その後は全員で攻めかかるしかない」

 

「・・・・・頼む」

 

申し訳ないとアザゼルの心情を理解し、禁手化(バランス・ブレイク)を発動して白い龍を模した全身鎧を纏い、光の軌跡を残して瞬時で一誠に詰め寄った。

 

『Divide!』

 

白龍皇の力が発揮した。連続で半減の音声が場に響き渡る。そして―――!

 

 

『Boost!』

 

 

「なに・・・・・?」

 

ヴァーリは耳を疑った。目の前の真紅のドラゴンから聞こえた有り得ない音声を。

本来有していないはずの力を発動した瞬間を目も疑った。白龍皇の半減の力が―――。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!』

 

赤龍帝の力、倍加の力が一誠の力を戻すだけじゃなく何倍にも倍加した。

 

『バカな。あれは間違いなくドライグの力っ!なぜ、あの者がドライグの力を振るえるのだ!?』

 

アルビオンが信じられないと声を荒げた。ヴァーリ自身も驚きを隠せず、一誠から距離を置いた。

 

『・・・・・』

 

金色の目がヴァーリを射抜く。敵として認知したのだろう。頭部にいるオーフィスにヴァーリは気付く。

 

「オーフィス。なぜ一誠を止めない」

 

「イッセーの気持ちは我の気持ち。我、イッセーの気持ち分かる。リーラ、死んだ。我も悲しい」

 

「私も知った。確かに一誠にとって深い心の傷を負った。だが、このままでは一誠は危ない」

 

「止まらない。止められない。イッセーの心は固く閉じてしまった」

 

 

『Divide!』

 

 

オーフィスとの会話中にまた、ヴァーリとアルビオンにとって信じ難い音声が聞こえた。

 

『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!』

 

『私の力まで振るえるだと・・・・・っ!』

 

「くっ・・・・・!」

 

ヴァーリも半減の力を振るい、一誠から力を奪うが、一誠もヴァーリの力を半減するので結果はイタチごっこ。

自分の力に追い詰められる経験は皆無だったヴァーリにとって脅威的な力。

まるでもう一人の自分と戦っている気分になる。

 

「ヴァーリ、ここからいなくなる」

 

「それで一誠はどうなる」

 

「どうにもならない。イッセーは止まれない」

 

一誠が翼を羽ばたかせ、宙に浮いた。この場からいなくなろうとしている雰囲気と気配を察知し、アザゼルたちが慌てて近づいてきた。

 

「オーフィス!そいつを現世に行かせるな!」

 

「無理」

 

金色の目が煌めき、バトルフィールドの空間が歪みだし、巨大な穴が開きだすとその穴へ向かって飛ぶ一誠。

 

「ま、待てイッセェッ!」

 

アザゼルの必死の制止の呼び掛けは空しくも穴の中に潜ってしまった。



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エピソード49

ドンッ!

 

異空間から姿を消した、はずの一誠が穴の向こうから何かに弾かれ再びアザゼルたちの前に戻された。目を張るアザゼルたちは空いた穴から姿を現す深く全身を覆うローブ姿の三人に空いた口が塞がらなかった。

 

「誰だ・・・・・?」

 

誰もが突如、一誠を穴から蹴り飛ばして現れた三人組。内一人は子供なのかオーフィス並みの身長だった。

 

「あの三人から有り得ない力を感じる」

 

「そうだね」

 

龍化した一誠をあっさり蹴ったのは誰だか分からないが、別の意味で緊張がアザゼルたちの間に走る。

 

『グルルルルルルッ!』

 

唸り声を上げだす。目の前の三人はアザゼルたちよりも脅威だと判断したのか、初めて臨戦態勢の構えをする一誠に謎の三人組が一斉に動き出す。一人の小さな人物は一誠の身体に走ってあっという間に頭部にいるオーフィスの前に到着したと同時に手元を光らせ、魔力の砲撃を放って一誠から遠ざけたら小さな手を固く握りしめて赤い頭部に叩きつけた。

 

「はっ!?」

 

あの龍神が吹っ飛び、一誠を殴った。とんでもない光景だった。

 

「お前、誰だ」

 

無傷で自分を吹っ飛ばした人物にオーフィスは訊ねた。小さな人物は何も答えず、オーフィスの前に現れては

抱き絞めるように身体全体で動きを封じた。

 

「離れる」

 

しかし、離れなかった。その間にも他の謎の二人の人物は一誠に攻めていた。

一誠が嵐を呼び起こしてもその嵐を難なくかわし、懐に飛び込めば二人揃って足を突き出して蹴り飛ばして

赤い魔力を放った。

 

「―――おい、今の魔力」

 

「何かの冗談だ、と思いたいね」

 

「だけど、間違いない」

 

アザゼル、フォーベシイ、ユーストマが謎の人物たちの放った魔力に何かを察した。

 

「だが、有り得ない。なんで同じ魔力が存在する」

 

「それに加えて、一誠ちゃんと対等に戦っている」

 

「何者なんだ、あいつらは」

 

その正体は直ぐに分かった。一誠が真空刃の咆哮を放って二人とオーフィスにしがみ付いている小さい人物のフードを切り刻んだ。ズタズタになったフードが三人の顔を露わにするのだった。

 

『―――っ!?』

 

何かの見間違い、冗談だと思いたい気持ちが一致した瞬間だった。謎の三人の内二人はこの場にいる面々が良く知っている顔だった。

 

「我・・・・・?」

 

オーフィスの目の前に自分と同じ容姿の少女が見詰めていた。

 

「お前、誰」

 

「我はお前、お前は我、我はオーフィス」

 

弾くようにオーフィスはもう一人のオーフィスと離れた。もう一人のオーフィスは謎の人物の肩に乗っかった。アザゼルたちは居ても立ってもいられなくなり、三人に近づいた。

 

「お前ら、何者だ」

 

光の槍を突き付け問いだたす。周りも真っ直ぐ視線を三人に向ける。誰彼もその顔と瞳は真剣の色が浮かんでいる。場は緊張に包まれる中、一誠が動き出す気配に感じてアザゼルたちから視線を逸らす。

すると、三人が真紅と漆黒の光の奔流と化となって一つになり始める。その中で、三人は呪文のような言葉を呟きだす。

 

「我、夢幻と龍神の子の者なり」

 

「我、夢幻を司る真龍『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッド」

 

「我、無限を司る龍神『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス」

 

「我は無限を認め、夢幻の力で我は汝を誘い」

 

「我は夢幻を認め、無限の力で我は汝を葬り」

 

「我らは認めし者と共に生く―――」

 

「我らは認めし者と共に歩む―――」

 

2人の呪文のような言葉の後にもう一人も呪文を唱えた。

 

「我は夢幻を司る真龍と無限を司る龍神に認められし者。

我は愛すべき真龍と龍神と共に我等は真なる神の龍と成り―――」

 

「「「我等の力で全ての敵を倒そう。そして我等の力で汝等を救済しよう―――」」」

 

 

「「「D×D(ドラゴン・オブ・ドラゴン)!!!!!」」」

 

 

眩い閃光が三人から弾け、視界を真っ白に塗られる。視界が回復した頃に目をゆっくりと開くと面々の目の前に―――。立派な角が生えた頭部、胸に龍の顔と思われるものが有り、

特に胸の龍の顔は意思を持っているかのように金と黒の瞳を輝かせる。

瞳は、垂直のスリット状に黒と金のオッドアイになっていて、

腰にまで伸びた深紅と黒色が入り乱れた髪。

 

「なん、だと・・・・・!?」

 

「グレートレッドとオーフィスが・・・・・」

 

「一つになって鎧と化した・・・・・!?」

 

それだけではない。鎧を纏った者から感じる凄まじいドラゴンの波動やプレッシャーは優に一誠を超えていた。

一誠は目の前のイレギュラーに禍々しいオーラを身に纏って警戒心を最大にしている。

 

「我が、合体した」

 

『おまえもできる』

 

「我も?」

 

胸の龍から聞こえるもう一人のオーフィスの声。

 

『お前は我、我はお前、だからできる』

 

それだけ言い残して謎の人物が歪ませた空間から一誠と同じ封龍剣を取り出して、一誠に飛び掛かった。

対して禍々しいオーラを身に纏う一誠は口から黒と紫が入り乱れた魔力を放つ。

 

「マズい、あれはゾラードの消滅の魔力だ!」

 

アザゼルが焦心に駆られて叫びだす。謎の人物はそれを百の承知の上だとそのまま飛び込んだ。

消滅の魔力は狙いを違わず謎の人物に直撃した―――と思ったら、何時の間にか一誠の遥か上空に跳んでいて

 

ザンッッッッッ!

 

一気に落下しながら無数の軌跡を残して一誠の身体に傷を負わせた。

 

『グオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』

 

激しい激痛に絶叫を荒げる。だが、一誠に対する攻撃は止まらなかった。

一誠の背中に跳び乗って駆けながら翼を両断。それから身体の至る所に大剣を振るい続け、斬り付け、無情にも片目を切り裂いたそのあと懐に飛び込んで鋭いアッパーをして巨大な体を数十メートルも浮かせれば、手を突き上げた。

 

「ロンギヌス・スマッシャー」

 

手から極太の真紅の魔力による砲撃が放たれ、宙にいる一誠も極太の真紅のエネルギー砲を放った。

愕然とその戦いを見守っていたリアスたち。拮抗する二人の魔力だが、謎の人物の魔力に更なる力を込めて放てば一誠の魔力が徐々に押されついには―――呑みこまれた。少しして、巨体が地面に墜落。激しく鈍い音が地面を揺らし戦いの終幕を告げた。

 

「・・・・・終わった、のか」

 

危険極まりなかった一誠を容易く倒した謎の人物。未だに信じられない気分でいるアザゼルや他の面々。

未だ元の姿に戻る気配のない一誠にオーフィスが近づく。

 

「イッセー?イッセー?」

 

ペチペチと小さな手が赤い鱗に何度も叩く。しかし、気絶しているのか反応は当然ない。

そんな一誠に謎の人物が封龍剣を携えて近づく。そして徐に大剣を振り上げて一気に下ろし―――。

 

ガキンッ!

 

ルーラー、ゼノヴィア、エルザ、ユウキが振り下ろされた大剣を剣で受け止めた。

 

「彼に、これ以上傷つけさせはしませんっ」

 

「例え、師匠の顔が同じお前でも屍に鞭を打つようなことは許さんっ」

 

「家族を止めてくれたことに感謝はするが」

 

「お願い、もう止めて!」

 

四人の剣士がそうしている間に後方から魔力を展開している面々。

 

「そう言うこった。お前には後で色々と聞きたいことが山積みだ」

 

「武装を解除してもらおうか」

 

「魔王としてこれ以上の暴挙は見過ごせないよ」

 

勢力のトップたちも本気で止めようとしている。しかし、謎の人物はポツリと漏らした。

 

「まだ、戦いは終わって無い」

 

それが証拠であるかのように気絶していたはずの一誠がムクリと起き上がり、力のない咆哮をあげた。

全身は血で汚れ、片目は潰されて片目しか空いていない顔がとても痛々しい。

 

「イッセー!もう止めて!」

 

リアスは叫ぶ。もうテロリストたちに戦っていた時よりも力強さを感じさせない。既に瀕死の状態だろう。

これ以上戦い、傷を負えば今度は一誠が死に至る恐れもある。

 

『リーラァァァァ・・・・・ッ』

 

それでも弱々しくても一誠は叫ぶ。

 

『リーラァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ!』

 

両断されたはずの翼が再生したようで生やしだし、フラフラと宙に浮かび始める。

 

「あいつ、まだ力が残っていたのか」

 

だが、アザゼルたちだけでも対処できるほどの弱さになっていた。翼を生やし追いかけようと試みた矢先、空間に大きな穴が開き、そこから―――もう一匹のグレートレッドが現れては一誠の行く道を防ぎ、抱き締める形で抑え込んだ。

 

『見ていて痛々しくて敵わん。大人しくしていろ』

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

地面に叩きつけ、覆い被さって抑えつけた。それでも悪足掻きをする一誠が最後の力を振りしぼってグレートレッドに魔力の砲撃を放った。同じ龍の攻撃を食らっても、グレートレッドの体の表面に煙を立たせるだけで殆ど無傷だった。

 

『ウウウウウ・・・・・リーラァ・・・・・』

 

それを最後に一誠は今度こそ力尽き意識を失った。

 

「グレートレッド」

 

『オーフィス、お前がいてこの状況は何だ』

 

「イッセー、大切なもの失った。心も固く閉じた」

 

『ドラゴンとはいえ、まだまだ未熟か。・・・・・それとアレは何だ?』

 

謎の人物に金色の双眸が向けられる。自分と同じドラゴンの波動とオーフィスの波動を感じる謎の人物に。

 

『オーフィスと我、それに兵藤一誠がいるだと?何の冗談だ』

 

「我も分からない」

 

取り敢えず、その謎の人物はアザゼルたちに囲まれているのだが、状況は大して変わらないだろう。

そんな状況下にこのバトルフィールドに幾重の魔方陣が出現し、大勢の一行が現れた。その中には誠と一香の姿が。

 

―――○●○―――

 

「そうか・・・・・そんなことが遭ったのか」

 

「リーラ・・・・・」

 

事情を知った二人は悲しげな面持ちで現実を受け入れ、龍化のままの一誠にも目を配った。

 

「そりゃ当然だよな。常日頃から共に生きていた愛おしい女が目の前で殺されちゃ心の均衡がどうなるなんて火を見るより明らかだ」

 

「この場にいてやれなかったことに口惜しく、歯がゆい思いだわっ」

 

「・・・・・すまん。俺たちがいてこの様だなんて」

 

アザゼルの謝罪に誠と一香は無言で見詰め、聞くだけで何も答えなかった。

不意に誠はアザゼルから顔を逸らしてある人物に目を向ける。

 

「ところでアザゼル、あの子は誰なんだい?間違いなく一誠・・・・・みたいな子だけど」

 

リアスたちが囲むように警戒している一誠に酷似した謎の人物。他にもう一人のオーフィスと真紅の髪の女性が億劫そうな態度をしていた。

 

「俺も知りたいところだ。急に現れては暴走したあいつを倒したんだからな。グレートレッドとオーフィスが鎧に具現化してよ」

 

「うわっ、なにそれ、ちょー見たいんだけど」

 

だろうと思った。アザゼルは息を一つあからさまに零す。

 

「あいつは間違いなく心に深い傷を負った。お前ら、一誠をどうする気だ」

 

「どうもなにも・・・・・親子として接するしかない」

 

「リーラの代わりになる女性なんてもういないもの」

 

これから先、一誠はどう生きていくのか誠と一香ですらわからない。リゼヴィムに復讐心を抱き、生き続けるか深いショックで部屋に閉じ籠ってしまうのか。それとも悲しくても受け入れ前向きに進むのか。できれば後者であって欲しい。

 

「さて―――」

 

っ!?

 

何時の間にか、謎の人物が誠たちの傍にいて声を掛けてきた。リアスたちに目を向ければ何時の間にと目を大きく見開いて驚きの雰囲気を醸し出している。

 

「俺たちは帰らせてもらうよ。目的も達成した」

 

声も一誠に似ていた。本当に何者だろうか。

 

「待て、お前は一体誰で何者なんだ。目的も説明しろ」

 

「・・・・・やっぱり?」

 

「ああ、そうだ。じゃなきゃ、全力でお前をここで食い止める」

 

アザゼルの本気の様子に謎の人物は息を零した。

 

「信用してもらえなさそうだなぁー」

 

「目の前の現実を信用する方でな。安心しろ」

 

「本当?じゃー教えるなブレイザー・シャイニング・オア・ダークネス・ブレード総督」

 

『・・・・・』

 

場の時間が停止したような感じを覚えた。するとアザゼルに向け言われた言葉だと悟り、火が点いたように顔が一気に赤くなった。

 

「お、おおおおおまっ!?」

 

「ふっふっふっ。どうしたんだブレイザー・シャイニング・オア・ダークネス・ブレード総督?」

 

「そ、それ以上ここで言うんじゃねぇーッ!?俺は堕天使の総督じゃー!」

 

「いいじゃん、格好良いよ羨ましい名前だブレイザー・シャイニング・オア・ダークネス・ブレード総督」

 

「三度も言うんじゃねぇ―!」うがぁっー!と喚きだすアザゼルにニヤニヤと愉快そうに笑む謎の人物。

 

「うん、間違いなく誠と同じ顔ね。特に悪戯とか何かを思いついたような顔をしている時だもの」

 

「息子が二人かー。何と言うか何とも言い難い気分だ」

 

アザゼルをからかう謎の人物にほのぼのとする。

 

「まぁ、からかうのはここまでにして俺が答える範囲なら全部答えるよ」

 

「こ、このっ・・・・・」

 

「落ち付いてアザゼルちゃん。せっかく答えてくれると言うんだから」

 

「愚痴なら後でいくらでも聞いてやる。酒を飲みながらよ」

 

フォーベシイとユーストマに慰められる堕天使の総督。落ち着いたところで質問を始めた。

 

「あなたの名前は?」

 

「イッセー・D・スカーレット。偽名だけどな」

 

「偽名?じゃあ、本名は兵藤一誠?」

 

「ああ、一度死んだんでね」

 

「死んだ・・・・・まさか、サマエルとか言う存在に?」

 

イッセーは驚いたように目を丸くした。それが肯定だと悟り、質問を続ける。

 

「あなた、この世界の人間じゃないわね?」

 

「同じ二人、同じドラゴン、同じ力がこの世に二つも存在するわけがない。当然の反応と質問だな。答えはYES」

 

「―――異世界から来た兵藤一誠だと!?」

 

驚くアザゼル。だとすれば一誠を倒した実力に納得もできる。

 

「キミの目的とはなんだ?」

 

フォーベシイの質問に嘆息した。

 

「とある神さまがこの世界の兵藤一誠が暴走した、だから俺たちの力で鎮めてくれと言われたんだ」

 

一誠の暴走の鎮圧。と言ったイッセー。これで殆ど合致したと言えるだろう。

 

「その神の名前は?」

 

「転生を司る神ミカル」

 

―――っ!?

 

「まったく、あの神には困ったもんだ。俺もあの神には散々な目に遭わされたんだからな」

 

「と、言うと?」

 

「うーん、異世界に飛ばされて数十年間その異世界で暮らしていた」

 

異世界に数十年間暮らされた。その事実に誰もが絶句する。

 

「一応、この世界の兵藤一誠もどこかの異世界に跳ばされるだろう。その阻止はできない。受け入れるしかないぞ」

 

「・・・・・そう、なら、その神の居場所を知ってる?」

 

「いや、俺も知りたいところだ。もう永い間顔を見てないからな」

 

「残念だ。ちょっとO・HA・NA・SHIをしようと思ったのに」

 

うっすらと冷や汗を流すイッセー。二人からのプレッシャーに肌で感じ取った。怒らせてはいけない人物はやはり健在だった。

 

「お前が存在していると言うとそっちの世界はどうなっている?」

 

「この世界との時間の差が違う。だけど、良い世界だよ」

 

「そうか。そっちも同じか聞けて嬉しいぜ。―――ところでだ」

 

ガシッ!とユーストマがイッセーの肩を掴む。反対側の肩にもフォーベシイが掴み、

 

「「娘と結婚しているか!?」」

 

「あ、それも知りたいわ。息子の家族構成」

 

「悠璃ちゃんと楼羅ちゃんと結婚しているかな?」

 

親として知りたいベスト5。―――その話を耳を大きくして聞き耳を立てる女性たちがいることに尻目で確認するイッセー。少し恥ずかしげに言った。

 

「ん、まぁ・・・・・うん。晴れて結ばれた。子供も生まれたし」

 

「「―――っ!!!!!」」

 

声にならない叫びがユーストマとフォーベシイの口から発せられた。

 

「でも、何人か知らない女の子がいるな。誰だ?」

 

「あら、そっちの世界には存在していない子がいるのね」

 

「ああ、特にあの赤髪の悪魔の女の子」

 

ガーンッ!とリアスがショックを受けた。

 

「ってのは冗談だ。彼女とも結婚してるし」

 

歓喜極まって嬉しそうにガッツポーズをしたリアス。感情が代わり易い少女だった。

 

「では、そちらの世界の情報をもうちょっとだけ教えてくれないか?」

 

「別にかまわない―――いや待て」

 

急に耳を抑え出すイッセー。誰かと話しているのかたまにウンウンと首を振る。そして肯定の言葉を発した。

 

「悪い。帰らないといけなくなった」

 

「転生の神がそう言っているのかい」

 

「そうだ。最後に俺から聞きたい事、して欲しいことはあるか?」

 

これが最後だと雰囲気が伝わり、誰もが思考の海に飛び込んだ。

 

クイクイ・・・・・。

 

イッセーの裾を引っ張るオーフィスに視線を向ける。

 

「もう一人のイッセー。リーラ、死んだ」

 

「・・・・・」

 

「イッセー、きっと悲しみ続ける。我、悲しむイッセーは見たくない」

 

これからどうすればいい?と問いを求め縋るオーフィス。

 

「・・・・・そうだな」

 

オーフィスの頭を優しく撫でる。

 

「わかった。そうしよう」

 

イッセーはリアスたちに近づき、

 

「この世界のリーラの髪の毛でもいいからあるか?」

 

「・・・・・どうする気なの?」

 

「決まってる」

 

イッセーの全身が光り輝きだす。神々しい輝きに包まれ、金色のオーラは龍を模した金色の全身鎧へとイッセーの身を包み背後には、口に『魔』『聖』『命』『万』『運』の文字がある珠を咥えている金色の龍が姿を現す。

 

「俺の力でリーラを復活させるだけだ」

 

金色の杖を片手にして当然のように発する。そんなイッセーの問いに咲夜が大事そうに布の切れ端と一本の銀色の髪を持って近づいてくる。

 

「本当に、可能なのですか?」

 

「俺は不可能を可能にする。できないならこんなこと言わないさ咲夜」

 

「どうして、私の名前を」

 

「俺の世界にはお前も存在しているからだ。この世界の兵藤一誠をリーラ共ども支えてくれ。俺と同じできっと心が弱いからさ」

 

イッセーの背後に浮かぶ金色の龍が咥えている『命』の文字が光り輝く。すると―――龍の口から『命』の珠が離れて咲夜の手の中にあるリーラの証を包みこみ宙に浮いた。

 

「本来、違う世界に住む俺がこんなことしちゃいけないだろうがミカルは目を瞑ってくれるだろう」

 

意味深なことを言うイッセーを余所に光る珠が一瞬で弾いた。

 

「・・・・・じゃなきゃ、アイツが見たい物語が見れなくなるからな」

 

弾けた光は時が戻るようにして人の形に成っていく。目の前で起きている現象を周囲にいる面々に釘づけさせ―――突如に発生した霧一誠が取り囲んでいた面々を驚かせてくれた。

 

「なにっ!?」

 

「この霧は・・・・・っ」

 

一誠の近くにいたリアスたちが目を張る。アザゼルたちも驚愕の声を聞き霧を見た途端に怒りに満ちた顔を浮かばせた。

 

「野郎・・・・・っ!飽き足らずこのタイミングであいつもか!」

 

「野郎とは失礼じゃないか堕天使の総督」

 

霧の中から聞こえてくる少女。姿は現さない。

 

「誰っ!?」

 

「姿を見せたら彼のご両親、兵藤誠と兵藤一香に捕まってしまうからね。この形で告げさせてもらおうよ」

 

一拍して少女の声が発した。

 

「兵藤一誠は貰い受ける」

 

霧は完全に一誠を包みこんだ。少女の声はどこか楽しげだった。

その声は誠と一香、オーフィスが知っていた。

 

「あなた・・・・・曹操ちゃんね?息子をどうする気なの」

 

「今の彼なら色々と御しやすい、と言えば察してくれるでしょうか?」

 

フッと霧が霧散して包みこんでいた一誠ごと消え去った。完全に曹操の手中に収まった事実に一誠を慕う家族や少女たちが様々な感情を露わにする。

 

「殺しはしませんよ。彼には色々と役立ってもらいますので」

 

それだけ言い残して霧は―――誠が突き出した手から逃れるように消失した。

 

「・・・・・曹操ちゃん、これだけは言っておくよ」

 

誠は言う。

 

「必ず、俺たちの息子の家族がお前たちを倒して一誠を取り戻す!」

 

 

―――Boos×Boos―――

 

 

「これで完全に異世界の存在が明らかになったな」

 

「異世界の兵藤一誠から最後に渡されたこの資料を参考にしてこの世界を良くしよう」

 

「流石にこれから何が起きるのかその情報は記されてないか」

 

「だが、注意人物の名だけが記されている。―――リゼヴィム・リヴァン・ルシファー、そして、ユーグリット・ルキフグス。他にも有名な名前が記されているじゃないか・・・・・」

 

「曹操・・・・・一誠をどうするつもりだ」

 

「いま直面している最大の危険要素・・・・・」

 

「この先どう待ち構えるべきか検討をするべきだね」

 

 

―――devil×devil―――

 

 

「異世界が実証されたぜぃ!やっぱ坊ちゃんを利用して正解だ!」

 

「では、今後どうしますか?」

 

「当然、異世界に侵略でしょ!その為にまず―――グレートレッドが邪魔だ」

 

「グレートレッド、とんでもない方針をお考えですな」

 

「んーふふふっ!グレートレッドと同じ黙示録の獣でも見つけて倒してもらおうじゃん」

 

「まさか、居場所を知ってるのですか?」

 

「知らないってば。これから探すんだよ。その為には神滅具(ロンギヌス)を利用しない手がないし」

 

 

―――Hero×Hero―――

 

 

「悪魔のあいつら、とんでもない発見をしたね」

 

「ああ、異世界から来た兵藤一誠・・・・・・しかも、グレートレッドとオーフィスを鎧に具現化させて身に纏った。その力は優に兵藤一誠を超える」

 

「もしもこの世界の兵藤一誠が同じようにしたら俺たちはやられるのではないか?」

 

「それを超えるのが人間の相場ではないか。寧ろ私はそれを臨むよ」

 

「ところで、あの偽物の英雄のクローンはどうする気?」

 

「そうだね。利用して使い捨てるのも悪くないか。今度は本命を狙ってね」

 

「彼女―――かい?」

 

「私の大先輩にあたるからね。一度接触してみよう」

 

「それで彼はどうする気なんだい?」

 

「当然、私たちの役に立ってもらうよ。そして―――」

 

 

―――???―――

 

 

『ありがとうございました。最後は問題が起きましたがこれでいいでしょう』

 

「いいのか?攫われたあいつは洗脳されてあいつらの敵にされかねないが?」

 

『あの世界にいるあなたたちは弱くありません。きっとなんとかしてくれるでしょう』

 

「んじゃ、俺の手助けはもう必要ないか」

 

『はい、お疲れさまでした』

 

 

―――family―――

 

 

「・・・・・」

 

「落ち込むな、お前のせいじゃないんだ」

 

「そうです・・・・・悪いのはテロリストだと言うことは明白なのです」

 

「はい、その場にいなかった私たちも悔しい思いで胸が張り裂けそうです」

 

「あの方のヴァルキリーと名乗る私たちが何の役にも立たなかった」

 

「奪われたのなら取り返せばいいだけよ。あの時のように」

 

「イッセーを奪い返す」

 

深く、そして見たことのない落ち込みようの銀髪のメイドに話しかける年上の女性たち。喜びが糠喜びとなって一誠の誘拐にメイドことリーラは一誠の部屋で意気消沈のところクロウ・クルワッハたちに励まし、宥められていた。

 

「私の死で一誠さまは・・・・・リゼヴィムさま、曹操さま・・・・・っ」

 

悔むリーラの瞳に悲哀と一誠に対しての愚行をしたリゼヴィムに憎悪、一誠を連れ去った曹操に対する怒りが入り乱れ窺える。

 

「一誠さま、待っていてください・・・・・このリーラ、必ずやあなたさまを・・・・・」

 

 

 

 



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エピソード50

()

 

静かに眠り続けている少年。周りは様々な機械で空間を埋めつくさんばかりに設けられており、

老若男女問わず、白衣を着た研究者たちが狂気の瞳を光らせ仕事を熱心に没頭している。

その光景を複雑な顔を隠さず金髪に勝気のある目の少女が見ていた。

 

「―――モルドレッド?」

 

深紅の髪の少女が不思議そうな顔を窺わせながら近づいてきた。

 

「呂綺か・・・・・」

 

「また、見てる」

 

少女の指摘にモルドレッドは無言で少年を見詰める。少年がココに連れて来られて数日が経過した。

曹操は殺さないと言っていたが利用すると言い、研究所でずっと検査や実験は行われている。

 

「モルドレッド、曹操に不満?」

 

「不満なんてない。だが、あいつとは約束をしていた」

 

「約束?」

 

「あいつを倒した暁にはオレが欲している物を譲ってくれる約束だ」

 

興味なさそうに相槌を打つ呂綺。それができなくなったからその複雑な顔をしていると考えついた呂綺。

 

「仕事、お疲れだったな」

 

「簡単、ただ斬って壊しただけ」

 

「流石は天下の武将の血を引いていることだけある」

 

「恋は恋」

 

「ああ、そうだったな」

 

しばらく見守るモルドレッドだったが程なくして顔を逸らしどこかへ足を運ぶ。

 

「そろそろ話し合いの時間か。今度は何をするのやら」

 

「わからない。曹操やゲオルクが考える」

 

「そうだな。それとここ最近、オレたちの考えに賛同しかつ協力してくれる者も増えてきた」

 

「ドラゴンがそうさせる」

 

呂綺の頭の中で浮かぶドラゴン。力あるものを引き寄せるドラゴンの特性はさらに増したと、暗に告げる呂綺の意図を察して「だな」と相槌を打つモルドレッド。二人が向かう先は幹部クラスしか入れない会議室のような空間と場所でそこに辿り着けばモルドレッドと呂綺を除いたメンバーが集結していた。首領でもある曹操を始め、ゲオルク、ジークフリート、巨体の身体の男。それ以外にも座って二人を待っていた。周りから声を掛けられる最中に空いている席に座ると曹操が開口一番に幹部クラスのメンバーへ告げた。

 

「さて、今後の方針だが。―――川神学園に襲撃しようと思う」

 

「おっ。もしかして、いよいよすんのか?」

 

「ああ、ヘラクレス。準備が整い次第、決行する。お前の力を存分に振るって貰う」

 

巨体の男にヘラクレスと呼ぶ曹操にジークフリートは訊く。

 

「となるとあのクローンの英雄と戦える時が来たのか。三人いたよね」

 

「源義経と武蔵坊弁慶、那須与一だ」

 

「あの学園にはその三人だけじゃなく。私たち以上の身体能力を持つ武神の川神百代がいるし、氷の神器(セイクリッド・ギア)の所有者、川神百代の祖父である川神鉄心とか人間を超えた強さを秘めている者たちがいる学園だ」

 

「それに魔人のシオリがいる。魔人の力は厄介だぞ曹操?」

 

川神学園の中で要注意人物の名が挙がる。無視できない相手にどう対処するべきなのかという雰囲気が醸しだす。

英雄派は身体能力が高い上に特別な力、能力を持っている集団。人間であることは変わりなく、曹操たちはシオリの対処の力を奪う魔人としての力に危惧と懸念している。

 

「簡単だ。異空間に閉じ込めればおいそれと現実世界には戻ってこれないだろうさ」

 

「うわ、相手に取って嫌な方法だよ。ただの人間だったらどうすることもできないでしょ」

 

「別に彼女らと積極的に戦う必要はない。私たちの存在意義を危ぶむかのクローンを捕まえるだけだ」

 

捕まえてその後はどうする気だ?そんな雰囲気が若干醸し出すが曹操は特に言わずモルドレッドに眼だけ向けて訊く。

 

「兵藤一誠の方は?」

 

「特に変わりはない。研究員と開発者が狂気の笑みを浮かべて事を進めているだけだ」

 

「英雄にドラゴンの力が手に入る、か。僕の特性的に魔人の力の方がいいね」

 

「あー、ジークのグラムってドラゴンに反応するもんな。そりゃ、ドラゴンの力を手に入れた時点で呪いが掛かるわ」

 

曹操とモルドレッドの会話のやり取りに苦笑いのジークと笑みのヘラクレスが加わった。

 

「まだその段階まで完成していないものを強請っては困るぞ?」

 

ジークとヘラクレスにそう言ってそれから襲撃のタイミングを計らう話が長くない時間で終わり、昼食とタイムとなる。

 

「―――曹操」

 

「ゲオルク、どうした」

 

パクリと弁当を食べているテロリストの一派の首領にゲオルクが尋ねた。周囲にはまばらで席に座って食事をしている仲間もいる。

 

「兵藤一誠を攫ってそれなりに時間は経つ。が、リアス・グレモリーたちに動きがないのはおかしいとは思わないか?」

 

「雲の中に手を入れ何も掴めないのと同じ、どの勢力も知らないココを見つけられると?」

 

幹部クラス、神滅具(ロンギヌス)の所有者の疑問に不敵な質問で返せば、返された言葉にゲオルクは首を横に振った。そんなことあるはずがはないと―――。

 

「いや・・・・・流石にこの場所は見つからないだろうが、少々拍子抜けでな。兵藤一誠に関わるとイレギュラーが生じることは判明しているし」

 

「万が一、ココに来たとしても見つからないだろう。それ以前に来ればすぐさまここを放棄して別の場所に移るだけだ」

 

テロリストらしい行動理由に当然の選択と肯定も否定もしないゲオルクにある事を聞く。

 

「それと、彼の様子は?もう檻の中に戻されているだろう?」

 

「枷を付けているが枷を付けなくても良いぐらい無気力になってる。試しに枷を外しているが脱走する気配が一切感じられない」

 

「ふふっ、そうか」

 

「嬉しそうだな」

 

ここ最近、自分たちのトップは笑みを浮かべる事が多い。その理由は一誠の存在だろう。

案の定―――。

 

「まぁ、個人的に彼は貴重な存在だからね。洗脳して私たちの仲間にするのもよし、私たちの為に戦力として利用するのもよし、色々と彼は好ましい」

 

「なら―――洗脳するか?」

 

「するぐらいなら精々今までの記憶を封印してくれよ?」

 

「その理由は?」

 

「何も知らない相手に弄り甲斐があるからだ。さて・・・・・彼のところに行こうか」

 

空にした弁当箱を捨てて底意地の悪い性格を醸し出す曹操にゲオルクは無言で続く。

人工的に造られた通路に歩く足を運ぶ先は牢屋。たまに会話もしつつ、

 

「兵藤一誠から何か得ているか?」

 

「有意義なものだらけだ。魔人の力、ドラゴンの力を得るのは時間の問題だろう」

 

「英雄に過ぎたる力は身を滅ぼしかねないな」

 

「いらないのか?」

 

トントンと槍の柄を肩に叩いてゲオルクに発する。

 

「私にはこれがある。必要無いさ」

 

「なら、他の者たちに渡すぞ」

 

「構わない」

 

目的の人物の下へと向かう。いざ辿り着ければ門番などいない特殊な結界を張られている牢屋の出入り口にゲオルグが魔方陣を展開すれば入口が開き、堂々と奥へと進む。近づくにつれ、二人の前に姿を現す他の牢屋。

 

「・・・・・やはり、と言うべきか」

 

「ああ、またのようだな」

 

二人の視界に入る牢屋の前に鎮座しているロングストレートの黒髪だが揉み上げや前髪、後頭部の部分は真紅色で後頭部の深紅色の髪をポニーテールにして結い上げている変わった髪型。真紅と黒が入り乱れている露出が多いドレスを身に包んでジッと鎮座して牢屋の向こうを覗きこんでいる少女がいた。身長は一誠より一回り小さい。

 

「―――セカンド・オーフィス、彼はどうだい?」

 

曹操が話しかけても少女は―――第二のオーフィスは牢屋の隅に膝を抱えて身体を丸めている少年に夢中のようで返事はしなかった。

 

「もっと近くで見たいかい?」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

そこで首を縦に振った。ゲオルクに視線で催促する曹操の要望に答え、鉄格子の柵に魔方陣を展開すると穴が開き、オーフィスは檻の中に入り、少年の前に佇む。

 

「興味が尽きないのだろうな」

 

「私もそうだがな」

 

二人も檻の中に入り、オーフィスと肩を並ぶように少年の前に仁王立ちする。

 

「気分はどうだい―――兵藤一誠」

 

尋ね声に少年は無言のまま身じろぎもせず、ずっと同じ態勢で心も閉じ籠もるその様子を曹操は

対して気にせず、言葉を投げ続ける。

 

「一誠―――」

 

「・・・・・」

 

「キミの大切なメイドは死んだ。それでもまだ多くの大切な家族がいる。キミはその家族の為に戻るつもりはないのかな?」

 

ピクリと微弱に反応するがその程度で一誠は何も言い返さない。

 

「いや、寧ろ戻るのを拒んでいるようだね。―――戻ったらリーラ・シャルンホルストの事を思い出してしまうから」

 

それが肯定であると沈黙を貫くそんな少年を嬉しそうに口元を緩ませると跪いた。

 

「なら、彼女を殺した悪魔に復讐したいか?」

 

「―――――」

 

「私たち人間の敵は人間に害する生物・種族が全般だ。数を数えたらキリはないが、代表的なのは悪魔だ。私たちは敵同士だが敵の敵は味方だとは思わないかな?」

 

―――一誠の頭がゆっくりとだが上がり、暗い金色の双眸が見えた。曹操は腕を伸ばす。

 

「一誠、私はお前の味方だ。リーラ・シャルンホルストには私も世話になった。仇を取りたいと思わないはずがないだろう?」

 

「・・・・・」

 

「お前の望みはできるだけ叶える。―――だから一誠。お前の目的を達成できるまでは私たちと一緒に共に行こう」

 

伸ばした腕はしっかりと背中に回され、一誠の耳元に曹操の囁きが心地よく入ってくる。

 

「今の家族のところに戻れば辛い現実がお前をどこまでも苛む。なら、私たちがお前の家族になる。そうすれば、そうなればお前は辛い思いはしない」

 

       ―――だから一誠、私と一緒にいよう、あの昔のように―――

 

曹操の声が一誠の心に変化をもたらす。最後にゲオルクに聞こえないぐらいの殺した声の声音はどこまでも純粋で、深い思いが籠っていた。―――だからこそ一誠の中で最愛の人(リーラ)を失って堅く心を閉ざした代わりに、目の前で大切な女性を奪ったリゼヴィムに対する敵意と殺意が芽生え始めた。

 

「・・・・・」

 

膝を抱えていた両腕が静かに動き、曹操の背中に回して受け入れるという意思表示をした。

背中に回された腕から感じる温もりをしっかりと伝わり、それが嬉しいとばかり曹操は微笑んだ。

テロリストの首領としてでなく一人の女として慈愛に満ちた瞳を一瞬だけ浮かべる。

 

「―――ゲオルク」

 

事前に決め合った事を実行してくれ、と視線に込めて送った。ゲオルクは二人の横に移動して魔方陣を一誠の頭に突き付ける。

 

「いいんだな?」

 

「ああ、彼は受け入れてくれた」

 

「わかった。では―――」

 

魔方陣を操作するゲオルク。一誠の意識が混濁し始める中、頭の中で走馬灯のように過ぎる銀髪のメイドの姿―――。

 

 

 

 

「ゲオルク。襲撃の際に一誠も連れていく。その前に他の皆にも報せようかな」

 

「行動が早いな。それに俺たちの指示を従えるかどうか試したいのか?」

 

「それも含まれているが、主な理由は全世界にアピールしたい」

 

「・・・・・なるほど、お前という奴は悪い女だ」

 

「テロリストの親玉としている私は良い女に成れると思っているのか?彼の家族に教えてやった方が安心できるだろう」

 

「ふっ。どんな反応をするのか目に浮かぶ」

 

「だろう?ふふふっ。さ、一誠。私と一緒に来てもらおう。事が終われば私の部屋に―――」

 

―――○●○―――

 

「はふ、んふっ、ちゅっ、ちゅっ、んんっ・・・・・」

 

一誠と濃厚なキスを繰り返していた。両腕を首に絡め引き寄せて唇を貪り、

自身の身体を密着しつつ異性との初めてのキスで照れも含み朱に染まる顔のまま、

恋人同士のように瞑目し、今まで溜めこんでいたものを発散しようとする雰囲気を醸し出していた。

 

「「・・・・・」」

 

「・・・・・っ」

 

ジーと二人のキスを見詰める二人と、何で自分はこんな状況を立ち会っているのかと羞恥で顔を赤く染める少女が舌を絡め合う際の水音、唇を貪る際の熱い吐息を見聞している。一誠が曹操の手中、英雄派の仲間に成ったと知らされて数時間が経過した。一誠を利用して実験や開発は行われるが檻から自由に出歩けれるようになれば、モルドレッドも話しやすくなる。そう思い一誠のもとへ呂綺と一緒に訪れて見れば―――第二のオーフィスが興味津々と熱く濃厚な口付けに固く抱擁を交わす曹操と一誠を凝視している光景を目の当たりにしたのだ。自分たちの首領が『女』に戻るのは咎めるつもりはない。何時まで経っても待っても続く二人の行為。誰かが声を掛けないと永遠に続くのではないかと思うぐらいキスをし続けているにつれ、痺れを切らしたモルドレッドが話しかける。

 

「ソイツのこと異性として好きだったのか?」

 

「んっ、ちゅるっ、はふっ、ちゅっ・・・・・ああ」

 

モルドレッドたちの存在を気付いていただろうに、それを無視してでも一誠とのキスに没頭していた。話しかけられてようやく口付けを止めた曹操の唇には艶めかしく唾液の糸が一誠の唇と繋がっていた。

曹操の方が赤くなって断続的に漏らしている熱い吐息が整ったところで改めて返事をしたのだった。

 

「手に入らないものだと思っていたが、こうして手に入ったんだ。私が考える事よりも体が動いてしまったよ」

 

キスを止めても一誠から離れようとしないその意思表示は喜びを露わにしている。

なんだか複雑な気分だと心中に思いを浮かべるモルドレッドに曹操は指示した。

 

「モルドレッド、一誠と一緒に源義経、武蔵坊弁慶、那須与一を拉致して欲しい」

 

「なんだ?オレたちだけか?」

 

「いや、そうじゃない。他の構成員たちにもあの学園に襲撃してもらう予定だが、まだ誰にも言っていないが他にやってもらいたいことがあるから。でも、近くには魔人や武神などいるから簡単じゃないはずだから気を付けて」

 

まだ何か襲撃、拉致以外にもすることがあったのか・・・・・。考えの意図を読めないモルドレッドはある事を一誠から離れ自分に振り返った曹操に尋ねる。その間、第二のオーフィスが音を立てずに一誠を忍び寄る。

 

「で、拉致したらどうする気なんだ」

 

「特に何も。私たちの存在意義を守る為だけだしね」

 

捕まえた後、生かすも殺すも曹操次第。曹操本人はそう言うが、モルドレッド的には英雄の概念や拘りなどそう言う気持ちはあまり強くない。英雄派に入ったのは兄のアーサーを倒す為に所属しているに過ぎない。

英雄派の中で唯一、浮いている存在でもあった。そんなモルドレッドと同じく呂綺も浮いている。

 

「んんっ、んっ、んんっ、んふっ、ちゅるちゅるっ、ちゅっ、くちゅっ、れろっ、んっ・・・・・」

 

そんな時、何時の間にか第二のオーフィスと一誠がキスをしていた。

 

「・・・・・オーフィス、何をしているんだ?」

 

「・・・・・?曹操の真似・・・・・我、気に入った」

 

口元を唾液で濡らし、舌でペロッと艶かしく舐めた第二のオーフィスの顔は熱に浮かされたように赤く、潤った瞳に情欲の熱が、欲情の色が孕んでいる。同じく一誠の口許にも唾液で濡れていて、それを子猫のようにペロペロと舌で舐めとり始める。

 

「美味しい?」

 

そんな様子を見て呂綺が訊く。第二のオーフィスはこう答えた。

 

「・・・・・舐めると美味。甘い」

 

「・・・・・恋も食べたい」

 

甘くて美味しいと言うキーワードで食らいついた呂綺であった。一誠の舌が食べられる!?愕然とモルドレッドがセカンド・オーフィスに譲ってもらい一誠の唇に貪り吸いついた呂綺を見ることしかできないでいると。曹操が横から指摘してきた。

 

「モルドレッドはしないのか?」

 

「んなっ!?何を言っているんだお前はっ!」

 

「いやなに、彼から採取した血とかは飲めば力が増大すると報告もあったのでね。だったら一誠の唾液も摂取し続ければ自ずと力が上がるんじゃないかという説も出て来ている。いざ試してみればそうでもなさそうだね」

 

そもそも、男の唾液なんて男が摂取したくないだろうにと思わずにはいられなかったモルドレッド。

 

「だが、別の結果が出たようだ」

 

「別の結果?」曹操の口から出たそれは、恍惚と蕩けた表情になる自分がいることを鏡に映る自分を見て曹操は悟った。

 

「一誠の唾液は媚薬の効果があるようだ」

 

「び、媚薬・・・・・っ!?」

 

「今こうして普通にお前と話しているが、実際は女の部分が激しく疼いてしょうがない。やはり隠しきれないものだ」

 

女としての悦びを求めるスイッチが入ってしまった。と胸の内で漏らす曹操が一誠たちに視線を向ければ案の定というべきか。

 

「熱い・・・・・」

 

「もっと、する・・・・・」

 

徐に身に包んでいる服を脱ぎだして下着すら鬱陶しげに外して全裸になる呂綺。小麦色の肌を照らす浮かんだ汗は、華奢な身体つきに不釣り合わないほどの豊かで形のよい胸、引き締まった大きく括れた腰、そしてキュッと小振りな可愛らしい尻に至るところに浮かんでいる。熱に浮かされたように顔をほんのりと赤く染め、断続的に熱が籠った吐息も吐く。

 

口付けをさらに強請る。同じ種族との口付けは、何も知らない第二のオーフィス、セカンド・オーフィスにとって何とも形容し難い、言い難い甘美な快感や気持ちとなる。舌を絡め合い、唾液を啜ることで脳髄まで駆け廻る興奮と甘い刺激を受け入れもっとこの未知の快感を味わいたいと絶えない口付けに没頭する。

そうすることで一誠も自分の気持ちに応えてくれるのか、濃厚で激しい舌使いのキスをしてくれるのだ。

 

「・・・・・んっ」

 

ゾクリ、と曹操は甘美な快感に震える。女の部分が一誠たちの様子を見ているだけで反応してしまう。

そういう行為には別段と興味もないわけじゃなかった。しかし、テロリストという立場が女の悦びを教え、与えててくれない。そう、それは一誠という昔馴染みの少年が来るまでは―――。

記憶を封印し、少しだけ記憶を改竄してもらって一誠の家族の記憶を封印。そしてリゼヴィムに復讐、殺す目的だけに生きていると植え付けた。こうして出来上がった兵藤一誠という存在はテロリストとなった。

 

「一誠・・・・・」

 

呂綺のように服を脱げば、見事なプロモーションの女体が晒し出した。自分の中の欲望と欲求を満たす為に艶姿の曹操は一誠に群がる二人に交ざって、一人取り残されたモルドレッドは嬌声が聞こえてくる部屋から出ようなど頭から抜けている。ただ呆然と、目の前の情事をツンとした香りを嗅いでしまうまでは。

 

「(なにこれっ・・・・・!?)」

 

今まで嗅いだ事のない香りに警戒する。その発生源が一誠たちからだ。例え難い臭いは次第に思考を蕩けさせ、女を刺激して、身体を洗うこと以外触れない胸や股を抑えて何かに耐えるように全身を震わせる。

身体が急に熱く火照り、自分ではどうする事も出来ない快感が曹操の言う通り女の部分を刺激し、

欲求、欲望の気持ちを高ぶらせる。顔と目が蕩けたまま一誠たちに熱く視線を送る。

曹操は一誠の唇を貪り、呂綺とセカンド・オーフィスは一誠の下半身に群がっている。

三人の共通は自らの意思で行い、多幸感の気持ちを醸し出し、情事の行為に没頭。

―――淫靡な空気と化した部屋にもはやモルドレッドは抗えなくなった。

 

「(これは・・・・・仕方が無いっ、しょうがないんだっ)」

 

自分に言い聞かせ、言い訳するように胸の内で何度も思いつつ

ノロノロと何かに引き寄せられる感じで一誠に近づいた。

そしてその日、モルドレッドたちは女の悦びを覚え、少女から女として成長した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・しばらくは他の皆を通らないようにするか」

 

中から水音と嬌声が聞こえてくる事から防音式の魔方陣と人避けの魔方陣を展開して

立ち去った紳士な魔法使いがいた事を曹操たちは気付かないでいた。

 



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エピソード51

曹操たち英雄派の食生活は一変した。その根本的な理由は一人の少年による手料理だった。

ガツガツと頬張り、幸せそうに口の中に料理を掻き込む少年少女たち。

少なくない数の大人数の食事の食費はどこにあるのかも一人の少年によって改善され、

曹操やゲオルクといった幹部以外の構成員はあっさりと少年を受け入れた。

 

「おかわり」

 

「・・・・・」

 

呂綺やセカンド・オーフィスがお代りを求めにほかほかの炊き立てのご飯に向かう。

 

「曹操・・・・・」

 

「なんだ?」

 

「彼、給仕係でいいんじゃないか?」

 

「うん、私もそう思うようになってきたところだ」

 

バイキングのように様々なでき立ての料理がテーブルに置かれている。

全て一人の少年が作り上げたのだ。肉料理や魚料理、苦みを取り除いたサラダ。

しかも甘い物好きな男女にとっては嬉しいデザートまでより取り見取りに揃っている。

 

「でもね」

 

「うん?」

 

「・・・・・女としてのプライドをこうも容易く壊されると」

 

「ああ、それ以上言わなくて良い。だから泣きそうな顔をするな」

 

本当に攫って来てから自分たちの首領は変わってきているとゲオルクは複雑な心情だが、

これはこれで面白いと自己完結した。

 

「彼は良いお嫁さんになるだろう」

 

「―――間違いなく婿だからな?」

 

天然ボケに突っ込んでしまうゲオルク。

 

「やらないからな」

 

「いらないからな」

 

つーか、狙っているのか俺たちの首領は。呆れつつコンソメスープを飲む。うむ、美味い。

そして一人で豊富な料理を作った少年は―――曹操の隣で静かに食べているのだった。

 

 

 

「ぐおぉっ!?」

 

巨躯の男が突き出された少年=一誠の拳によって吹っ飛ばされ壁に叩きつけられた。

 

「つ、つぇ・・・・・!」

 

「ヘラクレスの神器(セイクリッド・ギア)を真正面から食らっても平然と攻撃を繰り返すなんてね」

 

吹っ飛ばされた大男、ヘラクレスに一誠の戦いを見ていた幹部クラスのテロリストたち。

興味深そうにジークフリートは顎に手をやって簡単を漏らす。

場所はレーティングゲームを応用した異空間。新たに参加した者に対する腕試しを

目的とする行いをしていた。現在、幹部クラスのヘラクレスが一撃で吹っ飛ばされた。

よって一誠は必然的に幹部クラスの実力者だと認められたところだ。

 

「まぁ、当然だろうね」

 

ジークフリートは当たり前のように受け入れ、今度は自分もと帯剣していた剣を鞘から抜き放つ。

 

「兵藤一誠、今度は僕も良いかな?」

 

「・・・・・」

 

戦意のある相手に一誠も応じ、亜空間からエクスカリバーを取り出して構える。

 

「いいね・・・・・第二とはいえ折れる前のエクスカリバーと戦えるなんて面白いじゃないか」

 

深い笑みを浮かべ、ジークフリートは地を力強く蹴った。今まで培ってきた剣の腕を目の前のイレギュラーにぶつけることでさらなる高みを目指せると思えば楽しくなる。

 

「―――神器(セイクリッド・ギア)も使っているジークに対して自前の剣の腕でやってのける彼は凄まじいな」

 

仕舞にはジークフリートの剣は殆ど聖剣と対する魔剣。その魔剣をフルに振るっている仲間を対等に渡り合っている。

 

「もう、曹操のレベルと同じじゃないか?」

 

「私の右腕か。ふふっ、それはとても嬉しい事だ。今度はキミが相手をしてみるかい?

式森の血を流しているから良い魔法勝負ができると思うが?」

 

と言うとゲオルクが「・・・・・また今度にしよう」と小さく笑った。

 

「川神学園にはいつ襲撃をする予定でいる?」

 

「そうだな。三日後にしよう」

 

「その理由は?」

 

「うん、皆の回復を待つ為だ」

 

―――一誠の実力を知ろうと数十人(幹部クラスも含め)の構成員が倒れて地獄絵図状態である。

明日、明後日では支障が出るだろうからそれを見越しての三日後だと告げた曹操に「分かった」

と告げるゲオルク。

 

「あ、ジークが倒された」

 

「やるな、兵藤一誠。・・・・・何故かこっちを見てくるのだが?」

 

「分かるぞ、お前と魔法勝負をしたいとそんな視線をヒシヒシと感じる」

 

「ああ・・・・・あの無表情なのに目をキラキラと輝かせてくるのはなぜなんだ」

 

「これでは挑まなければいかなくなるではないか」と嘆息して一誠の前へと歩んでいく

ゲオルクを見て面白可笑しそうに見守る曹操。ゲオルクと擦れ違うように

ジークフリートが近づいてきた。

 

「どうだった?一誠の剣の腕は」

 

「ストラーダ猊下やクリスタルディ猊下に鍛えられているだけあって強い強い。魔剣は始めてだろうに動物的本能で察知して避けられるんだから大変だよ」

 

苦笑を浮かべるものの、どこか楽しげに語っているジークフリートだった。

 

「何も問題が起きない限り兵藤一誠が味方でいてくれるととても今後が楽しくなりそうだ」

 

「正義の味方が悪側になった時の瞬間やその時の心境はどうだったジーク?」

 

「他人事のように思って受け入れていたかな?ただ、やり方や進む道が違うだけで人は変わるんだと実感はしていたね。まだ教会の戦士としていたら、刺激的な生活や人生を送っていなかっただろう」

 

「そうか。ならば、一誠もお前と同じ気持ちでいるかな?」

 

数多の魔方陣を展開しては魔力の弾幕戦をやっていた。一つの魔方陣で複数の魔方陣を操作してゲームのように

相手の魔方陣を全て撃破するまで魔力弾を放っているのだった。

 

「洗脳しているのに意志はあるのかい?」

 

「記憶を弄っただけで一誠の意志や気持ちを慎重している。だからこそ今の彼が英雄派と成っているわけだ」

 

「にしても口数が少ないようだけれど?」

 

「復讐心と憎しみがそうさせている」

 

そう断言した曹操。

 

―――○●○―――

 

襲撃当日。その日は川神学園の全校集会が第一グラウンドで行われていた。

全校生徒は何時もの学校生活を送っている。誰一人、今日、テロ攻撃に襲われるとは露にも思っていない。

 

「国立バーベナ駒王学園がテロリストによる攻撃を受け、負傷者以前に死者は誰一人出すことなく撃退した。

建物の損害はともかく、あの学園の行動力と団結力はわしらも見習うべきだと考えておる」

 

壇上に上がっている川神鉄心の言葉に紳士に耳を傾けている者がいればそうでもない者もいる。

テロリスト相手にそんなことできるのは悪魔や堕天使、天使、神器(セイクリッド・ギア)の所有者もいるから可能にしたのだと思いや気持ちが多かった。

 

「武装したテロリストだったら私たちでも撃退できるね」

 

「お姉さまがいれば千人力よっ」

 

「私も私の正義で悪を根絶やしにするぞ」

 

武術に心得がある者や気の強い者、戦場を駆け抜けた者たちは来るなら来いとばかり意気揚々と醸し出していた。

しかし、相手がただのテロリスト集団であれば可能だっただろう・・・・・。

駒王学園が相手をしていたテロリストは―――。前触れもなく、現れては襲撃を始める。

 

そう―――。

 

目の前で轟音と共に爆風や爆熱が発生して崩壊する川神学園もテロリストの襲撃と出現の合図。

学園の敷地内にある建物が爆発で木端微塵と成り、避難する場所を制限されてしまう。

自分たちの学び舎が突然の崩壊。全員が悲鳴と驚愕、呆然としてしまうのは必然的だろう。

 

「まさか・・・・・」

 

ある予想に考えついた矢先、川神鉄心や百代など気を探知できる者だけが探知できた。

大量の煙から人影が浮かび、その影の正体が信じられない者である事を全校生徒の前に現れるまでは誰も思いもしなかった。煙から赤より鮮やかな真紅の髪を歩くことで揺れ、猛禽類のような垂直のスリット状の金色の双眸、瞳は感情の色を浮かべていないまま真っ直ぐ鉄心たちを見据える。その威風堂々とした態度と立ち振る舞いからは何事にも臆しないと雰囲気で醸し出す。

 

「お主は・・・・・!?」

 

黒一色の服の上から腰当、胸当、肩当など中国武将が身に包んでいたような鎧を部分的に身につけて現れる。今ではある意味有名的に成っている少年―――一誠が十メートルぐらいの距離で立ち止まれば、背後から続々と人影が現れて一誠の肩に並んだり後ろに立ち並んだりするモルドレッドたち英雄派。

 

「お主、これはどういうことだ・・・・・」

 

まるで、いや、これは完全に敵として現れている一誠に色々な感情が混ざってしまい、冷静に問いだたす。

百代やエスデス、シオリなど一誠と交流をした面々も鉄心の横や背後に移動して信じられないと顔に出す。

 

「お前、なんだそいつらは」

 

「家族」

 

「家族だと・・・・・?リーラさんたちはどうしたんだ」

 

百代の素朴な疑問に眉間に皺を寄せて「誰?」と信じられない返事をして。

 

「誰って・・・・・お前のメイドのことだろう」

 

「メイド・・・・・?」

 

理解不能とばかりに鸚鵡返しした。覚えていない―――?いや、あり得ない。

 

「一誠!どうして学校を壊したのよ!?」

 

「そいつらは何なのだ!返答次第では許さんぞ!」

 

リーラはずっと一誠の傍で生き続けた。一誠が忘れるわけがないリーラなのだ。しかも付き合っている者同士なのだから当然だ。けれど、今の一誠が纏う雰囲気もどこか儚げで、不気味さを感じる。いつもの一誠が纏うものではない。

 

「・・・・・さっさと終わらせよう」

 

スッと・・・・・一誠は左腕を天に向かって伸ばした時、赤い閃光が迸る。左腕に覆う金色の宝玉がある赤い籠手が光と共に装着を果たした。

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!』

 

『Transfer!!!!』

 

 

宝玉から音声、光が発し、モルドレッドたちに照らす。それは赤龍帝の倍加の能力だった。対象を何倍にも一時的に強くする。

 

「モルドレッド」

 

「オレかよ?」

 

たったそれだけのやり取りで分かり合えた。モルドレッドが作戦開始の号令を発してくれと一誠の気持ちを察したのだ。

 

「お前の方が似合っている」

 

「・・・・・そうか」

 

照れてこそばゆいと思いつつも、内心は嬉しく思った。腰に帯剣していた剣を鞘から抜き放って眼前に突き付ける。

 

「オレたちは英雄派という。オレたちの目的はそこにいる英雄のクローンの鹵獲だ」

 

「英雄派?何だか知らないが義経たちを誘拐する気か!」

 

絶対に許さん!クリスが青い瞳に怒りの炎を孕ませ気高く吠えた。対してモルドレッドは淡々と言う。

 

「オレたちの首領の考えではこうだ。英雄の偽物が自ら英雄を名乗っているのは遺憾である。クローンとはコピーだ。英雄の子孫や末裔、魂を受け継いだ者でもないのに自分たちを差し置いて英雄として存在している。―――と、そんな感じで首領は英雄の偽物である源義経、武蔵坊弁慶、那須与一を捕えることを決断した。英雄の存在意義を守る為、維持する為にな」

 

「ふざけるなっ!義経たちは義経たちだろうが!」

 

激昂。英雄の偽物と決めつけるモルドレッドに抗議の意を唱える者たちに

 

「オレはアーサー王伝説に出てくるモルドレッド―――。そのモルドレッドの末裔だ」

 

自分の素性を明らかにしたが百代たちは怪訝な面持となっていた。

 

「それがどうしたと言うんだ。名前は名前だろう」

 

「そうだな。だが、名前にも意味がある」

 

と、言い続けようとしたモルドレッドだが「何を冷静で熱くなっているんだ」と自分に呆れ、改めて言い直した。

 

「源義経たちの鹵獲が目的だ。大人しくオレたちと一緒に来てもらえれば楽でいいが―――」

 

ザッ!

 

モルドレッドは見た。戦意を醸し出す態度で百代たちは臨戦態勢の構えをしたことで、「やはりこうなるか」と他人事のように溜息を吐いた。

 

「一誠、魔人とその他の相手を頼めるか?」

 

「ん、分かった。そっちも頑張って」

 

一誠の姿がぶれたかと思えば、数人の一誠が分身として出現。戦いの準備はできた。残るは―――。

 

「全員、戦闘だ。―――はじめよう」

 

それが開戦の宣言と成り、モルドレッドの言葉を訊いた途端に一誠は地を蹴って百代たちに飛び掛かった。

 

「一誠・・・・・っ!」

 

「邪魔をするなら容赦しない」

 

 

 

 

「誰だいあんたたち」

 

銀髪の老婆、黒いゴスロリの出で立ちで自分を含む数人しか知らない大広間―――クローン製造室に数人の少年と少女たちがいた。

 

「部外者のあんたたちがどうやってこの場所を突き止めたのかを教えて欲しいところだね」

 

「俺たちはテロリストなのでね。俺たちの存在意義を危ぶむ事をしてくれたあなたたちの周辺は何時も調べていた。九鬼家が関わっていること全てを。必然的にこの大扇島への海底トンネルも関わっていた事も知り、どこで英雄のクローンなどと生産をしているのかも探した結果・・・・」

 

漢服の上に魔法使いみたいなローブを身に包む眼鏡を掛けている青年は「灯台もと暗しとはこのことだ」と漏らした。

 

「九鬼家全体がこの事は知らないことを考えれば上層部、幹部クラス辺りなら把握している可能性はあるか」

 

「やれやれ・・・・・最近の若い者は嘆かわしいと思っていたが、まだまだBOYやGIRLのテロリストにそこまで見抜かれ、突き止められているとは嘆かわしいね。で、ここにいたと言う事はあたしに用があったんだろう?」

 

「いいや、俺たちの目的はこれ以上俺たちの存在を危ぶむ要素を消す事。つまり―――この工場の破壊だ」

 

青年の目的に老婆を顔を顰めた。

 

「さっきからあんたたちの存在を危ぶむってのはどういうことなのか説明をして欲しいね」

 

「そうだな。では、自己紹介をしよう」

 

ドガァアアアアアアンッ!ガッシャアアアアアアンッ!

 

青年が指を鳴らすと同時にそれが合図だとばかり培養カプセルの、クローン製造工場の破壊が始まった。

 

「―――我々は英雄派。英雄の子孫や末裔、魂を受け継いでいる者たち我構成しているテロリストだ英雄のクローンなど、そんな英雄の偽物をこれ以上生産されてはこちらは困るというものだ。よって二度と生産できぬよう徹底的な破壊活動をさせてもらう」

 

「英雄派・・・・・子孫や末裔だって?やれやれ・・・・・とんでもない連中に目を付けられたようだね」

 

「あなたの存在もここで抹消させてもらう」

 

霧が発生し老婆を包みこもうとする矢先、床がいきなり開いては老婆が落ちた。

 

「食えない星の図書館だ。こんな仕掛けも事前に用意していたとはな。だが、目的は達成した。次の計画に移行しよう。―――こちらは終わった。そっちも初めてくれ」

 

通信式魔方陣を展開して仲間に告げた。

 

 

 

「・・・・・わかった」

 

スタスタと深紅の髪の少女は九鬼家極東本部に歩み寄った。世界最大の企業で財閥らしい大きな建物。片手に身の丈を超える方天戟を手中にしている。

 

「―――斬る」

 

得物を振るい五つの軌跡を残しての一閃。常識を遥かに超えたその斬撃で―――建物はゆっくりと崩れ始める。

 

「ゲオルク、終わった」

 

用は済んだと告げ、轟音を響かせながら崩壊した建物を一瞥して踵を返す少女に霧が包み込んで風が吹けば少女はいなくなった。後にテロリストの襲撃と世界中に報じられ、負傷者が大勢出たものの死者は0人と奇跡が起きた。

 

―――○●○―――

 

「アザゼル、急に呼び出してどうしたって言うのよ。しかも授業中に」

 

「話は後だ。今は急がなきゃいけないんだよ」

 

「このメンツでどこに・・・・・?」

 

オカルト研究部に集うグレモリー眷属やシトリー眷属、サイラオーグたち。

呼び出した張本人のアザゼルの顔に焦心の色がハッキリと浮かんでいる。

そんな堕天使の総督を珍しいと思う中でリアスは口を開く。

 

「冥界で何か起きたの?」

 

「冥界じゃない、川神学園だ」

 

「川神学園って・・・・・」

 

「説明は後だって言っただろう。―――よし、行くぞ」

 

堕天使の転移式魔方陣で一時駒王学園からアザゼルの行く目的地まで跳んだ。

あっという間にその目的地に辿り着き、魔方陣の光と共に姿を現したリアスたちの目に―――。

 

「これは・・・・・っ!?」

 

川神学園が姿も形も変わっていた。校舎が爆発の影響で崩壊したような瓦礫と化していた。グラウンドでは嵐が過ぎ去った爪跡が残っていて、多くの負傷者を手当てしている大勢の人が忙しなく動いていた。その中には警察や消防の人間も学校の状況を把握、分析を収集していた。

 

「アーシア、お前は回復能力で負傷者の手当てをして来い」

 

「は、はいっ」

 

最初からそうしたかったのか、アーシアは直ぐに行動をしたのだった。その間、アザゼルについていく形で

真っ直ぐ―――負傷者が収納されている簡易式のテントについた。そこにはベッドの上で仰向けに寝転がされている川神鉄心や川神百代、エスデスがいた。

 

「爺さん。来てやったぞ」

 

「・・・・・おお、来たか。体育祭以来じゃの」

 

顔だけ動かし目でアザゼルたちの姿を捉える。声も弱々しく、かなり衰弱している様子だった。

 

「気が全く感じません」

 

白音がポツリと呟く。目立って傷も無いのに弱っているのはそういうことかと理解した。

 

「爺さん、これは誰の仕業だ?」

 

「アザゼル、あなたが知っているからここに来たんじゃないの?」

 

アザゼルの言葉に疑問をぶつける。

 

「俺はハーフのガーゴイルから直接聞いただけなんだよ。川神学園がテロリストに襲撃されているってな。詳しいことは聞いていない」

 

「っ!?テロリストって・・・・・まさか、リゼヴィム?」

 

一誠とリーラに不幸のどん底を陥れた現魔王の弟。この凄惨な状況を生み出したのがリゼヴィムであれば納得する。

 

「違うわ」

 

第三者の声がアザゼルたちの真後ろからそう指摘した。テントの入り口には魔人シオリが立っていた。

目立った傷はなく無事の出で立ちをしていた。

 

「違うって・・・・・」

 

「あなたたちには酷な現実でしょうけれど、私が言う言葉には嘘偽りではない事を前提で訊いてちょうだい」

 

真剣な面持ちで一区切りついてからリアスたちに衝撃の告白を告げる。

 

「この状況を作ったのは英雄派―――一誠よ」

 

『なっ!?』

 

「一誠は私たちの敵として学園を破壊し、邪魔をする者には徹底的に容赦もなく牙を剥き、英雄のクローンの源義経、武蔵坊弁慶、那須与一の三人を連れ去った」

 

これが全てであるとシオリは口を閉じた。

 

「・・・・・そうか、一誠の奴が」

 

神妙そうにどこか悟って漏らすアザゼルにリアスは反射的に尋ねた。信じたくない現実を少しでも否定できることがあってほしいと願い。

 

「アザゼル・・・・・まさか、本当に一誠がこんなことをしたって言うの・・・・・?」

 

「この状況を作ったのがリゼヴィムの野郎ならば納得する。だが、一誠を連れ去ったのは人間でテロリストだ。心に深い傷を負った人間に付けこんで味方に引き込むことだって容易いはずだ。特に一誠は目の前でリーラを殺された。

多分だが、甦ったリーラを知らないはずだ。そこを曹操が『リゼヴィムに復讐』、なんて甘言でテロリストに成ってしまったんだろう」

 

「そんな・・・・・でも、こんな破壊活動はイッセーの復讐と何の関係もないじゃないっ」

 

涙目で悲痛に発するリアスはどうしようのない悲しみと英雄派に対する怒りに身体を震わす。

明らかに一誠は利用されている。復讐心を付けこんで望んでもいない事をさせている。

 

「でも、それだけじゃないみたい。こことは別に英雄派によって破壊された建物もあるの。それも英雄のクローンを産み出した世界最大の派閥の建物よ」

 

「明らかに英雄のクローンを産み出した者に対しての破壊活動・・・・・もしくは私怨か?」

 

「あいつらはそんな私怨で動くとは思えないんだが」と首を捻っていれば一成が訊いてくる。

 

「あの、どうして英雄派は英雄のクローンに拘るのですか?クローンでも一応は人間ですし」

 

「英雄の末裔や子孫、魂を受け継いでいる自分たちがいるのに英雄のコピーなんて紛い物の存在は許せない。ってモルドレッドっていう女が言っていたわよ」

 

「クローンと一緒にされたら堪ったもんじゃないってか。なるほど、分かり易いな」

 

そして人間らしい考えだとも漏らす。

 

「だが、そうか・・・・・一誠の奴。敵に成ってしまったか」

 

「アザゼル・・・・・私たちはどうすればいいの・・・・・?」

 

「決まっている。洗脳や操られているのであれば倒すだけだ。そうでなかったら全身全霊、全力で一誠を正気に戻しかつ倒すしかない」

 

「倒すって・・・・・どっちにしろ私たちは一誠を倒して止めないといけないってことじゃない」

 

「こっちにはオーフィスとクロウ・クルワッハという最強のドラゴンがバックにいるんだ。できなくはないんだぜ?」

 

一誠の置き土産は凄過ぎる。取り戻せる要素を改めて知り、リアスたちは力強く頷いた。

 

「そうね・・・・・イッセーを取り戻しましょう」

 

「そうですね。彼がいないと物足りなさを感じてしまう自分がいる事に気が付きましたから」

 

「形がどうであれ、兵藤一誠と全力で戦えるのであれば俺も全力で倒そう」

 

リアス、ソーナ、サイラオーグの頼もしい発言に笑みを浮かべるアザゼル。

 

「魔人シオリ。お前さんの力も貸してもらうぜ」

 

「別にいいのだけれど、百代とエスデス、学園長のあの様は魔人の力を使ったからよ。多分、オーフィスじゃないと触れられたらお終いよ」

 

「・・・・・魔人の力はやっぱり驚異的だなおい。やっぱり、現代兵器に頼るしかないか」

 

「効かないと思うわよ彼。多分、核爆発の中でも生き延びそうだし」

 

ああ・・・・・全力で否定できない自分がいる事に、兵藤一誠という存在の凄まじさは神クラスかと突っ込みたくなるアザゼルであった。

 

「さて、この事をあいつらにどう報せればいいのやら・・・・・」

 

 

 

 

 

 

「お帰り、どうやら問題なく遂行できたようだね」

 

「兵藤一誠の存在が大きかったからな。殆どの奴、実力がある者は一誠に襲い掛かってくれたからある程度楽だった」

 

「これで兵藤一誠はテロリスト―――と認識されただろう」

 

「あいつを取り戻そうと躍起になったんじゃないか?」

 

「しばらくは動かないつもりだよ。その間、彼から得る様々な恩恵の力を研究や開発に集中する」

 

「肌を重ねたってのに利用する考えは変わらないんだな」

 

「公私混合はしっかりしないとね。それで、彼は?」

 

「セカンド・オーフィスと呂綺に料理を作ってくれって強請られた」

 

「ああ、それだけで十分理解した」



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エピソード52

世界はテロリストの存在に震撼した。九鬼財閥の建物の破壊も全世界に報され、真紅の髪の少年がテロリストの首謀者ではないかと疑われ始める。三大勢力、他の神話体系の神々たちの間でもこの事実に様々な意味で盛り上がっていた。

 

ドオオオオオオオオンッ!

 

「うひゃひゃひゃ!この城はこの魔王が攻略したぜ☆」

 

「魔王・・・・・っ!」

 

「さぁーて、この城の元王女さま?この弟くんの死を観覧しちゃってちょうだい!」

 

「ま、待って!その子だけは殺さないで!お願い!」

 

「んー?じゃあ、悪魔の俺に代価を払って弟くんを助けちゃうって感動的な展開をしちゃう?」

 

「・・・・・っ」

 

「なーんてね。そんなちっぽけな命なんか欲しくないってばよ!はい、さらば!」

 

ザンッ!

 

「―――――!?」

 

「うひょひょひょひょっ!これでこの国に残っているのは王女さまだけだねぇー?どうする?

その槍で俺と勝負する?のんのん、そんな武器じゃ僕ちゃんに届きません!

なんせ、俺は魔王だからねぇ?正義の味方はもっと強くなってから挑戦しないといけない王道的な

運命が待っているんです!だ・か・ら、王女さまよ?俺を憎いなら、復讐したいなぁーら、

お祖母ちゃんになるまで生きてみたらどぉー?そしたらもしかすると強くなる秘訣が見つかるかも!」

 

「よくも国を、よくも町の皆を、よくも弟をっ・・・・・!」

 

「おおう、良い目をしだしたねぇ?うんうん、そうじゃなきゃ!

