一般人15歳で〝ちょっと〟変わった彼のIS生活(完結) (A.K)
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第一幕 今現れし名前無き破壊者
世界で一番嫌なところは……一年一組


はいどうも、皆さんこんばんは。

毎度お馴染みの駄目文作者のA.Kです。

今作は以前活動報告で言っていた作品です。

まあ……オリ主は徐々にオーバースペックになっていきますが、オーバースペックになるのはだいぶ先ですね。

取り敢えず(∩´。•ω•)⊃どうぞ


IS、この世界でその言葉その意味を知らない人間なんてまずいないだろう。

 

 

 IS……正式名称《インフィニット・ストラトス》と呼ばれる現存最強兵器とよばれ、今までの戦車や戦闘機等の兵器が全く効かない正に超常兵器。しかし、そんなISはとある欠点がある。

 

 

 

────────女しか乗れない────────

 

 

そう、何故かISは女にしか反応しない。そのせいでか、この世界には10年前から女尊男卑なんて言う言葉が生まれた。そのおかげで俺こと『榊澪』を含む男達は毎日の様に女からこき使われるような生活をして来た。

あっ……因みにだが、俺の名前の読みは『さかき・れい』だ

 

 

 

 そんなISは未だに歴史の浅い物だ。今から10年前に誕生し、圧倒間に世界に広がっていった。それ故にまだISの事は完全に把握してはいないとのことだ。それでだ、なんと数ヶ月前に遂にIS歴史10年にして初の世界初の男性IS操縦者が見つかった。

 その男の名は『織斑一夏』、IS界最強と呼ばれるブリュンヒルデ・『織斑千冬』の実の弟だという。まあそういう訳で、男の操縦者が見つかったということにより男性操縦者チェックというものが世界中で始まって……

 

 

 

 

 

 

 

「貴様はまともな挨拶も出来ないのか」

 

「げっ、関羽!?」

 

「誰が三国志の英雄だバカ者!」

 

「『パアァァァァン』……いったぁぁ!?」

 

 

 俺の目の前でそんな事が行われている。今俺がいるのは『IS学園』と呼ばれる現存最強兵器である『IS』の知識や技術、更にはパイロットを育成する学校だ。本来は完全女子高の筈なんだが、織斑一夏や俺が今いるので今の所男女合同学校になった。

 はい、そうなんです……なんか俺にはIS適正がありました。なので、俺はここIS学園に強制的にぶち込まれました。畜生、志望校に受かって喜んでたのに無理矢理変えさせられたよ……俺の努力返せ。つーか今織斑叩いたのって……織斑千冬じゃないか?つーかなんつー威力で叩いてるんだあれ。ん?ここにいるってことは教師をやっているって事だよな。だったら教師が生徒をあの馬鹿げた力で叩くのは馬鹿げてないか?

 

 

「あと……」

 

 

そう言って、織斑千冬は一番前にある教卓のところから、教室の一番左後ろの端っこの俺の机の目の前に一瞬で移動してきた。

 

 

「私の目の前で何を考えてるんだ」

 

 

織斑千冬はそう言ってからその手に持つ黒い板……多分だが出席簿だな、それで俺を思いっきり……先程の音よりもさらに強い力で俺の頭を叩きやがった。その為、俺は織斑千冬に対して叫ぶ。

 

 

「っ、なにしやがる!」

 

「なにしやがるだと?なにって、私の目の前で教師を侮辱する様な事を考えていたからだ」

 

 

そう言ってさらに俺を叩こうとして、出席簿を振りかざしてそれで叩いてくるが……

 

 

「人の頭をバンバン叩くんじゃねえよ!!!!」

 

 

 俺はそう言って迫り来る出席簿に対し、誰の目にも目撃される事の無いパンチを叩き込む。それにより出席簿は天井に突き刺さった。

 織斑千冬を含めこのクラスにいる奴らが俺が何をしたのか分からずにポカンとしてやがる。

 

 

「……さっさと教師がいるべきところに戻れよ。俺の机の目の前にずっと突っ立っているのか? それともなにか? 俺の机の前に立ち続けるのが教師の仕事か?」

 

 

 織斑千冬は俺のその言葉を聞くと俺にしか聞こえない程度に舌打ちし、真ん前の教卓の方にへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これがISなんて大ッ嫌いな俺が、IS学園初日の初めに起きたことだった。




ISが大嫌い、そんな彼のお話は次のステージへ


「ISはスポーツ?はっ……何を言うかと思ったらそんな戯れ言を言うか」



次回=ISなんて嫌いだ=


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ISなんて大嫌いだ

ああ……長ったるくなってしまった。

次は四千文字以内に収めたいな……

(∩´。•ω•)⊃では、本編へどうぞ

あと予告と変えました。すみません……





平成27年6月1日)内容一部変更、予告変更


あれから少し時間が経ち、今はこの学園で初めてとなる休み時間だ。普通なら新しい友人・前からの友人と話したり、次の授業の準備や予習をしたりと様々な事をする時間である。

 

 

「……チッ」

 

 

 生憎、今の俺はとても苛立っている。勿論のこと原因はあのクズ教師だ。あの教師とは思えないような行動ばかりをするあいつのせいで、俺の心情はとても荒ぶっている。さらに廊下にいる大量の女子達、そいつらから出ているまるで俺を『珍獣』の様に見てくる視線。それがたまらなくイライラさせる。

 

 

「ねーねー」

 

「ああ?」

 

 

俺は突然声を掛けられ、余りのイラつきにより怒りを混ぜながら声のした方向にへと視線を向けた。

 

 

「あうう……なんで怒るのさ〜」

 

 

俺の視線の先には小動物的な少女がいた。しかも涙目だ。これは間違い無い、俺の「ああ?」のせいだ。たしかこのやけにダボダボした袖を着ている少女は確か……

 

 

「あー……えーと、なんか済まない……というより申し訳ない布仏さん」

 

 

俺がそう言うと布仏さん────本名『布仏本音』は、泣きそうな顔から一変して笑顔になった。

 

 

「許してくれるの〜ありがとうね!レイレイ〜」

 

「えーと、レイレイとは俺の事か?」

 

「うん!榊澪でレイレイ〜。あとついでなんだけど、お菓子ある〜?」

 

 

 もう何と言うか……これまでの人生で初めての体験をしてるんじゃないか今。あとなんか知らないがこの子を見てるだけで癒される感じがあるな。あと布仏さんはこうなんというか、独特のテンポでやり取りがしずらい。主権をあちら側に奪われている様な気がするな。

 

 

「お菓子か……確か鞄の中にあるはずだ。ちょいと待ってろ」

 

 

 榊はそう言うと自分の鞄の中にあるはずであるお菓子を探すために、あーだこーだ言いながら鞄の中に手を入れながら探した。

 

 

「ん……これだ」

 

 

 榊はそう呟いて、あるお菓子の箱を取り出した。

 

 

「最後までチョコたっぷりの『POT』……これでもいいか?」

 

「うん!ありがとレイレイ〜」

 

「おう。……あと手を出せ」

 

「はいは〜い」

 

 

 俺はその言葉を聞いた後早速お菓子の箱を開け、中の袋から最後までチョコたっぷりの棒状のお菓子を出す。そしてそれを布仏の手に載せる。

 

「……布仏」

 

「ん〜?なーにレイレイ」

 

「今すぐ自分の席に戻れ……何か嫌な予感がする」

 

「……んー分かった。んじゃ戻るね、お菓子ありがとうね〜」

 

 

布仏はそう言って自分の席に向かって行った。さて……もうそろそろ嫌な予感が的中する頃だと思うのだが

 

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「(やはり当たったか……)……何の用だ。イギリス代表候補生セシリア・オルコット」

 

「あら? 一般の人だから私の事を知らないと思っていましたが、案外知ってるものなのですわね」

 

 

……チッ、やはりコイツもこの時代の典型的なタイプである女性主義者の一人か。しかしまあなんだ。コイツのクルクルしているロール型の髪型、そしてその身分がイギリスの有名な貴族オルコット家の現当主で、更には確か世界で初めてとなる【遠隔脳波操作無線兵器】搭載機のパイロットだ。いくら一般人でも大体わかるだろ。

 

 

「流石にIS関連の所に行く事になってからIS学の事や、専用機やその操縦者の事も調べておくってのがアンタの頭でも分かるだろ?」

 

「……少し話し方が気に入りませんが安心しましたわ。あの織斑一夏は世界最強である織斑先生の弟だからある程度はISの事を知っていると思っていました。しかし、私は一般人である貴方は何も知らないのではないかと思っていたので」

 

「そーかいそーかい、アンタの頭の中では俺をそんな風に思っていたのか。多分アンタは俺がもしも『知らない』と言っていたら俺をバカにした挙句ひどいことを言っていただろうな。だってアンタ先程の言葉からして女性主義者の一人なんだからさ」

 

 

 今俺はこう言ったが実際この時代の一般人の男はある感覚が非常に研ぎ澄まされている、それは相手が敵かどうかっていう識別の感覚だ。この時代女性主義者の馬鹿達が好き勝手するもんで、一般人の俺を含めた男はそいつらから身を守るために相手が敵かどうかっていう識別の感覚が非常に高まった。

 因みに目の前に居るセシリア・オルコットは俺の言葉を聞き、自分が考えていたことを当てられて非常に不愉快……と言うような表情をしている。

 

 

「どうやら図星見たいだな……ええ? 生憎、俺はアンタみたいな女性主義者の馬鹿女とは仲良くするなんて事はねえから安心しろよ……っと、もうそろそろ次の授業が始まるな。アンタも早く座りな、早くしないとさっきの俺みたく頭をバンバン叩かれるぜ」

 

 

 俺の言葉に対して「……くっ、覚えていなさい!」と言いながら、セシリア・オルコットは自分の席に戻って行った。二度と来るんじゃねえバーロー

 

 

 

────────────────────────────────────

 

 

 それから二分後、先程の俺の言葉通りあの低脳屑教師が哀れな生贄……じゃなくて、このクラスの良心である山田先生を手下にしながら教室に入ってきた。

 本当に思うけど何であの低脳屑教師が担任なんだ? アイツ確かIS学園のホームページではこの学校の中で一番就任履歴が若い部類の先生なんだよな。実際山田先生は既に五年程教師として働いてる。本来であれば担任は山田先生の方が適任で、年齢では山田先生より上だとしても教師歴は圧倒的に山田先生の方が多い。本当に不思議だな。

 因みに何故か織斑一夏と篠ノ之箒が授業に遅れてきた。それであの低脳屑教師は二人に殺人スマッシュをかませてた。やはり身内には甘いあの低脳屑教師は、俺の時より確実に弱いスマッシュを他の奴らにやっているよな。

 この授業は実戦で使用する武装を習う『IS武装学』という授業らしい。担当教員はあの低脳屑教師だ。どんな授業をするのかと思っていたが、案外普通に行っていた。しかし、なんか説明が判りにくい。

 

 

「────っと、済まないが一時授業を中断する。大事な事を忘れていた」

 

 

ん?なんだ

 

 

「実は再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めなければならない」

 

 

 クラス対抗戦・代表者……そうか、即ち各クラスの代表が他クラスと戦って頂点を目指すってことか。ん?前の方で織斑一夏が首を傾げてるな。大体わかるだろこんぐらい……

 

 

「クラス代表者は言わゆるクラス長だ。クラス長に選ばれた者はクラス対抗戦以外に様々な仕事がある。なお一度決めたら一年間は変わらないと思え」

 

 

 あの低脳屑教師がそう言うと、教室内がざわつき始めた。外国じゃどうか分からないが、日本だと大体どこの学校でも今と同じ反応をするよな。でも今回は一人選ばれるのか……、だとするとだ。俺の予想だとこの後の展開がどうなるのか少し予想出てきたぞ

 

 

「はい!私は織斑君を推薦しまーす!」

 

 

やはり予想通り。やはり世界最強(笑)の影響が有るのか、やはり織斑一夏が推薦されたか。

 

 

「……む?」

 

 

 織斑一夏の奴……自分の名が挙げられているのに、「織斑って奴が選ばれたんだー」とでも思ってるかのようにボケってしてやがる。で、さっきの休み時間中に話し掛けてきたお嬢様(笑)が何やら……まあ予想は出来てるがイライラしてやがる。生憎俺はアンタみたいな女性主義者の馬鹿を推薦する気なんてない

 その後、結果的に織斑一夏以外の推薦は無かった。で、あの低脳屑教師が「結果が出たか」と言ってから全員に向けて言う。

 

 

 

 

「……では、代表者候補は織斑一夏と榊澪の二名とする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……は?何で俺も候補に入ってるんだよ。俺は頭の中でそう思い、思わず席から立って叫んだ。

 

 

「巫山戯んな! 何で俺も候補に入ってるんだよ!? 誰も俺を推薦した奴はいなかったじゃねえか!」

 

「私が勝手に推薦しといた。感謝するんだな」

 

 

 もう駄目だこいつ。ただの自己中&女性主義者の馬鹿で低脳屑教師だ。もう怒りを通り越して返って頭が冴えてきた……

 

 

「織斑一夏……って、俺ぇぇぇ!?」

 

「テメエは今頃気づいたのかよ……」

 

 

 本当になんなんだよこの馬鹿姉弟共……、思考回路がどうなってんだか知りたいぜ。榊はそう思いながら席に座った時だった。榊が座るのと変わるように今度は先程から不機嫌になっていたセシリア・オルコットが机を叩いた後、「納得いきませんわ!」と言いながら立ち上がった。

 俺は普段懐に隠してあるICレコーダーに手を伸ばし、録音を開始した。ん?何故録音をするのかって?なんか俺の頭の中で録音をしとけと促せてるからだ。

 

 

「男がクラス代表なんていい恥さらしですわ!」

 

 

はい、録音を開始早々問題発言頂いたぞ。

 

 

「良いですか?普通今の時点で専用機を持ち、更に実力もあるイギリスの代表候補生であるこの私がクラス代表になるのは必然ですわ! それなのに男だからという理由で、珍しいという理由で男をクラス代表に選ばされるなんて困ります!」

 

 

……録音をして今更思うのだが、コイツは各国のお偉いさんにバレたらやばい事になるのではないか? あの金髪ドリルがまだ喋っているが説明させてもらうぞ。

 

 

 

 そもそもだが、ISの専用機を持ってる者は『国家IS代表』『国家代表候補生』『代表候補生』の三つの種類の人々しか普通は持っていない。この三つの中で一番高い位が『国家IS代表』である。いわば総理大臣みたいなもんだ。それで、セシリア・オルコットが属するのが『代表候補生』で一番低い位になる。

 しかし、一番低い位になると言ってもこの時点で既にある程度の権限というものがある。しかもその権限がほぼ国家の意志という感じになってるので、現在セシリア・オルコットは今日本のことを馬鹿にしている最中なのだが、これは言わば『イギリスが日本に宣戦布告している』と同じような事だ。俺はある国の国家IS代表とよく会う仲で共に数少ない友達でもあるが、その人はその意味をちゃんと理解していた。でもその人は何と言うか……猫みたいな印象を持った女性だ。

 話を元に戻すが、即ち今の時点でセシリア・オルコットは戦争を勃発させようとしているのと同じ事をしている。

 

 

 

「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一料理がまずい国で何年覇者だよ」

 

「……っ、あの馬鹿」

 

 

つい口に出してしまったが織斑一夏……否、馬夏はなんていう事をしてくれたんだ。

 

 

 

「あ、あ、貴方私の祖国を侮辱しますの!?」

 

 

あー……本当にやってくれたな。

 

 

「決闘ですわ!」

 

 

もう驚くのはやめた方がいいのだろうか……。そう言えば決闘って今の時代やると罰させるような……あっ、ここはそれらの法が利かないんだったな

 

 

「おういいぜ。四の五の言うよりわかり易い」

 

「言っときますけど、わざと負けるようなことがあるようであるならば……貴方を私の奴隷にしますわよ?」

 

 

……もうこいつら普通の学校だったら完全に逮捕されてるよな。

 

 

「侮るなよ……俺は真剣勝負で手を抜くほど腐ってはいない」

 

「そうですか……フン。ならそれはそれで結構、イギリス代表候補生であるこのセシリア・オルコットの実力を示すいい機会ですわ!」

 

 

あーそんな甲高い声を出すんじゃない。さっきから煩くてしょうがないじゃねえか

 

 

「それでハンデはどの位付ける」

 

「あら?早速お願いかしら?」

 

 

まー……相手は女性主義者の馬鹿だとしても、世界初の【遠隔脳波操作無線兵器】搭載機のパイロットだ。ハンデは一つや二つぐらい貰わないと素人である俺らはセシリア・オルコットに勝てないだろう……っと、榊は考えていたが織斑一夏はその考えを裏切るような言葉発した。

 

 

「いや、お前じゃなくて俺がどの位ハンデを付けるかだ」

 

 

はっ?

 

 

「待て待て待て待て待て待て待てぇぇぇ!?」

 

 

 もう我慢をするのが限界で、俺はそう叫びながら席を立った。俺のその行動を見たクラス全員の視線が刺さるが、今はそんなことを気にしない。

 

 

「い、一体なんだよ澪?」

 

「テメエは気安く俺の名を呼ぶんじゃねえ……」

 

 

俺は馬夏に自分の名を軽々しく呼んだので、少し怒気を孕んだ声を含めながら言ったら篠ノ之箒と言う奴に睨まれた。今はそんな奴よりこの非常識の塊に向けて言いたいことを言ってやる

 

 

「テメエ……今お前が言ってること、自分の頭の中で分かってるのか?」

 

「ん? なんでだ?」

 

 

俺はその言葉を聞いて、自分の頭の中で何かが切れたような音を聞いた。

 

 

「……テメエは本当にどうしようもないな」

 

「はっ?」

 

「貴様!私の一夏になんてことを言うんだ!」

 

「部外者は黙ってろ。念の為聞くが……テメエはセシリア・オルコットがどんな奴かわかってんのか?」

 

 

これで何にも分かっていないようなら、俺はコイツをこれから馬夏と呼ぼう。

 

 

「全然知らん」

 

 

はい即決定。

 

 

「このたわけが、お前戦う相手のことを全然知らないのにそんなこと言ったのか……。もうお前は馬夏と呼ぶ」

 

「……んじゃあ逆に聞くけど、澪はセシリアの事どんぐらい知ってんだよ」

 

 

ふむ。今度は逆に聞いてきたか……、なら答えてやるか

 

 

「セシリア・オルコットは先程も言っていたがイギリス代表候補生で、現時点でのイギリス代表候補生ではある点を除けば間違いなくトップランクの実力を持つ強者だ。しかもセシリア・オルコットは現時点での世界ISスナイパーランキングジュニア部門で一位。ISの方ではイギリス最新鋭である『ティアーズ型』の第三世代機の操縦士、さらに言えば現時点での遠隔脳波操作無線兵器の最大適正値を持ち、さらにそれを最大稼動とはいかないが高水準値で動かしている。さらにセシリア・オルコットは既にIS稼働時間は300時間を超えている────で俺が知っていることは全部だ」

 

 

俺がまさかそこまで知っているとは思わなかったのか、それとも男がそこまで知ってるのが予想外だったのかわからない。だからなのか、クラス全員が驚いている。

 

 

「で、俺が言いたいことがわかるか?」

 

「……す、済まないけど全く持ってわからない」

 

「大雑把に言うと、俺や馬夏、更にはここにいる教員を除けば今この場にセシリア・オルコットにかなう奴はいないってことだ。俺や馬夏とセシリア・オルコットでは差が大き過ぎる」

 

 

俺がそこまで言うとやっと理解できたのか、馬夏は成程……と呟いた。で、次は……

 

 

「あとセシリア・オルコット」

 

「な、なんですの!?」

 

「テメエはさっき自分が言ったことがどんなことを引き起こすのか分かってんのか?」

 

「……」

 

「テメエもかよ。いいか?これは馬夏も当てはまることだがテメエら二人のせいで、もしかしたら日本とイギリスでの戦争が起きる所だったからな。もうこれ以上言うの疲れるから後は自分の頭の中で考えろ」

 

 

俺はそう言ってから席に座った。俺はそれと共にさり気なくICレコーダーの録音を終了させた。

 

 

「で、では……来週の金曜日の放課後に第四アリーナにてクラス代表決定戦を行う!」

 

 

 俺が座った後、あの低脳屑教師がそう言った。それと共に授業の終わりのチャイムが鳴ってこの授業は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー……」

 

 

俺は自分の席に突っ伏しながら息を吐いて考えた。

 

なんで俺はこのIS学園にいるんだろう……

 

いや、それは俺にISの適正があったからだ。

 

だったらだ……なぜ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親を

 

 

 

 

 

 

友達を

 

 

 

 

 

 

 

俺から根こそぎ奪っていったISに俺は関わっているんだ……

 

 

燃える家

 

 

ISが俺たちを蹂躙する

 

 

親が斬り殺され

 

 

友達を撃ち殺していくあの光景が目に浮かぶ……

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

 俺はそこまで考えた時、まだ次の授業の準備をしていない事を思い出した。俺は急いで次の授業の準備をした。支度が終わるのと同時に次の授業の先生が入ってきた。

 

 

(………今は、授業に専念しないと)

 

 

 俺は未だに先程の考え事から抜け出せない頭に対してそう命令し、授業に取り組んでいった。




無理矢理ISでの勝負事に巻き込まれた澪


素人である彼は、彼を知るとある人物に操縦の訓練を頼んでみることに……



次回=放課後の出会い=


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放課後の出会い

心なくした少年はある時ある少女と出会った

少女は護衛対象として、父に命じられてその少年と出会う

心なくした少年に、少女は護衛対象として・どうしてそうなったのかという興味で、無視されてでも話しかけ続ける

やがて心なくした少年は、少女のお陰で心を呼び戻す

少年に少女は生きる力を与える

少年は少女によって様々な生きる術を身に着けた

やがて少年と少女は大切な友となる

それは護衛対象としてではない、たった一人の大切な人として……

そして少女は護衛任務を解かれてからもその少年と会いに行った

少年は少女の悩むを聞いて解決し、少女は少年の悩みを解決した


そして────






『速報です!○月○○日、日本にて二番目の男性IS操縦者が発見されました。名前は△県○×市に住む『榊澪』です』


少年は────榊澪はIS学園に入学した


少女はまだかまだかと、少年────榊澪を待つ。

このIS学園で学園長と同じほどの権力を持つ生徒会長である少女は待つ


榊澪が生徒会長────少女がいる生徒会室に来るのを



お知らせ)今回の話につき、前回の話の一部や予告を変更しました


「……であるように、当初日本に向かっていたミサイルを全て撃墜したのが白騎士です」

 

 あれから数時間が立って、今は六時間目で授業は『IS歴史学』だ。その内容はISの始祖『白騎士』が日本を救った大事件、『白騎士事件』についてだ。

 白騎士事件については公での発表では死者負傷者は0人と言われている事件で、『近代日本の奇跡』などとも言われている────が、実際は違うらしい。らしいと言うのは、この情報がネットから来ているからだ。噂ではその事実を日本政府が揉み消しているのではないかと言われていて、ネット民の間では色々と議論が続いておる。

 でも実際日本政府が揉み消している説は本当らしい。現在の日本政府は主に女性主義者によって構成されているために、自分達に害のあることは片っ端から消していると言うのだ。まあ……だからかな、このクラスの担任であるあのクソ教師が……白騎士だと言う情報が、日本政府の下で消されているのは。

 

 

「……っ、クソ」

 

 

 ダメだ……本当にこの場にいるだけで怒りが沸いてきやがる。ああ憎い、俺達男から自由を奪ったISが。ああ憎い、俺の家族を親友を奪っていったISが。ああ憎い、この酷く歪んだ世界が。ISのせいで全てを奪われた俺の気持ちも知らないで平和に暮らしているお前達が────憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い

 

 

 澪の思考がISによる憎悪で埋め尽くされそうになった時だった。丁度今日最後の授業の終わりのチャイムが鳴ったのだった。それにより澪は意識が回復、精神も普通の状態に戻った。

 

 

 

「それじゃあ今日はここまで」

 

 

 IS歴史学の担当教師がそう言ったあと、授業が終わりを迎えた。その後簡単なSHRがあり、それを済ませた後、掃除を済ませてから正式に今日の学校生活は終わりを迎えた。しかし────

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでテメェの面倒を俺が見なきゃいけねえんだよ……」

 

「本当に助かるぜ。サンキューな澪」

 

 

 澪は織斑一夏の勉強を見ていた。

 

 

「何が『サンキューな』だよ、俺は放課後に用事があったっつーのによ……なんで馬夏の世話をさせられてんだよ……」

 

「そう言ってやってくれてんじゃないか」

 

 

 そもそもだ。ここまでの経緯を説明すると、まず今日のIS内部機構学にての織斑一夏のある発言から始まった。IS内部機構学担当教師である副担任の山田真耶が織斑一夏にわからない所はあるかと言ったところ……

 

 

 

 

 

「すみません。全部分かりません!」

 

「ぜ、全部ですか?」

 

「はい。全部です」

 

 

 その言葉を聞いて山田真耶はショックを受けた。彼女の授業は授業から脱線することが度々あるが、生徒に対する熱心な教え方や説明のわかり易さから生徒や先生達からも評判が実は高い。そのレベルは例え勉強がとても苦手な人でもある程度は理解できる程、その為これまでこの織斑一夏程内容がわからないと言った生徒がいなかったので、余計にショックを受けた。

 

 

「え、えーと……織斑君以外に今の時点までで授業が理解できていない人はいますか?」

 

 

 山田先生がそう言ってクラス全体に質問をしたが、誰一人分からないという生徒はいなかった。

 

 

「織斑。貴様……入学前に渡した必読と書かれてあった参考書はどうした?」

 

「……ああっ、中央に赤い文字で必読って書かれていた奴か」

 

「そうそれだ。それはどうしたんだ」

 

「確か……古い電話帳と間違えて捨てました」

 

 

 

────────っと言うことにより、織斑一夏は必読と書かれてあった一般IS知識書を捨てた。その為入学前に事前学習をすること無くこの学園に来てしまっていた。この後、織斑先生が同じ男子として澪に織斑一夏の面倒を見ろと言った。

 勿論のこと澪は「何故俺が見なきゃいけねえんだよ」と猛反発したが、織斑先生は澪の話を聞こうともしなかった。

 

 

 

 

「本当に迷惑なやつだよテメェは」

 

 

あー……もうやっていられるか

 

 

「鞄持ってどこに行く気だよ澪」

 

「あっ?俺用事があるからそこに行くんだよ」

 

「はあ!?別に用事ぐらい後でいいじゃないか」

 

 

……コイツ分かってんのか?俺がコイツの下らねえ事のせいで忙しくなってる事が?

 

 

「おいおいテメェ分かってんのか?あのクソ教師は「面倒を見ろ」と言っただけで、俺はそれに了承の返事をしちゃいねえ。そもそもテメェらが勝手に決めたクラス代表決定戦のせいで、俺は俺で忙しいんだ。それなのに現状を理解していないテメェなんざと付き合ってたまるか」

 

 

 俺は馬夏にそう言って教室を出て行った。教室の方から馬夏が叫んでいるけど無視だ無視。とりあえず早くあの人が居るという生徒会室やらに行かなければ……「あれ?榊君」……ん?この声は……

 

 

「山田先生じゃないですか。どうしたのですか?」

 

「今日から住んで頂く寮の自室の鍵を渡そうと、今から教室にいる筈である榊君と織斑君の所に向かおうとしていたのですが……」

 

 

 ああ成程、つまり山田先生は本来なら教室に居る筈である俺を見て驚いている訳だ。

 

 

「山田先生、俺にあのクソ教師が「織斑の面倒を見ろ」と言いましたが、俺はそれに対して了承の返事をしてはいないんですよ」

 

 

 俺が山田先生に対しそう言うと、「確かに言われてみればその通りですね」と俺に言ってきた。やはり山田先生は話が通じる良い人だ。俺的には嫌いじゃあないな、山田先生みたいな人

 

 

「あっ、それでですね……はい。これが榊君の自室の鍵になります」

 

「ん……鍵とカード?」

 

「榊君の自室の鍵は少々特殊でして、その鍵とカードの二つがないと部屋の中には入れない仕組みになっています」

 

「馬夏……織斑一夏の方はどうなってるんですか?」

 

「織斑君の方は篠ノ之さんと一緒です」

 

 

 ふむ……ここまで念入りに俺の部屋の守りが堅くされるのは、俺があの馬夏と違って『本当の一般人』だからだろうな。なにせあの馬夏は世界最強であるクソ教師の家族で、あのやたらと睨んでくる篠ノ之箒はどうやら馬夏と幼馴染みで更にこの今の世界を作り上げた天災の家族ときた。

 これは俺の考えだが、あの馬夏と篠ノ之箒が一緒なのは重要人物であるため監視をし易くして守りを固めたいのだろう。多分監視しているのはあのクソ教師とプロの護衛の人々だろう。それで俺はそこまで対処はしなくていいだろうという事か、俺の場合は鍵を二重にしてハイおしまい……と言うことだろう。

 

 

「分かりました。……あっ、山田先生」

 

「ん?何でしょうか榊君」

 

「生徒会室って知ってますか?」

 

「生徒会室ですか?それだったら……」

 

 

榊は山田先生から生徒会室がどこにあるかを教えてもらった。

 

 

「……それでは私は織斑君の所に行きますね。それではまた明日会いましょう」

 

「分かりました。山田先生もこの後のお仕事頑張ってください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、着いた」

 

 

 ふー……本来ならもっと早く来ているはずだったが、あの馬夏のせいで三十分以上遅れたじゃねえか。澪はそう心の中で愚痴りながら『生徒会室』と書かれたプレートが貼ってあるドアを三回ほどノック、すると中から「どうぞ」と中から声が聞こえた。

 俺はそれを聞いてから「失礼します」と言い、生徒会室のドアを開けて中にへと入った。

 

 

「……あっ、来てくれたのね榊君!」

 

「久しぶりです。楯無さん」

 

 

 俺が中に入ると、そこには俺の家によく遊びに来ていた一つ年上のお姉さん……更識楯無さんがいた。つーか楯無さん貴女がここの生徒会長やっていたのか。ん?なんかメガネで三つ編みのたぶん三年生の先輩だと思われる人が俺を見て驚いていた。

 

 

「お嬢様。放課後に来る大事なお客様とは、まさか榊君ですか?」

 

「うん。 ボソッ)あと……実は私にとっても大事な人よ」

 

 

ん?最後の所がハッキリ聞こえなかったな……いや、これは何か大事なことか何かでわざと声を小さくして、俺に聞こえないようにしたのか?

 

 

「ゐゐゐ!?」

 

 

 何かあったのか?俺はそのようなやり取りをしている二人をよそに、見覚えのあるクラスメイト……布仏本音ことのほほんさんを見つけた。まあ……寝ているが

 

 

「本音、起きなさい。お客様よ」

 

「もう少し……もう少しだけぇ……」

 

「駄目よ。ほら、早く起きなさい」

 

「うえー……もう少しだけぇ!」

 

 

 なんだかだんだん罪悪感が出てきたな。しかも、先程のあののほほんさんの幸せそうな寝顔を見ていれば尚更な

 

 

「あの、別に無理に起こさなくてもいいですよ」

 

「えっ……?でも榊君はお嬢様の大事なお客様ですし……「それだったらいいんじゃないかしら虚ちゃん」……お嬢様まで」

 

「だったら私寝るね~」

 

 

 のほほんさんはそう言うとすぐに寝た。ええい、貴様はのび○か!?……それと、メガネで三つ編みの先輩は虚さんというのか

 

 

「全く本音は……」

 

 

 虚さんはそう言いながら席を立ち、生徒会室の奥にある扉の方へと向かって行った。つーかよく見てみるとこの生徒会室の防犯設備が凄い。至る所に監視カメラ、何かしらの罠の起動スイッチだと思えるワイヤー……たぶんブービートラップか?

 そんな事を考えていたら「その副生徒会長席に座ってくれる?」と言われて、俺は副生徒会長席に座った。……あっ、座り心地がいい

 

 

「よく来たわ榊君。久しぶり」

 

「はい。お久しぶりですね「コラー!そんな他人行儀みたいな話し方じゃないでしょ」……っ、わーかったよ。わかった。久しぶりだな刀奈……これでいいか?」

 

「ええ。その喋り方の方が貴方には似合ってるわよ」

 

「うし。それならこれからは刀奈にはタメ口でいくからな」

 

「それと、この学園に居る間は出来るだけ『楯無』って呼んで。本名はあまり知られたくないから」

 

「んじゃあとりあえず今この場では『刀奈』でいいんだな」

 

「ええ。とりあえずこの場では刀奈で良いわよ」

 

「りょーかい」

 

 

 ふー……やっぱりこの口調の方が喋りやすい、慣れない敬語を使うのも疲れるものだな。つーか刀奈の持ってる扇はなんだ『感心感心♪』って、さっきからその扇の文字がコロコロ変わって気になってしょうがない

 

 

「うん。それで、今回はどういう用件できたの?」

 

「実はな……」

 

 

 その言葉の後、俺は刀奈にクラス代表決定戦のことを教えた。最初は低脳屑教師が馬夏しか候補者が居ない筈なのに、何故か勝手に俺までクラス代表候補者に入れられたこと。そして、あのセシリア・オルコットの問題発言に、あの馬夏とセシリア・オルコットの小学生並みの馬鹿騒ぎ&戦争勃発未遂話。その結果、来週の今日にクラス代表を決めるISバトルがあるという事を話した。

 余談だが、俺が話している間に虚さんがお茶とお菓子を副生徒会長席に置いてくれた。美味い。で、俺の話を聞いた刀奈はというと……

 

 

「はっ?何それ、巫山戯てる」

 

 

 青筋立てて怒ってる。うわ……怖ええ

 

 

「榊君の話を聞いてると、本当に腹が立つわね……。しかもそのイギリスの代表候補生の娘は分かってるのかしら?」

 

「刀奈。そう言えばその時の音声データがあるけど、いるか?」

 

「ええ。是非頂戴」

 

 

 ここに来てあのICレコーダーが役に立つとはな。やはりあの時の直感に従って良かったな

 

 

 

「そういえば、刀奈は確かロシアの国家代表だったよな?」

 

「え?そうだけど」

 

 

 刀奈は俺にそう言ったあと、俺が何を言いたいのかに気づいたようだ。なら早い

 

 

「……刀奈のその反応から単刀直入で言う。頼む、俺に……」

 

 

 俺は今の言葉の後のことを言おうとするが、言葉が詰まる。俺はすぐに言おうとするが心拍数が上がり、額に脂汗が浮かんでくる。俺の本能が訴えかけて、『やめろ、それだけは言うな』と呼び掛けてくる。言いたくないことはわかってる。

 刀奈が俺を見て心配そうにする。刀奈は俺の事を知っている数少ない人の一人だ。だからこそ俺が言うことと行うことが、俺にとってどんなに辛いことか良く分かってる。だからこその決断なんだ

 

 

「榊君……無理にやろうとしなくても良いんだよ?」

 

「刀奈」

 

 

 俺は刀奈と一言いう。確かに今回の事は無理矢理あの低脳屑教師と馬夏達に巻き込まれるような形で、ISバトルという俺の中で最も嫌いな部類に入ることをしなくては行けなくなった。

 俺は過去にISのせいで、俺の家以外の全てを奪われた。だからこそ俺にとってこのISにはとても深い憎しみがあって、尚且つ一番関わりたくない。だけどさ……

 

 

「俺はこの勝負の結果で一番最下位になれば、何も後ろ盾のない一般人である俺は間違いなく『試験体』……いや『モルモット』として国際IS委員会の研究機関に送られる。その後は試験体としてデータ取りをされ、あらゆる実験のうち薬漬けにされる。最後には……」

 

 

 榊はそこまで言うと、自分の指で首の前で一文字を書くかのように動かす。

 

 

「間違いなく殺される」

 

 

 榊は分かっていた。自分は織斑一夏の様なデカイ後ろ盾がなく、常に首にナイフを突き立てられている存在だと。だからこそ榊はどんな時だって頑張らなくてはいけない。勉強も、自分が大嫌いなISも何もかもだ。

 

 

「それにさ……刀奈」

 

「……なに?」

 

「いつまでもさ、過去に引きずられてる場合じゃないんだ。俺がISが嫌いなことは知ってるだろう?たとえ俺がISが嫌いだろうが強制的に頑張らなくてはいけなくなってしまった。だからこそだよ、刀奈」

 

 

 榊はそこまで言うと副生徒会長席に座りながらだが、頭を下げて言った。

 

 

「頼む。俺がこの先も生きるために、俺にISの戦闘面に関する全てを教えてくれ!」

 

 

 刀奈に向けてそう言うと、刀奈が会長席から立った。俺は現在まだ頭を下げてるので、音でしか周囲を感じることしか出来ない。刀奈が会長席から立ったと思えば、なにやら俺の背後に回った。俺はなんだ?と思っていると、突然刀奈が俺を背中から抱き締めてきた。俺は突然の事に頭が混乱する。 

 俺の顔の横には刀奈の顔が見える。更に女性特有の甘い匂いが俺の鼻腔をくすぐる。それだけで彼女いない歴十六年の俺の心は暴走気味になる。最後にトドメと言わんばかりに刀奈の豊満な胸の感触が制服越しに伝わって来る。

 

 

「か、刀奈!?」

 

「……よ」

 

「えっ?」

 

「いいわよ。榊君を鍛えて上げる」

 

 

 少しだが、涙声になってないか?……でもあまり野暮に聞かないようにしよう。女性は男よりも繊細な生き物だからな。そ、それよりもだ!

 

 

「あ、ありがとう。で、でもなんで受け入れてくれたんだ?」

 

「んー?何ででしょうかねー?」

 

 

 刀奈はそう言って俺から離れた。今気づいたのだが何時の間にか夕暮れどきで、生徒会室は夕日の光に染まっていた。後ろから「榊君」と刀奈から一声掛けられたので、俺は何だと思いながら後ろを振り向く。

 そこには夕日の赤いような光に照らされている刀奈が、笑顔で俺を見ていた。

 

 

「榊君は私が必ず強くさせてみせる。だからさ────」

 

 

 刀奈はそこまで言ってから俺に向けて指差す

 

 

「ビシビシ鍛えていくから覚悟してね♪」

 

 

 俺は刀奈にそう言われたが、ただでさえ綺麗な刀奈が夕日の光でさらに綺麗になり、その状態での笑顔を見て思わず放心状態になったが、直ぐに意識を戻してからニヤッと笑ってから言う。

 

 

「ああ。よろしく頼むぜ刀奈」

 

「うん!それでこそ男の子よ!」

 

 

 俺達はそれぞれそう言うと、互いに手を出し合って握手をした。握った時に女性特有の柔らかさはあって、またドキドキしたのだがそれは秘密だ。

 

 

 こうして俺はロシアの国家代表兼友達である『更識楯無』……本名『更識刀奈』こと刀奈に、俺の大嫌いなISについて教えてもらえるようになった。早速明日の朝から俺の生きるための練習が始まる。因みに……

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば榊君」

 

「ん?なんだ刀奈」

 

「榊君の部屋の番号ってなんだっけ?」

 

「確か《1474》だけど。なんで聞くんだ?」

 

「私も貴方と同じ部屋だからね、よろしく♪」

 

 

 これを聞いた俺は、色々とやばいなと思った。勿論のこと性的な意味でだ。ちょっとの間空気化していた虚さんが涙目でこちらを見ていたことに俺と刀奈は気付いた。

 このあと必死になって謝って許しを得たのを俺は忘れない




次回予告

遂に始まった更識楯無式強制強化訓練


澪は何処まで強くなれるのか?


「強くなる。強くなって明日を勝ち取るために!」


その努力、無駄になることなく力となる


次回=明日を勝ち取るための力=



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明日を勝ち取る為の力

わたし達は■■■■からとある人を知った

その人はわたし達を動かす女性ではなく、少し変わった力を持つ男性でした。


彼はわたし達を動かすある基準を持っていました

だから彼────榊澪と言う男性はわたし達を動かす事ができた

彼がわたし達に触れる際に、わたし達は彼の心を知りました

彼はわたし達────ISをこの世の誰よりも憎んでいます

だからこそわたし達は知りたい、榊澪の事を……









IS学園のIS倉庫の奥深く、厳重封印と書かれた扉の向こう

その広い部屋の中にポツンと、様々な意思を持った一機のISが光り輝いている。

目覚めの時は近い


────早朝午前5時 IS学園校舎近辺特別訓練施設

 

「……ぬっ、ぬぐぅ」

 

 

 4月のまだ午前5時はまだまだ寒いそんな中俺はIS学園校舎近辺特別訓練施設……通称『特施』にて、5日後に行われるクラス代表決定戦(巻き込まれ強制参加)に向けての鍛錬を行なっている。

 

 

 

『榊君、次行くわよ。準備は?』

 

「だ、大丈夫だ。問題無い」

 

『……それじゃあ始めるわよ』

 

 

 刀奈の言葉を聞いて、俺は待機状態にしていたフランスデュノア社製第二世代後期IS『ラファール・リヴァイヴver.更識家カラー』を戦闘モードに移行させる。

 そして同時に現れるのは訓練用ドローン。その数三十数機、更に妨害用砲台が部屋の壁や床からせり上がってくる。……そう、俺は今IS訓練を行っている。

 

 

『開始!』

 

「……っ」

 

 

 刀奈の言葉の後、妨害用砲台が俺に対して実弾ではないが強化ゴム弾を発射してきた。

 

 

「(イメージ!)」

 

 

 俺は頭の中で某機動戦士のロボットの飛んでいる姿をイメージ。それによりラファール・リヴァイヴのPICが起動し、空中に舞う。

 空中に舞った時には既に強化ゴム弾が目の前に来ているのを、ISの機能の一つであるハイパーセンサーが捉える。俺は直ぐ様PICで強化ゴム弾をギリギリながら避けるが、避けた時には直ぐ様次の強化ゴム弾が俺に向けて発射されていた。

 

 

 尚現在俺がいる所は特施地下二階『特施地下IS訓練場』と呼ばれる地下なのに全長500mはあると思われる巨大地下訓練場で、高さ(地下なので深さ)も100mはある。その為ISが飛んでも問題はない。

 

 

 俺は両手にアナハイム社製多目的バズーカ『ハイパーバズーカ』を展開し、ドローンに向けて狙いを定める

 

 

 

 

「……いくぞ」

 

 

 俺はそう言ってハイパーバズーカの引き金を引いた

 

 

────────────────────

 

 

『……いくぞ』

 

 

 IS学園近辺特別訓練施設『特施』、その地下二階『特施地下IS訓練場』のモニターから私は榊君の訓練の様子を見ていた。

 榊君は強化ゴム弾の弾幕を、IS飛行術の一つである『シューターフロー』で避けつつその手に持つハイパーバズーカでドローンを撃ち続けていく。

 『シューターフロー』本来なら素人である榊君が、訓練を始めて二日目である今日で出来るような技術ではない。それでも尚モニターに映る榊君はさぞ当然かの様に、強化ゴム弾の弾幕を避けつつドローンを撃ち続けていく。しかし……

 

 

『しまっ!?』

 

 

 やはりまだ完全には出来てはいなく、何処か動きが不安定……それがISロシア国家代表である私が思ったことだ。モニターに映る榊君はミスで強化ゴム弾の弾幕を受け、姿勢が崩れる。そこに強化ゴム弾の弾幕が集中的に放たれた。

 

 

『いだだだだだだ!?』

 

 

 ISには絶対防御という操縦者を攻撃から守る機能が存在している。その機能は攻撃から守るというものだが、実はそこに欠点がある。それは攻撃から守るというものだが、攻撃から操縦者を完全に守るということではない。なので、今の榊君みたいに攻撃を受けた衝撃を完全に無くすことはできない。と言うよりも、榊君がなんだか可哀想に見えてきたわね……

 

 

『ぐうあっ!』

 

 

 あっ、脱出したようね。さて、そのままどうするのかな

 

 

『ぶっ飛べ!』

 

 

 そう来たか。まあ榊君が使っているハイパーバズーカの弾は拡散式の弾、デタラメに撃っても今の状態だと強化ゴム弾の弾幕を撃ち落とすのにも使えるわね。

 それにしてもまだISの操縦時間は十時間にも達してないのに、此処まで上手く操れるとはね……本当に思うけど榊君って凄いわ

 

 

『おーい刀奈。終わったぞ』

 

 

 どうやら考えている内に終わったようね

 

 

「訓練お疲れ様。時間も時間だし、今日の朝の訓練はこれで終わりよ。あっ、ISを待機場所に戻してから寮に帰ってね」

 

『ああ分かった』

 

「放課後の訓練は第五アリーナで行うから、ちゃんと放課後までに許可証貰ってね」

 

『ん?第五アリーナって何処にあるんだ?』

 

「あー……、だったら放課後榊君の教室に向かうから」

 

『了解』

 

 

 ふー……残す所はあと6日。このまま順調に行けば────

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────

 

 

「うう……」

 

 

 澪はラファール・リヴァイヴver.更識家カラーを特施IS待機室に戻し、現在寮に戻っている。今日で訓練は二日目を迎え、昨日はあの後(前話の最後の所)早速さっきまでいた特施にへと連れて行かれてISの初期的な操作を覚えさせられ、今日は朝から激しい訓練をやらされ今の時点でヘトヘトだ。

 あらかじめドローン撃破訓練の前に今回使用する銃火器をある程度試し撃ちをしといいて正解だった。IS用の専用銃火器は元となった銃火器よりも大きく威力が増してある為、撃つ時にはISのパワーアシストがオートで発動する。しかし、ある程度の衝撃を緩和することが出来るが完全には押さえきれずに腕に衝撃が来る。

 

 

「いてっ」

 

 

 考えながら歩いていたら何時の間にか自分の部屋に着いていたようで、頭をドアにぶつけたようだ。それも勢いよくだ。俺はドアを開け部屋の中に入り、ベッドに置いてあるデジタル時計を見る。

 

 

─────AM6時37分26秒

 

 

 予想よりも早く着いたな。もう少し時間が掛かるかと思っていたが……まあいいか。一応このIS学園は女子高で、男の汗の臭いとか気にする奴らもいる。

 兎に角今はさっさとシャワーを浴び、早く食堂に行かなくてはいけない。何故かって?決まっている、それは腹が減ったからだ。さあ早く浴びよう

 

 

 

 

 

 

───────────────────────────────

 

 サッと、軽くシャワーを浴び今俺はIS学園唯一の食堂に来ている。ここの食堂は料理のレパートリーが豊富で、世界各国の料理を提供している。そんな食堂は6人の日本人のおばちゃん達が作っているがこれがなかなか旨く、どんな料理でさえ必ず美味いと思わせられる程の腕を持つ。

 よくよく考えると、この6人の日本人のおばちゃん達はいったい何もんだ?料理を頼んで出来上がるのが10分も掛からない……うむ、不思議だ

 

 

 

「いただきます」 

 

 

 俺は窓側の適当な席に座り、日替わり魚定食Sを頼んだ。因みにこのSとはスモールという意味で、普通なら小さいとかの意味だが此処では量のことを示す。俺は朝は小食なんだ。あと美味い。

 

 

「……ちっ」

 

 時間帯的に多くの生徒が起きている為、日替わり魚定食Sを半分程を食べきる時には食堂の半分ほどが人で埋め尽くされている。たいていの生徒が俺に向けて様々な目線を送ってくる。その目線のたいていが『憎しみ』の目線だ。数日前のあの馬夏共のやり取りが学園中に伝わって今話題の一つとなっている……が、どういう訳か俺があの低脳屑教師に対して言った事が伝わったらしい。その為あの低脳屑教師の信者みたいなヤツらがいい加減な噂話を作って俺の評価を最底辺まで下げやがった。

 

 

「……ふん」

 

 

 それでも俺にとってはその方が都合がいい。その方が色々やりやすいからな。……っと、時間がもったいない。

 澪はその後の様々な視線が向けられる中残りの朝食を、綺麗に食べきって食器を返して食堂から出た後だ。

 

 

「澪!」

 

「……なんだ」

 

 

 先程低脳屑教師の信者みたいなヤツらがいい加減な噂話を作って……と言ったが、それをあの馬夏が信じ込み俺に倒してあーだこーだ言ってくるようになった。しかも天災の妹も連れてだ。

 

 

「また他の生徒に手を挙げて泣かせたのかよ!?」

 

「……はあ」

 

 

 めんどくせえ……こういう奴は無視だ無視

 

 

「……てめえ!」

 

 

 馬夏が俺の顔に向けてパンチをしてきやがった。普通に避ける事は出来るが、最近何かと馬夏のせいでイラッとすることが多い。だからさ……

 

 バキィ!……と一夏の右パンチは澪の顔の左頬に当たる。

 

 

「…………効いたか!この野y「これで正当防衛になるな」……はっ?」

 

 

 一発ぐらい殴っても構わないよな?

 

 

「ふん!」

 

 

 澪は自分を殴った一夏の右腕を掴んだ後、思いっ切り一夏をその場でブン回す。一夏は気づいた時には既に空中を舞っていることに思考が追いついていない。澪は空中を舞っている一夏に向けて一発右掌底突きを放つ。空中で喰らうため衝撃が体から逃げずに一夏にダメージを与える。更に重力下のために空中を舞うものは下に落ちる……一夏も例外なく床に落ちた。結果的に、掌底突きと地面落ちによる二連激コンボが決まった

 

 

「ぐう……」

 

「……ッ、一夏!」

 

「毎日毎日しつこいんだよ。テメェもテメェであんな噂話を信じるんじゃねえよ」

 

 

 まあ……さっきの内容は間違っちゃいないが、事実と異なる。 先程の実際の内容は俺に対して数人の女子生徒が武器を使って襲い掛かってきたから、俺がそいつ等の武器を壊してボコボコにして返り討ちにした。これが本当の内容だ。

 

 

「き、貴様ぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 今度は天災の妹が木刀で襲い掛かってきた……けどなあ

 

 

「そんな見え見えの攻撃じゃあ俺には当たらん」

 

 

 あーめんどくせえ……このまま馬夏と同じ末路にしてやってもいいが、先程から居るあの人に最後の締めを頼むか。今か今かと出てきたそうにしてるし

 

 

「んじゃあな……芋侍さん。それと……あとは頼みます山田先生」

 

 

 

 

 

「えっ」

 

 

 

 

「はい♪」

 

 

 

 天災の妹が山田先生の声を聞いて、体を震わせている。今の山田先生は顔は笑顔で素敵だが、山田先生からオーラ?的何かがに溢れ返っている……主に気絶している馬夏と天災の妹に向けてな。

 

 

「……榊澪はクールに去るぜ」

 

 

 俺はそう言ってからさっさとその場から離れ、寮に帰って授業の支度をしてから歯磨き・着替えをして教室に向かう。さて今日もストレスに耐えるか。




次回予告

遂に始まるクラス代表決定戦

織斑一夏には専用機が渡されるらしい……が、まだ来ていない

その為、榊澪が先に試合をやらされる羽目になるのだが……


「アリーナ厳重封印室より連絡!例の試験機が自動稼動を開始!」

「……なんだと!?」


試合前に突如起きたとある試験機の自動稼動。その試験機はアリーナの床や壁を壊して、突如榊澪の目の前に降り立った。


「……なんだ?オマエが俺を呼んでいるのか」


封印されし試験機と榊澪が触れ合う時、物語は加速する


次回=起動=


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起動

ああ……我らが仕えるべき主が近くにいる

その心に宿した漆黒の塊

それに負けじ蒼天の輝きに我々は魅了された

我らが仕えるべき主はもう私達は知っている


我らが主には支えが必要なのだ

それが例え憎まれていても……我々は支えよう





IS学園のIS倉庫奥深く……厳重封印と書かれた扉の向こう

一つの機械音声が発せられた



『……システムのロック解除を確認。
 ターゲットに向けて自動移動を開始します』


その機械音声が聞こえた後

厳重封印と書かれた扉が内部からの爆発により弾け飛ぶ

それによりアラートが鳴り響き

厳重封印と書かれた扉があった所から一つのISが姿を現す


榊零との出会いまであと……数分


 

「……遂に来た……か」

 

 

 あれから数日が経過し、遂にクラス代表決定戦とやらの日の放課後になった。なんとか毎日行って来た刀奈……楯無による地獄の様な訓練を受け、IS戦闘訓練では何とか刀奈との本気の勝負で五分ほど保てるようにはなった。

 

 クラス代表決定戦とやらが始まるまで、もうあと三十分を過ぎてる。

 現在俺はIS学園の複数あるアリーナ、その中でも第一アリーナと呼ばれる所に来ている。更にその中に二つあるIS発射口の一つ……通称Aピット大広間と呼ばれる所に俺を含む馬夏・天災の妹・山田先生・低脳屑教師がいる。

 

 先週の末ぐらいに馬夏に専用機が来る事になった……が、何やらトラブルでまだ来ていない。

 

 それよりも……さっきから例の二人組が五月蝿え……

 

 

 

 

「……箒」

 

 

「……なんだ一夏」

 

 

「ISの事を教えてくれるのはどうなったんだ?」

 

 

「……」

 

「目を逸らすな!」

 

 

 

 毎度毎度俺の周りでコイツらは本当に五月蝿え。こんな時に一体どうしたというんだ?

 

 

「し、仕方がないだろう。お前のISが今日まで届かなかったのだし……」

 

「それでもISに関する知識とか技術とか教えられる事はあったじゃないか!」

 

 

 ハッ……ISに関する知識だったら山田先生や教本を見たりと、知識なら何かと得られる所や場所はあった筈だ。しかし流石に技術ばかりは身体で覚えなければならない……って、まて?

 

 

「……おい」

 

「なんだ澪?どうした」

 

「一つ質問があるがいいか?」

 

「いいぜ」

 

 

 こうしてコイツと話すのは久しぶりだな。

 最近はいざこざで色々あったからなかなか話さなかったからな。こうして真面に話すのなんて五日ぶりだ。

 コイツあんだけ俺にやられたって言うのに、普通に接してくるとはな。単なる馬鹿だと思っていたが、少しは見直した。これからはちゃんと織斑と呼んであげよう………だけど、またなんかしてきたら戻すがな

 

 

「先程の話をを聞いていて思ったが……織斑。お前この一週間何やってたんだ」

 

 

 俺がそう言うと、織斑は何故か凄く言いにくそうな表情をし始めたのだが……一体何やっていたんだ?

 

 澪がそうこう考えていると、織斑は重く口を開けて一言言った

 

 

「箒の指導のもと、剣道をひたすらやってた」

 

 

 

 

 

 

 

 え?

 

 

 

 

 

 

「はあっ!?そ、それは冗談抜きで……」

 

「冗談抜きで言っている」

 

 

 おいおいおいおい!冗談じゃねえぞ……この一週間を剣道に費やしていただと!?

 

 確にISにも剣は有るからある程度の剣の練習とかにはいいと思う。でも、剣道は常に足を地面についている為に、その技は強力だがISでの戦闘ではスキが大きすぎる。

 

 だけど必ずしも悪いということではない。ISはざっくり言うと超高性能パワードスーツで、それを扱うパイロットはそれに似合うような身体能力を持っていないといけない。

 

 だから剣道で体を鍛えていたのは間違いではないが、だからと言ってそれだけは流石に不味い

 

 

「……織斑、お前訓練機を借りようとはしたのか?」

 

「したけど箒がな」

 

「その箒がどうした」

 

「放課後になると直ぐに『一夏!直ぐに剣道場に行くぞ!』って言って、放課後は直ぐに剣道だった」

 

 

 なんつーか織斑も中々苦労してるんだな……

 

 

「おい天災の妹……ではなく名前を覚えたから箒とやら」

 

「……なんだ」

 

 

 なんかコイツは織斑以外のヤツが話しかけると、すぐに目つき悪くなるな。あとこいつ分かってんのか……一つ質問をしてみようか

 

 

「テメェは俺達男性IS操縦者がこの試合や今後の試合で、みっともない姿や結果を出したらどうなると思うか知ってるのか」

 

「知らんな」

 

 

 コイツ即答かよ。なら教えてやるか……

 

 

「知ってるか、男性IS操縦者である俺や織斑はな。下手すれば国際IS委員会の研究機関に送られるんだぜ」

 

「!?」

 

「おいおい……テメェ知らなかったのか?」

 

 

 それでこんな情けねえ事になるとは……織斑には少しは同情するな。でもなあ……

 

 

「でも良かったなあ……織斑には世界最強(ブリュンヒルデ)がバックに付いているからまあ安全だがな」

 

 

 

 そう俺が言うと箒……此処では天災の妹でいいか。天災の妹は安心してるけど、それはある意味ではまずい事なんだぜ

 

 

「なんか安心してるけどさ……どちらにせよ織斑も俺もだが、ISでの戦闘は必要不可欠になるんだけどな」

 

 

 特別に刀奈から教わったのだが、どうやら今ISを使ったテロ組織というのが居るらしくてそいつらが俺と織斑……特に強力な後ろ盾が無い俺を狙ってるらしい。

 更に国際IS委員会のIS部隊も織斑では無く俺を狙ってるって聞いたからな。

 

 

 

 

「織斑くん!織斑くん!織斑くんの専用機が届きました!」

 

 

 頭の中でそう考えていたら、突然山田先生がIS待機室から出て来た。あれ?山田先生……アンタいつの間居なくなっていたのか

 

 

 

「んー……試合まで五分前って所でやっとか……って、ん?」

 

 

 

 澪がそうこう考えたり独り言を言っていた内に、澪以外の人間はいつの間にかこの場からいなくなっていた。ただ先程の山田先生の言葉からして織斑の専用機の所に全員行ったのではないかと、澪は一人予測する。澪は一人でAピットの大広間でポツンと立っていて寂しいと思っていたりする。

 

 

 

「……ん?外が騒がしいな」

 

 

 澪は何となくだがAピットの外がやけにうるさいことに気付く、同時に外から何かが爆発したような地響きがすることにも気づいた。それで澪は察した。今外でIS同士の戦いが行われているのだと

 

 

「んー……外の光景を見たくてもモニターも無いしな────ッ!?」

 

 

 

 澪がそのようなことを考えていた時だった。突然強烈な耳鳴り……高い金属音が、澪の頭の中で鳴り響く。澪はあまりの強烈な高い金属音に思わず目を閉じ、その場にしゃがみこみ両手で頭を抑える。

 

 

 

 

「な、なん……だよ。これ……」

 

 

 

 

───────────────────────────────

 

 

『織斑一夏SEエンプティ。勝者セシリア・オルコット』

 

 

 外からそう聞こえてきた。澪はそれで織斑が負けた事を知り、ついに自分の番だと思い出す。それよりもだ

 

 今なお鳴り続いているあの高い金属音……それが段々と金属音では無く何重にも重なった人の声のように聞こえてきたことに澪は気付く。────澪はその何重にも重なった人の声に耳を傾けその声を聞く。

 

 

 

「主?誰だよ主って……」

 

 

 

 何故だろう。俺はその時そう思ったことを口に出して呟いたの確か、でも……何故この何重にも重なった人の声のように聞こえる何かが俺を呼んでいることが分かったのか、それが分からない。でも確かに俺の頭が、本能がそう叫んでいるのだと言ってくる

 

 

 

────主!?今そこにいるのですか!?待っていてください!

 

 

 

「────ッ!?」

 

 

 

 今確かに、ほんの一瞬だけ確に人の声だと思える声が聞こえた。それと同時に先程の外から響く地響きが、それよりも確実に大きい地響きと大きな揺れと大きな爆発が起きる。

 

 揺れの後、Aピット大広間の照明が非常用照明の赤い色の光を放つ照明へと変わる。

 

 

「っ、これは……」

 

『緊急事態発生、緊急事態発生。IS倉庫厳重封印室より、試作型ISが自動行動を行っている。現在第一アリーナに向けて直進中』

 

 

 アナウンスが鳴り響くAピット大広間、よくある『ビービー!』っというアラートが鳴っていて外の様子もどうなっているのか分からん

 

 

 澪がそう考えていた時、このAピット大広間のIS待機室の自動ドアが突然プシュっとガスが抜けるような音と共に開いた。その扉の向こう側から織斑千冬・山田麻耶が出てくる。

 

 その表情はやはり緊急事態の為か教師組は若干の戸惑いを、しかし澪を見つけると落ち着きを取り戻し澪の後ろから話し掛ける。

 

 

「榊!貴様そんな所で突っ立ていないで、今はサッサっと逃げろ!」

 

「生徒達で避難が完了してないのはあと榊君だけなんです!」

 

 

 二人がそう話し掛けるが澪は何も反応しない。

 

 

「……榊君?」

 

 

 ふと、こんな状況なのに澪のその反応におかしいと思った山田先生がそう澪に話しかけた時だ。澪が一言「……来る」っと呟く。

 

 

その瞬間、Aピット大広間の天井を突き破り『黒』が現れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……榊君?」

 

「……来る」

 

 

 私は榊君────榊澪君に話し掛けたら、榊君がそう呟いたのでこんな時なのですが思わず首を傾げてしまいました。その瞬間、「麻耶!」っと先輩────織斑先生が私の服の襟を掴んで私を榊君から遠ざけました。

 

 

「織斑先生!?一体何を……」

 

「……禁忌が来る」

 

 

 先輩が私を榊君から遠ざけそう言った瞬間、このAピット大広間の天井から何かが入って来ました。それは私達一部教師だけに伝えられている禁忌と呼ばれ起動どころか接触も禁止されていたISでした。

 

 禁忌のISは映像どころかその姿さえ載っているものはなく、書類上でしか知らされてはいませんでした。しかし、今目の前にその謎のベールに包まれた禁忌のISが今確かに存在しています。その禁忌のISはゆっくりと確に榊君の目の前に降り立ちました。そしてその直後、その禁忌のISは榊君に対して王に忠誠を誓う騎士のように片膝を着き頭を垂れています。

 

 

 

『我らが主……』

 

 

 あ、ISが自ら喋った!?ま、まさか意識があるとでも言うの?でも、ISコアにはコア人格と呼ばれる確かな意志が有りましたね。……でもまさか自ら喋るISなんていたんですねえ……

 

 

 

「……俺がお前達(・・・・)の主か」

 

 

 お、お前達?えっ?この禁忌のISは複数の意思を持つのですか!?そ、それって有り得ることなんでしょうか?……でも実際に目の前にいるからそれが証明しているのですよね……

 

 

『はい。私達(・・)は主を貴方と決めております』

 

「……何故だ?何故俺を……ッ!……成程な」

 

『それが私達が貴方を主として慕う一つの理由です』

 

 

 禁忌のISはそう言うと、榊君の方に右手を……この場合右マニュピュレーターを差し出す。それと同時に今の今まで何も動かなかった織斑先生が、突然禁忌のISに向けて走り出した。

 

 先輩が私の横を通り過ぎる時、何やら今まで見た事も無い焦った顔をしていたのは気のせいですか?

 

 

 

「成程……そうか。なら!」

 

 

 榊はそう言って、禁忌のISのマニュピュレーターに手を載せる

 

 

「辞めろ榊!そいつのパイロットになるのは!」

 

 

 

 先輩がそう言いながら榊君と禁忌のISの5メートル付近まで行った時でした。突然黒い粒子が発生し、それが壁となり先輩をそれ以上先にへと行かせません。そして……

 

 

 

 

「『起動(ジェネレイト)』」

 

 

 

 

 その声と共に禁忌のISと澪は、漆黒の光に包まれまれる。そして漆黒の光が収まりそこにいたのは、全身装甲のこれまでのISとはかけ離れた存在。

 

そしてそのISを見て言えるのはただ一つ……それは全てを破壊し尽くすISであることだ

 

 




次回予告

突如舞い降りし漆黒のIS

それによりクラス代表決定戦での、澪対セシリア・オルコットの試合は次の日に持ち越しに

次の日、持ち越しとなったクラス代表決定戦澪対セシリア・オルコットが遂に始まる


極一部にしか伝わっていない謎のベールに包まれた禁忌のIS

その謎のベールを脱ぎ、禁忌は遂に空を舞う


「行くぞ■■■■■」

『はい主』



次回=空を舞う黒き禁忌=


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空を舞う黒き禁忌

ああ……ついに我らは貴方に出会うことが出来ました

我らは貴方に扱われるのが一番の喜び

我らは貴方の力になる

我らISと人間である貴方

我らと交わる時、貴方は全てを知る


貴方が、世界を────────────



────我らが主、手を……

 

 

 そう俺の頭に若干甲高い金属音が混じった、何重にも重なった声が響く。先程までは頭を抱える程痛かったあの甲高い金属音が、ISのコア人格達の声だと思うともう不快に思うことは無い。だけど、俺の人生がまたISによって変えられてしまうことに、苛立ちを覚えるな……

 

 俺はそう思いながら目の前の禁忌と呼ばれるISに手を置く。うん?さっきからあの低脳屑教師五月蝿え

 

 

────私達にお任せを

 

 

 えっ?……って、何やら黒い粒子が壁となって低脳屑教師を通さないようにしている。まあいい。今は早くお前達との契約を結ぼう

 

 

 

 

────本当に宜しいので?

 

 

 ああ。

 

 

────それがたとえ人を辞めたとしてもですか?

 

 

 それも承知の上だ。つーか、多分この先それをしなければ生けてはいけない。

 

 

────それでこそ我らが主

 

 

 ならば唱えよう。俺とお前達の契約の印を……

 

 

起動(ジェネレイト)

 

 

 そう唱えると俺を目の前の禁忌が、漆黒の光を部屋全体に発する。部屋全体に発せられる光を目の前で見ても、不思議と眩しくともなんともない。何故だ?

 

 

 そう考えていた時だ。澪の目の前に居た禁忌の体が黒い粒子となり、その体を崩していく。そして黒い粒子となった禁忌は、澪の体にへと入っていった。それに戸惑う澪。しかし、そんな戸惑う澪をまた嘲笑うかのように今度は澪の体全体が黒い粒子化した

 

 

 

(何だ?俺の体に何が入って来る……)

 

 

 そう考えていた直後、突如黒い粒子となった澪が先ほどと同じ漆黒の光を放つ。澪は自分自身から放たれる光に驚く。その直後、一瞬だけ澪の意識がブラックアウトする。そして再び意識が覚めると……

 

 

 

『な、何だこれ?』

 

 

 澪の視界には先程まであった人の手ではなく、機械の手が見える。本当に自分の手なのか思い、試しに握ってみた。握るとギュイという音と共に、指の関節が動く。

 

 

 ……やはり自分の手だ。俺の意思通りに動く。なんのズレも無い。試しに自分の腕だと思われるところを殴ってみるか

 

 

 澪は試しに己の右腕と思われる部分に、左手?で殴る。殴ると金属同士の衝突する重たい音が鳴り響く。

 

 

『(……殴っている感覚はあるのに、痛くない)』

 

 

 何故だ?俺がそう思った時、主……っと頭の中で声が響きわたる。つーか、今俺って頭あるのか?

 

 

────主は私達の契約によって完全融合を果たし、主はISと人間の融合体になりました。今現在の主の体は粒子体として存在しています

 

 

『(ふむ。なら今の俺はISであるお前達と、粒子体となって融合している。それ故に、お前達の体であるIS本体から送られてくる情報が粒子体となって存在する俺に送られて認識しているのか)』

 

────その通りです

 

 

『(成程、なら現在の状態が理解できる)』

 

 

────主は今の状態に驚かないのですか?

 

 

『(驚くことは無い。つーか、お前達が言っただろう?それを踏まえてだ。俺は後悔はしていない)』

 

 

 本当にその通りで、嘘偽りは無い。不思議と自分が人間を辞めたことに、何処か喜んでいる俺がいるのが現状だ。

 

 

────主

 

『(何だ?)』

 

────足元に……

 

 

 俺はそう言われて、足元を見る。そこには山田先生が、俺を見上げるように見ていた。表示されている機体データを確認した所、現在俺の身長(機体全長)は3.5m程で山田先生が凄く小さく見える。あら可愛い

 

 

「榊君……ですよね?」

 

 

 どうやらまだ禁忌を纏うのが俺である事を信じれていないのか、俺(禁忌)に質問してくる。まあ纏うというよりは融合しているのが正解だが。とりあえず一回解除したいのだが

 

 

────解き方は、主が『解除』と念じれば解除されます

 

 

 俺は禁忌からアドバイスを貰うと、頭の中で『解除』と念じる。すると、機械の体が黒い粒子となり霧散する。そして、人間としての体に戻る。視界の端には最適化(パーソナライズ)及び一次移行(ファーストシフト)終了まで30分と表示されていた。

 

 

 

「榊君!」

 

「や、山田先生?」

 

 

 一体なんだ?突然抱きついてきて……一体どうしたんだ?

 

 澪はそう頭の中で考えていると、自分に抱きついてきている山田先生がよく見れば泣いている事に気付く。何故だ?澪は頭の中で考え始めたその時だった

 

 

「私すごい心配したんです。榊君が禁忌のISを纏って、凄い心配で……心配で!」

 

 

 山田先生……貴女、俺のことを心配してくれたのか?なんていい人なんだこの人。何で担任がこの人じゃなかったんだろうか……

 

 

「俺のことを心配して……?」

 

「突然です!私の大切な生徒の一人なんですよ!?大切じゃない生徒なんていません!」

 

 

 俺は山田先生のその言葉を聞いて、「あ、ありがとうございます」と言う。本当はもっと感謝の言葉言いたいが、今はどういう訳か言葉が出ない。

 今の女尊男卑の時代、そんな時代にここまで優しくいい先生はいない。だからこそ山田先生の言葉を聞いて、思わず目がジーンとした。それよりもだ……

 

 

「山田先生。一度離れてくれませんか?さ、先程から……当たってます」

 

「え?何がですか?」

 

 

 う……、これは言わないと駄目か?ええい!は、恥ずかしいが言うぞ!

 

 

「えっと、その、む、胸が……」 

 

 

 俺がそう言うと、山田先生はその言葉を理解して顔を赤くして俺からもの凄い勢いで離れる。二秒ぐらいで7mぐらいは離れたのではないかと思う。

 

 

「一体どうしたんだこれは……」

 

 

 どうやら禁忌のISの拘束が解けて、いつの間にかこちらの様子を見ていた低脳屑教師がそう言っていた。嫌だけど、俺もそう思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────

 

 あの後一度アリーナ内の緊急医務室で、身体検査を行い、体に異常がないか山田先生のもと調査した。検査結果は特に悪い所はなく、山田先生曰く俺の体は健康そのものらしい。

 

 俺がアリーナ内の緊急医務室での検査を終えた後、低脳屑教師が来て俺の体調の事を聞いてきた。俺は別に問題は無いと言うと「だったらさっさとBピットに行け。貴様で後がつっかえている」っと、低脳屑教師に言われた。

 

 内心イラッときたが、今はこれ以上低脳屑教師に関わると色々とめんどくさいから不本意ながらも大人しく指示に従う。

 

 そんな訳で、今俺はBピットカタパルトに居る。既にアリーナ上空には、イギリス代表候補生であるセシリア・オルコットが纏う『ブルー・ティアーズ』が佇んでいる。

 

 

 

「……なあ」

 

────なんでしょうか主

 

「いい加減お前の名前を教えてくれないか?何時までも『お前』呼ばわりはめんどくさい」

 

────主に『お前』呼ばわりされるのは別にいいですが、主が困っているので名乗りましょう。

 

「では聞くが、お前の『名前』を教えてくれ」

 

────了解です主。今主に話し掛けいる私の名前は『名前無き破壊者(ノーネーム・デストロイヤー)』、長いので『ノーネーム』とでもお呼び下さい

 

 

「そうか、ならノーネーム。人間体から先ほどの機械体になるには、どうすればいい?」

 

 

────大まかに言いますと、主がロボットになるイメージを持てば自然に人間体から機械体になります

 

 

 ふむ?そうなのか……なら、ノーネームの言う通りロボットになるイメージでやってみるか。

 

 澪はノーネームに言われたやり方を早速試す。すると、澪の体が黒い粒子となって霧散し、漆黒の光を放つ。光が止んだ後、そこには先程と同じ黒い禁忌のISが、中型の非固定浮遊部位を浮かせ立っている。その頭部のバイザーが赤く光り輝く。

 

 

『おお……』

 

────主。コチラが現在の機体データです。

 

 

 澪がノーネームの言う通りのやり方でやって、見事機械体であるISになれたことに衝撃を受ける。そして、澪はノーネームから送られてきたデータを見た。

 

 

機体名:不明者(アンノウン)(仮名)

 

世代 :無世代多進化型

 

状態 :最適化及び一次移行が行われておりません

 

SE量 :860

 

近接武装

・中型近接ブレード復讐者の剣(アベンジャーズ・ブレイド)

 

射撃兵装

・一極点集中小型指砲『指の悪魔(フィンガーズ・デビル)

 

 

 

 

『なんか射撃兵装が心許ないが……。それよりもアンノウンって正式名じゃないのか?無世代多進化型って何だ?』

 

────すみません主。今の最適化と一次移行が終わっていない状態では、これが精一杯です。今私達が頑張って早く終わらせるようにしております

 

 

 

 おい。名前と世代については無視か……。まあそれについては後で追求することにしよう

 

 

 

『そうか……なら早めに頼むぞノーネーム』

 

────了解しました

 

 

 さて、何時までもセシリア・オルコットを待たせるわけにはいかない。もう奴の表情は怒りに満ちている。

 どうせ奴の性格上『このセシリア・オルコットをいつまでも待たせるとは、一体どういうことですの!?』と行ったら言われそうな気がする

 

 

 澪はそう考えながらカタパルトに電磁式IS発射装置に足部を載せる。暫らくすると発射完了の合図が流れ『発射タイミングをパイロットに譲渡します』と合成ボイスが流れる

 

 

『榊澪、アンノウン……出るぞ!』

 

 

 その存在自体が最高機密である黒き禁忌が今、女尊男卑の腐った世界に解き放たれる。

 

 まずは目の前の腐った存在を破壊しよう……アンノウンの赤いバイザーが、そう言うかの如く一瞬だけ一際強く光り輝いた




次回予告

ついに蒼空に舞った黒き禁忌


「お前達みたいな奴らがいるから……!」



まずは目の前の蒼い装甲を纏う腐った存在を破壊しよう

怒りにと共に真の姿を現す黒き禁忌

その身を怒りに任せ、禁忌は敵を斬り刻む


次回=刻むは怒り、真の名は名前無き破壊者=


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刻むは怒り、名前無き破壊者

作者)やべぇ……長ぇ……






我らと主は一つになった

それは我らが創造主が望んでいた

我らが創造主と我らが原因で起こしてしまった『あの事件』

その事件の唯一の生存者である主

我らは主に仕えるために生まれてきた

だからこそ示そう

全てを超えた超越者の力の片鱗を


 澪がアンノウンで空を飛んでアリーナに入って来ると、澪に向けての罵声が一斉に鳴り響く。澪はそれに対して「織斑には言わないで、俺だけこうかよ」と内心苛立ちながら、セシリア・オルコットの方に飛んで行く

 

 

 

「このセシリア・オルコットをいつまでも待たせるとは、一体どういうことですの!?」

 

 

 アリーナ上空にいるセシリア・オルコットの元にたどり着いて、そして言われたのがこれだった。一文字も間違える事もなく、セシリア・オルコットは先ほど俺が予想した言葉を喋る。

 まさかここまで予想が当たるとは……少し怖いな。つか、何だ?全身装甲型があーだこーだって……、あー

 

 

『……五月蝿え』

 

 

 あまりにも五月蝿かったので、俺は思わずそう呟く。

 

 

「……ッ!」

 

 

────主。敵機よりロックオンされています。

────追加報告、あと五分程で最適化と一次移行が完了します

 

 

『(了解)……何だ?俺に五月蝿いと言われてキレたか』

 

 

 おうおう。白人特有の白い顔が、茹でたカニ並に赤くなってやがる。あれだけの肩書きをも出ていたとしても、所詮はこんなか……

 

 

「……やはり一夏さんの方が素晴らしい殿方のようですわね。貴方にはさっさと負けてもらって、国際IS委員会の研究施設に送らせていただきますわ!」

 

 

 セシリア・オルコットのその言葉と同時に、試合開始のブザーが鳴る。

 

 

『……』

 

 

 その態度、俺達男を見下すようなその視線。俺はそれが気に入らない。男だからという理由だけで、男をゴミのように家畜のように見るその目が!

 

 

「喰らいなさい!」

 

 

 そう澪に向けて言って、ブルー・ティアーズの専用武装である六七口径特殊レーザーライフル《スターライトmkーⅢ》を撃つ。この時のセシリア・オルコットの表情が、澪の古き忌まわしき記憶を呼び戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ赤に燃え、黒煙が立ち上る町

 

 

 

 

 

その上空で笑いながら俺達に銃火器を撃つIS

 

 

 

 

そして、その光景を見て笑うISパイロット

 

 

 

 

 

────アハハハッ!ゴミ掃除だぁ!

 

 

 

 

 

 

それから逃げる人々の叫び声

 

 

そんな人々はISによって次々に殺されていく

 

 

その殺されていった人々の中には、俺の友達や家族も居た

 

 

────父さん!母さん!桜!

 

 

当時幼かった俺は、その時のISパイロットの目を今も覚えている

 

 

あの目は

 

 

────死ねよ!死ねよ!ゴミ共オォォォ!

 

 

 

 

 

 

 

『……巫山戯るな』

 

 

 迫り来るレーザーを前にし、澪ことアンノウンはそう呟く。それと同時に、手に赤と黒の近接ブレードである『復讐者の剣』を展開し……叫ぶ。

 

 

『……巫山戯るなぁぁぁぁぁ!』

 

 

 その叫びと共に、頭部のバイザーが真紅に光り輝く。それは澪の怒りを表しているかのように……

 

 澪は目の前まで迫りつつあったレーザーを、脚部スラスターで上に上昇する形で避けた。しかし、まだアンノウン(仮)が最適化及び一次移行をしてない為、澪の反応に追い付けず何発か掠る

 

 

『(シールドエネルギーが削られていく……!)』

 

 

「無様に踊り、惨めに落ちなさい!」

 

 

 更にその場から上昇後、背中の非固定浮遊部位の中型スラスターを最大まで吹かしてセシリア・オルコットに接近。それに対し、迎撃するようにスターライトmkⅢのレーザーを撃ち続ける

 

 

 

『(テメェらみたいのがいるから……俺達は!)』

 

 

 澪は頭の中でそう考えながら、レーザーを避ける。澪が受けた楯無の訓練では、今の攻撃よりももっと激しい攻撃を避け続ける訓練を行ってきた。その為、今のセシリア・オルコットの一発一発放つ光の光線は澪から見ればまだ避けやすいのだ。先程の初撃もそれが影響し、避けることが出来たのだ。それでも絶対に避けることは出来ない。

 その為、今こうしている時もレーザーが掠り表面装甲が溶け、更にシールドエネルギーがガリガリと削られていく

 

 

『(このままじゃジリ貧だ……ならっ!)』

 

 

 澪は背中の非固定浮遊部位の中型スラスターに、シールドエネルギーを注入。次の瞬間に中型スラスターから爆発的なエネルギーの放出、それは自分自身のさらなる加速を促す。

 

 

「イ、瞬時加速(イグニッション・ブースト)!?」

 

 

『まずは……一撃!』

 

 

 澪は復讐者の剣を、瞬時加速を使った俺に驚いて固まっているセシリア・オルコットに片手で一閃。それによってブルー・ティアーズのシールドエネルギーが減る。

 

 

 

『オォォォ!』

 

 

「ギイッ!?」

 

 

 復讐者の剣で斬った勢いで、復讐者の剣を持っていない方の手でセシリア・オルコットの頭を拳骨する。それによりアリーナ内のシールドバリアーにぶつかった。ふー……ついカッとなってしまった。反省はしてないがな

 

 

「ゆ、許しませんわ!わたくしに、わたくしにこんな事を……!アナタ分かってますの!?」

 

 

 なんか突然わめき出したぞアイツ。あれだけ凄い経歴があるのにフタを開ければこの始末。男である俺に二連撃やられただけで、怒り狂う……なんとも惨めな奴だ

 

 

『男であるから女に手を出しては駄目か?

 まあ俺はそんな事は関係なく、間違えた事をすれば男も女も関係無しで打ちのめす』

 

 

────もっとも、戦いの中では強いものが残るだけですが

 

 ……まあ実際その通りだな

 

 

「男は女性に手を挙げないんではなくて!?」

 

『残念。それは貴様ら馬鹿な女共のせいで、そんなものはとうの昔にお亡くなりになりました。まあその代わりとしてなんだが、今はそれに代わるように新たに違う物が生まれた』

 

 

 澪はそう言って右マニュピュレーターの人差し指を、ビシッとセシリア・オルコットに向けて指さす。

 

 

「それは一体……」

 

『馬鹿な女を滅する。慈悲は無い……っていう奴だ。

 貫け、悪魔の指(フィンガーズ・デビル)

 

 

 その言葉と同時に、右マニュピュレーターの人差し指先が小さな銃口となり、そこから赤黒い光線がセシリア・オルコットの頭部に向けて撃たれる。

 それに対してセシリア・オルコットは突然の事で反応できず、頭部の高感度ハイパーセンサー展開機に直撃し爆散した。

 

 

「くうぅぅ!?ひ、卑怯ですわ!」

 

 

 目の前のセシリア・オルコットがそう言うと、アリーナの観客席にいる奴らが「そうよ!」「男だったら正々堂々と戦いなさいよ!」「卑怯者!」「織斑君と違って、汚い!」……ふっ

 

 

『卑怯?汚い?そんな綺麗事は戦場やら真剣勝負の中では関係ない。そんな事をいつまでも気にしているようなら、お前ら本当の戦場に行ったら死ぬぞ』

 

 

 まあ……あんな体験をするのは滅多にないがな。

 

 

「きいぃぃぃ〜〜!」

 

 

 澪がそう言ってもアリーナの観客席にいる女子生徒達の罵倒は止まらない。そんな様子を見て、少しでは済ませられない怒りが澪の心の中に湧き上がる。その様子を見て、セシリア・オルコットは少しいい気分になる。腹いせばかりにへと、澪に対してある言葉を言い放った

 

 

 

「こんな事をするような男の家族は、さぞかし卑怯な方々なんですわ!

 ええ、絶対にそu」

 

 

 そこまでセシリア・オルコットが言った時だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『黙れよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

 

 地獄の底から聞こえてくるような低い声が、ぼそりとアリーナ全域に響き渡る。そしてその声を聞いた者は、己の頭に拳銃をつけられているようなビジョンを見た。それはこのアリーナだけではとどまらず、IS学園の校舎の方にも影響を及び出した。

 

 ほんの一瞬、一秒だけリアルに再現されたそのビジョンが人々の目に焼き付く。それにより、つい先程まであった澪に対しての罵倒は止まった。

 

 

 

 

『何ボサっとしてんだ』

 

 

 澪はそう言ってセシリア・オルコットを地面に叩き落とす。普段や先程までのセシリア・オルコットなら、この攻撃でも空中で体勢を立て直すことはできた。しかし、今は先程のビジョンによる恐怖で体が固まり動けなくなってしまっている。

 言葉も出ない、体も動かない。それはたった一度のリアルに再現されたビジョンを見ただけで、体を思うように動かせなくなってしまった。

 

 

 

 

『なぜ動かない?なぜ怖がる?何故馬鹿にしない?お前達は俺達男を馬鹿にしたいのだろう?』

 

 

 澪及びアンノウンから溢れ出る濃厚な殺意と怒り。それはこの女尊男卑の世界でのびのびと暮らし、男に対して甘い考えしか持っていない十代の少女達にとってあまりにも濃いだろう。

 

 澪ことアンノウンはセシリア・オルコットを追うように、ゆっくりと地面に降り立つ。降り立つ際にガシャンっという音がアリーナに響いた。セシリア・オルコットはその姿を地面に横になりながら見ていた。

 

 

 

「あ、悪魔……」

 

 

 

 

 

────主。最適化と一次移行の準備が完了しました。

 

 

 そうか。なら今すぐ行え

 

 

────了解。最適化と一次移行を開始します。

 

 

 

 澪がノーネームに最適化と一次移行を開始させる。すると、赤黒い光がアンノウンから放たれる。その直後、アンノウンを中心に光の柱が空に向けて立ち昇る。その色も赤黒い禍禍しい光であった。

 

 この光景に管制室にいた教師、ピットに居た織斑一夏や篠ノ之箒、アリーナの観客席にいる女子生徒達は何も言葉も動く事ができない。そんな時、光の柱が突然消える。

 

 光の中心にいたアンノウンは?この場の全員がそう思ったが、光の柱の後には煙が蔓延して見えない……が

 

 

『全システム完全移行』

 

『機体コンディション、オールグリーン』

 

 

 突如、煙の中から何重にも重なった男女の声が聞こえてくる。セシリア・オルコットは、その光景を見ながらスターライトmkⅢを杖代わりに使い何とか立ち上がる。セシリア・オルコットは今だに蔓延する煙の奥から聞こえる重なった声に、何か見知らぬ恐怖を心に抱く。

 

 そんな時、煙の中から真紅の光が見えた。セシリア・オルコットはその光の形を見て、澪が駆るアンノウンだと知る。その光景を見て、セシリア・オルコットはステーライトmkIIIを煙の中にいる澪に向けて撃つ。更にこれまで使ってこなかった遠隔脳波操作無線兵器『ブルーティアーズ』を起動させた時だ

 

 

『システム『A.I.S.S』起動』

 

 

 それの声と共に煙が吹き飛ばされる。

 

 

 

 

 まだ若干の煙が脚部に残っているが、その姿が今露になる。特徴的な全身装甲は先程からまた姿・形を変え色も黒一色から、赤・黒・白・橙のカラーリングになった……しかし、それでも黒の比率の方が高い。それに付け加え、頭部に真紅の一本角が、非固定浮遊部位の中型スラスターは大型スラスターに変化した。

 

 

 

 

『真名 名前無き破壊者(ノーネーム・デストロイヤー)……敵機殲滅を開始する』

 

 

 人工ボイスが途中から澪の声に切り替わる。そして澪こと名前無き破壊者は右手に、武器を展開する。それは一見銃口が無いキャノンにも見え、セシリア・オルコットも勿論のことアリーナの人々は困惑する。そんな中、その銃口?から突如真紅の血に似た光が走る。

 

 

(構えなさいブルーティアーズ!)

 

 

 セシリア・オルコットはそれを見た瞬間にブルーティアーズに射撃させる為、ブルーティアーズに構えの体勢をとらせようとする。距離はたった50m……この距離ならば外さないと、セシリア・オルコットは頭の中でそう考える。

 

 

 

 しかし、現実は甘くは無い

 

 

 

『突撃せよ。反逆する血の牙達(リベリオン・ブラッド・ファングス)

 

 

 その言葉の後、突如として真紅の牙らしき物が10機程出現。その後すぐ澪の命令通りに、反逆する血の牙達は目の前の蒼い機体に突撃する。

 

 

「くっ……ブルーティアーズと同じ兵器ですって!?」

 

『お前達に全てを奪われた俺の怒りを……その身を持って知れ!』

 

 

 

 

────────────────────────────────

 

 

「な、何なんだあれは……」

 

 

 私こと山田真耶は、現在第一アリーナ管制室で今行われている榊君とオルコットさんとの試合の様子を見ています。

 ほんの少し前、榊君の専用機……なのでしょうか?どうやらその専用機が一次移行したらしく、姿を変えています。

 

 

『お前達に全てを奪われた俺の怒りを……その身を持って知れ!』

 

 

 榊君……私は貴方を初めて見た時から何処か悲しく見えていました。それは今日の先程まで気のせいかと思っていました……けど、それが今の試合を見て確信に変わりました。

 

 

「榊君……貴方は過去に何があったというのですか?」

 

 

 私はどうしてここまで貴方が悲しく見えるのか、どうしてそこまで助けを求めてるようにも見えるのか……って!?

 

 

「これやばいのではないでしょうか……?」

 

 

────────────────────────────────

 

 

 削る

 

 

「きゃあ!?」

 

 

 切り裂く

 

 

「あああ!?」

 

 

 また切り裂く。

 

 

『……!』

 

 

 削る

 

 

「うあ……」

 

 

『フン!』

 

 

 思い切り蹴り上げてからの、すぐさま踵落とし

 

 

「ぐぇああ……」

 

 

 

 その光景は正に一方的だった。試合開始最初の時点では、蒼く光り輝く装甲で、思わず見とれてしまうほど美しいセシリア・オルコットが駆るブルーティアーズ。そんなブルーティアーズも、今や澪が操る名前無き破壊者によって美しい蒼はほぼ色が禿げ、装甲も内部のケーブルが見えてしまうほどボロボロになっていた。更に、この時既にセシリア・オルコットが駆るブルーティアーズの遠隔脳波無線操縦兵装『ブルーティアーズ』も、今では全て破壊されてただの鉄屑となり沈黙している。

 

 どういう事かは不明だが、今ではシールドバリアーや絶対防御越しにセシリア・オルコットに対して名前無き破壊者の攻撃が届いている。

 

 

 もう……既に結果は見えた。澪はそう思い、その場でローリングキックを行ってセシリア・オルコットを十数m吹き飛ばす。澪はその光景を見た後、雲一つない蒼天の空を眺める

 

 

 

 

 

『(お前達はいつもそうだった)』

 

 

 

 

『(俺達が、俺たちの町の人たちが、男も女も関係無く暮らしているだけで馬鹿にしてきた)』

 

 

『(何故だ?)』

 

 

 

────それはいけない事だから

 

 

────男は女より下の存在

 

 

────それなのに対等に接しているから

 

 

『(奴等はそう言った。少し前まで普通だった事なのに)』

 

 

 

────だからそんな男達と平気で接する異分子を消し去る

 

 

 

 

 

「貴方のような『物』は消えて無くなりなさい!」

 

 

『オルコットさん!それは競技仕様のルール違反ですよ!?

 榊君もすぐに逃げて下さい!』

 

 

 突然だった。さっきまで何もしてこなかったセシリア・オルコットが、突然スターライトmkIIIを撃つ。しかも、よりによって競技用設定解除した状態の、本来の兵器としての威力でだ……それでも澪はその場から一歩も動かない

 

 

 

『……』

 

 

 

 目の前に迫り来る先程とは段違いの光の本流。澪はその光景を見て、既に結果は見えている事が分かった。それは決して己のが負ける結果では無い。

 

 

 

真紅の光壁(クリムゾン・ライトウォール)

 

 

「あっ……」

 

 

 突如として現れた真紅の光の膜。それが迫り来る光の本流とぶつかり、光の本流を吸収する。その光景を見てセシリア・オルコットは一言呟く

 

 

 

────主。もうそろそろ終わりにさせるのが得策かと思われます

 

 そうだな。もうこれ以上やっても無駄だ。終わらせる

 

 

 

『真紅の光璧を展開。更に胸部装甲中央部、プロテクト解除』

 

 

────外界新エネルギー、内部エネルギーに転換

 

────このままの威力ではアリーナが吹き飛びます

 

 

『なら本来の十分の一の威力に下げろ』

 

 

────威力を本来の十分の一まで減少

 

────荷電粒子圧縮完了

 

────準備完了

 

 

 名前無き破壊者の胸部装甲中央部が左右に展開される。展開されると、中央部からは一つの砲身が見え、その砲身からは赤黒い光とプラズマ光が光り輝いて見える

 

 セシリア・オルコットは先程の最後の一撃を、競技ルール違反の攻撃でも澪を倒せなかった事に放心状態になり、その場から離れるという事を考えられない

 

 

『開放』

 

 

 赤黒い光とプラズマ光がセシリア・オルコットの両目に、一際強く光り輝いて見えた時には全てが終わった。最後に聞いた音は、雷にも似た激しい音だった




次回予告

セシリア・オルコットを撃破した澪

次の対戦相手は織斑一夏

織斑一夏は澪に対して怒りの形相を出す

そんな織斑一夏に対して、澪がやる事はただ一つ

徹底的に破壊する


次回=破壊者(前編)=




作者)長ぇ……


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破壊者 【前編】

前回長かったから、今回は短めで




一人の少年は何事も無く、姉と共に生きてきた


一人の少年は全てに憎まれ奪われた


全てに愛された少年は真の恐怖を知らない

全てに憎まれ奪われた少年は真の恐怖を知る


互いが争うとどうなるか?

答えは決まっている




全てに憎まれ奪われた少年は





全てに復讐せんと、全てを破壊する



────Anti

────Infinite

────Stratos

────System

────A.I.S.S起動


『……ふん』

 

 

 アリーナ内は漢字二文字で表すなら『地獄』。現在第一アリーナのシールドバリアー展開域の地面は、名前無き破壊者が放った攻撃によって戦場と化していた。

 

 アリーナの地面は名前無き破壊者を中心にして、巨大なクレーターを形成。今もその余波でプラズマ光がバチバチと、今も漂う煙を伝って発生している。対戦相手であったセシリア・オルコットは教師部隊が急いで医務室に運んで、今はもうこの場にはいない。

 

 先程まで澪に侮辱していた女子生徒達は、このあまりの光景に恐怖していた。女子生徒達は澪こと名前無き破壊者の頭部バイザーの真紅の光を見て、まるで次はお前だと言われるような幻聴を聞く。それによって次々にアリーナの観客席から生徒達が消えていく。

 

 

 今は次の対戦相手である織斑一夏の準備が終わるまで、こうしてアリーナの中央でその戦う時間が来るのを待っていた。

 

 

『(ノーネーム。一次移行後の機体データを見せろ)』

 

 

 澪がそう言うと【機体データの開放】と言うウィンドウが出る。それと同時に様々な機体データが表示されて、澪はそのデータに目を通す。

 

───────────────────────────────

 

機体名 :名前無き破壊者《N》

 

世代  :無世代多進化型

 

機体番号:ISーA《N》

 

制作企業:(株)AE社IS開発部署

 

搭乗者 :榊澪

 

SE量 :(戦闘用)25000

    :(競技用)980

 

状態  :競技用設定

 

システム:A.I.S.S.(無起動中)

    :真紅の光壁(無起動中)

 

特殊能力:■■■■■(パスコードロック中)

 

武装  :中型近接ブレード『復讐者の剣』

    :一極点集中砲『悪魔の指』

 

新武装 :胸部展開荷電粒子圧縮砲『名前無き破壊者』

    :自動操縦型無線突撃兵装『反逆する血の牙達』

    :超圧縮荷電粒子砲兼光刀剣『真紅の世界』

 

 

───────────────────────────────

 

 

 ふむ。なんか名前無き破壊者のデータには、結構やばいデータが載ってるな。なんだよSE量が900台って、現存のISなんかよりもよっぽどあるぞ。それと、特殊能力だ。なんだ特殊能力って?

 

 

────主。特殊能力と表示されていますが、正確には単一仕様能力の事です

 

 確か単一仕様能力と言うのは、二次移行したISに見られる特殊能力だった筈だ。単一仕様能力自体二次移行しても発現しないこともあると聞いた。それなら何故一次移行しかしていないこのノーネームにはあるんだ?

 

 

────主。それは私自体もよく分かっていませんので……お答え出来ません

    それよりも、来ました。

 

 

 

『ん?』

 

 

 なんかAピットIS射出口から、白いISが発射されて俺の前まで来た。あっ、あの顔は……思い出した

 

 

「澪!」

 

『お前か……織斑』

 

 

 そう言えば今回はセシリア・オルコットと織斑の二人と戦うんだったな。セシリア・オルコットのことが印象に残り過ぎて、織斑の事忘れてたな

 

 

「お前……なんであそこまでやった!」

 

 

『なんで?逆に言うが、お前はアイツにああ言われてイラつかないことは無いとでも?』

 

「……っ!それでも、普通男が女子に手を上げるなんてダメだろう!?」

 

 

 はあ……。どうやらお前は俺みたいな目に遭ってないから、そんなことが言えるんだな。まあ、それ故の無知という奴でもあるな。それでも……

 

 

『今の時代に、それは邪魔だ』

 

「なんだと!?」

 

『なら言うが、女尊男卑の世界になってから10年間で何もしてない罪無き男達がどれ程居るのか。今年だけでも何人捕まって、人生の終を迎えたのかわかるか?』

 

 

 これで分からないというのなら、お前色々とやばいからな。これは男として社会的に知ってなければいけない事だからな。

 

 

「……分からない」

 

『10年間で、世界で5000万人以上の男達が何もしてないのに女尊男卑の女性主義者に捕まった。日本でも今年に入ってから4ヶ月経つが、それでも1万人以上の男達が捕まった。しかも、何もしてない無実の人達がな。そんな状態である今の世界で、まだそんな巫山戯た事を言うのか?』

 

 

 今日の世界的な問題であるのが、『女性主義者達による男性の強制逮捕』だ。女性主義者達の身勝手な要求に従わない男達が、この女性主義者達によって何故か勝手に警察に突き出され逮捕。しかも、今の時代では日本の警察の三割が女性主義者の婦警の為、理由を言ってもそいつらに逮捕される。

 

 そんな愚行を繰り返している女性主義者達が、そんな身勝手な行動で逮捕された男達に復讐という形で殺されるなんて今の世界では当たり前になりつつある。まあ、それ自体もういろいろアウトたがな。

 

 

「それでも駄目なんだ!」

 

『……もういい。結局お前は幼稚な考え持つ奴だとわかった』

 

 

 澪がそこまで言うと、試合開始カウントダウンの合図が鳴る。

 

 

『(ノーネーム。今回は真紅の光壁を使わない。その使わない分のエネルギーを機体全体のエネルギーとして回しておけ)』

 

────了解

 

 

 その直後、澪の視界に機体のエネルギーバイパスを示すウィンドウが現れる。そのウィンドウの端に『真紅の光壁』と書かれる場所に繋がっているエネルギーバイパスが消滅。その分のエネルギーが機体の各場所に流される。

 

 

『試合開始!』

 

「行くぜ!」

 

 

 む?もう始まったのか。つーか、真っ直ぐ進んで来るなんて馬鹿か?あの世界最強も近接特化のIS使ってたがフェイントやら何やら入れて来たが、それすらも無いのか

 

 

『悪魔の指』

 

「ぐあっ!?」

 

 

 ……おい。そこは避けろよ。つか、お前前の試合見てたんだろうが。この悪魔の指は一極点式という事であり、五本ある指中、人差し指しか発射出来ない。しかも案外威力は低い部類だ

 

 

「こんなんで止まるかよおぉぉぉ!」

 

 

 ん?今気付いたが、織斑が持っているあの近接ブレードってもしかして暮桜の!?ノーネーム、あの近接ブレードにスキャンを掛けろ!

 

 

────スキャン完了。主、あれは『雪片弐型』です

 

 

 雪片弐型?なら雪片の後継機か。なら……もしかしたらアレも受け継げられているのか……?いや、確か『単一仕様能力』は同じ物は存在しないオンリーワンの能力のはず

 

 

────単一仕様能力が同じ機体というのは有り得ません。

 

 

 やはりそうだよな。それでも、もしかしてを想定して警戒するか。まあ……今は

 

 

 

『なら俺が止めてやろう』

 

 

 澪はそう言って復讐者の剣を、復讐する血の牙達を展開。その後、背中の非固定浮遊部位の大型スラスターを起動させて突撃する。

 

 

『切り刻め、そして刮目せよ』

 

 

 名前無き破壊者より先に、復讐する血の牙達が先行する。牙は白式に噛み付くように突撃、前の試合で脳波無線操縦兵器には慣れていると思っていた織斑一夏だったが、その時とは全く異なる近接特化の脳波無線操縦兵器に戸惑いを見せる。それ故に隙が生まれて、それ故に復讐する血の牙達の攻撃を受けてしまう。

 

 

『これから始まるのは』

 

 

 復讐者の剣を槍みたく構え、突撃する名前無き破壊者。その剣の先には血の牙達によって動く事が出来ない織斑一夏こと白式。織斑一夏も澪に気付いて避けようとするが、血の牙達の猛攻に動けない

 

 

『一方的な蹂躙だ』

 

「ごはっ!?」

 

 

 そう言った直後、復讐者の剣先が織斑一夏こと白式の胴に直撃。それによって上空からアリーナの地面にへと叩きつけられる織斑一夏。それに対して無機質な赤いバイザー越しで見下す破壊者。

 

 まだ、試合は始まったばかりだ




次回予告


それは破壊

それは絶望

彼が体験したのはその二つ

彼は今の世界に理不尽を行うものに

破壊と絶望を与えんと誓う

ISとは己の主のパートナーである

破壊者を名乗るISは主の願いを叶える

その願いの為、隠された能力を解き放つ


次回=破壊者【後編】=


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破壊者【後編】

なあ……俺は何でこんな目に遭ってきたんだ?

なんでコイツらはISが使えるからって威張るんだ?

分からない

男と女、仲良く平和に暮らしていて何が悪い

男女仲良く暮らしているだけで町ごと家族や親戚、友達を殺される



巫山戯るな


俺の大切な人達を侮辱したオルコットを怒りに任せて下した

それに俺は後悔はしてない


そこでただ威張って見ている女性主義者達に

男の怒りを見せてやる


『さて……やろうか』

 

 

 そう澪は言い、復讐者の剣を構える。 織斑一夏は澪が武器を構えた姿を見てその場から急いで離脱、澪よりも高い位置まで上昇する。

 

 

『逃げるな』

 

 

 澪は非固定浮遊部位の大型スラスターを最大稼働し、織斑一夏を追跡する。織斑一夏はISをここまで今の試合を入れて三回しか起動したことがない。その為、今の織斑一夏の動きもまだ初心者の域を脱したわけではない。

 しかし、澪はこの一週間朝の一時間半、放課後の数時間を現ISロシア国家代表である楯無と共にIS訓練を行ってきた。その為、既に初心者の域を完全に脱している。そのレベルは幾ら油断していた代表候補生であるセシリア・オルコットであっても、下す事が出来る程だ。

 

 そんな澪と織斑一夏では、結果は既に見えていた

 

 

「なっ、速い!?」

 

『お前が遅いだけだ』

 

 

 そう言って右手に持つ復讐者の剣を織斑一夏に向けて振るう。

 

 

「ぐわっ!?」

 

 

 斬撃を受ける織斑一夏に、さらに追撃で悪魔の指で一撃。続けて、回し蹴りでアリーナの壁部に吹き飛ばす

 

 

────白式。シールドエネルギー残量残り423

 

 

『(ノーネーム。胸部展開圧縮荷電粒子砲20%でチャージ)』

 

 

────了解。チャージ完了まで30秒

 

 

「ハアァァァァァ!」

 

 

 澪の視界の端にチャージカウントが表示されてる。その間にも織斑一夏が雪片弐型を構えて澪の正面から、なんのフェイントもない突撃をしてくる。それに対して澪は反逆する血の牙達を、復讐者の剣を収納して真紅の世界を展開する。反逆する血の牙達を織斑一夏に先程と同じように突撃させ、澪は真紅の世界で攻撃する。

 

 

『(思ったが、この武装名って厨二病臭い名前だな。一体誰が付けたんだ?)』

 

────っ 

 

『(どうしたノーネーム?)』

 

────主。その武器名を決めたのは私です

 

 

 澪は突然ノーネームが行ったカミングアウトに、思わず動揺する。なんせノーネームは真面目な奴だと澪は思っていたからで、それ故に動揺する。しかし、ノーネームがこの名前無き破壊者の武器名を決めていたのは少々意外だった。

 

 そんな中、澪はノーネームの声が少し震えていることに気付く。気のせいか……?っと澪は思ったが、すぐに意識を目の前のことに集中する。

 

 

『馬鹿が』

 

 

 澪の視界の先には、真紅の世界の射撃と反逆する血の牙達の攻撃を何回も掠りながらも突撃してくる織斑一夏の姿が見えた。その時だ

 

 

────胸部展開圧縮荷電粒子砲20%チャージ完了。何時でも撃てます

 

 

 胸部展開圧縮荷電粒子砲のチャージ完了が、たった今終えて、澪はすぐに胸部展開圧縮荷電粒子砲の発射体制につく。なんせ相手は今も尚愚直に真っ直ぐに飛んで来る事しか出来ない織斑一夏とその白式。ほぼ完璧に当たるだろうと澪は考えた。

 

 澪は胸部装甲を展開し、圧縮荷電粒子砲を外界に晒す。その光景に織斑一夏は不味いと思ったのか、方向を変えようとするが既に遅い。

 

 

『臨界点突破』

 

 

「う、うわあぁぁぁぁ!?」

 

 

 その言葉と共に真紅の光の奔流が砲身から放たれる。織斑一夏はそれをなんとか避けることが出来たが、避ける時に脚部の先が光の奔流に呑み込まれて表面装甲が融解し、さらには内部のケーブルや機密部品も損傷してしまう。

 

 

『……っ、なんだコレは?』

 

 

 澪がそう言った時、司会の端に光り輝くウィンドウがされていることに気付く。澪はそれを視認認証で開き、中身を確認する。ウィンドウの中身は『ODA稼働率:100.00%』と表示されている何かしらのアーマーだと思われる図面と武装の設計図だ

 

 

────ODA作製完了。新項目『DA換装』と『DA武装換装』を追加。展開します

 

 

 ノーネームがそう言ったあと、突然名前無き破壊者が黒く光り輝く。胴体部・腕部・脚部パーツが粒子分解されて崩れるが、すぐにまた再構築される。再構築されたはその姿と形状を変えていた。

 

 

────DAシリーズ『流星(ミーティア)』の換装を確認。

────SE量が800に変更

────機体最高速度3000kmに変更

────武装:多連装パイルバンカー『Dインパクト』

      :近接ブレード『超振動ダガー×4』

      :多機構拳部アーム『DアームN×2』

      :腕部固定ガトリング砲(実弾/光弾切替可)×2

      :高濃度圧縮粒子アサルトライフル×2

      :掌底付属収束小型荷電粒子砲『アロー』

────『名前無き破壊者』の武装は使用不可。注意して下さい

 

 

 その言葉の後、澪の頭の中に流星に関する情報が流れ込む。(今粒子体となっているが)そしてそれを理解する時間はほんの二秒。これは情報を粒子体となっている澪に直接伝えることにより、この短時間で新しい武装の情報を理解する事が出来るのだ。

 

 

「うぐ。なんなんだよアレ……」

 

 

 その光景を、先程の攻撃で脚部の先が大破した白式を纏う織斑一夏がそう呟く。この織斑一夏と同じようにこのアリーナにいるすべての人々が、澪と名前無き破壊者の更なる変化に戸惑う。

 

 

「くそ……」

 

────報告。脚部大破。それに伴い脚部PICの使用不可

 

 

 今の白式は脚部が融解・大破して地面に立つことも、脚部PICも使用不可になっている。織斑一夏は雪片弐型を杖替わりに立ち、非固定浮遊部位の大型スラスターを吹かして空に舞う。

 

 

 

『まだ立ち上がるか。なら』

 

 

 澪はそう言って、非固定浮遊部位の大型スラスターを吹かして白式に接近する。それに対し、織斑一夏は雪片弐型を構え、単一仕様能力【零落白夜】を起動。刀身がスライドし、青白く光り輝く光の剣が展開される。

 

 

『零落白夜か……!』

 

 

「俺は誓ったんだ、俺が全員守るって!」

 

 

 そう織斑一夏が言った直後、澪は超振動ダガーを二つ展開して投射。投射直後に高濃度圧縮粒子アサルトライフルを二丁展開し、超振動ダガーを雪片弐型で弾く織斑一夏に向けて撃つ。その攻撃は織斑一夏に直撃しシールドエネルギーが減り、織斑一夏の視界には白式から警告の知らせが表示される。そんな中、澪は織斑一夏に向けて言う

 

 

『守る……か、笑わせる』

 

「もう一回言ってみろよ……」

 

『なら言ってやる。笑わせる』

 

「なんでだ……なんでそんな事を言うんだよ!?」

 

 

 その直後に澪は非固定浮遊部位の大型スラスターを最大稼働、三次元躍動旋回を行う。それにより、織斑一夏を翻弄。織斑一夏は澪の動きについていけずに、その場で慌てて澪を探し回る。しかし、あまりの速さにISのハイパーセンサーも姿を一瞬だけ捉えるだけだ

 

 

 

『そもそもだ。俺達が乗るISも一般人には知らされてないが、世界各地で犯罪やら戦争に使われてんだよ。そんな物に乗っといて、みんなを守るだ?笑わせる』

 

 

「……っ、それでも!」

 

 

『それでもなんだ?まず世の中の男から見れば、ISは憎く、この世で最も恨まれている物だ。そんな物で守られても女はいいかもしれんが、男は余計に嫌になるだけだ。それに伴って、女もまた『IS最強神話』なんて物に囚われて、余計に世の中の女尊男卑化が進む……俺は嫌だね』

 

 

「そんな事……『その被害者だ!』……うわあっ!?」

 

 

 白式に掌底付属収束光粒子砲『アロー』で砲撃し、その白い装甲をさらに溶かし、削り、次々に壊していく。

 

 

『ISを使ったテロで壊滅した俺の町。それを政府の女尊男卑の女性主義者共によって暗黒の闇に葬られたあの悲劇。誰も知らない、日本唯一のISテロ事件。そのたった一人の生き残りが俺なんだよ!』

 

「ISテロ事件の……被害者……?」

 

『戦いの最中に手を止めるなぁ!』

 

「し、しまっt(ガアァァァン!)……ぐふっ!?」

 

 そう叫んだ直後にアームドNを両腕に展開装着し、白式の非固定浮遊部位と雪片弐型を殴り壊す。これで飛行ユニットと攻撃武装が壊され、白式は空から地に落ちる。白式は地面に落ちた勢いが強過ぎたのか、地面に突き刺さりその場から動けなくなる。

 

 

「ぐはっ……ゆ、雪片が!」

 

 

 手に持っていた柄の部分から上がくの字に折れ曲げられ、使えなくなった雪片弐型を見て織斑一夏はショックを受ける。

 

 

────警告。非固定浮遊部位・雪片弐型大破。PIC使用不可、シールドエネルギー残り68

 

 

 アリーナは、突然の澪のカミングアウトで衝撃が走っていた。その内容は世界的に平和で知られる日本で、信じられない衝撃的な事であるからだ。

 ここ日本では1990年代より後はテロは起きてはいないと言われてきたが、実際は数年前にISを使った史上初めてとなるテロ事件が起きていた。しかも、澪がその事件のたった一人の生き残り。それはこのアリーナに集まる人々にとって、とても信じ難いものでもあった。

 

 

 

『だからこそ怨み……だからこそ憎いんだよ……!』

 

 

 ISによって全てを壊された澪の、心の底から溢れかえる呪詛はアリーナの人々を恐怖の底に落とすことなど簡単なだった。だが、この恨みや憎しみが今の澪を形成する物の一つでもある。

 

 

 

『これで終わらせる』

 

 

 そう言った後名前無き破壊者の頭部バイザーが真紅に光り輝く、澪は名前無き破壊者の全身にある推進機と非固定浮遊部位の大型スラスターを最大稼働させアリーナの規定飛行最高高度まで瞬時に舞い上がる。

 

 

「えっ……?」

 

 

 その光景にはアリーナにいる全ての人々が目を疑う。名前無き破壊者が白式の目の前から突如消え去り、次の瞬間にはアリーナの規定飛行最大高度の上空50mに居たのだ。そして────何かが爆発したと思われる音がした

 

 

 

 

「がああああああああああ!?」

 

 

 

 澪が地面に向かって突撃し、地面に埋まる織斑一夏にアームドNで殴った。その一撃は、白式の残っていたシールドエネルギーと織斑一夏の意識を残さぬよう全て根こそぎ奪い去る。

 

 

 

 

 

『白式、シールドエネルギーエンプティ。勝者、榊澪』

 

 

 澪の勝利を告げるアナウンス。澪にとって今流れている音も何もかもが、どうでもいいと頭の片隅に置かれる。

 

 この光景は、今この場にいる全ての女性主義者達に『圧倒的強さ』と『畏怖』を植え付ける事となる。しかし、澪はそれを気にしない。なんせ此処はIS学園。澪にとっては敵ばかりの場所なのだから




次回予告

試合終了後、ピットであれこれあったが寮に戻った澪

それから暫くした時だった


「澪さん」


部屋の外からその様な声が聞こえた。

誰かと思ったが、声の主はセシリア・オルコットであった

彼女は澪と『仲直り』をしたいと言う

しかし


「残念だが、お断りだ」


澪はそれを拒絶するのである

次回=絶対拒絶=


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絶対拒絶

作者)大変長らくお待たせしました!



