ラブライブ!~未来へ響く多重奏~ (朝灯)
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第1期
始まり


はい、どうも!
朝灯という者です。
これとは別にSAOの二次創作も投稿しています!
生まれてくるのは駄文ばかりかも知れませんが、頑張ります!


本来は女子高であるはずの音ノ木坂に1人だけ男子生徒の姿があった。

 

「なんでこんなことになったんだろうか?」

 

俺、八坂優は疑問に思いながらも校門をくぐり、理事長室へ歩いていた。

 

そこである少女と出会うところから俺の物語は幕を開ける。

 

「うわあああああああ!!!!どいてどいて~!!!!」

 

「へ?うわあああああああ!?!?」

 

もとい、ぶつかり幕を開けた。

 

「痛たたたた...あっ!?ごめんなさい!大丈夫ですか!?」

 

「う~ん...だ、大丈夫です。こっちこそごめん!」

 

「いや~ぶつかったのは穂乃果が悪いから...本当にごめんなさい!」

 

この人急いでるみたいだったけど...

 

俺は気になったので口に出してみる。

 

「そんなことより急いでるんじゃないの?」

 

「あっ!そうだった!海未ちゃんに怒られちゃう!」

 

「穂乃果~!!!」

 

「げっ!?海未ちゃんだ!...ごめん!穂乃果行くね!」

 

「あぁ、うん」

 

そう言って恐らく穂乃果という名前の少女は海未ちゃんと呼ばれる人物の元へ走って行った。

 

元気な人だな...俺も理事長室へ行かないと。

 

俺は再び歩き始めた。

 

「あなたが優君?大きくなりましたね」

 

「はい、このたび共学化計画の試運転としてこちらに編入します、八坂優です!お久しぶりです」

 

理事長室へ着いた俺は、どうも堅苦しさが取れぬ挨拶をしていた。

 

「そんな緊張しなくてもいいですよ」

 

そんな俺に理事長は微笑みながら言う。

 

相変わらず随分と柔らかい雰囲気の人だな...

 

「それで...今回この音ノ木坂を共学化しようと考えた理由はご存じですか?」

 

「はい。年度ごとに生徒数が減少し、やむを得ずという形ですよね?」

 

「その通りです。しかしまだ廃校のことは生徒には知られていません。今週中には張り紙でお知らせします。まずは様子見の段階であなたが選ばれるという形になりました」

 

「その...どうして俺だったんですか?」

 

まずその理由が知りたい。大体想像つくけど。

 

「あなたのお母さん、八坂美樹さんとは古い友人です。そこで美樹さんのお願いもありあなたを受け入れることになりました。これが理由です」

 

うん。予想通り。ここに来る数日前に自分の高校の教室に入ると俺の机とイスなかったからね?ついにイジメが始まったかと思ったよ?すぐに校内アナウンスで理事長...母さんから呼び出しかかった時、俺若干泣いてたからね?すぐに話聞かされて別の意味で泣いたけどな!!!

 

「それで俺は普通に過ごしてもいいんですよね?」

 

「もちろんです。あなたは学生です、十分に楽しんで下さい。私の娘とも仲良くして上げてくださいね?」

 

「はい、確かことりさんでしたっけ?」

 

昔...母さんの付き添いで俺は理事長と会っているがその時に同じくらいの女の子がいたのを覚えている。他に2人ほどいた気もするけどあまり覚えていない。

 

「はい、実はここに呼んでいます。そろそろ来る頃でしょう」

 

理事長がそう言うとちょうど外からノックが聞こえてきた。

 

「どうぞ。」

 

扉を開け、入ってきたのは理事長によく似て柔らかい雰囲気を持った女の子だ。

 

「お母さん、どうしたの?」

 

その少女から発せられたのはこれでもか、というぐらいに癒し効果のある声だった。

 

やべえ...天使!?

 

そんなことを思わざるを得ない俺がいた。

 

「この男の子、覚えてる?」

 

理事長はこちらに目線を向けながら、ことりに話しかける。

 

ことりはじっとこちらを見て、目を丸くする。

 

「ゆー君!?」

 

「あー...久しぶり、ことり」

 

どうやらことりも覚えていたみたいだ。

 

「ええ!?ここにいるってことは...ゆー君が今日から編入してくる男の子だったの!?」

 

大きな瞳を更に大きくしながら驚くことり。

 

「そうよ、ことりをここに呼んだのは彼に校舎内を案内してあげて欲しくてね」

 

ことりの質問には俺ではなく理事長が答える。

 

「そっか~...うん!いいよ!行こっ!ゆー君!」

 

ことりはそう言うや否や俺の手を掴み、引っ張っていく。

 

「ちょっ!?うわっ!?し、失礼しましたぁぁぁ!!」

 

後半ほとんど叫びながら俺はことりに引っ張られていった。

 

 

 

「それで?まずはどこに行くんだ?」

 

と言う俺に対しことりは首を傾げながら

 

「まずは~会わせたい人が2人いるんだけど...どこかなぁ~?」

 

来たばかりで知り合いのいない俺に会わせたい人?2人?

 

「お~い!!ことりちゃ~ん!!」

 

どこかで聞いた声がした。

 

この声は...

 

「あ、穂乃果ちゃん!ちょうど良かった!」

 

ことりを呼んだのは先ほどぶつかった相手、穂乃果だった。

 

「ん?あぁぁぁぁ!?さっきの男の子!」

 

「えっと...30分振り」

 

こうしてまた偶然にもすぐに俺たちは再開した。早すぎるだろ...

 

穂乃果のあとに続いていかにも凛とした雰囲気を持ち大和撫子を思わせる女の子も姿を現す。

 

「ことり!穂乃果!その方は?」

 

穂乃果の後ろに隠れながらその少女は尋ねる。

 

「穂乃果さっきぶつかっちゃって...」

 

「そうなのですか...申し訳ありません、穂乃果がご迷惑をかけて...」

 

「あぁ、大丈夫ですよ!」

 

この通りピンピンしているというアピールのため俺は軽く腕を回す。

 

「穂乃果ちゃん!海未ちゃん!この男の子見覚えない?」

 

俺を前へと押し出しながら興奮が冷めない様子のことり。

 

「ん?ええっと...」

 

「私に殿方の知人なんて...」

 

「「...あぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」

 

静寂からの大絶叫。綺麗な流れだな。

 

「「優(君)!?」」

 

え?俺の名前知ってるのか?

 

なんで?ことりは昔会ってるから...ん?昔...?

 

ことりと一緒にいた2人の女の子?穂乃果?海未?

 

「あ!思い出した!穂乃果と海未か!!」

 

こうして俺たち4人は小さい頃に会って以来の10数年振りの再会を果たしたのだった。

 




上手く書けているでしょうか?
急な思い付きでまとめもせずに執筆に至ったので、気づいたことがあれば編集していくつもりです。
今回は少し短めですが、アイデアがまとまり次第次の投稿をしたいと思います!
駄文ですが感想お待ちしています!


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編入初日

こんにちは!朝灯です!
1話のUAの伸びが思った以上で驚いています!
やはり嬉しいものですね!
それでは今回もどうぞ!


穂乃果、海未、ことりと別れてから俺は自宅に帰ってきていた。あの後再開を果たした3人に校舎を案内してもらって過ごした。

 

「しかし...まさか3人と再開することになるなんてな...」

 

3人ともすごい可愛くなってたな...それはともかく人生何が起こるか分からないもんだな。

 

さて、明日は編入初日だ!自己紹介でつまずかないようにしないとな!

 

俺は明日に備え、早めに寝ることにした。

 

 

 

翌日、俺は職員室で担任の先生と話していた。

 

やばい緊張する...

 

共学ならまだ問題はないだろう。しかしここは女子高、一応共学化試運転のことは生徒全員知っているはずだが...

 

「まあ、そんな緊張する必要ないぞ。私が適当に前振りするから上手く入ってくれ」

 

「は、はい!」

 

俺は先生に連れられ、自分のクラスの前へ。

 

「じゃあ、合図するまでここで待機な」

 

それだけ言うと先生はホームルームをするために教室へ入っていく。

 

さて、自己紹介のセリフは頭に入ってるよな?と確認しようとすると中から先生の声が聞こえてきた。

 

「はい今日は編入生を紹介するぞ~、共学化の試運転に伴ってきた男子だ。みんな仲良くするように、ちなみにイケメンだぞ~!入ってこ~い!」

 

うんうんいい前振りだな~...ん?イケメン!?

 

中から「きゃあ~!!!!」

 

と黄色い声が飛び交う。

 

おぉぉぉぉぉぉぉい!?!?!?

 

何でわざわざ元々高めのハードルを棒高跳び並にするんだよ!ここまで入りづらい編入なんて他にないだろ!俺はルックスは平均ぐらいなんだよ!

しかしここでいつまでも入らないわけにはいかない...

 

俺は意を決し、教室の扉を開け黒板の前へと歩いて行った。

 

「はぁ...」

 

あれから時間は経ち休み時間、あの俺の最大の屈辱でもあった自己紹介を終えた俺は机に突っ伏していた。

 

教室に入った俺を待っていたのは静寂だった。それでも俺はめげずに自己紹介をした。

 

「初めまして!八坂優です!今日からよろしくお願いします!」

 

と言ったのはいいが

 

「イケメン?」

 

「普通だよね~」

 

という会話が聞こえてきた瞬間、俺は泣いていたと思う。普通と言われるのは嬉しいはずなのに...

 

「げ、元気だしてよ!ゆう君!」

 

「そうだよ~!顔上げてよゆー君!」

 

「あの場面では誰だってああなると思いますよ!?」

 

3人のフォローに俺はようやく少し立ち直る。

 

「そりゃ...3人はいいよな...可愛いもんな...」

 

と思ったことを口にすると

 

「か、可愛い!?////」

 

「え!?...えっと////」

 

「な、何をいきなり!?////」

 

と何故か顔を赤くして俺から目をそらす穂乃果、海未、ことりの3人。

 

え?俺何か変なこと言ったのか?

 

結局赤くなった理由は教えて貰えなかった。

 

別の休み時間、急ごしらえの男子トイレから帰ってくる最中掲示板に貼ってあるとあるプリントに目が行き、立ち止まる。

 

「廃校のお知らせ?これって...」

 

そういえば理事長が今週中に知らせると言っていたっけ?

 

そんなこと思いながら曲がり角を曲がるとちょうど穂乃果が背中から倒れようとしているところだった。

 

「穂乃果!?危なっ!」

 

間一髪受け止めることに成功し、傍にいた海未とことりに訳を聞いてみる。

 

「一体何があった?」

 

「これ...」

 

と言って海未が指を指したのは先ほども目にした廃校を知らせるプリントだった。

 

「穂乃果ちゃんショックが大きすぎて気を失っちゃって...」

 

「とりあえず穂乃果は俺が保健室へ運ぶから2人は先に戻って理由を説明しといてくれないか?」

 

「分かりました」

 

「穂乃果ちゃんのことお願い!」

 

2人と別れ俺は穂乃果を背負い、保健室へと足を向けて歩き出した。

 

「ここが保健室だっけな」

 

扉を開き、保健室にいる先生に事情を説明してから、穂乃果をベッドに寝かせる。

 

役目を終えた俺はすぐさま教室へと戻るため保健室を出る。

 

やっぱショックだよな...自分の高校が廃校になっちゃうのは...

 

俺は感傷に浸りつつもすぐに教室へと戻ったのだった。

 




今回も短めです。
今日どこかで左手首を捻ったらしく絶不調です。
さて、次回には本編には入りたいと思います。
それでは、次回もよろしくお願いします!


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スクールアイドル

ついにラブライブサンシャインの声優さんが決まりましたね!
今からとても楽しみです!
映画ももちろん楽しみです!
私は涙腺が緩いので多分ボロ泣きするでしょうねw
今回もどうぞ!







穂乃果が気を失って保健室に運ばれてから1時間ほど経ち、ちょうど昼休みになった。

 

「穂乃果帰って来ないな...」

 

俺は心配になり、扉の方へ向かおうとすると、ちょうど扉が開く。

 

「...うぅ~」

 

唸りながら自分の席へと戻る穂乃果。俺は声をかけることにした。

 

「大丈夫か?」

 

「...夢じゃなかった!」

 

そうだったら良かったのだろうが、残念ながら現実だ。

 

俺と穂乃果が話していると海未とことりが隣に来ていた。

 

「廃校ですか...残念ですが、仕方のないことなのかも知れませんね...」

 

「うん...」

 

やはり2人も元気がない。すると突然

 

「どうしよ~!全然勉強してないよぉ~!!!」

 

などと言って穂乃果が泣き出す。

 

「は?勉強?」

 

俺は意味が分からず首をかしげる。

 

「優、あれは恐らく勘違いしているのです」

 

「何を?」

 

俺はまだ理由が分からず更に考えてみる。

 

「ことりちゃんと海未ちゃんはいいよ!勉強出来るもん!だけど...私は...私はぁ~!」

 

「おい、穂乃果...お前さっきから一体何を言ってるんだ?」

 

俺はついに分からず穂乃果に尋ねる。

 

「だって...廃校になったら編入試験とかあるんでしょ!?」

 

あぁ...そういうことね。

 

俺は納得し、穂乃果に再び話しかける。

 

「穂乃果、安心しろ、廃校になるのは俺たちが卒業したあとだ」

 

「ふぇ?」

 

「穂乃果ちゃんは最後まで見る前に気絶しちゃったから...」

 

「なぁ~んだ!そっか!安心したらお腹空いてきちゃった!」

 

そういえば俺もまだ食べてないな。自分の席に戻ろうとすると、穂乃果が声をかけてくる。

 

「ゆう君!外で一緒に食べようよ!」

 

「オッケー、先行ってていいぞ」

 

穂乃果はそれだけ言うと海未とことりを連れて先に行った。

 

そして俺が外に出ると穂乃果、海未、ことりの姿を見つけたので近づこうとすると、そこにはまだ2人ほど人がいた。

 

知らない人だな。

 

当たり前か。俺まだ編入初日だし。別に友達がいなくてぼっちだから誰か分からないなんてことは絶対ない。

 

その2人の内、1人は見た目は金髪でスタイル抜群で顔も穂乃果、海未、ことりに負けず劣らず綺麗だった。

 

もう1人は何か言葉では言い表せないオーラみたいなものを感じた。そして随分立派なものをお持ちだった。言わずもがな、彼女も可愛い。

 

...音ノ木坂レベル高え!素直にそう思った。

 

1人で考えているとすでに話終えたのか2人がこっちに向かってくる。

 

特に話すこともないかな?

 

俺はそう思い素通りしようとしたが

 

「待ちなさい」

 

「ちょっとえぇかな?」

 

2人に呼び止められたので立ち止まる。

 

「何ですか?」

 

「あなた編入生よね?」

 

「はい」

 

「名前は何て言うん?」

 

「共学化計画の試運転のため今日こちらに編入してきた八坂優です!よろしくお願いします!」

 

礼儀正しく自己紹介を行う俺に対し

 

「そう...あなたが...」

 

とどうも冷たい感じの金髪の人。

 

「うちは東條希、こっちの人は綾瀬絵里言うんよ」

 

関西弁?で自己紹介をしてくれる東條さん。

 

「もう行っていいわ、引き留めてしまってごめんなさい」

 

「ほなな~」

 

そう言うと東條さんと綾瀬さんは校舎に戻って行った。

 

「ごめん、遅れた!」

 

今度こそ俺は3人のところへ行って声をかける。

 

「生徒会長たちと何を話してたんですか?」

 

「ん?自己紹介だな」

 

さっきの2人は生徒会役員だったらしい。

 

「そっちは何を話してたんだ?」

 

「廃校について何か聞いてないのかって話だよ」

 

俺の質問に答えたのはことりだ。

 

「...よし!」

 

穂乃果が何かを呟き、立ち上がる。

 

「作戦会議だ!放課後時間あるよね!?」

 

「作戦会議?なんのだよ?...まあ時間はあるが...」

 

「じゃあ、放課後にまた集まろう!」

 

穂乃果は海未とことりと一緒に校舎に戻って行く、と同時に予鈴のチャイムが鳴る

 

ん?チャイム!?

 

...結局俺は弁当を食べられなかった。

 

 

「作戦会議だよ!ゆう君!」

 

放課後になるなり穂乃果が声をかけてくる。

 

「何の会議なんだ?」

 

「廃校を阻止しよう!私たち4人で!」

 

これは学生の手に負えるものじゃないと思うんだがなぁ...

 

まぁ...やらないよりはましかもな!

 

「まずはこの学校のいいところとはどこだと思いますか?」

 

「うーん...歴史がある!」

 

「おぉ!他には?」

 

「えっと~...伝統がある!」

 

「それは同じ意味だろ」

 

「ことりはどう思います?」

 

「う~ん...強いて言えば...古くからあるってことかなぁ?」

 

「ことり...話聞いてたのか?」

 

「このままじゃ埒があかない...とりあえず図書室とかで資料集めようぜ」

 

~数時間後~

 

「何かあったか?」

 

「部活動ではちょっといいところ見つけたよ?」

 

「おぉ!何何!?」

 

「剣道部関東大会6位」

 

「微妙だなおい」

 

「合唱部地区大会奨励賞」

 

「もう一声欲しいですね」

 

「最後は...ロボット部書類審査で失格」

 

「ダぁメだぁ~!」

 

穂乃果は机に突っ伏す。

 

「考えてみれば...目立つところがあるなら既に生徒は集まっていますよね...」

 

「そうだな。」

 

うむむ...と4人で頭を抱える。

 

「...私、この学校、好きなのにな...」

 

穂乃果の一言で更にしんみりとした空気になる。

 

「私もです」

 

「...うん」

 

「俺は編入初日だし、何も分からないけど...この学校には無くなって欲しくないな...雰囲気とか結構好きだし」

 

何より彼女たちにこんな悲しい顔はしてほしくない。

 

「今日帰ったら、俺もうちょっと考えてみるよ」

 

その言葉を皮切りに今日は解散し、それぞれ家へと帰ることになった。編入の際、単身赴任の父さんとついて行った妹のところに俺と母さんは引っ越してきた。まあ母さんは仕事で滅多に帰ってこないが...他県だし。その父さんの家が穂乃果、海未、ことりと近所だったらしく途中まで一緒に帰った。

 

「ただいま~」

 

俺は靴を脱ぎ、家へ上がる。

 

「お兄ちゃんお帰り~」

 

奥からの妹の声が俺を迎える。

 

「おう、ただいま、優莉(ゆうり)

 

「今日は遅かったんだね」

 

「あぁ、ちょっと色々あってな」

 

「そうなの?...あっそう言えばさ!」

 

「何だよ?」

 

「音ノ木坂、廃校になるんだって!?」

 

情報早っ!まあ中3だし色々と情報が入るんだろうな。

 

「もう知ってるのかよ」

 

「うん、私も今日聞いたんだけどさ。お兄ちゃん災難だねぇ~!女子高に入れられただけでもあれなのにそこに廃校とか...」

 

「おう、それ以上言うな、泣いちまうぞ?」

 

妹に泣かされるとか情けないわ。そんなことより...

 

「優莉~お前高校どうすんの?」

 

「ん?う~ん音ノ木坂が無くなるならUTXかな~?」

 

「UTX?」

 

「そう!今スクールアイドルで人気なんだ~!」

 

「スクールアイドル?」

 

「...お兄ちゃん、まさかA-rise知らないの!?」

 

「悪い...」

 

「今大人気のスクールアイドルなんだよ!だから入学希望者も増えてるし!」

 

入学希望者か...

 

「なあ、どうすれば音ノ木坂が廃校にならないと思う?」

 

「え?う~ん...よくわかんないけど、A-riseみたいなスクールアイドルがいれば入学希望者が増えるんじゃないかな~?」

 

「そうか...俺部屋戻るわ!」

 

「あ~うん」

 

スクールアイドルか...あいつらがやれば可能性があるかもな。明日学校でちょっと話してみるか。

 

~翌日~

 

学校へ行き、授業が終わり、休み時間になった途端に穂乃果が海未とことりを連れて俺の席へと近づいてくる。

 

「ゆう君!ゆう君!」

 

「朝から元気だな...何だ、穂乃果?」

 

そして目の前にいる少女から告げられる言葉で俺たちの物語は始まっていく。

 

「スクールアイドルやってみようよ!」

 

開けていた窓から風が吹き込んでくる。その風は始まりを告げるものだったと後の俺は感じていた。

 




結構長くなっちゃいました。
詰め込めば詰め込むほど区切る場所が無くなり、気づけばこんな形に...
さて、いよいよスクールアイドルを目指すことになりました。
未来へ響く多重奏...果たして彼と彼女たちはどのような未来へ進むのか...
それはまだ誰も知らない。

次回もお楽しみに!


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廃校阻止への第1歩

どうやってもスランプが抜けきらない作者です!
その駄文っぷりを見るといい!
...すいません、ふざけました。
それではどうぞ!



スクールアイドルか...まさか穂乃果に先をこされるなんてな...

 

一応理由を聞いとくか。

 

「何でやろうと思ったんだ?」

 

目をキラキラさせている穂乃果に少しドキっとしながらも俺は理由を尋ねる。

 

「だってこんなキラキラして可愛いんだよ!?」

 

穂乃果らしい理由になってない理由だ。

 

ん...?誰かいないような...?

 

俺は前の扉からすっと出ていく長い髪の毛を見つける。

 

「なあ、穂乃果?海未がどっか行ったぞ?」

 

「ふぇ?...海未ちゃん!」

 

俺の報告を聞いた穂乃果はすぐに廊下に出て海未の名前を呼ぶ。

 

「え!?あの...私は少し用事が...」

 

目が泳ぎまくってるし、嘘だというのは一目瞭然だ。

 

「聞いてよ!すごくいいアイデアが...」

 

「はぁ...どうせ私たち3人でスクールアイドルを結成しよう、とでも言うのでしょう?」

 

「すごい!海未ちゃん!エスパー!?」

 

「誰だって分かります!」

 

仕方なくといった様子で海未も話に戻ってくる。

 

「いいですか!?この雑誌に載ってるスクールアイドルの方々は血のにじむような努力をして本気でやっているんです!穂乃果みたいに好奇心と思い付きだけで始めて上手くいくものではありません!」

 

「うっ...確かに人気も出ないと廃校を阻止出来ない...」

 

「はっきり言います...アイドルは無しです!」

 

「うぅ~...ゆうく~ん!」

 

穂乃果がすがるような目でこちらを見上げてくる。

 

涙目+上目づかいのコンボだと!?

 

俺は少々理性を堪えるのに時間を使い、穂乃果に助け船を出すことにする。

 

「優?まさか穂乃果に賛成するわけではないですよね?」

 

ニコッとこちらに笑みを向けてくる海未。目が笑っていない。

 

怖ぇぇ...まじ怖い。

 

「俺はやってみてもいいと思うんだが?3人ともすごく可愛いと思うし!」

 

瞬間、3人はボンッと音を立てるような勢いで赤面してしまった。

 

あれ?何かデジャヴ...

 

「だから突然そういうことを平然と言うのはやめてください!///」

 

「えっと...何の話だっけ!?///」

 

「スクールアイドルをやってもいいんじゃないかって話だよ、穂乃果ちゃん!///」

 

俺何か間違ったこと言ったのかな?...まぁ、いいや。話を戻そう。

 

「とにかく...俺はやってみる価値はあると思う!」

 

「...私はやはり賛成できません。...授業が始まります」

 

一旦この話は終わりのようだ。みんなも自分の席に戻っていった。

 

 

放課後になり、俺は穂乃果と一緒に屋上にいた。

 

「で?諦めるのか?」

 

パックのコーヒーを飲みながら、俺は穂乃果に聞いてみる。いちご牛乳のパックを持っている穂乃果は否定の言葉を吐かなかった。

 

「諦めるなんて嫌だよ!」

 

そうだよな...それでこそ穂乃果だ!

 

俺は幼少期に穂乃果に会ってはいるが、会った回数はさほど多くない。しかしこんな性格だったことはよく分かっていた。

 

「まずは、海未をやる気にさせないとな!」

 

「うん!...ん?この声は?」

 

穂乃果は突然耳を澄まし始める。

 

俺も少し耳を傾けてみる。...風に乗ってピアノの音と歌声が聞こえてくる。

 

「音楽室からだ!行ってみようよ!」

 

俺は穂乃果に引っ張られて屋上を後にした。

 

「さあ、大好きだ!ばんざ~い!負けない勇気~!私たちは今を楽しもう~♪」

 

音楽室の前にたどり着いた俺と穂乃果は聴き入ってしまっていた。

 

「綺麗な声...」

 

穂乃果も思わず呟いている。

 

ピアノも上手いけど...それよりすごいのは、あの歌声...時間が止まるってこういう感じなんだな...

 

歌声とピアノが止まる。どうやら曲が終わったようだ。同時に穂乃果が拍手とともに音楽室に入る。

 

「すごい!すごい!すご~い!感動しちゃったよ!」

 

「べ、別に...」

 

「歌上手だね!ピアノも上手だね!それに...アイドルみたいに可愛い!」

 

そのピアノを弾いていた女子は穂乃果の賛辞に赤面し、立ち上がり音楽室から出ていこうとする。

 

「あ!あなた...アイドルやってみたいと思わない!?」

 

「え?」

 

リボンの色は緑...1年生か。すらっと伸びる長い足、艶やかな赤い髪に気の強そうなつり目...確かに美人だな...」

 

「!?何それ!?///意味わかんない!///」

 

その1年生は少しは立ち止まったもののすぐに音楽室から出ていってしまった。

 

「ゆう君?初対面の女の子に美人って言うのはどうかと思うよ?」

 

何だろう...穂乃果から黒いオーラが出てるように見える。超怖ぇぇ...

 

「もしかして...声に出てた!?」

 

「...うん」

 

恥ずかしさで人って死ねるのかな?

 

「...さっきの子みたいに歌えれば入学希望者、集まるかな?」

 

「...あぁ、あれだけ人を惹きつけるものがあれば、きっとな!」

 

「私今からダンスの練習するよ!」

 

そう言うと穂乃果は音楽室から出ていった。

 

...さて、俺も働きますか。

 

まずはことりを探してそれから海未だな。今日連絡先聞いておこう...探す手間が省ける。

 

 

しばらく歩き回り、ことりを見つけた。ちょうど弓道場に入っていくところだ。俺も後を追う。

 

「ことり!こんなとこにいたのか!」

 

ことりの後ろ姿に声をかける。どうやら海未が弓道部らしく弓道場の中に海未もいた。

 

「ゆー君?どうしたの?」

 

ことりは不思議そうに首をかしげている。

 

「海未もいるならちょうどいいな、2人に見て欲しいものがある!」

 

「ことりも海未ちゃんに見て貰いたいものがあるんだ~」

 

「何ですか?2人して...」

 

俺とことりは海未を近くの校舎の裏へ連れ込む。

 

「海未ちゃん、あれを見て」

 

「...っ!穂乃果...」

 

俺とことりが海未に見せたかったものとは、穂乃果がダンスを練習している姿だ。何度も転んだのだろう汚れている服、そして肘と膝にはかすかな擦り傷があった。

 

「...ねえ、海未ちゃん。私やってみようかな」

 

「ことり...」

 

「確かに穂乃果ちゃんはいつも突然ってことが多いよね?」

 

「はい...」

 

「でもさ...海未ちゃん?穂乃果ちゃんと一緒にいて後悔したことあった?」

 

「っ!...悔しいですが...穂乃果はいつも私たちに見たことが無い景色を見せてくれました」

 

どこが懐かしげな海未の瞳には、今まさに尻餅をついた穂乃果の姿が映っていた。海未はことりと一緒に穂乃果のもとへと歩き、穂乃果に手を差し伸べる。俺は少し後ろから3人を見守る。

 

「海未ちゃん...」

 

「1人で練習しても意味はありませんよ?...やるなら3人一緒じゃないと!」

 

「海未ちゃん!」

 

ようやくスタートラインの準備が整ったって感じだな。

 

「...違うよ?海未ちゃん、やるなら4人じゃないと!」

 

「そうでしたね!」

 

「ゆー君も一緒に!」

 

3人の可愛い女の子にこんなこと言われて断れる男がいるだろうか?断言しよう!いない!もしいるならばそいつはきっとホモだ!

 

こんな始まり方で、俺たちはスタートラインに立つことになった。

 




やはり難しいものですね...
考えるのもまた楽しいですが!
それでは次回もお楽しみに!


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何をすればいい?

SAOの方更新したのでこっちも勢いで投稿します!
さぁ!今回も始まりますよ!


「さて、スクールアイドルをするにあたって何から始めればいいんだ?」

 

穂乃果、海未、ことりの3人がスクールアイドルをすることを決めてから、俺は現在自宅で1人呟いていた。...思いつかん!...ん?

 

よく見るとスマホに誰かからのLINEが来ていた。スマホを確認すると穂乃果だった。

 

そういえば...さっき連絡先交換したんだっけ。

 

俺はアプリを開き、作ったばかりの俺、穂乃果、海未、ことりの4人のグループに何かを発言していた。

 

<何も思いつかないよぉ~(>_<)!!!!>

 

<だからよく考えて行動するべきですって言ったじゃないですか!>

 

<まあまあ...>

 

...本当に前途多難だな...仕方ない、優莉にもアドバイスがないか聞いてみよう。

 

<ちょっと妹にも聞いてみるわ!>

 

<ゆう君ありがとう~!>

 

<すみません...私はトレーニングメニュー考えますね!>

 

<...海未ちゃん?ことりたちもこなせるメニューにしてね?>

 

<大丈夫です!熱いハートがあれば!>

 

<助けてゆう君!>

 

...さて優莉のとこ行くか。

 

 

 

 

「それで...スクールアイドルを始めようってなったの!?」

 

「まあ、成行きでな...」

 

「思い切ったことするね!」

 

「でも何から始めたらいいか分からなくてさ...」

 

優莉は少し悩む素振りをみせてから、

 

「まずはちゃんと許可取って部活にしないと!」

 

「明日するつもりだ」

 

「そのあとは...え~っと、そうだ!グループ名だよ!」

 

「なるほど!」

 

「それから、体力トレーニングと、歌の練習...だと思うよ?」

 

「ん、アドバイス助かる!」

 

「私だって音ノ木坂には無くなって欲しくないからね...あの学校雰囲気すごく好きだから」

 

その会話を皮切りに俺は穂乃果たちに今のことを話すべく部屋に戻った。

 

そしてスマホを取り、発言履歴を見て見る。

 

<助けてゆう君!>

 

<まずは...腕立て10×10セットというのはどうでしょう!>

 

どうでしょう!じゃねーよ、男の俺でもきついわ!

 

いきなりのへヴィな内容に心の中でツッコミを入れてしまう。

 

<無理だよ!?死んじゃうよ!?>

 

<大丈夫です!熱いハートがあれば!>

 

<ことりもそれは無理だと思うなぁ...>

 

<そうですか?>

 

<そうだよ!>

 

<なら...腹筋10×10セットはどうでしょう!>

 

だからどうでしょう!じゃねーよ!1分ぐらい休み取れば出来ないことはないだろうが、いきなりそれはきつすぎるだろ!?

 

<腕立てが腹筋に変わっただけじゃん!無理だよ!>

 

<ことりもそれはちょっと...>

 

<大丈夫です!熱いハートがあれば!>

 

<何が大丈夫なの!?ていうか、海未ちゃんさっきからそれしか言ってないじゃん!>

 

<アドバイス聞いてきたぞ?>

 

とりあえずたった今も繰り広げられるトレーニングメニューの話から話題をそらすために発言する。

 

<おかえり、ゆー君!>

 

<どうだった!?>

 

穂乃果とことりはものすごい勢いで反応してくる。...ナイスファイトだったぞ!

 

<今日はもう遅いしそのことは明日話そうと思う。それでいいか?>

 

<うん!分かった!お休み~!>

 

<はーい!お休みなさ~い!>

 

<そうですね。お休みなさい。>

 

ふぅ...今日は色々ありすぎて疲れたわ。スクールアイドル、上手く行くといいんだけどな。

 

俺はそんなことを思っている内に眠りについた。

 




何か...話の順番がバラバラな気もするんですが...
このまま進めましょう!
今回はあまり話は進みませんでした、それにとても短いです。
正直LINEと出していいものか迷いましたが...必要なら修正を加えたいと思います。
後書きにキャラの雑談会を開いてみようかなと思っています!
そこも踏まえて...次回もよろしくお願いします!


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本格始動?

最近思うこと・・・
それはクオリティの低下です!
元々そんなに高くないのに・・・ピンチです!w

今回もよろしくお願いします!


「これは?」

 

「アイドル部設立の申請書です!」

 

俺たちは現在アイドル部を設立する為に綾瀬会長がいる生徒会室を訪れていた。

 

「それは見れば分かるわ」

 

「だったら認めてくれますか?」

 

俺は綾瀬会長に返答を求める。

 

「...駄目よ、校則では部の設立には最低5人必要と決められているわ」

 

「ですが!校内の部活には5人以下の部も存在しているではないですか!」

 

「部を設立した時はみんな5人以上いたはずよ」

 

「あと1人やね」

 

「あと1人...分かりました!」

 

生徒会室をあとにしようとすると

 

「待ちなさい!」

 

俺たちは綾瀬会長に呼び止められ立ち止まる。

 

「どうしてこの時期にアイドル部を始めるの?あなたたち2年生でしょ?」

 

「廃校を何とか阻止したくて...スクールアイドルって今すごい人気なんですよ!だから!」

 

「だったら...例え5人集めて来ても認めるわけにはいかないわね」

 

「えぇ!?どうして!?」

 

「部活は人を集める為にするものじゃない、思い付きで行動したところで状況は変えられないわ」

 

「でも!」

 

「変なこと考えてないで、残りの2年をどう過ごすか考えることね」

 

綾瀬会長のセリフと同時に突き返される部活申請書。

 

穂乃果が受け取り、海未、ことりとともに生徒会室から出ていく。

 

この人まさか...

 

俺はさっきから何か引っかかるものがあり、その違和感を確認する為、1人綾瀬会長に向き直る。

 

「まだ何か用?」

 

綾瀬会長が訝しげな顔をするが、俺は構わず口を開き、疑問を口にする。

 

「...俺の勘違いだったらごめんなさい」

 

「何?」

 

「もしかして...会長の個人の感情で俺たちを否定しませんでしたか?」

 

「っ!?...何のことかしら?」

 

「あぁ!勘違いならいいんです!」

 

「そう...」

 

「でも...もし本当にそうなら、彼女たちの気持ちを無下に扱ったあなたを俺は許しませんから」

 

気づけば俺は自分とは思えないほど冷たい声が出ていた。

 

「あ、あと悩みがあるなら、相談ぐらいならいつでも乗りますんで!」

 

「もういいかしら?」

 

綾瀬会長は俺の豹変振りに驚いていたが、平然と話を切る。

 

「はい、失礼なこと言ってすいませんでした!失礼します!」

 

そのまま部屋の扉を閉める。...ふぅ、疲れたわ。

 

さて、穂乃果たちに追い付こうと後ろを振り返ると...目の前に3人がいた。

 

「ゆう君...」

 

まさか...聞かれたパターンか?

 

「穂乃果たちのために怒ってくれてありがとう!」

 

「ありがとね、ゆー君!」

 

「あ、ありがとうございます、優!」

 

はい、聞かれてた―!うぉぉぉ!恥ずかしい!人生ベスト5に入るぐらいだ!

 

動揺しているのがばれないようにクールに振る舞うんだ、俺!

 

「にゃ、にゃんのことだ?」

 

無理でした。

 

***************************************

 

「よし!作戦会議始めるよ!」

 

放課後になり、屋上へと集まり作戦会議が開かれようとしていた。

 

「まずは...今やらなければならないことのまとめですね」

 

「え~っと...部員集めと、あとは何があるかなぁ~...ゆー君」

 

「体力作り、発声練習、...グループ名は?」

 

「それなら心配いらないよ!さっきグループ名募集の張り紙貼ってきたから!」

 

「いつの間に!?...ていうか丸投げなのかよ!」

 

「まあまあ...それじゃあ~発声練習からやってみる?」

 

「そうだな...トレーニングメニューもまだ決まってないし、部員集めは今日はもう無理だからな、ことりの意見に賛成だ」

 

俺の発言を合図に3人が立ち上がり、準備を始める。

 

「よしっ!やってみよう!...せぇ~の!」

 

「「......?」」

 

3人の動きが止まる。

 

「どうしたんだ?」

 

「...ゆう君、曲...どうしよう!?」

 

「...頭痛がしてきたわ」

 

こんなんで本当に大丈夫なんだろうか...不安だ。

 

「今日穂乃果の家に集合して考えよう....4人で!」

 

「はい」

 

「うん!」

 

「あぁ。...え!?」

 

「優?どうかしたのですか?」

 

「俺も穂乃果の家に行くのか?」

 

「何言ってるの?当たり前だよ!」

 

「...嫌だって言ったら?」

 

「ことりちゃん!」

 

穂乃果に呼ばれたことりが俺の前に立つ。...何をする気だ?