それじゃ、またどこかで会おうぜ元王女さま!うひゃひゃのひゃー!」

 

「おのれ、おのれぇぇぇえええええええええええっ!」

全てを失い、奪われた少女の運命は他人から同情や憐みをされるものだった。魔王がいなくなって残ったのは壊滅した国。一人で復興など到底不可能だ。これからどうすればいい、あの魔王に復讐など力がないのでは夢のまた夢であると非力な自分に悔い、復讐できる力を欲した。

 

「欲しい・・・・・あの魔王に勝てる力を。くれるならこの命を引き換えにでも―――!」

 

しかし、突然の出会いもあった。

 

「・・・・・」

 

少女の背後に音も無く現れた真紅の髪の少年。感情の色が宿っていない金色の双眸は座り込む少女を見下ろしている。

 

「力が、欲しい・・・・・?」

 

「っ!?」

 

「俺も復讐したいやつがいる。もう逃げられたけれど」

 

話しかけられ、振り返り少年を見上げた時。風の噂で聞いたテロリストの少年であると理解した同時に憎悪の炎が滾って瞳に宿っていたことに気付く。もう逃げられたと言うのは魔王のことだろうか。淡々と少年は口を開いた。

 

「復讐したい理由が思い出せない。だけど、あいつを許すことができない事だけは心からハッキリと言える」

 

「あなたは・・・・・」

 

「俺もお前と同じ復讐したいと願っている」

 

少女の言葉の意図を、意味を理解して同じ志が一緒の者だと簡潔に述べた。

 

「だけど、お前は弱い。そのままじゃ復讐は無理」

 

しかし、少女に突き付けられた現実は過酷だった。少年に言われて唇を噛みしめる思いで悔しがる。

 

「復讐を果たせれば命はいらない?力を得る為なら命を引き換えにでもとお前は言ったな。ならば、人間を辞めて強い種族に転生してでも復讐をしたい気持ちがあるならば」

 

少年は少女に手を伸ばす。

 

「俺と一緒に来い。共に生きて復讐を果たそう」

 

それは誘いだった。手と掴めば自分は悪に身を堕とす。否定すれば正義を貫いて魔王を倒すことができる少女にとって今後の人生を左右する運命の選択肢。

 

「・・・・・私に魔王を倒せる力をくれるの?」

 

「倒せるかどうかはお前自身の心の強さによる」

 

「心の強さ・・・・・」

 

どちらにしろ強大な力をくれることに関しては間違いないようで後は自分次第ということ。

 

「・・・・・」

 

少女は真っ直ぐ目の前の少年を見詰めた。少年も答えを待って仁王立ちし続ける。

だからこそ真剣に考えた。国を壊滅にした魔王を、大切な家族を奪った魔王を何もせずにのうのうと元王女として生きることなんてできない。少女は答えを出すのに時間など掛からなかった。

 

「・・・・・私の全てをあなたに捧げる。だけど、その変わりに魔王を倒せる力を―――」

 

何時までも差し伸べてくる手を少女は言いながら手に取ったことで悪に堕ちながらも復讐を成し遂げようとする決意を抱いた。そして、どこかの国が一夜にして壊滅的な被害を受けたことで川神学園や九鬼財閥極東本部を襲撃したテロリストの仕業であると判断され、身に覚えのない破壊活動に知らぬところで完全に世界の敵として認識されたのだった。

 

「・・・・・酷い、違うのに」

 

と、真紅の髪の少年の傍迷惑な否定的の声が聞こえたのは別の話だった。

 

―――○●○―――

 

「―――やれやれ、彼らと私たちの価値観や考えがこうも違うなんて改めて知らされた感じだね神ちゃん」

 

「ああ・・・・・テロ対策本部なんてモンを構えるのは良いが、テロリストの拠点すら掴めていない状況下で日本中にいる神器(セイクリッド・ギア)の所有者を集わせてもな。いや、悪くはないんだぜ?」

 

「うん、分からなくはないけれど、どこに防衛を張ろうとも必ず穴がある。そこを突かれちゃ終わりだね」

 

冥界、天界の代表としてテロリスト対策本部局に赴いて参加していたフォーベシイとユーストマの顔に微妙な色を浮かべる。相手はただの武装したテロリストではない。危険分子、様々な勢力から集った種族、神器(セイクリッド・ギア)の所有者の一団と武装したテロリストより厄介極まりなく一枚岩ではない反勢力。

対策本部の方針は神器(セイクリッド・ギア)の所有者を集わせ、来るべき戦いに備え―――という形で終わった。

 

「神ちゃん、ヤハウェにはどう伝えるんだい?」

 

「ありのままを告げるつもりだが、どうしたもんかなぁ・・・・・」

 

『神のシステム』によって人間、人間の血を流している異種族にしか宿らない摩訶不思議な能力。

ならば、そのシステムを利用して『故意』で所有者を定めては宿し増やすことは可能ではないか?とユーストマに追究された。

 

「神は皆平等に見守る。誰かを特別扱いしたら人間からの信仰が減って俺たちの存在意義も危ぶまれるってのによ」

 

「人間の方がよっぽど業が深いってことかな」

 

目には目を神器(セイクリッド・ギア)には神器(セイクリッド・ギア)を、と結論に至ったのだろう。

だからこそユーストマは言い返した。

 

『お前らにだって神器(セイクリッド・ギア)は宿されているはずだ。それを発動していないのはお前たちに切っ掛けが無いだけ。何かの為、誰かの為、自分の為に心底からそう望んでなけりゃ神器(セイクリッド・ギア)は応えてくれやしねぇよ』

 

そう言い残してさっさとフォーベシイと共に本部から立ち去ったのである。

 

「誠ちゃんと一香ちゃん、今頃どうしているかな」

 

「あの二人の事だから・・・・・もしかしたらテロリストの拠点を見つけて乗り込んでいたりしてな」

 

「ハハハ、まさかそこまで・・・・・」

 

―――全力で否定できない自分がいるのはおかしいだろうかと内心フォーベシイは悩んだ。

 

「おい、まー坊?」

 

「ああ、なんだい」

 

「急に黙ってどうしたんだ。早く娘たちのところに帰ろうぜ」

 

「そうだね。私たち父親が励まず一体誰が励ますのだろうか!」

 

「良い事を言うじゃんぇかまー坊!ああ、その通りだ!シアー!いまお前のお父さんが帰っていくからなー!」

 

豪快に転移魔方陣でなく足で帰るユーストマに苦笑を浮かべるもその気持ちはよく分かると―――フォーベシイも

華奢な体で物凄い速さでユーストマの後を追いかけるのであった。

 

一方―――。

 

「八重垣殿、すまぬな」

 

「いえ、お気にせずに。そちらの学園とは長くない付き合いなのですからな」

 

「そう言ってくれると嬉しい限りじゃ」

 

川神院の縁に座る川神鉄心と八重垣正臣。同じ立場で同じテロリストに襲撃された者同士が揃ってこの場にいた。

 

「八重垣殿。わしは不甲斐なかった。守るべき生徒や学園をテロリスト共に襲撃を許してしまった。生徒も誘拐されてしまい、今でもその生徒の事を思うと心が痛む」

 

「こちらも・・・・・生徒が誘拐されました。よりにもよって彼、兵藤一誠くんです。ですが、誘拐されたあの子はテロリストになっていようとは思いもしませんでした」

 

遠い目で青空を見上げる。あの純粋な子までもが敵の手中に落ちてしまったのであれば、一誠を助ける事が出来る者は限られてくる。

 

「八重垣殿、折り入ってお願いがある」

 

鉄心は紳士に懇願の声を発した。

 

「私のできる範囲であれば何でも申してください」

 

「いや、今回の一件でわしは理解した。―――だからこそ無理を承知でお願いしたい」

 

正臣に向かって土下座をし、深い念が籠った言葉を告げた。

 

「そちらの実力のある悪魔と天使、堕天使の生徒を川神学園に転属してもらえないだろうか」

 

「―――」

 

「武神と周りから畏怖の念や恐れ戦かれていた孫娘共々あのような方法で無力化されてしまい、力の無い生徒、圧倒的な力で強い生徒たちが倒されて学校もあの様。平和ボケをしていたと言われても否定できん。武術だけでは何かを守れないことをわしは分かってしまった」

 

「対抗できる力を欲している・・・・・そう言うことですな?」

 

土下座をしたまま見下ろす形で正臣の言葉に無言で肯定した。正臣は直ぐには答えない。自分一人で一存して決めていい鉄心の願いではないのだ。

 

「・・・・・共通の敵に対して共に協力し合うことは私も異論はございません。ですが、鉄心殿の願いは時間がかかるかもしれません。こちらもそちらと同じように色々と対処に追われていますので」

 

「構わぬ。事が済んだら改めて考えてくだされ」

 

「そう言ってもらえるとありがたい」

 

ようやく頭を上げた鉄心。一先ず願いは保留という形で収まったが気持ちを察してくれた事に心から感謝をした。

 

「ところであなたの孫娘は?」

 

「休校状態なことを良い事に、ここ最近どこかに出かけておる」

 

「もしかしたら、兵藤一誠くんの為に動いているのでは?」

 

「わからん、わしには何一つ教えてくれんからのぉ。ちょいっと寂しいわい」

 

「今もどこかに出かけておるし」とぼやく鉄心。

 

 

―――○●○―――

 

『日本政府は世界各国連合対テロ組織を結成することを表明しました。主な人員は天皇兵藤家と式森家を中心に神器(セイクリッド・ギア)神滅具(ロンギヌス)の所有者で他に特殊能力を持つ人間、戦闘経験がある者です』

 

『対テロ組織は年齢問わず、加わると保証金が―――これまで犯した罪歴など帳消しという事実に住民たちが非難の声も―――』

 

『テロリストに対する有力な情報提供を政府が求めているようです。テロリスト、「英雄派」の特徴は学生服の上に漢服を着込んでいます』

 

『首謀者―――兵藤一誠は兵藤家から追放された元兵藤家の者であるとの情報が届いています。心理学者や人間学者など人たちの間に飛び交う仮定や想像、予想の中で兵藤一誠の目的は私怨、逆恨みではないかと声も上がっております』

 

 

昼時でもニュースはテロリストに関する話題で盛り上がっていた。噂や話が飛び交うにつれ尾鰭が付く。

その手の番組を見る度に―――リーラたちは複雑極まりない表情を浮かべ、哀愁を漂わせたり、

本人の事を何も知らず知った風に言う人間に怒りを覚えながらも一誠に関する情報を聞き逃さない為に敢えて

聞く姿勢でいた。

 

「一誠くんがテロリストのリーダーじゃないのにっ」

 

「仕方がねぇさ。目の前で見た現実しか信じられないんだ人間は。それに加え、一誠は学園に来てから有名になって来たんだ。有名な奴がテロったら間違いなく『誤解』する」

 

「もう、人間界でイッセーは自由に歩くことができなくなったわね・・・・・」

 

「どうしてこうなったんだ・・・・・」

 

「全ての元凶は・・・・・」

 

 

前魔王ルシファーの息子、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

 

 

誰もがあの銀髪の初老悪魔の名前を思い浮かべた。リーラに死を与え、一誠に絶望をもたらした最悪の悪魔。

 

「アザゼル、英雄派だけテロリストとして名が挙がっているけれどどういうことなの?」

 

「今有名なのが一誠だってことなのさ。ユーストマやフォーベシイは他にもテロリストの派閥があると人間のお偉いさんには忠言しているらしい。が、それも含めて一誠がテロリストの親玉として君臨しているんじゃないかって話だ」

 

「そんな・・・・・っ」

 

「それに悪魔がテロリストなんて言ったらこの異種族混合の共存を象徴する町の存在意義も危ぶまれる。実際、悪魔以外にも堕天使、天使もテロリストに加わっている奴もいるみたいだからな」

 

今の現状を認めたくないってやつらがよ―――。アザゼルの言葉は続く。

 

「長年、敵対していた者同士が直ぐに仲直りなんてできないのと同じだ。世界の覇権を巡っていた他勢力同士が突然、不完全燃焼の形で人間―――兵藤家と式森家に横やりを入れられてあろうことか戦争を止めたんだからな」

 

「どうしてそんなことをしたんですか?教科書でもその話は書かれていますけど」

 

白音は真っ直ぐ目をアザゼルに向ける。いや、ほぼ全員が兵藤家と式森家は三大勢力戦争を止めたのか

知りたがっていた。もしかしたら知っているのではないかと当時の戦争以前から生きていたアザゼルに答えを求めた。

 

「さあ、な。俺にも分からん。あん時止めた当時の兵藤家と式森家の当主から聞こうにもとっくの昔に死んでいる。他の奴らも同様にな」

 

「・・・・・そうですか」

 

「ああ、しかもだ。そん時の二大家は神器(セイクリッドギア)神滅具(ロンギヌス)の所有者ばっかりでよ。殆どの神滅具(ロンギヌス)の所有者は兵藤家と式森家の人間だった」

 

「じゃあ、聖槍も?」

 

「そうだ。まだ二天龍が神器(セイクリッド・ギア)として魂を封印される前で神滅具(ロンギヌス)の数も今ほどなかったな」

 

「そんで、俺たちと一緒に二天龍を倒したし」と付け加えた。

 

「やっぱり・・・・・あの二つの一族は凄いわね。冥界の雑誌じゃ眷属にしたいランキングでは何時も上位だったし」

 

「ブランドが高いからな。当然だろう。実際に何人か転生悪魔として生きている兵藤と式森がいて、そいつらを眷属にした悪魔がレーティングゲームのランキング上位に君臨している」

 

「いるんすか!?兵藤と式森を眷属悪魔にした悪魔が!」

 

素っ頓狂な声を上げる一成だった。自分と同じ眷属悪魔やリアスに目を向ければ知っている雰囲気を醸し出している。

 

「いるぞ?変異の駒(ミューテーション・ピース)だったり、駒を全部消費して眷属にしたらしい」

 

「あっ、そいつらって確か三大勢力戦争の時に介入したやつらの一人だったなそういや」と後になって思い出したアザゼルにリアスは言った。

 

「じゃあ、聞けれるじゃない。過去の戦争に介入した動機を」

 

リアスの言葉にうんうんと頷くグレモリー眷属たち。転生悪魔として生きている兵藤と式森は一誠や和樹にとって大先輩にあたる人物。

 

「アザゼルさま。お聞きしたい事が」

 

リーラに振り返り、なんだ?と視線を送ると「その者たちは誠さまと一香さまと面識がございますか?」と尋ねられた。

 

「知らん。当の本人に聞け」

 

「(ヒョコッ)HYE!その当の本人の登場だ!」

 

「どわっ!?」

 

逆さまになって空間から現れた誠の顔を目の当たりにして仰け反り過ぎて尻もちをついたアザゼル。

肝が据わっている者以外は目を丸くして開いた口が塞がらなかった。

 

「お、お前ッ!急に出てくるんじゃねぇ!?」

 

「はっはっはっ。人を驚かすってのはやっぱり面白いもんだ!」

 

姿を現す誠に続き一香もこの場に顕現した。

 

「えーと、その兵藤と式森の転生悪魔のことだっけ?なら勿論知っているぞ」

 

「しかも私たちと同じ結婚して子供も産んでいるわよ」

 

何時から聞いていたのか分からないが当の二人はアッサリと驚愕的な事実を言いのけた。リーラですら知らなかったようで目を大きく見張った。

 

「・・・・・そのような事実を私は知りませんでした。アザゼルさまは知っておりましたか?」

 

「いや、まさか子までいるとは俺も知らなかった。だとすると、そいつらも魔人の力は得ているのか?」

 

アザゼルの発した疑問は一香が首を横に振って否定した。

 

「魔人の力を得てないわよ。片方の力を封印したまま、悪魔として今じゃこの世界の社会に紛れて孫に囲まれながら生きているもの。だから多騒ぎもしなかった。懐かしいわね。あの人たちの話をするなんて」

 

「そうだな。最近は顔を出してないが今でも元気にしているだろう」

 

二人の会話のやり取りからして、今でも生存していると言う事実が確認できた。

 

「誠さま、一香さま。そのことはやはり、源氏さまたちには・・・・・」

 

「当然知らない。というか、大先輩たちは名前を変えていないが、息子たちは婿入りしていることで違う名前で生きているから親父たちは気付かないでいる。ああ、リーラや一誠にも会わした人間の中にいるぞ?そいつらが大先輩たちの子や子孫だ。今頃驚いているだろうな」

 

所謂隠れ兵藤と式森の力のどちらかを封印した一誠(魔人の力は無)同様悪魔バージョンのハイブリッド。

 

「あの・・・・・」

 

「なんだいリアスちゃん」

 

「私、その人たちとお会いしたいです」

 

社会に紛れて生きている悪魔と知れば、同じ悪魔として顔を見たい気持ちが湧きあがった。

リアスは誠に懇願した。

 

「会ってどうするつもりだい?」

 

「同じ悪魔として、話をしてみたいです」

 

「眷属悪魔にしたいとは思わないのかな?」

 

「会ってみない事には・・・・・でも、それよりも前に私は会ってみたい、話してみたい気持ちの方が大きいんです」

 

真摯なリアスの願いに、顎に手をやって考える仕草をする誠。しばらくして口を開いた。

 

「まぁ、いいか」

 

「いいの?」

 

「ただし、向こうがOKを出せばの話しだ」

 

と、話は決まって早速誠たちは確認しに行ったのだった。後日―――。リアスたちは兵藤と式森の血を受け継ぐ悪魔との会談が決定した。

 

―――○●○―――

 

一誠がいない家のリビングキッチンにはグレモリー眷属、シトリー眷属、サイラオーグをはじめ、和樹と龍牙、カリン、清楚、悠璃、楼羅が集っていた。勿論リーラたちもこの場にくる来訪者を見る為集まっている。

 

「まー坊は知っていたんだろ?」

 

「流石に子孫までは知らないよ。どんな子が来るのか楽しみだ」

 

「一誠の悪魔バージョンか。とても興味深い」

 

三大勢力のトップたちも来訪者を待ちつつ茶菓子を飲食していた。

 

「リアス、どんな子でしょうね」

 

「実際に会ってみないと分からないものだわ。ちょっと緊張しちゃう」

 

「兵藤一誠みたいな男だったら是非とも拳で語ってみたいものだ」

 

「和樹さん和樹さん。彼みたいな人が悪魔として生きていたことどう思いです?」

 

「興味深いよ。お父さんや源氏さんですら認知していない、彼と似た人がいるなんてさ」

 

一誠と交流している面々も待ち遠しそうに誠と一香が迎えに行ってから数分が経過していた。

 

そして、その時が来た。

 

床に走る魔方陣の光は転移式で、光と共に三人がこの場に現れる。

 

「待たせたな」

 

「大先輩たちの子孫の中で代表としてこの子を連れてきたわ」

 

誠と一香の間にいる小さな、紺野木綿季と同じぐらいの身長の少女。

 

「えっ?」

 

その少女を見たユウキは信じられないと目を丸くする。連れて来られた少女もユウキを見て目をパチクリ。

 

「紺野・・・・・さん?」

 

「ど、どうしてキミがここに?」

 

その少女はユウキと同じクラスメイトだった。ユウキにとって予想外な人物の来訪で固まった。

誠はユウキと少女を身比べ「知り合いだったとはね」と感心した。

 

「あなたが兵藤と式森の血を受け継いでいる悪魔?」

 

「え、えっとリアス先輩?どうして私、ここに連れて来られたのですか?」

 

「先の三大勢力戦争に兵藤家と式森家が介入して戦争を終結させた歴史は知ってるでしょ?その当時から転生悪魔として生きていた兵藤と式森の子孫を会いたかったの。それがあなたよ?」

 

「そ、そうでしたか・・・・・」

 

どうやらある程度自分の立場を把握しているようで、納得した様子で少し委縮気味に立っていればユウキが近づく。

 

「驚いたなー。まさかキミが先輩みたいな人だなんて知らなかったよ。悪魔なのは知っていたけどさ」

 

「えっと、私の両親は兵藤と式森の人だったから私も天皇兵藤家と式森家の血を受け継いでいることは知っていたけれど、学園に入学する前に『兵藤家と式森家の人間にはお前の素性を教えてはならない。勿論強さも隠すこと』と言われてずっと隠していたの」

 

「良いご判断です。一誠さまに対して『化け物』など言われておりますからあなたも兵藤家の者から酷い罵声を浴びたいたでしょう」

 

リーラも話に加わると少女がペコリとお辞儀をした。

 

「織斑恋姫ですっ。リーラ先生」

 

「今は教師ではなく、一人のメイドとしていますのでリーラさんとお呼びください」

 

柔和に笑み、朗らかに織斑恋姫に声を掛ける。

 

「残念ねサイラオーグ?拳で語ることができなくて」

 

「ふふっ、彼みたいな男の子ではありませんでしたからね」

 

「ええっ!?」

 

自分の知らないところで自分はどんな評価と想像されていたのか何も知らない恋姫。上級生でSクラスの先輩を見れば少し、恥ずかしそうにリアスとソーナから顔を逸らしていた。

 

「あっ、もしかしてセーブをしていたのって悪魔の力ってこと?」

 

水上体育祭時に言っていた言葉を思い出し、恋姫に尋ねるとコクリと頷いた。

 

「お父さんとお母さんが転生悪魔でゲームの現役の人だから私を含んだ孫や子孫の皆は直々に鍛えられているの。その中で私は一番の実力者だって言われて・・・・・」

 

「ほほう、あの二人が称賛するほどか。で、自分の力はどれぐらいなのか試した事があるのか?」

 

アザゼルの指摘に恋姫は困った顔で悩み、けれど、遠慮気味に答えた。

 

「お父さんとお母さんの主より一つランク上の最上級悪魔の主を一対一で倒しました」

 

「・・・・・マジかよ」

 

どの悪魔だか知らないが、若い少女が最上級悪魔を倒したその実力は凄い事であった。

フェニックス家のライザーより強いのだ。

 

「え、あなた・・・・・レーティングゲームに参加したことあるの?」

 

「いえいえ!?ただの力試しとお父さんとお母さんが誘ってくれて主の悪魔が稽古試合として特別に参加させてもらっただけです!」

 

「・・・・・その最上級悪魔は手加減していた可能性もあるが、それでも倒したとなると凄い事だ。リアス、ソーナ。もしかしたらこの嬢ちゃんはお前ら二人より強いかもしれないぞ?」

 

アザゼルは二人に対してそう言うと―――サイラオーグが恋姫の前に立った。

 

「いきなりだが、お前の強さを試したくなった」

 

「え?」

 

「すまない。行くぞ?」

 

サイラオーグにとっては軽く拳を突き出した。しかし、その拳は軽くでも相手を吹き飛ばし、下手な悪魔や人間の戦意を折る拳圧=威力が込められていた。

 

「っ!?」

 

鳩が豆鉄砲を食らったように恋姫は突然の攻撃に驚いて身体が反射的に動いた。接近する拳を左手で添えつつ逸らし、片手をサイラオーグに向けると空気の塊が集束したと思えば一気に弾ける。

何かの攻撃の予兆だと察知し、丸太のように野太い腕でガードの構えをした途端に

壁まで吹っ飛んだサイラオーグをリアスたちは愕然として目の当たりにするのだった。

 

「嘘・・・・・」

 

「ほう・・・・・」

 

吹っ飛ばされたサイラオーグはガードした腕に痺れを感じつつ恋姫を見据えた。

 

「弾かれたような衝撃が伝わったな。神器(セイクリッド・ギア)か?」

 

「は、はい。どうやら空気を司る神器(セイクリッド・ギア)みたいで最上級悪魔の人の周囲の空気、酸素を奪って倒しました」

 

それはゾッと戦慄する戦い方だった。悪魔でも人間のように酸素が無ければ生きていけない。

いくら最上級悪魔といえども酸素を奪われたら一溜まりもないだろう。

 

「嬢ちゃん。禁手(バランス・ブレイカー)に至っているか?」

 

「はい。でも、危険過ぎて至ってから封印の形で使っていません」

 

「今のご時世に戦いなんて頻繁に起こらないもんだから当然だ。だが、お前さんの力は今必要になる。一誠の事だが知っているな?」

 

恋姫は無言で頷いた。

 

「どうして先輩はテロリストになってしまったのですか?優しい先輩が・・・・・」

 

「今のあいつは正気じゃない。俺たちの予想だが、洗脳されているんじゃないかって思っている」

 

「洗脳・・・・・じゃあ、先輩は自分の意志でテロリストになったのではないのですね?」

 

「断定はできないが俺たちはそう信じている。嬢ちゃん、お前さんの力を一誠の奪還のために貸してくれないか」

 

アザゼルの真剣な言葉を聞き、周りにも視線を向ける。皆、アザゼルのように真剣な面持ちで立っていた。

 

「・・・・・今度は私が先輩を助ける番ですね」

 

ポツリと漏らした恋姫。その言葉はリーラが疑問を抱かせた。

 

「どこかで一誠さまに助けられた事がおありなのですか?」

 

「はい、まだ小さかった頃・・・・・先輩が金色のドラゴンになって崩れた建物から他の子と一緒に助けてくれました」

 

それは―――リーラ、誠、一香が今でも覚えているあの大事件の事だった。

 

「まさか・・・・・」

 

リーラは思い出した。当時、まだ小さかった一誠の他にも九鬼家の子息や息女、名も知らない小さな黒髪の少女がいた。気を掛ける事も無くその黒髪少女のその後はどうなったのか分からないままリーラたちは今の今まで生きていた。

 

「あなたは、あの時の子供だったとは・・・・・」

 

「今でも覚えています。瓦礫の下敷きになっていた赤い髪に綺麗な金の瞳の男の子のことを。紺野さんが呼んでくれた先輩はあの時の男の子によく似ていました。そして、先輩が兵藤家の人たちとのゲームの最中でなった金色のドラゴン・・・・・確信しました。先輩があの時の子供だって」

 

その事を家族に告げると「そうか」と笑って聞いてくれた―――。また今度、お礼を言いに行こうとも言ってくれた。

 

「あの時の子供がこの学校にいて直ぐに会えたことに心から嬉しかった。先輩は気付いていなかったけれどそれはしょうがないと思った。私もようやく気付いたから先輩もいつか気付いてくれると思って待っていました」

 

しかし―――一誠はテロリストとなってしまった。

 

「先輩の身に何が起きたのか私には分かりません。だけど、今日ここに来てよかったです。先輩はテロリストに洗脳されている可能性があると聞けて安心しました。だって、先輩は自分の意志でテロリストになったのではありませんよね?」

 

「はい、あの方は洗脳されている可能性があります」

 

その言葉は自分に言い聞かせるようなものでもあった。もしも、仮にも、万が一にも一誠が望んでテロリストになったとしたら自分たちはそれでも一誠を止める他手段は無い。

 

「―――私も先輩を助けたいです」

 

その言葉で十分だった。リアスたちは織斑恋姫という少女を向かい入れ歓迎した。

 

「それで、私も対テロ組織に入ればよろしいでしょうか?」

 

と、恋姫の尋ねは誠が答えた。

 

「いや、ここはこの場にいる全員が対テロ組織にした方がいいと俺は思うよ」

 

「誠・・・・・また突然凄い事を言うな」

 

唖然と呆れが混ざった声で会話を繋げるアザゼルに誠は呆れ顔で口から言葉を発した。

 

「だってな。あの組織に入ると自由に動けなくなるぜ?それに多くの兵藤や式森も対テロ組織のメンバーとなれば下手な警察なんかよりずっと良い動きをする。俺たちは民間警察―――混成チームを組むべきだと俺は考えている。何より相手は一誠だ。一誠を知っているお前らなら他の奴らなんかより戦いやすいはず」

 

「たしかに・・・・・でも、そんな勝手に決めちゃっていいのですか?」

 

「だったら俺たちがバックについてやんよ」

 

ユーストマが威風堂々と腕を組んで告げた。

 

「俺とまー坊、アザゼル坊の三大勢力が全力でお前ら若い連中をサポートしてやる。めんどくさい人間のお偉い共が何を言って来ようがやることは同じだ。ただし、あっちの連中より早く―――」

 

「一誠ちゃんをキミたちの手で倒し、捕縛しないと彼は最悪死刑として処刑されてしまう」

 

ユーストマに続いてフォーベシイもリアスたちに語りかける。

 

「そして何よりも一誠ちゃんの力は今後必要になる。―――リゼヴィムが異世界に興味を持つことはそれだけでも危うい。彼の危うさは他の神話体系にも知っているし、世界に混沌を陥れるようなことがあれば全力で阻止しないといけない」

 

展開した魔方陣から束ねられた一つの書類が。

 

「魔王さま、それは・・・・・?」

 

「これはね?異世界の一誠ちゃんが帰る前にくれた資料だよ」

 

異世界の兵藤一誠・・・・・。リアスたちは驚きの色を顔に浮かべた。

 

「この資料の中にはブラックリスト=危険人物の名前まで記されていたんだ。彼、リゼヴィムの名前があった」

 

「まさか、異世界でもリゼヴィムは・・・・・」

 

存在し、危険極まりない事をしていた?と言おうとしたリアスだが、フォーベシイの首は横に振った。

 

「名前だけ記されていて、異世界で何が起きたのかまでは書かれていなかった。まるで、警戒しろとばかりにね」

 

「実際、あの野郎はテロリストとなって俺たちの敵となった。この資料のおかげで色々と心構えぐらいはできたがな」

 

「しかも、リゼヴィムだけじゃない。他にも危険人物として書かれた名前があってその中に―――ルキフグスの名前があった」

 

「ルキフグスって・・・・・まさかっ!?」

 

グレイフィアかシルヴィアが・・・・・と思いきやその考えは否定された。

 

「ユーグリット・ルキフグス。グレイフィアとシルヴィアの実弟だ。行方不明とされているルキフグス家の悪魔なんだが・・・・・」

 

この資料で知る限り、どうやら生存しているらしいとアザゼルは言った後に

 

「俺たちはこの資料を元に動かざるを得ない」

 

と発した。

 

「でも、その曖昧な資料だけじゃ不安ですね」

 

イザイヤの言葉に誰もがその通りだと雰囲気を醸し出す。人物の名前だけ書かれてもこれから起きる騒動の詳細も記されていれば事前に対処できるんじゃないかと思いを抱く面々もいた。

 

「いや、あっちの世界で起きた騒動とこの世界で起きる騒動が全く同じとは限らない。実際異世界の兵藤一誠はこう言っていた。―――知らない奴がいるなって」

 

「それは単に出会っていなかったからじゃない?」

 

「その可能性はあるかもしれない。だが、明らかに違いはある事を俺は分かった事がある」

 

それは?アザゼルに疑念の視線を向け、一身に浴びるアザゼルは答えた。

 

「異世界の一誠はオーフィスとグレートレッドの力を一つにし鎧として纏った。対してこの世界の一誠は真龍と龍神の力を借りず戦っている。これが異世界の一誠との違いだ」

 

『・・・・・』

 

「この違いは些細でも大きいことには変わりない。異世界は異世界、この世界はこの世界と時は進んでいるはずだ。異世界の一誠がくれた異世界で起きた事件が書かれた資料を参考にしていたら俺たちは対処の為、最善の策と行動をしていたら―――それがもしも全て間違いだったらこれ以上の無い愚かさと恐ろしさを俺たちは味わう」

 

それを分かってて異世界の一誠は敢えて危険人物の名前だけを記したんじゃないか。アザゼルはリアスたちにそう言う。

 

「異世界のイッセー・・・・・あっちのイッセーも私たちも大変な思いをしていたのかもしれないのね」

 

「だろうな。あー、異世界に行ってみたいなー」

 

呑気に言うアザゼルに苦笑を浮かべる。そして後日。一誠を知る者たちだけが結成した対テロ組織が誕生した。

世界からすれば非公式で非公認の対テロ組織。一歩間違えればテロリストとして認識されてしまう危うさがあるがバックには三大勢力、そして後にこの対テロ組織を支援する各勢力からのおかげでリアスたちは異種族混成の対テロ組織チームとして活動する事となった。―――その事実は世界に報じられるのも時間の問題だった。

 

 

hero×hero

 

 

「面白い事になってきた。これは私たちの挑戦状と受け取ってもいいのかな?」

 

「リアス・グレモリーたちもようやく動きを見せたか。ああ、このチームは俺たち英雄派にとって無くてはならない存在だ」

 

「ふふっ、ふふふ・・・・・っ!きっと一誠を奪還しようと躍起になるだろう。彼女たちとはどんなバトルができるのか楽しみだ」

 

「だが―――まだ動くつもりは無いのだろう?」

 

「ああ。今は一誠というイレギュラーな存在が神器(セイクリッド・ギア)の所有者をイレギュラーな覚醒に導かせている。もう少し懐を温めてからかな」

 

「世界中を旅し、神話体系の神々を相手に修行してきた存在は物凄く大きいな」

 

「キミもあの魔導元帥ゼルレッチの自筆の本を一誠から借りているそうじゃないか。何か得れたかい?」

 

「そうだな。大変参考にさせてもらっている。まさか、いきなり突き出された本が有名な魔法使いが書いた直筆の本だと見るまでは訝しんだものだ」

 

「最近、姿を見せず籠って読書に没頭していた時期にはどうしたのかと思ったよ」

 

「ふっ。魔法使いは新しい知識を目にすると欲望的なまでに貪りたくなるものさ」



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エピソード53

対テロ組織混成チームが結成した。その事実は世界にまで伝わって早数日が経過した。

その間、一誠と交流を持っている強者たちは自分を売り込んでテロ組織チームに参加するなど小規模な組織と成長をする。しかし、まだ学生の身分であるリアスたちは事件の発覚前かその後にしか動けない。それまでは変わらぬ学生生活を送る事になるのは当然。

 

「何度見ても、この組織のメンバーはまるでこの為に用意されたもんだと思ってしまうな」

 

職員室でアザゼルが持つ紙に書かれた対テロ組織混成チームのメンバーを見て漏らした。

 

 

所属メンバー

 

サイラオーグ・バアル眷属 冥界

 

リアス・グレモリー眷属 冥界

 

ソーナシトリー・眷属 冥界

 

シーグヴァイラ・アガレス眷族 冥界

 

教会(リーズヴァイフェ・ストリンドヴァリ、レティシア・J・D・ルーラー、

   紺野木綿季、紫藤イリナ、ゼノヴィア)天界

 

式森和樹 人間(魔法使い 式森家)

 

神城龍牙 人間

 

カリン・ル・ブラドン・ド・ラ・マイヤール(魔法使い)

 

葉桜清楚 人間

 

兵藤家 (兵藤悠璃、兵藤楼羅)

 

アカメ 人間

 

クロメ 人間

 

金剛姉妹 (金剛、比叡、榛名、霧島)

 

川神学園(川神百代、エスデス、魔人シオリ)

 

織斑恋姫 悪魔

 

兵藤一誠ファミリー 人間、悪魔、吸血鬼、妖怪、蜘蛛、エルフ、ドワーフ、

          ヴァルキリー、神(神滅具(ロンギヌス)幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』)

 

無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン) オーフィス 

 

三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン) クロウ・クルワッハ 邪龍

 

黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン) ヴリトラ 五大龍王

 

 

総勢三十人は超えている。その上、誰一人として普通じゃない。オリンピックでも

目指せるんじゃないかって思うほどの一誠奪還メンバーが集ったのだ。

 

「さらにヴァーリたちも加わるとなれば・・・・・もう、英雄派はヤバいんじゃないか?」

 

一誠というイレギュラーな存在がいようとも、この壮絶なメンバーの前では流石にとアザゼルの感想だった。

しかし、足りない部分があった。

 

「リーダーを務めてくれる奴は誠か一香にして欲しかったが・・・・・」

 

二人は各神話体系との繋がりを持っている故に他の神々と交渉役。なので未だに決まっていないリーダーやサブリーダーなどの重要な席は空席のまま。これに懸念しているアザゼルは唸るように漏らし眉根を寄せて悩んでいた。

 

「その上、どれだけ凄い奴らが集まったところで一人一人が弱いんじゃ話にならん」

 

となれば、『師』が必要になる。一誠が今まで世話になった超常の相手の誰かの中で―――。

 

「―――アザゼル先生、そろそろ時間ですよ。早く行きましょう」

 

「おお、もうそんな時間だったか」

 

催促の声が掛かり席から立ち上がり、誰もいなくなる職員室を後にするアザゼル。

川神学園が崩壊して幾日が過ぎたある日。川神学園に在籍していた全校生徒たちに突然の通達が送られた。

その内容は目を張り驚くものだった。

 

―――国立バーベナ駒王学園に転属―――

 

悪魔、天使、堕天使、人間が共存し、交流する光陽町にある学園で通う通達だった。

駒王学園の制服や教科書までも一緒に送られているので本当に違う学園で残りの学校生活を過ごすのだと思い知らされた。戸惑い、困惑、動揺はするものの、学園側の決定事項であることなので生徒たちは着慣れない違う制服を身に包み、鞄を持って駒王学園へと向かった。

 

「アタシたちが駒王学園に通うことになるなんてね」

 

「天使の可愛い子がいたら堕ち無い程度に可愛がってやるぞーお姉さんは」

 

「モモ先輩。友達ができたら俺様にも紹介してくれっ!」

 

「異種族と一緒に勉強かぁ・・・・・緊張するよ」

 

「にしても、この制服は可愛いな」

 

「川神学園とは違う制服を着るのって新鮮だね」

 

「しかも俺たちが通う学園は寄付金を出しても自由な服装で登校なんてできないからな!」

 

「ああ、不死川あたりのお金持ちは駒王学園の制服で登校しないといけなくなるな」

 

仲の良いグループの姿も登校する。

 

「一誠が通っていた学校か・・・・・」

 

百代はこれから行く学園に対して呟く。一誠がいない学園。通っていた学園とは違い、

人間だけじゃなく、悪魔や天使、堕天使もいて普通の人間とは違う戦い方をする種族に期待を抱く。

 

「あっ、ここね!」

 

吸い込まれていくように駒王学園の生徒について行く形で足を運べば、悪魔と天使と堕天使を象った巨大な門を発見した。潜れば林の道に進んで抜け出ると噴水がある広大な敷地に辿り着く。真っ直ぐ進めば玄関が生徒たちを出迎える他、左右に進むと運動用のスペースに出れるのだ。

 

「おお、広いな」

 

「東京ドーム十個分の広さほどだから当然だけど」

 

「ああ、実際に来ると広い」

 

「本当に凄いな」

 

駒王学園の広大さを感嘆、称賛しこれから通うこの学校に胸を弾ませて玄関に向かう。そのまま駒王学園の教師に体育館はへ案内され全校集会が始まった。ステージのところに視線を、目を、顔を向ければ三人の中年男性が仁王立ちして川神学園の生徒たちに真っ直ぐ声を飛ばした。

 

「やぁ、川神学園の生徒諸君。私はこの国立バーベナ駒王学園の理事長の一人で冥界の魔王をやっている魔王フォーベシイだよ」

 

「同じく理事長で天界じゃ神王をやっているユーストマだ。よろしく」

 

「私は八重垣正臣。魔王フォーベシィと神王ユーストマと同じ駒王学園の理事長を勤めている者だ。きみたち川神学園の生徒を歓迎しよう。ようこそ国立バーベナ駒王学園へ」

 

三人の理事長が朗らかに出迎えた。

 

「キミたちの学園が復興するまでの間はこの学園で通って貰う事を川神鉄心殿と話し合いの末に決まった。前の学園と勝手は違うところもあるだろうが、柔軟な姿勢で受け入れ残りの学校生活をここで送って欲しい」

 

「それとお前たちのクラスは川神学園の生徒用にこの学園とは別にもう一つクラスを増築しておいたぜ」

 

「以前のクラスとほぼ同じ作りにしてあるから対して緊張もしないだろう」

 

何時の間にそんな事をしていたのだろうかと疑問と驚きが顔に浮かぶ。それから川神学園の生徒に色々と説明をし、最後に注意事項など伝えると自分たちのクラスへと戻した。

 

「二つの学園分の生徒の人数だと結構な数になるな」

 

「長年切磋琢磨した学園だから放っておくこともできないししょうがないよ」

 

「それに川神学園の生徒の中には戦力になる者がいる」

 

正臣の言葉の意図は神器(セイクリッド・ギア)の所有者がいるという含まれていた。

百代やエスデス、シオリなど逸脱した力の持ち主も。

 

「もう、この学園自体が対テロ組織になっているんじゃねーか?」

 

「失礼な言葉だけど、人間の政府より大分力があるよこの学園は」

 

「そんな戦力と同等の戦力を兵藤一誠くんが有している可能性があるから彼は末恐ろしい」

 

「「私(俺)の自慢の義理の息子だから当然!」」

 

胸を張って威張る二人の王に何とも言えない気分となる正臣。その頃、体育館を後にした三年の百代たちは三階の廊下に歩いて駒王学園の三学年の教室とは反対側にある自分たち専用の教室を見詰める。

 

「凄いな、ビリビリとこの肌に突き刺さるぐらいの強い気配を感じるぞ」

 

「覚えのあるものだな。確か、サイラオーグとかいう悪魔だったはず」

 

「ああ、彼ね。それにこの階でも悪魔、天使、堕天使がいるみたい。流石は異種族共存と交流を象徴する学園だわ」

 

それじゃ、とシオリは自分のクラスへと足を運ぶ。エスデスも同じく足を運び、百代はFクラスに入った。

 

「いやー、まさか私たちがこの学園で通うことになるなんてびっくりしたよん」

 

「弓道部はあるといいで候・・・・・」

 

背中まで伸びた黒髪の少女と眼鏡を掛け、古臭い語尾を発するクールビューティーの少女の話を聞き、

百代は相槌を打つ。一方、二学年の方では

 

「うおおおおおおおおお・・・・・!?なんじゃこの教室、女子しかいないじゃねぇーか!?」

 

岳人が女子しかいない教室、駒王学園の扉が開けっぱなしの教室の中を覗いていた。

絶えまなくフラッシュを発し、女子たちの姿を撮る小柄な男子も鼻息を荒くしている。

 

「駒王学園の女子は全員レベルが高いって話を聞いたことあったけどマジだな!」

 

「ああ、この教室に入れば否が応でもハーレム確実だぜ!」

 

しかし、ハーレムなど儚いどころか絶望だった。自分たちの教室を覗きこんでいる見知らぬ男子に気付き、

敵意と警戒が籠った視線と顔に出して―――。

 

『なに見てんのよこの変態!』

 

『誰が覗きこんで良いと言ったのよ!』

 

『そこのチビ!そのカメラを寄こせ!さっきから私たちを撮ってんじゃないわよ!』

 

美しい花には棘があると言うが、駒王学園の女子は棘どころか槍や剣並みに鋭かった。

川神学園の生徒たちは知らされていた女子しかいない二年D~Fの教室に一切立ちよっては

いけない事を。だが、女好きの男子たちは注意されたにも拘らず無視した結果、

女子たちは男に対して嫌悪、敵意や警戒、殺意までも抱いて襲いかかり始める。

 

「ひえっ!?」

 

「ちょっ!なんでそこまで怒るんだ!?」

 

駒王学園の女子から感じるプレッシャーに戦慄して素早く自分たちの教室に逃げ込んだ。

逃げられ、一人の女子がビシャンッ!と物に八つ当たりする感じに勢いよく扉を閉じた。

 

『まったく、他の学園の男ども皆変態だったなんて信じられない!』

 

『やっぱり男なんて信用できないわ!』

 

『男なんてみんな死んでしまえ!まだ、兵藤一誠の方が―――』

 

と、教室から聞こえてくる怨嗟の声が。命の危険性を感じ、命からがら逃げてきた二人の男子に呆れる友人の女子学生。

 

「あんたら、この学校の女子の教室に近づいちゃダメだって理事長先生に言われたじゃない」

 

「そうですよ二人とも!」

 

「頭ン中は女のことしか考えていない獣なんだからしょうがなくね?」

 

岳人と男子学生が反論。

 

「ちょっと見ただけだ!」

 

「俺はこの学園を来た記念に写真を撮っただけだ!」

 

「サルの方はただ、女子を撮りたいだけでしょーが」

 

と、女子学生が呆れているとこの教室に見知らぬ女子が「失礼する」と入ってきた。

それから視線を周囲に見渡し、ピンポイントにカメラを持つ男子を見つければ近寄るのだった。

 

「お前か」

 

「へ?」

 

「お前に写真を撮られた女が『私できっと変なことに利用するかもしれないからお願い。

回収か壊してきて!』とせがまれてな」

 

あっさりと男子学生は黒と金が入り乱れた長髪の女子にカメラを奪われ、

両手で強度など感じさせずバキバキッ!と圧縮、捏ねまわし、最後は丸い鉄屑と化した

カメラを渡された。

 

「この学園には不要な物を持ってくると風紀員に没収されるので気をつけろよ?」

 

それだけ言い残して女子学生は教室を後にした。そして、思い出したかのように言葉を発する川神学園の生徒。

 

「あ、ああ・・・・・っ!小遣いを数カ月分、この日の為に前借りして買った俺の

カメラが・・・・・っ!?」

 

「サルの自業自得よ。だけど、どんな怪力の持ち主なのよ・・・・・」

 

「不要な物って俺さまのプロテインも没収されるのかよ!」

 

「まさか、僕の食料も・・・・・?」

 

不要な物を持ってきている学生たちは戦慄した。駒王学園は川神学園よりフリーダムにはできないと。

 

 

「OH・・・・・イッセー・・・・・」

 

机に突っ伏し、寂しげに漏らす金剛の隣に無言で読書をするパチュリー。

姉を心配する三人の妹たち。

 

「ううう・・・・・イッセーがいないと寂しいデース」

 

「しょうがないじゃない。彼、テロリストになってしまったのだから」

 

「NO!イッセーはきっと洗脳されてテロリストになってしまったのデースヨ、パチュリー!」

 

「それはそれで厄介でしょう。彼、結構強いのはあなたが良く知っているでしょ?」

 

本に目を落としたままのパチュリーにコクリと頷きながらYESと答える金剛。

一誠がいなくなってから一カ月が経とうとしている。男子がいなくなって清々したと女子たちはそんな反応と態度はしなかった。少なからず、言葉にしないが一誠を受け入れていた様子にそれをパチュリーは感じ取っていた。

金剛の言う通り、洗脳されているから―――と思っているに違いない。

 

「パチュリーは一緒に協力しないのデスカ?」

 

「私は魔法を使えないのよ?そんな役に立たない人間がいてもしょうがないでしょう」

 

「でも―――」

 

「でも?」

 

「噂だけどパチュリーはアザゼル先生と密会しているって聞いたのデスガ?」

 

それはどうして?金剛の疑問の指摘に一瞬だけパチュリーの目に動揺の色が浮かんだ。

 

「それは気のせいよ」

 

「そうデスカー」

 

「ええ、気のせいよ」

 

話はコレでお終いと本のページを捲るパチュリーから醸しだした。だが、これで終わらせようとするパチュリーに金剛がそうは問屋が卸させなかった。真正面で笑みを浮かべ言った。

 

「―――直接先生本人に訊いたら、魔力を扱えるようになりたいと言って来たと教えてもらいマシタよ?」

 

「―――」

 

口の端がヒクリと引き攣った。直ぐに反論の言葉が出ず、その沈黙は肯定である事も金剛は察し、嬉しそうに発する声を弾ませた。

 

「パチュリーも一緒にイッセーを奪還するのデース!」

 

「・・・・・」

 

秘密をバレたパチュリーは恥ずかしげに羞恥で顔を赤く染め、明るく話しかけてくる金剛に見詰められる。

―――実際、読書しているパチュリーが持っている本は自分の持病について調べる参考書の本だった。

そこまで気付かれていない事に安心すればいいのか分からないが、一誠の事心配している事実を知らされたのは明らかにされた。

 

―――○●○―――

 

「―――曹操、川神学園と駒王学園が一つになった」

 

「ん、戦力が一つになった組織と考えるべきか」

 

「狙いは対処しやすくするため動きやすく集めたのだろうな」

 

「そうか。レオナルドのアンチモンスターも一誠のおかげで大幅にパワーアップしたところだ」

 

「彼の神滅具(ロンギヌス)の創造とレオナルドの創造が合わさると驚異的なモンスターが創れるな」

 

「ふふっ、二つの神滅具(ロンギヌス)の創造がこんな形で組み合わすことができるなんて面白いじゃないか」

 

目の前で行われている一誠とレオナルドの思考錯誤の実験。思わず目を覆いたくなるような生物も創られていて、

曹操は愉快そうに見守り続ける。

 

「これならリゼヴィムも倒せるのではないか?」

 

「多分ね。だが、それはまだ早い。一誠はまだまだ私の傍にいてもらわないと困る」

 

顔に笑みが消え、真剣な顔と変わってゲオルクに言う。

ゲオルクとしても今ここで一誠が敵になっても困るのは同意見であった。

今では英雄派にとって兵藤一誠の存在は必要不可欠となっている。洗脳されているが一誠の能力は凄まじい。

 

―――主に家庭的な意味で。

 

「知ってるか曹操」

 

「ん?」

 

「兵藤一誠を狙っている同士がいることを」

 

曹操の反応はゲオルクが予想していた通りだった。ゲオルクに反射的な速度で振り返り、信じられないと目を丸くしていたのを確認すれば面白可笑しそうに口角を上げてしまう自分がいる事を自覚しつつ問われた言葉に答えた。

 

「・・・・・本当か?」

 

「実際に訊いたわけではないが、そういう同士が少なからずいることを確認している」

 

「むぅ・・・・・」

 

困った顔で唸る曹操。仲間同士の恋愛は気にしていない曹操だが、狙っている異性が狙われていることを改めて知って複雑な心境で信頼している仲間からの言葉を耳に傾ける。

 

「その中にはヘラクレスやジークもいるぞ?」

 

ピシッッッ!!!!!

 

あっ、変な音が聞こえた。ゲオルクは他人事ごとのように思って付け加えた。

 

「まぁ、それ冗談―――って、曹操?」

 

何時の間にかいなくなっていた首領。どこに行ったのだろうかと考えるがアッサリと止めた。

 

『・・・・・ヘラクレス、ジーク。ちょっと来てくれないか?』

 

『あ?どうしたそんな怖い顔をしてよ』

 

『何かあったのかい?』

 

『ああ、ゲオルクが面白い事を聞かせてくれてね。ちょっと私と稽古試合をしようじゃないか』

 

『別に構わないけれど―――どうして禁手化(バランス・ブレイク)になるんだ?』

 

『ていうか、なに殺気立っているんだお前・・・・・』

 

『ふふっ。ふふふっ・・・・・フフフフフフッ!!!!!』

 

『『そ、曹操・・・・・っ!?』

 

二人の同士が阿修羅化した最強の神滅具(ロンギヌス)の所有者に追いかけられていると目撃者が後を絶たず口々に恐怖の色を顔に浮かべてゲオルクに報告したのは別の話である。

 

「「ゲオルク、お前かぁぁああああああああああっ!」」

 

「ああ、すま―――(バキッ!)」

 

後に、元凶にも天罰が下ったのだった。テロリスト『英雄派』は今日も賑やかに

一日を過ごす―――。

 

 

魔王リゼヴィムに国を滅ぼされた少女、リースは自分のからだの変化を確認している。

目の前にいる一誠が聖杯を使ってリースを別の種族に転生させたばかりなのだ。

二人以外に幹部クラスの面々も突っ立って新しく入ってきた一誠が勧誘した少女を様子見する。

 

「ん、どう?」

 

「特に変わった感じがないけれど・・・・・」

 

「これから変わった自分を感じ、実感すればいい」

 

一誠にそう言われ、素直に頷くリース。

 

「しかし驚くな。まさか『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』に対象を別の種族に転生させる能力があるとは」

 

ゲオルクの言葉に一誠はこう答える。

 

「これコピーした奴だからオリジナルじゃない」

 

「オリジナルじゃない?じゃあ、オリジナルの聖杯は誰が所有している?」

 

「・・・・・」

 

ジークの質問を眉間に皺を寄せて答えを言い辛そうにしていた一誠が突然片手で頭を抑えて頭痛に耐えるような仕草をする。

 

「ジーク、兵藤一誠の家族を彷彿させる連想を与える言葉は言うな」

 

記憶を封印し、洗脳している一誠。敢えて記憶を消去じゃなく封印という形で

手元に置いている曹操。

封印した記憶に切っ掛けとなる言動や光景を与えれば施した封印に影響が及ぶ。

リースはどうして一誠がテロリストになっているのかは知らない。

ゲオルクが一誠の頭に魔術的な施しを与えると頭痛が収まったのか表情が和らいだ。

 

「彼の家族って?」

 

「すまない。これは幹部の者しか教えられないんだ」

 

新米のキミには教えられない、と暗に言われたリースに小さな謎が抱く。

 

「一誠、その聖杯で対象を転生だけじゃなく強化もできるかな?」

 

「・・・・・やったことがないからわからない。試して良い?」

 

「ああ、捕虜の三人にでも試してくれ」

 

「ん、分かった」

 

曹操との会話のやり取りを終える一誠は即断即決と捕虜の許へと向かった。

ついて行くように呂綺やセカンド・オーフィス、モルドレッドまでも一緒に続く。

 

「曹操、強化とは言ってもどんな強化をしてもらうんだ?」

 

「できれば、魔力無効化の強化が欲しいかな?」

 

「魔法使いの天敵な能力だな。身体能力も視野に入れているのだろう?」

 

「そうだね。まぁ、できればの話だ」と述べる曹操。

 

「さて皆」

 

曹操は朗らかに面々の顔を見渡してから言った。―――そろそろ私たちは動こうと。

 

「ようやくかっ!」

 

ヘラクレスは嬉しそうに拳を自分の手の平に打ち付ける。ジークも不敵の笑みを浮かべ、ゲオルクは眼鏡の位置の調整と動かし、レオナルドは無表情で頷く。

 

「相手はリアス・グレモリーたちか?」

 

「いや、それはメインディッシュといこう。まずは私たちと対抗を望んでいる日本の政府、対テロ組織だ」

 

「主に兵藤家と式森家がいる組織か。相手にとって不足ないだろう」

 

「兵藤家は一誠にとっても因縁がある。丁度良い相手じゃないか」

 

リースは何も言わない。悪に身を堕としてでも復讐したい相手がいる。望んで一誠と共に来た場所はテロリストの潜伏地。テロリストがする行いは悪逆非道。

本来ならば身を滅ぼしてでも止めるべきなのだろうだが、

そんなことすれば復讐はできない。それに兵藤一誠は何か事情があるようだ。

それを調べる必要がある。その為には―――。

 

 

「・・・・・曹操」

 

「なんだ?」

 

「彼女、リースは危険だと思うよ」

 

「なんでだい?」

 

「今は問題は無いだろうが一応、彼女については俺に任せて欲しい」

 

「わかった。お前がそこまで言うなら任せる」

 

 

そして―――テロリストの襲撃は日本政府に定まった。

 

 

「さぁ、始めようか。英雄たちの凱旋を」

 

『おうっ!』



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エピソード54

日本政府が集う国会議事堂の周辺には厳重な警備。警備員だけじゃなく、兵藤家や式森家の人間たちも警備員として私服で警戒していた。皆、何かに対する警戒心で険しい表情を浮かべ徘徊、闊歩している。

 

「はぁ・・・・・どうして俺たちが警備など」

 

「ぼやくな。これも日本を守る為だろう」

 

愚痴を漏らす兵藤に窘める式森。肉体派と頭脳派みたいな言動をすることで兵藤と式森の特徴が窺える。

 

「でもよぉ。全然事件なんて発生しないじゃんか」

 

「我々が表にいるのに犯罪を起こそうなど愚かな輩がいるわけがないだろう」

 

兵藤と式森の人間が二人一組で動いているのは前衛と後衛、王道的なファンタジーゲームのように行う戦闘スタイルをする対処の為である。

 

「ったく、式森ってのは真面目すぎて付き合い辛いぜ」

 

「傍若無人に周りへ迷惑を掛けている兵藤の尻ぬぐいをする我々式森の苦労を分かってもらいたい方だ」

 

「んだとぉっ!?」

 

式森の言葉にキレる兵藤の声が周囲にまで響き、周りの人間たちが奇異な視線を向ける中でも涼しげな顔で式森はハッキリと言う。

 

「事実だろう。そちらの若い世代の兵藤が犯した数々の罪。知らないとは言わせないぞ」

 

「あれはガキ共がしたことだろうが!」

 

「『兵藤』と名乗る以上、兵藤が犯した罪なのは変わりない。聞いたぞ?追放された元兵藤の若い者に粛清されたようじゃないか」

 

「ぐぬぬぬっ・・・・・!」

 

皮肉な事を言われて兵藤は屈辱に塗れた歪んだ顔をする。

 

「あの一件以来、こちらにまで聞く兵藤の傍若無人な働きの情報は極端に減った。私たち式森にとって嬉しい限りだ。尻拭いすることも、溜息も減ったぐらいだぞ」

 

残念ながらテロリストになってしまったがなと漏らす式森。

 

「話はここまでにして仕事に集中しろ」

 

「ちっ!」

 

式森に言葉で勝てず、酒の肴にされる話まで握られてしまった兵藤にとっては

腹立たしいことだった。この怒りを早くテロリストにぶつけたい思いでいた兵藤が―――。

 

ゾッッッッ!!!!!

 

なにか、例え難く、形容し難い不気味なプレッシャーを肌で感じ取った。

 

「どうかしたか?」

 

式森は気付いていない。これは兵藤でしか感じられない探知によるものだ。

仙術的な意味ではなく、例えるならば川神百代が感じる対象の気を探知のほうである。

 

「おい、テロリストがいるみたいだぞ」

 

「・・・・・こう言う時だけ兵藤は頼りになるのだから腹立たしい思いをする」

 

「へっ、そうかよ」

 

式森ではできないことを兵藤がするという現実を突き付けられるがその逆もまたそうなのである。

不気味なプレッシャーを発する者を探知する兵藤は周囲に肉眼で視線を飛ばし探し続けると、

激しい揺れが生じた。

 

「なんだ、この揺れは!?」

 

「―――下だ!下からとんでも無い気配を感じやがる!」

 

「下って・・・・・地面からかっ!?」

 

―――次の瞬間。道路が大きく盛り上がって巨大な黒い影が姿を現した。それは・・・・・。

 

「「・・・・・卵?」」

 

卵の出現から続々と情報が伝わった。なんと他にも国会議事堂を囲むように巨大な複数の卵が地面から出てきたのだった。

政府の人間たちは式森の転移魔方陣で問題なく脱出。住民の避難の急がせ誘導している対テロ組織の集団。

 

「一体何だろうなこれ・・・。おい、これは何なのか調べろよ」

 

「何らかの魔術が施されているようだな。それと今その解析をしているところだ」

 

魔方陣の展開して卵の情報を収集している式森に兵藤はぶっちゃけた。

 

「物理的に壊して良いんじゃないのか?」

 

「これが本当に卵だとすれば中身がどんな化け物が出てくるのか分からないものだぞ」

 

全長三百メートルもある無機質に真っ白な表面は生物の卵だと彷彿させる。

 

「どんな化け物が出て来ようが俺たちが倒せばいいだけだろう」

 

コンコンと殻を軽くノックをする感じで叩く兵藤に叱咤する。

 

「おい!迂闊に触れるな!(ピシッ)―――っ!?」

 

「あ、どうした?」

 

叩いた殻の表面に罅、亀裂が生じた。式森は反射的に魔方陣を展開した矢先に―――。

 

『作戦開始だ』

 

卵から聞こえる声と共に全体に広がる亀裂。そして・・・・・甲高く全ての卵が砕け散ったのだ。

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

孵化した巨大なモンスターが立ちあがって咆哮を上げる。兵藤と式森は臨戦態勢の構えをする。

 

「巨大な化け物を確認!これから迎撃に入る!」

 

「攻撃開始だっ!」

 

対テロ組織とモンスターの戦いが火蓋を切って落とされた―――。

 

東西南北、国会議事堂を囲む巨大な卵から巨大な生物が姿を現し建物を破壊しつつ

国会議事堂に進んでいく。

兵藤と式森の対テロ組織がそれを阻止しつつ攻撃を仕掛けるが与えたダメージが直ぐに

治癒、再生して効果はいまひとつだった。政府の呼び声に駆けつけた

神器(セイクリッド・ギア)の所有者も現場近くにいるが、

 

「ひぃぃいいいいっ!?」

 

「おいっ、どこに行く!」

 

戦闘経験や心が弱い所有者は敵うわけが無いと逃げ出してしまう。

率先に戦うのはやはり兵藤と式森。

その中には駒王学園の生徒である兵藤や式森もいた。

絶叫や怒号、悲鳴など戦場は阿鼻叫喚に包まれる。

味方の被害を出してでも倒す試みで動いているのだが―――。

 

「巨大な化け物から小型のモンスターが生まれたぞっ!」

 

「なんだとっ!?この化け物めが・・・・・!」

 

巨大な生物の身体から出てくる小型の異形のモンスター。

分身を産み出す巨大な生物を相手に思うように戦況を有利にできず

 

「くらえっ!」

 

小型モンスターに式森の魔力弾が炸裂すれば、異形の小型モンスターが大きく口を開けて魔力弾を吸いこんで無力化する驚きの光景。

 

「なんだとっ!?(ドンッ!)ぐあ!?」

 

一人の式森がモンスターに捕まった。モンスターは人間一人呑みこめるほど大きく口を開けては

アナコンダのように丸呑みしたのだった。すると、背中に異様な盛り上る際に丸呑みされた

式森がモンスターの肉の繭に包まれた状態で姿を窺わせる。

 

ギュッ!ギャハッ!ギィィヤアアアアアッ!

 

気持ち悪い声を発するモンスターが背中の肉の繭を輝かせると、オーラがモンスターを包み口から魔力での砲撃を放って建物を破壊した。

 

「こ、こいつ・・・・・!魔力を吸い込む、式森を取り込むだけじゃなく、式森の魔力を吸収して放つのかっ!?」

 

異形のモンスターの特殊な能力に戦慄し、畏怖の念を抱く。

 

「式森の連中に伝えろぉっ!小型のモンスターは式森を取り込んで魔法を放ってくるぞぉっ!」

 

カッ!

 

上空に巨大な魔方陣が突如として出現。対テロ組織がその魔方陣に見上げると魔方陣の上に乗っている学生服の上に漢服を着込んでいる少年少女たちがゆっくりと舞い降りる。

 

「良い感じになっているようじゃないか」

 

「レオナルドと兵藤一誠の創造によって造られた魔獣が兵藤と式森を圧倒しているな」

 

「僕たちが出る幕なんてないんじゃない?」

 

「つーか、魔獣共に苦戦しているぐらいだから弱いんじゃねーのか?」

 

―――英雄派、降臨―――

 

魔獣たちは英雄派の登場にも拘わらず兵藤と式森を率先に襲いかかっている。その中でも兵藤と式森は英雄派に敵意を向ける。

 

「テロリストどもがっ!ノコノコ俺たちの前に現れたな!?」

 

「良くも日本を、世界を騒がせたな。兵藤と式森の力を思い知るがいい」

 

二人は魔獣たちを掻い潜り、曹操たちの前にまで迫った。誰も動こうとはしない。

その中で曹操は口を動かす。

 

「―――一誠」

 

バッ!と黒い影が曹操たちの背後から現れ、兵藤と式森に飛び掛かった。相手が誰なのか把握する前に、現れた影によって――気と魔力を根こそぎ奪われ地面にひれ伏した。

 

「・・・・・弱い、これが兵藤と式森?」

 

「そして私たちを捕まえようとする対テロ組織だよ。―――さて、皆。思う存分に暴れようじゃないか」

 

『おうっ!』

 

―――○●○―――

 

アザゼルたち混成対テロ組織チームが国会議事堂の周辺に現れた時は一足遅かった。

町並みは廃墟と化し、数多の異形のモンスターと複数の巨大な生物が国会議事堂を

囲んでいた。

 

「何、あのモンスターは」

 

「おそらく、『魔獣創造(アナイアレインション・メーカー)』・・・・・神滅具(ロンギヌス)の能力で生まれた魔獣かもしれん」

 

「あれが全部神滅具(ロンギヌス)で創られた魔獣なんすか!?」

 

「候補に挙げるとすればそれしかない。しかもどうやら兵藤と式森の連中を

蹂躙し尽くした後のようだな」

 

人っ子一人もいない廃墟と化した町。警備していた警察や兵藤、

式森は全員・・・・・魔獣によって倒された。その事実に一成は声を震わせる。

 

「お、俺たちだけであの魔獣たちを、兵藤と式森を倒した魔獣を倒せるんすか」

 

「倒せるんじゃない。倒すしかないんだよ。式森の皆の仇を、僕が取らなくちゃ」

 

「一応、私たちもね」

 

「ええ」

 

和樹の言葉に悠璃、楼羅も同意と闇を、影を纏う。全員が戦闘態勢の構えになると

 

『気を付けて。小型の異形のモンスターたちは魔力を無効化するどころか、式森を取り込んで魔法を放つわよ』

 

突如現れた小型魔方陣からナヴィの声が聞こえる。

式森の皆が取り込まれている!?和樹はその事実に驚きを隠せなかった。

 

『大型の魔獣は小型の魔獣を生み出し、治癒と再生能力を持っていて生半可の攻撃は効かないわ。小型の魔獣の方は魔法を吸収、魔力を持っている対象を取り込む能力があるわ。事実、兵藤家の人間は取り込まず、片っ端に倒したら一ヵ所に集められているわよ』

 

「そいつらは無事か?」

 

『一人も死者はいないわ。式森の人間たちを助けるには背中の肉の繭から取り出せば大丈夫。それと魔力での攻撃は極力しないで物理的な攻撃が必要よ』

 

魔獣の攻略方法を告げるナヴィ。巨大魔獣の方は魔力を吸収する能力は無いと言うことも分かり、アザゼルたちが

これからするべき事が把握した。

 

「大型はともかく小型の方は面倒だな。倒しながら助け出さないといけないなんてよ」

 

「やらなければ式森家の者たちの命は危ないですよ」

 

物理的な攻撃―――となると、アザゼルは味方に視線を向ける。

 

「イザイヤ、白音、一成、レオーネ、アカメ、クロメ、龍牙と言った武器、肉体で戦う奴は小型の魔獣に捕らわれている式森の救出にあたってくれ。火力が自信のある奴はこれ以上小型の魔獣を産み出させない為に大型の魔獣を撃破だ。おい、ガーゴイル」

 

『なによ』

 

「あの議事堂の中を調べているんなら敵がいるかどうか分かっているんだろう?

どうなんだそこは」

 

ナヴィに尋ねたアザゼル。返答を聞く前にリアスが声を発した。

 

「アザゼル、小型の魔獣が動きだしたわっ」

 

「なに?」

 

視線を動き出す魔獣に向ける。小型の魔獣は突然、取り込んだ式森たちを吐きだした。

その行動は不明過ぎてアザゼルたちはただただ見守ることしかできない。

様子を見ていると―――。

 

ギャッ!ギャッ!ギュアッ!

 

小型の魔獣たちが一斉に大型の魔獣たちに群がって元の身体の一部へと還っていく。

唖然と見ているアザゼルたちはさらに驚いた。巨大な魔獣たちもそれぞれ融合をし始め、やがて一体の魔獣になったのだった。

 

グオオアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

魔獣は嫌な音を周囲に轟かせ肉体や骨格を変え、白い巨人へと変貌していく。

 

「『魔獣創造(アナイアレインション・メーカー)』の真骨頂ってか!」

 

「デ、デカい・・・・・っ!」

 

極太の両足に極太の両腕と両手、全長五百メートルは優に超えた怪物が顕現する。

 

「だが、あんなの他の歴代の『魔獣創造(アナイアレインション・メーカー)』の所有者でもできなかったはずだ。何か別の力が加わったような感じがするな・・・・・」

 

―――その時だった。ぬるりとした生温かい霧がどこからともなく発生してやがて霧が足元まで、町の至るところにまで広がると一行は辺りに警戒する。この霧は何なのだろうと怪訝に

「アザゼル、これは?」とリアスからの尋ねに警戒しつつ返答する。

 

神滅具(ロンギヌス)に間違いないな。それも上位種『絶霧(ディメンション・ロスト)』だ」

 

霧の正体が把握出来たところで敵が現れた。

一行の前方から方天戟を携える赤い髪の少女、呂綺が―――。

 

「お前は!」

 

直ぐさま警戒する。それに呼応して全員も臨戦態勢の状態に入る。

 

「その格好からして、お前は英雄派だな?」

 

「恋は呂玲綺」

 

「・・・・・悪い、どっちが名前だ?」

 

「呂玲綺」

 

改めて名を教えてもらったところで、場に緊張が走る。

 

「今回の目的はなんだ?って、テロリストが教えてくれるわけないか」

 

「兵藤と式森を倒す。もう終わった」

 

「・・・・・素直に教えてくれるとは意外だな」

 

対テロ組織に加わっていた兵藤と式森の撃滅が目的とした騒動だとあっさり教えてもらった。

 

「で、俺たちの前に現れたのは挨拶でもしようと?」

 

「うん、そう」

 

「・・・・・本当に素直に言うな。テロリストとは思えない純粋さだ」

 

「恋、偉い?」

 

純粋無垢な瞳を向けられる。誰もが呂綺に困惑する、戸惑っていた。

 

「話し合えばなんとかなるんじゃない?」

 

「俺もそう思ってきているんだがな・・・・・」

 

如何せん。相手はテロリストだ。話に応じてくれるとは思えない。試しに聞いてみた。

 

「一つ聞く。兵藤一誠は元気か?」

 

「ん、元気。毎日美味しいご飯を作ってくれる」

 

「・・・・・何やっているんだあいつ」

 

洗脳されてテロリストにされているんじゃないのか。

そう思っていたアザゼルの予想を斜め下な事実を知らされたのだった。

 

「お前は何をしにここにいる」

 

「敵を倒すため」

 

得物を構える呂綺。結局はこうなるんだなと悟って一行め臨戦態勢になる。

 

「そこまで悪いヤツとは思えないが、俺たちに協力する気はあるか?

