深海棲艦をかくまっています (ウルトラマンイザーク)
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拾った

 

 

 

 

学校の帰り道。僕はジャンプを小脇に抱えて海岸を歩いていた。そんな時だ。砂浜に煙が舞い上がった。

 

「うおっ」

 

急な出来事だったんでついフリーズしてしまう。見ると、今、テレビで、なんか……言ってる深海棲艦、だっけ?それが倒れていた。肩から血が出ている。

 

「…………」

 

どうしようか迷ったものの、僕はそいつをおんぶして家に持ち帰った。で、肩に包帯巻いて、寝かせておいた。

さてどうしたもんか。1人暮らしだし、友達は2人しかいないからバレる問題はない。問題は、こいつどうするか。一応敵なんだよなぁ、こいつ。いや僕はただの学生だから敵じゃないけど、一応殲滅しなきゃいけない奴だしなぁ……。ま、いっか。普通の女の子に見えたってことで。なんて考えてると、深海棲艦が目を覚ました。

 

「ン………」

 

とりあえず買っておいたポテチを開けた。

 

「あの……食える?」

 

と、言いかけた時だ。ビュッと何かが僕の肩に食い込んだ。

 

「うおっ……‼︎」

 

「オ前、誰ダ……」

 

「僕の名前は、柊優一郎だ。お前を助けるためにここに連れて来た」

 

「タス、ケル……?」

 

動きが止まる深海棲艦。

 

「とりあえず、腹減っただろ。刺身でいいか?」

 

言うと、僕は念の為警戒しながら冷蔵庫からサーモンの刺身を取り出す。向こうも最初は警戒していたものの、そのうちガツガツ食うようになった。

 

「………リ」

 

「え?」

 

「オカワリ……」

 

「…………あぁ」

 

こうして、僕と深海棲艦の生活は始まった………、

 

 

__________________________

 

 

 

…………のが、丁度一ヶ月前。今では、

 

「優一郎、ご飯まだー?」

 

「もう少し待て」

 

完全にニート化していた。しかも、馬鹿みたいに大食いでうちの家計をかなり圧迫している。

 

「これは、バイトしないと厳しいなぁ……」

 

「ごーはーんー!」

 

「お前少しは手伝えよ!」

 

「めんどくさーい」

 

「ムカつくな本当に……!」

 

だが、見捨てるわけにもいかないしなぁ……。なんて考えながら料理を机の上に並べた。

 

「ほら、食え」

 

「はーい!いただきまーす!」

 

と、まぁこんな感じで金銭面以外はいつも通り。いや、一つだけいつも通りではない。一ヶ月前、こいつに食らった攻撃が肩に食い込んでから、僕の身体は少し異変が起きた。それは、再生能力だ。早い話が、不死身に近い体になってしまった。

おそらく、深海棲艦の体質が多少ながら僕の身体に乗り移ってしまったんだろう。まぁ、それだけの話で僕に困る事なんて今の所は金銭面以外ない。

 

「はぁ………」

 

「なーにため息なんてついちゃってんのー?幸せが逃げちゃうよー?」

 

「うるせーよ。ていうか、お前は海に戻らなくていいのかよ」

 

「うーん……別に問題はないかなぁ。私はほら、どっちかっていうと轟沈した艦娘が深海棲艦になっちゃったタイプの子だから。いや以前の記憶とかないけどね?……で、だからまったく深海棲艦に知り合いいないし」

 

「…………そっか。じゃ、僕は少し出掛けて来る」

 

「分かったー」

 

そんなわけで、僕は外に出た。バイト雑誌を取りに行った。だが、その時だ。コンビニの張り紙を見つけた。そこには、時給2000円と書かれていた。速攻で電話した。

 

 

___________________________

 

 

 

次の日。学校が終わり、僕は家に戻ってきた。

 

「あっ優一郎お帰りー」

 

「おう。あ、シー」

 

シーとは深海棲艦の名前な。

 

「なにー?」

 

