魔法科高校と"調整者" (ヤーンスポナー)
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第一章
プロローグ~事の始まり~


初めてなので長文作成能力がありません。悪しからずお願いします。


【Monday,March 7 2095

  Person:Operator4 】

 

「...ここが"バグ"の発生位置か」

 

 一人の男が"ある高校"を見詰める。

 国立魔法大学付属第一高校。

 現在は入学審査が行われているであろうその建物の近くで、"黒スーツの男"は一人で状況を整理していた。

 

「これ以上のエリア検索は不可能、対象特定の為の精密検査をするためには最低でも対象を視界にいれ、かつ半径50m以内に入らなければならない・・・。潜入して特定するにはこの高校は"大きすぎる"」

 

 タバコに火をつけ、しばし思案する。

 

(・・・やはり調べ上げる為にもまずは学校関連の身分が必要だな。出来れば教師枠が一番いいが、"我々"の影響力ではどう足掻いても無理か。となると、)

 

 彼は手を視界の中心へ持って行き、横にスライドさせる。

 携帯のロック画面を解除するように行ったその動きは、しかし"常人"に対しては何の変化も見えないように見える。

 だが、"彼ら"に関して言えば、ソレは別であるし、また必要な行動でもあった。

 なぜなら、"彼ら"には"管理権"があるのだから。

 

『/command call "moderator" "all"』

 

 数秒と待たずに"彼ら"との間にパスがつながる。

 

〔moderator1:どうしました?"管理者"殿。〕

〔moderator2:何か御用でしょうか?現在"調整者"の中で自由行動可能なものは1,9,10の3名となってます〕

〔operator4:今回の"バグ"のエリア検索が終了、恐らく関係者は国立魔法大学付属第一高校に関連する人物だ。人数が多すぎる為、潜入の為の身分を作る必要がある。手を回せるか?〕

〔moderator9:時期が遅すぎます。"バグ"であるなら早期の発見、処理が必要ですが流石に教職員レベルの権限は無理です。10,そちらの方は?〕

〔moderator10:同じです・・・が、潜り込むだけなら方法がないわけではありません。〕

〔operator4:というと?〕

〔moderator10:"生徒"としてならぎりぎり身分は用意できるでしょう。もちろん、行動可能な範囲はかなり狭いでしょうが〕

〔moderator3:確かに。我々は"管理権"を持つ代わりに魔法師としての能力にまわせるスペックは平均以下だ。確かあそこの制度だと・・・〕

〔moderator10:えぇ、二科生になると思われます〕

〔moderator1:時間を掛けすぎると無意味です。自分は"広域消滅処理"を提案します。〕

〔operator4:影響が大きすぎる。まだ有害かどうかも分からない状況ではまだソレを行うだけの価値がない。10,"入学そのもの"は可能なんだな?〕

〔moderator10:能力それそのものは"二科生"を中心としてみれば平均レベルです。問題ないかと。〕

 

 "管理者"と呼ばれているその男は、再度思考を巡らす。どちらが、より最善かを。

 そして、出た結論は一つ

 

〔operator4:ふむ、ならば多少の不便は目を瞑るべきだろう。10,こちらの身分関係の書類を作成した後、入学工作を完了させろ。他の"調整者"は可能なレベルで足並みを揃えろ。〕

 

 10までの全ての"調整者"の了承の返事の後、パスが切れる。

 

「さて、"河原借哉"の名前を使うのは数十年振りか・・・"意外と短いな"」

 

 常人が聞けば疑う言葉。まず彼は"名前を使うのが数十年ぶり"と言った。その上、それを"意外と短い"と言った。

 普通ならばそのような状況に陥ることさえ有り得ないということもあるが、まず彼の見た目はどう見ても"二十歳のそれ"にしか見えない。

 

 そう、"普通ならば"。

 

 

 彼は、否、彼らは"普通でない"。

 彼らはずっと見てきたのだ。

 この世界の成り立ちを。この世界の歴史を。

 全ては"創造主の作り上げた世界を維持するため"。その為だけに、彼らはこの世界に存在している。

 他の、"一定の寿命しか持たない仮面"達とは違って。

 

「全く、"創造主"様はこれだけ完璧な世界を作り出して、バグは残すのだから始末が悪い。その後処理のために我々が生み出されたのだろうが・・・」

 

 男はただ火をつけただけでさほど吸いもしなかったタバコをしばし見詰めた後、携帯灰皿にしまい、その場を後にした。

 

 

 

 もし、この世界がただの"まやかし"だと知ったら、人々はどうなるのだろう。

 混乱するのか?疑問を覚えるのか?自由を求めて戦うのか?

 

 否。たとえまやかしだと知っても、人々は何時もどおりに生き続ける。

 たとえまやかしだとしても、彼らにとってはそれこそが自らが生きる世界なのだから。

 今日もまた人々は生き続ける。

 ほとんど自覚することもなく、"創造主"に心を、自我を見られながら。

 

 

 




思いっきり自己満足で書いているだけの代物です。
世界観としてはパソコンを例にすると分かりやすいです。世界に住む一般人はPCでいう一般ユーザーで、彼ら管理者や調整者はadministrator権限を持つユーザー。創造主は実際にPCを使っている人間ってところです。

主人公をはじめとする管理者(今のところは河原以外を出す予定はないけど)や調整者(名前未定)は"世界を操作する権利"管理権を持っています。どこぞの作品で言うと、魔法科の魔法を"魔術"とするなら、彼らが持つのは"魔法"に近いのでしょうか?

ですが、彼らに与えられた能力は最高峰ですがその管理権が大半を使用しているので魔法領域や想子量など、優秀な魔法師としての能力はありません。彼ら自身が今までの歴史上でありとあらゆる才能を身につけていった分、逆に魔法師としての才能を身につけるほどキャパがないです。

彼らの武器は"管理者権限"のみ。強いようで目立つから使いどころに困る、そんな能力(の予定)を武器に魔法科の世界を駆け巡る!

そんなSSに出来れば、いいなぁ


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第一話~世界の成り立ち~

世界観の詳しい説明回、みたいな?


【**** ***** ** ******

 Person:operator4   】

 

 

 この世界は、"創造主"が"創造主"の為に作られた。

 "創造主"は概念体で、膨大な力や能力、そして知識を持っていた。

 だが、そんな"創造主"には欠点が一つあった。

 

 "自我"がないのだ。

 

 本来活動できる者には程度の差は有れど確実にあってしかるはずの"自我"がないのだ。

 "自我"を"無理矢理"作り出すことは出来るものの、それは"創造主"にとって大量の力を消費する行為だった。

 

 そんな"創造主"が力を維持しつつ、最低限の自我を保つ方法。

 今考えても"創造主"の卓越した思想と能力には疑問しかない。

 

 "創造主"は"世界"を作り出し、その中に"自分と比べて限りなく能力が低い代わりに、自動で自我を持つことが可能な生物"を生み出し、その自我を"借りる"ことで自らの自我を補完したのだ。

 

 ・・・といっても、"人間"のような、高等な自我を持つ生物が生まれていったのは偶然の産物に過ぎないのだが。

 

 世界が作られた時に、"創造主"は世界を自分で調整しなくても維持できるように、最初に4人の"管理者"を作り出した。

 

 その時はoperator1とかoperator4みたいな、型番にしか見えない名前が本当の名前だった。もちろん、今でも変わりはない。

 

 人間が生まれ、人間社会が生まれ、それが大きくなってきた時、わざわざ"創造主"が自ら自我を作り出して世界の管理方式を変えてきた。

 その時の言葉はよく覚えている。まるで見通してたかのように、彼は言った。

 

『いずれ、人間はこの世界を支配するだけの力を持つ。だから、"最も影響力を持ちそうな文明に一人ずつ付き、それを維持・発展させてやれ』

 

 あの言葉の正しさを知ることになったのはそれから数百年後だったか、それとも数千年か。

 4人のオペレーターは結果的に1がアフリカ大陸の文明を、2がヨーロッパ大陸の文明を、3がアジア大陸の中央~西部の文明を、そして、4である俺がアジア大陸東部の文明を管理していった。

 そのうち文化が増え、手が足りなくなってくると"創造主"から新たに管理者が追加され、さらに高度化していく人間社会を完全にコントロールするために"調整者"を作り出し、それぞれに10人以上の数を付かせた。

 

 そのおかげで、数々の苦難を乗り越えて人間の歴史が、文明が"終わりを迎えないように"コントロールしてきた。

 なにせ高度に発展した人間の自我は"創造主"にとって最も有益な自我だ。それが潰えることは"創造主"が衰退することを意味するのだから。

 

 今思えば、そういった人間への"過保護さ"がアレを引き起こしたのだろう。

 

 

 元から超能力を持つ人間というのは確認していた。

 元々"管理者"の本来の仕事は"世界の維持"、つまり世界にとって致命的になりうる"バグ"を処理すること。そのために極めて高い能力を持ちえた"管理者"が気づかないはずがない。

 ではなぜ放置したか。単純だ。"創造主"にとっては彼らは優秀な自我だったからだ。

 強力な力を持ちながら、ソレを日陰に隠し生きていく。それは"創造主"にとっては新鮮な行動パターンであったらしく、実際に"創造主"が借りた自我はそういったものが多かった。

 "管理者"としても"バグ"の原因は突き止めなければならないものの、致命的なまでに有害ではないし、むしろ"創造主"にとっては有益であると認識し、監視だけに留めていた。

 

 皮肉なことで、超能力者なる"バグ"の原因を見つけた時には、超能力者は日なたに出てきてしまっていた。

 阻止できなかったのか。そう言われても無理だろう。なにせ人間がまだ生まれてさえいない段階から世界を見てきて、ゆっくりとすすむ世界でありとあらゆる経験を培ってきた。その経験が、早く進みすぎた世界への対応を遅らせてしまったことに誰が文句を言えようか。

 

 

 超能力者が使う、"魔法"の正体は、自分達"管理者"が使っている"管理者権限"の亜種だったのだ。

 今までとは違い、いきなり表にでて来た彼らに対して、全く経験のなかった"管理者"達は混乱し、その混乱の結果一時世界がコントロールから解き放たれた。

 

 その結果がどういうものかは、現在の世界情勢が示してくれている。

 

 多くの国が潰れ、世界は狭くなってしまった。

 しかも、"管理者"が数千年を費やして作り上げた"人間社会に対する裏の権力"を全く受け付けない、新たな強力な集団が出来てしまった。

 それが"魔法師"。それと"魔法協会"をはじめとする数々のコミュニティだ。

 

 これ以上の失敗は避ける為にも、"管理者"と"調整者"の間で一致した認識。それが

 

 "危険と判断したら、例えどのような人間であったとしても、何を犠牲にしても処理する"

 

 世界を穿ちかねない、人間社会を崩しかねない人物は例外なく処理する。そうやって動いていったことにより、西暦2095年までは、何とか人間社会は維持できて"いた"。

 

 

 ある"バグ"を見つけるまでは。

 

 

 

 




独自設定のタグつけといた方がいいのかな・・・後でつけておこ。

世界観をより分かりやすく説明した回。タダの蛇足に近い。

不定期と書きました。今回みたいにテンションが持っているときはいくらでも投稿できます。テンションが下がると下手したら1年間放置なんてこともあります。悪しからず。

"創造主"自身に自我がないから生物から借りる、という表現を使いましたが感覚的には「見ている」が近いかもしれません。
生活してるとどうしても何かしら猫を被ったり仮面を被ったりしないといけませんよね?あの時に感じる「俺なにやってんだろなー」みたいな、そんな感覚に近いかもしれません。自我を見ることで自分自身の自我を最低限の範囲で定着させている、といったところでしょうか。説明が難しい・・・

さて、次回はいよいよ入学式(のはず)。河原借哉の苦難の日々はここから始まるでしょう。楽しみにしていただけると助かります。



あ、あと読んでくださった方は薄々気づいてるとは思いますが"バグ"は思いっきり彼です。ベンチに座ってる彼。


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第二話~入学~

本編突入。っていうかとりあえずここまで書かんことにはしゃーない・・・


【Sunday,April 3 2095

  Person:operator4  】

 

 

 国立魔法大学付属第一高校。

 日本の魔法師教育機関の中のトップの一つ。未来の日本を支える数少ない魔法師の育成機関。

 最も、"我々"の立場からしたら悩み種しか作り出さない施設の一つでしかないが。

 

「流石に性急に事を運ぼうとしすぎたか・・・」

 

 魔法科高校に関しては、二科生制度というものが存在する。

 より優秀な魔法師を優先して育てるために、優秀でない半分の生徒を切り捨てること。

 その点だけを見れば限りなく効率的な制度だ。しかし、この制度は半ば必然的に一科生と二科生の間に差別を作り出すことになる。

 ソレが何を言いたいのかというと。

 

「"1時間半前から二科生が何の理由もなく"高校の敷地内を歩き回っていれば嫌でも目立つ・・・・」

 

 焦る気持ちはあった。出来るだけ事を穏便に"処理"する為には早期の対象発見が必要だった。しかし、その点を除いても、というかその観点で見ても"流石に捜索開始時間が早すぎた"。これでは"河原借哉"という存在は記憶されやすくなってしまう。

 

 我々"管理者"や"調整者"はそもそも優秀な魔法師としての能力は持てない。なぜなら"管理者権限"それそのものが限りなく魔法演算領域を使用する為、残された領域はそもそもが二科生レベルのものでしかないのだ。しかも、皮肉なことに"つい90年程前"まではそういった魔法師の力が自分達でも使えることさえ分からなかったのだ。能力など低くて当たり前である。

 

「別に存在の形跡を残すことに問題はないし、顔もいざとなったら"変えられる"が、後の処理に"調整者"を使うのは非効率的だ・・・。出来るだけ控えめに行動したほうがいいか」

 

 そうは言っても難しい話だ。何せ完璧に"目立たないまま"では探す手段が自分の足以外になくなる。いざ長引く時のためには何かしら"裏で操ることの出来る存在"が必要だ。

 二科生にだってそれなりの子集団は存在するはず。それをまず見つけることができれば保険も利くだろう。

 

「そうと決まれば、取りあえずは開館までは目立たん場所にいるか」

 

 方針が決まれば行動もおのずと決まってくる。持ち込んでいた缶コーヒーを開け、中身を飲みつつ目立たなさそうな場所を探す。

 

 結果、一番よさそうだったのは今時古いスクリーン型を使っている生徒の近くのベンチだった。

 同じように早く来過ぎた二科生らしく、暇つぶしに読書をしているようだ。

 とは言うものの、感じた印象というのは文学少年のソレとはまるで違ったが。

 

(高校生で"熟練の兵士と変わらない"雰囲気を身につける奴・・・か。これは"魔法師の世界"では当たり前なのか?それとも"こいつだけが特別"なのか?)

 

 とはいえ、"魔法師"の世界にはいない"管理者"が魔法師の中の常識など分かるわけもなく、考えに詰った末にコーヒーを飲み干し、缶を捨てに行こうとする、が。

 

「・・・ここってまさか缶のゴミ箱がないのか?」

 

 否、施設内にはない事はない。ただ"新入生が今現在入れる場所の中には缶のゴミ箱がない"だけで。

 いくら"目立ちたくないから"とはいえ、流石に敷地内に潜入するのは骨が折れる。

 

(・・・仕方ないか)

 

 出来るだけ、先ほどの二科生にも見えなさそうな場所までやってきたあと、コマンド画面を開く。

 

『/command delete "in the hands"』

 

 コマンドを入力し、缶を"世界から消去"する。

 "管理者権限"の使い方を限りなく間違えている気もするが、ここでポイ捨てをして"生徒会長"に悪い意味で目を付けられるよりはマシだ。

 そう思いながら、元の場所に戻ると

 

 

 先ほどの二科生が、こちらを凝視していた。

 

 

(馬鹿な、あそこで誰も見ていないことは確認済み。しかも、あいつは"そこから1歩でさえ動いてない"じゃないか!しかし、なぜそれほどまで"信じられない"というような目で見てくる?!)

 

 顔に困惑の色を出さなかったのはただ3000年を超える人間社会の中での経験の賜物でしかない。

 必死で思考を巡らせる。"彼"は何物なのか?"彼"の口を封じるにはどうしたらよいのか?

 考えること数分、出た結論は

 

(こいつを精密検査するべきか)

 

 最低でも"彼"は"先ほど俺が何をしたのか"を有る程度理解できている。そんなことが出来るのはまさに"管理者"や"調整者"の持つ情報把握能力のみ。

 もし"彼がバグであった場合"、速やかに処理することで見られたことに関しても処理できる。何より今回のことから推測されるバグは"今までで最も性質が悪い"。

 "バグでなかった場合"は後の処理が面倒だが、上手く口を閉じてもらえればそれで済む話。

 

 "眼"を凝らし、"彼"をスキャンする。

 

 結果は、"黒"。"バグ"の対象者だった。

 

 出来るだけ不自然にならないように彼から離れ、建物の影に入っていく。

 そして、視界が切れたところでコマンド画面を再度開く。

 

『/command delete "Recent target"』

 

 先ほどと同じコマンド、しかし規模はまるで異なる。

 サイズ、物体問わずありとあらゆるものを"削除"できるこのコマンドは、"バグ"の対象者を速やかに処理する為に元々はある。そのコマンドを持ってすれば、今回の処理も楽に終わる。

 

 その、はずだった。

 

 "眼"は捉えていた。"彼"がまだそこにいることに。そして何よりも"コマンドが彼を受け付けなかった"ことに。

 

(そんな馬鹿な・・・。最悪の想定の斜め上を行ってる・・・。コマンドが受け付けることのない対象はまさに"我々"以外にはない。"創造主"様から新たな"調整者"の追加連絡などない、となると程度は想定より上だが、やはりあの"バグ"は・・・)

 

 数々の経験をいくら詰んではいても、この"バグ"は今まで発生したことはなかった。

 一体どうすればいいのか、まずは何をするべきなのか。

 

 

 

 

 "調整者レベルの権限と能力を持ってしまったバグ"に対して。




とりあえず河原の立場で入学式前をば。
コマンド画面を開くっていうのは、プロローグであった視界の中央に(ryってやつです。
SAOのメニュー開く時のアレに近いのかな?横にスライドする感じだけど。
まだ入学式それそのものには突入しない!・・・はず

あと、タイトルが"調整者"なのに主人公"管理者"なんですよね。なんでかっていうと、単純に語呂が一番よかったから。タイトル詐欺にも程があるね・・・。


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第二話~未知との遭遇~

達也回です。んでもって何時もよりチョッと長め。
あと思いっきりみえみえの伏線オンパレードな気もしますが悪しからず。


【Sunday,April 3 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

(さて・・・俺はこれからどうすればいいんだろ?)

 

 総代である深雪の付き添いが終わり、二時間の暇が出来てしまった達也は早速手持ち無沙汰になっていた。

 何せ自分自身が"二科生"の"新入生"。余り歩き回っても余りいいようには取られないだろう。

 

 

 結局は、それなりに人通りの少なそうな中庭のベンチに腰掛け、端末を開いた。

 別に二時間を待つことは問題ではない。ただ、"嫌味"を聞くのが余り好きではないだけだ。

 

 この国立魔法大学付属第一高校には二科生制度というものがある。そして自分自身に魔法師としての才能がない達也は、その二科生に分類される。

 元々"普通の魔法師としては"優れていないことは自覚しているが故に、余計なお世話だと言いたくなる。

 言ったところで問題が増えるだけだから言いはしないのだが。

 

 

 書籍を見ながら、考えるのは"四葉"からの伝言。

 

 

《"二科生レベルの魔法師"に注意しろ》

 

 

 今でもそんなことを伝えた理由が理解できない。

 現状深雪にとって危険といえるのは三年の十文字克人や、少々甘めに見積もっても生徒会長である七草真由美ぐらいしかいない。

 ましてや二科生レベルの魔法師に深雪は遅れを取らない。

 それは"四葉"も知っているはず。ではなぜわざわざこのような伝言を伝えたのか。

 

 考えられる可能性は二つ。

 

 一つ目は、魔法科高校への偽装を行って潜入したものがいること。

 ある意味これが一番可能性が高いだろう。達也による護衛を突破し、深雪に危害を加えられる人物がいて、なおかつそれを目的にする可能性がある場合は逆にこの程度が限界といえる。

 "二科生"という時点で能力が劣っているということの証明になる。だが、もし一科生レベルの才能をごまかし、わざと二科生として入学した場合は、この"二科生"と言うレッテルそれそのものがダミーになり得る。

 並みのガードマンだったら引っかかりそうだが、そこは伊達に幼少の頃から訓練を積んではいない。気を張れば問題はないだろう。

 

 もう一つの可能性は、"自分と同じ類の魔法師がいる"こと。

 強力な魔法を常駐している代わりに、他の魔法がほぼ使えない。

 このような類の魔法師を見たことは今までさほどないが、もし"同レベルの同類"であった場合はある意味一番の脅威と言える。

 仮に"自分自身"を仮想敵とした場合、恐怖しか覚えない。

 なぜなら先手必勝以外に勝ち目がないように見えるからだ。

 一撃必中必殺の攻撃と、それこそ"一瞬で"生命を消し飛ばし得るだけの火力でもないかぎり24時間の間永遠と再生し続ける能力の持ち手。

 何時も自分がその立場であるから深く考えたことはないが、もし相手にそのような輩がいるとなると恐怖しか覚えない。

 

 

 といっても、有り得る話ではないような気がするが。

 

 

 とにかく"四葉"からわざわざ言われた事。注意しておくことに越したことはない。

 気持ちを切り替え、次の書籍を呼び出す。

 開館まで後40分。随分長く考えたものだと思いながら、

 

 

 ある存在に気が付いた。

 

 

 恐らくは持参したのであろう、缶コーヒーを飲みながら歩いてくる"二科生"。

 別に目立った特徴があるとも見えず、また彼自身が何かするわけでもないはず。

 

(なのに、なぜか"見られている"気がする・・・?)

 

 

 "二科生レベルの魔法師に気をつけろ"

 

 

 その言葉が妙に引っかかる。

 まさか彼がそれではないだろうか?しかし、どうみても一般的な高校生のソレにしか見えない。

 どうやら缶コーヒーを飲み終えた彼は、ゴミ箱が見つからなかったようで、ある場所を探しに行くようだ。

 

(あるとしてもここからは少々遠いとは思うが・・・)

 

 そう思いながら、念のために"眼"を使い彼を見る。

 視界からは消えたところで、彼がおもむろに手を顔の前に上げ、横に滑らせた。

 

 

 その瞬間、"何か"が起こった。

 

 

 "眼"を持ってしても何が起こったのかは完全には理解できなかった。

 イデアそのものに対する干渉?しかもソレから間髪いれずに彼が持っていたはずの"缶コーヒーが忽然と消えた"?しかも"いかなる残滓も、缶コーヒーを構成していたありとあらゆる分子のかけらさえも残さず"?

 

 魔法というには余りにも強力で、規格外な代物を"眼"が捉えてしまった。

 

 

 柄にもなく唖然としているところに、先ほどの彼が戻ってきた。

 

 

 顔には何の変化もない。しかしそれにしては"先ほどより見られている感覚が強すぎる"。

 彼にとってはばれる事もなく、何気ない感じで使用したのであろう。もしそれがばれてると知られれば、先ほどの"何か"は自分に向けられるだろう。

 

 耐えられるのか?あの攻撃に、自らが持つ"再成"は。

 

 身構えようとする前に、自らのエイドスが"見られた"事を認識した。

 いや、"見られた"というよりは、"スキャン"された?

 

 ほんの僅かな時間でそれは終わったが、何を意味するかは分かりきっていた。

 見ていたことはバレていた。そうでなければ今の行為は説明が付かない。

 

 何事もないように彼は立ち去っていく。

 一体どうするべきか?脅威度は確実に今までの敵をも上回る。野放しにはできない。しかし、もし薮蛇になろうものならそれに対抗するだけの力がない。

 

 迷っているうちに、"眼"は彼がまた同じ動作をしたのを捉えた。

 一足、遅かった。

 悩みすぎて逆に何も出来なかった自らを、今までにないくらい呪った。

 せめて、深雪だけでも無事であってくれ。

 そう、覚悟を決めた。

 

 

 しかし、"何も起きなかった"。

 先ほどと同じように、達也のエイドスに何かを仕掛けようとしたはずなのに。

 気になり自分自身をチェックしてみても、特に何も変わったところはない。

 

 "彼"にとっても予想外だったのか、しばし固まった後は直ぐにその場を離れていった。

 

 助かったのか?何故?一体何が彼の"力"の邪魔をしたのか?

 

 

 戸惑っているうちに声が掛けられた。

 

 

「新入生ですね?開場の時間ですよ?」

 

 

 思わず身構えながら振り向くと、そこには"一科生"の制服を着て、CADをつけている人がいた。

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ、何も・・・」

 

 恐らくは無関係であろう相手に余計な行動をしてしまった自分を再度呪いながら、否定を返す。

 

「教えてくださってありがとうございます。すぐに行きます」

 

 半ば見ていなかった端末を閉じて、礼を言う。

 

「感心ですね、スクリーン型ですか」

 

「仮想型は読書に不向きですので」

 

 ちょっとした雑談でしかなく、本来は避けているものだったが今だけは気持ちを落ち着かせるのにはありがたかった。

 

「あっ、申し送れました。私は第一高校の生徒会長を務めています、七草真由美です。よろしくね」

 

「俺、いえ、自分は、司波達也です」

 

「司波達也くん・・・そう、あなたが、あの司波くんね・・・」

 

 どうやら生徒会長である七草真由美は自分のことを知っていたらしく、試験の話に入っていく。

 その間、考えていることはやはり先ほどのこと。

 今のところは全てのことを理解できなくても問題はないのだ。むしろ確実な脅威が存在することを確認できただけ良しとするべき。あとは対処法が見つかるまで深雪に危害が加わらないように手を回すか、もしくは回してもらうかが最善だろう。

 

 話がちょうどいい区切れを迎えたところで、あることを思いつき、訊ねてみた。

 

「ところで、先ほど何か魔法のようなものが発動したような感覚を覚えたのですが・・・」

 

「そうなの?そのようなことは私にはないし、報告も受けてないのだけれど・・・」

 

 もしや彼女なら何かしら感じてはいるかと思ったが、返事はやはり期待できるものではなかった。

 

「そうですか。どうやら勘違いのようです。変なことをお聞きして申し訳ありません」

 

「いえ、いいのよ。私でも少し調べてみるわ」

 

「それでは、そろそろ時間ですので、失礼します」

 

「えぇ、また機会があれば」

 

 そういって別れた後、達也は講堂へと向かう。

 真由美は調べてくれるとは言ったものの、彼はほぼ誰にも見えない場所で行っただけに得られるものはないだろう。

 だが、もし何かしらの伝手を得ることができれば、いざという時に対応がしやすくなる。

 

 面倒なことだが、積極的に関わっていくしかない。

 そう思い、再び足を進めた。

 

 




はい、達也回でした。
はさんだ方が面白いだろうと思ったときはオリ主のほかにもいろんなキャラの視点から書いていったりします。とはいっても実は書き出すまで結構文章に悩んだんですけどね。

結構いろいろと伏線を張りましたが、回収は結構先になること間違いなし。
だってその方が面白いかとおもって・・・。

次回はオリ主視点です。それしかないけど。


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第三話~講堂にて~

オリ主の最初のつるみ相手は、なんと・・・。
んでもって余り派手でも静かでもありません。普通に高校生やってて面白みがない・・・


【Sunday,April 3 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

 誰にだって始めての経験というのはある。世界がまさに生まれた時から存在している"管理者"である俺だってそうだ。

 多少混乱し、知識や今までの経験を元に最善の行動をし、その始めての経験を忘れないように記憶していく。

 

 ただ、久しぶりすぎて戸惑っただけだ。

 

 

 "調整者"とほぼ同じレベルの権限と能力を持つ"バグ"。

 いや、ほぼ同じどころか本当に同じなのかもしれない。何せ彼の能力をすべて見たというわけではないのだから。

 

 

 もうすでに開場の時間となっていることもあって、あの後逃げるように講堂へ向かった。柄にもない事だ。あれでは自分が焦っていることは丸見えだ。

 だが、別に悪いことでもないだろう。こうやって頭を冷やせただけよしとするべきだ。

 

 出来るだけ直ぐに仲間と連絡を取りたいが、あいにくともうすでに講堂付近、また講堂の内部は人が多すぎる。

 何しろこの講堂には遅かれ早かれ"彼"もやってくるのだ。迂闊にコマンドを使用する訳にもいかない。

 

「細かいことは明日からか・・・」

 

 今すぐに動きたいのに何も出来ないと言うのはむず痒いものだが、無理に動いて骨を折るよりはだいぶマシだ。

 気持ちを切り替え、席を探してるとある特徴に気づく。

 

(前列は一科生、後列は二科生により席が分かれているのか・・・)

 

 いっそ綺麗なことに一科と二科が分かれている。

 これも"魔法師の慣習"なのか?それともただのくだらない"差別"なのか?

 どちらにしろ、流れに逆らうつもりはないが。

 結局、座った場所は最後列の一番端だった。

 特に理由はない。強いて言うなら目立たない場所だから、ってだけ。

 

 五分ほど時間が経ち、結構なこと席が埋まっていく中声が掛けられた。

 

「すまねぇ、隣開いてるか?」

 

「あぁ、別に構わない」

 

 席を探していたのだろう。声をかけたのは、少々ゲルマン風な顔立ちをしている男だった。

 

「席がこうも埋まってると探すのも一苦労だぜ・・・。俺は西城レオンハルトだ。もし何かしら縁があればよろしくな」

 

「河原借哉だ。こちらこそ、その時はよろしく」

 

 何気ない感じで自己紹介を済ませた後、相手を詳しく見ていくと妙な違和感がした。

 

(人のはずだが・・・普通の人より"動物に近い"?遺伝子調整体・・・だったかな)

 

 残念なことにほぼ全知全能といえる"管理者"でも魔法師関連の情報は素人以下の為、何かあるとは分かっても何なのかは分からない。

 ここら辺の情報も詳しい者がいたらいろいろ教えて欲しいものだ。

 

 そんなことを考えると西城から質問が飛んできた。

 

「それで、河原の志望コースって何よ?」

 

「態々苗字で呼ばなくたっていいさ。借哉で構わない」

 

「そうか?それじゃあ俺のこともレオでいい」

 

「まぁ、実は特に何になりたいっていうのはないんだ。成り行きでこの高校に入ることになったってところでな。余り魔法には自信がないもんだから、何事もなく卒業できるようにってだけかな」

 

 別に嘘は言っていない。"バグ"の処理のために"成り行き"でこの高校に入ったのだ。事が終われば"何事もなくこの学校を去れる"事が目標ともいえる。

 

「まぁ、気持ちは分からなくもないけどよ。どうせだったら何かしら目標持った方がいいと思うぜ?とはいっても俺も体を動かす系ってところしか決まってないんだがな」

 

「レオならどっちかっていうと山岳警備隊あたりがお似合いじゃないか?」

 

「まぁ間違いじゃないな。他にあるとしたら機動隊とか、そこらへんか」

 

「どちらにいくにしても、きっと上手くいくだろうさ。俺も、そうであるといいんだが・・・」

 

 

 うっすらとだが、後ろ三分の一、中央あたりに"彼"が見える。

 "彼"という問題も、上手く処理できればいいのだが。

 しかし、今までもそうだったが"例外"に対しては大抵時間が掛かることが多い。

 ましてや今回は、度合いがきつすぎる為にきちんと解決できるかどうかさえ微妙な所。

 今はただ、祈るしかない。事が上手く運ぶことを。

 ただ、まぁ

 

「何かあるかどうかは知らないけどよ、何とかなるさ。入学式の時からそう煮詰まってても始まらないしな。」

 

 そういって励ましてくれるレオの言葉に、少しだけ気が楽になる気がした。

 

 




ってことで他の女性陣より先にでてきたのはレオくんでした。
この人を最初につるませた理由は単純。レオの明るい性格で無理矢理主人公と接点を持たせる為・・・っ!
まぁ結構きつい気もするんですがね。

主にこのSSは達也視点と借哉視点がメインになるかなーと書きながら思ったり。
どちらも警戒しながらそれでも近づかずにはいられんような立場ですが、この先どうなっていくのか。それは・・・・



俺も知らん。

次回、達也回。だって入学式中の描写が楽なのが達也ポジなんだもの。

あ、後もし親切な方がいた場合は誤字脱字その他があった場合は教えてくださると助かります。
書いてる途中にIEが固まったりとかがあるんでそこらへんが不安なので・・・


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第四話~入学式~

達也回。といっても入学式の描写がなさ過ぎて回想メインになってしまうジレンマ


【Sunday,April 3 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 入学式が始まる前までは騒がしかった講堂も、一旦始まれば静かになる。

 達也も先ほど知り合った千葉エリカ、柴田美月を含めた数名との会話の後は式が始まると静かに話を聞いていた。

 

 考えるのは、先ほどの"彼"のこと。

 

 規格外な力を持ち、自分と同じ、否、それ以上の"眼"でさえ持っている可能性のある、自分と同じ"二科生"。

 そして、その彼の"力"が、自分には効果がなかったことへの疑問。

 

 もし、対人には効かないのだろうと思えたらどれほどよかったことか。

 彼自身が"消去できなかったことに驚いていた"ということは、最低でも対人に使えない技ではないということ。

 

 

 限りなく、未知数だ。

 自分に効かないというのは、こちらにとって大きなアドバンテージではある。

 だが、深雪に対しては?

 もし深雪に対して力が及ぶ可能性が出て来た場合は、まさに守りきれる自信がない。

 幸いというべきなのは、"彼"が"明確な敵ではない"可能性が高いということ。

 

 恐らくは、力を見られたから消そうとした。

 少なくともこちらに対しての対応はそのような節がある。

 もし、彼の目的が"深雪を害するものでない場合"、早めの接触が必要だ。

 

 相手が"消せる"相手ならば今すぐにでも消しているのだが、あいにく彼を本当に"消せる"自信がない。

 よしんば消すことができるとしても、消す前に深雪に危害が及べば本末転倒。

 となると、最低でも"こちらから害は加えない"事だけでも伝えなければいけない。

 そこから"互いに基本的には不干渉"を持ち込めば、それで一応の問題はなんとかなる。

 

 肝心の"彼"は、式が始まる前までは男子生徒と話していた。

 仲間、というよりは自分と同じようにただ単純に"知り合った"というだけなのだろう。

 では、彼は協力者がいないのか?

 これも、不明。

 彼の"力"はもはや単独でも通用するレベルの力だ。場合によっては、戦略級さえ凌駕する。

 しかし、だからこそ何故彼がこの高校に入学してきたかが疑問になる。また、どうやって入学してきたかも。

 彼自身の個人的な理由なのか、それとも背後にいる者からの依頼なのか。

 後者の場合、最低でも一人は協力者がいるはず。

 一応だが自分にも軍としての情報網と、"四葉家に仕える人間"としての情報網がある。

 情報が得られるかどうか、試してみる価値はある。

 

 

 生徒会長のスピーチが終わった後は、新入生総代の答辞。

 深雪の、この高校での最初の晴れ舞台。

 

 

 その姿を見守りながら、達也は心の中で決めた。

 あの脅威を、少しでも深雪から"遠ざける"。

 

 

 そのためにも、まずは接触するべきだろう。果たして何時がいいものか・・・。




てなかんじで達也の回想でした。

一応お互いの認識としては
借哉:バグ(達也)の処理が目的だが、コマンドで消せない以上殺害以外の方法しかないが、精密検査でいろいろ知りすぎて果たして消せるのか微妙。どうすればいいか悩んでる。

達也:彼(借哉)の力を見てしまったことにより目を付けられてしまい、またその力の無効化を狙いたいけど深雪に危害が及ぶ可能性を考えると迂闊に手を出せない。敵ではないことを示しつつお互い、そして身内に対する非干渉を求めたいけどそのための方法が思いつかない。

借哉は第二話でのスキャンで達也の一応のスペックは知っていると考えて問題ないです。
だから結局二人ともこう着状態に陥るんです。お互いにどうするべきかと。
まぁ、嫌でも厄種同士はくっつくもんです。

次回は未定。もしかしたら日にちが1日進むかもしれないし、達也回が続くかもしれない。

【追記】もし親切な方がいたら誤字脱字文章のミスなどは指摘してくださるとありがたいです。いくら自己満足のSSでも変なものは書きたくないので、もしよければお願いします。


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第五話~知る必要~

結果:日は越さない、達也回だった。ただ、この場合オリ主ポジも日にちを越すわけにはいかんな


【Sunday,April 3 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 個人用カードの配布の後、ちょっとした一幕があり、図らずもお茶会になった後。

 夕暮れに近い時間に帰宅したらすぐ、深雪が声をかけてきた。

 

「あの、お兄様」

 

 何か、心配するような様子で呼び止める。

 

「何か、あったのですか?」

 

「どこか変わったことでもあったのか?」

 

「どこか、エリカ達と話してる時も、帰るときも何か"思い悩んでる"ように思いまして」

 

 本当によく気づく。

 出来のいい妹に思わず苦笑しそうになった。

 

「まったく、深雪には適わないな。確かに黙ってても仕方ない話だ。長くなるだろうし、話は後でリビングでしよう」

 

 

 

「"対象の残滓さえ残さないほど強力な魔法"?」

 

 リビングでコーヒーを入れてきた後、達也から話を聞いた深雪はその規模の大きさに唖然とした。

 

「あぁ。俺が視たのは"缶コーヒーを消す"時だけだったが、その後の様子だとどうやら物だけでなく、対人にも使えるようだ」

 

「ですが、先ほどの話だと"お兄様には効かなかった"という風に取れますが・・・」

 

「あぁ。ソレは間違いない。確かにあいつは同じ事を俺に対してもやったはずで、しかし成功しなかった」

 

 これが極めて事態をややこしくしていた。

 その力がただ単純に"対物"オンリーだと割り切っていた力ならそこまで重要視するものでもないし、対人に使えるとはっきり分かっていた場合は脅威度が分かるだけいいのだ。

 しかし、今回の場合は"対人でも使えること"を仄めかしているのに"実際の被害は皆無"に近い。再成もそもそも使われていない。

 結果だけ見れば極めて無害に見える、が

 

「物と生物の間に、あれほどの力の場合は成否に関わる重要な差はないはずだ。それでも成功しなかったのは一体何が原因なのかは分からない。ただ、もし本当に人にも使えた場合、一番危険なのは"俺の周りにいる人物"だ」

 

「誇張では、ないのですね?」

 

 深雪の問いに対して、しっかりと頷く。

 

「最低でも俺には"再成"があるから対象にされる分には問題はないだろう。ただ、そうと分かった場合やってくるとしたら周りを人質にとった"交渉"しかない。そして、彼はわざわざ"人質を確保する必要がない"。そう考えた方がいいだろう」

 

 入学初日の夜としてはありえない空気の重さが続く。

 当たり前だ。知らない方がいいこともあると言うが、今回はむしろ何も知らないからこそ怖いとしか言い様がない。

 深雪が、口を開く。

 

「伯母様に、相談した方がいいでしょうか?」

 

 この状況では、最低でも何が起こってるのかだけでも調べる必要がある。

 深雪の提案には、達也も賛成だった。

 

「出来るだけ伯母上には頼りたくないが、その方がいいだろうね。連絡は自分でやるよ。ついでに風間少佐にも頼んでおく。深雪も、一応注意しておいてくれ。もしかしたら深雪が相手の目標になるかもしれないから」

 

 その言葉に、深雪は頷いた。

 

「はい。お兄様も、気をつけてくださいね?」

 

「あぁ。どんなことがあっても、必ず帰ってくるよ」

 

 少々大げさなようで、それでいて規模にあっているような会話。

 そのやり取りの後、報告や依頼を行って、ようやく二人の日常が戻ってきたのだった。




ということで達也回でした。

今回に関しては、実はどんな構成にするか悩みました。
葉山sに報告してる途中がいいのか、それとも風間少佐か。
いっそのこと葉山ポジとか伯母上ポジにしてやって伏線祭りのほうがいいのかとか悩んだのですが、一番無難にかけそうなのはこれだったっていう。
今回も自分で書いててひでぇ駄文だなとか思いながらの一幕でした。

次は借哉回です。日にちがそのままなのはこれで最後かな?



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第五話~対策~

借哉回です。
やっぱオリ主は文が進むね!チョッと長めかも


【Sunday,April 3 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

『/command call "moderator" "all"』

 

 借哉は自宅の中で、自分の部下ともいえる調整者達と今回のバグについて検討するべくコマンドを使った。

 

 自宅、といってもそう大層なものではない。

 彼にとっての自宅は、外から見た場合は「他の家よりは大きいかな?」程度でしかない。

 しかし、中はまるっきり違う。

 もし、これが高級感あふれる調度品の溢れる豪華絢爛な家だった場合は誰もがうらやむだろう。

 しかし、現実に中に入ってみたら見えるのはそんなものではない。

 軍事用以上に性能のよい、"管理者"の為だけに、ドイツ、日本、アメリカなどから極秘裏に造らせた最高クラスの人工衛星をコントロールするアンテナが隠されてこそいる為、家の五割を占めている。

 残りの内の三割は日本国内の膨大な情報を処理する為のスパコン、更にその冷却の為の冷房器具が一割を占め、最後の一割は精々移動経路にしか使えない。

 では、自宅と呼べるのはどこなのか。答えは単純、地下である。

 とはいっても地下の部屋の割り振りの内の四割が武器庫で、もう四割はLAVやバイクが入れてある車庫。

 残りの2割のスペースでやっとベットと操作端末、そして少しばかりの嗜好品を置いただけの粗末な部屋が出来上がる。

 ほぼ独房のそれと一致しているかもしれない。それほどまでに狭く、殺風景な部屋なのだが彼にはそれで十分で、それこそが必要なものでもあった。

 

 

 今回も、彼らとのパスは直ぐにつながった。

 

 

 

〔moderator1:"管理者"殿。例の件はどうなりました?〕

〔moderator3:広大な敷地と人口の中では探すのも一苦労だったでしょう。結果はいかがでしたか?〕

〔operator4:対象は割り当てた。だが、問題が発生した〕

 

 今回の経緯を詳細に報告した後、帰ってきた反応は決して明るいものではなかった。

 

〔moderator7:"我々"と同じレベルの権限を持っている"バグ"ですか・・・。コマンドが通用しないというのは厄介ですね〕

〔moderator9:となるとやはり生物的な殺害しかないでしょうが・・・〕

〔moderator10:ほぼ劣化版に近いとはいえ、"我々とほぼ同じ再成能力"に、並みの相手なら一撃で無効化し得る"究極の分解魔法"。我々の人脈から無理矢理軍隊を差し向けても、恐らくは勝てないであろう能力の前では、むしろ殺害の方が厳しいかと・・・〕

〔moderator6:この"バグ"はさすがに我らでも対処しきれない。ここは"創造主"様へ報告すべきかと存じますが〕

〔moderator5:馬鹿者。それがどれほど"創造主"様を消耗させる行為か分かっているのか。我々との更新で使うのは"借りた自我"ではないのだ。そこを意識せずに言っている訳ではあるまい〕

〔moderator6:しかし今回のケースは始めてだ。無論、始めてのことなんぞは他にもいくらでもあったが、"規模が大きすぎる"。早期の解決が必要で、その為には致し方ないのではないか?〕

 

 限りなく後ろ向きな意見しかでてこない。だが、それでは駄目なのだ。

 可能な限りを尽くした後でないと、"創造主"様に相談するのは早すぎる。

 借哉は、何時もやっていたやり方を逆転させ、むしろ基本的なことを提案した。

 

〔operator4:やはり現状"バグ"の最優先消去はほぼ不可能だというのは共通の認識で問題ないだろう。だからこそ、ここで発想を変えよう。今までは"バグを消してから、原因を突き止めていた"。だが、今必要なことはむしろ"バグの原因を突き止めること"だ。ソレが分かれば、"バグを消す為の"突破口は開けるはずだ〕

〔moderator2:とはいっても、それこそ時間を掛けすぎる危険性があります。それでは本末転倒では?〕

〔operator4:その点は確かに考慮すべきだが、無理に"創造主"様に負担を強いてしまうよりは上策だ。それに、別に不発弾のような代物でもないんだ。出来るだけ無害であるように、ある程度のアクションはこちらからしておく。とりあえず今必要なのかは、"このバグがどのような種類の物に近いか"だ。何でもいい。送った情報から、気が付いたことを言ってくれ。〕

 

 待つこと数分、一つの疑問が浮かび上がってきた。

 

〔moderator3:一つだけ、気になる点が。〕

〔operator4:言ってみてくれ。〕

〔moderator3:この情報を見る限り、何から何まで始めてとしかいいようがありません。種類さえ判別が不可能。ですが、一番最初の検査対象のところに、気になる文字列が〕

〔moderator6:と、いうと?〕

〔moderator3:識別番号ですよ。バグで化けてこそいますが、どのような場合でも一部文字が化けずに残る場合があります〕

 

 

 

 

〔moderator3:《@;g>.=er[》から読み取れる、g,e,rの意味は一体なんです?〕

 

 

 

 

〔moderator5:確かに、通常ユーザーのIDとの法則とは毛ほども一致していない〕

〔moderator10:それだけではありません。最後の"er"の文字。これではまるで、"最初から我々と同じ類のものであった"ようではありませんか〕

〔operator4:ユーザー作成の段階からバグっていたというのか?そうなると、世界のシステムそのものが故障してる可能性があるか?〕

〔moderator9:その割には"たった1件しかヒットしなかった"ってのが気になりますな。もしかしたら、世界の維持そのものには影響しないレベルの小さな傷があるのかもしれません〕

〔operator4:冗談じゃない。我々とほぼ同レベルの能力を持つ一般ユーザーなぞ洒落にならん。早急に検査する必要があるな〕

〔moderator4:個人的には、むしろ"バグ"の人物像や、周辺などが気になります。魔法師の時のように、"管理者権限に近いもの"を獲得された可能性があります。調べれば、もしかしたらかけらでも掴めるかと〕

 

 一人で考えるよりは、十一人で考えた方が視野が広がる。

 これはまさに魔法師が生まれた時のことから学んだ教訓だった。

 やはり、こまめな会議をすることは事態を一歩進めるのに役立つ。

 

〔operator4:とりあえずはシステムの点検は俺が今日中にやっておこう。各員は対象に関する情報を最優先で取り揃えろ。確か人間社会での名前は「司波達也」であっていたはずだ。繰り返し言うが、"最優先"だ。現行の作業を一時中断し、全力で調べ上げろ。草の根レベルの情報であっても取りこぼすな〕

 

〔moderator2:了解。2~8は現行の作業を一時中断。1,9,10を筆頭にしたうえで、情報収集を開始します〕

 

〔operator4:頼んだ。結果は出来るだけ早めに頼む〕

 

 これを最後に、パスが切れた。

 ある程度の目処は付いたことに安堵こそするが、問題はむしろ悪化している気がする。

 果たして探るべくして突いた藪からでてくるのは、本当に蛇で済むのか。

 そう思いつつ、再びコマンド画面を開き、世界の点検を始める。

 今夜は恐らく、寝れそうにない。

 

 




めっちゃ書きやすい。
オリ主って楽でいいですねほんと。性格をさほど気にする必要性がない。

んでもって文としては前よりはよさげですがストーリーとしては伏線のチラ見せが難しいことを実感させられる。
やはり魔法科の作者様の文才などには敬服するしかありませんね。
何せ8巻から伏線をチラ見せしつつ、展開としてはこれが一番有力か?いやでも・・・なんていう気分にさせて、15巻でようやく確信に至らせるってのは読んでてほんと凄いと思いましたからね。まぁ深雪の感情からして結構見えやすかったかもしれないけど。

次回はいよいよ日にちを跨ぎます。果たして達也回にして九重先生との相談をさせるのがいいのか、それとも教室での邂逅をさせるべきなのか・・・・


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第六話~邂逅~

始めてのお互いのきちんとした会話回。めちゃむずい


【Monday,April 4 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 一年E組の教室は、既に何人も人がいた。

 

「席もそこまで遠くはないし、改めて、これから1年よろしくな」

 

 駅で合流したレオと一緒に席を確認したが、一列違いでさほど離れてはいなかった為、こうして話をする仲にはなった。

 本来は不必要な行為ではあるものの、滞在期間が長期に及ぶ可能性がある以上こういった関係は必要だし、ないと味気ない。

 

「あぁ。よろしく頼む」

 

「にしても余り遅れてきたつもりはないんだが、結構人がいるな」

 

「それはそうさ。一応は皆始めての高校生活だからな。早めに来ておくに越したことはないだろう」

 

「それもそうだな。とは言うものの、そこまでやることもないんだけどなー」

 

 確かに、現状やることがないように見える。

 だが、一応今の段階でも一通りの書類を見ることはできるようだし、受講登録も問題なく進むことが出来る。

 レオの、後ろに座る生徒のように。

 

 "彼"も同じE組だったのか。

 

 この偶然には笑わざるを得ない。消す時には便利かもしれないが、消した後は面倒極まりない状態だ。消せるのかどうかという問題は置いておいて。

 

 彼を見ていると、まず最初にキーボードオンリーの入力方法、その次にその速度に目が行く。

 だが、ソレよりも注目すべきは流れるように画面の情報を把握していることだ。

 私事で端末を使うぐらいではここまでのスキルは身に付かない。まだ"彼"の身辺調査の結果は届いてないが、この様子だとエンジニア関連か、それとも軍のオペレーターの仕事についているか、もしくはそういう職の人から教わったのか・・・。

 

「・・・別に見られても困りはしないが」

 

「あっ?ああ、すまん。珍しいもんで、つい見入っちまった」

 

 どうやらレオも"彼"のことを見ていたらしく、彼の言葉に反応していた。

 

「珍しいか?」

 

「珍しいだろうさ。"昔のキーボード"ならタイピングオンリーも別に分からんでもないが、"この端末のタイプ"でのキーボードオンリーってのは今はほとんどいないからな」

 

 これは事実。キーボードオンリーで入力する輩は昔ながらのキーボードの"タイプしている"感覚に囚われすぎ、今のキーボードのような昔よりは柔らか目の感触ではいまいちしっくり来ないという者が多い。

 個人的にも、キーボードオンリーで入力するなら21世紀初頭にあったようなキーボードの方が好きだ。

 

「慣れれば今のキーボードでもこっちの方が速いさ。視線ポインタも脳波アシストも、いまいち正確性に欠ける」

 

「それよ。すげースピードだよな。それで十分食っていけるんじゃないか?」

 

「いや、アルバイトが精々だろう」

 

「そぉかぁ・・・?おっと、自己紹介がまだだったな。西条レオンハルトだ。親父がハーフ、お袋がクォーターで外見は純日本風だが名前は洋風、得意な術式は収束系の効果魔法だ。志望コースは体を動かす系、警察の警備隊とか、山岳警備隊とかだな。レオでいいぜ」

 

 "彼"や、レオの視線がこちらに向く。

 これが、"彼"との始めての邂逅か。

 そう思いながら、自己紹介を始めた。

 

 

「俺は河原借哉。魔法が得意ではないからエンジニア系が志望コースになるんじゃないかな。借哉、で構わない」

 

「司波達也だ。俺のことも達也でいい」

 

 

 お互い、初見って訳でもないのだけれど。

 

 

 




やっぱり絡ませるなら入学式の次の日だよね。ソレが一番いいかんじ。
もうレオもエリかも柴田さんにも気づかせずに二人の中では腹黒いやり取りが続くんでしょうねこれ。そんでもって密談の回数もきっと増える。

次は恐らく達也回。まだまだ事態は静かなままだと思う。


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第七話~摩擦~

ちょっと長め。んでルビタクなるものを使用してみたいんだけど・・・これ大丈夫なん?


【Monday,April 4 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 世の中には偶に"既にこうなることが決定していたのではないか"と思う時がある。

 例えば、今回がそう。

 昨日深雪に話し、四葉にも報告を済ませ、独立魔装大隊にまで伝えて、対策を立てようとした"彼"が、まさか同じクラスだとは夢にも思わなかった。

 ともかく、名前も得ることは出来たことだし、状況は前よりはいい方向に向かっているのだろう。

 

 

「さて、終わったか。昼間でどうする?」

 

 ガイダンスが終わり、昼食まで間が開いたところで前の席にいるレオから声が掛かった。

 残念ながら、食堂が開くまで後1時間は待つ必要がある。適当な場所を見つけた方がいいだろう。

 

「ここで資料の目録を眺めているつもりだったんだが・・・OK、付き合うよ」

 

「なんだ、達也も決まってないのか・・・・」

 

「そう無理言うもんじゃないさレオ。でもやる事がないのは確かだ。どこか見たい場所とかないのか?」

 

 同じく"彼"も手持ち無沙汰になったのだろう。希望を聞いてきたものの、生憎さほど見たい場所があるわけではない。

 

「いや、特にはないな。何か見に行くなら合わせるよ」

 

「それじゃあ、工房に行ってみねぇ?」

 

 達也の答えに対するレオの提案は、これだった。

 

「闘技場じゃないのな」

 

「借哉にもそういう風に見えるのかね。まぁ間違いじゃねえけどよ。硬化魔法は武器術との組み合わせが重要だからな。自分で使う武器の手入れぐらいは自分で出来るようにしないとな」

 

「なるほど・・・」

 

 レオの希望進路は機動隊員や山岳警備隊員だといっていたし、案外自分の適性や進路に関してしっかり考えているのだろう。

 

「工作室の見学でしたら一緒に行きませんか?」

 

 三人で話がまとまったところで、隣の席から遠慮がちな同行の申し入れがあった。

 

「柴田さんも工房の?」

 

「ええ・・・私も魔工師志望ですから」

 

「あっ、分かる気がする」

 

 美月の頭越しに乱入してきたのはエリカ。先ほどと類似したパターンだ。

 

「おめーはどう見ても肉体労働派だろ。闘技場へ行けよ」

 

「レオ、それブーメランになってるぞ・・・」

 

「ほんとその通りねこの野生動物」

 

「そこ煽ってくスタイルなの?」

 

「なんだとこら。息継ぎも無しで断言しやがったな?」

 

「まず落ち着こうぜ?なんでこう出会った直後にこうなるかね」

 

 エリカとレオの口げんかに挟まっていく借哉は宥めているつもりなのかもしれないが、何故煽ってるようにしか見えないのだろう。

 意図的にやってる可能性もないわけではないが。

 

「へっ、きっと前世からの仇敵同士なんだろうさ」

 

「あんたが畑を荒らす熊なら、あたしがソレを退治するハンターだったのね」

 

「さあ、行きましょう!時間がなくなっちゃいますよ」

 

 美月による強引な軌道修正。しかしこれに乗らない手はない。

 

「そうだな!早くしないと、教室に残っているのも俺たちだけになってしまう」

 

「まぁ、とりあえず早く行こうか」

 

 ここで口喧嘩していても埒が明かない。こういうときは早めに行動するのが一番いい。

 

 

 

 

「工房見学、楽しかったですね」

 

 一時間ほどかけた工房見学の結果は、決して悪いものではなかっただろう。

 最低でも、お互いに打ち解けることができたという点では悪いとは言えない筈だ。

 

「あんな細かい作業俺にできるかな・・・」

 

「アンタには無理に決まってるでしょう?」

 

「なにおぅ!」

 

「お前ら飯の時ぐらい楽しく食えよ・・・煽りながら食っても美味くはならんぞ」

 

 ・・・打ち解けたはずだ。

 エリカとレオはほぼ食べ終わり、美月と俺はまだ半ば。"彼"は既に食べ終わり、コーヒーを口にしていた。

 

 

「お兄様。ご一緒してもよろしいですか?」

 

 恐らくは見学が終わった後なのだろう。ちょうど深雪には"彼"のことを伝える必要がある。いいタイミングと言ってもいいのだろう。

 

「深雪、ココ開いてるよ」

 

「ありがとう、エリカ」

 

「・・・えと、誰?」

 

「入学式の総代くらいは一応覚えるもんだと思うが・・・」

 

「司波深雪。妹だ」

 

 "彼"は基本毒舌なのだろうか?さり気なく毒を吐いてきている気がする。対象は無差別のようだが。

 

 

 レオに対して自己紹介をしようとした深雪の言葉は、深雪のクラスメイトによって遮られた。

 

 

「司波さん、もっと広いところに行こうよ」

 

「いえ、私はこちらで・・・」

 

 深雪の柔らかい拒絶に対して、先頭の男子生徒は肩の紋を見て、

 

"雑草"(ウィード)と相席なんて、やめるべきだ」

 

「一科と二科のけじめくらい、つけたほうがいい」

 

 後ろで頷く女子生徒までいる始末。

 

「なんだと・・・?」

 

 レオが立ち上がり、睨みを利かせる。

 今すぐにでも火が着きそうな状況下で、下手したら油を注ぎかねないような消火を始めたのは、"彼"だった。

 

 

「お前ら本当に黙って飯を食うことさえできないの?」

 

「といっても借哉、ここまで言われて黙ってられるか」

 

"雑草"(ウィード)は黙ってろ」

 

「まず飯に対して失礼だろうが。喧嘩しながら食うのは19世紀の西部劇で十分なんだよ。まず家族団らんの時を邪魔するもんじゃないってことぐらい分かるだろ?"花冠"(エリート)さんよ」

 

 一科生の言葉が途切れる。彼ら自身、理解できないのではないのだろう。

 

 結局、一番気まずさを感じていたのは"彼"自身だったようだが。

 

「・・・すまんな。飯を不味くしちまった。とりあえず俺は食い終わってるから先に行くわ。食い終わったら知らせてくれ」

 

 食器を持って、返却口へ向かう彼を深雪のクラスメイトは恨めしそうに見ていた。

 

「・・・出来損ない風情が深雪さんに失礼な」

 

 その言葉を最後に離れていった。

 

「感じわりーな」

 

「同感。偉ぶっちゃって」

 

「お兄様、お騒がせして申し訳ありません」

 

「いや、いいさ。ちょうど話したかったところだしね」

 

 深雪を交え、再び食事が再開された。

 "彼"は俺たちに気を遣ったのだろうか?

 

 

 その割には、あの場で一番苛立っていたような気がするが。

 

 




二日目から少々言葉がきついオリ主。基本的に柔らかな毒舌キャラを目指していなくもない。

オリ主が思ったより切れてると思いますが、それは彼自身の今まで見てきたものから考えている価値観に寄るものです。
彼は上から見下ろす人というのを毛嫌いしています。そういう人は基本的に俗物で、持っている"自我"も高等な人のそれと比べると"獣"に近く、"創造主"が余り必要としないものだからです。また、上から見下ろす人に限って見下ろしてたはずの人に足元を掬われたりしているところを何度も見ているのもあったりします。

案外激情的なキャラなのかもしれません。自分でも全体像は余りつかめてないんですけどね。


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第八話~衝突~

オリ主のキャラがぶれまくってる気がする。熱くなるタイプなのか、冷めたタイプなのか。

んでちょっと長め。


【Monday,April 4 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 自分の地位が不動だと感じ、下の者を見下す者ほど不快なものはない。

 いつ、その地位が崩れるかも分からないというのに。

 世の中は常にそうだ。日本に常駐していた俺にでもわかる。

 中華の衰退、幕府の解体、ロシアの崩壊、大日本帝国の崩壊。

 自分が上位にいると思っている者に限って、命取りになるきっかけを見失ってしまう。

 

 

 そんな流れを見てきたからこそだろうか。今目の前の事態には憤りを感じる。

 

 

「いい加減に諦めたらどうなんですか?深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口を挟むことじゃないでしょう?」

 

 相手は、一年A組。深雪のクラスメイトだった。

 食事も一緒に出来ず、せめて放課後はある程度の交流はしたいという気持ちも理解できなくはない。

 ただ、それは本来本人の了承が前提で成り立つもので、一科も二科もない。

 ただ帰るだけになったとしても、別にくだらないプライドを優先させる必要は無いのだ。

 ただ、目の前の一科はソレを優先させたいようだが。

 

 

 二科は一科に気を遣わなくてはいけないなどと、一体誰が決めたというのか。

 

 

「僕達は彼女に相談することがあるんだ!」

 

「ハン!そういうのは自活中にやれよ。ちゃんと時間は取ってあるだろうが」

 

「相談だったらあらかじめ本人の同意をとってからにしたら?深雪の意思を無視して相談も何もあったもんじゃないの。高校生にもなって、そんなことも知らないの?」

 

 幸いと言っていいべきか、今日の内に出来た友と言えるのであろう存在はそういう不条理をよしとしないタイプの人間だったことか。

 

 騒ぎの中心にいるはずの司波深雪や、達也にとっては幸いかどうかは別だろうが。

 

「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが僕達ブルームに口出しするな!」

 

(根に持ってるんかなぁ・・・)

 

 思い出すのは昼食時のこと。

 いろいろ嫌味を言った気がしなくもないが、はっきりと差別用語を使ってる点から根に持ってるのかもしれない。

 とは言うものの反省をするつもりはないし、個人的には時間を取られたくない。

 早めにお灸を据えるのが一番だろう。

 

「ブルームブルームうるさいけどさ、お前ら今の時点で俺たちとでは大した差ではないだろ?恥ずかしい思いしておく前にやめておけ」

 

 言ったのは紛れもない事実。レオの戦闘センスは見ていてかなり良い部類だし、エリカに至っては武人の風格さえ感じられる。

 恐らく初撃は間違いなくこちら側。もちろん、初動は頂くが。

 

 売られた喧嘩は相手を叩き潰すつもりで買う。人間社会に権力の根を張る必要が出て来た時からの経験則だ。

 

「・・・そこまで言うんだったら、痛い目を見せてやるぞ」

 

「ハッ、おもしれえ!是非ともやってもらおうじゃねぇか」

 

 レオの言葉で、お互い臨戦態勢になる。

 間合いはさほど遠くない。

 

 

「だったら、教えてやる!」

 

 

 先頭の彼が、CADを抜く。

 これで、"見ている奴に対しても"名分はなんとかなるだろう。

 

 

 素早く間合いを詰めて、腹部に一撃。

 

 それだけで、彼は崩れ落ちた。

 

 

「ほら見ろ。一体どれほどの差があるんだ?」

 

「・・・出る幕がなかったぜ」

 

「アンタは馬鹿みたいに突っ込んでいってたからどっちにしろ無かったわよ。でも一歩遅れたのは悔しい」

 

「"新人教育"ってやつだ。残念ながら俺はお前らみたいに"CADだけを狙うほど優しく"はない」

 

 もはや目の前の一科生のことを気にもかけずに楽しく話している光景は、どちらの側から見ても呆気に取られるしかないだろう。

 

 いち早く我を取り戻したのは、一科側のクラスメイトだった。

 

 後方にいた女子生徒が、とっさにCADを起動していた。

 恐らく起こる効果は、フラッシュによる目くらましといったところだろうか。

 なるほど、先ほど腹に一発食らわせた彼よりはよほど魔法師としての才能はあるのだろう。

 

 

 ただし、周りを全く見えていなかったが。

 

 

「止めなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に犯罪行為ですよ!」

 

 その言葉と共に想子の弾丸が打ち込まれ、魔法式が砕け散る。

 出て来たのは、生徒会長・七草真由美と風紀委員長・渡辺摩利。

 その姿を認めると、攻撃しようとしていた女子生徒の顔が蒼白になった。

 悪いことと分かっていても止めることが出来ないのは、まだ人間が出来てない故か。

 

「あなたたち、1-Aと1-Eの生徒ね。事情を聞きます。ついて来なさい」

 

 当たり前だ。帰り際にこのような騒ぎを起こしたのだ。見つかったら風紀委員にお世話になるのは決定事項に等しい。

 ただ、個人的には時間を取られたくはないし、目を付けられたくもない。

 

 その状態を解決してくれたのは、達也だった。

 

「すみません。悪ふさげが過ぎました。」

 

「悪ふざけ?」

 

「はい。森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学のために見せてもらうだけのつもりだったんですが、あんまり真に迫っていたもので、思わず手が出てしまいました」

 

「出したのは俺ですけどね」

 

 一応名乗り出ておく。たぶん無意味だろうが。

 

「・・・それを含めて言ってるんだ」

 

「まぁ、いい。ではその後に1-Aの女子が攻撃性魔法を発動しようとしていたのはどうしてだ?」

 

「驚いたんでしょう。それに、攻撃といっても彼女が発動しようとしていたのは目くらましの閃光魔法です。さほど強力でもありませんよ」

 

 やはり、"彼"には見えるか。

 あの時の検査の結果は、やはり間違ってなかったのだろう。

 ただ、それをはっきり言ってしまっていいのか?普通隠すものだと思っていたのだが・・・。

 

「ほぅ・・・どうやら君は、展開された起動式を読み取ることができるらしいな」

 

「実技は苦手ですが、分析は得意です」

 

「・・・誤魔化すのも得意なようだ」

 

 実際に誤魔化せているかどうかは微妙なものだが。

 まぁ十中八九嫌味だろう。そうでなかったらそんなセリフは吐かない。

 

 幸い、誤魔化せてなくても事態は収拾するようだ。

 

「摩利、もういいじゃない。達也くん、本当にただの見学だったのよね?」

 

 ・・・名前呼びってことはもしや知り合いか?これに関しては後で聞いてみるか。

 

「生徒同士で教えあうことは禁止されているわけではありませんが、魔法の行使には起動するだけでも細かな制限があります。魔法の発動を伴う自習活動は、一学期で授業で教わるまでは控えた方がいいでしょうね」

 

「・・・会長がこう仰られている事でもあるし、今回は不問にします。以後このようなことの無い様に」

 

 こう言った後、踵を返し一歩踏み出したところで風紀委員長は足を止めた。

 

「君"達"の名前は?」

 

「一年E組、司波達也です」

 

 達也がそう答えると、視線がこちらに向いた。

 ・・・やっぱり目を付けられるか。まぁいいけど。

 

「同じく一年E組、河原借哉です」

 

「覚えておこう」

 

 その言葉を最後に、彼女達の姿は校舎へと消えていった。

 

「仕事やってるうちに忘れてくれてるとありがたいな」

 

「同感だ。ただ、真っ先に騒ぎを大きくしたお前が言うな・・・」

 

 やはり少し達也にとっては俺が言うべきセリフではなかったようだ。

 だが、今回ばかりは感謝の一言しかない。あそこで時間を取られるのは避けたい。

 

 

 出来れば早いうちに、"彼"から話を聞きたいのもある。

 

 持っている、"能力"をどれほど自覚しているかについてを。

 

 




借哉は武器を落としてやるほど優しくはない。
間合いのつめ方それそのものはエリカの移動とほぼ変わりません。CADに対して一瞬怯んだかどうかの差でしかなかったり。
え?全力かって?そんなわけないでしょうHAHAHA。彼は人の目のあるところで本気なんて出しませんよ。

次はいよいよ一科と二科で一緒に下校。これを機に意識の壁が取り払われる!


かどうかは分かりませんが、楽しみに見てくれると幸いです。


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第九話~交流~

大筋はあっても、書き方が分からない。
よくあると思うんです


【Monday,April 4 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

「・・・借りだなんて思わないからな」

 

「貸してるなんて思ってないから安心しろよ。腹は大丈夫か?」

 

「・・・余計なお世話だ」

 

 借哉に殴られた男子生徒がようやく立てるようになったらしく、悪態を付いてきた。

 文字通り"痛い目"にあったのに曲げることのないその姿勢は、評価に値するだろう。

 

「本当にお気楽でいいことだな。もう一発欲しいらしい」

 

「やめろ借哉。今度は庇えないぞ」

 

 特に、未だ誰よりも血が上っていそうな奴の目の前で態度を変えない事に関しては。

 男子生徒はこちらの方を向き、名乗りをあげた。

 

「お前が言ったとおり、僕の名前は森崎駿。森崎の本家に連なるものだ。」

 

「・・・それで?森崎の本家に連なるお坊ちゃんがどうしたんだ」

 

 借哉の煽りが混じった質問に対して、森崎は棘のあるセリフを返した。

 

「俺はお前達を認めない。優れた者(深雪さん)優れた者(僕達)といるべきなんだ」

 

 そう捨て台詞を残して、他の男子生徒に肩を借りながら姿を消していった。

 

「あそこまで強情張りだと逆に感心するな。どこまで意地を張れるか、見ものだな?」

 

 借哉がこちらに対して視線を向ける。

 別に森崎のプライドをへし折ることに興味などない。

 興味があるとしたら、そんなことを問いかける張本人についてだ。

 

「お兄様、もう帰りませんか?」

 

「そうだな。四人とも帰ろう」

 

 とにかく精神的に疲れた。これ以上ただ面倒なだけの事は避けたい。

 そう思って足を進めようとして、

 

「あ、あの!」

 

 呼び止められた。

 先ほどの女子生徒だ。

 出来るだけ今日はこれ以上関わりたくなかったのだが、そう断る前に相手から先に口を開いた。

 

「光井ほのかです。さきほどは本当にすみませんでした。失礼なことをしたばかりか、庇ってくれてありがとうございます。森崎君はああ言いましたけど、大事にならなかったのはお兄さんのおかげです」

 

「・・・どういたしまして。でも、お兄さんは止めてくれ。達也、でいいから」

 

「分かりました。それで、その・・・・」

 

「・・・なんでしょうか?」

 

「・・・駅までご一緒してもいいですか?」

 

 どちらかというと、好意的な意味を含むその言葉に、全員拒否する道理などなかった。

 

 

 

 

「・・・じゃあ、深雪さんのアシスタンスを調整しているのは達也さんなんですか?」

 

「ええ。お兄様にお任せするのが、一番安心ですから」

 

「少しアレンジしているだけなんだけどね。深雪は処理能力が高いから、CADのメンテに手が掛からない」

 

 "普通の"高校であればごく当たり前にありそうな雰囲気。

 しかし、"魔法科"高校という枠で見てみると"一科"と"二科"がこのような状況を作り出しているのはかなり珍しいといえるだろう。

 お互い、きちんと理解しようとさえすれば案外仲良くなれるのかもしれない。

 

「CADの基礎システムにアクセスできるスキルがあるんだからな。大したもんだ」

 

「しかも高校生でそれだからな。将来有望な魔工技師になれるな」

 

「どうせならあたしのホウキも見てもらえない?」

 

「無理。あんな特殊な形状のCADをいじる自信はないよ」

 

「あはっ、やっぱりすごいね、達也くんは。これがホウキだって分かっちゃうんだ」

 

 そういってエリカが取り出したのは、先ほどの騒動でエリカが使おうとしていた警棒だった。

 とはいっても、それをCADだったと分かっていたのは俺以外だと深雪ぐらいだろうが。

 

「えっ?その警棒、デバイスなの?」

 

「うんうん、普通の反応をありがとう、美月。皆が気が付いていたんだったら滑っちゃうとこだったわ」

 

「・・・どこにシステムを組み込んでるんだ?さっきの感じじゃ、全部空洞ってわけじゃないんだろ?」

 

「ブーッ。柄以外は全部空洞よ。刻印型の術式で強度を上げてるの。硬化魔法は得意なんでしょ?」

 

「・・・術式を幾何学模様化して感応性の合金に刻み、想子を注入することで発動するって、あれか?そんなモン使ってたら、並みの想子量じゃすまないぜ?」

 

 レオの得意分野だけあって、そこそこ悪くない回答を出した。

 しかし、結果は半分はずれだった。

 

「流石に得意分野ね、でも残念。強度が必要になるのは、振り出しと打ち込みの瞬間だけ。その刹那を捕まえて想子を流してやれば、さほど消耗しないわ。兜割りと同じよ」

 

 ただし、エリカからもたらされた正解は限りなく次元が違うものだったが。

 

「エリカ・・・兜割りって、それこそ秘伝とか奥義に分類される技術だと思うのだけど。単純に想子量が多いより、余程凄いわよ」

 

 深雪が全員を代表して答えた、何気ない指摘だったがエリカの強張った顔は彼女が本気で焦っていることを示していた。

 

「達也さんも深雪さんも凄いけど、エリカちゃんも凄い人だったのね・・・。うちの高校って、一般人の方が珍しいのかな?」

 

 美月の天然気味な発言に答えたのは、それまで押し黙っていた北上雫だった。

 

「魔法科高校に一般人はいないと思う」

 

 この言葉で、いろいろと訳ありの空気は霧散する。

 その言葉に一番反応したのは借哉だった。

 

「確かに、全員並みの人間じゃあないよな。まぁ退屈しないでいいのかもしれんがな」

 

「本当にそう思ってるのか?心底面倒くさそうな顔をしているぞ」

 

 そう返すと、借哉は意味ありげに笑った。

 

「まぁ、そういう気持ちもない訳ではないがな。ただ、単純に"興味がある"ってだけだ。俺自身の問題もない訳ではないしな」

 

 そう言うと、彼は一枚の紙切れを渡してきた。

 恐らく中身は、公には話せない内容。

 

 

 やはり、そう来るか。

 何もない場合は、こちらから提案するつもりではあったのだが。

 

 

 紙切れの内容は、たった一文のみ。

 全ては、そこで始まると言わんばかりのものだった。

 

 

 

 

『21:00 高校付近の公園にて待つ。内容は"入学式前の事について"』

 

 




最近どんな感じに書こうか悩んじゃうんです。
こんな感じに進めようとは思ってるけど、どういう風なやり取りが自然か、みたいな。
元コミュ障の私には到底わかりっこないんで行き当たりばったりなんですけどね。

ついでに、エリカのCADについては借哉は気づいていませんでした。
中が空洞ってのは分かるけど、それ武器になんの?みたいな。
ただ、魔法師だしそういうもんなのかって流してるだけです。

次回、始めてのお話(腹黒)。やっと序盤の雰囲気に戻れる。


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第十話~密談~

オリ主が久々に黒スーツを着ます。
そして話が始まってから始めてまともに煙草を吸います。

もちろんオリ主は今は高校生なだけで年齢とか訳わからん桁になってますから違法じゃありませんよ?


【Monday,April 4 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

『 第一次調査報告

 

 名前:司波達也

 父親:司波龍郎

 母親:司波小百合*ただし正確性に欠ける。別途資料参考

 兄弟姉妹:司波深雪(妹)

 

 中学時代は優等生として過ごす。現在魔法科高校の高校生だが、FLTのモニターを勤めている。

 

 推測:パーソナルデータに関しては疑う余地こそないものの、出生関連に偽造された形跡あり。追加調査が必要と思われる。』

 

 

 

「表向きは稼げるアルバイトをやっている高校生、か。だがかなり高度に隠されてるな。これ程の隠蔽スキルを持つところはまさに政治部分にかなり食い込んでる所だろうな・・・。」

 

 入学前は常日頃から着ていた黒スーツを身につけ、煙草を吸いながら"彼"を待つ。

 何故サラリーマンのような格好をするのかと冷戦時に言われた事があるが、むしろ目立つ格好をする方がいろいろ支障が出て来る。ただの"人間"で俺たちのことを知っている者達はいつも俺たちが椅子の上に座って指示を出すだけの人間だと思っているようだが、そんなことが出来るのは人間社会を調整する時だけだ。

 

 それに、案外着てて落ち着く。気が引き締まった感覚は案外重要なものだ。

 

 

「何でもまずは初めが肝心。初動でミスをするとずるずると事態が長引いていく・・・。

 

                        そうは思わないか?達也」

 

「無駄話をしたいわけじゃない。早めに用件を済ませたい」

 

 

 待ち人は、やってきた。

 流石に制服で来ることは無かったようだ。春用の私服を着ていた。

 

「そう急かさなくても話は長くなるかも分からん。ちょっとした小話ぐらいは構わんだろう?」

 

「話のスケールが大きくなかったらまだいいがな。それと、未成年は喫煙禁止だぞ」

 

「許せよ。こう見えて高校に入る前は"仕事前には何時も吸ってた"」

 

 空気が張り詰める。

 今俺が言ったことは"高校に入る前は裏の仕事に就いていた"というような物だ。

 そして、それが理解できるということは恐らく彼も"裏側の人間"なのだろう。

 ただ、今の状態で敵対する気はないが。元々対抗できる手段がないのだ。

 

「そう怖い顔するな。呼んだのは俺だが、聞きたい事はいくつかあるんだろう?答えられるかどうかは分からんが、とりあえず言ってみろ」

 

 そう質問を促すと、彼は一番疑問に思っていたであろうことを聞いてきた。

 

「・・・空き缶を"消した"あの力、あれは一体なんだ?」

 

 それに対してはまさしく乾いた笑みを浮かべることになるのだが。

 

「それこそ答えられない質問ってやつだ。ただ、口外してくれるな?すでにある程度の場所には漏れてるだろうが、心配するな。"揉み消せる"」

 

「どうだかな。条件次第、だろうな」

 

「心配するな。お前の家族に手を出すつもりはないよ。"今のところはな"」

 

 もちろん本当の事ではあるのだが、そもそも手を出すほど"彼"の家族に異常はない。外交バランスを崩壊させかねない場合はその限りではないが、まずそもそもの目的は"彼"自身だ。

 

「・・・じゃあ、何が目的なんだ?」

 

「"あまり派手なことをするな"。たとえ世間にばれないようなことでも、だ」

 

 本来ならこんなことをいう前に消しているのだが、生憎彼は"コマンドで消せなかった"。そうなると物理的に殺すのが選択肢に入るが、まさか"24時間間隔をほぼ開けずに殺し続ける"なんてことができるはずもない。太陽を地表に持ってこない限りできる話ではない。しかもそんなことを実際にやったとしても"太陽を分解されかねない"。まったくもって迷惑な話だ。

 

「・・・それだけ、なのか?」

 

 もっとも彼にとっては意外な要求だったらしく、表情こそあまり変えないものの拍子抜けといった様子だったが。

 

「それだけだよ。もしお前が"派手なこと"をした場合取り返しがつかないことに成りかねない。そうなったら誰も後始末なんぞ出来ないんだ。"力に責任を持て"」

 

「言われなくても分かってる。それだけが目的で呼び出したのか?」

 

「まぁ、半分はこれさ。ただ、もう半分。聞きたいことがこっちにもあってな」

 

 大きく息を吐き出す。これを聞いて事態が悪化しなければいいのだが。

 

「お前、どこまで自分の"力"を把握している?」

 

「・・・どういう意味だ?」

 

「そのまんまだよ。一番怖いのがお前が自分の力を"完全に把握してない"ことだ。別にお前に助力するつもりもないから"視た結果"は言うつもりはないんだがな。こっちでわかるのはお前が"眼"の力に関しては理解してるってことだけだ。他には何を把握してる?」

 

「言うと思うか?味方かもわからん奴に」

 

「既にお前が知っている以上に把握してるんだ。隠したって無意味だぞ?・・・もし信用できないっていうなら、ヒントをくれてやる。"分解"はできるんだろう?」

 

「・・・やはり"視えていたか"。」

 

 ほぼ情報のタダあげのようなものだが、彼の反応からするとどうやら"分解"は理解しているようだ。

 どこまで理解しているかは、まだわからないが。

 

「・・・俺は"分解"と"再成"を魔法演算領域に常駐している。"分解"の効果は知っているだろう。"再成"は名前の通りだから省くぞ。ただ、回復するためのエイドス遡及上限は二十四時間。再成が無限なのは"ダメージの規模"だけだ。"分解"も"再成"も干渉力はかなり上だ」

 

「・・・なるほどな」

 

 やはり、すべては理解していないか。

 具体的な値はいいのだが、能力の一つを"誤認している"。

 ・・・まだ決定的な改変が起こるものでもないだけ、救いか。

 

「とりあえずはわかった。わざわざ呼び出して済まないな」

 

「話は終わりか?案外あっさりとしているもんだな」

 

「そりゃあそうさ。お互い"全ては語れない"」

 

 背を向け、吸い殻を携帯灰皿に入れる。

 今回は、どちらかと言ったら吸った方だった。

 

「俺が言ったことをよく覚えておけ。"派手なことはするな"。それを破ったとき、果たしてお前の家族が無事かどうかは、俺にはわからん。まぁ、別に魔法師の内輪だけで済む範囲ならいくらでも構わんがな」

 

 そう言って、公園を去っていく。

 

 

 "彼"は、きちんと含む意味を理解しただろうか?

 まだ、仕事は終わらない。

 

 




やーっと最初の密談が済みましたね!自分はもはや満足です。
オリ主は本当に伏線をばら撒きながら釘を刺すことしかできないからどうしても遠回りになってしまいますねはい。まぁまさか達也にすべてを話すことなんぞまぁ最低でも8巻の範囲まではありえませんな。

次回、主観なぞない。たぶん日付が変わったら投稿する。


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第十.五話~裏側~

バレバレかと思いますが誰かはご想像にお任せします。
あと、地点に関してはもうほぼ適当です。真に受けないでください。

なお、今回はほぼ蛇足に近いかも?
〇.五とかつけた場合は今回みたいな形式になります。もう定点観測みたいな。


【log:Monday,April 4 2095

point:35N138E   】

 

 

 

 

「・・・もう達也さんは接触したかしらね?」

 

「さあ・・・・。しかし、いくら"彼ら"の目を誤魔化せても15年ほどが限界とのこと。事実達也殿からの報告もありましたし、恐らくそろそろ何等かの行動は起こして然るべきかと」

 

「まぁ、達也さんを消すのは"彼ら"でも無理よ。"彼ら"の力は、自分たちより下位の人間にしか使えない。お互いを滅ぼすだけの力がない限り、達也さんを消すことはできないでしょうね」

 

「・・・達也殿に関しては問題はないでしょうが、深雪様や奥様に被害が及ぶ可能性もない訳ではないと思われますが」

 

「心配いらないわ。"彼らの性質"は既によく"聞いてる"わ。彼らは世界を揺るがしかねないような対象にしか牙を向かない。それは知っているでしょう?」

 

「しかし、"四葉"そのものが対象に入ってしまった場合は・・・」

 

「その場合は2062年の時点で対象に入ってしまっているわ。そして、たとえ自らの権力が及ぶ範囲ではなかろうとも"彼ら"は対象に対しては容赦はしない。そのことはまさに"1999年の時の経験"によって徹底されているわ。そして、今でもそれがないってことは、対象には入っていないということ」

 

「・・・では、"彼ら"の目標は達也殿だけになると?」

 

「私たちの中では、ね。私も深雪さんも魔法師としては優れているわ。だけど、世界にとって有害と言えるほど強力じゃない。

・・・でも、達也さんは違う。彼の場合は、今すぐにでも世界を滅ぼすことができる特大の爆弾。"彼ら"の目も、しばらくはそちらに行くでしょうね」

 

「その間に、彼らのネットワークに割り込みを掛ける御積もりですか?」

 

「まさか。そんなことをしようものなら今度は四葉が大漢と同じ末路を歩むことになるわ。むしろ必要なのは"彼ら"との接触ね。今現在"彼ら"にコンタクトを直接取れるのはまさに国のトップ以外は不可能。もし、そこに入り込むことができたら、フリズスキャルヴなんて足元にも及ばないレベルの情報収集能力と、国に対する影響力を得ることになる。必要なのは、"彼ら"に私達が"国とほぼ同等の影響力を持ち、なおかつ彼ら自身が関わる必要と価値がある"と理解させることよ。その為にも、達也さんにはもう少し働いてもらわないとね」

 

「では、どのように達也殿には?」

 

「特に何かを指示する必要はないわ。勝手に"彼ら"は達也さんを追ってくれる。そして、いつかは"私達"にたどり着く。それまで気長に待つだけよ」

 

「では、そのように」

 

「果たしてその時がいつになるのか、楽しみね」




毎回達也とオリ主以外の描写するときどうすればいいか悩んだんですよ。特にPersonの名前とか法則性つけるのだっるとか思ってましたはい。

結果?先延ばしですよはい

あと、感想ありがとうございます。ちょっとした範囲だったらいろいろ答えるつもりなので、これからも読んでいただければ幸いです。

まぁまずは自分が確認した範囲で、なおかつ答えられる範囲でのことを。

管理者や調整者の、創造主に対する忠誠心は完璧ですね。自己の存在を維持することがその立場上完璧に保護されている為、"自分の為"ってのはほぼありません。ほとんどは"創造主様の為"か"仕事の為"みたいなもんです。

マトリックスのエージェントみたいなのはまぁそれもイメージの一つとして考えていたからでしょう。
しかし個人的な彼らのイメージはFate/Zeroの衛宮切嗣とマトリックスのエージェントを足して2で割った感じっていう。
彼ら自身自我がもちろんあります。それぞれの価値観も根本的には同じとはいえわずかな差異もありますし、今までの経験とか必要上やった行為がそのまま習慣になってたりもします。結構人間っぽいんです。煙草やらコーヒーやら嗜んでるのはほぼそれが原因っていう。


次回。日付が変わるでしょう。達也さんモテモテね。


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第十一話~傍観~

達也大変だなー入学二日目からほんとねー by借哉

なお日和見できる訳ではない模様。



【Tuesday,April 5 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 とりあえずは一定の釘刺しを昨日行い、最初の報告を整理し終わった。

 これからは基本打開策が見つかるまでは情報を待ちつつ高校生を演じる必要があるだろう。

 

 駅で昨日のメンバーとも合流し、いざ登校しようとして、

 

「達也くーん」

 

 "彼"の足が止まった。

 

「達也さん・・・会長さんとお知り合いだったのですか?」

 

「一昨日の入学式が初対面・・・のはずだ」

 

「そうは見えねえけどなぁ」

 

「わざわざ走ってくるくらいだもんね」

 

「どう考えてもつい先日知り合ったばかりですって感じには見えないな」

 

 生徒会長がわざわざ新入生、それも二科生相手に小走りで近寄る理由というのが見当たらない。

 確か彼女は"七草家"の一員だったはず。魔法師社会の頂点の一角である家の、息女。

 もしかして"彼"は、"十師族"に関係する人物か・・・?

 

 

 いや、"彼"は正真正銘何がなんだかわからないといった表情を出している。きっと無関係だろう。

 

 

「達也くん、オハヨ~。深雪さんも、おはようございます」

 

 この落差である。例え知り合いだったとしてもこの扱いは心にくるものがあるだろう。

 

「おはようございます、会長。お一人ですか?」

 

「うん。朝は特に待ち合わせはしないんだよ」

 

 流石に分からなくなってきた。魔法師の社会というのはこれが普通なのか?何で誰も突っ込み入れないのだろうか。当たり前なのかこれは。

 

「深雪さんと少しお話したいこともあるし・・・ご一緒しても構わないかしら?」

 

「はい、それは構いませんが・・・」

 

「あっ、別に内緒話をするわけじゃないから。それとも、また後にしましょうか?」

 

 今度は俺含む四人に向けられた言葉。

 やはり、疑問は吐き出すべきだろう。

 

「あの・・・・これが"普通"なんです?」

 

「そんな訳ないだろ・・・今回は"異常"なだけだ」

 

 答えは、達也から。

 気持ちは分かる。俺自身、何が正常で何が異常なのか分からなくなってきた。

 

「それで・・・お話というのは、生徒会のことでしょうか?」

 

 妹さんが空気を察し、話を自分の方へ引き寄せたようだ。

 本当にありがたい。今のやり取りは生徒会長の言葉遣い以上に失礼にあたる。

 

「ええ。一度、ゆっくりご説明したいと思って。お昼はどうするご予定かしら?」

 

「食堂でいただくことになると思います」

 

「達也くんと一緒に?」

 

「いえ、兄とはクラスも違いますし・・・」

 

 恐らく彼女が気にすることは、昨日の出来事だろう。

 彼女はやけに兄・・・達也のことを優先させる性質がある。ソレは達也にも言えたことのようにも見えるが・・・。恐らくは達也に遠慮しているのだろう。

 

「変なことを気にする生徒が多いですものね」

 

「今のところは落ち着きそうな気がしなくもありませんがね」

 

 何せ主犯格の腹に一発食らわせただけある。最低でも飯時にちょっかいを出す輩はいないだろう。

 ・・・そうでありたい。

 

「じゃあ、生徒会室でお昼をご一緒しない?ランチボックスでよければ、自配機があるし」

 

 時代は変わった。まさか生徒会室にダイニングサーバーがあるとは。

 最低でも昔は生徒会室はそこまで贅沢じゃなかったはずだ。

 

「生徒会室なら、達也くんが一緒でも問題ありませんし」

 

「・・・問題なら有るでしょう。副会長と揉め事なんてごめんですよ、俺は」

 

「はんぞーくんのことなら、気にしなくても大丈夫」

 

 はんぞーくんとはまたどこぞのアニメにありそうなあだ名を・・・。しかも彼の本名は確か・・・。

 

「・・・それはもしかして、服部副会長のことですか?」

 

 やはり合っていたか。本名とはいえ、服部副会長の心情は理解するべきだろう。

 

「そうだけど?

 はんぞーくんは、お昼は何時も部室だから」

 

 ほぼ予想通りだった。

 今期の生徒会は副会長を除き全員が女子で構成されている。

 そんな中で昼飯を食べようものなら食べるより先に胃に穴が開く。

 

「なんだったら、皆さんで来ていただいてもいいんですよ。生徒会の活動を知っていただくのも、役員の務めですから」

 

「お断りします。流石に食事の時ぐらいはゆっくりしたいです」

 

「せっかくですけど、あたし達もご遠慮します」

 

 飯の味も分からなくなりそうな部屋での食事など御免被る。

 同じ意見なのだろう。エリカ達も遠慮していた。

 達也には悪いが、彼には犠牲になってもらおう。

 

 

 

 後で、ついていけばよかったと後悔するなんて微塵も思ったりはしなかった。

 

 




出来れば一話でまとめたかったんですが、雰囲気的に区切れが悪いので分割したっていう。
書きたい話があるので今日も連投気味になるかも。

後、今まで暇だったのですが5月から忙しくなるので投稿ペースがかなり落ちると思います。一応ある程度スタックさせる予定ですがそこは勘弁を。


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第十二話~奇貨~

オリ主は基本的に飯時を大事にします。ゴローちゃんみたいに。

この一言で全てを察するべきでしょう。要するにバトル回。


【Sunday,April 5 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

「正気ですか渡辺先輩!"二科生(ウィード)を二人も風紀委員にいれる"など!」

 

「よくも風紀委員の前でその言葉を使えるな服部刑小丞範蔵副会長」

 

「フルネームで呼ばないでください!」

 

「あの、もう副会長の精神衛生が大変なことになっているので、"俺の風紀委員入り"は止めた方がいいのではないのかと・・・」

 

 

 夕方の、生徒会室。

 恐らく外にも聞こえるであろう、白熱した抗議が副会長により行われている。

 その中で、ただ直立不動で待っているのは、昼に呼ばれていた"彼"ではなく、呼ばれていないはずの俺。

 何故、とは言わない。理由は分かりきってるから。

 ただ、どうして"昼"にあんなことをしたのだろうかと、今更ながら後悔していた。

 

 

 

 

 

 すべては、昼食時に始まった。

 前回と同じように定食を買い、ついでに何時も飲んでいるコーヒーを用意したところだった。

 

「借哉、わざわざ缶コーヒーを選ぶよな。好きなのか?」

 

「案外昔から飲んでてな。これじゃないと落ち着かない」

 

「案外コーヒーが好きなんだね。通なの?」

 

「いんや。コーヒーマニアではないさ。ただ、これの方が飲みなれてるってだけで」

 

 ちょっとした小話をしながら席を探していると、不意に一科生がこちらの方に向かってきた。

 いや、"こちらの方"というには語弊があるか。正確には、"俺の方"に。

 明らかに、ぶつかる意図で寄ってきている。

 だが、甘い。生憎このようなことは何回も経験している。

 完全に当たると思わせた距離で避ける。もちろん、トレーを落としたりなどはしない。

 完全に予想外というような表情をしているが、まだまだ甘い。

 

 たとえ、二段構えの作戦を構えていても。

 

 すぐ近くの、椅子に座っていた別の一科生が転ばせる意図で足を出してきたが、ちょっとしたジャンプで直ぐ回避。

 もし本当に俺のことを転ばすつもりなら、少なくともこそこそとやるようでは無理だろう。

 

 

「甘いんだよ。もうちょっと腕を磨いて出直してこい"新米(ルーキー)"」

 

 

 この言葉が、不味かった。主に、最後の単語が。

 

 

「・・・っ!ウィードごときが生意気な!」

 

 先ほど足を引っ掛けようとしていた一科生が立ち上がり、殴りかかってくる。

 が、挙動が丸分かりな状態で素直に殴られる馬鹿はいない。素直に回避。

 

「やめろっての。今から飯食うんだから、喧嘩するにしてもその後な」

 

「おい、借哉大丈夫か!」

 

「先行っててくれ。"じゃれあってるだけ"だしな」

 

「・・・てめぇ!」

 

 今度は蹴りを繰り出してきたが、格闘技を習い始めたばかりの素人より酷い。後ろに下がって素直に回避。

 しかし、油断していたのだろう。不意に捕まれた。

 

「もうちょっと一科生(ブルーム)に対する礼儀を学ぶべきだったな」

 

 先ほどぶつかろうとしていた彼か。もう決まった気でいるらしい。

 足の先を思い切り踏みつける。トレーを持ってさえいなかったらいろいろ出来たのだが、そうでない限りは昔のドラマにあった手法が一番いいだろう。

 体を拘束していたたいせいが崩れる。すかさず体を捻って拘束から逃れる。

 そこに最初に手を出してきた生徒のパンチが"振りほどかれた彼"に炸裂する。

 かなり力を入れていたらしく、直ぐ隣の女子生徒が使っていた机に叩きつけられた。

 

「だからいっただろ。"甘い"って。昨日の森崎のことでだろうが、取りあえずは飯を食わせろ。これ以上騒ぎを・・・」

 

 言いかけたところで、トレーが"吹き飛んだ"。

 攻撃が飛んできた方を向く。

 更に別の一科生の男子が、"CAD"を手にしていた。

 

「見たかよ。これが一科生(ブルーム)の実力だ。こんなことも出来ない出来損ないごときが、森崎を不意打ちで倒したぐらいで調子に乗るなよ」

 

 一気に周りが一時的なパニックになる。レオ達はこっちに来ようとしているが、人の波に逆らえずに押し戻されている。

 

 周りには、CAD持ちが二名と、先ほどの彼らを含めた素手の輩が3名。

 

 一対五。一般的には限りなく不利だろう。

 だが、

 

「舐めるなよ。"そんなおもちゃが万能な訳はない"んだ。それにな・・・」

 

 

 もう、堪忍袋の尾は切れている。

 人として、最も私利私欲が消えやすい、数少ない真の幸福の時間を、彼らは奪った。

 

 

「俺の飯や、人様の飯を邪魔した罪は軽いと思うなよ!」

 

 

 手近にあった金属製のスプーンをCAD持ちの一名の顔面向けて投げつける。

 既に展開を完了させていたようだが、突然の飛翔物を前に対象をスプーンに変えた。

 スプーンが正反対の方向に飛んでいく。

 しかし、スプーンに気を取られた時点で彼の負けだ。

 投げると同時に地を蹴り、素早く一撃。

 速度の乗ったパンチを腹に食らえば、大した訓練もしていない魔法師の意識ぐらいは刈り取れる。

 

「このっ!」

 

 もう一人のCAD持ちが、魔法を起動させた。

 "エア・ブリット"と呼ばれるらしい、空気の弾丸。

 だが、優れた魔法師なら今の動きからソレを選択したりはしない。

 なぜなら、例え空気でも、弾丸ならば"楽に避けられるのだから"。

 

「だから言ったんだよ。新米(ルーキー)ってな!」

 

 弾丸を避け、突進。

 弾丸は避けられると見て、あわてて別の起動式を展開しようとするが、それこそ判断ミス。

 この状況ならむしろ、既に展開済みのエア・ブリットを使った牽制射が有効だ。

 それなのにまともな判断が出来ず、パニックに陥る魔法師を新米といわずになんと言う。

 

「恨むなら軽率な行動をした自分を恨め!」

 

 突進の後、頭をつかみ地面に叩きつける。

 恐らくしばらくは顔が残念なことになるだろうが、自業自得だろう。

 

「・・・さて、残り"三人"か」

 

 唖然としていた素手の三人の、肩が反応する。

 今回は、俺が"狩る"側。

 

「今のうちに反省は済ませておけ。気が付いた時に保健室にいるといいな」

 

 

 

 

 

「確かに、こいつは少々過激かもしれん。だが、"魔法を使わずに、正面から複数の魔法師を相手にして全員を鎮圧する戦闘力"があれば風紀委員として十分な能力がある。」

 

「だからといって"教員に掛け合ってわざわざ森崎駿の教職員枠を潰し、代わりに問題の大本である河原借哉を入れる"必要はないでしょう!」

 

「元々入学二日目で問題を起こす輩だ。それよりは"多少性格に問題があっても他者を重んじることが出来る、有能な奴"を登用した方がいいに決まっている」

 

「ですが"食堂で大乱闘を起こし、相手を全員保健室送りにする"人物が風紀委員に向くと思っているのですか!」

 

 結果はこの有様である。

 風紀委員が駆けつけたときには俺の周りはまさに西部劇のように荒れ果て、周りにはノックダウンさせられた五人の一科生が倒れていた。

 その後流石にお咎め無しとは行かず、午後の授業を全て欠席にしてひたすら事情聴取。

 ありのままを話した後、いきなり風紀委員長がひらめいたアイディアが"俺も風紀委員に入れる"であった。

 も、というところがミソである。どうやら達也は一足先に風紀委員入りが確定していたようだ。

 別に"彼"が風紀委員になろうがどっちでもいいのだが、流石に自分のこととなると遠慮したくなる。

 このことは、予想しておくべきだったのかもしれない。

 

 

「・・・失礼します」

 

 ほぼ戸惑い気味で、妹さんと達也が中に入ってくる。

 

「おっ、来たな」

 

「いらっしゃい、深雪さん。達也くんもご苦労様」

 

「話を聞いてるんですか渡辺先輩・・・!」

 

 ほぼ何時もどおりのような声をかける二人。服部先輩にはもうちょっと説得を頑張ってもらいたいが、この調子だと先に参ってしまうだろう。

 

「借哉、"随分派手にやったらしいな"?」

 

「まだいいんだよ・・・・。一応は高校内の出来事なんだから。ただ、欲を言えばもう帰りたい」

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

 恐らく"彼"にとっても風紀委員入りは不本意なのだろう。苦笑交じりの笑みを返された。

 

「・・・傍観者でいられると思ったんだが」

 

「諦めるんだな。渡辺先輩はああいう人らしい」

 

 

 余り積極的に関わるつもりはなかったのだが、この調子だと高校生活は忙しくなりそうだ。

 

 

 




最初のまともなバトルは食堂での乱闘でした。
オリ主の飯を吹き飛ばして周りの食事を台無しにしたんだからね、仕方ないね。
なお、今回の戦いは別に借哉だけが出来るわけではないです。達也とか当たり前のように出来ますし、そこそこ経験を積んだ兵士でも似たようなことは出来ます。
要するに、本当に相手がルーキーだったってだけっていう。


次回、服部副会長の頭皮がピンチに!


・・・ならないけどこの人案外苦労人になりそう。

【追記】誤字気づいた範囲で修正しました。


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第十三話~観察~

たぶんしばらくはオリ主視点が続く。
その方が書きやすいから。



【Sunday,April 5 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

「・・・どうあっても彼らを風紀委員に入れるつもりですか?」

 

「どうやったら納得するつもりだ?」

 

 

 達也達が入ってきて、十分ほど経っただろうか。

 妹さんは既に生徒会の業務に案内され、ほぼ風紀委員入りが決まっているらしい二人でただ黙って口論を聞いていた。

 

 服部副会長が二科生の風紀入りを認めたくないのは、実力の問題。

 もちろん二科生ごときが、というのもある。しかし、本質は"二科生は弱いのだから矢面に出ては行けない"という、どちらかというとまだ差別的でない考え方だ。

 その点で認めたくないのは、恐らく達也だろう。

 何せ、彼はまだ"達也の実力を知らない"のだから。

 では俺はいいのか。答えは否である。

 ほぼ正当防衛とはいえ食堂で乱闘する輩を入れるのはやはり抵抗があるのだろう。

 しかし、渡辺委員長の言い草も筋が通っている。

 何しろ、二人とも風紀委員に入ったら確実に有能なメンバーになるであろうから。

 

 服部副会長は、言い合いに疲れていたのだろう。"最も自分が納得し得る方法"を選択した。

 

「・・・河原借哉に関しては、そう呼びたくはありませんが"実績"はあります。ですから、彼の管理を徹底するなら、まだ理解できます。しかし、自分は司波達也に関してはどのような力を持っているのか知らない。その分析能力とやらが、どれほどのものなのか。そのためにも、」

 

 

 一拍置いて、彼は切り出した。

 

 

「彼と模擬戦をさせてください」

 

 

 

 

 いきなり言っても演習室に空きなどないだろうとは思ったが、どうやら杞憂だったようだ。

 第三演習室。そこには何故か先ほど生徒会室にいた"全てのメンバー"が揃っていた。

 

「会長・・・仕事はいいんですか?」

 

「別に仕事はいつでも終わるわ。それより、頑張ってね。達也くん」

 

「人気でいいことだなぁ。後で服部副会長のご機嫌取り頑張ってくれ」

 

「勘弁してくれ・・・」

 

 傍から見ているだけでは完全に喜劇だ。個人的にはこの模擬戦より気になったりしている。

 

「よし、それではルールを説明するぞ。相手をしに至らしめる、又は回復不能な障害を与える術式、及び攻撃は禁止。相手の肉体を直接損壊する術式も禁止する。ただし。捻挫以上の負傷を与えない場合は許可する。武器の使用は禁止。素手による攻撃は許可する。蹴り技を使う場合は今ここで靴を脱ぎ、ソフトシューズに履き替えること。勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不能と判断した場合に決する」

 

 渡辺委員長がルールの説明を終え、達也と服部副会長の二人が開始線で向かい合う。

 

「果たしてどこまでいけますかね」

 

「どうだろうね~。リンちゃんはどっちが勝つと思う?」

 

「一見するとどう考えても服部副会長でしょう。ですが、"彼"のことを考えると、一概には言えません」

 

 そう言って市原先輩がこちらの方へ目を向ける。

 恐らくは、魔法を使わずに魔法師を鎮圧したという実例を見せ付けられている為だろう。尤も、正確に言えば満足には使えないというだけなのだが。

 

 恐らく、さほど目を見張るものはないだろう。本当に服部副会長の機嫌をどう直すかの方が気になる。

 

 どちらが勝つのか、分かりきっているのだから。

 

 

「始め!」

 

 

 渡辺委員長の合図と共に、服部副会長はCADを起動させる。

 展開したのは、基礎単一系統の移動魔法。

 恐らく俺の食堂での戦いから、避けられる可能性があるものよりは大雑把でも当たるものを選んだのだろう。

 愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ。

 確かに、彼は優秀な魔法師のようだ。

 

 だが、それは相手が普通の高校生だった場合の話だったが。

 

 達也はまさしく目にも留まらぬ速さで副会長の後ろに回りこみ、想子波の合成によって衝撃を増強させたものを、背中から食らわせた。

 

 服部副会長が、崩れ落ちる。

 

 

「・・・勝者、司波達也」

 

 

 結果は、俺にとっては予想したとおり、周りの者にとっては予想外だっただろう。

 限りなく、あっさりと終わった。

 

 




ってことで模擬戦の回。
オリ主が食堂で一科生を蹴散らしたので服部副会長は原作よりもちょっとだけ前向きな検討をしていたっていう。だから彼から模擬戦を切り出しました。

え?なんで達也が勝とうとしたかって?そりゃおまえさん深雪の前で負けるわけにはいかんでしょう。


ついでに、何故オリ主の視点が増えるかというと単純に原作に沿った書き方をしなきゃいけない達也よりは書きやすいってだけです。悪しからず。細かく混ぜなきゃ面白くないんだけどねたぶん。

次回、そろそろ日常が戻ってくるか?


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第十四話~夕刻~

どっちで書こうか悩んだんですよ。
結局、日付を跨ぐことはないんだし達也側で書こうってなりました。

んで、つかの間の日常が戻ってきたよ!次の日からまた嵐だけど。


【Tuesday,April 5 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

「本当にお疲れ様だな。勝利祝いに何か奢ろうか?」

 

「どうせコーヒーしかないんだったら自分で買うから心配するな」

 

「ルートビアのつもりだったんだがな」

 

「東京でどう買うかも気になるが、それ以上に奢るといって何故ソレを選んだのかが一番気になる」

 

 服部副会長との模擬戦の後、もはや確定的になった風紀委員入りに抗議する余地などなく、今は借哉と一緒に渡辺委員長に連れられていた。

 

 といっても、遠いわけではなく、

 

「にしてもわざわざ生徒会室と風紀委員会本部の直通階段があるのか。どんだけコスト掛かってるんだろうなこれ」

 

 借哉が言ったとおり、直通階段があるためさほど苦労することはない。消防法は無視なのかと思いたくなる。

 

 渡辺委員長に続いて裏口を通り抜け、本部室へ足を踏み入れた二人は、一時硬直した。

 

「少し散らかっているが、まあ適当に掛けてくれ」

 

「少しっていうか・・・・有り体に言うと酷い。これが本当に女子も所属する委員会が使う部屋なのだろうか」

 

「そこまでいうか・・・」

 

「気持ちは分かるが抑えろ借哉。本人の前で言うのは失礼だ」

 

「気持ちは分かるのか・・・!」

 

 足の踏み場がないほど散らかっているわけでは、確かにない。

 だが、書類とか本とか携帯端末とかCADとか、とにかく色々な物で埋め尽くされた長机を見た場合、とても整理整頓をされてるとはいえなかった。

 

「達也。今回の場合、俺らがするべき行動はたった一つだと思うんだが」

 

「そうだな・・・」

 

 正直、見ていて耐えられない。

 

「委員長、ここを片付けてもいいですか?」

 

 

 

 そういうことで、借哉は棚の整理を、俺と委員長は机の上を整理することになったのだが。

 

「・・・なんていうか、言葉に出来ない」

 

「・・・すまない。こういうのはどうも苦手だ」

 

「借哉、このCADは恐らく棚のやつだ。そっちに入れておいてくれ」

 

「了解」

 

 ほとんど渡辺委員長は片付けに関しては役に立ってはいなかった。

 棚の方も先ほどよりかなり綺麗になりつつあるし、机も俺の周りはかなり整頓されてきた。

 

「うーん・・・このCADの群れはぶっ壊れてるかどうかもわからんな。達也、後でこれ見れるか?」

 

「分かった。だが先に固定端末の方を見させてくれ。CADは余り人気があるわけではないだろうからな」

 

「了解。棚にしまっておく書類はあるか?」

 

「左三つは時期が古い。一応分かる場所に片付けてくれ」

 

「左三つね。とりあえず本の近くに置いておく」

 

 恐らくそろそろ完全に片付けは終わるだろう。

 前よりは格段に良くなるはずだ。

 

 そこに、階段を降りてきた真由美がやってきた。

 

「・・・ここ、風紀委員会本部よね?」

 

「いきなりご挨拶だな」

 

 開口一番このセリフは借哉のそれと同じくらい無礼な気もするが、彼女の場合は気心が知れている為問題はないのだろう。

 

「だって、どうしちゃったの、摩利。リンちゃんがいくら注意しても、あーちゃんがいくらお願いしても、全然片付けようとしなかったのに」

 

「事実に反する中傷には断固抗議するぞ、真由美!片付けようとしなかったんじゃない、"片付かなかった"んだ!」

 

「酷い言い訳を見た」

 

 最後のセリフは、やはり借哉の物。

 先輩相手でもこの毒舌は変わらないのだろうか?本人は何気なく言っている気がするから余計性質が悪い。

 

「なるほど、早速役に立ってくれてる訳か」

 

「まあ、そういうことです」

 

 背中を向けたまま答えた後、ハッチを閉じて振り向いた。

 

「委員長、点検終わりましたよ。痛んでいそうな場所を交換しておきましたから、もう問題ないはずです。借哉、そこのCADはまた後で直す。今から直すと日が暮れる」

 

「使うかも分からんものだ。暇な時でいいさ」

 

 そう返す借哉も棚の整理は終わったようだ。バックから缶コーヒーを取り出していた。

 

「よかったじゃない摩利。事務ができる人が入ってくれて。どうやらスカウトに成功したみだいだしね」

 

「最初から拒否権はなかったように思いますが・・・」

 

 もはや諦念が入った声で真由美に応える。

 その態度が、真由美にはお気に召さなかったようだ。

 

「達也くん、おねーさんに対する対応が少しぞんざいじゃない?」

 

 とりあえず言いたいのは、自分に姉はいない。

 コーヒーを飲んでいた借哉も噴き出しそうになっていた。とことん人の苦労を見るのが好きなようだ。

 

「会長、念のために確認しておきたいことがあるんですが」

 

「んっ?何かな?」

 

「会長と俺は、入学式の日が初対面ですよね?」

 

 含む意味は、それにしては馴れ馴れしくないかというもの。

 しかし、どうやら悪手だったようだ。

 

「そうかぁ、そうなのかぁ。ウフフフフ。達也くんは、私と実はもっと前に会った事があるんじゃないか、と思っているのね?入学式の日、あれは運命の再開だったと!」

 

「ほんと見てて面白いな。嫌味抜きで」

 

「それを嫌味というんだ・・・」

 

「まぁ、そういうな。事実面白くなりそうじゃないか。案外悪くないんじゃないかと俺は思えてきたよ」

 

 そう笑いつつ、俺と真由美のやりとりを面白そうに見る借哉。

 

 

 彼は冷酷なのか、それとも愉快な人物なのか。この姿を見てると時々分からなくなる。

 だが、確かに彼の言うとおりではあるのかもしれない。

 案外、風紀委員入りも悪くはないのだろう。少なくとも、自分自身を認めてくれるという環境が少しでもあるという点から。

 

 そう、思い直すことにした。

 

 




完璧なお掃除回でした。

原作との違いは、この後沢木先輩方が達也たちと会いません。
理由?食堂で暴れたという事件が昼に起こったのでその後始末ですよ。ご苦労なことです。

服部さんに関してはあの人森崎とかと比べるとさほど性格が曲がってはいないんですよね。完全な実力主義的思考な故に、二科生でも実力がある人は案外認められるタイプ。
ただ、魔法科高校では二科生は今まで須らく彼にとっては無能だったでしょうから、こうなるのも仕方はないでしょう。

次回、一番うっとおしいイベントが待っているっ!