お前の望むままの物を与えてやるぞ?」

 

「・・・・・いらない。恋は美味しいご飯を作ってくれる兵藤一誠がいてくれればそれでいい」

 

とある人物の名が挙がったことでリアスたちから発する何とも形容し難い、

言い難いものを不思議そうに呂綺は感じ取った。

 

「その兵藤一誠は今どこにいるのかしら・・・・・」

 

「教えちゃダメと言われているから教えない」

 

「そう・・・・・ならいいです」

 

ルーラーが禁手化(バランス・ブレイク)となって剣の炎を滾らせる。

 

「力尽くでも聞くだけです」

 

「無理、倒せない。負けない」

 

「・・・・・大した度胸ですね。たった一人で私たちの前にいるというのに緊張すらしないのですか」

 

 

「―――当然だ。彼女は英雄の魂を受け継いでいる者の一人だからね」

 

 

女の声がどこからともなく聞こえた。その声は呂綺の背後からだった。全員が注意、警戒しその場所へ視線を送っていると向こうから、複数の気配が現れる。薄い霧の中から人影が幾つも近づいてきて、アザゼルたちの前に姿を現す。

 

「はじめまして、アザゼル総督、そして兵藤一誠と関わりある者たち」

 

あいさつをくれたのは学生服を着た背中まで伸びた黒髪の女性だった、学生服の上から漢服らしきものを羽織っていた。手には槍を持っている。その槍を見てリアスたち悪魔、ルーラーたち教会がそれぞれ違った反応を示す。

女性の周囲には似たような学生服を着たのが複数人いる。若い男女ばかりだ。その中に―――一誠の姿は見当たらない。アザゼルが一歩前に出て訊く。

 

「おまえが噂の英雄派を仕切っている女か」

 

アザゼルの問いに中心の女性が肩に槍の柄をトントンとしながら答える。

 

「曹操と名乗っている。三国志で有名な曹操の子孫―――一応ね」

 

何の因果か。中国で曹操の子孫がテロリストとしてアザゼルたちの前に姿を現した。

 

「先生、あいつは・・・・・?」

 

視線を曹操から外さずに皆に向けてアザゼルは発した。

 

「全員、あの女の持つ槍には絶対に気をつけろ。最強の神滅具(ロンギヌス)黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』だ。神をも貫く絶対の神器セイクリッド・ギアとされている。神滅具(ロンギヌス)の代名詞となった原物。俺も見るのは

久し振りだが・・・・・よりにもよって現在の使い手がテロリストとはな」

 

『―――ッ!?』

 

アザゼルの言葉にリアスたちが酷く狼狽した。女の状態よリもあの槍に驚きの視線を向けていた」

 

「あれが天界のセラフ方々が恐れている聖槍・・・・・っ!」

 

イリナが口元を震わせながらそう口にする。ゼノヴィアも低い声音で続ける。

 

「私も幼いことから教え込まれたよ。イエスを貫いた槍。イエスの血で濡れた槍。―――神を貫ける絶対の槍っ!」

 

フェンリルの神を噛み殺す牙に似ている特性だった。

 

「あの聖槍の使い手がテロリストなんて・・・・・」

 

「悪用されている。聖槍が・・・・・」

 

「ああ・・・・・危険だな」

 

ショックを隠しきれない教会組。

 

「おや・・・・・」

 

曹操が一人のメイドに注目した。―――リーラ・シャルンホルストだ。

 

「これは驚きだ。リゼヴィム・リヴァン・ルシファーの手によって亡き者にされていたはずなのに甦っているなんてな。これもあの異世界からやってきた兵藤一誠の力かな?」

 

「一誠さまを返してください曹操さま・・・・・」

 

自分のことより大切な男を思うリーラに一息。

 

「昔、私もあなたに世話をして貰ったこともある。恩を仇で返すのはいささか心苦しい、が―――私は彼と約束したことがあってね。それは無理だ」

 

約束・・・・・?それは一体何をとアザゼルたちは怪訝な面持ちでいると、笑みを浮かべ曹操は朗らかに述べた。

 

「―――古の英雄や勇者のような凄い人間になる―――。まだまだ純粋の子供だった頃の私の願いを彼は、一誠は―――目を輝かせて応援してくれた。羨ましがってもくれた。自分は人間じゃないから人間でしかできない事を私がするんだと。だから―――自分の代わりにその願いを果たしてくれと、彼は私にそう言ってくれた」

 

「・・・・・だから、今のあなたがいると」

 

「そういうことですよ。ですので、私は彼の代わりに果たそうとしている。英雄の子孫として過去の英雄のような偉業を果たす。人間の敵である敵を倒して蒼天を目指す」

 

聖槍の切っ先を天に向かって掲げた。

 

「今日は堕天使の総督たちの前に現れたのは挨拶をしに来たようなものだ」

 

「一つ聞く、お前たちが誘拐した学園の生徒たちはどうした」

 

「一誠をどうした―――の間違いでは?」

 

挑発的な笑みで指摘したところでアザゼルから無言の催促をされた。

 

「偽物の英雄には実験台になってもらっていますよ。死んではいない。これからも私たちのために利用する予定なので」

 

「義経たちは偽物ではないわっ!」

 

上空から第三者の否定の声が聞こえた。上に視線を向けるとヘリコプターから飛び降りてきた九鬼揚羽が降臨を果たす。

 

「いえ、彼女らは偽物だ。クローンで顕現した紛い物だ。

何故、英雄のDNA でクローンを産んだ。時を、時空を越えて現在の英雄の子孫や末裔、

魂を受け継いだ者たちに冒涜、侮辱を与える行為だ」

 

「・・・・・」

 

「彼女たちだけでない。星の図書館の手によって現世に多くの英雄のクローンがさらに

顕現されようとしていた。九鬼揚羽。クローンはクローンでしかない。

彼女らは英雄のコピーだ。それに生まれた瞬間、自分の周囲にいるのは腹を痛めた

母親、遺伝子を分けた父親、どちらでもない全くの関係ない研究者たちと責任者だ」

 

「・・・・・」

 

「お前たち九鬼家は英雄を、軽々しく命を弄んでいる最低な人間だ。だからこそ、

あのような形で警告した」

 

揚羽の家の破壊行動。それはこれ以上、英雄のコピーを生産するなという。

英雄派は義経たちの存在を許せないでいる。

 

「―――レオナルド、一誠との思考錯誤で完成したアンチモンスターを頼む」

 

小さな男の子、レオナルドに頼む曹操の意志に従った。―――途端、レオナルドの足元に不気味な影が現れて広がっていく。影はさらに広がりその影が盛り上がり、形を成していく。腕が、足が、頭が形成されていき、目玉が生まれ、口が大きく裂けた―――優に百を超えるモンスターたちが。

 

「その子供が―――『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』の所有者だったか」

 

アザゼルがボソリと呟くと曹操がアザゼルの言葉に笑んだ。

 

「ご名答。そう、その子が持つ神器(セイクリッド・ギア)は『神滅具(ロンギヌス)』の一つ。私が持つ『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』とは別の意味で危険視されし最悪の神器(セイクリッド・ギア)だ」

 

神滅具(ロンギヌス)―――。まだ小さい男の子が神を屠ることができる可能性を秘めている神器(セイクリッド・ギア)の中でも上位種の一つを有している事実に一般人とも言える直江大和たちが目を丸くする。

 

が―――。モンスターたちの足元にまで伸びる氷の道に触れた途端にと氷化となった。

 

「どれだけモンスターを作っても私の氷で直ぐに凍らせてやる」

 

「ほう・・・・・氷系統の神器(セイクリッド・ギア)だったね。使い手次第では神滅具(ロンギヌス)に数えられてもおかしくないほど強力な力だ」

 

エスデスの仕業である事を曹操は余裕の笑みを浮かべる。

 

「だが、レオナルドのアンチモンスターは氷に耐性がある」

 

氷漬けになったモンスターたちが激しく震え、自らの力で復活した。

 

「一誠の修行の経験を利用してレオナルドにも過酷な場所でアンチモンスターを作らせてきた。極寒の雪国の中で耐えてモンスターを作り続けた彼の努力の賜物だ。マイナス数十度の水の中でも魚型のモンスターとかも作って氷の態勢を身に付けた」

 

「子供になんて事をしているんだお前たちは・・・・・」

 

呆れ返るアザゼルに曹操は不思議そうに首を捻った。

 

「そうかい?私としては一誠の方が凄く過酷な修行だったと思うけれど?砂漠の中で三日三晩飲み物も食べ物も無しで歩き続けさせたり、極寒の地に住むドラゴンや化け物と戦わせる彼の両親に感嘆の一言だよ」

 

『・・・・・』

 

修行の一端を聞かされ、ここにはいない一誠に向けられる思いが憐れみも含まれていた。

 

「あいつら、自分の息子に何をさせているんだよ・・・・・」

 

「スパルタな修業じゃないか?まぁ、結果的に彼は強くなったからいいと思うが」

 

曹操とアザゼルの会話のやり取りに約二人の悪魔が顎に手をやって考える仕草をしだした。

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

「「私たちもそのぐらいの修業を、眷属の向上になる修業を―――」」

 

「「さぁ部長(会長)っ!目の前にいるから敵を早く捕まえましょう!さあさあさあッ!」」

 

二人の眷属悪魔が必死に意識や話を反らして開戦を臨んだ。それが開戦の言葉となった―――。



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エピソード55

不気味な鳴き声を唸らせて魔獣が大挙してこちらに向かってくる。

 

「エスデス、お前の氷は効かないらしいが?」

 

「抜かせ。私の氷はただ対象を凍らせるだけではないわ」

 

百代の挑発染みた言葉にパチンと指を弾いた瞬間に空気中の水分の一気に氷結さて巨大な氷塊を作り出した。

 

「潰れろ」

 

英雄派ごと氷塊は魔獣の上に落下して押しつぶした。

 

「おいおい・・・・・キャパシティ超えてんぞ。セラフォルーといい勝負できるんじゃないか?」

 

「誰の事を言っている?」

 

「そこにいる眼鏡を掛けた悪魔の姉の事だよ。セラフォルーも氷の使い手だからな」

 

セラフォルーに興味を抱いたエスデスを余所に氷塊が巨大な魔獣の手によって持ち上げられ、豪快にお返しとばかりエスデスの方へと投げられた。

 

「―――禁手化(バランス・ブレイク)

 

力強く静かに漏らしたルーラー。漆黒の衣の上に鎧を部分的に装着し、剣と旗を携えた姿という出で立ちで氷塊に向かって燃え盛りだす炎の剣を上段から―――巨大化した

炎の刃が氷塊を、巨大魔獣を朱色の軌跡まで残して一刀両断。一拍遅れて氷塊は大爆発を起こし、魔獣は灼熱の炎に全身を焼かれながら倒れた。

 

「す、すげぇ・・・・・」

 

「中々の剣技であるな」

 

ルーラーの実力に感嘆と称賛の声が漏れる最中、パチパチと拍手する音が聞こえてくる。

 

「―――いやー、いいね♪」

 

建物の屋上から英雄派がいるのを認知し、曹操が楽しげにルーラーを見詰める。

 

「レオナルドと一誠が合同で作り出した魔獣をたったの一撃で倒すとは流石だ」

 

「もう一度、今度はあなたたちに向けます。向けられたくなければ一誠くんを返してくれますか?」

 

「それは断らせてもらうよ。なんせ彼は私たちの給仕係を担当してもらっているのだから。彼の手作り料理、美味しいと評判だよ?」

 

「それは当然でしょう。一誠くんの料理は世界一なんですから」

 

「なんなら、キミもこちら側になるかい?その素質はあるしね」

 

曹操の勧誘に綺麗な顔を顰め「お断りします」と憎々しげに拒否した。さも、気に死していない様子の曹操は肩を竦める。

 

「それは残念だ。キミや葉桜清楚には興味があるのに」

 

「・・・・・それはどういうことですか」

 

自分だけじゃなく、もう一人この場にいる仲間を注目していた事実に警戒する。

曹操は路上に跳び下り、ルーラーに近づく。

 

「キミたち二人はとある英雄の魂を受け継いでいる人間だと既に知っているからだ」

 

聖槍の切っ先をルーラーに突き付けた。

 

「レティシア・J・D・ルーラー・・・・・。

キミのそのJ・Dの名前は―――ジャンヌ・ダルクという意味だ。聖処女ジャンヌ・ダルク」

 

「そして・・・・・」と、今度は清楚にも槍の切っ先を突き付けこう言った。

 

「葉桜清楚の名前を言い換えれば覇王西楚―――劉那との戦いに敗れた西楚の覇王項羽というわけだ」

 

『な・・・・・っ!?』

 

極一部の者たちを除いて驚きを隠せなかった。逆に当人の二人は驚いたり、正体を突き付けられたりしても動揺の色も浮かべなかった。ルーラーは炎が具現化した剣を曹操に突き付ける。

 

「私が聖人の魂を受け継いでいようが関係ありません。私は『ルーラー』と一誠くんに呼ばれている一人の女の子なのですから」

 

「ふ・・・・・そうか。その堂々とした立ち振る舞い。やはりキミも英雄の一人だよ」

 

朗らかに笑んだ曹操の後ろからモルドレッドが近付き声を掛けた。

 

「ジャンヌ・ダルクの相手をしてもいいな?」

 

「構わないよ。さて、戦いを続きをしようか」

 

改めて戦いが始まった。ルーラーを指名した理由は定かではないがモルドレッドは剣を構えて突貫。

 

迫ってくる敵に上段から剣を降り下ろして先制を臨む。

 

「あなたとはこれで二度目ですが、今回は敵として会うとは」

 

「オレは一度も味方として会ったことはないがな」

 

鍔迫り合いの状態で語り合う。ルーラーはモルドレッドの剣を見て目を細める。

 

「何故、あなたがこの剣を、エクスカリバーを持っているんてすか」

 

「本人に聞け。無言で問答無用で貸されたんだからな」

 

「では、その本人をこの場に連れて来てください」

 

「無理だ。あいつは今、とある国を滅ぼされた生き残りの特訓に付き合っているからな」

 

滅ぼされた国、と聞いてルーラーは目を丸くした。何時だったかニュースで連日放送された出来事のことだ。

皆、一誠たち英雄派の仕業ではないかと一時期思っていた。だがしかし、モルドレッドが意味深なことを告げたことでルーラーの中で違和感が浮かんだ。

 

「―――一誠くんがやったのではなかったのですか?」

 

「―――何でもかんでも、アイツがしたと思うなよ。ついでにオレたちも・・・・・なっ!」

 

モルドレッドが押し返して刀身を光らせる。

 

「エクスカリバー、オレの思いを応えてくれ。アイツの為に―――!」

 

 

 

アカメとクロメは同時でジークフリートに斬り掛かった。どちらも修羅場をどれだけ潜って生き残ったのかその証明を示す動きをして敵の動きを警戒し、次の一手の為に―――。

 

「ああ、僕はね?」

 

悠然とした態度で自然に立つジークフリートは二人に話しかけ始めた。

 

「何度も兵藤一誠に本気でも負けているんだ。その結果、彼の動きを何とか捉えるぐらいの反応と反射のの速度を向上したんだ。―――だから、キミたちの動きも止まって見えるよ」

 

低い態勢で素早く飛び掛かり、上段と下段から振るわれる刀を見切って躱すジークフリート。

 

「クロメ!」

 

「うん!」

 

姉妹のコンビネーションの剣舞が繰り広げる。高速で怒涛の突き、フェイントも入れた神速の動き、相手の命を狩る必殺の一撃、剣だけじゃなく拳や蹴りも含まれた剣術―――。

 

「うん、全部体験したよ」

 

それらを嘲笑うようにジークフリートは未来を、先を読んでいるかと思う動きと剣さばきをしてアカメとクロメをはじき返した。

 

「―――強いっ」

 

「あの剣も危険だな」

 

姉妹は一度下がってジークフリートを見据える。

 

「ああ、この剣かい?これは―――魔帝剣グラム。魔剣最強の剣だよ」

 

「魔剣最強の剣・・・・・どおりで呪いのような力も感じるわけだ」

 

「へぇ、その口ぶりじゃあ・・・・・その刀も妖刀の類かな?」

 

呪いという言葉に反応し、アカメの刀を見て尋ねる。ジークフリートもアカメとの剣戟で感じ取っていた様子だった。隠すことも無いと己の刀の名を告げた。

 

「一斬必殺の妖刀村雨。これが私の神器(セイクリッド・ギア)だ」

 

「妖刀村雨・・・・・随分と有名な呪いの武器を保有していたんだね。聞いた限りじゃ、かすり傷でも致命傷で受けると傷口から呪毒が浸食し、それが心臓まで到達すると確実に相手を死に至らしめる。うーん、怖い怖い」

 

「ここまで私と、妹も同時に渡り合えた標的はお前が始めてだ。その最強の魔剣の使い手とならば実力も頷ける」

 

「それは光栄な褒め言葉だ。さて、その日本刀の正体も分かった事だし・・・・・掠り傷でも食らわないように真剣で剣士の戦いを臨もうかな」

 

 

 

「ハッハーッ!行くぜぇー!」

 

巨躯の男、ヘラクレスが拳を地面に突き刺した瞬間。地面が扇状に爆発して百代とエスデス、シオリを巻き込もうとするが軽やかに三人は避けた。

 

「地面が爆発するなんて凄いなー」

 

「武神・川神百代だったよな?俺たちと同じ人間で世界一強いと思っているようだなぁ?」

 

「それがどうかしたか?」

 

「そんな奴をこれから戦って倒すと思うと楽しみで仕方ないぜ」

 

嬉々として笑みを浮かべながら百代と肉弾戦をするヘラクレスの真横から魔人の力を解放したシオリが肉薄するのだった。

 

「その前に、私に力を奪われてKOよ?」

 

「ぬおぉっ!?」

 

あぶねーっ!とかろうじて身体を捻ってシオリの手から避けた。

 

「魔人は反則だろう!んだがよ。お前の対処方法はアイツとの模擬戦で教わったぜ!触れなければ力は奪われない。放出系の魔力と気が奪われるなら物理的な武器や兵器で倒せばいいだけの事ってな!」

 

「あら、魔人のこと研究されちゃってるみたいだわね」

 

それでも余裕の笑みを浮かべ、自分に有利であると確信しているシオリに

 

「当然だ。だからこそお前の相手も俺になったほどだからな。その理由はコレだ!おりゃあああああッ!禁手化(バランス・ブレイク)ゥゥゥッ!」

 

ヘラクレスが叫び、その巨体が光り輝きだした。光がヘラクレスの腕、足、背中で何かゴツゴツとした肉厚の物に形成されていく。光が止んだ時、ヘラクレスは全身から無数の突起物を生やしていた。それはミサイルのような―――。

 

「これが俺の神器(セイクリッド・ギア)の『巨人の悪戯(バリアント・デトネイション)』の禁手(バランス・ブレイカー)ッ!『超人による悪意の波動(デトネイションマイティ・コメット)』だァァァァァァアアッ!」

 

高々に自分の力の情報を口にし、ヘラクレスの攻撃の照準がシオリに。

 

「・・・・・うわぁ」

 

余裕の笑みが消え思わずドン引きするシオリ。ヘラクレスの攻撃を否が応でも理解されたのだ。確かにソレなら魔人に有効的だろう。

 

「いくぜ、魔人?」

 

どこまでも愉快そうに口角を上げ―――身体中に生やす突起物を飛ばしてシオリに狙いを定めて飛来する。

 

「百代、エスデス。パス」

 

「「しょうがない奴だな!」」

 

拳であらぬ方向へ弾き飛ばし、氷の槍で打ち抜いてヘラクレスの攻撃を無力化した。それでもミサイル攻撃は止まず、億劫そうにエスデスは氷の氷塊を壁のように作り上げて防いだ。

 

「あの男とシオリの相性は良くないな」

 

「そうね。それは素直に認めるわ。私は他のと相手をしてくるからお願いできる?」

 

「武器を持っているテロリストには気をつけろよ」

 

「いや、相手は殆ど武器を持っているんだが?」

 

この場から離れるシオリに掛けるエスデスの言葉を百代が突っ込んだ矢先、氷の壁が轟音と共に粉砕した。

 

「魔人がいなくなりやがったか。まあいい。お前らだけでも倒してやんよ!」

 

 

 

「せ、聖剣が・・・・・」

 

ルーラーを除いた教会組、ゼノヴィア、イリナ、ユウキ、リーズが呂綺と戦っていた。

呂綺との攻防は激しくなると思いきや、最初の一合で聖剣・・・・・イリナの『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』が粉砕された。

 

「イリナ、下がっていろ!ここは私たちが―――!」

 

「恋は負けない。一誠のご飯をいっぱい食べたから力は全快」

 

驚異的な脚力で跳躍し、落下する際の速度と思いっきり振り下ろされる武器の相乗の威力がゼノヴィアで発揮しようとしたところ、リーズがパイルバンカー付きの盾で受け止めた。

 

「・・・・っ!?」

 

その威力はリーズを跪かせ、路面にクレーターを作るほど。右腕から全身に伝わる衝撃は計りしれず、

険しい表情となった味方にユウキが横から呂綺に斬り掛かった。

 

「リーズさん、大丈夫ですか」

 

「助かった。だが気をつけろ。呂綺の力は凄まじい。イリナのように聖剣を折られるぞ」

 

「こんなすごい人がテロリストに加わっているなんて・・・・・」

 

ゼノヴィアのデュランダルでも以ってしても呂綺の得物を破壊できないでいる。一見、特に特別な武器でも無いように見えるが使い手次第で伝説の聖剣と渡り合えているのかもしれない。

 

ガキンッ!

 

難なくゼノヴィアのパワーよりの剣術に対応し、軽くいなして戦う呂綺。ゼノヴィアは強い。心からそう思える呂綺は強者として認めると同時に自分を倒せない相手だと把握していた。

 

「お前、弱い。その剣に振り回されている」

 

「・・・・・敵にそう言われるとショックだな。だが、それは言われなくても自覚して―――!?」

 

鍔迫り合いの最中で鋭く重い蹴りの一撃を食らった。その衝撃でデュランダルを手放し、建物へ吹っ飛んだ。

そして、デュランダルは呂綺の手中に収まった。

 

「デュランダルを奪われた!?」

 

「いや、適正者で無い限り聖剣を扱うことは・・・・・」

 

教会の戦士でもない限り扱えない代物だとリーズは言いたかった。呂綺がデュランダルの刀身に聖なるオーラを纏わせ、ソレを飛ばす光景を見るまでは。

 

「「「なっ!?」」」

 

聖盾で聖なる飛ぶ斬撃を防いでリーズすら驚きを隠せなかった。聖剣はある意味選ばれし者しか扱えない代物。

デュランダルを使役するゼノヴィアは数少ない天然の聖剣使いである。だと言うのにその数少ない枠に収まっている呂綺もまた天然の聖剣使いだというのかとリーズたちは動揺の色を隠しきれなかった。

 

「恋は魔剣と聖剣、武器なら何でも使える神器(セイクリッド・ギア)を持ってる」

 

淡々と述べる呂綺はデュランダルと方天戟の二刀流でリーズとユウキに飛び掛かる―――。

 

 

 

霧は和樹の魔法攻撃を難なく弾いて、逆に炎、雷、氷、風と属性の魔法や北欧式、悪魔式、堕天使式、黒魔術、白魔術などの術式魔法を披露するゲオルク。ゲオルクの傍にレオナルドがいて魔力を無効化するアンチマジックモンスターを創造してゲオルクのサポートを徹していた。

 

「相当な魔法使いだね。一度に豊富な術式を展開するんだから敵ながら感嘆の一言だよ」

 

「かの式森家次期当主に言われると光栄極まりないな」

 

「だけど、やり辛くてしょうがないなーその魔獣。魔力を吸いこむんだもん」

 

「―――だからって私一人でやらせるかぁっ!?」

 

怒声と悲鳴が混じった声を荒げて和樹に非難するカリン。レイピアに纏わせた風魔法を横薙ぎに振るうと魔獣たちは嵐と化となった風魔法に閉じ込められ、ミンチのように切り裂かれていく。

 

「適材適所だよカリンちゃん。凄いねー」

 

「嘘つけ!お前が広域空間攻撃や広範囲魔法攻撃ができることを知っているぞ私は!」

 

「・・・・・なるほど、それは心して掛からないと」

 

カリンの話を聞いてゲオルクは口の端を吊り上げながら更に魔方陣を展開した。

相手は式森なのだからできて当然かと心中で悟り、魔方陣を和樹の魔方陣に向かって放った。

 

「何を・・・・・?」

 

「これでも俺は兵藤一誠と魔力の弾幕勝負もしたぐらいでね。かのゼルレッチの魔法の本も読破させてもらった」

 

和樹の魔方陣とピッタリくっつき合わさったと思えば二つの魔法が砕け散った。

 

「こんな風に相手の魔方陣を消すことも可能になったのさ」

 

「うわぁ・・・・・あの本を読んだなんて厄介過ぎる。で、これは一人の魔法使いとして聞くんだけどさ」

 

「なんだ?」

 

「どうだった?あの本の読破した者としての感想を聞かせて欲しい」

 

純粋に魔法使いとして同じ魔法使いに聞く。和樹の気持ちを汲んで「ふむ」と顎に手をやったゲオルクは

魔方陣を展開して一誠の所有物であるゼルレッチの直筆の本を取り出した。

 

「中々興味深く、参考になった。魔法使いとして一歩先の魔法の真理という道に進めた気がする」

 

「―――正直、羨ましいね」

 

「なら、この場から退く代わりにコレを渡しても良いがどうする?」

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・・・。

「うーん・・・・・・」と漏らした和樹に次の瞬間。

 

 

『悩むなぁーっ!?』

 

 

周りから脳内で本気で天秤に掛けて顎に手をやり悩んでいる和樹に信じられないと怒声が向けられた。

 

 

「ははは、彼の―――いや、駒王学園の者たちは愉快そうなメンバーが多いようだね」

 

聖槍の柄をトントンと肩に叩きながら笑む曹操の周囲にはリアスたち悪魔が全身に煙を立たせながらひれ伏していた。聖槍の光を浴びて身を焦がし、体力・精神を減らされ満身創痍の状態だ。

 

「しかし、そこにいるオーフィスとクロウ・クルワッハを私に差し向けないのはどうしてなのかな?流石の私も最強のドラゴンたちに攻撃されると手も足も出せないというのに」

 

素朴な疑問をジッと佇んでいるオーフィスとクロウ・クルワッハにぶつける。

 

「私たちは兵藤一誠を待っているのさ。彼に対抗できるとすれば私たちぐらいだからね」

 

「イッセーを出す」

 

と、返されて納得した曹操。

 

「生憎、彼には英雄の凱旋を祝う為のパーティの準備をして貰っている。この場には現れないよ」

 

そこで曹操は腕に装着している時計に視線を落とした。

 

「だが、そろそろ帰らないと彼が迎えに来そうだな」

 

「ほう、つまり。お前たちを一定時間ここに留まらせれば来ると言うことか」

 

クロウ・クルワッハが体勢を低くして攻撃の構えをする。

 

「オーフィス、アイツを捕まえよう。そうすれば来るらしいぞ?」

 

「分かった。曹操、捕まえる」

 

「おやおや・・・・・」

 

意欲を燃やしてしまったと苦笑いを浮かべた。小さな最強と大きな最強が真っ直ぐ自分に向かって飛び出している。かわすことはできようがそれは何時まで続けられるかが問題点だ。聖槍の真の強さを解放しようが、すでに懐に飛び込んできた相手にできるはずもなく曹操はピンチに。英雄派の誰もが曹操に加勢できる状態ではなかった。二人の最強のドラゴン相手に英雄の子孫とはいえ高々人間がどうこうできるわけがない。

後方へ跳躍して距離を離そうとするが、ザブンッ!と何時の間にか具現化していた水の塊に飛び込んでしまった。

 

「なにっ?」

 

曹操はリアスたちの方へ振り向く。ソーナが倒れたまま曹操に向かって腕を伸ばした状態で水の魔力を操っていた。

 

「―――今ですっ!」

 

ソーナのチャンスを無駄にしなかった。朱乃が指先から放つ雷光に水の中の曹操へ命中し感電。そんな中でも曹操は聖槍を輝かせて脱出を図ろうとしている。

 

「百代!」

 

「文句は言うなよ!」

 

百代と共にヘラクレスと戦っていたエスデスは百代の手を掴めば豪快に曹操の方へ思いっきり振り投げられた。水の塊に触れれば一瞬で氷の塊と化する。そのビジョン通りにしようと少しでも早く水の塊に触れる為に氷の剣を作って刀身を如意棒の如く長く伸ばす。曹操はようやく水の塊を弾き飛ばして脱出した。が、迫りくる氷の刀身と捕まえようとするオーフィスとクロウ・クルワッハによってピンチは脱していなかった。

 

「曹操―――ッ!」

 

味方が曹操に駆け寄ろうとするも、相手がそうはさせまいと阻む。

 

「こう言う時、ヒーローが助けに来てくれるのが相場なのだがな」

 

英雄(ヒーロー)は自分たち。英雄(ヒーロー)英雄(ヒーロー)を助けるなんて話は聞いたことも無い。

それでも、それでも曹操は願った。今の自分がいるのは全て真紅の髪の少年の願いを聞いたからだ。

だから、その見返りに―――。

 

「この窮地に立たされている私に救いを・・・・・」

 

天に仰ぐ。その間に迫る脅威。一方の脅威を排除してももう一方の脅威が曹操を襲う。

敵味方関係なく、頭を潰されたと思った―――次の瞬間。曹操を囲むように歪みだす空間が穴を開き、三つの影が飛び出るとオーフィスとクロウ・クルワッハが弾き飛ばされ、氷の刀身は砕け散られた。

 

「・・・・・時間になっても戻ってこないから来てみれば」

 

曹操の耳に入る聞き慣れた言葉、曹操の目に入る見慣れた少年の背中。

 

「曹操・・・・・まだ終わって無かったの?」

 

振り返る少年は「せっかく作った料理が冷めちゃうだろう」と文句を言った。真紅の髪を腰まで伸ばし、金色の瞳は曹操しか映っていない。すると、びしょ濡れた曹操の姿に亜空間からタオルを取り出すとワシャワシャと無言で「わぷっ」と曹操の言葉を無視し揉みくちゃにしながら拭き始めた。

 

「・・・・・ありがとう」

 

「ん、どういたしまして」

 

感謝の意味など分からないが少年は素直に受け止めた。

 

「―――一誠っ!」

 

アザゼルが少年をそう呼んだ。少年、一誠は金色の双眸を自分の名を言ったアザゼルに向ける。

一誠の登場で戦いは中断。敵味方と別れ、対テロ組織混成チームであるアザゼルたちは一誠の姿を見て心中では安堵の気持ちになった。

 

「一誠さまっ!私です、リーラ・シャルンホルストです!」

 

必死の叫び、曹操たちから離れて欲しいという思いも込めて一誠に言葉を投げた。

リーラが一誠を呼び戻す唯一の鍵。それは一誠の正気を戻す手段でもある。

他の誰よりも、オーフィスよりも一誠の傍に寄り添っていたリーラだからこそ絶対的な効果を発揮する。

 

「・・・・・」

 

金色の瞳には生気の光が宿っている。操られているようには見られず、皆が知っている兵藤一誠はそこに―――。

 

「誰・・・・?」

 

『―――っ!?』

 

「・・・・・え?」

 

いなかった。ふざけているにも、冗談で言っているようにも見えない一誠の純粋な疑問。

それがアザゼルたちから声を失わせるのに十分過ぎる衝撃的なものであった。

 

「おい・・・・・お前、何を言っているんだ?」

 

「・・・・・何を言っている?・・・・・知らない・・・・・お前ら皆、知らない」

 

そ、んなっ・・・・・。と、誰かが自分しか聞こえないほどの声を発し、一誠の言葉に愕然としたら

オーフィスが自分で自分を指した。

 

「我、オーフィス。覚えてない?」

 

「・・・・・オーフィス?こっちもオーフィスって名前だけどお前は知らない」

 

「・・・・・」

 

一誠の隣に立っている黒のロングストレートに真紅のポニーテールの少女へ視線を向けながら発する一誠に―――オーフィスが石のように固まった。

 

「・・・・・堕天使の総督」

 

クロウ・クルワッハがようやく口を開いた。

 

「あいつは嘘を言っていない。だとすればあいつの記憶を、今までの記憶が何らかの理由で今の兵藤一誠として存在している可能性は大きいと言えよう」

 

ギリッ・・・・・!皮膚を突き破って血を流す程に固く握り拳を作って全身を震わせ怒りを示す。

最強の邪龍の言葉にアザゼルは―――吠えた。

 

「やってくれるじゃねぇかっ・・・・・英雄派ぁあああああああああああっ!」

 

一瞬で極太の光の槍を具現化させ、それを投げ放った。衝撃と突風を纏う光の槍は曹操には届かず、一誠の手で上に弾き返された結果に涼しい顔でアザゼルの叫びを受け流した。

 

「彼から絶望と辛さを取り除いただけだ」

 

「なんだとっ・・・・・!」

 

「まだリーラさんが死んでいたと思っている頃の一誠はお前たちのもとに戻る事を拒んでいた。その理由は戻って家族と一緒に暮らすことで死んだ愛した女の事を思い出し、思い出させて心底負ったトラウマが一誠に悲しみと怒り、苦しみやショックを何時までも苛ませるからだ」

 

「だが!現にメイドはこうして甦っている!」

 

「今日まで私たちが知らなかったのに一誠も知るはずが無い。そして、彼は願った。悲しみと辛さと絶望から逃げて愛おしい女を殺した悪魔に復讐をしたいと。私たちと一緒に歩むことで彼の復讐は達成できる。そう言ったら彼は私を抱きしめて提案を受け入れてくれた」

 

その結果、彼の記憶からは―――と言い続けた曹操に光の槍が飛んできたが一誠の手で防がれた。

 

「テロリストらしいな。弱った相手の心を付けこんで、囁いて自分の道具として利用しようなんてなぁ」

 

怒気が孕んで、悲哀に青筋を浮かべるほどにアザゼルは厳しい目つきで曹操を睨む。

心外とばかり、曹操は言った。

 

「道具として彼の記憶を弄んだわけじゃない。彼の気持ちと意志を尊重しつつ私たちの仲間として受け入れた。

そして・・・・・」

 

私も彼に好意を抱いている一人の女でもあるのだが・・・・・?曹操は艶美な不敵の笑みで言い切った。

 

「よくもいっくんを・・・・・記憶を奪ったな・・・・・」

 

「許しません・・・・・ええ、深淵の闇に葬るまでは絶対に・・・・・」

 

大鎌を構える悠璃や闇を纏う楼羅が妖しく瞳を煌めかせる。

 

「・・・・・曹操、一つになる」

 

唐突に曹操に対して真摯な顔で言った。意図を分からず、

不思議そうな顔を浮かべて一誠へ振り返る。

 

「・・・・・一誠?」

 

「俺が曹操の鎧となる。そうすれば勝てる」

 

―――一誠を中心に真紅の魔力が迸り、光の奔流と化となって曹操を包みこんだ。

 

「曹操と一緒ならばリゼヴィムを殺せる。ここで曹操が倒されては困る」

 

「一誠・・・・・」

 

一誠を見詰めると、自分の方へ振り返り腕を伸ばし頬に添えられた。添えられる手の感触と体温を感じ思わず目を細め、心地の良い体温を与えてくれる一誠に抱き締められ身を預けると

 

 

―――我、復讐を誓うドラゴンなり

 

 

一誠が呪文を口にしていく。それは誰もが初めて聞くものだった。

 

「まさか・・・・・覇龍(ジャガノート・ドライブ)かっ!?」

 

 

―――我は英雄の旗を天に掲げ、蒼天に覇を唱え、王道を駆ける汝を我、英雄の譚を記す者に凱旋を与えん

 

 

―――無限の野望と挑戦を求める汝を真なる真紅に光り輝く覇の王道へと導こう

 

 

真なる英雄王の凱旋(アポカリュプス・ヒーロー・フルドライブ)ッッッ!!!!!

 

 

曹操と一誠が眩い真紅の光に包まれ―――一つとなった。荒れ狂う魔力に吹き飛ばされそうになり、防御魔方陣を展開して風圧を防ぎ、治まるのを待ったリアスたち。しばらくして暴風と眩い閃光が止んだ時、誰もが曹操に向かって目を向けた。そこにいたはずの一誠の姿は無く―――。金と蒼、真紅の鎧を纏った曹操がいた。

マントを羽織っていて顔の半分は龍を模した兜を装着し、鎧の胸部にはドラゴンを象った顔と意志が宿っているかのように金色の瞳が煌めいていた。

 

「一誠が曹操と・・・・・一つになった」

 

「何時の間にそんなことできるようになっていたの・・・・・」

 

信じられないとそんな顔で曹操の出で立ちを目に焼き付けつつ漏らす。一誠が曹操の鎧と化となった事実に誰もが愕然、絶句したのだった。

 

「・・・・・ふふっ」

 

曹操が小さく笑みを浮かべだした。

 

「一誠・・・・・ああ・・・・・身も心も一つになったのだな私たちは。それに英雄の凱旋とは面白い趣向だよ」

 

足を前へ動かす度にマントが揺らぎ動き始める。

 

「お前の望みを叶えて帰ろう。だからお前の力、思う存分に振るわせてもらうよ?セカンド・オーフィス」

 

「ん・・・?」

 

「あそこにいるオーフィスと相手をして貰いたい。できるね?」

 

「わかった」

 

セカンド・オーフィスはオーフィスと対峙し合う。

 

「さて、クロウ・クルワッハの相手は・・・・・やはり同じ邪龍が良いだろう」

 

曹操の横に魔方陣が出現し、魔方陣が放つ光と共に時折紫色の発光現象を起こす黒髪の男が出てきた。

 

「・・・・・アジ・ダハーカか」

 

「よう、久し振りだなクロウ」

 

「お前は曹操の言う事を聞くのか?」

 

「そう思うのはお前の勝手だが、強いて言えば俺は兵藤一誠の為に敢えているようなもんだ。もう少しそこのメイドの存在の情報を知っていれば違った運命と道を辿っていただろう」

 

二匹の邪龍が臨戦態勢の構えになる。

 

「兵藤一誠は洗脳されているのだな」

 

「半分は正解。兵藤一誠は自分の意志で今の立場にいる。あの悪魔を復讐する為に。まっ、曹操の言っていることは大体本当だぜ?」

 

「お前は、お前たちは何もせずただ見ていたのか」

 

「あの時の兵藤一誠の意志を逆らうことは容易かった。だが、アイツの気持ちを汲んで俺たちは力を貸すことにしている。それにテロリスト共も中々面白いぞ?兵藤一誠を大事にしているんだからまるでお前らといる時の雰囲気と同じだ」

 

ああ、そうそう―――アジ・ダハーカはここで爆弾発言をした。

 

「兵藤一誠。四人の女に襲われたぞ。肉体的な意味で。あっ、訂正。五人目がいるかもな。ソイツ、人間からドラゴンに転生したやつでよ。ああ、そこにいる女の事だ。兵藤一誠に熱い眼差しをたまに向けるから多分そろそろじゃね?」

 

何を言っているんですかー!?顔を真っ赤にしたとある少女がアジ・ダハーカに食って掛かる。

 

「アジ・ダハーカ」

 

「あん?」

 

「この場でその事実を言うべきではなかった」

 

 

ゴゴゴゴゴ・・・・・ッ

 

 

「・・・ああ、そーみたいだな」

 

凄まじいプレッシャーが地鳴りを起こすその現象にアジ・ダハーカは愉快そうに笑むだけだった。

 

「さてと、久し振りにガチで戦おうじゃねーか」

 

「そうしよう。正直、お前とも戦いたかった」

 

「ハハハッ。お前を打ち負かせば俺が邪龍最強だ」

 

口の端を吊り上げ、邪龍の筆頭格である邪龍最強の『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハと『魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザント・ドラゴン)』アジ・ダハーカが激突。



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エピソード56

「さて、私の相手をしてくれるのは誰かな?」

 

セカンド・オーフィスとアジ・ダハーカが戦いを始めている最中。鎧を纏った曹操が不敵に発した。

 

「アザゼル先生。曹操の聖槍の能力は?」

 

和樹は神器(セイクリッド・ギア)に詳しいアザゼルにいち早く説明を求めた。

 

「今までの『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』の所有者が発現した禁手(バランス・ブレイカー)は『真冥白夜の聖槍(トゥルー・ロンギヌス・ゲッターデメルング)』だった。だが、今の状態の曹操は何をしてくるのか分からない。鎧と化した一誠を考慮すれば他の神器(セイクリッド・ギア)を使えるかもしれんからな」

 

「彼の神滅具(ロンギヌス)は二つでしたよね?」

 

「・・・・・」

 

曹操はどう答えて良いか悩んだ。

 

「確かに俺の知る限りでは二つだ。しかし・・・・・理由は分からんが赤龍帝と白龍皇の

能力を振るえる。英雄派にも神滅具(ロンギヌス)の所有者がいるから・・・・・何とも言えん」

 

そう話している間に曹操は何故か瞑目していた。

 

「じゃあ、今の曹操は事実上・・・・・」

 

「奴は純粋な人間の中で一番強い存在となっているはずだ」

 

アザゼルの呟きは聞こえていたのか分からないが、曹操に向かって駆けだす一つの影―――百代。

 

「アイツから一誠を引っぺがして連れ戻すまでだ!」

 

戦う意欲は変わらず戦意の炎を燃やし、武術の達人が道の力を得た曹操に勝負を挑む。

豪快に拳を突き伸ばす百代を見ずにいる曹操は口ずさむように呟いていた。

 

「ふふ・・・・・ふふふ・・・・・」

 

不気味に笑みを漏らしていた。それでも百代の拳は曹操の顔に突き出され、反応しない限り避けられない一撃。

 

「あああ・・・・・ここまで心底愉快な気分なのは初めてだよ」

 

瞑目していた目をようやく開き、迫りくる百代の拳を視認すると―――軽く手の平で受け止めた。

 

「なるほど、彼の力はここまで凄まじいとは。武神の拳の威力と衝撃など一切感じないぞ」

 

刹那―――百代の腹部に曹操の手が添えられた。

 

「食らえ」

 

「―――っ!?」

 

雷が帯びた極太のレーザービームみたいに放った『魔力』が百代を呑みこんだ。 

アザゼルたちはそれを見て驚愕した。零距離から受けた百代は全身を黒く焦がし、黒い煙を立ち上らせる。             

「キミの弱点は既に把握している。気を消費し、細胞を活性化させて負ったダメージを瞬間的にも回復するその技は格下の者にとっては驚異的だろう。だが、その再生能力を雷で麻痺させて著しく低下させれば身体の回復機能は使えなくなる」

 

「こ、の・・・・・っ」

 

掠れた声だが、百代の赤い目は曹操を睨み、攻撃の意志を示すように腕を上げだした。

 

「ほう・・・まだ意識があったか。だが、もう詰みだ」

 

二度目の雷撃が百代を襲い、呑みこんだ。そして、武神・川神百代は・・・・・攻撃が止んだ瞬間にドサリと曹操の前に倒れた。

 

「曹操ぉっ!」

 

「・・・・・っ」

 

エスデスとシオリが百代を倒した曹操に飛び出していく。片や氷使い、片や魔人という真正面から勝つには難しい相手がやってくる。二人を見て両手を横に広げだす曹操。何をするのだろうかと思いきや―――。

 

「右手に魔力、左手に気」

 

二つの力を手の平に具現化させソレをあろうことか一誠のように合わせ、融合させて見せた。

曹操の両手は眩い閃光を発し未知のエネルギーに全身が包まれる。

 

フッ

 

と、虚空に消えた曹操に見失ったエスデスとシオリ。背中合わせで探しているとシオリが反射的に何かを察知して空へ見上げた。そこに―――両手の間に気と魔力を融合させ、集束していた。

 

「その攻撃、私には効かないわよ」

 

魔人の力を解放したシオリが紋様状の翼を羽ばたかせ空にいる曹操へ飛来した。

シオリが迫っていることに曹操はニヤリと口角を上げだした。

 

ジャラララッ!

 

「―――っ!?」

 

曹操の周囲の空間が歪みだし、歪んだ空間から数多の鎖が飛び出して意志を持っているかのようにシオリへ襲いかかるも曹操への突貫を止めず迫る鎖を避けながら飛行する。しかし、一本の鎖がシオリの足に絡みついた結果、魔人の力が封じられ一人の少女にされた。

 

「これなら効くだろう?」

 

「―――最悪」

 

相反する力の砲撃。魔人の力を封じられてシオリは成す術も無く曹操の一撃に食らって呑みこまれ、地上にいるエスデスが作った氷の壁まで貫き、川神学園組の三人を一人で倒した曹操。

 

「―――強いっ!」

 

アザゼルが唸る。一誠に次ぐ実力者たちが鎧と化した一誠を纏ったことで飛躍的に力を増した曹操によって倒された。アザゼルたちは曹操に警戒せざるを得なかった。

 

「今度は俺が行こう」

 

ズイっとサイラオーグが勝って出た。リアスが期待の眼差しで見送った数分後。

―――魔人の力を解放、仙術を行使した曹操によって気を乱され闘気を奪い尽くされ、鎖で縛られて敗北したサイラオーグが出来上がった。

 

「サ、サイラオーグ・・・・・」

 

「くそったれがっ!チート過ぎるだろう!」

 

まだ、倒れていないメンバーはいるが曹操の強さの前に敵わないと理解された。それでも、戦意は失っておらず臨戦態勢の構えをする。

 

「次は誰―――」

 

と曹操が言いかけた瞬間。鎧が光り輝きだすと弾け、曹操の隣に一誠が跪いて肩で息をする姿で現した。

 

「一誠・・・・・?」

 

「・・・・・疲れた」

 

「そうか、ぶっつけ本番だからまだ安定しきれていなかったか」

 

一誠の疲弊っぷりに曹操は直ぐに理解できた。一誠に肩を貸して立ち上がらせる。

 

「今日はここまでにしよう。今回は挨拶として姿を現したようなものだからね」

 

この場から離れ逃げようとする雰囲気を醸し出す曹操。ゲオルクも曹操の言葉の意図を汲んで転移用魔方陣を展開した。

 

「逃がすかっ!―――っ!?」

 

アザゼルが阻もうと動いた矢先に虚空から鎖がアザゼルの首と両の手首、足首に巻き付いて能力と動きを封じた。

それは戦闘不能と戦闘続行できる対テロ組織混成チーム全員にも同じだった。この場から逃げる為の時間稼ぎ。

しかし、例外はいた。

 

「イッセーを返す」

 

「させない」

 

オーフィスには効かずセカンド・オーフィスと周囲に破壊の影響を与えながら魔力を放っている。

クロウ・クルワッハもアジ・ダハーカと戦闘中だ。

 

「後であの二人を連れて帰るとして先に私たちは戻ろう」

 

「分かった・・・・・」

 

ゆっくりとゲオルクたちに近づく。曹操にとって今日は面白いことで一日は尽きた。後に一誠と調整をしながら更なる高みへと目指す。英雄の凱旋を現実にする為に―――。

 

キラッ

 

国会議事堂から一筋の光が一誠の視界に入り、黒い長髪に褐色肌の女が細長い黒い物を持ってレンズ越しに覗きこんでいることに気付いた。殆ど一誠はそれを見た瞬間、動物の本能的な何かによって反射的に曹操をゲオルクたちの方へ強く突き飛ばした瞬間。一筋の光が大気を貫き、金色の杖を具現化してゲオルクたちに結界を張り、黒と紫が入り乱れた籠手を装着して前方へ突き出した一誠を嘲笑うかのように軌道を変え―――顔面を捉えた。そして倒れる一誠のその光景を全員が目を丸くした。何者かによって狙撃されたと理解したのは少しだけ時間が掛かった。セカンド・オーフィスとアジ・ダハーカと戦っていたオーフィスとクロウ・クルワッハですら戦闘を止めて唖然と見詰める。

 

「イッセー!?」

 

「一体誰が・・・・・っ!」

 

その答えは再び国会議事堂から伸びる光の一筋。真っ直ぐ倒れる一誠に向かっていた。

 

「させませんっ!」

 

一人の金髪の少女が―――背中にドラゴンの翼を生やし、魔力を一誠の所有物であるブリューナクへ流し込みつつ構え、五つの光線を放って凶弾を弾き飛ばした。

 

「―――ヘラクレス、レオナルドォッ!」

 

曹操の激昂に呼ばれた二人は大型の魔獣を創造し、身体中にミサイルのような突起物を生やし、国会議事堂へと攻撃を仕掛けた。日本の象徴とも言える政府が集う建造物が破壊されていく。魔獣の口から放たれる極太の魔力砲撃によって崩壊した。

 

「曹操っ!早く彼を連れていきますよ!」

 

「―――分かっている」

 

少女が一誠を抱えてゲオルクたちの方へ駆けだす。同時に後方から鎖が解けたことで自由の身となったアザゼルたちが追いかけてくる―――。

 

ゴガァァアアアアアアアアアアッ!

 

が、レオナルドが機転を利かせ魔獣を差し向けた。その間に曹操はアジ・ダハーカとセカンド・オーフィスと共にゲオルクが展開している魔方陣に踏み入った。

 

「一誠・・・・・」

 

右半分だけ鮮血で顔を汚す一誠。意識はありジークフリートが高級そうな瓶を一誠の顔に掛けている最中だった。

その瓶は『フェニックスの涙』。独自のルートで入手した回復アイテム。一生の傷も残らないだろうと安堵の気持ちと成り転移用の魔方陣の光は一層輝きを強まっていく。

 

「キミは・・・・・私の英雄だよ」

 

―――○●○―――

 

対テロ組織チームは惨敗の結果で戦いは終わった。戦後処理として大勢の人間たちが忙しなく壊れた建物、負傷した人間を対処に当たっている。戦って得た収穫があるとすれば一誠の状態と安否、そして―――。

 

「あいつの神滅具(ロンギヌス)、『無限創造龍の錫杖(インフィニティ・クリエイション・メーカー)』を手に入った・・・・・か」

 

『お疲れ様です皆さん』

 

金色の杖からメリアの声が聞こえてくる。

 

「メリア、一誠は本当に自分から望んで?」

 

『事実です。あの悪魔を復讐する為に自ら彼女たちと共に歩む事を決めました。彼女の言葉は嘘などありません』

 

改められて突き付けられた現実と事実にショックを隠しきれなかった。

 

『ですが、救いはあります。主は記憶を封印されているだけで消されたわけではありません』

 

「本当か?」

 

『何かの切っ掛けで主は記憶を取り戻せます。その為にはリーラ、あなたの存在が必要不可欠です』

 

一誠を取り戻す鍵となるリーラ。

 

『あなたの主に対する絶大な想いを主にぶつけてください。そうすればきっと主は元に戻ります』

 

「想いをぶつける・・・・・」

 

金色の杖をアザゼルから受け取り、ギュッと胸に抱える。

 

「まだ、希望はある・・・・・か」

 

正直喜びたいとアザゼルは思うが建物の被害と敗北は無視できない。兵藤家と式森家が束になっても勝てなかったテロリストの存在は世界にとって脅威的になった。これからも英雄派は増強し、力も増していくだろう。

それは―――かなりとんでもなく危険なことだ。何か手を打たなければならない。

 

「リーラ。お前さんが今まで出会った人物の中で師に適している者はいるか」

 

「師・・・・・ですか」

 

「英雄派は一誠を通じて強さを得ている。こちらも修行や特訓、経験をしない限りこのままじゃ一誠を取り戻すどころか英雄派とリゼヴィムに太刀打ちなんてできない」

 

「・・・・・」

 

真剣な表情で現在のリアスたちでは太刀打ちできないとハッキリ告げる。事実、魔人や接近戦の達人、最強のドラゴンがいたにも拘らず破られたり足止めされた。さらに一誠自身が鎧と化し対象を纏う現象。

 

「対テロ組織混成チームと結成してもこんな結果じゃ結成した意味が無い」

 

「そうですね・・・・・」

 

アザゼルの言うことも道理だと頷く。聖槍にイレギュラーなドラゴン。この組み合わせは凶悪だ。

 

「今後の課題になりますね」

 

「ああ、そうだな」

 

するとアザゼルたちの耳元に小型の魔方陣が出現した。『お疲れさま』と労いの声を発するナヴィが。

 

「英雄派の情報収集は取れたか?」

 

『ええ、あなたたちの頑張りのおかげでね。怪我の功名ってところかしら』

 

「そうか。後でそのデーターを回してくれ。これからそっちに帰るからよ」

 

『わかったわ。できれば早く帰って来てくれる?あなたたちに客が来てるわよ』

 

―――客?誰の事だと怪訝になるアザゼルとリーラ。しかし、ナヴィが言うのだからいち早く家に戻ったアザゼルたち。転移用魔方陣で家の玄関の前に現れて今日の出来事を糧にし次の機会に活かそうと心から望み抱く一行はリビングキッチンに赴いた。ガチャリと扉を開け放ち、中に入ると―――。

 

「おっ、お帰り。やっと帰ってきたな」

 

朗らかにリーラたちに出迎え声を掛ける人物がいて銀髪のメイドが用意しただろう茶をずずずっと飲んだ。

帰ってきたリーラたちは豆鉄砲を食らった鳩のように目の前の神部たちの存在に受け入れ難くいた。

周囲を見渡せばアレイン、ユーミル、エイリン、ナヴィ、フレイヤといった居残り、留守番組が壁際に立っていた。

 

「・・・・・これはどういうことだ?」

 

「まぁ、座れ。ここはお前たちの家だがな」

 

と―――本来誠か一香なら疑問を抱かず歓迎していただろうが生憎、本当の意味でこの場に、この世界にはいないはずの存在が悠然とした態度で茶を飲んでいるのだから心底理解し難い。

 

「ナヴィさま。彼らは何時頃から・・・・・?」

 

「あなたたちが英雄派と接触した頃に突然現れたわよ。目的を聞いてもあなたたちが帰ってくるまで教えないの一点張り」

 

肩を竦めるナヴィ。リーラとアザゼルは―――異世界の兵藤一誠の前に腰を下ろした。

 

「お前たちの戦いを見ていたぞ。不謹慎だがこの世界の兵藤一誠は面白いものを見せてくれたな。まさか自分が鎧と化となって曹操に纏うなんて俺ですら思い付かなかったぞ」

 

「来ていたんなら俺たちの加勢とかしようとは思わないのか?」

 

「あの時はミカルの願いを聞いたからしただけだ。今回はプライベートでこの世界に来た。あれからどうなっているのかと思えば・・・・・まだこの世界の兵藤一誠は捕まったままか」

 

嘲笑でも侮蔑でもない純粋な気持ちで言う異世界の兵藤一誠。

 

「しかも、俺が知っている英雄派はあそこまで強くは無かったな。やはりどの世界のドラゴンは力を引き寄せ、イレギュラーな方へと成長するもんだな」

 

「お前の世界の英雄派は弱かったと言うのか」

 

「人と能力は同じだ。だが、一人の存在がいるのといないのとの差で強さは違う。まさか、百代やシオリ、サイラオーグが負けるとは思いもしなかったよ」

 

苦笑を浮かべて次の一言をアザゼルたちに氷らせた。

 

「今のままじゃ絶対に兵藤一誠を倒すことはできないなお前たちじゃ」

 

『―――っ!?』

 

「兵藤誠と兵藤一香も魔人の力の前じゃ攻め倦む。じゃあ、武器で臨む?それも無理だ。ゾラードの消滅の力を具現化した鎧の前じゃ消滅させられるのがオチだ」

 

現実を突き付けられ、唇を噛みしめ異世界の兵藤一誠に睨む。「じゃあ、お前なら勝てるのかと」。

 

「言ってくれるじゃねーか。こっちはそんなことぐらい分かってるんだよ」

 

「あいつは俺だ。アイツが持っている能力は俺も有しているからな」

 

「じゃあ、アイツの弱点も知っているんだな?」

 

話の流れ的にアザゼルはそう言う。対して異世界の兵藤一誠は当然だと首を縦に振った。

 

「想いの力で打ち勝てばいい」

 

「想い・・・・・」

 

「特にこの世界のリーラ。お前がこの世界の兵藤一誠に打ち勝つしか手が無いだろう」

 

メリアと同じ事を言う。一誠に対しての攻撃は『想い』。それをどうやってすればいいのか今でも分からない。

 

「アザゼル。ヴァーリはいる?」

 

「あいつはテロリストでスパイ活動をしているぞ」

 

「んじゃ、ヴァーリを呼び戻して一緒に戦って貰うようにしろ。さっきの戦い、ヴァーリがいたら状況は違っていただろうに。それとテファ」

 

「は、はい?」

 

「忘却の魔法。ハルケギニアの魔法を使えるか?」

 

「え・・・・・?」と異世界の兵藤一誠の言葉に疑問を抱く。その反応に異世界の兵藤一誠も不思議そうに首を傾げる。

 

「あれ、知らない?」

 

「は、はい。忘却の魔法ってなんですか・・・・・?」

 

「風のルビー、始祖のオルゴールがあれば習得可能の魔法だ。効果は相手の記憶を消去、奪う」

 

「記憶を消去、奪う・・・・・」

 

「うん、きっとこの世界の兵藤一誠に対して有効的かつ効果的な魔法だろう。リーラの死を忘れさせることもできるからな。魔術的な力でもできるだろうけどよ」

 

その話を聞いた面々は目を丸くする。そんな魔法がハルケギニアにあるとは誰も知りもしなかった。

 

「・・・・・やっぱり、この世界と俺たちの世界とは違うなリーラ」

 

「はい。そうですね一誠さま」

 

リーラと呼ばれた異世界のメイド。リーラは写し鏡のように自分の目の前にいるもう一人のリーラを見詰める。

顔の容姿と美貌は殆ど自分と変わらない。メイド服も全く同じ。しかし、左薬指に嵌めている指環を見れば

結婚している者のとしての証であることがこの世界と異世界のリーラの違いがわかる。

 

「おい、お前が言った物はどこにある」

 

「ハルケギニアのアルビオンに聳え立っている白い塔の中だ。指環の方はアルビオン王国の王家が持っているはずだがこの世界じゃハッキリと断言できないな」

 

世界の違いがあるしと付け加える異世界の兵藤一誠。

 

「だが、気をつけろよ。塔の中はダンジョンだ。俺はハルケギニア中の塔を攻略した身でな。中には一万のドラゴンが待ち構えていた塔もチャレンジした」

 

「い、一万・・・・・」

 

「―――いや、そんな苦労をせず直接教えればいいか?」

 

意味深なことを言いだす異世界の兵藤一誠。雰囲気的にどういうこと?と醸し出していると金色の杖―――『無限創造龍の錫杖(インフィニティ・クリエイション・メーカー)』を具現化し出した。

 

「―――同じ神滅具(ロンギヌス)・・・・・っ!」

 

形は違えど、似ている部分がある。異世界の兵藤一誠は立ち上がりだして壁に向かって聞き覚えのない呪文を呟き始め、杖を壁に向かって突き出した次の瞬間だった。壁一面に光る窓が発現して、窓の向こうを覗けばどこかの部屋の中の光景、食事中のようで大勢の男性と女性、子供が席に座っている様子を窺えた。

 

「おーい」

 

異世界の兵藤一誠が声を掛けると一斉にこちら側に振り向いて―――驚きのあまり目を丸くした面々。

 

「あれ・・・・・まさかじゃないけど私・・・・・?」

 

「嘘・・・・・」

 

この世界の面々は信じ難いと目の前の面々に瞬きする事も忘れて漏らす。

向こうから大挙して近づいてくる大勢の者たちの一人が異世界の兵藤一誠に尋ねた。

 

「イッセー・・・・・彼女たちってまさか・・・・・」

 

「ああ、俺たちからすれば異世界でまだ学生時代の俺たちだ。―――ティファニア」

 

異世界の兵藤一誠の呼び掛けに一人の金髪で耳が尖った巨乳の女性が応じて現れた。

テファはまさしく自分である女性に驚いていた。

 

「はい、あなた」

 

「お前の忘却の魔法。風のルビーと始祖のオルゴールを異世界のティファニアに貸してやってくれないか?」

 

「異世界の私・・・・・」

 

改めて自分を見詰める異世界のティファニア。驚きはしたものの懐かしみが籠った眼差しを向ける。

すると、テファの隣に立つ少女たちにも目を向けた。その少女たちはエルフだと分かり、自ら近づいた。

 

「異世界の私、こんにちは」

 

「こ、こんにちは・・・・・」

 

「ふふっ。懐かしい姿だわ。始めてイッセーと出会った時の自分を思い出す」

 

「そうなんですか・・・・・?」

 

「ええ、半ば強引にルクシャナが手を引っ張って私をイッセーたちと一緒にハルケギニアのダンジョンを巡ってそれから一緒に生きるようになったのよ?」

 

テファは気付いた。一誠との出会いが違う事を。目の前の異世界のティファニアは自分とは違う生き方をしている。だからこそ聞きたかった。

 

「あの、母は生きていますか・・・・・?」

 

「・・・・・残念だけど、私を庇って死んでしまったわ」

 

「―――っ!?」

 

異世界のティファニアの発言にシャジャルは目を張る。それは―――あの時、自分が身を呈してテファを守ろうとした時のことではないかと思わずにはいられなかった。

 

「あなたは?この世界のあなたの母は生きている?」

 

「・・・・・はい、この人が私の母です」

 

「え?」

 

異世界のティファニアはテファの隣に立つ少女、シャジャルに目を丸くした。どう見ても十代後半の少女にしか見えない。だが・・・・・異世界のティファニアは亡くなった自分の母親、シャジャルと被る事に実感し。

 

「そう・・・・・この世界じゃ母は生きているのね・・・・・若いけど、母だとわかるわ」

 

尻目に涙を溜め、自分の事のように嬉しそうな微笑みを浮かべた。シャジャルはスッと異世界のティファニアに腕を伸ばした。

 

「あなたの世界の私もあなたを守ろうとして死んだのですね。私と同じ優しいエルフであった事を私は嬉しく思います」

 

「おか―――シャジャルさん」

 

「私を母と呼んでも良いのですよ。私のもう一人の娘。よく彼と出会うまで強く生きましたね」

 

「―――っ」

 

シャジャルは異世界のティファニアを抱き絞めて優しく語りかけた時、シャジャルを抱きしめ返して嗚咽を漏らす異世界の自分にテファは静かに見守った。その後、異世界同士と自分同士の出会いを経て、テファは異世界のティファニアから指環とオルゴールを受け取った。

 

「兵藤一誠さま・・・・・」

 

「ん?」

 

「あの時、私を復活させていただいて誠にありがとうございました」

 

深々とリーラは異世界の兵藤一誠に頭を下げたまま言葉を言い続ける。

 

「お願いがございます。私たちを強くして貰えないでしょうか」

 

「鍛えて欲しいってことか。この世界の俺を取り戻す為に」

 

「はい」

 

「そうだな。お前ならリアスたちはイレギュラーな成長をするだろう」

 

リーラに同意するアザゼルも「頼めるか」と懇願する。しかし、難しい顔で異世界の兵藤一誠はこう答えた。

 

「俺も人王としての立場があるからな。これでも多忙な身で付き合うことはできないぞ」

 

「そこをなんとか頼めないか?」

 

それでも異世界の兵藤一誠は良い返事をしてくれなかった。しかし、異世界のリーラが見兼ねてある事を告げる。

 

「一誠さま。一時だけでも彼女たちにあの中で経験を積ませればよろしいではないでしょうか」

 

「あの中・・・・・?・・・・・ああ、アレか。確かにあれなら時間は確保できるがそれでも一朝一夕だぞ?」

 

「彼女たちに課題を伝え、書き残せば後は自ずと成長するかと」

 

「それだと、お前にも手伝ってもらわないといけなくなるぞ?」

 

「愚問を。私は夫であるあなたの力に成れるのであれば喜んでご協力を惜しまず致します」

 

絶対的な忠誠心を窺わせる異世界のリーラにやはり自分自身だと改めて認知したリーラであった。

 

「・・・・・ふぅ、そこまでいわれるとやらないわけにはいかないな」

 

魔方陣を展開してスノーグローブみたいに球形の透明なガラスの中に海と砂浜、大きな崖の上に石造りの建物が入っている物を取り出した。

 

「ただし、子供たちが学校に送ってからだ。それでいいな?」

 

「勿論でございます。―――ほら、あなたたち。早く食事を済ませて学校に行きなさい」

 

えーっ!と不満げに文句を発する子供たち。―――異世界のリーラは微笑んだ。

 

「お仕置きされたいのですか?」

 

『いえ、喜んで行ってきますっ!』

 

ハキハキと子供たちはそう言うと急いで食事を済ませ、近くに置いてあった鞄を手にして『行ってきまーす!』と

逃げるようにいなくなった。

 

「・・・・・お前、どんな教育をしているんだ?」

 

「アザゼルさま。あなたさまも体験してみますか?」

 

「いや、結構だ」

 

リーラはやっぱりリーラだと悟ったアザゼルだった。

 

「あー、せっかくの休日がこんな展開になるなんてな」

 

「いいじゃない!異世界の自分と出会えるなんて私は楽しいわよ?」

 

「そうだねー。僕も自分の学生時代の僕を見れて懐かしい気分だよ」

 

「うん、楽しくなってくるね」

 

ぼやく異世界の兵藤一誠は異世界の面々が笑みを浮かべ楽しげに漏らすのを耳にしながらスノーグローブをテーブルの上に置き魔方陣を展開した。

 

「一週間程度でいいか。この世界の俺たちは初めてだからな」

 

「一週間?おいおい、俺たちにも都合があるんだぞ」

 

ガラス玉を用いて一週間も修行をする気なのかと考えるアザゼルを言い返した異世界の兵藤一誠。

 

「百聞は一見に如かず、だ。アザゼル。俺たちはこれを愛用にしているんだぜ?主に鍛練や修行、仕事用に―――妻たちと愛し合う為にな」

 

「これが一体何だと言うんだ・・・・・?」

 

「これからわかるさ。さてと」

 

異世界の兵藤一誠はもう一人の自分を作り出しては異世界を繋げる窓の維持を任せて自分たちは―――ガラス玉から発する光に包まれた。

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

「ここは・・・・・」

 

周囲を見渡すアザゼル。バカンスに来ているかのような暑さを感じ、石で設けられた大きな球状の足場に伸びる巨大な石造の建物。下を見下ろせば大海原と砂浜、森に囲まれた崖の上にいる事を知る。

 

「俺たちはガラス玉の中―――『自由で有意義な時間の空間(フリーダムタイム・バカンス・ルーム)』にいる」

 

「お前、こんな物を作れるのか?」

 

「メリアと兵藤誠の神滅具(ロンギヌス)の能力を使えば可能さ。ここで俺たちは有意義に過ごす。一週間もな」

 

このガラス玉の中で一週間・・・・・。やはり異世界の兵藤一誠の意図が読めない。

 

「本当にこの中で一週間もか?」

 

「そうだ。だが、ここは特殊な結界の中にいるようなもんでもある。この中で一週間も過ごせば外の世界の時間はたったの七分としか経過していない設定をしている」

 

「―――なんだ、その好都合過ぎる王道的な展開はっ!?」

 

便利すぎるだろコンチクショーッ!と興奮のあまり叫びだすアザゼル。

 

「永遠に近く生きる異種族にとっては不要かもしれないが、仕事や趣味、愛しい者と過ごしたい時間を欲しい人間からすれば喉から手を出すほど欲しい代物だろう?しかもここならどんな攻撃をしても外に影響は一切無いし持ち運びも可能だ」

 

「すげー欲しいんだけど!?コレ、俺にくれ!」

 

子供のように顔を輝かせて強請るアザゼルに苦笑を浮かべる異世界の兵藤一誠。

 

「作り方を教える。後はこの世界の兵藤一誠に作って貰え。―――さて」

 

足元に転移用魔方陣を展開し、あっという間に砂浜に移動した面々。

 

「最初はお前らの力を見せてもらおうか。ああ、この世界のオーフィスとクロウ・クルワッハ、リーラー、アザゼルと神フレイヤを除いたお前らだけで」

 

「力を計る為か?まぁ、妥当な修行だと・・・・・」

 

「―――言っておくが、俺は生易しい修行をさせるつもりもするつもりもないからな?」

 

砂浜に幾つものの巨大で様々な色の魔方陣が出現した。魔方陣が輝きを一層深くして、ついに弾けた時―――。

空間全て振るわせるほどの声量―――鳴き声が、そのものの大きな口から発した巨大なドラゴンたちが姿を続々と姿を現したのだった。

 

「ほう・・・・・これは・・・・・」

 

「懐かしい」

 

クロウ・クルワッハとオーフィスが興味津々に現れたドラゴンたちを見詰める。

 

「―――こいつらはっ!」

 

アザゼルが絶句し、リーラたちは驚愕の色を浮かべる。

 

「これが俺とこの世界の兵藤一誠の違いの差だな」

 

愉快そうに言う異世界の兵藤一誠の周囲には見慣れたドラゴンや始めてみるドラゴンたちが勢揃いしていた。

 

『グハハハハッ!まーた異世界に来たのかこいつはと思ったら俺たちを出しやがって。なんだ、遊んでいいのか?』

 

『私もお呼びとは何をすればいいのでしょうかねぇ』

 

『どうせならこの世界の私と会ってみたかったがな』

 

『だったらオレはこの世界の最強の五大龍王と、オレとロックな勝負をしたいな!』

 

『オーフィスとクロウ・クルワッハが二人もいるなんてねー』

 

『主はやはり主ということか』

 

『落ち着いたと思えばそうでもなかったですね』

 

『『・・・・・』』

 

数匹のドラゴンたちが好き勝手に喋り出す。リアスたちは目の前のドラゴンに驚きっぱなしでいた。

しかもどうして召喚したのか―――。

 

「―――グレンデル。取り敢えずこいつらを全力で攻撃していいぞ」

 

『おほっ!いいんだな!?』

 

『ちょっ―――!?』

 

「お前を満足させることはできないだろうが、それでも楽しめ」

 

嬉しそうに肌黒く背中に大きな翼を生やす人型ドラゴンに、グレンデルにリアスたちにとって死の宣告が告げられた。

 

『グハハハハッ!この場にドライグやアルビオンがいないのは確かに物足りねーが、それでも暴れられるからにはお前らで楽しませてもらうぜぇっ!』

 

哄笑を上げ、銀色に輝く双眸は鋭く、ギラギラと戦意と殺気に満ちていたグレンデルが巨大な拳をリアスたちに向かって豪快に振り下ろした。リアスたちは避けると砂浜の砂を撒き散らし、クレーターを作った。

 

「なんなの、このドラゴンは!?」

 

「『大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』グレンデル。滅んだ邪龍の中でも最硬クラスの鱗を誇っていた―――滅んだはずの邪龍だ」

 

『邪龍!?』とリアスたちはクロウ・クルワッハの説明に驚愕した。

 

「そうだ。その上、こいつは食らったダメージを嬉々として受け入れる。戦闘凶を超えた死闘凶のドラゴンだ。生半可な攻撃はグレンデルの鱗には効かないぞ」

 

『グハハハハハハァッ!そういうことだぜぇっ!』

 

腹を何度も膨張させ、口から巨大な火炎球を何度も吐きだす。

 

「―――大きいっ!」

 

迫りくる火炎球に和樹は海の海水を魔力で操ってグレンデルの火炎球を打ち消そうとする。

 

『おっそいぜ、式森ちゃんよぉっ!』

 

「なっ―――!?」

 

巨体に見合わぬ俊敏な動きで和樹の背後に回ったグレンデルが拳を正拳突きにして突き出した。和樹に迫る巨大な拳は展開された幾重の防御魔方陣をものともせず硝子細工のように打ち砕き、ついに和樹の身体に直撃して海まで殴り飛ばした。

 

「和樹さん!?」

 

「和樹の魔方陣があんなあっさりと・・・・・!」

 

「雷光よっ!」

 

ビガッ!ガガガガガガガガッ!

 

朱乃の雷光の一撃は容赦なくグレンデルに直撃した―――!

 

『この程度の雷なんざ効かねぇよぉっ!』

 

が、翼を大きく広げ羽ばたかせて空を飛んだグレンデルが火炎球を乱れ撃ちに砂浜へ放った。

砂浜に直撃した際の熱風と衝撃は凄まじく、火炎球に当たらずともリアスたちが展開した防御魔方陣にも影響を与えボロボロになる。

 

『てめぇの雷より、こっちはもっと痺れるほど何度も浴びているんだ。お前よりももっと強力な雷をよぉっ!』

 

「なら、俺の拳はどうだ?」

 

サイラオーグが勇ましく果敢にグレンデルの顔に目掛けて跳び、頬に拳を轟音を鳴らしながら突き出した。

一瞬よろけるが、体勢を立ち直して殴られた箇所を指でこすって嬉しそうに狂気の笑みを浮かべた。

 

『グハハハハッ!グハハハハハハッ!最高だなぁっ!久々に痛快な痛みを感じたぜぇおいっ!』

 

それが引き金になりテンションはさらに高くなったグレンデルは文字通り容赦のない攻撃を繰り出す。

剣で斬ろうにも硬い鱗に阻まれ傷一つも付けれない。魔法で攻撃しても逆に自分から食らいに来るドラゴンに驚く。策を講じようと作戦を伝え、その通りに動いても強大で凶悪な力の前に通じず突破される。

 

その結果―――。

 

「グレンデル。ストップだ。もうそいつらは戦えない」

 

異世界の兵藤一誠がグレンデルを止めた。リアスたちは満身創痍。英雄派との戦いで消費した体力と魔力が全快してでも邪龍のグレンデルに勝てはしなかっただろう。

 

『ちっ、こっちはまだまだ戦えるってのにもうへばりやがったか』

 

「そういうな。寧ろお前と戦って死ななかった方が凄い事だ」

 

『不完全燃焼だ。おい、今度はお前らが俺と殺し合いをしろや』

 

「後でならいいぞ」と答え、砂浜にひれ伏すリアスたちに告げた。

 

「三日間、最初はグレンデルと全力で戦って貰う。それからアジ・ダハーカの放つ魔力弾の中でランニング。その後は各自異世界の自分たちとマンツーマンで特訓。この場にいない他の奴は俺たちが直々に相手をする。四日目からは他のドラゴンたちと全力で勝負。精根尽き果てるまでな。そして最終日の七日は俺たち異世界の者がお前たちと勝負する」

 

「・・・・・流石に死ぬんじゃないか?」

 

異世界の兵藤一誠の修行メニューを聞いて冷や汗を流すアザゼル。殆どドラゴンが関わっている修行で命がいくつあっても足りないと思うほどの過酷さだった。異世界の兵藤一誠は呆れ顔で言い返した。

 

「俺もこの世界の兵藤一誠もそのぐらいのことをしていた。していたはずだ。こいつらもそれに似たレベルの修行をしなくちゃこの先、やっていけれないぞ。それに敵対する相手に容赦はしないという心構えも必要になる」

 

「むぅ・・・・・」

 

「そう言えばアザゼル。ファーブニルとはまだ契約しているのか?俺の世界のアザゼルはアーシアに契約をさせていたんだ」

 

「ほう?」

 

興味深い話しだと異世界の兵藤一誠に耳を傾ける。ふと、物足りなさを感じ辺りを見渡すと疑問をぶつけた。

 

「そういや、異世界のアーシアは見当たらないな?」

 

「彼女は成神一成と結婚しているからいないぞ」

 

「おおう・・・・・本当に違うな」

 

「面白いだろう?だから俺はプライベートでこの世界にやって来たんだ」

 

そう言う異世界の兵藤一誠は朗らかに笑みを浮かべたのだった。



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エピソード57

本部に戻った英雄派たち。戦いの後の食事してそれから各々と自由に行動をする。

『フェニックスの涙』で右眼の傷はなく今現在、一誠は曹操に顔を拭かれている。

無表情で見詰めるセカンド・オーフィスと不安そうな呂綺、無言で様子を見守る

モルドレッド、曹操と反対側に居座るリースがいて―――。

 

「リース、一誠を守ってくれて感謝する」

 

「彼に死なれては困るから当然よ」

 

「ふ・・・・・そうだな」

 

同じ気持ちであることを知り、小さく笑みを零す曹操。鮮血で濡れた顔は綺麗になって

一誠の頬を触れる曹操は言う。

 

「今回の挨拶で相手の戦力も把握できた。実力も知れたしもう充分だろう」

 

「これからどうする気だ?」

 

モルドレッドが話に加わった。「そうだね」と漏らす曹操は考え始める。

 

「しばらくは大人しくしていよう。キミも彼と特訓する時間も欲しいだろう?」

 

「・・・・・テロリストの割には大人しくするのね」

 

「私たちは精鋭でも数が少ない。長期戦で戦い続けるとこちらが不利となる。

相手は勢力でこっちは一団だ。戦うなら奇襲の形でしたほうが効果的かつ効率的なんだよ」

 

そこへゲオルクが曹操を訪ねてきた。「話がある」と告げてこの場から離れさせた

ゲオルクに尋ねる。

 

「どうした」

 

「源義経たちがいなくなってる。誰かが手引きして脱走をさせたのかもしれない」

 

「そうか・・・・・検討は付いているのか?」

 

「ああ、だが。お前は対して気にしないだろう?」

 

「そうだね・・・・・別に知られてはいけない事を知られたわけでもないし、

この場所も把握されてないだろう」

 

放っておけとばかり言う曹操。ゲオルクはその言葉が出てくるのを悟っていたのか

大して気にもせずに言い続けた。

 

「曹操、お前は色んな意味で変わったな」

 

「いきなりなんだ。藪から棒に」

 

「何となくそう言いたかった気分になっただけだ。兵藤一誠が来てからお前はどこか変わったよ」

 

「そうか・・・・・?自分では分からないな」

 

首を捻ってどこからともなく取り出した手鏡で自分を映して見つめる。

そんな行動をする曹操を見て苦笑を浮かべる。ゲオルクは曹操の心境のことを指して

言ったのだが本人は気付いていない。今まで通りであると、変わっていないと思って

いるだろう。曹操の傍で短くない付き合いをしているゲオルクにとって些細な事でも

敏感に感じる。

 

「曹操、俺たちは人間だ」

 

「ゲオルク?」

 

「異種族同士の恋愛は自由だが、悪魔や堕天使、天使という永遠に近い生の中で

存在し続ける種族と違ってたったの数十年で死んでしまう脆い種族の俺たち人間は

そんな種族たちからすればなんだろうな」

 

「天使は人間の信仰、堕天使は人間を利用する、悪魔は願いを叶える代わりに対価を

求める―――そんなところだろう。どの種族も人間を必要とする。吸血鬼なんて人間を

家畜のように扱う・・・・・ふむ」

 

曹操が考え始めた。見守ると曹操は首を小さく頷いた。

 

「ゲオルク、吸血鬼と一戦交えるぞ」

 

「その心は?」

 

「人間の敵だ」

 

「分かり易いな。しかしヨーロッパか。最悪教会の戦士たちと戦う羽目になりそうだ」

 

「ああ、ストラーダ猊下とクリスタルディ猊下の二大戦士か。

あの二人は凄まじい戦士だと聞く」

 

「その二人にも兵藤一誠は稽古をつけてもらったのだから凄いと思う」

 

感心するゲオルクに笑みを浮かべる曹操。

 

「ところでヴァーリはどうしている?」

 

「好きなように動いていると思うが、俺たちに接触すると思えないが?」

 

「彼女は彼の事が心底好きだからね。私たちの隙をついて連れ出そうとする恐れもある」

 

「そういうことか・・・・・恋のライバルは多いな曹操よ」

 

「ライバルはいてこそ張り合いの甲斐があると言うものだよゲオルク。

キミも特定の異性と付き合ってみればどうかな?」

 

含みある笑みをゲオルクに窺わせて言うと「今はその気は無い」と返される。

 

「おーい、曹操」

 

ジークフリートがやってきた。

 

「兵藤一誠の傷はどうだ?『フェニックスの涙』で完治したと思うけれど」

 

「そのおかげですっかり治っている。いま、モルドレッドたちと一緒にいるが?」

 

「そうか。なら少しの間だけ彼を借りるよ。模擬戦をしたいからね」

 

曹操にそう言い伝え、ジークフリートは一誠へ尋ねに行った。

そして見送る曹操は真摯な顔つきでゲオルクに問うた。

 

「・・・・・やはり、ジークは一誠を狙っているのか?キミの言った通りに」

 

「すまん曹操。あの話は本当に冗談だ」

 

あの後、ヘラクレスとジークフリートに折檻されたゲオルク。仲間内で冗談で誤解する

ような発言はしない事を心掛けた程に。すると、ジークフリートが戻ってきた。

 

「どうした?随分と戻ってくるのが早いじゃないか」

 

「・・・・・ちょっと、ね。尋ねにくい状況だったから」

 

「どうしたと言うんだ?」

 

頬をポリポリと掻き、言い辛そうにジークフリートが口を開き言葉を発する。

 

「うん・・・・・オーフィスと呂綺が裸になって兵藤一誠とキスをしていたよ」

 

何時の間にあんな関係になっていたんだ、とジークが言った直後。

曹操は無言で二人から離れていった。

 

「曹操・・・・・?」

 

「察してやれ」

 

「・・・・・ああ、彼女もか」

 

「そういうことだ。流れ的にモルドレッドもリースも交ざるだろうな」

 

「・・・・・マジで?」

 

後にゲオルクの紳士的な処置のおかげで一誠と曹操たちの激しい運動は極一部の者しか

知られずに済んだ。

そして人避けと防音対策が施された一室では二つの嬌声が聞こえると三つになり、

何時しか五つにまで増え出す。

 

―――○●○―――

 

異世界の兵藤一誠たちに特殊な空間の中で過ごしたリアスたちは

一週間ぶりに現実世界に戻ってきた。

 

「お疲れさん。コレで前よりはマシになっただろう。どうだ、強くなった自分を感じるだろう?」

 

『・・・・・死ぬかと思った。それが今一番の感想・・・・・』

 

疲弊し切った表情でリアスたちの目には生気の光が宿っていなかった。

サイラオーグでさえ口数が少なくなっている。

 

「・・・・・同情するぜ、お前ら・・・・・」

 

憐みの眼差しを送るアザゼル。中でどんな苛酷の修行をしたのかそれは修行した者、

修行に付き合った者たちしか知らない。

 

「コレはここに置いておく。後は自由に好きなように使え」

 

テーブルに置いてあるガラス玉に触れながら異世界の兵藤一誠は別れの雰囲気を醸し出した。

現に異世界のメンバーたちは笑みを浮かべ手を振りながら異世界に繋げた状態の窓に

入って戻っていく。最後に異世界の兵藤一誠とリーラだけと成り、アザゼルに話しかけた。

 

「強くしたからにはこの世界の兵藤一誠を何がなんでも連れ戻せよ?