 

「ゆー君...おねがぁい♪」

 

あっ...これは勝てねぇわ。

 

俺は悟る。

 

「...仕方ないな」

 

「やったね!」

 

俺は女子の家...ことりの家には恐らく小さい頃上がったことがあるが...ほとんど覚えておらず、俺にとっては実質...ほぼ初めて、女子の家に行くことになったのだった。

 

***

 

時同じくしてグループ名募集の張り紙の前、ある1人の少女が掲示板の前に立っていた。

 

「アイドル...」

 

儚げながら、どこか熱を持った視線を張り紙に向ける少女。

 

「無理...だよね、私なんかじゃ...」

 

グループ名募集の文字と共に部員募集!と書かれている。

 

少女の視線は部員募集の文字に向けられていた。

 

「かよちん、帰るにゃー!」

 

「あ、うん!今行くよ、凛ちゃん」

 

かよちんと呼ばれた少女は凜という少女の元へと小走りで向かう。

 

もうすぐ...2人は大きな出会いをすることになるのだが、それはまだ誰も知らない。

 

― To be continued―

 




作「本編のおまけ!雑談コーナー!初回のゲストは...主人公でもある八坂優さんでーす!」

優「でーす!じゃないだろ...いきなり何の用だよ?」

作「前回言った通りに雑談会を開くことにしました。」

優「何で急に?」

作「本編中に気になったことを説明する場などを作りたくて。」

優「なるほど。」

作「それでは早速!気になったことはないですか?」

優「そうだな~...あのアスタリスクは何なんだ?」

作「あれは今回から導入した、シーン切り替えの合図です!」

優「何でアスタリスク?」

作「何かオシャレっぽいからです!」

優「適当な理由だなおい!」

作「他に何かありますか?」

優「スルー!?...なら最後に1つ、言わせてもらう!」

作「何でしょう?」

優「更新頻度上げろ!この駄作者が!」

作「...本当にすんません。善処します、はい。」

作「あ、優君があんなに怒った理由はその内分かると思います!」

優「それじゃ...次回もまた見てくれ!」

作「ちょっ!?それ作者のセリフ...」


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穂乃果家にて

映画公開まで2週間ですね!
本当にテンション上がりまくってます!
来場者プレゼントも決まり、思わずうわぁぁぁぁぁ!と頭を抱えました。

.........そして2回行くことになりました。

メンバー全員好きなんですが...

あ、ちなみに1番は海未です!



「ここが私の家だよ!」

 

穂乃果の家に行くことが決まった俺は3人の後について歩いて、和菓子屋の前に到着した。

 

「和菓子屋...穂むら?」

 

どうやら穂乃果の実家は和菓子屋を営んでいるみたいだ。

 

「ただいま~!」

 

店の扉を開け、穂乃果に続いて中に入る。海未、ことりは何度も来ているから問題はないが...俺は初めて記憶がはっきりしている内に女子の家に来たため、完全に挙動不審だった。

 

「お帰り~...ってあら?その子は?」

 

「前に話したゆう君!」

 

「は、初めまして!八坂優と言います!」

 

奥から出てきた、穂乃果の...お母さんなのか?もしそうなら、俺の周りの母親全員見た目若すぎだろ!

 

「優、私とことりは先に穂乃果の部屋に行ってますね」

 

何故か俺は置いていかれる。

 

「...大きくなったわね、ゆう君!」

 

「へ?」

 

思わぬ言葉に俺は間抜けな声が出る。

 

...どこかで会ったことがあるのか?

 

「覚えてないかもしれないけど、ゆう君は幼い時によくあなたのお母さんの美樹さんに連れられてここに来ていたのよ?」

 

「...えぇ!?本当ですか!?」

 

「えぇ...穂乃果のことよろしくね?」

 

「あ、はい!もちろんです!」

 

これ以上3人を待たせるのも悪いと靴を脱いで階段へと近づく。

 

びっくりした...まさか、穂乃果の母さんに会っていたなんて...

 

階段を上るとそこには部屋がいくつかあり、どれが穂乃果の部屋かは区別がつかなかった。

 

「ここか?」

 

襖みたいな扉を開ける。

 

「ぐぬぬぬぬ!!!...あと....もう1つ!」

 

そこには必死の形相でベルト閉める少女がいた。

 

恐らくウエストを細く見せようとしているのだろう。俺はそっと扉を閉める。

 

そのまま隣の扉に手をかけ、中を見る。

 

「やっぱりA-RISEはすごいね!」

 

「そうですね...」

 

中から穂乃果と海未の会話が聞こえる。この部屋で間違いなさそうだ。

 

「悪い、待たせた!」

 

ホッとしつつ部屋に入る。

 

「ゆー君も来たし、話を始めてもいいよね?」

 

「うん!」

 

「はい」

 

3人が囲んで座っているテーブルの開いているところに座り、穂乃果の部屋を眺める。

 

もっと散らかってるかと思ったけど...案外片付いてるものだな。...でも、漫画の巻数バラバラじゃねーか!

 

「それで、歌はどうするのですか?」

 

「作曲は問題ないと思うよ!ねっ?ゆう君!」

 

「何か当てがあるのですか?」

 

「何かあったっけ?」

 

俺は首を傾げ、思い出そうとする。

 

「ほら!音楽室で!」

 

音楽室?...あぁ!あの赤い髪の!

 

そこまで思い当り、俺は声を出す。

 

「あぁ!あの可愛い子か!」

 

その発言のあと、何故か静寂が訪れる。

 

「...まあ、その話はあとで詳しく!聞くとして、その子に頼むことなんて出来るのですか?」

 

何で詳しくの部分強調するの?すごい怖いんだが...

 

「大丈夫!任せて!」

 

穂乃果はすごい笑顔だった。...ただし目は笑っていない。

 

任せてって...音楽室の話じゃないよな?作曲のことだよな?

 

「さすが穂乃果ちゃん!」

 

ことりもにこにこしているのになぜか黒いオーラのようなものが見える。

 

「そ、それで...作詞は?」

 

とても嫌な予感がしたため、強引に話を切り替える。

 

「それも大丈夫だよ!ねぇ~ことりちゃん!」

 

「うん!」

 

笑顔で頷きあった2人は海未の方へ詰め寄る。

 

「な、なんですか!?」

 

「海未ちゃんさぁ~...中学の時、詩とか書いてたよねぇ~?」

 

「!?」

 

海未が詩!?馬鹿な!?と思いながら海未の方を見る。

 

「そ、そんなことありましたか!?」

 

...超目が泳いでるじゃねーか!泳ぎ続けないと死んじゃうってレベルだぞ!?マグロかよ!

 

俺が脳内で処理を行っている間に更に尋問は続く。

 

「見せてもらったこともあったよねぇ~?」

 

「用事を思い出しました!失礼します!」

 

海未は鞄も持たずに外に飛び出していく。

 

「逃げた!追うよ、ゆう君!ことりちゃん!」

 

「まじでか...」

 

店の外に出るとすでに海未の姿は点に見えるくらいだった。

 

「足速っ!?」

 

「穂乃果とことりは部屋に戻れ!俺が追う!」

 

そのまま走り出す。

 

「頼んだよゆう君!」

 

「待ってるねぇ~!」

 

2人の声援を受け、更に加速する。自慢じゃないがスポーツは得意な方だ。

 

それから海未を捕まえたのは、5分後のことだった。

 

***

 

「嫌です!」

 

俺に捕まり部屋に戻ってきた海未は作詞を拒否する。

 

「海未ちゃんしかいないんだよ!お願い!」

 

「穂乃果がやればいいではないですか!」

 

「そうだな、なんでやらないんだ?」

 

俺の問いに穂乃果は押入れから原稿を取り出し、俺に手渡す。

 

「どれどれ?...海未、頼む!」

 

その原稿は小学校の作文なのだが...中身はこうだった。

 

おまんじゅう、うぐいす団子!もう飽きた!

 

正直これは...ひどい!

 

「うぅ...ならことりは!?」

 

「私も衣装作らないといけないし...」

 

「ことり、衣装とか作れるのか!?」

 

思わぬ特技に驚く。

 

「なら優は!?」

 

「俺の作文は...人に見せられるもんじゃない」

 

「何を書いたんですか!?」

 

「聞きたいのか?」

 

「い、いえ...結構です!」

 

「今度聞かせてよゆう君!」

 

穂乃果は興味を持ったようだ。

 

「とにかく私は嫌です!」

 

頑なに拒む海未。

 

「海未ちゃん...」

 

ことりを見ると胸に手を当て瞳をうるうるさせていた。

 

これは...俺は今から起こることを察し、静かに顔を背ける。

 

「おねがぁい♪」

 

「っ!...ずるいですよ、ことり!」

 

海未すらもことりのおねだりには勝てなかった。

 

「まあ...俺も協力するからさ」

 

「しかし、優は作文苦手なのでは?」

 

「あぁ、あれは嘘だ」

 

「...穂乃果?さっきの音楽室の話を教えてくれますか?」

 

「え!?ちょっと待て!」

 

「うん!えっとね~!」

 

「おじゃましました!」

 

俺は逃げ出そうとするが...扉の前にはすでにことりがいた。

 

「ゆー君?まだ話は終わってないよ♪」

 

「はい...」

 

俺はすぐに座っていた位置に戻り、静かに正座をした。

 

...俺、明日太陽見れるのかな?

 

自分の無事を祈る俺だった。         

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは、みんなの太陽!高坂穂乃果ちゃんです!」

穂「よろしくお願いしまーす!」

作「早速ですが...優君はあのあとどうなったんですか?」

穂「ゆう君なら、海未ちゃんに怒れる時にずっと正座でした!」

作「ふむふむ、それで?」

穂「反省しているのが伝わったのか海未ちゃんもそれ以上何も言わずに、そのまま解散になりました!」

作「なるほど~!ありがとうございます!」

作「もう1つ気になるんですが、どうして優君が女の子に可愛いって言うとみんな怒るんですか?」

穂「えぇ!?そ、それは...」

作「冗談ですよ!作者は知ってますから!」

穂「よ、よかった~...」

作「こんな感じですが...」

穂「次回もファイトだよ!」


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とにもかくにも下準備!

映画が本当に待ちきれない...

もう1度一期から全部見直そうかなw

今回もやっていきましょう!



「朝から何?」

 

「講堂の使用許可を頂きたいと思いまして!」

 

「部活動に関係なく、生徒は自由に講堂を使用出来ると生徒手帳に書いてありましたので。」

 

翌日、俺たちは再び生徒会室に足を運んでいた。理由は講堂の使用許可を得るためだ。

 

「新入生歓迎会の日の放課後やなぁ」

 

「何をするつもり?」

 

「それは...」

 

やっぱり理由聞かれるよなぁ...まあその辺はさっき適当に誤魔化そうと決まったことだ。

 

「ライブです!」

 

言いやがった!さっきまでの話し合いなんだったんだよ!

 

「3人...いや4人でスクールアイドルを結成したのでその初ライブを講堂でやることにしたんです!」

 

その言い方だと、俺も衣装着て踊るみたいな感じになりかねないか?

 

「ほ、穂乃果!」

 

「まだ出来るかどうかは分からないよ~?」

 

「えぇ~!?やるよぉ~!」

 

「待って下さい!まだステージに立つとは...!」

 

「出来るの?そんな状態で?」

 

「だ、大丈夫です!」

 

「新入生歓迎会は遊びではないのよ?」

 

「4人は講堂の使用許可を取りに来たんやろ?」

 

「希...」

 

「部活でもないのに生徒会が内容まで、とやかく言う権利はないはずよ?」

 

「それは...」

 

「とにかく、俺たちは講堂の使用許可をもらえるんですね?」

 

「...承認します」

 

「ありがとうございます!それでは失礼します!」

 

扉を閉め、生徒会室から出る。...いつきてもここは緊張するわ。

 

「やった~!」

 

穂乃果が歓喜の声を上げ、そのまま走っていく。

 

俺たちは穂乃果の後を歩いて追いかけた。

 

***

 

「ちゃんと話したではないですか!アイドルのことは伏せておいて、借りるだけ借りておこうと!」

 

「ふぁんでぇ?」

 

「またパンですか?」

 

口に加えたまま喋るんじゃねーよ!...恐らく何で?と言っているんだろう。

 

「うち和菓子屋だからパンが珍しいの知ってるでしょ~?」

 

「お昼前に...太りますよ?」

 

「この際穂乃果の体重はどうでもいい」

 

「ゆう君ひどい!」

 

「で?何でライブのこと言ったんだ?」

 

理由を聞こうとすると、複数の足音が聞こえてきた。

 

「そこのお三方~!」

 

確か...同じクラスの...誰だっけ?

 

「ヒデコ、フミコ、ミカ!」

 

そうそう、その3人だ。

 

「掲示板見たよ~!」

 

「スクールアイドル始めるんだって?」

 

「まさか海未ちゃんまでやるとは思わなかったよ!」

 

「えぇ...まあ成行きで...」

 

「手伝えることがあったら何でも言ってね!それじゃ!」

 

ヒデコさん、フミコさん、ミカさんはそれだけ言うとどこかに歩いて行った。

 

いい友達がいるんだな。

 

素直にそう思ったが、まだ理由を聞いていない。

 

「まだ理由、聞いてないぞ」

 

「隠しててもすぐばれちゃうと思ったし、結果許可はもらえたから、オッケーだよね!」

 

「そうかもな」

 

そろそろ教室に戻るか。...理由を聞いたところで俺は穂乃果と海未と一緒に教室まで戻った。

 

***

 

教室に戻るとことりがノートに向かい、何かを書いていた。

 

「ことり?何を書いてるんだ?」

 

集中しているようなので声をかけるのはためらわれたが、好奇心には勝てなかった。

 

「...うん!こんなもんかな!」

 

そう言うとことりはノートをくるりとひっくり返し、俺たちに見えるようにする。

 

「...これは!?」

 

「ステージ衣装考えてみたの!」

 

まじかよ...話は昨日聞いていたが...絵うまっ!?

 

「これ本当に作れるのか!?」

 

「うん!仕上げは仕立て屋さんにやってもらうことになるけど、ここまでなら何とか作れるよ!」

 

ことりさんスペック高すぎ...

 

「すごいよ!ことりちゃん!可愛い!」

 

穂乃果も大絶賛だ。

 

「本当!?ここのカーブのラインが難しいんだけど...なんとか作ってみようかなって!」

 

「うん!うん!うん!」

 

「...ことり?」

 

「海未ちゃんはどう?」

 

「可愛いよね!?可愛いよねぇ!?」

 

「.........こ、ここのスーッと伸びているものは?」

 

「足だよ?」

 

「素足にこの短いスカートってことでしょうか?」

 

「アイドルだもん!」

 

海未は何やら太ももをこすり合わせている。...もしかして足の太さのことを気にしているのか?

 

「大丈夫だよぉ~!海未ちゃん、そんなに足太くないよ!」

 

「人のこと言えるのですか!?」

 

「ふむ...ふむふむふむ...」

 

穂乃果は自分の足をパンパンと触りだす。

 

「よし!ダイエットだ!」

 

突然ダイエット宣言をしだした。

 

「2人とも大丈夫だと思うけどぉ...」

 

「俺もことりの言う通りだと思うぞ?3人とも大丈夫だって!」

 

「どこを見ているのですか!?///破廉恥です!///」

 

パンっと何故か海未にビンタされた...理不尽すぎる!?

 

「他にも決めておかないといけないことがたくさんあるよねぇ~」

 

スルー!?今目の前で起こったことは無かったことに!?

 

「サインでしょ?町を歩く時の変装の方法でしょ?」

 

「そんなの必要ありません!」

 

海未まで平然と会話に戻りやがった!

 

「ゆー君...大丈夫?」

 

「ことり...お前だけだよ、俺を気遣ってくれるのは...その笑顔だけで十分だ、ありがとな!」

 

「う、うん///」

 

ことりはそこで顔を赤らめるが俺には理由は分からない。

 

「...ところでトレーニングメニューってどうなってる?」

 

とりあえず俺も会話に戻る。

 

「あぁ...それなら、海未ちゃんが考えてるって!」

 

「大丈夫なのか!?」

 

「失礼ですね...大丈夫ですよ!しっかりと考えてます!早速明日朝練からやろうと思います!」

 

「えぇ~!?朝練!?...穂乃果起きられないよ!?」

 

「その場合は私が起こしに行きますので、安心してください。」

 

「自分で起きます...」

 

「よろしい。」

 

優しく言ってるはずなのに...ものすごい迫力だ。恐らく目は笑っていなかったのだろう。

 

「朝練頑張れよ?」

 

「?何を他人事のように言っているのですか?」

 

「へ?」

 

この流れはまさか...強制参加ルートしか見えない!?

 

「優、あなた...まさかサボるつもりではないでしょうね?」

 

あー...やっぱりこうなるのか...。

 

「滅相もございません...」

 

「では...明日の朝に神社でお会いしましょう」

 

無茶なメニューじゃないといいなぁ...

 

俺は一抹の不安を感じながら、授業の準備を始めた。

 

***************************************

 

― 翌日 ―

 

「あ!ゆう君おはよう!」

 

「あぁ、おはよう穂乃果。朝からテンション高いな」

 

「そりゃあそうだよ!今日からトレーニング開始なんだから!」

 

そう、今日からダンスをするための体力作りが始まる。それはいい、問題は時間だ。

 

「何で早朝5時30分とか早い時間なんだよ!朝練って言っても限度があるだろ!」

 

「まあ...メニューを考えたのが海未ちゃんだからかなぁ~」

 

眠い!眠すぎる!どんなに朝が強くてもこの時間は誰でも眠いだろ!

 

「それにしても穂乃果、お前が起きれるなんて意外だった」

 

「目覚まし3個使ったよ....」

 

「多いな!?それ家族まで起きちゃうんじゃないか!?」

 

「うん...雪穂にもうるさいって言われちゃった!」

 

雪穂というのは恐らく妹で俺が部屋を間違えた時にいた少女だろう。

 

「2人ともおはよう!」

 

「おはようございます。」

 

朝練の場所である神田明神(かんだみょうじん)に着くと海未とことりの2人が準備運動をしていた。

 

「おはよ~!」

 

「2人とも、おはよう」

 

サクッと挨拶を終え、俺と穂乃果も準備運動を行う。

 

「なあ海未?」

 

少し不安を抱えている俺は海未に対しあることを聞いてみる。

 

「はい?なんですか?」

 

「トレーニングメニュー...俺たちでもこなせるものなんだろうな?」

 

このメニューを作ることをかなり張り切っていたみたいだし...腕立て100回とか冗談じゃない。

 

「えぇ!そのあたりは問題は無いと思いますよ!」

 

信用ならねえ...

 

「あと...この時間と俺が参加する意味はあるのか?」

 

「やるからにはこのくらいやらないと!...それと優が参加するのは当然です!...何か問題でも?」

 

ニコッと普通なら男は見惚れるであろうその笑顔。...でもな、目が笑ってないんだよ!

 

「すんません、俺頑張る」

 

「分かればいいのです」

 

女子には逆らえない。それが俺のアイデンティティ。泣けてくるわ...

 

「話は変わるけど、今日はどんなトレーニングをするの?」

 

準備運動を終えた穂乃果とことりがこちらにやってくる。

 

「それなら...これです!」

 

海未が差し出してきた紙には文字が書いてある。内容は...

 

「え~っと...階段ダッシュ10×5、ランニング5kmか...まあこのぐらいならいけるな」

 

割と体を動かすことが好きな俺は問題は無い。

 

「海未ちゃん?これ...朝からするの?」

 

「...ことりも辛いと思うなぁ~...」

 

女子2人はとても複雑な表情だった。

 

「やると言ったらこれぐらいは必要です!慣れてきたら数を増やす予定です!」

 

追い打ち入りましたー。

 

「うぅ~...でもやらないと!ファイトだよ!」

 

「穂乃果ちゃん...ことりも頑張る!」

 

「あ!夕方もやりますからね!」

 

「やっぱり...ちょっときつくない?」

 

「四の五の言わない!ほら、始めますよ!」

 

「海未ちゃんの鬼~!!!」

 

穂乃果、ごもっともだ。...さて、俺も走りますか。

 

廃校を阻止するため、そう思えばこの練習もきっと無駄にはならないはずだと思う。...多分!

 

***

 

「疲れた~!」

 

「これを...1日2回も...」

 

「ことり...もう無理かも」

 

「やはり、鍛錬はいいものですね!」

 

こなしたトレーニングは一緒でも、リアクションは全く違うものになった。

 

「君たち」

 

休憩していると何やら聞き覚えのある声がする。この声は...

 

「東條副会長?」

 

巫女服姿の東條副会長が箒を持ってそこに立っていた。

 

「どうしたんですか?」

 

「折角ここを使わしてもろてるんやから、お参りぐらいしていき」

 

どうやらそれが用事だったみたいだ。当然のことだなと思ったので東條副会長の後ろに俺、海未、穂乃果、ことりの順で続く。

 

「どうしてそんな恰好を?」

 

「ちょっとしたお手伝いをさせてもらってるんよ」

 

「なるほど...よく似合ってます!」

 

「ふふっ。お世辞言うても何も出んよ?」

 

本当によく似合ってると思った。東條副会長の持つ独特なオーラによくマッチしている。

 

...それと、やっぱりでかい。

 

「優?今変なことを考えてませんでしたか?」

 

後ろを向かなくてもわかる。返答を間違えれば...死ぬ!

 

「まさか?俺が考えるわけないだろ?」

 

若干声が震えた気もするが、何とか誤魔化せたようで、海未はそれ以上何も言ってこなかった。

 

賽銭箱にお金を入れ、礼をし、祈る。

 

「初ライブが上手くいきますように!」

 

「「上手くいきますように!」」

 

最初に穂乃果が言い、それに海未とことりが続く。

 

「成功しますように!」

 

言い方は違うが俺も気持ちは一緒だった。

 

「上手くいくといいね!」

 

穂乃果は満面の笑みを浮かべる。

 

「もし上手くいかなかったら...賽銭に5円じゃなくて5円チョコ入れてやる」

 

「八坂君?」

 

「...もちろん冗談です」

 

「ならよろしい」

 

何で普段穏やかな人って怒るとこんな怖いんだろうな...。

 

「そろそろいかないと遅刻するで?」

 

東條副会長の言葉に俺たち4人はハッとなり、急いで着替えて学校へと走るはめになった。

 

***

 

「本当に...面白い子たちやなぁ」

 

八坂君たちが去ったあとうちは1人で呟いていた。

 

「あの子たちならきっと...」

 

そろそろ気づく頃やな...うちからのプレゼント。

 

うちはそこまで考え、自分の鞄を持ち、学校へと向かった。

 

―To be continued―

 




作「今回は少々長くなってしまったため雑談コーナーは無しです!」

それでは次回もよろしくお願いします!

感想で誤字、脱字、指摘とうがございましたら、そちらもよろしくお願いします!


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グループ名は…

いつも通り話が思いつかない!

といっても投稿しないのは駄目なので...今回も執筆中に考えながら書きます!





「ゆ、ゆう君!」

 

初朝練を終えて、授業を寝ずに何とか乗り切り、やっと放課後になった。どこかに行っていた穂乃果が慌ただしく戻ってくる。

 

「穂乃果ちゃん?」

 

「何事ですか?」

 

あまりの穂乃果の焦りように海未とことりも俺のところに集まってきた。

 

「どうしたんだ?」

 

「...て...の」

 

「え?何て言った?」

 

最初の言葉が小さすぎて聞こえなかったたため聞き返す。決して俺が難聴なわけではない。

 

「グループ名...入ってたの!」

 

なんだ、そんなことか...って!?

 

「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」

 

俺、海未、ことりは驚き叫ぶ。

 

「そ、それで!?」

 

「何て書いてあるのですか!?」

 

穂乃果の手に握られている折りたたまれた紙、広げるとそこにはこう記してあった。

 

『μ's』

 

「ゆーず?」

 

多分だけど...これは

 

「恐らくミューズだと思います。」

 

海未も俺と同じ結論に至ったようだ。

 

「あぁ!石鹸?」

 

「違う」

 

俺はツッコミとして穂乃果の後頭部に軽くチョップをしておく。

 

「ギリシャ神話に登場する、歌の女神ですね」

 

「μ’s...うん!今日から私たちはμ’sだ!」

 

「無事に名前も決まったところで...練習行こっか?ゆー君も早く!」

 

「俺は少しすることがあるから、先に行って練習しててくれ」

 

3人を見送った俺は目的の場所へと向かった。

 

***

 

「で?私に何か用ですか?」

 

「いや、特に用事はないんだけどさ...ここにくれば、君の歌とピアノを聞けると思ったからさ」

 

俺が今いるのは音楽室、つまりは作曲のお願いだ。

 

「...そうですか」

 

「と言うのは建前で作曲を依頼しに来たんだ」

 

「えぇ!?...お断りします!」

 

予想通り断られてしまった。赤い髪の女の子はそのまま音楽室から出ていこうとする。

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

ピタリと足を止め、こちらを不機嫌そうにこちらを見てくる。

 

「...まだ何か?」

 

「八坂優、2年生だ、よろしく!」

 

「はぁ!?.......どういうつもり?」

 

「だって、まだお互いの名前知らないだろ?」

 

これは事実だ。名前も知らない相手と会話し続けるのは、どうも落ち着かない。.....別にこの可愛い子の名前を知りたいだけじゃないからな!?

 

「.....西木野真姫、1年」

 

女の子、西木野さんはやや早口気味に名前を告げ、今度こそ音楽室から出ていった。

 

名前も知ることが出来たし...そろそろ練習行くか。俺は3人がいるであろう屋上に向かった。

 

***

 

屋上に向かう途中、俺は部員募集!と書かれたポスターの前に立っているメガネをかけた女の子を見かけ、立ち止まる。

 

「はぁ...」

 

ため息をついているようなので声をかけてみることにした。別にこの子可愛いな~ということは考えていない、断じて違う。

 

「どうかしたの?」

 

「えっ!?い、いや、あの...」

 

そりゃ...見知らぬ男に話しかけられたらビックリするよな。悪いことをした。

 

「あぁ!ごめん!ポスター見て何か悩んでるのかなって思ってさ!」

 

「...いえ、何でもないです」

 

何でもないなら...そんな顔はしてないよな。しかし無理に聞くのも悪いので、それとなく話題を振ってみる。

 

「もしよかったら、練習してる姿...見に来ない?」

 

俺の言ったことが意外だったのか、その子はこちらをバッと見上げ、目を輝かせるがすぐに俯いてしまう。

 

「...いいんです、心配してくださってありがとうございます」

 

「そっか、俺は2年の八坂優。君は?」

 

1日に2回名乗ることになったが、特に問題は無い。

 

「あ、えっと!こ、小泉...花陽です」

 

互いに自己紹介を終えると

 

「かよち~ん!」

 

と声を上げながらこちらに走ってくる女の子がいた。

 

「あの子は?」

 

「私の友達です」

 

「探したにゃー!」

 

近くまで来ると分かる、この子も相当可愛い。...しかし、にゃー?

 

「ご、ごめんね?凜ちゃん」

 

「かよちん、この人は?」

 

凜という子は俺の方を見ながら、小泉さんに尋ねる。

 

「この人は2年生の八坂優さんだよ」

 

「小泉さん、この子は?」

 

今度は俺が尋ねる。

 

「この子は星空凛ちゃん、私のお友達です」

 

「初めまして!」

 

かなり元気のいい子だな......穂乃果と同じぐらいだと思う。

 

「かよちんは八坂先輩と何を話してたの?」

 

「あ、えっと...」

 

「小泉さんにスクールアイドルの練習を見学に来ないかって誘ってたんだ」

 

何やら少し言いづらそうにしていたのでため息のことなどは伏せておく。

 

「そうなの!?よかったね!かよちん、ずっとアイドルに憧れてたもんね!」

 

「あ、いや、えっと...」

 

小泉さんはきっと興味はあるけど...その一歩を踏み出すことが怖いんだろうな...。

なんとなくそう感じ少しだけ思考して、もう一度誘ってみることにする。

 

「だったら...星空さんも一緒にどう?」

 

「え?凜!?」

 

星空さんは小泉さんと俺の間を数回ほど視線を行き来させ、髪を触りだす。

 

「...凛には無理ですよ、女の子っぽくないし...髪だってこんなに短いし」

 

「そっか...まあでも気が向いたらいつでも来てくれ、2人とも可愛いから...きっと大丈夫だと思う!」

 

瞬間、沈黙が訪れる。...あれ?何かデジャブ感じるぞ?

 

小泉さんは顔を真っ赤にして俯き、星空さんは何を言われたのかが分からないといった顔をしている。

 

「あ~、えっと?」

 

気まずくなり口を開き、何か言葉を発しようとすると

 

「ナ、ナンパにゃ--------!!!!!!!!」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?いや、そんなんじゃないからな!?」

 

誤解を招くことを叫ぶと、星空さんは小泉さんの手を掴み、走り出した。

 

「り、凛ちゃん!?ちょっ!待って...ダレカタスケテェ~!」

 

「今それを言われると明らかに本当に俺が何かしたみたいになるからな!?」

 

とりあえず誤解を解くため、2人を追おうとする

 

「優?一体どこへ行く気ですか?」

 

ちょうど走ろうとした瞬間に後ろから声がかかる。俺はまるで油が切れた人形のように後ろを振り返ると...そこには穂乃果、海未、ことりの姿があった。

 

「ゆー君?用事ってこの事だったの?」

 

いつも癒し効果のある声もこの時ばかりは本当に恐怖でしかない...笑ってるはずなのに、黒い何かが見えるんだが?

 

「練習に来ないから...探しに来たら...ゆう君、ナンパしてたの?」

 

穂乃果にも当然黒い何かが見える。超怖い。しかし、この2人よりもはるかに怖いのが...もう1人いる。

 

「...覚悟は出来ましたか?」

 

海未はもう黒い何かとかそんなレベルじゃない。あれは...阿修羅だ!

 

「まずは...言い分を聞いてもらってもいいでしょうか?」

 

遺言ぐらいは残しておきたい...。

 

「どうしますか?」

 

「穂乃果はいいよ」

 

「ことりもいいよ?...もしその言い分も変なことだったら...ことりのおやつにします」

 

おやつって何!?

 

「で?言い分と言うのは?」

 

「まず、用事は本当にあった」

 

「その用事って何?」

 

「音楽室に行って前言ってた子に作曲を頼みに行きました」

 

「なるほど、そこまではいいでしょう」

 

嘘は言っていないはずだ。

 

「それで...屋上に向かう途中に部員募集のポスターを見てため息をついている子がいたため声をかけた」

 

「...本当みたいですね」

 

よかった!助かった!

 

嘘ではないことが伝わったのだろう、3人の目に徐々にハイライトが戻ってくる。

 

「それで...その子とその友達に気が向いたら見学に来てと言いました」

 

「勧誘してくれてたんだね!」

 

「2人とも可愛いからきっと大丈夫だと思うって言ったら、ナンパ扱いされただけだ」

 

ピシリと何かにヒビが入る音がした。

 

「ゆー君...おやつ決定ね♪」

 

「まぁ...今回は勧誘していただけのようなので不問としましょうか」

 

「そうだね!」

 

まじで怖かった...でもさっきから疑問に思ってるんだが...おやつってまじで何だ!?

穂乃果と海未は許してくれたけど、ことりは...もう考えないようにしよう。

 

「さあ!今度こそ行きますよ、優!」

 

「練習だ~!」

 

穂乃果に引っ張られ、俺は今度こそ屋上に向かった。

 

***

 

男の人に可愛いって言われるなんて...

 

「凛が可愛いなんて...ありえないよ」

 

凛はこっそりと呟く。

 

「何か言った?凛ちゃん?」

 

かよちんが凜に聞いてくる。

 

「何でもないにゃー!さ、帰ろっ!」

 

「う、うん。」

 

突然可愛いなんて言われたから...ついナンパなんて言って悪いことしちゃったかな...今度ちゃんと謝らないと......

 

-To be continued-

 




作「雑談コーナー!今回のゲストは凛とした雰囲気の大和撫子、園田海未ちゃんです!」

海「よ、よろしくお願いします。」

作「早速ですが...何か質問はありますか?」

海「そうですねぇ...今回割とグダグダして見えるのですが?」

作「...面目ないです。話が浮かばず、どうしてもこんな感じになっちゃって...。」

海「あとは...優が女の子に対して...そ、その...可愛いと言いすぎではないですか?」

作「ここにも作者のボギャブラリーの無さが出ていますね。」

海「言いたいことは色々とありますが...今回はこれで十分です。」

作「はい、ありがとうございます!それでは!」

海「次回もよろしくお願いします。」


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海未家にて

映画まで残り1週間!

すでに席の予約はしている!

全力で楽しむぞ~!


ピロンと携帯が着信を伝える。俺は勉強する手を止め、画面を見る。

 

「海未?」

 

そこには海未と名前が表示されていた。

 

「もしもし、どうかしたか?」

 

「いえ...一応作詞が出来たので、確認してほしくて...」

 

「おぉ!出来たのか!?」

 

「は、はい。それで今から大丈夫ですか?」

 

時刻は19時、この時間ならまだ余裕だろう。

 

「あぁ、大丈夫!」

 

「それなら...私の家に来てくださいますか?」

 

「まじで?」

 

「はい...どうも母が優に会ってみたいそうです」

 

「...分かった、すぐ行く」

 

電話終え、携帯を置く。簡単に了承したけど...よく考えたらまた女の子の家に行くんだよな、やべえ.....超緊張するぞ!?

 

「確か海未の母さんって...日舞の先生だったような....」

 

いつまでも悩んでいられないので、準備を整え部屋を出て階段を降りる。

 

「優莉、ちょっと出てくる」

 

「どこに行くの?」

 

「ちょっと...な」

 

「まさか、彼女でも出来たの!?」

 

「違う!学校の友達のとこだ!」

 

「だよね~お兄ちゃんに彼女とか、出来っこないよね!」

 

「ナチュラルに俺を抉るのやめろ!泣いちまうぞ!?」

 

ちょっと視界が滲んだ気がするが、気のせいだ。

 

「でも女の子と会うんでしょ?」

 

「まあな...そんなわけだから行ってくる」

 

玄関で靴を履いて、扉に手をかける。

 

「優!今夜は遅くなってもいいぞ!」

 

奥から父さん、八坂優也の声が聞こえてきた。

 

「あんたは何を期待してんだよ!?友達だって言ってんだろ!黙って仕事してろ!」

 

父さんの職業は俺はよく知らない。まじで何してんだろ?今度聞いてみるか。...まあこれはどうでもいい。

 

「行ってきます」

 

今度こそ家を出た。

 

***

 

「でけえ...まじででけえ...」

 

海未の家は由緒ある名家らしく、家の敷地に道場があったりする。

 

気を取り直し、チャイムを鳴らす。すると中から足音が聞こえてくる。

 

「優、すみません、突然呼び出してしまって....」

 

私服姿の海未が扉を開け、中から出てくる。

 

「それはいいんだけど.....やっぱり親御さんに顔見せた方がいい?」

 

「母がとても楽しみにしているので...私ではどうしようもありません」

 

まあ...穂乃果の親にも挨拶したしそれと同じ感じでいいか。

 

「では、こちらへどうぞ。案内します」

 

やたらと長い廊下を歩き、目的の部屋に着いたのであろう、海未は障子を開ける前に中に声をかける。

 

「お母様、優を連れて参りました」

 

「入ってもいいですよ」

 

障子が開き、俺は中に招き入れられる。

 

「あなたが...海未さんがいつもお世話になっています」

 

「は、はい!八坂優です!初めまして!」

 

正座をして、相手の顔を見て見る。超若い!姉妹でも通じるぞ!?それに雰囲気と顔が海未によく似ている。

 

「そんな固くならなくてもいいですよ、それに初めましてではないです」

 

「まさか...幼いころに会ったことがあるんですか?」

 

「はい、その通りです」

 

またこのパターン!?俺もう忘れてるってレベル越してないか!?