・・・はず


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第十五話~情報~

部活動勧誘週間に入りましたね。
なおオリ主は活躍しません。なぜなら暗躍するから。


【Wednesday,April 6 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

「全員揃ったな?そのままで聞いてくれ。

 今年もまた、あの馬鹿騒ぎの一週間がやって来た」

 

 入学して僅か数日で風紀委員。これを好ましく思うかどうかは人次第だと思われるが、恐らく一般的な人にとっては名誉なことだと思うだろう。

 

 生憎と、新しく入った達也と俺にとっては何の価値もないものであったが。

 

「今年は幸い、卒業生分の補充が間に合った。紹介しよう。立て」

 

 渡辺委員長による釘刺しが終わった後、俺達を紹介するためであろう指示が入った。

 打ち合わせも予告もなかったが、まごつくことなく、すぐさま立ち上がった。

 

「1-Eの司波達也と、河原借哉だ。今日から早速、パトロールに加わってもらう」

 

 ざわめきが生じた理由は、恐らく二つ。

 一つは、1-Eというクラスを聞いたことから。

 もう一つは、恐らく"入学して直ぐに騒ぎを起こした奴が務まるのか"という不安から。

 

 まぁ、達也に関しては問題はないだろう。巻き込まれでもしない限り。

 

「誰と組ませるんです?」

 

「前回も説明したが、部員争奪週間は各自単独で巡回する。新入りであっても例外じゃない」

 

「役に立つんですか」

 

「心配するな。二人とも使えるやつだ。扱いは難しいかもしれんがな。実力で不満があるという奴は後で模擬戦でも申し込んでみろ。簡単にはいかないと思うぞ」

 

 渡辺委員長の返事に対して、質問した風紀委員は肩をすくめた。

 

「そんなことは分かってますよ」

 

「なら問題ない。他に言いたいことのある奴はいないな?では早速行動に移ってくれ。レコーダーを忘れるなよ。司波、河原両名については私から説明する。他のものは出動!」

 

 その言葉と共に、全員が一斉に立ち上がり風紀委員式の敬礼をする。

 どうも変わっているというより、古臭いといった方がいいであろうものなのだが、かっこいいからいいということだろう。

 

「さて、まずは二人にはこれを渡しておこう」

 

 横並びに整列した二人へ、渡辺委員長が腕章と薄型のビデオレコーダーを渡した。

 

「巡回時は常にソレをブレザーの右ポケットに入れ、違反行為を見つけたら直ぐにスイッチを入れろ。ただし撮影を意識する必要はない。風紀委員の証言は原則としてそのまま証拠に採用される。保険ぐらいに考えてもらえばよい」

 

「わかりました」

 

「了解です」

 

「携帯端末を出してくれ。委員会用の通信コードを送信する。・・・よし、確認してくれ」

 

 "学校用"の携帯端末に、正常に受信される。

 とりあえず常に"仕事用"と"裏仕事用"と"私用"の三つを携帯している。仕事用は正に"俺たち"の存在を知っている数少ない人間との連絡に使うもの。"裏仕事用"は単純に非合法工作などを行う際に使う端末。最後の"私用"は基本的に近辺の人間との交流に必要な時に使うもの。その点"私用"を使うのはある意味間違ってないのだが、風紀委員会との連絡に私用端末を使うというのは何かおかしい気がしなくもない。

 

「報告の際は必ずこのコードを使用すること。こちらから指示ある際も、このコードを使うから必ず確認しろ。最後にCADについてだ。風紀委員はCADの学内携行を許可されている。使用も指示を仰ぐ必要はないが、不正使用が判明した場合は委員会除名の上、一般生徒より厳重な罰が課せられる。一昨年はそれで退学になったやつもいるからな。甘く考えないことだ」

 

 途中まで聞いて、では不正使用をしたら抜けさせてくれるのかと思ったりはしたが、退学にまで発展するとなると控えるべきだろう。まだこの学校で、否、"彼"の周りでやらなくてはいけないことがある。

 

「質問があります」

 

 何かしら気になる点があったのだろう。達也が渡辺委員長に質問を投げかけた。

 

「許可する」

 

「CADは委員会の備品を使用してもよろしいでしょうか?」

 

 尤も、その内容は俺にとっても渡辺委員長にとっても予想外だったが。

 

「自前のCADは使わないんか」

 

「毎回持ってくるわけじゃないんでな」

 

「別に使っても構わないが、理由は?釈迦に説法かもしれないが、アレは旧式だぞ」

 

「確かに旧モデルではありますが、あれはエキスパート仕様の高級品です。バッテリーの持続時間の減少にさえ目を瞑れば、クロックアップできます。しかるべき場所に持ち込めば、相応の値段がつきますよ」

 

「・・・それを我々はガラクタ扱いしていたということか」

 

「とりあえずは予算に困った時はそいつを売れば問題ないな」

 

「・・・売らないからな?まぁ、そういうことなら好きに使ってくれ。どうせ今まで埃を被っていた代物だ」

 

「では、この二機をお借りします」

 

 "CADを二機"。本来二科生の生徒にしてはありえない選択だが、達也のスキルから考えるに、一つだけ可能性が無い訳ではない。ただし、もし予想があっていたら化けの皮が剥がれかけることになるが。

 

「二機?本当に面白いな、君は」

 

 そう笑う渡辺委員長の、認識の浅さは仕方のないものとして割り切った。

 

 

 

「さて、俺はエリカと合流することになっているんだが、借哉はどうするんだ?」

 

 部活連本部へ行く渡辺委員長と別れたところで、達也から声が掛かった。

 

「適当に巡回してるさ。ちょっとこっちでも別に私用があってな。他の奴らにはよろしくいっておいてくれ」

 

「わかった。また乱闘騒ぎなんて起こすなよ?」

 

「わかってるっての。もう懲りた」

 

 お互い軽い嫌味を掛け合いつつ、離れる。

 

 

 "私用"というのは、まさしく"俺個人の本来の仕事関連"のことなのだが。

 

 

 誰にも人目の付かない場所で、コマンドを開く。

 パスを開く時の速度も、何時もと同じ。

 しかし、相手が違う。それも、"調整者"経由で"連絡するように言伝された"のだ。

 

 

 〔operator3:連絡が遅かったじゃないか。何かあったか?〕

 

 

 俺が、生まれた時からの同期から。

 

 

 

 〔operator3:そっちは長期的バグ処理の最中か。ご苦労なことだな〕

 〔operator4:全くそっちは平和でいいな。さすが独裁国家なだけあるよ〕

 

 "管理者No3"。当初中央アジアあたりの管理を任され、今は大亜連合とその周辺の管理をしている。外交関連ではかなりハードな所だが、生憎彼にはソレに見合うだけの"調整者"の数を揃えているし、何より"管理者"にとってはあまり外交関連は本職ではない。ある意味最も気楽な場所といえるかもしれない。

 

 〔operator3:まぁそうカリカリするなよ。数少ない"同期"なんだ。思い出話ぐらいしたってバチは当たらないだろうさ〕

 〔operator4:それは言えてるが、生憎今は時間がない。さっさと用件を済ませて、思い出話はまた今度にしよう〕

 〔operator3:相当切羽詰ってるようだな。まぁ、内容はだるいから聞かんでおくさ。さて、本題だ〕

 

 そこそこの前話も終わり、いよいよ本題に移る。

 

 〔operator3:本来は伝えるべきかどうか悩んだんだがな。念のために日本にいるそっちには伝えておこうと思ってな〕

 〔operator4:厄介ごとか?出来るだけ簡潔に頼むぞ。その方が理解が早くなる〕

 

 じれったくなってきて、答えを急かす。

 

 帰ってきた答えは、確かに"わざわざ管理者の立場であるNo3から連絡する価値のあるものだった"。

 

 〔operator3:大亜連合が日本に対して大規模な行動を起こすつもりらしい〕

 〔operator4:期限は半年以内ってところか?〕

 〔operator3:いや、一年間に渡る大~小までの対日工作の集合群のようだな。あっちでは赤旗計画(ホンジー・プロジェクト)と呼んでいる〕

 〔operator4:勝利の赤旗、か。三年前のことを気にしすぎだな。で、一番最初の行動はいつだ?〕

 〔operator3既に始まってるな。ベラルーシ再分離独立派を炊き付けて、魔法関連施設を襲撃、情報を奪取させるつもりのようだ〕

 〔operator4:そうなると俺の方にも支障がでてくるかも知れんな。伝えてくれてありがとうな〕

 〔operator3:そっちに支障が出るなら中止させることもできるんだが?〕

 

 さすが同期だけあって気遣いが出来る。

 ただ、今回は気持ちだけ受け取っておくべきだろう。

 

 〔operator4:いんや、構わんさ。元々俺たちは"バランスを保つ"のが本懐。戦争に発展するかもしれないというレベルでしかない事案に俺たちが動くのは"職務から外れてる"。まぁ、もしも行き過ぎるようだったらそれなりの"制裁"を用意する必要があるだろうな。その時は頼むよ〕

 〔operator3:了解。せいぜい幸運を祈るよ。今度酒でも飲めたらいいな〕

 

 その言葉を最後にパスが切れる。

 

 相変わらず、気楽な奴だ。昔は相当苦労してたようだからまだ許せるが。

 

 

「・・・魔法関連施設の襲撃、か。俺の方じゃなけりゃいいんだがな」

 

 

 そう願いつつ、恐らくはここに来るのだろうなという直感が、確かに働いていた。

 

 




てな感じで、始めて別の管理者がでてきました。
お互いのことはあくまでNo3とかNo4とかいう感じで認識してますが、一応彼にも表向きの名前というのはあります。
え?その肝心の名前はなんだって? ・・・中国語とか毛ほども分からんのでまだつけてないです。

果たして早めに対策を立てられることになったオリ主はAKやらRPG7やらといった古臭い武器を持ったあいつらに対してどんなことをするのか。

・・・書きながら考えます。

次回、騒ぎが起きるかも。未定なんだけどね。


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第十六話~発端~

ちょっとしたつなぎ回、かな?原作と対して変わったところはないんですが、その後の話がスムーズに進むので達也視点で書かせてもらいます。
流石にこれ単体じゃあれなので連続投稿できるようがんばります。


【Wednesday,April 6 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

「達也くん、遅いわよ」

 

「・・・悪かった」

 

 借哉と別れた後、エリカと合流するべく教室へ向かったが誰もいなかったため、仕方がないからLPSを元に合流したが、周りは落ち着いて合流できるほど平和ではなかった。

 もはや夏祭りのそれとほぼ同じではないかと言えるほどのテントの群れに、進入部員獲得の為に勧誘してくる部員達。もはやここの中で落ち着くのは無理だ。

 今更ながら十分も遅れたことに申し訳なく感じてきた。

 

 一番の理由は、借哉の"私用"が何なのかを確認しようとした為であるが。

 

 

 結果は、"何も得られなかった"。

 正確には、入学式前と似た"力"を使って何物かと連絡を取ったのであろうことは見て取れた。ただ、肝心の内容がさっぱり分からない。"彼"にばれないようこっそりと"視ていた"為、細かな観察は何も出来なかった。

 

 完全な、無駄骨。

 これさえなければ一応は教室で合流できたのかもしれないと、思わなくもない。

 

 

「・・・謝っちゃうんだ?」

 

 もっともエリカにとってそんなことは関係なく、むしろ待ち合わせ場所にいなかったことを気にしている様子ではあるのだが。

 

「十分とはいえ、待ち合わせの時間を過ぎているのは確かだからな。俺が遅れたことと、エリカが待ち合わせ場所にいなかったことは別問題だろ?」

 

「あぅ・・・ごめん」

 

 だからこそ大真面目な顔で返答されると素直に謝ってしまうのだろう。エリカにしては珍しく一矢も射返すことができなかった。

 

「達也くんってさ、やっぱり性格悪いって言われてない?」

 

「心外だな。性格に文句をつけられたことは無い。人が悪いといわれたことならあるが」

 

「同じじゃん!てか、そっちの方が酷いよ!」

 

「あぁ、違った。人が悪いじゃなくて悪い人だった」

 

「そっちの方がもっと酷いよ・・・」

 

「随分疲れているようだが、大丈夫か?」

 

「達也君、絶対、性格悪いって言われたことあるでしょ?」

 

「実はそうなんだ」

 

「今までの流れ全否定なのっ?」

 

 エリカががっくりと項垂れたが、時間は有限だ。

 早めに行くに越したことはない。

 

「まぁ、冗談はこのくらいにして、早く行くことにしよう。このまま留まってても邪魔なだけだしな」

 

「それじゃ、エスコートよろしくね。達也くん」

 

 

 

 

 その後、ちょっとしたハプニングがあったものの(具体的にはエリカが勧誘に捕まったりなど)、とりあえず最初に二人が向かった場所は第二小体育館だった。

 尤も、逃げた先から最も近い場所がここだった、というのが一番だったのだが。

 

 第二小体育館、通称「闘技場」では剣道部による模範試合が成されていた。

 中でも女子二年生の演武は目を見張るものがあった。

 力ではなく、技で打撃を受け流している。しかも、彼女の方にはまだ余裕がある。

 模範試合にふさわしい華のある剣士だと思う。

 しかし、エリカにとってはさほど面白いものではなかったようだ。

 

「お気に召さなかったようだな」

 

「え?ええ・・・。だって、つまらないじゃない。手の内の分かっている格下相手に、見栄えを意識した立ち回りで予定通りの一本なんて。試合じゃなくて殺陣だよ、これじゃ」

 

「いや、確かにエリカの言うとおりなんだが・・・」

 

 エリカの意見に対しては、自分でもほぼ同じように思っていたため自然に口元が綻んだ。

 

「宣伝の為の演武だ。それで当然じゃないか?よくプロの武術家で真剣勝負を見せることを売りにしている人達がいるけど、本物の真剣勝負なんて、要するには殺し合いなんだから」

 

「・・・クールなのね」

 

「思い入れの違いじゃないか?」

 

 結局はエリカにとっては面白いものではなかった。ただ、それだけの話。

 エリカが乱入騒ぎでも起こす前に、エリカを促してその場を後にしようとして、先ほどとは別種のざわめきが背後から伝わった。

 ハッキリとは聞こえていないが、何事か言い争っているのは分かる。

 

「何かあったみたいだね。さて、どうするの?"風紀委員さん"」

 

 エリカが好奇心でウズウズしたように聞いてくる。

 もちろん、無視など論外だ。本来はしたいところではあるのだが。

 

「一応は見に行くさ。必要なら止めるけどな」

 

 

 

「剣術部の順番まで、まだ一時間以上あるわよ、桐原君!どうしてそれまで待てないのっ?」

 

「心外だな、壬生。あんな未熟者相手じゃ、新入生に剣道部随一の実力が披露できないだろうから、協力してやろうって言ってんだぜ?」

 

「無理矢理勝負を吹っかけておいて!協力が聞いて呆れる。貴方が先輩相手に振るった暴力が風紀委員にばれたらあなた一人の問題じゃ済まないわよ」

 

「おいおい壬生、人聞きの悪いこと言うなよ。防具の上から、竹刀で、面を打っただけだぜ、俺は。仮にも剣道部のレギュラーが、その程度のことで泡を吹くなよ。しかも、先に手を出してきたのはそっちじゃないか」

 

「桐原君が挑発してきたからじゃない!」

 

 切っ先を向け合っておいて、今更口論もなかろうにとは思いはしたが、当事者同士が疑問に答えてくれるのは有難かった。

 

「面白いことになってきたね。さっきの茶番より、ずっと面白そうな対戦だわ、こりゃ」

 

「見ている限りでは面白いんだがな・・・」

 

 エリカの言うとおり、確かに先ほどの演武よりは面白いことになるだろう。ただ、その後始末をするのは間違いなく風紀委員である自分だ。

 余計に時間を取られることを思うと、余り好ましくは思えない。

 

「おっと、そろそろ始まるみたいよ」

 

 もちろん、そんな浅はかな願いもむなしく、張り詰めた糸が限界に近づいていた。

 万一に備え、ポケットに突っ込んでいた腕章を左腕につける。隣の生徒がギョッとした顔で達也を見る。

 

 しかし、今注目すべきは対峙する二人。

 

「心配するなよ、壬生。剣道部のデモだ。魔法は使わないで置いてやるよ」

 

「剣技だけであたしに適うと思っているの?魔法に頼りきりの剣術部の桐原君が、ただ剣技のみに磨きをかける剣道部の、このあたしに」

 

「大きくでたな、壬生。だったら見せてやるよ。身体能力の限界を超えた次元で競い合う、剣術の剣技をな!」

 

 

 それが、開始の合図となった。

 

 

 "彼"が体育館外から見ていることを"眼"で確認しながら、いざという時のための"準備"を始めた。

 

 




ってことでつなぎ回みたいなもんでした。
もうすぐ1巻分が終わります。めっちゃ長くてびっくりしたけど書いてるとこんなもんなんだなぁと感じております。

なお、赤旗計画に関しては完全にオリジナル設定です。10月末のあれをやるとしても手回しは並列でやりつつ今の段階には大詰めにはいっているのかなぁと思ったり、大亜からの干渉が異様に多かったりするので、そこから作り上げたものです。

さて、次回、オリ主視点。体育館外とはいっても、誰も玄関から覗いてるとはいってないよ。


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第十七話~監視~

オリ主視点からみた体育館騒ぎです。
だってそっちのほうが新鮮かと思って・・・


【Wednesday,April 6 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

「さて。とりあえずは早速騒ぎが起こったな。」

 

 校舎の屋上で、戦前までは定番であったらしいアンパンと牛乳を嗜みながら第二体育館の様子を観察していた。

 

 本来なら、近くに見に行くという選択肢もないわけではなかったが、生憎人混みの中に好き好んで入りたくはない。

 

 それに、元々の視力だってただの人間の比ではない。少々遠く、窓越しに見ることになったとしてもなんら問題はない。

 

 

「とりあえず問題が起こるとしたら達也のそばからだろうとは思ったが、まさか本当に起こるとはなぁ」

 

 しかし、さほど驚きはない。

 案外、この世界には自分達"管理者"や、"調整者"でさえ知らされてはいないが、そうであるのではないかと思えることがある。

 

 例えば、今のように。

 人には必ず決められた道筋というものがあるのじゃないか、というもの。

 決められたとき以外は死ねないんじゃないかと思えるほどの偶然性。どれほど注意してもミスを犯す必然性。そのように、人間が生まれ持つ"運命"というものを、例えプログラムと同じように世界を認識している"我ら"でさえ信じていたりする。

 

 達也の場合はどうもトラブルに巻き込まれるのが必然であるのだろう。

 彼が腕章をつけてすぐ、騒動の中心であった二人の剣士の試合が始まった。

 

 

 それにしても、と思う。

 

「高々九十年。それだけでも、武道一つはこうも変わるものか・・・。中々虚しいものだな」

 

 剣道の試合形式にある程度沿った形で始まったこの戦い、しかし俺が一番印象に残っていた"剣道"のそれとは大きく異なっていた。

 

 たしか、剣道がスポーツになりつつあると危惧されていたあの頃だったか。

 今の剣道は、少なくともその頃とはかなり違ってきている。

 昔より、実戦としての戦いを意識している形。

 しかし、そこに見てて多様性を感じるほどのやりとりはあれども技はない。

 決め手となる場所が、結局は分かりやすい弱点しかないのだから。

 

 

 結局、女子生徒が男子生徒から一本を取った。

 その部位でさえ、昔とはだいぶ異なる。肩で一本が入るとは、相変わらず変わったものだ。

 

「果たして昔のものがいいのか、それとも過去のものがいいのか。俺には答えは出せんが、最低でも今の剣道はどちらかというと"昔に逆戻りした"のかもなぁ」

 

 

 そのように感慨に浸っていると、いきなり悲鳴が聞こえた。

 そして体育館から僅かに漏れでている不快そうな音。

 

「なるほど、高周波ブレードか。確かにこれは"真剣"と差し支えないな」

 

 男としてのプライドがそうさせたのか、負けた男子生徒がCADを操作し、魔法を発動させたようだ。

 

 高周波ブレードの一撃を、女子生徒は大きく飛び退ることで避ける。

 当たってはいない。せいぜい、掠っただけ。

 しかし、胴には細い線が走っている。それも、この線は"切れた跡"だ。

 

「ほぅ。元は竹刀でも魔法を使えばここまで化けるか。この切れ味はそこらの真剣よりは上だな。少々過小評価していたかもな」

 

 所詮"我ら"にとっては魔法なんていうものはただのバグの産物でしかない。しかし、もしここまで簡単に能力を向上させることができるなら、対人限定に関しては使っても問題ないのかもしれない。

 

「さて、本来はもう少し高周波ブレードの切れ味を確かめたいんだが、もう"魔法は発動されている"。ご愁傷様としかいえんな」

 

 

 再び女子生徒に向かって剣が振り下ろされる直前に、"彼"が飛び込む。

 非接触型のCADによって、無系統魔法が放たれる。

 恐らく今頃は乗り物酔いに似た症状が館内で多発しているだろう。

 なぜなら、あの魔法はやはり

 

「CADの同時使用による想子波の意図的な発生による限定的なCADの封殺。ある程度の話を聞いたときに可能ではないかとは思ったが、技術的には難しいはずだ」

 

 元々魔法科高校に潜入する時のため、一定の魔法の知識は仕入れた。

 その時に、思ったアイデアのうちの一つがそれ。

 技術的には難しいはずのソレを、容易く実行できるということは。

 

「最低でも技術者関連の職についてるな。恐らくはFLT専属、ってところか」

 

 どうも人が悪いとは思っていたが、これに関してはばれると本当に嫌味に近いものになりかねない。何せ魔法関連の企業では大手であるFLTの専属エンジニア。年収もそこらのサラリーマンとは比べ物にならないはず。

 

 そう考えると、恐らくはFLTのモニターというのはダミーだ。案外尻尾は早くつかめるものらしい。

 

 

 高周波ブレードからただの竹刀へとはや代わりしたものでは、"彼"を倒すことはできない。

 結局先ほどの男子生徒は拘束されていた。

 今現在は無線で呼びかけているのだろう。そろそろ応援の要請でも来るか。

 

「まぁ、少し遅れても問題はないだろう」

 

 結局は観察を続けることにする。剣術部の連中が"彼"に対して何かしらの文句をつけてるようだ。

 まぁ、二科生ごときがでしゃばって一科生の先輩を無力化しているのだ。面目など丸つぶれだろう。

 

 

 結果、期待を裏切らずに乱闘が発生した。

 といっても、達也自身から何かをすることはない。ただ、攻撃を避けるだけ。

 それだけで、八人はいるであろう剣術部員は翻弄されている。

 痺れを切らし、魔法を行使しても先ほどの無系統魔法で封殺されている。

 

「果たして俺と同じ轍は踏むまいとしているのか、それとも単純に面倒くさいだけか・・・」

 

 見世物感覚で今まで見ていたが、どうやら今の乱闘に先ほどの女子生徒が達也の援護に行こうとしていた。

 確かに、先ほど"彼"に助けられていたのだ。ここで行くべきなのには違いがない。

 しかし、彼女は剣道部の主将に止められ、結局は参加することはなかった。

 

「不自然だな。今までの流れなら納得しそうにないんだが・・・」

 

 自分を助けた相手が困っている。ああいう奴らの場合、むしろ助けにいくといって聞かない場合の方が多い。

 

 そう思い、主将をよく観察する。

 そしたら、手首にあるものがみえた。

 赤と青で縁取られた、白のリストバンド。

 ベラルーシ再分離独立派の反魔法師団体"ブランシュ"の下部組織。

 No3が言っていた魔法関連施設というのは、恐らくはここだろう。

 

「やはりあいつはトラブルには巻き込まれる性質なのかもしれんな・・・」

 

 本来は敵である"彼"に苦笑しつつ、勝手に哀れむ。

 だが、こちらにとっては好都合な展開になりつつある。

 

「だが、おかげで早めに見つけることが出来たな。精々関わらせないでくれよ」

 

 

 

 

「"エガリテ"さんよ」

 

 




っていうことでやっと一巻分が終わりました!やったね!
原作ではこの時点で司氏がリストバンドつけていたかどうかとか全く分からないんですが、一応今回はつけてた設定にしました。ご都合主義です。

なんか好き勝手な改変ばっかり目立ちますが、そこは愛嬌と思ってみていただけると幸いです。

後、普通に感想のところに返信って出来るんですね。始めて知りました。
次回以降もしも何かあればそちらの方に返信するって形にしていきたいと思います。
尤も、自分でこれはあとがきに書きたいなと思ったらそちらの方にも書きますが。

次回、二巻に移ります。乞うご期待。


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第十八話~報告~

第二巻目突入!これからも見ていただけると幸いです。

それはそうと、後七日ほどで新刊が発売されますね。恐らくは在庫切れが目立つかと・・・。

自分ですか?どちらかというと贔屓にしてる本屋のチェーン店で予約しました。なおその店は基本的に入荷がざるなので"予約だけするけど買うかは分からない"というわけ分からない状態になってますが。


【Sunday,April 6 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

「あっ、おつかれ~」

 

「お兄様」

 

 部活連本部へ報告を終えた後、生徒会室へ深雪を迎えに行く予定だったが、その道のりの途中である昇降口のところで運よく見知った顔と共に深雪がいた。

 

「お疲れ様です。本日は、ご活躍でしたね」

 

「大したことはしてないさ。深雪の方こそ、ご苦労様」

 

 自分の顔を見上げる深雪の髪を、眼差しでねだられたとおり、達也は二度、三度とゆっくり撫でた。

 深雪は気持ちよさそうに目を細めながら、こちらを見詰め、その瞳を逸らさない。

 

「兄妹だと分かっちゃいるんだけどなぁ・・・」

 

「何だか、すごく絵になってますよね・・・」

 

「どちらかというと猫と飼い主に見えたのは俺だけなのか?」

 

 上から順にレオ、美月、借哉である。

 相変わらず少々黒い方のジョークを吐く。しかし、それよりも気になることがないわけではない。

 

「ところで借哉、俺が第二体育館にいた時、何をしてた?」

 

 確か彼は位置こそ遠いもののこちらの状況を把握していたはずだ。せめて応援に来てくれてもいいものだと思ったが

 

「校舎の屋上であんぱんと牛乳食いながらそこらじゅうを監視してたら第二体育館で騒ぎが起こってるなーって思ってさ」

 

「突っ込みどころは多々あるがまず委員長は"巡回"といっていたんだが・・・」

 

「まぁある程度はしたさ。心配するな」

 

「常にするものだとも思うんだが・・・?」

 

 そして限りなくぶれないところも変わらず。どうも自分の興味の向くこと以外には案外無関心な立場を貫く節が彼にはある。そのように気楽に生きれたらどれほどいいことか。

 

「んで、巻き込まれるのは嫌だなーって思いながらいろいろ見てた」

 

「借哉はやっぱり高みの見物か。まぁ、似合ってなくもないがよ」

 

「風紀委員のペナルティがなければいいけどね」

 

「心配するな、ゴミはきちんと片しておいた」

 

「そこじゃねぇよ・・・・」

 

「なお思ったよりアンパンと牛乳の組み合わせは監視には向かんかった」

 

「味も聞いてはいない・・・」

 

 ほぼジョークだけの会話を繰り出してくる借哉。かなり楽しんでいる節があるが、他人事でいられるのもそう長くはないはずだ。

 

 そう思っていた矢先、ある意味最も突っ込んで欲しくなかったものが借哉の口から飛び出した。

 

 

「それで、あの時使ってた無系統魔法はなんだ?ある程度検討はついてるんだが、詳しく話を聞いてみたいと思うんだが」

 

 

「そういえば私もチョッと気になるかも」

 

 借哉の言葉に、エリカが賛同を示す。

 だが、ここで話すと長話になりかねない。場所を移したほうがいいだろう。

 

「話してもいいんだが、ここで話すのもなんだ。せっかくだから何処かで軽く食べていこう。一人千円までなら奢るぞ」

 

「おいおい、合計すると結構かかるぞ?大丈夫なのか」

 

「気にするな。ただし、千円を過ぎた分は自腹だからな?」

 

 恐らくエリカやレオ、美月などはきちんと分かっていた為にあえて言わなかったのだろうが、逆に分かっているのにあえて口に出す借哉を見て、案外施しを好むタイプではないのかもしれないと、少々思った。

 

 

 

「で、その桐原って二年生は殺傷性ランクBの魔法を使ってたんだろ?よく怪我しなかったよなぁ」

 

「致死性がある、といっても高周波ブレードは有効範囲の狭い魔法だからな。刀に触れられないという点を除けばよく切れる刀と変わらない。それほど対処が難しい魔法ってわけじゃないさ」

 

 入った先のカフェで先に出されたドリンクを飲みつつ、捕物劇の話に入る。

 

「でもそれって、真剣を振り回す人を素手で止めようとするのと同じってことでしょう?危なくなかったんですか?」

 

「大丈夫よ、美月。お兄様なら、心配要らないわ」

 

 そう話す深雪に対して、面白そうに聞くのはエリカだった。

 

「随分余裕ね、深雪?確かに十人以上の乱戦を捌いた達也くんの技は見事としかいえなかったけど、桐原先輩の腕も決して鈍らじゃなかったよ。むしろ、あそこの中では頭一つ抜け出てらし、本当は心配じゃなかったの?」

 

 それに対して、深雪は

 

「ええ、お兄様に勝てる者などいるはずがないもの」

 

 一分一厘の躊躇もない断言だった。

 

「・・・えーっと」

 

 さすがにエリカも絶句するしかない。

 

「まぁ確かに高周波ブレードってのは刀に触れられないってだけじゃない。超音波を使うもんだから酔うやつもいる。その状況でも安定した実力を出せるってのはまったくもってすごいことだろうな」

 

「借哉よ、お前が褒めても嫌味にしか聞こえねえ気がするんだが」

 

「日ごろの言動のせいかな?」

 

「行動のせいでもあるね。あの昼はびっくりしたよ」

 

 借哉自身も、本当に俺の技量を褒めてはいるんだろう。

 しかし、どうしても昼の乱闘事件の一件でそこらへんはイーブンに見られかねない。

 尤も、本人曰く"素人相手だったからこそあそこまで綺麗にできた"らしいのだが。

 

「でも、超音波酔いのために耳栓まで用意する奴もいると聞く。そんな魔法に対して何時も通りに動けるってのはすごい事だとは思うがな?」

 

「確かに、ソレはいえてるよな。まぁ、耳栓なんて持ってくる奴は最初から計算づくなんだろうがな」

 

「そうじゃないのよ。単に、お兄様の体術が優れているというだけではないの」

 

 レオの言葉に対して、深雪は失笑を堪えながら返す。

 

「魔法式の無効化は、お兄様の十八番なの」

 

 その言葉に、真っ先に食いついたのはエリカだった。

 

「魔法式の無効化?情報強化や領域干渉でもなくて?」

 

「ええ」

 

「それって結構レアなスキルだと思うけど」

 

「そうね。少なくとも、高校の授業では教えないのではないかしら。教えられても誰にでもできることではないのだし」

 

 まるでレアなスキルなどは使ってないといわんばかりの答えに、一人答えを出しつつあるのは、借哉だ。

 

「俺の予測なんだが、体育館のなかで乗り物酔いみたいな症状が来なかったか?超音波酔いとは別物だぞ」

 

「う~ん、あたしは大したことにはならなかったけど、確かにそういう人もいたみたい」

 

「それ、お兄様の仕業よ。お兄様、キャスト・ジャミングをお使いになったでしょう?」

 

 そう微笑む深雪に対して、ため息の白旗を掲げた。

 

「深雪には適わないな」

 

「それはもう。お兄様のことならば、深雪は何でもお見通しですよ」

 

「・・・・もういい。兄妹同士仲睦ましくいいことだが、ここは話を戻そう。胸焼けを起こしそうだ」

 

 そうげんなりした顔で借哉が話を続ける。

 

「ただ、"アレ"はキャスト・ジャミングなのか?二つのCADを同時に使用することで相手方のCADも巻き込む形で封殺する、ってのは分かってる。お前風紀委員本部から二つCAD持っていってたしな」

 

「そこまで分かるのか。ある意味話が早くて助かるが、少々微妙な気分だ」

 

「余り詳しくはないんだがな。ある程度の知識を学んだ際に少し気になったアイデアってだけだ」

 

 確かに"彼"は魔法師の卵である割には一般的な魔法科所属の二科生よりも魔法に関する知識には疎い。その割には頭は良く、理論を聞いたら応用を利かせられそうな発想を今のようにしてくる。

 彼自身の"仕事"のスキルなのか、それとも素人ゆえの柔軟的な考えなのかは、分からないが。

 

「お前が言ったとおり、二つのCADをそれぞれ逆方向の起動式を展開することで、相手の魔法の永続的維持を不可能にするタイプのものなのは間違いない」

 

「じゃあそれこそキャスト・ジャミングに近いけど、それに必要なアンティ・・・なんだっけ」

 

「アンティナイトよ、エリカちゃん」

 

「そうそうそれそれ。ソレが必要なんじゃないの?」

 

 これに対して、憶測の形で正解を述べたのも、また理解が早かった借哉だった。

 

「それは恐らくアンティナイトそれそのものをCADなどで変わりにしてるからだろうな。ただ、その場合対象となる魔法にどうしても限りがでてくる。恐らくはそこらへんに違いがあるのだろうな」

 

「本当に説明が要らなくて助かるな。ただ、全員とも余り口外してくれるなよ?この技術は悪用される可能性を考えるとそうやすやすとバレるわけには行かない」

 

「まぁそりゃそうだね」

 

「了解した。まぁ、そこらへんは気をつけるさ。」

 

 そう軽口をいいつつ約束してくれると、少々安心できる。

 

 

 そう思い、残っていた最後のドリンクを飲み干した。

 

 




ってことで十八話でした。
眠気に襲われながら書いたんでもしかしたらミスがあるかも。
指摘してくださるとありがたいです。

次回、未定。
たぶん日はもしかしたら跨ぐかも。

【追記】案の定ありました・・・。指摘してくれた人ありがとうございます。
【追々記】更にもう一個発見した為修正。そう長くはないのところです。雑な仕事でほんとすみません


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第十九話~戒告~

ちょっと最近の話に比べると場面も文字数も少なめ。
切り際がいいからね、仕方ないね


【Saturday,April 9 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

「・・・今度は"当たり"か?」

 

 新入部員勧誘週間とかいう馬鹿騒ぎも四日目。

 個人的には"まだ"なのだが。いくら"必要なこと"とはいえ、人混みの中は疲れて仕方ない。

 

 

 何故、初日は屋上で過ごしていたのに今は"巡回紛いの事"をしているのか。

 理由は単純。"エガリテ"との接触の為にある。

 

 初日、"ブランシュ"下部組織の"エガリテ"の構成員を発見できたのは良かった。ただ、問題はこれで"第一高校に対する工作の可能性"が限りなく上昇したことだ。

 恐らく今現在は現地での手足の確保、もとい勧誘を行っているのだろう。

 別に工作自体には文句はない。問題は、"自分自身が関与しなければ"という点に尽きる。

 これ以上、目立つ訳にも目立たせる訳にも行かないのだ。

 "彼"も、"我ら"も。

 

 現状工作が発生した場合、どうしても風紀委員になってしまった以上"関与せざるを得ない"。それにより校外でも目立ってしまった場合は周りから余計な関与を巻き込みかねない。

 つまりは、"穏便に済ませろ"と釘を刺したいのだ。

 どこぞの特殊部隊のように、スマートに。

 

 

 だが、ここでも問題はもちろん発生する。

 達也自身のヘイトの問題だ。彼は一科生からまるで親の仇のように見られている。理由は恐らくは"剣術部のエースを容易く倒した"からであろうが、エリート意識に凝り固まった奴らによる攻撃が激しいのだ。

 てっきり個人的には達也が二科生かつ腕を立つところを見て、早いうちに彼に接触してくると思ったのだが、全く関係ない奴らしか寄ってこないため疲れる事この上ないのだ。

 

 しかも、追跡のために達也の付近にいるためにどう足掻いても達也の被害の後始末を任せられ、やっと終わって追いついたと思ったら同じような案件に巻き込まれる。

 "彼"に接触した後に釘を刺す事で"こちらの仕事"の邪魔をするなという意味を含ませたいのにこれではまさに"自分は熱心な風紀委員です"と言っているようなものだ。

 

 

 だが、今回は問題ないようだ。

 襲撃者の右手から見える、リストバンド。

 恐らくは能力の調査だろう。魔法を発動して直ぐ、高速歩行の魔法を使って逃げ切る。

 だが、何処にいくかは予測できる。そこに一足先に、向かうのみ。

 

 

 

 結局、場所についてから五分ほど経ってからだろうか。先ほどの襲撃者が、やってきた。

 

 

「どうも、"厄介者"。いや、こういう風に言った方がいいか?

 

 

 ブランシュ下部組織、エガリテのメンバーにして剣道部主将の、司甲先輩?」

 

 

 先ほどの襲撃者、司甲はまさか声を掛けられるとは思っていなかったらしく、目に分かる位驚いていた。

 

「風紀委員?!馬鹿な、何故ここまで」

 

「びっくりしただろ?お前のやり口はまだ"見えてる"ってことだ」

 

「くっ、こうなったら!」

 

 そう言ってCADを向けてくる司に対して、手を上げることで敵意はない事を示す。

 

「心配するな。別に"風紀委員"の仕事をするつもりはない。あんたらの"目的"に関しても同じだ」

 

「・・・何が目的だ」

 

 CADをそっと降ろした司先輩が、訝しげに聞いてくる。

 そこに、出来るだけはっきり脳に残るように、告げる。

 

「あんたらが何をしようとしてるかは知らん。しかし、やるとするなら"静かにやれ"。"こっち"に支障が出ると困るんだよ」

 

「・・・?」

 

 何を言ってるのか分からないらしく、本格的に反応が鈍くなってきている。

 だが、構う事はない。上に伝えてくれさえすればいいのだ。

 元々、一応は魔法師の団体である"ブランシュ"に対してはパイプどころか連絡手段さえもたないのだ。そうなると、下っ端から報告してくれるのが一番いい。

 

「"派手"にやりすぎるなよ。場合によっては、こっちからお前達を"潰す"必要が出てくる。よく、考えるんだな」

 

「待て、お前は・・・一体?」

 

 そう聞く司に対して、笑みを浮かべながら答えた。

 

「さぁ?何だろうな。人によっては"蛇"と呼ぶし、"猫"とも呼ぶ。"牛"とも呼ぶし、"狐"とも呼ぶ。"烏"と呼ぶものもいれば、"兎"と呼ぶものもいる。お前は、"俺たち"を一体何と呼ぶ?」

 

 意味ありげな、というより本当に意味がある台詞を吐く。

 こんなことは、達也に対しては言えない。あいつが理解するにはまだ早く、そして直ぐに"察する"ことができそうだから。

 こんなことを言うのは、ほぼ道楽に近い。未知のものに対して考える人間の姿というのは、中々に面白い。

 

「は・・・?」

 

 司がもう一度聞こうとする前には、既に彼の視界からは消えている。

 ただ、彼の前には風が吹くだけ。

 

 

 まるで、未知との遭遇をしたかのような、不気味な、風が。

 

 




意味ありげなことを吐いたオリ主でした。
彼が挙げて言った動物は何でしょうね?たぶん大半の人が分かると思うんです。
ちょっと偏ってるかなとも思ったりしたけどそこはしゃーない。

後、前話では誤字申し訳ありません。改めて指摘してくださった方、ありがとうございます。


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第二十話~噂話~

ってことで二十話です。話数的にはもう過ぎてるんだけどね。


【Wednesday,April 13 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 あのうるさい騒ぎも終わり、何時も通りの日常が帰ってきた。

 今思う。本当によかった。特に四日目に用件を終わらすことが出来て本当によかった。

 その後「どうせお前は働かないから」と溜まりに溜まりまくった書類の整理を一人でやらされたが、人ごみの中より書類の中の方がよほど落ち着いた。

 

 尤も、やっと"半分が"終わった所だから今日も行かなければならないのだが。

 

 

「達也と借哉は今日も委員会か?」

 

「今日は非番。ようやくゆっくりできそうだ」

 

「俺はまだ仕事が残ってるからな。残念ながら委員会だな」

 

「出来れば早めに終わらせてくれ。仕事が増えなくて済む」

 

「後で呼ぶぞこの」

 

 達也は本当に他人事でいいことである。実際彼がいればあの書類の山の残りも二日かそこらで終わりそうな気がする。彼の情報処理スキルに関しては素でさえ"我ら"を上回っているのに、経験もそれなりに積んでいる為かなりのものだ。

 

 尤も、一人が気楽な為ヘルプなど呼ばないのだが。

 

 

「まぁでも、達也は大活躍だったな」

 

「少しも嬉しくないな」

 

 あの馬鹿騒ぎでの達也の活躍を褒めるレオに対して、憮然たる面持ちで達也はため息をつく。

 レオはその姿をみてどう見ても噴き出すのを我慢していた。

 

「今や有名人だぜ、達也。魔法を使わず、並み居る魔法競技者(レギュラー)を連覇した謎の一年生、ってな」

 

「『謎の』ってなんだよ・・・」

 

「得体の知れない一年生ってことだろ」

 

「そんな事を聞いてる訳じゃない・・・」

 

 そんな風に茶々を入れていると、エリカがのぞき込むように顔を見せてきた。

 

「一説によると、達也くんは魔法否定派に送り込まれた刺客らしいよ」

 

「誰だよ、そんな無責任な噂を流しているヤツは・・・」

 

「あたし~」

 

「オイ!」

 

「もちろん、冗談だけど」

 

 一瞬本当にエリカが流してるのかと俺も思った。何せある種の騒ぎを好む傾向があるエリカはそのようなことをやりそうな気がしなくもない。

 

「勘弁しろよ・・・性質が悪すぎだ」

 

「でも、噂の中身は本当だよ?」

 

 再び、達也はため息をつく。

 

「お前も大変だねぇ」

 

「本当に他人事でいいなお前は・・・」

 

「事実他人事だからな」

 

「でも、今日からデバイスの携帯制限が復活する事ですし、もう心配ないんじゃありませんか?」

 

「そう願いたいよ・・・」

 

 美月のかける慰めの言葉に、達也はここぞとばかりに頷く。

 トラブルが続かないとは、まだ決まっていないが。

 

 

 

 

 風紀委員会本部。

 つい数日前に綺麗に掃除したはずのこの部屋の机は、半分ほどが書類で埋められていた。

 ある程度のものについては提出も済ませてあるのだが、一部は風紀委員長が目を通さなくてはいけない書類もある。

 問題は、その書類を全く渡辺委員長が見に来ないことなのだ。

 おかげで整理し終わった資料の一部が提出などをすることもできずに机の端にそこそこの数を置く羽目になっている。

 

「まぁ気楽だしいいんだけどさぁ」

 

 少なくとも巡回をしなければいけない他の風紀委員に比べたらまだ気楽な方だろう。

 むしろ逆に俺と達也が風紀委員を抜けた場合ここはどうなるのだろう。まず書類に首が回らなくなるのではなかろうか。

 ちょっとした組織構造の変換を迫られている気がしなくもないが、そこはもうちょっと聡明な"彼"がやってくれるだろう。やる前に抜けてしまったら元も子もない気がするが。

 

 

「おっ、前よりは案外片付いたな」

 

 そこに生徒会室から降りてきたのであろう渡辺委員長が入ってくる。

 別に不自然な事ではない。まずここは風紀委員本部なのだし、何より

 

「やっと来たんですか。とりあえず左端においてある書類は全部終わりましたが、委員長による確認及び証明が必要です。面倒くさかったら判子だけでも押してください」

 

 俺自身が呼んだのだから。さすがに片付いた書類の山が残ったままの状態を見ていて楽しい気分にはならない。

 

「分かった。確か判子はどこだったかな・・・」

 

「・・・机の中に入っているのでは?そうでないならば棚の中段右にある小道具のところに有ると思いますよ」

 

「本当に置いてある場所が分かる人がいるというのは便利でいいな」

 

「・・・逆に今までどうしてたんですか?その調子で」

 

「基本次の世代に丸投げだった気がする」

 

 なんという悪しき風習。早めの改善を要求したいが、生憎この一年さえ乗り切ればもはや俺は自由になれる可能性が高い。余計な口出しはしないでおく。

 

「それにしても達也君は本当に先週は大忙しだったな。誰かさんと違って」

 

「まぁここの書類整理もハードといえばハードですがね」

 

「君は本当に申し訳程度にしか働かないから頭が痛いよ・・・」

 

「目の前で起こったことは素通りしにくいですからそれは対処しますがね」

 

「それしかやらないから言ってるんだ・・・」

 

 何が不満だというのか。逆に書類の山を一人で整理しているのだから感謝されてしかるべきだ。

 そんな俺の不満を余所に、渡辺委員長は耳寄りの情報をもたらした。

 

「そういえば、その達也君なんだがね」

 

「どうかしたんですか?話をするのは構いませんが判子とサインはしていってください」

 

「あぁ、分かってるさ。で、その達也君なんだが、今日二年の壬生を言葉責めにしていたらしいぞ?」

 

「はぁ?」

 

 本当に訳が分からなくて思わず素が出る。

 "彼"はそもそも女性を口説くような人間ではない。というより、妹に対してソレを抱いているのではないかと思える為、他の人間には尚更そのようなことをするようには思えない。本当に冗談の類にしか聞こえないから困る。

 

「・・・で、本当のところはどうなんです?」

 

「さぁ?私も人から聞いた限りで詳しい事は分からん。ただ、どうも最初は壬生が誘ったようだがな」

 

「壬生先輩から?」

 

 嫌な話を聞いた気がする。渡辺委員長は壬生先輩から誘ったと言ったか?

 

「確か壬生先輩といったら、剣道部の部員でしたよね?」

 

「そうだな。あの騒ぎの中心人物なんだからむしろ覚えてそうなものだと思うぞ?」

 

「自分にとっては他人事でしたし」

 

 そう言いつつ、思案する。

 司甲が主将である剣道部の、部員である壬生紗耶香が司波達也に接触する。

 もしかして、司甲は俺の"警告"を無視したのか?そうとなると、もうちょっと上に接触する必要があるか?それとも、俗にある"始まったと思ったときには既に終わっている"という奴なのか。

 

「・・・後で達也に聞いてみますかねぇ」

 

「まぁ私も明日あたり聞いてみる予定だ。もしも聞けなかったら今度は私に聞いてくれ」

 

「その報酬は?」

 

「次の世代への引継ぎ書類の作成」

 

「全力でお断りします。この一件に関して委員長には聞かないようにします」

 

 ただでさえかなりの書類があったのにまだ増えるのか。それで肉体労働をしなくても良いなら考え物だが、残念ながら巡回と混ぜつつ、だろう。それなら断固お断りだ。

 

 

 しかし、この一件は冗談抜きで考えておくべきだろう。もしこちらの圧力をブランシュが無視したとすれば、それなりの制裁を加えなければならない。

 出来れば、"我ら"が直接出てきたとは知らされないように、"今回の工作と、その実行犯を潰す"準備をしておきたい。

 この場合、何があれば可能だろうか。考えておくことにしよう。

 

 

 魔法師社会に、"邪魔をしてはいけないものが誰か"を印象付ける為にも。

 

 




ってことで借哉くん書類整理の巻。
これじゃ達也君にヘルプが入る前に終わって、カウンセリングイベントが消えうせちゃうって?大丈夫、きっとメールが来る。彼にもオリ主にも平穏は許されていない。

現状"管理者"も"調整者"も魔法師の混じった相手に対して手持ちの駒では力不足というのは理解しています。ですから、オリ主自身が出向く事で駒を失うことなく潰そうという腹なのです。基本的に不死身に近いですし。
正確には魔法師に対抗しうる駒もないわけではないです。問題は、今回使うには少々不釣合いな点ですね。まぁその駒が登場するとしたらかなり先でしょう。

後、彼ら"管理者"達は魔法師社会にはほぼ何の影響力もない状態とはいいましたが、政府や警備関連など、魔法師以外の要素も絡むところではかなりの影響力を持ちます。もちろん純粋な非魔法師のそれと比べるとどうしても下がりますが、まず頭ごなしに無視はできないと考えてもいいかと。もちろんほぼ特定の十師族の私兵となっているところとかは無理ですが。
ブランシュとエガリテについて情報を得ることができたのはソレが要因ですね。大亜連合に関しては魔法師の立場は言うほど高くありませんから。その点日本ってすげぇよな、完全にコントロール不能な化け物の集まりだもん。

次回、魔法実習。オリ主の魔法技能が遂に明らかに・・・っ!たぶんならない。


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第二十一話~意見~

日常回的な感じになっているけど、文字数は長め。
事態が激しく動くのは、次回から。


【Friday,April 15 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

「1060ms・・・ほら、頑張れ。もう一息だ」

 

「と、遠い・・・0.1秒がこんなに遠いなんて知らなかったぜ・・・」

 

「馬鹿ね、時間は『遠い』とは言わないの。それを言うなら『早い』でしょ」

 

「エリカちゃん・・・1052msよ」

 

「ああぁ!言わないで!せっかくバカで気分転換してたのに!」

 

「お前ら楽しそうだけどこれ居残りだからな?」

 

 見ていて確かに楽しくないわけではない。このような光景は見ていて滑稽だ。

 しかし、肝心なのはこれが居残りだということ。せめて食堂の美味い飯を食べたくないのか。

 とは言うものの、レオもエリカも好きで居残りしているわけではないから酷な話なのだろうが。

 

 

 昨日の朝の内に事態を聞いてみたところ、嫌なことにほぼ予想通りの情報が出てきた。

 二科生を中心とした部活連合団体の設立、及び学校に対する抗議の協力要請。

 エガリテの連中はこれを足がかりにする予定だろう。恐らく警告は無視されたのだろう。

 しかし、別に工作そのものは問題はないのだ。問題は、その工作の方法が"派手"なのか"静か"なのかに尽きる。

 個人的には、取るなら取るでいつの間にか取られていたという状況にしてほしいのだ。その方がこちらへの影響は少ない。ただ、もし学校全体に騒ぎを起こすような派手なものだとしたら、それなりの行動が必要になってくる。

 

 

「難儀なもんだなぁ・・・」

 

「どうした?」

 

「こっちの話だ」

 

 二人へアドバイスを終えた達也がこちらの様子に気づく。

 それに対して返事をすると共に目の前の事象について話す。

 

「とりあえずもうこれは諦めた方がいいと思うがな。そろそろ腹減ってくるだろ。やれるとしても後一、二回ってところか」

 

「大丈夫だ、"頼んである"」

 

「お兄様、お邪魔してもよろしいですか・・・?」

 

 つくづく用意のいいことだ。食堂に食べに行くにも時間がないと把握して妹さん達に頼んでいたのか。

 

「深雪、・・・と、光井さんに北山さんだっけ?」

 

 そう言いつつ振り替えるのはエリカ。

 まぁ確かに意外に感じないでもない。だが、今はまだ気にするべきではない。

 

「エリカ、気を逸らすな。次で終わりだから、少し待ってくれ」

 

「いっ?」

 

「分かりました。申し訳ございませんでした、お兄様」

 

 振り向いて謝罪する達也に対して一礼を返す妹さん。

 そして達也のさり気ないプレッシャーにレオの顔が引き攣った。

 

「二人とも、これで決めるぞ」

 

「応!」

 

「うん!これで、決める!」

 

 二人は気合を入れてCADのパネルへ向かった。

 

 

 

「まぁ、サンドイッチの差し入れがあってよかったな?二人とも」

 

「まったくだ。本当に達也には感謝だぜ」

 

「教室で食べることが出来て本当によかったわ~」

 

 妹さん達が用意したサンドイッチに被り付く二人。

 なお達也は弁当、美月と俺は自分で用意した軽食を食べている。

 先ほどまで魔法の実習をやっていただけあり、話題は実習内容に移る。

 

「そういえば、深雪さんたちのクラスでも実習が始まっているんですよね?どんなことをやっているんですか?」

 

「多分、美月たちと変わらないと思うわ。ノロマな機械をあてがわれて、テスト以外では役に立たない練習をさせられているところ」

 

 しかし妹さんの返答には達也を除くほぼ全員がギョッっとした。

 外見にそぐわない毒舌具合だが、これもまだ彼女自身の立場になったら理解できる。

 

「ご機嫌斜めだな」

 

「不機嫌にもなります。あれなら一人で練習している方が為になりますもの」

 

 彼女の場合は他の一科生の二倍以上はあるのではないかと思われるスペックとそれを生かせるように経験を積む環境が既に手元にあったため、むしろ今現在既に魔法師としての腕は確立されていると言ってよい。

 

 とは言うものの、そのような人もまた少数なのは確か。

 中には出来るだけ手取り足取りやってくれた方がいいと言う人もいる。

 そういう人の前でそのようなセリフは余り好むべきものではない。

 しかし、先ほどまで達也に手取り足取りされていたエリカは不機嫌な表情は浮かべなかった。

 

「いや、でも見込みのありそうな生徒に手を割くのは当然だもの。ウチの道場でも、見込みのなヤツは放っとくから」

 

「エリカちゃんのお家って、道場をしているの?」

 

「副業だけど、古流剣術を少しね」

 

「あっ、それで・・・」

 

 納得顔で頷く美月。

 確かにエリカには剣の使い方に一定の心得がある。そう見た場合むしろ道場に通っているか、実家が道場かのどちらかが真っ先に頭に浮かぶだろう。

 

 そして、エリカは道場の中の話を例に挙げ、説明していく。

 曰く、道場では半年は技を教えないらしく、最初に基本を教える。それもたった一回のみ。後はひたすら繰り返しを見ているだけで、まともに刀を振れるようになった人から技を教えていく。

 もちろん、上達しない奴が出てくる。しかし、そういう奴に限って自分の努力不足を棚に上げる。まず基本を身につけない限りは何を教えても意味がないというのに。

 師範などでも暇ではない。彼らにも自分自身の修業があるのだから、最初から教えてもらおうという考えそのものが甘い。常に、周りから吸収するつもりでなければいけないのだ、と。

 

「なるほどな。確かに一理ある」

 

「だからね、元々見込みのない私達は自分達で努力する必要があるのよ。だから、別に講師が付かないことぐらいでは文句はないわね」

 

「・・・ご高説はもっともだと思うけどよ、俺もオマエもついさっきまで達也に教わってたんだぜ・・・?」

 

「あ痛っ!ソレを言われると辛いなぁ」

 

 レオの指摘に顔を顰めつつも、特に調子が変わるわけでもない。

 

「まぁ、別にいいじゃないか。偶にはそういうことも必要な時があるって事さ。自分で上に上がろうとしない者に文句を言う権利はないって言いたいんだろ?」

 

「ま、そういうことよね」

 

 そう頷きつつエリカは最後のサンドイッチの一口を口に入れた。

 

「だが、反対意見がないってのは聞いてて詰らん気もするな。誰かいたりしないのか?」

 

「なら借哉は反対なのか?」

 

 少々話を深いところまで聞いてみたいと思って問いかけてみたが、逆にレオから問いかけられることになった。

 確かに自分では何も喋らないというのはフェアではないか。

 そう思って、考えを口にした。

 

「まぁ、別に当たり前だとは思っていないが割り切るべきだよなぁとは思ってるかね」

 

「ほぅ、そりゃ何でだ?」

 

 興味深そうに聞くレオ。ただ、生憎回答は限りなく簡潔だ。

 

「単純さ。"俺でもそうする"から」

 

「・・・っていうと、どういうこと?」

 

「簡単さ。自分を校長の立場にして考えてみるとな、魔法科高校にはどうしてもノルマっていうもんが存在して、生徒全員を一人前に仕立て上げる能力は現状ない。そうなると、ノルマだけでも達成できるようにって片側だけを優遇せざるを得ない。」

 

「でもそれだと、もう片側からは文句が出るのは当たり前になるぞ?」

 

 そう聞くレオに対して、しっかりと頷く。

 

「もちろん。片側は切り捨てているわけだし、本来の教育原理から考えるとお世辞にも褒められた方法ではない。ただ、この魔法科高校ではその方法を取らざるを得ず、俺たちはそれを"承知の上で"その魔法科高校に入学したんだ。一科だとか二科だとかいって差別するのは生産的とも言えんしそこに文句が出てくるのは当然なんだがな、教育方法に関しては割り切って然るべき、ってことさ」

 

「話を聞いた限りはかなり後ろ向きな考え方だな」

 

 そう言う達也に対して、笑いながら答えた。

 

「まぁ、そこらへんは自覚してるさ。ただ、俺たちはもう高校生だ。ある程度のラインは割り切っていくべきなんだよ。達也だって確か今日に"答え"を聞くんだろ?それが正しいかどうか、きちんと判断するんだな」

 

「はぁ・・・委員長からもよろしくとは言われたが、お前まで一体どうした?」

 

 そう訝しげに聞く達也に対して、彼にだけ分かる意味合いで答えた。

 

「それによって入ってくる情報は貴重だからな。有効活用していくつもりだ」

 

「・・・そうか。まぁ、結果だけは伝えておくさ」

 

 

 そう答える達也の顔は、やはりどこか疲れていそうな気がした。

 だが、こちらとしてもどのような行動をしていくのか調べなければいけない。ある意味あてにしているのだ。

 "調整者"達の一部にも調査をさせているため近いうちに答えは得られるだろうが、ソレより早く対策するために情報が欲しい。

 

 その為にも、もう少し働いて欲しいものだ。

 




てな感じでオリ主の必要性をほぼ感じない回だった気がしなくもないけど、ツナギ的意味ではやっぱり必要でしょう?こういうのも。

オリ主の考えを纏めると「予め教えられない可能性もあることを分かった上で入学したんだから割り切れよ」って奴です。基本彼は共同体を尊重する考えの持ち主。だって彼自身"管理者"様第一的な思考持ってますから。

次回、オリ主視点なのは変わらず。ただし、それなりに面白くなるかも・・・多分。


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第二十二話~決断~

久しぶりの連絡回。
だけど内容は火器マシマシ。

なお今回もそうですが、基本的にこれみたいな武装勢力の武装描写に関してはアニメを参考にして、それを元にいろいろやりくりします。もしかしたら魔法より火器の方が真面目に多くなってしまうかも。主にオリ主の一般武装に関しては。

そういうのやめてくれって言う人いたら、教えてくださるとうれしいかな。


【Sunday,April 17 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

 

〔moderator2:とりあえず"管理者"殿に要求されていた、"3つ"の事象の観測結果をお伝えします。見てもらえれば分かるかと〕

〔operator4:頼む。状況によってはある程度用意してもらうものがあるかもしれん〕

 

 日曜日。学校もないこの日に、頼んでいたエガリテ関連の調査の結果が出たとの報告があり、パスを開いていた。

 

 元から、達也から聞いた十五日の結果からして恐らくは穏便には済むかどうかも分かりそうにはなかったが。

 

〔moderator2:まず、エガリテそのものの動向からです〕

〔operator4:頼む〕

〔moderator2:エガリテは最近トラック三台を用意して、工作員も拠点に集合させている模様です。特に六日から行動が頻繁になっています〕

〔operator4:それは恐らく"バグ"の能力の一部が発覚したことによるものだろう。どうも手駒にしたいようだな〕

〔moderator2:大丈夫なのですか?〕

〔operator4:ばれたのは純粋な魔法関連の技能だ。"バグ"それそのものはまだ確認していないみたいだな〕

 

 だが、厄介なのには変わりはないのだ。彼らは明らかに"彼"を狙ったアクションを起こしてきている。いきなり振って沸いた物に欲が出ている状態だろう。しかし、それ故に動き方が少々隠せていない。そうでないならもう少し時間はかかったはずだ。

 

〔moderator2:では次に、彼らの移動手段の経緯に関してです〕

〔operator4:何かしらあったか?〕

〔moderator2:二十二日深夜あたりに撤退用に新たに用意したバス三台を使う予定でしょうね。二十三日明朝あたりに大亜連合行きに、彼らの息の掛かっているであろうタンカー船があります。恐らくは目的を達成したら直ぐに日本を撤退するつもりなのでしょう〕

〔operator4:最初からエガリテが日本に根を張る重要性はなかったってことか・・・。とりあえずこれで奴らの工作は確定的か。既に止めても手遅れだな〕

〔moderator2:ですね。では、最後に指定されていた、"非合法武器の流れ"についてです〕

 

 顔が引き締まることが自覚できる。

 これにより、彼らの意図が多少なりとも分かる。

 ある意味、この情報が欲しくて待っていたのだ。

 

〔moderator2:限りなくイレギュラーな動きをしています〕

〔operator4:と、いうと?〕

〔moderator2:数ヶ月前から既にAK47といったかなり旧式のアサルトライフルをそこそこの数集めていましたが、六日になりいきなり緊急発注が増えた格好になります。大きなアクションが予想されるかと〕

〔operator4:具体的には?〕

 

 これの答えは、予想を超えるものだった。

 

〔moderator2:RPG-7を5丁ほどとその弾薬。催涙ガスを使用した対人鎮圧用のグレネード、更にMP5などのSMG類やAK47などの追加発注を組織規模にしてはかなり大きく発注してます。合計すると三桁を超える数になるかと〕

〔operator4:何だその規模は。ちょっとした反乱レベルじゃないか〕

〔moderator2:全くです。おそらくは"管理者"殿が行ったとされる警告は完全に無視された格好になるかと〕

 

 自室のベットに転がり、思案する。

 もし報復として考えるならば工作そのものを潰すのが一番なのだろう。しかし、それで"我ら"が目立ってしまっては本末転倒だ。ではやはり、制裁を加えるべきは工作ではなく、組織そのもの。

 しかし、どのように足掻いたとしても自分が何らかの形で巻き込まれる。

 より、最小にする為には、やはり変わりに誰かが事態の収拾における主導権を握ってもらう必要がある。

 適任は、やはり"彼"か。

 後は、こちらの用意と、行動だけで決まる。

 考えがまとまり、指示を伝える。

 

〔operator4:とりあえずは制裁を加える前に必要な、工作のしゅうしゅうについては"バグ"に頼んで置こう。事態が起こると決まった時に、規模を伝えてやれば彼自身で始末をつけてくれるだろう〕

〔moderator2:それでは、我らは何を?〕

〔operator4:もし完全に工作が"派手"になった場合、俺自身で制裁に向かう。ただ、コマンドは使いたくない。バイクを使って敷地に侵入、火器を使った強襲をする。その時は俺のバイクと俺自身を監視網からカットしてくれ。〕

〔moderator2:了解しました。用意させます。他には何かありますか?〕

〔operator4:あぁ、あるとも。一番重要な事がな〕

 

 

 〔operator4:"調整者"を一人、狙撃手としてこっちに寄越してくれ。殴りこみに行く際の後処理に使う〕

 

 




主人公がカチコミ宣言しました、はい。
彼の家の武器庫が火を吹きます。といっても豊富ではありませんが、装備はどんなのになるんでしょうね。まぁ多対一の予定なんで自然と限られますが。

後悩んでいるのはオリ主vs達也をやるかどうか。入学編の内にやっておかないと二度とない気がしてならないんだけど、無理矢理入れるのも中々どーかなと思ったり。
まぁ、そこら辺はまだ様子見ですかね

次回、たぶんつなぎ回になる可能性があると思う。全校生徒の皆さんってあれですはい。たぶん達也視点かな。

【追記】指摘していただいた誤植を修正しました。教えてくださった方、ありがとうございます。


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第二十三話~放送~

出来るだけ繋ぎ回を1回で纏めようとしたら文字数が何時もの二倍になったでござる。
原作では高々数ページなのにひでぇや


【Thursday,April 21 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 授業が終わった直後、放課後の冒頭。

 

『全校生徒の皆さん!』

 

 ハウリング寸前の大音声が、スピーカーから飛び出した。

 

「何だ何だ一体こりゃあ!」

 

「チョッと落ち着きなさいただでさえアンタは暑苦しいんだから」

 

「・・・落ち着いた方がいいのは、エリカちゃんも同じだと思う」

 

 かなりの数の生徒が慌てふためく中、今度はスピーカーからもう一度、決まり悪げに同じセリフが流れた。

 

『失礼しました。全校生徒のみなさん!』

 

「どうやらボリュームの絞りをミスったようだな」

 

「まぁ初放送でマイクの入れ忘れなんてミスするよりはマシだと思うがな」

 

「やっ、二人とも言ってる場合じゃないから」

 

『僕達は、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です』

 

「有志ね・・・」

 

 スピーカーから威勢よく飛び出した男子生徒の声を聞いて、紗耶香の言っていた「待遇改善要求」の為のそれなのだろうと理解する。しかし、有史以来一体どれだけの政治的集団が「有志」だっただろうか、つい考えてしまう。

 

「ねぇ、ところで二人は行かなくてもいいの?」

 

「そうだな。放送室を不正利用していることは間違いない。委員会からお呼びが掛かるか」

 

「え、何また書類増えるの?嫌なんだけど今日から少し用事できそうなんだけど」

 

 そうぼやく借哉の願いもむなしく、携帯端末にメールの着信が来る。

 

「欝だ・・・・」

 

「言ってても仕方がないだろ。とりあえず全員最初は放送室集合なんだ。早く行くぞ」

 

「余計欝だ・・・」

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「あ、はい、お気をつけて」

 

 席を立つ二人に掛けられた美月の声は、不安に揺れていた。ふと気になり、教室の様子を見回してみる。そこに、教室から出て行こうとしている生徒はほとんどいなかった。大半のクラスメイトが、不安げな顔で、このまま帰っていいのかどうか決めかねていた。

 

 

 

 

「あ、お兄様」

 

「深雪、お前も呼び出しか?」

 

「はい、会長から、放送室前へ行くようにと」

 

「本当に入学してから騒ぎが続いてるなぁ・・・」

 

 途中で深雪と合流し、放送室へと向かう。

 

「これは、"例の団体"の仕業でしょうか?」

 

「特定は出来ないが、その手の輩の仕業には違いないだろうね」

 

 恐らくは知っている可能性が高いが、念のために彼の前でブランシュのことは出さない。

 何しろ、憂さ晴らしついでに知らない振りをしていろいろ聞かれかねない。

 そんなことを考えながら、放送室の前に到着する。

 放送室前には、すでに摩利と克人と鈴音、そして風紀委員会と部活連の実行部隊が顔を揃えていた。

 

「遅いぞ」

 

「すみません」

 

 ポーズだけの叱責に同じくポーズだけの謝罪を返して、現状確認に移る。

 放送室の電源は切られ、放送そのものを止めている。

 まだ中に踏み込んでいないのは、扉が閉鎖されているせいだろう。

 恐らくは何らかの手段で鍵をマスターキーごと手に入れたと見える。

 

「明らかな犯罪行為じゃないか」

 

「そのとおりです。だから私達も、これ以上彼らを暴発させないように、慎重に対応すべきでしょう」

 

 今のセリフは独り言でしかなかったのだが、鈴音はそう取らなかったようだ。

 

「こちらが慎重になったからといって、それで向こうの聞き分けがよくなるかどうかは期待薄だな。多少強引でも、短時間の解決を図るべきだ」

 

 すかさず摩利が口を挟む。

 どうやら方針の対立が膠着を招いているようだ。

 

「どうせ風紀関連の書類は俺に回ってくるんでしょう?今日中に処理したいんで後三分で決まらない場合は蹴破りますよ委員長」

 

「別に今すぐにでも構わんのだが、やるとしても足並みを揃えろ」

 

 借哉も摩利と同じく短期解決を主張してきた。

 とは言うものの、彼は具体的に"三分"とつけた。これ以上時間を引き伸ばしにすることが最も拙いと分かっているのだろう。既にドアの前に立ち、二人の先輩を呼んで突入体制を整えている。

 

「借哉、一旦待て。十文字会頭はどうお考えなんですか?」

 

 借哉に一旦待つように言ってから、克人に意見を伺う。

 意外感を抱えた視線が帰ってきたが、現状を放置するよりはいい。

 

「・・・俺は彼らの要求する交渉に応じてもいいと考えている。元より言いがかりに過ぎないのだ。しっかりと反論しておくことが、後顧の憂いを経つことになろう」

 

「ではこの場は、このまま待機しておくべき、と?」

 

「それについては決断しかねている。不法行為を放置すべきではないが、学校施設を破壊してまで性急な解決を要するほどの犯罪性があるとは思わない」

 

「・・・交渉するにしろ突入するにしろ、後一分で決めましょう」

 

 結局は、強引な事態収拾は図らないという意見が主流になる。

 しかし、借哉は何かしらの行動を起こさない場合直ぐに突入するだろう。

 ここは、致し方ない。

 

「借哉、突入は待て。"鍵を開けてもらう"」

 

「ピッキングでもするのか?」

 

「そんなわけないだろう、一旦ドアから下がって、相手が出てきたところを抑えろ」

 

「はぁ・・・腹案でもあるんだろうな?」

 

 仕方なくドアから離れた借哉から掛けられた質問に頷く。

 

「壬生先輩に連絡を取ってみる」

 

 

 

 

「どういうことなの、これ!」

 

 案の定というべきか当然というべきか、やはり紗耶香に詰め寄られた。

 放送室を占拠していたのは、彼女を含めて五人。予想通り、CADを所持していたが、それ以外の武器は持っていなかった。

 紗耶香以外の四人は借哉や他の風紀委員によって拘束されているが、紗耶香はCADを没収されただけだった。

 

 摩利が配慮した結果である。別に、口約束を守る必要などないと考えていたのだが。

 

「あたし達を騙したのね!」

 

「司波はお前を騙してなどいない」

 

 言い詰ろうと詰め寄る紗耶香に対して、克人が声をかける。

 

「十文字会頭・・・」

 

「お前達の言い分は聞こう。交渉にも応じる。だが、お前達の要求を聞き入れる事と、お前達の執った手段を認める事は、別の問題だ」

 

「とりあえずは決まりましたね。"四人に関しては"連行しますよ。さっさと手続き終わらせちゃいましょう」

 

 そう言って拘束されている四人を移動させようと借哉が動こうとした時、声が掛かった。

 

「まぁ、一応彼らを放してあげてもらえないかしら?」

 

 そういって、達也と紗耶香の間に真由美が入り込んだ。

 

「七草?」

 

「だが、真由美」

 

 克人と摩利が何かを言おうとしたが、それを未発段階で遮った。

 

「言いたいことは理解しているつもりよ、摩利。でも、壬生さん一人では交渉の段取りも打ち合わせもできないでしょう。当校の生徒である以上、逃げられるということもないのだし」

 

「あたしたちは逃げたりしません!」

 

 真由美の言葉に、紗耶香は反射的に噛み付く。

 だが、それに反応する間もなく横から声が掛かる。

 先ほどまで四人のうちの一人を拘束していた借哉だ。

 

「しかし会長。"当校の生徒である"というのなら余計に、"当校のルールで罰する"必要があります。今回は計画的犯行であった以上情状酌量の余地なんてありませんよ?」

 

 現在の状況から、直ぐに罰するべきと借哉が主張する。恐らくは摩利も同じ気持ちだろう。

 だが、真由美はそれに首を縦に振らなかった。

 

「生活主任の先生と話し合ってきました。鍵の盗用、放送施設の無断使用に対する措置は、生徒会に委ねるそうです」

 

「・・・委員長、どうします?」

 

「そうとなれば仕方はないだろう。風紀委員会に出る幕はない」

 

 摩利の返事に、了承の意を返す借哉。

 恐らくは彼の胸の中はこの先の仕事を生徒会に押し付けることが出来る口実を得られて満足しているのだろう。さほど抵抗することもなく従った。

 

「壬生さん。これからあなた達と生徒会の、交渉に関する打ち合わせをしたいのだけど、ついて来てもらえるかしら」

 

「・・・ええ、構いません」

 

「十文字くん、お先に失礼するわね?」

 

「承知した」

 

「ごめんなさい、摩利。なんだが、手柄を横取りするみたいで気が引けるのだけど」

 

「気にするな。実質面では手柄のメリットなど無いからな」

 

「そうだったわね。じゃあ、とりあえずは達也くんたちは、今日はもう帰ってもいいわ」

 

「・・・それでは会長、失礼いたします」

 

 その言葉に丁寧に一礼を返し、その場を後にする。

 

 

 ある程度離れたところで、彼が愚痴を吐いた。

 

「本当にくだらん。ああいう輩は無駄な仕事ばかり増やす」

 

「ちなみに、誰のことを言っているんだ?」

 

 そう聞いてみると、ある種予想通りの答えが返ってきた。

 

「放送室乗っ取った連中だよ。自分達が何を望んでいるかすら分からんのに、思い込みだけで行動するタイプだ」

 

「学内での差別撤廃。案外はっきりしてるとは思うが?」

 

 自分でもまったく筋は通ってはいないとは思うが、何を望んでいるかに関してはこれであっている。

 だが、彼は首を横に振る。

 

「いや、違うな。あいつらは"虐げられてきた"と感じていて、"報われるべきだ"と思ってるんだよ。それは"差別撤廃"やら、"平等"やらはないぞ?あいつらが本当に欲しているのは今まで耐えてきた分、又はそれ以上に"二科を優遇すること"さ」

 

「"最も差別意識を持っているのは、差別されている側である"という言葉もある。結局は根本的な解決よりは、手前の事態の解決しか俺達には出来ない」

 

「まぁ、違いないな」

 

 そう言って彼は笑う。

 

 

 だが、次に出たセリフは、何処となく真剣な様子を帯びていた。

 

「だが、ああいう輩に限って派手なことを好む。場合にも寄るが、恐らくは準備を済ませているだろう」

 

「・・・どういうことだ?」

 

「さぁな。ただ、恐らくは三日以内には何かしらあって然るべきだ。ただ、問題はその時に俺は用事で休む予定でな。水曜の時点で一応金から火までに休みを申告している。だから、その時に俺は"学校に干渉できない"」

 

「・・・"何か起こった時に、事態を収拾しろ"といいたいのか?」

 

 そう返すと彼は頷く。

 

「話が早いな。流石に明日に何かあるとは思えんが、何か起こるとしたら"視点が一箇所に集まった時"だ。その時、出来るだけ俺に後の面倒が来ないように決めてくれよ」

 

「それは、風紀委員の"河原借哉"としてか?それとも、もう一つの"河原借哉"としてか?」

 

 それに答える借哉の顔は、平時の、何かしらのジョークを発する時の顔に戻っていた。

 ただし、内容の真剣度にさほどの変化はなかったが。

 

 

「"どっちも"だよ。精々頑張ってくれよ?"風紀委員のエース"さんよ」

 

 

 そう言って去っていく借哉に対しては、ため息しか出なかった。

 

 




てなことでさり気なく学校の面倒ごとを押し付けつつサボり宣言するオリ主。
彼自身適当に工作が起こるであろう時期を自分なりに予測して、その時いつでも動けるように休みをとってます。
特に学校の面倒ごとに首突っ込んだら、潰しに行く時に達也くんと一緒に行くことになっちゃうじゃないですか。そんなの目的としては半ば失敗のようなもんです。

次回、オリ主視点。学校の騒動とかあんま書かないかも


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第二十四話~開幕~

十六巻発売されましたね。皆さん買いましたか?私は買えました。予約したところで。

今日はちょい短めかも。
そんでもって、やっとまともな戦闘が始まる。魔法科の時代からしたら旧時代的なのだろうが。


【Saturday,April 23 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

「・・・討論会がそろそろ始まった頃か」

 

 

 学校内での事態の進歩を知るのにそう手間はない。

 例え、場所が離れていたとしても。

 

 現在いる場所は、ブランシュ日本支部のある、廃工場からバイクで十分先のところにある、駐車場。

 そこから100mほど先の建物の屋上には、狙撃手として来てくれた調整者No1が廃工場を監視している。

 

 

『で、どうだ"フライデイ"。"蜂の巣"から何か出てきたか?』

 

 

 何時もはコマンドを使ったパスを連絡手段として使う。その方が諜報される心配が確実にないからだ。

 しかし、今回の場合むしろそこそこの"形跡"を残しておいた方が楽になる。

 だからこそ、名詞を伏せつつ携帯端末で連絡を取っていた。

 

『今トラックが出ましたね。恐らく十五分で学校には到着するでしょう。運転手でも撃ちますか?』

 

『いや、それは泳がせておけ。あいつらが学校を襲ったという"事実"が必要なんだ』

 

『では何のために私は呼ばれたんです?"ハイクアッド"殿?』

 

『まぁ、逃げ出す奴の始末だな。後は前に教えた指定目標がそっちに言った場合はソレを最優先で始末ってぐらいだ。さて、そろそろ"行くかね"』

 

『準備はあっちでするんです?』

 

『当たり前だろ?一般人の目は誤魔化せないからなぁ』

 

『まぁそうでしょうね。何かしら変化があったら報告します』

 

『了解。じゃ、先に地点に移動する』

 

 その言葉を最後に一旦通信を切り、バイクで移動を始める。

 

 

 

 十分後、目的の地点に到達する。

 廃工場の正門には見張りはいなかった。それとも、元から"罠"として用意してあるつもりなのか。

 工場内にバイクを乗り入れた後、適当な場所に隠し、積んであったバックを開く。

 

 

「これだけの"重装備"、使うのは何時振りだろうな」

 

 

 中に入っているのは、何時ものスーツの内側に身につけるための高性能な"防弾チョッキ"に、多人数相手に"手間取らずに"済むだけの武装。

 まだ21世紀初頭の頃に米軍に配備されていた、今では軍内部では精々近代化改修をしてやりくりしているレベルの、屋内向けに銃身を短くした、カービンライフル。

 下部のマウントレールにはグレネードランチャー。使う弾頭は通常弾頭に、催涙ガスを使用する類のもの。

 ライフルのマガジンは通常マガジンが五つに、100連装ドラムマガジンが三つ。

 サイドアームに、9mmのハンドガン。

 

 更にグレネードは殺傷能力のあるものの他に、一時的でも広範囲を無力化できる閃光手榴弾や催涙ガス手榴弾も揃えてある。

 

 これだけの火薬と武器を使った場合、"我々自身"が来たというより、"我々の手足が来た"と思われるだろう。そう錯覚してくれるとありがたいのだ。

 そして、何よりも"あまり手間取るつもりもない"。さほど時間をかけずに終わるだろう。

 

 

 バイクの携帯端末から、連絡が入る。

 

 

『学校内では既に戦闘が始まっています。やはり人目につくぐらいに派手ですね』

 

『やはり警告は無視か。ならば、往くとしよう。"フライデイ"、この工場から"一人もメンバーを逃すなよ"?』

 

『了解しました。御武運を、"ハイクアッド"殿』

 

 その言葉を最後に、通信が切れる。

 

 

 後は、死刑宣告のみ。

 

 既に司一の電話番号は手に入れている。彼に情報端末から電話を掛ける。

 5コールの後、彼が電話に出た。

 

 

『・・・誰だ?』

 

『先日お前の義弟に"警告"を伝えてやった者だ』

 

『奇妙なことを言っていた風紀委員は君だったのか。で、一体何をしてくれるというのかね?』

 

 まるで侮ったような様子で問いかける彼に対して、笑って答える。

 

『もちろん、俺の言うことを無視してくれたんだ。派手にやってる分、報いは受けてもらう』

 

『滑稽じゃないか!たかが二科生、それも"キャスト・ジャミングの彼"よりも魔法能力に特筆性がない君がそのようなことを言うとは!』

 

 そう笑う彼に対する返事の為に、"最後の荷物"を取り出す。

 

 

 彼らが、学校に打ち込んだのと同じタイプの、RPG-7。

 それを、鍵が掛かっているであろう入り口に遠慮なく打ち込んだ。

 爆音と共に、ドアが吹き飛んでいく。

 

 司一にとってもまさか彼が重火器を持って襲撃に来るとは予想外だったのだろう。通話口からは声こそ聞こえないものの、唖然とした様子が聞いて取れる。

 

 そこに、最後のセリフを残す。

 

 

『相手のことをよく分からずに動きすぎたな。精々、楽に死ねるように祈っておけ。祈るべき神など、ここにはいないがな』

 

『・・・っ!お前ら!何をしている!早く迎撃に行け!"彼"がこちらにおびき寄せられる前までに始末するんだ!』

 

 もはや通話しているという事実すら忘れているのだろう。慌しく人の動く音が聞こえる。

 

 苦笑しながら、通話を切る。これで、宣告は済んだ。

 

 

 さて、"我々に歯向かうとどうなるか"を魔法師に教える時間だ。

 




さて、ブランシュvsオリ主+αとの戦闘が始まりました。
思いっきり魔法科には似合わないぐらい火薬マシマシですが、理由がないわけではありません。
単純に彼の魔法師としての実力は二科生レベルで、それなら銃などの火器を使った方が早く、強力な魔法師を持っていないエガリテの日本支部に対してはハイパワーライフルよりは旧世代に造られたカービンライフルぐらいの方が応用が利くってだけです。


まぁ、結局のところオリ主は普通の攻撃とかほとんど効かないのでナメプでも別に勝てるわけです。そこらの奴相手だったら。

なお、コールサインに関してはフライデイ→Friday→"F" ハイクアッドはHighquad→"H"igh"Q"uadってな感じにしてます。これで察してくれたらありがたい。

次回、銃撃戦。化け物による蹂躙が、始まる。はず。


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第二十五話~戦闘~

ちょっとテンション上がって早めに投稿したんですが、これ一応書いたのが16巻終わった後なんです。
読みました。読んだんですよ。
なんていうか・・・言葉に出来ない。
感想については後書きにてこっそり書く予定。


【Sunday,April 23 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 廃工場の中を、人と弾丸が駆けていく。

 まるで内戦のような音が流れるが、廃工場に"元々いた側"は一種の恐慌状態を起こしていた。

 

「くそっ!止まれ、止まれぇ!」

 

「早く当てろ!殺せ!ここを突破されるな!」

 

「"当ててる"んだ!"当ててる"筈なんだよ!」

 

 AKをもはや乱射のごとく撃ち続けている、ブランシュのメンバー。

 彼らの持つ銃口は、ただ俺一人にのみ向けられている。

 

 

 確かに"当たってはいる"。防弾チョッキなどこの弾幕の前では何の役にも立たない。

 しかし、元々"我々"に普通の攻撃など効かない。食らっても、"直ぐ再成するから"。

 

 

 ライフルを構え、目に付いた敵から片付けていく。

 一人につき三発。指切りで撃ちながら進んでいく。今だ歩いてるのと変わらない速度だが、誰も"妨害すること"さえ出来ていない。

 

「さて、あそこのドアの向こうにこいつらの"頭"がいるわけか」

 

「ここを通すな!通路をお釈迦にしても構わない!出し惜しみするな!」

 

 あと少しでたどり着くというところで、一層攻撃が激しくなる。相手も流石に屋内でロケットランチャーの類を使うつもりはないようだが、グレネードの類が弾幕と共に幾つも飛んでくる。

 

 それらがいくら至近距離で、ましてや足元で爆発したとしても、相手の認識速度を超えて体が修復される。

 ただ、相手に取っては幸か不幸かは分からないが、その姿は爆煙に見えて分からなかったようだ。

 

 

「やったか?!」

 

「死体を確認する。付いて来い!」

 

 

 そう言う彼らの元に、一つの物が投げ込まれる。

 殺傷用の、破片手榴弾。

 時間を調整し、二秒ほど間を置いて投げ込まれたそれは最後の扉を守る彼らが認識するよりも早く爆発し、そして無力化した。

 

「他愛ないな。どこかの漫画のようにスーツだけボロボロという風になればまだ面白みもあるのかもしれないが」

 

 残念ながら自分で使っているのは規模こそ上だが、達也と同じ"再成"。

 これが行使される時は、自らの装備品なども対象に含まれる為、"弾が当たったと分かるもの"はできない。

 尤も、それのおかげで弾幕を受けながら進むという、相手に"恐怖心"を与える為のやり方ができるのだが。

 

 

 司一がいる、ホール状のフロアへの扉に手をかけたところで、ドアそのものが吹き飛ぶ。

 

 ブービートラップなどではない。内側からのロケットランチャーの迎撃だ。

 広い場所だからこそ出来る行為だが、攻撃の規模は先ほどとは桁違いだった。

 残っていた三十人の内の、二十五個の銃口から吐き出される7.62mmの弾丸と、残りの五人から放たれるRPGの弾頭は、入り口を跡形もなく吹き飛ばした。

 

 全員が弾倉を撃ち切り、入り口のあたりが天井から崩壊していく。

 しかし、それでもまだ"俺の足を止めるには足りない"。

 

 

 完全に入り口が潰れた時、既にホールの中には入っていた。

 

 

「馬鹿な・・・あれほどの攻撃を受けて、何故生きている・・・。お前は、二科生のはずでは・・・」

 

 信じられないものを見ているかの様な目で、司一が言った。

 事実信じられないのだろう。これ程の攻撃を耐えられるとしたら、並の魔法師ではないだろう。

 

 

 ただし、それは"魔法師"に限定される。

 "魔法師"という枠には収まらない"我々"には、無意味な話。

 

 

「だから言っただろう?"祈る神などここにはいない"と」

 

 

 そう言って、中心にいる彼に向けて、ライフルに装着しているグレネードランチャーの銃口を向ける。

 

 グレネードランチャーから放たれた催涙ガス弾は、彼らを一時的に行動不能にする。

 その隙に、弾倉をドラムマガジンの物に装填し直し、左から掃射していく。

 先ほどより少々長めに指切りしつつ、一掃していく。

 

 弾倉の最後の一発を撃ち終えた頃には、既に司一を含め四人ほどしか残っていなかった。

 しかし、百発の掃射でまだ生き残りがいるとは。少々雑に撃ちすぎたか。

 

 そんな反省を余所に、肩に弾を食らっていた司一は怯えながら後ずさり、

 

「だ、誰か・・・助けてくれぇ!」

 

 そのまま残りの生き残りと共に逃げ出し、ホール内には誰もいなくなった。

 

「うーん・・・。追いたいんだが、もう"追いついちゃってる"なぁ」

 

 "眼"には、入り口のところから入ってくる達也とその妹さん、そして司一が逃げ出した裏口には十文字克人と剣術部の桐原武明が侵入してきている。

 

 ここは、後詰めをするよりは上手く逃げ出した方がいいだろう。

 

 それにしても、やはり時間を掛けすぎたか。しかしそれでも予想したよりは早く片付けてくれていたようだ。別に歓迎できることではないが。

 

 通信端末を開き、待機している調整者No.1を呼び出す。

 

『聞こえるか、"フライデイ"』

 

『えぇ、聞こえます。廃工場に四名が侵入、残り二名が入り口を固めてます。どうします?』

 

『そいつらは放置だ。それより、指定していた目標を仕留め損ねた。廃工場から出たところを、最適のタイミングで片付けておいてくれ』

 

『了解しました。しかし、どうやって脱出するんです?』

 

『こっちで使い損ねた奴をフルに使って逃げ出すさ』

 

『分かりました。一応先ほどの駐車場に迎えを寄越しておきます。御武運を』

 

 その言葉を最後に、通信が切れた。

 これで、一応は仕留めてくれるだろう。

 

「さて、ではあいつらにばったり会う前に逃げ出すか」

 

 そうぼやきつつ適当な窓を開け、外に出る。

 出来るだけ音は立てなかったはずだが、流石に先ほどまでの銃声が消えうせてるのだ。達也たちはともかく裏口組に関しては急いでいるはず。早めに逃げ出すに限る。

 

 

 隠していたバイクのところにまで隠れながら近寄り、入り口のところを覗き見る。

 入り口を抑えているエリカとレオはまだ、こちらには気づいていない。お互い何かしら話している。

 恐らくは素性を明かさない限り、ただでは通してくれない。

 ならば、少々手荒に行くのみ。

 

 先ほどブランシュ相手にも使った催涙ガスを、彼らに向けて打ち込む。

 素早く装填し、計三発の催涙ガスは彼らの視界を潰すには十分のものだ。

 

 彼らがもがいてるうちに素早く隠していたバイクに乗り、エンジンを起動させる。

 しかし彼らも伊達に"彼"とつるんでいない。素早く立ち直りこちらに向かってくる。

 

 エンジンを発進させると共に、彼らにもう一つ"プレゼント"を投げつける。

 使いそびれた、閃光手榴弾。

 彼らの目前で炸裂したそれは、たとえ事前に目を瞑ったとしても確実に数秒は視界を奪い、炸裂音は例え耳を塞いでも一時的には相手を行動不能にさせる。

 

 その隙に、アクセルを全開にして彼らの横を通り抜ける。

 

「あっ、待て!」

 

 一番再起動が早かったのはエリカだった。素早く自己加速術式を展開し追いすがろうとする。

 しかし追いかけさせるつもりもない。走りながら下に催涙ガス手榴弾を転がす。

 

 すぐにガスが撒き散らされ、エリカの足を止める。

 

「くぅ、嫌なことばかり・・・!」

 

 しかしエリカがガスの撒かれた場所を迂回しつつ追いすがろうとした時には、既にバイクは魔法込みでも徒歩では追いつけないところまで逃げおおせている。

 これで、難関は抜けた。

 

 

 

 後の始末は、待たせている狙撃手(スナイパー)に任せるとしよう。

 

 




ってことで敵対しませんでした。
最後のエリカ達に関してはちょっと描写難しかったんで補足しておくと、まず最初に催涙ガス弾を素早くリロードしつつ三発撃って、煙とガスで目を一時的にでも潰した後にバイクを取り出してエンジンかけて、そのまま発進すると。そんで顔を認識できる距離になる前に閃光手榴弾を投げて目を再度潰し、その間に横を抜けると。
で、レオは馬鹿正直に引っかかってるのに対してエリカは対策をきちんとしていたらしく、追いかけてくると。
んで、走りながら下に催涙ガス手榴弾をまた転がし、今度はエリカの手前で爆発させると。
そんで入れなくしてその間に距離稼いでそのまま逃げた感じです。完全な奇襲だったので二人ともいい感じに対応できてないと考えてくだされ。

【追記】投稿してから気づいたがタイトル付け忘れた。修正した。あとブランシュのところがエガリテになってました。そこも修正しました。本当に雑な仕事ですみません。

次回、達也回。ちょっとシリアスっていうかミステリーな感じで行きたい。日付変わってからの投稿になるかも。
あと、16巻の感想をちょっと吐き出したいので、10行くらい間空けてから言います。まだ読んでねぇですって方は気をつけてください。















16巻はどう突っ込めばいいの?って感じですね。なんか四葉の恥部を見た気分で仕方がない。

今までシリアスな意味でぶっ飛んでる思考してるなとは思っていましたが、完全にギャグ方面にもぶっ飛んでる気がしてならなかった。


・・・んで、一条はなんなの?見栄なの?好きな子が取られて悔しいの?今までのシリアスさえも吹っ飛んだ微妙な空気が更に台無しなんですが。


・・・本当にたぶん読んでて話に付いていけなかった。別に悪い意味じゃないんだけどね?いや、真面目に。大真面目に。


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第二十六話~恐怖~

こうやってスタックなど微塵も考えずに次々と投稿して、後でネタ切れになった時どうする予定なんだろうと少々思ったりする。

ちょーっとシリアスに行きたいな。

でもって時系列はほぼ同じなんだけど、完全に一致はしないから話数は被りません。


【Saturday,April 23 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 ブランシュ日本支部の拠点に着いた時、内部は"銃声で溢れかえっていた"。

 

「司波、これはどういうことだ?」

 

 克人が聞いてくるが、こちらもこうなっているとは思っていなかった。

 

「わかりません。ですが、予想外の事態が想定されます。慎重にいきましょう」

 

 そう答え、しばし思案する。

 まず、警察が既にここに介入しているというわけではなさそうだ。事実警察車両の類が一つも見当たらない。

 軍の方で動いていることも聞いていないため、除外していい。となると、ブランシュと同じ非合法組織あたりとの戦闘か。

 となると、どちら側の人員にせよ確実にどちらかは逃げ出してくるだろう。

 

「会頭は桐原先輩と左手を迂回して裏口へ回ってください。俺と深雪は、このまま踏み込みます」

 

「分かった」

 

「まあいいさ。逃げ出すネズミは残らず切り捨ててやるぜ」

 

「エリカとレオは、ここで退路を確保してくれ。絶対に誰かしらがこっちに来るはずだ」

 

「了解。達也、気をつけてな」

 

「深雪、無茶しちゃ駄目よ」

 

 指示を伝えた後、入り口へ足を向ける。

 その直後、強烈な爆発音と今まで以上の銃声が聞こえた。

 

「急ぎましょう。この調子だとすぐ終わってしまうかもしれません」

 

 そういって、深雪と入り口へ急いだ。

 

 

 入り口と呼べるところに、既にドアはなかった。

 その先を進んでいくと、数多くの弾痕と空薬莢、そしてちらほらと死体が見える。

 銃声は、入ってから一分も経たずに消えてしまった。

 

「お兄様、これは一体・・・」

 

「かなり派手に戦ったようだな。奥を"視て"みる」

 

 そう伝え、"眼"を使って様子を探る。

 

 ホール状の部屋に、何があったのかを示す物があった。

 死体の山と、反対側にいる"黒スーツ"の男。

 今までの出来事の中で、"黒スーツ"を着る輩は一人しか思いつかない。

 

「・・・この惨劇を作ったのは借哉か。妙に重武装してる」

 

「"彼"が?一体なぜ・・・」

 

「分からないが、出来るだけ何かしら聞き出しておきたい。急ぐぞ」

 

 そう深雪に行って、先ほど"眼"で確認した部屋へと急ぐ。

 しかし、その部屋の前にあったのは"瓦礫の山"だった。

 

「恐らく先ほどの爆発音はこれだろうな。瓦礫で足止めをしようとしたのか、それとも潰そうとしたのか・・・」

 

「しかし、それでも"彼"は死ななかったのですよね?」

 

「そうなるな。しかし、ここまで攻撃を受けて"傷一つ付かない"というのは不自然だ。さっき"視た"時には彼に外傷は"何一つなかった"」

 

「となると、"彼"はやはりお兄様と同じく・・・」

 

「恐らくだが、"再成"を使えるだろう。まさか俺以外にいるとは思わなかったが・・・」

 

 しかし、厄介なのには変わりがない。

 できれば"彼"からいろいろと情報を聞き出したかったのだが、残念ながら"彼"は既に手ごろな窓から脱出している。

 既に外に出ている以上、無理に瓦礫をどかす必要もない。

 

「エリカ達に止められるかどうかは分からんが、一応戻ろう。"彼"は既に外へ逃げている」

 

「分かりました、お兄様」

 

 また先ほどの死体を見るのはいい気がする訳ではないが、仕方ない。

 エリカ達に対して"彼"が実弾を撃たないという保障もない。早めに援護に向かった。

 

 

 

 結局、外に出たときにはエリカ達は"彼"を止めることはできなかったようだ。

 外に出たときに目に付いた光景は撒き散らされた催涙ガスに、使用済みの閃光手榴弾。それと、レオに毒を吐いているエリカだった。

 

「アンタ本っ当に猪みたいよね~。私一人であの後追いかけられるわけないじゃない。せめてあの目潰しには少しは対応してほしかったわ」

 

「うるせ。どっちにしろ追いつけなかったんだからどうしようもねぇだろうがよ」

 

 恐らくレオが閃光手榴弾に真っ先にやられたのだろう。今も耳を痛そうに押さえながら目を擦っている。

 近づいてくるこちらに気づいたらしく、二人が声を掛けてきた。

 

「あっ、達也くん。ごめん、追いかけようとはしたんだけど・・・」

 

「すまねぇ。逃がしちまった」

 

 申し訳なさそうに謝る二人に対して、軽く手を振って気にしていないことを伝える。

 

「仕方がないさ。元々襲撃を掛けてきた連中を潰す為に来たんだ。出来れば捕まえてある程度の情報は欲しかったが、別にどうしてもってわけじゃない。怪我がないだけよかったさ」

 

「そう言ってくれるとありがたいけど、やっぱり悔しいわ」

 

「同感だな。むしろあの時には殺されてるかもしれなかった。最低奇襲ぐらいには対応できるようにしねぇと・・・」

 

 それでもまだ完全には立ち直れない二人に対して、後のことを考える。

 逃げたのが誰か分かっている以上、あとでこっそりと聞けばいいのだが、おそらくほとんど中核となることは聞けずに終わるだろう。彼自身も話せる訳ではないはずだ。

 となると、出来るだけ知りうる人間がほしい。出来れば、ブランシュ日本支部のメンバーの生き残りがいればいいのだが。

 

 そんなことを考えていると、後ろから声が掛かった。

 

「司波、無事か」

 

 そう言って近づいてきたのは、裏口から工場内に入った克人だった。

 

「はい。自分は大丈夫です。しかしエリカとレオが少々。さほど深刻ではないので問題はないはずですが、一応診察してもらった方がいいかもしれません」

 

 そう伝えると、克人は頷いた。

 

「分かった。こちらの方では"敵"はいなかった。だが・・・」

 

「何かあったんですか?」

 

 克人をして言葉を濁らせる事があったのかと、改めて聞く。

 内容は、ある種いい方向に進むものだった。

 

「ブランシュの日本支部長と、その他数名が助けを求めてきた。今桐原が連れてくる。こちらでも何が起こったのかわからない。」

 

 

 

 

 桐原が連れてきたのは、確かにブランシュ日本支部のリーダーである司一だった。

 被弾は肩に一発のみだが、かなり疲弊している。事実、へたり込みながらうわ言をいくらか呟いていた。

 

「何かしら聞けそうな状態ですか?」

 

「しばらく時間を置く必要があるだろう。今家の者を向かわせている。落ち着いてからこちらで話を聞いた後、お前達にも伝える」

 

「分かりました。お願いします」

 

 そう頼んでから、司一に目を向ける。

 彼の目は焦点が定まっておらず、どこか遠くを見ているような様子でうわ言を何度も呟いていた。

 

「奴は、化け物だ・・・。なんで、あれほどまで・・・」

 

 そう何度も呟くと、いきなり彼はハッとしたように言った。

 

「そうだ、甲の奴は言っていた。『"蛇"とも呼び、"猫"とも呼ぶ。"牛"とも呼ぶし、"狐"とも呼ぶ。"烏"と呼ぶものもいれば、"兎"と呼ぶものもいる』。そうか、まさか、あいつは・・・!」

 

 いきなりの言葉に、戸惑いを隠せない。

 しかし、問い詰めようとした時に、彼の頭が突き飛ばされたかのように後ろに倒れた。

 一拍ほど置いた後、銃声が聞こえる。

 

「スナイパーだ!全員伏せろ!」

 

 そう声を掛けて狙撃手が撃ってきた方向と距離を確認する。

 遅れて銃声が聞こえるという事は、恐らくは1kmを超える距離からの射撃。

 狙撃手を見つけることは難しい事でもないが、ここで"分解"を使うのはまずい。

 

 

 

 だが、幸いその後の射撃は来なかった。

 

「・・・おそらくはもう大丈夫だ。これ以上の射撃は来ない」

 

 ファランクスを展開し、銃撃から全員を守ろうとしていた克人は何時まで経っても来ない銃撃を前にそう判断して、展開を解いた後振り返る。

 

「恐らくは元々自分達が目標ではないかと。狙っていたのは初めから彼だったのでしょう」

 

 そう言いつつ既に死体となった司一に目を向ける。彼は頭に弾丸を受け、一発で事切れていた。

 

「『"蛇"と呼ぶし、"猫"とも呼ぶ。"牛"とも呼ぶし、"狐"とも呼ぶ。"烏"と呼ぶものもいれば、"兎"と呼ぶものもいる』・・・か」

 

 彼が呟いた最後の言葉の意味を、理解しようとする。

 確か、出てきた動物は全て・・・。

 

 しかし、答えは今だ分からず、今はここにはいない"彼"に向けて疑問を吐くことしかできなかった。

 

 

 

「お前は・・・一体"何"なんだ・・・・」

 

 

 

 答えは今だ、知る術はない。

 

 

 




意図したように書けたかかどうか、今だ心配でならないラストでした。
とりあえずこれで入学編は終わり。もしかしたら次回から九校戦にはいるかもしれない。
・・・実際どうやってオリ主を絡ませるかを限りなく悩んでいるのが九校戦なんですよね。どうしようこれ、みたいな。別に達也自身に手を出すわけでもないのにオリ主が無頭龍に喧嘩を売る理由もないんですよね。精々始終暗躍に尽きる可能性が大っていう。目立たないけど、仕方ないね。


後今更ですが改めて、投票及び感想、及び誤字等の指摘本当にありがとうございます。誤字指摘などには自分が気づかない至らぬ箇所を見つけることが出来て本当にありがたいですし、感想等はこれからどう話を作ろうかというときの感想にもなっていたりします。余り出来が良いとは言えないであろう本作ですが、これからも温かい目で見守っていただければ幸いです。

次回、未定。もしかしたら投稿遅れるかも。


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第二十七話~六月~

繋ぎ回ですなこれは。
九校戦への導入前ぐらいな感じ、かな?

オリ主は基本的に仕事は押し付けられるスタイル。


【Friday,June 10 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 結局、あの騒ぎの後第一高校は一時の平和を取り戻した、ようだ。

 ようだ、というのは実際に四月のブランシュ襲撃の時にはその場に居合わせていなかったからでしかない。居合わせていた人たちよりは鉄火場にいたつもりではあるが。

 

 結局ブランシュ日本支部を壊滅させた後、達也から呼び出されいろいろ聞かれはしたがほとんどは結局答えなかった。"彼"自身を目立たせない為にも派手に動くなと言ったのに動きそうだったから潰したなど、口が裂けても言えはしない。

 結局は何故俺が動いたのかは有耶無耶の内に終わり、またブランシュ日本支部を壊滅させたのが誰かという事に関しても有耶無耶になっている。"彼"とその妹さんがエリカ達に伝えなかったのは単純にこちらへの配慮と言ってもいいのかも知れない。尤も証拠など何一つないのだが、目を付けられると困る。素直にありがたい限りだ。

 

 

 で、果たして自分の身の回りは全てが思い通りのように行く訳でもなく。

 

「と言うことだから、借哉。試験が終わってからで構わないから、次期委員長の引継ぎ用の資料を作れ」

 

「えーっと、拒否権はないのですか?」

 

「ない。一番忙しい時期に"家業"とかいう理由で休んだ罪は重い」

 

「実際は?」

 

「自分では作れないし、達也くんは十分に働いたから頼みづらいからな」

 

「正直でいいことですね全く・・・」

 

 ブランシュを潰しに行く為に取った休みのツケを、払うことが確定してしまった。

 

 確かに、ほぼきな臭くなっているタイミングで風紀委員が休みますなどと言おうものなら職務放棄と看做されかねない。いや、ある意味事実で、裏の事情から見れば事実ではないのだが、最低でも委員長から見たらまず確実に職務怠慢の極みとしか言えないだろう。

 

「せめて試験終わったらゆっくりしたいんですけど・・・」

 

「そう思うんだったらせめて職務を忠実に果たすんだな。まぁ、果たしてもらうとこちらが困ってしまうのだが」

 

「事務処理を気軽に押し付けられる相手がいなくなるからですね分かります」

 

 駄々をいくら捏ねても、もはやこれは決定事項らしく、ため息を吐きながら心の準備を済ませることしかできなかった。

 

「仕方ないですね・・・分かりましたやりますよ。ただし、四月の件はそれでイーブンですからね」

 

「もちろんだ。終わったらまたしばらくはサボれるだろう?」

 

「形だけでも巡回しておこうかな全く・・・」

 

「まぁ、この事務処理さえ終わったら後は次の風紀委員の仕事だ。これが最後だと思って頑張ってくれ」

 

 そう言って笑う委員長に対しては呆れ顔しかでない。

 まず、委員長自身が事務処理ができないという委員会はここぐらいなものなのではないだろうか。そう、現実逃避をせざるをえない。

 しかし、"わざわざ七月になってから"始めると言うのは非効率にも程がある。

 

「じゃあとりあえず今から始めておきます。必要な書類はどれです?」

 

「おいおい、まだ試験が先にあるんだぞ?風紀委員の仕事のせいで点数が悪かったなんて洒落にもならないぞ」

 

 そう言って止める委員長に対して否定の意味で首を振る。

 

「平均点ぐらい別に勉強せずとも取りますよ。魔法関連の教科はそれなりにテスト勉強くらいしますが、どうせ学校で資料作ってから家に帰ったとしても四時間はあるんです。飯と風呂だって時間さえかけなければ一時間で済む事ですし、個人的に詰め込む次期に全て詰め込んで早めに休みたいんです」

 

「実は仕事があるうちは君は仕事中毒者(ワーカホリック)なんじゃないかと思えてきたよ」

 

「むしろ欲しいのは仕事ではなく休暇です。休暇の為には労力を惜しまないと言うだけですよ」

 

「その努力の方向性を少しでも別のところに向けてくれればどれだけ助かることか・・・」

 

 そういって嘆く委員長から渡されたノルマは一ヶ月掛けたら恐らく終わるだろうと言う規模だった。並みの人間なら確かに後回しにした方がいいかもしれない。

 尤も、これは風紀委員を始めてやる人が対象だからここまでやるのであって、もしそうでなかったら二週間も掛からずに終わるだろうが。

 

 

「さて、本来ならまだ風紀委員の職務が残っている所だが、私もバトルボードの練習がある。資料を今日から作るつもりなら、鍵はきちんとしておいてくれ」

 

「九校戦本戦のメンバーは大変ですね。試験の他にもやることがあって」

 

 九校戦とかいう魔法科高校同士の対抗試合に向けて、主要メンバーは六月の段階から練習が始まっている。案外一科生の連中も苦労してはいるのだろう。

 少しだけだが同情の意味もこめた言葉を掛けると、委員長はため息をついた。

 

「一番の問題は私達選手の練習よりも私達が使うCADを調整してくれるエンジニアがいないことなんだがな・・・」

 

「足りてないんですか?」

 

 ある意味意外だ。第一高校は今までほとんど連勝していると聞いたからこそ隅々まで高水準で仕上がっている物とばかり思っていたのだが、まさか今まで選手の能力によるごり押しだけでここまで来たのだろうか?