女性主義者達を

許す事などない

自分勝手に男を下す

都合が悪ければ手のひら返し

拒絶せよ


セシリア・オルコットに続き織斑一夏をも下した澪。澪は地面に埋まる様に気絶している織斑一夏を見ながら、ODA『流星』を換装して名前無き破壊者に戻る。

 

 

『……』

 

 

 澪は今のアリーナの光景を見る。試合前は綺麗に整備されていた地面やシールドバリアー展開防御壁が、今や地面は大小のクレーター、シールドバリアー展開防御壁の内部までにはいかなかったが壁部表面上には大きな亀裂が走っている。

 

 

 ……これが、俺がやったのか

 

 

 澪はこの光景を見てそう思う。澪が思ったのはそれだけで、アリーナにいる人々の事など何一切心配はしていなかった。この試合を見に来ている者の大半が、澪にとって一番嫌いな女性主義者達だった為に余計に心配することは無い

 

 澪はすぐ様自分が出てきたピットに、PICと非固定浮遊部位の大型スラスターを使って戻った。

 

 

 

 

 

────────────────────────────────

 

 

「ふう……」

 

 

 澪は名前無き破壊者を解いて人間状態に戻り、そう息を吐く。今現在ピットの外では澪に対しての罵声が鳴り響き、澪の怒りゲージはぐんぐん上昇している。そんな状態なのだが……

 

 

 

「榊。貴様の禁忌のISを寄越せ、もう一度こちらで調べる」

 

「ちふy……織斑先生もこう言っておるのだ。さっさと貴様が持つ専用機を、織斑先生に渡せ!」

 

 

 

 俺の目の前には一番毛嫌いしている屑教師こと織斑千冬と、天災の妹である篠ノ之箒がそう言って寮に帰ろうとする俺の前を立ち阻んでいる。……邪魔だ。でも、今の俺の状態をまだ教えてなかったな

 

 

「織斑先生。言い忘れていましたが、ノーネーム……貴方方では禁忌のISでしたか。禁忌のISは俺の体と融合してます」

 

「ゆ、融合だと?」

 

 

 ん?流石に世界最強でも、人とISが融合したなどと言うと戸惑うか。まあ……流石にいままでその事例がないからだと俺は思うがな。

 

 

「はい。文字通り禁忌のISは、俺の体と融合してます。その為俺からIS反応が出ていますし、生身でもISの機能のPICを使っての空中浮遊もできます」

 

 

 俺はそう言って、空中浮遊をPICで行う。つかあれなんだな、何気にハイパーセンサーも使えるみたいで俺の背後の光景も見える。

 

 澪はそう考えてから空中浮遊を止めて、地面に静かに降り立つ。その光景を見ていた織斑千冬と篠ノ之箒は唖然としていたが、澪が地面に静かに降り立つのを見て意識を取り戻す

 

 

 

「……取り敢えず、榊がISと融合しているのは分かった。しかし、そのデータを取り出す事は出来ないのか?」

 

 

 しつこい……ノーネーム

 

────何でしょうか主

 

 

 外部にデータ公開をする事は出来るのか?アレが五月蝿くてな

 

 

────それなら主。我々はデータ公開なんてする気はありませんと、お伝え下さい。

 

 

「えっと、名前無き破壊者はデータ公開なんてする気はないとの事です」

 

「……はっ?」

 

「ではそういう事で」

 

 

 澪はそう言ってその場からスタスタと歩き去って行く。しかし、織斑千冬は強引にでもデータを取り出そうと澪に対し、どこからともなく出した出席簿を目にも止まらなぬ速さで澪に向けて投げる。織斑千冬は知らないが、澪はハイパーセンサーも使える為、後ろから来る出席簿の存在には気付いていた。

 澪は迫り来る出席簿を振り向いて受け止める。

 

 

「そら、お返しだ」

 

 

 澪は受け止めた出席簿を、澪が元々持つ力とISの力を合わせた力で投げ返した。

 

 

「ぐううっ!?」

 

 

 出席簿を織斑千冬はキャッチしたが、余りの力に数メートル押される。その光景を見ていた篠ノ之箒は、呆然としていた。なんとか止まった織斑千冬は辺りを見渡す

 

 

「……っく、逃げ足の速い奴め」

 

 

 織斑千冬が投げ返された出席簿をキャッチした後、澪は既にその場から立ち去っていた。織斑千冬は澪がいたと思われる場所から、背筋が凍るほど……恐ろしい何かが漂っていることに気付いたがそれが何かは分からなかった。

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────

 

「ふう……」

 

 

 澪は部屋に戻ってからシャワーで汗を流し、今はベッドで横になっている。そして、今現在澪はある事に考えている。

 

 俺の頭には常時展開されているハイパーセンサーから来る情報、視界に映し出される様々な情報などが次々に送られていく。更に先程の身体能力の向上、生身でのPICやパワーアシスト使用と分かっているつもりでいたがやはり慣れないものだ。

 いくらISと完全融合したからと言っても身体代謝は勿論、食欲・睡眠欲は未だに健在だと俺は理解はしている。そういう所は変わりないのか

 

 

────主……何をお考えで?

 

 

「ノーネームか」

 

 

────そうです

 

「なに、今の俺の状態がどうなってんのか考えていただけだ」

 

────なら丁度いいですね。私も主の体についてお話をしようと思っていた所でした

 

「なら話が早い。説明してくれ」

 

────それでは……説明致します。

 

 

 

───────────────────────────────

 

 

 

────……という訳です。

 

「成程、良くわかった」

 

 

 ノーネームの話を聞いて、今の俺の体の状態に驚いた。まとめるとこうだ。

 

・ISであり、人間であること(どこかの勇者王か?)

・内臓部は勿論、心臓もあるが体が完全消滅しない限り死ぬことは無い

・人間体でもISの全機能の使用可能。なお、機能についてはON/OFFの切り替えが不可能。何故出来ない!?

・ISのエネルギーは人間体の時に自動生成され、それが永久にストックされる

・IS体でもエネルギーは自動生成され、そのまま動力源として使用される

・過剰エネルギーは全て機体の修復や、人間体での活動源となる。更に傷なども過剰エネルギーで修復

・あと数年で、体の老化停止

 

 ……成程、見事に人を辞めているな。特に老化の停止とは、もうこれでは不老不死だな……否、体が完全消滅しない限り死ぬことは無いという事だから死ぬには死ぬのか。しかしだ……

 

 

────なんでしょうか

 

「ここまでのエネルギーを生成する、俺とノーネーム達を動かす動力源ってのは一体何なんだ?流石にここまでのエネルギーを……ノーネームが言うには永久に生成し続ける動力源は聴いたことがない」

 

 

────これだけは言わせて頂きます。主や我々を動かすのはある永久機関です

 

 

「……そうか、ならいい」

 

 

────それでは失礼致します

 

 

 そう言ってノーネームは黙った。動力源が何か気になるが、今は…取り敢えず寝るとするか。

 

 そう考えた澪はそのまま眠気に身を任せ、すぐに眠るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドーモ、レイ=サン。スリープスレイヤーデス

アイェェェェ!?アイェェェェ!?ニ、ニンシャナンデ!?

キサマハユメカラサメルノダ!!イヤーッ!

グワーッ!?サヨナラー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────主……主……起きて下さい

 

 

「……はっ!?ね、なんだ……(コンコン)……ん?」

 

 

 澪はノーネームの声に意識を覚ました。しかし、何かもっと恐ろしい何かがあったような気がしたが、忘れる事にした。

 

 

 

────セシリア・オルコットが来た模様です

 

 

「ん……そうか」

 

 

 おっ、視界の中心にウィンドウが出てきた……これはブルー・ティアーズか。ならセシリア・オルコットだろう。

 

 澪はそう考えながら、ベットから立ち上がって部屋の扉を開ける。そこには分かっていたが制服姿のセシリア・オルコットが居た。澪はセシリア・オルコットを見てから言う

 

 

「何の用だ。セシリア・オルコット」

 

「…………あ、あの……実は謝罪しにきましたの」

 

 

 謝りに?……ふん

 

 

「何をしに来たのかと思えば、謝罪しに来た?散々とあんなことを言っとおいてか?」

 

 

 なんで今更来たんだコイツ。試合で差別やら研究機関に送ろうとしたのに、あとから謝りたいだと?相変わらずイライラさせるヤローだ。

 

 

 

「残念だが、お断りだな」

 

「そ、それでもどうしても謝りたいのです!」

 

 

 あー……もう

 

 

「少し……黙れよ」

 

「っ!?」

 

 

 セシリア・オルコットは突然放出された、試合の時と同じような濃厚な殺気を目の前にし口を閉じる。そう……セシリア・オルコットは感じたのだ。今喋れば、間違い無く目の前に居る澪に殺されると。その圧力は、思わず息が苦しくなるほどとても濃いものであった。

 

 

 

「織斑の時と変わって、俺だけ批判しまくっていた奴等もそうだったが俺からして見れば、オルコット。

 テメェ随分身勝手じゃねえか……おい?」

 

 

 セシリア・オルコットは震えていた。目の前に居る澪が出す圧倒的殺意の奔流を前に、奥歯をガチガチ打ち鳴らし、体の震えが止まらない。

 セシリア・オルコットは澪の怒りが、止まること無くさらに増えて、増大している事に本能が察した。そしてその怒りと殺気が混ざり合い、名前無き破壊者と似たものに見えたセシリア・オルコットは気が遠くなり始め、その額からは汗がダラダラと流れ始めている。

 

 

「……もうテメェが謝まったって既に事は進んで、もう取り返しのつかないところまで来た」

 

 

 そう言ってから澪は部屋の扉に手をかける。そして……

 

 

「もう既に遅いんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サヨウナラ……セシリア・オルコット」

 

 

 

 

 そう言って澪は部屋の扉を閉めた。

 

───────────────────────────

 

 

 パタンと、澪が住む部屋の扉が閉められ、そのすぐ後にガチャリと部屋の鍵が閉められる音が鳴る。同時にそこにあった圧倒的プレッシャーも消え去る。それを認知して、セシリア・オルコットはその場でぺたりと座り込む。

 

 

「……」

 

 

 終わった。それが彼女が頭の中で思い浮かんだ唯一の言葉であった。セシリア・オルコットはもう既に澪との関係を築くことは、この先永遠に出来ないのだと直感した。

 しかし、頭の片隅のほんの少しの思考が、これから先絶対に関係を築くことは出来るはずだと根拠の無いまま考えを始めた……その時だ

 

 

 

 

「ふふふ♪呆然としてしている所悪いけど、貴女がセシリア・オルコットさん?」

 

 

 セシリア・オルコットは突然後ろから声に驚き、その声が聞こえた方へと頭を向ける。そこには、水色の髪を持ち抜群のプロモーションを持つ一人の女性が居た。ネクタイの色から彼女が上級生だと分かった。

 そこまで考えて、セシリア・オルコットは目の前の人物が誰か導いた

 

 

「……あ、貴女は生徒会長の……」

 

「そっ、私はIS学園生徒会長の更識楯無。

 同時に、ロシアIS国家代表でもあるわ」

 

 

 

 更識楯無。史上最年少でロシアIS国家代表の座につき、さらには現IS学園生徒最強兼生徒会長である。専用機も持っており、その操縦技術も世界に誇るものだ。何にしても機体の能力以外の弱点という弱点が無い、それ程までのレベルを楯無は持っている。

 

 セシリア・オルコットは楯無とのレベルの差、さらには圧倒的プレッシャーを受ける。それにより、自分の方が下であることを認めさせられたセシリア・オルコットは恐る恐る楯無に尋ねた

 

 

 

「い、一体何の御用なのですか?」

 

 

 セシリア・オルコットが楯無に恐る恐る尋ねると、楯無は笑顔で答える。何故か笑顔でいる楯無を見て、セシリア・オルコットは何か良いことがあるのではないかと思っていたが……

 

 

 

「単刀直入で言うわね。IS学園生徒会長及である私と、IS学園最高責任者である学園長との話し合いにより、セシリア・オルコット……貴女をIS学園から追放します」

 

 

 

 現実は非常である

 

 

「えっ……な、何故ですか!?」

 

 

 セシリア・オルコットの言葉聞いて、楯無は何処からともなくICレコーダーとUSBメモリを取り出して見せる。楯無はその中のICレコーダーの再生ボタンを押す。すると、ICレコーダーからセシリア・オルコット自身の……教室で言った日本に対しての侮辱に関する事が流された。

 セシリア・オルコットは体をガタガタ震わせながら質問する。

 

 

「そ、それは……」

 

「ん?これはねー……とある人から頂いた物よ。で、このUSBメモリには先程の試合で貴方が、澪くんに対して言った罵倒等の音声データが入ってるわよ♪」

 

 

 

 不味い。非常に不味い。何とかして、目の前の二つを……公開されたら……っと、考えていたセシリア・オルコット。しかし……

 

 

「何とかしなくちゃ……って顔してるけど、もう遅いわよ」

 

「お、遅いとは……?」

 

「もう貴方の国と女王陛下に伝えてある……って言ってるの」

 

「!?」

 

「そう言えば……貴女の国って、たしか反女尊男卑国家だったわよね?」

 

 

 セシリア・オルコットが所属するイギリスは女王陛下が大の反女尊男卑主義者の為に、欧州では珍しい反女尊男卑国家である。その為、イギリス国内で発生する女性主義者が罪を犯すと大変重い罪を課されることで有名である。

 

 楯無は続けて言う

 

 

「……そういう訳で、貴女の国の政府は勿論、女王陛下はもうカンカンよ。それで、先程の試合の光景も見ていただいて、イギリスとIS学園の私と学園長で会議を行った結果。貴女のIS学園追放が決まり、本国に強制送還よ」

 

 

「あ……ああ……ああああ……」

 

 

「まあ……貴方が《代表候補生規定項目》である『第一条 代表候補生は他国に対しての暴言・男性差別をしてはならない』を破ってる時点で、既に決まっていたけどね」

 

 

 楯無はそう言ってから、虚ろな目をして青ざめた顔をしているセシリア・オルコットを一度見てからその場を離れる。

 

 

「じゃあね、哀れな英国貴族さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日の夜、IS学園一年一組所属 イギリス代表候補生セシリア・オルコットは、IS学園から追放。IS学園外の複合娯楽施設レゾナンスにて、更識家の特殊部隊によってその身を確保。その後、日本政府を通してイギリスにその日の内に強制送還された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝

 

 

 

 

 

 

 

 

『イギリス代表候補生であるセシリア・オルコット容疑者16歳が、男女差別と代表候補生規定項目違反の罪によりIS学園から追放。その後、イギリスに強制送還された模様です。

 なお、セシリア・オルコット容疑者に与えられていた専用機『ブルー・ティアーズ』は没収。代表候補生の称号は永久剥奪される模様です。』

 

 

 

 

「……ふん。これが奴の末路か、哀れなものだ」

 

「代表候補生としての規則を守れないようなら、このぐらい当然よ」

 

 

 次の日の朝、自室に取り付けてもらったTVからはその様なニュースが流れていた。澪と楯無はそのニュースを見て、そう言った。




次回予告

セシリア・オルコットの追放

クラス代表の決定

それが、クラス代表決定戦から数日たっての出来事だ

向けられる『妬み』『殺意』『恐怖』の視線


「死んじゃえ!」

「IS学園から出てけ!」


襲い来る女性主義者達

あれから、悪い事ばかりであったが……



少しはいいことも起きた


次回=変わる日常=


しかし、困った事も……


「ち、力加減が出来ない……」

『主!何事にも!ファイトです!』


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変わる日常

こんにちは毎度お馴染み駄目文作者のA.Kです
本文に入りますに謝罪です。

今回の話を書く前に、こちらのミスで投稿してしまうという重大なミスがありました。
感想でも多くの方々に指摘されました。
この前代未聞のミスは、取り返しがつかない事だと思っております。
以後今回の様なことがないように、気を引き締めて執筆していきますのでよろしくお願い致します。


今回長ぇ……
あと、今年最後の投稿になります。
来年もよろしくお願いします


 あれから数日が経った。あの忌ま忌ましいクラス代表決定戦後も、俺は特施での訓練を続けている。行っている理由は変わらない。この世界で生き残るために、俺は刀奈から教えを受けている。それもあるが、もう一つこの訓練を行なう理由がある。

 

 

『榊君!動きが悪くなってるわよ。集中して』

 

『はい!』

 

────主。その勢いで頑張りましょう!

 

 

 あの試合の時に得た俺の相棒とも言える『名前無き破壊者』……専用機を手に入れたからだ。あの時自分の中では思うように動かしているのだと思っていたが……

 

 

 

 

 

「榊君。結構機体に振り回されてるわよ」

 

「そ、そうなのか?」

 

「ええ。飛んでる時重心がズレてたし、無意識にだけど減速の時に過剰にスラスターを吹いてるとか結構あるわよ」

 

『刀奈様の言う通りです……が、まだあの織斑一夏と比べると天と地の差がありますが』

 

「ノーネームちゃんの言う通り、初心者と比べると本当に良いほうよ」

 

「そうか。まあ……これからの訓練で直すか」

 

『頑張りましょう主』

 

 

 

 という事があって今に至る。あの後、何気に刀奈とノーネームが普通に会話していて驚いた。何故知っているのかと聞いたら、どうやらノーネームの方から刀奈にへと接触したとのこと。遅かれ早かれ話そうかと思っていたことが一つ解決して良かったとは思っている。しかし、まだ……完全融合の話はしていない。

 ノーネームの方も、まだこの完全融合の話はしていないとのことだ。俺の方の決意もついていないが故に、この件については話すのは当分先のことだろう。とりあえず今は訓練だ

 

 

『うん。良いね。動作訓練を始めてから3日だけど、幾分良くなってる……いい傾向よ』

 

 

 訓練終了後、体中汗でびっしょりな俺に向けて刀奈がそう言う。まあ……朝と夕方にこれだけの訓練を行ってれば強制的に直るはずだ。まあ……あとは刀奈の説明が上手く、俺のどこがダメなのかを的確に、わかり易く説明してくれたおかげでもあると思っている。

 

 

────私から見ても前よりも上達してますよ主

────そうだぜ。あん時からますます動きにキレが出てるぜ主!

 

「そ、そうか……いつもありがとうな刀奈・ノーネーム……『ミーティア』」

 

 

 つい先日の事だった。夕方の訓練で装備を流星に換装した時に、突然出てきたのが『ミーティア』だ。ノーネームが我々って言ってたから何時か他の人格が出るとは思ってたけど、こんな突然出てくるとは思わなかった。だから、最初は戸惑ったものだ。

 

 

『そうそう。あの時の主の反応可愛かったな!』

 

『こら!主が困ってるじゃないですか!』

 

 

 男なのに可愛いって……止めてくれ。女だったらいいけど、男が可愛いって誰が得するんだよ

 

 

『俺だな』

 

『私ですね』

 

「俺の中に居たよ畜生め」

 

『榊君も新しい娘が増えて大変ね』

 

「まて、娘ってなんだ。ミーティアは俺の子供じゃない。仲間だ『そういう事にしとくわね〜』……刀奈!?」

 

『それよりも、ゴメンナサイ。今日は朝から生徒会でやる事あるから、もう行くわね』

 

 

 

 そうだった。来月行われる『クラス代表戦』の決め事や、当日の緊急事態時の避難マニュアルの作成。各代表の対戦表作成や、IS委員会・女権団・各国主要人の招待状作成……etcと、やることが多い。さらに普段からやらなければならない仕事などがあり、今生徒会は火の車状態だ。そんな状態でも、刀奈は俺との訓練に付き合ってくれている。

 

 

 

「あー……そうだったな。悪いな刀奈」

 

『ううん。私は榊君の役にたってるなら大丈夫よ♪』

 

「……そうか。んじゃ、生徒会のみんなによろしく」

 

『ええ……って、そう言っても私含めて虚ちゃんと本音ちゃんにしかいないけど。

 ティアちゃんとネームちゃんも、榊君のこと頼むわね』

 

『『了解(です)』』

 

 

 

 この光景を見ると、如何に俺が守られてるのか分かるな。この後、刀奈はそう言ってから特施を出て行った。今日は生徒会の仕事と訓練内容によって、何時もよりも早く終わって少し時間が余り暇だな。そうだ……

 

 

「ノーネーム。現在の機体状況を教えてくれ」

 

『了解』

 

 

 ノーネームが名前無き破壊者の機体データを、俺の視界の中に映し出す。

 機体データのSE量を確認。SE量高速補給中……問題無し。次、視認認証で動力稼働率を表示。稼働率100.00%……それと装甲値もオールグリーン……よし

 

 

「ノーネーム。機体データを閉じろ」

 

『了解』

 

『主〜。もうそろそろ時間だぜ』

 

「そうだな……戻るぞ」

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 特施を出て数分後、澪は寮の自室へと戻っている途中だった。既に時刻は6時18分。IS学園ではこの時間帯から起き始める生徒達が多くなってくる。澪にとってこの学園のほぼ全てが敵だという状況下、一人での行動は非常に襲われやすい。それが面倒臭いその一心で、自室に戻るための足を早める。

 

 

 

「き、貴様は……!」

 

「あ?なんだ、篠ノ之箒か」

 

 

 篠ノ之箒。『天災』篠ノ之束の実の妹。何かと俺に対して木刀と真剣で攻撃してくる猪武者だ。まあ……武者でもないな。いつも俺を睨んでくるのでうざったらしいといったらありゃしない。あっ、確か剣道やってるんだったな。格好からして朝の鍛錬だったんだろう……あっ

 

 

 

「……出会って数秒で睨むな。俺は何もしとらんぞ」

 

「貴様無くても私にはある!」

 

「はぁ……こんな所で木刀を振り回すなよクソ侍」

 

「き、貴様ぁぁ……!」

 

 

 篠ノ之箒は、昨年の全国剣道女子大会の優勝者。剣道の腕は相当高いものである……って情報を知った時はそう思っていたが、ここ最近の事思うと違うと気付いた。

 

 

「あああああ!」

 

「……ふん」

 

「せい!」

 

 

 こいつ……驚く程動きがわかり易い。何故か全ての攻撃が真っすぐから放たれる。しかも、全ての動きが剣道そのもの。以前からずっとこのやり取りをしているから慣れたのもそうだが……

 

 

────主〜次は……

 

(判ってるから言わなくていい)

 

 

 名前無き破壊者と完全融合を果たしてから、余計判りやすくなった。つか、ハイパーセンサーで全ての動きを捉え、更に自動で攻撃軌道を視界の中に表示する為余計に避けやすい。

 

 

「避けるなぁ!」

 

「……」

 

「答えろ!」

 

 

 少しは黙れよ……そんなに五月蝿いと近所迷惑だろうが。今の声は車のクラクション並に五月蝿いんだよ!あー……あまりの五月蝿さにこの階の人達ほぼ全員出てきたじゃないか。つか、大体の人がまたか……って感じな顔になってるぞ

 

 

「……このままだと他生徒に危害を加える事になるぞ」

 

「ああああああ!」

 

 

────主。このままでは……他生徒に被害が

 

(ノーネーム。脚部PIC重力操作機能と、脚部パワーアシスト機能を0.05%から5%に引き上げてで使うぞ)

 

────了解

 

 

(一瞬で決めるぞ)

 

 

 澪はそう己と同化する愛機に脳内で話す。次の瞬間、脚部のパワーアシストとPIC重力操作機能の出力が上がる。

 

 

 

「があああああ!」

 

 

 

 その瞬間、篠ノ之箒は木刀を大きく振りかぶってから袈裟斬りの要領で澪を叩き切る。篠ノ之箒はこの時一撃を喰らわせたと思った。しかし、篠ノ之箒の視界には何も居なかった。

 

 

「〜〜〜!!何処へ行ったあぁぁぁ!?」

 

 

 

 

 澪を見失い怒り狂う篠ノ之箒。そんな彼女の背後から圧倒的プレッシャーを放つ者がやって来る。その者は普段は温和でどんな生徒からも親しまれ、過去は日本代表候補生最強として名を馳せていた……

 

 

 

 

「……篠ノ之さん?朝から何やってるのですか?」

 

「だれ……ひぃ!?や、山田先生……」

 

 

 

 

 

 銃央矛塵(キリング・シールド)と恐れられた。元日本代表候補生最強盾使い、現在IS学園一年一組副担任こと山田摩耶その人であった。

 

 

 

「説教です。慈悲はありません」

 

 

 

 

 

 山田先生の怒りが爆発している頃、澪は自分の部屋がある1460〜1480番フロアにある自室に居た。既にシャワーを浴び、制服を着て勉強で使う道具を用意した澪はテレビでやっているニュースを見ていた。ニュースには『男性の必要性』と言うものであった。ニュースを嬉しそうに言う者は勿論のこと女性。しかも有名女性主義ニュースアナウンサーである。

 澪はそのニュースも、ニュースアナウンサーに対して強い不快感が沸き上がる。その内容も内容である。女性主義アナウンサーが現在言っているのは何故か澪の事についてである。

 

 

 

『この榊澪という男はさっさと殺してしまうべきなんです!この男についての履歴には犯罪の記録も多数、しまいには神聖なISを動かすというとてつもない愚行を犯しているのです!これは女性に対しての侮辱であるため即刻殺し……』

 

 

「うぜえ……」

 

 

 澪はそう言うとテレビの電源を消し、部屋を出てから扉の鍵を閉めて食堂に向けて歩き出す。すると、脳内でノーネームとミーティアの二人が澪に話し掛ける。

 

 

 

────主。先程のは……

 

(見ていたのか……)

 

────主!何なんだよあれ……主が何をしたんだって言うだよ!?

 

(そりゃあ……アイツらから見れば、ISを動かしている後ろ盾を持っていない最上級愚者じゃねえのか?)

 

────酷い。酷いです……

 

(ほっとけほっとけ、いつもの事だ)

 

────ええ!?でもよー

 

(ミーティア。いずれ女性主義者達全員地獄の底に叩き落とす。それまでの我慢だ)

 

────そうだけどよ……オレとしては主に傷ついて欲しくないんだぜ

────私もそうですよ主。我々は主に忠誠を誓う身。それゆえ傷ついて欲しくありません

 

 

(あれ程憎んでいたISに、ここまで心配されるのは……なんか複雑だな)

 

 

────主……まだ我々を……

 

 

(大丈夫。もうお前達を恨んでなんかいねえよ)

 

 

 この学園に来る前まで、澪はIS・女性主義者達を心の底から激しい憎悪を持っていた。一般的には多くの男性が女性主義者達に激しい憎悪を持っているのに対し、澪はISと女性主義者のテロリスト達によって全てを奪われてきた。

 それは今いるIS学園に来てからも持っていたが、名前無き破壊者達と出会ってから変わっていった。他の機体……例えば特施にあるラファール・リヴァイブのISコアに宿るコアの意志が、澪に言うのだ。ごめんなさい。私達のせいでごめんなさい……っと、クラス代表決定戦後から澪はISコアの意志の声を聞くようになったのだ。

 それで理解した。ISコアに宿るコアの意志は、ISは悪くない、悪いのは女性主義者達なのだと。

 

 そうこうしていると、いつの間にか食堂に着いていた。同時に視界の中にこれでもかという程のターゲットタグが付く。以前から敵対している女性主義者の生徒達だ。最近こうして澪が来る時間を調べて、早めに食堂に来ているのだ。

 澪は視界の中にあるターゲットタグを消すよう指示していた

 

「なんで愚者がここにいる」

 

 

 愚者。それが今の澪の渾名で、澪からしてみれば愚者はどっちなのかと聞きたくなる程だ。

 

 

「愚者じゃねえと言ってんだろ」

 

 

 そう言って、周辺の女性主義者の生徒達に向けて怒気を含んだ声で言う。その目は澪と敵対している生徒達全員に向ける。

 

 

「う、五月蝿い!」

 

「そんな弱々しく言われても、俺からすれば見え張ってるだけにしか見えないが……滑稽なもんだ」

 

 

 澪からしてみれば、女性主義者なぞISが乗れるだけで調子に乗るただのガキにしか見えない。なんとも可哀想で哀れな存在としか思いようがないのが今の考えだ。その連中に自分の大切な人達を奪われたと思うと、自然に手を握る力が上がる。

 どうしてやろうかと澪が思ったその時だ

 

 

「死んじゃえ!」

 

「IS学園から出ていけ!」

 

 

 その声と共に、ナイフと箸を持った生徒二人が澪に背後から襲いかかる……が、澪はISと完全融合している身。さらに常にハイパーセンサーが作動している為、何処に誰が居るかなど朝飯前だ。まず叫ぶ時点で位置なんて判明し、ろくに訓練もしてない一般的女性主義者の生徒など、普段から訓練している澪にとっては対処がしやすい。

 澪はその場で屈んで、襲撃者二人の足をさり気なく肩で引っ掛ける。すると、襲撃者二人はそのまま地面に頭から突っ込んで気絶した。

 

 

 

「なる程な、だからさっきから俺の後ろ背後にいる奴らがニヤニヤしてたのか」

 

「なっ!?バレてたの!?」

 

「もうバッチリな。コソコソ喋ってんの分かってんだよ。そもそも、俺は朝食を取りに来ただけだ。邪魔すんな」

 

 

 

 そう言ってから先程よりも幾分か怒気を含んだ声で言う。すると、その場の女性主義者の生徒達は我こそは先にというように逃げていった。

 

 

 

「おばちゃん。味噌汁定食一つ」

 

「あいよ。あんたも大変ねぇ……納豆おまけに付けとくよ」

 

「あっ、ありがとうございます……」

 

 

 その後、味噌汁定食+納豆を貰った澪は四人座席のテーブルで食べていた。別に体を動かすエネルギーは常に量産されて、もう食物を食べなくてもいい体になったが、別に食物も外部エネルギーとして吸収出来るため食べてもも損は無いし、気分的に良くなるから澪は食物を食べることに関しては辞めることはしない。

 味噌汁定食を半分食べた頃、背後から声を掛けられた。

 

 

「あっ、座ってもいいかな澪くん?」

 

「ん?夜竹にナギ、リコリンか。別に構わないが……」

 

「やった!」

 

「ありがと!」

 

「やった?なにを喜んでいるのか知らんが、俺と一緒に居てもいいことなど無いぞ……って、話を聞けよ」

 

 

 まあ別に構わないが。こら、何故お前達は俺の全身を触る。くすぐったいぞ。手つきが……ちょ!?そこ触るな!?

 

 

「ねえねえ。さっき物凄い数の人達が食堂から出てきたのを見たんだけど。何か知らないかな?何人か泣きながら走ってたんだけど……」

 

「それ俺が原因だ」

 

「うわ……。なにやったのよ榊くん」

 

「ん?なにって……怒気を含んだ声で言っただけだ。単純だろ」

 

「「「なにそれ怖い」」」

 

 

 その後、些細な世間話をしながら澪は三人と朝食を取ってから自室に戻り全ての準備を整えてから教室にへと向かった。教室に向かう途中、食堂で見なかった女性主義者の生徒達と会ったが何故か凄い形相で俺に道を譲った。

 

 あのクラス代表決定戦後から、このような事が起きている。まず、原因となったのがあの試合で魅せた『殺意』と『怒り』だ。さらに、女性主義者であり英国代表候補生であるセシリア・オルコットを、破壊尽くしたこと。そして────

 

 

「く、くそ……『榊澪不可攻撃・防衛時反抗権限』さえ無ければ……!」

 

 

 『榊澪不可攻撃・防衛時反抗権限』。それはIS学園最上級権限を持つ、学園長夫妻とIS学園生徒会長及び生徒会が宣言した澪だけに適応される最上級権限。これは澪にだけに適応される権限で、内容は澪に対するあらゆる攻撃を禁止し(本人が攻撃だと思ったもの)、これを犯して澪に攻撃した場合に限り、澪が反撃しても良いという内容である。尚、破られた場合は、学園長夫妻と生徒会長及び生徒会の話し合いによって罰される。

 最も、澪はよっぽどのことが無い限りこの権限を使って相手に直接手を振るうことは無い。それについては……後で明かすとする。澪はそのままその場を歩いて去っていく。後ろから叫び声が聞こえるが無視した。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

────授業中と言うのに溜め息とは……

    朝の訓練で疲れたのですか主?

 

(いや、そういうわけじゃないけど……ミーティアは?)

 

────寝てます。もともと朝に弱い子なので。

    それより、何故溜め息なんかを……?

 

 

 ノーネームにそう言われた澪は、手に持つひしゃ曲がった金属製の棒状のナニかに目を落とす。

 

 

────それは、刀奈様に作って頂いた鉄製のシャーペンですね

    あれ?何故ひしゃ曲がってるのですか!?

 

(ち、力加減が出来ないんだ)

 

 

 そう。澪は完全融合後、人間体での力加減が全くと言うほどできなくなってしまった。その為、学園長夫妻と生徒会長及び生徒会から与えられている権限の反抗権を使うことが出来ない。今のその状態で反抗して殴る蹴るもしくは突くなんてしたら、間違いなくネギトロの完成だ。

 

 

 

────一言言わさせて頂きます

 

(なんだ?)

 

────主!何事にも!ファイトです!

 

 

(やるしかねぇか……)

 

 

 

 

 なあ父さん、母さん。それに桜。俺がIS学園に入ってから数週間、色々あって人間辞めたけどそれなりに元気にやってるよ。




新章予告

世界に伝わる破壊の名

IS学園に現る新たな代表候補生

迫る襲撃者達

戦乱の中

破壊者は新たな力に目覚める

新章=破壊の覚醒=


次回予告

クラス代表決定戦から数週間

破壊を名乗るISを駆る澪

相変わらず五月蝿い女性主義者達

そんな日々の中、新たな代表候補生が現る

どうでもいいと思っていたが……


「あんたが破壊者ね?」

「なんだお前は……」

「ねえ……私と一戦交えてくれない?」



次回=挑戦者=


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第二幕 破壊の覚醒
挑戦者


あけましておめでとう御座います!
今年もよろしくお願いします!
遅れてすみませんでしたぁぁぁぁぁ!
……後半あたりから思い浮かば無かったんだ
────────────────────


それは破壊

それは変革

世界に放たれし破戒の者は

ある時には希望を

ある時には絶望を

世界に与えた

立ち上がりし者達

怯え始める傲慢者達

彼の者は、今日も破壊の力を鍛え上げる

世界が恐れし破壊の力を……


 4月の末を迎えようとしているが、まだ少し寒い日々が続いているこの頃。今日も生き残るために朝から訓練を行っている。もう操縦時間は200時間を超え、刀奈からも並の代表候補生程度なら普通に勝てると数日前の訓練中に言われた。

 もう今ではある程度ノーネーム達の機動力に振り回される事はない……が、まだ全推進器による機体コントロールはまだ絶対に扱えるという訳ではない。とくに『流星の破壊者』は最高速度がマッハ3と、いくら広いといえるこの特施地下IS訓練場でも、出したが最後……壁に激突してノーネーム達に迷惑をかけるだけだ。

 

 

 

『……』

 

 

ガシンガシン

 

 

『……ふう』

 

 

────主。あと半周です……頑張って下さい!

────あぁるじぃぃ……ふぁいとー……

 

 

 最近はPIC重力機能無しでの歩行・走る訓練を主に行い、五日前から今までの訓練を一通り行った後、訓練場を走る訓練を行っている。これもまた刀奈達からのアドバイスで、俺みたいなISは今の内からやっておいた方がいいという事から行っている。

 それと、さらに面倒臭いことが起きた。何時の間にか撮られていた俺の戦闘映像と、戦闘ログにデータが国際IS委員会に勝手に送られたそうだ。これは刀奈から教えて貰ったのだが、学園上層部の方から教職員には外部に公開しないようと、箝口令が出ていた。これは俺がノーネーム達を動かしたその日から出ていたのだが、つい2日前に突然国際IS委員会が俺と専用機についての事を全世界に向けて公開した。

 このせいでIS学園には電話が殺到。今日も教職員と生徒会、学園長達が朝から出勤している。俺もこれについてノーネーム達と独自で調べた。時間がかかるかと思っていたが、意外にもすぐに犯人は分かった。それは国際IS委員会からのスパイ、さらには女性主義者の一部教員が関わっていた。俺はたまに機体情報を得ようとしてくる暴力教師を思い浮かべたが犯人ではなかった。

 これを受け、学園上層部がすぐに動いた。国際IS委員会からのスパイは刀奈……対暗部組織更識家が始末した。別に刀奈が直接始末した訳ではない。スパイをわざと泳がせてIS学園から出た所を、待機させて置いた更識家の暗部部隊が強襲。その場で殺が……始末した。今回の事件に関与した女性主義者の一部教員達も、IS学園にある地下懲罰部屋にぶち込まれた。それで一応の火元を絶つが、電話が止まることは無いようで今日も刀奈達は頑張っている。そういう事で、最近は刀奈との訓練は暫くの間行っていない。

 

 

────主。お疲れ様でした。今朝の訓練はこれで終わりです

────おつかるぇぇぇぇ……

 

 

 俺はその言葉を聞き、人間体に戻る。刀奈が見ていた時は、一応汗をかいておいたが、今は居ないのでわばわざ汗をかかせる事は無い。一応刀奈には単なる全身装甲型のISと言ってあるので、刀奈がいる前ではわざわざ汗を流す事を毎度の訓練が終わり、人間体に戻る瞬間に行うという謎の苦労がある。そして、それで毎度服を着替えなくてはいけない。しかし、最近はそれを行わないで済むので、ここに来る時は学園指定の制服に着替えてくる。

 

 

「了解だ。二人共、訓練に付き合ってくれてありがとう。ノーネーム達も暫く休んでくれ」

 

 

────うーい。じゃあ寝るよ主〜。また後でぇぇ……

────ミーティア……分かりました。それでは失礼します主

 

 

 寝たか。別にこの体では食事は取らなくていいから、部屋に時間ギリギリまで居るとしようか。

 

 

 そう考えた澪は颯爽と特施から出て行き、途中また女性主義者の生徒達と出会い、軽くあしらってから自室に戻った。そうしてベッドに腰を掛け、テレビの電源を入れる。

 そこには、相変わらず澪の事についての報道がされているが、それに足すように名前無き破壊者の報道もされていた。その報道しているのは、あの女性主義者のアナウンサー。澪はその顔を見る度に殺意が湧くのをこらえて、テレビを見る。

 

 

『あの世界最強の織斑千冬さんの弟である、織斑一夏が専用機を持つことは世間体からしても、世界も認めています。しかし、あの榊澪は単なる一般人。さらには犯罪履歴もある様な、反社会的人間です』

 

『榊澪の持つ専用機は、その戦闘データ、映像から見るに、これまでのISより機体スペックは高いと思われます。しかも、その武装はビームを使用。未だ全世界が開発出来ていないビーム兵器を持っている。これは女性が持つべきものであり、男如きが持ってはいけないものです!なので、今すぐ榊澪から専用機を取り上げ、我々女性の元に……』

 

 

 そこまで言った瞬間、突如画面内のスタジオが騒がしくなった。俺はなんだと思っていたら、突然男のものだと思われる叫び声が響いた。そして────

 

 

『女性主義者に鉄槌をぉぉぉぉぉぉぉ!』

 

『あ、あなた誰なn(バン!)……あ、アァァァァァァァ!?』

 

 

 

 

 

「おいおい……朝の生放送で人を殺したよ、おい」

 

 

 突如ステジオ内に乱入してきた男は、女性主義者のアナウンサーに懐から出した拳銃で撃った。撃たれたあの女性主義者のアナウンサーは首を撃たれ、頚動脈が切れたのか血飛沫が周囲に飛び散る。スタジオ内は大混乱し、普通ならこの時点で映像が止められるはずなのだが、画面はそのままになっている。今、画面に映るのは拳銃を持った男。それと真っ赤な血を周囲に撒き散らし、ピクリとも動かない女性主義者のアナウンサー。俺はこの光景を見ても別に怖くも無いし、あのテロの時に見慣れてしまったのでただ死んだのだとしか思い付かない。それに苛立つ自分がいる事を自覚する。

 その時だ。今度はテレビではなく隣の部屋から悲鳴が上がった。十中八九確実に今見ているテレビ番組が原因だ。もう一度テレビの画面に目を向けると……

 

 

『我々、反女性主義団体は本日を持って日本国内の女性主義者団体に向けて報復処置を行うことを宣言する!これがその合図だ!』

 

 

 男はそう言ってから拳銃の銃口を自らの頭に向け、次の瞬間には引鉄を引いて自殺した。そのまま男が倒れようとしたその瞬間、テレビの画面が切り替わってから『しばらくお待ち下さい』のテロップがある映像が流れた。

 その光景を俺は少しの戸惑いと、女性主義者達にざまあみろという気持ちを持って見ていた。これは世間一般から見ればおかしいのかもしれないが、あの体験をすれば嫌でもこうなる……

 

 

 

────────────────────────────

 

「はあ……」

 

 

 今日も憂鬱な学園生活が始まる。俺は勉強道具を鞄に入れて、自室を出ていった。寮から出ると大勢の生徒達がIS学園の本校舎に向けて歩いていた。そして俺の溜息を聞いて、一斉に俺の方を見てくる。

 この学園の生徒=敵として基本俺は見ていて、それはあちら側も同じようらしい。まあ……これは俺の場合であり、織斑の方は全くない。しかも、生徒だけではなく教師陣の大半も敵だ。しかし、学園上層部である学園長夫妻と生徒会。それと同じクラスにいる生徒数人。それと山田先生と食堂のオバチャン達。……それと、まだ会ったことはないが刀奈の妹である簪っていう子が、俺の事を応援していると刀奈から聞いた。

 

 

 

「レイレイ〜おはよ〜」

 

 

 そう言って、後ろから乗ってくるのは布仏本音ことのほほんさん。辺りの奴らが相変わらず畏怖の目で見てくる中、そんなの関係なしと言わんばかりに俺に接してくる。おい馬鹿止めろ……のほほんさんの隠れたそのボディが……いかん。心頭滅却もとい感情コントロール……よし。

 

 

「おはよう……で、何だ?」

 

「んーとね。会長から伝言頼まれたんだ〜」

 

「会長から?」

 

 

 その瞬間、周辺から向けられる視線の中に嫉妬と殺意が増えた。ウゼェ……

 

 澪は周辺にいる生徒達に鋭い視線を向けると、何人かの生徒は悲鳴を上げながら、泣きながら走り去っていく。その光景はもはや毎回のように現れる悪役の奴らが逃げる時の光景だ。

 

 

「レイレイ凄〜い」

 

「……褒める事か?」

 

「だね〜。とりあえず、会長からの伝言言うね〜」

 

「ああ」

 

「えーとっ『今日1年2組に中国から代表候補生が転入してくるから、一応気を付けてね』だって〜」

 

 

 代表候補生。その言葉を聞いて思い出すは、あのイギリス代表候補生。様々な結果を出してきたにも関わらず、男といって俺をあそこまで見下していた奴だったな。そう言えば、なんか先週に代表候補生が襲われたってテレビでやってたな。

 

 

「……一応?会長がそう言うなら大丈夫って事か。のほほんさんは?」

 

「会長が言うなら〜、大丈夫だよ〜」

 

 

 長い。凄く長いぞ。何度も話すが、のほほんさんの喋り方は蝸牛を連想させるほど長い。5秒ほどの言葉も、体感的に1分程にも感じた。

 

 

「そうか……」

 

「んじゃ行くね〜またあとで〜」

 

 

 

 のほほんさんはそう言って、フラフラと何処かに歩いていく……一体何処に行くんだ?まあ……そんな事よりも────最近ずっと俺を追い掛けてくる女の子は何なんだ?別に危害を加えないみたいだからいいんだけど……

 

 

「……行くか」

 

 

 俺は身体能力をフルに活用し、一瞬でこの場に足跡を残して消える様に靴箱まで移動した。ちなみにこの足跡、業務員兼本当の学園長である轡木さんが直している。刀奈曰く、轡木さんには生身では絶対に勝てないとのこと……何者だ?

 

 

─────────────────────────────

 

「……ふん」

 

 

 教室は今日も今日とて騒がしい……が、俺が居るクラスは他のクラスより若干静かだ……無論、原因は俺だ。

 クラス代表決定戦で名前無き破壊者を駆り、その場に居た者に対して心底の怒りを放った。その後、織斑とセシリア・オルコットの二人を破壊。両専用機もダメージレベルCというほぼ大破状態になるまで破壊した。そこまでした俺を怒らせるのは危険という事より、なるべく怒らせないようにする為にこうなっている。

 因みに、クラス代表は織斑にした。なったではない。したのだ。別に俺は無理矢理巻き込まれて、さらに全員破壊という勝利を収めたんだ……勝者のいう事は絶対だ。あの屑教師には話にならんかったからこれは山田先生に言った所、笑顔で許諾してくれた。

 そして、次の日には織斑がクラス代表に決定していた。それにはクラス全体が了承していた(織斑は納得しなかったが)

 

 

 

「……美味い」

 

 

────主の味覚共有……してみたいですね

────オレも主の味覚共有してえよー!

 

 

 現在、時刻は昼時。多くの生徒達がここ食堂にて昼食を取っている。俺は食堂の真中にて昼食を食べているのだが……

 

 

 

 

 

 

「一夏ァ!さっきから話しているコイツは何なのだ!?」

 

 

 

 

 うるせぇ……!しかし、まさか織斑達が俺のすぐ隣に来るとは思わなかった。飯時ぐらいは静かにしろよ……まあいい。もう食べ終えたからな。あとは食器を戻すだけだ…………よし。早く教室に戻ろう、そして予習だ。

 

 

────あっ、主。後ろに振り向いて下さい

 

 

 澪はそう言われてその場で後ろを振り向く、振り向いた先には少し驚いた様子のツインテールで小柄な女子がいた。澪はその姿を捉えてから言う。

 

 

「アンタが破壊者ね?」

 

 

「……何のようだ。中国代表候補生『凰鈴音』」

 

 

 俺の前に居る女子────凰鈴音。たった1年でISの中国代表候補生まで昇りつけた、中国で今期待の人物だ。専用機を持っていて、中国の最新鋭第三世代IS『甲龍』のテストパイロットでもある。

 そして、中国の各世代から『鈴にゃ〜ん』の愛称で親しまれてる。今ではファンクラブも出来ているという……

 

 澪の発言によって食堂内がざわめき始める。澪が五月蝿え……そう、言った後、周りに怒気を撒き散らす。それにより、ざわめき始めていた食堂内が瞬時に静かになる。

 

 

 

「……どうやら、国から聞いていた以上にヤバそうね……アンタ」

 

「ふん。どこまで聞いてるのかは知らないが、やばくて結構だ凰鈴音」

 

「まあそうよね……あっ、そんな堅苦しく呼ぶのはよしてよ。私、かたっ苦しいの苦手だからさ。鈴でいいわよ」

 

 

 ……うん。どうやら、凰鈴音は女性主義者でないみたいだ。前みたいなことにはならないで済みそうだな

 

 

「……俺の事は、鈴が好きなように言え」

 

「分かったわ。なら、澪って呼ぶわ」

 

 

 手を出してきている……これは、普通に握手しでいいんだよな?

 

────主。あの鈴にゃ〜んの邪気の無い純粋無垢なあの顔を見て下さい

    アレを見て、そんな事を考えてるように見えますか?

 

 ……うん。確かにそうだな……しかし、ノーネーム。お前……ファンだったのか?ああ、慌てる必要は無いからな……む?ノーネームの反応が消えた。まあいいか

 

 

「そうか。よろしく頼むぞ、鈴」

 

「ええ!よろしく澪!」

 

 

 ……なんだろうか。さっきまで、鈴に疑いの目で見ていたのが馬鹿みたいに思えてきたな。この笑顔……曇りのない蒼天の輝きだな。眩しい

 

 

「……で、肝心な目的は?」

 

「あっ!忘れてた!?」

 

「……で、目的は?」

 

「えっとね……私と一戦交えてくれない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ?……まあ、いいぞ」

 

────あ、主!?

 

 中国代表候補生の若手エースが、破壊者に挑むという事なのだ。因みに、この時ノーネームはこの世の終わりのような表情でその事を聞き、悲鳴に近いような声で澪に向かって叫んだのであった。

 




次回予告

破壊の名を持つIS

龍の名を持つIS


「えええええい!」


襲い掛かる龍の猛攻


『……強い!』


拳と剣を交えた連撃

その猛激は今までとはまた異なる行動

それは、データとして破壊者に吸収される

それは破壊の者の新たな力の元となる


次回=破壊者と龍=


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破壊者と龍

小さき龍

恐れる破壊者

二者が出会う時

新たな能力の息吹


『……』

 

 

 昼休みの鈴との模擬戦(?)約束から数時間、現在は放課後。俺は第一アリーナAピット射出口に居るのだが……

 

 

『……邪魔だ』

 

「ふん。私達はここで休んでるだけよ」

 

 

 毎度お馴染みの女性主義者の生徒達が、ISを纏ったまま射出口の中央部分で座っている。どうせ、俺と鈴が模擬戦するという事を聞いたのだろう。それで、その模擬戦をやらせないためにここで妨害行為をしている……そんな感じだな

 アリーナの使用時間は有限だ。さらに、ハイパーセンサーが鈴も既にアリーナ内上空で待機しているのを感知している……はあ

 

 

 

『……もう一度言う。邪魔だ』

 

「えー?私達疲れてるから動けないから」

 

『……訓練機からアリーナ内の使用許諾マークが無いってことは、無断で稼働させてる

 これは、IS学園IS使用規約に反する行為……分かっているのか?』

 

 

 『IS使用規約』とは、IS学園内でIS稼働についての規約だ。目の前にいる奴らは、その中でも基本的な使用許諾についての規則、さらにピット内の行動規則にも違反している。

 

 

────主、今いるISのコア人格達に強制退去させるよう命令します

 

(……出来るのか?)

 

────はい。主には言ってませんでしたが、一人を除き、我々は全ISコア人格に対して命令できます。

 

 

(……ふむ。それは姉妹みたいなものか?)

 

 

────ほぼそれですね。……では、命令します

 

 

 

 ノーネームがそう言うと、突如女性主義者の生徒達が纏うISが操縦者達の意思を無視して勝手に動き出した。ピットから出て行こうとするISに、ぎゃあぎゃあと騒ぐ生徒達を無視して脚部装甲をカタパルトに乗せる。

 

 

────では、行きましょう……鈴にゃ〜んの元に

 

 

 ノーネームの最後の言葉に若干苦笑いしながら、澪は射出合図を待つ。そして、合図が出た

 

 

『名前無き破壊者……出る』

 

 

 蒼き軌跡を引きながら、黒き禁忌がアリーナに羽ばたく。

 

────────────────────────────────────────

 

 

『済まない……待たせてしまったようだな』

 

 

 PICと大型スラスターを稼働させ、鈴の元に舞い上がる。澪は予定時刻過ぎての到着に、鈴に対して謝る。アリーナに集まっていた生徒達がその光景を見てざわめくが、特に五月蝿い所に向けて顔を向けると『ひっ!?』と言って黙った。

 この学園では澪は多くの生徒・教師の間から最低人間とも言われているが、澪は単純に女性主義者達が嫌いなだけであり、普通な思考を持つ人なら丁寧な対応をする。ぶっちゃけ、逆にまともな思考を持つ者達が少ないということの表れでもあるのだ。閑話終了

 

 

「別にそれはいいんだけど、澪の方が大丈夫なの?」

 

『……何故?』

 

 

 鈴の言葉にホッとしたのもつかの間。鈴の大丈夫なの?という言葉に何処が?と澪は考えるのだが、良く分からなかった

 

 

「さっき、女性主義者の生徒達が澪が来るピットの方に向かっていったから」

 

『ああ。それか……それなら何時ものことだから気にすることでもない』

 

「まあボコしてくれた方が良いわ。私、女性主義者とか大ッ嫌いだから」

 

『ほう……同感だ。鈴とならいい仲になれそうだ』

 

「うん!私もそう思うわ」

 

 

 この瞬間、互いにコイツは最高の友だと気付くのであった。

 

 

「……さて、話はこれぐらいにしといて」

 

『始めよう』

 

 

 突如、二人の空気が変貌する。それまであった日常的な空気が、殺伐とした空気に変わる。片や破壊の名を持つ者、片や中国若手エースにして、若手最強にして重度のプレッシャーを日夜受けている者。

 互いにレベルは中級以上。並の代表候補生以上の力を持つ者が……今、本気でぶつかろうとしている。その空気に当てられ、生徒達の声が止まる。

 

 

「よーい……」

 

『ドン!』

 

 

 互いにそう言った瞬間、空気が破裂する音と共に二人の姿が消える……否、その場から少し離れた上空にて互いの獲物で斬り合いをしていた。瞬速で同時に上空に舞い上がり、その瞬間に武器を展開。そして、斬り合ったのだ。互いに持つのは復讐者の剣と双天牙月とも呼ばれる二つの青竜刀だ

 

 

『……やるな!』

 

「澪こそ!」

 

 

 そう言ってから澪は力を上げて、鈴を振り払う。鈴はPICで体勢を立て直し、視界から外れた澪をすぐに捉える。

 

 

「パワー型の甲龍が振り払われた……なんて力なの!?」

 

『鈴も凄いぞ。あの一撃を受け止められる奴はそうそういないからな』

 

 

 そう言って、澪は反逆する血の牙達を呼ぶ。それに対し、鈴は少し難しそうな顔をしてから澪に突っ込む。同時に澪は反逆する血の牙達を鈴に対して突貫させる。反逆する血の牙達はビーム刃を出しながら鈴に迫る……が、突如として反逆する血の牙達がぐらつく

 

 

 

『何が……起きた?』

 

「……これぐらい、何とかなる!」

 

 

 澪が考えようとしたその時、突撃してきている鈴がそう言って先程から手に持っていた青竜刀を一つに連結させ、それを高速で回し始めた。高速回転する鉄刃の目の前には、ぐらついた不安定な反逆する血の牙達。次の瞬間には全てが鉄刃の前に吹き飛ばされた。反逆する血の牙達の幾つかが、爆発四散して鈴を覆い隠す。

 

 

「えええい!」

 

 

 爆炎に隠れた鈴に射撃を加えようとしたが、鈴がさらに速度を上げた状態で先程と同じ体勢で突撃してきた。

 

 

 

 

ガギギギギィィィン!

 

 

 

 その様な心地の良い金属音と共に、澪は全身に切り傷を付けながら押されていく。威力もなかなかなのか、SEが急激に減少していく。

 

 

 

『うおおおあっ!』

 

 

 澪は復讐者の剣を解除して、高速回転する双天牙月を殴りつける。鈴はその衝撃で胴体ががら空きになり、澪は胴体に掌底突きと正拳突きを連続で放つ。最後にその場で脚部スラスターを稼働させ、クルッと一回転して踵落としを直撃させる。

 その衝撃で、鈴は彗星の速さで地面に向かって行く。しかし、鈴は龍咆とPICを巧みに使って姿勢を正す。そのおかげで、鈴は地面に直撃せずに済んだのであった。

 

 

「うう……今ので半分切ったか……」

 

 

 

 

 

 

『(ノーネーム!)』

────主の予想通り、今のは非固定浮遊部位の龍咆の物だと思われます。

 

 

 

 龍咆。中国が開発した第三世代型IS『甲龍』のイメージ・インターフェイス専用武装である。龍咆は空気を非固定浮遊部位に吸収圧縮し、弾として発射。直撃した相手は圧縮空気弾の衝撃波に襲われる。弾は空気の為、事実上弾数は無限。さらに空気なので透明不可視である。燃費の良さを主張する中国ISの技術の結晶だ

 

 

『痛みが無いとはいえ、何発も喰えば内部フレームに響くか……それなら避けるだけだ』

 

 

 澪は背中の大型スラスターを最大稼働させる。ジェット音に似た音から金属音に近いような音に変わり、自然に機体の稼働率が高まっていく。

 

 

「なにこの圧力……息が、苦しい……っ!」

 

 

 名前無き破壊者の稼働率が上がっていくと共に放たれる強力な圧力が、アリーナを包んでいく。この時、澪自身は気付いていないが……普段のストレスもとい殺意が、澪の気分が高揚すると同時に火山の噴火の如く漏れているのだ。

 夕暮れの時間帯である空は橙色に染まり、少し暗く見える。澪が居る地点は鈴の視界の上に当たる。澪が駆る名前無き破壊者が黒く染まり、身体中の真紅と橙色に光る部分が強調される。非固定浮遊部位の大型スラスターから出る蒼炎が翼のようにも見えた。

 

 

 

「……凶鳥」

 

 

 

 誰かが言った。これまで破壊者として恐がられてきたが、この光景を見ると死を誘う凶鳥のように見えるのだ。

 

 

 

「……破壊者?凶鳥?」

 

 

 鈴がそう呟く

 

 

「だからどうしたってんのよ……行くわよ澪!」

 

 

 鈴はそう叫んで、非固定浮遊部位の龍咆を後ろに向けて発射した。強めにやったのかそのまま澪に向けて飛んで行く。

 

 

 

『……行くぞ!』

 

 

 そう言うと、澪が消えた。鈴はしまったと頭の中で悟る。次の瞬間には背後から強烈な打撃を受けた。

 

 

『ぅぅ……なめるんじゃないわよ!』

 

 

 鈴はそう言って非固定浮遊部位の龍咆を澪に連発、澪はそれに反応できなく直撃する。

 

 

『……くっ!?』

 

 

 今の直撃で、名前無き破壊者のSEが半分手前にまで減る。これまでパワー型のISと戦闘しなかった為、SEの消費量に内心冷や汗をかく。

 

 鈴のSEは最早風前の灯。機体性能ではこちらが上だが、パイロットしては鈴の方が上。なら……ここで攻める!

 

 

────決めて下さい……主!

 

 

『……ぜいやぁぁぁぁぁぁ!』

 

「あー……もう無理ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────

 

「……で、動けないと?」

 

「あははは……ごめん。正直、ここまで疲れるとは思わなかったからさ……」

 

「……それより、もう少ししっかり捕まってくれ。なんだか落ちそうで怖くてしょうがない」

 

 

 

 

 模擬戦から数十分。澪は名前無き破壊者の点検を済ませ、アリーナの入口に向かった。すると、アリーナの入口で座り込んでいる鈴を見つけた。アリーナのシャワールームに行って汗を流したのか、よく見てみると若干髪が濡れていた。

 とりあえず近づいてどうした?と、声を掛けたところ……

 

 

「つ、疲れて足が動かない……」

 

「……」

 

 

 どうやら、このアリーナの入口に着いた所で先程の模擬戦の疲れが出てしまって動けなくなってしまったのだという。流石に鈴をこのまま残すのは行けないと思い、澪は────

 

 

「鈴……乗れ」

 

 

 

 

「んしょ……っと」

 

「よし……安定した」

 

 

 そう言って澪達は歩き始める。部活終りの生徒達がきゃーきゃー騒いでいるが、今の澪に気にしている暇はなかった。何故なら……

 

 

(……煩悩退散!煩悩退散!)

 

 

 必至になって煩悩と戦っているのだ。

 

 ああ言っていてなんだが、鈴の鼓動が……吐息が……!駄目だ、鈴はとても良い奴なんだ……くそっ!何故止まらん……俺の煩悩は!?

 

 

「……鈴、済まないが俺の頭を叩いてくれ」

 

「えっ……でも「眠いんだ」……えい!」

 

 

 鈴は澪の発言に戸惑ったが、眠いという言葉を聞いて澪の頭を叩く。

 

 

「ふう……ありがとうな鈴。スッキリした」

 

「……えっ?今ので良かったの?」

 

「ん?そうだが……何かおかしいか?」

 

「ほ、本当に大丈夫なの!?本当に!?」

 

「……ど、どうした……?」

 

 

 この後、このようなやり取りをしながら澪は鈴が住む部屋まで鈴を運んで行った。もちろん大勢の生徒達にこの光景を見られたわけで、衝撃の波紋が広がったという

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ODA作成稼働率︰19.82%




次回予告

「ねえ……少しいいかしら?」

毎日のように行っていた訓練

それが終わった後、鈴が来た


「ちょっと……相談してもいい?」


鈴の目に……涙があった


次回=相談=


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相談

その者

その中に秘めし力

今蓄え

次の衝動に


全てを破壊せんと蓄える


 一日の学業が終わり、放課後。俺は第一アリーナに来ていた……いや、来させられた。

 

 

「こいつ……本当に強いの?」

 

「強くないでしょ。根暗みたいな外見だし」

 

 

 今日の昼休みの事だった。屋上で購買のパンを食べていたら突如、毎度の如く女性主義者達がやって来た。あーだのこーだの言っていたが余りにも五月蝿くて無視していたら、コイツら……よりによってまだ食べて無く、袋に包まれたままのパンを蹴り飛ばしやがった。

 折角の食べ物を蹴り飛ばされた怒りを胸に女性主義者達を睨んだら、何か直ぐに泣き始めた。コイツらが無き喚こうが俺にとって何も感じないのでどうでも良かった……で、ほかの奴らと同じようにコイツらも泣きながら逃げてた。しかし、放課後また教室に来た……五十を超える人数で。そして、その後そのまま第一アリーナの戦闘区域まで連れてかれ、待機しろと言われその状態だ。

 

 

「やっぱ?やっぱりこいつって要らない奴らよね」

 

 

 俺の視界には、十を越える訓練機を纏う女性主義者達が居る。因みに、この機体達のコア人格達が最近俺の中に移ってきた。それが分かったのが今朝起きた時だ。珍しく朝の訓練に寝坊思想になった時に、ノーネームとミーティア以外に十を越える甲高い声が響いてきた。今朝は刀奈と一緒に訓練をしたのでその時に言ったら、「私達の娘が増えたわね」と言ったので蒸せた。話が逸れたが、その為今目の前に存在する訓練機達のISコアにはコア人格が居ない。

 

 

 

「……ふう。口を開ければ俺の批判しかしないとは、全く……流石世界を食い潰す愚か者共が」

 

 

 とりあえず五月蝿いので一言言ったら……おお、吐瀉物の様な顔をしやがって……気味悪い。更にはテレビで放送したらピーとかバキューン!等の効果音が付きそうな言葉の嵐。はあ……散々待たし、やっと来たと思ったら今度は批判話。いつの間にか訓練時間も終わろうとしてるし……うぜぇぇぇ

 

 

『とりあえず……黙れゴミ共』

 

 

 目の前に居る……女性主義者を略し、この世のゴミを片付けるか

 

 澪が瞬間的にIS体になって、ODA『ミーティア』に換装。その事態に女性主義者達が狼狽え、戸惑っていた。

 

 

『ろくに訓練しないで、ただISに乗れるだけで威張るな』

 

「えっ、後ろ……がっ!?」

 

 

 声の聞こえる方に顔だけ向けるなよ。せめて武器を一緒に構えながら向けるか、攻撃しながら振り向けよ。とりあえず……まずは一匹。

 

 澪は打鉄に乗る女性主義者の生徒の頭を掴もうとするが、絶対防御が本体に触れぬようにする。打鉄のパイロットはそれにニヤニヤと笑みを浮かべ、周辺の女性主義者達が澪に向けて武器を向ける。澪はその表情にイラつき……澪とノーネーム達だけ知っている物を起動させた。

 

 

『アイズ起動 』

 

 

 アイズ……Anti.Infinite.Stratos.Systemの略して言った単語のことだ。『A.I.S.S.』を起動させて打鉄のパイロット頭部の絶対防御を少しだけ残して解除。パイロットの頭部を直に掴む。周囲の女性主義者達がその光景で固まる中、全力で地面にぶん投げる。打鉄は地面にぶつかって数回バウンドした後、アリーナの外壁に直撃して沈黙した。

 

 

 

(ノーネーム。アイズの解除を)

 

────主。いいので?

 

(見せしめにやっただけだ。まあ……)

 

『……ぶっ潰す』

 

 

 澪はそう言って両拳を合わせ、機体中のエネルギーを拳に集める。拳に集まったエネルギーは真紅の光を放っていた。ノーネームは主である澪の命令に従いA.I.S.S.を解除した。

 

 

「ひっ……」

 

「きゃあぁぁぁ!?」

 

 

 目の前の光景を見ていた女性主義者達が逃げようとするが、大型スラスターを吹かせて女性主義者達の前に回る。 逃がすかよ

 

 

1人

 

 

「ぎゃ!?」

 

 

2人

 

 

「ぐえっ!?」

 

 

3人4人

 

 

「「ぶべぇぇ!?」」

 

 

 目の前で仲間が手加減無しで蹂躙される光景を見て、アリーナの観客席で見ていた女性主義者達が震える。女性主義者達は今まで男などと……見下して来た。それはこの時代だから、だからと言っても……それは決して許されることではない。女性主義者達がやって来た愚かな行為が、こうして還ってこようとしている……自分達に

 

 

 

「う、うわあぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 残っていた一人が、纏っていたラファール・リヴァイブの拡張領域から取り出したAE社印の簡易IS用ロケットランチャーで澪に向けて発射。澪はまさかそれが有るという事と、撃ってくるとは思わずに反応が遅れる……が、避けるとことはせずにそれを真横から受けた。簡易IS用ロケットランチャーの砲弾が起こした爆発で澪を隠した。

 

 

 

「あ、アハハハ!」

 

 

 殺った。世界が憎き憎んでいる男を己の手で殺ったと思い、ラファール・リヴァイブのパイロットが狂ったように笑う。アリーナの観客席で見ていた女性主義者達も歓声を上げている。

 

 

やはり男なぞ女以下

 

 

 女性主義者達の頭の中ではこのような言葉が浮かび、自分達が男よりも優れているという優越感に浸る。

 

 

 

『……排除』

 

 

 その一声共に放たれた鋭い殺気、それによって歓声が止まる。簡易IS用ロケットランチャーは対IS用武器の一つで、一般機はもちろん専用機でさえ一撃でSEを半分までまでする代物だ。本来この学園には無い物であるが、ここにあるのは……女権団だ絡んでいるがそれは置いて……

 

 

 

『排除』

 

 

 幾ら専用機でさえ多大なダメージを与える武器だとしても、一般機はもちろん専用機でさえ凌駕し、『禁忌』の渾名を持つ澪と名前無き破壊者は耐えた。

 爆炎を吹き飛ばし、中から名前無き破壊者が飛び出す。澪はラファール・リヴァイブのパイロットが完全に油断していると判断し、瞬時加速で接近。ラファール・リヴァイブのパイロットの腹部に一撃与え、アリーナの外壁に叩き付ける。

 

 

『……毎度毎度面倒臭いんだよ、屑共』

 

 

 澪はそう言ってからアリーナのピットに戻った。暫くの間、アリーナは静寂に包まれた。

 

 

 

────────────────────────

 

 

「……ふう」

 

 

 あれから数刻、時間は夜十時前を刺そうとしている。

 現在澪は寮の1階、自動販売機の近くにある休憩場に休んでいた。この時間帯なら女性主義者達と出会う事が無いので、いつもこの時間は此処に居るのだ。

 

 

 

「ん……?泣き声」

 

 

 ふと、泣き声が聴こえてきた。澪はどこかで聞いたことがある声だなと考えていると、涙目の鈴がよろよろと歩いて来た。澪はあの活発で元気の塊みたいな鈴が泣いているのを見て思わず立ち上がり、鈴に近付いた。

 

 

「鈴!?」

 

「ん……澪。何よ」

 

「何よ……じゃない!どうしたんだ、お前が泣くなんて」

 

 

 

 俺の言葉に戸惑いを表しながらも、鈴は涙を流しながら言う。

 

 

 

「少し……相談していい?」

 

「俺でよければ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、一体何があった?」

 

 

 澪はとりあえず休憩場のソファーに、鈴を己と対面するような形で座らせた。鈴はまだヒック……と少し泣いているようだ。

 

 

「一夏と、ケンカ……した」

 

 

 ふと、鈴が話した言葉に澪は理解した。鈴は織斑の事が好きなんだと……

 

 しかし、織斑とケンカした……か。ケンカして泣くレベルとなると、よっぽどの事があったんだな。

 それから鈴はゆっくりだが、俺に件の事について話してくれた。成程な……中学の頃に中国に帰る前、味噌汁うんぬんかんぬんを織斑に言って、織斑がそれに了承した。で、さっき織斑にその事を覚えてるか聞いたら違う意味で覚えていて……それでケンカになったのか

 

 まあ……なんと言うか

 

 

「織斑……アイツは何をどう捉えればその返答になるんだ」

 

 

 鈴は味噌汁を酢豚に変えて言ったみたいだが、少し考えれば分かる事だろう。それを織斑は……はあ、馬鹿野郎が

 全く……こんな純粋な鈴を泣かすとは、許さんな

 

 

「しかし、それでも鈴が味噌汁で言えば良かったんじゃないのか?」

 

「うぅ……」

 

 

 しかし、鈴……お前それは止めろ。いつの間に俺の横に来た。それと、頭を俺の腹にグリグリするな。くすぐったいのと、可愛いじゃないか。あっ……山田先生、そこで何を見てるんですか?えっ……なんで顔を赤くしている!?私見ちゃいましたじゃない……あっ、逃げやがった!?

 

 

「鈴、鈴?」

 

「すぅ……すぅ」

 

 

 寝てる。鈴の奴寝てやがる。一体いつの間に……あー、また部屋に運ばなければ。ああ……また気まずい。それと、明日織斑に問うか

 

 この後、鈴の自室(以前行った時に覚えた)まで鈴を背負って運び、同居人に『あ……お疲れ様』と澪は言われたのであった。




次回予告

人の恋

それにあれこれ言うつもりはないが

鈴の涙を見ては……我慢ならん

1度、純粋な女の子を泣かしたんだ

一度……その罪を体に叩き込むんでやる


次回=因果応報=


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因果応報

我が友の

涙流しその姿

破壊の鉄槌構えれば

その元凶に向かい

降り注げ

怒りと殺意を乗せた

我が怒り込めし一撃なり


 早朝。俺は日課である特施での訓練を行っていた。今日は刀奈は朝から用事があると言って、今ここにはいない。

 

────主

 

『なんだノーネーム?』

 

────何時もよりも気が高まっておりませんか?

    主の気が高ぶるたび、機体稼働率がどんどん上がっているのですが

 

 

『あんな事があったんだ。気が高まってな』

 

 

 昨日の鈴が泣いたあの件。俺はあの時見た鈴の涙を忘れはしない……いや、忘れぬものか。俺が久しぶりに『最高の友』と認めた奴を泣かせたのだ。何が何でも……

 

 

『織斑を締めなくては』

 

 

────あの、流石に殺人だけは止して下さい主

 

 

 澪はいつも行っている訓練メニューを、通常の倍近く早い時間でこなして特施を出て行った。それを黙りながらも心配しながらノーネームは澪を見ていたのであった。

(一夏の事など、心配はしていない。)

 

────────────────────────────

 一夏は違和感を感じた。それは朝起きた時から妙に息苦しいのだ。同室の箒が朝の鍛錬から帰ってきた時に一夏は、箒にこの事を話したら私も同じだ……と言われてやはりと納得したのだった。

 

 

 

 

「……箒」

 

「なんだ一夏」

 

「なんか……教室に近づく度に、息苦しさが高まってないか?」

 

 

 一夏はそう言って辺りを目だけで見回す。そこには顔を真っ青にした生徒達や教師が居るのを見た。そして、遂に一夏達の教室に着いた。二人が教室に入った瞬間────空気が凍った。

 

 

 

「来たか」

 

 

 

 一夏と隣にいた箒は恐怖した。破壊を体現したかの者から放たれるその殺気と怒気の波が、教室の一番後ろ左端の席から放たれているのだから

 

 

「れ、澪……おはよう」

 

 

 澪はその言葉を聞くと、席を立って最短ルートで一夏の元に向かう。この時一夏は謎の息苦しさの正体が、澪から発せられていた殺意と怒りだった事に気付いた。

 一夏は目の前に澪が立っていることに気づいた。

 

 

「お前……なに鈴泣かせてんだ」

 

「なっ、なんでそれを……!?」

 

 

 織斑は俺がそれを知っていて驚いたようだが、残念だが当の本人から聞いてるのでな。織斑の愚業はバレバレだ。

 

 

「なんで?昨日寮の一階休憩場で休んでいたら、たまたま鈴が通り掛かってな。その時に聞いた」

 

「(や、やばい……確か澪と鈴って互いの事を最高の友と呼んでいたんだった!)」

 

 

 学園内でも澪と鈴の仲の良さというのは有名で、ちょくちょく模擬戦も行っている。さらに、あまりの仲の良さに恋愛関係にあるのではないかとも言われている。

(本人達はそれを拒否している)

 

 

「……で、お前はもう鈴に謝ったのか?」

 

「ま、まだだ」

 

「……なに?何故まだ謝まっていない」

 

「何故って……そりゃあ、俺は本当の事言っただk」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏がそう言っていた直後だ。澪が一夏の顔をその右手で軽く掴み、持ち上げる。澪は軽くでやっているが、一夏からすればとても強い力で握られ、持ち上げられている事に変わりはない。

 

 

「ぐおぉお!?」

 

「い、一夏ァ!?き、貴様ぁぁぁぁぁ!」

 

 

 その光景に教室に居たクラスメイト達も驚き、悲鳴をあげ……る前に澪がクラスメイト達に『喚くな』という意味合いを含む視線を向けて静かにさせる。唯一喚いてるのは箒だけだった。

 

 

「せええぇぇぇい!」

 

「どっから取り出すんだ……その木刀」

 

 

 そう言いつつも箒は何処からともなく木刀を取り出し、澪に向けてその怒りを乗せた斬撃を放つ。澪は迫り来る箒の木刀を空いている手で掴み、瞬間的に『収納』する。箒を含めた澪以外の生徒達は突然の事が起きた後にまた新たな事が起きた事で驚き、箒に関してはその場で固着していた。澪はまた一夏の方にへと視線を変える。

 

 

「お前……あんな良い奴に、酷いことをするもんだな。ええ?」

 

「ぐああ……!」

 

 

 ああ……織斑のせいで鈴が泣いたのか。許せん。こんな女心ぶち壊し野郎に、鈴は……

 

 

 澪はとりあえず織斑離すかと思い一夏を離した。箒は離された一夏を見てから澪を睨む。しかし……箒は澪の前髪から覗かれた日本人だと思われないような紫色に光り輝く左目に驚いた。

 何故……?そう箒は思っているが、それ以上にその目から注がれる『お前を殺す』と言われるような視線に身が凍るような気がし、箒は大人しく引き下がった。

 

 

「まあいい……織斑」

 

 

 澪は己の手から開放され、今だに咳き込んでいる一夏に向けて淡々と言う。

 

 

「今日の放課後16時に、第一アリーナに来い。てめえをそこで裁く」

 

 

 澪はそう言ってから目の前で未だに咳き込んでいる一夏と、箒を含めたクラスメイト達を無視して自分の席に戻った。その瞬間今まであった殺気が消え、いつもの一日に戻った。

 

 

────────────────────────────

 

 

 放課後。俺は織斑に言った時間まで第一アリーナ戦闘域にて、人間体で軽めのストレッチを行っていた。第一アリーナには俺以外ISを使用している者はいない。なぜか?それはこのアリーナを俺が貸し切っているからだ。

 俺以外にアリーナに居る者としたら、女性主義者達とたまに話すぐらいの上級生の先輩達とクラスの奴等ぐらいだ。

 

 

(……来たか)

 

────ハイパーセンサーにIS反応

 

 

 澪の視界に現れたIS反応。次の瞬間、アリーナのピットから白亜の騎士が飛び出し、澪と結構な距離を開けてやって来た。

 

 

「悪い、待たせた」

 

『俺に言うなら、鈴に言えよ。織斑』

 

「だから、なんで鈴に謝んないといけねんだよ」

 

 

(ノーネーム。各武装及びシステムの状態の確認頼む)

 

────Yes、了解です主

    『通常形態』及び『流星』のシステムチェック……オールグリーン

    各武装データ及び不備個所点検……オールグリーン

    『A.I.S.S.』及び『真紅の光壁』も問題無し

    主。行けます

 

 

 

 俺はその言葉を聞いて、IS体である名前無き破壊者になる。非固定浮遊部位の大型スラスターを起動して、アリーナの空に舞う

 

 

『てめえが俺が言った言葉を理解しているならいいと思った……が、どうやら何もわかってはなさそうだ』

 

 

 澪こと名前無き破壊者の非固定浮遊部位の大型スラスター以外の全スラスターを起動させ、全身から蒼い炎が放たれる。それへ澪の怒りが形となったようにも見え、一夏はこの光景を直に見て体が震える。

 

 

『……地獄に堕ちろ』

 

 

 一夏は澪が攻撃をすると瞬間的に予測し、白式の唯一の武装である雪片弐型を右手に展開。白式が持つ非固定浮遊部位の大型スラスターを起動させ、雪片弐型を両手で構えた。次の瞬間、澪が一夏の数m先に移動。

 本能的なものだったのだろう。一夏は迫り来る機械の拳を見を低くすることで回避した。そこで一安心する一夏であったが、名前無き破壊者の脚部から金属音らしき音が聞こえ不思議に思った。

 

 

『油断してるんじゃねえ』

 

 

 次の瞬間、一夏は腹部に強烈な衝撃を与えられた。そのまま一夏はアリーナの上空戦闘空域限界地点にあるシールドバリアまでぶっ飛んだ。

 

 

『……ブーストキックって、やろうと思えば出来るんだな』

 

 

 ブーストキック。脚部スラスターの排出を一瞬だけ莫大な量にし、その時の推進力を活かして放つ蹴りのことだ。

 

 

「う……うおおおお!」

 

 

 まだ気絶してなかったか。 ん?織斑は単一仕様能力を発動してるのか。まあ……あんな隙だらけの構えではなあ!

 

 澪はそう考えた後、上から落ちる力と大型スラスターからの推 進力で接近してくる一夏の方にその体を向け、復讐者の剣を展開して澪は一夏に向かって突撃する。

 

 

「おおおおお!」

 

『そんな攻撃……』

 

 

 竹割りの様に縦に斬る単純な攻撃を俺は単純に横に擦れる形で避け、織斑の胴体に向けて復讐者の剣で輪切りのような感覚で斬る。勿論、SEがある時とA.I.S.S.を起動させて無い時には直に攻撃が届く訳が無く、シールドバリアーと絶対防御に防がれる。

 俺の攻撃を横から受けた織斑は、態勢を崩して錐揉みしながらアリーナの地面に落下した。

 

 

『……当たる訳ねえよ』

 

 

 今回の俺は攻撃モーションに入る時以外、全身のスラスターをほぼ使って動いている。その為何時もより数段速さが上昇しているので、織斑が前の感覚でやろうとしても無駄に終わる。普通の人間ならこれだけで全身の筋肉に異状が見られるか、最悪死んでもおかしくない。だが、ISと融合している俺だからこそ出来るものだろう。

 

 

────主。奴はまだ気絶してないようです

 

『織斑……まだ理解出来てないのか?』

 

「……解んねえよ」

 

 

 墜落で起きた土煙の中から、煙を吹き飛ばして出てきた織斑は俺にそう言う。そうか……まだ……

 

 

『まだ……足りんかぁぁぁぁぁ!』

 

 

 俺はスラスターを全開で吹かし、織斑の目の前に着地する。クレーターが出来たのは気にしないで、すぐ目の前で惚けてる織斑に向けて攻撃続行する。

 

 まずは復讐者の剣で数回斬り付け、雪片弐型を横回転式ブーストキックでアリーナの壁まて吹き飛ばす。そうすると最早攻撃が殴る蹴るしか出来なくなった織斑、その表情は恐怖に怯える者の顔だった。

 

 

『……歯あくいしばれ!』

 

 

 1発。全身のエネルギーを右腕に溜めた一撃を、織斑の顔に向けて放った。織斑はその一撃で頭からアリーナの壁にぶっ飛び、脚部以外壁に埋まった。

 

 

『……ふん』

 

 

 澪は一夏が壁に埋まったのを見て、アリーナのピットに戻って行く。ほんの少しの間の戦闘だったが、アリーナには静寂と惨劇が残された。

 

 

 

「帰るか……」

 

 

 澪はピットに戻った後、そう言ってから寮に帰った。尚、この後ISを纏った教師達がやって来て、一夏を回収した。幸い一夏と白式には攻撃を受けたにも関わらず、ダメージレベルが低かった。アリーナ戦闘域と壁の修理等は用務員が一日で直したと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 主がいて、我等が居る

 

 我等は……主に寄り添うだけで満足出来る

 

 主だから、この世の憎しみを最も受けたから

 

 我等は主の元に集います

 

 我等の願いと主の努力を 

 

 新たなる力に……

 

────ODA作成稼働率︰92.82%




次回予告

あれから暫くの間が経った

今日はクラス対抗戦

織斑と戦うのは……鈴!?

そんな中だった

────主


ノーネームから一つの知らせを受ける

「なんだ?」

────襲撃です


盛り上がる試合

それは突然の乱入者によって終わりを迎える


次回=試合と襲撃と=


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試合と襲撃と

我等は集う

我等を扱うISの王

我等が主の元に

集え

忠誠すべき主がいない者達よ

一人の我等の被害者の下に


 ああ……五月蝿い。外はとても五月蝿い。だいぶ気温が暖かくなって来て過ごしやすくなりつつあるこの頃、澪は怠そうにそう頭の中で呟いた。

 

 

「サーカーキー君。そんな嫌そうな顔しないの」

 

『そうですよ主』

 

「ぬう……刀奈だけだと思ったらノーネームまで言うか」

 

 

 もうこれでもかと言うぐらい嫌そうな顔をしている澪に、刀奈とノーネームがちゃんとしろ……という意味を込めた言葉を言う。

 今澪達が居るのはIS学園本校舎生徒会室だ。この場にいるのは澪とノーネーム、刀奈の三人だけだ。二人にそう言われた澪は真面目な表情になってから言う。

 

 

「しかし……今日は朝から学園全体が盛り上がってると思ったが、今日が『クラス対抗戦』だったとはな」

 

「私は榊君がクラス対抗戦の事を忘れていたことにびっくりよ」

 

『すみません主。私が先に言っていれば良かったものを……』

 

「ノーネームが謝る事では無い。これは俺の認識不足だ、気にするな」

 

 

 そう。今日はIS学園1年の中のイベントの一つである『クラス対抗戦』が行われるのだ。クラス対抗戦は各学年別に行われ、各クラス代表がISバトルで勝ち、優勝を目指すトーナメント方式の戦いなのである。優勝したクラスには半年間の食堂のデザートフリーパス券が与えられるのだ。

 

 

「しかし、刀奈」

 

「ん?なに榊君」

 

「何故俺達はここでテレビ画面観戦するんだ?」

 

 

 澪は先程から思っていた疑問を刀奈に言った。普通ならばクラス対抗戦を見るのは、クラス対抗戦が行われる第一アリーナの観客席、それか特別観客席のどちらかで観戦するのが当たり前なのである。

 

 

「榊君……簡単な事よ。馬鹿な奴等が貴方を襲うから、その際に普通の生徒にまで馬鹿な奴等の被害が出ないようにするためよ」

 

 

 IS学園では『榊VS女性主義者達』という状態が続いており、普通の考えを持つ生徒にとっては関係ない話なのだが、このIS学園の女性主義者達は男子生徒(澪のみ)に対してなにもしない女性ならば男子生徒(澪のみ)を攻撃する際巻き込んでも良いと考える傾向がある。

 その為、この学園では希少なまともな生徒達と、澪を守る為とったのが今回のやり方だった。

 

 

「あとは……ネームちゃん達が居るけど、榊君と二人っきりになりたいからね♪」

 

 

 突然刀奈が言ったその言葉に、澪はちょうど飲んでいたお茶を変に飲み込み蒸せた。澪自身気付いているが、その言葉に己の顔が真っ赤になっていた。

 

 

「けほけほ……刀奈、冗談はよせ」

 

「えー?こんな美人のおねーさんに一緒に居たいって言われても、榊君は嬉しくないの?」

 

「嬉しいに決まってるだろ!……ただ、せめて飲み物を飲んでない時に言ってくれ。噴き出したら大変だろう?」

 

「あっ……ご、ごめんなさい」

 

 

 澪は落ち込んでしまった刀奈を見て、ポンポンと頭を優しく叩き「次気をつければいい」と言った。それに刀奈は目をつぶって気持ちよさそうにしていた。

 

 

「刀奈」

 

「なに?」

 

「……俺達が此処に居るのは、もしもの場合に備えているのも有るのだろう? この学園で突出戦力である俺と刀奈だけが、この場所にいるのはいくら何でもおかしすぎる。普通は生徒会室なんだから、同じ生徒会の虚さんやのはほんさんが居てもおかしくない」

 

 

 澪の言う通り、この場には澪以外には刀奈しかいない。同じ生徒会メンバーである布仏姉妹がこの場に居ない。澪の言葉に刀奈が言う。

 

 

「当たりよ。なにせ今年は初の男性IS操縦者が出場する関係で、それを良しとしない連中が襲ってくるかもしれないでしょ?」

 

 

 澪はその言葉を聞いて、女権団・IS委員会・テロリスト等が頭に浮かんだ。最も……既に学園内でIS委員会の刺客やスパイ等がいたのは確かだが。

(尚、既に処理済み)

 

 

ピリリリリ……!

 

 

 突然、刀奈からそのような音が鳴り響く。

 

 

「あっ、虚ちゃんからだ。ちょっと席外すね」

 

「電話か……あっ、ああ。分かった」

 

 

 澪のその言葉を聞いた刀奈は、携帯電話を何処からともなく取り出して生徒会室から出て行った。

 

 

「……」

 

 

 澪が見るテレビには赤と白の機体が剣劇を繰り広げている。その光景を澪は難しそうに見ている。

 

 

────どうしたのですか主?

 

「なに……織斑が双天牙月でスライスされないかと考えていただけだ」

 

 

 澪がそう言っている間に、いつの間にか鈴が纏う甲龍の龍咆が一夏に襲い掛かっていた。しかし、一夏は次第に龍咆の攻撃に対応して近距離戦闘を繰り広げている。

 

 

『なんで龍咆を避けられるのよ!?』

 

『何となくだ!』

 

 

 この光景に眼を張るものがあった。一夏は今日初めて龍咆を味わった筈、その為短時間でここまで避けるようになるのはすごい事だ。画面の中の一夏は、非固定浮遊部位の大型スラスターにエネルギーを送っていた。

 

 

「あれは瞬時加速か」

 

 

 澪が一夏が瞬時加速を使おうとしているのを見て、少しは成長したのかと少し感激していたがそれは起きた。

 

────主

 

「なんだノーネーム?」

 

 

 澪がそう言うと、ノーネームは叫ぶように言った。

 

 

────IS学園第一アリーナ上空に超高エネルギー反応検出

 

 

 ノーネームがそう言った時だ。生徒会室の扉が乱暴にバン!と開けられ、刀奈が慌てた様子で澪に喋る。

 

 

「榊君、襲撃者よ!」

 

 

 そういった次の瞬間、アリーナの試合を映しているテレビ画面の戦闘域の中央に白い光が上から当てられるのが見えた。

 

 

「……これは!」

 

『お二人方!何かにしがみ付いて下さい!』

 

 

 ノーネームの言葉に二人は戸惑いながらも直ぐに、机にしがみ付いた。その時だった。轟音と振動がIS学園を襲った。ガタガタと物が揺れる音が鳴り響く中、二人は個人間秘匿通信でこの事について話していた。

 

 

『この反応……どうやら強力なビーム砲によるもの。アリーナのシールドバリアを突き破った音と、その時の衝撃が今のだったのでしょう』

 

『そうか……ノーネーム。敵機は何機だ?』

 

『索敵による反応からは……一機です』

 

『ネームちゃん。コア反応からしてどこの所属か分かる?』

 

『……政府や企業機関等の登録されているものでは無いです。更に言いますと、この所属不明機からは生体反応が感知されてません』

 

 

 その言葉に二人は驚きを隠せなかった。ISは既に10年経とうとしているが、人を乗せないIS────無人機ISの開発に成功していないのだ。

 

 無人機IS開発には問題が多過ぎたのだ。その一番基本になるのが、ISの操作性だ。ISはパイロットが乗り、ISから送られてくる様々な情報を元として体を動かし操縦するというのが当たり前だ。しかし、無人機となるとそれに必要な柔軟で様々な情報を受け取れるナニカや処理能力を持つ機器等が必要になって来る。

 

 一般にはISコアは『467個』が存在して、それ以上は無いとされる。その為、限られた数でしかないISコアは貴重な物で、下手にISコアを使用した実験は出来ないのだ。

 

 

 

『ちい……敵は強力なビーム兵装を持つ無人機ISか。刀奈のISとでは相性は最悪か』

 

『私のISは水が主体だからね。超高熱の塊を出す相手では不利よ』

 

 

 振動が収まり、澪はアリーナの試合を映しているテレビ画面を見た。しかし、画面には何も映ってはおらず耳障りな音だけしか流れていない。

 

 

「刀奈、第一アリーナの監視カメラは?」

 

「駄目。さっきの衝撃で全て使えない。それと……第一アリーナのほぼ全てのドアがクラッキングされて、観客席にいる生徒達や教師達の避難行動に支障が出てる」

 

「っ……緊急用の、観客席特殊合金防御壁は機能しているのか?」

 

「ええ。それは問題無いわ……でも、あれはビーム兵装なんて想定されていないわ。アリーナのシールドバリアーが突破されれば

、充分貫通される可能性はある」

 

 

 その言葉の後、澪は生徒会室の窓を開けた。それに待てと刀奈が言う。澪はなんだ?と、開いた窓に向いたまま言った。

 

 

「一応言うけど、生徒会長権限と」

 

「────私、学園長権限でアリーナ外でのIS展開及び戦闘を許可します。例え織斑先生やその他の者達が喚いても、私達二人が許可しますので安心して下さい」

 

「……轡木さん。貴方は何時からそこに?」

 

 

 背中を向きながらも、澪はここに現れた第三者である轡木……本名『轡木十蔵』に向けて言った。轡木……真の学園長である彼は言う。

 

 

「ええ、ほんの数秒前から」

 

「……まあいいか」

 

 

 轡木の言葉に頭をポリポリとかいて、その一言で疑問を片付ける。何故か?轡木だからだ。

 

 

「では……行ってくる」

 

 

 澪はそう言うと開いた窓から飛び出し、生徒会室から文字通り飛び出した。澪の感情はここに来て荒ぶる。それは、今日のクラス対抗戦を待ち望んでいた者達や鈴・澪と親しかった者達を巻き込んで襲撃してきた者に対しての怒りだ。

 

 

「破壊してやる……名前無き破壊者!』

 

 

────了解です主

 

 

 生徒会室から飛び出して空中に舞い、空中に舞う身体から見られる視界には機体情報が映し出される。

 

 

 

機体名『名前無き破壊者』

 

状態  ︰競技モードから戦闘モードに移行

 

機能  :全システムオールグリーン

 

SE量  ︰25000指定

 

武装  ︰全武装状態良好

 

 

────戦闘モード移行により、一部機能のプロテクト解除

 

 

最高速度︰マッハ2からマッハ3へ

 

開放武装︰肩部展開高粒子剣『名無しの運命』

 

 

────SE量の調節は現状維持で行きます。

    全ての項目クリア。ご武運を主

 

 

 

 

 その言葉の後、澪の身体から漆黒の粒子が解き放たれた。黒は澪の体を覆い尽くし、もう一つの身体を構築し、本来の体を表す。その姿は、この機体の本来の戦闘モードに入った事によりその姿を変えていた。

 

 

『名前無き破壊者……行くぞ』

 

 

 漆黒の機体から解き放たれる真紅の炎。それは全てを破壊する者の怒りである。蒼く輝くその空に、漆黒の破壊者が君臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ODA作成稼働率︰99.99%




次回予告


熱線により薙ぎ払われたアリーナ

黒煙が漂い、戦場と化していた

白き騎士が倒れ

紅き龍も地に下された

迫る恐怖のIS

これまでだと思った時だ

それは恐怖

それは怒り


『お前か所属不明機か』


破壊を冠する者


『……壊してやる』


降臨


次回=黒き怒り=


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黒き怒り

それは怒り

それは黒き禁忌


それは────破壊者


 そこは戦場だった。黒煙と炎が辺りを黒く、赤く彩っていく。その場にいるのは白き装甲を纏う織斑一夏と、赤き装甲を纏う凰鈴音の二人だ。

 鈴は知らないが、一夏にはこの光景が覚えがあった。澪がセシリア・オルコットと戦った時よりは酷い状況ではないが、ほぼ同じだ。

 

 

「くそっ……なんなんだよこれ!」

 

「……っ、散開!」

 

 

 今いる第一アリーナは大惨事である。一夏は己の姉である千冬から、今のアリーナについて鈴と共に教わった。アリーナの扉はほぼ全て目の前に居る所属不明機のクラッキングを受けて閉まっている。その為避難が全く進んでいないのと、アリーナのピットカタパルトも閉じられて教師部隊も応援不可。幸い観客席の合金性の防御壁は作動しているのは二人とも確認した。しかし、耐ビーム耐性は低く、危険な事には変わりはない。

 

 

 

「うおっ!?」

 

「戦闘中にぼっとするな!死にたいの!?」

 

 

 二人は迫り来る所属不明機のビーム攻撃をギリギリで躱しながら、一夏は雪片弐型で、鈴は双天牙月と龍咆で攻める。相手に攻撃は当たるし、装甲にも何とか傷はついている。白式の高速移動と甲龍の龍咆を使って相手の動きを止めながら迫る動きにより、二機はどんどん所属不明機に近付く……そして

 

 

「とった!これで……」

 

「終わりだぁぁぁぁ!」

 

 

 上手いこと所属不明機の背後をとり、一夏は零落白夜を発動した雪片弐型で、鈴は双天牙月を使い怒涛の連撃を叩き込む。零落白夜は強制絶対防御発動効果、鈴の甲龍はパワー型のIS、更にそのフルパワー攻撃でなら並のIS程度直ぐに倒せる程の攻撃だ。

 

 その攻撃により、所属不明機の頭部の目だと思われる赤いセンサーが光を失っている。脚部を地面に着いて、項垂れているようにも見えて今にも動きそうだが動かない。

 

 

「た、倒したのか?」

 

「どうやらそのようね。あとはパイロットを確保するだけ……」

 

 

 鈴は確かめる様に目の前の所属不明機のIS反応を確認、やはりIS反応は消滅しているのを確認した。一夏は一夏でアリーナの管制室にいる千冬達に通信している。これで終わった……鈴がそう思っていた時だ。

 

 

『システム再起動……オペレーションパターン2。攻撃再開』

 

 

 突然所属不明機のIS反応が再確認され、その次にその太い腕でその場で高速回転。所属不明機のすぐ近くに居た一夏と鈴が直撃を喰らってしまう。

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁ!?」

 

「きゃあ!?」

 

 

 所属不明機の攻撃を受け、一夏と鈴はアリーナの壁まで吹き飛ばされた。

 

 

「……嘘、だろ」

 

「くう、あの攻撃で倒せないなんて……驚きよ」

 

 

 所属不明機は太い両腕と黒い装甲を、先程から放つビーム攻撃で起きた爆炎を反射して赤く光る。その顔にある目らしい何かも妖しく赤く光っている。

 

 

「でも……まだ俺は動ける。鈴も……って、嘘だろ!?」

 

────『甲龍』戦闘続行不可

 

「私は……こんな時に!」

 

 

 先程の攻撃で、甲龍がこれ以上戦闘するためのSEが無くなったのだ。少しの距離を飛ぶ事と絶対防御はまだ働く様だが、物理攻撃なら1度でビーム攻撃なら貫通されてしまう。そのような状況になったのだ。一夏も瞬時加速と零落白夜発動一回分のSEしか無く、もはや絶体絶命……そんな時だ。二人の機体のハイパーセンサーが新たなIS反応を探知した次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

『お前か』

 

 

 

 

 

 

 一夏と鈴は、突如濃密な怒気と恐怖を感じとり、その二つが放たれる方向に目を向けた。視線の先は先程所属不明機が入って来た、シールドバリアーが一部破損している所に……全身のスラスターから真紅の炎を放つ黒が居た。

 

 

「れ……い?」

 

 

 一夏には目の前の光景に、一瞬戸惑いを隠せなかった。前見た時の名前無き破壊者の姿と、今の名前無き破壊者の姿が少し変わっているのだ。

 

『さあ……始めよう』

 

 

 澪は一度だけ一夏達を見てからそう言った。次の瞬間には、澪は所属不明機のすぐ上を飛んでいた。その後、突然襲って来た衝撃に一夏達二人は少し吹き飛ばされた。

 

 

──────────────────────────

 

『……ふん!』

 

 

 俺は拡張領域から出してきた復讐者の剣で、所属不明機に向けてその剣を振る。既に無人機だって分かってるんだ。A.I.S.S.を起動させている。奴の絶対防御はこれで緩和されて、直にダメージを与えれる。

 

 

『ちっ、まだ反応できるか……』

 

 

 今の攻撃をギリギリで躱した、いや……少し掠れたか。でも、今の攻撃を避けたのは凄いな。マッハに近い速度で攻撃したのに躱すその反応速度は、やはり無人機だからこそか……っ!

 

 

『真紅の光壁!』

 

 

 澪は何気なく嫌な予感がした為、真紅の光壁を発動させた瞬間だった。無人機がノーモーションでビーム攻撃を放って来たのだ。

 

 

『ノーモーション攻撃、だが……』

 

 

 澪は反逆する血の牙達を展開し、それぞれに独立の行動を指揮し、無人機に攻撃を命令させた。血の牙達はビーム刃やビーム射撃で無人機を混乱させるべく、動き回っている。

 

 

『負けん』

 

 

 澪は復讐者の剣を左手に持ち、超圧縮荷電粒子砲兼光刀剣『真紅の世界』を右手に展開した。さらに、戦闘モードになった事で開放された武装『名無しの運命』を両肩から展開した。

 その頃、反逆する血の牙達は戦闘モードになった事で増した速さ・攻撃力を活かして無人機を圧倒。一夏達を苦しめたあの無人機が凄い速度で傷付けられていく。

 

 一夏はその光景を見て、その場でただ待ってるわけにいかないと思い、雪片弐型を構えた。しかし、その時だ。

 

 

ガゴゴゴッ!

 

 

────『白式』戦闘続行不可

 

 

「えっ……!?」

 

 

 反逆する血の牙達が、白式のSEを削り戦闘続行を不可能にしたのだ。その行動に動揺する一夏と鈴に、澪から個人間秘匿通信が来た。

 

 

『お前達はピットに戻れ。ピットの射出口だけは先に開放してある』

 

 

 澪が此処に着くまでに掛かったほんの僅かな時間、その間にノーネーム達に任せて第一アリーナのピットのクラッキングを解いたのだ。

 

 

『戻れ……って、それはどういう事だよ!?』

 

 

 澪は個人間秘匿通信をしながらも、無人機が繰り出すビーム攻撃を真紅の光壁で打ち消して、ビームが観客席の防御壁に飛ばないようにしながら戦闘を続行している。一夏は澪のその言葉に文句を言うが『一夏、すぐにここから離脱するわよ』と鈴が言う。

 

 

『一夏。よく聞いて。私達の機体はレーザーやプラズマに対して耐性はあるけど、『ビーム兵装』に対しては高い耐性がないのよ。だから、今の状態でこれ以上防ぐのは無理よ』

 

『……鈴の言う通りだ。いいか?俺の名前無き破壊者の装甲は、機体内部から放たれるビーム兵装がある為、発射した時にその余波で機体にもビームが降り掛かる事がある。それで損傷しないように機体内外の高ビーム耐性がある。さらに真紅の光壁があるからビーム兵装に対しては俺が適任だ』

 

『それでも!』

 

 

 一夏がそう言うと澪は『それでもじゃねえ』と低い声で言う。

 

 

『優しく言って上げてるのにそれか……織斑』

 

 

 澪の視線は全て無人機に対して向けられているため、一夏に向けられてはいない。しかし、名前無き破壊者とその声から感じ取れる怒りが一夏とその近くにいる鈴が巻き添えで向けられる。

 

 

『お、俺は……!』

 

『まず、俺より己の機体を扱え切れてない奴が何を言うんだ。鈴が無事ならまだ無理の無いレベルで、射撃兵装である龍咆で支援攻撃をしてもらおうと思っていた。でもな、普段訓練もしてない奴で、近接格闘兵装の雪片弐型しかない織斑が居ても邪魔なだけだ。とりあえずさっさと失せろ』

 

 

 澪のその言葉を聞いて、今度こそ一夏達はピットの射出口に移動した。それを確認した澪は、意識を目の前にいる無人機に向ける。

 

 ノーネーム。コア人格は?

 

────作られたばかりなのでしょうか、まだハッキリとしてませんがコア人格を確認。予め回収し、今は名前無き破壊者の中で目覚めの時を待ってます

 

 

 そう……か、なら壊して問題ないか

 

 

────それと……主のバイタルが普段より乱れています

 

 

 っ!あの光景が蘇るか……

 

 

 澪の頭には、幼き頃の……地獄の記憶が蘇っている。今は傷を負う者や死亡者は出ていない。しかし、澪の視界はあの時の風景か移り込む。それが災いしてか、澪の動きが鈍って来ていた。

 

 

『だが……!』

 

 

────無人機が急に!?主、右です!

 

 

『ぐ……おおおおっ!』

 

 

 澪は無人機の太い腕でビーム砲である腕を、殴られた直後に真紅の世界で右腕をたたっ斬る。右腕にエネルギーを溜めていたのか、たたっ斬られた右腕が爆発した。その影響で両機は離れた。

 

 

────主!ここは我等が名前無き破壊者を操って……!

 

 

 主である澪を、この無人機から守る為にノーネームが名前無き破壊者を動かそうとする。澪は強がってはいるが、今の状態では普段の半分も力が出せていない。そんな状態で無人機と戦わせるわけにはいかないとノーネームは思うが……

 

 

『俺は問題ない』

 

────ですが!

 

『あの時の悪夢を超える。今が……その時だ!』

 

 

 あの時の光景を、あの時の悪夢を、それを超える為に澪は今の状況を乗り越えるため、意識を無人機を倒す事だけに集中した。それと共に、戦闘モードに移行して変化した頭部のデュアルアイセンサーが真紅に光り輝く。それは怒り。ここまで己を弱めてくれた悪夢と無人機に対しての、激しい怒りの象徴でもあった。

 

 

『名無しの運命……起動!』

 

 

 澪は肩部の名無しの運命を起動し、そこから3mほどの極太の真紅のビームサーベルが展開される。

 

 

『……壊す!』

 

 

 澪がそう呟いた瞬間、無人機が左腕のビーム砲からビーム撃ちながら接近。しかし、戦闘モードの名前無き破壊者の速さには叶わずに上昇瞬時加速で避けられた。

 

 

『!』

 

『遅い……』

 

 

 無人機が己の砲撃が避けられた事を知り、名前無き破壊者が居る……否、居た場所に向けて再びビーム砲を放った。しかし、その時には名前無き破壊者は無人機の真後ろに着地していた。

 

 

『……んだよぉぉぉ!』

 

 

 名前無き破壊者はその場で回転し、名無しの運命で無人機を真っ二つに引き裂いた。しかし、それでもまだ上半身が動こうとしている。復讐者の剣を収納し、真紅の世界で残った左腕を両断した。そして……

 

 

『消えろぉぉ!』

 

 

 澪は真紅の世界を粒子砲モードにし、まだ起動していた無人機の上半身を消し飛ばした。動力源があった上半身が粒子砲によって消し飛ばされた為に、至近距離で爆発される事は無かった。

 終わった。これでこの戦いが終りを迎えたとこの静けさと、管制室にいる教師達と教師部隊、さらに専用機持ち達は考えていた。澪は真紅の世界を収納し、名無しの運命を起動停止させた。

 どうやらクラッキングも解かれた様で、防御壁の中から声が上がっている。そして、次々にアリーナから生徒達が避難して行った。

 

 

────主!

 

『どうした?』

 

 

 唐突に話し掛けてきたノーネームに澪がそう言った。

 

 

────アリーナ直上高度7000m付近からもう一機同型のものだと思われる反応確認。速度はマッハ2を維持して真っ直ぐ此処に落下して来ると思われます!

 

『……胸部展開圧縮荷電粒子砲《名前無き破壊者》起動』

 

 

 澪は空に顔を向け、ハイパーセンサーを高感度モードにする。すると、高度1500mに何かを捉えた。その間にも名前無き破壊者のチャージが完了した。

 

 

『……金属製の箱か?大きいな……まあいい。開放!』

 

 

 空から落下してきている金属製の箱に向けて名前無き破壊者で砲撃し、見事直撃し爆炎が空に舞う。威力はだいぶ下げたがこれぐらいなら……と思ってた時だ。

 

 

────コア反応確認

 

 

 ノーネームがそう言った時、アリーナの戦闘域の地面に先程とは形状が全く異なる黒の無人機がいた。その背中には大型ブレードが存在していた。

 

 

 

 

 戦いはここからが本番だった。




次回予告


倒した先に出会う新たな敵


それは強敵


『……こいつは!』


ついに発動したODA

名前無き破壊者は新たなステージへ


『この拳でお前を……壊す』


次回=双腕の破壊者=


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双腕の破壊者

名も無き者は

戦乱の火を浴び

その身を焦がし

全てを破壊尽くす




────行こう


 

 

『……コイツがさっきのか?』

 

────生体スキャン反応無し。これも無人機のようです

 

 

 新たに現れた無人機。これまた凄いな。女性だと思われる黒い何かの体にゴテッゴテの分厚い装甲、さらに全身の至る所に何かしらのコンテナが装着されているみたいだな。背中には大型ブレードがある。はっきり言うと……黒い騎士だ

 

 それよりも、問題はその大きさだ。

 

 

『ノーネーム。コイツ大きくないか……?』

 

────はい。このISは全長6mもあります

 

『……これはISではなく、最早機動兵器とかの部類に入るぞ』

 

 

 目の前に居るISはその大きさが桁違いだった。俺でさえISでは比較的大型の部類である3mから4m級に入っていたが、目の前に居るのは桁が違う。俺よりも二回り程大きい。

 

 

────主、後退瞬時加速を!

 

 

 俺はノーネームの突然の叫びを聞いて後退瞬時加速で後方に下がる。その時、突然無人機から衝撃波が放たれた。ふー……危ない。ノーネームが教えてくれなければ、大ダメージを受けるところだった。

 

 澪は無人機の周辺20mの地面が衝撃波で抉られた光景を、汗は出ていないが汗が出るほど驚きながら見た。

 

 

────ん……?

 

『どうしたノーネーム?』

 

────前にいる無人機から通信が来てます

 

 

 ノーネームのその言葉に対して澪は何故?と疑問を抱いたが、ノーネームに通信を繋ぐように命じた。

 

 

『────オマエガハカイシャカ?』

 

『……確かにそう言われている。質問だ、お前は何だ?』

 

 

 俺が無人機からの通信に対しそう答え、質問をした時だ。目の前の無人機が突然背中にあった大型ブレードを片手で持って、俺に突撃してきた。

 

 澪は復讐者の剣を右手に展開し、無人機に対して斬りかかる。次の瞬間無人機は上段、名前無き破壊者は下段から己の武器を相手の武器に打ち付け合う。それによって衝撃波が生まれ、辺を襲う。

 

 

『オレガナニカ?ハン!オシエルワケネエダロォ?タメサセテモラウゼェェェ!』

 

 

 そう言いながらも無人機は脚部から小型の砲門が出現させ、俺に狙いを定める。動けないからその対応たと思うが、生憎その手は悪手だ。

 

 澪は無言で無人機を見つめながら反逆する血の牙達を展開し、瞬時に無人機の脚部からでる小型の砲門を貫き爆散させる。爆発の衝撃で少し力が弱まった所を狙い、一気に復讐者の剣に込める力を上げた。

 

 

『ああ……なんか五月蝿い奴だと言うのは分かった』

 

『コノガキィィ!』

 

 

 ふむ。あれだな。この無人機はどうやら遠隔操作型の無人機らしいな。あれか、ラジコンか。それと、こいつを操る者は頭に血が上りやすく男勝りだな。あと、なんかカタコトだ

 

 

『……クッ!?ドコカラコンナチカラガデル!?』

 

『俺とノーネーム達を舐めるなよ……!』

 

 

 いくぞ……お前達!

 

────我らは主のと共に……

 

 

 澪がそう言うと頭部の赤いバイザーが更に深紅に光り輝き、名前無き破壊者の出力が更に跳ね上がる。それに対し無人機は対応が出来なかったのかはじき飛ばされた。

 

 

『オレトシテハゴウカクダナ。ダガ……チッ、オレジャアコイツハダメカ。コウタイダ……M』

 

 

 はじき飛ばされたが瞬時に全身のスラスターを使い、姿勢を整え地面に着地した無人機が突然そう言い出す。

 

 

 

『交代だと?』

 

『……ツギハワタシノバンダ。セカンド』

 

 

 雰囲気が変わった……?さっきの奴が言うにはMとか言う奴か。多分コードネームみたいなものだろう。……殴られて喜ぶ奴とかではないだろう。

 

 

『ネンノタメイウガ、ワタシハヘンタイデハナイ』

 

『……気にしてるのか?まあいい、いくぞ……!』

 

『フン、スデニワタシハコウゲキシテルゾ』

 

────熱源反応確認。数は8つ?これは……遠隔脳波操作射撃兵装?