「僕は今日からバイトだから。少し帰るの遅くなるけどいいか?」

 

「はーい。晩御飯までには帰ってきてねー」

 

「お前は僕の母ちゃんかよ。じゃ、行ってくる」

 

「いってらっしゃーい。あ、ジャンプ読んでてもいい?」

 

「好きにしろよ」

 

で、僕はそのバイト先へ。なんでも、鎮守府という所の雑用をやるらしい。さて、食費のために頑張らないとな。

 

 

 

 

 

 



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案内

 

 

 

 

 

僕は鎮守府に向かった。門の前で、綺麗な女性が待っていた。が、背中にデッカい大砲みたいなのを付けていて少し怖い。

 

「あなたが、柊優一郎さんですね?」

 

「は、はい」

 

「私はこの鎮守府の秘書艦を勤めさせていただいてる大和です。さっそく案内致しますね」

 

ニコッと笑って案内してくれた。ちなみに面接はなし。なんか提督が「めんどくさいから合格でいいや」とか言ってたらしい。

なんて考えながらその鎮守府の中を移動中。すると、執務室と書かれたプレートを見付けた。

 

「ここが……」

 

「提督。失礼します」

 

大和さんが中に入ると、その提督という人はゲームをしていた。が、すぐに机の中に隠す。

 

「……提督?」

 

「や、大和……来ちゃったか……」

 

「私、言いましたよね?今日はアルバイトの方がいらっしゃるからキチンと仕事やれって」

 

「や、だからやってた……」

 

「素直に謝ればゲームの破壊だけはやめましょう」

 

「すみませんでした!」

 

……………大丈夫かここ。

 

「では、柊さん。彼女がここの提督です」

 

「よろしく」

 

「こちらこそ……」

 

「で、さっそくだけどひいら……あ、呼び捨てでいい?」

 

「どうぞ」

 

「お願いしたいのはこの鎮守府の掃除や配膳……まぁぶっちゃければ雑用ね」

 

「はぁ」

 

「ちゃんと仕事してくれれば、艦娘と遊んでも私とゲームしてても寛いでても私とゲームしてても構わないけど」

 

「どんだけゲームしたいんだあんた!」

 

「お、今のツッコミ、いいね。気に入ったわ。もう仕事しなくてもいいや」

 

「よくねーよ!それじゃあんた、ただの金くれるオバさんじゃねーか!」

 

「冗談だよ。で、ここだけ真面目なんだけど、私たちは一応、深海棲艦と戦ってる鎮守府だから、戦闘に影響するようなことはやめてね」

 

「………あの、何と戦ってるって?」

 

「え?や、だから深海棲艦」

 

は、はははっ……僕、完全に板挟み状態じゃないですか……。

 

「? どうかした?」

 

「な、なんでもないです」

 

「ならいい。じゃ、よろしくね〜。大和ー、その子案内してあげて?」

 

「駄目です。そんなこと言って提督はすぐにサボりますからね」

 

「バレてる……」

 

なんて言いながら大和さんは携帯を取り出した。

 

「もしもし武蔵?悪いけど執務室まで来てくれる?」

 

すると、今度はいかつい黒い人が入ってきた。

 

「失礼する。………むっ、なんだこの男は。不法侵入者か?」

 

「違うわよ。その子は今日からバイトです。名前は……」

 

「柊優一郎です。よろしくお願いします」

 

「バイト……?提督はいつの間にそんなもの雇ったんだ?」

 

「今日からよ。またすぐ気分で行動するんだから……」

 

大和さんは呆れる。

 

「それで武蔵、この子を案内してくれる?」

 

「そういうことなら任されよう。行くぞ優一郎」

 

そんなわけで、案内だ。

 

 

 

 

 

 



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紹介

 

 

 

 

 

「まずは、ここだな」

 

武蔵さんが連れてきてくれたのは食堂だった。

 

「へぇ…食堂、ですか……」

 

「あぁ」

 