 そう考えると、実戦向けと言われる第三高校よりも武闘派なのかもしれない。

 

「まぁ、探してみればいいじゃないですか。案外近いところにいるかもしれませんよ」

 

「そうホイホイと見つかるなら苦労はしないよ・・・。さて、そろそろ行くかな。頑張ってくれ給えよ」

 

「言われなくても・・・」

 

 そのやり取りを最後に委員長が退室する。

 しかし、CADエンジニアか。確か、達也が風紀委員会本部に眠っていたCADの調整をしていたはずだが・・・おそらく委員長は忘れているのか。

 打診しておいたほうがいいのだろうか。その方が仕事が幾ばくか免除されて楽になるだろうか。

 

 

 そうは考えたが、結局は四月の借りの清算にこそならないが気持ちだけでもという意味で、自分の胸の中にしまっておく事にした。

 

 来月まで、しばらくは喜ぶべき平穏と忌むべき仕事が続いていくだろう。

 

 

 とりあえずは、目の前の資料を終わらすことから始めよう。その方が、後々楽になるだろうから。




ってことで次回から恐らく本格的に九校戦へと移れるかな?って感じにまとまった・・・はず。
オリ主自身は恐らく直接九校戦には関わらないと思います。だって実際彼何もやることないじゃないすか。モノリス・コードでさえ劣化版の達也ぐらいになれれば上出来という状況下でねぇ・・・。やっぱり暗躍させるか。

次回、月が跨ぐ、はず。余り保障はできない。


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第二十八話~空蝉~

やっぱり九校戦編は書くのが難しい。

あと、本来追記で書くべきなんだけど、改めて。
実を言うと最初の日付のところ、毎回書くのめんどくさくてコピーしてるんですよ。
で、今更ながら曜日もつけてたなと気づいて・・・・修正祭りです。一応原作どおりに直したんでほんとすんません・・・。


【Wednesday,July 13 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 突然だが、魔法科高校にも当然魔法以外の一般科目の授業があり、その中には少年が必要以上に熱い闘志を燃やす体育もある。

 今日の授業であるレッグボールでは、一年E組と一年F組によるゲームが行われていた。

 

 結果は、E組の勝利。現在は休憩時間がてらに良い動きをしていた吉田幹比古との交流を進めていたのだが。

 

 

「にしても借哉。やっぱり元気ねぇな。そこまで"仕事が"きつかったのか?」

 

「察しがよくて助かる。ある程度疲労は抜けてるけどまず動きたくない」

 

 

 意外と言うべきかなんというべきか、借哉が風紀委員の仕事とテスト勉強を並行で進めた為に時期は遅いが五月病に入っていた。

 

「でも実際君はまだ体力はあると思うけど?」

 

 そう訊ねる幹比古に対して、借哉は形だけではあるが一応は頷いた。

 尤も、意味は柔らかな否定であるが。

 

「動けない事はないさ。ただ、動きたくない。もう何もしたくない。布団に転がって何も考えずに寝れたらどれだけ幸せなことか」

 

「そこまで言うか・・・」

 

 彼自身も実際にレッグボールのゲーム内ではきちんと動いていた。相手の動きを制限する場所に立ち、こちらに有利な状況を作り出す。その点どちらかと言えば頭脳派とはいえ、動きはするのだ。

 

 ただ、休憩時間になった彼はもはや大の字とまでは行かないまでも今すぐにでも寝てしまいそうな勢いだった。

 

 

「で、話はどこまでいったっけ。俺の話じゃなくて・・・えっと」

 

「幹比古とエリカが知り合いなのかってところあたりか?」

 

「あぁそうだそれそれ。結局どうなのさ」

 

 そう言って、先ほどまで切れていた会話の続きを促す借哉に対して、幹比古は余り突っ込んで欲しくなさそうな顔をした。

 

「あー・・・腐れ縁なら余り話さんでも」

 

「まぁね。いわゆる、幼馴染って奴?」

 

「エリカちゃん、何で疑問形なの?」

 

 流石に拙いと思ったのか借哉も話題の転換を図ろうとはした。が、結局一足遅かった。

 

「知り合ったのが十歳だからね。幼馴染って呼べるかどうか、微妙なトコだと思うのよ。それにここ半年くらい、学校の外では全く顔を合わせてなかったし。教室じゃずっと避けられていたしね」

 

 いきなり会話に乱入してきたエリカは、そのまま美月の質問に答え、

 

「ねっ、達也くんはどう思う?」

 

 いきなりこちらに話を振ってきた。彼女は今日もマイペースだ。

 

「幼馴染で良いんじゃないか」

 

「同級生って言った方がいいんじゃないかとは思うがな~」

 

 そう気だるげにに借哉も話す。が、他の二人は何も言うことはなかった。

 否、言えなかったというべきか。

 まぁ、彼女の格好からしたら有る意味無理もないのかもしれないが。

 

「エリカ、何て格好をしているんだ!」

 

 ようやく再起動した幹比古の声が少し裏返っていたのも無理はない。

 何しろ足の付け根から先がむき出しといっていい。確かこれはなんて服だったか。

 そんなことを考えているとおもむろに借哉が目線だけエリカに向けた後答えを導き出した。

 

「えーっと・・・ブルマ、だっけ?よくそんな懐かしいもん持ってんな~」

 

「ブルマー?箒みたいな名前だな。ただそれが体操服になるのか?」

 

 疑問を素直に吐き出してみると、まるで昔を思い出す老人のように借哉は頷いた。

 

「あ~、気持ちは分かるわぁ。でも、実は二十世紀末あたり・・・だっけな。

 あの頃まではきちんと使われてたんよ~。ちょーっと曰くつき・・・なのかもしれんけどさー」

 

 もはやはっきり物を言うのもだるいとばかりの借哉の言葉による物なのか、レオが再起動と共に"曰くつき"と借哉が表現した内容を口に出した。

 

「ブルマーっていうと、あれか。昔のモラル崩壊時代に女子高生が小遣い稼ぎに中年親父に売ったっていう・・・」

 

「黙れバカっ!」

 

 結局、フリーズしたままの方が彼にとってもエリカにとっても良かったのだろう。

 脛を蹴飛ばし、その固さに片足でピョンピョン跳ね回るエリカと、脛を押さえて悶絶するレオ。

 今回は痛み分けに終わったようだ。

 

 

 

 その後、エリカ達が自分達の授業に戻ったところで男同士の会話が再開された。

 

「それにしても、達也は落ち着いているね」

 

「いきなり何のことだ?」

 

「何って・・・。えーっと、ほら、エリカのあの格好を見ても少しも動じている様子がなかったし」

 

「いきなりで驚いたことは驚いたが、動揺するほどの露出度でもなかっただろ?現に借哉は少しも動じなかったぞ」

 

「心外だな~。俺だって一応は驚いたぞ。あ~んな骨董品を見ることになるなんてさ~」

 

「どっちかっていうと動じなかったって言うより動じる気も起きなかったって感じだと思うんだけどこれは・・・」

 

 話題は、先ほどのエリカの格好に対する反応になっていた。

 エリカにいじられた仲間意識からか、レオも達也を標的とする。

 

「達也のは枯れてるんじゃなくて、採点が辛すぎるんだよな。あんだけ美少女な妹がいれば、大抵の女にゃ興味が湧かないだろ」

 

「ああ・・・確かに。深雪さんだっけ?入学式で彼女を始めて見たときには、見とれるよりビックリしたよ。あんなに綺麗な女の子が実在するなんて信じられなかった」

 

「おっ?達也、かわいい妹が狙われてるぜ、兄貴としてはどうよ?」

 

「よしてよ。話をするだけならともかく、それ以上の関係になろう何て、考えただけで怖気づいちゃうって。彼女にするなら、もっと気楽に付き合える相手がいいな」

 

「兄貴にベタベタな妹さんに妹が判断基準の兄貴、何処から見ても勝ち目なんてないしなぁ」

 

「借哉。お前とは一度とことん話し合う必要があるようだな」

 

「いいけどこの調子だと一日掛かるぞ~。それでもいいならコーヒー用意しろぃ」

 

「やっぱりぶれねえなぁ借哉は。ただそろそろ体くらい起こした方がいいぜ?」

 

「んだねぇ~。そうすっか~」

 

 そういいながら気だるげに立ち上がると、いきなり幹比古の方へ顔を向けた。

 

「幹比古さ、もうちょっと"抑えて"くれ。案外分かっちまうもんだぞ」

 

「えっ?」

 

 急に声を掛けられた幹比古は、ほとんど臨戦態勢で身構えてしまう。

 

「おいおい、物騒だな」

 

「まぁいきなり訳の分からないことを聞かれたらそうなるのも無理もないとは思うがな」

 

 そうフォローを掛けるが、結局空気が微妙な物になってしまう。

 そのまま、結局ある程度のジョークも飛ばしたものの、空気が変わることはなかった。

 

 

 

 "彼"は一体幹比古から"何"を感じ取ったのだろう。

 

 答えは、今は知る由がない。

 

 




てことで一日開けの投稿でした。
本来は曜日を修正した時に投稿する予定だったんですよ。
ただね?半分ぐらいやったところで眠くなってそのまま朝まで直通コースいっちゃいまして。しかも1日も開けておいて結局繋ぎ回でしかないっていうね。

次回、オリ主視点。オリ主が巻き込まれる発端を書く。予定。確定ではない。


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第二十九話~変動~

オリ主回です。
で、実を言うと投稿に少し手間取りました。投稿ボタンを押すとね、このページは表示できませんって出るの。
何事かと思うでしょ?で、戻ってみると綺麗さっぱり書き終えた話が消えてるの。
心折れかけそうになって、ふと見ると自動保存された小説なるものがあって。

本当に助かったと思いました。


【Wednesday,July 13 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

〔moderator8:"彼"に関する資料ではないのですが、伝えておいた方がよいかと思いまして〕

〔operator4:いや、構わない。何かあったのなら遠慮なく言ってくれ〕

 

 

 夜、もはや幾日か経っても治る気配のない五月病を治すべく早い段階で寝ておこうかと思った矢先、パスによる連絡があったためにこうして話を聞くことになった。

 内容は、"彼"に関することではなく、むしろ"いつもの仕事"に関すること。

 ただ、それに関する異常な動きの報告であったのだが。

 

〔moderator8:現在アングラで利用されてると思われる銀行口座に多量の金が流れ込んでます。一つ一つの流れは何時もより多いというべきなのかもしれませんが、最終的な規模は一億USドルにまで発展するかと〕

〔operator4:確かに例年よりは多いな。ただ、今はもう夏だぞ。最近はよくあることじゃないか〕

 

 言った事は、ほぼ事実。およそ六、七年前から夏にアングラ関係で大規模な金の流れが発生するようになっていたのだ。もちろん、最初は真面目に調べた。しかし結果は"恐らくは魔法師関連のアングラに関わる物"と分かり、手が出せないとして割り切ったのだ。

 本来なら、報告する必要もないことだが、現在が魔法師コミュニティに片足を突っ込んだ状態での行動である為報告しに来たのだろう。

 

 

 そう思ったのだが、次に続いた内容により間違いを認めざるを得なかった。

 

〔moderator8:それでも六月の内にはソレらしい兆候はありました。問題は、今年が異例だということです〕

〔operator4:と、いうと?〕

〔moderator8:今回行動が活発化したのは七月初頭からです。今まででだって五月末には緩やかなスタートを切っていた状況です。なのに今年は七月からいきなり今まで以上の規模にまで膨れ上がってます。明らかに異常です〕

〔operator4:明らかに異常、何かしらの要因が考えられるということか。ただ、大亜連合の"赤旗計画"にそれほどの異常性を引き起こす工作は夏にはなかったはずだぞ?〕

〔moderator8:何が原因かは分かりません。我々にとって単純な魔法師コミュニティというのは知ることさえ難しい領域です。ですが、逆に言うと我々が何もつかめないと言うことは恐らくは大亜連合政府などはほとんど噛んでいないと見るべきでは?〕

〔operator4:なるほど、一理ある。だがそれなら本来なら見逃してしかるべきなんだが、規模がでか過ぎる。せめてどこがきな臭いか調べることさえ出来ればいいのだが・・・〕

〔moderator8:夏はいろいろありますからね・・・。一概にはどこが怪しいかなんてわかりませんよ?〕

 

 そう言われて、ほぼ袋小路に陥った思考を纏めようと努力する。

 一億ドルを超えるであろう規模の"何"か。逆に言えば、魔法師団体といえど一億ドルの流れを作らせるほどの価値がある"何か"が発生しうる場所と言える。となると、やはりありえそうな場所は横浜か京都か。

 

 九校戦も有るから本来は静岡にも目を向けるべきなのだが、まさか高校生同士の魔法競技の試合ごときで流石にそこまでの規模が発生し得るとは思えない。例え賭け事が行われていたとしても精々千万ドルが限度だろう。

 

〔operator4:一応の監視は横浜と京都を主にしておいた方がいいだろう。大亜連合は絡んでないかもしれんが、念のために北九州、沖縄、あと北海道も見ておいた方がいいかも知れん〕

〔moderator8:静岡はいいのです?ある種一番目立ちそうな場所ですが〕

〔operator4:甲子園野球で一億ドルの金が動くと思うか?しかもアングラで〕

〔moderator8:・・・想像しにくいですね〕

〔operator4:そういうことだ。一応監視も置いておくべきではあるだろうが、まぁ本当にオマケみたいに考えていた方がいいだろう。恐らくは当たらん〕

〔moderator8:了解しました。人員はどこから回します?〕

〔operator4:警察省公安庁あたりの人材でも回しておけ。国防陸軍諜報部まで動かす必要は今のところはない。言っておくがあそこは"魔法師"も混じってるが使う人員は完全に"こちら側"の勢力の者にしろよ?情報が漏れてあちらも得をしてしまうなんて洒落にもならんからな〕

〔moderator8:了解しました。それでは一応監視させておきます。何かしら進展があったら連絡しますのでそれでは〕

〔operator4:ああ。"彼"の件もきちんと頼むぞ。それではな〕

 

 それを最後にパスが切れた。

 五月病もまだ完治はしていないというのに、厄介事というのは時も場所も選ばないようだ。ため息を吐きながら問題に対処する為に方針を整理する。

 アングラの活動ならどう来るか完全には分からないが、恐らくはこちらにとって差ほど害がある話ではないだろう。何が起こるか、何が原因かなどといったことだけ調べて後は静観で構わないだろう。

 むしろその情報を元に日本の有力魔法師団体との取引を行い、根を広げるというものありだろう。案外いいきっかけにもなるかもしれない。

 

 

 とりあえずは、詳しいことが分かってから。

 

 

 そう結論付けて、さっさと眠って明日に備えることにした。

 

 




てことでオリ主が盛大に推理を外しています。
おいおいそこは当てろよとお思いになるかもしれません。ですがよく考えてください。たかが高校のマイナー科目の全国大会に100億円規模の賭け事とか起こる方が不自然なんです。普通そう言う風に思考は回りませんって。仕方ない。

次回、未定。ネタが全く浮かばないしもしかしたら投稿遅れるかも


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第三十話~疑問~

なんかほぼサブタイトル的なものを二文字で済ますので通してますけど、案外これ何を出そうか苦労してたりする。もうほぼやり続けちゃってるから何かない限りやめたくないし、けどそれっぽい熟語とか探すのも苦労すると。いろいろ難儀な物です。

あと、最近運の無さを感じる。二週間前に冷やして食べようと思ってた牛乳プリンが今になって"冷凍庫"から見つかる始末。これどーしよ。

さて、本編です。


【Thursday,July 14 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 深雪が食事の後片付けをしている時に、電話が鳴る。

 電話の相手は、不得要領な顔をした旧知の知人だった。

 

「お久しぶりです。・・・狙ったんですか?」

 

『・・・いや、何のことだか分からんが・・・久しぶりだな、特尉』

 

「リアルタイムで話をするのは二ヶ月ぶりです。しかし・・・その呼び方を使うと言うことは、秘匿回線ですか、これは。よくもまあ、毎回毎回一般家庭用のラインに割り込めるものですね」

 

『簡単ではなかったがな。特尉、君の家はセキュリティが厳しすぎるのではないか?』

 

「最近のハッカーは見境がないですから。家のサーバーには、色々と見られてはまずいものもありますので」

 

 今のように少々の雑談から始まったが、本来は彼・・・陸軍一〇一旅団独立魔装大隊隊長風間玄信少佐に対しては余計な時間の浪費は好ましくない相手だということを今更思い出し、用件を聞くことにした。

 

「少佐、本日はどのようなご用件なのですか?」

 

『そうだな、前置きはこのくらいにしておこう。まずは事務連絡だ』

 

 まず最初に述べられた内容は、"サード・アイ"のオーバーホール及びソフトウェアのアップデートを実施。そしてそれに伴う性能テストの要請。

 それに対しては明朝出頭し行う旨を伝えた。"サード・アイ"のテストそれそのものは差し迫ってはいないものの、休日にはFLTに行く予定になっている。この場合学校を一回休んだ方が早く済む。

 

『では明朝、何時ものところへ出頭してくれ。真田に話を通しておく』

 

「了解しました」

 

 事務的に敬礼をした後、話は九校戦のことへ移っていった。

 と言っても、事務連絡の後に出てくる話だ。恐らく穏やかなものではないだろうが。

 

『聞くところによると特尉、今夏の九校戦には君も参加するそうだな』

 

「はい」

 

 何とか簡潔には答えられたものの、実際たった"三時間前の出来事"を把握しているのは驚くべきことだろう。

 今日の昼に不幸・・・というべきなのかどうかは分からないが、九校戦の技術スタッフとしての技量を持っていることが発覚してしまい、本当にいきなりの話だが新人戦の女子の技術スタッフとして参加することになったのだ。

 どうやってその情報をそこまで早く得ることが出来るのかは疑問だが、一応は飲み込むことにした。

 

『会場は富士演習場南東エリア。これはまあ、例年のことだが・・・気をつけろよ、達也(``)。外灯エリアに不審な動きがある。不正な侵入者の痕跡も発見された」

 

「軍の演習場に侵入者ですか?」

 

『実に嘆かわしいことだがな。また、国際犯罪シンジケートの構成員らしき東アジア人の姿が近隣で何度も目撃されている。去年までは無かったことだ。時期的に見て、九校戦が狙いだと思われる』

 

 たかが高校の対抗戦にとは思ったものの、魔法科高校の集まりと言うことに意味があることを思い直した。

 そもそも九校戦はその年代でトップクラスの魔法の才の持ち主が集まる場所。魔法技術に関しては進んでいると見られている日本がソレを失うことはダメージになり得る。

 だが、それにしては分からない点があり、風間に聞きなおした。

 

「"国際犯罪シンジケート"と仰いましたが?」

 

 まず一つ目の疑問点は、外国政府の工作員と思われる者であるならまだしも、対象の所属が国際犯罪シンジケート、つまりはマフィアに近い集団に属する者達ということだ。魔法師の無力化を目的とした集団ならば、少々小さすぎる。

 二つ目の疑問点は、まず国際犯罪組織に関しては軍部にとっては門外漢のはず。どうやって小隊を特定したのか。

 その質問に対する答えは、第二の疑問の物だった。

 

『壬生に調べさせた。既に面識があると思うが』

 

「第一高校二年生、壬生紗耶香の御父君ですか?』

 

『ああ、壬生は退役後、内情に転籍して、現在の身分は外事課長だ。外国犯罪組織を担当している』

 

 この言葉に対してはほぼ本気で驚いていた。内閣府の情報機関があっさりと軍に情報をリークすることに対してもそうだが、何よりも壬生紗耶香は四月の騒ぎの際に下請けとはいえテロ組織に所属していて、しかもそれに関して父親が認識していなかったということに対して最も驚かされていた。

 

『犯罪シンジケートとテロ工作組織は担当が別だからな。だが、自分が掌握している分野の情報は信頼できる。壬生の話では、香港系の犯罪シンジケート「無頭龍」の下部構成員らしい。目的は不明だが、追加情報が入り次第、連絡しよう』

 

「ありがとうございます」

 

 もし、本来何もなければここでお互いに二、三個言葉を交わした後通話は切れるのだろう。しかし、四月にはブランシュの件とは別に、"彼"のことで報告したのもある。

 風間もこちらが何の情報が今最も欲しかったのかも理解していたらしく、話を切り出してきた。

 

『最後に、特尉(``)が話していた、"河原借哉"に関してだ。』

 

「何か、分かりましたか?」

 

 しかし、これに対する答えは最悪に近いものだった。

 

『何も分からなかった。いや、違うな。"調べようとしたが、圧力がかかって止められた"』

 

「・・・と、いうと?」

 

『そのままの意味だ。河原借哉に対する情報を調べようとしたが、彼に対するあらゆる行動をしないよう"圧力"がかかった』

 

「一〇一旅団が身動きできなくなるほどのものですか」

 

 意外感と共に圧力をかけてきた対象について聞く。

 その相手は、まさにありえないとしか言いようのない相手だった。

 

『国防軍最高司令官からだ。別の言い方をすれば、"内閣総理大臣から"と言った方がいいだろう』

 

「・・・首脳部がストップをかけるほどの相手と?しかし、今まで"河原借哉"と思しき人物は我々が触れられる情報の中では"存在しなかった"はずでは?」

 

『そうだ。恐らくは限りない確立で国家機密に関係する者、それもかなり上部の物の可能性が高い。今回は"圧力"でしかなかったが、今回の場合深入りできそうにはない』

 

 その風間の答えを聞きながら、思案する。

 "彼"は国家でも最高レベルの機密に関わっていると思われる人間ということになる。つまり、政府は既に"彼のような魔法師"を作り出す術を持っていると考えそうになる。しかし、それなら余計に軍部、ましてや内閣府に所属する情報機関にさえそれと同種の魔法師が"一人もいない"のが不自然だ。

 

 

 "彼"は、一体何者なのか。

 国のトップが動かざるを得ないほどの物。"彼"は、何を知っているのか。あるいは、持っているのか。

 

 

 

 結局いくら考えても分かることはなく、これを最後に通話が切れた。

 

 

 

 

 




ということでオリ主の謎がすこーしずつ深まっていく・・・のかな?
やっぱり謎って何かあると分かっているから謎なんですよね。何かあるのは分かるけど何があるのかが分からないって雰囲気、嫌いじゃない。

さてここで達也とオリ主が持ち得た情報を整理。

達也:相手が国際犯罪シンジケート 目標は恐らく九校戦
借哉:1億ドルが動く規模の何かが起こるということ

現状どちらがより多く知っているかなんて分かりきってますね。完全に達也側有利です。まぁ、オリ主が敏感に反応しているのは国防軍よりこの先何が起こるかをある程度知っているが故の焦り様なんですがね。
だけどこれの二つを統合して考えれば案外答えが直ぐまとまりかけるという。果たしてこの後どうなっていくのか。

最後に、なぜ総理大臣が借哉に関する調査に圧力をかけたのか。答えは簡単です。流石に国のトップに立った人間は普通に"借哉たち"のことを知っています。あくまで限りなく前の段階から国より高次の地位にいて、外交バランスを崩さないもしくは彼らの行為の邪魔をしない限りはほぼ無干渉だということとかそんくらいですけど、一応はある程度知っています。それで恐ろしさも分かっている為ほぼ言いなりな訳です。
しかしそんな国のトップであっても"借哉が日本にいるその集団の中ではトップ"ということは知らなかったりする。何時もの彼らの連絡相手は通信で"調整者"とですから。借哉の事は調整者の直接の部下であろうと思ってたりする。もちろん話したことさえない。
借哉のことをより正しく知っているのは、実は国のトップなどではないのですが、それに関してはとりあえずその時になったらというときで。

後、もう原作とほぼ何も描写が変わらないところは必要がない限りすっ飛ばしてます。昼の出来事すっ飛ばしていきなり風間との通信に入ったのはそのせい。だってオリ主絡ませる余地さえないところなんて原作のコピペにしかならないので・・・。

次回、恐らくオリ主視点。一応軍に関してはほぼオリ主の勢力圏内だからねぇ・・・。


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第三十一話~進展~

書いているのは九校戦なのに、頭の中にしょっちゅう浮かんでくるアイデアはなぜか横浜事変のネタのみ。
これ、九校戦終わる前までに忘れたりしなければいいんだけど・・・。


【Thursday,July 14 2095

  Person:operator4 】

 

 

 

 

 

『第二次調査報告

 

 

 名前:司波達也

 

 出生に関する調査の結果、本来の生みの親は"司波深夜"とされる人物の可能性が大。なお、"司波深夜"に関するパーソナルデータは一部を除きほぼ完全に閲覧不可能な模様。データの"バックアップ"から捜索したとしても更に数ヶ月は掛かる模様。

 

 FLTに関しても、単なるモニターという身分では無い可能性が浮上。FLT内の研究所に出社する回数がモニターだけを勤めるものではないほど多い為、エンジニア関連の職についている可能性も否定できない。

 

 また、それとは別に国防軍が彼との何かしらの関係を持っている可能性が大。詳細は添付した『国防軍高次通信記録:関東』を参照          』

 

 

「・・・濃い。漁れば漁るほど隠された痕跡が見つかるってのがまた怖いな」

 

 

 まさか立て続けに連絡が来るとは流石に思ってはいなかったが、むしろ"彼"に関することであれば一日でも早く情報を得られた方が良い。確かにそうは思っていた。

 

 しかし、この内容は濃すぎる。

 日本国内の魔法産業関連での大手企業の機密に近い扱いを受け、尚且つ国防軍との関係を持ち、更にはパーソナルデータを出自の時点から弄繰り回している。

 まだこれだけなら珍しい話だがない訳ではない。問題は"我々の情報網を使ってやっとここまでしか情報を得られていない"ということだ。まず間違いなく民間はおろか日本政府そのものが本腰を上げて調査したとしても分かるまい。

 単純に"我々"がある程度の情報を得られたのは"2050年からの日本国内でのほぼ全ての情報のバックアップを取っていたから"に過ぎない。それを以ってしてもここまでしか得られないのだから本当に恐怖しか感じない。

 

 なお、バックアップを取ったデータバンクはもちろん家の中にあるのではない。"我々の持つ私有地の一つである山の中に作った巨大な地下シェルターの内部"で保管している。

 

 

「まったくどーしたもんかね・・・。単純に消すだけではきついかも知れんなぁ」

 

 

 見ただけでも限りなく深い根があるのは確か。まさかここまで自らの制御下から外れているとは思わなかった為、尚更もうほぼ取り返しの付かないところに行っている気がしてならない。

 

 尤も、"彼"を消す目処さえ付いていないというのに消した後の心配などしても無意味なのだが。今は、できることをするしかない。

 とりあえずは、先の一億ドル規模の"何か"に対する調査。監視こそつけたものの、世の中にはなんでも"始まったときには既に終わっている"と言う事態があったりする。

 わざわざデータバンクを弄らずとも、小規模な活動でも何かしらの異変がないか、調べた方が良いだろう。

 

 

 そう思った矢先、新たに連絡が入るのは恐らく幸運なのだろう。

 パスをつないだ先は、"彼"について調べていた調整者No10だった。

 

〔moderator10:失礼します。"彼"について新たな情報が入ったので、連絡をしようと思いまして〕

〔operator4:いや、構わんさ。何かしらの進展があったならむしろ早めに報告すべきだとは思っている〕

〔moderator10:そう言っていただけると有難いです。それで、今夜"彼"の家に対して軍部の"ある旅団"から通信が行われました〕

〔operator4:仕事が早いな。軍部の影が見え隠れしてると分かった時点で監視の対象を"彼"そのものから"彼の周り"に変えたか〕

〔moderator10:話が早くて助かります。それで、その旅団が少々特殊でして〕

〔operator4:今更何が来ても驚かんさ。謎の塊みたいな男に新たな秘密が一つ追加されるぐらいなんてことはない〕

 

 しかし、結局次のセリフには少なからず驚くことになった。

 

〔moderator10:国防陸軍一〇一旅団の中の一大隊からの通信でした。これだけでも、重要性が理解できたかと〕

〔operator4:おいおい、よりにも寄ってあそこの旅団か。この上なく厄介だな・・・〕

 

 国防陸軍第一〇一旅団。佐伯少将と風間少佐による『十師族に影響されない魔法師部隊』をコンセプトとした、魔法兵装を前提とした戦闘を主軸にする実験的な性質を持つ旅団。しかしその実態としてみれば限りなく遊撃隊のそれに近く、有事の際に命令が下ればありとあらゆる戦場に向かえるだけの戦力と錬度を持つ。

 だが、別にそこに問題があるわけではない。彼の戦闘スキルではむしろそれくらいの規模の部隊に所属してても驚けないのだ。

 では、何が問題なのか。

 答えは簡潔。一〇一旅団に属する、独立魔装大隊のある人員が、まさに"彼"と似た高度な情報隠蔽が行われているからだ。

 名前は、"大黒竜也"。日本が密かに所持する、非公式戦略魔法師。

 本当の意味での、日本の切り札。

 

 彼の持つ"魔法"から考えても、ある一つの可能性が限りなく"大黒竜也"と"司波達也"を同一視させてしまう。もし"彼"の存在を知らなかった場合、まずありえないことと笑い飛ばしそうなほどには突拍子もない推測なのだが、"彼"ならそれを可能にする。

 

 

 質量を、アインシュタインの公式に従いエネルギーに分解できると、したら。

 

 

 とにかく、本当に同一人物なのかを調べる必要がある。もし同一人物だった場合、不用意に消してしまえば日本周辺のパワーバランスが今以上のハリボテになりかねない。

 

〔operator4:余計消しづらくなったな。とりあえず方針としては"彼"の調査は一〇一を中心として行え。もし"大黒竜也"と一致している場合、消すとしても"代わりの存在"を用意する必要がある〕

〔moderator10:分かりました。それではそのように行動します。進展があり次第、またこちらから〕

〔operator4:頼む〕

 

 その言葉を最後に、パスが切れる。

 本当に、ため息しか出ない。しかし、速やかに済むように何かしらの行動はしなくてはならない。

 ただでさえアングラのことで仕事があるのに、更に"彼"に対する用意まで増えてしまった。

 

 

 

 恐らく今夜は、寝れそうには無い。

 

 




オリ主勢力の強さが、今ここに?!

基本的にまぁ彼らは何でもほぼ過剰な管理体制を起きますからね。流石に非合理的なことはしませんが、ある程度の危険を潰す為ならまさしくなんでもやるのが"管理者"率いる"調整者"達なのです。
なお、なぜ2050年から今までなのかって言うと、さほど2050年より前に何か重要なことが起こったわけではないっていう。いや、むしろ起こりまくってたんだけどその時には既にこの管理体制は確立してたんです。
では、何故か。単純です。50年単位でバックアップを取って、それを過ぎたデータは破棄してるんです。もちろん多少の混乱は会ったので今の情報の在庫は通常より減ってるんですがね。
・・・え?何があったのかって?日本だってあの時戦時下だったのよ。それで察して。


次回、発足式。飛行魔法はパス。だって変わらないんだもの。


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第三十二話~推測~

式典とかやってる時、用事で席外した後目立たないように戻る人とかっているじゃないですか。

あれ、発足式でもできたらいいなーって思いつつ書いたっていう


【Monday,July 18 2095

  Person:operator4    】

 

 

 

 

 

「達也、技術スタッフに選ばれたんだってな?ご苦労さん」

 

「もう何回目になるんだろうな・・・」

 

「みんな、情報が早えなぁ」

 

 本来は今日の午後の発足式がメンバーの発表になるはずなのだが、前日の段階で既に誰が決まっているのかと言うことは分かりきっていることだろう。

 尤も、情報の入手ルートはそれぞれ違ったりするが。クラブの先輩だったり、友達からだったり、また、俺のように"仕事の都合で手に入ったり"。

 

 とはいえ、選ばれた肝心の"彼"はあまり乗り気でもないように見え、美月からの発足式に出るのかという質問に対する返事はあまり歯切れが良いとはいえなかった。

 

「一年生じゃ達也だけなんだろ?」

 

「一科の連中、か~な~り、口惜しがってるみたいよ」

 

「むしろそれが達也にとっては鬱陶しいんだろうよ。嫉妬ってのはうざいからねぇ」

 

「全くだ。選手の方は一科生だけなんだがな・・・」

 

 実際代表選手の中で二科生は一人もいない。それで割り切ってくれれば"彼"も気が楽なのだろうが、残念ながらそれは選ばれた側の理屈であり、工学系希望の一科生にとっては慰めにもならない。

 

「仕方ないですよね。嫉妬は理屈じゃありませんから」

 

「大丈夫よ。今度は石も魔法も飛んでこないから」

 

 そう言われて苦笑する達也の顔は、中々見ていて面白い物だった。

 

 

 

 

 四時限目が終了した後、本来一般生徒は講堂の席へ移動することになる。

 特にE組では"彼"の応援のために前列に一塊で座ろうという方針さえ決まっていた。

 

 

 だが、生憎とこちらに余裕を持って講堂に行って待つほど時間は無かった。

 

 

〔moderator8:前回の件で進展がありました。確かに"横浜"には動きはありました〕

〔operator4:となるとやはり外国の工作か?〕

 

 一億ドル規模の"何か"。それに対しての進展があったのだ。監視の目に引っかかった場所を聞き、一番に外国の工作を考える。

 "赤旗計画"に直接は関係ないだろうと推測されたが、"赤旗計画"を知った他国からの干渉の可能性、もしくは無関係でも何かしらの工作が行われる可能性は高いと見ていた。

 しかし、想定した物とは結果は違っていた。

 

〔moderator8:いえ、国際犯罪シンジケートの活動の一つでした。香港系の"無頭龍"が行動を起こしています〕

〔operator4:国際犯罪シンジケート?となると単純な利益絡みか。・・・ということは横浜は"メイン"というよりは"黒幕のいる場所"で合ってるな?〕

〔moderator8:そうです。目標はやはりというかなんというか、静岡でした〕

〔operator4:九校戦狙いか・・・。まさかとは思うがトトカルチョか?魔法師とはいえ高校生同士の馴れ合いにそこまでの額がつくか〕

〔moderator8:しかし時期的には一致しています。可能性としては今のところ一番高いかと〕

 

 報告を聞いて、思案する。

 九校戦狙いで一億ドルの金が動く。単純な利益狙いでそこまでの金が動くとも思えない。確かに今回の九校戦は選手の充実さから第一高校の優勝が間違いないと言われている。掛けて勝てることが確定しているような物なら、確かにそこまでの価値はあるのだろう。

 しかし、そうなるとむしろ胴元である"無頭龍"そのものがリスクを背負いすぎている。ソレを度外視するだけの"何か"が余計必要だ。

 

 

 恐らくは、はまれば大儲け。そうでなくてもある程度の目標は達成できるもの。

 出てきた結論は、当初の推測と似通ったものでしかなかった。

 

〔operator4:そうか、相手の目的は"トトカルチョ"じゃない。もしそうであったとしても恐らくは副次的な可能性が高い〕

〔moderator8:と、いうと?〕

〔operator4:"イカサマ"だよ。一高の選手は今回は優秀だ。それらを"潰す"ことがメインの目的だよ〕

〔moderator8:それでトトカルチョの賭け金を全て回収する意図ですか〕

 

 そう聞いてきたNo8に対して条件付の否定を返す。

 

〔operator4:もちろん、それもあるだろう。しかし、よく考えてみろ。日本は魔法師育成が最も充実していて、かつ今回の第一高校の選手は層が揃っている。それらを潰せた場合、日本に対する魔術師供給はどうなる?〕

〔moderator8:なるほど、質が下がってしまい日本にとってはダメージになり得る、と〕

〔operator4:そうだ。恐らくはこれは何処かしらの組織がバックに潜んでいるな。政府に動きが無い場合、"無頭龍"より規模の大きい組織、もしくは個人だ。日本がダメージを負って得をするもの、もしくは日本に恨みのあるものを徹底的に調べ上げろ。こちらも後で"他の奴ら"にも要請する〕

〔moderator8:分かりました。工作に対して何かしらの行動は起こしますか?〕

 

 この質問に対する答えを思案する。

 規模は大きいとはいえないかも知れないが根は深い。そう見えるだけの裏が今回のことで推測できてしまった。何かしら、行動した方がよいのだろうか。

 しかし、これ自体はパワーバランスを崩すほどのものではない。となると、今回は"情報屋"の立ち回りをした方がいいだろう。

 

〔operator4:直接は何もしなくてもいい。この工作に対して妨害をしたいと思われる"魔法師サイドの組織"を洗い出せ。そこに対して情報を売りつつ"魔法師社会"に根を張らせていく。後の仕事の為だ。本気で頼む〕

〔moderator8:了解しました。直ぐに取り掛かります〕

 

 

 それを最後に、パスが切れる。

 ふと、講堂からマイクから出た音声が聞こえてきた。

 発足式が始まったのだろう。

 

「"彼ら"はどう切り抜ける?今回も一筋縄ではいかないようだが」

 

 恐らくは、結局"彼"が蹴散らしてしまう可能性が高い。だが、それが彼に味方するにしても敵になるにしても、そこに便乗することで確実にこちらに利益が出てくる。

 "静かな仕事"は"彼"が絡んできてからは始めてか。しかし、それこそが"我々"の本領。

 

 

「さて・・・エリカ達が文句を言わなければいいが」

 

 そうぼやきつつ、席をとってくれているであろうエリカ達の下へ目立たないように向かった。

 

 




ってことで早速オリ主が正解に近づきつつある。確定ではないけどここまでできれば対したもんだと思うんです自分は。何せオリ主たちにとっては門外漢ですからね魔法師組織のソレに対しては。

で、多分情報の提供先は絞られてきます。どちらにしようか今でも悩んでる。

次回、未定。綱渡りみたいな書き方してるから・・・。仕方ない。


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第三十三話~初動~

感想に関しては目を通していたんですが、感想の一言に関してはチェックを忘れていました。

なんか放置していた感じで申し訳ない。そして応援ありがとうございます。とりあえず個人的には九校戦が一番の正念場な気がするので(ネタ的に)どうしても投稿が遅れる可能性が常にあるのですが、出来るだけ見苦しくない展開に出来ればなぁと思っています。これからも温かい目で見守っていただければ幸いです。

さて、本編です。


【Friday,July 29 2095

  Person:operator4    】

 

 

 

 

 

 十八日の発足式以来、徹底的な情報収集の元得られたものはいくつかあった。

 

 一つ目は、無頭龍日本支部の場所。これはさほど目立ったものでもないが、官僚組織に対しては切り札となり得る。何せ国内同士で縄張り争いをするような構造になっている。公安あたりで得た情報だが、上手く軍あたりに売ることが出来れば価値が出てくる。

 

 二つ目は、無頭龍の背後にいる組織。これは意外と言えばいいのかある意味予想通りといえばいいのかは分からないが、背後にいたのはブランシュだった。

 こちらは、管理者No3に要請した結果得られた情報。しかし、出てきた名前はまた予想外な人物だった。

 

 

 ジード・ヘイグ。フリズスキャルヴのアクセス権を持つ七人の内の一人で、"日本の魔法師"に対して恨みを抱いている人物。彼がブランシュの総帥と聞いたとき、ため息を吐かずにはいられなかった。何せ人間社会で"人間が"得られる情報収集能力の中では最大のものを持っている人物が日本に対して過度な干渉をしてくるということだからだ。

 今はまだ無視できる範囲ではある。しかし、これ以上の行動を起こさないとは限らない。何せ、彼自身の目的が"魔法師の根絶及び大亜連合による世界の主導権の確保"だ。魔法師の根絶は別にこちらにもメリットが無いわけではないのだが、その次の目的が限りなく厄介極まりない。

 

 我々が望んでいるのは、一国の元の安定ではなく、各国によるバランスの確保なのだから。

 

 

 とにかく、味方になり得る要素が無い以上これも売れるだけの価値が出てくる。むしろ、こちらの方がメインの情報になるだろう。

 

 

 そして、最後が肝心の"無頭龍"の工作手段。

 彼らとしては一撃で決めるつもりらしく、優秀な魔法師工作員による特攻により過半数を無力化する予定のようだ。しかし、保険として精霊魔法による妨害工作、及びその為の役員買収があるようだ。こちらは買収された役員、精霊魔法の詳細も手に入れている。こちらに関しては得られたすべての情報を複合して得られた結果だ。

 

 これは、恐らくは九校戦に関係する人物。九島家あたりに売れば恐らくは効果が見込める。何せ九校戦の運営に一番よく関わっている十師族であるため、九校戦にケチが付くのはできる限り避けたいはずだ。

 

 

 

 もちろん、これだけの情報を揃えても問題はある。

 肝心の"情報を欲しがりそうな組織"そのものが少ないことだ。

 現在も洗い出しこそ行っているが、どこも自前の情報収集手段を持っているため余計に売り込む余地がない。もちろんどこもここまでの情報はつかんでおらず、精々"何かがある"ぐらいしか把握はしていないのだが、少なくとも借りを作られるよりは自分で調べた方がいいと思うことは間違いない。

 

 

 やはり、買い手がいれば儲け物と考えて事態の把握だけしておいた方がよいのだろう。

 結局金曜日にもなって真夜中までよさげな取引先を捜してみたが見つからず、方針の変更を伝えて各員にこの事案での作業を切り上げるよう連絡しようとした時、連絡が入った。

 

 

 ただし、連絡をつけようとしていた"調整者"からの呼び出しではなく、"私用",

 つまり学校用に使っていた携帯端末からの着信だった。

 

 誰かと思いつつ、通話に出る。

 相手は、"彼"だった。

 

『もしもし?・・・といっても、相手はわかりきっているんだがな』

 

『借哉、今は問題ないな?』

 

『どうした?お前から電話を掛けてくるなんて。明日雪でも振るんじゃないのか?』

 

 そうジョークを交えつつも内容を聞く。

 結果は、ある意味想定内のものだった。

 

『随分"嗅ぎまわっている"ようだな?』

 

『・・・それはどういう意味でだ?』

 

『どういう意味だと思う?』

 

『はぐらかすのは止せ。こっちだってお前だけが"仕事"じゃないんだ。いろいろ有りすぎて困る』

 

『もちろん、"俺"のことと"無頭龍"のことでだ』

 

 この言葉に対しては素直に感嘆を覚えた。"彼"自身のことについて嗅ぎまわっているのはむしろばれて当たり前だと思っていた。何せ一〇一の情報からも調べていたのだ。ばれていないのは可笑しい。しかし、"無頭龍"に関してのみ言えば彼らが知れる余地などない。彼に見える範囲では公安しか動かしていない。それについて知り得ることは難しいはずだ。

 

 しかし、彼は把握してみせた。流石と言うべきだろう。

 

 

『まぁ、確かに嗅ぎまわってはいるな。で、それがどうした?』

 

『"何処まで知っている?"』

 

『"知りうる限り何もかも"』

 

『・・・それは冗談の類ではないんだな?』

 

 疑問を返す彼に対して、とりあえず少しサービスすることにした。

 

 規模としては弱いかもしれないが、"彼"の個人の能力は強い。元々は敵であるのには間違いが無いのだが、一時的に"恩"を売っておくことで通常の仕事に関しては助力になり得るかもしれない。

 

 

 そんなことを期待して、とりあえずは目先のことを教えることにした。

 

 

 

 

「信じるか信じないかはお前次第だ。ただ、"後者に関しては"ヒントをやろう」

 

 

 

 

『始まりは、移動中からだ。せいぜい目立たないように頑張れよ』

 

 

 




ってことで情報の売り先はやっぱり達也になりそうです。

・・・っといっても、最初は実を言うと四葉or一〇一を想定してました。ですがよくよく考えると四葉に関してはほぼノータッチを貫くでしょうし、一〇一は軍の組織である関係上逆にオリ主側が売るだけの価値を持っていないんですよね。軍の上位機関からいろいろ引っ張りだせばいいだけですし。

で、散々考えた挙句達也が一番かなあぁと。彼が一番情報を欲しているじゃないですか。何せ今回情報を提供する側に達也が立てれば一〇一に対しての借りも少なく済み、また彼自身も先手を打てると。

ただし、今の段階では達也はさほど当てにしてないって言う。何が目的なのかという遠まわしの探りですね今回の電話は。で、情報を提供されたことによりそれが合ってれば今回は敵ではないだろうというような感じです。なんか動いてるんだろうなとは思いつつわざわざ電話した・・・はず。

次回、恐らく達也回。やっと八月になるよ!・・・やっと。

【追記】サブタイトル付け忘れたんで修正しました


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第三十四話~鬼札~

やっとまともな会話が混じるところまでいけた!
・・・んでもって何かしらのアイデアが欲しい。もう本当に綱渡りで仕方ない。


【Monday,August 1 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 三日前、"何者か"がこちら・・・特に独立魔装大隊周辺に対する探りが増加したという知らせを受け取り、また公安などの組織が犯罪シンジケートに関しての活動を不自然に活発化させたことから、第三者の介入が予想された。

 

 結局、現状まず最初に候補に挙がりそうな対象、つまり借哉に対してカマを掛けたわけだが、意外と特に隠そうとすることもなくあっさり白状した。

 

 だが、やはり協力的というわけではなく、相手がどこまで知っているかに関してはごくわずかな規模しか把握することではできなかった。

 おそらくは、彼がおおよその情報は把握しているであろうこと。特に"無頭龍"に関して言えば今までのどの組織より大規模な情報を得ているはず。

 

 

 彼は、確かに言った。"始まりは、移動中から"と。

 

 そして、現実としてそれが起こった。

 移動中に、対向車線にいた車両が事故に見せかけた特攻。

 "彼"はおそらく確実にこれが起こることを知っていたようだ。

 

 連絡を取る必要がある。深雪と事故の経緯を話しながら密かにそう思考を巡らせた。

 

 

 事故に対する説明の区切りがつき、数歩歩いたところで見知った少女がソファーから手を振っていた。

 

「一週間ぶり。元気してた?」

 

「ええ、まあ・・・それよりエリカ、貴方、何故ここに?」

 

「もちろん、応援だけど」

 

「でも、競技は明後日からよ?何故二日も早く来たの?」

 

 そう質問した深雪に対して、エリカは確かに答えはした。

 

「今晩、懇親会でしょ?」

 

 ただし、言葉がいくつか足りていなかったが。

 

「・・・念のために言っておくけど、関係者以外は、生徒であってもパーティーには参加できないわよ」

 

「あっ、それは大丈夫。あたしたち関係者だから」

 

「"あたしたち"・・・ってことは他に誰か来てるのか?」

 

 そう質問すると、エリカは頷いた。

 

「うん。美月でしょ、あとはレオとミキも来てるよ~」

 

「借哉は明後日に来るのか?」

 

 その質問に対してエリカは首を振った。

 

「わかんないみたい。どうも忙しいらしいけど」

 

「・・・そうか。さて、先輩方が待ってる。エリカ、また後でな」

 

「あっ、うん。またね~」

 

 それを最後に、機材を載せた台車と一緒に部屋へと移動する。

 深雪はおそらく、もうしばらくエリカ達と話をしていくのだろう。

 そして、その方が助かる。

 

 

 部屋に着き、機材を降ろし終えたタイミングで電話が掛かってくる。

 着信は、"彼"から。

 盗聴の心配がない事を確認してから、電話に出た。

 

『達也、今は問題ないよな?そのタイミングを"狙った"訳だし』

 

『本当に都合がいいタイミングでしか掛けて来ないなお前は・・・。直接見張っているのか?』

 

『何、たいしたことじゃないさ。お前の部屋の鍵が開けられて、かつお前の部屋に同居人がいないことを加味すれば今の時間が連絡にはちょうどいいってことが決まるってわけさ』

 

 なんとも出鱈目な話だ。つまり"彼"はホテルの部屋の使用具合まで指先一つで把握できるほどの幅を利かせられるだけの力を持っているということだ。

 もし、"彼"に社会的に抹殺されそうになった場合、抵抗できるのか。そんなことを思いつつ、話を続けた。

 

『まぁいい。それで、お前は"あの特攻が誰がやったのかも知っている"んだな?』

 

『もちろん。優秀な魔法師工作員による特攻攻撃だ』

 

『確かに正解だ。で、その背後にいるのは?』

 

『俺はお前に"情報を売ったんだ"。その時点で分かれよ』

 

 つまり、敵ではないと言いたいのだろう。また、同時にこれは"味方でもない"ということになるが。

 

『まぁいい。で、次は何が起こる』

 

『俺だってお前に好き好んで情報を流してるわけじゃないんだ。自分で頑張ってみたらどうだ?独立魔装大隊だったらそこそこの情報は得られるだろ』

 

『お前達の持つ"力の規模"はそれを超えている。可能ならば出来るだけ大隊に借りを作りたくないのもあるが、情報の質が違いすぎる』

 

『結局借りる相手が"俺"か"大隊"かになるだけだぞ?それでもいいならまぁある程度は教えるさ』

 

『・・・条件はなんだ』

 

 無駄にもったいぶる"彼"に対して、条件を聞く。

 その答えは、ある種予想外のものだった。

 

『簡単だよ。近々"何か"が起こる。それも派手な類の物がな。その時にお前の力を必要な時に借りれるようにしたい」

 

『・・・手駒は足りているんじゃないのか?』

 

 その質問に対して彼は笑いながら答えた。

 

『もちろん。腐るほどいる。お前より使い勝手のいい奴がたくさんな。ただ、お前の力そのものは世界中のどこを見渡しても存在し得ない。いざと言う時の"ジョーカー"にしたいんだよ。もちろん、今回はきちんとした"取引"だ。お前の損になる行動はさせないつもりではあるよ』

 

『・・・いいだろう。今は口約束しかできないが、約束しよう』

 

 "彼"をして警戒する物事が何なのかは予想も付かないが、最低でも知りうる機会があるだけ乗る価値はある。それに、最悪情報だけ頂けばいいのだ。

 

 そう割り切った後、彼から提供された情報は、最初よりも詳細な物だった。

 

 

 

 

『"精霊魔法"に気をつけておけ。特に道具には細心の注意を払っておけ。相手の狙いは怪我による有力選手の棄権だ』

 




ってことで始まる前までに精霊魔法による妨害を知ることになる達也。
これが何の影響を及ぼすかって?・・・それはお楽しみです。

今現在頭の中では横浜騒乱編でのストーリーの構成で埋まっています。九校戦はソレの前座にできればいいなぁと思っていたり。と言ってもここから前座につなげるのはきついところがある気もするけど。まぁ、頑張れるだけ頑張ってみます。

次回、未定。懇親会書かなきゃいかんのかなこれ。一条書くのきつい気がしてならない


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第三十五話~既知~

前座と言ったでしょう?

伏線回です。何時もより長めかも。



【Monday,August 1 2095

  Person:operator4    】

 

 

 

 

「申し訳ないね、管理人。無理言ってホテルを開けて貰って」

 

「まったくです。九校戦なんですから、いくら来賓用の部屋は選手の部屋と比べては開いているとはいえ、用意するのは大変なんですから」

 

「まぁそういうな。これも"仕事"だ」

 

 笑いながら管理人の心労を労う。

 元々このホテルは軍施設としての趣が強い。既に"根"はかなり昔には張ってある以上、管理人にある程度の話を通すことは容易い。

 

 

 別に、態々九校戦を見に行く必要などなかったのだが、何故足を運んだのかと言うと単純に見てみたかったという一言に尽きる。

 

 決して、魔法師同士の試合をと言うわけではない。

 

 

 今回、"無頭龍"が妨害工作に使用する精霊魔法"電子金蚕"。

 ありとあらゆる電子機器に侵入でき、動作を狂わせる遅延発動術式。

 

 もし見た結果"有用"だと判断できた場合、裏で回収することが出来れば手札に加えることも可能かもしれない。

 そう考えた末、無理を言ってホテルを空けてもらったのだ。

 ・・・といっても、予備として一つ二つの部屋は残されていたので何とかなったのだが。

 

 

「で、懇親会はもう終わってるんだよな?」

 

「今何時だと思ってるんですか。とっくに終わってますよ」

 

「ならいいか。ちょっと煙草とコーヒーを切らしててね。ここなら遠慮なく吸える」

 

「・・・言っておきますけどロビーは禁煙ですからね」

 

「そこら辺は弁えてるさ」

 

 そう笑いながら答えを返し、自販機へと向かう。

 何時も嗜んでいるコーヒーと煙草を購入し、なんとなしに外を見る。

 

 

 偶には単純に楽しむ意図で外に出て吸うのもありかと思い、外に出た。

 

 

 

 外で煙草に火をつけ、一服する。

 もし今着ている服が一高の制服だったら補導は間違い無しだろう。しかし、今着ているのはいつも着用しているスーツだ。サラリーマンのソレとなんら変わりない以上、誰かに見られても咎められることはないだろう。

 

 

 この九校戦も四月の時と同じく、中華系の陰謀が紛れ込んでいる。その中で、"彼"はどのように動き、そして"我々"は何を得る事ができるのだろう。

 唯、どちらに動いたとしても、存外悪い気がするわけでもなさそうだ。単純に、人が頑張る姿というのは見ていて楽しい物だ。

 

 

 

 ふと、木に止まっている一羽の烏が目に付いた。

 なぜ烏などに気が向いたのか、なんていうことを考えたりはしない。

 答えなど、既に分かっているのだから。

 

 

「烏が鳴くと人が死ぬ、と言うそうじゃないか。今夜は果たしてそうだと思うかね?」

 

「・・・さぁ?烏は人を殺しはしませんからね。人を殺すのは何時だって変わらず・・・。そうは思いませんかね?」

 

 

 

「・・・九島老師」

 

 

 

「ハッハッハッ、君に"老師"をつけられると違和感も沸くものだね」

 

 そう言って笑うのは、まさしく九校戦の観戦に来て、また懇親会では来賓の挨拶なども行ったのであろう、九島烈その人であった。

 

 軽口を交えてさえいたが心の中では疑問で一杯だったが、結局しばらく他愛も無い話を続けることになった。

 ただし、何かしら意味ありげな言葉の交わしあいでしかなかったが。

 

「烏は死骸を啄ばむ。だからこそ、烏が鳴く場所では人が死ぬ。烏が人を殺すのではないのはもちろんだ。しかし、"烏"が利益を見つけたところは人が死ぬところ、というのは理解できない話ではないとは思うぞ?」

 

「まるで不吉の象徴みたいに言いますね。ですが烏は"神の使い"として信仰されるところだってある。そう邪険にする物でもないとは思いますがね」

 

「だからだよ。"神の為に"、"死ぬべき人"を見つける烏。それがここにも現れたとなると、放っておくことも出来なかろう?」

 

「・・・まるで"俺"が誰だか、少なからず知っているような口ぶりですな」

 

 率直にそう聞くと、九島烈は頷いた。

 

「確かに。"君達"は我々が"何も知っていない"と思っているのだろう?」

 

「少なからず、ね。だからこそ知っていると言うことには驚いたさ」

 

 言葉から、最低限残していた敬意が消える。

 九島烈は、今の段階では既に楽しいお話を出来る老人ではなくなっていた。

 そんなこちらの態度に対して、九島烈は満足そうに笑った。

 

「意外だろう?だが、君達の思い込みだって間違っているわけではない。"君達"の存在を知っているのはごく一部だよ。あの七草だって君達のことは知らない」

 

「だが、あんたは知っている。その口ぶりだと、"我々がどのような物なのか"も」

 

「もちろん。"あのプロジェクト"には私も関わっていた。おっと、"君達"は知らないんだったね」

 

 その言葉に、更なる疑念を抱くことになった。

 

「"あのプロジェクト"?」

 

 そう聞き直すが、はっきりとした答えを話してはくれない。

 しかし、彼も遠まわしな言い方が好きであるようで、ソレを匂わせるような答えを返してきた。

 

「"君達"は分からないだろう。だが、私達魔法師は"君達"のことを"君達"が思ってるより早くから知っていたし、それに対抗しようとしたのだよ。結果は最善ではなかったようだが」

 

「・・・"始まったときには既に終わってる"ってのは俺の経験則だが、今回の場合は"始まる前に終わっている"みたいだな。余計に内容が気になってくる」

 

「まぁ、そのうち分かるさ。"八咫烏"は賢い。長くないうちに真実には辿りつく」

 

 彼は雲から僅かに覗く月を見て、まるで昔を思い出しているかのような目で語る。

 

「我々は、"君達"を知っていたのだよ。だからこそ、"君達"に対抗するだけの力をつけようとした。それにより、魔法師を"君達に不都合な存在"で終わらせず、また魔法師を"ただの兵器"として以外の生き方を作り出した」

 

「自分達は兵器であったとしても、か?」

 

「そうとも。周りを見てみなさい。大亜連合も、USNAも、東EUも西EUも。どこも魔法師を"社会レベルにまで発展"させたところなどありはしない。我々、日本の魔法師だけだ。"八咫烏達"の手をここまで煩わせられるまで発展させることが出来たのは、我々が唯一とも言っていい」

 

「・・・そこは認めざるを得ないな。確かに、"お前達"は"俺たち"にとって厄種でしかない」

 

「そこで全てが丸く収まればよかったのだがな。今度は魔法師が"兵器"から逃れられなくなってしまった。"力"に使われるようになってしまった」

 

 そう語る彼の目は、老人とは思えないほどの覚悟を灯していた。

 

「まだ、終われないのだ。たとえ"あのプロジェクト"が失敗であったとしても、"君達"がこうやって現れた以上、何かしらの意味があったはず。我々だけでは"兵器"から抜け出すことが出来ないのならば、"神"に頼むしかない。そして"彼"は、その窓口になり得る」

 

「随分と大層な夢を持っているな。魔法師を、魔法師として在らせる為に命を燃やすか」

 

「もちろん。その為には、"烏"の力を借りるしかない。私に見える道は、それしかない」

 

「・・・なら頑張ってみるんだな。"魔法師"が、今度こそ"我々"にとって有用足りえる存在になるように」

 

「そうだな。其れまでこの老体も捨てるわけにはいかないだろう」

 

 そう言って、既に燃え尽きた煙草を携帯灰皿に入れてその場を去る。

 去り際に、彼がこの会話で最後の言葉を投げかけてきた。

 

 

「"烏"に説教というのも奇妙な話だが、覚えておくといい。君達にだって、理解していないことはあるのだということを、な」

 

 

 そして、また彼も別方向に消えていった。

 

 

 今更なのかもしれない。しかし、九島烈の言葉から考えるに、もはや無視できる規模にはないらしい。

 彼のいう"あのプロジェクト"とはなんなのか。意味さえ分からない以上、調べても徒労に終わることは間違いない。

 

 

 まさしく狐が生まれる前から生きていた身であるはずなのに、妙に狐に包まれたような気分がしてならなかった。

 

 




ってことでオリ主現地入り&謎との遭遇です。
オリ主達が把握せず、魔法師の一部のみでオリ主達に対抗しうる力を持つ為に行われたこととは、一体。

まぁ、魔法科八巻の時点で16巻の展開を予期できてた聡明な読者の方々ならある程度の目処は付いていると思うんですけどね。

なお、九校戦に伏線をばら撒こうという意図は本当にこれを書く寸前。ネタを考えている時に振ってきた。そういえば九校戦も裏では伏線祭りだったと。これで三話分ぐらい話のネタが決まった気がする。

次回、未定。投稿遅れるかも。


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第三十六話~小暇~

繋ぎ回。九校戦って最初穏やかすぎて何かしらのあれが必要だったんですよね・・・

んでもって今回は短め


【Thursday,August 4 2095

  Person:operator4    】

 

 

 

 

 ここに来た日の夜、九島烈が残していった言葉の意味は、未だ分からず。

 そのまま、九校戦が始まってから一日が過ぎていた。

 

 

「本戦のスピードシューティングは特に何の妨害もなく終了、バトルボードも目立った物は何もなし。クラウドボールは男子の結果が悪かったがあれに妨害の痕跡は見当たらず、アイス・ピラーズ・ブレイクも今のところ問題なし・・・か。」

 

 

 一応"眼"も使って見てはいたが、精霊魔法とされる物の気配は微塵も感じなかった。もしくは一度電子機器に侵入したら発見できないのかもしれないが、今のところ大きな事故は何一つ起こってない。

 

「さすがにすぐ動くつもりはないんかねー・・・。まぁある意味当たり前だが、こっちにとっては暇で仕方が無いんだよなー」

 

 五杯目のコーヒーを空にして、机の上に置く。

 おそらく"彼"は、今も技術スタッフとしてよく働いているのだろう。事実女子クラウドボールでは"彼"の姿が確認できた。

 しかし、"彼"が情報のことを気にしているのかどうかといわれると、微妙な雰囲気だった。選手に心配をかけぬよう見せないだけなのか、それとも最初から"身の回り"しか興味がないのか。

 

「一体お前は"何が目的"なんだ?それとも単純に"空っぽ"なだけなのか・・・」

 

 答えは、出るわけがない。俺は、"彼"ではないのだから。

 

「・・・考えるのも飽きたな。それよかコーヒーの替えを買ってきたほうがいいか。どうせホテルにいるんだし缶コーヒーよりはインスタントでもきちんと淹れたほうがいいだろうな」

 

 確かフロントに行けば買えただろうか。そんなことを思いつつ、下へ降りて行った。

 

 

 

 結局一階には売店があった為、適当なインスタントコーヒーを購入して戻ろうとする。

 しかし、そこで今"ここでは"あまり会いたくない相手と会ってしまった。

 

「あれ、借哉じゃないか。九校戦にはてっきり来ないのかと思ってたよ」

 

 夜に外に風にでも当たっていたのだろうか。そう声を掛けてきたのは同じく部屋へ戻ろうとしていたのであろう、幹比古だった。

 

「幹比古こそよくこのホテルの部屋を取れたな?応援の奴らは大体別のホテルだろうに」

 

「まぁ、ちょっとね」

 

 あまり彼自身なぜここに泊まれた、否、泊まっているかはあまり突っ込んでほしくはないのだろう。返事は切れが良いとは言えなかった。

 

「で、なんで借哉はここに?」

 

「まぁ家業ってやつかな。競技が始まった日に来て試合の詳細を纏めなきゃいかん。おかげでさっきまでずっとパソコンの前だったよ」

 

「記者の手伝いでもやっているのかい?」

 

「まぁそんなもんだと思っておいてくれ。説明するのも疲れた」

 

 もちろん内容はほとんど嘘だ。せいぜい"家業"がぎりぎり合っている程度でしかないだろう。しかし、だからといって本当のことを言っても困るだけだ。何せ今の俺は"スーツ姿"なのだ。レオやエリカが見た場合"四月のこと"で疑われる可能性がある。その為にも尤もらしい理由をつけなくてはならなかった。

 

「達也は頑張ってるのか?」

 

「まぁ本番は明後日からみたいだけどね。けど評判は悪くないみたいだ。試合を見ていたならわかると思うけど、この調子だったら一高が優勝すると思うよ」

 

 そう語る幹比古は、どこか素直に喜べないような様子だった。

 

「まだ分からんぞ。目の前の事象に拘るとその先に何があるかを見失いがちになるからな」

 

「確かにね。こっちもきちんと応援しなきゃね」

 

「応援だけとは限らんかもしれんがな?」

 

「勘弁してよ。僕は選手じゃないんだ。せいぜい応援しかできないよ」

 

「まぁ、成るように成るもんさ。俺は見守るだけだしな」

 

 そういって手を振りつつエレベーターに乗る。

 

「達也によろしく言っておいてくれ」

 

「わかったよ。借哉も頑張ってね」

 

 それを最後に、エレベータが閉まり、部屋のある階へと向かう。

 

「本当に、応援だけで済むとは限らんけどな・・・」

 

 何故かは、わからない。

 ただ、無性に、幹比古はここで見ているだけの立場には回れないように思えた。

 

 

 それが本当かどうかは、今のところは分かるはずもない。

 今はただ、見守るだけだろう。

 

 




ってことで借哉が九校戦を見に来ていることが幹比古経由でばれる。なお、だからといって独立魔装大隊の殴り込みが起こったり彼が九校戦に出たりなんてことはない。決してない。だって出して何の意味があるのってことですし・・・。
まぁ、実力はあるんですけどね。ただ、九校戦にはすでに人は間に合ってます。

次回、達也回。そろそろバトルボードだね。

【追記】またサブタイトル付け忘れたので付け直しました


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第三十七話~発生~

久しぶりに()を使った。
文体的には地文の方がかっこいいんですよね、内心の描写って。
何故かって?そりゃ()は便利だけど簡潔ですから・・・。

まぁより主観的に見せる為には()を使った方がいいのですが。


【Friday,August 5 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

「お兄様、もうすぐスタートですよ!」

 

「すまないな、態々席を取っておいてくれて」

 

 そう礼を言って席に座った後、スタートラインへ目を向けた。

 準決勝は一レース三人の二レース。

 他の二人が緊張に顔を強張らせている中、摩利だけが不敵な表情を浮かべている。

 

 

 "彼"は、確かに言った。精霊魔法による妨害があると。

 そこに、"あるとしたら"といった仮定や、"恐らく"といった推測さえない。

 確実な、断定。

 しかし、三日目になっても結局妨害は起こらなかった。

 確かに初日にやってくる確立は低いとは思っていた。だが、一高の敗北が目的である場合本来はクラウド・ボールやスピード・シューティングにも手を出して然るべきではなかろうか。

 

 

 しかしそれ以上の情報は得られていない。元々手段を教えてもらっただけでも運がいいと見るべき。起こるのが何処の競技か分かっていたら最初から世話は無い。

 本来なら美月の"眼"で常時監視して欲しかったところだが、流石に何時起こるか分からない妨害のために見張っていてくれとは言えるはずも無い。

 

 深雪にも、余計な心配は掛けたくない。その為にも、今回は"影に隠れたまま"終わらせるべき。

 

 

 そんな思案を余所に、二回目のブザーが鳴り、スタートが告げられた。

 先頭に躍り出たのは摩利。しかし、背後には二番手がピッタリくっついている。

 

「やはり手強い・・・!」

 

「さすがは『海の七高』」

 

「去年の決勝カードですよね、これ」

 

 流石に準決勝となると、選手もそこそこのレベルは残らない。

 まさに、凄腕と言えるべき存在が揃う。

 美月の言うとおり、特に今回の準決勝は優勝候補であった二人が競い合う状態になっている。

 

 

 そう、"優勝候補であった二人"が。

 

 

「待てよ・・・」

 

 思わず、口に出す。

 決定的な事項を、見逃していた。

 確かに、一高の妨害が目的だと"彼"は言った。だが、"無頭龍はその妨害で何をしたいのだ?"

 妨害だけ?そんな訳は無い。一高に恨みでもない限り、ただ一高が"負けるだけ"では足りないはずだ。

 では、発想を変えてみたらどうか。具体的には、"一高を負かすことで別の高校を勝たせたい"のであるとすれば。

 まず間違いなく、一高が負けるとしたら優勝するのは三高だろう。競技関連でいえば二高より三高の方が優秀だ。

 つまり、"三高が優勝できる状況にするべき競技は、何が妥当か"。それも、"一回の行動でより確実に出来るもの"。

 クラウド・ボールもスピード・シューティングも真由美の勝利はほぼ揺らぎ無いものだったが、真由美を取り除いただけでは正真正銘の比べあいに戻るだけ。

 ソレに対して、バトル・ボードはどうか。確実な優勝候補を二人も潰せれば、残りは三高ぐらいしかなくなる。たった一回の、目立つことの無い妨害でどちらが効果的かは、言わずもがな。

 

 

「まずい!」

 

「達也くん?」

 

 突然立ち上がったことに対してエリカが訝しげな目を向けてくるものの、今それに答えてる余裕はない。

 

「美月、"眼鏡を外してくれ!"」

 

「え?」

 

「頼む!」

 

 いきなり意味不明なことを言われ、戸惑いながらも眼鏡を外す美月。

 彼女に対して、"必要なこと"しか言う余裕はなかった。

 

「選手のことをよく見ていてくれ。俺は下に降りていく」

 

「お兄様、何が?」

 

「話は後だ!深雪はここを頼む」

 

 そう言って席を立ち、階段を急いで降りていく途中で悲鳴が聞こえる。

 七高選手がオーバースピードにより大きく体勢を崩していた。

 ボードは水をつかんでおらず、その状態では方向転換さえ難しい。

 そして、その先には減速を終えて次の加速を始めたばかりの摩利。

 

「やはり間に合わないか」

 

 席の最下段のところまで降りていき、あと少しというところで決定的なところにまで行ってしまった。

 せめて"次"がないようにと、何が起こるか目に焼き付ける。

 

 

 摩利は暴走している七高選手を受け止めるべく、新たに二つの魔法を起動していた。

 本来はソレにより、事故は回避できただろう。

 しかし、"狙ったかのようなタイミング"で、不意に水面が沈み込む。

 

 それに伴い浮力が失われたことにより、ただでさえ無理に体勢変更を行ったことにより安定性を損なっていたのに、更に大きく崩れる。

 

 魔法の発動にズレが生じ、ボードこそ弾き飛ばせた物の、七高選手を受け止めることはできず。

 

 

 もつれ合うように二人はフェンスへ飛ばされた。

 

 

(まずい、肋骨が折れている!)

 

 "眼"による確認も行ったが、それ以上に今までの戦闘経験から摩利の怪我の具合を導き出し、急いで下で事故現場へ駆けつけようとしている救護班の元へ向かう。

 

「彼女は肋骨が折れています!急いで病院へ搬送するべきです!」

 

「君は誰だね?!」

 

「一高のエンジニアです!」

 

 今現在は通常の制服を着ているためにぱっと見では判断が付かない為信憑性の無い台詞ではあるが、今は摩利達の救助が最優先だ。

 それ以上の追求は無く、一緒に同行することができた。

 

「肋骨が折れているのは間違いないんだね?」

 

「はい。病院に着くまでは魔法で一時的な固定を行った方がよいかと」

 

「分かった。治療を急ぐぞ!」

 

 救助に関わりつつも、摩利の容態を改めて確認する。

 

 この様子では、恐らく九校戦への復帰は望めない。どうやっても"治療"には一週間はかかる。

 まさかこんなところで"再成"を使うわけもない。今回は、完全にしてやられた形だった。

 

 

 結局、"彼"の言う通りになってしまった。

 だが、もし何も知らなかったらまずは何が起こったかを推測する所から始めなければならなかっただろう。

 しかし、"情報"を貰っていた為、それの確認から始められる。そうすれば、一応の対策は取れる。

 美月は、何かしらの不自然を"眼"で確認できただろうか。今のところ最も確実なのは、彼女の"眼"だ。

 

 

 だが、映像を解析する必要もある。彼は"精霊魔法"としか言っていない。どのような精霊魔法なのか、把握する必要がある。

 後で、幹比古にも話を聞くべきだろう。

 

 

 これで、終わりとは限らないのだから。

 

 




ってことで電子金蚕の本領が発揮されるところですね。
ですが実際電子金蚕は魔法科内ではちょっと効果の説明が分かりにくいんですよね。
電子金蚕はあくまで電子機器を"狂わせる"精霊魔法ということになってるようですけど、序盤はかなり高度なコントロールが出来てますよね。水面の操作は別の精霊魔法であるにしても、他のところでも結構直接操作していそうなタイミングで結果が出ているあたりただ狂わせるとは言えないと思えたり。
で、結局どんな魔法なのだろうと自分なりで考えた結果、以下の結論になりました。

1.電子機器の電気信号を狂わせると言うより、電気信号の行き先を予め設定しておいたとおりに変換できる。(原作のバトル・ボード準決勝)
2.恐らく電子金蚕そのものに一つ程度なら魔法式を記録できる。(原作の破城槌)
3.恐らく電子金蚕同士でリンクさせることも可能(原作の事前の位置把握)
4.これらの条件を指定しない場合、ある程度の時間範囲は限定できるものの、比較的侵入後短めの期間にランダムに電子機器を一時的or致命的なクラッシュ状態にする。

ね?こう考えると使い勝手よすぎですよ。誰だよ中国の魔法関連は大漢滅亡により遅れてるとか言った奴。こんなの作れるならどんぐりの背比べでしかないんじゃないですかね。まぁ諜報と軍事に限定されるんでしょうけど。日本の魔法技術は案外幅も広いようですし。


さて、次回は久しぶりに同時間帯のオリ主視点になるかも。話数が被るかも、恐らく。分からないけど。


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第三十七話~価値~

今回は短め。繋ぎ回の要素が強い。今までよりも。


【Friday,August 5 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

「もうすぐスタートか」

 

 結局何の妨害もなく三日目に入ってはいるが、今回のバトル・ボードは妨害が入る可能性が高い。優勝候補を二人もつぶせる以上、リスクとリターンで考えたら間違いなくこのタイミングしかない。

 

 念のために、試合はすべて録画、解析している。今回でもし直接見ることができなかったとしても、何かしらの成果は得られる。

 

「さてと。今回はどうかな」

 

 三杯目のコーヒーを付けた所で、二回目のブザーが鳴った。

 

 

 

 初動は間違いなく委員長が握っている。が、確定的ではない。

 うしろには、七高の選手がピッタリとついている。

 そして、彼らは共に優勝候補の筆頭。

 

「もし妨害が起こるとしたら、第一コーナーからか」

 

 その呟きが結果を動かしたわけではないが、第一コーナー手前で七高選手に"異常"が発生していた。

 行使する場所を明らかに間違えた、危険な加速。

 まさか優勝候補がこのような初歩的なミスをするはずもない。

 

「ビンゴ」

 

 コントロールを失った七高の選手は委員長とぶつかり、フェンスへと飛ばされる。

 レース中断の旗が振られ、観客席からは悲鳴が上がる。

 こちらの心境としては、落胆でしかなかったが。

 

「しかしあれだけの仕込みの痕跡があって、起こすのが魔法式を差し替える程度のこととは・・・」

 

 確かに瞬時でそれが可能という点では有用かもしれない。しかし、逆に言えば一定の手間を省くだけの利点しか電子金蚕と通常の工作との違いがないのだとすれば、わざわざ手に入れる価値はない。

 

「あんなものに国防軍が一時的とはいえ苦戦したのか?まさかそんなはずはないだろうしな・・・」

 

 おそらくは、まだ本領を発揮しているわけではないのだろう。

 とはいっても、本領が発揮される時期があるのかどうかはわからないが。

 

「まどろっこしくなってきたな。いっそのこと工作されたCADでも入手してやろうかな」

 

 もしくは既に割れている"犯人"からサンプルをもらうのもありか。買収されている者ほど金には動きやすい。札束で顔を叩いてやれば平気で提供してくれるだろう。

 

 

 事故現場では、救護班と共に"彼"が選手の治療に入っていた。

 何故、というのも今さらだろう。彼は妹さんの心配を掛けさせないためなら人を殺すぐらいのことは平気で行うのではないかと思えるぐらいの過保護さを持っている。おそらくは彼女に頼まれたりしたのだろう。

 尤も、あの様子だと二日にわたり妨害がなくて警戒心が薄れていたのだろうが。

 

「まだまだ青臭いというかなんというか」

 

 しかし対応力としては間違いなく満点だ。不測の事態に自分の思考を置いて最善と思われる行動を直ぐに実行できるのは間違いなく訓練された人間しかいない。

 

「もしあいつが"バグ"なんかじゃなきゃ手駒に欲しいんだけどなぁ」

 

 叶わない考えを頭に浮かべつつモニターから離れる。

 

「さて、一応保険は掛けておくかな」

 

 今回の妨害は限りなく大きなダメージを一高に与えた。もしそのままであれば優勝の確立が大きく揺らぐだろう。

 しかし、こちらとしては電子金蚕の能力の限界を見たい為、ここであっさりと一高に負けてもらっては困る。

 では、どうすればよいか。簡単だ。第一高校が今回負ったダメージを比較的容易に回復できるように手回しさせてやればいい。

 確か委員長はミラージ・バッドでも高得点が想定されていた人間だ。では、その穴を埋めることができる魔法師は誰か。

 

「んなもん決まりきってるな。あいつの妹さんしかいない」

 

 となると、選手の変更を容易に行えるように運営側に働きかければ問題はない。相手側の管理の不徹底さを餌にしてやれば問題はないだろう。

 

 

「さて、問題は"彼"がどう動くかだな。高見の見物とするか」

 

 

 そう言いながら煙草に火をつけ、一服する。

 

 

 九校戦は、まだ、始まったばかりだ。

 




ってことで(また)借哉が一高側につきます。といっても後押ししかしませんが。

よくよく考えるとまだ摩利の段階では精霊魔法のすごさは分かってないんですよね。やっぱりもr・・・・モブ崎の事故現場まで待つ必要がありそうです。


次回、映像解析。タブン達也回


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第三十八話~分析~

いろいろ映画とか見てると、たまにif展開というか、その舞台を間借りしたストーリーを考えたりしますよね。
10人のインディアンみたいな大筋でゾンビ物とか、GATEの日本がもうちょい強気だったらとか。
考えてて本当に楽しい。特に設定がよく練られている奴ほど。


さて、本編です。今回はチョイ長め


【Friday,August 5 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

「・・・一通り検証してみましたが、やはり第三者の介入があったと見るべきですね。五十里先輩、確認して頂けますか」

 

「了解。流石に仕事が早いね」

 

 録画されていた先ほどの試合の映像を改めて解析し、結論を出す。

 結果は、黒。

 というより、元々決まっていたのだ。"彼"からもたらされた情報だ。彼に悪意がない限りはまず信頼できる情報だ。恐らく、この世にあるどの機関よりも。

 

 

 シュミレーション画面の上部に、水面の変化に影響を与える諸要素が数字で表示される。

 そして、やはり問題の、水面が陥没した瞬間、項目名に"unknown"が表示され、誤差では解決できない「力」が水中から掛かっている。

 

 そう、"水中"から。

 

「・・・予想以上に難しいね、これは」

 

 その言葉と共に花音に対して説明する五十里を見つつ、思う。

 確かに、もし"何も知らなかったら"俺だって混乱していただろう。しかし、今は"手段"が分かっている。"それに詳しい者"も近くにいる。加えて、"視れる者"さえいる。そうなれば、案外早く事態が片付くかもしれない。

 

 

 部屋から言葉が無くなって二分ほど経った時、再び、ドアがノックされた。

 

 

 深雪が来訪者の応対へ向かい、直ぐに"呼んでおいた二人のクラスメイト"と共に戻ってきた。

 

「美月は、お兄様に呼ばれた、と言っていますが・・・」

 

「すまんな、二人ともわざわざ」

 

 妹の問いかけを肯定した後、二人の先輩に対して軽く美月と幹比古の紹介を済ませる。

 

「二人には、水中工作員の謎を解くために来てもらいました」

 

 そう目的を告げた後、幹比古達の方へ目を向ける。

 

「俺たちは今、渡辺先輩が第三者の不正な魔法により妨害を受けたことについて検証している」

 

「言い切るんだね。それは解析の結果かい?」

 

「それはまた後で説明する。まず幹比古にいくつか教えてもらいたいことがある」

 

 一旦言葉を切った後、続ける。

 

「渡辺先輩が体制を崩す直前、水面が不自然に陥没し、その影響で渡辺先輩の慣性中和魔法のタイミングがずれ、事故が起こった。まず間違いなく、この水面陥没は水中からの魔法干渉だ。コース外から気づかれることも無く、水路内に魔法を仕掛けることは不可能。となると水中に何かが潜んでいて、それにより仕掛けられたと考えるべきだが、生身の魔法師が水路の中に潜んでいると考えるのは荒唐無稽だ」

 

 ここまでの説明で、幹比古はほぼ状況を理解したらしく、目に強い光を宿していた。

 

「単刀直入に聞きたい。今回の水面を陥没させる魔法は、精霊魔法により可能か?」

 

「可能だよ」

 

 幹比古の答えは、即答だった。

 

「今の条件ならば、第二レースの開始時刻を第一の発動条件、水面上を人間が接近することを第二の発動条件として水の精霊に波、あるいは渦を起こすよう命じることで達成できる。精霊でなくても、式神でも可能だろう」

 

「お前にも可能か?」

 

 その質問に対して幹比古は条件付の肯定を返した。

 

「半月程の準備期間を得て、かつ会場に何度か忍び込む手はずさえ整えられれば多分可能だ」

 

「前日に会場へ忍び込む必要は?」

 

「無い。地脈と地形が分かっていれば、地脈を通して精霊を送り込むことができる。事前調査はそのためのものだ」

 

 その答えを元に、思考をめぐらす。

 恐らくエンジニアになることが決定した段階で確認されていた富士演習場への工作は間違いなく地脈および地形の調査だろう。

 先日の侵入に関しての理由は分からないままだが、事前に芽を摘んでいる以上特に気にすることも無いだろう。

 

「だけど、そんな術の掛け方ではほとんど意味のある威力は出せないよ?精霊は術者の思念に応じて力を貸してくれる物だ。そんなに何時間も前から仕掛けたのでは、せいぜい子供の悪戯にしかならないと思う」

 

「確かに。もし七高選手にも何かしらの工作が行われてさえいなければな」

 

 その言葉に幹比古は当然の疑問を示したが、それに対してはすぐには答えず、美月へ目を転じる。

 

「美月、さっきは急なことで悪かったが、さっきの事故の時、SBの活動は見なかったか?」

 

「あっ、はい。何て言ったらいいのかは分からないんですけど・・・」

 

「それらしきものは見たんだな?」

 

「はい」

 

 何とか、"視て"くれていたようだ。これで、確定。

 恐らくは七高選手にもCADに細工が仕込まれていた。恐らくは減速の起動式を加速の起動式と摩り替えたのだろう。精霊魔法にそのようなことが出来るのかと思いつつ、そのことを説明していく。

 

「確かに理屈は通っているけど・・・CADに細工なんてできるのかい?もし細工したとしたら、一体何時?」

 

「七高の技術スタッフに裏切り者が紛れ込んでいるとか?」

 

 その五十里と花音の質問に対して、小さく頭を振る。

 

「残念ながら確証はありませんが、細工する機会はあります。裏切りの可能性も否定し切れませんが・・・俺は、大会委員に工作員がいる可能性の方が高いと思います」

 

 会話が途切れる。

 五十里も花音も幹比古も、今度こそ絶句していた。

 

「・・・しかしお兄様、大会委員に工作員がいるとして、いったい何時、どのようにしてCADに細工したのでしょうか?競技用のCADは各校が厳重に保管してあるはずですが」

 

「CADは必ず一度、各校の手を離れ大会委員に引き渡される」

 

「あっ・・・!」

 

 失念していた可能性に、深雪が声をあげた。彼女だけが声をあげることが出来た、ともいえるだろう。

 

「打てる手は余り多くはありませんが、気をつけるに越したことはありません。何かしらの工作があるかもしれないと思って行動したほうがいいでしょう」

 

 その台詞を最後に、一旦は解散という形になった。

 

 

 

「達也」

 

 五十里先輩方と美月が出て行った部屋の中で、幹比古が声を掛けた。

 

「どうした、幹比古」

 

「達也は妨害のことを知っていたのかい?」

 

 単刀直入な質問に、傍にいた深雪も固まっている。

 確かに、俺は"妨害を受けた"と言い切った。恐らくはその件だろう。

 

「あぁ。前の夜の事で、ある程度の情報が手に入ってな。しかし、何かが起こるということぐらいしか分からなかったのもあるし、何よりも三日目になっていて気が緩んでいた。失態と言っても良いだろうな」

 

「いや、別に責めてる訳じゃないんだ。気にしなくてもいいよ」

 

 もちろん解答は嘘だ。本来は"彼"からの情報だ。しかし、それを幹比古に言うこともできない。それに、自分自身でも警戒心が緩んでいたのは確かだ。本来ならば、早期に気づけてもよかったことだ。

 

 

 そこに、思っても見なかった名前が幹比古の口から出てきた。

 

 

「まさか借哉の言うとおりになるとはね・・・」

 

 

「今、なんて言った?」

 

 空気が一瞬張り詰める。

 幹比古は弁明するように慌てながら言った。

 

「いや、深い意味はないと思うんだけどね。昨日の夜あたりに彼と会ってね。ちょっと話をしたんだけど、"応援だけとは限らないかもしれない"なんて言ってたから、何のことかと思ったんだけど」

 

「待て。今、借哉がここにいるのか?」

 

 真剣みを帯びた目に、幹比古は戸惑いながらも頷く。

 

「う、うん。まだ言ってなかったけど、このホテルに泊まってるみたい。なんだか家の手伝いとか言っていたけど」

 

「分かった。幹比古、借哉がここにいるということは他言無用で頼む」

 

「一体どうしたんだい?達也」

 

 何がなんだか分からないと言う幹比古に対して余り答えられることは無いが、今は"彼"がここにいると言う事実は余り知られない方がいい。

 

 

 しかし、彼の気分によってはこの問題の全てが一度に解決しうるだけの情報が手に入る。

 彼を動かしうるだけの、何かさえ用意すれば、余計な時間ロスもない。無駄なく行動に移れる。

 

「幹比古、もしまたあいつに会ったら泊まってる部屋はどこか聞いておいてくれ」

 

「もしも会えたらね。基本的に部屋に篭りきりって言ってたけど」

 

「余り期待はしてない。心配するな」

 

 

 幹比古に頼らずとも、泊まっている場所は探そうと思えば探すことは可能だ。ただ、あまり"荒事"にしたくないだけで。

 

 

 

 三人しかいない部屋の中で、妙に空気が先ほど以上に張り詰めていた。




ってことで借哉の現地入りがばれました。ただし知っているのは幹比古、深雪、達也の三人だけですが。そしてそれ以外に余り漏らすつもりは無い。
風間あたりに頼むんじゃないかとお思いの人もいるかと考えますが、よく考えてください。そんなことをしようものなら借哉の泊まってるフロアが戦場になりかねません。爆発事故とか普通に起こるでしょう?そんなことをお兄様が許容できるはずもなく。


さて、次回から四巻に突入します。九校戦は本が分厚くて何故だか長く感じます。しかもオリ主の絡む要素、変わってくるところが少ないのが一回目の九校戦ですから。
とにかく目標は中盤までの物語作り。頑張っていこうと思います。

次回、オリ主回。その方が切れ目いいしね


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第三十九話~利益~

日付が変わりませんでした。
理由はいくつかありますが、一番はですね。



モノリス・コード新人戦までのつなぎが全く考え付かない。とりあえず一話ぐらい挟む予定なんですがね・・・


【Friday,August 5 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

『まさか"ここ"(富士演習場)にお前が来ているとはな』

 

『言うほど不思議か?俺だってどのような精霊魔法を使うのかは分からんのだ。見てみたいと思うのは当然だろう?』

 

 

 恐らくは幹比古経由でばれたのだろうが、"彼"がこちらの居場所をつかみ連絡を掛けて来たのは夜も暮れた頃だった。

 連絡をかけるには異様に間が空いていたが、恐らく彼自身の仕事などで忙しかったのだろう。特に害も無い以上放って置くことにした。

 

『だからといって"無頭龍"を野放しにする理由になるのか?』

 

 とはいえこのような非難を真に受けるつもりもないのだが。

 

『自惚れるなよ。俺は九校戦がどうなろうと知ったことではない。俺はお前に"必要だと思った情報を提供するだけ"だ。こんなふざけた茶番に態々介入する筋合いはないな』

 

『ならなぜ情報を態々渡してくる?俺に恩を売りたいだけじゃあるまい』

 

『さあな。それにお互い根の深いところまで掘り下げる必要はない。お互いの利益に基づき、好きなように利用し利用される。今回はそれで十分だろう?』

 

『相変わらず食えないやつだ』

 

 

 彼自身が言ったとおり、確かに彼に恩を着せていざと言う時の"カード"にすることだけが目的と言う訳ではない。他にも、管理者No.3からちょくちょく送られる"赤旗計画"に対する妙な不穏さに備えてある程度の鬼札は例え元々が敵であっても用意したいという意図はある。

 

 だが、本音を言ってしまえば早いうちにブランシュの息の掛かった組織を日本から消し去りたいのがメインだ。今回自ら動くほどの価値は"無頭龍"にはない。しかし、大本が厄介な存在でもあるだけに出来るだけ行動を抑制させたいのだ。

 

 そして、その場合"彼"とは一時的に利害が一致する。お互い、"無頭龍"の存在を快く思っているわけではない。そしてこちらにとっては放って置いてもいい存在だが"彼"にとっては可能ならば今すぐにでも潰したい存在。

 

 となると、こちらは特に積極的に動く必要もない。"彼"に"無頭龍"を潰しやすいように情報を与えてさえやれば後は勝手に彼自身が処理してくれる。

 

 

 わざわざ自らが仕事着にカービンライフルを持って殴りこみをしたり、存在そのものを"消し"にいったりする必要もない。昔は何時もやっていた、何の変哲もない裏工作だ。

 

 

 しかし、連絡をつけるまでに間が開いたということは、やはり何かあったか。

 もちろん、見当は付いているのだが。

 

『で、結局委員長の変わりは誰になったんだ?』

 

『分かってていってるだろ』

 

『推測の範囲でならな。九十パーセント当たると思ってるが』

 

 本戦のミラージ・バットは一高は補欠さえ用意していない。その状態で、委員長の穴を埋めることが可能であろう存在など、一人しかいない。

 

『深雪が出ることになった。ミラージ・バッドの本戦にな』

 

『やっぱりな。さすがお前の妹さんってだけあるな』

 

 恐らくはだからこそこんな時間に連絡をつけてきたのだろう。"一高を敗北させる"事が目的である以上新人戦のミラージ・バットと本戦のそれとでは"無頭龍"にとって重要度が違ってくる。

 かなりの確立で、妹さんに被害が及ぶ。

 だからこそ、探りと共に"結論"を求めてきたのだろう。生憎、"電子金蚕"に関するある程度の実地成果も見て見たい為、そうやすやすと味方するつもりも無いのだが。

 

『まぁ、頑張れよ。先は長いからな。俺がある程度の情報は渡してやったんだ。"いつもよりは"絶対に進歩は早くなる。その時に得をするのは俺じゃなくてお前なんだ。俺は"視る"だけさ』

 

『・・・まぁ、とりあえずは納得しておこう。ただ、もしこちらの利益にならないと見たら"それなりの用意はある"事を覚えておくんだな』

 

『おぉ、怖い。だが、関係ないな。精々足掻いて見せろ』

 

 

 それを最後に、通話が切れる。

 

「はてさて、この調子だとあいつが本当に切羽詰った時はこっちに厄介ごとが来るかもしれんなぁ」

 

 そう呟きながら、煙草に火をつける。

 

「実際"電子金蚕"のスペックの限界さえ見られれば問題はないんだ。となると、少々"無頭龍"に餌をちらつかせる必要があるかね」

 

 必要なのは、バトル・ボードの工作がほとんど影響を及ぼしていないと思わせること。

 つまり、今の時点では一高をリードさせた方が相手は焦って動きやすい。

 

「工作と疑われない為のクール期間を考えると、三日ほどは空くか・・・」

 

 その間に、一高のリードを広げる必要がある。

 

 そう、考えてみたところで。

 

「・・・なんか無意味な気がしてきた」

 

 "彼"がエンジニアについてることを思い出し、今更ながら馬鹿なことを考えていたと思い直す。

 放って置くだけでいいのだ。彼に好きにやらせることで、勝手に一高は勝ってくれる。

 何せ本職である可能性が否定できないのだ。現在も調査を進めてるが、今回のエンジニアとしての手腕からして一つの疑惑さえ浮かんでいる。

 

「いっか。あいつに対する妨害だけ気をつけておけば後は俺の好きなようにやってしまおう」

 

 とりあえずは、二回目の妨害が起こるとする競技の場所を揃えてやることが一番いい。

 

 

「恐らく次に来るのは新人戦モノリス・コード。決定的でないうちに縮めておきたいはず・・・」

 

 恐らくは、焦りから初戦にやらかすだろう。そこで、一番"電子金蚕"の性能を把握しやすそうな環境を整えればこちらの意図は達成できる。

 どのような環境が一番、"電子金蚕"について見れるか。

 結論は、直ぐに出た。

 

 

 

「そうだな。市街地マップにするよう働きかけるか」

 

 

 

 あそこほど入り組んだ場所であれば"個人的に使うにしても有用かどうか"がきちんと見える。何時もいる場所が都市部でもあるし、条件としたら市街地が一番満たしている。

 

 残念だが第一高校のモノリス・コードに参加する一年生には涙を流してもらうことになるが、別にこちらから守る義理もないのだ。

 

 

 そう思いなおし、大会委員に働きかける準備を開始した。

 




ってことでオリ主の介入が入ります。大会委員に。

これによって大会委員が故意に市街地フィールドに設定する→一高の事故→大会委員の罪悪感が増える→そこに克人の提案が入り、大会委員がつい許可してしまう。

って流れにする予定。なおオリ主には微塵もそのつもりは無い模様。
もちろん達也の戦闘能力を一部でも見れる分棚ぼたなんですけどね。

次回、未定。今回も遅れるかも

【追記】投稿したばかりであれだけど一つ誤字を修正。国語力の無さが露骨に出る・・・


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第四十話~魔法~

考えるに考えて、結局すっ飛ばすことにしました。
それでも繋ぎ回にしかならないのは申し訳ないとしかいえませんが。


【Tuesday,August 9 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 結局三日ほどを裏工作に費やすことになった。

 市街地マップを入れるように働きかけ、さらに"無頭龍"が市街地マップでの試合で妨害を仕掛けてくるように様々な状況をさりげなくお膳立てしてやり、更には対戦校に対して余計な対抗心を煽らせる状況を作り出す、というよりは見せてやり、工作に対して一高などからの干渉を一時的にしにくくさせるような行動をさせる。

 

「今更ながら・・・疲れた。ここまでする価値がなかったら切れるぞ」

 

 自分の言っていることが理不尽極まりないことは分かっているが、どうせここまできたのだからという心理が働いた結果がこの労働なのだ。少しぐらいは愚痴りたくもなるだろう。

 

 

 今のモニターには、モノリス・コードの試合中継が流されている。

 第一高校対第四高校。一高にとっては二戦目になる。

 

 念のために会場そのものを"眼"で視える範囲は視つつ様子を見守る。

 

 今回、無頭龍が工作をするのはこの試合だ。

 フィールドも、きちんと市街地が選択されている。

 

 

 試合はまだ、開始されていない。

 しかし、四高は負けるかもしれないという焦りからか、魔法式を既に用意している。

 そして、"お互いに電子金蚕が仕掛けられている"。

 

「本気だな。さて、どのような手で潰してくる?」

 

 

 そして試合が開始された。

 

 四高が、フライングした分先手を取った移動魔法を行使した瞬間、"四高の電子金蚕"が活性化し、"一高の電子金蚕"から瞬時的に魔法式が構築され、一高選手の頭上に投影された。

 

 発動された魔法は"破城槌"。廃ビルの中では、一たまりもない。

 一高選手が、崩壊した天井の瓦礫の下敷きになる。

 

 それから一拍おいて、試合中断のブザーが鳴った。

 

 

 その一部始終を見て、その結果に笑いをこらえることが出来なかった。

 

「すごいな、ここまでか。魔法と言うのは、ここまでのことが出来るのか!」

 

 想像以上だった。たかが小手先の技術ぐらいにしか思っていながったが、これは十分に有用だった。

 電子金蚕同士でのリンクが可能で、しかも犯人を一見するだけでは第三者に擦り付けることが可能な上、魔法式まで電子金蚕内に記録できている。もちろん、賢者の石だとか勾玉だとかよりは効力も低く、二時間程度しか存在することが出来ない為魔法師の中で問題とされている議題の解決策にこそならない物の、工作用として見たら十分すぎるほどの価値がある。

 たとえるならばパソコンとネットワークでリンクされた高度なブービートラップを安く作れるようになったようなものだ。手間も費用も効果もあらゆる面で通常の物より性能が向上している。

 

 最低でも、使える魔法師は確保したい。それが無理なら、術式だけでも手に入れたい。

 買収されている人間から横流ししてもらおう。少なくともそこまでするだけの価値はあった。

 

「一番いいのは買収されてる奴が工作員と接触した後だな。ああいう人間ほどチョッと強請ってやれば直ぐ落ちるからな。まぁ、つけられることは心配ではあるが・・・別に構わないか。勝手にしろとしか言いようが無いしな」

 

 

 そうと決まれば買収された奴に対する監視を光らせ、いつでも動ける用意だけでもしなければ。

 しかし、流石に直ぐに動けるわけでもないであろうから、待つことしかできないのだが。

 

 

「まぁ、しばらくは"彼"の仕事ぶりでも眺めるしかないか・・・」

 

 

 思考に出てくるのは"彼"のこと。

 九校戦で明らかになってきたエンジニアとしての腕前は、その仕事ぶりから一つの可能性が出てきつつある。

 

 FLTのお抱えエンジニアとして有名な、あの"トーラス・シルバー"。彼の仕事ぶりの、達也の仕事ぶりが奇妙な一致を見せるのだ。

 そして、こちらの調査でもともとFLT専属のエンジニアだったのではないかという憶測まで出ている。

 これが偶然の一致か。恐らくは、否。まず間違いなく"当たり"と見ていいだろう。

 もちろん、疑問も発生するのだが。

 

「なんであいつは"FLT"にも"軍"にも所属してるんだ・・・?」

 

 そこだけが、今だ分からない。

 今でも糸口がぎりぎり見つかりそうではあるものの、結果は推測さえ出来ない状況だ。

 しかし、軍関係者が民間企業にも在籍しているというのは普通不可解だ。

 つまり、何かしらのパイプがあるということだ。FLTと、軍をつなぐ、何かが。

 

「なーんだか長い問題になりそうだな」

 

 本来真っ先に疑うのは十師族関連なのだが、彼らと十師族が関係しているという確証は今だ何一つ出てこない。もしこれが狙った行動だとすれば完璧な隠蔽工作と言えるだろう。

 そんなことに、笑えはしないのだが。

 

 

「まぁ、なるようになるか。今悩んでも仕方ない」

 

 そう思いなおし、当初の思考の続きへと戻っていった。

 




ってことで見苦しいレベルのつなぎ回が終わったと言うかなんというか・・・。
本当に楽しみにしてくださってる方々には申し訳ない気がします。

しかもこの先恐らくミラージ・バッド本戦前あたりまでほとんどオリ主が絡む要素が無い。これが二科生の弊害か・・・っ。

まぁ、始まる前と終わったところぐらいは挟めればいいなと思ってます。時系列的な意味での急展開って本来余り好まない性質なので・・・

次回、また未定。四巻見直しながら考えてる途中です。勘弁を。


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第四十一話~入手~

電子金蚕ってまず電子データなのかな、いやでもそれは違うだろうし・・・と描写に関してしばらく悩みました。

結局札→精霊魔法が喚起される→電子回路に(ry って流れを採用。


・・・無理があるかなと今更ながら思ったけど、まず描写が少ないから仕方ない。

それなのに長めです。あしからず。


【Wednesday,August 10 2095

  Person:operator4   】

 

 

 

 

「まさかこうも上手くいくとは思ってなかったなぁ」

 

 午前。まだモノリス・コードの第一試合が始まる三十分ほど前。

 本来ならすでに予選は終わっていて然るべきなのだが、一高に対する悪質な規定違反により本来は棄権の所を代替選手によるチームの再編成、および復帰が認められた為一高が関わる予選から始まることになったのだ。

 ただし、まさか"彼"が出てくることは予想外だったが。

 

 

 恐らくは達也の実力を知る一高首脳陣の判断と、肝心の達也の悪乗りによる代物だろうが、代わりの出場メンバーは達也とレオ、それに幹比古だった。

 傍から見たら何を考えてるのかわからないとしか言えないが、これで案外優勝さえ狙えそうな能力を持つメンバーだから性質が悪い。

 傍から見れば大番狂わせで間違いないだろう。

 

 しかも、こちらにとっても"彼"が一日中ほぼ暇がなく、かつ"今日内通者が工作員と接触する"という偶然が重なったことはうれしいことこの上ない。

 

 

 人の目の少ない、大会委員のメンバーが使っている駐車場の一角。

 そこに、目当ての人物はいた。

 

「もう三度目だぞ!さすがにこれ以上は隠せるかどうかも分からない。それを分かってて言っているのか」

 

「分かっているさ、同志。別に三度目が本当に起こるというわけではない。三度目が起こるかもしれないから、これを"仕込ませる"ように頼んでいるのだ」

 

「しかし私にも大会委員という立場がある!幾らばれる危険性がない術式といえど、二度三度と続けば疑いの目は自然と向いてしまう!」

 

 買収されている大会委員もこれ以上の工作には怖気づいているらしく、工作員に対して抗議しているようだ。

 その様子を、気配を隠し柱の所に隠れながら伺う。

 工作員と思しき人物は、怖気づいている彼に対して譲歩するつもりはないようだった。

 

「では私は別に構わないよ。同志が裏切るというのなら私はその証拠を大会委員に提出するとしよう。君の立場はどうなるだろうね」

 

「そんな・・・!」

 

「君に選択権などないのだよ、同志。何、単純な話だ。私は君に"この精霊"を紛れ込ませるように頼み、その報酬として君は金をもらう。さっきと同じさ。いいね?」

 

「・・・いざというときの、逃走先としばらくの身の置き場を、用意してくれないか?」

 

「当然さ、同志。我々は仲間を見捨てたりはしない。心配するな」

 

 そう工作員の男が言うと電子金蚕の術式が書かれた札を取り出した。

 

「扱い方はいつもと同じ。念のために多めに渡しておく。ただ君は、これを"一高のCADに紛れ込ませるだけ"でいい。君が罪悪感を感じる必要はない。大丈夫だ、選手も君も、死にはしないのだから安いものだろう?」

 

「あ、ああ・・・」

 

「分かればいいのだよ、同志。それではな。"失敗"は許されないぞ」

 

 その言葉を最後に工作員は立ち去り、大会委員の男は呆然と立ち尽くす。

 

「どうして、俺がこんな・・・」

 

 工作員の気配さえ無くなり、泣き言を言う。

 タイミングは、今だろう。

 そう思い、声を掛けた。

 

「どうして、か。それは君の行いの結果でしかないな」

 

「なっ?!」

 

 彼にとっては、俺がいきなり現れたように見えただろう。何せ"自分達以外には"誰もいないと思っていたのだ。しかも、やっていたことは完全な裏切り行為。確実に、見られてはいけない現場。

 それが見られていたとなれば、もはや生きた心地さえしないだろう。

 

 しかし、自棄を起こされても困る。できるだけ柔らかく、話しかける。

 

「落ち着け。今のことを誰にも言うつもりはない。むしろ、私は君の助けになりたいんだ」

 

「・・・君が?いったい、どうやって?いや、なんで?」

 

 先ほどよりは落ち着いた様子を見せているとはいえ、いまだ混乱から抜け出せていない男に対して、話を続ける。

 

「君が恐れているのは裏切り行為の露見により、自らの居場所、仕事、すべてが失われていくこと。違うかい?」

 

「・・・ああ」

 

「なら単純だ。実を言うと、私は君が渡された"彼ら"の道具が欲しくてね」

 

 その言葉とともに、取引を持ちかける。

 

「先ほど、多めに渡されていた"ソレ"を、一つでいい。こちらに分けてほしい。それさえ出来たら、君に新しい居場所、仕事を上げよう」

 

「・・・あいつらみたいに、食いつぶすつもりか」

 

 恐怖と警戒心が織り交ぜになった彼の感情が、"工作員たちと同じことを言う"俺を危険なものとして見る。

 そんな彼に対して、今度は"具体的に取引の内容"を話す。

 

「場所は、そうだな。横浜の、港湾警備隊の予備科なんてどうだ。確かに左遷に等しい扱いだ、予備科なんてほとんど本来の仕事に呼ばれはしない。ただ金を支払われるだけの穀潰しでしかない。だが、君の居場所は確かにそこに作れる」

 

「待て、まずどうやって、その椅子を用意するつもりなんだ」

 

「造作もないことだよ。なんなら明日中に諸々の書類は用意しよう。実を言うと今手が足りていなくてね。横浜で自由に動かせる人が欲しいんだ。もちろん、仕事は使い走りのようなものかもしれないが」

 

「・・・仕事?」

 

 そう聞き直す彼に対して、確かに頷きながら話す。

 

「車両や、いざというときの銃火器の管理。そしてこっちが頼んだら、指定した場所にそれをすぐに持ってくる。予備科と銘打ってはいるが実質"我ら"の倉庫役という立ち位置だな。そして、君にその管理を頼みたいのだよ」

 

「君は、裏切りが、怖くないのか?」

 

 そう恐る恐る聞く彼に対して、笑いながら答える。

 

「別に重要でもなんでもないからね。手間をある程度省略したいだけだし、君がいなくても問題はない。ただ、君は"一度裏切った後の泥沼"に今、浸かりかけてる。私は、このことに懲りてくれると信じるよ」

 

 

 しばしの沈黙が、二人の間を包む。

 

 彼の答えは、たっぷり五分ほど使った後、やっと出た。

 

「・・・わかった。一つだけで、いいんだな」

 

「あぁ。ぜひ、頼む」

 

 彼が工作員からもらった電子金蚕の札のうちの一枚を、こちらに渡した。

 

「確かに。約束は守る。いざというときはこれに連絡しろ」

 

 そういって、"裏の仕事用"に使っている携帯端末の番号を書いたメモを渡す。

 

「ばれて直ぐに死体になってしまってはどうしようもないが、少しでも余地があるなら無理やり介入してみせる。お互いに体裁は整えつつ、君をさっき言った通りに運び込んでやるさ」

 

「・・・"彼ら"は、どうするんだ」

 

 聞いてきたのは、"無頭龍"のこと。こちらから裏切ることによる、制裁への恐怖。

 

「安心しろ。薄っぺらく聞こえるかもしれんが、お前のことを仕事をする限りは守ってやる。必ずだ。別に君に工作をやめろと言っているわけでもないしな」

 

 そう言って笑いながら、背を向ける。

 

「君が"さっきの男"から頼まれたことを実行するか、無視するかはお前次第だ。ただ、どちらを選んだとしても用意はしておく。だから、安心しろ。"札"を分けてくれて、ありがとうな」

 

 その言葉を最後に、駐車場を後にした。

 

 

 

「さて、後はこれを使えるであろう人員の確保・・・か」

 

 とりあえずは電子金蚕のサンプルを確保し、これの使い道を考える。

 

「むしろこれを元に使いやすい魔法に仕立てたほうがいいかもしれんな・・・。出来ればいいんだが」

 

 しかし自分に魔法としての能力は頭脳面も実用面もさほど高いわけではない。

 アングラの古式魔法師を探し出して、囲い込んだほうがいいのか。

 

「もしくはNo.3あたりに使い手を送り込んでもらったほうが早いか」

 

 その方が使えるようになる時期も楽になるし、悪くもない。

 何せ大亜連合は魔法師をほぼ完全に掌握しているといっていい。そして、"政府"が掌握しているということは"管理者"達が掌握しているのと同じ。

 忠実な駒を送り込んでもらえれば、使い勝手の問題も解決できる。

 