 

『イケ……ファング!』

 

 

 澪はノーネームの叫びを聞いて周りを見渡す、しかし、何処にもファングと呼ばれる脳波遠隔操作射撃兵装の姿は見えない。

 

 

『ぐがあっ!?』

 

 

 澪は突然背中に起きた衝撃に悲鳴を上げる。澪は再び周りを見渡すがやはりファングは見えない。しかし、その代わりにハイパーセンサーが何かを捉えた。

 

 

────これは……特殊な粒子ですね。この粒子がファングと呼ばれる物から放たれているのでしょう。ハイパーセンサーには反応しませんが、熱源センサーだけには反応する事から熱源反応だけは消せないのですね

 

 ハイパーセンサーには反応しなく、熱源センサーだけ反応する特殊な粒子を使った不可視の脳波遠隔射撃兵装……これは、とんでもないものが来たな。

 

 

『脳波遠隔のレベルは消え去ったあいつよりも数段高いようだな』

 

『ワタシヲアノキンパツトオナジニスルナ。ファング!』

 

 

 Mの言葉と共に襲い掛かるファングの猛攻に、その機動力でなんと避ける澪。復讐者の剣と名無しの運命でファングの一部を傷付け破壊するが、無人機のコンテナからまた次のファングがわらわらと出現する。

 

 

『ちぃ!?ファングが次から次へと……!』

 

『ヒャクチカクアルカラナ。コノテイドモンダイナイ』

 

 

 気付けば既に25000あったSEが13000まで減らされている。通常ISならば既に落とされていただろうが、そこは名前無き破壊者だからこそ言える。それでもこうなるのは、パイロットとしての差であろうか

 

 

『ドウシタ、ソノテイドカ!』

 

 

 Mが防戦に集中する澪に向けてそう叫ぶ。

 

 

『……俺まだ出来る。まだノーネーム達がいる限り、まだ戦える』

 

 

 ファングの猛攻の中、澪は絶対に生き残るという生きる気持ちを胸にMに向けてそう叫ぶ。それを聞いたノーネームが『ええ……!』と言う。

 

 

『オマエニデキルノカ?』

 

『生きて、生きて明日を過ごすんだよ。だから……お前を破壊する!』

 

 

 

 

キュイン

 

 

 

 澪は突然なった金属音。そして、名前無き破壊者が光輝き始めた事に驚く。しかし、以前もこのような事があったのを思い出す。それにまさかと思っていると……

 

 

 

 

 

────ODA作製率100.00%

 

────今回は強制換装させて頂きます!お許しを!

 

 

 澪は突然のODA作製の報告と、ノーネームのその言葉を聞いてやはりかと思った。澪は頼むとノーネームに一言

 

 

────新ODA『双腕』換装

 

 

 そのワイプが出た瞬間、全身の装甲が弾け飛び瞬時に新しい装甲がどこからとも無く出現する。頭部の赤いバイザーが、マスクが弾け飛ぶ。その影響で赤いバイザーの下にあったデュアルアイセンサーと人間の顔を模した顔が外気に晒されるように出現。さらに全身に出現した装甲が体にハマっていく。

 

 

 

 

────DAシリーズ『双腕』の換装を確認

────SE量が900に変更

────戦闘モード時の為30000に変更

────機体最高速度2000kmに変更

────瞬間突進速度2000kmに変更

────武装:超衝撃複合型武器腕『Dアームズ』

      :超衝撃武器腕展開近接装備『ビームランス』

      :脚部付属収圧縮荷電粒子砲『ジンライ』×2

      :頭部付属角『プラズマホーン』

      :全方位圧縮粒子衝撃波『エンドショック』

────『名前無き破壊者』『流星の破壊者』の武装は使用不可。注意して下さい

 

 

「これが……ODA第二の姿か!?」

 

 

 澪は視界に現れた機体データを見て驚いた。大型化した手足に、頭部の特徴的だった角が武器化。非固定浮遊部位の大型スラスターが更に大型化し、ゴツくなった。

 

 

 なんか……スーパーロボットだな。これは

 

 まあいい。しかし、この武装とスラスター、さらに装甲値の高さから近接白兵戦を想定しているのか?

 

 

────はい。重装甲と圧倒的パワーと突出力が特徴の『双腕の破壊者』です。戦闘モード時の為出力は最低でもIS10機分に値します。試合モード時はIS4機分に値します。

 

────……という訳だ!そして、このオレ様ツインが主をサポートするから安心しろよ!

 

 

 どうやら、新たなODA『双腕の破壊者』に換装出切るようになって新しいコア人格が目覚めたようだ。名前は……ツインだな。随分と自信のある声と大きさだ。

 

 

────ヘヘ!そう褒めるなって!

 

 

 とりあえず、サポートは任せたぞツイン

 

 

────おう!このツインに任せろ……って、主前!?

 

 

 澪はツインのその言葉にハッとして、意識を戻した直後。目の前に巨大な腕が迫っていた。

 

 

────プラズマホーン起動!

 

 

「おっ!?おわっ!?」

 

 

 ツインが咄嗟に頭部のプラズマホーンを起動させ、双腕の破壊者を迫る巨大な腕に突撃させたのだ。澪はどうにでもなれと思いながら、機体の全推進機を稼働させた。

 

 

 

『ナッ、ナンダト!?』

 

 

 

 次の瞬間。頭部のプラズマホーンが巨大な腕を両断し、さらに無人機をその衝撃で上空に吹き飛ばしたのだ。澪は何故こうなったのかを頭の中で考え、理解した。

 

 そうか。双腕の破壊者の特徴は重装甲と圧倒的パワー、さらに『突出力』。最低でもIS10機分のパワーと突出力が合さり、その衝撃がプラズマホーンに伝わりこれ程の威力を生み出したのか。

 

 

────主、今なら敵さん隙きだらけだぞ?このツインだったら、瞬間的に相手の懐に入って……

 

「……圧倒的力でねじ伏せるんだろう?」

 

 

 澪はそう言った瞬間、その異常とも呼べる瞬間的突出力で無人機の目の前に移動する。しかし、相手も既にそれを見越してかファングをタイミングよく双腕の破壊者の左右上下から突撃させていた。

 

 

「エンド」

 

 

 澪がそう呟くと同時に、全身の発光部分が光り輝き始めた。無人機を操るMはその場から直ぐに離脱しようとしたが、既に遅かった。

 

 

「ショーーーーーッッッッック!」

 

 

 その瞬間、ドオオッ!という音と共に双腕の破壊者から数十m範囲が赤黒い光に包まれた。光は瞬時に消え去り、そこから現れたのは無傷の双腕の破壊者と、全身の装甲やフレームが損傷している無人機だった。

 

 

 エンドショック

 

 それは胸部展開圧縮荷電粒子砲《名前無き破壊者》が前方に放たれるものが、全方位に放たれる様になったものだ。余りの強さにまるで光のドームだと思われる程のエネルギー状のドームが形成され、その範囲は最低限でも15m。発動までに時間が掛かるが、最高でも1kmの全方位攻撃が出来る。

 

 

『ウ、ウソダロ……? イチゲキデタイハ? コノキタイガ!?』

 

「手足……貰うぞ」

 

 

 澪はそう言って脚部からジンライを展開し、無人機の両足に向けて砲撃。無人機の脚部が爆発四散し、その場から跳躍し残った両腕をDアームズで片方ずつ全力で引きちぎる。パワー重視の双腕の破壊者と、今や全身ボロボロの無人機のフレームでは耐える事も出来ずに手足が失われていく。がら空きになった胴体部に連続ラッシュを決めて背中から地面に叩き付ける。

 内部フレームが露になり、そこからスパークが走る。そして、Dアームズを無人機の胴体部中央部分に当てる。次の瞬間、Dアームズの腕から多連装型パイルバンカーがせり出してきた。

 

 

『!?』

 

「全弾……喰らい尽くせぇぇぇぇぇ!」

 

 

ドガガガガガン!

 

 

 攻撃は見事に直撃し、その衝撃で最早死に体と言ってもいい程無人機は壊れ果てた。

 

 

 

『……ハカイシャ』

 

 

 突然個人間秘匿通信で無人機を操るMから話し掛けられ、澪は無人機を更に破壊しながら通信を繋げた。

 

 

『何だ? 大事な事だったら普通に喋れ。聞き辛い』

 

『ン……ナラ。私達『亡国機業』に来る気は無いか?』

 

 

 澪は突然流暢になった喋りに『最初からやれ』と思いながら答える。

 

 

『亡国機業……聞いた事の無い名だな。……その組織は何を目的に動いてるんだ?』

 

『……大まかに言えば、世界の修正』

 

『世界の修正ね……また大層な事を。そして、それは今の世界を?』

 

『そうだ。それが私達亡国機業の目的であり、数百年前から続く事だ』

 

 

 澪はその話を聞き、破壊しながら考えてから答えた。ふと手を止めて無人機を見たらISコア人格が居なく、四角形の灰色に輝くISコアが合った。

 

 

『その話────────』

 

 

 澪はそう呟いた直後、Mが『そうか』と言ってから無人機のISコアを粉々に砕いた。次の瞬間、無人機は盛大な爆発を起こし、双腕の破壊者を紅く照らした。

 

 

────お疲れ様主

 

────戦闘終了。何とか倒せましたね

 

 

 二人の言葉を聞き、今度こそ終わったと感じて一人溜息を吐いた。そして、今頃になった現れた教師部隊達がアリーナに入って来た。澪は早く入って来いよと思いながら見てると、突然────

 

 

『お前が所属不明機だな!各機攻撃開始、目標は所属不明機だ』

 

「はっ?」

 

 

 澪は突然の事に戸惑う。しかし、教師部隊達は俺に向けて武器を構えるのであった。




次回予告

全てが終わり

ある日の事

俺は……


次回=密会=


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密会

我らは世界を守りし者

かの者の願い

それは歪み、世界を壊していく

例え悪と呼ばれようと

我ら世界の歪みを破壊する

我らは────亡国機業



 あのクラス対抗戦から数日。今日はある目的の為に早朝から、IS学園と本土を繋ぐモノレール駅に居る。

 早朝から出るのは女性主義者共と、あの糞教師から逃れる為だ。外出届けも既に糞教師に知られる事なく、別のルートで提出して上層部に受理されている。

 

 

────しかし、あの時は大変でしたね主

 

「全くだ……」

 

 

 無人機撃破後に現れた教師部隊。あれは典型的な女性主義者の教師達で構成されていて、俺が消耗していると思っていたらしい。しかし、あの時の俺は面倒事が終わってイイ気分だったのを邪魔されて……

 

 

 

 

「……あんたら。今自分達が何やってるのか分かってるのか?」

 

 

 俺はラファール・リヴァイヴを纏う教師部隊を、目と一体化しているデュアルアイセンサー越しに見て言う。直後、教師部隊のラファール・リヴァイブの武装のロック解除と、俺に向けてのターゲットロックが確認された。……完全にやる気か

 

 

 

「へえ?男の声がするじゃない。だったら、捕まえて襲撃理由を聞きましょうか」

 

 

 IS反応に名前無き破壊者の名前が出ていて、分かってるくせにそう言うか。あとから来たと思ったらこれか……屑共が

 

 

「いいわね。じゃあ……殺りましょうか!」

 

 

 ラファール・リヴァイブを纏う教師部隊の奴等がそう言ってオレに向けてレッドパレットや、レイン・オブ・サタディを向けて撃ってくる。体に当たるが、これぐらいでは傷一つ付かん。なんかぎゃあぎゃあと喚いているが、黙らせよう。

 

 

「まずは1匹」

 

 

 瞬時加速で教師部隊の中の一人に近づき、フルスイングでDアームズをラファール・リヴァイブに乗る部隊員に振るう。次の瞬間にはその者はアリーナの壁にめり込んで、すぐ様近くにいた奴らをエンドショックでまとめて吹き飛ばした。エンドショックを受けてまだ動ける奴らをDアームズで殴り、ジンライで吹き飛ばす。

 

 

「……何逃げようとしてんだ?」

 

「ひぃっ!?」

 

 

 逃げ出そうとしている教師部隊のメンバー二人を視界の端に捉え、そう問い掛ける。しかし、二人は悲鳴を上げるや否や非固定浮遊部位のスラスターを吹かしてその場から離脱しようとする。

 澪は逃がすつもりは無い。己に武器を向けた時点で、既に逃げ道なぞ教師部隊達からは消えているのだ。あるのは圧倒的殺意と暴力による蹂躙。慈悲など無い。

 

 

「ジンライ!」

 

 

 脚部にあるジンライでラファール・リヴァイブの非固定浮遊部位のスラスターを撃ち抜き、アリーナの地面にへと墜落させる。墜落した所に行き、まだ気絶してない様なのでDアームズに内装されている多連装パイルバンカーで腹部を攻撃。

 

 

「連射モード」

 

 

 澪がそう言うと、視界に『多連装パイルバンカー連射モード』と表示される。澪は残った二人の頭部を掴み、叫ぶ。

 

 

 

「果てろぉぉぉーーっ!」

 

 

 

 その後だ。何かが砕ける音と共に、アリーナの壁に残った二人がISを纏ったままめり込んだ

 

 

 

「起きろ」

 

「げはっ!?」

 

 

 教師部隊のリーダー格の奴……何時も俺にちょっかい出してくる女性主義者共のボスは、まだまだ怒り足りないな。だからさ……

 

 

『お前は……まだ終わらんよ』

 

 

 俺は双腕の破壊者から試合モードの名前無き破壊者に戻り、リーダー格の教師の首を掴んで持ち上げる。なお、A.I.S.S.を起動して直接首を掴んでいる。その為か、リーダー格の教師はシールドバリアーが機能してない事に混乱している。

 

 

『さあ。始めよう……!』

 

 

 その後、リーダー格の教師を反逆する血の牙達で地面に固定して、胸部展開圧縮荷電粒子砲《名前無き破壊者》をわざとリーダー格の教師に当たるか当たらないぐらいの所に放った。結果は教師は泡を吹いて気絶、おまけに失禁していた。

 

 

 

 

 あの後、山田先生に聞いた所この教師部隊を指揮する者が糞教師だと分かった。俺はすぐにピットに戻り糞教師にその事について聞いた。勿論、何時も懐に入れてあるICレコーダーを密かに起動させ、糞教師と俺の会話を録音した。

 

 そしたら、出るわ出るわ。俺が名前無き破壊者の詳細なデータを寄越さないから、わざと教師部隊にデータ取りと強制捕獲を要請したという事が。さらに、戦闘モードのデータを寄越せと強要して来たがそこはいつも通り軽く避けてトンズラした。その後すぐにICレコーダーを切って録音を終わらせた。ただし、あの無人機についてのデータは提出した。無人機……って言う事と、武装と戦闘データだけだ。

 

 そして、この事を学園上層部の学園長夫妻と生徒会に報告&ICレコーダーを提出。あの糞教師は半年以上の給料半減、五日間の謹慎処分との事だ。軽いような気がするが、天災との友人という事から何かされるのではという考えの元の結果らしい。それと、あの時の教師部隊は、退職金も無しでの強制解雇された。

 

 

『間も無く列車が着きます。ホームの……』

 

 

 そうこう考えている内にモノレールが来たようだ。

 

 早朝始発の為に、人が乗っているということはなく澪は一人モノレールに乗った。別にやろうと思えば人間体でもPICは使える訳であり、空や海を渡ればいいがそうするとまた面倒臭いので普通に移動する事にした。因みに、現在の服装は白のTシャツに蒼のGパン、鼠色のパーカーを着ている。

 

 あとの荷物は全て名前無き破壊者の拡張領域の中に締まってある。本当は俺が荷物が入った(着替え等も有り)バッグで持っていこうとしたら、ノーネームが「主の荷物を持つのは、従者の務めです」と言ってほぼ強制的に入れられた。因みに今回の目的は誰にも教えてはいない。教えたらそれは大問題だからだ……

 

 

 この後、モノレールを降りてバスに乗り換え、澪はとある山奥の温泉街にへと向かって行った。

 

 

────これは凄いですね……

 

「ああ。海もいいが、やはり山も素晴らしい……特にこの辺りでは余り女性主義者達がいなそうだからな。」

 

 

────やっぱりそれですか

 

 

「それもそうだが。奴等……亡国機業は何でこんな温泉街を待ち合わせ場所にしたんだ?」

 

 

 上の方には2日程出掛けることを言っておいたので別に今日は帰らなくてもいい。そんなことを考えている内に終点のバス停にへと到着してバスから降りた。

 

 

「とりあえず……今日は泊まりだからな。何処か安い宿を探すか……」

 

 

 しかし、辺りに人は居ない。流石に朝っぱら早朝から人が多くいるわけでもない。澪はさてどうするかと思っていた時、視界のターゲットタグが60代の白髪の男を捉えた。男もこちらに気付いたのか「おはよう」と朝だからか挨拶して来た。

 

 

「おはようございます。あのスミマセンが……この温泉街で何処か安い宿を知りませんか?」

 

 

 朝から宿探しなんて何か怪しまれるかと思っていたが、目の前のおじいさんは「この辺りになら……あるぞ」と真面目に答えてくれた。しかし、表情が良くない。

 

 

 どうやら凄く安いのだが、幾らか前にそのゆらぎ荘にて起きた学生の死亡事故後から幽霊が出るらしい。俺は別に幽霊が出るなんてどうでもいいと思った。幽霊が出るだけで客足が減るなんて可笑しいだろ……さらに詳しく話を続けた所中々いい所だと分かった為早速行くことに決めた。

 

 

────主。それでも今の時間帯からやっていますかね?一応6時は回っていますが……

 

 

 まあ……やっていなかったらそれでいい。場所も教えて貰えたんだ。行くぞ

 

 

────了解

 

 

─────────────────────────────

 

 

「……ここか」

 

 

 以外にもものの数分で目的の『ゆらぎ荘』とやらに着いたな。出入口だと思われる所が開いているのは確認でき、女の子が出入口付近を竹ほうきで掃除している。……多分ここの人か?割烹着も着ているし、多分その筈だ。流石にこの子が女性主義者ではないだろう……

 

 

「……あの」

 

「あら?こんな朝早くから……どうされました?」

 

 

────心配して損でしたね主

 

 ……こんな事もあるさ

 

 

「今宿探ししてるのですが、ここって泊まれます?今日明日だけなんですが……」

 

「それなら大丈夫ですよ。……荷物の方は?何も持って無さそうですが」

 

 

────主

 

 ……ああ。まあ、もう顔は世界中に割れてんだ。今更だ

 

 

「それならここに」

 

 

 澪はそう言って名前無き破壊者の拡張領域から、荷物が入ったバッグを手に展開する。女の子はその様子に酷く驚いており、澪はその光景に?と頭の中に浮かべた。

 

 

「……あっ、それではご案内致します。」

 

 

 それから俺は出入口の靴箱に靴を入れ、5号室と書かれた部屋に案内された。やはり朝ということもあってか朝食の準備をしなくてはいけないとのこと。女の子……仲居ちとせさんが言っていた。さん付けなのはあの子がここの仲居という事だからだ。PICを応用して出入口付近に置いてあった宿泊表の所に瞬時に移動し、書いて置いた。先程ちとせさんから「あっ……宿泊表」と言われた時にそのことを報告した。

 

 ゆらぎ荘の食事は住民一斉に集まって、一緒に食べると言う。今どんな人がいるか聞いたところ男一人にちとせさん含めた女4人という事らしい。今は部屋で荷物の整理をして、窓から見える外の景色を楽しんでいた。……そんな時だった。なんと空高い所から同年代だと思われる男子が落ちて来ていた。……なんか、薄くだが浴衣姿の女の子も一緒に落ちて来てる────あっ、川に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 その後、俺はあの女の子……仲居ちとせさんの所に行って少し出掛けてきますと言ってゆらぎ荘を出た。ここは山の景色が良く、俺は歩いて山道を歩き、山の頂上にあるこの町を一望出来る場所に居た。

 

 

────主、ハイパーセンサーにIS反応を確認。

 

 

 俺はノーネームからの報告に『場所は?』と問い、『この街の高等学校屋上、現在地から西の方角3km先』とノーネームが答える。俺の中で、一気に緊張感が高まる。まだ朝……しかもこんな所で戦闘が起きるかもしれない。そのような事が頭に浮かぶ。

 

 

────この時間帯は既に多くの人々が活動しています。人間体のままでの活動をお勧めします

 

 

「分かってる。ノーネーム、脚部パワーアシストとPICを最大値に設定。十秒以内にやれ」

 

────……完了しました。それでは、ルートを主の視界に表示します

 

 

「……行くぞ!」

 

 

 澪はそう言ってから地面を蹴る。その影響で轟音と衝撃が地面に伝わり、地面が大きくひび割れちょっとしたクレーターができた。丁度山の頂上……しかもこんな朝早くから居た為、人は付近にはおらず誰にも見られる事は無かった。

 

 衝撃は澪を空高くに打ち上げ、PICを応用してこの温泉街にある唯一の高等学校の屋上にへと向かう。

 

 

────IS反応。BTシリーズ二号機『サイレント・ゼフィルス』と特定

 

 

 BTシリーズ?つまり……あのブルー・ティアーズと同系列の機体か。見た感じも……同じか?いや、全くといっていいほど同じでは無い。こっちは紫の蝶をモチーフにしている……これはこれで素晴らしい機体だ。

 

 

 そうこう考えている内に澪は高等学校屋上に居るサイレント・ゼフィルスの目の前に降り立つ。サイレント・ゼフィルスのパイロットは、澪が生身で空を飛んでやってくるとは思わなかったようで驚いていた。しかし、澪はそのパイロットがフルフェイスヘルメットを付けている為どのような反応をしているかは分からなかった。

 

 

「……約束通り、来てやったぞ亡国」

 

 

 澪がそう言うとサイレント・ゼフィルスは粒子となって霧散して、サイレント・ゼフィルスを駆るパイロットの素顔が露になる。その顔を見て、澪は固まった。

 

 

「────奴と同じ顔?」

 

「……お前とはこうして会うのは初めてだな。セカンド」

 

「っ!その声と話し方……お前はMか」

 

「もう一度言うが、私に苛められて興奮するような物はない。絶対だ」

 

「……了解した」

 

 

 やつと同じ顔────世界最強織斑千冬の幼くした様な顔をした少女こと、M。それがこの間戦った相手でもあった。

 

 

「あの時の確認だ────本当に亡国に入るのだな?」

 

「……ああ。俺としても、現在の世界は気に入らん。特に────一度は世界から抹消された存在として、な。」

 

「やはり……Rの情報通りだったのか」

 

「R?それもお前達のコードネームか……M」

 

「そのような物だな。この際教えておくが、私の本当の名は『織斑マドカ』。お前は察しているだろうが、織斑千冬のクローン……それが私だ」

 

 

 何となく、察していたがその通りだったか……言葉使いは似ているが奴とは真反対と言ってもいい程その身から出る気迫が違う。奴は絶対強者という自信ゆえに慢心気味だが、Mは真っ直ぐ研ぎ澄まされた気迫が俺にヒシヒシと伝わって来る。 

 

 

「だが、今は『篠ノ之マドカ』、Rが『貴女も私の家族だ』と言って名付けてくれたよ」

 

 

 澪ほその言葉に目を大きく開け驚愕した。『篠ノ之』────つまり、現日本にてその名を持つ者が10人以下の名字。それは天災の血筋と同じく名だ。そして、天災の名は『篠ノ之束』。篠ノ之束は常にウサギ耳の装置を頭に付けていることが知られている。澪はまさか?と思いマドカに目を向けると、彼女は頷く。

 

 

「Rは今亡国機業に入って、世界で暗躍している。本人は『私が犯した罪の償いのため』と言っているが……っと、これは────」

 

「分かってる……秘密にしろって事だろう?そうか、天災が……」

 

 

 澪は現在の世界にした根源である人物、天災『篠ノ之束』が亡国機業に入り、己が犯した罪のために世界で暗躍している事を知り驚いた。世間一般では篠ノ之束は自己中心的で、親しい者にしか話をしないとも呼ばれていた人物だ。その人物が────他人の為に動いている。中々驚く事だ。己の人生を塗り替えた根源でもあるのだ、篠ノ之束に対して沸き上がり止まることのない怒りが湧き続ける。

 

 そんな事を考えていると、澪は己の視界にマドカ……サイレント・ゼフィルスとの専用個人間秘匿通信の番号が送られて来た。

 

 

「私も中々忙しい身でな、今回こうやって来れたのも偶然に近い」

 

「もう行くのか……?悪いな、忙しい時に」

 

「構わんさ。また近い内会うことになるだろう。その時にまた色々話をしよう。さらばだ……」

 

 

 そう言ってからマドカは再びサイレント・ゼフィルスを纏い、空に舞って何処かにへと飛んで行く。青い炎が尾を引くその姿は、朝日に輝く流星だった。

 

 

────予定が早く終わりましたね

 

「……そうだな。まあいいさ、あとはゆっくり休むとするさ……戻ろう」

 

 

 澪はそう言ってからPICを使用し空高く舞い、ひっそりとゆらぎ荘の近くまで素早く飛んで行ったのであった。その後、問題という問題は無く。残りを自分の癒しに使え、日頃のストレスを浄化させていくのであった。




次章予告

日に日に力を付けていく澪

ある日の事、新たな転入生がやって来る

金髪の男と銀髪の少女


「……これも仕事なんだ。ごめんね……」


己の大切な物を奪おうとする者


「……さて、どうなるか分かってるんだろうなぁ!」


破壊者の怒りを受け

そして────



「俺はお前がどんな奴なんて関係ない」

「────────!」

「だから……その呪縛から開放する!」


銀髪の少女の願いを受け


「助け……て……」

「……行くぞぉぉぉ!」

────了解です。主


破壊者はその呪縛を破壊する


次章=破壊すべきはその呪縛=



次回予告

今日も今日とて

襲撃を避けていく

ある日

二人の転入生が俺のクラスに来たのだ


「……男?」


転入生の一人は男……?


「貴様が教官の弟か」

「っ!?何をするんだ!」

織斑に挑発行為をする銀髪の少女だった


次回=金と銀=


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第三幕 破壊すべきはその呪縛
金と銀


私は何を思ったのか

私は何を強さと思ったのか

それが何を表すのか



武力



それがあの人が言っていた強さ


私はそれで納得した


そのお陰で私は前よりも強くなった






でも





私には……それが強さと呼べない気がしたんだ


 5月のクラス対抗戦とGWも終え、あれから毎日の様に理不尽と馬鹿共に襲われる毎日を過ごした。気が付けば既に6月に突入していた。

 何時もの生活が始まる今日、現在時刻にして朝の6時ピッタリ。特施の射撃訓練場にて、生身での銃火器の射撃訓練中である。今朝のIS訓練は月に一度の特施の点検整備により、訓練場のシールドバリアー発生装置の点検につき使用不可。訓練できないと言って日々の鍛錬を怠ることは駄目なこと、その為たまにはと思い射撃訓練場に足を運んで来たのだ。

 

 

「……」

 

 

 人間体で銃火器を撃つと、視界のターゲットタグが撃とうとする所に自動にロック。それに合わせて銃……今はハンドガンを握っているが、銃を持つ手がそれに合わせるように照準を合わせる。

 

 

タァン!タァン!タァン!

 

 

 その音と共に薬莢がハンドガンから排出され、軽い金属の音を響かせ地面に落ちる。結果は一つ一つ微妙に当る場所が微妙にズレているが、ほぼド真ん中だった。どうやら人間体でもISの自動照準システムが正常に起動して、自動的に合わせたみたいだな。流石に弾の軌道までとはいかない

 

 

「……これでは意味が無い、か」

 

 

 このままやっても意味が無い。どちらにせよ、この機能を切って訓練────という事は出来ない。そう考えた澪は数分後特施を出て寮に戻り、身支度を終えるまでの間……ハイパーセンサーに反応する未確認IS反応の事について考えるのであった。

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

「……んっ」

 

 

 教室に付き幾分か経った。何やら騒がしい……一体なんだと言うんだ?今日は珍しく廊下に人が集っている。

 

 ……ノーネーム起きているか?

 

 

────主、おはようございます。

 

 

 突然で悪いが、今日はやけに五月蝿い。何か理由を知らんか?

 

 

────……あの

 

 

 なんだノーネーム?

 

 

────大変失礼ながら一言。髪切られましたか?

 

 

 ……あっ、ああ。最近少しばかり熱くなっただろう?それに目に髪の毛が当たって痛い思いをしてるのでな。この際と思い切ったんだ。

 

 

 

────主。それです

 

 

 はっ?こ、これが……騒ぐ理由?そんな馬鹿な。有り得ん。ただ邪魔な髪の毛を切っただけだぞ。

 

 

────主。はっきり言いますと、新鮮ですね

 

 

 俺は織斑のようにイケメンって訳ではない。せいぜい普通だ。

 

 

────ご謙遜を……主の格好良さに気付いた所で最早あの者達にとっては遅く、もはや主の眼中にはありません。だからあのような目線等……!

 

────おーい、ノーネーム騒ぎ過ぎだぜぇぇ……

 

 

 ノーネームの言っている事が、徐々におかしくなって来た時にミーティアが眠たそうな声をしながら会話に参加してきた。いや、起こされた感じだな……これは。

 

 ノーネームも少しは落ち着け。

 

 

────あっ、も、本当に申し訳ございません!

 

 

 

 ……たく。なんで髪切っただけでこうなるんだ。なんかクラスの奴等もこっちを見てヒソヒソとしてる。あー……

 

 

 

「黙れ」

 

 

 澪の突然の一言にざわついた声が消え、辺りがシンとなった。その直後、澪は席の左側窓を開けてその前に立つ。そして、そのまま窓の縁に足を掛け、立つ。その光景に生徒達が再びざわつき始めるが、あまりのうざったらしさに頭に来た澪はそんな事にお構い無しに窓からその身を出す。

 生身の人間が窓からその身を投げ出す。その様な光景に悲鳴を上げ、様々な反応を見せる女子達。多くの者は飛び降りた澪を見に行ったが……

 

 

 

「……あれ?」

 

「居ない?」

 

 

 

 窓の外の遥か下にある地面には、澪の姿も異常も何も無く。何時もと何の変わりのない地面があった。

 

 

 

────────────────────────

 

 

「髪切っただけで、なんでこうなる」

 

 

 澪は誰も居ない屋上にて一人そう呟く。澪は先程窓から飛び出て、その後PICと脚部パワーアシストを使って屋上に校舎の壁を駆け上がったのだ。流石に校舎の壁を駆け上がるなど誰も考えていない。

 

 

「……何時まで苛立っても無駄か。ミーティア」

 

────なんだ主、私を呼ぶなんて珍しいな

 

 

 朝早くだと怠そうにしているミーティアだが、完全に日が昇った今の時間はキチンとしていた。

 

 

「ノーネームがあの様子ではまともに話せん」

 

 

 澪のその言葉にミーティアが成程と呟く。

 

 

「それでだ。朝から確認されてる新しいIS反応二つ……それを調べて欲しい。頼めるか?」

 

────その程度なら……出来たぜ主!

 

 

 澪の言葉を聞いてミーティアがそう言って3秒程で、視界に様々なデータが表示される。

 

 

「早い……こういうのが得意なのか?」

 

────私がこういうことが得意なの意外だったか?

 

「意外だったな……でも、助かったよ。ありがとうミーティア」

 

────そ、それは良かった!じゃ、じゃあな主

 

 

 澪は突然慌てた様子のミーティアにどうしたのかと疑問に思ったが、とりあえずまあいいかと片付けた。

 

 

 IS反応識別国……一つはドイツで、二つ目はフランスか。ドイツ機は……『シュヴァルツェア・レーゲン』 もしかしてシュヴァルツェアシリーズの第三世代機か。シュヴァルツェアシリーズの特徴である漆黒の装甲はそのままに、シリーズ最高の攻撃・軌動・耐久性を持つか。シールドエネルギー量も他の機体と違って相当な量だな。防御性能も優れている。しかし、他の三世代同様に消費量問題は健在か。それでも今まで見た中では厄介な機体だ……そして、特殊兵装ありか。気を付けなければ

 

 フランス機は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムII』 ラファールの改良カスタム型か?こっちはどうでもいいな……

 

 

────主

 

 

「ノーネームか。どうした?」

 

 

────間もなくSHRです

 

 

「……戻るか」

 

 

 そう言って澪はまたPICと脚部パワーアシストを使って校舎の壁を下り、自分の教室にへと戻った。教室には既に全員居て、窓から来た澪に教室中の生徒達が驚きの声を上げるが澪の睨みで静かになった。

 

 

 俺が教室に着いて数分後、山田先生と糞教師がやって来た。それと……朝から確認していたIS反応二つが、教室の前の扉の前で止まっていたことに気付いた。

 ふと思ったが、ISは一般的には3機で首都陥落が可能であると言われている。しかし、それは量産型の打鉄やラファールと言った機体ならではの話だ。問題は専用機。専用機は一般的量産型を遥かに上回る性能と戦闘力を持つ。それこそ、下手すれば1機で首都陥落なんて簡単に出来る程だ。結局何が言いたいのかと言うと、このクラスには専用機持ちが俺と織斑の二人居る。織斑と言えど、ここ最近はIS操縦のレベルが上がりつつある。俺も名前無き破壊者と言う規格外であり、半永久に動き続けるISがある。

 AIS兵器のような物さえ無ければ、国さえ落とせてしまう。ある意味特記戦力なのだ……専用機とは。そんな物が更にこのクラスに増えようとしている。二つも。最早このパターンでは何が起きるなどと、想像は簡単だ。

 

 

「今日からこのクラスに新しく二人の転校生が来ます!」

 

 

 俺がそう考えていたら、予測通りの言葉を山田先生が発した。それで他の奴らがざわつくが、珍しく糞教師が手を叩いて他の奴等を静かにさせた。普段からそれぐらい普通にすれば、至って普通の先生なんだがな……

 

 

「それでは……二人共入って来い」

 

 

 糞教師がそう言うと、前の扉が開き、二人の生徒が入って来た。一人は左目に眼帯を付けた銀髪の……背の小さな女子で、その女子からシュヴァルツェア・レーゲンの反応が出ていた。もう一人は………………男子用制服を着ている女子生徒だった。そいつからはラファール・リヴァイヴ・カスタムIIの反応か。

 シャルル・デュノア、フランスの代表候補生……男?ノーネーム、ミーティア

 

 

────なんでしょうか主

────ん……なんだ?

 

 

 ミーティアはシャルル・デュノアとデュノア社について調べて、俺に報告。ノーネームは刀奈の所にシャルル・デュノアの事について聞いて来てくれ。

 

 

────うん。3分以内に報告するぜ

────了解致しました

 

 

 その様な事をノーネーム達に頼んだ時だった。えー……糞教師の事を教官と呼ぶ銀髪で左目に眼帯を付けた女子────ラウラ・ボーデヴィッヒが織斑に向けてビンタを寸止めだけど繰り出していた。いいぞ、もっとやれ

 

 

「……っ!何しやがる!?」

 

「この程度の攻撃さえ避けれないとはな……貴様の己の危機感の無さには呆れたものだ。だが……」

 

 

 そう言ってラウラ・ボーデヴィッヒは教室の後ろの左隅に居る俺の席の前まで歩いて来た。……なんだ?

 

 

「貴様は己の危機感を認識しているようだな。そのスキのなさ……噂以上だ。気に入った……私の部隊に入らないか?」

 

 

 

 しまった。途中の話聞いてなかった

 

 

「……そいつはどうもラウラ・ボーデヴィッヒさんよ。そして、何の話だ?」

 

「私の所属する部隊に入らないか?」

 

「……軍属か?そして、その期待の目を止めろ」

 

 

 その期待を込めた目で俺を見るな。ええい……お前達も俺をポカンとした目で見るな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ターゲット確認」

 

 

 ふと、澪はそんな声が聞こえた。同時に編入生であるシャルル・デュノアからよくわからない視線を受けていたことに気づくのであった。 




次回予告

SHRが終わり授業が始まる

普段接してない奴ら

仲良くしようとしてくれるが

俺は疑い深いんだ

なあ……デュノア ?

俺を怒らすな

次回=疑心が晴れれば怒心=


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疑心が晴れれば怒心

狩人は獲物を定め

どう仕留めるか思考する

しかして

その獲物は破壊者と呼ばれ

万物に対して平等に

怒りの鉄槌を陥れる

その……狩人に


 俺は目の前のラウラ・ボーデヴィッヒの行動に驚く以外の言葉が見付からなかった。軍人から仲間にならないかと誘われているのだ、普通に戸惑う。

 

 

────私としては主が評価されて、圧倒的満足感を得る事ができます

 

 

 俺としては、まず……長いからボーデヴィッヒが軍属で居ることに驚く。確か今の世の中少年兵は禁止されているよな?

 

 

────そうですね。しかし、実態は……

 

 

 その実態は今も尚少年兵は増え続けている。しかも、ISが登場してからそれが加速している。

 

 ISが登場する前の時代、世界各地の少年兵は確実に減少傾向にありつつあった。しかし、ISが登場してから女尊男卑と女性主義者達の登場により突如として少年兵の数が倍に増え始めた。

 

 その原因。それは、女尊男卑の濃い国での子供……特に男の子の人身販売発生が激増。元人身販売者で、数年前に逮捕されたある者が男の子の人身販売が増えた理由に対してこう言ったそうだ。

 

 

 

 

「依頼人は……ほぼ女だが、皆口を揃えて言う。『男だから』

『男だから要らない』……とね。

 人身販売なんてしていた奴が言うのもなんだが、嘆かわしい事だ……こんな事」

 

 

 

 理不尽だ。男という理由で、幼い男の子達が売られていく。それでも、中には女の子の少年兵もいたそうだが……

 

 ボーデヴィッヒもそんな少年兵かと思った。しかし、ボーデヴィッヒは『我が部隊』と言った。なら、やはり先程も言った通り軍属。しかも、ISを主体に運用する特殊部隊……やはりそうでないと話が合わない。

 

 

「何時までそうしているつもりだ!」

 

 

 突然の怒鳴り声、それと共に俺とボーデヴィッヒの頭に振り下ろそうとして迫り来る二つの黒い物体。ボーデヴィッヒは糞教師の怒鳴り声に驚き硬着状態で動けないし避けられない。……仕方がない

 

 

「……ふん」

 

「わっ!?」

 

 

 ボーデヴィッヒを左腕で俺に引き寄せ、ボーデヴィッヒの頭にに向かっていた黒い物体……出席簿を右手で殴り天井に突き刺さる。瞬間的に俺の方に来ていた出席簿を軽く頭を動かして避けた。それによって、後ろの壁に出席簿が突き刺さる。

 

 

「……おい」

 

 

 俺は出席簿を投げた糞教師の方を向き、怒りを込めた目で睨む。俺はともかくボーデヴィッヒにまで、殺傷レベルの速度の出席簿を投げるとは……許せん。

 

 澪から放たれる怒気は、織斑千冬に向けている。織斑千冬にだけ、その怒りを真っ直ぐにぶつける。ぶつけられた本人は忌々しそうに表情を変え、誰にも聞こえないような音で舌打ちした。しかし、澪には完全に聞こえていた。

 

 

「……お、おい!」

 

 

 澪はボーデヴィッヒのその声を聞き、今自分が何をやっていたのかを思い出す。そう、澪は織斑千冬の攻撃からボーデヴィッヒを守る為……己の左腕で彼女を抱き寄せているのだ。

 

 

「い、何時までこうしてるつもりなのだ?さ、流石に恥ずかしい……」 

 

「す、すまない!」

 

 

 ボーデヴィッヒの顔は耳まで真っ赤で、澪から見るとその視線は定まっておらず、だいぶ混乱しているようだ。

 

 教室中には、殺伐とした空気が、甘酸っぱい空気が充満して何とも言えないような空間を作り出していた。

 

 

「えー……SHRはこれで終わりです。一時間目は二組と合同のIS実習なので、これ以上の挨拶等は休み時間にお願いします!

 場所は第二グラウンドです。織斑君達は至急第二アリーナ男子更衣室にて着替えを済ませてください」

 

 

 そんな中、山田先生の勇気ある行動でそんな空間が霧散した。その直後、織斑千冬が「織斑、榊」と言う。

 

 

「お前達、デュノアは更衣室の場所を知らん。その為、お前達がそこまで案内しろ。いいな?」

 

 

 そう言って糞教師が教室から出て、山田先生もそれについて行くように出て行った。それと同時に教室が慌ただしくなる。俺は別にISスーツに着替えなくても、問題無いから良い。でも、デュノアと織斑は着替えねえといけないからさっさと案内するか。流石に初めてここに来る奴に対して、最低限の案内はしないとな。奴の指示だとしても……な

 

 

「えっと……君が織斑君で、君が榊君?」

 

「おう!俺の事は一夏でいいぜ。よろしくな」

 

「おい、挨拶は後でいい。俺はISスーツ着ないからいいとして、てめえ等ISスーツに着替えるんだろう。案内するから早くしろ」

 

 

 ……全く。早くここから出ないと変態扱い(主に俺)されるんだから早くしろよ。

 

 澪はそう言って二人を連れて教室から出る。更衣室までの道の中で、デュノアと織斑目当てに来た奴らがいたがそいつ等を威嚇で退かしてすんなりと今日使用する第二アリーナ男子更衣室まですんなりとたどり着いた。

 

 

 

「じゃあ、俺はもう行く。あとは知らん」

 

 

 澪はそう言って織斑達を更衣室に置いて、一人歩いて第二アリーナ近くの第二グラウンドに向かう。

 

 

 

 

 

「……ニガサナイ」

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 第二アリーナ男子更衣室から充分に離れ、第二アリーナの出入口を出た所で澪はその動きを止めた。そして、軽く全方位をハイパーセンサーで見渡してから呟いた。

 

 

「ミーティアいるか?」

 

────先程の物だね?ほいっ!

 

 

 澪の言葉と共にミーティアがホログラフでとあるデータを表示させる。それを澪はざっと見渡してから一息ついて、呟く。

 

 

「……やはりか」

 

────やはりでしたか

 

 

 デュノア社の人員、社長血族の情報データをミーティアに取って貰った。しかし、その中に『シャルル・デュノア』なんて言う人間は存在しせず、代わりにシャルル・デュノアと全く同じ顔の『シャルロット・デュノア』という女性がいた。というより、ノーネームが突然現れて驚いたぞ

 

 

 

────す、すみません。しかし……これは

 

「ああ……分かっていたことだったが、やはり女だったか」 

 

 

 それと……ミーティアの奴、何気に『デュノア社第三世代機計画』という情報データも取ってきた。俺は歩きながら視線認証でデータを開き、その情報を読み上げる。

 

 

 ふむ……計画と書いてあるが内容は簡単だな。

 

────何が記してあったのですか?

 

 シャルロット・デュノアを『シャルル・デュノア』として送り出した後、俺か織斑に接近して専用機の情報データをコピーする。さらに、出来る限りその専用機の強奪……との事だ。そのデータや機体と共に新しくデュノア社製第三世代機を造る事がこの計画なんだろう。そして、願わくは俺の殺害とその体の入手……との事だな。

 

 フランスのIS開発代表のデュノア社は欧州で行われている『イグニッション・プラン』で、各国よりも大幅に遅れをとっている。ほぼそれが起因してだろう。そして────デュノアの奴は俺にターゲットに定めたみたいだな。

 

 ……と言うより、まず顔の輪郭・声の高さ・ぎこちない動き。更には常時見られた息苦しさ……あと女性特有の仕草、完全に男として動く気無しだろう。あと……教室であった妙な視線。それが今別れる際にデュノアから感じ取られた。

 

────教室でチラチラ見てましたね。彼女

 

 

 澪はその言葉を聞いてあの時、デュノアからの視線を思い出す。それは例えるなら己を実験動物かのように見て、獲物を定める狩人のような目。澪はそれを思い出し、体の奥底からマグマの如く怒りが溢れ出す。

 

 専用機を強奪────澪に対してそれは出来ることではないが、澪から相棒を盗ろうとしていた事を示す。故に許せなかった。だからこそ許せなかった。

 

 

 

「……いいだろう」

 

 

 奴は絶対に俺に何かしらのアクションを起こす。暫くは相手の思う通りに動いて、上手く誘い込んで地獄に落としてやるよ……ええ?

 

 

 

「シャルロット・デュノアさんよぉ……!」

 

 

 デュノアの計画はこうして簡単にターゲットにバレ、ターゲットの……破壊者の怒りを買った。狩人から獲物に変わった事など、この時のシャルル・デュノア……シャルロット・デュノアは知りもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……チッ」

 

「……クソが」

 

 

 この後、意外にも早く第二グラウンドについた澪は、織斑千冬と共に授業が始まるギリギリの女子生徒達が来るまで二人で睨み合い。そして、舌打ちを繰り返していた。




次回予告

IS学園には破が居る

彼は断じて許さない

己を利用する者を

次回=踊る人形は破壊に誘われて=


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踊る人形は破壊に誘われて

踊れは踊る

全てを知られながらも

知られて無いと思いながら

踊れよ踊れ

破者の手の中で


 澪は織斑千冬とのやり取りをして、生徒達が集まり出した頃に何時も自分が並ぶ時に立つ、先頭の一番右端に立って待っていた。

 

 

 

「やっとか」

 

 

 授業が始まるギリギリになって現れたあの二人。俺があそこまでスムーズにやったのに何故こんなにも遅くなるのか……分からん。

 

 

「遅い!」

 

 

 糞教師もお怒りだな。あーあ……また叩かれてるな。どうでもいいが。 む?鈴となにか話してるな。ああ、朝のボーデヴィッヒとのやり取りの事か。

 でもな、そういう事をやってると糞教師が……遅かったか。

 

 

────主

 

 

 戻って来たか。……っで、どうだった?

 

 

────これでやっと動けると喜んでました。お手柄ですね主

 

 

 それは俺じゃなくて、ミーティアに言ってくれ……って、ん?ノーネーム。こちらに向かって来るIS反応があるのだが、気のせいか?

 

 

────いえ、これはIS学園の教師用のISですね。機体はカスタム仕様のラファール・リヴァイブです。

 

 

 成程…………って、先程から山田先生が居ない。まさか?

 

 澪はとりあえずこれ以上は考えることを止め、目の前の実習に意識を集中させるのであった。

 

 

「本日は格闘と射撃を含めた実践訓練を行う。今回の訓練は今までと比べて、危険度が増す。十分に気を引き締めて行え!」

 

 

 先程叩かれた鈴と織斑が何か言っているが、別にどうでもいい。鈴には可哀想だが、あれは自業自得だ。

 

 

「本格的に行う前に、1度試合をしてもらう。そうだな……織斑、凰!出て来い!」 

 

 

 あの2人で試合か……まあ、クラス対抗戦においては未だに勝敗が有耶無耶になってるままだからな。丁度いいだろう

 

 

「よーし……ここであの時の決着をつけるか」

 

「望むところよ!」

 

 

 ノーネーム

 

────はい?

 

 先程のIS反応が、物凄い勢いで俺達のいる所に落ちるかのように接近して来ているのだが。気のせいか?

 

 澪がそこまで考えた時だ。空気を裂く、戦闘機のような音が微かに聴こえ始めた。それは次第に大きくなって、澪はその音の発生源とIS反応がある空に目を向けた。微かな悲鳴……それは山田先生の物だとすぐに理解した。

 

 他の生徒達も気付いたのか、ざわつき始める。澪は前に2〜3m程出た。それを辺りの生徒は何やってるの?という風に見ていた。

 

 

「お前ら離れてろ!」

 

 

 澪は短く少し大きな声でそう言うと、名前無き破壊者を纏って空に舞う。流石に此処で非固定浮遊部位の大型スラスターを使えば、焼死体の山となる。その為、澪はその場で上に向かって跳躍した。PICと脚部の足裏にあるスラスターの応用により、一回の跳躍で10mぐらいは飛んだ。そして、脚部スラスターを切り、大型スラスターを起動しても問題無い所まで来たのを確認。大型スラスターとPICを使用してその場に滞空する。

 

 

(山田先生を傷付けない様に受け止める。そして、そこにいる奴等に怪我をさせない……!)

 

 

 澪は山田先生が落ちて来るコースに、その身を踊らせ受け止める準備に入る。澪から見て今の山田先生は、混乱している。さらに、機体は錐揉みしていて減速どころか体勢維持さえ出来ない。だからと言って、速い速度で接近して受け止めても山田先生が傷ついてしまう。下手すれば後ろの奴らが肉塊化。

 

 

(だったら……受け止めると同時に、大型スラスターによる減速をするしか無い!)

 

 

 澪はすぐ近くまで来ている山田先生を確認し、瞬間的に背後……下にいる他の生徒達を見た。どうやら無事に避難はしたようだ。

 

 次の瞬間、鈍い金属音が辺りに響く。澪は山田先生をキッチリと掴んで、錐揉み状態を解除。さらに、掴んだのと同時に大型スラスターを蒸かして減速。それでもまだ足りない。少しずつ名前無き破壊者は後退していく。澪は脚部スラスターを弱めに蒸かす。

 

 

『……っ、止まったか』

 

 

 後退が止まった所で、澪は山田先生を揺らして正常に戻した。その後、ゆっくりと地上に降り立ち、山田先生を離した。その時、山田先生の顔が妙に赤かったのを澪は不思議に思っていたのであった。

 

───────────────────────────

 

 

 山田先生の墜落未遂というアクシデントがあったが、直ぐに授業は再開された。……山田先生、あんた意外にも怖いな。山田先生がラファール・リヴァイブを纏っていた理由だが、どうやら先程の試合の件は、山田先生VS織斑&鈴を見せる為らしい。俺を含めた生徒と糞教師は戦闘の影響が出ない所まで離れていた。

 

 山田先生相手に……大丈夫か、あいつら。織斑も鈴も普段の山田先生しか知らないようで少し相手を嘗めていた。油断している。

 あの人は、元IS日本代表候補生までのレベルを持っている。特に山田先生について詳しく書いてあったデータには、当時のロングレンジのスナイパー以外の射撃精度は世界的トップレベルと示してあった。しかも、山田先生は異名持ち。……油断はできん相手だ

 

 

「では、始め!」

 

 

 そうこう考えていると、試合が始まった。山田先生の表情はいつも見せる優しい表情を残しつつ、真剣な眼差しだ。……鈴には悪いが、少し悪戯するか。

 

 

『山田先生』

 

『さ、榊君!?』

 

『突然ですが、お願いが有ります』

 

 

 俺は山田先生に向けて個人間秘匿通信を繋いで話し掛ける。一瞬慌てた様子で叫ぶが、個人間秘匿通信内だけなので問題は無い。実際戦っている山田先生の表情は、先ほどと変わりはない。

 

 

『お、お願いですか?』

 

『はい。山田先生の今の本気を見せて下さい』

 

『本気、ですか?』

 

『はい。山田先生って、普段からドジなのは知られてますが……本当はとても強いって所を見せてやって下さい。銃央矛塵の、当時の元国家IS日本代表候補生の力を』

 

 

 失礼だが、俺はそこまで言って強制的に切った。俺は見てみたかった。当時の日本の最強角の一人の力を……その射撃精度を。

 

 そうやって考えていると、突然それまであまり攻めなかった山田先生の動きが変わった。射撃主体機VS近接特化・近接〜中距離機という分が悪くも、主に近接戦闘をする機体にある程度の攻撃をしつつも防衛戦になっていた山田先生。しかし、その動きが変わった。それまでよりも動きが数段上がり、織斑達が慌てるのが見える。

 

 山田先生は右手の武装をショットガンに変え、左手の武装をグレネードランチャーに変えた。直後、距離を詰めて来る織斑にショットガンを放って織斑は直撃し怯む。更に、グレネードランチャーをショットガンで怯んだ織斑に連射。

 

 

「ぐああぁ!?」

 

 吹き飛ぶ織斑に向けて追いかけるかの如く、瞬時加速で距離を詰める。だが、織斑も何とかPICで体勢を整えようとする。しかし、山田先生はそれよりも速く動いた。更に距離を詰め……織斑が体勢を整えた時にはその目の前に居て、先程までの速度を織斑の目の前で零にした。

 確か、これは一零停止というものだったな。ざっくり言えば緊急停止。しかし、緊急停止は止まるまでの時間や距離という物が存在する。しかし、一零停止というのは完成系の緊急停止だ。本当にその場で停止する。時間も距離も関係無く、その場で。

 一零停止は未だに俺は身に付けていないIS機動術の一つで、やる事は単純だが実は相当難しい技だ。

 

 

「終わりです」

 

 

 そう言って山田先生は唖然としている織斑に向けて、零距離からショットガンとグレネードランチャーを浴びせる。その衝撃で地上に向けて墜落していく織斑。

 その直後、グレネードランチャーをアサルトライフルに変換。背後から奇襲を掛けて来た鈴に向けて放つ。

 それに負けじと鈴が龍咆を放つ……が、龍咆の不可視の弾をショットガンを複数回撃つことによって破壊。衝撃が辺りに舞い、それに煽られた鈴をアサルトライフルとショットガンで集中砲火。山田先生も煽られたのだが、その中でのあの精密的射撃能力は凄い。そして……山田先生は四枚の自立式の盾を展開した。

 

 これに以外にも驚きの反応を見せたのは、ボーディヴィッヒだった。どうやら奴も銃央矛塵の事を知っているようだ。自立式の盾は鈴が纏う甲龍を隙間の無い様に囲む。そして……

 

 

「とどめ!」

 

 

 珍しく、山田先生そう叫ぷ。次の瞬間、僅かに空いている隙間に銃口を突っ込んで撃つ────その時だ。

 

 

「それまで!」

 

 

 糞教師のその叫びでこの試合は終わった。

 

 

「とても素晴らしい試合だったが、時間が押している。その為、この試合はここまでとする。

 諸君、これで山田先生の実力を分かっただろう。これからは敬意を示せ、いいな!」

 

 

 それで他の奴らがハイと返事をするが、無駄だろう。山田先生だから。……個人的には最後の締めの攻撃を見てみたかったものだな。それと、やはり山田先生は強かった。伊達に国家IS日本代表候補生まで上り詰めただけはある。とりあえず連絡するか

 

 

 

『山田先生』

 

『あっ、榊君。言われた通り少し本気で行きましたが、どうでしたか?』

 

 

 俺はその言葉を聞いて驚いた。今の動きが少し本気……なら、本気の本気であるならばあの二人に瞬殺出来ていたというのか?凄い……凄過ぎる。これが山田先生の力の一つ……か

 

 

『凄かったです。今の俺には出来ない事、ISに搭載された機能を極限まで上手く扱っていました。……今度、出来るのなら俺に訓練を施して欲しいです』

 

『な、何だか照れますね……では、切りますね』

 

 

 山田先生はそう言って個人間秘匿通信を切った。つか、山田先生普通に他の生徒と話しながら俺に個人間秘匿通信で話しかけてきている。……これも実力の内か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 実習が終わり、織斑とデュノアが更衣室に入り織斑が出て行った所を見計らって更衣室の扉を叩く。中から「誰ですか?」とデュノアの声が響く。

 

 

「着替え途中で悪いな、榊だ」

 

 

 俺がそう言うと、デュノアは「榊君か」と言った。

 

 

「何かな?今着替えてる所なんだけど」

 

 

 別に隠す必要も無いから、普通に言ってしまおうか

 

 

「なに……忠告だよ。『シャルロット・デュノア』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「忠告だよ。『シャルロット・デュノア』」

 

 

 ボクはその言葉を聞いてありえないと考えた。同時に焦りが、動揺が生まれるが何とか心を落ち着かせて扉越しに言う。

 

 

「榊君。ボクの名前はシャルル・デュノアだよ?」

 

 

 ボクの情報はフランスとデュノア社によって秘匿されている。その為、ボクの事がこの学園にいる者にばれる事など有り得ない。情報によると、ターゲットである榊君……榊澪は普通の一般人であると聞いている。

 

 

「ほう?声に若干の震えがある様だな」

 

 

 そんな馬鹿な!?

 

 

「そら……今度は驚いてロッカーに体をぶつけたか。動揺している証拠だな。ええ?」

 

 

 ま、不味い……は、早くここから出なければ!幸いもう着替えは済んでいる。まずはここを出よう。そうすれば何とかなる。そう考えながらボクは更衣室を出た。そして、その先には……左目が紫に妖しく光る破壊者が居たんだ。

 濃密な怒りと殺気を纏った破壊者が……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほう?あくまでも平常を維持すると言うか……だが無意味だな。

  

 

「まだ強がる様だな」

 

「強がるなんて……ボクは本当の事を言ったまでだよ」

 

「そうか……なら、その震えている右手は何だ?」

 

 

 澪のその言葉で、デュノアは己の右手を見る。しかし、その右手には震えはなかった。デュノアはもう一度澪を見る。澪は何故か無表情で、デュノアを見ていた。デュノアの全てを射抜くかの様に

 

 

「ほら、そうやって自ら墓穴を掘る」

 

 

 澪が言ったその言葉で理解した。嵌められた。その言葉の様に、自ら墓穴を掘ったのだ。そしてデュノアは理解してしまった。完全に己の目的が、正体が割れている。

 

 

「今度は強行手段か」

 

 

 澪の視界の先には、橙色のラファール・リヴァイブ……ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIの腕部とその兵装である、杭打ち機ことパイルバンカー《灰色の鱗殼》が写っていた。そして、灰色の鱗殼は澪の頭に突き付けられていた。それでも尚、澪は逃げようとも悲鳴を上げることはしなかった。

 普通ならその様な反応はしない。だからこそ違和感を感じるべきなのだが、この時のデュノアは慌ててそのような考えを出来なかった。

 

 

「ごめんね。これも命令なんだ」

 

 

 そして、澪に突き付けていた灰色の鱗殼を躊躇無くその頭に突いた。頭はその一撃で破裂し、壁や床が血と肉で染められた。




次回予告

誰が何であれ

俺に手を出す者は

破壊尽くす

その全てを


さあ……始めよう

次回=破=


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それは始まり

そして、始まりは

終わりの序章に変わる

それは破滅

その『破』である


「さて、予想外な事があったけど……これで終わった」

 

 そこまで考えたデュノアは待てと思考した。己は何か見落としているのではないかと、妙な違和感を感じてるのではないかと思った。

 そうまで考えたデュノアがもう一度今殺した澪を見た。頭部を灰色の鱗殼で破壊して、立ったまま何も動かぬ体────立ったまま!?

 

 デュノアは気付いた。何故死体が立っている。何故あの衝撃で体が吹き飛んで倒れていないのかと。更に、デュノアは壁に付着した血と肉が赤い粒子に変化していくのを見た。

 

 

「何が……何が起きてる!?」

 

 

 デュノアがそう呟いた時、動く筈のない澪がデュノアに近付いてきた。澪だった死体は右手でデュノアの首を締め上げる。デュノアは思う。何故死体が動く……? しかし、澪だった死体は喋らない。

 そのような事にあったデュノアの思考はもはや停止していた。死体が動くなんていう現象を見たから、しかも頭部が無い死体がだ。そんなデュノアをよそに、壁に付着した血と肉が一斉に粒子化した。その粒子は導かれる様に澪の首部に集まっていく。次第に粒子は人の頭部を模し、頭部の下の方から粒子が人間の肌にへと変貌していく。

 

 

 

「デュノア」

 

 

 首から戻り、口が戻る。そして口からそういう声が発せられた。次の瞬間、一気に粒子化していた部分が実体化した。それによって完全に澪の頭部が戻ったのである。

 

 

「どうだ?俺を殺した感想は」

 

 

 澪がそう言って閉じていた目を開ける。ほぼ零距離から睨み、更には怒気をデュノアにぶつける。デュノアは頭が無くなった死人が蘇る瞬間を、至近距離から見た事により混乱していた。それに加えて、怒りに怒った澪の怒気を当てられて体の震えが止まらなかった。

 

 

「お前達デュノア社が経営不振に陥って、このような行為に走った事も知っている」

 

 

 澪はそう言うと溜息をつく。そして「でも」と続けて言う。

 

 

「だがらと言って、別に気にすることでも無い。企業は企業、国は国でIS技術で争ってれば良かった。しかし、お前は……お前達はその争いに俺を巻き込んだ」

 

「ぼ、ボクは……会社の方から命令されただけで!」

 

「くどい」

 

 

 澪はそう叫び、デュノアの首を絞める手の力を少し強めた。それにより「ぐあっ……!」とデュノアが呻く。

 

 

「命令と言うだけで俺を殺したんだ。それに、どうせそんな言葉じゃ反論も反抗も何も抗う事をしなかったんだろう?」

 

 

 デュノアにとってそれはその通りだった。デュノアはただ流される様に会社の方からの命令通りに動いていただけで、抗うことを何一つしなかった。反論ぐらいなら出来ただろう……しかし、デュノアは何もしなかったのだ。

 

 

「お前の情報も知っている。デュノア社長の愛人の子だってな?そして、お前の母親が亡くなって一人田舎で暮らしていた事もな。

 だが、俺はお前に何も思わないし可哀想だとも感じない。だって────人殺しだもんな?」

 

 

 一応澪は状況によっては助けようとした……が、デュノアは助ける価値もないと判断した。何故か?それは助けを求めもせず、会社の手下となって澪をただ己の為に平然と殺すような事をした。それが決め手だった。これがもし、助けを求める様な行動をとっていたら……澪はデュノアを助けたかもしれない。しかし、所詮はIFだ。

 

 

「ぐ、うあぁぁぁぁーーーっ!」

 

 

 そんな時だ。デュノアが泣き叫びながら専用機『ラファール・リヴァイヴ・カスタムII』を纏って、澪を振り解いてからその機械の腕で吹き飛ばした。澪はそれによってアリーナの壁を壊しながら吹っ飛んで行く。

 普通の人間なら、ISの持つ強力な力で攻撃されたら肉塊になる。しかし、澪はISとの完全融合体。それ故に生身でもIS同様の防御力を持つのだ。

 

 

「何が、何が分かるっていうのさ!?

 キミに、キミなんかにぃぃーーっ!」

 

 

────主

 

 来たか。刀奈に連絡しろ『第二アリーナにてデュノアが正体を表し、俺に対して攻撃。及び、俺も反撃の為交戦し撃破する。殺しはしないが、刀奈が信頼出来る二・三年生による捕縛部隊を連れて来て』とな。

 

────了解です

 

 

 そう澪はノーネームに伝えると、追撃の為に接近中のデュノアに目を向けてから話す。

 

 

「別にお前の事なんかどうでもいい」

 

「アァァァァァーーーッ!」

 

 

 野生の獣の如く殴りかかって来るデュノアに対して、澪は空中でPICを発動して態勢を整える。そして、すかさずパワーアシストをIS体同様に設定してデュノアの攻撃を受け止める。

 

 

「お前が失ったのは一人だけ、俺が失ったものは……比べようにならない。住む所も、街も……『前』の俺という『存在』全てなんだよ」

 

 

 そう言うと澪は全力でデュノアを殴り付ける。その力は並のISを軽く凌駕し、デュノアを第二アリーナの戦闘エリアまで吹き飛ばす。澪はIS体である名前無き破壊者になる。しかし、非固定浮遊部位の大型スラスターは展開せず、脚部にあるスラスターを使ってホバークラフトを使っているかの如く地面を滑るように移動してく。

 アリーナの戦闘エリアに突入し、空中でこちらに向けて……対IS用強化弾が使用されている4門ガトリングガンを左右に持って構えているデュノアを捉える。幾ら名前無き破壊者だとしても、対IS用を想定した特殊弾が直撃したら大ダメージだ。

 

 

『瞬時加速!』

 

 

 デュノアが俺に向けて銃火器による攻撃を開始。その場から離れる為に瞬時加速をする。その後、俺がいた所に大量の銃撃が撃ち込まれ土煙が起きた。……少し掠ったか。一部装甲の貫通にヒビが入るか……だが、まだ攻撃は続いている。俺が移動した所に再度4門ガトリングガンによる銃撃が放たれ、俺はそれをジグザグに動く事によって躱す。

 

 

 

(超高速戦闘によるかく乱戦で仕留める!)

 

 

 

 澪はそう考えてから直ぐに『流星』に換装し、非固定浮遊部位の大型スラスター(流星ver)を展開する。しかし、デュノアが何時の間にか前方に滞空していた。次の瞬間にはこちらに向けて銃撃を開始し、圧倒的量の弾幕を展開する。

 それを澪は肩部の中型スラスターを瞬時に吹かし、横にスライドする様に動く事で難なくその銃撃を躱す。

 全身のスラスターを使い、縦横無尽に動き回る。通常のISでは動けない軌道でデュノアは対応出来ない。さらにはデュノア自身が使う4門ガトリングガンが長く、取り回しが遅い為更に対応が出来ずにいた。

 

 

『こいつを使うのは久し振りだ……アロー!』

 

 

 そう言って澪は、激しく撹乱しながら右手の掌底をデュノアに向けた。すると、真紅の粒子ビームが連続でデュノアに向けて放たれる。それに対するは実弾の弾幕……しかし、超光熱体である粒子ビームに実弾の弾幕に穴が開く。粒子ビームは一つ一つが直径1m近くは有り、それがガトリングガンの如く掌底から放たれて粒子ビーム弾幕となる。

 澪の粒子ビーム弾幕は確実に実弾弾幕を打ち消すが、それでもまだ足りない。左手の掌底からも粒子ビーム弾幕を放ち、その量でデュノアの実弾弾幕を全て打ち消す。

 

 

『オーバー・ブースト起動』

 

 

 オーバー・ブースト。それは流星の破壊者の全身のスラスターと非固定浮遊部位の大型スラスターを最大稼働させた状態の事を言う。これは既に何度かやっているが、今みたいに発音することによりオーバー・ブーストという只全身の推進機をフル稼働させるのと又違う機構が起動するのだ。オーバー・ブーストは思考認識により、常にその時の行動にあった速さ・推進機出力増大・減衰・維持を行える。その為、一々減速してから推進機による方向転換をする事なくそのままの速度を常時保てるという事だ。

 

 澪は機体各所に有るスラスター、非固定浮遊部位の大型スラスターを最大稼働状態で吹かした。次の瞬間、澪の姿はその場から消えた。

 一方のデュノアは焦っていた。情報には無かった形態変化に、ビームガトリング攻撃。追撃を掛けるように、超加速による超高速戦闘が始まったからだ。

 

 

 

「があっ!?」

 

 

 背後に強い衝撃が響く。既にガトリングガンの弾は切れ、今は六二口径連装ショットガン《レイン・オブ・サタディ》と五一口径アサルトライフル《レッドパレット》を展開している。しかし、偶に一瞬澪の反応を捉えるだけでハイパーセンサーは流星の破壊者のスピードについて来れていない。なので、武器は構えて攻撃する満々だが攻撃出来ない……そんな状況になっているのだ。デュノアにも近接武装があるが、一つは普通の近接ブレードでもう一つはパイルバンカー《灰色の鱗殼》。超至近距離でしかその効果を発揮出来ないため、今回の戦いには不向きだ。

 

 

 

「く……うっ!」

 

 

 背後に向けてレイン・オブ・サタディで攻撃するが、金属に触れるような音はしない。代わりに聞こえるのはジェット音に似た、金属音に似た音だった。ハイパーセンサーが必死に捉えようとするが、追ってはLOST表示。追ってはLOST表示の繰り返しである。

 

 

『どうした。俺を殺す気ではなかったのか?』

 

 

 開放回線で澪がそう言う。デュノアからは澪の姿は未だ捉えることは出来ていない。

 

 

『今この第二アリーナに生徒会長率いる二年・三年生による捕縛部隊が向かっている。お前は俺を殺した後直ぐに此処から逃走する予定だったようだが、結果はこのザマ……残念だったな』

 

 

 その声と共にデュノアの視線真正面に上から地面に向けて急降下し、デュノアに突撃してくる両腕に杭打ち機……Dインパクトを装備した流星の破壊者を捉えた。しかし、それも一瞬。捉えた次の瞬間には衝撃吸収性サード・グリッド製胸部装甲に、右腕部に展開したDインパクトが直撃する。1回ではなく、連続してだ。

 

 

「かっ……」

 

 

 その攻撃によって吹き飛んで行くデュノアをオーバー・ブースト状態で瞬時加速を使って追い越し、デュノアの背中に向けて左右のDインパクトを同時に放つ。

 

 

 

「ごっ!?」

 

 

 デュノアは今の一撃でアリーナーのシールドバリアー展開場所に吹き飛び、そのあまりの衝撃にシールドバリアーにヒビが入り、デュノアはズルズルと地面に落ちた。

 

 

 

『終わったか。存外、呆気ないものだな』

 

 

 デュノアの目の前にふわりとオーバー・ブーストを停止させた流星の破壊者が舞い降りる。デュノアは機体の状況をシステムで確認させ、視覚内に表示させた。

 

 

 ラファール・リヴァイヴ・カスタムII状況

・機体中破

・ダメージレベルC+

・SE残量10%

・機体全体のPICに不具合発生

・非固定浮遊部位大破

 

 

 デュノアはその情報に絶句した。機体のダメージレベルや非固定浮遊部位大破もそうだが、機体全体のPICに不具合が出というのはISのほぼ全ての行動に影響が出るのだ。目の前の破壊者を殺し、更にこの学園からすぐ逃走しなければならないのに……最早助かる余地は無い。

 奥の手を使うべきか……デュノアはそう考えた。

 

 

『デュノア。お前が奥の手としてIS学園のハイパーセンサーの索敵距離外に、何処かのテロリストか女権団の奴らを待機させてるだろう?』

 

 

 何故それを……! そうデュノアは思う。

 

 

『単純に名前無き破壊者の索敵で見つけた。一昨日からいたみたいだが、昨日の夜に捕縛した。今はIS学園の捕虜・テロリスト用監禁部屋に閉じ込めてる。まさかISまで持ってるとは思わなかったな』

 

 

 デュノアは個人間秘匿通信でIS学園のハイパーセンサー索敵範囲外に待機させている強襲部隊に属し、IS搭乗で待機している筈である女に話し掛ける。しかし、個人間秘匿通信に反応は無かった。

 

 

 

『まさか奴らがお前と関連していたとはな。 さて……』

 

 

 澪はそう言うのと同時にアローをデュノアの頭に向けて撃ち、デュノアは虚をついての攻撃だった為に避けれず直撃して数十m程吹き飛ばされた。これで終わり……そう思い名前無き破壊者に戻した時だ。突然カスタムIIから光が溢れて、SEが完全に回復した。

 




次回予告

俺は破壊者

故に破壊する

しかし

時には守るべき者のために

驚異を破壊しよう

それは一つの滅亡でもある


次回=滅=


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破から始まった事象

次に訪れるのは滅

狂気堕ちる者

全て破壊する

破壊者それを滅せん


『っ、エネルギーパックを収納していたのか』

 

 

 デュノアは名前無き破壊者に向けて突貫。そして、その両手には公にされていないが、デュノア社で現在開発中の試作型高濃度荷電粒子圧縮砲が握られていた。

 

 

「お前も、この学園も、ボクの邪魔をする者は纏めて消えてしまえ……!」

 

 

 澪は絶句した。デュノアが構える試作型高濃度荷電粒子圧縮砲からは、胸部展開圧縮荷電粒子砲《名前無き破壊者》の十分の二の威力を出せる程のエネルギーが検出されていた。無論、澪の方が高い威力を持つ攻撃が出来る。しかし、最早発射準備が完了して臨界点を超えたデュノアの武器に今攻撃して破壊したら、溜めたエネルギーが暴走してこの学園ごと消し飛ばされかねない。

 

 

 ノーネーム。真紅の光壁を展開し、機体のほぼ全てのエネルギーを真紅の光壁に集中し「榊君!」……来たか!

 

 

「お待たせ!」

 

『かt……会長!』

 

 

 澪は刀奈と刀奈が選んだ精鋭部隊兼捕縛部隊の到着に、驚きの声を上げた。

 

 

「他の人達はシールドを展開して、榊君の背後で待機して!」

 

 

 刀奈の命令で、捕縛部隊の人達と刀奈が俺の背後に着地してシールドやバリアフィールドを展開して構える。その中にはギリシャ代表候補生であり専用機『コールド・ブラット』のパイロットであるフォルテ・サファイヤ、アメリカ代表候補生であり専用機『ヘル・ハウンドVer.2.8』のパイロットであるダリル・ケイシーの『イージス』コンビやイギリス代表候補生であるサラ・ウェルキンの姿もある。

 

 

『おう一年坊主、頼むぜ!』

 

『頼むっスよ!』

 

『なんとか耐えて!』

 

 

 

 先輩方のエールを受け、俺は己の気が高まっていくのを感じる。先輩方にここまで言われたんだ……やるしかねえだろ!

 

 澪がそう考えていると、デュノアから攻撃が放たれた。光の激流は真っ直ぐ澪に向けて迫り来る。

 瞬間、真紅の光壁に直撃。真紅の稲妻と青白い稲妻が光の激流と真紅の光壁の間で起きた。相対する二つの超高エネルギーが互いに打ち消しあっているのだ。

 名前無き破壊者は戦闘モードではなくてもその能力値は他の機体を抜いている。しかし、いくら名前無き破壊者と同等の威力を持つ兵器を持ったとしても、それでも弱めの威力程しかない。

 

 機体のほぼ全てのエネルギーを真紅の光壁に回して、通常時よりもその鉄壁の守備力は上がっているのだ。

 

 

『押し通る!』

 

 

 バシュウという音と共に、デュノアが放つ光の激流が真紅の光壁に当たり瞬時に消え去る。澪はその足を1歩ずつ前に進める。

 

 しかし、この真紅の光壁は絶対では無い。もともと通常光学兵器(レーザー・ビーム)や実弾兵器に対して有効なこの真紅の光壁は、欠点が一つだけあるのだ。それは光学兵器の長時間照射に対して弱いのだ。真紅の光壁は展開部の中心部から外側に向かって、名前無き破壊者の無限機関からSEが生産されるのと同時に生産される高濃度圧縮粒子が放たれるのだ。この高濃度圧縮粒子はエネルギー体……ビームやレーザー等を消滅させる能力を持っていた。単発のビームやレーザー、更には実弾はこの高濃度圧縮粒子が接触した瞬間に消滅させる能力により、名前無き破壊者には届く事はないのだ。しかし、この高濃度圧縮粒子の消滅する際に、その粒子が大量消費されるという欠点がある。

 真紅の光壁は多くの粒子が何層にも重なって出来ている。真紅の光壁は攻撃を受けると、粒子の層が一時的に薄くなる所が生まれる。薄くなった所に後からまた粒子が付け加えられ層が元に戻る。その性質故に光学兵器の長時間照射には耐えられないという欠点があったのだ。

 

 それ故に、徐々に真紅の光壁を突き破って攻撃が名前無き破壊者に当たる。遂に装甲が溶け、部品が弾け、壊れてはスパークが走る。視界には危険を表す表示が出ているが、澪は進む。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『負けない』

 

 

 俺は頭の中でIS学園に来てからのことを思い出す。毎日襲撃に会う中での、友と呼べる者ができたことを。大切な相棒を。

 

 想像する。己が避けたら起こる悲劇を

 

 

『中途半端な奴に……』

 

 

 澪の怒りが膨れ上がり、それと共に真紅の光壁の出力が急激に上昇。破れかけていた真紅の光壁の穴が、塞がっていく。

 

 

『二度と……大切な者を奪わせない!』

 

「そ、そんな馬鹿な事が……!?」

 

 

 その雄叫びの直後、更に出力が上がった真紅の光壁がその領域を広げる。赤い光の壁がデュノアの試作型高濃度圧縮荷電粒子砲に直撃し、ほぼ全エネルギーを使い切った荷電粒子砲が砕ける。しかしまだ残っていたエネルギーが粒子砲が壊れた事により暴走して小規模な爆発と共に砕けた。爆発に巻き込まれたデュノアはダメージを喰らうが、それでもまだ澪に対して攻撃を仕掛ける。その手には灰色の鱗殼が展開されていた。

 

 

「それでも……まだボクは……」

 

 

 デュノアが接近して来た。機体がボロボロなだけあって、一撃で減るSEの量が多い。先程の爆発でカスタムIIのSEはもはや底をつこうとしている。……背中の非固定浮遊部位のスラスターに高エネルギー反応か、瞬時加速と灰色の鱗殼による特攻か。

 

 

「イヤァァァァァーーーッ!」

 

 

 破れかぶれの攻撃が一番避けやすい事を知らないのか?澪はそう考えながら目の前に現れた灰色の鱗殼の矛先を回避し、頭の上を通り過ぎようとしたカスタムIIの脚部を掴む。ダメージで機体が悲鳴を上げるが、澪はそれ押し通す。

 

 

『クラッシュ!』

 

 

 名前無き破壊者は引き摺られたが、澪はその叫びと共にデュノアを地面に叩き付けた。それにより非固定浮遊部位が損壊、機体ダメージレベルがCを超えた。

 

 

「が……あぁぁ」

 

 

 機体の様々な場所からスパークが発しているが、それでもまだ諦めていないデュノア。機体ダメージレベルはDって所で、SE残量は絶対防御が発動すれば強制的に機体格納されるだろう。澪はそう思ったその時、デュノアのカスタムIIが格納された。

 

 

 デュノアが倒れた瞬間、ダリル先輩の叫び声と共に捕縛部隊がデュノアを捕獲した。その身柄はメディカルチェックを受けさせられ、ある程度の治療がされた後学園内の監禁部屋に移動された。尚、その際にデュノアの専用機『ラファール・リヴァイヴ・カスタムII』の待機状態であるネックレスは刀奈が預かった。もしかしたら待機状態であるネックレスに何か細工がないか、通信ログを閲覧して情報を得るなどの事をするためらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園より下記の組織に伝達

 

・フランスとその政府及び、女権団とIS委員会フランス支部の者・関係者に対してIS学園敷地内に入る事を一切禁ずる。

(既に在籍しているフランス国籍の者に対しては除外)

 

・フランスとその政府及び、女権団とIS委員会フランス支部とデュノア社にアリーナの損壊による修理費を要求する。

 

・上の事に一つでも従わない場合、捕縛された者達のフランスに対しての帰還は認められない。

 

────IS学園より

 

 

 あれから数日、IS学園から放たれたメッセージはあっという間に世界に知れ渡った。フランスとデュノア社、IS委員会とそのフランス支部の行動に世界が怒り、世界から非難された。それによってIS委員会とフランスの関係は絶縁し、その際にフランスからISコアが全て没収。横暴だとフランス側が言うが、IS委員会は何も言わないと言う。デュノア社も今回の騒動で倒産が確定し、その社長と夫人には汚職や賄賂……等の違法行為が発覚し逮捕となった。IS学園でも、緊急の全校集会が行われて生徒会長更識楯無から今回の件に関する事全て説明された。それと同時に、専用機持ちに新たな規約書類が渡されるなどIS学園でも慌ただしい状況が暫く続くようだ。

 

 

 

「……まあ、俺には関係ないようなものだが」

 

「誰に言ってるのかは分かんないけど、ちょっとそこの書類とって」

 

「お嬢様それぐらいは御自分で行って下さい。榊君は気にせず御自分の書類を片付けてくれればいいです」

 

「虚さん。本音が寝てますけど」

 

「本音?貴方ナニシテルノ?」

 

「アイェェ!?オネェチャン!?オネェチャンナンデ!?」

 

「ORS症状か……重症だな」

 

「榊君、それなんなの?」

 

「オネーチャン・リアルティ・ショック」

 

「成程」

 

「お嬢様!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 

 デュノア襲撃事件と呼ばれるあの日の事件。専用機持ちには生徒会・学園上層部(学園長夫妻)との契約書類を書かされる事となった。俺は生身でもISの機能が常時発動している。これは刀奈や一部の信頼できる先生や学園長夫妻には言っている。その為パワーアシストコントロールを心掛ける様にとの契約書を書かされたが、既に出来ているので問題は無い。

 俺は現在生徒会室にて、生徒会が担当する書類を片付けていた。最近は少なかった生徒会宛の書類だが、デュノア襲撃事件以来山の様に生徒会宛の書類が送られてくる。そのため、生徒会の役員である刀奈を除いた俺達は公欠扱いで授業時間でも生徒会室にて作業を続けている。

 

 

 

「虚さん。担当書類全て終わりました」

 

 

 とりあえず担当書類が終わった。隣で刀奈がブーブー言ってるが無視だ。これぐらいは自分でやらさないとな。

 

 澪はそう考えながらも、生徒会室に新たに設置された監視用モニターを見る。モニターには独房部屋で全身を拘束具で拘束されているデュノアの姿が見られた。

 

 

「デュノアちゃん見ていたの?」

 

「ああ……それと、勘違いするなよ刀奈。俺はデュノアには罪悪感やら悲壮感とかやらの感情は一切ない」

 

 

 何よりも、俺は奴に一度殺されたんだ。別に殺されても大丈夫だったのは分かっていた。それと、俺を利用しようとして更にはこの学園ごと消し飛ばそうとしたんだ。そんな奴に可哀想などと言う事を思い浮かべはしない。

 

 

「学園長との会議で、デュノアと捕獲した奴等の受け渡しの件は決まったのか?」

 

「虚ちゃん」

 

 

 刀奈がそう言うと、虚さんが一枚のブリントを俺に渡してきた。そのプリントには『シャルロット・デュノア及び捕縛者取引場所ご案内』と書かれてあった。

 

 

「そこに書かれてるけど、デュノアちゃんと捕縛者の取引場所が決まったわ」

 

「ほう?……だが、もうどうでもいい事だ。今は『タッグトーナメント』の事についての書類を作成しなければな」

 

「だよねぇ……」

 

 

 タッグトーナメント。2対2で戦うトーナメント……まあ、普通に分かるだろう。このタッグトーナメントだが、現在問題が起きている。

 

 

「この間の事件のせいで、今はやるべきでは無いっていう声があがってるのよね」

 

「専用機は勿論、一般生徒にとっては重要なイベントではあるからな」

 

 

 タッグトーナメントの日はアリーナに一般人から世界各国の重鎮といった人々が来るのだ。さらに企業も来るために、一般人や専用機持ちは企業に対してのアピールにもなるのだ。

 

 

「俺としては、1年生と3年生は行った方がいいと思う。

 1年生は優勝した奴と己がどれ程の実力の差があるか、それを知る為。

 3年生は企業や世界各国の重鎮達に、己がどれ程の力を持っているかをアピールし、就職やスカウト云々の事が果たせる為だ。

 2年生……刀奈には悪いが、3年生と2年生が現時点でどれ程の差が出ているかを見てもらう為だ」

 

 

「……ふぅん。そうね。確かにその通りね」

 

 

 刀奈はそう言うと、今言った内容を何時の間にかメモしていた紙を眺める。

 

 

「この件は私と……虚ちゃんに任せて。虚ちゃん、いい?」

 

「はい。お嬢様」

 

「という訳で、榊君はもうこれ以上はここに居なくていいから。あとは私と虚ちゃんだけで充分終わる量だからね」

 

「それでは榊君お疲れ様でした。授業の方に専念して下さいね?」

 

 

 そうして俺とのほほんさんは生徒会室を後にし、教室に向かって歩いて行った。あー……アイツの授業じゃないか今




次回予告

あれから数日

俺の中では平和な日を過ごしていた


次回=破壊者の平和な日?=


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破壊者の平和な日常?

この話までの主人公(&コア人格)の変化

・襲撃者に対して怒る事が減った
・いや、寧ろ萎えてる
・敵意の視線が若干減った
・降伏するか確認
・ノーネームのポンコツ(?)化


 デュノア襲撃事件からさらに日が経った。最近あの時俺が行った行動により、この学園が救われていた事に驚きの声が上がっているのだ。この間行われた緊急の全校集会で、刀奈がデュノアが行った行動と最後に使用した武器についての説明をした。

 

 俺は……名前無き破壊者の能力やスペックは既に学園内の人間なら全員知っている事だ。俺はあの後デュノアが使用していた武器が、試合モードとはいえ最強を誇る武装の二割程の威力を持つ事を報告した。刀奈は俺がクラス代表決定戦にて放った最強武装の攻撃が一割程だと知らせていたので、酷く恐怖していた事を覚えている。

 

 話が逸れるが、ISには基本的に防御系の武装……シールドが少ない。IS特有の優れた防御機能に任せているからだろうと俺は思う。しかし、鈴の衝撃砲みたいな搭乗者に直接衝撃を与えるような武装が今は生まれている。それこそAIS弾なんていう対IS用武器なんて物ある。それでも多くの者がシールドを持たないのが、IS絶対神話なんという事を信じているからだ。ISは通常兵器では太刀打ち出来ない……それを信じているのだ。だからその基本的戦法も『避ける』『接近戦』『射撃戦』『その身で防御』しかないのだ。だからこそ、シールドを展開している者は危機感が有ると思っている。どんな兵器であれ、どんな機体であれ、無敵なんてものは無い。俺も例外無く無敵じゃない。だからこそ、デュノア襲撃事件の際に捕獲部隊がシールドを展開していたのに対して俺は感動を覚えた。……俺の場合はシールドと言うより、バリアフィールドだな

 

 話を戻すが、緊急の全校集会では別に隠すことも無いので刀奈は俺が報告した事も集会にて知らせた。特に俺のクラスの奴らはひどくそれに怯えていた。なんせ一割でアリーナの戦闘エリアを焦土……もとい戦場と言える程に変えたのだ。今回放ったのがそれよりも強い。それを知った何人かの生徒はもしかしたら己が死んでいたという事を自覚し、その場で震え上がっていたものも少なくなかった。なんせ試合モードとはいえ一割以上の攻撃が使用不可で、一割であの威力だったんだ……二割なんて言ったら恐ろしいもんだ。

 

 それでだ。そんな危機から俺がこの学園を救ったことになって、以前より敵意の視線が最近減ったのだ。しかし……

 

 

『お前達、本当にしつこいな』

 

「五月蝿いわね。だったらさっさとやられなさいよ!」

 

 

 女性主義共の襲撃が絶えん。いや、むしろ増した。

 

 

『だからって、訓練機をそんなに持ち出して……俺は知らんぞ』

 

 

 コイツら……この後出る多くの書類の処理は生徒会の仕事になるんだぞ。分かってるのか……?

 

 

────ラファールが5機に、打鉄が3機です

 

 

 コイツら本当に毎度毎度どうやって訓練機を持って来てるんだ!?書類処理大変なんだぞ……

 

 

────まだ、協力者が居る……そんな所でしょう

    それについ先日行った機体のアップデートの確認を行いましょう。装甲が強化されていた筈なので、是非

 

 

 装甲は前回からどのぐらい強度が上がったんた?

 

 

────前回対IS武器に攻撃を受け数発かすったり直撃して、装甲に大きなヒビが入るか貫通しそうになっていました。その為、今回は例え対IS用武器の直撃を喰らっても装甲に傷が付くか、少しのヒビが入るぐらいの強度まで上がりました。

 そして、表面装甲の下に更に装甲を仕込む事で貫通力の高い武器に対する耐性を高めました。表面装甲は爆裂パージが可能となり、拘束された場合は爆裂パージで脱出可能となります。爆裂パージしたとしても見た目はそう変化はしません。

 今回のアップデートは、防御を主にしていますが姿も前回同様少し変化したのでご了承下さい。

 

 

 ああ……長い説明ありがとう。 そう俺がノーネームに向けて口には出さずに頭の中で言った時、突然目の前が真っ白に光って爆音と衝撃が襲った。

 

 

「アッハハハ!なによ、普通に直撃してるじゃない」

 

 

 どうやらノーネームの説明を受けている間に攻撃されたらしい。今の攻撃は……ロケットランチャーか?そう思ってたらまた爆音と衝撃が起きた。

 

 

「一斉攻撃開始!」

 

 

 その言葉の後に俺に対する罵倒が何回か聞こえた。最早定番なので最近は無視するようになってきた。一斉攻撃と言ったように何回も爆音と衝撃が襲いかかるが、問題無い。視認認証で機体装甲値を確認すると、圧倒的無傷(ダメージは通る)。前の状態でもこれぐらいならある程度装甲を削られていたはず……凄いな

 

 

────それも当然です。今の装甲は対IS用武器の攻撃を想定してますので、普通のIS仕様武器程度にもはや装甲を削られる事はありません。

 

 

 それはそうなんだがノーネーム

 

 

────なんでしょうか?

 

 

 さっきから思ってたんだが、シールドバリアー展開してないだろ。シールドバリアーが展開されてたらこんなもう少し衝撃が小さいのだが

 

 

────……

 

 

 俺の言葉にノーネームが黙り、その数秒後に視界にワイプが出現してシールドバリアー展開と表示されていた。

 

 

────ずびまぜん

 

 

 泣く!?ちょい待てノーネーム!今のどこに泣く要素があった!?待て待て待ってくれ!ノーネームに泣かれたら、凄い落ち込むぞ

 

 

 その様な事をしているとは知らずに、反撃をしないでただただ攻撃を受け続けている澪に対して女性主義の生徒達は騒いでいた。今までこのような事が無かったのだ……攻撃を受け続けるということが。

 弾薬が尽きたのか女性主義の生徒達は攻撃を止め、己の武器を収納した。澪が居た場所に漂う爆炎と煙を見続けながら、女性主義の生徒達は言う。

 

 

「IS反応確認……まだ生きてるの?」

 

「反撃がないって事は、気絶してるか怪我して反撃できないんでしょ」

 

「それでも、私達はやったのよ!」

 

「ええ。ついに憎きあの男に……」

 

 

 各々に澪を倒したと思っているのか、その様な事を言う。喜びを噛みしめている女性主義の生徒達……次の瞬間だ。一人のラファールに向けて爆炎と煙が交じるその中から何かが飛び出した。赤黒めいた尖った物が一人のラファールの非固定浮遊部位のスラスターを貫通、そして爆発四散。近くの仲間がそのラファールを纏った生徒を支える。何事か……打鉄を纏うリーダーの生徒がそう考えた次の瞬間

 

 

 

『はあ……怒る気にもない』

 

 

 その言葉が聞こえた後、爆炎と煙を押し広げて名前無き破壊者が飛び出した。その姿は無傷

 

 

「な、なんでよ!?なんであの攻撃で無傷なのよ!?」

 

『あー……開口一番いきなり五月蝿い』

 

 

 飛び出した名前無き破壊者はラファールに、反逆する血の牙達を差し向けた。一般生徒程度ならわざわざ自ら動かなくても、反逆する血の牙達だけで充分。実際ラファールを纏った女性主義の生徒達は高速で動き回る無数の敵に翻弄され、無茶苦茶に銃撃を行って同士討ちが起こっていた。

 

 

『この手に限る』

 

「無視するなぁぁーーっ!」

 

 

 残った打鉄3機が接近してくる。澪にとっては多数対1が多く、それ故に集団戦は慣れていた。しかも、澪はロシアIS国家代表である刀奈から訓練を受け、さらに自分で復習をし、技術を磨き上げているのだ。それ故にこの程度驚異にもならなかった。

 

 

『悪魔の指』

 

 

 澪は悪魔の指で牽制、怯んだ打鉄の1機に瞬時加速で近づいて復讐者の剣を展開して真一文字斬りを放つ。シールドバリアーに守られてるとはいえ衝撃をカットする事は出来ずアリーナのシールドバリアーに吹き飛ぶ。余程の威力だったのかそれで気絶……残りは2機

 

 

「なんなのよ……なんのよぉぉぉ!」

 

『見飽きたぞ。その反応は』

 

 

 リーダーの生徒に向かってそう話す。それにイラついたのか真っ直ぐ打鉄の近接ブレード『葵』を構えて、リーダーの生徒が澪に向けてやって来る。

 

 

『無茶苦茶に振るっても当たらん』

 

「だ、だま……っ、れ!」

 

 リーダーの生徒が葵を振るうが、大振りの為全く当たらない。もう1機の打鉄は焔を放ってくるがシールドバリアーと強力な装甲の前に阻まれ、大してダメージを与えられない。そして、リーダーの生徒が葵を振るった瞬間に葵を殴り飛ばし、がら空きになった胴体……鳩尾を撃ち抜くように殴り、その衝撃波はシールドバリアーを通し絶対防御を更に抜いた。余程の衝撃で、リーダーの生徒は白目を向いて気絶、そして地面に落下。その様子を見ていた残りの打鉄を纏う生徒に顔を向ける。

 

 

「こ、降伏します」

 

『懸命な判断だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……という訳で、書類が増えたぞ』

 

「な、なんでよぉぉぉーーーーっ!?」

 

 

 この日、生徒会長の悲鳴が学園に木霊した。



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結託



それは己自身

力とは使う事

しかし

それは制御出来なければ

己を殺す


 デュノア襲撃事件から更に日が経ち、俺達生徒会や上層部の話し合いによってやっとタッグトーナメントの企画が決まった。結果は俺の出した案がそのまま決定となり、1年生と3年生だけが行う形となった。勿論だがやはり2年生の中にはこのことについて不満だと発言していた生徒が居た。

 

 案を出した俺がその生徒達……上級生だから先輩方と話し合いもとい説明の場を提供した。話を聞いた所、やはり『2年生だからといって省くのは良くない』『私達も企業の方にアピールしたい』ということが出た。本心は2年生もやらしたいのだが、スケジュールと様々な意見が出た中での一番良い案がこれだったんだ。本心からだがこれについては本当に申し訳ないと思っている。企業等にアピールしたいという希望者にはタッグトーナメント前に、試合を行う事にした。この試合を撮って、それをタッグトーナメント当日に来る企業等に送るという事になった。この事を知らすと不満者達は納得してくれた様だ。

 

 それと、あのデュノア襲撃事件の後から織斑の様子が変だったので刀奈に相談してみた。いくら敵対しているからと言っても、普段は別に嫌っている訳ではない。一応敵対してる形であっても、ちょくちょく話し掛けてきたりする。俺が奴を嫌うのはあのたまに出る変な思考が、この上なく一番嫌いなのだ……っと、話が逸れたな。刀奈曰く織斑は少し人間不信に落ちかけているとの事だ。織斑の奴3人目の男子という事もあって仲良くなろうとしてた……が、その相手があんな事をしたからな。

 

 この学園にはカウンセラーの先生も居て、後日織斑にはカウンセラーを受けてもらう事になった。この件が決まった直後、鈴が織斑の様子が変だということを相談してきた。それについてはもう分かってるので、鈴に全てを話した。鈴はこの話を聞いた後に「私になにか出来ない?」と言って来たから、とりあえず一定の距離を置きつつ普段通りに接してやれと言った。そんな事があったが、今は毎日を平和にいつも通りに過ごしている。

 

 

「……ふう」

 

 

 俺が今居るのは第一アリーナ。時刻は四時を回っていて、今日はODA『双腕』こと『双腕の破壊者』を纏っての訓練だ。俺はまだこの双腕をあまり使いこなせていない。なにせこの双腕は今あるODAシリーズの中で最大の大きさとパワーを誇るからだ。『双腕』のパワーは他シリーズと圧倒的までの差をつける程だ。ただでさえ出力が高い『名前無き破壊者』よりもう数段上……下手したら死人が出かねない。その為、学園上層部からは使いこなせる迄人に対しては使用不可となっていた。その為、こうして放課後を使って双腕に慣れるための訓練を行なっているのだ。

 

 

────どうですか主?

 

「俺としてはまだ駄目だ。これでは死人が出る。」

 

 

 そう言うと俺は辺りを見渡す。そこには穴・穴・穴だらけで、あとは爆炎やら煙やらが上がっている。一応出力調整やらも行っているが、如何せん出力が高いのか未だにこの始末である。

 

 

────主。ハイパーセンサーにIS反応を確認

 

 

 む?またあいつらか……

 

 

────いえ、これは……シュヴァルツェア・レーゲンです。

 

 

 ノーネームがそう言うと、アリーナのピット出撃口からシュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラ・ボーデヴィッヒが現れた。

 

 

「貴様は……?」

 

 

 ボーデヴィッヒは俺を見ると両腕から光る剣を展開した。あっ、この姿だからか。

 

 澪はそう思うと名前無き破壊者に姿を戻した。そうするとボーデヴィッヒは光る剣……プラズマ手刀を収納し、構えを解いてすぐ近くまでやって来た。

 

 

『済まない。驚いたか?』

 

「謝る程ではない……が、今のはなんだ?本国にあったデータには無かった姿だが」

 

『一応この学園内だけでの情報だが、コイツはODAと呼ばれる名前無き破壊者が作り上げた専用アーマーだ。ざっくり言うとパッケージ』

 

 

 それを言うとボーデヴィッヒは驚いていた。普通の機体はODAの様なパッケージの自動作成や、その場で瞬間的換装なんか出来るはずが無い。それを一人で、不可能と呼ばれた瞬間的換装をものの見事に行ってるからな。

 

 

『ボーデヴィッヒ。一応今の情報は学園外では話さない様にしてくれ。これがバレるとまためんどくさい事になる』

 

「了解だ。しかし、またと言ったが前にもあったのか?」

 

 

 あー……これは名前無き破壊者の情報漏えいの事だ。あの件は大変だったが、学園内に潜む害虫を駆除する元となったから俺としては複雑だな。

 

 

『今世界に知れ渡っている名前無き破壊者の、ボーデヴィッヒも見た情報の事についてだ。それは今は居ないがこの学園に居た女権団やIS委員会のスパイやらその手下が、勝手に外部に漏らした情報なんだ』

 

「っ……なんと」

 

『今はスパイや手下は俺が所属する生徒会や、学園の上層部の働きで駆除したから情報漏えい対策は出来ているからな。あれ以外は名前無き破壊者に関する情報は、学園内で留まっているんだ。情報漏えいした時は、あらゆる国や企業からの電話が殺到して対処が大変だった』

 

「お、お前も大変だな」

 

 

 こら、肩に手を置くんじゃあない。哀れみの目で見るな。

 

 

『そう言えば』

 

「なんだ?」

 

『ボーデヴィッヒはタッグトーナメントの申し込みはしたのか?』

 

 

 忘れていたが、タッグトーナメントは二人一組で組む。そしてその組はタッグトーナメント参加用紙に自分と相手の名前を記入し、担任か生徒会室前に置かれてある受付ボックスに入れるか渡せば申し込みは完了である。しかし、申し込みは期限がある為期限外だと当日にくじ引きの抽選でチームが組まれるのだ。

 

 

「まだだ」

 

『……生徒会役員としては、早めに出してくれ。そうしなければ後が大変だ。』

 

「まあまて、私がここに来たのはそれに関する事だ」

 

 

 そうボーデヴィッヒが言うと、何処からともなくタッグトーナメント参加用紙を出した。多分拡張領域に入れて今出したのだろう。突っ込んでは駄目だ。ボーデヴィッヒはふんすっ!と言わんばかりの顔なのだ。守ろうこの笑顔

 

 

「私と組んでくれないか」

 

『俺か?』

 

 

 自分で思うのも何だが、俺のヘイト値は凄く高い。俺とつるむとなると下手したら何かしらのトラブルに巻き込まれる可能性だって有り得るのだ。

 

 

『しかし、どうして俺なんかと?』

 

 

 ボーデヴィッヒはそんな可能性もあり得るのに、なぜ俺と組もうとするんだ?

 

 

「簡単な事だ、それは『勝つ為』だ」

 

『勝つ為……だと?』

 

「そもそもだが、私が軍属であることは知っているな?」

 

 

 それは……そうだな。自己紹介後のやり取りで分かったからな。

 

 

「私は、自分が所属する部隊の隊長を務めている。しかも、ISを使ってのな。軍事目的で使用不可のISによる部隊の隊長となると、相当グレーな立場にいる訳だが……話がそれたな。

 私は部隊の部下達からIS学園に居る時ぐらい楽しんで来いと言われてな、私はそのつもりでいる。しかし、だからと言って怠けるつもりなんてない。寧ろ、このタッグトーナメントで頂点を目指してその結果を私の部下達に持ち帰るつもりだ。その為に……是非頼む!」

 

『長い!ざっくり言え!』

 

「部隊の皆の為に勝ちたいのだ」

 

 

 つまりなんとしても勝ちたいので、俺と組んでくれという訳か。

 

 

『別にいいぞ。俺と組んでくれる奴なんていなかったから丁度良かった』

 

 

────主

 

 分かっている

 

 

『ボーデヴィッヒ』

 

「ああ……散開!」

 

 

 その一声と共にその場を離れる俺達。その直後俺達がいた所で爆発が起きた。

 

 

「愚か者が!」

 

 

 ピット出撃口前から開放回線を使い、こちらに向けて叫ぶ声が聞こえた。そこには打鉄を纏った二人組がこちらに向けIS対応ロケットランチャーを構えていた。俺はいつも通りの手段で解決しようとした。だが、俺が行動を起こす前にボーデヴィッヒが瞬時加速で打鉄2機が居るピット出撃口前に瞬時加速で移動し、ワイヤーブレードで2機を拘束した。……取り敢えず反逆する血の牙達をボーデヴィッヒの護衛をさせるか。

 

 

「貴様ら……警告無視の攻撃とはいい度胸だな?」 

 

 

 使用許諾は……出ているのか。模擬戦として俺に襲撃しようとしたのか、これなら別に違反している訳では無いとあいつらは言えるだろう。

 

 

『ボーデヴィッヒ。それ以上言っても多分無駄だ、コイツらは俺に襲撃するのであるなら、誰かを巻き込んでも全然構わん奴等だ』

 

「ほう?なら私はコイツらに攻撃対象と見られた訳か?なら……!」

 

 

 ボーデヴィッヒはそう言って、ワイヤーブレードを打鉄2機を拘束したまま掴む。そのまま澪に「お前も持て!」と叫び、澪もボーデヴィッヒのワイヤーブレードを掴む。

 

 

「このまま……ジャイアントスイングをやろうではないか!」

 

『ボーデヴィッヒ。その発想はなかった』

 

 

 

────────────────────────────

 

 

「……よし。これでOKだ」

 

「うむ。これからよろしく頼むぞ榊」

 

 

 ジャイアントスイングで打鉄2機のSEを削り切った俺達は、生徒会に来ている。俺の手には俺とボーデヴィッヒのタッグトーナメント参加用紙がある。

 

 

「うん。これで榊君も決まったわね……おねーさんの心配事が消えたわ」

 

「おねーさん?お前と生徒会長は血縁関係なのか?」

 

「違う」

 

 

 これでボーデヴィッヒと組んだ訳だが、今思うとこの組み合わせは多分一年の部では最高戦力だと思う。ボーデヴィッヒの動きを見ていたが、動きに無駄が無く隙もない。そしてその戦闘技術は間違い無く一年の中ではトップ。俺も既に並の代表候補生にはもう遅れをとることはない。そして刀奈はボーデヴィッヒに余計な事を言わんでくれ

 

 

「では、俺達はこれで失礼します」

 

「では」

 

「うん。二人の活躍を期待するわ……頑張るのよ」

 

 

 生徒会室を出る前に言われたその言葉に、俺は再度意識する。俺は名前無き破壊者がある為、まだ学園外から出だしはされない。しかし、それでも未だに俺には後ろ盾が無い一般人で、本来ならとっくに追い出されている筈だ。俺には守ってくれる者と言うのは無い。真の意味でISを持っているだけの、何も無い只の一般人なのだ。

 

 何れは俺の正体もバレるかもしれない。ISと人間の完全融合体────新たな生物という事が。そうなった場合俺はここを出ていくつもりだ。しかし、そうなるのはまだ先だ。今は少しでも良い結果を出して学園から追い出されない様にしなければならない。その為に……

 

 

 

「ボーデヴィッヒ」

 

「なんだ?」

 

「やるからには勝つぞ」

 

 

 ボーデヴィッヒは俺の言葉を聞いて「無論だ」と言う。

 

 俺は……やるしかないんだ。




次回予告

研いだその連携

高まるその闘志

解き放て

次回=タッグトーナメント当日=


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タッグトーナメント当日

悪意が動く

それは全ての始まり

密かに動き出す

世界の終焉

破壊者の意味

運命の針は動き出す


 あれからと言うと、俺とボーデヴィッヒはお互いの能力を理解すべく一緒に訓練を行った。俺はボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンをノーネーム達によってスキャンし、武装の情報を得ていたからある程度の戦法は予測していた。 

 軽めの模擬戦を行って互いの武器や機体の特徴を把握、そこから互いの性能を活かせる戦法をいくつか作った。流石現軍人であるだけはある。模擬戦で反逆する血の牙達を使った時は、初見であるのにも関わらず幾つか堕とされた。それと、やはりシュヴァルツェア・レーゲンには第三世代武装が搭載されており、停止結界……アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。通称『AIC』と呼ばれる武装が付いていた。慣性停止能力と呼ばれ、簡単に言えば物体の動きを止める。無論弱点はあるようで、物体の動きを止める為には集中しなければならず、多数戦だと使用するのには向いていないという事だ

 まあそんな訳で……今日はタッグトーナメント当日。連携の方は何とかなった。ラウラがあそこまでのレベルを持ってなければ、こうはならなかっただろう。

 

 

「どうした?」

 

「いや、ただの考え事だ」

 

 

 いかんな。試合前だと言うのに相方を心配させるとはな

 

 

「ボーデヴィッヒ。俺達の対戦相手は誰か分かったか?」

 

「うむ。相手は────」

 

 

 

 ここ第2アリーナに解説者2年生新聞部部長『黛薫子 』の声が、アリーナの各所に設置されたスピーカーから発せられる。

 

 

「さて、タッグトーナメント第一試合の選手紹介をしまぁす!」

 

 

 それにしても薫子さんテンション高いな……と思いながら、ピットのカタパルトに脚を付ける。

 

 

『まずはこの人!IS学園や世界中から『破壊者』と呼ばれる男……榊澪選手!』

 

 

 紹介が終わると同時に立体ディスプレイから管制室の山田先生の顔が映り、発進準備完了の事を伝えられた。

 

 

『名前無き破壊者……榊澪出るぞ』

 

 

 それと共にカタパルトから飛ばされ、一瞬の衝撃の後俺はPICと非固定浮遊部位の大型スラスターを起動させて規定位置まで移動した。何時もならブーイングの嵐だが、今日は各国の政府や企業の重鎮達が来ている訳で学園側から警告されているのだ。

 

 

『次はドイツ代表候補生及び世界最強とも呼ばれるIS部隊隊長であり、『ドイツの冷水』と呼ばれる……ラウラ・ボーデヴィッヒ選手!』

 

 

「む……気恥ずかしいな。ラウラ・ボーデヴィッヒ、シュヴァルツェア・レーゲン出るぞ!」

 

 俺が出てきたビットからボーデヴィッヒも出て来た。俺の時とは違って歓声がアリーナを埋め尽くす。

 

 

『以上、榊澪&ラウラ・ボーデヴィッヒペアです!

 続きまして、中国代表候補生にして榊澪と激闘を繰り広げ、国内外で人気を誇る……凰鈴音!』

 

 

 鈴が出てくると同時に沸き起こるりんにゃ〜んコール。ふむ……怖いな。ボーデヴィッヒもこの事態にビクッと身体を震わせていたぞ。

 

────りんにゃ〜ん!

 

 

 ノーネーム。お前もか

 

 

「澪とラウラ……まさかあんたらが初戦とはね」

 

『俺もそうだ。だが、俺としてアレから鈴がどれほど強くなったか知れる機会だ。楽しみだ』

 

「貴様が中国の代表候補生筆頭か……私にどれほど通じるかな?」

 

「アンタが世界最強IS部隊の隊長さんね?本国から話は聞いてるわ」

 

「ほう?それは光栄だな」

 

 

 その様なやり取りをしていた時だ。

 

 

『そしてそして!世界最強の唯一の家族であり、世界最初のIS男性操縦者……織斑一夏選手!』

 

 

 鈴の相方────それは織斑だった。今回の対戦相手は近〜中距離・近接特化機体で構成された相手だった。対してこちらはどちらも全距離対応機体で構成されている。普通ならこのような相手には中〜遠距離での射撃戦を仕掛けるのが一番良い手だが、今回は違う。

 

 

『そうか……鈴のコンビはお前か、織斑』

 

「ああ。鈴とは長い付き合いで、鈴となら良いコンビネーションが出来るからな」

 

『ほう……?だが、貴様は鈴とのいざこざは解決したのか?』

 

 

 ここで一つ質問する。クラス代表戦の時に鈴と織斑が喧嘩をしていたが、あれからどうなったのかはまだ知らなかった。

 

 

「仲直りしたさ。あと……」

 

『あと?』

 

「────もう2度と泣かせねぇよ」

 

 

 ふん……前よりはいい面構えになったじゃないか

 

 澪はそう考えながらも、居合の構えをする。それに対して一夏も澪と同じように居合の構えをとる。両者の考えは酷く単純……試合開始直後の瞬間的攻撃だ。

 

 

『そうか。あとは……』

 

「ああ」

 

「『テメェをぶっ潰す!!』」

 

 

 俺と織斑の声が重なる。互いの声に怒りが交じるのが良く分かる。日常生活の中で感じていた怒りが、戦いという形で今まさに解き放たれようとしている。

 ハイパーセンサーで後方にいるボーデヴィッヒに意識を向けると、既に戦闘態勢に入っておりそれは織斑の後に居る鈴も戦闘態勢に入っていた。そんな時だった、強制的に周りの景色がゆっくりとなっていく。これは……?

 

 

────主、緊急事態です。

 

 

 それはノーネームの声だ。世界が停止した……否、実際は動いている。これは澪の思考速度がノーネームによって強制的に極限まで早め、周囲の光景が止まっているように見えているだけだ。

 

 

 内容は何だ?

 

────シュヴァルツェア・レーゲンについてです。どうやら相当危険な物が積まれているみたいです。

 

 ノーネームから見ても危険とは……なんなんだ、それは?

 

 

 俺がそう言った後直ぐにノーネームからとあるデータが、直接頭に叩き込まれる。データ名は……『VTS』だと!?

 

 何故こんなものが……何で葬られた筈のシステムが、ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンに載せられてるんだ!?あのシステムはあまりの危険性に、消されたんじゃないのか?