そのまま武蔵さんは堂々とした足取りでカウンターへ向かい、僕はその後に続いた。

 

「あら、武蔵さんと……その方は?」

 

「今日からバイト、というか雑用することになった柊優一郎です。よろしくお願いします」

 

「あら、それはよろしくね。私は間宮よ」

 

「はい」

 

「伊良湖ちゃん。新人さんよ」

 

なんだ、もう一人いるのか。

 

「およ?見たことない方ですが……」

 

「彼は柊優一郎くん。バイトだそうよ」

 

「へぇ!私は伊良湖です。よろしくお願いします柊さん」

 

「おう」

 

その時だった。

 

「間宮さーん。今日の日替わりランチなんですかー?」

 

「赤城さん。子供ではないのですから余り大声出さないでください」

 

後ろから明るい声と冷静な声が聞こえた。

 

「あら?その人は?」

 

「武蔵さん。ぶっちゃけ自己紹介めんどくさいです」

 

「そうだな…貴様の自己紹介は後で纏めてやるとしよう。この二人だが、赤いほうが赤城、青い方が加賀だ」

 

「は、はぁ……」

 

「えーっと、この方は?」

 

「柊優一郎だ。バイトとかいって提督が雇った。後のことは私も知らん」

 

「そうですか。よろしくお願いしますね」

 

「よろしくお願いします」

 

……なんか正反対って感じだなぁ……。

 

「じゃあ優一郎、次へ行くぞ」

 

「あっ、はい!」

 

次はなんかカーンカーンと音が聞こえる場所。

 

「なんだ?」

 

「工廠だ。ここで艦娘や装備が作られるんだが…お前には関係ないな。次行こう」

 

その後も演習場、入渠ドッグ、トイレと色んなところに連れて行かれた。結構広いなここ……。

 

「ふう、まあこんなものだ。何か質問は?」

 

「いえ、特にない、ですけど……」

 

「ならいい。この後だが、みんなにお前を紹介したいから、飯を食って行かないか?」

 

「あー…じゃあ、お願いします」

 

まだ6:30だし、平気だよね?後でシーにボコられないよね?まぁそんなこんなで夕食の時間。なぜか俺は提督の隣だ。

 

「あの、提督」

 

「どうかしたの?」

 

「あの、雑用が提督の隣でいいんでしょうか……?」

 

「いいのいいの。気にしないで」

 

「は、はぁ……」

 

すると、その提督は立ち上がった。

 

「はい、みんなこっち向いてー」

 

さすが提督と言うべきか、その一言で艦娘たちはとりあえず前を向いて提督に注目する。

 

「今日からこの鎮守府でどれ……お手伝いをしてくれる方を紹介しまーす」

 

おい、今奴隷って言いかけたろ。

 

「あー、柊優一郎です。紹介にあった通り、奴隷をやらせていただきます。よろしくお願いします」

 

皮肉混じりにそう言った。ハンバーグ作れるくらいごちゃ混ぜにしてやった。すると、艦娘の子達から拍手が上がる。ま、やっていけるのかな?

 

 

 

 

 

 



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窓拭き

今更ですが、オリ主の部屋にいる深海棲艦はヲ級です。


 

 

あの後、駆逐艦の子達に質問攻めに合い、かなり疲れて帰ってきた。で、今は玄関。

 

「ただいまー…」

 

「おかえりー!遅かったね!」

 

「このくらいになるって言っといただろ。ちゃんと大人しくしてたか?」

 

「うん!ねぇ、お腹すいた!」

 

「はいはい……簡単なものでいいか?」

 

「なんでもいいから早く!」

 

この野郎……小学生以下が……!言われるがまま、僕は料理を作る。とりあえずペペロンチーノを作った。

 

「簡単なものでイタリア料理作っちゃうんだ……」

 

軽く引いてるよこの子。

 

「いやなら食わなくていいぞ」

 

「そ、そんなこと一言も言ってない!いただきまーす!」

 