 

「私たち4人は幼馴染ですから、昔はよく遊んでいました」

 

4人...恐らく、穂乃果の母さん、ことりの母さん、海未の母さん、俺の母さんのことなのだろう。

 

「昔の写真などもありますよ?海未さんの幼いころとか興味ないですか?」

 

「お母様!それは!」

 

黙って話を聞いていた海未が慌て始める。

 

「いいじゃないですか、別に」

 

「よくありません!」

 

海未の母さん...見た目に似合わず、随分活発なんだな。

 

「あ、自己紹介が遅れました。海未さんの母の園田(なぎさ)です」

 

「今更ですか!?」

 

しかも天然なのか!?本当、人は見かけによらない。

 

「ところで...優さんは海未さんのことをどう思っていらっしゃるのですか?」

 

「はい!?」

 

「お母様!?」

 

まさかそんな質問が飛んでくるだと!?予想外すぎる!

 

「ど、どうとは?」

 

「もちろん恋愛的な意味で、です」

 

「「っ!?」」

 

本人目の前にいるのに何てこと聞くんだ、この人は!?

 

「と、とてもいい子だと思います!礼儀正しいし、それに可愛いし!?//////」

 

「優!?/////」

 

まずい!色々何言ってるか分からなくなってきたぞ!?

 

「それを聞いて安心しました、これからも海未さんをよろしくお願いしますね?」

 

「は、はい!」

 

「お母様!いい加減にして下さい!」

 

海未の怒号が屋敷にこだました。

 

***

 

「ごめん、歌詞の意見は...明日学校でいいか?」

 

「はい...紙は渡しておきます...」

 

渚さんの予想外の性格と行動で俺と海未はかなり疲弊していた。

 

「すみません...母に悪気はないんです」

 

「分かってる、じゃあ明日......学校で、おやすみ」

 

「はい....おやすみなさい」

 

まさか...海未の母さんがあんなにグイグイ来る人だったなんてな....超疲れた。

 

俺はそんなことを頭に浮かべながら帰路についた。

 

***

 

全く...お母様は勝手すぎます!優にあんなことを言うなんて...思い出すだけで恥ずかしい!

 

...でも不思議と嫌な気はしませんでしたね?何故でしょうか?

 

「考えても仕方ありませんね」

 

少女のその思いは本人でさえまだ理解はしていない。

 

-To be continued-

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストはピュアピュア天然系女子、南ことりちゃんです!」

こ「こんにちは~!」

作「今回出番は無かったですが...この話を見てどう思います?」

こ「照れる海未ちゃんも可愛いですよね♪」

作「頭の中でもし海未ちゃんの母親がこんな感じだったらと妄想しながら書きました!」

こ「そうなんですか?」

作「名前も当然想像です!」

こ「その内ことりのお母さんと穂乃果ちゃんのお母さんの名前も出てくるんですか?」

作「はい、この物語に出てくる人物にはほとんど名前がつくと思います!」

こ「頑張ってくださ~い♪」

作「それでは!」

こ「次回も見てくれないと...ことりのおやつにしちゃいますよ♪」


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どうしてそこまで?

最近投稿ペースが1日おきか1日だということに気づきましたw

だからネタが思いつかないのかもしれませんねw

まあ...だからと言ってもペースを落とす気にはなりませんけどね!



いないな...俺は今1年生の教室にいる。理由は西木野さんに用事があったからだ。

 

「あれ?八坂先輩...どうかしたんですか?」

 

穂乃果たちを待たせてるため、俺は自分の教室に戻ろうとすると後ろから声がかかる。この声は....

 

「小泉さん、いや、西木野さんを探してるんだけど...いないみたいだからさ」

 

「多分音楽室じゃないですか?」

 

小泉さんの後ろからこれまた聞き覚えのある声がする。星空さんだ。

 

「やっぱりそうなのか...ありがとう!じゃあ俺はこれで!」

 

俺は踵を返し、音楽室に向かおうとする。

 

「あ、あの!」

 

振り返ると星空さんが何か言いたそうにしていた。

 

「どうかした?」

 

「こ、この間はナンパなんて言ってごめんなさい!」

 

「へ?」

 

そう言えば、そんなことあったっけな。あの時は大変だった...主に穂乃果、海未、ことりの対処が...思い出すだけで涼しくなれるわ。

 

「なんだ、そのことなら最初からあまり気にしてないよ」

 

「それならよかった!」

 

星空さんは安心したように笑う。

 

「でも...可愛いって言うのは嘘じゃないからな?」

 

静寂。そして

 

「や、やっぱりナンパにゃーーーーーーー!!!!!」

 

前と同じように小泉さんの腕を取り、走り出す星空さん。

 

「えぇ!?り、凛ちゃん!?ダレカタスケテェ~!」

 

「だからそれをこのタイミングで言うと本当に何かしたみたいになるだろ!?」

 

2人のあとを追うために走ろうとしたが、俺は何か嫌な予感がしてすぐにその場を離れて廊下の角に身を隠す。

 

「また何かしたのかなぁ、ゆう君」

 

「これはおやつ確定かな♪」

 

「全く...優は一体何をしているのです!」

 

すぐにその場に穂乃果と海未とことりが姿を現す。

 

危ねぇ!?逃げるのがもう少しでも遅れてたら...物音を立てないように慎重に後ずさり、その場から離脱する。

 

...それにしても星空さんのあの反応.....何かあったのか?

 

俺は違和感を感じたが、すぐに頭を切り替え3人に見つからないようにすることに全力を注いだ。

 

***

 

「また来たんですか?」

 

3人から身を隠すために音楽室に入ると、西木野さんが呆れた顔でこちらを見てくる。

 

「今回は色々と事情があってな...西木野さんにも用事があるんだけどさ」

 

用事というのは当然作曲の依頼だ。昨日海未から作詞を確認してほしいと紙を渡され、俺は素直に驚いた。俺が手直しする部分など一切なく、とてもいい歌詞だった。

 

「作曲ならお断りします」

 

「頼む!そこをなんとか!」

 

俺はためらいを持たず、土下座をする。

 

「な!?...なんでそこまでするんですか?」

 

地面に頭をつけたまま、俺は答える。

 

「当然...廃校を阻止したいからだ!」

 

「この学校にそんな思い入れがあるんですか?」

 

この質問には少々答え辛い。確かにこの学校で過ごした期間は短く、好きになってきたのだってつい最近だ。だけどな....

 

「あいつらには笑っていてほしいんだよ!この音ノ木坂が無くなれば...あいつらは悲しい思いをすることになる!そんな姿は見たくないんだよ!」

 

「...あいつらと言うのが誰かは想像がつきませんが...その考えは偽善じゃない?」

 

俺が顔を上げると、西木野さんはどこか戸惑っているように見えた。

 

「偽善でもなんでもいい!あんなに頑張ってるのに...報われない方が俺は嫌だ!」

 

俺は立ち上がり、ポケットから歌詞の書かれた紙を取り出して、西木野さんに手渡す。

 

「もし...これを見て、気が変わらないなら...その時はきっぱり諦める」

 

「...気が変わることはないと思いますよ?」

 

俺から紙を受け取り、西木野さんは顔を背けて呟く。

 

「それならそれで仕方ない、1度練習も見に来てくれないか?放課後はいつも神社でトレーニングしてるからさ」

 

それだけ伝えると俺は音楽室をあとにした。

 

***

 

何か忘れているような...俺はとても大事なことを忘れている気がしながら神田明神にたどり着く。

 

「あ、ゆう君!やっと来たの?」

 

先に神社についていた穂乃果、海未、ことりの3人と合流する。

 

「遅れて悪かったな、ちょっと色々あってな。」

 

「へぇ~...色々ですか?」

 

あ、やっべ...思い出した!

 

「優?覚悟は出来てますか?」

 

「ゆー君...お・や・つ♪」

 

可愛らしく言っても怖いわ!そうだった!俺はこの3人から逃げてたんだった!?

 

「ま、待て!」

 

俺は手を前に出し、3人の動きを制する。

 

「どうかしたの?ゆう君?」

 

穂乃果は笑顔のまま立ち止まる。ここで言い方を間違えたら...考えるだけで恐ろしい!

 

「作曲を頼むために1年生の教室に行っただけだ!」

 

どうだ!?俺は3人の反応を伺う。

 

「...それでどうだったのですか?」

 

「あぁ、歌詞を渡してきた。これで駄目なら諦めよう。」

 

「ゆー君...そうだね」

 

「なら、あとは作曲してくれるのを信じて練習あるのみ!だね!」

 

良かった!何とか生き延びることが出来た!

 

「あぁ!練習しよう!」

 

俺は練習着に着替えて準備運動を始めた。

 

***

 

私は八坂先輩に言われた通り、練習を見ていた。練習している4人からは見えない位置からだけどね。

 

さっき音楽室で言われたことを私は思い出す。

 

笑っていてほしい、悲しむ姿は見たくない、報われない方が嫌だ、あの人の言葉が私の頭の中をグルグルと回り続けている。

 

「もうっ!何なのよっ!あんなに必死に言われたら...受けるしかないじゃない」

 

べ、別に先輩の言葉に影響を受けたわけじゃなくて...そう!あとから私のせいにされたくないからっ!だからよ!

 

私はそう思うことにして、影から練習している4人を見続けた。

 

-To be continued-

 




作「雑談コーナー!今回は再び八坂優くんでーす!」

優「...はぁ。」

作「おや?どうかしたんですか?」

優「大したことじゃない。」

作「そうですか、質問などはありますか?」

優「そうだな...無し!」

作「それでは今回は優くんも疲れているようなので、ここで終わりにしましょう!」

優「ネタ切れなだけだろ!」

作「ソンナコトナイデスヨー。」

優「棒読みじゃねーか!...まあいいや、次回も見てくれよな!」


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自分たちの曲

映画最高でした!

何が最高だったかとか詳しくは言えないですけど...見に行ってない人はぜひ!劇場に足を運んでください!


「あー...もう朝か」

 

運動が得意と言っても毎日続ければ疲れは溜まる。俺が踊るわけじゃないんだから...俺が練習する意味無くね?...まあ俺は幼馴染3人には逆らえないけどな!

 

「行ってきまーす」

 

朝食を腹に詰め込み、家を出ると

 

「お兄ちゃーん!」

 

俺を呼んだ優莉が2階の自分の部屋から顔を覗かせている。

 

「どうしたー?」

 

「これお兄ちゃん宛~?差出人は書いてないけど...ユーズ?って書いてあるよ~!」

 

優莉はCDを手に持ち、それをひらひらとこちらに見せている。...それって!?

 

「...ちょっとそのCDと俺のパソコン持って玄関に来てくれ!あとそれはミューズって読むんだぞ~!」

 

多分......あれは、俺が西木野さんに頼んだものだ!

 

「いいよ~...あとミューズって石鹸?」

 

「違う!」

 

穂乃果も言ってたな、それ...。

 

「はい、これ何なの?」

 

「まあ聞いてみようぜ」

 

パソコンにCDを入れて、再生を押すと曲が聞こえてくる。

 

『ISAY~♪HEY!HEY!HEY!STARTDASH♪』

 

この歌声...そしてこの歌詞...間違いなく...西木野さんだ!

 

「うわぁ!綺麗な声だね!」

 

「あぁ.....これがμ’sの始まりになるんだな......」

 

早く学校に行って穂乃果たちにも聞かせてやろう!

 

パソコンを鞄の空いているスペースに入れて、俺は足取りも軽く神社へと向かった。

 

***

 

「すごい...歌になってる....」

 

「これが.....私たちの......」

 

「私たちの.....歌」

 

放課後、俺は持ってきていたパソコンでCDを穂乃果、海未、ことりに聞かせる。

 

そして、ピロンっと音が聞こえ、『μ’s』の名前の下...NOENTRYと表示されていたところがRANK999という文字に切り替わる。

 

「票が入った....」

 

海未は呟く。

 

「やったな!」

 

俺は立ち上がり、喜びを表現する。次に穂乃果が立ち上がり

 

「...さあ!練習しよう!」

 

「「「あぁ(はい)(うん)!!!」」」

 

穂乃果の掛け声に俺たちはより一層気合を入れて返事をする。

 

今のこの気持ちを...無駄にはしない!

 

***

 

「穂乃果!ことり!これでラストだ!頑張れ!」

 

神田明神の階段ダッシュを一足先に終えた俺は下から駆け上がってくる2人にエールを送る。

 

「「はぁっ...はぁっ!」」

 

2人が同時に俺の元へ辿り着く。

 

「お疲れ様です、2人とも!」

 

俺と同じく早く終わっていた海未は座って息を整えている穂乃果とことりにタオルと飲み物を渡す。

 

「海未ちゃんありがとう!」

 

「ありがとう!」

 

「曲も出来たし...振り付けも考えないとな....」

 

「そうですね」

 

振り付けのことを話していると

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 

階段の下の方から女の子の悲鳴が聞こえてきた。

 

「何!?」

 

「何かあったのかな?」

 

「何でしょう?」

 

と俺以外の3人は反応する。お前らもうちょっと慌てないの!?悲鳴だぞ!?穂乃果はびっくりしてるけどさ....ってこんなこと考えてる場合じゃない!

 

「ちょっと見てくるからお前らはここにいろ!」

 

俺は猛スピードで階段を駆け下りて、建物の角を曲がる。

 

「うーん...まだ発展途上と言ったところやねえ....」

 

「な、何するのよ!?」

 

そこには背後から東條副会長に胸を揉まれている西木野さんの姿があった。

 

「でも望みは捨てなくても大丈夫や、大きくなる可能性はある!」

 

「何の話よ!」

 

「いや本当に何してるんですか....?」

 

俺は唖然としていたが、何とか持ち直して東條副会長に尋ねる。

 

「なーんもしとらんよ?ただ迷える少女がおったから相談を聞いてたんや」

 

「...なぜ胸を触る必要が?」

 

「見てたんですか!?」

 

「うちなりの緊張を解く方法や!」

 

「普通にセクハラじゃないですか!?」

 

この人...こんな人だったのか。

 

「練習見に来てくれたのか?」

 

「ち、違うわよ!たまたま通りかかっただけです!」

 

なんとなく照れ隠しということが分かった。

 

「そうか、通りかかっただけか」

 

「そ、そうよ!」

 

俺は苦笑しながら2人に声をかける。...穂乃果たちを待たせたら悪いしな。

 

「じゃあ俺は戻ります!東條副会長!西木野さんもまた!」

 

「その呼び方じゃ呼びにくいやろうから...希でええよ?」

 

「えぇ!?...じゃあ東條せんp「希でええよ?」いやあの東じ「希でええよ?」」

 

「何でそんなに頑な!?...分かりました、希先輩」

 

「ん!分かればよろしい!気を付けて帰るんやで?優くん」

 

踵を返した俺は階段を昇った。

 

***

 

さて、3人を待たせてしまったな...。ちゃんと謝らないと...。階段を登り終えた俺は辺りを見回して、呆然とした。

 

「誰もいない!?」

 

どういうことなんだこれは!?俺は鞄のところまで歩き、鞄の中を探ると携帯にLINEがきていたことに気づく。

 

<お腹が空いたから先に帰ってるね!>

 

<夜道には気を付けて帰って下さい>

 

<ごめんね、ゆー君!>

 

「...待っててくれよ!?」

 

1人で携帯にむかってツッコミを入れる男の図が完成した。

 

***

 

「で?本当にどういうつもりなんですか?」

 

「ん~?カードがうちにそうしろって告げたんよ」

 

「はぁ?」

 

「...ほな、気を付けて帰るんやで?」

 

......そう、カードはすでにある未来を示している。

 

「面白くなりそうやん!」

 

うちはカードを懐から取り出し、1人呟いた。

 

-To be continued-

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは高坂穂乃果ちゃんです!」

穂「よろしくお願いしまーす!」

作「早速ですが...映画最高でした!」

穂「ありがとうございます!」

作「朝5時起きして映画館に直行しましたよ~!」

穂「そんなに楽しみにしてたの!?」

作「映画化が発表されてからこの日をずっと楽しみにしてました!」

穂「そっか~...嬉しいですね。」

作「まだ来週も行く予定ですけどね。」

穂「お金とか...大丈夫なんですか?」

作「...辛いものなんて何も無い!...それでは!」

穂「次回もファイトだよ!」


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ファーストライブ前日

さて、今回もやっていきますよ!

前書きすら思いつきませんけどね!w


「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト!」

 

とうとう曲が完成した俺たちは海未の手拍子でダンスの練習をする。俺は踊っていない、練習を見て間違っていたりしたら指示を飛ばすのが俺の役目だ。

 

「ことりちゃん!左腕!」

 

「あ、うん!」

 

といっても全て穂乃果たちが自分で気が付くので、俺の仕事はほとんどない。...俺いらない子なのか?

 

「リズム取るのと全体の把握は俺がやるから海未も練習に加われ」

 

「はい、ではよろしくお願いします」

 

さすがに何もしないのはいたたまれないので、海未の役目を引き受ける。

 

「穂乃果!」

 

「タッチ!」

 

「いい感じです!」

 

「うん!」

 

...本当に手拍子するだけになっちゃってるな、俺。今の俺はあのシンバルを持った猿のおもちゃと同じぐらいのものだろうな....。

 

***

 

「ふぅ~...終わった~!」

 

朝練を終えた穂乃果は缶ジュースを首筋にあて、日陰に座り込む。

 

「まだ放課後の練習がありますよ?」

 

「でも随分出来るようになったよね?」

 

「あぁ、俺もそう思う」

 

ライブは明日。1ヶ月という短い期間の中3人はダンスなんてしたことのない状態だったし、つい最近までは曲もグループ名も無かったんだ。そう考えればかなり成長していると思う。

 

「それにしても...2人がここまでまじめにやるとは思いませんでした。穂乃果は寝坊してくるとばかり思ってましたし」

 

「大丈夫!その分授業中ぐっすり寝てるから!」

 

穂乃果は仰向けに寝転がる。

 

「何も大丈夫じゃない気がするんだけど?」

 

「あっ!」

 

俺の疑問もそっちのけで穂乃果は何かに気が付いたようだ。

 

「どうした?」

 

「ゆう君!あれって....」

 

穂乃果の視線をたどると、ちょうど視界から外れようとしている赤い髪が目に映った。

 

「あぁ、間違いないと思うぞ?」

 

「だよねっ!おーい!西木野さーん!」

 

「ヴぇぇ!?」

 

「真姫ちゃーん!」

 

驚きのあまりに変な声出てるよ...まあいいか。西木野さんは階段を登り、穂乃果に詰め寄る。

 

「大声で呼ばないで!」

 

「どうして?」

 

「恥ずかしいからよ!」

 

まあ、確かに恥ずかしいかもな...というか穂乃果は名前呼びするほど親しかったっけ?

 

「そうだ!あの曲...」

 

穂乃果はポケットからミュージックプレーヤーを取り出し、西木野さんに見せる。

 

「3人で歌ってみたから聞いてみて!」

 

「はぁっ!?何で!?」

 

「だって...真姫ちゃんが作ってくれた曲でしょ?」

 

「だから......私じゃないって何度も言ってるでしょ?」

 

「まだ言っているのですか?」

 

西木野さんは何故か曲を作ったのは自分じゃないと言い続けてる。まあ照れ隠しだと思うんだけど....

 

「ぐぅぅぅ!!」

 

突然穂乃果が唸り声を上げ始める。お腹でも空いたんだろうか?

 

「がおー!!」

 

と思ったら今度は西木野さんに襲い掛かり始めた。お腹が空いたわけじゃなさそうだ。

 

「うひひひひ!」

 

「い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

そして気味の悪い笑い声を出し、西木野さんに悲鳴をあげさせて...西木野さんの耳にイヤホンを差し込んだ。

 

「よぉし!作戦成功!」

 

「これ作戦だったのか...」

 

何て強引な......

 

「結構上手く歌えたと思うんだ~!...いくよ~!」

 

「μ’s!」

 

「ミュージック~!」

 

「「「スタート!」」」

 

***

 

「...よし、誰もいない...」

 

私はμ’sのライブのお知らせの広告までの短い距離を全力で走り、紙を取ってすぐにその場から離れる。

 

その時後ろで誰かが立ち止まるのを感じ、ライブの広告を隠しながら後ろを見る。

 

.....西木野さん?

 

広告の前で立ち止まった西木野さんはチラリと紙を見て、微笑を浮かべる。

 

西木野さんも興味があるのかなぁ...そうだったら嬉しいのに....

 

「あ、凛ちゃんを待たせちゃう、戻らないと!」

 

私は紙を大事に鞄にしまって、その場を離れた。

 

***

 

「ふわぁぁぁ~...」

 

「眠る気満々ですね」

 

朝練のあと、俺たち4人は普通に登校している。穂乃果じゃないにしても...眠い。

 

「ねぇ!あの子たちじゃない!?」

 

「ん?」

 

「あなたたちって...もしかしてスクールアイドルやってるっていう...」

 

「あ、はい!μ’sってグループです!」

 

やはり今まで学校にスクールアイドルなんてなかったこともあって、すぐに噂は校内に広がっているようだ。

 

「μ’s...あぁ!せっけn「違います!」

 

このネタの応酬はもはやお約束だ。

 

「そうそう、うちの妹がネットであなたたちのこと見かけたって!」

 

「本当ですか!?」

 

「明日ライブやるんでしょ?」

 

そう、いよいよ明日だ。

 

「はい!明日の放課後に!」

 

「どんな風にやるの!?ちょっと踊ってみてくれない!?」

 

「え!?ここでですか!?」

 

「ちょっとだけでいいから!」

 

困ったことになったな...穂乃果とことりは大丈夫だけど、海未は恥ずかしがり屋だからな....それとなく海未の方へ視線を向けると、動揺が顔に出まくっていた。

 

「ふふふふふ!いいでしょう!もし来てくれたらここで少しだけ見せちゃいますよ~!...お客さんにだけ特別に~!」

 

「お友達を連れて来ていただけたら、更にもう少し!」

 

「本当!?」

 

「行く行く~!」

 

「毎度あり~!」

 

「じゃあ、頭のところだけ...」

 

さて...そろそろ教えておくか。

 

「穂乃果、ことり、ちょっと待ってくれ。」

 

「何、ゆう君?」

 

「どうしたの?」

 

俺は息を深く吸い込み、あることを告げる。それは....

 

「海未がすごい勢いで校舎に逃げていったぞ?」

 

「「...本当だ!?海未ちゃんいつの間に!?」」

 

結局3人そろっていないのでダンスを見せることにはならなかった。

 

***

 

「やっぱり無理です...」

 

ところ変わって屋上。海未は扉の隣で体育座りをしていた。

 

「えぇ~?どうしたの~?海未ちゃんなら出来るよぉ~!」

 

「出来ます」

 

「「「え?」」」

 

無理だと言ったり、出来ると言ったり...俺と穂乃果とことりはよく分からず、綺麗に揃って聞き返す。

 

「歌もダンスもこれだけ練習してきましたし...でも、人前で歌うのを想像すると...」

 

「そういうことか...」

 

「緊張しちゃう?」

 

ことりの言葉に黙って頷く海未。こればかりは仕方ないよな......。

 

「う~ん...そうだ!」

 

「穂乃果?何か思いついたのか?」

 

「うん!そういう時はお客さんを野菜だと思えってお母さんが言ってた!」

 

「野菜...私に1人で歌えと!?」

 

「そこ?」

 

「一体何を想像したんだよ.....」

 

お客さんを野菜だと思う...想像するとめちゃくちゃシュールだった。

 

「はぁ...困ったなぁ~」

 

「でも......海未ちゃんが辛いんだったら、何か考えないと.......」

 

「そうだよな......」

 

これは必ず乗り越えなければならない壁だと思うし......

 

「ひ、人前じゃなければ大丈夫だと思うんです!人前じゃなければ!」

 

何か考えていた穂乃果は海未の腕をつかんで立ち上がらせる。

 

「色々考えるより...慣れちゃった方が早いよ!」

 

「穂乃果の言う通りだな!」

 

「じゃあ行こう!」

 

どこにだ?まぁ何か考えがあってのことだろ......多分!

 

***

 

「じゃーん!ここでライブのチラシを配ろう!」

 

「ひ、人がたくさん....」

 

「当たり前でしょ!そういうところを選んだんだから!」

 

今、俺たちは秋葉にいた。

 

「ここで配ればライブの宣伝にもなると思うし、大きな声を出してればその内慣れてくると思うよ!」

 

「あ、あぁ.......」

 

「大丈夫なのか?」

 

俺は海未に話しかけるが

 

「お客さんは野菜お客さんは野菜お客さんは野菜.....」

 

海未は目を瞑って何かを呪文のように繰り返している。すると突然目を開く。

 

そして何故か顔が青ざめていく。何やってるんだ?

 

「駄目かな?」

 

「ううん!私は平気だよ!」

 

「俺も平気だけど...海未を見ろ」

 

「え?」

 

「あ、レアなの出たみたいです......」

 

海未はその場にしゃがみ込み、ガチャガチャをしてレアものを引き当てたみたいだ...ってそうじゃなくて!

 

「海未しっかりしろー!!」

 

「場所変えよっか.....」

 

「そうだね.....」

 

今度はどこに行く気なんだろうな....

 

***

 

「ここなら平気でしょ?」

 

「まぁ...ここなら....」

 

俺たちは音ノ木坂の校門の前に移動した。

 

「じゃあ始めるよ!μ’sファーストライブやりまーす!よろしくお願いしまーす!」

 

「ありがとうございまーす!」

 

「明日の放課後、講堂でライブやりまーす!ぜひ来てくださーい!」

 

俺と穂乃果とことりは声を出し、チラシを受け取ってもらえているが...

 

「あっ...」

 

海未は緊張で声も出せないでいた。それでも頑張って声を出す。

 

「お、お願いします!」

 

「...いらない」

 

背の小さな黒髪ツインテールの人にチラシを渡そうとするが、断られたようだ。

 

「駄目だよ、そんなんじゃあ」

 

「穂乃果はお店の手伝いで慣れてるかも知れませんが、私は.....」

 

「ことりちゃんだってちゃんとやってるよ?」

 

「ことりは案外物怖じしないんだな....」

 

いつものように笑って、難なくチラシを受け取ってもらえている。

 

「海未ちゃんも!それ配り終えるまで辞めちゃだめだからね!」

 

「えぇ!?無理です!」

 

それを聞いた穂乃果はニヤリと笑い、

 

「海未ちゃん...私が階段5往復出来ないって言った時、何て言ったっけ?」

 

と切り返した。

 

「うぅ...分かりました!やりましょう!」

 

後には引けなくなったのか、海未は積極的にチラシを配り始めた。

 

「俺もやるか」

 

「あのっ!」

 

チラシを配ろうとすると横から呼びかける声が聞こえてきた。

 

「小泉さん!」

 

「は、はい!」

 

小泉さんは俺を真っ直ぐ見つめ

 

「ライブ...見に行きます!」

 

とても嬉しいことを言ってくれた。

 

「本当!?」

 

「来てくれるの!?」

 

「では...1枚と2枚と言わず、これを全部!」

 

「横着すんな!」

 

小泉さんにチラシの束を全て渡そうとする海未の後頭部に軽くチョップを与える。

 

「分かってます...」

 

その後、海未も含め俺たちは無事にチラシを全て配り終えることが出来た。

 

***

 

「やっぱA-riseはすごいね....」

 

「あぁ、動きのキレが全然違う」

 

「そうですね....」

 

チラシを配り終えた俺たちは何か見せたいものがあるとことりに言われ、穂乃果の部屋に上がり込んでいた。さすがにまだ女の子の部屋ということもあり緊張も残るが、慣れは大事だな。

 

1ヶ月前の俺がこの状況を見たら...うん、そこにいるのが自分だろうと...きっと殴りかかっている自信がある。恐らくセリフはリア充許すまじ!とかだろう。

 

「う~ん...こうっ?こうっ?こうっ!」

 

穂乃果はA-riseのPVを見ながら、クルクルと回りポーズをとる。

 

ちょうどそのタイミングでパソコンからピロロロっと音が流れる。

 

「あっ!ランクが上がったぞ!」

 

「本当!?きっとチラシ見た人が投票してくれたんだねぇ!」

 

「嬉しいものですね!」

 

μ’sのランクが上がったことで俺たちは喜びに浸る。すると後ろから扉が開く音がして手に紙袋を持ったことりが部屋に入ってきた。

 

「お待たせ~!」

 

「あ、ことりちゃん!見て見て!」

 

穂乃果がパソコンの前にことりを手招きする。

 

「わぁ!すご~い!」

 

「もしかしてその紙袋が衣装か?」

 

ことりの持っている紙袋を覗き込む。

 

「うん!さっきお店で最後の仕上げをしてもらって......」

 

そうしてことりが紙袋から衣装を取り出す。

 

「じゃーん!」

 

「おぉ!」

 

「わぁ~!可愛い!」

 

出てきたのは店に並んでいても何も遜色のないものだった。学生がこれを作ったと言ってもきっと誰も信じないだろう。それまで高レベルなものだった。

 

ことりさんまじすげぇ....。

 

「本物のアイドルみたい!」

 

「本当!?」

 

「すごい!すごいよ!ことりちゃん!」

 

「これは本当にすごいな!」

 

俺と穂乃果は大絶賛だ。だが....

 

「ことり...?」

 

「な~に?」

 

海未は指をスッと上げ

 

「そのスカート丈は?」

 

スカートを指差した。

 

「...あ」

 

そう言えば...何か教室でやり取りしてたような....。

 

ガッとことりの肩を掴み、迫力のある顔をする海未。

 

「言ったはずです...スカートは最低膝下までなければ穿かないと!」

 

「だ、だってしょうがないよ、アイドルだもん!」

 

「アイドルだからと言ってスカートは短くという決まりはないはずです!」

 

「それはそうだけど....」

 

「でも...今から直すのは流石に.......」

 

「そういう手に出るのは卑怯です!」

 

そこまで言うと海未は荷物を持って扉を開く。

 

「ならば私は1人だけ制服で歌います!」

 

「えぇ!?」

 

「そんなぁ~!」

 

「そもそも2人が悪いんですよ!私に黙って結託するなんて!」

 

「...だって、絶対成功させたいんだもん」

 

「穂乃果...そうだよな」

 

「歌を作って、ステップを覚えて、衣装も揃えて、ここまでずっと頑張ってきたんだもん。ここにいる4人でやってきて...頑張ってきてよかったって......そう思いたいの!」

 

すると穂乃果は突然窓へ向かい、窓を開ける。

 

「思いたいのーーーーーーー!!!!!!!!」

 

そして外へ大声で叫ぶ。町に響いて消えていく穂乃果の声。

 

「何をやっているのですか!」

 

「近所迷惑だろ!?」

 

俺と海未は慌てるが

 

「私も同じかな」

 

ことりは穂乃果の叫びにはノータッチのようだ。

 

「私も4人でライブを成功させたい!」

 

「ことり.....」

 

ことりの思いを聞いた海未は俺と穂乃果を見て、ため息をつく。

 

「いつもいつも...ずるいです」

 

そして

 

「分かりました」

 

海未も肯定してくれた。思いはみんな一緒だったんだな....

 

「海未ちゃん...大好き~!」

 

「わぁっ!?」

 

穂乃果は海未に飛びつくようにして抱き着く。

 

「あっ!ずる~い!ことりも♪」

 

ことりも穂乃果とは逆側から海未に抱き着く。

 

「もう...ことりまで...」

 

「「えへへ~♪」」

 

「邪魔するようで悪いんだけど...今から神田明神にライブが成功するように祈りにいかないか?」

 

さすがに俺まで抱き着くと命をかけないといけなくなるので黙って見物していたが、俺は頃合いを見計らい、3人に告げる。

 

「うん、そうだね!行こう!」

 

***

 

「ライブが成功しますように!いや、大成功しますように!」

 

「緊張しませんように.....」

 

「みんなが楽しんでくれますように」

 

「......」

 

「よろしくお願いしまーす!」

 

それぞれの願いを祈る。

 

「優は何も言ってませんでしたが...」

 

「一体何をお願いしたの?ゆー君」

 

「...もちろんライブの成功だって!」

 

「えぇ~?本当に~?」

 

「当たり前だろ?」

 

まぁ、それもあるけど...1番に願ったのは...

 

『3人が笑顔でライブを終えることが出来ますように』...だ。

 

こんなこと恥ずかしくて言えるわけないけどな。

 

「いよいよ明日か...」

 

俺はこれ以上追求されないようにと話題を切り替えた。

 

***

 

口に出てるよ...ゆう君。きっと穂乃果だけじゃなくて、ことりちゃんも海未ちゃんも今の聞いちゃっただろうな。

 

その証拠に顔が真っ赤だもん。

 

だけど...そのことをゆう君に言うのはやめておいたほうがいいかもね!

 

「そうだね!明日のライブ...楽しもうね!」

 

私は代わりに別の言葉を口にした。

 

-To be continued-

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは園田海未ちゃんです!」

海「よろしくお願いします。」

作「いよいよファーストライブですね!」

海「はい、とても緊張します...。」

作「頑張ってください!」

海「は、はい、ありがとうございます!」

作「どうでもいいことですけど...映画あと3回行くことになりました。」

海「何がしたいのですか!?」

作「...そのためにPS3を売りましたからね。」

海「そこまでしてですか!?」

作「後悔はしていません!」

海「はぁ...次回もよろしくお願いします。」


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ファーストライブ

映画2回目行ってきました!

今回は花陽ちゃんのミニクリアファイルを手に入れて...来場者プレゼントのイラスト色紙は無事に海未ちゃんを手にすることができました!

まだあと2回残ってるし、全力で楽しみたいと思います!


「これで新入生歓迎会を終わります。各部活とも体験入部を行っているので興味があったらどんどん覗いてみてください」

 

檀上で綾瀬会長が話してるのを俺はソワソワしながら聞いていた。

 

...いよいよ今日がライブの日、何としても成功させたい!

 

「ゆー君さっきからソワソワしてるね、どうしたの?」

 

「いや、ライブがもうすぐだと思うと落ち着かなくてな.....」

 

「もう...穂乃果でも落ち着いているんですから...しっかりしてください」

 

「ごめんごめん!」

 

海未に注意され、俺は表情を引き締める。

 

「このあとチラシ配りに行くんだよな?」

 

「うん!」

 

穂乃果は気合十分なようだ。

 

「よ~し!それじゃあ!チラシ配りに行こう!」

 

「あぁ」

 

「はい」

 

「うん」

 

俺たちはそれぞれ返事をし、穂乃果のあとに続いた。

 

***

 

「今日、午後4時から初ライブやりまーす!場所は講堂でーす!」

 

「よろしくお願いしまーす!」

 

「ぜひ来てください!」

 

「お願いしまーす!」

 

チラシを配りアピールはするが...どうも他の部活に生徒を持っていかれている。

 

「他の部活に持っていかれちゃってるね....」

 

「うん.....どうしよう.....」

 

「弱気なんて穂乃果らしくないだろ?海未を見てみろよ」

 

「「へ?」」

 

穂乃果とことりが振り向いた先には笑顔でチラシを渡す海未の姿があった。

 

「よろしくお願いしまーす!午後4時からです!」

 

「海未ちゃん....」

 

「よ~し...ことりちゃん!私たちも!」

 

「うん!」

 

俺もチラシ配りに戻るか....

 

「今日の午後4時から初ライブやりまーす!来てくださーい!」

 

***

 

「穂乃果!」

 

チラシを配り終えて講堂に戻ってきた4人で戻ってくると、誰かが穂乃果を呼ぶ。

 

「ヒデコ、フミコ、ミカ!」

 

「何か手伝うことはない?何でも言って!」

 

「本当に!?手伝ってくれるの!?」

 

「私たちも学校が無くなるのは嫌だし!」

 

「穂乃果たちには上手くいって欲しいって思ってるから!」

 

「穂乃果、いい友達がいるな」

 

俺は穂乃果の左肩をポンっと叩く。

 

「うん!じゃあ頼んでもいい?」

 

「「「もちろん!」」」

 

ヒデコさん、フミコさん、ミカさんの3人はそれぞれが音響に行ったり、照明に行ったり、宣伝のためにチラシを配りに行ってくれたりする。

 

...俺もチラシ配って宣伝するか!

 

紙の束を持ち、外へ出ようとするが、その前に....

 

「穂乃果!海未!ことり!」

 

3人へと言うことがある。

 

「なになに~?」

 

「ゆー君?」

 

「どうしたのですか?」

 

俺は胸いっぱいに空気を吸い込んで...

 

「今更だし、大したことでもないんだけどさ!楽しもうな!!!!!」

 

講堂中を響く大声で叫ぶ。

 

すると、3人は笑顔で目配せをして

 

「「「うん(はい)!」」」

 

すぐに3人分の大きな返事が講堂と俺の鼓膜を震わせた。

 

***

 

どうしてだ?