これ以上俺は干渉するつもりは無い」

 

「ああ、ありがとうな。お前のおかげでどうにかなりそうだ」

 

「なに、俺たちも楽しませてもらったよ。また今度ここに旅行でもしにくる」

 

アザゼルと握手を交わし、自分も良世界に戻ろうとした矢先。異世界の兵藤一誠は振り返った。

 

「そうだ。一応、心に留める程度でいいが俺の世界で起きた出来事を一つだけ教えよう。

それとアドバイスもだ」

 

そう言ってヴァレリーとギャスパーに目を向けた。

 

「この世界のヴァレリーがここにいる時点でルーマニア、ツェペシュとカーミラの

二大派閥にとんでもない事件は起こらないと思うが忠告だ。

俺の世界じゃ聖杯によって男尊派のツェペシュと女尊派のカーミラの吸血鬼たちに

災いが起きた。念には念をのつもりでお前らも気をつけろよ」

 

「なんだと・・・・・?」

 

「まぁ、リゼヴィムの手に聖杯が渡っていなければ多分そんな事件は起きないだろうけどな。

リゼヴィムはツェペシュ側に潜伏していて聖杯で吸血鬼たちを量産型邪龍に

換えやがったからな」

 

そしてもう一つ―――。

 

「この世界のソーナ」

 

「なんでしょうか・・・・・」

 

ソーナ・シトリーに指名した異世界の兵藤一誠。

 

「強制じゃないがハーフの死神(グリム・リッパー)と狼男を眷属しておけよ。狼男は

ともかく死神の方は向こうから来てくれるかどうか分からないけど」

 

「死神と・・・・・狼男ですか・・・・・?」

 

「ああ、俺の言葉に従ってくれるならこの世界の魔王に通じてハーデスのお爺ちゃんに

頼んで勧誘してみるといい」

 

それだけ言い残して自分たちの世界に戻った直後、壁に開いた窓が閉じかけた

その時に箱が飛んできた。

 

「なんだこれは・・・・・?」

 

異世界と繋げられた窓は閉じ切った。アザゼルは箱を開けるとドス黒い液体が

入っている大きな瓶が収まっていた。同時に魔方陣が展開して声が聞こえてくる。

 

『これはサマエルの毒だ。兵藤一誠にとっては究極の毒であり呪い。もしも兵藤一誠を

止める事が出来なかったらこれを使え。使ったら闘戦勝仏、お猿のお爺ちゃんに頼んで

抜き取って貰えよ』

 

メッセージとも言える異世界の兵藤一誠からの贈り物の正体を知り、深い溜息を吐いた。

 

「あいつめ、こんな代物を俺たちに使わせようって言うのか」

 

「用意周到・・・・・いえ、あの方も自分の身に起きた事を告げているようなものですね」

 

「あいつもまたサマエルによって死んだようだしな。

世界は違えけれど、共通点はあるのか・・・・・」

 

アザゼルはリアスに振り返った。

 

「リゼヴィムは聖杯を持っている。異世界の兵藤一誠の言うことが正しければあいつは

ルーマニアにいる」

 

「もしかして、イッセーも気付いているのかしら」

 

「わからん」と答えるアザゼル。

 

「だが、アイツばかりに構ってはいられないのが現実だ。

吸血鬼の勢力は俺たち三大勢力と和議のテーブルにつこうとしない閉鎖された世界に

いる。リゼヴィムがそこにいるとすれば良い隠れ場所に違いない」

 

「じゃあ、アポも無しに行くの?」

 

「そうなるな」

 

リアスから視線を逸らし、アルトルージュ、ヴァレリーに変えた。

 

「お前たち。久々の里帰りになるが道案内はできるな?」

 

「そうね。道案内程度ならできるけれど、王の謁見はヴァレリーに頼むしかないわよ?」

 

「ツェペシュ王の姫の協力なしじゃダメってか。

ヴァレリー、一誠の聖杯を取り戻すつもりで俺たちに協力してはくれないか?」

 

アザゼルの頼みにヴァレリーは笑みを浮かべながら頷いた。

 

「久し振りにお父さまやお兄さまと会えるのは楽しみです。

ですが、マリウスお兄さまが私の聖杯を知っています」

 

「聖杯を興味しているってならばヴァレリーを安易に行かせるわけにも

いかない・・・・・か。戻ってきた王族を俺たちから引き離すことだって容易だろうし」

 

「でも、リゼヴィムが聖杯を持って吸血鬼側に潜伏しているならそのマリウスって

吸血鬼と接触しているんじゃ?」

 

和樹の言い分に否定せず言い続ける。

 

「異世界の一誠はリゼヴィムが吸血鬼たちを量産型邪龍に換えたと言った。

マリウスはそれに関わっていないのだろう。だとしてもヴァレリーの聖杯を

奪われずに済む方法は・・・・・」

 

徐に堕天使の魔方陣を展開して一つの杯を発現させた。

 

「一誠のもう一つの聖杯をヴァレリーの聖杯の代わりに取られるよう仕組む他ないな」

 

「それ、大丈夫なのですか?神器(セイクリッド・ギア)はもう一つの魂とも言われてますよ?」

 

「何とか旨くする。ヴァレリーの聖杯は亜種だ。その亜種の聖杯を何らかの方法で

もう一つこの世に具現化した一誠の聖杯と酷似している。

ただ、能力はオリジナルより高いがな。対象を異種族に転生させる裏ワザ、

イレギュラーな能力を」

 

「確か、兵藤家を悪魔に転生させたって・・・・・あれ、本当なの?」

 

「んじゃ、試しに誰か―――悪魔か人間を止めて別の種族になってみるか?」

 

聖杯を突き付けリアスたちに愉快そうな顔で尋ねれば何とも言えない表情を浮かべ出した面々。

 

「実験はしてある。勿論元の種族に戻すことも可能だぞ?」

 

「実験したなら、どんな種族に転生できるのか分かっているんスよね?」

 

「当然だ。結果は悪魔と天使、堕天使、吸血鬼、ドラゴン、人間の6つだった。

そんで対象の強化も可能にしてみせたぞ。弱点を克服することもな」

 

「―――悪魔が弱点とする光もっ!?」

 

グリゴリの技術は世界一ィッ!と言いたげなアザゼル。

 

「ヴァレリーの聖杯もそうしてみせたようにこの一誠の聖杯も同じことをできた。

同じ亜種の聖杯といえども能力の高さだけが違うようだ」

 

「一誠が貸してくれた聖杯によってこっちも色々と研究や実験が大幅に進んでいる。

人工神器(セイクリッド・ギア)の完成度も高まったほどだ」

 

「うわ、人工で作れるなんて凄いですね・・・・・兄が知ったらあなたを勧誘すると

思いますよ」

 

感嘆の声を漏らす龍牙。

 

「お前さんの家族は何でも屋だったな?実力も相当だと聞いているぞ」

 

「ええ、まぁ、良い意味でも悪い意味でも仕事に熱心な人たちですよ。既に迷惑を掛けてしまった人がいますし」

 

この場にはいませんですけれどね、と内心で付け加える龍牙。

 

「そいつらは隠遁など得意か?」

 

「あの手この手その手のスキルは高いですよ?」

 

「よし、だったらそいつらを雇って一緒に同行してもらおうか」

 

「・・・・・本気ですか?」

 

あまりお勧めではないと良い顔ではない龍牙に不思議そうな顔をするアザゼル。

 

「どうした?」

 

「いえ、確かに腕は凄いのですが・・・・・とても我が強く個性的な人たちなので。

特に僕の兄は妻帯者であるのに自覚・無自覚の女たらしな上に能力が高い人材を

見つけると勧誘する癖もあります」

 

女性メンバーに「兄が失礼な事をしたら躊躇も無く攻撃してくださいね」と兄に対する弟の言葉とは思えないほど淡々としていた。

 

「でも、とても強いことは確かですよ。二度も仕事を失敗した程度ですから」

 

「二度だけか?それで強いかどうか判断できんが」

 

「僕が知っている限りでは最初の依頼の失敗がとある男女の暗殺と抹殺。

二度目の失敗は堕天使の少女の誘拐、もしくは殺害です」

 

「―――っ!?」

 

堕天使の少女の誘拐、もしくは抹殺と聞いて朱乃が酷く反応をした。

そしてアザゼルは顎に手をやって納得した面持ちで頷く。

 

「バラキエルの家が襲撃されたと昔聞いたな。それが朱乃を狙った犯行だと。なるほど、

お前さんの家族の仕業か」

 

「そうですね・・・・・彼、兵藤一誠さんには関わりが無いとはいえ申し訳ないと

思っていますよ。本人は気にしていないようですが」

 

「あいつはそう言う奴だ。なんせ堕天使の少女の為に身を呈して守った男だからよ」

 

「格好いいですね。彼、惚れそうです」

 

小さく笑んで冗談な言葉を口にする。

だが―――。一誠を慕う女性たちからすれば冗談は通じないのだ。

 

『負けないからね!?』

 

「ええー・・・・・」

 

「そうです、神城さま」

 

ポンと龍牙の手に置くリーラの顔は―――笑っているが目は笑っていなかった。

 

「同性愛は許しませんので・・・ええ、本当に許しません。このリーラ・シャルンホルストが」

 

「本当に冗談ですので!?本当!」

 

リーラから発する不気味なプレッシャーと恐怖に身震いする龍牙に呆れるカリン、

苦笑いする和樹、オロオロと戸惑う清楚、新たな恋のライバルと敵意を放つ悠璃と楼羅の

2-C組のクラスメートたちであった。何気に肩に乗せている手がジワジワと強まって

いくではないか。神城龍牙はここで学んだ。一誠を慕う女性たちにふざけたこと、

冗談な事を言ってはならないと肝に銘じたのだった。

 

「・・・・・」

 

ソーナは考え込んでいた。異世界の兵藤一誠の言葉に。まだ『女王(クイーン)』の椿姫しか

知られていない新たな眷属の一人を挙げられたことに。向こうの自分も同じ眷属を

得ているのだと悟った。同じ自分とマンツーマンで稽古や修行していた際、

自分のことは何も教えてくれなかった。が、知ったことがあるとすると・・・・・

 

「(向こうの私はイッセーくんと結婚していた)」

 

異世界の自分と同じように一誠と結婚するのだろうかと考えた。だが、こっちの世界の一誠はテロリストとなって自分との結婚などできる確率はないだろう。それに結婚する以前に恋愛感情は無いのだ。

ソーナは有り得ないと首を横に振る。今は置かれている状況と目の前の現実と向き合い、前に進むことが優先―――。

 

 

 

 

 

 

 

「HEY!これ貸すからさ、その変わり僕ちゃんたちをここに居させて欲しいなー?

そうすれば色々と調べられるでしょーよ?」

 

「これは・・・・・っ!・・・・・ええ、わかりました。

あなた方をVIP扱いに迎える事を心から歓迎致しましょう」

 

「うひゃひゃひゃっ!どーもどーもありがとうござんす!話の分かる吸血鬼は大好きだね!」

 

「ですが一つ話を、これは―――私の妹から得た聖杯ですか?」

 

「妹ぉー?のんのん、これは坊ちゃんから貰った聖杯だぜぃ」

 

「坊ちゃん・・・・・?妹のではないのですかこの聖杯は?」

 

「んんー?なんか不思議な事を言うねー?ちょいっとこのお祖父ちゃんに教えてくれるかなー?」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

「ヴァーリヴァーリ、テロのスパイ活動をやめるって本当かよ?」

 

「ああ、アザゼルから言われてな。対テロ組織混成チームに加わって欲しいそうだ。

それでも私たちは自由に動くけれどね」

 

「そっかー。あの姉妹猫と会える時が来たんだねー」

 

「おや、銀華。顔見知りでしたか?」

 

「はい、私も気になります」

 

「ふふっ、白はともかく黒の方は驚くにゃん。そう、きっとね♪」

 

「異論は無いようで何よりだ。さて、戻る前に何か手土産でも用意して行くか」

 

 

 

「おお・・・・・義経、弁慶、与一。よくぞ戻ってきたな!」

 

「・・・・・はい、実験の手伝いを条件に義経たちの解放を要求してくれたら呑んでくれました」

 

「実験とはなんだ。身体に何かされたのか」

 

「何かされたんだろうけど、特に身体に異変は感じられない。私生活に支障は無いだろうけどね」

 

「そうか。だが、お前たちを解放させたのは誰なのだ?相手はテロリストだ。簡単に捕まえた捕虜を逃すとは思えないのだが」

 

「・・・・・すまない。今は休ませて欲しい。義経たちは色々と整理をしたい」

 

「む、そうであったな。すまぬ、ゆっくり休んで後に詳しい話しを聞かせてくれ」



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エピソード58

真紅の髪の少年に視界が入ると照れと羞恥で思わず視線を逸らして顔を背けるリース。

あの一件以来、自分の中での少年は大きくなり、恋する乙女となるのはあっという間だった。

復讐を誓い、闇に身を堕とし、人間を止めて―――一誠と空気と雰囲気に流され肌を重ねた。

リゼヴィムを倒す為に強くなるまではテロリストとして動き様々な経験と修羅場を潜る。

そして―――一誠からドラゴンの力を学ぶ。

 

リースは国を、家族を奪った悪魔に復讐の権化と化となって

今日も一誠に鍛えられるのだった。

 

「・・・・・ん」

 

英雄派の本部。人知れず立っている場所にある建造物のとある一室でリースは目覚まし時計も

鳥の囀りで起きたわけでも、降り注ぐ朝の陽ざしが眩しくて起きたわけでもなく体に

染みついた目覚めによって意識を覚醒した。

ぼんやりと目を開けると真紅の髪の少年の穏やかな寝顔が最初に映り込んだ。

 

「(あ―――)」

 

頭部に感じる柔らかい枕ではなく、無駄な脂肪や鍛え過ぎた硬い筋肉じゃない心地の良い

温もりを感じさせる男の腕。こうして異性の腕をまくら代わりにして寝ている

自分は―――一夜を過ごした事実を鮮明に思い出す。しかし、自分たちだけではない。

反対側に曹操が自分と同じように威勢の腕枕で心地良さそうに規則正しい寝息をする。

そして視線を違う方へ向ければキラキラと輝く翼の上で一誠に寄り添って寝ている呂綺や

セカンド・オーフィス、一誠を跨って寝ているモルドレッド―――。皆、共通点は夜遅くまで一誠と肌を重ねて裸のまま寝てしまったことだ。

 

健康的な肌を惜しみ無く晒し、起き上がると肩や背中に流れ落ちる綺麗な金色の髪。

腕で彫刻のように整った豊満の胸を片腕で隠して一誠の顔を見下ろすと視界に一誠の唇が

入り込む。自分の唇を貪るように吸い付き、口膣の中を蹂躙し、舌を執拗に絡め、

唾液を送り込み飲ませた唇を。

 

「・・・・・」

 

舌を触れあい、唾液を呑んだことで女の部分が最高潮に達した時、思考が蕩け・・・自らの

意志でリースは全てを晒して一誠を縋り求めた。そんな考えと記憶を思い浮かべると

ゆっくりと顔を落とし、熱い眼差しを一誠の唇に向け、寝込みを襲う形で唇を重ねようと

する―――。

 

「ほう、朝這いとはやるじゃないか」

 

ビクンッ!とジーと意味深な視線を向けていた曹操に意表を突かれ全身を跳ね上がらす。

恐る恐ると曹操へ緑の瞳を向けた。一誠の腕を枕にしたままの状態で顔をこちらに

向けている曹操と目線が合った。

 

「とても昨日まで処女だった女とは思えない行動だ。感服するよリース?」

 

「・・・・・」

 

曹操のいやらしい笑みを見て―――リースは気にせず一誠の唇に自分の唇と重ねた。

軽いキスで直ぐに一誠から顔を離す。

 

「私をこんな風に変えたのはイッセーのせいよ。イッセーには責任を取って貰わないと困るもの」

 

「それは同感だな。いつか一誠と静かなところで暮らすのも悪くない」

 

「あなたは捕まってしまうんじゃない?その間、私がイッセーと一緒に暮らして上げるわ」

 

不愉快にピクリと柳眉で反応した曹操が上半身を起こして挑発染みた言葉を発した。

自身の抜群のプロポーションを恥も無く、隠しもしないでリースと向き合う。

 

「・・・・・ほう?随分と面白い事を言うな。処女だったが故に途中で誰よりも

早く失神してリタイアした女が一誠を満足させることができるのか?」

 

「そういうあなたも、彼に責められて随分と辛そうだったじゃない」

 

「一誠から伝わる愛に幸せすぎて、そう言う風に見えただけじゃないか?」

 

「「・・・・・」」

 

 

ジリリリリリリッ!

 

 

目覚まし時計が鳴りだした。けたたましくなる音に呼応して瞼を重たげにゆっくりと開ける一誠。

 

「あふぅ・・・・・」

 

大きく欠伸をして―――

 

「・・・・・ご飯、作らないと・・・・・皆、起きる」

 

一誠の背中から映えている翼からバチッ!と放電がした。

―――まさか、曹操とリースは嫌な予感をした瞬間。

既に起きていた二人諸共、夢の中にいる三人に対して電気ショックを与えた。

 

「ん・・・・・」

 

「うっ」

 

「・・・・・」

 

なんともまぁ荒技の起こし方に普通に起きる三人に対して、痺れてベッドにひれ伏す曹操とリース。

 

「あれ・・・・・二人とも起きてたんだ・・・・・?」

 

今更な反応に曹操とリースは始めて一誠に恨めしいと想いを抱いて答えるのだった。

 

「ああ、さっきな・・・・・っ」

 

「今度は、周りを見てから優しく起こして・・・・・っ。

ええ、今度は手で揺すって・・・・・」

 

「ん・・・・・わかった」

 

すると、身体を起こしてリース、曹操の順に唇を重ねた。

 

「「―――っ」」

 

「おはよう、二人とも・・・・・」

 

ふにゃり、と満面の笑みを浮かべる。朝からなんて可愛い笑みを浮かべて

挨拶をするのだろうか・・・・・。

もしも曹操は一人だったら一誠に身体を押し付けて濃厚なキスをし喜びを表現するだろう。

もしもリースは一人だったら一誠の胸の中に飛び込んで「おはようイッセー」と

気持ちの良い朝を迎えただろう。

起こし方はアレだが、一誠の笑顔を見ながらの起床は最高だった。

 

「くはっ・・・・・ああ、一誠・・・・・」

 

「おはよう、モルドレッド。朝食を作りに行くからどいてくれる・・・・・?」

 

「んっ・・・・・まだ元気のままだ。・・・・・時間もあるし・・・・・もう一回、

いいか・・・・・?」

 

「「―――ダメに決まってるっ!」」

 

―――○●○―――

 

アザゼルたちはルーマニアにいる吸血鬼たちの世界に赴く方針が定まり、その為の下準備やルーマニアへ行くメンバーを選抜など考慮する為の時間が費やしている間、誘拐された義経たちの復帰で川神学園側の生徒は励まして喜びの声で歓迎した。しかし、当の三人は暗い顔のまま学友たちに声を掛けられても気の無い返事をするばかりだった。那須与一は億劫そうに誰とも目を合わそうとせず、授業の殆どをボイコットする。

 

「義経たち、どうしたのかしら・・・・・?」

 

「捕まっている間に怖い思いをしたんじゃないのか?」

 

「そんな風には見えないんだけど」

 

「だな。なーんか思いつめた感じだぜ」

 

直江大和たちは義経たちの様子に不思議がり、心配な気持ちで話し合う。

 

「直接聞いてみるのはどうだろうか」

 

「聞けるような雰囲気じゃないよ」

 

「じゃあ、英雄くんに聞いたらどうかな?」

 

「うん、そっちの方が話しやすいし聞きやすいね」

 

義経たちの心情を知る為、大和たちは2-Sにいる九鬼英雄を尋ねに行った。

 

「よし、ワン子。英雄を連れ来い」

 

「ねー、いっつもアタシが英雄くんを呼ばされるんだけどたまには大和たちが行きなさいよ」

 

「いーや。こう言う時はお前の方が効果的なんだ。キャップの命令は絶対だ。連れてきたらケンタッキーを奢ってやる」

 

「もう、しょうがないわね」

 

エサに釣られた犬は大和たちを廊下に残してSクラスに入った。しばらくして犬は主人の言う通りに従い九鬼英雄を引っ張ってきた。

 

「一子殿が呼んでいると言うのだから来てやったぞ。で、話とはなんだ」

 

「義経たちの事だ。どうして何時まで立っても暗い顔をするんだ?それを知りたくてな」

 

「・・・・・」

 

用件を聞いた途端に苦い顔を浮かべる英雄は初めてだと思わずにはいられなかった大和は言い続ける。

何か知っているのだと察して―――。だがしかし、英雄が大和より早く言葉を発した。

 

「我にも分からん」

 

「分からない?」

 

「当然、我ら九鬼家も義経たちの気管には驚いたと同時に喜んだ。だが、今の義経たちは戻って来てからずっとあの調子なのだ。テロリストに捕まっている間。何をされていたのか、どこに幽閉されていたのか知っている限りの情報を知りたく三人に問うたのだが・・・・・返事はこうだった」

 

『義経たちは何の為に生まれた?』

 

「「「「「「・・・・・?」」」」」」」

 

何の為に生まれた。英雄から出た義経たちの質問に思わず首を傾げた。

 

「質問を質問で答えられたのだ。お前たちのその顔を我らもしたほどにな。義経たちの質問には疑念を抱いたがこう答えた。現在の人材不足に悩む九鬼家に対して起こした政策。過去の英雄を、偉人たちをクローンとして復活させて競い合わせ、現代の人材不足を解消させる事が計画の目的。さらに義経たちは英雄のクローンとして他の者たちに刺激を与え、競争相手として、学校生活を賑やかにさせる為に生まれたのだと」

 

「うん、そんな感じで学園に来たもんね。その時の義経たちの反応は?」

 

「我らの答えに何がいけなかったのか。与一は怒りを覚えた顔で我らを睨み、弁慶は嘆息、義経は無言であった」

 

「テロリストに何か囁かれたんじゃ・・・・・?」

 

「多分、そうだろうな。我もそう思っているのだがあの三人がそうさせる理由は今でも分からんのだ。

だが・・・・・姉上は何かを察したように申し訳なさそうな顔をしておった」

 

「揚羽さんが?」

 

九鬼揚羽、英雄の姉である女性が知っている?大和はそう言った時、視界の端で義経と弁慶が廊下に出てどこかへ行ってしまった。二人は向かった先に職員室、中に入りまっ直ぐ―――アザゼルの傍で佇んだ。

 

「ん?何だお前ら」

 

「アザゼル先生。義経は質問したい。義経たちは英雄派にとって英雄のコピー、偽物なのだろうか」

 

「・・・・・」

 

「義経たちは英雄のクローンとして生まれた人間なのは分かってる。だけど、義経たちのようなクローンじゃなく本物の過去の偉人達、英雄から受け継いでいる者たちがいる。義経たちはそんな人たちを目の当たりにして義経たちの存在意義は何だろうと悩んでいる」

 

義経の独白にアザゼルは神妙な顔つきで耳を傾ける。義経の質問に応えるならばYESだろう。英雄のDNEで復活したとはいえクローン。本物の本人ではないのだ。

 

「・・・・・お前たちの存在意義ねぇ・・・・・」

 

「「・・・・・」」

 

「この世界に存在する為の理由なんて必要か?」

 

「え・・・・・」

 

「人間は人間らしく自由に、好き勝手に生きていればそれでいいんじゃねーかって俺は思うぜ?お前たちを生んだ財閥に何かしらの思惑はあるだろうが何も人生まで縛っているわけじゃないだろう?」

 

アザゼルの指摘に「そうだね」と弁慶が相槌を打って応える。

 

「なら、お前たちの意志で生きてみろ。今いる家から飛び出して自由にしたいことをすればいい。お前らが英雄のクローンだから本物の英雄の子孫や末裔、魂を受け継いだ者たちからすれば偽物だーって言うだろうが、偽物は偽物らしく本物の英雄の奴らにギャフンと言わせてみやがれよ。悔しかったらな」

 

まっ、テロリストになってやがる兵藤一誠も似たようなことを言いそうだがなってアザゼルが付け加えた時だった。

 

「―――っ」

 

義経が目を丸くして、何かに耐えるように身体を震わす。

 

「・・・・・似ている」

 

「何がだ?」

 

「義経たちを逃がしてくれた彼、兵藤一誠くんが同じ質問をした答えと・・・・・」

 

アザゼルは怪訝な顔で「アイツがお前らを逃がした?」と聞くと弁慶が義経の代わりに答えた。

 

「なんか聖杯で私たちを実験して来てね。実験の代わりに私たちを逃がして欲しいと断われる前提で言ってみたらあっさり呑んでくれたんだ。一誠、本当にテロリスト?」

 

「・・・・・今のところ自分の意志でテロリストになっていると聞いているが・・・・・で、あいつはなんて答えた?」

 

―――お前たちはお前たちだ。悔しかったら俺たちを勝って傲慢に自分たちが英雄だと言い張ればいい。そうすればいつか認めてくれるよ。

 

弁慶は自分たちを解放する前に発した一誠の言葉をそのままアザゼルに教えた。聞いたアザゼルは愉快そうに笑みを浮かべ始める。

 

「ハハハ!」

 

そして盛大に笑った。義経と弁慶、他の職員たちがアザゼルに視線を浴びせるほどに。

 

「悪い悪い。あーそうか。一誠の奴、そんな事を言っていたのか」

 

「・・・・・先生?」

 

「良しお前ら。対テロ組織に参加する気は無いか?英雄のクローンとして英雄の真似事をして見ろよ。そうすれば英雄派の連中が面白くないと向こうからやってきそうだ」

 

「でも、義経たちは・・・・・」

 

「力が無いなら俺なりに力になって与えてやる。丁度人工の神器(セイクリッド・ギア)をいくつか作ってあるからよ。もしそれで良かったら一緒に戦ってくれる代わりに与えてやる」

 

アザゼルからの提案に義経は弁慶に振り返る。弁慶は笑みを零して義経の頭を撫で始める。

 

「私は義経の、主の意に従うまでだよ。勿論与一にも無理矢理従わせるけどね」

 

「そ、それはダメだぞ弁慶。与一には自分の意志で義経の言う事を聞いてもらいたいんだ」

 

「どちらにしろ。決めるのは義経だよ。どうする?平和にのんびりと暮したいなら今のままでいいよ?個人的にそれが良いんだけどねー」

 

弁慶の言葉に悩むものの、義経は答えた。

 

「アザゼル先生。義経たちも一緒に戦いたい」

 

「くくく。部下の意志を反しているぜ?」

 

「弁慶は優しいから義経の言う事を聞いてくれるんだ」

 

「おやおや・・・・・嬉しい事を言われちゃったね」

 

片腕で義経の頭を回して胸にポフッと寄せたまま、頭を撫でる。その時、義経は弁慶の胸は肉まんだと思ったのは別の話である。

 

「よし、ならお前らに合う力を用意しないとな。今持ってる武器じゃ話にならん」

 

「よろしく願う」

 

「さて、どこかでボイコットしてる与一を探してこの事を伝えないとね主?」

 

「うん!そうだな弁慶!」

 

最初に尋ねてきた二人の態度と雰囲気は一変して明るく元気になり職員室を後にした。

 

「―――意外でした。きちんと教師らしい事をして励ますとは」

 

「うるせっ。俺だってやるときはやるんだよ」

 

リーラからのからかいが含んだ言葉に言い返すアザゼルも言い返した。

 

「一誠の奴、敵となっても優しいまんまのようだぜ?」

 

「どうやらそのようで」

 

「なんだ、嬉しくないのか?」

 

「はい、一誠さまはお優しいお方なのはこのリーラが熟知しておりますので」

 

『このリーラが』という部分に強調されていたようにも聞こえたが、アザゼルは敢えて触れず、突っ込まず

「そうか」と話を一度打ち切った。

 

「それで、お決まりになりましたか?ルーマニアに行くメンバーを」

 

「全員は無理だから慎重に決めている。大体は決まっているが残りはどうしようかと悩んでいるな。クロウ・クルワッハとオーフィスも加わって欲しいところだが、この町に残って貰う予定だ。また襲撃されたら堪ったもんじゃない」

 

と、色々と考えてメンバーを決めるアザゼルがルーマニアへ行くのは誰にしようかそれは直ぐには決められそうになかった。

 

「ああ、そうだ。お前に言い忘れていたことがあった」

 

「忘れるほどのことですからそれほど重要でも無い話しなのでしょうね」

 

「いや、それなりに重要だ。フェニックス家の令嬢、レイヴェル・フェニックスがこの学校に編入してくる事になった」

 

「それをどうして忘れるのですかあなたは・・・・・」

 

呆れ、溜息を吐いたリーラは続きを目で催促する。その雰囲気を察して言い続ける。

 

「この話はリアスたちにも伝わっていてな。フェニックス家の御令嬢はお前らの家に住みたいと希望だそうだ」

 

「そうですか。彼女は何時この学園に?」

 

「ああ、今日だ(ガチャッ)―――待て、その同じ某天才盗人の銃を俺のこめかみに突き付けるな。銃刀法違反だ」

 

「国から許可を得ているので問題ございません」

 

そういう問題じゃねー!グリグリと押し付けられる硬く冷たい銃口に冷や汗を流すアザゼルだった。

 

「あなたにとって大して重要でも無い話しなのはよくお分かりになりました」

 

「いえ、本当にとても重要な事でした。マジで悪いと思っているからグリップに掛けている指を外してくれマジで」

 

「アザゼルさま。私は常日頃から気になることがあるのです」

 

リーラはどこまでも綺麗な笑みを浮かべた。

 

「悪魔と天使、堕天使の頭蓋骨に包まれている脳は人間と同じなのかを。骨は人間より頑丈なのかを。この銃の弾丸でどこまで神器(セイクリッド・ギア)に関する知識と女性しか考えていない脳に穴を開けるのかを」

 

「ちょっ!?さらっととんでもない事を言うな!ええい!同僚のお前らもこの危なっかしいメイドを窘めるとかしないのかよ!?」」

 

周囲にいる職員まで巻き込むアザゼルに対して―――。

 

 

『さーて、今日も頑張るかー』

 

『先生、帰りに一杯どうですか?』

 

『おーいいね。俺、いい店を知ってんだわ』

 

 

無情にも堕天使の勢力の頭に救いの手すら出さず、すたこらさっさと巻き込まれたく無い気持ちが態度で現し、殆どの職員たちは職員室からいなくなった。その行動をする職員たちに「ふっ」と含みのある笑みを零したリーラ。

 

「―――人望ないですねアザゼルさま。さぁ、実験に付き合って貰いますよ?」

 

「う、裏切り者共がぁああああああああああっ!?」

 

パンッ!

 

―――○●○―――

 

「・・・・・?」

 

「どうした?」

 

「・・・・・誰かが悲しい出来事を起こした」

 

『何を言っているんだ?』

 

意味不明な事を突然言う一誠を怪訝に発する曹操たち。食事中で明後日の方向に向かって言う一誠に疑問を抱いた。

一心不乱に美味しそうに食べる呂綺を見て和み、癒され、ついつい「あーん」と食べさせると

呂綺は応じてパクリと食べるその可愛さに―――。

 

「・・・・・呂綺、可愛い」

 

一誠が慈愛に満ちた瞳で呂綺を見詰め続けるのだった。それにはズッキューンッと曹操たちはハートを撃ち抜かれた。

 

「くっ・・・・・一誠が子供だったら威力は計りしれないぞ・・・・・」

 

「なんだ、この気持ちは・・・・・無性に可愛がりたくなったぞ」

 

「ああ、母性をくすぐられるっ」

 

曹操、モルドレッド、リース順に発する。そんな三人に対して首を傾げるセカンド・オーフィス。

 

ワイワイガヤガヤ・・・・・

 

食堂は賑やかに包まれ、テロリストたちは今日も一誠の手料理で活力を、英気を養う。

英雄派はしばらく動くつもりはないが吸血鬼と一戦交える方針でいる。

故に、それまでは一時の休息と言えよう。

 

「おい兵藤一誠。曹操にしてみせたアレ、俺にもできるのか?」

 

「できる。けど、禁手(バランス・ブレイカー)ができなくなる。するならした後の方がいい」

 

「へぇ、なるほど。そんなデメリットがあるのか。グラムを扱う僕とは相性が悪そうだ」

 

「逆に使わなければいいだろう?六刀流の他に魔力での攻撃ができるなら攻撃のバリエーションが増えるじゃないか。それに曹操がしてみせた魔と気の融合で飛躍的に身体能力が上昇するあの妙技。兵藤一誠の魔法で作る分身体でも可能であれば俺たちは更なる強さを得れるだろう」

 

「そいつは面白そうじゃねぇーか!食い終ったら早速そうしてみようぜ!」

 

「英雄がドラゴンの力を得る、か」

 

そんなこんなで自分たちの時間をどう過ごすか決めていく。

 

 

『そう言えば、はぐれ魔法使いたちがこっちの術者たちと何やら手を組んで企んでいるって聞いたぞ』

 

『教会を追放された術者たちが?』

 

『でも、私たちには関係ないじゃない?』

 

 

「ふむ・・・・・」

 

同じ術者として気になる話題だったゲオルクはその話を詳しく聞きたいと思い、数人の構成員の方へと足を運んだ。

 

「その話を詳しく教えてくれないか?」

 

「えっと、詳しくと言っても子耳を挟んだ程度ですよ。フェニックス家を~涙の~とか変な事を言ってたぐらいで」

 

「フェニックス家と涙?」

 

フェニックスの涙の事だろうと推測する。だが、術者同士がなぜフェニックスの涙に拘るようになったのか。

そして一誠には知らせていないが、リゼヴィムが率いる悪魔たちが姿を消している報告も既に届いている。

 

「少し・・・・・探ってみるか」

 

「なにを・・・・・?」

 

何時の間にか一誠がゲオルクの背後に立っていた。気になったのか気配を殺して近づいていたらしいようで、ゲオルクを含む数人の構成員たちも目を丸くしていた。ジーと無言で視線を送ってくる一誠に一人の構成員が事情を説明したら「ふーん」と興味なさげに相槌を打った。

 

「フェニックスの製造方法を知ろうとしてるんじゃない?」

 

って、あっさりとどうしてそんな事をする必要があると苦笑を浮かべた構成員たち。しかし、ゲオルクは

一誠の言葉に興味深く再度尋ねた。

 

「それはどうしてだと思う?」

 

「・・・・・」

 

わからないと無言で答えられてしまった。過去、一誠はライザー・フェニックスとその眷属たちと接触した機会があった。それは曹操たちも知っていて、大して気に留めるようなことでも無かった。しかし、テロリストの術者とはぐれ術者が手を汲んでフェニックス家の涙に関わる企みをしている。あまり無視できないものではない。

 

「・・・・・売る?」

 

「莫大な資金を集める為か。テロリストらしい考えだ」

 

―――いや、俺たちもテロリストなんですが?突っ込みたいが幹部クラスの相手にそんなこと言えるはずもなく心の中で想い止めた構成員。

 

「となると・・・・・」

 

フェニックス家を利用して涙の製造方法を知り、莫大な資金を得るという単純明快な企みを看破したゲオルク。

 

「しかし、よりにもよってフェニックス家を狙うとはな。それとも他に何か狙いがあるのか?」

 

「フェニックス家を見張る?」

 

「お前の分身でやってくれるか?」

 

「ん、わかった」

 

分身であれば問題が起きようが問題ない。そう―――問題は―――

 

 

 

 

 

「で」

 

「・・・・・?」

 

「よくとまぁ・・・・・堂々と、お前から現れたもんだなぁ一誠」

 

対テロ組織混成チームに囲まれた分身体の一誠がいたとさ。



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エピソード59

ユウキと恋姫のクラスにレイヴェル・フェニックスが編入してきた。

恋姫はハーフ悪魔としてレイヴェルの緊張を和らげ、初めての人間界の教室に馴染ませようと

臨んだ結果。教室には何人かの悪魔もいたこともあってか居心地悪くならず笑みを

浮かべたのはそう時間も掛からなかった。

 

「ありがとうございます恋姫さん。何かなら何までお世話になりましたわ」

 

「気にしないでください。私はちょっとお節介な方なんで」

 

「とてもお節介とは思えないのですが、とても感謝しているのは本当です」

 

「キミのお兄さんと先輩のゲーム以来だね。チラッと見た程度だけど」

 

「そうですわね。あの後、改めてゲームの映像を見て、皆さんの事を知りましたわ。今後ともよろしくお願い致します」

 

礼儀正しくお辞儀をし、二人と仲良くなりたいと思ったレイヴェル。

 

「ところで、あの方の教室はどこなのですか?」

 

「二階の一番端っこ・・・・・いや、ここは直接道案内した方がいいね」

 

「なら、私もご一緒に」

 

昼休みの時間。三人は一誠が通っていた教室に足を運ぼうとしたその時だった。ガラッと扉が開き、1-C組の教室に自然と入ってきた人物。―――誰もがその人物に息を呑んで、言葉を呑んで、目を丸くして絶句した。

 

「フェニックス、いた」

 

「「「―――っ!?」」」

 

真紅の髪を揺らしながら三人の前、正確にはレイヴェルの前に立ちはだかってジーと見詰める一誠が堂々と駒王学園に侵入をしていた。

 

「「せ、先輩っ!?」」

 

「・・・・・誰?」

 

自分の事を言ったのだろうと反応した一誠は知らない少女に首を捻った。

だが、直ぐにレイヴェルに視線を戻して凝視。

 

「・・・・・私に何か用ですの」

 

「お前を見張る」

 

「私を見張るですって・・・・・?」

 

コクリと首を縦に振って応じる一誠。すると、轟くほどの地響きが。それは徐々にここまで近づいてくるのがハッキリと分かり、ついには―――。

 

「いっせぇええええええええええっ!」

 

百代を始め、シオリ、エスデスが教室になだれ込んで百代が率先して一誠に拳を突き出した。

拳は見事に巨を突かれた一誠にHIT、窓ガラスを割って外にまで吹っ飛ばされた。

しかし、体勢を立て直した矢先に一誠が氷に、同時に氷の表面に魔方陣が展開してそのまま閉じ込められてしまった。

 

「・・・・・修業の成果がここまで発揮したなんて自分でも驚きだわ。あの修行のおかげ・・・・・」

 

「あの地獄の修行は私でも本当に堪えたぞ。川神院の鍛練や修行の方が可愛過ぎる・・・・・っ!」

 

「もう二度としたくない。なんであのドラゴンは嬉々として・・・・・」

 

ぶつぶつと呟きだす三人。騒ぎを駆けつけた大勢の者たちが顔を出して様子を見守っていればアザゼルたちが現れた。

 

「お前ら、これは一体・・・・・」

 

「一誠が現れたんだ。問答無用に封じ込めて今に至る」

 

「あの一誠が・・・・・?」

 

氷の中にいる一誠を見た。時間が停止したように微動だにせず、完全に氷の中にいる一誠の姿をアザゼルたちは捉えた。その中でトコトコとオーフィスが近づき、氷をペチペチト叩く。

 

「この者、イッセーじゃない」

 

「なんだと?」

 

「イッセーの中にいるアジ・ダハーカたちを感じない。これ偽物」

 

「ああ、確かにあいつらの波動を感じない。魔法で作った分身体の類だろう。じゃなきゃ、あの男がこんなあっさりと―――」

 

オーフィスに続き、クロウ・クルワッハも同意と言葉を繋げた。

 

ピシッ!

 

氷の表面に罅が生じ、一気に魔方陣ごと氷が崩壊して一誠が封印から脱したのだった。

 

「分身体でも強さは変わらないようだな」

 

「このチートめっ!」

 

悪態をつくアザゼル。エスデスとシオリの封印コンボを難なく突破したのが魔法による分身体なのだから

まだまだ本物の一誠には足元にも及ばないということだろう。

 

「・・・・・」

 

一誠は自分を囲む面々を見渡す。そしてポツリと零した。

 

「不思議だ。どうして皆強くなってる?」

 

「ほう、流石に分かるか」

 

「ハッキリ言って。曹操たちより強い。今度会ったらこっちが負けるだろうな。俺は負ける気ないけど」

 

「・・・・・それで、お前は何をしにここにやってきた。久々に通学でもしに来たのか?」

 

話を変えて本題に入る。アザゼルの話に怪訝そうな面持ちで首を傾げるが、違うと暗に発した。

 

「フェニックスに用がある」

 

「―――こいつも攫おうとするのか」

 

レイヴェルを庇うように動き、警戒する面々に対して首を横に振った一誠。

 

「見張るだけ」

 

「・・・・・見張るだと?」

 

「見張っていれば分かるかもしれない。そう思ってフェニックスの近くにいて見張ることにした」

 

ただそれだけだと述べ、戦意すら窺わせない一誠に誰もが拍子抜け、なんだそれはと心底呆れた。

 

「お前、俺たちの事覚えてないんだな?」

 

「なんのことだ?でも・・・・・何故かこの言葉だけが心に残ってる」

 

堕天使のブレイザー・シャイニング・オア・ダークネス・ブレード総督―――と言った瞬間。

 

「なんじゃそりゃああああああああああああああっ!」

 

アザゼルが吠えた。自分たちの事を忘れているのにアザゼルにとって黒歴史な渾名だけ覚えているなんて

どうなってるんだと羞恥で耳まで真っ赤に染まった顔で叫んだのであった。知る者と知らない者の反応は二手に分かれている余所にリアスが尋ねた。

 

「イッセー、彼女を見張って何が分かると言うの」

 

「ん、それは言えない」

 

「・・・・・危害を加えようってわけじゃないのよね?」

 

「うん」

 

純粋に頷く。傍にいてその時まで待っていれば何か分かるかもしれない、そう一誠は考えついてレイヴェルの傍で待つことにした。

 

「だから、邪魔しないでね」

 

『・・・・・』

 

これは・・・・・どうするべきだろうか。アザゼルたちは一誠の扱いに悩みだす。分身体の一誠なので神器(セイクリッド・ギア)を振るえることはできないだろう。だが、それでも最大に警戒する相手。

 

「それって・・・・・ずっと彼女の傍にいると言うことなのね?」

 

「ん、そう」

 

「授業中も?」

 

「ん(コクリ)」

 

影のように付きまとう。授業中でも後ろに立って視線を送ってくる現実味をレイヴェルは容易く思い浮かべることができた。

 

「迷惑です。あなたはテロリストなのですからテロリストらしく気配を殺しているか、姿を隠す、もしくは姿を変えて私を見張っているべきですわ」

 

傍迷惑だとハッキリ述べるレイヴェル。ある意味ストーカーの如くする一誠に眉根を寄せる程、嫌悪感を覚えた。

レイヴェルが言った言葉を聞き、最初はキョトンとした顔で―――次にポンとその手があったかと納得したのだった。

 

「わかった。そうする」

 

「え?」

 

何を理解したのか、間抜けな声を発した誰かを特定する前に一誠は光に包まれた。段々と光は小さくなり、姿も変え、光が消失した時には一誠が九つの尾を生やす小さな狐となった。

 

「これで気にしない」

 

そうでしょう?と言わんばかり期待に満ちたキラキラと輝かす金色の双眸、フリフリと動かす九本の尾にレイヴェルを「か、可愛い」と漏らせるのには十分だった。

 

「・・・・・で、結局これからどうするんだ?」

 

「様子を見守るしかないでしょう。危害を加えないのであればその間、彼から少しでも情報を吐いてもらうしか」

 

「だよなー・・・・・」

 

本当に扱いに困らせてくれる―――アザゼルは溜息と共にそう零した。

 

―――○●○―――

 

新たな高みへと目指す一行は新たな力の調整を没頭していた。一誠と分身体が曹操たちの鎧と化となっていて、

曹操たちは一誠の力を自分の力としてマスターしようと試む。それぞれの特性と戦闘スタイルが違う為、

特訓方法は異なるのは必然的だった。それでも曹操たちは自分なりに力を高め、次の戦いに備えるある日―――。

 

駒王学園が魔法使いの襲撃に遭った―――。

 

一誠のその報せが曹操たちの耳に入り、レイヴェルも攫われたことも把握した。

 

「ゲオルク、同じ魔法使いとしてはぐれ魔法使いたちの行動はどう思う?」

 

「分からないな。ただ、自分の力を試したい術者は当然のようにいて度が過ぎた行動をした者は教会を追放される。対テロ組織混成チームが勢揃いしているあの学園に襲撃すればただじゃ済まないだろうに」

 

肩を竦めはぐれ魔法使いたちの行動を呆れの含みがある言葉を発する。

 

「攫われたフェニックスを救出するだろうね。私たちには関係ないが」

 

「放っておこう。僕たちはこれから忙しくなるんだからさ」

 

「ああ、吸血鬼と一戦―――そろそろおっぱじめよう。調整が完了次第にね」

 

目の前の目的に集中する曹操たちに一誠とリースがどこかへ行こうとする。

それを察知してジークフリートが尋ねた。

 

「どこに行くの?」

 

「フェニックスのところ」

 

「フェニックス?助けに行こうとするのか?」

 

疑問をぶつければ首を横に振った。

 

「黒幕が誘ってきたから」

 

「黒幕?はぐれ魔法使いたちを動かしている者のことか」

 

そいつは誰なんだ?と問いだたしたら一誠の口から出た言葉はこれだ。

 

「リゼヴィムと関わりある今回の黒幕の悪魔が分身体を介して来てくれと言われた」

 

足元に魔方陣を展開して、そう言い残して誰も制止の呼びかけをする暇も無く―――滑りこんだセカンド・オーフィスと共にどこかへ転移した。

 

「曹操・・・・・どうする?」

 

「黒幕の悪魔か。リアス・グレモリーたちに何をするのか興味がある。少しの間だけ遊ばせておこう」

 

「このまま帰ってこないというケースもあるが?」

 

「セカンド・オーフィスが一緒だ。帰ってくるさ」

 

口の端を吊り上げ、自信満々に発する曹操。ここで終われば済んだ話なのだが、

 

「そのまま外であの二人だけで兵藤一誠を襲ったりしてもか?」

 

ゲオルクの余計な一言で曹操をさっきの言葉とは真逆の行動をするのは知る由も無かった。

 

 

―――深夜。グレモリー眷属とシトリー眷属は最寄り駅に来ていた。レイヴェルを攫った魔法使いたちからの指示で、

 

『レイヴェル・フェニックスを返して欲しければ、グレモリー眷属、シトリー眷属のみで地下のホームに来い』

 

 

地下のホーム。それはこの駅の地下にある冥界行きの列車がある悪魔専用の空間。この光陽町にはその空間がいくつもあり人間界を行き来する悪魔たちにとっては欠かせない移動手段であった。夏期休暇時にリアスたちが利用した場所でもある。この場所に来いと指名され、指名されたメンバーは意外そうな顔を浮かべる。

その最中でソーナが駅のエレベーター前で呟く。

 

「ここを指定されるとは思いもしませんでしたね。他の悪魔専用の地下空間は既にスタッフの方が調査していますが・・・・・いくつかの魔法の痕跡はあったようです。一時的な潜伏先として利用されていた気配があります」

 

「地面を潜って来て地下から侵入したってことですか?それとも冥界側―――列車のルートから侵入した?次元の狭間を通って・・・・・」

 

一成がそう訊くがソーナは首を横に振る。

 

「いえ、どちらも違うでしょう。やはり、誰かが知らない間に利用された・・・・・?」

 

裏切りによって侵入を許したとは思えませんが・・・・・。とソーナは難しい顔で深く思慮している様子で呟く。

それを聞いて一成は尋ねた。

 

「あいつ、兵藤一誠の場合は?普通に学校に現れましたよね」

 

光陽町は三大勢力の数多くのスタッフが存在しており、学園を中心に町全体に強力な結界が張られ、怪しい者が足を踏み入れると直ぐに誰かが察知できるようになっている。一誠が単独で分身体でも楽に侵入できるのは?とソーナに尋ねたところ。

 

「彼は兵藤誠さんと兵藤一香さんの息子です。彼らがこの町に出入りすることもあるので、同質の力を持つイッセーくんは結界に引っ掛からず容易くこの町に侵入できるのです」

 

「神隠しのように姿をくらませたと思えば、神出鬼没に現れるのだからこれ以上に無い厄介なドラゴンね」

 

ソーナに続きリアスも一誠という存在に改めて噛みしめるように言う。

 

「でも、今の私たちで彼に届くかどうかは分からないのだけれど、これだけは言えるわ。―――皆で掛かれば彼を止められる可能性は格段に上がった。この場にいる全員が異世界のイッセーたちに鍛えられ自分でも驚くほどの強さを得たのだから一矢報いることは不可能じゃないはずよ」

 

リアスの言葉に―――殆どのメンバーがブルリと身体を震わせた。それから座り込んだり、頭を抱えたりして壊れたオルゴールのようにブツブツと独白し出す者も出る。

 

「じゃ、邪龍たちに追いかけ回されるっ・・・・・」

 

「聖なる光に身を焦がされながらの修行はもう嫌ぁっ・・・・・」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・・」

 

リアスたちは凄まじいパワーアップを果たしたと同時に一生消えない、拭い払えないトラウマを植え付けられ、抱き、抱えた。

 

「・・・・・恨んでしまいそうです。彼らには」

 

「精神力を鍛える為に―――と全裸で修行をさせられた時には死にたい思いだったわっ」

 

一成と匙は全裸だらけの主や眷属悪魔の美女、美少女たちの身体を見ては鼻血をアーチ状に噴き、海まで吹っ飛んだほどだった。

 

「・・・・・絶対に責任を取って貰うわよ私は」

 

「・・・・・彼ではないのに?」

 

「彼だからこそよ!こんなことになったのはイッセーの所為なんだから!」

 

自分たちの裸を見ているのに普通の態度で接してくるどころか笑いながら魔力弾を放ってくる精神と性格がおかしい異世界の兵藤一誠を脳裏に思い浮かべた。

 

「ところでソーナ。話は変わるけれど新しい眷属の方はどうなの?」

 

「ええ、まだ見つからない段階です。彼の言う通りの眷属にしようかと思うのですが」

 

「強制じゃないから無理せず成ってくれる者を見つけなさいよ?」

 

親友に応援するリアス。リアス自身もまだ騎士(ナイト)僧侶(ビショップ)の駒を持っている。

自分の回りには素晴らしい人材がゴロゴロいるのだが、眷属にしないのは遠慮しているからである。

明らかに悪魔に転生しようとは思わない者もいれば、事情によって転生して貰えない者もいるわけで

リアスはただただ、目の前に置かれている御馳走に物欲しそうに眺めることしかできない状況下にいる。

それはソーナも同じことなのだが、異世界の兵藤一誠に言われた新たな眷属にしようかどうか悩んでいる最中。

 

「話はここまでにしてそろそろ行きましょう」

 

「そうですね。では―――」

 

地下に降りるエレベーター。シトリー、グレモリーと分かれて乗る事を決め合った二人に―――第三者の集団が待ったを掛けた。

 

「待ちやがれ」

 

「え?―――っ」

 

「てめぇら、ここで何をしてる?」

 

第三者の集団。リアスが顔を強張らせ、ソーナは厳しい目つきで尋ねてくる少年に向ける。

 

「赤龍帝。それと兵藤家・・・・・」

 

「答えろ。ここで何をしようとしていた?」

 

再度問う赤龍帝兵藤誠輝。その応対にリアスが応じた。

 

「質問を質問で答えるのは悪いけれど、この時間帯で外に出歩いているあなたたちも何をしているのかしら」

 

「えっと、当主から直々に申されまして。私たち兵藤家は夜間の間、警備をすることになったんです」

 

少女の話に神妙な顔つきとなるリアス。

 

「警備?今まで兵藤家はそんなことしていなかったわよね」

 

「ええ、そうなんですがここのところ立て続けに起きた襲撃、全て許し逃してしまいました。その事実に当主は大変遺憾に思い、式森と共に町を徘徊して警備をする事となったのです。・・・・・まだ若い世代で力のある私たちまで」

 

眠たそうな顔で溜息を吐きだした少女に視線で労うリアス。少女は言い続ける。

 

「で、町中歩き回ってそろそろ帰ろうとしていたら彼がいきなりここまで寄ったんですよ」

 

自分たちの気配を感じて来た・・・・・?リアスとソーナは顔を見合わせ誠輝に視線を送れば今度は自分の質問人答えろと凄みのある睨みで訴えられた。説明をしない限り、納得もこの場から離れてはくれないだろうとソーナは告白した。

 

「私たちは今朝、襲撃してきた魔法使いたちから私たちだけでこの駅の地下のホームに来いと指示されています」

 

「んだと?」

 

「攫われたフェニックス家の後輩を救出するべくこの場にいるのです」

 

御理解いただけましたか。と言いたげな視線を送るソーナに兵藤家の一人が口を開いた。

 

「どうして兵藤家と式森家に報告しないんだ?」

 

「それも指示に含まれていたからです。それに私たちだけでも大勢だと言うのにこれ以上の戦力で赴けば相手は何を仕出かすのか分かりません」

 

「ふーん、じゃあ、俺たちの力はいらないってことでOK?」

 

軽い調子で言う兵藤の少年に無言で頷いた。早く帰って寝たい思いから出た言葉かもしれない。

現に町を徘徊して何一つ起きず平和に終わった。なら、早く帰ろうという思いを抱いていたはずだ。

 

「んじゃ、俺たちは帰ろうぜ」

 

と一人の兵藤が我先にとばかり踵返して帰ろうと足を前に動かそうとした時に―――目を疑うような者がいた。

 

「お、お前ッ!?」

 

『っ!?』

 

焦りと悲鳴が混じった声がリアスたちを敏感に反応させる。そして―――。

 

「ここで何をしてる?」

 

誠輝と似たような尋ねをする英雄派の兵藤一誠と傍にリースとセカンド・オーフィスが佇んでいた。

 

「イッセー!?」

 

「てめぇっ!」

 

驚愕と敵意。兵藤家は警戒して一誠たちを取り囲む。

 

「犯罪者に成り下がった化け物が。よくとまぁ、俺たちの前に現れたもんだな。舐めているのか」

 

「悪いけどさー大人しく俺らに倒されてくれない?」

 

「こいつを捕まえたら俺たち有名になるよな」

 

「まぁ、今までの汚名と功績は返上されるのは間違いないな」

 

「悠璃さまと楼羅さまのために」

 

「あなたを捕縛します。例え、身体の一部が失わせてしまっても」

 

そう言う者たちに一誠はぐるりと見渡して一言。

 

「邪魔」

 

一誠の足元の影が誠輝たちの影に伸び、繋がった瞬間。底なし沼のようにズブズブと誠輝たちが影の中へ沈んでいくのだった。誠輝は赤い魔力弾を放つものの、セカンド・オーフィスによって弾き返されて自分の攻撃に直撃した。そして、誠輝たち兵藤家は影の中に消えてしまった。

 

「・・・・・アレを見たらさっきの言葉を取り消したくなっちゃうわ」

 

「―――お前たちも」

 

『えっ?』

 

一誠の影はリアスたちにまで伸びては繋がり、誠輝のように影の中へ沈まれていく―――。

 

そして、仕事が終わったとばかり一誠はリースとセカンド・オーフィスを引き連れて地下に続くエレベーターに近づき乗り込んだのだった。

 

―――○●○―――

 

地下に降りた三人は、冥界行きの列車用に建設されたホームを進んでいく。広い空間を抜けて、右に左に進んでいくと―――途端に不穏な気配を察知する。三人がいま歩いている通路を抜けた先に敵が待ち構えているのだろう。

リースは警戒し、一誠とセカンド・オーフィスは自然体のまま通路を抜けていく―――。そこは一誠でも始めて足を踏み入れる地下の開けた空間だった。その空間に入った三人の前方には魔法使いの集団が出迎えてくれた。とローブの種類は様々だが、

魔術師用のローブを一人残らず着込んでいた。一人の魔法使いが怪訝に

「あれ、グレモリーとシトリー眷属は?」首を捻りだす。その疑問を一誠がサラッと答えた。

 

「邪魔だからどこかに転送した」

 

『空気を読めよ!このKYがっ!』

 

いきなり怒られた。

 

「おいおい、どーすんの?あいつ、英雄派に所属しているイレギュラーなドラゴン、

兵藤一誠だぞ」

 

「うーん、相手にとっては不足ないんだがなぁ・・・・・」

 

「盛り上がんねぇー!」

 

「決まった結果を察しながらも戦うのはねぇ。

いっそのこと、リーダーのところまで素通りさせる?」

 

しかも何か話が段々と進められて結果―――。人の道ができてその奥には転移用らしき

魔方陣が出現した。

 

「お前らはいいや。さっさとリーダーのところに行けよ」

 

一誠に尋ねた魔法使いが顎で催促した。それには不愉快と綺麗な顔を顰めたリース。

 

「随分と生意気に、それでいてあっさりと通してくれるのね」

 

「俺たちはグレモリー眷属とシトリー眷属の悪魔と戦いたいんだよ。俺たちにとってお前らはお呼びじゃないんだ。分かる?」

 

「・・・・・行きましょう」

 

話すのも無駄だと悟り、一誠を促す。足を動かし、転移型の魔方陣に進む一誠が徐に指を弾いた時だった。

通路に繋がっている入り口前の空間に穴が開き、どこかに転送されてしまった面々が続々と落ちてきた。

 

「そいつらの相手、よろしく」

 

それだけ言い残して一誠はリースとセカンド・オーフィスと共に転移用の魔方陣の光に

包まれどこかに転移した。三人は『リーダー』と呼ばれる者のもとに行く。

そして、一誠たちが術者たちの用意した魔方陣で、転移した先に広がっていたのは―――。

何もない、だだっ広い白い空間だった。ただ白いだけの空間。上下左右も白い四角い場所だ。天井はかなり高い方で、そこそこ無茶ができそうなぐらいには広大だった。

 

「ようこそ、誘いに応じてくれてありがとうございました」

 

突然の第三者の声。そちらに視線を送れば・・・・・。先ほど、空間を見渡した時には

見当たらなかった人影がそこにあった。一誠たちと距離を置いたところに装飾残った

銀色のローブに身を包む銀髪の青年がいた。

 

「私はルキフグス。ユーグリット・ルキフグスでございます」

 

「リゼヴィムはどこにいる?ここにくれば会えると聞いたぞ」

 

お前の事はどうでもいいと雰囲気で醸し出し、探し求める人物の名を出すとユーグリットは淡々と述べた。

 

「そうですね。そのはずでしたがあの方は『ごめんねー坊ちゃん!僕ちゃんって今絶賛忙しいからまた今度会おうぜぃ☆』と私に伝言を―――」

 

言い掛けた言葉は、一誠の魔力弾で掻き消された。ユーグリットの背後に着弾し、爆発する。

 

「ここにいないならお前を捕まえて居場所を吐かせる。それだけだ」

 

「その通りね」

 

ブリューナクを構えるリース。一誠と同じリゼヴィムに復讐を誓う者。そのリゼヴィムと関わりのある悪魔が目の前にいるのだから居場所も知っているはずだ。ユーグリットは態度を変えず表情も動揺や恐怖の色を浮かべずにただ朗らかに口を開いた。

 

「では、少しの間だけ協力してもらえればあの方の事を話してあげましょう」

 

「協力・・・・・?」

 

「―――ええ、あなたをここに誘ったのはあなたのような強者と戦いたいと願う者がいるので、

お相手をしてもらえませんか?実はそれが目的でした」

 

そう言うユーグリットが一誠たちとの間に巨大な陣形を作り出していく。光が床を走り、

円を描いて、輝きだした。一誠はそれを見て漏らす。

 

「―――龍門?」

 

龍門。とある魔方陣の一種、龍門は力のあるドラゴンを招く門。

龍門の輝きは呼ぶ側のドラゴンのカラーを発しながらそのドラゴンを招く。

ユーグリットが展開しただろう龍門の輝きは―――深い緑、深緑だ。

 

 

―――そして、深緑の龍門の魔方陣が輝きを一層に深くしてついに弾ける!

 

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!

 

白い空間全てを震わせるほどの声量―――鳴き声とも言える咆哮が、そのものの大きな口から

発せられた。三人の眼前に出現したのは、浅黒い鱗をした二本足で立つ巨大なドラゴン。

太い手足、鋭い爪と牙と角、スケールが違い過ぎる両翼を広げ、長く大きい尾をしている―――巨人型のドラゴン。

 

「―――伝説のドラゴン、『大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』グレンデル」

 

巨大なドラゴンは牙の並ぶ口を開く。その銀色に輝く双眸と眼光は鋭く、

ギラギラと戦意と殺気に満ちていた。

 

『グハハハハハ。久方ぶりに龍門なんてものを潜ったぞ!

さーて、俺の相手はどいつだ?いるんだろう?俺好みのクソ強ぇ野郎がよぉっ!』

 

大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』グレンデルの登場に一誠ろリースは目を丸くして驚きつつ神経を集中する。何時でも戦闘に入れるようにする為だ。身に纏うオーラは禍々しい相手に警戒しないでいられない。見ているだけで邪悪さがうかがえるほどにドス黒いオーラをしていた。

一誠の身体中に宝玉が浮かび発光しながら声が発生する。

 

『なんだ、お前か。何時振りだ?久し振りだな』

 

『よう暴れん坊。人間に完膚なきまで滅ぼされたと聞いたんだがな』

 

邪龍のアジ・ダハーカとネメシスが久し振りに再会した旧友のように話しかけた。

 

『グレンデル・・・・・久しくまた邪龍と出会ったな。これも主の特有の力か』

 

一誠とセカンド・オーフィスに視線を配らせるグレンデル。

 

『縛り野郎に・・・・・アジ・ダハーカの旦那かっ!ゾラードまでいやがる!しかもなんだ?変なドラゴンどもがいるな?』

 

興味深そうに目を細めるグレンデル。過去に出会ったことがあるドラゴンと再び相対した喜びと同時に見覚えのない、感じた事のないドラゴンの波動を発する一誠とセカンド・オーフィスにユーグリットが説明した。

 

「グレンデル。真紅の髪のドラゴン、兵藤一誠はオーフィスとグレートレッドの力によって復活した真龍と龍神の肉体と力を有するとても希少で極めてイレギュラーなドラゴンなのです。そしてその隣にいる者もまたイレギュラーで、兵藤一誠から抽出した力によって再構築、具現化したことで誕生した第二のオーフィス、もしくは兵藤一誠の分身と言えます。なので、グレートレッドの力も有しておりますよ」

 

ユーグリットの話を聞いて哄笑を上げたグレンデル。

 

『グハハハハッ!こいつはいいっ!目覚めの運動には良い相手じゃねぇかっ!』

 

グレンデルはひとしきり笑ったあとに両翼を大きく広げて、体勢を低くする。

 

『兵藤一誠とだったか?アジ・ダハーカの旦那をそんな風にさせたその強さを今度は俺にもぶつけてくれやぁっ!』

 

「・・・・・オーフィス、リースを守って」

 

一誠が急に全身を真紅に光輝かせる。一誠の使用としていることを察知し、リースを引き連れて離れだした直後、

膨れ上がり、人の形を崩して変貌するドラゴンと化した一誠がグレンデルと対峙する。

 

『こいつは・・・・・俺がやる』

 

本来ならばグレンデルより全長が大きいはずだが、この空間の高さが一誠の大きさを制限した。グレンデルと同じぐらいの大きさになってグレートレッドと酷似した姿となった。

 

『うほっ!テンションが上がるじゃねぇかよ!そうそう、ドラゴンとドラゴンの殺し合いはそうじゃなくちゃなぁっ!』

 

狂気の笑みを浮かべ、嬉々として一誠に飛び掛かった。巨大な拳を突き出したが一誠に手の平で防がれ、逆に掴まれると今度は仕返しとばかり一誠が拳を突き出せばグレンデルが同じように一誠の拳を掴んで防げば

力の根競べが行われる。

 

『グハハハハハッ!こんな風にヤリ合うのは久し振りだぁっ!』

 

その状態で腹部を何度も膨らませた。

 

「イッセー、火炎球がくる」

 

セカンド・オーフィスが背後からグレンデルの攻撃の動作に気付いて説明した。一誠も口の端から真紅の光を迸らせ至近距離でのグレンデルと一誠の攻撃が炸裂して大爆破と凄まじい衝撃が起こったのだった。

 

『おもしれぇ、おもしれよぉっ!』

 

衝撃で一誠から吹っ飛んだグレンデルに大きなダメージを受けた様子は無かった。一誠も同様だった。

態勢を整えだせば直ぐにどちらからでもなく引き連れられるように接近した。

 

『今度は殴り合いといこうじゃねぇかっ!ええおい、兵藤一誠ぇっ!』

 

『―――来い。全力でお前を潰すっ!』

 

『上等だァっ!』

 

―――○●○―――

 

「これが兵藤家の力だ、思い知ったか魔法使い共が!」

 

「・・・・作戦も何もない戦いでしたね」

 

一誠の影によって呑みこまれていたはずだったのだが、何時の間にかはぐれ魔法使いの集団の前に落とされ、分からないまま戦いを始めた。戦後、兵藤家とソーナたちの態度が明らかに違っていた。

 

「会長。二度と兵藤家の連中と組みたくないっす。あそこまで傍若無人な動きをされてはやり辛いっすよ」

 

「俺たちも戦ったってのになんか自分たちだけ戦った言い方だな」

 

匙と一成が誠輝たちに対して良い感情的ではなかった。しかし、しょうがないと仕方がないと半ば諦めて片付けてはぐれ魔法使いたちに尋ねた。

 

「攫ったフェニックスはどこですか?」

 

「ああ・・・・・『工場』にいるぜ」

 

「工場・・・・・?」

 

「この場所とは別んとこにある。上級悪魔のフェニックスのクローンを大量に作り出して、カプセルの中で『フェニックスの涙』を産み出しているんだ』

 

―――っ。

 

何ともおぞましい話だとソーナは眉間に皺を寄せた。

 

「俺たちだけでやっていたんだが、本場の『フェニックスの涙』の効果はほど遠くてよ。限界を感じて本物に近い涙の精度を向上する為に最後の手段としてフェニックス家の悪魔を攫い、直接情報を聞きだすことにしたんだ」

 

「・・・・・その工場はどこにありますか」

 

怒りを押し殺し、冷淡に場所を追求した。ソーナの言葉に嫌みたっぷりな笑みを浮かべ出すはぐれ魔法使いの一人、

 

「いま行くの止めた方が良いぜ。リーダーがイレギュラーなドラゴンにドラゴンをぶつけたがっていたからよ」

 

「イレギュラーなドラゴンにドラゴンを・・・・・?」

 

「それでも行きたいなら勝手にしろ」

 

離れた場所に魔方陣が出現した。あの魔方陣で行けば一誠がいる工場に行ける。ソーナはリアスに顔を向ける。

 

「私とリアス、それ以外に五名ほどの眷属だけを行かせて上にいるスタッフたちを呼んでここにいる魔法使いたちを全員捕えます」

 

「そうね・・・・・って」

 

リアスが何かを見て丸くした。ソーナはリアスの視線を追えば―――誠輝たちが工場に繋がる魔方陣の光に包まれ先に行ってしまった光景を目の当たりにした。

 

「ああもう、どうして兵藤家は自分勝手で身勝手な人たちばかりなのですか!?嫌になるわまったく!」

 

ソーナがキレた。シトリー眷属やグレモリー眷属はそんなソーナを見たことが無いと驚愕して、自分の親友に恐る恐るとリアスは訊いた。

 

「・・・・・そこにイッセーも含まれている?」

 

「あなたの判断に任せます」

 

ふぅ・・・と息を整えるように自分を落ち着かせ、いつもの冷静沈着な自分を取り戻す。

 

「私の方から匙、椿姫、リアスから成神くん、朱乃さん、白音さんの五人でよろしいですか?」

 

「ええ、構わないわ。三人とも、いい?」

 

「二人もいいですか?」

 

二人の主から尋ねられ、当然のように返事をする眷属悪魔たち。先に行ってしまった兵藤家を追いかけるように

魔方陣で工場に移動した―――。

 

 

先に向かった誠輝たちが目の当たりにした光景。真紅のドラゴンと浅黒いドラゴンの死闘。

壮大で凄まじい戦いぶりに人間の誠輝たちは唖然と見守ることしかできないでいる。

 

「なんだよ、これ・・・・・」

 

「俺たちが割り込む隙なんてないじゃないか・・・・・?」

 

「てか、乱入した瞬間・・・・・攻撃の矛先がこっちに向きそうだよね」

 

『あ―――?誰だテメェら』

 

グレンデルが誠輝たちに気付いた途端、口角を吊り上げた。

 

『グハハハッ!天龍、赤いのか!なんだその姿は?』

 

「っ!?」

 

自分の事だと分かり、誠輝は驚くと左の手甲に緑の宝玉が浮かんだ。

 

『―――グレンデルだと・・・・・?どうなっている。こいつは俺よりも大分前に滅ぼされたはずだ』

 

「なんだと?」

 

誠輝が反応する。ドライグの話が本当だとすれば目の前のドラゴンは死んでいた。しかし、何らかの理由で復活を遂げた。

 

「グレンデル、二天龍は既に滅ぼされていますよ」

 

ユーグリットの言葉を聞いてグレンデルは哄笑を上げた。

 

『グハハハハハッ!んだよ、おめぇらもやられたのか!ざまぁねぇな!ざまぁねぇよ!

なーにが、天龍だ!滅びやがってよっ!それによ、んな細けぇことどーでもいいじゃねーか。ようは強ぇ俺がいて強ぇお前がいる。おいイレギュラー』

 

『なんだ』

 

一誠に話しかけたグレンデルは笑みを浮かべ、誠輝たちに指した。

 

『てめーとの殺し合いも楽しいが、ドライグとも殺し合いてぇんだがよ。あいつらも交ぜて良いよな?』

 

グレンデルの話を聞いて誠輝以外の兵藤家たちは顔を青ざめた。二匹のドラゴンに絡まれるなんてこっちから勘弁してほしいと思うほどに。

 

『・・・・・邪魔する奴は薙ぎ払うだけだ』

 

『んじゃ、決まりだな』

 

二匹のドラゴンは誠輝たちに向け、攻撃態勢になった。

 

「お、おい誠輝っ。お前、天龍なんだからあいつらを倒せるだろうっ」

 

「アホ言え!あんな化け物二体も同時に相手にできるか!」

 

「何時も自分が最強だって言ってたでしょうが!」

 

「アレは人間限定的な意味だ!」

 

 

ギャーギャー!

 

 

『んだ?仲間割れか?まっどうでもいいがな!』

 

口を開けてグレンデルが巨大な火炎球を誠輝たちに向けて放った。言い合いをしている誠輝たちは自分に迫る太陽を彷彿させる火炎球に気付いて散らばって逃げようとした次の瞬間。巨大な鏡が虚空から出現して火炎球を受け止めた後に砕け散ると、真っ直ぐグレンデルと一誠に跳ね返って直撃した。

 

「戦う意思がなければここから退いてください」

 

黒い長髪を靡かせ、真剣な表情で腕を突き出した状態で言う真羅椿姫。続いて匙、一成、朱乃、白音が魔方陣から現れた。

 

「て、テメェら!?」

 

「もう一度言います。戦う意思がないのであればここから立ち去ってください。―――邪魔です」

 

椿姫を筆頭に二匹のドラゴンと立ち向かう意志を醸し出す五人。その中で匙の足元の影から真っ黒な人間サイズの蛇が出てきた。その蛇がヴリトラで目の輝きを濁らせながら、驚きに包まれた声音を漏らす。

 

『・・・・・ッ!グレンデル・・・・・ッ!?・・・・・あり得ぬ。

奴は暴虐の果てに初代英雄ベオウルフによって完膚なきまでに滅ぼされた筈だ』

 

『おほっ!ヴリトラかよ!ドライグにヴリトラまで来やがるなんてますます面白くなったじゃねぇかっ!』

 

狂気の笑みを浮かべ、ヴリトラにも戦いを臨もうとするグレンデルであった。そして、

 

「一誠・・・・・っ!」

 

龍化した巨大な真紅のドラゴンの一誠を目の当たりにし、五人は臨戦態勢になる。

 

『お前らに用は無い』

 

一誠はそんな五人に興味など持っておらず、視線から逸らした。

 

「お前が無くても俺たちにはあるんだ!いい加減に―――」

 

一成の発言を遮るように一誠の極太の尾の先が光り輝きだす。光は剣のように形を変え、封龍剣の刀身と化したその直後。ピッと剣を振るうと白い床に一筋の線が一瞬で刻まれた。

 

『死にたいやつがいるならそこから出て来い』

 

首から三つの頭部、鎌首が生え出し、一成たちを睨むように見据えた。

 

「・・・・・死ぬつもりでここから出るわけじゃありません」

 

椿姫が一歩、線を超える。

 

「生きてあなたを取り戻してあの時の日常に引きずり戻すだけです」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

一成たちも線を超えて戦いを臨む。そんな五人に始めて戦意の炎を瞳に宿した。

 

『そこの赤龍帝よりマシ・・・・・か』

 

『グッハハハハハッ!臆病な宿主の中に宿って笑っちまうぜドライグちゃんよォッ!』

 

二匹は攻撃の矛先を五人に向け始めた。グレンデルの嘲笑いと共に発した侮蔑に誠輝はカッと顔を耳まで真っ赤になった。

 

『んじゃ、そろそろ再開しようぜ!まだまだ暴れ足りねーよ!』

 

『お前を倒せばリゼヴィムの情報を聞き出せるからな』

 

敵意と殺意が孕んだ瞳を向けあい。攻撃を仕掛けようとした矢先、この場に霧が発生し出した。

 

「待て一誠」

 

霧から英雄派、曹操たちが出現する。

 

「・・・・・ドラゴンだと?」

 

一誠と対峙するグレンデルに怪訝な面持で視界に入れる。

 

「これはこれは、英雄派の・・・・・この場に来たのはどういう用件で?」

 

ユーグリットが曹操に尋ねる。まさかの事態なのだが興味深く話しかけた。曹操は黒幕のユーグリットに向き、質問に応える。

 

「なに、一誠たちを迎えに来ただけさ。邪魔はしないでくれよ?」

 

「そうですか・・・・・。なら、こちらも退きましょう。そろそろ潮時ですしね」

 

二人の言葉に不満を顔や口から出す。

 

『ユーグリットからリゼヴィムの情報を聞いていない。こいつを倒せばそれが叶うと言うのに』

 

『そうだぜっ!止めんなよ止めんなよッ!こっから最高で最高のハイな殺し合いができそうだってのに!潰し合いをやらせてくれよッ!』

 

それぞれの思いは違うが、対象を倒したい気持ちは一致していた。それでも曹操とユーグリットは許さなかった。

 

「一誠、そいつを倒さなくても私たちの次の計画にリゼヴィムと必ず関わり合う。いや、絶対にそうなる。だから私を信じて戻ろう」

 

「―――また、骸と化したいのですか?あなたはまだ調整段階なのです。これ以上無理をすれば・・・・・」

 

『『・・・・・』』

 

それを聞いた途端にグレンデルは舌打ちし、一誠は曹操を睨むように金色の双眸を向けて、どちらも振り上げていた拳を下ろす。

 

『・・・・・チッ、ったく、敵わねぇな。それを盾にされたらよ。止めるしかあんめぇよ』

 

『・・・・・わかった。信用する』

 

そして、グレンデルと一誠は話し合う。

 

『おい、今度はぜってーお前を殺すよ。次に会う時まで、その時まで誰かにやられんじゃねーぞ』

 

『この続きはまた今度だ』

 

『グハハハハッ!ああ―――テメーみてーなドラゴンがいるなんて最高の現世だぜ!』

 

龍門(ドラゴン・ゲート)が開き、人が深緑色の発光を出しながら、グレンデルを包みこんでいく。光が止むと―――そこには巨大なドラゴンの姿は無かった。それを確認するように一誠は元の姿に戻ってセカンド・オーフィスとリースと共に曹操へ歩み寄る。

 

「せっかくリゼヴィムの情報を・・・・・」

 

「分かってる。だからすねないでくれ」

 

不貞腐れる一誠に苦笑を浮かべながら頭を撫でると霧に包まれだした。一成たちはただ見守るだけで次こそは・・・・・と強い決意を胸に抱いたのであった。

 

―――○●○―――

 

その後、レイヴェル・フェニックスは無事に確保された。分身体の一誠は一成たちの登場に役目は終わったとばかりに消え去り、一応レイヴェルを守った。

 

「今のイッセー・・・・・分からないわ。敵になっても誰かを救ったり守ったりしている」

 

「あいつは自分の目的と関わりある事以外は優しい方なんだろうよ。テロリストになったのはあくまでリゼヴィムに復讐。英雄派に属しているのはそっちの方が動きやすい。心底から英雄派の味方になっているわけじゃないんだろうよ」

 

「私たちと一緒じゃあ、ダメなの?」

 

「正義より悪の方が何時も巨大な力を有している。それに行動も早い。一誠はそれを魅力に感じているのかもなぁ」

 

オカルト研究部にてアザゼルと話し合うリアスがいた。

 

「しかし次の計画にリゼヴィムと必ず関わり合うか・・・・・気になる事を言っていたんだな?」

 

「ええ、曹操が確かにそう言ったわ」

 

顎に手をやってアザゼルはある仮説を述べた。

 

「もしかすんと、あいつらも吸血鬼に乗り込むつもりでいるんじゃないか?」

 

「まさかっ。でも、どうして?」

 

「人間の敵を倒す。吸血鬼に戦いを仕掛けるのに実にシンプルな理由じゃないか?」

 

超常の相手を倒し続け人間としての強さを極めつける曹操たち。そう考えると納得できるアザゼルだった。

 

「もしも、吸血鬼の世界でイッセーと会うことになれば・・・・・」

 

「ああ、この次は無いと思うし、今度は何時出会えるのか分からない。気張るぞ」

 

「ええ、勿論よ」

 

 

―――dragon×hero―――

 

 

「曹操、次の計画って何」

 

「吸血鬼の世界に乗り込んで人間の敵を倒すのさ」

 

「ドラゴンも人間の敵だよね」

 

「キミとリース、オーフィスは私たちにとって特別だよ」

 

本部に戻った曹操に尋ねると頬を撫でられながら告げられ、心地良さそうに目を細め曹操の手の温もりを感じつつ耳を傾ける一誠に笑みを浮かべた。

 

「吸血鬼の世界にリゼヴィムがいるんだ。キミたちにとってリゼヴィムがいれば一緒に来てくれるだろう?