「後で連絡つけておいたほうがいいのかね」

 

 

 そんなことを考えながら、ホテルの部屋に戻っていった。

 




書き終わって急展開すぎないかなこれと思いつつ、とりあえずオリ主が電子金蚕を入手。
まぁ、九校戦のネタ不足の中これが精いっぱいなのでできれば堪忍してもらいたい。


後、お気に入り数100人以上もありがとうございます。本当によくできたとはお世辞にも言えるとは思えないこんなSSですが、それでも見てくれている方がいると思うと誇張抜きで嬉しいです。

次回、たぶんオリ主回。お兄様の決勝戦観戦がメインかも。


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第四十二話~確信~

すっ飛ばしながらとはいえ、やっと四巻も半分まで行きました。
なんとか九校戦も終わりが見えてきて、とりあえずは一安心といったところです。
たぶん、あと二、三話ぐらいで終わるんじゃないかなと思いつつ、終わりまで進めていきたいと思います。

さて、本編です。


【Wednesday,August 10 2095

  Person:operator4   】

 

 

 

「やーっぱり決勝まで進んでたか」

 

 電子金蚕の入手が終わり、部屋に戻った時にはちょうどモノリス・コードの決勝が始まる所だった。

 決勝は、第一高校対第三高校。

 何も知らない人から見れば大番狂わせといえる結果だし、知っている人からしたら至極当然の結果としか言えない。

 しかし、この決勝がどのように進むかに関して言えば誰しもが興味を持つところだろう。

 

「一条の息子と"彼"が戦うか・・・。魔法競技だったら明らかに一条の方が上なんだよなぁこれ」

 

 特に決勝戦のステージは"草原"で行われる。障害物が何一つない場所では戦略も何もあったものではない。歩兵が三人しかいない状態だとどうしても奇を衒うよりは彼の能力からして正面対決を狙うだろう。

 おそらくは、そこまでが第三高校の狙いだろうが。

 

「この勝負は"あいつら"が罠を食いつぶせるかどうかって点につきるなぁ」

 

 現状どう見ても第一高校は第三高校の罠に引っかかっているとしか言いようがない。

 しかし、それは第三高校の罠が"完璧に"作用すればの話。

 

 彼らの戦闘スタイルはセオリー通り攻撃、防衛、遊撃の三つの役割に分かれたものでしかない。しかも、個々の能力は高いとはいえ一条とほかの選手のレベルがついていけてない。

 

 そして、最も肝心なのは"彼"だけでなく、レオと幹比古と第三高校の吉祥寺などの選手の実力に大差はないということだ。

 魔法師としてではなく、"実戦に近い魔法競技の選手としての能力"で。

 まず間違いなくレオは生半可な攻撃では完全に戦闘不能にまではいけない。対して幹比古はタフネスさはないだろうが古式魔法師としての腕は一科生と比べても勝るレベルのものだ。

 

 もし、第三高校が一度でも格下として見てしまった場合、間違いなく戦略が崩れるだろう。

 そして、その瞬間を"彼"が逃すはずはない。確実にその瞬間で勝負を決めに行くだろう。

 

 どれだけ、レオ達が第三高校相手に噛みつけるか。それによって勝負が決まる。

 

「まぁ、俺が見たいのは別なんだがな」

 

 個人的にはやはり"彼"の実戦能力を一度この目で見てみたい為、注目するところはそこでしかないのだが。

 

 そして、試合が開始された。

 

 

 試合は、両陣営の遠距離砲撃から開始された。

 しかし、"彼"の攻撃は牽制以上の意味を持たず、一条の攻撃は一つ一つが決定的な打力を秘めている。

 お互いにゆっくり前に進みながらの攻防。それは"彼"にとっては限りなく不利な状況だった。

 しかし、"彼"はそこまで焦っているようには見えない。劣勢にあるとわかりながら、なおペースを崩さずに対応することができている。

 

「実戦慣れしている、か。いったいこの年でどんだけ濃い経験しているんだろうな」

 

 じわじわと追いつめられる中持ちこたえるというのは、そう易々とできるものではない。誰もがそのうち焦り、慌て、状況を打破しようと動く。ただそのまま受け続けるということができるのはそれなりに訓練し、それなりに経験しなければできない。

 

 

 そして、"見た目上"は第三高校の思惑通り進み、それに従い第三高校から一人が迂回し第一高校の陣地へ向かう。

 おそらくは、吉祥寺という選手だろう。それ以外が向かってもおそらくはレオと幹比古相手では返り討ちの可能性がある。

 

 そして、予想したとおりに事態が進んだ。

 

 迂回した第三高校の選手が、レオと幹比古による迎撃を受けたのだ。

 時間としてはそうはかかってないやりとり。しかし確実に"その時点では"吉祥寺は決定的な敗北をしたと言ってよかった。

 しかし、吉祥寺の意識を刈り取る必中であったレオの一撃は、"彼から一瞬注意を離した"一条による援護射撃で逸れ、その一撃でレオは吹き飛ばされる。

 

 

 この時点で、第三高校の負けは決定した。

 

 

 一瞬。そう、たった一瞬だ。

 "彼"はその一瞬だけで、距離をかなり詰めることができる。

 もちろん一条も反応を返す。迎撃も可能だろう。

 しかし、彼はもともと"いくら攻撃を受けたとしても一瞬で復活する"。彼自身露見はしたくはないだろうが、まず認識できるような修復速度ではない。

 

 

 結果、迎撃を受けながらも"再成"で復活した達也が指で鳴らした音を魔法で増幅し、その爆音は一条の意識を刈り取った。

 

 

「結局予想通りのオチか。まぁこの後はあいつらが折れない限り第一高校が勝つだろう」

 

 

 煙草に火をつけ、膝をついている彼を見る。

 

 

「今の魔法・・・"記憶"していたのか?」

 

 彼は今、CADもなしに、一瞬で魔法を発動させた。

 あの魔法には、起動式の展開と、読み込み、さらには魔法式構築の時間さえ省略していた。

 前の"スキャン"にも、思い当たるものはあった。彼の演算能力は、確か"意識内"にあったはず。

 

 ここまでの芸当を可能にする場所は、そう多くはない。

 そこまで詳しくはない魔法社会の知識の中でも、出てくる名前は一つしかない。

 

「・・・まさかな」

 

 否定の言葉を呟くが、心ではそれとは逆の、確信が確かにあった。

 彼は、"無名の家"出身などではない。そうであるはずがない。

 

 まさか、彼は・・・

 

 

 しかしその思考は、端末の着信により、中断された。

 出てきたのは、初めて見る番号。

 もしかして先ほど譲ってくれた"彼"からか。そう思いながら通信に出る。

 

 予想は、的中していた。

 

『もしもし』

 

『もしもし、さ、さっきの君でいいんだよな?』

 

『間違いないな。それで、何かあったか?』

 

『助けてくれ、追われてる!』

 

 助けを呼ぶ彼の声に、一つの疑問が浮かぶ。

 

『おいおい、さっきの男とその組織には気づかれていないはずだぞ』

 

 そう疑問を返すと、彼は必至の様相で答えた。

 

『あいつらじゃない!分からないけど、彼の仲間じゃないんだ!警察か、それとも国防軍かはわからないけど、あいつらとは別口だ!』

 

 おそらくは、駐車場内の監視カメラに引っかかったのかもしれない。

 露見するとしても明日あたりかと思っていたが、この対応は流石に早い。

 

 おそらくは、"彼"が部隊内で密かに運営関係者を監視させていたのだろう。

 そして、目星をつけた段階で拉致、尋問を行うつもりか。

 

 

 別に無理をして助けなくてもいいのだが、生憎と"助ける"といった以上、約束を反故にするつもりもない。

 

 

 

『分かった。先ほどと同じ駐車場にまで逃げ込め。そこから脱出させてやる』

 




お兄様の正体についにたどり着きつつあるオリ主。そして、ある意味非常である割には義理堅い一面を見せました。
なお今回の大会委員の彼は最初はすぐ捕まるだけのモブ役でした。原作と変わらず。
けど、面白そうだしと少々物語にかかわらせてます。
なくても問題はないんですけどね。その方が選択肢広がるし。

次回、オリ主回。独立魔装大隊vsオリ主です。お互いに本気とは言えないかもしれないけど。

【追記】誤字を一部修正しました。


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第四十三話~脱出~

日本の交通事情って本当によくわからないときが多いんですよね。
東京静岡間はどうやら高速道路っぽいのがあるのかなと見つつこれ書いたんですけど、まず現代の物差しで通用するのかなと少々思ったり。

今回はちょっと長め。


【Wednesday,August 10 2095

  Person:operator4   】

 

 

 

 

 つい午前ぐらいのころにいた駐車場に戻り、自分のバイクのエンジンをスタートさせる。

 

 同伴者がいるなら本来は車のほうが望ましいのだが、生憎とそこまで準備がいい訳がない。

 

 足も不十分で、武器も大したものは常備していない。

 しかし、おめおめと出し抜かれるつもりもない。

 

 

「すまない、遅れた!」

 

「自分から助けを求めておいて随分と暢気だな。まぁそのおかげで俺も間に合ったんだが」

 

 軽口こそいうものの追手から逃げつつここまできたのだ。なかなかにしぶとい奴だ。

 彼が駐車場に入ってくると同時に、管理室から"拝借"したリモコンでシャッターを下ろす。

 

「脱出するんじゃないのか?」

 

「脱出するさ。ただ、こっちにもいろいろやることがあってな」

 

 コマンドから調整者を呼び出し、パスを開く。

 最初から陸路だけで逃げ切れるとは思ってはいない。要するには"保険"だ。

 

 〔moderator1:いきなりどうしました?しばらくは"彼"の調査に打ち込めると思っていたのですが〕

 〔operator4:緊急の用でな。ヘリを回してほしい。駒門PAの方に至急頼む〕

 〔moderator1:了解。速やかにヘリを回します。ですが最新型は急なため用意できません。旧型ですがUH-60でよろしいですか?〕

 〔operator4:そいつを用意できるだけ上出来だ。ではすぐに頼む〕

 

 それを最後にパスを切り、バイクに跨る。

 

「さっさと乗れ!男と二人乗りなんぞあまりうれしくもないがな!」

 

「え、あ、わかった!」

 

 彼がバイクに乗ると同時に、シャッターの向こうから声が聞こえてきた。

 

『クソ、シャッターが下ろされている』

 

『壊した方が早いんじゃないかな』

 

『待ってください。今開けますから』

 

「もう時間がないな。押し切るぞ」

 

「えっ、ちょっと待ってシャッターが」

 

「しっかり捕まってろよ!」

 

 そう注意だけかけ、アクセルを駆ける。

 フルに加速しつつ、コマンドで"シャッターを消す"。

 駐車場を封鎖していたシャッターが一瞬のうちに消えてなくなり、それと同時にバイクが入口にいた人たちを抜いた。

 

「なっ?!」

 

「逃げられた。藤林、直ぐに追撃するぞ!」

 

「私は便利屋じゃないんですからね。一応車両を二台待機させてますから彼らに斥候させましょう」

 

 おそらくは独立魔装大隊のメンバーだろう。彼ら自身が追い付くのには幾ばくかの時間を要する。

 しかし、やはりエリート部隊なだけはある。脱出された時も考慮してあったのだろう。現に敷地から出ようとするこちらに対して二台の軍用車両が後方五十メートルのあたりから追いかけてきている。

 

 

「あ、あんた一体どうやってあのシャッターを・・・」

 

「黙ってないと舌噛むぞ!そう振り切れそうもない!」

 

 道路交通法など知らないといわんばかりの高速で道路を駆ける。

 あちらもそう長くカーチェイスに付き合うつもりもないのだろう。アサルトライフルをこちらに向けてきた。

 

 さすがに高速で動く目標に早々当たる訳ではないが、確実にジリ貧だ。

 

「だーもう!グレネードランチャーがほしい!単発でもいいから片手もちできるやつ!」

 

 ぼやきつつ懐から閃光手榴弾を取り出す。

 これだって持っていたのはただの保険でしかなく、この一個しかない。

 正に虎の子。有効に使えなければ、打つ手がなくなる。

 

「一気に速度を落として10m付近にまで接近する!気をつけろよ!」

 

 そう言ってアクセルを緩めると同時に速度を落とし、相手に"追い付かせる"。

 もはや、ただの賭けだ。ここでタイヤを撃たれたらそれこそこちらの負け。

 しかし、ここで賭けなければいずれ撃たれる。やるなら、今

 

 とっさにピンを抜き、一両のボンネットに乗るように投げつける。

 絶妙な場所に放り投げられた閃光手榴弾が爆発し、その車両のドライバーの視界を奪う。

 

 何より至近距離で強烈な光を目にしてしまえば、まともな運転さえできるはずはない。

 スリップして、その一両がガードレールにぶつかり停止する。

 

 だが、まだ一両残っている。

 

「だからといって、負ける気はないんだよ!」

 

 スーツ姿の時には念のためにハンドガンやその他を携帯していたが、役に立つときは本当に稀だった。

 しかし、念を入れるには結局弱かったか。そう思いつつ、ハンドガンを取出しライフルを構える兵士に対して三発ほど打ち込む。

 二発は確かに兵士に命中したものの、防弾チョッキにより防がれた。

 しかし、最後の一発は彼が構えるライフルの機関部に直撃し、弾詰まりを起こさせることに成功した。

 

 これで三十秒は時間が稼げる。

 

 その間に加速し、一気に距離を離す。

 速度も加速も、いくら軍用とはいえ車よりはバイクの方が早い。

 一気に元の距離にまで離し、そのまま高速に入る。

 

 さすがに平日の昼間というだけあり、かなり空いている。

 もちろん、追撃を振り切るという意味ではそこそこ混んでいた方が楽なのだが。

 

 何度か弾を相手車両のタイヤに向けて撃ってみるものの、半分は当たるがまったくパンクする気配がない。どう考えても貫通力不足だ。

 

「五十口径あたりがあれば話も違うんだろうがなぁ」

 

「まだついてくるぞ、このままじゃ逃げきれない!」

 

 背後で泣き言をいう彼の気持ちも分からなくはない。たしかに、このままだとジリ貧だ。

 それに相手も"こちら"の正体を知らないとはいえ、国防軍でも高い能力を持つ部隊だ。そのうちに高速を封鎖してくるということはやりかねない。

 

 

 しかし、それよりもこちらが目標を達成するほうが早い。

 駒門PAまであと三キロのところまでなんとか逃げ切った。

 相手との距離も何とか百メートルまで離すことができた。

 この速度なら一分も経たずに到着できる。

 

 急速にPAに近づくとともに、反対側からヘリが向かってきている。

 本当に、いいタイミングで来る。自らの部下の手腕に今更ながら尊敬する。

 

「あのヘリに乗れればこっちの勝ちだ!PAに入るぞ!」

 

「ヘリを用意したのか?!一体何時に?」

 

「過程はどうでもいいのさ。今は逃げる足があるという事実さえあれば十分だ!」

 

 速度を何とかいい感じに落としつつパーキングエリアに入る。

 

 駐車場にいつでも飛びたてる状態でヘリが待機を完了させていた。

 

「よし、降りるぞ!早く乗れ!」

 

 ぎりぎりで停止させたバイクから素早く降り、男をヘリに乗せる。

 

「パイロット!こいつに何積んでる!」

 

 既に入口にはさきほどの車が入ってきている。足止めをしなければどうしようもない。

 答えは満足のいくものだった。

 

「ミニガンが積んであります!弾もバッテリーも大丈夫です!」

 

「上出来だ!」

 

 直ぐに下げられていたミニガンを引っ張り出し、セットする。

 相手も時間がないと思ったのか、こちらに突進してくる様子だ。

 

「させるかよ!」

 

 言うと同時に、スイッチを押しこむ。

 弾丸の雨が車両のエンジンを潰し、タイヤをパンクさせ、スリップさせる。

 車両はぎりぎりでヘリから逸れ、木に追突する。

 

 

「よし、もういい!出せ!」

 

 

 

 そう言ってヘリが飛び立つのと、彼らの後続の車両の一台が到着するのは、同時だった。

 

 

「何とか逃げ切れたな・・・」

 

 そうぼやきつつ、彼へ目を向ける。

 濃厚な逃走劇からやっと抜け出せて気が抜けているのだろう。目に見えてぐったりしていた。

 

「何で、俺を助けたんだ?」

 

 なぜ見知ったばかりの相手を、信ぴょう性のかけらもない取引で、助けようと思ったのか。

 そういう意味を込めた質問に対して、笑って答えた。

 

「手足は失いたくないからな」

 

「・・・は?」

 

「お前はリスクを冒してでもこちらに利益を与えてくれた。俺はそれに答えただけだ。ギブアンドテイクは徹底するべき。それは俺の今までの経験則だ」

 

 確かに彼に助けるだけの価値はない。

 しかし、リスクが少しでもあるなら無くした方が後のためにもいい時がある。

 対価が自らの苦労のみなら安いものだろう。

 

「問題は、"彼"を一時的にとはいえ敵に回したことかねぇ・・・」

 

 仮にも達也の所属する部隊を敵に回したのだ。追及は免れないだろう。

 ただ、彼がほしいのはあくまで"大会委員の内通者"が持つ"情報"でしかない。

 ならば、今更出し惜しみしなくても渡してしまえば問題ないだろう。

 

 

 学校用の携帯端末から、敵対した理由を簡単に述べ、相手にとって必要な情報を添付する。

 "無頭龍"の関連施設の場所と、構成員のファイルがあれば十分だろう。

 

 送信が完了し、とりあえずは一段落がつく。

 

「気疲れするだけだったかもしれんな・・・。やっぱり柄じゃないな」

 

 最近の交友関係から、少々感情的になりつつあるのかもしれない。

 しかし、別に言うほど悪いことでもないのかもしれない。

 

 

 そう思いながら、富士演習場の方向を漠然と眺めつつ、乗るヘリは去って行った。

 




なおパイロットはお抱えの手足です。調整者が直接行くほど時間はなかったという設定で。

やっぱり戦闘描写は難しいです。どうしても上手く書けない。

次回は連投になるため直ぐに出せます。


【追記】誤字を一部修正しました。


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第四十四話~顛末~

連投です。でもって繋ぎ回です。
今週末は時間あくから夜更かしとかも余裕だね。いつものことだけど。


【Wednesday,August 10 2095

 Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

『逃げられたのですか?』

 

『ええ。まさか"彼"が内通者の買収の為にあそこまでやるなんてね・・・』

 

 藤林から"内通者の脱走の顛末"を聞き、試合後の体に余計な倦怠感を覚えさせる羽目になった。

 

 精霊魔法をCADに仕込めるタイミングを作れるとしたら、大会委員に内通者がいる可能性が高いとして密かに監視を依頼したのだ。

 

 結果は、内通者の特定に関しては何とかなった。取引の現場も確認し、あとは内通者を確保、尋問し、知ってる情報を吐かせればわざわざ小野遥・・・公安に依頼するまでもなく得られるものは得られる、とは思っていた。

 

 

 問題は、"彼"が内通者に対して接触を仕掛けたことだ。

 カメラの映像および音声から、どうも"彼"の目的は"無頭龍"が使用していた精霊魔法の術式を入手することだったらしく、無頭龍に直接接触するよりは内通者を裏切らせたほうがいいと判断したらしい。

 

 内通者は"彼"に逃走先などの用意を条件にその術式を提供した。

 

 そして、確保しようとしたところで肝心の内通者が"彼"を頼り、"彼"は律儀に約束を守る羽目になったということだ。

 

 もちろんお互いカーチェイスまがいのことになるとは予想もしていなかった為、こちら側は"彼"と内通者を逃がす羽目になったし、"彼"も相当手を焼いていたようだ。

 

 

 まさかヘリまで呼び出し、搭載されていたミニガンで車両を穴だらけにまでするとは思わなかったが。死傷者がいないのが不思議なほどだ。

 

 

 では、情報の獲得には失敗したのか。また、"彼"は今回の件でも敵だったのか。

 

 答えは、否。

 彼としてもほぼ不可抗力で敵対したというだけで、今のところ正面から矛を交えるつもりはないらしい。

 

 では、なぜわかるのか。

 単純だ。"情報が送られてきたから"だ。

 

 

 藤林から話を聞く前に、携帯端末から連絡が入っていたのだ。

 "彼"からの軽い謝罪と理由、そして"こちらが求めていた情報"をすべて渡してきた。

 

 無頭龍の日本支部の場所のみならず、本部や関連施設の場所。また無頭龍の構成員リストを"ボス"まで込みで送り付けられてきたのだ。

 

『まぁ結局欲しいものは得られたと考えた方がよいのでしょうが・・・』

 

『なんだか複雑な気分なのは仕方ないわね。いつか主導権を握れればいいのだけれど・・・』

 

 お互い素直に喜ぶことはできない。

 できないが、確かに欲しいものが手に入ったのは事実。

 

 そして"必要なものが手に入った"以上"、"無頭龍"を見逃すつもりもない。

 内通者は今回の過程で脱出している。逆に言えば、もう精霊魔法を仕掛ける人物がいないのだ。

 その点では、確かにもう脅威は去ったと考えた方がよいのかもしれない。

 

 しかし、彼が送ってきたメッセージの中には気になる一文があった。

 "ジェネレーター"。"無頭龍"がそれを動かす用意をしているとのことだった。

 

 感情の持たぬ魔法師をどのように使うのか。想像はそう難しくはない。

 

『では、今日の内に行動に移った方がよいかと思うのですが』

 

『出来ればそうしたいのだけど、"戦闘後"の後始末でどうしても一日かかると思うわ。"ジェネレーター"に関しては柳さん達が何とかしてくれるから大丈夫よ。達也君も疲れてるでしょう?とりあえず今日はゆっくりしても大丈夫よ』

 

『分かりました。ではお言葉に甘えさせていただきます』

 

 その言葉を最後に、通信が切れる。

 

「まったく・・・常々振り回されてばかりいるな。あいつも今回の行動はおそらくは気まぐれに近いのだろうが・・・」

 

 しかし実際に迷惑をこうむるのはこちら側だから困るのだ。今回は彼も配慮が必要と考えたからこそ情報を送ってきたのだろうが、それでもどうしても気疲れしてしまう。

 

 

 しかし、早いうちに物事を終了させることができ、深雪の応援に専念することができると考えると、特段悪い話でもないのかもしれない。

 

 

 そう思い込むことにして、ひとまずは休むことにした。

 

 




ってことで本当に長く苦しい(ネタ不足との)戦いが終わりそうです。
この後は番外編1→四十五話(達也回)→番外編2(ここから横浜編開始)という予定です。
自分が本当にやりたかったネタは今、ここから始まります。誇張抜きで。

まぁ、七巻のところがやりたいことのメインの一角なんですけどね。前にも言ったとは思う気がしなくもありませんが。
ですが、九校戦始まりから今までの流れよりはまともな物が作れると思います。ぜひ、お楽しみくださいませ。

次回、言った通り番外編になります。風間氏と九島氏のお茶会の場面です。


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第四十四.五話~昔話~

休日の癖に投稿遅れる始末。申し訳ない。


【log:Thursday,August 11 2095

point:35N138E   】

 

 

 

 

 

「どうぞお入りください、閣下」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 

「席を外せ」

 

「ハッ」

 

 

「本日はどのようなご用件でしょうか。藤林でしたら使いに出してこちらにはおりませんが」

 

「孫にあうのに態々上官を通す必要は感じんな・・・。なに、君が珍しく土浦から出てきていると利いたので、顔を見に来たのだ」

 

「光栄です」

 

「十師族嫌いは相変わらずのようだな」

 

「以前にもそれは誤解だと申し上げましたが」

 

「誤魔化す必要性はないと以前にも言ったはずだが?元々兵器として開発された我々と違って、君達古式の魔法師は古の知恵を受け継いだだけのニンゲンだ。我々の在り方に嫌悪感を抱くのも無理は無い」

 

「・・・自らを兵器と成す、と言う意味では古式の術者も同じです。我々とあなた方に、大した違いはない。自分が嫌悪感を抱くとすれば、自らを人間ではない、とする認識を子供や若者に強要する遣り口です」

 

「ふむ・・・。だから、"彼"を引き取ったのかね?」

 

「・・・彼、とは?」

 

「司波達也君だよ。彼が三年前、君が四葉から引き抜いた、深夜の息子だろう?」

 

「・・・・・・」

 

「私が知っていても不思議ではないだろう?私は三年前の当時、氏族会議議長の席にあり、今なお国防軍顧問の地位にあり、一時期とはいえ深夜と真夜を教え子に持ち、更には"あのプロジェクト"にも関わっていたのだから」

 

「・・・"あのプロジェクト"?」

 

「そうか。君は知らなかったのか。てっきり四葉から聞いているものかと思っていたよ」

 

「どういうことでしょうか」

 

「私も肝心なところは言えない。知らぬ者に言うには相応のリスクが伴うからな。しかし、強いて言うなら"対抗手段"を得る為の物だったということだよ」

 

「・・・"対抗手段"とは一体何に対する?」

 

「"彼"は、"八咫烏"に目を付けられているようだね」

 

「分かるように、説明してもらえませんか」

 

「君がもし、"彼"を守りたいと思うのなら"八咫烏"がいるということは覚えておいた方がいいよ。あくまで"八咫烏"は伏せ名でしかないのだがね。

 

"白烏"シリーズ。"八咫烏"に唯一対抗しうる魔法師を作り、それを量産、管理し、それを政府に供給することで"魔法師"の地位を最低限維持するという目的の元作られた、"最強"の魔法師。それが、"彼"だよ」

 

「まず、"八咫烏"とは?」

 

「知らぬものには言わない。それは、不文律だ。一体何であるのかさえ言うことはできない。知らぬものに言えるのは伏せ名だけだ」

 

「・・・分かりました。自力で調べることにしましょう。それで、ただ自慢だけをしにここまで?」

 

「そんな訳がなかろう。ここに来たのは、"彼"の在り方についてだ」

 

「"在り方"と?」

 

 

「私はな、"白烏"シリーズは成功例がただの一つもないと聞かされていたのだ」

 

「・・・は?」

 

「"白烏"シリーズは"八咫烏"に対抗し得る力を得ることができなかったと聞かされていたのだ。しかし、それではおかしいのだよ。なぜ、力を持たなかった"白烏"シリーズの第一号に、"八咫烏"が目を付け、"今も影が見える"のだ?」

 

「・・・"対抗し得る能力"があったと?」

 

「いや、"対抗"どころではない。もしかしたら、"八咫烏"を余裕で殺し得るだけの力を持っているのかもしれない。そして、何故四葉はそれを隠した?」

 

「不自然ではないと思いましたが」

 

「不自然なのだよ。もしそうであれば余計に、"彼"を人目に触れる置く場所におくことさえありえない。高校生などさせられる能力じゃないのだよ。しかし、四葉はどうも"彼"を"目立たせよう"としている。隠し札を態々何故晒そうとする?」

 

「・・・」

 

「四葉が何を企んでいるのかは分からん。しかし、これだけは言える。四葉の好きにさせてはいけない。最低でも"彼"を四葉の思い通りに動かしてはいけない」

 

「・・・彼を監禁しろと?」

 

「それでは不十分だ。四葉が何を企んでいるのか、調査する必要がある。しかし、その間"八咫烏"に好きにさせてはいけない。必要なのは、彼が"八咫烏"を妨害することだ。その間に、"本来の白烏"を発動させてやれば、我々の、"魔法師"の目的が達成できる」

 

「それを、達也にやらせろということですか」

 

「それが、彼のためにもなる」

 

「・・・分かりました。努力しましょう」

 

「ぜひ頼む。私は、四葉の企みを探らねばならない。彼を見て、一つ、決定的なことに気が付いた。それが、最も重要なことでもある」

 

 

 

 

「一体、どうやって四葉は"彼"を作った?」

 




ってことで伏線回でした。
流石に会話だけでは伝えたいことは半分しか伝えられないので補足をば。

話に出てきた"白烏"シリーズ。これを作る環境を整えたのが老師です。あくまで環境を整えただけなので肝心の計画についてはほとんど知らないっていう。四葉の言うことを丸呑みしてたらなんか変だと思い始めたのが今回です。

で、結構前にも述べてましたが、オリ主と達也が対決した場合どうなるか。
まず間違いなくオリ主は達也に勝てません。殺す手段さえ持っていません。どう考えてもムリゲ。
一方達也は一応"殺す"手段はあります。"分解"です。ただし、オリ主を殺せるレベルまでの分解を行使するとまず間違いなく銀河系が吹っ飛びます。ですので実質的に達也もオリ主を殺せません。
これらを噛み砕いていくと伏線が面白くなるかと。

といっても言葉足らずな面が多々ありますしテンションがおかしな状態で書き上げたので何かしら疑問があったら聞いてくだされば。答えられる範囲なら答えます。

次回、ダンスパーティーのあれ、達也回です


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第四十五話~対談~

この回で九校戦が終わるということで、締め回と捉えてください。
さほど目立った原作との変更点はないのですが、ないと締まらないので。




【Saturday,August 13 2095

 Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 結局、あの後は特に問題が発生することなく、九校戦は終わった。

 なんやかんやで"彼"のおかげで妨害の一部に関しては阻止することができ、一高に重度の怪我などを負う選手がいなかっただけでも幸いと取るべきか。

 

 

 "無頭龍"に関しても精霊魔法の使い手、日本支部のメンバーなどを直接潰し、本部などに関しては人任せになったものの満足行く結果になった。

 

 

 今は後夜祭の後半、ダンスは既に始まり、中ごろにまで来ている。

 試合も終了した後ということで、他校同士であっても柔らかい雰囲気で接することもできる。

 

 

 しかし、結局壁際で休むことになった。

 

 理由は至極単純、ダンスに疲れたのだ。

 ほのかから始まり、雫、英美、真由美と連続して一緒に踊ることになり、さして練習したわけでもない事も重なりもはや精根尽き果てたといっても過言ではなかった。

 

 

 そろそろ部屋に戻って休んだ方がいいだろう。

 

 まさにそう考えた所を見計らったかのように、目の前にグラスが差し出された。

 

「あ・・・ありがとうございます」

 

 グラスを差し出してきた相手は、克人だった。

 

「疲れているようだな」

 

「・・・はあ」

 

「試合のようなわけには行かんか」

 

「それはまあ・・・仰るとおりです。僭越ながら、会長はどちらも苦になさらないように見受けられますが」

 

「慣れているからな」

 

 お互いにグラスを煽った後、克人が本題を切り出した。

 

「司波、少し付き合え」

 

 

 

 大会開幕直前の夜に武装した侵入者を捕らえた庭も、今となってみれば静まり返っていた。

 

「よろしいのですか?そろそろ祝賀会が始まる頃だと思いますが」

 

「心配するな。そう時間が掛かるわけでもない」

 

 克人がそう言うと共に振り返って、"最初"の話題を話した。

 

 

「司波、お前は河原借哉と親しかったな?」

 

「まぁ、そこそこには」

 

 

「"奴"は、何者だ?」

 

 

 その言葉に、真夏だと言うのに空気が凍りついた感触を覚えた。

 

「何故だかは知らん。しかし、"河原借哉"は記者としてホテルに急に宿泊し、そして恐らくは国防軍と思われる勢力に追われながら富士演習場を後にした。しかし、俺には奴が一体何をしたのかも分からん。もし、河原借哉が"ネズミ"だとしたら、第一高校の部活連会頭として、そして十師族の一員として、見過ごすことは出来ん」

 

 そう言う克人に対して、一時、迷った。

 "彼"のことを、洗いざらい話してもいいものか。

 確かに、話した場合は力を借りることが出来るだろう。

 しかし、それをやると"彼"はどう出る?制裁は、まず間違いない。

 

 

 結局、一部のみを、話すことにした。

 

「自分にも分かりません。しかし、あいつは一般人ではないでしょう。何故だかは知りませんが、場慣れしています」

 

「ふむ・・・。とりあえずは分かった。何か分かったら改めて教えてくれ」

 

 克人の言葉に、とりあえずは頷いておく。

 

「用件は、それだけですか?」

 

「いや、どちらかと言うとこれからが本題だ」

 

 

 

「司波、お前は十師族の一員だな?」

 

 唐突に"ある意味では真実"であることを言われ、身構える。

 現状、"四葉"の一員であることを知られるのはタブーだった。

 

「いいえ。俺は十師族ではありません」

 

 克人の断定に対して、はっきりと否定する。

 これが出来たのは、"ある意味では事実"だからだ。

 十師族の血を引いてこそいる。しかし、一員としては認められていない。

 

「・・・そうか」

 

 しばらく、達也をじっと見据えた後、克人は無表情に頷いた。

 

「ならば、師族会議において、十文字家代表補佐を勤める魔法師として助言する。司波、お前は十師族になるべきだ」

 

「・・・」

 

「お前は、"無名"のままでは魔法師社会に与える影響が大きすぎる。魔法師社会の秩序を守ると言う意味でな」

 

「自分に、何処かしらの十師族の家に婿に入れと?」

 

「有り体に言えば、そうなる」

 

 確かにこれは、人前で出来る話ではない。人前でなければ言いと言う話でもない気はするが。

 

「・・・自分は会頭や会長とは違って一回の高校生です。そのような話はまだ、早いかと」

 

「そういうものか?・・・だが、あまりのんびり構えてはいられないぞ。十師族の次期当主に正面からの一対一で勝利すると言うことの意味は、お前が考えているよりずっと重い」

 

 この言葉に対しては克人から言われたいことではなかった。

 元々、将輝と対戦する羽目になったのは克人に強制されたことだ。

 

「・・・そろそろ戻るか。司波、余り遅くなるなよ」

 

 そう言って戻っていく克人に対して、ため息しか出なかった。




ということでこれをもって九校戦が終わりました。
ここからまた大騒動が起こりますね。楽しみです。

次回、番外編。そして、本番の始まり。


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第四十五.五話~卓裏~

さて、横浜編のさわりはまずここから。

舞台は洋上です。


【log:Sunday,August 14 2095

point:14N134E   】

 

 

 

 

「・・・首尾はどのように?」

 

「要求された通りには。日本軍の主力艦隊はこちらの艦隊との合同演習ということで、十月末には日本からは離れることになる」

 

「では、奇襲戦ぐらいなら容易にできると?」

 

「お前達の軍がこけおどしでなければな」

 

「今回の作戦には精鋭を揃える。失敗などありえん」

 

「ならよいのだがな。忘れるなよ、"我々"(USNA)が望むのは"適度な弱体化"だ。目を瞑り、手助けできるのはそこまででしかない。もし、"貴様ら"(大亜連合)が行き過ぎた攻撃をした場合、徹底的に叩き潰す。"身の程をわきまえろ"よ」

 

「分かっているとも。では、くれぐれも日本に悟られないように」

 

「それではな」

 

 

 

 

「・・・行ったか?」

 

「はい。盗聴器の心配もありません」

 

「ふん。まんまと騙されおって。USNAの思い通りに我々が動くと思っているのか。今頃暢気に日本人共の主力を引き付けようとしているのだろうな」

 

「ありがたいことです。これにより我々は太平洋へと勢力を拡大させることができる。しかし、横浜への陽動に使う兵力が揚陸艦一隻分だけで問題ないのですか?」

 

「奇襲にまさか本格的な上陸戦力を用意するわけにもいかないだろう」

 

「しかし、いくら足掻いても国家的に見れば"小火騒ぎ"にしかならないかと」

 

「その為の"アレ"だよ。"アレ"を決めることさえ出来れば、十分に日本に混乱を与えさせることができる」

 

「・・・よろしいので?」

 

「政治屋共は随分と反対していたがな。というか、あいつらは我々が"諦めた"と思っているのだがな」

 

「政府の意向を無視したのですか?」

 

「しかしこれ以上に確実な戦略はない。たとえこの作戦の結果国家反逆罪で処刑されることになったとしても、いずれその行いが評価される時が来る。我々に必要なのは自らの保身ではない。未来の大亜連合へ向けた、尊い犠牲なのだ」

 

「しかし、それをやることは・・・」

 

「あぁ。悪魔に魂を売ることになる。しかし、それで結果が得られるのだ。我々を主導とした、アジア全体の平和が」

 

「アメリカも馬鹿ではありません。流れはそのうち察するかと思われますが」

 

「確証がない以上、アメリカも表立って何かしらを出来るはずはない。そして、表立って行えない以上我々の思惑通りに動かすことが出来る」

 

「それだけではありません。我々の上陸地点は"横浜"だけです。"京都"には、どうするつもりです?」

 

「大丈夫だ。"別件"で現在日本に工作をかけている部隊がある。そこの指揮官はいろいろ融通が利く奴だ。そいつに渡りをつければ、"京都"にも運べる」

 

「・・・魔法協会からの制裁は?」

 

「来ると思うかね?」

 

「・・・いえ。現状、日本が弱体化した方がいいと思ってる国の中で魔法師を出せる国は、いないに等しい」

 

「だからこそだ。所詮魔法協会なんぞ"建前"を作るためだけの組織。君が制裁を恐れるのは分からなくはない。しかし、物事は理解することが重要なのだよ」

 

「はぁ・・・」

 

 

 

「とにかく、まずは準備からだ。政府にはまだばれることの内容にな」




ということで伏線から。

今回の横浜騒乱編からがこのSSを作った目的っていう。何度もいってますが第七巻からなんですけどね。

ですが、何事も伏線ってのは重要なもんです。まずは物語を肥やすことから始めるつもり。

これを読んでた皆様は生徒会選挙どうしたと思われるでしょうが、今回からほとんどオリ主回が続きます。達也回が一体いくつ出てくるのかというレベルです。

舞台裏、がイメージです。もちろん完全な原作の舞台裏にはできませんが、本当に影ではこのようことがあったかもしれないみたいなイメージで書く予定です。ぜひ、お楽しみに。

次回、物語の時間は九月からになります。


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第四十六話~不穏~

ということで九月から始まります。

十月初頭に工作隊の本隊が密入国と考えると九月のころから軍のデータを奪取に入り、九月後半あたりに奪取完了。工作隊本隊の派遣が決定と考えることにしました。

では、本編です。


【Thursday,September 1 2095

  Person:operator4   】

 

 

 

 

 九校戦も終わり、第一高校では夏休みの話題や、これからの生徒会選挙のことで賑やかになってきている。

 

 

 しかし、生憎と"我々"に届いたのは余りうれしい話題ではなかった。

 

〔operator4:大亜連合軍が暴走してる?〕

〔operator3:正確には大亜連合軍の強硬派が政府のコントロールから外れてる〕

 

 昼休み、レオ達との昼食を済ませた後、何故かいきなり調整者No3からの連絡が入ったのだ。

 時間を考慮せずに来たあたり、よほどのことだろうと思ってレオ達と一旦別れ、人影のない場所でパスを開いたがある意味正解だったかもしれない。

 

〔operator4:内乱か?だがそれならこっちに知らせることでもないだろう〕

〔operator3:まぁ話は最後まで聞け。あくまでコントロールから外れているのは"裏では"と言う意味でしかない〕

〔operator4:・・・わかった。とりあえずは分かるように説明してくれ〕

 

 詳細な説明を彼に求めると、彼は事の次第を話し始めた。

 

 

〔operator3:"赤旗計画"のことは前にも話したよな?〕

〔operator4:あぁ。一連した対日工作群。そろそろ締めに入るということだが〕

〔operator3:その通りだ。十月末には揚陸艦を使った強襲作戦を行う。目標は魔法協会関東支部のデータバンク。しっちゃかめっちゃか掻き回した後お宝を頂くって算段だな〕

〔operator4:そこら辺は別に態々介入するほどのことでもないが、それに問題が出てきたのか?〕

 

 元々大亜連合の強襲作戦が"赤旗計画"の最終段階だというのは既に聞かされていることだ。では何故、態々連絡を取って来たのか。

 そこに関する疑問の答えは、直ぐに出てきた。

 

〔operator3:問題はその肝心の強襲作戦だ。大亜連合軍の中で強襲作戦を担当している部署がどうもキナ臭い。本来の強襲作戦に何か別の工程を加えるつもりらしい〕

〔operator4:何かは分からんのか?お前のとこの管理体制だってザルと言うわけではないのだろう?〕

〔operator3:それが名前さえ伏せられていてな。こちらには何があるのかさっぱりわからない状態だ〕

〔operator4:分からんものはとりあえず潰せばいいじゃないか。わざわざ探る手間も省ける〕

〔operator3:現段階ではまだ早い。潰す価値があるかどうかを見極める必要がある〕

 

 ずいぶんきな臭くなっているが、新たに疑問が浮かぶ。

 確かに、"赤旗計画"の最終段階である強襲作戦は日本を標的とするものだ。しかし、まず"態々なぜこちらに知らせようと思ったのか"。

 特に軍事に関しては作戦にほかの作戦の一過程が紛れ込むなどということは珍しいことではない。いちいち気にする必要性がないのだ。それをどうして態々伝える必要があるのか。

 

 その疑問を解決する言葉は、あまり嬉しいものではなかった。

 

〔operator3:何かは確かに現段階ではわからない。しかし、どうも日本に重度のダメージを与えうる行為のようだ〕

〔operator4:重度、だと?〕

〔operator3:あぁ。現在別管轄で進んでる大亜連合の工作隊との連携になるようだが、どうもそれにより一時的なコントロール麻痺を起こし、その間に上陸を果たすという算段らしい〕

〔operator4:態々伝えに来た理由はそれか。そうなると少々考えなきゃならんな・・・〕

 

 話を聞く限り強襲作戦を単なるデータ奪取戦ではなく、戦争に決定打を与えるためのものにするつもりらしい。大亜連合の用意できる上陸兵力の規模を考えると、まず成功したら日本は負ける。

 

 その先のシナリオはどうなるだろうか。まず間違いなくUSNAと大亜連合は戦争状態になる。日本が負けるということはUSNAの防波堤が消える形になる。それをUSNAが看過するはずがない。

 東南アジア同盟も恐らくはUSNAに味方することになる。では、その間新ソ連は?USNAの手が空いていないうちにヨーロッパへ侵攻するか、もしくはUSNAにアラスカからの侵攻作戦を開始するか。大亜連合に攻め込む可能性も出てくる。

 

 確かに、もしNo3の言うことが事実だった場合、無視できるものではない。

 

〔operator4:現在進行中の別工作の部隊が"それ"に関わるんだな?〕

〔operator3:あぁ。内容は"聖遺物"(レリック)の奪取だとか。今はまだ下調べの段階のようだがな〕

〔operator4:USNAとの裏交渉は上手く纏まったのか?〕

〔operator3:大亜連合側ではとりあえず問題なく交渉は終了したようだ。詳しいことは"あっち"に聞いてみないと分からん〕

 

 となると、現段階で出来ることは工作隊の一部を捕虜として確保、尋問で情報を得る形にしたら恐らくは問題ないだろう。

 もし介入するだけの価値があった場合でも、計画を寸前で潰すことなど一か月もあれば十分だ。

 必要なのは、毎度ながら情報。しかも今回は、連携が必要になる。

 その為にも、"こちら側の方針"を、彼に伝えることにした。

 

 

 

〔operator4:"USNA"(あっち)の奴にも情報がないかどうか聞いてみる。そっちは可及的速やかに"何か"を調べてくれ。場合によっては強制的に潰してくれ。労力は惜しむなよ〕

 




ってことでオリ主勢が行動開始です。
オリ主勢は余計なことには関わらないという方針で動いてはいます。ですから情報を最も重要とするわけです。ですが、逆にオリ主達でも掴めないようにされているものは問答無用で潰すだけの行動力を持っていますし、事実その方針です。なぜこれをやらないかというと、あくまで"赤旗計画"そのものには関わる必要性をオリ主達は感じていないからですね。"何か"を潰す必要はあっても"赤旗計画"は成功しても失敗してもさほど影響はないし、潰してしまうと日本に肩入れする形になるという考えですね。ですから今はまだ下調べの段階です。

そして今更ながら番外編見て思ったけどこれ分かる人には"何か"が何なのか分かっちゃうんじゃないかな。そんな人はまさかと思いつつ胸の内に閉まっておいてください。お願いします。

次回、大きく日を跨ぐかも。日常を描く必要性を感じない。


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第四十七話~縄張~

新たな管理者が登場。

んで、アマチュア具合が露見しそうな設定を書き出した自分に対して自信を無くす。後で一から復習した方がいいのかな。


【Sunday,September 4 2095

  Person:operator4   】

 

 

 

 

〔operator4:態々すまんな。本来はそっちの状況を聞くこと無しに事態を把握したかったんだが・・・〕

〔operator1:さほど気にすることでもあるまい?協力と協調は重要なことだ。きちんと日曜日に聞きに来てくれたことだし、ある程度の質問には答えるさ〕

 

 

 USNA側の状況を聞く為に、USNA側を管轄している管理者No1に連絡が取れたのは日曜日の事だった。

 

 

 管理者No1は元々はアフリカを管轄していた者だ。なぜそれが今はアメリカにいるのか。理由は簡潔で、移動する必要が出てきたからだ。

 

 

 中世あたりに入ってくるとアフリカの重要度というのは管理の必要性がなくなるほど相対的に勢いが減っており、アフリカでの管理が単純に"見ているだけ"になりつつあった。しかし、アメリカ大陸の発見により大規模な植民が開始された事を好機として見て、アフリカからアメリカに管理を移したのだ。

 

 現在の管理者はUSNAにNo1,ヨーロッパにNo2、No3は大亜連合を管理し、No4である俺が日本を管理している。その他だとNo5がインド・ペルシア連合、No.6が東南アジア同盟、No7が新ソ連を管理している。

 

 

〔operator1:確かに"赤旗計画"はこっちの報告にも挙がっていた。しかし、そっちではそこまで切実な問題になっているのか?〕

〔operator4:鬱陶しいとは思っているが、そこまででは本来はなかった。どうもNo3の言う事には予測できない事象が混じる可能性があるとか〕

 

 そう言いながら顛末を彼に話すと、No1はUSNA側の"赤旗計画"に関する状況を話し始めた。

 

〔operator1:状況はある程度把握したから、とりあえずはこちら側の状況を教えよう。まず、USNAといっても一枚岩ではない事は分かるな?〕

〔operator4:んなのは知ってる。だが、言いたいことは分かった。"赤旗計画"はUSNA首脳部の意図と言うわけでもないんだな?〕

〔operator1:概ね合ってる。元々"赤旗計画"の交渉に立ち会ったのは"ラングレー"(CIA)だ。そして、それに協力することを強く勧めたのもな〕

〔operator4:つまり"ラングレー"(CIA)を中心とした工作で、首脳部はさほど関わっていないということか〕

 

 その質問に対し、No1は条件付きでは有るが否定を返した。

 

〔operator1:いや、ある程度関わってはいる。というのも"ラングレー"(CIA)の方針に異を唱えた勢力がいたからな。その最終決定に首脳部が出てる〕

〔operator4:つまり?〕

〔operator1:"メリーランド"(NSA)だよ。大亜連合がUSNAの思い通りに動くわけがないといって、協力にはかなり強く反対していた〕

 

 ここまで話を聞いた時、一つの疑問が浮かんだ。

 

〔operator4:今は"メリーランド"(NSA)は大人しいのか?〕

 

 これに対する答えも、また否定だった。

 

〔operator1:そんなわけがないだろう。"メリーランド"(NSA)は今も反対してて、"赤旗計画"がそもそも成功しないように工作を日本に仕掛けてる。お互い仲が悪いことだな〕

〔operator4:なるほどな。で、肝心の成果は?〕

〔operator1:良いとは言えないようだな。元々NSAは電子情報諜報活動(シギント)をメインとした機関で、直接諜報活動(ヒューミント)は得意じゃない。今回の場合は通信での重要なやり取りは"赤旗計画"関連では行っていないからな。結構つたないものだよ〕

 

 この話が指し示すに、USNAは二つの勢力で意見が割れていて、どちらかというと"こちら側"に協力させやすそうな勢力はNSAの方だろう。

 そう考え、いくつかの具体的な質問をすることにした。

 

〔operator4:"メリーランド"(NSA)に渡りをつけることは可能か?〕

〔operator1:可能だな。しかし手を借りるにしても足を引っ張るだけになると思うぞ?〕

〔operator4:何も知らないと言う意味ではこちらも一緒だ。ただ、手の回る範囲を少しでも広くしておきたい。こっちの方に使いを送れるように調整してくれるか?〕

〔operator1:あぁ、分かった。他には何かあるか?〕

〔operator4:現在"メリーランド"(NSA)はどこまで本気だ?〕

〔operator1:かなりの割合で。自分達の専門分野ではないから手間取っているがな。対象地域が南米だか東南アジアだかならまだしも、日本だった場合には影響がUSNAにモロに出るからな〕

〔operator4:なるほどな。そうなると形だけって訳にはならずに済むか〕

〔operator1:元々そのようなことはありえないけどな。"俺ら"のことを知っている奴等だからこそ余計に死に物狂いに働く〕

〔operator4:それが意思に反するかどうかでパフォーマンスが変わって来るんだよ。分かってるだろう?〕

〔operator1:まぁな。で、これから先はどうするつもりだ?〕

 

 この質問は、単なる疑問と言うわけではない。

 この先、USNAを直接動かす必要があるかどうか。その、確認。

 それに対しては、否定で返すことにした。

 

〔operator4:いや。まだ放任で構わないだろう。何かしら拙い事態になったら協力してもらうがな〕

〔operator1:分かったよ。その時には言ってくれ。ではまたな、友よ〕

 

 その言葉を最後に、パスが切れる。

 

 

 笑うしかないが、今は探ることから。猫の手を借りてでも、早めに情報を見つけなければならない。

 

 

 毎度後手になることにもどかしさを覚えながら、煙草に火をつけた。

 

 




ってことで管理者No.1が登場です。
作中にも書いたとおり元々はアフリカを管理してました。エジプトとかあったしね。
ですが時代が経つに連れて重要性が薄くなり、実質ヨーロッパがアフリカに勢力を伸ばす際の配分決定に携わってたぐらいなもんです。
ですからアメリカ大陸発見とソレに伴う植民はちょうどよかったと言えます。それに伴いNo1は本当に初期の頃にそちらに移り直接根を張っていきました。その点ではアメリカが形成される段階で既に根が回っていたので一番管理が行き届いている場所でもあります。

なお、No.5などの管理者が追加された時期について。
No.5はNo.4が日本へ、No.3が中国あたりへ管理を移動させると同時に元のNo.3がいた中央~西アジアあたりを変わりに配属されました。No.6はモンゴル帝国の形成期ぐらいの頃かな?ここら辺は適当。No.7はモスクワ大公国が成立したあたりです。こう考えると今覇権を握っている大国家ってどちらもむしろそこそこ新しいからこそなのかもしれませんね。

次回、オリ主勢のみでの独自調査。まだNSAとは連携できない。

【追記】一応ラングレーのところも振り仮名?をつけました。その方がいいかなと思って。

【追々記】後書きにて誤字を修正。モスクワ帝国→モンゴル帝国です。失礼しました


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第四十八話~意図~

大きく日を跨ぎました。
結果より成果のほうが書きやすいと思って。

そんで結局生徒会選挙の一部を描写。一応は入れたほうが息抜きにもなりますしね。


【Friday,September 30 2095

  Person:operator4     】

 

 

 

 

 合計二十日を超える調査の末、分かったことがいくつかあった。

 

 まず一つ目。"何"かはわからないが、"何をしたいか"が分かった。

 "赤旗計画"において大亜連合が画策していたはいくつかあるものの、その一つに"魔法教会が保管しているデータバンク"の内容の奪取があった。これにより現状の日本と大亜連合の間の魔法技術の格差を埋めようとする魂胆があった。

 これを、さらに発展させ、奪取すると同時に"日本が保管するデータを破壊"し、魔法技術の格差の逆転を狙っているようだ。

 

 

 個人的には限りなくグレーに近いものの、干渉する必要性を現段階では感じない。ハッキングプログラムでデータを破壊したところで、そもそもいくら魔法大国と言われている日本と言えども国防軍の戦力を魔法師に依存しているわけでもない。現状優位性がなくなるだけで十分にバランスは保てる。

 

 しかし、これを逆手に魔法教会のデータバンクのバックアップを"こちら"に取り、それを餌に魔法教会を釣ってやったらどうなるか。

 現状悩みの種の一つである日本魔法師社会のコントロール不可能性に関して一定の解決の目途が立つ。

 そう考えると今のうちに魔法教会のデータを"頂いておく"方がいいだろうか。

 

 

 しかし、二つ目の情報がその意図を慎重にさせる。

 

 どうも"聖遺物"(レリック)の奪取を行う部隊の本格的な編成が決まったようなのだ。これは、No3からの情報。しかし、その構成が明らかにおかしい。

 陳祥山を隊長とし、呂剛虎を始めとして第一陣は十六人規模の部隊となる。

 どう考えても、"裏でこっそり工作をやる部隊"ではない。"多少強引でも押し入って短期間で目的を済ませる"部隊だ。

 データの奪取から始まり、残されたデータを復元不可能なレベルまでクラッシュさせる。そこまでやれるほどの長丁場を任せられそうな部隊ではない。

 どう考えても"横やり"によりメンバーの変更があったとしか思えない。

 

 もし既存の工作部隊が協力する任務が魔法教会を目的としたものでない場合、むしろ魔法教会のデータバンクの中身を取ることは魔法教会と敵対することになり得る。その場合、本格的にこちらのコントロールから外れる可能性がある為迂闊には行動できない。

 

 

 とりあえずはNSAからの使いは十月あたりに来るとの連絡は入っている。

 恐らくはこちらがある程度の情報を流す形になるだろうが、最低でも単独でやるよりは効率が上がるだろう。

 

 

 No3の話によれば秘密裏にだが大亜連合では既に上陸戦力、および艦隊の集結を始めているらしい。もちろんばれないようにだが、"赤旗計画"に対する本気度が伺える。

 

 これを日本が切り抜けられるかどうか。それは、"彼ら"(日本人)が決めること。"我々"が決めることではない。

 

 

「しかしまぁ、何とかなるか」

 

 現状で悩んでも仕方はない。やることがないのにどうしようと悩んでも馬鹿らしいだけだ。

 今はただ、進展を待つ。ただ待っているだけでも、情報はいずれ来る。

 

 

 

 そう思うことで一旦抱えてる問題から思考を外し、手元の"投票用紙"を見る。

 第一高校生徒会長の信任を決める投票用紙だ。別に好んで反対する理由もない。

 

 しかし、周りの様子を見ると、どうも"本来の立候補者"に信任している人は1/3がせいぜいだ。

 確かに、中条あずさは頼りなさそうには見える。しかし、信任用紙に書いているであろう名前はどう見ても・・・。

 

「妹さんなんだよなぁ」

 

「なんだ借哉、結局周りみたいに"深雪女王陛下"とか"スノウクイーン深雪様"とか書くのか?」

 

「俺はまだ死にたくない」

 

 周りの様子に疑問を覚えてる中、レオが茶々を入れてくる。

 冗談ではない。そんなものを書こうものならいざばれたときに大変な目に合うことは確実だ。自ら望んで藪蛇を起こしたりするつもりはない。

 

「素直に中条先輩を信任するさ。それが一番無難そうだ」

 

「達也に投票するっていう選択肢もあるぜ?」

 

「やればいいんじゃないか?どうなっても知らないぞ」

 

「まぁ、それもそうだな。素直に信任しておくか」

 

 そう言ってお互いに笑う。

 確かに悩むのもおかしな話だ。たかが高校の生徒会長。特に問題が出てくるわけでもない。素直に信任してやれば八方丸く収まる。

 わざわざ"無効票"を書いている輩だって恐らくはネタでやっているのだろう。

 ・・・そうであると信じたいのもあるが。

 

「達也たちは開票するんだったか?」

 

「いんや、それは学校で雇った奴らでやる。開票は明日だな」

 

「ふむ。じゃあ一応はあいつも一息つけるってところか」

 

「そうなるな」

 

 恐らくはまたすぐに大亜連合絡みで忙しくなるだろうが。そんなことを心の中で付け足しつつ、既に投票を済ませ待っている幹比古やエリカ達のところへ向かうことにした。

 

 

 




ってことで一気に9月末まで進めました。どうせ本格的に事態が動き出すのは十月からですし勘弁していただきたい。学内でもどう足掻いたところでオリ主は生徒会選挙に関しては外野ですし。

なおオリ主はたとえネタで深雪女王陛下とか書いてばれたとしても氷漬けになったりはしません。後々詳しく言うかもしれませんし既に言ったかもしれませんがそもそもオリ主達"管理者"と"調整者"には魔法が通用しません。なお達也の"分解"に関しては例外ですが。たぶん詳しくは描写してないはずだからそのうち書きます。

次回。十月入ります。具体的な日にちは未定ですが。


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第四十九話~斥候~

唐突なバトル回。
多分察している方がいると思いますし公言したかもしれませんが原作よりかなり火薬の気配を多めにしてます。
ただの趣味です。理解してくれる人がいるかどうかは知らないけど・・・

そんで予定よりはやくあのモブの登場。名前も一応付けます。だって原作での本名あの人分からないんだもの・・・

さて、本編です。


【Sunday,October 2 2095

  Person:operator4   】

 

 

 

 

 

「さて、"ネズミ達"は今日来るのだったな・・・」

 

 そう言いながら、吸い終えた煙草を携帯灰皿の中へ入れる。

 

 

 結局三十日には大亜連合は軍の経理データの奪取に成功したらしく、その日の夜に工作隊の本隊が船に乗り出航。そして、この日曜日の夜、横浜に到着するらしい。

 それに合わせ、工作隊に接触する為にこうして"武装"して港に待機していた。

 

 

 ある意味、"最初の"接触の機会と取って差し支えないだろう。

 といっても決して友好的な接触ではない。ただ、構成員の一人か二人を拉致して"お話"を聞かせてもらうだけだ。

 とはいえ、上手くいくとも思っていない。その時の為に、"保険"は用意してある。

 

 

 

『五号物揚場に接岸した小型貨物船より不法入国者が上陸しました。総員、五号物揚場へ急行してください』

 

 

 盗聴していた無線と共に、実際に小型貨物船から武装した工作員が出てくる。

 恐らくは、足止め。その間に"本隊"は潜入を果たすつもりだ。

 

「さて、時間との勝負だ」

 

 その言葉と共に、隠れていた"コンテナの陰"から飛び出し、"先制攻撃"を加える。

 と言っても、大したものではない。今はもう旧式になっている擲弾銃で発煙弾を集団の真ん中に撃ち込んだだけだ。

 

 いくら旧式の擲弾銃とは言っても、効果が期待できないわけではない。

 赤リンを使用したものを使った為、赤外線カメラの視界さえ遮ることができる。

 

 

 煙が"不法入国者達"の視界を奪ってる内に、船内に侵入した。

 

 

 船の中に入るとすぐに"眼"を使う。

 

 やはり、さっきの武装集団は囮。

 錬度こそはそこそこあるものの、"本隊"に比べればまだまだ。

 もちろん一般的に考えれば使い捨てるには惜しいのだが、そこは人的資源が有り余ってる大亜連合の成せる業と言うべきか。

 工作隊の本隊は船底にあるハッチから海にもぐり、恐らくは協力者のところまで逃げる算段のようだ。

 

 

「だが、"一体何処にいるか"ぐらいは把握させてもらう」

 

 

 船の構造を把握し、その場所まで可能な限り早く向かう。

 ドアは案の定、鍵が掛かっている。しかし、元から期待していたつもりもない。

 

 

 固形爆薬を取り出し、ドアノブにセット。爆風がこちらに被害を与えないよう物影に隠れ、起爆。

 炸薬量が少なかった為か、ドアそのものが吹き飛ぶことこそ無かったものの、鍵を破壊することには成功する。

 

 素早く持っていた拳銃を構えながら、部屋に押し入る。

 ちょうどと言うべきか、最後の一人が海に潜ろうとしていたところだった。

 

 

「動くな。動けば撃つ」

 

 その言葉と共に、拳銃をその男の頭に向ける。

 ぎりぎり間に合ったと言うべきだが、男にとっては予想外だっただろう。

 そして、今のところは指示に従い、ゆっくりと両手を上げている。

 

「いい子だ。ちょっとお前さん達に用があってな。話を聞かせてもらいたいんだ。一緒に来てもらえるか?」

 

 そう言って、一歩歩み寄った途端。

 急に、船に揺れが襲う。

 

 恐らくは脱出しようとした船に対して、何かしらの攻撃が加わったのだろう。

 

 そして、その隙を見計らって男は再度脱出しようとした。

 

「くそっ!」

 

 そう叫ぶと共に、三発ほど彼に向けて撃つ。

 船が揺れた、たった一瞬の出来事であったため狙いは甘かったが、確実に"一発は"当たった。

 

 くぐもった声を上げながら、男は海に飛び込んだ。

 

 別に追うことも出来るが、この様子だと直ぐにでも警察が乗り込んでくるだろう。

 別に捕まっても問題はないのだが、手間だけは馬鹿みたいに増える。

 それに、"弾が当たったなら、もう位置は割れる"。

 

 

 "保険"として、弾には発信機を仕込んでおいていた。

 全ての拳銃弾にだから実に手を込ませたものだが、今はそこまでやってよかったと思う。

 これで、最低でも何処に逃げるつもりかは分かるはずだ。

 日本は狭い。例え位置がばれるとしても、隠し通してくれるだけの力を持つ協力者さえいればそこから動くことなどない。

 

 

「これで後は"ネズミの巣"を覗きに行くだけで済むな」

 

 と言っても、おそらくはきちんとした身柄を一人か二人は欲しいところだが。

 何せこちらの監視網、情報網でさえも引っかからないように伏せ名を使って隠すほどだ。"盗み聞き"程度で知りたいことが知れると思っているわけではない。

 

 

 問題は、どう脱出するか。しかしこれにも、準備はしてあった。

 端末を取り出し、ある人物を呼び出す。

 相手は、ワンコールで電話に出た。

 

『もしもし?いきなりどうした?』

 

『予備科とはいえ港湾警備隊の椅子はどのように感じるかね?』

 

 そう皮肉を言った相手は、九校戦の際は"無頭龍"の内通者で"あって"、今はこちらの手足として港湾警備隊に飛び入りで配属"させられた"大会委員の男だ。確か入沢と言ったはずだ。

 

『結局この椅子についたきり何もしてないんだが・・・ようやく"仕事"なのか?』

 

『そうだ。今からちょっと泳いで二番物揚場まで向かう。そこからの足を用意してくれ』

 

『分かりましたよ。どこまで運べば?』

 

『そこまで期待してはいないさ。警察の包囲網さえ抜ければそれでいい』

 

『分かりました。では、二番物揚場で』

 

『頼んだぞ』

 

 そう言って通信を切る。

 確かに、彼に"居場所"を提供してから碌に仕事をさせてなかった。いきなり素人に任せている感じがしなくもないが、彼とて"そういう類の事"はからっきしと言う訳でもないはずだ。そうでなかったら達也はもっと早い段階で彼を捉えられていただろう。

 

 

「さて、さっさと逃げるかね」

 

 もう、船の中に人が入り込んでいる。

 恐らく直ぐにでもここまでたどり着くだろう。

 

 

 姿を見られないうちに、逃げた方がいい。

 

 

 

 

 そう思いながら、先ほどの工作隊と同じように、ハッチから海に飛び込んだ。




書いてて微妙かなと思った今回でした。
船に関しては余り所要時間は現代と変わらんだろうと思いつつフェリーを検索してみるとおおよそ二日で中国から日本に到着するんですね。案外長いような短いような。

そしてあのモブが登場。とりあえず入沢と名づけました。主に横浜編では彼にちょっとした便利屋になってもらいます。といっても、荒事の中で使うつもりは最初しかありませんが。


で、何故唐突に戦闘シーンを入れたか。
単純です。どう考えてもオリ主が工作隊の日本国内侵入の場面に居合わせようとしないとは思えなかったからです。
だって情報は得られて、かつ横浜中華街とかに逃げられたら下手したら位置を把握できなくなるじゃないですか。絶対に首突っ込むんじゃないかなと思い直し、物語の流れとしてはきついかもとは思いましたが入れることにしました。つまり本来はここでオリ主の介入はなかった。

次回、多分十日まで日が飛ぶかなと。達也にとっても最初の工作隊の存在を把握する日ですね。


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第五十話~宝玉~

ちょっと横浜騒乱編は展開早いです。勘弁を。


それで、実は魔法科の設定の簡易的な確認にはwikiを使っています。特に時系列とかを見るのにはかなり簡単です。

・・・しかし、杜撰なところも多いのは事実。八尺瓊勾玉は魔法式を保存する機能があるとされた訳ではないっての。あくまで"瓊勾玉系のレリック"にその機能があるのであってですな・・・。危うく騙され掛けておかしいな思いながら六巻見てみればこの様だよ。


【Monday,October 10 2095

  Person:operator4   】

 

 

 

 

 

 "聖遺物"(レリック)が日本にある、といっても別に驚く人はいない。

 どうしてもインドやヨーロッパと比べると陰が薄くなりがちだが、日本だってそう短くはない歴史を誇っている。可能性として考えられないということはない。

 

 

 しかし、その"聖遺物"(レリック)に魔法式保存の機能があると言われれば話は別になってくる。

 魔法式保存が可能ということは、魔法師のいない部隊に魔法兵器を配備することが可能になるということだ。これは、魔法師の現在の立場さえ大きく変え得る。

 

 今の魔法師は、火力を押し上げる為に常に前線へ送られる。現状魔法による火力を出せるのは魔法師しかいないからだ。

 しかし、魔法式保存装置により魔法火力を魔法師なしで使用できるとしたら、その希少性から魔法師は"優劣関係なく"後方に回されるだろう。

 それも、代替魔法兵器に想子を補充する為に、だ。

 

 これをどう捉えるかは人に寄るだろう。

 恐らくは、魔法師として優秀なものほど反発し、魔法師として劣るものほど歓迎する。

 魔法式保存が実用化すると、優劣よりも"魔法師"そのもののみが評価される。

 その場合、優秀な魔法師ほど見合った対価を得にくくなる。

 "格差"の是正は、場合によっては"能力に合った評価"を妨げるのだ。

 

 

 それを"彼"は分かっているのだろうか?

 まさしくその"聖遺物"(レリック)を渡されている様子を遠巻きに"眼"で視ながら、ビルの屋上で見ていた。

 

「その"お宝"、お前は一体どう使う?」

 

 誰にも聞かれない独り言を言う。

 "その聖遺物"(瓊勾玉)には、まさに魔法式保存の機能があった。

 とはいえ、別に"昔の感覚"からしたら別段珍しいものでもなかった。

 昔の日本には"文字"さえなかった。そして、昔のつたない日本の文明ではまさに"魔法師"が神の使いのように崇められていた。

 そして、それら魔法師が後世に術式を伝える為には、口頭だけではなく、"記録したもの"が必要だった。

 "その聖遺物"(瓊勾玉)は、その為に苦労して作られた内の一つで、それが"唯一成功した物"であった。

 

 ・・・尤も、時代と共にその価値は宝玉としてしか見做されなくなってしまったが。

 

 

「にしても"彼"も大変なもんだな。無理難題を押し付けられて失敗は許されない立場。まったく持って不思議なくらいだ」

 

 加えて"その聖遺物"(瓊勾玉)を狙って大亜連合の工作隊が仕掛けてくる始末。本来ならば直ぐにでも押し返すはずの厄介種だ。

 しかし、彼は返すことはしなかった。恐らくは返そうとすることができないほど先方が切羽詰っていたのもあるのかもしれないが、恐らくは"彼の目的"の為。

 

 

 常駐型重力制御魔法式熱核融合炉の開発、実用化。

 "魔法師を兵器としての宿命から真に解放するための手段"、らしいが微妙なところである。

 例え魔法師が経済的にも価値が出てきたとしても、恐らくは結局兵器としての宿命からは逃げられない。

 何せ、人間は戦争が好きだ。例えどんなに傷を負ったとしても、その惨状を目の当たりにしてもなお、人間は戦争を止めることができない。

 そして、魔法師もまた"人間"だ。どう足掻いても、結局は魔法師は"兵器"という宿命からは、逃げられない。

 それくらいのことは、"彼"も理解しているつもりではあるのだろう。だからこその腹案があるのかどうかは、まだ分からない。

 

 しかし、難題に挑戦する人の姿を見るのは、案外悪くはない。

 どう"魔法師としての宿命"から逃げ切るか。

 例え"彼"に答えがなかったとしても、挑む姿を肴に楽しませてもらうとしよう。

 

 

「さて、それじゃあこっちの用を果たすかね」

 

 目的は、大亜連合工作隊の乗っているバンの確保。

 独立魔装大隊に先を越されては、手出しが難しくなる。

 態々余計な手続きをして、圧力をかけてなんてやってる暇が惜しい。

 

 それなら、初めから"こちらで手に入れた"方がいくらかマシだ。

 

 端末を取り出し、"用意させてある部隊"に連絡をかける。

 

『こちら"コマンダー"、用意はいいか』

 

『こちら"スカル"、現在潜伏地点にてアンブッシュ中。指示を』

 

『ブリーフィングで示した"目標"(白い自走車)を視認次第確保しろ。"生死を問わず"(デット・オア・アライブ)でだ。確保後は生存者がいた場合は確保。そして車両内の資料は残さず回収し、終了後は自走車を爆破しろ。目標らしき物を視認したら再度連絡を掛けろ』

 

『了解』

 

 その言葉で通信が切れる。

 今回の工作員の逃走経路は既に把握している。後は彼らが回収される地点より少し前で待ち伏せさせていればそれで済む。

 

 そして、この手の作戦において"自分の最高の持ち駒"が失敗するはずがない。ある意味では"調整者"達を除けば最大の信頼を寄せることが出来る。

 

 

「さて、最初のネズミ捕りで何処まで大物が釣れるかな。まぁ、ゆっくりいくか」

 

 

 そう言いながら、屋上から静かに立ち去っていった。

 

 




っていうことで急展開ながら出だしまで来ました。

彼が今回動かした部隊は前にも言ったかもしれませんがオリ主勢が直接の影響力を持つ部隊です。もちろん国防軍。何処の部隊かはお任せしますが、個人的な好みとそれに後付された理由により結構皆さん知っている部隊です。

で、結構原作みてて小百合さんの物言いとかああいう場面にはイライラするタイプっていう。出来ることなら出来る限りごねて譲歩を引き出してしまいたいと見てて思うぐらいには。まぁ、オリ主はまずそこらへんには首を突っ込みませんが。

あと、一応瓊勾玉のレリックについては独自に設定を作り、あることを確定させましたが、ある事情により複製はできません。出来る機会がなければ。そこらへんはちょっとまたある程度物語が進んでから描写するかも。



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第五十一話~結果~

作業用BGMはよくお気に入りに登録しているんですが、たまに削除される動画とかあるんですよね。
特に今日久しぶりにPC内を整理してたらお気に入り登録してた作業用BGMが見つかり、久々に聞いてみようと思ったら削除されててびっくりしました。二年ぐらい前からあったやつなので本当に悲しかったです。けど結局もう一度聞きたかったのでコメントから曲を見つけてそれらをmp3で保存しつつプレイリストを作ったんですけどね。

さて、今回は半分日常回です。


【Wednesday,October 12 2095

  Person:operator4   】

 

 

 

 

 

『・・・生存者は一名、意識はまだなし、資料は作戦要綱のみか』

 

『はい。息のある工作員の意識が回復し次第、尋問に入りたいと思います』

 

『ぜひ頼む。今回の作戦もいい手腕だった。次も期待している。』

 

『ハッ、では』

 

 

 通信を通して部隊長からの作戦結果の報告を聞き、一考する。

 

 まず、二日に行った行動の結果、拠点は見つかった。今回"聖遺物"の奪取に向かった部隊の動き、展開などを察知できたのはそれによる成果だ。

 別に位置が割れた時点で殴りこむのも悪くなかったが、それで得られるものが何かをもう少し見極めてからの方がよいだろうと考えたのだ。

 

 

 そして、十日の結果が先ほどの通信の通りだ。"部隊"の手により自走車の逃走を阻止、及び工作員一名の確保は成功した。しかし、それだけだった。

 作戦要綱の内容は要約すると"司波小百合を襲撃、拉致し、所持品の中に聖遺物がないかどうかの確認、なかった場合は本人を尋問し情報を吐かせる。知っているかどうかに関わらず作戦終了後は速やかに処分する"であった。

 まず持っているかどうかさえ分からないといった文面にため息しか出なかった。まぁ、いくら国家機関の部隊とはいえ他国での活動ではどうしてもお粗末になるのは仕方ないのかもしれない。

 とりあえずは、捕獲した工作員の尋問の結果待ちになる。

 

 

 

「さて・・・、誰にも聞かれてないな」

 

 今回の報告を聞いた場所は学校だ。盗み聞きはされないようにしていて、現にされていないと分かっているはずなのだが人の目を気にしてしまう。

 

「・・・まぁ、問題ないな。さて、戻るか」

 

 

 そこから少し歩き、"学校生活"に戻った。

 

「借哉、電話は終わったの?」

 

「あぁ、とりあえずは用は済んだ」

 

「ならさっさと飯にしようぜ。腹が減って仕方がねぇ」

 

「アンタ、これだから・・・いや、なんでもないわ」

 

「オイ、言いたいことあるならはっきり言えよ」

 

「もういいから飯行こうぜ。ここで言い争っても腹が減るだけだぞ・・・」

 

 相変わらず騒がしいクラスメイト(友人達)だ。

 しかし、こういう日常も決して悪くはない。

 

 

 食堂に着くと、"今は忙しいはず"の人物がいた。

 

「あれ、達也じゃねぇか。今日は"あっち"(生徒会室)じゃ食べないのか?」

 

 レオがある意味目先の疑問を聞くのに対し、

 

「それより達也さん、論文コンペの方は大丈夫なんですか?」

 

 美月がある意味一番聞くべきともいえる疑問を聞く。

 

 そしてまた、両方ともある意味事務的に答えるのが"彼"らしいと言うべきか。

 

「今のところはそこまで切羽詰ってるわけではないかな。今日は単純に食べる場所はこっちの方が近かったし、ついでだし一緒にと思ってな」

 

「深雪は大丈夫なの?」

 

 そう聞いたエリカに対しても、同じように返す。

 

「一応既に伝えてある。問題はないだろうさ」

 

 しかし、そう言う"彼"は、どうも何かを隠しているような気がした。

 

 

 

 昼食が終わり、各々教室に戻ろうと言う時に"彼"から声が掛かった。

 

「借哉、ちょっといいか?」

 

「なんだ?ここで話しても問題ない内容か?」

 

「場合によっては、な」

 

 そう前置きをつけた上で、恐らくは"一緒に昼食を取った理由"を聞いてきた。

 

 

「昨日の"自走車の事故"について、知ってることはないか?」

 

「いや、知らんな。お前の親戚が乗っていたのか?」

 

 我ながら白々しいとは思うが、事実何もいうつもりはなかった。

 工作員の自走車を部隊が爆破した後、その残骸は"自走車同士の衝突、爆発事故"として態々"もう一台"用意して爆破させた上でそう手回ししたのだ。

 そして、恐らくは"彼"もその"事故"がただの隠蔽だと分かっていたのだろう。というより、恐らくは確実に独立魔装大隊に依頼した上で仕留め、情報を得ようとしていたのだろう。それを横から掻っ攫っていったのだ。"彼"にとってある程度の不利益が出ていることは確実だ。

 

 しかし、今回に関しては"我々"が関与したと言う証拠さえ残っていない。実行したのは"我々の傘下の部隊"とはいえ、純粋な国防軍所属の部隊だ。

 もちろん少し調べたり、考えたりすれば出てくることだろうがそもそも正直に答えてやる義理もない。

 

「いや、少し気になってな。知らないならなんでもない」

 

「そうか、ならこっちもとりあえず言いたい事は言ってしまうとしよう」

 

「何のことだ?」

 

 そう聞く"彼"に対して、率直に言うことにした。

 

 

「"お宝"を手に入れたみたいだな」

 

「・・・お前」

 

 瞬間、"彼"の目が敵を見るそれに変わる。元々敵では、あるのだが。

 

「勘違いするな。別に奪おうとしたりするつもりはない。あんなの作ろうとしてもどうしようもないしな」

 

「・・・どこから知った?」

 

「心当たりはいくらでもあるだろう?」

 

 そう暈かすが、特に特殊な手段を使ったわけではない。

 最初から"聖遺物"の場所が分かっていたのだから、それを追っていれば自然と"持ち主"も分かる。

 

「はぁ・・・。もう驚かんがな、一体何を言いたいんだ」

 

「"どう"使うつもりだ?」

 

「・・・は?」

 

「そのまんまの意味だよ。気になってな」

 

 小説を見るように目的を監視しながら気づいていくのも悪くはないが、やはり最初から知りたい気持ちはある。単純な好奇心で聞いていた。

 答えは、ある意味予想通りの物だった。

 

「・・・"目標"の解決の糸口になるかもしれない、と思ってな」

 

「そうか、なら頑張れ。俺はただ眺める事にする。しかし、だ」

 

「・・・なんだ?」

 

 "彼"に対して、一応、釘は刺しておくことにした。

 

 

「そいつは扱いようによっては人を幸せにもするし、逆に不幸にもする。持ち主の意図はまるで汲んでくれない。例え良かれと思って使っても、悪い方にしか行かんこともある。せいぜい、気をつけて使えよ」

 

 




ってことでちょっと最近急展開過ぎた流れを整理しました。
やっぱりこういう流れを作るとちょっと読んでて落ち着くものですね。荒事も続きすぎると気疲れするのと同じです。

次回、舞台は更に週末へ移る。九校戦でのオリ主介入の影響が出てくる、はず。



後、もしタグに追加して欲しいものがあったら言ってくださるとありがたいです。どうも勝手が分からないのですが、もしかしたらこのタグは投稿した人からしか設定できない物なのかなと最近気づいたので・・・。


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第五十二話~年寄~

ちょっと酔狂な話にしました。
らしくない気もするけど・・・。

で、今回は長め。


【Saturday,October 15 2095

  Person:operator4   】

 

 

 

 

 

 結局そのまま特に進展はなく、週末まで迎えた。

 何時もなら資料の整理などを行っていたのだが、今日は何の気まぐれか休日でもあるのに態々第一高校前の商店街にまで来ていた。

 

 

 ・・・といっても、"小道具"の材料を漁りに来たのだが。

 

「しかしまぁ、たかが一つの高校ごときがここまで需要を生み出すかねぇ」

 

 態々駅まで作り、品物も近場で全て揃えられるように整備する。恐らくは国の手が入っているのだろうが、ここまで優遇すると逆に人が腐りそうな気がしてきた。

 

 

 しかし、そうやって物色しているうちに"見知った顔"を見つけたのは幸か不幸かは分からない。

 

 路地裏に、一人の男が入っていくのが見えたのだ。

 美男子、と言ってもいいだろう。

 アジア系の顔立ちにしては、妙に肌が白いと思えるような。

 

「あいつは・・・」

 

 その姿を見ても、何時もなら見間違いと思っていただろう。

 しかし、"他の誰も彼に気づいていなかった"となると、思い当たる人物である確立は高い。

 

 そう思って、その男が入っていった路地裏へ同じく入ることにした。

 

 

 

「お待たせしました、千秋さん」

 

「あっ、周さん。いえ、全然待ってなんかいません」

 

 後をつけて見てみると、見えたのは先ほどの男と、恐らくは第一高校の女子生徒だった。

 この男が動く時は大抵碌な事がない。そして、"今回の工作"に関しても彼がかかわって以上、やはりというか内容はただ一つだった。

 

「これがパスワードブレイカーです。使用には十分注意してくださいね」

 

「ありがとうございます。・・・でも、やっぱりいいんでしょうか。あの人(司波さん)の邪魔をするような気がして・・・」

 

「邪魔をするわけではありませんよ。ただ、貴方も僅かにでも力になりたいと思っているなら、ソフトをこっそり覗き見て間違いがないかチェックすることもできるでしょう?」

 

「ですけど・・・」

 

「大丈夫。何もなかったらそれでいいんです。彼だっていきなりの仕事ですからミスぐらいはするかもしれません。それを影から見守っても何も悪いことではありません」

 

 その様に丸め込んではいるが、内容は"術式のデータを盗んで中身を見てみよう"などというありえない代物だ。ましてやそれが"手助け"になるあたり、上手く思考誘導されているとしか思えない。

 

 

 段々見ていてもどかしくなって、結局止めることにした。

 

「おい、うちの生徒にいらんこと吹き込むのはやめろ」

 

 そう声を掛けると、二人ともまるで声が掛かることを予想していなかったように驚いた。

 しかし、構ってる余裕はない。用があるのは、"男"の方のみだ。

 

「さっきの話を聞くに・・・千秋さん、だっけか?んなもんやっても"彼"の迷惑になるだけだからさっさとそれは捨てなさい。あいつはあの程度の仕事でミスしたりはしないよ」

 

「え、えっと・・・」

 

「ほら、早く行きな。今ならまだ何もしないままで済む」

 

「は、はい!」

 

 そう促すと、言ったとおりに"貰ったもの"(パスワードブレイカー)を地面に捨て、大通りへ走っていった。

 

 

「さて・・・・余計な子猫はきちんと逃げてくれたな。全く、"お前"も相変わらず阿漕なことをしているな」

 

「いえいえ、これでも必要なことでしたよ。邪魔が入りましたがね」

 

 

「しかし、"霊亀"が介入してくるとは珍しいですね」

 

「お前もな、"物の怪"」

 

 

 彼・・・周公瑾の存在は、No3を通してある程度は聞いていた。

 中華アングラ系組織で暗躍する、厄介な魔法師の一人。しかも、何が驚きかというと"およそ百年前からは確実に彼の痕跡"が見つかることだ。

 

 その不気味さから、No3がつけた二つ名は"物の怪"。

 態々自分で見張るか、それとも"調整者"に見張らせない限りどこにいるかさえ後手にしか知ることは出来ないのだ。ある意味"我々"にとっては日常的な意味で最も厄介な魔法師だろう。

 

 

 しかし、こうやって話したことはNo3でさえない。そう言う意味では始めての接触と言えるだろう。

 しかも、彼は"我々"のことを知っていた。といっても、この"物の怪"が知っていても何も驚きはないのだが。

 

 

「ふむ、"物の怪"ですか。あなた方に言われるのには中々皮肉が利いていますね」

 

「お前こそな。人間にしては長生きなお前に"霊亀"などと。そもそもお前が人間かさえわからんものだが」

 

「お互い様、と言う訳ですか」

 

「そうだな、そう言う事にしておこう」

 

 お互い若い姿とはいえ、人間の感覚で言えばどっちも結構な年をした老人だ。長話が過ぎてしまうのはある意味必然か。

 自分でも呆れながら、本題に入るとした。

 

「お前、最近の大亜連合の工作にも関わっているようだな」

 

「えぇ。貴方に隠しても無駄でしょうからね」

 

「大亜連合の強硬派が妙な動きをしている。お前の入れ知恵か?」

 

「いきなり失礼ですね。貴方達に察知できないというのは極めて偶然に過ぎません」

 

「嘘を言ってるようではなくて安心したよ。で、お前は何か知っているか?」

 

「いえいえ。私は今回はただの手足に過ぎません。任務を行う部隊を任務を行う場所に運ぶ。それが私の今回の役割です」

 

「つまり中身に何があっても知らんし、干渉はしないということだな?」

 

「えぇ。あなた方の邪魔をするような命知らずなことはしませんよ」

 

 そう彼が笑って返す。

 しかし、得るものはあった。要するにはそれ専門の特殊工作隊が上陸作戦と同時にやってくるということだ。恐らくは運ぶ場所は京都だろう。

 

 とりあえず、得られる情報は得られた為、釘を刺しておくことにした。

 

「ならいいが、余り調子には乗るなよ。お前の目的は分かってるが、バランスを崩す事は我々の好みではない。もし、お前がそれの加担をするようだったら遠慮なく消すからな」

 

「てっきり今すぐにでも殺される物かと思っていましたが」

 

「No3から抹消に協力しろとは言われてないんでな。今はまだ"保留"だ」

 

「優しいですね。とても"霊亀"とは思えない。周りの影響ですかね?」

 

 その言葉に、しばし固まる。

 そして、自分の内面を見詰めながら、答えた。

 

「・・・そうかもな。最近、どうも流されがちだ。そうで有るべきではないのは分かってるはずなんだがな」

 

「しかし?」

 

 まるで物珍しいものを聞いてみたいとも言いたげな様子で聞く彼に対して、少々笑いながら答えた。

 

「面白いんだよ。あいつ等を見てると。一体何処まで上れるのか。つい見てみたくなっちまう。あの手合いは久しぶりでな。あそこまで真っ直ぐな奴らを、どうして見守りたくなるのを責められる?」

 

「さぁ・・・。しかし、中々甘いですね。いずれその甘さが、貴方に不利益を与えますよ?」

 

「いいんだよ。それでも。俺は気まぐれでいい。仕事を優先はするさ。しかし、偶には娯楽があった方がこの長い人生ではいい」

 

 

 

「だから、俺は"烏"って呼ばれるんだ」

 

 




っていうことで始めてオリ主が生きた感情を見せました。
飯を邪魔され切れた時のような"習慣から来た感情"や、何時もの時や仕事の時に出てくる"仮初の感情"とは違う、オリ主の本心です。

敵だとは分かっているし、割り切っている。しかし欲を言うならば、お兄様たちが何処まで上り詰められるのか見守りたい。そういう気持ちを確かに抱いています。

しかし、お兄様とオリ主は決して交じり合いません。最後まで本当の意味で味方にはなりません。ソレが宿命です。悲しい物ですね。


そして、平川千秋は達也信仰と言うべき物を今作では持っています。理由としては小早川氏のリタイアがなく、"みんなの為に電子金蚕の工作を阻止した"と思い込んでるからです。九校戦の出来事も傍から見ればさすおにですしね。

で、なぜ平川小春が論文コンペを離脱したか。答えは簡単。「自分で見抜けなかった電子金蚕を見抜いた司波君の方が適している」ということで辞退&推薦したのです。それ以外は差して変わらないので描写していませんがね。

次回、未定。また1週間ぐらい舞台の時間を飛ばすかもしれない。


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第五十三話~二流~

表現力のつたなさに全俺が泣いた。

原作では名前つきかつ数ページしか出番がなかった彼の登場です。


【Wednesday,October 19 2095

  Person:operator4   】

 

 

 

 

〔operator4:今日にNSAの使いがやってくるってことでいいんだよな?〕

〔moderator9:はい。"アメリカ側"(管理者No.1)からはそのように伝えられてます〕

 

 家を出る前に確認しているが、やはり間違いはない。

 

 今日にNSAからの使いが日本に到着し、こちらと接触する手はずになっている。NSAが言うことには「こちらから見つける」そうだが、一体どれほどの時間が掛かるか見物である。

 

〔operator4:名前は"ジロー・マーシャル"であってたか?〕

〔moderator9:正確にはコードネームといった方が良いのかもしれませんがね〕

〔operator4:態々本名まで調べだすつもりはない。なんて呼べばいいかだけ知れればいいさ〕

 

 それを最後に、コマンドが切れた。

 

 

 

 

 しかし、結局午後にもなってそれらしき影さえ見ることが出来なかったのには落胆するしかなかった。

 確かに、今日到着して直ぐに見つけることの困難さは分かる。しかし、自分で見つけられるといった以上目星くらいはつけていて然るべきだ。東京にも空港ぐらいはある。てっきり午前中に接触できると思っていたため妙に気疲れした気がした。

 

「はぁ・・・。結局口だけか・・・」

 

「何の話だ?」

 

「何でもない。こっちの問題だ」

 

 まさか"彼"に待ち人のことを話しても仕方ない。再度ため息を吐きながら、久しぶりに全員揃って校門を出た。

 

「達也さん、論文コンペの準備はもう終わったんですか?」

 

「一段落、っていうところかな。リハーサルとか発表用に使う模型作りとかデモ用の術式の調整とか細々としたところは残ってるけど」

 

「一応はお前のメインの仕事は終わったって所か」

 

「大変そうねぇ・・・そういえば美月のところで模型作りを手伝ってるんだっけ」

 

「うん、二年の先輩が。私は何もしてないけど・・・」

 

 その様に益体のない会話を続けていると、その内こちら側を監視する目が有ることに気づいた。

 

 決して、敵対的ではない。ということは、恐らくは誰なのかは一発で分かる。

 

(やっと来たか・・・。しかし、タイミングが悪い。空気くらいは読めないものか・・・)

 

 しかも、腕としては二流だ。何せ"彼"だけならともかく、レオ達にまで存在を把握されている。

 

「これは外れかな」

 

「何がだ?」

 

「こっちの話だ。それより、ちょっとどこか寄り道していかんか?」

 

 そう提案するが、本来の意味はもちろん"ちょっと監視してるやつを撒こう"だ。

 

「奇遇だな。俺もそれを言おうと思ってた」

 

「賛成!」

 

「達也は明日からまた忙しくなりそうだしな」

 

「そうだね、少しお茶でも飲んでいこうか」

 

 しかしこれらの反応を見るに、どうも"撒く"ではなく"仕留める"になりそうな気がしてならなかった。

 

 

 

 結局、予想は当たった。

 

「血気盛んで良いことだな俺の周りは・・・」

 

「お前も人のことは言えないと思うが?」

 

「うるせ。気にしてんだから」

 

 既にレオとエリカは幹比古が張った結界の中で今だばれてないと思ってる二流工作員と"お話"しているところだろう。

 

「で、幹比古。レオ達の様子はよさげか?」

 

 そうは聞くが、既に"眼"で確認している。この問いかけは、ただのきっかけ作りだ。

 

「うん。一応は問題なく終わりそうだよ」

 

「そうか。ならちょっと様子だけ直に見させてもらうわ」

 

 そう言って手を振り、喫茶店から出た。

 

 

 少し離れたところで、まだレオ達はNSAの工作員と話をしていた。

 しかし、先ほどよりは体勢は悪化している。彼が銃をエリカに向けているのだ。とはいっても、恐らく撃つ気はないだろうが。

 

 彼が逃げるのを待つか、それとも割り込もうか迷ったが、結局待つことにした。

 

「-ではこれにて失礼。ああそうだ、最後に一つ。身の回りに気をつけるよう、"お仲間"に伝えて置いてくれ給え。学校の中だからと言って、安心はしないように、と」

 

 そう言って、彼は白リン手榴弾を転がし、そのまま逃げていった。

 

「だぁっ?!逃げられちまったか・・・」

 

「あーもう!油断した!」

 

 そう悔しがってる二人の下へ、笑いながら話しかけた。

 

「あと少しだったな。まぁ、知りたいことは聞けたんだし良いんじゃないのか?」

 

 そう言って慰めを掛ける。

 といっても、当人達にとっては慰めにもならないだろうが。

 

「しかしなぁ・・・・。どうも出し抜かれたようにしか思えねぇぜ」

 

「まったくね・・・。はぁ、出来ることならあいつの身柄を押さえたかった」

 

「欲を言うもんじゃないさ。とりあえずはさっさと戻るとしよう」

 

 そう促して、元来た道を戻る。

 既に彼の"顔"は把握している。今日の夜にでも接触すればいいだろう。

 

 

「まぁ、何事もゆっく、り・・・」

 

 

 していけばいいさ、と最後まで言い切ることが出来なかったのは何の皮肉だろうか。

 "眼"は、ある意味最悪とも言っていい状況を写していた。

 

「・・・"人食い虎"?」

 

「え?何?」

 

「借哉、どうしたよ」

 

 いきなり様子が変わったのを見て、二人が訝しんだ目を向けてくる。

 しかし、構っている余裕など、こちらにはなかった。

 

「すまん!ちょっと拙いことになってるかもしれん。絶対に追って来るなよ!」

 

 そう言って、制止する声を余所に"痕跡"を辿りながら追いかけていった。

 

 

 

 




ってことでマーシャルさんをNSAの工作員設定にしています。ここら辺は赤旗計画での話の中に元々組み込んでました。
だって大亜連合の上陸作戦前に行動してて、かつアメリカが態々グアムにまで日本海軍を引っ張って言ってるって考えると内輪もめしてそうだなぁって思うじゃないですか。
そんな感じです。

なお借哉くんは魔法ではマーシャルさんを追いかけません。レオ達の視界から切れた場所で適当に車両をかっぱらうつもりです。

次回、人食い虎登場。戦うかどうかは未定。


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第五十四話~暴虎~

前回の話を見直してみて妙に展開早く作りすぎてるなと思い反省してるっていう。

今回は長め、かも。


【Wednesday,October 19 2095

  Person:operator4   】

 

 

 

 

「くっそ、間に合えよ・・・!」

 

 路肩にあったバイクを適当に盗み、後を追いかけるがまだ姿を目にすることではできない。

 こういう時はむしろ魔法というものの有用性を感じなくはない。場所や時間を選ばない高速移動手段となり得ると考えれば必要性もある意味感じられる。

 

 

 別に、もはや能力の知れた"NSAの工作員"なんぞ放っておいても本来は構わない。しかし、こちらから接触して接触前に工作員が死ぬなんてことは出来る限り関係性の維持という意味では避けたい。その方が手数を借りる際にスムーズに事が運ぶ。

 

 

 約一駅ほどの距離が離れた路地裏につき、そこでバイクを乗り捨てる。

 すぐさまあたりを警戒しつつ、それでも駆け足で奥へと入る。

 

 

 しかし、結局は間に合わなかった。

 

 

「クッソ、やっぱり間に合わんかったか」

 

 そこにいるのは、大柄な、しかし引き締まった体つきの東洋人と、

 喉を貫かれていた"先ほどの工作員"(ジロー・マーシャル)だった。

 

 東洋人が、工作員を貫いていた右手を引き抜き、こちらへ体を向ける。

 

「どうしたもんだか・・・」

 

 限りなく状況は悪かった。

 相手は少々の軍事知識がある人ならば知っている。

 大亜連合の工作員。"人喰い虎"と呼ばれる、凶暴な魔法師。

 

「呂剛虎に顔なんざ覚えられたくはないんだが・・・」

 

 それも、現在の手持ちの武器でさえ満足に使えない状況下でだ。

 一応はいつもの保険として拳銃、閃光手榴弾を持ってはいる。しかし、今の格好は制服だ。それらをいきなり懐から出そうものなら面倒なことになる。

 コマンドで消すことも簡単だが、それこそ今の格好で他人に見られてはまずい代物だ。

 

 残された装備は、アーミーナイフが一本。これが、現状況下で使用が許される限界。

 

 懐からそれを取出し、構える。

 

「逃げてくれるならそれでよし。元から楽に勝てるとも思っていない」

 

 

「――――さぁ、来い」

 

 

 その言葉が聞こえたかどうかは分からないが、その言葉と同時に彼がこちらへ向かってきた。

 

 先ほどと同じように首を狙って手が伸びる。

 その右手を狙い、断ち切るつもりでナイフを振る。

 その瞬間、まるで何かを"恐れるように"彼は急に手を引っ込め、数歩下がった。

 

「野生の勘ってやつか・・・。なかなかに優秀なやつだな」

 

 そう呟く。

 対して呂は彼自身が抱いた強烈な危機感が一体何なのかも理解できていない様子だった。

 当たり前だ。たかが高校生のナイフの一振り。確かに自分の攻撃が見切られていたことに対する驚きはあるだろうが、それ以前に"彼の魔法の腕ならばただのナイフの一振りなど服をなでるのと一緒"であるはずなのだ。

 

 しかし、ジリ貧なのはこちらも一緒だ。

 何よりもまずナイフ以上に射程のある武器を使えないのが厳しい。

 確かに彼を相手に拳銃など効果はないと思うかもしれない。しかし"拳銃による攻撃"があるのとないのとだけでも十分に違ってくる。

 拳銃による攻撃があるということは、それに対して対抗する必要があるということだ。たとえそれがいくら容易であったとしても、対抗する必要性が出てくるという点で優位に立てる。

 それに対して、拳銃による攻撃が無いと言うことはそもそも気にする必要性さえないのだ。その分こちらが不利になるとも言っても良い。

 

「さて・・・どうしたものか」

 

 自分の懐の拳銃を今使うわけにはいかない。極めて合理的に、こちらが拳銃を持つことさえできれば良いのだが。

 

 

 その時、彼の後ろにある物が目に付いた。

 

「・・・これだな」

 

 この状況をいくらか改善しうる手段。

 この場は、"彼の後ろに行くこと"さえ出来れば、此方の勝ち。

 

「祈るしかないな・・・。祈る神が、ここにいるかは分からんが」

 

 そうぼやきながら、再度構えなおす。

 

 

 彼も一時の混乱から立ち直ったようだ。

 

 

 再度、彼が突進してくる。

 

 

 そして、彼の攻撃を、あえてナイフの"峰"の部分で受け流し、"ソレ"の元へと走る。

 

 

 "NSAの工作員"(ジロー・マーシャル")が残した、右手の拳銃。

 

 

 それを素早く拾い上げるや否や、大まかな狙いのまま三発を撃ち込んだ。

 拳銃による攻撃を想定していなかった呂は魔法の発動が遅れ、飛んできた銃弾の内、左肩に一発当たり、そして脇腹に一発が掠った。

 

 ダメージを負った彼に対して、再度、今度はきちんと狙いをつけた上で三発を、先ほどより間隔をあけて撃ち込む。

 今度は流石に彼も防御したものの、動きは止まる。

 

 もう、拳銃によるダメージは期待できない。すぐさまナイフを今度は左手に構え、近接格闘の構えを取る。

 

 牽制射撃を加えつつ、攻撃を誘おうとしたところで、彼の後ろから人影が出てきた。

 

「借哉!」

 

 その言葉と共に、レオとエリカがそれぞれの得物を取り出して近づいてきた。

 

 三対一。拳銃によりダメージを負った体では不利と判断したのか、彼が選んだのは逃走だった。

 

 魔法を発動し、壁を蹴り上げながら上へと逃げていく。

 

「逃がすか!」

 

「待て!追うな!」

 

 追おうとするエリカに対し、大声でそれを止める。

 

「あそこで追っても返り討ちにあう可能性のほうが高い。相手が逃げてくれるならそれでいい」

 

 そう言いながら拳銃を下に置き、ナイフをしまう。

 

「さっきのあいつは、いったい誰よ?」

 

 そう聞くレオに、彼の事を話した。

 

「呂剛虎・・・とかいう大亜連合の魔法師だ。結構有名な奴だよ。よく千葉の次男と比べられる奴さ」

 

「なんでアイツがこんなとこに・・・」

 

 対してエリカはさすがに知っていたようだ。千葉修次の妹だけあり、流石に比較対象のことは知っていたようだ。

 

「最近物騒だから護身道具は持っておいたんだが、正解だったな・・・」

 

「その拳銃は・・・、"そいつ"のか」

 

 そう言うレオの視線は、ジロー・マーシャルの死体に向けられていた。

 

「あぁ。こいつの武器がなかったらジリ貧だった。それにしてもなんだ。追っかけてくるなとは言ったが、おかげで助かった。すまんな」

 

「気にすんなって。お互い無事ならそれが一番だろ」

 

「そうよ。面白い事が起こってるみたいだし、すこしは混ぜてくれてもいいんじゃない?」

 

「お前らな・・」

 

 相変わらず血気盛んな二人に対して、呆れながら何度目かもわからないため息を吐く。

 

「ほどほどにしろよ。変に首突っ込んで痛い目見てもどうしようもないんだからな」

 

「分かってるっての」

 

「それくらい承知の上よ」

 

 そう言いながら笑うレオ達を見ていると、先ほどの苦闘の後だというのに空笑いが浮かんだ。

 

 




ってことでマーシャルさん退場のお知らせ。
原作中なんでマーシャルさんが最初から達也たちを見張っていたんだろうと少々疑問に思ってはいたので、オリ主を使ってメッセンジャー化しました。その役割を果たせずに死んだけど。
本来はオリ主と戦う予定はなかったんです。なかったんだけど、つい気分で・・・。

で、千秋さんが手下にならなかった影響で数日の平和が訪れます。やったね達也君、ストレスが減るよ。

次回、たぶんレオとエリカの話題をしてるところ。たぶん。

【追記】誤字を修正しました


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第五十五話~懸念~

今回は繋ぎ回。かつ短め。



【Friday,October 21 2095

  Person:operator4   】

 

 

 

 

「本当に俺の周りは血気盛んでいいことだ」

 

「それは本気で言ってるのか?」

 

「いいや。皮肉だって分かれよ」

 

 "彼"に対して、疲れた口調で話す。

 

 理由は、レオとエリカのことだ。

 あの戦いの後、何を話したのかは知らないがこの所学校を休んでいる。その理由は、単純に"修行"だそうだ。

 確かに、大亜連合が絡んでると見たらどう考えても荒事しか出てこない。そして、それを好むあの二人がそれに備えようとするのも理解できなくはない。

 

 しかし、どうも違う気がする。

 主に、高校生としての身分的に。

 

「俺が言えたことでもない気がするが・・・」

 

「自覚があるなら弁えたらどうだ?」

 

「それが出来るならとっくにやってる」

 

 そうため息を漏らしながら、"彼"の妹さんを待っていた。

 流石に生徒会長が引退したからだろう。"彼"や妹さんが生徒会室で食事をとる事はだんだんと無くなっていき、最近はほとんど食堂で取っているようだ。

 そもそも友人と一緒に食べることは当たり前とも言ってもいいのかも知れないが。

 

 

 こちらの愚痴から出てきた益体のない話が終わり、話題は論文コンペの事に移っていった。

 

 尤も、内容は自分でぼやいていた割には物騒な内容だったが。

 

「そういえば、市原先輩と関本先輩が言い争ってたらしいな」

 

「あぁ。横から見ていただけだが、あれほど意見が食い違っていたら仕方がないだろうな」

 

「考えの相違って奴か。でも議論することは悪いことではないと思うがな?」

 

 そう敢えて分かり切った質問をしてみると、"彼"は案の定ため息を吐きながら首を振った。

 

「それがこっちに飛び火しなければな。どうも関本先輩の様子が怪しい。次はおそらく直接的な行動に来るだろうな」

 

「それはご愁傷様な事だ。まぁ、お前なら楽に処理できるだろ」

 

 そう聞き流すこちらに対し、"彼"は何か責めるような目を向けてきた。

 

「・・・なんだ?」

 

「"知っている"んだろう?」

 

 流石にそれくらいは分かるかと、改めて彼の察しの良さに感心する。

 確かに、関本が大亜連合工作部隊に洗脳らしきものを施され、手足になりかけているということは知っている。常時監視させているのだからそれくらいは当然だ。

 

 しかし現状今すぐに彼を拘束したところで得られる情報は既に持っているものしかない。今現在進めているのは彼を拘束することではなく"彼が捕まった時に情報を自分達で独占するための処置"だ。もちろん、デスクワークが更に増える為にまず殺しはしないのだが。

 

 

 しかし、それはあくまでもこちら側の話。"彼"にとってはあまり快いものではないだろう。

 

「別にいいだろう?"こっち"も現在調べてることがいろいろあってな。ただ、近々お前に何かしらの依頼、もしくは制約をかけるかもしれん。それは覚えておいてくれ」

 

「お前にそれを押し付ける義理があるのか?」

 

「"八月"の借りぐらいは返してほしいものだな」

 

「随分と荒々しい協力の仕方だったがな」

 

 彼自身が近々猛威を振るうことは分かっている。しかし、あまり暴れ過ぎてしまった場合も困るのだ。

 現在国防海軍は主力とも言える存在をグアムに向かわせ、USNAと共に上陸演習をしている。逆に言えば、それまでの間日本の海防はどうしても緩くなる。

 

 そして、その時に日本が取る手段はおそらく"戦略級魔法"の使用。おそらくは"深淵"(アビス)か、マテリアル・バースト。つまりは"彼"が出向くということになる。

 

 問題は、"彼"の魔法の攻撃範囲があまりにも大きすぎることだ。大亜連合の艦隊を瓦解させるレベルなら問題ないものの、大亜連合そのものにダメージを負わせるやり方を許容する訳にはいかない。そこまでやってしまった場合、魔法師に対するあり方そのものが大きく変わってしまう恐れがある。

 

 それが起こるかもしれない時の為に、釘を刺さなければならないということだ。

 今回は、それが破られた時の"制裁"の用意もしているのだが。

 

「・・・まぁ、留意はしておこう。だが、あまり期待はするなよ」

 

「まぁ、いいさ。先のことを気にしても仕方がない。今は目の前のことだけ気にしてれば、それで何とかなる」

 

 

 そう言って、既に空になっていたコーヒーの缶を捨てた。

 

 

「さて、妹さん達もやってきたし、さっさと飯にしよう」

 

 




なんか最近投稿が妙に遅れてます。これは個人的な都合があるので勘弁していただきたい。そろそろ前までの投稿ペースに戻りたいなとは思っているんですけどね。

灼熱のハロウィンでは魔法の有用性がはっきりと証明され過ぎてしまいましたよね。オリ主が恐れているのはそれです。そして、そうなってしまった場合は"荒治療"をするつもりです。さて、どうなることやら。

次回、未定。もしかしたら舞台は土曜日に移るかも


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第五十六話~準備~

土曜日の出来事になるかもしれないと言ったな、あれは嘘だ。

なんでかって?オリ主をねじ込める要素が無い。風紀委員だったことを加味しても。

んで、今回はオリ主の武器選びです。何度も言いますが、自分は火薬を少々多めに物語を作ります。何がいいたいかっていうと、何やかんやで大きいものってかっこいいよね!こっちに向いてさえいなければ。


【Monday,October 24 2095

  Person:operator4   】

 

 

 

 

 

〔operator4:関本勲が拘束されたか〕

〔moderator9:現在八王子特殊鑑別所に収容されています。手続きは済ませましたが、二つ、どうしても手が回せなかったところが〕

 

 その報告を聞きながら状況を整理する。

 二十三日の日曜日に、案の定と言うべきか関本勲の手によるデータの盗難未遂事件が発生。洗脳らしき物を受けていた形跡もあり、八王子特殊鑑別所に収容されている。

 ここまでは、予想できたこと。しかし、やはり問題が出てきたようだ。

 

〔moderator9:一つ目は関本勲の"移動"に関してですが、手続き上どうしても今すぐは不可能です。最低でも火曜日になるかと〕

〔operator4:むしろ火曜日に済むと考えれば楽なもんだ。で、問題は次なんだろう?〕

〔moderator9:はい。同じ日の、同じ手続きが完了するであろう時間帯に第一高校生徒による面会が入っています。恐らくは"彼"も来るでしょう〕

〔operator4:厄介だな・・・。第一高校はある意味被害者といっていい立場だ。そう易々と先延ばしには出来ない。するにしても今は時間がない〕

〔moderator9:その通りです。恐らくは手回しの時間からしても先に"彼ら"が関本勲と接触することになるでしょう〕

〔operator4:まぁ、そこは割り切るしかない。元々重要な案件でもない。そうあった方が良いってだけだからな。問題は"口封じ"に来る奴のことだ。工作隊に動きはあるか?〕

 

 この問いに対しても、また直ぐに答えが返ってくる。

 

〔moderator9:確かに動きがありました。呂剛虎含む五人が対魔法師用装備でカタパルトでの強襲準備を進めています。こちらも恐らく被る可能性があるかと〕

〔operator4:何でこうも人目につくところばかりで嫌な相手に会うかな〕

〔moderator9:それに関しては仕方がないとしか。一応旧型の外骨格型重装備パワードスーツなら用意できますが〕

〔operator4:馬鹿。全長5mは行きそうな代物をどうやって持ち込むつもりだ。しかも屋内でガトリングを振り回すつもりも無い〕

〔moderator9:ではどうするつもりで?〕

〔operator4:それはこっちで考えるさ。そっちはヘリの用意を頼むぞ。とりあえずこっちの管轄の牢屋にぶち込んでおけば問題はないだろう〕

 〔moderator9:分かりました。準備しておきます。それでは〕

 