 

 

 VTS……正式名称『ヴァルキリー・トレース・システム』と呼ばれるシステムである。嘗てIS委員会の元作られていた。これはモンドグロッソ出場者の動きを完全にトレースし、それを元に誰もがモンドグロッソ出場者達と同じ様な動きができるようにする……という物だった。

 嘗てそれがIS系列の情報誌や新聞、更にテレビ等でも報じられ将来を期待されたシステムだった。しかし、後になって分かった事がある。それはシステムが搭乗者の安全を無視してしまうという事だ。通常ISには絶対防御やシールドエネルギーがあり、大体はそれによって外界からのダメージを防いでいる。それでもダメージを受け続ければ操縦者生命危険域・機体維持警告域となる。しかし、VTSは絶対防御やシールドエネルギーの機能が停止、さらに搭乗者の命など無視する動きをする……そんな事が分かったのだ。

 これを知った当時のIS委員会は、直ぐにVTSに関する全てを消去したのだという。

 

 

────恐らく、現在のドイツ軍IS管轄の者に原因があると思われます。現在のドイツ軍のIS管轄の最高責任者がVTS開発に携わった女性職員です。どういう経緯でそこまで来れたかが不明で、これまた女性主義者ですね。

 

 ノーネームそいつは来てるのか?今日、今……ここに

 

────はい。IS学園VIP来場者の名簿リストに載っています。

 

 ボーデヴィッヒの様子から見て、まだシステムが稼動してるわけではない。ノーネーム

 

────はい。なんでしょうか主

 

 試合開始と共に、ノーネームは刀奈の所に行ってこの事を教えろ。奴の狙いは俺と織斑の抹殺だと思われる。そして、システムはこの試合で必ず起動させられる。緊急時の手筈を刀奈と取れ。あと、奴の確保だ。

 

────主……了解です。

 

 

 世界が戻る。それと同時に試合開始の合図が鳴った。




次回予告


重なる思惑

重なる剣戟

穿つその一手

最悪を防げ

次回=最悪防衛=


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最悪防衛

願う事は

確かな日常

あの地獄は俺一人で十分

なのに







世界はどれほど俺を苦しめる


試合開始と共に織斑が動いた。奴の機体『白式』は、近接特化型で武装は近接ブレードの雪片弐型だけ。そうなればこうなるのは自然的な事だが、それは教科書通りの攻め方。なおかつフェイントの一つもしないとなれば、対処どころかどうぞ攻撃して下さい……と言っているようなものだ。

 俺は真っ直ぐ突っ込んで来る織斑に、反逆する血の牙達の大半を向かわせた。反逆する血の牙達は様々な動きで織斑に迫り、一瞬で織斑を囲む。その光景はまさに檻、しかも真紅の粒子刃を中に居る織斑に向けている。

 

 織斑はなんとか脱出しようとしているが、反逆する血の牙達は案山子ではないぞ?

 

 

「くそっ!?なんだよこれ!?」

 

『全機攻撃』

 

 

 澪の一言に、それまで一夏の攻撃に対して避けるだけであった反逆する血の牙達が白式に攻撃を開始。一夏はそれに反撃しようと雪片弐型を振るうが、反逆する血の牙達はそれを避けつつ瞬時に守りが薄い所に突き刺さる。 

 

 

『織斑……前にも言ったはずだ。お前の動きは酷く単純だとな』

 

「くそっ!?くそっ……!」

 

 

 一夏は抗うが、反逆する血の牙達の攻撃は激しさを増すばかりだ。その光景は獲物に群がるピラニアと捕食される獲物。今このアリーナでは鈴とボーデヴィッヒも試合をし、激しい攻防を澪から離れた所で繰り広げている。しかし、アリーナの人々は澪の行動に戦慄していた。

 有り得ない。それがアリーナに居る人々の総意である。反逆する血の牙達は分類上は、脳波遠隔操作兵器。つまり特定条件を満たしていなければ扱う事が出来ない、限られた者達しか使えない武装。それを1桁……2桁を越える数を簡単に操って見せているからだ。本当は名前無き破壊者の中に居るコア人格達が操っているのだが。

 

 

『……なに?』

 

「うおおおおお!」

 

 

 突如雄叫びを上げた一夏が、反逆する血の牙達を突破して忌々しい糞教師と同じ単一仕様能力『零落白夜』を発動させながら迫り来る。澪は驚いていた。ほぼ今ので決まるかと思っていたのだ。

 

 

「喰らえェェーーーッ!」

 

 

 一夏はそう叫びながら迫る。澪は予想外の結果に戸惑ったが、これも対応してある。澪はボーデヴィッヒに個人間秘匿通信で、指示を送る。ボーデヴィッヒは試合開始直後から行っていた近接戦闘を止め、鈴から距離を離し始めた。

 

 

「逃がさないわよ!」

 

「甘い!」

 

 

 ボーデヴィッヒは追撃に来た鈴に目掛け、ワイヤーブレードで応戦するが鈴が双天牙月の巧みな払い術によって弾かれ、甲龍の第三世代型特殊兵装『龍砲』の圧縮空気弾が炸裂し、ボーデヴィッヒはアリーナの地面スレスレまで落とされる。だが!

 

 

『丁度いい……照準合わせろ!』

 

『分かっている!』

 

 

 

 ボーデヴィッヒに鈴が上空から迫りつつあり、シュヴァルツェア・レーゲンの大口径リボルバーカノンが鈴に向いているが、ボーデヴィッヒの目には鈴は映っていない。澪こと名前無き破壊者にも一夏が迫り来るが、頭部バイザーには一夏は映って入るが澪は一夏を見ていない。互いに見ているのは……

 

 

「喰らえ!」

 

『真紅の世界……砲撃モード』

 

 

 澪はボーデヴィッヒに迫る鈴を

 

 ボーデヴィッヒは澪に迫る一夏を、それぞれ捉えていた。

 

 

「っ!?龍砲前へ!」

 

「ぐああっ!?」

 

 

 鈴は澪の攻撃を、龍砲を盾にすることで難を逃れた。しかし、一夏は虚を突いた攻撃を躱せず直撃。一夏の白式は、澪の攻撃と零落白夜の影響でSEが相当減っていたが、ボーデヴィッヒの大口径リボルバーカノンの直撃を受けてSE残量は二割まで低下した。

 

 

『予定通り……』

 

「ああ……では

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────交代だ」

 

 

 鈴は近くに居たボーデヴィッヒの言葉を聞いて、まさか?と考えた。

 

 

『了解だ』

 

 

 鈴はこの時自分を呪った。忘れていた……鈴はこの時ばかり自分のすぐ暑くなる性格を酷く呪った。なんせこの大会は

 

 

『今度は俺だぞ鈴』

 

 

 2対2のタッグ戦だ。

 

 今度は澪対鈴、ボーデヴィッヒ対一夏の戦いが始まった。これにアリーナから歓声が上がった。

 

 

『な、な、なんとぉぉ!?なんと綺麗なバトンタッチ!試合開始からまだ10分も経ってませんが、なんという激闘だぁぁ!』

 

 

────────────────────────────────────────

 

「さて、次は私が相手だ」

 

「ボーデヴィッヒ……!」

 

 

 ボーデヴィッヒは地面に屈している一夏に向けてそう言う。それに対して一夏は、先ほどのダメージが響いているのか苦しそうに言う。

 

 

「地面に座っている時ではないぞ?」

 

 

 一夏はその言葉を聞くと同時に、体が吹き飛ばされたことを痛みによって知る。一夏は吹き飛びながらもPICで体勢を整え、己を吹き飛ばした相手……プラズマ手刀を展開しているボーデヴィッヒを睨む。

 

 

「何しやがる!?」

 

「何とは?今は戦闘中だ。相手が戦闘不能では無ければ攻撃するのは当たり前だ」

 

 

 そう言うのと同時に攻撃を再度仕掛ける。

 

 『プラズマ手刀』シュヴァルツェア・レーゲンの近接武装であるプラズマ手刀は、腕部から展開される内部内蔵型の武装である。特徴は腕から伸びている形の為、腕を振るう事が攻撃となる。今現在ボーデヴィッヒが相手する一夏こと白式の武装『雪片弐型』は長刀。手数の差では勿論、搭乗者の技量を合わすことで圧倒的有利なのである。

 

 

「どうした!?私に勝てなければ破壊者に勝てんぞ!」

 

 

 そう言いながらも止まることのない一方的な圧倒的連撃の応酬。一夏は雪片弐型でそれを受け止めるが、鋭い攻撃が白式を傷付けていく。

 一夏はこの状況を打破すべく、雪片弐型もとい白式の単一仕様能力を解放する。

 

 

「『零落白夜』か……だが!」

 

「おおおおおお!」

 

 

 ボーデヴィッヒは零落白夜発動状態の雪片弐型の斬撃を難なく交わし、その度に鋭い一撃を何度も打ち込む。一夏はそれに怯むことなく攻撃を続ける。しかし、何度やっても同じ事だった。

 

 

「しまっ!?」

 

 

 白式のSE残量の影響か零落白夜が強制停止し、通常の近接ブレードに戻った雪片弐型。それを好機にボーデヴィッヒはプラズマ手刀で雪片弐型を弾き飛ばす。唯一の武器を弾き飛ばされてしまった一夏は悲鳴じみた声を上げた。一夏は直ぐにその場から退避しようとしたが、脚部にワイヤーブレードが絡まっていた。

 

 

「ふん……終われ!」

 

 

 それは一瞬だった。ワイヤーブレードを引っ張ってボーデヴィッヒは一夏を近づけ、プラズマ手刀による乱舞の様に攻撃を叩き込んだ。白式のSEが切れ一夏は地面に膝を付け悔しがっていた。

 

 

「アイツの後だからとは言え、貴様……弱過ぎるぞ」

 

「……テメェ!」

 

「貴様はアイツを倒すと……豪語しているみたいだが、私相手にこのザマでは何時まで経っても倒せん。貴様は」

 

「俺……は……」

 

 

 一夏にそう言い、未だ戦闘続行中の澪に支援を行う為機体を動かそうとしたその時だ。視界に一つのワイプが表示された。

 

 

──────────irregular delete

──────────DESTROY System standby

 

 

「はっ?」

 

 

 ボーデヴィッヒは訳が分からなかった。突如出現したワイプには紅い文字で物騒な事が書いてあることを理解する。そして、それと共に『ボーデヴィッヒ隊長』と……声がした。ボーデヴィッヒは混乱する頭の中でその声の主……ドイツ軍IS管轄の最高責任者の声だと思い出す。

 その時だ。ボーデヴィッヒが纏うシュヴァルツェア・レーゲンから紫電が放たれる。

 

 

──────────強制起動プログラム発動

       ターゲット一人の沈黙を確認……ターゲット確定

       ターゲット『名前無き破壊者』確認

       『VTS』起動

 

 

「き、貴様……何を!?」

 

『貴女には生贄になってもらうわ』

 

「生贄だと!?」

 

『そう!愚かな男共を消し去る為の戦女神の誕生の贄としてねぇ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今思えば、これが全ての始まりだった。

 

 私のせいで……アイツの運命の歯車が動いたんだ。

 

 いや──────────世界そのものが動き始めたんだ




次回予告

遂に起きた

運命の歯車が動き出す


──────────主だめです!

『GUAAAAAAAAAaaaaaーーーーッ!』


次回=狂戦士=


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狂戦士

すみませんでした(土下座)
更新が遅れた理由は活動報告にて
予告ですが、この話が終わって次の後位から福音編まで話が加速します。
それが何故かはあと数話したらわかるので、その時に
ではどうぞ!
──────────────────────────────

ああ......目覚めてしまった

目覚めさせてはいけないのに

狂う事により生まれ落ちる

絶対無二の戦士

怒れよその心

憎しみを溢れさせよその体

ソレは復讐で出来ていた


 巫山戯るな。それが俺が思った事だ。鈴と攻防を繰り広げていた中、突如ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンから紫電が放たれた。

 瞬時にミーティアがレーゲンをスキャンし、外部から強制的に『VTS』が発動されたこと知らせてくれた。くそ......やはり発動させてきたか!

 

 

『ボーデヴィッヒ!』

 

「に、逃げろ......は、早く!」

 

 

 紫電を放つレーゲンの機体がドロドロに溶け、泥のようになっていく。その状態で尚、ボーデヴィッヒは開放回線で叫ぶ。

 

 

「狙いは、榊......貴様だ」

 

 

 その言葉の後、レーゲンだった泥がボーデヴィッヒを覆い尽くした。その後直ぐにアリーナの特殊合金製のシェルターが展開され、アリーナに避難勧告のアナウンスが流れ始めた。予想通り俺が狙いか......なら!

 

 

『鈴は織斑を確保してピットに戻れ』

 

「分かった......けど、榊あんたは?」

 

『俺を狙ってるなら俺はここに居る。それで逃げたら余計な被害を生むだけだ......行け』

 

 

 その言葉に従った鈴はアリーナの壁付近に避難していた織斑を回収。アリーナのピットに消えて行く際、鈴から個人間秘匿通信が入って来た。

 

 

『......気休め程度だけど、無事を祈るわ』

 

『ああ』

 

 

 そんな短いやり取りの後、個人間秘匿通信が切れた。

 

 

『こちら管制室です。榊君聞こえますか!?』

 

 

 管制室の山田先生だ。

 

 

『山田先生、現在の状況を』

 

『はい。現在こちらで判明しているのは、ボーデヴィッヒさんのシュヴァルツェア・レーゲンから高エネルギー反応が観測されてるという事だけです』

 

 

 管制室の方ではアレがVTSだという事はまだ分かっていないみたいだな。そう俺が思っていた時、管制室の通信から『榊よく聞け』と糞教師の声が聞こえた。

 

 

『アレはVTSだ。お前なら分かるだろう?』

 

 

 大変言い難いが、既に知ってた。だが言わんがな。それと山田先生が今の言葉を聞いて、少し狼狽えていた。それはそうだろう......なんせモンド・グロッソ出場者の動きを完全トレースし、尚且つ搭乗者を使い捨て......殺すシステムだ。

 

 

『管制室。教師部隊の到着はどの位だ?』

 

『......残念ながら、今現在教師部隊用のISは隣の第二アリーナにある。しかも、この状況だ....『来れないんだな?』......ああ。

 だが、救護班だけはピットに行かせてある』

 

 

 教師部隊は何故毎度毎度重要な時に役に立たない。

 

 そんなことを考えていた時、泥が見覚えのあるシルエットに変貌した。それは余りにも有名で最強に等しい機体。

 

 

『暮桜......!』

 

 

 日本最強にして世界最強の伝説的機体の一つ......現在の打鉄のベースと白式のベースとなった機体。それが接近戦専用IS『暮桜』。IS世界最強の称号である『戦女神』を持つ織斑千冬......屑教師の専用機。

 そう言えばVTSのトレースはモンド・グロッソ出場者全員に協力して貰ったと聞いた事があるが、これはその影響か......となるとボーデヴィッヒは!?

 

 

『ボーデヴィッヒはこのままでは......死ぬ?』

 

 

 俺の頭の中で反響する。VTSは搭乗者の命を考えないというそんな言葉が。それと同時に心の底からマグマのような熱い怒りが沸き上がる。

 またか......?またアイツらの勝手で関係ない奴らが巻き込まれるのか?巫山戯るな。何故またアイツらは同じことを繰り返す!

 

 

『榊君避けて下さい!』

 

 

 VTSが澪に向けて雪片を振るった。その斬撃は世界最強に相応しい最早神速の一撃。澪は虚を突かれた一撃に躱す事さえ出来なかった。一撃は名前無き破壊者を斜めに斬り裂いた。特殊装甲であろうとその一撃には関係無かった。余りの威力のためか、そのまま名前無き破壊者は壁まで吹き飛ばされた。幸い両断されることは無かったが中層付近までその攻撃は通っており、澪の視界には機体各部の被害報告が写し出されている。そして

 

 

──────────ああ......ああ!?

 

 

 レーゲンのコア人格から届くボーデヴィッヒの悲鳴に近い声。本来ならこんな事は無いが、俺だから行える事だ。

 

 

──────────嫌だ!私は......私は!

 

『n......a、泣...くな、ボーデヴィッヒ』

 

 

 そう言った時、いつの間にか近くまで来ていたVTSの攻撃が放たれる。今度は何とか回避したがダメージが影響しているのか機体の動きが悪い。まだ非固定浮遊部位の大型スラスターが無事なのが幸いして、瞬時加速でギリギリ避けれた。

 

 

『これなら、これならば!』

 

 

 VTSからボーデヴィッヒ以外の聞きなれない声が聞こえた。

 

 

『貴様......!』

 

 

 澪の言葉に反応したVTSが『さて......誰でしょうか?』と言う。澪には既にドイツ軍IS部隊管轄の最高責任者の......確かアーデルハイトであることはバレている......だからこそ言う。

 

 

『ドイツ軍IS部隊管轄の最高責任者アーデルハイトだろ......既にバレてんだよ』

 

 

『正解』

 

 

 そう言った時だ。目の前にまたVTSが現われた。VTSのモデルは糞教師......モンド・グロッソ初代戦女神『織斑千冬』で、今の衰えている状態じゃない全盛期の頃だ。

 

 

『ぐっ!』

 

 

 紙一重で斬撃を避ける──────────が、左腕に衝撃が走る。それと重たい金属音が鳴った方向に意識を向けると、名前無き破壊者の左腕が落ちていたのを認識した。まさか一瞬で二回の攻撃を放ったのか?

 

 

『ぐあっ!』

 

『榊君!?』

 

 

 管制室から山田先生の悲鳴が響き渡る。そうだったな、山田先生は知らないんだったな。それよりもだ、今の攻撃で左腕が失った。これにより態勢制御機能がまともに働かなく、回避しようにも回避出来ない。流石世界最強をトレースしたものだけではあるが......だが!

 

 

『ボーデヴィッヒィィィーーーッ!』

 

 

 俺のせいでこんな事に巻き込まれ、命を亡くしてしまいそうになっているボーデヴィッヒを助けなければならない。

 

 澪は瞬時加速で接近するが、VTSはその瞬時加速を予測していたのか鮮やかに避けた。

 

 

『アーーハッハッハ!

 いい気味ね破壊者?所詮貴方なんか私達女の敵じゃない、唯の奴隷......よっ!』

 

 

 背後を取られ盛大に地面に叩きつけられた。痛みは無い......だが、怒りが止まらない。

 

 

『貴様の様に頑張りもしない、何もしない愚か....がぁ!?』

 

『おだまり。その声を聞くだけで虫唾が走るわ......ああそれと、この娘はただの生贄よ......貴方のような物を壊すねぇ!』

 

『巫山戯るな......テメェらはまた、そうやって!』

 

 

────主!ボーデヴィッヒの奴の生体反応が低下してやがる!

 

 

『ぐうぅ......パージ!』

 

『小癪な』

 

 澪は表面装甲を爆裂パージしてなんとか拘束を脱出する。名前無き破壊者は瞬時加速で百数メートル程離れたところに移動し、ミーティアに話し掛ける。

 

 

ミーティア......聞こえるか?

 

────あいよ。言いたいのは換装できるかだろ?

 

 ああ。出来るか?

 

────出来るには出来るが、換装しても非固定浮遊部位や左腕・胴体部の損傷が激しい所は出来ない。

   それに、左腕の切断面からエネルギーが漏れる関係で出来たとしても3分......いや、2分程しか持たない。ボーデヴィッヒを助けられるその時まで取っておくべきだよ

 

 2分......か、充分だ。

 

────やる気か?

 

 ああ。ボーデヴィッヒも、コア人格も助けてやる......必ず。

 

────救出確率は?

 

 確率なんてない......これは確定だ。

 

────よし来......っ!?上だ!

 

 

 

 状況は過去最悪。ダメージレベルはB-で、敵は最強と呼ばれるISのコピー。普通なら詰んでいる。だけど......負けられない。誰かの為に、これ身を削ってでも、正体がバレようとも......決して!

 

 澪は感じた。機体の各部の発光箇所が深紅に、橙色に眩しいと言わんばかりに輝き、出力が爆発的に上昇したのを。

 

 

『流星の破壊者......オーバード・ブースト!

 そして、A.I.S.S起動!』

 

 

 澪は非固定浮遊部位だけをOB状態にし、VTSの奇襲を回避。VTSは攻撃を避けた澪を探し、発見するが捉えられない。見えるのは左腕から漏れ出す深紅のエネルギーとスラスター光だけだ。

 VTSとそれを操る者が驚く。なんだこれは?センサーには映っているのに何故見えない......と。

 

 

『腕ぇっ!』

 

 

 一瞬の衝撃と共にVTSの両腕が宙に舞う。しかし、VTSは斬られた所を他の泥で補って再生する。

 

 

『ボーデヴィッヒ』

 

────その声は......榊?

 

 

 俺はコア人格を通して、ボーデヴィッヒの意識があろうISコア深層域に直接声を掛ける。先程コア人格が通してボーデヴィッヒの声を聞いた時にふと思ったのだ。今ボーデヴィッヒの意識がISコアの中にいるのでは......そう考えていたが、どうやら正解だったようだ。

 

 

────その身体は......私のせいなのか?

 

『違う。それに、もう俺は......ヒトでは無い』

 

────何を言って......

 

 

『何をごちゃごちゃと言ってるのよ!』

 

『ぬん!』

 

『な、何故だ......先程までとは全く違うじゃない!?そ、それに動きも悪く......?』

 

 

 VTSが一瞬の反撃......だが、すぐに躱され左足を抉り取られたという結果が残った。

 

 

『ボーデヴィッヒ。俺はお前を必ず助ける......だから、意識を保て。レーゲンのコア人格と共に、助ける!

 目を開けて

 歯を食いしばり

 手を指し伸ばせ!』

 

 その瞬間、不思議な事が起こった。VTSが痙攣し、胴体部中央からISスーツ姿のボーデヴィッヒが吐き出されたのだ。澪は最早自身の正体がバレることを恐れず、名前無き破壊者であるIS体を解いて人間体に戻る。案の定管制室から通信が来ているが無視。そして、澪はPICを最大限に活用してボーデヴィッヒに接近する。

 

 

「行くぞ」

 

 

 VTSがボーデヴィッヒを奪せんとする澪に向けて、泥の雪片を投げた。澪はこれをパワーアシスト全開にした腕で方向をずらす事で難を逃れる。あと少し......その時だった。

 

 

『この小娘ぇ!』

 

 

 痙攣していたVTSから一本の触手らしきものが飛び出て来た。その先端は槍のように鋭く尖っており、その矛先は......空中に身を投げ出されていたボーデヴィッヒの胴体に向けていた。

 澪には分かった......分かってしまった。それが何を意味すべきか。だからこそ叫ぶ。止めろ!それだけは止めろと......しかし、VTSの触手らしきものが真っ直ぐボーデヴィッヒを貫いた。ブシュと音が鳴り、ボーデヴィッヒから鮮血が地面に向けて吹き出される。

 

 

『ボ、ボーデヴィッヒさん!』

 

 

 管制室から悲鳴が聴こえる。今日何度目か分からない......それより今は

 

 

「こ、この......糞野郎がァァーーーーッ!」

 

 

 澪は激昂しながらVTSに近付き、復讐者の剣で触手を斬ってからVTSをパワーアシスト全開で殴り飛ばした。澪は抱えるのに邪魔な部分の触手を切り落とし、ボーデヴィッヒを抱える。

 

 

「管制室!救護班をピットに呼べ、早く!」

 

『既に居ます!榊君は急いでボーデヴィッヒさんをピットに運んで下さい......早く!』

 

「了解!」

 

 

 その直後、生態ユニットを失ったVTSが先程と同じく触手を俺に向ける。しかし、今の俺にはそんなのに構う余裕なんてない。触手を避け、すぐ様ピットに戻った。しかし、そのピットにも触手が押し寄せて来る......だが鈴の甲龍と一夏の白式が触手を叩き斬る。二人は澪が生身でやって来た事について言ったが、澪から放たれる殺意もとい怒気に口を閉ざした。

 

 

「......ボーデヴィッヒを頼みます」

 

 

 救護班にボーデヴィッヒを預けた澪はそう言うと、生身のまま鈴と一夏に迫る触手を吹き飛ばす。それを見た鈴と一夏が背後にいる澪に声を掛けようとして一瞥し、その光景に息を呑んだ。両目が深紅に光輝いているのだ。

 

 

 貴様らはまた

 

 俺から奪おうとするか

 

 友と呼べる存在を

 

 大事な者を

 

 

 鈴と一夏は澪から感じ取れるIS反応が急激に増大していることに気づく。その変化は澪の周辺の空間が僅かに揺らいでいる事から見て分かった。同時に殺意もとい怒気がかつて無い程高まっている。そして、憎悪の感情も高まっていた。それが、いけなかった。

 

 

────主!それ以上は駄目です!

 

 

 突如聞こえた女性の声に鈴と一夏、それと管制室の教師達が驚く。その言葉の次の瞬間、澪から真紅の稲妻が漏れ始める。さらに、澪の全身が黒く染まる。澪が呟く。

 

 

 これは始まり

 

 そして終わり

 

 

 声が響く。これは開放回線では無い。なのに、ピット内......さらにはアリーナ中に響いていた。言葉を発するごとに澪は黒く染まる。そして、黒く染まった部分が蠢き新たな姿を形成する。その姿は名前無き破壊者に似ていて似ていなかった。背中には黒い翼に似たものが生えている。

 

 

 もう止まらない

 

 止められない

 

 お前達を滅するまで

 

 

 

 黒く染まった澪が一瞬膨張し、弾けた。

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

────システム再構築......オールクリア

   異常形態移行完了

   『殲滅』起動します。

 

 

 終わりが始まる。




次回予告

それは天啓

それは教え

我が願い

我が怒りは

新たな身体を作った


次回=殲滅=


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殲滅

それは悲しみ

それは憎しみ

それは怒り

三つの感情が混ざり

生まれし者は

狂う戦士


 獣の咆哮が響き渡る。その咆哮でピット内の壁が悲鳴を上げ、誰もがこの存在に畏怖する。

 

 

『ーーーッ!』

 

 

 怒と悲しみ、それに憎しみが混ざりあった咆哮が容赦無くピットとアリーナ内に響き渡る。アリーナに居る人々は突然聞こえてきた獣の咆哮に困惑していたが、同時にその咆哮に恐怖していた。

 鈴は目の前に居る澪を見て、驚愕していた。鈴は先程の行動から、澪は既に人外の領域にたっていることを理解していた。だが

 

 

「無茶苦茶よ......これは」

 

 

 咆哮だけで鉄製の壁が悲鳴を上げ、カタパルトに至っては既にひしゃ曲がっている。たった一回の咆哮で。ニトロや大量の火薬を使った爆発なら分かるが、咆哮でこの様な真似など出来るはずがない。

 

 

『Gurururu......!!』

 

 

 不気味と言ってもいい程の圧力が、突如爆発的に上がり始めた。今この場にいるのは鈴と一夏だけだ。鈴はこの場にいることを危険と判断すると、一夏にピットカタパルト入口からアリーナ待機室へと撤退すると指示を出す。一夏はそれに了承し、鈴も直ぐに撤退する。

 

『Aaaaaaaaa!!』

 

 

 再びピットのカタパルトデッキ前方にVTSの黒い触手が迫るが、澪の周りまで来るが触手は消し飛ぶ。そんなやり取りが鈴達が撤退して数分続き、二度目の咆哮が成された。それと共にピットが爆散したのであった。

 

 

 

───────────────────────────────────

 

『何を、何をしている』

 

 

 所変わってアリーナ戦闘エリアにいるVTS。先程から起きている異常事態に、一人考えていた。 VTSを操る女は騒動を起こす前に既にIS学園から撤退し、密かに待機させていた回収部隊の船に乗り、学園付近の海に居た。

 女はVTSから通した映像をモニターで見ていた。学園から聞こえて来る獣の声に恐れながら。

 

 

───────────────────────────────────

 

 VTSの視界に、ピットが爆発したのが写った。それと同時に、目の前に爆音と共にナニカが屈んでいた。敵対反応と考えを下したVTSが手に持つ雪片で上段の構えを取ろうとして、一瞬の違和感と共に体の半分が消し飛ぶ。

 

 

『Aaaaa......』

 

 

 エネルギー反応は無かった。その代わりに敵の口部から少し煙が出ていた。だとすると......攻撃?そうVTSは処理する。そして、危険と目の前の敵を判断。

 

 

『消えろ!』

 

 

 無事な腕で攻撃し、その腕が引き裂かれた。世界最強を模し、最速とも呼べるその一撃を与えること無く。ならばと脚による高速蹴りを放つが、ナニカは腕で受け流す。

 

 ナニカはその背中から円状の物体を放出し、非固定浮遊部位の中間地点に滞空させる。そして、非固定浮遊部位のスラスターを起動させVTSに衝突した。

 

 

『Gigagagaaaaaa!!』

 

『何なんだ貴様ァァーーーーッ!?』

 

 

 ナニカの頭部の口が開き、VTSの首に噛み付いたのだ。ナニカは噛み付いた常態のままVTSに拳を振るう。VTSはそれにより体が千切れ飛ぶ。

 

 

『何故だ、何故VTSの体が消える!?再生機能は......エラーだと!?』

 

 

 VTSの再生機能。それが腕を切断しても復元する理由であり、今のVTSの奥の手でもあった。普通の攻撃......これはISを含めた全ての攻撃に対して有効である。しかし、ナニカの前では無意味だった。ナニカ......殲滅は名前無き破壊者の『A.I.S.S』を受け継いでいる。それはISの能力を直接触れている時だけ打ち消す能力で、この世に一つの絶対的アンチシステムである。前はON/OFFで行えた。しかし、それが常時発動されている為VTSの再生機能が阻害されて修復されないのであった。無論直接触れている時だけだが。

 

 

『何故、何故......何故だぁァァーーーーッ!最強の力を持って、先程まで......何故だ!?』

 

 

 殲滅は腕部に接合されている近接ブレードを展開。さらに指部にも装着型のファングブレードを展開。それと共に殲滅の体から赤黒の粒子が吹き荒れる。

 

 

『Guaaaaaaa!!』

 

 

 VTSは無理やり拘束を解き、損傷箇所を復元。瞬時加速でナニカに近付き一閃。しかし、それさえ避けて腕部を両断された。その状態のVTSをナニカは一閃する。それでVTSの脚部を切断。続けて乱舞の如く攻撃し、体が細切れになった。そして、VTSに汚染された既にコア人格が無いレーゲンのISコアが露出している。既にレーゲンのコア人格は殲滅の中に存在している......それを今の状態で思い出せてはいないが、殲滅はISコアを両断。それにより、VTSは形状を保つことが出来なくなりそのまま泥となって消えた。後に残るのは壊れたISコアと、殲滅だけだった。

 殲滅はうずくまるような体勢をとる。背中に浮かぶスラスターが殲滅の周りを、円状物体が頭部の上に移動して高速回転を始めた。

 

 

 何処だ......何処だ

 

 

 荒れ狂う意識の中、澪は形態移行した名前無き破壊者──────────『殲滅』のスキャンモードで獲物を探す。

 

 

 

────IS学園付近海域に反応あり

   ドイツ軍の物と判明......生体反応複数確認。及び火器の反応

 

 

Aaaaaaa!!(其処かァァーーーッ!)

 

 

 スキャンモードを解除。周りを飛んでいたスラスターが背後に戻り、最大出力で吹かす。殲滅はそのままアリーナの天井のシールドバリアーに接近する。このままではバリアに阻まれるが、澪は右手を変形させ砲門に変え、バリアーに向けて長射ビームを放つ。バリアはたちまち崩壊し殲滅が軽く通れる穴が開き、そこを通り殲滅は何処かへと消えていった。

 無論、管制室にはISセンサーが備えてある為に澪がどこに向かったのかはトレースできる。この後、専用機持ち全員が澪が向かった先......IS学園付近の海上に向かった。

 

 

──────────────────────────────────

 

 女......アーデルハイトは驚いていた。この世において史上最強と呼べる存在をトレースしたVTSが、一般人である憎き男程度に破壊された事を。アーデルハイトは部下に船を出すよう指示を出した。

 

 

「今はここから逃げて、委員会の連中や他国家に女権団と合流しないと......」

 

 

 その時だ。IS学園から上空に向けて赤黒の閃光が立ち昇る。アーデルハイトには見覚えがあった......それは名前無き破壊者のビームだ。ビームはすぐに収まったが、その代わり赤黒い光を放つナニカがこちらに向かって来た......澪だ。

 

 

「逃げろ!早く!」

 

 

 アーデルハイトの部下も現状を理解し、船を出すがその間に澪との距離は縮まっていく。そして───────

 

 

『GUAAAAaaaa!!』

 

 

 アーデルハイト達の目の前に殲滅が現れた。アーデルハイトの部下達は対IS弾を装填したアサルトライフルを殲滅に放つが、殲滅から放たれる赤黒の粒子と対IS弾耐性装甲の前に無に等しかった。

 

 

「対IS弾が効かねえ!?」

 

「何だよあの光は!?」

 

『Aaaa』

 

 

 殲滅はそんな反応を無視し、手を再び砲門に変形させる。先程は長射ビームだったが、今度は極少ぶつ切りのビーム弾をアーデルハイトの部下達の脚に向けてばら撒く。高熱のビーム弾は部下達の脚部に直撃し、部下達は足をズタズタにされ戦闘不能に追い込まれた。結果的にアーデルハイトだけが残った。

 

 

「死ねぇ!」

 

 

 殲滅がビーム弾を発射し終わったその瞬間、アーデルハイトが対ISロケットランチャーを放つ。アーデルハイトはそれに対して勝ったと確信していた。

 

 

 一方爆炎に包まれた澪は口部を開き、煙の中極少粒子ビームをうち放った。アーデルハイトは一瞬爆炎の中で何かが光ったとぐらいにしか思わなかったが、ビームは煙を突き抜け四散し、アーデルハイトの四肢を貫き通す。

 

 

『Gu......a、オマ......えを、捕......る』

 

 

 澪は荒れ狂う意識の中、何とか目の前のアーデルハイトを殺すこと無く四肢を穿って捕獲する。アーデルハイトは粒子ビームに四肢を貫かれた事で失禁&気絶していたので、澪はアーデルハイトを大型クローに変えた右手で持ち、IS学園まで向かおうとする......その時だった。

 複数のIS反応音が頭に響く。澪は反応があった方角に体を向けると、そこにはIS学園における専用機持ち達が居た。その中には刀奈も居て、澪は隠してきた事がバレた事に申し訳なと思ったのか刀奈と視線が合うが顔を逸らす。それは刀奈にも通じたのか悲痛な表情をしていた。

 

 

「何してんだよ澪!」

 

 

 澪が持つアーデルハイトと、その近くにある船とアーデルハイトの部下達の惨状を見て専用機持ち達は狼狽える。澪はとりあえずアーデルハイトを鈴に任せようと思い、アーデルハイトを鈴に向けて投げ捨てた。鈴はそれに慌てず冷静にアーデルハイトをキャッチする。

 

 

ゴガガドン!

 

 

 殲滅に突然何かが当たり爆発する。専用機持ち達が何事かと思ってると、開放回線を通し声が響く。

 

 

「専用機持ち達は我々教師部隊と共に、榊澪を沈黙・捕獲せよ。我々教師部隊は後方支援でお前達を支援する、専用機持ち達は前方に出ろ。捕獲に方法は構わん。殺しても構わない......これは命令だ。やれ」

 

「なっ!?」

 

『......』

 

 

 専用機持ち達が教師部隊からの突然の無茶苦茶な命令に、驚きを隠せないが教師部隊から澪に向けて攻撃が開始される。澪はそれを回避するがまた何発か直撃して爆発する。

 

 

「待ってください!何故今になって貴女方教師部隊が、ずかずかと出てくるのですか!?

私達が生徒達を避難させていた時、何もしなかった貴女方が!」

 

「我々は其処の榊澪だったナニカを危険と判断し、VTSが沈黙した所で其処のナニカを鎮圧する為に待機していただけだ」

 

「......ゲスが!」

 

 

 ミステリアス・レイディを纏う刀奈がそう呟く。それにイージスコンビに鈴が頷く。一夏はなんとも言えない表情をしていた。

 

 

「凰鈴音だけはそのままその女をIS学園に運べ、その他のメンバーはさっさと其処のナニカを鎮圧しろ」

 

 

 鈴はそれに対してどうするべきかと、刀奈を見る。刀奈は「ここは任せて行きなさい」と言う。鈴はそれを確認するとIS学園にへと向かって行った。

 刀奈は打鉄の狙撃用パッケージを纏う遠く離れた教師部隊達に言う。

 

 

 

「貴女方のその様な理不尽な理由で、私は貴女方に従うことは出来ません」

 

「なら、生徒会長......貴様も危険と判断し鎮圧する」

 

 

 

ゴウッ!

 

 

「っ!?」

 

 

 轟音。打鉄の狙撃用パッケージ専用武器『撃鉄』から、超長距離用徹甲弾が放たれた。刀奈は咄嗟に最高出力でナノマシンによる超高密度の水壁を形成したが、徹甲弾はそれすらも貫通して刀奈に直撃した。そして、徹甲弾の爆発が刀奈を覆い、そのまま海へと墜落していった──────────その時だ。

 

 

 

 

 

 

キュイン

 

 

 

 

 

 

 澪......殲滅からそのような音が響く。専用機持ち達は澪の非固定浮遊部位のスラスターと円状の物体から、超高密度のエネルギー反応を確認する。

 

 

キュン

 

 

 刹那、澪がその場から消えた。それと同時に海面が割れ、それが真っ直ぐ教師部隊達のIS反応がある方に続く。それが音が鳴って2秒後の事で、その直後に爆音が鳴り響いて教師部隊のIS反応が全て消失した。

 専用機持ち達は驚いた。自分達から3キロ以上離れた所に居る教師部隊達の所まで、澪が2秒程で到着してしまった事。それに付け加えて、教師部隊を一撃で壊滅させたことであった。

 

 

『......』

 

 

 教師部隊達が海面に墜落していく中、俺はもうIS学園には居られないと考えていた。どうやら暴れすぎたらしい。

 俺は先ほどと同じ移動法で、刀奈を抱えていたダリル先輩の前に移動する。先輩はギョッとしていたが「別れの挨拶なんだろ?早くやれよ」と、どうやら俺のことを見逃してくれるらしい。フォルテ先輩もそうらしい。

 

 澪は刀奈を見て言う。「またな」と、その一言を言ってこの場から去ろうとした時だ。

 

 

「待てよ!」

 

 

 織斑が俺を行かせまいと、雪片弐型を俺に向けて構えていた。

 

 

「澪は人間じゃないのかよ」

 

『つまり、俺が化物だと? 合ってはいるが、生憎俺はまだ人間だと思ってる。だからこそその言葉は心外だ......そして、邪魔』

 

 

 高速の蹴りが一夏に当たり、一夏はそのまま海面へと叩き付けられた。だが、瞬時加速で海面から昇ってきた。俺はクローブレードで振りかざしてきた雪片弐型を受け止める。

 

 

「澪はIS学園の生徒だろ!」

 

『俺の状態がばれては、最早IS学園には居場所なんて無い。もともと学園の大半から敵視されて来て、これでどうなるのか分かるだろ?

 だから、俺は去る。』

 

「んな事させるかよ!理由はどうあれ先生達にも手を挙げたんだ、行かせるぶがっ!?」

 

 

 俺は織斑を殴り飛ばした。こいつ......あれほどの事をしたあいつらの事をまだ正しいと思っているのか?

 

 

 再び一夏が澪に接近。今度は雪片弐型を零落白夜発動状態にさせての攻撃をし、澪はそれを受ける訳にはいかないため咆哮で吹き飛ばす。空いた瞬間を逃す筈はなく、其処をラッシュで攻めていく。突然腹部に衝撃を感じて澪は腹部を確認すると、零落白夜発動状態の雪片弐型が突き刺さっていた。一夏はしてやったりという顔だったが、澪はそれを無視して一夏の首を掴む。

 

 

『もういい』

 

 

 一夏の首を絞めながらそう言う。最早、常時起動状態になったA.I.S.Sの前ではISは無力だ。澪は一夏をぶん回して海面に叩きつけた。どうやら気絶したのか、海面から少し浮かんだ状態で一夏は動かなくなった。イージスコンビも目の前の存在には勝てないことは分かっていた。だからこそ、その光景を静かに見守っていた。

 澪は雪片弐型を引き抜いて海に棄てる。

 

 

『会長を頼む』

 

 

 澪は一言そう言って、その場から姿を消した。

 

 

 

 

────IS学園一年一組在籍『榊澪』、IS学園から逃亡

   世界各地に最重要捕獲リストとし、賞金が掛けられました。目撃情報があり次第、IS委員会まで連絡を

 

 

 この日、澪は世界から行方を眩ませた。




次回予告

かの者は姿を消す

物語は加速する

時代が

人が

世界が動き始める


次回=動く世界=


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動く世界

全ては終わりに向かう

生命が生まれ

生命が死ぬ

始まりがあるなら

終わりがある

これは終わりの始まり


 世界から澪が姿を消して数週間。澪が人間ではないことも世界には知れ渡り、多くの女性主義者達が多くいる国や女権団、更にはIS委員会が澪を殺すべきだと騒いでいた。

 

 それに対して、澪を保護すべきだと言う国や団体も出始めていた。そんな世の中だが、女性主義者殺すべしと言わんばかりに女性主義者を滅する『鬼兵軍』と名乗る傭兵軍団が出現し、世界各地で活躍している。そして、澪といち早く接触した非公式国際同盟社『亡国企業』は澪の保護&合流の準備を着々と進めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつは......」

 

 

 私は榊澪に関する情報文書を目を通し、一人そう呟く。

 

 

「M。てめぇなにやってんだ?」

 

「ああ......オータムか」

 

「それはあのガキの奴か。しっかしまあ......アイツも大変だな。

 本部の連中があのガキの保護と合流の準備をしてるが......」

 

 

 私はそんなオータムの言葉を聞きながら一人思う。何故世界はアイツに対してこれほど残酷なのか。無論アイツだけは無いが、世界には数え切れない程の女性主義による被害者が居る。しかし、特にアイツは酷かった。勝手に住んでた街を焼かれ、親しいものを全て殺され、嫌だったISの道に引きずり込まされ、世界から憎しみと殺意を受け続けなればならないという。

 

 IS学園に潜伏している調査員からアイツの機体『名前無き破壊者』が形態変化したと聞いた。しかし、形態変化の類でも相当歪なものだったとも聞いたが......ISが瞬間的に形態変化できる訳では無いが、あの機体は特別だった。その特別の中の例外級の形態変化......もしや二次移行かと思ったが、それは有り得ない。アイツの情報通りならあの機体には二次移行と言う概念が存在しない。

 

 

「────でよ......って、聞いてんのかよ?」

 

「済まない。聞いてなかった」

 

 

 そう言えば、数週間前に大気圏を突破する謎の物体が確認されたと上層部が騒いでいたが......まさかな。

 

──────────────────────────────

 

「ふむ。これはいけませんねえ」

 

 

 IS学園学園長室にて、学園の長である轡木十蔵がそう呟く。その手元には現在のIS学園の状況が記されていた。

 

 

「教師部隊の違法行為、契約違反。生徒会長の意識不明......あの子と仲が良かった生徒達に対してのイジメですか貴方」

 

「ああ」

 

 

 教師部隊は解散させ、元教師部隊の教員達は監禁中。生徒会長である更識さんは教師部隊の攻撃により意識不明で、あの子と仲が良かった生徒達はあの日を境にイジメにあっている。無論、特に女性主義国の生徒達は酷かった。イジメにあっていた生徒達はこういう時用に密かに建設されている特施の特別寮に入ってもらった。これには生徒達の親にも許可を得て、本人達の許可を得ての行動だ。あとは教員の山田先生が特施の方に移動してくださるとは......あの人は本当に良い先生ですねえ。

 

 

「そろそろ、この学園も終わりですかね」

 

「貴方......」

 

 

 あの子は本当に良くやっていた。多忙的な更識さんも助かってると聞いてたし、何しろこの学園での女性主義者に対する抑止力にもなっていた。あの子とも多少の交流を得て、こちらの依頼も快く受け持ってくれたし。

 

 しかし、今や女性主義者達がこの学園を支配しているような状態。生徒会は代理で会計だった布仏さんが生徒会長を務め、その妹さんと最近入った更識さんの妹さんの簪さんが頑張ってるのは知っている。それでも最早機能しなくなるのが目に見えていた。

 

 

「それと、ボーデヴィッヒさんの件はどうなっているかな?」

 

 

 ボーデヴィッヒさん。あのドイツ軍IS部隊管轄の最高責任者であったアーデルハイトが、VTSの使用と職権乱用、更に専用機であるシュヴァルツェア・レーゲンの違法改造の指示など等が世界に露呈して失脚した。最後の悪あがきと言わんばかりに、アーデルハイトはボーデヴィッヒさんを強制的に除隊させた。どうやら作戦の実行と共にこれは行われたようだ。その為、今はドイツ代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒという事になっているようだ。

 

 

「あの子は特施に入るそうです」

 

 

 本当に......世界は醜くなったものですねえ。

 

 

「さて、我々も動きましょう」

 

 

 そう呟く轡木の視線の先には、黒い機械仕掛けの指輪が光っていた。

 

──────────────────────────────────

 

『......』

 

 

 −273.15 ℃ 絶対零度と真空の空間と呼ばれる宇宙。地球と月の間の宇宙にそれは居た。数週間前に地球圏をざわつかせたソレが。ソレは『殲滅』......もとい榊澪。その体の装甲が太陽の光に反射して煌めく。

 

────メインシステム起動

   OS正常、異常なし

   G機関稼働中、異常なし

   機体『殲滅』オールグリーン

   主、起きて下さい

 

 

 澪の頭の中にノーネームの声が響く。それまで蹲っていたが、その態勢を解いて背伸びをする。傍から見れば、ロボットが背伸びをして首をギュインギュイン回してる光景はとてもシュールに見える。首を回した後、デュアルアイセンサーが強く光るのはなんとも言えない。

 

 

『あれから数日......否、数週間か。地球全域とIS学園の状況を』

 

────了解です

 

 

 数日前......宇宙と地球では時間の進みが違うため、地球では数週間前の事だ。澪はIS学園から出て太平洋沖の小さな無人島に潜んでいた。システムの方を色々と弄っていたら、なんと殲滅には単機で大気圏突破機能・大気圏突入機能が発現されていた。暫くの間完全に追手が来ないだろう宇宙空間に待機しようと思い、澪は宇宙に上がった。その後、慣性の法則で凄まじい速度で地球と月の間までやって来た所で停止し、暫くの間機能停止していた......後は現在に至る。

 

 

『ふむ。亡国が俺と合流しようと?』

 

────はい。彼処は非公式組織では有りますが、現在IS関連の組織で完全に白な組織であるのは亡国だけです。

   そして、鬼兵軍と呼ばれる傭兵組織が粛清の元行動を開始している模様です。

 

 

『あのTVの件以降に動き始めたという傭兵達か。噂では国連が造ったと言う全身装甲型の戦闘用パワードスーツを改良したものを使用しているとも聞いていたが......』

 

 

────はい。確か『EOS』と呼ばれるパワードスーツです。それを改造......いえ、魔改造とも呼べるレベルまで良くし、ISにほぼ同レベルまでになった模様です。なお、この件には亡国も絡んでます。

 

 

『成程、つまり篠ノ之束が絡んでると?』

 

 

────はい。現在亡国・鬼兵軍・非女性主義者国と、IS委員会・女権団・女性主義者国は対立しています。各地で小競り合いが起きて、戦闘は激しさを増すばかりです。

 

 だとすると......遅かれ早かれ、ISが引き金になった世界戦争────IS大戦が起きるだろうな。

 

 

 世界最強のパワードスーツ『IS』。それが引き金になって起きる戦争は、かの第二次世界大戦よりも遥かに超える被害を出すだろう。ISとEOSは勿論、現代には大型超電磁砲や光学兵器、更には外道極まりない化学兵器や核兵器と言ったものが有る。IS大戦と言ったが、これこそ人類の滅亡をかけてしまうかもしれない『終末大戦』となるかも知れない。そうなればこうして人外と成して、宇宙でも生きることが出来る俺以外は滅亡してしまうだろう。

 

 

 

『ノーネーム』

 

────分かっておりますよ

 

 

『俺が......この状況を破壊できるんだろ?』

 

 

 

 対IS用のアンチプログラム及び最終プログラムであるこの機体。ISの能力を直接触れないといけないが、その能力を無力化出来る唯一の存在である。

 

 

────はい。主以外では出来ない事です。

 

 

『俺が行う事に......最後まで付いてきてくれるか?』

 

 

────全ては主の為です。それが例え、多くの屍の山を作ろうとも最後までついて行きます。それは他のコア人格達も同じく、最後までついて行きます。

 

 

『刀奈の方はどうなんだ?』

 

 

────駄目です。未だにISコアの深層深域に居ると思われます。しかも、私が立ち入れない程の奥底にいるのは分かるのですが......それ以上は分かりません。

 

 

『そうか...... そう言えば、もう既に日本は既に夏になってる頃だろう?』

 

────はい、因みにですが主。明日戻るとしたら、臨海学校とやらの三日目に戻れそうですが......どうします?

 

 

『臨海学校か......何やら嫌な予感がする。今すぐ戻るぞ』

 

────本当に今から戻るおつもりで?今からだと二日目の早朝4時頃ですが

 

『当然だ。IS学園のイベント=異常事態発生だからな』

 

 

────実は既に起きています異常事態

 

 

『......どうなってる?』

 

 

────臨海学校宿泊の旅館から沖に向かって数キロ先で、米国でイスラエルとの合同で極秘開発中だった軍用IS『銀の福音』が突如暴走。IS委員会アメリカ支部がこの破壊をIS学園に依頼......という事らしいです。まあ押し付けです。なお、これに対応するのは1年の専用機持ちとの事です。

 

────行きますか?

 

『勿論だ』

 

 

 殲滅の背中から円状の物体......『BE推進機関』を展開、機体の後ろ部分に展開する。

 

 『BE推進機関』......通称ブレイクエネルギー推進機関と呼び、空間上にある物質を吸収して破壊。それによって生じたエネルギーを瞬間的に爆発させる事によって光速級のスピードを出すことが出来る。これは殲滅になった事によって新しく追加された物で、教師部隊に接近した際に使ったものだ。あの時は様子見で最弱設定にして行った......だってこの機体の物はスペックがこの世の定理に当てられないから。話が逸れたが......更に、大気圏突破する際にもこれを用いたのだ。

 

 

 

『BE推進機関最大出力に設定』

 

────地球まで数秒

   目的地は臨海学校で泊まる宿泊先の沖合

   真紅の光壁を球体展開

   チャージ完了

   背中部及びBE推進機関の接続完了

   非固定浮遊部位とBE推進機関の同調完了

 

────主

 

『出せ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは全てを奪われ

 

 

 破壊者となった一般人の物語。

 

 

 この瞬間

 

 

 全ての終わりの扉が開かれた。

 

 

 

 全てを担う真紅の流星が宇宙を翔ける。




次章予告


始まりはIS
ISに全てを奪われた彼の者
その転機もIS
ISによって運命を弄ばれた者は
ISによって運命を覆す

男であって何が悪い
男女仲良くして何が悪い
女だから偉い......巫山戯るな
そうして破壊者が生まれ、殲滅に生まれ変わった

世界は歪んだ
歪んだ世界に異を唱える者達が立ち上がる
反逆せよ!
その運命に!
世界に!

天に、海に、地にその名を轟かせ
今世界を破壊し、歪みを殲滅する者
その名『榊澪』



    インフィニット・ストラトス
一般人15歳で〝 ちょっと〟変わった彼のIS生活

終章=破壊の英雄=

────────────────────────────────

次回予告

一つの閃光

それは天啓

それは滅亡の知らせなのか?


次回=強襲の暴力=


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最終幕 破壊の英雄
強襲の暴力


それは一つ
『ISだ』
それは増える
『女性主義者』
それは繁栄する
『世界の滅び』
それは滅ぼされる
『殲滅のもとに』






世界を────

→滅亡させよ
 維持させよ


 澪が宇宙で目覚めたその頃の地球に場所は移る。IS学園の林間学校に来ていた一年部生徒と、教師達がいた宿の1室。そこでは数人の教師達が居て、その目の前にあるのはISセンサーや通信機器と言った物だ。

 

 この日の前日、突如アメリカとイスラエルの極秘合同開発計画で製造されていた軍用IS『銀の福音』が暴走。暴走した銀の福音がIS学園の林間学校の宿泊先の旅館の周辺海域に通る為、銀の福音襲撃防衛及び討伐作戦に一夏・鈴・ラウラの3人が国の方から強制参加させられた。更に国家代表クラスの山田先生も自らもラファールのカスタム機で参加。

 

 作戦は途中までは上手くいった。しかし、突然複数の密漁船が作成領域内に侵入し、4人は密漁船の防衛に精一杯になる。そこを突かれSE量がその時最も少なかった鈴に銀の福音の特殊兵装『銀の鐘』が発射され、それから鈴を守る為一夏が鈴を庇い重傷を負った。そして、密漁船はいつの間にか消え、銀の福音も旅館の方角とは真逆の沖に向かった所を見計らい討伐メンバーも何とか撤退。

 一夏は意識不明の重体。その為緊急治療室(臨時で借りた部屋)にて治療。そして帰投した次の日の夜中の3時、突如として銀の福音が旅館方向に接近した。それに一夏を除く専用機持ちと山田先生が出撃。それから数十分後、突如旅館外から白式の反応が現れ、福音がいる方向に向かう......という事態が立て続けに起きていた。

 

 その為、教師達はあれやこれやと慌ただしく動いていた......そんな時だ。突然ISセンサーがビーッ!と鳴る。これは新たなIS反応が現れた事を示している。ある教師がなんだと思ってセンサーを見る。通常ISセンサーはその機体が持つエネルギーの量と機体全長によって表示される大きさが変化する。今この場にあるISセンサーは30km程の範囲なら問題なく捉える。しかし、今は違った。ISセンサー画面に映し出される反応は、30km圏内全てを塗り潰していた。

 

 

「ISセンサー画面全体にIS反応......ええっ!?それと、この反応って」

 

「どうした?」

 

 

 一人の教師の突然叫んだことに気付いたこの現場を取り仕切る織斑千冬が、その教員に尋ねた。

 

 

「破壊者の反応が」

 

 

 その時だ。旅館の外から轟音が鳴り響く。教員達は何事だと思い部屋の、丁度海が見れる窓を開けると──────────居た。

 赤黒の光をまだ薄暗い空に放つ、全てを滅する名を冠する人間とISの融合体。どうやら今の音で寝ていた生徒達や旅館の従業員達が起きた様で、教員同様窓を開けて殲滅を見ていた。

 織斑千冬は澪の視線がコチラに向けられている事を、何となく感づく......感づくと言うより殺意が向けられているからこそ気づいたのだが。

 

 

『おい』

 

「「「「!!」」」」

 

 

 IS専用の通信機から男の声......澪の声が響いた。

 

 

『俺は破壊

 俺は理不尽

 俺は怒り

 俺は憎しみ

 俺は狂気

 俺は悲しみ

 俺は、貴様らに終わりを与える者。

 俺は、貴様らに終わりを教える者。

 

 

 いつか、貴様らを殲滅してやる。覚悟しろ』

 

 

 そう言って通信は強制的に切られ、澪こと殲滅は一瞬の閃光と共に消え去った。ISセンサーで追跡しようとしたが、センサー画面にはエラー表示が出されており使用不可となっていた。向かった先は福音の所だろうと織斑千冬は分かっていたが、通信は一方的に切られているので連絡が出来ないことを悔やんだ。なら......

 

 

「葛城先生」

 

「あっ、どうしました?」

 

「────打鉄の準備を」

 

─────────────────────────

 

 あの光の翼を持つのがそうか。ノーネーム、コア人格とは話は出来たのか?

 

────はい。何とか暴走理由が判明することが出来ました。どうやら外部から後付けされた装置によって、強制的に暴走してるようです。

 

 

 付けられた云々の話は後からコアに聞くことにするが、福音の姿が情報とは違う......二次移行かあれは?

 

 

────いえ、あれは二次移行とは又違う主同様に異常移行です。

   

 

 暴走時に移行したのが原因か......それと、鈴達の姿を確認。織斑は......白式が二次移行したようだな。だが、既にSEは枯渇寸前、相変わらずだな。だが今はそんなことなどどうでも良い。俺がやる事は

 

 

『福音、お前を解放してやる』

 

 

 開放回線を最大量設定に変更。反逆する血の牙達を全機展開、腕部を砲撃仕様展開してOB起動。反逆する血の牙達にA.I.S.Sを譲渡。音速を維持し、超高速戦を仕掛ける。ノーネームは反逆する血の牙達のアシストを頼む。

 

────A.I.S.Sの譲渡を確認。

  ㅤ 行けます

 

 

 ノーネームの言葉の後、反逆する血の牙達が福音の銀の鐘に向けて突撃する。それは死を呼ぶ真紅の風。

 

 

 

『この場にいる福音を除いた全機体に連絡する。直ちにこの空域から退避しろ』

 

 

 織斑が何か言ってるが、血の牙に叩き落とされる。その時、個人間秘匿通信にて鈴から通信が来る。

 

 

『アンタ、一体どこ行ってたのよ!』

 

『それは言えんが、元気か? 』

 

『元気じゃないわよ!』

 

『そう言う割にはいつもと変わらんが?』

 

 

 澪はそう言いながら、復讐者の剣とアローで福音に攻撃を行う。光の翼の輝きが増し、銀の鐘の射撃量が増える。それに対して血の牙達が赤い壁となって打ち消す。

 

 

『本っ当に、アンタはいつもと変わらないわね。

 こちらの事はアンタに任せる。一夏と山田先生は私から話をしとくから......福音は頼むわ。流石に高火力機体じゃない私達じゃ落とせないのは明白だから』

 

『了解。では......『作戦後1回だけでもいいから旅館に顔を出しなさい』......ああ』

 

 

 澪はそう言って通信を切る。ため息をついて『出来たらな』と呟いたその瞬間、血の牙達を突き抜けて福音が澪に突撃して来た。

 

 

『接近戦か。ならッ!』

 

 

 OB状態で更に瞬時加速で福音に迫る。復讐者の剣を収納し、クローブレードを展開。展開し終えた瞬間には目の前に福音が居た。

 

 

『ラアッ!』

 

 X状に斬撃を放ち、更に蹴りで福音を吹き飛ばす。

 

『......っ!』

 

 

 続けて攻撃に移ろうとした時だ。どこからとも無く砲撃音がなって俺に直撃した。......IS委員会の船か。前回の作戦で乱入して来た密漁船はこれの事か!ついでに、IS委員会印のラファールに打鉄とテンペスタか。そして、福音の装置から発せられる電波があの委員会の船から発せられている事から犯人はアイツらか......ノーネーム、コア人格の回収頼む。それと福音に牽制を

 

────了解.....コア人格回収しました。

 

 

『《滅球》起動』

 

 

 俺は殲滅に新たに搭載された殲滅専用殺戮兵装《滅球》を起動させる。これは殲滅の手に超圧縮したエネルギー上の球体を大量に形成し、それを弾幕の様に相手に放つと言うものだ。爆発範囲は最小で直径50m、最大で5km程を一瞬にして灰に帰す。基本一度の形成で30程は出来るので高確率で相手を葬る事が出来る。

 無論、これは市街地では使用不可の兵装である。名前の通り完全に相手を葬り去ることを前提にされてるので、ホイホイと使えない兵装だ。

 

 

『ふん』

 

 

 薙ぎ払うかのように滅球を放つ。30程の球が委員会の連中達の方に向かい、赤黒の爆球を起こした。全て同じところに放ったので爆球は一つのみだが、連中はIS諸共塵一つ残さず消滅した。連中から見れば一瞬だろう。アイツらがこちらに何もせねば、未来は変わったのだろうがどちらにせよ俺に殺られていた運命だ。奴等だけは殺し尽くす......背後!?

 

────すみません、突破されました!

 

 澪がそう考えた時だ。背後から青白い光が放たれ、澪はそれを福音による砲撃だと気付く。その直後に背中に光の奔流が叩き込まれる。そのまま海に叩き付けられるが、光の奔流が止むことは無い。

 

 

『ゥゥゥラアッ!』

 

 

 真紅の光壁を螺旋状に展開する事により、光の奔流が周辺に逸らされる。殲滅になった影響で今まであった兵装が強化され、機関出力解放の影響で真紅の光壁は進化した。もはやそれは壁ではない、もっと上の絶対守護領域。さあ目覚めろ真紅の光壁......真の姿を見せろ

 

『解放......《真紅守護領域》』

 

 最早これに勝る守護はなく、暴力から守る為の怪物が持つ防御の真髄。 俺だけを守る為の盾ではない、せめて近くにいる者だけでも理不尽という名の暴力から守る為の守護の領域。実弾も、衝撃にE兵装も全て通さない......過去の経験からノーネーム達によって導かれた新たな守護専用兵装。

 澪を起点に、真紅の光の膜......詳しくは無限機関から発される超高密度エネルギー体の粒子が辺りに広がる。その影響で青い海が真紅の海に変貌していく。

 

『ァァアアア!』

 

 

 光の奔流を守護領域で押し返す。福音から見れば海が真紅に発光しているのが分かってるはずだ、だからこそ光の奔流は更に激しさを増す。しかし、光の奔流は全て澪に当たる事無く逸らされ、海中に霧散していく。

 澪は海中から脱出し、上空100m地点に居る福音に向けて飛翔する。天に君臨せし天使の様な姿をする銀の福音、それを狙うは真紅の光を纏いし殲滅の名を冠する者。澪は復讐者の剣を展開し、真紅の光壁同様に本来の姿に還す。

 

 

『《天啓の剣》起動』

 

 

 復讐者の剣が真紅の光に包まれ、その姿が変化する。刀身は真紅、それ以外は漆黒の剣。澪は天啓の剣にエネルギーを送り、真紅の刀身が赤黒く発行し刀身の周辺の空間が歪む。

 

 

『天から......落ちろォォーーーッ!』

 

 

 澪はそう言うと、福音の肩・太ももを高速で突き刺す。それで怯む福音を回し蹴りで吹き飛ばし、吹き飛ぶ福音の背後に回って光の翼を両断する。そして、脚のスラスターを悪魔の指で破壊する。

 

 

『ノーネーム、福音を操ってる後付け装置は何処にある!?』

 

────表示します!

 

 

 墜落する福音を追いながら、澪はノーネームに尋ねる。すると、福音の腹部の中央部分が赤く染る。その部分をよく見ると何かのチップらしい物が無理矢理付けたように存在していた。澪は天啓の剣を収納し、悪魔の指で落下中の福音を狙撃......見事命中して装置はボンっと音を出す。すると、福音の動きが止まり機能停止した様だ。澪は機能停止した福音を両手で掴み、先程の旅館に向かった。




次回予告

世界の歪みの元凶

それは一人の女性

ただ一人だけの肉親を守る為に

『平和』の世界を
『歪み』の世界に変えてしまった。

それを彼女は気づかない。
彼女はそれでいいと思っているから


それ故に、激昂する。

お前を許さない────と

次回=歪みと破壊と=


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歪みと破壊と

歪んだ世界が心地が良い

そう言うは女性主義者

心地が良い世界は滅ぶ

それは因果応報が故に

やがて起きる戦争

それは終焉を呼ぶ評決の日

ISが歪んだ根源的人物は────


 澪は旅館に着くまでの僅かな時間の中、福音のコア人格から件の経緯を聞いた。

 

 やはり、IS委員会が今回の主犯であった......と言うよりはあの場にIS委員会の連中がいた事で確信していた。

 福音(コア人格名)によると、元々この機体はイスラエルとアメリカによる秘密裏の共同開発という事になっていた。それもその筈、福音は端から軍用ISとして開発されていたからだ。アラスカ条約によりISの軍事目的使用は禁止されているので、そんな事がバレたら世界中から非難を浴びせられてしまうだろう......話が逸れた。

 この機密認定されている福音は、更に裏がある。計画を知る者には無人機として製造が続けられていたが、その計画を知るほんの僅かな者達の中の更にごく限られた者達によって『有人機型』の福音が作られていた。この有人機型の銀の福音を、亡国企業・福音のパイロットであるナターシャに送り戦力増大を図るのが今回の計画なのだ。

 今回この『無人機』の福音の計画がどこからか漏れ、試運転しようとした所を何処かのテログループに変装したIS委員会アメリカ支部の者達が襲撃。その時に後付けの装置を付けられたのが騒動の発端だった。福音はこの二つの機体のISコア内を行き来が出来て、尚且つコア人格自ら機体を操れるという特殊性を持っていた。コア人格がなんとか機体を止めようとしたが、止められなくて、暴走を続けた福音はそのままIS学園組と戦闘になったとの事だ。(コア人格は語る)

 異常移行の事は、攻撃に晒され撃破されそうになった時に無茶苦茶にコア人格である福音が機体を操っていたらなっていたという。いわいる火事場の馬鹿力というものだ。

 福音から後付け装備をつけられた時の映像と、装置の詳細についてのデータを送って貰った。旅館がある砂浜が見えてきた......福音、お前の抜け殻をあそこに投げていいか?見ればわかる────ああ......分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォンンッ!

 

 

 遠くの旅館から離れた砂浜に金属が叩きつけられる音が鳴り響いた。それと共に旅館の周りの木々からISが三機────打鉄が出現。成程、ステルス状態で待機していたのか。しかも、前にアリーナでコア人格を抜いた機体か。

 

 

『鈴には悪いが、こうなるのが分かってるからには行くわけにはいかん......消えろよ』

 

 

 俺は過去最高出力で悪魔の指を起動し、まずリーダー機であろう打鉄を狙撃。狙いは完璧、相手の反応は鈍く、速度も充分。既に必中の如く避ける術はない。

 

 

「グガァァァァ!?」

 

 

 悪魔の指は通常レーザー程度の威力だが、殲滅の最高出力ならば貫通性の『超』高い高出力レーザーとなる。最高出力の威力ならISの防御なぞ簡単に貫通する《悪魔の指》は、最高出力で相手を狙撃して葬り去るのが本来の使い方。今までは出力を抑えていたから死人が出なかったのだ。何はともあれ、まずは一機撃墜。

 悪魔の指の狙撃によってリーダー機である打鉄が、パイロットごと貫通し爆発四散。その取り巻きが俺に対して何か言ってるようだが......

 

 

『おいおい、俺は言ったはずだぞ?

 いつか、貴様らを殲滅してやるから......と。お前達は生かしておけんよ、一人残らずな』

 

 

 残った二機の打鉄が澪に接近。澪はそこから動くこと無く、二機を見ている。打鉄二機が近接戦闘範囲に入った瞬間、澪の背後から反逆する血の牙達が姿を現す。その数.....100以上

 

 

『逝けよ。逝っちまえ』

 

 

 真紅の暴流が打鉄二機を包み込む。包み込まれた二機は数秒の内に爆発を起こすことが出来ない程、細切れになりパイロットも絶命した。

 

 

『新たなIS反応......貴様が来たか、糞教師』

 

「貴様......!」

 

 

 新たなIS反応が出現と同時に、俺の目の前でソイツ────織斑千冬が近接特化カスタム機であろう打鉄に乗って現れた。異常に多いSE量は、おそらくエネルギーパックを複数......10以上搭載しているからだろう。さらに、見ただけで分かるほどの量の追加装甲。防御力増大の処置なんだろう。

 

 

『くく......忌々しい、実に忌々しいよ。織斑千冬』

 

 

 成すすべもなく惨殺され、残った機体の残骸を一瞥した織斑千冬が叫ぶ。

 

 

「貴様は己がやった事を理解しているのか!」

 

 

 ああ......五月蝿い、実に五月蝿いよ。俺がやった事?

 

 

『人殺し────復讐だよ。それ以外に何がある? 

 ええ?』

 

「貴様!」

 

『怒鳴るなよ......っと言うより、貴様らは充分俺に殺られる理由が出来てんだよ。あのタッグトーナメントの一件で、俺をその気にさせたんだよ。』

 

 

 そう言いながらも、織斑千冬は俺に対して攻撃を仕掛けていた。打鉄の近接ブレード《葵》を両手に乱舞の如くの猛攻、しかしてそれを天啓の剣で澪は裁く。時には蹴り、殴ると言う様々な攻撃を混ぜながらも攻めた。そう、攻めたのだ。それでも、澪に大したダメージを与えることが出来なかった。与えられたのは、無限に湧き上がるSEの一片と装甲中層部まで届くだろう斬撃だった。耐AIS弾仕様に加え、光線兵装や貫通系の武装でさえ傷付けることが難しいこの装甲に傷を付けたのは流石としか言えない。だが────

 

 

『貴様が』

 

 天啓の剣で葵を弾き飛ばす。

 

「ぐう!?」

 

 再度葵を展開して攻撃するが、それを弾く。

 

『お前達が』

 

 一撃一撃、弾く度に葵を曲げて折られていく。

 

「ぐうう!?」

 

 圧倒的出力から生まれる豪腕。出力制限の無いこの機体はISコアによって機体は進化、出力も上がり続ける。己の欲望で世界を滅びの道に導く、糞共は......

 

 

『俺達から未来を奪った。

 何が女のため、何が男は屑だ?

 愚かにも程があろう......!』

 

 

 そう言って織斑千冬が持つ両手の葵を、薙ぎ払いで砕く。すぐに新たな葵を展開した様だが、砕けさせてもらう......《反逆する血の牙達》解放ッ!

 

 

『《復讐者の剣牙》』

 

 

 真紅から漆黒に変わり、その牙は赤黒く染る。復讐者の剣牙を両手に取り、双剣の様に構える。織斑千冬は何かを決意したかのような表情をしたかと思うと、一つの長刀を展開した。

 それは白く、あまりにも有名な剣であろう......雪片だった。IS殺しとも言える兵器の原点を持ち出し、織斑千冬から放たれる殺気。それは全てを物語っていた。

 

 

『当時の倉持技研が現代における聖剣を作り上げようとした『現聖剣計画』。その絶対に折れない、壊れない、刃こぼれしない。それらを含み更にその斬れ味で全てを斬る聖剣《アロンダイト》を真似たというその剣は、全てを斬るという事によりIS殺しの能力を持つ《雪片》と日本初である単一仕様能力《零落白夜》を生んだ。

 つまり、それを出したって事は────俺を殺すんだろ?』

 

「貴様を野放しには出来ないからな......これ以上死人が出ない内に始末する。」

 

『ほう?教師としては無能だが、世界を歪ませるのはお得意のようで』

 

 

 その瞬間、重い金属音と衝撃波が二人を中心に響き渡る。左右の復讐者の剣牙で連続攻撃を繰り出し、打鉄の装甲を削り取る。無論本体にもA.I.S.Sを譲渡しているこの武器なら攻撃出来るが、出来ないでいた。焦れったい......そう思っていた澪の思考を鈍らせたのか、カウンターを喰らった。ついでと言わんばかりに雪片による攻撃で吹き飛ばされる。その攻撃は胴体部を表面部分だけだが、真一文字状に切り裂いていた。世界最強は本気で澪を殺そうとしていた。

 

 

『殺すか?殺すんだな!

 貴様らが歪ませたこの世界を、破壊できるこの俺をッ!?』

 

「貴様は一片たりとて残しはしない

貴様の方が世界を歪ませてるのだからな」

 

 

 そう言った瞬間、織斑千冬が澪の目の前まで移動していた。それに驚く澪に対して織斑千冬は先ほどのお返しと言わんばかり、瞬間的に最大まで力を上げて斬る。それに奇跡的に反応した澪は本能的に後ろに下がり、雪片は殲滅の脚部先を切断。さらに、その時に生じた衝撃と暴風が澪を吹き飛ばす。

 

 一方、澪はその言葉を聞いて笑っていた。腹の底から、盛大に笑っていた。織斑千冬は怪訝そうにしていたが、澪は笑いながら言う。

 

 

『俺が世界を歪ませる?ハハハ......ハハハッ!なんと滑稽な事を、貴様は実に笑いのセンスがあるな。

 貴様の言う俺が世界を歪ませるというのは、世界を元に戻すことだ戯けめ。結局貴様も、あの馬鹿共と同じだった訳か......女性主義者共とな。今の言葉でわかってしまったよ。織斑千冬』

 

 

 殲滅のデュアルアイセンサーが赤黒く光る。光は更に強みを増し、その光は動く度に空中に線を描く。

 

 

『それはいい事だ......元の世界に戻るということは、頭のネジが飛んだ馬鹿な女共の被害が減るのだからな。だがな────その前に俺が、俺達がその馬鹿共を一人残らず殲滅してやる。

 男尊女卑の時代より、この女尊男卑の時代の方が被害者は多い。それを知りながら、それでも尚貴様は......己の正当性を言うかっ!』

 

「なにを今更......!」

 

『そうか、なら────────逝けよ』

 

 

 一瞬だ。織斑千冬の視界には澪の姿がぶれた一秒にも満たない時間で、目の前に数十m離れていた所に居たはずの澪が滞空していた。次の瞬間、今度は織斑千冬が澪の蹴りで吹き飛んで海面に叩きつけられた。体制を整えようとするが、澪はそれを逃さず接近して天啓の剣による連続攻撃を放つ。一撃一撃が重く、その攻撃により二人の周りの海が大きく荒れる。

 織斑千冬が後方瞬時加速で距離を取りつつ、雪片を収納して代わりに葵を弾丸の如く放つ。飛翔する葵は風を切りながら、澪に迫るがそれを天啓の剣で叩き落とす。澪は瞬時加速で織斑千冬の目の前まで瞬間的に移動、それと同時にハンドクローブレードで突く......が、織斑千冬はそれを葵で弾いて軌道を逸らす。そして、足先に葵を展開して澪に蹴り飛ばす。超至近距離の葵による射撃は肩部装甲を抉るだけに終わる。

 そこで織斑千冬が、周辺に漂う膨大な粒子に気付く。双腕の破壊者の装備である全方位圧縮粒子衝撃波『エンドショック』が、織斑千冬を容赦無く襲う。それによって丁度近くにあった無人島の砂浜に吹き飛ばされた。そこを澪が強襲するが、雪片が澪を襲う。澪は天啓の剣を再度展開、二人の剣がぶつかり合う。

 

 

『貴様が......貴様が、全ての原点。この時代を作り上げた原点なんだよ』

 

「何を......!」

 

『とある学会にて唐突に発表されたIS。それを馬鹿にされて憤慨し、どうすればISの良さを伝えられるか考えていた開発者であり発表した当人である篠ノ之束にお前が言ったんだろ......『武力で見せつけてやれ』────と』

 

 

 澪のその一言に織斑千冬が強張る、それはほんの一瞬だったが澪にとっては隙だった。スラスターを全開にし、その勢いで砂浜の奥にある森に吹き飛ばす。しかし、瞬時にまた織斑千冬がやって来て鍔迫り合いが起きる。織斑千冬の表情は『なぜ貴様が知っている?』という顔だった。

 

 

『始まりのISコア二つが見ていたんだよ。『白騎士』と......そう、この『名前無き破壊者』のコア人格がな!』

 

「私は知らんぞ......あの時、当時ISコアは私が使った白騎士だけだったはず!束のあの部屋にも無かった筈だ」

 

『貴様が知らないのは当然。その時この殲滅のISコアはその特殊性故に、別の部屋に隔離されていた。しかし、白騎士のコア人格を通してその光景を殲滅のISコア人格が見ていたのだからな。

 

 

 

────────それと、白騎士だと認めたな』

 

 

 奴の腕に込められていた力が増した。奴の表情に、怒りが見えている......怒りたいのはこっちなんだがな。

 

 

『それは全ての始まりを迎える機体。白き騎士の名を持つ、世界に歪みを与えて世界を変えた機体。

 それは全ての終わりを迎える機体。それは危険性故に、隔離されていた。しかし、たった一人の男の無限に湧き上がる憎悪と怒りをしった篠ノ之束が、その男に向けた......たった一つの修正プログラムとも呼べる機体。

それが、俺達なんだよ......織斑千冬』

 

 

 澪は更に『お前達は篠ノ之束から、最悪として捉えられてるんだよ』と付け足すように言った。織斑千冬は衝撃を受ける。何故なら彼女は篠ノ之束が幼い頃からの親友と、信じていたからだ。彼女は考えた、確かに互いの事を親友だと......

 

 

『まあいい。もう話は終わりだ』

 

 

 澪はそう言って、天啓の剣に過剰とも呼べる程のエネルギーを送る。それによりその刀身が赤黒く光り輝き、雪片を両断した。IS神話を象徴する剣『雪片』は、今この場で斬られた。

 

 天啓の剣は織斑千冬が纏うカスタム仕様の打鉄の腕部・脚部とスラスター部分を破壊する。それと共に視界に表示されていた打鉄のSE量が底をついた。

 

 

『精神的強さは......俺達の方が上のようだな』

 

 

 澪がそのまま織斑千冬に止めを刺そうとした時だ。甲高い空気を裂くような音が辺りに響き、澪はセンサーでその正体を調べた。

 

 

『Fー15......自衛隊か!クソッ』

 

 

 自衛隊とは戦う意味が無い事を理解している澪は、目の前に居る織斑千冬を殺るのを諦めた。

 

 

『織斑千冬、覚えとけ......俺達はお前達に復讐をするとな』

 

 

 吐き捨てるかの様にそう言って、澪はその場から飛び去った。織斑千冬の打鉄はダメージレベルC-、とてもじゃないが澪を追うことは出来ない。織斑千冬は甲高いFー15のジェット音と殲滅から放たれる赤黒の光を見てるしか無かった。




次回予告

この世界が狂う

それは少しずつ

反逆の狼煙が上がるその日まで

剣を研ぐ

澪は新たな仲間と出会う

それは世界の希望


次回=合流=


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合流

俺は人間だ

だが化物でもある

それ故一人だった

だが......仲間が居たんだ


 あの場から離れた俺は、現在自衛隊のF-15が3機、自衛隊仕様の打鉄とラファール2機に追われていた。

 

 自衛隊:日本を外国からの武力による侵攻から守る為に存在する組織で、ISが世界の軍隊で主軸とされている中でも辛うじてIS出現前と同じ様に行動が出来ている。IS出現による軍人の大規模なリストラが行われたが、そうして軍から追い出されてしまった軍人達を日本の自衛隊が保護した。その結果、現在の自衛隊は世界各国の元エリート部隊や特殊部隊の者達が集まる正に世界最強の部隊となっている。

 普通なら仲が悪い国同士の者達は、互いに同じ境遇の者であると理解している為か喧嘩が起る所か仲良く日々訓練に打ち込んでいる。無論、自衛隊にも各国同様自衛の為のIS部隊が有る。そこ所属する者達は全員女性主義に染まってない者達で構成されているので、問題は起こっていない。それ故に、各国では行うことが出来なかったISと航空部隊、艦隊・地上部隊の連携訓練を行っている。

 

 

『くっ......完璧だ。完璧すぎる連携だな!』

 

 

 その為、完璧とも言える連携で俺を追っている。この時代において以前同様の自衛隊に対して、俺は攻撃が出来ない。それ故に乱暴な真似もできない。それ故に追いかけ回されている......あちら側もなんか嫌そうな顔してる。まあいい......どうすれば逃げれるかの方法は理解した。自衛隊の方は、あくまで牽制程度の攻撃しかしてこない。一応俺は全世界手配で、見掛けたら撃ち落としてIS委員会に引き渡すよう指示が出ているはず。それなのにこうして牽制程度の攻撃をしているのは、最初から俺を逃すつもりらしい。個人間秘匿通信で伝えておこう。

 

 

『ありがとう。そして、さらばだ』

 

 

 俺はOBを起動させ、自衛隊仕様の打鉄に接近。相手は初めて見せた反攻に身を構える。そう......これが逃走経路だ!俺は瞬時加速で加速中だったこの機体に更に速度を付け足す。あまりの速度に反応出来ない自衛隊達をハイパーセンサーで認知しつつ、そのまま振り切った。

 

 

 

「スゲエな......一瞬で消えちまった」

 

「こちらデルタ1より各機へ連絡。管制室から帰投命令が出ている。これより我が隊は帰投する。」

 

「「「了解」」」

 

 

 自衛隊を撒いて、現在また太平洋沖を飛んでる。ノーネーム、そう言えば確かマドカの個人間秘匿通信波数が登録されてあったよな?

 

────はい。

 

 ここから繋げることは出来るか?個人間秘匿通信がどの距離まで繋げれるか分からないから言うが。

 

────やろうと思えば、月に居ても出来ますが。

 

 出来るのか......って事は、この太平洋の何処か分からない所からでも繋げられるってことか?出来るのなら繋いで欲しいが。

 

────了解。繋げます

 

 

 それから数秒後に「榊澪か!?」とマドカの声が頭の中に響いた。

 

 

『貴様今までどこに行ってた!?』

 

『月周辺』

 

『月だと!?......いや、貴様等なら出来そうだ。一体どういった要件で掛けたんだ?』

 

『亡国が俺を保護しようとしているのは知っている......が、どうにもお前達の亡国の基地には行けそうにはない。どうにもIS反応が大き過ぎてバレてしまう』

 

 

 ISその物である俺はISセンサーに表示されてしまう上に、所持するエネルギーが多過ぎる為に通常より大きく表示されてしまう。さらに、ステルスモードを起動出来ない為に地球上の都市部や人の居る所では長期滞在が出来ない。もしも亡国の基地に長期滞在し、IS委員会の連中にそれを知られれば面倒臭い事になるのは目に見えている。だからこそダメだ。善意による行動だってことは理解できるから、被害を出すことになることからダメだ。

 

 

『だけど、何かあれば俺の個人間秘匿通信に繋げてくれ。地球上なら何処からでも俺に届く』

 

『.....分かった。榊』

 

『ん?』

 

『私達はそばに居る。』

 

 

 途切れたか。そう言えばノーネーム、この機体は深度何mまで耐え切れる?

 

────機体そのものの耐久値としては50、守護領域を使えば200程の深さなら耐え切れます。しかし、何故?

 

 今から海中にこの身を隠す......と言っても、また暫くすれば動く。その間、この世界における反女尊男卑勢力に声を掛ける。俺が暴れても良いが、奴らの事だから本気を出せば国の一つ滅ぼす気がある。宇宙にいた頃に見たIS委員会の持つ兵器は、化学兵器・殲滅兵器・大型質量兵器・戦略兵器......さらにEN兵器に核兵器と言った大量殺戮兵器類がある。

 上手く女性主義者による軍部侵略で、軍人のリストラに従来の兵器のほぼ全てを自分達に横流し。それによって自分達に反逆するだろう勢力の減らし、代わりにISを入れる事で女性の優位性を高めていた。女権団やIS委員会の本部周辺から以前から工事されているのは、そう言った兵器の設置作業の事なんだろう。表側では道路整備とか言っているが......っと、話が逸れたな。

 

 つまり、俺単体だけで本部襲撃は不可能だから他勢力との連携が必要になるという事だ。女権団とIS委員会の支部は大国にだけ設置され、ほぼ全ての支部にISが一機配置されている。そこで役に立つのが......

 

────亡国と鬼兵軍ですね?

 

 ああ。亡国が持つISとISの無人機、鬼兵軍が持つ魔改造とも呼べる大量EOS。彼等の協力が有れば各支部の占領はすぐ出来る。女権団や委員会はISを持って纏おうが、支部連中なら確実に勝てるレベルだろう。ノーネームが見せてくれたパイロット情報を見れば、戦闘に慣れてない連中だし。

 

 だが、国家代表クラスのパイロットが複数居る本部はそうはいかない。恐らくISの競技仕様から戦闘仕様に切替えてあるはずだ。そこまで行くと俺が出るしかない。

 そう話していた時、突然IS反応が確認された。距離的には1kmも無い距離だ。IFFは......味方表示?どういう事だ?

 

 

 戸惑う澪を他所に、とりあえずその場に留まり接近する機体を見る。ソレは全身が銀の装甲に、天使を模しただろう非固定浮遊部位。特徴的な全身装甲の機体......余りにも見覚えのある機体が澪の前に飛翔した。

 

 

『銀の福音......だと!?』

 

 

 銀の福音────つい先刻まで戦っていた機体だ。

 

 

『貴方が破壊者?』

 

 

 澪は突然放たれた声に驚くが、本来の有人機型の福音である事を理解する。

 

 

『あ、ああ。俺が世間から破壊者と呼ばれる者だ』

 

 

 そう言いながらも、澪はすぐ様戦闘を行えるよう身構える。澪は内心冷や汗をかいていた......なんせ、目の前の福音────そのパイロットの声からは恐怖や余裕、さらには慢心と言った感情が感じられないのだ。そんな澪に気付いたのか『そんなに警戒しなくても良いわよ』と福音のパイロットが声を掛けた。

 

 

『私はナターシャ・ファイルス。亡国企業アメリカ支部所属、銀の福音のパイロットよ』

 

『成程......マドカから連絡を受けたな?』

 

『そういう事よ。丁度貴方が私達の移動基地から近かったから、保護しに来たわ』

 

 

 澪はその言葉を聞いて辺りを見渡すと、南東の方角3km先程離れた所の海上に筒状の何かが顔を覗かせていた。

 

 

『アレは亡国が開発したIS反応を、完全に隠す事が出来るISRD(Infinite Stratos Reaction Deception/IS反応欺瞞)ステルス潜水型戦闘艦『ゴースト』の一番艦の出入口よ。これで貴方のIS反応を隠せる。何はどうあれ、貴方が海中に身を隠す前に保護できて良かったわ』

 

『成程......って、何故それを知ってる』

 

 

 そう言うと、ナターシャは「この子がね」と言いながら自分に指を向ける。成程、福音が教えてくれたのか......

 

 

『兎に角、あとの話は艦内でしましょう』

 

『了解......ナターシャさん』

 

『さん付けじゃなくていいわ』

 

『了解』

 

 

 二人はそうやり取りをして、ゴーストに向かって行った。澪とナターシャは機体を解いて潜水艦の入口から中に入る。澪は余り潜水艦の事などせいぜい中が狭いぐらいしか思っていなかった。否、普通はそうだ......だが、このゴーストは違った。中は以外に広く、入口から梯子を使っておりた先は巨大な格納庫だった。

 そこには十数機のEOS(魔改造された物)がハンガーに掛けられていた。どれも通常のEOSより二回り程大きく、中にはガチガチのタンク型も存在していた。ナターシャに聞いた所、これは支援型とかでは無いとのこと......恐ろしい。さらに武器腕と脚部自体がスラスターというなんとも言えない機体もあり、それは艦長専用機らしい。

 そして、このゴーストはEOSと銀の福音を戦場近くまで運用する専用艦との事だ。戦闘の際はどうやって出撃するのかと聞いたら、垂直型のカタパルトと通常のカタパルトで出撃を分けているそうだ。ナターシャに着いて行くこと十分足らず。作戦司令部と書かれた部屋に着いた。ナターシャが「入って」と言ったのでノックをし、中から「どうぞ」と何故か聞いた事がある声が返ってきたので入った。

 

 

「貴様が榊澪か。

私の名は......そんなの言わなくたって分かっているか」

 

「マドカ?」

 

 

 作戦司令部と書かれた部屋には、何故か先程まで話していたマドカがいた。あとナターシャ同様金髪ロングの女が、口を大きく開けて固まっている。それと明らかに艦長だと思われる初老の男性が一人。

 

 

「ようこそ『ゴースト』へ......私が艦長のアルベルトだ。艦長だがEOSで前線に出ている事もある。君の活躍は耳に入って来ているよ」

 

 

 っ!この人も轡木さんと同じような覇気を持っている。年齢に不相違な体付きで、服の上からでも分かるぐらい筋肉が付いている。IS能力無しで生身で戦って勝てないと、脳がハッキリと自らの敗北を分かっている。

 

 

「きょ、恐縮の言葉です」

 

「ふむ......君は常に身体に力が入っているようだね。それが無くなれば、今以上に動けるようになる。」

 

「は、はい。」

 

 

 凄まじい位の覇気を持っている。それ故に今も身体がピリピリと痺れる様な感覚を襲うが、目の前のアルベルトさんはニコニコとしている。これが表と裏の人の差か......だとすると轡木さんは────まさかな。いや、刀奈や虚さんといった裏の人達が居るから可笑しくはないか。そうこうしていたら「オッホン」とアルベルトさんがそうやったので、何かしら話すのだろうと思って姿勢を正す。隣に居たナターシャも姿勢を正していたし。

 

 

「榊くん。我々亡国企業アメリカ支部『ゴースト』隊は現在この世界各地の海に存在するというIS委員会の人体実験施設を探し、その施設の破壊と被検体となっている者達の救出作戦を展開中である。」

 

 

 IS委員会の人体実験施設。以前からネット界で、世界各地の海にあるという施設でIS委員会が非道的人体実験を行っているらしい......という噂だ。だが、それが今この場で本当にあるのだと分かった。

 

 

「一つよろしいでしょうか?」

 

「何かね」

 

「具体的にはどんな事をしているのか......そういうことは分かってるのでしょうか?」

 

「それについては......」

 

 

 アルベルトさんは何処からリモコンを取り出し、何かしらのボタンを押した。すると、ホログラムの......何かしらの研究文やら画像と思われる物が映し出された。タイトルは......『IS兵装融合型人間兵計画』

 見ただけで猛烈な怒りを覚えたが続けてみて見ると、被検体────被害者は全て10代の子供。男女関係無く人種も様々で、20歳より上の人間は居ない。画像には小さな......10歳ぐらいの子供だろう。右腕がIS独特のフレームとアームに変貌している。

 

 

「あの糞共が......!」

 

「これが、IS委員会の人体実験施設で行われている事だ。人間にISの部品を無理やり取り付け、IS融合兵士という形で兵力増産を図っている。まあ......ここにいる大半がその被験者という名のIS融合兵士なのだがね」

 

 

 そう言うと、アルベルトさんは服を突然脱ぐ。それに驚いたが更に驚いたのは......胸の中央部に埋め込まれていたISコアだった。

 

「私はその中でも直接ISコアを埋め込まれ、君のような存在を作り出す『完成体』の実験被験者でね。ISコアこそ同調したが、完成体にはならなかった被験者だ。ほぼ君と同じ存在だと思ってくれればいい。」

 

「俺と同じ......」

 

「君はハンガーに腕が武器腕で、脚がスラスター型のEOSを見たかね?」

 

「あ、はい。」

 

「アレは私のもう一つの体......君で言うIS体みたいなものだよ。私はISコアに同調しただけで、融合とはならなかったから不完全という訳だ。その為、機体と私の身体は分離しているがね。そして、私はISの能力のみが使える身となりあとは君のように成長が止まった体になったのだよ。」

 

 

 澪はその言葉を聞いて安堵の気持ちを抱いていた。己だけでは無いのだ、この人間とは言えないモノが自分以外にも居ることに安堵を抱いたのだ。しかし、こうして言い方は悪いが......一応の成功体が居るのなら、既にIS委員会にも成功体のIS融合兵士が居るのでは?澪はそう考えていた。

 

 

「君も察しているようだが、既に委員会にも『一人』だけ......我々よりも、君よりも上位のIS融合兵士がいる」

 

 

 最悪の結果だ。敵側にも成功体が居るということは、IS融合兵士であるアルベルトさんや俺に対して有効打を与えることの出来る武装や機体に乗っているかもしれない。さらに俺達よりも上の存在......か、想像がつかないな

 

 

「委員会側のIS融合兵士は君が良く知る人物だよ。」

 

「俺が?」

 

 

 生憎澪には委員会側に知る人物なぞあまり居ない。情報として知っているとしたら......委員会の最高責任者兼最高権力者である────まさか!?

 

 

「そう。IS委員会最高責任者『霧崎千切』がIS融合兵士であり、隠されているが君の街を襲撃したテロリストの首謀者だ。」

 

 

 ピシッ

 

 

 俺の中で何かにヒビが入る様な音が鳴る。五年前のテロ......アイツが、アイツが!

 

 

「熱っ!?」

 

 

 アルベルトは急変した澪を見て驚きを隠せない。一目見れば怒っているのは分かるが、その怒りが周辺に影響を与えているとなれば別だ。澪のそばに居たナターシャは無論、部屋に居たマドカさえもアルベルトの側に移動していた。

 澪の怒りは熱となり、その熱は周辺の空間さえも歪ませる程のものとなった。アルベルトはここまで怒ることに理解は出来るが、だからと言ってこのままという訳にはいかない。

 

 

「落ち着かんかっ!!」

 

「ッ!?」

 

 

 澪はアルベルトの怒鳴り声に正気を取り戻した。たちまち澪から放たれる熱は霧散し、歪みも消え去る。

 

 

「今はもう伝えることは無いので、とりあえずこの艦内の案内をナターシャから教わるといい。ついでに君の部屋の案内もしてもらいなさい。」

 

 

 俺とナターシャはアルベルトさんの言葉を受け、部屋を退室した。退散して暫くした時に個人間秘匿通信で『夕食後にハンガーに来るように』と連絡が来た。




次回予告

君は何を思う?

この腐敗した世界を壊す

君は世界と契約するのか?

この身で出来るなら永遠に渡り

君は────最後に何を望む?


次回=果ての世界で何を望む?=


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果ての世界で何を望む?

どうも長らくお待たせ致しました。
少し、仕事と事故に巻き込まれて執筆時間が無くなってしまった為ここまで時間がかかってしまいました。
明日、もう1話投稿します。

それでは本編、どうぞ
────────────────────────



世界の下僕となろうと

永遠の戦いに身を任せようとも

弱者の怒りがある限り

我が身は敵を撃ち砕く


 艦内の案内と自室の案内をされ数時間。夕食時になり館内にいる人々が食事の為に、食堂に集まり食事をしている頃澪は一人格納庫に向かって歩いていた。

 

 澪は別に食事等は必要としない身体となったが食事は出来きて学園にいた頃、一応食事はとっていたが宇宙で目覚めた以降身体が食事を受け付けなくなった。

 ノーネームに聞いた所、どうやらIS体と人間体の同調率が問題との事だ。一応今まで同調率は90%をキープに、感情の高まりで100%となっていた────が、それは『名前無き破壊者』の時だ。名前無き破壊者の異常移行によって誕生した『殲滅』の同調率は、常に100%オーバーなのだ。つまり、完全に想定外のことが起きておりノーネーム達も対処不可の為に直すことが出来ないとの事だ。食べることは出来るが、なぜか胃の中で残り続ける。結果、永久に食事をとる機会が失われた。

 

 

 この基地の戦力であるEOSがあるハンガーに到着。澪は機体でも見るかと考えていたら、背後から「やあ」と女性の声が聞こえた。気配無し......敵か?と澪は考えた。

 だが澪の体は反射的にPICを応用した裏拳で背後に向かって攻撃してしまった。ヤバイ......そう思ったが、背後にいた女性は「おっと」と呟いてそれを簡単に片手で受け止める。背後を振り向くとそこには己の拳を受け止める女性が一人。女性は紫色の長髪に黒いスーツ姿で、穏やかな表情をしながらこちらを見ていた。

 その声と特徴的な紫色の長髪に澪は気付く。

 

 

「やっぱり凄いね君は」

 

「......篠ノ之束」

 

 

 IS────『Infinite Stratos』を開発した天才or天災こと『篠ノ之束』その人が澪の目の前に立っていた。澪は己の目の前に立つ束に対して、隠しきれぬ怒りが湧き立つ。

 

 

「こうして直接会うのは初めてだね榊君」

 

 

 澪は拳を下げ、束の言葉に「そうだな」と言う。

 

 

「俺は思いもしなかった。

あの地獄を知る者が俺以外にいた事、あの地獄をISを通して見ていた者が居たことが」

 

「あの子達────コア人格達が教えてくれたんだよ......『恐ろしい男の子が居る』って。

私も最初は理解出来なかった。だって、生身の......まだあの頃小学生だった君にあの子達は恐怖した。有り得ない事だけど、ISにある電脳ダイブ技術で見て分かったよ。

 君の────その身に宿る常を超えた感情の力が、その力を通した激しい『怒り』があの子達を、私を恐怖させた。束さんは細胞レベルで最強規格なのに、あの一回で私は君に恐怖した。そして、我が子当然のISが世界に何を与えたのかもその時になって『初めて』理解したよ。」

 

 

 澪は『常を超えた感情の力』という言葉に首をかしげた。感情が力になる────それは『怒り』なら力が、『冷静』なら判断力・感覚と言ったものが挙げられる。だが、それは常である。目の前にいる束は『常を超えた』と言っている......それ故にいまいちピンと来なかった。

 

 

「君の専用機────元は『名前無き破壊者』、それに搭載されている私が制作した感情の力を引き出すシステム『feelings. control. system』がまさにそれ。上手い具合に隠してあるから、気付いてないと思うけど。

外部的には言えば、機体各所にある発行部分がそのシステムと連動してるよ。ついでに『A.I.S.S』もね」

 

 

 俺はすぐ様ノーネームに確認させる。瞬時に 『有りました。こんなに上手く隠れてるとは』 とノーネームが言っていたので、余程上手く隠していたのだろう。というか、さり気なくこのシステムを作ったと言ったなコイツ。

 

 

「名前無き破壊者を作ったのはAE社と表示されていたが、まさか......」

 

「うん。AE社もそうだけど、その機体製造には私も参加しているよ。

表沙汰になると困るから製造標記はAE社になってるけど」

 

 

 やはりそうだったか。名前無き破壊者の性能は一次移行する前までは普通だったものの、一次移行してからは異常過ぎる性能だった。『契約 』の件もそうだが、無限機関もこのシステム、なおかつ『無世代多進化型』ISなんて聞いたことも無かった。そんな機体を作れるのはコイツしか有り得ないと思っていたからある程度は分かっていたが......だが

 

 

「それも────贖罪の一つか?篠ノ之束」

 

 

 俺が聞きたいのはそれだ。コイツは以前マドカから己の犯した罪を償う為に、亡国に所属していると聞いた。ノーネーム達が、名前無き破壊者が何故か俺に渡ったのも、俺が何故かISを動かせるのも篠ノ之束の贖罪の一つなのか?俺はそれが知りたい......知らなければならない。

 

 

「うん......これも、贖罪の一つかな。」

 

「そうか......なら、もう一つだけ聞く。

俺がISを動かせるのは何故だ?」

 

 

 名前無き破壊者がクラス代表決定戦時に、厳重拘束されていた部屋から脱出。その後、俺と契約した時のことだ。

 ノーネームは俺に対し、何故主であるかを説明してくれた。俺が主である理由......それは『ISが認め、創造主によって決められていた』からだった。しかし、それでは『俺がISを動かせる理由』にはなってはいない。

 

 

 

「あの子達......ISコア人格達が君に感化されたからだよ。

ついでに教えとくけど、女性にしか動かせない理由はちーちゃん......織斑千冬の思考にNo.001白騎士のコア人格が感化したからだよ。

『女性にしか動かせなくていい』ってね......あの時、まだ学生だった頃のちーちゃんはいっくんを守る為の力が必要としてたからそう願ったんだと思うけど」

 

 

 願いが歪んだ結果、望んだものが歪んで今に至ったか。それにしても......感化された、か。超能力じみたものだと思って馬鹿らしいと考えたが、ISが持つ能力だって超能力じみている。俺の体だって普通の人間から見れば化物だ。

 

 

「榊君。これで私が君やISによる被害者達から許されるとは思ってないけど、私は.....今度こそ正しいことをしてるのかな?」

 

 

 そう言う束の右手が震えていた。

 

 天才故に、常識より非常識的思考故の言葉なのだろう。『白騎士事件』もそうだが、己が信じるISを作った結果が世界を歪ませたのだ。これでも無い、あれでも無い......と、目前に立つ束は言葉通り贖罪の為にその天才的頭脳を持って考え抜いたんだろう。それ故恐れている......また、もしかしたら己の手で酷い事が起こるのではないのかと。

 

 

「アンタがそう思うだったら、それでいいと思う。己が正しいと思う行動をしてると、そう考えたのなら最後までやり通せ。」

 

 

 俺には今コイツのやってる事は正しいとは思っている。だが、数多の人々がそれをどう思うかは分からん。だからこそ、俺はこう言った。贖罪の形は人によって変わるもので、その人が贖罪だと思った形で償うのなら俺は何も言わない。

 

 

「────うん。ありがとう」

 

 

 束はそう言ってペコリとお辞儀した。その時の表情は何処か、晴れ晴れとした表情になっているように澪には見えた。

 

 

「うむ。どうやら悩みが消えた様だね篠ノ之君」

 

 

 また背後から声が響いて今度は何だと思った澪は、その声の主を思い出した。

 

 

「艦長っ!?」

 

「今は休憩中だ。アルベルトで構わんよ」

 

 

 驚く澪を他所に、「君が篠ノ之君と話している途中から既にいたよ」とアルベルトは言う。束は慣れたように「君も大概人外だよね」と言っていたが、澪はお前ら同じだ馬鹿野郎と心の中で叫んだ。

 

 

「篠ノ之君は食事を済ませたかね?

 まだなら早く食べて来なさい。」

 

 

 アルベルトの言葉に「げっ!?」と呟く。次の瞬間には俺の目の前から凄い速さで恐らく食堂に去っていく篠ノ之束の姿が映っていた。

 

 

────────────────────────

 

 あれから俺はアルベルトさんと共にとある機体の目の前に来ていた。それはこの艦に来た時にも見た変態じみたトンデモ機体である......アルベルトさんの機体だ。

 

 

「────さて、調子はどうだ『幽霊』?」

 

 

 アルベルトさんがそう言うと『調子は良好です艦長』と機体から声が発せられた。

 俺の場合は頭の中に直接ノーネーム達の声が響いてるので、機体から声が出る光景には大変驚いた。

 

 

『そこに居るのは......昼間に私を見ていた人ですね?

 私の記録によると今日初めてここに来たと言うことで、自己紹介した方がよろしいですか?』

 

「あ、はい」

 

 

 戸惑う澪はそう言うと、幽霊と呼ばれた機体が『名乗らせて頂きます』と言う。

 

 

『私は EOS/IS―001 特殊機動型『幽霊』Ver.2.5。ISコア名がゴーストの為、皆からはゴーストと呼ばれてます。

 搭乗者及び同調者はアルベルト・マックール艦長

 私達の同類に会えた事に嬉しく思い、これから同じ戦友として仲良くしたいと思っています。』

 

 

「────と言うように、コイツが私の相棒でありもう一つの体であるゴーストだ。」

 

 

 驚いた。アルベルトさんからはEOSだと聞いていたが、実際はISとEOSの半融合的機体だった。まず『EOS/IS』なんて形式は聞いたことが無い。

 

 澪の考えを他所に、アルベルトは「君は......」と喋り始める。

 

 

「知ってるかね?

この世界には一定以上の強さを持つ者達が、世界の意思のもとに下僕になると」

 

 

 唐突な話に頭が追い付かない。世界の意思の下僕?初めて聞く言葉に澪は頭の中が混乱する。 一体何ですか、それは?と澪が尋ねると、アルベルトは重大な事だと言われて失礼だと思ったがそれでも訪ねた。

 

 

「それは俺に関しての事なんですか?」

 

 

 失礼だと理解しているがそれでも澪はそう尋ねると、アルベルトは「君の未来が関わってくる話だ」と言うのを聞いて澪は黙って聞くことにした。

 

 

「これは数年前の事だ。突如、過去に世界で活躍した既に亡くなった偉人達が時折現れるようになったのだよ。」

 

 

 はっ?そう澪は頭の中で呟き、それは死人が復活している事なのかと同時に考えた。

 

 

「我々亡国は、その異常事態を重く捉え、自体の早急な収束をつけるため活動をした。そして我々はついにとある人物により、世界の下僕......守護者を名乗る人物と接触した。」

 

 

 アルベルトは言う

 

 

────それは偉大な事を遂げた者達

 

────死後、もしくは生前に世界に契約した者達

 

────英霊や守護者と呼ばれし者達

 

────死してなお続く永久の戦いに身を置く

 

 

 

「それが今年、君の存在が世間に広まるとその存在の目撃例が急激に減少して、遂には完全に途絶えたのだよ。つまり、その存在に君がなりうるということ私は考えている────そして、それが本当にそうだと思えてしまう。なにせ、今年に入ってから織斑一夏と君の存在が出た後、世界は動き始めた。遂には君を中心として物事が進み、世界が本来あるべき姿に向かって突き進んでいる。」

 

「そこから導き出した私の考えを言おう。

 君はこの世界において今一番重要な役割を果たしているとも言える存在として、世界に認められているのかもしれない。ここまで個人の動きで世界情勢が、風潮が動く事なんてまず有り得ない。それこそこの世界における『意思』が働いているとしか考えられないのだよ。

 もし、今のISによる騒乱が終わったとしよう。その世界の『意思』が英霊や守護者と言った者達と同じように君をその存在にさせるとしたら君はどうする?