リゼヴィムに関する情報は私たちが集める。その間キミは他の皆を強くして欲しい。復讐を邪魔する者たちが数多く存在しているのだから」

 

「・・・・・分かった。・・・・・曹操」

 

「うん?」

 

「夜・・・・・寝かせない」

 

「それは・・・・・たまらないな」

 

 

―――devil×devil―――

 

 

「ただ今戻りました」

 

「おー、お帰りー。どうだった?グレンデルくんの調子ー」

 

「ええ、良好でした。彼の聖杯はオリジナルの聖杯より高い能力のようですね」

 

「うひゃひゃっ!まーさか、聖杯がこの世に二つも存在する事になるなんてさっすが坊ちゃん!坊ちゃんがすることはイレギュラーな事ばかりだぜっ!」

 

「近いうちに英雄派がここに来るような事を言っておられましたがどうしますか?」

 

銀髪の初老の男性に問うユーグリットに、笑みを浮かべこう言った。

 

「曹操のガキんちょたちがここにかー。そうだねー。それとなく吸血鬼たちに教えてやればいいんじゃん?美味しい血が向こうからやってくるよって」

 

「分かりました。それでそちらは順調ですか?」

 

「んーふふふっ!マリウスくんが協力的でさ、やることなすこと全て思い通りに順調なのさ」

 

片手にワインが入ったグラスを揺らしながら今の状況を心底愉快そうにしているリゼヴィム。

 

「対テロ組織混成チームだっけ?別に大したことなさそうだから俺っちたちの相手って英雄派になりそうじゃない?」

 

「赤龍帝も?」

 

「だね!あ―――そうだ。ちょっくら出掛けてくるわ」

 

いきなりそう言うので首を捻るユーグリット。

 

「どこに行かれるのですか?」

 

「もっちろん、赤龍帝ちゃんのところだよん。なんだか、虐め甲斐がありそうだし、からかう甲斐があるよあいつ」

 

「では、お伴をしましょうか」

 

「いやいや、ユーグリットくんは休んでちょーよ。ただお話をしに行くだけだからさ」



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エピソード60

「やぁやぁやあっ!こんにちは臆病な赤龍帝くん!」

 

「んだテメェっ!俺は臆病じゃねー!」

 

とある日の深夜。町を警備していた誠輝たちの前にソレは突如として現れた。

慣れ慣れしく、誠輝のプライドを酷く刺激を与える言葉を放つ

リゼヴィム・リヴァン・ルシファーと。

 

「聞いたよ聞いたよ?二天龍、天龍を宿しているのにグレンデルくんと戦いもしなかったって」

 

「―――っ!?」

 

「坊ちゃん・・・・・ああ、チミの弟くんねー?弟くんの方がお兄ちゃんよりもとても優秀ですね!一から千まで全て!オーフィスとグレートレッドの肉体と力で復活したし、宿している力は有名度の高いドライグちゃんと同等それ以上だしね?

ああ、それと交友関係もそっか。坊ちゃんだけだよ?色んな神話体系の神々とお友達だなんて

イレギュラーな人間から転生したドラゴンくんは」

 

「何が・・・・・言いてぇんだ・・・・・っ」

 

屈辱と怒りで身体を震わせ、目の前の悪魔に対する敵意に殺意を籠った視線を送る。

おー、悔しがってるーと楽しげに笑みを浮かべるリゼヴィムは自分を囲む兵藤家たちを無視しながら嫌みな言葉を言い放った。

 

「赤龍帝のチミとー、イレギュラーな坊ちゃんとーどっちが存在価値が高いかなーって?そこんとこ、自分でも分かってる?」

 

「・・・・・っ!!!」

 

カッ!と顔を真っ赤にし、赤い龍を模した全身鎧を瞬時で纏い、倍加の能力を発動し始めた。

 

「当然、坊ちゃんの方が存在価値や利用価値も鰻登りさ!あっ、鰻重食べたくなったなー。後で食べにいこっと」

 

「俺が、あの化け物に劣るだと・・・・・」

 

「実際そうじゃん?チミ、負けたでしょ?悪魔に転生されちゃって最後は光の攻撃でバッタンキュー!」

 

「負けてない!あの化け物が卑怯な手を使っただけだ!」

 

魔力攻撃を放つ。

 

「うひゃひゃっ!ガキらしい負け犬―――やっ、負け龍の言い訳だね!あっ、俺に神器(セイクリッド・ギア)なんて効かないから攻撃しても意味ないぜ?」

 

至近距離での倍加した魔力弾がリゼヴィムに直撃する前に役目を終えたとばかり赤い魔力弾が霧散した。

 

「なっ・・・・・!?」

 

「俺ってば神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)って冥界じゃ超越者の一人として数えられていたんですよこれが!―――だーかーらー?キミたちの神器(セイクリッド・ギア)は一切効きません!あっ、情報料として魔王の長男のパンチをお見舞いしてあげるね」

 

ドゴンッ!

 

魔王パーンチと言いながら正拳突きをするリゼヴィムに殴り飛ばされる誠輝。

更に他の兵藤家たちも蹴りや魔力を放って攻撃し、一網打尽にした。

 

「あれれー?兵藤家は最強だーって自慢している一族なのによわっちいよわっちいねー?!ああ、人間様限定かっ!悪魔とか天使とか堕天使とかそんな超常の相手だと怖がって最強から最弱になっちゃうんだね!納得したよ!うひゃひゃっ!」

 

『っ・・・・・』

 

「これならまだ坊ちゃんと坊ちゃんの知り合いと戦った方がまだ楽しめそうだねー。おおっと、色んなヒトが来る気配を感じるから俺さまは逃げるぜ!また会いにくるぜ?バイバイキーン!」

 

屈辱と煽るだけ煽って姿を暗ますリゼヴィム。残された兵藤家たちは自分たちの不甲斐なさと怒り、屈辱で何時までも悔しがった。

 

「ちくしょうがぁああああああああああああああああああああっ!」

 

夜空に轟く誠輝の屈辱に満ちた怒号―――。誠輝たち兵藤家がこれから行く先はどんな道なのか神すら知らない―――。

 

 

 

 

対テロ組織混成チームはルーマニアに行く準備を整った。

 

「そんなわけで、これからルーマニア、吸血鬼の世界に向かうメンバーを決めたい」

 

放課後の教室。2-Cの教室で会議を行う面々は教卓の前に立つアザゼルとリーラ、ユーストマにフォーベシイに視線を向ける。

 

「知っての通り、俺たちは異世界の兵藤一誠から吸血鬼の世界にリゼヴィムがいる情報を得ている。それは何時なのか定かじゃないが、それでも俺たちは吸血鬼の世界に行く事を決めた。あの世界にリゼヴィムがいるかどうか確認する為にもな」

 

「私の方から誠さまと一香さまにお願いして吸血鬼の二大派閥、カーミラ派の方へコンタクトを取って貰うようにお願いしております。まだあの方たちから報告はございませんがきっとうまく事を運んでくれているはずです」

 

アザゼルとリーラに話を真摯に聞く姿勢なリアスたち。そして単刀直入にメンバーは決まった。

 

「曹操と一誠の英雄派たちもリゼヴィムに対峙するならこっちもそれ相応のメンバーで挑む。まず吸血鬼の世界の案内役としてアルトルージュとヴァレリーの他にリーラ。お前が今回の遠征の指揮者として行動してもらうぞ。あっちに行けば誠と一香と合流できるだろうがな」

 

「かしこまりました」

 

「続いて教会組の五人。お前らの聖剣の力が悪魔だけじゃなく吸血鬼にも効果的だ。思い切って振るえ」

 

五人は力強く頷いた。パワー、スピード、テクニック、ディフェンスが揃ったオールラウンダーなためだ。

 

「そんでリアス、エスデス、式森、オーフィス、クロウ・クルワッハ、アカメ、ギャスパーの十三人で行ってもらう。他の者はこの町で待機してもらう」

 

呼ばれていない者は少々不満な顔を浮かべていたがアザゼルの一言で納得した。

 

「これはまだ公にされていないが、赤龍帝たちが深夜の警備でリゼヴィムと接触した。何しに来たのかと思えば赤龍帝たちをバカにしに来ただけらしい。特に事件になった出来事はないが、アイツの言動に何一つ理解できん。最近、この町に襲撃されるようになってきたから俺たちも警備する必要がある。いきなり目の前に一誠が現れる事なんぞ不思議じゃないからな」

 

「そうね・・・・・」

 

その経験は何度もしている。今もこうして現れる可能性だってあるのだから警戒は怠れない。

 

「アザゼル、オーフィスとクロウ・クルワッハも一緒ってことは・・・・・」

 

「英雄派とリゼヴィムに対する抵抗だ。どっちも邪龍を抱えているからこっちもドラゴンを前線に出さないとキツいだろう」

 

「グレンデルか。聖杯によって復活したとなれば、他の邪龍たちも復活している可能性があるな」

 

「邪龍はとにかくしつこい」

 

最強の二人のドラゴンがそう言う。アザゼルは二人の話に同意と頷く。

 

「そうだ。最強のドラゴンに邪龍最強のお前たちの力は必要不可欠なんだ。アイツを奪還する為にもな。その為にはどんな手を使ってでも奪わなきゃならん。―――アカメ、お前は暗殺者兼傭兵をしていたな」

 

「ああ」

 

レオーネと出会ったのは暗殺者として生きていた時である。人を殺すことに躊躇もしないその精神力はこの場にいる数人を除いてを群を抜いている。

 

「これはお前しかできない事だ。引き受けてくれると助かるんだが―――」

 

自分の目の前に展開する魔方陣から出てくる物を見て赤い眼を不思議そうに見詰めるアカメ。

 

「これは?」

 

「グリゴリで開発した非殺傷弾が込められている銃だ。それを一誠に撃て」

 

無機質で黒光りする装飾と意匠が凝った銃。それにいくつかのマガジン弾倉。

 

「撃ってどうなる?」

 

「それにはサマエル、究極のドラゴンスレイヤーの毒と呪いを銃弾として作った。

ドラゴンの一誠なら効果抜群だろう」

 

『―――っ!?』

 

一誠を死に追いやった存在。その存在の力を弾丸として作り上げ、それを一誠に向けるのだと言うのだからリアスたちは信じられないと、アザゼルに対して怒りすら覚えた。

 

「アザゼル!アレは最後の手段として―――!」

 

「最後の手段を何時までも使わずにいられるほど悠長にはいられないんだよ。アイツを倒すにはオーフィスとクロウ・クルワッハ、それにそのサマエルの力が主となる」

 

「だからと言って、一誠を一歩間違えて殺しちゃったら・・・・・!」

 

「そん時は聖杯であいつを甦らせる。こっちには蘇生の力があるんだ。最悪―――あいつを悪魔か堕天使に転生させてもな」

 

「っ・・・・・」

 

理屈は分かる。だが、納得できない自分がいる事を自覚し、銃を確認しているアカメに視線を送る。

 

「分かった。アイツを止める手段としてこれを使おう」

 

「すまん・・・・・」

 

「気にしないでくれ。これは確かに私にしか適していないことだろう。他の皆の心にはキツいはずだ」

 

一誠に好意を抱いている異性ができるはずがない、とアカメは言い切った。すると、教室内に携帯の着信音が鳴り響く。着信音の先はリーラだった。直ぐに応対するリーラ。

 

「はい。ええ、そちらはどうですか。そうですか・・・・・はい、はい、わかりました。ありがとうございます

 

直ぐに用件を聞き出して通信を切りアザゼルたちに報告した。

 

「誠さまと一香さまからです。カーミラ派のエルメンヒルデ・カルンスタインとの協力を得ることにできました」

 

「・・・・・カルンスタイン。確か、吸血鬼二大派閥のひとつ、カーミラ派の中で最上位クラスの家だったな。よくとまぁ、あの家の吸血鬼と協力を要請で来たな」

 

顎に手をやって感嘆するアザゼルや皆に説明を言い続けるリーラ。

 

「事実。既にツェペシュ派に襲撃され犠牲者も出ているそうです。それに加え、カーミラの王女とは面識があるようで事情を説明すると向こうも現在のツェペシュ派をどうにかしたいと言う思いを抱いておるようです」

 

「英雄派は?」

 

「今のところ姿すら確認していないようです。そして最大な協力を得られた理由なのですが」

 

ヴァレリーとギャスパー、アルトルージュの吸血鬼組に視線を飛ばす。

 

「こちらにツェペシュ家、ヴラディ家、ブリュンスタッド家の吸血鬼がいると教えたらその吸血鬼たちを連れてくる条件を呑んだからです」

 

「あの王女がそんなことねー・・・・・どうせ、吸血鬼の問題は吸血鬼で片付けたいと言う考えをしてるわよ。そういう吸血鬼なんだから」

 

知った風に肩を竦めるアルトルージュ。

 

「まぁ、協力を得れたならこれでカーミラ派の方で堂々と歩けれるわよ。そっちには私の妹がいるしなんとかなるでしょう」

 

吸血鬼の世界に住んでいた吸血鬼のお墨付きの言葉。アザゼルは頷いた。

 

「冒険部の部活活動を利用して行く。メンバーが準備を整い次第、ルーマニアに行ってもらう。大方、一香が転移用魔方陣でお前らを召喚するだろうからな」

 

だろう?とリーラにそう視線を飛ばせばコクリと頷いたのだった。

 

「それともう一つ」

 

「なんだ?」

 

「吸血鬼の世界でヴァーリチームと出会っているようです」

 

それを聞いて顔に手を当てて、なんてタイミングでそこにいやがるんだよ、と思わずにはいられなかったアザゼル。

 

ガラッ。

 

不意に何かが開く音が聞こえた。誰もがその開く音の先に視線を向けると窓が開いていた。

そして同時に風が吹きこんできて―――ファサッとそこにいなかったはずの真紅の髪の少年の顔が虚空から姿を現した。

 

『・・・・・』

 

「・・・・・」

 

この場の時間が停止したような感覚を覚えた。顔だけの少年は自分に向けられている視線に気付き、振り向けばアザゼルたちと目が合った。

 

「じゃ」

 

軽くそれだけ言い残して二階から飛び降りたし直後。驚愕と怒号の叫びが轟く―――。

 

―――○●○―――

 

ルーマニア、人間の世界と隔離した場所に吸血鬼の世界が存在していた。

幼少の一誠とルーラーがアルトルージュたちによって連れて来られた場所。誠と一香は久し振りにこの地にやって来ては観光気分で町中を歩いていた。

アザゼルたちから連絡が来るまで二人は暇なのであった。なのでイチャイチャと手を繋ぎながら二階建のカフェに入ってのんびりとしているとヴァーリ―チームと出くわした。

 

「こんな所にお二人と出会うとは奇遇ですね」

 

「そうね。私たちはカーミラに協力の要請をしに来たのだけれどあなたたちは?」

 

「オレっちたちはアザゼル総督と合流する前に色々と手土産を集めているんだぜぃ」

 

「ほほう、手土産とは?是非良ければ見せてもらいたい」

 

美猴の言葉に興味を持つ誠にヴァーリたちが手土産にと集めている品々を二人に展開した。殆ど食料だが誠と一香にとっては懐かしいものばかりだった。それらをいくつかもらいその場で食べ始める。

 

「この地にリゼヴィムがいるそうですね」

 

ヴァーリが突然人物の名を挙げた。吸い込まれそうになる蒼い瞳に憎悪の炎が孕む。

誠と一香は相槌を打つ。

 

「そうみたいだな。まだ見てないが」

 

「リーラたちが来るまで暇だったからいくつかツェペシュ側に行けるルートをいくつか確保して置いたわ。後で教えてあげるから行ってみなさい?」

 

「流石は元式森の方ですね!」

 

魔法使いが被りそうな帽子を頭にかぶり、金髪のようにキラキラと蒼い瞳を、尊敬の眼差しを一香に向ける少女。

 

「あら、私のこと知ってるのね。魔法少女の子?」

 

「ええ、私の妹でルフェイ・ペンドラゴンと言います」

 

「初めまして!」言う少女の兄、アーサーの自己紹介を受けて一香は微笑んだ。

 

「なるほど、良い素質の妹さんね。魔法使いとしても一人の女性として将来有望よ」

 

「かの式森家最強の魔法使いと称されたあなたに妹をそこまで称賛されるとは兄として嬉しい限りです」

 

「元式森家最強の魔法使いだけどね?ルフェイちゃん。使い魔はいるかしら?」

 

「はい、フェンリルのフェンリルちゃんが使い魔です」

 

ルフェイの足元の影からヌッと顔を出す銀色の毛並みを持つ狼。

 

「あの時のフェンリルか?なんだか小さくなったな」

 

「支配する際にこの姿となりましてね。その分の能力は下がりましたが神を噛み殺す牙は健在ですよ」

 

「ほうほうなるほど・・・・・フェンリル、お手」

 

犬のようにやってみた誠にプイッと顔を逸らしたフェンリルだった。

 

「あ、あのぉ?フェンリルちゃんは犬じゃありませんよ?」

 

「何となくやってみただけだ。だが、ルフェイちゃんならやってくれると思うぞ?」

 

朗らかにルフェイにそう言った。そこでヴァーリが口を開く。

 

「これはアザゼルから聞いた話なんですが。なんでも異世界から来た兵藤一誠がリアス・グレモリーたちを鍛えたそうですね」

 

「そうなのよー。もう、そんな重大で面白い事をどうして教えてくれなかったのかしら」

 

「まったくだ。異世界の一誠の子供たちを見たかったのにな」

 

その後、誠たちは異世界の兵藤一誠たちのことで華を咲かせ時間を潰す。

 

 

一方、英雄派―――。

 

 

「ん、リース。大分ドラゴンとしての力を身に付けたな」

 

「イッセーのおかげよ。・・・・・結構スパルタで死ぬ思いを何度かしたけれど」

 

「見ているこっちも心臓に悪い思いをしたほどだったがな」

 

リースを鍛え、一誠が嬉しそうに笑みを浮かべ頷くその隣でモルドレッドが感想を述べた。

一誠は言っていないがリアスたちは格段に強くなっていた。この短期間でまるで数カ月分の修行をしていたと思うほどに。しかし、リアスたちの強さの秘訣は分からず地道に時間を掛けて鍛えるしかできない一誠はゆっくりとリースを鍛え上げることにした。その間、モルドレッドは暇つぶしと修行や稽古、特訓の様子を見ていたのだった。

 

「モルドレッドも剣だけじゃなく、リースと同じようにしてみる」

 

「こっちが死ぬわっ!オレは人間だぞ!?」

 

「人は不可能を可能にするって話を聞いたことある」

 

「そ、それでもオレは嫌だっ」

 

どこぞの人が発した名言を言われてもモルドレッドは拒否した。否定され、少し残念そうに落胆する一誠。

そこにセカンド・オーフィスがやって来ては一誠の背中にべったりとくっつく。

 

「ん、ここ、落ち着く」

 

スリスリと背後から一誠の頬に自分の頬を押し付けてすり付ける。まるで猫のような甘え方であった。

羨望の眼差しを向ける二人がいてもお構いなしなオーフィス。

 

「イッセー」

 

「ん?」

 

「復讐終わったら、どうする?」

 

純粋な質問を発するオーフィス。耳朶に触れるその言葉を一誠は直ぐに答えることなどできなかった。

 

「・・・・・わかんない。リースはどうする?」

 

「私は・・・・・」

 

ローラントを再興、復興する。最初にそう頭の中で思い浮かんだのだが、次に浮かんだのは目の前にいる一誠の顔。そして共に生きては暮らし、情熱的な愛を毎日貪るように過ごして・・・・・。

 

「はう・・・・・」

 

何時の間にかはしたない女になっていることに改めて自覚し、ほんのりと顔を赤くする。

リースの様子に首を捻って不思議そうにしている一誠に対し、モルドレッドは何かを察して息を零す。

 

「お前、復讐より女として生きていたほうが性に合っているんじゃないか?」

 

「な、何を言って・・・・・っ?」

 

ますます顔を赤らめてモルドレッドに動揺する。まるで自分の願望をバレて指摘されたように。

乙女の恋心は乙女しか気づかないと言うものだろうか。話をはぐらかす感じにモルドレッドに尋ねる。

 

「そう言うあなたは、自分の兄に見返す為にテロリストとしているんでしょ?」

 

「ああ、そうだな」

 

「兄に見返したらあなたはどうする気なの」

 

そう言われてしまい、モルドレッドは対して考えなかった事を考え出した。

 

「ん、そう言われてもな・・・・・特に考えたことが無いから直ぐには言えないぞ」

 

「あまり悩んでいなさそうだしね」

 

「おい、いま何か引っ掛かる言葉を言ったなお前」

 

リースを睨むモルドレッドに「まぁまぁ」と宥める一誠。背中にセカンド・オーフィスに抱きつかれる中で

二人の少女と雑談をする。英雄派の女性構成員は他にもいるが、主にモルドレッドとリースが主に接し合い、

テロリストという立場を忘れ普通の女の子らしくしている。

 

「二人とも、勉強ってできる?」

 

「「・・・・・」」

 

一誠からの問いかけに二人は互いに顔を向け合う。片や元王女。片や名家の少女。学園に通った事などこの二人には無い。

 

「いきなりどうした?」

 

「んーと、俺たちって歳は同じだったり近かったり、離れていたりそんな人いるじゃん」

 

「そうだな」とモルドレッドは頷く。リースと一誠より前から英雄派として活動している者として曹操たちの年齢はなんとなくだが把握している方だ。

 

「戦闘ばかりで身体能力が高いのは分かるけれど知識の方はどうなのかなって」

 

そう言われて期待の眼差しを向けられる二人だった。―――思わず一誠から顔を逸らすのだった。

 

「(じ・・・自信がない・・・・・)」

 

「(言えない・・・・・できないなんて言えない)」

 

必死にこの場から逃げる、もしくはどうにか話をはぐらかそうと考える二人に予想だにしない助け船が向こうからやってきた。

 

「兵藤一誠」

 

「ゲオルク?」

 

絶霧(ディメンション・ロスト)』の所有者であるゲオルクの登場。すると、一誠は閃いたように尋ねてきた知的な男に近づいた。

 

「ゲオルク、勉強ってできる方?」

 

「む?まぁ、魔方陣を構築する際に色々と知識も必要に応じるからな」

 

「じゃあ、質問―――」

 

リースとモルドレッドはゲオルクを生贄にしてこの場からいなくなった。

 

「ゲオルクが来てくれて助かったぞ」

 

「これで満足してくれるといいのだけれど」

 

「なにがだい?」

 

安堵で溜息を零す二人に曹操が声を掛けてきた。

 

「ところで、ゲオルクは見なかったか?」

 

「ああ、今さっき一誠に質問されているぞ」

 

「ん?質問とは?」

 

簡潔に説明すると「そうか」と相槌を打つ曹操。

 

「曹操は知識がある方か?」

 

「彼の期待に応えられない方かな」

 

苦笑を浮かべる曹操に「だよなー」とモルドレッドとリースは賛同する。

 

「普通の人間としての暮らしをした事が無いのに勉強なんてできるかよ」

 

「私は一国の王女としてそういう知識を蓄えるようなことはしたことないわ」

 

「二人と似た方かな」

 

三人の共通点が改めて分かったところで曹操は本題に入った。

 

「近々、私たちは吸血鬼の世界に行くことを決めた」

 

「・・・・・というと、もう発見し、特定できたのか。吸血鬼がいる場所を」

 

「ああ、私たち幹部クラスとセカンド・オーフィス、一誠、リース、キミも一緒に吸血鬼の世界に乗り込む」

 

「直ぐに行動するの?」

 

「いや、少しリアス・グレモリーの動向が気になる。情報じゃ彼女たちも吸血鬼の世界に行くようだしね」

 

敵の動向も把握し、身長に事を進めようとする曹操。二人は敵の存在が浮上したことで気になる。

 

「あいつらも吸血鬼の世界に?オレたちの行動を予測しているのか?」

 

「それは分からない。だが、一誠の分身体からの情報で彼女たちも向かうことが分かった」

 

「イッセー、何でもできるのね」

 

「彼が持っている伝説や有名な道具を持っているからな。冥府ハーデスの透明化に成れるマントを使えば情報収集などに役立つ」

 

さて、と曹操は二人から離れ一誠のところへ向かった。

 

「吸血鬼との戦いを終えたら今度はどんなことするのだろう」

 

「さぁな。それは曹操たちが決める事だ」

 

しかし―――二人は思いもしなかった。これが世界を震撼させる出来事の発端になることを―――。



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エピソード61

―――早朝。

 

ルーマニア出発組が駒王学園のグラウンドに集結していた。各自、旅行鞄を持参して

展開している魔方陣の前で見送りしてくれる面々に激励の言葉を送られている。

 

「リーラちゃん、アザゼルちゃん。無茶をせずにね」

 

「あの野郎がいたらさっさととっ捕まえて帰ってくればいいだけだからな」

 

「大丈夫です。心強い味方が勢揃いしておりますので」

 

「まぁ、誠と一香もいるしな。取り敢えず心配する要素は無いと思うがな」

 

話し合う四人にレイヴェルが近づく。手に持つ小包を一つリーラに手渡して。

 

「これは先ほどお兄さまから届いたフェニックスの涙ですわ。中には三つほどあるそうです」

 

回復アイテムを受け取り、感謝とお辞儀をするリーラ。

 

「では、行ってまいります」

 

魔方陣の光がますます強まる最中にその中に一人、また一人と入る一行。次々と光に包まれると弾け、向かう先はルーマニアへジャンプして行く。

 

「俺たちも強くなってるのに・・・・・」

 

「そう焦るな。何も問題は一つだけじゃないんだ。お前たちの力は必ずどこかで使う」

 

そうして離している間に最後の一人が転移用魔方陣に踏み込んでユーストマたちは見届けた―――そのはずだったが。

明後日の方から赤い光が魔方陣が消える間際に飛び込んでいくのを目の当たりにした。

 

「い、いまのはっ!?」

 

「・・・・・まさか、だが、なんでだ・・・・・?」

 

怪訝な色を顔に浮かべ、ルーマニアに向かったリーラたちにますます不安に駆られる。

しかし、魔方陣は消失してしまい、今更どうする事も出来ない事実にリーラたちに任せるしかないと思ったのだった。

 

 

「・・・・・なぜ、あなたまで来ているのですか」

 

光が止んだ先は―――見知らぬ世界の光景だった。リーラたち一行は直ぐ傍にいた誠と一香と合流を果たしたのは良いが、招かざる客の如く対テロ組織混成チームでもない忌み嫌われていると言われても不思議じゃない赤龍帝の兵藤誠輝がいたことにリーラは冷たい眼差しを向けた。イリナろルーラーですら良い感情ではない表情を浮かべているほどだ。

 

「なんだ、誠輝は違うのか?」

 

「ハッキリ言って違います小父さま。誰も赤龍帝を仲間にした覚えは無いですよ」

 

「イリナちゃん、何気に辛辣ね」

 

「イッセーくんに移ったんですよ小母さま」

 

しかし、このままでいるわけにもいかないと誠は指摘し、移動を開始する。建物の裏から出れば直ぐに町中を歩く。

 

「誠さま、どちらにいかれるのですか?」

 

「ああ、お前らが来る前にちょっくらカーミラ派の吸血鬼たちと接触して見たんだ。その中で俺たちと友好的に話ができる吸血鬼を何人かいてその内の一人の吸血鬼の城に一時的な滞在を許してもらった」

 

「その吸血鬼の城に向かってるわ」

 

「行動力が早い事に感嘆の一言です」

 

「「ふっふっふっ、それほどでもない」」

 

ポカーンと開いた口が塞がらないリアス。人間が自ら吸血鬼と接触することですら驚きなのに、他の吸血鬼たちと接触しては協力を得たその腕前に驚きを隠すことすらできなかった。

 

「・・・・・イリナ、イッセーのご両親って何時もあんな感じなの?」

 

「えっと、私も驚いている方だから」

 

幼い頃、ヴァーリと共に一誠と遊んだ事がある者として尋ねられるイリナも誠と一香の行動力に驚かされている余所に、

 

「場所は違うけれど、懐かしい町並みねヴァレリー。ルーラーも久し振りでしょ?」

 

「そうですね。数年間離れていただけなのに懐かしさを感じるなんて・・・・・」

 

「私にとっては複雑です」

 

吸血鬼組のアルトルージュとヴァレリーは久々の里帰りに心を弾ませているが、ルーラーはまた吸血鬼の世界に来る事になるなんてと複雑そうな顔を浮かべた。

 

「へー、ここが吸血鬼たちの・・・・・」

 

「ああ、教会が長年探し求めていた吸血鬼の本拠地だ」

 

「この場所を協会に報告していいのか・・・・・」

 

興味津々に周囲を見渡すユウキ、擦れ違う吸血鬼を横眼で見つつ言うゼノヴィア、念願の敵の本拠地を発見してい的な報告書に記していいのか悩むリーズ。

 

「それで、滞在を許してもらったお城というのは?」

 

「ああ、あれだ」

 

「―――よりによってあの城・・・・・?」

 

リーラの質問に遠く離れた城に差す誠に見覚えがあるのか嫌な顔を浮かべるアルトルージュ。アザゼルは意外そうに訊いた。

 

「なんだ、知ってるのか?」

 

「知ってるも何も・・・・・私の妹が住んでいる城よ」

 

「ああ、やっぱりそうか。同じブリュンスタッドって吸血鬼がいるからもしかしたらと思ってキミの名前を出したら『あれ、まだ生きていたんだ?』って言ってたぞ」

 

確信犯かっ!?アルトルージュは誠に対して恨めしいと睨んだが、誠は爆弾発言をした。

 

「あっ、ツェペシュ王と謁見もしたぞ」

 

「したのかよ!?」

 

リーラたちが準備している間に誠と一香は男尊派と女尊派のトップと接触した。

アポも無しにそんなことが可能かと信じ難い気分となる。

 

「ええ、真正面から堂々。私たちが兵藤と式森の者だと告げたらあっさりツェペシュ王と合わせてくれたわ」

 

「うちの息子がとってもお世話になったなーって言ったらツェペシュ王、顔を青ざめたけどどうしてなんだろうな?」

 

「さぁ、今になっても分からないわね」

 

『・・・・・』

 

派閥のトップが顔を青ざめるのってそれは恐怖感を抱いているからじゃ・・・・・。

その事を誰も口にしなかった。そしてこの二人はどこか天然じゃないだろうかと思わずにはいられなかった。

 

「近々、ここにまた訪問してくるからその時はよろしくなって言っておいたから。まぁ、大丈夫だろう」

 

「・・・・・そこにリゼヴィムはいたか?」

 

これが重要だと前を向きながら歩く速度を変えず進む二人に問うた。顎に手を添えて思い出すように誠が口を開いた。

 

「直接見てないが・・・・・悪魔の気配は感じたな」

 

「そうね。一度覚えのある魔力だったわ。多分、リゼヴィムじゃないかしら」

 

―――それを聞いて、誠輝は鎧を纏ってどこかへ飛翔しだした。

 

「お、おいっ!?」

 

「あー、放っておけ。どうせ行けれないさ」

 

「は・・・・・?どういうことだ」

 

「だって、二つの派閥には国境があるし、特殊なルートじゃなきゃ絶対に行けれないぞ」

 

「諦めて戻ってくるわよきっと」

 

自分の息子に対してまるで家出した子供のような対応だった。この二人がそう言うのならばアザゼルは誠輝の事を考えずアルトルージュの妹の城に歩み続けることにしたその時だった。吸血鬼の世界を包む濃霧に巨大な影が一瞬だけ過ぎった。そのことを誠たちは気付かなかった―――。

 

 

真紅の巨大なドラゴンは濃霧に隠れ紛れるように飛行していて、その身体に曹操たち英雄派が我が物顔で乗っていた。霧は吸血鬼の能力で、霧は結界でもあり、索敵にも有しているのだがツェペシュ派もカーミラ派も英雄派たちの侵入に気付いていない。ゲオルクが何らかの魔法で索敵に探知されないように畏怖を抱かせ、壮大な姿を晒している一誠を施しているのだ。

 

「こんなド派手な移動、ドラゴンの背中に乗るなんてね」

 

「すげー良い気分じゃないか!はははっ!」

 

「真龍の肉体で復活した兵藤一誠は伊達ではないな」

 

目指すはツェペシュ派の領地。進むドラゴン、一誠はのんびりと飛行をしていると小さい極粒の赤い物体が見えた。金色の瞳をジッとその物体に向けていると何やら蛇行していて彷徨っているようにも見える。

何をしているんだろうと眺めていれば頭部に乗っている曹操とリース、モルドレッド、セカンド・オーフィスが一誠の視線を追って赤い物体を見つけ出した。

 

「あれは・・・・・そうか。彼女たちも来たようだね」

 

「なんか、変な動きをしているな。迷っているのか?」

 

「こっちには気づいていない?」

 

「ん、気付いていない」

 

その赤い物体は何なのか曹操は察し、モルドレッドたちも興味を示す。

 

「気付いていないなら放っておこう。一誠、構わず進んでくれ」

 

分かったとばかり下に向けていた鎌首を真っ直ぐ前に戻して進みだす。

 

「しかし、曹操。吸血鬼の世界に来たのは良いがどこで潜伏するんだ?」

 

「個人的にはどこかの吸血鬼の城の中にしたいところだ」

 

「奇襲して乗っ取るってこと?」

 

「今は朝だ。純血の吸血鬼なら一人ぐらい寝ていると思う。文字通り、言葉通り寝込みを襲うってね」

 

完全に犯罪者だ。いや、そもそもテロリストだから犯罪の云々以前の問題かとリースは心中悟った。

 

「でも、それって―――」

 

リースが曹操に尋ね言い掛けたその時。一誠の身体が震えだした。

 

「どうした・・・・・?」

 

一誠に声を掛けた曹操。一誠は下に金色の瞳を向けていた。その瞳には敵意が孕んでいる。

セカンド・オーフィスは気付いているようでポツリと漏らした。

 

「赤龍帝。気付いた」

 

 

 

「あのバカでかいドラゴンは何だっ!?」

 

『アレが真龍、真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッドだ。最強のドラゴンたる無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィスを超えるD×D(ドラゴンオブドラゴン)

 

「あれがドラゴンの中で一番強いドラゴンだってのか・・・・・っ!」

 

『厳密には不動の存在故に神をも超えるドラゴンだ。相棒なぞ羽虫に等しいさ』

 

上空に飛ぶ一誠に気付き、攻撃を仕掛けた誠輝。ドライグの説明を聞き鎧の中で奥歯を噛みしめ苦虫を噛み潰したような表情となる。

 

「俺がどうやっても勝てないってのかよドライグッ!」

 

『ああ、絶対に無理だ。魔王と神より一時的な力を上回る能力でもあのドラゴンには届かんよ。白龍皇も然り』

 

本当は違うが、敢えて目の前のドラゴンはそれだと教える。

 

『―――グレンデルに怯えていた相棒のお前に、あのドラゴンに立ち向かう勇気なぞないだろう?』

 

「っ!!!!!」

 

屈辱的な事を言われ、酷くプライドを傷つけられ、憤怒の表情を浮かべる。

 

『相棒、いい加減にリアス・グレモリーたちのところに戻れ。ここは吸血鬼の世界。いわば相棒にとっては敵地のど真ん中だ。吸血鬼たちが何時来ようと不思議ではないぞ』

 

「ふざけんなっ!じゃあ、アレはなんだっ!?悠々と移動しているじゃねえかよ!」

 

『グレートレッドは無害に等しい。だからこそ万国共通にドラゴンであるにも拘らず討伐対象にならない例外のドラゴンだ。自由に好きなようにさせれば―――』

 

「くそったれがぁっ!」

 

誠輝が真紅のドラゴンに向かって飛翔する。その間に倍加の能力を発動して限界まで力を蓄積し―――。

 

『transfer!』

 

「くらいやがれぇっ!」

 

無防備な腹部に拳を突き刺し、赤い魔力を砲撃として放った。轟く轟音。渾身の一撃。

誠輝が断続に荒い息を零し、自分の攻撃の効果を確認した。―――腹部の表面、皮膚にコゲたような黒ずみがあるだけで大したダメージではなかった。

 

『相棒・・・・・これが現実だ』

 

「・・・・・っ」

 

最大の一撃がこの結果―――。絶望し、ショックを受け、呆然としている誠輝に五つの光線が襲った。

避けて光線が来た先に顔を向ける。

 

「誰だっ!」

 

誠輝の前にドラゴンの翼を生やして降下する片手にブリューナクを持っているリース。

 

「無駄な攻撃をせず帰ってください。あなたの攻撃は通用しません」

 

「ふざけんな。こんな結末を俺は認めねぇっ」

 

攻撃の矛先をリースに変え、攻撃態勢になった次の瞬間。ブンッ!と空気を、大気を鳴らす程の何かが迫って誠輝の身体に叩きつけてどこかへ吹っ飛ばした。その一撃は全身の鎧を粉砕するほどである。

 

「リース、戻って来い」

 

「・・・・・わかったわ」

 

上から聞こえる呼び掛けにリースは吹っ飛んだ誠輝を一瞥してドラゴンの頭部に戻った。

 

―――○●○―――

 

「あれあれぇ?なんか久し振りに顔を見る吸血鬼がいるわねぇー?」

 

とある吸血鬼の根城。洋風の石造りの城から金色のロングストレート、血のように真っ赤な瞳、純白のドレスを身に包む女性がいた。憮然とした態度でその女性を見詰めるアルトルージュ。

 

「久し振りねアルクウェイド。何百年振りかしら?」

 

「んー、男が純血の吸血鬼を統括するだのー、女が純血の吸血鬼を纏めるだのーって言い始めた時からじゃない?」

 

「ああ、もうそんなに経つのね」

 

姉妹の吸血鬼の会話にアルトルージュとアルクウェイドの容姿を見ても似ていないと思うものの、こうして会話の花を自然と咲かせている様子に誰も邪魔などしなかった。

 

「にしてもさーアルトルージュ?見ない間にすっかり変わってるわね。力も雰囲気も前と比べ物にならないぐらいにさ」

 

「ええ、自分でも自覚してるわ。外の世界に出て、この目で色んな物を見て、この足で色んな場所に行ったからね」

 

「へぇー。そうなんだ。それによく平気だったわね。日に強くなったの?」

 

「吸血鬼としての弱点の一つ、太陽の光を克服したって言うわ」

 

アルクウェイドはアルトルージュの言葉に疑念を抱いた。

 

「克服したって、無理でしょ?」

 

「そうね。克服というより弱点を無くしたって言うべきだったわ。それよりも悪いけれど中に入らせてくれる?」

 

「・・・・・いいわ。その話、後で聞かせてもらうから」

 

催促に応じて誠たちを城の中に招き入れ、案内役として導く。

 

「ところで、そこの吸血鬼って誰よ?」

 

「ツェペシュ派の吸血鬼たちよ」

 

「ああ、そう。私はアルクウェイド・ブリュンスタッド、アルトルージュ・ブリュンスタッドの妹よ。よろしくねー」

 

「よ、よろしくお願いしますっ。ギャスパー・ヴラディですっ」

 

「ヴァレリー・ツェペシュです。よろしくお願いします」

 

二人の自己紹介に尻目でヴァレリーに「あら、ツェペシュの王族の娘だったのね?」と意外そうに口から漏らした。

 

「一時、噂になってたわ。王族の姫がいなくなったって。大した騒動は起きはしなかったけれど」

 

「そうですか・・・・・。ところでこの城にいるのはあなた一人ですか」

 

「侍従が大勢いるぐらいよ。ああ、アルトルージュ。あなたのところの侍従も引き取ってあげているわよ」

 

「・・・・・よくそんなことできたわね。頼んだ覚えもないのだけれど」

 

「姉に貸し一つ作れるのなら安いもんよ」

 

それかっ、可愛くない妹だとアルトルージュは愚痴を漏らす。しかし、どこか喉に刺さった骨が取れたように安堵した表情が浮かべた。

 

「・・・・・ありがとう」

 

「・・・・・」

 

これもまた意外そうにアルトルージュを見ては面白い物を見たとばかり笑みを浮かべた。姉に一度も感謝されたことが無い身としては本当に姉の代わり様に興味を持つものである。アルクウェイドは一行をとある一室に案内した。豪華絢爛とは言えないが大勢の者が座れる席や晩餐に使用される物が設置されている。

案内したアルクウェイドは振り返って尋ねた。

 

「ここでいいー?私、物に対して興味なんてないし、食事は何時も一人だし、侍従以外お客さん用の部屋なんてないんだよねー」

 

「こ、ここで雑魚寝をしろと・・・・・?」

 

「嫌なら野宿して良いよ?他の吸血鬼に血を吸われちゃうけど」

 

ぞんざいな扱いにリアスは愕然とする。

 

「・・・・・吸血鬼って面倒くさがりだったか?」

 

「この子だけよ。必要な事、興味ある事、趣味以外どうでもいいって考えなのよ」

 

アザゼルの呟きを拾ってアルトルージュは答えた。アルクウェイドはリーラたちに言い続ける。

 

「お腹空いたりお風呂に入りたかったり、トイレに行きたかったら侍従のヒトに言ったりして聞いてね?んじゃ、アルトルージュ。色々と下界にいたあなたに聞きたいことが山ほどあるから全部教えてもらうわよ?」

 

子猫のようにひょいっとアルトルージュの服の襟を掴んでどこかへ連れ去っていった。

 

「あの吸血鬼は純血・・・・・だよな?」

 

「はい、ブリュンスタッドと言えば一応立場としては王の次に偉い純血の吸血鬼の名家です。私もお会いするのは初めてですが」

 

ヴァレリーの説明にそれでもあの態度と言動は高貴な吸血鬼とは思えない。協力するがそれ以上のことは自分たちでやれとばかりな感じであった。

 

「まぁ・・・・・こちらから頼んでいる身だ。これ以上要求すれば欲張りってもんだろう」

 

「そういうことだ。それに俺たちは吸血鬼たちからすれば他所者だ。大人しくしていれば何も問題は無いだろう」

 

「赤龍帝はどっかに行ったがな」

 

未だ戻ってこない誠輝の事を指摘するとリーラの手の甲に金色の宝玉が音声と共に点滅する。

 

『その事について少し伝えたいと思います』

 

「なんだ?」

 

『先ほどドライグにこの場所を伝えたところ、グレートレッドと出くわしたと興味深い事を教えてくれました』

 

「グレートレッド・・・・・一誠かっ!」

 

思い当たるドラゴンにアザゼルは舌を巻く。肯定とメリアは言い続ける。

 

『主によってドライグは破れ、どこかに意識を失って倒れているそうです』

 

「あんのバカ・・・・・何やってんだか。それで、ここに一誠がいるとなれば曹操ちゃんもいるだろうな。一誠はどこに行ったか分かるか?」

 

『詳しくは・・・・・ですが、ツェペシュの領土に向かったかと』

 

「間違いなく、リゼヴィムに接触する気でいるな。英雄派は同じテロリストであるリゼヴィムに敵対する意志を持っている・・・・・?」

 

どうしてなのか不明だが、一誠を抱えていることでリゼヴィムに敵対しなければいけない状況となる。

曹操たちは一誠の離反を恐れて・・・・・?そう考えているアザゼルの耳に呆れの声を発する誠。

 

「しゃーない。あのバカ息子を迎えに行ってくる。その間、アザゼルたちは今後の行動でも考えてくれ」

 

「わかった。連れ換えるまでには考えておく」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや・・・・・そうですか」

 

「んー?どーしたの?」

 

「英雄派、対テロ組織混成チームが同時にこの世界に現れたそうですよ」

 

「うひゃひゃひゃっ!意外と早く来たねー!まっ、やることはやったし、いいんじゃねー?」

 

「では、歓迎でもしますか?」

 

「だねー。あ、そういえば坊ちゃんのところにさ、面白い神器(セイクリッド・ギア)の能力を持っている人間いたよね。そいつ、攫ってこようぜぇ?」



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エピソード62

「良い潜伏地じゃないか。兵藤一誠、よく知っていたね」

 

「・・・・・不思議と懐かしかったから」

 

「目的の城と離れてはいるが目と鼻の先だろう。しかし、この城は誰もいなかったな」

 

「もぬけの殻もいいところだぜ。ただの石の要塞じゃねーか」

 

「それでいいだろう。他の吸血鬼たちがこの城に入ってくる様子も気配もない。

灯台の下暮らしとして良い場所だ」

 

とある城に侵入し、構造を把握し、曹操たちは一時の間をくつろぐ。壁に寄り掛かったり、

腰を下ろしたり、自分で調達した椅子に座ったりと曹操を中心に座る英雄派に

 

「状況の確認だ」

 

曹操が仕切った。

 

「この地に赤龍帝がいる事を確認した。ならば、必然的に対テロ組織混成チームもいるだろうな」

 

「目的は何だと思う?」

 

「分からないが、私たちかリゼヴィムのどちらか、あるいは両方じゃないか?」

 

「リゼヴィムがここで何をしているのか今でも不明だがな」

 

指で眼鏡をクイっと動かすゲオルクは一誠とリースにさりげなく視線を送る。

未だに大人しくしているが、何時飛び出してもおかしくない。闇雲に飛び出しても

意味がないと理解しているのか、

 

―――バキバキ

 

手の中に収まっているクルミを二つ丸ごと砕いている。しかもテーブルの上には大量のクルミっ!

早くリゼヴィムの前に現れて復讐をしたい想いをクルミで訴え、そして我慢しているのだろうか。

 

「曹操・・・・・」

 

「分かってる」

 

不安げなジークフリートに悟る曹操。あの大量のクルミが無くなればどうするのか分かったもんじゃない。

 

「一誠、ジッとしていられないなら頼んでいいか?」

 

「何を・・・・・?」

 

「赤龍帝たちの動向を探って欲しい。自ずとリゼヴィムの事に関する情報も聞けるはずだ」

 

「分身で?」

 

「いや、キミ自身でだ。赤龍帝たちに捕まっても困るからセカンド・オーフィスと一緒に行ってくれ」

 

「・・・・・分かった」

 

セカンド・オーフィスを引き連れ、一誠はこの場を後にした。

 

「恋も行きたかった」

 

「主力メンバーが私情で行かれても困るよ。戻ったら満足するまで一誠に甘えればいい」

 

「お前もそうなんだろう?」

 

「否定はしない」

 

ゲオルクのからかいが含んだ言葉に動揺しない曹操。当然だとばかり言う首領に

苦笑いを浮かべてしまう方だった。

 

「曹操、何時決行するんだ?」

 

「考えている。私たちは敵しかいないこの地にいる。リゼヴィムたちを攻撃していたら

対テロ組織混成チームに後ろから攻撃仕掛けられかねない。やるなら背後から奇襲だ」

 

「僕たちはその方が性に合っているからね」

 

「つーか、赤龍帝って今更警戒するほどか?大した活躍は聞かないぞ」

 

「活躍はせずとも能力は伝説、伝承通りだ。だが、ドラゴンにはドラゴンキラーを」

 

ジークフリートの一振りの剣に期待に満ちた視線を送る。

 

「だが、私たちにとって脅威的なのはやはりリゼヴィムだ。神器(セイクリッド・ギア)

無効化されるのだからこそ、呂綺とモルドレッド、リース、レオナルド、ジークフリート、

ゲオルクの存在が必要不可欠」

 

「ははははっ!俺と曹操じゃ無効化されちまうもんな」

 

「ヘラクレス、そこは笑う所ではないぞ」

 

穏やかなムードが場を包みだす。とてもテロリストとは思えない光景で・・・・・。

 

 

ぐぅ~・・・・・・

 

 

「・・・・・恋、お腹空いた。一誠の手料理食べたい」

 

『・・・・・これは大変だ』

 

腹ペコな仲間にさっそく英雄派にアクシデントが起きたのだった。

 

 

 

その頃、アルクウェイドの城を拠点としている一行はとある吸血鬼と出会っていた。

 

「初めましてアザゼル総督。私はエルメンヒルデ・カルンスタインと申します。

どうぞエルメとおよびください」

 

純血の吸血鬼でカーミラ派の最上位クラスの名家の吸血鬼が会合。

 

「エルメンヒルデ。急にどうした?ツェペシュ派に何か動きでもあったか?」

 

「それは今も変わらず沈黙しています。ここにツェペシュ派の吸血鬼がいると聞いたものでその者たちの顔を見に」

 

ヴァレリーとギャスパーを見やる。

 

「で、感想は?」

 

「特に何も。ところで、アルクウェイドは?」」

 

「あー、姉と一緒にいるぞ。どこにいるのか俺たちには分からん」

 

「そうですか。できればアルトルージュとはお会いしたかったのですが。彼女とは親しい柄なので」

 

そうか、と相槌を打って話を進める。

 

「ツェペシュ派に何が起きているか教えてくれないか?」

 

「吸血鬼の根底の価値観を崩す程の出来事が起きております。情報が流出しご存知かもしれませんけど」

 

「ああ、それに関してはこっちも把握している。だが、聞いただけで実際はどうなって

いるのかこの世界に来た俺たちにはまだ分かっちゃいないんだ。しかもツェペシュ派に

テロリストが紛れ込んでいる。これは相当とんでもない事件が起きるだろう」

 

「その事に関してはこちらも把握しております。我が派閥の吸血鬼の者の索敵で二つほど

察知しました」

 

二つ・・・・・?一誠ではないのかとアザゼルは疑念を抱いた。

 

「一つは赤い鎧を纏った、赤龍帝ですね。そしてもう一つは人型のドラゴン」

 

「あー、赤龍帝が迷惑を掛けたな」

 

「いえ、問題ございません。話を戻します。その人型ドラゴンは気配を忽然と消して以来、

索敵に引っ掛からなくなりました」

 

「そうか。だが、もっと多くいるはずだ。赤龍帝が巨大な真紅のドラゴンを見たと情報があるんでな」

 

「・・・・・それは真でしょうか?もしもそうであれば索敵に引っ掛からずどこかに身を潜んでいる可能性が高いですね」

 

エルメンヒルデは顎に手を添えて思考の海に飛び込んだ時、扉が開き誠輝を肩に担いだ誠が入ってきた。

 

「ただいま、ようやく見つけたぜ・・・ってエルメンヒルデちゃん。来ていたんだな」

 

「ええ、少しばかりお話を」

 

気絶している誠輝を無造作に放り投げ、アザゼルとエルメンヒルデに近づく。

 

「で、アザゼル。今後の俺たちの行動は?」

 

「ツェペシュ王と謁見する。そんで、リゼヴィムがいたらアイツが持っている聖杯を奪う方針だ。吸血鬼の事情は吸血鬼に解決してもらう」

 

「当然でございます。吸血鬼の事は吸血鬼が決着をつけますので」

 

言われるまでもないとエルメンヒルデはそう口にする。吸血鬼は他の勢力と線を引いて関係を保ち、人間を家畜として、生きる為の糧として襲い、生きる種族であると同時に吸血鬼は古より存在する闇の住人で冥界の住人である悪魔と価値観、文化は差違するところが多い。

 

「誠殿、一香殿。あなた方の子息は大変な事になっておりますね。風の噂でお聞きしました」

 

「あそこで気絶している赤龍帝の誠輝も俺たちの息子なんだがな。これがまー兄弟仲が悪くて悪くて」

 

「ずいぶんと愉快な双子ですね」

 

「仲が良かったらどれだけ嬉しい事やら」

 

二人揃って嘆くように嘆息する。一体どこで育て方を間違えたのかと今でも思い返す程だ。

一誠は自らテロリストとなっていまこの地に潜伏している。誠輝は力に固執して何も疑わない。

アザゼルは三人の会話のやり取りに、エルメンヒルデも幼い一誠と出会っていることを察した。

 

「さてと、メンバーも揃ったしツェペシュの領土に赴こうかね」

 

「アルトルージュを呼び戻さないと。一香、行ってくれるか?」

 

「分かったわ」

 

一香はこの場を後にし、誠は誠輝に近寄り―――。

 

「おい、何時まで寝ているんだ」

 

ドスッと横っ腹に一蹴り。とても自分の息子とは思えない扱い方だった。

 

 

 

「―――って、一誠から送られてくるリアル映像なんだがあの男、赤龍帝の息子にあんな扱い方をするなんてね。一誠との扱いとは比べ物にならないな」

 

大型の魔方陣に映る誠たちの言動の様子の映像。待つにしても暇なので動向を探っている

一誠に頼んで映像として送ってもらっている。そして、対テロ組織チームが動く事を分かり、

曹操たちも行動を開始しようとする。

 

「彼らがツェペシュの城に乗り込んで、騒動を起こしたら私たちも動こう」

 

「それまでこれを見て暇を潰すかー」

 

暇だぜーと呑気にヘラクレスが言った・・・・・その直後。

 

「んじゃ、お祖父ちゃんと一緒に遊ぼうぜ?」

 

「「「「「「「っ!?」」」」」」」

 

返ってくるはずのない言葉がブチ破られる扉と共に聞こえ、曹操たちは敵襲に瞬時で

備え構えた。

 

「うひゃひゃひゃっ!やーやー、英雄派の嬢ちゃんと坊ちゃんたちー。こんな所にいたんだねー?」

 

悪意に満ちた言葉と共に笑みを浮かべる中年の男性。悪魔や吸血鬼がわらわらと

部屋に入り込んで曹操たちを囲む。

 

「これはこれは・・・・・リゼヴィム殿。私たちに何か御用で?」

 

「んーとね。ちょっとしたお祭りをしたいからさ。その子供を貸してくんなーい?」

 

「レオナルド・・・・・?・・・・・魔獣を産み出す為か」

 

「ピンポーン!なんだか賑やかになってきたじゃない?色んなヒトが来てさぁ?だから、その人たちの為に俺は歓迎パーティをしたいのよ!終わったらちゃんと返すからいいでしょ?っておんやぁ?」

 

リゼヴィムがリースを見て意味深な笑みを浮かべて手を振った。

 

「あん時の元王女さまじゃん!なんだなんだ、俺と同じテロリストになっちゃったんだねー!なんだか元王女様と赤い糸に結ばれている感じでドキドキしちゃう!」

 

「ふざけたことを・・・・・っ!よくもノコノコと私の前に・・・・・!」

 

「あっ、俺に攻撃しない方が良いぜ?俺はVIP扱いされているからツェペシュ王の兵隊さんが俺を守ろうとするから」

 

「関係ない。ここでお前を倒して復讐を果たすっ!」

 

ブリューナクを構え、突貫しようしたリースの前に魔方陣が発現した。

 

「曹操。悪いが呼び戻させた。流石にこの状況では分が悪い」

 

「仕方がないな」

 

ゲオルクの独断で―――一誠とセカンド・オーフィスがこの場に召喚された。

 

「リゼヴィム・・・・・」

 

「うひゃひゃひゃっ!おっひさー坊ちゃん!元気にテロってますかー?」

 

「よくもノコノコと俺の前に現れたな・・・・・」

 

「うはっ!そこの元王女様と同じこと言っちゃってるよ坊ちゃん。愛だねこれは!アイラブユーっ!」

 

両手でハートの形に象ってはしゃぐリゼヴィムに一誠とリースはますます敵意と殺意を強める。

ようやく、ようやく出会えた二人の目的の人物。この場で殺せれたらどれだけ爽快な気分となるか、

全身から迸らせる魔力を最大に潜伏している城を激しく震わせる。

 

 

 

「―――っ!?」

 

一香がオーフィスと誰よりも敏感に感じ取った。現在、カーミラ派が確保したツェペシュ城下町に続くゴンドラの前に立っていた。

 

「これは・・・・・一誠の魔力」

 

「ん、イッセー。怒ってる」

 

「なんだと、本当か」

 

「本当よ。この魔力の質、一誠よ。・・・・・怒ってる。まさか、リゼヴィムと接触してしまった?だとするとマズいわ」

 

悠長にゴンドラで行くよりも独自で作ったツェペシュ城下町に転移する魔方陣で行く事に切り替えた。

そして見送りに来ていたエルメンヒルデに告げる。

 

「エルメちゃん。直ぐにツェペシュの城下町にいるであろうカーミラ派の吸血鬼たちに伝えて、吸血鬼の世界が滅んでしまいかねない騒動が起きるわ」

 

一香から告げられる言葉に目を丸くするが真摯な面持ちとなって冷静に尋ねると、こう返された。

 

「信じてもらえないだろうけれどこれは判断するあなた次第。聖杯の誘惑に負けた吸血鬼たちが邪龍と化して敵味方も関係なく町を襲いかかるわ。ツェペシュ派もカーミラ派もどちらも」

 

「―――っ!?」

 

「だから、城下町にいる市民の吸血鬼たちの非難の誘導をしてちょうだい」

 

転移用魔方陣の光に包まれ、光が弾ければ一香たちはエルメンヒルデの前からいなくなった。

残されたエルメンヒルデは考え込む。しかし、もしも本当ならばとんでもない事態となる。

側にいた吸血鬼たちに告げた。

 

「他の者たちも伝えて市民の避難誘導を!急ぎなさい!そしてカーミラ派にいる裏切り者を探し出す!」

 

「「「はっ!」」」

 

―――○●○―――

 

英雄派とリゼヴィムたちとの一戦が始まってしまった。狙いはレオナルドの『魔獣創造(アナインアレイション・メーカー)』。レオナルド本人も抵抗し、一誠たちもリゼヴィムに対して交戦する。

怒りで迸らせた魔力が潜伏地である城を崩壊させて一時混戦状態となった。

 

「倒す!」

 

「殺す!」

 

「おおう、俺っちは人気者だね!アイドルは逃げちゃう!」

 

漆黒の六対十二枚の翼を生やし、上空へ飛翔するリゼヴィムを一誠とリースは曹操の制止を無視して飛び出してしまう。

 

「曹操、あっちはあっちで任せた方がいい。厄介な悪魔がいなくなってこっちは能力を制限されずに済んだからね」

 

「つーか、多いな悪魔と吸血鬼!」

 

「ぼやくな!」

 

「戦い甲斐があると言うものだよ」

 

「倒す」

 

「ん、早く倒す」

 

ジークフリートたちは禁手化(バランス・ブレイク)と化し、臨戦態勢に入る。(何故かモルドレッドの前にエクスカリバー)。

 

「あいつ・・・・・本当に奪って欲しいのか分からん」

 

それでも好意を無化にしないモルドレッド。後で返すと何時も通りなことを考え柄を握って前に構える。

 

「ふっ。たったの数人でこの数を相手にできると思っているのか」

 

「無謀な事を。無駄な事を考える浅はかな人間たちだな」

 

二つの魔方陣が出現し、曹操たちの前に二人の悪魔―――シャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウス。

 

「おーおー、頭でっかちの魔王の親族じゃねーの」

 

「僕たちを甘く見ない方が良いよ」

 

ヘラクレスとジークフリートは現れた悪魔に対して挑発する。

 

「ふん、それはこちらの台詞だ。我らも前魔王より強い力を得ているのだからな」

 

「どうせセカンド・オーフィスの『蛇』だろ?」

 

「それだけではない。今回はこちらもドラゴンを用意した。貴様ら人間が英雄と名乗れるほどの実力があれば―――倒せることも容易であろう?」

 

上空に展開する龍門(ドラゴン・ゲート)が二つ。魔方陣の光が最大に強まり弾けたその時、獣のような咆哮を発する二匹のドラゴンが顕現した。

 

『チィッ!んだ、あのイレギュラーなドラゴンはいねーのかよ!』

 

『上にいるぞグレンデル。リゼヴィムの野郎を追い掛けていっている』

 

顕現した同時につまらなげに発する浅黒い肌の人型ドラゴンの『大罪の暴龍(クリアム・フォース・ドラゴン)』グレンデル。濃霧に包まれている世界の上空に紫の双眸を向け言うのは、入り乱れた神々しさと禍々しいオーラが纏う頭部に二本角とニ対の巨大な翼を生やし、白と黒の紋様みたいな模様が全身に広がり、尾が二尾なドラゴン―――『天の邪龍』アリュウ。

 

「さぁ、邪龍たち。目の前の人間を蹂躙せよ!」

 

「お前たちの力を存分に―――!」

 

『誰がテメーらの言う事なんざ聞くかよ。俺はあのイレギュラードラゴンと戦うって決めてんだからよ!』

 

間髪入れずに拒否され、グレンデルが一誠の方へ向かってしまった。『同じく』とアリュウまでもグレンデルに続いて空へ飛翔した。意気揚々と二匹のドラゴンに命令した二人の悪魔が拒まれてしまった事実に

 

「・・・・・ねぇ曹操、笑っていい?僕、堪え切れないんだけど・・・・・くくっ」

 

「支配し切れていない姿を見せられては何とも言えないぞシャルバ、クルゼレイ」

 

「だっはっはっは!だ、だっせぇー!」

 

英雄派が嘲笑する切っ掛けを与えてしまったのだった。

 

「お、おのれ・・・・・っ!」

 

「よくも恥を掻かせてくれたなっ!」

 

「「「いや、お前らが勝手に恥を掻いただろう」」」

 

「「同感だ」」

 

「「・・・・・」」

 

上空から聞こえる轟きの下にいる曹操たち。何とも形容し難い雰囲気となったが、やることは変わりない両者。

 

「あの人間のガキを捕まえろ!」

 

「計画とは違うが人間の敵を倒すぞ」

 

 

 

一香の転移魔法で直接ツェペシュ城下町に侵入した面々の目と耳に飛び込んでくるのは阿鼻叫喚。

上を見上げれば真紅の巨大なドラゴンが二匹のドラゴンと戦っていたり、耳を傾ければどこか戦場と化している音が聞こえる。

 

「グレンデルとアリュウ、久しい」

 

「これはまた意外な場所で再会するな」

 

最強のドラゴン組がアリュウを見て呟くとアザゼルが指摘した。

 

「クロウ・クルワッハ、一誠のところに行ってグレンデルとアリュウを撃退してくれ。その後は一誠だ。地上にたたき落とせ」

 

「言われるまでもないさ。久々に強いドラゴンと戦えるのだからな」

 

漆黒の翼を生やし、物凄い勢いで空を飛翔する様子を見届け、アザゼルたちは戦場と化している場所へ駆けだすと―――。

 

「―――英雄派と・・・・・シャルバとクルゼレイに吸血鬼どもだと?」

 

「争っているな。味方同士ではないのか?」

 

「テロリストは一枚岩じゃないってことだ。まぁ、一方的に英雄派が優先しているがな」

 

「アザゼル、私たちはどうすればいいの?リゼヴィムから聖杯を奪わないといけないでしょ?」

 

「そのリゼヴィムは上空にいるわよ」

 

と、一香が告げるとまたしても誠輝が空へ飛びだした。

 

「あいつ、リゼヴィムになんてバカにされたんだ?」

 

執着心凄いだろうと呆れを通り越して感心するアザゼル。

 

「まあいい。俺たちは町の住民の避難の誘導と目の前の敵を打破に専念だ。二手に分かれんぞ」

 

「東門に地下シェルターがある。そこを避難所にしよう」

 

「私と誠が率先して住民を避難させるから他の皆もそうして」

 

一香と誠は二手に分かれてどこかに行ってしまったことでリアスたちも行動を開始する。

 

「イッセーはどうする?」

 

「空にいるんじゃ、お前らみたいな翼を持つ者や魔力を持ってるやつじゃきゃいけない。クロウ・クルワッハに任せておけ」

 

「・・・・・分かったわ」

 

リアスたちは英雄派と悪魔、吸血鬼の混戦に飛び込む―――。

 

 

 

『グハハハハァッ!久し振りだなぁイレギュラードラゴンっ!』

 

『俺のことあの時の約束を覚えているか?―――さぁ、あの時の続きをヤろう!』

 

二匹のドラゴンが一誠に迫り掛かる。対して一誠は目の前のリゼヴィムに集中したいが為にグレンデルとアリュウに横やりで邪魔されては堪ったものではない。一度、龍化したものの改めて人の形に戻って―――。数多の分身体を増やしては全部龍化にさせてグレンデルとアリュウに当てた。

 

『うほっ!グレートレッドがたくさん!』

 

『相手が困らないな』

 

嬉々として受け入れ、自ら真紅の龍の軍団に飛び込んだ。それを見届け、リースが必死に槍を振って倒そうとしているリゼヴィムに攻撃をしようとした次の瞬間。真下から赤い鎧が上昇してくるのを確認した。

リースに接近してリゼヴィムから離すと赤い鎧がリゼヴィムとぶつかり―――鎧が光と化となって消失し、中身の人間が地上に逆戻り。

 

「あれはなに?」

 

「知らない」

 

その人間に対してリゼヴィムが笑いながら巨大な魔力弾を放って攻撃。その攻撃を間一髪鎧を再び纏うことで難を逃れた。―――誠輝は何かに駆られているかのようにそれから何度も何度も殴り掛かり、蹴り掛かり、魔力で攻撃を仕掛けたりしていたのだが、

 

「あー、何度も俺に攻撃したって臆病なチミの攻撃は効かないんだけどぉ~?」

 

リゼヴィムは欠伸をしながら誠輝の攻撃を無効化にし、赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を解除する。それでも誠輝が攻撃の手を止めない事で次第に苛立ちと億劫そうな面持ちとなり、

 

「んっもう、元王女と坊ちゃんの相手をしたいからチミは退場!」

 

鎧を解除し、すかさず刃化した翼で誠輝を切り刻んだ。

 

「うひゃひゃひゃっ!じゃーねー!」

 

 

 

ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう・・・・・っ!

 

「何で、何で俺の攻撃が通用しないんだぁっ!」

 

『リゼヴィムが相棒の攻撃を無効化している。それを何度も体験しているのに分からないとは言わさないぞ』

 

「ドライグ、テメェ、天龍なんだろうが悪魔ごときにやられるほど弱くないんだろうっ!」

 

『古の戦争で神器(セイクリッド・ギア)として魂を封印された俺は宿主に力を貸し与えるだけだ。弱いのは宿主の相棒たるお前の実力不足だ』

 

「お前が俺に天龍の力を全て寄こさないからだろうが!」

 

『無理言うな』

 

何度目かの鎧を装着し、誠輝は上を見る。リゼヴィムは楽しげに動いて一誠とリースと戦っている。

リースはドラゴンで神器(セイクリッド・ギア)の所有者ではない為、伝説の武器であるブリューナクで戦っていて、一誠はドラゴンの翼を生やし、伝説の武器であるフラガラッハでリゼヴィムに斬り掛かっていた。

 

『見ろ相棒。何も赤龍帝としての力だけじゃ戦いじゃないんだ。相手の特性を把握しそれに対応する戦い方をまだ兵藤一誠は分かっている』

 

「・・・・・っ」

 

『相棒が鎧を纏い攻撃を止めない限り、リゼヴィムには一切届かんよ』

 

呆れも侮辱も嘲りも含んだ声音ではなく淡々と現実を突き付けるドライグ。

 

 

 

「今度こそ、あなたたちを見逃しません!」

 

「ちっ、次から次へと・・・・・」

 

舌打ちし、ルーラーに攻撃の矛を構えてエクスカリバーを振るった刹那。

 

ガッキィィイイイイイインッ!