 

「何で...何で...?」

 

俺は今の状況を理解するのに数秒費やし、理解してもなお呆然としていた。

 

ライブは午後4時から...今は、3時40分...それなのに......

 

「くそっ!」

 

俺はすぐに校舎から出てライブの宣伝を続ける。頼むっ!頼むっ!少しでもいいから!

 

そんな思いも虚しく...開演3分前になってしまう。

 

「なんだよ...これ!!!」

 

呟かずにはいられない。その呟きを合図としたかのように、ブザー音が鳴り、幕が上がる。

 

穂乃果、ことり、海未の3人は檀上で目を閉じ手を繋いで立っていて、幕が完全に上がりきったところで目を開ける。

 

「えっ...?」

 

穂乃果の戸惑う声。

 

「そんな...」

 

海未の呆然とした声。

 

「どうして...?」

 

ことりの悲しみに満ちた声。

 

3人が呆然とするのは当然のことだった。...生徒が1人も来ていないのだから....

 

「ごめん...最後まで粘ったんだけどさ...本当ごめん....」

 

俺は3人に謝りながら、涙を流す。

 

刻々と時間は過ぎていく...静寂がとても痛い。

 

「...そりゃそうだ!世の中そんなに甘くない!」

 

俺はハッとして穂乃果たちの顔を見る。

 

今にも泣き出しそうな顔。

 

俺は『3人が笑顔でライブを終えることができますように』という願いを思い出す。

 

それなのに...俺が泣いてる場合じゃないだろ!!!!

 

涙を袖で乱暴に拭って穂乃果、ことり、海未を1人ずつ見つめる。

 

「ライブ...見せてくれよ!」

 

「「「ゆう君(優)ゆー君?」」」

 

今できる最高の笑顔を浮かべ、言葉を紡ぐ。

 

「せっかく練習したんだからさ...やらないともったいないだろ?」

 

「でも...」

 

「来てる生徒が0人でも...俺がちゃんと見届ける!」

 

その時だった。後ろから音がして、声も聞こえてくる。

 

「はぁっ...はぁっ!...あれ?ライブは?」

 

「小泉さん!」

 

...走ってきたのか息は切れている。そして辺りをきょろきょろと見回して

 

「ライブぅ...」

 

肩を落とす。どうやら終わったと思っているみたいだ。

 

俺はニッと笑い

 

「ほら!これで2人だ!早くしてくれよ!」

 

声で3人の背中を押す。

 

「ゆう君の言う通りだね...やろう!ことりちゃん!海未ちゃん!」

 

「...はい!」

 

「...うんっ!」

 

3人は位置がつき、照明が落ちて辺りが暗くなる。

 

そして曲が流れだす。

 

曲名は...『START:DASH!!』

 

俺は一瞬たりとも見逃さないように、目に焼き付けた。

 

***

 

曲が終わり、俺は拍手をする。もちろん小泉さんも拍手をしている。いつの間にか小泉さんの隣にいる星空さん。入り口には西木野さん。そして隠れるように椅子から顔を覗かせている黒髪のツインテールの人。放送用の部屋には綾瀬会長までいた。

 

経験者からすれば...歌もダンスも何もかも未熟なんだろうけど...それでも人を惹きつける何かがあるんだ。

 

何だ...ちゃんとお客さんいるじゃん!

 

俺は可笑しくなって少しだけ口元が緩む。それでも目線は檀上にいる穂乃果たちに向いていた。

 

3人は息を切らながらも拍手の中ずっと笑顔を浮かべている。

 

急に足音が響き、上の部屋から降りてきた綾瀬会長が壇上に近づく。

 

「生徒会長...」

 

「どうするつもり?」

 

穂乃果と綾瀬会長の視線がぶつかる。強い眼差しを向けられても穂乃果は怯まず告げる。

 

「続けます!」

 

「穂乃果...」

 

「穂乃果ちゃん...」

 

「何故?これ以上続けても意味があるようには思えないけど」

 

「やりたいからです!」

 

「今、私もっともっと歌いたい、踊りたいって思っています。きっと海未ちゃんもことりちゃんも...こんな気持ち初めてなんです!やってよかったって本気で思えたんです!」

 

綾瀬会長は黙って耳を傾ける。

 

「今はこの気持ちを信じたい...。このまま誰も見向きもしてくれないかもしれない。応援なんて全然もらえないかもしれない。でも...一生懸命頑張って、私たちがとにかく頑張って届けたい!今、私たちがここにいるこの思いを!」

 

穂乃果...俺も一緒の思いだ。

 

口には出さないけど、穂乃果と目が合った俺はゆっくりと頷く。

 

「いつか...いつか私たち必ず...ここを満員にしてみせます!」

 

そうだ.....いつか、絶対満員にして見せる!

 

***

 

「ふふっ。完敗からのスタートか....」

 

うちは講堂の扉から離れ、静かにその場をあとにした。

 

-To be continued-

 




作「雑談のコーナー!今日は南ことりちゃんです!」

こ「お願いします♪」

作「正直アニメでここを初めて見たときは...心にとても刺さりました。」

こ「私もこの場面は...苦手です、それでも穂乃果ちゃんと海未ちゃんと一緒だったから乗り越えられたんだとと思います♪」

作「3人は本当に仲がいいですね!」

こ「はい!これからもずっと一緒です♪」

作「それでは穂乃果ちゃんと海未ちゃんが帰りを待っていると思うので...今回はここまで!」

こ「次回もお願いします♪」


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私のわがまま

明日も映画だー!

何度見ても感動的ですね...。

明日こそ泣かないようにします!

遅れましたが...UA5000突破致しました!

この作品を読んでくれている読者の方々やお気に入り登録してくれている方々には感謝してもしきれません!

これからも未来へ響く多重奏をよろしくお願いします!


「ほぇぇ~...」

 

「ことりちゃん最近毎日ここにきてるよね....」

 

「急にハマったみたいです」

 

「...なんでこの学校アルパカとかいるんだ?」

 

そう。今俺たち4人は学校で飼われているアルパカの前にいる。本当...なんでアルパカ?

 

「ほら、ことり、チラシ配りに行くぞ~!」

 

「あとちょっと~♪」

 

「もう...」

 

「5人にして部として認めてもらわなくてはちゃんとした部活は出来ないのですよ?」

 

「う~ん、そうだよねぇ~」

 

駄目だ、ことりはアルパカに夢中で一向に動こうとはしない。...これそんな可愛いのか?

 

「グゥッ!」

 

アルパカは白と茶色の2匹がいるのだが、俺が可愛いのか疑問に思った瞬間...茶色の方が歯をむき出しにして俺を威嚇してきた。

 

...心を読まれた!?いや、そんなはずないよな?

 

「これ可愛いのか?」

 

今度は口に出して聞いてみる。

 

「えぇ~!?可愛いよ~!ゆー君も触って見れば分かるよ!」

 

「まぁ...そこまで言うなら...」

 

俺は小屋の中に入り、茶色いアルパカに近づいて、撫でようと手を伸ばす。

 

「ぺッ!」

 

...触れる直前にアルパカは唾を吐いた。俺の顔に。

 

「うぉっ!?臭っ!?」

 

すぐにアルパカから離れてハンカチで顔を拭く。

 

「クッ!」

 

茶色のアルパカはしてやったぜ見たいな顔で俺を見ていた。

 

「この野郎...!」

 

久しぶりに怒っちまったぞ...。

 

「駄目だよゆう君...お、落ち着いて...ぷっ!」

 

「そ、そうですよ...動物に手を上げるなど...くっ!」

 

「お前ら笑ってんじゃねーよ!」

 

俺を止める穂乃果と海未の全身はプルプルと震え、笑いをこらえるのに必死なようだ。こらえきれてないけどな!

 

「はぁ~幸せぇ~♪」

 

ことりは相変わらず白いアルパカに夢中だった。

 

...白いアルパカなら大丈夫なのか?

 

「なあ、ことり。そのアルパカ俺にも触らせてくれないか?」

 

「う~ん......ちょっとだけだよ?」

 

俺はもう一度チャレンジしてみることにした。

 

慎重に白いアルパカに手を伸ばす。

 

「ぺッ!」

 

...触れる直前に茶色いアルパカが俺に向かって唾を飛ばしてきた。また顔に。

 

「...」

 

今度は無言でハンカチで顔を拭い、深呼吸をしながら目を閉じる。

 

「クッ!」

 

目を開くと見えたのは茶色いアルパカの満面の笑みだった。

 

「覚悟は出来たかこの野郎!」

 

「だから...だ、駄目だって...ぷぷっ!!」

 

「ここは...抑えて...く、ください...ふふっ!!」

 

「だから笑ってんじゃねーよ!!」

 

「もふもふ~♪ひゃんっ!」

 

俺が怒りを鎮めている間にことりが悲鳴を上げる。

 

「ことりちゃん!?」

 

ことりの顔は若干濡れていた。どうやら顔を舐められたようだ。

 

「えっと...ここはひとまず弓で!」

 

「それいいかもな...」

 

「駄目だよ!海未ちゃん何言ってるの!?ゆう君も落ち着いて!」

 

「グルルッ!」

 

突然歯をむき出しにして茶色のアルパカは俺たちに吠えてくる。

 

「ほら!アルパカだって怒ってるよ!」

 

そんなカオス的状況の中、誰かがアルパカに近づいていく。

 

「よ~しよし!」

 

その人物がアルパカを撫でると...一瞬で大人しくなった。

 

「嫌われちゃったかな~?」

 

まだ尻餅をついている状態のことりが不安そうに言う。

 

「あ、平気です。楽しくて遊んでただけだと思うので...あ、お水」

 

その人物...小泉さんは手慣れた様子でアルパカの水入れに水を入れる。

 

「小泉さん、アルパカ使いだね」

 

「わ、私...飼育委員なので...」

 

「そうなんだ」

 

「おぉ~!ライブに来てくれた花陽ちゃんじゃない!」

 

穂乃果は小泉さんに擦り寄り、肩に手を置く。

 

「あ、はい...」

 

いきなり話しかけられて緊張しているのか、小泉さんは俯いてしまう。

 

「ねぇあなた!...アイドルやりませんか?」

 

「穂乃果ちゃん...いきなりすぎ...」

 

「君は光っている!大丈夫!悪いようにはしない!」

 

「お前は悪人か!」

 

穂乃果の後頭部に軽くチョップを与える。

 

「でもすこしぐらい強引に頑張らないと!部員集まんないよ!」

 

「それはそうかもしれませんが...」

 

「あ、あの...」

 

小泉さんが何か言い辛そうに口を開く。

 

「に、西木野さんがいいと...思います」

 

「えっと...ごめんもう1度いい?」

 

1回では聞き取れなかった穂乃果が耳を小泉さんに近づける。

 

「西木野さんが...いいと思います。すごく...歌、上手なんです」

 

「そうだよねぇ~!私も大好きなんだ!あの子の歌声!」

 

「だったらスカウトに行けばいいじゃないですか!」

 

「俺と穂乃果が行ったけど...」

 

「絶対嫌だって!」

 

ファーストライブのあと、作曲のお礼と勧誘を兼ねて、西木野さんを尋ねたけど...

『だから...私じゃないって言ってるでしょ!?それと...絶対嫌です!』

 

と言われてしまった。

 

「あ、ごめんなさい...私、余計なこと!」

 

「ううん!ありがと!」

 

穂乃果は小泉さんの手を取り、にっこりとほほ笑む。

 

「かよちーん!」

 

声のする方を向くと、星空さんが大きく手を振っていた。

 

「早くしないと体育遅れちゃうよー?」

 

「し、失礼します」

 

小泉さんは星空さんのところに小走りで戻って行く。

 

「俺たちも戻るか」

 

そう言った俺は穂乃果たちから少し後ろに離れ、特に意味はないが、小泉さんたちが走って行った方向を眺め続けた。

 

***

 

放課後。 

 

「かよちんもう部活決めた?」

 

帰りの準備をしていた私に凛ちゃんはそう言います。

 

「えっと...明日決めようかな」

 

「そろそろ決めないと駄目だよ~!もうみんな部活始めちゃってるよ!」

 

「う、うん」

 

自分でも分かるぐらいに目が泳いでしまいました。咄嗟に誤魔化そうと、凛ちゃんに話を振る。

 

「凛ちゃんはどこ入るの?」

 

「凛は陸上部かな~」

 

凛ちゃん足速いもんね...

 

「あ、もしかして...」

 

俯いた私の視界に入るようにしゃがみ、凛ちゃんは

 

「スクールアイドルに入ろうと思ってたり?」

 

見事に私の心の中にあることを言い当ててみせました。

 

「そんなことないよ」

 

私は手を胸の前に持っていき、指を合わせる。

 

「やっぱりそうなんだ!」

 

「ち、違うよ!」

 

「嘘ついても分かるよ!嘘つく時絶対指合わせるんだもん!」

 

「...」

 

無意識にそんな癖が出ていたようです。

 

「一緒に行ってあげるから先輩たちのところに行こう!」

 

凛ちゃんは私の手を掴んで引っ張ってくれる。

 

「ほ、本当に違うの!...私じゃアイドルなんて...」

 

「かよちんそんなに可愛いんだよ?人気出るよ!」

 

「で、でも待って!」

 

「ん~?」

 

「わがまま...言ってもいい?」

 

「しょうがないなぁ~、何?」

 

そう...今から言おうとしていることは、本当にただのわがままだから...。

 

「もしね?.......もし私がアイドルやるって言ったら......凛ちゃんも一緒にやってくれる?」

 

「凛が?」

 

「うん」

 

「無理無理無理!凛はアイドルなんて似合わないよ~!ほらっ、女の子っぽくないし!髪だってこんなに短いし!」

 

「そんなこと!な「ほら昔もからかわれたことあるでしょ?」

 

強く否定しようとすると、凛ちゃんは話を遮る。

 

そう、凛ちゃんは昔...小学校の頃、スカートを穿いて登校したことがあった。女の子だったら当たり前のこと。

 

でも...その姿を男の子にからかわれた凛ちゃんはすぐに家に戻ってズボンに穿き替えてきた。

 

それが原因でずっと女の子っぽくないと言い張るようになってしまった。

 

「だから...アイドルなんて、絶対無理だよ~!」

 

「凛ちゃん...」

 

凛ちゃんはそう言って笑っています。でもどこか悲しそうでした。

 

自分に勇気が無く、踏み込めないことよりも...そっちの方が私は悲しいと思いました。

 

「あー!?」

 

凛ちゃんは突然大声を上げる。

 

「ど、どうしたの!?」

 

「今日、お母さんに早く帰ってくるように言われてたの忘れてた!」

 

「あ、ごめん!すぐ準備するから!」

 

「ううん!今日は先に帰るね!かよちんまた明日!」

 

私が返事をする間も無く、凛ちゃんは教室から走って出て行ってしまいました。

 

***

 

「何だあれ?」

 

メンバー大募集!と書かれたチラシが廊下に置いてある。それは知ってる。置いたのは俺たちだし。

 

問題はそこじゃない。

 

「手帳?」

 

確か...これは生徒手帳だったような気がする。

 

「勝手に中見るのはなぁ...」

 

でも見ないと誰のものか分からないし...

 

「あ、あの!」

 

困っていると後ろから声がかかる。

 

「どうかした?小泉さん」

 

「そ、その手帳...」

 

俺の右手にある手帳を指差す小泉さん。

 

「これ小泉さんの?」

 

「い、いえ!...西木野さんのものだと思います」

 

「へ?西木野さん?」

 

「は、はい、さっきここでチラシを取って行くのを見ていたので...」

 

西木野さんがこのチラシを!?...もう1度それとなく話を聞いてみるか。手帳届けるついでに。

 

「ありがと!じゃあ俺、西木野さんに届けてくる!」

 

「え!?あ、あの!」

 

背中を向けて走り出そうとした俺に再び小泉さんの声が投げかけられる。

 

「どうかした?」

 

「い、いえ!そのぉ...西木野さんの家がどこにあるか分かるんですか?」

 

「あ」

 

俺は足を踏み出した状態で動きを止めた。

 

-To be continued-

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは八坂優くんです!」

優「よろしくお願いします」

作「どうしてあんなにアルパカに唾吐かれるんでしょうねぇ?」

優「俺が知ってるわけないだろ!」

作「まあ...運が無かったですねw」

優「あいつとはいつか必ず決着をつけてやる...」

作「はい、頑張ってください、という訳で...次回もよろしくお願いします!」

優「どういう訳だ!?」


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真姫家にて

明日が...最後の映画です。

色紙は誰が当たるかわくわくします!

しかし最初の2年生組の色紙の時は5人中4人が穂乃果、1人が海未

次の1年生組は6人中5人が花陽、1人が凛ちゃんという...

呪われてるレベルですよねw

もし友達が海未を当ててなかったら...




「こ...これは!」

 

「お...大きいですね...」

 

西木野さんの生徒手帳を拾ったあと、俺は家に届ける為に先生に住所を聞いて今西木野さんの家の前にいる。

 

家はこれでもかというぐらい大きく、俺と小泉さんは門の前で立ち止まっていた。

 

「まあ...とりあえずチャイム鳴らしてみるか」

 

「は、はい」

 

門のせいで余計に小さく見えるチャイムのボタンを押す。

 

「はい、どちらさまですか?」

 

チャイムを鳴らして数秒後、ボタンの傍にあるスピーカーから女の人の声が聞こえてきた。

 

「あ、西木野さんの学校の友達で八坂優って言います。西木...真姫さんが落とした生徒手帳を届けに来ました。」

 

「八坂?...ちょっと待っててね?」

 

スピーカーから音が消え、代わりに門が音を立てて開く。そして中から女の人が出てきてこちらに手招きをする。

 

「行こうか」

 

「は、はい」

 

少し小走り気味に手招きしている女の人のところへ向かう。

 

「真姫ちゃんは今病院の方に顔を出しているの。すぐ帰ってくると思うから...上がって待っててもらえる?」

 

「あ、はい。...病院?」

 

怪我でもしたのか?それとも病気?怪訝に思った俺は素直に疑問を口に出す。

 

「といっても別に怪我や病気じゃないから安心してね?うちは病院を運営しているものですから」

 

「「えぇ!?」」

 

さらりと心を読まれた気がするが、それは置いといて...つまり...西木野さんはお嬢様ってことか!?それは...こんな家に住めるはずだ。隣で聞いていた小泉さんも驚いている。

 

「さ、ここで待っていてね。あ、そちらの女の子の名前を聞いていなかったわね。」

 

「あ、こ、小泉花陽...です!」

 

「そう...花陽ちゃんね、これからも真姫ちゃんと仲良くしてね?」

 

「は、はい!もちろんです!」

 

西木野さんのお母さん...なんかすごい物腰が柔らかい人だな。海未のお母さん...渚さんといい勝負かも知れない。

 

まぁ...あの人に限っては中身は想像つかなかったけどな...

 

「それで...八坂...優君だったかしら?」

 

「は、はい」

 

「お母さんのお名前は?」

 

「...美樹です」

 

いきなり自分の母親の名前を聞かれ、少々戸惑いながら返事を返す。

 

「やっぱり美樹ちゃんの子供なのね!」

 

「へ?母を知ってるんですか?」

 

「よく昔から私と美樹ちゃん...それともう1人を入れて一緒にいたのよ。懐かしいわぁ~!」

 

母さんの交友関係広いなぁ...

 

「あんなに小さかった赤ちゃんが...こんなに大きくなって...」

 

「...まさかとは思いますが、小さい頃に会ってたりするんですか?」

 

「あなたがまだ1歳ぐらいの頃かしら...抱っこもしてあげたし、あなたは西木野総合病院で生まれたのよ?」

 

「え!?そうなんですか!?」

 

俺は音ノ木坂で生まれたのか...てっきり母さんが理事長してる高校の近くかと思ってた...。

 

「自己紹介が遅れましたね。西木野美姫です、よろしくね」

 

「え?母さんと同じ名前なんですか!?」

 

「そうなの!だから昔からもう1人の友達は私たちを呼ぶときは困ってたわ」

 

「...どうでもいいことかも知れませんが...もう1人の友人というのは?」

 

「あなたもよく知ってる人よ?今は音ノ木坂学院の理事長をしているの」

 

「そ、それって!?」

 

「南ひばりちゃんよ」

 

マジでか...

 

「だからひばりちゃんは私のことをひめちゃんって呼んで美樹ちゃんをみきちゃんって呼んでたのよ~!」

 

「ただいま~...ママ~?誰か来てるの?」

 

俺と美姫さんが話していると玄関から西木野さんの声が聞こえてきた。

 

「真姫ちゃん、お友達が来てるわよ~」

 

「...何でいるの!?」

 

リビングに入ってきた西木野さんはこちらを見ると半歩後ずさる。

 

「生徒手帳落ちてたから...届けにきたんだけど」

 

「そ、そう...ありがとう」

 

「お茶入れてくるわね」

 

美姫さんはお茶を入れに部屋から出ていった。

 

西木野さんはテーブルを挟んで向かい側にあるソファに腰を下ろし、髪を人差し指でくるくるし始める。

 

「どこに落ちてたの?」

 

「μ’sのポスター見てた...よね?」

 

「わ、私が?知らないわ、人違いじゃないの?」

 

「でも...手帳もそこに落ちてたし...」

 

「えっ!?」

 

西木野さんは自分の鞄の側面のポケットを見てうろたえていた。

 

「ち、違うの!違っ!?」

 

「うわっ!?西木野さん!?」

 

西木野さんは立ち上がろうとした拍子に机に膝をぶつけて、そのままソファごと後ろにひっくり返る。

 

黒か...ってそうじゃなくて!

 

「大丈夫!?」

 

「へ、平気よ...もう!変なこと言うから!」

 

「ぷっ!ふふふふふ!」

 

「笑わない!」

 

小泉さんは笑いをこらえ、何か言い辛そうに口を開く。

 

「西木野さん...スクールアイドルやってみないの?」

 

「私が?スクールアイドルに?」

 

「うん...私、放課後いつも音楽室の近くに行ってたの。西木野さんの歌...聞きたくて」

 

「私の?」

 

「うん...ずっと聞いていたいくらい好きで...だから......」

 

「私ね...大学は医学部って決まってるの」

 

あぁ...家の跡を継ぐためか。

 

「そうなんだ...」

 

「だから...私の音楽はもう終わってるってわけ」

 

西木野さんは小泉さんから目を逸らし、どこか遠くを見る目をする。

 

...どこか感情を押し殺すような光を目に宿らせながら。

 

「それより...あなた.....アイドル、やりたいんでしょ?」

 

「え?」

 

「この前のライブの時、夢中で見てたじゃない」

 

「西木野さんもいたんだ?」

 

「あ、私はたまたま通りかかっただけだけど...やりたいならやればいいじゃない!そしたら...少しは応援、してあげるから」

 

「ありがとう」

 

小泉さんと西木野さんはお互いに顔を見て笑い合う。

 

「小泉さんは可愛いからきっと大丈夫だよ」

 

「えぇ!?///」

 

「先輩...いつか捕まるわよ?」

 

「何で!?」

 

俺が驚いていると携帯にLINEの通知が届く。

 

<何か今...優が女の子に向かって可愛いと言った気がするのですが...>

 

<あれ?海未ちゃんも?実は穂乃果もなんだ~!>

 

<ことりもだよ!>

 

「穂乃果!海未!ことり!どこで見ている!?出てこい!」

 

いるわけのない3人を赤面したままの小泉さんと呆れてみている西木野さんの前で探す。

 

「何してるのよ...」

 

「何でもない...そろそろ帰るよ、お邪魔しました!」

 

「お、お邪魔しました!」

 

「え、えぇ」

 

俺たちは西木野さんの家を出た。

 

***

 

「色々あるんですね...」

 

「そうだなぁ~...」

 

帰路に着いて歩いていると見覚えのある和菓子屋が見えてきた。

 

「あ、お母さんにお土産買って帰ろうと思います」

 

「俺もたまにはお土産買って帰るか」

 

小泉さんと一緒に穂むらと書かれた暖簾をくぐり、戸を開ける。

 

「あ、いらっしゃいませ~!」

 

「穂乃果、手伝いか?」

 

「ゆう君と花陽ちゃん!」

 

中には割烹着姿の穂乃果がいた。

 

「さすが和菓子屋の娘。様になってるな」

 

「褒めても何も出ないよ~!えへへ!」

 

「ここ先輩のお家だったんですね...」

 

「そうだよ~!あっ!もし良かったら上がっていってよ!今上に海未ちゃんが来てて、ことりちゃんももうすぐ来るし!」

 

「あ、いえ...私は...」

 

「じゃあ穂乃果の部屋行っとくぞ」

 

「は~い、じゃあ玄関にどうぞ~!私はまだ店番あるから!」

 

穂乃果が商品棚の整理を始めるのを見てから裏口に回る。

 

「お邪魔しまーす!」

 

「お邪魔します...」

 

「優君いらっしゃい、そっちの女の子は...彼女?」

 

「「えぇ!?///」」

 

「違いますよ!何言ってるんですか!秋穂さん!」

 

もし仮に本当に彼女だったとして何で友達の女の子の家に遊びにくるんだよ!?そんなレアケース聞いたことないわ!もしあったとしたらそいつはバカだ!

 

「ごめんなさい、冗談よ!冗談」

 

「うぅ...///」

 

「この子は小泉花陽さん、音ノ木坂の1年です」

 

「穂乃果の後輩なのね!私は穂乃果の母、秋穂よ!よろしくね!」

 

「あ、はい!よろしくお願いします!」

 

こういう元気が有り余っているところは本当穂乃果に似てるよな...

 

俺は少々疲れ気味に階段を上る。

 

「あ、ことりに写真でも送ってやるか。」

 

意味も無くそんなことを思いついた俺は携帯を片手に穂乃果の部屋の引き戸を開ける。

 

「じゃ~ん!みんなありがと~!」

 

そこには...笑顔でポージングを決める海未の姿があった。

 

パシャッ! ← 俺が反射的に写真を撮る音。

 

ギギギギッ! ← 海未がこちらをゆっくりと振り向く音。

 

パタンッ! ← 小泉さんが扉を閉める音。

 

ピロン! ← ことりに写真を送信する音。

 

スッ... ← 俺が黙ってクラウチングスタートの構えをとる音。

 

「小泉さん...」

 

「は、はい!」

 

「あとは任せた!」

 

「えぇ!?」

 

瞬間...引き戸がものすごい勢いで開き、その音を合図に俺は陸上選手もびっくりな完璧なフォームでスタートを切り、走り出す。

 

「捕まってたまるかぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「待ちなさぁぁぁぁぁぁい!!!!!」

 

玄関を開けて外に飛び出る。とそこにはことりが立っていて...俺はことりを押し倒してしまう。

 

「うわっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

「わ、悪いことり!大丈夫か!?」

 

「う、うん...大丈夫なんだけどね?ゆー君...手/////」

 

ことりの視線の先には俺の右手。その位置は...ことりの胸の上だった。

 

状況を理解した俺は一瞬でことりの上から飛びのき、その勢いのまま土下座をする。

 

「本当にごめん!」

 

「いいんだけど///...海未ちゃんに謝った方がいいと思うよ?///」

 

「優?」

 

「本当に申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

俺の絶叫が夜の街に消えていった。

 

-To be continued-

 




今回の雑談コーナーはお休みです!

次回もよろしくお願いします!


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まきりんぱな

3年生の色紙を手に入れることは出来ませんでした...
残念です...
でも家には2枚の色紙があるのでよしとしたいと思います!


「まさか海未ちゃんがポージングの練習してるなんてねぇ~」

 

俺たちから事情を聞いた穂乃果は海未の方をニヤニヤしながら見ている。

 

それをうっかり写真撮ってしまったから死にかけたけどな...。

 

「うぅ......」

 

その海未は顔を真っ赤にして俯いている。

 

「それで?お前らは何で穂乃果の家に集まってるんだ?」

 

「あ、そうだった!穂乃果ちゃん、パソコン持ってきたよ」

 

「ありがとう!肝心な時に限って壊れちゃってさ~」

 

ことりがパソコンを置こうとすると小泉さんが机の上の物をどける。

 

「あ、ありがとう!」

 

「い、いえ」

 

「それで......動画はありましたか?」

 

「動画?A-riseでも見るのか?」

 

「違うよぉ~...あった~!」

 

「本当ですか!?」

 

俺も海未に続いてパソコンの画面を覗き込む。

 

「これって!?」

 

そこには先日俺たちが行ったライブの映像が流れていた。イントロが始まって画面の中の3人がこちらに振り向く。

 

「誰が撮ってくれたのかなぁ~?」

 

「すごい再生数ですね...」

 

「こんなに見てくれたんだぁ~!」

 

それから3人はここが上手くいったとか思わずガッツポーズしそうになったなど感想を話し始める。

 

「小泉さん?そこじゃ見辛くない?」

 

俺は画面を熱心に見つめている小泉さんに声をかけるが、集中しすぎているのか返事はなく、ずっとライブ映像を見つめている。

 

「穂乃果、海未、ことり」

 

「どうしたの?ゆう君」

 

俺は3人を呼んだあと、小泉さんの方を向かせる。

 

「あぁ!」

 

「そういうことですか!」

 

「分かったよ♪」

 

どうやら俺の意図が伝わったようで、3人はニコニコしている。

 

「小泉さん!」

 

まずは海未が小泉さんを呼ぶ。

 

「は、はい!?」

 

ようやく声が聞こえた小泉さんは慌てて返事をする。そこで穂乃果が切り出す。

 

「スクールアイドル、本気でやってみない?」

 

「え?でも...私向いてないですから...」

 

「私だって人前に出るのは苦手です。向いているとは思えません」

 

「ポージングの練習」

 

「優?何か言いましたか?」

 

「気のせいだろ」

 

怖え...ボソッと言ったつもりなのに聞こえてるのか...

 

「私も歌忘れちゃったりするし、運動も苦手なんだ~!」

 

「私はすごいおっちょこちょいだよ!」

 

「自分で言うのかよ!」

 

否定はしないけどな!

 

「でも......」

 

どうにも一歩を踏み出せずにいる小泉さん。それを見たことりは立ち上がる。

 

「プロのアイドルなら私たちはすぐに失格!でも、スクールアイドルならやりたいっていう気持ちを持って、自分たちの目標を持って、やってみることが出来る!」

 

「っ!」

 

ことりの言葉を聞いて小泉さんは短く息を飲む。

 

「それがスクールアイドルだと思います!」

 

「だから、やりたいって思ったらやってみようよ!」

 

「最も、練習は厳しいですが」

 

「おいこら、海未」

 

「あっ、失礼」

 

勧誘したいのかしたくないのかどっちなんだよ......。とにかく!

 

「待ってるよ、小泉さん!」

 

「ゆっくり考えて答えを聞かせてね!」

 

「はい!」

 

大きな声で返事をした小泉さんの顔には迷いは無く、決意に満ち溢れていた...と思う。

 

「もうこんな時間か?」

 

時計を確認した俺は立ち上がり帰る準備をする。

 

「あっ!私も...」

 

小泉さんも鞄を持って部屋を出ようとする。

 

「じゃあ送っていくよ」

 

「い、いえ...そんな訳には!」

 

「もうこんな時間だし...小泉さんみたいな可愛い女の子が1人で帰るのは危ないから、別にいいって!」

 

空気が変わる。...あ、この流れはまずいな。俺は瞬間的に察する。

 

「そ、そのぅ...可愛くなんてない、ですから!////」

 

小泉さんは赤面し、

 

「ねえ~海未ちゃん?実はさっきゆー君からこんな写真が届いたんだけど♪」

 

ことりはニコニコしながらスマホを海未に見せていた。

 

あれはまさか!?

 

「優?ちょっと話があるのですが?」

 

「ごめん、俺ちょっと小泉さんを送らないといけないから!」

 

地雷を見事に踏み抜いた俺は、小泉さんの手を取って、すぐにその場から離脱をする。

 

「おじゃましましたぁぁ!!!!!」

 

とりあえずあとで全力で謝ろう、明日を生きるために!練習倍とかになったら...恐ろしすぎる!

 

***

 

その夜、3人の少女たちは悩んでいた。

 

ある少女はパソコンに映し出されている映像を見て、諦めたはずの思いを燻らせ

 

ある少女は鏡の前でスカートを穿いた自分を見て、似合う訳ないと自分を押し殺し

 

ある少女はアルバムを開き、幼いころからの願いと向き合っていた。

 

ついでにある少年は全力で携帯に向かって謝り続けていたと彼の妹は語る。

 

***

 

はぁ...。やっぱり、私じゃ無理なのかな......。

 

「何してるの?」

 

「西木野さん......」

 

私が中庭に座っていると西木野さんが声をかけてきてくれました。

 

「あなた、声は綺麗なんだから......あとはちゃんと大きな声を出す練習すればいいだけでしょ?」

 

「でも......」

 

「はぁ...」

 

西木野さんはため息をついて

 

「あ~♪あ~♪あ~♪あ~♪あ~♪」

 

歌の練習で使われる発生練習を始めました。やっぱり綺麗な声だなぁ....

 

「はい」

 

「え?」

 

「やって」

 

突然やってって言われても...それでも私はやってみることにします。

 

「あ~♪あ~♪あ~♪あ~♪あ~♪」

 

「もっと大きく!はい立って!」

 

「は、はい!」

 

「一緒に!」

 

「「あ~♪あ~♪あ~♪あ~♪あ~♪」」

 

「ねっ?気持ちいいでしょ?」

 

「うん、楽しい!」

 

「...はい、もう一回!」

 

と西木野さんが言ったところで

 

「か~よち~ん!」

 

凛ちゃんが私の名前を呼びながら走ってきました。

 

「西木野さん?どうしてここに?」

 

「励ましてもらってたんだぁ」

 

「わ、私は別に...」

 

「それより!今日こそ先輩のところに行って、アイドルになりますって言わなきゃ!」

 

凛ちゃんはそう言って私の手を掴みます。

 

「そんなせかさない方がいいわ!もう少し自信をつけてからでも...」

 

「何で西木野さんが凛とかよちんの話に入ってくるの!」

 

「別に!そっちの方がいいと思っただけ!」

 

「かよちんはいつも迷ってばっかりだから、パッと決めてあげた方がいいの!」

 

「そう?昨日話した感じじゃそうは思えなかったけど!」

 

このまま喧嘩になっちゃいけない!早く止めないと!

 

「あの...喧嘩は......」

 

「「むぅ...!」」

 

凛ちゃんと西木野さんは互いに視線をぶつけて、本当に火花が散っているようでした。

 

「かよちん行こう!先輩たち帰っちゃうよ!」

 

痺れを切らした凛ちゃんは私の手を引っ張って先輩たちのところにいこうとします。

 

「待って!」

 

空いていた私の左腕を掴み、西木野さんが私と凛ちゃんを引き留めます。

 

「どうしてもって言うなら私が連れていくわ!音楽に関しては私の方がアドバイス出来るし、μ’sの曲は私が作ったんだから!」

 

「えぇ!?そうなのぉ!?」

 

「あっ!いや......え~っと......とにかく行くわよ!」

 

今度は西木野さんが私の腕を引っ張って先輩たちのところにいこうとします。

 

「待って!連れてくなら凛が!」

 

凛ちゃんが西木野さんの隣に並びます。

 

「私が!」

 

「凜が!」

 

私は足で踏ん張りますが、2人がかりで引っ張られてしまっては抵抗も出来ず、そのままズルズルと引きずられてしまいます。

 

「ダレカタスケテェ~!!!!!」

 

結局そのまま屋上に連れていかれてしまいました。

 

***

 

「つまり...メンバーになるってこと?」

 

屋上で練習していた俺たちのところに来たのは、小泉さん、星空さん、西木野さんの3人だった。そこまではいいけど...

 

小泉さんは左右の手を星空さんと西木野さんに掴まれてぐったりしていた。

 

ここに来るまでに何があったんだ?