ゾボボっと幸せそうにペペロンチーノを啜るシーを眺めながら僕は思った。確か、轟沈したとか言ってたよな……つまり、一回死んでるんだ。こいつだけは、僕が守らないと。例え記憶になくても、そんな思いは二度としたくないだろうし。

じーっと見過ぎていたせいか、こっちを怪訝な顔で見るシー。

 

「? なに?」

 

「なんでもねーよ」

 

明日からはキチンと雑用やらないと。料理スキルは問題ないし、掃除スキルもケロロ軍曹の3か4巻にあったから大丈夫。あとはヤル気だけか。うし、頑張ろう。

 

 

_______________________________

 

 

 

次の日、学校が終わってさっそく鎮守府へ。とりあえず、提督に挨拶だけして、掃除を始めた。まずは窓拭き。と、言っても今日だけで全部やるのは無理なので食堂に絞ることにした。

窓は新聞で拭くのがいいらしい。インクがワックスの効果を発揮するらしい。

 

「よっ…と……」

 

脚立を用意して窓を拭く。

 

「あ、柊さん」

 

声がして振り返ると、なんか見たことのない巫女服みたいなのを着た女性が立っていた。

 

「え、えと……」

 

「榛名です」

 

「は、はぁ。よろしく俺は……」

 

「昨日聞いたので大丈夫ですよ。さっそくお掃除ですか?」

 

「はい。仕事……っつーかバイトなんで」

 

なんか榛名さん、だっけ?榛名さんがやけに目を輝かせてるな。

 

「………どうかしました?えーっと、榛名、さん?」

 

「いえ、手際よくお掃除されてるようでしたので……」

 

「いやまだ窓しか拭いてないんですが……」

 

「でも拭いた所がピカピカになってるじゃないですか。実は、お恥ずかしながら私達、金剛型のお部屋はあまり綺麗じゃなくて……」

 

「? そうなんですか?みんなしっかりしてるように見えますけど……」

 

「はい……金剛姉様のティーセットと比叡姉様のなんか良く分からないものと霧島のダンベルで……榛名もお片付けしようとは思うのですが……」

 

「なるほど……」

 

「もしよろしければ、お片付けを手伝って欲しいのですが……」

 

「えっ?」

 

「え?」

 

今なんつったこの子。

 

「えっと……それは僕に榛名さんの部屋に来いって言ってます?」

 

「ダメ、でしょうか……」

 

「ダメって事ないけど……」

 

女性の部屋に入るんだしなぁ……それは。提督にも何言われるか……いやあの人には何も言われないか。

 

「まぁ、そういうことでしたらいいですよ」

 

すると、まるで周りにひまわりが咲くかの如く笑顔になる榛名さん。

 

「ありがとうございます!」

 

「い、いえ……」

 

「ではさっそく……」

 

「へ?今?」

 

「駄目、でしょうか?」

 

「今は食堂の掃除してるから……後か明日にしてもらえると助かります」

 

「では、榛名もお手伝いしますね!」

 

「へ?は、はぁ……」

 

言いながら榛名さんはその辺の椅子を踏み台にする。

 

「それはそうと……なんで新聞ですか?」

 

「洗剤に雑巾なんて使ったら窓に傷が付くそうなんですよ。その点、新聞紙ならインクがワックスの効果を発揮するので傷付かない上にピカピカに出来るんですよ」

 

「物知りなんですねぇ〜」

 

「は、はははっ……そんなことないですよ」

 

言えない、漫画で得た知識なんて言えない。

 

 

 

 

 



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ティータイム

 

 

 

 

 

窓拭きも終わり、金剛型のお部屋に突入。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

中は榛名さんの言ったとおり、汚ない…というより散らかっている。

 

「すみません…足の踏み場もなくて……」

 

「大丈夫です。では、さっさとやっちゃいましょうか」

 

「はいっ!」

 

で、早速片付け。ダンベルとかは落とすと大変そうなので、ゆっくり慎重に運ぶ……とか考えながらダンベルを握った。運ぶ……は、運ぶ……は、はこ……っ!