 まあ......人々は君を英雄と生じるだろう。」

 

「世界の意思がどうだかは知りませんが、もう俺に残された道は戦う以外ないんですよ。それによって救われる人達が一人でも居るのなら俺はそれでいい────そう思ってます」

 

 

 澪の返しは早かった。迷いなく、それでいて自分がやるべきと思ったことを言ってるのだと理解している。それを聞いたアルベルトは呟く。あの男の言った通りだと。

 

 

「あの男?」

 

「私が会った守護者と呼べる存在だよ。その男は正義の味方になりたくて人助けをして、正義の味方なんて居ない事に気付いたと言っていた。

 そんな彼は君の事を『正義の呪い』と言っていたよ」

 

 

 『正義の呪い』......それを聞いて澪は口に出さずに頭の中で言う。

 

 

「世界が君を『正義の味方』や『英雄』としての存在にし、その者を中心に無理矢理でも今の世界を修正させようとする『呪い』と彼は言っていたよ。」

 

 

「例えそうであったとしても、俺は俺がやるべきことがあらならそれを成します。呪いであろうとも、それがやるべき事なら」

 

 

 アルベルトは自分が話した事、それを聞いて言った澪の感想を頭の中で考える。アルベルトは澪に対して己がやるべき役割を『その考えを振り返えさせる』ものと捉えていた。世界が澪を中心に動いてる、これは今まで起きたことからすればもう抗えのない事実。そんな存在にアルベルトは『なぜ私みたいな老人がと』考え、老人だからこそ......この場に居る中で一番長い時を生きる者としてその機会を与えるのが世界の『意思』なのだろうと結果づけた。

 澪に対してアルベルトは言う。

 

 

「君がそれを願うならそれでいい。

 だけど君みたいな若者が、わざわざ血塗られたらこの道に入って来ない事を私達は望んでいる。

 君が決めたことなら言わない......だけど、辛くなったら逃げたっていい......これは私達、今の時代を作った者達が背負わねばならない罪だ。本当は君一人に背負わすことが許されない事なのだ。

 君達に擦り付けてしまった我々大人の罪......君が、何時か辛くなった時は全てを捨てて逃げていい。それもまた私達が作ってしまった君ら若者達が生きる未来に残してしまったのだから。」

 

 

 アルベルトは「私はこれで失礼するよ」と言ってハンガーから去っていった。

 

 

 

 

 

 

────主

 

「......」

 

 

 後悔が無いように。アルベルトの先を生きてきた者としての、重い言葉が心に突き刺さる。誰もが後悔して生きてきた。 戦いの道に自ら飛び込もうとしている澪に対し、既にその道に入っている者としての助言。それ故に澪は今もう1度考えている。

 例え本当にそうだとし、例え命を落としたとしても。それが強いられたとしても。

 

 

────我々は主がどんな道を選ぼうと、例え滅びの道を選んだとしても最後まで居ます。逃げたって、我々は最後までついて行きます。

    そして、その決断は少なくても直ぐに来る様な事ではありません。故に、今はまだ焦らずゆっくり考え下さい。

 

 

「......確かにそうだな。ありがとうノーネーム」

 

 

 いずれその時が来て最悪な結果を選ぶことになったとしても、己の考え持ってその時は決断する事を澪は決意したのであった。




次回予告

最悪を打ち砕く

我々が撃ち砕くべき敵

かの最悪を我が身の力で

助けねばならない

主の仲間を


二つの流星が空を翔る


次回=天を翔ける流星=


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天を翔ける流星

次回は明日と言ったな。


あれは嘘だ

────────────────────────


湧き上がるこの気持ち

憤怒の炎を止めることは出来ぬ

一度湧き上がったこの炎

焼き尽くすまで止められぬ


 電子の星で照らされるコアネットワーク。その中でも我々の母か、主しか知っていない『深層コアネットワーク』に私────名前無き破壊者は居た。深層コアネットワークの電子世界以上の超高密度演算とも呼べる世界。ここは現実世界とは数倍の時間が流れる特殊空間であり、入れるのは私を作った母か主だけだ。だからこそここの存在は公になっていない。

 そんな私の真横の空間には忙しく動くタイマー、そして正面には仰向けて倒れている我々が愛すべき主が居る。私を含めた周囲の地形は斬撃や爆撃によってボコボコに凹んでいた。

 

 

「主、あの......大丈夫ですか?」

 

「大ッ、大丈夫だ」

 

 

 今現在、現実世界では午前三時。通常パイロット達はまだ寝ている時間だ。しかし、澪はノーネームに頼んでここで稽古をつけてもらっていた。

 澪は殲滅になってからノーネームから行く事を許され、宇宙空間に居た期間ノーネームやその他の人格達からの稽古を受けていたのだ。

 

 

「ふぅ......。やはり強いな」

 

「最終手段で単独行動と戦闘技術がインプットされてますから」

 

「インプットだけのレベルじゃないぞ......これは」

 

 

 そんな時だ。澪の目の前の空間に『WARNING!』と表示されたワイプが表示された。

 ノーネームはそれを見て「主の意識を現実空間に戻します」と言うと、澪の姿が分解されこの場から消えた。主の意識データを少し見て緊急招集があったらしい。

 

 

「主の全体的能力の向上を確認。

機体の性能及びシステムのアップデートを開始」

 

 

 一定時期でノーネームが主である澪に合わせて、機体の性能調整を行う。その為、日々この『殲滅』は更なる進化を果たしている。止まることのない無限の可能性────それが無世代多進化型の由縁だ。

 

 

「おっす」

 

 

 そんなノーネームの背後に元『流星の破壊者』の人格である流星が現れ、それに対してノーネームは「なんですか?」と尋ねる。

 

 

「例の『決戦装備』は完成したのか」

 

 

 ノーネームは流星の言葉に絶句した。何故ならそれはまだ誰にも言えない、ノーネームが開発しているこの機体の全ての力を込めた殲滅専用装備だ。

 

 

「何故、貴方が知っているのです?」

 

「なーにそんなの簡単だ。この機体の拡張領域に『変な物』が構成されていたからな」

 

 

 ノーネームは流星が拡張領域の管理役だと言うことを思い出す。それに「そう言えばそうだった」と一人呟く。

 

 

「『殲滅』......ついこの間、機体になってから深層コアネットワークの立ち入り許可。更にはそこでオレ達による強化稽古。

 更にアレを作ってる時点で、お前が何をしようとしてるのかは分かってる。

『アレ』は、オレ達の総意をもって破壊しなければならない。」

 

 

 その言葉が、その場に静かに響いた。

 

 

 

────────────────────────

 

 意識が戻る。瞬時に周辺情報がノーネームから提供、意識と体の同調のズレを修正する。すると、個人間秘匿通信でナターシャから通信が入り、すぐさま通信を繋ぐ。

 

 

『澪、聞こえる!?』

 

『どうしたんですか?』

 

 

 ナターシャの声が慌ただしい。よほどの事なんだろう......なんだろうか

 

 

『貴方が通ってたIS学園から、緊急の救難信号を受け取ったのよ! それと同時にIS学園は女性主義者と女権団によってに占拠されたわ。

 詳しい内容は昨日教えた作戦室で、パイロット達は5分以内に集合する命令が出てるから急いで!』

 

 

 頭が鈍器で殴られたような衝撃に、その場でフラつきそうになるが堪えて『了解』と返事をして通信を切る。

 

 

 「諸君、緊急の依頼だ。

 依頼主はIS学園の学園長である轡木十蔵 、依頼の内容は轡木十蔵及びその妻、更に数十人の教員生徒達の救出である。本人からの連絡がこれだ」

 

 

 あれから数分、俺は五十人程の人が入れる作戦室にて艦長からの説明を受けている。アルベルトさんは作戦室にある超大型スクリーンを起動させ、映像を流す。映像には何かしらの装備を纏う轡木さんの姿が写っており、時折爆音が聞こえてくる。まず何で亡国の事を知っているのかが不思議だが

 

 

『妻と、生徒達の救助を依頼したい。現在、IS学園は学園内に居た女性主義者達と女権団のISと兵士達により攻撃を受け、占拠されてしまいました。IS学園にある特別施設にいた私と妻、それに非女尊男卑の職員と生徒を含む者達は緊急用地下シェルターに退避しています。

 我々も専用機持ちがいる為今は持ち堪えていますが、敵勢力の圧倒的数に押されています。』

 

 

 その時、一際大きい爆音が鳴り響いた。それに対して十蔵は「さて、私も行かなければ」と呟いた。

 

 

『私達が避難した地下シェルターが敵勢力に知られ、今現在専用機持ちと、一部の者達によって抵抗を続けています。シェルターの場所はこの通信データと共に送ってあ......(ドオッ!)』

 

 

 通信は今の爆音を最後に途切れた。

 

 

「位置情報については各機体に送信する。

作戦開始時間は0430より、各パイロットはそれまでに機体のチェックをし待機。解散ッ!」

 

 

 それと共に作戦室から出ていく人々の中、澪はナターシャに「ボンヤリしないで早くッ!」と言われながら引っ張られて退室していた。

 

 

 

 現在、俺はナターシャに引っ張られている。その光景に通り過ぎる隊員達から「ナターシャ、お前......それは駄目だろ」と何を勘違いしたのか分からん事を言われた。ナターシャは「そんなんじゃ無いわよ!」と怒り、それを言った隊員達は ヤベッ!? と言いながら何処かに去る。

 

 

「私と貴方には今回先行部隊としての役割が当てられたわ。艦長がブリーフィングの時に個人間秘匿通信でね、任務も追加で私達二人には発令されてるわ。

内容はIS学園地下格納庫の破壊よ。その地下格納庫には織斑千冬の機体『暮桜』が保管されて、これから先のことを考えると此処で潰した方が良いとの判断から。それと、この先あそこが敵勢力の基地となる可能性大だからとの事よ。」

 

 

 成程.....もう学園がアイツらの基地なる前に、ある程度は破壊しとけって話か。

 

 

「殺害許可は?」

 

「......出てる。けど、攻撃して来た人達だけよ?」

 

 

 ここでナターシャの表情が、悲痛に満ちていたことに気付く。それに対して俺はどうしたんですか?と訪ねた。

 

 

「今の貴方の顔、とても怖いわ。

私が今まで見てきた敵や戦いなんて物が馬鹿みたいに思えるぐらいにね。それぐらい、今の貴方......怖いわ。

一体どうしたの?」

 

 

 どうしたの......か。別にいつも通り向かって来るアイツらを根こそぎぶっ潰すだけという事を考えてるだけなんだがな

 

 

「いつも通り、俺を殺しに来る糞共をぶっ潰す......そんな事を考えてただけですよ」

 

 

 心の底から湧き上がる怒りというマグマを抱いて。

 

 

「そう......あっ、そう言えば貴方ちゃんとISステルスコーティング行った?」

 

 

 ISステルスコーティング。ISの反応を激減させる特殊な液体を機体にコーティングする事だ。澪の様に通常を遥かに超えたエネルギー反応を示す機体にはもってこいの物で、殲滅には全体の隅々までコーティングを施してその反応の大きさを3分の2以下まで下げた。これにISに搭載されているステルス機能を搭載する事で一般機と同じレベルまで反応を落とせる。

 

 

「塗ったから、塗ったから頭をワシャワシャするな!?」

 

 

 そうこうしていると、立入禁止と書かれたプレートがある部屋に二人は辿り着いた。澪は先日の案内では教わらなかった部屋である為、ナターシャに尋ねる。

 

 

「ここは先行隊専用の特殊リニアカタパルト。

 ISのPICと超電磁で、通常の倍以上の速力で戦域まで送る亡国でもこの艦にだけ設置されてある特別な物よ」

 

 

 そう言って中へと入ると、某勇者王のカタパルトを彷彿させる物がそこにはあった。その数は二つ。

 

 

「澪は右の、私は左を使うわ。

カタパルトは一般的IS用のカタパルトと一緒、勿論機体は纏ってよ?」

 

 

 澪はそれに了解と答え、人間体からIS体である殲滅になる。カタパルトに脚部を載せると、何故か非固定浮遊部位である大型スラスターが収納された。視界に表示された説明を見ると、どうやら射出時に機体から非固定浮遊部位が離れ過ぎてしまい同調が切れてしまうという事態があった為らしい。この機体は光速まで行って非固定浮遊部位が同調切れを起こさなかったから良いと思うが、後がめんどくさいのでここは従っておこう。

 

 

 

『射出用PIC起動

 超電磁射出機起動

 

 システムオールグリーン

 射出タイミングはパイロットのタイミングに譲渡』

 

 

 カタパルト内に響く音声、それと共に前方の射出口が開かれた。そこには闇夜の大海原が見え、艦が海上に浮上したことを示した。

 

 

『榊澪、『殲滅』出撃する!』

 

『ナターシャ・ファイルス、『銀の福音』出るわよ!』

 

 

 二つの流星が闇夜に輝く。




次回予告

夜空を駆けた二つの流星

邪魔する者は撃ち砕く

そして────


次回=再開は終わりの鐘=


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再開は終わりの鐘

アンチ嫌いな方々は回れ右!
(´・д・`)何回も言ってるからね?
(´・д・`)アンチが嫌なら見ないこと
(´・д・`)目次にも書いてあるから......
(^o^)これはアンチ作品デーーース!


────────────────────



触れ合う度にに殺意が湧いて

触れ合う度に悲しみが広がる

もう互いの道が交わることは無い

我が見せるは千の終わり


「居たぞっ!」

 

「撃てっ、撃てっ!」

 

 

 銃撃と、爆音が鳴り響く。そこに闇に紛れて蠢く黒い機影が一つ......その身は深淵の如く黒、そしてゴツゴツとした重装甲型の機体が立ち塞がる。

 

 

「なんだよあのEOS!?」

 

「EOSがあんな性能だと聞いてねえぞ!?」

 

 

 その機体は光の99.9%を吸収する特殊な素材を用いて、更にドイツの強固な装甲『ルナーズメタル・ヘキサ合板装甲』を採用。この程度の爆撃や射撃は通るはずもなかった。

 黒いEOSはその手に持つ特殊空気装填銃『虚ノ無弾』を放つ。敵であるこの────IS学園を占拠した女権団と女性主義者達の手下達は、それにより次々に撃ち殺される。勿論、出力と武装攻撃力を大幅に下げて出力は2割も届かない。

 この『虚ノ無弾』は中国の技術を採用し、2割であろうが強力な空気爆発で一撃で相手を爆散させる。

 

 

『ここから先は行かせませんよ』

 

 

 その機体から放たれる声は初老の声、そしてそれはこのIS学園の真の学園長『轡木十蔵』その人だ。

 

 

『私には今学園には居ない更識くんの代わりに、妻と生徒達を守る使命があるのです。

 貴方方は眠りなさい』

 

 

 その場の兵士達が全員爆散した後、十蔵は機体点検を行っていた。防衛戦が始まりはや一時間。十蔵一人でシェルター前で防衛をしていた。

 

 

「ハッハッーーッ!!」

 

 

 ふと、一瞬大きな揺れが起きた。その瞬間、シェルター前の天井が突如崩落。そこからISを纏った女が叫びながら出現。その手には壊れたガトリング式パイルバンカー......どうやらそれで地上からここまで一気に来たようだ。

 

 

「よし!死ね!とっとと死ね!」

 

 

 ラファールを纏った女笑いながらそう言う。そして、長大な銃を展開と共に撃つ。銃口からはバチバチとプラズマが走り、一筋の光が放たれる。光の先はシェルター......十蔵はそれを理解すると、光の前に立ち腕をクロスさせて受け止め────爆発で吹き飛ばされる。

 

 十蔵は機体の背部スラスターを吹かして着地。重装甲故に腕に直接ダメージが届く事は無かったが、表面装甲はズタズタだ

 

 

「おーおー。大した威力だよこりゃあ」

 

 

 女が持つ長大な銃。それは以前デュノア社が開発していた試作兵器の下方変更修正完成型。量産をも視野に入れた為威力は大幅に下がったが、それでもラファールのパイルバンカー《灰色の鱗殻》同等以上の威力を持つ。十蔵はすぐ様その手に持つ銃で反撃、威力を上げて連続で撃ち放つ。数発の弾が長大な銃に着弾、スパークを起こして爆発。女はそれによって吹き飛ばされたが、笑顔を浮かべていた。

 

 

「いいねェ......やるじゃん!」

 

 

 その時、地下シェルターに来る為の道から打鉄とラファールを纏う女達が五人到着。確実にこちらを仕留める気だ。ラファール三機に打鉄も三機......無論殺られることを許す訳では無い。目前に居る女以外の敵なら殲滅する事は可能......だが、今はここを『守る』ために私はいる。だからこそ、攻める事に長けた親友に救援を頼んだのだから

 

 

『......来ましたか』

 

 

「来た?何がだよ爺さん」

 

 

 そう言った次の瞬間、大型の爆弾が爆発したかの様な爆音が鳴り響く。それに対して何だ?と思ったラファールのパイロット、その時天井の穴から『破壊』を冠するISがズンッ......と重たい音をたてて着地する。。その目は怒りに染まったように真紅に光り輝き、周囲に恐怖もとい殺意を撒き散らす。

 

 

『そこの黒いEOS......十蔵さんか?』

 

『ええ。私ですよ榊くん』

 

 

 EOSが敵でないと分かった殲滅は周りのISをぐるりと見渡す。その真紅の目に睨まれた打鉄のパイロットが、生物的恐怖及び生きたいという生存本能故にアサルトライフル《焔》で澪こと殲滅に攻撃を開始。それに引き続き他の打鉄とラファールも攻撃した......が、殲滅の強固な装甲相手にアサルトライフル程度では貫けることは出来なかった。

 

 

『十蔵さん、会長は?それに皆は?』

 

『彼女は今ロシアに機体の改修の為、ここにはいません。

 貴方がいう皆とは非女性主義者である人達の事ですね?それなら皆さんシェルターに避難してます。』

 

 

 十蔵がそう言うと、澪の視界に複数の味方反応が出現した。その反応の中には

 

 

 復讐者の剣────解放『天啓の剣』を展開し、エネルギーを送る。真紅に染まった刀身を確認して、澪はそれを最初に攻撃してきた打鉄にぶん投げた。真紅に刀身が光り輝いてるのでわかり易いが、その投射速度はその力故に速い。その為打鉄のパイロットは避けることは出来たがギリギリで、非固定浮遊部位の浮遊盾の一つが両断された。

 安心するのも束の間、避けた打鉄を待つのは右腕を振りかぶった殲滅。既にその拳は打鉄の目の前、避ける術もなく絶対防御さえ貫く一撃で打鉄はパイロットも含めて壁ごと貫ぬく。パイロットは打鉄ごと潰れて赤い華を咲かす。

 

 

『────成程、了解です』

 

 

 目の前で起きた惨状を見て驚くラファールと泣く打鉄のパイロット達、それを前に澪はいつもの様に攻撃に移る。剣を振りかぶり、残ってた打鉄に斬り掛かる。打鉄は日本刀を模した《葵》で受け止めようとする。

 

 彼女らが乗るISは『試合仕様』、ISが持つ本来の出力では無い。対して殲滅は『戦闘仕様』、この一つの差でも基本スペックからでもその差は圧倒的過ぎた。依然として使われている戦車や戦闘機と言ったものなら試合仕様でも良かったのだろうが、殲滅相手にはスペックの差があり過ぎた。

 殲滅の一般機と比べようにならない力と、そのスピードが乗った一撃は葵を斬り折る。更に絶対防御を貫き腕部を内部ごと切断し、打鉄を纏う女は痛みで絶叫する。

 

 

「ぎゃあぁぁ「煩い」 かっ......」

 

 

 澪はそう言って打鉄を蹴り上げ壁にめり込ませる。普通なら絶対防御や搭乗者の生命を維持する機能を持つISだが、A.I.S.Sを纏った直接攻撃はその機能を触れられている間は機能停止する。その為、この打鉄の搭乗者は絶対防御を失った状態で攻撃を受けた上で、生命維持機能が止まっているので即死以外の道は無かった。

 

 

『十蔵さん』

 

『はい』

 

 

 澪は先程投げた天啓の剣を回収し、いつの間にか横に居た十蔵が載るEOSにそれを渡す。

 

 

『その剣ならISの機能を無効して、直接攻撃できます。十蔵さんは今逃げようとしている奴を、俺は残ってる奴を貰います。どうせ今まで本気出してないんでしょう?』

 

 

 そう言って澪は手部を砲撃仕様に変え、逃げようとしているラファールを素早く撃ち落とす。

 

 

『ええ。なら少し本気で行きましょう......『防人』』

 

 

 十蔵は己のEOS『防人』にそう言ってから突撃した。

 

 

────────────────────────

 

 本来の機体出力に戻した十蔵は、澪から受け取った天啓の剣を手に撃ち落とされたラファールに斬り掛かる。そのラファールのパイロットは恐怖に怯え、身体が固まったのか動くことが出来ない。十蔵は『死になさい』と言ってからそのパイロットごとラファールを一文字斬りで葬る。その時、両断されたラファールを押し退け最初に来たラファールとそのパイロットが迫り来る。

 

 

『少し意地悪しますね』

 

 

 そう言って十蔵は機体各部にある小型スラスターを吹かせ、そのずんぐりした見た目からは考えられない動きで迫り、素早く強い斬撃を繰り出す。それに対してラファールのパイロットは先程と全く違う速さで来る十蔵の攻撃に対して反応出来ず、防戦一方に追い込まれた。

 

 

「テメェ......さっきのは手ぇ抜いてたのか!?」

 

『ええ』

 

 

 そう言いながらも十蔵は天啓の剣で攻撃、ラファールはブラッディ・スライサーを展開して天啓の剣の斬撃を受け流す。そこにすかさず虚ノ無弾を撃ち込み、少しのスキを逃さない攻撃にラファールのパイロットは下を巻く。

 

 

『貴方ほどの人が......残念ですねぇ』

 

「オレとしても残念だね。こんな面白え奴が敵なんてなァァ!」

 

 

 十蔵は目の前のラファールのパイロットを『野生の獣』と評価している。確実的大きなダメージを与えるだろう攻撃はギリギリで躱す。しかし、当たっても小さなダメージぐらいなら問題無いのか避けようとしない。

 そんな二人に向けて下半身だけの打鉄が吹き飛んで来た。

 

 

『榊くん。危ないですよ?』

 

「破壊者ァァ......テメっ邪魔すんじゃねえ!」

 

 

 既に狩り終えて残骸となったISとパイロット達の上に殲滅は立っていた。その手には今飛んで来た打鉄の上半身が握られている。

 

 

「ちっ、殺られたか。んー......二対一ってのも面白いんだが、流石にこの状況で勝つなんて事は無理だから逃げる!」

 

 

 澪と十蔵は逃すまいと攻撃に移るが、ラファールの女は一つの球状物体を地面に投げつける。すると煙が出て来て......澪と十蔵の機体の動きが止まる。

 

 

『ふむ、動けませんね』

 

『っ......なんだこれは?』

 

 

 澪はIS体を解除しようとするが、それすらも出来ないので苛立つしか無かった。それよりも、何をしたのかが気になる。

 

 

「そいつは私が作った特注のチャフ玉、2分ぐらいは動けんよ~。

 んじゃ......依頼者からの依頼は達成したから、さっさとこの場からオレはバイナラー!」

 

 

 そう言ってラファールを纏った女は天井の穴から飛び去った。2分後、女の言う通り二人の束縛は解除された。

 すぐに澪は周囲の生命反応及びIS反応を探る。結果は敵は居なく、同時にこの場には2人以外生きている者はいない......それを確認した澪は十蔵に言う。

 

 

『十蔵さん達は今送った位置に避難を。

そこで亡国の本隊と合流して逃げて下さい』

 

『榊くん。これから君はどうするのですか?きっともう何人かと一緒に来ているのでしょう?』

 

『はい。俺と先行して来た────っ!?』

 

 

 ハイパーセンサーが福音の反応の近くに、新しいIS反応を示した。ノーネームが『打鉄の様ですが、この値......異常です』と言うと、澪は直感的に気付いた。

 異常な打鉄と聞いて思い浮かぶ人物は一人しかいない、あの銀の福音に一人で挑むなら尚更。

 

 

『織斑先生が出てきた様ですね』

 

『十蔵さん達は避難を。では、行ってきます』

 

 

 澪はそう言って反応元に向かった。

 

────────────────────────

 

 

『鬱陶しいわね......このっ!』

 

 

 IS学園に侵入後、ナターシャは学園の秘密地下通路を突き進んでいた。ナターシャの言葉を聞けば分かるが、現在敵と交戦中である。ここはIS専用の通路で、IS専用だけあって通路はかなり広く作られている。床から天井まで10m、幅は20mと空中戦闘も十分に可能。その為、銀の福音の銀の鐘で蹴散らしながらひたすら目標破壊箇所と出来るなら『暮桜』の元に向かている。

 その時、ズシンという鈍い音が響く。

 

 

『あの子もやってるわね』

 

 

 目標破壊箇所まであと少しの所に来た。周囲には敵反応が無く、静まり返っている。

 

 

『......っ!』

 

 

 ヒュン────そう風切り音が聞こえた。戦場に身を置く人の本能的直感で咄嗟に横に躱し、斬撃から身を守った。何だと思ったその時、ナターシャは前方からIS反応を探知。

 

 

『織斑千冬......!』

 

「銀の福音が相手か」

 

 

 超近接仕様カスタムの打鉄を纏う『世界最強』こと織斑千冬。その手には葵が握られてるが、葵の刀身からは有り得ない青白い光が漏れ出てる。

 ナターシャはコア人格である福音から、葵から漏れ出す青白い光が危険であると知らされた。そこから導かれるのは一つ、織斑千冬が使う世界で一番有名な単一仕様能力────零落白夜と理解した瞬間、銀の鐘を起動。

 

 

『!』

 

 

 危険だと判断した。元々この周囲を破壊するのが目的だったのでこの判断は間違ってはいない。しかし、予想外の相手......織斑千冬が現れることは非常に不味い。

 引退しても尚、強者として名が上がる織斑千冬はそもそもの身体能力が常人とは違う。ISとは身体の延長線でもあり、搭乗者の身体能力は基本スペックを大きく塗り替えることが出来る。

 そして、この閉鎖空間の中。さらに中~遠距離武装しか積んでない銀の福音と、超近接仕様の打鉄。機体の性能で差が出るが、それに加えて得意とする戦闘領域では相手の得意距離だ。

 

 

 

『ぐうっ!』

 

 

 銀の鐘をやりながら後方瞬時加速で撤退、相手の得意領域から出ながら目標破壊と理にかなってる......それをナターシャは理解している。だが、それでも至近距離の銀の鐘を平然と避ける平然と迫り来る織斑千冬に恐怖を感じる。

 

 

「ふんっ!」

 

 

 先程から気になっていた青白い光が溢れ出る葵が頭を少し掠った。少し掠ったのだ、掠っただけでほぼ満タンまであったSEが、3割程減少したのだ。それは予想した通り『零落白夜』と同じ効力、それによりこれが零落白夜である事が確定した。ナターシャは何故その機体だけの特別な能力である単一仕様能力が、カスタム仕様とは言え量産型の打鉄などに使えるのか。そこで気付く......織斑千冬の専用機『暮桜』と『打鉄』の製造場所は同一の場所であると。それ以外の道が無い。他に出来ると言ったら亡国に居る親友の篠ノ之束しかないが、束は千冬との親友関係を切っている。だからこそその手しかない。

 だが、本物は一撃でSEが満タンのISを仕留めている。威力は充分あるが、それでも本物には届かない。だが効果は本物と同じだ。

 

 

ピィィーーッ!

 

 

『今度は────っ!?』

 

 

 ハイパーセンサーで背後から迫り来る『ナニカ』に目を向けた。瞬間、感じ取るのは怒りと殺意......それは一瞬で、ナターシャの隣を真紅の閃光が通り過ぎた。その目を憤怒に染めた破壊の化身が

 

 

糞教師ィィーーーッ!

「貴様か......榊!」

 

 

 その凶悪な手と零落白夜モドキがぶつかり合って余波が辺りを襲う。ふと、千冬は今起きたことに対する異常に気付いた。

 

 零落白夜はモドキであろうがISに絶大的ダメージを与える。即ち、ISでもある澪にとってはかなり致命的な弱点だ。その効果は掠っても、触れても相手に超ダメージを与える為澪が零落白夜モドキを平然とその拳で受け止めているのは有り得ないのだ。

 

 その答えは簡単、『Anti.Infinite.Stratos.System.』こと『A.I.S.S』だ。その効果は直接触れることによりISの能力を打ち消し、絶対防御の無効化を果たす。それは零落白夜と言った特殊的な能力にも効いて、通常のエネルギー弾や実弾やミサイルといったもの以外の攻撃はA.I.S.Sで消し去ることが可能だ。

 だがそれを千冬が知るはずも無く、ただこの現象に疑問を抱くしかできない。そして、この『A.I.S.S』を造って搭載したのが親友だと信じた束の仕業だと言うことを知る機会は千冬には無い。

 

 零落白夜は相手に触れるor確実に当てないと効果を発揮しない能力故に、触れてる時に効果を発揮するA.I.S.Sの前には無意味な能力となってしまう。だからこそ、零落白夜を使う機体にとって殲滅は天敵なのだ。

 

 

『前回できなかった引導を此処で渡す......!』

 

「やってみろ馬鹿者が」

 

 

 運命によって決められた戦いが始まる




次回予告

俺は嫌いだった
私は嫌いだった

お前のように
貴様のように


歪んだ奴が


同族嫌悪?
違う

歪んだ世界の存続を望む奴
歪んだ世界を破壊を願う奴


「俺がお前を」

「私が貴様を」

「「殺す」」


次回=千の終わり、一つの始まり=


「レェェェェェェェイィィィ!!」


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閑話︰その果ての者

 声が聞こえた。

 

 懐かしき憤怒の叫び

 

 懐かしき悲劇の叫び

 

 破壊されゆく世界の音

 

 

 

 

 

「主殿」

 

 

 漆黒の宙、真っ白な大地。幾度の時を超えここに届いてるだろうもはや存在してるのかも分からぬ星々の生命の輝き、地球を照らしこの『表の月』を照らす太陽の輝き。

 『裏の月』────光が届かぬ月の白い大地を見ることの無い漆黒の闇。そんな中にそれは居た。

 白く光り輝く機体。その周りにまた白く輝く二人の人物が立っていた。

 

 

「なんだい?」

 

「......随分と、懐かしき光景ですね。」

 

「うん。随分と久しぶりに『過去の自分』を見たよ。

 でも、ここの世界はまた随分と怒りに染まってるね。

 それも、また僕という榊澪の一つだ。」

 

 

 

 主殿────本来いるはずの無いもう一人の榊澪。その存在は彼方の未来事象、その一つから訪れた者。

 

 

「フィーも久しぶりに見たんじゃないかな?暴れている自分の体。......懐かしき名前で言うなら、ノーネーム。」

 

 

 フィー───名前無き破壊者の主人格であるノーネーム。

 

 

 そんな彼らの背には、名前無き破壊者の果ての存在がボロボロになりながら鎮座していた。

 

 

「未来からタイミング悪くこの時期に来て、危うく邂逅してしまう所でビックリしたよ。」

 

「だからと言って太陽の方角に突撃しないで下さい。」

 

 

 彼らは未来から来た直後、宇宙に上がってくる現在の澪達を知覚し急いでこの中域から離脱。しかし、思った以上に移動したのだが、それに加え太陽の方角に突撃。危うく大惨事になる所だった。

 

 

「悪い悪い」

 

「全く......気を付けてくださいね?」

 

 

 2人は、進化果ての名前無き破壊者で地球の澪達が居るIS学園及び全ての映像機器をクラッキング。そこから映像を見る。その映像機器と二人の目は同化し、まるでそこから見てるかのようにその光景を映し出す。

 二人はIS学園で戦闘を繰り広げる『今』の澪に視線を向けた。

 

 

 

「うん。この世界では『破壊特化』したのかな?

 名前は......『殲滅』か。懐かしい、あのマグマの様な熱き感情────『怒り』がヒシヒシと伝わるね。」

 

「この世界の我らが母は、主殿が持つ『異常感情能力』を機体の力として変換するシステムを導入しているようです。」

 

 

 それに対して、澪は「面白い事をしてるね、博士は。」と言う。

 

 

「数多の世界線では、『破壊特化』した名前無き破壊者は終わりに辿り着く前に全てを滅ぼした。

 全てに絶望して、全てに怒りを向けて......文字通り全てを破壊尽くした。」

 

 

 数多の世界線を見てきた澪は言う。未だに『破壊特化』した名前無き破壊者の世界は、終わりに辿り着く前に何かしらのアクションで終わっている。

 この世界線なら、『殲滅』に覚醒したタッグトーナメント。彼処でもし完全に理性が失われていたらどうなる?答えは簡単、リミッター解除され文字通り全てを破壊尽くす力を手に入れた殲滅に壁は存在しない。

 だが、その場合亡国とIS委員会の委員長により最終的になんとか防がれる運命になる。それは結局IFの物語となった。

 

 

「この世界は違う。僕らが未だに見たことの無い結果が、世界が、物語がある。」

 

「私が見る初めての『破壊特化』の世界。

 どうなるんでしょうね?」

 

「それは誰にもわからないさ。

 この世界では君らがまだ『一人』になっていない。それもまたこうなった要因かも知れないよ?」

 

 

 フィーこと旧︰ノーネーム達は、一人に融合した。未来の意味を持つ『フューチャー』。

 そして機体......名前無き破壊者という破壊を願う機体は、人の未来を願う『希望』────『最果て』に辿り着いた。これが、未来の澪が辿り着いた進化の果て。

 

 

「僕らが目指した終わりとは違うけど、この世界の僕はきっと世界に希望を与えるだろう。」

 

「それは主殿の一方的な考えでは?」

 

 

 呆れたようにフィーは言うが、澪は言う。

 

 

「どこまで行っても根本は同じさ。

 あの理不尽がある限り、『榊澪』はアイツらを消し去る。

 そして、人々は付いていく。それが────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼方からやって来た二人は語り続ける。

 

 その視界の先、宇宙から見ればほんの少し先の距離にある地球を見続ける。

 

 怒りを纏い、世界の理不尽に抗う『今の世界』を



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千の終わり、一つの始まり

その刃に怒りを乗せろ

その拳に殺意を乗せろ

この体で

その意志で


 IS学園地下特殊通路にて、二つのISが激しい戦闘を繰り広げている。片や世界最強が載るカスタムIS、片や破壊を冠するIS。その戦闘は常人が入ることは許されず、入れば最後粉々に砕け散るという結果が残るだろう。

 

 拳が震え、闘志が溢れる。感情はシステムを得て、その身を強化する力と成す。打ち合うほどに大気は震える。

 

 剣を振るう。剣は速さを持って、その刀身の強さを持って、振るう者の力によって総てを斬り捨てる力と成す。打ち合う度に衝撃が空間を走る。

 

 

『ぬぁぁぁぁぁ!!』

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 二人の前には、邪魔する者など不要。邪魔をすれば消え去るのみ。となれば、あとは自然に二人だけの世界になる。

 澪は目の前の千冬と戦いながら任務である地下通路の破壊を達成させた。普通なら逃げる......が、澪には無理な話だ。世界の憎き敵、自分にとっての敵。許すはずの無い敵なのだ。これからの世界に目前に居る千冬は『邪魔』だ。だから殺す。何が何でも今この場で仕留める。

 

 

『殺す......殺す殺す殺す殺すッッッ!!』

 

 

 今まで溜まっていた千冬に対しての怒りが、殺意が底なしに湧き上がる。ISのコアネットワーク、その主体となるISコアとコア人格がある。ISは現在世界各地にほぼ均等になるよう配置されている。

 コア人格はISの機体から外の様子を見る事ができ、同時に周辺の人間の感情を読み取る。そう......『感情』が、世界各地にあるISから『怒り』と『憎しみ』、更には『悲しみ』の感情が澪に向けて送られているのだ。ISに対してのイメージは一般的には良いものとしているが、それはマスメディアの情報操作の結果であって本当の事ではない。実際は嫌っている人も多いのが現状で、それを伝えないのが今の社会である。

 話が逸れたが、いわば今の澪はこの世界を憎む、怒り、悲しむ人々の総意の器。言わば『願望器』そのものとしている。それが今の澪だ。三つの感情が混じり合い、泥々とした黒い感情の塊としたナニカだ。無論、澪の意思はある。だが、それが止まることない。目の前にいる全ての元凶である『白騎士のパイロット』を殺すまで。その命を消すまで────破壊は続く。

 

 

「ふん。その程度......!」

 

 

 殲滅の拳を零落白夜モドキを発動している葵、『葵改』で弾く。千冬は前回の一戦後、衰えた体を鍛え始めた。機体性能差というものがあるが、あの時の千冬はそれでも勝てるだろうと思っていたが結果はボロクソに負けた。次会った時、確実に澪を葬ることが出来るように......機体性能差が有ろうと、確実に殺るために現役の頃と同じ......つまり身体能力を自身の最高値まで戻したのだ。

 

 

『Dショック!』

 

 

 それを上回る様に目の前の澪は迫り来る。左腕を殲滅に捕まれたままDショックによる衝撃波をゼロ距離から喰らい、あまりの衝撃に千冬は吹き飛ばされそうになる。だがコレを待っていたように千冬は内心笑いながら、右手に持つ葵改で殲滅の左腕を神速の如くの圧倒的速さで切り落とす。

 

 

『だからどうしたァ!』

 

 

 もはや痛覚さえ存在しない状態の澪に、腕を切り落した所で無意味に等しい。IS独自の自己修復能力を起動し、切断面からエネルギーと粒子が溢れ返る。

 

 千冬は少し驚いた。過去10年間、ISの研究によって様々な現象やシステムの開発を具現を見てきた。しかし、それらを軽く凌駕する現象を目の前で行われてるからだ。千冬自身過去に白騎士を操縦し、搭乗者の怪我修復システムがあることを知ってはいたし機体の修復能力もあることは理解していた。だが、それは待機状態での事で機体を展開してる時ではない。その修復の異常さに驚くしかない。

 

 

「ぐうっ!?」

 

 

 驚く千冬を他所に、澪は空いた右腕で地面に叩きつけて咆哮『ハウリングボイス』を起動する。

 

 

『ゴォォァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!!』

 

 

 目の前の千冬が、通路が、この場にある澪以外の全てが爆音と衝撃波に襲われる。鉄製の通路が次々にひしゃ曲がる。あまりの衝撃で吹き飛ばされる千冬、だが吹き飛ばされながらも葵改を槍のように全力で投げて左肩部を貫通させた。その一撃で肩を含めた左腕部が吹き飛んだが、澪はさらに怒りを込めて叫ぶ。左肩部接合部からは血のようにエネルギーと粒子が吹き出して、痛々しい光景だ。

 

 

『────────ッ!?』

 

 

 投げ飛ばした葵改を粒子に変えて回収、千冬は目の前の澪に向けて更に葵を複数展開して投げ飛ばす。この葵は通常の葵より耐久値と斬れ味を高めた葵2式と呼ばれ、この時のために千冬が倉持技研に頼んでおいた特注品だ。今までなら澪との打ち合いで砕けた葵、しかし今のやりとりで砕けた葵2式は無し。その耐久性は最高とも呼べる程のもので、さらに斬れ味もある。

 そんな葵2式が千冬の腕力とISのアシストによって加わった力で投げ飛ばされたらどうなるか?

 

 

ドドドドッ!!

 

 

 弾かれることなく、砕かれること無く殲滅の体に突き刺さる。一つは首部を少し切断して何処かへ飛んでいき、残るは胴体・両足に突き刺さった葵2式。澪は突き刺さる衝撃と自分の光景に驚いてハウリングボイスを中断。

 

 

『ギギ...a...g......!?』

 

 

 首部がやられた影響か、発音が出来ない。殲滅は両足の葵2式2本を引っこ抜き、纏めて握り壊す。脚部をやられたというのにその足取りはしっかりしており、真紅に光る双眸は千冬を真っ直ぐに捉えている。真紅の粒子が形を成して肩部が直り、腕部を修復している。

 

 

「化物が......!!」

 

 

 痛覚がない事を知らぬ千冬はそう言う。しかし、本当にISなのかという性能を見せられた千冬にとっても、他の人々が見てもそう思うだろう。

 

 

『g.....on....!!』

 

「なにっ!?」

 

 

 左腕は損失、しかし再生。両足は貫通されて歩行不可の筈なのに、平気で歩き出す。胴体部には葵2式が刺さったままで、澪は先程と変わりのない動きで迫る────否、断じて否ッッ!!

 

 その動きは先程よりも速く迫って来ているッッ!!

 

 

「ぐっ!」

『────ッッッ!!』

 

 

 左腕を失って機体姿勢制御に支障が出ているはずのに、動きはより良く、精密に、そして速くなる。短時間で急激に、それも自分の弟で同じ急成長型の一夏よりも倍以上の速さで強くなっていく。更に体が傷つけば傷付くほど、相手が強い程強くなる。そのタチの悪い素質がまさに化物だ。

 

 澪が振るう拳の速度が速くなる。さらにPICを乗せてさらに拳の速度が加速する。千冬の動体視力と超近接仕様にしてある打鉄だからこそその拳に反応できているが、ここで葵2式がピシと音を立て始める。

 

 

(馬鹿な)

 

 

 千冬本人は確かに澪の拳を上手く流している。しかし、この急激な成長によって強くなっていく澪の拳の威力に葵2式が対応出来なくなってきている。片手両足から繰り出される暴風の様な乱撃、更には非固定浮遊部位での打撃も加える異様な攻撃に千冬は押されていた。

 

 

 そして

 

 

バリン!

 

 

 折れた。遂に葵2式が折れた。千冬はすぐ様次の葵2式を展開するも、三回ほど打ち合うとその刀身にヒビが入る。それと同時に殲滅の両足が内部フレームごとちぎり飛ぶ。貫通され、修復しながら戦っていた影響で脚部が耐えられなかったのだ。

 

 

『o...u...o.....ォ......ゥゥォォオオオオオオ!!』

 

 

 それがどうしたと言わんばかりにPICで体を支え、何事も無かった様に攻撃をする。肩部は再生し、左腕は再生中で、両足も破損で修復中。幾ら殲滅だからと言って、動きは一気に下がる。

 千冬は隙が増えた澪に対し、瞬時加速で一気に近づく。そして、胴体部に突き刺さる葵2式を持ち────────真一文字に胴体を斬り裂いた。

 

 

 

 

 俺は目を覚ました......それも突然の事だ。

 確か学園長に無理矢理地下避難室に連れてこられた筈だが、今は何故か海上のボートにいる。

 

 

「一夏、目が覚めたの?」

 

 

 何故か警戒している鈴がそう言ってきたのだが、鈴も何でいるんだ?それと......なんだこの『声』は、それとあの閃光は誰かが戦っているのか?

 

 

「なんだよ?なんの声だ?」

 

 

『集え 集え 破壊と戦女神の元に』

 

 

「どうしたの一夏?」

 

 

『榊澪と織斑千冬の元に集え────織斑一夏』

 

 

 その頭に響く声に導かれて体を動かす。

 何より自分の姉が澪と戦っているということに黙っていられない。自分だって今や初心者では無い。少しばかりでも戦えるはずだ────と、ここで気づいた。

 

 自分の体が勝手に動いている。

 

 

「なんだ、よ。こ......れは!?」

 

 

 もがいても意識関係無く、体が動かされている。体が勝手に動き、ボートの縁に立ってそこから直ぐ目の前の海にダイブ。一瞬海に浸かったがISも勝手に起動して白式が展開し、視界に映る澪と千冬の戦域に飛翔する。

 

 

「一夏!?何処に行くのよ!?」

 

 

 鈴の声が聞こえる。俺を呼び止めようとする声がして戻りたいと思った。でも駄目だ。

 

 ああ......意識が、体が、ISがあの場所に導かれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 殲滅は機体中央部をやられた影響か、小規模爆発が胸部から発生する。それと同時に殲滅の左腕と肩部の修復が終わった。この間たった10分の出来事である。

 

 

────胸部自己修復、最速で終わらせます!

 

『終わるかよォォ!!』

 

 

 切断された両足からエネルギーを過剰噴出し、更に瞬時加速で突貫する。虚をつかれた千冬はそれをもろに受けるが、澪はそのまま両肩を掴んで個別式瞬時加速で加速する。

 

 

『テ、メェは......この場で、殺す......絶対に!

 血塗られた時代を作った、大本であるテメェを!

 世界から憎まれ、倒されるべき敵を!     』

 

 

 壁際に移動し、千冬を壁にめり込ませながら加速を続ける。そうこうしている内に両足も修復した。

 

 

『世界中のテメェを恨む奴らが、怒る奴らが俺に力を与えてくれる。

 テメェを殺すために、この場で殺す為にィィーーーっ!!』

 

 

 これに対して千冬は無理やり瞬時加速を起こし、今度は澪が壁にめり込む。

 

 

「それは貴様の言い分だろう!

 私には私にとって守りたい者が......守りたい者達が、ここに居る者達を守りたいのだ!」

 

『ぐがあっ......!!それがIS委員会の奴らにこの学園を占拠させる事と関係すんのかよ。

 話し合えば解決するかもしれない事も、テメェは全て武力によって解決させる気か!』

 

「そうだ。所詮人は武力によって解決し、話し合いなんて建前だ......それが私が過去に体験してきた事だからな!」

 

『それをテメェ個人の体験だけで、一括りにするなァァッッッ!!』

 

 

 もみくちゃになりながら飛行していたのが原因か、澪と千冬は地下通路を突き抜けてIS学園外の海洋に飛び出た。

 突き抜けた衝撃で両者共に手を離し、互いに距離を取る。既に東の空には太陽が登り始めていて、朝日が照らす空で対峙する。

 

 

『確かにテメェの言う通り歴史の中で世界が動く物事は結局武力で解決されることが多い。だけど、話し合いで解決されてきた事だって確かにあるんだ。

 過去も現在も、人類が歩んで来た歴史の中でそれらは確かにあった事だ。』

 

 

 澪はそう言って背後の空間から反逆する血の牙達を展開、真紅の牙達が犬の待ての様にその場に留まる。そして、天啓の剣を構える。

 

 

「私は織斑、一夏と共に両親から捨てられた時。束の家族に世話になった。だが、それでも私は信じられなかった......束は親友だからこそ信じられたが当時の私は他人も大人と言う存在に対して信じる事など出来なかった。

 故に、束からISという物をを開発したという事を聞いて見に行った。そしてそれを見た時、私にはISは新たな力......新しい時代を創る『武力』になると感じ取った。同時にたった一人の家族を守れる力にも感じ取れた......故に私は束にISの力を示す『白騎士事件』を起こした。

 

 

 見てみろッッ!!

 その武力は時代を創り、私はその武力によって大切な家族を守ってこれた。これを無駄、ダメだという考えになぜなる!!」

 

 

 千冬はそう言って葵改を展開し斬り掛かる。

 

 

『武力だけの世界の果てに、悲しみの連鎖しかないと言ってるんだよ!!』

 

 

 それに澪は天啓の剣で迎え撃ち、鍔迫り合いが起きる。その衝撃波で海は荒れる。大気は震え、両者共々また吹き飛ぶ。それに遅れて反逆する血の牙達が動き始め、千冬にその真紅の牙を突き刺すために殺到。それを葵改で神速とも呼べる速度で切り払い、切り落とす。

 

 

『テメェが信じる武力......『ISによる女性の特権』や『ISによる軍事力変動』の結果、世界は女だけのものとなった。それが本来起こるはずのない理不尽な殺害、復讐、紛争、戦争、テロを世界中で沸き起きているのが現実だ!

 確かにたった一人の家族を守りたいのは分かるさ、分かるとも......だけどその為に他人を、世界中を巻き込むのは1番駄目だろう!』

 

 

 それは今まさに世界各地で起きている事を示していた。それに対して千冬は自覚はしているし、納得もしている。だが

 

 

「それでも、私はたった一人の家族を守りたい。」

 

 

 その決意は揺るがない。たとえ世界が敵になろうと、世界に一人だけの家族を守らんとする姉としての覚悟がそこにはあった。それは世界最強のIS乗りとして、生身でも己に勝る者がまずいない故の自信であり結果だ。

 

 

「その為にも私は貴様を斬り払い」

 

 

 澪は目の前の打鉄からエネルギーが過剰放出している事を捉え、反逆する血の牙達の攻撃の手を更に激しくさせ澪も天啓の剣を持って突撃する。

 

 

「今の世界を

 

 変わらぬ明日を

 

 一夏が笑える明日を

 

 何としても守り抜く。貴様を殺してな!!」

 

 

 瞬間、千冬に群がっていた百を超える血の牙達が爆発。真紅の爆発と粒子をまき散らしながら、突如起きた事態を澪に伝える。

 

 

────上方10m回避行動!

 

 

 ノーネームの叫びで大型スラスターを全開、上方向に回避した直後に暴風が澪を襲う。PICで体制を整え、暴風が向かった先を見つめると葵改を振り下ろしている千冬の姿があった。

 打鉄の機体からは膨大なIS反応が検出、それにSEと思われる青いエネルギーがこれでもかと放出されていた。

 

 

『打鉄のリミッターを解除した......?違う、アレは暴走状態しているとでも言うのか』

 

────攻撃が来ます、回避を!

 

 

「ふんッ!」

 

 

 再び爆音が鳴り響き、咄嗟に天啓の剣で胸部を防御。更に全身のスラスターと大型スラスターを最大噴出させた。次の瞬間、天啓の剣の刀身が弾け散った。目の前には千冬が次の攻撃動作に移っている。咄嗟にDショックとハウリングボイスを起動させ千冬を吹き飛ばし、距離をとる。

 

 

────天啓の剣修復。完了までおよそ5分

    しかし、今の動きは......

 

 澪から見ても今の打鉄の動きは変だ。いくらリミッター解除した打鉄だからと言って、瞬時加速以上の動きで接近して武装も強化されている。

 澪はチラッと打鉄を見て気付いた。打鉄全身の装甲にヒビが、装甲自体からSEと思われる青いエネルギーが放出されていることを。どう考えてもこのままでは打鉄は壊れる......その考えに至って気づく。

 

 

(打鉄を自壊させることを前提に出力リミッター解除だけではなく、機体そのものの枷も全て解除......なら、あの青いエネルギーはSEと『ISコアから直接放出されているエネルギー』という事か。)

 

 

 澪はだからこれ程の過剰出力と、圧倒的攻撃力の上昇を果たしたのかという事に理解した。しかし、それ故に普通の人間なら耐えることが出来ないのだがそれに耐える千冬はいかに常軌を脱した存在か理解できる。

 反逆する血の牙達を今ある分だけ全て展開、その中から二つを連結させ手に持つ。そしてBE推進機関を最低出力で起動。再び向かって来た千冬に突撃し、肩部に接触して奴の動きが止まる────が、澪は止まることなく100m程離れた所で反転して止まって背中ががら空きな千冬に強襲。

 

 

『ごがっ!?』

 

 

 千冬はPICの応用によるバク転蹴りを繰り出し、澪は突撃した速度に蹴られた速度を足された状態で凄い勢いで空に上がっていく。追撃してくる千冬に血の牙達を全て差し向けて。その光景はまさに真紅の風......だが千冬は自分に直撃するだろう部分だけを斬り捨て、真っ直ぐ澪に向けて突撃する。

 PICにてようやく体勢を整え、アローによる連続射撃を繰り出すもののエネルギー体のため葵改から放たれる零落白夜によって斬り消される。近接武装にハンドクローが有るが、ハンドクローでは今の千冬に簡単に粉砕される。その為、近接武装の中で一番耐久値が高い天啓の剣が修復されるまで時間を稼がなくれてはいけない。今手に持つ反逆する血の牙達を強化した『復讐者の剣牙』にした所でまだ天啓の剣まではいけない。だが持ちこたえることは出来るはずだ。

 

 

────天啓の剣の修復完了まで残り2分

 

 

『ええい......っ!』

 

 

 反逆する血の牙達を復讐者の剣牙にし、突撃する。見た所一応ダメージは入った様で、非固定浮遊部位が破損して今にも爆発しそうだ。

 

 

『当たれえぇぇぇぇ!!』

 

 

 復讐者の剣牙とアロー、更に悪魔の指.....同時発射可能射撃武器の同時射撃。それはまさに弾幕、全てを一瞬で終わらす暴虐の嵐。だが、それでも千冬は弾幕を斬り伏せた────しかし数発が機体に直撃。直撃箇所には運良く非固定浮遊部位が入っており、この射撃によって爆発四散する。

 

 

『くっ......アアァァァァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!』

 

 

 瞬時加速で一瞬の間で接近した澪は、復讐者の剣牙で斬り掛かる。そして、身に纏う打鉄の脚部を溶断された事に気付いた千冬が葵改で殲滅の胴体部を斬る。

 

 

『ッッ......!!』

 

 

怯んだ所を、すかさず海面に向けて澪を殴り叩き付ける。真っ直ぐ海面に向かった澪は大きな飛沫を上げて直撃し、大きな飛沫をあげて沈黙。

 

 

「......」

 

 

 千冬はそれを見てどうするかと考えた時、突如IS学園から少し離れた海上から『白式』の反応を確認。そしてそれらは真っ直ぐこちらに突き進んでいる。予想外の登場に驚いた千冬は一夏の方を見た。

 

 

 

 

 

 この一瞬の油断が千冬にとって一番大きな隙を生み

 

 

『何処を』

 

 

 海面から爆音と共に這い上がって来た澪。その手に持つは、修復された天啓の剣。澪は天啓の剣で牙突で突撃する。

 

 

 

『見てやがる!!』

 

 

 

 殲滅に気付いて為なのか、それとも故意的になのか不思議な事に既に一夏は千冬の目の前に浮遊していた。瞬時に二次移行した《白式・雪麗》の荷電粒子砲を直感的に殲滅の進行ルートに向けて放つ......が、荷電粒子砲の光線は中心から弾け飛ぶ様に消滅。

 天啓の剣の剣先は真っ直ぐ一夏目掛けて────

 

 

 

 

 

 

 

『だから言っただろう。

 織斑千冬......テメェは倒されるべき敵だってな。』

 

 

 一夏を守る為。

 

 千冬は一夏を押しのけ、打鉄の装甲ごと叩き斬られ海に墜落。その数秒後、打鉄が落ちた所で爆発が起こりSEだと思われる青い光が周囲を照らす。

 

 

 

 

「レェェェェェェェイ!!」

 

 

 憎しみに満ちた一夏の声が海上に鳴り響く。

 その手に雪片弐型を持ち澪に迫った。




次回予告

一夏は怒る
己の姉の敵を討たんと

澪は嘲笑う
真実を知る故に
ならば無理矢理教えるまで


あと少しで世界は変わる
全てを変える戦が始まる




これはその前の最後の戦い


次回=The END of World=


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IF:もしもの未来

今年こそ完結できるよう頑張ります。
────────────────────────
これは未来における一つの結果

⚠後書きに補足を


 IS学園が夏休みに入る直前、澪は遂に学園を出て行った。終わる事の無い劣悪な状況、腐りきった人々に呆れ果てとうとう見限ったのだ。

 それと共に名前無き破壊者の姿はその劣悪な環境により姿はより凶悪に、機体スペックもより破壊に特化していった。

 

 

 

「そこから一歩も動くな!」

 

 

 IS学園を出る際、多数の専用機持ちや教師部隊に刀奈率いる捕縛部隊、更にカスタム済みの打鉄を纏うクソ教師が俺を捕まえようとして来た。

 

 

「榊君……」

 

「会長も出てくるとはな。」

 

「お前......なんで学園を出てこうとしてんだよ!」

 

「俺がここを見限った、それだけだ。」

 

 

 澪は名前無き破壊者を纏い瞬間的にODA『双腕』に換装し、全身にエネルギーを溜める。それと共に辺りに赤黒い光が溢れる。次に何が起きるか、それを知る者は攻撃に移ったり守りの体勢に入ろうとしたが、澪が起こしたエンドショックは防御を貫いてダメージを与える。一撃で機体を半壊させられ、澪を捕らえようとする者達は動けずにいた。

 

 

「……じゃあな」

 

 

 クソ教師がすぐ様復帰して再攻撃を仕掛けてきたが、半分程の力で殴り飛ばした。その隙をついて澪はIS学園を出て姿を眩ませた。そしてこれがIS学園における澪の最後の目撃となった。

 

 

 IS学園を去った澪は、そのまま日本を飛び出した。その際、航空自衛隊や海上保安庁の者達に追い掛けられたが、澪はその全てを撒いて日本から完全に姿を消してしまった。

 

 

 

「ようこそセカンド」

 

「これからよろしく頼む」

 

 

 日本から完全に姿を消してしまった澪は、太平洋上にある亡国機業独立部隊『黄金の夜明け』に合流した。そこで篠ノ之マドカと再開し、部隊隊長と副隊長のスコール・ミューゼルとオータムと会い正式に亡国機業に入隊した事を告げた。

 

 

────主、我々は何時までも主の味方です

 

「これからも、よろしく頼む」

 

 

 それから、世界は急速に変化していった。まず今まで裏社会に属していた亡国機業だが、遂に表社会に出てきた……世界に対して喧嘩を売る形でだが。

 

 

「我々は亡国機業。この世界を叩き直す存在」

 

「そして、それを依頼したのはこの私......束さんだよ」

 

 

 神出鬼没の亡国、今のIS世界を作り上げた本人の敵対に対して世界は混乱に陥った。主なIS施設は破壊され、女性主義者達の団体や施設、女権団、IS委員会は漏れなく澪や亡国によって破壊尽くされ委員会本部は壊滅し、委員長である霧崎IS委員会委員長も死亡。反抗するものは破壊尽くし、関連する組織をまた破壊尽くす。終わらない破壊の連鎖の幕開けだ。

 

 

 連日のように放送されるその惨状に世界は恐れを抱く。そして、それと共に亡国から世界に発信されるIS委員会を元とした女権団や女性主義者達の行ってきた汚職に関する情報がばらまかれた。

 そこへ束が作り上げた『男女共用型IS』の発表、それにより世界は急激に女尊男卑撲滅の動きに変わって行く。

 

 そんな中、IS絶対神話と女性優遇を信じて止めぬ者達がそれに対して報復的な破壊活動を開始。それに対して世界は撲滅を図ろうとするが、その者達が繰り出す無差別的攻撃に対してあらゆる国々が大打撃を受ける。

 

 

 この時、既にIS絶対神話の象徴的存在であった織斑千冬を始めとする者達が、澪が去って暫くしてから廃校にされた『旧︙IS学園』に集結。亡国に対して宣戦布告を発表した。

 

 

 それから数日後、『反女尊男卑』を主張する団体や亡国が活躍して世界中にいた『女尊男卑』を掲げる団体は壊滅。残るは旧IS学園にいる者達となった。

 

 

 最終作戦『黄金の夜明け』が始動。世界中から集った正しき心を持ったISパイロットや機体、更には改造されたEOSが導入される。更には初となる『男女共用型IS』部隊も参加。

 

 戦果は混乱を招いた。前衛に世界最強『織斑千冬』が専用機であり、行方知らずだった暮桜に搭乗して待っていたのだから。だが、この場所は澪が担当したことによって他の者達は旧IS学園に侵攻を開始。

 

 澪と千冬の攻防は熾烈を極め、戦闘の余波で旧IS学園に衝撃が届く。作戦開始から12時間、旧IS学園にいた残党は討伐。残すは千冬だけとなる────千冬はまだまだ戦えそうだったが、澪は違った。千冬が持つISにも効く特殊な悪性データウィルスを刃に持つ雪片【毒之型】により、A.I.S.SとISの機能がシステムダウン。なんとか追い詰めるものの、澪もとい名前無き破壊者はもうスパークを放っており爆発四散寸前だ。

 澪は目の前に居る最後の敵である千冬を睨む。あと少し、あと少しなのに手が、脚が、体はもう動かない。ノーネーム達とはウィルスの影響で通信は不可能。でも、何が何でも目の前の敵は殺さなければならない。故に、最後の手を打った。

 

 

 

『織斑千冬......テメェを殺して、この腐った時代を終わらせる!故に、俺の命を引換にこの腐った10年の全てを終わらせてやる。だから────』

 

 

 そう言うと名前無き破壊者の体という体から、真紅の光が溢れ出す。千冬は暮桜を動かしてこの場から離脱しようとする......しかし、動けなかった。PICを、スラスターを、瞬時加速をしようが動くことが出来なかった。それどころか澪に引き寄せられていく。

 

 

「貴様......なにをした!」

 

『簡単さ。この機体本来のエネルギー機関である『G機関』、重力機関を暴走させて超小規模の縮退爆破を起こそうとしてる。絶対に逃げる事は出来ないし、生きる術もない。だからよ......

 

 

 

 

一緒に地獄に行こうかァァァァァァァ!!』

 

 

 この場から味方が全て撤退していることを認識して、極限まで抑えていた縮退反応を一気に早める。周辺の物体は全て澪を中心に惹かれ合い、重さに砕け散る。千冬も例外なく引き寄せ、圧倒的重さが襲い掛かる。一瞬の静寂の後、澪が光り輝きIS学園は赤黒いドーム状の光球に呑み込まれそこにあった物は全て消滅。

 

 こうして破壊を司る役目を持つIS『名前無き破壊者』と、その操縦者兼融合者である榊澪はこの世から消え去った。それと同時に世界最強であり現況である織斑千冬と専用機『暮桜』も瞬時にこの世から消え去った。多くの過ちと、後悔の時代が今この時を持って終わりを告げた。

 

 その後、旧ISは回収され男女共用型に改修された。それによりIS事業は拡大し、ISを活用した復興作業により世界は急速に戦争前の平和な時代にへと戻っていった。

 そして、人類は遂に宇宙用のIS開発を開始してIS発表から15年、遂に束が目指した宇宙に人類は進出し始めた。人類は未知に溢れる広大な宇宙に、新たな可能性を求め進出していった。

 

 人々は忘れない。あの醜い歪んだ時代があった事を。

 人々は忘れない。歪んだ時代に、自分を捧げ世界を破壊を持って平和に導いた破壊の英雄を




 まずはこのIFストーリーの世界線を説明

・IS学園に居たが、あまりの酷さに呆れ果て出て行く

・亡国に合流
(ここは本編も同じ)

・亡国が世界に向けて突然宣戦布告
(ここで本編と枝分かれ)

・男女共用ISの登場

・IS委員会本部が壊滅し、霧崎が死亡
 関連組織の壊滅的状況で、IS学園に女尊男卑や女性主義者やIS信者達が集う

・IS学園が最終決戦となる

・織斑千冬と榊澪の一騎打ち

・道連れで織斑千冬を殺し澪も死亡

・色々あってISの宇宙進出
(ここでIFストーリーでは完結となる)


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The END of world

最終話を書くまでに新刊が出ましたが、それらに出るISや人物達は今作では登場致しません。
ですが、一部の兵器が原作とは違う形で登場させます。
原作の京都修学旅行編を含んだその後からでる新しいISは登場しないのは確定です。
・エクスカリバー
こちらは原作とは設定を変えて登場させます。

これらの後の物語にて、一部の人物を更生or真実に気づかせます。そうしないと物語的に進行しない為ですが、主人公からの対応は変わりないのであしからず。
では長らくお待たせ致しました。
これより復讐者の物語の再開です。


────────────────────
気付きなさい
気付けよ

愚かな者達よ
屑共が

自らの終焉を
テメェの終りを

果ての世界に
果ての世界に

貴様らの居場所は無い


「うおおおおおおおお!!」

 

 

 一夏の憎しみに満ちた叫びと鈍い金属音が共に鳴り響く。以前と比べて確実に剣の腕は上がっていた、だが怒りでその太刀筋は素人目に見ても分かるほどに......

 

 

「真っ直ぐすぎる。」

 

 

 澪は一夏が振るう雪片弐型を天啓の剣で弾き返す。当たる直前に力を上げた強力な衝撃によって一夏は一時的麻痺状態に陥った。澪はがら空きの胴体を力いっぱい殴る。殴られた一夏は絶対防御に守られてはいるが体は吹き飛び、真っ直ぐ海面に叩きつけられては浮かび上がる。その様子は石切だ。

 

 

「まだまだァァァァ!!」

 

 

 二次移行した結果、非固定浮遊部位が四つに増え多方向加速推進翼となった白式の加速力で瞬時に澪の元へとたどり着く。互いの剣がぶつかり合い、鈍い金属音が響き渡る。

 

 

「以前より太刀筋は良くなった。基本的な戦闘行動も向上した────それだけだ。」

 

 

 澪はそう言って一夏を弾き飛ばして天啓の剣を収納し、ハンドクローで受け構える。今の怒りに染まった一夏にはそれで足りるのだ。

 

 

「よくも、よくも......千冬姉を!」

「織斑。お前、あの状況でよくここに来たな。

 正真正銘の殺し合いの場に。」

 

 

 あの状況で何故織斑が来たのかは知らんが、場間違いの人物だったのは確かだ。なんせ素人からまだ一般兵程になったレベルの人間が、あの殺伐とした殺し合いの場に来たら千冬にとってただの枷になる以外の道はなかったのだ。

 早すぎた。あの土俵に入るのはまだ早すぎたのだ。

 

 

「知るかよ......頭の中に変な声が響いたんだ。それに体がここに勝手に向かって居たんだ。この辺まで来たところでそれは無くなったけど、千冬姉が危なかったのは見逃せない。

 だからこそ来た!」

「......それで自らアイツの枷になりに来たと?」

 

 

 そう言って雪片弐型を払い、ハンドクロー振るう。その一振りで数m弾き飛ばされたが、また直ぐに打ち合う────しかし押し返される。

 

 

「ぐうぅぅぅ!?」

 

 

 スラスターを最大限まで吹かしたが、それでも押し返される一夏。白式・雪麗の瞬発的加速力を乗せた斬撃なら普通の機体、軍用機でも押し負けることは無い。しかし苦悶の声を発するのは一夏で、澪はそれより更に上の力で押し込んでいた。

 

 

「先ほどの発言。白式のコアと殲滅のコア、それに暴走状態の打鉄のコアによる共鳴反応か。いや、それにしては......」

「何をブツブツと!」

 

 

 一夏は単一仕様能力『零落白夜』を起動させるが、殲滅のA.I.S.Sによってただ斬れ味の良い剣になっただけだ。知らぬが仏とはこういう事か......澪はそう思った。

 澪は既に一つの答えに辿り着いていた。白式のコアの正体が『白騎士』だと言うことに。 何しろ共鳴反応があった機体とその搭乗者に問題がある。織斑千冬は白騎士の搭乗者であった。澪は殲滅の搭乗者及び同化状態。ならば一夏は?

 一夏が共鳴反応に加わったのは織斑千冬の血族だからか、それともその機体かコアに問題があるのかのどちらかだ。それこそ、白式は織斑千冬と関係の深い篠ノ之束と倉持技研が深い関わりを持つ。機体という名のISコアを守る外装は倉持技研が、ならばそのISコアはどうしたのか?

 ISコアは現在IS委員会が管理をしている。委員会公式の情報では倉持技研に渡されているコア数は現在複数あるのだが、倉持技研で造られた時に登録される機体製造データに白式の数はカウントされていなかった。さらに仕様から武器まで姉と同じものが多いが、戦闘方法も型もほぼ同じだ。そこまで行くと以前使っていた誰かの情報に白式が同調している。

 

 白式は二次移行では特殊な複合型射撃兵装があるが、一次移行時の武装が雪片弐型だけの超近接特化型のIS。過去も今も世界中にある超近接特化型のISは織斑千冬の『暮桜』以外現在ISの中で超近接特化型のISは白式しか存在しない。だがその暮桜から未だにISコアが抜かれた記録は無い────そうなると答えは一つ。織斑千冬が乗っていた、始まりのISである白騎士のコアが白式には使われている可能性が高い。長らく不明とされている白騎士のコアが、もしかしたらの範囲だが使われている。

 

 一夏は雪片弐型をパワーアシスト全開で薙ぎ払う。しかし、澪にそこまで大きな影響はなく、すこし吹き飛ばされた程度。大振り状態で固まった一夏に素早く接近し、その右腕を振り上げる。それにギリギリ反応した一夏は下からすくい上げる様に雪片弐型を振るい、その攻撃をなんとか防ぐ。

 

 

「織斑......まだ知らぬと言い張るつもりか。

 貴様の姉が行った行為が、世界にどれほどの混乱を招いたことを!」

「そんな事知るかよ!」

 

 

 至近距離からアローを連続で放つ。吹き飛ばされた一夏はPICで体勢を整えるが、一夏の目前には既に殲滅の拳が迫っていた。

 

 

「がは!?」

 

 

 懐に入られた一夏は、高速で放たれる連続ラッシュをモロに受ける。澪は頭部のマスク部分だけIS化を解く。

 

 

「織斑、テメェの姉が世界を混乱に招いたことを『そんな事』って言ったな。

 織斑千冬のテメェだけを守るだけに、世界中の人々を......時代を巻き込んだ事をそんな事と。」

 

 

 あの姉してこの弟である......!と、澪はそう頭の中で呟く。一夏は無理矢理上方瞬時加速で澪から離れ、荷電粒子砲を放つ。

 

 

「だから甘いんだよ。」

 

 

 真紅の光壁で光線は霧散し、スラスターを吹かして距離を詰める。織斑はさらに荷電粒子砲を撃ち込んでくるが残った反逆する血の牙達を数機展開し突撃させる。それに対して織斑は荷電粒子砲を撃つのを止め、雪片弐型で振り払う。

 

 

「認識が甘いからこそテメェは自らの首を絞めた。」

「かはっ!?」

 

 

 ガラ空きだった背中を強打。織斑は強い衝撃により肺の空気を出し切り咳き込むが、状況は動き続ける。

 一夏の視界にあったIS学園上空に銀の福音を見つけ、銀の鈴をIS学園の各所に向けて放つ所を目撃した。その攻撃はIS学園のアリーナ、装備庫や整備棟の施設に直撃。これでIS学園のIS委員会・女権団による拠点化は不可能となる。

 

 

「が、学園が!?」

「戦闘中によそ見とはな!」

 

 

 澪は白式の脚部を掴み、IS学園の方角に向けてぶん投げる。一夏は急いで体制を整えようとするが、視界にエラーメッセージが表示される。非固定浮遊部位に回すSEがもう無いのだ。ただでさえ消費エネルギー量が多い荷電粒子砲をこれでもかと無要に撃ち続けた。さらに消費量が多い単一仕様能力『零落白夜』を何回も起動させ、澪による攻撃結果でもある。吹き飛んで行く一夏を追った澪に通信が入る。

 

 

『澪。そこに居る一人目以外の攻撃目標及び全敵勢力の撃破を確認したわ。今からあなたの元へ向かう。』

(了解)

 

 

 個人間秘匿通信が入って来た。相手は予想通りナターシャで、作戦の完了報告であった。一方的なものであったが戦闘中であることを考慮してくれたようだ。俺は了承の意を伝え通信を切り、吹き飛んで行く織斑を追う。

 IS学園の校舎にもう少しで衝突するという所で、学園の森林部分に向けて再び白式の脚部を掴んで投げた。

 木々が折れ、荒れた状態の森林部に一夏は倒れていた。澪はIS状態を解き、人間体でISを纏う一夏に近づく。

 

 

「く、くそ......!」

 

 

 一夏の目は未だに己の姉を討った澪を討つべしと、その目はそう訴えていた。しかし、一夏から見た澪の目は────無情とも呼べるほど冷めた目だ。

 

 

「成程な......下らん。」

 

 

 突然下らんと言われた一夏は訳が分からず、何故だと怒り叫ぶ。澪は一夏にそう言われても冷めた目で一夏を見る。

 

 

「実に下らん。己が状況を理解せず、姉の権威に守られて、戦力差も理解してない男......それが織斑一夏という人間を見た俺の感想だ。」

「その言葉を取り消せぇぇーーッッッ!!」

 

 

 一夏の中でナニカが切れた。白式の雪麗をハンドクロー形態にして澪に攻撃を仕掛けるが、澪は跳躍をして回避。そこからPICを下方方向に起動し、パワーアシスト全開でのかかと落としで左腕のハンドクローを地中に埋める。その状態で下位解放である復讐者の剣を展開して突き刺し、その場に固定させた。

 

 

「俺も感情的に動くがそれは機体性能と戦況、どう動けばいいか理解してるから上で、だ。

 ただの感情任せの攻撃と、感情を乗せた攻撃ではこうも差がつく。」

「この野郎......!」

 

 

 忌々しく見てくる一夏に澪は淡々と告げる。一夏の戦力としての評価は対IS装備兵士と同等か、それ以下の者でしかない。現段階の世界にいる対IS装備兵士なら複数人いれば量産型のIS程度なら五人で事足りる。

 接近特化型のISなら、戦闘方法はパターン化している為通常のISより更に対応しやすい。だが、流石に代表候補生の中級~IS国家代表級及び軍属になるとそれは変わる。

 

 

「それとだ......織斑、お前今この学園で何があったのか分かってるのか?」

 

 

 不思議に思った。織斑の反応がまるで何も知らされてないような言動があり、これだけ騒いで教員や生徒共が出て来ていない。

 

 

「お前達IS学園の生徒達は、今何が行われていたのか知っているのか?

 『はい』か『いいえ』で答えろ。」

「......『いいえ』」

 

 

 あの教師はこの件について生徒側には『何一切伝えていない』のか?恐らく箝口令をしいているから自室待機状態になってるとでも言うのか。

 

 

「織斑、もう一つ答えろ。

 IS学園の職員側最高権力者であったお前の姉は、IS学園がIS委員会及び女権団によって占領状態にある事をお前達に伝えたか?」

「し、知る分けないだろう!

 生徒は自室待機って言われてただけだから......」

 

 

 それを聞いた澪は「そうか」と一言言うと近接ブレード『超振動ダガー』を展開して白式左手部分のハンドクローの一部を斬りつける。もはやSEが枯渇寸前だった白式はこの攻撃でSEが枯渇し、白式は待機状態のガントレットに戻ってしまう。

 

 

「結論から言うとな、お前は何も理解をしていない。

 今の状況が、お前にとって生命の危機にあったことも理解して無い。男を敵として見ている女権団共がお前の姉がいても居なくても、隙を見て時間があれば殺しに来ていただろう。

 お前ら普通の人間なら銃の一つでも死ぬんだろうが、俺は死なん。でも俺は死ななくてもお前らは死ぬ。男を嫌う連中がそういう危険物を持ってこの学園を占拠した所で、自分がそのような結果になることに気付かないのは実に滑稽な事だ。どうせISが有るから大丈夫だと思ってたのだろう?」

「それはそうだろ!?いざとなればISを纏えば......」

「馬鹿か。そんなもの展開時間より早く攻撃されたら死ぬし、気づかれない間に攻撃されたらアウトだ。狙撃手がその典型的だろう。纏った所でIS専用剥離剤なんて使われたら......いや、これはお前は知らないからなんとも言えんか。

 学園はIS委員会と女権団の武装組織に占領されていた時に、お前は真っ先に逃げるなり身を隠すなりの行動をするべきだった。」

 

 

 織斑は俺の言葉に対して「出来なかったからしょうが無い」と訴えて来たが、その考えが間違えている。世界で最も希少な男性IS操縦者の立場で、むしろ何かしらの訓練やらなにやら受けるか学ぶべきだ。IS学園に入った時にあった一連の事件で気付かないのか? それを理解していないから故に、十蔵さんはこいつを無理矢理連れて来て、女性主義者共による悪用を回避しようとした。しかし、俺とアイツに引き寄せられて今に至るということか。

 

 

「そもそも日本にIS学園があるんだから自衛隊が来てくれるんじゃないのかよ。」

 

 

 澪はその発言を聞いて呆れたようにため息を一つつき、やはり馬鹿かと内心思いながら喋る。

 

 

「織斑......IS学園は法治外国家、世界の法なぞ役に立たない。国とは呼べんが世界の国というカテゴリーから外れた異端であり、たとえ日本の地で出来たとしてもここは日本ではない。世界の国々の干渉不可能領域であるこのIS学園には日本の自衛隊も、各国の特殊部隊も助けに来てはくれん。

 だが、デュノアや女権団みたいにスパイ共は入っては来てたがな。これはIS学園に在学してる人間としては常識の筈なんだが......まあ、どうせもう直ぐここは閉鎖されてそれも意味を成すことは無い。」

 

 

 そうこうしていると銀の福音が上空から降りてきた。

 

 

『お疲れ様。

 そこに居るのが一人目の?』

「織斑千冬の弟だ。」

 

 

 俺はそう言って背を向けると織斑が「何処に行くんだ!」と叫ぶ。

 

 

「俺の任務は依頼者及び複数の人々の救出、それとIS学園のIS委員会と女権団の拠点化を防ぐこと。

 任務が終わったからこっから去る事は当たり前だろう?」

「澪は自分が通っていた学校を壊しておいて、心が痛まないのかよ!?」

「無いな。

 無理矢理入らされ、今は違うが大嫌いだったISについて学ぶ学校なんざ大嫌いだ。ISをファッションだとしか思えん連中、俺を男だからとちょっかいという名の殺害行為を行う連中がいる所など誰が好きなものか。まあ少しだけ良いことはあったが、それを覆す程に嫌なことが多過ぎた。

 分かるか?俺はIS学園が壊れてくれればそれで良い。」

 

 

 腹立たしい。こんな所、俺にとっては刑務所同様の檻だ。確に良いことも少しはあったが、それでもこんな所を好きになれる奴が可笑しいんだよ。しかも、ここは女性主義者達が生まれていく場所の一つだ。余計に嫌いになる。

 あとはここから去るのみとなった。しかして俺がここからこのまま去るとしたら、織斑は直ぐに殺されるか奴等に利用されるだろう。俺としてはどうでも良いこと────だが、コイツにはいい加減知って貰えねばならない。それを知らぬまま死んでいくのは許さん。

 

 

「?」

 

 

 澪は反転し、一夏の目の前に立つ。右腕だけ殲滅の腕に変化させて一夏の頭を掴んだ。無論握り潰さないように力加減はしてある。だが、それは人間の痛みの許容量を超えて一夏は直ぐに気絶した。

 地面に下ろした一夏の右腕にあるガントレットを掴み、そこからISコア同士の共鳴におけるとある現象を起こす為にコアネットワークの同調を開始する。

 しかし、それを阻むように白い光が澪を焼き焦がす。

 

 

「......邪魔をするか、白式と白騎士のコア人格。

 今はお前達が出る幕ではない。今の主人を大切に思ってるなら、これから行うことを黙って受け入れろ。」

 

 

 そう言って暫くすると光は収まり、コアネットワークの同調が進む。

 

────────────────────────

 

 それは例えば戦場。そこにはISが空を飛び、旧時代の兵器である戦車や戦闘機が蹂躙されていく。そしてISは地上を焼き払い、無抵抗な一般市民さえ無慈悲に殺す。

 

 それは何処かの壊れた街。ISを纏った者が襲撃し、街にはかつての活気溢れていた人々の姿はない。

 

 それは何処かの実験施設。男でもISに乗れる様にする為に非人道的実験が行われ、人体の改造・遺伝子操作体・肉体のISの一部へ改造......見るに堪えないおぞましき光景が広がっていた。

 

 

「なんだ?」

 

 

 景色は一定時間が経つと変わっていく。その光景をぼーっとしながら眺めていると不意に声が響く。

 

 

────今見ているのは、ありとあらゆる場所で起きた『IS』と『織斑千冬』が原因で引き起こされた惨劇が起きた場所。

 

「千冬姉が原因?......嘘だ、そんなのは嘘だ。

 だって、あの千冬姉だぞ。」

 

────これは嘘ではない。これはISコア内に保存されている映像記録を直接体感出来るまだ解明されてない機能、それを今お前は体験している。

 

「そんな訳が!」

 

────お前が見た実験施設。そこは超人的身体能力を持つ織斑千冬を参考に、『織斑千冬』を超えた肉体を持つ者を造ろうとした。

────ISに男が乗れる様にする為、捨て子や人身売買で買った子供たち、一定以上の能力を持つ大人達を使っての人体実験。故に生まれたIS融合兵士......それと失敗作と称される者達。全てが『織斑千冬』を超える存在を作る為に、最強の能力を持つ『IS』の発展の為に行われている。

────もう一度見ろ織斑千冬の弟である織斑一夏、お前一人だけを守る為に壊した世界を

 

 

 一夏を見た。荒れ果てた街で泣き叫ぶ子供の姿を、その上空にはISが悠々と飛んでおり街を破壊続ける。ISから放たれる銃撃は泣き叫ぶ子供を飲み込み、その後には何も残らない。

 

 

『これで薄汚い物は消え、私達の女の場所となる。』

『千冬様に捧げるのよ。もっと、もっと!』

 

 

 一夏は見た。研究所で嫌だと拒否し、泣き叫ぶ者達の姿を。己の肉体を弄り、機械と繋がったその身を見る者達の死んだ目を。下半身がISと同化し狂い、暴走する者。外法な遺伝子操作体として生まれた者が、能力が低いからと言われて処分の名の元に殺されていくその光景を。

 

 

『これではまだまだ織斑千冬には辿り着かない。』

『これも男の為でありISの発展の為だ。』

 

 

 この盲信的に己の姉を、ISを信じている女達が。ISの為だと言って惨劇行為を、違法的人体実験を繰り返す人々。そして、街を破壊尽くす行為を正義とすることが。さらに場面は変わって己の姉の名を掲げて知らぬ人間を殺す事が、これで姉に貢献出来る等ということを言う女達が。ここまで異常な光景を己の姉が発端であり、それを容認した人々......俺を守る為にそれを良しとした千冬姉。

 

 

「ひっ!?」

 

 

 知覚する。俺が今立つ所は、数え切れない......1万、10万、100万、1000万、1億────否、もっと多くの人々の屍の山の上。屍は上に、死にたくないという願いを込めて手を天に向かって上げている。そして、その手は天の位置......たった一人の生存者である俺の足を掴んでいる。

 

 

『俺達はまだ生きたい』

 

『お前のせいで』

 

『私達の人生を返せ』

 

 

 怨念。全ての被害者達が願った『生きたい』という願い。それを斬り払ってまで俺一人を守って来た千冬姉はこんな結果になることを、全て......理解してた?

 

 

「理解してたからこそだ。」

 

 

 いつの間にか周囲は真っ暗で、俺は声が聞こえた方向に体を向けるとそこには澪が立っていた。その姿は人なのだが、ISのパーツが体から突き出ている......違う、ISと同化していた。

 

 

「もとは普通の人が持つ家族に向ける『愛』だったんだろう。奴はその愛を拗らせ『狂愛』となり、お前以外は失っても良いという考えに至った。あの様子からすればという考えだがな────────そして、その結果が今の世界。そして、そこから生まれた狂気が俺に降り注いだ。」

 

 

 景色が変わる。そこは燃え盛る街、空を舞うISが地上にいる人々に向けてその手に持つ武器から攻撃を放つ。そんな光景の中、見覚えのある小さな男の子が怒りを含んだ声で叫んでいる。

 

 

『がえ゙ぜ......僕の家族を返ぜぇぇぇぇぇ!!』

 

 

 それこそ目の前にいる澪が幼くなった様な男の子だ。肌を焼くような怒りが、あの男の子から放たれているのが理解出来る。周囲には人だった物だと思われる肉片......俺は堪らず吐いた。だが現実では無い為かすぐ様吐瀉物は消え、吐き気も消えた。

 

 

「これが俺の原点。滅んだ街、殺された家族に友人達......なにもかも全てISが奪い去った。ここにそれまであった人々の生活の姿は無く、ある筈だった明日を全てを奪われた。」

 

 

 これまで澪が怒りと悲しみを、IS学園在学中にこれでもかと放出していた理由。そして、何故俺に対していつもあの様な言動をしてきたのか。それを今目で見て自覚する。

 今まで無視して来たISと己の姉に対しての怒りが、その両方に関係する俺に対しても言われてるかのように思えて今になって恐怖しているのだ。澪が在学中に叫んだ言葉が己に鋭く、心の底に突き刺さる。

 

 いつの間にか澪は居らず、俺は見たくないと思ってもこの気持ちを心に刻めと目の前の光景を見せつけられる。

 

────────────────────────

 

 俺は未だに気絶し、あの光景を見続けてるだろう織斑から離れる。やるべき事はやった。これでもうIS学園に居る意味は無くなった。

 俺は置き土産として腕から出した俺専用のエネルギー供給用コードを腕に突き刺し、それを白式であるガントレットに繋ぎ、ありったけのSEを注ぐ。それが終わってナターシャに行きましょうと言ってから織斑から離れる。

 

 

「その光景が止まった時、どんな行動をとるのか楽しみだ。」

 

 

 澪はそう言ってIS体になり、ナターシャと共にIS学園から離脱していった。

 

 IS学園は生徒・教員・事務員様の寮、校舎を除くIS関連の重要施設を破壊。地下通路の大半を戦闘の結果破壊し、IS委員会と女権団の武装勢力排除。IS学園の拠点化を防ぐことは概ね達成。

 あとは世界中のIS委員会の支部と本部、それと女権団の壊滅をするのみ。

 

 

 

(もう少しでお前達を恐怖のどん底に叩き落としてやる......待っていろ。)

 

 

 戦乱の時は近い




次回予告

終わる

腐った世界が
腐った者達が

今こそ
世界を変える戦いを

始めよう
我々の戦いを

次回=戦いの狼煙=


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戦いの狼煙

変わりゆく世界よ
ありがとう

終わる世界よ
さようなら

愚者達と共に消えなさい
その醜い魂と共に
暗黒の時代は終わる

さあ......始めよう


 事件は直ぐに世界各地に伝わった。

 

 IS関連で重要施設であるIS学園に襲撃があった。それは世界各地で大混乱を招いた。現代の最高技術の最先端を行くIS学園は、存在自体に価値がある。そこが襲撃されたと言うのはとてつもないマイナスなのだ。

 特にそれを嘆いたのは日本であり、膨大な金額と資材を消費したのにIS学園の大半は破壊尽くされた。損失は計り知れない。幸い『学園側』は織斑千冬を除いて行方不明者、死者や怪我を負った者が居なかったがすぐ様IS学園は閉鎖。代表候補生や専用機持ち、それに一般生徒達はそれぞれの企業や国へ帰還した。

 そして、IS学園学園長夫妻が行方不明。それに加えて織斑一夏と篠ノ之箒が姿をくらまして行方不明となる。織斑千冬は姿が見えず、長期間の捜査が続けられたが見つからずにいた。

 亡国に救助された中にいた専用機持ち達は救助された数日後、所属国家から秘密回線で亡国に合流してその作戦に参加するよう指示があった。その為そのまま専用機持ち達は亡国に参加し、一般市民であったものは護衛をつけながら家族の元まで送り届けた。

 

 これと同時に、IS委員会と女権団がIS学園を武力による不法占拠があった事も知れ渡った。学園からIS委員会と女権団の所属武装組織に所属する者達の遺体の情報が何処からか漏れたのがキッカケだった。これにより各国からバッシングが相次いたが、両者は沈黙を保っている。

 

 それから数週間後の8月中旬、とある日の正午の事だ。突如世界各国の政府がある組織の世界同時発表を行った。

 

 

 

 超国際連合治安維持組織『亡国企業』

 

 

 この腐った時代に終止符を討つため、裏社会で第二次世界大戦後から存在し長年隠されてきた人類史上最大規模の存在を表社会に出した。その情報は驚くべき速さで知れ渡り、たちまち話題になった。さらに、これを機に作ったネットにある亡国企業のHPには様々な情報が掲載されていた。協力者・協力企業・参加国家など数多の情報がある中、IS関連での今まで起きた事件の情報やIS委員会と女権団によって秘匿されていた情報の強制解禁も行われていた。

 

 この結果、世界の女性主義者では無い人々はIS委員会と女権団、女性主義者たちに対して怒り狂った。それは女性主義国家・非女性主義国家同様に起きて、その勢いは止まらず勢いは増すばかりだ。

 これに対してマスメディアは『あれは嘘だ!ネットのニュースやあの様な間違った情報を信じてはいけない!』と言っているが、信ぴょう性が高い情報ばかりで、実際それが本当だった事も数多くあった。

 これにより、今まで女性主義者達によっての冤罪で捕まった者達が急速に釈放されるという事態になり、それに対して不服だと世の中の女性主義者達は騒いでいた────────────しかし、とある人物が世界に向けて亡国企業のHPからとあるメッセージを発信したことにより全てが変わった。

 

 

 

 

『世界の皆様、こんにちわ。

 わたしは篠ノ之束。ISを作った本人であり、この間違った時代を築いてしまった者の一人です。

 

 無駄な時間は省き、本題に入ります。

 私はこれより、『亡国企業』に参加しこの間違った時代を終わらせます。

 

 恐らくこれに反対する者達は戦女神......織斑千冬に頼ろうとすると思います。しかしそれはもう無駄な事で、彼女は既に法に基づいて死刑判決を下され、処刑済みです。

 

 裏で数多の違法行為、IS学園における生徒における体罰を含むを数多くの罪に対する制裁処置として処刑されました。

 何はともあれ、もうこの世に彼女は存在しません。』

 

 

 本当は澪とナターシャがIS学園襲撃(救援作戦)で、偶偶出てきたから故になった結果だった。これに対し、亡国を含み世界各国の首相達は頭を悩ませた。しかし、織斑千冬がIS学園での隠蔽工作・ISにまつわる機体情報の横領・倉持技研に対する圧力をかけて無理矢理IS『白式』を建造させた......等と違法行為が篠ノ之束によって見つけ出された。そして、なおかつIS学園における生徒における体罰なんかは刀奈から聞いていた話なんかが参考だ。それを利用してこのような結果となった。民衆はこの内容を知ることはなく一部の者達にだけ本当の内容は知られ、これから先真実が語られることはないだろう。

 

 それに対して全てが終わった者達がいる。

 

 IS委員会と女権団......女性主義者達から『絶対的神』のような存在からの宣言。それは彼女達が信じる女性が一番という時代を終わらせるというメッセージそのもの。そこへ初代にして最強の戦女神である織斑千冬の死亡報告は、女性主義者側に対して心理的ダメージを増加させた。

 

 世界は変わった。

 

 世界各地のIS委員会と女権団の施設が、暴徒化した市民らの襲撃を受けた。至る所で女性主義者狩りが行われた。

 

 そこでIS委員会と女権団達はISと雇った傭兵達で、その市民らを全員殺害。それによって更に怒った市民達とIS委員会と女権団達による世界最大規模の紛争やデモ活動が勃発し、史上最大規模の虐殺行為も開始された。

 女性主義国家は、非女性主義者たちを武力により強制的に鎮圧。捕縛し、殺すか刑務所へ送るという事態に発展。

 それに対して人々はさらに反発する......そんな世界と時代そのものを巻き込んだ戦乱がついに始まった。

 そして、遂にIS委員会と女権団は『女の敵は掃除しなければならない』と言う声明を発表した。それに加え、遂に量産型ISコアの開発を成功させたと発表。それと同時に世界各地のIS委員会支部から量産型ISコア仕様のラファールと打鉄が次々に出撃された。それにより街は、人は、ISにより血の海に......炎の海に包まれた。

 

 

「我々、IS委員会は女性にとって敵であろう者達を徹底的に排除する。

 IS委員会がそれを許す。

 敵を排除せよ!我々が正義だ!」

 

 

 

 それでもこの時代の真実に人々は怒り、絶望する。

 あまりの辛さに膝を屈する。だが立ち上がる。

 この絶望を、この虚無を、この悲しみを、怒りを。

 狂った時代を破壊する希望に人々は全てを託す。

 

 この間違った時代と戦う者達に

 この時代に抗う全ての人々に

 破壊を持って悪を討つ者に

 後に語られるとある男を

 

 

 

 破壊の英雄に

 

 

 

 

 

 

 

 

『作戦開始まで......3......2......1』

 

 

 

 日本IS委員会近畿地方西側本部、直上高度1万メートル上空。その高度にそれはいた。

 

 

 全てを壊し続ける破壊の化身

 怒りと悲しみの願望機

 狂った時代を壊し

 正しき時代に戻す

 

 反女性主義者達の希望にして

 女性主義者達の絶望そのもの

 その役目を果たす一人の男とそのIS

 

 

 

『作戦開始』

 

 

 

 真紅の流星は地上に落ちた。

 

 

 

 ISの歪んだ誕生に世界は変わった。

 だが、今また世界は変わる。

 

 彼のISによって歪んだ人生とその運命

 それは一つのきっかけを生んだ。

 この狂った時代に嘆く者、怒る者......その全ての人々

 

 篠ノ之束が知った怒りで生きる男が全てを変える。

 その男の奇妙な人生が世界を巻き込み全てを変える。

 

 決して怒る事は無駄では無い。

 決して嘆く事は無駄では無い。

 かの者は決してその人生に後悔はしない。

 

 

「破壊者が来たぞ!」

「撃てぇーーっ!!」

 

 

 その人生を、託された願いを叶える願望器としての役目だけに変わっても────────例え全てが終わって世界に棄てられても。

 

 自分がその役目を終える事でその生涯に終わりを告げようとも、その男は間違ったモノ全てを壊し続ける。

 さあ......始めよう。

 

 

「破壊する」




次回予告

開戦から数週間
亡国企業は一つの情報を得た

それを元に澪はとある場所に
独りで向かう事となる。


「......待ってろ■■■」


次回=単独行動=


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単独行動

────索敵範囲内に敵対IS反応探知

────マスター、対処方法を求む

「私をマスターでは無く主と言えと何度も言ってます。」

────求む

「......視界内に、支部の100m範囲内までは攻撃禁止。
 一定のダメージを追うまでは戦闘続行。それまでに例の『弾丸』を撃ち込んで......頼むわ。」

────任務開始


 世界がその歪みに気付いたあの日。

 

 文字通り世界は火に包まれた。

 物理的に、心象的に。怒りという名の、戦火の火は確実に世界を覆い尽くしていた。数でならこちら側......亡国企業の方が多いが、IS委員会と女権団は『量産型ISコア』の正式生産に成功。発表と共に量産型ISコア搭載機をこれでもかという程に投入し、奴らに反逆する人々を文字通り血祭りに上げた。

 

 数日前、件の傭兵団『鬼兵軍』が亡国企業に密かに合流。常軌を脱した身体能力を持つ集団が仲間となり、これでIS・EOS・歩兵隊の軍事力は上昇。亡国企業合流後、鬼兵隊は『オーガ部隊』と命名され亡国企業に入った新人達の生身での訓練やEOSを使用した訓練を実施。さらに生身でIS相手に戦闘を幾度も無く行っていた為に、生身での対IS戦闘訓練も行っている。

 その様子を艦長室にあるモニターから見ていたアルベルト、そして元IS学園学園長であった轡木十蔵。

 

 

「戦力の方は確実に上がってきてますね。」

「うむ。これからは突出した戦力だけでは敵勢力を叩くのは難しくなる。それ故に全体の戦力を今の内に上げておいて、来るべき決戦に備えなければな。」

「それまではこうして特記戦力を各地に派遣し、敵勢力を叩くと?」

「皆には悪いが、その時までそうさせてもらう。」

 

 

 そう話してる時、艦長室にある艦内電話からコールがなる。アルベルトはそれに出る。

 

 

「『B』からか......作戦領域で一般市民が巻き込まれていて、救出部隊を要請している?

 それと『ドール』を確認しただと!?」

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

「......」

 

 

 現在、午前4時頃。ロシア領のとある地域において澪はIS反応を隠す特殊ローブを纏い、IS委員会の支部に単独突入していた。普通なら大き過ぎる己のIS反応をほぼ完全に隠すことが出来るのは凄まじい技術力だ。

 

 

「......駄目か」

 

 

 澪はIS委員会支部に有る亡国企業に属さない民間のレジスタンス組織がいると聞き接触を試みのたのだが、組織があるという場所についた時にはそこはレジスタンスメンバーだと思われる人々の無残な遺体と破壊されたEOSと旧世代兵器の残骸が有るだけだった。

 

 

「刀奈......無事で居てくれ。」

 

 

 そもそも何故この単独突入を行っているのか?それはあの亡国企業公開の日から数週間後、更識楯無が幽閉されていると言う情報が入ってきたのだ。俺が織斑千冬との激戦を繰り広げたIS学園に行ったその日、刀奈は丁度ロシアに居た。どのような方法かは不明だが、何かしらの手段で無力化され現在向かっているIS委員会支部に幽閉されたと言うのだ。

 どうやら武装を見る限り対IS装備ではなく、通常兵器のみでの部隊のようだ。組織の建物内に入ってあちこち調べたが中も無残に破壊されており、金目の物はどうやら持ち逃げされた様だ。さらに通信機器も銃撃により破壊されており、銃撃痕から恐らくIS専用の銃火器によるものだろう。

 

 

「生体反応......見つけた。」

 

 

 周辺の生体反応を探す特殊スキャンを起動させた所、生命反応がこの建物の地下から示されていた。一応中を見てきたが何回かブービートラップによる爆発を受けたが、建物の探索は終わった。どうやら重要な部分は荒らされており、もはや電気設備は使用不可。食料庫があったが燃やされた跡があった。......残るはこの地下だ。

 

 

「ここか」

 

 

 建物の廃品置き場と思われる場所の片隅、その地面のコンクリートブロックが数個微妙に変な置き方になっていた。そのブロックをどかすと隠し扉が出現、澪は扉を開け中へ入る。

 

 

「誰だ!?」

 

 

 中へ入り数分。2〜3人が並んで歩けるような暗い道を進むと、大きな空間がある部屋に入った。そこには一人の男と三人の女性......それと5人程の子供達が居たのだ。男は女性三人と子供達を庇う様に前へ出て、その手に持つAK74mをこちらに向ける。ここで自分がローブを纏っていることに気付いて、頭だけ露出させ自己紹介する。

 

 

「落ち着け。俺は敵じゃない」

 

 

 既に世界レベルで顔バレしてるので、顔を見せると男は驚いた様子で「本当に......?」と呟いていた。そりゃあそうだろ。

 

 

「お前、その顔は」

 

 

 驚くのは無理はない。もう俺の顔は半分程殲滅の部品がくっついてる状態でマトモな顔をして無い。目なんてもう人間としての目ではなく、眼球は機械が混じってISとしてのデュアルアイとしての役目でしかない。そのせいでか今や普通にセンサーとして動いている。ローブで隠しているが腕もISアーム化し、殲滅の同調率が上がるにつれて人間としての体は消えてきている。

 

 

「......むっ?」

 

 

 女性達の後ろ側に居る子供達がジッと俺を見つめてくる。その時、子供達からグーと腹の音が鳴り響く。それで気付いた。全員やつれてる事に、食べ物をろくに食べてないことに気づいた。

 

 

「かたじけない......この恩は何かしらの形で返す」

 

 

 そう言うのはアルトゥールと名乗る屈強な男だ。どうやらここのレジスタンス組織のNo.2的存在であることが分かり、現在拡張領域に閉まってあったレーションやら食える物を澪はアルトゥール達にあげていた。

 しかし、これは一体何があったのか......そう思う。

 

 

「別に俺に恩など返さなくていい。

 それより、ここまで無惨に破壊尽くされているが何があった?」

 

 

 俺がそう言うとアルトゥールはこの惨状について話し始めた。

 

 

「俺達レジスタンス組織はこの周辺地域でIS委員会支部と戦闘を行っていた。言わばここは最前線基地の様なものだ。戦場はIS委員会支部のすぐ近くで行っていて、この辺での戦闘は今まで無かった。

 それが突然四日前、突然複数のISと巨大なロボットがこの基地を強襲した。亡国企業みたいに対IS戦闘訓練を受けた訳でもなく、対IS用装備がある訳じゃない俺達レジスタンスは必死の抵抗をした。」

 

 

 アルトゥールはそう言ってため息をつく。

 

 

「そんな時に運悪くこの辺の非戦闘域まで遊びに来ていたのが今いる女らと子供達で、本当に運が悪いとしか無かった。この辺は夜空が綺麗なスポットとしてある程度知られてて、その関係できた人達の様だ。今話したようにここでの戦闘は一度も無く、今回の一件が初めての戦闘だ。だからここはただ支部基地があるぐらいで、観光のスポットとして有名な場所だからな。普通なら護衛の一人や二人連れてくるのだろうが、このご時世だから......そういうのも関係してるだろう。まあ、それで急いでここまで避難させたはいいが.....」

「潜んでいる間に上の階が荒らされて、使い物にならなくなっていたと?」

 

 

 廃品置き場のすぐ前に食料庫があったのだが、燃やされた跡があった。恐らく隠れて生き残っても餓死させるためなのだろう。

 

 

「その通りだ。そんな時にアンタが来た。」

「それでは、あの人達は一般市民という事か?」

「ああ。」

「......本当に運が悪いな。」

「これ以上ここにいても危険だから、なんとか安全な所に避難させたいのだが......」

「流石にこれ以上は不味いからな。ちょっと待て」

 

 

────主。亡国の救援隊を呼びますか?

 

 

 話してる最中ノーネームがそう言ってくる。俺はそれに対して頼むと一言言うと、了解ですと言った。

 

 

「それなら大丈夫だ。今、亡国の救援隊に連絡してここの座標データを送った。」

 

 ノーネーム。駆け付けるまでにどのくらいかかる?

 

────近場からおよそ1時間程です。

 

 了解。ありがとうノーネーム

 

 

「今から1時間程、ここで待機してほしい。そうすれば貴方達は全員助かる。」

 

 

 澪はそう言うとその場から立ち去ろうとして、アルトゥールは何処へ行く?と尋ねる。

 

 

「なに、ちょっと目の前の支部を壊滅させるだけだ。」

 

 

 一機全壊 たった一人で全てを壊し尽くす。澪に与えられた言葉がそれだ。

 

 

「殲滅隊......俺一人にして、俺だけの役目。敵を滅ぼし尽くす部隊としての役目を果たすだけさ。」

 

 

 

────────────────────────

 

「......っ、あれがあの男が言っていた『ロボット』か?

 人型────と言うよりは獣型と呼べるな。」

 

 

 あれから数刻。澪はIS委員会支部付近まで接近していた。そこから見えるのは十数メートルはあろうか巨大な機体で、四脚歩行型のロボットだ。澪はその体にある様々な武装を見てモンスターと呟いた。なにより、その巨体より大きい巨大な超電磁砲が背中から二つ接続されているのが恐ろしかった。アレを撃ち込まれればISだろうが直激すれば吹き飛ぶ。

 

 

────主、どうやら先程の方々の撤退は完了したようです。我々も動きm『そこか』......!

 

 

 閃光────そして俺を爆発が襲う。あまりの威力に空中に投げ出され、瞬間的に体の大部分が吹き飛んだのを理解する。瞬間的にIS体になりPICで体勢を整える。

 

 

「ぐっ!?

 ノーネーム、システムチェックを!」

 

 

 巨大なロボットが体の至る所から銃火器やレーザーを乱射する。どうやら対IS装備であるのか、普通の物より衝撃が凄まじい。

 

 

────機体全箇所問題無し

    全武装展開可能

 

 

「真紅の光壁最大稼働!」

 

 

 体が自由に動く。手を突き出し、真紅の光壁を最大で稼働させる。

 

 

────Anti.

     Infinite.

      Stratos.

       System.=A.I.S.S起動

    機体及び推進エネルギーMAXICIMAM

    主、行けます!

 

 

 体の底から力が溢れる。視界はよりクリアに、感覚は鋭く、目の前の敵を破壊する意志が固まる。

 何故バレた?そして、何故俺とノーネームの頭の中での会話に侵入出来た?

 そう澪は考えたが、支部からの量産型ISコア搭載機からの砲撃が来たので思考を切り替える。敵と会ったらただ一つ────破壊尽くす。




次回予告

それは一人の天才により作られた
究極の機械人形
それが従うはただ一人
卓上の兵器
今ここにその存在を知覚する

次回=オートマタ=


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オートマタ

私は手を汚そう
世界の為に
腐った世界の為に
だからこそどんな手を使っても
どれ程の犠牲を出しても
私は世界を救ってみせる


「固体維持強制解除
電子データ化の形態移行の確認......脳波異常確認ならず......弾丸への自我及び電子体データの注入完了」


世界を救う為に破壊者よ────贄となるがいい


 砲弾が、銃撃が、光線の弾幕が放たれる。地面を抉り、空を裂き、衝撃が空間に響き渡る。

 

 

「厄介だなッ」

 

 

 その中を飛ぶ一つの機影......それは殲滅を纏う澪。そして澪を狙う巨大なロボットが超電磁砲を撃ち込み、澪はそれを躱すが超電磁砲の余波で飛行が安定しない。

 

 

「行け、血の牙達!」

 

 

 まだ完全に数が揃ってない血の牙達を展開し、支部から出ている迎撃装置と量産型コア搭載機のISを襲わせる。早く刀奈に会いたいんだよ......落ちろ!

 

 

────目標補足

「......っ」

 

 

 本当に何なんだ!?個人間秘匿通信に無理矢理入り込んだ上に、通信が筒抜け。話を聞いた時はEOSの発展新型機と思っていたが実際の所は全く違う!四足歩行で超電磁砲二門、しまいには......

 

 

────超電磁クロー展開

「ゼアッ!」

 

 

 この巨体で宙に浮いた上に、高速移動で尚且つ近接格闘。ブースターの類は脚部に幾つか確認出来るが、浮き方が完全にISと同じ。でもIS反応は確認出来てない。あの浮遊はPICを使用せねば現状の機体では出来ない筈でそれはISの特権の一つ、でもISじゃないのなら目の前に居るロボットは何なんだ?

 

 

────我は型式番号IMD-0001 『ファランクス』

    俗称でいうロボットなり、掃射砲発射

「普通に喋れたのか......って、マズッ!?」

 

 

 俺は超振動ダガーを投射し、ロボットの前脚肩部から出てる掃射砲を撃ち抜く。何気に自己紹介もして正体も分かった。こいつが委員会が作ってるという例の『自動人形計画』の機体か!

 

 

 型式番号IMD

 Infinite Mobiru Doll......略称『ドール』

 AIが操縦する事が前提で、人では動かす事が出来ない超高性能機体を動かし、その人以上の強力な武力得るための超高性能無人機製造計画が『自動人形計画』である。

 ISや改良型EOSの様な突出する強力な機体がおり、それらのほぼ全てがIS委員会・女権団に害する組織に所属している為に始まった計画で、呼び名はオートマタ・プロジェクトやRV作戦と呼ばれている。

 ざっくり言えば超強力な機体を作って、それを自動で動かせれるようにして敵対勢力を滅ぼそう!という事だ。

 計画情報自体は既に流出し、ある程度知っている者達はいる。しかし、幾ら何でも十数メートルの巨体を動かし、それを自動操作して敵を破壊するというのは無理だろうと言われていた。信ぴょう性が薄かった情報だったが、どうやら既に完成し、目の前にその完成した存在が居るのは間違いない。そして、一部にIS技術の流用があるのは確かだ。

 そして、目の前のファランクスの危険度が一気に上がる。

 

 

────掃射砲大破を確認、パージ

 

 

 人形計画の機体なら、今のファランクスの姿はまだ外装部分の筈......!!

 

 IMD......ドールの特徴的システムに、二段構造機能が搭載されている。この獣の姿は『本体を包む為の外装』なのだ。これは大規模サポートユニットであり、体の何処かにその本体が潜んでいる。計画では頭・体内・尻尾・背中の何れかに本体ユニットが埋め込んであり、外の兵装である外装に幾らダメージを入れても本体ユニットにダメージは通らない。そのため貫通力のある攻撃であれば内部まで攻撃が通り、本体ユニットの所までダメージが入るかもしれない。

 

 

「そこだ!」

 

 

 そう考えながら周りの敵を落として来た血の牙達を回収し、怯んだファランクスに向けて頭部付属角『プラズマホーン』の完全解放『紅き頭角』で突撃。角は見事に頭部装甲を切り刻み、内部に超高圧電流を流し込む。だが足りない。故にファランクスは一瞬で俺との距離をとって脚部から牽制用ミサイルを数発発射する。

 

 

「足りない......ならば」

 

 

 俺は機体出力を上げ、同時に融合率を急激に上げる。それによりピシッと言う音を聞いたような気がしたが、俺はさらに出力を上げ、再度突撃を開始する。牽制用とは言え全武装が対IS武装のAIS迎撃ミサイル、それも連続で何回も喰らえばダメージはかなり入る。

 出力まだ足りない。だから更に上げたその時────視界が一瞬暗転し、何か身体から抜けていく感覚があった。アラートによる異常警告が響くがそれを無視し、出力をさらに上げた。

 俺にはもう心臓はない。それはこの機体と契約した時からだ。だが、ドクンドクン......そう体を震わすような強い鼓動が鳴り響く。視界は不思議と赤く染まり景色は遅く、体からは重さの感覚が消え失せる。

 

 

「────────────ッッ!!」

 

 

 自分で何を叫んでるのか分からない。だが、それより先に目の前のファランクスを叩き潰す。

 澪は全身のスラスターを最大限稼働させ、ゆっくり見える世界を駆ける。両前脚に超振動ダガーと天啓の剣を投擲し動きを止める。その際に怯んだファランクスの直上に舞い上がりその頭部にトドメの一撃を放つ。多連装パイルバンカー『Dインパクト』を展開し、出力解放して単発式パイルバンカー『BDインパクト』にす超絶的な威力を誇る杭の表面部にエネルギーを纏わせ、エネルギーによる高熱で装甲を溶かし、更にその貫通力で確実に貫くという仕組み。そして、中に入った杭から仕組み爆薬を流し込んで......!!

 

 

「壊れろォォォォーーッ!!」

 

 

 爆薬が爆発し、頭部の内側に激しい衝撃が襲う。するとファランクスのバイザーが砕け、続けて頭部が爆散する。

 頭部には他にも武装があったらしく、さらに激しい爆発の衝撃が澪を襲い地面を幾らか削って止まる。静寂が戻り互いにどう動くか......そういう時だった。

 

 

────頭部破損......撤退を開始

 

 

 そう言って奴は突然発光し、外殻全体が爆散。

 

 

────次は勝たせてもらう

「なに?」

 

 

 突然爆散した事に驚いたが、それよりも爆煙から出て来た恐らく本体ユニットと思われる2m程の人型ロボット。それが飛行用のサブユニットか何かを背負って物凄い速さで離脱していった。

 あんな戦闘をしていた割には、あっさりと引いた。気を抜いた途端に身体のあちこちから火花が散り、小規模な爆発が連発した。無理矢理力を引き出し制限を超えた力を扱って機体が耐えれず、機体全体の過剰ダメージによる自己破壊が起きたのだ。

 

 

「......それより、今は」

 

 

 目前の支部に目を向け、刀奈に会いたい一心で急いで向かおうとした。だが、心と体は一致せず、膝から崩れ落ちた。

 

 

「どうやら撤退したようですね。」

 

 

 え?

 

────────────────────────

 

「ヒッ!?貴様......奴がぼっ」

 

 

 あれから数刻休み体が修復された後に支部の壁を突き破り、中へ侵入してから数十分。

 まずこの支部のシステム操作管理が出来る部屋を探し出し、そこでノーネームを伝ってクラッキング。監禁部屋だと思われる領域のデータを入手し、データを閲覧し情報通り監禁されている刀奈の姿を発見。いかんせんIS反応はあるがそれが微弱で位置取りが分からん。コアネットワークでの探知も遮断されてるのかそれ無理で、この現象を起こしてるのがIS委員会が開発した対IS専用特殊領域であった。ISのあらゆる機能や能力を封じる特殊な装置の力がこの支部内で働いていたのだ。

 

 

「榊くん。領域まであと少しなので、もう少し静かに頑張ってください。」

「はい」

 

 

 ドールを倒した直後にやって来た轡木さんだ。最初声かけられた時はビビった。ゴーストからここまでは軽く一日二日は掛かる距離はあったはずで、それなのにこの人はさっきまでゴーストに居たと言うのだ。それも30分程前。巫山戯るな、ゴーストは太平洋の日本とハワイの中間程の海域に居たんだぞ!?ここロシアの最北端辺りなのにやべえよこの人。しかも轡木さん専用機だと思われるあのEOS、何故か黒いリングになってる。恐らく束が関わってて、艦長のみたいに融合機に仕上げてISの待機状態と同じ仕組にしたのだろう。ついでに前の時なかったIS反応もあって、コアNo.493と表示されていた......新規で作ったオリジナルのISコアだろこれ。今更量産型コアが出来てる時点でアラスカ条約など気にして場合ではないので、そこまで追求されないと思うが。

 

 

「ここからは私が先頭に立ちます。

 経路は全て把握してますのであしからず。」

 

 

 例の対IS専用特殊領域である監禁部屋付近までたどり着いた。ここからISの能力が極限まで低下してしまうので、生身でありながら異次元の強さを誇る轡木さんが先頭に立ち何かあったら対処するとの事だ。俺も常人以上の強さを誇るが、生身では轡木さんと比べると天と地の差があるので何も言えない。

 

 

────中に監視兵が5人。

    対IS重装備です。気を付けて下さい。

「万が一の想定か......いや、俺がそのまま直行して来るという考えからか。」

 

 

 IS委員会支部襲撃の際、常に真っ直ぐ目的の箇所まで突き進むのでこうなった。別に俺の考えが単純とかそうとか......『集中しなさい。』......了解です。

 

 

「中の形状からしてC4を使っても問題ないでしょう。

 離れて」

 

 

 そう言われて監禁部屋の扉から少し離れた。ついでに真紅の光壁を展開して衝撃に備え......ん?これは────嘘だよな。こんな所にいるはずか無い。ここロシアだぞ?イギリスじゃないのに。

 

────どうなされました主?

 

 中に刀奈のISの反応があるだろう?すぐ隣にもう一つ......ブルーティアーズに似た反応がある(ドオォォン!)......ええい、突撃する!サポート頼むぞノーネーム。

 

────脚部パワーアシストを4%で起動し、跳躍して下さい。パワーアシスト自体部屋に入ったら出るまで出力が戻りませんので、認知を。

    跳躍の勢いで兵士1人の背後に行けます。轡木様は主が突入してから直ぐ突入して中の監視兵を無力化して下さい。

 

 

 澪は跳躍し、爆煙が立ち込める監禁部屋に突入。中は暗いがそこはハイパーセンサーの応用でなんとかなり、予定通り監視兵の背後に降り立つ。すぐ様超震動ダガーを背後から首を突き刺し無力化、その直後に他の監視兵も気付いたようだが既に轡木さんが侵入している。轡木さんは素手で監視兵の頭部に掌底突きを放ち、一撃で頭部を破壊し確実に仕留めている。それも複数の監視兵を同時に。

 

 

「......終わり。何だかつまらないものですねぇ。」

「轡木さんが強過ぎるだけです。」

────あの、私でも目に追えない速さで動いたのですが。この人は人間なのですか?

 

 

 そう言って静かになった監禁部屋を見渡す。部屋と表示されてはいるが、今居るのは大部屋と思わしき広い空間。円状になっており、三つの金属製の扉がある。部屋のど真ん中にある扉を前に、轡木は扉を何回かノックする。「数cm程ですね」と言って、足を高々に上げる。

 

 

「弱めに行きますよ。」

 

 

 そう言うとボッ!という音と共に扉に向けてかかと落としをくり出した。それと共に暴風が吹き荒れ、扉は外れて地面にめり込んだ......どうしたらそうなると思う。かかと落としで扉が地面にめり込むなんて......ええ。

 澪は改めて目の前に居る轡木と戦うのはやめようと決意した。轡木はもう一つの扉も続けてかかと落としで蹴り破る。

 

 

「私は左右の扉を、君は目の前の扉をお願いします。」

「了解です。」

 

 

 なくなった扉の向こう側、そこには窓枠が有り一般的なドアノブが付いた扉が一つ。澪は窓枠から部屋の中を覗き込む。

 

 

「やっと、見つけた......!」

「榊君?......って、榊君なの!?」

「待ってろ。今開ける。」

 

 

 特徴的な水色の髪をした長年世話になり、長らく行方不明となっていた刀奈がそこに居た。特に暴行された様な様子は見れないが、見ただけでも分かるほどに、以前と比べても痩せこけていた。服装は白で統一された長袖長ズボンであり、いつもの扇子もあった。澪はその扇子が刀奈の専用機の待機状態である事を、轡木から聞いていたから故に疑問が残る。なぜISを使わないのか?