 

「はい!かよちんはずっとずっと前からアイドルやってみたいと思ってたんです!」

 

「そんなことはどうでもよくて!この子は結構歌唱力あるんです!」

 

「どうでもいいってどういうこと!?」

 

「言葉通りの意味よ!」

 

おいおい...これ止めた方がいいのか?でも2人とも小泉さんの背中を押そうとしてるのは分かる、その証拠に

 

「私は...まだ、何て言うか......」

 

「もぉ!いつまで迷ってるの!?絶対やったほうがいいの!」

 

「それには賛成!」

 

小泉さんはスクールアイドルをやるべきって気持ちは一致しているからだ。

 

「やってみたい気持ちがあるんならやってみた方がいいわ!」

 

「で、でも......」

 

「さっきも言ったでしょ?声出すなんて簡単!あなただったら出来るわ!」

 

「凛は知ってるよ!かよちんがずっとずっと、アイドルになりたいって思ってたこと!」

 

星空さんと西木野さんの強い視線と思いが小泉さんを射抜く。

 

「凛ちゃん......西木野さん......」

 

「頑張って!凛がずっとついててあげるから!」

 

「私も少しは応援してあげるっていったでしょ?」

 

2人は小泉さんの背中を押し出す。押し出された小泉さんは振り返り、星空さんと西木野さんを見たあと、頷いて、こちらを向く。その顔に迷いはない。

 

この屋上から見える夕暮れの景色のようにどこまでも澄み渡った顔だった。

 

「私!小泉花陽と言います!1年生で背も小さくて声も小さくて......人見知りで、得意なものも何もないです......でも!アイドルへの思いは誰にも負けないつもりです!だから......μ’sのメンバーにしてください!」

 

「こちらこそ......よろしく!」

 

穂乃果は小泉さんに手を伸ばす。小泉さんは穂乃果の手をしっかりと取り、握手を交わす。

 

「うぅ~...かよちん....偉いよぉ~......」

 

その後ろでは星空さんが涙を拭っていた。

 

「何泣いてるのよ」

 

「だってぇ~......って西木野さんも泣いてる?」

 

「だ、誰が!泣いてなんかないわよ!」

 

「それで?2人は?」

 

「「え?」」

 

「2人はどうするの?」

 

「「どうするって......えぇ!?」」

 

「まだまだメンバーは募集中ですよ?」

 

「うん!」

 

ことりと海未が揃って星空さんと西木野さんに手を伸ばす。

 

「で、でも......」

 

ここから先は俺の仕事......かな!

 

「さっき西木野さんも言ってただろ?やってみたい気持ちがあるならやった方がいい!」

 

俺の言葉を聞いた2人は少しずつ手を伸ばし始める。

 

「簡単なんだ、その手を掴むだけでいい!そうしたらきっと踏み出すことが出来る!」

 

俺は最後の追い風を送る。

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

2人は手を取ることが出来た。

 

そして......音ノ木坂学院、スクールアイドル『μ’s』はこの日、俺も含めて7人になった。

 

***

 

「今日も朝練か~......眠い......」

 

いつもの神社の階段に来ると星空さんと西木野さんの姿が見えた。

 

「2人ともおはよう、今日から練習頑張っていこうぜ」

 

「おはようございます......」

 

「星空さん?元気ないよ?どうかした?」

 

「朝練って毎日こんな早く起きないといけないのぉ~......?」

 

「これくらい当然でしょ?」

 

「当然なのぉ~....?」

 

「俺たちが極端すぎるだけだと思うけどな......」

 

俺は若干苦笑いで答える。なんせメニューを考えているのは海未だからな。これぐらいはやってのけるだろう。

 

会話をしているとすでに準備運動を始めていた小泉さんを見つける。

 

「かよち~ん!」

 

小泉さんが視界に入った瞬間眠気なんて吹き飛んだのか、星空さんはブンブンと手を振っている。

 

「おはよう!」

 

振り向いた小泉さんは......メガネをしてなかった。

 

「あれ?メガネは!?」

 

星空さんは小泉さんに駆け寄り、俺も聞こうと思っていたことを聞く。

 

「コンタクトにしてみたの!変...かな?」

 

「ううん!全っ然可愛いよ!すっごく!」

 

「へぇ~、いいじゃない」

 

「西木野さん......八坂先輩も」

 

「あー...優でいいよ、折角友だちになったんだしさ!」

 

「わ、私もメガネ取ったついでに......名前で呼んでよ」

 

「「え?」」

 

「私も名前で呼ぶから......花陽、凛!」

 

「真姫ちゃん!」

 

「真姫ちゃ~ん!真姫ちゃん!真姫ちゃん!真姫ちゃ~ん!」

 

「な、何よっ!?/////」

 

星ぞr....凛は真姫の周りをピョンピョンと飛び跳ねる。そして......

 

3人は俺の方を向く。

 

「今日からお願いします!優さん!」

 

「よろしくお願いするにゃー!ゆーサン!」

 

「お、お願いするわ.....ユウ!」

 

「あぁ!よろしく!花陽!凛!真姫!」

 

お互いの名前を呼び合うことが決まったところで

 

「あ、お~い!」

 

穂乃果の声が聞こえてくる。

 

「さて...と!じゃあ今日も練習始めるか!」

 

「「「おぉ~!!!」」」

 

俺と花陽と凛と真姫の声はどこまでも続く青空へと抜けていった。

 

-To be continued-

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストはいよいよμ’sに加わることになったアイドル好きの1年生!小泉花陽ちゃんです!」

花「よ、よろしくお願いします!」

作「さて、μ’sに入って.....意気込みはどうですか?」

花「私は鈍くさいし...運動も苦手ですけど.....アイドルにかける思いなら誰にも負けないつもりなので.....先輩たちの足を引っ張らないように凛ちゃんと真姫ちゃんと一緒に頑張りたいと思います!」

作「はい!ありがとうございます!とてもいい意気込みですね!それでは!」

花「次回も......よろしくお願いします!」


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梅雨の日

明日...CD発売日ですね!
私の大好きな2年生組とこれまでの集大成と言っていいあの曲が入ったCDですよ!
買うお金がないために友達からCDを借りることになりますけどねw
いずれは自分のお金で買いたいと思います!




「ことり~、悪い待たせたか?」

 

いつも通り朝練をするため、俺は神田明神の階段を登り、準備運動をしていたことりに声をかける。

 

「私もさっき来たところだよ。それと海未ちゃんは弓道の朝練があるんだって」

 

「穂乃果と1年生トリオは?」

 

「ごめん!待った?」

 

穂乃果の名前を出すと、ちょうど本人が階段から姿を現した。

 

「いや、俺たちもさっき来たとこだ」

 

「凛ちゃんたちもその内来ると思うから先に始めてようか」

 

「うん!そうだね...!?」

 

穂乃果と会話をしていたことりが急に後ろを振り返る。

 

「どうかしたのか?」

 

「さっきから気にはなっていたんだけど......穂乃果ちゃん、ゆー君、あそこに誰かいなかった?」

 

そう言ってことりは建物の角の辺りを指差す。

 

......いたのか?

 

「じゃあ私見てくるよ!」

 

「俺も行く」

 

指差された位置まで行き、角を曲がるが......誰もいない。更にその奥の角を穂乃果が曲がろうとすると、

 

「うわっ!?」

 

穂乃果は急につまずき、地面に倒れる寸前に手をついてこらえた。

 

「痛ぁ~い!!」

 

今、遠くから見てて穂乃果の足首を誰かが掴んだように見えた気がするぞ!?

 

と俺が穂乃果に近寄ろうとすると誰かが穂乃果にデコピンをして、何かを言って去って行った。

 

真面目に観察してる場合じゃなかった!?

 

「穂乃果!?大丈夫か!?」

 

俺はすぐに穂乃果に駆け寄り、抱き起こす。その騒動を聞いていたことりも傍にやってくる。

 

「何を言われたんだ?」

 

「とっとと解散しなさいって......」

 

「え!?」

 

ことりは驚いているが、俺は冷静に考えていた。

 

μ’sは6人に増え、動画の再生回数も増えてきて、知名度も上がってきたため、このようなアンチが付くことも当然のことだよな.......。

 

「気にすることない、確かに今朝コメントにアイドルを名乗るなんて10年早いと書かれていたけど、それは名前が知られてきたってことだからな!」

 

「そっか......そうだよね!」

 

穂乃果はガバッと立ち上がり意気揚々と拳を握る。

 

「あ、いたいた~!」

 

後ろから凛の声が聞こえる。全員揃ったみたいだな。

 

「よ~し!練習開始だぁ~!」

 

穂乃果が駆け出し、俺たちはあとに続いた。

 

***

 

「それでは!メンバーを新たに加えた新生スクールアイドルμ’sの練習を始めたいと思います!」

 

「いつまで言ってるんですか?それはもう2週間も前ですよ?」

 

「ちなみに今ので13回目だ」

 

デコピンされたおでこにバンソーコーを貼っている穂乃果を横目で見ながら俺は淡々と回数を言う。

 

「数えてたんですか!?」

 

「だってぇ~!嬉しいんだもん!」

 

気持ちは分かるけど......もうさすがにいいだろ。

 

「なので!いつも恒例の......1!」

 

「2!」

 

「3!」

 

「4!」

 

「5!」

 

「6!」

 

「......7」

 

「くぅ~!!!!7人だよ、7人!アイドルグループみたいだよねぇ~!いつかこの7人が神セブンだとか仏セブンだとか言われるのかなぁ~!」

 

「仏だと死んじゃってるみたいだけど.....」

 

「毎日同じことで感動出来るなんて、羨ましいにゃー」

 

「いやぁ~!」

 

バカにされてるぞ、決してほめられてないぞ!

 

「それと......俺は別にステージに立つわけじゃないから、わざわざカウントしなくていいって言ってるだろ?」

 

「ゆう君だってμ’sのマネージャーなんだからいいの!」

 

「諦めた方がいいですよ?穂乃果はこうなったら意地でも動きませんから」

 

「そうする......」

 

「人数が増えるっていいことだよねぇ~!私にぎやかなの大好きでしょ?歌が下手でも誤魔化せるでしょ?あとダンスを失敗してm「穂乃果?」冗談冗談!」

 

海未のドスが聞いた低音で穂乃果は一瞬で冗談と言う。

 

「そうだよ?ちゃんとやらないと朝みたいに怒られちゃうよ?」

 

『解散しなさい!』

 

「って言われたんでしたっけ?」

 

「でもそれって......それだけ有名になってきたってことだよね!」

 

「さすが凛、よく分かってるな」

 

「えへへ~」

 

「それより練習!どんどん時間無くなるわよ?」

 

話に夢中になりすぎたな。

 

「おぉ!真姫ちゃんやる気満々!」

 

「べ、別に!私はただとっととやって帰りたいの!」

 

「またまた~!お昼休み見たよ~?1人でこっそり練習してるの!」

 

「あ、あれはただ!この前やったステップがかっこ悪かったから変えようとしてたのよ!あまりにもひどすぎるから!」

 

「お、おい?真姫?その辺で......」

 

だって確か練習している曲のステップはほとんど海未が......

 

「そうですか......あのステップ、私が考えたのですが......」

 

「えっ!?」

 

「おい!海未、顔!顔!他人に見せられない表情してるぞ!?」

 

雰囲気といい、表情といい......例えるなら、落ち武者って感じだ。

 

「気にすることないにゃー!」

 

そんな悲壮感溢れる海未をフォローするかのように凛は階段を駆け上がる。

 

「真姫ちゃんは照れくさいだけだよね!」

 

この2週間の間に随分と仲良くなったな、2人とも。まあ凛が積極的に真姫に近寄ってるからな。打ち解けるのも簡単だったんだろう。

 

俺が物思いにふけっていると、外からザァーっと音がし始める。

 

「雨だ......」

 

「どしゃ降りですね......」

 

穂乃果と花陽がガックリと肩を落とす。

 

「梅雨入りしたって言ってたもんね.......」

 

「それにしたってよく降るよな~!」

 

「降水確率60%って言ってたのに~!」

 

確率なんて当てにならないな、傘持ってきておいてよかったぁ~!

 

「60%なら降ってもおかしくないじゃない」

 

「でも!昨日も一昨日も60%だったのに降らなかったよ!」

 

「あ、雨少し弱くなったかも!」

 

「本当だ!」

 

穂乃果は扉を開け、外へと飛び出す。

 

「やっぱり確率だよ!」

 

「このくらいなら練習出来るよぉ~!」

 

凛も外へ飛び出し、その場で小刻みにジャンプしている。

 

「ですが......下が濡れて滑りやすいですし......またいつ降りだすか.......」

 

「大丈夫大丈夫!練習出来るよぉ~!」

 

海未の制止を聞かずに2人は屋上の真ん中辺りまで走っていく。

 

「うぅ~!テンション上がるにゃー!!!!!」

 

凛はそう叫ぶと地面に手をつき、ハンドスプリングをしたかと思うとその勢いで宙返りを楽々とこなし、地面を滑りながら決めポーズをして勢いよく止まる。

 

凛がポーズを決めたその瞬間、待っていました!と言わんばかりに再びどしゃ降りになった。

 

それにしても......凛の運動神経は男顔負けだな......。

 

「おぉ~!PVみたいでかっこいい!」

 

穂乃果は凛の隣で拍手している。

 

「私帰る」

 

「わ、私も......今日は...」

 

「そうだね、また明日にしよっか」

 

「じゃ、着替えて今日は解散ってことで」

 

「えぇ~!?帰っちゃうのぉ~!?」

 

「それじゃ凛たちがバカみたいじゃん!」

 

「バカなんです」

 

「いいから早く中入れ、2バカ」

 

海未のツッコミに便乗して俺は冷たくツッコむ。

 

「これから雨が続くとなると、練習場所をなんとかしないといけませんね.....」

 

「体育館とか駄目なんですか?」

 

「講堂も体育館も、他の部活が使ってるんだよ」

 

「そうですよね.......」

 

「だから屋上でいいんじゃないの?」

 

「そうにゃ!そうにゃ!」

 

「早く体拭け、2バカ」

 

「ゆーサン当たり強いにゃー!」

 

「そうだそうだ~!」

 

「とにかく今日は中止だな!さ、着替えて帰ろうぜ!」

 

穂乃果と凛の抗議を軽くスルーして俺は先に階段を降りた真姫を追うようにして階段を降りた。

 

海未もことりも花陽も残念そうな顔をしながらも俺のあとに続いた。

 

***

 

「どうやらあの子ら、辞める気はつもりはないようやで?」

 

「ふん......」

 

うちが今話しとるんはうちと同じ学年の女の子矢澤にこ。通称にこっちや。

 

うちが勝手にそう呼んでるだけなんやけどね。

 

にこっちは体は小さく、髪は黒髪のツインテールや。

 

誰に説明するわけでもないのに、うちは心の中で今目の前で不機嫌そうにしているにこっちの紹介をする。

 

「そんな意地張る必要なんてあるの?」

 

「誰も意地なんて張ってないわよ!」

 

にこっちはくるりと踵を返し、うちの前からいなくなる。

 

「それが意地って言うんよ?もう......」

 

にこっちが去ったあとでうちは1人、聞こえもしないことを呟く。まるでお母さんみたいやん。

 

自分の行動に可笑しくなったうちはクスクスと笑って生徒会室へと戻って行った。

 

-To be continued-

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは、μ’sの元気印!運動神経抜群の星空凛ちゃんです!」

凛「お願いしますにゃー!」

作「作中何度見てもすごい運動神経ですよね?」

凛「凛は昔からスポーツが得意で、よく体を動かしてたんだにゃー!そしたらいつの間にかこうなってたんだぁ~!」

作「その口調も特徴的ですよね?」

凛「凛は猫が大好き!でも猫アレルギーなんだぁ~......残念!」

作「それは悲しいですね......好きな物に触れられないなんて!」

凛「でも!かよちんだっているから全然寂しくないんだにゃー!」

作「というわけで!」

凛「次回もお願いするにゃー!」


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雨の日の放課後

もうすぐ夏休みです!
少しは投稿ペースを上げられるといいんですが......
就職やら進学やらでほとんど学校に駆り出されることになります。
休ませてくれよぉ!


「むぅ......」

 

「穂乃果?ストレスを食欲にぶつけると大変なことになりますよ?」

 

「雨、何で止まないの!?」

 

「俺たちに言っても仕方ないだろ」

 

雨で練習が中止になったから帰ろうとしたけど、穂乃果に誘われてμ’sのメンバーで帰り道にあるチェーン店にハンバーガーを食べに来ていた。

 

「練習する気満々だったのに......天気ももう少し空気呼んでよ......もうっ!」

 

「呪文のように唱えるのやめろ、誰を呪うつもりだ」

 

と穂乃果の鬱憤に軽い冗談で付き合っていると

 

「うるさい!」

 

隣からそんな声が聞こえてきたため、一瞬だけ声のした方を向く。

 

「穂乃果ちゃ~ん......さっき予報見たら明日も雨だって~」

 

ちょうどことりがハンバーガーを乗せたトレイを持って帰ってきたため、俺の意識はみんなのところに戻る。

 

「えぇ~!?」

 

明日も雨か......しばらく練習出来ないのは、ちょっときついな。

 

「ん?」

 

「どうした、穂乃果?」

 

穂乃果が自分の手元を見て動きを止め、何故か怪訝な表情をした後、俺をじっとりと見てくる。

 

「ゆう君?私のポテト食べたでしょ!?」

 

「はぁ!?」

 

穂乃果のポテトはすでに無くなっていて、どうやら俺が疑われているらしい。

 

「そんなことするか!穂乃果じゃあるまいし......」

 

「酷いよ!ゆう君!いくら私でも人の物を勝手に食べるなんてしないよ!」

 

「言いすぎた、ごめん」

 

さすがにちょっと気の毒になった俺は素直に謝罪する。

 

「こうなったら......ゆう君のポテトもーらいっ!!!!」

 

「前言撤回!やっぱ謝るんじゃなかった!?」

 

「......あれ?」

 

「今度は何だ?」

 

穂乃果は俺の手元を見て先ほどと同じような表情をしたあと、口を開く。

 

「ゆう君のポテトももう無いよ?」

 

「は?そんなわけないだろ?」

 

俺が自分のトレイに視線を落とすと、そこには空になったポテトのケースがあった。

 

「嘘だろ!?」

 

「何をやっているんですか......」

 

「海未?食べたのお前じゃないよな?」

 

「優は私がそんなことをすると思っているのですか?」

 

「滅相もございません!」

 

海未に疑いの眼差しを向け、逆に俺は海未から怒りの視線を向けられて速攻で謝罪に走る。

 

俺弱ぇ......男としてこれでいいのか?......よくないよなぁ......

 

「そんなことより、練習場所でしょ?教室とか借りられないの?」

 

ポテトが消えたことはそんなこと扱いの真姫は練習について真剣に悩んでいた。

 

真姫がいなかったらこの騒ぎ収拾ついてなかったな......助かるわ。

 

「う~ん.......前に先生に頼んだんだけど、ちゃんとした部活じゃないと許可できないって」

 

「そうなんだよねぇ~、部員が5人居ればちゃんとした部の申請をして部活に出来るんだけど~......」

 

「そうだよなぁ~、5人居ればな~......」

 

ん?5人?

 

俺は周りを見た。1人1人と目が合い、ハッとする。

 

「.....あっ!私たち7人になったの忘れてた!」

 

穂乃果もようやく気付いたようで立ち上がる。

 

「忘れてたんかーい!!!!」

 

穂乃果のうっかりにツッコミが飛んでくる。......隣の席から。

 

「「「「「「「え?」」」」」」」

 

7人全員の声が綺麗に重なる。

 

俺は隣を覗き込もうとするが

 

「それより忘れてたってどういうこと?」

 

真姫の声に遮られる。

 

「いやぁ~、メンバー集まったと思ったら安心しちゃって......」

 

「この人たち駄目かも......」

 

「よし!明日早速部活申請しよう!そしたら部室がもらえるよ!」

 

「そうだな!.....安心したら腹減ったわ。ハンバーガーっと......ん?」

 

俺がトレイの上に乗ったままのハンバーガーに手を伸ばそうとすると、隣の席から手が伸びて来て、ちょうど俺のハンバーガーを掴んだところだった。

 

俺は目をこすり、目を開ける。

 

そこにはハンバーガーがあり、手は無くなっていた。

 

なーんだ!幻覚か!最近疲れ気味だったからな!うんきっと疲れのせいだ!HAHAHAHAHA☆

 

「って!そんな訳あるかぁぁぁぁぁ!?」

 

俺は脳内1人乗りツッコミのあと、すぐに隣の席に回り込む。

 

「ゆう君!?どうしたの?って!あぁぁぁぁぁぁ!?」

 

穂乃果が俺の後ろから顔を覗かせ、隣の席の相手を見た瞬間叫ぶ。

 

そこにいたのは......サングラスをして何か頭に巻貝的な物を置いて、すごく派手な格好をしている、女の人だった。

 

「あなた!今朝の!?」

 

「こいつが!?」

 

解散しろと言ってきたやつか。

 

「ポテト返して!」

 

「違う!今重要なのはそこじゃない!」

 

......この人見たことあるような?

 

「もしかして......ライブに来てませんでしたか?」

 

「何の事よ!?」

 

うわっ!分かりやすっ!

 

「か、解散しろって言ったでしょ!?」

 

俺の視線を誤魔化すように、大声で叫ぶ。

 

「あんたたちダンスも歌も全然なってない!プロ意識が足りないわ!」

 

「......何だと?」

 

自分たちでもまだまだだと思っているけど、他人に言われるとすげえ腹立つ!

 

「......あんたに何が分かる?」

 

気づくと俺は威圧するような低い声が出ていた。

 

「優!落ち着いて下さい!」

 

「駄目だよ!ゆー君!」

 

海未とことりの呼びかけで俺は少し冷静になる。

 

「.....あんたたちがやってることはアイドルへの冒涜!恥よ!」

 

それだけ言うとその人は背を向けて店から出ていこうとする。

 

俺はその手を掴む。

 

「......あんたに昔何があったかは知らないけど、俺たちは自分なりにやっているつもりだ。だからそんなこと言わないでくれ」

 

「っ~~~~!!!離しなさいよ!」

 

女の人は足を振り上げたと思うと、俺の脛を全力で蹴ってきた。

 

「痛ぇっ!?」

 

その隙に逃げ出されてしまうが、弁慶の泣き所をピンポイントで蹴られた俺はその場で跳ね回る。

 

「優?あまり言いすぎては駄目ですよ?」

 

「ちょっとは俺の心配をしてくれよ!」

 

「ゆー君大丈夫?」

 

「大丈夫ですか?優さん」

 

ことりと花陽は心配そうに声をかけてくる。

 

あれ?痛みが引いていく気がする。

 

「そろそろお店から出ようか?」

 

「そうだね~」

 

穂乃果と凛が後ろで話している。

 

仕方なく席に鞄を取りに戻って、店を出る。

 

「あれ?そういえば俺のハンバーガーは?」

 

「あ、ごちそうさま!」

 

「穂乃果ぁぁぁ!!!」

 

どうやら騒動の間に食べられていたようだ。

 

-To be continued-

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは家は病院を経営している高嶺の花!西木野真姫ちゃんです!」

真「よろしく」

作「何か質問はありますか?」

真「そうね......もうちょっとシリアスと笑いのバランスは取れなかったの?」

作「シリアスだけで行くときはそうするのですが、今回は本来ならそんな空気にはならないので、無理矢理ねじ込むような形になりました。」

真「普段は温厚であまり怒らないユウがあそこまでムキになったのは?」

作「彼は人の頑張りなどを馬鹿にされると怒るタイプです!」

真「そっ、もういいわ」

作「では、次回も!」

真「お願いするわ」


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厳しさの裏側

いつの間にかUA9000突破してました!本当にありがとうございます!
これからも楽しんでいただける作品にしたいと思っています!

最近この作品を見た友人に言われたこと、それは人数多くなって会話が多くなるのは分かるけど多すぎる気がするということです。

私自身もそのことは気にしていたりしますw

もっとテンポよく書けたらなと思います......。


「アイドル研究部?」

 

「そう、すでにこの学校にはアイドル研究部というアイドルに関する部が存在します」

 

そんな部があったのか、この学校。アルパカといい......珍しい学校だよな。

 

生徒会室に来たのはいいが、アイドル部設立の申し込みをしたところ、すでに似たような部があると言われて俺たち4人は驚きの表情を隠せないでいた。

 

さすがに7人全員で申し込みに行くのは迷惑になるので、今生徒会室に来ているのは2年生の俺たちとなる。

 

「まぁ、部員は1人やけど」

 

「え!?でもこの前部活には5人以上って.....」

 

「そう言えば......設立時は5人必要だけど、その後は何人になってもいいって決まりだったよな」

 

穂乃果の質問には俺が答える。

 

「その通りや、優くん」

 

「生徒の数が限られている中、いたずらに部を増やすことはしたくないんです。アイドル研究部がある以上、あなたたちの申請を受けるわけにはいきません」

 

「そんな......」

 

「これで話は終わり」

 

「になりたくなければアイドル研究部とちゃんと話をつけてくることやな」

 

綾瀬会長が終わりにしようとした話に落ち込んでいると、そんな俺たちを見かねたのか希先輩が助け船を出してくれる。

 

ありがたいんだけど......この人綾瀬会長の味方じゃないのか?本当に掴みどころが見当たらない。

 

「希!?」

 

「2つの部が1つになるなら問題はないやろ?」

 

綾瀬会長も予想していなかったんだな......希先輩が俺たちに肩入れするような意見だすなんて。

 

「部室に行ってみれば?」

 

「分かりました!行ってみます!」

 

穂乃果を先頭に生徒会室を出ようとする。

 

「あ、優くん」

 

何故か俺だけ呼び止められる。

 

「何ですか?希先輩」

 

「今度手伝ってもらいたい仕事があるんやけど、えぇ?」

 

「希!?生徒会でもない生徒に頼むことなんて......」

 

「じゃあ、あの山積みのダンボール......えりちは女子だけで運べるゆうんやね?」

 

「そ、それは......」

 

ニヤッと人の悪い顔で笑う希先輩と山積みのダンボールを想像したのか苦虫を噛み潰したような顔をする綾瀬会長。

 

「まあ、力仕事ですから......微力ですけど、手伝いますよ!」

 

「助かるわ~!用事はそれだけやから、もう行ってえぇよ?」

 

「それじゃ、これで!」

 

生徒会室から出た俺はすぐに3人の背中を見つける。どうやら待っていてくれたようだ。

 

「なんの話だったの?」

 

「あぁ、希先輩が今度力仕事を手伝って欲しいんだってさ」

 

「優はいつから副会長のことを名前呼びなんですか?」

 

「あ、私も聞きたいなぁ~♪」

 

あれ?これはまさか......逃げられないな、これは。

 

「前、練習の時に希先輩が呼び方変えてくれって頼んできたんだよ、他意はない」

 

「だから『優くん』って呼んでたんだね!」

 

「そんなことより早く1年生連れてアイドル研究部の部室に行こうぜ」

 

これ以上好奇心で聞かれるとあることないこと話してしまいそうだ。ないことは話しちゃダメだろ......。

 

何とか話題を逸らすことが出来た俺は足早に1年生の元に向かった。

 

***

 

「「「「「「「あぁ~!?」」」」」」」

 

「げっ!?」

 

お互いに出会うことは予想外だった。まさか......こんなとこで再会するなんてな。

 

アイドル研究部の部室に行くと、ちょうど目の前に俺の脛を蹴って逃げたあの黒髪の人がいた。

 

ちなみに相手は俺たちを見て、顔が引きつっていた。

 

「あなたがアイドル研究部の部長!?」

 

「にゃあぁぁぁぁ!!!!!」

 

穂乃果が聞いた途端、その人は急に猫みたいな唸り声を上げ、腕を振り回してきた。

そしてすぐに部室に入り、鍵をかけてしまう。

 

「部長さん!開けてください!」

 

「Hey!Openthedoor!」(おい!ドアを開けろ!)

 

「何で英語なのですか!」

 

しまった!つい慌てすぎて!?こうなったら仕方ない!

 

「......凛」

 

「にゃ?」

 

「外から回り込むぞ!」

 

「了解にゃ!」

 

中でがさごそ音がしてるってことは多分荷物か何かをドアの前に置いているんだろう。

 

外へ回り込むと、ちょうど窓から逃げようとしているところだった。

 

「待つにゃぁ~!」

 

「待てこらぁ!!!」

 

追ってくる俺たちに気づき、その人は背中を向け、走り出す。

 

俺はともかく......凛から逃げきれると思うなよ!

 

凛はどんどん相手との距離を詰める。

 

「捕まえた!」

 

と思ったのだが、相手は上手くしゃがんで凛を交わす。

 

「逃がすな!生け捕りにしろ!」

 

「ゆーサン怖いにゃー!?」

 

食い物の恨みと受けた足の痛みは忘れない!

 

「凛、捕まえたら......何か好きな物奢ってやるぞ?」

 

「ラーメン!?」

 

「もちろんOKだ!」

 

「行っくにゃー!!!!!!!」

 

先ほどよりもスピードを上げて、相手に迫るが、直前で姿が消える。

 

「あれ~?いない?」

 

「よく見ろ」

 

「え?あぁ~!?」

 

消えたと思ったらどうやらアルパカ小屋に突っ込んだだけのようだ。

 

気持ちよさそうな顔をして気を失っている。

 

「まぁ.....とりあえず、部室に運ぶか」

 

アルパカ小屋に足を踏み入れると、茶色いアルパカが俺に唾を飛ばしてくる。

 

俺はそれを回避し、手早く気絶している女の子を回収して、小屋から出る。

 

「悪いけど.....今回はお前に構ってる暇はないんだよ!」

 

「クッ!」

 

茶色いアルパカは避けられたということに驚きを隠せないようだ。

 

「ふっ......いつまでも過去の俺じゃないんだよ!」

 

微塵の遠慮もなく勝ち誇っていると

 

「ゆーサン......何してるの?」

 

凛が呆れたような顔をして俺を見ていた。

 

「すまん、忘れてくれ」

 

「チャーシュー、大盛り」

 

「分かった、手を打とう」

 

薄ら暗い交渉が成立した。

 

***

 

「これが......アイドル研究部の部室、すごいな」

 

第一声はそれだった、見渡す限り壁一面のアイドルグッズが飾られている。

 

「校内にこんなところがあったなんて.....」

 

「勝手に見ないでくれる?」

 

「じゃあ見てもいいですか?」

 

「駄目よ!」

 

どうしろと!?

 

「こ、これは!?伝説のアイドル伝説!DVD全巻ボックス!持ってる人に初めて会いました!」

 

「そ、そう......」

 

花陽が何か箱を持って部長さんに迫っている。

 

いつもとキャラが違う!?

 

「すごいです!」

 

「ま、まあね!」

 

「へぇ~、そんなにすごいんだ......」

 

「知らないんですか!?」

 

何か憑依されてんの!?本当にいつもと違う!

 

「伝説のアイドル伝説とは、各プロダクションや事務所、学校などが限定生産を条件に歩み寄り、古今東西の素晴らしいと思われるアイドルを集めたDVDボックスでその希少性から伝説の伝説の伝説!略して伝伝伝と呼ばれるアイドル好きなら誰もが知ってるDVDボックスです!」

 

「は、花陽ちゃん、キャラ変わってない?」

 

「通販、店頭、共に瞬殺だったそれを2セットも持ってるなんて....尊、敬!」

 

「家にもう1セットあるけどね!」

 

「本当ですか!?」

 

誰か花陽を止めてくれ!さっきの説明も早口でよく分からなかったし、ついていけねぇ!

 

「じゃあ、みんなで見ようよ!」

 

「駄目よ、それは保存用」

 

「くぁぁぁ!......で、伝伝伝.....」

 

あ、止まった.....のか?

 

「かよちんがいつになく落ち込んでる!?」

 

慰めるのは凛たちに任せといて......しかしこの部屋本当すごいな~、と俺が辺りを眺めているとある一面をジッと見ていることりに目が止まる。

 

「ことり?何見てるんだ?」

 

「あぁ、気づいた?」

 

「へ?あ、はい」

 

ことりの目線を追っていくと、そこには1枚のサインが飾ってあった。何て書いてあるか読めないけど。

 

「秋葉のカリスマメイド、ミナリンスキーさんのサインよ」

 

「ことり、知っているのですか?」

 

「あ、あ、いやぁ......」

 

ことりがこんなに慌ててるのって珍しいな。

 

「ま、ネットで手に入れたものだから、本人の姿は見たことないけどね」

 

「ふぅ....」

 

胸を押さえてホッとしてる?まぁいいか。

 

「と、とにかく!この人すごい!」

 

「それで?何しに来たの?」

 

「アイドル研究部さん!」

 

「にこよ、矢澤にこ」

 

この人矢澤先輩って言うのか.....。

 

「にこ先輩!実は私たち、スクールアイドルをやっておりまして!」

 

「知ってる、どうせ希に部にしたいなら話つけてこいとか言われたんでしょ?」

 

「おぉ!話が早い!」

 

心底めんどくさそうに話す矢澤先輩。

 

「ま、いずれそうなるんじゃないかと思ってたからね」

 

「なら!」

 

「お断りよ!」

 

「え?」

 

これも大体予想通りだった。解散しろとか言ってくるぐらいだからな、俺たちのことをよく思っていないはずだ。

 

「お断りって言ってるの」

 

「私たちはμ’sとして活動出来る場が必要なだけです。なのでここを廃部にして欲しいというのではなく.....」

 

「お断りって言ってるの!」

 

さっきの口調よりも少し怒気を含んでるな。

 

「言ったでしょ!あんたたちはアイドルを汚しているの!」

 

「でも!ずっと練習してきたから、歌もダンスも!」

 

「そういうことじゃない」

 

その言葉で矢澤先輩に俺たちの視線が集まる。

 

まさか......ルックスとか言わないだろうな?別にμ’sの中に可愛くない子なんていないと思うけどなぁ.....

 

「あんたたち......ちゃんとキャラ作りしてるの?」

 

「「「「「「「え?」」」」」」」

 

これは予想出来なかった......何て言った?キャラ作り?

 

「キャラ?」

 

「そう!お客さんがアイドルに求めるものは、楽しい夢のような時間でしょ!だったら、それにふさわしいキャラってものがあるの!ったく、しょうがないわね!」

 

矢澤先輩は力説したあと俺たちに背中を向ける。

 

「いい?例えば....」

 

固唾を飲んで見守っていると

 

「にっこにっこに~!あなたのハートににこにこに~!笑顔届ける矢澤にこにこ~!にこにーって覚えてラブにこぉ!」

 

まるで雷が落ちた時ぐらいの衝撃だった。だって....さっきまでとげとげしかった人がいきなりこんなことをしだしたんだぞ!?