 

「? どうかされました柊さん?」

 

「や、なんでもない……」

 

お、重てぇ……こんなの女の子に持ち上がるのか……微動だにしなかったぞ……。でも、片付けないといけないし、何より男が女に負けるのはちょっとあれだ。

 

「ふんぐごごごごっ‼︎」

 

うおっおおおっ……おおおおおッッ‼︎‼︎‼︎部活に入らなかった高校生を舐めるなよぉぉぉッッ‼︎‼︎と、無理に持ち上げようとした時だ。腰がグギッと音を立てた。

 

「ッッ‼︎‼︎」

 

い、痛い……この歳で、ギックリ腰……無様に僕は倒れ、猫が伸びをするような姿勢から動けなくなってしまった。

 

「あら?どうかしたんですか柊さん?」

 

榛名さんが心配そうに声を掛けてくれる。

 

「や、あの……」

 

ふいっと俺の手元を見る榛名さん。ダンベルが握られていた。

 

「あー霧島のを持ち上げようとしたのですね……うちの提督も無理して持ち上げようとして一ヶ月、ギックリ腰になってましたから……。明石さんの所に行きましょう」

 

「明石さん?」

 

「はい。榛名達、艦娘のメンテナンスをしてくれる方です」

 

「あの、僕艦娘じゃないんですけど……」

 

「提督の腰も明石さんのマッサージで治ったんですよ?」

 

「や、でも僕は大丈夫ですから。このくらいならすぐ治りますから」

 

「へ?いやでもギックリ腰ってキチンとお医者さんに見せないと……」

 

そのお医者さんが僕には必要ない。すると、腰のあたりでコキッと何かがハマる音がした。もう治ったのか。僕は立ち上がって、軽く腰を回す。

 

「………うん。治りました」

 

「………は、はぁ……ならいいんですが……」

 

「では、続けましょう」

 

で、数時間後、ようやく片付いた。途中、平気な顔で榛名さんがダンベルを棚にしまっていて軽く引きました。

 

「ふぅ……こんなもんかな……」

 

「ありがとうございます。柊さん。綺麗になりました」

 

「僕はどちらかというと綺麗好きですからね。綺麗じゃないと落ち着かないというか……」

 

「でも、助かりました」

 

「ただいまネ〜!」

 

元気な声がして、振り返ると榛名さんと全く同じ服を着た女性が三人帰ってきた。

 

「って、柊さん?」

 

「どうも……」

 

「どうしてあなたがここにいるんですか……?まさか、うちの榛名に……」

 

ま、マズイ!誰だか分からんけどショートカットの子の目が攻撃の色に………!

 

「ち、違いますよ比叡姉様。お部屋のお片付けを手伝ってもらっただけですから」

 

「そ、それならいいけど……いやよくないよ!ま、まさか下着とか……」

 

「あー…ピンク色のリボン付き……」

 

その瞬間、僕の顔に拳がめり込んだ。

 

「こ、こ、この変態!」

 

「まぁ落ち着いてください比叡姉様。榛名もそういうことなら相談してくれれば良かったのに……」

 

「すいません。でもほら、綺麗になりましたよ」

 

榛名さんが言った。すると、三人はおぉーっと声を上げる。

 

「確かに綺麗になってるネ。ありがとうネ優一郎!」

 

「仕事ですから」

 

僕はスクッと立ち上がり、首をコキコキと鳴らしながら立った。

 

「そうだ。もし良ければ紅茶飲んで行きなヨ」

 

「へ?い、いやでも……」

 

「いいよネみんな?」

 

すると、三人とも頷く。で、五人で放課後ティータイム。

 

「じゃあまずは自己紹介ネ。金剛デース」

 

と、元気いっぱいの金剛さん。

 

「……比叡です」

 

なぜか警戒してる比叡さん。

 