 その言葉と共にパスが切れた。

 

「さて、どーしたもんかな・・・」

 

 そう悩みながら、家の中の武器庫を漁る。

 別に時間稼ぎ程度でいいのだから、そこまで重装備である必要性はない。いつもならそう考える。

 

 しかし、今回は別。恐らくは"彼"とその仲間達がいる状況下では速やかに撤収を開始しなければならない。

 その為には、どう足掻いても重装備とも言える武器が必要だった。

 

「何時もの装備はとりあえず用意したけど、やっぱり足りないよなぁ・・・」

 

 ハンドガンとアーミーナイフ、各種グレネードを二つずつ。

 念のために弾幕用のマシンピストルも用意はしている。

 

 しかし、決め手に欠ける。

 

「象にこの装備で挑んでも勝ち目ねぇのと一緒なんだよなぁ・・・結局接近戦になる」

 

 ナイフに関しては彼がもしこちらの姿をきちんと認識できた場合は確実に避けるだろう。すなわち、彼の想定を超える、もしくは外す何かの手段を用いて仕留めなければならない。

 

 

 そこで、武器庫の隅の方にある"モノ"を発見した。

 

「オーストリア製の奴か・・・。この化け物だったらいけなくもないな・・・。撃った後が少々きついんだけどなぁ」

 

 今までの訓練から何とか"片手"で撃てるものの、まず間違いなく一発勝負にしかならない。それほどまでに反動が大きすぎてほとんど使い物にならなかった代物だ。

 

「だが、携行性が比較的高くて威力がでかいとなるとこれしかないからな・・・。弾はきちんとした通常弾を使うか。銃が持つかは知らんが」

 

 そう呟きながらその得物を装備に追加する。

 

 これなら、まず間違いなくやれることは出来る。

 後は、祈るだけだろう。

 

「・・・でも、なんか嫌な予感がするな」

 

 何か、見られてはいけないものを見られそうな予感。

 

 

 

 それを感じ取ったのは何故かは知らないが、何故か最後に取った装備はサングラスだった。

 

 




芸能人が顔隠すときにサングラスよく使いますよね。あれです。なおばれる人にはばれるかも。

多分本日中にもう一話投稿すると思います。何処を書くかは、多分わかるはず。


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第五十七話~尋問~

結構悩んだ末、達也回に。
これは入れた方がよかろうなと思って入れました。随分悩みましたが。
短めです。


【Tuesday,October 25 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

「ではこれで全ての手続きは終了です。午後一時までには本施設を退出するようにお願いいたします」

 

 一定の手続きを終えた後、案内の人物からその台詞を聞かされた時には、何か違和感を覚えた。

 

 二十三日の関本勲による盗難未遂の後、彼から情報を得るために摩利、真由美と共に八王子特殊鑑別所へ向かった。これその物に問題はない。面会する為の条件が二人との同行であった以上、今更不平を言うつもりは無い。

 

 しかし、問題は八王子特殊鑑別所という警備の厳重な場所ということを加味したとしても以上に手続きが多い上、更には具体的な時刻まで提示してくるほどだ。

 

 今現在の時刻は十一時を少々過ぎている。確かに一、二時間も居座るつもりは無かったものの、妙におかしい。

 

「何かそちら側にも予定があるのですか?」

 

 それは二人も同じ事を思っていたらしく、真由美から案内役の人物に質問が飛ぶ。

 

「はい。午後一時を持って関本勲さんは別の場所に移送されることになっています」

 

「それは、どちらに?」

 

 関本の移送などと言う事は当事者である俺や、また七草の子女である真由美でさえ知らされていない。

 しかし、案内役からの答えは"分からない"という意図のものだった。

 

「申し訳ありません。恐らくは機密となっておりまして、所定の権限を持つ人物でない限りは知ることも伺うこともできません」

 

「・・・そうですか。分かりました」

 

 そう返事を返し、目的の場所へと向かう。

 

「・・・妙だな。一昨日の出来事でしかないのに、いきなりの移送計画か。どうも何か裏があるような気がする」

 

「そうね。私の方にさえ移送の事は知らされてなかったし。ここまで急な事となると、どこかの干渉があったと見るべきじゃないかしら」

 

 先ほどの事を訝しむ二人を余所に、思考をめぐらす。

 まず、今回のことに関与しそうな勢力はいくつかある。

 まず最初に、大亜連合。移送計画をでっち上げ、鑑別所から関本を出したところで仕留めるという作戦も考えつく以上、利益面では一番可能性が高い。

 次に、元々聖遺物を扱っていた国防軍の一部門。こちらは現在の所持者が襲われた以上可能性としてはありえなくはない。早めにお膝元に置き情報を手に入れるという利益面がある。

 また、そうでない場合は十師族の可能性も出てくる。状況的には、四葉。つまり"身内"がちょっかいを出してきていることにはなる。が、これに関しては四葉側にあまりに利益がなさすぎるため、除外すべきだろう。

 

 最後に、"彼"の勢力。九校戦の際に垣間見ただけではあるが、武力、および政府に対する干渉力は侮れない。というより、総理大臣を顎で使えるあたりはまず容易に計画のねじ込みはできそうな力を持っている。

 これに関して言えば利益面でいえば未知数だ。何せ"彼ら"自身の目的でさえ何なのかはいまいちはっきりしていない。

 

 

 もしくは、"彼ら"だけが知っている情報があるということもあり得る。

 "彼"の口ぶりからして、今回もどちらかというと敵にはならないはずである。それでもこちらを妨害するような行動を取るとしたら、それが必要になったということだ。

 

 

 これだから、第三勢力というのは厄介だ。そう思いながら歩いていくと、目的の場所へとたどり着いた。

 

 

 

 関本に対する摩利の尋問手段は、およそ善良な市民が行うものとは言えなかった。

 

「匂いを使った意識操作ですか」

 

「達也くん、見るのは初めて?」

 

「初めてです。大っぴらに使われてもこちらが困ってしまいますが」

 

「それもそうね」

 

 やり口としてはまだ優しいものだが、それでも人道的かどうかと聞かれたら何とも言えない。元々尋問それそのものが人道的とは言えないのだが、早い話が薬物を使ったものと同じだ。こんなものを常日頃から見せられていたら"仲間意識"と"良心"の板挟みで悩むことになるだろう。

 

 

 そんな中、関本の口から出てきたセリフは、あまり好ましいものとも言えなかった。

 

『デモ機のデータを吸い上げた後、司波の私物を調べる予定だった』

 

『それは一体何の目的でだ?』

 

『宝玉の聖遺物だ』

 

「・・・達也くん、そんなの持ってたの?」

 

「いえ、持っていません」

 

 そう否定を返しながら、やはり、と思った。

 恐らくこちらが聖遺物を所持していることは既に知れているのだろう。そうでない場合、まず私物を"調べる"とはならない。洗脳を掛けていることを加味しても、目につく限りで私物とみれば全て回収させてしまい、持ってきた後で調べた方が早い。

 

 もしくは、洗脳ではそこまでは出来なかったのか。

 

 

 真由美からの疑いの目を何とか誤魔化しながらそう結論付けたのと、非常警報が鳴り響いたのは同時だった。

 

 




今日中に投稿するとか言ってこの時間帯だとほぼ変わんないなぁ・・・とか思いつつ、久しぶりの達也回。
残念ながら横浜編でお兄様は完全にメインストーリーではないです。それは本家のほうで、どうぞ。

次回、オリ主勢in八王子特殊鑑別所。なお手下も一応は引き連れる。ただし国防軍ではなく、収容する施設に属する人員だけど。

【追記】後書きでミスを発見した為修正。重要性はないけど・・・。


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第五十八話~火力~

バトル回。長いです。二話分の文字数があります。悪しからず。

後一応注釈。オリ主がナイフと拳銃を同時に構えてる時は基本CODのあれです。しかし、振ると描写した時は逆手持ちから普通の持ち方に変えて振ってます。そして何で今までも刺してないかというと、大振りで振ることで切断するつもりで振ってるからです。刺すことで効果があるなら初めから刺してるけど、呂に関して言えばナイフ刺さったぐらいでは手負いの虎にし兼ねないからです。でも拳銃と一緒に持ってる以上即応性も考えたら一応は逆手持ちにしてるって感じです。そう解釈してくれれば。


【Tuesday,October 25 2095

 Person:operator4   】

 

 

 

 

 

「こちらの書類に基づき、一一五〇を以て関本勲に関する事項、および身柄を国防軍諜報部の管轄とし、移送を開始します。これまでの連絡と相違がなければ、こちらにサインを」

 

 そう言って用意していた書類を八王子特殊鑑別所の"所長"に対して事務的に渡す。

 最近の行動からして"手下"として振る舞うのは違和感がなくもないが、まず今回は下手な管理役として出向くよりはそちらの方がいい。

 とはいっても、やはり今回の移送の責任者という立場にはなるのだが。

 

「分かりました。態々国防軍の方から直接来て頂けるとなると、それほど重要な案件なのですか?」

 

 そう尋ねる所長に対して、一応は肯定を返す。

 

「可能性がある、というレベルでですが。もしも何の問題もなかった場合は、そちらの方に再度管轄が移ることになります」

 

 とは言っても、そこまで重要性はないのだが。

 

「なるほど。移送はヘリでよろしいのですか?一応は魔法師ですから、リスクのない手段を選んだ方がよろしいかと」

 

「問題ありません。出来るだけ速やかに事を済ませたいので、陸路よりは空路の方が早いです。こちらで身柄を確保するまではそちらに責任が発生するとはいえ、そこまで怯えなくても大丈夫ですよ?」

 

「いえ、そういう訳ではないのですが・・・」

 

 躊躇いがちにそう答えながら、彼はサインを書き終え判子を押したようだ。

 

「ではこちらで」

 

「確かに受け取りました」

 

「それでは案内します。ヘリは屋上で待機しているのですか?」

 

 確かにヘリで移送するとなれば屋上に置くことになる。案内する為の確認の意図で聞かれたこの質問に対しては、否を返した。

 

「いえ、正面の方に待たせてあります。我々は屋上からこの施設に入りましたか?」

 

「失礼しました。それでは、こちらです」

 

 そう彼が促し、場所へと向かう。

 

「現在第一高校の方が面会中の為それが終わり次第ということになるかと思われますが、大丈夫ですか?」

 

「期限を一時までと事前に通告したのはこちらです。少々予定を早めてしまいましたが、別に咎めるつもりはありませんよ」

 

 そう言いながら、笑って返す。

 元々さほど重要な案件でもなく、大亜連合の工作隊に対して打撃を与える、及び他勢力に対する情報の流出を防ぐというだけの意味しか持っていない。

 別に言うほど必要という訳でも無い為、目的の一部が達成できなかったとしてもさほど問題ではないのだ。

 

 

 中央階段を上り、二階にある関本勲の部屋の傍まで来る。

 

「こちらになりますね。まだ面会中のご様子ですし、しばらく別室でお待ちいただいてはどうでしょうか?」

 

「ふむ、そうですね・・・」

 

 しばし、考える。

 確かに廊下のそばで大人の集まりがただただ立っているというのも奇妙なものがある。そこまで急く必要も無い為、提案に乗った方がよいだろうか。

 

 

 そう思った時に、施設内に非常警報が鳴り響いた。

 

「なっ、非常警報?!」

 

「やーっぱ来たか・・・タイミングがいいとは言えんが」

 

「少々お待ちください、連絡を・・・」

 

「いいですよ。この事態は想定していました」

 

 そう言って、所長を止める。

 

「少々"こちらの流儀"で行かせてもらいます。構いませんね?」

 

「は、はい。大丈夫です」

 

 勢いよく首を縦に振る所長を傍目に、指示を飛ばす。

 

「各員、三名は関本勲の室内に入り、関本勲及びご学友を保護しろ。ご学友に関しては決して部屋の外に出すな」

 

「しかし七草のご子女もいるんですよ?」

 

「それが、どうした?」

 

 七草の力に怖気づく"何も知らない部下"に対して、質問という名の威圧を加え黙らせる。

 

「・・・分かりました」

 

「ならよし。所長、屋上の足止めは出来ています?」

 

「えぇ。間違いなく」

 

「ならよし。残りの七名は関本勲をヘリまで運び出せ。襲撃の"本命"は俺が足止めする」

 

「ハッ!」

 

「所長は屋上の方の指揮をお願いします」

 

「分かりました。では一旦失礼します」

 

 そう指示を伝え終えると、部下はそれぞれの個人防衛火器を取り出し、室内に入っていった。

 

「さて、いろいろ喚いてくるだろうが、抑えてくれよ?」

 

 そう祈りつつ、拳銃とナイフを取り出し、顔を隠すためのサングラスを着ける。

 

 

 

「さて・・・本命か。どうやって倒したもんかな」

 

 

 先ほど上ってきた階段からは、大柄な若い男が上がってきていた。

 視線が、こちらに固定される。

 恐らくは、既視感と違和感の二つが彼の頭に浮かんでいることだろう。

 既視感は、拳銃とナイフという組み合わせと、その構え方。そして、俺の背格好と顔立ち。

 違和感は、格好の違い。今現在来ているのは、あの時とは違いスーツである。

 

 

 しかし、お互いにとって決まりきっていることもまた、ある。

 

 

 お互いに、敵だということが。

 

 

 呂剛虎が前傾姿勢を取った後、突進してくる。

 ソレに対して、狙いを正しく、かつ素早く五連射で発砲する。

 しかし、前回の戦闘で銃による警戒を一層強めているであろう彼に対して効果は無く、空しく弾かれる。

 彼の体当たりが迫ってきたところで、後ろに数歩下がりながら閃光手榴弾を床に放る。

 

 その様子は彼にも見えていたため、素早く立ち止まった後目を庇う。

 

 数拍置いて、炸裂。

 強烈な光と音が発生する。

 もちろん呂自身が対策を取ったためこれでは無力化は出来ないが、一瞬の隙にはなる。

 

 その隙を突いて、素早く間合いを詰めてナイフを振る。

 呂も素早く下がるが、ナイフの先端が腕を僅かに掠める。

 

 

 ナイフは、確実に彼の皮膚を割いていた。

 余りにも浅く、うっすらと血が滲む程度。

 しかし、唯のナイフの一振り。それで傷を負ったことに対して、困惑と納得の両方が織り交ぜになっただろう。

 こちらからすれば、当然としか言いようが無いが。

 

 もちろん隙を与えるはずも無く、素早く拳銃を捨て、懐からマシンピストルを取り出し、マガジンが空になるまで撃ち続ける。

 無論"遠隔武器では"魔法の影響はどうしても受けてしまう。銃弾は彼の体を唯撫でるだけになってしまったが、それでも一時動きを止めることには成功した。

 

 

「・・・」

 

「意外か?弾は通じずに、なぜナイフが通じたのかが」

 

 黙したままこちらを見詰める呂に対して、笑って問いかける。

 尤も、答えを求める物ではないのだが。

 

 

「当たり前だ。銃は弾を発射するだけのものだが、ナイフは俺の延長線上にあるようなもんだ」

 

 

 そして、魔法師がどこまでいっても"唯の魔法師"(唯のバグ)である以上。

 

 

「"我々"に、魔法は、効かない」

 

 

 再度、武器を構える。

 彼も、近接攻撃に対するリスクを今、はっきりと認識しただろう。

 ゆっくり間合いを詰めてくる。恐らくは、ナイフは届かず、されどたったの一足でこちらに手が届くであろう距離まで。

 

 

 こちらも、一旦マシンピストルのリロードを済ませる。

 しかし、これ以上使うつもりも無い。後は、"切り札"を使う気構えだけしておけばいい。

 

 

 いい塩梅の距離で、呂が再度突進してくる。

 

 ソレに対して、可能な限り素早く、マシンピストルを"手放し"、懐から"切り札"を片手で取り出す。

 

 

 六十口径を誇る、昔の銃器では最大級の火力を誇るリボルバー。

 本来は弱装弾を用いる代物だが、今回装填してある物はれっきとした通常弾。

 象でさえ殺しうる威力を持つ代物を、彼に向ける。

 

 

 腕を伸ばしているとはいえ、距離はもはやほぼ接射の距離といってもいいかも知れない。

 しかし、それでも彼にダメージを与える為には十分時間は"間に合ってる"。

 

 

 "最強"ともいえる火力を出すそのリボルバーが放つ銃弾は彼の胸に直撃し、反対方向に吹き飛ばした。

 

 

 呂は条件反射的に自分を防御したのだろう。しかし銃弾の慣性は魔法では殺しきれず、一命こそ取りとめてはいるが今この場での戦闘力はほぼ喪失していた。

 

 その彼を押さえ込み、首に注射を差し込む。

 

「安心しろ、唯の麻酔薬だ。本来は馬を眠らせるレベルの量だが、お前なら問題ないだろう。なぁに、一日眠るだけだ。心配するな」

 

 そう言って中身を彼の体内に押し込み、注射器を抜く。

 呂はしばし起き上がろうとしていたが、直ぐに麻酔が彼の意識を刈り取った。

 

「ふぅ・・・、腕がきつい。いくら俺が人外とはいえ流石にこの反動はきっついわあ・・・」

 

 そうぼやきながら、耳につけている無線機から先ほどの部下に連絡を取る。

 

『関本勲はヘリに乗せられたか?』

 

『完了しました。現在乗っていないのはご学友を確保している三名とそちらだけです』

 

『その肝心の三人の様子は?』

 

『押さえ込むのに苦労してたようですよ。どうするんです?』

 

『今から俺もそっちに行く。俺が一階に降りたら建物の確保の名目で部屋から出てヘリに向かわせろ』

 

『了解』

 

 連絡をつけ終えた後、今度は施設に備え付けられている端末から所長を呼び出し、呂剛虎の身柄の確保や"彼ら"の保護と言う名の足止めを言いつけ、一階に下りていく。

 それと同時に警備の応援も駆けつけてくる。恐らくはこれで残りの三名も簡単にこちらに向かえるだろう。

 

「嗚呼、疲れた。さっさと一服つけたいが、まずはこれが終わってからだな」

 

 今現在は好き勝手に煙草を吸えるだけの立場として来てはいない。残念ながら堪えるしかない。

 

 玄関から出て、既に離陸準備を整っているヘリに向かう。

 

「直ぐ飛び立てるか?」

 

「行けますよ!残り三人は置いてくんです?」

 

「そんな訳無いだろう!三人がこちらに乗り次第離陸させろ!」

 

「了解!」

 

 そのやり取りの後ヘリに乗り込み、快適性は皆無といっても言いヘリ内部の座席に座る。

 それと同時に、玄関から残りの三人が出てきた。

 

 

「さて、今回もひとまずは概ね良好な結果は残せたかね。呂に関しては勝手に何とかしてくれるとして、後は奴らの"本命"だけだな」

 

 "赤旗計画"。その裏にある、何か。それに関して関本から得られるとは思ってはいない。しかし、今回のことで恐らく大亜連合工作隊は少なくないダメージを追ったはずだ。それによりある程度の封殺は出来るはずだ。

 

 六人の工作員の無力化、そして呂剛虎を拘束され、更には存在まで把握される。

 後は適当に本部に殴りこみに行ってやればそれで終了だ。それに関しても"あの部隊"に任せれば問題はないだろう。

 

 

 取りあえずは一定の目処が立ったと安心する。

 それと同時に、ヘリは飛び立ち、八王子特殊鑑別所を後にした。

 

 




テンション上がりながら書いてたらこんな文字数になってしまいました。本当に申し訳ない。
なお個人的にSSを読むとしたら3000字以上が読み応えがあることは把握しています。しかし、自分の性分的に2500以上の文字を書くときは今回のようにやりたかったことを書くとき以外はきついです。勘弁してください。

とりあえずオリ主はこれで一定の目処は立った。懸念事項もあるけども、あとは達也たちがなんとかしてくれるだろうと安心します。ですが、横浜編はみんな前編の最後で終わったと思うんですよね。後は察してください。ここからが本番ですよ、本番。

なお、なんで某オーストリアから出てきた世界最強の拳銃を出したかと言うと、まぁ個人的にリボルバーを片手で構えたスーツ姿の男って様になるかなと思っただけです。それに象撃ち用レベルの代物でもない限り呂さんは止まらないでしょうし。なおあんなもん片手で撃てたのはオリ主がそもそも人間じゃないからです。物理的に。あんなもん片手で撃ったら腕の骨が粉々になること確実。よい子は真似しないで下さい。

次回、何が起こるか、お楽しみに。

【追記】誤字を一部修正しました


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第五十九話~傘~

短めです。かつ、久しぶりに二文字のサブタイトルから脱却。

短めですが、ここからが本番。
タイトルの意味は、読めば分かる。


【Saturday,October 29 2095

 Person:operator4   】

 

 

 

 

 

『・・・関本勲から得られた情報はそれが全てか?』

 

『ハッ、その通りです。後に書類も上がるかと』

 

『了解した。しばらくした後、問題がないと判断できる場合は八王子に返しておいてくれ。上への報告はこちらで行う』

 

『了解しました』

 

 そう取りあえずは言っておき、通信を切る。

 結局得られた情報はそう目新しい物でもなかった。

 

 

「しっかし、出し抜かれたなぁ・・・。最後にどうしてもケチがつくとはこの事か」

 

 物事はほぼ終わったと思つつ、部隊を動かし、工作隊の潜伏場所に強襲を掛けようとはしたのだ。

 しかし、動かす時期が少々遅かった。気が抜けていたといってもいいかも知れない。

 いざ工作隊本隊に強襲をかけようとさせたら、運の悪いことに独立魔装大隊の強襲作戦と被ってしまったのだ。

 お互い秘密部隊の性質を持っていた為作戦の共有さえ出来ておらず、危うく遭遇戦寸前の状況となった。

 

 結局互いに国防軍だと分かり緊張状態が解けた頃には工作隊のほとんどが独立魔装大隊の別働隊によって拘束されていたのだ。

 

 もちろん、割り込みを掛ける事で後に得られた情報では"裏の事"は話題にさえ出てきていない。恐らくは隊長の陳祥山などのごく僅かな上部の人間にしか知らされてはいなかったのだろう。

 それほど機密性が必要なことなのかと言う疑問も出てくるが、そもそも"赤旗計画"さえ管轄ではなく正確な把握をしていない工作隊の手足達が知るはずもないかと思い直し、とりあえずは問題にはならないと結論付ける。

 

 

 しかし、それでも物事の最後にケチがつくというのは気分のいいことではない。

 割り切ってはいるのだが、それでもため息を吐かずにはいられなかった。

 

「まったく・・・。もしかして"あいつ"は何か?ストレスでも溜まってるのか・・・」

 

 最後に一矢報いる・・・と言うより、部屋に一時閉じ込めた礼を返されたと見るべきなのだろうか。それにしては少々弱い気がしなくも無いが。

 

 

 

 そのような無為な思考を巡らせていると、"コマンド"から呼び出しが入った。

 パスを開くと、相手はNo3だった。

 

〔operator3:済まない、いきなり呼び出して。緊急の要件なんだが大丈夫か?〕

〔operator4:どうしたいきなり、らしくないぞ。とりあえず言って見ろ〕

〔operator3:大亜連合の強襲部隊・・・揚陸艦を国防軍で撃沈できないか?〕

 

 この質問・・・と言う依頼に対して、本格的に訳が分からなくなってきた。

 

〔operator4:本当にどうしたんだ。"赤旗計画"そのものに俺らが介入するほどの価値はないだろうに。それに今から国防軍を動かしても主力もいないんだから補足した頃には既に港にまで来るだろうさ。心配するな、たかが横浜の中だけでの作戦だ。そう気にすることは無いだろう?〕

〔operator3:どうしても無理なのか?頼む、事態はもはや深刻な状況に陥ってるんだ〕

 

 この言い様には違和感を覚える。思い当たった中で出てくるこの焦り様は、確か第三次世界大戦の時のそれに近い。

 一体何があったのか。まず目先の質問に答えを返してから、聞くことにした。

 

〔operator4:無理だな。揚陸艦が今どの位置にいると思ってるんだ。明日の昼には港に入れるだけの位置にいるんだ。今更国防軍の艦艇を動かしても間に合わない。空軍を使った攻撃も迎撃システムでやられるだろうからそもそも無意味だ。らしくないぞ、そんなことさえ分からないなんて。何かあったんだ?〕

〔operator3:・・・すまない。完全にこちら側の落ち度だ。出来れば、尻拭いをして欲しい〕

〔operator4:本当に何があった。別にお互いの協調は当たり前のことだから気にすることでもないだろう〕

〔operator3:・・・こちらでも先ほどまで動いていて、やっと事態を把握したんだ。もう少し、この事態を予期できていれば・・・〕

 

 悲観的な思考になってるNo3の、次の言葉を待つ。

 

〔operator3:・・・大亜連合の機密庫に先ほど確認を取らせると同時に、大亜連合強硬派の上層部に対して部隊を投入し、尋問を掛けた。こちらでも調査の上にその必要があると判断したからだ〕

〔operator4:それで、何が分かった?〕

 

 その問いに対して、出てきた答えは最悪といっても良い物だった。

 

〔operator3:・・・機密庫から、大亜連合の旧型スーツケース核爆弾が二発、消えていた。また、大亜連合強硬派上層部の尋問の結果、"赤旗計画"の揚陸艦にそれらが搭載、人員を潜入させて横浜、京都に仕掛ける計画があることが判明した〕

〔operator4:おいおい、まさか・・・・〕

〔operator3:そうだ〕

 

 

 

 

〔operator3:連中は、"核"を使うつもりだ〕

 

 

 




次回。物語は加速する。


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第六十話~状況開始~

五十九話からはほぼサブタイトルを二文字で固定させる事は雰囲気的に無理だと思ってください。何が言いたいかというと、このSSでの一番の山場なのです。

今回も長め。1.5話分かな。


【Saturday,October 29 2095

 Person:operator4   】

 

 

 

 

 

〔operator4:核だと?!何でそれを今まで・・・、いや、いい。お前に出来なかったんだ。俺らにでも出来るかどうかは怪しい〕

 

 一瞬No3に対して限りない怒りを覚えた。何せ小型とはいえ核の動きを把握できていなかったのだ。気が抜けていたのではと思うレベルだ。

 しかし、No3も無能ではない。彼らに出来なかったと言うことは、こちらにも把握できるような状況だったかどうかは分からない。そう思いなおし、先のことを見ることにした。

 

〔operator3:本当に済まない。現状赤旗計画の中止を呼びかけるには時期が遅れすぎてる。何とかして核を起爆前に無力化する必要がある〕

〔operator4:・・・わかった。後始末はこちらで何とかする。そっちは大亜連合が日本からの交渉のテーブルに着くように手回しをしてくれ〕

〔operator3:具体的には?〕

〔operator4:それは状況が決める。俺らが止められれば日本側に有利に、止められなければそうとも限らない〕

 

 今回は完全に日本側に味方する形になる。なにせ大亜連合の切り札を潰すのだ。えこひいきと見られても仕方ないかもしれない。

 しかし、これにはNo3側も否定することはなかった。

 

〔operator3:分かった。何かしらあれば遠慮なく言ってくれ。出来る限り助力する〕

〔operator4:当たり前だ。では切るぞ。早速行動に移ろう〕

〔operator3:あぁ。それではまた〕

 

 それを最後に、パスが切れる。

 この非常事態に、やるべきことは既に頭の中に浮かんでいた。

 素早く別のパスを開き、"全ての調整者"を呼び出した。

 

〔operator4:全員聞け。緊急事態だ。現在の作業を中断し全ての能力を今回の指令に使え〕

〔moderator5:如何なさいましたか。緊急事態かとお見受け致しますが〕

〔operator4:その通りだ。各員聞け。先ほど大亜連合にいる調整者No3から緊急の連絡があり、現在大亜連合で進行中で、日本に対する強襲が計画されている"赤旗計画"にて、二発の小型核爆弾が使われることが判明した〕

〔moderator10:か、核爆弾ですか?!〕

〔moderator1:そんな馬鹿な。それは事実なのですか?〕

 

 混乱の広がる各調整者だが、それでも状況の把握をまず最初にやろうとするのは訓練された証拠とも言えるのだろうか。しかしそれでも、動揺は大きかった。

 

〔operator4:事実だ。今現状我々に必要なのは、小型核爆弾を運ぶ工作隊の作戦遂行前の確保、そして核爆弾そのものの確保、もしくは無力化だ。これから言うことを一つでも遂行できなかった場合は、恐らくは失敗するだろう。各員、全力を尽くせ〕

 

 全員から是の返答が来た後、それぞれに指示を出していく。

 

〔operator4:No1は各省庁に最大級の警戒態勢を敷かせろ。魔法科コンペがあるはずだからソレを名目に上手くごり押せ〕

〔moderator1:了解しました〕

〔operator4:No2は横浜近辺にいる駐屯部隊に訓練の名目で実包を装備させ、戦闘準備をさせろ。夜戦訓練とでも言っておけ。足もきちんと用意させておけよ〕

〔moderator2:了解です。直ぐに取り掛かります〕

〔operator4:日付が変わってからでいい。書類を作成するだけの時間はあるはずだ。No3は神奈川近県の全ての対空兵器をアクティブにしろ。同時に避難ヘリに対しておまえ自身で定めた着陸地点以外での着陸を禁じろ。最高権限で発動させろよ。間違っても十師族のヘリを十師族の土地に着陸させるような例外は認めるな〕

〔moderator3:分かりました。これらは直ぐに取り掛かっても問題ないですね?〕

〔operator4:発動は戦闘が開始されてからだがな。準備は今からでも問題ない。No4は敵揚陸艦が湾内に入った段階で全ての地上交通インフラを麻痺させろ。事故やら点検やらで完全に横浜を孤島にしろ〕

〔moderator4:よろしいのですか?〕

〔operator4:核を逃がしたらもっと大勢の人間が死ぬ。絶対に躊躇うなよ。No5は警察などを動かし道路などを徹底的に封鎖。検問を敷け。あらゆる例外を認めずに全ての所持品をチェックさせた上、無害な一般人に関してはヘリを用意し、ソレを用いてNo3が事前に用意した着陸ポイントまで避難させろ。後が詰まると面倒なことになる。ヘリは十分な数を用意させろよ〕

〔moderator5:畏まりました。ヘリ等の準備は今から始めたいと思います〕

〔operator4:任せる。No6は直ぐに演習中の国防軍主力艦隊を呼び戻しつつ領海に戦時潜水艦警戒網を敷かせろ。こんなもんで大亜連合の二次攻撃は防げないが、少しでも減らすことでいざと言う時の陸側のダメージを減らせ〕

〔moderator6:了解。直ぐに動かします〕

〔operator4:No7は各空軍基地に緊急警戒態勢を敷かせろ。タイミングはNo4の時と一緒だ。少しでもヘリ、VTOL機、小型輸送機などが承認なしに飛び立った場合は速やかに撃墜しろ。恐らくは湾内侵入と同時に攻撃を仕掛けてくるはずだが、そうでない場合でも構わない。後始末は面倒になるが核を起爆させられるよりはましだ〕

〔moderator7:了解。準備を進めます〕

〔operator4:No8は朝に内閣の連中を集めろ。事が起こった時には直ぐにこちら側の要求を遂行できるように待機させておけ〕

〔moderator8:分かりました〕

〔operator4:No9は大亜連合にいるNo3に話を通しておくから、あっち側と連携を取れるようにしておけ。一番退屈かもしれんが場合によっては一番重要な役割にもなり得る。気を抜くなよ〕

〔moderator9:了解しました。同時にこちら側での連携も私を中心とした物でよろしいのですか?〕

〔operator4:全体の指揮もできるなら任せる。何が必要なのかは分かっているはずだからな。No10は状況終了後の日本と大亜連合の交渉の為の準備を進めろ。成否どちらにもあわせられるようにしておけよ〕

〔moderator10:了解です〕

〔operator4:では現刻を以って状況を開始する。各員、死力を尽くせ。以上だ〕

 

 その言葉を最後にパスを切り、今度は"部隊"を動かす為に端末から連絡を掛ける。

 

『俺だ。緊急事態だ。明日の朝の段階で部隊を動かせるように準備をしろ』

 

『いきなりですね。準備の後は別命あるまで待機状態でよろしいのです?』

 

『そうだ。こちらから指示があった場合はそれに則って行動しろ。汎用ヘリ二機と攻撃ヘリ一機を運用する前提で準備させろよ』

 

『何をするつもりなんです?』

 

『命令はこちらと合流後に通達する。状況は激しく変わる可能性があるからな』

 

『合流するお積もりですか?!』

 

『そうだ。恐らく作戦地域は横浜になる。そのつもりで用意させろよ!』

 

『了解!』

 

 そう指示した後、通話を切る。

 

「後は移動準備だ。こちらからバイクで行った方がいいだろうな。いやしかし・・・」

 

 現状ではまだ"彼ら"は事態を把握していないだろう。また、させるつもりもない。

 しかし、俺は一応でも連帯行動を取らない限り特にレオやエリカに対して何かを察しさせてしまう可能性がある。出来るだけ核のことは秘密裏に処理したい。その方が後の日本と大亜連合の交渉の際の"切り札"になり得る。

 

 しかし、こちらで核の位置を把握、可能ならば確保を実現する為にも揚陸艦が湾内に入った時点で上陸に対して備えておきたい。そのためにもバイクは用意したい。

 

 

 そして、それらの問題を解決してくれる人物も、また直ぐに思い当たった。

 港湾警備隊の入沢を端末で呼び出す。

 彼は案外夜も暮れている時間ではあったが数コールで出た。

 

『もしもし。いきなりどうした?』

 

『緊急の要件だ。理由は問うな。今から言う物を速やかに用意し、指定があれば十分以内に横浜国際会議場に持ち込む用意をしろ』

 

『その物は?』

 

『小型の短機関銃、出来れば四十五口径の奴を一丁とマガジンを六個。それに単発型の擲弾銃と通常弾頭を三発。携行爆薬を三個。それとバイクを用意しておけ』

 

『アタッチメントは?』

 

『どうせ賑やかにする予定だ。短機関銃の方はRDSとフォアグリップだけで構わん。四十五口径の奴はフラッシュライトを頼む』

 

『分かりましたよ。必ず用意させておきます』

 

『ならよし。もしかしたら場合によってはその後で追加で何か物を頼むかも知れん。その時には一時間以内に用意できるようにしておけよ』

 

『ソレに関しては出来るかどうか分からん。努力だけはしておくって事で』

 

『構わん。頼むぞ』

 

『了解』

 

 それを最後に通信が切れる。

 

 これで、今の段階で出せる指示は全て出した。後は、時を待てばいい。

 

 

 

 必ず核を止める。

 この先の、パワーバランスの為にも。




オリ主勢の本気モードです。


なお、大亜連合が核を使ってくるという設定はかなり前から考えてました。というのも、大亜連合が戦争を再開する予定だとしたらせっかくの強襲作戦をあそこまでちっぽけな物にはしないんじゃないかなと前々から思っていたからです。そこで、秘密裏に核を使う予定だったという設定を作りました。もしかしたらあったかもしれないというのは、このこと。

達也達はその、ほんの僅かな一端しか今回は知ることは無いでしょう。しかし、水面下ではこの重大な事態が進んでいる。その模様を、お楽しみいただければ幸いです。


次回、雰囲気を出す為に達也回にするかも。


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第六十一話~異変~

雰囲気出す為に達也回という名の繋ぎ回。原作主人公なのに一番盛り上がった横浜編でのこの扱い。だけれども仕方ない。そう、このSSだからね。


【Sunday,October 30 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 

 前回の尋問後での戦闘では結局解放された後に"彼"によって残されていたのは戦闘の跡と昏睡した呂剛虎、そしてもはや国家機密を名目に黙して何があったのかさえ話さない八王子特殊鑑別所だった。・・・と言っても、こちらは"眼"で、そして真由美は"マルチ・スコープ"にて何が起こったのに関しては把握していたのだが。

 

 "彼"の目標が情報の独占だと仮定し、早々に工作隊の確保作戦を進めるべきと具申したのは正解だったと今更ながら思う。現に独立魔装大隊による強襲作戦と同時刻に秘密作戦中の国防軍との遭遇があったとの事だ。狙いが工作隊の確保だということは分かりきっていたのだから。

 

 

 しかし、関本勲の身柄を押さえられたのは痛手としか言えなかった。

 

「本当はせめてもう一回は尋問したかったんだがね・・・」

 

「家の名前でごり押しできることでもないし、そうなるとやることもないからね」

 

 そう話す摩利と真由美はどこか不満げだった。関本勲が何処に移送されたのかさえ"機密"と言って教わることはなかった為、そもそも面会の許可を取りに行くことさえできない。七草の名前でごり押すにしても時間が足らず、結局予定より早めに会場入りしたと言うことだ。

 

「論文コンペの資料が狙われていた以上、コンペの当日に背後組織が新たな行動を起こす可能性は決して小さくない。せめて情報だけでも得たかったのだが・・・」

 

「無い物をねだっても仕方ないでしょうから」

 

「そうだ。つまり、今後の事態は予想できない」

 

 そう断言して注意を促す二人に対して、こちらは一人だけ、知り得る人物を確実に知っていた。

 "彼"なら、関本勲に関する情報も知っているだろう。それどころか、これから何が起こるかさえ分かっているはずだ。彼の勢力は皮肉なことに、今こちらが一番欲している情報収集能力に関しては完全な物を持っている。しかし、"彼ら"は今回のことにもどうやら無干渉を貫くつもりらしい。

 

 

 しかし、聞いてみるだけ悪くは無いか。そう思い直し、一旦控え室から出た後端末に連絡をかける。確か今日は"彼"は幹比古達と一緒に会場に来ていたはず。適当に呼び出して聞いてみればいいだろう。

 

 しかし、出てきた音声は電源が切れている事を知らせる物だった。

 

 急ぎと言うわけではないが、念のために今度は幹比古の端末に掛けてみる。現在ならば観客席に座っているはずだ。

 

 こちらは今度は、数コールで出た。

 

『もしもし、達也?いきなりどうしたんだい?』

 

『すまない幹比古。近くに借哉はいるか?』

 

 しかし質問の答えは、何か引っかかる物だった。

 

『いや、ついさっき会場から出て行ったよ。どうにも家の用事があるって言ってた。どこかと電話してたみたいだし』

 

『家の用事?』

 

『詳しいことは聞いてないんだけど、特に引き止める理由も無かったし』

 

『何か変わった様子はなかったか?』

 

『え、いや・・・・。でも、どうも初めから最後まで見ていく気がなさそうな感じは覚えたかな』

 

『そうか・・・。ありがとう。念のために周りを警戒しておいてくれ』

 

『え?分かった。何かあったのかい?」

 

『念のためだ。そう真剣に考えることじゃない』

 

『分かった。一応そっちも気をつけてね』

 

 その一言で通話が切れる。

 

「どうも引っかかるな・・・」

 

 もし無干渉を貫くつもりなら、会場に居座っていても問題ないのではなかろうか。しかし、彼自身にも態々論文コンペの応援をする義理は確かにない。しかし、それを言うならばそもそも幹比古たちと一緒に会場に入ることさえしなかったはずだ。

 

 電話をしていた、ということは急な情報が舞い込んだのか。しかし、それにしては行動が少々順序立ち過ぎている気がする。

 

 何か、起こるかもしれない。しかし、それが何かを予想することは出来ない。

 藤林から渡されたデータカードから見ても、決して何も起こらないだろうとは言えない。しかし、そこまで大事が起こるとも、余り思えない。

 

 

("彼"だけが知っている情報がある・・・。恐らくはソレに基づいた行動か?)

 

 

 彼のこれらの行動を総括すると、どうも"何かに対処する"というより、"厄介ごとから逃げている"と言う方がしっくり来る行動の仕方だ。もちろん彼なら多少の厄介事などさほど問題にはならないはずだが、そもそもが厄介事を嫌う性質にある。そう考えると、大なり小なりこちらに何かが起こると考えるのが自然か。

 

 

 しかし、似たようなことはまさに"四月"の時がそれだった。

 表向きは厄介事から逃げている。しかし裏では、むしろ何かしらの手を回している。

 

 

 今回も、そうである気がしてならなかった。

 

 




次回、オリ主回。


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第六十二話~追尾~

タグを追加する予定です。最近銃火器系の描写が多いので。


【Sunday,October 30 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

「港湾警備隊、全部隊の配置を完了しました」

 

「ありがとう。それにしても入沢のやつ、いい仕事をするな」

 

 そう言って見渡すは現在バイクをその場に止めて大亜連合の部隊の襲来に備えるべき待機している山下埠頭での警備員の多さだ。

 山下埠頭を含め横浜湾全域において一時的な警備の強化が実施されている。これはNo1に言いつけたことも影響にあるが、入沢が身分も弁えずに港湾警備隊に具申した結果だった。

 

 しかし、これはいい方向に働いている。武装は本当に警備員レベルでしかないが、それでもいないよりはマシだ。その方が一時的に事態を進めやすくなる。

 

 大亜連合の揚陸艦が入ってきていたのは確認していて、その時点で交通インフラを完全に麻痺させ、また道路に関する完璧な検問が始まり、"部隊"にもこちらを着陸地点として既に呼び出している。全ての準備は整い、後は"核を引き出す"だけだ。

 

 現在時刻は午後三時三十分。そろそろ、大亜連合の揚陸艦から仕掛けてくる頃合か。

 

 

 そう思った直後、"背後"から爆発音が響いた。

 

「な、なんだ?!」

 

「何が起こった?!」

 

「落ち着け、現状の確認急げ!」

 

 慌てる港湾警備隊を一喝し、状況を整理させる。とは言っても、すでに予想はついている。

 

 そして結果もまた予想通りだった。

 

「管制ビルに特攻攻撃です!追加の特攻はないようですが、避難は既に始まっています。我々はどうすれば?」

 

 その意図は開いた監視網の穴に対する処置について。通常ならば現在展開している湾岸警備隊にそれを当てるのがよい。

 

 しかし、"何が起こるか知っている"となると、話は別だ。

 

「全員退避!攻撃が来るぞ!」

 

 そう言うと同時に、"目の前の揚陸艦"から各埠頭へロケット、及びミサイルによる攻撃が開始される。

 何とか指示が間に合ったのか壊滅こそ免れているが、現在の港湾警備隊の指揮統制能力は大きく下がっていた。

 

 そして、同時に埠頭"内部"から旧型の装甲車、及び直立戦車が現れる。

 

「最初は事前に忍び込ませた工作隊による撹乱を狙うつもりか・・・」

 

 素早くバイクと共にコンテナの端に寄せ、隠れると同時にほぼ無駄だと分かっている指示を無線機を通して出す。

 

『全港湾警備隊へ。現在敵勢力からと思われる攻撃を受けている。該当地域の隊員は速やかに離脱。他の部隊は付近の一般市民の避難を支援しろ』

 

 通達が終わり攻撃の様子を見ていると、揚陸艦から"軍用車両"が出てきた。

 このタイミングで本隊を出すはずは無い。そう思い、"眼"を使って確認する。

 

 

 結果は、"本命"が確かにそこにあることを示していた。

 

 

「見つけた!」

 

 そう叫ぶと同時にバイクに跨り、エンジンをスタートさせて後を追いかける。

 軍用車両側も追われている事に気づいたのだろう。速やかに車両を二分させてきた。

 片方は魔法協会、ではなく石川町方面へ向かっている。恐らくはこちらは警備が厳重化された可能性がある魔法協会を一時的に避けたのだろう。もしくは別の地点で起爆するつもりなのか。

 

 そして、もう一つの車両は、桜木町方面へ。こちらは恐らく、京都に運ぶ分だろう。しかし、インフラは既に麻痺させている。駅から運ぶことは不可能なはずだ。

 

 

 京都用の核爆弾が横浜にある限り、大亜連合は横浜で核を起爆することは出来ないはず。ここで京都用の核爆弾を確保すれば、少なくとも起爆を決断するまでにいくらかの時間は要するはずだ。そうでなくては肝心の精鋭を揃えた本隊をもろとも吹き飛ばすことになる。最低でも揚陸艦が離脱するまでの時間は必要とするはずだ。

 

 ならば、やるべき事は京都用の核を確保後、速やかに横浜用の核を確保すること。となると、選択は一つしかなかった。

 

 

 桜木町方面へ向かう車両を追いかけつつ、端末を取り出して部隊に連絡をかける。

 

『俺だ!現在国防軍独自で組織した避難計画を教えろ!後は軍事衛星を用いて石川町方面に独走中の車両を追尾しろ!』

 

『了解しました。・・・石川町方面へ向かう軍事車両を確認。これより軍事衛星による監視を開始します。現在国防軍で組織された避難計画は事前の物に乗っ取って避難船が準備されています』

 

『それだな。到着にはどれほど掛かる?』

 

『二時間ほど必要とするかと』

 

『となるとそれまで待機する場所が必要だな・・・・』

 

 そう独り言を零しながら展開を予測する。

 現状陸路は麻痺させていることは大亜連合でも把握しているはず。一番横浜を脱出しやすい方法は、やはり先ほどの避難船から一般市民にまぎれて、だろう。

 本来の大亜連合の計画の一部が遂行される場所で隠れられれば一番いい。それも、出来るだけ隠れやすい場所が。

 

 答えは、"つい数時間前まで自分がいた場所"だった。

 

『聞け!部隊の着陸地点を変更する。予定着陸地点は横浜国際会議場だ。合わせられるな?』

 

『分かりました。ヘリパイロットに通達します』

 

『ならよし。そっちで会おうと伝えてくれ』

 

『了解!』

 

 そこで通話を切り、目の前の車両に攻撃を加える。

 元々用意させた重武装で待機していたため、最初から満足いく火力で攻撃が出来る。

 擲弾銃を取り出し、車両の側面に命中させる。

 

 しかし、さすがは軍事車両なだけあり、榴弾では多少車の機動を不安定にさせる程度にしかダメージを与えることは出来なかった。

 

「あぁ、やっぱりこうなるか。リロード出来んのだぞ運転中は・・・」

 

 無力化させるとしたら車体に直接爆薬を着けるしかない。しかし、恐らくはその前に目的地に到着してしまうだろう。

 

 当然だ。お互い法廷速度など既に超えた速度でカーチェイスをしているのだ。むしろ事故を起こしていないのが不思議なレベルだ。

 

 もう既に横浜国際会議場は目の前にまで来ている。相手車両は減速の構えを見せていた。

 

 しかし、ここで内部に入られると室内での近距離戦に成りかねない。こちらは、あえて"加速"した。

 

 相対的な速度差が減り、一気に車両の前に出る。

 そして前に出て最適のタイミングでバイクを横にし、減速を開始する。

 これならなんとか相手の前に出たまま横浜国際会議場に着くはずだ。

 

 

 そして、相手も屋内に入るのが一時的な目的である以上、甘くは来ない。

 素早く上部ハッチを開け、こちらへグレネード弾を発射し、それはバイクの傍で着弾する。

 

 爆発の衝撃でバイクが宙を舞い、放り出される。

 

「クッソがぁ!」

 

 そう叫びながら、懐から何とか手榴弾を取り出し、車両へ向けて転がす。

 

 

 車両が停止したタイミングで手榴弾は爆発しその車両の走行能力を奪い、

 

 

 こちらは国際会議場の内部へバイクと一緒にガラスを突き破りながら再度入ることになった。

 

 




ということで終了時刻15:37あたり。結構時間に無理があるんじゃないかと指摘されるかと思われますが、一応概略図では15:30時点で埠頭からコンペ会場まで1/3の距離まで部隊は展開している様子。また、16:00から五分以内に歩きで横浜国際会議場から地下シェルター付近にまでいける(七草&深雪の地下陥没の確認の時点での時刻が16:05で、出発が16:00かソレより後bywiki)、また原作でも53分以内に横浜国際会議場での戦闘~最後尾の七草組がシェルター付近にまで行けた事も考えて距離は近い物と推測し、この物語を構築しています。魔法による移動での速度もバイク並ということは、七分以内だったら何とか着けるかな、という寸法です。

なお、最後の互いの爆発。これが横浜会議場での最初の爆発になります。行き成り正面に擲弾とか普通無意味じゃないですか。ソレに対する辻褄あわせ。ここでは達也様も"眼"を使っていないから核の存在は察知できてないっていう。

次回、オリ主は死なん。死んでも蘇るさ。装備ごと。

【追記】誤字を一部修正しました


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第六十三話~屋内戦~

戦闘描写がだんだん単調になりつつある気がする。
まぁ、仕方ないと割り切る他ないけど・・・。


【Sunday,October 30 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

「ぐぅ・・・死なんけども痛いもんは痛い」

 

 地面に打ち付けられ、体の節々が痛む。

 加えて元々の重装備だ。怪我がなかったのは単純に"人間じゃなかったから"という事と、"再成"の賜物という二点に尽きる。

 

 

 周りからスーツを着た警備員がやって来ている。やはり高校生よりは行動が早い。

 しかし、今回はそれが仇となったと言ってもいいかもしれない。

 

 素早く柱に隠れると同時に、正面玄関に工作員達が入り込み銃撃を開始する。

 使ってる弾はよりにもよって対魔法師用の物だ。こちらに駆けつけて露骨に姿を晒していた警備員の一部が被弾し、同僚によって物陰にまで引きずられている。

 

「対応が遅い・・・っ!」

 

 奇襲を受けた形とはいえ、この状態では烏合の衆に等しい。愚痴をこぼしながら四十五口径の短機関銃で攻撃を加える。

 しかし工作員側もプロだ。"目的"のために無理はせず、制圧射撃に留めている為迂闊に体を晒してこない。

 

 おそらく、目的は二つ。

 一つ目の集団がメインホールになだれ込んでいく。同時に、悲鳴がいくつも上がる。

 そして、もう一つの集団は別方向へ。

 集団の真ん中の人物が"本命"を抱えていた。

 

「逃がすか!」

 

 そう言って飛び出すと同時に、現在も制圧射撃を加えている正面玄関側の工作員とこちらの真ん中のところに発煙手榴弾を投げつける。

 素早く煙が広がり、こちらの姿を一時的に隠す。

 まだ銃撃は続いているが、狙われて足止めされるよりはマシだろう。

 

 

 全力で走りながら"核"を追いかける。

 あちら側も追撃に気付いたのか、何人も足止めのために立ち止まる。

 しかし、

 

「その程度でぇ!」

 

 姿を晒した工作員を短機関銃で穴だらけにして、素早く角に隠れた奴に対しては手榴弾を投げつけ吹き飛ばす。

 

 "核"を追いかけ、右に曲がったところで伏兵が襲い掛かる。

 しかし、これでやられるようなら今までの工作だって成功していない。

 ナイフを振りかぶる敵に対して左手で相手のナイフを持つ右手を受け止め、そのまま右手に保持していた短機関銃で頭を撃つ。

 

 素早く残り少なくなった弾倉を換え、"核"を追いかける。

 

 

 その最終地点は、非常用の物資などを保管する地下倉庫だった。

 隠し物には、一番良い。恐らくは避難船が来るまではここで高校生たちを人質に取り、避難船が来たら高校生とともに民間人に紛れて核を運ぶつもりだったのだろう。

 

 しかし、ここまできたらもう袋の鼠だ。

 ドアには鍵が掛けられ、誰も入れないようにはなっている。

 しかし、そもそも律儀に開けるつもりもない。

 

 

 携行爆薬をドアに設置して、すぐ横に退避する。

 数秒もせずに爆薬は炸裂し、ドアを内側へ吹き飛ばした。

 その一瞬の間に突入し、短機関銃を構える。

 合計五人。核は、彼らの足元にある。

 核のそばにいる二人をまず最初に撃ち殺し、物陰に隠れながら閃光手榴弾を放る。

 一拍置いて、炸裂。

 素早く物陰から出て、目と耳をつぶされた残りの敵を潰していく。

 

 

 倉庫の中が、静かになる。

 こちらに銃を向けてくるものは、もはや誰一人中にはいなかった。

 

「なんとか、なったか」

 

 トラップなどの類に注意しながら、"核"のそばまで近寄る。

 そこまで大きくはない。小脇に抱えられる程の小ささにまでされた、俗に言う"使ってはならない兵器"。

 

 京都に向けて運ばれるはずであったであろう其れを、何とか確保することには成功した。

 

 端末を取出し、部隊に連絡を掛ける。

 

『俺だ。後何分ほどで到着する?』

 

『あと五分ほどで到着予定です』

 

『燃料は持ちそうか?』

 

『わかりません。国際会議場から作戦地域内の指定箇所に一回移動したら、一回補給に戻る必要があるかと思われます』

 

『分かった。それまで待つことにする。出来る限り早く来いよ』

 

 そう言って、通話を切る。

 メインホールでも悲鳴はもう上がっていなかった。それは決して、"上げる者がいなくなった"訳ではない。

 

「計画が甘い。"彼"がいる以上、元々確保なんて出来る訳がないだろうに」

 

 "眼"では既に正面玄関にいた工作員も大半が死亡し、他は既に逃走しているのが見える。彼らの作戦は完全に失敗している。

 そして、それらを行ったのはよく知る人物たち。

 

「"彼"の周りは本当に腕の立つやつばかりが揃うな。類は友を呼ぶ、とでも言うのか」

 

 彼らがいる限り、この場は間違いなく持つだろう。

 となると、逆に現在確保した"核"をあまり見られるわけにもいかない。

 

「取りあえずは一服できるかな」

 

 そう独り言をこぼしながら煙草を取り出し、火をつける。

 本来なら火災警報が鳴り響くだろうが、あいにくと既にあちらこちらで火薬が炸裂していた以上鳴っているのは別の警報だ。

 

 

 とりあえずは、一つ目。

 部隊が来たら、二つ目を確保しに行かなければならない。

 その間に生まれた、わずかな休憩時間の間、死体が転がる地下倉庫の中でその僅かな時間を噛み締めていた。

 

 




ということで一つ目の核を確保。ヘリを待つことになります。
この時点で達也グループはVIP会議室へ向かう途中になります。国際会議場が一時的に、静かになりました。
さて、この後賑やかになるかどうかは想像にお任せします。

次回、展開によっては達也回になるかも


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第六十四話~謎~

短めです。かつ、達也が事態の一片に触れます。


【Sunday,October 30 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 正面玄関での戦闘もうまく鎮圧し、今現在必要なことは論文コンペで使用されたデモ機のデータの削除だ。

 

 

 雫に案内されたVIP会議室で把握できた状況は、とても好ましいとは言えなかった。敵・・・おそらくは大亜連合による侵攻。まさかここまで大事になるとはつい先ほどまでは確かに思っていなかった。

 

 しかし、ある意味予感は当たっていたのかもしれない。

 "彼"が、少なからず動いていたということは、おそらくはそういうことなのだから。

 

 

 皮肉なものだと思いながらデモ機のデータを消去していく。現在は一人だけだが、その分"分解"を遠慮なく使うことが出来るため楽なものだった。

 この調子だと数分と立たずに終わるだろう。

 

 

 

 最後のデモ機のデータの削除が終わったとき、ヘリのローター音が聞こえてきた。

 室内でも聞こえるほどだ。おそらくはよほど近くまで来ているのだろう。

 

 しかし、VIP会議室でもここまで早く救助のヘリが来るということさえ確認できてはいない。もしかしたら敵のヘリという可能性もあり得ないわけではない。

 

 そうなると、速やかな迎撃が必要だ。そう思い、正面玄関から外に出ようとする。

 

 

 そこから見えたヘリは確かに"敵"のものではなかった。

 確実に、国防軍の一部隊の代物。

 しかし、彼らの装備は確実に一般部隊のソレではないことを物語っていた。

 

 国防軍に配備されているハイパワーライフル。そして見た目こそ二十一世紀初頭に見えるが装備としては一線級の防具一式。

 そして、全員がつけている目出し帽。

 

 それらが指し示す部隊など、一つしかない。

 

 

「おっと、余計なもん見られちゃったかな」

 

 そう、"後ろ"から"いるはずのない人物"の声を聞き、咄嗟に振り替える。

 そこには、スーツ姿に身を包み、小脇に"筒"を抱えている"彼"の姿があった。

 

「この事は内密にな。それさえやってくれりゃとりあえず九校戦での借りは無しでいいさ。俺もまだ"仕事"がある。ここで足止め食うわけにもいかん」

 

「お前、いったい何が・・・」

 

「さぁ。何だろうな。想像にお任せする」

 

 そう言って、"彼"は着陸したヘリの周りで警戒体制のまま待機している部隊の所へと向う。

 "彼"の姿に気づいたのか、兵士が皆"彼"の方向に向き、敬礼する。

 そして"彼"もまた、敬礼を返した。

 

 ヘリの内部から男が出てきて、"彼"に敬礼を返す。

 

「閣下、中央即応集団所属特殊作戦群予備分遣隊、現刻を以て到着しました!」

 

「ご苦労。直ぐに飛び立たせるぞ、隊員をヘリの内部に収容させろ。作戦の詳細は機内で話す」

 

「ハッ!」

 

「達也!聞こえるか!」

 

 ヘリのローター音でかき消されそうな中、"彼"が声を張り上げる。

 

「この先おそらくは賑やかになるだろう。お前にも上から命令が回ってくるかもしれん。だがな、それでもやりすぎるなよ!場合によってはそれ相応の措置を取るからな!」

 

「待て、一体何が起こっている!」

 

「"俺の関わっている事"は知っちゃいけないことだ。分かるな?」

 

 その言い草に気になり、"眼"を使い彼が抱える"筒"を見ようとする。

 しかし、彼自身による抵抗があるのかは分からないが、何故か"視えなかった"。

 

「知っちゃいけないことだと言っただろう?見せるつもりはない」

 

「・・・」

 

「お前はお前の周りのことだけこなせばいい。変なところまで首を突っ込む必要性はないさ」

 

 そう言って彼が笑うと、ヘリに乗り込みパイロットに声を掛ける。

 

「よし、出せ!」

 

 その言葉と共にヘリのドアが閉まり、三機のヘリが南側へと飛び立つ。

 その様子を、ただ黙ってみることしか出来なかった。

 

 

「・・・本当に、何が起こっているんだ?」

 

 国防軍とも通じ、国を容易く動かし、そして自分自身でも高い能力を誇る、"彼"。

 その彼がこの騒ぎの中、様々なリスクを犯して介入している。

 

 一体、"彼"は何物なのか?

 この騒動に、どんな事実が隠されているのか?

 

 

 その問いは、もはや誰も返すことは出来なかった。




何か起こっているのは分かるが何が起こっているのかがわからないと言うのが一番謎めいていて個人的には好きです。奇妙さが出てきますよね。
今回の"眼"もオリ主そのものに付随する物を見ようとした結果視れなかったと認識して頂ければ。なおオリ主の内部構造を達也氏が視る方法が一つだけあります。ありますが、そんなことになるのは全面対決した時でしょう。

次回、ヘリ内部にて。


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第六十五話~特戦~

ちょっと洒落てみました。

ところでHellsingの演説は皆さん好きですか?私は好きです。
あれほど狂気じみてはいません。そうとだけ言っておきます。

続きは本編で。


【Sunday,October 30 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

 まずは、特殊作戦群予備分遣隊について説明しておこう。

 国防軍の前身である自衛隊の頃から特殊作戦群は一種の軍内部の特殊部隊としての位置づけに居た。隊員はそれぞれ並外れた戦闘能力を有し、おおよそ不可能と思える任務を遂行できるプロの集まりであった。

 

 

 魔法師が、戦力化されるまでは。

 

 

 敵対する部隊に魔法師がいただけで難易度は"唯の鍛えた人"の範囲では限りなく上昇し、また"唯の鍛えた人間"より"魔法師"の方が作戦の自由度が限りなく上昇した。

 加えて、この部隊が"特殊部隊"という性質を持っていたことも、ある意味災いしたのか。

 

 

 また、別に政府は"十師族"に最初から戦力を依存するつもりは無かった。独立魔装大隊とはまた別のアプローチで、"政府"の意向で動かせる部隊を所持するつもりだった。

 その為に、十師族以外の"優秀な"魔法師に特殊作戦群の隊員になり得るだけの"一般戦闘力"を持たせ、既存の隊員より強力かつ自由な行動が可能な兵士に仕立て上げる。

 

 そういう方向性に、特殊作戦群は舵を切られていく。

 

 幸か不幸かは分からないが、魔法師はその生い立ちからか国防軍へ志願する者が一般人より多い傾向にある。その状況では才能ある兵士を引き抜くには充分な供給が満たされている。

 

 

 では、ここで問題が出てくる。"誰を強力な兵士かつ魔法師の代わりに隊から抜くのか"だ。

 生憎と特殊作戦群の部隊はそうそう替えが効かない。その分、予備の確保は重要だ。また、元の隊員達は外部へ漏らしてはいけないような機密さえ知っている。しかし、部隊の定員は限られている為そう易々と増やすわけにも行かず、溢れた隊員の行き場が必要な状態に陥った。

 

 

 そこで、特殊作戦群の中に"予備分遣隊"が作られたのだ。

 "魔法師"に置き換えられた兵力を、そこに送り軟禁する為だけの分遣隊。

 今だ本隊にいる者にとっては恐怖の送り先であり、送られた者にとっては活躍の機会が二度と訪れない、正真正銘の"墓場"。

 

 ある意味、魔法師が作り出した闇の一つとも言っても良かったのかも知れない。

 

 

 だから、"我々"が引き抜いたのだ。

 "我々"が"彼ら"を拾い、魔法師に対する戦闘法を伝え、"非魔法師による魔法師殲滅部隊"に仕立て上げた。

 自由度は限りなく低くなった。しかし、その分彼らは化けた。

 

 闇に、影に隠れ、相手を殺すその瞬間までこちらの存在を露ほども匂わせず、そして存在が知れた頃にはまた直ぐに姿を晦ます。

 魔法師を相手にした場合、非魔法師部隊の中では最強と言っても過言ではない。

 彼らは、数少ない"我々の右腕"にまで成長した。

 

 

「着陸地点は現在攻撃ヘリによる制圧攻撃中です。最低でも五分ほど掛かるかと」

 

「よろしい。では全員聞け。これより簡易的なブリーフィングを行う」

 

 インカムを通して、別の汎用ヘリに搭乗する隊員達にも声ははっきりと聞こえる。

 

「今回大亜連合の侵攻の中、"我々"は大亜連合がスーツケース核爆弾を用いた破壊工作を行う計画があることを把握した。現在こちらの手により"一つ目"の核は何とか確保した。問題は、この場で起爆される可能性がある"二つ目"の核だ」

 

 誰もが、黙ってこちらの言葉を聞いている。

 驚きは、しない。彼らはただ、"やるべき事"をやる為にこの話を聞いているのだ。

 

「現在"核"を保有中の大亜連合は石川町の大規模道路交差点にて陣取り、起爆準備中と思われる。これらを起爆前に確保するのが諸君の任務だ。予定着陸ポイントは目標から三百メートルほど離れている。目標地点は針の山に近いからな。攻撃ヘリで制圧できるのはそこまでが精一杯だ。正面からの突破戦になる。気を抜くなよ」

 

 これにも、無言。しかし、決して不可能ではないかという疑問の念を抱く者は、この隊にはいない。

 彼らは曲がりなりにも"特殊作戦群"の一員なのだ。

 不可能を可能とする。その為に彼らは自らを鍛え上げてきた。そして、それらを生かせる、望めなかったチャンスが今、手元にある。

 ならば、任務を遂行するだけ。彼らには、その能力がある。

 

「攻撃ヘリからおおよその制圧完了の通信、来ました!いつでも行けます!」

 

「諸君、聴け!"俺"から諸君らに、言って置きたいことがある!」

 

 

 

「諸君、この戦いで、数々の国防軍は名誉や誇り、名声を得る事が出来るだろう。

 

 鎮圧しに向かった部隊は英雄として。特殊部隊はそれぞれの任務の為の、忠実な兵士として。

 

 確実に、彼らは何かしらの記録に残り、誰かしらからの賞賛の言葉を得る。

 

 しかし、諸君らには何も無い。

 

 名誉も、名声も、何一つ得る事は無い。

 

 そうだ。この作戦は、決して誰にも知られることが無い。

 

 諸君らの活躍は、誰にも知られることも無く、誰からも褒められることなど無い。

 

 この作戦では死ぬ者も出てくるかもしれない。しかし、そんな者達ですら、国の為に死んでいったという事実さえ、残ることは無い。

 

 

 だから、"俺"が見ていてやる。

 

 諸君らが何のために戦い、何のために命を賭け、何のために死んでいったのか。

 

 その一つ一つを、"俺"が記憶してやる。

 

 "俺"が、その"真実"を、最後まで記録してやる。

 

 だから諸君。存分に戦い、存分に自分に尽くし、そして自分の死に場所を探しにいけ」

 

 

「諸君、"俺"からの命令を伝える」

 

 

「さあ諸君」

 

 

 

 

 「世界を救うぞ!」(save the world!)

 

 

 

 

 




最後だけ英語で文字を振りましたが、きちんと日本語で言ってます。洒落っ気を追加した次第です。

この特殊作戦群予備分遣隊がオリ主達の持つ最強の手足と言ってもよいでしょう。
そして、この部隊はオリ主達の正体を知っています。前にも言ったとおり、案外各国上層部よりもオリ主勢が信頼している手足の方がオリ主達の事を知っているのです。
そして、彼らは絶対に裏切りません。今までの経験からオリ主達もその事を察しているからこそ正体を晒せますし、だからこそオリ主達のその部隊はオリ主達の為に全力を尽くします。

今回の演説?はそれだからこそ彼らの士気を上げるだけの効力があるのです。


・・・え?演説と言うには余りにも出来が悪い?
・・・勘弁してください。これが自分の精一杯なのです。

次回、戦闘。オリ主と共に、究極の人間達が戦います。


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第六十六話~確保~

アニメ見返して少々思ったこと。

横浜編で大亜連合の兵士が構えてた携行対空ミサイル、どう見たってアレRPG-7ですよね。

イグラとかそこらへんの装備さえないのかと。それともアレはRPG-7の形をした対空ミサイルなのだろうか。いやなぜRPG-7の外見にこだわったのかと、いろいろ考えました。


まさか大亜連合の兵士は対戦車ロケット弾を高速飛翔体に遠距離から命中させることが一般兵にも可能なほど訓練されてるのだろうか。・・・そんな訳はないはず。


【Sunday,October 30 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

「総員進め!攻撃ヘリの制圧射撃が続いている間に展開を完了させろ!」

 

 汎用ヘリから飛び降り、手持ちの短機関銃を構えながら進む。

 

 大亜連合の"核"を護衛する兵士達とはいえ、それらが全て魔法師という訳ではない。その相対的な数の少なさからも、精々一分隊に一つが限界だ。

 

 

 そして、一人の魔法で守ることが出来るのは凄腕の魔法師でようやく複数が限度。"並"の魔法師では自らの身を守ることしか出来ない。

 

 それならば、例えハイパワーライフルでなくても問題はない。

 

 

 こちらに銃口を向けた兵士に対して短連射で撃ち殺し、擲弾銃で隠れている敵を爆風で吹き飛ばす。

 

 

 後ろからは攻撃ヘリのロケットポットが敵陣をなぎ払い、機銃が相手に頭を出させない。

 

 

「目標まで二百メートル!敵側の直立戦車もこちらに向かってきてます!」

 

「対戦車ミサイルをぶち込め!」

 

 そう命令すると、部隊の中でも重装備をしていた兵士が携行ミサイルを構える。

 

 時代の進歩により戦車・ヘリの防御システムは限りなく上昇した。自動迎撃システムとフレアなどによる二重の防御により、並みのミサイルでは軍用は落ちない。

 

 しかし、直立戦車となると話は別だ。

 確かに、装甲の厚さから対空ミサイルで落ちることは無い。しかし、市街地での火力を求めたこの兵器は、対戦車ミサイルの速度でも容易に命中させることも出来る。

 

 

 何せこの直立戦車と言うのは限りなく無理をしている代物だ。

 何せ百五十ミリクラスの榴弾砲にガトリング、その他武装の重量を"二足"で支えている。しかも、市街地用にコンパクト化されたこの有人兵器には自動防御システムどころかスモークでさえ二十一世紀初頭の物でしか積むことがギリギリな状態だ。

 

 はっきり言ってしまえば"やられる前にやる"をコンセプトにしているとしか言い様がない。

 市街地内で戦車以上の機動性と機銃は防げる程度の装甲を持って敵陣に切り込む。言わば元々はこれは攻撃用の兵器と言ってもいい。

 

 

 つまり、防御用として使うとすればとことん相性が悪い。自陣を自身の機動で掻き回す訳にもいかないからだ。

 

 

 発射された対戦車ミサイルは急上昇した後、直立戦車へ向かって急降下し、直撃。

 対戦車ミサイルのトップアタックをまともに食らった直立戦車は自身の榴弾砲に装填された弾薬と共に爆発し、スクラップになる。

 

 

 しかし、こちらも無傷とは行かない。

 

 距離が百五十メートルまで縮まったところで、防弾ガラスを突き破る音と衝撃音が響く。

 

『こちら攻撃ヘリ!敵の携行レールガンによる攻撃を受けた!ガンナーがやられた!繰り返す、ガンナーが!』

 

『落ち着け!速やかに離脱しろ!そいつは徹甲誘導補助弾だ!次に来るのはEMP弾だぞ!』

 

 直ぐに無線で指示を飛ばす。流石に攻撃ヘリを落とされるわけにも行かない。

 

 

 相手が撃ってきたのは第三次世界大戦の際に近距離における汎用武器として使用された単発式携行レールガンだ。

 

 本来は市街地戦において比較的近距離で交戦せざるを得ない攻撃ヘリなどの時速三百キロメートル~五百キロメートルの飛翔体を撃墜する目的で開発された代物だ。口径は携行火器としては大きく二十ミリになる。そして、数発で撃墜する為に弾頭は徹甲誘導補助弾と誘導型EMP弾が使用される。

 

 しかし、この武装は第三次世界大戦に置いては主力火器の一つとして使用されることになる。

 その貫通力の高さから対戦車ライフルとほぼ同様に扱われ、またハイパワーライフルが登場するまでは魔法師に対する有効な攻撃手段として扱われたのだ。

 

 

「攻撃ヘリ、及び汎用ヘリの離脱を確認!敵陣からの攻撃、増しました!」

 

「敵魔法師からの攻撃!」

 

 攻撃ヘリが下がり、相手側の指揮も上がっている。

 また、大亜連合の魔法師も防衛に加わっているようだ。

 

 

 しかし、問題はない。

 

 今は戦時下だ。そして、態々"見られることを気にしなければいけない"ほど、この部隊に信頼が置けていない訳ではない。

 

 

 コマンドを開き、敵の魔法師を"消去"する。

 

 突然の事態に一瞬動きが止まる大亜連合の頭上に、閃光手榴弾を放り投げる。

 

 炸裂と同時に、前進。

 

「進め!目標まであと少しだ!敵を磨り潰せ!」

 

 相手が怯んでいる今こそ距離を縮めるチャンスだ。

 素早く防御陣に切り込み、崩壊させる。

 瓦解した大亜連合の兵士達を更にこちらの兵士達が仕留めていく。

 

「目標まで後百メートル!」

 

 近場の兵士が叫ぶ。

 もはや相手も先ほどまでの攻撃の勢いは無い。防衛陣は切り崩され、後手後手になっている。

 そして、それらを跳ね返せないのならそもそも彼らは"特殊作戦群"にさえなれてはいない。

 

 固定機銃に対して最後の一発になった擲弾を撃ち込み、無力化する。

 

「突貫するぞ!続け!」

 

 短機関銃を構えながら道路を駆け、目標の位置にまでたどり着く。

 目の前の敵を素早く撃ち殺す。当然全員ではないが、後は後続の兵士達が処理してくれる。

 

 

 

 今なお"核"を積んでいる先ほどの車両に張り付き、携行爆薬をセットし退避する。

 

「車両から離れろ!ドアを吹き飛ばす!」

 

 そう叫んでから数秒後、轟音。

 車両の片側は半壊し、炎も上がっている。

 

 しかしそれらを気にすることなく、後部座席に手を突っ込み、"もう一つの筒"を引っ張り出す。

 

 

 

「目標を確保!各員は周辺の制圧後防御陣を構築しろ!」

 

 

 

 そう命令を出し、車両から離れた後中身を確認する。

 

「閣下、核は?!」

 

「大丈夫だ!まだタイマーもセットされてない!」

 

 その言葉に安堵する兵士に対して、笑いながら注意する。

 

「まだ終わってないぞ。これからこの"核"をきちんと運び出さなけりゃならん。一回退避したヘリが再度戻るまでこの場を保持しないと歩いて帰ることになるぞ」

 

「ハッ!全力を尽くします」

 

「ならよし。期待してるぞ」

 

 そう言った後、時刻を確認する。

 十六時十五分。汎用ヘリから降り、戦闘が開始されてから十五分が経過していた。

 

 

「連絡来ました。回収用のヘリは後三十分で到着予定との事です」

 

「分かった。周辺警戒は厳にしろ。相手からの反攻の可能性もある」

 

「了解!」

 

 

 三十分の防衛。

 戦闘に置ける三十分はとてつもなく長い。むしろ五分でさえその場の保持というのは長いのだ。

 しかし、相手側の戦力も多いわけではない。そう考え直すことで、まだマシと思い込むことにした。

 

 

 既に"一つ目の核"は退避した汎用ヘリによってNo3が管理している着陸地点に到着した後、No3が直接受け取る手はずになっている。

 そしてそれらの核は、こちらの手から内閣へと移り、大亜連合との交渉の際のカードとして使用される。

 

 

 しかし、"一つ"では意味がないのだ。"二つ"有るからこそ、"大亜連合側に明確な核の使用意図があったということにする事"ができる。実際は強硬派による組織的暴走なのだが、そんなものは外交では考慮されない。大亜連合はその事態を確実に隠すためにも、大幅な譲歩を迫られることだろう。

 

 

 これにより、大亜連合の強硬派の動きは消極化するはずだ。一定の問題はこれさえ遂行できれば解決する。

 

 

 

 確保したこの"核"も、確実に回収しなければならない。

 その為にも、今はただ待つことしか出来なかった。




ってことでオリジナル兵器を少々描写してみました。
今回新たに出してみた「携行レールガン」なる物は劇中でも言ったとおり元々は対空用の携行火器として開発された、という設定です。
アクティブ防御に対する一種の対抗手段ですね。近距離で初速を通常弾頭より稼げるレールガンを用いて遠距離ではなく近距離で敵機を落とすと言うコンセプト。かつ一撃で撃破するための二種の弾薬を使用するわけです。
EMP弾に関しては無誘導でも撃てます。が、確実に仕留める為には徹甲誘導補助弾を撃ち込み、弾頭内部の発信機からの誘導を使った方がいいと言うわけです。これを命中させればフレアなどに影響されずに20mmレベルの弾頭に搭載できる誘導装置でも潰せるわけですから、重宝したわけです。


・・・・んでも、いろいろと無理もある気がする。何かしら疑問点あれば言ってくだされば幸いです。

次回、ヘリ到着。残念ながら本作では一番乗りはオリ主勢のヘリです。

【追記】ナンバリングがミスってました。正確には六十六話です。時系列は被ってないので・・・


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第六十七話~回収~

繋ぎ回という名のオリ主のストーリーin横浜の切れ目です。



【Sunday,October 30 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

「やっと来たか」

 

 そう呟きながら、空を見つめる。

 その向こうには汎用ヘリが二機がこちらに向かっているのが見える。

 

「各員撤収準備に入れ!速やかに離脱するぞ!」

 

 その命令に了解を返す兵士達。

 しかし、特に苦労している様子も無い。

 石川町の交差点を確保してから十五分後には既に援軍が到着、防衛に加わり現在は既にこのあたりは沈静化しつつある。今だ桜木町方面は戦闘は続いているようだが、既にこの騒ぎそのものが収まりつつある。

 

 

 ヘリが上空に到達し、着陸態勢に入る。

 その間にロケットやミサイルの類の攻撃も無ければ、携行レールガンによる攻撃も無く、何事も無く着陸した。

 

 

「よし、撤収するぞ!」

 

 そう言い、先にヘリに"筒"を入れ、奥に座る。

 それと同時に、コマンドから呼び出しが掛かった。

 パスを開くと、現在全体の指揮をとっているNo9からだった。

 

 〔moderator9:お疲れ様です。核は確保したと言う認識で間違いありませんか?〕

 〔operator4:あぁ、間違いない。事態も沈静化しつつあるようだ。これならこれ以上の介入は必要ないな〕

 〔moderator9:了解です。各交通制限や警戒態勢を緩めますか?〕

 

 その言葉に対して、否を返す。

 

 〔operator4:それは露骨過ぎるな。命令を出した側は既に目的を達成したと取られかねない。取りあえずはあと三時間は続けておけ〕

 〔moderator9:了解です〕

 〔operator4:それと国防海軍及び空軍の様子はどうなってる?〕

 

 その質問に対して、返答はまずまずのものだった。

 

 〔moderator9:国防海軍は潜水艦隊の展開は完了した模様ですが、海域をカバーしきれてません。本隊がグアムから戻ってくるまでは押し切られるレベルでしょう。空軍での領空防衛体制は完全に整いましたが、大亜連合の輸送手段は陸路でしょうから・・・〕

 〔operator4:"切り札"を使った交渉次第、ということか〕

 〔moderator9:そう言うことになりますね。内閣では既に交渉の用意も進め、近日中にでも講和交渉が開始されるとの事です〕

 〔operator4:朝っぱらから呼び出してそのまま待機させた甲斐があったという物だな〕

 〔moderator9:とにかく、これで目下の問題は解決するでしょう。帰還をお待ちしています〕

 〔operator4:分かった。まだ仕事は残ってる。抜かるなよ〕

 〔moderator9:はい。それでは、これで〕

 

 それを最後に、パスが切れる。

 

 

 既にヘリは離陸し、着陸地点に向かって横浜から離れつつある。

 

 

 ヘリの小窓から町を覗いてみても、先ほどよりは随分落ち着いたと思えた。

 何せ、つい数十分前まで激しい戦闘を行っていたのだ。そう思うのが自然かもしれない。

 既に横浜市内では戦線は押し返しつつあり、態々避難させる必要性も薄れてきている。

 石川町もそれらの町と比べたらまだ最前線と言えた場所だが、それでも落ち着けるほどの余裕はあったのだ。

 

 

 この騒動は、およそあと一時間ほどで終わるか。

 後の事は、"彼ら"が後始末をつけてくれるだろう。

 

 そして、その後の戦場は机の上へと移る。

 

 

 日本は机の上に"大亜連合の核"を置き、

 

 大亜連合はそれを隠すべく譲歩を迫られる。

 

 何せ軍部の暴走を抑えられなかったという大国にしてはあるまじき状態が起こした結果なのだ。

 外交問題だけでなく、これらが露呈すると軍の統制さえ完璧に成されていないと看做されかねない。

 それは大亜連合にとっても大きなマイナスとなり得る。素の為にも一定の譲歩はしてくるだろう。

 

 

 問題は、"こちら側"の一部の人間が欲を出しすぎなければいいが。

 この状態で更に大亜連合に追い討ちなど掛けた場合、確かに日本は大亜連合に対してより優位に進めるが、後の事を考えるとむしろ"強い日本"を維持しなければならなくなる。

 

 

 "強い日本であること"と"強い日本を維持すること"では大きな違いがあるのだ。

 ただそうある事というのは、特に固執する訳でもないから負担が掛からない。意地を張る必要もないから、自分の身丈に合った強さを"自然と維持する"事になる。

 それに対して、"強い日本を維持すること"というのは例えそれが日本にとって背伸びをすることになったとしても重要課題になってしまうのだ。しかも"強い日本"がほかならぬ日本の為に必要となると、更に負担は跳ね上がる。

 それが良い事かどうかを判断するのはあくまで政府の考えだろう。しかし、こちらとしては出来ればこれ以上外交バランスを崩したくない。

 そうなると、控えて欲しいと思うのが本心だった。

 

 

(まぁ、何とかなるか)

 

 

 そう根拠の無い考えを思い浮かべながら、ヘリは横浜から完全に離脱した。

 

 




最近妙に投稿が遅くなっています。理由には特に訳はありません。ベットに寝転がるといつの間にか朝になってるんです。それをループさせただけです。


とりあえずこれで核の回収は終了です。そして、横浜事変の収束後から大波乱が始まる、はず。

次回、三十一日になる予定。何のことかは、分かるはず。


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第六十八話~亀裂~

ちょっと展開が急な気もしますが、そこらへんは勘弁を。


【Monday,October 31 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

 結局、横浜での一件はあの後一時間ほどして完全に終結。

 撤退する揚陸艦に乗れなかった大亜連合兵士たちは次々と降伏、また撤退できた揚陸艦は"彼"の手により完全に消滅した。

 

 結果は、日本の一人勝ちと言ってもいいだろう。最低でも強力な外交カードを裏で手に入れることができたのは大きな収入だ。

 

 

 

 しかし、"我々"の仕事は減るどころか、むしろ大きな問題を抱えていた。

 

〔operator4:国防軍首脳部の行動が抑えられないだと?!〕

〔moderator9:はい。大亜連合が集結させている艦隊の無力化を目的としているようです〕

〔operator4:んな事は最初から分かってる。現在講和交渉中だって言って抑えろと言っただろうが!〕

〔moderator9:それがどうもこちら側の譲歩が前提とされた講和だと見られているようで・・・。国防海軍に関しても制海権確保ではなく大亜連合に対する上陸戦、もしくは威圧を目的とした行動を開始しています〕

〔operator4:つまりは最初から敵艦隊を潰せる事が前提か・・・。戦略級魔法師の所在を今すぐ洗い出せ。恐らく統合幕僚会議が取ろうとしてる手段は戦略級魔法の行使だ〕

 

 

 国防陸軍内部で強硬派の意見が強まり、その結果の大亜連合に対する一連の行動の硬化。

 唯でさえ今は水面下で交渉が行われ始めたばかりなのだ。そんな中で行動を起こされたら纏まる話も纏まらなくなってしまう。

 加えてその混乱下に置いてはせっかく手に入れた"大亜連合の核"が外交カードとしての価値さえ消えてなくなってしまう恐れもある。

 

 

 加えて、"今、この状況下で戦略級魔法師が活躍する"という事態そのものがこちらにとっては限りなく拙い。

 

〔operator4:ここで戦略級魔法なんて実戦投入されてみろ。NBC兵器と比べた魔法の優秀さが露呈しちまう。他国なら問題などないが、こちらは魔法師社会に対する直接の影響力など持っていないんだ。そんな状態で魔法師の価値がどのような形でも上がってみろ。手が付けられなくなるぞ〕

 

 現在全体的には日本がリードできるだけの材料を揃えているとはいえ、軍事的には未だ大亜連合が優勢と見られている。それを、ただの魔法の一撃で逆転させられたらその事実を世界が認識することになってしまう。

 他国ではそれでも魔法師をコントロールできるだけマシなのだ。しかし、日本に関しては話が違ってくる。

 "我々"はまだ決定的な魔法師社会に対する影響力さえ持ってない。その状況で魔法師に影響力を与えようものなら手を付けられなくなる。

 

 

 加えて、"戦略級"という側面に限定した場合、むしろNBC兵器より魔法のほうが優秀であることが事実であるのだから尚更性質が悪い。

 

 戦術級以下はどちらかというと"質"もそうだが"数"が重要なファクターとなる。全国民が魔法師にでもならない限りまず軍全体を魔法師に置き換えることさえ出来ず、また簡単に生産できる通常の兵士と比べ魔法師というのは替えが効きにくい。そういう意味ではむしろ魔法師というのは"単価の高い兵士"という物なのだ。特技兵に近いものと言われれば分かりやすいはずだ。

 

 しかし、戦略級にはそもそも"数"はあまり重要なファクターではない。"持っている"という事が重要なのであって、それに付随する必要なファクターは圧倒的な"質"だ。

 しかも、通常の戦略級と呼ばれるNBC兵器はそうそう生産できるものでもなく、また実用可能な年数も数十年とかなり短い。

 しかし、魔法師は今からでも最高の"質"を求めることが可能で、しかも実用可能な年数も"彼"を例に挙げただけでも大よそ七十年は容易に超えてしまう。

 

 これらの点から"戦略級"に限って言えばNBC兵器より戦略級魔法師の方が有効であることは自明の通りだ。

 しかも、これらを軍事的な方針に最も取り入れやすい国はよりにもよってこの日本だ。一回でも有効性を実証されてしまった場合、ほとんど手を付けられなくなる。

 

 

 実際はそれに対するプランも用意されている。が、限りなく大きな騒ぎになることは必至だ。それは出来る限り行いたくない。

 

 

〔moderator9:確認取れました。五輪澪は五輪邸にて確認が取れました。現在国防軍との交渉中のようです〕

〔operator4:そいつは違うな。今から行動を行うつもりならむしろ挙動が遅すぎる。恐らくは大黒竜也・・・"彼"が艦隊を消し飛ばすつもりだ。"彼"はどこにいる〕

 

 

 "やりすぎるな"。確かにそう、警告はした。しかし、今回はその警告がきちんと受け入れられるかどうかは怪しい。

 今までの彼の分解魔法はまだ"局地的"の範囲でぎりぎり収まっていたからこそさほど目立たなかったのだ。

 しかし、今現在大亜連合が集結させている艦隊をもろとも消し飛ばす威力を出すつもりなら、どう足掻いても今までのままでは済まない。

 

 

 そして、嫌な予感は見事に的中した。

 

〔moderator9:・・・"彼"は、対馬要塞にて確認が取れました。"サード・アイ"と呼ばれる代物もそちらにあるようです。また、統合幕僚会議にて"マテリアル・バースト"の戦略的使用が既に承認されているとの事〕

〔operator4:今すぐ止めさせろ!手遅れになるぞ!〕

〔moderator9:そ、それが・・・〕

 

 その言葉と共に、地下室のモニター内の軍事衛星の画像の一つが、ブラックアウトする。

 大亜連合の艦隊を監視していた物だ。

 

 

〔operator4:・・・何てことだ〕

〔moderator9:・・・こちらでも、"マテリアル・バースト"の発動を確認しました。・・・手遅れです〕

 

 椅子に、ぐったりと座りこむ。

 完全に、後手に回ってしまっていた。

 

〔operator4:・・・畜生。手落ちだったな〕

〔moderator9:・・・申し訳ありません〕

〔operator4:・・・終わったことは仕方ない。後始末をするぞ。とりあえず国防軍強硬派に関してはとことん締めておけよ〕

〔moderator9:了解です。他には?〕

 

 

 決断は、既に迫られていた。

 迷いはない。しかし、出来れば実行には移したくなかった。

 しかし、この他に方法はない。もはや、実行に移すしかなくなった。

 

〔operator4:・・・"神の杖"は、どれくらいで日本を直下に捉えられる?〕

〔moderator9:およそ、一週間以内には〕

〔operator4:・・・分かった。各員に伝達。"対日魔法師対策行動群コード666"を発令。手段は"α"(アルファ)だ〕

〔moderator9:ま、まさか・・・〕

〔operator4:しかしこの他に手はない。復唱しろ〕

〔moderator9:りょ、了解・・・〕

 

 

 

〔moderator9:"対日魔法師対策行動群コード666"の発令。想定、日本の魔法師社会が干渉不可能、または干渉の可能性が絶望的な状況に陥った場合。内容、深刻なダメージの付与とその後の工作による最終的解決。方法、衛星兵器及び"コマンド"を用いた、日本の魔法師社会の中核を成す一部の十師族の完全な"破壊"、及びその後の魔法師社会に対する工作による権益の奪取。準備を、進めます〕

 

 




オリ主の決断。悩む時間はごくわずか。
詳細は次話にて説明することになります。ちょっと一話では収まらないので・・・。

もちろん、目標とする十師族は見当はつくかと思います。別にバレバレなので隠すつもりもありませんが。

次回、どの時系列になるかは未定。


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第六十九話~烏~

借哉、学校やめるってよ。

んで、初の接触。何が起こるか。


とりあえず本編を。


【Friday,November 4 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

 "対日魔法師対策行動群"

 

 これは第三次大戦の沈静化の後、既に確立していた日本の魔法師社会がどのレベルまで"我々にとって危険か"によって起こすべき行動として五年間全ての管理者や調整者と協議を重ねた末に結論を出した代物だ。

 

 

 その中でも、コードナンバー666はまさに"最悪の想定"に基づいている。

 

 

 日本の魔法師社会が完全にコントロールを外れる、もしくはその可能性がある際に最終的な解決を図る為に"ありとあらゆる手段"を行使する。

 

 しかし、それにも四つの危険度によって行動が分かれている。

 

 

 まず、"α"(アルファ)について。

 

 これは十師族のみを対象とし、魔法師社会の頭脳を潰し、それに成り代わることによって"支配権"を完全な物にすると言う物だ。

 

 とは言えども、手段は決して穏やかではない。

 USNAが今だUSAだった頃に開発されていた衛星兵器"神の杖"の使用、及び直接もう一つの目標に向かって"広域消滅処理"を行うことによって魔法師社会のトップと言われている七草、及び四葉を物理的に消滅させる。

 その後は他の危険な十師族を牽制、もしくは消滅させ、魔法師社会内のコントロールをこちらに渡るように手を回す。

 限りなく物騒で、騒ぎにこそなるがまだ"大人しい"部類だ。

 

 

 次に、"β"(ブラボー)

 こちらは前述の手段ではまず十師族を潰せないと判断した場合のオプションだ。

 "α"(アルファ)はまだ直接は兵士を動かさなかったが、"β"(ブラボー)では特殊作戦群や爆撃機師団などを用い、より直接的に潰しに掛かる。

 確実に国防軍と魔法師の間のいざこざがあったと取られかねないが、そこまで行っても仕方ないと思われる場合のものであるし、これもまだ"マシ"である。

 

 

 これが"γ"(チャーリー)からになると更に物騒になる。

 "γ"(チャーリー)からはもはや魔法師を手中に収めることを放棄し、完全な消滅を狙う行動になってくる。

 具体的には魔法師全体に対して国家反逆罪の容疑をでっち上げ、抵抗する人物が居たら殺し、抵抗しなくても監禁して二度と魔法師社会そのものが構築されないように国家そのものを動かすのだ。

 日本の軍事力などは大きく下がり、正しく二十一世紀初頭のような状態にまで逆戻りするが、その状態に戻してしまうのも致し方なしと判断されるのが"γ"(チャーリー)だ。

 

 

 最後の"δ"(デルタ)はどうなのか。

 これは日本を主観としてみた場合は、最悪の事態になり得る。

 具体的には、各国に日本に対して核攻撃を仕掛けさせ、日本もろとも魔法師を消し炭にする物だ。

 軍事バランスは確実に崩されかかる。日本そのものも消えてしまう。しかし、そうでもしなければまず"日本の魔法師にこちらの管理体制そのものが無力化される"という状況になってしまった際に行われる。

 

 

 今回は、幸いなことに行う範囲は"α"(アルファ)で済んでこそいるが、それでも後始末は膨大なことになる。

 

 しかし、これを行わなければいずれ段階は進んでいく。

 "最悪の想定"の中でも、対処できるうちに対処しないと、余計に取り返しが着かなくなる。

 その事は既に弁えていた。

 

 

 後は、"成すべき事"を成せばいい。

 

 

〔operator4:退学準備は進んでるか?〕

〔moderator10:はい。しかし、よろしいのですか?〕

〔operator4:騒ぎを起こしてから辞めるくらいなら騒ぎが起こってた今の内に辞めるのが目立ちにくい。その方が動きやすいのは分かるだろ?七草のホームグラウンドで七草を潰す為に動くことの困難さは分かるはずだ〕

〔moderator10:難儀な物ですね。四葉に関しては"神の杖"で一発なのですが〕

〔operator4:油断するなよ。蟻の巣にいる女王蟻を潰したところで、巣全体が潰れたわけじゃない。女王蜂を潰した後、ガスを入れて全てを麻痺させなければならんのだ。その指揮はNo1が担当するんだがな〕

〔moderator10:この先、苦労しそうですね〕

〔operator4:そうだな。しかし、この時を逃したら何が起こるか分からん。ミスをしたらもう一週間待たなければならん。そんなのは御免被る〕

〔moderator10:そうですね・・・。御武運を〕

〔operator4:死にはしないさ。ではな〕

 

 そう言ってパスを切る。

 "事前の準備"は全て済ませた。

 既に俺は"魔法科高校の生徒"でさえなく、正真正銘つい半年ほど前までの"裏の世界の住人"としてまたこの国を管理していくことになるだろう。

 

 

 "学校用"の端末から、"彼"を呼び出す。

 恐らくこれが、この端末を最後に使用する時になるだろう。

 

 

『・・・借哉か。どうした』

 

『派手にやったらしいな』

 

 電話に出た"彼"に対して、行き成り本題を切り出す。

 何時もとは違うその雰囲気に、"彼"も気づいただろうか。

 しかし返答を待つことは無く、話を続ける。

 

『今回の連絡は、言わばお別れだ。お前達に対するな』

 

『別れ、だと?』

 

『あぁ。お前が一体"何者なのか"に関しては既に把握しつつある。だからこそ、お前には俺の"警告"を無視した代償だと理解する必要があると思ってな』

 

『・・・敢えてお前がハッタリの類を言っていないと仮定するとして、本気か?"四葉"を、潰すつもりか』

 

『不可能ではないわけだしな、不本意では有るが。まぁ、俺はただやるだけだ。それではな』

 

 

 そう言って通話を切った後、コードを発信する。

 内容は、"神の杖の最終調整"。

 これにより、"神の杖"の照準は完全に四葉邸へ向けられるはずだ。

 後は、発射時までに七草邸にたどり着き、コマンドを発動させれば後の仕事はデスクワークになる。

 

 

 

 そこで、視線を感じ、振り返る。

 

 

 そこには、

 

 

 

 黒い、少女がいた。




黒い少女が誰かなんて分かりきってるでしょう?

なお、この話も結局は最後まで暗躍で終わります。
一応ある程度の体裁は"裏話"に近い物語にしたいので。

次回、お話。なお楽しい意味ではない。


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第七十話~羽~

どのような展開にするか悩みに悩んだ挙句投稿が二日も遅れる。出来ればテンション的な意味でも毎日上げたいんですが、下手やらかすといつの間にか伏線のスタックが一気に消費されてるとかありそうで怖くて・・・。

さて、本編です。


【Friday,November 4 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

 こちらの後ろに立っていた、黒いドレスを纏った少女。

 

 まさか、この場にただ偶然としていた訳ではないことは、見ただけでも分かる。

 

 "彼"が四葉の人物だと勘付いた時点で、四葉に関しては調べたのだから。

 

 

「黒羽・・・だったか?」

 

「ご存知でしたか。なら、お話は早く進むと思いますわ」

 

 

 そう言って、少女は静かに笑う。

 

 なぜこちらの位置を把握できたのか、などと邪推するつもりは無い。十師族相手にむしろ現在位置を上手く把握させないようにすることは可能ではあるが難しい。そして、わざわざ"これから消える相手"に対してそれらの警戒をするつもりもなかった。

 

「わざわざこちらと直接会いに来たってことは、それなりの用件があるのかは知らんがな。別に今耳を貸すつもりはないな」

 

「それでは困りますわ。私も御当主様に言い付けられた上で、貴方に伝言を伝えなければいけません」

 

「・・・今まで俺は四葉と関わったこともない。伝言を聞く必要もないと思うがな」

 

 そう言って、少女を見る。

 よく訓練されている。率直に、そう思ったのは間違いではないだろう。

 戦闘力などというものは一目見ただけで分かる。しかし彼女は、先ほどから常に笑みを崩してはいない。

 何を考えているのか、悟らせない。確かに、四葉のエージェントの能力としては必要不可欠とも言えるだろう。

 

「御当主様も"初対面の人物に伝言を"と言う風に仰っていたので、間違いはありませんわ。聞くだけでも、いかがですか?きっと、興味を持ってくださるとの事ですよ」

 

「・・・とりあえずは言ってみろ。判断は、こちらでする」

 

「ありがとうございます。では、内容なのですが、"司波達也の管理について"とのことですわ」

 

「・・・あいつが四葉の身内だってのは知ってる。仮に、お前のところの主人がこちらの正体と意図を察しているとしよう。しかし、四葉にあいつを止められるとは思えないな」

 

 そう答えつつ、四葉側の能力についてはある程度の推測が出来てきた。

 確かに"彼"を押さえるだけの力が無いのは事実だろう。恐らくはどのような手段を用いても彼の行動を抑制することは出来ないはずだ。

 しかし、それでもその話題を"今"こちらに出してきたと言うのには限りない意味がある。

 

 四葉を作戦の一環で潰そうとした矢先に、肝心の四葉からこちらの関心を引くカードを切り出してくる。

 

 これは、詰まる所こちらの行動を察知することが出来ていると言うことだ。

 数日の猶予があったが、こちらのコマンドに関しては盗み見られる余地は無いに等しい。

 

 と言うことは、"神の杖"の動向を察知されたのだろう。

 四葉・・・というより四葉真夜がフリズスキャルヴのアクセス権を持っていることは知識としてはある。恐らくはそこから探られたのだろう。

 

 しかし、よくもこちらの考えが読めたものだとは思う。

 老師の発言からしてどうも四葉は"我々"のことを知っているようだった。

 

 それも含め、一度聞いてみた方がいいのかも知れない。

 

 

 しかし、だからと言って彼らに猶予を与えてしまってもいいのか。

 七草にそこまでの能力はあるとも思えない。九島に関しても脅威なのは九島烈個人であって九島家全体ではない。

 しかし、四葉がこちらの動きを察知してる状況で猶予を与えてしまいたくは無い。

 

 確かに、一週間で同じ体制には整えられる。しかし、一週間は掛かるのだ。

 その間に、四葉は完全に対策をしてしまいかねない。

 

 

「私は唯の伝言役に過ぎませんので、詳しいことは分かりませんの。しかし、あなた方にとっては一蹴できるほど安易な事でもないと思いますよ?」

 

 

 これは、事実。

 七草と四葉を潰し、こちらに権限を挿げ替えること自体に躊躇は無い。

 しかし、それを達成した後の一番の問題として"彼"のコントロールが挙がっているのも事実。

 考えがあるなら、聞いてもいいのかも分からない。

 

 

 

 しかしどちらにしろ、唯一つの伝言から全てを察することなど出来るはずもない。

 とりあえずは、会ってみることにした。

 

 

「・・・日曜日に、そちらに向かうと返しておいてくれ。話だけは聞いてやろう」

 

「迎えは如何なされます?必要だとは思いますよ」

 

「いらん。唯の伝言役は俺の言葉をお前のお上さんに伝えることだけ考えてればいい」

 

「分かりましたわ。それでは、失礼致します」

 

 その言葉と共に、少女が去っていく。

 

 

 

「あちら側の意志なんぞは分かりきっているが、どちらにしろ数日は掛かるんだ。遠巻きにやるかど真ん中でやるかの違いにしかならんか・・・」

 

 後で"神の杖"の対象を四葉から七草に変更させた方がいいだろう。

 四葉へ向かう以上は四葉でコマンドを起動させた方が早い。七草邸周辺の被害はコマンド以上に大変なことになるだろうが、数週間の二十四時間労働が増えるだけだ。まだマシと捉えた方がいいだろう。心は折れそうになるが。

 

 

 

 

「こちらの気を引けるカードくらいは持っているんだろうな?全く・・・」

 

 

 

 足元に残された、黒い羽を見ながら、そう呟いた。




ってことでとりあえずは無駄足でも構わんように計画を修正。しかし東京に神の杖をぶち込む事を許容範囲とするのは流石にどうかと思わなくも無い。

多分察しのいい人はある程度の展開は読めるんじゃないかなとほんとに思う。特に本編を細かく読んでいらっしゃる方は。


なお、黒い少女の正体。亜夜子ちゃんです。タイトルも"烏"から"羽"と続けたしね。決して文弥ちゃんではないです。あれは少女じゃない。


次回、舞台は日曜日に移る。


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第七十一話~四葉~

なんかもうしばらく投稿してなくて申し訳ないの一言。とはいってもしばらく投稿遅れがちになるかもしれないので勘弁してください。


さて、本編です。


【Sunday,November 6 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

「さて、着いたはいいが出迎えは来るのかね」

 

 そう呟きながらバイクを降り、武家屋敷を思わせる建物を前にする。

 四葉邸。本来なら、ここに神の杖が撃ち込まれる筈だった場所。そして、話次第ではここにコマンドを実行して何もかもを消す予定でもある。

 

 

 それを実際に見てみると、なぜこうも二十一世紀末になって古風な建物ばかりを魔法師は好むのだろうかと思う。風情というものは十二分に理解できるが、わざわざそこまで神経質にこだわるのはなかなかない。

 

 それは魔法師特有の感覚なのか、それとも自らに"歴史"がないことを自覚してが故古風な代物を好むのか。しかし少なくとも二十一世紀初頭の物を懐かしんで、という訳ではないのだろう。そうであったら、まだもう少し庶民の家のようになっていたはずである。

 

 

 待つこと数分、使用人と思われる人物に案内され、奥の食堂に入る。

 食堂に通す、と言うことは恐らくは食事でもしながら、という歓待のつもりではあるのだろう。むしろ、"時間を長引かせる"為の策なのか。どちらにしろ、あちら側に今日向かうとしか言っておらず、朝と言ってもいい頃に押しかけてきたのにそこまでの対応ができるということは、おそらく"予測していた"のだろう。

 

 喰えない。素直に、そう思う。こちらがどの程度まで見透かされているのか、よく分からない。分かる必要がない内に終われば良いのだが。

 

 

 

「お待たせ致しました。急な来訪とはいえ、"苦労なされたでしょう"?」

 

 そう言いながら、この屋敷の主が食堂に入ってきた。

 

「いや?"小細工"は我々には効かないからな。そこら辺は気にしなくていいさ」

 

 これは暗に、"四葉が造った結界など効かない"と言う事を指した。

 当たり前だ。いくら四葉が造った結界とはいえ、ただの"魔法"である以上、どう足掻こうとも"我々"の障害には成り得ない。だからこそ、こうやって四葉の敷地内に案内なしに入ることもできたのだし、そもそも"神の杖"の照準を四葉邸に向けることさえ出来はしない。

 

「さて、こっちも時間は無い。"四葉真夜"に敢えて聞こう。何が目的だ」

 

「あら、知っているのではなくて?」

 

「時間稼ぎ、か。お前との雑談に興じるつもりは無い。はっきりと、呼びつけた理由を聞こうか」

 

 目的が時間稼ぎなのは分からなくもない。しかし、"彼"を話題に出した以上それがこちらにとって一考の価値有りとされる物であると判断した。そうでなくては、あの"四葉の当主"が態々こちらに"四葉が我々の動きに気づいている"という事実を晒してまで接触しようとする訳が無い。四葉家そのものが大事なら、手荷物だけ持って直ぐに脱出してしまえばいいのだから。

 

 もっとも、そんな真似をしても逃げられないのは確かなのだが。

 

「"司波達也"について。あんたは確かに、そう言った。あいつは今回派手にやらかしすぎたからな。そちらにとってもこちらにとっても頭痛の種なのは変わらないだろうさ。だからこそ、"余計な被害"を被る前にこちらに接触してきたのだろう?」

 

「よく分かっていらっしゃるのなら、話は早いわ。達也さんったら、あんな"派手"なことをしてしまった上、そのせいでこちらまで"烏"に目を付けられてしまうとなると私達もただ黙ってみている訳には行かなくて・・・」

 

「・・・既に"四葉"がこちらの存在に気づいていた事には勘付いてはいたが、本人の口から出てくるとはな」

 

「あら、意外?別にこちらとしては、それほど隠すことでもないのだけれど。それに、"あなた方"の存在を知っているのは"四葉"ではなく、どちらかというと"四葉の中枢"だけよ。流石に分家の方々も知っていると言うわけではないわ」

 

「・・・・だから黒羽の使いは"我々"が何か知らなかった訳か」

 

 迎えを寄越すかを聞いたと言うことは、つまりは"結界"が効くと思っていたからだろう。大方、苦戦したところでまた接触してくる予定だったのだろうが、生憎こちらもそんな物を待ってはいられなかったのは確かだ。

 

 

 

「さて、脱線してしまったな。それで、お前達"四葉"はどうやって"司波達也"を押さえ込むんだ?」

 

 出されたコーヒーを口にした後、率直にそう告げる。

 どう足掻いても残り数時間しか猶予はない。もし四葉の策がくだらない物であった場合数時間以内に"事"を済ませなければならない。それまでの間時間稼ぎをされるなど御免込むる事この上なかった。

 

「そうですね。達也さんをこちらで謹慎させる、というのはどうです?」

 

「本気で言ってるのならこれ以上話に付き合ってられんと答えるぞ。お前達"四葉"にはあいつの行動を直接抑制できるほどの術はない」

 

 "彼"の力は個人のそれ一つで国家を丸ごと相手にし得るだけの力を持っている。ましてやいくら強大とはいえたかが"一つの家系"ごときが"彼"を押さえ込むことなどできるはずがない。

 

 もちろん、"彼"とて四葉の下にはついているのだから無視は出来ないだろう。しかし、彼の価値観から考えて妹さんの傍を離れざるを得ない命令というのは許容できないはずだ。

 

「えぇ、もちろんこれはまず最初の一手でしかないわ。別にこちらは失敗しても構わないのだけれど」

 

「それは"四葉にとって"でしかないな。こちらにとっては数日以上掛かる手段に対して一考の余地ありと判断を下せるほど余裕は無い」

 

「まぁ、気持ちは分かりますわ。下手なリスクを背負うぐらいなら今すぐにでもここを消し炭にしてしまいたい、というのは"烏"が考えそうなことですから」

 

「何が言いたい?」

 

「思い切りが良いのは悪くはありませんが、たまには慎重になるのも良い、ということですよ。私が言わずとも分かっているとも思いますが、今"ちょうど着いた"( ' ' ' ' ' ' )ようですし」

 

「何がだ?」

 

 この言葉に、何か悪寒が走り、思わず聞いてしまう。

 

 四葉真夜は、美しい笑顔を浮かべ、答えを返した。

 

 

 

「ちょうど、達也さん達がここに」




まぁ日付被ってる時点である程度予想できてた人はいると思います。はい。

これの何が拙いのかは多分次回で。


次回、上記の通りこの直後から。


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第七十二話~提案~

これ書いてると、時々"無能なのは主人公勢じゃないのかな"なんて思ったりするんです。一応結果は残してるんですけどね。まぁ経験故のって奴なんですがね。

だけど、何やかんやで当初の思惑通りに動いていた入学編、九校戦、横浜編と違って今回は完璧にやられた側です。珍しいんです、本来は。オリ主達が出し抜かれることなんざ。

さて、本編です。


【Sunday,November 6 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

「・・・どういうことだ」

 

 今、彼女は"彼ら"を呼び出し、今ここに着いたと言った。

 "彼"だけではない。確かに、四葉真夜は「達也さん"達"」と言った。

 ソレの示すことは、つまり、

 

「・・・あいつの妹さんまでここに連れてきたのか」

 

 自分で導き出した答えに、真夜は頷いた。

 

「えぇ。この後達也さん達とも色々話すこともあるし、何より"その方があなた方にはこちらに手出ししづらい状況になる"かと思いまして」

 

「・・・"あいつ"に俺の力は効かん。いようがいまいが変わらないとは思わなかったのか?」

 

「今"あなた方"がここを消し炭にしようとしたら、深雪さんまで巻き込むことになりますよ?そしたら、達也さんはどうなるかしらね」

 

「・・・飛んだ自爆戦術だよ。理解できる脳が無きゃ世界と心中するのと一緒だ」

 

「それほどでもないわ。"烏"なら、気が付かない訳がないでしょう?」

 

 

 してやられた。流石に、そう認めざるを得なかった。

 ここでもし真夜の話に価値無しと見て"広域消滅処理"を行おうものなら、"彼"には何も怒らないだろうが妹さんは間違いなく四葉もろとも消えてなくなる。

 

 そうなった場合、"彼"はどうなる?