 

たったの一合でモルドレッドはルーラーの実力を理解した。

以前剣戟し合った時より段違いの強さを剣に籠っていた。―――確実に自分より強くなっている。

 

「・・・・・この短期間でどんな修行をしてきたというんだっ」

 

「地獄を体験したほどです!」

 

「訳の分からない事を。オレは負けるわけにはいかないんだっ!」

 

 

「くっ、この吸血鬼野郎っ・・・・・!」

 

「邪眼か・・・・・っ!」

 

「ぼ、僕だってグレモリーの男子なんだっ!」

 

ヘラクレスとジークフリートはギャスパーの赤く妖しく煌めく邪眼により身体を停止されていた。

 

「ちくしょう、曹操とゲオルクはどうしたっ」

 

「今回は本気のようだよ。ゲオルクが苦戦しているなんてね・・・・・!」

 

ジークフリートが見る先に一香と和樹のコンビネーションによる魔法攻撃でゲオルクが防戦一方に強いられている。曹操は誠、オーフィスはセカンド・オーフィス、残りのレオナルドは―――。

 

「捕えたわよ」

 

リアルの滅びの魔力が具現化した巨大な手の中に。その気になれば滅びの魔力の中でレオナルドを消滅させることができる。そうならない為に下手な動きができない。吸血鬼と悪魔はアカメやエスデスと手が空いている面々が相手をしている。

 

「残るのは上にいる兵藤一誠とリースだけってか」

 

「リゼヴィムが上に行ったからね。僕たちの事気付いていないよきっと」

 

と、そう口にしたその時だった。上空から赤い物体が落下してきて墜落と同時に大きな揺れを発生させたのだった。その揺れにギャスパーが停止していた二人から目を離してしまい、ここぞとばかりギャスパーの視界から隠れた。

 

「兵藤一誠が落ちてきた?いや、そのおかげで助かった」

 

「よーやく自由の身になれたぜ」

 

ゆっくりと動く赤い物体こと一誠の全身はダメージを負っていた。真紅よりも濃厚な色の深紅の液体を身体中に流し、壮大な翼がボロボロだった。そんな仲間を見てヘラクレスが尋ねた。

 

「おい、大丈夫かよ」

 

『・・・・・やり辛い。リゼヴィムどころじゃない。クロウ・クルワッハが邪魔立てする』

 

「最強の邪龍にまで目を付けられていたのか。納得だよ」

 

『そっちは大丈夫・・・・・?』

 

「今回はヤバいよ。何故か知らないけど皆本気だ」

 

苦笑を浮かべるジークフリートの視界にアカメが映り込んだ。

 

「当然だ。皆、本気で戦いに来ているのだからな」

 

「僕たちとしては大いに迷惑だよ。今回はリゼヴィムたちと戦う予定だったのにさ」

 

「私の目標は英雄派とリゼヴィム。そして兵藤一誠だ」

 

腰に差していた銃を手にして一誠に向かって突き付けた。それにはヘラクレスが嘲笑の笑みを浮かべる。

 

「はっ!んなチャチな物で兵藤一誠がどうなるってんだよ!」

 

「これは―――他の者にはできない。私しかできない事だ」

 

『・・・・・?』

 

「最初に謝っておく。すまない」

 

引き金に掛けている指に力を込め、そして―――黒い銃口から黒い弾丸が放たれた。弾丸は大気を貫き、真っ直ぐ巨大な金色の眼に吸い込まれて・・・・・一誠にとっては蚊に刺された感じで眼に異物感を覚えた。

 

『・・・・・なんだ?』

 

ゴシゴシと眼を擦る。

 

「へっ!たかが銃なんかでこいつが―――」

 

ヘラクレスがアカメに嘲笑い、一誠を自慢げに発しようとしたが、ジークフリートは驚きで目を丸くしていた。

擦っているうちに一誠の身体に異変が起きていたのだ。

 

ごぼっ・・・・・。

 

一誠は口から何かを吐きだす。―――血の塊だった。

 

『ぐはっ!』

 

吐きだした途端に苦しみだして、膝を突く。その身体は既に震えに震えていた。

地面に四つ這いになりもう一度、血の塊を盛大に吐いたところで曹操たちは一誠の異変に我を返る。

 

「一誠!?」

 

「お、おい!?どうしたってんだお前っ!?」

 

敵に背中を向け、一誠に駆け寄る英雄派。

 

『こ、これは・・・・・・グオオオオオオアアアアアアアアッ!!!!!』

 

いま、一誠の身体中に形容し難い激痛が襲っている。全身の神経を破壊し、浸食していく何かを感じながらも

自分を苛む激痛に堪え切れず、敵味方など見境なしに暴れまわりツェペシュ城下町にまで被害をもたらす。

一誠の異変にジークフリートはアカメに目を細めて問いだたす。

 

「アカメ、さっきの銃弾はなんだったんだい。あの銃弾が原因だよね」

 

グラムを構え、戦意の炎を瞳に滾らす。あの一誠が血反吐を吐くような様子は見たことがない。

アカメが放った銃弾が原因だと悟り、アカメはジークフリートの問いかけにこう答えた。

 

「毒だ」

 

「毒・・・・・?」

 

「―――サマエルとか言うドラゴンに効く毒だそうだ」

 

「「「「「―――っ!?」」」」」

 

曹操、ジークフリート、ゲオルク、ヘラクレス、モルドレッドが目玉が飛び出んばかりにアカメの口から出た毒の正体に絶句し、愕然とする。

 

「バカなっ。あれは我々しか保有していない代物だぞ!?どうしてお前たちがサマエルの血を持っているのだ!」

 

ゲオルクが信じられないと叫ぶ。

 

「しかも、サマエルの呪いを知らないはずがない。―――兵藤一誠はその呪いを食らって一度死んだのだぞ。お前たちは兵藤一誠を殺す気なのか?」

 

「私たちはどんな手を使ってでも兵藤一誠を奪還すると決めた。コレは最後の手段だ」

 

ガチャと銃を見せびらかしつつ一誠に赤い目を向けた。暴れ回る事を止め、その場で蹲って激痛に唸る真紅のドラゴンをリースが上空から降りて来て必死になって声を荒げながらも話しかけ続けた。

そんなアカメに曹操は非難する。アカメだけじゃなく対テロ組織混成チームに。

 

「人の事は言えないが・・・・・お前たちは狂っているな。愛おしい男に究極の毒と呪いを盛るなど。兵藤誠さん、兵藤一香さん。自分の息子があんなに苦しんでいるのに何とも思わないのですか?あなた方ならもっと他に手段があり、一誠を私たちから奪うことができたはずです」

 

曹操の厳しい目を真正面から受け止め、二人は返す。

 

「否定はしないわ。だけど、これも手段の一つなのよ。戦いってものは時に残酷な事もある」

 

「呪いが全身に回る前にこの場から連れて行くだけだ」

 

と、誠がそう言うが―――そうは問屋が卸せなかった。

 

「ありゃりゃ?なんだか坊ちゃんが苦しそうだねぇ?大丈夫ー?」

 

上空からリゼヴィムとグレンデル、アリュウが舞い降りてきた。

 

「あっ、坊ちゃんのパパンとママン!おっひさー!すんごい久し振りだよー!」

 

「よー、リゼヴィム。なんだか悪戯をしているそうじゃないか。そろそろ悪戯を止めて冥界に帰る気は無いか?」

 

「うひゃひゃひゃっ!まだまだ帰るつもりもないってばよ!というか、俺は異世界に行ってみたいんだよおっちゃん!」

 

「異世界に行ける方法を見つけたのか?」

 

「当然でしょ!でも、それにはグレートレッドが邪魔だ。あのおっきな赤いドラゴンをどうにかしなくちゃいけないんだけどさそこはもう大丈夫!もうその方法も見つけて今絶賛奮闘中なんだよ!」

 

意味深なことを言いだすリゼヴィム。グレートレッドをどうにかする方法とは一体何なのか、リゼヴィム以外の全員が怪訝な気持ちを抱いた。

 

「どういうことだ。グレートレッドを倒す方法なんてそんなあるはずが―――」

 

「同じ黙示録に登場する獣ならどうよアザゼルのおっちゃん?」

 

「―――っ!?」

 

アザゼルの顔が青く染まった。

 

「あれは存在の可能性があるだけでどこにいるのかも未だ各勢力で議論の最中だったはずだ!」

 

否定したい気分にはいられなかった。しかし、リゼヴィムは優越感が浸っている笑みを浮かべ、明かした。

 

「んーふふふ、それがねぇ。いたのよ。―――坊ちゃんの聖杯を使って生命の理に潜った結果、俺たちはついに忘れ去られた世界の果てで見つけちゃったのよねー。だがねぇ、どうにも先にあの黙示録の獣を見つけて、かたーく封印施した方がいたんだなぁ、誰だと思う?ねぇねぇ、誰だと思うよ?」

 

リゼヴィムは亜空間から聖杯を出してそれに投げキスをしながら言った。

 

「―――聖書の神さまさ。あんの神さまは凄いね。俺らよりも先に見つけてそいつを何千という封印術式で封じちゃっていたんだよねぇ。しかも凶悪かつ禁止級の封印術式がわんさか掛けてあったんだぜぇ?」

 

その衝撃の事実に誰もが言葉を呑んだ。

 

「俺らはあの獣を復活させて、グレートレッドを撃破、撃滅、撃退させちまったら、復活邪龍くん軍団と黙示録の獣を引き連れて異世界に殴り込みかけんのよ!あっちの世界も神々、魔物、生物共を一切合切、蹂躙、全滅しまくって俺だけのユートピアを作るつっつーわけだッ!うひゃひゃひゃひゃひゃひゃッッ!」

 

嫌な笑いをあげるリゼヴィム。愉悦に包まれる笑みで続ける。

 

「んー、想像するだけでイッちまいそうになるよなぁ。あっちの神話によ、こう刻まれるかもしれないんだぜ?『異世界より来たりし邪悪なる存在は、強大な獣と、邪龍の群れを引き連れ、この世界に災いをもたらした―――』とかよッ!どーせ、こっちの世界じゃ俺はただの前魔王ルシファーの血を引く者に過ぎねぇだろうよ。けどよっ!異世界じゃ唯一無敵の大魔王ルシファーさまになれっかもしれねぇじゃん!?」

 

「まさか、私の国を、町を、大切な家族を殺したのはその為・・・・・・?」

 

リースが大きく目を見開いた状態で放心気味に言った。リゼヴィムは元王女の言葉を耳にして

心底愉快に口の端を吊り上げて笑った。

 

「そうそう、その通りだぜ元王女さま!それにほら、決め台詞、決めポーズって大事だろう?異世界に侵略し最初に壊した、滅ぼした、蹂躙した大きな国家や勢力の暁に俺さまの名を異世界の全世界に知らしめるためにはどーしても必要な事!だ・か・ら!どこでもいいから適当な国でその練習をしたってことさ!」

 

「―――っ!?」

 

ガクリと足の力を無くなって地面に座り込み、そんな理由で大切な物を全て奪われたとリースの心に大きなショックを与えられた。

 

「彼女・・・・・もしかしてあの国の生き残り・・・・・?」

 

「話からすればそう考えるのが妥当だな。一誠と同じ理由で・・・・・。―――っ!?」

 

『リゼヴィム・・・・・ッ!』

 

毒と呪いで瀕死の重体になっている一誠が隻眼となった目でリゼヴィムに巨大な拳を振り上げていた。

 

「およよ?坊ちゃん、結構苦しそうなのにお祖父ちゃんに構ってくれるなんて嬉しいね!でもよ?もうそんな状態の坊ちゃんと遊ぶ気は失せたわ」

 

巨大な魔力の玉を放って一誠を一蹴する。

 

「うひゃひゃひゃっ!サマエルの毒つったか?とんでもないもんを使うね!可愛さ十倍憎さ千倍ってことかなぁ?英雄派もそれを使って坊ちゃんを殺したんだから皆、坊ちゃんのこと好きじゃないんだね!うひゃひゃひゃっ!」

 

「黙れっ!」と怒声があがる。しかし、リゼヴィム何か閃いたのか、ポンッ!と両手を叩いた。

 

「そうだ、良い事思い付いた!坊ちゃんを洗脳している曹操の嬢ちゃんたちのように俺も坊ちゃんを洗脳しちゃおう!黙示録の獣と一緒に坊ちゃんもグレートレッドと戦わせちゃって一緒に異世界侵略の戦力にしちゃえばいいんだ!あったまいいー!」

 

『―――っ!?』

 

とんでもない事を言いだすリゼヴィムを絶句する一同。同時に―――。

 

「きゃっ!?」

 

リアスが悲鳴をあげた。誰もが振り返りその目で確認すると、地面にひれ伏しているリアスと

 

「リゼヴィムさま。捕えましたぞ」

 

「レオナルド!」

 

シャルバの腕の中のレオナルド。転移魔方陣でクルゼレイと共にリゼヴィムの横に現れる。

 

「お疲れさん。さてさーて?さっそくすんごい魔獣を作ってもらおうじゃないの」

 

魔方陣がリゼヴィムの手によって展開し、側に浮かせた聖杯と一緒にレオナルドに突き付けた。魔方陣の悪魔文字が高速で動き聖杯が光り輝いた途端にレオナルドが叫んだ。

 

「うわぁぁぁぁぁあああああああああああああああっ!」

 

絶叫を張り上げて、苦悶の表情を浮かべた。それと同時にレオナルドの影が広がっていき、ツェペシュ城下町を覆うほどの規模となっていく。

 

「止めろっ!兵藤一誠との修行を末に成長したとしてもいきなり所有者のキャパシティを超える事をすればレオナルドの身に危険が起きる!」

 

ゲオルクの制止の叫びにも耳に傾けず、寧ろ楽しげにリゼヴィムは言う。

 

「うひゃひゃひゃっ!そーら、世界に混沌を、恐怖を、絶望を、ありとあらゆる全ての存在を滅ぼす魔獣を作ってもらおうじゃないの!これが異世界に侵略する第一歩の始まりだぜぃっ!」

 

ズオォォォォォォ・・・・・。

 

レオナルドの影から何かが生み出されていく。影を大きく波立たせて、巨大な物が頭部から姿を現していく。

―――規格外の頭部。大き過ぎる胴体、極太の腕、それらを支える圧倒的な脚。

ツェペシュ城下町を埋め尽くす程に広がったレオナルドの影から生み出されたのは―――。

 

『ガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!』

 

鼓膜が張り裂けそうなほどの声量で咆哮を上げる―――全長六百メートルの常闇のドラゴンだった。

英雄派、対テロ組織混成チームの一同はその巨大な化け物に目を丸くし、絶句した。

 

「うひゃひゃひゃひゃっ!最っ高ぉぉぉぉおおおおおおおおっ!これだよこれ!俺が欲しかった異世界侵略の為に是非とも連れて行きたい邪龍くんだよ!さーて、今度はもっと邪龍くんを増やそうじゃん!」

 

パチンと指を弾いた。

 

「―――まさかっ!」

 

アザゼルが顔を青ざめた。同時に頭の中である言葉が過ぎった。

 

 

―――男尊派のツェペシュと女尊派のカーミラに災いが起きた―――

 

 

「リゼヴィム・・・・・本当にツェペシュ派とカーミラ派の吸血鬼たちを量産型邪龍にしたって言うのか!?」

 

「んー?どうしてアザゼルのおっちゃんがそんなこと知ってるんだぁ?」

 

不思議そうにそう言いつつ首を傾げた。それはアザゼルの言葉は肯定であるとリゼヴィムが認めたのだった。

それと同時に町中から禍々しいオーラを解き放ち、飛び回り始める黒いドラゴンたちが出現し始めた。

 

「・・・・・異世界の兵藤一誠の言っていたことが本当になっちまったな・・・・・っ!」

 

険しい表情で異世界の兵藤一誠の言葉を思い返し、運命を変えることができず悔しい思いで胸が一杯になった。

 

「そんじゃ、後は坊ちゃんを手に入れるだけだね!邪龍くん!あの赤いドラゴンを捕まえちゃって!」

 

リゼヴィムの指示に従う常闇のドラゴン。巨大な魔の手を伸ばし、一誠を鹵獲しようとする。

 

「させんっ!」

 

常闇の邪龍の周囲の地面から巨大な氷柱が。それはあっさりと常闇の邪龍の身体に突き刺さったが、貫かれても平然と一誠に手を伸ばす。

 

「ならば、氷れ!」

 

エスデスは攻撃を変えて、一瞬にして氷の牢獄の中に閉じ込めた。すかさず、誠がその氷に向かって拳を突き付け、常闇の邪龍ごと氷を粉砕した。

 

「これで二度と復活はでき―――」

 

できないと言い掛けた誠の視界に黒い靄が一ヵ所に集い始め、光が弾けた瞬間にリゼヴィムの常闇の邪龍が元の姿に顕現した。

 

「うひゃひゃひゃっ!俺がただの邪龍を作ったんじゃねーぜ?―――この世の負と悪を吸収して復活する最強の邪龍くんだ!聖杯の力も加わっているから尚更強いぜ!」

 

「なら、我が倒す」

 

オーフィスが手元を光らし、常闇の邪龍を完全に呑みこむほどの極太の魔力砲を放つ。

量産型邪龍になった成れの果ての吸血鬼たちがその余波で消し飛ぶほどの威力は濃霧の結界をぶち破り、

隔離していた世界にぽっかりと巨大な穴が開いた。しかし―――オーフィスの一撃でもリゼヴィムが言うこの世の負と悪意を吸収して常闇の邪龍は復活を果たす。

 

「んーふふふっ!どーやらオーフィスでも勝てない相手みたいだねー。逆も然りだけどさ」

 

「なんてもんを創造しやがったんだ・・・・・っ!」

 

「この世界の負と悪いを吸収して復活するんじゃあ、魂を削っても復活されちゃうんじゃ・・・・・・」

 

「勝てない・・・・・こればかりは流石に・・・・・」

 

誰もが目の前の不死のドラゴンに戦慄し畏怖の念を抱いた。どうやって倒し、勝てばいいのだろうと―――。

 

「ではでは、この邪龍くんの一撃を見て体験してもらおうじゃないか!」

 

もう一度指を弾いたリゼヴィムに呼応して常闇の邪龍は妖しく目を煌めかした。

顎が外れんばかりの大きく口を開けて―――オーフィスの放った攻撃の二倍以上の大きな黒い魔力が天を穿つと彷彿させるよう天に向かって放ったのだった。その魔力は二手に分かれるだけじゃなく、枝分かれし始め、ツェペシュ城下町だけじゃなく、彼方の方へ、カーミラ城下町へと飛来し―――。

 

ドドドドドドドドオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

リゼヴィムの笑い声と共に常闇の邪龍の魔力の雨が降り注ぐ―――!

 

―――○●○―――

 

辺りは廃墟と化した。建物らしい建物は横たわっている一誠以外は無く、常闇の邪龍の力が示された。

 

「皆、大丈夫?」

 

一香が筆頭に防御魔方陣を張っていてくれたおかげで味方に被る被害は皆無に。

しかし、ヴァレリー、アルトルージュ、ギャスパーにしてみれば、生まれ育った故郷の惨状と凄惨にただ呆然と立ち尽くす。

 

「くそったれっ!あの邪龍は危険極まりない!」

 

「ああ、殺しても死なない相手はとても厄介だ。邪龍の筆頭格と数えてもいいぐらいだぞ?」

 

「倒すことができないなら封印するしかないわ。でも、いまの私たちにその手段が・・・・・」

 

常闇の邪龍の前になす術もないと漏らす。そして、英雄派たちは・・・・・。

 

『リ・・・・ゼ・・・・・ヴィ・・・・ム・・・・・がはっ!』

 

血反吐を吐きながらも曹操たちの近くでゆっくりと起き上がる。全身は常闇の邪龍の攻撃でボロボロの上にサマエルの呪いと毒で瀕死の重体。それでも記憶を封印されてもリゼヴィムに対する感情だけは満身創痍だろうがなんだろうが目の前に入る復讐する相手を見逃すことはできないという執念によって一誠を突き動かす。

 

「動かないで!あなたはとても戦える状態じゃない!」

 

「ダメ・・・・・!」

 

「動くな!更に毒が全身を回っちまう!」

 

リース、呂綺、モルドレッドが制しても一誠は常闇の邪龍と対峙する。その様子と光景にアザゼルたちは苦虫を噛み潰したような表情となる。

 

「曹操、どうする。アレはドラゴンのように見えるがレオナルドの能力で創造した魔獣だ。試しにジークフリートのグラムで攻撃してもらおうか?」

 

「いや、その必要は無い。私たちは撤退する。一誠の命を優先だ」

 

「・・・・・そうだな」

 

サマエルの毒と呪いで瀕死の重体にも拘らず身を呈して守ってくれた赤いドラゴンと共々、魔方陣の光に包まれ出す。

 

「待ちなさい!」

 

「そーだぜ?もうちょっとお祖父ちゃんと構って欲しいって」

 

リアスの制止に笑みを浮かべリゼヴィムも同意した。しかし、曹操たちは魔方陣の光と共に弾けて姿を消した。

 

「あーりゃりゃ、逃げられちった」

 

刹那。上空から伸びてきた赤い極太の光に呑みこまれたリゼヴィムを誰もが目を丸くした。

魔力の波動を察してアザゼルは上空に目を向けた途端、焦りの色を浮かべ出した。

 

「マジか・・・・・っ!?」

 

「え・・・・・?」

 

「あいつ―――覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)を発動しやがった!」

 

舞い降りてくる赤い物体。それは―――赤いドラゴンだった。どこか赤龍帝を彷彿させるが、

姿形は大きく変わっていた。理性を窺わせない緑の瞳。人間サイズだった大きさは一回りも二回りも大きくなって

鋭く鋭利な爪と牙を生やし、身体の大きさに相応な尻尾、赤い龍と化した誠輝がアザゼルたちの前に変貌した姿で舞い戻って来たのだった。

 

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

強制的に力を解放する意味を指す覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)。理性と知性を失って命を削る名高く強力なドラゴンを宿す神器(セイクリッド・ギア)しか発動しない諸刃の剣。赤龍帝は目の前に映る者が全て敵であるように獣染みた咆哮を上げた。攻撃を受けたリゼヴィムは―――漆黒の十二枚の翼で赤龍帝の攻撃を完全に防ぎきっていた。

 

「およよ?こいつは見事な化け物になっちまったなぁー♪」

 

攻撃の対象者はリゼヴィム・リヴァン・ルシファー。爪で悪魔の身体を引き裂こうと手を振るったが

リゼヴィムが使役する常闇の邪龍によって阻まれた。

 

「うひゃひゃひゃっ!残念無念また来週ー♪邪龍ちゃん、あの赤い龍を攻撃して?」

 

常闇の邪龍は身体から無数の触手を生やし出して赤龍帝に迫る。迫りくる攻撃を迎撃する赤龍帝は距離を置いて

開いた口から覗かせる砲身を常闇の邪龍に向けつつ赤い光を集束し始める。

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!』

 

『ロンギヌス・スマッシャーッッッ!!!!!』

 

 

緑色の極太の魔力が砲撃と化し、常闇の邪龍に放つ。だが、常闇の邪龍は周囲から集まってくる黒い靄を身体に覆い尽くすと赤龍帝の攻撃は黒い壁に阻まれるどころか呑みこまれてしまい、攻撃を無効化された。

 

覇龍(ジャガノート・ドライヴ)を発動した赤龍帝ですら通じんとは・・・・・!」

 

命を削ってでもリゼヴィムを倒そうとしている赤龍帝は意味無く確実に寿命を縮めている―――。

赤龍帝と常闇の邪龍の戦いを見守る一同の目にはついに目を大きく張る光景を目の当たりにした。

黒い無数の触手に全身を巻きつかれ、あっという間に常闇の邪龍の身体の中へと底なし沼のように呑みこまれ消えた。

一拍して常闇の邪龍が赤いオーラに包まれ出すに呼応して全身が変形していく。

 

「ありゃ・・・・・何の冗談だ・・・・・っ!?」

 

アザゼルの脳裏に浮かぶ赤い龍を彷彿させる常闇の邪龍。それが六百メートルという巨大な大きさで姿が変わったのだから驚かずにはいられなかった。

 

「完全に・・・・・『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』ドライグじゃねぇかっ!」

 

「うひゃひゃひゃっ!言ったじゃん、この邪龍くんには聖杯の能力も付け加わっているって!赤龍帝のガキんちょからドライグくんの情報を抽出した元で得た姿と力なのさ!」

 

ペッ!

 

口から何かを吐きだし、アザゼルたちの前に落ちた。それはオリジナルの赤龍帝だった。

 

「あっ、臆病で弱っちい化け物になってまで命を削った赤龍帝は返すね。いらねぇからさ」

 

常闇の邪龍から吐きだされた赤龍帝に向かっての侮蔑。白眼を剥いて気絶している赤龍帝だが、左手の赤い籠手にある光る緑の宝玉が弱々しく点滅していた。

 

『ははは・・・・・なんということだ。まさか、自分を見ることになろうとはな。もはや、向こうのほうが赤龍帝と言われても仕方がないぐらいだ』

 

それを聞いてリゼヴィムはにんまりと笑んだ。

 

「あはっ!ドライグくんが認めてしまったねぇ?んじゃ、この邪龍がキミの代わりとしてこの姿でいる時は『赤い帝王龍(ウェルシュ・ドラゴン)』ドライグと呼んでおくぜぃ!」

 

『・・・・・』

 

緑の宝玉がやがて光を失い、赤い籠手も光と化となって消失した。

 

「機能停止・・・・・?いや、この状況を終えてから調べるとしても

 

「まだか・・・・・っ!」とアザゼルは若干焦心に駆られる言葉を発した。

 

「え?」

 

リアスは気になる発言をしたアザゼルに振り返った。「アザゼル、いまなんて言ったの?」と。

何か他に策があるような言い方で自分たちの知らないところで何かをしていたと思わせるアザゼルに問う。

いや、問いかけようとしたその時だった。―――この場にいくつものの魔方陣が出現し、リアスにとって見慣れた人物たちが弾けた魔方陣の光と共に顕現した。

 

「―――お兄さま、それにシルヴィアと―――グレモリー眷属!?」

 

サーゼクス・グレモリーとシルヴィア・ルキフグスを筆頭にするサーゼクスの眷属悪魔たち。その中にはグレイフィアがいた。

 

「リゼヴィム殿。これ以上貴殿の思い通りにはさせません」

 

「あはっ!サーゼクスちゃんじゃないのー。なになに?眷属を率いて俺たちと勝負しようって?」

 

ウキウキと楽しげに声を弾ませるリゼヴィムの目に更なる魔方陣が。

 

「リリン。いえ、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。あなたの敵は冥界だけではございませんよ」

 

「ミカエルさま・・・・・!?それに四大セラフの方々まで!?」

 

イリナが素っ頓狂な声を張り上げる。

 

「もしも―――」

 

アザゼルの声は一同の意識を集める。

 

「もしも、一誠の奴がサマエルの呪いと毒でも倒れずにいるか、リゼヴィムが事を成功させた以上の事を仕出かしたら冥界と天界側から増援をして貰えるように手配していた。ったく、おせーぞお前ら」

 

ミカエルとサーゼクスは笑みを浮かべるだけで直ぐに真摯な面持ちでリゼヴィムを見据える。

 

「おーおー、悪魔、堕天使、天使が勢揃いじゃん?でもでも、それでも俺たちは負けないね!なんたってこの邪龍軍団がいるんだからよぉっ!」

 

高らかに誇らしげに、そして自慢げにグレンデルやアリュウ、常闇の邪龍と量産型邪龍をバックにして宣言する。

 

「アザゼルを通じて見させてもらったよ。とんでもないじゃ龍を創造してくれたねリゼヴィム殿」

 

「んーふふふっ!サーゼクスくんの消滅やミカエルくんの光も一切通じないぜ?そうだなー。―――終焉と災禍の帝龍王(カオス・エンペラル・ドラゴン)ゾフィリス。って、名づけようかな!」

 

名前が決まったところでリゼヴィムはゾフィリスをアザゼルたちに嗾けようとする。

 

「んじゃー、愉快に勢揃いしたところで、このゾフィリスや邪龍軍団と一勝負する?」

 

愉悦に満ちた顔で挑発した。邪龍たちもいまかいまかとリゼヴィムの次の言葉を待ち、雰囲気を汲んで待機。

対テロ組織混成チームや増援として駆け付けたサーゼクスたちとの間に緊張が走る中に

 

「お?」

 

リゼヴィムの耳の側に小型の通信式魔方陣。ふむふむと耳を傾け誰かの話を聞いた。

そして、笑みを浮かべ首を立てに振りだす。

 

「ざんねーん。ユーグリットくんから帰って来いって言われちゃったから俺たちは帰らせてもらうぜ」

 

「なんだと?」

 

「うひゃひゃひゃっ!あ、でも安心して?―――今度は冥界と人間界に災いをプレゼントしちゃうから!その宣伝として今回は量産型邪龍をプレゼントしちゃいます!」

 

リゼヴィムを中心に魔方陣が展開して弾ける光と共にこの場からいなくなり、残された邪龍たちは大挙としてアザゼルたちに迫った。

 

―――○●○―――

 

程なくして量産型邪龍はアザゼルたちの活躍によって倒され尽くし、壊滅状態のツェペシュ城下町からいなくなった。

 

「・・・・・貴殿らの働きに心から感謝する」

 

土下座をするツェペシュ王。その背後に生き残った王族の吸血鬼たち。壊滅した城下町は誠のとっておきの能力で元通りに戻った。それはカーミラの城下町も同じでこの場に馳せ参じたカーミラ王女も感謝の意を示した。

 

「大変だったな。裏切り者が身内にいるなんてさ」

 

「それに関しては我々の落ち度。貴殿らの懸命な働きがなければさらに被害が増えていただろう」

 

「んじゃ、三大勢力と和平を結んでくれたらコレでチャラってことでいいか?リゼヴィムに対する協力態勢を求めたいんだが」

 

「・・・・・致し方ない、とは救ってくれた者たちに対する言葉ではないな」

 

言葉にはしないが暗に三大勢力と和平・協力を結ぶ事を受け入れたツェペシュ王。カーミラ王女も肯定。

 

「我が娘よ。ヴァレリー、見ない間に大きく成り綺麗になったな」

 

「はい、お父さま・・・・・」

 

「人間界は・・・・・世界は楽しいか?」

 

ヴァレリーはニコリと微笑んで頷いた。ツェペシュ王は一人の父親としてこう告げる。

 

「好きなように生きるがいい。だが、たまにはこの地に帰ってくるように」

 

「ありがとうございます」

 

その後、

 

「はーい、アルトルージュ」

 

「何であなたがここにいるのよ」

 

「だってあの後、男尊派と女尊派の両王がさ?あの一件で反省したのかくだらない決め合いをしなくなって昔みたいに隔てなくなっちゃたのよ。つまり意地とプライドを捨ててお互い協力し生きるようになったわけ」

 

「そう、それは前よりマシになったのね。で、それを言いにここに来たわけ?」

 

「あはっ♪」

 

「・・・・・そういうこと。用件は銀髪のメイドに言いなさい」

 

一人の吸血鬼がずうずうしく転がり込んできた。

 

 

 

 

 

―――Boss×Boss―――

 

「アザゼル。彼、赤龍帝の具合はどうだい」

 

「宿主の方は問題ない。少しだけ命を削った程度だ。ドライグも正常だ」

 

「そうか・・・いや、しかし、あの邪龍は厄介だ聖杯の力も有している。生命の理の力を覆すんだからソレを手にした者は厄介なのは違いない」

 

「一誠くんでも勝てないのかな・・・・・?」

 

「この世の負と悪を吸収して復活するなんざ絶対的な悪の存在だ。難しいだろう」

 

「・・・・・肝心の一誠くんなんだが。彼は・・・・・大丈夫だろうか」

 

「・・・・・人間でも機関なのにドラゴンを確実に殺す二度もサマエルの毒と呪いを受けたんだ。俺たちの想像を超える悪影響を受けているだろうよ」

 

「彼はまた、死んでいるかもしれないのか・・・・・」

 

「これで三度目だな。アイツが死んでしまったとして・・・・・・」

 

 

―――hero×Hero―――

 

 

「ゲオルク、兵藤一誠はどうよ?」

 

「・・・・・ダメだ。凶弾が取り除いても兵藤一誠はドラゴン。肉体が次第に滅んで行くのは確実だぞ」

 

「マジかよ。んじゃ、つかえもんにならないじゃねぇか」

 

「レオナルドも悪影響が出ている。あの悪魔、やってくれたよ。でも、兵藤一誠はどうする?治療の施しもできないんでしょ?」

 

「・・・・・潮時かもしれないな」

 

「うん?」

 

「曹操は兵藤一誠に夢中だ。兵藤一誠の死で曹操が変わってしまう恐れもある」

 

「・・・・・彼を裏で殺めるっていうのかい?」

 

「ああ。兵藤一誠が裏切り、殺すことになった。そういうことにしよう」

 

「今するのか?」

 

「いや、皆が寝静まり返った時にしよう。二人とも協力してくれ」

 

 

 

 

 

 

「そんなっ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「許せない・・・・・皆、仲間だと最近思うようになってきたのに・・・・・!」

 

「なら、お前はどうする気だ?復讐をする為にここにいるんだろう」

 

「・・・・・それは」

 

「余計な事をしない方がいい。すれば復讐ができなくなるぞ」

 

「あなたは、あなたは何とも思わないの?」

 

「オレはアーサーを倒せばそれでいいと思っている」

 

「・・・・・失望したわっ」



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エピソード63

その日の夜―――。リースは寝台に眠る一誠の傍に立っていた。

悩ましげに顔を顰め荒い息を断続的に吐き、サマエルの呪いに苦しんでいる様子が窺える。

 

「復讐・・・・・」

 

祖国を滅茶苦茶にしたリゼヴィムに対する感情。そして、自分に復讐のチャンスを、力を

与えてくれた一誠に対する感情と天秤に計った。リースは夜まで考えに考えて至った

結論は―――。

 

「イッセー・・・・・必ず、あなたを助けてあげる」

 

英雄派が寝静まり返り、ゲオルクとジークフリート、ヘラクレスの三人が暗殺をしに

来る前に行動を開始した。一誠を背中に背負って本部から脱走を図ろうとした。

 

「―――なーるほど、ゲオルクの言った通りになったようだな」

 

「っ!?」

 

「よぉ、リース。そいつを背負ってどこに行こうとしている?」

 

腕を組んで扉の前に立ちはだかり、振り返ったリースを見据えるヘラクレス。

自分の行動を察知されてたことに

悔しさで一誠に申し訳ないと心の中で謝罪しながらもハッキリと言い返した。

 

「ここで彼を治せれないなら敵対している者たちに治してもらいに行く」

 

「お前、リゼヴィムに復讐するんじゃなかったっけ?」

 

「ええ、それは今後も変わりないわ。だけど、私に力を与え、復讐のチャンスを与えてくれた彼を見殺しになんてできない。ましてや暗殺を企てる仲間だと思っていた者たちから遠ざける為にも」

 

「・・・・・聞いていたのか」

 

予想外だった。だが、ヘラクレスはやることは変わりないと決め込んだ。

 

「あなたたちは彼のおかげで力をさらに得たと言うのに恩を仇で返すの?いくらなんでもそれは酷過ぎる!」

 

「何言ってんだ?言っとくが俺たちは確かに共通点はある。だがよ、俺たちは仲間意識は対して強くないんだぜ?」

 

「同じ仲間の死を何とも思わないと・・・・・」

 

「まあ、そんな感じだな。弱い奴は所詮そこまでの奴だってことさ」

 

攻撃態勢となり、ヘラクレスはリースにいやらしい笑みを浮かべた。

 

「だが、これはコレで好都合だ。お前らの死で後から色々と曹操に言い訳できるからよ」

 

「・・・・・所詮はテロリストなのね」

 

「お前もその一人だがな?」

 

「『だった』と言い間違えではないかしら。―――英雄派から脱退させてもらうわ」

 

ドラゴンの翼を生やして一誠を包み、一気にヘラクレスの間合いに飛び込んだ。

 

「はっ!」

 

嘲笑を含んだ短い笑みと同時に硬く握った拳をリースに突き出した。その瞬間、リースの目はハッキリと捉えた。迫る拳を、ヘラクレスの手首を掴んで、

 

「あなたと戦っている暇は無いの」

 

背後へ力のあらん限りヘラクレスを投げた。後に聞こえる甲高い音を無視して通路を駆け走る。

 

「(次の通路を曲がれば大食堂。ここの建物の構造は単純だからそこを通過すれば直ぐに外へ出られる。だけどヘラクレスよりもゲオルクが私の行動に気付いていた。だとすれば食堂にも―――)」

 

リースの考えは正しかった。大食堂に侵入し中央まで駆けた時、夜中なのにヒッソリと座っている武装したジークフリートがいた。

 

「待っていたよ、と言いたいところだけどこの早さでここに来たということはヘラクレスがどうやらヘマしたようだね」

 

「・・・・・」

 

「キミの裏切りはゲオルクが前から危惧していたようだよ。本当に裏切るとは思わなかった」

 

「あなたたちが彼を治せないから殺そうと企てなければ裏切るつもりも無かったけれどね」

 

「ふーん、聞いていたんだ。まあ、こっちも今日のキミの態度が怪しかったから薄々だけど勘付いていたけど」

 

腰を上げ、椅子から立ち上がって魔帝剣グラムを構える。

 

「できれば抵抗しないで斬られてくれるとありがたいな」

 

「お断りよ」

 

亜空間からブリューナクを手にして構える。すると、背後から苛立ちを隠さないヘラクレスが現れた。

 

「やぁ、ヘラクレス。随分と舐められたようだね」

 

「うっせ!纏めて殺せば文句ねぇだろ!」

 

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるジークフリートの意表を突こうとして

ブリューナクを突き付けた。だがしかし、相手は剣の達人。一誠を背負ったままで

戦うのは厳しい。軽く受け止められては受け流され、グラムの鈍く光る刃が

リースの首に吸い込まれるように迫る。ブリューナクを支柱としてリースは

体勢を変えて凶刃から逃れる。

 

「お、やるねぇ!」

 

「結構厳しいスパルタな特訓をさせられたからね!」

 

「あはは、そうだったね。でも、相手は僕だけじゃないよ?」

 

ジークフリートの視界に移る真横からリースに拳を振り上げているヘラクレス。

リースがその言葉の意図を気付き、体勢を低くして食堂を支える一つの柱が爆発する

ヘラクレスの拳から翼で包んでいる一誠を守った。

 

「爆弾魔めっ!」

 

「誰が爆弾だ!爆発だ!」

 

「いや、最終的にはそうなるから変わりないと思うよ?

というか、あんまり食堂の物を壊さないでよ。

騒ぎを聞きつけて他の者たちが来ちゃうんだから」

 

「ンなこと分かってるっ!」

 

格闘術と剣術のコラボレーション。二対一でしかも一誠を抱える身として戦況は思わしくない。

時に椅子やテーブルなども利用して食堂から出ようとするが、その考えをしているリースに察知して食堂から行かせないとばかりに行く手を阻む二人だった。槍一つで、一誠を背負った状態で幹部クラスの二人と戦うのは正直厳しい。ブリューナクの能力を使うにもジークフリートの言う通り、騒ぎを聞きつけ、この場に来られると一気に不利となる。通常の槍として攻防に徹する。

 

「くっ!」

 

しかし、このまま戦い続けても無駄に体力を消費するだけ。芳しくない状況だとブリューナクを前に構え、幾重の防御魔方陣を張り、ジークフリートの剣とヘラクレスの拳を防ぐ。その間、頭の中でこの状況を突破する方法を考えようとする―――。

 

「おらぁっ!」

 

「ふっ!」

 

が、あっさりと全ての魔方陣を斬られ、粉砕されてしまい防御の構えをしていたリースにその衝撃が襲われ壁と激突した。

 

「う・・・・・ぐっ・・・・・・!」

 

その際、一誠が翼から零れてしまい、リースも直ぐに行動を移せなかった。首筋に突き付けられるグラム。

 

「さてと、それなりに楽しめたけど死んでもらうよ。ヘラクレス、そっちを頼む」

 

「ああ」

 

意識がない一誠の首を鷲掴みにして持ち上げるヘラクレス共々ジークフリートに焦心の叫びを発する。

 

「止めて!イッセーを殺さないで!同じ仲間だったじゃない!?」

 

「確かに仲間だったね。だけど同時に爆弾でもあった。彼のおかげで楽しい思いをしたけどイレギュラーな事も起きる」

 

「イレギュラーってのは良い意味でも悪い意味でも何時どんなことが起きるのか分からねぇ。こいつはその塊だ。だからこそ、んな不安要素を破壊した方がいいと思うんだがな」

 

二人はリースの説得に耳を傾けない。ヘラクレスは自分の意志で一誠の顔面に拳を突き刺そうとする。

 

「んじゃ、あばよ兵藤一誠。直ぐにお前を慕う女もそっちに逝くからよ」

 

「―――っ」

 

口を開くリースに振り上げたグラムを振り下ろそうとするジークフリートと同時に一誠に突き出すヘラクレスの拳。真夜中に起きた裏切りに対する処刑の本当の真相を知る者はゲオルクを含む四人だけ。

一誠とリースの命を守る者などこの場にはいなかった。

 

「・・・・ゲオルク、ヘラクレス。何してる?」

 

「「っ!?」」

 

ビクリと剣と拳が途中で止まり、二人は顔だけ声がした方へ振り向いた。

 

「りょ、呂綺・・・・・?」

 

「セカンド・オーフィスまで、どうしてキミたちがここに・・・・・」

 

食堂に三人以外起きている者がいた。二人にとって厄介な人物に違いない。呂綺は眠たげな表情のまま言う。

 

「恋はお腹空いたのと、一誠の傍にいようとした。でも、戦いの気配を感じたから来てみたら会った」

 

ジッと呂綺は四人を見詰める。ジークフリートはリースにグラムを振り下ろそうとしている。ヘラクレスは呂綺が会いに行こうとした一誠の首を掴んで拳を突きつけようとしている光景。

 

「・・・・・何してる?」

 

呂綺からの問いかけにジークフリートは状況を説明した。

 

「リースが兵藤一誠を敵対している勢力に売ろうとしていたんだ。そこで僕たちは食い止めていたところだよ」

 

「・・・・・ヘラクレスが一誠の首を掴んでるのはどうして?」

 

「それは・・・・・」

 

「一誠、毒と呪いで苦しんでいる。なのになんで攻撃している?」

 

「うぐっ・・・・・」

 

言い辛い事を指摘され、ジークフリートとヘラクレスはぐうの音も出なかった。純粋な眼差しは次第に怒りの炎が孕んでいく。最後にリースにも問う。

 

「リース、一誠を敵に売るつもりだった?」

 

「違う!」

 

間髪入れず否定した。

 

「ゲオルクとこの二人がイッセーはもう助からないと殺すしかないと知って私はイッセーを助けようとしていた!確かに敵対している勢力にイッセーを差し出すのはあなたたちに取って売るに等しい行為なのかもしれない。だけど、私は―――イッセーの事が好きなの!」

 

「・・・・・」

 

「復讐をしたくてイッセーの誘いに乗った。私に生きる為の機会をくれたイッセーをこのまま見殺しになんてできない。だから、だから―――!」

 

必死に自分の気持ちを曝け出し、想いを伝える。一誠の事が好き。それは呂綺もそうだ。

側にいると安らぎ、温もりを感じれば甘えたくなり、肌と肌を重ねると幸せを感じる。温かい声をもっと聞きたい、優しい眼差しでもっと構って貰いたくなる。それはリースも一緒なのだと、

 

「ん、わかった」

 

一誠を慕う同士。好意を抱いている一誠を攻撃している者は例え味方だとしても許せない。

ついに呂綺の瞳に敵意と怒りの炎が孕み二人を睨んだ。

 

「お前たち、許さない」

 

敵対した瞬間だった。流石に予想外な事で焦るジークフリート。

 

「待て呂綺!?僕たちは仲間だろう!」

 

「ヘラクレスは仲間意識が強くないって言ったわよ」

 

「ヘラクレスゥッ!?」

 

「事実だ―――(バキャッ!)ギャッ!?」

 

殴られるヘラクレス。壁に激突してそのまま微動だにしなくなった。一誠は床に崩れ落ちる前にリースが受け止め、その様子を唖然と見ていたジークフリートの顔に鷲掴みする呂綺。

 

「あっ・・・・・がっ・・・・・!?」

 

ミシミシ、メキメキと頭蓋に握力を掛けられる音がリアルに聞こえてくる。

 

「りょ、呂綺・・・・・や、やめ・・・・・」

 

「ダメ」

 

無慈悲にも制止の言葉を聞き受け入れてもらえず、ジークフリートの意識を奪った。そしてグラムを奪うように手にしてリースに見詰める。

 

「行く」

 

「ありがとう・・・・・でも、オーフィスは?」

 

「我も行く。死んじゃうのダメ」

 

一誠を自ら背中に背負い、セカンド・オーフィスは空間を歪ませ、穴を作ると二人に「潜る」と言って穴の中へ消えて行った。

 

「これ、どこに繋がってるの?」

 

「わからない。でも、行く」

 

二人も続いて穴の中へ進むと閉じた。そして外で待機していた一人の魔法使いがこの光景を魔方陣で介して見ていて溜息を零す。

 

穴から飛び降りた先には―――万華鏡の中を覗いたかのような空間だった。

 

「こ、ここは・・・・・!?」

 

「初めて来る」

 

三人は足場も無い、右も左も勝手が分からない未知なる空間に飛び込んでしまった。

そんな三人の直ぐ近くで―――空間に光の穴が開きだして巨大な真紅のドラゴンが顔を出した。

セカンド・オーフィスはこれだとばかりに真紅のドラゴンの背中に乗りだし、リースと呂綺も反射的に乗った。

 

「見つけた」

 

一誠を赤い大地のような真紅の龍ことグレートレッドの背中に下ろしてペチペチと叩く。

 

「この者の臭いと同じ臭いのドラゴン。お願い、助ける」

 

セカンド・オーフィスがペチペチ叩きながら願う。二人はこの背中に乗せてもらっているドラゴンの反応を静かに見守る姿勢でいることにした。

 

―――○●○―――

 

英雄派の内部抗争が発声したことを露知らない世界に存在する各勢力にとんでもない事件が起きようとしていた。

 

「うひゃひゃひゃっ!そろそろ待ち侘びている頃だし始めちゃいましょうかねー。ゾフィリスくん、魔獣を創造しちゃってくださいな!」

 

人間界、そして冥界に突如として現れた巨大な異形の魔獣がいま解き放たれた―――!

 

 

『―――緊急放送です。日本の海域にて突如巨大な怪物と黒いドラゴンたちが海から出現しました。海上自衛隊の報告で明らかにされたことで政府は―――』

 

「・・・・・ねぇ、あれってここしかいないの?」

 

「今調べているわよ」

 

リビングキッチンにいるフレイヤとナヴィは直ぐに行動した。オーフィスたちは学園にいてこの事実を知らないはずだ。

 

「放送された魔獣、どうやら日本の海域だけじゃなくてヨーロッパ、インド、中国、ロシアと世界各地に出現しているそうだわ。そして冥界にも」

 

「あらそう、人間界と冥界は大騒ぎね。今ごと対処に追われているんじゃない?」

 

「魔王と神王、堕天使の総督に伝えたから取り敢えずこの事実は知るでしょうね。というかアンタ、神なんだからなんとかできるでしょ」

 

「私は美の神としているのよ?戦いは嫌いなの」

 

「このニート&ヒモ女神め」

 

―――駒王学園―――

 

「お前ら、リゼヴィムが仕掛けてきた。世界中に量産型邪龍と巨大魔獣を放ちやがった」

 

「せ、世界中!?」

 

「ああ、しかも冥界もだ。人間界は兵藤家や式森家がいるから問題ないとして判断する。世界各地にいる魔獣共は神話体系の神々共が対処してくれるだろう。じゃなきゃ、世界は混沌に陥ってしまうからな」

 

授業中に呼びだされる対テロ組織混成チーム。アザゼル、リーラ、ユーストマ、フォーベシイ、八重垣正臣が揃ってて事の重大さを伝えられた。

 

「ここを避難場所として民間人の収容をする。地下にいくつかのシェルターもあるからな。そして俺たちは二手に分かれて人間界と冥界にいる魔獣たちを殲滅する」

 

「悪魔と人間と分かれてですか?」

 

「そうだ。戦力を分散する意味でもある。もしもどっちかの世界で英雄派が現れたとしてその対処もしなきゃならん」

 

英雄派=一誠と認識する一同。だが、一誠は来るのだろうかと疑念を抱く。

 

「アザゼル先生、あいつ・・・・・サマエルの毒と呪いを食らっているんスよね?現れるのですか?」

 

「・・・・・分からん。もしも死んでいるとすれば英雄派の中にはいないと思え」

 

『・・・・・』

 

何とも言えない雰囲気となり、誰もそれから口にしようとはしなかった。今は世界を危険に晒す魔獣たちの殲滅だ。それを専念しようと気持ちを切り替え、冥界と人間界。それぞれの世界を守りに一同はしばしの別れをした。

 

―――人間界―――

 

海上自衛隊は武装した船で魔獣を駆逐していた。しかし、その魔獣の大きさは二百メートル級で戦艦でもなければ傷一つ付けられないような硬度を誇っていたのだ。その上、巨大魔獣は身体から小型の魔獣を空へ、海へと放って破竹の勢いで海上自衛隊たちを蹂躙していった。それに続く量産型邪龍は火炎を吐き、空を飛び交う戦闘機を焼き尽くす。

 

「第一、第二防衛ライン突破されました!」

 

「ええい!この武装では歯が立たないというのかっ!?」

 

指揮をしていた提督が奥歯を噛みしめ、次々と沈没、撃沈されていく船を見据えて直ぐに現実となる自分の運命と向き合う。

 

「何としてでも祖国を守り切るのだっ!それが我々日本に生まれた者の義務である!」

 

現実とは時に残酷である。自分たちの無力さを改めさせられ、大半の者は心を折られる。

 

「巨大怪獣、接近!」

 

「ぬぅっ!」

 

既に四百メートルという距離からでも窺える巨体。その壮大な姿を見せ付けられ、誰もが畏怖の念、戦慄に顔を歪める。

 

「ば、化け物めっ・・・・・!」

 

魔獣は拳を海に浮かぶ小さな鉄の塊に向けて突き出した。ただ単純な事。こうすればあっさりと壊れて邪魔な物は海に沈む。魔獣の思考は破壊衝動。目の前に存在する物は全て破壊。

 

「―――ここまでか」

 

目を瞑り、死を覚悟した提督。提督の耳に飛び込む音は―――魔獣の悲鳴だった。

・・・・・なに?と提督は怪訝に瞑目していた目を開いて外の様子を見た。

 

「ふー、間に合ったね」

 

宙に浮かぶ和樹が手を突き出した状態で巨大魔獣の顔面は煙に包まれ、和樹の魔力の一撃を食らった様子。和樹は安堵で呟く。辺りは量産型邪龍と小型魔獣の群れ。その群れに向かって数多の魔方陣を展開して極太のレーザービーム状の魔力を放って一掃する。

 

「さて、他の皆を召喚しよう」

 

カッ!

 

この場に発現する魔方陣。魔方陣の光と共に出現する少年少女たちは周囲を見渡し、感想を述べる。

 

「うわー、いっぱいいますね」

 

「あの魔獣は国会議事堂にいたのと同類とみた方がいいか?」

 

「ああ、そうした方がいいだろう」

 

「比叡、榛名、霧島。久々の出陣デース!日本を守りマース!」

 

「「「はいっ!金剛お姉さま!」」」

 

特に作戦などない。シンプルに魔獣と量産型邪龍の駆逐。互いの邪魔をしないように気を配って対テロ組織混成チームは空を駆け、海に飛び込む。

 

「「「「禁手化(バランス・ブレイク)!」」」」

 

戦艦を彷彿させる物を全身に装着して海に立って意気揚々と砲撃を開始したのだった。

 

「バーニングFIRE!」

 

「比叡、頑張って、行きます!」

 

「私の計算によればあの魔獣は超攻撃力ならば倒せる確率ならば百%です」

 

「榛名、全力で頑張ります!」

 

四人の少女たちは巨大魔獣に向かって海を駆ける。和樹、カリン、龍牙、百代、エスデス、シオリは数多の小型魔獣の駆逐。

 

 

ドドドドドドドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 

「な、何なのだあの少年と少女たちは・・・・・?」

 

愕然と見守る提督と船員たち。だがしかし、驚くのはそれだけではなかった。レーダーが新たな探知を示したのだ。それは防衛の陣形をしている数々の船の背後からだ。

 

 

「ふっ、どうやら私たち以外にも勇敢に戦う者たちがいたようだな」

 

「そうねぇ。お姉さんたちも頑張りましょうか」

 

 

「加賀さん。初めての戦闘だけど怖くない?」

 

「それは赤城さんも同じ事。ええ、問題ございません。初めて見る私たちと同じ力を持つ者も一緒なのでから」

 

 

「翔鶴姉っ!近くで見ると随分とデカい標的ね!」

 

「他の皆さんの邪魔にならぬよう攻撃をしましょう瑞鶴」

 

 

「北上さん!無茶しないように!」

 

「大丈夫だよ、大井っちと一緒ならね」

 

 

「わぁー、いろんな娘がいっぱいるー。あれ、私たちと同じ力を持っているのよね?」

 

「とにかく、日本を守りきらなきゃ!」

 

 

「オレの力を発揮する時だぜ!」

 

「うふふっ。天龍が大はしゃぎね」

 

 

「この私が来たんだからレディらしい戦いを魅せてあげるっ!」

 

「倒すぞー!」

 

「ハラショー」

 

「なのですっ!」

 

 

金剛たちのように身体の各部分に戦艦を装着している少女や女性たちが海を駆け。この場に集った。

 

「WHAT!?私たちと同じ神器(セイクリッド・ギア)の所有者たちなのデスカ!?」

 

「こんにちは。一緒に敵を頑張って倒しましょう」

 

「って、大和!あなたもデスカ!?」

 

「す、凄いです。榛名、感嘆しちゃいます」

 

「うはっ!盛り上がってきましたよお姉さま!」

 

「ざっと数えるだけでも三十人以上はいますね・・・・・」

 

そんな光景を小型魔獣を駆逐している和樹たちも見て驚いていた。

 

「へぇー。金剛さんたち以外にもいたんだね」

 

「アザゼル先生がこの場にいたらはしゃいでいたでしょうね」

 

「おーい!感心していないで倒せー!」

 

風邪の魔法で魔獣を数匹一掃するカリンに窘められ、苦笑を浮かべて動き始める。

 



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エピソード64

「うっ・・・・・」

 

「あ、イッセー・・・・・」

 

「ここは、どこだ・・・・・」

 

一誠が目覚めた。リース、呂綺、セカンド・オーフィスに見守られる中、まだ全身に呪いと毒の影響で激痛が走るが記憶を封印された一誠は見覚えのない空間を目の当たりにして疑念を抱いた。

 

「ここは次元の狭間って言う空間よ」

 

「次元の狭間・・・・・?どうして、俺はここに・・・・・?」

 

リースが言い辛そうに口を閉じた。信じてもらえるかどうか分からない。だがしかし、いつか言わなければならないことだ。

 

「・・・・・それは後で話しをするわ。今はあなたの身体を治すことが優先なの」

 

『―――ふん、これで三度目だがな。お前の為に願ってきた者は』

 

聞き覚えのない声が呆れを含んでいた。リースは顔を声がした方へ振り向けば、真紅の龍―――グレートレッドが鎌首を背に曲げて顔をこっちに向けていた。

 

『またサマエルの毒と呪いを受けたか。お前はよほどトラブルに巻き込まれやすい体質のようだな』

 

「・・・・・」

 

『それと下界の方では騒々しい事が起きているぞ』

 

万華鏡の中身のような空に―――それは次々と映し出されていく。人間界、冥界で量産型邪龍や巨大魔獣たちが町を人を抗戦して戦っている者たちを蹂躙している光景が次元の狭間に現れていく。

 

「これは・・・・・!?」

 

『何とも形容し難い魔獣どもだ。我は干渉するつもりないがお前たちはどうする?』

 

グレートレッドの言葉を耳に入る最中、リースは映し出される光景を見続けると人間界にいる数多の量産型邪龍を引き連れている常闇の邪龍を見つけた。それはゆっくりと日本に近づいている。そして邪龍の頭部に乗っている人物を見つけた。

 

「リゼヴィム・・・・・!」

 

「・・・・・アイツの仕業だったのか」

 

ムクリと上半身を起こし、ゆっくりと立ち上がる。

 

「―――グレートレッド、俺を人間界に連れて行ってくれ」

 

『・・・・・死ぬ気か?』

 

「復讐したい相手があそこにいる・・・・・この好機を見逃す訳にはいかないんだ」

 

フラフラと今にでも倒れそうなほど危なっかしい一誠にリースは首を横に振る。

 

「ダメ・・・ダメよ。今のあなたは毒と呪いで身体が滅びかけている状態なの。これ以上戦い続けたら―――」

 

「ああ、死ぬかもしれないな。だけど、死ぬならやり遂げてから死にたい。俺とお前の復讐を果たしてから死ぬ」

 

―――っ

 

パンッ!

 

 

「復讐よりもあなたの命の方が一番大事よ!」

 

一誠の頬を涙目になって叩いたリース。

 

「あなたは復讐なんかよりも待っている大切な人たちを大切にしなさい!あなたが死んだらあなたを慕っている人たちが悲しむでしょう!」

 

「・・・・・曹操たちのことか?」

 

―――違う!あんな使えなくなった仲間を殺そうとする仲間が一誠を大切に思っているはずがない。曹操は関与していなかったみたいだが、リースは敢えてその事を触れない。

 

「私や呂綺、セカンド・オーフィスがあなたを失ったら悲しいのよっ。それを分かってちょうだい」

 

「・・・・・お前は復讐ができないでいいのか」

 

「・・・・・あなたと復讐を天秤に掛けるまでもないわ」

 

優しく一誠の頬を添えてリースは顔を近づける。

 

「復讐は絶対にする。だけど、それ以前にあなたの事が好きなの。だから、私はあなたを死なせない」

 

「リース・・・・・」

 

「恋も、一誠の事が好き」

 

呂綺も一誠の腕に抱きついて告白する。その反対側にセカンド・オーフィスもコクリと頷く。

 

「・・・・・」

 

三人をしばらく無言で見詰めた一誠がそっと三人を纏めて抱き絞めた。

 

「ありがとう・・・・・。だけど、やっぱり俺は行きたい」

 

「一誠・・・・・」

 

「だから・・・・・俺が無茶しないようにしてくれるか?」

 

そう言われたリースはどれだけ言っても一誠は決めた事を曲げない腹らしいと悟った。

しかも、無茶しないようにしてくれというのは守ってくれと暗に言っているようなものだ。

 

「・・・・・初めてよ。あなたが頑固な人なんて知らなかったわ」

 

「一度決めたことはやり通す主義なんだ」と朗らかに言った一誠に対して呆れ顔で溜息を吐いたリースが

 

「・・・・・はぁ。分かったわ」

 

亜空間からブリューナクを手にして一誠に突き出す。

 

「この槍に懸けてあなたを守るわ」

 

―――「それ、俺の槍何だがな」。と場の空気を読む一誠は不敵に笑み首を縦に振った。

 

「恋も、恋も一誠を守る」

 

「我も」

 

二人も一誠を守ると誓った。それには一誠が嬉しそうに笑った後、

 

「―――グレートレッド。お願い」

 

『・・・・・今回だけだからな』

 

グレートレッドは一誠の気持ちを汲んで次元の狭間に穴を作った。そして―――下界に飛び出したのだった。

 

―――○●○―――

 

 

―――Hero×Hero―――

 

「三人共、私に黙って一誠を殺そうとしていたとはな・・・・・。私がそんなに不抜けた女に見えていたとは驚いたよゲオルク?これでも公私混合をきちんと分けていたんだが、それが分からなかったとはどうもお前たちは私に対する信用と信頼が無かったようだね」

 

「そ、曹操・・・・・っ」

 

「仕舞には呂綺とセカンド・オーフィスまでリースと一緒に一誠を連れ去った?リースはともかく、呂綺とセカンド・オーフィスは英雄派にとって必要不可欠な戦力だったんだが?ヘラクレス、ジーク」

 

「「うっ・・・・・」」

 

「さて、お前たちをどうしてくれようか。もはや一誠を取り戻すのは不可能だろう。記憶の封印を解除されている頃だし、オーフィスとクロウ・クルワッハに対する対抗手段であるセカンド・オーフィスと一誠は敵の手中。もはや今の私たちは対テロ組織混成チームと抗うだけの力は残されていないと等しい。上位の神滅具(ロンギヌス)があろうとも、戦いの状況によって負けるからね。ああ、一誠。こんなことになるんなら私はお前の傍で一緒に夜を過ごすべきだったよ。―――ふざけたことで暴走した仲間を気付かなかったんだからね。これはアレかなしばらく身を潜めないといけなくなったかな。一誠の死のおかげでセカンド・オーフィスという力の象徴が出来上がったというのにいなくなってしまった。これは大問題だ。ああ、大問題ね。説得しても帰ってこないだろうし。はぁぁぁぁぁ・・・・・全てが水の泡と化した」

 

こんな曹操は見たことないと三人は一時間も逆さ釣りされている状態のまま揃って思った。なんか、ヤんでいる?

ヤんでいますよね曹操さん?とばかり全身に流れ浮かぶ脂汗が止まらない。この光景を静かに見守るモルドレッドに助けを求める視線を飛ばすが俄然として無視されている。

 

「そ、曹操・・・・・」

 

「なんだい、眼鏡」

 

「メガ・・・・・!?・・・・・もう一度一誠を拉致して洗脳するというのはどうだ。ここの設備より冥界や天界の治療施設なら、あるいは助かっているかもしれない」

 

「お、おおっ。そうだな。きっとそうだぜ曹操」

 

「う、うん。僕もそう思うよ。だから、諦めないでまた兵藤一誠を仲間にしようよ」

 

ゲオルクの発言に便乗して同感だと首を盾に振るジークフリートとヘラクレス。

しかし、曹操は絶対零度の冷たい目で三人を見下ろした。

 

「リースと呂綺、セカンド・オーフィスにどんな顔で会いに行って説得するというんだい?完全にキミたちは敵として認識されているのだろう?まさか、彼女たちも洗脳しようというわけじゃないだろうねセカンド・オーフィスは眼鏡の魔法は効かないのだから」

 

「・・・・・曹操?どうして俺を名前でなく眼鏡と言うんだ?」

 

「・・・・・すまない。キミの名前が忘れたから特徴的な物で呼ぶことにしている。ああ、しらすと筋肉爆弾もな」

 

「し、しらす・・・・・?」

 

「き、筋肉爆弾・・・・・」

 

不名誉な渾名を指名され、形容し難い気分となる。そして曹操は完全にキレているのだと悟る。

 

「おい、曹操」

 

三人が吊るされている光景をものともしないで介入するモルドレッド。振り返り「なんだ」と不機嫌に答える曹操に親指で後ろを指した。

 

「外が賑やかになっているぞ。冥界、人間界の全世界に量産型邪龍と巨大魔獣が出現して大暴れしているそうだ」

 

「・・・・・」

 

「こんなことできるのはリゼヴィムしかいないしあの悪魔の仕業だ。ならば、ここにいないあいつらが動かないわけがないだろう?」

 

モルドレッドの指摘に行動が早かった曹操。ロープを斬って三人を「ぐっ!」「あだっ!」「いでっ!」と頭から床に落とした。

 

「行くぞ。一誠たちを連れ戻しにな。反論と異論は認めない。これは決定事項だ」

 

「「「りょ、了解・・・・・」」」

 

「やれやれ・・・・・公私混合じゃないか」

 

―――人間界―――

 

和樹たちは巨大魔獣と戦い、苦戦に強いられた。レオナルドの魔獣と同じで衝撃を吸収して外に逃がし、魔力を吸いこんでしまう能力が健在だった。それが二体もいるのだから厄介極まりない。

 

「け、結構シビア・・・・・ッ!」

 

「あの修行でかなり実力が向上したと自負しているつもりですけれど、まだまだこの魔獣を倒すまでには・・・・・」

 

「ルーラーが一撃で撃破したのが改めて凄いと感嘆するぞ・・・・・」

 

魔力を奪われるならそれでは無駄に魔力を減らすだけだった。その上、まだまだ小型魔獣を産み出すのだから全てを相手にするのに疲弊する。

 

「和樹さん、学園の警備として残した彼女たちも―――」

 

龍牙がそう言いかけた時、龍牙の籠手の宝玉が眩く光り出した。

 

「ファフニール・・・?」

 

刹那―――。巨大魔獣の間横から巨大な空間に穴が生じて真紅の龍が頭突きをかまし、巨大魔獣をぶっ飛ばした。

 

『えぇぇぇえええええっ!?

 

『はぁああああっ!?』

 

目の前で起きた光景を和樹たちが目を疑った。ドラゴンが頭突きをかまして魔獣を吹っ飛ばす。誰も思いもしなかった敵味方も関係なく時が停止したように覚えた矢先、もう一体の巨大魔獣が真紅のドラゴンに目掛けて火炎球を放った。それを見ず巨大な尾で明後日の方向へ弾いてしまう。

 

「な、なんでグレートレッドがここに・・・・・」

 

世界と干渉しないはずの信じ難いドラゴンに場を掻き回される?ジッと和樹はグレートレッドを見ていると頭部に誰かがいる事に気付いた。

 

「あ・・・・・」

 

その正体が分かり、和樹は最大に警戒する。

 

「どうしてグレートレッドと彼がいるんだ・・・・・」

 

「って、和樹さん。上!」

 

一匹の小型魔獣が和樹を取りこまんと大きく口を開けて迫った。龍牙の指摘に上を向いた矢先に

 

ヒュンッ!

 

と風を切る音が聞こえたと思えば小型魔獣が真っ二つに裂かれて和樹を通り越して海に落ちて行った。

 

「油断したな」

 

「っ・・・・・」

 

目の前に何時の間にか隻眼の一誠がいた。和樹は敵として魔方陣を、龍牙は大剣を構える。

 

「相手ならまた今度にしろ。―――禁手(バランス・ブレイカー)

 

禍々しい魔力に包まれ出し一誠は黒と紫が入り乱れた赤い宝玉を身体の各部分にある全身鎧を纏った。

そして指先に小さな二つの黒い球を作り出し、ピンと弾いた。ソレは巨大魔獣たちに接近して

 

「消し飛べ」

 

一気に五十メートルぐらいに膨張して二体の巨大魔獣を凄まじい引力で吸い込み、削り、消失していく。小型魔獣たちもブラックホールと彷彿させる引力に吸い込まれていき、黒い球体に呑みこまれる。

 

「す、凄い・・・・・」

 

「僕たちが苦労していた相手をたったあれだけで・・・・・」

 

愕然とする。一誠の攻撃は魔獣たちには有効であっという間に日本の海域に存在していた魔獣を屠った。

鎧を解除して一誠は和樹たちに目をくれずグレートレッドの方へ戻ろうとしたと思えば、百代が横から拳を突き出してきたことで一誠は片手で受け止めた。

 

「ここで会ったが百年目だ一誠!」

 

掴まれた手を逆に掴んで思いっきり海へと投げ込んで、気のエネルギー砲を放った。

迫る砲撃も五機の戦闘機が機銃を撃ちながら迫ってくる光景が目に飛び込んでくる。

一誠は横薙ぎに百代の一撃を殴って五機の戦闘機に向かって軌道を逸らし、撃墜させた。

 

「・・・・・あいつらか」

 

上空にいる一誠に対して弓を構えている武装した少女たちを見据える。

しかし、巨大な魔力弾が一誠の意識を分散せざるを得なかった。

闇に包まれ、紋様状の翼に入れ墨のような黒い紋様を肌に浮かばせ、黒い籠手を装着した姿の一誠が一同の前に晒し、巨大な魔力弾を吸収した。手を海に向かって開くと、絶えまなく飛来してくる砲弾が防御魔方陣に直撃する。

 

「一誠さん、覚悟!」

 

大剣を上段から振るう龍牙。魔人の弱点は物理的な武器での攻撃。今の一誠は魔人と化している。

有効的な手段と信じて止まないで一誠に攻撃した。

 

「守る」

 

「っ―――」

 

セカンド・オーフィスが龍牙の大剣を片手で受け止め、もう片方の手で膨大な魔力を放った。

 

「龍牙!?」

 

「他人を心配している暇は無いわよ。―――ブリューナク!」

 

和樹に走る稲妻。瞬時で何重ものの防御結界を張った和樹を嘲笑うようにブリューナクは速度を少しも落とさず和樹を貫いた。

 

「お前ら!」

 

焦心に駆られて海に落ちる和樹と龍牙を受け止め、そのまま船の上に置いた。

 

「・・・・・」

 

金剛たちの間に降り立った一誠。戦艦を装着した一同は砲門を一誠に向け、降伏を求めた。

しかし―――。

 

「氷れ」

 

一誠の両足から広がる氷。それは金剛たちの足まで氷らせては移動を封じたのであった。

 

「―――――」

 

『―――――っ!?』

 

一誠が威圧を放った次の瞬間。一人、また一人と少女や女性たちが意識を失って倒れた。

 

「この野郎っ!」

 

背後からの回し蹴り。その蹴りは一誠の頭部にぶつかることなくすり抜けた。

そして凍った氷から伸びる鋭い突起が百代の腹部を貫く。

 

「・・・・・っ」

 

因果応報か、一誠は口から血の塊を吐きだし氷を赤く染める。肩で息をし、険しい表情を浮かべた一誠に大量の氷の槍が迫っていてソレを魔方陣で防ぎ、雷で粉砕、無効化する。

 

「まだ、サマエルの呪いと毒を・・・・・どうしてその状態になるまでお前は・・・・・」

 

「だからこそ、彼を倒して、捕まえて治療する必要があるわ」

 

氷を砕いて百代を解放するシオリ。高級そうな瓶を腹部に振りかければ見る見るうちに傷が癒える。

 

「大丈夫?」

 

「ああ・・・・・利くな『フェニックスの涙』って」

 

一誠と一誠の傍に降り立つリース、セカンド・オーフィス、呂綺と対峙するのは百代とシオリ、エスデスの三人、

 

「一誠があらかたドラゴンや魔獣を倒してくれたおかげで目の前の事を専念できるわけだが」

 

「勝てないわね」

 

「だが、戦わなければならないだろう?」

 

そうだ、と百代は拳を構えるとシオリとエスデスも攻撃態勢になる。だが、そんな三人の目の前にいる一誠が何かに駆られて明後日の方へ視線を向けて隻眼になった目を凝視し出した。

 

「―――来る」

 

「なに?」

 

百代たちも一誠が向けている視線を辿ってみると・・・・・真っ黒な何かがこっちに近づいてくるのが分かった。

一誠はそちらの方へ身体を向けた途端

 

「ぐはっ・・・・・!」

 

血反吐を吐いた。流石にこれ以上は危険だとリースは声を掛けようとしたが、そうは問屋が卸せなかった。

 

「・・・・・ゾフィリスって言ったか」

 

後数十秒という時間でここに辿り着く邪龍軍団に一誠はポツリと漏らす。

 

「世界の負と悪を吸収して復活するわ。イッセー、勝ち目あるの・・・・・?」

 

「負と悪か・・・・・だったら聖なる力なら有効か?それよりも・・・・・リゼヴィムがいないな」

 

翼を生やして宙に浮き、ゾフィリスを見据える。次元の狭間で見た目的の人物がいない事に残念に思うがこの邪龍をどう倒すか模索する必要がある。亜空間からエクスカリバーを手にして―――奥義を発動する。

刀身に極光の光を集める。

 

ギェエエエエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

ゾフィリスは一誠を敵として咆哮をあげる。口を大きく開けて禍々しい魔力を集束し、他の量産型邪龍も一緒に一誠よりも早く極太の魔力の砲撃や火炎球を放った。

 

「くっ・・・・・!」

 

「我が守る」

 

セカンド・オーフィスが一誠の前に立ち魔方陣を展開。ゾフィリスの攻撃を防ぐ。

 

「私も!」

 

リースも防御魔方陣を重ねて展開し一誠を守る。その間、エクスカリバーの力を溜める。

 

「・・・・・なら」

 

真紅の髪が青白い色と変色し頭上に青白の輪っか、背中に六対十二枚の青白い翼を生やして天使の力を刀身に込めることで極光の金色の光は青白くなり、バチバチと放電を発するようになる。

 

「―――溜まった。三秒後に離れろ」

 

「「わかった」」

 

一誠の指示通りに二人は従う。―――三秒後、横にどいたリースとセカンド・オーフィスと同時に、

 

エクスカリバー(約束された勝利の剣)ァッッッ!!!!」

 

極光の青白い斬撃がゾフィリスの魔力砲撃、量産型邪龍の火炎球を一気に押し返し、直撃した。

天を穿つように伸びる青白い極光の柱。それは日本からでも見えていた。

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・」

 

全身で息をし極度の疲弊を窺わせる。荒い息を断続的に吐き続け、意識が朦朧とし始める。

 

ゴポ・・・・・ッ

 

口から血の塊を吐き、一誠は体勢を崩しそうになるがリースの胸の中に収まってリースに支えられながら氷の大地に降り立った。

 

「あの邪龍・・・・・いないよ。倒したのね」

 

「いや、倒した・・・・・感じはしなかった」

 

「え?」

 

「手応えが無かった・・・・・はぁ、はぁ・・・・・くそっ・・・・・やられた。あれは幻みたいなもんだったんだ」

 

本物のドラゴンではないという事をリースは驚愕した。ということは、一誠がした事は無駄で無駄な労力を使った事になる。

 

「今なら一誠を捕える」

 

疲弊しきった一誠。百代たちほどの実力者なら可能なほど弱々しくなっている。だからこそこの好機を逃す訳にはいかないのだ。三人は同時に駆けだして接近した―――と同時に霧が発生し、霧の向こうから英雄派が現れた。

 

「曹操!」

 

「一誠、リースと呂綺、セカンド・オーフィス。迎えに来たよ」

 

突然の乱入者たちに足を止める百代たちを無視して一誠たちと話を始める曹操。リースはブリューナクを曹操に構える。

 

「迎え?イッセーを殺そうとしたその三人がいる場所にはもう彼を置いておくわけにはいかない!」

 

「ああ・・・・・それについては私も凄く驚いた。だが、安心してくれ。もう二度と眼鏡としらす、筋肉爆弾がバカな考えをして暴走しないように―――後でまたキツく私の方から言っておく」

 

「「「・・・・・」」」

 

何とも形容し難い表情と何とも言えない雰囲気な当の三人。

 

「リース、キミは私の事信用していないのかな?共に愛され、愛している仲だ。私は少なくともキミを認めている方なんだけどね」

 

「・・・・・それについては否定しないわ。私もそこの三人よりは信用も信頼もできる。だけど、彼の治療がままならないまま死んでしまうのは嫌。だから私は彼を―――敵対している勢力に引き渡して治療してもらおうと思った」

 

「思った?」

 

グレートレッドに一瞥する。

 

「あのドラゴンの身体の一部でイッセーの新たな肉体を作ってもらっている最中。時間は掛かるけれど出来上がったらもう呪いと毒で苦しまずに済む」

 

「なるほど、この場にグレートレッドがいるのは次元の狭間に逃げ込んでいたからか」

 

納得したとばかり、聖槍の柄を肩にトントンと動かしながら発する。

 

「曹操、今だけは私たちの邪魔をしないで。リゼヴィムがこの海域のどこかにいるかもしれないの」

 

「・・・・・一誠は復讐を臨んでいるのか」

 

「コレでも止めた方よ。だけど、頑固な人だとは知らなかった」

 

「ふっ、私は知っていたぞ。一誠は一度決めたことを絶対にやり遂げないと気が済まないんだ」

 

ようやく曹操は百代たちに振り返り「さて、彼に近づけさせないよ」と聖槍を構え出す曹操に愚痴を漏らし百代だった。

 

「ちっ、余計な連中が出てきやがった」

 

「なんか、訳有りだったみたいだけどどうでもいいわね」

 

「当然だ。一誠を取り返す!」

 

三人は英雄派と衝突。リースたちは―――新たに現れた人物と対峙していた。

 

「一誠さま・・・・・」

 

銀髪のメイド、リーラ・シャルンホルスト。レプリカのグンニグルを手中にしてその琥珀色の瞳を真っ直ぐ一誠を見詰めていた。

 

「メイド・・・・・?あの時いたメイドね」

 

「一誠さまの専属メイドのリーラ・シャルンホルストでございます。―――主を取り戻しに来ました」

 

リーラの影からオーフィスとクロウ・クルワッハが現れる。

 

「我、守る」

 

「恋も、一誠を守る」

 

セカンド・オーフィスとグラムを持つ恋は一誠の前に立ち、オーフィスとクロウ・クルワッハに向かって飛び出す。

 

「私のお相手をして貰えるのはあなたということでしょうか」

 

「メイドが戦えるとは思えないのだけれど」

 

「問題ございません。これでも私は一誠さまのご両親と一緒に神と戦ったことが何度もありますので」

 

「―――どんなメイドよ!」

 

五つの穂の切っ先から帯状の光がリーラを襲う。

 

「同じ伝説の槍の武器。ですがこちらはレプリカですがオリジナルとの威力は劣っていません」

 

リーラが「―――グンニグル」と呟いた刹那―――。

 

ブゥゥゥウウウウウウウウンッ!

 

槍から極大のオーラが放出され、空気を貫くような鋭い音があたり一面に響き渡った。リースが放った光と直撃し、伝説の武器同士の拮抗が鍔迫り合い、空間を歪ませる。後に大爆発を起こして辺りは煙に包まれる。

 

「くっ!?」

 

肉眼では捉えなくなったリーラを探す。煙の中では同じ状況下で向こうも自分の姿を見えなくなっている。

 

ガキンッ!

 

鉄と鉄がぶつかるような音が聞こえた。それは―――。

 

「イッセーッ!?」

 

 

「主に矛を向けるような真似をお許しください一誠さま」

 

「・・・・・っ」

 

リーラがリースを無視して真っ直ぐ一誠にグンニグルを突き付けていた。エクスカリバーで防ぐ一誠は疲弊の色がハッキリと顔に浮かんでいた。

 

「俺の、邪魔をするな・・・・・」

 

「私は生きております。ですから、戻ってきてください」

 

「うるさいっ!」

 

強引に押し返してリーラから離れる。

 

「俺は・・・・・俺は、リゼヴィムに復讐するんだっ」

 

「その復讐は何の為に、誰の為にですか」

 

「・・・・・」

 

リーラの質問に口籠る。

 

「思い出してください。あなたは今までどうやって生きていたのを、どうして今の自分がいるのかを」

 

諭すように発する。それでも一誠は戦意と敵意の炎を瞳に孕ます。

 

「関係ない・・・・・ここにリゼヴィムがいるかもしれないんだ。いなければ冥界に行って探しだすまでだ。もう直消えそうになるこの命を懸けて」

 

「・・・・・一誠さま」

 

可哀想な子を見るリーラは首を横に振った。自分の中であるスイッチを押した―――。

 

「・・・・・わかりました。では、全力であなたを倒すほかございませんね」

 

―――一誠が大きく目を張るほどのリーラから感じるプレッシャーと『魔力』。

徐に束ねていた銀髪を解き、ロングストレートにした瞬間にメイド服が光り輝き、違う服と化した。

身体のボディラインを浮き彫りにする黒い戦闘服。

 

バサッ!

 

そして勢いよく生え出す黒い翼。それはまさしく・・・・・。

 

「悪魔・・・・・?」

 

 

 

「おい、誠と一香。本当にあのメイドを行かせてよかったのか」

 

『ああ、彼女は問題ないよ』

 

「レプリカのグンニグルを持っているからって一誠と太刀打ちすらできんだろう」

 

『アザゼル。違うわ』

 

「なんだと?」

 

『リーラは強いわ。ええ、とても』

 

「強い?バカ言え、あのメイドが一度も強さの片鱗すら見せていなかったんだぞ」

 

『じゃあ、見せなかったと言えばどうなる?それで納得できるか?』

 

「誠・・・・・何を言って」

 

『彼女はねアザゼル・・・・・一誠は確かに俺たちの子だ。だが、一誠はリーラの子供でもあるんだ』

 

「は・・・・・?」

 

『リーラ・シャルンホルストという人間の女性はこの世に存在しない。ただの偽りの仮面を被った人物だ』

 

『リーラという人間の仮面を被って一誠という名前の子供を見守ってきたの。太古の古からね』

 

「おいお前ら・・・・・何を言っているんだ」

 

『アザゼル。これは彼女が俺たちに信頼と信用して明かしてくれた事実だ。彼女、リーラ・シャルンホルストは人間じゃない。とある神話体系に存在していた―――悪魔なんだ』

 

『そして、その神話体系のなかでかなり有名な人物に仕えていた悪魔だった。リーラは仕えていた人物の為に何度も記憶を受け継いだ状態で輪廻転生をし続けてきたの』

 

『その度にその人物の傍にいた。その度に見守り、愛した』

 

『彼女はこれからもそうし続けるだろう。ははっ、彼女ほど一途に一人の男を想う女は、彼女ほど究極の愛を捧げる女は滅多にいない』

 

 

 

 

『バカな・・・・・』

 

アジ・ダハーカはリーラから感じる魔力に絶句する。有り得ないの一言だ。

 

『お前・・・・・なのか・・・・・?』

 

この場に聞こえるように発するアジ・ダハーカ。その声はリーラにまで届いた。

リーラは淡々と述べる。

 

「今はリーラ・シャルンホルストでございます。アジ・ダハーカ」

 

『―――なぜ、なぜお前がここにいるんだ!?いや、どうして俺は今までお前ほどの者を気付かずにいたのだ!?』

 

「疑問を抱くのは当然でございましょう。ですが、それはどうでもいいこと。私は主を取り戻すことを優先しているのですから」

 

『兵藤一誠を主、そしてお前・・・・・。―――まさか、兵藤一誠というのはっ!?』

 

今度は愕然とする。アジ・ダハーカにとっても信じ難い事だった。リーラとアジ・ダハーカの話を耳にして怪訝に戦闘を止めた英雄派と百代たち。

 

「なんだ、一誠がどうしたというんだ?」

 

「わからない。だけど、あのメイドと一誠くんは因縁めいた何かが・・・・・?」

 

「それよりもあの姿・・・・・悪魔なのか?」

 

「曹操、あのメイドが悪魔だってことは」

 

「初めて知ったよ。まさか、完全に魔力とその気配を隠していたなんてね」

 

リーラの正体に驚き、一誠とリーラの戦いを見守る姿勢となる。

 

「メリアさま」

 

レプリカのグンニグルを亜空間に仕舞うと反対の手に金色の杖が光と共に具現化した。

リーラはソレを剣に変えだし、また亜空間から一つの一振りの剣を取り出した。

 

「ユウキさま。お借りしたあなたの剣を使わせてもらいます」

 

「そうはさせない!」

 

リースがリーラに飛び掛かる。躊躇のない槍の一撃を一瞬でかわし、リースの首筋に手刀を叩きこんで意識を狩った。

 

「・・・・・」

 

一誠は静かにオーラを身体から滲ませエクスカリバーを構えた。

 

「主と戦うことになるなんて生まれて初めての経験です」

 

そう言った瞬間に一誠の間合いに飛び込んでは二つの剣を振り下ろした。「迅っ!」と驚く声が漏れる。

エクスカリバーでリーラの斬撃を受け止めた刹那、一誠は腹部を蹴られ吹っ飛んだ。

 

「一誠さま、私は常にあなたの行動を見てきました。能力、体術、剣術、ありとあらゆる戦い方を私は見てきました。とても強い力もあるかとを承知です」

 

宙返りして海に飛び込む前に魔方陣を展開してそれを足場代わりにし、そこから一気にリーラへ跳躍して跳びかかった。金色の剣を上段から振るったリーラ。

 

「っ!?」

 

何かを察知して宙を蹴って横に跳んだ一誠。次の瞬間、海が轟音と共に激しい水飛沫を生じながら一キロ先まで割れ出した。

 

「海を・・・・・斬っただと!?」

 

誰もが目を張り、リーラの剣技に驚きを隠せなかった。割れた海を見て一誠は両手で気と魔力を融合させ、飛躍的に―――。

 

「感卦法―――」

 

一誠のやっていることをリーラまでもしてみせた。

 

「―――女宝(イッティラタナ)ッ!」

 

曹操が横やりを入った。ボウリング級の大きさの球体を高速でリーラの元に飛ばした。

 

カッ!