「さっきしましたけど……榛名です」

 

にっこり笑顔の榛名さん。

 

「霧島です」

 

冷静そうなメガネの霧島さん。よし、覚えた。こうして、なんとか金剛型とは仲良くなれた。比叡さんには嫌われてるっぽいけど。

 

 

 

 

 

 

 



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相談

 

 

 

 

 

バイトを始めて一週間、ようやく艦娘の子たちとも馴染めてきた。で、朝。寝ていると僕の上に降ってくる影。

 

「起きてー!」

 

「げっふぉあっ!」

 

吐血したように悲鳴を上げてしまった。薄眼を開けると、シーが乗っかってきていた。それはそうと、俺のおへそのあたりに布団越しに柔らかい感覚が来てとても幸せです。

 

「何してんだお前」

 

「え?遅刻だよ?早くしないと」

 

「へっ?」

 

時間。8:25。こあぁぁぁっっ。

 

「さんきゅ!帰りにケーキ買ってきてやるからな!」

 

「はーい、楽しみにしてるねー」

 

僕はそっこうでパン焼いて家を出た。

 

 

____________________________

 

 

 

学校に行く途中、海岸を通らなければならない。その前の信号。時計を見ると8:35。あーこりゃ遅刻決定だな。面倒なので歩く事にした。すると、

 

「あれ?お手伝いさん?」

 

声が掛かった。振り返ると瑞鶴が立っていた。ヤケに元気なさそうな顔。どうするか迷ったものの、声をかけることにした。

 

「あ、瑞鶴」

 

「やっほー。学校は?」

 

「遅刻した。どーせ遅刻すんなら何時に学校行ったって同じだろ」

 

「うわあ…初めて話した時のしおらしさが消えてクズ全開ね」

 

「っせーよセブンフェイスバード」

 

「はぁ?何言って……七面鳥じゃない!冗談じゃないわ!」

 

で、僕はパンをさらにかじる。

 

「………ちょっと焦げてる」

 

「いや知らないわよ。ていうか遅刻しそうなんだけど。いいの?」

 

「だからいいって言ってんだろ。あ、これからジャンプ買いに行くんだけど、一緒に来る?ファミチキ奢るよ」

 

「ふざけてんの!?そんなことよりがっこ……うん。行く」

 

ファミチキに釣られるとか小学生かお前。まぁそんなわけでファミマ。

 

「おら、ファミチキ」

 

「ありがと」

 

「で、何かあったの?」

 

「えっ……?」

 

驚いた顔をする。

 

「だってお前、テンション低かったじゃん。まぁ僕なんかに言えとは言わないけど、悩みあるなら誰かに相談しとけよ」

 

それだけ言いながら僕はジャンプを捲る。

 

「うわっ…今週ワールドトリガーやってねぇ……」

 

眠い……。

 

「じゃあ、さ……相談、聞いてくれる?」

 

「何、まだドフラミンゴと戦わないの?」

 

「あの、聞いてる?」

 

「あ?あー聞いてる聞いてる。お、ようやくトリコ小松救ったか。でもトリコの腕はいつ救われんの?」

 

「ねぇ…相談しろって言ったのあんたよね」

 

「え?なに?僕に相談してくれんの?まぁいいけど……」

 

僕はジャンプ読みながら話を聞く。

 

「翔鶴姉と喧嘩した……」

 

「ふーん。あの白髪の姉ちゃんか?」

 

「うん……」

 

「へぇー。なんで?おっ、山崎いーじゃん。こういうところがかっこいいよな」

 

「その……私と出撃すると翔鶴姉被弾することが多くてね。それで色々あって……」

 

「ふーん……あ、相談してくれんのは嬉しいけど学校終わってからでいいか?」

 

「たった今相談したじゃない!もういい!」

 

「あー……」

 

そのまま瑞鶴は行ってしまった。後で謝らんとな……。

 

 

 

 

 

 



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喧嘩

 

 

 

 

学校が終わり、僕は鎮守府に向かった。その途中、

 

「おーい、ゆーいちろー!」

 

僕の名前を呼ぶ声がして、振り返るとシーがこっちに来ていた。って、シー?