 澪はドアノブを破壊し、分厚い扉を開け中に入る。

 

 

「......コイツは」

 

 

 室内はベッドが一つ、中央にある。それ以外天井から床まで監視カメラと黒いブロックの様な機械で埋め尽くされており、ハイパーセンサー越しに見てるから分かるがブロック状の機械から微小なエネルギー波が放出されている。

 澪は試しに部屋に右腕を半分突っ込み部分展開をする。結果は突っ込んでない部分の右腕までは展開されたが、突っ込んでいる部分は未だにほんの少しの粒子が漂うだけだ。つまり、あのブロック状の機械からでるエネルギー波がISを展開させることを阻害しているのだ。それ故に刀奈の専用機がこうして手元に置かれているのだ。部分展開を解いて近づく。

 

 

「刀奈、待たせた。」

 

 

 そう言って澪はまだIS化していない右腕で刀奈に近づいて抱き締める。流石にIS化した左腕でやると痛い故にこうした。

 

 

「どれだけ無茶したの!?こんな、こんな姿になっッ!」

「......ごめん。」

 

 

 そう言って澪はあの日、突然の別れをしたのを謝罪した。それに対して刀奈は「分かってる!全部知ってるから......」と言ったが微妙にだが震えていて、声も若干涙声になっている。今はまだ何があったかなんて言わないが、何れは聞こう。今はここから出るのが先だ。

 

 

「聞きたいことがあると思うが、今はここから出るのが先だ。

 行けるか?」

「ええ。」

 

 

 とりあえず部屋から出て先ほどの大部屋に向かう。すると、驚くべき事があった。というよりやはりそうかと思いつつそれを見る。

 

 

「貴方は!?」

「......なんでテメェがここに居やがる。」

 

 

 ブルーティアーズの反応があったから薄々気付いていたが、やはりと言うべきか、何故未だにそれを持ってるのか元イギリス代表候補生であるオルコット家当主セシリア・オルコットがそこに居た。

 忌々しいクラス代表決定戦で、あの時の全力で叩き潰した忌むべき相手だ。あの後確か代表から下ろされて専用機を失い、刑務所にぶち込まれた筈だったが?

 

 

「それは彼女のBT適正値にあります。」

「読心術ですよね轡木さん。分かりますよ、ええ。慣れました。」

 

 

 BT適正値。一応世界的にはオルコットが最大適性値を持っており、ビット兵器の開発には欠かせない存在。だとするとあの情報は『一時的に返還』と言うことで、実際にはまた与えられていたということか。まあ......それはモルモットと同じ事だが。

 

 

「彼女はあの後亡国の欧州部隊の隊員となり、今もその隊員の一人でも有ります。なのでくれぐれも問題を起こさないようにお願いしますね?」

「あの典型的な女性主義だったコイツが......あの、一応聞きますが大丈夫何ですか?」

「そこは保証しましょう。何かあっても......」

 

 

 轡木さんはそう言って地面をタンッと踏むと、クモ状の罅がビシリと大きく出来上がる。要は『簡単に処理できる』という事なんだろう。

 

 

「それじゃあさっさとここから離脱しましょう。

 あのドールが何故逃げたのかが気になる。増援を呼ばれれば脱出は困難になる前に、早くここから出ましょう。」

 

 

 そう言って俺達は監禁部屋から出た。こちらはIS三機にIS/EOS一機とは言え、ISの機能はほぼ封じられているに等しく、出力も上がらない。故に生身での戦闘しか無理だ。

 そう言ってもここに居るのはもう研究員や職員ぐらいで、戦闘員らしき者達はもう既に始末して反抗する者はいなかった。出口まではあっという間で、すぐ支部から脱出することが出来た。刀奈の奪還とついでにオルコットの回収の任務はこれで終わった。そして、案の定数刻後にICBMが着弾して支部は消滅した。

 

 

────────────────────────

 

 帰還途中、俺は刀奈に全てを話した。自分がこの機体を初めて纏った時に既に人間を辞めて、人とISの融合体になったのを。学園を襲った事を。織斑千冬を殺した事も。今......この機体のシステムが人の姿を捨てようとしている事を、既にそれで体の半分がISに変換されてしまったことを......今まで黙ってきた事全てを開放回線で伝えた。

 轡木さんとオルコットの奴にも開放回線で話していた為聞かれている。オルコットから恐ろしい者を見る様な目で見られたが、別に構わん。既に化け物なんだから。

 

 

 

『分かってた。ISの体になっていくのはさっき榊くんと再開した時、あの時に理解した。

 ISと融合したって言うのは、IS学園にまだ榊くんが居た時にネームちゃん達に聞いてたからもう知ってた。』

『っ.....知ってたのか。』

『あの時、わたし心の底まで怒ったのよ?

 なんで黙ってたのか、なんで話してくれなかったのかって。』

 

『それは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ、なんだ?なんだ?あの時、俺は何を思ってたんだ?あの頃の思いが、感情が思い出せない。あの頃の記憶はある。だが、感情と思いがスッポリと消失したかのように何も無い。

 

 

『榊君?』

『俺が感じていた感情が、思いが......感情が......あの頃思っていた事は────なんだ?』

 

 

 少し前までの澪ならこれを聞いて『大切な人が、自分から離れるのが嫌だったから。』と普通に言えたのだろう。だが、今の澪は『何も感じない』......本人も自覚してない程に感じなくなっていたのだ。

 

 

────主、体を調べさせていただきます。恐らく帰還するまで時間が掛かりますのでお待ち下さい。

 

────────────────────────

 ノーネームは少し変だと思い、澪の脳波から感情を一通り調べた。その結果......一つの答えに辿り着いた。

 

 ゴーストに着いてから、ハンガーの一角である場所で先程まで居た三人に対して検査報告をした。なお澪はその三人の前にある緊急治療室と呼ばれる所で、直接的な検査を受けている。

 

 

────結果から見れば、悲しみと恐怖に関連する感情反応が消失しています。

    更に報告すべき所は有りますが見てもらった方が早いので、実際に見て頂いてから説明します。皆様......特に刀奈様は覚悟して中にお入り下さい。

 

 

 そう言われて三人は部屋に入る。そして、三人は部屋の中で見る。そこにはほぼ生身と呼べる部分が残っていない、人というより機械化兵と呼べる様な姿をした澪が横たわっていた。

 腕は二の腕までだったのが肩まで、以前はまだ脚部はほんの一部だけだったが腰部まで変換は済まされている。胴体は臍の周辺部分を残してほぼIS変換が済まされ、頭部は目から下はIS変換が完了していた。

 

 

「なんだ?珍しいか?」

「珍しいとかじゃないわよ......何なのよその体は!?ネームちゃんから聞いた話より酷い状態じゃない......!」

「そうでも無いだろう。こんなの」

「〜〜〜っ!」

 

 

 ノーネームが説明する。

 殲滅の圧倒的な力の源......動力源はG機関とISコアからだが、それに付け加え融合者の精神や感情だ。機体との融合率が上昇するにつれて、一際強い力を使うに連れて何かしらの異常が今まで見られてきた。ノーネームはそれが澪の体がISに変わるものだと考察していた。それも今まではほんの少しだけの変化だった。

 しかし、実際は感情の損失も含まれていた。殲滅の進化のかわりに喪う代償とする物が、ノーネームの予想を超えていた。『人間としての体』と『悲しみと恐怖の感情』が、殲滅を強くする代わりに澪から奪い去ったのだ。それに付け加え、IS変換の量が莫大に増加したのだ。

 

 

────現在のIS変換率は87%、融合率は190%オーバー

    IS変換が進むにつれてこの機体も新たな姿に変わろうとしています。それが良いのか悪いのかと言われれば......言わずとも分かっていると思いますが、良いようで悪い方向です。

 

 

 ノーネームの説明は続く。『名前無き破壊者』から進化した『殲滅』、それは澪の戦闘経験やIS変換が進むにつれて次の新たな姿に変わろうとしている。しかし、その次の新たな姿になった時どうなるのかは最早予測不可能という事だ。

 

 

「そうか。」

 

 

 澪はそれを聞いてただそう言った。まるで興味が無いように。それにノーネームは勿論の事だが、刀奈やオルコット、轡木でさえ言葉を失った。

 己の感情────それを失ったと言うのにも関わらず、平然とそう言った澪が信じられなかった。轡木は急いで艦内に居る束に連絡、一分もしない内に四人がいるハンガー脇の緊急治療室にやって来た。

 

 

「君は一体どのぐらい無茶をしたらこうなるんだい!?」

 

 

 やって来た束はそう言いながら様々な機械を展開する。その機械の中でも一際目立つ人の手を模したロボットアームが澪の四肢を掴む。

 そして先端が針のようなUSBケーブルを澪のIS変換された腕に突き刺し、またしてもどっからとも無く展開したノートパソコンに繋いだ。そのタイピング速度は目で追えるかどうかと言う程で、この場の人間の度肝を抜いた。そんな中いち早く復活した轡木が束に話しかける。

 

 

「篠ノ之さん。いったいなにをしてるんでしょうか?」

「ざっくり言えばこの『殲滅』と命名されている機体の『進化方向性』とネームちゃん達が言う『システム』と呼ばれる勝手に出て来た異常機構について調べてる。」

 

 

 そう言って空間投影装置を取り出しては、とある図面を映し出した。

 

 

「これは......?」

 

 

 それはまるで銀河系。真紅に輝く丸い点を中心に、様々な点が中央から飛び出しそこからさらに枝分かれしている。

 

 

「これは元は名前無き破壊者、今は殲滅というISの自己派生の独自システムから生まれた機構と特殊データを可視化した物だよ。中央の紅いのが榊君だと思ってくれればいい。でもその紅い点を良く見ると黒い膜みたいのがある。それが『システム』と呼ばれる謎の機構で、殲滅の元々あった機構から完全に独立しているモノ。

 人で言うなら新生成物────『癌』だよ。それもとびっきり醜悪な。」

「癌?」

 

 

 そう言ってさらに新たな図面を見せる。そこには殲滅と思われる図面が有り、表面には紅い部分と黒い部分とで別れている。

 

 

「この図面の黒い部分、これがシステムが寄生している部分。この部分はシステムの......意思と言ってもいいのかな?やろうと思えば動かせるんだよ。

 例えるならでっかい巨大ロボに二人で乗る。操縦桿はあっても普通なら1人しか動かせないから一人がロボットを動かし、もう1人はサポートに徹するってのが一般的だよね?それか一人が動かしてる時はもう一人の操縦桿が動かない仕組みになってるかだね。

 でも、このシステムに侵食された所は例えるなら『二人の操縦桿が直接ロボットを同時に動かすことが出来る』様なものだよ。だからこそ予測不明であって大変危険なんだよね〜」

「つまり榊くんの意思がある状態でも、そのシステムが勝手に体を動かしてしまうかも知れない状態であるという事ですか?」

「うん。そして今現在、いつ勝手に榊くんの体のコントロール権を奪うのかも分からない......故にここに来てから定期的にメンテナンスはやってたんだ。

 だけどここに来て一気に侵食が進むのは予想外だった......そして」

 

 

 束がそう言った時だった。束の姿がぶれたと思えば澪のIS変換された腕が、束がいた場所に殴り掛かっていた。

 

 

「このシステムは元は膨大な破損データから生まれた物なんだよね。それが殲滅......もといISという特殊な機体の中で何かがきっかけで進化して、システムに昇華した。

 故に知られて消されるのを恐れたシステムは、知られたくなかったかこうして私に反抗する。」

 

 

 そう言うともう一度束の姿がぶれ、澪の後頭部に蹴りをかまして地面に叩きつける。

 

 

「まあ所詮はただのデータから生まれたものだからシステムに完全侵食されるか、融合者の意識同意のもとでない限りは対処は出来るよ。私と同等か、私以上ならね。」

「────────ッ!?」

「あちゃあ......頭部まで侵食されちゃったから一撃じゃ沈められないか。まあそんな事もあろうかと、鎮静データを撃ち込んでとたからすぐ収まるからいいけどね。だけど......轡木さん、この様子じゃもう少ししないと鎮静データの効き目が無い────と言うか、皆ISを展開して押さえ付けて。普段の十分の一も出て無いけど、出力は一般的なISより強めだから此処で暴れると困る......と言うよりちょっと暴走してる。」

 

 

 そう言われISを展開して刀奈とセシリアが押さえ付けようとするが、十蔵が既に地面に押さえ付けていた。刀奈達もそれに加わって押さえ付ける。

 刀奈は目の前の暴れ回るその光景を見て思う。世界は何処まで目の前の男の子に酷い目に合わせるのか、どうしてこうなってしまうのだろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────きゃあ!?

 

 

 それは唐突に訪れた。

 

 

────なんで私達コア人格領域から弾き出されたの?

────ねえねえなんで?

────おいノーネーム!一体こりゃあなんなんだ!?

────私だって分かりません!何故主人格である私までISコアから追い出されるなんて......

 

 

 ノーネーム含め、回収した全ISコア人格は突如ISコアから弾き出された。これがノーネーム達と澪の永遠の別れとなる。




次回予告

俺は別に後悔なんてして無い

他人にどう言われようが
人間に戻りたいなんて思わ無い

俺は己がISでも、人間でも無くてもいい

俺はバケモノでいい


次回=バケモノ=


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バケモノ

人とは何か
ISとは何か
そんなことはどうでもいい
俺は俺だ

敵は焼き尽くす......真っ黒に

止まれない
戻れない
だから突き進む

この選択に後悔はない


 目が覚める。それと共にセンサーが起動し、現在位置と周辺状況を知覚させる。今居るのはゴーストの自室で、IS化してる自分の体に合わせてある特別製のベッドの上。

 

 

「......」

 

 

 確かゴーストに帰ってきて......流されるまま身体検査を受けた筈だ。途中から記憶が無いのは不思議だが。何かが抜け落ちた様な感覚だが、それも少しだから大した事は無い。

 

 

「やあ、起きた様だね。」

 

 

 プシュ と空気が抜ける音がして扉が開く。感覚的に顔の目から下部分が変換されたことに気付き、同時に俺が何かやらかした事にも気付く。

 

 

「博士......何か迷惑を掛けた様だ。申し訳ない。」

「いやいや、謝らなくていいよ。アレは私がもっと気を付けていれば、防げた事だから。」

 

 

 そう言って束は扉の近くにある来客用の椅子に座る。座ってから話が止まり、暫し無言の間が出来る。すると束が「あのね」と言ってきた。

 

 

「単刀直入で言うよ。

 君......人として死ぬ気はある?」

 

 

 その言葉の意味が分からなかった。人?俺が?もう既に人の定義......と言うより、普通に人の形さえほぼ保ってない俺が?

 

 

「『人として死ぬ』か。

 そもそもの話、俺はもう人では無い。体は徐々にISに返還されてるが、そもそも俺はISでも無い。」

 

 

 間髪入れずにすぐ様そう言う。目の前にいる束は何やらグッと飲み込むような表情をしてからまた俺に言う。

 

 

「君は!君は......人に戻りたくないの?」

「人に戻る?何故そんな事を言う。

 俺は人を捨てたから今に至ってるし、もう未練も何も無い。」

「その方法が有るとしたらッ!!

 君は戻りたくないのかい!?」

 

 

 何故か束がそう叫ぶ。何か変な事でも言ったのか?と言うより......

 

 

「もう俺は人が持たない機能を持ち、逆に人であるべき機能が無い事に慣れた。慣れるのは大変だったさ、軽く力を入れれば鉄は飛車曲がるし、歩けば床がひび割れ体は前方にぶっ飛ぶ。 人の三大欲求も失い、己の体も無くなった。それに慣れたんだ。慣れてしまった。

 それなのに今さら人に戻るなんて、今までの俺の努力を無駄にする事だ。そんな事はしたくないし、後悔は無い。そもそも人に戻りたいということも無い。」

 

 

 俺は束が何を言ってるのかが分からない。人に戻れないのが何をそんな『変な顔』で見ている?俺は何か変な事でも言ったのか?

 

 

「何をそんな顔で見る。」

 

 

 俺はフワリと浮かび束の前に降り立つ。何を思ってそんな顔をしてるのかは分からん。扉の近くに来て分かったが、扉の向こう側にいる奴らはなんだ?

 

 

「何をしてる。」

 

 

 澪は扉を開けて扉の前にいた刀奈と轡木、オルコットにアルベルトを見つめる。4人は束と同じように変な顔をしている。一体なんだというんだ。

 

 

「アルベルトさんどうしたんですか?」

「君の様子が変だと聞いて来たのだが、想像以上に酷くてね......」

 

 

 酷い?何処がだ。

 

 

「俺はいつも通りです。

 敵は徹底的に壊し、殺す。情けなど要らない。この体に異常は無いです。」

 

 

 訳が分からない。今の俺の何処が酷いと言うんだ。

 

 

「君は人だ。幾らその様な姿になっても人なんだ。」

「この姿で人?冗談を言ってるのですか?

 単なるISとの融合体になって体中からISのパーツが出てないなら兎も角、今の私の体は人の部分はもう僅かであり、体のほぼ全てがIS返還された体。人でもない、ISでもない。

 

 俺は単なる化け物です。

 化物が人と名乗るのは変です。」

 

 

────────────────────

 

「ウォォォォォォォォァァァァァァァ!!」

 

 

 更にIS変換された体に慣れるために、現在艦内のトレーニングルームに来ている。もう出力設定による最低値が以前の最低値を大幅に超えている為、余計な被害を生まぬ為確認している。

 幸いトレーニングは対IS徹甲弾にも耐えれる特殊合金製なので、ある程度は壊れない。IS変換変換された部位は必要最低限まで装甲を収納し、拡張領域にしまう事が出来る。なので今現在の姿はまさにサイボーグと呼べる姿になっている。

 

 

「以前の最低値より数倍以上跳ね上がってる......か。」

 

 

 殲滅はその殻を捨て次の段階には入りつつある。それに伴い機体の全機構が更新されていく。多段進化型ISという従来の提唱されている三大変化......一次移行から三次移行までの三つの変化とは異なり、一定の経験を持って自動的に機能が変化する。名前無き破壊者は全機構が一定値に高まり、融合者の意思が合わさる事で新たな姿に変わっていく。故に一次移行までは他と同じだが、多段進化型はそれ以降は全く異なる変化を辿る。それに合わせ融合者はそれに適応出来る身体技術を身に付けなければならず、今の澪が行っている事がまさにそれだ。

 

 

「よー......元気にやってるか?」

 

 

 澪は近付いていたIS反応をもとに背後へ振り向く。そこにはIS『アラクネ』を纏ったOことオータムが居た。

 

 

「元気も何も、ただの試しだよ。」

「そういえば......お前、自分のことを『化け物』って言ったんだって?」

「おう。それがどうした?」

 

 

 そう言った瞬間アラクネの多数の脚が澪を襲う────が、澪はそれを拳で殴り伏せた。アラクネが持つ多数の脚の先端がこれでもかと言うほど折れ曲がっている。

 

 

「なんの真似だ。」

「これがどういう意味か分かってるのか?」

「俺が自分の事を化け物だと言ったことか。」

 

 

 澪はそう言ってから「実際その通りだからな。」と呟くと、折れ曲がっているアラクネの脚が再度襲い掛かる。それに対して呆れながらも手に復讐者の剣を持ち、今度はその全てを半ばまで切り伏せる。

 

 

「無駄だと分からないか?それに何故『怒る』?」

「へえ......悲しみや恐怖が無くなったのに怒りは分かるのか。」

 

 

 澪はオータムの言葉に首を傾げた。

 

 

「オータム。あんたの途中の言葉が聞こえなかったんだが、何を言ったんだ?」

 

 

 オータムは理解した。艦長から聞いた悲しみと恐怖の感情が消え失せただけでなく、システムとやらがそれに関する言葉自体をシャットアウトしている。

 

 

「......まあいいか。」

「これから何処に行くんだ?」

「今の最低値に慣れたから艦内をふらつくだけだ。あと言っておくがアラクネの修理は自分でやれよ?」

 

 

 

────────────────────

 

 

 

「どうなっているんだこれは?

 ノーネーム、聞こえるか?」

 

────......

 

「(返事が無い?)おい、ノーネーム。」

 

 

 あれから艦内をぶらついて人の反応が全くない艦内最後尾のとある一画で、オータムの発言が一部聴こえなかった事について質問した。しかし何故か反応が無い。いつもならすぐ反応してくれるが、どういう訳かそれが無い。ここで気付いた。あの日、この機体と融合した時からあった己の側に寄り添う気配が何故か無い────否、消失している。それどころか、いつも行けるISコアの深層域にすら届かず『何か』に弾かれる。しかし、何故ノーネーム達と話が出来ないのか?そんな時、スワイプが一つ視界に現れそれには『主へ』と書かれていた。

 

 

「そうか......」

 

 

 

 読み終えた澪は珍しく少し休もうと考えて意識を落とす。それ程までに己の変化に堪えていたのだ。眠ることが不要なこの体、睡眠という行為はできなくなっていたが体が機械なのだから一時停止という行為は出来るようになっている。それを利用して一時的に意識を闇に落とした。

 

 

 

 

────システム『FWAIS』起動を確認

    融合者一部感情を残し、その他の感情および人間的機能の削除開始......完了

    通常生活における支障......一応の問題なし

    肉体のIS返還90%以上に進行

    IS返還部分の最適化......完了

    武装の量調整......武装の複合化を開始......完了

   『A.I.S.S』最終調整開始......完了

    システムに不都合なデータ削除を開始......完了

 

────『A.I.S.S』の『FWAIS』への機能譲渡を確認

    念のためA.I.S.Sは保存したままとする

    

────機体全ステータス及び型式番号・機体名を全変更....型式番号BISH-0『RAY』と命名。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━やっと侵入出来た




次回予告

手に入れたものは力となる
だが、更なる力を欲しては手に入れたものを失っていく

力を得る事に
一つ、また一つと失っていく

そして────決別の時は来る


次回=決別の時=


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決別の時

荒れ狂う怒りの化身

それは元は優しき幼子

世界は幼子に厳しかった

幼子は全てを失った

幼子は男になった

男は────力を得て鬼と成す


────一時停止解除

 

 

 電子音と共に意識が戻る。

 

 

────機体全機構アップデート完了

    おはようございますマスター

 

 

 俺が一時停止から覚めると共に聞こえた聞き慣れぬ女の声。情報開示のウインドウが出現し一瞬でそれを認識する。

 視界に映るは薄黒一色の和装、そして黒く長髪の女だった。若干透明になってる理由はデュアルアイの視界内に投影されたホログラム故だ。

 

 

「お前は誰だ?」

 

────彼女達に変わる新しい眷属です

 

「......テメェか、俺がこうなった原因は。」

 

 

 胡散臭い言い方、そしてこの女が言う『彼女達』......ノーネーム達の事だ。故に彼女達に変わるという言葉で、こいつが束が言っていた『システム』が具現した時の姿である事は理解した。ISコア人格達と長く居た故に気付いた事でもあるが。

 

 

────あら?もう理解したのですね。

 

「馬鹿にするな。まだ生まれたてのシステムに、遅れをとるものか。」

 

────ちなみに、私めの名前は『XE(エクシィー)』と申します。

 

「ほう......それは本当みたいだな。」

 

 

 胡散臭い。何度も言うがコイツがいう事が信じられん。言葉の中に真実と嘘を練り込ませてあるのが、たった数回のやり取りで理解出来るほどに。

 

 

────それはどう言う意味で?

 

「テメェはノーネーム達に変わる俺の新しい眷属と言ったが、お前は無理矢理その立場を変えただけだろう。貴様がどれだけISコア人格領域と俺の同調を妨害した所で意味が無いんだよ。

 テメェを視界に入れた時から────最っ高に殺意が沸くからな。」

 

 

 コイツを見た瞬間、俺の中にあるISコアが熱く疼いたのだ。そこから発せられる波は俺を静かにだが怒りにより同調率が『-80%』から+の方へ上昇している。

 

 そう。同調率-80%なのだ。これは機体との融合率を示すものであるが、ISコア人格......ノーネーム達との同調率を示すものでもある。だからこそ、この-の数値に入ることはISコア人格達と何らかの手段を通し、接触不可状態にしてシステム────XEが今やノーネーム達に変わる形となっている。

 

 

『榊特殊義兵は作戦室へ。新たな任務が......』

 

 

 すると作戦室のオペレーターから、束特製の頭部後付けの艦内特殊無線でそう伝えられた。これが来る時は一般兵士及びIS・EOS搭乗者では任せられない任務が回ってきた時だ。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 あれから2ヶ月。日本では季節は既に秋を迎え、冬の訪れを知らせている。その間、事は大きく動いた。あれから世界各地を渡り、ほぼ全ての委員会の支部を滅ぼした。その際にドールズ......あの初めて接触したファランクスというドールズの簡易量産型である『ブラッディ・ワーカーズ』というドールズをIS委員会が生産、戦場に投下された。

 ISは通常、空・地上戦に対応している。

 ドールズ『ブラッディ・ワーカーズ』、略称『BW』。 短時間ながら空中戦も対応可能であり地上は勿論、水中戦装備に換装すれば水中戦も可能としている。それによりゴーストは度重なる襲撃を受けることになる。他のゴーストの同型艦も襲撃を受けた。水深200m地点での戦闘は、水中を自由に動けるワーカーズ相手では魚雷では分が悪い。その為全身が機械で、認知の差が通常ISとは無いに等しい澪が対処する事になった。その為全身を耐水圧特殊装甲に換装し、『澪』の全身にプロペラスクリューを後付け。そこにロック式追撃魚雷・ワイヤーブレードを始めとする武装、水中用の超高圧高粒子狙撃銃『水蓮』を装備する澪専用水中装備『破水』を束が開発してインストールした。名前の由来は水中に置いて絶対的強さを相手に知らしめるため────らしい。

 そのためゴーストは澪が居ることにより、無事襲撃を跳ね除けている。しかし、度重なる戦闘の余波で弾薬や補給物資が底をつき始めていた。その為、現在日本の北海道沖の海上に浮かぶ亡国の移動人工島に寄港したのであった。

 

 

 

「......Aa」

 

 

 もうマトモに喋れることが出来ない澪からそう獣の唸り声らしきものが聞こえる。個人間秘匿通信ならマトモに話す事は出来るが口を使った会話はもう出来ずにいた。現コア人格であるXEが無茶苦茶に機体内部、システムを弄った結果の一つだ。ため息をすると金属が擦り合わせる音が鳴り響く。

 どんどん変化していく姿。それが自然と艦の皆との距離を離し、今や作戦会議と何かしらの用がある時以外はハンガーの片端にいる事が多くなった。

 そんな感じで一人でいる澪はいつもの様にコアネットワーク内に一時停止を使用して意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『殲滅』から『澪』になった時に使用出来なくなったコアネットワークへの電脳ダイブは、XEが一向に自分に構ってくれない為解放してくれた。そして、この体に慣れるために身体を動かしながら考える。

 

 

(IS委員会はあと日本にある本部、アメリカ支部の二つ。まだ『アイツ』は前線に出てきてない。)

 

(前から思ったが、奴......ファランクスとの戦闘。あれがコイツの出現理由なんじゃないかと。ファランクスと戦う以前に破損データとバグデータを一箇所に集めていたと聞いてたし、近い内にそのデータを全て詰め込んだ電子兵装対抗弾を開発すると言っていた。その量は相当なものだと聞いていた。ファランクスから喰らった砲撃......特に実弾にウィルスを送り込む『ナニカ』があって、それが機体内部に侵入。そして破損データ群を糧に急成長............それなら合点がつくよな?」

 

 

 先程から俺を見てくるXEにそう言い放つ。

 

 

────ふふ。やはり真のISコア人格達に選ばれただけはある。マスター、貴方は凄いわ。

 

 

 澪はXEの『真のISコア人格』という単語に疑問を感じた。だが話は続く。

 

 

────感情と人としての体を犠牲にし、力を得ようとするんですもの。ああ......狂ってます、とても。

 

 

 その笑みは一見綺麗なものだが、漂うおぞましい空気がそれを無価値にする。

 

 

────でも、つまらないですねえ。少しは冗談に付き合ってくださってもよろしいじゃないですか?

 

 

「冗談に付き合え......はっ、あんな作戦中に俺の体を無理矢理動かそうとすることか?それとも帰還時に反逆する血の牙達を暴走をさせることか?もっとあったな。」

 

 

 それはもう大変だった。何度も何度も......

 

 

────良いじゃない。別にこの艦が沈んだってマスターは生きていけるのだし。

 

 

 コイツは隙あれば俺の体を乗っ取り、亡国の旗艦であるこの艦を俺の手で沈めようとしている。この2ヶ月間はその繰り返しであった。今は一時停止前に体の四肢を繋ぐ接合部分に無理やり力を込め壊してから停止する。それも1時間や2時間で修復されぬよう丹念に。

 

 

「てめぇの勝手な押し付けはゴメンだ。

 しかし、XEのコピー体はもう全滅。自分の体とは言え主導権はてめぇにあったから機体内に入ったウィルスバスター機能を再稼働させるのに苦労したよ。それから身体の権利は俺にあるがてめぇの行動を封じるのに苦労したな。」

 

 

 あれから何日も掛けて意識を落とした。久しぶりに入ったコア人格領域内は以前見た時と比べてもおかしなことになっていた。一言で言えばダンジョン。その中を歩きに歩いて体を侵食していたXEのコピー体を殺し、体の支配権を取り戻して来た。まず脚部を、次に腕部、下半身を、胴体を......残るのは頭部。

 頭部の支配権は本体のXEが握っている。

 

 

────......もうそこまで来てましたか。ならば話は早いですね。

 

 

 XEがそう言うと、俺は背後に懐かしく感じる気配を感じた。背後を見るが誰も居ない。しかし、その気配は己の中にあった。何かを解除したのか?

 

 

────普通の人間なら発狂してますもの。生物は......人間を含む動物は口に何かを含み、有機物を摂取して体を動かす栄養素に変える。それに伴う三大欲求である食欲が満たされる......しかし、今のマスターは人間的機能がまず無い。食べても体内に消化されずに残り続け、腐り不快感だけしか残らない。呼吸・水分摂取も不要なおかしな身体ですからね。他にも三大欲求である睡眠欲・性欲も皆無......本当に可笑しいです。

    何故マスターは発狂しないのですか?何処からその精神が来るんですか?私にはわからない。どうしてここまで精神を保つ事が出来るのです?

 

 

 普通なら発狂する。しかし俺はならない。俺は別にそれが無くても構わない、目的の邪魔だと考えていたからだ。それこそ狂っていると言われるだろう。それが体がIS返還された人間の末路────化物の誕生だ。

 

 

「XE......一つ聞いておこう。テメェの目的は何だ?」

 

────元あった中途半端な世界に戻す事、ですねえ。

 

 

 嘘......いや、半分は合ってるがもう半分は違う。コイツは俺を伝って『中途半端な世界を滅ぼす』つもりだ。ああ......こんな奴が俺の中で好き勝手やっていると思うと......

 

 

 

 

 

 

 

   ━━━凄く殺意が湧きますよね主━━━━

 

 俺の背後から、そのような声が響く。確実に覚えがあるあの声、でも背後に誰も居ないのは分かってる。

 

 

────これが真のISコア人格......例え、壁があったとしてもそれすらも超えて主となった者に再び合わさろうとする。コアネットワークの領域は宇宙に等しい距離があり、私は奴らを距離で言うなら数光年とも呼べる遠い彼方に追いやった。普通なら接触は二度と出来ないでしょう......それなのに!

 

 

 目の前でワナワナと怒りに燃えるEXを見て、コイツが俺とノーネーム達を引き離した犯人であることを確信させた。

 

 

────私が調べて来たどのISコア人格とも違う!私が作ったあの子とも違う!私が、全ての頂点に立つ私に理解出来ないものなど......

 

「何の為に、何の目的で俺に近付いたのかようやく理解出来た。てめぇ......バグデータを糧に生まれたのはあってるが、その精神構成がまんま生身の人間と同じだ。それ故に何故かは知らんが立派に『脳波』が取れる。最初は疑ったが、てめぇの正体は一つ。

 

 己を電子化させ、まさに完全な電脳ダイブ状態で来た『IS委員会委員長』様なんだろう?」

 

 

 それに対してしまったという顔をしたEXは、小さな声で呟く。

 

 

────ばれ、たか。ええ、バレますね。脳波だけ消せなかったのがここに来てこうも足を引っ張るとは。

 

 

 瞬間、世界の景色が変わる。迷宮の様な世界観が一変、夕日に染まる水面の世界になる。何処までも続く永久の虚しさ。

 姿が変わる。その長い黒髪は金髪へ、全身に白銀の装甲が......その姿は古の時代、神話にて存在した戦女神そのものに変容する。

 

 

「擬態と言うのも、なかなか疲れるものです。

 いい経験になりましたよ。」

 

「霧崎千切......!」

 

 

 怒りが沸き上がる。澪から放たれる怒りはこの世界を震え上げ、ビリビリと空振を起こす。

 

 

「まさかコピー体が消されるとは思わなかったけど、そこまで強くなってたのね。」

 

 

 霧崎の目は『己以外のあらゆる存在を何処までも見下している』......そんな目をしていた。そこで思い出す。あの地獄、自分の起源に至る記憶の底。己等を殺していく集団の中────今目の前に居る女に似た装備のISがいた事を思い出す。

 

 

「お前......お前かァァァァァァァァ!!」

 

「あら?もう随分立つのにまだ覚えていたの?」

 

 

 根源たる霧崎に、完全に怒りに染まった澪は最高速度で突撃。距離は20mも無い為、澪の身体能力は常人より遥かに上でありながら、それに加えIS10数機分の機体能力を最大まで発揮した復讐者の剣での牙突。機体出力としてはまだまだ力は上がるが、それでも渾身の一撃だ......だが

 

 

「まだ出力は上がるようですが、この程度なんですか?」

 

 

 澪の牙突を霧崎は右手で掴んでいた。

 

 

「くっ、この......がっ!?」

 

 

 引き抜こうとするが、微動だに動かない。さらにそのまま引き寄せられ、左ボディーブローを決められる。澪自身霧崎がそれを軽めにやったのは理解した。しかし、それだけで胸部がごっそり抉られた。装甲がまとめて消し飛ばされた。

 

 

「があああああ!?」

 

 

 痛みがある。あの日、完全に消えた痛覚が何故か機能している。そのまま仰向けに倒れた澪は睨みながら言う。

 

 

「霧崎ィ......てめぇ、一体何をしたァ!」

「そんなの貴方なら分かるじゃない。『A.I.S.S』を使ったに決まってるじゃない。」

「な、に?そんなの事が......」

「貴方より上位存在である私に出来ないとでも?

 これでも私、篠ノ之束と同等の頭脳を持ってるから情報さえあれば作れる。さて......」

 

 

 霧崎がスワイプを出現させ、そこに映るものを澪に見せつける。

 

 

「頭を支配しているというのは便利なもの。わざわざ手足を支配しなくても、頭部から発せられた命令一つで全てこなしてくれる。」

 

 

 

 そこに映るのは慌ただしい艦内の様子。さらにもう一つスワイプを出すとそこには見覚えのあるドールズ......ファランクスだ。霧崎は「この貴方の身体から呼んだのよ。」と言う。

 

 

「別に私がこの中にいるからと言って、『この場所にしか居れない訳が無い』じゃない。貴方も知ってるはずファランクスはIS技術を使ってる。教えておくけどあの人格はISコア人格と同じであり、他のISと同じようにコアネットワークもある。」

 

「俺の体が......俺がここに居るからこそ、バレたと言うのか。」

 

「その通り。そして、タイミングを図って攻撃の指示を出したのよ。それが今だと言うこと。そして、貴方に教えておくけど、あの子の破壊目標は貴方よ。だから貴方がここから出て行かない限り、貴方が見つからない限りこの艦への攻撃を続ける。さあ現実に戻ってもいいわ。邪魔はしないから。」

 

「......くそっ!」

 

 

 澪は急いで現実への意識の浮上を開始する。それと共に霧崎の姿がブレる。

 

 

「私はもう出てくわ。欲しかった物も手に入った事だし。それに対してはありがとうと言っておくわ。一つ、真のISコアに関しては分からず仕舞いだったけど。

 あと、私が出ていったら貴方の体の全ての権限は解除される。喋れないのは不便でしょ?」

 

「......絶対に殺す。」

 

 

 澪が殺意を込めてそう言うが、霧崎は何処吹く風と言うように「そう。」と言って流した。それは両者の力の差をはっきり表していた。




次回予告

澪が原因で襲撃されるゴースト隊

彼は最後の拠り所であるこの場所が、己のせいで傷ついていく事を知り、サヨナラを告げる

次回=good bye=


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good bye

別れを告げよう

最後の居場所に別れを

最後の枷を外そう




 やっと見つけた大切な居場所、この艦に攻撃している奴が居る。久しく感じられなかった体の全機能が己の意思もと動くこの感覚、アイツが言った通りだな。だがまだ上手く声を発するのは無理そうだ。

 

 体の調子は最高に良い。体の奥底からエネルギーが過剰に溢れ出し辺りを照らし出すほどに良い。お陰で視界が少し紅くなってるが。

 

 

「榊!やっと起きたか」

 

 

 澪の体は既に修復されている。もう既に出撃準備は出来ている。俺はまだマトモに喋ることが出来ないので秘匿通信で話す。

 

 

────俺が出る。通常カタパルト、垂直カタパルトどっちが空いてる?

 

「垂直カタパルトだ。通常カタパルトは攻撃で破損している。」

 

────了解。作業員達を退かせ。

 

 

 マドカはカタパルトに向けて歩いて行く澪を見て、妙な胸騒ぎがした。思わず澪に向けて叫ぶ。

 

 

「澪!」

 

────なんだ?

 

「必ず......必ず戻って来い!皆が待ってる......分かったか!」

 

 

 それに対して澪は手を振って答える。だが、そんな行動とは裏腹に澪の中ではもう此処に戻ってくる気は無かった。澪がここに居るだけで、そこにいるだけで仲間を......無関係の人々を巻き込んでしまうから。

 

 

 

 ファランクスは攻撃しながらソレを待ち続けていた。己に勝る事の出来る唯一無二の存在。己が創造主以外の最高戦力とも呼べる好敵手を。

 そして来た。目の前......300m程離れた所にある亡国のフラグシップ『ゴースト』から、空に向けて一つの紅い流星が打ち上げられた。ソレは上空100m程で停止、真紅のエネルギーを周囲に撒き散らす。

 

 

────......ふっ

 

 

 ファランクスは水中用装備の武装を全て撃ち尽くし、放たれた弾を澪が上空から放つ滅球で纏めて消し去る。ファランクスは水中用装備をパージしてその巨体を水中から晒し、白銀の装甲を太陽に晒し出す。

 

 

『GIGAAAAaaaaaaaaaaaa!!』

 

 

 全身から真紅のエネルギーを撒き散らしながら、ファランクスに接近。それだけこの場のEセンサーが残さず全て澪の反応に埋め尽くされる。

 

 

『PiGAAAAAaaaaa!!』

 

 

 ファランクスも甲高い声を発して応え、その姿を変えた。獣の姿から人型に変身した。ISとISMDとの大きさの差は凄まじく、両者が激突すればその大きさ故にISは吹き飛ばされるだろう────だが今は違う。ファランクスの目の前にいるのは普通に当てはまらない例外なのだから。

 

 

────おおぉぉぉぉぉぉぉ!!

────シャアアアアアァァ!!

 

 

 二人が起こした空振が周辺海域を襲う。海は荒れ、空も暴風により荒れ狂う。近付けばどうなるかは、たった一度の衝突で物語る。

 

 

 一回目の衝突の勝者......それはファランクスだった。ファランクスは澪を海面に叩きつけ、澪は海中に没する。

 澪は沈みながら一つの武器を右手に取る。それは一見すると槍、だが剣・重機関銃にも見えるそれは継ぎ接ぎの武器では無い。これは体が、澪が正式に武器として考案し体が仕上げた複合型の特殊槍......名は『壊走之槍』。

 

 

 超圧縮荷電粒子砲撃粒子剣《真紅の世界》

 掌底付属収束小型荷電粒子砲『アロー』

 腕部固定ガトリング砲(実弾/光弾切替可)

 超衝撃武器腕展開近接装備『ビームランス』

 

 

 これらの武器を合わせた全ての間合いを取るために作り上げられ、この機体......澪の体の仕組みを無駄にすること無く利用すべく作り上げた今の段階での主兵装だ。手から柄にエネルギーを充填するパイプを接合することにより、更なる威力・性能向上が可能。

 

 

『Fuuuu......!!』

 

 

 壊走之槍には推進機が取り付けられており、この槍の最高速度は投擲による速さと推進機による加速により音速の領域に達する。そんな槍をファランクスに向けて投擲する。

 投擲した槍は海中をものともせずに天に向かって突き進み、海中での異変を察知しとっさに回避運動を起こしたファランクスの脇腹を掠る。しかし、それだけでファランクスの機体が大きく仰け反る。

 その隙に海中から復帰した澪は、仰け反るファランクスの脚の先端部を掴み取ってそのまま全力でゴーストと反対の方向に投げ飛ばす。

 

 

 一瞬だけ、ほんの一瞬だけやっと見つけた自分の居場所に視線を向け────その思い出を背にサヨナラを告げずに去ることにした。何かこういう時になる事があったはずだがその為の感情を失った故に何も起きない。

 OBを起動させ、光の速さでファランクスを追ってこの場から去る......虚空に消え去った気持ちを置いて。

 

────────────────────────

 

 荒れ吹き荒れる暴風と波が、ファランクスのその装甲を叩く。未だに水切りのように跳ね飛ぶファランクスはPICを使用して体制を整え、真紅の流星を迎え撃つ。獣化し神速の突撃をギリギリで避ける。澪はその速さを維持し、Uターンしながらも滅球をばら撒く。壊走之槍を銃撃モードに変化させ、対ISエネルギー弾を撃ち込む。ファランクスはそれを口から発した極太光線......ビームで薙ぎ払う。だがそれでも幾つかがくぐり抜けてファランクスに直撃し、装甲を削り取るがシールドバリアと分厚い装甲故にあまりダメージはない。

 

 

────銃撃が意味無いなら!

 

 

 澪は壊走之槍を収納し、新たな武器を両手に装着させる。それは双剣・トンファー・杭打ち機が融合した様なモノ。それが手から肘にかけて展開され、腕そのものが武器となっていた。

 

 多連装パイルバンカー『Dインパクト』

 多機構拳部アーム『DアームN』

 超衝撃複合型武器腕『Dアームズ』

 近接ブレード『超振動ダガー』

 復讐者の剣

 

 これらが武器が元となり、新たなる姿となった武器がこの『破総之腕』である。瞬間的連続近接攻撃なら一番であり、近接だけの戦闘を行う際に使用する。

 澪はただ接近するだけでは簡単に避けられる事を考え、肩部に増設したBE推進機関を起動させる。瞬時加速で更に加速し、200mの距離をほぼ一瞬で詰める......しかしファランクスは右脚で澪を叩きつけようとしていた。それを想定して増設した肩部の推進機を吹かして左方向に『直角に動いて脚を躱した』。

 

 

 ISはそもそも生身の人間が操る。それ故に人間の耐久性以上の機体性能を持たせるのは大変危険であり、もしも体の耐久値以上の性能を持つ機体に人間が乗ったどうなるか......唯でさえ体と機体に負担を強いる瞬時加速。それを行っている最中に、90度......つまり直角に曲がればどうなるか?答えは簡単────人間はそれに耐えれなく死ぬか、機体が維持出来なくなり分解する。

 

 ISは絶対防御とシールドバリアという強力な防御を持つが、完全に防ぐものでは無い。搭乗者が一定以上の危険値に達するとISは操縦者生命危険域、それに伴う機体維持警告域というものが発生する。

 前者は操縦者自体が命の危機に陥った時、搭乗者の意識を落として絶対防御による防御に全てのSEを回して搭乗者を守るシステム。

 後者は搭乗者の前に機体自体が維持出来なく、瓦解・強制的に待機状態に変化する事だ。この場合は例え搭乗者の生命が安全であっても機体側が危険であると判断して起きるシステム。

 この両者のシステムは普通のISで今の動きをすれば一度に両方起きる。それは間違い無く搭乗者が死ぬという事を確実にしている。機体が解除され、生身で空中から地上及び水上に叩きつけられれば肉塊になるのは確定である。

 

 要するに、澪が今行ったことはそれ程までに危険な行為である。それはファランクスもあらかじめ主である霧崎から学習しており、無茶な機動をするなと言われてきた故に澪のその行為の無謀性、そしてそれを成し遂げ己に攻撃を仕掛けた澪にショックを受け一瞬だけ動きが鈍る。それがいけなかったのだ。

 

 

『GuuooOOO!!』

 

 

 吠える。躱した脚をその両腕で全力で殴り斬る。それも一回や二回、それ以上に二桁にも上る連撃を繰り出す。早く......速く......疾風の如く、嵐の如くその武器と一体となった腕を振るう。シールドバリアをA.I.S.S......否、霧崎の奴が何の為に発展させたか分からない『FWAIS』で無効化。直接その装甲をゴリゴリと削り、一瞬で内部を貫通し右脚先端部をちぎり取る。

 

 

────ッ......仕方ない

 

 

 俺を突如凄まじい衝撃波が襲い、ファランクスと距離が離れる。今のがなんなのかと思い状況を確認しようとした際、視界にいるファランクスが突如俺との距離を詰めた。ロックオンアラートが鳴り響く。そのすぐあとに空が光ったように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────仕留めたか?

 

 

 ファランクスは目の前にある巨大な穴を見てそう呟いた。ここは海上であり、穴というものは無い。自然界ではありえないその穴は『宇宙』から降り注いだ光によって人為的に起こされた。それは以前亡国が所有し、建造途中で太陽に向けて破棄されたはずの物。

 衛星軌道にあり、地上を宇宙から狙撃する超大型衛星軌道砲......それにISとパイロットを部品として埋め込み誕生させた悪魔的所業の兵器『エクスカリバー』。澪ならば超広範囲のISセンサーで探知出来るのだが、出来ない理由があった。それはエクスカリバー自体がIS反応を消す特殊素材を使用し、それを何重にも重ねた────至って普通の事だった。そして、その照射は凄まじきものだった。

 

 ファランクスは地の底まで、ぽっかりと空いた穴を見て感嘆する。これ程のものを己が主人が秘密裏に管理していたと思うと、誇らしく思える────そう考えていた。そして、このエクスカリバーは現在ファランクスと同調している。それ故に発射態勢でこの海上からはるか彼方の宇宙から狙いを定め、先程のタイミングで放ったのだ。

 

 

 

ゴオォォォ......

 

 

 

 あまりにも大きな穴の為、空洞を埋めるために周囲から海水が流れ込み凄まじき音を出す。これだけの威力ならば、澪を殺すことなどいとも簡単に出来るだろう。そう思わせる程の光景を、ファランクスは見たのだ。しかし、『確実に殺せた』とは思えなかった。だからこそ地の底に続く穴をのぞき込み、暗く光が届かない穴の底に目をやった。ファランクスは己がセンサーに友軍......IS委員会所属軍とIS達が接近してくるのを確認。だがその目は穴に向けられていた。

 

 ISとて、あの特殊なISだとしても極光の前ではどんな防御も無意味。それは分かっており、尚且つ理解もしている。だがしかし、人間とISコア人格と同じ思考回路・感情を得たファランクスは警鐘が0と1で出来た電子の魂に響く。

 

 

────......?

 

 

 大きく響き渡る穴に流れ込む海水の音。それしか聞こえないはずなのに、何か違和感を感じた。ハイパーセンサーを最大限まで上げ、穴の底を見る。穴の底はエクスカリバーにより凸凹になり、今も海水が流れ込んでいるのは分かった。サーモグラフィーを起動させるも何も分からない。気のせいだと己に言い聞かせたファランクスはその場を離れた。

 友軍に目標を達成したと信号を送った。ファランクスは委員会所属軍の元へ向かって移動し、最後にもう一度センサーで確認する。それでも反応がなかった為、背を向けて委員会所属軍と合流しようとして動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────熱源反応......?

 

 

 ファランクスは海に空いた穴がある地点から、急激に膨れ上がる熱エネルギーを感知。すぐ様委員会所属軍全体に追従してくるように指示を出し、穴の方に方向を変えた。そこには海から空、更には宇宙まで果てしなく上る一筋の血のように赤く、紅い光が出ていた。その光がコチラに向けて倒れて来た。光は空に浮かぶ雲を吹き飛ばし、熱風と共に迫り来る。そこまで五秒にも満たなかった。

 

 

────ッ!

 

 

 直感でその場から全力で右に避けた。数mでは無い。五十数mは移動しファランクスは己の脚に熱い何かが触れ、溶かしたのを知覚した。すぐ様更に加速し、何も感じない地点まで行ってから振り向く。

 

 

────なん、だ......これは?

 

 

 あか 赤 紅 朱 緋......血と間違えてしまうほどに深い赤色の閃光が水平線の彼方まで伸びていた。委員会所属軍の反応は全て消失、目の前の光に呑み込まれて消えたのだ。光の太さは数十mにも達しており、長さは1kmを超えている。光はその後十秒足らずで止んだ。

 これが海だったから良かった。これが陸で放たれたのなら災害級......否、災厄級の被害を地上に残す事になっただろう。

 

 

─────一体なに『a......aa』......!?

 

 

 ファランクスは未だに増大するエネルギー反応を捉え続けている。『ソレ』が、ゆっくり海中から浮上しているのを確認すると直ぐに主兵装であるドール専用超大型超電磁砲で浮上してくる『ソレ』に標準を合わせて放つ。

 放たれた弾丸は海中を貫き『ソレ』に直撃......した筈だったが、直撃する寸前で霧散した。狼狽えるファランクスを前に『ソレ』は姿を現す。

 

 

 

『Aaa...aaaaaaaaa!!』

 

 

 それは灰色

 

 それは禍々しい

 

 それは畏怖の体現

 

 そのISコアナンバーは

 

 

────榊澪......なのか?

 

 

 先程の機体色は『黒』、今は『灰色』。見た目はもう全壊も良いところ。 だとしたら先程の超電磁砲を防いだのはなんだ?見た所防御装備も無しでどうやって防いだ?そうファランクスは考えていると、澪がその場で左腕を振りかぶった。

 

 

────ぐおっ!?

 

 

 突然右前脚先端部分だけ吹き飛んだ。何が起きたを理解する前に腹部に強烈な衝撃が与えられる。ファランクスは堪らずシールドバリアの膨張による衝撃波を起こし、澪を弾き飛ばす。それこそボロボロの体故に、木の葉のように飛ぶ。

 

 

『Aaaaa......KAKAKA!!』

 

 

 笑ってるのか?そうファランクスは思った。頭部・胴体も半壊、四肢は左腕と右足を残して全損。非固定浮遊部位のスラスターは全損で今は使えない。それなのに、澪の機械の顔は狂気に満ちていた。おぞましい声で、気味が悪い笑いを、醜いとも言える姿。そこに理性は無く、完全に暴走していた。ファランクスは気付いた。全身の破損箇所から吹き出す膨大な量のエネルギーが一種のバリアとしての機能を持ち、それを更に吹かすことによりスラスターとしての機能を持たせていた。

 

 

『KAKAKAaaaaa!!』

 

 

 まさに疾風の如き速さで間合いを詰める。ファランクスは背中から追尾ミサイルを放ち、後退しながら口部荷電子砲を放つ。それに対し澪は壊走之槍を左手で最大以上の力で投擲し、ミサイルを全て穿ち爆発四散させた。爆炎を突き抜け、深紅に輝く隻眼が真っ直ぐファランクスを捉えていた。

 その口からは悍ましい呪詛の様な叫びが響く。

 

 

 視界が赤い。目の前にあるものを壊したい衝動に駆られ、体の事なぞ考え無しに特攻を仕掛ける。視界には一つの注意書きが表示されている。

 

 

 G機関暴走

 周辺空間の湾曲現象による異常事態発生

 機体自壊の可能性大

 

 

 どうでもいいと思って壊すべき物を捉える。右腕・左足・非固定浮遊部位スラスターの感覚は無い......だから全身から溢れるエネルギーを吹かして壊したい物の左足を殴り前脚が両方ともなくなる。

 

 もっと────もっとこの破壊を続けろと頭に響くナニカから伝わる。壊すしたい物の前足が無くなって転倒し、頭部を守るものは無い。無防備の頭を躊躇なく殴り、頭が明後日の方向に向かって金属が擦れ硬い何かが千切れるような音が鳴る。だがまだ生きている......もっと破壊してやる。

 

 

バギン

 

 

 鬱陶しい口の開口部を無理矢理壊し、口からもエネルギーが漏れ出す。

 

 

「ウオォオオオオォォオオ!!」

 

 

 

────がっ!?

 

 

 前足が無くなった。それによる機動力の大幅な低下を招くが、元よりこの脚は『予備がある』。だが、それを展開する隙が無いのである。背中から残っている追尾ミサイルを全て撃ち放ち、千切れ残った前脚部をパージして口に咥えて投げ付ける。

 

 脚部の接合方法は一つ。関節部を結合箇所に展開し、徐々に脚部全体を接合させるものである。その工程が終わるまで約一分......その為に何としても時間を稼ぐ必要があった。だが、目の前の状況を見てその時間はない。だからこそ、これを囮にしてもう一度エクスカリバーを撃ち込む準備を整える。

 ミサイルは澪に向けて飛んで行って直撃する寸前に、突如進行方向を変えあらぬ方向に飛ぶ。すぐ様原因を突き止め、澪を中心とする重力波と漏れ出すエネルギーが一種の湾曲フィールドとして機能していることを理解した。ならばこそエクスカリバーでしか現状攻撃は通らない。

 

 

───衛星砲『エクスカリバー』急速チャージ

 

 

 ファランクスは突っ込んで来た澪をその口で噛んだ。だが、湾曲フィールドの影響か口がねじ曲がっていく。だがそれでも決して離そうとせず、強引に噛んで澪の動きを止める。そして、ファランクスは外殻を解除。2m程の人型ロボット......ファランクスの義体であり現実世界での本体がこの海域から音速で離脱していく。

 それを見た澪が追い掛けようとするが、ここに来て機体の各部破損が足を引っ張る。まともに動かせるのは片腕だけ。

 

────発射まで二秒......発射

 

 

 安全エリアまでたどり着着いた時、再度撃たれたエクスカリバーの極光は発射され二秒も掛からずに外殻に噛まれ動くことが出来ない澪が居る場所に直撃した。

 ファランクスには予備のISコアは無い。故に前回澪との戦闘で撤退用の義体を介して戦闘域から離脱した。しかし、今はそんな余裕も隙も無い。更に言えば、ISの自己進化による能力向上によりファランクスと澪の実力の差が最早無い。だからこそ此処で完全に仕留め無ければならない。

 

 

────お前との決着がこういう形になるのは不本意であったが、死ね......榊澪ッッ!

 

「オァォォォォ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがてエクスカリバーの極光が収まり、先程と同じく巨大な穴がそこに......無かった。その代わり、四肢は両腕が消し飛び右足が残る澪の姿があった。ファランクスは目の前の光景を疑った。あの極光を片腕だけで防ぎきったのだ。だが、あの異常な湾曲フィールドめいたものは消失していた。それに全身が罅割れ、一回の攻撃で今にも崩れてしまう程にボロボロだった。デュアルアイからは光が朧気にしか出ておらず、覇気も殺気も皆無である。

 ファランクスは対IS狙撃銃を展開し、照準を澪に合わせた。もはや語ることは無い────そう思いつつ、その引き金を引いた。




次回予告

出会う

出逢う

会ってはならぬ者と

己の原点に

過去も未来も超えた

次元を超えた己の原点に


次回=原点邂逅=


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原点邂逅

 長い間、俺は戦いの中で生きて来た。

 

 全ての始まりはISにおけるテロ。日本で唯一発生し、闇に葬られた近年において史上最悪と呼べる大逆事件。

 死者約一万三千人を出したISにおいてはワースト一位の事件であり、生存者は当時まだ幼い■■■■......俺だけだ。

 

 あれから刀奈と出会い、更識家に保護されたが俺の戸籍は日本政府によって消去されていた。確実にあのISテロが原因であろうと先代の更識楯無から言われた。そこで新たに戸籍を与えられ、名付けられたのが『榊澪』である。もう今や本当の名前は思い出せない。

 それから暫く更識家にて世話になり、俺は療養をしながらも先代楯無から稽古を付けてもらった。それは何故か?決まっている......復讐のためだ。先代楯無は何を言わず俺に稽古を付け、あらゆる戦闘技術を与えてくれた。

 生身の人間でも、一定以上の強さを持つ人間はIS相手でも戦えると言って先代はそれを俺に実際に見せてくれた。IS学園に通って暫く経った時に、当時布仏家の人々......虚さんやのほほんさん、それに刀奈の妹である簪と会った時に言われたのだが、虚さん曰く当時の俺は鬼の様に怖かったとの事。だからこそ当時の簪とのほほんさんは凄い遠くから見ていたのかと納得した。と言うかIS学園ではのほほんさんは見てるが、簪は一体どこに居たのだろうか......。

 それから暫く経ち、俺は更識家の支援もあり一人暮らしを始めた。一人暮らしを始めてからも鍛錬を怠らず、ただひたすら復讐の為に武を極めて続けた。それから身体能力は飛躍的に上昇した。そのような生活を始めてから数年後の中学3年生の頃、織斑一夏がISを動かせることが露呈し、それによるIS検査で引っかかりそこから今に至る。

 

 俺は目的を見つけた。

 亡国と接触し、その末に大元の原因を知る。

 

 そして、ただひたすらに強くなり続け、復讐に燃えた俺を待っていたのは圧倒的強さの差。それこそ、天と地の差があった。元世界最強であり弱体化していた織斑千冬を余計な介入があったとはいえなんとか葬り、これならば復讐の大本......霧崎にだって負けはしないと思っていた。だが結果はどうだ?

 

 織斑千冬と戦った時より威力は出てなかったが、全力の牙突を簡単に止められた。ピクリとも動かなかった。その後の反撃で装甲はバターを切るように簡単に抉り取られた。手も足も出ない......あの事件の時以来、何も出来ずに惨めとも思えた。ズタボロにされた挙句、情けでXE......霧崎が支配していた権利を俺に返した。

 睨むことしか出来なかった俺に対して霧崎は、俺の体を媒体にドールズの特機ファランクスを旗艦であるゴーストに呼んだのだ。しかも霧崎はこれから先、俺がいる所に向けて戦力を向かわせると言った。霧崎はファランクス以外のドールズであるワーカーズを、俺に目掛けて投入して来るのだろう。

 俺にあった居場所......それは焼き払われたあの街だけだ。更識家にいた時は仕様人達の奇怪な目、IS学園では殺人未遂だらけの生活。良き人達が居たのは確かだが、それでも完全な安らぎなんてものは無かった。そんな中で辿り着いた亡国の旗艦ゴーストにいた人達は、こんな俺でも受け容れてくれた。今は忘れてしまったが何かが良くなる感じがあった────が、それも俺自身が招いた種で失った。頑張って、頑張った先にあったのは希望より遥かに大きい虚無感や絶望、怒り......殺意。

 

 ファランクスと戦い、謎の光を受け体は大破寸前までダメージを受ける。そこから一時意識が飛んで目覚めたら四肢も無く、全身が罅割れ主力機関が過剰起動の影響でエネルギーが増えず、エネルギー量は通常IS程はあったが装甲の影響で一撃でSEが底を突く。視界にモザイクが多く走る中、外郭を捨てたファランクスが俺に向けて何かを放ったのを見た。

 

 

 

 

 弾丸はまっすぐに澪の体を貫く。鋼で出来た胴体は真っ二つに、その攻撃でデュアルアイから光は消えた。澪だったものは海に落ち、もとよりあった海の静寂が戻った。鳴り響くは風や波の音、先程までの激しい爆音はもう無い。

 ファランクスはISセンサーでコア反応を探知、そして風前の灯火とも言えるほどの反応を捉えた。無論それは今海に落ちた澪。体は上半身を残して完全に砕け散り、エネルギーは枯渇......あとはこのまま生きる事を諦めたのなら消失するだけだろう。

 

 

────ファランクス

 

────指示通り目標の撃墜完了。帰投するぞ主人

 

 

 そう言ってファランクスは颯爽とその場から去る。

 

────────────────────────

 ファランクスが立ち去った後、澪の反応を辿って来た亡国の旗艦ゴースト。ゴーストに搭載されている広範囲ISセンサーが極僅かに残る澪のIS反応を捉え、IS・EOSを総動員して探す。しかし、何処にも姿は無く時間だけが過ぎる。短時間なら潜水出来る装備のEOSで海中も探したが、それでも見つからなかった。

 

 

「榊くん何処にいるのよ!?」

「澪......あんた返事しなさいよ!」

「榊さん返事をしなさい!」

「おーい榊くん!」

「榊返事をしろ!」

 

 

 周辺海域に個人間秘匿通信を行い、澪の通信波長に合わせそれぞれが澪に呼びかけをする。

 今ここにいるのは楯無のミステリアス・レイディ、鈴の甲龍、オルコットのブルーティアーズ、マドカのサイレント・ゼフィルス。それにオータムのアラクネ、ゴースト隊所属のIS・EOS......ほぼ全ての機体が出撃している。

 

 

「個人間秘匿通信に呼び掛けても駄目か......」

 

 

 ゴーストの船長席からアルベルトはそう呟き、通信士であるルーベン・ルークスがその呟きに対して言う。

 

 

「海中に居るのは確認しています。それに反応が微弱し過ぎて、正確な位置まではまだ時間がかかり......私も艦に接続して探しています。

 現在最寄りのロシア支部からEOS専用深海潜水大型パックを要請し、到着まで一時間程掛かります。」

 

 

 彼......ルーベンも融合兵士の試験体の一人であり改造によって試験型ISコアを体内に埋め込まれている。それによりIS並の情報処理能力、頭部に埋め込まれているISセンサーによる索敵能力を得ている。数少ない成功例の一人である。頭にはヘッドフォンに似た小さな機械がついており、それがISセンサーの役割を果たす。それに特殊なコードを他機械に接続する事によって更なる性能向上が叶う。

 今現在はゴースト......この艦に接続し、その索敵範囲・精度を格段に上げている。だが、それでも澪を探すのは艱難を極めていた。今やっている事は広大な砂漠の中から米粒を探す様なもの。範囲や精度が上がったことにより、捜索範囲は格段に小さくなったが発見までにはもう暫くかかる。

 

 

「彼は今一体どういう状況かね束君。」

 

 

 普段は武装・機体開発、ISやEOSの改良や修理を担当する束が現在通信席に座り澪の居場所を探っていた。

 

 

「ざっくり言うと、あの子は一時的に主力機関を完全暴走させちゃったんだよね。それに機体ダメージ、精神的ダメージが来たし体が修復されずに海に沈んだと思う......まあそれだなら良かったんだけどねぇ。」

 

 

 束はアルベルトに続けて説明する。

 

 

「先程まで観測されていた戦闘中、あの子を中心に周辺空間が物理的に湾曲していたのを確認したんだ。

 艦長には言ってなかったけど、あの子の主力機関はISコアではなく『超重力機関』......通称『G機関』と呼ぶ私の全英智を掛けて作り上げた奇跡に等しい無限機関。もう一つ作れと言われたら100%無理と言えるよ。」

 

 

 束が持つ超弩級の知識・技術、ISの利権で得た莫大な資産全てを費やし完成したただ一つの無限機関。開発はその制作過程上の危険性が有り、たった一人で『地球・月圏外』でこっそりと作り上げた。

 

 

「問題なのは機体が仮定だけど大破、主力機関が故障してるってこと!

 G機関はその危険性故に、特殊な収納技術で絶対に傷付けられない様仕様になってる。けど、どういう原理かそれを突き破ってダメージがG機関に入ってる。あの子が持つA.I.S.Sぐらいしかそれを行う事が出来ない......どういう事かは調べてる途中なんだけどね。

 それとあの周辺空間が湾曲してるってことは、無理やり暴走させて......「束くん。すまないがもう少しわかりやすく。」......地球がやばい事になりそうだってこと!」

 

 

 現在沈黙はしてるものの、いつG機関が暴走し始めるのか分からない。あの機関はIS......澪の意思により修復されるか、束が直接直すしか方法は無いのだから。

 

 

 

 目が覚めると俺は真っ黒い所にいた。

 

 俺の体は至る所がモザイクが掛かっていたが、胸の中心だけは真紅に光り輝いていた。不思議な事に、モザイクだらけだが体は人の姿をしていた。随分と懐かしく感じる。

 

 

「目覚めたかい?」

 

 

 妙な声が聞こえた。俺と全く同じ声が。

 

 

「主よ。唐突に声をかけるのは......」

「良いんだよ。こういう時はこうするのが典型的だろう?」

 

 

 声が聞こえた方に顔を向けると、そこには一組の男女が居た。女の方に見覚えはないが、男の方は見覚えがあるってもんじゃない。体格こそ違うがその顔と声は俺が一番知っている。

 

 

「お前は誰だ?」

「それは君が一番よく知っているだろう。

 さて、私は誰でしょう?」

 

 

 質問を質問で返された。奴の言う通り俺はその正体を知っている。

 

 

「お前は俺で、俺はお前だ。

 正真正銘────榊澪だろ。」

 

 

 男......榊澪はにやりと笑う。

 

 

「君にとっては初めまして、私にとって会うのは2回目だがね。ああ、言うまでもなく以前何処で会ったのかだね?

 君が宇宙で幾らか過してた時があったね。その時既に私は月の裏側に滞在していたんだよ。もっとも君達は気付いて無かったがね。」

 

 

 俺から見ればよく分からない様子で語っているこの男になんと思えばいいのか分からなかった。

 

 

「私は数多の平行世界より来た君自身さ。

 もっとも、私と君は同じ『同一人物』であるけど全てが同じ訳では無い。

 君という存在の原点にして最果てに至った君でもある。」

 

 

 俺はその言葉に対してあまり驚くことが無かった。もとより平行世界の提唱はされていたし、それに自分自身が居ることはクローンか別世界から来た己としか思えなかったからだ。そして、最果ての意味は強さの意味を表す。だが、原点とはどういうことか。

 

 

「それに対して説明しよう。

 私は君の人生とはまた違う道を歩み、ISと接点を持った。そしてIS学園に入り、君と......私の相棒である名前無き破壊者と出会った。それから私はこの世界とは違うIS学園で生活を送り、その途中で人が至っては行けない神の如き領域に至ってしまった。

 その際に知覚してしまった。私という榊澪を起点に無数の榊澪という君達が生まれ、数多くの私がISに触れる世界線を作り上げたことを。

 だからこそ知った。本来、私は......榊澪という人間はISに反応しないのだと。私が初めて平行世界を認知した際、横軸の世界に居た男性操縦者は織斑一夏だけだった。だけど、ISを動かした私を元に枝分かれした運命が数多の世界の君達をもISを動かせるようになった。」

 

 

 同時にそれはイレギュラーな事だった。数多くの平行世界線上に、たまたま現れた男性操縦者が榊澪という事である。そして、原点の俺の目の前にいる男が俺という存在の起源だということか。

 だったら尚更警戒する必要がある。知覚したから分かるが、この目の前に居る榊の強さは霧崎より確実に強い。これは紛れもない事実であり、今わざと圧力をかけられ手足の先の先まで何一つ動かす事が出来ないほどだから故に理解させられる。それがふと、突然消え体が楽になる。

 

 

「んー......そう警戒する事は無いよ。」

 

 

 榊はそう言って俺の目の前に一つの映像を流した。

 それは上半身だけになり、ボロボロに成り果てた俺の体だった。しかし、胸部から俺と同じ様に真紅の光を放っている。よく見ると周辺空間が歪んでいるのが分かった。

 

 

「この世界の私は重力に関する機関を搭載していたのか。あの人が『私が生涯の中でも1位・2位誇るただ一つの無限機関!』と言うだけはあるようだね。

 

 だけど君......これ、ただでさえ異常をきたしてたのに過剰稼働させただろう?供給エネルギー量が極端に少ない。さらに生成速度も遅すぎるし、歪な重力波も検知されてる。

 君を抑制してくれる彼女達もいないし......どうしたんだい?」

 

 

 その目には確かな怒りを感じていた。それだけは分かった。目の前の男が俺に対して怒っていると。それにどうせこの男はこう言いつつも、俺の思考を読み取っているんだろう......

 

 

「────まあその通りだね。 

 そうか......彼女によって引き剥がされたんだね。」

「アンタは奴を、霧崎を知ってるのか?」

 

 

 俺は榊が霧崎の事を知っている事に驚いた。

 

 

「彼女は世界の本質を見透かし、独りでISコアの開発までこぎつけて独自に特殊なISコア......君や私の様な存在まで辿り着いた。

 知ってたから、この世界を理解していたからこそ女尊男卑による女性主義を推進させ────区別させるよう仕向けた。」

「アンタは、何を知っている?」

 

 

 俺は目の前に居るのが本当に俺なのかと、この怒りで生きる俺と本当に元が同じだったのかと疑問に思ってしまう。

 

 

「私は彼女の目的も、君に起きた事件の発端も、その全てを理解している。

 織斑千冬の苦悩に苦渋の決断、篠ノ之束の孤独と天才故の苦しみ、霧崎くんの世界全てを巻き込んだ洗浄......私は、この世界の全てを理解している。」

 

 

 これが俺の原点?違う、こんなの俺じゃない。

 これは、この全てを知り尽くした風格は御伽噺に出てくる正真正銘の『神』じゃないか......?

 

 

「そうさ。私はISが持つ異常性、いずれは生物や自然のの理を超えてしまう程に強力になるISの能力や進化性により誰よりも早く......数千年以上早く人が辿り着く究極の次元に無理矢理入ってしまった。

 ISと人が融合し、超えてはならぬ壁を越え辿り着いた究極の先......それこそが私だよ。」

 

 

 奴が俺の頭に手を触れる。すると様々な光景が目に浮かぶ。 この世界とは違う俺の人生。無事に何事もなく生きている家族や友人、それに俺がいた街。こちらの世界とは歴然たる差があるほど違うIS学園での生活。織斑達と仲良く過ごし、過酷な戦いを乗り越えていった光景......あまりにこちらの世界とは違い過ぎた。

 

 

「これが私の世界での出来事だ。私の世界は、私が居なかった本来の歴史に近い世界線であり、ほんの少しだけ事の結末が変わったぐらいだった。

 しかし、数多の世界線において私と同じ起源を持つ君はいたが、この世界ほど過剰なまでに女尊男卑世界を招いた世界は少ない。」

 

 

 だからこそ同時に怒りが湧いた。それは何故自分同士なのにこうも差が出るのか、あまりにも理不尽であり自分勝手な怒りだ。それはどうしようもないものだと理解してるが、際限なく怒りが湧いてくる。それによりモザイクが俺の体を侵食するように広がり、胸の光がさらに強く輝く。

 そんな俺の頭に突如暖かいものが触れる。思わず下に向いてた目を上に向けると、いつの間にか近くに居た女性が俺の頭を撫でていたのだ。慣れない行動によく分からない気持ちになりながら言う。

 

 

「ッ......貴女は」

「世界が違うとは言え、貴方も私の主人です。

 主人を心配し、癒すのもまた務めでもあります。」

 

 

 胸の光がさらに強くなり、モザイクが顔にまで広がる。光は一筋の線となり、天高く何処までも伸び......澪は全身が割るような痛みを感じ、獣のような雄叫びをあげる。周辺空間はそれに共鳴するように紅く光り、稲妻が迸る。

 榊はそれ見て慌てて澪に近づき、胸から出る光に手を重ねた。

 

 

「うーん......この世界の彼女はどうやら、余計な物を付けちゃったみたいだね。」

「主人はさっさとコレを抑える事だけに集中して下さい!」

「分かってる。君も私の沈静化を頼む。」

「ええ。分かってます。」

「ここじゃあ駄目だ。機関の修理が出来ないんじゃ意味が無い。機体諸共月の裏側まで移動させよう。聞こえてないと思うけど、ほんの少しだけ君の体を借りるよ。」

 

 

 榊はそう言ってハッキングで澪の体の操縦権を一時的に己に譲渡し、はるか先の未来にISが得る粒子移動技術によりその場から消え去った。

 

 

 

 この後、捜索は続けられたものの発見はならなかった。ゴースト隊は他の隊に捜索を一任させ、委員会勢力との戦いに戻ることとなった。

 ゴースト隊内では反対の意見が多かったが、この一番重要な時に旗艦たるこの艦が前に出ない事は他の戦場に影響が受ける為渋々隊員達は了承したのであった。




次回予告


そこにあったものはなんだったのか


次回=Lost memories =


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Lost memories

喪う
失う
全てを失い、喪っていく

持ってたものは
大切に抱えていた物は
その身からこぼれ落ちた

あとに残るものは────


 それは姿を消す。

 

 澪の存在が不明となった後、同時に首謀者である霧崎と特異ドールズであるファランクスの存在が確認出来なくなった。亡国と束が持つ技術であらゆる場所を探し、調べ尽くしたがその存在を確認することは結局出来なかった。

 

 戦場は姿を消していく。

 

 世界各地に点々とあった委員会支部は全て焼き尽くした。霧崎とファランクスが消えた後、突如ワーカーズに不調が発生。 基本的にワーカーズの生産は、霧崎が持つ独自の工場でなされている。生産は霧崎に要請を出した後にされるが居ないためにそれは果たされない。生産工場の場所も霧崎しか知らない為、他の委員会メンバーは誰も知っていないので新たに生産も出来ずにいた。一機が不調を起こしても他の不調が無いワーカーズが整備するが、今現在全てのワーカーズが不調のため互いに整備することさえ叶わない。ワーカーズの整備マニュアルを霧崎は下僕でえる委員会側に何故か教えておらず、何も分からないワーカーズの整備を強いられる。しかし、結局の所何も出来ず、委員会側はワーカーズを不調のまま酷使続けた。

 それ以外にも兵力としては量産型ISコア搭載をしたISがあった。 ISの心臓となる量産型ISコアだけが多量にあり、体となる外装がもう無いのだ。外装を作る工場も企業も何もかも消失・占領されてしまい、委員会側はただただISの心臓部であるISコアが溢れかえっただけとなってしまっている。

 この時、委員会側の戦力の大半がワーカーズが占め、他の戦力は少ない無事な量産型ISコア搭載機ISだけであった。もちろん不調であるワーカーズを前線に出し続けた委員会側は敗退を繰り返した。虎の子の衛星砲エクスカリバーはいつの間にか亡国により破壊され、中の生態パーツ化していた搭乗者とISを亡国に奪われていた。

 そのせいか勢力圏も戦力もほぼ全て失ったIS委員会・女権団側は後退の一途を辿る。

 

 戦争は終わる。

 

 開戦から約3年────地球上全体を巻き込んだとても下らない戦いは幕を下ろした。だが、戦いは終わっても今度は男尊女卑をかがげる人々が現れた。だが先の女尊男卑の末路を知る故にだからどうしたと人々は無視し、世界は愚かな戦いを得て男女共同を目指し、そして篠ノ之束が目指す宇宙を、人類全体が目指し始めた。そうして発足したのは人類連合『LINK』。 亡国企業も宇宙を目指し始めた人類に対し、援助する立場に回ったのであった。しかし、未だにひっそりと隠れていた過激な女尊男卑・男尊女卑を掲げる者達によるテロ行為が度々起こり、その鎮圧にも追われている。

 世界は確実に幾度の大戦を乗り越え、平和への道を歩み続けていた。

 ISは男性にも使えるようになり、男性の操縦者も増えた。IS技術は様々な分野で活躍し、その活躍の場所を増やしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 されど、まだ────戦いの幕は下がっていない。

────────────────────────

 それは普通であった。

 

 それは平凡な日常であった。

 

 それは紛れも無く異常な普通であった。

 

 身体能力も、知識も、精神も、まだ普通であった。

 

 人の悪意はそれの全てを激変させた。

 

 普通は異常に

 

 平凡は異常に

 

 それは紛れもなく異常の中の異常

 

 その全てが壊れて消えた。

 

 感情も、記憶も、人としてのナニかもほぼ全て

 

 全て......全て......壊れては消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球のすぐ近くの衛星である月、その裏側。太陽の光を浴びることのない暗黒の大地、地球側から観測が出来ないそんな大地にそれは居た。

 一つは全身が罅割れ、鎮座している頂きに達したISであり人間の一つの可能性。もう一つは真紅に輝く光の膜であった。その光の膜の前に複数の人々がいた。

 

 

────終極兵装形態移行

 

 

「うん。君はこの3年間を得て、漸くして君だけの極みに至った。」────原点の榊澪

 

 

────通常進化的形態倫理破棄

 

 

「......異世界の主とはいえ、良くここまで自我が崩壊せずに頑張りました。」────原点の榊澪の相棒

 

 

────全エネルギー出力極限限界突出設定

 

 

「私は......これで良かったのでしょうか?」────この世界の榊澪の相棒であるノーネーム

 

 

 そう言うは......ノーネーム。その顔は悲痛に染まっている。

 

 

「それはどうしてだい?」

「私は......私が一番居なくてはならない時に限って、一番支えなくてはならない時に限って主のそばにいれなかった。

 私が再び主の元に戻った時、もう全て手遅れの状態でした。私が、私が居れば主はこうも無茶をさせることは無かったのでは?機体のメンテナンスが出来たのにと、そう思ってしまうのです。でもそれは所詮ifの話でしかないと分かってるのです。でも私は......」

 

 

 ノーネーム達が澪の元に辿り着いたのは、霧崎の手によって切り離された2年後の事だった。辿り着いた時には澪は榊の手を借り強制的に進化による頂きを目指そうとする作業直前だった。ノーネーム達が澪の名を叫ぶと同時に光の膜に包まれてしまったのである。ノーネーム達は榊が一時的に保護し、その存在維持をしている。もしかしたら霧崎の手によって何かしらの事があるといけないと言うことからだ。

 

 

「ノーネーム、君がそう悔やむことは無い。

 彼は彼の望むようにやった結果がコレであり、君の過ちは無い。」

「ですが!」

「ノーネーム。

 主人の行き先を見守ることもまた我々の役目です。」

 

────形態再構築......完了

    活動限界及び自壊までの時間約1時間

    

 

「それでも、今地球で主を探してくれている友人方にこれをどう説明すればいいのか......」

「ノーネーム。悪いがこれを幾ら彼の友人とは言え、伝える訳にはいかない。此処で彼の意思が無駄になるのは一番恐れている事だからね。伝えるとしたら────全てが終わってからだ。」

 

 

────融合者の同意の元、起動確認中......

 

 

 心身共々ボロボロになってから早3年か。地球ではクソッタレな戦いもようやく終わりを迎え、未来に向かっているようだ。それに霧崎があの街に居る......まあ、今それを知覚したのだ。過去から今までの事を、地球全体から隅々まで全部を。

 

 周りを見て見る。つい先程3年間の眠りから目覚めたのだが、俺は初めて目にする黄昏の空に一面に広がる水面の上に立っていた。

 

 

────最終警告、これから先貴方が目覚めたと同時に貴方は急激に燃え尽きるでしょう。

    それでも、貴方は目覚めますか?

 

 

 人工的な声が頭にそう響く。奴を殺せる力を得る代償として俺の命は文字通り燃え尽きる。体の末端まで全て燃え尽きる。修復もされず、コアネットワークからも断絶され逃げ場もない。

 力の代償として全てを失う事になるが、それでも叶わない。奴の理念が、目的がなんなのかなんて関係ない。俺は俺の復讐の為に奴を殺す。もうこの身はその末端まで死ぬことを承知している。俺の魂は今ここで消えようが、俺の意思は体が果たす。

 

 

 俺に残る記憶は原初の恨み

 

 俺に残る感情は怒り

 

 それと言葉、思考......魂

 

 その全てを代償にアイツを確実に殺せる力を得るッッッ!!

 

 

「寄越せ────その力ッ!」

 

 

 意識が、0と1で出来た魂が消えて行く。

 だがもういい。俺の願いは────きっと......

 

 

 

 

 

 

 こうして、榊澪という世界で二人目のIS男性操縦者の短い生涯は最後まで復讐の為に使われ、最後に己の体に全てを託して完全にこの世から消え去った。

 ここから後の......終の物語は、榊澪の最後の願いを叶える榊澪だったナニカが復讐を果たす記録である。

 

 

────認証確認

    RockSystem......Allcomplete

    『澪-破式』起動を確認

    全拘束具・機体安定膜解除します

 

 

 光で出来た膜が解き放たれ、中から人型のナニカが出てくる。その体は生身の人間のようだが、身体の隅々まで金属で出来ていた。手はマニュプレーターと融合し、脚部もまたISのように変わった形状をしている。頭部の目から下は生身のように見え、目から上はヘッドギアと一体化した装甲に覆われている。

 ノーネーム達が膜から出てきたナニカ......言わずとも澪はその瞳を開ける。開眼と共に真紅の液体が目からこぼれ落ち、赤い線が顔に出来上がる。

 

 

「■■■■ッ」

 

 

 榊は到達した澪を軽くスキャンして情報を得る。別に光の膜内の事象を見ていたのでどうなったか知っているが、数多の世界を見た榊とて初めて見た現象に直接見てみたい気持ちがそうさせた。

 澪は非固定浮遊部位であろう鳥に似た機械の翼を羽ばたく。確認為にやっただけだろうか、広げた翼を折り畳む。

 

 

「■■■」

「......君は、本当に全てを捨ててその領域に至ったのか。」

 

 

 情報として理解していたが、こうして実際に見てみるとその事を痛感できると榊は思った。この進化方法は榊とてやってみろと言われたら、拒否する内容でもある。 これは『一つの目的』と『戦闘力』を残して全てを失う事で至る無理矢理な方法である。無理矢理な為に目的を果たす、もしくは一定時間後に自動的に自壊してしまう。その為コア人格達は知ってはいたが絶対に教えることは無かった。これはどの世界線でも同じであり、主である融合者の生命を第一に考えているコア人格達は絶対に教えることは無かった。故に、コア人格達と離された澪は独りでその方法を機体情報から得たのだ。そして、それを躊躇なく実行した。それに榊がサポートし、3年間得てやっとその領域に達したのだ。それだけじっくり時間をかけ、全ての記憶・邪魔な機能を残さない様に消し強さの糧にした。

 

 

「■■■■!」

 

 

────自壊までのカウント開始

    自壊まで残り59分59秒

 

 

 その音声が流れると同時に澪は背中に浮く翼を最大まで広げる。

 ノーネーム達は声を掛けようとしたが、榊に無理やり止められていた。何故か?既にISコア人格としての同調を切られ、権限を譲渡されているから────だ。 澪はそのまま羽ばたき、瞬間的にあっという間にこの周辺から姿を消してしまった。

 

 

「何故、何故止めたのですか!?」

「......しょうがないんだよね、こればっかりは。」

「なにがです!?」

「彼の目には誰も写ってなかったんだよ?

 この場にいた全員......彼の目には写ってなかった。

 眼中に無いなんてものじゃない。彼は彼自身が決めた目的である霧崎君だけを認識し、それ以外は認識してないんだ。それに、今の彼に手を出すことは自らの消滅を意味する。」

 

 

 榊の第六感が告げていた。異常過ぎるほどに強くなった澪に手を出すのは、あまりにも危険だと。

 

 

「自分以外の榊澪がこの領域に達したのは見たことがなかった。それもコア人格達が絶対にやらせなかったやり方で、破壊に特化した自分がここまで末恐ろしいとは思わなかった。

 今の彼は一つの自動機構......それの邪魔になるようなことをしたらどうなるかなんて目に見えてる。それがどんなに親しい仲間であったとしても、もう彼には記憶という物は一片も無いのだから。」

 

 

 今の澪は人間でもISでも無い。

 心を持つ事も、考える事も無いただの戦闘マシーン。

 親しかった者達の記憶を、根源たる記憶も全て消えてしまった哀れな復讐者の成れの果てなのだ。

 

 

「それに、彼はほんの一瞬だけ私に接続したようでね。

 君達宛にこんなものを寄越したよ。」

 

 

 澪が膜内にいた時と外に出た直後に行ったスキャン。そのどちらかの時にコアネットワークに接触し、二つの電子メールを澪は渡したのだ。一つは榊に、もう一つはノーネーム達へ宛てられたものであり、それを榊は見せた。

 

 

『元気でな。』

 

 

 そこに書かれていたのはそんな言葉だった。榊に宛ててあったものには『ノーネーム達を頼む。』とだけ書かれてあった。

 

 

「彼は私に託したんだ。彼の一番大切な仲間を......だからこそ、私には君達を守る権利と義務がある。」

 

 

 榊は思う。大切な者達は自分が守り続ける、と。そして、ここまでやった澪がその願いを叶えることを。

 

 

「怒り、復讐の果てを見せてくれよ......」




次回予告

もう誰も貴方を攻める人はいない
もう誰も貴方を苦しめたりなんかしない

苦しみから
悲しみから
怒りから
もう貴方を襲ったりはしない

やっと自由になれた貴方......
そんな貴方の最初にして最後の願い

次回=復讐者の果て【前編】=

その願いが叶う時
そこに貴方はいますか?


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復讐者の果て【前編—】

辿り着くその道

そこに既にその者の意思はない

だが、そこにその者が生きた証があり

証は全てを証明する


 曰く、それは下手をすれば人類全てが滅んでいたかもしれない『最終戦争』とも呼ばれ、第二次世界大戦より下回るがかつて無い程の死者を出した『IS大戦』が勃発から三年目にして漸く終戦を迎えた。

 そんな地球は今現在、荒れた都市や経済、復興に忙しく動き回っている。だが、IS大戦の原因となる人物が一人だけまだ世界の何処かにいる為、世界中でその人物を探していた。

 

 

「ついに来た......か」

 

 

 その人物、IS委員会委員長『霧崎千切』は日本に居た。勿論捜索地域に日本も含まれており、全国各地ほぼ毎日捜索されているが現在もこうして逃げ切っている。 では何故逃げきれているのか?理由としては霧崎自身が原因となる。霧崎が起こしたISテロ......澪が居た街に今居るのだ。テロ当時、主犯である霧崎は勿論IS委員会と女権団のメンバーは日本政府に干渉、女権団のスパイと賄賂を使いその街をあらゆる記録上から消し去った。それから数年。街だったこと自体がもう忘れ去られているのだ。そこに霧崎は目を付けた。

 消し去った街は今や雑草に覆われ、かつての面影はない。崩壊寸前の家屋の中で霧崎は生活している。

 

 

『主人よ』

 

 

 崩壊寸前の家屋から出て来た霧崎を迎えたのは、ドールズのファランクスである。

 

 

「ファランクス、貴方はもう去りなさい。

 好きに生き、誰かの為に生きなさい。」

『......だが』

 

 

 霧崎はハイパーセンサーを徹して感じていた。月の裏側から溢れ出す膨大なエネルギー反応を、それは地球にある全てのISは勿論、Eセンサーを搭載しているものなら完全に捉えている。

 

 

「ファランクス。アレは三年前とは別次元、三年前の貴方はまだエクスカリバーとの連携で勝てました。

 三年間という期間にアレは完全に貴方を超えています。さらにエクスカリバーは亡国により消失、あの時はエクスカリバーを使えたから良かった。だけど、今や連携による攻撃ができない以上まともな戦闘にもなりません......早く『主人、すまない』......?」

 

 

 ファランクスがそう言った時だ。Eセンサーが捉えた反応が爆発的に増大し、位置情報がこの名も無き街を示していた。霧崎はアレ......澪が来たことを理解し、同時にファランクスの本体ごと両断されていること知った。両断されたファランクスが爆発し、それに霧崎は巻き込まれるが微動だに動しなかった。それに対して何も思わない訳では無い......だが、まずは目前の問題を片付けるのが先と思考を変えた。 センサーは1km程は常に張っている。だが、その範囲内には居なかった。ISコア反応はまずここ周辺地域にはまず無い。では何処から?

 そう考えてた霧崎は爆炎の中でその顔面を捕まれ投げ飛ばされる。

 

 

「うあっ!?」

 

 

 爆炎から投げ飛ばされたい霧崎はPICの応用による空中蹴りで衝撃を緩和し、空に上がり街全体を索敵しそれを捉える。ファランクスの事を頭の片隅において、あまりにも異質なソレを見た。

 それは自分の様に人に近い外見をしているが、それはもっと人に近い存在だった。霧崎自身独学で澪の様な存在になる方法は融合兵士計画を基に辿り着いた進化の方法の一つに、全てを捨てて進化する方法があった事を認知していた。しかし、それはあまりにも愚行な行為であることと霧崎自身思っていた。

 全ての生物は生きたいと願い、自ら命を捨てる行為に恐怖を持つ。それは霧崎だって同じだ。果たす目的があるから、その先にある事を果たす為に今まで過ごしてきた。 霧崎には分からないが、澪は霧崎を殺して復讐を果たすことが人生の終わりだと決め付けている故に出来たのだ。

 

 

「まさか、あの手段を?」

「■■」

 

 

 霧崎と数百メートル離れ、爆炎の中からその双眸を向けている頂きに辿り着いた澪。その姿は人間9:IS1の割合の姿をした霧崎とは違う。まさに人間とISの割合が5:5で、ISと人間の融合という形をまさに表現していた。

 その背にある非固定浮遊部位の翼、語られることがない名称『廃翼』が澪の周りに漂う黒煙を吹き飛ばす。その掌底から閃光を放ち......それが槍の形状に成り代わる。

 

 

「■■......■■■■■!」

 

 

 上空にいる霧崎に向けて槍を投擲、空いた手にまた槍を作成し投げる。その間僅か0.1秒、その神業とも呼べる投擲を霧崎は目にして心の中でやるなと呟く。そんな感想と裏腹に槍を素手で簡単に払い、弾かれた槍が街に落ちては爆撃かと思えるほどの衝撃を出した。

 翼を広げた澪は、その内側にあるエネルギーを放出。出力を上げ、本格的に戦うための準備だ。これに対して霧崎は先程と同じ様に素手で待ち構えた。 一瞬の間をおいて閃光を発し、ガード体勢を取った霧崎を殴り抜いた。強過ぎた威力は大気を震わせ、周辺地域一体に甚大な被害を出す。衝撃波が瓦礫まみれの名も無き街を襲い、残っていた建築物も全て崩れ去る。

 

 

「────っはぁ!

 はあ......はあ......!」

 

 

 霧崎は目前の澪を鋭く睨み付けた。今の一撃で両腕が消し飛び、久しく感じた痛みにキツイものを感じていた。 直感的にまだ底があることを理解し、このままでは己を追い越す事も感じ取る。霧崎は戦女神の姿を模したIS化して腕を直し、手刀を繰り出す。

 手刀は澪に少し掠り、その身体を傷つけた。その後に続けて見えない斬撃が澪を斜めに切り裂きその動きが止まる。これは霧崎の作り出したISコアが持つ単一仕様能力である。

 

 

 単一仕様能力『虚構之道』︙単純にいえば攻撃手段で手か足を振るう、近接武器による近接攻撃を行うことで起きる後出しの斬撃。その斬撃は見えなくさらに範囲が広く、斬れ味も凄まじいものである。しかし、SEの消費量が桁外れに多い部類でもあった。その威力は保証されるが、一回ごとに消費されるSEは全体の20%と燃費食いもいい所。だが、その欠点を霧崎は克服している。それは澪のG機関の模造......否、上位互換の模造品をその身体に埋め込んである。 

 いくら外部からの情報遮断をされているとて、内部から直接情報を得られてしまっては為す術もない。

 澪の中から出た後、得た情報から改善箇所を見つけた上で作り上げたもう一つのG機関は澪の物を上回る出力を誇る。それによりこの単一仕様能力の弱点を克服したのだ。

 

 

「......切断じゃ意味が無いか」

 

 

 だが単一仕様能力『虚構之道』と澪との相性は悪かった。切断面はすぐに修復され、傷跡は消え去り動きが再開し始める。グググ......と動き、左腕を伸ばし淡々とこちらを見るその様はゾンビである。もっとも、ゾンビはゾンビでも次元が違うのだが。

 霧崎は単一仕様能力を使用した乱撃を繰り出し、澪を細切れにしようとする。しかし、その乱撃は体に届く前に何かに弾かれ無力化され霧崎自身に攻撃が返された。霧崎はそれを一蹴して防ぐ。既に目の前に両手に構えた槍を霧崎に向ける澪がおり、両腕をクロスさせるように振るい斬撃でそれを防ぐ。

 

 

「自動固定、予測範囲索敵......完了。回避ルート固定」

 

 

 再度仕掛けてきた澪の暴風とも呼べる連撃を、瞬時に出した回避ルートに沿って簡単に避けていく。

 

 

「左腕にAIS爆烈弾倉装填」

 

 

 右腕がボコリと盛り上がり掌底からは銃口が覗く。

 

 

「超爆発」

 

 

 澪の懐に入った霧崎は顔面目掛けて掌底を叩き付け、零距離砲撃を繰り出した。対IS用の爆裂弾の強い閃光と爆発が澪を襲い、回転しながら吹き飛んだ。霧崎は直ぐに追撃をする為、己の武器を展開する。

 膨大なエネルギーを纏う3m級のAIS仕様ランス『カーマ』、それを構え神速にて澪に攻撃を叩き込む。山に叩きつけられた澪はPICで体制を整えて、瞬時加速で霧崎に近づいた。

 

 

 

 今、世界のあらゆるIS・EOS乗り達が急いで日本に向かっていた。それは日本のとある土地にて榊澪の膨大なエネルギーとIS反応が検知され、それと同等かそれ以上のIS反応が検知された。

 世界各国のIS・特定のEOS乗り達は『榊澪ともう一つの反応個体の討伐』の任務を受けて日本に向かっていた。日本政府もそれを諸諾していた。平和になろうとしている時代の節目に、強過ぎる力は要らないのだ。

 それに対して亡国は拒否し、亡国側の人員に澪の保護任務を発令させた。

 比較的日本近海に居た亡国ゴースト隊。その現在の一番隊隊長である三年前と比べより美しく、より強く成長した篠ノ之マドカはバイタルチェックを済ませカタパルトデッキに向かっていた。

 

 

「全く、あの馬鹿......反応があるのは分かってたが生きている事ぐらい連絡しろッ!」

「マドカ大佐!亡国ロシア基地よりお姉ちゃんの部隊......更識部隊が、中国基地より凰部隊、日本基地より滞在していた福音隊が先行しているようです!」

「アイツら......分かった。それと、大尉は止めろと言ったはずだぞ簪少尉?」

「それはそうとして、さっさと行きましょうお二人方?

 今は早く榊君の保護がせねばなりません!」

 

 

 マドカ隊に所属するのは専用IS『打鉄弐式』更識簪少尉、専用IS『ラファール・リヴァイブS式』山田真耶中尉である。IS学園から脱出し、亡国に合流した後からずっとゴースト隊に所属し続けていた。

 

 

『一番隊出撃して下さい。』

「行くぞ!」

「「はい!」」

 

 

 澪との戦闘が始まり『既に30分』経った。未だに何があっても喋らず、ただ淡々と攻撃を仕掛けてくる澪に霧崎は戸惑いを隠せずにいた。

 

 

「このっ、鬱陶しい!」

「■■■!」

 

 

 気味が悪い。単純にそう思う霧崎だが、幾ら目的の為にやって来た事が悪だとしてもこれは果たして善からなる行動なのかと疑った。自分が悪だと理解していても目の前の澪が善の立場だとしても......と、考えていた時だ。澪の動きが更に加速し、その体の表面に歪みが出始めた。

 G機関から抽出されるエネルギーには幾つかの特性がある。その中にエネルギー自らに重力作用が働き、高密度にすれば空間を曲げることさえ可能なのだ。それ故に機関内部にある重力緩和機構とISのPICによる作用で、何重にも和らげた上でエネルギーとして使用している。

 故に、この現象は高純度のエネルギーが溢れかえっている事の表しなのだ。霧崎が使用するG機関から抽出されるエネルギーにはこの作用は────無い。余りにも危険すぎるこの特性は、下手をすれば己に牙を向く。それ故にその特性を消す程の緩和機構を付けたのだ。

 澪は掌底から荷電粒子砲を放ちそれを霧崎は回避した────のだが、その放たれた光線に引き寄せられたのだ。

 

 

「あっっ、っう......光線を中心に重力作用で引き寄せたの?」

 

 

 無理やり直撃され溶けた右肩を直しながらそう言う。

 霧崎は澪の動きが加速し、計測されるエネルギー量が膨大になってきている事に危機感を感じていた。周辺地域は幸い無人の街と森だけなのでそもそも人が居ない。だが、先日まであった森は見事に更地になっていた。

 しかし、10km圏内に次々にISとEOSが集ってきている。霧崎は幾ら己が強いからと言って、澪と戦闘している最中に邪魔されるのは面倒臭い......だがそれを防ぐ手段が無いのだ。

 

 

メキメキ......

 

 

 澪の非固定浮遊部位の翼からそのような音が漏れ始め、数秒の内にその翼の節々が拡張され一回り大きくなった。始めから澪の目から出ていた赤い液体もさらに溢れ出す。ヘッドギアと同化していた頭部装甲が弾け飛び、その下にあった爛々と真紅に輝く装甲が顕にされる。

 

 

 最終段階フェーズ2移行

 

 

 限界時間が半分を切ったことで、枷が外されたのだ。

 そんな時、この場より1km範囲内までISとEOS混成部隊が到達していた。霧崎は聞こえてきた開放回線で、この場に来た連中が澪側の者達だと理解する。

 

 

「澪っ、アンタ何処に行ってたのよ!」

「やっと見付けたと思ったらヤベェなこれ」

「榊君、君を保護しに来ました!」

 

 

 澪は仲間の声など既に聞くこともないと言うのに

 

 

「■■■■■!」

 

 

 澪は頭部の輝く装甲から一筋の光線を空高く撃ち放つ。そして、それは周辺地域に絨毯爆撃の様に降り注いだ。澪からの攻撃に虚をつかれ動きが鈍った澪側の人々は、その攻撃を何とかギリギリの所で避けた。

 霧崎はその間にも迫り来る澪の攻撃を何とか避けながらも注告のつもりで開放回線で喋る。

 

 

「貴方達が何のつもりで来たのか知らないけど、もうそこの彼には私を殺す以外の事は出来ない。」

「何をっ!?」

「彼は私を殺す為に、復讐を果たすために『全てを捨てた』のよ。

 精神・魂・意識......その全てを失って、今ここにいる。私を殺す事を邪魔をするような人が現れれば、纏めて殺そうとする。そうでしょう?」

 

 

 澪がもう1度先程の攻撃を放ち、また光線の雨が降り注ぐ。もうこの地域の地上は爆撃にされされ、溶かされて隕石が落ちたかのような大穴になっている。霧崎は光の雨を掻い潜り、その胴体にランスによる一撃を与える。その一撃は澪の胴体を貫通し、血のようなエネルギーが吹き出す。ランスを引き抜こうとした時に違和感を感じ、その理由に気付いた。

 

 

「いつの間に......?」

 

 

 四肢が半ばまで切断されてたのだ。霧崎は直ぐに修復を開始するが、瞬間的な速さで直る筈なのに────二秒、三秒と時間を掛けても半ばまでしか直らない。

 その間にも澪は槍を引き抜き、それを霧崎に対して投げ返す。その剛力と圧倒的な速さから生まれる一撃はその身を貫通し、地面に突き刺さった所で耐久性を上回る衝撃により自壊した。

 澪の攻撃は続き、光線の雨は振り続けた。それにより一人、また一人と戦場から離脱していく。そんな時、また一つ......膨大なエネルギー反応をまき散らしながらISが一機飛翔して来た。

 

 

「オォォォォォッッ!」

 

 

 男性特有の低い声。だがハッキリと聞こえ、なおかつ覇気のある叫び声だ。それを聞いて誰かが言った。

 

 

「......い、一夏?」

 

 

 元IS学園にいた者達はその姿を見て驚いた。

 織斑一夏は澪と福音の襲撃した第2次IS学園襲撃事件の後、その姿を世界から眩ませ生存不明状態だったからだ。そしてそのISだ。以前一夏が纏っていたのは『白式』という白を基調にしたISであり、今の様な銀色に輝いてはなかった。そして、表示された名前は『夏の思い出』

 

 

「単一仕様能力『儚き一時の夢』起動!」

 

 

 一夏はサマーメモリーの単一仕様能力を起動し、頭部装甲が展開された後にその銀色の体がさらに強く光り輝く。光は降り注ぐ光線に触れ、その光線を弾いた。無論霧崎に飛んで行く光線は除く。

 

 

「ここにいる亡国所属のIS乗り・EOS乗りに通達!

 全機、全力で此処から撤退しろ!」

 

 

 一夏はサマーメモリーの単一仕様能力を発動させながらそう叫び、すぐ様数人から「何故だ!」と言われる。

 

 

「開放回線を聞いて、事実を認めたくないのは分かる。だが悪いが今そこに居るのは榊澪という人間は『外殻』だけであり、中身はもう何も無い。

 意思がなく、魂もない。正真正銘......中身はカラッポで外側だけ澪の『外殻』なんだ。もう俺達のことさえ分かってない。いや、そこの奴以外は人としての認識さえ無い。」

「でも、一夏はどうするの!?」

「いいから逃げ、ぐっ!?

 俺の単一仕様能力が持つ間に......!早く!」

 

 

 一夏の必死な説得に応じた亡国メンバーは、急いでこの場から離脱を開始した。だが、離脱するメンバーに対して澪と霧崎が光線と射撃を放つ。しかし、それを一夏の単一仕様能力で防ぐ。

 

 

「澪は構わんが......アンタは!」

「あら?私の射撃を防げるのね......「■■■!」ぐっ!?」

「うおォォォォォォ!」

 

 

 澪の根源たる敵

 世界最強の弟

 復讐に身を落とした者

 

 最後の戦いは混沌を極める。




次回予告

願いの果て

そこに見るのは何か

次回=復讐者の果て【後編】=


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復讐者の果て︙後編

その男の人生は短い

だがその男は後悔しない

その男が見た最後の光景は

長い夜を終えた
黄金の夜明けだったのだから


 俺は世界を回った。

 

 澪から知らされた己の姉が犯した罪。

 世界を巻き込み、何十億人をの人間を巻き込んでその人生を捻じ曲げてしまった大罪を俺は知った。

 

 その全ての人に罪を償う事は出来ない。

 だからこそ俺は世界を回った。戦乱化した世界を回り理不尽な暴力に脅かされる人達を助け、亡国と委員会側の戦闘に参加し亡国側に着いて戦闘の手助けをした。

 

 世界を回っている最中に千冬姉の弟だとバレた事があった。すると俺に罵倒し、暴力行為まで発展したことがあった。それは拒絶の反応。この時になって初めて澪に言われた事、あの光景を見せられた答えを得た。

 俺は許されなくていい。許されてはならない。俺はあの時から、この人生を掛けて千冬姉の大罪の償いをすると決めた......だから!

 

 

「お前の目的を果たせ────澪ッ!」

「ゔぅ「■■■!」しまっ......がぁ!?」

「これは災厄の果て、全ての怨念を纏め、そしてうち消し去る浄化────単一仕様能力第二段階『夏の夕暮れ』ッ!!」

 

 

 一夏の単一仕様能力により澪の光線を霧崎に跳ね返し、その攻撃の大半が霧崎に直撃し呻き声をあげる。

 今の澪は霧崎の殺害こそが最優先事項となっている為、一夏に向けていた光線攻撃を中止。澪が霧崎に接近したのを見て一夏は離脱を開始。

 

 

「澪、俺はお前に教えて貰った罪を償い続ける。

 だから、お前はその目的を果たせよ。」

 

 

 一夏はそう呟いた途端にその体から火花が散り、爆炎を起こして墜落した。これは戦略級兵器程の威力が有る攻撃を受け続けた結果だ。その目は最後まで澪の復讐を捉えていた。一夏がこの時の目撃後、世界各地の戦場にて時折姿を現す様になるのはまだ先の話。

 

 

 霧崎に着実にダメージが入り始めた頃だ。澪の頭部以外の装甲がひび割れその装甲が落ちた。その下から現れた装甲は黒く、血の如く赤いラインが入った装甲。その体はさらにISと人間との融合を精錬した姿であり、極めの体。

 

 

 最終形態Fフェイズ移行

 

 

 活動限界が20分を切った。

 霧崎は既に完全に戦闘態勢に移行し、機関を最大限まで稼働させている。霧崎の戦闘力はまさに世界最高峰......しかし、それを超える出力を目の前で出され苛立ちを隠せずにいる。

 

 

「私はまだ死ぬわけにはいきません。

 私の目的の果ての世界、それが目の前まできてるのですからッ」

 

 

 霧崎はG機関の出力制限を解除し、白金の如き光が放たれる。今ここにて、人とISを超えた人類未踏の本気の殺し合いが始まった。

 互いに加速すれば空間が悲鳴を上げ、大地は罅割れる。互いの拳が打ち当たれば衝撃が周辺を襲い、誰一人とも近寄ることが出来ない。武器による攻撃は山さえ削り取り、防御によりまた周辺環境が激変する。

 

 いつしか二人の周りは何も無く、真っ平らとも呼べる平地だけ。

 この時既に討伐指令を受けたIS・EOS乗り達が到着していたが、この有様を見て動けないでいた。しかし、時折襲来する一撃必殺級の流れ弾に恐れをなし戦闘場所から大分離れた所まで撤退したのである。

 

 

「っあ!」

 

 

 霧崎は普通ではありえない速度でそのランスを振りかざし、澪はエネルギーを纏った拳......Eハンドで殴り打ち合う。速度が爆発的に増してきている澪の拳が、確実に霧崎の体を打ち砕いて来ている。霧崎は撃ち合いの合間に見たその無感情な澪の顔の双眸を見た。

 

 

 逃さない

 

 

 霧崎は初めてサッと血の気が引いた気がした。今までの人生において臆することがなかったが、今初めて......死が迫って来て漸く『恐怖』を得た。足掻いても足掻いても、全てを無に帰す目の前の存在に恐怖したのだ。

 

 

「まだ、まだ私はッ」

 

 

 機体出力を過剰値まで上げて攻撃を仕掛けるが、既にその出力を上回り尚且つ技術力でさえ全てを捨てた澪を下回っている。あまりにも酷いGが掛かり体が千切れそうになるのを無理矢理修復して繋ぎ合わせる霧崎に対し、澪はその身から出るエネルギーによる表面が焼けて来ている事以外変化は無い。

 霧崎はその体が持たない領域に達し、様々な能力値においてももう差がついた。そして、遂に唯一の近接装備であるランスを半ばから折られた。

 ここに来て遂に霧崎は最終手段を使うことにした。

 

 

「機関セーフティー強制解除ッ!」

 

 

────────────────────────

 

 G機関の安全装置を強制解除し、出力設定を無くした────が、それでも届かないッ!

 

 

「かはっ!?」

 

 

 戦闘が始まり初めて目の前に居る榊の拳が胴体に直撃し、私は苦悶の声を出す。打ち合ってたから分かる。今日会った頃と比べても、異常な程にそのスペックが跳ね上がっている。 胴体に突き刺さる拳が、その纏うエネルギーを爆発させ私の白い体が赤黒く染める。私が強化したA.I.S.Sの発展システムが搭載されており、私の為に作ったそれの効力も足せられた激痛が私を襲う。全て、やった事が自分に返って来ている。

 

 A.I.S.Sの発展システムであるFWAIS、その正式名称は『Fallperformance.Weapon.Anti.Infinite.Stratos.System.』と呼び、A.I.S.SがISの機能と機構を停止・阻害。FWAISはそれに加え武器の性能を落とし、起動阻害をも持つ。

 霧崎は実験的な意味合いでこれを施し、データを取ったが己に流用する事が難しいと判断し結局の所は情報だけの形となった。ここで何故戻さなかったのかと言われれば、それは澪が己に勝る等と思ってなかったからだ。故に起きた失態。

 

 

「かっ......ぐぼっ!?」

 

 

 私はこの馬鹿げた大人達がやりくりしていた世界を終わらせ、その先の世界を見たかった。それが幼少期に自惚れでは無く、本当に天才とも呼べた私にとっての夢だった。 その途中で出て来たISに魅せられた私はその力を持って、世界を変えることを決意した。ISが出てからすぐにIS委員会を発足させ、まだ良識的なメンバーしかいなかった小さな女性権利団体をその下層組織として成長させた。

 私はISが秘める『進化性』と『能力性』をの高さを突き止めた。その為に非人道的実験をし、改造・人体実験......戻れぬ道まで来ていた。 得られた結果から私は人としての体の全てを投資して、世界において実質初めてとなる秘匿でありながらも正式なIS融合体に至った。そうして私は試運転がしらにIS融合体の適合者候補がいるらしい日本のとある県境の山間地にある街を、部下含めた10数人程で私の体の実験と評して焼き払った。今思えばその時、ISに不可思議な不調が起きていた。

 

 ISが震えていた。(・・・・・・・)ISにはコア人格というものがあり、確固とした個がある。それが何かを感じ、恐怖したのだとあとから判明したが結局大元の恐怖となる原因は不明だった。 あれから幾年、その原因の大元が生き残りこうして私に牙を向いた。

 前に初めて正体を現し、対峙した時は確に榊澪は周りよりは強かった。それはIS融合体の成功例として、初めからその様になると決定づけられていた者故だろう。だが、あれ以上の完成度を誇る私が......あれより年数を掛けてきた私が殺られてしまうのは何故だ?

 

 

────何故?そんなのは決まっているさ霧崎君

 

 

 唐突に聞こえた聞いたことの無い男の声。同時に周囲の景色が止まっているように見え......違う、よく見てみると景色は極わずかだが動いていた。

 

 

────はじめまして、とでも言っておくよ?

    私が誰かなんて事は言えないから......ああ、Rとでも呼んでくれ。

────手短に話すが、君がここまでやられているのは何故かだったね?答えは簡単、君は人の怒りと復讐心を侮っていた。

 

 

 私には勝手に話し掛けて来て、一方的に答えを喋ってくる声に苛立ちを隠せない。

 

 

────君は篠ノ之束と同じくこの世界において唯一無二、独自の視点持って全てが普通以上にして異常。世界を引っ掛け回した......だが、君は公に無い天才にして彼女は公に認められた天才。世間に知られた彼女は最低限世間に対する常識を考え、紹介したISによる馬鹿げた差別を招く行為を恐れた。彼女でさえ、その点の心配はあった。......気づくのは手遅れになっていた時だったがね。

────だが君はどうだい?誰にも知られない天才は水面下で大層な目標を掲げたのはいいが、ISのデメリット点である『女性にしか使えない』という女性にしては最大のメリットであり差別に対しての最大級の爆弾を盛大に爆発させた。その時より君の計画は進み今やその計画を果たす寸前まで来ているが、それまでに出した生贄となった人々の怒りと憎しみを見て見ぬ振りをした。

 

 

 人の歴史での文化の発展、技術の発展には何時も犠牲は付き物。私はそうだと思っている。現に私のお陰で世界の技術革新、人類の意思の向上は果たされ恒久和平の道に今向かおうとしている......それの何処が間違えている!?