 

 彼の心の拠り所と言っても過言ではない"彼女"を消してしまって、彼が正気でいられる保障は?

 

 そして、正気を失った彼が日本を、もしくは地球そのものを"一瞬で焼いて"しまわない保障は?

 

 四葉の敷地内から出る者には細心の注意を払っておきながら、"四葉の敷地内に入る者"に対して注意を払っていなかった。

 否、払う必要がないと思っていたのだ。四葉の敷地内に入ると言うことは、すなわち四葉の手先なのだから巻き込む前提で問題などなかった。

 また、"彼"に対してはコマンドは通用しない為、たとえ四葉に呼び出されていたとしてももろとも巻き込んでしまっても問題はない。

 

 しかし、妹さんが来るとなると話は変わってくる。

 真夜がやったのは「私を殺すと貴方の大切なものが壊れますよ」と脅してきたようなものだ。意味も理解できず、可能とも思わなかった場合はまず間違いなく脅した本人も脅された側も致命的な傷を負う。理解できるものにしか効かない、やぶれかぶれの脅し文句。

 

 

 しかし、いくら心の中で批判しても、この一手で確実にこちらは動けなくなったのは確かだ。

 今のうちに七草に対して照準を定めている"神の杖"だけでも実行してやることも不可能ではない。しかし、ソレを行った場合その騒ぎの中で四葉は途方もないレベルでこちらから隠れることが恐らく可能だ。

 そうなった場合は日本全域でお互い足りない手数でフォックスハントをする羽目になる。水面下で内戦じみた事態が発生するなど唯でさえ神の杖の使用後は後始末が大変なことになること必至なのに本格的に首が回らなくなる。

 

「・・・呼びつけたのはあくまでこちらに"お前の策を聞かせる方法を理解させる"為で、無理矢理交渉のテーブルに座らざるを得ない状況を作る、か。見事にしてやられたな。少々お前達のことを侮っていたようだ」

 

「そこまで露骨に敵対心を向けなくても大丈夫ですよ。"私は"、あなた方と友好的な関係を築きたいと思っていますから」

 

「"四葉は"ではなく、"私は"、か。あえてそういう言い回しをしたと言うことは、こちらとの交渉で得られる利益を個人の物にするつもりか?」

 

「その方が都合がいいもの。深雪さんが当主になったら、私の権威は四葉内では最低でもそれなりのレベルまで弱まるわ。そうなったら、いざと言う時に達也さん達の制御が効かなくなるわ。今のうちにあなた方と懇意になれば、四葉なしで四葉と同等の力を得る事が出来るわ」

 

「そこまで言うからには、お前にもカードがあるんだろうな。こちらに対する、利益の提供が」

 

「えぇ、もちろん。"あなた方"にも協力してもらう必要はあるけれど、手はあるわ」

 

「具体的には?」

 

 そう聞いたこちらに対して、真夜は自信ありげに答えた。

 

「とりあえずは私が四葉家の当主である間は、"四葉があなた方の窓口になる"つもりなのだけれど、どうかしら?」

 

「・・・こちらの都合のいいように解釈すると、"四葉がこちらの犬になる"と言う事になるが、間違いないか?」

 

「まぁ、有り体に言えばそうなるわね」

 

「・・・正気か?いや、元から正気ではなかったか」

 

「あら、酷い言い様ね。だけど、別に私達は上か下か、使う側か使われる側かなんて物に興味は無いわ。私達の利益になるのだったら下にもなるし、使われもするわ。ましてや主体を保ったまま"烏"の下につけるのなら、それほど利に適う事はないわ」

 

「・・・そっちが求めるのは"我々の側に下ると共に、手足となるが変わりに手足としてのケアと利益の提供"と言う訳か。確かにこれは"四葉の方針"というよりは、"四葉真夜の希望"に近いな」

 

 確かに、こちらの手足に下るとすれば逆にこちらは手足に対して然るべき保護と利益を与えなくてはならない。ましてや世界を直接掌握できる者の手足ともなれば、その幅はかなり大きくなる。

 

 しかも、彼らが手足となった場合のその活用法は自然と"日本魔法師社会内部への干渉"になり得る。四葉のみがその窓口になった場合、こちらはそれ相応の物を提供せざるを得ない。

 

 

 しかし、利が無い話ではなかった。むしろ、ある種お互い得るものが有る取引とも言える。

 これが上手く嵌れば"コード666"を態々実行しなくても済む。

 四葉が魔法師社会内でも特に目立った形で力を増すことになるだろうが、こちらの意の通りに動くのならばむしろ問題はない。

 

 

 なのだけれども、四葉の方針としては"余計な干渉はしない"と言う物が近い。

 その方針から逸れている以上、これは"四葉真夜の意図"の割合が強いと見るべきだ。

 

 

 だが、それはあくまで四葉内での問題だ。いざと言う時は四葉そのものを後で消せばよい。もしくは四葉真夜の側について四葉そのものをこちらの手足に出来るよう手回ししてしまえばいい。

 

 しかし、それだけで妥協できる話でも、またない。

 

「"司波達也"を押さえ込む策は、もちろんあるんだろうな?」

 

「えぇ。詳細は追々話す予定だけれど、彼をある程度の方向に動かすのはそう難しいことではないわ。達也さんは、深雪さんには逆らえないから」

 

 成功することを微塵も疑っていない様子である真夜の様子を見て、とりあえずは、及第点は満たしたと考えることにした。

 

「・・・分かった。とりあえずは、お前の甘言に乗ってみようじゃないか。安全な連絡手段はこっちから用意しよう。ただ、もしこちらの望むような行動が取れなかった場合は、覚悟しておけよ」

 

「では、そのようにお願いしますね」

 

「・・・さて、邪魔したな。そろそろ御暇するとしよう。ではな、"期待しているぞ"」

 

「えぇ。それでは、また後日、今度はそちらの用意する"連絡手段"で」

 

 

 そう言葉を後に、食堂を後にした。




はい、真夜おばさんが自分の思い通りに事を進めました。
真夜は最初からこれを狙ってました。オリ主側に敢えて"寝返る"事で、ただ魔法師の頂点にいるだけでは得られない権力、利益、権威を得る事が出来る。"事情を知る者"ほどその効果は大きくなっていくので限りなく狙う価値がある、と言う訳です。

さて、これでとりあえず原作で言う8巻までが終わった形になります。もしかしたら番外編みたいな形で続くかもしれませんが、主体としての話は8巻が終わった形になるはず。

そして、来訪者編へと入るわけです。ここからがまた熱く・・・なれればいいなぁ。

次回、未定。例に寄って更新は遅れるかも


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第七十二.五話~会談後~

そろそろこのSSも佳境に入ってくるかなーなんて思いながら、番外編。
短いです。1300文字程度とかもはや投稿しなくてもいいレベルです。

だけど、合った方が面白いかと思って。


【log:Sunday,November 6 2095

point:35N138E   】

 

 

 

 

 

「・・・奥様、"彼ら"に対しては、これで?」

 

「えぇ。これで四葉、もとい私の力は日本さえ超えうる力を持つことになるわ。達也さんのお陰で予定を早めなければいけなくなったけど、結果としては上々といったところかしら」

 

「一時は肝を冷やしました。まさか"烏"達が直接四葉を狙ってくるなど。敵対的な行動は取っていませんでしたから、備えもまったくない状態。奥様の策が無ければ、ここには大きなクレーターが出来ていたでしょう」

 

「そうね。彼ら自身、もうこれ以上コントロール不能の勢力を増長させたくはないでしょうから、これ以上そのような機会があったら今度こそ躊躇はしないでしょうね。ソレまでの間に、何とか保身に走れた形になったわね」

 

「ですが、これで一定の目的は果たしたわけですな」

 

「えぇ。わざわざ"達也さん達"の結果の通達まで偽造し、本来の日本魔法師社会の目的からも抜け出し、七草、ましてや九島さえ出し抜いた。この後は彼らがどう動こうが私達には無害。次今のような事態が起こっても、七草が消えて九島、一条などもただ没落するだけ。十師族などという枠組みさえ、私達は抜け出すことが出来た。もう煩わしい虫達も気にすることは無い。私達は、"彼ら"の機嫌を損なわない限りもはや誰の束縛も受けることは無い」

 

「ですが、よろしいので?"烏"と協力関係になった事を、"あれ"にも伝えた方がよろしいかと」

 

「伝えるべきだと思う?あんな儚い物に無理をさせたら、それこそ彼らは怒ると思うけど?」

 

「・・・確かに。尤も、彼らはそのようなことが可能などということは露ほども思っていないでしょうがね」

 

「きっと怒るわよ。それはもう、烈火の如く」

 

「文字通り地球ごと燃やし尽くされかねませんね」

 

「フフッ、まぁ、そうね。私達もこれ以上調子に乗ることは避けるようにしないと。これからのことも、任せても?」

 

「もちろんです。折角得られた物を棒に振ることの無いよう、上手く立ち回らせます。ところで、達也殿はどのように?」

 

「元から謹慎など出来る訳はないとは分かってはいるけど、一応言ってみましょうか。達也さんのことだから、深雪さんと離れかねないようなことを受け入れるはずはないのだけれど」

 

「・・・」

 

「あら、不満?」

 

「えぇ。少々私達は、"烏"達の機嫌を些か損ね過ぎているかと。無理矢理にでも、謹慎させた方が後の為になるかと存じますが。それに・・・」

 

「分かっている、といっても理解できないでしょうね。とりあえず、続きは後でにしましょう。達也さん達に待って頂いているのですから、早めに向かった方が良いでしょう?」

 

「・・・畏まりました。それでは、行きましょう」

 

「ええ」

 

 

 

「そうね、"烏"が直々に安全な連絡手段を用意してくれるとのことだし、私達もその準備くらいはしないと」

 

「と、申しますと?」

 

「周りからの干渉を出来るだけ少なくする、といったところかしら。とりあえずは風間さんの所だけでも控えさせる事にしましょうか」

 

「それを、これから?」

 

「えぇ。見越してはいたから呼び出したのだけどね」

 

「なるほど」

 

 

 

「さて、それでは」

 

「えぇ、お願い」

 

 

 

「失礼致します」

 

 

「お待たせいたしました。本当に申し訳ございません。前のお客様が中々お帰りにならなくて・・・」




とりあえず今後のこのSSの予定をば。
クライマックスと言えばいいのでしょうか。とりあえずは来訪者編がソレに当たります。つまりこの"魔法科高校と調整者"はぶっちゃけた話、来訪者編を最後に大まかのストーリーが終了します。その後はネタを思いつき次第次話として投稿することになるかと思いますが、連載は来訪者編を最後に特に予定がない限り終了すると考えてよいかと思います。

もちろん、ネタが無い訳ではないんです。ただ、来訪者編で出すネタを考えるとどう考えてもダブルセブン編からが作りにくいというか、インパクトが浅いというか。

まぁ魔法師社会を裏切った四葉と七草・九島のリアルバトルor冷戦じみた事を書くのも一手なんですが、どうも自分は元からある設定を継ぎ接ぎすることは出来ても設定をほぼ資料がない状態で作ることは得意ではなくて・・・。はっきり言って今現在のネタが来訪者編以降ほぼないんです。九校戦の時以上のネタ不足と言う事なのです。

まぁ詳しい話は実際にそこまで行った時にしようかと思います。まだ未定というか、予定の段階ですしね。とりあえず、そう言った感じで進んでいくと理解して頂ければ幸いです。

次回、多分時系列が一週間ほど飛ぶ。そして、来訪者編の真の始まり。いろいろ面白いことが起きるかもしれない。

・・・ところで十一月のハロウィンパーティーって何ですか。ものすごく気になるんですが。40ページって書いてあるし大した量じゃないんだろうけど、かなり気になる。オーディオドラマCDの特典らしいが、まだ売ってるのだろうか。あるなら買いたいと思っていたり。


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第七十三話~次元~

関係ない話ですが、ゲートのアニメ始まりましたね。
自分はラノベサイズの奴を二年ほど前から読み始めたのですが、今でも好きです。
自分が始めて触れたラノベでもあります。アニメ化と聞いて、本当に感無量でした。

そして、アニメの出来がやばい。いや、感動した。
キャリバーが敵陣をなぎ倒し、20mmガトリング砲が翼竜を落とし、89式が火を吹く所をアニメで見られるとは。本当に、感動です。


今度短編でちょっとゲートのSSを書いてみようかな、とか思ったり。

さて、本編です。今回始めてオリ主以外の管理者が主観。


【Friday,November 25 2095

  Person:operator1  】

 

 

 

 

 

「・・・・さて、どうなるものか」

 

『第一から第三区画、準備完了。第八区画にて五分の遅延が発生。予定時間は一四:〇〇を予定』

 

 

 今週初め、日本と大亜連合との講和が成立した。

 圧倒的に日本が優勢であったのにも関わらずその戦況にしては大亜連合が譲歩せずに済んだのは、仲介にたったUSNA自身が日本の影響力が更に大きくなることを恐れ、日本側に譲歩"させた"結果だ。

 

 

 そう、態々、USNAが日本に譲歩を強要させたのだ。

 それほどまでに、"質量からエネルギーへの分解魔法"が強力、かつ強烈だったのだ。

 

 あの大亜連合艦隊の付近には、日本に所属する艦艇・もしくは航空機は存在しなかった。

 つまり、あの魔法は日本本土、もしくはどこかしらの施設内部から衛星画像を用いて行使されたのだ。

 

 前者ならまだいい。しかし、後者ならば厄介極まりない。

 "いつでも、どこからでも、どんな目標でも(Any time, Any place, Any target)"を可能とする、現状戦略兵器として最も完成された代物。

 しかもいかなる有害物質をも放出せず、かつ核爆弾など目ではない規模の破壊力を誇る。

 

 これ一つが、外交カードになり得る。これをちらつかせるだけで、一体どれほどの利益が出てくるのか。

 

 

 そう、アメリカ政府は恐怖したのだ。そして、押さえ込むと共に"同等の手段を得るためのありとあらゆる手段の実行"を許可した。

 

 

 その一つが、余剰次元論に基づくマイクロ・ブラックホールの生成実験だった。

 

 

 これそのものには日本が行使した"質量エネルギー分解魔法"・・・俗に言う"マテリアル・バースト"の観測結果と合致するものは無い。そして、今まで行った実験結果と合致する物もなかった。

 当然だ。対消滅反応などというちゃちな代物ではない。ただ、魔法の一発で質量を"直接"エネルギーへと変えているのだ。そこには反物質などという非効率な物体さえ魔法で生み出してなどいない。

 

 

 しかし、"まだ余剰次元理論に基づくマイクロ・ブラックホールの生成に関しては観測がまだ充分ではない。もしかしたら、類似したデータも得られる可能性がある"。その儚い希望に縋った実験だった。

 

 

(しかし、結果は変わらんがな)

 

 心の中で酷評を下し、コマンドでパスを開く。

 

〔operator1:二人とも、観測の用意は出来ているか〕

〔moderator11:全て良好です。緊急時の手段も用意しています。何かしらのエネルギーの暴走が見られた場合は、上手く分散できるよう用意は済ませています〕

〔moderator13:しかし、余剰次元からエネルギーを取り出すとなると、余計な物をこの世界へ入れかねないか疑問が出てきますな。何せ世界に"穴"を開ける訳ですから〕

〔operator1:だから手が開いているお前達二人に付き合ってもらってるんだ。余計な"虫"が入ってみろ。創造主様の為のこの世界に不具合が起きるかも知れん。それも、取り返しが付かないレベルでだ〕

 

 態々無理をしてここに視察に来た理由は、ソレを懸念しての物だった。

 この世界で言う"物の怪"の類が高次元のところからこちらに入り込んでしまった場合、何かしらの不具合が発生しかねない。

 近い事象はいくらか起こった事はこの長い歴史の中ではある。しかし、"意図的に次元に穴を開ける"などと言う事は今まででも始めてだ。

 

 もし、何か起こったら、直ぐに被害を最小限に出来るように。

 その為に、ここに足を運んでいた。

 

 

『第四から第七区画、準備完了。作業の進行度は八十パーセント』

 

「・・・」

 

 見たところ、実験そのものには特に目立った危険は見えない。

 しかし、妙な胸騒ぎがする。

 

 今すぐに、この実験を中止させたい衝動に駆られる。

 

 いったい、何故なのか。自分らしくもない。

 

(No4の奴も言っていたな・・・。久しぶりなことや、始めてのことが多すぎて対応が鈍ると)

 

 今年は、妙に異常事態が多い。正に、魔法師がこの世に出てきたときのようだ、と。

 

 そう、これはまるで、世界そのものが混乱を望んでいるかのよう、と。

 

(創造主様が気まぐれでも起こしたのか?しかしそれにしては何も聞いていない。あのお方がこちらに話してくれるかどうかも微妙なのだからな・・・)

 

 

 しかし、そんなこちら側の心配を余所に、実験の準備はいよいよ完了した。

 

『全ての区画の準備、完了。実験開始まで、後五分。各員は最終チェックに入ってください』

 

「実験開始まであと少しです。それまで、しばしお待ちを」

 

「危険性はないと言う事であっているのだね?」

 

「はい。念のために"スターズ"から幾人かこちらに回してもいます。問題はないでしょう」

 

「所詮は卓上の空論だ。ともかく、何かしら"良い"結果を得られればよいのだが」

 

 現在、決して個室でスクリーン越しに見ているわけではない。直接、"アメリカ首脳部の一部"と一緒に視察しているのだ。

 当然だ。現在は身分を一時的に偽装している上、今同席している首脳部は"我々の存在"さえ知らない俗物だ。急なことだった為、そこまでしか都合をつけられなかったのだ。

 この不都合には、ある程度目を瞑るしかない。

 

 

『実験開始時刻になりました。実験を開始します』

 

 その音と共に、機械から発せられる音が一層大きくなる。

 

 

『陽子イオンの加速、開始』

 

 

『陽子シンクトロンブースター、通過』

 

 

『SPSに累積、開始』

 

 

『陽子ビーム、準備完了』

 

 

『陽子ビーム、LHCに注入。最終加速、開始』

 

 

 そして、嫌な予感は、次のアナウンスと共に、現実となった。

 

 

 

『陽子同士の衝突、観測』

 

 

 

「っ・・・・」

 

 周りが結果に期待を膨らませる中では場違いなほど、顔が真っ青になっていく。

 

 まさか、でも、いや、ありえない。

 

 "虫"なんて物ではない。それには、あまりにも。

 

 そして、何よりも、十二個に分裂し、近場の人間に寄生していった"アレ"の正体は。

 

 

 

 そしてそこで、新たなコマンドによる、呼び出しが掛かった。

 

 




ってことでアメリカ担当、管理者No.1です。彼自身の設定はあまり付けてない。主観も多分これ以外はさほど無いとは思うし。

なおコマンドでの調整者と管理者でのやり取りですが、もちろん管理者がメインとした通信になる訳ですからそれぞれ一応は独立しています。というか、調整者そのものが管理者の下についているので見かけはオリ主の調整者とその他の調整者の名前が被ったりとかします。今回は混乱しないようにナンバリングを被らないものにしましたが、普通にNo1にもmoderator1(調整者No1)とかはいます。ただし、相互通信する時には管理者No1側の調整者No1は1.moderator1と表記され、オリ主側の調整者No1は4.moderator1と表記されます。その必要のない時には識別用の管理者番号は表示されないだけです。


さて、今回の描写。実はめっちゃ苦労しました。
というのも、ダラスでのマイクロ・ブラックホール生成実験中の描写をやった訳ですが、まず時期が不明というのが第一に。一体11月の何時頃に行われたのかさえ不明。しかも、講和とどちらが先かも不明。結局一番自然な流れを考え、時期を設定しました。

それだけではなく、今度は実験中という雰囲気を出す為に文系の私が理系の小難しい文章を読み込み、ガワだけなんとなくそれっぽくするためにもwikipediaを読み込みました。LHCの記事を中心に読み込みながらまずマイクロブラックホールって何ぞって所から始まり、何がいいたいかをそこそこ飲み込み、その上でどんな手順が必要でそもそもどこに余剰次元論が絡むのかも触った上で普通に陽子を衝突させるのと何が違うのとか考えながら見て・・・と。はっきり言って頭がパンクしました。多分色々突っ込みどころ満載な描写なんでしょうが、後でちょっと文系の自分に分かりやすく教えてください。ホーキング輻射の観測と対消滅の観測の為のブラックホール生成の手順って変わりあるものなんですか。まず陽子ビームって何。陽子イオン源って何。

何とか理解できたのはこの世界では妙に重力の影響が小さく、もしかしたら別の次元から出てきているのじゃないのかという余剰次元理論のさわりのところだけです。それも理解じゃなくて「そういうものなのかー」って程度でしょうが。


次回、未定。何処から最初にやろうかな。


【追記】振り仮名が上手く機能していなかったので修正
【追々記】スマホ・タブレット表示にて振り仮名の表示がおかしいことが分かった為再度修正しました。何度も申し訳ないです。

【重大な追記】八十一話にて告知した通り、パラサイトの数を変更しました。投稿後時間が経ったものを変更することになってしまい、申し訳ありません。


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第七十四話~対岸~

No1は来訪者編の重要な脇役になる予定。
しかしたぶん年末は日本は静かかも。とはいっても察するべく所は察した方がよいでしょうがね・・・。

さて、本編です。


【Sunday,December 11 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

 家の地下の部屋の中で、コーヒーを飲みながらモニターを眺める。

 こうして落ち着いて仕事に取り掛かれるのは妙に久しぶりだと言う感覚がある。

 

 "高校生"の身分だったときは随分と振り回されたものだ。しかし、今こうやって抜け出すと腰を落ち着けることが出来、安心する。

 

 

 とは言え、懸念事項はもちろんのことあるのだが。

 

 

「四葉は、本当にこちらの傘下に入りたいだけだったのか・・・?」

 

 十一月の対話の後、四葉は実にこちらの手足としてよく働いてくれていた。魔法師社会に対する我々の"窓口"としてはむしろ優秀すぎるほどだ。

 

 何せ"我々"の要望が"四葉"の要望と本気で捉えられてしまうのだ。"目立つ事柄を好まない"という点で方向性が一緒なのもあるだろうが、一番は"四葉"そのもののネームバリューが大きすぎる点だろう。

 

 こちらは四葉の体面など気にする必要など無い為、遠慮なく要求を言える。そして、それを忠実にこなすことで四葉は"我々"に依存させようとする。ギブアンドテイクと言ってもいいのだろう。四葉自身が"我々の傘"に守られる保障にもなるのだ。確かに、利益としては大きい。

 

 

 しかし、それだけなのか?

 四葉は確かに"我々"を敵に回すことの危うさを知っている。が、それでは"日本魔法師社会そのものを裏切る"様な行為に手を出すには弱すぎる気がする。

 

 何かしら、四葉はもっと大きな秘密を隠しているのではないだろうか。それも、"こちらに取り込まれないと四葉そのものが消え失せる可能性が出てくる物"を。

 

 

「・・・分からんな。だからと言って聞いても答えてくれるとも思えん」

 

 考えても仕方ないのかもしれない。そもそも、考えただけで答えは出てこない。

 ともかく現状として、四葉はよく働いてくれている。こちらが態々言わなくても、必要なことは行ってくれる。こちらは仕事の粗のチェックに専念できる。今必要なことはせっかく前よりは穏やかになった今の状況をまた更に波立たせないようにすることだ。

 

 魔法師の抑制も四葉のおかげで上手くいっている。この調子ならばあと数か月で下火に入るだろう。中華系アングラ組織の動きが見えるため別の騒動も起きるだろうが、そこに介入する必要性を余り見出せない。

 

 

「後の懸念事項は、"彼"の抑え込み方だけ、か」

 

 対話の後で得たその"方法"もどうも抽象的な言い回ししかなかったが、要するには"妹さんを四葉に逆らえなくさせれば、司波達也も四葉に逆らえなくなる。そして四葉に逆らえなくなるということは、烏に逆らえなくなるという事になる"とのことらしい。方法はこれを聞いただけである程度は思いつく上、不可能では無い為あまり追及はしなかったが、どれにしても"四葉を傘下に入れ続ける"事が前提となっている。

 四葉の、というより四葉真夜の欲が見えている格好になるが、そこを今気にしても仕方がない。有益となればたとえ乗せられているとしても、今は別に構わないのだ。

 

 

 

 そう、頭の中で結論付けたとき、コマンドからパスで呼び出された。

 

〔moderator9:失礼します。お耳に入れたいことがあるのですが、よろしいですか?〕

〔operator4:どうした。何か問題でも起きたか〕

〔moderator9:今のところは対岸の火事で済んでいます。ですが、USNAでどうやら事が起こっているようなので、一応〕

〔operator4:No1の奴からは何も聞いてないぞ。起こした行動もせいぜいダラスでのマイクロ・ブラックホールの視察ぐらいなもんだろ〕

〔moderator9:はい、そのはずです。ですが、その直後からいきなり工作が過激化しているように見られます〕

〔operator4:と、言うと?〕

 

 そう聞くと、余りいい予感のしない答えが返ってきた。

 

〔moderator9:どうもアメリカ内部で管理者No1は"デルタ"を動かしているようです〕

〔operator4:本当に穏やかじゃないな。直後から今まで続いているってことは、何かしらのフォックスハントか?〕

〔moderator9:のようですが、何があったのかは不明ですが"スターズ"の部隊との衝突が繰り返されています。静かにやっているので表沙汰にはなっていませんが、これは本気で殺し合ってるレベルです〕

〔operator4:おいおい、あのNo1がそこまで躍起になるほどの事態がアメリカでは起こってるのか?俄かには信じられんな。それとなく聞いておいてくれ〕

〔moderator9:彼の直下の調整者達には聞いてみますが、直接聞かれた方がよいと思いますが?〕

〔operator4:厄介ごとに巻き込まれたくない。必要ならあっちから話が来るだろうさ。何が起こってるのか把握だけしたい。頼む〕

〔moderator9:分かりました。それでは〕

 

 その言葉を最後に、パスが切れる。

 しかし、話の内容には今だ釈然としないものを感じ取っていた。

 

 No1は調整者の中でも荒事は好まない性質だったはずだ。もちろん実力は1から4、つまり俺までは基本的にどれも同じなのだが、方向性としてアメリカという巨大な国家から管理していったのもあるせいか、かなりやり方が"静か"なのだ。

 もちろん"我々"を外から見た場合やり方はいつもは"静か"にもほどがある部類だ。どうしてもと言う時は考えられないほど派手だが、それだけの決断もできる。

 

 しかし、今USNAでNo1がそれほどの状況に追い込まれるだけの可能性はあまり見えない。せいぜいダラスの時の"次元に穴が開いたら余計なものが紛れ込むかもしれないから見張っておく"という代物だ。

 ただ、本当にただの"虫"なら対処はさほど難しくないはずだ。もしかしたら、よほど強力な"物の怪"とやらが入り込んだのか。

 しかし、マイクロブラックホールで生成される次元の穴はそこまで大きなものを通せるとは思えない。通れる物であるのならNo1が片手間に消してしまえるはずなのだ。人間には難しいかもしれないが。

 

 

 どうも、年末年始も忙しくなるかもしれない。

 やはり"高校生の身分"から抜け出しても今年という"厄年"からは逃げられないのか、と半ば投げやりな考えを浮かばせながら、もう冷えてしまったコーヒーを飲み干し、次の一杯を取りに行った。

 

 




ということで、アメリカの様子が噂越しですがひどい状態になってます。

ここでちょっと解説。
オリ主が特殊作戦群予備分遣隊を傘下に置いているように、アメリカではNo1が第1特殊作戦部隊デルタ分遣隊を傘下に置いています。これも理由は日本と似たようなものですが、アメリカは日本のようにデルタを魔法師の兵士に変えていくというものではなく、最初っから使い勝手の良い魔法師部隊を直接作られたせいでデルタそのものの価値が低下してしまったのです。それをNo1が吸収した形になります。
ですが、対魔法師戦闘では特殊作戦群予備分遣隊に数段階劣ります。普通の魔法師相手だったら余裕だけどスターズ相手だと押され気味。特殊作戦群予備分遣隊はまず魔法師相手にはまともに戦いませんから、多分先にスターズが擦り切れる。時間はかかるけど。
ただ、規模は桁違い。特殊作戦群予備分遣隊と比べたら兵力的には比較できません。だって一部隊の予備扱いに回された兵士を部隊化したところと、元から一部隊そのものだったものを比べたらどうしてもね。仕方ない。

さて、ちょっと不穏な話が聞こえたわけですが、この先どうなることやら。

次回、No1視点。クリスマスです。降ってくるのは雪ではありません。

【追記】一部ひらがなになってたので漢字に直しました。


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第七十五話~失敗~

今回は長めです。1.8話分位あります。悪しからず。
某音楽家は銃声が大好きでしたが、流石にクリスマスでオーケストラは流しません。皆さんサプレッサー常備です。どの銃でもそれは同じです。


さて、本編です。


【Saturday,December 24 2095

  Person:operator1  】

 

 

 

 

 

 クリスマス、と言っても北米ではそう騒ぐ物でもない。

 むしろ戦後からは本来の"クリスマス"に近い代物にもなっている。欧米諸国がキリスト教を重んじるのは何時もの事なのだが、それでも真夜中に騒ぐような輩が減ったのは事実だ。とは言っても、戦前戦後共にクリスマスをイベントとしてしか見ていない国よりはマシだったが。

 

 

 街はクリスマスイブ前夜の為か、静かに眠っている。

 

 しかし、本当に"静か"な訳では、なかった。

 

 

『目標は現在"スターズ"に追われている模様。このままでは"また"遭遇戦です!』

 

「アルファはスターズを足止めしろ。こちらで目標を確保する。ブラボーは援護を頼む」

 

 そう指示を出し、サプレッサーをつけたボルトアクション式のライフルを構える。

 

 スコープなど付けていない。元から、必要もない。

 そもそも"たかが"五百メートルくらいならスコープで視界が狭まる方が厄介だ。

 

 狙いは、足。機動力さえ奪えば、後は待機しているチャーリーが回収してくれるはずだ。

 

 

 狙いを済まし、一撃。

 七・六二ミリ弾の弾は緩やかな弧を描き、目標の足に着弾する。

 いくら腕のよい魔法師といえど、攻撃を認識できなかったら防げない。

 足に弾丸を食らった目標は建物の屋上の上で転がり倒れる。

 

「チャーリー、足を奪った。直ぐに確保に向かえ、重武装汎用ヘリを向かわせる。絶対に"殺させるな"」

 

 そう言って目標が屋上に倒れた建物に向かう。

 いっそ古いと言ってしまってもいいくらいの、しかしそれこそ第二次世界大戦の頃から愛用され、部隊内でも統一されている四十五口径の拳銃を取り出し、取り付けられているライトで暗い夜道を照らしながら進む。

 

 

 裏路地を進みながら、ベルトに着けていた"杭"を取り出す。

 "漏れ出たもの"を"確保"する為の、唯一の手段。

 体が動けなくなっても抜け出してしまう"それ"を封印できる、現在調達できる中では最高の手段。

 

 否、"支給"されたのだ。元から、これ以外に方法はなかったのだから。

 

「これ以上手間取ったら顔向けできん・・・」

 

 唯でさえいらない戦闘を何度も引き起こしているのだ。これまでに目標を確保しようとし、何度もそれを同じように追いかけるスターズと交戦したのだ。

 

 最初の交戦の時点で行動をある程度抑えるように政府の立場から圧力をかけているが、そもそも総隊長が若い所為もあるのか、融通が利かない。

 

 それも、ある意味仕方ない。あちらからすれば自分の部隊から脱走者を出したのだ。自分で落とし前をつけなければ何時何処でスターズが"弱み"を握られるか分からない。だからこそ、一見利害が一致しているように見えても共同で作戦を展開できず、逆に対立する理由になっている。

 

 

 しかし、こちらとしては正に"我々の存在そのものの意義"が掛かっている。もはや、これ以上手間取るわけには行かない。

 

 

 今度こそ、何事も無く終わってくれ。そんな願望は、今回も儚く散る。

 

『こちらチャーリー、"スターズ"と遭遇、只今足止めを食らってます!現在の位置は目標のいる建物の三階です!』

 

「いくら時間がかかる?」

 

『攻撃が激しく、援護がないと突破は不可能です!くそ、化け物かあいつらは!』

 

「それならば一旦引け。奴の行きそうな場所をマークする。そちらに向かえ」

 

『了解!』

 

 またか、と心の中でため息を吐きながら通信を切る。

 建物の影からは、また人の影が別の建物の屋上へ跳ぶところが見えた。

 

「こういうのは日本の特殊部隊の方が向いてるな・・・。あいつらは言わなくても分かってるようだし」

 

 昔日本で厄介な魔法師を街中でハンティングをした時の戦闘記録をNo4から貰ったことがあるが、彼らは奇襲などの能力に特化してる分こういう作戦には向いている。今手元にある最高の戦力の使い方をある種間違っているとは言え、力不足に感じたのは仕方のない事だろう。

 

 しかし、無いものねだりをしたところで仕方がない。

 今やることは、目標を確保する為に彼の機動力を奪うことだ。

 

 目の前の建物の緊急避難用の梯子に取り付き、全力で屋上へと向かう。

 

 目標に目を向けると、建物と建物の間を飛びながら逃げる目標と、それを追いかける者達を確認できた。

 

 追いかけているのは、"デルタ"ではない。そもそも"デルタ"では目標の速度にはヘリでも使わないと追いつけない。

 目標を直接跳びながら追いかけているのは、全員"スターズ"のメンバーだ。

 

「あいつらの目的は"確保"じゃなくて"処分"だ。そうなると、面倒くさいことになりかねない。その前に、なんとしてもこちらで"確保"しなくては」

 

 その言葉と共に、梯子を最後まで上りきる。

 屋上に上がると同時に、ボルトを後進させ次弾を薬室に送り込む。

 

「片足で動けても、両足ともでは動けまい」

 

 目標自身も警戒しているだろうが、複数に追いかけられながらでは落ち着いて防御も出来まい。

 

 彼の健全なもう片方の足へ狙いを定める。

 

 

 しかし、引き金を"引く"段階まで来たところで、視界の端に影が映る。

 

「クソッ、アルファが抜かれたか?!」

 

 そう叫びながら、ナイフを取り出し後ろへ振り返る。

 飛び掛る"スターズ"のナイフを右手のナイフで受け止め、もう片方の手で腹に肘打ちを入れ、お互いの距離が少し離れたところで同じ場所に右足からの蹴りを放つ。

 

 飛び掛ってきた方向とは反対方向に大きく倒れる"スターズ"に向けて拳銃を取り出し、頭に向けて弾丸を放つ。

 

 先ほどの一撃で意識が飛んだ"スターズ"の隊員はまともな防御魔法を行使することも出来ず、そしてそのまま"無力化"される。

 

 

 しかし、彼自身の役割を果たせたかどうかで言えば、間違いなく"果たせていた"だろう。

 

 

「止まりなさい!・・・・・ド・フォーマルハウト中尉!最早・・・・・・のは分かっている・・です!」

 

 距離が遠い為途切れ途切れにしか聞こえないその声は、それがこちらの作戦の"失敗"を示していたことは明白だった。

 

「クソ・・・ッ!やられた!」

 

 "スターズ"自身は既に目標を包囲している。この場で必要なのはむしろ"スターズ"の包囲網に穴を開けることだ。

 しかし、"スターズ総隊長"の性格はともかく、その腕前から多少の穴が出来た程度で目標を逃がすとも思えない。

 

「全隊へ、目標は南東のモーテルの屋上で"スターズ"に包囲されている。直ぐに向えるか?」

 

『最も近い部隊でも三分は掛かります!』

 

「急げ!」

 

 足並みを揃える必要性を無視してでもこちらから最初に狙撃を開始するべきか。その迷いの間に、"スターズ総隊長による問答"は途切れつつも聞こえてくる。

 

「この街で起きて・・・・・殺事件も、貴方の・・・・・シスによる・・・・・う者が・・す。まさか、そん・・・・・・・・・んよね?・・・・・ディ、答えてください!」

 

 その直後、目標の付近から何かが"燃える"のを目にする。

 

 

(これは間に合わない!)

 

 そう決断を下し、ライフルを再度構える。

 

 しかし、弾丸を放つ前に、結果は決まってしまった。

 

「・・・・・・ウト中尉、連邦・・・・・・項に基づく・・・ズ総隊長・・・により、貴方を・・・します!」

 

 その言葉と共に、"彼女"から放たれた弾丸が、目標の心臓を貫く。

 その時点で、すべきことは確定した。

 

「全隊に告ぐ!目標が死亡した!直ぐに撤退せよ!"取り込まれるぞ"!」

 

 そう叫ぶと共に、自身もロープを手すりに括りつけ素早く下へと降りる。

 "アレ"は管理者である自分ですら苗床にできる。直ぐに退避しなければ、苗床を失った"アレ"は手近な物に寄生してしまう。

 その時の"かわいそうな犠牲者"が身内であった場合は最悪極まりない。だからこそ、目標を"殺してはならなかったのだ"。

 

「向かわせていたヘリをスタジアムへ着陸させる。そこまで全力で撤退しろ!あれが何物かに"寄生し終えた"らその後にもう一度確保する!今は速やかに作戦地域を離脱だ!」

 

 スターズの追っ手は来ていない。また、各隊にも追っ手はいないようだ。"スターズ"自身は目的を達成したのだ。そしたら妨害勢力が撤退した。奇妙には思うかもしれないが、追いかける必要は彼らにも無いのだろう。

 

 しかし、何時までもその場に留まり死体を回収しようとするぐらいなら一マイルでもいいからその場から離れて欲しかった。

 スターズの隊員を苗床にされてしまっても困るのだ。目標の手ごわさが一段階上になってしまう。

 

 しかし、今から言っても間に合わないだろうし、恐らくは聞き入れられない。

 現状できることは保身で精一杯だった。

 

 

 ライフルをぶら下げ、拳銃を片手にスタジアムへと走る。

 後四分ほどで到着できる。各隊も最後尾の部隊でさえあと十分以内では到着できるだろう。

 

「まったく、貧乏くじだ。まだ一つも"回収"できてないんだぞ・・・!」

 

 その間に、他の"七つ"の行方も調べなければならない。海外に逃げていた場合は、そちらの方に頭を下げなければならない。

 

 全力を尽くしたとはいえ、落ち度には代わりが無い。

 失敗の尻拭いをさせることになってしまう。罪悪感を感じずにはいられない。

 

 

 頭上を、ガトリングと重機関銃で武装したヘリが通り過ぎていく。

 その姿を認めながら、開けた視界に映ったスタジアムへと向かっていった。

 

 




"あれ"については、もしかしたら次回か次々回から分かってくるはず。

さて、このSSでは銃などの名前を明確に示すことは出来るだけ控えてます。いくら銃火器が大目と言っても、原作・アニメ共に形がハッキリしていない物を描写するわけにはいきませんから。ただし序盤のAK47やRPG-7などはアニメにて使用がほぼ確定的なレベルで描写されてるので明記しました。誰でも知ってますし。
ですが流石に他の物をぽんぽんと名前出すのも雰囲気にはあわないだろうと判断し、口径と銃の分類の表示のみで留まっています。もしかしたら名前書いた方が雰囲気でるのかなぁとも思ったことはありますが、一応魔法科高校の劣等生は魔法の物語ですから、余りに銃器を目立たせすぎるとあまり合わなくなりますしね。

さて、次回に関しては未定です。雰囲気出す為に久しぶりに達也回も出すかもしれませんが、もし文字数が1000後半以上できなかった場合そのままオリ主回になります。

【追記】脱字を修正しました。毎度申し訳ありません。


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第七十六話~新年~

何とか達也編を書けました。1500文字とかなり短いですが、一応投下。
達也さんは一応原作主人公だから、彼の心情も描写してあげないとね。


【Sunday,January 1 2096

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 

 初詣が終わり、家についてから初詣の時の"少女"について考える。

 この時期に、こちらをマークする外国人。年頃からすると最悪彼女が"本丸"の可能性も有るが、現段階では探りを入れてくるUSNAの一員の"疑い"があるレベルだ。それにしては、妙にこういった任務には向かないとは思ったが。

 

 

 しかし、例えそれが当たりであろうとも外れであろうとも、"四葉"の当主から直接情報が齎されたのだ。その情報に恐らくは偽りも無いだろう。

 

 

(そういえば・・・)

 

 その肝心の四葉に、何も起こっていないというのは余りにも不自然だ。否、今までの情報からでいえばむしろ何も起こっていないのは不思議がる事ではない。

 

 しかし、"彼"が絡んでくると話は別になってくる。

 "灼熱のハロウィン"以後、"彼"は魔法科高校を退学。この事は彼に関わった者は皆意外に思っていたのだが、こちらは少々複雑な事情があることを把握している。

 

 "彼"自身が、"派手なことはするな"というこちらに対する警告を無視した為、何かしらの行動を起こさなくてはならなくなった。彼の言い振りからそうこちらは推測していた。

 

 そのために、恐らくは十師族そのものを潰そうとしていたことも。

 

 

 しかし、それにはまず最初にターゲットになっていたはずの四葉、もしくは七草に何かしらの被害が出たと言う話は聞かない。彼が動く以上四葉なり七草なり何かしらの被害を被るはずなのだが、あの日から二ヶ月経っても何も起こっていない。

 

 水面下で進行させるほど"彼"に余裕があるようには見えなかった。彼だったら数日で済む手段をリスクは度外視して実行するはずだ。

 

 それでも何も起こっていない。何か更に重要な問題が起きたのか、それとも"対処"が済んだのか。

 

 思えば、あの一件以来分からなくなったことが多すぎる。

 

 "彼"の行方、"彼ら"の現状、突然のUSNAからの交換留学、四葉の情報源、当主・・・四葉真夜の意図。

 

 何かしら、裏で繋がっているのではないか。

 特に"彼ら"については今だ独立魔装大隊や師匠、四葉などにより調査は続けられているはずだ。しかし、情報を得ることは出来ていない。

 

 今までは何かしら動いている、という欠片だけは掴めていた。しかし、今はそれさえも掴めてはいない。

 当たり前だ。今までは、恐らく"こちら"を見張る為にあえて"表に出ていた"のだ。それでいて"何かしら動いている"しか掴めていなかったのだ。むしろ、今現在掴めないのは当たり前とも言っていい。

 

 

 机においてある、携帯端末に目を向ける。

 "彼"の携帯端末はどうも既に処分されているようで、現在誰が掛けても繋がる事はなかった。

 

 

「借哉・・・。お前は、一体何を企んでいる・・・?」

 

 

 しかし、その言葉に答えは帰ってくることは無い。

 何も知りえない事が、これ程怖かったことは無かった。

 

 

「お兄様、コーヒーを淹れて来ました。入ってもよろしいですか?」

 

「あぁ、構わないよ」

 

 その言葉と共に、二人分のコーヒーを持った深雪が部屋に入って来る。

 入ってきて、こちらの雰囲気に気づいたのだろう。こちらのことを心配するように、訊ねてきた。

 

「お兄様?大丈夫ですか?」

 

「あぁ、大丈夫だ。今はさほど気にすることでもないと思ってな」

 

 深雪に悟られては余計な不安を与えかねない。それに、何も無ければそれに越したことはないのだ。元より、何も知ることが出来ない以上何も出来ないのだから、悩むだけ損であるのは変わらない。

 

 そう気持ちを切り替え、深雪の持って来たコーヒーに口をつける。

 

 

 もう冬も中ごろで、充分寒いはずなのに、外は更に寒くなっていくような気がした。

 

 




物語的には完全に置いてけぼりになっているお兄様。まぁ現在水面下でオリ主が暗躍してる中オリ主が絡める要素など、あんまりないから・・・。

さて、次話。新年の夜、オリ主は凶報を受け取る。


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第七十七話~転換点~

ここから大きく物語は動いていきます。


【Sunday,January 1 2096

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

 新年最初の一日ももう直ぐ終わりを迎える頃、こちらは更なる厄介事に直面していた。

 

 

〔operator4:・・・で、要するにはだ。そちらで取りこぼしたものが日本にまで逃げてたから、対処をお願いしたいってことで合ってるのか?〕

〔operator1:あぁ、概ね合っている。こちらは現在"寄生"し直した輩を洗い出すのに手一杯なんだ。申し訳ない〕

〔operator4:そこは仕方ない。ただ、一体何が入り込んだ?あのダラスの実験による影響なんだろう?〕

 

 

 彼が言うには、ダラスでの実験で"何か"が入り込み、それは十二個に分裂してそれぞれが人間に寄生。それらを"確保"する為にデルタを動かしてまで行動していたようだが、スターズの"自分のことは自分で責任をとる"という方針と対立し、戦闘を繰り返した結果頼らざるを得なくなった、と言う事らしい。

 

 しかし、そもそも"何か"が入り込んだのなら"確保"する必要はないように思われる。手っ取り早く始末してしまえばそれでいい。

 No1が手間取るくらいだから強力ではあるのだろうし、物理的な攻撃はむしろ危ういとさえ見える。

 とは言え、だからこそ"確保"は更に難しいのではないか。

 

 その疑問に対して、No1が返す。

 

〔operator1:こちらから言ってもいいんだが・・・、恐らくは説明があるだろう。伝言ゲームの様になってしまうのも怖い。しばらくしたら来るはずだ。その時は頼む〕

〔operator4:・・・?まぁ、とりあえずは連絡を待つ。"眼"で見分けられるのか?〕

〔operator1:あぁ、問題ない。"あれ"は誤魔化せるほど小さいものではない〕

〔operator4:了解した。出来るだけ確保できるように努力はするが、情報を先に集めたい。何回か物理的に殺してみるかもしれん。その時は勘弁してくれ〕

〔operator1:殺しすぎると"力が弱まる"。せめて数回にしてくれ〕

〔operator4:弱くなるならそれはそれで構わんだろうに〕

〔operator1:そこも、説明されたら分かるはずだ。では、申し訳ない。頼んだ〕

 

 その言葉と共に、パスが切れる。

 

 

「・・・説明が来る?一体、誰から?」

 

 実に簡単な答えである気がするのだが、思いつかない。

 しかし、そのもどかしさを理由に立ち往生している訳にも行かない。取るべき行動を取る為に、新たにコマンドでパスを通した。

 

〔operator4:No1、No5、済まないが頼まれてほしいことがある〕

〔moderator1:新年早々、ですか。別に問題はありませんが、何がありました?〕

〔operator4:USNAの方から頼まれてな。No1は十一月後半から今日までの間に来日した外国人をチェックし、その中からUSNAの国籍を持つ人間をマークしてくれ〕

〔moderator5:私はどうすれば?〕

〔operator4:No5はNo1が割り出した人物が現在何処にいるかを探し出し、マークしてくれ。何かしら異常があったら直ぐに報告しろ。どうも一筋縄では行かない相手との事だ。抜かりなく頼むぞ〕

〔moderator5:畏まりました〕

〔operator4:こちらも現在詳しい情報を得ることは出来てない。もしも情報が手に入った場合は必要に応じて情報を共有するし、場合によっては全員で事に当てる用意もしておく。しかし、まだ規模が分からん。とりあえず現状は俺含めた三人で事に当たる。慎重に、確実にやってくれ〕

〔moderator1:了解しました。

〔moderator5:それでは行動に移ります〕

〔operator1:頼んだ。それではな〕

 

 

 その言葉の後にパスを切断し、現在の武装をチェックする。

 相も変わらず懐にある拳銃に、各種のグレネード。

 

 何時も使っている拳銃は九ミリ。いざと言う時は警察などの場所から"補給"出来る為これを選んでいるが、"静かに動く"時などは二十二口径や、四十五口径の物の方が向いている。

 横浜の時は弾薬を統一する為に四十五口径の物を使ったが、事が収束した後はやはり九ミリの物に変えている。

 

「・・・いや、変えるか」

 

 今回はほぼフォックスハントに近い。自衛用としてなら九ミリの方が都合もよいし、使いやすいのだが隠密性を考えるとやはり変えたほうがいいだろう。

 

「音のことを考えると二十二口径の物の方がいいな。一応遠距離武器も用意しておくとして、持ち運びを考えると小型になるな・・・。組み立てられるように分解しておくか」

 

 今回の武装を整理しながら、武器庫へ向かう。

 

 

 

 武器庫のドアを開けたところで、コマンドから呼び出しが掛かった。

 

「さっきNo1が言ってた"説明"の為の連絡か」

 

 そう認識し、呼び出してきた相手を確認し

 

 

 

 

 しばし、思考が止まった。

 

 

 

 

「なっ・・・・・」

 

 

 

 まさか、そんな。態々、こんなことの為に。

 しかし待たせる訳にも行かない。待たせることそれそのものが"あのお方"にとって致命的となり得る。

 

 慌ててパスを繋ぐ。

 

〔operator4:いきなりどうなされたのですか?!態々、"貴方"が説明しなければいけない事なのですか?〕

 

 焦った様子で聞いてしまうのも仕方のない事だろう。

 何故なら、"最も手を煩わせてはいけないお方"からの呼び出しだったのだから。

 

 

 

〔creator:済まないね、緊急の要件だ。No1からある程度のことは聞いていると思う。だからこそ、詳しく説明させてほしい〕

 

 

 

 

〔creator:君にやってもらいたいのは、あの実験で"切り取られてしまった私の一部"の回収だ〕




詳しくは次回にて。


【重大な追記】八十一話にて告知した通り、パラサイトの数を変更しました。投稿後時間が経ったものを変更することになってしまい、申し訳ありません。



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第七十八話~杭~

創造主様の降臨です、はい。
なおここら辺から当初の、というか独自設定が色濃くなっていきます。出来ることなら悪しからずお願いいたします。


さて、本編です。


【Sunday,January 1 2096

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

〔operator4:"切り取られた創造主様の一部"・・・?それは、一体どういうことですか?〕

〔creator:あぁ。今からそこについて説明するよ〕

 

 てっきりダラスの実験で入り込んでいたものは精々"異物"だと思っていた。だからこそ、"創造主"様の発言を直ぐに飲み込むことは出来なかった。

 

 

〔creator:ここでは十一月二十五日がその時間帯であっていたかな。あの時に、私は"自我"をある研究者から借りていてね?そして、その研究者がダラスの実験に参加していたんだ。あぁ、彼自身は私の力に"取り込まれてはいない"から注意する必要はないよ〕

〔operator4:・・・つまり、ダラスでの実験の際に貴方はその影響を受けやすい場所にいらっしゃった、ということですか?〕

〔creator:理解が早くて助かるよ。流石僕が作ったこの世界の管理人なだけあるね〕

 

 素で言っているのかお世辞なのか、住んでいる次元からして違うこちらには理解さえ出来なかったが、話は続いていく。

 

〔creator:あのマイクロ・ブラックホールで出来る次元への"穴"は案外大きいものなんだね。始めて見た、という訳でもないんだけど、人間がそこまで出来るとは思ってなかったんだ。お陰で穴が閉じるまでに完全に逃げ切ることは出来ずにね、"一部"がそっちに取り残されてしまったんだ〕

〔operator4:しかし、この世界そのものは貴方の中にあるようなものです。最終的にはそちらに戻っていくのではありませんか?〕

〔creator:それが唯の僕の力の一部だったら、ね〕

〔operator4:と、申しますと?〕

〔creator:僕がそっちの世界に落としてしまった力はね、"生存欲"が強い概念体なんだ〕

 

 その言葉で、大体を理解することが出来た。

 

〔operator4:なるほど。そのまま放っておくとこの世界の人間に寄生して周り、"創造主"様が欲している"自我"を消滅させかねない。戻ってきた頃には折角精魂こめて貴方が作り上げたこの世界の価値そのものがなくなってしまう可能性がある〕

〔creator:切り取られた分より多く戻ってくるのは確かなんだけど、肝心の"そっちの世界を造った目的"が達成できなくなってしまうんだ。だからと言って消去させようとすると僕の"生存欲"そのものが消えてしまうからね。出来れば余り消耗させないように"確保"して欲しいんだ〕

〔operator4:しかし、どのように?とてもではありませんが我々の"コマンド"では太刀打ちできない可能性が〕

〔creator:君達のコマンドは管理し安いようにそれより上位の代物に対しては一切効かないからね。だからこそ、手段を用意してあるよ〕

 

 その言葉と共に、頭上から"何か"が生成され、落ちてきた。

 落ちてきたソレを拾い上げると、形は"杭"に似ているが、幾何学的模様が施されるように見える。

 

〔creator:それは君達が使うコマンドの亜種。バグとも言えるけど、あえて分かりやすい表現をすると"魔法"だよ。それを利用して作り上げた代物だ。それを対象に打ち込むと僕の力を強制的に封印、圧縮して、二十四時間後にはこちらへ向けて時限の穴を開け、僕に還元されるように仕込んである。人間達が使う魔法は"封印"しか出来ないけど、これならその後の事までカバーできるよ〕

〔operator4:これを対象に打ち込み、二十四時間保持することが目的ですか〕

〔creator:そう。それ自身は、"魔法"としての干渉力と言えばいいのかな?それは多分現存の魔法の中では最大クラスだよ。だから一回人間の魔法師の力を借りて対象を"封印"した後、それを打ち込んでも効果は出るよ。実を言うと、"似たような物を作った前例"があるからね。結構短時間で用意できたんだ〕

〔operator4:は、はぁ・・・〕

 

 "前例"、というのが気になる所ではあるが、"創造主"様の気まぐれが何かしら起こしたのだろう。面倒ごとになるかもしれないが、そもそも"創造主"様の造った世界なのだから、その使い道に口出しするのも間違いだと思い直し、無視することにした。

 

 

〔creator:それと、一つ注意〕

 

 そう、"創造主"様が注意を促す。

 

〔creator:さっきも言ったけど、その"杭"は"魔法"の概念を適用してるんだ。だからかなり物理的な条件に縛られる。一度宿主から脱出されるとその"杭"はそれが再度別の宿主に寄生するまではその"杭"を僕の一部に打ち込むことは出来なくなっちゃうんだ。だから、出来るだけ一気にその"杭"を打ち込める状況を作るように頑張って欲しい。眠らせるのはいい一例かな。宿主が眠ると寄生してる側も動きは鈍るから、その内に"杭"を打ち込むのもいい。さっき言った通り、魔法師の力を借りて一度"封印"した後に"杭"を打ち込むのもいいかもしれない。とにかく、確実に"杭"を打ち込める状況にまで持っていくことが重要だと言うことを理解してね〕

〔operator4:分かりました。動かせるところは全て動かしましょう。直ぐに出来るとは言えませんが、必ず成功させます〕

〔creator:お願いね。こっちでも出来ることはやってみるよ。"知り合い"もいない訳ではないし、そっちにもお願いしてみる〕

 

 その言葉に更に疑問が湧き、聞き返す。

 

〔operator4:"知り合い"、ですか?〕

〔creator:うん。話してなかったけど、前にこの世界でちょっとミスをしちゃってね。その時に助けてくれたんだ。色々手土産も渡したし、多分あっちも覚えてると思うんだよね。だからちょっとこれ以上自前で"自我"を保つのも厳しいんだけど、お願いしに行ってみるよ〕

〔operator4:は、はぁ・・・〕

 

 本当は"知り合い"とは何なのかを尋ねたかったのだが、これ以上"創造主"様自身に負担を強いるのも気が引け、結局胸の内に押し込むことにした。

 

〔creator:それじゃあ、お願いね。是非、僕の生きるための欲を取り戻してくれ〕

 

 その言葉と共に、パスが切れる。

 率直な所、話に着いていけないとしか言い様がなかった。

 此処までの話の中で、どうも唖然としたまま聞いていたような気がする。

 

 

 しかし、やるべき事は、はっきりしている。

 態々用意して下さった"杭"を見詰めながら、自分の調整者達に"事"に当たらせる為に連絡をつけることにした。




さて、ここでこのSS内での"魔法"の扱いについて少々解説を。

前にも書いたのですが、一応このSSは"魔法科高校の劣等生の世界をシュミレーテッド・リアリティとした場合"をモチーフとしています。そして、これも前に書いたのですが、このSS内では"魔法"とは"コマンド"の亜種です。

つまり、オリ主のように元は完全なエネルギー体、かつ"管理者"、"調整者"が使う物の劣化版であり、またその"魔法"はオリ主達には効きません。

それでは何故、"創造主の一部"に魔法の概念を用いて作った"杭"が通用するのか、と言う話になります。

これは少々難しい、と言うか自分でもかなり無理をしたなと思っているのですが解説を。


魔法と言うのはオリ主達が使うコマンドのように物理的影響を無視できるものではなく、むしろ物理的影響に大きく作用されます。もちろん魔法を使う人の"感じ方"も大きな要素ではあるのですがね。
つまり、物理的なものと物理的なもの同士での魔法での行使は物理的要素に大きく左右される、ということです。
オリ主達はそもそも物と言っていいのかどうかも微妙です。世界の管理者としてそもそも生まれてきているので、強いて言うならエネルギー体を無理矢理"物"に仕立て上げただけで、厳密には物とは言えません。だから"魔法"は通用しないのです。

一方、物と物とでの間には物理的影響が大きく作用するわけで、それに作用される魔法を適用させるには何かしら物理的なものを間に挟む必要があるのです。だからこそ"宿主から出してはいけない"訳です。また、この"杭"はこの理由によりオリ主達に刺しても効きません。


となると創造主の一部が寄生したものに対しては効くのかというと、答えは「はい」です。そもそも創造主の一部がこの世界の人間に寄生するという事態そのものがこの世界にとって想定外です。つまり、"バグ"と似た状態にあります。だからこそ、"コマンドは効かないのに魔法が効く"という一見摩訶不思議な状態が発生しているのです。魔法とコマンドが混在している状態、と言っていいでしょう。

さて、となるとどこぞやで説明しましたがお兄様の分解魔法はオリ主達に通用する、と書きました。これがどうしてかと言うと、これもバグの概念が適用されますが、これの場合"コマンドであって、同時に魔法である"という状態になっているのがお兄様が元から持っていた魔法なのです。もちろん、オリ主達の"眼"と比べるとお兄様の"精霊の眼"は劣化していますが、それはバグ故の弊害と言う物です。
簡単に言えば魔法に対しては魔法の概念が適用され、オリ主達と言った魔法より"コマンド"に近い代物に対しては"コマンド"の概念が適用される訳です。そしてその"コマンド"としての概念を適用した際の権限の高さはオリ主以上創造主以下の権限となっています。だからこそ、オリ主は殺せる訳で、かつお兄様が分解魔法を行使する際に干渉力によるごり押しなどという非効率な代物を魔法師相手にする必要が出てくるわけです。お兄様が把握してるわけではないんですがね。


自分でも言ってて訳が分からなく思えるんですが、とりあえずはこういうものだと思っていただければ問題ないかと思います。

さて、次回。時系列は次の週に渡る可能性が。自分の発想と物語を繋ぐのに少し苦労してる故、更新が遅れるかもしれません。悪しからずお願いいたします。



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第七十九話~暗視~

自分ではいくら最善を尽くして仕上げた文章の構成でも、やはりなんと言うか、想像通りに行かないんです。

もうちょっと、暗躍してる雰囲気を出せる時に出したい。文才が欲しいです。


【Monday,January 9 2096

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 ビルとビルの間の裏路地で、二人の人物が"死体"を挟みながら話し合っている。

 いや、"話し合う"という表現は適切ではないのかも知れない。彼らは何の声も発していないのだから。

 しかし、彼らは身振りも手振りもしてはいないが、やっていることがどうも上手く行っていないと言うことは雰囲気から理解できる。

 

 

 一人が、死体の傍にしゃがみ込み死体の頭を触る。

 その後、しばらく動かなかったが、何を思い至ったのか立ち上がり、もう一人の顔を見てから、ビルの屋上まで"一足"で跳び、その場を去って行く。

 

 

 

『謎の人物が屋上へ飛び上がるのを確認。その後三十秒後に目標をロストしました』

 

「機材を用いた遠距離からの監視だからな。恐らくは魔法を使われたのだろう。方向は分かるな?」

 

『はい。今までの行動パターンと確認できた"服装"から幾通りかは既に』

 

「分かった。アルファからチャーリーはそれぞれの行動パターンに沿った監視場所に移動しろ。追尾するな、待ち構えるんだ」

 

『了解』

 

「デルタは七草勢力の監視を続行しろ。動きがあった場合は報告するように」

 

『了解です』

 

「各員、"目標"を捉えても手出しはするな。意識も向けるんじゃない。"追っ手"の存在を悟られたくない」

 

 その言葉を最後に通信を切り、隠れていた"死体の傍の物陰"から出る。

 

「もしもあいつら同士の交信が"コマンド"に近かったら盗聴も可能なんだろうが、確実に存在を気づかれる可能性のある物をおいそれと使うわけにもいかん。難儀なもんだな・・・」

 

 そうぼやきながら死体に近づく。

 パッと見は今までの"十二体"と同じ。特に目立った外傷もなく、一見は唯の衰弱死に見える。

 

 しかし、それが"アレ"による寄生行為の失敗の結果だということは、"眼"で分かっていた。

 

「生存欲、というか自己保存欲に近いのだろうな。生存と繁殖のみを目的としているようにも見える」

 

 そして、それを十二回繰り返し十二回とも失敗している。"知識"そのものは"本体"からはあまり受け継いではいないのだろう。

 

 無為に増える死体を見ながら、そう結論付けた。

 

 

 

 "創造主"様から話を聞いた後、"調整者"達全員に状況を説明し、事を進めるために動き始めた。

 しかし、恐らくここで悪戯に"目標"を追うだけでは恐らくNo1の二の舞になるだろう。それに、何より我々は"目標"の事を何も知らなかったのだ。

 何が目的で、どのように動く傾向があるか。どこを根城としているのか。そもそも元の宿主は"誰"なのか。

 

 それをまず把握することから始め、必要なものが揃った段階で一度に"決める"。それがこちらで決めた方針だった。

 その為に、こちらで持てる最大戦力、つまり"特殊作戦群予備分遣隊"まで使い、監視任務に当たらせていた。

 

 その結果は上々。たった一週間足らずだが行動パターンをある程度まで絞り込むことに成功。あと少しで"確保"に動いてもいいところまで来た。

 

 

 しかし、ここで問題も発生してくる。

 "目標"が宿主に選ぼうとした相手の約半数以上が東京を地盤に持つ"七草"の関係者だったのだ。

 これに"七草"は反応し、"七草"自身で被害者の隠匿、及び"目標"の追跡、討伐を目的として動いてきている。

 

 つまり、"目標"を"確保"すると同時に、七草に対する足止めまで行わなければいけなくなる、ということだ。

 "七草"は流石にUSNAの"スターズ"と比べると物分りはいいかも知れない。しかし、そもそも"創造主様の一部"を魔法師に奪われることそれそのものが一番拙い。何に悪用されるか、分かったことではない。

 

 

 現状"スターズ"はまだ"目標"を把握できていない為手出しはしてきてはいない。しかし、いずれ露呈するのも時間の問題だ。つまり、"スターズ"と"七草"、そして"我々"の三つ巴になる前に行動に移す必要がある。別に三つ巴でも不可能ではないのだが、不確定要素が増える羽目になる。それを座視するような愚は冒したくは無かった。

 

 

 ともかく、残り時間は精々あと"一週間"だろう。

 "スターズ"が情報を察知し、動くまでにはそれぐらいは掛かる。逆に言えば、ソレしか掛からないとも言える。

 

 

 

 コマンドを通して、"調整者"達にパスを繋ぐ。

 "期限"の設定をする為だ。

 

〔moderator1:どうしましたか?現在総員で対象の監視、調査、考察などを行い一定のデータは取れています〕

〔operator4:だが、まだ確定的とは言えないな〕

〔moderator1:えぇ。どれほど時間はありますかね?〕

〔operator4:"小虫"が騒がしくなる前に事を始めたい。期限はあと一週間だ。結果がどうあれそこで情報収集を終了し、"確保"の為に動く。その様に他の奴らにも伝えておいてくれ〕

〔moderator1:了解。ところで、一つお聞きしたいことが〕

〔operator4:何だ?〕

〔moderator1:"四葉"は使わなくていいのですか?こういった作戦には向いていると思いますが〕

 

 その言葉を、前向きに捉えることは出来なかった。

 

〔operator4:いや、むしろ今"四葉"に頼る事の方が怖い。今までの"御遣い"とは規模が違いすぎるからな。痛い腹を知られる可能性も出てくる。とりあえずあいつらには何も知らせず、今までどおり"御遣い"だけやらせておけ〕

 

 現状最も何を考えているのか分からず、怖いのが四葉だ。それを今回の案件に好き好んで投入したいとは思えなかった。

 "創造主"様が言っていた"知り合い"がどのような物かは分からないが、いるかどうかもわからないそちらを当てにする方がまだ"リスクが小さい"。

 

〔moderator1:分かりました。それでは、これで〕

〔operator4:あぁ、頼む〕

 

 その言葉で、パスが切れる。

 "目標"がこちらの"コマンド"による交信を盗聴できる"かもしれない"為、最低でも一対一の交信に抑えてはいる。だが、不便だと感じるのは仕方のない事だろう。

 

 

「"目標"は余り"野生の勘"に優れているわけでもないようだし、恐らくは上手く行くはずだ。後は、時間が来たら"目標"が"監視の網"に引っかかるのを待つだけだ」

 

 傍の"死体"を見ながら、そう独り言を零す。

 もしもこれが"七草とは無関係の人物"であるならば、警察にとって五人目の被害者になるだろう。

 

 警察の動きにも気をつけた方がいいだろうか。そう思いながら、また暗闇へと姿を消した。

 

 

 




ってことでまでオリ主は"目標"に手を出しません。狩りは銃を持って目標を狙いに行く前から始まると考えて動くスタイル。

今回あえて1月9日を警察が五人目の被害者を捕らえる日としました。理由としては、一月の二週目であること。そして、どうも雰囲気的に魔法科高校での冬休み明けの日と被っているだろうと言うこと。そして最後に、一月の第二月曜日に成人の日が来るなどと言う腑抜けた制度は恐らく廃止されているだろうという事からです。流石にゆとりの雰囲気が見え隠れする第二月曜日の成人の日は消えてなくなってるはず。多分昔の日付に戻るんじゃないでしょうかね。十五日でしたっけ?そう記憶してます。

さて、次回。これの一週間後になります。あくまで慎重に、オリ主は進めます。


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第八十話~狐狩~

どうも前回の時系列設定について原作の読み込みが甘く、違和感を感じさせる代物となっております。具体的には16日の一週間前に学期が始まると考えた場合、達也が言っていた「一週間リーナを観察した結果」のところで推測される時間の流れと矛盾してしまうといったところです。今回はそのまま進めますが、違和感を感じる方には申し訳ありません。

そして、なんか詰め込み感が酷い気がする。出来るだけ不自然にならないよう努力はしますが、そこに関しても出来れば寛大に見て下さるとありがたいです。

さて、本編です。


【Monday,January 16 2096

  Person:operator4    】

 

 

 

 

 

 深夜の渋谷にて、影の中を動く者達がいる。

 スターズ、七草・十文字連合等がそれに該当するが、もう一つ。

 それが、目標の"確保"を目的として動く、"我々"だった。

 

〔moderator1:全員の準備、完了しました。特殊作戦群の指揮はそちらへ移行。"狩り"はいつでも開始できます〕

〔operator4:"周り"の様子は?〕

〔moderator1:好ましくありません。"目標"のニュースが世間でも出てきました。スターズも情報を把握、追跡を開始。また七草は十文字との連携に入りました。その他には警察の側にも何かしらの動きがあります。遭遇戦の可能性は充分にあるでしょう〕

〔operator4:了解した。"狩り"を開始する。邪魔になるなら二つとも"潰す"つもりでいろ〕

〔moderator1:了解〕

 

 その言葉と共に、パスが切れる。

 

 

 設定していた期限が過ぎ、情報もある程度は集まった。

 しかし、"目標"が誰なのか、どこを根城にしているのかに関しては完全に把握は出来なかった。

 その点を加味し修正を加え、"今日"から本格的に"狩り"を始める。

 もちろん直ぐに目標の"確保"を達成できるとは思っていない。最初は、"頚木"を打ち込む事さえ出来ればよい。

 

 

『各員、作戦を開始する。目標とは別の勢力が二つ、介入する可能性がある。そのいずれに対しても交戦を許可する。全力を尽くせ』

 

 無線にて作戦開始の指示を出し、"目標"を狙える狙撃ポイントまで移動する。

 七・六二ミリ弾を使用する競技用ライフルを抱え、屋上へとたどり着いた時、"一人目の目標"の姿を確認した。

 

「"目標1"を視認。現在は他勢力と交戦中。あれは・・・スターズか」

 

 そう無線越しで言うと、無線から別の報告が入る。

 

『こちらではアルファが"目標2"を視認。逃走中と思われます。撃ちますか?』

 

 その質問に対して、条件付の肯定を返す。

 

「足は駄目だ。機動力を損なわせる。相手に手負いのまま、根城としている場所まで逃げさせるんだ。胴体か、腕を狙え。その後に"目標2"が逃げ切れるように"追っ手"を足止めしろ」

 

『了解。"目標2"に狙撃の命中を確認後、スターズを足止めします』

 

 その言葉に了解の意を返し、一旦切る。

 アルファの狙撃の成否に関しては疑うことは無い。後は、こちらの持ち分をしっかりこなせば問題はない。

 

 

 目標一は仮面を被った魔法師・・・恐らくは「アンジー・シリウス」に追いかけられている。

 

 ここで下手な手段を取ってシリウスに目標を"殺されてしまう"事は避けたい。

 となると、この時点での正解は"目標の意図を大きく妨げることはしないこと"。

 

 

 競技用ライフルを構え、目標の"左肩"を狙う。

 ここならば撃たれてもさほど戦闘力、及び機動力に支障はないだろう。

 

 

 肺の中から空気を押し出し、狙いが定まったところで、一撃。

 

 

 今回使用する弾頭には発信機が埋め込まれている。貫通力で言えば下がるが、その分体内に残りやすい。恐らく"根城"で一旦弾丸は摘出されるだろうが、逆に言えば"根城"に着くまでは埋め込まれたままの可能性が高い。今回は、それを狙っている。

 

 

 目標の左肩を狙った一撃は、寸分違わずに狙ったところへ直撃する。

 目標は不意に自分を襲った一撃に驚愕した様子を見せ、そして自分を正確に貫いた狙撃手が自分の位置を把握しているのを"シリウス"の追跡によるものと"誤認"した。

 

 目標がシリウスに対してキャスト・ジャミングを掛け、その間に姿をくらます。

 

 それを確認してから、無線機を取り出した。

 

「各員、どうだ?」

 

『"目標2"に対して弾を撃ち込みました。下腹部に着弾。スターズに対する足止めも成功した為、無事に"目標2"は"根城"に帰ることができるでしょう』

 

「後の監視はこちらで請け負う。少々戦闘跡から情報を得たい。七草、及びスターズを一時押さえろ」

 

『了解。アルファはスターズの足止めを続行。ブラボーとチャーリーで七草、及び十文字勢力に対して牽制を掛けます』

 

「頼んだ」

 

 そう返し、屋上から非常用の梯子を使って降り、"目標1"が出てきた場所へと向かう。

 人気が異常に無いのは、恐らくは"目標"による結界の仕業だろう。しかしこちらとしては、態々武装を隠したり、ライフルを分解してスーツケースに収める手間が掛からなくて助かっている。

 

 サプレッサー付の二十二口径拳銃を片手に、周りを警戒しながら進む。

 四つ巴の格好となっているが、こちらの存在を誤認させやすいという意味ではある意味助かっていた。スターズは恐らく七草勢によって妨害されていると認識し、七草勢はその逆として認識してくれるだろう。そして、そのように動けるのがこちらの強みでもある。

 

 

 辺りにはまだ誰もいない。そのことを確認し、現場を確認する。

 そこには、若い男女が倒れているのが見えた。

 女性は恐らくは一度介抱されかけたのだろう。まだまともな体勢で地面に転がっている。一方男性の方は介抱している途中で襲撃を受け、そのまま目標にやられたのか突っ伏したままだ。

 

 

「・・・もしかして、あいつか?」

 

 倒れている男の背中に何故か見覚えを感じ、顔を確認する。

 

 

 やはり、見覚えのある人物だった。否、つい数ヶ月前までは身近な人物だったと言ってもいい。

 

「当たりか。しかし、レオがこの騒動に足を突っ込んでるとはな・・・」

 

 つい先日警察との接触があったのは確認できていたが、事態に介入してくるかどうかは半々に捉えていた。しかし、トラブルを好むのはやはり"彼"の友人であるが故か。だからといって今回の事に関わるのは如何なものかと思いながら、様子を見る。

 

 命に別状は無い。彼のスペックから推測するに、意識もいずれ回復するだろう。

 しかし、このまま放って置くのも妙に素っ気無く思えた。

 

 端末を取り出し、彼を病院へ搬送させる為救急車両を呼び出す。

 おそらくこれで七草参加の場所に確保されること無く彼は"まともな"病院へ運び込まれるだろう。

 

「虚構の関係だったとはいえ、迷惑は掛けたからな。これくらいの事をしても罰は当たらんだろう」

 

 しかし、今回も"彼と愉快な仲間達"は問題に絡んでくるのか。

 奇妙な運命とも取れる成り行きに苦笑しながら、その場を後にした。

 

 

 

 




恐らく七草、及びスターズに関しては最後までオリ主勢力を認識することはありません。彼らは最後まで共闘しないからね。オリ主による妨害を互いによる対立と考えるでしょう。

それでもって、多分達也達は自然と気づきそうなんですよね。そこらへん、上手く纏められるかなぁ、と思っていたり。

オリ主がレオを発見→救急車両を呼び出し"中立的"な病院へ運び出させたのは何気ない成り行きでその方がいいかなと思ってそのように。だって、警察が病院に盗聴器その他を多数仕掛けることが出来る病院が七草勢力下にあるわけないでしょう?


ところで、少々疑問が。肝心の室内の盗聴器は全部真由美さんに破壊されてるわけですが、まさか全部ドライ・ブリザードで破壊した訳じゃないですよね?そうだとすると病室が弾痕まみれになってて大変だと思うのですが・・・。

何回も原作を読み返し、そこそこストーリーを把握している自信はあったのですが、いざ形に出してみるとどうも矛盾ばかり起こる。後でもう一回読み直した方がいいのかもしれませんね。

さて、次回。オリ主が唸る。主に事態の悪化に。限りなく泥沼になります。

【追記】少々ナンバリングを漢数字→英数字へ改定。


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第八十一話~阻害~

重大な原作の読み誤りが発覚したのでこちらを投稿した後訂正します。
詳しくは後書きにて


【Friday,January 20 2096

  Person:operator4    】

 

 

 

 

 

「・・・こちらは"危険区域"から離脱した。全員無事か?」

 

『全部隊、離脱を完了しました。しかし無事かどうかは私達には分かりかねます』

 

「分かった。一旦合流しよう。ヘリを失敗時の回収地点へと向かわせる。そいつに乗って基地に帰投しろ」

 

『了解』

 

 通信が切れると共に、大きくため息をつく。

 素直に、助かったと言うべきだった。

 

 

 正に今日、二つまで割れた"目標"の根城のうち、片方に襲撃を掛けた。

 あえて逃げ道を作り出し"自分"の元へと誘導、そして行動不能にした隙に仕留める。そのような算段"であった"。

 

 

 ここで、誤算が生じてくる。肝心の"こちらへ向かってくる途中の目標"を、スターズが捉えてしまったことだ。

 

 最初に"目標"を認識した部隊は足止めできた。しかし、"シリウス"がそこを突破してきた為、"目標"もこちらの望むルートとは外れた道で逃げてしまう。

 

 

 だが、これはまだいい。はっきり言って、誤差の範囲内だった。

 問題は、今回の事態が四つ巴はおろか各勢力の争奪戦になりかけていた事だった。

 

 "目標1"を追尾しようとした時、それぞれの分隊が広域特捜チーム、スターズ、七草・十文字連合や千葉・吉田連合の各勢力のルートと被り、それらを避けるように移動せざるを得なくなったのだ。

 結果、追撃の速度は考えられないほど低下し、仕舞にはスターズに"殺害"を許してしまったのだ。

 

 その時点で"寄生される危険性"を分かっているこちらは各勢力とは正反対の方向に、つまり離脱を図った。

 何とかこちらに関しては逃げ切れた物の、内心嫌な汗が止まらなかった。

 生きた心地がしない、とは正にこのことを言うのだろうか。今ならNo1が失敗した理由も分からなくはない。それより難易度が数段跳ね上がっているが。

 

 

「・・・これはいっそのこと何処ぞやの勢力と協調路線を張った方がいいのだろうか」

 

 このままではそれぞれ足の引っ張り合いをしているだけだ。いっそのこと利害を一致させて連携して事に当たればいいのではないか。

 

 

 そう考えて、直ぐに無理だと思い直し諦める。

 そもそも"我々"が動いている、というより存在さえ知っている者は"我々"以外にはいないのだ。

 これで取引を万が一持ち掛けられたとしても、相手からしたらポッと出の訳分からない団体が一枚かませろと言ってきたのと一緒だ。

 

 

「隠密性が必要だったとは言え、こんなところで弊害が出てくるか・・・」

 

 もう何度目かも分からないため息を漏らす。しかし、重要なのはここで悲観することではなく、次をどうするかだ。

 

 とりあえず"目標2"が死んだことにより"あれ"が外に漏れ出し、次の"宿主"に寄生するその瞬間まで、我々はその危険性から現地域に近寄ることさえ出来ない。

 つまりその間、"目標2"の追跡は完全に不可能になる。また宿主を特定し、根城を探し出すところから始めなければならないのだ。

 

 

 もう何度「いっそのこと四葉を投入してしまえばいいのではない」という考えが頭を過った事か。どうせこちらにとっては消耗してもいい手足だ。はっきりいった話"目標"が死んだとしても追跡させればそれはそれで楽なのではないか。

 

 しかし、どうしても四葉を使いたいとは思えない。いくらその方が仕事が安上がりに済むのだとしても、これを機に何かしらの尻尾を捕まれでもしたら更に厄介なことになる。何しろ、四葉は何処と無く恐怖を感じるのだ。そんな勢力には例え間接的であっても余り関わりたくはない。

 

 

「・・・どの道最低でも一週間ほどは立ち入れなくなると考えた方がいいだろう。寄生される確率は近くにいればいるほど高い。その間何も出来ないのはどうも悔しいが・・・」

 

 いっその事"目標"を追跡するチームをいくつか潰すのもありだろう。"スターズ"あたりなら他勢力と協調路線を張ることもないだろうし、ある意味"潰しやすい"。

 もしくは広域特捜チームそのものを取り込んで協調路線をとらせるか、ソレが無理なら最低でもこちらの行動に支障をきたす行動をさせない様にするのも良いかも知れない。むしろ、こちらの方が取り掛かりやすい。

 

 

「後は、"アレ"その物の対処か・・・」

 

 現状方法としては監視カメラにて"寄生後の目標"を探し出すしか方法はない。映像にて顔の識別が"不可能"な場合は、それが目標と見てまず間違いは無い。即応性が求められるが、そこは収まってから何とかするしかないだろう。

 

 

 

 視線を下に落とし、そして"あるもの"を見たときに考えが浮かぶ。

 

「そういえば、この"杭"は確か・・・」

 

 "創造主"様が言うには、この"杭"は魔法の概念を使っている、との事だった。

 つまり、この"杭"と同じように、"アレ"に対する一定の対応策を"魔法師"は持っているということではないのか。

 

 現代魔法師では恐らくは無理だ。しかし、"古式"なら?

 昔から"怪異"について人間にしてはある程度知っている"彼ら"なら、否、"彼らだからこそ"あの危険地帯の中を追跡できているのではないのか。

 

 この事態に関わっている古式魔法師は、確か千葉家に協力している形で"吉田家"がソレに当たったはずだ。

 現状"伝手"は無いに等しい。しかし、国を動かすことで"要請"は出来るかもしれない。"彼ら"がもし危険が収まる前に確保できたとしたら、その対象を引き取ることも恐らくは可能だろう。

 

 最悪、保管しているところに強襲をかけて強奪してしまってもよいのだ。そちらの方が、幾分か手間が省ける。

 

 

「全戦力は避けない。が、動けるようには準備はさせておくか。分隊を一つほど吉田家の付近で待機させておいた方がいいだろうな」

 

 

 そう思い至った所で、迎えの車両が来る。

 流石に現地点から"家"へと戻り、バイク等に乗って合流できるほど距離が無い訳ではない。失敗時の為にに事前に"自分の回収手段"も用意させていたのだ。

 

 その車両の後部座席に乗り込み、今や唯の荷物にしかならないライフルの入ったアタッシュケースを隣の席に置いたところで、その車両は動き出した。

 

 

 

 




前書きに書いたとおり、訂正箇所があります。

具体的には、世界に入り込んだ"パラサイト"の数です。
脱走者が八名だというだけで、実際は十二個のパラサイトが入り込んでいるようです。これのお陰で恐らくかなり矛盾が発生すると思われるので、こちらの個数を変更させて頂きます。

変更箇所は 七十三話 七十七話 になります。

また、これらを変更すると共に同時に作品にて矛盾が出てきます。
簡潔に言えば、"脱走していない宿主の確保に何故動かなかったか"と言う事です。
これに関しては最も行動が活発的な宿主=繁殖に最も積極的な宿主を優先して確保に動くべきと判断した、と考えてください。増やされる前に、ということです。


かなり設定を間違えてしまい、大変申し訳ありません。
個人的にも来訪者編は長いが故か横浜編やその他と比べて理解度が作品の構築に必要なレベルまで行っていないことが今回のことで分かった為、少々読み直してきます。
またしばらく遅れるかもしれませんが、ご容赦いただけると幸いです。ただ、最低一週間以内には投稿できるよう努力する予定ですので、出来ればこの先も温かく見守って頂けると幸いです。

【追記】目標のナンバリングをミスしたため修正 1ではなく2です。後、雰囲気が英数字の方を使った方がよいと考えた為目標、及び管理者と調整者のナンバリングは英数字で行っています。悪しからず。


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第八十二話~未知の恐怖~

タイトルに久しぶりに平仮名を使いました。これ以外に今回の話を表現する手段を自分は知らないので。

後、一応時系列整理です。

16日(月)目標1及び目標2に発信機つきの銃弾を撃ちこむ。同時に目標2に戦闘不能状態にされたレオを発見。病院へ搬送させる手続きを整える

20日(金)目標2の宿主(チャールズ・サリバン)死亡。オリ主は近辺を危険地帯と認識。オリ主勢力は一時撤退。千葉エリカ及び吉田幹比古がそれぞれシリウス、目標1と交戦。司波達也による介入発生。

21日(土)司波達也と七草真由美、十文字克人が会合。情報共有の約定

28日(土)目標1とスターズ、及び司波達也が交戦。目標1は離脱。その後、スターズと司波達也とその他が交戦する。

29日(日)千葉エリカ、吉田幹比古、七草真由美、十文字克人、司波達也が会合。この会合により千葉・吉田連合と七草・十文字連合は協調路線を取る事が確定。

30日(月)目標1が第一高校に侵入、及び撃退される。


そして、31日(火)。事態は、舞台裏で急展開を迎える。


【Tuesday,January 31 2096

  Person:operator4    】

 

 

 

 

 前回の撤退から一週間と少しが過ぎていた。

 そして、その後の推移は悪化していく一方だった。

 

〔moderator1:二十八日深夜にて"目標1"と"スターズ"、及び九重寺の僧兵と"彼"が交戦。発信機を取り付けた銃弾を"目標1"に撃ち込み、三十日正午あたりに"殺害"。以上が監視カメラによる映像の分析によって判明した結果です〕

〔operator4:資料を見る限り、"目標1"は宿主から離脱した後、"彼ら"と戦闘行動に入ったように見える。一応"彼ら"が寄生されてないかチェックする必要があるだろう。もし寄生されていない場合は、"目標1"は生身の人間に寄生できるほどの力はないはずだ。しばらく危険性はないかも知れないが、これは怒られるな〕

〔moderator1:問題は今だ行方が分からない"目標2"です。カメラに映った全人物の解析を進めていますが、それらしき対象はいません〕

 

 しばし唸る。危険性はだいぶ収まったのかもしれないが、既に目標は分かっていた宿主から離脱している。

 

〔operator4:USNAのパラサイトはどうなってる?〕

 

 この質問に対しても、帰ってきたのは聞きたくない答えだった。

 

〔moderator1:連絡がありました。スターズ、及びスターダストによりUSNAに残っていた残りの二個体も"殺害"されたとのことです〕

〔operator4:・・・数が違うとは言え、No1は失敗したのか。最悪と言っていいかもしれないな。他勢力の動きは?〕

〔moderator1:七草・十文字連合、及び千葉・吉田連合は活動が沈静化。対して独立魔装大隊は前述の通り活性化。また、九重寺にて異常な活動の活発化が確認。横浜の中華系勢力も不穏な動きを見せています。"彼"が介入した影響か、四葉にもそれなりの動きが〕

 

 事態は此方にとっては泥沼以上の物にまで悪化している。もはや、"最善"を求める時期は過ぎていた。

 

〔operator4:・・・他のパラサイトの所在は?〕

〔moderator1:対象は確認できましたが、根城の特定には至っていません。動いた方がよいでしょうか?〕

〔operator4:・・・確保するには時間が足りない。七草・十文字連合と千葉・吉田連合が協調路線をとった以上、楽に進むとも思えない。となると、方法は一つしかないな〕

〔moderator1:と、言いますと?〕

〔operator4:他勢力に"目標"を確保されるわけには行かない。今現在我々はどうせ動けない。ならば、いっそのこと"リセット"するしかない〕

 

 嫌な物が貯まるような気持ちを抑えながら、続ける。

 

〔operator4:四葉に連絡をこちらで掛けておく。現存する全ての目標のデータを整理した後、此方に送れ。他勢力に万が一でも"確保"される訳にはいかない。遺憾ながら、一旦現存する全ての"目標"を"殺害"する〕

 

 普通ならばこの言葉には異議が出てくるだろう。しかし、最早此方の状況は日刻みで悪化していっている。今現在の手段はこれしかなかった。

 

 そして、その事を理解しているのだろう。実際異議が来ることはなかった。

 

〔moderator1:・・・了解。対象をカメラにて監視、殺害が確認された後は特定作業に入ります。並行して、各勢力の監視を厳にして続行します〕

〔operator4:任せた〕

 

 

 そこで、一旦パスを切る。

 

 

 使いたくない勢力を使う。決断としては今でもどうかとは思う。

 しかし、これ以外に方法が無いのも事実だった。寄生される危険性の中、貴重な手駒を使うわけにも行かない。"四葉"ならいくら消耗しようが此方にとって問題はない。また、要求されたことを実行可能に出来る能力も持っている。

 

 

 "家"に備え付けられた、衛星電話を取る。

 本来は盗聴の心配が無いように"信頼できる手駒達"の間のみで使用している通信衛星を、"四葉"にも使えるようにしたのだ。

 

 勿論、宛先は四葉真夜へ直通になっている。こちらとしてもそのつもりであったし、彼女自身がそれを望んだのでもあるのだが。

 

 

 その彼女へ、手に取っていた衛星電話で通話を掛ける。

 

 一分ほど後、通話が繋がった。

 

 

『珍しいものね。貴方から直接連絡を掛けるなんて。何時もの"御遣い"は使いを寄越していたというのに』

 

「緊急の要件だからな。別に盗聴される心配は無いのだからいいだろう」

 

『まぁ、それもそうね』

 

 何かしらを察していそうで余計なストレスが掛かりそうだったが、重要なのは今の自分の精神衛生などではなく、目先の事態への対処だ。

 そう思い直し、話を続ける。

 

 

「さっきも言ったとおり緊急の用件だ。二日以内に対処を完了させろ。やることは」

 

『"切り取られた一部"に寄生された、日本にいる全ての"宿主"の殺害、でしょう?"確保"ではなくて』

 

 

 

 

「・・・は?」

 

 

 

 いきなり言葉を割り込まれ、しかもその内容に頭の理解が着いていかなかった。

 同時にコマンドから緊急での呼び出しが掛かり、パスが繋がらないまま内容だけが出てくる。

 

〔moderator1:緊急の連絡です!先ほど、四葉の分家、黒羽が一斉に活性化。また、四葉勢力化の情報収集部隊も同時期に活動を開始しました!数分前、四葉当主から黒羽当主に向けた通信が行われた形跡を発見!どうみても異常です!指示を!〕

 

 しかしそれに対して返答を返すことが出来るほど、まだ理解が追いついていなかった。

 今だこちらを呼び出すコマンドを無視したまま、心から何も無くなったような気分のまま、彼女へ疑問をぶつける。

 

 

「どういうことだ。何故、知ってる。何故、"お前達"が、"あのパラサイト"の正体を知っている。何で、此方が要求しようとしたことを知っている。何故、"お前達"が"あれを無力化ではなく、確保しなければならない"と知っている?!」

 

 

 もはや、"四葉"を、"四葉真夜"を、信用できないが使える手駒と見ることは出来なかった。

 一年ほど前から様々な未知を経験したが、今目の前にある"未知"には、耐え難い恐怖があった。

 

 

 今更、ここまで恐怖を感じることが出来たのか。そう思いながら、しかしまだ恐怖の渦の中に自らの心を置いたまま、答えを待った。

 

 

『あら、まさか貴方がそんな反応をするとはね。中々に面白い物ね、この世界も。

 

 "私"が、貴方達の意図を知っているなんて、当たり前でしょう?』

 

 

 

『だって、"あのお方"(創造主)の知り合いって言うのは、"私"の事なのですから』




最大級の伏線を回収。
詳しい事は物語の中で。

ただ、一つだけ言うと、この物語、オリ主勢、及び"創造主"のモチーフの元は、原作で伏線としてあった"あのお方"です。今だ連載しているなかやるべきではないとは分かっていましたが。


後、来訪者編を日が昇ってから落ちるまで読んだ結果、とりあえずある程度の整理は出来ました。原作片手にゆっくりと更新していこうと思います。


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第八十三話~優先度~

展開に悩む。ちょっと物語に飲まれすぎると時々行き過ぎた伏線まで回収してしまいますからね。現に一旦書いた後書き直しました。物語が続かなくなると思って。二度手間です。

物語を作るときは酒のソレが当てはまりますね。呑んでも呑まれてはいけないということです。


さて、本編です。


【Tuesday,January 31 2096

  Person:operator4    】

 

 

 

 

 

「お前が、"創造主"様の言っていた・・・?一体、何故・・・」

 

『あら、"あのお方"は何も言っていなかったのね。まぁ、態々たかが連絡の為だけにあなた方に労力を割けるほど"あのお方"には余裕がなかったのでしょうけど』

 

 そう言って、電話越しにコロコロと彼女は笑う。

 

『本当なら今すぐ話しても構わないのだけれど、貴方からしたら直接話を聞きたいでしょうし、"今、最も重要なこと"はそのことではないでしょう?』

 

 まるで宥めるように、しかし肝心なことは何も話そうとしない真夜に対して、浮かんできたのは怒り、ではなかった。

 想像以上の恐怖が湧き出たが故の影響なのか。自然と、思考が整理されていったような気がした。

 

「・・・そうだな。ただし、"事"が終わったら、全てを話してもらう」

 

『えぇ。積もる話が私にも、貴方にもあるでしょうからね。場所はそちらで用意するのかしら?』

 

「いや、此方から向かおう。聞かせられる話でもないだろう。お互いだけで、な」

 

『構わないわ。じゃあ、この話は"アレ"を確保した後、と言う事で』

 

 

 そこで一旦話が区切れ、"目先の事"へと話題が移っていく。

 

『それで、貴方達は"私達"を使う気になったのかしら?』

 

「・・・とりあえずはどうしようも無いからな。力を借りるぞ。一旦宿主を全て"殺害"するとして、その後離脱した"アレ"そのものを観測することは可能か?」

 

『勿論。と言うより、それも既に指示してあるわ。"あのお方"は貴方達がやろうとしていることを全て察して、指示を此方に出したのだもの』

 

「・・・此方にとっては不甲斐ない気持ちで一杯だがな」

 

 勿論、これは"四葉"に向けてではなく、"創造主"様に向けてだ。確かに単独では遂行が難しかったとは言え、ここまで御手を煩わせているとなると落ち度が目に付く。

 しかし、だからこそこれ以上手間取るわけにも行かないのは事実だった。

 

「とりあえずは、その後だ。とりあえずは再度寄生した"アレ"を宿主ごと、なんとかして確保しろ。手段、金額等は問わない。必要な範囲は全てバックアップする。確実に遂行してくれ。それと、今現在此方には非寄生状態の目標に対して対抗手段がない。こちらが"戦力"を動かせるような状況になったら情報を頼む」

 

『分かったわ。では、その様に。他に何か用件はあるかしら?』

 

 その問いに対して、肯定を取る。

 

「あぁ、一つだけな」

 

 そう言って、一つだけ、確認したいことを聞く。

 

 

「"創造主"様は、"知り合い"・・・つまりお前に、助けてもらったと言っていた。そして、その礼に何かしらの物を渡したと。それは、事実か」

 

 

 その質問に対し、帰ってきたのは肯定だった。

 

 

『えぇ。今は詳しくは話せないわ。けど、貴方の言ったことは確かに事実よ』

 

「そうか。聞きたい事は今のところはもうない。では、言った事をきちんと遂行してくれ。それではな」

 

 その言葉と共に、通話を切る。

 

 

 受話器を机に置き、一息つく。

 まだ、現実感が沸かなかった。このような気分になることがあるのかと、長い間生きていながら始めて的外れな感慨を受けた。

 

 机の上に置いてあった煙草を取り、箱から一本を取り出し火をつける。

 その煙を吸い込みつつ、椅子の上で力を抜く。

 

 

 そうして忘我に数分ほど浸った後、コマンドから呼び出されていたことを思い出し、パスを繋ぐ。

 余り放置しすぎたせいか、向こう側はかなり慌てている様子だった。

 

〔moderator1:やっと繋がった?!何かそちらでも問題がありましたか?〕

〔operator4:いや・・・とりあえずは此方の方で整理したい。お前達にとっては問題ないから気にするな〕

〔moderator1:・・・分かりました。それで、"四葉"の事なのですが〕

 

 そう言って先ほど漏れ出ていた内容を再度話そうとする彼を制止する。

 

〔operator4:ノータッチだ。こちらで意図を把握した。やろうとしてた事は同じだったようだし、ついでに色々頼んだ。こちらは"四葉"の連絡があり次第動く。どうせしばらくは危険で、動くことも出来ないんだ。しばらくは前よりはゆっくりできるかもな〕

〔moderator1:悠長なことをしている場合でもないのですがね〕

 

 そう言ってはいるが、事実上ほとんどの事を四葉が代行してくれるような物だ。現状バックアップだけしていればいいのだから、危険が収まる間は逆にゆっくりできるというのは事実だった。

 

〔operator4:じゃあそのように頼む。一応"特戦"にも今後の行動方針は伝えておいてくれ。四葉が関わっていることは一応伏せておけよ〕

〔moderator1:了解。それでは、失礼します〕

 

 その言葉を確認し、此方からパスを切る。

 

 

「・・・全く、考えられないほど疲れたな」

 

 いつの間にか半分まで減った煙草の火を消しながら、そう呟く。

 

 

 疑問は今だ尽きない。否、更に増えていると言ってもいい。しかし、重要なのは今目の前にある事だという事実は今だ変わることは無い。

 

 変わって欲しいと思うわけでもなく、しかし好んで知りたいとは思っているのだが。

 

「知りたい時ほど知ることが出来ず、知りたくはない事ばかり知る。起きて欲しいことよりも、起きて欲しくない事の方がより多く起きる。皮肉な物だな、分かってはいたが幸運と不運は釣り合ってないらしい」

 

 その言葉と共に、背もたれに体重を預ける。

 出来ることならば、コーヒーが飲みたかった。缶の物ではなく、コップに入れた、温かい物を。

 

 しかし、立つ気力も無い今の状態でそのような物が都合よく用意できるはずも無く、仕方なく机の上に置いてあった、室温によって冷えたコーヒーで我慢することにした。

 

 

 




前回にて、話に呑まれてくれた人がどれほどいるのだろうなぁ、と少々想像しながらとりあえず八十二話を書きました。いてくれたらいいなぁ、と少し思ったり。
まぁ、自分にはさほど文才がある訳でもないのでさほど多くはないのでしょうがね・・・。今だ精進すべきか。それに伏線は一応ありましたしね。想像していた方もいらっしゃったのかもしれません。


さて、次回。未定です。10巻は描写するところの選別が難しいので。まさかリア充の日を書くつもりはありませんし。やっぱりピクシーのところからかなぁ、なんて思ったり。


余談ですが、ピクシーと聞くと片羽を思い出すのは多分自分だけじゃないはず。

【追記】ナンバリングミスの為変更しました。


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第八十四話~要望~

十巻を穴が開くほど見詰めました。


書く場所が、ない・・・・。


【Sunday,February 12 2096

  Person:operator4    】

 

 

 

 

 

 二月も十日と少しが過ぎた頃。

 今だ"家"の地下室の中から、四葉真夜からの報告を聞いていた。

 

『・・・とりあえずは現存してたパラサイトの宿主は全て"抹殺"。東京全域が危険地帯と化したわ』

 

「そうか。それで、観測は順調か?」

 

『一応"黒羽"の方々に観測を続けさせているわ。ある程度のデータも取れたし、そちらに後で送るわね』

 

「ならいい。問題は日本で最初に消えた二個体の場所だ・・・。他の三つはアメリカで"殺された"んだ。あっちの管轄でいい。二個体の特定は?」

 

『今だ特定には至っていないわ。流石に"アレの一部"となると予測もつきませんもの。ただ、一つについてはどこの辺りにいるかは分かっているのではなくて?』

 

 その問いに、しばし言葉が詰まる。

 自分達での観測データの結果から見ても、"目標1"はそう長距離を移動できるほどの力を残していたとは思えない。

 

 アレそのものはかなり"生存欲"が強い個体だ。生命体に寄生した場合は次いでその個体の繁殖欲に影響を受けるが、例え寄生していなくても"生存欲"によって動くのは確か。

 

 そして、その原理からすると例え非寄生状態で回復できたとしてもそのまま宙に漂い回復を待つような悠長な事はしないはずだ。それは生存欲があるが故の"危機感"が許さない。

 

 

 となると、答えは一つ。

 

 

「人形に憑いた・・・か。面倒だな。"杭"が通じるかどうか・・・」

 

『この点は古式魔法師に一歩譲る形となりますわね』

 

 そう面白そうに彼女は笑うが、此方としては他人事ではない。

 人形であるが為、杭を打ち込むには"固すぎる"のだ。別に打ち込むことそのものは不可能ではない。

 しかし、ソレにより体そのものが割れてしまい"人型"を維持できなくなってしまった場合、"杭"による封印そのものが不可能になる可能性が出てくる。

 

 これはヒューマノイドにも同じことが当てはまる。"外側"が大きく崩れてしまうと、"内側"が無事でもバランスが成り立たない。

 確かに、"宿主が死にさえしなければ抜け出しはしない"。しかし、流石に"人型も留めて置けないほど損傷した物"が例え稼動状態であったとしても、"あれ"を宿しておけるとは思えない。

 これが擬似的なダッチワイフなどの物であった場合は楽だっただろう。"固すぎるが故に割れる"事は無かった。

 しかし、学校にそんなものが置いてある筈はない。結局、別の手段を探した方がよいのかも知れない。

 

 

 その様な事を考えていると、電話越しから彼女が"要望"を出してきた。

 

『ところで、一つほどお願いがあるのですけれど』

 

「・・・嫌な予感がするが、まぁいいだろう。言ってみろ」

 

 そう促すと、彼女は正気かと思えるような事を口に出した。

 

『もしもよろしければ、"十二個の内の一つ"を、"四葉"でもらえないかしら』

 

「・・・それは此方が首を縦に振れない事を承知で言っているんだよな?」

 

 その言葉に、彼女は間接的な肯定を返す。

 

『えぇ。あなた方にとって"アレ"は回収しなければいけないもの。そして、"創造主"に還元すべきもの。"普通なら"、とても許容できないことは分かっています』

 

「つまり、俺にそれを許容させる手段がある、ということか?」

 

 その問いについて、彼女はまたしても肯定を返す。

 

『もちろん。そもそもあなた方が欲しているのは"切り取られた創造主の一部"。その目的はあくまで"創造主から切り取られた力を取り戻す"事であって、別に"オリジナル"でなくても、特に問題はないでしょう?』

 

 この言葉には、しばし唸る。

 個人的には判断は下せないのは確か。しかし、彼女が言っていることは一部事実では有るのだ。

 

 

 つまりは、こう言いたいのだ。

 "この世界であの一部を培養し、それを返してしまえばいい"と。

 もしくは、オリジナルを返し"培養した物"を手元に置くのが本命か。

 どちらにしても、確かに"四葉"の、というより"第四研"の目的の足がかりになるのは確かだ。

 

 

 "精神"とは何か。

 

 

 もしも彼女達が"アレ"を理解することが出来たら、恐らくはその答えになるだろう。

 そのためには、力が弱っているかどうかなどは関係ない。"精神体"であると言う事こそが重要なのだから。

 

 

 しかし、問題も出てくる。もし、培養された場合"力が薄くならないか"と言う事だ。

 この一点のみが、個人的な判断を下せないでいた。

 

 

「・・・まず、培養するにしてもオリジナルは駄目だぞ。最低でもコピー品で我慢してもらうことになる。そもそもその許可さえこっちでは出せない。一度、お伺いを立てる必要がある」

 

 一応念を押しつつ保留の回答を返すと、彼女はソレさえも想定通りかのように笑いながら答えた。

 

『あら、慎重なのね。構わないわ。返事は、そうね。最初の一体の所在が把握できたら、教えてちょうだい』

 

「分かった。それともう一つ、頼みがある」

 

 とりあえずは保留を返せたところで、"先ほど考えた事"を頼む。

 

『代償、といったところかしら?』

 

「もしもこっちがお前の提案を受け入れてくれたら、の話でいい。現状此方の封印手段は"杭"に限られている。これそのものも便利だが、戦闘用には向かない。"封印"だけを目的とした、戦闘武器を作れないか?銃は無理だろうから、最悪刀か、もしくはナイフや小太刀でも構わない」

 

『無理・・・とは言わないわ。けど、直には無理よ?貴方が言っているのは"通常の武器の容量で封印を施せる物"を作れと言っているのだから』

 

「"創造主"様も流石にそこまでの物は作れないだろう。しかし、魔法の概念をより知っているお前達ならばもしやと思っただけだ。頼めるか?」

 

 しばし間を置いた後、帰ってきたのは了承だった。

 

『分かったわ。"貴方達の能力"はよく聞いているから、ソレを元に作れるようにしましょう』

 

「では、そのように頼む」

 

『貴方もきちんとお伺いを建てて下さいね』

 

 

 その念押しの後、通話が切れる。

 

「これだから・・・」

 

 信用できない人間は、とは続けない。まだ彼女達が"力"を求めていないだけマシだ。・・・間に合っているからかもしれないが。

 

 

 しかし、念のために聞いておいた方がいいのは確かだ。もし"培養"で力が衰えない場合は、一体だけ確保した後ソレを培養、後は全て"消してしまう"だけで簡単に処置を終わらせることが出来る。

 

 

 

 しかし、それでも呼び出すのは忍びなく、結局コマンド越しにメッセージを"創造主"に送る形となった。

 

 

 




十一巻のところは結構書けそうな場所あるんですよね。そこまでのつなぎを何とか頑張ってます。

次回、未定。もし余裕があれば連投になるかも。


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第八十五話~愚痴~

十巻をほぼ華麗にスルー。

なんというか、忍びない気持ちで一杯です。来訪者編をなんと言うか、物理的に駆け抜けてる気がする。ほとんどスルーしてる気がする。仕方ないんです。自分の文章力とか発想力が足りないのが全ていけないんです・・・。


そして今回、オリ主のストレスが爆発する。


【Thursday,February 16 2096

  Person:operator4    】

 

 

 

 

 

 結局あの後、連絡により"培養"の許可を貰え、四葉に伝えることが出来た。

 四葉は四葉で"彼"関連でトラブルを抱えた・・・というより現在進行形で抱えているのだが、それはちょうど"此方の都合"で観測部隊が付近にいた事により、そのまま工作をスムーズに進めることが出来た様だ。

 

 

 しかし、そんな事に構っていられるほど、こちらには余裕が無かった。

 はっきり言ってしまって、泣いてしまいたかった。

 

 

〔operator4:お前達の国が広大で、人間もたくさんいて、管理が難しいのも分かる〕

〔operator1:・・・あぁ〕

〔operator4:だがな、いくら、いくら"人を使う事"しか出来ないからと言ってもな・・・〕

 

 

 最早胃の痛みは今まで最大に達している。もはやヤケクソになりたい。しかし、彼に当たれるほど此方も成果を出していない。重々承知の上だ。それでも、吐き出さずにはいられなかった。

 

 

〔operator4:何で"宿主"を三体とも国外へ脱出を許すんだこの馬鹿野郎ォ!しかも行き先は日本だと?!完全にお前のところの尻拭いになってんだろうが!こっちがどんだけきつい状況か分かってて言ってるのか?!〕

〔operator1:・・・本当に済まないと思ってる〕

〔operator4:だったらせめてUSNAで留めておけよ!〕

 

 コマンド越しには確かに本気でNo1が謝っているのが分かる。しかし、それとこれとは話が別だ。むしろ、もし彼自身が済まないと思っていなかったら暫くはUSNAの管理も此方でやった方がよいのではないかと思えるほどだった。

 

〔operator4:お前のところは敵対勢力は"パラサイト"の他にはスターズ本隊だけだから楽だよな!こっちはスターズ派遣部隊に十師族連合を相手にしなきゃいけない!しかも"四葉"も視野に入れる必要があるし、挙句には十師族連合とは別に、どうも"七草"まで動いてきてる!こっちの方が泥沼化してるのに更に厄介事持ち込んでどうするつもりだよ!〕

〔operator1:本当に済まない。こちらでも戦力を送れたらよかったのだが・・・〕

〔operator4:魔法師相手だと足引っ張るだけだからいらんわ!〕

 

 "デルタ"の本隊など送り込まれたら更に混乱に拍車が掛かる。首都圏で紛争レベルの事でも起こさない限り解決できなくなる。

 

〔operator4:全く。唯でさえ面倒な厄介ごとが"パラサイト"の他にも増えてるんだぞ。これ以上静かに決めようとする事がどれほどきついか分かってんのかよ・・・〕

〔operator1:・・・〕

 

 最早完璧な愚痴だ。しかし、久しぶりに誰かに愚痴を吐き出しているが故に、妙に感情が篭る。

 No1でもその切実さが理解出来ているのだろう。彼も何も返せないでいた。

 

〔operator4:ここからの作業がどれだけ大変か分かるか?残りの三個体はそっちで対処してくれると思って出国に関しては監視していたが入国には気を配ってなかったんだぞ?今から現時点までの全空港の監視カメラの映像記録を全て確保して、全員の人物の顔を照会して"宿主"を割り出して、更にそこから服装、行き先などをチェックして予想活動範囲を割り出して、唯でさえ待機させていた人員を更に割く用意までして、追加の"杭"も用意してもらって、更に回収のことまで考える必要まで出てくる。とてもじゃないが一週間で済むことじゃねぇんだよ・・・・。なんでお前ん所の尻拭いを俺がせにゃならんのだ・・・〕