 

「おーい、優一ろ……」

 

その瞬間、僕は全速力で走ってシーを小脇に抱えてその辺の服屋へ飛び込んだ。

 

「ち、ちょっと優一郎!こんな街中で恥ずかし……」

 

「その前に自分の人種を考えろぉぉぉぉッッッ‼︎‼︎‼︎」

 

そのままテキトーに服を引っ掴んで試着室へ雪崩れ込む。

 

「ふぅ……」

 

「ち、ちょっとなんなのー?」

 

「おい、お前外に出るなって言ったよな……自分の人種理解してんのかお前……」

 

「だってケーキ買ってくれるって言ってたじゃーん」

 

「だからって外に出るかお前普通!?周りの人みんなガン見してたぞ!」

 

「ほえ?そーなの?」

 

「当たり前だろ!」

 

すると、外から声がする。

 

「すいませーん。今二人で入りませんでした?」

 

ヤバい、お店の人だ!

 

「おい、この服着てろ。僕は外に出るから。それと頭のそのデッカいの外せ。いいな?」

 

「へ?」

 

「いいから!」

 

で、僕は外に出た。

 

「あの…中で何を……?」

 

「いやなんか洋服の着方が分からないっていうから教えてあげてたんですけど」

 

「次からは当店のスタッフがやりますね。気が付かなくてすみません」

 

うおおぉ……遠回しに「店内での変態行為は止めろ」と言われてる気がする……。すると、

 

「ゆーいちろー。着れたよー」

 

その声がして僕と店員さんは試着室に目を向ける。すると、シャッと開いた。

 

「お、着れた、か……」

 

「? どうかした?」

 

びびった。スゲェ可愛い。ていうか俺のテキトーに引っつかんだチョイスがここまで完璧にコーディネートされるとは……。コーディネートっつーか白いワンピースだけど。

 

「シー。ちょっとこい」

 

「? なにー?」

 

「お前これから外に出たいか?」

 

「? ま、まぁでたいけど……」

 

「その服買ってやるから、これからは外に出たけりゃそれ着ろ」

 

「? はーい」

 

で、購入して外に二人で歩く。

 

「優一郎」

 

「何?」

 

「ありがとうね」

 

「どーも」

 

「じゃ、ケーキ食べに行こ?」

 

「はいはい……と、言いたいけどバイトだ。帰り道にケーキ買ってきてやるから」

 

「えぇー!今行きたいー!」

 

「無理。時間ない。お前は早く帰ってろ」

 

「……………」

 

「なに」

 

「バイトしてから優一郎、全然構ってくれない」

 

「あ?」

 

「構ってくれない」

 

「あー……」

 

そういえば、バイト始める前はそうだったっけ……。

 

「仕方ねぇだろ。そもそも、誰のせいでバイトしてると思ってんだ。お前の食費だろ」

 

「………………」

 

「お前拾った時だってまさかこんな大食らいだと思わなかったんだよ。今月の24には金入るから、それまで待って……」

 

「バカッ‼︎」

 

急に怒鳴られた。と、思ったら涙目になって何処かに行ってしまった。

 

「え……なんでっ」

 

そのまましばらく沈黙。だが、バイトの時間なのでとりあえず僕は鎮守府に向かった。

 

 

 

 

 

 



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言い過ぎ


やり直しました。なんかアレはもう黒歴史って事で抹消しました。俺の心の中でも。




 

 

 

 

 

「柊さーん!って、どうしたの⁉︎」

 

鎮守府に到着早々、瑞鶴に心配されてしまった。

 

「や、なんでもない……アレだから……ちょっと喧嘩しちゃっただけだから……」

 

「これから喧嘩の相談乗ってくれるのに喧嘩したの⁉︎」

 