 

みんなを見ると、俺と同じような顔をした人もいれば......いや訂正、みんな同じような顔をして固まっていた。

 

「どう?」

 

「う.....」

 

と言葉に詰まる穂乃果。

 

「これは....」

 

と驚愕する海未。

 

「キャラというか.....」

 

と戸惑うことり。

 

「私無理ぃ.....」

 

と呆れる真姫。

 

「ちょっと寒くないかにゃー?」

 

とぶち込む凛。

 

「ふむふむ....」

 

と熱心にメモを取る花陽。

 

「っく!」

 

と凛の反応に少し笑ってしまう俺。

 

結果、花陽以外は耐えきれなかった。

 

「そこのあんた......今寒いって?」

 

「うわわわ!いやぁ!すっごい可愛かったです!最高です!」

 

「え?そうか?」

 

思わず余計なことを言ってしまう。

 

「すみません!優がセンスなくて!?」

 

「簡単に人を売るなよ!?」

 

海未てめえ......。

 

「あ、でもこれもいいかも!?」

 

「そうですね!?お客様を楽しませるための努力は大事です!?」

 

「素晴らしい!さすがにこ先輩!」

 

みんなは必死に取り繕う。花陽は多分心から言っている。目、輝いてるし.....。

 

「よぉ~し!そのくらい私だって「出てって」....え?」

 

「とにかく話は終わりよ!とっとと出てって!」

 

全員まとめて部室の外に締め出されてしまった。

 

俺以外。

 

「何でまだいるのよ!?」

 

「いや、座って見てたら追い出されなかったんで.....」

 

「男がいるって状況に慣れてなくて、ついスルーしちゃったわ、いいから早くあんたも出ていきなさい」

 

矢澤先輩が話は終わりと言わんばかりに俺に背中を向ける。

 

「先輩、昔何があったんですか?」

 

「はぁ!?」

 

「いや、何かどうして1人なのかと思って.....」

 

聞くのは失礼だと思ったが、何故か気になって仕方がなかった。

 

「何であんたに話さないといけないのよ」

 

「じゃあ、話すまで出ていかないと言ったらどうします?」

 

「はぁ......分かったわよ!私はね.....」

 

矢澤先輩は過去のことをポツリポツリと話始めた。

 

***

 

矢澤先輩は自らのことを話してくれた。

 

1年生の頃、他の同級生の部員と一緒にスクールアイドルをしていたこと。しかし、他の部員が辞め、今は1人になってしまったこと。何よりも.....アイドルとしての目標が高すぎてついていけないと言われたこと。

 

「何だよ.....目標が高いことの何がいけないんだよ!!」

 

俺はやりようのない怒りを感じ、言葉と共に吐き出す。

 

「あんた......何で怒ってるのよ」

 

「目標が高いことはいいことじゃないですか!上を向けるって最高にかっこいいじゃないですか!それなのに......」

 

話を聞いた俺がここまで悔しいとか辛いとか感じるんだ、本人の痛みはそれ以上だろう。

 

「先輩、昨日はすいませんでした、あんなこと言って!」

 

「昨日?あぁ、あれね」

 

俺が言ったこと、『あんたに昔何があったのかは知らないが』だ。

 

「もう、用事は済んだんでしょ、なら早く出ていって」

 

「失礼します」

 

「あんた、名前は?」

 

「八坂優です」

 

「そっ」

 

俺は名前をいい、素直に部室を出る。

 

そのまま外に出ると、希先輩が穂乃果たちと話していた。

 

「優くん、にこっちから聞いたん?」

 

「はい、全部」

 

「私たちも今聞いたところだよ」

 

穂乃果たちも.....あれ聞いたのか。

 

「だから.....あなたたちが羨ましかったんじゃないかな?」

 

「え?」

 

「歌に駄目だししたり、ダンスにケチつけたり出来るってことはそれだけ興味があって見てるってことやろ?」

 

そうか......そうだったのか。

 

「ありがとうございます、行こっ、ゆう君、ことりちゃん、海未ちゃん」

 

穂乃果が傘を差して先を行く。

 

「中々難しそうだね、にこ先輩」

 

「そうですねぇ.....先輩の理想は高いですから、私たちのパフォーマンスでは納得してくれそうにありませんし.....説得に耳を貸してくれる感じもないですし......」

 

「そうかなぁ~?」

 

穂乃果が間延びした声で言う。

 

「穂乃果?どういうことだ?」

 

「にこ先輩はアイドルが好きなんでしょ?それで、アイドルに憧れてて.....私たちにもちょっと興味があるんだよね?」

 

「うん」

 

まだ穂乃果の意図が掴めない。

 

「それって、ほんのちょっと何かあれば上手くいきそうな気がするんだけど.....」

 

「具体性に乏しいですね......」

 

「それはそうだけど.....ん?」

 

穂乃果が見ている先には階段からこちらを見ている矢澤先輩がいた。

 

俺よりあとに部室から出たのにもうあんなとこにいるのか......まあ、重要なのはそこじゃない。

 

「今の.....」

 

「多分.....」

 

「いや、絶対そうだよな」

 

「どうします?」

 

すでにそこに先輩の姿はない。

 

「声かけたらまた逃げちゃいそうだし.....」

 

「ん~......あっ!ふふっ!」

 

何か思いついたのか穂乃果は急に笑みを浮かべる。

 

「どうかしましたか?」

 

「これって海未ちゃんと一緒じゃない?」

 

「「ん?」」

 

俺と海未は分からずに首を傾げる。

 

「ほら!海未ちゃんと知り合った時!」

 

海未と知り合った時って......俺と海未が知り合った時はもう穂乃果たちと一緒にいたから.....俺は出会った時を思い出す。

 

確か....

 

『おれはやさかゆう!きみは?』

 

『うぅ~....お、おとこのひと.....!』

 

『ほら、うみちゃん!だめだよ!ちゃんとあいさつしないと!』

 

『はずかしいですぅ~.....ほのかぁ、ことりぃ....』

 

こんな感じだったはずだ。

 

『そ、そのだ.....うみです.....』

 

『うん、よろしく!うみちゃん!』

 

まだこの頃は穂乃果たちのことをちゃん付けで呼んでいた。

 

「そんなことありましたっけ?」

 

どうやら穂乃果が出会い話を海未にし終わったようだ。

 

「海未ちゃんすっごい恥ずかしがり屋さんだったからぁ~」

 

「そうだったな」

 

「優まで!それが今の状況と何か関係があるんですか!?」

 

どうやら今でもその話は恥ずかしいらしい海未。

 

「うん!ねっ?」

 

穂乃果は隣にいることりに目配せをする。

 

「あぁ!あの時の!」

 

「そうそう!」

 

「どんな感じだったんだ?」

 

この3人の出会いって聞いたことなかったな.....。

 

「えっとねぇ~.....」

 

***

 

俺は穂乃果とことりと海未との出会いを聞いた。

 

「そんなことがあったのか」

 

「優、頬が緩んでいます!」

 

「そういう海未は頬が赤いぞ?」

 

海未の指摘に軽口で返す。

 

「優は練習倍で」

 

「まじ勘弁してください」

 

「だからきっとにこ先輩も同じだと思うよ!」

 

「ならこの方法しかないな!」

 

「だね!」

 

***

 

授業が終わる、今日もいつも変わり映えしない日だった。

 

「はぁ......」

 

ため息交じりに荷物を片づけて、私は部室へと向かう。1人ぼっちの世界だ。

 

あいつらみたいにもっと.....楽しそうに......

 

そこまで考えてハッとする。

 

「そんなこと考えてない!」

 

声に出して否定するけど、その声さえ震えていた気がする。

 

そうして部室の前に着き、鍵を開けて中に入る。

 

***

 

矢澤先輩が部室に入ってくる、その瞬間電気をつけた。

 

「「「「「「「お疲れ様でーす!」」」」」」」

 

「な!?」

 

「お茶です、部長!」

 

「部長!?」

 

何か驚いているけど......知ったことじゃない!

 

「今年の予算表になります、部長!」

 

「部長~!ここにあったグッズ邪魔だったんで棚に移動しておきました~!」

 

「こら!勝手に!?」

 

「さ、参考にちょっと貸して、部長のオススメの曲」

 

「な、なら迷わずこれを!」

 

花陽、そんなにそれ見たいのか......。

 

「あぁ~!?だからそれは!?」

 

「ところで次の曲の相談をしたいのですが、部長!」

 

「やはり次は更にアイドルを意識した曲の方がいいかと思いまして」

 

海未の満面の笑み。それは自分の首を絞めることになりそうだな。

 

「それと、振り付けも何かいいのがあったら」

 

「歌のパート分けもお願いします!」

 

「こんなことで押し切れると思ってるの?」

 

「押し切る?私はただ、相談しているだけです!音ノ木坂アイドル研究部所属のμ’sの7人が歌う次の曲を!」

 

俺たちが実行した案、それは矢澤先輩をμ’sのメンバーにするというシンプルなことだった。

 

「7人.....?」

 

「にこ先輩!」

 

「.....厳しいわよ?」

 

「分かってます!アイドルへの道が厳しいことぐらい!」

 

それは今更って感じだよな。

 

「分かってない!あんたは甘々!あんたも!あんたも!あんたたちも!」

 

矢澤先輩は全員を指差す。

 

「いい?アイドルっていうのは笑顔を見せる仕事じゃない!笑顔にさせる仕事なの!それをよーく自覚しなさい!」

 

「「「「「「「はい!」」」」」」」

 

アイドル研究部の入部届、

 

高坂穂乃果

 

南ことり

 

園田海未

 

八坂優

 

西木野真姫

 

星空凛

 

小泉花陽

 

そして矢澤にこ.....これでμ’sは8人。

 

「おい、みんな!雨が止んでるぞ!」

 

入部届を出したあと、雨が止んだ屋上で矢澤先輩が何やら教えてくれるらしい。

 

「いい!?やると決めた以上!ちゃんと魂込めてアイドルになりきってもらうわよ!分かった!?」

 

「「「「「「「はい!」」」」」」」

 

「声が小さい!」

 

「「「「「「「はい!!!」」」」」」」

 

「上手くいってよかったね!」

 

ことりが小声で話かけてくる。

 

「うん!」

 

「でも、本当にそんなことありましたっけ?」

 

海未はまだ思い出せないらしい。

 

「あったよぉ!あの時も穂乃果ちゃんが!」

 

俺が聞いた話はこうだ。

 

『うわわわ.....』

 

と木の影に隠れて恥ずかしがっていた海未を

 

『あ、み~つけたっ!』

 

『わぁ!?』

 

『つぎ、あなたおにだよっ!』

 

『え!?』

 

『いっしょにあそぼっ!』

 

と穂乃果らしいやり方で海未を引き入れたらしい。

 

「いつまで話してるのよ!さっさとあとに続きなさい!にっこにっこに~、はい!」

 

「「「「「「「にっこにっこに~!」」」」」」」

 

「全然ダメ!もう1回!」

 

「にっこにっこに~!はい!」

 

「「「「「「「にっこにっこに~!」」」」」」」

 

「つり目のあんた!気合入れて!」

 

「真姫よ!」

 

ふと思った.....これ、俺やる意味なくないか?まあどうせ聞いてもらえないか.....

 

「「「「「「「にっこにっこに~!」」」」」」」

 

「はい!ラスト1回!」

 

「「「「「「「にっこにっこに~!」」」」」」」

 

「全然ダメ!あと30回!優はあと60回!」

 

「俺だけ2倍!?」

 

まあ今後ろ向いた時目が潤んでたの見たら.....断れないよなぁ。

 

「えぇ~!?」

 

「まだ30回ならいい方だろ?60回に比べればな!」

 

「何言ってるの!まだまだこれからだよ!にこ先輩!お願いします!」

 

「よぉ~し!頭から!行っくよぉ~!!!!」

 

そんな矢澤せんp......にこ先輩の声は雲の隙間から覗く太陽から祝福されているように空に響き、弾けるように校舎を駆け回った。

 

-To be continued-

 




今までで最長です!

次の話数に分けることを考えたのですが......この回は大切な話だと思ったので全部通して書くことにしました!

よって今回の雑談コーナーは無しです!
次回もお楽しみに!


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部活紹介ビデオ

見ない間に10000UAです!

今小説の挿絵に使えるようにイラストの練習をしてたりしますw
もっともいつ見せられるクオリティになるかは分かりませんが.....

この小説が終わるまでには.....なんとか.....出来たらいいなぁ......


「あのぉ.....」

 

「はい、笑って」

 

「じゃあ、決めポーズ!」

 

「えぇぇぇ!?」

 

そう言われてから、穂乃果は某陸上選手のポーズを取り始める。

 

「お前それじゃボ○トだろ.....」

 

「これが音ノ木坂学院に誕生したμ’sのリーダー、高坂穂乃果、その人だ」

 

「はい、オッケー!」

 

「あのぉ....これは?」

 

いきなりのことでことりも戸惑っている。そりゃそうだ......いきなり撮影させてくれなんて誰でも戸惑うに決まっている。

 

「じゃあ次は~.....海未先輩ね!」

 

「何で希先輩じゃなくて凛が撮ってるんだ?」

 

俺の疑問は相手にされず、カメラのレンズが捉えたのは姿勢よくベンチに座る海未だ。

 

「えっ?な、何なんですか!?ちょっと待って下さい!失礼ですよ、いきなり!」

 

「お、その恥じらう姿もいい感じ~!」

 

この撮影のことを俺もさっき聞かされたから、穂乃果と海未とことりはまだ何も聞いていないはずだ。

 

「ごめんごめん、実は、生徒会で部活動を紹介するビデオを制作することになって、各部を取材してるところなん。」

 

「取材?」

 

「ねっ?ねっ?面白そうでしょ?」

 

「最近スクールアイドルは流行ってるし、μ’sとして悪い話やないと思うけど?」

 

これを機に廃校阻止へと一歩近づけるかも知れないし、本当にμ’sにとってはありがたい話だと思う。

 

「わ、私は嫌です!そんなカメラに映るなんて!」

 

「じゃあ海未のところだけ編集で面白おかしくしとくか......」

 

「辞めて下さい」

 

俺のボケに瞬時に真顔で返してくる海未。全く.....海未の恥ずかしがり屋にも困ったものだな。

 

「取材.....何てアイドルな響き.....」

 

「ほ、穂乃果!」

 

「オッケーだよね!海未ちゃん!」

 

こうなったら穂乃果は止まらないからな、多分オッケーせざるを得ないだろう。

 

「それ見た人がμ’sのこと覚えてくれるし!」

 

「そうね♪断る理由はないかも!」

 

「ことりぃ!」

 

さすがの海未も幼馴染2人には弱いようだ。

 

「取材させてくれたらお礼にカメラ貸してくれるって!」

 

「そしたらPVとか撮れるやろ?」

 

「PV?」

 

あぁ、そうか。

 

俺は凛の言葉を聞いて1人で納得する。

 

「ほら!μ’sの動画ってまだ3人だった時のものしかないでしょ?」

 

「あぁ!」

 

あの動画か......分からないことが1つあるんだよな。

 

「あの動画.....一体誰が撮ってくれたんだろうな?」

 

「海未ちゃん、そろそろ新しい曲をやった方がいいって言ってたよね?」

 

「うっ....」

 

眉をしかめ、思いっきり、しまった!という顔をする海未。

 

「決まりだね!」

 

「あぅ.....もう!」

 

「決まりだな!」

 

「じゃあ他のみんなに言ってくる!」

 

穂乃果は真姫と花陽のところに走っていく。

 

「待って~!」

 

「ちょっと穂乃果ぁ!」

 

海未とことりも穂乃果について行った。

 

「優くんはいかなくていいの?」

 

希先輩が意外そうに俺を覗き込んでくる。

 

「えぇ。大勢で行ってもあれなんで、俺は待ってますよ。」

 

希先輩の顔が近いことに内心ドキドキしながら答える。

 

「ところで優くん、この間の手伝いの話やけど.....」

 

「あぁ、別にいつでもいいですよ!」

 

「じゃあ、次のPV撮り終ったらお願いするね」

 

「はい!」

 

PVを撮り終ったらというのは多分切りが良さそうなところということだよな?

 

「あ!穂乃果先輩たち、戻ってきたにゃー!」

 

撮影開始か......ひとまずこれを頑張ろう!

 

***

 

今画面に映し出されているのは授業中の穂乃果の様子だ。

 

いつ撮ったんだ?

 

「スクールアイドルとはいえ、学生である!」

 

おまけに希先輩のナレーション付きだ。

 

「プロのように時間外で授業を受けたり、早退が許されるようなことはない」

 

画面が切り替わると、穂乃果は眠りに落ちていた。

 

まぁ......いつも通りだな。

 

「よって、こうなってしまうこともある」

 

再び画面が切り替わる。今度は穂乃果が昼食を食べているシーンだ。

 

「昼食をしっかり取ってから.....」

 

また穂乃果は寝ていた。

 

「再び熟睡」

 

今度のテスト.....大丈夫なんだろうな?

 

カメラの位置が少し動く。どうやら先生が穂乃果を起こしに来たらしく

 

「そして、先生に発見されるという1日であった」

 

びっくりした穂乃果は椅子ごと後ろにひっくり返っていた。

 

「あーこれあの時のか」

 

「これがスクールアイドルとはいえ、まだ若干16歳、高坂穂乃果のありのままの姿である」

 

「ありのまますぎるよ!」

 

まあ、これは......見られたらファンが減るかもな。

 

「てゆうか、いつの間に撮ったの!?」

 

「上手く撮れてたよ~ことり先輩!」

 

「ありがとぉ~!こっそり撮るの、ドキドキしちゃった!」

 

位置的にことりだろうと思ったけど......嬉しそうだな、おい。

 

「えぇ!?ことりちゃんが.....酷いよぉ!」

 

「普段だらけているからこういうことになるのです、これからは「さっすが海未ちゃん!」え?」

 

カメラを見るとそこには海未が弓道部としての活動をしている場面が映っていた。

 

「真面目に弓道の練習を!」

 

傍にある鏡に向く。身だしなみでも整えるのか?

 

『えへっ』

 

と思ったら鏡に向かってウィンクと笑顔をし始めた。可愛いなおい。

 

「これは.....」

 

「可愛く見える笑顔の練習?」

 

突然カメラの画面が真っ暗になる。

 

「プライバシーの侵害です!」

 

海未がカメラの電源を落としたらしい。必死だな....

 

「よぉ~し!こうなったら!ことりちゃんのプライバシーも.....ん?」

 

穂乃果がことりの鞄を開けると不思議そうな顔をしていた。

 

「どうした?」

 

俺も近寄って鞄の中を見ようとすると、ことりがすぐに鞄を閉め、背中に隠して苦笑いで後ずさる。

 

「ことりちゃん、どうしたの?」

 

「ナンデモナイノヨ?」

 

「いや、明らかに何でもなくはないだろ」

 

「ナンデモナイノヨ、ナンデモ」

 

怪しすぎる。

 

「そ、そんなことよりもまだゆー君の映像があるよ!」

 

「は?俺のもあるのか!?」

 

特に変なことはしてないと思うけどな......

 

「おぉ!ゆう君のも見たい!」

 

「もし変なことをしてたら......分かってますね?」

 

「まあ.....穂乃果と海未よりは普通だと思うぞ?」

 

むしろ、あれ以上にインパクト強い映像とか滅多に撮れないだろ。先生に起こされて椅子ごと後ろにひっくり返ったりとか、普段はビシッとしてるのに誰もいないところで笑顔の練習してるとか.....。

 

『八坂~、ここ解いてくれ』

 

あ、これってこの前の授業で当てられた時のやつか。

 

『正解だ』

 

「何か普通すぎてつまんないね」

 

「これだから優は.....」

 

「何で真面目にやってるのに罵倒されるんだよ!おかしいだろっ!?」

 

どうしろって言うんだよ.....

 

「完成したら各部にチェックをしてもらうようにするから、問題あったらその時に...」

 

「でも!その前に生徒会長が見たら!」

 

あーうん、想像出来るわ。

 

「まあ、そこは頑張ってもらうとして.....」

 

「えぇ!?希先輩、何とかしてくれないんですか!?」

 

自業自得だ。

 

「そうしたいんやけど、残念ながら、うちが出来るのは誰かを支えてあげることだけ」

 

「支える?」

 

「ま、うちの話はええやん、さあ次は」

 

何か意味深な発言だな.....しかも、今何かはぐらかした?と俺が思考をしようとするとバタンと音がした。

 

「はぁっ!はぁっ!」

 

音がした方を見ると、ドアを開けた必死の形相のにこ先輩がそこに立っていた。

 

「取材が来るって本当?」

 

「もう来てますよ、ほらっ!」

 

希先輩がマイク、凛がカメラを構える。

 

「にっこにっこに~!みんなに元気ににこにこに~の矢澤にこで~す!え~っとぉ、好きな食べ物はぁ~」

 

「ごめん、そういうのいらないわ」

 

この人切り替え本当に早いな.....何かイラッとするのは置いといて、素直に感服するわ。

 

「えぇ?」

 

「部活動の生徒たちの素顔に迫るって感じにしたいんだって!」

 

「素顔.....あぁ、オッケー、オッケー!そっちのパターンね!ちょぉっと待ってね!」

 

にこ先輩は俺たちに背中を向ける。そして、髪を結んでいるリボンをほどく。

 

「何か.....長くなりそうだから、移動するか」

 

俺の提案にみんな乗り、次々に部室から出ていく。

 

数十秒後、にこ先輩の

 

「居ないし!!!」

 

という声が聞こえてきた。気づかなかったのかよ......。

 




作「雑談のコーナー!では優くんどうぞ!」

優「ついに適当な感じでゲスト呼ぶようになったな.....」

作「まあまあ!いいじゃないですか!」

優「今回投稿するのに結構時間かかったな?」

作「まあ、挿絵用にイラストの練習をしてまして、それでこのように遅れてしまいました」

優「で?練習の成果は出てるのか?」

作「まだ1ヶ月しか経っていませんし....独学ですから、模写から初めてやっと今、何も見ずに描けるようになったって感じです」

優「待て、1ヶ月でそこまでやったのか?」

作「何も見ずに描けるようになっても.....手や足を描くのが苦手です.....友だちに見せても中々いい反応もらえないんですよ......」

優「あと、今回の話分けて書くんだな」

作「はい、なんとなく長くなると思ったので、2~3部に分かれると思います」

優「そうか」

作「はい、では次回も!」

優「よろしくお願いします!」


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リーダーは誰だ?

まだ話がまとまりきっていないのですが.....やりたいことに間に合わせるために少し早めの投稿です。

間に合うといいのですが......恐らく厳しいと思いますw

それではどうぞ!


部活紹介用のビデオはまだμ’s全員の分が取れたわけじゃない。中庭で続きの撮影を開始する。

 

「た、助けて.....」

 

「第一声がそれか.....」

 

今カメラを向けられているのは花陽だ。本人は緊張してるのか、誰かに助けを求めているけど.....

 

「緊張しなくても平気!聞かれたことに答えてくれればいいから!」

 

撮影者は凛で決定なんだな。本人はノリノリだし、特に問題はないけども。

 

「編集するからどんなに時間かかっても大丈夫やし」

 

「で、でも!」

 

「凜もいるから頑張ろ?」

 

花陽は納得はしていなかったけど、凛の言葉で受け入れることにしたようだ。

 

「真姫ちゃんもこっち来るにゃ!」

 

レンズが自分は興味ないといった様子で髪をクルクルしている真姫の姿を映す。

 

「私はやらない」

 

「もぉ~」

 

「えぇんよ、どうしても嫌なら無理にインタビューしなくても」

 

希先輩がウィンクをしながら言う。

 

何か考えがあるのか?

 

俺はよくわからないけど、マイクを持った希先輩を見て、凛は下ろしていたカメラを再び真姫に向ける。

 

「真姫だけはインタビューに応じてくれなかった。スクールアイドルから離れれば、ただの多感な15歳。これもまた自然な「なに勝手にナレーション被せてるの!?」

 

希先輩のナレーションを聞き終わる前に真姫がレンズを手で隠す。

 

「それが嫌ならインタビュー受けるしかないやん?」

 

「わ、分かったわよ!」

 

渋々インタビューを承諾する真姫。

 

「じゃあ次は1年生3人を同時に撮るか?」

 

「了解にゃ!ゆーサンカメラお願い!」

 

凛にカメラを渡され、俺は使い方を確認する。

 

「かよちん!真姫ちゃんも早く早く!」

 

「う、うん!」

 

「何で嬉しそうなのよ.....」

 

3人が横に並ぶ。

 

「じゃあ、撮影開始するぞ!」

 

俺は3人に向かってカメラを構える。

 

「何かゆう君が女の子に向かってカメラを向けてると......怪しいね」

 

「はい.....やはり優は変態だったのですね.....」

 

「ゆー君.....信じてたのに......」

 

何か後ろでとんでもない会話が展開されている。

 

「頼まれたから撮ってるんだよ!息合いすぎだろ!どこで打ち合わせしたんだよ!?」

 

間髪入れずにツッコミを入れ、気を取り直してカメラを構える。

 

レンズに3人の姿が映る。

 

凛はピースをして、花陽は目が泳いでいて、どこを向いていいのか分からないようだった。真姫は腕を組んでそっぽを向いている。

 

「まず、アイドルの魅力について聞いてみたいと思います。では、花陽さんから」

 

希先輩のナレーションに合わせて花陽に向かってズームをする。

 

「えぇ!?えぇっと....そのぉ~」

 

「かよちんは昔からアイドル好きだったんだよね!」

 

「は、はい!」

 

まあ、花陽はアイドルのことになると性格変わるからな。

 

「それでスクールアイドルに?」

 

「は、はい」

 

順調にインタビューは進んでいる。

 

「ぷっ!あははははは!」

 

と思ったら今度は急に花陽が口元を押さえて笑い始めた。

 

何だ?まさか俺の顔がおかしかったか?顔が面白いとかは言われたことないんだけどな.....

 

「ちょっと止めて!」

 

真姫の手でカメラが止められる。

 

とりあえず後ろを振り返る。

 

.....そこには苦笑気味の海未と変顔をした穂乃果がいた。

 

「まあ....色々言いたいことはあるけど、何してる?」

 

「いやあ!緊張してるみたいだからほぐそうかなぁと思って!」

 

なるほど....それはいい。そしてもう1つ気になることがある。

 

「ことり先輩も!」

 

真姫が言うようにことりも穂乃果とは違う形で笑いを取っていた。

 

「頑張っているかね?」

 

「その仮面はどこから持ってきた!?今の声どこから出した!?」

 

ことりはひょっとこの仮面を被っている。もう訳わかんねぇ.....

 

「海未、どうして止めなかった?」

 

「いえ.....あの、楽しそうだったのでつい」

 

「確信犯かよ!?」

 

もう駄目かも知れない......ボケの数が多すぎて捌き切れない!

 

「全く!これじゃμ’sがどんどん誤解されるわ!」

 

真姫がいてくれて良かった......そう思わずにはいられなかった。

 

「おぉ!真姫ちゃんがμ’sの心配してくれた!」

 

「べ、別に.....私は......トラナイデッ!」

 

「でも.....確かにここまで撮った分だけ見るとちょっとね......」

 

「だらけているというか、遊んでいるというか」

 

「えぇ!?」

 

否定はし切れない.......

 

「でも、スクールアイドルの活動の本番は練習やろ?」

 

「そうね」

 

「よぉ~し!じゃあみんな!気合入れていこぉ!」

 

***

 

といっても俺はいつものようにリズムを取ることしか出来ない。

 

「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト!」

 

俺の手拍子に合わせてみんなが振り付けの練習をする。

 

「花陽はちょっと遅れてるぞ!」

 

「は、はい!」

 

「凛はちょっと早い!」

 

「はい!」

 

最近はようやく全体を把握して指示を飛ばせるようになってきた。

 

「ちゃんとやりなさいよぉ~?」

 

「にこ先輩!昨日言ったステップ、まだ間違えてますよ!」

 

「わ、分かってるわよぉ!」

 

言うだけなら簡単だから、実際に踊らない俺が言っていいものかは分からないけど.....

 

「真姫!もっと大きく動けるか?」

 

「はい!」

 

「穂乃果!もう疲れたか?」

 

「まだまだぁ!」

 

俺の言葉に穂乃果はやる気をみなぎらせる。

 

「ことり!今の動き忘れるな!」

 

「うん!」

 

「海未!恥ずかしがるな!もっと前に!」

 

「はい!」

 

これで.....

 

「ラスト!」

 

みんなが決めポーズをする。

 

「かれこれ1時間、ぶっ通しでダンスを続けて、やっと休憩。全員息が上がっているが文句を言う者はいない」

 

希先輩のナレーションも良い感じだ。

 

「どう?」

 

真姫が希先輩に話しかける。

 

「さすが練習だと迫力が違うね!やることはやってるって感じやね!」

 

「まぁね!」

 

「でも、練習って普通リーダーが指揮するもんじゃない?」

 

「それは.....」

 

そう。μ’sのリーダーは正確には決まっていないけど穂乃果だ。それでもダンスの指揮は海未、補佐は俺となっている。

 

「まぁ、それはえぇとして.....次はどうしよか?」

 

「じゃあ、代表者の親に話を聞くって言うのはどうです?」

 

「おっ!えぇやん!」

 

俺はこのことをすぐに穂乃果に伝える。

 

「うん!大丈夫だよ!」

 

「それなら.....メンバーはどうしようか?」

 

そうか、あまり大人数で押しかけるわけにはいかないしな。

 

「生徒会のことだからうちは当然として.....あと2人ってとこやん?」

 

「はい!はい!は~い!凛が行くにゃ!」

 

話を聞いていた凛が両手を上げる。

 

「ならもう1人は凛ちゃんだね!」

 

「あと1人は.....優くんでいいんやないかな?」

 

何故そこで俺が上がる?ことりか海未でいいと思うけどなあ.....

 

「ことりか海未じゃダメなんですか?」

 

「海未ちゃんは今日は家の用事だし、ことりちゃんも用事があるみたい」

 

「なら仕方ないな。俺が行く」

 

俺と穂乃果、凛と希先輩は練習後、インタビューの為に穂乃果の家に行くことになった。

 

***

 

「そういうことは先に言ってよ!ちょっと待って!お化粧直さなくちゃ!」

 

秋穂さんにインタビューのことを伝えるとものすごい勢いでカウンターから消えていった。

 

「生徒会の人だよ?家族にちょっと話聞きたいってだけだから、そんなに気合入れなくても.....」

 

「そういうわけにはいかないの!」

 

こればっかりは男には理解出来ないことだな.....

 

「てゆうか、化粧してもしなくても同じだし.....うっ!」

 

「ストライ―ク!」

 

穂乃果の額に秋穂さんの投げたティッシュ箱が直撃する。コントロール良すぎだろ.....とりあえずボケておくことにした。

 

「なら長くなりそうだし.....穂乃果の部屋で待とうぜ」

 

「うん、そうだね.....上がって!」

 

階段を上ったところで穂乃果が

 

「あ、じゃあ先に妹紹介するね!雪穂~いる?」

 

と言って雪穂ちゃんの部屋の扉を開ける。

 

「私もこのぐらいあればっ!」

 

雪穂ちゃんはバスタオル1枚の姿で鏡の前に立って自分の胸を必死に寄せていた。

 

穂乃果はそっと扉を閉めて、俺たちを自分の部屋に招き入れる。

 

「すみません.....2人ともあんな感じなんで.....」

 

まぁ、あれだ。面白い家族ってことにしておこう。

 

「ゆう君、見てないよね?」

 

「......見てないぞ?」

 

俺は必死に目を逸らす。

 

「今の間は何!?やっぱ見てるじゃん!ゆう君のエッチ!」

 

「不可抗力だ!」

 

何か今よく好きな女の子の風呂に入っているところに現れる某国民的アニメのメガネの少年の気持ちが分かった気がする。

 

『きゃー!?○○太さんのエッチ!』

 

という幻聴も聞こえた。

 

やっぱ俺一応そういう年の男だから.....何て言うか、うん、良かった。とさっきのバスタオル1枚の雪穂ちゃんを思い出しそうになる。

 

「今変なこと考えたでしょ?」

 

「考えてないぞ?うん、俺、ムジツ」

 

とりあえずもう考えないようにしよう。妄想代が命とか代償重すぎる。

 

「お父さんは?」

 

「さっき厨房行ったら.....」

 

『.......』

 

「って....」

 

さっきお茶菓子取りに行くのを手伝いに行ってその時に穂乃果が親父さんに声をかけたんだが、背中を向けたまま手を振るだけだった。

 

何の反応か分かり辛いわ!

 

「そう。ここはみんな集まったりするの?」

 

「うん!ことり先輩と海未先輩とゆーサンはいつも来てるみたいだよ?おやつも出るし!」

 

「俺はいつもじゃない」

 

たまにだ、たまに。

 

「あはは、和菓子ばっかりだけど......」

 

「ふ~ん.....ん?」

 

穂乃果の部屋を見ていた希先輩は本棚の前に落ちているノートに気づいたみたいだ。

 

「これで歌詞を考えたりするんやね?」

 

「うん!海未ちゃんが!」

 

「え?」

 

歌詞の担当は海未だしな。

 

「歌詞は大体海未先輩が考えるんだ~」

 

「じゃあ新しいステップを考えたりするのが?」

 

「それはいつもことりちゃんが!」

 

なんとなくだけど、希先輩の言いたいことが分かった気がする。

 

「じゃあ、あなたは何してるの?」

 

あー、やっぱりか。

 

「うーん......ご飯食べて~、テレビ見て~、他のアイドル見てすごいなぁ~って思ったり~、あ、もちろん海未ちゃんとことりちゃんの応援もしてるよ!」

 

「それだけ?」

 

まあ、リーダーが練習内容とかにはあまり関わっていないからな。

 

「うち、前から思ってたんやけど.....穂乃果ちゃんってどうしてμ’sのリーダーなん?」

 

希先輩の何気ない一言がこの場いる俺たちを硬直させた。

 

-To be continued-

 




今回の雑談コーナーは無しです!

次回もよろしくお願いします!


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リーダーの資格

さっき投稿したばかりですが、このまま次を投稿しますw

どんどん行くぞぉ!




「リーダーには誰が相応しいか....大体私が部長についた時点で1度考え直すべきだったのよ」

 

希先輩が投下した爆弾から翌日のことだ。

 

俺たちは部室に集まり、昨日言われたことを他のメンバーに告げると少し空気がピリッとして、みんな真剣な顔をする。

 

「リーダーね」

 

真姫が腕を組んで、考える。

 

「私は穂乃果ちゃんでいいけど.....」

 

「俺もことりと同意見だ」

 

これにはしっかりとした理由がある。

 

「ダメよ。今回の取材ではっきりしたでしょ?この子はリーダーにまるで向いてないの」

 

「それはそうね」

 

にこ先輩の意見に賛成するのは真姫。

 

「ですが.....」

 

海未は困ったように視線をさまよわせる。

 

「そうとなったら早く決めた方がいいわね。PVだってあるし!」

 

「PV?」

 

にこ先輩がPVという単語をやけに強調して話すのが気になったのか、海未が聞き返す。

 

「リーダーが代われば、必然的にセンターだって代わるでしょ?次のPVは新リーダーがセンター!」

 

「そうね」

 

「でも誰が?」

 

それを聞いたにこ先輩は立ち上がり、横にあったホワイトボードを勢いよくひっくり返す。

 

文字がたくさん書かれている。いつ用意したんだ?

 

「リーダーとは!まず第一に誰よりも熱い情熱を持ってみんなを引っ張っていけること!次に!精神的支柱になれるだけの懐の大きさを持った人間であること!そして何より!メンバーから尊敬される存在であること!この条件を全て揃えたメンバーであるとなると.....」

 

「海未先輩かにゃ?」

 

「何でやねーん!?」

 

情熱を持ってみんなを引っ張れる精神的支柱になれるだけの懐、そしてメンバーから尊敬される人物か.....

 

まぁ、この中だと妥当なのは......穂乃果、海未、凛、にこ先輩辺りかな?

 

「私が!?」

 

「そうだよ!海未ちゃん向いてるかも!リーダー!」

 

「.....それでいいのですか?」

 

「え?何で?」

 

穂乃果は首を傾げる。

 

「リーダーの座を奪われようとしているのですよ!?」

 

「え?それが?」

 

「何も感じないのですか?」

 

リーダーを代わるってことはさっき言った通り、センターを取られるってことだからな。

 

「だって、みんなでμ’sやってくのは一緒でしょ?」

 

「でも!センターじゃなくなるかもですよ!?」

 

「おぉ!そうか!うーん.....」

 

穂乃果は一瞬だけ迷ったあと

 

「まぁいいか!」

 

アイドルなら捨てきれないところを簡単に言ってみせた。

 

「「「「「「えぇ!?」」」」」」

 

俺と穂乃果以外は驚く。

 

「そんなことでいいのですか!?」

 

「じゃあリーダーは海未ちゃんということにして~」

 

でも海未は多分無理だ。

 

「ま、待ってください!.....無理です!」

 

「まあセンターになったら真ん中だし、注目も集まるからな.....恥ずかしいんだろ?」

 

海未は多分アイドルとかのセンターが絡んでこなければ最高のリーダーだと思う。

 

「面倒な人」

 

「でも海未がリーダーになってセンターでいいと思うぞ、ちゃんとしてるし、可愛いし」

 

「なっ!?///////」

 

海未は赤面し口を開けたり閉めたりと繰り返す。

 

「穂乃果もそう思うけど、ゆう君?あとで何かおごりね?」

 

「何で!?」

 

何かみんなから互いにけん制し合うような空気を感じる.....

 

「じゃ、じゃあことり先輩は?」

 

花陽の言葉で空気が変わる。

 

「ん?私?」

 

「副リーダーって感じだね~」

 

ことりをリーダー候補に出さなかったのはこれが理由だ。ことりは補佐って感じでリーダーを支えるのが向いている。

 

花陽も副リーダー向きだし、真姫は多分どっちもいけると思う。

 

「でも、1年生がリーダーってわけにもいかないし」

 

「花陽の言う通りなんだけどな.....」

 

困ったな....

 

「仕方ないわねぇ~」

 

「やっぱり、穂乃果ちゃんがいいと思うけど....」

 

まあ、色々言っておいてあれだけど、俺も穂乃果がいいと思っている。

 

「仕方ないわねぇ~」

 

「じゃあゆう君はどうかな!?」

 

「はぁ!?俺が!?」

 

急に名前を出されて大いに狼狽える。

 

「だってみんなを集めたのはゆう君だよ!適任だと思う!」

 

「それもそうですね.....」

 

「うん!ゆー君でもいいね!」

 

「はい、私も賛成です!」

 

「そうにゃ!そうにゃ!」

 

「まぁ、どうだっていいけど、いいんじゃない?」

 

「お前ら.....俺がリーダーになったらセンターはどうする気だ?」

 

「「「「「「あ」」」」」」

 

「じゃあゆーサンが女装して!「却下だ」

 

自分が女装してステージに立っている姿を想像する。

 

『みんなぁ~!準備はいい?行くよぉ~!』

 

ノリノリじゃねーか!?ちょっとはためらえ、躊躇しろ!