 

 口調もほぼ"学生だった時"の物に戻っているが、そこまで口調を崩さなければ気が収まらなかったのだ。

 

 

 しかし、愚痴を言っても建設的な話題を出せる訳がない。とりあえずは、方針を提示しておくことにした。

 

〔operator4:・・・もういいよ。分かったよ。とりあえず此方の本来の予定とは完全に組み込めない。どうしようもないから、何かしらの餌を用意するまで"宿主"は問答無用で殺す。殺し続ければそのうち後から来た三個体とかは要素のひとつでしかなくなる。最初から十二個の状態でスタートすることが出来る。その後は適当に餌で釣って、そこを確保する。少々荒治療になるが、どうしようもない。他に方法が無い。・・・"創造主"様にはこっちで謝っておくから、お前はさっさと"スターズ"を引かせる作業に入れ。それぐらいしかお前がこっちにできることはないんだから〕

〔operator1:・・・承知した。本当に、済まない〕

〔operator4:五月蝿い。切るぞ〕

 

 ほとんどヤケクソのままパスを切る。

 本当に嫌なことだらけだ。何が一番最悪かと言うと、"餌"で釣るという方法のリスクの高さを許容しなければならなくなったということだ。

 

 

 確実に、いくつかの勢力と正面衝突しなければならない事態になる。

 "四葉"はあくまで回収部隊。戦闘を目的には出来ない。

 

「逆に戦闘に集中できると考えた方がよいのかどうか・・・」

 

 そう前向きに捉えてどうかというレベルなのだ。

 しかし、ソレが選択肢に入ってしまえるほど自分が荒事になれた事に実に嫌気が差す。

 

 

 もう、どうにでもなれ。

 目的さえ果たせば、後はいいや。

 

 

 そんな投げやりな思考に身を任せ、考えを纏める。

 

「"特戦"は吉田家に配置させてた分も含めて全部集結させよう。餌の釣り場になりそうな場所にいつでも戦力を配置できるようにしとこう。四葉にはそれらしい三個体が見つかったら手段を問わずいつでも"抹殺"出来るように手配しておこう。直ぐには準備ができないしな・・・。それと"餌"の用意もか・・・。何がいいだろうな。ヒューマノイドとかに宿ってたらそいつを餌にも出来そうな気がするけどな・・・。非寄生状態の"あれ"に寄生される危険性は・・・もういいや。最悪"敵"が何とかしてくれる。その時になったらでいいや」

 

 リスクにまみれた作戦だが、もうそれしか短期解決の手段は無い。

 

 

 とりあえずは、四葉への連絡から始めなければ。

 弱みを見せないように心の中で仮面を張りながら、受話器を手に取った。

 

 

 

 




ってことで連投になりました。その方が楽なので・・・。

なお、リーナ以外は全撤収の模様。何でリーナだけ残るかって?そりゃ、軍人としては自分の思考にずるずる引きずられるリーナだからとしか・・・。


次回。戦闘準備に入ります。流石に疲れたので連投はないです。ついでに投稿も遅れるかも。出来るだけ出来はよく出来るようにします。



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第八十六話~刀~

伏線の一部とかをチョッと回収しつつ戦闘準備の描写をしようとすると、1.5話分位掛かってしまいました。勘弁していただけると幸いです。


さて、本編です。


【Saturday,February 18 2096

  Person:operator4    】

 

 

 

 

 

 結局、全ての"創造主の一部"を"釣り出す為の餌"は、No1の連絡の後直ぐに用意することができた。

 

 

 否、用意できた、と言う言葉は適切ではない。

 なぜならその餌は同じく"創造主様の一部"が"ヒューマノイド"・・・P91、ピクシーと呼ばれていた代物に寄生した物で、尚且つソレを手に入れた訳ではないからだ。

 

 

 本来ならば、手に入れることは出来た。しかし、問題はそのヒューマノイドの所有権を持っていたのが事もあろうに"彼"だったという一点にのみ問題は集約される。

 これにより、此方は"彼"の行動に沿った作戦しか取る事が出来なくなった。

 

 せめてもの救いは、"彼"が第三者に"寄生されたヒューマノイド"を譲るつもりが無かった事と言うべきか。お陰で余計な苦労をしなくても"保険"だけは掛けられたとの事だ。

 

 

 四葉の手回しにより海を渡ってきた三個体も一度"消され"、状況は少しだけ改善している。

 

 

 

 そして、四葉によって造られた、"一つの武器"も届いている。

 おそらくは、この武器を使えば最も効率よく宿主を"封印"出来る。

 

 

 しかし、

 

 

「これ程の物を作れるとは・・・」

 

 

 一体、四葉とは何物なのか。そう、思わずにはいられない。

 "その武器"は、端的に言えば刀と言っていい。ごく一般的な印象の通りの日本刀だ。

 

 

 刀身に刻まれた、幾何学的模様さえ除けば。

 

 

 "眼"で見た限りでは、これは"魔法"の概念、取り分け"我々"や"彼"が使う"再成"を応用した物で作られていた。

 

 原理はこうだ。

 これを対象で斬りつける事を開始地点として、対象のエイドスデータを採取し、そのデータを元に"対象が封印された場合のエイドスデータ"を作成、それを対象のエイドスに上書きする、という原理である。

 

 言うなれば"逆再成"と言うべきか。本来は傷を"無かった"事にする為の魔法を、傷を"有った"事にしてしまえるように魔法的に改造したのが、この日本刀だ。

 

 もちろん、これらの作業は"再成"とほぼ同じ速度で実行される為、事実上唯斬りつけるだけで対象を無傷で"封印"できる代物だ。

 尤も、"再成"が使えるという大前提がある限り我々か、"彼"にしか扱うことは出来ないだろうが。

 

 

 しかし、一番の問題は"どのようにしてこの刀を作り上げたか"と言う点だ。

 この刀、原理は説明すれば簡単なように思えるが様々な製造時の壁が見える。

 

 特に一番重要なのは、この武器を作る際には扱い主が使う"再成"の把握が必要だと言うところだ。

 

 

 いくら同じ"再成"と言えど、"彼"が使う物と我々が使う物では細かなところが分かれる。

 

 "彼"が扱う"再成"は、エイドス"変更履歴"しか遡ることが出来ない。遡及範囲は我々と同じ二十四時間だが、遡及できる履歴の種類そのものが違う。

 つまり、"他者"に対して"再成"を行使しようとしても二十四時間を過ぎてしまうとほぼ無意味なのだ。

 

 一方、"我々"が扱う"再成"は、エイドスの"存在履歴"そのものを遡ることが出来る。勿論自身以外に使用する場合には二十四時間より先の履歴を遡ることは出来ないものの、場合によっては二十四時間に限定されるが"若返り"さえ可能にさせるのが"我々"の使う"再成"だ。

 

 

 なお、"自身"に対する"再成"に関しては、彼も我々も同様に"期限が無い"。理由は単純だ。"我々"はエイドスデータそのものを正に生まれた時からバックアップを取っている為時間などそもそも自分に対しては関係がある訳ではない。

 また、これは"彼"自身の力について調べていく内に分かったことだが、"彼"自身が扱う"再成"も、彼自身が"再成"をダメージにより行使した場合、エイドス変更履歴は「破損前→破損後」から「破損前→破損後→破損前」になる。つまり、"再成"によるエイドス変更が記録されてしまう訳だ。これが"エイドスが変更されたことそのものを削除する"ならともかく、やっていることは破損前のエイドスを"上書きした"だけに過ぎず、そのケアを行っていない時点で"再成"行使によるエイドス変更記録は残ってしまう。

 

 つまり、"彼"自身も原理的には二十四時間以上"再成"を行使し続けられる訳だ。心が持つかどうかは別とするが。この事実を把握したことにより、"彼"を二十四時間殺し続けることは事実上無意味だということが分かり、方針を変えざるを得なくなったのだ。"彼"はどうもその能力の実態を把握していないようにも見えるが。

 

 

 このように細かな違いが出てくるのは、恐らくは"彼"自身が"バグ"である影響なのだろう。しかし、逆に言えば本来は四葉が把握している"再成"のデータはあくまで"彼"の、つまり"破損した再成"でなければいけないのだ。

 

 

 しかし、この刀は確実に"我々が使う再成"を基に作られている。そのデータを何故ほぼ完全に取る事が出来たのか。最低でも遠巻きに監視するだけでは五十年かけてもやっと半分と言った所のはずだ。

 

 

 ますます"四葉"に対して気味の悪さを感じるが、しかし有用なものを用意してくれたのは確かだ。とりあえずは意識の外に出すことにした。

 

 

 必要なのは、明日の夜に集まるであろう"創造主様の一部"を確保すること。

 

 

 そう意識にリセットを掛け、"基地内部"の会議室で特殊作戦群予備分遣隊全員の前に立ち、今回の"作戦"の説明に入った。

 

 

「今回は現状追っていた"目標"と同種類の物が合計十二個確認されるはずだ。これらを同時に、最低でも過半数は確保するつもりで動く。今回はこちらの存在が割れることを遺憾ながら容認する形になる。また、今回は"目標"が"殺害"された時点で撤退することも出来ない。しかも、今までより厄介な相手と正面から衝突することになる」

 

 そう言った後、彼らに目を向ける。

 

 

「はっきり言おう。私自身も前線に立つとはいえ、捨て駒も同然の扱いで諸君らを使わなければいけないような作戦になる。だからこの作戦は、辞退しても構わない。諸君らをみすみす失う訳には行かないのも事実だ。だからこそ、選択は諸君らに任せる」

 

 

 その言葉を発してから数拍ほど置いて、一人が立ち上がる。

 特殊作戦群予備分遣隊の分隊の一つを率いる人物であり、同時に同分遣隊の隊長でもある男だ。

 

 

「閣下、我々は、我々の価値を見出してくれた閣下の為なら、命を捧げるつもりです。だからこそ、お聞かせ願いたいのです。"敵"は、何ですか」

 

 

 その問いに対し、今までの情報収集の結果から得られた、最も確立の高い"相手"を答える。

 

 

「・・・前回と比べた結果、七草が今回の事態から撤退。変わりに、"九島"が本格的な介入の構えを見せている。

 

 

 恐らく、相手は国防陸軍第一師団所属歩兵遊撃小隊、通称"抜刀隊"だ。それでも、行くか」

 

 

 その答えに対し、彼の答えは一拍も置かない物だった。

 

 

「やります。いえ、やらせてください。これは、我々の悲願でもあります」

 

 その言葉の後、彼は話を続ける。

 

「我々は、例えどのような形であれ"魔法師"に一度、"自らの価値"を奪われました。だからこそ、これは自分自身の弔い合戦なのです。我々の存在意義を、改めて知らしめる、絶好の機会なのです。相手は魔法師戦闘員の中でもかなりの錬度。これらを打ち倒してこそ、我々の悲願は達成されるのです。どうか、お願いします。我々を、この作戦の為に使ってください」

 

 

 その言葉と共に、全ての隊員が立ち上がる。

 

 

 やはり、彼らは信頼すべき我が兵士達だ。

 だからこそ、みすみす失う訳には行かない。

 

 

「分かった。ただし、絶対に捨て駒にはしない。負け戦をさせるつもりもない。必ず、諸君らを勝たせて見せる」

 

 

 そう断言し、指示を出す。

 

 

「まず狙撃班を四つ作る。それぞれ北、東、西、南にて配置。作戦地域全てをカバーできるようにしろ。他のメンバーは事前に第一高校の人工森林にて潜入。"目標"の出現位置によって移動しつつ、奇襲の機会を待て。ただし、一番最初に姿を出すのは"俺"だ。諸君らが、"抜刀隊"を打ち倒す為の"真打ち"となって欲しい。その方が、短期決戦が見込めるからだ。諸君らの奮戦を期待する。戦闘準備!」

 

 

 隊員達が揃って敬礼を返し、準備に取り掛かり始める。

 その中、先ほどの隊長が此方により、質問をかけてきた。

 

 

「閣下は、武装は如何なされるお積もりですか?」

 

 その言葉に対し、難色を示す。

 

「本来なら長物を持ちたいんだが、"こいつ"は嵩張るからな・・・」

 

 そう言って、"封印"の為の刀を持ち上げる。

 

 

 しばし悩んだ後、一度"古典的な武装に戻る"事にした。

 

「どうしようもない。とりあえず素の日本刀をもう一本、対人用に持っていこう。後は九ミリの拳銃でも懐に入れておけば俺の武装はいい」

 

「了解しました。それでは、準備が出来次第」

 

「あぁ、頼んだ」

 

 その言葉と共に、隊長も自身の準備に入る。

 

 

「さて、こんな装備はいったい何時振りだか・・・」

 

 

 そんな感慨を抱きながら、素の日本刀を用意するために、会議室を後にした。




お兄様の"再成"については自分が結構前から思っていた推測をそのまま適用しています。どうも見てると"再成"は"変更前のエイドスデータを貼り付けているだけで、それ以外の事は余り行っていない"のではないかと。

で、その原理を元にPCを例にたとえて考えるとです

テキストデータAのデータをコピーして、変更後のテキストデータBの上にテキストデータAを貼り付け、上書きすることになると。
しかし多分これシステム上ではテキストデータA→テキストデータB→テキストデータA(A'と表記したほうがいいかもしれない)となるじゃないですか。これがエイドス変更履歴に反映されないのはおかしいのではないかなぁと。wikiに吐き出す勇気のない自分では自作のSS内で吐き出すのが精一杯っていう。悲しき性です。

次回、いよいよ吹っ切れたオリ主により正面攻勢。どこら辺から参入させようかな。

【追記】一部文章を訂正。内容に変化はありません。


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第八十七話~再会~

直ぐに番外編、というか今回の話を原作風に、というか多角的に描写した物を上げようと思ってます。


だって、なんかその、派手さがオリ主主観のみだとちょっと・・・。

描写したいことの半分しかできないし・・・。



今回2.5話分ほど書いてしまいました。勘弁願います。


【Sunday,February 19 2096

  Person:operator4    】

 

 

 

 

 

『各員、配置完了しました。狙撃用意、問題ないです』

 

「了解した。必要に応じて行動せよ。こちらはフィールドに潜入した」

 

『了解。御武運を』

 

 

 狙撃班からの通信を完了した後、現状を確認する。

 

「状況は?」

 

「一番乗りは我々ではなく、"目標"です。次いで我々、また"アンジー・シリウス"が此方に接近中です。また、第一高校生徒、及び"抜刀隊"、"四葉の回収部隊"が次いで向かってきてます」

 

「分かった。"ブラボー"は"アンジー・シリウス"の足止めに向かえ。仕留めることは主目的としなくていい。きつい仕事だが、頑張ってくれ。チャーリーはブラボーとは反対方向に展開。これ以上の勢力の乱入に備えろ」

 

 その指示と共に、それぞれの分隊が移動を開始する。

 

「さて、アルファ。お前達は、俺と一緒に来てくれ。"目標"を"確保"する」

 

「了解」

 

 その返事を聞くと共に、"目標"の傍まで見つからないように進む。

 

 

 

 ちょうど目標の傍の茂みまでたどり着いたところで、派手な爆発音が聞こえた。

 ソレと同時に、無線から連絡が入る。

 

『こちら"ブラボー"!"アンジー・シリウス"と交戦!指向性地雷で牽制を掛けました。もうちょっと時間があれば仕留められたんですがね』

 

「気にするな。目的は唯の足止めに過ぎない。散発的攻撃を続けろ。相手の集中力を削げ」

 

『了解』

 

 そう応答を返す。

 

 

 "ブラボー"は初動はよい出だしを得る事が出来た。

 ならば、此方は此方の仕事を果たすまで。

 

 

「アルファ、行くぞ。目標を仕留める」

 

 

 その言葉と共に、茂みから飛び出す。

 爆音に気をとられ、ほぼ背面を向けていた"目標"の内、男性の宿主の一人を居合いの構えから斬り伏せる。

 

 相手を斬ると同時に、その"刀"に仕込まれていた"逆再成"と呼べるものが発動。一瞬で、"封印された宿主"が出来上がる。

 

 一拍も置かず、今度は女性の宿主に、向かい、上段から一気に叩き斬る。

 

 残りの一人がこちらに対応をしようと構えを見せるが、遅い。

 柄頭を相手の顎に当て、一瞬の隙が出来た所で斜めに斬り伏せる。

 

 

 一気に、"目標"十二体の内、三体を無力化。

 真に驚くべきは、やはりこの"日本刀"の完成度と言ったところだ。

 もし、これが最初からあったら今まで苦戦することもなかったと思えるほどだ。

 

 

 返り血の一切無いその"日本刀"を、鞘に収める。

 残り、九つ。

 そうカウントしたところで、"アルファ"から声が掛かった。

 

 

 

『閣下、三時方向から"高校生"が来てます』

 

 

 

 その声に従い、振り向く。

 

 

「・・・最初にかち合うのは別かと思っていたが、まさか"お前達"とはな」

 

 

「・・・やはり、借哉か」

 

 

 そこには、"彼"や妹さん、レオとエリカに"ピクシー"がいた。

 "彼"や妹さんを除いた"二人"は、此方の格好と、その武装に困惑している様子だった。

 

 

「借哉くん、まさか・・・」

 

「借哉、どういうことだよ」

 

 

 今現在の格好は正に"四月"の時のスーツ姿だ。この二人にとっては、高校生活で始めて出し抜かれた相手とも言っていい。

 前回はまともに顔を見ることは出来なかっただろうが、今は違う。

 はっきりと認識した上で、それが彼だと言うことを認めざるを得ないだろう。

 

 

 しかし、そんな彼らの困惑に一々付き合っている暇も無い。

 

 

「達也、それとレオにエリカ。一つ、警告しておく」

 

 

 はっきりと、聞こえるように。

 

 

「今回のことから今すぐ手を引け。"こいつら"(パラサイト)は"我々"が確保する。はっきり言って、邪魔なんだよ。お前達が初めから首を突っ込んでさえいなければ、事態はもう少しマシなまま終わることが出来た。これは元から"お前達"が触れるような問題じゃない。今すぐ、来た道を引き返せ」

 

 

 しかし、その言葉は感情を逆撫でするような効果しかなかったようだ。

 

 今回の場合、耐え切れなかったのはエリカの方だ。

 

 

「何をっ!」

 

 

 そう叫ぶと共に、エリカが武装一体型CADの刃を抜き、八相の構えの状態で突っ込んでくる。

 

 もちろん、迎撃しなければならない。恐らくはエリカが"魔法"を行使している限り肌を撫でるだけで終わるとは思うが、だからと言って"力の差"を見せないつもりではない。

 

 

 

 "封印用"では無い方の日本刀の柄に手を掛け、また居合いから一撃。

 

 

 狙いは彼女の胴、では無い。彼女がまさにこちらに向けて、当てる寸前まで言っていたその刀を、根元から切断する。

 

 

 一撃を加えようとしたその瞬間に、その為の刀が無力化されたのを気付けたのは、エリカが類稀なる天才であるが故か。

 

 直ぐに彼女は跳躍を選択。此方の背後に回りこもうとした。

 

 

 しかし、彼女には才能はどうかは分からないが、経験では明らかに此方の方が上回っている。

 

 

 彼女が此方の背後に立った時には既に、彼女の目前に切っ先を突きつけていた。

 何の飾り気も無い、中段からの構え。

 しかし、そこには一切の無駄も無い。日本刀が生まれたちょうどその時から使い続けたのだ。恐らくは、現存する全ての剣士よりその剣術は磨かれている。

 

 

 そして、エリカが剣の腕で勝てないと察したのか、素早く引いて此方の間合いから離れる。

 そのような行動が出来たのも、彼女が手馴れた剣士で、かつ才能があるが故だろう。

 

 

「腕は良し。鍛え方によっては、最高の剣士になれるだろうな。だが、"俺"を相手にするには早い。経験の差、というもんだ」

 

 

 そう言うと同時に、後ろから殺気を感じた。

 

 

「エリカ!」

 

 

 そう叫び、レオが硬化魔法を行使し、此方に突っ込んでくる。

 ソレに対して、あえて彼の方を向かず、そのままの体勢で彼の鳩尾に肘打ちを食らわせる。

 

 その衝撃に、レオが一瞬の隙を生む。これで気絶しなかっただけ他の戦士と比べても数段レベルが違うが、それでも"隙"には変わらない。

 

 速やかに組み付き、地面に叩き伏せる。

 

 しかし、まだ気は抜かない。レオはまさに今地面に叩きつけられても意識を保ち続けているし、何よりエリカもこちらに殺気を放っている。

 

 

 そして何より、封印した"宿主"を殺害し、"パラサイト"を解放する為に他の"目標"まで集まってきているし、またそれを目的にアンジー・シリウスや、"抜刀隊"まで直ぐ傍まで来ていた。

 

 

「邪魔なんだよ。これは、高校生が首を突っ込める問題じゃない。分かるな?」

 

「だからと言って、易々と手を引く訳にも行かないな」

 

 そう言って、"彼"もCADを引き抜く。

 

 

 しかし、次に此方を襲ったのは彼による"分解"でも、または別の魔法でもなく、全く別の角度からの"雷撃"だった。

 

 恐らくは、遠くにいる幹比古からの古式魔法か何かだろう。

 しかし、"魔法"である時点で、こちらにダメージは一切与えることは無かった。

 

 その事に対しても、"彼"以外の全員が驚愕の表情を見せている。

 "防いだ"でも"避けた"でもない。そもそも"効いていない"のだ。"彼"にとっては今更驚くまでもないだろうが、今までの常識に縛られていた他の者達からすればありえない光景だっただろう。

 

 

「だったら!」

 

 

 半ば投げやりとも言っていい様子で、予備の武器を構えるエリカ。

 

 しかし、此方に向かう前に別の"人影"が間に割り込む。

 

 

「駄目だ、エリカ!」

 

 

 そう叫び、刀を抜きながら割り込んだのは、他でもない彼女の兄だった。

 

 千葉修次。日本では最有力の剣士であり、"千葉の麒麟児"とも呼ばれる彼。

 

 その彼自身が、刀を抜き、今まさに此方に飛びかかろうと"していた"。

 

 

 その瞬間を狙ったかのように、彼の両足に穴が開き、

 一拍遅れて、銃声が響く。

 

 

「ぐっ?!」

 

 

 全く予想外の銃撃に、彼は苦痛の声と共に前へ倒れこむ。

 

 

『予定外の目標を無力化。引き続き監視を続行します』

 

「よくやった。次厄介なのが現れたらその時も頼む」

 

『一発で撃ち抜いてやりますよ。それでは、一旦切ります』

 

 

 そう軽口を叩く狙撃班の一人に苦笑を浮かべつつ、通信を切る。

 この射撃はまぎれもなく、特戦の狙撃班によるもの。どのような手練であっても悟らせずに一撃を加えるその腕は間違いなく一流と言っていい。

 

 

 千葉修次の傍に寄り、肩を貸しつつ一旦"彼"の方へ引いていくエリカ。

 そして、それを庇うかのようにレオが間に立ち、その後ろには"彼"が構えている。

 

 

「借哉、お前、一体何者なんだ」

 

 最早完全に敵を見る視線になったレオに対し、"四月の時の言葉"を言う。

 

「其れは"蛇"とも呼び、"猫"とも呼ぶ。"牛"とも呼ぶし、"狐"とも呼ぶ。"烏"と呼ぶものもいれば、"兎"と呼ぶものもいる」

 

「・・・!」

 

「お前は、なんと呼ぶ?他の奴らのように、"烏"とでも呼ぶか?」

 

 

 その直後、爆音が森を包む。

 同時に無線から各隊の連絡が入る。

 

『こちら"チャーリー"、現在"抜刀隊"の一隊を指向性地雷四個により無力化!現在はほぼ壊滅状態!しかし、その他の足止めが効きません!』

 

『こちら"ブラボー"、アンジー・シリウスが他の"目標"に向けて、こちらの包囲網を突破します!押さえ切れません!』

 

『こちら"アルファ"、"目標"の数、十時方向から六、八時方向から三!』

 

 此方がその報告を聞くと同時に、"彼ら"の側でも"目標"を把握したようだ。

 

「・・・ここはどうしようもない。レオは修次さんを連れて一旦引いてくれ。エリカは左の三体の方を頼む。幹比古が後は何とかしてくれる。こっちは深雪と一緒に右の方を片付ける」

 

「・・・でも」

 

「今ここで時間を浪費する方が惜しい。恐らくは、この場の誰も"彼"に勝てない」

 

 そう"彼"に窘められ、苦い顔をしつつもエリカは納得したようだ。

 

 

 そして、同時に此方がこれ以上"彼ら"を追えない事も把握しているのだろう。だからこそ、"彼"はこんな指示を出したと見える。

 

「"こちら"がお前達を見逃すと思うか?」

 

「"お前達"は今三体の"パラサイト"を抱えている。ここで奪われたくない以上、戦力の規模的に言っても"高校生ごとき"に構ってる暇は無い。"シリウス"からも守らなければいけない以上、それは尚更だ。」

 

「・・・全く、これだからお前の相手は苦労する」

 

 

 そう、現状の問題は今現在此方で"確保"した"三体"の"目標"だ。

 これの"殺害"を目的にする"アンジー・シリウス"、回収を目的とする"抜刀隊"も確認できている。これらを一度に相手にすると仮定した場合、戦力を防御に集中させなければいけなくなる。

 

 そして、そうなる以上態々"彼ら"に構う暇は無い。十二体全てを確保することはこの先もほぼ不可能になる可能性が高いが、最悪"回収分"は"培養"で補填してしまえばいい。どこまで"培養"を進めると力が弱まるかにも寄るが、三体もいれば元の分までは培養でも問題ないレベルだろう。

 

 

 はっきり言って、これ以上の敵対の必要はない。だからこそ、"彼"はソレを選択したし、此方もその選択肢しかなかった。

 

 

「・・・後片付けはどうせ"我々"がするんだ。せめて、全部仕留めろよ」

 

「言われるまでもないな」

 

 そう言って、皮肉げに笑いながら"彼"が返す。

 

「まぁ、結局"動けなかった"ような組織にはソレが精一杯なのかも知れないがな」

 

「お前は気楽でいいよな・・・。こっちは"あれ"を潰そうと思ったら最大級の地雷を踏み抜いたような状態なのに」

 

「お前達が動けなくなるほどか。それは気になるな」

 

「本当にそれこそ"知らない方がいい事"だ。お前も弁えるんだな・・・全く。嫌なこと思い出させやがって」

 

 

 そう愚痴りながら、無線を取り出し、各隊へ連絡を取る。

 

『各員へ告ぐ。現在確保した"目標"三体の回収へと移行する。"アルファ"から"チャーリー"はこちらに集結。狙撃班は掩護を頼む。回収用のヘリが三分後に隠しておいた場所からこっちに来る。そのヘリで現地部隊を回収し、一旦作戦区域を離脱するぞ』

 

 その言葉に各隊からの了解の意を聞いた後、通信を切る。

 

 

「さて、これ以上欲を出しても碌な結果にはなりそうにもない。"我々"は早々に離脱の準備に掛かるとしよう。じゃあ、くれぐれも"此方の手を煩わせることの無いように"、な」

 

「出来る限りの事はやるさ」

 

 

 そう返した"彼"に背を向け、"目標"の傍まで近寄る。

 既に"アルファ"は到着していて、着陸場所を示す発炎筒の周りで輪形陣を組んでいる。

 

 及第点とも行かない。最悪だけは免れたとしか言いようの無い結果だ。

 

 

 しかし、それでもこの予想外の事態が続いた中では上出来な結末だった。

 

 

 素直にそう思いながら、煙草に火をつけた。




題名に再会と書きました。二つの意味で確かに再会。ただし決して友好的な意味ではなかったっていう。

とりあえずこの後急いで番外編という名の多角的視点からの戦闘シーンを書き上げます。まぁ、見ない方もいると思うのですがね。


ということでここで次回予告を行います。次回はヘリで撤収します。大型輸送ヘリと表記すると思うけど、イメージではチヌークっていう。

【追記】誤変換を一部訂正。


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番外編~第八十七話~

元から第八十七話を書いてる際に思い描いていたのは、オリ主の圧倒的な力量です。原作キャラ勢には"技"で遠く及ばない。その"技"故に、圧倒的と言った様な物です。

だけど、オリ主視点からしたらどうもあっさり終わる。
だからと言って達也視点でも散々オリ主の化け物具合は見てきてるから結局そこまでのインパクトはない。

だから、あえて従来のラノベのように多角的視点から描写してみようかなと言う風に至ったわけです。

完全に練習用ともいえますが、勘弁願います。一応冒頭の時系列表示は下の流れどおりにしますけど、今回だけです。多角的視点は今回だけになります。悪しからず。


なお、この作品を描く時、オリ主登場からのところは個人的なBGMのイメージは『VII』って言う。ノリスのテーマです、はい。通じる人何処までいるかな・・・。


【Sunday,February 19 2096

  Person:command<multi>  】

 

 

 

 

 

 広い人工の森を、四人と一体が一塊になって進む中、フリーハンドの通信機から美月とほのかの声が聞こえる。

 

『達也さん、止まってください。現在の進行方向正面から右手三十度の方向に、パラサイトのオーラ光が見えます』

 

『私も確認しました!男性二人、女性一人の三人組です』

 

 この二人の探索スキームが有る限り、達也たちは態々面倒な散開による策敵をせずに済んでいた。だからこそ、貴重な戦力である幹比古を二人の傍に護衛として貼り付けてある。

 

 

 再び、ほのかから連絡が入る。

 

『あっ、達也さん達の反対側から、パラサイトに仮面の女の子が近づいています』

 

 これは、恐らくリーナだろう。パラサイトのオーラ光も、彼女の接近と同じくして活性化する。

 

 

 身振りで移動を指示し、駆け抜けようとした時、

 

 

 爆音が、森の中で鳴り響いた。

 

「なっ?!」

 

「地雷・・・この爆音は指向性の物か?」

 

 レオがその爆音に驚く中、冷静に爆音の元を分析する。

 

 通常の地雷とは若干音が異なる。恐らくは、指向性を持たせた物が炸裂したのだろう。

 

 

 それと同時に、"眼"で"パラサイト"が別の者によって仕留められるのを確認する。

 

 それは、"彼女達"にも見えていたようだ。

 

 

『パ、パラサイトが・・・封印された?』

 

『まさか・・・あの人は・・・』

 

 

 しかし、その様子には何処かしらの狼狽が見える。

 

 

「急ぐぞ」

 

 そう声を掛け、三体のパラサイトの元へと駆ける。

 

 

 

 そして、開けた視界で見えたのは。

 

 

 三体の封印されたパラサイトと、スーツに身を包み、右手に日本刀を持った"彼"の姿だった。

 

 

「・・・最初にかち合うのは別かと思っていたが、まさか"お前達"とはな」

 

 

「・・・やはり、借哉か」

 

 

 今回の騒動は少々大きすぎた。しかし、その割には"彼"が出てこない、というかソレを除いても全く動いていないことを不審には思っていた。

 

 しかし、それはある意味で正しく、ある意味で間違っていたようだ。"彼"は、確かに動いていたのだ。それが、どんな目的でかは分からないが。

 

 

『封印、されてる・・・?一体、刀一本でどうやって・・・』

 

 通信機越しに困惑の声を見せる幹比古。そして、

 

「借哉くん、まさか・・・」

 

「借哉、どういうことだよ」

 

 レオとエリカは、彼らが認識しない間に、借哉がこの事態に介入していた事に困惑を見せる。

 

 否、困惑ではないかもしれない。彼らは、一度"この姿の彼"に会っている。四月の時、二人をみすみすと出し抜いて彼が脱出した、あの時だ。

 

 

 しかしそんな二人の様子を無視し、"彼"は此方へ"通告"を口にする。

 

「達也、それとレオにエリカ。一つ、警告しておく。今回のことから今すぐ手を引け。"こいつら"(パラサイト)は"我々"が確保する。はっきり言って、邪魔なんだよ。お前達が初めから首を突っ込んでさえいなければ、事態はもう少しマシなまま終わることが出来た。これは元から"お前達"が触れるような問題じゃない。今すぐ、来た道を引き返せ」

 

 

 そう、こちらに聞こえるようにはっきりと"彼"が口にする。

 

 その言葉に対し、真っ先に動いたのはエリカだった。

 

 

「何をっ!」

 

 そうエリカは叫び、八相の構えから飛び掛る。

 相手はいくら手練でも"銃火器"の扱いにしか優れていない。"刀"の間合いなら、此方の方が経験では"上"のはず。

 

 そう、エリカは判断しての行動だった。

 

 

 それに対し、"彼"は"もう片方の刀"に手を掛け、一閃。

 

 

 その一瞬で引き起こされたことを、エリカ自身の素早い認識能力は正しく認識し、素早くエリカは一撃を加えることなく跳躍を選択する。

 

 

 否、一撃を加えられなかったのだ。

 エリカの持つ"ミズチ丸"は、その根元から刀身を断ち切られていた。

 

 これが、並みの剣士であればその事を理解することさえ出来なかっただろう。否、手練の剣士であっても難しい。それほどまでに、素早く、巧みな一撃であった。

 

 

 "彼"の背後に回ったと認識し、最早無くなった刀を残心の容量で向けようとする。

 

 

 しかし、振り向いた先にあったのは、彼の刀の切っ先だった。

 

 

 命の危機による悪寒を感じ、素早く後ろへ下がる。

 

 そこで、"彼"の様子を改めて確認する。

 

 

 "彼"は、エリカが背後に回りこんだことを、エリカの最速を以ってしても把握していたのだ。

 

 何の飾り気もない、唯の中段の構え。

 しかし、そこには如何なる隙も存在しない。単純が故に、最も完成された代物。

 

 

 中段の構えは珍しいものではない。むしろ、剣を持った際に始めて習う構え方だ。

 しかし、それは中段が最も"完成された"構え方であるが故である。

 それを、熟練の剣士が使えば、一気に難攻不落の構え方になる。

 

 

 その"彼"の姿を見たとき、エリカはあることを思い出した。

 

 

 

 それは、まだエリカが剣を持ち始めた時。

 一度だけ、老練の剣士に稽古をつけて貰った事があった。

 その剣士も、何の変哲も無い、唯の中段。

 

 しかし、その時彼女は全身から汗が吹き出て、どう動いても仕留められてしまうような気分だった。

 

 こちらは、何もそうと分かるような動作は行っていないはずであった。なのに、その老練の剣士はエリカの全ての太刀筋を見切って見せたのだ。

 

 

 それは、まるで"お前のような未熟者がやる事など分かり切っている"と言わんばかりのように。

 

 

 事実、剣道でも八段同士の試合はただただ静かだと言う一点に尽きる。

 派手には動かない。静かに、唯静かに戦う。

 しかし、その一撃は鋭く、また他のどの試合をも凌ぐような駆け引きが行われている。

 

 

 結局、その時は一度もエリカは一本も取れることは無かった。

 

 

 

 この場に至って、こうして刀を叩き折られた状態で向かい合って、始めてその時と同じ感覚を、見た目は自分と同じくらいに"若い"彼から、何故か感じ取った。

 

 これは、勝てない。腕が、経験が、違いすぎる。

 

 

「腕は良し。鍛え方によっては、最高の剣士になれるだろうな。だが、"俺"を相手にするには早い。経験の差、というもんだ」

 

 

 その言葉を素直に飲み込めたらどれほどよかったか。

 これがもし道場の中での出来事であったのなら、自分の才能を認めてもらったが故に喜びさえ抱きそうな言葉だった。

 

 

 しかし、この場は戦場に近く、それは皮肉でしかなかった。

 

 

「エリカ!」

 

 

 一瞬、しかし確実に固まったエリカを助けるべく、レオが"彼"に向かって突っ込む。

 

 しかし、ソレに対してそのままの体勢で"彼"はレオの鳩尾に一撃を加え、そのまま組み付き地面へと叩き伏せる。

 

 

「邪魔なんだよ。これは、高校生が首を突っ込める問題じゃない。分かるな?」

 

 

「だからと言って、易々と手を引く訳にも行かないな」

 

 

 そう言って、達也はCADを抜く素振りを"見せる"。

 

 

 しかし、これは"幹比古の一撃"の為の陽動だ。

 

 それに気を取られた隙に、幹比古による"雷童子"が"彼"を襲う。

 

 

 本来ならば、一撃で"彼"の意識を刈り取ったはずであった。

 

 

 しかし、"彼"は避けることも、防ぐことさえもせず、ただそのまま"受け止め"、そしてそのまま何事も無いような様子で抜き身の刀を収めていった。

 

 

『ダメージがない・・・?そんな、どうやって・・・』

 

 

 余りにも有り得ないその光景に、ほとんど全員が絶句していた。

 

 

 

「だったら!」

 

 

 もはやヤケクソと言った様子で、エリカが突っ込む。

 

 しかし、そこに割り入る者がいた。

 

「駄目だ、エリカ!」

 

 そう叫びながら、千葉修次が割って入り、刀を抜き彼に飛びかかろうとする。

 

 

 しかし、その瞬間、まるで狙い済ましたかのように遠距離からの狙撃による銃弾が飛来し、正確に彼の足を撃ち抜く。

 

「ぐっ?!」

 

「次兄上!」

 

 突然の狙撃を食らい倒れた修次にエリカが駆けつける。

 

 その向こうでは、"彼"がヘッドマイクで狙撃兵と通話しているのが見える。

 

 

 かなりの手練の戦士を、悟らせることもさせずに撃ち抜いたのだ。

 

 

 もしこれが、自分自身に向けられていたら?

 

 

 達也の"再生"が行使できるのはあくまで"即死でない範囲"でのみだ。

 

 心臓が破損した程度では、まだ何とかなる。

 しかし、脳天に銃弾を食らった場合は?

 そして、その時に自分が反応できる可能性は?

 銃弾を食らうその瞬間までに、狙撃を把握することが出来たのか?

 

 

 達也は、その事を想像し、今更ながら"彼"に、そして"彼の持つ戦力"に戦慄した。

 

 格が、最初から違う。

 

 この時点で、この障害を"押し破る"等と言う発想は達也の頭の中からは除外されていた。

 

 

「借哉、お前、一体何者なんだ」

 

 同じように恐怖の色を見せるレオに対して、"彼"が答える。

 

「其れは"蛇"とも呼び、"猫"とも呼ぶ。"牛"とも呼ぶし、"狐"とも呼ぶ。"烏"と呼ぶものもいれば、"兎"と呼ぶものもいる」

 

「・・・!」

 

 それは、まさに四月の時に、司甲が狙撃された際の、最後のうわ言。

 

 

「お前は、なんと呼ぶ?他の奴らのように、"烏"とでも呼ぶか?」

 

 

 そう尋ねる"彼"の姿は、まるで魔王の様な印象を、対峙した全員に抱かせていた。

 

 




満足しました。うん、やっぱり一々気にしない分こういうのは楽ですね。出来るだけ主観は統一させたいので普段はやらないんですけどね、これ。どうしても必要って時はログと言った形式にしてます。それが〇.5話形式。対してこれは別に描写しなくてもいいので、完全な番外編です。


さて、では皆さん、おやすみなさい(白目


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第八十八話~撤収~

よくよく思い返してみると、一応オリ主とオリ主の持つ戦力って一応魔法師でもない唯の人間なんですよね。それが手練の魔法師相手にまともに戦ってるんだから・・・うん。


・・・だからきっとよくやってる、うん。ちょっと引き摺りかけてますけど勘弁してください。自分でも疑問に思ってたところが・・・はい。


さて、本編です。ちょっと展開が急なのは勘弁してください。まだちょっと上手く書けない。


【Sunday,February 19 2096

  Person:operator4    】

 

 

 

 

 

 森の上を、輸送ヘリが此方へ向かい森の上を駆けて行く。

 着陸地点より少し離れた地点では、戦闘が続いているらしく、断髪的に音が聞こえてくる。

 

 

「こちらが戦場にならなければいいのですが・・・」

 

 そう懸念を示す隊員に対し、宥める様に返す。

 

「余計な手出しさえしなければ問題ないはずだ。それに、"四葉"も来てる」

 

 しかし、その最後の言葉を聞いて、余計にその隊員は眉を顰める。

 

「自分はあまり"四葉"を好ましくは思えていません。今回は"味方"と言っていい立場ですが、信用できるとは思えません」

 

「別にいいんだよ。元から信用できないんだ。ただ、今必要なのは一体でも多く"目標"を確保することで、我々には言うほどの数はない。失うことも出来ん以上、堅実に行くしかない」

 

 

 そう、言い聞かせた時、一層派手な音が聞こえる。

 

 

「"また"殺したか。あいつらにだって非寄生状態の奴らに対する有効手段は余り無いだろうに・・・」

 

 そして、恐らくはそれは"彼ら"とて分かっているはずだ。

 となると、またしても"シリウス"が殺したのか。

 

 

 だが、どちらにしろこちらは早めに回収できるものは回収するまで。

 

 

 ヘリが着陸地点につき、確保した"目標"三体と、隊員達の収容を始める。

 

 

「この後持ち帰って"一部"を培養する用意をしなきゃいけない。しかも結局その方法は"四葉"頼り・・・。本当にこの選択でよかったのだろうか」

 

 現状他に選択肢は無かったとは言え、後悔が浮かんでくる。

 

 

 しかし、その思考の合間に、樹木の向こう側から"見たくないもの"を見てしまった。

 

「嘘だろ・・・・。"抜け出した奴"が一つに・・・」

 

 ただの元の"一欠片"でさえ厄介だったのだ。それが、その規模から見るにはおよそ七体分。

 

 

「総員、収容作業急げ!直ぐに離脱するぞ!」

 

 そう全ての隊員に告げ、"ソレ"を睨む。

 

 

 あの対象には、自分の力は効かない。

 "魔法"が最も有効なのだが、こちらにはその術がない。

 "彼"のように想子の塊をぶつけることも、もしかしたら出来るのかもしれないが、今まで一回もやった事が無いような代物を今この場面でやる勇気はさすがに無い。

 

 

 このような事は確かにこの長い人生の中でも始めてだったが、自分のその無力さを痛感する。

 次は、このようなことの無いように。そう願いはするが、その具体的な方法は見つかることも無く、ただ自らの無力さだけが身を包む。

 

 

「収容作業終わりました!いつでも離陸できます!」

 

「よし、現区域を離脱するぞ!」

 

 報告に対してそう返し、最後にヘリに乗り込むと同時に、その大柄のヘリがゆっくりと地上から離れていく。

 

 

 そして、ヘリが周りの樹木より数メートルほど高い位置まで高度を上げた時。

 

 

 

 七つの"創造主の一部"が凍りつき、虚空に散るのを"視た"。

 

 

 

「なっ・・・!」

 

 

 驚いたのは、その"パラサイトの集合体"が散ったことでも、それを"彼ら"が行ったことを視たことでもない。

 

 

 否、確かに驚いた。"彼ら"にその術があるということは、"彼"と妹さんが行ったことと言う事を差し引いても驚くべきことだ。

 

 

 しかし、それ以上に驚愕を受けたのは、

 

 

「今、"視えたのは"・・・」

 

 

 それは、"彼の眼"を通した情報が、妹さんに"流れ込んだ"光景。

 

 それは、"魔法"の一言では説明できない。

 しかもそれは、普段"我々"が使う物に、限りなく似ていた。

 

 

「まさか、"コマンド"・・・?」

 

 

 しかし、それを使ったような素振りは"視た"限りでは確認できなかった。

 だが実際にはそれらしき効果が現れていたのだけは、確かに"視えた"。

 

 

 そこから導き出される、唯一つの推測。

 むしろ、疑って然るべきで、実際に疑いはしたものの、余りにもそれと言うには"小さすぎて、見つけることが出来なかった代物"。

 

 

「"妹さん"も、"バグ"なのか・・・?」

 

 

 しかし、彼女そのものには世界を壊し得るだけの力は無い。

 "視た"結果でも、ほとんど他の"人間"・・・"魔法師"と大差は無かった。

 

 では、あれらは一体、何だというのか。

 

 

 

「・・・閣下?大丈夫ですか?」

 

 

「・・・・・あ、あぁ。大丈夫だ。問題ない」

 

 

 傍の兵士に声を掛けられた事で袋小路に陥っていた思考から抜け出し、返事を返す。

 

 

「基地に帰投しよう。"目標"は別地点へ輸送し、準備を整える。諸君、ご苦労だった」

 

 

 そう労いを返すと共に、携帯端末とは別に、携帯型の衛星電話に着信が入る。

 こっちの方に着信が入ると言うことは、恐らくは"四葉"・・・四葉真夜からだろう。

 

 

 その様に当てをつけ、通話に出ると、やはり予想は的中した。

 

 

『一段落したのかしら?お疲れ様、と言った方がいいのかも知れないわね』

 

「ご挨拶だな。だが、戯言に付き合う精神的余裕はこちらにはない。結果はどうだった?」

 

 

 その問いに対し、彼女は良いとも悪いとも言えないような答えを返した。

 

 

『とりあえずは達也さん達が封印した"パラサイト"の内、一体は確保したと亜夜子ちゃんから連絡があったわ。こちらの方に運んでおくから、後で受け取りに来てくださいな。他は貴方も見たかもしれないけど、七体分は達也さん達の手で粉々に散ったわ。最後の一体は、どうも九島さんのところに持っていかれた様だけれど』

 

「やはり、"九島烈"か・・・。厄介だな。あれは"我々"の存在を知っていて、かつ敵対しているように見える」

 

『あら、"私達"を差し向けるつもり?』

 

「馬鹿言え。寝返るかも知れん相手にそんな重要なことさせられるか。面倒だが、此方で直接何とかする」

 

 もし九島の後始末を"四葉"につけさせようとして、結局寝返られたとなったらたまった物ではない。今現在はまだ"四葉が確保した一体"は此方には無く、最悪四葉の手により"培養"されたものが九島へ渡るかもしれない。もしかしたら"九島"でも出来なくはないのかもしれないが、それでも余り好ましいこととは言えない。

 

 

 まだ、早々に魔法師社会から手を引くことは出来ないらしい。

 

 

 そう諦めながら、言葉を続ける。

 

 

「じゃあ、近いうちにそちらへ受け取りに向かう。ついでに、聞きたい事もあるしな」

 

 

『えぇ、分かっているわ。"私"が返答を先延ばしにした、貴方達の最大の疑問。何故、"創造主"との接触を持てたのか。一体、何があったのか。貴方が来たとき、ゆっくりと話すことにしましょう』

 

 

 そう、それは最も聞かなければならない事だ。

 それが、恐らくは今までの事態の全ての"元凶"とも、取れるのだから。

 

 

 通話が切れ、そして此方を乗せたチヌークは闇夜の空へ消えていった。

 

 

 

 




次回、最終話(詐欺)


正確に言えば最終話→エピローグで一旦完結になります。

どうせ「第一部、完」みたいな感じになって、ネタを繋げることが出来れば第二章みたいな形で続けるんでしょうがね。一応はそう言う形で今までの流れが一旦完結すると考えてください。


何がいいたいかというと、エピローグこそ真の意味での最終話です。ログ形式ですが、伏線回収祭りになります。見ていただけると幸いです。


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最終話~顛末~

後書きもチョッとSSの一部分にします。なんか見た感じいい感じに扱えそうなので。


では、最後の一人称視点です。お楽しみ下さい。

なおこの後エピローグに続きます。よって最終話(詐欺)


【Saturday,February 25 2096

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 

 結局、あの"パラサイト"による騒動は一定の終息を迎えた。

 

 ただし、それはすべて此方の思い通りに、と言う訳ではなかった。

 

 

 一応は全ての"パラサイト"を無力化するつもりで、人工森林へと入ったのだが、結果は三体は"彼"により"封印"され、奪われた。

 

 更に幹比古の手により封印された二体は、片方は"黒羽"の手により、もう片方は"抜刀隊"の手により回収された。

 

 此方の方で無力化できたのは七体。別に戦果を目的とした訳ではなかったが、出し抜かれたと言うような気分にならざるを得なかった。

 

 

 また、その後聞いた情報で思った以上に双方の被害が激しいことが分かった。

 

 "抜刀隊"は"彼"が率いる部隊により二つの分隊が壊滅。残りの二つも被害が激しく、一時的に機能不全になるだろうとの見込みが立ち、また同じく"彼"の狙撃兵によって足を打ち抜かれた千葉修次は応急手当はしたものの、全治一ヶ月の怪我は避けられなかった。

 

 "スターズ"も貴重な戦闘員を戦闘不能にさせられ、少なくない被害を負っている。とは言っても、これは自分でやったことなのだが。

 

 

 途中で手を引いた"七草"もそもそもが被害者の過半数を占めていただけあり、軽症で済んだとは余り言えない。

 

 

 今回のことでほぼ無傷で事態を終えることが出来たのは自分達と"七草"と協力体制にあった"十文字"、そして"彼ら"ぐらいの物だった。

 

 

 

 そして、"あの騒動"からおよそ一週間が経った土曜日の夜。

 八雲に呼び出され、九重寺にまで来ていた。

 

 

「達也くん、夜遅くに呼び出して済まないね」

 

「いえ、話がある、との事でしたから」

 

 

 その台詞だけは申し訳なさそうに、しかし全く謝罪の意志が込められているようにも見えない八雲の社交辞令に対し、笑って返す。

 

 

「本来はこんなことで呼び出す事はないんだけど、無性に気になってね。とりあえず、小耳に挟んでおいてほしいんだ」

 

「師匠がそこまで言うこと、ですか?」

 

「うん、勘だけどね」

 

 

 そう八雲が笑うと共に、"本題"を切り出す。

 

 

「達也くん」

 

「はい」

 

 

 

「君は、"烏"を、知っているかい?」

 

 

 

「・・・"烏"?」

 

 

 その言葉に、一瞬戸惑う。

 一体、何を言っているのか。

 

 

「そう、"烏"。鳥の事を言ってるんじゃなくてね。と言っても、僕たちだって詳しく知ってる訳じゃない。"古式魔法師"に伝わる、一種の言い伝えと言う物さ」

 

「言い伝え、ですか?」

 

「うん」

 

 頷きながら、八雲は続きを話す。

 

「日本では、物事の裏には時々だけど、"烏"が居る事がある。その時に、"烏"の邪魔をしてはいけない。そういう、言い伝えだよ」

 

「・・・まるで迷信の類ですね」

 

「そう思うだろう?だけど、最後まで聞いて欲しい」

 

 真剣な目つきで、八雲が此方に目を向ける。

 

「実際に烏の姿かたちをしている訳じゃないんだ。どうも、その由来は"烏が鳴くと人が死ぬ"という言い伝えから、それらのことを"烏"と呼ぶようになったらしい。"烏"はそれが必要だから死を呼び寄せ、その存在を知らしめる為に鳴く。だからこそ、無意味な場所に"烏"は出てこない。だからこそ、"烏"の邪魔をしてはいけない。それが、古式魔法師の間に伝わる言い伝えだよ」

 

「・・・それが、どうかしたのですか?」

 

「うん。これは、君達に大いに関係のあることだ」

 

 その問いに、八雲が肯定を返す。

 

「ちょっとした伝手でね。どうも幹比古君のところの、吉田家から出てきた情報なんだけれどもね」

 

 

 

「どうも、"烏"が居る様だ、との事だったよ」

 

 

 その言葉に、しばし絶句する。

 

 

「直ぐに理解できるあたり、流石と言うべきかな」

 

 

「まさか・・・」

 

 

「そう。今までの状況から当てはめて、幹比古君のところから出てきた情報が指す人物は、一人しかいない」

 

 

 それは、彼自身に対しても調査を依頼していた、"彼"。

 

 

「"河原借哉"。これは僕の馬鹿けた空想に過ぎないのだけど、もし、言い伝えが本当だったとしたら、"彼"はとても僕達の手に負える規模の話じゃないかもしれない」

 

 

 有り得ないと、もし四月の時に聞かされていたら否定できたかもしれない。

 しかし、ここまで"彼"のやることを見せ付けられた今では、一蹴することは出来なかった。

 

 

「事実、"彼"が動いてからどうも魔法師社会全体が騒がしくなってきてる。特に目立った動きをしているのは"四葉"だ。尤も、これ事態は珍しいことでもないんだけど、それに呼応するかのように"七草"、更には"九島"まで行動を起こしている。達也くんがこの一年見てきたように中華街の"アングラ系の魔法師"も活発化してる。ここまで全体が騒がしくなってくると、僕もただの言い伝えと思うことが出来なくてね」

 

 

「・・・つまり、今までの物事は全て"烏"・・・"彼"が糸を引いていたと?」

 

 

 その質問に対して、八雲は否定を返した。

 

 

「いや、それは多分ないんじゃないかな。特に、"君"に最初に接触してきたことに何かしらの、受動的な行動の欠片が見える。多分、彼ら自身も"動かざるを得ない事態"が起こったんだと僕は思ってる。それも、達也くん。"君"に関することで、ね」

 

 

「・・・"烏"とは、いえ、一体"彼"は、何者なんでしょうか」

 

 

 思わず、そう尋ねてしまう。

 否、尋ねずには居られなかった。

 不気味、とも言ってよかった。彼に関することでは慣れた筈だったのだが、今更ながら生暖かい風が吹いたような気がする。

 

 

 そして、その問いに対して、八雲でさえも、答えを返すことは出来ず、忠告しかこちらに言えることは無かった。

 

 

 

「さぁ。僕にも、いや、多分ほとんどの人でさえも分からない。ただ、間違いなく"烏"は君の影で今まで動いていて、そしてこれからも動き続けると言う事だけだよ。何も手を打つ手段は無いのだけれど、気をつけるようにね」

 

 

 

 

 




【Saturday,February 25 2096
Person:operator4 】





「・・・待たせたな。"宿主"を引き取りに来た」

「えぇ、こちらに。確かに有るわ。確認して頂戴」


 お互いに数人の護衛を付けた状態で、玄関先でやり取りを済ませる。


「そっちの方で取り分は"培養"したのか?」

 その問いに対して、微笑みながら彼女は頷く。

「一応は、一つ分だけ。そちらの方に後で"培養"の仕方は伝えるわ。一応はだけど、四体までなら目立った劣化も無く増やせるはずだから、此方の教える通りにお願いね」

「詳しいな。それも"貰った"物か?」

「一応は、ね」


 そう彼女が返すと共に、"本題"へと入った。


「さて、では話の続きはお茶でも飲みながらにしましょうか。お互い一人だけで、誰にも聞かれる事の無い様に」

「・・・そこで、全てを話すと言うことか」

「えぇ。さぁ、こちらへ」


 そう案内する彼女の後ろを歩きながら、四葉邸の内部へと足を踏み入れた。


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エピローグ~真実~

【log:Saturday,February 25 2096

point:35N138E   】

 

 

 

 

 

「さて・・・あなたはコーヒーでよかったかしら?」

 

「もし匂いでそっちが飲むハーブティーを台無しにしないのなら、砂糖を少し入れたものを頼む」

 

「あら、別に気にしなくても大丈夫よ。どうせ、ついでですから」

 

「そうか、では遠慮なく頂こう」

 

 

 

「それで、何処から話したものかしら」

 

「事の始まりから、説明してくれ」

 

「そうね。そうしましょう」

 

 

 

「あれは二〇六二年。そう、私が、"四葉真夜"が死んだ時の事だったわ」

 

「・・・」

 

「あら、何も言わないのね」

 

「無粋なことをいう場面ではないと言う事ぐらいは弁えてる」

 

「ありがたいわ。私にとっては、忘れることも出来ない日なのだから」

 

 

「私が壊された後、救助されて、姉さんに"私"を殺された、あの日から、全てが始まった」

 

 

「姉さんは私が壊れないように、経験記憶と知識記憶をそのまま入れ替えたのだけれど、そのために精神構造干渉魔法を行使する際、一つの異変に気が付いたらしいわ」

 

 

「何故か、私の精神の中に"異物"がある。それはとても些細なもので、取るに足らない代物だったのだけれど、それが無性に、姉さんは気になった」

 

 

「そして、数日たった後、その事を私に話して、その"異物"を取り除く為にもう一度私に魔法を掛けると言って、私はそれに了承した。

 

英作叔父様に話しても無駄だったと、姉さんは言っていた。だからこそ、その"異物"を取り除く時は、精神を実験によって壊されたいくつかの"生きた死体"があった部屋の中で、二人きりで行われたわ」

 

 

「そして、実際に"異物"を取り出そうとしたのだけれど、どうもそれは何かしらの精神体の一部が私の精神と繋がっているのだと、その時に分かった。

 

姉さんはその精神体との繋がりを断ち切ることが出来なかった。切ろうとしても直ぐにくっ付いたらしいわ。だから、一旦切り取った精神体の"紐"とも言うべきものを、その生きた死体に貼り付けた」

 

 

「それが・・・・」

 

「えぇ」

 

 

「それが、私と。いいえ、"私達"と、"その精神体"・・・貴方達の言う"創造主"が接触した顛末よ」

 

 

「・・・その時の、"創造主"様の状態は?」

 

「一言で言えば、ほとんど滅茶苦茶と言っていい状態だったらしいわ。彼自身から聞いた話も含めるのだけれども、どうもその時、彼は"私"から自我を借りていたらしいの。そんな中、私が誘拐され、私自身が壊れてしまうほど犯された。彼はその時の私の精神状態にかなりの影響を受けたらしいわ。借りていた自我がいきなり崩壊して、彼自身が一時的に行動不能になった。

 

だけど、それまでならいずれ復活できた。だけど、復活する前に姉さんが私の経験記憶と知識記憶を入れ替えてしまい、それは彼自身の経験記憶と知識記憶まで入れ替えてしまった。

その結果、彼はその直後はほとんど何も出来ない状態だった。尤も、私達も驚いたのだけれどね。だって生きた死体がいきなり何とも言えないようなうめき声を上げ始めたのだから」

 

「"創造主"様は、お前達に助けられたと言っていた。つまりは・・・」

 

「そう。何かあると踏んだ姉さんは、その精神体を苦労して解析し、異常を見つけ、そして彼自身が自分主体の思考を取り戻せるまでには回復させた。ソレが終わっても暫くはその死体から抜け出すほどの力はなかったようですけど」

 

「・・・」

 

「私からしたら滑稽ともいえるわ。私は、あの出来事で、この残酷な世界を心底恨んだ。だけど、彼が回復し、彼からこの世界についてを聞くことが出来た。そこで感じたのは、何とも言えないような気分としか表現できないわ。私が心底憎んでいた世界を作り上げたそいつは、私達が居なければそのまま力尽き、人間がいなければ存在することも難しいほど儚い存在などだと知ったのだから。滑稽とも言えて、だけど哀れにも思える。率直に、そう思ったわ」

 

 

 

「・・・"創造主"様から"手土産"とやらを貰ったのは、その後か」

 

「えぇ。正確に言うと、姉さんが引き出したとも言えるのだけれど」

 

「・・・というと?」

 

「姉さんは彼から様々な話を聞き、一つの考えを出したわ。『彼の力を使えば、私を救うことが出来るのではないか』、とね。その考えを元に、明確な意図を伏せたまま、彼に手段を要求したの。

 

そして、姉さんが手に入れたのは"用意されていたもう一つの役職を基にした、新たな魔法師の製造方法"だった」

 

「・・・"もう一つの役職"?」

 

「えぇ。『エンジニア"engineer"』世界の外交状況が複雑化していることを認識した彼が、元の管理者がそちらの方に専念できるよう、バグの発見、修理、そして消去のみの為に用意しようとしていた物よ。それを改変し、"人間"にその能力を収められるようにしたのよ。姉さんは、その能力を使えば私を救えると考えた」

 

「・・・その事を四葉で知ってる者は?」

 

「今は私と葉山さんだけだわ。このことは、当時当主であった英作叔父様にさえ伏せられた。その危険性故に、その異常さ故に、ね」

 

「しかしそれではその魔法師とやらは作れないはずだ」

 

「えぇ、本来ならばそうね」

 

 

「それと同時期に、私達が指導を受けていた九島先生から、ある話を聞いたわ。

 

それは、"烏"について。九島先生が、古式魔法師から伝え聞き、そして自分で調べた結果把握できた、日本を操る勢力の存在。

 

それに対抗し得るだけの魔法師社会の構築が必要ではないのか。それも、"烏"が今現在どうも満足に動けてない今の内に。

 

そういう考えを、私達に話した」

 

 

 

「私達にとっては渡りに船だった。"烏"に対抗できる魔法師を、四葉の技術でなら作れる。だけど、環境が足りない。そう、先生に対して言って、先生は私達に、独力でその魔法師を作れるだけの環境を整えてくれたわ。

 

"烏"に匹敵する力を持たせる為の調整魔法師。先生は、それを"白烏"シリーズと名付けた」

 

「それが、九島烈が言っていた"あのプロジェクト"とか言う物か」

 

「そう。先生自身、私達に憐れみを抱いていた。だからこそ、"魔法師"を社会が、世界が守ってくれるように動こうとした。実態は、先生自身が思い描いたものとは微妙に異なっていたのだけれど」

 

 

 

「その"白烏"シリーズの第一号が、達也さんよ。教わった方法に忠実に、"貴方達"と同じく、"貴方達を構成する要素"を直接胎児の中に埋め込んだ。その過程でいくらか既存の法則から乱れてしまったし、また"貴方達"に赤子の内に存在を把握され、殺されないように彼に態々偽装まで施させたのだけれど、無事に"一体目"は完成した。その能力が生まれる前に分家の方々に露呈してしまったから余計に大変だったのだけれども、ね」

 

「・・・しかし、"彼"の能力は」

 

「そう。彼が手に入れたのは結局強力な"分解"と、二十四時間以内にしか使えない"再成"だけ。私を救う力には成れなかった。

 

姉さんが達也さんを"出来損ない"と言っていたのはその為よ。純粋な人間として、魔法師として、そして何よりも私を救うために生み出されておきながら、私を救うだけの力を持つことが出来なかったが故の"出来損ない"。姉さんは、あの時ほど絶望した時はなかったでしょうね」

 

 

 

「だけど、いくら出来損ないとは言え、桁外れの、それも扱いにくい程強力な力を持った子供が生まれたのは事実。彼が彼自身を"制御"出来るようにすると共に、二体目の、達也さんを止めるための"白烏"を作ることになった。勿論全部を話すことは無かったけれども、二体目は英作叔父様や紅林さん達もプロジェクトに参加した。あくまで方針と、設備調整だけでほとんど製造方法に関してはノータッチだったけど」

 

「その二体目が、司波深雪・・・"彼"の妹さんか」

 

「そう。二体目は精神構造魔法によって、一体目のデータを改変し、その要素を直接胎児に入れるのではなく、精神構造をソレと同じように改変しようとした。

 

けど、結果は失敗。"最良の魔法師"は出来上がったし、達也さんを止めうるだけの力も手に入れた。だけど、"白烏シリーズ"の当初の目的を考えると、失敗と言っていい出来だった。深雪さんは、"魔法師"の枠からいくら卓越した能力を手にしても、抜け出すことはできなかった」

 

 

「私達は先生にプロジェクトは失敗と伝えたわ。どうも今は騙されたと思っているようだけれども、実際失敗していたのよ。少なくとも、姉さんが意図した目的から考えると、ね」

 

 

「それが、"彼"の、いや、"彼ら"の持つ、妙に規則性を持った"バグ"の正体か」

 

「えぇ。これが、私の知る真実よ。疑問は解けたかしら?」

 

 

「・・・あぁ。貴重な時間を済まんな」

 

「いいえ。私もすっきりしたわ。余計な話も交えてしまったし、貴方が謝ることはないわ」

 

「そう言ってくれると助かるな」

 

 

 

「最後に一つ、言わせてくれ」

 

「あら、何かしら?」

 

 

「"創造主"様を救ってくれて、ありがとう。素直に、礼を言う」

 

「らしくないわね。本当にあの"烏"かしら?」

 

「結構本気で言ってるんだがな。まぁ、いい。何かあったらまた聞きにくる。その時は是非、教えてくれ」

 

「えぇ、それじゃあ、また今度」

 

 

「あぁ。それではな」

 

 

 

 

 




はい、と言う事で、今作『魔法科高校と"調整者"』は一旦完結となります。
テンションに身を任せ一気に書き上げ、少々疲れ気味。回収できてない伏線ないかなとかびくびくしながら後書きを書いてます。
なお、一旦と付けたのは勿論理由があって、一応は続きも書くことは可能だろうからです。ダブルセブン編が鬼門というだけで。なので一応休載、と言う形になると思います。完結とつける勇気が無いのは悪しからず。第二章とか言って別の作品の形で投稿したくもないので・・・。


さて、この先の執筆予定ですが、いろいろあります。

まず最初に、前に息抜きで投稿したオリジナルSSを頑張って更新していくというもの。
これが一番楽かなぁとか思ってます。ある程度のストーリーはありますし。


魔法科関係では色々選択肢があります。
話数がかなりばらばらな本作を再構成して一話ごとを5000~10000文字に纏めるということも少し発想としては出てきてます。だけど、多分完遂できそうに無いから別の形になるかと思います。

選択肢としては純粋な魔法科の二次創作物が上げられますね。
具体的には、第三次世界大戦をモチーフに、老師をメインに据えたストーリーみたいな形を想像してます。オリ主とかの形にはなりそうな気がしなくもないですがね。

オリ主が魔法科高校に入学して無双するという物は他の作者様がもっと面白いものを書けるので書きません。というか書けません。たぶん読むに耐えないものになる・・・。


・・・きちんとした魔法師が主人公の物?そうですね・・・せいぜい干渉力と演算領域は深雪様や分解とか再成なしのお兄様の数倍はあるような化け物だけど、発動速度がお兄様より数倍遅いオリ主が頑張るお話が精一杯かな?それでも頑張ってひねり出した分まともな話になる気がしない・・・。


まぁ、とりあえずはオリジナルSS作品を今作よりはチョッとスローペースで、だけどメインに据えつつ第二章みたいな形で本作の続きを考えながら第三次世界大戦の時の魔法科SSを構築するってのが今後の方針です。


とにもかくにも、とりあえずは今回を持って今作は一旦完結とします。自分では最善を尽くしたつもりですが、後学のために感想等、お待ちしてます。出来る限り返信するつもりですので。

また、こういうSSとか書いてみて欲しいとかいった要望の場合はメッセージにてお願いします。別原作も一応考えますが、自分は結構あまりラノベを多い種類読んでいる訳ではないので、書けない物もあるのですがね。


それでは、今まで閲覧して頂き、ありがとうございました。


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第二章
第二章プロローグ~闇烏~


厚顔無恥にも程がありますが帰ってきました。詳しくは後書きにて


【Friday,April 5 2096

 Person:operator4 】

 

 

 

 

 

 

 四月五日、東京。

 この街に俺が知る限りでは、常に大小問わず誰かしらが暗躍している。そして、恐らくはこれからも。

 

 

 何よりもまず、"我々"がいる。

 "創造主様が作った世界を維持する"為に。

 

 そして、"彼"がいる。

 それだけでも、"我々"が動く価値がある程に。

 

 

 とは言え、状況は一年前と比べると随分と変わっていった。

 

 俺は、高校生では無くなった。

 彼は、"消すべき目標"では無くなった。

 

 魔法師は、未知の者では無くなった。

 魔法師が、"我々"を認識し始めた。

 

 物事に変わらぬ事は無いと言うが、恐らくは近年、特にこの数年間はあの大戦など優しいと言える程に変わってしまったのだろう。

 

 無機質な程何も無く、変わらない部屋の中で情報に目を通しながら煙草に火を付ける。

 

 

「それで、四葉は"人間主義者"に対して敵対して行くと言う方針で行くのか」

 

 そう"通信先の相手"に呼び掛ける。

 この相手でさえ、本来は敵に近い人間であった筈なのだが。

 

 

『えぇ。その方が"貴方達"にとっても都合が良いでしょう?』

 

 

 そう、四葉真夜が笑った。

 一ヶ月前に真実を聞いて尚、彼女の事を信頼する事など出来てはいなかった。

 

「あんな者達は昔の反捕鯨団体と大して変わらん。あまり派手に動くと此方もお前達を"切り捨てる"事を検討しなけりゃいけなくなる」

 

『しかし他の十師族に先を越され、その功績を元に彼らの発言力が強化されるよりは良いでしょう?今"四葉だけが"、貴方達の傘下にいるのだから』

 

 この言葉に反論出来ず、思わず溜息を吐いてしまう。

 理屈は理解出来る。お互いに、利用し利用される関係である。同時に、今は"我々"が優位にある。そう言う風に"彼女"が動いたのだから。あれから一月程経つが、今だに四葉は我々の手駒であろうとしている。それ自体は悪い事とは言えないのだ。

 

 しかし、今だに思わずにはいられない。

 これは果たして、最善だったのだろうか。

 我々は、もっと薄暗く、誰も気付けない影で在った方が良かったのでは無いか。

 もしくはいっそのこと、あの時十師族全てを灰にしてしまえば良かったのでは無いか。

 

 しかし、全ては過ぎた事だ。そして現状も、経験則からも、今は手を組み続けるべきだと言う事を現在の情勢が示しているのだから。

 

 賽は投げられている。十月の、最後の日に。

 全てを"無"にしようとしない限り、魔法師には魔法師が最適解だろう。それだけの意味を、彼らは世界に刻み付けた。そして、その魔法師の中では"最凶"とさえ言える四葉が傘下にいるのなら、それに越した事はない。

 

 

 そして、何よりもまず注視すべき問題がある。

 

 "九島家"が、何かを行おうとしているのだ。

 大まかな目的としては、四葉の相対的優位を削ぐ事なのは間違いないだろう。

 

 しかし、その方法の一つに危惧するべき全てがある。

 確証は無い。しかし、状況は一つの可能性を示唆している。

 

 "九島"は、あのパラサイトを手に入れている。

 そして、"九島烈"は我々を、そして"白烏"を知っている。

 

 そこから導き出される答えは、一つしかない。

 

 もし、"パラサイト"(創造主様の一部)を利用しようなどと言うふざけた狼藉を働こうとしているならば。

 

 それにまともに対抗し得る勢力を弱体化させるのは愚策で、彼らを勢い付かせる事だけはあってはならない。

 

 

「・・・まぁいい。"我々"は状況を見守るつもりだ。お前達が得をしても損をしても此方は構わんからな。だが、去年の様な事は起こさないでくれよ」

 

 そう言って通話を切る。

 欲を言えば、共倒れが最も望ましいのだが。

 

 

 そして、舞台は回り出すのだろう。

 恐らくは、再び"彼"(司波達也)を中心に。

 

 




はい、恥ずかしくも戻ってきました。しかもこっちに。

理由は多々有りますが、一番は魔法科二作目が完全に詰んだことです。


はい、詰め込み過ぎました。収拾がつかないのであれは一旦展開を練り直す為に御蔵入りです。具体的には沖縄編をそのまま消します。日付が変わる頃に非公開にします。多分修正した末にはこんな事があったんだ的な話で一話に纏めると思う。

それと同時に、まだ此方の方が物語を構成しやすいと言う理由を元に書きたくなり、描かせて頂こうとは思います。こっちのオリ主にはまだ九島と言う敵が残っていたのが唯一の救い。

かなり期間が空き、作風も変わってしまうかもしれませんし物語の濃さも第一部と比べると些か物足りない物になるやもしれません。

しかしそれでも私は書かせて頂きたいと思います。

私が消えていた間も誤字修正報告、及び感想を書いてくださった方や読み直してくださった皆様方に改めて感謝を申し上げます。

期待してくれていた読者様を裏切ってしまった私が再びキーボードとスマホでハーメルンに書かせていただく事になりますが、それでも宜しければ是非お願い致します。

なお不定期更新です。第二部の鬼門であったダブルセブンを繋ぎ回にする事にはしました。恐らくはパラサイドールを中心とした四葉九島間冷戦が舞台になります。
しかし、流石に一日一話を投稿出来るほど物語が練れていません。此方も懲りず見切り発車ですしね・・・。第一部はそれなりに順調に進んだ上に最初から最後まで濃い展開を用意していましたから。でも近いうちに二章一話を投稿したいと思っています。もしくは繋ぎ回と言う事で九島をlog方式で書いてみるかも知れない。

それでは、お見苦しく無ければ是非お楽しみいただけると幸いです。



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第二章一話~予兆~

始めという事で達也回版プロローグもどき。
思い付いたから急ぎ投稿



【Friday,April 27 2096

 Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 

 "烏"が鳴くと人が死ぬ。

 

 それが必要だから烏は死を呼び寄せ、その存在を知らしめる為に鳴く。

 そして鳴いた後は、不気味な迄に静かに消えてしまう。

 

 

 七宝琢磨を尾行しながら、ふと二月ほど前の事を思い出す。

 

 

 "彼"が現れたのは、丁度去年の四月始めの頃だった。

 "河原借哉"が八雲の示していた"烏"だとすると、あの時に彼は鳴いていたと表現出来るのだろう。

 恐らくは、必要な死を呼び寄せる為に。それも、自分自身かその周りを狙って。

 

 今こうして全てが過ぎた後ならば分かる。少なくとも、"彼"はあの時姿を現さなければならなかったのだろう。この先起こる、全ての事柄を予期して。それは、去年に起こった出来事の全てが雄弁に語っている。

 

 

 そして今、周りにそれらしき姿はいない。

 まるで、こうやって自身が動いている事件等態々関わる価値などないと言わんばかりに。

 

 もう、全てが終わった後なのか。

 それとも、唯こちらから見る事が出来ないだけなのか。

 

 無論、別に物事の主導権が欲しい訳では無い。唯状況に流されるだけであっても、厄介ごとに首を突っ込まないに越した事はないのだ。

 そう考えると、本来なら"烏"を見る事が出来ない所に立てるのは喜ばしい筈だ。

 

 

 だが、そうでは無いはず。

 "彼"と一時期でも一緒に居たからこそ分かる。まだ、何かが起こる。寧ろこれからが時代の節目と言って良いほどに。

 

 "彼"は、見えない。

 しかしその存在は薄暗い影の中に、確かに存在する筈だ。

 

 "彼"が動いた形跡は、未だ見つかって居ない。

 独立魔装大隊や四葉の情報網を持ってしても、河原借哉の存在は何処にも確認出来ていない。

 

 しかし、彼は動いている筈だ。

 何かを追っているのか、それとも見定めているのか。

 

 

 七宝琢磨が高級マンション街の中層ビルに姿を消したのを見て駅へと向かい、藤林達と合流する。

 

「どうやら七宝家のご当主はご子息に余り軍事的な訓練を貸していないようね」

 

 素人の様だ、と評価する藤林に頷きながらセダンに同乗する真田に目配せをする。

 カメラなどの目は藤林が掌握している。もし、"彼"がこの場を見ているならば、この近くに居る筈だ。

 それに対して真田は意図を理解し、しかし首を振った。

 

「やはり確認出来ないね。少なくとも今の所はこの件に首を突っ込んでいるのは僕たちだけみたいだ」

 

「つまり"彼"は・・・」

 

「恐らくは、まだ居ない。関わる気が無いのか、それとも僕たちがこうしている件でさえ水面下の些末な出来事に過ぎないのか」

 

 恐らくは、後者なのだろう。

 だからこそ、"彼"が見えないからこそ知る人間はその影を気にする。

 

 彼がいれば、それは厄介事だった。彼が姿を消した時は、裏で必ず何かが起きていた。

 

 しかし、"彼"はパラサイトの一件以降、姿を消し続けている。

 

「・・・居ないのなら、気にすべきでは無いのでしょう。俺は今の所は彼の様なやんちゃ者がこれ以上出るのを防ぎたいだけですから」

 

 そう、気持ちを切り替える。

 

「妨害勢力の可能性は?」

 

 それに対する藤林の答えは肯定だった。

 

「少し遠いけど、ビルの方に飛行船が確認できるわ。今は断定する事は出来ないけど、可能性は考慮した方がいいかも」

 

「分かりました」

 

 そう頷き、大型セダンから降りる。

 部屋内部の音声から察するに、目的はスキャンダルか。

 

 しかし、そうでなかったら。

 

 そう予感にも似た確信を抱きながら、小和村真紀の部屋へと向かう。

 

 

 

 そして、"仕事"を済ませた後、恐らくはハイジャックされていたのであろう飛行船を制圧し、"分解"する事になった事ではっきりした。

 

 

 もう、影に隠れる段階は過ぎた。

 

 

 "烏"(河原借哉)が、鳴くために現れる。

 

 




静かに物事が加速する詐欺。

とは言えやはりこの作品、個人的にはお兄様とオリ主は絡ませたいと思っております。お兄様は知らないとは言え、お兄様だけが唯一オリ主と絡めるメインキャラですから。

それにしても繋ぎ回の為だけにダブルセブンが消えてしまいましたが後悔はしていない。オリ主は退学したから高校生イベントにはもう混ざれないしね。

さて、問題はどのタイミングで再開を果たすか。是非、ご期待ください。


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第二章二話~再会~

いつ再会するのか。今でしょ。
展開を急いている気がするけど多分気のせい。


【Tuesday ,July 3 2096

 Person:operator4】

 

 

 

 

 

 予想は、当たった。

 それも、考え得る限りで最悪の状況下で。

 

「パラサイトを用いた兵器を、"彼"と関わる形で実地試験をさせる、か」

 

 九島家はやはり、"パラサイト"(創造主様の一部)を軍事転用しようとしている。

 この時点で既に九島家そのものは敵と認識すべき物になった。

 

 しかし、相手が九島家、正確には九島烈であると考えると直接の介入が難しくなる。

 これが七草や十文字であったならば、特殊作戦群予備分遣隊を投入するだけで事足りる。魔法師内では最高クラスの勢力でも、認識できない相手からの奇襲には対応出来ない。

 

 だが、九島は"我々"の存在を知っている。部隊を投入したら、確かに多大な犠牲と共に第九研は制圧出来るだろう。しかし"P兵器"(パラサイドール)を確保出来るとは限らない。寧ろ相手に九島烈がいる以上、ほぼ確実に確保には失敗する。

 

 無論、最悪の事態に陥った場合は"広域消滅処理"を行う手もある。しかし、同時に余りにもそれは目立つ上に非効率だ。

 

 

 だからこそ、目には目を。魔法師には、魔法師を。

 自分で介入できないなら、人にやらせるのが一番いい。

 そして何よりも、この様な厄ネタ程無理にでも解決へと持ち込もうとするのが、"彼"なのだから。

 

 無論問題もある。

 "彼"を四葉経由で動かそうとすると、逆に四葉に対して"彼"を使う事を許容する形となってしまう。彼は何も起きていない時は静かにしてくれていた方が良いのだ。

 

 一方、独立魔装大隊を動かす事も出来ない。元々傘下にある部隊では無い上に、無茶な命令は"彼"を無駄に刺激する事になる。その結果軍機構が崩壊するレベルでの報復の可能性さえある。

 

 

 では、どうするか。

 結果として、俺は形も無い胃袋を犠牲にする事を選んだ。

 

 幸いあれ以降も変えていなかったのであろう彼の携帯端末にメッセージを送り、去年の春と同じ様に、あの公園で再び再開する事にしたのだ。

 

 

 

 そして、火を付けたまま煙草を十分程眺めていた所で"彼"の姿が見えた。

 

「久しぶりだな、達也。てっきり頭数を揃えて囲みに来ると思っていたが」

 

「そんな事がお前に通じるとは思っていない。それに、そろそろだと思っていたからな」

 

「ほう、予期していたのか。それは驚いたな」

 

 ここ暫くは裏にさえ姿を晒してはいなかった筈なのだが。

 そう思っていると、彼自身から"此方の要件"を切り出してきた。

 

「九島家の新兵器の事だろう?お前が持ち込もうとしている話は」

 

「・・・何故知っている?九校戦の競技変更は今日発表されたばかりの話だが」

 

 我々が"P兵器"(パラサイドール)の事を知る事が出来たのは、そう予測し、更に存在を確認したからだ。そしてそれを"四葉に対する抑止力"以上の目的を持たせようとしていたからこそ行動に移った。

 

 しかし、"我々"と同じ速度で彼が情報を把握しているのはおかしい。つまりは、九島家内部に"情報提供者"が居るという事だ。

 

 その推測を知ってか知らずか、彼は答えを返した。

 

「今日匿名でメールがあった。そして、偶然とは考えられない程のタイミングでお前が出てきた。となると、一致しているのは間違いないと考えていい筈だ」

 

「確かに。恐らくは間違っていない。流石に俺もお前に届くメールなどいちいち調査してはいないが」

 

 本当に、話が早くて助かる。

 

「そして、同時にお前だけが誰でも利用出来るだけの図太さを持っている。だからこそ、俺はお前を選んだのだからな」

 

 そう言って此方が渡せる情報が入った封筒を彼に投げ渡す。

 

「国防陸軍対大亜連合強硬派に属する酒井大佐が魔法協会に圧力を掛けたのが元だ。それに乗じる形で九島家は新兵器の実地試験をしようとしている。"我々"は何としてもこれら新兵器の全てを確保しなくてはならない」

 

 新兵器の内容は、伏せたまま。

 同じ様に、四葉にもこの情報は渡していない。

 しかし、どちらもどうせ直ぐ察するだろう。物が物なのだから。

 

「保管してあるであろう第九研に、九島烈がいる可能性を考えると現状での制圧は出来ない。そこで、確実に不在になる競技当日を狙う。スティープルチェースの競技中は、まず間違いなくそっちに居るだろうからな」

 

 そう此方の方針を伝えた後、彼を見る。

 

「もし、お前が介入するつもりであるならば。その時には連絡しろ。必要な物、侵入方法、そして此方の部隊の一部をそちらに貸すつもりだ」

 

「成る程。しかし、それなら何故"今"話した?余りにも、話が早すぎる」

 

 尤もな疑問だ。だからこそ、率直に答える。

 

「今回の件、お前にとって最も重要なのは"誰を味方とするか"。そして、"誰を敵とするか"だ。今回の件には様々な派閥が絡む。"我々"は状況によってどちらにもなり得るが、お前達はそうも行かない」

 

 現状、舞台裏では様々な勢力が水面下で争っている。

 そしていざという時、彼は一体どちらに身を寄せるのか。

 

 権益の拡大を狙いつつ得体の知れない何かを狙う、四葉真夜か。

 四葉の家系そのものを取り持とうとするのか。

 それとも"彼"の力を削ごうとする、四葉分家の意思に靡くのか。

 もしくは、全く別。四葉と争う七草や九島に頼るのか。

 

 また、誰にも頼らず、中立を貫くのか。

 

 

「お前に求めるのは"舵取り"そのものだ。この先の事を、よく見通しておけ」

 

 

 




という事で13巻のうち2/3程まで掛けて原作では手に入れた情報をこの段階で手渡すオリ主。

早いと思います?いえいえ。これはお兄様が絡んだ時点でパラサイドールなぞ解決してるのです。問題は、その前や後。これさえ、本作時系列で四月の時点で始まっていた十師族内部冷戦の枠組の中に過ぎないのですから。

取り敢えず元旦での出来事を元にある種の転換点は用意出来ました。問題は、そこに至るまでの冷戦の道筋ですね。パラサイドールさえ前座になりそうな勢いでどうするものか。この後は原作だとオリ主を知っている周さんとのいたちごっこですしね。九島とお兄様も少し絡ませたいと思ったり。

次回、達也回。坊主もあるよ。


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第二章三話~拠所~

達也回です。まだ連載再開したばかりなのに不安を抱くけど問題などきっと無いと思いつつ進みます。


【Wednesday,July 4 2096

 Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 

「おはようございます、師匠」

 

「おはようございます、先生」

 

「やぁ、おはよう」

 

 深雪と共に八雲の所へ、"昨日の事"を相談する為に訪れた。

 

 九島家による、九校戦を舞台にした新兵器の実験。

 そして、その確保を目的とする、"烏"。

 

 これらの事は、自分達だけでは処理できない。

 その為にも八雲の知り得る事を、可能な限り教えてもらう必要があった。

 

 

 結界と、深雪の各種障壁魔法で盗聴の心配が無くなった部屋の中、八雲は"彼"から渡された資料に目を通していた。

 

「・・・一部隠されてはいるみたいだけど、流石は"烏"、と言うべきかもね。この時点で既に核心に迫っているとは思わなかったよ」

 

 そう、やけにさっぱりと笑いながら言う八雲が言う。

 

「隠されていると言うのは、新兵器の詳細ですか」

 

「うん。こっちでも、流石に符丁位は分かる。"P兵器"と呼ばれているみたいだ」

 

「となると、やはり・・・」

 

 彼らが重要視する兵器。

 そして、"P"の持つ意味。

 

「恐らくは、二月の時のパラサイトを利用した物だろうね。全くもって危険な代物を、危険な競技で試すなんて。正気を疑いたくなる話だよ」

 

 パラサイトを利用した兵器。最低でも九校戦の環境でもある程度まともに使えるのであれば、生物兵器の様にばら撒く形のものでは無いだろう。

 しかし、極めて厄介なものに変わりはない。あの時にパラサイトに決定打を与える事が出来たのは、深雪だけだった。

 

「・・・となると、私もお兄様と一緒に向かうべきでしょうか」

 

 そう深雪が八雲に聞くが、彼は首を振った。

 

「いや、"彼ら"であれば恐らく回収手段を用意してると考えて良いだろうね。君たちに接触したのは、"その方が楽だから"という事じゃないかな」

 

 楽だから。確かに、借哉自身は戦力を持ってはいたが二月の時は他と比べても出遅れていた。そう考えると、此方を利用しようとする事は理に適っている。何より、彼は面倒を嫌う節がある

 だが、他にも理由がある。彼自身が、此方に言っていた様に。

 

「師匠。"彼"は、"誰を敵とし、味方とするかを決めろ"と言っていました。これは、どう言う事でしょう」

 

 

 そう尋ねると、八雲は暫く黙った後に口を開いた。

 

 

「・・・ふむ。"烏"がそれを求めているとなると、知っている方が良いかも知れないね。余り、言いたくは無いんだけど」

 

 そう言って、八雲が此方を見る。

 

「具体的には、四月始めから。人間主義団体の事件を始まりとして四葉と九島、そして七草が実質的な冷戦状態に入ってる。そして、動向を見る限り九島の狙いは"君達"にもあるみたいだ」

 

「俺と深雪に、ですか?」

 

 確かに二人とも一年前から騒ぎの中心にいて、多少なりとも注目を集めた。

 そして、その素性を九島や七草が探ろうとするのも不自然では無い。しかし、それが実質的に四葉と敵対状況になる中で尚、と言うのは違和感がある。

 

「そう。具体的には君達の出自、と言えばいいのだろうね。それを除いても、思えばパラサイトの一件では九島はかなり積極的に行動してきた。そしてそれに呼応するかの様に、四葉も。そして四月には、更に七草までもが活発化している。特に現在は四葉と七草の間で行動に対立が見られるし、その隙を縫う形での今回の九島の行動もある」

 

 確かに、これには思い当たる節があった。

 反魔法師的勢力の情報は、文弥と亜夜子を通して恐らくは四葉真夜から齎されている。そしてどちらが先かは分からないが、結果として四葉は七草に対して行動の相違を見せている。現在は沈静化しているとはいえ、八雲がそう言う以上は関係が改善された節は無いのだろう。

 

 格好だけ見れば、四葉は孤立していると言っていい。しかし、状況は恐らく平行線を辿っている。

 

「つまり、"彼"は俺たちの立ち位置を把握する為に現れたと言う事ですか」

 

 そう尋ねると、八雲は頷いた。

 

「多分ね。君達だけが自由に動けて、君達だけが利益に縛られず、君達だけが彼らに重視されている。この先で彼らは四葉、七草、九島のうちどれが勝利を収めるかより、どこに君達が身を寄せるのか。それを、この一件で測るつもりなのだと思うよ」

 

 そう言った後、八雲は立ち上がり話を締めた。

 

 

 自分達が、どこを拠り所とするか。

 無論、深雪の事が最優先であるのは確かだ。故に、四葉以外の選択肢が無い、という訳では無い。

 現状でも独立魔装大隊は此方に好意的と言えるし、FLTに関しても発言力は遜色のない物となっている。やろうと思えば、全てから逃げる事さえ出来るだろう。

 

 しかし、"彼"が聞くと言う事は重い意味を持つ。

 "彼"が見通している厳しい道を、果たして大きな味方無しで切り抜けられるのか。

 

 とはいえ、すぐに決められる話でもない。いつも通り、状況が決めてくれるだろう。

 不安そうに此方を見る深雪にそう言って安心させながら、部屋を後にした。

 

 




と言う事でお兄様が現在の状況把握に入りました。

書いた通り現在は4、7、9の間で実質的な冷戦状態にあります。スティープルチェース編はパラサイドールを巡る戦いをダシにした四葉と九島+七草の暗闘をメインに据えて行きたいと思います。

なおオリ主が考えた勢力選択肢がやけに多いのはミスでは無く、要するに見えている立場が違うからこそです。そんでもって四葉は傘下にいても味方扱いされてないから基本干渉しようとしないスタイル。それ故に直接お兄様に接触した訳です。

次回、オリ主回。溢れ出る小競り合い臭。


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第二章四話~異物~

書いていると第一章と第二章の切れ目がはっきりしている為話の流れがスムーズに行けてるか不安。なので少し状況整理を多めに。


【Friday ,July 6 2096

 Person:operator4 】

 

 

 

 

 

 今回の件では、主に二つの目的がある。

 

 まず一つに、"P兵器"(パラサイドール)の確保と製造手段の破壊。

 既に前回の一件で必要分のパラサイトは回収してあり、何よりも何度か調査に行った限りではあの兵器に使われているパラサイトは元の物と比べると劣化が著しい。

 しかし、そも人がこの様な物を使う事さえ本来は許容出来ない。今までは四葉の"白烏"シリーズの事も有り黙認していたが、これを実際に投入するつもりであるならばとても許容出来ない。

 

 

 尤も、どちらが人道的に考えてえげつないかと言えば四葉になってしまうのだが、それに関しては考えない事にする。

 

 

 そして、もう一つが"彼"の動向を知る事。

 この実質的な冷戦状態の中で、ある一つの動きが予測される。

 四葉の力をよく思わない七草と九島、そして四葉分家の"彼"に対する敵愾心と、四葉真夜が未だ此方にも明かさぬ、"彼を制御する為の腹案"。

 

 それらを四葉から得られる情報と自前の情報で照らし合せた時、恐らくは今まででも最も面倒かつ危険な状態が発生すると思われる。しかも、"彼"の精神状態にダイレクトに影響を与えるとなると尚更だ。

 この予測を元に動くと、どちらに転んでも全く美味しくない展開しか待っていない。つまり、起こった時に"彼"がどちら寄りになるかに全てが左右される。

 

 だからこそ、この一件で"彼"の行き先を見定めようとする事にしたのだ。

 

 

 

 そして、この二つの内一つ目に関しては重大な問題がある。

 

 此方は一切の影響力、諜報能力を魔法師社会に対して所有出来ていないのだ。

 その成り立ちから、"国家"の枠組での争いならば此方が圧倒的に有利だ。しかし、魔法師社会内部での内輪揉めとなると金、公的機関、監視機器の三つからでしか伺い知る事が出来ないのだ。

 今まで一定の情報が得られているのは、一つに"軍"が関わっていたから。そしてもう一つは、"四葉"がいたからだ。

 

 "四葉"のみが魔法師社会内部で突出した力を持ち、そして"我々"の傘下にいる。つまり、魔法師社会内部での事象に関してはどうしても"四葉"の思い通りに動いてしまう事になり、更に言えば確実に後手に回る事になってしまう。

 

 

 つまり、今回も出遅れたのだ。

 

「周公瑾が九島に接触しただと?!」

 

 四葉真夜からの連絡の内容に、思わず声を荒げてしまう。

 

『えぇ。何を目的としたかはまだ分かっていないわ。おそらく近い内にもう一度あるでしょうね』

 

 周公瑾。今現在最も聞きたくない名前だった。寧ろ、彼が関わる可能性を考慮出来なかったのは此方の手落ちだ。

 奴は、"我々"の存在を知っている。直接敵対している訳ではないが、厄介さで言えば二月の時の九島を超える。それが、今回の一番の厄種と関わろうとしている。

 

「奴らの目的は日本と言う国そのものの力を削ぐ事だ。最低でも、それだけははっきりしている・・・」

 

 尤も、横浜の件で彼が修正に動いた節がない点、もっと広い範囲で物事を捉えている節もあるが、その中に日本が入っている事は間違いない。

 

『とすると、件の兵器の破壊、もしくは技術奪取が目的と言いたいのかしら?』

 

「今の時点では不明だな。兵器に対して何かしらの工作をするのは間違いなさそうだが、手段が推測できない。破壊か、奪取か、それとも暴走でもさせるのか・・・」

 

 どの道、九島に対して監視を強化する必要が出てきた。

 場合によっては、九校戦より前に行動を起こす必要もあるだろう。

 

 しかし、奴らを十分に監視出来るほど"我々"単体での魔法師社会内部における諜報能力はない。

 余り頼りたくは無いが、致し方が無い。

 

「周公瑾の動向を可能な限り速やかに把握しろ。手段は任せる。また、九島家と何を話していたのかも調べてくれ。情報を入手次第、直ぐに報告しろ」

 

『分かったわ。大事な"スポンサー"様のご意向だものね』

 

 そう笑って、真夜が通信を切った。

 

 

 これで、情報は幾らか手に入る。

 後は、即応体制を整えるのみ。

 

 凡そ五ヶ月振りに、事前連絡以外の要件でコマンドを開く。

 パスは、直ぐに繋がった。

 

 〔moderator4:どうかなさいましたか?〕

 〔operator4:あぁ。九島家に対して、今から即応体制を整えなくてはならなくなった。非正規戦になる可能性が高い。九島家近辺と第九研近辺の監視カメラなどの掌握、またヘリの飛行計画などを用意しておけ。十師族に悟られる事のない様にな〕

 〔moderator4:畏まりました。特戦群は此方で管理しても大丈夫でしょうか〕

 〔operator4:頼む。場合によってはこちらも現地で合流する為、そう伝えておいてくれ〕

 

 そう言って、パスを切る。準備が終われば、任意のタイミングで行動を開始出来るだろう。

 

 

 やることは、人間社会を管理し始めてから今までやってきた、武力を伴う暗躍。

 今回は、魔法師を対象にする点だけが何時もと違うのみ。

 

 

「隠れながら動き続ける事ができるとは思うなよ・・・"物の怪"」

 

 




と言う事で早速非正規戦の構え。何処かが賑やかになるかも。
とは言え周さんとオリ主が戦う状況って余り想像出来ない。お兄様やワンチャン深雪様のコキュートス以外の魔法がオリ主に効かない以上逃げの一手しか打たない気もしなくはない。

さて、今回から活性化する冷戦の肝と言うのはやはり各勢力で思惑が違う一種のパラノイア状態になる事でしょう。

例を挙げると今回はオリ主が四葉を顎で動かしましたが、同時に四葉はある事に対する言質を得ています。これは次回詳しく。
また今回はlog形式の話もそこそこ入るかも。悪しからず。

と言う事で次回、log。葉山と真夜。


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第二章四.五話~言質~

久しぶりのlog式。文字数かなりギリギリだけどご勘弁を。
なお同時投稿なので次話もあります。


【log:Friday ,July 6 2096

point:35N138E   】

 

 

 

 

 

「・・・やっと彼らも重い腰を上げた、という所かしらね?」

 

「直接の諜報工作で"私達"(四葉)を使うのはこれが初めてですか」

 

「えぇ、彼らはまだ私達を信用してはいない。けど、魔法師関係の事に手を出すには"彼ら"の力は足りない。そうなると、"私達"(四葉)を使わざるを得ない」

 

「これも、奥様の思い通りという事でしょうか」

 

「えぇ。彼らは周公瑾を目標とした監視を命じた。これで、私達は気兼ねなく七草や九島の事を探る事ができる」

 

「不都合が起これば"彼ら"自身がカバーにも入る。そして、得た情報は此方でも有用に使える、と」

 

「えぇ。"彼ら"は些末な事では動かないけど、動く時にはその手足にさえ十全に機能する様カバーする。単独でやるよりはリスクが桁違いに低くなるわ。そして"彼ら"の基本スタンスが中立である以上、今回得た情報をカードに七草や九島を揺さぶる事も可能になる。九島も七草も周公瑾絡みの事は絶対に他に知られてはいけない程の物。それを使えば、私が全てを終わらせる頃に立っているのは、四葉のみになる」

 

「・・・奥様が考えていらっしゃるのは、達也殿の事でしょうか」

 

「よく分かったわね。達也さんを完全に抱え込めたら、"彼ら"も私達を重用せざるを得ない。そうすれば、"四葉"にはもう誰も叶わなくなる。問題は、達也さんを抱え込む前に他の十師族の方々が横槍を入れてくる可能性がある事ね。それに、分家の方々も達也さんに対して良い感情を抱いてはいない」

 

「分家の皆様の事も考えるとそれは致し方のない事でしょう。出来るならば軟禁させておきたいと思うのは至極当然の流れかと」

 

「そうね。だからこそ、達也さんには頑張って貰わないと。P兵器や周公瑾の件で活躍すればするほど、周りからの横槍は少なくなる。そして、全てが解決したら全てが手遅れになっている」

 

「成る程。では周公瑾について調べる様、黒羽の方には」

 

「えぇ。尤も、私達の裏にいる"彼ら"の存在を悟らせないようにね。もし分家の方々が"彼ら"の存在を知れば、どう動くかは全く予想がつかなくなる。協力的になるなら良いけど、是が非でも達也さんを表舞台に出さない様動く事さえ有り得るわ」

 

「畏まりました。では、失礼致します」

 

 

 

「・・・更に気掛かりあるとすれば、"彼ら"の事。私のやる事に、気づいている可能性は少なくない。だけど彼等に、それに対する行動は見受けられない」

 

「・・・"烏"は、何処まで見えているのかしら」

 

 




という事で真夜側の意図を描写しました。
お兄様息子宣言までに七草、九島の発言力を削ぐ為のカードを欲していて、オリ主の周公瑾に関する命令によって後ろ盾を得た為嬉々として行動すると言った所です。オリ主が上にいる分、見通しも遠い物になっている為、今回は七草と九島を同時に相手をして尚優勢と言えるわけです。

次回、連続投稿でのオリ主回。お騒がせします。


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第二章五話~排除~

暗闘(ドンパチ)


【Tuesday ,July 10 2096

  Person:operator4 】

 

 

 

 

 

「指揮官から全分隊へ。状況を知らせろ」

 

『此方アルファ、目標通過予測ルートを視認。攻撃準備良し』

 

『此方ブラボー。アルファを確認。同じく攻撃準備良し』

 

『此方チャーリー、第九研を監視中。今の所動きは有りません』

 

『デルタ、目標を視認。後五分で襲撃予定地点に到着』

 

 

 七月十日、昼。

 第九研へと続く山道の近く。そこで、特戦群予備分遣隊と共に"目標"の襲撃の為に待機していた。

 

 

 

 周公瑾の情報は、思ったよりかなり早く手に入った。正確に言えば、彼の行動頻度が意外なほど高かったが故ではあるのだが。

 

 彼の目的は、亡命方術士を第九研内部に潜り込ませ系統外魔法によりP兵器を暴走させる事だった。

 この様な情報を素早く手に入れる事ができた四葉の諜報能力には我々をして驚かせられる節がある。

 

 尤も、彼らは既に人手を待機させておき、命令のみを待っていた可能性も無い訳ではなかったがそれは後で確認すれば良い事だ。

 

 そして我々はP兵器の"確保"を目的とする以上、余計な要素を入れられてしまうのは困るのだ。

 その為、特戦群予備分遣隊と共に襲撃。方術士を"無力化"し、素早く撤収する予定にある。

 武力介入により我々の存在を感知させられるのは痛手だが、九校戦で投入される分においては此方の部隊が担う役割は援護と回収だけで良い。

 

 少々第九研の制圧が"荒い"物になる可能性もあるが、武力行使時の状況をより良くするには致し方のない事だ。

 

 

 

 各分隊の報告で作戦が順調に進んでいる事を確認し、指示を続ける。

 

「今回の作戦は敵勢力の懐に近い。行きはHALO降下で静かに降り立ったが、帰りは各分隊で散開しつつ回収地点まで徒歩、そこからヘリによって帰還する運びとなる。一撃が命だ。確実に目標を仕留めろ」

 

 魔法師に対して、現代兵器は基本無力だ。

 一度存在を認識されては、その力を発揮する事は難しい。

 故に、待ち伏せとそれによる奇襲を選択したのだ。態々"夜間HALO降下の後、時刻まで指定の位置で待機する"などと言う無茶を通してまで。

 

 仕留める為の武器は、小火器を除けば軽車両用のロケットランチャーと設置式EMP兵器のみ。

 それさえ連べ撃ちなど出来る筈も無い。一撃必中が求められる。

 

 

 しかし、彼らはそれを可能にする。

 その為の、特殊作戦群なのだから。

 

『アルファ、目標確認。EMP兵器、起動用意』

 

 襲撃地点へと、車列が入る。

 3台の小型バンの、恐らくは中央の車両が目標だろう。

 

 全員が、固唾を飲んでその時を見守る。

 

 

『EMP兵器、起動』

 

 

 その言葉と共に、車列を中心として左右から強力な電磁パルスが発生する。

 元々襲撃を予測していなかったであろう目標は碌な対EMP装備を搭載しておらず、一瞬で車両の行動能力を奪う。

 

 それと同時に、車列中央に向けてロケットランチャーが発射される。

 EMPで電子機器を破壊された以上防御は出来ず、回避運動さえ満足には出来ない。

 

 放たれたロケット弾は綺麗に車列中央のバンに命中し、爆発。方術士諸共バンを爆炎に包んだ。

 

『此方ブラボー。目標の無力化を確認』

 

「状況は此方が優勢だ。アルファ及びブラボーは前後の護衛部隊を始末しろ。逃げる際について来られては堪らん」

 

『アルファ、了解』

 

『此方ブラボー、了解』

 

 直ぐに、銃撃戦が始まる。

 とは言ってもこの状況下では最早一方的な虐殺と同じだ。直ぐに片が付く。

 

「デルタはチャーリーの後方200mの地点まで移動しろ。全目標の無力化が確認でき次第撤収する。チャーリーの援護だ。第九研側には地の利がある。速度を重視し、チャーリーの撤退を支援しろ」

 

『了解』

 

 そう指示を出し、チャーリーが移動を開始した時点で銃声が止む。

 

『此方ブラボー、アルファと共に敵の無力化を確認。敵の生存者は無し』

 

「良くやった。全分隊速やかに回収地点へ急げ」

 

 その指示を最後に通信を切る。

 念の為にチャーリーとは別に、第九研を視認できる位置にいたが今の所反応は鈍い。九島烈がいると考えれば余りにも対応の稚拙さが目立つ。

 

「案外九島もいざこざを抱えてるのかも知れんな・・・。方術士の受け入れは誰かしらの独断なのか」

 

 そう考えると納得が行く。そもそも救援に行く事自体が不味いのだろう。九島側はこの襲撃には知らぬ、存ぜぬとしか言えないのだ。

 そうなると、後始末は幾らか楽になる。

 

 

 とにかく、これで九校戦で起こりうる不測の事態は回避した形になる。

 

 この襲撃に対する九島、七草の行動を確認した後は九校戦に投入されるパラサイドールの確保に専念すれば良い。

 

 問題は、周公瑾の動向。

 潜り込ませる筈の方術士が護衛ごと潰されたとなると、どう行動に出るのか。

 あの"物の怪"ならば、逃げの一手を打つ公算も強い。しかし、何も出来ないまま帰ると言う事はあるだろうか。

 

 否。恐らくは、最後の一手を打つ筈だ。

 更に言えば、確実に奴自身が直接動く。手駒を使った所で潰される可能性があるならば、間違いなく自分で動くだろう。

 

 そして、パラサイドールの暴走を目的とさせるならば。

 奴が現れる場所は、凡そ一つしかない。

 

「鍵は、"彼"にある・・・か。しかし、どうしたものか」

 

 "彼"に、周公瑾の事を教えるべきだろうか。

 実際にその時になれば俺と"彼"(達也)しか奴と対峙できない。

 

 しかし、彼自身でその情報にたどり着く可能性もある。

 まだ、時期尚早だろう。

 

 そう結論付け、その場を後にした。

 

 




やりました(愉悦)。

やはりオリ主が絡む以上、原作ルートは引っ掻き回さなくては。第一章で言う入学編~九校戦編の様に引っ掻き回す所存。ついでに銃火器でドンパチ出来て満足。一方的だけど。

しかし、不安も有ります。そう、話数です。
転換点を唯でさえ元旦に据えたせいで一年間における冊数が短くなっているのに結構な流れで物語が加速して行きます。ダブルセブンがほぼ省略された以上合計冊数は5冊程。達也回と合わせても四十五話~五十九話まで行けばいい方でしょうね。まぁ転換点までの話だしあまり気にせん事にします。

次回、達也回in奈良。本来得ていた情報は既に手元にはあるが、果たして目的は如何に。


時に、現在スマホからの投稿なのですが段落開けの空白を入れているつもりなのにサイトでは段落が開いていない様に見受けられる。どうしたらいいかと悩むと、多機能フォームでの改行が必要になっていることを確認。全話を見やすいよう修正してます。完了次第最新話の後書きにて。


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第二章六話~穴熊~

オリ主襲撃の影響は大きい。

後は、logを話数分けて同時投稿しました。見ても見なくても問題はない。


【Saturday ,July 21 2096

 Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 

 リニアを降りた後に八雲と分かれ、ホテルへと向かう。

 

 

 七月も下旬に入り、幾らか身動きが取れる様にはなった。しかし最初は、今回の様に第九研の調査に行こうとは思っていなかった。

 

 何せ既に"彼"(借哉)から纏まった情報は手に入れている。兵器の詳細は伏せられているものの、恐らくはピクシーと同じ様に何がしかに寄生させた物だと推測出来る。その時点で、特に行動を起こす価値は無いと見ていた。

 

 

 しかし、七月十日の"謎の車両爆発事故"が全ての流れを変えた。

 この事故が起こった直後に九島家が態度を硬化させると共に内部抗争らしき影も見え始める。それと時を同じくして、中華系アングラ組織の活発化。一部"九島と中華系アングラ組織との間で抗争が発生している"との噂まで出て来ている。

 

 一部過激な情報も有るが、何が起こっているのか確かめる必要がある。結論として、こうして状況の確認の為発生現場である奈良市に来たのだ。

 

 

 

 そしてホテルにチェックインした後、深雪を置いて事故発生現場へと向かう。

 

 そして、その判断が正しかった事を確信した。

 

 事故から既に10日程経過していて、警察などは既に調査を終えている。その為、確かに警察官や捜査の為の人員が居る訳では無い。

 

 しかし、その代わりと言うべきか見えるのは第九研を中心として事故現場の距離までを半径とした一帯の厳重な警戒態勢だった。

 それも、私兵のみと言った構成では無い。恐らくは九島傘下の国防軍部隊まで警戒に当たっていると思われる。

 

 はっきり言えば、異常。

 正に形振り構わずと言った状態だった。

 

(九島をして此処まで警戒させる勢力がいるのか・・・?)