 

が、曹操の球体が真っ二つに裂かれた。無効化された自分の能力を苦笑浮かべるしかない曹操。

 

「・・・・・侮っていたよ。まさかあなたがそこまで実力を隠していたとは」

 

「メイドという職業柄、主の身のお世話をするお仕事ですので戦闘に関しては誠さまと一香さまにお任せていました。たまに私も手伝わせることもありますが」

 

「手を出さないでください」と釘を差すことも忘れない。その後、一誠とリーラは激しい剣戟を繰り広げた。

メイドとは思えない剣さばき。時折体術も交ぜて一誠を・・・・・押していく。

 

「くっ・・・・・」

 

鍔迫り合いしている最中、呪いと毒で酷く体力を消耗していく一方、血の塊を吐いて腕に力が抜けていきそうにもなる。だが、ここで負ければ―――。

 

「負けて・・・・・たまるかっ」

 

天使化となって一誠は宙へ浮いた。

 

「この命を懸けてでも俺はリゼヴィムのところに行って復讐をするんだぁっ!」

 

エクスカリバーを高らかに掲げ、青白い極光を刀身に帯びさせ輝かせ始める。

 

「一誠さま、もう復讐などしなくてよいのです!」

 

翼を羽ばたかせ一誠より高く飛んで二つの剣を神々しく輝かせる。二つの極光がこの場を照らし、一同の目を釘づけにする。

 

「おおおおおおおおおおっ!エクスカリバー(約束された勝利の剣)ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

「帰ってきてください、一誠さまぁっ!」

 

空にいるリーラに向かって怒涛の勢いで伸びていく青白い極光の斬撃波。下にいる一誠に向かって突き進む極光の金色の斬撃波がどちらからでも無く直撃した。その余波で海を荒々しく衝撃を与える。

 

「ぐおおおおおっ!」

 

全魔力を込めて放った青白い斬撃波。一誠はこの瞬間、命を削って目の前の敵を倒そうとしている。リーラも一誠に対する想いを力にして一切一瞬の気の緩みも許されないこの状況を真摯に―――。

 

「一誠さま、この私の、私の全てを受け止めてください!」

 

更なる強大な魔力を放った結果、物凄い勢いで一誠の青白い魔力を押し弾き、呑みこみながら一誠に向かって迫った。

 

「っ!?」

 

そして、迫りくるリーラの魔力の斬撃に呑まれた一誠、その攻撃は止まることを知らずそのまま海にまで直撃したのだった。

 

「バカな・・・・・っ!」

 

「一誠っ!」

 

モルドレッドと曹操が一誠の敗北を頭の中に過ぎった。が―――一筋の光が見えだした。それはリーラに向かい、

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

エクスカリバーの鞘を前に構えて突貫する一誠の姿。一誠の行動に目を張るリーラだが、直ぐに気を引き締めて一誠と同じ行動に出た。二人が近づき、零距離にまで近づき剣を振るって―――。

 

「「はああああああああああああっ!!!!!」」

 

 

ザンッッッ!!!!!

 

 

『っ!?』

 

二人は擦れ違って途中で止まってはその瞬間を曹操たちの目の前で窺わせる。どちらが勝った?

見逃せない戦いに目を大きくして凝視する。

 

「・・・・・」

 

最初に動いたのは一誠だった一誠に振り返り、エクスカリバーに魔力を込めだした。

 

「―――がはっ!」

 

と、思いきや盛大に吐血して真っ逆さまに海へと落下。それは一誠の完全敗北と道理であった。一拍遅れてリーラが一誠を追いかけ、間一髪腕の中に抱きとめた。

 

「・・・・・なぜ、最後に剣を振るわなかったのですか」

 

誰にも聞こえないぐらいの声を発して一誠に問う。対して一誠は苦笑を浮かべる。

 

「・・・・・愛おしいメイドを傷付けることできるわけないじゃんか」

 

「―――っ!?」

 

「強かったんだな・・・・・リーラ。ずっと隠していたのか・・・・・はは、騙された気分だけど爽快だ」

 

「申し訳ございません・・・・・」

 

記憶が戻った。その喜び以上にリーラは一誠を強く抱きしめ、存在を確かめる。

 

「ジャヒー」

 

一誠の口からリーラが驚愕する言葉が出た。信じられないと一誠を見るが、気を失っている少年の顔だった。空耳だったのか分からないが―――。

 

「・・・・・それでも最高に嬉しいです。ああ、我が―――っ」

 

歓喜に極まって琥珀の瞳を潤わせ、愛おしい一誠の顔を見詰める。

 

『フフッ、フフフフフッ!クハハハハハハッ!ああ、本当に兵藤一誠はイレギュラーだな!まさか、兵藤一誠があの方の―――!』

 

そして、一誠の中で何時までも笑い上げるアジ・ダハーカにネメシスとゾラードが怪訝に見ていた。

 

「一誠がやられた・・・・・サマエルの毒と呪いを受けていなかったら一誠が勝っていただろうに」

 

「曹操、撤退するぞ」

 

霧を発生させるゲオルク。もうこの場にいてもしょうがない。そして、誰もが一誠の方へ意識を向けていた。逃走するなら今しかないと、判断した。

 

「おやおや、どこに行こうとするのかな?」

 

「っ!?」

 

ゲオルクの肩に手を置いて無言のプレッシャーを与える―――誠が何時の間にか背後に立っていた。下手に動けば、どうなるかわかっているよな?と。

 

「兵藤家の元当主か!」

 

拳を突き出すヘラクレス。攻撃と同時に爆発するその威力は一誠との特訓や鍛練によって強化された。

無防備に食らえば人間の身体は木端微塵となるだろう。その一撃を―――誠は真正面から手の平で受け止めた。

 

「なんだ、この拳は?」

 

「―――っ!?」

 

「拳ってのはな。こういう風にするんだ。前にも同じことを教えたよな」

 

ゲオルクを掴んだまま、ヘラクレスの腹部に打撃を与えた。凄まじい衝撃音と同時に相手の意識を狩った。

仲間を倒され、ジークフリートも動こうとしたが。

 

「動くなよ、ガキ共」

 

ゾッ!

 

とてつもない威圧感を感じ、曹操ですら頬に冷や汗を流す。

 

「・・・・・やれやれ、詰んだようだな」

 

「曹操・・・・・!」

 

「彼は間違いなく私たちを瞬殺できる実力を持っている・・・・・それでも異論はあるか?」

 

「・・・・・いや、もう詰んだね本当に」

 

「ああ・・・・・」

 

ジークフリートとゲオルクもお手上げと両手を上げた。こうして人間界の日本の海域にいた巨大魔獣と量産型邪龍は全滅、幹部を含めた英雄派も全員捕縛。これによってテロリストの一派、英雄派は壊滅となった。

 

―――冥界―――

 

魔王都に進撃していた巨大魔獣と小型魔獣。名高い最上級悪魔たちが懸命に戦ったことで被害は最小限に抑えた。

魔獣も駆逐され、事無き終えた―――そう思った。

 

空中都市、アグレアスが黒い靄に包まれると冥界から忽然と消失した。それは冥界に住む悪魔たちにとって魔獣襲来の次に仰天する事実。

 

『やっほー冥界にいる悪魔と堕天使の諸君。俺、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー!現魔王のルシファーの弟くんでーす。今回、俺主催のお祭りはどうだった?楽しくて堪能してくれたかなぁー?うひゃひゃひゃっ!さーてさーて、そんな楽しい思いをさせた僕ちゃんは偉いでしょ?だ・か・ら、空中都市アグレアスをもらっとくねー?あ、ねーちゃん。お仕事頑張ってねー?俺は異世界で唯一無敵の魔王をしちゃってくるからさ!』

 

リゼヴィムから冥界中に発した立体映像での発言に冥界はリゼヴィムに対する畏怖の念や戦慄を抱くようになった。そして人間界の世界中に現れた巨大魔獣たちは神話体系の神々によって倒され尽くした。その結果、世界は神々を崇めるようになり、これを機に一部の神は人間界を行き来するようになった。

 

――○●○―――

 

「うむ、潰れた目はどうしようもないがこれで身に潜んでいたおった主な呪いは仙術で取り出せたわい。これで体も楽になるだろうが、しばらくは安静するんだぜぃ」

 

「ん・・・・・ありがとうお猿のお爺ちゃん」

 

「まったく、同じ呪いを二度も食らう者は初めて聞くわぃ。それで復活したり生きているんだから坊主、お前さんはとんでもなくただのドラゴンじゃないぜぃ。イレギュラーそのものだ」

 

「よく言われる・・・・・」

 

「仏の顔は三度までと言うが坊主にとっては三度目は無いということかのぉ。まあ、坊主の元気な姿を見られてジジイも安心したわぃ」

 

幼稚園児の身長と同じしわくちゃな顔な猿の妖怪がポンポンと一誠の頭を触れる。名は闘戦勝仏、本名は初代孫悟空。

 

「坊主、あのやんちゃな嬢ちゃんたちは捕まったが、気分はどうだぃ?」

 

「何時かこうなると思っていたよ。曹操が自由の身となったらまた昔のように一緒に遊びたいかな」

 

「カッカッカッ、甘いな坊主。一度殺された相手に記憶を封印された―――と見せかけている中でもずっと利用されていたってのに嬢ちゃんと遊びたいってか」

 

「あいつはただ、俺の願いを果たそうとしているだけなんだ。やっていることは間違っているけどそれは俺の原因。俺も一時期テロリストだったし、いつか俺も罰を受けるよ曹操の為にも」

 

「・・・・・甘いどころか、どこまでもお人好しだぜぃ。だからこそ、他の神話体系の神々が坊主を気に入るのかねぇ」

 

一誠から離れ、部屋を後にしようとする。

 

「またいつか、会いにくるぜい坊主。そん時は天帝から手土産でも貰ってくるからよ」

 

「楽しみにしてるよお猿のお爺ちゃん」

 

最後の別れ話を終えると一誠は眠りにつこうと瞑目し、闘戦勝仏が扉を開け放った瞬間。

 

『うわっ!』

 

『きゃっ!』

 

ドアにへばりついていただろう一誠の家族たちが部屋に雪崩れ込んできた。

 

「何しておるんじゃお主らは。ほれ、失礼するぜぃ」

 

と、堂々と少女と女性たちの身体や頭を踏んづけながら部屋を後にする闘戦勝仏。

 

「ひ、人の顔を踏んづけるなんてっ」

 

「なんて猿の妖怪なのかしら・・・・・」

 

それよりも一誠だ。ゆっくりと立ち上がり、瞑目している一誠を囲むようにして佇みだす。

 

「ん」

 

一人、オーフィスだけは一誠の膝の位置に腰を下ろして見詰める。

 

「寝てる・・・・・?」

 

「闘戦勝仏が訪問しに来てくれるまで激痛に苦しんでいたからようやくそれがなくなったからきっと・・・・・」

 

「はぅ・・・・・よかった」

 

ようやく、ようやくこうして間近で一誠を見られ、触れることができる。一誠がいない間はとても長く感じてしょうがなかった。離れ離れになっている間、一誠は大変な目に遭っていたが。

 

「片目、無くなっちゃっているからやっぱり眼帯必要よね」

 

「義眼とかは?」

 

「いや、リースの話ではグレートレッドが身体を新調してくれているそうだ。魂を移しかえれば問題ないじゃないか?」

 

「でも、また先輩が死ぬようなことがあれば・・・・・」

 

「新調してくれる身体は念のために保管しておかない?」

 

「うーん、そう考えるとその方がいいのかな」

 

眠り付く一誠の傍であれこれと会話を飛び交う中、オーフィスは動いた。四つ這いで一誠に迫り、

 

「オーフィス?」

 

一同がオーフィスの行動を見守る。

 

「片目のないイッセー。困る。だからこうする」

 

―――自分の目をあろうことか誰も行えない事を、自分の手で眼球を取り外した。それには戦慄し、

全員は息を呑んだ。オーフィスの抜き取った自分の目を閉じられた一誠の瞼を手で押し開き、サマエルの毒で潰れた目のポッカリと空いた眼窩にオーフィスは自分の目を「ん」と押し込んだ。

 

「これでよし」

 

「オ、オーフィス・・・・・?」

 

何かやり切ったように嬉しそうな顔をするオーフィスに当惑する面々。次の瞬間。カッと一誠が目を見開いて上半身を起こした。

 

「うぐっ・・・・・なんだこれ・・・・・?」

 

「一誠!」

 

「一誠くん!」

 

「イッセー!」

 

「イッセーくん!」

 

「先輩!」

 

なにか衝動的に駆られて起き上がった一誠に驚きと歓喜の声が。しかし、当の一誠は自分の身に起きた変化に当惑していた。オーフィスが嵌め込んだ眼からオーフィスの視界で自分の姿が映り込んでいるのを驚いている。

 

「オーフィス・・・・・俺に何をした?」

 

「我の眼を与えた」

 

「視界が共有しているのは・・・・・オーフィスと同じ眼だからか」

 

「そう」

 

コクリと肯定した。自分で取り出したオーフィスの眼は何時の間にか二つに戻っていた。

無限を司るドラゴン故に身体の一部を損傷しても直ぐに戻ったのだろう。

 

「これ・・・・・日常に少し大変だな。寝ている間、いきなり頭の中に俺を見ている光景を叩きこまれたぞ」

 

「我も、いまイッセーが見ている光景を我も見えている」

 

オーフィスの視界に一誠の視界で見える自分の姿。オーフィスは気にしないだろう、しかし一誠は成れない状態で生活するのに困惑するだろう。二つ分の視界が一気に映り込むのはテレビを二台同時に見るのと同じでどちらか意識をしないといけないのだ。

 

「・・・・・致し方ない。こうするか」

 

亜空間から一つの黒い眼帯を取り出してそれをオーフィスの目の上に覆い隠す。

そうすることで一誠とオーフィスの視界は共有することができずにいられる。

元々オーフィスが自分の眼を与えないでいれば眼帯を装着することとなっていただろう。

 

「それ、どうしたの?」

 

「川神学園に一時期通っていた時に軍人からかっぱらった」

 

「軍人・・・・・ああ、あの人」

 

思い当たる人物がいた。

 

「・・・・・寝ている間に囲まれていたな」

 

「師匠のことが心配でお見舞いに来たのだ」

 

ゼノヴィアが胸を張って言う。相槌を打って一誠は咲夜に顔を向けて尋ねる。

 

「魔獣と邪龍はどうなった?」

 

「被害は深刻ですが、全て全滅。冥界も然りです」

 

「そうか」と上半身を倒してベッドに沈む。ここぞとばかりオーフィスは一緒に布団の中に入り一誠の胸の上に丸くなった。

 

「一誠さま・・・あなたは本当に自分の意志で英雄派に加わったのですか?」

 

「ああ、本当だ。英雄派の為じゃなく、リーラを殺したあの悪魔を復讐する為に」

 

「どうして、私たちと一緒じゃないとダメなの?」

 

イリナの質問に頷く。

 

「俺が英雄派のところにいた時はリーラが復活していたことなんて知らなかった。だから英雄派に入ってリゼヴィムのおじさんと接触する機会を待った。同じテロリスト同士なら会う機会も直ぐに訪れると思ってな」

 

「先輩、ボクたちのこと本当に忘れていたんですか?」

 

そうユウキは言う。国会議事堂に現れた時自分たちの事を赤の他人のように言われた。それは一誠の今までの記憶を封印されていたからだと後にメリアが語ってくれた。

 

「忘れていた、というよりも記憶を封印されていた事実は本当だ」

 

そこで一誠は深い溜息を吐いては眼帯に手を添えて口を開く。

 

「まさか、サマエルの血で作った弾丸を食らうことになるなんて予想外だった。二度も同じ呪いを受けるなんて俺自身信じられなかった。アレのおかげで俺は今に至ったんだろうな」

 

「その、やっぱり痛かった・・・・・?」

 

恐る恐るとルーラーが訊くと重々しく一誠は頷いた。

 

「死ぬほど痛かったぞ。全身に激痛が走るわ、血反吐を何度も吐いたり、意識が朦朧で何時でも死んでもおかしくなかった。もうこりごりだ、あんな痛みを感じるのは」

 

「それを二度も経験するなんて・・・・・考えただけでゾッとするわね」

 

自分を抱くようにしてナヴィは引き攣った顔で首を横に振る。

究極のドラゴンスレイヤーの呪いと毒は伊達ではなかった。

胸の上にいるオーフィスの頭を、黒髪を撫で始める一誠。久々に撫でられる感触に心地良さそうに目を細め、

手の温もりも堪能する。

 

「・・・・・ところで聞きたいんだが。なんか皆、見ない間に強くなってないか?」

 

『うっ・・・・・!』

 

「・・・・・どうした?」

 

触れられたくないとばかり呻く家族に一誠は首を捻ると咲夜が「後でご説明します」と話をはぐらかした。

 

「イッセーくん、体調はどう?まだ毒と呪いで苦しい?」

 

「お猿のお爺ちゃんが全部取り除いたおかげで苦しくないが、まだ若干の麻痺の症状が出ている。こうしてオーフィスの頭を撫でるぐらいのことならばなんとか」

 

「そ、そうなんだ・・・・・」

 

シアが安堵で胸を撫で下ろす。すると、何か閃いたように顔を明るくした。

 

「そうっす!今日は学校を休んで一誠くんのお世話―――!」

 

「それはダメですシアさま」

 

否定の言葉がシアの声を遮った。

 

「皆さま、そろそろ学園に行く時間でございます。速やかに支度を済ませてください」

 

「リ、リーラさん・・・・・」

 

「さあ、早く」

 

有無を言わせない。絶対零度の視線ととてつもないプレッシャーを放つリーラに学園に行くメンバーは渋々と一誠の部屋から出た。

 

「んじゃ、私たちも行こうかしらね」

 

「ああ、そうだな」

 

学校に行かないメンバーも部屋から退出。残ったのはオーフィスと一誠、リーラだけとなった。

 

「・・・・・リーラ」

 

「一誠さま・・・・・」

 

死別し、離れ離れでずっと会話すらできなかった二人。一誠は片腕を出してリーラに伸ばすとそれに応えるように一誠の手を掴んで握りしめ、自分の頬に添えた。

 

「生きているんだな・・・・・」

 

「はい、私はこうして生きておられます。申し訳ございません。私の失態で主であるあなたさまを・・・・・」

 

「もういい・・・・・またリーラと触れあうことができるならそれで・・・・・」

 

どちらも尻目に涙を浮かべ、一誠がリーラの後頭部に手を回して引き寄せた。リーラもそれに逆らわず、自分からでも一誠へ近づき掛け布団を捲って潜り込み、密着する。

 

「一誠さま・・・・・」

 

「リーラ・・・・・」

 

どちからでもなく口付けを交わす。そしてリーラが一誠の耳に口を寄せて声を殺して呟いた。

 

「今夜は・・・・・寝かせませんよ・・・・・」

 

惜しみながらもリーラは一誠から離れ、オーフィスを掴んで部屋を後にした。

二人を見送り、ベッドに身を沈める。だが、一誠はゆっくりと休められずにいた。

目の前に三つの魔方陣が展開して、一誠と対面する。

 

「よう、元気そうだな」

 

「久し振りだね一誠ちゃん」

 

「・・・・・」

 

フォーベシイ、ユーストマ、アザゼル。そんな三人に対して何故かハリセンを構えようとする。

 

「一誠ちゃん、どうしてそれを構えるんだい」

 

「不法侵入」

 

「細けぇことは気にすんなっ!」

 

「シアにも同じこと言える?嫌われるよ?魔王のおじさんも」

 

「「激しくごめんなさいと思う」」

 

頭を下げる勢力のトップに無視してアザゼルが口を開く。

 

「一誠、お前・・・・・」

 

「ん?」

 

「いや・・・・・なんでもない」

 

アザゼルは首を横に振って話を逸らす。一誠が誰であろうと一誠は一誠なのだ。

今更それを追求、説明したって何も変わらない。「変なアザゼルのおじさん」と思った一誠の手の甲に宝玉が浮かんだ。

 

『我が主、回復は良好そうでなによりだな』

 

「アジ・ダハーカ?というか、主って急にどうしたんだよ」

 

『呼び方など今更どうでもいいではないか。クハハハハッ!』

 

なにやらテンションが高いアジ・ダハーカ。一誠が怪訝になるのも無理は無い。

 

「なんだ、随分と邪龍に忠誠心を向けられているな」

 

「俺にも分からないんだよ。今でも戸惑っている。リーラが悪魔だって事を知ってから・・・・・」

 

「うん、それについては私も驚いたよ。まさか、彼女が悪魔とは魔王である私が気付かなかった」

 

「ただの人間にしては優秀だと思っていたが・・・・・俺ですら気付かないなんてな」

 

魔王と神王、悪魔の気配を感じるのに呼吸をするように分かる二人が気付かなかった。

リーラという女性は悪魔であることは極一部の者しか知られていない。

 

「でも、彼女が悪魔だとすると・・・・・私が把握している純血悪魔にシャルンホルストなんて悪魔はいないんだが」

 

「一般悪魔出じゃないのか?」

 

「いや・・・・・それにしては」

 

顎に手を添えて悩むフォーベシイ。そんな魔王に『ククク、悩め、悩むがいい』と嘲笑うアジ・ダハーカだった。

 

「・・・・・」

 

思いつめた表情となる一誠。三人は不思議そうに見詰めると決意が決まった表情で口を開きだした。

 

「アザゼルのおじさん、魔王のおじさん、神王のおじさん。お願いがある」

 

 

―――冥界―――

 

とある日、日本政府は英雄派の引き取りを冥界の魔王フォーベシイに求めた。だがしかし、フォーベシイは首を横に振った。

 

「彼女たちを拘束具程度で捕えることはできないよ?もしも脱走したらキミたちはどう責任を取るのかな?民間人に恐怖を抱かせる事態になれば我々は日本の警備を非難せざるを得ないよ?」

 

それでも執拗に求める日本政府に見兼ねて兵藤家が動き出す。「これ以上騒ぐな」と。

曹操たち神器(セイクリッド・ギア)の所有者からアザゼルたち神の子を見張る者(グリゴリ)の技術で規定に従い条件を満たさなければ能力を発動できなくさせられ、冥界の辺境にて厳重な警備の下で収監。

黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』は天界に没収。残りの問題はセカンド・オーフィス。

一誠とオーフィスの分身体とも言えるこのドラゴンの存在をどうするべきか悩んでいたところ、

 

「彼女、一誠に依存してるっぽいから人畜無害に等しいだろ?」

 

誠の一言でセカンド・オーフィスはオーフィスが監視することで決着ついた。

 

「残念だったな曹操」

 

「一誠がやられた原因、吸血鬼に攻め込む時点で私たちは間違いだったかもしれないな」

 

「だが、それでも楽しかったとも言える」

 

「リース、お前はリゼヴィムに復讐する目的で加わったのにとんだとばっちりを食らったな」

 

「いいの・・・・・私の代わりにきっとあの悪魔をどうにかしてくれるだろうから・・・・・」

 

「ちくしょうっ。目が覚めたと思えば何時の間にか捕まっているってなんだよこれ」

 

「・・・・・お腹空いた」

 

収監されている英雄派。特殊な魔術式で作られた冥界の辺境にある収容施設に新たな囚人が加わった。

曹操たちが目を見開いて驚くほどのものだった。

 

「お、お前!?」

 

「・・・・・久し振り」

 

「驚いたな・・・・・てっきり元の生活に戻っているのかと思ったのだけれど」

 

「俺もお前らと同じテロリストだったんだ。―――リーラたちに顔を向けることなんてできない」

 

とある人物の単語が出てきたことで曹操とゲオルクは目を丸くした。

 

「記憶が戻ったか。いや、私たちを責めないのか?」

 

「・・・・・俺が望んだ事なんだ。記憶の件についても感謝してる。だから責めも非難もしないよ」

 

記憶を封印された一誠とはどこか違い、苦笑を浮かべる。

 

「でも、キミを慕っている者たちは何も言わないのか?」

 

「いや、この事はアザゼルのおじさん、魔王のおじさん、神王のおじさんにだけ言って当然言われたさ。だけど、俺だけのうのうと償いもせずに生きていられない。洗脳されていたんだからしょうがないと言うが、俺の存在と行動は世界に知られている。十年も二十年も経っても俺たちは英雄派というテロリストがいる事を認知されるだろうし、俺は人間界で堂々と闊歩することはできない」

 

「そうだな」ゲオルクは当然とばかり発した。自分たちが犯した罪は相当重い。歳を取っても死んでも消えることは無い事実。一誠もそれを受け入れここに自ら来たのだろうと悟る。ヘラクレスは怪訝に一誠に問う。

 

「お前はそれでいいのかよ?」

 

「ああ、あいつらは待ってくれる。いや、それどころか俺はある提案をした」

 

「提案・・・・・?」

 

「俺の力が必要なら曹操たちも一緒に戦わせろってな」

 

一誠が共闘を望む。どうしてそんな事を提案に出したのか理解し難い。

 

「俺たちは負けたけどあいつらと張り合えるぐらい実力はある。リゼヴィムの異世界侵攻の野望を阻む力はどの世界も必要だ。あいつらも強いが限界もある。特にあのゾフィリスとかいう邪龍はとても厄介だ。オーフィスとクロウ・クルワッハでも倒せないんじゃヤバい。俺も俺の中にいるドラゴンたちもきっとそうだろう」

 

「少しでも対抗できる力を必要としている勢力に私たちを売ろうとするのか?」

 

「俺も含まれている。というか、アザゼルのおじさんたちは必ず俺を必要とするはずだ。テロリストだけど敵の敵は味方だとは思わないか?」

 

「ふふっ、流石だよ一誠・・・!」と曹操は笑みを浮かべ、英雄の子孫としての戦いを続け、一誠の願いを、約束を叶えられることに胸を弾ませた。

 

「そういうことだからリース。俺と前の『復讐』はまだ終わっちゃいない」

 

「―――イッセー、あなたと言う人は・・・・・」

 

感動し、リースは瞳を潤わせる。どこまでも兵藤一誠はブレない存在だと曹操たちも改めて認知した。

 

「俺はドラゴンだけど北欧の主神に認められた勇者。人間の敵、悪で魔の存在を倒すのは―――何時だって人間で勇者と英雄だ」

 

 

 

                                    fin



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エピソード65

『世間を騒がせたテロリストは捕縛され冥界の刑務所へ送還されてからかれこれ16日と過ぎました。しかし、政府は主犯格の人物であるテロリストのリーダーと思しき無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィス、真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッドによって転生した兵藤一誠の身柄を冥界の政府に要求をし続けております。どうしてなのでしょうか?生物研究科のジゲールさん』

 

『そうですねぇ。最強のドラゴンと不動のドラゴンの恩恵で転生した唯一の転生ドラゴンであります。しかも彼の天皇兵藤家の親族である。もしかしたら兵藤家に取り込んでドラゴンの血や力を求めておるのかもしれませんな』

 

『求めているということは人とドラゴンのハーフを作ろうとしているのですか?しかし、兵藤家は過去から現代まで異種族の遺伝子を拒んでいましたが』

 

『いえ、兵藤家と式森家が誕生した理由は魔人という種族と人間のハーフから成り立っておりますよ。つまり元から異種族の血を流しているので、ドラゴンの力を欲しているのであれば―――』

 

そこで、テレビの画面はブラックアウトしました。私のお父様、魔王フォーベシィの手に有るリモコンで電源を切ったからです。

 

「やれやれ、イッセーちゃんのことを知らない人間は性質が悪いね」

 

「パパ、実際のところはどうなのですか?」

 

「日本の政府からイッセーちゃんの引き渡し要求は来ているよ。他の魔王とか冥界の政府にまでご丁寧に送っている」

 

魔王の妻でもあり、メイドのお母様は今日もメイド服を身に包んでお父様の身のお世話や家事など頑張ってしておられます。私も・・・・・もう少しお料理ができるようになれば・・・・・。イッセー様に食べさせることができますのに・・・・・。

 

「それで、どのように返事をしているのですか?」

 

「重要参考人として冥界で聞き取り調査を入念に行っている。引き渡しを求めるなら五代魔王と政府の了承を得手からにしてほしい、と返してるよ」

 

「そうですか。それは無理な話ですね」

 

お父様と同じ魔王様方の了承も得る必要となると、世界のトップ同士の会談をしなくてはいけないのかもしれません。イッセー様の存在が世界の問題に発展するほど凄い御方になられていようとは・・・・・。

 

「さて・・・・・今日はそのことで各国の首脳や幾人かの他の神話と会談をする日だ。行ってくるよ。良い子で待っててねネリネちゃん、リコリスちゃん」

 

お母様と一緒に魔王としての仕事をお勤めになさられるお父様を見送ることしかできないリコリスと不安と遣る瀬無いこの気持ち・・・・・何かできるはずなのに、いざって時に行動ができない自分にくやしいです。

 

 

 

 

英雄派の首領と言われている兵藤一誠のしわ寄せは兵藤家にまで届こうとしている。しかし、そんなことよりも兵藤家では重大な日と迫っている。

 

「「・・・・・嫌です」」

 

「悠璃、楼羅・・・・・」

 

「「兵藤家の男と以前に、私達はもう決めたヒトがいます。お見合いなんて断固拒否」」

 

年頃の娘、しかしお見合いなどまだ早い歳で行おうとしている兵藤家の掟を一誠に恋している少女二人が父親の顔をそっぽ向いて拒否や否定の雰囲気を醸し出している。拒否する少女達に硬い表情で俺の親父は説得を試みている。かれこれこの話は五分も続いている。

 

「しかしだな・・・・・兵藤家の元当主の娘ならば、お見合いをするのは当然のことなのだぞ」

 

「いっくんがいいです」

 

「一誠様がいいです」

 

「・・・・・あの子は世間ではテロリストの主犯の一人と認識されている。兵藤家の名誉と権力でも、お前達と結婚させることはできない。それを理解―――「「できません」」・・・・・羅輝!お前からも何とか言ってやってくれ!」

 

もう聞いてくれないこの娘達は!と・・・・・なさけないなクソ親父よ。

 

「あらあら・・・・・困ったわね」

 

「お袋。この二人のお見合いはもう決定してんのか?」

 

頬に手を添えて困ったように眉根を寄せる母親に聞けば「一応は」と答えた。そうか、決めているのか。だが、この二人を納得させるのは色々と覚悟が必要になるぞ。

 

「正式にはまだよ。でも、候補は兵藤家の中でも何人か決まってるわ。特に力のある者を優先的にね」

 

「というと・・・・・誠輝なのか?二人のお見合い相手になるのは」

 

赤龍帝を宿す男と結ばれれば強い子孫が産まれる可能性はある。ドラゴンの力の影響で宿している張本人にも恩恵が与えられているからな。

 

「だけど、俺は親父とお袋の血を受け継いで、俺は一誠と誠輝という息子が恵まれた。でも、二人の間には俺以外にこの二人を産んだ。・・・・・これって結構関係がやばいんじゃないのか?」

 

「近親婚は兵藤家も式森家でもしてるわよ。血を絶やさない為にもね」

 

あー、さいですか。んで、烈火のごとく。誠輝とのお見合いを嫌がる悠璃と楼羅・・・・・・気持ちは分からなくはないが・・・・・うん。

 

「世の中はそう簡単に事が進むわけじゃないんだよなぁー。俺的にも一誠と結婚させたいが・・・・・世界と世間が・・・・・

 

「世界の目なんて潰します」

 

「世間が邪魔なら葬るまで」

 

・・・・・親父、どう育てたらこんな物騒な事を言う娘になるんだよ。誠輝と違った意味で暴力的っぽいぞ。

 

「二人とも、私達の息子はともかく他の男の子と少しぐらい話を―――」

 

おお、そうだ。一香、良いこと言った!

 

「「下半身で物を言わせるような性欲の塊と話をしたら孕まされます」」

 

・・・・・無理だっ!この二人、説得なんて無理!おーいっ!一誠、お前がどうにかしてくれよぉーっ!?

 

「・・・・・俺と羅輝に似つかない性格に育ってしまったぞ・・・・・無念」

 

「誠の息子の影響が凄まじいのよ貴方。もう、この二人を説得するのは骨が折れるわ。断わってもいいからお見合いをしてなんて言ったところで、顔を直視しないどころか、罵倒が飛んできそうよ」

 

ああ・・・・・難しくない未来予想図が見えてしまったよ。

 

「お父様。これ以上私達にお見合いの一言でも言ったら・・・・・・」

 

「おじ・・・・・兄さんのように兵藤家から飛び出してでもいっくんと結婚するよ」

 

「んなっ・・・・・!?」

 

つまり、俺みたいなことをするってことか。おー、二代目の誕生か!というか、悠璃。俺のことおじさんと呼ぼうとしなかったか?戸惑うのは分かるが俺はまだおじさんの年齢ではないぞ(精神的な意味で)!

 

「面白いな。俺は大賛成だぞ」

 

「貴様っ!バカな事を言うな!あんな突拍子で破天荒な事はお前だけで十分なのだぞ!」

 

食って掛かるなって。というか、高が家を飛び出した程度で大騒ぎになるなよ・・・・・。

 

「親父、人はこう言うぜ。愛さえあれば何だって不可能を可能にし、何でも許されるんだってよ」

 

「どこの迷信だっ。俺は許さんぞ絶対に!」

 

何たることだっ。禁じられた愛を許してくれないとは!ほら、目に涙が浮かんで今にも泣きそうだぞ!

 

「酷いっ!俺と一香の愛を許してくれないんだねお父ちゃん!」

 

「気色悪いわぁああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」

 

ドンガラガッシャーンッ!と卓袱台返しをして殴りかかって来たクソ親父と久々に身体を張った喧嘩をする!

 

「まあ、あの二人は放っておいて。二人とも。これは兵藤家の者として逆らえない行事なのですよ。お見合いが嫌でも兵藤家の未来が懸っているのです。私達の娘として恥ずべき言動は許しません」

 

「「・・・・・」」

 

「断わってもいいですから。ちゃんとしなさい。いいですね」

 

「「嫌」」

 

「・・・・・」

 

最後まで断固反対とお見合いすらしたくないと突っぱねる二人に「あの子からも言ってくれないかしら」と冥界にいる少年に溜息を吐くお袋。

 

 

全世界に侵攻した巨大魔獣、英雄派の壊滅、冥界のアグレアスの奪取。一日で起きた壮絶な事件は希望と絶望が織り交ざったものの、明日を迎えた者達。この時を以って世界は変わろうとしていた。良い意味でも悪い意味でも。

 

「リゼヴィムさま。それは?」

 

「んーふふふっ。レーティングゲームの存在意義を許し兼ねない駒さ。協力者からちょっとだけ借りてさぁ?これで冥界のお爺ちゃんたちを揺さぶって快く協力してもらいたいかなーって思っているんだよこれが」

 

「そのついでにレーティングゲームのトップランカーたちを裏から操ろうと?」

 

「―――うひゃひゃひゃっ!ユーグリットくん、面白いことを言いだすねー?いいねそれっ!採用だぁ。流石に坊ちゃんの父ちゃんと母ちゃんも全員を相手にしたらてこずるだろうねっ!」

 

「ではその際、私に赤龍帝を用意して貰えないでしょうか?」

 

「あん?あの坊ちゃんより価値のないよわっちぃ赤ちゃんを?仲間に入れるってんなら俺は反対だぜぃ?」

 

「本人はともかく、『赤龍帝』は色々と使えますよリゼヴィムさま?」

 

「・・・・・ぐふふっ。うん、そうだねー。外見はともかく中身は有能だよねー?そこまで頭が回らなかったよユーグリットくん」

 

「あなたの『悪魔』を私に魅させてくださいよリゼヴィムさま」

 

「おうっ!期待してくれていいぜユーグリットくんっ!うひゃひゃひゃっー!」

 

 

 

「お父さん、お母さん。私・・・・・二人を助けてくれた人たちとその子供と話してみたい」

 

「急に、どうした?」

 

「お父さんたちを助けた人たちの子供が悪い子とは思えなくて・・・・・」

 

「・・・・・お前が心配するほど、あの子は悪人じゃない。何度も近くで見た俺が分かっている」

 

「だけど困ったわね。会わすことは難しいわよ?」

 

「・・・・・あの方たちに頼めば会わせてくれるだろう。それでも会えない可能性はあるが、行きたいか?」

 

「行きたいわ」

 

 

「くそがッ!全然こんなんじゃ足りねぇっ!」

 

大人や同世代の子供が揃って地に平伏し、死屍累々と化していた。この凄惨の元凶、鎧を纏っている赤龍帝の誠輝は憤怒の形相で拳を握り、満足のいく達成感・・・・・100人一斉に相手をしても思った通りにはいかず、苛立ちを口にして地団駄踏む。

 

「俺のどこが駄目なんだっ!?俺は赤龍帝だぞ、兵藤家の大人や同世代の中じゃ俺が最強だぞ!なのに、なのにどうして俺は後れを取られ、負けるんだドライグ!」

 

己に秘めている力の源に訴える。誠輝の言葉に宝玉が点滅し出す。まるで答えを応じるかのように音声が発生する。

 

『だからではないのか』

 

「んだと」

 

『相棒が今まで相手にしてきた者達以外、誰と戦って勝ってきた?』

 

問うようにドライグは誠輝に語る。

 

『同じ者と戦って勝利しても相棒の成長にはならない。相棒の見る視野が狭い限り、本当の強さなど得られん』

 

「――――っ」

 

『それに比べ兵藤一誠は世界を知り、己を知っている様子。様々な出会いをし、様々な危険に遭い、様々な経験をしてきた。その結果が今の兵藤一誠という者がいるのだ』

 

違いの差を突き付けられ、どうしようのない怒りが身を焦がす。最初は弱かった者が今では最強の部類に成りそうなほど力を身に付けている。何が違う、何が正しい、何が―――足りないのか。奥歯を噛み締める誠輝はこの場にいない者に対して嫉妬と怒り、憎悪―――若干の羨望を向ける。

 

「あの化け物と俺の違いと差が・・・・・ここまで違うってのかよっ・・・・・!」

 

『環境がそうさせているのだろう。世界を渡り、神や伝説、有名な者達と触れ、師を仰いでいる。天と地の差以上の恵まれた環境と過酷な状況の中でにいたはずだ』

 

「なら、俺だって神に鍛えられりゃあっ・・・・・」

 

『相棒に知り合いの神がいたか?いや、皆無に等しいだろう』

 

皆無―――。現実を認識させられる誠輝は「うるせぇっ!」と宝玉に向かって叫んだ。

 

「そもそもドライグ。お前の力はこんなもんじゃないはずだっ。なのにどうして力を俺に寄越さない!?」

 

『俺は封印される際に本来の力も封印されている。それ以前に俺の力を完全に使いこなすには相棒次第が大きい。相棒の成長と環境に応じて新たな力が手に入る筈だ』

 

「覇龍だって、使えるようになってもかっ」

 

『龍化した兵藤一誠にあっさりやられたがな』

 

龍化、ドラゴンに成る変化。一誠自身もドラゴン故に龍化ができる。誠輝のプライドを刺激された。人間とドラゴン、どっちが強いかなど力を求める者の考えと違い次第で意見は分かれる。

 

「・・・・・俺もドラゴンになりゃ、今より強くなれんだろうな」

 

『・・・・・止めておけ。身体だけでなく心までドラゴンになってしまえば、もう元には戻れない。力の代償はあまりにも大きい。ただ強さを求め、その後に何が残るのか・・・・・俺は知っている』

 

ドライグの声音に感情が籠っていない。今の生活や環境など全て自ら壊すような考えを言う誠輝に制止の言葉を掛けた。人の身で生きていく幸せを手放すなど止せと。

 

『ドラゴンになるより、相棒が通っている学校に強者がいる。己を高めたければその者達と戦った方が―――』

 

「・・・・・くくくっ。そうだ、どうしてこんなことを今まで気付かなかったんだ」

 

しかし、誠輝の中で邪念を抱いていた。誠や一香すら気付かない誠輝の心境に。

 

「―――おいドライグ。俺の言うことを従え」

 

 

 

「おい、これで何度目だ?他の連中に八つ当たり気味で特訓と称したアレはよ」

 

「よほど自分の弱さに堪えたんじゃないか?覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)でも倒せなかったからよ」

 

誠輝の言動を遠くから兵藤達が呆れ、嘲笑、興味なさそうに見ていた。後で後始末を押し付けられそうだなと思いつつ会話を続ける。

 

「まあ、自分の弱さに堪えたのは私たちもそうだけどね。自分の弱さを突き付けられたもの。それと気付いている?兵藤家と式森家の大人たち。国会議事堂の破壊を許しちゃってから世間を敏感に気にするようになってるわ」

 

「私たち次世代の兵藤家と式森家にもしわ寄せは確定ね」

 

「あー、嫌だ嫌だ。それは大人の責任だろう。どうして僕たちまで・・・・・」

 

嘆息し、傍迷惑な事だと落胆する。それは他の面々も同じ心情だった。

 

「俺達は他の人間とは違う、期待される側に立つ者は常に理不尽なことに巻き込まれるものさ」

 

「でもよ。それぐらいで良かったんじゃね?もしもあの兵藤一誠が兵藤家だったら確実に兵藤家はヤバかったはずだぜ」

 

「だな。いなくて良かったぜ!」

 

テロリストに成った一誠は兵藤家だけでなく、世界でも否定的になるかもしれない。

 

 

「・・・・・イッセー、お前、まだここに留まるつもりなのか?」

 

「言ったはずだ。俺は自ら英雄派になったんだ。犯した過ちを少しでも償いたいんだ」

 

「責任感を感じるのは良い。だがな、お前を待っていて心配している連中はどうする」

 

「・・・・・もう少し、もう少しだけ待っていて欲しい。それしか言えない。俺はまだ光の下にいてはならないと思う」

 

「そんなことはない。お前のおかげで救われた奴だっているんだ。そいつらのことも考えてだな・・・・・」

 

「違う、俺が表にいないことで表舞台に現れるようになるまだ見ぬ敵が現れるかもしれないんだ」

 

「・・・・・誰なんだ?」

 

「わからない。でも、俺がいなくてもクロウ・クルワッハたちが何とかしてくれる。俺より強い家族がそこにいる。それでも何かの対処をし切れないなら・・・・・俺たちを呼んでくれ」

 

「・・・・・まったく、お前は頑固だな」

 

「自覚しているよアザゼルおじさん。皆のこと見守ってくれ、俺の代わりにしばらくさ」

 

「ったく、しょうがねぇ・・・・・ああ、まったくしょうがないなお前ってやつは」

 

 

「―――で、結局説得できなかった。だから、そのレプリカのグンニグルを突き付けんのは止めろよなぁッ!?」

 

とてつもない力のオーラを今でも放たれてもおかしくない槍を絶対零度の視線を送る琥珀の双眸、結い上げた銀の長髪のメイドに焦燥で叫ぶ堕天使の総督アザゼル。

 

「アザゼルさまだけ一誠さまとお会いしていた、それが許せないだけです。説得など、期待などミジンコの大きさ以前も期待はしていませんので」

 

「お前も行けばいいだろがっ!?フォーベシイに頼めばイッセーと会えるっ!」

 

「―――来るなと、一誠さまから通信式魔方陣で言われました」

 

ああ、お前は何をやっているんだとアザゼルは項垂れる。日に日に増してリーラの欲求は高まる一方である。帰ったら一誠は冥界へ自ら向かってどうやって知ったのか曹操たち英雄派が収容されている場所へ行っていて、自分の意志で曹操たちと留まるようになった。それを知ったリーラたちは当然驚愕してフォーベシイに頼んで迎えに行こうとしたが、一度収容されたらしばらく魔王でも簡単に釈放はできないと半ば脅され気味で答えたフォーベシイ。

 

「お声だけでは、私は・・・・・私は・・・・・満足できません。あなたのお傍にいたいのですよ一誠さまっ」

 

「大丈夫だ。あいつからお前たちを見守ってくれと頼まれた―――」

 

「あなたに見守られるぐらいなら、私はアザゼルさまの顔をヒキガエルのように整形して池に沈めてさしあげます」

 

「・・・・・(ぐすんっ)」

 

ついに大の大人が部屋の隅で膝を抱えて背中を丸め、いじけ始め出した。そのやり取りを見ていたクロウ・クルワッハたちは溜息を吐く。

 

「もうっ!男ってどうして何かに拘っちゃうのよ!?」

 

「自分を許せないからだろう。少なからず私たちと敵対したからな」

 

「でも、それは・・・・・っ」

 

「本人も自分から英雄派に入ったって言っているから・・・・多分、そのことを」

 

「はぁ・・・・・恋しいわ・・・・・」

 

「それは私たちも同じですよ。ですが、このままではいけないのも事実です」

 

「わかっています。ですが、世間でも一誠さまのことは・・・・・」

 

「難しいものだな・・・・・」

 

揃いも揃って嘆息する。世間は完全に一誠を悪人扱いしている。そして、今でもこの家をお茶の間に放送されているほどに。よりにもよってあの巨大魔獣は英雄派の仕業であると言い張る物たちまで出る始末だ。

 

「・・・・・もう、この世界はイッセーくんを」

 

「それ以上言うなイリナ。・・・・・辛いだけだ」

 

暗いムードに包まれる。たった一つの言動で人の人生は変わり、歪み、狂う。もはや、一誠を味方する世界はなくなっているのだった。人は良くも悪くも様々な思いを抱いてしまう。それも善悪を判断して。

 

―――○●○―――

 

冥界の辺境にある刑務所に居座っていると色んな悪魔や堕天使達が一日に三度以上来る。大半は見知ったヒト達だが、今回もそうだった。その人物は以外にも・・・・・フェニックス家の三男坊である。悪メンのホストな風貌は相変わらず、魔力を封じる枷(俺から頼んだ)を手首に拘束している俺と対峙して椅子に座ったまま視線を向けてくる。

 

「リアスの婚約以来か・・・・・久し振りだな」

 

「・・・・・」

 

ライザー・フェニックス。ただ俺を睨むように見つめてくるだけで口を開こうとしない。面会も時間制限がある。話がないなら帰って欲しいところだ。顔を、様子を見に来ただけか・・・・・こいつのことはよう分からん。

俺から話しかけても返事をしてくれなさそうな雰囲気だし。さて・・・・・男に熱く見つめるなんて趣味じゃないし、どうしようか・・・・・。

 

「・・・・・お前」

 

「ん・・・・・?」

 

「こんなところで落ちぶれるような奴じゃないはずだ。誰がリアスを守るんだ」

 

・・・・・。・・・・・・意外だな。

 

「俺に心配してるなんてな」

 

「この俺を説教たれたことを言ってくれやがった奴が、つまらねぇことをして捕まる様を見て俺が惨めな思いをするんだよ。お前のおかげで父上と母上が気掛かりでお前のことを心配しているんだ。さっさとリアスの傍にいやがれよ」

 

「・・・・・おい、言っておくが俺はリアスのこと友達として好きだからな?」

 

「・・・・・俺をおちょくってんのか?」

 

いや、俺とライザーが決闘をすることに成ったのはリアスの出まかせの一言だ。こいつ、本気で今でも信じているのかよ・・・・・。誤解を解いても納得してくれるかどうか・・・・・。

 

「・・・・・お前、あの時言ったよな」

 

いきなり過去形の話を持ち出した。

 

「理不尽な婚約がレイヴェルにもされたら兄のお前はどうするつもりだと」

 

「・・・・・・ああ、そう言えばそんな事を言ったな」

 

で、俺に負けて以来その答えを考えていたのかライザーは自分の心情を打ち明けてくれた。

 

「俺は、レイヴェルが幸せになってくれりゃそれでいいと思っている、兄としてな」

 

・・・・・当然の答えか。でも、ちょっと新鮮さがないな・・・・・。こいつらしくない事を言ってくれるのかと思ったんだけど・・・・・高望みか。

 

「だが、お前の言う最愛の妹が理不尽な目に遭っていると知れば、救ってやるつもりだ」

 

「どうやって?」

 

「真正面から燃やしつくして灰にしてくれる」

 

・・・・・こいつ、何か変わった・・・・・・?

いや、若干シスコンっぽいが気持ちに偽りは無いみたいだ。

 

「お前、もう一度俺と勝負しろ」

 

「はっ?」

 

「ここから出たら俺ともう一度勝負しろ。絶対にな」

 

突如それだけ言い残してライザーは俺の目の前からいなくなってしまった。いきなり再戦を申し込まれた俺の意見とか答えを聞いてくれないのかよ?ライザーに対してそう思っていると、堕天使の人が淡々と言ってくれる。

 

「次はルシファーさまがお見えになられます」

 

「ええい、どうしてこうも訪問者が間もなく訪れるんだよ?」

 

俺は相談を訊く人かっ!というか、俺がここにいる限りこんな状況が続く運命なのか!?堕天使の人も苦笑いを浮かべ、「人気ですね」と言いたげな視線を送ってくる始末だしさ!

 

「お久しぶりね。イッセーくん」

 

俺の目の前に燃えるような紅髪を腰まで伸ばす魔王さまが微笑みを浮かべながら話しかけてくる言動に

呆れとどこか期待している自分が苦笑いものだ。まるで俺が小さかった時に遊びに来てくれる色んな神さまを待っていた時と同じだと・・・・・懐かしさも思い出して。

 

「どうかしたの?」

 

「いや・・・・・昔を少し、この状況でいる自分と同じだった頃を思い出して」

 

「・・・・・そう」

 

顔に曇りが掛かった魔王のルシファーお姉ちゃん。俺の昔と言えば、あのクソ兄貴に散々な目に遭ったことしか殆ど覚えがないからな。まさかだと思うがそっちのことで気を落としているのか?なら、それを気にすることでもないだろうに・・・・・。

 

「魔王の仕事はいいの?」

 

「大丈夫よ。この日の為にちょっとずつ調整をしてきたから今日はOFFなの。今日で私が最後だからあなたとたくさんお話をしたいわ」

 

ああ・・・・・今日も俺に構ってくれる人がいっぱいだよ。だからリーラ達、もう少しだけ待っててくれるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ミカルさま。本当によろしいので?」

 

「ええ、構いませんよ。既に物語は進み、止まりません。次の物語を進めるには刺激が必要でしょう。異常者(イレギュラー)の兵藤一誠を動かす為にも」

 

「賛同しますが・・・・・大丈夫なのですか?あの者の願いを叶えてしまって」

 

「寧ろ、もしもそうなったら―――というIFを見てみたいのです。既に存在する者の者として既に己の予想を遥かに超えている状況下でどうするのか、―――実に楽しみです」

 

「・・・・・それで、あの同じ『兵藤一誠』に察知され、またここに攻められてきませんよね?」

 

「大丈夫です。この場所を易々と来られるようなところでは―――」

 

「―――ところがどっこい、易々と来ちゃいました!ミカル、久し振りだな」

 

「え―――――っ!?」

 

「なーんか、面白い話を聞いちゃったんだけど・・・・・また、何かやらかしたようだなぁ?」

 

「ミ、ミカルさまぁあああっ!?来ちゃってますけどぉおおおおおおおおおおおお!?」

 

「・・・・・もう、嫌です。なんなの、あなたたち兵藤一誠は・・・・・(泣き)」



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エピソード66

「ヴァーリ。いや、お前達には駒王学園に通ってもらうことにした」

 

とある京都の某所の建物。アザゼルがついてこいと言うものだから美猴たちと一緒に来て観光している。

鍋料理が有名な店で食事をしながら恩人でありながら恩師でもある唐突にそんな事を言い出す堕天使の話を怪訝に返事した。

 

「・・・・・アザゼル。私は対テロ組織混合チームに入ることは承諾した」

 

「そうだな。お前の力は必要だからな」

 

「白龍皇の力を貸すことは異論ないが・・・・・。―――どうして私達を駒王学園に通わせるつもりなのだ」

 

一誠が通っていた学園に何故か通わせるアザゼル。私を一誠がいたクラスに配属させるらしいアザゼルに疑問が浮かぶ。

 

「イッセーの奴が今では表に出にくい状況になってしまっている。だからイッセーの代わりにヴァーリ、お前がアイツの分まで学校生活を送って臨機応変と過ごしてくれや」

 

「私は一誠のように万能に近い能力は持っていないぞ?」

 

「赤龍帝の抑止力にもなる。それにお前も戦うことばかりじゃなく他の者達と接する大切さも感じろ。あの学校にゃ、今じゃ一勢力になりかねないほど強者が数多くいる。退屈な思いはしないはずだ」

 

力のある者を一ヶ所に集めようと魂胆なのか、出来うる限りの対処や対応をできるようにとアザゼルの意図を汲み取れる。私が学校か・・・・・。考えたことがなかったな。しかし、懸念がある。

 

「美猴や銀華は勉学など無理だと思うが。歳もそうだし」

 

「問題ない。学園の警備員にでもしてやるさ。周囲の気を察知できる仙術は便利だしな」

 

「ならいいか」

 

オイッ、と隣から突っ込みの言葉が二つ飛んできたが気のせいだろう。アザゼルは私達に指を突き付けながら口を開く。

 

「アーサーは3年、ヴァーリは2年、ルフェイは1年と配属する予定だが何か要望でもあるか?」

 

「要望、ですか・・・・・。では、私達の住む場所を知りたいのですが」

 

「一誠の家でいいだろう。あの家の両隣りには魔王と神王の家が在って聖剣使いの娘どもが住んでいるし、お前らにとっても最高の環境になるはずだ」

 

アーサーは興味深そうに顎を手で触れて異論なさそうに微笑んだ。私も住む場所には大賛成だ。彼が住んでいる家とあらば、一誠が戻って来た時からずっと一緒に暮らせるようになる。また、昔のように添い寝ができると思うと嬉しくなるよ。

 

「ルフェイ、お前はどうだ?」

 

「えっと、私はお兄さまが一緒なら大丈夫ですよ?それに学園を通うなんて楽しみです」

 

「俺っちが警備員ってなんでだよ」

 

「そうにゃー。私は自由気ままに過ごしたいのにぃ」

 

アザゼルの提案に不満を口にする妖怪たち。

 

「二人の性格を考慮すれば妥当じゃないか」

 

「ああ、どっちもお気楽でとても勉強できるような感じはまったくしない。特に美猴、お前さんは闘戦勝仏の力を受け継いだ猿だ。頭よりも身体を動かしたがるタイプだろう。警備員となれば金も貰えるんだ。それをありがたく感じながら働け」

 

納得できないと、二人は口を尖らしてぶつくさに文句を言いながら、横に通り過ぎる店員を呼び止め。

 

「「この店で一番高い鍋料理を」」

 

一番高い料理・・・・・メニュー表で探せば・・・・・ふんだんに高級食材を使った鍋料理の値段が軽く万を超えていた。アザゼルは若干顔を青ざめ出して制止の声を必死に掛けた。

 

「おい待てっ!?学園の経費で払ってるんだぞ!それ以上高いもんを注文するな!」

 

世知辛い・・・・・。とても堕天使の総督とは思えない発言だ。

 

「ヴァーリさま。楽しみですね」

 

「ルフェイも友人を増やせるいい機会だな」

 

「はいっ!」

 

新たな環境の中で過ごし、私は強くなれるだろうか?色んな神話体系の神々の下で修業をしていた一誠のように。

 

 

 

そんな一誠はと言うと―――。

 

「ふぉっふぉっふぉ。久しいのぉ、孫よ」

 

「久し振り、オー爺ちゃん」

 

北欧の主神、オーディンと再会を果たしていた。本当にたった一人の少年の為にはるばる遠くから神がやってくる光景を監視している悪魔に驚かすのだった。

 

「孫よ。見ない間に悪い孫になってしまったのぉ。復讐の為に家族から離れるとは」

 

「結局、復讐を成就することはできなかったけどな。それに英雄派の誕生は俺にも関わっているからどちらにしろこうなっていたかも」

 

「まったく・・・・・今の世界は孫のことで盛り上がっておるぞぃ」

 

「100年以上は語り継がれそうだな。テロリストの存在は世界中に知れ渡っているし」

 

罵声どころか叱ることすらしないオー爺ちゃん。流石に呆れはしているだろうけど俺の大好きなお爺ちゃんは長い白いヒゲを擦りながら話しかけてくる。

 

「人間界に戻るつもりは無いのかの?」

 

「騒がれるよ。俺が外に出たら」

 

「ならば変身魔法でもして姿を変えればよい。そうすれば孫のことを気付く者はおらんじゃろう。というか、儂は孫と散歩をしたいんじゃ」

 

本音を漏らすオー爺ちゃんに困った顔をしてしまう。そうまでして人間界に帰りたいとは思えない。俺の居場所はもう人間界にはないんだから。自ら望んであのヒトに復讐をすると誓って英雄派になったんだ。結局、味方に殺され掛けられたし、リーラにも阻まれてしまったけどな。

 

「それは・・・・・」

 

「できんと?なら、表に出られる環境が整えば孫は人間界に戻ってくれるのじゃな?」

 

環境を整えるって・・・・・一体どうやってだ?人類全てに催眠、洗脳でもするのか?怪訝な気持ちでいる俺をオー爺ちゃんは傍にいた見たことのない女性から何やら厚い紙の束を俺に見せるようにしてきた。

 

「オー爺ちゃん。それは何?」

 

「ふぉっふぉっふぉ・・・・・・これはの孫よ?ある応募を募った神々の署名が記された書類じゃ」

 

神々って、俺が世界旅行と称した修行の際に出会ってきた色んな神さまの?どうしてそれがオー爺ちゃんの手元にあるのか不思議で、何の応募なのかも気になる。ましてやこのタイミングで持ちだすなんてオー爺ちゃんの考える事は理解できないや。

 

「これはの孫よ。お主を養子として引き取りたいという応募なのじゃ。軽く百は超えておる」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

女神や男神たちが俺を養子に引き取りたい・・・・・?どうしてそんなことに、悪魔のヒトに何となく振り向いてみると

 

「・・・・・(硬)」

 

大きく開いた口が塞がらず、目を大きく見開いたまま硬直していた。とんでもない話に立ち会っている不相応な自分に驚倒の勢いを飛び越えて意識を半ば停止している様子だった。

 

「世界は儂ら神々の存在を認知しておる。ならば、それを逆手に利用して孫をしようとこの北欧の主神自ら他の神話体系の神々に触れまわって見れば賛同や同意、同感してくれたのじゃよ。その結果、孫を養子にしてみたいという神々が色んなところから応募をしてきたのじゃ」

 

「・・・・・(硬)」

 

オー爺ちゃん・・・・・お父さんとお母さん並みに行動力が凄過ぎるよ・・・・・。

 

「孫よ。お主は世界に疎まれようと、儂ら神々は孫の事を知っておる。優しく誰からも愛され、必死に目標へ困難に立ち向かい乗り越える力を持っておる今まで人間を見守って来た神々が見たことのない孫を」

 

にっこりと朗らかに笑むオー爺ちゃんに視線を無言で送り続ける。それは昔の事だよ。今じゃ、俺は世界にとってテロリストの主犯と言われているほど最悪の存在なのに。

 

「中には孫に救われたと神もおる。―――儂らは孫が大好きなのじゃ。じゃから、孫は神の気持ちを向き合い、応えてほしい。それだけで十分納得できる」

 

「・・・・・」

 

「さて、儂は他にも会わねばならぬ者がおるのでな。寂しいがまた顔を見に来る」

 

腰を上げて、女性と付き沿いながら俺の目の前からいなくなろうとするオー爺ちゃんを見送る。昔から接してきても変わらない姿にまだまだこれからも元気に生きていそうな感じがする。

 

「―――それとじゃ」

 

見送る俺に振り返って言葉を付け加えた。

 

「儂ら神々が孫を好きなように、孫が好きな者は孫のすぐ傍におる。その者たちの気持ちも応えることも勇者じゃぞ?」

 

「・・・・・オー爺ちゃん」

 

「他にもう一つ、ロスヴァイセとセルベリアを放っておくと後々面倒になるから気を付けるんじゃぞい」

 

それだけ言い残しては、笑みを浮かべたままいなくなってしまった。―――勇者、か・・・・・。

 

「皆の気持ち・・・・・」

 

その時になって、俺は久し振りに皆の顔をみたくなってしまいそうになった。きっと、顔を見せれば怒るだろうな・・・・・ハハハ。

 

 

しかし―――俺はこの瞬間でも気付きもしなかった。世界が騒動する事件が起こり、身に覚えのない衝撃的な事実を俺自身もリーラ自身も知ることになろうとは。

 

 

―――○●○―――

 

 

某所の国。十数人のトレジャーハンターがいた。岩石だらけの場を歩いて目的の場まで進んでいた。

 

「ミススターカザマ。急ニコンナトコロニ来タイトハドウシタンダイ」

 

「すまないな!だが、俺の冒険者たる血が騒いでしょうがないんだ。何かとてつもない発見が見つかりそうなんだ」

 

活き活きと力のある笑みを浮かべる中年男性は未開の地を求め世界中飛び回っている冒険者。冒険者の世界で彼は名が知れ渡っているプロのトレジャーハンターで、同行したい同業者は数多くいる故に、愛好家や企業、会社までもが存在している。彼が旅先で見つけた新種の動植物のネットでの公開、途中で寄った紛争地での介護や援助など幅広い行動力はどこかの二人の男女とそっくりだった。彼の行く旅先は良くも悪くも、待ち受けている。

 

「フゥ・・・・・ヨリニヨッテ、ココニキタイトハネ」

 

同行者の冒険者は到着と同時に苦笑いを浮かべた。その場所は曰くつきがある建物が沈黙を保っていた。何かしらの理由で建設された建造物をこの土地に住む住民ならば誰でもが口を開けて言う。

 

―――神への葬送。

 

鳥葬ないし風葬がされている塔。そんな場所に中年男性は行きたいと同業者に言いだしてここまで来たのだ。

しかし、新しい発見とはいえ、既に調べられ今では放置も当然の太古の建造物。これ以上の詮索は意味がないと同行してきた冒険者は悟るのだが、中年の冒険者は冒険者の血が騒ぐ。

 

「失礼しまーす!」

 

入口に入る中年男性。半々に別れて中年男性に続く同業者達。上へ上がれる階段以外石で建設された塔は、以前来た時と何の変哲もないままだった。よーし、見つけるぞー!とはしゃぐ中年男性の気が済むまで待つことしばらく。

 

「うーん・・・・・」

 

思った以上の成果、新たな発見は見つからず、悪い方に終わってしまった中年男性は石板の上に寝転がって唸っていると。

 

「ミスターカザマ、ココハ昔ノ宗教ガ利用シテイタ建造物ダカラ、君ノ期待ヲ応エル発見ハナイヨ」

 

「むーん、残念。今日は当たりだと思ったんだが・・・・・」

 

同業者の冒険者の指摘で口からも出す今回の冒険の収穫がなかったことに嘆息する中年男性。仕方ない、撤収して違う国へ旅に行こうかと起き上がった時であった。

 

―――太陽が月と、月と太陽が重なろうとしていた。

 

日食。今日はその日だったと思い出して中年男性は考えを改めた。

 

「そうだそうだ。息子に写真を送らないとな。悪いが写真を撮ってくれるか?」

 

「勿論ダ。シカシ、アノ息子は君ト性格ト行動力ガ一緒ダッタネ。マタトモニ冒険ヲシタイ」

 

「言ったらすぐに飛んでくるぞ」

 

鞄を置き、入れてあるカメラをごそごそと探している際に、光る粉が詰まった瓶がキンッと零れ落ちてしまった。

 

「ミスターカザマ、魔法ノ粉ガ落チタゾ?」

 

「おっといけない。これは高かったんだ。来る途中、綺麗な女の人から勧められてつい買ってしまったけどね」

 

「人間デモ扱エル簡易魔法、トテモ便利ダガ、少々値ガ張ル代物ガ多イカラナ」

 

魔法の瓶に手を伸ばす。しかし、落ちた箇所に罅が入って、小さな穴が空いていてサラサラと粉が零れ落ちる。

 

太陽と月が重なった次の瞬間。粉に籠っていた魔力が石板一面に意志を持っているかのように広がり、一人で陣を描き始めた。

 

「ナ、ナンダコレハ・・・・・っ」

 

「嫌な予感しかしないぞ。ここから一刻も早く離れよう!」

 

二人は急いで離れ、他の冒険者と合流しつつ塔から駆け足で遠ざかる他所に、心臓の鼓動のように打つ魔方陣は輝く光を強め、増し―――一条の光が天を衝く。

 

そして、塔を中心に地面が揺れだし、次第にそれは鳴動へと変わり地震のように激しく縦に揺れながら隆起―――。

大量の土煙、土砂崩れ、盛り上がる大地、崩壊する塔。それ等が一挙に生じやがて・・・・・巨大な物体が顔を出した。中年男性達もそれを確認できた。

 

「何だあれはっ!?」

 

 

 

「―――――不味い事態が起きてしまった」

 

「誰かがアレの封印を解放しましたね」

 

「長年人間を見守り続けた我々でもこればかりは予想ができないな」

 

「しかし、アレの封印を解いた者は一体・・・・・」

 

「いや、やはり封印式の解除の方法は単純すぎたのではないか?」

 

「単純でも、我々以外封印の解く方法は知らないはず。これは・・・・・奇跡と偶然の刹那としかいえないでしょう。ですが・・・・・少々人間界で賑やかになるのは時間の問題のはず」

 

七人の男女が語り合う。

 

「アレは生きている。かつての主を求め彷徨い続けるだろう」

 

「封印が解かれた以上、破壊しますか」

 

「だが、我々が安易に人間界へ行くことは・・・・・」

 

「それ以前に、かつての主はもう死んでいます。人間界に彷徨い続ければいずれ、他神話体系の神々達の手に渡ってしまうのでは?」

 

「仮に渡ったところで、我々には少しも痛手はない。ただ、遺憾であるな」

 

「そうですね・・・・・。では、我々の中で一人か二人、アレを直接監視し、他神話体系の神々が接触した場合、静観して貰うよう申し上げることにしませんか?」

 

「・・・・・そう言うことなら、私が買って出ましょう」

 

一人の女が立ち上がり、腰に佩いている剣の柄を触れた。

 

「スプンタ様―――。よろしいでしょうか?」

 

「ああ、構わない。だが、くれぐれも他の神々には失礼の無いように」

 

「はっ・・・・・ですが、もしも悪魔や魔王といった者達で有れば?」

 

「理由次第で―――アレ諸共破壊を許す」

 

男の承諾により女は口の端を吊り上げた。理由は、女の顔を輝かす表情を見れば一目瞭然だろう。

 

「「「「「(・・・・・ヤりすぎないように)」」」」」

 

 

 

「・・・・・なんじゃこりゃ?」

 

朝の新聞を読む俺ことアザゼルは奇妙な記事に眉根を訝しげに上げた。某国で謎の巨大な浮遊物体だぁ?

リゼヴィムの仕業かと真っ先に考えたが、量産型邪龍に関する情報は記されていない。ただ、彷徨うに空を漂いだけのようで人間に危害を加えるような騒動は起こしてないのか。

 

「出現した場所が気になるな・・・・・あそこは厄介な神話体系の連中がいたはずだが、泳がせているのか?」

 

この新聞に載ってるぐらいなら他の連中も知ったはずだ。リゼヴィムとは無関係とは断言できないが・・・・・奴がこれに興味を持って現れるかもしれない。

 

「警戒しておいても越したことじゃない、か」

 

善神群・・・・・アジ・ダハーカが関わっていたなそういや。イッセーのところにもこの情報が届いたか?

 

 

 

一誠のいない、隣が近所の魔王と神王の家に挟まれた家でも某国に出現した巨大浮遊物体の情報が届いていた。

テレビでも新聞でも、リーラ達の目や耳に入り、不思議と疑問を浮かばせる。

 

「・・・・・」

 

ただ一人除いて。

 

「これは・・・・・」

 

「どうかしましたか?」

 

お茶の間に放送されている件のニュースを食い入るように琥珀の双眸をテレビから逸らさず、真剣な眼差しを送っているリーラへ、ロスヴァイセが問う。しばし無言を貫きニュースを見ていたリーラは

 

「・・・・・すみません。今日一日私的で留守にさせて貰います」

 

皆にそう向けて言い放った。今日一日リーラの不在は、付き合いの長い面々は「えっ?」ととても珍しいことだった。私的な行動は滅多にせず、公的な行動を主に積極的でいたリーラ・シャルンホルストという女性は昔からリーラと一誠とともに過ごしてきた面々からすれば、興味を抱くのに十分過ぎた。

 

「リーラ、どうしたのよ?今日だって学校よ?」

 

「すみません。どうしても外せない用事が今できました」

 

「用事って・・・・・」

 

当惑する家族を振り切るリーラはその一日、帰ってくることはなかった。

 

 

 

そして冥界。辺境にある収監施設。浮遊物体の情報はアザゼルの思っていた通りに一誠は差しいれられた新聞を読んで世間の情報を確認していた。

 

「ふーん・・・・・浮遊物体というより、移動要塞って感じだな」

 

新聞を広げ、情報収集をしている俺は面会中で同意を求めているかのような気のない言葉を発した。

相手は・・・・・。

 

「人間界は我々の知らないことが多いですからね」

 

熾天使(セラフ)』の長、ミカエルだった。天界の重役を務める者がわざわざ冥界までやってきてくれたことに心中驚くものの、感謝の念を抱く思いだ。

 

「ここの暮らしはどうですか?」

 

「意外と普通だ。主にこうやって面会しに来てくれるヒトがたくさんいるから退屈な思いはしてないよ」

 

「そうですか。それはなによりです。もしよかったら天界に来るよう誘うことを主から言われておりますが」

 

「ははは、天界に行ったら幸せになっちゃいそうだよ」

 

朗らかに笑い、やんわりと遠慮する展開に行けば優遇され兼ねないと籠めて拒んだ。

 

「ところで、この浮遊物体は結局のところ何なんだ?」

 

「・・・・・わかりません。人間界に突如現れたようでして、太古の神が創造した物であることは察しが付きます」

 

「太古の神か。でも、放っておくわけにはいないんだろう?人間界はこれで注目して騒いでいるんだから」

 

「ええ、我々はこの浮遊物体、いえ、移動要塞が出現した国の神話体系の神に話を窺うつもりです。ですが、その前に彼の国の神話体系と関わりある―――ドラゴンに話を求めに面会を利用して情報を求めにやって来たのです」

 

ミカエルは優しげな瞳に真剣さが孕み、俺というより俺の中にいるドラゴンに問おうとしている。

 

「邪龍、アジ・ダハーカ。知っているはずです。善神群に牙を剥いた貴方ならば」

 

善神群・・・・・?聞いたことのない単語と手の甲に浮かぶ黒い宝玉に意識を向ける。

 

「どうなんだ?アジ・ダハーカ」

 

俺からも問えば、何故か最初に不敵な笑みが聞こえてくる。

 

『ククク・・・・・。そうか、奴等の手によって封印されていたアレが解かれたのか。――――フッフッフッフッ』

 

「・・・・・奴等とは善神群のことですね?」

 

『ああ、そうだとも。大天使のお前なら知っているはずだ。善神群と相対していたもう一つの勢力を。アレはもう一つの勢力の住処であり、要塞であり、拠点でもあった』

 

敵対していた勢力の・・・・・動く拠点って、なんだそれは?

 

「悪神群・・・・・」

 

ポツリとミカエルは善神群と敵対していた勢力らしき名前を洩らす。

 

『その通りだ天使長。あれは悪神群の所有物だった移動要塞―――星黎殿。善神群からすれば魔の巣窟、パンデモニウムとも呼ばれていた移動要塞よ。あの星黎殿は意志を持ち生きている。だから、悪神群―――亡き主を探し求め、人間界を彷徨っているに違いない!クハハハハハッ!』

 

ここにきて、アジ・ダハーカさんは凄く興奮している。

 

『だが、星黎殿に侵入するなら気を付けるがいい。悪神群以外の者の侵入を許さず、眷族ですらも無い限り侵入した者に災いや絶望と恐怖が与えられる。外部から攻撃でも然りだ。あの移動要塞は悪神群の宝具でもあるからなぁ』

 

「では、善神群が動きを見せないのは?」

 

『既に動いているはずだ。星黎殿を封印したのは善神群なのだからな。ただ彷徨うだけの浮遊物体ならば放っておいても人間どもには何の害も与えない。ただし、アレを欲する輩がいれば―――善神群は同じ神話の存在として破壊をするだろう』

 

―――いや、もう一人動いているかもしれない。と付け加えた。

 

『兵藤一誠。今すぐ人間界に舞い戻り、星黎殿に向かえ。手遅れになるぞ』

 

「はっ?」

 

『お前の愛する者は星黎殿の存在を知ったはずだ。であればもう彼の移動要塞に向かっている。星黎殿の周囲に善神群の誰かがいる。手遅れになれば―――また愛おしい女を失うことになる。それでもいいか?』

 

愛おしい女・・・・・。また手遅れ・・・・・・。アジ・ダハーカ、お前・・・・・なにを言って・・・・・っ!?