 

想像の中の自分にツッコミを入れる。

 

「仕方ないわねぇ~」

 

「海未先輩を説得したら?」

 

「ここはやっぱり投票で.....」

 

「ゆーサンの女装!」

 

真姫と花陽の意見が有力候補だな。凛お前は何言ってんだ。

 

「ゆー君の女装.....いいかもぉ~♪」

 

「っ!?」

 

ことりさん?何うっとりとしてるんですか?怖いですよ?

 

「仕方ないわねぇ~!!!」

 

「うるせえ、やかましい、静かにしろ」

 

さっきからスルーしていたが拡声器を使ったにこ先輩に対し、ついに真顔で返す。

 

おっと、敬語を忘れたまあいいか。

 

「で、どうするにゃ?」

 

「どうしよう?」

 

μ’sのスルースキル高すぎるだろ......

 

***

 

あれからいくら話し合っても会話が平行線だったため、俺たちは何かアイデアがあると言ったにこ先輩に連れられてカラオケボックスに移動した。

 

「歌とダンスで決着をつけようじゃない!」

 

なるほど、実力主義か。悪くないな。

 

「決着?」

 

「みんなで得点を競うつもりかにゃ?」

 

「その通り!1番歌とダンスが上手い者がセンター!どう?それなら文句ないでしょ?」

 

「でも.....私カラオケは.....」

 

海未はこういうとこあまり来そうにないしな。

 

「私も特に歌う気はしないわ」

 

真姫は歌上手いから.....優勝候補筆頭なんだけどな。

 

「なら歌わなくて結構!リーダーの権利が消失するだけだから!」

 

にこ先輩はしゃがんで何か手帳を見ながら、呟き始める。

 

「ふっふっふっ.....高得点が出やすい曲のピックアップは既に完了している!これでリーダーの座は確実に.....」

 

「聞こえてますよー」

 

まあいいか。

 

「ところでこれ、俺も歌わないとダメか?」

 

「うん!せっかく来たんだし、ゆう君も一緒に楽しもうよ!」

 

このメンバーに歌を披露するとか......まあいいか。

 

「でも......」

 

「めんどくさいわ」

 

海未と真姫はやはり乗り気じゃないようだ。

 

「じゃあ~.....この勝負に勝ったらゆーサンを1日好きに出来る権利をあげるってことにしちゃえば?」

 

Hey stop girl 君は今何て言ったんだい?

 

「まぁ、それなら.....」

 

「やってあげてもいいわ」

 

Hey stop girls どうしてそんなやる気になるんだ?

 

「俺まだGOサインだしてないぞ!?」

 

「ことりちゃん!」

 

「ゆー君.....お願ぁい♪」

 

「俺の体ぐらいいくらでも差し出そう」

 

女神の前に人間は無力だった。

 

「あんたら、もっと緊張感持ちなさいよ!」

 

-数十分後-

 

「ふう.....緊張したぁ~」

 

最後の海未が歌い終わる。

 

「海未ちゃんも93点!」

 

「これでみんな90点以上だね~、みんな毎日レッスンしてるもんね!」

 

「ま、真姫ちゃんが苦手なところ、ちゃんとアドバイスしてくれるし.....」

 

「気づいてなかったけど......みんな上手くなってたんだね!」

 

俺もなんとか90点を出すことに成功した。普段からみんなの練習に混ざったりしてるからな。歌唱力が知らない間に上がってたみたいだ。

 

「こいつら.....化け物か.....」

 

ごもっとも。

 

***

 

歌で決着が着かなかったμ’sの面々はゲームセンターに移動していた。

 

「次はダンス!今度は歌の時みたいに甘くないわよ!使用するのはこのマシン.....アポカリプスモードエキストラ!」

 

あぁ、これか.....結構難しかった記憶がある。

 

といっても話を聞いてるのは俺と海未と花陽と一応真姫だ。

 

「ことりちゃん、もうちょい右!」

 

「やった~♪取れたぁ!」

 

「すごいにゃー!」

 

穂乃果とことりと凛はUFOキャッチャーで遊んでいた。

 

「だから緊張感持てっていってるでしょ!?」

 

「そうだった!ゆう君を1日好きにしていい権利はまだ決まってなかった!」

 

「女装....」

 

ゲーセンの音はうるさくて、ことりの声も小さかったけど.....不思議と何を言ったかは分かった。

 

「凛は運動得意だけど.....ダンスは苦手だからなぁ~」

 

「これ.....どうやるんだろ?」

 

「プレイ経験0の素人が挑んで、まともな点数が出るわけがないわ!ふふっ......カラオケの時は焦ったけど、これなら!」

 

にこ先輩が何か言ってる間に凛が試しにプレイしてみる。

 

「すごいな!?ほとんどパーフェクトの文字しか見えなかったぞ!?」

 

「何か出来ちゃった!」

 

ダンスが苦手とは一体.....

 

そして一通りプレイが終わる。

 

「面白かったね!」

 

「でも.....中々差がつかないね~」

 

点数は凛が1番上だけど、みんなも中々高得点だった。

 

改めて、μ’sメンバーのスペックの高さがうかがえる。

 

「まだまだぁ!こうなったら......移動するわよ!」

 

***

 

今度は外に出て何かをするらしい。

 

「歌と踊りで決着が着かなかった以上、最後はオーラで決めるわ!」

 

「オーラ?」

 

「そう!アイドルとして1番必要と言っても過言ではないものよ!歌も下手!ダンスもいまいち!でも何故か人を惹きつけるアイドルがいる!それはすなわちオーラ!人を惹きつけてやまない何かを持っているのよ!」

 

そうなのか?

 

「わ、分かります!何故か放っておけないんです!」

 

そうなのか......

 

「でも、そんなものどうやって競うのですか?」

 

立っていてナンパされたら勝ちとかだったら絶対に許可出来ないぞ?

 

「ふふっ!これよ!」

 

にこ先輩が紙の束を俺たちに手渡す。

 

これは.....μ’sのチラシ?

 

「オーラがあれば黙っていても人は寄ってくるもの、1時間でこのチラシを1番多く配ることが出来た者が1番オーラがあるってことよ!」

 

「今回はちょっと強引のような.....」

 

言おうとしてることは分かるんだけどな......

 

「でも、面白いからやろうよ!」

 

「今度こそ!チラシ配りは前から得意中の得意!このにこスマイルで!」

 

「にこ先輩、もうみんな始めてますよ?」

 

口より手を動かせってことだな。

 

「お願いしまーす!」

 

μ’sの宣伝にもなる為、俺は真面目に配る。

 

ふとみんなの様子が気になって辺りを見渡す。

 

穂乃果と凛はいつも通り持ち前の明るさと笑顔で人を獲得している。

 

真姫は何か若い男が多いような?まあ真姫はモテそうだからな。

 

海未と花陽は人見知りしながらもチラシを受け取って貰えていた。

 

やっぱみんなオーラあるんじゃないか?

 

そう思ってにこ先輩を見ると、チラシを渡そうとしたところ無視をされ腕を掴んで止めている状態だった。

 

「何やってんだか.....」

 

そして、1時間が経った。

 

「ことりちゃんすごぉ~い!全部配っちゃったの!?」

 

「う、うん。何か気づいたら無くなってて.....」

 

ことりはチラシを配る際、老若男女全ての層の人にチラシを受け取って貰っていた。

 

なるほど......人を惹きつけるものか......

 

「おかしいっ!時代が変わったの!?」

 

「にこ先輩部室に戻りますよー」

 

***

 

「結局みんな同じだぁ~」

 

「そうですね、ダンスの点数が悪い花陽は歌が良くって、カラオケの点数が悪かったことりはチラシ配りの点数が良く......」

 

「結局みんな同じってことなんだね」

 

これは誰がリーダーになっても誰も文句はないだろう。

 

「にこ先輩もさすがです!みんなより全然練習してないのに同じ点数なんて」

 

そう、いくら高得点が出やすいといってもそれは並大抵の技量じゃない。本人は青ざめているけど、素直にすごいと思う。

 

「当たり前でしょ......?」

 

「でも、どうするの?これじゃ決まらないわよ?」

 

「う、うん.....でもやっぱりリーダーは上級生の方が......」

 

「仕方ないわねぇ~」

 

これじゃ切りがないな.....

 

「じゃあいいんじゃないかなぁ?無くても」

 

「「「「「「「えぇ!?」」」」」」」

 

穂乃果の言葉に今度は俺も一緒になって驚く。

 

「無くても?」

 

「うん。リーダー無しでも全然平気だと思うよ?みんなそれで練習してきて、歌も歌ってきたんだし」

 

「しかし.....」

 

「そうよ!リーダー無しなんてグループ聞いたことないわよ!」

 

まあ要するにいつも通りってことだな。

 

「でも、センターはどうするの?」

 

「それなんだけど.....私、考えたんだ!みんなで歌うってどうかな?」

 

「みんな?」

 

「家でアイドルの動画とか見ながら思ったんだ!なんかね?みんなで順番に歌えたら素敵だなぁって!そんな曲、作れないかなぁって!」

 

穂乃果の案に耳を傾ける。

 

「順番に?」

 

「そう!無理かなぁ?」

 

「まぁ、歌は作れなくはないけど......」

 

「そういう曲無くはないわね!」

 

穂乃果らしい考えだな......俺は少し微笑む。

 

「ダンスは、そういうの無理かなぁ?」

 

「ううん、今の7人なら出来ると思うけど!」

 

「じゃあそれが1番いいよ!みんなが歌って、みんながセンター!」

 

それがμ’sというスクールアイドルだ。

 

「私賛成!」

 

「好きにすれば?」

 

「凜もソロで歌うんだぁ~!」

 

「わ、私も!?」

 

「やるのは大変そうですけどね」

 

「異論無し!」

 

全員でにこ先輩を見る。

 

「仕方ないわねぇ、ただし、私のパートはかっこよくしなさいよ?」

 

「了解しましたぁ!」

 

「よぉ~し!そうと決まったら!早速練習しよう!」

 

穂乃果が鞄を持っていち早く出ていく。

 

「でも.....本当にリーダー無しでいいのかなぁ?」

 

ことりが海未に聞く。

 

「いえ、もう決まってますよ」

 

「不本意だけど」

 

海未の言葉に真姫は賛同する。

 

「何にも囚われないで1番やりたいこと、1番面白そうなものに怯まずに真っ直ぐ向かっていく。それは穂乃果にしかないものかも知れません」

 

「それに....このメンバーをまとめられるのは穂乃果しかいないだろ?」

 

俺が穂乃果をリーダーに推した理由、それはみんなを惹きつける絶対のカリスマ性があると思ったからだ。

 

「それなら穂乃果は表、優は裏のリーダーですね」

 

「それも不本意だけどね」

 

「ゆーサンがみんなを集めて、穂乃果先輩がまとめる!」

 

「そうね、悔しいけど」

 

「私も、それがいいと思います!」

 

「じゃあ、それで行くか!」

 

リーダーなんて柄じゃないけど、みんながそこまで言ってくれるなら!

 

「みんな!始めよう!」

 

リーダーの声が聞こえてくる。屋上へと駆け足で向かった。

 

そうして新たな曲とPV

 

[これからのSomeday]

 

μ’sが7人になってからの映像が完成した。

 

***

 

「何を言ったの?」

 

公開されたばかりのPVを見ながら、私は副会長で本来は私の味方のはずの希に問う。

 

「うちは思ったことを素直に言っただけや、誰かさんと違って」

 

「もう認めるしかないんやない?えりちが力を貸してあげればあの子らはもっと」

 

確かにそうかもしれない、でもね......

 

「なら希が力を貸してあげれば?」

 

私が力を貸すことは出来ない。

 

「うちやない、カードも言ってるの。あの子たちにはえりちの力が必要や」

 

希はカードを1枚めくって見せてくる。希の占いはよく当たる。それでもその正確さが今は私を苦しめる。

 

「ダメよ.....」

 

希、あなたが何を考えているのか.....時々分からなくなるわ。

 

***

 

「はぁっ!はぁっ!」

 

「花陽?どうした?」

 

俺たちが部室でくつろいでいると、何やら焦った様子の花陽が入って来た。

 

「助けて!」

 

「優!何をしたのですか!?」

 

「まず俺を疑うのやめろ!俺ずっとここにいただろうが!」

 

「じゃなくて!大変!大変です!」

 

-To be continued-

 




いやあ疲れますねw

1日にこんな書くことないですからねw

今回も雑談は無しです!

あと今回は話上、場面の切り替えが多くなってしまっています!

そこのところは......作者の文才の無さに免じて、本当にすいません!

次回もよろしくお願いします!


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エントリーのために

はい、まだまだ連続投稿ですw
やりたいことに間に合うといいんですが....

では、どうぞ!


「大変です!ラブライブです!ラブライブが開催されることになりました!」

 

聞き覚えのない単語に花陽以外は首を傾げる。

 

「ラブライブ!?って何?」

 

花陽はパソコンの電源を入れて、何やら調べ始める。

 

俺たちは黙ってその周りに集まって様子を見る。

 

「スクールアイドルの甲子園、それがラブライブです!エントリーしたグループの中からこのスクールアイドルランキングの中の上位20位までがライブに出場、№1を決める大会です!噂には聞いていましたけど、ついに始まるなんて......]

 

「へぇ~」

 

「そんなのあるのか」

 

「スクールアイドルは全国的にも人気ですし......」

 

「盛り上がること間違いなしにゃー!!」

 

となると......優勝候補はやっぱA-RISEとかかな?

 

「今のアイドルランキングから上位20組となると.....1位のA-RISEは当然出場として、2位3位は......ま、まさに夢のイベント、チケット発売日はいつでしょうか.....?初日特典は.....」

 

「って、花陽ちゃん、見に行くつもり?」

 

穂乃果がそういうと花陽は鋭い目をしたあと立ち上がる。

 

「当たり前です!これはアイドル史に残る一大イベントですよ!?見逃せません!」

 

「アイドルのことになるとキャラ変わるわよね.....」

 

「凛はこっちのかよちんも好きだよ!」

 

いつになく興奮してるな.....花陽。

 

「でも、意外だな.....出場目指して頑張らないのか?」

 

「えぇ!?そ、そんな!?私たちが出場なんて恐れ多いです!」

 

「キャラ変わりすぎ.....」

 

「凛はこっちのかよちんも好きにゃ~!」

 

凛、お前はぶれないな......

 

「でも、スクールアイドルやってるんだもん!目指してみるのも悪くないかも!」

 

「てゆうか!目指さないとダメでしょ!」

 

穂乃果がいつになく真面目だ!?花陽の変貌っぷりよりそっちの方が驚きだ!

 

「そうは言っても、現実は厳しいわよ?」

 

「ですね.....確か先週見たときは、とてもそんな大会に出られる順位では.......あっ!穂乃果、ことり、優!」

 

海未に呼ばれてパソコンの画面を見る。

 

「すごい!」

 

「順位が上がってる!」

 

「嘘!?」

 

俺たちの反応に真姫が食いついて、パソコンを覗きこむ。

 

「急上昇のピックアップスクールアイドルにも選ばれてるな!」

 

「ほら!コメントも、新しい曲かっこよかったです!8人に増えたんですね!いつも一生懸命さが伝わってきて大好きです!」

 

「おぉ!他にもえぇっと?一緒にいる男が羨ましい!マネージャー代わって欲しい!リア充砕け散れ!.....コメントがいっぱいだ!」

 

後半部分はスルーするに越したことはない。

 

「うわぁ~!もしかして凛たち人気者!?」

 

「そのせいね.....最近出待ちが多いのよ」

 

「出待ち!?嘘!?私全然ない.....」

 

真姫の話を聞きながら屋上に出る。

 

「そういうこともあります!アイドルというのは残酷な格差社会でもありますから.....」

 

「うぅ.....」

 

「そういえば俺も少しあったな.....あれ出待ちだったのか」

 

PVが公開されてからしばらくして、校門前にいた女の子に話かけられたりした。

 

「ゆー君?その話もう少し詳しく聞かせてね?」

 

「い、いや!ほら!一緒に写真撮っただけだから!?」

 

たちまちみんなから黒いものが上がり始める。

 

「ずるい!穂乃果もあとでゆう君と写真撮りたい!」

 

「何でそうなる!?」

 

「何ですか?その子とは撮れても私たちとは撮れない理由でも?」

 

阿修羅さん.....こんにちは.....

 

「分かった!分かったから!写真なんてあとで一緒に映るから!」

 

写真を撮るか命を取るかって!?誰が上手いことを言えと.....我ながら感心するわ。

 

「でも写真だなんて、真姫ちゃんも変わったにゃー!」

 

「わ、私は別に!」

 

「あぁー!赤くなったにゃー!」

 

「ふんっ!」

 

と真姫の照れ隠しチョップが凛の額を直撃する。

 

「痛いよぉ~!」

 

「あんたがいけないのよ」

 

「みんな聞きなさい!重大ニュースよ!」

 

そこに扉を開けてにこ先輩が入ってきた。

 

何を言うかは大体予想が出来る。

 

「聞いて驚くんじゃないわよ?今年の夏、ついに開かれることになったのよ!スクールアイドルの祭典!」

 

「ラブライブですか?」

 

ですよねー。

 

「知ってんの?」

 

「はい、さっき花陽から聞きました」

 

「なら話は早いわね......当然、出場を目指すわよね!?」

 

「はい、今から練習しようとしてたところです!」

 

穂乃果が意気揚々と答える。

 

「よし!私も着替えてくるわ!」

 

とにこ先輩が開けっ放しの扉に向かうのと同時に

 

「待って!」

 

と真姫が声を上げた。

 

「ま、真姫ちゃん、どうしたの?」

 

近くにいた花陽が尋ねる。

 

「これって理事長の許可を取らないといけないんじゃないの?」

 

「......よーし今から取りに行くか」

 

真姫がいなかったら......無断で出ることになったのか?いや、海未もいるし.....大丈夫だったはず。

 

そんな疑問は屋上に置いておいて、理事長室に向かうために俺たちは制服に着替えようと部室に向かったのだった。

 

***

 

「どう考えても答えは見えてると思うけど?」

 

今俺たちがいるのは、理事長室の前.....ではなく、生徒会室の前だ。理事長に許可を取る前に綾瀬会長を通した方がいいという考えだ。

 

「学校の許可ぁ?認められないわぁ!」

 

「ぷっ!」

 

やめろ!そのモノマネ......笑っちまっただろうが!

 

「今度は間違いなく生徒を集められると思うんだけど.....」

 

「そんなの、あの生徒会長には関係ないでしょ?私らのこと目の敵にしてるんだから」

 

「にこ先輩どっから出て来てるんですか?」

 

普通に関係ない扉からでてきたぞこの人。

 

「ど、どうして私たちばかり....」

 

「それは.....はっ!?もしかして学校内での人気を私に奪われるのが怖くて!?」

 

「「それはない(わ)」」

 

「ツッコミ早っ!?」

 

真姫はにこ先輩にツッコんだあと、扉を閉める。

 

「もう許可なんて取らずに勝手にエントリーしちゃえばいいんじゃない?」

 

「ダメだよ!エントリーの条件にちゃんと学校に許可を取ることってあるもん!」

 

「じゃあ、直接理事長に頼んでみるとか」

 

「え?そんなこと出来るの?」

 

「確かに部の要望は原則生徒会を通じてとありますが、理事長のところに直接行くことが禁止されているというわけでは......」

 

確かにそれはそうだけど......海未がそんなことを言い出すのは意外だ。むしろ止めそうなのに。

 

「ま、何とかなるよな......親族もいることだし」

 

俺の言葉でことりに視線が集まる。

 

「それじゃ、理事長室に行こう!」

 

***

 

「うっ.....」

 

穂乃果が生唾を飲み込む。気持ちは分かる。

 

その他の扉とは違うものが、明らかにラスボス臭を放っていて、嫌でもプレッシャーを感じてしまう。

 

「更に入りにくい緊張感が......」

 

「そんなこと言ってる場合?」

 

「分かってるよぉ~.....」

 

そして穂乃果が拳を振り上げると同時に中から扉が開けられる。

 

「おぉ?おそろいでどうしたん?」

 

中から顔を出したのは希先輩だった。.....ということは.....

 

「うわわ!?生徒会長!」

 

案の定、後ろから綾瀬会長が出てきた。

 

「タイミング悪っ.....」

 

「何の用ですか?」

 

綾瀬会長のよく通る声で俺たちは黙り込んでしまう。

 

「理事長にお話があって来ました!」

 

そんな中、真姫だけは堂々と要件を告げる。

 

「各部の理事長への申請は生徒会を通す決まりよ」

 

「申請とは言ってないわ!ただ話があるの!」

 

「真姫ちゃん、上級生だよ」

 

「うぅ.....」

 

穂乃果は割と礼儀正しかったりする。

 

みんなが俯いていると、扉からコンコンと音が発せられる。

 

音のする方を見ると、理事長、ひばりさんがことりによく似た顔を覗かせていた。

 

「どうしたの?」

 

どうやら話を聞いてくれるみたいだ。

 

「ここで話をするのもなんですから、中にお入りなさい」

 

「「「「「「「「はい、失礼します!」」」」」」」」

 

と全員が足を踏み入れようとしたので俺は止める。

 

「ここは俺たちに任せて、1年生の3人は外で待っててくれ」

 

3人は素直に外に出る。

 

「にこ先輩は中で一緒に話を聞いてください」

 

「分かったわ」

 

「穂乃果、海未、ことり、入るぞ」

 

「私たちも生徒会として話を聞く義務があります」

 

綾瀬会長と希先輩が入ったところで、俺は扉を閉めて、ひばりさんの前に立つ。

 

「それで何か用事?」

 

「はい、実はスクールアイドルの上位20組が集うラブライブと呼ばれる大会にエントリーしたいので、許可を頂きたいのですが.....」

 

俺は簡潔に事を述べる。

 

「へぇ~!ラブライブねぇ!」

 

「はい、ネットで全国的に中継されることになっています」

 

「もし出場出来れば、学校の名前をみんなに知ってもらえることになると思うの!」

 

理事長の反応は悪くない。でも、綾瀬会長なら

 

「私は反対です!」

 

そうくるだろうな。

 

「理事長は学校のために学校生活を犠牲にするようなことはすべきではないと仰いました。であれば!」

 

「そうねぇ....でもいいんじゃないかしら?エントリーするくらいなら」

 

さすがひばりさん!話が分かる!

 

「本当ですか!?」

 

「えぇ」

 

ひばりさんの言葉に綾瀬会長の目が動揺に染まる。

 

「ちょっと待って下さい!どうして彼女たちの肩を持つんです!?」

 

「別にそんなつもりはないけど」

 

「だったら、生徒会も学校を存続させるために活動させてください!」

 

「う~ん、それはダメ」

 

「意味が分かりません!」

 

俺はなんとなくだが理由が思い当るような気がした。

 

「そう?簡単なことよ?」

 

「っ.....」

 

「えりち!」

 

綾瀬会長はそのまま理事長室から出ていってしまう。

 

「ふん!ざまあみろってのよ」

 

「ただし!条件があります!勉強がおろそかになってはいけません、今度の期末試験で1人でも赤点を取るようなことがあったらラブライブへのエントリーは認めませんよ、いいですね!」

 

「赤点取らなきゃいいなら、大丈夫だろ!なぁ!みん....な?」

 

俺は後ろを振り向く。

 

そこには壁に手を着いて俯いている穂乃果、膝から崩れ落ちている凛とにこ先輩の姿があった......まじでか?

 

どうやらとんでもない難関だったらしい。

 

***

 

「大変申し訳ありません!」

 

「ません!」

 

部室に戻ってまずは穂乃果と凛の謝罪を聞く。

 

「小学校の頃から知ってはいましたが.....穂乃果.....」

 

「数学だけだよ!ほら、小学校の頃から算数苦手だったでしょ!?」

 

数学か....俺もあんまり得意じゃないな。

 

「7×4は?」

 

「にじゅう......ろく?」

 

それでもここまでじゃない。

 

「かなりの重傷ですね......」

 

「もう致死量だな」

 

「穂乃果死んじゃうの!?」

 

残念だ。

 

「凛ちゃんは?」

 

「英語!凛は英語だけはどうしても肌に合わなくて.....」

 

「凛.....ちょっと自分の自己紹介を英語でしてみろ」

 

「まい.....ねーむ、いず.......りん....星空って英語で何て言うにゃ!?」

 

「なんでそうなる」

 

こっちも重症だ。Star sky とかちょっとかっこいいけどさ......

 

「まあ難しいもんね?」

 

フォローしきれないぞ?

 

「そうだよ!大体凛たちは日本人なのにどうして外国の言葉を勉強しなくちゃいけないの!?」

 

「屁理屈はいいの!」

 

「真姫ちゃん怖いにゃー.....」

 

「これでテストが悪くてエントリー出来なかったら恥ずかしすぎるわよ?」

 

「そうだよねぇ.....」

 

これに勉強教えるのは.....骨が折れそうだな.....

 

「やっと生徒会長を突破したって言うのに!」

 

「全くその通りよ~......あ、赤点なんか絶対取っちゃダメよぉ~?」

 

「その教科書難しそうですね」

 

「そ、そんなことないわよ?さっきからもう解けまくりよ!」

 

あんた教科書逆さまにもって問題読めんのかよ......

 

「とにかく!試験まで私とことりと優は穂乃果の勉強を見ます!花陽と真姫は凛の勉強を見て、弱点教科を何とか底上げしていくことにします!」

 

そうなると......

 

「にこ先輩は?」

 

「それはうちが担当するわ」

 

扉の方から希先輩の声がした。

 

「希......」

 

「いいんですか?」

 

「い、言ってるでしょ!?にこは赤点の心配なんてな~んにも.....ひっ!?」

 

希先輩は無音でにこ先輩の背後に近寄ってそのまま胸を鷲掴みにする。

 

「嘘つくとワシワシするよ?」

 

「分かりました、教えてください.....」

 

過去に一体何があったんだ?

 

「はい、よろしい」

 

「よし!これで準備は出来たね!明日から頑張ろぉ~!」

 

「おぉ~!」

 

「「今日からだ(です)」」

 

何を悠長に構えてやがるんだか......

 

***

 

「うぅ~.....これが毎日続くのかにゃー.....」

 

「当たり前でしょ?」

 

教科書から顔を上げた凛はこの世の終わりはそこにあるみたいな顔をする。

 

「あぁ~!白いご飯だにゃー!」

 

「えぇ!?どこぉ!?」

 

パシンと無言で凛の頭を軽く叩く。

 

「引っかかるわけないだろ」

 

花陽は必死に探してるけど。

 

「ことりちゃん、ゆう君......」

 

「何?あと1問だよ?頑張って?」

 

「お休み」

 

穂乃果は顔から机に崩れ落ちる。

 

「全く.....ことり、優、あとは頼みます。私は弓道部の方に行かなければならないので」

 

「分かった!起きて~穂乃果ちゃ~ん!」

 

「おう、こっちは任せろ」

 

もう頭痛いけどな......

 

「じゃあ....次の問題の答えは?」

 

「えっと.....に、にっこにっこに~.....」

 

「ふふふっ!」

 

「胸はもうやめて!」

 

部室内を見渡す......何だこの状況、もう回収出来ねえわ。

 

***

 

「今日はもう帰るわ....」

 

俺はそう言って部室から出て校門へと向かう。

 

「ん?.....海未か?」

 

ちょうど校門で誰かと話している海未を見つける。

 

「おい、海未?どうした?」

 

俺は近寄って話しかける。

 

海未と話していたのは多分中学生の女の子だ、外しているイヤホンからはμ’sの曲

 

[START:DASH!!]

 

が聞こえてくる。

 

「あっ!あの!もしかして八坂優さんですか!?μ’sのマネージャーの!」

 

「は、はい、そう....だけど」

 

当然知らない子だ。

 

「それってライブの映像?」

 

「はい!亜里沙は行けなかったんですけど、お姉ちゃんが撮ってきてくれて!」

 

「お姉ちゃん?.....君の名前は?」

 

「綾瀬亜里沙です!」

 

綾瀬ってもしかして!?

 

「亜里沙!」

 

その真相はすぐに分かった。

 

「お姉ちゃん!」

 

「.....あなたたちは......」

 

綾瀬会長が俺たちに気づく

 

「生徒.....会長」

 

俺よりも先に海未が口に出した。

 

-To be continued-

 




超眠いですw

まだまだ雑談コーナーはありません!

次回もお楽しみに!


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やるべき順序

このペースでやりたいことに間に合うのかは分かりませんが.....

とにかく頑張ります!

今回もどうぞ!


「どうぞ!」

 

校門の前で亜里沙ちゃんと話していた俺と海未はちょうどそこに来た綾瀬会長と一緒に近くの公園に移動していた。

 

「あ、ありがとう.....」

 

亜里沙ちゃんが自販機で飲み物を買ってきてくれた。そこまではいい。

 

「カレー?」

 

俺のはカレー、海未のはおでんだった。

 

「ごめんなさい、むこうの暮らしが長かったから、まだ日本に慣れてないところがあって」

 

「むこう?」

 

綾瀬会長と海未の会話に耳を傾ける。

 

「えぇ、祖母がロシア人なの」

 

クォーターなのか、この人。なるほど、何か納得出来る。

 

「亜里沙、それは飲み物じゃないの」

 

この人、こんな顔も出来るんだな。

 

亜里沙ちゃんと話す時の綾瀬会長は普段とは全然違って優しい感じだ。

 

「ハラショー.....」

 

「別なの買ってきてくれる?」

 

「はい!」

 

何で普通にカレーとおでんの缶詰が売ってあるんだ?ただの自販機じゃないだろ......

 

亜里沙ちゃんは駆け足で自動販売機に戻って行く。

 

「それにしても、あなたたちに見つかってしまうとはね」

 

「前から穂乃果たちと話していたんです。誰が撮影してネットにアップしてくれたんだろうって、でも!生徒会長だったなんて」

 

「あの映像が無ければ、俺たちは今、こうして無かったと思うんです。あれがあったから見てくれる人も増えたし、だからっ!」

 

「やめて」

 

お礼を言おうとすると綾瀬会長は次を言わせてくれなかった。

 

「別にあなたたちのためにやったんじゃないから.....むしろ逆、あなたたちのダンスや歌がいかに人を惹きつけられないものか、活動を続けても意味が無いか、知ってもらおうと思って」

 

そうだったのか......

 

「だから今のこの状況は想定外、無くなるどころか人数が増えるなんて.....でも私は認めない」

 

俺と海未は黙って聞き続ける。だから綾瀬会長は話し続ける。

 

「人に見せられるものになっているとは思えない。そんな状態で学校の名前を背負って活動してほしくないの」

 

綾瀬会長が鞄を持って立ち上がる。

 

「話はそれだけ」

 

会長が背中を向けたところで

 

「待ってください!」

 

海未が引き留める。

 

「じゃあ、もし私たちが上手くいったら....人を惹きつけられるようになったら.....認めてくれますか?」

 

「無理よ....」

 

「どうしてです?」

 

海未の追求は終わらない。

 

「私にとってはスクールアイドル全部が......素人にしか見えないの」

 

何かで頭を殴られたかのような衝撃が走る。

 

「1番実力があるというA-RISEも、素人にしか見えない」

 

「そんな.....」

 

今度こそ話は終わりと言わんばかりに綾瀬会長は亜里沙ちゃんの方へ歩いて行こうとする。

 

それでも海未が追いかけて何かを言おうとするのを手で制して止める。

 

「逃げてるだけのあなたに俺たちのことをそんな風に言う資格は無いと思います!」

 

俺の叫びに綾瀬会長の肩がはっきりと揺れる。それでも俺は止めない。

 

「活動に意味があるかないかなんて......全部俺たちが決める!」

 

徐々に会長との距離を詰める。

 

「.....あなたにとって素人に見える俺たちスクールアイドルは.....挫けることがあってもちゃんと向き合って.....前を見続けている!!」

 

綾瀬会長がゆっくりと振り返る。

 

「彼女たちは並大抵じゃない努力をして!上手くいかなくてもっ!!結果を受け止めてるんだよ!!!!」

 

「やめて.....」

 

今度は肩が震えているが、それでも俺はやめなかった。少々言葉遣いが乱暴になることも気にしない。そして俺は最初に言ったことを繰り返す。

 

「だから.....逃げてるあんたに俺たちのことをそんな風に言って欲しくない!」

 

「やめて!!!」

 

頬に鋭い痛みが走る。どうやら綾瀬会長に頬を叩かれたみたいだ。

 

会長はそのまま走って公園から出ていってしまう。

 

「優.....大丈夫ですか?」

 

海未が心配して近寄ってくる。

 

「八坂さん!」

 

亜里沙ちゃんも近寄ってきてくれる。

 

「あの.....お姉ちゃんと何かあったんですか?」

 

「.....いや、何もないよ、ほらお姉さんを追いかけないと」

 

すると亜里沙ちゃんは俺に缶を渡す。

 

「あの....亜里沙、μ’s......海未さんや八坂さんたちのことが大好きです!」

 

それだけ言うとお辞儀をして綾瀬会長のあとを追っていった。

 

「嬉しいことを言ってくれるな......」

 

「とりあえずその頬冷やしたらどうですか?」

 

そういやヒリヒリする.......とりあえずこの缶で冷やすか。おしるこだけど......

 

***

 

「にこわかんないよ~」

 

「おしおきやね!」

 

海未と一緒にファストフードの店にいる希先輩とにこ先輩の元に行くと、何やらおしおきと称して希先輩がにこ先輩の胸を揉んでいた。

 

「公然わいせつ罪でーす」

 

とりあえず声をかける。

 

「あら?2人ともどうしたん?」

 

「聞きたいことがあるのですが」

 

当然さっきの綾瀬会長のことだ。

 

「ふーん.....にこっち今日はここまでや、家に帰っても復習を怠らんようにな?」

 

にこ先輩を脅すように指を動かして見せる。

 

「わ、分かってるわよ!」

 

「それじゃ、神社に行こか」

 

「「はい」」

 

***

 

「そんなことがあったんや」

 

巫女服姿の希先輩がそう言う。

 

ここに来るまでに事の経緯は大体話した。

 

「はい、ビンタのおまけ付きでした」

 

「んんっ!」

 

海未が咳払いしてくる。多分話を戻すということだ。

 

「A-RISEのダンスや歌を見て、素人みたいだって言うのはいくらなんでも.....」

 

「えりちならそう言うやろね」

 

「え?」

 

「そう言えるだけのものがえりちにはある」

 

当然そのことが引っかかる。

 

「どういうことですか?」

 

「知りたい?」

 

俺と海未は無言で頷く。

 

「えりちはな-」

 

希先輩は過去の綾瀬会長のことを語り始めた。

 

***

 

俺は家についてからも考え続けた。

 

綾瀬会長のこと。幼少期ロシアでバレエをしていて上位常連だったこと。実際の動画を見た。声が出なかった。俺たちのしてきたことが稚拙に見えるくらい、それは洗練されたものだった。

 

それでも......入賞出来なかったと希先輩は言っていた。

 

「はぁ......」

 

ため息が漏れる。

 

その時、ちょうど着信があった。海未からだ。

 

「もしもし?」

 

「あっ.....優」

 

海未も多分同じことを考えていたんだろう。

 

「俺、謝らないといけないよな」

 

「私も.....です」

 

「「はぁ.....」」

 

「このことは明日話そう、お互いにテスト勉強もあるし......」

 

「そう、ですね.....では、また明日」

 

通話が終わる。

 

「はぁ......勉強しよ」

 

俺はもやもやを抱えたまま机に向かってノートを開いた。

 

***

 

「昼休みは部室で勉強って言ったやん?」

 

俺と海未が屋上で会話していると、どうやら勉強をさぼろうとしたらしい3バカが希先輩に見つかっていた。

 

「わ、分かってます!」

 

「そ、その.....ちょっと体動かした方が頭にも入るかなぁ~って!」

 

「ゆ、優にそそのかされたのよ!」

 

ははっ、何言ってやがるのか.....さっぱり分かりませんなぁ!

 

「まあ、誰でもえぇやん?どうせみんな一緒におしおきやから!」

 

楽しそうだなぁ、希先輩.....