 

 真っ先に思い付く勢力は、"彼"(借哉)の所。

 しかし、彼自身は第九研への襲撃を計画していた。それなのに、態々相手を警戒させる様な事をするだろうか。

 別に可能性が無い訳では無い。しかし、恐らくはそれに足る理由が無ければ有り得ない。

 

 彼が一番忌避するとしたら、"予測が不可能な物"。

 それを基に、既に得ている情報と照らし合わせて考えると、結論は一つ。

 

 事故車両は"彼"(借哉)にとってのイレギュラーで、その正体は中華系アングラ組織に関係する者。

 恐らく別行動を希望した八雲の目的は、これを確認する為か。

 

 

 そう当たりを付けると、不意に緊急メールの着信を告げる音が鳴る。

 

 素早くメッセージを開くと、発信元が書かれていないメールにはこの様に書かれていた。

 

 

 

『今すぐこの場を離れなさい』

 

 

 

 瞬間、各種魔法の兆候が「眼」に映る。

 完全に不意を打たれた。迎撃は間に合わないと判断し、想子を宿した両手を勢い良く打ち鳴らす。

 これにより魔法式を吹き飛ばし、同時に高濃度の想子の煙幕が形成される。

 

 飛び乗る様にしてバイクに跨り、悪路から発進する。

 その直後、後方で大きく爆発。

 

 理由は単純。駆け付けた九島傘下と思われる部隊が装備する、無誘導式のロケットランチャー。

 相手は既に手段を選んでいない。今此処で全力をもって振り切らなければ、恐らく彼らは最後まで追撃してくると思える程形振り構わず撃ってきた。

 

 時折直撃する可能性のある弾頭を"分解"しつつ、限界まで速度を出してその場から退避する。

 

 

 そして、攻撃が止んで暫くしてやっと速度を落とす。

 行きの時とは正反対にライディングスーツは土埃で塗れ、バイクは一部が変形している。レンタルバイクである以上、修理費を弁償する必要があるだろう。

 

 幸いにして振り切れたのか、「眼」を通して見ても敵の反応は視えない。

 

 しかし、事故からそれなりに日が経っているのにも関わらずあそこまで神経質に守りを固める理由は何故か。

  "彼"(借哉)を警戒しているのは分かる。しかし、あそこまでの警戒態勢は逆に九島にとって不利益にしかならない筈だ。

 

  "彼"(借哉)はP兵器を目的としていると言った。九島が守ろうとするのも、恐らくはそれだ。

 

 つまり、九島にとってP兵器とはそれ程まで重要な物なのか。九島はP兵器に、どの様な役割を持たせようとしているのか。

 

 この一件、最初はP兵器を火種とした十師族同士の抗争だと考えていた。無論、その性質も有るのだろう。

 

 しかし、もっと根本的な、自分達ではどうしようもない次元での事柄になっているのではないか。

 

 そうなると、四葉に対するポーズなどを考えている余裕など無い。

 何よりもまず、深雪の安全を第一にして動かなくてはならないだろう。その為には、何処であろうとも利用する。

 

 そう決意して、ホテルへと戻っていく。

 

 

 

 尚、ホテルへ戻ると深雪は最初どうも気落ちした様子を見せていた。しかし、戦闘してきたであろう格好を見てかなり心配して来ていた。

 何が起こったかを話して、怪我はしていない旨を伝えて宥める事で安心させた。その時には既に気落ちした様子はなく、その気持ちなど吹き飛んでしまった様だった。

 

 心配させしまった事に罪悪感は抱く物の、その一点に関してのみ言えば攻撃された事で得た唯一の物と言えるのかも知れない。

 

 




と言う事で達也視点での九島家の様子。
簡潔に言うと完全に穴熊決め込んでいる状態。今作でのパラサイドールの立ち位置と九島烈の思惑から考えると当たり前の流れですけどね。

四葉が一筋縄では行かないように、九島も、そして七草さえ一筋縄では行きません。この敵の敵は敵で味方も敵でみたいなドロドロとした冷戦。果たして最後に立っているのは何処なのか。

次回、再びlog。同時刻の深雪様。同時投稿です。

後、段落の修正終わりました。見辛かったかも知れませんがもう大丈夫だと思う。


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第二章六.五話~不知~

あいも変わらずログは最短。


【log:Friday ,July 6 2096

point:34N135E   】

 

 

 

 

 

「・・・もう夜も遅いし、早速要件に入らせて貰うよ」

 

「慌ただしくてすみません。車を待たせているものですから」

 

「お気になさらないでください。お帰りの間際にお時間を割いて頂いたのは、重要なお話が有るからなのでしょう?叔父様」

 

「そうなんだよ。今日は泊まる予定にしていなかったからね。

 

 

要件というのは、今年に九校戦で行われようとしている実験の事なんだ」

 

「スティープルチェース・クロスカントリーを実験として計画されているP兵器の性能試験の事ですね」

 

「P兵器の事を知っていたのかい?」

 

「コードネームと、触りだけですけどどの様な兵器かという事も。パラサイトを利用とした兵器なのは分かっているのですけど・・・」

 

「・・・詳しいね。正式名称は"パラサイドール"だよ」

 

「・・・パラサイドールの実験に関する調査報告です。どうぞお使いください、深雪お姉さま」

 

「ありがとう、亜夜子ちゃん」

 

「・・・どこでパラサイドールの事を知ったんだい?てっきり、ここに来たのはそれを調べる為だと思っていたんだけど」

 

「少々複雑な事情でして。ここへは、先の車両爆発事故と今回の件が関連するかどうかを調べる為に来ました」

 

「そうか。いや、なら良いんだ。それに、完全に無駄骨と言う事も無いみたいだ」

 

「兵器の詳細な情報は持っていなかったので。ありがとうございます」

 

「大丈夫だよ。

 

・・・呼び出して済まなかったね。失礼ながら余り時間が無いので私たちはこれで失礼するよ」

 

「達也さんによろしくお伝え下さい」

 

「えぇ。では、また今度」

 

 

 

 

「亜夜子、真夜様から何か聞いていたかい?」

 

「いえ・・・」

 

 

 

「・・・此方が提供するまでも無く、パラサイドールに関して触りだけでも知っていた。彼の情報網から考えて、国防軍からか?どの道、深雪ちゃんでも知っていたと言う事は、真夜様にも情報は渡っている筈だ」

 

 

「・・・ご当主様が、意図的に情報を伏せたと?」

 

 

「可能性は十二分に有る。しかし何故・・・。もし、真夜様が何某かを起こそうとしていて、それを隠す為に敢えて"分かっていた事を調べさせた"のだとすれば・・・」

 

「・・・」

 

「・・・亜夜子、帰った後、少し他の分家の方々と話してくる。文弥にも、そう伝えておいてくれ」

 

「はい。・・・もしかして、達也さんの事ですか?」

 

「大丈夫。亜夜子達には、何一つ背負わせはしない」

 

 

 

「あの"業"を背負うのは、大人だけで十分だ。その為なら、たとえ四葉本家に逆らう事になったとしても」

 

 




四葉分家がざわつき始めます。今作では分家の方々もストーリーの根幹に関わって来ます。

さて、次回。今までシリアスだったし偶にはボケを入れる予定。


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第二章七話~茶番~

作ってて思ったのです。暗躍5割戦闘2割、そこまでやったら残り3割はゆるい日常を送ったりするネタ回の方がいいのでは無いかと。


【Saturday ,August 4 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

 前回の車両襲撃によりイレギュラーを排除し終え、大抵の行動が終わった後は殆ど準備のみとなっていた。

 

 去年のハロウィンの一件で制裁を加える事にしていた強硬派を締める様四葉に要請しつつ、此方は独自で部隊を潜り込ませる為に裏工作を行なっていた。

 

 

 去年の九校戦での出来事もあり、今年の警備体制はいつにも増して強化されている。突破する事は容易いが、足跡は確実に残る。

 

 強行手段としては先の時の様に夜間降下作戦から1日を越す事もできるが、"彼"と合流する予定なのだ。殆ど論外と言っても良い。

 

 しかし、都合の良い事に今回は魔法協会が国防軍に対してかなり態度を軟化させている。ここに乗らない手はない。

 

 つまるところ、警備部隊として特戦群予備分遣隊と共に九校戦に現地入りする事にしたのだ。

 "表の役割"は、非常時の為の応援要員。これにより、競技中でも問題ありとして静かに"彼"と一緒に内部へ潜り込める。

 

 

 

 そう、そこまでは良かった。

 非の打ち所がない。誰も疑問にさえ思わず、波風さえ立たずに今回の件に介入出来る筈だった。我ながら完璧な段取りだった。

 

 

 基地入り口に詰めているデモ隊に対する規制と、基地に入るバスの警護の為の出動などと言う場を弁えないハプニングさえなければ。

 

 

 視線が痛い。限りなく痛い。

 恐らくは一高のバスからだろう。視線の数は三つだろうか。

 

 それはそうだ。幾ら何でも常日頃の様に部隊全員でフルフェイスマスクを着ける訳には行かなかったし、その指揮官だけ素顔を晒さないなどと言う不自然を曝すつもりも無かった。

 

 だが、これはどう考えても気まずい。例えるなら、「喧嘩別れした相手が半年後に立ち寄ったファミレスで従業員として働いているのを見てしまった」状態だ。しかも内一名は兄の足を狙撃銃で撃ち抜かれている。

 

 控え目に言ってアウトだ。出来れば知らず存ぜずを突き通したい。人違いですなどと言ってしらばっくれる事が出来るのならそうしたかった。

 

 

 無論、音沙汰なしなどと言う筈もなく。

 

「"総隊長"、第一高生の一部が責任者に会わせろと喚いていますが・・・」

 

 外部に聞かれる可能性を考慮し、呼び方を変えている隊員がご丁寧にも知らせてくれる。

 

「・・・分かった。今行くから適当な部屋に詰めて置いてくれ」

 

 せめて外にこの醜態を曝す事の無いようそう指示した。

 

 

 

 

「・・・失礼します。今回の警備を担当します、責任者の河原借哉です」

 

 顔を引攣らせ、殆ど棒読みの状態で部屋の中に入る。

 なお、隊員は全員席を外している。外して貰わなければ困る。

 

 そして、そこらの警備のおっさんと大差ない格好をする俺に対して、計三人は怒りを通り越して居た堪れないといった表情を浮かべている。

 

「・・・借哉よ、お前は一体何をしているんだ?」

 

「・・・警備だ」

 

「黒幕みたいな事した後に左遷でもされたの?」

 

「・・・そう言う訳では無い。一応、理由があってここの警備部隊に成りすましてる」

 

 最初の質問は、レオから。次は、エリカから。

 この茶番劇の所為で、生温い空気がこの部屋を包んでいる。

 やられた相手の現状に何と言ったらわからない様子のレオ。

 自らをあしらう程の腕を持つ相手の今の姿に憐れみさえ見せるエリカ。

 状況について行けてない様子の美月。

 

 二月の一件なぞ完全に吹き飛んだ様子であるのが唯一の救いだ。そうでなければ、君達は何も見てないし聞いていないと彼らに言い聞かせていた事だろう。今でもそうしたいが。

 

「・・・取り敢えず、借哉がいるって事は今年の九校戦も何か起こるのか?」

 

 まず真っ先に疑問をぶつけて来たのはレオだった。それも、かなり確信を突いている。

 しかし、正直に答える気もない。と言うか、また横槍を入れられても困る。

 

「今回の九校戦は些か不穏だから予めこうやって警備部隊として入ったんだ。入る必要があったんだ・・・」

 

 そう、あったのだ。何も後悔は無い筈だ。これは致し方の無い事なのだ。あるかどうかも分からない胃袋の一つや二つ、犠牲にしても良いでは無いか。

 

「まぁ、確かに今年の競技は幾らか面白そうだったけどな。これは気を付けて置いた方が良いかね?」

 

「辞めてくれ、頼むから。収拾が付かなくなる。今回は達也にもお前らにも敵対するつもりは無いんだ。頼むから静かにしていてくれ・・・」

 

 最早土下座でもしそうな勢いで頼み込む。そうでもしないとこの面子は止まらない。

 

 こう言う暗闘騒ぎではどちらかと言うと無力だが、それでも鉄火場でかき回そうとする能力だけは一流と言っても良い。"彼"でさえ手綱を取れるか怪しい点、生粋の暴れ馬と言えるだろう。

 

 

 果たして、納得してくれるだろうか。

 

 

 そう祈っていると、エリカが口を開いた。

 

「・・・分かった。取り合えず、二月の事はまた"後で"ね。達也くんにも顔を合わせなきゃいけないし、どうせ何も言えないんでしょ?」

 

「まぁな」

 

「じゃあ聞いても無駄って事。二人とも、先行ってて。私はちょっと、話したい事があるから」

 

 その言葉に対して、レオと美月が戸惑う。

 

「でも、エリカちゃん・・・」

 

「大丈夫なのか?」

 

 しかし、エリカはどうもこれに関しても曲げる気は無いようだ。

 

「大丈夫よ、敵じゃないって言ってるんだし。それよりも、ミキと達也くんにも知らせた方が良いでしょ?」

 

「・・・そうだな、そうすっか」

 

「エリカちゃん、気をつけてね?」

 

 そう言って取り敢えず二人は納得したらしく、渋々と言った様子で部屋から出て行く。

 

 

 

 残ったのは、エリカと俺のみ。

 やはり、兄の事だろうか。恨み辛みを言われても仕方がないだろう。

 

 

 しかし、エリカの口から出て来たのは、全く別の事だった。

 

「・・・達也くんは、もう知っているんでしょ?」

 

 これは、全く予想外。まるで彼が暗躍するのは当然と言った様子だ。

 

「・・・確かに、知っている。流石に俺が警備として潜り込んでいる事までは知らない筈だが、現地入りする事は知ってる筈だ」

 

 まさか今回彼は千葉家の力を借りるのか。

 あり得ないと思いつつも正直に答えると、エリカは確信を持って二つ目の質問をした。

 

 

「達也くんの、"家"の事も知ってるんだよね?」

 

 

 "家"。つまり、四葉の事か。

 まさか本当に千葉家の力を借りようとしていたのかと考えた時、一つの可能性にたどり着く。

 確か、千葉修次が"アンジー・シリウス"とあの件で一回交戦していたと報告になかったか。そして、スターズを引かせる為には四葉も確か一枚噛ませていた。

 恐らくは、その件で漏れたのか。

 そう納得しつつ、答えを返す。

 

「そうだ。今回は、達也と合同で動く可能性があるし、あいつにもそう伝えてある」

 

 ある程度正直に答えたのは、エリカが"彼"の一端を掴んでいるが故。

 四葉が関わっている時点でつまりは"関わるな"と同義である。

 

 そして、その意図を誤解する事なくエリカは受け取った。

 

「そっか。なら私たちの出る幕は無いか」

 

「そう言う事だ。二人の舵取りは任せた」

 

 そう言い含めて置いて、席を立って部屋から出る。

 残念な事にまだデモ隊は入り口前に陣取っている。目立たない為にも、真面目に仕事をこなしておいた方が後々楽だ。

 

 喜劇の登場人物となってしまった現状にため息を吐きながら、先ほどの場所へと戻っていった。

 

 




と言う事で初期二科生メンバーとの再会終了。
本来はこのシーンは無視する予定で、七話に関しては八雲と司波兄妹inリニアで行こうかと思ったのです。

しかし、対して長くないシーンの上に堅苦しいのが続く。自分でも今までの流れを見るに最初から重いと。

じゃあ入れるしかないじゃない。やはり物事はメリハリある方が面白いと思うのです。


次回、多分達也回。最早居た堪れない。


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第二章八話~計画~




【Saturday ,August 4 2096

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 

「良くもまぁ"こんな手"(警備員に成り済ます)を使おうと思ったな」

 

「まぁ・・・。これが手っ取り早かったからな」

 

 エリカ達と顔を合わせた際に借哉が現地で警備員をやっていたと聞かされた時は最早何と言えば良いか分からなかった。

 

 実際効果的だ。恐らく最も怪しまれずにコース内に侵入出来る。

 しかし、随分と荒い方法ではある。後ろ盾がしっかりとしているか、逆に何もない人間でないとこのような手は打てないだろう。

 

 

 しかし、今回に限って言えば大事なのはこの様な茶番(喜劇)では無く、実際に行う"仕事"の方だ。

 

「それで、当日はどうするつもりなんだ?」

 

 段取りについて借哉に聞くと、彼から資料が渡された。

 表紙には、"作戦要項"の四文字が。作戦名を用意しない辺り彼らしいとも言える。

 

「当日、競技開始三十分前に応援要員が検知システム異常の確認の為に侵入出来る手筈になってる。無論、そこから先の作戦時間はフリーだ。お前や部隊の侵入を知る数少ないまともな警備員も"見たら忘れろ"を徹底してある」

 

「つまり、制限時間は無いんだな?」

 

「基本的にはその通りだ。流石に競技終了三十分後辺りを目安にはしてもらうがな」

 

「競技当日以外の日に忍び込む事は可能か?」

 

 そう聞くと借哉は少し悩んだ表情を見せる。

 P91(ピクシー)を持ち込んで居る以上位置が早い段階で判明する可能性もある。その時に忍び込む事が出来るならその方が良い。

 

 暫く考え込んだ様子を見せた後、借哉は口を開いた。

 

「・・・二日ほど待てば警備員の偽装身分証明書が作れるとは思う。体面の事も考えるとどうしても一個分隊は付ける必要が有るが、その際はそっちの行動に合わせる様各種指示を出してくれて構わない」

 

 つまり、日を置けば有る程度万全の体制で挑める訳だ。

 この案は、現状ではかなり良いと言える。複数人の軍人の援護を受けながら行動出来るのは相手の数が多い場合の保険となる。

 これでいざという時には直ぐに介入出来るだろう。

 

 

「分かった。必要装備に関しては後で端末に送る。揃えておいてくれ」

 

「あぁ、分かった。指定した日から大体一日から二日で届くとは思う。他に質問は?」

 

 そう聞く借哉に対して、先の奈良市での調査結果を絡めながら聞く。

 

「確か九島に方術士が流れ込む予定だったと聞いたが」

 

 奈良市で深雪が黒羽から貰った情報はP兵器、つまりパラサイドールに関する性能などが書かれていた。

 一方、八雲が手に入れた情報の内容は車両事故で死んだのが九島家に受け入れられる予定であった方術を用いる亡命者三名等で有る事だった。

 恐らくは、彼らの能力からパラサイドールに何か行おうとしていたのは確実だろう。そしてそれを忌避した借哉が事前に芽を潰したと考えるのが自然だ。

 

 そして、此方の質問に対して借哉は全面的に肯定した。

 

「鋭いな。お前の言いたい通り、彼らは九島に行く予定だったし、下手にあれを弄られて性能が変わってしまうのは不味かったから潰した。お陰で様々な物が見えてきたがな」

 

 それには肯定せざるを得ない。

 あの事件で九島内部でもまたこの実験に対して様々な考え方を持つ勢力が有るのだと言う事を確認出来たのだから。

 

 

 その点では、藤林は実験に対して反対する勢力に居る、と言う事も考えられるが今回は無視する。例え彼女の助力が得られたとしても微々たる物になってしまうだろう。

 

 

 取り敢えずは、今回はお互いに敵ではなく寧ろ味方に近い立ち位置だと言うのは理解した。しかし、それでも問題はある。

 

「第九研に対する襲撃計画はあるのか?」

 

 彼自身は第九研がメインの襲撃目標だと言っていた。しかし、今回の様子を見る限り寧ろ九校戦で投入されるパラサイドールの方に比重を置いている節が有る。

 その間、借哉はどうやって襲撃するつもりなのか。

 

 そう思って質問すると、彼は笑った。

 

「九島烈が出てこないならば、やりようは幾らでも有る。部隊を全て此方に回している訳でも無いし、いざという時は賑やかになるか何も無くなるかの二択だ」

 

 つまり破れかぶれで失敗したら全てを消し炭にすると良いたいのか。

 実際一番早い解決方法では有るもののそれをやって特に制裁を気にすることも無く行動に移せる点格差を感じずにはいられない。

 "分解"などを大っぴらに見せられず使う事も難しい此方からすると羨ましい話である。

 

 

 兎も角、これで全ての確認事項をチェック出来た。

 後は九校戦での仕事の合間を見つけつつ攻めれば済む話だ。

 

 

 

「ところで、達也」

 

 思い出した様に借哉が声を掛けてくる。

 

「そっちの"家"の分家筋の方が何かしら動いてるのは分かってるよな?」

 

「含む意味が広すぎて分からないな。どう言う事だ?」

 

 何かあるのか。

 そう思って聞くも、借哉は首を振った。

 

「いや、いいや。どうせお前の事だ。何かあってもその場のノリで解決出来るだろうさ」

 

 まるで自分に言い聞かせる様に話す借哉は、何処か此方からも見えない遠くを見据えている様だった。

 

 




と言う事で喜劇的登場を果たした借哉との打ち合わせが終了しました。
この時点では競技前に介入する気満々のお兄様。まぁどの道止められるんだろなと。

次回、オリ主回。もうちょっと背景整理したいが如何に。


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第二章九話~派閥~

二、三日引き伸ばしておいて繋ぎ回。少なめ。




【Tuesday ,August 7 2096

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

軍事教練のメニューだ。

特戦群の一人が、九校戦の競技一覧を見て確かそう言っていた。

 

渡河戦、上陸戦を想定したロアー・アンド・ガンナー。

直接の近距離戦を鍛える為のシールド・ダウン。

 

そして、森林間の行軍、侵攻を想定しているスティープルチェース・クロスカントリー。

 

特に最後の一つは高校生にやらせる様な競技ではない程だ。

素人目に見てもこれらの競技の性質から、強硬派の手引きによるモノだと分かるだろう。

 

何せこれらのメニューのほぼ全てが防御戦を主としていない。精々が離島奪還、若しくは幾らか譲ったとしても機動防御が精々と言った所だろう。

 

尤も、飛行魔法が出てきて以降は最初の一つは特殊部隊以外は必要ない教練科目になるかもしれないが。

 

 

問題は、国防軍強硬派が今尚情勢を把握せず、独断に走っている点だろう。

物事には必ず時期がある。そして、物事を起こす前には必ずそれに対して身内割れを起こしてはいけないのだ。

 

その点では彼らは直接武力行使を行なっていない点穏健派よりは良い性格をしている。しかし、武力さえ使わなければ何でも構わない訳では無いのだ。

 

何より、彼らには前科がある。

最初に、戦略級魔法の使用を後押しし、後の上陸戦まで検討していたなど。

此方の"相手が持ち込んできた核"(外交カード)を無効化した上、パワーバランスまで崩そうとした。

 

今迄消してきた敵と同じ様に、彼らもまた瓦解させなくてはならない。

 

四葉が直接、彼らの処置を行なってくれる。

後は、"九島の件"のついでに彼らの企みを阻止するのみ。

 

 

 

とは言え、微妙にまだ動く時では無いのかもしれない。

 

「準備は出来ているか?」

 

そう部隊員に聞くと、彼は頷いて偽造された"彼"の身分証明書を差し出す。

 

「問題はありません。"お客さん"の準備が出来たらいつでも行動可能です」

 

「各種戦闘装備は」

 

「ムーバル・スーツでしたか?あれは届いたらしいです。どうも飛行魔法を使える様にした物で、原理的にはアーマースーツに近いらしいですが・・・」

 

「我々では嵩張るだけの代物だな。一応此方の各種非殺傷武器も一式揃えてやってくれ」

 

そう指示し、一旦その場を離れる。

夜になり、"彼"から動くとの連絡が来たものの、まだ完全な動員体制には至っていない。

 

無論彼が何にも増して動くと言うのであれば共に出るつもりではある。しかし、"彼"の多忙さと疲労具合から察するに恐らくは止められるだろう。彼自身がそれらの微妙なコンディション把握が出来ていない。そして、それを妹さんは必ず見過ごさない。

 

つまる所、恐らくは今日動く事は無い。

 

状況を推測すると動くのは恐らくは当日となる。

となると、幾らかの準備の余裕が出てくる。

 

既に侵入する手筈は整い、各種装備も整えつつある。

彼が他に求めるとしたら、恐らくは唯一つ。

此方からは絶対に提供出来そうにない代物。

 

「後ろ盾。偽装書類さえ見破られ、正体が露呈した際にあると望ましい"拠り所"」

 

しかし"彼"は敵に近い。また、共闘関係にあると見られても構わないが味方と見られると困る。

となると、露呈した際に戦力を一時提供する用意さえしておけば良いだろう。

 

腐れ縁として放置されそうになったのなら適当な強硬派残党を嗾けてマッチポンプすれば良いのだ。どうせ"彼"には見破れない。見破る前に蹴散らしてしまう以上見破っても仕方ない。

 

 

そう結論付けた所で端末にメールが届く。

送り主は、"彼"から。内容はやはりと言うべきか、"作戦実行時期の競技当日までの延期"。

 

これを見越して本格的に準備していない以上特に困る事もない。緩い準備態勢を解く様に通達し、各々の待機場所に戻っていく。

 

悲しい事に、去年とは違いホテルの部屋に泊まれない。その場に居続けてもコーヒーやその他が尽きる事が無いのは喜ぶべき事だが。

 

 

やるべき事は、全て予定通りにやれている。

後は、当日を待つのみ。

 

九島の"P兵器"(パラサイドール)も。

国防軍強硬派も。

そして、九島烈の企みも。

 

 

全て、この時に片を付ける。

 

 





ほぼスティープルチェースのみとは言え二巻使って九話。この分だと思ったより早く時系列が年を越しそうな気配。
ここら辺はオリ主が既に高校生では無いが故の弊害。出来るだけ絡ませたいとは思うけど。

さて、次回。前日か当日かは不明。原作より結構早い段階で距離が離れていきそうなパターン。


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第二章十話~密会~

投稿が遅れました。理由は余り無いです。そして今回も前振りです。




【Saturday ,August 14 2096

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 結局の所、実際に行動に移るのは当日になった。

 自分自身では感じていなかった物の、過密なスケジュールは知らず知らずの内に自身を疲弊させていたらしい。

 今思えばあの時無理して襲撃に行ったとしても十全な結果を得る事は出来なかっただろう。そう考えると、深雪が止めてくれたのは有難い事だったと言える。

 しかし、相手に時間を与えてしまったのは事実。お互いにとは言え準備が整った相手に仕掛ける以上厳しい物になる。

 

 

「・・・つまり、俺に非合法破壊工作員となれと言う事ですか?」

 

 だからこそ、此方を良い様に利用しようとする"味方"には不満が残る。

 

「そう解釈されても仕方が無いと思っているわ」

 

 藤林が毅然とした態度で此方の言葉を受け止める。彼女自身の立場から考えると仕方が無いとも言える。しかし、それで納得する義務も此方には無い。

 

 彼女が要請して来たのは、パラサイドールの処理。

 風間少佐の命令によるものであると彼女は言ったが、彼女自身が藤林家の出身。私情もあるかもしれないが、パラサイドールそのものに細工をされた可能性が薄い以上不自然な動きだ。

 

 とは言え、元々やろうとはしていた為断る理由はない。しかし、監視が着く可能性を考慮すると考えざるを得ない。

 何しろ"彼"と組む予定だったのだ。"彼"と独立魔装大隊は未だ関係が改善されていない。

 "彼"は気にしていないだろう。しかし、もし監視の目に捉えられた場合は独立魔装大隊側にとっては"司波達也が独立魔装大隊を裏切った"と映る可能性がある。

 後ろ盾を失うリスクがある。十師族として認められていない現状では限りなく危険だ。

 

 とは言え、現状後ろ盾としての効力も失われているのは事実。そうでなければ、こんな事を頼んでは来ない。

 

 では、"彼"に寝返るか。

 これも難しい。今は幾らか沈静化したが、"彼"にとって一番排除したい敵とは俺自身だ。また、今回の件以外では貸しが多い訳でもない。場合によっては背中から撃たれる可能性だってある。

 

 

 "共通の敵"さえ見つける事が出来た場合、今回の様に共闘関係には出来るのだが・・・。

 

 

 答えは、幾らか時間を置いた後に出た。

 

 

「・・・良いでしょう」

 

 

 そう答えた。

 様々な問題はあるが、そもそも独立魔装大隊さえ"今の所関係が良かった"と言うだけであり完全に味方とは言えない。相互に利用し合っていた以前の関係に戻ったとも言える。そう考えると、自らの立ち位置の問題はどうとでもなる。

 

 更に言えば、今回"彼"と手を組む事を見せる事で独立魔装大隊に対して牽制に近い効果も得られるかもしれない。

 最初から誰かしらの駒になる気は無い以上、あまり都合のいい存在と考えられるよりは良いだろう。

 

 そして、何よりも支給される装備面に関しては独立魔装大隊の方が良い。"彼"が非魔法師勢力である以上、最新の魔法装備は簡単には用意出来ないだろう。"自前の武装・戦力"が現状を打開するには何よりも必要だ。今回の件で、恐らくは"破棄された筈の最新鋭装備"を手に入れる事が出来ると考えると悪い話では無かった。

 

 渡されたムーバル・スーツや車について説明した後、藤林は此方の言葉に対して逃げる様に別れを告げた。

 

 

 

 まったく、呆れるほどにくだらない茶番だと笑われても仕方ないだろう。

 

「・・・終わったぞ、借哉」

 

 作業車から出た後に端末で呼び出す。

 そこから1分も経たずに、"彼"が姿を表した。

 

「この事態を利用して二股とは恐れ入るな。第三勢力でも立ち上げるつもりか?」

 

 挨拶の代わりに皮肉を言ってくるが、洒落にさえならない。出来る事なら一番に避けたい事の一つであると言うのに。

 

「そこまで面倒な事をする気は無い。それに、どの道今回の件では利害が一致しているだろ」

 

「そうだな。それじゃあ"仕事"の話に移ろう」

 

 そう言って借哉が資料を渡してきた。

 

「作戦開始は事前の話の通り競技開始三十分前、午前九時を予定している。こちらの部隊の内アルファ分隊がパラサイドールを管理しているであろう移動拠点の捜索、制圧を行い、ブラボー分隊が俺と共に第九研を襲撃する流れになっている。チャーリー分隊をお前の直掩につける。好きに使ってくれ。通信はお前が使う機器でも出来るだろう。詳しくは資料の中にある」

 

 と言う事は、"彼"はこの後直ぐに部隊の一部と共に移動するのだろう。恐らくは奇襲が目的。と言う事は、あまり時間を掛けると作戦そのものが上手くいかない可能性も出てくる。伝えるべき事は素早く伝えた方がいいだろう。

 

「分かった。俺は先頭で戦う。そっちの部隊は牽制と後始末だけやってくれればいい」

 

「だろうな。それじゃあその通りに。八時五十分には指定の地点に部隊を待機させておく。何か要望はあるか?」

 

 その問いに対して、一つだけ答えておく。

 

「作戦開始時間を遅くすることは可能か?こっちは周りの目もある。開始直前あたりが都合がいいんだが」

 

 場合によっては周りの目を誤魔化す必要もある。そう考えると、案外競技開始時刻に近い方が動きやすい。

 

 こちらの要望に対して、"彼"は直ぐに頷いた。

 

「分かった。作戦開始時刻を九時二十分に変更しておく。ただしそれを過ぎた場合はアルファ、ブラボー共に作戦を開始せざるを得ない。間に合うようにしろよ」

 

 そう言って"彼"は煙草に火をつけ、手を振りながら去っていく。

 

 

 まったく、ひどい茶番劇だろう。

 しかし、それも明日までだ。

 

 例え誰かの思惑通りであったとしても、"自分達の為に"片を付ける。

 

 





と言う事で別行動に致しました。
最初は借哉とお兄様の共闘をやろうと思っていましたが、借哉が第九研を標的としないと成り立たないので少々強引ながらここから借哉は別行動です。

なお1分隊規模で襲撃を掛けるには不十分では?と言う問いについては追々。

まぁ某ゲームでは特殊部隊員二名だけで基地襲撃して帰ってきた人も居ますし。

次回、オリ主回。朝日が昇る前に動き出す。


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第二章十一話~曙色~

4ヶ月も消えてて今更感漂いますが・・・こっそりと投下させて頂きます。


【Saturday ,August 15 2096

  Person:operator4】

 

 

 

 

 いくら八月と言えど、午前三時ともなればまだ暗い。

 大急ぎで富士演習場から二個分隊と共に移動した甲斐は有り、九島の警戒線の外側付近までは悟られずに近づけた。

 

 

 問題は、此処からだ。

 

「ブラボー各位。ボートで接近できるのは此処までだ。接舷、隠匿の後小川に沿いつつ作戦位置に入るぞ。今のうちに装備の最終チェックを行え」

 

 そう指示し、自らの装備を見る。

 

 今の時点で敵に悟られる訳には行かないが、消音器をつけた武器はハンドガンのみ。部隊の中でも狙撃手が持つライフルのみだ。

 

 尤も、後の事を考えると消音器など嵩張るだけではあるのだが。

 

 

「準備完了。同時にデルタより連絡、十分後に予定地点に到着するとの事です」

 

 そうブラボーの分隊長が声を掛けてくる。

 本命とも言える此方側のペースが遅れている。監視の目を潜る為とは言え川からではどうしても遅れが出てしまっている。

 

「各員、作戦に遅れが出ている。仕方の無い事とは言えど、予定地点まで四キロ程ある以上急ぐ必要がある。気を引き締めろ」

 

 その言葉に分隊全員が頷く。

 彼等の様子を見る限り今回も上手くいくだろう。

 

 

 

 前回の襲撃を受け、九島の警戒線は確認できた限り第九研を中心として半径五キロの範囲で敷かれている。

 

 内部でも火種を抱えた兆候がある中では良く此処までの範囲をカバー出来たとは思う。恐らくは古式魔法も一役買っているのかも知れない。

 

 だが、関係はない。幾ら道具や設備が優れていても、真価を発揮するには使う人がそれに付いて行けなくてはならない。

 ならば、付いて行けない状況を作り出すのみ。

 

 

 

 暫く川沿いに進んだ後、川を離れ車道の近くに出る。

 警戒線ギリギリの場所。仄かに日の光が見えているが、敵に見つかる事なく予定地点にたどり着いた。

 

「ブラボー、準備良し。デルタは第一射の準備を完了しています」

 

 その言葉に頷く。

 今の所完璧に進んでいる。続きは、”モーニングコール“を送った後だ。

 

 

 使い捨て用の無線機を手に取る。無論、ブラボー、デルタの各隊員にも内容は聞こえる。

 

「総員、作戦開始。デルタ、”モーニングコール“だ」

 

 返答は、十秒程後の僅かな発砲音によって返された。

 

 

 

 手練の魔法師が警戒している以上、例え可視光、赤外線、音を幾ら誤魔化しても気付かれずに接近するのは難しい。

 かと言って正面突破も容易な話ではない。魔法師と正面から戦うには対魔法師用の装備だけでは不安が残る。

 

 ならば選択肢は限られる。火力に寄る混乱を招き、その間に本命が乗り込む。

 今回の場合、デルタが持つ三門の迫撃砲が第一波のそれに当たる。

 

 だからこそ、”彼“にさえデルタ分隊の存在を隠した。例え九島が幾ら本命を予想出来ても、“陽動”を予想される訳には行かなかったからだ。

 

 

 

「弾着、今」

 

 ブラボーの分隊長の言葉と同時に、高所に見えた通信基地の有線通信塔で爆発が起こり、ゆっくりと倒れていく。

 

「有線設備の破壊を確認。デルタはジャミング装置を起動。効果時間は三十分」

 

「上出来だ。ブラボー、前進。今の内に距離を稼ぐ」

 

 その言葉と共に前進する。

 時に舗装された道も使う事が出来る為先程より速いペースで進んでいく。

 

 

 

 デルタの陽動は射点移動を二回行いつつ十分間続く。その後車列にて警戒線の内側に入りデコイとなる。

 

 敵側の混乱は予想で十分。立て直しに五分。各警備隊との通信手段の模索・確立に五分。そこから一部がデルタと交戦するのが五分後。本格衝突が十分後。

 

 詰まる所、猶予時間は三十五分。その間に第九研まで五百メートルの位置に居なくてはならない。

 全力疾走と言う訳ではないが、どちらもかなり無理した作戦だ。しかし、それさえ超えた後は大した問題は無い。

 

 

 

 道中で接敵した警備部隊を排除しつつ進む。大半がデルタに向かっている分数は少なく、目立つ事なく排除する事が出来た。

 

 第九研まで約五百メートル。これ以上は次の一手に巻き込まれる可能性がある。

 

「デルタの交戦から十三分が経過。劣勢に傾きつつ有りとの事」

 

「分かった。そろそろ時間だ、目標の指定は済んでるか」

 

「両分隊共に指定完了しています。準備はいつでも」

 

 その言葉に頷き、パスを開く。

 

 〔operator4:首尾はどうだ〕

 〔moderator8:現在目標上空まで1km。此方はフレシェットタイプの投下爆弾を搭載しています〕

 〔moderator2:此方も状況は同じです。指示通りナパームを搭載しています〕

 〔operator4:No2は南方側の目標へ向かってくれ。ターゲットは赤い発煙弾で示してある。No8は予定通り第九研へ攻撃を実行しろ〕

 〔moderator2:了解。攻撃態勢に入ります〕

 〔moderator8:投下まで30秒〕

 

 状況を確認し、パスを閉じる。

 

「投下まで約25秒、衝撃に備えろ」

 

 そう告げると同時に、轟音が鳴り響く。

 

 

 態々“調整者”を動かす事で隠匿性、確実性を高めた決めの一手。

 

 太陽を背に飛来した二機の多目的戦闘機が、目標に向けて水平爆撃を行う。

 

 此方側から見えるのは、空中で炸裂した後に無数の矢が太陽の光を反射しながら第九種魔法開発研究所へと降り注ぐ光景のみだ。

 

 

「・・・デルタから連絡。人的損害無し。車両は一台が大破、後はどれも軽微。交戦した敵部隊は増援共に全滅。残存部隊も現在壊走中との事」

 

 この報告に思わず笑みを浮かべる。

 全てが予定通り。後の後始末の事さえ、今まで飲まされた煮え湯を思えば瑣末な事だ。

 

「敵勢力の損耗率を推定で六割と推定。作戦を次の段階に進める。デルタは速やかに作戦区域を離脱しろ」

 

 “彼”と同じく、此方にも“眼”がある。

 故に、想子濃度が高い一角もまた、直ぐに分かる事だ。

 

 ならば、後は仕上げのみだ。

 

 

「ブラボー各位、御礼を返す時だ。行くぞ」

 

 

 





という事で遅ればせながら第九研襲撃戦です。
これ書くのに四苦八苦しました。と言うのも地理的に可能かを睨めっこしつつ原案に沿って行きましたので・・・。

以下予想される突っ込み所への弁明。長文注意。

1.距離的問題
ほぼ弁明の余地が御座いません。小川を登って・・・の下の時点でアレです。奈良の近くに流れる川は木津川ぐらいしかボートで行けそうなのは無く、更に悪路を1時間で地図の上での目測ですが4km後半、それも装備有りは正直現実味有りません。が、そこは多少甘めに見て頂ければ。
一方残り4.5kmは舗装された道も使用でき悪路は一部、そして駆け足で向かうとなれば概算で装備込み時速8kmと考えると不可能では無いかなと。隊員は体力お化けだと考えるしか無い。

2.迫撃砲の射程
こちらは自衛隊が現在所有している迫撃砲の射程がおよそ5km半と言う事で理論上可能という事で捉えました。土地的問題も相対的に高所を取るか、無人偵察機等を活用すれば問題は無いでしょう。

3.デルタの全滅の可能性
敵が警戒態勢と言う事で浅く広い分布している場合、この作戦後だと九島側の戦力は初動は勿論一定の通信手段の確立までは結果的に戦力の逐次投入という事態を招きます。無論その間は魔法師対非魔法師ですので足止めは食らうものの、車載火器も有る以上増援までは抑えられるでしょう。

4.ジャミング装置
無論設置型です。しかも範囲をカバーする為稼働時間が30分とかなり短め。勿論最初の射点移動にて置いていきました。囮にもなるしね。

次回は第九研敷地内。また多分遅れます。


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第二章十二話~時代~

前話にて致命的な矛盾点がありました。内容は後書きにて。


【Saturday ,August 15 2096

  Person:operator4】

 

 

 

 

 端的に表現するのであれば、人々は此処を地獄と呼ぶだろう。

 

 地上に降り注いだ四桁もの鉄の矢は、デルタに対処すべく穴熊から出てきた警備部隊の悉くを物言わぬ屍へと変えていた。

 

 

 詰まる所、作戦は今の所順調。

 

「各位、鉄の矢に足を取られるな。慎重に進め」

 

 そう述べ、施設へと入って行く。

 幾らパラサイドールの大半が九校戦に出向いて居るとは言え、流石に製造用のリソースは残っていた。

 しかし、“大元”がいない。作る為の材料こそあれど、実働可能な個体はそれこそ“オリジナル”まで回したと言う事だろう。

 

「厄介な事にはなるが、今では無いな・・・」

 

 腰に下げた“刀”を使うのは数回のみになりそうだ。

 そして、他の武器を使う機会も実に淡白になるだろう。

 

「目標の区画を研究所西側と断定。動く物は全て殺し、保存されたデータは破棄し、書類は燃やせ」

 

 九島は判断を誤った。

 誤った以上、彼等にパラサイドールを持つ資格など無い。

 

 そうである以上、彼等の結末は半ば決まっている。

 

「クリア」

 

 鳴り響く発砲音。

 警報も鳴り響き、スプリンクラーも作動しているが抵抗は疎らだ。

 

「クリア。焼夷手榴弾、投擲」

 

 何せ頭を刈り取り、手足さえ捥いだ。

 こうなれば、素人でも出来るお使いレベルだろう。

 

「クリア。メインサーバーと思しき設備を発見、データ消去の為人員を五人割きます」

 

「残り五名、付いて来い。大元を刈り取る」

 

 二手に分かれ、パラサイドールの製造場所へと向かう。

 流石にこの付近は警備員も居る。が、障害ですら無い。

 数の利さえなく、装備の質さえ劣る。俺が出ている以上、負ける道理など無い。

 

「クリア。この隔壁は手持ちの爆薬での破壊は不可能と判断します」

 

「分かった。各位、戦闘用意」

 

 コマンドを開く。例え物理的であろうと電子的であろうと、我らを妨げる事は出来ない。

 

 

 

 隔壁は、原子でさえ残さずに消滅した。

 

 

 

「此処が・・・」

 

 隊員の一人が、そう漏らす。

 

 

 第九研が主目的とする、その終着点。

 九島烈の目指す、妄執の集大成。

 

 

 例えこの身が人であったとしても、この様なものに頼ろうとするとは。

 実際に見てみると、哀れみしか抱かない。

 

「・・・各位、老人の人形遊びを終わらせる。運搬、及び爆破の用意を」

 

 対パラサイドール用の、以前に用いた“刀”を抜く。

 元より動かぬ、ただの屍に近い。意気込みなど不要だ。

 

 

 パラサイトと呼ばれたそれを宿した“原材料”は、軽い一太刀で“封印”された。

 

 

「・・・準備完了まで後二分。メインサーバーも物理的・電子的な破壊に成功との事。迎えは六分後に来るとの事です」

 

「九島本家の動きが鈍い筈が無い。増援が来る事を前提に進めるぞ」

 

 とは言え、弾薬も装備もさほど使用してはいない。ヘリが直接此処に来る以上大した問題にはならないだろう。

 

 此処までやられた以上、どうあがいても九島の負けは確定している。虎の子の抜刀隊はまだ傷が癒えたとは言いにくく、内乱さえ抱えている。最早、打つ手は悪足掻きしか無い。

 

 準備が完了した所を見届け、声を掛ける。

 

「よし、撤収する。タイマーは七分後に設定しろ」

 

 そう言って部屋の外に出た。

 

 これで、悩みの種が一つ、確実に減った。

 後は、“彼”の事のみだろう。

 

 メインサーバーの処理に向かった隊員とも合流し、外に出る。

 

 

 

 

 そこで、ある意味では予想通りの人物に出会う。

 

 

 

 

「・・・そうだろうともさ。お前が来ない筈は無い。あの“老師”の妄執が、生易しいものであるはずがない」

 

 そこに居るには、多数の部隊では無い。

 

 国防軍でも、私兵でさえ無い。

 

 唯一人の、老人だった。

 

 

「・・・九島烈。また会ったな」

 

「そうだね。出来れば、この様な結末で会う事は避けたかったのだが」

 

 

 丁度、ヘリの迎えが来る。

 

 だが、この老人は悟らせなければ死ぬその時まで動くだろう。

 この様な男の眼は、今までに何度も見てきた。

 

「各位、ヘリで離脱しろ。俺は歩いて帰るさ」

 

「・・・宜しいのですか?」

 

「作戦は成功している。今必要な事を確実に遂行しろ」

 

「・・・了解」

 

 それを最後に、ブラボーの隊員達はヘリに乗り離脱していく。

 

 

 その姿を、なぜか九島烈は羨ましげに見つめていた。

 

 

「“烏”の駒は、実に幸せだろうね。道具でありながら大切に扱われ、雑に扱われるなどと言う事がない」

 

「羨ましいのか、お前達にとっては」

 

 これは、単純な疑問。

 主体でさえあれず、駒でしか無い。

 

「お前達は自分の意思で動きたいとは思わないのか」

 

 魔法師には、耐え難い苦痛では無いのか。

 

 しかし、九島烈はそれを否定した。

 まるで、諦めているかの様に。

 

 

「それはそうとも。出来うるなら自由に生きたいとも。出来うるならば、この様な事はせずに済ませたかったとも」

 

 

 研究所内から、更に爆音が響く。

 しかしそれさえ見えぬと言わんばかりに彼の想いは吐かれていく。

 

「だがそれは出来ない。魔法師には力がある。人並みの安全も、幸せも、生まれも、運命でさえ定められ保障されぬまま生きる。

 

 我々魔法師は、ヒトにはなれないのだ」

 

「しかし、求めて何が悪い。我々はヒトでありたいのだ。ヒトの様に、幸福でありたいのだ。

 

 光宣は今でも禁忌に触れた呪いからか、あの様な目に遭っている。”彼“でさえ、平穏な日々は送れない。十師族でさえ、四葉真夜の様な運命を辿りうる。

 

 力を持つ故であるのなら、それ故に苦しまねばならぬのなら。そして目の前に居る”神“にさえ頼れなかった。なら、化物となりきり、自らがもぎ取るしかないではないか」

 

 

 その言葉は、とてもヒトから出た想いとは思えなく。

 

 それ故に、何より人に近かった。

 

 

「不条理に怒り何が悪い。正そうとする事の何処が間違っている。貴様らが私の想いを砕くのならば・・・。

 

 答えろ、”烏“。我々は、どうすれば良いのだ!」

 

 

 なればこそ。

 最も人らしい彼等には、答えなければならないだろう。

 ”烏“が鳴くのは、決して死を必要とするからだけでは無いのだと。

 

 

「お前自身が語った事全てが正解さ、”老師“」

 

 彼が、彼等こそが正に人間だろう。

 例え厄介で、面倒で、諸悪の根源だったとしても。

 

「今までに、人はそう言った苦痛を乗り越えてきた。無数の悲劇があり、無数の不条理があり、それでも人は立ち上がった。だからこそ、人は今、幸せを享受出来る。

 

 お前達魔法師は、最初から人だったのさ。

 ただ、出来合いのモノ(目の前の幸せ)を見て羨ましく思っていただけだ」

 

 初めから、彼等には自由がある。

 掴もうとするのに、勇気が要るだけだ。

 

 強いて、九島烈にとって不幸であるとしたら。

 

「決めるのは、今を生きる若者達だ。それは”時代“となり、世を変えていく。

 

 それを止めるのは”烏“にも出来ない。故に人の歴史は廻り続ける。我らはそれが、より多様な物であれば良い」

 

 当事者でない事だけだ。

 

「お前の抱く妄執は唯のまやかしであり、障害でしかない。故にまだ、お前の行動の意味はまだ決まっていない」

 

 既に陽は登り、鳥も鳴いている。

 後三時間も経てば、それを決める火蓋が切って落とされる。

 

「言ってただろう、”彼“が窓口足り得るのだと。分かっていただろう、俺もお前も主役ではないのだと」

 

 主役は”彼“であり、彼らなのだから。

 

「主役は司波達也であり、その周りであり、お前の孫であり、七草や十文字、一条の子供たちであり、そう言った若者達だ。俺たちみたいな年寄りは裏で動くに限る。後は委ね、合わせるのに限る」

 

 

 

「・・・そうか」

 

 九島烈は、噛み締めるように呟いた。

 

「・・・・・・そうか」

 

 妄執から覚めた様で、それでも夢はまだ続いている様で。

 

 

 

「ならば、見届けるとしよう。その結末を。若者が作る時代が、私の行いをどう評するのかを」

 

 

 

 

 





以下反省タイム。
作戦開始時間をお兄様との密談で話してた時刻とは大幅に違います。はい、単純なミスです。まぁそのままでも物語進められるし多少は・・・うん。すみませんでした。

一応次話でも述べる様にはしますが、作戦の隠密性を高める為達也にさえ偽の作戦時刻を教えたと考えて頂ければ。不信感は増すだろうけど多少はまぁ。

以上反省タイムでした。

今回は佐伯さんの家庭訪問の前に「九島烈が自身の陰謀から引く切っ掛け」を作りました。
新しい時代を創るのは老人ではないと言う言葉の通りです。魔法師を兵器として生かした時代を創ったのが老師の世代である様に、魔法師を人とする時代を創るのがお兄様の時代なのでしょう。無論それら二つに優劣など付けようは有りません。
そこら辺を1年目老師は分かっていた節がありましたが、可能性を見てしまったので手を伸ばさずには居られなかったのでしょう。

まぁ力ある老人がそれをやると厄介極まりないのだけど、それは別の話。

まぁそんなこんなで諭すのはオリ主が根本的にお爺ちゃんだからじゃないかなと。ハッスルしてる分人間にとっては何より性質が悪いけど。

次回は達也回。まぁなんとかなる。


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第二章十三話~狩猟~

達也回。そして純粋な戦闘回。


【Saturday ,August 15 2096

  Person:@;g>.=etr[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

「随分派手にやったな。それにてっきり同時に開始する物だと思っていたが」

 

 朝起きて準備を進めているところ、文弥から齎されたのは第九種魔法開発研究所が襲撃されたと言う情報だった。

 

 彼が虎の子の部隊を預けている時点で裏切られる可能性は幾らか低いが、不信感は拭えない。

 無論、元から信頼していた訳では無いが。

 

『すまんな、しかし此方側は親玉叩きに行ってたんだ。一定の偽装には目を瞑ってくれ。一応、一定の情報は仕入れてある』

 

 その言葉と共に、資料が送られてくる。

 

『実働可能なパラサイドールは全部で十六体、その全てが恐らくは移動ラボと共に其方に持ち込まれている。念動力を使用し、反応速度は人間を超えるだろう。製造手段や“原料”は確保している以上後の心配は要らない』

 

「作戦が同時では無かったという事は、増援の見込みは」

 

『一個分隊がヘリにて帰還、再武装をしている。コールが有れば三十分で向かえるぞ。現地ではリアルタイム映像が放送されないからな。多少は問題無い』

 

「特筆事項は」

 

"プライム・フォー"(最初の四個体)。思考の共有が可能だと思われるが、相手にとっても切り札だ。お前なら多少の数の差は何とでもなるだろう』

 

 

 奇襲にはならず、しかし一定の数の差は埋めてある。

 スタンドプレイではあるが、孤軍では無い。

 

 

 ならば、簡単な事でしか無い。

 

 

「分かった。予定通り九時二十分に作戦を開始する」

 

『頼んだぞ』

 

 

 

 

 そして、作戦開始時刻になる。

 

 "眼"で見る限り、パラサイドールはコースの後半部分に散らばっている。一方彼の部隊は、コースの中腹で既に待機していた。

 恐らくは、移動速度に差が出ると考えたが故だろう。

 そして今、直近の目標に向けて動き始めているのが視え、無線でも確認できた。

 

 

 恐らくは、二月に合間見えた部隊の一部。

 非魔法師ではあるが、後始末は充分にやってくれるだろう。

 

 

 直近のパラサイドールまで近付いていき、木の陰に移る。

 

 同時に、無線。

 

『フラッシュ投擲。閃光に備えろ』

 

 次いで強烈な閃光がパラサイドールを覆う。

 

 無論、閃光だけではパラサイドールの意表は突けない。しかしその分パラサイドールは閃光手榴弾を投擲した兵士を目標として認識する。

 

 詰まる所、次の一手にはどれだけ反応速度が良くても遅れることになる。

 

 CADを構え、一撃。

 相手はこちらの事を認識こそしたが、反応があと少しの所で足りない。

 そのまま弾き飛ばされる。が、無力化には程遠い。

 

 そこで過去の情報体を複写し、それを用いて現在のエイドスを書き換える。

 

 そして、予測通りに休眠に入る。

 

『確認。位置から隠匿は不要と判断、指示を仰ぐ』

 

 これは、使える。

 

 恐らくは魔法師と似た性質を持つ"彼"と長い事共に戦った経験からだろう。

 初めてながらも、援護が成立している。

 

 状況を把握し、察知し、そして最適な行動を選択する。

 

 一人でも対処が出来ない訳では無い。

 しかし、手間取る可能性は幾らでもある。深雪の事を考えると、余裕がある方が良い。

 

 

「引き続き援護しろ。後始末は増援に対処させよう」

 

『了解』

 

 手早く端末で借哉に増援を要請する。

 

 凡そ三十分。パラサイドールを隠すには時間が足りないが、深雪達が見つける時には無力化していればそれで良い。

 

 

 

 行うのは、典型的な機動戦術。

 "彼"の部隊が交戦すべきパラサイドールを足止め、陽動する。

 後は交戦している"点"へと飛べば良いだけだ。

 

『アルファより連絡。九島家の私兵と思しき勢力を発見、無力化に成功。現在は彼等の司令所を移動ラボと仮定し、トラッキング中』

 

 其々のパラサイドールを兵士がツーマンセルで監視し、指令をすれば仕掛け始める。

 此方が仕留めればすぐに移動し、別の目標に向かう。

 

 見えぬ所では別の部隊が狩るべき本命を探し、道中の火種を潰していく。

 

 正に狩りと言ってよかった。

 

 故に察する事が出来た。

 "彼"の切り札とは、つまりは優れた狩人であり猟犬なのだと。

 

『九校戦選手、初期のターゲットを目視。先頭集団の交戦区域到達まで残り十五分』

 

 亡霊の様に進み、戦い、結果のみを残していく。

 此処でこの様な戦いがあった事を知り得る人間は、一体何処まで残り得るのか。

 

 

 

『残敵四、プライム・フォーと推定。指示を仰ぐ』

 

「分隊メンバーを集結させろ。万全を期すぞ」

 

 

 最後の目標を遠巻きに確認した部隊からの無線に対してそう返す。

 注意すべきと言われている以上、一筋縄では行かない可能性が高い。

 

 五分後、目視で目を凝らし漸く見える程の隠密性で援護に付いている分隊の集結を確認する。

 

『これ以上接近すると気付かれます。彼我の距離は凡そ二百メートル』

 

「発煙弾を撃ち込む事は可能か?」

 

『可能です。しかし選手にも悟られます』

 

「構わない。発射後は既に無力化した目標の回収に向かえ」

 

『了解。発煙弾、用意』

 

 数秒後、擲弾が弧を描いて飛んで行く。

 

 同時に、突撃。

 そして、発煙弾が着弾した直後に交戦する。

 

 素早く一体に拳打を加え、情報体を複写。そして書き換える。

 残りの三体も反応するが、素早く引いてCADによる一撃。

 

 一体が最初と同じ様に弾き飛ばされる。

 

 しかし、それ以上の追撃が出来ない。

 もう一体を援護する様に二体が付き、斥力の防壁を作りつつ土塊の砲弾を飛ばしてくる。

 

 やはり連携が上手い。

 このままでは、打ち損じる。

 

 一瞬、援護射撃を要請するか悩む。

 しかし、物理的に損害を与えるのは悪手だ。パラサイトが自爆するさえ出てきてしまう。

 

 

 このままでは膠着する、と焦り始めた時。

 

 

 唐突に頭の中にテレパシーが届く。

 

 

『マスター、右です!』

 

 

 素早く左へ体を傾けると、土塊が掠めていく。

 

『再装填まで五十秒、後方三百メートルまで後退中。態勢を立て直すつもりです』

 

「ピクシー、敵の攻撃が分かるのか?」

 

 そう無線で問いかける。

 

『体勢を崩した個体が復帰します、十五秒後に魔法攻撃。・・・はい。私には彼女たちの会話が聞こえます』

 

 有り得ない話では無い。

 大本が一緒であり、"彼"も思考を共有していると言っていた。

 

 ならば、ピクシーに聞こえていても不思議では無い。

 

「ピクシー、敵の会話を中継してくれ」

 

『かしこまりました』

 

 後は狩りの時間だ。

 

 大きく移動し、彼らの退路を塞ぐ。

 同時に"眼"では、圧斬りに似た魔法の展開が視える。

 

 素早く分解。次いで突撃。

 障壁さえ無効化し、それを展開していた個体に打撃。情報体の複製に完了。

 

 距離を取りつつ、エイドスを書き換える。

 これで防御役が無力化。

 

 残るは圧斬りを扱う個体と、土塊の砲弾を飛ばしてくる個体。

 近接戦闘能力も無ければ、防御も出来ない。

 

 最早、敵では無かった。

 一撃離脱戦法で、圧斬りの個体を無力化。

 

 そして、残る一個体にも逃げ場は無い。

 

 もし、一人だけならばここまで楽には行かなかったやも知れない。

 しかし、今回は此方側は運に恵まれていた。

 

 

 結果、最後の一個体の無力化にも成功した。

 

 

『ヘリの到着まで十五分。同時にアルファより連絡、移動ラボを発見。中に十師族を確認した為、制圧を断念。遠距離攻撃による破壊を行うとの事』

 

 部隊はまだ動いているが、それは此方の都合では無い。

 

「後は任せ、当方は貴官らの指揮権を返還し、帰還する。後はそちらの規定に従い行動せよ」

 

 そう言い残し、無線を切った。

 これで、深雪が危険に晒される事なく終わった。

 

 後は暗躍が好きな連中が色々やるのだろう。

 だが、危害さえ加えられなければ問題はない。

 

 やるべき事は有るとはいえ、暫くは他人事の立場に立てそうだ。

 

 そう整理を付け、水波とピクシーが待っている車両へと足を向けた。

 

 

 

 





色々後回しにしてたとは言え何とかスティープル編が終わった・・・。
後は繋ぎ回、そして物の怪もとい周先生のみ。

これさえ終われば愉悦出来そうな事態が・・・!案外分からない。

取り敢えず今回の一件で九島は大幅に弱体化。師族会議でフルボッコにされなくても十師族落ちは免れないでしょう。
一方これから四葉がニコニコした顔で七草の弱みを取りに行くわけです。状況は四葉優位。

そして、案外今回の一件はオリ主にも考えるべき要素を残したと思われます。まぁお分かりの通りという事で。案外共同路線も見えつつある。其れまでにオリ主に切られるのは何処なのか。

全部切られそうな気もするけどそれはそれ。

次回、オリ主回。真夜様との打ち合わせ。


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第二章十三.五話~老師~

折角九島烈がハッスルしたんだし、一応此方の顛末だけ。


【log:Saturday ,August 15 2096

 point:34N135E   】

 

 

 

 

「・・・思ったより、静かですな」

 

「風間君・・・それに、佐伯閣下」

 

「お久しぶりですわね、九島閣下。本来なら、此処で酒井大佐のメッセージでも流そうと思ったのですけれど・・・」

 

「要らぬ徒労であったな。既にパラサイドールは無く、製造手段も残されていない」

 

「・・・その割には随分と清々しい御様子で」

 

「それはそうとも、この目でしかと見たのだからな」

 

「未練はないと?」

 

「無いと言えば嘘になる。真言は重傷を負い、第九種魔法開発研究所の復旧は最早不可能だろう」

 

「では何故?」

 

「"彼"が止めてくれた。諭す者が居た。私が立たずとも、いずれ道は開ける。

 

 苦難の時代だろう。光宣も"彼"も、苦しむだろう。挫折するだろう。不条理を目にするだろう。

 

 それでもきっと、彼等は幸せに辿り着ける。もはや"老人"の出る幕では無い」

 

「我々でさえ、必要では無いと言う事ですか」

 

「所詮私も君達も、汚い欲に塗れた者でしか無い。その様な輩に時代は変えられず、彼らの意思は挫けはしない」

 

「・・・だからこそ四葉殿はこの音声データを公開しない様言ったのかもしれませんね」

 

「なんだ、酒井大佐らは四葉の手に落ちていたのか」

 

「えぇ。焦りましたか?」

 

「気にする事では無いな。最早夢も醒め、現実となりつつある。どの道九島家は没落するが、それさえいずれ来る結末だった」

 

「そうですか。・・・月並みですが、私達がいる限りは軍の魔法師の権利は保証しましょう。少なくとも、彼らがそれを勝ち取る事が出来るようになるまでは」

 

「そうか。ならば、そうしてくれ。その方が彼らにとっても良いだろう」

 

 

 

「それでは、失礼致します」

 

「あぁ、待ちたまえ。一つだけ聞いておきたい事がある」

 

「何でしょう」

 

 

 

「・・・"彼"を、どうするつもりかね?」

 

 

 

「それは、先程も述べましたが」

 

「そうでは無い。これは、欲に塗れた老人からの忠告だ。

 

 "彼"が無条件に味方になってくれると思うな。少しでも都合の良い駒として扱ってみたまえ。直ぐに手元から離れていくぞ」

 

「重々承知しております。・・・既に手遅れかもしれませんが」

 

「そうだろうね。でなければ、"烏"と組むなどと言う事が出来るものか」

 

「選択を間違えたと?」

 

「かも知れぬ。もしそうなら、君達の運命も私達と同じだ。残るは七草と四葉、若くは"烏"が屍肉を喰らうかだ。心して置くと良い」

 

「肝に銘じておきます。それでは」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

「かくして死すべき者は死んでいき、残った愛し子を"烏"が愛でるか。幸い光宣にはまだ機会がある。内輪に入れればそれで済む」

 

 

「・・・老師、か。確かに私は翁だな」

 

 

 

 




と、言う事で佐伯閣下の家庭訪問でした。

個人的には一年目の老師はかなり好みです。腹黒さもありつつ本質的にはお爺ちゃんの様な優しさのある所、良いなぁと思ったりしてます。
つまり本ログで分かるように彼は再び"老師"へと戻りました。最初に脱落した九島家ですが、一番良い負け方をしたのでは無いでしょうか。

残るは四葉と七草の攻防のみ。是非お楽しみに。



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第二章十四話~博打~

繋ぎ回。少なめです。


【Monday ,August 17 2096

  Person:operator4】

 

 

 

 

 結局の所。

 幾ら権力を持ち、武力を持ち、知識を持っていたとしても。

 

 時代などと言う物を変える事は出来はしない。増してや、人の心など。

 九島烈に言った言葉を思い出し、思案に浸る。

 

 幸せさえ保障されれば、他は要らない。

 成る程、それは真理なのだろう。その真理を、思っていたより俺は軽く見ていたのかも知れない。

 力を持つ故が苦悩など、今迄の人間にどれ程あっただろうか。

 

 そしてそれを九島と同じ様に、四葉や"彼"が望んでいたのだとしたら。

 

 後は自ずと決まってくるだろう。

 

 

 

「・・・それで、結末はどうだった」

 

 そう、モニターの向こう側に居る四葉真夜に問いかける。

 本来、魔法師のフォックスハントは魔法師の方が有利なのだが。

 

「残念な事に逃げられたわ。監視の事も考えると恐らくは横浜中華街からも逃げ出すでしょう」

 

「今はまだ国外へ出てないだけマシだな。横浜と言うホームグラウンドから追い出す事が出来たのなら取り返せる。其処だけは念頭に置いておけ」

 

 本当に、マシでしか無い。

 怒っても仕方がない以上表には出さないが、今決着を付けた方が本当は良かったのだ。

 

 無論、四葉自身が策を練っている可能性はある。

 そうである以上、油断は出来ない。信用なぞ以ての外だ。

 

 とは言え、七草に寝返るだけの道理も無い。

 今はまだ、機を待つ他無い。

 

 強いて言えば周公瑾含む、いくつかの火種だが・・・。

 

「それで、結局お前達だけで可能なのか」

 

「潜伏先の特定に凡そ一月、そこまでが正念場ね。後は達也さんに頼めば時間の問題でしか無いわ」

 

「アレに頼るつもりか」

 

 そう此方が訝しげに聞くのに対して、真夜は笑みを浮かべながら答えた。

 

「折角貴方達が背後に居るんだもの。"彼"が使い物になるかどうか、四葉に従えるのかどうか。試してみても良いんじゃ無いかしら」

 

 確かに、一理ある。

 しかし一方で、これは只の確認作業にしかならないだろう。

 

 "彼"の行動基準など、初めから一つしかない。

 

 妹・・・司波深雪の意思・意向・利益に沿うかどうかだ。

 そしてそこには倫理や道徳、道理が介在する余地は無い。

 

 そしてそれは四葉真夜も分かっている。

 問題は、それを社会が許容せざるを得ない様に先制出来るかだ。

 

 仮に、四葉真夜が出し抜かれた場合。

 ある意味では日本の危機にまで至る。

 

 

 しかし、同時に付け入る隙が出来る。

 

 

 此方にとっては、年末までが見定める期間だ。

 四葉真夜が、四葉が最後まで舞台の上に立つ資格があるのか。

 

 

「まぁ、良い。可能と言うのなら任せる。今回は下手に出ても仕方がないしな。好きな様にしろ」

 

「えぇ、そうさせて貰うわ」

 

 そのやり取りを最後に、通信が切れる。

 

 煙草に火を点け、後の事を考える。

 

 此方側の得策は、可能な限り"彼"に恩を売る事。

 残念な事に今回の一件ではパラサイドールの実働体全てを彼に任せた形になっている。簡単に言うならば借りが有る。

 本来なら今回の支援で全てが済んだ筈だが、これのおかげで後一歩が必要となって来ている。

 

 無論、このやり取りが信頼関係の積み重ねにも繋がる以上悪い話では無い。

 今回の場合、"彼"に此方が不可欠な存在だと思わせれば良いのだ。

 此方にとっては駒である。だが、後ろ盾としては最大級。代わりなど存在しない。

 

 一方で都合の良い存在と思われ過ぎる訳にも行かない。

 "彼"との関係はどう妥協しても対等以上であらねばならない。

 

 

 つまり、周公瑾の件では静観が最も良いだろう。

 後に残るは、唯一人。

 

 

「無粋な輩は馬に蹴られるのが道理。では草葉も残らぬ、馬さえ斃れる大地では・・・」

 

 

 

 この先にあるは無数の不幸、無数の不条理。

 欲に塗れた外道が織り成す黒き渦。

 

 そこに残るは修羅の世界。

 屍肉を喰らい、骨さえ残さぬ外道達の天国。

 

 時代がそれを望んでいる。

 それを砕くも慣れるも、決めるは主役のみ。

 

 

 

 そして此方には全てのカードがある。

 勝つも負けるも、"彼"が選ぶ唯一つの選択によって決まる。

 

持ち金全てを賭けても(オールインでも)まだ足りない。折角の山場なんだ。此処で賭けなきゃいつ賭けると言うのか」

 

 

 思わず笑みが浮かぶ。

 

 

「折角七草が除草剤を撒いてくれるんだ。お膳立てされるのなら、乗らなきゃな」

 

 

 

 

 全てはいずれ来る、ただ一回のコイントスに。

 

 

 

 

 

 

 




と言う事でスティープルからの繋ぎ含めてひと段落。次は達也回とログを挟んで四葉継承編に移ると思います。

と言うのも今回はオリ主が絡む必要が無い。名倉さんの生命を気にすべき道理はオリ主にはありませんし、色んな意味でハッスルやらかした結晶であるお孫さんを何とかしてもしゃーないし出来るはずも勿論ない、と。ヘイグ兄貴なら幾らでも綻びが出てくるんでそこにオリ主が飛び込む余地が有るんですが・・・。まぁ、仕方ない。

次回、達也回。古都内乱を使用した盛大な繋ぎ回。此処らへんからは完全に部分部分すっ飛ばしという意味でスピードアップ。


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第二章十五話~印象~

伏線回。


【Tuesday,October 21 2096

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 周公瑾の捕縛。

 四葉真夜から協力を"依頼"された一件。

 

 実際難しい話ではある。黒羽単独では捕縛する事が出来ず、四葉が総出で当たっても取り逃がす可能性がある。故に九島家にまで行って協力を仰いだ。

 

 それ故に"依頼"として来た理由に疑問が残る。

 

 確かに彼を捕縛するのは国防、及び諜報の観点から重要ではあるのだろう。また、その背後にあるであろう"何か"が四葉の利となる事も。

 

 であるのならば、本来は有無を言わせない"命令"と言う形を取る筈だ。

 最早九島家が衰退しつつある現状だからこそ、七草や十文字に対して一定の成果を示す事で優位に立つ必要が有るのだろうから。

 

 

 加えて言うならば、"彼"の動向も気になる。

 

 

 河原借哉はパラサイドールの一件以降は目立った動きを見せていない。

 

 派手な事はした。その影響で後始末に追われている可能性も無い訳ではない。

 しかし、正にこう言った案件は"彼"にとって有利となる案件が転がっていても不思議では無い。

 

 しかし、“彼"は今回の一件では静観に徹している。

 

 

 

 もしくは、"彼"は既に動くべき局面を見据えているのか。

 

 

 

 そう考えても、間違いでは無い事態が起こっていた。

 

 七草家の執事だった名倉三郎が"京都"で殺害されたのだ。

 

 元々七草の守護領域は関東近辺であり、京都で死体を残すと言う事は"仕事"をしなければならなかった事を意味している。

 

 そして、京都では周公瑾が今でも逃亡を続けている。

 

 事情を知る人から見れば、無関係と思える事では無かった。

 そしてそれは七草真由美からしても他人事では無かったのだろう。

 彼女からの協力要請を受け、二十一日に向かう事になった。

 

 

 

 彼女に協力する事が出来たのは、無論それが糸口になる予感がした事も事実だがもう一つ理由がある。

 

 簡潔に言えば、"京都の伝統派古式魔法師"が此方に対して比較的ではあるものの協力的だったのだ。

 

「"烏"の邪魔をする事がどれだけ命知らずな事かは私にも分かります」

 

 私立探偵を使って接触を図ってきた呪い師はそう言っていた。

 恐らくは第九種魔法開発研究所の壊滅の一件で"烏"が関わっていると判断したらしい。

 

 期せずして恨みが晴れた形となった以上九島家や十師族相手に敵対する必要性がないと言う事らしい。尤も鞍馬や嵐山の場合は大陸側に乗っ取られている為、未だに抵抗は続くだろうとの事だったが。

 

 

 

 結果はまずまずと言った所。

 周公瑾か、それに近しい者の手口が分かった分相手の術の効果は半減する。

 いざ相対した時には比較的とは言え楽になるだろう。

 

 幸いな事に空きがあったホテルの一室で、先に帰った深雪に電話し終えた所で部屋の扉がノックされた。

 ドアの手前にあるモニターを点けると、そこに映ったにはドレスアップした真由美だった。

 

「どうしたんですか、こんな時間に?」

 

 扉を開けてそう訊ねた。

 

「達也くん、少し聞いて欲しい事があって。ついでだけど、お食事もまだでしょ?地下のフレンチを予約しちゃったから、一緒に食べに行かない?」

 

 どうやら此方がエスコートするのは決定済みらしい。

 

 しかし、彼女は聞いて欲しい事があると言っていた。

 状況だけを聞けば色恋沙汰の様な気もするが、今回に限って言えばそういう訳でも無いだろう。

 

「分かりました。着替えますので、ロビーで待っていただけませんか」

 

 そう述べ了承の意を取った後、ドアを閉め最低限のドレスコードを満たすであろうスーツに着替える。

 

 

 ロビーに着いた後にレストランでウェイトレスに案内されたのは、周りを壁で囲まれた個室だった。

 

「・・・うん、盗聴の心配はないみたい。達也くんは何にする?」

 

 そう辺りを見回して真由美が聞いてくる。

 やはり気を配らなければならない内容なのだろう。

 

「そうですね、俺はコースにしようと思います」

 

「なるほどね。アラカルトも楽しそうだけど、初めての店だしコースの方が無難かな」

 

 こう言ったやり取りの後、一先ず料理が運ばれてきた所で真由美が口を開いた。

 

「最近、家の方で妙なやり取りをしてて」

 

「妙・・・と言うと?」

 

「内容は一切不明。態々手紙の形式にして、毎回違う人が持ってくる。父はそれを読んだら直ぐにその場で燃やして、返事を書き始める。書いてる所を見る事は出来ないし、父はそれをまた毎回違う人に頼んで違う場所に持っていく」

 

「随分と防諜を気にしたやり方ですね。そのやり取りが始まったのは?」

 

「多分、九月の初め頃。最初の頃は少し様子がおかしかった様にも思うわ」

 

 全く持って内容が分からないやり取り。しかし、一番気になるのは一つだ。

 

「どうしてそれを俺に話そうと?」

 

 此処までなら十師族にとっては有ってもおかしくない事だ。態々此方に話さずとも、彼女には相談相手が山ほど居るはずだ。

 

 此方の問いに対して、真由美は少々恥ずかしそうに述べた。

 

「最近ね、父が達也くんの事をどう思うか、なんて事を聞き出して」

 

「・・・俺を?」

 

 思わず聞き返す。

 この話の流れで俺が出てくる要素は一切無かった筈だ。

 しかも、内容の意味も不明。彼女が俺に対して何を思う事がどう繋がると言うのか。

 

「別に、そういう訳じゃ無いんだけど・・・。私に取ってはほら、達也くんは弟のようなモノだし」

 

 唖然としているところを見て、真由美は慌てて手を振る。

 

「それで、ほら。もしかしたら達也くんに迷惑が掛かるかもしれないって思って。念の為にね」

 

「はぁ・・・態々ありがとうございます」

 

 彼女の様子に幾らか毒気を抜かれながらも思う。

 

 俺が彼女に纏わる厄介事を被るとは、どういう事なのか。

 

 無性に、この事が後に響く様な気がしてならなかった。

 

 

 

 





という事で繋ぎ編・・・ではなく古都内乱編終了。此処は原作との変更点がさほど無いので・・・。

伏線の意味は一体なんでしょうね。とか言いつつ案外原作読んだ方々なら分かりそうな気もする。

次回、四葉継承編突入。

なお現在原作を参考に出来ない状況下なので呼び方や設定に矛盾が出たかも知れません。その場合は随時修正します。


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第二章十六話~所業~

四葉継承編。ここからスタートとは言えかなり早足で進みます。


【Tuesday,December 26 2096

Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 "ESCAPES"。正式名称を「恒星炉による太平洋沿海地域の海中資源抽出及び海中有害物質除去」と呼ぶ。

 略称にはその他にも"脱出手段"という意味を持つこの企画は、"魔法師"を兵器という宿命から脱出させる為の手段の一つであり、生涯を掛けてでも取り組むべき物だ。

 

 

 その仕事に取り組んで一時間足らずの所で黒羽貢が面会に訪れた。

 元々黒羽が携わる仕事は諜報工作ではない。それでも彼が此方に訪れたのは、言わば酷く"個人的"な事についてだった。

 

 

「慶春会は、欠席したまえ」

 

「最初から出席する予定は有りません。ご当主様に出席を命じられたのは深雪だけですから」

 

「屁理屈を・・・。では君から妹さんに、慶春会出席を思い留まるよう説得してもらいたい」

 

 何となくだが貢が慶春会に出席して欲しくないと言う理由は分かる。つまりは俺が”四葉"で一定の地位を手に入れるのを阻止したいのだろう。それ自体は今までも散々見てきたことだ。

 

「俺が深雪に慶春会を欠席する様に言っても意味はないでしょう。事態を伝えても、ご当主様がそれを受け入れる筈がない」

 

 当たり前の、しかしそれ故に抗いがたい事実を挙げていく。

 それでも貢は退かなかった。

 

「・・・ご当主様は次の慶春会で深雪を次期当主に指名するつもりだ。しかし、君がガーディアンのまま彼女が次期当主に指名される訳には行かない。君は、"四葉"の力を手に入れてはいけない」

 

 ここまではっきりと言われるのは初めてだが、此方もそれに屈するつもりは無い。

 

「元々俺は四葉の力に興味などありませんし、黒羽さん。深雪の慶春会出席を決めたのはご当主様・・・叔母上だ。俺や深雪の一存で欠席できる様なものでもない。その程度の事は理解されてるでしょう」

 

 そう、端的に述べる。

 それに対して貢は、暫し俯いた後に顔を挙げた。

 

「・・・それでもだ。文弥や亜夜子を悲しませたくない」

 

「本気ですか」

 

 四葉家当主への叛逆を、本気でしようというのか。

 

 その問いについて、貢はしっかりと頷いた。

 

「無論、タダでとは言わない。黒羽の力が及ぶ限り保護しよう。妹さんと必要以上に遠ざけると言うつもりも無い。好きな時に逢いに行っても良い。魔法大学も卒業して良いし、望むなら特務士官の地位からも解放してやる」

 

「それは黒羽さんの一存で決められる事でも無いでしょう」

 

「我が総力を掛けて、単独でもやってみせる。その為ならば四葉さえ捨てる覚悟だ」

 

 その言葉からは、並々ならぬ決意を感じさせた。

 

 恐らくは、FLTまで来たのは四葉本家にこの話が及ばない様にする為か。

 本来ならば、四葉真夜に告げねばならぬ程の事だ。

 

 しかし貢と同じく、文弥や亜夜子を悲しませたくなかった。

 

「・・・今までの話は聞かなかった事にします。全ては、深雪自身が決めるべき事だ」

 

 そう告げる。

 それに対して貢は、まるで縋るかの様に此方を見た。

 

「どうしてもか」

 

「どうしてもです」

 

「・・・分かった、無理強いはしない。本当ならば、余りやりたくはなかったのだが」

 

 諦めた様子を見せる貢に、疑問を投げかける。

 

「どうして本家に叛逆してまでこの様な事をしようと?あなた方にがそこまでして得る利益は無い筈だ」

 

 そう問いかけると、彼はこちらの目を見据えた。

 

「・・・君が、四葉の罪の結晶だからだ。例え文弥や亜夜子を悲しませる事になっても、決して君の事を子供達に引き継がせてはならない」

 

 その言葉で、今まで貢を始めとする多くの四葉関係者の俺への扱いの根本的な理由が分かった。

 

「必ず、私達の手で終わらせなければならない。その為なら、命さえも惜しくはない」

 

 詰まる所、彼らにとっては俺は自らの業を映し出す鏡であると同時に、彼らにとっての自身の所業そのものなのだろう。

 

「詳しくは、この場で聞いても答えて頂けないでしょうね」

 

 その言葉を受けて、貢が立ち上がる。

 

「期限内に本家へ辿り着けたら教えてやろう。君にも、その権利くらいはあるだろう」

 

 別れの挨拶代わりに告げて退室していく。

 

 

 

 元の部屋へ戻る途中の廊下で思案する。

 

 

 四葉の罪の結晶。

 

 

 それが彼らの妄想なのか、此方が知らない何かが有るのかは分からない。

 

 しかし、貢の言葉から何をしようとしているかは分かる。

 恐らくは、四葉本家へ向かう所を妨害し慶春会に間に合わない様にするのだろう。

 

 それに、黒羽貢は今回本気で事に当たる様子を見せていた。

 恐らくは妨害の規模もそれ程楽観視出来ない。備えが居るだろう。

 

 だが一方で四葉分家の力は期待できない。貢は彼の意思についてどの分家が賛同しているかを述べなかった。誰が敵か分からない以上、下手に何処かに頼る訳にも行かない。

 かと言えども、四葉真夜に助けを求める事も出来ない。実質的な八方塞がり。

 

 余裕は、あるに越した事はない。

 幸い、今回は強烈な国家権力を持つ者に対し貸しがある。腐らせる前に返してもらう事にしよう。

 

 そう考え、"彼"に連絡する為に端末を手に取った。

 

 

 

 





 と言う事で黒羽貢さんが取る行動が少し変わりました。

 なんか書いてて第二章の主人公が貢さんになっちゃうとか思ったりしましたけど全然そんな事ありません。彼の出番は結構少ない。

 そして今回はオリ主も絡みます。ちょっと個人的願望が混じるかもしれませんがご容赦を。


 次回、オリ主回。家庭訪問。



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第二章十七話~護衛~

 四葉分家の力を考えると野外での密会は内容が漏れる可能性があり、どこぞやの店で落ち合うとしてもそこが四葉の勢力下と考えると怖い事この上ない。

 では最も盗聴、盗撮の心配が無い場所とは?

 まぁ常識的に考えて自宅がそれですよね。





【Tuesday,December 26 2096

 Person:operator4】

 

 

 

 

 "彼"自身は、元々人間関係については一定以上は無関心な節がある。

 

 恋心を向けられてもそれについて考えたりはせず、恐れられても自分から離れたりはしない。

 例え相手や、もしくは自分自身がどのような感情を抱いていたとしてもある種最適な距離を取っていると言える。

 

 

 

 とは言え、流石に家に招かれるのは意外だったが。

 

 

 

「よくもまぁ信用できない人間を家に入れよう等と思ったな」

 

「盗聴される心配が無いからな。お前にとっても俺にとっても、その方が良い」

 

 玄関で軽いやり取りを行いつつリビングへと入っていく。

 既に周知されていたらしく、妹さんには特に動揺した様子は見受けられない。

 軽く手を上げる事で挨拶代わりとする。

 

 

 無論、初めて見る顔も居ない訳ではないが。

 

 

「何時の間に三人家族になった?そこそこ腕は立つ様だが・・・まぁ、深く聞くのも野暮だな」

 

 一応は"彼"にとっては此方は四葉の諸事情を知らない事になっているのだろう。一方で"彼"や妹さんが四葉の縁者なのは知っている為、こういう反応を返しても不自然ではないはずだ。

 

「別に茶は出さなくて良い、五分ほどで済む内容だ。もし同行するのであれば、全員聞いておけ」

 

 多少面倒とは言え、これも仕事だ。

 "彼"に借りが有り、かつ後の事を考えると出来る限り手を貸して味方と思わせるのが良い。

 

 バックから作戦要綱を三部だし、立ったまま机に置く。

 

「詳しくはそれを見ろ。其方が乗車するであろう車両の護衛に此方の部隊が着く。護衛車両は二台、どちらも民間車両に偽装しているが中身は軍用の物だ。固定武装は無し、乗車する兵士の武装は軽機関銃に擲弾銃、各種手榴弾になる」

 

 "彼"から頼まれた内容は、道中に想定されるであろう妨害勢力からの攻撃に対する護衛、及び排除。

 本来ならば最初から最後まで此方で用意した方が本来はやりやすいし、最終的には空を使えば良い以上楽ではある。しかし、対外的には四葉本家の位置を他者に教えるのは不味いのだろう。

 

 それぞれ資料を手にとって眺める中、"彼"が確認すべき要素を聞いてくる。

 

「対魔法師装備は」

 

「車両には無し。そちらの最終的な行き先は知らんが、指定された護衛予定のルートの始点、中間、終点に対物ライフルを装備したスナイパーをそれぞれ二組配置している。距離は約五百メートル。一定規模なら即応が可能だ」

 

「口径は」

 

「二十ミリ。呼ばれてから数時間の間に装備した手腕を褒めて欲しいな。今頃は演習場で零点補正をしてる為、狙撃の精度は安心してくれていい」

 

「戦闘終了後の隠蔽工作は」

 

「全て手配済み、と言うよりはお前達が通るルート上の想子センサー、及び監視カメラその他は完全に掌握される予定にある。通報が合った場合も想定済み。お前達が出発するまでには間に合うだろう」

 

 逆に言えば、ここまでが限界。時間が有れば多少はマシだっただろうが、即興で仕上げるのはこれが限界だ。何せこの後真夜中に部隊配置を完了させ、車両を付近で待機させる必要がある。この時点で隠密状態で使える航空輸送能力を限界まで使った形となる。

 

 それにはっきりと言えば護衛車両は本物の、固定武装を持つ軍用車両にした方が良いのだ。しかしそれをやると幾らなんでもあからさまな上に目立つ。"彼"がそれを望まなかった以上、仕方がない。

 

「まぁ此方で対応出来ない攻撃はお前さんが防いでくれるんだろう?お前の手の回らないところをカバーしてるんだ、それで良しとしてくれ。仮にお前の車両が潰れたとしたら護衛車両を一台持っていって構わない。乗員は此方で回収する」

 

 "四葉"である以上本来の車両には対EMP防護処置くらいはされている。しかし、今は四葉の分家が敵に回っている。恐らくは処置が施されていない車両を回されるか、もしくはそう工作される可能性がある。

 

「他の御二方も問題ないな?」

 

 そう、妹さんともう一人に目を向けて尋ねる。

 

 

 全く、"彼"もよくやる物だ。

 

 

 目の前に居る、もう一人の少女。名前はまだ知らないが、調べるつもりも無い。だが、一つだけはっきりと分かる事がある。

 

 彼女は恐らく、誰かからの命で"彼"を監視している。言わば内部スパイだろう。そしてそれは、恐らく"彼"自身も感づいている。

 

 まぁどうせ四葉真夜からだろうが、それでも俺と直に接触を持っている所を見せるなど。

 

 

 詰まる所。

 

 "彼"は、四葉とも独立魔装大隊とも違う別の伝手を持っていると言うブラフを四葉真夜に対して見せたいのだろう。

 

 

 "彼"自身も、四葉の側から何かをされる事をなんとなくではあるものの察知してはいるのだろう。

 

 しかし、別にその茶番に付き合った所で此方にとっては問題がない。

 今は乗っておいた方が良いだろう。

 

「その資料は持ってって良いが作戦終了まで外部には漏らすな。念の為スナイパーの配置などは要所になる為記載してないが、それでも漏れないに越した事はない」

 

 返事を確認して、"彼"にそう述べる。

 それに対して、"彼"は確かに頷いた。

 

「あぁ、分かった」

 

「それじゃあな。何かあったらお前から俺の方に連絡してくれ」

 

 そう言ってリビングから出て行く。

 

 

 

 "彼"自身も足掻いているようだが、これから起こる重大な事は阻止できないだろう。

 

 様子を見た限りでは、それだけは間違いない。

 

 

 今だ、"彼"の目は。

 

 

 "四葉"しか見てはいないのだから。

 

 

 

 

 






 と言う事で唐突なオリ主勢力とお兄様の共闘パート2。

 四葉継承編が思ったより早く進むであろう理由の一つがこれです。オリ主勢力の力を借りたお兄様を邪魔だて出来る者は基本的に居ない。

 尤も、チラリと仄めかしましたがもちろん最後まで護衛する訳では有りません。故に新発田の御三方は若しかしたら妨害に間に合うでしょう。単独ですがまぁ、どうせ戦ってたのはお兄様だけだし。無論そっちはノータッチ。

 さて、次回。オリ主回。優雅ではないけど空の旅。



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第二章十八話~空中~

誰も居ぬ間にこそっと投下。

・・・投稿間隔は今後更に空く可能性があります。


【Saturday,December 29 2096

 Person:operator4】

 

 

 

 

 

『予定時刻まで後十分。ルート上に異常なし』

 

「よろしい。敵は魔法師の可能性があり、かつ此方は攻められる立場だ。不得意分野である事に留意しろ」

 

 輸送機を改造した対地対空両用の早期警戒管制機の内部で状況を見守る。

 

 

 現状では現場には不穏な要素は確認できない。尤も護衛対象さえ移動していない以上当たり前ではあるが。

 

 一方、此方が把握してる限りでは松本基地の人造サイキック三十名が脱走。魔法の効果範囲が近接戦闘に限定されるとは言え、近づかれると脅威ではある。

 

 また、大亜連合宥和派でも動きがある。動員している速度からして間に合わないとは思われるが、増援の可能性も考慮しなくてはならない。

 

 

 そして、何より我が子飼いの特戦群予備分遣隊は元々フォックスハントが専門だ。護衛と言う分野については不得意と言って良い。他の非魔法師部隊より幾分かマシとは言え、相手の土俵で戦う事になる。

 

 

 今回の作戦は何もかにもが足りないと言っても良いだろう。だが、完遂させた方が"四葉本家"に対しての意思表示となり得る。

 

 

 

「流石に、泥舟に乗る趣味はないからな・・・」

 

 缶コーヒーを一先ず空けた所で、予定された時間になった。

 

「護衛対象の乗車を確認。二百メートル先で護衛車両と合流します」

 

「護衛車両に通達。先制するな。初撃はスナイパーに譲れ」

 

 護衛車両にそう指示を飛ばした後、モニターを見守る。

 

 二車線の道路にて護衛車両二台が"彼"の乗る車両を挟む。

 さぞ運転手は狼狽しているだろうが、そのケアは此方の仕事ではない。"彼"が何とかしてくれるだろう。

 

 

 そして、住宅街を抜けるまで二キロと言ったところで動きを見つける。

 

「進路上に敵一個小隊の展開を確認。待ち伏せです」

 

「車両による襲撃ではなかったか。始点のスナイパーに通達。数を減らせ。対象は任せる」

 

 その指令から数拍後、モニター上の敵のアイコンが二つ減る。

 

 口径二十ミリの対物ライフルによる一撃はたとえ対象が伏せていたとしても絶大な威力を誇る。不意打ちである以上は、防御の暇もなく挽肉が出来上がっただろう。

 

「敵、散開します。車列との接触まで後五百メートル」

 

「護衛車両はスモークを投擲。離脱時に擲弾銃をお見舞いしてやれ」

 

 敵が散開した以上、敵は一点に火力を集中させる事は難しくなった。対戦車装備をしているなら話は別だろうが、そうではない以上車列を止める事は不可能だ。

 

 敵の待ち伏せ地点をそのまま通り過ぎ、距離を離していく。

 

 敵戦力の損害も軽微だが、此方を追えない以上脅威にはなり得ない。

 車両の損害は軽微。軍用車両並の防御力を誇るだけあり、こちらの護衛車両は無事だ。

 流石に"彼"の乗る車両の様子まではモニターしていないが、護衛車両についていけていると言う事は問題ないだろう。

 

 

「警察、及び他の国防軍の動きは」

 

「現在は確認できず。市民の通報があったとしても間に合いません」

 

「よし、護衛車両及び途上のスナイパー各員は索敵を怠るな。本機は規定のルートを飛行しろ」

 

 

 そう指令を飛ばした後、携帯端末を手に取る。

 

 無理矢理本機の通信設備で電波を飛ばしているだけあり、彼の端末へ無事に通信を送れた。

 

 

「待ち伏せを抑えた。索敵はさせているが、今日の内に向かえばルート上で襲撃を受ける可能性はほぼないだろう」

 

『助かる。運転手の精神衛生に合わせた護衛をしてくれればなお楽だったがな』

 

「無茶言うな。本来は最初から全部こっちでやった方が楽だったんだからな」

 

『冗談だ。俺一人ではここまで押し通す事は出来なかっただろう。礼を言う』

 

 その言葉に、思わず笑みが零れる。

 お互い、そんな事を言う間柄でも無いと言うのに。

 

「気にするな。護衛終了地点まで残りは約九十キロ程だ。それ以降は要望どおり、此方からは手を出さない。恐らくは何かしらの妨害があるだろうから、気をつけろよ」

 

 そう言い残し、通信を切る。

 

 

 

 これで、"彼"への義理は果たした。

 

 

 

 残るは、此方のやるべき事をやるのみ。

 

 

 

 投下パックの中身を一式確認した後、自身の空挺装備のチェックをする。

 

 無論、このまま高高度からパラシュート無しでも死にはしない。そもそも人間ではないのだから。但し、流石に四葉真夜から呼ばれている中で戦地帰りのような格好で行く訳にもいかない。余りにも不恰好だ。

 

 投下パックの中身は単純。何時ものスーツと、各種装備一式。脱出時は荒事になる可能性もある為、擲弾銃や軽機関銃も弾薬は僅かながら中に入っている。

 

 

「大晦日には大変な事になるだろうが、我々にとっては好都合だ」

 

 

 今年最後の山場は、特等席で見せてもらおう。

 例え何が起ころうと、物語の最後は決まっている。ならば、それは何よりも愉快な形であるのが望ましい。

 

 

 

「今は苦しめ、司波達也。全てのカードは、俺もお前も揃っているのだからな」

 

 

 






 最近新刊を追うペースが遅れております。だが残念な事に物語の終結地点は孤立編序盤あたりまでになるのかなと思います。どの地点になるかは不明ですが、最終的にはお兄様が優位に立つのが望ましいかなと。

 今回、大亜連合宥和派の襲撃については間に合っていない事になります。仮に間に合った場合はここで襲撃を仕掛けたらサイキックの残党との不意遭遇戦となります。同時に東京から山梨までは一定距離あるので新発田さん家は間に合うかと。結局原作どおりの展開ではありますが。


 次回、達也回。黒羽貢さんの独白あたりかな。
 


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第二章十九話~哀願~

区切りが良い所までは少しばかり間隔をつめて投稿しようかと思います。





【Sunday,December 30 2096

 Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 

 "彼"の護衛により、本来想定された妨害の殆ど全てを撥ね退けて本家に着く事が出来た。

 唯一足止めをされたところも本家の直ぐ傍で新発田が直接向かってきただけであり、簡単に制圧が出来た。

 

 本来は、本家にたどり着くという目的を完璧に達成している。

 

 

 しかし、今の時点で状況を鑑みた場合は悪い方向へと向かっていた。

 

 

 黒羽の、そして新発田の発言と行動を見る限りではこの他に真柴と静の二つの分家が敵対している。一方、此方に味方しようとする分家は皆無だ。

 

 本来は、居なかった訳ではない。深雪の話では津久葉が"恩を売り"に来た様子ではあった。だが、そのチャンスは完全に無くなった。此方が圧倒的な勝利を収めたばかりに、恩を売る余地がなくなってしまったのだ。

 

 となると、津久葉でさえ敵方に合流する予想が立てられる。元々敵か味方か分からない者に頼るつもりは無かったとは言え、良い状況とは言えない。

 

 

 この状況下で、味方にすべき勢力は二つ。四葉本家と、"彼"の勢力。

 

 

 どちらか一つの場合、確実に依存度が高くなる。現時点ではまだ独立魔装大隊の力も頼りにはなるが、四葉分家を相手取る場合は物足りないだろう。

 

 幸い、今回の件により大幅に時間を稼げたはずだ。四葉真夜の意向次第ではあるが、まずは一段落がつけるだろう。

 

 

 

 

「それでは、聞かせて頂いても良いでしょうか」

 

「いいだろう。だが、聞けば後悔するぞ」

 

 到着から一日後に、黒羽貢と文弥、そして亜夜子が本家に到着した。幸い彼らより早く着いていたため、時間が空けば伝えてほしいと述べていた。

 

 そして、既に日も暮れ夕食も済ませた後に貢から呼び出された。

 

「聞かずに後悔するつもりはありません」

 

 そう述べた事で返答とし、貢の話を待った。

 

 

 

 何てことは無い、唯の彼らのセンチメンタルな罪悪感の吐露に過ぎなかった。

 

 "彼"であれば、力を持つことの意味も分からずに手を出した愚か者と笑うのだろう。

 

 どちらにせよ、過ぎた過去の話ごときで何年も煩わせてくれた事に対する呆れしかなかった。

 

 

 

「・・・よく分かりました。あなた方の理解しがたい行動の裏にあった動機がセンチメンタルな罪悪感に過ぎなかったという事が」

 

 そう、端的に評価する。相手の感情を逆撫でするような言動を取ったのは、単純に気を配る"価値"がないと思ったからに過ぎない。

 

 

 しかし、貢は感情を荒立てる事はなかった。

 

 

「そうだな、君にとっては下らない話だろう。だが、だからこそ、私はこの罪を子供達に背負わせる訳にはいかない。少なくとも、君を真夜さんの手に渡す訳にはいかない」

 

 

 この発言は、中々にリスクがあるものだ。FLTでの時とは異なり、ここには何処に四葉真夜の目があるのか分からないのだから。

 

 そして、それは貢自身も分かっているはずだ。

 

 

「・・・今の状況を理解していると言う前提で聞かせて頂きます。何故、そこまで拘るのです?」

 

 

 そう端的に聞くと、まるで枯れた老人のような笑みを浮かべながら貢は零した。

 

 

「簡単さ。出来る事なら、私は自分の子供達には幸せになってほしいというだけだ」

 

「・・・と言うと?」

 

「分からないか、分からないのだろうな。恐らくは、それも私達の罪だ」

 

 貢は更に何かを言い出そうとし、一旦首を振った。

 

「いや、私から言うべき事では無いな。だが、これだけは敢えて言わせてもらう。今ならば、今日の内ならばまだ間に合う。どうか、考え直してはくれないか。私も、自分の手で娘の幸せを摘み取りたくはない」

 

「仰る意味が分かりかねます。亜夜子は今回の一件とは無関係でしょう。そして、俺がどう振舞うべきかを最終的に決める事ができるのは深雪のみです。何を言われようと、意思を変えるつもりはありません」

 

 

 

 そう言い切った事で、ようやく貢は諦めた様子だった。

 

「・・・分かった、もう帰り給え。どうしても無理であるのならば、私にも、もう用は無い」

 

 貢がハンドベルで呼んだ家政婦の案内の下、玄関まで向かう。

 

 

 

 今回の様子を見ると、理由はさておき黒羽貢が持ちかけてきた話の動機はきわめて個人的な物であるのは確かだ。それも、分家間での企みに関わるものでさえない類の。

 

 そして、彼自身が焦りや苛立ちを見せたのもその"個人的動機"が基にしかなっていない。

 

 

 詰まる所、黒羽や新発田、真柴や静の目的は既に達成されているのではないか?

 

 

 もしや、と思う物はあるが確証が無い。本家が、四葉真夜の意志がまだ分からない以上は結論を出す事が出来ない。四葉真夜自身にそれを防ぐ手立ても最早ない。それに、達成可能な条件もかなり限られる。荒唐無稽ではあるが、もしそうであるのなら。

 

 

 既に何もかもが手遅れになり、

 

 

 

 泥舟と化した四葉本家に頼る事は出来なくなるだろう。

 

 

 

 




結構ぽろぽろとお兄様にヒントを出しすぎた感。ここまで来たら流石にお兄様も可能性は考慮するだろうかなと。しかしそれでもここまで来た時点で間に合いやしませんがね・・・。

お兄様の行動を鑑みる限り、思ったよりお兄様の自身に対する評価は低いです。同時に、彼自身幾らなんでも「妹と結婚させる為に戸籍を偽造させる」などと言う荒業までは想像できない。故に既に手遅れかなと。


何のことかって、最早分かりきった話かなと。

次回、オリ主回。馬に蹴られるのが一条とは限らない。それが本人達の意思かは別として。


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第二章二十話~破滅~

俗に言う切れが良いところになります。




【Monday,December 31 2096

 Person:operator4】

 

 

 

 

 

「全く、都合は分かるがこの一室から出れないとは」

 

「でもここで達也さん達に見つかりたい訳ではないでしょう?」

 

 此方のちょっとした愚痴に対して、真夜がそう返してくる。

 

 

 先の作戦の後、例のごとくパラシュート降下で真夜中に四葉の村へと降り立ち、秘密裏にこの部屋に案内されるまでに一日が既に経過していた。

 

 とは言え実際にこの部屋で一日を明かした訳ではなく、丁度今朝方に案内された形になる。

 

 

 恐らくは使用人が直ぐに向かえる為なのか、備え付けられているモニターには食堂の映像が映し出されていた。

 

「状況と様子を見る限り、この食堂でネタ晴らしをすると言う事で合っているのか。それとも、先に聞かせてくれるのか?」

 

 そう聞いてみると、真夜はわざとらしく笑った。

 

「楽しみは後に取っておいた方がよいでしょう?・・・でも、あなた方にならさわりだけは教えてもいいかしら」

 

 そう口にした後、まるで誇るように述べてきた。

 

「今日、この食堂で深雪さんを次期当主に指名するわ。そこに後一手を加えれば、達也さんは絶対に私達に、四葉に逆らえなくなる」

 

「甚だ不安だな。そもそも妹さん自身が四葉に忠誠を誓ってる訳ではない」

 

「えぇ、"本来なら"そうでしょうね」

 

 

 まぁ、本当に注視すべきはそこではないのだが。

 

 

 敢えて茶番に乗りつつ、此方の意図を口に出す。

 

「まぁ、万が一お前達が思惑通りに司波達也を手中に収める事が出来たら、お前たちのことを認めよう。尤も、我々は全く別の答えを手に入れてるがな」

 

「あら、"鴉"が今更常識や倫理観に縛られる筈も無いでしょうに」

 

 そう答えてくるが、この調子では手駒にする価値さえない集団でしかない。

 

 

 手足は問題ないのだ。四葉分家の"本命"を思えば、よくここまで日本社会の"意志"を捉えた策を巡らせたものだと思える。仮に四葉本家が真に四葉分家を抑える事が出来たならば、四葉真夜の思惑通りになっただろう。

 

 

 "鴉"は、四葉を愛し子として認めただろう。

 

 

 だが、最早不可能だ。

 

 

「まぁ、ゆっくりとコーヒーでも飲みながら見させてもらうさ」

 

「えぇ、楽しみにしていて下さいな」

 

 

 そのやり取りを最後に四葉真夜は部屋から出ていく。

 

 丁度、食卓を囲う人々が揃い始めている様子が見えた。

 

 

 

 モニターの向こうでは食卓を囲みながら話す様子が見える。

 無論、此方の分は無しだ。元々頼んでも居ないし、長居する必要性も感じられなかった。

 

 丁度、装備を整えコーヒーをもう一杯淹れ終えた所で次期当主に関する話が聞こえてきた。

 

 

 この中の話で意外だったとすれば、ここで四葉分家の面々が次期当主候補の地位を返上し、司波深雪を次期当主に推した事だ。

 

 本来は分裂しても良い筈だし、その流れだったろう。しかし、彼らは最後まで"四葉"を捨てるつもりは無かった様だ。

 

 

 何より、最終目的である"司波達也を四葉の中枢から遠ざける"と言う点では成功している。彼らが持つ"彼"に対する謎の嫌悪感が四葉真夜や四葉深夜に関連する何かに起因するのであれば、それらから遠ざけるだけで全てが済むのだから。

 

 

 最後の確認を取るために、コマンドを開く。

 

 〔operator4:確認だ。"司波一家"の現在位置と状況を教えてくれ〕

 

 

 〔moderator10:現在"司波龍郎、及び司波小百合"は七草への亡命を成功させました。四葉分家の工作員も発覚する事無く離脱に成功しています。現在は七草が管轄する旅館に宿泊しています〕

 

 

 〔operator4:よろしい、想定どおりだ。総員は予定通りに情報収集に励め。"彼"が完全に孤立しかけた状況を狙い、"我々"が抱き込む〕

 〔moderator1:了解。大きな事象の兆候が見え次第連絡します〕

 

 それを最後にコマンドを閉じる。

 

 

 もう、結果は決まってしまった。

 

 

 この場面になったら、流石に"彼"も一定の可能性に気がついているだろう。"彼"の反応を見るのも一興かもしれない。

 

 そう思いなおし、彼らの話を区切りの良いところまで見る為に座り直す。

 

 

 そして、モニター越しで見る限り、食堂の中に四葉真夜とその執事(葉山)、"彼"と妹さんのみが残っていた。

 

 

 テーブルが直され、幾つか言葉を交わした後に四葉真夜が切り出す。

 

 

『さて・・・二人に残ってもらったのは、とても大切なお話があったからです。

 

 当主ともなれば、結婚相手も自分の一存というわけにはいきません。これはさっきもお話したこのなのだけど、その話の前に・・・達也さん。

 

いきなりこんな事を言われても信じられないかもしれないけど・・・深雪さんは、貴方の実の妹ではありません』

 

 

 その話を切り口にして、嘘の物語(カバーストーリー)を話していく。

 

 曰く、自身の冷凍保存されていた卵子を用いて司波深夜を代理母として生ませたとか、自身の息子であるが故に妹さんの実の兄ではないとか。

 

 

 本人は、裏工作を用いればDNA鑑定でさえ誤魔化せると思っているらしい。

 

 下らない。結局のところ、事実とは他者にとって都合の良いように改変されるものであり、正規の手順を踏む必要が無いと言う事は自分自身が証明していると言うのに。

 

 

『それで先ほどのお話ですけど・・・深雪さん。貴方が四葉家の次期当主となる以上、残念ながら自由な恋愛は認めてあげられないわ。

 

 ・・・明日の次期当主指名と同時に、貴方の婚約者を発表します。その相手は、達也さんです』

 

 

 

 そう四葉真夜が言い切った所で、"彼"の表情が変化する。

 

 

 

 まさに、"絶望"だろう。最も手の出しようが無く、最も追い詰められるのは彼ら兄妹なのだから。

 

 

 

『・・・"叔母上"。理由は、後ほど教えていただきます。しかし、仮に叔母上の目的が俺と深雪を婚約させることだとしたら、既に手遅れかと』

 

 

 

『・・・どういうこと?』

 

 

 

 その言葉と同時に、葉山の端末に通知音が鳴る。"彼"や、妹さんの端末にも。そして、此方の端末にも同様に。

 

 部屋を出て行き、端末を開く。

 そこには、全てを破滅へ導きかねない知らせが乗っていた。

 

 

 

 

 

『日本魔法協会広報

 

 12月31日に、七草家は国立魔法大学付属第一高校の生徒である司波達也の御両親に対して"七草真由美と司波達也との婚約"を申し入れ、同日18時に司波達也の父である司波龍郎はその申し入れを受け入れる事を七草家、及び当魔法協会に対して通達しました。

 

 魔法協会はこの婚約を支持し、この事がこれからの魔法師の発展に寄与する事を願うと共に祝福のメッセージとします。

 

                       12月31日 日本魔法協会広報部』

 






と言う事ですべてがぶっ壊れました。

本編でも述べるとは思いますが一応ネタ明かし。

大前提として、四葉真夜の思惑を見抜けたものは誰一人としていません。一方、このままではお兄様が四葉の中枢を握る人物になる事を恐れた四葉分家は七草に渡りをつけます。

目的は、七草真由美を"司波達也に嫁入りさせる事"です。

公式に次期当主が発表されるのが元旦と分かっていた以上、たとえ一日しか差が無かったとしても先にこれを達成してしまえば四葉分家の目的は達成されてしまいます。寧ろ、次期当主が事前に指名された事も目的通りでしょう。

ここでのキーポイントはお兄様が七草家に婿入りするのではないと言う事です。あくまでお兄様を"四葉達也"ではなく"司波達也"と言う立場に固定させる事で、お兄様は十師族の権力からは遠ざけられてしまう。また、他家も巻き込んでいるためそう簡単に覆す事はできない。

ここでのキーポイントは一応は親権を持っている司波龍郎と司波小百合になります。たとえお兄様と妹さんが婚約しなくとも、妹さんが次期当主となった以上はお兄様も権力を手に入れます。今までの扱い方からして、御両親は唯でさえお情けで生きながらえていた状況が更に悪くなります。と言うか四葉真夜の思惑を考えると抹殺まで考えられます。

そこで、四葉分家は四葉本家の目を誤魔化しつつ二名を七草に亡命・・・つまりは保護してもらった訳です。転職先はきっと確保されているでしょう。皮肉にもこれのお陰でFLT内でのトーラス・シルバーの地位は一気に向上するでしょうが、本人にとってはそれどころではないでしょう。



唯一述べるとしたら、こんな外道極まる謀略を巡らせた四葉分家連中と七草家当主は確実に地獄に落ちるでしょう。特に黒羽貢。

まぁもれなく妹様発狂コースになりかねませんが、来るべき一年までは平和なんじゃないかな。だって当人の意志もないわけではない・・・しね?

次回、未定。どっちにしても作者にとっては愉快な事になります。


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