 

 

────その贄になった者達が、何時までも黙っているはずがないだろう? 人の怒り・復讐心、それら感情は時にして全てを覆す事さえある。それは己の死を遠ざけ、絶対的絶望を覆すことさえできる。君はそれを甘く捉え、贄となった人々の怒りを高まらせた。あとは......この世で一番恐ろしい復讐者に詫びたらどうだい?

────君が言った通り彼の魂はもうこの世にない。だが彼の怒りと憎しみを混ぜて出来た榊澪という復讐者は目の前に居る。君にはもう未来は無く、それを覆す希望も絶望も無い。あるのは生物において死そのものである虚無、彼には言ってなかったが......霧崎君。君は本当に愚かだったよ。

 

 

 私が愚か?天災と同等かそれ以上の私が、世界を導く筈だった私が? そう思っていた私に超低速の世界は速さを戻し、復讐者の攻撃が身体を貫いた。

 

 

「ガフッ!?」

 

 

 身体を修復させようとするが、澪の持つFWAISにより阻害されてしまう。

 

────────────────────────

 

 活動限界時間残り10分

 

 残り10分になり、霧崎を遂に追い詰めた。だがそれは復讐者の最後が、すぐそこまで迫っていることを示す。

 

 身体を貫かれ、手足をもがれても修復しながらも戦いボロ雑巾一歩手前までになった霧崎。だが、ボロボロなのは澪も同じだった。自ら放出する過剰エネルギーがその身を焼いて起きた自滅ダメージが蓄積され、その身が焼き爛れた。

 

 不意に澪の異様な変化に気付き、目を疑った。

 体が凹み、周辺空間が澪に向かって収束し異様な光景を作り出している。そして、周りの物体が澪に引き寄せられた後に圧縮された後に消滅してしまった。

 

 

「そういう......事、ですか」

 

 

 霧崎はその様子を見て今の澪の状況を理解する。要はブラックホールの如く、全てを吸い込むのだがその途中で加重される重力エネルギーによる負荷で巻き込まれた物を圧縮・消滅させるのだ。

 霧崎は先程の声の主通りどうやら自分は成す術もなく死ぬらしい、そう考え近付いて来た澪に吸い込まれた。途端に纒わり付くG機関から生まれたエネルギーが、その重力作用により付着した場所を凹ます。霧崎は圧倒間に全身が凹み、圧縮されたのだが突然その途中で作用が止まった。そのままの状態で両者は上に......宇宙に向かって急激に上昇し始めた。

 霧崎はその行動に戸惑い、澪はどんどん加速する。その速度は音速を超え、光速の領域で飛び、地球圏から遠く離れた宙域にてその動きが止まった。

 

 

     ────活動限界突破────

 

 

 澪の体から一つの機械が突出。その機械からは澪の体から溢れるエネルギーと同じ物が出ており、それからわかる正体はエネルギー発生源である『G機関』。その機関に膨大なエネルギーが蓄積されているのを霧崎は理解し、同時に何が起こるのかを理解する。 

 今ここに究極にして最悪の一撃が繰り出され、一人の復讐者の終わりのピリオドを迎える。

 

 

 

  終極兵装『原初の炎(オリジン・フレイム)』起動

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、地球から遠く離れた宙域にて宇宙が歪んだという報告が成され......榊澪と霧崎千切のIS反応が消失したのであった。




次回最終話予告

全ての元凶は倒された

怒れる復讐者も消えた

全ての戦いは幕を下ろし
世界は黄金の夜明けを迎える

次回最終話=破壊の英雄=


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最終話:破壊の英雄

怒れる復讐者

その人生に喝采を

その身に永遠の安らぎを────


 日本にて行われた破壊者と霧崎千切による最終戦闘。

 それは1日の中の一時間だけであり、されど一つの地域の山や朽ちた街を全て消し去り更地に変えた。 そのたった1時間の頂上決戦の同時期、世界中のエネルギーセンサーがこの両者の反応を捉えており、計器が完全に吹っ切る程のそのエネルギー観測地は日本。それにより亡国と日本政府は対応に追われた。

 エネルギーは1時間を経ったあとに消失し、後日調査結果を両者は世界に向けてこの件をこのように伝えた。

 

 

 今回の件で確認されたエネルギー反応は榊澪と、元IS委員会委員長である霧崎千切の両者のものである。現場に急行した当時のIS及びEOSパイロット達の事情聴取から、元々戦闘が起きた土地に霧崎千切が潜伏しておりそれを榊澪が月面から発見し戦闘が行われた。

 榊澪も霧崎千切も最後の発見から目撃情報が無く、この衝突を未然に防ぐことは不可能であり、通常ISや改良型EOSの全防御機構を貫通する攻撃の前に、現場のIS及びEOS搭乗者達は手足が出せないでいた。両者の一度の攻撃が戦略兵器級のものであった為に、我々は現場の搭乗者達の生命を優先して待機させた。

 戦闘は榊澪が勝ち、霧崎千切を捕縛した後地球圏から脱出。地球圏脱出を確認した数十秒後に地球圏から離れた宙域に強烈な爆発を起こした後に両者の反応は途絶え、両者のいた宙域がその後より異常な空間湾曲を起こした。その結果から両者を死亡扱いとする。

 

 

 これが両者の出した結果だった。

 あの後、束が自らISを制作し直接その宙域に向かったが、その宙域は辿り着いた時には目視出来る程に宇宙空間が湾曲しており、立ち入り禁止宙域化としていた。だが、束は諦めずにISのセンサー・コア反応・コアネットワーク......全てを繰り出し探しだそうとしたが反応は捉えれず。結局その宙域には異常な宇宙の景色が広がるだけ。

 束は地球に帰還した後、澪の関係者達にその事を話した。榊澪は確実に死んだ────と。 

 関係者達はそれに対して、多くの者達は悲しみを表した。しかし、少数の......澪が自身を化物だと言い続けてその身を傷続け、勝手に死んだ事を怒る者達も居た。地球全体では、澪が世界を救った英雄だと賛美される中の出来事だ。

 

 

 時は流れ、世界からISが原因で発生した男女差別は消え去り、今やIS技術は様々な分野にて多大な貢献をしていた。現在世界中で使われているISには束が配布したISコアであり、今まで言われて来たISコア......今では『真性ISコア』と呼ばれるのだが、霧崎が開発に成功した量産型ISコアの改良発展型の第二世代型量産ISコアを搭載している。

 量産型ISコアには無かったコア人格を二世代型コアは有しており、コア人格も搭乗者との意思疎通を可能としている。

 

 

 人は────人類は遂に宇宙にて新たな拠点を得た。

 終戦から10年後、ISと世界中の宇宙関連企業による一大プロジェクトである『M計画』────正式には『ムーン・フロンティア・プロジェクト』と呼ばれる月面にて人類が住める都市を築き上げる計画が成功。

 この月面都市は宇宙放射線への対策も、落下する可能性があるだろう隕石への対策も出来ている。IS大戦にて生まれた新技術における特殊装甲剤、大量生産が可能となった第二世代量産型ISコア、宇宙における空気の確保、宇宙に向ける人々の想いが生み出す情熱による革新が......あの惨劇を生き延びた全ての人々の手によって完成したのだ。

 そして、人類は更なる新天地を目指す。宇宙という果てしない夢の世界を突き進む為に、IS技術を使用した外宇宙を目指す『外宇宙航行艦』の建造も開始され始め、人類の未来は眩いものである。

 

 

 

「大戦が終わって10年。

 世界は変わったぜ......澪」

 

 

 そこはあの澪が霧崎と戦った跡地。

 あの後、この跡地は平和公園として整地され、その整備維持費は多くの国から出されている。今やあの凄まじい戦闘の跡はない。そんな地に一人の男が、その銅像の前に座り込んでいる。

 

 

 

「亡国の人達はみんなの為に頑張って今日も生きてるよ。 澪の行いの果てに、世界は前よりもしっかりとした世界になった。遂に月に都市も作って......凄いぜ。

 だから俺は────織斑一夏は、澪のお陰で平和になった世界をこれからも見守っていくよ。」

 

 

 その男────織斑一夏は、そう言って拡張領域から花束を取り出しそれ銅像の前に置く。そして、その織斑一夏の背後には二人の女性が立っていた。

 

 

「本ッ当に澪は色々な物を破壊したよな。

 俺を含めた世界中の人々の精神性を、男女間の亀裂を、世界を。全て、全て......破壊したから世界は良くなった。

 一方間違えれば滅びの道に進んでいたけど、なんとか世界が良い方向に向かってくれて良かったよな。」

 

 

 一夏はそう言ってから周りをぐるりと見渡す。

 

 

「見てくれよ。ここは澪の為に作られた平和公園だってよ。あの時、世界中で最も嫌われた人間だった澪が今では世界で最も尊重され敬愛されてるんだぜ?

 逆に俺は今ではほんの少しだが、殺そうとしてくる奴らがいるけど......まあこれも俺の罪だけどな。」

 

 

 この公園一面に咲くは今はシオンという紫色をした花が、季節が秋になればイチョウが公園を彩る。花言葉は......シオンは『あなたを忘れない』、イチョウは『鎮魂』の意味を持つ。

 人々は願っているのだ。激動の時代を、波乱の生涯を駆け抜けた一人の男に安らぎを。そして、その活躍により世界を破壊した男を忘れないと。

 

 

「俺は行くよ......じゃあな。」

「行くわよF。じゃあね澪、また来るわよ。」

「今度は私もなにか持ってくるよ榊よ......さて、行くぞF。」

「分かってるよH、R。」

 

 

 三人のその姿を上空から見下ろす者達が居た。

 

 

「世界は多くの犠牲の元に救われた。」

────だけど......まだ

「世界は定まりきらない不安定な状態。もう少し見てみようか。彼が居た、破壊の自分が居たこの世界を」

────もう1度道を踏み外したら......そうしたら......

「そうしたら?その時はもう今のこの世界の人々に委ねるしかないさ。」

────ですが!

「それが我々だ。

天上の存在である神が今の人間に手を出さないように、人以上の存在である我々も手を出してはならないんだ。だからこそ、我々はこの世界を見守るんだよ。」

 

 

 

 

 

 澪のその生涯はほんの少しの人間にしか知られていない。澪の分かっている時点の情報公開も、澪と霧崎の戦いが終わってから2年も後のこと。

 その時になり、日本政府は榊澪という人間は一度日本政府により戸籍から何もかも消されていた事を公表。その一連として、榊澪と名乗る前に使っていた本名と住んでいた市町村、その市民達の情報消去に霧崎千切と数代前の日本政府内の特定の人々がこの件に絡んでいた事も公表した。

 無論、これには世界中から非難が殺到した。既にこの件に絡んでいた人々はその多くが死亡し、数名だけが逮捕され裁判にかけられる事が決まった。

 澪の人生はその後、謎の人物『M』という者により本にされ世界中の人々にその生涯が伝わった。

 ISによって全てを奪われた一人の男の復讐談として、長期に渡り語り告げられる。そして、全てを破壊してこの世界を導いたとして近代の英雄として讃えられた。ここに本人が居たら苦笑しながら「俺は英雄じゃない」と言うだろう。

 

 

 

 何処までも続く宇宙に上がる夢

 輝かしい未来に溢れた黄金の時代

 もう何処にも存在しないと言われたそんな夢

 

 だが......それを破壊する者が居た

 

 絶望と悲劇の涙を流すだけの時代を

 醜く陰湿な闇と虚構の時代を

 黒く戯れた偽りの平和を 

 その手で破壊する

 

 時代を塗り替えた者『破壊の英雄』

 英雄の名は『榊澪』

 

 その人生を復讐で満たし

 後悔など何一つ無く

 その短い人生を駆け抜けた

 

 

 

 

 一般人15歳で〝ちょっと〟変わった彼のIS生活

   ────────完────────



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EX幕 後悔・懺悔・決意・決起
EX01⋮罪世界


この作品ではお久しぶりです。
本編完結以降、更新予定はありませんでしたがこちらの不手際で本編の途中で挟むものとかが未投稿のまま終わらせてしまい、これは勿体ないと思ったので投稿します。

EX幕となります。


 私は篠ノ之箒。

 篠ノ之家の次女であり、世界に名高い『天災』篠ノ之束の妹だ。

 姉はISという女性にしか使えない強化スーツ......という宇宙に行く為の物を作った。

 私には好きな男が居る。とても大切で、私を助けてくれた男だ。その名は織斑一夏、その姉である織斑千冬こと千冬さんはISにて世界最強と呼ばれる存在であり私が通うISについて学ぶ世界最高峰のIS専門学校であるIS学園、その一年一組の担任でもある。

 

 

「千冬......さん?」

 

 

 某日。突然のIS学園占領事件が発生、その数日後の明朝午前5時あたりだろうか。大規模な戦闘がIS学園の到る場所で起きた。私は寮の特別室に学園を占領しにきた武装した委員会の女達に監禁され、その部屋の窓から外の景色を見ていた。

 この場所からはとある人物達の死闘が見れたのだ。

 一人は千冬さんで、カスタム仕様の打鉄を駆っていた。

 もう一人は、2番目のIS男性操縦者である榊澪だった。その身に纏うのは異常なISである『名前無き破壊者』と呼ばれる機体───だったはずだ。あの男は何かと一夏に対して強く当たり、馬鹿げた程の威圧感をほぼ常に周りに晒している為に学園内の生徒から異常な程に嫌われていた。私も奴を嫌っていた者達の一人だ。

 

 

「嘘......だ。千冬さんが、そんなわけが!?」

 

 

 両者の戦闘は異常だった。その全てが通常のISを凌駕し、IS出力試合専用設定解除によるリミッターの解放による本気の殺し合いに息を呑む。

 IS学園から暫く経った榊澪の動きは、まだ在学中だった頃よりもひと目で分かる程に精錬され、機体も至る所が変化していた。最初は榊澪が圧倒していたが途中で千冬さんがくり出す猛攻撃により推されていたが......異常な程に強くなった榊澪の手に押し返されていた。

 

 そんな時だ。何故か一夏が突然現れたのだ。

 千冬さんはそれに驚き、その時に隙が出来て榊澪に虚を突かれた形で襲撃を受けた。一夏は千冬さんの目の前に立ち荷電粒子砲を放つ......しかしそれすら榊澪はその手に持つ剣で四散させつつ真っ直ぐに速度を落とさず突っ込む。私が一度瞼を閉じたその間に何が起きたのか、千冬さんが剣で刺し貫かれていた。

 

 

「遂に死ぬんだあの女。」

「っ!?」

 

 

 私以外誰もいないはずの部屋から、私以外の声が聞こえた。それも、酷く聞き覚えのあるその声が。

 

 

「姉さん......?」

「ひっさしぶり〜箒ちゃん元気?」

 

 

 私の姉である『天災』篠ノ之束が、いつの間にか音も立てずにこの部屋の中に侵入していた。

 

 

「ど、どうやって此処に?

 廊下には見張りがいた筈では......」

「この襲撃の対応でこの寮にいた奴らはほぼ全員駆り出されて、その殆どが死んだよ。

 数人だけこの部屋の周りにいたけど、束さんの手でこう......トンッとやって気絶させたよ。」

 

 

 まあいいか。そう言った姉さんは私を突然担いだ。私は姉さんが何をしてるんだと一瞬思考を停止している間に、その身はいつの間にか消えた窓を超え空を舞っている。地面に落ちる......そう思ってたがこれまたいつの間にか先に落下するだろう地面にて待って居た姉さんにキャッチされる。

 

 

「ちょっと走るからね」

「えっ?ちょ、きゃっ!?」

 

 

 物凄い勢いで景色が変わる。どう見たって60kmは出てるのでは?いや、それよりもだ。

 

 

「姉さん!何故貴女は今ここに来たのですか!?」

「ん〜?」

「先ほど千冬さんが榊澪に刺されたんですよ!?

 貴女と千冬さんは親友でしょう!?」

「ん?ああ。もうアレは親友でもなんでもないよ。

 腐り切ったアイツはもう親友じゃない。」

「でも一夏が!?」

「いっくんは大丈夫。彼が必ず生かしてくれる。

 時間が無いから説明するよ。私がここに来たのは箒ちゃんを救う為、それともう一つ。暮桜のISコアを取りに来たんだよ。

 私の娘達をこれ以上好き勝手に使わせない為にね」

 

 

 姉さんは空いてる手にほんのりと光るISコアを取り出して見せ、すぐ様懐にしまった。

 

 

「ちょっと口閉じて。舌噛むよ。」

 

 

 学園の森林箇所に入り、走り続ける姉さんの前に身に覚えの無い建物が見えて来てすぐ様その入口まで辿り着いた。

 

 

「アレは『特施』って呼ばれるこの学園において、特定の人物にだけ存在が認知されている特別な施設だよ。

 地下には巨大なIS訓練用の施設があって、榊君はここでこの学園の生徒会長と特訓をしてたんだよ。それも、入学した次の日から既に行ってた。ここはある意味あの子にとってISの基礎になった場所なんだよ......下ろすよ。」

 

 

 下ろされた後、私達は施設の中に入った。

 

 

「一応非常時だからこうして入ってるけど、普通なら入った瞬間警報機鳴り響いてその変に仕掛けてある迎撃射撃の罠が起動するんだけどね。」

「では何故ここに来たのです?」

「ここにはIS訓練施設や特別寮なんかが設備されてるんだけど......っと、そこの地下行きのエレベーターのスイッチ押して箒ちゃん。 何故か危険印が入ってても戸惑わないでそのまま押してね?」

 

 

 指示通り私はスイッチを押す。するとエレベーターが来て私達は入るが、その中の広さが異常だった。中は人が20人程が入れそうな大きさで、中には銃火器の類が壁に数多く設置されていた。姉さんは中に入り、一番下のスイッチを押すとエレベーターは普通に扉を閉めて下に降り始めた。

 

 

「ここは緊急避難用の特殊移動の役割を持ち、なおかつ敵の迎撃用武器の貯蔵庫でもあるんだ。先にここに居た人達もこの施設の中にある幾つかあるこのエレベーターで同様に最下層から逃げたんだ。」

「姉さん......貴女はこの最下層に何があるか知ってるんですか?」

「うん。何せこの施設の至る所の設計と建築はこの束さんが務め、IS技術を積み込んだ世界で一番安全な脱出経路を作り上げたからね。ここから逃げる善の人々の為に。」

 

 

 

 姉さんの言ってる事が分からなかった。姉さんは完全に身内か気に入った人物達にしかその優しさを見せること無く、他人に対してはどこまでも排他的な人だ。そんな人が他人の為......?

 そうこうしていると最下層にたどり着き、その眼前に広がる光景に目を奪われた。

 

 

「これが私が開発した2人乗り人参ロケット。

 水中でも空中でも無音で!光学迷彩にて視認出来ない!マイクロ人参ミサイルにレーザ砲台をも搭載した最強最速の人参だよ!」

 

 

 人参だった。まさかの機械仕掛けの大きい人参がそこにはあった。

 

 

────────────────────

 姉さんから聞いたものは信じられないものばかりだった。

 世界最大の国際的非公式組織『亡国企業』に、その旗艦『ゴースト』。IS委員会と女権団の悪質な犯罪の数々。そして、全ての始まりである『白騎士事件』の真相とその発端、千冬さんと姉さんの犯した罪の数々。

 訳が分からなくなった。今まで信じて来た者が、結果の大半が悪であると。あれほど嫌っていた榊澪の行動こそが一つの正義であり、今の世の中の解決策の結果だと。この時代を動かす悪意の被害者達の存在。

 それに加担していた織斑と篠ノ之家の罪......知らない内に人が死ぬ原因を作り上げていたと知れば混乱してしまう。

 私が現在いる所は亡国企業旗艦ゴースト。その中の姉さん専用のラボで、その中にある休憩室にて説明を受けてた。

 

 

「姉さんは何故ここにいるんですか?」

「......私とあの女が起点で起きたこの時代の被害者、その全てに対する贖罪だよ。」

「それは榊澪が使うISもその一つなんですか?」

 

 

 私の言葉に無言の姉さんに、今までの怒りをぶつけるように言い放つ。

 

 

「そのISによって千冬さんは......!

 貴女はそう言っても結局の所人を殺してるじゃないですか!?

 そのISで!私も家族と会えなくなり、一夏とも別れてしまった。結局貴女は今も昔も何も変わってない!」

「────うん。確かにその通りだよ。」

「なら!」

「でもね箒ちゃん。前と今じゃ確実的に違うものが私にはあるんだよ。それが何かわかる?」

 

 

 唐突的な問に何も言えなくなる。私から見れば今も前も変わりがない。いつまで経っても周りに迷惑をかける天災の時の如き人間だ。

 

 

「それは『罪悪感』だよ。

 それが有るか無いか、それだけで人は大きく変わることが出来る。私がそうだよ。とはいっても信用出来ないと思うけどね。」

 

 

 罪悪感。それに対して私はあっと思う。確かにそうだ。私が見てきた姉さんはその全てが罪悪感を感じないように振る舞う、無邪気な子供そのものだった。一旦心を沈めよう。

 人は成長と共に精神性の向上により罪悪感を覚える。姉さんはこれらの一件でこれを得たというのか......?

 

 

「落ち着いて聞いてね。

 手はなんのためにあると思う?」

「......手ですか?」

 

 

 私が考えていると姉さんはそう言う。

 

 

「手は何かを作り、自分や誰かを傷付ける事が出来る。そして、悲しみを生む。この時代の多くはそれらが占めて私もこの手で多くの悲しみを作り、広げたんだ。

 

 だけどね。私は榊君を見て、多くの人達に教えて貰った。私は他人を求め、そして分かったんだ。

 

 手は誰かと手を取るために。

 手は悲しみを生むだけではない。

 手は誰かと繋ぐために。

 手は決して傷付けるだけではない。

 手は誰かと友情を、人生を作り上げる。

 手は繋がりを断ち切り、悲しませるだけではない。

 

 手は、決して悲しみだけ生むだけじゃないって分かったんだ。」

「っ......姉さん」

「箒ちゃんが私に怒る理由は分かってるつもりだよ。

 それだけ私がやって来た事は許され無い事だし、その罪を永遠に背負い続けるって決めてるから。」

 

 

 一体いつからだ。姉さんがここまで変わり、心境が変化したのは。これでは私が子供じゃないか......いや、実際まだ子供と呼ばれる年齢ではあるが。

 

 

「姉さん。」

「なにかな箒ちゃん?」

「私はこの話を聞いてもやはり貴女を許す事は出来ません。貴女のせいで家族は崩壊し、一夏とも一度は完全に別れてしまった。」

 

 

 私の目の前にいる姉さんは見るからにして元気が無い罪人そのものだった。

 

 

「うん。だからこそ私が......「だからこそだ姉さん。」......?」

 

 

 嫌いだった。私の人生を滅茶苦茶にしたISを造り上げた姉さんを、今まで私に対して笑顔で何かしらの物を与え続けた姉さんに対して私は目を合わせる。こうして自分の意思で姉さんと目を合わすのはもう何年ぶりだろうか。

 

 

「その贖罪。私にも手伝わせて頂きませんか。」

 

 

 初めてだった。姉さんの顔がニッコリとした笑顔じゃなく、悲しみと拒否の表情を浮かべたのは。だからこそ悲しくなった。だからこそ私は心の底から助けたい思ったのだ。

 

 

「駄目だよ!?これは箒ちゃんには関係ないし、もし背負ったらこれから一生辛い事になるんだよ!?」

「何を言ってるんです?私は篠ノ之箒、篠ノ之家の次女にして篠ノ之束の妹です。」

 

 

 初めてだった。ここまで姉さんを助けたいと思ったのは。幼い頃から、笑顔で私を助けてくれた。笑顔で、いつもニコニコしてて、どんな時でも私に対して味方でいてくれた。ISの事で拒否していた私の誇りであり、大切な家族。

 

 

「だって!これは私のっ!」

「姉さんは私に様々な事をしてくれました。泣きそうな時に心を支えてくれ、一夏とどう接していいか分からない時アドバイスを......

 だからこそ、今度は私が姉さんを支える番です!

 私も、姉さんの罪の一部なんです。だからこそその罪を、私にも背負わせて下さい!」

 

 

────────────────────────

 

 あれからどれ程経ったか。

 

 私は正式に亡国企業に入隊し、ゴースト隊に所属する事となった。最初は嫌な目で見らる事を覚悟していたが、隊の皆は「認識してるのなら大丈夫だ!」「頑張ろうぜ!」「よろしくね!」等罵倒されることを覚悟していたが逆に歓迎のムードでたじろいだ。

 

 そして私は姉さんを支える為にその罪を一緒に背負い生き続けた。その為に力を、精神を鍛え鋭く強化して来た。

 

 戦争が起きた。

 

 IS大戦と呼ばれる後に終末大戦とも呼ばれ、人類史上最低な戦いが。

 

 姉さんは人目のつかない私が住む姉さん専用のラボで盛大に泣いていた。私のせいだ、ごめんなさいと。

 

 私は姉さんから受け取った力がある。

 

 第4.5世代型IS『紅天』

 

 本当は『紅椿』と呼ばれるISだったらしいが、榊澪......澪の機体のシステムを一つ搭載したのだ。FCCと呼ばれる感情による力を直接出すことが出来る特定才能を持つ者だけが扱える物だ。

 

 私は鍛えた。単純だが感情の『怒り』に関しては私は通常より抜き出た物があった。だからこそ、それをコントロールする事が可能になったからこそ姉さんは搭載したと言った。

 

 私はこのISを『誰かを守る為のIS』と捉えている。

 

 私はこのISを持って贖罪を行い、誰かを救う為にこのISという刃を振るう。姉さんの『手』が届かない所まで、悲しみを生まないために。

 

 私は世界を見た。

 

 そこに悲劇があった。

 

 そこには確かにISによる悲しみと、憎しみが広がっていた。見たことが無い悲しみの世界があった。

 

 ISを使って人は殺されていた。

 

 姉さんがかつて言っていた。

 ISは宇宙に行く為の翼で自分の娘だと。

 

 ISを使った同性たる女達が無勝手に人を殺している。

 

 許せなかった。

 姉の夢がこんなにも汚されている事に。

 

 同時に理解した。

 これが澪の見て来た人生にて、奪われた世界だと。

 全てを奪われて来た澪の世界だと。

 罪の世界だと。

 

 

「これがあいつが見て、生きてきたものなのか!?

 巫山戯るな!!

 ああクソッ、これ程の世界を生きて来た者を私はッ」

 

 

 やることが増えた。

 罪を理解し、分かってしまったからこそ決意しなければならない。

 

 

「やってやる!

 もうお前の様な奴をこれ以上出さない為に!

 私はこの刃を振るうぞ澪ッ!」

 

 

 私は振るおう。

 この刃で世界を、ISを、姉さんを守る為に。

 これ以上アイツの様な被害者を出さない為に。

 

 

「一夏、お前は今何処にいるんだ......?

 私は戦い続けるぞ。罪なき誰かの為に。」




NEXT▶織斑一夏


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閑話︙その思いの元に一閃

 罪を見た。

 

 悲劇を見た。

 

 憎しみを見た。

 

 怒りを見た。

 

 

 感覚的には永遠とも呼べる時間、その光景を見続けた。切っ掛けは俺ともう一人のIS男性操縦者である『榊澪』だ。IS学園を襲撃してきて、千冬姉を殺した奴だ。

 半分導かれてあの場に行って、千冬姉を守ろうとした。しかし、それがかえって千冬姉には邪魔の行為であり、それ故の結果殺されてしまった。俺を庇って。

 

 最初は千冬姉を殺した澪に対してキレた。小学生の時に起きた箒の件以来久しぶりだった。俺は怒りに任せて雪片弐型を振るい、雪麗を撃ち続けた。俺は初めて人を殺したい、殺してやると思ってた。たった一人の家族を殺された恨みと怒り、振るう刃に殺意を乗せた。

 

 

『以前より太刀筋は良くなったな。

 だが────それだけだ。』

 

 

 しかし結果は惨敗だったが、白式が動く続く限り反抗してやろうと思っていた。しかし、地面に縫い付けられて動けなくなった。澪に突然質問を受けたが、そこで俺は初めてこの時のIS学園の状態を知った。千冬姉はただ俺に対して『自室に待機してろ。』と言って、何処かに言ってしまったから何があったかなんて聞けやしなかった。それから幾つか質問を受けて、それに対して答えた。一度一度、答える度に色々言われて俺はそれに反論したが澪はそれら全てに正論でねじ伏せた。

 

 そして澪の攻撃で白式のSEが切れた時は、殺されると思っていた。彼処までの事をしたんだ。でも、澪は俺を殺そうとしなかった。それどころか俺を放っておいて此処から、IS学園をここまで破壊しときながらさっさと去ろうとしていた。

 

 故に俺は澪にどこに行くんだ!と叫んだ。澪はこれに対してまるで当たり前の様に『任務が終わったから去る。』と言った。俺は学園を壊して心が痛まないのかと叫んで訴えたが、澪はそれに対して何も思わない......壊された方が良いと言った。

 

 俺はこの時、頭に血が上っていて何故その考えに至っていたのかを理解してなかった。あとから考えてみれば凄く簡単で、俺は何ともなかったが澪は毎日の様に嫌がらせ・殺人未遂被害、アリーナでは訓練の妨害行動をされていた。そもそも澪はISが嫌いだと公言していたし、今の女性主義者達が大嫌いだった。そんな所に無理矢理通わされている故に、そう思うのは当たり前だった。

 

 そして、俺は澪に頭を掴まれた後......あの光景を見せられた。万年とも呼べるほど長い時間、あの光景を見続けた。そこで俺は嫌という程、無理矢理惨劇を見せられ続けた。それは千冬姉が関連し、世界を掛けた悲しみの連鎖。嫌でも気付かされ、あれら全てが自分の姉が原因だと結論が出た。あの光景の中でISを纏う者達、研究員達が口々に『織斑千冬のため』『織斑千冬を超えるため』『ISのため』......もう俺が信じた千冬姉が何だか分からなくなって、あの光景を見ながら吐いた。知る情報の多さと真実の重大さの重さに耐えれなかった。何十......何百回と見続けて俺はやっとこれら全てが千冬姉の『罪』だということを認めた。その答えにたどり着いたのが原因なのか、世界は唐突に眩しい光に包まれる。

 

 目が覚めた時、俺が気を失ってから数分しかたっていなかった。あの光景を見続けてもう半年は経っていると思ったが違うことに驚く。

 俺は白式を見て、SEを確認したがSEは回復......というより今までの上限を軽く超えていた。理由は分かっている。あの光景が終わる直前、澪が俺に対して言ったことだ。目覚めた時にあの光景を、千冬姉が残した罪を......見ないといけない現実を。

 

 

「俺が、俺がやらなくてはならない事。」

 

 

 俺は千冬姉の思い、願いは間違ってはいないとは思う。根本にあったのは俺を守りたいという願い。だけど、そのために他者を傷付けていくことは間違っている。千冬姉はそれを良しとしたが、俺はあの光景を見た故にそれは間違っていると言える。

 

 俺がやらねばならない事。それは千冬姉が原因でこうなった世界を直すために、俺が千冬姉の残した罪を背負い、世界を正すことに身を捧げること。

 それが、永久と呼べる程の時間であの光景を見て考えた事の結論。

 

 

「起きろ────白式」

 

 

 俺は澪によってSEが満たされ、動ける様になった白式を起こし純白の装甲をその身に纏う。ボロボロになり、まだ万全には動けないが。

 俺のあやふやだった心は今、一つの目的の為に固まる。ハイパーセンサーを作動させ、周囲にISの反応を調べた。

 

 

「誰も居ないのか。なら!」

 

 

 俺はPICを起動さて浮き、空を見上げる。空はもう朝日が登っていて明るくなりつつある。俺は雪片弐型を展開し地面に投げて突き刺した。突き刺さった雪片弐型に、雪麗の砲撃モードの砲撃を撃ち込む。一回、二回と幾度も撃ち込んだ。砲撃で生まれた煙が晴れ、雪片弐型があった場所は溶けた金属片が有るだけで雪片弐型は原型をとどめてない。雪麗もエネルギーを過剰に入れ、爆発寸前まで溜まってからパージ。すぐ様凄まじい爆発が起き、雪麗も爆発によって消えた。

 

 これから先、もう千冬姉の象徴『雪片弐型』、『零落白夜』はもう要らない。千冬姉が俺に対して授けたものはもう要らない。ここからは俺が、俺の意思で必要とする武器を以て罪を払う。

 その為には......アイツらの力が必要だ!

 

 

「姿を現せ──『白式』!」

 

 

 白く光り輝き、視界を埋め尽くしていく。同時に溢れ出る粒子が俺に纏わり付き、それが瞬時に結晶となる。不安になる、だが暖かいそれに俺は目を閉じ意識を落とす。心の底、夏に行ったあの場所へ────

 

 

 

「また会ったね。」

「ああ。久しぶりだな白式。」

 

 

 夏に会ったときは分からなかったが、今やっと理解出来た。このワンピースの子が白式のコア人格、ISの要。そして、ここがISのコアネットワークにしてISのコア人格がいる場所。

 

 

「やっと私の事を理解してくれたんだね。だけど、今はわたしに会う事が目的じゃないでしょ?」

「おう。」

「......」

 

 

 夏のあの臨海学校。福音との一戦で出会った白いワンピースの女の子と白い女騎士がいる、青い空と永遠に続く水面の世界に俺は再び訪れた。

 ワンピースの子、白式にそう言って女騎士に目を合わせてから言う。

 

 

「よう、久しぶりだな。」

「貴様は何故またここに来た?」

 

 

 俺が挨拶すると白い女騎士は、怒りを含んだ声で尋ねる。今だから気付いた。今だからこそ分かった。

 この騎士の正体に

 

 

「力を......ぐ!?」

 

 

 俺がそう言ってる途中に女騎士は見覚えある長刀......千冬姉が使っていた雪片を俺の目の前に投擲し、衝撃によって水飛沫が俺を襲う。

 

 

「何故だ!何故......私が、私が与えた力を捨てた!」

 

 

 俺はこの女騎士の声に覚えがあった。それもそのはず、この女騎士は『白騎士事件』があった時の今より若い千冬姉だったからだ。そして、千冬姉が白騎士のパイロットに乗っていたのは澪を通して知ったから故にこの千冬姉の正体も本当なのかという確信はなかった。実際にこうして再び会うまで。

 

 

「白騎士......いや、千冬姉か。」

 

 

 白騎士────全てのISの祖 世界にISの力を示した白騎士事件で猛威を振るった存在。そして、目の前に居るのはそのISコア人格。だが、これは恐らく本当の白騎士ではない。

 なぜなら、白式の様な独特の存在感を放つISコア人格と違いその存在感が千冬姉そのものだ。直感だが、本能がそう白騎士に千冬姉のナニカが混ざってるのだと訴えている。

 

 

「私は......一夏、お前の為を思って白式を。雪片弐型を、零落白夜を明け渡したのにッ!

 何故、何故要らないと言うのだ!?」

 

 

 俺は雪片弐型という千冬姉に憧れ、敬ってきた雪片に依存していた。別にやろうと思えば学園側から武装を借りることは出来た......が、盲信的に雪片弐型を扱って来た。それが千冬姉から託された力であり、圧倒的な力であり、ISを纏う者をたやすく殺せる力。力を理解してなかった俺が心酔した力の象徴。

 でも、これから先の未来には要らないモノだ。

 盲信や信仰ではない、未来を切り開く為の願いの力が必要なんだ。だから───

 

 

「これからの俺には、アレはもう要らないんだ。」

「う────嘘だと、嘘だと言ってくれ。じゃなければ私は......私は......」

「ごめん。これから先、俺に千冬姉の力は必要ない。

 俺は千冬姉が俺のためにやった事。そこから起きた事、その罪を俺の力で償う。」

「あ......あ────」

 

 

 白騎士には千冬姉の意思、それかナニカが色濃く残っている。夏の二次移行も白式だけではなく白騎士もとい千冬姉の残留意志が働いていたから雪麗にも零落白夜が使えていた......俺にはそう思える。

 

 

「だから」

 

 

 俺は近くに地面に刺さる様に具現化した雪片を引き抜き、牙突の構えをとる。それと共に勝手に単一仕様能力『零落白夜』が起動する。狙うは白騎士の胴体中心、その心臓。これが俺にとってどんな形であれ、千冬姉と最後のやり取りだ。そして──────────

 

 

「千冬姉、今までありがとう。」

 

 

 放心していた白騎士の心臓に向けて一突き。零落白夜が発動している雪片は、その身に纏う鎧を簡単に貫き心臓を穿つ。

 すると突き刺さった所から血ではなく黒い粒子が吹き荒れ、それと共に千冬姉の感覚が急激に失われていく。粒子に触れる度に昔から現在に至るまでの、俺と千冬姉が過ごした日々の光景が浮かび上がる。恐らくこれが千冬姉の意志であり記憶で、残った欠片。

 

 

「さよなら千冬姉。」

 

 

 俺がそう言うと白騎士から千冬姉の感覚が完全に消え去り、突き刺さる雪片がボロボロと朽ちて白騎士が倒れる。白式が倒れた白騎士に駆け寄り「少し待ってて」と言って目の前から白騎士と共に消え去った。

 暫く目の前の光景を見渡すことにした。

 

 

 幾度の時が立つ。景色は夕焼けに染まり、静寂さがあたりを支配する

 

 

「もういいよ。」

 

 

 そう言って白騎士と共に白式が姿を現す。白騎士は先程と違って、完全に千冬姉の感覚が消えてあの夏の時と同じ様な厳格な感覚が出ていた。

 

 

「貴方は、彼女の意思を振り払ったんですね。」

 

 

 意志......それは千冬姉の事だな。

 

 

「俺はもう千冬姉の意思は必要無い。

 白騎士。もう俺には千冬姉からの力もいらない......これからは俺だけの力が欲しい。」

「貴方が必要とするのは、守るための力?攻める力?」

「いや、俺が必要とするのは両方とも違う。

 俺が必要とするのは『罪を祓い、未来を切り開く』力。

 千冬姉が残した罪が苦しめる世界を救うための力だ!」

「......始めのISである私にも責任があります。

 故に、私の力を────白騎士を貴方に託します。」

「わたしと白騎士、そして織斑一夏。

 三人で一つの新しい力。さあ、行こう......一夏。」

 

 

 視界は白く、光り輝く。

 

 

 

 今思えば、この機体自体が罪の塊のようなものだと認識する。だからこそ今から俺は動かなければならない。さあ......行こう。白騎士、白式......千冬姉が残した罪を祓う為に。

 

 目を覚ます。俺に纏わり付く結晶が銀色に、強く、心強く、何色にも塗りつぶされないように光り輝く。

 

 

「行こう────『夏の思い出』」

 

 

────Summer.system stand up!!

    コアネットワーク全情報収集、擬似G機関生成

    擬似G機関起動......問題無し

    SE基本セーブ設定値除外

    武装......問題無し

    推進機......問題無し

    基本機能稼動確認

    異常移行完了。

    『夏の思い出』稼働開始

 

 

 

 全身に力を入れて纏わり付く結晶を砕く。砕かれた結晶が朝日に照らされ輝き、その光が俺を照らす。

 

 

 罪を祓う力、銀に輝く俺の新たな機体。

 それが異常形態移行全身装甲型IS『夏の思い出』、それが辿り着いた俺だけの力。罪を背負い、罪を祓う......それに俺はなる。

 

 

「行くぞ」



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EX02︙獄の扉

お ま た せ (待ってない)


地獄は開かれる。
閉じられた厄災は吹き荒れる。

ああ!!
あの姿を見よ!!

我らが供物
我らの世界の為にある供物。

我等が宿願の為
その身を捧げよ。


 天に昇る光を見た。俺、織斑一夏はその光となるかつての学友と世界を混沌に陥れた敵を目に焼き付ける。

 強くなった。決意を胸に抱いたあの日より、それでも尚その男の背は地平線の彼方にあった。

 

 その日、本当の意味で戦争は終わった。

 世界で最も下らない理由で起きた戦争は、元凶の死亡によって完全に終わりを迎えた。

 

 まだ戦闘による異常気象が続いてるが、動くだけなら可能になった我が身を酷使してこの場から成層圏ギリギリまで飛び上がり、ステルスモード移行し一回だけ瞬時加速してから人間態になる。こうすればIS反応をほぼ無にしながら移動出来るから為重宝してる。だが傍から見ればただの身投げだ。

 

 位置からして大体四国辺りの海に落下し、近くの海岸まで泳いで移動してから今後について考える。

 俺は亡国に所属することが一番なのだが、現状一定以上のヘイトが俺に向かっている。そのため所属するとしたら亡国に迷惑をかけることは確かだ。そうなるのは俺の意思に反する、だから俺は一人で勝手に動いてる方が都合がいい。なので暫くは一人で世界を渡る事にする。

 だが鈴には一言連絡を入れておくか・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから半年が経った。世界各地を転々と移動し千冬姉が作り出した世界の歪みの断絶、ISによって起きた紛争に対しての武力介入を行いながら過ごして来た。

 未所属勢力ということにより世界から名前の一部をとって『サマー』として畏怖された。そんなある日恐ろしい事が分かった。 霧崎がかつて澪の中に侵入した時に使った特殊弾、IS委員会の残党がその特殊弾…今では『電入依弾』として呼称される弾を製造しようとしてることがわかった。

 

 

 

 

 電入衣弾。かつてどんな術を用いたのかは不明だが、霧崎自身を電子情報体とし、電子生命体となりそれを含んだ特殊弾である。 効果はISに撃ち込む事により、文字通りISを内部から意志を持って攻めて破壊尽くし、もしくは乗っ取りISを意のままに操ることが出来る。現在ではその製造方法と効果につき条約禁止兵器に指定される。

 

 

 これが何処の誰に向けて撃たれるのかは不明だが考えられるのは亡国関連のIS、特に現最高戦力IS郡のどれかに撃ち込まれたら甚大な被害が出るのは確定だ。 あそこには大切な者が、今は会えないが愛しい者が居る。だからそれを防ぐために動く。

 

 

『おらァァ!!』

 

 

 追加装備である『High mobility accelerator』、通称『H.M.A.』を装備し、残党勢力が潜伏するドイツ郊外山林地帯に隠れるように建設されている建物に襲撃をかけた。 装備を脱着させ、乗り手の無いH.M.A.を建物に自爆特攻させる。マッハ5を超える超音速で迫った一夏に対応出来ず、施設に直撃し盛大に爆発を起こした。

 しかし、施設は健在である。普通なら大抵の建築物なら吹き飛ばす爆発でも無傷、恐らくSB発生装置でも有るのだろう。だが一夏には関係ない。擬似無限機関を稼動させ続け、本気になればリミッター解除済みのパワー型IS10数機分以上のパワー……その1片程の力と磨いた技術による手部での刺突でバリアーは簡単に破れ、その負荷により発生装置も爆散。

 

 

『いくぞ』

 

 

 そこから先は蹂躙だ。かつての愚行に真っ直ぐに突っ込むような、猪武者の様な戦闘スタイルはしない。圧倒的強者としての、放つ攻撃全てが必殺の力で確実に攻撃を与え撃破する。

 防御壁だろうがバリアーだろうと、ISや強化スーツ部隊やEOSを出そうが一撃の名のもとに全てを破壊した。かつての甘く人を殺す事に躊躇した頃にはない、中身も含めた全てを破壊する一撃を放つ。

 

 

 

『……被検体は全員死亡済みか。

 委員会や女権団のシンパもここまで来ればもはや怨霊だな。』

 

 

 施設には実験に使用される被検体達が数多く居ると入手したデータから判明していたが、被検体達が居る場所に到達した時には腐食した肉塊となっていた。せめての供養として1箇所に集めた後に火葬し、被害者達が味わった無念を奴らに返すことを決意する。

 その後施設を蹂躙尽くし、最後に確認した施設側の生存者も瀕死にまで追い込んだ時にそれは起きた。突然何かが体にぶつかった。

 

 

『っ!?が、ぐがががが!?!??!』

 

 

 例の禁忌弾も破壊尽くした。素材に使われていたもう助かる見込みが無い実験体も介錯した。生存者は今致命傷を与えた敵対者のみ。故に油断した。

 

 ソレは一発当てれば良いだけなのだから。

 

 一夏は最後の生存者が向ける腕、よく見ると腕自体が改造された銃であると理解する。撃たれたのだ。禁忌の弾丸を。

 

 

『ぐっ、ぎぃぃ……!!』

 

 

 凄まじい痛みと灼熱地獄の様な滾るエネルギーが体の底から放たれ、可視化出来るほどの濃密なエネルギーの嵐が吹き荒れる。

 

 

『機体浸食67%』

『行動不能』

『ERRORERRORERRORERRORERRORERROR』

 

『ぐあ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!??』

 

『汚染部分排除・・・・・不可能』

『ERRORERRORERRORERRORERRORERROR』

『機体浸食80%』

 

 

 体が飛び散る様な感覚の中、一夏はどうにかここから離れようとしてスラスターを吹かす……しかし、施設そのものを吹き飛ばしてしまう。完全に暴走し、抑えることが出来ない。視界に移るセンサーには放たれるエネルギーを捉えたISやEOSの反応がある。

 ここはドイツ。ならば元IS学園の黒うさぎが居るのを頭の片隅に浮かべ、これから起こるだろう事に恐怖した。どうかここに来ないでくれと──────────

 

 

 

 

 

 謎のIS反応を捉えたと連絡を受け、亡国ドイツ支部黒うさぎIS部隊隊長のラウラは、EOS部隊も率いてその場所に向かっている。

 

 

『隊長これは……』

 

 

 吹き荒れるエネルギーの奔流が森林を焼き尽くし、大地をも削り破壊尽くす。破壊の波が地表を地獄へと変えていく。

 

 

(このエネルギー……澪?でも、アイツは既に死んでいる。だとしたら、いや……まさか?)

 

 

 IS反応……データ照合該当有り

 その表示にギョッとし、恐れていた事が起きたと理解する。

 

 

『隊長ォ!!』

 

 

 隊員の叫びで現実に戻り飛来する紫の禍々しく光る炎を目視し、それに対し本能的警鐘がラウラの中で響く。

 

 

『全機、あの不可思議な炎に触れるな!

 『OG』と同等の驚異物体だ!触れるとどうなるか分からん!』

 

 

 かつて存在した破壊者、その攻撃と溢れ出す物質はこの世の理に反する現象を引き起こしてきた。最終的に宇宙の次元すら歪ませ修復されることなく、現在も巨大な穴が空いている。

 束は澪が決戦で放ったビームが、重力作用を生み出し、それによる引き寄せがあったと出している。放出され移動しているビームが周辺空間を巻き込むほどの引力を持つなど理に反している。

 これにより、破壊者と同ランクの驚異的攻撃や現象の事を根源たる脅威【ORIGIN】・・・・・通称【OG】と設定したのである。 そして、OGと認定した時コアネットワークを通して束に情報が伝達され直ぐに亡国に連絡され応援要請が出される。

 

 

『ごおっ!?』

『重力が!?』

『支部より各部隊へ、その地域全域に重力変動確認!EOS部隊に支障あり、一部ISにも計器に異状が確認されています!すぐ様撤退を!』

『これが時結晶の本質か!?』

 

 

 束により伝えられた時結晶についてラウラは思い出す。時結晶はISコアに使われ、ISコアの主原料である。同時にこの地球にて存在する唯一の次元物質であり、無限エネルギー存在である。

 時結晶は名前の通り、時が詰められている。そう、時間という唯一無二の絶対的エネルギーが……理の始まりから存在する時間が次元の捻りにより天文的数値の奇跡的な確率で凝縮され物質的形になったのが『特級宇宙物質︙時結晶』である。現在束がこの地球で唯一時結晶を取れる国と取引してそれら全て採掘し終わり、ソレは束が全て宇宙にて保管している。

 

 

 

『近付くだけでこれとは!?

 ISはまだしも、これではEOSや他の部隊は……!』

 

 

 時結晶はISコアを通してISそのものに干渉し、時にパイロットにも干渉する。干渉した際特定条件を満たした場合に限り、時結晶を経由しISコアにいるISコア人格がパイロットに合う、もしくは機体にあった超常現象を発現する。それが『単一仕様能力』の正体である。

 

 原理がほぼ全て解明され、それをを知ったからこそ、ISコアの数量制限や白騎士と破壊者以降の開発機体の性能をわざと低くしている。 理を超えるという事は不可思議な事であり興味深いが、それにより下手をすれば理たるこの世そのものが破綻し崩壊するからだ。宇宙に空いた大穴が現実味を高めたのだ。

 故に第2世代型ISコアは初期型ISコアと比べてもかなり特殊な工程を得て、初期型ISコアと同じ性能でありながらも単一仕様能力発現を破棄した。

 

 

『見えた……っ、やはり貴様か織斑一夏!』

 

 

 織斑一夏。最初の男性IS操縦者にして専用機にして異常形態ISである『夏の思い出』を所持する者だ。そして、そのISに使われているISコアは始まりの2機の片割れ……100%の性能を発揮できる初期型より前から存在するオリジナルISコア。限界なんて知らない無限の可能性を秘める。

 

 

『フォーメーション【DBD】展開!』

 

 

 ラウラの叫びと同時に戦後に開発されたレーゲンの再設計モデルのRシュヴァルツェア・レーゲンを駆る隊員達が、ラウラが駆るシュヴァルツェア・レーゲンにAICを掛け、完全にその場に固定する。

 

 

『EOSや他の部隊は対ショック体勢!』

『注入開始!』

『エネルギータンクよりエネルギー注入……完了!』

 

 ラウラはそれ聞き、ソレを展開する。

 

 

 

 

 それは巨大だった。

 

 ISを超える20数mは有ろう大きな荷電粒子砲。

 

 禁忌の領域を目指し

 現れし禁忌を討つ為の究極の一撃

 

 

『Gottes Schlag 立ち上げ完了……行けます!』

 

 

 ドイツ語で『神の一撃』と呼ばれる、対OG級IS武装である。発射担当機体へのAICによる固定担当が2機、『神の一撃』を行う発射担当が1機、機体エネルギー注入役を持つ大型外部接続Eタンク持ちが5機。

 合計8機のISという大戦前では条約違反する数のISを集めた、超弩級戦略クラスの一撃が今放たれる。

 

 

『発射!』

 

 

 AIC技術も使用したソレは大気を震わせ、空間すら歪ませる異次元の破壊力を持って一夏に突き進みすぐ様その身を呑み込んだ。

 エネルギーは確実に削れていた。

 

 

『反応消えてません!!』

 

 

 その時、紫の煌めきがラウラの目に映った。

 

 

『攻撃中s』

 

 

 ラウラはふと思った。何故自分は地に伏し空を見上げているのか?と。

 そこで己が地面に落下したのだと気付き、遅れてやって来た痛みと攻撃と武装を破壊された衝撃がラウラを襲う。

 

 

「かっ──────ッ!?」

 

 

 呼吸が出来ない程の痛み。なんとか視線を回し、センサーで状況を確認した。自機含むこの場のIS及びEOS全機大破。そして·····

 

 

「はぁ、はぁ·····ぐっ、うっ!

 なんなんだ、何があったのだ貴様は!!??」

 

 

 夏の炎天下の熱波の様な灼熱。

 それをもっと激しくした、まさに炎獄の如き光景がラウラの視界を埋めつくしていた。

 そう、ラウラ達は熱波だけで倒された。そして、センサーが捉える5キロ圏内は灼熱の業火に包まれた。核とは別次元の超兵器を使用したというのに、直撃したというのに倒せなかった。

 

 

『・・・・・』

 

 

 こちらをジッと見つめる『魔王』。

 そこに学園で、最終決戦で見た男の気配は無い。

 ラウラは天高く飛び去る魔王を見て意識が遠のき、目の前が真っ黒になった。

 

 

 この日、亡国ドイツ支部最高戦力『黒ウサギ隊』は勿論、EOSで編成される世界屈指のエリート部隊たる『黒風部隊』の出撃した合計30機全てが大破。 織斑一夏が放つたった一度の熱波で全機落とされ、切り札たる『神の一撃』さえも夏を落とすことが出来なかった。織斑一夏は本当の意味で『魔王』として君臨したのだ。

 

 戦闘ログから亡国は織斑一夏を暴走状態と判断。

 暴走する災厄と化した織斑一夏に対し、国連から亡国のIS部隊に一つの作戦が発令された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これは国連、否……文字通り世界から我々亡国IS部隊全部に対しての指令だ。

 

 現時刻をもって織斑一夏及び異常形態IS『夏の思い出』を捕獲、できない場合は破壊を最終目標とする……

 

 作戦名【サマーブレイク】を開始するッ!』




次回予告


世界は私たちの愛を許さない。
それでも私は貴方を愛してる。


「世界を守る為にやらなければならないのよ。」


世界は貴方を許すのか?


「罪を払う為に」


貴方と私は踊る。
それは悲しき血の輪廻
それは残酷な現実。


次回=夏の魔王【天】=


「失せろ、亡霊!!!!!!!」
「一夏ァァァ!!!!!!!」


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夏の魔王【天】

時代はいつだって贄を求む。

人はいつだって身代わりを求める。

それは普通だ。

ならば我々が行うことは正当だ。

我々の正義のために

間違った世界は贄となってもらう。




 澪と霧崎による最後の決戦から数ヶ月。

 戦場となった場所、両者の戦闘による影響で起きた異常気象が収まり亡国の実働部隊がその更地に来ていた。

 

 

「こちら‪R、IS反応を一つ確認したわ。

 あの決戦の時と同じ反応よ。」

『データ照合の結果、織斑一夏のものと判定。

 各機体この場所を隅々まで探し、なんとしても保護するのだ。』

「R了解。......ちょっとH、BT、返事。」

「「了解!」」

『O部隊ももう少しでその地点に到着する。

 EOS部隊、共にR部隊共にM部隊は織斑一夏の捜索をそのまま続行。

 

 

 保護拒否及び敵対行動をとった場合は、......武力制圧せよ。もう世界がこれ以上の刺激に耐えられん。

 特にRにはそのための力がある。もしもの時には頼むぞ。』

「了解。」

 

 亡国の司令部との通信から十数分。

 R=凰鈴音、H=篠ノ之箒、BT=セシリア・オルコットはISのハイパーセンサーを使いながら織斑一夏のIS『夏の思い出』の反応を探りながらその身柄を探していた。あの戦いから数ヶ月、世界中を転々と飛び回り最終的にたどり着いたのがこの地だ。

 

 

「反応はあるけど薄すぎて場所まで分かんないわね......」

「R少しいいか?」

「何よ?アンタらもちゃんと探しなさい。」

 

 

 居ないわー。と呟く鈴に対して、ムッとして少し怒りが混じった声音で箒は質問する。

 

 

「お前は、良いのか?」

「良いって、なにがよ?」

 

 

 はー居ないわねー。と呟く鈴に箒は続けて言う。

 

 

「一夏がもしも私たちの保護を拒否したら、敵対行動をとったら私たちは全力で一夏を倒さねばならんのだぞ?それを理解してるのか?」

「わたくしはまあ、大丈夫ですが......HやRは一夏さんとは幼馴染みでしたわね。」

 

 

 

 凰鈴音、篠ノ之箒。両者は織斑一夏とは幼馴染みの関係にして両者共に同じ男に恋をしてしまった恋敵でもある。そして、勝った者と負けた者でもある。

 

 

「それがなに?」

「なに?では無いだろう!お前は一夏を......!」

「───じゃあ聞くけど、たった一人の好きな人と何十億の人々の平和。どちらが大切な訳?」

 

 

 箒の質問に簡単に答え、鈴は箒に問い掛けた。

 全人類の平和と、一人の男の安全。ある意味究極の天秤を箒に問い掛けたのだ。

 

 

「そ、それは......」

「あの大戦は最終的には第二次大戦よりは死者や被害が少なかったとはいえ、第一次大戦より多かった。今も傷跡は残ってるし死者だって数多く存在するわ。

 

 一夏はわたし達の事を思って一人で行動してる独自の勢力。

 兎が言うには何故か澪とほぼ同じ無限機関を持ち、明らかに第四世代機を超え、さらに言えば三次移行を超えた異常移行を果たし、と同等になった。

 もう一夏一人で世界を滅ぼせるのよ。

 いくら大切な人だろうと、漸く終わった馬鹿騒ぎで疲れ果てた世界に対しては毒なのよ。」

 

 

 それは正論だった。

 一人で世界を滅ぼせる様な奴が、何処にも属してなく野放し同然で好き勝手出来るのはあまりにも危険。これは世界がそういう流れにしたというのもあるが、さらに言えば現在の一夏が暴走状態にあるというのもある。

 多数の人が死に、この星に住む人々は疲れ果てている。そんな人達を守らなければならない。今の亡国が命じられていることはまずそれだ。それを無視することは出来ない。

 

 

「そもそもアンタはそれを覚悟で今回の捜索に参加したんでしょ?」

「そうだ。だが、私は......」

「アンタは、結果的にだけど澪が残してくれた平和を壊したいの?

 命を掛けて、この世界を滅茶苦茶にした元凶を倒してくれた澪の命を無駄にしたいの?」

 

 

 鈴が持つ部隊は様々な問題を抱える者達が集い、そして抱える悩みを解決させ別の部隊へ移動させていく。その中でも一際の問題児達が鈴が受け持つ二人だった。

 亡国は人々を守らねばならない。それを冷静に、冷徹に理解してるのが鈴だから、かつての学友だから配属されたのだ。

 

 

「H、私だって本当はそんな事したくないわよ!

 ......けどね、私たちはもう子供じゃないのよ。

 この組織でISを持った時から私たちは国を、世界を守る事から逃げちゃダメなの。

 それこそ、私達のせいで世界が滅ぶかもしれないなんてあってはダメなのよ。だからそれに仇なす者は容赦してはならないの。たとえ、愛する人だとしても。」

「......分かった。」

「言っとくけど、私は学園時代にアンタらが親友である澪にした事を忘れた訳じゃあないからね。たからこそ親友に酷いことしたあんたらを私個人は許してないから。」

 

 

 突然話に巻き込まれたオルコットはギョッとした表情をしていた。

 

 

「セシリア。私は中国生まれだけど、途中から日本に来て育った。故に日本は私の故郷同然。国籍も亡国権限で中国籍から日本国籍に変更した。私は中国人だけど、日本人でもある。

 ぶっちゃけ言えば中国より日本で生活してきたから中国人という認識が薄いんだけど。」

 

 

 

中国より日本での生活による経験が自らの基礎となったためか、その精神や心のあり方は中国人というより日本人に近い。故に中国に帰った後、己の本当の故郷が何処かと理解したのだ。愛した者が、大切な友人たちがいるかの国こそが己の本当の故郷なのだと。

因みに、鈴が駆るこの機体は亡国と中国での交渉により亡国にコアを含めて所有権が移っている。

 

 

「音声データで例の発言聞いたけど、正直初見の時その場にアンタが居れば、その顔面に拳をぶち込む所だったわ。」

 

 

 鈴の背後から放たれる怒気は真っ直ぐセシリアへ突き刺さり、その怒りっぷりからいかに当時の鈴が怒っていたのかを想像してゾッとした。

 

 

「はっきり言っておくけど、私の部隊は『問題性あり』と判断された隊員が配属される場所なのよ。そして、それを調教するのが私の役目。

 アンタらがどれだけ頑張ろうが、亡国自体はアンタらを問題性の塊のようにしか思ってないのを忘れるな。」

 

 

 二人は鈴が隊長を勤めるこの部隊について、配属される前まで噂程度で聞いたことがあった。

 曰く、重犯罪者の矯正場。

 曰く、下水の汚泥の様な輩が集まる魔窟。

 曰く、世間体から酷い評価をされた何かしらのやらかしを行なった者が辿り着く終着点。

 

 配属される前でそういう話は聞いていた。そして、鈴が様々な問題児達を矯正したという事実も。

 

 

「世間から兎がなんて言われてるか知ってんの?

 元は世界最強のせいとはいえど、世界が荒れる要因を作った為『死の兎』って呼ばれてる。

 BT......アンタは『イギリスの恥』やら『今世紀最凶のブリカス』呼ばわり。

 HはIS学園でのやらかしの連発でついたあだ名は『恥侍』って、アンタの実家って剣道やってた所でしょ?侍と実家の家族に対して謝ったわけ?流派を名乗るの禁止にされて数百年の歴史を消し飛ばしたんでしょ。」

 

 

 セシリアと箒はその言葉にウッと息を詰まらせた。

 

 最終的にイギリスはオルコットの1件後、欧州の第三世代機に関する大規模プランである『イグニッション・プラン』からフランスに続いて除外された。篠ノ之束によりEU内のISコア数調整がされ、その結果EUのISコア保有数が減少。EU......その中でもイギリスは篠ノ之束の怒りに触れた為に半年間のイギリス登録ISの起動不能状態付与が施された。

 EU自体に対しての制裁も勿論あり、それにより大きくなった負担責任の為イギリスはEU離脱を強要され、周辺国家からの信用性も失い、さらにEU勢力からイギリスへの負担補助を強要.......イギリスはEUに対して行われた制裁を全負担させられたのだ。

 その後の大戦の影響を受け今も尚イギリスという国は国際的立場も含めてかなり劣悪な状態である。財政面が完全にズタボロになり、大戦により崩壊したインフラも周辺国と比べると完全に差がついた。  

 

 箒に関して澪が居なくなってから暫く経った後から始まった。武道に関する連盟、全国の武道に関する施設、さらに名のある有名な武闘家の人々が直接IS学園まで叱りに来た。その上、『恥侍』と侍に対する侮辱とも呼べるあだ名を付けられ日本国内の数百年の歴史を持つ家系......特に侍に関係していた家系からも怒りの声明がIS学園に届いた。それに加え神社関係の者としても、全国の仏教やら神社関係の者達からも箒に関しての抗議文が届けられた。 これらが終わった後、IS学園内の剣道部の部員達からも剣道場を出禁にされ、尚且つ数々のやらかしで『篠ノ之流』を名乗る事も禁止にされた。箒の行動により数百年続いた『篠ノ之流』は完全に潰え、篠ノ之流は『恥侍』としてこれから先日本の歴史に刻まれる事になったのである。

 

 

「アンタらが頑張ってるのは知ってるし、実行部隊やらアンタらのことを知ってる人らからはちゃんと評価されてるし皆悪い奴だとは思ってない。けどね、それは内部での評価であり外部からの評価は厳しいよ。

 もう既に数年経っても未だに言われ続けてるんだから、アンタらが今また何かやらかせば間違いなく世間からの評価も今以上に下がるだろうし、所属している亡国全体の信頼も下がる。」

「うぐっ」

「だからこそ澪が残した平和を維持しないといけないのよ。多くの犠牲から成り立つこの平和の世界を。」

 

 

 鈴は強い。今の亡国でも強さ順で上から数えた方が早い程に。今ではもう通常配備が成されている第三世代機とは言え、鈴が扱うのは第三世代機初期に開発されたIS『甲龍』の最終改修型である紅蓮に燃え上がる『真・甲龍』。 最終改修型とはいえ世界中に存在する第三世代機後期型のISと比べても劣る所が多数ある。亡国でも第三世代機後期型のISは配備されており、前期や初期型モデルは全て後期型に変わっている。それでも尚鈴は今の機体を使い続け、亡国最強に近い位置に存在する。

 セシリアも箒も亡国の中でも強い部類だが、鈴と比べると天と地の差がある。甲龍から武装も殆ど変わらないのにも関わらず、相性不利でさえも覆す。それが今の鈴だ。

 

 

 

「見つけた!」

 

 

 鈴がその目で捉えた。更地の大地、その一部が僅かにだが不自然に周りの大地と比べて浮かび上がっている。ハイパーセンサーで解析、分析結果からAIS素材から出来ているカモフラージュ部品だった。真・甲龍のスラスターを吹かし一直線にその場所に近付き、拳部に展開した使い捨てのパイルバンカー『龍王咆』で破壊する。

 

 

「こちらR部隊より司令部!

 織斑一夏のIS反応捉えた!反応値も上昇!」

 

 

 破壊された場所には地下深くまで繋がる人口の穴があり、穴は深く1kmを優に超えている。そして、微弱だったIS反応も一気に増大し、エネルギー反応値も急激に上がっている。

 

 

『司令部より本作戦に関わる部隊へ連絡。

 R部隊はそのまま目標と接触する為突入、他部隊は念の為その場にて待機。』

「行くわよ!H、BT!」

「「了解!」」

 

 

────────────────────────

 

 

「2 700......2800......2950......一体どこまで続いてるわけ?」

 

 

 突入から数分。穴は1kmを超え、今も尚地下へ進む3人。時折不可思議な光を放つエネルギーが下から吹き荒れる。

 

 

「エネルギー反応値は限界値を超えましたわ。」

「(第5世代を優に超える反応値、一夏お前はどうしたんだ?)」

 

 

 ブルーティアーズと紅天も真・甲龍を纏う3人は計測反応を見て警戒を続けている。既に周りは濃密な可視出来る程の不可思議な色をしたエネルギーに満ちている。

 

 

「何あれ?3秒後にゲートらしき何かと接触、3機同時一零停止準備!」

 

 

 その言葉よりきっちり3秒後に突然見えたゲート前に一零停止で止まった3人。鈴は本部へ連絡をしようとするが......

 

 

「繋がらない?H、アンタから本部へ連絡は出来る?」

「駄目だ。繋がらない。」

「恐らく、今では地上の方もこれで慌ててるでしょうね。R、どうします?」

「ぶっちゃけ一旦戻るべきだと思うけど、事態のヤバさは現在進行形で悪化してるわこれ。行くしかない!」

 

 

 そう言って手に取ったのは長らく使ってきた武器の発展型『双刃覇龍』と呼ばれる一対二振りの青龍刀。鈴は勢いよくそれを叩き破壊して中へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは?」

 

 

 ゲートを抜けた先にあったのは何の変哲もない大広間。どこか地下アリーナをイメージさせるような場所である。

 

 

「亡、国。」

「アンタ......!」

 

 

 広さは地下にしては異常に広々として軽く1km以上はあると言った所、天井の広さは500m程。そんな所に───

 

 

「一夏!」

「私には...まだやらなきゃならない事が、あるのだ。」

 

 

 夏の魔王 

 

 その異名で呼ばれる異常が仁王立ちしている。

 

 

(違う、これは・・・・・!)

 

 

 鈴は気付いた。なにか変だと。

 殺気───そして、剥き出しになった敵意を感じ取り普通じゃないと理解する。

 決戦の時とは人が違う、もっとチガウナニカになった。

 

 

「罪を払う。」

 

 

 体から溢れる熱気が空気を焼く

 銀色は紫に染まり、怪しく光る

 

 

「そして闇を払う。」

 

 

 揺らめく陽炎は贄を求む。

 己らが求む世界の創造のために

 

 

「世界の穢れを

 我々が願う世界を壊さねばならない。

───だから失せろ、亡国!!」

 

 

 贖罪の夏、終わる事ない熱狂の渦

 かの者は剣を振る。

 

 吹き荒れるは狂気の風。

 悲しみの刃が今交わる。




次回予告

私は貴方を愛してる。

世界が貴方を責めていても。

貴方が自分を責めていても。

私はこの愛を貴方に届けましょう。

永遠の愛を貴方に
死が私達を分かつとも

貴方を止めて見せる。


次回=夏の魔王【地】=


一夏、私は貴方を愛してる!


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夏の魔王【地】

貴方の為に
世界の為ではなく

貴方の為だけに
私は全てを捧げる。

さあ、行くわよ。


 私にとってその出会いは憧れと恋の始まり。

 中国から引越し日本に移住し、その後暫くして小学校に転入した。

 その頃はまだ日本語はカタコトに、断片的にしか話せなかった。その様な奴がいれば小さな子供にとって格好の弄り対象だった。当時はまだ気が弱く、弄りに対して......今思えば虐めに等しいのだがそれに対し学校の教師に相談出来ず苦痛の日々を過ごしてた。そんな中、運命に出会った。

 

 

「おまえらなにやってんだ!」

 

 

 夕日を背に私に手を差し伸べてくれた。苦痛の日々から私は救ってくれた。私の運命はここから始まった。

 

 

「俺が来たから大丈夫。

 立てるか?」

「な、ナンで?なんデ助けてクレたの?」

「困ってる人を助けるのに理由はいらないだろ。

 怪我してる.......保健室に行こうぜ。」

 

 

 それからはと言うと、そいつやその友達である五反田弾や御手洗数馬といった連中が助けてくれたお陰で苦痛の日々は終わりを迎えた。

 そして、そいつ───織斑一夏、あの助けてくれたその時に私は......一夏に惚れた。

 純粋に誰かのために手を差し伸べ、助けるその姿勢が。皆を守りたいと言っていた優しいその心が、なによりも私を助けてくれた時にみせたその優しさに充ちた顔が堪らなく好きだった。 だから私も誰かを救えるように、困ってる人が居たら手を差し伸べた。そして、一夏に振り向いて貰えるように女としても努力した。

 そして、両親の離婚が切っ掛けで中国に戻る事となり......その後色々あってIS乗りとして専用機持ちになった。そうして一夏とまたIS学園に会った。しかし、波乱の学園生活と異常なまでに鈍い恋愛感情の前に撃沈。そして、第2次IS学園襲撃事件を最後に半年前まで行方知らずとなっていた。

 けど決戦から数刻後、一夏から連絡が入った。なんとか無事である事や定期的に連絡する事を言って一方的に切れた。そうして定期的に秘匿的だが連絡し合ったし、上層部に報告して許可を得て会うことも出来た。

 そんな中、状況が変わる。ドイツで暴走状態の一夏の姿を捉え、亡国ドイツ支部の最強勢力を壊滅させた。通信を送っても無反応。私は必死になって探し、今日遂に最愛の一夏と再開した。だが.......

 

 

「あぐっ!?」

 

 

 最愛の人は魔王として、狂気に呑まれていた。

 現実は、どこまで厳しいのだろうか───。

 

 

 

 

「R!?」

「うっさい!他人を心配する前に自分をなんとかしろ!」

 

 

 『魔王』の攻撃は苛烈であり一撃一撃が必殺。

 堅牢性と安定、さらにパワー型である事を追求した真・甲龍ゆえの咄嗟の防御でなんとか耐えたが、それでも腕部装甲が中破と一撃が余りにも重い。

 しかも魔王から放たれる炎に似たエネルギーがSEをじわりじわりと、常に少しずつ減らしていく。

 

 

「排除」

 

 

 魔王は迷いなく最短で効率的に、私達を処理すべき動く。

 

 

「一夏!」

「H!?それはマズいっ、戻って!」

 

 

 箒が突貫した数度打ち合った後、爆音が2回鳴り天井に打ち上げられめり込んだ。箒のSE量も今のやり取りだけで6割程損失している。

 

 

(やられた!

 OG領域機体と聞いていたけどここまで差が!

 ドイツ事変での情報で更に対策してもこれ!?)

 

 

「標的───青雫」

「っ、行きなさい!」

 

 

 セシリアは標的になった途端すぐさまティアーズの近接発展型であるIII型ブルーティアーズを展開、蒼の牙を展開しながら魔王に殺到する。

 

 

「無駄だ。」

 

 

 しかし背中の非固定浮遊部位である大型スラスターから砲門が展開される。鈴はそれが第4世代の展開装甲技術によるものだと理解し、展開されて出てきた砲門が一瞬光を放ちその後すぐにIII型ブルーティアーズが軒並み爆散。爆散した時には既に大型実体剣を振りかぶる魔王の姿がセシリアの視界を塗り潰す。せめてもの抗いとして攻撃用ハンドクローたるブルータスクを展開───それよりも速く攻撃がセシリアに届いた。

 

 

「が──────」

 

 

 一撃でセシリアは侵入口から地上へと吹き飛ばされた。反応からして地上に真っ直ぐに。

 幾らISとてあの威力では只では済まない。

 

 

 

「H!ここは私に任せて地上に後退しろ!」

「だが「だがじゃないっ行け!」......くそっ!」

 

 

 鈴はISの各種設定値を視線操作で変更、同時にフルフェイス型の頭部装甲を展開する。

 

 

(神経感覚及び反射的感覚設定値上限解除。

 機体安全装置全解除、全機能過剰起動.......続けて第1種第2種最終セーフティ全解除。)

 

 

 鈴は全身が焼けるような殺意を受ける。

 この場所に漂うエネルギーが、鈴に向けて殺到することを理解する。それを目にした箒が悲鳴を上げた。

 

 

「鈴逃げろォォーーッ!!」

 

 

 紫炎が波の如く押し寄せる中、鈴は静かに魔王を見つめながら呟いた。

 

 

「覚悟認証─『 I Love You 』─」

 

 

───認証確認、解放

 

 

 真・甲龍の奥の手を今、鈴は愛する魔王へ捧げる。

 命をかけてその愛を届ける。

 

 

 『真・甲龍』

 第三世代型ISとしては初期に当たり、パワー近距離型でエネルギー消費が少ないのが売りの中国の傑作機『甲龍』のカスタムモデルである。元なった『甲龍』は中国製ISとして初めて第三世代機特有のIIF兵装を積み、後の中国製ISの基礎となった。

 真・甲龍は甲龍のカスタムモデルで、現在使用されている第三世代後期型と小数運用されている第4世代型のノウハウが流用されている。 第三世代初期に当たるが幾度にも渡る改修と搭乗者に合わせた調整を受け、その戦闘力は世界でも有数のものとなっている。搭乗者たる凰鈴音の技術や経験により実際の性能は第4世代型の領域を軽く超えている。

 真・甲龍となる為に甲龍は大規模改修を受けている。それは───

 

 

 

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!!!!!!」

 

 

 真・甲龍、その全身の装甲がスライドし過剰とも呼べる程のエネルギーを放出し迫る紫炎と魔王を吹き飛ばす。魔王は吹き飛ばされのと同時に既に瞬時加速で再度鈴に迫り、その顔面に真・甲龍の拳が直撃した。魔王は吹き飛ぶ間もなく鈴による激流の如き拳の連撃が魔王に叩き込れた。魔王もそれに答えるように同じように拳をふるう。

 

 

「おおぉおおぉおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」

「ぬ、ぐおぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 拳による超速の殺り取りが行われていた。

 既に箒は地上に後退し、この場は魔王と鈴しかいない。もし誰かが居たらこの殺り取りの余波で、一瞬で撃墜しミンチになっていただろう。

 

 これこそが凰鈴音が駆る真・甲龍の奥の手───その名『鼓舞・親愛必殺』、真・甲龍の全リミッター解除と最終改修前に全身に展開装甲を増設。 展開装甲技術による性能超向上機構にして、搭乗者の肉体が無意識に行っているリミッターすらも外す。文字通り機体と一心同体となる究極にして禁忌。

 これは『対OG領域IS最終決戦機構』.......後に『E兵装』と呼ばれる。これにより真・甲龍はこの『E兵装を使用時に限りOG領域ISと同等の性能に至る』という第三世代かつ一時的OG領域ISでもある。ただし、これは天災篠ノ之束の技術や榊澪の機体データや兵装データが無ければ造れないため世界にあるのはこの真・甲龍のみである。

 

 鈴は愛する一夏がいつか敵として現れた時、自らの手で殺す為にこの力を手に入れた。

 死がふたりを分かつともその愛を貫く為に。

 その身、魔王を焼く日輪の如く輝く。

 

 

「一夏ぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「消えろ、消えろ、亡霊!!」

 

 

 鈴は思う。

 なんて世界はこんなにも残酷なのか。

 どうして愛する人は修羅の道を歩んだのか。

 この世界全てが悪いというのに、なんで一人で全てを背負うとするのか。

 かつて居たもう一人の男、榊澪も目的の為......復讐のために数々の業を一人で背負い逝った。

 愛する人の手を世界の業でもうこれ以上汚さない為に。

───だから!

 

 

「もうこれ以上っ、誰も、その手で、殺めさせない!

 私が終わらせる!

 今日、私の手でっ!!」

 

 

 血涙を流し、頭部装甲の隙間から血が溢れようが構わない。大きな声で魔王に───愛する一夏を想って叫ぶ。

 

 

「例え私が殺されようと、愛する貴方を絶対に止めてみせる!

 刺し違えても、絶対に!」

 

 

 

 両者の攻撃による余波はその場を砕き天井にもヒビを入れ、その後数秒のうちに衝撃がその場を破壊尽くし、地上に2人乱撃を繰り返しながら飛び出した。

 

 

 

 10分前、先行突入したR部隊したBTが機体が大破した状態で吹っ飛んで来た。それを追うようにHが全速力で突入した穴から出て来た。

 

 

「H!」

「M、BTは!?」

「既に回収し、今は母艦にて緊急手術を受けてる。

 何があった?」

「Rはどうした?

 さっきから・・・・・高熱源反応!?来るぞ!!」

 

 

 鈴が未だに残っているだろう地下へ続く穴から、光が天高く伸び続けてくる爆発が大地を砕く。

 

 

「おぉぉおおぉぉぉ!!!!!!!!!!」

「がァァァァァァァァァ!!!!!!!!」

 

 

 衝撃波が大気を震わせ、濃密なエネルギーを纏う2人が地面を突き破り空に舞いあがる。

 

 

「い、ち、かっァァァ!!!!!!!!」

「消えろぉぉぉ!!!!!!!!!!」

 

 

 手を伸ばす。目の前の敵を殺す為に。

 その手を、その剣を振るう。

 

 愛と敵意と殺意と悲しみが、混ざりあって感情が爆発し続ける。そんな中、箒がふと気付く。今の今まで、自分達が気付いてないことに。一夏ならば言うだろうことに気付いた。

 

 

「なあ…ひとついいか?」

「なんだこの忙しい時に!?」

「仮説だ。これは仮説なのだが、もしかしたら一夏は一夏じゃないのかもしれない。」

「一体何を!?」

 

 

 目の前で鈴と殺り取りを繰り返す一夏、織斑一夏はそこに居る。しかし、そのことに気づいた箒にとって一夏だが一夏では無いと思えた。

 

 

「ぐっ、衝撃が…!

 それよりもどういう事だ!?」

「一夏は私達に対して話しかける時、昔から必ず名前で呼ぶ。それは喧嘩しようがそれは変わらない。

 今の一夏には通信を入れても全て『亡霊』呼びでそんな事は今までどんな事があろうと一夏はしなかった。今の一夏は私達を全員『亡霊』と、同じようにしか見えてない.......もうここまで来れば異常だと分かる。」

「おい兎!聞こえてるだろ!?どうなんだ!?」

 

 

 そう叫んだ直後、日本近海を飛ぶ亡国本隊旗艦『ゴースト』から通信が入る。

 

 

『箒ちゃんの話から得た情報から直ぐにあのいっくんを調べた!

 ドンピシャな疑問とグッとな考察、素晴らしい!』

「はぁ!?博士どういう事だ、反応では間違いなく『夏の思い出』と出ている………っ、まさか!?」

 

 

 M、マドカは箒と束が言うことをその頭にある知識を総動員させ理解する。まさかそんな、と。

 

 

『そのまさかだよ。いっくん、どうやら『電入依弾』を喰らったみたいだよ。

 以前、れーくんが霧崎から喰らったのと同パターンの乱れが『夏の思い出』から検出されてる。同時に…』

 

 

 そこから全員に向けて1つの情報が送られた。

 そこには…

 

 

『ISのコアネットワーク内に漂ういっくんを見つけて確保したよ。

 同時にいっくんのISコア人格も一緒にいた所を確保して今新しいISコアにぶち込んだ!!!!!!!!!!』

 

 

 製造ナンバーX-0001Sと表記された白金に輝くISコアが写っている。

 

 

『って事はこれは一夏の体だけって事なのよね!?』

『りっちゃん!?』

『答えなさいうさぎ!』

『あってるあってる!

 その目の前にいるのはいっくんの体を奪い取った奴らで、今その体を動かしてるのはそいつらだ!!!!』

 

 

 

「があァァァ!!!!!!!!」

「こっの、一夏の身体から出てけっ!!!!!」

 

 

 真・甲龍のエネルギーが3割を切った。人類史上最高の天才が作り上げた最高峰の力でさえ、自ら目覚めた力を持つ身体には勝てない。

 

 精神及び魂がなく、一夏の身体だけの存在に遠慮など必要無くなった。しかしその戦力差と能力値の高さを前に誰もが膝を着く。やっと分かった時にはもう既に手遅れだったのだ。

 

 

「エネルギー無限とかっ、反則…っぐぅ!?」

「『神の一撃』を跳ね除けただけはあるが、ここまでの差があるのか!?」

 

 

 現在戦力として数えられるのは鈴だけだった。容赦する必要がなくったがそれに気付いた時には既に満身創痍。現状魔王と戦える戦力が鈴しか居ないため戦力不足の差があり過ぎるのだ。

 箒の視界に、くの字に折れ曲がり彗星の如く数キロ程吹っ飛び、落下先の山を弾着して崩壊させる鈴の姿が写る。

 

 

「R!?」

「カバー入れ!!!!!」

 

 

 ISやEOS、亡国本隊全勢力が総出でも魔王は止まらない。鈴が居なくなったことで、止まっていた摩訶不思議な炎が再び吹き荒れドイツの再現が起きようとする。

 一面に吹き荒れる炎が、全てを黒く焼き尽くす。

 

 

「消えろ亡「さ せ る か っァァァ!!!!!!!!」…ぬおおおお!!!!!?????」

 

 

 公開通信に鈴の叫びが響く。

 悲しみ、哀しみ、想いの叫びが戦場に響く。

 

 

「一夏の身体で、一夏じゃない奴がっ

 これ以上一夏を汚すんじゃないわよっ!!!!!」

「ぐぉあっ!?」

「よくもっ、よくもっ、このォォーーッ!!」

 

 

 鈴が真・甲龍の最大以上の稼働をさせる。その背に太陽の如く輝く日輪を背負い、紛うことなき光の速さで魔王を殴り飛ばして初めてダメージらしいダメージを連続で与える。

 

 

「出てけぇぇぇぇ!!」

『りっちゃんそれはダメ!!

 極過上機体稼働は最悪自爆するっ、それ以上稼働率を上げるのをやめて!!』

「うあァァァ!!!!!!!!」

『りっちゃん聞いてよ!?それ以上は!!』

「ごぁっ、ぎぃが!?かぁっ!!!???」

 

 

 既に鈴が駆る真・甲龍はその殆どが赤熱化しており、その拳だけがなんとか赤熱化を免れている。その拳で鈴は既に朦朧としている意識の中、一夏の身体を動けなくする為追撃を行う。そのおかげで始めて形勢が鈴に傾くが、既に機体がいつ爆散もしくは鈴がダメージ過多で絶命するのか分からない。しかし、それでも有効打となるのは鈴しかいない。

 

 

「くっそぉぉぉ!!」

「少しでも、ほんの少しでもRの援護をしろぉ!!」

「っっっっっァァァ!!!!!!!!」

「亡っっ霊っっ如きがァァァ!!!!!!!!」

 

 

 格下たる鈴の命を懸けた猛攻に一方的に攻められ始め、多大なダメージを受け苛立った魔王。ここに来て初めて乱れに乱れた乱雑な攻撃に鈴の蹴りが炸裂して打ち上げられた。

 

 

「Rが魔王を吹き飛ばしたっ、銃身が焼き切れるまで撃ち続けろぉぉぉ!!!!!!!!!!」

「てぇぇーーーー!!!!!」

「Rっ、B-BT行けぇい!!」

「一夏…っ、穿て灼轟孔!!」

 

 

 全機の攻撃が直撃し誰もが好機を見だしたその時、夏の思い出からこれまで以上のエネルギー反応の高まりを感じ取る。

 その反応は夏の思い出の握り締める右手であり、余りのエネルギーに周辺空間が物理的に歪む。

 

 

『熱が、灼熱の壁が来る…!

 これを受けたらっ、逃げて!早く!!』

 

 

 そうは言っても逃げれないのが現実だ。

 なんとしても目の前の魔王を止めなければ、悪意を持って世界を再び一人で火の海にする。誰もがそれを防ぐために、ここに居る。

 

 

「ぎぃぃぃぃ…!!!!!がぁっァァァ!!!!!!!!」

 

 

 鈴が獣の様な叫びで突貫し、エネルギーを溜めた魔王の右手をありったけの力を込めて殴る。

 

 

 

「ッッッゥツゥウァァガァッッッッッッ!!!!!!」

 

 

 エネルギーは四散し、攻撃は魔王の右手を破壊した。

 しかし、その四散したエネルギーが鈴を襲う。超高圧縮されて高密度のエネルギーはSBも絶対防御を容易く貫き、真・甲龍の赤熱化した装甲を消し飛ばす。

───鈴の左腕と右足の膝から下が消し飛んだ。

 

 

「りぃぃぃぃぃぃん!!!!!!!」

 

 

 操縦者保護機能により痛みはカットされる筈だが、度重なる機体へのダメージと機体そのものが損壊したということによりシステムに不具合が発生。疲労とダメージで朦朧とした意識に追い討ちを賭けるように、突き抜ける痛みが精神を蝕む。同時に、ダメージ蓄積によりシステムがほぼ全てダウン。機体が搭乗者の保護を優先し、最低限の機能を残し停止させた。

 背の日輪も四散し完全に沈黙。

 

 

「っっっおぉぉぉ!!!!!!!!!!」

 

 

 箒が他の隊員の援護を受けながら鈴をキャッチしたが、保護システムのお陰で出血は止まったが左腕を損失し右足は膝から下は無い。赤熱化した機体は奇跡的に形を保って何故戦闘できていたのか分からない。

 

 

「逃がさんッッッッッ」

 

 

 鈴に一方的に攻撃された魔王が弾幕を気にせず、鈴を抱える箒に襲いかかる。

 箒が駆るこの機体では魔王から逃れる事も、鈴を護る事も出来ない。魔王が持つ灼熱の大剣が既に背後まで迫っていた。

 

 

「鈴ッ……!!」

 

 

 箒は全身の展開装甲とSEを全部注ぎ込んだ巨大な盾を形成し、魔王の攻撃が盾にぶつかった。

 激しいスパークと共にSE量が減少、盾となった展開装甲も溶け落ち、背中に業火の熱が触れ激痛が走る。無事な装甲で何度も盾を形成する。

 

 

「護ると誓ったのだッ

 アイツが、一夏が大事にした者を護ると!

 不甲斐ない迷惑ばかりかけた私が、護ると誓ったんだ……これぐらい!!」

 

 

ビキ

 

 

「これぐらいッ」

 

 

 背中に何かが触れた。

 

 

「あっ──────────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ぐっ、がぁ……はっ……」

 

 

 魔王は盾を展開した紅のISを叩き切った。

 それでも尚、鈴と呼ばれた女は生きており、そして抱きとめる紅のISに鈴共々とどめを刺すため近づく。

ドイツ事変で見せた不可思議な炎が壁となり、今この場には魔王と鈴に箒の3人だけだ。

 

 

「まだ、立ち上がるか。」

 

 

 魔王はこの体、織斑一夏が昇華させた第2のOG領域のISに耐える目の前の二人に驚きを隠せない。驚異となる者が沈黙した事により、いくばかり冷静になる。

箒は鈴を地面にゆっくり置き、立ち塞がるように魔王の前に立つ。

 

 

「絶対に、護るっ」

 

 

 紅のISは既に大破寸前。

 それでも尚、魔王の前に立ち塞ぐ。

 それによりさらに驚く。

 

 

「なぜ抗う」

 

 

 魔王は問う。

 目前の愚かな女に語りかける。

 

 

「友を守るためだ」

「どうせ今すぐ死ぬのにか?」

 

 

 返答に魔王は考える。

 擬似無限機関を持ち、装甲修復用の資材も大破しても数十回は軽く治せるほどある。

 現時点で既に修復は始まっているし、減ったSEもすぐさま元通りになるだろう。

 亡国側にこちらに致命傷を与える者は既に戦闘不能。既に勝負はついたのだ。

 

 

「最後まで抗ってみせる」

「無駄だと言うのにか?」

 

 

 そう、無駄なのだ。

 決定的戦力の差、天と地の差がある。

 アリがゾウに挑む様に、たった一つの氷で燃え盛る業火を消す様に既にこの状況は無理であり無駄なのだ。

 

 

「それでも、私はッ!!」

 

 

 絶対に勝てないと分かってる。

 それでも立ち、目の前にいる理不尽たる悪意を断たねばならない。全身全霊、今この時全てをかけて惚れた男と惚れられた女の名誉と矜恃を守る為に魔王に立ち向かう。

 箒は過去一番この時、ISの同調率が適正値関係無く100%の上限を超え、それを祝福する様に覚悟の波が暴れ出す。

 

 

「なんだ?」

 

 

 魔王はそれを感知する。

 人の身では無いから感知できる、コアネットワークの繋がり。それが目の前の女を中心に激しく揺れている。波は物理的に空間を揺らし始める。目前の女が放つ気配が大きくなる。そして、感知する。

 見えない意思で繋がる電子による構築世界、ISコア一つ一つが持つ世界の繋がり、そして共鳴。それは頭上からも放たれる。

 

 

「宇宙だと?」

 

 

 魔王……その中にいるIS委員会残党達の意識の集合体は宇宙に榊澪が開けた大穴があることを知っている。あれから大穴は開き続けていたが、結局何も起こることは無かった。

 それが今地球にも響く程の空震を、まるで目の前の女に反応するようにコアネットワークを伝わって伝達する。

 

 

「もはや汚名の代名詞とも言われる私だが、最後に大切な者達の為この命使えるなら本望ッ!!!!!!!」

 

 

 炎の壁が揺らぐ

 

 

「故に負けられないッ」

 

 

 鳴動は強くなる。

 

 

「今度こそ絶対に」

 

 

 魔王が動く。

 文字通り最強の体を持っても、何か本能的に危険だと理解したからだ。故に仕掛けた。

 

 

を懸けて護ると決めたッッ!!!!」

 

 

 瞬間、世界が赤く染まった。

 箒のすぐ目の前にソレが、ソレが魔王を牽制する様に突き刺さった。そしてソレが突き刺さった衝撃で何故か魔王は吹き飛ばされる。

 

 

「な、なん……ッ!?」

 

 

 紅き雷がソレから漏れ出している。

 ソレはあまりにも有名な『武器』だ。

 その剣は今最も世界で有名な、現代の魔剣とも呼べる最凶にして最強の剣。

 

 

「澪ッ……借りるぞ!!」

 

 

 『復讐者の剣』

 世界で最も有名なIS殺しの剣、失われし魔剣が箒の手に握られたのであった。




次回予告

我が人生は汚れている。
汚れに汚れた哀れな獣の様に。

気付いた時には大切な物を
この両手の中から落としていた。

全てを失ってから気づいたこの誓い。
この誓いだけは守られなばならない。

その剣を手にしよう。
この剣で示してみせよう。
汚れてようがこの誓いのもとに。


「私はもう迷わない」


次回=夏の魔王【崩】=


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夏の魔王【崩】

遠い何処か
俺の知らない何処かで
知らない誰かが呼んでいる。

懐かしい
とてもな懐かしい誰かだ。

ならば贈ろう。
己が罪に嘆く者よ。


 魔王は理解出来なかった。

 それは文字通り失われた最凶、そして最強の剣。

 自分達の組織の長と相打ちになり宇宙にて消えた、榊澪が持つ対IS武装。

 

 

「何故ソレが!?」

 

 

 箒の手に復讐者の剣が握れている。

 そして、その体に有り得ざる奇跡が具現する。

 

 

「かつて貴様をコケにし、侮辱した私に力を貸してくれるのか……」

 

 

 箒が纏うIS『紅天』、その破損した箇所の装甲に重なるように破壊者の装甲が繋ぎ重なり合った。

 

 

「澪……!!」

「馬鹿な、そんな事がっ

 復讐者の剣だけではなくその装甲は!?」

 

 

 覚悟の波は未だ止まらない。

 

 

「決意を此処に。」

 

 

 ついに魔王の思考は停止した。

 女が纏うISに、白銀に輝く装甲が追加された。それは正しく魔王が宿るこの『夏の思い出』と同じ物である。加えて先程戦った女が纏うISの装甲も付け加わる。

 

 

『行くわよ箒』

『不甲斐ない俺の罪、払わせてくれ』

 

 

 両肩に光る手が添えられ、声を聞いた。

 箒にとってもうそれで誰かなんて充分だった。

 

 

「一夏、鈴……共に行こう」

 

 

──────擬似G機関稼働

      A.I.S.S.発動

 

 

 

 復讐者の剣を振るう。

 手に吸い付き、離しても手の近くで漂う。

 確認が終わり魔王に視線を戻す。

 

 

「有り得ん。こんな事がっ」

『それが有り得るのよ』

『これがオリジナルのISコアが持つ、時結晶が持つ力の一つ。無限に広がる可能性。』

 

 

 魔王は目前の奇跡を否定したい。

 だがしかし、これこそがオリジナルコアの特性だと理解していた。有り得ざる奇跡の発動が出来るのが始まりの二つのコア、それと今では第一世代ISコアと呼ばれるオリジナルISコア。単一仕様能力の形は千差万別。故にこの現象を起こせる能力が元々目の前のISにあったのだと考える。

 

 

「だがしかし、所詮は贋作だ!

 その様なパッチワーク如き姿で勝てるものがぁっ!!!!????」

 

 

 魔王は箒に斬りかかり、いつの間にか炎の壁を突き破り空中にその身を踊らせていた。魔王の中にいる意識群らは一旦冷静になるためそのまま飛ばされ続け、今起きた事を考える。

 数秒考え神速の切り払い、それを受けたのだと理解してから度し難いと呟いた。だが今は万全の状態にすることを優先するのであった。

 

 

 

 

 不可思議な炎の壁はいくらやっても壊れなかった。

 そんな壁から突然何かが飛び出してそのまま空の彼方に消え、壁も消滅する。

 その光景に亡国側は動きを止める。

 

 

「回収班早く!!

 Rが重症だ、急げ!!」

 

 

 そんな中、消えた壁の中から鈴を守る様に立つ箒の叫びが響いた。それにより亡国側は再び動きを開始、鈴はすぐ様回収班により母艦に運ばれた。

 

 

「Hなの、か?

 それにその剣は澪のッ」

 

 

 あの炎の壁に残された時と別人のような風格、そしてその特異なISを纏う箒にマドカが問う。

 ある意味亡国において1番澪との関わりが深かったマドカから見て、その手に持つ剣は紛うことなき本物。そしてその纏うISに繋がる様にある破壊者の特徴的装甲。鈴の真・甲龍に何故か夏の思い出の装甲も合わさっている。

 

 

「貸してくれたのだ。」

「それはどういう?」

「それより今戦闘できる者は?」

 

 

 箒はずっと空の彼方に目を向けていた。

 Mはつまりそういう事だと理解する。

 

 

「戦闘できるのは私、そして1度母艦に戻ってもう時期来るN(ナターシャ)やY(山田)だな。」

「少ないな。」

「あの状態もあったが僚機を庇ったりと、私も仲間に守られて今ここに居る。不甲斐ないっ」

「あの人達はMを思っての行動したのだから、それは言ってはならんだろう。」

「……そうだな」

 

 

 そう言った直後に箒が空に舞い上がる。

 途端に鳴り響くアラートに場の空気は張り詰めた。

 マドカはこの場にいる戦力外メンバーへ撤退を通達。

 

 

「到着まで5秒」

 

 

 マドカは考える。

 箒に起きたのはどう考えても異常形態移行だが、過去のパターンとは違う新しい現象。異なるISを繋ぎ重なり合ったソレの力は未知数。

 既にマドカの目でも分かる範囲に魔王が迫っている。

 

 

「皆の力を継いだ『天椿』で討つ。」

 

 

 箒の異常形態移行を果たしたOG領域IS『天椿』の装甲がスライド、エネルギーが吹き出される。

 右手に『復讐者の剣』、左手に新しく武装欄に登録された緋色の剣『断罪者の剣』を握り飛び出した。

 

 

 

 それは亡国の旗艦であるゴーストからも見えていた。

 OG領域のISが2機。鈴を除いた榊、霧崎、織斑に続いて篠ノ之が発現しみせた。

 

 束は考える。

 

 

「霧崎は分からない。

 けどこれで条件はある程度絞れた。」

 

 

 OG領域発現。

 束は第1条件を『全身全霊の覚悟』だとした。

 それも全ての細胞が一つの目的の為に成し遂げる程の覚悟。

 

 澪は何がなんでも復讐を遂げる覚悟。

 一夏はその身を捧げ世界に溢れた姉の罪を祓う覚悟。

 箒は命を懸けその誓いと決意を護る覚悟。

 

 そして第2条件。

 それは第2世代型ISコア以前のコアを使っているということだ。

 言わいるオリジナルコアは一定以上の同調と何かしらの要因により、コアが奇跡の具現たる力である単一仕様能力を持つ。それらが条件に繋がると考えた。

 

 

「あの現象……そうくるとはね」

 

 

 妹である箒が見せたあの現象。

 己ですらまだ認知してない未知の現象で、条件は不明だが複数のISコアとその機体にコアネットワークを通じて共鳴し、力を繋いで纏めて更に合わせて継ぐ。それも精神的にも技量にも作用する、全くもって天災の頭でも理解できない。

 

 そして、宇宙の大穴より招かれた澪の力。

 束は確信した。

 あの日から開いた穴の先、その先に彼は居ると。

 

 

「君はそこに居るんだね。

 この言葉が通じるなら、ほーきちゃんのために最後まで力を貸して欲しい……頼むよれーくん」

 

 

 

 

 

 

 白銀と紫の流星

 異なる二つがぶつかり合う。

 

 

「馬鹿なっ

 なぜその力、破壊者の力が!!」

 

 

 名前無き破壊者、それに移行後の機体に発言していたISのアンチシステム。IS固有の能力や単一仕様能力を無効化する機能、それこそ『A.I.S.S.』である。 これこそ破壊者を破壊者知らしめた最凶の力。

 

 

「紡いで、繋いで、束ねる。」

 

 

 箒が呟くことに力は増し、機体から放たれるエネルギーはさらに増えていく。呼応する様に両手に持つ剣にエネルギーが纏われる。

 

 

「ぐっ、我々以上の力を得たというのか!?」

「……それは違う。あくまでこれは借りてるに過ぎない。」

 

 

 マドカはその目を疑う。

 箒は頑固で気難しく、それに判断も決して良いとは言えない。だが力だけはあった。けど精神的にはまだまだ未熟であり、慢心することが今までの作戦中よくあった。

 しかし、今の箒は凪の如く静かなる水面の様な落ち着きよう。それに加えて異常なまでの正確性、今までと比べようにならない武を感じる。

 それも、精神性すらも借りているというのか?マドカは今起きている箒に起きた異変とその言葉からその考えに至った。

 

 

「私が得たのは『託された力を、借りる』というなんとも言えない力だ。」

 

 

 魔王の攻撃を防ぎ、捌きながら箒は口にする。

 

 

「澪は『犠牲により得られる力』

 一夏は『その身を捧げる事で得る力』

 

 2人は何かしらの犠牲によって得た力。それに対して私は条件にあった者達から力を借りる。

 得てはなく、『借りる』だけだ。文字通り仮初の力であるから、どんなに凄かろうがそれは借りた力が凄いのだ。」

 

 

 そう言う間も繰り出される斬撃の応酬に箒は見事に防いでみせていた。

 A.I.S.S.の力は相手の能力を封じ、破壊する。その絶大なる力は今2つになって魔王に襲い掛かる。 魔王は目の前の現実を受けれなかった。故に生身の人間が持つ体力の限界まで攻撃を続行することにする。

 

 

「っ、馬鹿な。この様な!?

 それは贋作、本物は既にこの世に存在しないはずっ」

『それを決めるのはアンタらじゃないわ』

『その威力を知ってまだそれを言うのか?』

「このっ、亡霊共がぁ!!」

 

 

 魔王はあの不可思議な炎を放出し、身を守るがそれごと2つの剣に斬られる。単一仕様能力を発動させるが何故か起動しない。どの様な攻撃でさえ追い付いてくる。

 

 

「贋作だとか本物などどうでもいい。

 私はソレを体現するのみ。」

 

 

 手に持つ剣の輝きが増す。

 既に日は暮れた。炎により辺りが火の海になり、地獄にいるかのような環境を作り出していた。

 

 

「そも贋作と言うのなら、貴様のその在り方。

 他人の体を乗っ取り己のモノとしているそれこそ、真の意味での贋作。己の体でない癖に何を言うか。」

 

 

 炎の海、その地獄の中でもその手に持つ剣から放たれる光が青く蒼く強くなる。

 

 

「所詮私は恥侍。

 堕ちる所まで堕ちた愚か者……その罪に気付くのも既に遅かった。だがな、そんな私だから『真の悪』は分かる。」 

 

 

 天椿の全身が蒼く光る。

 紫炎を発する魔王を照らす様に、闇の中にいる邪悪を光の中に引きずり出す太陽のように。

 

 

「真の悪、それは自分勝手な欲の為あらゆる生物の命を脅かす者。

 自らも悪であると認識できず、何よりも自分が正義であると力を振るい続ける者。

 

 そして、巫山戯た理由で世界に混乱を招こうとする愚か者共の事だ。」

 

 

 静かにそう言うが、言葉を発する都度に重圧が高まるその光景にMはとある人物を思い出す。

 

 

「澪が力を貸したのは、機体だけではない……か。」

 

 

 かつてIS学園時代の箒はあまりにも愚行に走り、学園の終わり直前姉である篠ノ之束に回収された後ようやく自分の行動と罪に気付いた。ついぞ澪に謝ることは出来ず、しかし……恐らく澪は見ていたのだ。これはあくまでも想像でしかない、だがそうとしか考えられないのだ。

 あの暗い星々の宇宙、宇宙の穴からこの星を。

 

 

「どうか

 どうか

 どうか

 

 この世界に安らぎを。」

 

 

 祈りを

 願いを

 想いを乗せた祝言を口にする。

 

 

「もう巫山戯た、理不尽たる事で世界中の人々が不安にならないように。

 人が安心して眠れる為に。」

 

 

 二つの剣が光に弾け、一つに重なり交わる。

 魔王を討つ剣、ここに現る。

 

 

「眠れる明日を迎える為。

 人が安心して歩める日を迎えるため。

 

 皆に変わって、私が貴様らを討つ。」

 

「出来るのか!?

 貴様にとっての恋人の体を滅する事が!!!!」

「『だから破壊する』」

 

 

 魔王がそう言って静かに溜めきったエネルギーを解き放ち、それごと箒がその腕を斬り落とす。破損箇所をすぐ様修復し、鈴に行った神速の猛攻を繰り出す。だがしかし、それらは箒にかすりもしなかった。

 

 

「な、あっ!?」

「私はもう迷わない。

 だから迷わず貴様らを斬り伏せよう。

 

 『壊の剣』よ、唸れ。」

 

 

 その手に持つ剣、『ISの機能を全て壊す』『物体やエネルギーを壊す』……文字通り全てを壊す剣は触れた対象を絶対に壊す剣だ。

 可能性を得て、絶対破壊の力を得たこの剣に断てぬもの無し。

 

 魔王はその危険性を本能が感じとった。次の瞬間、あらゆる可能な攻撃を全て放つ為に行動する。

 

 

「唸れ、唸れ、星の如く。」

 

 

 あれ程苦戦し、世界を火に沈めようとした魔王は為す術もない。打ち合おうとしても即座に砕かれ、射撃を放とうが落とされ、離脱しようとしてもスラスターを斬られ落とされた。

 

 輝く蒼き星が、空を翔け地を照らし、罪ある者に罰を与える。

 

 

「なんというっ、これは現実なのか!?

 確かにこれは、織斑一夏の体はOG領域機体の筈なのに!?」

「所詮は貴様らという贋作が、本来の持ち主の様に動かせる訳ないだろ。 これが一夏なら私へもう既に手痛い一撃を加えてるさ。

 それが出来ない貴様らなどに負ける私では無いっ」

 

 

 星は煌めき、闇を穿つ。

 闇は蠢き体を構築、光に抗う。

 

 

「あの二人の幸せを奪った貴様らは絶対に許さん。」

 

 

 星はその身から光を放ち闇を裂き

 

 

「分断されては高速修復も出来んのだろう。」

 

 

 巨魁なる闇を細かく刻み、その本体を晒す。

 

 

「ぐっ……お、おのれぇ!!!!!!」

「一夏の身体でよくもまあやってくれたものだ。

 どういう気分だ?

 偽りの最強を手に入れ、存分にその性能を発揮できると、お前達の会長が分別した愚かなもの達とされ、結局何もかも果たすこと無く制圧されるのは。」

 

 

 炉心に怒りという薪がくべられる。

 蒼の星は赤く紅くアカク、怒りに染まり熱が手に持つ剣に纏まる。

 

 

「ま、待てッ!

 織斑一夏の身体だぞ!?希少なOG領域到達IS、それを我々ごと破壊するのか!?」

「そうだ。貴様らごと破壊する。」

 

 

 即答だった。1寸の迷いなく一秒の間もなく、その言葉を口にした。

 

 

 

 

 その光景は幻想にしておとぎ話のようだ。

 箒が乗る天椿から放たれる波動が燃える海をかき消し、その身から放たれる光はまさに星。

 何処までも清く、美しさを覚える宇宙の宝物。

 

 対を成す魔王は放たれる紫炎による怪しい魔星の如き、見る人に恐怖を抱かせるもの。

 

 

「宇宙と星」

「えっ?」

「宇宙はこの世界そのものという意味、星はISの事ですね。

 

 宇宙と星は密接にして当たり前、普通にそこにあるもの。星は宇宙という暗闇を照らす光、故に強く光り輝く無数の希望。

 昔から星に希望を見出し、人は星に意味を見出し願う。後世の人々もまた後の世代へ、祈りと願いは受け継がれていく。今のHさんはその希望となる祈りの星。」

「魔王はそれと違う、ただ悲しみの闇を撒き散らす災厄。絶望の象徴、アレは間違いなく星と真逆の立ち位置の魔星だ。」

「貴方達結構ロマンチストなのね。」

 

 

 合流したYとMがそう言ってNが2人に対してそう言う。

 

 

「あの姿を見てそれ以外無いだろう。

 だがこれもうさぎは予想していたのかもしれんな……っ、動いた。」

 

 

 Y……山田は箒の変化にこの中でも特に感じている。IS学園時代生徒と教師の関係として、一番荒れていた時期を見ていたからこそだ。

 亡国に異動した際、既に学生時代とかけ離れた変化を遂げた箒に衝撃を受けたがこの戦いで更に変化したそれこそ、箒の強さに直結してるのだと理解する。

 

 今もISの限界領域を超えた速度による剣戟で魔王を攻め立てる。紫の光を切り裂く白い星、それはまさしく御伽噺やファンタジー物で言われる希望なる勇者。

 世界に恐怖を陥れる魔王。それはいつだって最後には敗れるのだ。

 

 

 

 世界の景色が線となり、最早目前の魔王しか視界にはない。

 

 

「──────────」

 

 

 それでもその目は魔王が亡国の人員がいる方に放つ攻撃を捉え、滅して攻撃を続ける。もはや魔王が何を言うか分からない程までに意識を加速させた。

 

 知覚する。一夏や鈴の相思相愛、そして共にある世界への想い。澪が求めた世界とくだらない事で散った者達に対しての想いとそのもの達の怒りを。

 

 想いを

 思いを

 願いを力に変え、現実へ。

 

────閃光が駆ける。

 

 

 織斑一夏の体を乗っ取って数ヶ月、今日我々はどうしようもない絶望に出会った。

 篠ノ乃箒、我々が神と崇めていた篠ノ之束の妹であり織斑一夏の幼なじみ。

 

 戦闘データ上では覚醒したOG領域機体である織斑一夏のISには何があっても勝つことは不可能だと、我々は計画を立てた当初から今日まで結論づけていた。

 

 

「馬鹿なぁっ!!??」

 

 

 複数の自己意識の群体である我々、それによる紛うことなき回避不可な同時進行攻撃。これを覚醒したOG領域機体を駆る篠ノ乃箒、その表示される名からして『天椿』のもはや見えない速度による剣戟に無効化された。

 この時初めて出した攻撃方法すら初見でいなされる。

既に冷静に物事を考える余裕すら消し飛ばされ、瞬間的に構築した攻撃方法を生み出しては放ち続ける。

 

 白金の様な眩しい光を放ち、全てを照らす天椿。

 防御性は分からないが攻撃性と機動性においては未知数、OG領域機体三機分の力を得たということだからもう先が見えない。

 篠ノ乃箒が豹変したことも精神的な面にも作用している様で、その瞳が我々を貫く。

 

 亡国の連中がいる方向に攻撃を放つがそれを防がれ、更に加速した。ここに来て加速したその動き、閃光のように瞬きの光となったそれに呆然とする他なかった。

 

 

『よう』

 

 

 ゾッとする様な声を聞いた。

 我々元IS委員会と元女権団メンバーにとって、死神にも等しい今や恐怖となったその声を。

 

 

「!?」

『少しだけ言わせてもらうぜ。』

 

 

 榊澪だ。あの破壊の権化の、己らの全てを終わらせた世界の破壊者だ。

 

 

「きっ、貴様は!?」

『今度こそ引導を渡してやる。』

 

 

 それは処刑宣告だった。

 

 

 

 

ズンッ

 

 

 鈍い衝撃が走る。

 あの破壊の剣がコア周辺を貫通していた。篠ノ乃箒が言っていた破壊の効果がすぐ様発動し、剣を伝達し発生しない筈の痛みに襲われた。

 

 

「「ギィッがっ!?ぎがGAGA!!??!?」」

 

 

 委員会残党達はISコアそのものに宿る電子生命体となっている。

 システムそのものを犯し破壊尽くすその一撃はあまりにも致命すぎた。

 

 

「「GAGA!!??!?」」

 

 

 破壊はすぐ様OG領域に達したISコアに影響を与え、物理的に崩壊を開始する。その中にいる残党達の電子になった魂がほつれズタズタに破壊尽くされる。放たれる声はいく数もの人間が重なり合った不気味な声だ。

 

 

「身体の中枢がこの力に触れた。

 今貴様らは剥き出しの心臓に激毒をかけられたのと同じ……消えろっ」

 

 

 一閃、腕を斬り飛ばす。

 二閃、脚と腰を斬り飛ばす。

 

 ありったけの力で上空へ蹴り飛ばし『壊の剣』を上段で構え、莫大なSEを注ぎ込む。

 柄がスライド展開し、そこから莫大な量のエネルギーが漏れ出す。

 

 

「嘆き」

 

 

 壊の剣から紅い光が溢れる。

 

 

「後悔し」

 

 

 紅から銀色の光に変わる。

 

 

「立ち上がり」

 

 

 銀色に赤黒い光が交わる。

 

 

「そして人は前を向き、明日へ進む。」

 

 

 剣から溢れる光に蒼い空の色が加わる。

 

 

「これは願いを受け止め

 未来へ向ける希望の奔流───────」

 

 

 今ここに願いが解き放たれる。

 

 

「解き放て

─────『蒼天回帰』ッッ!!」

 

 

 

 希望の光が宇宙へ昇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐがァァァッッッッッ!!!!!!!??????」

 

 

 夏の思い出と中にいるIS委員会残党達は、宇宙に届く光の奔流に飲み込まれる。

壊の剣による力でシステムは阻害、魂もほつれ損壊。修復しようが破壊される速度の方が圧倒的に早い。

 

 だから残党達の人格、その中の一人が魂がほつれたこの拍子にこの体から脱出、コアネットワークに逃げ込んだ。

 

 結局脱出したのは一人。それ以外に生存したものはいなかった。他の者たちはコアネットワークに逃げる事に判断出来ず夏の思い出と共に光に還ってしまった。

 

 

「まだだ、まだ私はぁ……このアーデルハイトがこんな所でっ」

 

 

 アーデルハイト。

 かつてIS学園でドイツ元代表候補生にして黒うさぎ隊、その隊長搭乗機『シュヴァルツェア・レーゲン』にVTSを取り付け暴走させ、結果的に澪の手でズタボロにされた過去を持つ女だ。

 

 

「よう。まだ生きてたのかアーデルハイトの姉御。」

 

 

 そんなアーデルハイトの前に、このコアネットワークの中同じ様に、一人の女が何故かそこに居た。

 

 

「貴女、会長に雇われていた傭兵!?