「大丈夫だから…仕事とプライベートは分けるタイプだから……」

 

「いや、精神的に袋叩きにされててとても相談し難いんだけど……まぁいいや。私には関係ないし」

 

うーわ……ひでぇなこいつ……。中1の時の僕か。

 

「翔鶴姉と仲直りしたいんだけど……」

 

「あーうん。まずなんで喧嘩したんだよ」

 

「それは……」

 

要約、二人で出撃すると、なぜか瑞鶴はMVPで翔鶴さんだけ大破、明らかに翔鶴さんが何かしらの何かしらを感じるってことで、提督さんに別々に出撃させて欲しいと頼んだそうだ。それに瑞鶴が怒ってついキツイことを言ってしまい、こうなったという。

 

「………どっちもどっちだなおい」

 

「うっ……」

 

だけど、火種を作ったのは翔鶴さんだ。この人をなんとかしないといけない。

 

「僕が一度翔鶴さんと話してみるよ。それによって明日からまた考えよう」

 

「……………」

 

しゅんっとする瑞鶴。僕はその瑞鶴の頭を撫でた。

 

「大丈夫、僕に任せて」

 

「うん………。ていうか子供扱いしないでよ!」

 

「はいはい……ま、上手く解決出来る保証も自身もないけどな。大船どころかイカダに乗った気でいなよ」

 

「なんか相談する相手を間違えた気すらしてきたわ……」

 

酷いことを言われたが、僕は無視して翔鶴さんの部屋へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翔鶴さんの部屋には誰もいなかった。だから僕は弓道場に向かった。もしかしたらそこにならいるかもしれない。名目はもちろん、ここの掃除。基本的にどこを掃除しようが僕の自由となっているし、まだ弓道場の掃除はしたことなかったから不自然ではないはずだ。

 

「失礼しま……」

 

なんか空気が黒い……。いや腹黒いとかじゃなくてブラックホールっぽい……。その中心にいるのがブラックホールと正反対の頭をした翔鶴さんだった。周りには飛龍さんや蒼龍さんが慰めている。

 

「うえぇぇ……ず、ずいがぐごめんなざいぃ……」

 

「な、泣き止みなって……」

 

「そうだよ。あのシスコンはそっとやちょっとのことじゃあんたの事嫌いにならないわよ」

 

近くで休憩中の瑞鳳もいずらそうにしてるし、加賀さんは黙々と練習してるように見せかけて、心配そうにチラッチラと翔鶴さんを見ていた。証拠に矢は的に一発も当たってない。すごいのは赤城さんで、ブラックホールなどまるで気にせずに、自分のブラックホールマウスにおにぎりを吸い込んでいた。

………………なんかこの様子なら、すぐに仲直り出来そうだな。そう思い、僕が弓道場に足を踏み入れた時だ。

 

「すみませーん。遅れました〜」

 

瑞鶴が反対側の入り口から入ってきた。その瞬間、空気が一気に固まった。そして、さっきまで滝のように流していた涙を、まるでダムのようにせき止めると、翔鶴さんはニッコリ笑顔で瑞鶴に振り向いた。怖いです。

 

「げっ、翔鶴姉……なんでここに……」

 

「あら、瑞鶴さん。コンニチハ。若い癖に白髪で妹より戦果低くて扶桑さん姉妹より不幸に見えて胸も軽巡と大差ない翔鶴です」

 

「うっ……!だから言い過ぎたってば!」

 

あれ?言い過ぎたっつーレベル超えてね?レベルマックスにして限界突破もマックスにした上のレベマじゃん。

 

「あなたと私はもう別の艦隊だと言ったはずですが?」

 

「べ、別に翔鶴姉に会いに来たわけじゃないし!」

 

「あらそう。なら今この場において私に話し掛けないで下さいね」

 

「うっ…そこまで言うことないじゃない!バカ姉!」

 

そのまま瑞鶴は出て行った。あれ?これなんか、どっちが悪いか分かんなくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 



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