 

―――○●○―――

 

「・・・・・どうして貴女まで」

 

「お前を一人にすれば、お前の身に何か起きれば兵藤一誠が何を仕出かすか分かったものではない」

 

「イッセー、また悲しむ」

 

「オーフィス様・・・・・」

 

最強の邪龍と最強のドラゴンの付き沿いはリーラにとって複雑だった。一人で解決したいが為に今一番頼りになる当の二人の協力を求めなかった。

 

「・・・・・これは、私個人の問題です」

 

「なら、私達は勝手についていくだけだな。あの浮遊の建造物がお前と何らかの関係があるのか知らないが、興味がある」

 

「我、リーラを守る。イッセーがまた悲しませないために」

 

何度も超長距離転移魔法で移動し、浮遊する巨大な移動要塞が通り過ぎる国と場所を予測し―――ようやく辿り着いた。

 

「インド・・・・・。できれば海の上に浮遊してもらいたかったのですが」

 

「人間の安全面を考慮してか?」

 

「いえ・・・・・かつての仲間がここにいるのです。今では立場上安易に動けないですが」

 

山の上を通過している巨大な浮遊要塞を遠くから眺めながら、遠い目で懐かしむ心情のリーラ。

 

「念の為に気を付けてください。敵がすぐ近くにいるかもしれません」

 

「あの、巨大な物を欲する輩か?」

 

「・・・・・いえ、その逆です。あれを監視、破壊を目論んでいる者のことです」

 

監視・・・・・?破壊なら話は分からなくないが、監視をする目的が理解できないクロウ・クルワッハ。

 

不意に、オーフィスが視線を明後日の方へ向けた。

 

「来る」

 

「「っ」」

 

その直後。三人の真上、上空の空間が大きく歪み、大きな渦がポッカリと開いた穴を作ると、暗闇の向こうから数えるのが億劫しいほどの黒い影が飛び出してきた。その影の正体は目を凝らして凝視すれば、

 

「邪龍・・・・・。―――まさか」

 

黒い影、邪龍の群れは真っ直ぐ移動をし続ける巨大な物体へ向かって行く。何の目的なのか判断できないが、

浮遊し続ける物体に動きが見えた。

 

「―――伏せてくださいっ!」

 

「なに?」

 

「ん?」

 

リーラが二人を押し倒し、木々の中に身を隠しひれ伏した次の瞬間、赤い槍が空を、大気を、空気を、山を何度も貫き、直撃し邪龍の群れごと一拍遅れた凄まじい衝撃波と大爆発による音が周囲へ轟かせる。三人がいる山の木々すら薙ぎ倒され、山としての原型が崩れる。オーフィスの防壁がなければ巻き込まれどこまでも吹き飛ばされていただろう。

 

やがて、状況が治まりクロウ・クルワッハは周囲を見渡した。金と黒いオッドアイは次第に驚きの色を浮かべる。目の当たりにする虚空に。

 

「・・・・・なんだ、この凄まじい威力は。ニ天龍の比ではないぞ」

 

「まだ、これは序の口です。本来の力の一割も発揮していません」

 

呻くように辺りの惨状を冷静に見据え、起きてしまった現実に深い悔いの念を抱いたリーラは、苛立ちを覚える笑い声がする方へ顔を向けた。

 

「・・・・・お久しぶりですね。リゼヴィム様」

 

己を殺し、一誠の精神を追い詰めた悪魔に向かって、今現れて欲しくないベスト3に入る者へ話しかけた。

宙に浮く初老の男性、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーは狂喜と歓喜の笑みを浮かべたまま答えた。

 

「うひゃひゃひゃひゃっ!今の見たか?ずんげー威力!なんだあれ、何だよあれは!?どっかの神様が創った古代兵器ってやつぅー!?見ろよ、この惨劇!山々の殆どが消滅しているぜ!超超超ほっしぃーんだけども!」

 

「・・・・・あれは貴方のような者が扱える代物ではありません。死にたくなければ早々に立ち去ってください」

 

「のんのん、何を言っているのさぁー坊ちゃんのメイドさん。あれは是が非でも、異世界侵略する俺に最も必要なもんじゃんかっ!神の古代兵器、う~んっ!たまんねぇー!ということで、あれは貰っちゃうねー?」

 

悪戯っ子の笑みを浮かべ出すリゼヴィムの周囲に二つの黒い魔方陣が出現する。禍々しいオーラを放ちながら黒い光が一瞬の閃光を放った時、

 

『これはこれは・・・・・お久しぶりですねぇ』

 

樹木の幹が重なり続け、ドラゴンのような形状に成った樹のドラゴンが窪みにある赤い丸い物が笑みを浮かべるように細くなる。そして、もう一つの魔方陣からは―――ゾフィリス。

 

『そちらの人間の女性とはお初ですね?私は結界と防壁を主に得意とします「宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)」ラードゥンと申します。以後お見知りおきを』

 

「ほう、懐かしい邪龍が現れたなオーフィス?」

 

「ん、久しい」

 

リーラに自己紹介した樹木のドラゴンの登場はクロウ・クルワッハとオーフィスを懐かしませる。

ラードゥンは赤い目をクロウ・クルワッハとオーフィスに向け、言葉を投げた。

 

『あなたがたの話は窺っておりますよ。他にもアジ・ダハーカやネメシスもいらっしゃるようですね』

 

「私達ドラゴンを魅了してくれる愉快なドラゴンがいるんでね。あいつと共にすれば強敵が現れてくれる」

 

『グレートレッドとオーフィスの力によって復活したドラゴンに転生した元人間。私も会ってみたいものですねぇ。ああ、そういえばこちらにアポプスがおりますよ?』

 

「アポプス、なるほどな。いずれ私とアジ・ダハーカともどもアポプスと会える日が来るだろう。情報の提供感謝する」

 

『いえいえ、懐かしいドラゴンと再会すると会話が楽しいですから。では―――』

 

自分の役目を把握しているのか、ラードゥンは移動要塞を見やると赤い目を煌めかせ、シャボン玉のようにまるっと包みこんだ。そしてゾフィリスも目を輝かし、結界ごと黒い霧が移動要塞を瞬く間に覆い隠そうとする。

 

「―――駄目です!あれを、奪われてはいけませんっ!」

 

リーラが叫ぶ。奪われてしまえば、本当に破壊の限りを尽くされてしまう。それ以前に―――。

 

「(思い出を・・・・・あの頃の思い出を、穢されてはならないっ!させてはならないっ!)」

 

阻止しようと、自ら動こうと考えるよりも身体が先に動く。レプリカのグンニグルを亜空間から取り出し、ラードゥンへ狙いを定めた。ゾフィリスには通じない攻撃を彼の邪龍に突貫力が長けた神槍の切っ先を向けて一撃を繰り出そうとした。

 

「―――予想通りの結果になりましたか。これより、破壊を行います」

 

凛とした透き通った声がリーラ達の耳朶を刺激する。そして・・・・・移動要塞の真上から伸びる極太の光の柱が移動要塞を呑みこみ、包む。

 

「今の声・・・・・この光の攻撃は・・・・・っ!」

 

やはり、いたかと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ出すリーラ。移動要塞を包みこんでいた、覆っていた結界と霧が砕け、霧散し剥き出しとなった移動要塞に直撃した。

 

「―――星黎殿っ」

 

崩壊し高度を落として地上に墜落する巨大な移動要塞。原形はまだ保たれているが損傷は激しいに違いない。

琥珀の目を大きく見張って、受け入れがたい現実を目の当たりにしてしまった。

 

「ん~?誰だよ、俺の邪魔をする奴はぁー!」

 

苛立ちを隠さないリゼヴィムの叫びは、幾重の光の帯状で返って来た。十二枚の翼で防ぎ、地上に受け流して攻撃された場所へお返しにとばかり巨大な魔力の塊を投げ放った―――矢先に十文字に切り刻まれ、防がれてしまう。

 

「五月蠅い。黙ってなさい魔王の子息」

 

「・・・・・・っ」

 

リゼヴィムの攻撃を斬った者は、リーラに険しい表情を浮かべさせる大天使だった。

金の長髪に赤いリボンを結び、透き通った青い色の瞳、スレンダーな体つきで赤と白、黄色の三色を基調とした衣服を身に包み両手に聖なるオーラを帯びている一対の長剣、背中に十二枚の白い翼、と神々しい輪後光がある美しい女性の大天使は舞い降りた。

 

「あの移動要塞はあなたのような小童悪魔の手に渡らされる訳にはいきません」

 

「へんっ!誰かと思えば天使だったのかってばよ。俺の邪魔をするんじゃないってーの!」

 

「邪魔をします。私にはアレを狙う輩の処罰の権限をあります。ましてや、今世界を騒がしているルシファーの子息が星黎殿を渡せば碌でもないことが起きるのは明白。―――死んでください」

 

「高が天使ごときが、この俺の野望を邪魔すんなよ!ゾフィリスやっちまえ!」

 

世界の負と怨念、憎悪を糧に吸収、再生する厄介極まりないゾフィリスが咆哮を上げ、大天使の女性に攻撃を仕掛けた。二つの剣を構え、大天使も突貫する。

 

「・・・・・今の内に」

 

地に落ちた移動要塞、星黎殿へ駆ける。リーラに続き、クロウ・クルワッハとオーフィスも追いかけた。

 

「リーラ、あれ、何?」

 

「私の大切な物です」

 

「あの破壊兵器がか?」

 

この辺りの山一帯を消し飛ばした威力を放った要塞が大切な物だと、リーラらしくない発言だった。

星黎殿に何の思いやりがあるのかオーフィスとクロウ・クルワッハは理解できない。しかし、リーラの表情は何時になく分かるほど顔に出して焦心に駆られて星黎殿へと走る。

 

「(お願い・・・・・どうか、どうか壊れてないで―――)」

 

リーラの切なる思いは―――無情にも阻まれてしまった。三人が向かう目と鼻の先に、神々しく眩い閃光が迸った。腕で目を覆い、光を遮っているリーラの耳に届く声。

 

「・・・・・やれやれ、やはり一人で行かせるべきではないか。ここまで破壊を許してしまった」

 

「ああ、動物達がなんて酷い死に方を・・・・・っ!」

 

「よりにもよって、ルシファーの倅が狙ってきたとは・・・・・」

 

「やはり、魔王は力を求めてしまうか」

 

「それよりも珍しいことが。彼女が未だに倒し切れずにいる」

 

「あのドラゴン・・・・・邪龍とはどこか異なってますね」

 

光から六つの影が現れて、リーラ達の前に立ちはだかるように佇む。

六人の男女は視線をリゼヴィム達から変え、自分達の目の前にいる三人へ意識とともに変えた。

リーラは眼前の六人に対して焦燥の色を顔に浮かべる。

 

「善神群・・・・・っ」

 

「・・・・・なるほど。では、真ん中にいる者が―――スプンタ・マンユともアフラ・マズダーと呼ばれ、背後にいる天使と目の前にいる六人がアムシャ・スプンタと称されている者達か」

 

アジ・ダハーカが牙を剥いたと謂われている善神群の登場にクロウ・クルワッハは口角を吊り上げた。

 

「・・・・・オーフィスか。相手にしたくないものだ、無限に勝てる見込みは無いのだからな」

 

「我、戦う理由は無い」

 

「ならばお互い矛を収めるか。我らの目的は星黎殿の破壊だ」

 

白髪の長髪に白と金のオッドアイ、純白と金色の装飾と意匠が凝った鎧を身に包み、神々しい輝きを発し続けている男でもオーフィスと交えるだけは避けたいようだった。しかし、オーフィスは首を横に振った。

 

「リーラの大切な物、壊すのはダメ」

 

「リーラ・・・・・?」

 

男はリーラを怪訝に見つめる。星黎殿を欲しているのではなく、大切な物だとおかしな発言をすると。

 

「・・・・・我々の事を前から知っていたかのように総称を当然のように言い当てたな」

 

「私達は神々の間では有名ですから人間も知っていてもおかしくはないのでは?」

 

「いや待て。俺達は人間界に降りたことは無いぞ。俺達の事を人間達が知るはずもない」

 

「では、神々の御使い・・・・・という線もないか」

 

「この場にいる理由も不明だな。人間が星黎殿を知るはずも無し」

 

「何者ですか、この人間は」

 

疑問は疑惑を生じ、逆も然り。リーラに対する不自然に善神群は疑いの念を抱くようになる。

 

「貴女の名前はなんですか。答えなさい」

 

「・・・・・そこをどいてもらえればお答えします」

 

「それは無理だ。星黎殿はとても危険な代物。人間が触れていい物ではない。アレは元々我らが封印していた物、狙う輩がいれば即破壊をするつもりだったのだからな」

 

「・・・・・破壊?」

 

聞き捨てにならない単語を眦を吊り上げながら発し、レプリカのグンニグルを構えた。

 

「今頃破壊するぐらいなら・・・・・どうしてあの時、破壊をしなかったのですか」

 

「なに?」

 

「いえ、違いますね。破壊し切れないかったから人間達の手に渡らぬよう封印を施したのでしょう。それが何の偶然か奇跡か、封印が解かれてしまった。そして―――あの星黎殿にはあなたにとって厄介な物が眠っている。だから完全破壊などすれば眠っているものを呼び起こすことになる。違いませんか」

 

リーラの推測の言葉に耳を傾けていた男。どうしてそこまで知っているのか、男―――スプンタ・マンユはもしやと脳裏にある予想が浮かび上がる。

 

「・・・・・お前、悪神群の者か」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

善神群と敵対していたもう一つの勢力の名。それを口にしたスプンタ・マンユにアムシャ・スプンタは目を丸くした。リーラは、己の中のスイッチを切り換え―――魔力を解放した。

 

「ええ、そうです。以前とは違い姿も変わり果てたので分からなかったようですね。懐かしい限りです、スプンタ・マンユ」

 

「―――生きていたのか」

 

「正確には、記憶を受け継いだまま輪廻転生を繰り返して生きていました。その度に力と知識を蓄え、守りたいと思っているものの傍に居続けていたのです」

 

認めたことで、魔力を解放したことで目の前の女性は誰であるのか、善神群は直ぐに悟った。信じられないと心を一つになった瞬間でもある。

 

「・・・・・納得はできた。星黎殿を求めることもおかしくない。ましてや・・・・・」

 

スプンタ・マンユは真剣な目を細め告げた。

 

「―――アンラ・マンユ、奴が愛した悪魔でもあり母ならば当然だろう。正直、度肝を抜かされた気分だ」

 

一人の女性天使が一歩前に足を運んだ。

 

「輪廻転生をし続け、力を蓄え、強力なドラゴンを集め、私達に対する抗争でも考えていたのですか。―――ジャヒー!」

 

その瞬間、凄い勢いでリーラに飛び掛かった。魔法で具現化した剣で攻撃と上段から振るったところで、レプリカのグンニグルを突き出して鍔迫り合いを生じる。

 

「悪神群の残党がいたとは驚きましたが、ここであなたを滅します!」

 

「―――私は、あなた達と戦いに来たわけではありません。思い出を取り戻しに来ただけです」

 

「戯言を!」

 

「戯言ではないです。あの星黎殿は、私達が完全な敗北をした時まで過ごした思い出が詰まっている家なのですからっ!」

 

剣と槍を持つ二人が一撃離脱を繰り返しながら凄まじい攻防を繰り広げる。一瞬の油断も許されない、しかも相手は過去に戦った敵。宙に舞う火花は剣と槍がぶつかった際に生じ、苛烈な戦いは続くかと思った。

 

「どけ、アールマティ」

 

スプンタ・マンユの短い命令にリーラから離れた天使の直後。神々しい光の波紋状がリーラに襲いかかった。

天使を退かせる前から攻撃をしていたことでレプリカのグンニグルの聖なる波動で防いだとしても、完全に遮断はできなかった。その身に被るスプンタ・、マンユの一撃は。

 

「がは・・・・・っ!」

 

「我々の前に現れなければ、放置していたものを。かつての敵と相見えた以上、逃すわけにはいかない。俺直々奴がいる死の世界に送ってやる。それがせめての供養というやつだ」

 

リーラを地に平伏させる。全身から血を流し、致命傷を負った様子を危険だと察したクロウ・クルワッハはオーフィスとリーラを連れ極東に戻ろうと動き出す。

 

「邪魔するな」

 

五人の善神群が神々しい光を帯びた両手をクロウ・クルワッハとオーフィスに向けた途端、最強の邪龍とドラゴンの周囲に魔方陣が展開して―――一瞬の閃光と同時にこの場から消え去った。

 

「邪龍と真正面から交えるのは少々骨が折れる。オーフィスはそれ以上だがな」

 

「・・・・・クロウ・クルワッハ様とオーフィス様をどうしたのですか」

 

「安心しろ、この地とはかなり離れた場所に転移させた。が、直ぐには戻ってこれまい」

 

これで邪魔者はいなくなった、と付け加えるスプンタ・マンユはリーラに近づき、背中に有翼光輪を展開した。

 

「しぶとくずる賢く輪廻転生などと生き延びていたとはな。他の者達は素直に敗北し死んだものだと言うのに」

 

嘲笑も侮蔑でもない、淡々と静かに呆れている風な言葉を投げかけているのだった。

 

「お前を愛していた奴も死後、隣にいないお前に悔んでいるだろう。いい加減にお前も奴の隣にいてやるがいい」

 

輪後光が光り輝きだすと手に魔力が集束し、意匠が凝った神の剣が具現化する。

 

「アンラ・マンユを倒したこの剣でお前を浄化してやる。最後に言い残すことは無いか。我々に敗れた悪神群の名残よ」

 

遺言を剣の切っ先をリーラに突き付けながら催促するスプンタ・マンユ。これで悪神群はアジ・ダハーカとなると立ち上がりだすリーラを見つめながら考えていた。

 

 

「・・・・・あなた達には確かに敗北しました。悪は正義に、闇は光に敗北する概念も覆すことができない」

 

 

古の戦いは当時の者にしか知らない。かつての敵対していた勢力に殺されようとリーラは恐れなかった。

 

 

「あなたが生命・心理を、あの子は死と虚偽を、正反対で対立する光と善・悪と闇をあなた方が自らの意思で選んだ。

自らの意思で様々なものを創造した、自らの意思で戦った」

 

 

ただ、ここにいない家族に対する謝罪の念が強かった。

 

 

「ならば、怒りあれど復讐や憎悪、恨みなど無かったはず」

 

 

ここで命を落とすことに。何も言わず、異国の地で事情を不明のまま死に行くことを。

 

 

「私はあの子を産み、愛し愛されて生きていました。あなたに何度も破られようと私達が支えました。―――あの頃はとても楽しかったです」

 

 

ここにいない一誠に対して、また死ぬ自分を悲しんで欲しくない、また復讐など考えないでほしいと言う懇願をする。

 

 

「今日まで・・・・・あの方の傍に入れて楽しかったです」

 

「それが、最期の言葉だな」

 

リーラと善神群以外、リゼヴィム率いる邪龍と大天使の女性は今でも熾烈な戦いをしている。その中で、リーラは処刑されようとしていた。誰も味方がいないこの場で、この地で―――。

 

「あの世で奴に会えたら末長く人間界を見ているがいい。いずれ、善なるものと悪しきものが分離するその時までに」

 

スプンタ・マンユの神剣がリーラの身体に袈裟斬しようと振られる。一切の躊躇も迷いもない神の斬撃、琥珀の双眸を静かに閉じ死を受け入れたリーラ・シャルンホルストの身体に斬り裂かれる衝撃は―――。

 

「・・・・・」

 

何故か、来ない。神剣の一撃をこの身が食らえば助からないはず。スプンタ・マンユが見逃すはずもない。現に、目の前に確かに感じる。瞑目して眼前や周囲の光景は見えないが、気配だけは感じる。

 

 

 

「こんなことになるぐらいなら。意地を張らず、お前の傍にいるべきだった」

 

 

 

「――――――っ!?」

 

耳に入り、心まで届く彼の声。有り得ない、信じられないと驚き、カッと目を開けた途端―――。赤より鮮やかで深い真紅の色が最初に視界いっぱいに映り込んだ。

 

「ごめんな。リーラ」

 

 

ギェエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!

 

 

聞こえてくるかの声と邪龍の声。聞き間違えることなど絶対にないリーラは、視界が滲んで前を見ることができない。琥珀の瞳が潤い、涙が溢れ・・・・・。

 

「・・・・・お前は」

 

「悪いが、二度も俺の愛しい女を殺させるわけにはいかない」

 

スプンタ・マンユの声と男の声が交わされる。

 

「彼女は俺の大切な家族。もう、目の前で誰一人傷つけさせはしないし殺させもしない。―――兵藤一誠の名に懸けて!」

 

ダムが崩壊したように温かい雫が絶え間なく流れ頬を濡らす。真紅の長髪、右目に眼帯を付けた金眼の少年の登場にリーラ・シャルンホルストは・・・・・泣いた。



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エピソード67

すみません!これが正真正銘本当の完結!そして次回は投稿しますので!


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『ハハハハハハッ!懐かしく、久しいな善神群!再びお前らと戦えることを喜びに思えるぞ!』

 

「アジ・ダハーカ・・・・・・っ!」

 

「どうしてここに、あの介な邪龍が・・・・・っ」

 

『よくも星黎殿を破壊してくれたな。貴様らの命で償ってもらうぞっ!』

 

ギェエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

一誠の真上で戦意の姿勢でいるアジ・ダハーカ。アムシュ・スプンタは今まで保っていた余裕の表情が無くなり、警戒と敵意を顔に浮かべ臨戦態勢に入る。スプンタ・マンユはジッと一誠を見続けていた。リーラを守り、アジ・ダハーカを引き連れた目の前の少年、兵藤一誠のことは耳に届いている。

こうして初めて対峙して、兵藤一誠の存在を改めて確認して―――。

 

「―――――っ?」

 

スプンタ・マンユの目にある者と被って見えた。自分でもおかしくなったかと、かつての敵の姿が一誠と被ったのだ。相手は元人間のドラゴン。そんなわけはないと、軽く瞑目して兵藤一誠という少年を視界に入れた。

 

「その者を庇う理由はそれか。だが、これは我々の問題だ。邪魔立ては許さない」

 

「リーラがお前らとどんな関係だったのか、俺には分からないし興味もない。だけどな、俺の家族を目の前でまた殺されるなんて絶対に見過ごすことなんできる訳がないんだよッ!」

 

互いの主張が衝突。これは譲れないと相手を見下さず睨みつける。

 

「彼女は連れて帰らせてもらう。あの移動要塞はそっちの好きにすればいい」

 

「駄目だ。悪は滅ぼさなければならない。その悪魔も破壊の対象者だ」

 

「―――――――――」

 

破壊の対象者。一誠の中で何かがキレた。

 

「お前達の事は知らないが・・・・・」

 

禍々しいオーラを全身に纏い、鎧へと具現化する。

 

「俺の家族を狙う以上。相手は神だろうが魔王だろうが、絶対に許さない」

 

黒と紫が入り乱れた身体の各部分に赤い宝玉がある全身鎧を装着を果たす一誠は躊躇もなかった。

 

「リーラを守る為にお前らを倒すっ!」

 

「やってみろ」

 

左籠手だけ赤い籠手に装着し直して

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!』

 

『Transfer!!!!!』

 

瞬時で赤龍帝の倍加の能力を発動し、『幻想食龍者の鎧(イリュージョンイーター・スケイルメイル)』の能力を高め消滅の力を、腕を横薙ぎに振り払って発動した。

 

「―――なんて禍々しい力だ」

 

迫りくる大地を穿ち消滅し続ける闇の力。一誠が鎧を装着した瞬間にアムシャ・スプンタがいる場所まで移動していたスプンタ・マンユは神剣を振るった。飛ぶ神力が込められた斬撃波はいかなる悪しきものを切り裂く浄化の力。

目の前の闇の力のオーラも例外なく切り裂く―――。

 

「なに?」

 

切り裂くことは叶った。しかし、浄化までは至らずスプンタ・マンユの斬撃は通じなかった。

 

「バカな、主神の攻撃が通じないはずがない!」

 

「私の炎でっ!」

 

女性が力を放つ。手の平から聖なる力が込められている炎の巨大な火炎球を放ち、吹き飛ばすつもりだったのだが、衝突することもなく瞬く間に禍々しいオーラに呑みこまれて消滅する。

 

「なっ!?」

 

「退避!」

 

攻撃が通じないと悟るや一斉に宙へ逃れる。しかし、宙には敵がニヤリと笑みを作って待ち構えていた。

 

『待ちかねたぞ!』

 

アジ・ダハーカの全力の魔法攻撃。千の魔法を駆使する最強の邪龍の筆頭格の魔法の力は惜しみなく発揮した。

 

『星黎殿よ、我らは帰って来たぞ。我らを迎える準備をするのだ!―――我らを忘れたわけではあるまい!』

 

彼の邪龍の問いの叫びは崩壊した星黎殿へ飛ぶ。原型が留まっているとはいえ、盛大に貫かれ損傷が激しい移動要塞がアジ・ダハーカの声に応じるはずもないと考えを覆す光景が起きた。

 

地に墜ちた巨大な移動要塞がゆっくりと浮遊し始め、自己再生を始めた。星黎殿の様を見て険しい表情を浮かべるアムシャ・スプンタ。

 

「・・・・・悪神群の登場に本来の力を発揮し始めたか」

 

「やはり、悪は倒すべきですね」

 

アジ・ダハーカやリーラ、そして一誠を敵として認識し攻撃を構えた。禍々しい消滅の力は消失し、リーラを守るように一誠はスンプタ・マンユ達を見上げ、アジ・ダハーカも狂喜の笑みを浮かべアムシャ・スプンタを見つめる。

 

「早々に倒そう。他の神々がここに駆けつけてこられては面倒だ」

 

「はっ。かしこまりました」

 

それぞれの敵を善神群は見据え、飛び掛かった―――時、真上から影が落ちてきた。両者は何だ、と思いながら影の正体を見て、絶句した。

 

黒い十二枚の翼を生やし、衣服が機能しないほど無残にボロボロで全身も満身創痍、片腕がなく、足が有り得ない方へ折れ曲がっていたリゼヴィムと戦っていたはずの大天使であった。

 

「ハルワタートッ!?」

 

「バカな・・・・・っ」

 

スプンタ・マンユも目を張って味方の凄惨な状態に言葉を失った。ここまで大天使がダメージを負うのは悪神群と戦って以来かつ天使の象徴だった白い翼が完全に黒く染まって・・・・・堕天使と化していた。

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ!残念でしたー!俺のゾフィリスちゃんに倒されちゃいました!」

 

笑い声の主と大天使を倒したドラゴンが近づいてきたことで、一誠やスプンタ・マンユの意識はリゼヴィムへ切り替わる。

 

「貴様・・・・・っ!」

 

「・・・・・っ」

 

「善神群とか悪神群とか揃いも揃ってニ天龍みたいに戦うなら、あの星黎殿っていう古代兵器、俺にくれない?くれたらすぐにいなくなるからさー。ね、いいでしょ?」

 

リゼヴィムの言葉はアジ・ダハーカとスプンタ・マンユにとってふざけた発言だと揃って「『断わる!』」と主張した。

 

『あれは貴様みたいな三流魔王が我が物顔で居座らせるほど、安くないわ!』

 

「ムッカッ!?俺は魔王ルシファーの息子なんだぜい!三流はないだろう三流は!魔王の血を引く魔王の中の魔王、それが俺だ!」

 

アジ・ダハーカの発言に食って掛かるリゼヴィム。現魔王と同じく前魔王ルシファーの子供で三流呼ばわりされて黙ってはいられない。

 

『否―――!我が主こそが魔王と名乗る貴様より魔王の中の魔王なのだ!あの星黎殿は、我が主、兵藤一誠が引き継がれるべき魔の巣窟!』

 

「・・・・・なんだと?」

 

「アジ・ダハーカ?」

 

彼の邪龍の言葉はスプンタ・マンユを驚かせることになった。一誠自身も少なからず衝撃を受ける。

 

『我が主、兵藤一誠は―――悪神群の、七大魔王の頂点に立つアンラ・マンユ大魔王の転生者なのだっ!!!!!』

 

 

 

・・・・言ってしまった。明かしてしまった。兵藤一誠の傍にいる理由をアジ・ダハーカが告げてしまった。

 

「・・・・・俺が、魔王の転生者?」

 

『その通りだ我が主。そこにいる我が主が愛しているメイドの本当の正体は俺と同じ悪神群の一人であり大魔王アンラ・マンユの母にして愛人。リーラ・シャルンホルストという名は偽名なのだ。本当の名前は―――ジャヒーだ』

 

一誠はリーラに顔を向けた。本当なのかと顔の部分のマスクを開けて視線で訴えた。

彼の少年からの視線にリーラ・シャルンホルストと偽りの名で生きていた悪魔ジャヒーは。

 

「・・・・・っ」

 

沈黙を貫き、堪え切れないとばかり、バツ悪そうに、申し訳なさそうに一誠から向けられる視線から合わすことなく地面を食い入れるように見つめるばかり。

 

「アンラ・マンユの転生者・・・・・こんな馬鹿な話があるのか?」

 

「そ、そんなこと有り得るはずがっ。奴は、奴は確かに主神の手によって死んだはず!」

 

「彼の魔王の母親が兵藤一誠の傍にいる時点で、奇妙だと思っていましたけれど・・・・・そんな」

 

「死んで尚、亡霊として生きていたとはっ」

 

アムシャ・スプンタは攻撃の矛先を一誠に集中する意識を持ち始める。

 

「・・・・・リーラ」

 

「・・・・・」

 

「俺の傍にいてくれるのは、俺が魔王の転生者だからなのか?俺を愛しているじゃなくて、俺を魔王と重ねて愛していたのか?」

 

答え辛い質問を厳しくリーラに突き付けられる。

 

「答えてくれよ・・・・・リーラ」

 

「っ・・・・・」

 

心が不安で支配されそうになる。自分を自分として見てくれず、別の者として今まで傍にいて、愛していたのだと言われれば一誠の精神はどうなるか、想像難くない。

 

「・・・・・申し訳、ございません。私は―――」

 

「―――――っ!?」

 

愕然と目を張った一誠は身体にも衝撃が襲った。

 

「―――例え、転生者だろうとあの魔王の関わりがあるならば」

 

「悪は全て滅ぼさなければならない」

 

「恨むなら、己の出生を恨んでください」

 

背後から、一誠の不意を突き剣で串刺しにしたアムシャ・スプンタ。

 

「一誠様っ!」

 

『貴様らぁっ!?』

 

リーラは叫び、アジ・ダハーカは怒りで魔法を発動して襲いかかった。迫る邪龍を察しながらあろうことか、一誠をそのままスプンタ・マンユのところまで連行した。

 

「主神様、連れてまいりました」

 

『スプンタ・マンユッ、善神群とは思えないことをしてくれるなっ・・・・・!』

 

「次はお前らを破壊するそこで大人しく見ていろ」

 

一誠の首を鷲掴みにして目と合うように持ち上げた。口の端から血を流す若いドラゴンの顔を覗き込むスプンタ・マンユは眉間を皺に寄せる。大魔王の顔とは全く似ても似つかない、感じる力も違う。だが、悪神群の配下だった者がともに慕っていることで偶然とは思えない。

 

「俺も含めお前自身も予想だにしなかった事実だったようだな。まさか、アンラ・マンユの転生者だと微塵も思わなかっただろう」

 

「ぐ、う・・・・・っ」

 

「いくら転生者とはいえ、見逃すわけにはいかない。それだけ悪神群と我々善神群の戦いは凄まじかったのだ。そちらの神話の世界、世界の覇権を狙うなどとくだらない戦争をしてきた第三勢力戦争よりもな」

 

腕力に込められる力は少しずつ増し、一誠は苦し紛れにスプンタ・マンユの手首を掴み消滅の力が込めた拳で殴りかかった。

当たれば即死の危険な力を宿したその一撃を目の当たりにしても。

 

「無駄だ」

 

輪後光と翼が光り輝き、消滅の力を浄化し尽くす。鎧もその光に浴びることで消滅のオーラは消え、鎧が砕け崩れ落ちた。身に起きた現象に心中驚き、一誠の中に宿っているドラゴンも驚愕しただろう。

 

「先ほどの斬撃とは比較にならない神光だ。至近距離で浴びれば魔の力は浄化され滅する。お前が悪魔か本当に魔王だったらこの光を浴びただけで凄まじい激痛か、塵となって消滅していただろう。―――己がドラゴンであることを幸運に思え」

 

ゾロアスター教の主神と神話に関する歴史にも載っているスプンタ・マンユ。初めて彼の神の力を知り、一誠は苦しみながらも口角を上げ笑みを浮かべた。

 

「ははは・・・・・やっぱり、世界は凄いな・・・・・色んな神さまを見てきたけど、お前みたいな神は初めてだ。俺の中で最強の力が、効かないなんて・・・・・驚きを通り越して清々しい気分だ。これで、俺はもっと強くなる修行をしなくちゃいけないじゃないか」

 

「修行だと?今死ぬお前にその時間は無い」

 

「・・・・・神の力、か」

 

声を殺す風に小さな声が動く口から洩れ、スプンタ・マンユは怪訝な表情を浮かべ出す。

 

「―――初めて神の力を奪ったけどどんな感じだろうなぁ」

 

皮肉なことが起きた。世の中の事象は善と悪の二に分類されてきた。アンラ・マンユの悪とスプンタ・マンユの善、この二つが分離、それぞれの神と魔王が選んだことで世界は善悪の概念と認識が生まれた。

 

「・・・・・なん、だと」

 

だと言うのに、アンラ・マンユの転生者と認識された一誠にスプンタ・マンユは驚きを隠せなかった。

 

―――己の力を再現したかのように一誠は青白い天使化をした。これだけなら変わらない姿なのだが、背中に生えている十二枚の青白い翼の他に青白い輪後光が展開されているのだった。

 

「異世界の神から得た力にお前の力・・・・・。この力をフルに使用すれば精々5秒程度ってとこか」

 

「―――っ!?」

 

遥か上空から青白い稲妻が轟きながら一誠達がいる地に落下する。その稲妻はスプンタ・マンユの力が宿っていた。アムシャ・スプンタは目を大きく見張り、一誠から反射的に放たれた矢のごとく後退しながらも己の力を奪われた事実にスプンタ・マンユは忌々しげに顔を歪め一誠を睨む。

 

「アンラ・マンユの転生者が・・・・・っ!」

 

「俺は兵藤一誠だ!」

 

両者が溝を作ったように離れ、対峙する。

 

『我が主!流石だなっ!』

 

「一誠様・・・・・」

 

背中の輪後光が消え、青白い天使として戻った一誠に称賛するアジ・ダハーカと不安そうな表情を浮かべるリーラ。

 

「うひゃひゃひゃひゃっ!坊ちゃん、すっげー!神の力奪ってやんの!でもでも、俺達の存在を忘れちゃ困るってもんだぜぃ!こっから俺達も大暴れだぜラードゥンくんとゾフィリス!」

 

『お相手を願いますよ』

 

静観していた第三者のリゼヴィム達も動きだす。一誠とスプンタ・マンユはリゼヴィムを一瞥し、お互い二人の敵を同時に相手をしなければならないと言う状態と状況になった。

 

「断わられる前提での提案だけど、あの悪魔は共通の敵だから一緒に倒すなんて考えは?」

 

「あるわけがない。お前達諸共我々の神威の光のもとで浄化してくれる」

 

「残念でした坊ちゃん!因みに俺はカモンだぜ?どっちか俺と組んで片方の敵と戦ってみなーい?」

 

「「寝言は寝て言え」」

 

ここで三つ巴の戦いが発展した。誰もがそう思い、機を見計らって攻撃を仕掛けようと考えた。

 

「両者、そこまでにしてほしいかな」

 

「HAHAHAHA!おいおい、滅茶苦茶暴れてくれたなお前ら」

 

この場に二人の人物が前触れもなく現れた。一人は五分刈りの頭に、丸レンズのサングラス、アロハシャツ、首には数珠というラフな格好をしている。もう一人は外見は青光りする黒髪の持ち主で、歳は14、5ほどに見える端正な顔立ちの美少年。

 

「・・・・・破壊神シヴァ、インドラ・・・・・」

 

『ほう・・・・・これはまた懐かしい者が揃ったな。かつての仲間よ』

 

「・・・・・」

 

意味深な視線をスプンタ・マンユ、アジ・ダハーカ、リーラは現れた二柱の神に送る。この場に現れたインド神話の神に注目をして、戦意は和らぎ警戒が強まる。

 

「HYE!そこのスプンタ。俺達に了承もなくここで暴れんじゃねーよ。人間どもがもうすぐここに来ることをまだ気付かないのかテメーは」

 

「双方、矛を収めてくれないか。ああ、魔王の子息は逃げないで大人しく捕まって欲しいぐらいだがどうだ?」

 

戦いの収拾をしに来たシヴァと帝釈天に対して―――。

 

「邪魔をするな。この地で戦場となってしまったのは非がないわけではないが、我々神話の者同士の問題だ。貴様等もかつての七大魔王の一人として葬ってやろうか」

 

「嫌だねー嫌だねー!神が二人も揃って俺達の喧嘩を止めるなんてさ!せっかくの面白可笑しい三つ巴の戦いができそうだったのに!もう帰る!」

 

神が反抗的に、悪魔は状況が不利になったことで見逃される形で逃走した。

 

「おい聞いたかぁ?俺達も標的にされちまいそうだぜぇ?」

 

「随分と懐かしいことだね。でも、今は神の一人の立場としてここにいるのだが」

 

二人は当然のように一誠の前に立ち、スプンタ・マンユとアムシャ・スプンタと対峙した。

 

「でてかねーと、正当防衛としてテメーらを雷の餌食にしてやんぞ」

 

「お互い神同士、破壊神の力を味わってみるか?」

 

「―――――っ」

 

神としての威厳と威圧、一誠は初めて神のレベルの高さ、神がいる頂との差を感じた。まだまだ到底及ばない、特にこの二人に追い付くのは・・・・・いや、足元にも及ぶほどになるのはどのぐらい先のことになるだろうか。スプンタ・マンユとは違う神の質を肌で感じるこの経験は貴重だと感じた。

 

「神はともかく、人間までここに来られては・・・・・」

 

「主神様。如何致します。敵を前にこの場から去るなど遺憾なのですが」

 

アムシャ・スプンタは一誠達に対して敵意を失っておらず、スプンタ・マンユの戦闘続行の意志があればシヴァと帝釈天だろうと戦い、標的の抹殺を行うだろう。

 

しかし、答えを聞く前にこの場まで聞こえる騒音が空から聞こえ出す。見上げれば、戦闘機が通り過ぎ、少し遅れ兵隊を乗せた戦闘ヘリまで現れた。

 

「・・・・・我々は人類を守護する存在。ここで戦闘をすれば守るべき人類まで被害が及ぶ。―――誠に遺憾ながらここは退く」

 

「「「「「はっ」」」」」

 

「ハルワタートは深く残念ながら堕天してしまった・・・・・もはや我々の領域に足を踏み入れることはできない」

 

「・・・・・っ」

 

一人の女性が悲しみと怒りが宿った目を一誠に向けた。お前のせいだ、と訴えられた感じを覚える一誠は目を細める。

 

「―――良く聞け、アンラ・マンユの転生者」

 

スプンタ・マンユは一誠に真っ直ぐ向かって発した。

 

「我々はお前の存在を絶対に忘れない、監視もするだろう。お前という存在はこの世界にいてはならないのだ。我々が存在しているこの現実世界は、太古から善神と悪神の被造物が混じり合い、互いに戦い合う『善と悪との戦場』となっている。いずれ世界の終末の日に最後の審判を下し、善なるものと悪しきものを再び分離する戦いが訪れる。その時まで力を―――」

 

「嫌だね」

 

彼の神の言葉を拒否の言葉で遮った。

 

「俺は兵藤一誠って言うグレートレッドとオーフィスの力に寄って甦った転生ドラゴンだ。俺が、アンラ・マンユの転生者だって言われても実感しないし、実際その魔王の転生者だなんてレッテル、俺はどうでもいいんだよ。

俺は俺だ!世界を巻きこむような戦争や戦いは自分から起こす気もないしする気もない。俺は家族と一緒に生きていらればそれで十分だ!」

 

「・・・・・」

 

「だけど、お前らが俺の家族に手を出すって言うなら俺は許さない。お前らの望み通りに戦ってやる。かかってこい!」

 

腕を組んで胸を張って言い切ったと態度をする一誠。神相手に啖呵を切る。帝釈天が愉快そうに意味深な笑みを浮かべ、シヴァは微笑ましく見守った。スプンタ・マンユは―――この瞬間一誠をアンラ・マンユと確かに被って見えた。

 

「・・・・・兵藤一誠・・・・・その名前は我が胸に、魂にお前の存在を刻もう。いつか必ず訪れる戦いの相手となる者の名を」

 

「俺もお前という神を死ぬまで忘れない。いい経験も得れた。感謝するよスプンタ・マンユ」

 

二人の会話はそこで途切れ、スプンタ・マンユとアムシャ・スプンタは眩い閃光に包まれ、空の彼方へと飛んで行く。これで全てが終わった。一誠はリーラを守り切り、新たな事実を知った。

 

「・・・・・アンラ・マンユの転生者、か。とんでもない存在だったんだね君は」

 

「HAHAHAHAッ!坊主、お前一体どんだけ異常な存在になろうとしてんだよおもしれぇー!」

 

バシバシと帝釈天に背中を叩かれ、苦笑いを浮かべる一誠の目に再生し切った星黎殿が目と鼻の先まで近づいてきて、地面が隆起し階段へと形になり星黎殿の方まで伸びた。

 

「あの移動要塞も君を迎え入れるようだ」

 

「かつての主の宝具でもあるからな。俺が欲しいぐらいだぜ」

 

「・・・・・本当に、俺ってアンラ・マンユの転生者なんだな」

 

『何を言うか。ジャヒーがお前の傍にいる時点でお前はそう言う星のもとで生まれたのだと言っているようなものだ』

 

星黎殿に迎え入れられている光景に何とも言えない気分で、アジ・ダハーカの言葉を思い出してリーラに振り返った。

 

「リーラ、俺はリーラにとってどんな存在だ?やっぱり・・・・・アンラ・マンユの転生者?」

 

「・・・・・」

 

愛おしい少年の問いにリーラは今度こそ答えを口に出そうと意を決した。

 

「・・・・・申し訳ございません。私は、今日まであなた様を我が主の、私の息子のアンラ・マンユの転生者として傍にいて生き続けました。兵藤一誠としてではなく、アンラ・マンユの転生者として見守っていました」

 

「・・・・・」

 

「あなた様を愛していたのも息子のアンラ・マンユとしてでした。あなた様もアンラ・マンユの転生者ですので」

 

偽りのないリーラの本音。静かに心から受け止め、同時に寂しさを覚えた。兵藤一誠としてではなくかつての息子が転生者として誕生した者と愛し愛されることで愛を、絆を深めていたことに。

 

「・・・・・ですが、もしも・・・・・もしもです」

 

その場に跪き、頭を垂らした。

 

「今日、私はアンラ・マンユの転生者としてではなく、兵藤一誠として守られました。深く、感謝の念を抱き、喜びを感じました」

 

リーラは深く懇願した。今までの言動の懺悔と願望と一緒に。

 

「もしも許されるなら、私はあなたに対して永遠の愛の誓いを、絶対服従の誓いを立てたい。息子のアンラ・マンユの転生者ではなく、一人の兵藤一誠として・・・・・」

 

「・・・・・」

 

静かに耳を傾ける彼女の言葉を、無表情で見下ろし続け聞いた。今までの言動は全て偽りである事を凄まじいショックを覚えた。あの温かい笑顔や優しい言葉も全て自分に向けたものではない。怒りを通り越して虚無感を覚えてしまった。だが、リーラを守りたかったのは事実。家族の事情や秘密まで知ることはできないし喋ってくれるまで待つつもりでもあった。

 

この瞬間からもう一度最初からやり直しを求めているリーラ・シャルンホルスト、否ジャヒー。

一誠は・・・・・深く吐いた。

 

「なあ、訊ねていいか?お前は何て名前だ?」

 

彼の少年の問いに、彼女は直ぐに答えた。

 

「リーラ・シャルンホルストです」

 

「・・・・・なら、答えはもう決まっているだろう」

 

彼女から踵を返して星黎殿に繋がっている階段を一歩踏んだ。

 

「俺達の家に帰ろう、リーラ。皆が心配してる」

 

「―――――っ!?」

 

顔を上げた先には、威風堂々とした歩みで階段を登っていく兵藤一誠の姿。その姿は―――アンラ・マンユと同じだった。懐かしくも見えてしまった。だが、彼女の目は瞑目して目を開けた瞬間は、兵藤一誠として琥珀の瞳の視界に入れ、立ち上がった。

 

「はいっ。一誠様っ!」

 

 

 

「・・・・・いやぁ、思いっきり懐かしく感じている俺がいるんだけど」

 

「そうだね。もう歳かな・・・・・」

 

『クッ・・・・・!目から大量の汗が・・・・・っ!』

 

付き添うように歩く二人を、二柱と一匹が何時までも生温かく見守り続けていた。

 

 

 

「主神様・・・・・今後の兵藤一誠の活動を監視する者は如何致しましょう」

 

「それは俺の方で決めている。まず、注目すべきはルシファーの子息の行動だ。ハルワタートを倒したあのドラゴン、警戒するに値する。野放しにすれば人類の害となる」

 

「では、我々は独自でルシファーの子息を追うのですね?」

 

「他の神々が何を言おうと無視しろ。我々の存在理由はただ一つ」

 

「はっ!悪しきなき『善の王国』の建設!いずれ、この世の全ての悪しきものを滅ぼしましょうぞスプンタ・マンユ様!」

 

 

 

「・・・・・イッセーの奴が、善神群の連中に喧嘩を売ったぁー!?」

 

『・・・・・ああ、誠に信じられないが、彼はアンラ・マンユの転生者だとも聞いた』

 

「はっ!?それこそ冗談過ぎるだろうが!魔王の中の魔王だぞ、あの男は!」

 

『ミカエル殿から聞けば、他神話体系の神々もこの話で盛り上がっているそうだ。いずれ訪れる世界の終末にイッセー君と善神群が戦争をするだろうと疑いの余地もなさそうだとか』

 

「・・・・・もう、俺はイッセーの奴が恐ろし過ぎてしばらく顔をみたくないかも」

 

『ふふっ。堕天使の総督も言葉も出ないか』

 

「てか、お前何だか嬉しそうだな。さっきから顔が笑みで固まっているぞ」

 

『うむ。あの大魔王の転生者ならばリアスを嫁がせる相手としてまた格が上がったと嬉しいのだよ。本人は自分は自分だというだろうけど、悪魔の世界では放っておけない存在だ彼は』

 

「五大魔王が・・・・・いや、冥界の上層部どんな反応するか想像できねえぞ?」

 

『手を出すならば、私はグレモリー家の全てを投げ打ってでも守るよ。あの子は、誰にも縛られず自由に生きる方が似合っているからね』

 

 

インドで起きた事件は瞬く間に収束し事無き終えてから数日が経った。

リーラが行方を暗ましてからも同じ日数で残された面々は、心配と不安を胸に引き絞められながらも日々を過ごしたそんなとある日の事。インターホンが鳴り、メイドとして咲夜が応対する。

 

「はい、どちらさまですか」

 

『―――久し振り、咲夜』

 

男の声。それも咲夜が今、一番聞きたく会いたかった者の声だった。何かに弾かれたように扉を開けてすぐ見つけた。リーラとオーフィス、クロウ・クルワッハに見知らぬ女性も一人いたが、それよりも目立つ真紅の髪を生やしている若い少年が目に飛び込んだ。

 

「ただいま・・・・・咲夜」

 

「―――やっと、帰ってきて下さったのですね。・・・・・お帰りなさいませっ!」

 

後に他の家族達も咲夜と同じように歓喜で抱き絞め、心から迎え入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――(完)―――



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新約篇
新約(1)


()

 

「・・・・・お爺ちゃんまで来るなんて予想外も良いところだよ」

 

「・・・・・」

 

「世間話をしに来た感じじゃないようだけど、どうしたの?そんな思い詰めた表情をして」

 

「・・・・・頼みを聞いてくれないか」

 

「内容による」

 

「あの二人を、楼羅と悠璃を説得してくれ・・・・・」

 

「説得?あの二人が心底嫌がる事を無理強いさせるのも気が引くんだけど」

 

「形だけでも良いと言っているのだ。それでも娘達が頑なに拒んで馬鹿息子共々困り果ててしまっている。残された選択はお前から二人に頼んでもらう事他ないのだ」

 

「何をさせるつもりなんだお爺ちゃん」

 

「代々兵藤家が行い続けている伝統。兵藤家の子孫繁栄を維持するためのお見合いだ」

 

「お見合い?兵藤家の連中はお見合いで相手と決めるのか。もしかして式森家も?」

 

「ああそうだ。だが、式森家の方は相手を見つけるのは少々困難を強いる。何せ優秀な魔術師、魔法使いを重視して選ぶのだからな」

 

「和樹もそんな感じか。で、楼羅達と見合い相手は?」

 

「兵藤家の中で実力が高い者に推薦している」

 

「・・・・・どうせあいつなんだろうけど、無理だろ」

 

「だから断わっても良い前提で兵藤家の伝統『お見合い会合』に参加して欲しいと言っているのに娘達はお見合いすること自体拒絶するのだ。このままではあの馬鹿息子以来二度目の前代未聞の出来事と成ってしまう」

 

「二度目の前代未聞って・・・・・そこまで重要な伝統なのかお爺ちゃん」

 

「当然だ。兵藤家の未来が懸かっているのだ」

 

「ふぅん、でもさ。未来が懸かっているのに当主の娘が相手との婚約を断わっていいものなのか?普通できないんじゃない?」

 

「当主が健在であれば兵藤家は安泰なのだ。問題なのは次世代の兵藤の者が血縁を絶やしてしまうことだ。故に子孫の繁栄と兵藤家の安泰、この二つが必要不可欠なのだ。だからこそ楼羅と悠璃にもお見合いをしてもらいたいところなのだが・・・・・お前以外の男とお見合いをする気はないと一点張りで困っている」

 

「今の俺の状況を鑑みて複雑極まりない」

 

「娘達からすればお前の状況など露程気にしない」

 

「だろうな。それと、有り得ない話だけど俺もその伝統に参加しなくちゃならないのか?」

 

「参加はできない。この伝統は人間のみで行われる。ドラゴンのお前は参加は認められない」

 

「人間のみ、か。どこまでも兵藤家は俺を除け者にするよなぁ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「ま、今に始まった事じゃないからこそ、そんな兵藤家に対して恨みと憎しみしか抱いてないわけで嫌いだ」

 

「・・・・・」

 

「取り敢えずはわかったよ、俺からも二人に言ってみるよ」

 

「・・・・・ありがとう」

 

「ただ・・・・・条件を言われたらどうする?お見合いに同席しろとか」

 

「・・・・・」

 

 

 

世間に騒がれず、人知れず行われる兵藤家のお見合い。代々兵藤家は子孫繁栄を重視し、近親婚も認める程血縁を絶やさず次世代の子孫を増やし続けた。それに伴い婿養子として優秀な家柄・家系、文武両道、日本で五本指の成績が良い者―――老若男女問わず兵藤家によって集められてお見合いは行われる。さらにこの際に婚約する相手が見つからない、見つけなかった兵藤家の少年少女は『見送り』として次回に持ち越しになる。そして現在、正装や着物など着込む100人は優にいる老若男女等が広大なパーティ会場に一堂に会してお見合い兼パートナ探しを勤しんでいる。

 

「兵藤家からの招待状が届いて来てみれば、お見合いだとは・・・・・」

 

「お見合い相手はその兵藤なのだろう?見知った顔の奴がちらほらといるが、何を基準に私達は選ばれたのだがな」

 

黒い長髪に切れ長の赤い目の少女と水色の長髪と同色の瞳の少女。ドレス姿で今立たされている自分達の現状に揃ってため息を吐く。兵藤は兵藤でも自分達が知る兵藤では無く、この場にもその兵藤がいないのだから少々退屈しながら下心や好色で近づいてくる兵藤家の男や婿養子として招待された男からのアプローチをガン無視しつつあしらっていると。

 

「モ、モモ先輩~~~~~」

 

「お、まゆっち」

 

「私もいるよ」

 

「ワン子だけがいないようだな」

 

若葉色のワンピースを身に包む長い黒髪を白い紐で一本に結う少女と黒い着物を着てる紫がかかった青髪の少女、金髪に赤いリボンで結んでる着物姿の少女らが合流してきた。

 

「三人共いたんだな」

 

「愛しの旦那様からの招待状だと思って来てみたら兵藤家のお見合いって・・・・・はぁ」

 

「どこの誰が旦那なのかはともかく、最後の言葉の辺りは同感だ」

 

「お、お父様からの話では数十年前もこのような催しをしていたと仰っておりました」

 

「黛の親も参加していたのか?もしかして兵藤家と繋がりが?」

 

エスデスの問いに首を横に振り「いえ、母は兵藤家の者ではありません」と否定する。

 

「兵藤家からの指示は絶対だが、断わっても大丈夫だと教えられましたので」

 

「まゆっちの父親って剣聖って呼ばれていたぐらい剣豪だったから誘われても不思議では無いね。クリスは?」

 

「父親絡みであろう。私自身、モモ先輩ほど実力に突出してるわけでもないからな。京は天下五弓と呼ばれているほど弓の達人だからではないか?」

 

「ククク・・・・・イッセーのハートを打ち抜くために腕を磨いたんだ」

 

「・・・・・動機が」

 

何とも言えなくなって突っ込む事も出来ないドイツ出身のクリスティアーネ・フリードリヒ。

 

「今思えばクリスの男の好みはなんだ?」

 

「恋愛はまだする気が無いのだが・・・・・やはり私と同じ騎士道精神がある者だと好ましいな」

 

クリスの好みと慕っている男と照らし合わせて考えてみる三人等に声を掛けられる。

 

「騎士道精神ならこの私もあるぞ!得意な武器は無論レイピアである!」

 

騒がしく口に薔薇をくわえるナルシスト風な青年が奇妙な姿勢(躍り)をしながら近づいてきた。背景にキラメキを背負い自分の存在をこれでもかと主張してくる。よく見れば服に兵藤家の家紋が。この変人が兵藤家の者だとは色々な意味で意外過ぎた。そして・・・・・。

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

男の言動に全員ヒく。

 

「同じ騎士道精神の持ち主の相手ならば私の妻に相応しい。そしてその美しい金の髪!何者にも屈しない力強い意志が孕んでる瞳!騎士として鍛え上げたことで無駄な贅肉がないスタイルに引き締まったヒップと美脚!!!全て私の理想像が具現化しているではないか!」

 

クリスの前で薔薇の香りを撒き散らしながら膝をつき、背後から花束を突き出した。

 

「どうか、私と夫婦の契りを結んでほしい麗しき淑女(レディ)・・・・・」

 

名も知らぬ男からの初告白。が、クリスに更なる告白が待っていた。

 

「待て、その淑女は俺が先に目を付けていたのだぞ。横入れは止めてもらおうか」

 

「何を言う。私は一目を見たときからだ」

 

「ふん、既に遅いぞ貴様ら。私は情報を集めていた時に彼女の事を知っていたのだからな」

 

三人の男達からの熱いアピールが加わり、四人同時に告白を受けて激しく動揺する。その間、百代達も兵藤家の男達からの熱烈の告白を受けていた。拳と氷撃でお断りして。

 

「同年代や年下の兵藤家がアレだから、他の兵藤家の男も傍若無人だと思っていたんだが・・・・・」

 

「色々いるのだろう。全員が全員、ああなのではないんだろ」

 

兵藤家に対する印象を改める必要が出てきたところでメイン―――兵藤家当主の娘が登場した。絢爛な黒い着物を身に包み、物静かでパーティの輪の中に入ってくるのが兵藤楼羅と兵藤悠璃。現当主の娘で次期当主の妹。彼女等のどちらかと婚約を結べば当主の直系の関係と成り、天皇家としての権力と地位も得られる。婿養子として召集された男達や兵藤家の男達は目の色をギラリと変え、顔を知ってもらう且つ気に入られようと近づき口を開きだす。

 

「あの二人か」

 

「有象無象が、腐ったゴミに集るハエのように引き寄せられたな」

 

「そ、その例えはどうなのだ?」

 

「ある意味そんな感じだからしょうがないよクリス」

 

「え、えっと・・・・・」

 

当主の娘の登場で大半の男達は二人の方へと集まり出す。現にクリスに言い寄っていた男達はナルシスと以外クリスから鞍替えして行ってしまうほどだ。男達の熱が一ヶ所に集ったところで女達は手が空いた。同時に権力者に媚を売る男達を見て冷めた目で見る女は少なくなく、本気で口説く男は圧倒的に少ない。

 

「お、おい・・・・・お前は行かないのか」

 

「ああ、当主のご令嬢ですか。私は地位も権力もさほど興味無いのですよ。あるのは美学、それだけです。私は美の追求者ですからね」

 

「そ、そうか・・・・・」

 

力と暴力を好み、権力を笠に傍若無人な振る舞いをする兵藤家の男達とは大違いだ。『美学』等と口にする兵藤の者は他にどれだけいるのか定かではない。少し不思議に思った百代は質問した。

 

「お前、他の兵藤の男と違うんだな。てっきりうちの学校にいる兵藤の男共と同じかと思っていたんだがな」

 

「失礼極まりないですね!全員が全員、あんな野蛮で粗暴な美しくない同族ではない!身内がする兵藤家としてあるまじき言動にこちらだって良い迷惑を被っている!特に―――テロリストになり下がったあの兵藤一誠を筆頭に傍迷惑している!」

 

人が変わったように烈火の勢いで否定する。この場にいない男すらも彼の中では好ましくない存在の位置にいるようだった。

 

「どんな理由でテロリストに成り下がったが知りませんけれどね。兵藤家の大半の者はあの男に対して好ましく思っていませんよ。元々同世代やさらにその下の者にすら負けてしまう落ちこぼれだとか耳にしています。しかも今では兵藤家の者でありながらドラゴンに転生した愚者。まったく、どう生きればそんな事になるのか不思議でありませんよ。同じ一族、身内として信じられず恥ずかしい存在でしかならない。人間でないのに兵藤と名乗り続けていることすら疑問しかない」

 

出てくる出てくる一誠に対するディスる言葉が。それを聞くたびに百代とエスデスの顔から表情が消え、京はゴミを見る様な目で、クリスとまゆっち―――黛由紀江は複雑な表情で押し黙る。

 

「あの男の存在で私達は魔人の血を引く末裔だとも発覚して、誇り高い兵藤家の人間として生き続けた私達は兵藤家に裏切られた気分でしかない。そうさせたあの男に許し難い思いでならない。だから淑女(レディ)達は知らないでしょうけどね。私達の中で兵藤一誠と言う男は―――いなかった事にしたい存在ほど兵藤家の恥ですよ」

 

そこまで一誠のことを否定したいのか兵藤家は?少し違うと思っていたがこの男も兵藤家の誇りを持っている限り他の兵藤と変わらない性質だと知った。

 

「・・・・・なら、赤龍帝に対してどう思ってるのか聞いていいか」

 

「次期当主の子息ですか。あれもあれで美しくない存在ですね。というか、兵藤一誠と兵藤誠輝を筆頭にここ数年の兵藤達は最悪だ。兵藤家あるまじき犯罪行為を繰り返す者が後を絶たないのですからね。私と同年代の者の中にも公にできない犯行をしている。それを兵藤家や警察が闇に葬ってもみ消しているのだから尚更酷くなる一方ですよ」

 

深く嘆息する男は兵藤家の現状にどこか憂いている感じだった。しかも身内の事情を把握している様子で同族として呆れを通り越して何とも言えないようだ。

 

「そこまで言うならお前の方で何とかしないのか?」

 

「する気が無い、というより無理なんですよ。兵藤の者と兵藤の者が社会で衝突するのは禁じられています。それは世間に知る必要が無い、民間人にする必要のない注目を集めないため。兵藤家は日本という国の代表たる天皇家。その天皇家の一族がちょっとでも騒動を起こせば人は必然的に善し悪し関係なく注目する。最悪、兵藤家は権力の地盤に罅が入るほどに」

 

「その最悪な事態にならないように兵藤家と警察は隠蔽をし続けてきたのだな」

 

「長く古い歴史と誇りを重視する故に面子を大事にしたいのですよ兵藤家は。だから、兵藤一誠の存在は目の上のたんこぶなんです」

 

大事にしたいならもっと犯罪行為をしないようにニラミを利かせれないのか、と極道の娘のエスデスは呆れ顔を浮かべる。ふと、おずおずと黛が尋ねた。

 

「あの、あなたはどんな仕事をしているのですか?」

 

「仕事?花屋ですが」

 

「は、花屋っ?」

 

「先程言いましたが私は美の追求者。なので可憐に咲く花々を愛でつつ、その良さを他の者達に知ってもらいたく自営業をしているんです」

 

兵藤家にしては意外な仕事。特別凄い職業柄でもないが、問うた黛も聞いた百代達も目を丸くするほど意外だった。

 

「ねぇ、兵藤家の人達って普段何しているの?仕事はしてるの?」

 

「働かざる者食うべからず、兵藤家の家訓として社会人と成った兵藤の者は様々な職に就きますよ。私の友人の中では北海道で漁師に成っていますし、子供好きだということで幼稚園の園長を務めている者もいます」

 

「・・・・・その事、世間では知らされているのか?」

 

「されてませんよ。そんなことまで兵藤家は自己主張はしません。それに兵藤と名乗る兵藤家の者ではない人間は他にもいますから、あくまで一般人として生活しています」

 

何だか兵藤家の人間は意外にも普通に生活をしているのだなと少なからず衝撃を受ける百代達だった。てっきり天皇家の一族として高級な家の中で優雅に暮らし、好き勝手に生きているのかと思っていた考えは今日覆された。

 

「兵藤家って門外不出かと思った」

 

「その認識はあながち間違っていませんよ。ですが、それは本家の兵藤家の話」

 

本家と言う単語が出てきた時点で皆は察した。

 

「分家も存在するのか」

 

「ええ、実を言うと私はその分家の兵藤家ですよレディ。なので本家の傍若無人な振る舞いをする兵藤の者達より過激派では無く穏健派みたいなものでしてね。本家の兵藤家の犯罪行為を聞く度に辟易する思いをしていますよ」

 

溜息を吐く分家の兵藤。今日まで兵藤家の内情を詳しくは知らなかった百代達からすれば新たな情報、一誠でも知らない知識ですらあるかもしれない話を傾ける耳に一言一句聞き逃さない。

 

「兵藤家に分家があるとは知らなかったなぁー」

 

「長い歴史ですから当然私達一族の人数も多くなります。ので、本家と分家を分けることを提案したのが先々々代の当主だと聞いています」

 

「いきなり分家に分けられて不満はなかったの?」

 

「分家と言っても名ばかりのもので、本家との立場や地位、権力は変わりなく対等に扱われます。私達が本家から下に思われる事も見られる事も一度だってありませんでした。まぁ、何故自分達が分家などと疑問に思う者はいないと言えば嘘になりますが」

 

他にも何かあるのかと興味本位で訊き込むつもりでいたが、『顔合わせ』と称した会合の時間が終わりを迎え次のステージに進む時間と成った。兵藤家の姫たる楼羅と悠璃は別室で『お見合い』をすることに。相手は赤龍帝の兵藤誠輝を始めとした五人の精鋭。全員、兵藤家次期当主を決める大会で決勝戦まで勝ち進み誠に一蹴された者達だ。―――が、ここで緊急事態が発生した。

 

「ひ、姫様達がボイコットしたぁ~~~!?」

 

「探し出して連れ戻すのだ!」

 

ドタバタと聞こえてくる兵藤の者達の焦りと動揺の声は既に待機している誠輝達の耳にも届く。全員、どうせこうなるだろうと見越していたのか、態度は変わらないでいる。

 

「ま、予想の範囲内ってとこだな」

 

「子供の頃からそうだったからなぁー」

 

「見つけ出すことも連れ戻すことも無理だろ。姫達の能力は影と闇だし」

 

「あのコンボは凶悪過ぎる。―――俺達が相手にしても歯牙も掛けられないコンビネーションと技は当主ですら負かしてしまうのだから」

 

「はっ、雑魚のてめぇらが負けるのも当たり前だろ」

 

「「「「お前も負けたその一人だろう」」」」

 

結局は二人を連れ戻すことはできず本命は行えなかったが別命の方は滞りなく事を運べた。そして行方を暗ました二人はと言うと・・・・・

 

「・・・・・お前達」

 

「「形だけでも参加したから問題ない」」

 

家に戻って来ていた。

 

―――†―――†―――†―――

 

同日の夕方―――。式森和樹は深い溜息を吐いた。今日のお見合いで大変な目に遭い、疲労困憊に似た疲れを背負って帰宅した。

 

「「「「「お帰りなさいませご主人様」」」」」

 

鉄格子の門を開け放ち中に入ると、同じメイド服を身に包み道を作る女性達に迎えられる和樹は朗らかに「ただいま」と言い返した。家の中に入るとそこにも立ち並ぶメイド達がいて二階へ上がる階段へ進む。上って直ぐ自室の扉に向かって進み開け放ち、ようやく張っていた気が緩めるプライベート空間に入るや否やベッドに身を委ねて倒れ込むその直後。扉からノックの音が聞こえる。

 

「失礼いたします」

 

一つに三つ編みで結った銀髪のメイドが入室する。クールビューティーの一言で尽きるほど理知的な雰囲気を纏っている。掛けている眼鏡越しで疲れ切ってベッドに沈んでいる主に労いの言葉を送った。

 

「本日のお見合いご苦労さまでした。如何でしたでしょうか」

 

「・・・・・如何も何も、酷いの一言だよ」

 

覇気のない声音で言い返す和樹は深い溜息を吐いた。

 

「身に覚えのない思い出と約束を持ちかけて迫ってくる電波少女に、財閥の勢力拡大のために色仕掛けしてくる痴女に、僕との婚約をなかったことにしようと抹殺をしてくる魔法剣士の女の子が僕を巡って暴れ回ってお見合いどころじゃなかったよ」

 

「では」

 

「お見合いは中止。来年に持ち越しになったよ」

 

それはそれでよかったけどねと、言いながら起き上がる和樹は目の前のメイドに訪ねた。

 

「兵藤家の方はどうだったかわかる?」

 

「はい、順調に滞りなく終わった模様ですが途中で楼羅様と悠璃様がボイコットしたと」

 

「ははは、案の定か。因みにその場に一誠はいたかは?」

 

「いえ、確認されませんでした」

 

そうか、とまだ冥界に籠っているのかなと思いながらシンシアを側に招き寄せる。

 

「シンシア」

 

「和樹様」

 

二つの影が一つになり、愛を深め合う―――ことはならなかった。

 

「和樹さんに会わせてください!私は和樹さんの妻なんです!そこを退いてください!」

 

「ここにいるのはわかってるわよ和樹!」

 

「出てこい式森!お前の命をもらい受ける!」

 

外から聞こえる喧騒と共に年若い少女達の声にビシリと石化する和樹の表情にシンシアは悟った。この後、自分の主の家に無断で不法侵入し傍若無人な振る舞いをする輩達の対処をせざるを得ないことも含めて―――。

 

「実家に、本家に籠りますか和樹様」

 

「せっかく一人気ままな生活を得たからには手放したくないのが本心だよ」

 

嘆息する主の気持ちを汲んでやりたいところだが、喧騒は激しくなり爆発音が轟くのでは主の平穏な暮らしは終わりを迎えるようなものだ。どうしたものかと思ったところで和樹の傍で見覚えのない真紅の小型の魔方陣が発現した。

 

「え・・・・・君なのかい?・・・・・オレオレってオレオレ詐欺師みたいな人だよそれ。それでどうしたの、え?お見合いはどうだったってどうして知ってるの?・・・・・ああ、そうだったんだ」

 

誰かと話しているのは一目瞭然のところ、ピンと何かに閃いた和樹はシンシアにアイコンタクトをした。その意図を長年付き添ったメイドの一人として直ぐに察した。

 

「話がしたいなら君の家で良いかな?・・・・・うん、ありがとう。直ぐに向かうよ」

 

了承を得たので二人は直ぐに行動に移った。和樹の転移魔方陣を介して目的地へ向かう瞬間。少年の自室の扉を吹き飛ばす勢いで開け放った三人の少女達が飛び込んできたものの、一歩遅く目の前でいなくなったのだった。

 

―――†―――†―――†―――

 

「・・・・・靴下履いているとはいえ裸足でいるような状態で来るとは思わなかった。なにか遭ったのか?」

 

「遭ったというか、押し掛けられそうになったというか・・・・・」

 

曖昧に言う魔法使いの男に俺は動かしていた手を止めて怪訝な目で見つめた。行ったことのない目の前の男の家で何が起きたのか見当もつかないが大した事でもないだろう。式森家当主の息子の強さは伊達では無い。魔法だけなら俺より強いかもしれないからな。

 

「で、そっちのお見合いはどうだったんだ?」

 

「あーうん、中止になっちゃってお見合いどころじゃなくなったんだ」

 

「何が起きたら式森家のお見合いが中止になるんだおい」

 

胡乱気に訊くと当人は肩を竦め神妙な面持ちになる。

 

「それで、冥界にいるはずの君が何時の間に戻ってきたんだい?」

 

「諸事情で色々と、な。おかげでこの様だ」

 

自分の両手首に嵌められてるブレスレットを見せつけると、和樹は不思議そうな反応をする。

 

「魔術が籠ってるね。一体どんなのが?」

 

「片方は神器(セイクリッド・ギア)を封印、片方は魔力を完全に封じ込める術式が施されてる。仕舞にはこれを外したり壊せばオーフィスが召喚される。わざわざ天界の技術で作られた代物だよ」

 

「それ、完璧に君が逃げない様にされてるね」

 

今じゃこの家が牢獄のようなもんだと自嘲する俺と釣られて苦笑を浮かべる和樹。現にそのオーフィスは俺の膝の上に居座って俺に対する監視もとい寛ぎ中だ。

 

「そんな感じで今では暇を持て余してしょうがないからプラモデルを作ってるんだよ」

 

「だから至る所に箱があるんだね」

 

部屋の中を見回す和樹の視界には、三十は優にある開封済みのプラモデルの箱の山が入っているだろう。そんで暇潰しに完成したプラモデルは箱の中に敷き詰められている。特別これで観賞したり遊ぼうという気はない単なる暇つぶしをする為に作っているに過ぎない。

 

「作り過ぎなんじゃない?」

 

「そう思っているんだけどな。暇なもんは暇なんだ。これらを魔力で動かして戦わせてみたい気はあるけど」

 

「どうやって?」

 

「じゃあ、和樹も実践してみるか?」

 

魔力を封じるブレスレットを外して今まで作り続けてきたプラモデル達を実際に魔力で操り、見えない空気を色に染めてビームサーベルを構える。

 

「へぇ、操り人形と同じ要領で?」

 

「こういう事もできる魔法使いかヒトもいるだろう?」

 

「うん、僕の一族にもそういう人はいるよ。そう言う事だったら僕でもできるや」

 

和樹も魔力で箱からプラモデル達を浮かせて俺と同じことをして見せる。

 

「プラモデルの武装は空気だから魔力は微弱で頼むよ」

 

「それでも壊れるよ?」

 

「それがロボットアニメの宿命的なんだ」

 

空気とはいえ衝撃波や物理攻撃等と物体に直接当たるものだ。俺の部屋も影響が出るから結界魔法を張る。

 

「よし、それじゃ始めようか。今思えば君と遊ぶのって今回が初めてだね」

 

「同感だ」

 

一体のプラモデルを動かし、和樹が動かすプラモデルへと色が染まって空気を圧縮した武器を振るい、攻撃を仕掛ける最中に問うた。

 

「そー言えばさ、学校の方はどんな感じ?」

 

「どんな感じかと挙げれば、最初に出る言葉は・・・・・赤龍帝を含む二年の兵藤家、彼女達二人を除いて退学になっちゃったよ」

 

どこか予想通りの展開な故にそれほど驚きはしなかったが逆に嘆息を禁じ得ない。あの傍若無人の集団に『我慢』なんて躾をしても、連中の頭の中にそんな概念はないから結局そうなったか。でも、二年だけって?

 

「連鎖的に一つでも破ったら在学する兵藤家全員の筈じゃ?」

 

「うん、契約にはそう決めてたけどさ。流石に世間や風評のことを考慮しちゃうと流石に全員はって先生達と生徒会、理事長達が相談しあった結果で問題を起こした二年の兵藤家のみ退学にしたんだ」

 

鎖に繋がっていた狂犬が結局最後まで大人しくはならなかったか。溜息を吐く俺に「心情を察するよ」と苦笑いされる。

 

「でも、結果的に二学年から兵藤家は殆どいなくなったから、来年は女子達ばかりのクラスは再編成される話も出て来てるよ」

 

「後輩として進級、入学してくる兵藤家は大人しい奴らだと願うしかないがな」

 

「はは、そうだねぇ・・・・・あっ、ヴァーリチームが学校に入学してきたよ」

 

そいつは意外だとそう相槌を打った後にふと思い浮かんだ。

 

「お前、学校は?」

 

「公休扱いとして学校を休んでいるんだ」

 

「お見合いで公休って・・・・・」

 

「式森家の未来に関わる大事な行事だ。重要性の指針の針はどうしても傾いちゃう。だから他の式森の人間や兵藤家の人間と違って、君にはお見合いなんて無縁な話だろうね。慕う女の子達がいっぱいいるんだからさ」

 

「そう言うお前だって一人や二人いるだろ。例を挙げればあの銀髪のメイドとか」

 

「君もそうだろう?」

 

当然だろう。と断言する。

 

「魔王アンラ・マンユだった頃からずっと転生を繰り返し続けて寄り添ってくれていた。記憶にないしそんな覚えもないけれど世界で最高の愛しい女だと思ってるよ」

 

「本当に凄い話だよね。とてもじゃないけれど信じ難い話でもあるし」

 

「同感だ。でも、一目見た時から不思議と欠けたパズルのピースが揃ったような感じ、懐かしさとどこか安心感を覚えた・・・・・太古からの記憶がなくても魂が一生消えない傷のように残っていたんだろうな」

 

「永遠の恋ってある意味ロマンチックな話だね」

 

朗らかに微笑む和樹に首肯する。

 

「でも、何でお前のメイドとリーラのメイド服が一緒なわけだ?」

 

「そのことについて彼女、シンシアに訊いてみたら目を丸くしてたよ。その後、とあるメイドを育成する機関学校の同期だったって教えてくれたよ。リーラさん、首席で卒業したらしいし」

 

「・・・・・未だにリーラの過去は明るみにならないな。前世の俺の時は一体どんな感じで傍にいたんだか」

 

「聞いてみたら?教えてくれるかもしれないよ」

 

最後のプラモデルが同士討ちの形でバラバラに壊れた。俺達の周りだけが壊れて散乱してるパーツが円を描いて落ちてるが時のセイクリッド・ギアで壊れる前の時間に戻しては箱の中に戻して行く。

 

「話を戻すけど、和樹のお見合い相手は決まってるものなのか?」

 

「式森家の次期当主の夫婦となる女性には定められた条件を達成しなくちゃ駄目なんだよ。ぶっちゃけ、魔力・魔法がかなり長けてて知名度と実力も優れた魔女が絶対なんだ」

 

「そんな魔女、都合よくいるのか以前にお前と結婚してくれるのか怪しいところだと思う。あ、カリンとはどうなんだ?」

 

「うーん、妹みたいな感じが強いから恋愛対象じゃないね」

 

「なら、お前の理想のタイプは何なんだよ」

 

「特にないよそんなの。逆に聞くけど君は?」

 

「同じくないな。そばに居てくれるだけで幸せだから」

 

「ははっ、同感だね。平穏で平和に暮らせるならそれで十分だよ」

 

そんな感じで和樹とこうして初めて長く会話を交わし、本当に何が遭ったのか分からないが一晩家に泊らせた。その翌日、学校だからと早朝時に自分の家に戻る男とメイドを見送ってまた暇を持て余す時間を送る―――後日、大勢のメイドと共に大量の荷物を持参してくるあいつを出迎えるまでは。

 

「・・・・・和樹」

 

「・・・・・ゴメン」

 

本当にこいつに何が遭ったと言うんだ・・・・・!



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