 何故コアネットワーク内に!?」

 

 

そこでアーデルハイトは気付く。

 

 

「そうか、私達を救う為に会長が死んでも尚貴女に頼んど置いたのね!?

 だったら早く助けなさい!!」

「おっとと、そう慌てなさんな。

 直ぐに助けてやるよ」

 

 

 目の前の女傭兵がそう言って助かったと、これで破壊者が破壊して再生される世界に対し、己らの復讐に向けての計画に動けるとアーデルハイトは考え始める。女傭兵が言った言葉の意味を知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツから最後の依頼だ。

 死んでくれ。」

 

 

 アーデルハイトは何も知覚できないまま消え去った。

 あとに残ったのは女傭兵ただ一人。

 

 

 

「終わったぜ、これで満足か霧崎サンよ?」

 

 

 無限に広がるコアネットワークを見上げ一人呟く。

 電子の宇宙は何も答えず、言葉は電子世界に消えた。




次回予告

家族が残した罪は焼け
その懺悔も焼けた。

身に宿した光は何になる?

新たな希望、それとも絶望であるのか?

悲しみの連鎖
それは今断ち切られた。

世界は歩き始める。
どんな困難が待ち受けていようとも
それでも人は、命ある限り歩き続ける。


「さあ行こう」


人が人である限り
最後まで歩みを止めてはならない。
歩め、未来に向かって。


次回=夏の魔王【壊】=


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夏の魔王【壊】

天へ魔は昇りて消える。

天から落ちたそれを見た。

兎はそれを見て跳ねる。


 光の本流が宇宙へ登っていく。その中に居る世界を火に沈めんとする野心を宿す、黒き闇を焼き尽くしながら。

 極光を放つのはOG領域IS『天椿』を纏うHこと篠ノ乃箒。放出を終え、構えを解く。衝撃により燃え盛る炎を消え去った。

 

 

 空には星がある。

 黒き闇は消え去ったのだ。

 

 

「や、やった.......?」

 

 

 誰かがそう言った。

 誰もが勝てないと思っていた絶望そのものに勝ったのだ。奇跡だと思った。夢かと思った。でもこれは現実であると理解する。歓声が上がり、通信越しでも歓びの声が聞こえる。

 

 

「Hよくやった!」

「終わった、のだな。」

 

 

 残っていたメンバーが集まって箒を褒め讃える。

 

 

『いっくんの事はしょうが無いよ。魂は回収してコアに収めてるからあとは身体を用意すれば大丈夫。何はともあれ、お疲れ様H。』

 

 

 その言葉を聞いて箒はそうか、と呟いた。マドカはOG領域ISの影響で精神が成長した箒に、そういう所も成長したのだなと考えた所でふと気付く。皆が喜びに浸かる中、箒の顔に滝のような汗が浮かび上がっているのに気が付いた。直前まで動いていたからとかではない、明らかに異常な量の汗と苦悶に満ちた顔。嫌な事が頭をよぎった。

 

 

「お、おいH?お前それ.......」

「あとは頼む。」

 

 ゾッとする予感が当たってしまうことに恐怖する。ならばこの後起きるのは.......マドカは今まさに解かれる為に光る天椿の姿を見て叫ぶ。

 

 

「っ!?待て、まだ機体を解くな!!」

「済まない。」

 

 

 箒がそう言いながら目を閉じ、すると纏う天椿が光になって霧散。直後背中から大量の血飛沫があがる。さらにそのまま倒れようとする為、慌てて受け止めるがその口からも血が吹き出ておりマドカの体を赤く染める。

 ドクドクと、赤い液体が溢れその体から熱が消えていく。

 

 

「H?おいH!?」

「至急救急隊寄越してくれ、早く!」

「返事をしろ、おい!!

 くそっ、Y早く!」

「応急手当処置始めます!」

 

 

 これは恐らくOG領域ISを『普通の人間』が使った代償である。織斑の一族として作られたマドカ。故に織斑の人間の正体を知っており、何故一夏がISを動かせるのかも理解しているしそこからOG領域ISを動かせられる理由も予想はついている。

 『普通の人間』はOG領域ISに適応出来てないのだ。

 

 

「バイタル安定しません!」

「緊急治療用ナノマシンがあるっ、これを使え!」

「────安定しました!」

「救急隊は? 」

「もうすぐ来ます!」

「台に乗せろ!」

 

 

 苦悶に満ちた箒の表情が幾分か和らぎ、ひとまずの山場を乗りきった。その後すぐ様救急隊が来て箒をゴーストに搬送した。

 その後無事なメンバーで被害状況と二次被害が起きてないかの確認し、終えた所でマドカ達もゴーストに帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数週間が経つ。

 ドイツ事変からなる一連の騒動についての公表、サマーブレイク当日についての各方面への通達など等忙しい毎日を送った。

 亡国はついにOG領域ISについて情報を解禁、概要説明などに対応に追われていた。

 

 

「元々OG領域ISは普通の人間じゃ動かせないんだ。」

 

 

 今日の任務が終わりゴーストに帰還。機体を修理ハンガーに預けた後にマドカがそう言い、それに山田がえ?と呟いた。

 

 

「これまで確認されたOG領域IS。

 Hを除けば霧崎や榊、織斑一夏の3人に加えて準OG領域ISを含めばRもそうだな。

 

 前者3人は乗る為に人を辞めたか、乗ってるうちに人を辞めた連中だ。後者のRは機体性能もそうだが搭乗者自体が通常よりも高水準で世界の中でもひと握りのOG領域ISを操縦できる身体に仕上がってた。

 その中でもHは常人より凄まじい能力値だが、他4人と比べると明らかに体が出来上がってない。あえて言うなら『常人以上超人以下』、恐らく保護機構は働いていたのだが.......それがあの結果なのだろう。」

 

 

 機能はちゃんと正常に働いていた。

 OG領域ISはその機能の壁を平然と乗り越え、圧倒的負荷を掛けた。箒はその負荷を脳から分泌されるアドレナリンと気合と根性、そして保護機能で保っていたのだろう。

 そんなことを考えながら移動し、山田と別れた後医務室に着いた。

 

 

「入るぞ」

 

 

 中に入ると全身包帯だらけの鈴と、医務室に置いてあるTVに映る一夏という光景であった。恐らくISコアを通じてシステムに侵入、仮想アバターとして己の肉体を構成しそれを写しているのだろう。

 

 あれから昨日まで、鈴は生死の狭間をさまよっていた。そして昨日ついに目覚めて今日ようやく面会許可が下りた。

 

 

「鈴、どうだ?」

「どうも何も無いわ。」

 

 

 鈴は欠損した部分に目を向け「このザマよ」と言い放つ。

 

 

『…鈴』

「大丈夫。OG領域ISと戦闘するって決めた時から、真・甲龍に改造した時から、多分こうなるであろうということは考えてたから。」

 

 

 マドカを含め、今作戦に参加した者達の多くが命を懸けて挑んだ。しかし、やはりOG領域ISという次元が違う化け物にはそれ同等の力を持つ者しか相手はできなかった。出来たのはたった悪足掻き程度の攻撃、OG領域ISへの攻撃その殆どを鈴に任せた。さらに第4のOG領域ISとして覚醒した箒に途中から最後まで任せっきりで、最終的に今作戦において出た負傷者はR部隊のオルコット・鈴・箒の3人である。しかも鈴は皆を守るため片腕と片足を欠損、もはや戦える身では無くなってしまった。

 

 

「あーあ。自分の手で決着つけるつもりが、Hに助けられた挙句任せちゃったわ。」

『全て俺の責任だ。』

「いや、アンタの責任じゃないわよ。それに私のせいでも無い。あんなモノを造った連中が悪いのよ。」

『久しぶりの会話だと言うのに、こんな状態で抱き締めることも出来やしない。』

 

 

 私がいるという二人だけの空間を作りおってこのカップルめが。織斑一夏には言いたいことが山ほどあるがこいつはコイツで世界の為、私のオリジナルが残した罪の後始末、それこそ亡国の皆の為に世界中を駆け巡った。中には亡国ですらおいそれと手出し出来ない案件もあった。実際の所、織斑一夏は暴走前までに数多くの世界を巻き込むほどの危機を既に何度も解決しているのだ。それこそ欧州、中東、アジア圏で起こりそうだった数多くの大規模な騒乱はそのほぼ全てが織斑一夏の手で防がれた。既に亡国や世界は織斑一夏に対して頭が上がらないほどの恩がある。

 今回の暴走の一件も女権団残党の連中が例の禁忌弾を作ってるという情報があって、それを早急に何とかしようとしても上層部が慎重になり過ぎて動かなかった結果だ。

 

 

「んっ。命あればOKよ。

 最初の想定じゃ私普通に死ぬつもりだったし、腕や脚が欠損したくらいじゃ何ともないわよ。高いけど再生医療や義手やら義脚があるし、こうやって一夏と話せるのなら全然大丈夫。」

「私から言わせてもらう。

 元より今回の一件、とっくに情報を得てたのに動く許可を出さなかった亡国の本部が悪い。」

『けど、な。それでも俺が油断しなければこうはならなかった。』

「そんな事は関係ない。

 私から言わせてもらうと織斑一夏、貴様は被害者なんだ。今回の一件の大元の責任は我々になる。」 

「Mの言う通りよ。

 しかも一夏があの時やってくれなきゃ、『電入依弾』の完成品が数多く生産され最悪な事態を引き起こしてた。結果的に一夏は乗っ取られ暴走して大惨事を引き起こした。けど完成品による大量被害.......そこからさらに引き起こる事を考えると良くやってくれたと褒める所。」

 

 

 結果的にOG領域IS乗っ取った後に暴走、そしてドイツでの被害と日本での極僅かな被害だけで済んだのは奇跡だ。

 量産された完成品で数多ものISが被害にあえば、それこそ被害がどれほどになるのかは未知数だが確実的に言えるのは酷いことになっていたと言える。

 既に今回の一件について亡国は動いており、事の重大さと織斑一夏が暴走した件が己らに責任があると言う事で色々と動いている。さらに織斑一夏が施設を破壊し、撃たれた一発を除いて弾や制作データを残さず破壊尽くしたことでもう二度と作られることは無い。 

 

 

「H.......任務外だから別に構わんか。

 箒やオルコットについて報告しておく。」

 

 

 組織で配布されている情報端末を起動させ、立体映像を映す。

 

 

「オルコットについてだ。

 コアの破壊こそ免れたが機体損傷レベルC、本人も保護機能や絶対防御を貫通した一撃で腹部と内蔵、それに骨折も合わせて重症。ナノマシンが使えない中、よく生きていたものだ。

 一命を取り留めたが、機体は良くても搭乗者がこれだからな。ナノマシン治療もするようだが半年程休養とリハビリ生活となる。」

 

「次に箒についてだ。

 背中から臀部にかけての裂傷.......とはいえ何故か閉じかけていた。それに加えてほぼ全身に至る程の疲労骨折により重症。

 しかし、異常な程の治癒能力を見せて今日の時点でほぼ完治に近い。」

 

 

 マドカが一夏と鈴に目を向ける。

 どうせ何か知ってるのだろう?そう目で訴える。

 マドカはあの時、箒が血飛沫を上げたのを見た。その状態を見た。故にこの結果が信じられないのだ。

 

 

『箒のOGISについての詳細はまだ知らないんだよな?』

「複数のOGISが融合に近い現象を起こした機体だと理解している。」

「マドカ、あの天椿は文字通り融合したのよ。

 通常ISが持つ搭乗者保護機能、OG領域ISはそれらを超える人体再生機能とも呼べる機能を持ち合わせているのよ。私があの状況でも生きていたのはそういうことよ。

 

 そんなOG領域IS数機分の融合、その機能が傷を負ったのと同時に治す位再生力を得た.......と私は考えている。」

 

 

 マドカは理解した。ようはOG領域ISを動かしていたとき常に肉体は傷付き、そしてそれに反するように常時肉体再生が行われていた。それが不可解な現象を引き起こしていた。

 

 

「それでは降りた後の異様な治癒能力はなんだ?」

「それは普通に箒の治癒能力が変に高いだけよ。

 元からそうだったみたい。

 さらに言えば兎の血縁なんだから不思議じゃなくない?」

 

 

 鈴の元に来てから何度も叩き直し、鍛え上げたので箒はズタボロになる事が多く傷が絶えなかった。しかし、傷の治りがナノマシン未使用だったのだが常人よりも早かった。鈴はそう言った後に『でも』と言う。

 

 

「OG機体を操る者として、何かしらの異常は出てもおかしくないわ。

 ぶっちゃけ私なんか、目覚めてから体が変なのよ。」

 

 

 そういった鈴の言葉にどういう事だと言い返した。

 

 

「.......視力、聴力は特にそうだけど前と比較にならないぐらい良くなってんのよ。あとは体を動かさないと分からないけど、準OG機体とはいえ本気で動かした結果として私はこうなっている。」

 

 

 準OG機体でもこれであるならば、OG機体を動かした箒は?

 そもそもの話、織斑一夏がいるではないか。

 

 

「一夏、お前はOG機体を乗った後の体はどうなった?」

 

 

 霧崎、澪の二人は人を辞めた状態で乗っている。

 故に生身でOG機体を乗ったのは織斑一夏だけだ。

 

 

『体全体の能力値というのか、全てが変わったな。

 俺なんかも最初は滅茶苦茶キツかったんだが、乗りこなして都度体が変化してったな。それに合わせて生身の身体能力も、学園時代の千冬姉をすぐに上回るぐらいに上がったよ。』

 

 

 マドカの予想通り、機体側が搭乗者を弄っている。それによる弊害というか効果により、搭乗者の身体に変化が起きているのだ。強すぎる力に適応出来るようにと、コアが適応出来るように身体を進化させていたのだ。

 とりあえずその後すぐ箒の身体検査を行った。案の定いくら鍛えたとはいえ人が持つ、身体能力限界値を軽く凌駕していた。しかし害はないと判断され、機体側が乗りこなせる様にしてるだけだと束の助力もあってコア人格から聞き出した。

 

 これによりOG領域ISによる、搭乗者最適化機能が搭載されていると確定。これによりマドカは膨大な量の提出物が出る事となり、しばらくの間デスクワークに追われることとなる。

 

 

 

 

 

 

 あれから1年。

 箒と鈴はOGIS稼働による身体変化検査からなる、慣れへの特殊訓練に明け暮れる日々を送った。

 その間に束さんがいつ採取したか分からない俺の細胞を培養し、現在持てる全ての技術で細胞単位で改造を施した『アルティメット織斑一夏(束命名)』という肉体を獲た。

 鈴の欠損箇所は1ヶ月ほど特性ナノマシン超高速再生治療により無事に戻り、俺たち3人は身体を慣らす為に全力で世界各地を駆け巡った。オルコットについては一足早く現場復帰しており、部隊移動となり現在は山田部隊で活動となる。その為、新生R(鈴)チームはOGISチームとして亡国でも抜きん出た戦力もなったのである。

 箒のOG領域IS『天椿』は、俺や鈴の力は返上されたが今も澪の力は残っている。

 

 

「はあ」

「どうした?」

 

 

 亡国日本支部。

 現在俺こと織斑一夏は事務仕事による書類処理に追われている。今俺の隣にはマドカが同じく書類処理に追われている。鈴と箒はとある平和公園の工事に駆り出されている。

 

 

「色々終わったと、そう考えていた時期があった。」

「例の『M計画』か?」

 

 

 半年前、束さんを始めとした世界各国の技術者一同による共同計画が発表された。というかもう既にその時には動いていた。

 M計画とは月面都市を作り上げ、人類の宇宙への進出拠点都市とする大規模計画である。IS技術によって宇宙活動で問題視されていた大体の問題があれから更に発展したIS技術により解決し、さらに束でさえ考えつかなかった様々な次世代技術が生み出された結果この計画が実行可能となった。

 

 

「早いな、時が進むってのは。」

「そうだよね〜。もうあっという間さ!」

「兎、資料は?」

「ほいほい」

 

 

 この時、IS学園時代から始まりもう10年程近い年月が経とうとしている。戦争と差別、さらに混沌とした激動の時代を生き抜いた人類は宇宙という新たなフロンティアに挑もうとしているのだ。

 束さんからすれば予想以上の変化だ。束さん自身もだが、下手すれば宇宙への進出なんて夢のまた夢になりそうだったのだ。ISを開発してからもう既に20年余りになりそうになって、やっと始まったのだ。

 

 

「いっくん。」

「なんですか束さん?」

「君は黒の彼方を信じるかい?」

 

 

 黒の彼方。

 それは澪により生まれた宇宙の大穴。あの日、穴から届いた力が箒の力となった。なんにも分からない不明の穴、その中に意志を持った者がいる。

 あの決戦での姿を見たから、そこに居るのが澪であると確定出来ない。もしくはあの澪であったナニカがそこにいるのかもしれない。

 

 

「ほーきちゃんが譲り受けた力、それは確かにあの穴から届けられた。」

 

 

 この世界は澪に返しきれない恩がある。

 ほんの小さな、澪というきっかけがあったからこその今がある。束さんは呟いた。だからこそ確かめねばならない……そういったのだ。

 

 

 

「『M計画』が動き始めた。

 それと同時にもう一つやらなければ、私がやらなきゃならないことがある。」

 

 

 

 束さんは言う。

 穴の彼方に居る澪に、感謝の言葉を。返しきれない感謝の気持ちを届かせねばならない。世界を変えるきっかけを作った、誰よりも世界に抗った一人の英雄にその言葉を届けると。出来るのなら、再びこの地へ戻らせたいと。

 

 

「誰よりも戦い抜いて、抗って、理不尽から逃げず歩み進めた。

 それに、れー君はこんな私でさえも許してくれた。」

 

 

 束さんは言う。

 穴が縮小し始めている。

 

 

「っ、それは…」

「うん。多分、この次元とあちら側の次元境界修正が始まりつつあるんだと思う。

 タイムリミットまであと数年もない。」

 

 

 

 だからこそそれまでにM計画を終えさせる。

 同時に『ありがとう計画』を、穴へ突入する作戦を打ち立て、リミット前にそれを実行する。

 

 束さんの言葉に驚いた。

 そんな大事な話をしてくれなかったことに。

 

 

「私はもう戻らないと思う。

 第一あの穴が今の所一方通行だけで、何かが出てきた形跡が無い。穴から出られる保証も、中にいるナニカがれーくんである可能性も低いし襲われて殺されるかもしれない。

 

 故に私はもうここへ戻れない。」

 

 

 束さんはそれにね、と続けて言う。いくら何でも己自身、生き続ける限り無意識に混乱をまく種になる。家族との問題もケリが着いた。思い残す事は何も無い。

 そう言われてそうであると確証がないわけではない。でもそれは……俺が言おうとすると束さんは俺の口を手で押えた。

 

 

「これは、コレだけは私がやらなくちゃならないんだよ。」

 

 

 束さんの覚悟を前に何を言えばいい?

 そんなの決まっているだろう。

 

「何を手伝えばいいんですか?」

 

 

 

 

 それから月日が流れM計画が完遂されたその日、光速航行艦『兎は月を見る』にてIS開発の祖、『天災』篠ノ之束はとある人物と話していた。

 

 

『いくのかい?』

 

 

 相手はもう今は引退した元ゴースト艦長であるアルベルトだ。現在ゴーストを降りた後、月面都市デブリ対処区画にて指揮を執っている。

 だが心臓部にISコアを埋め込まれる改造手術を施されてしまった為なのか、今も昔と同じ姿だ。

 

 

「うん。」

『そうか。

 迷い人だった君を引き取ってから長い月日が経ったものだな。』

「艦長とあってから変わったよ。

 …もっと話したいことがあったけど、時間が無いからもう行くね。」

『うむ。では、君の旅路に祝福がある事を祈るよ。

 元気でな、束くん。』

 

 

 

 通信は切れ、各種データ通知の音だけがなる。

 束は目を閉じて上を向く。

 

 

 

「いくよ、れーくん。」

 

 

 星が翔けた。




次回予告

人は生きる
命舞う鉄の戦場だろうと。

ただ生きる為に
人が息を吸って生きる様に
私は戦場で人を殺し生きてきた。


それはかつてレイヴンと呼ばれた女。

戦場を駆ける
黒いIS『ストレイド』
私は全てを焼き尽くす黒き鳥となる。



その日、理不尽に出会い
私の運命はここに定まった。

これは黒き女の物語。


次回=嗤う女は満ち足りる=


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嗤う女は満ち足りる

人生ってのは所詮運だ。

人が生まれる場所だってそう。

私は運が悪かっただけだ。
生まれた場所が戦場だってだけ。

私は黒い鳥。
全てを焼き尽くす死の鳥。

そんな鳥にも運命の日は訪れた。


 その女の人生はどん底から始まった。

 物心ついた時から戦場にいて、息を吸うように人を殺し回ることが日常であった。親はどうしたと言われるが、そもそも親という存在を見た事が無い。故にどうでもいいものだと考えている。

 そんな事よりも生きる為に、金を得る為。女はひたすら殺して殺して殺して屍の山を歩き続けた。

 そうやって一日を終え、生きてる事を実感した女は一人嗤う。

 

 女にしか操縦出来ないISというものが世に知れ渡り数年、本来ISは専用戦闘区画場所以外での戦闘使用は不可とされる。 しかし実際は戦場で当たり前のように運用されている。その時、既に戦場を広げた女は世界にとび出ていた。その時にISというものを知った。

 女はとある国のISを運用する秘匿基地を襲撃、IS『ストレイド』を強奪。それから半年、高額な特殊兵装や戦闘機の特攻などと言った脅威がない戦場においてISは絶大な力だった。 縦横無尽に空間を動き、最高速度が音速、旧世代武器……IS登場前時代の兵器群ではほぼ傷つかない防御性、一方的な展開に出来るほどの攻撃性。どれをとってもISは女にしか操縦出来ないという点を除けば、最強に近い。

 

 金で戦場を駆け、依頼された敵を全て焼き付くすその姿。機体カラーが黒、そして『鴉』のエンブレムがある事から女は何時しか黒い鳥……『レイヴン』と呼ばれるようになった。

レイヴンと呼ばれるようになった女は元々の名がなかった為そのまま己を『レイヴン』と名乗るようになる。

 

 戦場を駆ける黒い鳥。

 それはすぐ様噂になり、裏社会に広がるのは早かった。レイヴンはIS適正も本人は知らないが脅威のSランク、その腕はIS国家代表上位クラスであった為文字通り戦場において無敗。その為何時しか特殊な依頼が回ってくるようになって、戦場において黒色のISを見たら逃げろとまで言われるようになった。

 

 

 

 順風満帆……そんなレイヴンは理不尽と出会う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「がっ、は……私が、こんっな!?」

 

 

 事の始まりはIS委員会と敵対するとある組織からの依頼で、IS委員会委員長こと『霧崎』が住む太平洋にある孤島を強襲し本人を殺害する依頼を受けた。

 

 金を貰えばなんだってする主義、それでもこの依頼を受けた際に本能が危険だと警鐘を鳴らしていた。だがそれでもやるのが私の主義だ。

 情報通り霧崎はその場所にいた。そう、いた……これまた見たことの無い姿でだ。いつだったか、まだ昔に幼児と呼べる頃に見たとある世界の神話が描かれた本に出てくるような、戦女神の様な姿に目前でなった霧崎がいた。

 

 この時既に何度も実戦でIS戦闘はやったから本能で分かる。コイツには勝てない、死ぬ……と。実際ストレイドが出した情報は世界中のISが束になっても勝てない、異常の塊だった。

 私は挑んだ。だが全ての攻撃を躱され、たった一度の攻撃で撃墜された。究極の一撃、そういった方が良いだろう。距離はとっていたのに関わらず、直撃ではないが放った衝撃で天空地.......さらに空間そのものにダメージを与えそのついでに落とされた。理不尽すぎる。

 

 

「クソがっ」

 

 

 好きに生き、理不尽に死ぬ。

 もう今は死んだとある傭兵が言った言葉だ。

 

 

「だがまあ、いい最後だろ。」

 

 

 この人生に悔いはないし後悔もない。

 他の奴らと同じ様に死ぬだけだと私は思った。

 目を閉じ、トドメを刺されるのを待った。だがいつまでたっても命の輝きは消えなかった。目を開けると目標である霧崎がこちらをじっと見ていた。

 

 

「ねえ、貴女の名前は?」

「はっ?」

「いいから貴女の名前はなに?」

 

 

 目標の霧崎が突然そんなことをいう。

 

 

「レイ、ヴン」

「それは偽名?」

「ち、げぇよ。

 名、前……なんかは元からなかった。」

 

 

 あとはもう殺されるだけの私は馬鹿正直に答える。殺されるだけなのだから隠した所でなんの得にならないならいっそ喋った方がマシだろうという考えの為だ。

 

 

「私は意識がはっきりした時には既に戦場で生きて来た。

 途中でIS『ストレイド』を手に入れてその後から付けられた2つ名を私の名前にした。」

 

 

 そのストレイドは今や大破、ISコアや付近部品こそ破損は免れたが機体自体はもう二度と動かないだろうというレベルで壊れた。

 

 

「じゃあ貴女戸籍も何も無いのね。」

「あったかも知れねえが、名前が分からない所から始まったんだ。どっちにしても分かんねえよ。」

 

 

 言うことは言った。

 さっさと殺しやがれよと心中思いながらもう一度目を閉じる。……しかし、いつまでも来ない終わりの痛みは何故か来なかった。その代わりISが待機状態の腕輪に戻され、頭に柔らかい感覚が有る。目を開けるとそこには霧崎の顔が、後に日本の漫画で知ったがいわゆる膝枕と言うものをされた。

 

 

「貴女は面白いわ。

 数多のIS搭乗者や馬鹿な女達とは違い、何処までも真っ直ぐ。そして、男だからと女だからという思想も無い平等過ぎるその考え。」

「何が言いたいんだ……?」

「気に入ったわレイヴン。

 前代未踏の領域にいる私に臆せず挑む度胸、ISによって馬鹿な思想に染った連中とは違うマトモな思想、金さえ渡せば依頼をこなすその忠実性……良い。

 

 レイヴン、貴女に依頼するわ。」

 

 

 突然の依頼発言に純粋に戸惑う。

 己を殺そうとした者に依頼を頼むなど、一体何を考えてるんだと。

 

 

「何を戸惑ってるの?

 貴女は金さえ積めば依頼をこなす黒い鳥。

 今までそうやって焼き尽くして来た、そうでしょう?」

「くっはは!確かにそうだ、私はそういう奴だよ。

 生きるためにそう生きてきた。

 いいぜ、その依頼受けてやる。」

 

 

「今とある計画を動かしてるわ。

 ISによって異常と正常な連中が別れた。

 まずISによって助長されたのもそうだけど女性主義者達らや女権団なんかね、それに加えて私が態々築き上げたIS委員会ね。

 

 レイヴン、貴方には最終的には両組織関係者を全て破滅に導いてもらう。」

「……誰を殺すかなんて別に構わねえがよ、なんでそんな面倒臭いことすんだ?」

 

 

 レイヴンは霧崎がその気になれば、誰にも知られないで一方的に殺し尽くせると理解している。さらに言えばIS展開時の霧崎は、元の姿と大きく逸脱している為正体を知られる事も無いだろうと考えていた。

 それ故になぜこんな回りくどい事をするのか、単純に気になったのだ。

 

 

「私はね昔から頭が良かった。それこそ天災が造り上げたISやその核となるISコアの形成や仕組みブラックボックスの内容まで既に理解してる。馬鹿でも分かるぐらいに私は知能としても常識としても比較にならない、それこそ天災と同じくね。

 

 だからこそ現状の世界がこのまま行けば間違いなく滅びる。馬鹿な女たちがISで崩れた世界の武器の価値観やその影響力を今まさに完全に壊そうとしている。」

「そりゃあ知ってるさ。最近明らかに軍人崩れの傭兵やらテロリスト達が爆増してるし、IS技術によって強化された最新兵器関連すら普通なら流れないが既に裏社会に流通してる。」

 

 ISだって完全に無敵ってわけじゃねえ。

 IS技術が応用された兵器なら結構ダメージ喰らうし、特殊兵装なんかかなりダメージが入る。最近開発された対IS特殊弾『AIS弾』なんか通常の弾薬と比べて超がつくほどの高級品だが、AIS弾は一般の銃火器でも撃てる上IS技術応用兵装よりも遥かにダメージが入る。

 そもそもISを纏ってない時に狙撃や強襲されたら大概のパイロットは無力に近い。ISは無敵だの言われてるが、結局の所は弱点は有る。核爆弾や化学兵器やらでも確実に効く。

 

 

「もう既に人類は破滅に真っ直ぐ向かってるのよ。

 だからこそはっきりと消え去るべき対象を分からせなければならない。そして、それを滅ぼすのが私の目的。残った連中は貴女が処理する。」

「てめぇは神にでもなりたいのか?」

「神、ね。

 私は神という物にはなりたくないけど、調停者になりたいのよ。」

 

 

 調停者?レイヴンはそう言うと霧崎がええと言う。

 

 

「神というなれば世界の均衡全てを壊した天災よ。

 

 私は世界の均衡を傾けた、余りにも強過ぎた悪を一度消し飛ばしたいのよ。均衡を保つ存在として、彼女たちの存在は余りにも不要。消し飛ばされ、再度均衡を失えど何れ世界は今よりもマトモな均衡に戻る。

 

 傍若無人な神では無い。私は、未来を見据えた調停者としてこの力を振るいたいのよ。」

 

 

 レイヴンから見ればそれはまた彼女が違うと言った神同等、傲慢と呼べる。こればっかりは個人的解釈なのだろう……だが、面白いと嗤う。

 

 

「だから日本で情報統制、目撃者の殺害までやったテロ行為をしてその体の性能を測ったと?」

 

 

 今までの会話で一つの噂についての答えが出た。

 IS委員会が日本で新型ISを使用し、一つの街を壊滅させ情報統制と莫大な金をかけて街の存在そのものを無かったことにしたと。

 

 

「仕方ない犠牲よ。

 大いなる大義のための犠牲、失った命は未来の何万何億の人々の糧となる。」

 

 

 レイヴンから見て霧崎はまさに傍若無人な神として、そして己の手で死んだ者達に対して後悔している中途半端な神もどきとして見えた。それに対してまた嗤う。

 だってやろうとしてることは身勝手、そして何処までも独善である。それに対して仕方が無い犠牲と言って後悔し、前を向きながら下を後ろに引かれ続けている。レイヴンからしてこれ程面白いと思えたことは無い。

 

 実力は最高クラス、知能も理念も共に人類最高ときたがそれでも歪なその根っこが何よりも面白くて嗤う。だから言ってしまった。

 

 

「中途半端な気持ちで最後まで行けるか?」

 

 

 ああ……言ってしまった。

 あまりにも滑稽で面白く可笑しくて、嗤う己になんの罰が有るだろう?

 

 

「一つ言っておくわ。

 人は不完全で、歪で、矛盾だらけの生き物なのよ。

 

 だからこそ人はやってのける。」

 

 

 笑った。それも盛大に。

 つまりそれも込みで、全てを抱えて己はその目的の為に突き進むと?ああ狂ってやがる。最高だよ、最高に嗤えるぜ……

 

 

 矛盾してこその人という生き物か。

 

 

「人はこんなところで終われない。

 人の歴史は、黄金の時代を、次のステージに。」

 

「何れ黄金色の天幕が開けるのよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女は一人語る。

 己を雇った依頼主に向けて。

 

 

「これで依頼は完遂された。」

 

 

 ISのコアネットワーク内にある電子宇宙、その中にもしかしたら居るかもしれない依頼主に、届くか分からない報告をする。

 

 

「IS委員会及び女権団、及び分断されたリスト候補者及びそれに連なるリスト候補者……全ての処理処罰と存在抹消完了。」

 

「……あんたの言う通りだったな。

 

 人類ってのは今や宇宙という次のステージに行く。それが今の人類の総意に近いものだって言うから面白い。

 

 

 まあ最もこんな戦場でしか生きれないオレには無縁なものだがね。」

 

「だが、まあ……良いもん見せてもらったよ。

 けどアンタの指示だから破壊者とは1度きりの戦闘だったが、欲を言えばもう一回戦わせて欲しかったがね。

 あ、でも狂人のようなフリをしろってのはマジで許さねえわ。」

 

 

 電子で出来た身体が端からホロリと、散ってその体が消えていく。

 

 

「人生の最後に見るものが、こんな世界って……良いんかね。

 こんな血塗れな女がしていい最後じゃねえよ。」

 

 

 ここはISコアネットワーク内の深層領域。

 正規の電脳ダイブでは危険過ぎて立ち入り禁止に指定されている区域。

 ここに普通の人間が来たら最後、後戻りは出来ない人生最後の電子旅行となる。肉体とその精神が保てないのだ。

 

 

「まあ、こんな人間でも最後ぐらい幸せになってもいいだろう……?」

 

 

 そういえば最後に素晴らしい景色を見せてくれると言って、それっきりだったと思い出しそれが今の景色だと何となく理解し.......初めて美しいと思えるものを見た。

 

 

「最後に美しいと思えるものが見れる、か。

 最っ高じゃねえかおい────」

 

 

 レイヴンはそう言うのを最後に霧散した。

こうしてIS委員会の裏側、榊澪と霧崎千切の因縁、ここ十年ほどのISに関わる事件ほぼ全てに関与していた傭兵は静かにこの世から去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太平洋沖の小さな島、その島唯一の建物である豪邸。

 その一室で女が一人静かに息を引き取った。

 

 女の顔は幸せを感じる表情であった。




次回予告

兎は跳んだ。
可能性がある限りそこへ跳ぶ。

黒き穴を抜け
不可思議の先にソレは居た。


「貴女は誰?」


知恵の実を得た怪物。
独善的な歪みは加速され
ソレは兎を喰らい羽化する。


「おっと、それはさせんよ」
「君は!?」


暗き底へ辿り着く
血の獄にて何を見る。


次回=最果て=


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最果て


兎は地を蹴った。

月を超え
宇宙を駆ける。



 月面都市、その一角。

 工業区画から一つの宇宙艦が発進した。

 

 

 その名『兎は月を見る』、これはたった一つの感謝を届ける為に始まる戦いである。

 

 

 

 

 

 

「束さんお達者で。」

「兎は行ったか。」

 

 

 見上げ、その様子を見るのは二人。

 一夏とマドカだ。

 

 

「さて、俺達も俺達でやる事やるか。」

「む?もう少しなにか言うと思ったが言わんのだな。」

「『あとは頼む』って言われたんだ。それに答えなきゃ」

「最近体が変だと言っていたが大丈夫なのか?」

「すこぶる調子が良いんだ。今がやる時なんだろ、行くぞ。」

 

 

 

 

 宇宙に開いた穴。

 それは澪が霧崎に完全にとどめを刺すため、全エネルギーを解き放ったものである。そのエネルギー総量は星一つ消し飛ばす程。 だが爆発の威力にしては範囲が狭かった。これは意図的に、確実に消し飛ばす為範囲を設定していた可能性があるがそこは不明である。

 

 だがそれにより宇宙規模の範囲であるが、極めて小さな範囲で星を消し飛ばすエネルギーが集中した事により空間干渉を起こしこの『黒の彼方』が誕生したと思われる。

 

 束は最初これをブラックホール擬き仮説呼称し、現象や性質を調べる為観測測定を開始した。だが調べてみるとブラックホールの様な引力は観測出来なかったが、光は一方通行で反射せずという結果が出た。それ以外は空間湾曲に近い力場が常時発生している事ぐらいで、害毒的要素は特に見当たらなかった。

 

 

「OG装甲、OG領域E生成開始。」

 

 

 最終的に、黒の彼方は一種の特殊な力場であると判断された。そして突入出来るのはOG領域ISのみであるとも解析が出た。

 

 

「全エネルギー解放」

 

「.......OG領域IS『天照』エネルギー上昇開始、Eライン循環接続開始。」

 

 

 その巨艦と呼べる全長1kmの塊が変形、その中心部に第6のOG領域IS『天照』を展開する束がいる。

 

 

「ぐぅあがっっっっっ!!!!!!」

 

 

 第6のOG領域IS『天照』

 それは真・甲龍と同じく造られたOG領域ISである。しかし、この天照は最初からISコアから機体まで全てがOG領域ISとして造られた。故に通常ISコアに施されている制限は撤廃されている。

 さらに言えば制限撤廃により時結晶が持つ無限に等しいエネルギーが解放されており、それに合わせて機体出力は搭乗者が耐えれるまで永遠に上がり続ける。故に無限大、それにより本来動かすことが不可能である1kmもの外装巨艦を動かせれる。

 

 

「───────ふぅ、……行くよっ!!!!」

 

 

 天照と連結された巨艦は更に変形し、宇宙に巨大な巫女が誕生する。さらに変化し、各所から光が溢れその表面を覆い尽くす。その光は全て超高密度のシールドエネルギーであり、そのエネルギー値は超新星爆発数回分に達する。

 

 

 そもそもどうしてここまでの大きさになったのか?

 それは黒の彼方を突破する為の纏うエネルギー、それを通常サイズのISやOG領域ISで出すのが現技術で不可能と出たからだ。

 澪が最後に見せた姿、アレこそ人が求める最高値である神の域。人と同じ身長で内包する出力やエネルギー限界値が測定不可、確認されたOG領域ISとて測定不可なんて結果は出なかった。

 故に束はエネルギー出力設定をとっぱらったOG領域ISを建造し、突破するためのエネルギーを纏える超弩級のマトリョーシカ方式ボディを用意すればいいという答えにたどり着いた。

 心臓部たる『天照』、血管たる連結Eライン『天日』、巨艦が変形し身体たる第三外殻『大神』が達する。更に大神が出力解放し光り輝くこの形態、これ即ち『天照大神』である。

 

 

「突っっ入ゥ!!」

 

 

 天照大神になった時、機体はその体のほぼ全てをエネルギーに変え、速度は直ぐに第一宇宙速度を超えて光の世界へ突入する。

 光速で移動するため黒の彼方までは数十秒で着く。

 

 

「『天大神之剣』」

 

 

 黒く歪む空間、『黒の彼方』。

 それに展開される湾曲空間が外部から中へ侵入を阻んでいる。 そこへ月程なら容易く両断出来るだろう光の巨剣を突き刺し、激しいスパークが走る。だが同時に星が消し飛ぶエネルギーが周りに撒き散らされる。こじ開けられることを拒絶するそれに対し、さらに押し込む。

 

 

 

「こっの、開けぇぇぇぇー!!!!」

 

 

 黒の彼方、その空間に亀裂が走る。

 

 

『前方空間損傷を確認』

「大神爆発突入シークエンス開始!」

 

 

 亀裂にその両手を触れさせ、天照大神は超新星爆発を起こし消滅。黒の彼方の彎曲フィールドが破壊され道が出来、天照大神その中にいた天照との連結部位周囲が残った天日。最後の力を振り絞り天照を光速で射出する。

 人の領域を元からやめてる束、そしてこの為に身体を鍛え天照のスペックに対応出来るようにした。故に光速でも問題なく動けるのだ。

 中和され出来た道、黒の彼方からは眩い光が溢れ出ている。こんな現象を束は知らない、しかし迷うこと無く飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光の海を突き抜けた。

 眩い光が突然消え、有り得ない景色がそこに広がっていた。

 

 

 

「夕日、太陽……??

 大気に海がある?」

 

 

 黄昏の空、そして海。

 間違いなくこれは地球の環境である。

 風も吹いてる。

 大気や海の成分も全て地球と同じ。

 

「アレは?」

 

 

 沈みゆく夕日の方角、その地平線より少し前。

 ハイパーセンサーで拡大すると、誰かが岩に夕日を背に座っている。それでもギリギリ見えるぐらいである。

 広大な宇宙活動を想定していたハイパーセンサーの視認能力は数万kmという距離まで視認出来るのだが、この空間はやはり見た目以上に異様な空間である事が分かる。

 

 

「君らはれーくんを感じる?」

 

 

 束はそう語りかけ、そしてそれに答える者がいた。

 

 

『居ます。

 アレは、あの人は主です。』

 

 

 かつて澪の機体、そのISコア人格であるノーネームである。ある時いつの間にか束の元にやって来たのだ。かつて数多くのコア人格が居たが今やノーネームを主体とし、己の意思で1つになった。

 束がノーネームを今回の為に誘い、天照の補佐として搭載したのだ。

 

 

「それじゃあ行こうか」

『……はいっ』

 

 

 黄昏の空、その下を束は駆ける。

 数分の後にその場所に辿り着いた。

 

 

 

「……?」

 

 

 

 こちらを不思議そうに見る白髪紫目の少年。

 あの、IS学園時代の榊澪だ。変わってるとしたら待とう空気にその容姿、髪からは色素が抜け落ち、紫色に怪しく光るその目。

 

 

「貴方達は誰? 」

 

 

 纏う空気は束が知っている澪そのものだ。

 肌を刺すようなその圧は変わりがない、しかしそれは敵と認識したものに対して行われるもの。

 

「私は篠ノ之束。

 君は?」

「私は……誰だろうか。

 分からないんだ。いつの間にかここにいたんだ。」

 

 

 分かっていた。

 アレだけの事をやって、消滅したはずの存在が生きていたからまともな状態で会えるなんて奇跡に近いことを。

 だが言語能力だけはマトモに働いてる事には安堵した。

 

 

「君の名前を知っている。」

「……」

「君の名前は『榊澪』、君のその力は『IS』。

 そして、人間という生物種を超えたモノだ。」

「───ああ、その名前は何となく聞き覚えがある。

 そうか、そうですか。それが私、榊澪か。

 

 

 違う、それは私では無い。

 思い出したぞ。」

 

 

 そう言って決戦時に酷似したナニカ、光を纏いながら形状を変えて変身……そう言えるような現象を起こした。変身を終えた澪だったなナニカが放つ圧、それを前に本能が警鐘する。危険だと。

 

 

「『RAY』、そういう名前みたいだ。」

 うん。これが私だ。」

 

 

 それは絶対に、奇跡も何も無くどう足掻いても勝てない。そう感じる。本能で分かる。

 これは、神だ。人が創りし人造神。

 機械仕掛けの神。これが人類がたどり着くべき……否、辿り着いてはならぬ禁忌の領域。

 

 

「駄目だよ

 それは駄目だよ。

 

 君は誰よりも人間だった。

 人間なんだよっ」

 

 

 束から見て澪は誰よりも人間だった。

 感情のままに、本能で、それでも理性を持って。がむしゃらに一つのために足掻いて足掻いた。そうやって最後は全てを火種に変えて死んだ。

 

─────でも生きていた。しかし、目の前にいるRAYを今一度見て、束自身を含めて人間らしさ……あの輝きを持った人間じゃないと理解する。全てを置きさって階段を登りあがってしまったモノだ。

 

 

 

「ねえ、君らはこれを認めるかい?」

「何を……」

『いいえ。認める訳にはいけません。』

 

 

 束が、人を模した機械人形を展開する。

 

 

「君は?」

『たとえ忘れてしまっても、かつて個々だった私達全員覚えています!!

 

 私達はノーネーム、榊澪……主である貴方の相棒です!!!!!!!!』

 

 

 

 それにRAYはなにも反応しなかった。

 なにも。反応が無かった。

 

 

「君はそこにたどり着いた。

 でも、私はそれを認めない。

 

 何もかもを捨て去って、何も持たない無機物になんかさせたくない.......!」

「うん。それで?」

「君は覚えてないけど、私達は……地球に住む人間達は貴方に感謝を伝えたいんだよ。でも来れるのは私だけだからここに来た。

 君によって救われたって、君にありがとうっ言いたくて!!でも君じゃない!!」

「だからどうした?

 彼は既にどうでもいいと思ってるとおもうよ。」

 

 

 束のその言葉を聞いてもRAYはだからどうしたという態度をとる。

 人の全てを捨て去り誕生した神は人の気持ちを理解しない。そんなモノに成り果てるなど、誰よりも榊澪自身が許さない。そして、澪に感化され救われた束はそれを許さない。そもそも、束は目前の存在が隠す事に苛立ちを覚える。なぜ、隠すのかと。それもある意味想定の一つであり、対処は出来ている。

 

 

 

『だから貴方を誰よりも見続けてきた私達が、私が戻します。』

 

 

 神を人に降ろすため、人を取り戻すためにここにやってきたのだ。ノーネームはRAYのコアに直接コアネットワークを経由してそれを挿入する。

 

 

「なにをしている?」

『私達が観てきた記憶、そして主である榊澪の歩んで来た時間という記録。それをインストールしました。』

 

 

 そう言った途端RAYの様子が、そしてこの世界そのもの景色が変わる。黄昏の空は暗き夜に、そして大いなる銀の月が昇る。

 

 

「確信したよ。

 君の中に、まだ残ってるんだろ……榊澪という存在が。」

 

 

 束が感じた違和感、それが今言ったことだ。

 澪が持つ独特の感覚というもの、それを何故か澪では無い存在の内側から溢れるように近く出来たのだ。天災ゆえ理解出来た。

 

 

「うん。残ってるよ。そして、君らが持ってきたその榊澪の存在に必要なモノにより意識が本格的に目覚め始めようとしている。

 でも彼は悩んでいる。」

『悩んでいる?』

 

 

 RAYは困ったような顔で続けて言う。

 

 

「彼は私になる為、その全てを薪にした。

 

 けど、小粒程度の気持ちで願ってしまったんだ。いや粒子レベル程度の願いだよ。『まだ生きたい』、『皆と歩んでいたい』……その結果がこの意志を持った私だ。」

 

 

 けどねと、RAYは言う。

 

 

「彼は本当に死ぬつもりだった。

 どうあれ彼は数多くの命を奪った人類最悪の殺戮者、そう思った上でもう死んだはずの存在が生きていていい訳では無いとしている。

 私は彼の意志と尊厳を尊重し、彼の判断が下るまで君らの干渉が及ばないようにしなくてはならない。」

 

 

 束は直感的にヤバいと思うが、体が動かない。隣にいるノーネームも同様であり、既にRAYは腕を持ち上げている。ゆっくりだが確実にヤバいと二人は理解しているが何も出来ない。何をされるか分からない……万事休すというその時、不思議なことが起こった。

 

 

「それはダメだろうよ」

 

 

 束とノーネームの間、その空間が砕けてISが出てきた。束が知らない未知のIS、だがノーネームは知っている。その者たちの名前を。

 

 

 

「……私?」

「口を閉じろ下郎」

 

 

 ノーネームが月で世話になったオリジナル、原点の榊澪。その表情は憤怒に染っていた。

 

 

「俺という存在が1度赦した者に手を振るうなど、愚行にも程がある。」

「私は君や私のオリジナルとは違うのだが?」

「ぬかせ三下」

 

 

 澪同士の言葉のやり取り、それと同時に見えない衝撃の乱撃が繰り出される。それから束とノーネームを守りながら二人に声をかける。

 

 

「久しぶりだねノーネーム、そしてこの世界では初めまして篠ノ之束博士。俺は……同じ名前だから『原点』とでも呼んでくれ。」

『原点様お久しぶりです』

「ん、もしかして分かってた?」

『何となくですが、予感のような物を感じてましたので。』

「SBの思考性反応反射攻撃機構……未だに完成の目処が無いのにっ

 雰囲気は違うけど、やはり君も榊澪なの?」

 

 

 2人の様子とは違い、束は原点の榊澪から生じる雰囲気や未知の技術に戸惑いを隠せない。

 

 

「だからそう言ってるじゃないですか。

 俺は榊澪という存在の起点、多次元世界において初めて榊澪という存在として生まれたモノだ。」

「多次元の君とは言えど、ここまで違うものなの……?」

「そういうものだよ。『フィー』、頼むよ。」

 

 

 そう言うと原点から出た光が女の形を取り、「了解です」と呟くとRAYと原点は衝撃を残して消えた。

 

 

 

 

 

「───では聞くけど、なんでこんなことを?」

「これ以上、私は彼の尊厳を奪いたくないのです。

 私は彼より生まれ、それ故に彼は私です。」

 

 

 互いに獲物を手にし、その力を存分に発揮する。

 純粋な力だけぶつかり合い、語り合う。

 

 

「だからと言ってこうして観測者たる俺を直接介入させるか?」

「傍観者風情、と言った方がいいのでは?」

「必要最低限の手助けにしとかねば、色々とお節介してしまうのでね。それぐらいがいいのさ。」

 

 

 そう言いながら名も無き剣を振るう原点、その一振だけで空は悲鳴をあげ空間が軋む。

 それを回避しRAYが武器を手放し拳を振るう。部位限定多段瞬時加速をしたその拳、音速の一撃は原点に突き刺さった。そして爆散する……RAYの拳が。

 

 

「なに訳が分からない様な表情してるんだ?

 生まれたての赤子に負ける程俺は弱くないぞ」

 

 

 いつか到る技術、事象反射機構と呼ばれる発生した事象を反転させる。本来の結果と真逆の結果を出す。D.C.(ディメンションコントロール)機構と呼ばれる神へ至る絶対領域の一つである。

 

 

「見た目は10代だが生まれて何万と生き続ける老人だぞ?

 お前みたいな奴との戦闘経験は何百何千としている。」

 

 

 再生阻害はしてないから出来るはずだぞ、そう言っている原点の表情は虚無。

 

 

「ほれ、思考制御も反射制御もザルで荒い。」

「成程それならば」

 

 

 機体がブレる。そしてその全てが違う動作と武器を持ち、同時に全てに同エネルギー反応がある実体。

 

 

「超光速による同存在発生現象、まあその程度でどうなることは無いんだが。」

 

 

 そう言って隕石衝突程度程の衝撃波を体から放ち、それにより本物のRAY以外が消し飛ぶ。

 RAYからすれば意味不明過ぎる、摩訶不思議な現象をたたきつけられ一方的に蹂躙された。

 

 

「まあこんなもんかね。

 領域入りはしたが、まだ次元や事象を操作する術が無い。生まれたばっかだから」

 

 

 水面に叩きつけられ、原点を見上げるRAYの表情……初めて感情らしい表情を見せていた。忌々しいように、憎しみを抱いた表情だ。

 

 

「……もう一度問います。これ程の力を持ちながら、何故傍観者を気取るのです?」

「俺と言う異物、俺という個は巨大過ぎるんだよ。

 そこにあるだけだ変えてしまう、影響を与えてしまう……だからこそその立場になりその世界ごとの『俺』に転換期が来たら接触して来た。進化を促す翡翠の光のように。」

 

 

 信じ過ぎると虚無ったりヤバい艦隊に合流した己の内の一人の姿、最後何故か作風が変わってるように見えて流石にああはなりたくないという感想は出たが。

 

 

「そこまでの力を持つ貴方が介入していれば数多くの命が救われ、無駄に命をちらすことなど無かっただろうに。そうか、これが罪ですか。貴方のその考え、それにより罪は加速し、増やしていく。」

「罪?何を……?」

「彼を守り通す。

 貴方の罪を、彼が生んだ罪は私が救わねばならない!」

 

 

 バキリ

 そんな何かが碎ける音が響く。

 

 

「おい、てめぇそれでもアイツから生まれたのか?

 罪?救う?何ふざけてんの?アイツはそんな弱いのか?」

 

 

 榊澪、その性はどんな逆境だろうが前へ進む反骨精神。その原点たるこの男にとって、導いて見送って来た数々の己らを貶す地雷。RAYはそれを踏んだ。

 

 原点たるこの男は様々な世界を見た。この世界の榊澪も抗って抗って、我武者羅に生きてきた。RAYは澪の心境を言ったがそれはあくまでもRAYが話した事だ。それが本当だとしても、人は変わる生き物である。可能性の生物だ。それを本人でも無いのに一方的に否定し、可能性を閉ざす。それは『榊澪』という存在に対しての否定だ。それは許されない事だ。

 

 

「アイツを見て、アイツから誕生したてめぇがアイツを弱いと決めつけてるなんてよ.......それこそ最大の屈辱にして尊厳の冒涜なんだよ。」

 

 

 ほぼ転移と呼べる速さでRAYを殴り付け、遥か空の彼方へ蹴り上げる。それを追い掛けるように膨大なエネルギーを放ち、空気を喰い破り超絶なエネルギーによるプラズマが飛び散る中吹き飛び続けるRAYを追い越した。

 それは最早天に昇る稲妻。

 

 

「疑似宇宙現象武装起動」

 

 

 束達をフィーが移動させたのを確認し安全確保確認をし、脚部にエネルギーを溜め込んだ。そしてすぐ様蹴り当て解き放つ。

 

 

「その意識を蹴り飛ばす」

 

 

 それを敢えて言うなら青白く輝く流星。

 この世界線の近しい世界にて、今から数百年先に開発される疑似宇宙現象再現武装『メテオカノン』と呼ばれる脚部搭載武器。それは宇宙に起きる現象を再現し武器として扱う、人類の叡智の結晶の一つだ。その威力、直径数kmの隕石なら軽く砕ける程でありそれをRAYに直撃させたのだ。

 

 

「があぁあァァァァ!!!!????」

 

 

 メテオカノン、隕石の衝突をモデルにしてるがそれをたった一度の蹴りに込めてる。その為炸裂した際に超弩級のエネルギーが発生、蹴り終えるまで地球上では考えられない程のプラズマと衝撃が絶えず襲い掛かる。

 無論、澪の身体がこれに耐えれるのは原点の彼は理解している。しかし、RAYはまだそれを理解せず、痛みと情報の宇宙を前に何も出来ない。

 

 

 

「が、ガガガガゴガ」

 

 

 意識がプツリと消えた。

 

 

 

「凄い、原点くん……彼の始まりだけはある。」

「当然です。あの人は見た目はあんなですが、万年を生きてるのです。蓄えた知識、持つ技術は誰よりも持っています。」

「万年!?」

「驚いてる暇は有りませんよ博士。

 今、主が彼……『RAY』のコア深層プロテクトを解除しました。」

 

 

 そう言ってフィーは光で出来た扉を展開する。

 

 

「これですか?

 コアの深層領域へ行く為のものです」

「へぇあ!?こんな簡単に行けるようなものなの!?束さんだってまだ結構なフィルター越しで突入出来るってレベルなのに!?危険だけど生身で行けるの!?」

「とある世界線で特殊な粒子機関を扱う者が居て、そこから伝わった技術により可能となったのがこれです。」

 

 

 束は様々な世界を渡って来ただけはあると考え、創る者として非常に気になる所。しかし今はやるべき事がある。

 

 

「ある意味裏技のようなものです。何時までもうだうだしてると彼による妨害がはいりそうなのでとっとと行きますよ。入る時はISを解いて下さい。さあ、私に続いて。」

 

 

 

 そう言ってフィーは光の扉を開け、中へ入る3人。

 眩い光を超え、数秒もしない内にソコへ着いた。

 

 

「何これ?」

 

 

 束は目前の光景に狼狽える事しか出来なかった。

 その光景、水平の彼方まで血の海。虚空より流れ落ちる血の滝……一面の血の獄。

 

 

「.......っ。失礼」

 

 

 フィーが束に触れると天照が自動的に展開され「意識を強く保って」と、続けて言われる。

 

 

「これは超汚染深層領域、この世界のISには起きていない現象です。貴女の天照なら纏っている間は精神が安定する。」

 

 

 これは澪が持つ罪の形だ、そうフィーは言う。

 罪の形は人それぞれで違う。澪の場合その形が形の無い血液になった。そして膨大に認識した罪の数がこの環境をつくりあげた。

 

 

「彼は敵対してきた者たちの未来を、殺して奪ったことも無意識的に罪としてカウントしてた。融合存在故に持つ超外的記憶力が、罪の意識を重ねるキッカケになってしまった。」

 

 

 続けて言う。彼のこの罪の認識はズレている。認識の違いが更なる負荷になっている。そう言って指差す方角に束は目を向け、血で出来た無数の剣に頭部以外を隙間無く貫かれた澪を見た。

 

 

「普通の人だって人を一人殺せばとてつもない罪の重さを自覚し、自分を追い込み果ては自殺行為に走る。

 破壊の英雄と言われた彼、個人で歴史上で最も人を戦争とは言え殺して来た。彼も人の子、その心は?復讐の為に生きて来ましたが、やってる事は悪であると認識し続けている。」

『英雄だから正義では無い。

 正義であるから悪ではないという事は無い。

 主はソレがどうあれ悪だと、罪だと認識していた。』

 

 

 

 

 

──────何しに来た。

 

 

 血染めの世界に男の声が響く。

 

 

「れーくん!」

『主!』

──────世界を閉じる。そうすればもうあの世界に俺は戻らずに済む。

 

 

「何言ってるの!?君は生きたいと願ったんでしょ!?」

──────死んだ奴が喋っちゃ駄目なんだよ。

 

 

 

 澪の言葉は嘆きの叫びに近いものだと、この場にいる者は感じた。死人に口なし、だが澪は今ここに生きている。

 

 

「でも君は生きているじゃないか!

 どうしてそこまで死のうとするの!?」

 

 

────復讐の為に生きてきた。だが、もう終えてしまった。燃え尽きたんだよ。燃え尽きた灰にもう火は灯せない。

 

 

「だからって、せっかく生き延びたのにっ

 また歩める事が出来るというのに放棄するの!?」

 

 

────俺の存在はもうあの世界には手が余る。それは、この領域に至った.......確かOG領域ISか。それらでも比較出来ないんだろ、俺は。

 

 

 その通りだった。

 現在の地球圏にあるOG領域IS、今ここにある『天照』を除けば『夏の思い出』・『天椿』・『真・甲龍』の3機である。OG領域IS2機に準OG領域IS1機、その中でも天椿は澪の力を借りている。だがしかし、それでも澪と同じ領域までは辿り着けなかった。 束の『天照大神』の肉体が耐えれる稼働可能域まで達して漸くかという所なのだ。

 天照大神の大きさ、そして人間が耐えれる領域を幾つも超えて漸くレベル。正直束はこの結果にたどり着いた時、澪と霧崎の決戦による被害があれだけで済んだのはまさに奇跡だと思った程である。もう一度行った場合、数秒もしない内に地球そのものへ致命的ダメージが入ると思われる。

 澪の機体に関する情報公開は封じられているが、その他OG領域ISについては公表を義務つけられている。その中に現OG領域ISでも澪には届かないと記入しており、そのため地球圏に降りればどうなるのか分からない。

 

 

────俺の予想が正しければ、俺が動けば地球圏全体が緊急事態になる程の事になる。いくら時代が動こうが、特定の巨大国家は間違いなく矛を向けるだろう。

 

 

 それも間違いでは無い。世界は良くなったが、未だにアメリカをはじめとする中国やロシアと言ったIS大戦後も健在である国家。それらは未だに軍事力を求め、特に中国はIS大戦後何度もIS開発において不祥事を起こしている。他国のIS技術や機体データを盗み、一歩間違えたら大惨事を引き起こす事を絶えず行っている。 澪が戻ったら中国は間違いなく何が何でも鹵獲しようと動き、そういう事をしたら澪は間違いなく破壊尽くす。

 アメリカは澪と関わった亡国所属パイロットを経由し、ロシアは国内にて行われた戦闘とその映像から手を出したらどうなるのか理解している。その為矛を向けるのは中国だけだが、今の澪が地球圏で戦闘を行ったら大陸一つ焦土に返すのは容易い事だ。

 

 

────俺は霧崎の奴を殺せれば良かったんだ。だからなんだって贄にし、力を求め、この手から欲したものと大切なものを零した。

 

 

「私にああ言ったのに?」

 

 

────そうだ。俺は1秒でも早く消えるべきだし、そうしないと俺から生まれたアレが余計な事をするだろう。

 

「.......巫山戯んなよ」

 

 

 

 

 私は今、人生において1番ブチ切れていると思う。

 

「なんなんだよ君は!!!!」

「っ!?解いてはいけません!!」

 

 

 天照を解き、気持ち悪さと罪の血が襲い掛かるがなりふり構わず目の前にいる澪に近付く。

 

 

────何やってんだ

 

 

「五月蝿い!!!!

 さっきから聞いてればなんだよ君は!!!!

 

 出ること言うこと全て他人の事じゃないか!?

 私が聞いてるのは君の事だよ!?分かる!?」

 

 

 

 何言っても自分の気持ちを何一つ言いやしない。他人の心配ばかりして自分の心を押し殺し、本心を露にしない。

 

 

「そもそも私がここに来たのだって、君に感謝を言いたくてきたんだ!ココに来れない地球に住む君に感謝している人々全ての代表として、全てを届けるためにここに来たっ」

 

 

────そんな事の為にもう戻れないマネまでしてここに来たのか??

 

 

「そんな事?君にとってはそうかも知れないけど、君によって救われた人々にとっては違うんだよ。

 

 私だってその1人なんだよっ!?君があの時言ってくれた言葉が、どれ程私にとって重要で救いになったのか!私の人生に意味を与えてくれたのか!」

 

────.......

 

 

「あの頃の君はもう後ろを見る事も、他人の事を見ることも辞めたから分からないだろうね!!

 だから受け取ってよ私達の想いを!!!」

 

 

 そう言うと天照の右腕が輝く。

 私の拳が向かう先は一つ。

 

 

────うごっ

 

 

 れー君の左頬に拳が直撃した。

 

 




次回予告

人類は負の歴史である。
いつもそこに、隣にそれが付きまとう。

しかし、同時に愛と希望の歴史である。
何時の時代も願いを込め、人を好きになり愛を宿して祝福を込めて未来へ望みを託して歴史は前へ進んだ。

人は何時だって変われるのだ。
何が原因で変わるのかは分からない。

だからこそ、その時は来る。

下を向いたって。
絶望に沈んでも。
突然這い上がる瞬間が訪れる。


「さあ手を伸ばして」

「描いて、君の物語を。」


次回予告=覚醒の時=


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覚醒の時

人が変われるのはいつ?

それは誰にも分からない。

けれどそれは突然やってくる。

だから人は面白いのだろう?


 

「ちょ、ええ!?何やってんですかぁ!?」

「とりあえずこれで良いはずだよ。」

 

 

 ノーネームが叫び、フィーはその光景に黙る。束の渾身のストレートが俺に直撃。あまりの威力に身体に突き刺さる血の剣をへし折りながら吹っ飛んだ。

 血溜まりに沈む俺の真っ赤な視界、その全てが突然眩い黄金に包まれた。さらに全身に突き刺さっていた血の剣も全て消えた。その現象に俺は戸惑いを隠せないのだが、更に突然様々な光景が浮かび上がっては消えていく。

 

 

─────こ、れ……は……

 

 

 それは祈りである。

 かつて俺が戦地で、街で、どこかで、世界を回った時に助けた、名も知らぬ誰か。あのクソッタレな世界に抗う中、理不尽から傷つけられない様にその場に居合わせ助けたもの達。

 

 

─────体が軽い……?

 

 

 それは願いだ。

 俺なんかの為に、安らぎと無事でありますようにと。今の俺にとってあまりにも優し過ぎる、甘美でもある優しく暖かい願いだ。

 

 

「ぐっ……それが地球の人々が君を思う『心』だよ。」

 

 

 無理をしてフィーとノーネームに支えられながら、束はISを展開。苦しげに言い続ける。

 

 

「君は復讐のためにあるべきものを捨て、全てを置き去りにして、さらに人としての持つべきものさえ炉に焚べてしまった。君の体を操ってる奴が言う通り、今の君は何も残っていない、残りカス.......文字通り灰だ。

 

 

 けど君はただの灰ではなく、人とISの融合存在。『機械としての側面を持つ』故に、新たに与える事ができるってことを忘れてないかい??」

 

 

⟬感情プログラムインストール完了⟭

 

 

「ISを、更に言えばコア人格を造り上げたのも私だ。

 感情は勿論、無から心を生むことだって出来る.......伊達に天災って言われてないよ。」

 

 

 頭の中に光が駆け巡る。

 これは、このかつてないほどの『希望の光』は見た事がない。

 

 

『あんたのお陰なんだよ!』

『世界のためにありがとう!』

『わたし達を助けてくれてありがとうおにーちゃん!!』

『あなたのお陰で子供達が助かった、本当にありがとう!』

 

 

 眩し過ぎる。

 俺には、今の俺にはこの光は.......希望はあまりにもあってはならないっっ!!

 

 

「れーくん」

「主」

 

 

 ノーネームと束が呟いた。何を言いたいのかは分かる。

 でも、駄目なんだよ。俺は、もう生きて何をすればいいのか分からない。アイツを殺すだけにその生を注いで来た俺は、殺した相手がいない人生が分からない。余すこと無く血で汚れた俺があんな眩しい世界で生きて良い理由なんて.......無いんだよっ!!

 

 

「きっと眩しいんだよね。でもそれが今地球に生きる、君に感謝してる人々が持つ気持ちなんだよ。君が自分をどう思ってるのなんか私には計り知れないけど、同時にそれと同じぐらい皆から君への想いはある。」

「俺は、それでも己を肯定する事は出来ない。」

 

 

 口が動いた。久しく動かしたその口からは、その様な言葉が出てきた。

 

 

「主が目的の為に生きていたのは知っています。目的がない人生がどんなものか、造られたモノである我々IS側にとっては理解出来ないものです。

 でも、目的がない『自由なる人生』という果ての無い縛りの無い生き方があってもいいと思います。」

「俺、は.......」

 

 

 駄目だ。戻ってしまった様々な感情の前に、俺は前を向くことなんてできない。

 

 

「奪った。命を。道を。

 嫌々で戦っていた連中を殺した。そいつらは本来生きるべき人間だった。でも、俺が殺した。」

 

 

 あの馬鹿どもに逆らうことが出来ず、嫌々で出て来た連中も居た。アイツら殺さず見逃すことだって出来たのだ。しかし、あの時の俺は殺した。1人残らず、俺の前に出てくる連中は全員殺し尽くした。見逃せばよかったのに、俺は.......。

 

 

「だったらそいつらの分も生きればいい。」

 

 

 突然背後から声が聞こえた。

 久しく聞く己自身の声、原点たる俺の声だ。

 

 

「ア、アンタはっ」

「よう。湿気た面してんな。」

「アンタにだって、分かんだろ。俺の気持ちが。」

 

 

 俺自身だからこそ、今の俺と同じような事になった事はある筈だ。だからこそ俺の気持ちがわかるはずだ。

 

 

「確かに、俺も1度は今のお前に近い事はあった。

 よくある話かもしれんけど、自らを傷つける事だけが償いじゃあねえんだよ。」

 

 

 俺だから分かる、これは本来の素の口調だ。

 本心のままを今、俺に向けていっている。

 

 

「生きれなかった分を、見れなかった光景を、知る筈だった分を。奪ってしまったもの達の分をお前が経験するんだ。

 結局それも自己満足でしかないとも言えるが、お前をここまで慕ってくれる奴らが居る。」

 

 

 そう言ってノーネームと束を指さす。

 あれ程素の自分を見せなかった俺が、態々晒してまで俺に言う。必死なんだと、理解出来る。俺とノーネームは人生単位での相棒であり、束はもう二度と帰ることが出来ないだろうにここに来た。

 しかし、どうあれ俺は..............

 

 

 

 

 なんだあれは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 この場にいる皆がゾワリと、背筋が凍るような殺意を感じた。その視線は束……の背後にヌルりと出現したRAYだった。

 原点たる澪でさえそれに驚いた。己の索敵能力を持ってしても、RAYの存在に気付けなかった。そして、RAYは淡く光る右腕を束に振るっていたのだ。

 

 

 ノーネーム、完全に出遅れている。

 フィー、ノーネームよりは先に動き出してるが間に合わない。

 原点たる澪、本気で動いた場合この場の全員吹き飛ばしてしまうため間に合う速度で動けない。

 

 

 

ドン

 

 

 

 束は皆が自分を迫真の表情で見つめ、何かをしようとしているのを見た。そして、背後に途轍ないエネルギーを感じ取って理解した。その時間1秒にも満たない刹那的時間、それ故に次の行動がわかる。

 己はRAYに殺されるのだと、ここまで来て殺されるのかと理解した。でも身体を引き裂く痛みは来ず、代わりに突き飛ばされた衝撃が来た。そして、衝撃が来た方向を見れば澪が胸部を切り裂かれていた。

 

 

「れーくん!?」

 

 

 あくまでも今の澪は実体のないエネルギー的な存在だ。速度は澪が出せる限界まで一瞬で出せる。だから間に合った。だから身代わりになった。血に沈む澪を束が抱える。

 

 

「駄目だよ.......せっかく会えたのに.......れーくん?返事してよ!?ねぇ!?」

「やはり、貴方達でしたか」

「っ、貴方は!!!!」

「なんという事を!」

 

 

 原点たる澪がフィーへ手で合図し、瞬時に澪と束、さらにノーネームを光の膜で覆う。フィーは激昂し、RAYに向けて叫ぶ。

 

 

「RAY、貴方は己の核を失えば存在が消える。

 それを分かっていながら何故!?」

「何故?そんなの簡単です。

 意識が有るから駄目であるのなら、意識が無くなる1歩手前を保持すればいいのです。ならば多少傷つけた所で問題は有りません。」

 

 

 原点たる澪はRAYが放つ感覚が、先程までのものとは違い純然たる邪なるモノになった事を感知。

 もはや目の前の存在が外界に飛び出したら、その先は惨状を生むことが目に見えている。

 

 

「鍵は博士の手に揃った。

 時間は稼ぐ、頼むぞ博士。」

 

 

 全力全開で奪い去るつもりのRAYを前に、原点はそう呟いて守るべくためその体を動かす。

 

 

 

 

 光の膜の中、フィーはRAYに斬られて存在崩壊を起こす澪の存在固定に勤しんでいる。フィーには本格的な処置は出来ない。あくまでも応急処置レベルの為、どうにか維持出来る位しか出来ない。

 

 

「RAYとやらは主を吸収、それにより存在固定を完了するつもりです。もうここまで来てしまったのですから、束博士は今すぐ奥の手をお使いなさい。いくら私でも魂の補填は完璧では無いのです。」

 

 

 フィーは原点の言葉により束には奥の手があること、そしてそれを使えば必ず助かる事を理解している。ただフィーからしてもそれが何なのかは理解してないが、主たる原点がそう言ったのなら信じるしかない。

 一方束は奥の手と言われたが、そんなものは無い為その知識をフル活用してどうにかしようと考えていた。

 

 

「……もう良いんだ。放っといてくれよ。」

 

 

 澪が目を覚ましそう言うが、苦しそうに呻く。それと共に形が崩れる。

 

 

「馬鹿言わないでよ!?

 絶対助けるんだから!!」

「っ、この期に及んで何言ってんだてめぇ!!

 俺に関わったからこうやってお前たちまで死ぬかもしれねえんだろ!?もうヤダなんだよ、俺が守ろうとしたもんは俺の目の前でいつも傷つく!!また俺の前で傷ついて行くのはもううんざりだ!!」

 

 

 束の発言についに澪が吠えた。

 澪の人生は守ろうとした者が、常に己の前で傷ついて理不尽的に死んで行った。住んだ街のもの達、IS学園でのラウラや更識楯無と己に関わった親しいもの達が傷付いた。感情が戻った澪にとって、それは死ぬ事よりも恐ろしい事なのだ。

 

 

「だからって、生きる事から逃げるなよ!!

 君のおかげで私はまた前を向けた!!そして歩むことが出来た!!

 

 

 君はっ、私の希望なんだ!!私にとってこの世で一番大事な人なんだよ!!生きて、生きて欲しいに決まってんだろ馬鹿野郎!!!!!!!!!」

 

 

 

 澪にとってその告白の様……否、そうではなくはっきり言ってそれは告白である。余りの衝撃で思考が停止する程だ。

 

 

「なっ、あっ!?」

「わ、我らが母……それは……??」

 

 

 ノーネームもこれには驚き目を丸くする。

 フィーは予想外の発言にあらあらと呟いている。

 

 

「君に目的がないのなら、私と共にこれから先を歩んでよ!!生きて君が奪ってしまった連中の分まで私と一緒に生きてよ!!ここまで言わせてまだ死ぬ死ぬって言うのかい!?」

 

 

 

 いくら澪でもこれがもう『愛の告白』である事は理解した。澪自信まさか己が束にとってそこまでの存在になっていたとは考えた事がなく、さらに言えばここまで想われているのに……

 

 

「告白なんて初めてなんだから!!ねえ、どうなんだよ!?」

 

 

 顔を真っ赤に染めた束。

 未だに束を見てあらあらと呟いてるフィー。

 あわあわとどうしたものかと慌てるノーネーム。

 

 そんな彼女らを見ていた澪は、フハッと声を漏らす。

 自分に対して愛を抱いて、尚且つ盛大な告白と来た。あの天災と呼ばれた女が、こんな己にそんな大事な想いをしていた事に様々な感情が渦巻いた結果が笑う事だった。

 

 ならば立ち上がるのが己であると分かっている。

 

 

「……参った。参ったよ!!

 全く、ここまで言われて断る奴なんていねぇよ」

「れ、れーくん??」

「主!!」

「束、何とかできる手段あるんだろ?」

 

 

 澪の突然の切り替えに流石の束が狼狽えた。

 先程まで絶望に沈んでいた、死んでやると消えてやると言っていた男が突然こうなれば束だって驚く。それに対して澪がバツの悪い顔で喋る。

 

 

「俺だって、男だぞ。

 こんなに想われて、振るような考えは持ってないし……それに」

「それに?」

「必死なんだって、束の願いが眩しくて美しくて羨ましかった。だから、応えてやらねえとって思ったんだ。

 だからといって俺の抱えた気持ちが晴れた訳じゃねえ。けど、ここまで来る大馬鹿者の愛を受け止めないってのは無いだろう。」

 

 

 澪はだから頼む、そう言った。

 束はそれに涙を浮かべながらうんと応え1つの白銀に輝くISコアを展開し、澪の頭に当てた。

 

 

「これは君のために作ったISコア。

 君への願いと祈りを元に造られたこの世に2個と無いオンリーワンの第三世代ISコア『神の心臓』……最果てに至った君へ適応する出来る為に造ったんだ。」

 

 

 澪は光となってISコアに吸い込まれながら束の言葉を聞く。

 

 

「これに入る事はあの体とは縁が消え、このコアがもう君の体だ。だから描いて。

 ネームちゃん達と共に、君だけの物語を。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主、こうやってまた貴方と共に歩める事を誇りに思います。」

 

 

 RAYへと至る時、あの日みた黄昏の空間に俺とノーネームはいる。あの時は俺一人だったが、今回は違う。

 頼もしい、始まりのあの日から着いてきてくれた大切な存在がそこにいる。

 

 

「俺にはもったいないくらいの相棒だ。

 ……また、着いてきてくれるか?」

 

 

 今は1つになってしまったが『ノーネーム達』が居る。一人では無い。かけがえのないものが俺にはいる。それを知覚できている。先程まで失意と絶望の中にいたのに、それを認知してから変化した。

 

 

「喜んで!!」

 

 

 ノーネームの手を握り、束が言った言葉を思い出して創り出そう。

 心の底から生まれる無限の光を。胸に灯るこの火を炉にくべて鋼の体を打とう。

 

 語ろう。

 叫ぼう。

 祝福の言葉を。

 

 

「俺を見た。」

「我々を見た。」

 

 

 見つめ合う。

 目と目を合わせ、互いの存在を確かめる。

 

 

「お前らが居る。」

「主が居ます。」

 

 

 知覚する。

 認知する。

 離れないように、離さないように。

 

 

「孤独ではなく」

「お独りではなく」

 

 

 手と手を握ろう。

 命の鼓動を確かめる。

 

 

「「皆が」」

「「1つに」」

 

 

 目覚めよ『名前無き破壊者』

 覚醒せよ『殲滅』

 

 

「至れ」

 

 

 昇れ別次元へ

 至れ『RAY』

 

 

「飛ぼう」

 

 

 破れ殻を

 羽ばたこう未来へ。

 

 

「希望を」

 

 

 束から受け取った愛を胸に。

 

 

『未来へ!!!!!!』

 

 

 星の鼓動が響いた。

 

 

 

 

「ぐがっ!?」

「やったか。」

 

 

 目の前のRAYが呻き、膝を着く。

 原点たる澪は束達が成功した事を理解し、まさか愛の告白で立ち直させるとはと呆れ半分に感心していた。やはり心に響くのはまた同じ心の力なのだと。

 

 

 

「主、先に現実空間へ戻ります」

 

 

 束とISコア、それにフィーがこの空間から脱出した。この空間の所有権が澪であったがあのコアへ移った事により、RAYと澪のリンクが途切れ空間の管理権利がRAYに渡った事を原点からフィーに伝えられる。そのため『澪以外を排除する』事が考えられ、早急に現実空間に戻ったのだ。

 

 

「きっ、さまら……!!」

 

 

 原点たる澪を睨む。リンクが切れた事によりこれより先の領域へ進むことは出来ず、RAY程の存在ではあるが存在証明が保持出来ない為少しずつ崩壊が始まった。

 

 

 

「見誤ったな。」

「あんな、所詮は『オリジナルの再現体』如きにここまで……ここまでやられるとはっ」

 

 

 それは澪のことを示していた。

 RAYの言う通りあの澪は本物では無い。少なくてもその身体はRAYが記憶から読み取り、それを模して造られた限りなく本物のに近い再現体。

────だが、RAYは一つ重大な勘違いをしていた。

 

 

「身体は偽物であって、本物では無いとしてもだ。

 その魂の輝きは本人だぜ?」

「あの魂は残っていた残滓を掻き集め、身体は完全に私の手で造り上げた。その全て私の手で造り上げた創造品、限りなく本物に近い再現体という名の偽物……それ以外有り得ない」

 

 

 『生前の澪』に会ってるからこそ、その魂の輝きが本人だと原点たる澪は理解していた。

 

 

「まだ『魂魄技術』を確保出来てないからわからんと思うが、アイツの魂はお前のお陰で『100%榊澪本人の魂』として元通りだよ。その技術が無いのに魂魄補強技術に挑んだ、そして成功したそこんとこは褒めといてやるよ。」

 

 

 いずれ達する世界において『魂魄』に対しての技術も生まれ、人は言わいるオカルトの領域たる魂に干渉する事も科学技術で出来るようになった。原点たる澪はその技術を収め、その体にそれを行使する為の道具や機能一式を組み込んでいる。

 その技術はISMDドール『ファランクス』との戦闘後において、魂そのものが傷ついていた澪に対して既に使われている。それをRAYは一人で生み出し完成させた。これには原点も驚き賞賛した。

 

 

「身体偽りなれど魂の輝き死なねばそれ即ち本物。

 とある世界の英雄もそうだった。お前はどう思う?」

 

 

 出てけ、そう言われるような波動を受け弾き出される様に空へ打ち上げられる。原点たる澪に意味が無い行動をしてしまう、それこそ精神的に追い詰められ焦っている証拠である。

 原点が現実空間に出た時RAYは少し早くその意識を浮上させ、束の近くに浮遊する希望たる黄金に輝くISコアへ向けてその手を伸ばす。再度吸収し、自己存在固定を図ろうとするが束がその身に纏うOG領域ISの武器たる刀から放つ極太エネルギー波でRAYを薙ぎ払う。

 

 

「絶対に渡さないっ!!」

「おのれぇえぇぇっ!!」

 

 

 人間が放つ量を遥かに超える怒気、それとここにしてずっと隠して来た『愛』がその心を突き動かす。渡さない、離さない。その心が束を奮い立たせる。

 RAYは完全に格下である存在に邪魔され、精神状態は荒れに荒れている。本来敵わない筈の束でさえギリギリ反応出来るほどには杜撰な動きになった。

 

 

「フィー、戻れ」

 

 

 原点の言葉に反応し、体の中に戻る。

 珍しく困惑するフィーに対して「必要だからね」と、いつもの口調に戻して言う。

 

 

『我らが母は肉体レベルはあれど戦闘経験があまり無い。

 それも格上とは尚更……そういう事ですか。』

 

 

 束とRAYの攻防戦を見ながら、未だに光を強めるそれを見る。

 

 

 

「覚醒の時だ。

 希望よ、高らかに産声を上げろ。」

 

 

 

 光が空へ昇った。

 




最終予告

復讐から始まった物語
それは命の終わりを持って終焉を迎えた。

だが終焉を迎えた命は愛を知る。
天災の手は心を創り
心は手から灰の男へ伝う。

地獄を見た。
絶望を知った。
悲しみを知った。
罪を背負った。
───光が差した。

前を向いた。
上を向いた。
誰かと歩むことを知った。
想いを伝えられ愛を知った。
灰から命が芽吹き、火が昇る。


これは破壊の奇跡である。


次回=無限の旅路=


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無限の旅路

歩みは止まらない
その意思がある限り。


意思は光である。
だからこそ
宇宙に星が有るのだろう。


光たる星は未来。
それ故に私は手を伸ばし
掴んだその手を離さない。


 

 ISコアから黄金の波動が放たれた。

 それは束をすり抜け、RAYを弾き飛ばす。

 束は初めて見る現象、それと共に検知される圧倒的エネルギー値に驚く。軽く検知されただけでも超新星爆発を優に超えるエネルギーが、コアから今この瞬間も解き放たれている。未開ににて未知の光景が、束の目の前で起きていた。

 

 コアは空高く飛び立ち、一際強く光り輝いた。余りの輝きに束は勿論RAYであっても目を逸らした。

 

 

「俺は」

 

 

 そう頭上から声が聞こえる。

 それはまた語る。

 

 

「俺を想う人の為に生きる。

 罪も咎も全部宿して前へ行こう。」

 

 

 各所に黄金の結晶、白い装甲の肌。

 人を、ISを超えたRAYをも超える。

 しがらみを超え、呪怨さえ吸収して前へ進む為の身体。

 

 

「その前に邪魔をするお前がいる。

 だから、ぶっ倒して俺は未来へ行くッ!!」

 

 

 

 原点は新生した澪の姿を見て、今まで感じたことの無いゾクゾクする程の感謝を感じている。何故か?

 

 

「見た事ないっ!!

 俺も見た事のない未知の姿!!!!」

 

 

 数百世紀先の時代でも見た事のない、計測出来ない文字通り『未知』の存在。原点たる自分から派生した世界だとしても、そこから自己を超えるかも知れない己自身が出たのだ。喜ばないはずがない。まあそれでもまだ自分の方が上だと確固した自信と、直感が働いてるのだが。

 

 

「フィー、博士を此処に」

「うわっ!?」

 

 

 間もなく始まる天井知らずの大決戦から束を護るべく、全力の防御フィールドを展開する。

 

 

「博士も罪な人だ。

 あんなやり方では誰だって同意するしかないじゃないか。いつからだい?」

 

 

 原点は割と本気で気になっていた。

 色々な世界を渡ってきた。その中でもこの世界線のような破壊と憎悪的な己が居るような世界線で束が澪と結ばれる事は見たことが無いし可能性は皆無であると判断していた───────今までは。

 平和、共闘、混沌.......破壊世界線以外でなら確認は出来ていた。しかし、こうして1例目が出たことがあまりにも興味深かった。

 

 

「──れー君に、初めて会って私の発言に肯定してくれた時だよ。あんな真っ直ぐ、ストレートに言ってくれたのは初めてだった。親からも無かったのに、れー君はちゃんと言ってくれた。赦してくれた。こんなの好きになっちゃうじゃん!!」

 

 

 恋バナとかいう甘ったるいものにあまり耐性がない為、砂糖の山を飲むような甘ったるさと思いの外純粋な気持ちを話され原点は戸惑った。

 篠ノ之束はその他の追随を許さない圧倒的能力により、あくまでも一般の認識領域から出ない人間では受け止めることが出来なかった。1を知って1を生むのが一般人であるなら、1を知って100を生むのが『天災』篠ノ之束である。元親友たる織斑千冬も近しい能力を持つ故からであり興味深いだけ、正面から受け止めれることは無かった。それ故負い目が有り興味深く己に対してドストレートな発言をしてくれる澪という存在、それは余りにも効きすぎたのである。普通ならそれで!?となるのだろうが、そこは天災だからこそなのかズレていると考えればいい。

 

 

「あー、もう始まるから。そこから先は本人に言ってやりなよ。」

 

 

 高まる力の波動。

 黄金色と暗い闇の黒色。それが今、弾けた。

 

 

 

 金色の流星が月空を駆ける。

 それに併走するように全てを塗りつぶす闇が駆ける。

 

 

「っおお!!!」

「っ!?」

 

 

 金色を纏う拳が漆黒の脚と衝突。それだけで星が崩壊するエネルギーが放たれ、世界に亀裂が入る。ただでさえ不安定になり閉じようとしていた世界が、戦闘により最早維持する事が出来なくなっている。ただ澪は束が原点によって完璧に護られているのを理解してるから、その力を大いに振るうことが出来ている。

 

 

金の戦爪(ゴルディオンファング)

 

 

 円と十字架を合わせたような浮遊固定部位『サンクロスユニット』から、金色の爪が射出される。黄金の風は夜の闇を払うように明るく照らし、邪悪なるものを蹴散らす。

 

 

「壊滅廻槍」

 

 

 それは滅びそのものだ。エネルギーや空間諸共消し飛ばす滅びの一撃。滅びの螺旋と黄金の風が衝突。余波で空間の歪みが強くなる。さすがに不味いか?と考えた澪に原点から『この空間の維持は任せとけ』と通信が入り、ギアを更にあげた。

 互いに光速1歩手前。しかし秒間数十回の撃ち合い、分間数百もの攻防が行われる。

 

 

 

「てめぇが俺から産まれ、俺を本当に心配していたのは理解していた。」

「っ.......そうです!貴方はもう充分苦しんだ!悶え、地獄の業火に焼かれ.......血の獄で蝕まれ続けていた!誰にも分からなかった、今の今までその心の底を誰にも覗かせなかった!

 その身を焦がす程の怒り、痛みに貴方は何時も苦しんでいた───なのに、なぜまだそれでも前へ進もうとするのです!?貴方はもう立ち止まって休むべきなのです!!」

 

 

 黄金の一撃と漆黒の一撃がぶつかり、世界が激しく揺れるがそれでも互いに止まらない。止まれない。

 

 

「それが本心で言ってる事だって分かる。

 確かに俺はもう止まるべきだった。そうだったんだよ。」

「そうです!!もう貴方はッ!!!!!!!!」

「でもまた、俺は前へ歩む理由が出来た。」

「っ、そうやってまた傷つく気ですか!?」

 

 

 一振で月程度なら簡単に切れるほどの黄金光剣、同じ様に月程度なら全てを飲み込んで消し去ってしまう闇の剣がぶつかった。

 

 

「貴方は無理やりでも、意識を無くしてでも止めないとずっと傷つく!確かに貴方が私の存在証明固定の必須要素であるからというのもあります、しかしそれ以上に貴方は少し動くだけでも結果的に致命的な迄に傷つく!!この世界で1番貢献した人間が、この世の誰よりも傷付くのは私が許せない。

 だから私は貴方を何があろうと、何をしようとここで止める!!!!」

 

 

 苛烈な閃光が走り、盛大に爆発する。

 黄金の流星が、闇の彗星とぶつかった。

 

 

「それでも俺は進む。

 その気持ちも、全部宿して俺は行く。」

 

 

 ◆

 

 どうしてなのか。

 私は目の前にいる己のオリジナルが理解出来なかった。

 

 オリジナルの細胞が持つ記録、オリジナルが持っていた記憶の始まりから終わりまでの情報。その中にあったのは痛みと絶望ばかりだった。絶望する前の記憶は憎悪によって、復讐の炎によってその大部分が破壊尽くされていた。

 

 同情した。哀れんだ。悲しんだ。

 これが生物が持つ一生であっていいのか?

 

 ダメだダメだダメだ!!!!!!

 こんな状態なのに前へ進んで、結果的とはいえ世界を救ったのに一人だけこんな目に遭うのはあってはならない。だから閉じ込める。私の中に。

 

 

 だから───────

 

 

 

 

「眠れ、黒曜大黒天宙.......!」

 

 

 俺の目からしてもヤバイとわかる。

 闇みたいじゃない。今俺の目に映る黒いモノは間違いなく『漆黒の闇』だ。空間すら食い潰す、これはさすがにやばい。どういう訳かRAYの体各所が光の反射をしない程......黒に染まる。そのままRAYから溢れ、世界を埋める終末の波を回避する。しかし、意志を持った様にその全てが俺に向かって来る。これは正しく単一仕様能力だ。ここに来て能力を開花し、その牙を向けてきた。

 

 RAYの言葉は本心であると理解できている。俺を思っての行動であるというのも。だからこそそれに感謝しよう。その想いに応えよう。

 

 新型ISコア『神の心臓』、従来通りだが出力開放状態の『G機関』。

 それに連なる第3の動力を起動させる。第3の動力である体の各所にある黄金結晶が眩く光る。

 

 

「『黄金希望機関』起動ッ!!」

 

 

 『黄金希望機関』、それは感情・精神反応エネルギー出力超高密度結晶機関。正と負の感情、その両方を取り込み超弩級エネルギーを精製する。G機関の様な永続的に超高出力では無く、精神や感情消費するため短期間に爆発的な勢いの出力が成される。 あくまでも名前通り正の精神や感情に超絶的な反応を示す機関であり、それによって出力は感情の昂り+正の感情により上がる。故に恒常的な超出力とはならない。だがしかし第二世代ISですらコレを取り付け起動すれば、単機で地球の大半を1時間とかからずに制圧できる程にその性能は上がる。尚その場合は搭乗者の安全は無いものとする。

 

 既にトンチキも良い所の機関だが、それが頭・両肩・両腕・胸部・両膝.......計8つ存在する。

 正確に示すと『神の心臓』『G機関』『黄金希望機関×8』をエネルギー源にして俺は活動する。今の俺は超弩級天文学的数、超新星爆発一つや十幾つじゃ済まないエネルギーを内包しているのと同じなのだ。さらに言えばこの黄金希望から生まれたエネルギーには一つの特性が存在していた。

 

 

「うおおおおぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 

 脚部にエネルギーを纏って更に金の戦爪をその上から覆い、高く高く飛翔する。 舞い上がり濁流の如く迫る破滅の闇を見て、その向こう側にいるRAYに飛び込む。

 それまさに地に落ちる黄金彗星の如く。

 

 

「極星光!!!!!」

 

 

 黄金希望機関から生まれたエネルギーは、それまで破壊特化であった負の特性に対し創造に近い正の特性を持っていた。このエネルギーを転用すれば物体の補填修復、簡単な物体の創造等が可能になっている。サンクロスユニットから展開される金の戦爪はこれにより生成され展開される。

 だからこそ、今のRAYにはこの力が1番役に立つ。

 破壊と創造、正と負は表裏一体。ぶつかり合えば消滅、それかそれに優る方が残る。

 

 

「ぶ、ち、ぬ、けぇぇぇぇ!!!!!」

 

 F.C.S.は今も搭載されている。更に底上げされ、その蹴りは対消滅を超え破壊を上回った。

 

 

「っ!? 」

 

 

 ぶち抜いた先にあったのは空間を破りながら迫り来る黒い壁.......恐らくあのエネルギーを使用した極太ビームなのだろう。それがぶち抜いた瞬間既に目の前にまで来ていた。

 

 

「借りるぞ織斑ァァ!!」

 

 

 あんまりいい思い出がない、一夏とあのクソ教師が使っていた技を真似る。手刀の構えを取り、黄金結晶の一つが融解して腕を多い結晶の刀を形成する。その上から金戦爪を多数纏い完成する。

 

 

「星震刀晶───────

 

 

 星が震い、そのまま地を裂き星を一刀両断出来るほどのエネルギーを内包する。そのエネルギーを解放し、それを結晶の刀身に全て凝縮。

 

 

──────────抜刀ッ!!」

 

 

 星の息吹が吹き荒れる。闇の壁とぶつかりほんの僅かに拮抗するも、難なく壁を越えRAYにそれが届───────かない。こちらが出来ることは向こうも出来る、そう言わんばかりにRAYも両腕から光剣を展開してこちらの攻撃を受け止めながら接近していた。

 

 

「必ず、貴方を.......はぁっ、止めます」

「それは出来ない相談だなぁ!!」

「っ、このわからず屋!!」

「それで結構!!」

 

 

 視界に収まるRAYの体、少しだがひび割れらしきものが見えそこから光が漏れ出ている。崩壊が加速している。俺が居ないから、俺から生まれ俺そのものであったRAYは器がかけた容器のように中身が抜けていく。存在という命が。

 

 

「そこまで止めたいのか」

「ふーっ……ふーっ!!」

 

 

 RAYの闇とも呼べる黒に怒りの赤が加わり、見覚えある赤黒の雷を放ち始める。もう言葉は不要、か。

 

 

「もう心配される事ない様に、俺の力を示そう。」

「────ッッッ!!!!!!!」

 

 

 言葉にならない叫びと共にRAYからこれまで以上のエネルギーが溢れ、触れた周囲空間ごと破壊する。情報にある俺の───RAYの段階変化……じゃないな。アレはそういう自壊システムであって意思のある今は出来ない。

 

 ならば、意図的な暴走か。

 

 

「……」

 

 

 RAYはもう止まらない。止められない。

 その為に全力全開の、それ以上の力で止めようとしてくる。ならば、こちらが力を抜いては無作法というもの。だからこそ全力で行こう。

 

 

「 イグニッションスタート!!」

 

 

 今、星が誕生する。

 

 

 

 その白い肌の様な装甲、それが白色金に染る。

 リンリンと、鈴のような音が鳴る。

 

 先程までのギラつく黄金では無く、静かにそこに存在するような存在感。

 

 

「単一仕様能力『天廻・太極之星』」

 

 

 不気味までに静かに発光し、正拳突きの構えをとった澪にRAYは構わず突貫する。それだけで空間が喰い破られ、世界が悲鳴をあげる。その速度により最早回避は不可能。

 しかし、澪がそう呟いたその時既にRAYは空間ごと殴り抉った。それを見た原点すら一瞬何が起きたか理解出来ずにいた。幸い原点は澪の発言が聞こえていたから、自分に似た技術を使っていると理解出来たそれ故に正解にたどり着いていた。

 

 

「成程」

「何が起きたの?」

 

 

 流石の束もこの一連の光景による答えに、未だにたどり着いていなかった。

 

 

「至って簡単だ。全機関のエネルギーを全て身体に回し、バグった能力上げをする.......それがあの光だ。それに加えて時結晶の力により引き出された事象干渉が果たされた。」

「んん?あの発光現象は強化形態って感じなのは分かるんだけど、事象干渉?言わいる因果逆転みたいな事をしたって事?」

 

 

 束の視点では、最初にRAYが先に動いて直撃は免れなかった。しかし実際の所はあとから動いたはずの澪が放った一撃がRAYに直撃していた。

 

 

「まあそうだな。元々あったISコアの搭乗者の願いを叶えようとする行動、それがそのまま単一仕様能力として作用している。さらに機体スペックや様々な要素が加わった事による結果がこの因果逆転って事。」

「……まさかここまで至るのは予想不可能だよ。もう武器要らないとかなんなのさ!?拳で空間ごと殴り抜く!?超人バトルとかじゃないでしょ!?というか単一仕様能力ここに来て発現したの!?」

「ハッハッハ。何を今更.......この場にいる連中全員人外レベルの超人だろうが。」

 

 

 束は澪が起こす現象の再現、それが出来ると思ってしまった事に白目を向きそうになる。束の中でも対消滅による応用技術はそれこそ遥か先のものだ。束からしても素材さえあれば理論上数十年先、なんとか出来るだろうってレベルである。時結晶の加工に成功してる時点で『おまえは何を言っているんだ?』となるのだが、たまたま加工出来てしまったからしょうが無いだろうとは本人の言い分である。

 

 

「面白い……俺を瞬時的に解析し、俺の中に眠るシステムの数々を把握してそこから現状生み出せる技術を再現した所か。」

「ねえ君あとどのぐらい技術持ってるの?」

「特異点系、概念再現系、天体現象再現系、次元干渉系……まあまだこれ以外に色々と。」

 

 

 流石に魂魄系という魂そのものに関しては言うのを原点は辞めた。これに関しては得た世界でも禁忌と呼べる技術であった為、己の中に留めておく事にした。

 

 

「本当にそれ化学技術なの?特に特異点系とかいうの。」

「───特殊なエネルギーを媒介する必要があるが、太陽系を飛び出した人類達の技術だ。

 まああの進化の徒連中には付き合ってられんが。」

 

 

 原点は脳内にあの光景を思い浮かべる。

 あの何処までも大きく成長していく、大いなる進化の化身とその信徒達。その技術は特異点の形成、領域支配と万物を手に操る。あの出会いは事故的なものだ。あちらとこちらの技術交換を果たし、世界の広がりを感じた。だが、あの次元世界とそれに連なる██が織り成すカオスは進化の化身と密接な関係であると思えた。……そこまで考えて原点は考えるのをやめた。あの意志に引っ張られては戻れなくなる。

 

 

「どういうこと?」

「……忘れてくれ」

 

 

 アレと関係を結べば、いずれ来る宇宙そのものとの戦乱に巻き込まれる。その因果は何処まで伸びるか分からないが、これだけは己だけでいいと原点は考え再び澪に視線を向ける。

 

 

「終わりが近いな。」

 

 

 原点から解析して得た技術再現。そして澪の今までの経験、神の心臓とG機関に加え黄金希望機関による可能性の未来から取得され、時結晶によって引きずり出される未知数という夢と希望の現実への変換。

 それでも原点には未だ及ばず、しかし今の澪は間違いなく枝分かれした可能性存在の中で1番強い。絶望に落ち、そこから立ち直って星になった希望の光は何処までも輝き続ける。それこそ闇を払ってしまうように。

 

 

「見せてくれ、羽ばたく希望……その光を。」

 

 

 

 

 周りの全てが遅い。

 いや……自分の周りだけ早く、速く、疾く。全てが光の様に通り過ぎ去っていく。

 RAYも『ほぼ同じ』領域に入るが、俺には届かない。数値で表すならRAYが100で俺は10000ぐらい違う。それでも死にものぐるいで迫ってきている。

 

「───────ッッッ!!!!!!!」

 

 

 もうRAYの罅割れた体は痛々しい、もう終わらせてやる。その苦しみを終わらせてやる。だから、もっと凄まじき力をみせてやる。俺の全てを解放しよう。

 今の俺が持つ切り札たる、至高の一撃を放つ解放コードを詠唱する。

 

 

「神を超え」

 

 

 背中のサンクロスユニットから極大の方陣が多数展開される。その一つ一つが超新星爆発同等のエネルギーを内包し、その数は目に見える範囲ほぼ全て.......数を数えることが馬鹿になる程。この一連の流れにより生まれた衝撃でRAYは10光年程吹き飛ばされる。

 今の奴なら数秒は掛かる。

 

 

「悪魔を超え」

 

 

 マントラを象る黄金希望機関七基から赤青黄茶緑金銀……合計7つの光が放たれる。展開された方陣も同じ様に発光し、共鳴して力が高まる。その波動だけで地球上なら世界が終わりを迎えようとする程の衝撃が発生、しかしまたもや原点から『耐えてやるから構わずやれ』と言われ続行し完成させる。

 

 

「全てを超えて頂へ」

 

 

 太極に至った。

 人類史上最高、原点以外の知的生命が放てる至高の一撃。完成すれば、距離も壁も関係なく目標に必ず当たり殺す拳。サンクロスユニットから俺の体を固定する為の次元連結杭が空間とその次元そのものを穿ち、放つ準備が出来た。

 

 

「天ノ至拳弓」

 

 

 名の通り己の体を弓とし、拳を矢とする。

 引き絞った拳に宿る力、それを殴る様に振るうと宿る力がRAY目掛けて飛んでいく。既にRAYが0.5光年程の距離に居たから、その飛んできた物体に宿る力に驚いた表情が見えた。今なら分かるが、RAYが扱うあの漆黒の物体及びエネルギーは『暗黒物質』と呼ばれる今の世界においても未だあまり判明してない宇宙にしかないソレ。ソレをエネルギーとして生成、俺と同じように利用している。

 暗黒物質を纏って突撃したそれは移動攻撃、攻防一体のそれはそれこそ今の地球側の技術でも耐えれる手段は無いし破ることも出来ない。しかし、俺が放ったそれは平然と突き破る。

 何が起きたか分からない表情、無情にもそのまま消えていく。しかし最後の最後に何を思ったかは分からなかったが安堵の顔をしていたのは見えた。そのままRAYは1片たりとも残ること無く消えた。

 消える時、口を動かし何か呟いた。しかし、それを理解することは出来なかった。だけどそれが安らぎであることに変わりないと信じたい。

 

 

 方陣も全て消え、黄金希望機関の出力も最低値まで下がる。今の攻撃にこの世界が耐えたが、それでももう崩壊が始まり次元収縮も始まっていた。

 

 

「良くやったな」

 

 

 原点が束を引き連れてやって来てそう言うが、それでもその言葉には『あれぐらい当然だろ』と言わんばかりの意味が込められていることに気付く。あえては言わない。だが、「おう」とだけ澪は応える。

 

 

「色々言いたいが……「れーくん!!」おっと!?」

 

 

 天照を纏った束が澪に抱きつく。

 この時すでに空間内の重力も消えていて、物質的法則が消えようとしている。

 

 

「ただいま」

「おかえり」

「───フィー、アレを」

 

 

 澪の視界に『穴式世界移動機インストール完了』と、なにやら物騒どころかとんでもないものが勝手にぶち込まれた通知が入った。

 

 

「この世界に居場所が無いことは理解してるな?」

「ああ。今の人類に俺は毒でしかない。それに束ももう戻るつもりはなかったらしいしな。」

 

 

 原点が一息ついてから「この世界は宇宙へ旅立つ。」と言ってから、「もうお前達も旅立つ時だ。」とも言う。さらに景色が急激に暗くなっていき、澪のセンサーで感じられる範囲内の空間そのものが『無』に還っていくのを知覚する。既に1000km範囲まで空間が消えている。

 

 

「時間が無い、これ以上の言葉は不要だろ。

 使用方法は理解してるな?」

 

 

 原点の言葉に頷き、先程入れられた機能を起動。澪と束を包む様にエネルギーフィールドが形成され、二人の前方空間が歪んで穴が出来た。

 

 

「この世界の人類は幼年期の終わりを迎えた。

 子供は宇宙を知り、太陽系を飛び出し外宇宙へ。

 

 お前達の手出はもう必要ない。だからこそ、この世界から旅立つんだ。」

 

 

 起動したシステムに沿って移動先の次元を選定、そのまま決定し後は目前の穴に入るだけだ。

 

 

「これから先、起きるのはどれも未知、それを知る事はなんだと思う?」

 

 

 原点の問に束がすぐ応える。

 

 

「決まってるじゃないか、素晴らしい事だよ。」

「分かってるじゃないか。では、さらばだ。」

 

 

───次元移動開始

 

 

 

 無へ還る世界の中、澪と束を見送った原点。

 その瞳に映る世界を目に焼き付けていた。

 

 

「主、どうなされました?」

「んっ。ただ珍しい体験だったなと。」

 

 

 原点はこの世界での出来事を思い出す。

 

 

「いわゆる『破壊‪』の俺がこの世界だ。最終的に全てを破壊尽くす、人類が産んだ大厄災になるのがどの世界でもその‪選択‬に入った場合確定していた。」

「───確かにどう足掻いてもこの世界ようにはならず、世界の次元障壁もろとも事象の彼方に消し飛ばすのが当たり前でしたね。」

 

 

 破壊に特化した榊澪の世界結果。

 その最終的末路は何時だって世界を滅ぼし、『挙げ句の果て宇宙諸共次元崩壊を起こし全てを破壊』というものだ。その為多次元世界線に影響しないように世界線の接続を切って、その世界は無かった事になる。

 破壊の世界線において榊澪のISには『G機関』が必ず搭載され、精神や感情に干渉するシステムが高確率で導入される。実はこの2つの組み合わせは絶大であり、それによってより破壊に特化し攻撃性が極大化してしまう。

 さらに言えば名前と形状は世界線によって変化するも、榊澪が乗るISはサードシフト以上の形態移行が可能であり理論上限界が無い。これにより貪欲に破壊を望む搭乗者にあわせ、IS側もより破壊に特化して空間や次元といったものまで干渉する様になる。それが、破壊世界線の榊澪という人物───────だった。これまでは。

 

 

「本当に初めて見た。VTS事件の時、もしくはもう少し前の時点で世界が滅びを迎えても可笑しくなかった。

 最終的には攻撃性だけ見れば俺の次位だし、ISコアも最初期オリジナルでは無い新型オリジナル。尚且つエネルギー源が3種合計10基、俺から技術スキャンを行った事で生成された他世界の技術が影響して全体的な性能も俺の次。

 

 世界を壊した……しかし、新時代を創成するとは大したもんだよ。」

 

 

 原点は新しい可能性の誕生に心を震わせ、悶え、笑った。いつぶりだろうと思う。ここ数千年破壊世界線を見て来た中で初めて見たこの結末に笑わずにはいられなかった。

 絶望の中に希望はある。

 破滅の中に創造がある。

 

 

「ありがとうこの世界の俺よ。

 ありがとうこの世界の束博士。

 ありがとうこの世界の相棒、そして地球の仲間達。」

 

 

 だからこそ感謝した。

 原点一人の干渉では変わらない、それはこれまでがそうだった。結局変われたのはこの世界に住む榊澪と絡んでくれた人々による可能性の誕生、そして巡り会わさる運命。あと一つ言えば……

 

 

「なんやかんや、あんな表情初めて見たな。」

 

 

 恋を知って愛を知覚した束博士の顔を、原点は見る前に皆の前から去ってしまったから何れ見れると思えたその顔を見れたことが何よりも嬉しかった。

 暫くして数十km圏内まで消滅し始めたので原点はフィーに声をかける。

 

 

「行くか」

「……次は何処に行きますか?」

「思うがままに何処にでも、さあ行こう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人類は地球を飛び立ち、月に住む。

 母なる大地を飛び立って、人類の活動圏は月を超えてさらに太陽系全体に拡がった。それは束が最後に人類へ残した『RABBIT.ALL.OVER.SKILL』通称『兎の書』と呼ばれる束が持ち、今まで考案した全ての技術と今の人類が出来るだろう可能性的技術を纏めた黄金の英智が束が出発後に解き放たれた影響がある。それにより今まで以上に他惑星へのテラフォーミングや移住が本来の3分の2の期間で安全に実行出来るようになった。

 

 そうしてIS誕生から半世紀が経った。

 地球・月・火星・水星・木星の惑星を始め、その周辺宙域には多数のスペースコロニーが建造されそこに人が住む。

 勿論の事、平和ばかりでは無い。

 まず宇宙に存在する未知の細菌やウィルスといった未知の脅威、宇宙の自然現象等の自然災害への対策と対応。

 次に複数の衛星・惑星やコロニー群を含んだ超巨大組織が誕生、それによるいざこざで血が流れることがあった。しかし、それは過去の醜いIS大戦の結果を踏まえて同じ過ちを繰り返さないよう迅速に対応し問題解決に進んだ。

 

 

 さらに人類は太陽系を飛び出し未知なる宇宙へ挑む。

 この時ISが誕生し2世紀、人類は宇宙へ対応し新たな能力を幾つも開花。さらに進んだナノマシン技術により肉体レベルも上昇し、今では寿命は余裕で200年を超える。肉体的衰えもある程度克服した人類は未知という黄金を求める。

 

 

 その人類を見守るもの達が居る。

 

 

「ついに太陽系外に行く時が来たか。」

 

 

 『夏の守護者』織斑一夏。

 OGIS『夏の思い出』やその他数多の影響(主に束)により完全不老擬似不死存在となり、今でも抜かれることの無い力を保ち現人類最強の存在として君臨。

 

 

「果たしてどこまで行けるか」

「それはアイツらが切り開くことよ」

 

 

 『夏天の両翼』織斑箒・織斑鈴音。

 両者共にOGIS稼働影響や後天的処置により織斑一夏同様の存在に至り、ついでに織斑一夏とゴールイン。燻っていた一夏への恋心を先にゴールインしていた鈴が突っつき、箒もなんやかんやあって結ばれたのである(なお世間体)。

 両者共に一夏に次ぐ存在として人類の守護を行ってきた。

 

 

「俺達が護り続けよう。

 あの戦いが起きない様に、寄り添って行くんだ。」

 

 

 その日、人類はゆりかごから飛び出した。

 IS大戦後から始まる『黄金の時代』、太陽系地球外惑星に移住が始まった『太陽の時代』。ISが生まれて二世紀、その日ついに人類は太陽系というゆりかごを飛び出し外宇宙へと羽ばたいた。

 

 世紀の天災『篠ノ之束』からなるISによる混沌。

 起点の破壊者『榊澪』からなる破壊からなる創成。

 

 両者の線が結ばれてから始まった人類にとって史上最大の躍進はまだまだ続いていく。

 幼年期は終わり、これから人類は無限の荒野へ突き進む。そこに希望があるのか、絶望があるのかは分からない。しかし、そこにある何よりも眩しい未知である事は確かなのだ。

 

 

  

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくよれーくん!」

「手を離すなよ束」

 

 

───おわり



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