 

「おっ!穂乃果ちゃんは中々やね!」

 

穂乃果から胸を揉まれる。いつもは多分反応しているであろうこの展開、でもそんな余裕今は持っていなかった。

 

脳裏をよぎるのは綾瀬会長がバレエをしている時の映像、多分海未もそうなのだろう。お互いに黙ったまま、俯いている。

 

「なあ、部室戻らないか?」

 

俺は海未に話しかける。

 

「え、あぁ、はい.....そうですね」

 

どうすればいいのか......解決策は見つからないままだ。

 

***

 

「今日のノルマはこれね!」

 

ドンッと机に参考書の山が築かれる。

 

「「「鬼....」」」

 

当然3バカは反抗しようとする。

 

「あれ?まだワシワシが足りてない子がおる?」

 

「「「まっさか~!!」」」

 

「ことり、優.....穂乃果の勉強をお願いします」

 

海未は思い詰めた表情のまま部室を出ていく。

 

あとを追いたいところだけど......こいつらの勉強もあるし、持ち場を任されてしまった以上、俺には勉強を見ることしか出来ないだろう。

 

「海未先輩どうかしたの?」

 

「さぁ......」

 

まあここ最近の海未は明らかに様子がおかしいからな、理由を知ってる俺はともかく.....心配されるだろう。

 

「うちが行ってくる、優くんはどうする?」

 

希先輩が俺に聞いてくる。

 

「.....一緒に行きたいところですけど、きっと今はやらなきゃいけない順番ってものがあると思うんです」

 

「そか、優くんは分かっとるみたいやね」

 

希先輩は満足そうに頷いて、海未を追っていった。

 

「さあ、お前ら.....勉強するぞ?」

 

俺はものすごくいい笑顔を浮かべる。

 

「ゆう君?笑ってるのは表情だけだよ?」

 

「ゆーサン.....何で目が笑ってないの?」

 

「そ、そういうあんたは成績どうなのよ!?」

 

にこ先輩が何か言ってるが.....俺は黙って中間の結果を鞄から取り出す。

 

「これでいいか?」

 

3人に結果を見せる。

 

「そんな!?」

 

「ゆーサンは凛たちと同じだと思ってたのに!」

 

「ぐぬぬぬぬ!!」

 

そりゃ優等生の海未、ことり、真姫には敵わないかもしれないけど、俺だって一応理事長の息子だ。

 

「分かったら....早く勉強しろっ!」

 

俺の号令で3人の手が動き始める。

 

「へぇ、ユウって意外と勉強出来たのね」

 

「どれどれ?わぁ~本当だ!」

 

真姫とことりが俺の結果を見て、少し驚いている。

 

「意外は余計だ、俺の親の職業上、勉強しないと示しがつかないんだよ」

 

「ゆー君のお母さんって....確か中高一貫校の理事長先生だったよね?」

 

そう、俺の通ってた学校は中高一貫で俺の親はそこの理事長だ。

 

「遺伝子が違うよ.....」

 

「凛たちの頭はそんな風に出来てないよ.....」

 

「はいはい、手を動かせ」

 

とそこまで言ったところで扉が開く。

 

「穂乃果!」

 

海未が吹っ切れた顔をして戻ってきた。

 

「あー海未ちゃん.....」

 

「今日から穂乃果の家に泊まり込みます!」

 

ビシッと指を差し、そう宣言する。

 

「頑張れよ、穂乃果」

 

俺は穂乃果の肩に手を置いて同情する。

 

「何他人事みたいに言ってるんですか!優、あなたも穂乃果の家に泊まるんです!」

 

「Pardon?」(すまん、もう1回言ってくれ)

 

何か聞き逃したかもしれないし......

 

「ですから、優も穂乃果の家に泊まり込んで勉強するんです!」

 

「Oh....Really?」(え?まじで?)

 

そんなこと親が許すわけないだろ!?

 

「さすがに秋穂さんでもそんなこと許さないだろ?渚さんも、ひばりさんも.....」

 

「すでに穂乃果のお母様の許可は取ってあります!私のお母様も優なら問題ないと.....」

 

「何故だ!?」

 

「ゆー君、お母さんも大丈夫だって」

 

えぇ....どうなってんの?普通男女が同じ家に寝泊まりするの躊躇しない?

 

「というわけで!今から着替えを持って穂乃果の家に集合です!みっちりやりますよ!」

 

こうして.....何故か穂乃果の家に5日間泊まり込んで、勉強することになった。

 

-To be continued-

 




さて.....次回はお泊りイベントですね!

こうご期待!



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お泊り勉強会

はい、お泊りイベントですw

羨ましい.....

ではどうぞ!


「お邪魔しまーす.....」

 

「はーい!いらっしゃいゆう君!」

 

何故か穂乃果の家に泊まりで勉強することになった俺は満面の笑みの秋穂さんに迎え入れられる。

 

「穂乃果と海未ちゃんは先に部屋で勉強としてると思うから」

 

「は、はい....お世話になります」

 

やっぱ今からでも帰った方がいい気がする.....

 

「自分の家だと思ってくつろいでね!」

 

「はは....」

 

そんなことが出来るはずがない。

 

俺はすぐに階段を上って穂乃果の部屋の扉を開ける。

 

「おーい、きた.....ぞ?」

 

部屋を見ると......参考書の山に囲まれた穂乃果と傍に仁王立ちしている海未が目に入る。

 

俺は黙って扉を閉め、階段を下りる。

 

「帰ろ.....」

 

そしてちょうど玄関にいたことりと鉢合わせてしまう。

 

「ゆー君?どうしたの?」

 

きょとんとしたことりを見て俺は額に手を当て、天を仰ぐ。

 

「いや.....家に忘れ物してな......」

 

「そうなの?じゃあ鞄穂乃果ちゃんの部屋に持っていってあげるね♪」

 

「わー助かるなぁ......」

 

これで完全に逃げ道は失われた。

 

しばらく外で時間を潰して、穂乃果の部屋に戻る。

 

「優!遅いですよ!」

 

さっきと寸分違わず仁王立ちのままの海未がいた。

 

「でも.....俺やることないし、晩飯作る手伝いでもしてくるよ......」

 

簡単な物しか作れないが、それでも泊めてもらう身だからな。これぐらいはしないと......

 

まああの部屋から逃げたかっただけだ......

 

「秋穂さん、手伝います」

 

「ありがと~!ゆう君はいい旦那になれそうね!」

 

「いえ、別に.....」

 

照れ隠しで頬をかく。

 

それからしばらくは料理を作ることに集中する。

 

「じゃあ、穂乃果たち呼んできます」

 

夕食を作り終えた俺は階段を上る。

 

「おい、ご飯だぞ」

 

「え!?本当!?もう穂乃果お腹ぺこぺこだよ~!!」

 

穂乃果は1番に部屋を飛び出していく。

 

「ゆー君も作ったの?」

 

「あぁ、手伝いだけだけど」

 

俺の家は何故か全員料理が出来る。

 

滅多に母さんが帰ってこないために家の家事はローテーションだ。よって、必然的に家事がみんな出来るというわけだ。

 

うん、味はいつも通り普通だな。

 

「謎の女子力ですね.....」

 

海未がちょっと落ち込んでいる。

 

「ゆう君と結婚すればいい家庭が築けそうね!」

 

秋穂さんが無邪気にそんなことを言ってしまう。

 

「け、結婚.....ゆう君と!?//////」

 

「ゆー君と結婚かぁ~/////」

 

「優!?け、結婚などと......その、は、破廉恥です!//////」

 

「俺は悪くないはずだ!//////」

 

そりゃ、穂乃果やことり、海未たちが奥さんなら毎日がきっと楽しいことになると思うけど.......

 

秋穂さん以外、顔を真っ赤にしてする食事となった。

 

***

 

「よし、勉強だ」

 

穂乃果の部屋に戻るとすぐに教科書を開こうと手を伸ばすが、ふと喉が渇いていると思った。

 

「俺なんか飲み物買ってくるけど、何かいるか?」

 

「お菓子!」

 

「太りますよ?私も飲み物をお願いします」

 

「私もついていくよ、ゆー君1人じゃ荷物持ち大変だろうし.....」

 

いい子だ......

 

「じゃ、行ってくる。ちゃんと勉強しろよ?」

 

「任せて下さい!私がきっちり教えますから!」

 

ことりと一緒に外に出て、コンビニに行く。

 

しばらく俺たちの足音だけが辺りに響く。

 

「そういえば、ゆー君の中学校からの話とか聞いてみたいな♪」

 

「は?どうしたんだ?突然」

 

「ゆー君のことは昔のことしか知らないから.....ダメかな?」

 

ことりは軽く首を傾げる。

 

それは反則だろ......男なら大体勝てないだろう。特にことりみたいな可愛い子が相手なら。

 

「まあ.....いいけど」

 

中学生か.....

 

『お前さえいなければっ!!!!!』

 

『やめろ!!』

 

「っ!!」

 

「どうしたの?」

 

一瞬、思い出したくないことが頭をよぎる。

 

「いや、なんでもない、そうだな.....今とあまり変わらなかったと思うぞ?」

 

「部活には入ってなかったの?」

 

「一応.....運動部と生徒会に入ってた」

 

ことりが目を丸くする。

 

「えぇ!?初耳だよ!?」

 

「そりゃ初めて言ったからな」

 

それが......あんなことになるとか思ってなかったけど.......

 

「何部だったの?」

 

「まあ、バスケ....だな」

 

ちょうどコンビニの光が見えたため、話を打ち切る。

 

「この話はまた今度な!」

 

「え、あ、うん!」

 

俺が急いで話題を切ったことに違和感を覚えたんだろう、ことりは不思議そうな顔をしていた。

 

***

 

「あれ?穂乃果は?」

 

買い物を終えて、部屋に戻ると穂乃果の姿が見えない。

 

「あぁ、顔を洗いに」

 

「そうか」

 

俺が腰を下ろそうとすると

 

「待ってください、優はそのままお風呂に入ってきてください」

 

海未が風呂を勧めてくる。

 

「俺はあとでいいよ?」

 

「私たちが入ったお湯で何をする気ですかっ!?」

 

海未が自分の体を抱くようにする。

 

「想像力逞しいなおい!?何もしない!!!!」

 

濡れ衣にもほどがある。

 

「でも、俺が先に入ると男が入った湯につかることになるぞ?」

 

「お湯を入れ替えれば大丈夫です!」

 

「俺そんな汚れてないよ!?」

 

「冗談です、それにいつもお父様が入ったお湯にも入ってますから.....優なら大丈夫だと思います....早くしないとあとがつかえてますから.....」

 

しょうがない、この涙を汗と一緒に水で流してしまおう........

 

俺は着替えを持って風呂場に向かう。

 

脱衣所で服を脱いで、とりあえず腰にタオルを巻いて、風呂場に足を踏み入れる。

 

「シャワーっと.....」

 

さっさと髪と体を洗ってここを出よう......

 

手早く各部を洗い、湯船につかる。

 

「あ~疲れた~!」

 

そんな声が脱衣所から聞こえてきたと思ったら風呂の扉が勢いよく開く。

 

「「え?」」

 

お互いの声が重なる。

 

「ゆう君!?何で!?」

 

扉を開けて入ってきたのは穂乃果だった。

 

「穂乃果こそ!?」

 

「海未ちゃんかことりちゃんかと思って!!」

 

俺は全力で穂乃果から目を背ける。

 

風呂場ということは当然穂乃果も裸だった。しかも海未かことりが入ってると思っていたと思っていたためタオルのガードが甘く、色々と見えてしまいそうだった。

 

女の子特有の柔らかそうな体、穂乃果の意外と大き目に見える胸、タオルによってそれは隠されているが、それが余計に想像を掻き立ててしまう。

 

刺激が強すぎる!!

 

「俺が出るから目を瞑ってろ!!」

 

雑念を掻き消すように風呂場から飛び出し、体を適当に拭いて服を着て、そのまま2階へ戻った。

 

「優?どうしたのですか?そんなに慌てて?」

 

部屋に戻った俺は静かに膝をつく。

 

「ゆー君!?どうして扉に向かって土下座してるの!?」

 

数十分後、穂乃果が戻ってくるまで、俺はその体制で待ち続けた。

 

そして、この宿泊の間はお互いに顔を見て話せなかった。

 

-To be continued-

 




まあ普通は穂乃果が悲鳴をあげて、海未、ことりがそこに来て優くん修羅場でもよかったんですけどねw

あまりのことに声も上げられなかったってことで!

次回もよろしくお願いします!


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見える影は遠い

今のペースでいくとギリギリってところですね......

話もろくに思いつきませんけどw

ではどうぞ!


テスト期間が終了した。

 

テストが返却されて、反応は人それぞれだ。

 

頭を抱える者、机に突っ伏す者、ガッツポーズをする者。

 

俺はそんな喧騒の中、部室へと駆け足で向かう。

 

「みんな、お疲れ」

 

部室に入ると同時に、俺はねぎらいの言葉をかける。

 

「ゆーサン!見て見て!」

 

凛が英語のテストを見せてくる。50点を超えている。

 

「やったな凛!真姫も花陽もお疲れ!」

 

赤点回避.....あとにこ先輩と穂乃果か.....

 

「にこにーにかかればこんなの余裕よ!」

 

にこ先輩が自慢げにテスト用紙を見せてくる。

 

「ふう、これで一安心だな」

 

先輩の点数も赤点ではない。

 

「あとは穂乃果ですね.....」

 

海未が心配そうに呟く。と同時に部室の扉が開く。

 

みんなが真剣な目を穂乃果に向ける。

 

「どうだった?」

 

「今日で全教科返ってきましたよね?」

 

「うん......もっといい点数だったらよかったんだけど.....」

 

その反応.....まさか、赤点!?

 

「じゃーん!!」

 

穂乃果が手に持ってる答案を凝視する。....53点.....セーフだ!

 

穂乃果は俺たちにVサインを向ける。

 

これで俺たちはラブライブにエントリーすることが許されたわけだ。

 

「よぉ~し!今日から練習だ!」

 

早くも練習着に着替えた穂乃果が部室を飛び出していく。

 

屋上に行く前に、ひばりさんに報告のため、理事長室の前に行く。

 

穂乃果がノックをするけど、中から返事はない。

 

「留守か?」

 

「ん~?」

 

穂乃果は少しだけ扉を開けて中を覗く。

 

綾瀬会長とひばりさんの姿が見える。

 

「そんな!?説明してください!」

 

「ごめんなさい、でもこれは決定事項なの」

 

何だ?何の話をしてるんだ?

 

「音ノ木坂学院は......来年より生徒募集をやめ.....廃校とします!」

 

どういうことだ!?

 

俺たちは全員で顔を見合わせる。

 

「今の話!本当ですか!?」

 

穂乃果が扉を開け、中に入る。

 

「あなた!?」

 

綾瀬会長が焦った声を上げるが、今は構っている場合じゃない!

 

「本当に廃校になっちゃうんですか!?」

 

「本当よ」

 

特に焦りを感じさせない声でひばりさんは淡々と返してくる。

 

「お母さん!そんなこと全然聞いてないよ!?」

 

「お願いします!もうちょっとだけ待ってください!あと1週間!いや、あと2日で何とかしますから!!!」

 

落ち着け.....こういう時こそ平常心だ。自分より焦っている人を見ると、自然と落ち着いてくる。

 

「いえ、あのね?廃校にするというのはオープンキャンパスの結果が悪かったらという話よ?」

 

「つまり.....一般の人を呼んでアピールすると?」

 

「中学生たちにアンケートを取って結果が芳しくなかったら廃校にする。そう綾瀬さんに言っていたの」

 

「なんだ......」

 

「安心している場合じゃないわよ?」

 

綾瀬会長の言う通り、全然安心できる状況ではない。

 

「オープンキャンパスは2週間後の日曜日、そこで結果が悪かったら本決まりってことよ」

 

その言葉に穂乃果たちは狼狽える。

 

「理事長!オープンキャンパスの時のイベント内容は生徒会で提案させていただきます!」

 

「止めても聞きそうにないわね.....」

 

綾瀬会長の雰囲気から全てを悟ったのだろうひばりさんは言葉通り止めることはしなかった。

 

「失礼します」

 

会長はすぐに出ていってしまう。

 

「何とかしなくちゃ!」

 

「その前にみんなに伝えるのが先だ、行くぞ」

 

***

 

「凛たち下級生のいない高校生活!?」

 

「そうなるわね」

 

あの場にいなかったメンバーにさっき聞いたことを伝える。

 

「私はそっちの方が気楽でいいけど」

 

「とにかく!オープンキャンパスでライブをするぞ!それで入学希望者を少しでも増やすしかない!」

 

自分で言っといてあれだと思うが.....今のままじゃとてもいけるとは思えない。

 

あの綾瀬会長のバレエが頭をちらつく。あれぐらい出来ないと.....

 

「とにかく練習しようよ!」

 

穂乃果の声でみんなが階段を上がっていく。

 

「優、やはり.....今のままでは.....」

 

「あぁ、とてもじゃないが、無理だ」

 

海未も同じ結論に至っているようだ。

 

「とにかく.....今は練習するしかない、俺たちもいこう」

 

「えぇ.....」

 

屋上に出ると、凛と花陽が駆け寄ってきた。

 

「あ、あの優さん」

 

「凛たちちょっとアルパカの世話に行ってくるにゃ!」

 

「あぁ、花陽は飼育委員だっけ、いいよ、いってこい」

 

正直アルパカにはいい思い出がないなあ.....

 

「ゆーサンにも手伝って欲しいにゃ」

 

「その....重い物を運ばないといけないんです」

 

「なら、仕方ない....穂乃果先に始めててくれ」

 

上がったばかりの階段を駆け下りる。

 

飼育用の物が置いてある倉庫について、中を見る。

 

「干し草.....確かに重そうだな」

 

近づいて箱を持ち上げると中々重量があった。

 

「これをアルパカのとこまで運べばいいんだな?」

 

「はい」

 

「そうだにゃ!」

 

花陽たちの指示に従って、俺は干し草の入った箱を持って着いていく。

 

「あれ?生徒会長.....さん?」

 

アルパカ小屋の前に着くと、そこに数人ほど人がいた。綾瀬会長の姿も見えるから....生徒会の何かかな?

 

「あなたたち.....」

 

綾瀬会長も俺たちに気づく、それと同時に周りの人が声をかけてくる。

 

「あ!あなたたちμ’sの!」

 

「そうですけど....」

 

「ちょうどよかった!ちょっとお願いがあって!」

 

「待ちなさい!まだ何も決まっていないでしょ!」

 

その喧騒は綾瀬会長の一喝ですぐに消える。

 

「まあ俺たちアルパカの世話しにきただけなんで....ねっ!」

 

俺が近づいた拍子に茶色いアルパカがいつものようにつばを飛ばしてくるけど、躱して箱を置く。

 

「ふぅ、じゃ練習に戻るか!」

 

「ゆーサンすっかり手慣れてるね!」

 

「そりゃ毎回吐かれてれば嫌でも慣れる」

 

「ハ、ハラショー.....」

 

何かいつもとは違う綾瀬会長の呟きが聞こえたが、特に気にせずに校舎に戻る。

 

やっぱ生徒会は生徒会で苦労してるんだな......さっきの様子を見てそう思った。

 

***

 

「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト!」

 

手拍子は俺がして、穂乃果がリズムを取る。その掛け声に合わせてみんながポーズを決める。

 

「おぉ!みんな完璧!」

 

穂乃果はそう言うけど、納得をしていない人物がこの場にいる。

 

あの綾瀬会長のバレエを見てしまった俺と海未だ。

 

だから....俺はこう告げるしかない。

 

「ダメだ......まだタイミングがずれてる、もう一回だ」

 

「優の言う通りです.....」

 

「ゆう君?海未ちゃん?....分かった!もう一回やろう!」

 

例えこのいい雰囲気を壊すことになっても.....納得がいかない......

 

俺は再び手拍子をして、穂乃果がまたリズムを取る。

 

「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト!」

 

ラストのポーズをみんなが取る。

 

「完璧~!」

 

「そうね!」

 

「やっとにこのレベルにみんなが追い付いたわね~!」

 

ダメだ....全然届いていない、あの動きに......

 

「まだダメだ、これじゃ.....」

 

ごめんな、みんな......多分あれさえ見てなければ......最高と言っていたかもしれない。

 

「これ以上は上手くなりようがないにゃ~.....」

 

「何が気に要らないって言うのよ!はっきり言って!」

 

真姫が苛立った態度を隠さずに近づいてくる。

 

「.....感動出来ないんだ、今のままじゃ......」

 

「ゆう君?」

 

「今日は.....ここで終わりにしませんか?」

 

唯一、俺の気持ちを共感できる海未がそう言ってくれる。

 

「悪いな.....ちゃんと理由は話すから、今日はもう解散だ」

 

俺の思い詰めたような表情に誰も何も言ってこなかった。いや、言えなかったのだろう。

 

帰り道、俺と海未で穂乃果とことりに説明する。

 

「そうなんだ.....」

 

「それで、今日のゆー君と海未ちゃんは......」

 

みんなには悪いことをしたと思っている。

 

「私....考えたのですが......生徒会長にダンスを教えてもらうのはどうでしょうか?」

 

海未が唐突にそう切り出した。

 

***

 

「「えぇ!?生徒会長にダンスを教わる!?」」

 

俺が今電話をしてるのは凛と花陽。

 

海未はにこ先輩と穂乃果は真姫とだ。

 

そして俺たち2年生は穂乃果の部屋にいる。

 

「あの人のバレエを見て思ったんだ.....俺たちはまだまだだって」

 

「話があるってそんなこと?」

 

電話はみんなに聞こえるようにしているため、海未の携帯からにこ先輩の声が聞こえてくる。

 

「でも、生徒会長.....」

 

「凛たちのこと嫌ってるよね!絶対!」

 

「っていうか嫉妬してるのよ!嫉妬!」

 

まあそう見えるよな。

 

「俺もそう思ってた.....けど、あんなに踊れる人が俺たちを見たら素人みたいなものだって言うのも分かるんだ」

 

「そんなにすごいんだ.....」

 

ことりに静かに頷く。

 

「私は反対!潰されかねないわ」

 

「そうね、3年生はにこがいれば十分だし」

 

「生徒会長.....ちょっと怖い.....」

 

「凜も楽しいのがいいな~!」

 

みんなの反応は決していいものじゃない。

 

「私はいいと思うけどなぁ~」

 

「「「「えぇ!?」」」」

 

穂乃果の言葉ににこ先輩、花陽、凛、真姫は驚きの声を上げる。

 

「だって、ダンスが上手い人が近くにいて、もっと上手くなりたいから教わりたいって話でしょ?」

 

「そうですが.....」

 

「だったら!私は賛成!」

 

こういう時、穂乃果みたいな性格の人がいると正直助かる。

 

「頼むだけ頼んでみようよ!」

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

にこ先輩はやっぱり納得できないようだ。

 

「でも....絵里先輩のダンスは、ちょっと見てみたいかも!」

 

「あ、それは私も!」

 

ほら、流れが変わった。

 

「じゃあ早速明日聞いてみよう!」

 

***

 

「このように音ノ木坂学院の歴史は古く、この地域の発展にずっと関わってきました更に、当時の学校は音楽学校という側面も持っており学院内はアーティストを目指す生徒に溢れ非常にクリエイティブな雰囲気に包まれていたといいます。そんな音ノ木坂ならではの」

 

「うわぁ!?体重増えた!?」

 

「あ、雪穂起きたの?」

 

今、学校の友達の亜里沙と雪穂と一緒に音ノ木坂で生徒会長をしているという亜里沙のお姉さんのオープンキャンパスでするという話を聞いてたんだけど.....

 

「何言ってるの!?優莉、私寝てないよ!?話もとっても面白かったし!」

 

「はいはい、よだれふこうねー」

 

言っては悪いけど.....私たちと同年代の子がこれを聞いて音ノ木坂に入学したいという気持ちになるかは微妙だと思った。

 

「ごめんね、退屈だった?」

 

「いいえ~!?後半すごい引き込まれました!」

 

もう、雪穂ったら......

 

「オープンキャンパス当日までには直すから、何かあったら何でも言って?」

 

「亜里沙は.....あまり面白くなかったわ」

 

「ごめんなさい、私もです.....」

 

「ちょっと!?亜里沙、優莉!?」

 

隠しても仕方ないことだし.....

 

「何でお姉ちゃん、こんな話しているの?」

 

「学校を廃校にしたくないからよ」

 

「私も音ノ木坂は無くなって欲しくないけど......でも、これがお姉ちゃんのやりたいこと?」

 

亜里沙の確信をつくような一言に絵里さんの顔が動揺したようになる。

 

「.....もう少し、考えてみてはいかがでしょうか?」

 

私は少し責めるような口調になってしまうけど、本当にそうするべきだって思ったんだ。

 

-To be continued-

 




優くんの妹の優莉ちゃんが久しぶりに登場しました。

そして優莉ちゃん目線も初めてですねw

これから先もちょくちょく入れられたらと思います!

雑談コーナーはもう少しで復活します、次回もよろしくお願いします!


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差し伸べる手は

缶詰にされている作家さんってこんな気分なんですかね?

よし、今回もどうぞ!


「お願いします!俺たちにダンスを教えてください!」

 

朝から生徒会室の扉をノックし、不機嫌そうな顔をした綾瀬会長に俺たち2年組は頭を下げる。

 

「私にダンスを?」

 

「はい!私たち、上手くなりたいんです!」

 

綾瀬会長が一瞬海未と俺を見る。

 

「.....分かったわ」

 

「本当ですか!?」

 

これで第一関門クリアだ。

 

「あなたたちの活動は理解出来ないけど、人気があるのは間違いないようだし引き受けましょう」

 

再度、俺と海未を見る。

 

「でも!やるからには私が許せる水準頑張ってもらうわよ、いい?」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

あとは練習が厳しくなりすぎてμ’sメンバーが音を上げないかってことだけど.....これは全く心配していない。

 

「ふふっ、星が動き出したみたいや」

 

希先輩が何かを呟く。きっと俺たちには分からないことだろう。

 

「まずはあなたたちの基礎を見せてもらいます、屋上へ行きましょう」

 

と綾瀬会長の一言で屋上へ出て、昨日やったダンスの振り付けをやってみる。

 

「痛ぁ~い!」

 

が上手くいかずに凛が尻餅をついてしまう。

 

「全然ダメじゃない!よくそんなのでここまでこれたわね!」

 

「すいません.....」

 

「昨日はばっちりだったのに~!」

 

まあ、昨日は昨日だ。

 

「基礎が出来てないからムラが出るのよ、足開いて」

 

「こう?....うぎっ!?」

 

凛が足を開いた瞬間綾瀬会長が背中を押す。

 

凛身体硬いな......

 

「痛いにゃー!!!」

 

「これで?少なくとも足を開いた状態でお腹が床に着くようにならないと」

 

「えぇぇ!?」

 

それは結構大変だな。

 

「柔軟性を上げることは全てに繋がるわ、まずはこれを全員出来るようにして!このままだと本番は一か八かの勝負になるわよ!」

 

「それって俺もですか?」

 

「当然よ」

 

俺は実際に踊るわけじゃないんだけどなぁ....。

 

「ちなみにこの中でこれ出来るのは?」

 

「私出来るよ!」

 

ことりがその場で足を180度横に開いてそのままお腹を床にくっつける。

 

「おぉ!ことりちゃんすごぉ~い!」

 

確かに足が真横に開けてる時点でとんでもなく柔らかいだろう。

 

「ほっ!」

 

試しに俺もやってみる。

 

「ゆう君何で出来るの!?」

 

昔の恩恵だな。中学校の時は柔軟性を上げるためにストレッチをかかさなかったし....まだ出来たんだな。

 

「ほら!男の子にも出来るのよ!関心している場合じゃないわよ!みんな出来るの?ダンスで人を魅了したいんでしょ!このぐらい出来て当たり前!」

 

この人.....

 

俺はようやく本当の綾瀬会長が見られた気がする。

 

「次は片足立ち20分!」

 

シンプルに難しいのきたな.......

 

普段から鍛えてる海未は大丈夫そうだけど、それ以外は厳しいだろうな。

 

「それが終わったら筋力トレーニングももう一回筋力トレーニングもしっかりやり直した方がいいわ!」

 

「うぐぐっ.....」

 

苦しそうな声がみんなから聞こえてくる。

 

「ラストもう1セット!」

 

もう1度片足立ちをすると、ついに

 

「きゃぁ!?」

 

花陽が転んでしまう。

 

「かよちん!大丈夫!?」

 

「だ、大丈夫.....」

 

「もういいわ、今日はここまで」

 

綾瀬会長はそれを見て、冷たく振る舞う。

 

「ちょっと!そんな言い方ないんじゃない!?」

 

真姫が食ってかかる。

 

「私は冷静に判断しただけよ、自分たちの実力が少しは分かったでしょ?」

 

正論だ、正しすぎる。

 

「今度のオープンキャンパスには学校の存続がかかっているの、もし出来ないって言うなら早めに言って、時間がもったいないから」

 

「待ってください!」

 

穂乃果が去ろうとした綾瀬会長を呼び止める。誰も指示したわけじゃないのにみんなが横一列に並ぶ。

 

「ありがとうございました!明日もよろしくお願いします!」

 

「っ!」

 

「「「「「「「お願いします!」」」」」」」

 

綾瀬会長は信じられないという顔をする。

 

やっぱりμ’sに音を上げる人なんていないんだ。

 

***

 

「手伝い?」

 

「はい、希先輩にも頼まれてましたから!」

 

俺は練習が終わったあと、1人で生徒会の手伝いをすることにした。

 

教えてくれているんだし、言った通り頼まれているからな。

 

「....そう、ならついてきて」

 

綾瀬会長は俺をすぐ傍の部屋に俺を案内する。

 

「確かにすごいダンボールの山ですね.....」

 

部屋の中には山積みにされたダンボールがあった。

 

「これをどこに運べばいいんですか?」

 

「これを運んでくれる業者さん指定の場所よ」

 

そう言えば、そんなものがあった気がする。

 

「分かりました!よっと!」

 

「ちょっと....そんなに抱えて大丈夫なの?」

 

「平気ですって....前が見えないぐらいでっ!?」

 

やっぱり視界は大事だったようだ。俺は目の前にあった山にそのまま突っ込み、山に埋もれる。

 

「ぶはぁ!あーびっくりしたぁ.....」

 

「ふふっ、ふふふふふ!!」

 

笑い声が聞こえてきた。

 

「綾瀬会長.....笑えるじゃないですか」

 

綾瀬会長がお腹を押さえて、声を上げて笑っている。

 

「私だって人間なんだから笑うわよ!」

 

子供っぽい仕草で俺を怒る。

 

この人、本当はこういう人なのかも知れないな。

 

それが生徒会長としての責任とか義務感であんな固い感じになってるのかも....

 

俺はダンボールを運ぶために往復している間にふと改めてそんなことを思った。

 

***

 

「おはよー.....」

 

「おはようございます.....って優、どうしたんですか?顔が酷いですよ?」

 

「顔色が酷いって言えよ....ただちょっと筋肉痛なだけだ」

 

さすがにダンボールの束を運ぶために何往復もしたら人は筋肉痛になるらしい。勉強になった。

 

「だから手伝いしようかって言ったのに~」

 

ことりが苦笑しているが、さすがに男の俺でも結構疲れてるのに女子にそんなことをさせるわけにはいかない。

 

「にゃんにゃにゃんにゃにゃーん!」

 

凛が綾瀬会長を押しながら屋上へ来た。

 

「おはようございます!」

 

「まずは柔軟ですよね?」

 

そして昨日あれだけのことを言って誰もかけてない俺たちを見て

 

「辛くないの?」

 

と聞いてきた。

 

「「「「「「「「え?」」」」」」」」

 

俺たち8人の声が揃う。

 

「昨日あんなにやって今日また同じことをするのよ?第一、上手くなるかどうかも分からないのに」

 

何だ、そんなことか.......

 

「やりたいからです!確かに、練習はすごくきついです!体中痛いです!でも、廃校を何とかしたいって気持ちは生徒会長にも負けません!だから今日も.....よろしくお願いします!」

 

「「「「「「「お願いします!」」」」」」」

 

俺たちの言いたかったことは全部穂乃果が代弁してくれた。つまりはそういうことだ。

 

そして、穂乃果の強さを垣間見た綾瀬会長はそのまま屋上を去ってしまう。

 

きっと自己嫌悪だと思う。やりたいことも出来ずにいる自分とやりたいと素直に言える穂乃果、きっと自分と比べて受け止めきれなくなってしまったんだ.....

 

「俺、ちょっと行ってくる」

 

俺もすぐに屋上を飛び出す。

 

***

 

廊下を走ると希先輩の声が聞こえてくる。

 

「えりちは本当は何がしたいんやろうって」

 

俺はそこで立ち止まって会話に耳を澄ます。

 

「一緒にいると分かるんよ?えりちが頑張るのはいつも誰かのことばっかりで、だからいつも何かを我慢してるようで全然自分のことは考えてなくて!学校を存続させようって言うのも、生徒会長としての義務感やろ!?だから理事長はえりちのことを認めなかったんと違う!?」

 

俺も薄々気が付いていた。ひばりさんが綾瀬会長の行動を認めなかった理由。

 

まじめすぎて、生徒会長としての義務感で廃校を阻止しようとしていた綾瀬会長。そこには自分の意思があるように見えて、薄っぺらく透明なものなんだと思う。

 

「えりちの.....えりちの本当にやりたいことは!?」

 

希先輩の視線と言葉が綾瀬会長を射抜く。

 

「ほら、もう一回いくよ!」

 

開けっ放しの窓から穂乃果たちの声が飛び込んでくる。

 

「何よ......何とかしなくちゃいけないんだからしょうがないじゃないっ!!!!」

 

綾瀬会長の叫びが俺の鼓膜と希先輩を震わせる。

 

「私だって、好きなことだけやって何とかなるんだったらそうしたいわよっ!!!!」

 

俺はそっと覗きこむ。

 

―――会長が.....泣いてる。

 

更に綾瀬会長は叫び続ける。

 

「自分が不器用なのは分かってる!!!でも!!!今さらアイドルを始めようなんて.....私が言えると思う!?」

 

「あっ!」

 

足音と希先輩の声......綾瀬会長がどこかに走って行ってしまう。

 

「えりち.....」

 

俺は希先輩に近寄る。

 

「なぁ.....優くん」

 

「どうして俺だって分かるんですか?」

 

希先輩は困ったような顔をして振り返る。

 

「カマかけただけや.....それでも今分かった......」

 

「そうですか」

 

俺は静かに綾瀬会長が走っていった方向に足を向ける。

 

「なあ、優くん.....えりちを助けてあげてな?」

 

それが希先輩と絵里(・・)先輩の願いなら.......

 

「仰せのままに」

 

ちょっとかっこつけすぎたかも知れないけど、行くか。

 

俺は1つだけ扉の開いている教室を見つける。

 

中を見ると窓際の1番後ろの席に座っている絵里先輩を見つける。

 

「先輩.....」

 

俺は手を差し出す。

 

「何のつもり?」

 

絵里先輩は手を取ろうとはしない。

 

「特に深い意味は無いですよ?」

 

俺は手を差し出し続ける。

 

「私は.....こんな性格なのよ?」

 

「ならμ’sのメンバーを見てください、全員絵里先輩に負けないようなのばっかりですよ?」

 

俺はおどけてみせる。

 

おっと.....来たかな?

 

俺は足音を聞き、少し横にずれる。

 

「生徒会長......いや、絵里先輩、μ’sに入ってください!」

 

横から伸びてきたもう1つの手、穂乃果のものだ。

 

辺りを見るとμ’sのメンバーと希先輩がここにいた。

 

「一緒にμ’sとして歌ってほしいです.....スクールアイドルとして!」

 

「やってみればええんやない?」

 

希先輩が絵里先輩に呼びかける。

 

「やりたいからやってみる。本当にやりたいことなんて、そんな感じで始まるんやない?」

 

そして、その言葉に押されるように、ゆっくりと.....俺と穂乃果の手を、絵里先輩は掴んだ。

 

「これで俺を除けば.....8人か」

 

「いや、9人や、うちを入れて」

 

「占いで出てたんや、このグループは9人になった時輝けるって。だから付けたん.....9人の歌の女神、『μ’s』って」

 

「「「「「「「「「えぇ!?」」」」」」」」」

 

何か絵里先輩も一緒になって驚くって新鮮だな.....

 

「あの名前つけてくれたのって....希先輩だったんですか!?」

 

「希.....全く呆れるわ」

 

絵里先輩がどこかに行こうとする。

 

「さあ!練習よ!」

 

「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」

 

***

 

それから俺たちはどんどん絵里先輩の課題をクリアしていった。

 

1番体が硬かった凛もお腹がつくようになり、片足立ちも難なく出来るようになった。

 

.....そしてオープンキャンパス当日。

 

「みなさんこんにちは!私たちは音ノ木坂学院のスクールアイドル、μ’sです!私たちはこの音ノ木坂学院が大好きです!」

 

来ているお客さんの中には優莉、亜里沙ちゃん、雪穂ちゃんの姿も見える。

 

「この学校だから、このメンバーと出会い、この10人が揃ったんだと思います!これからやる曲は私たちが10人になって初めて出来た曲です!」

 

穂乃果が一歩前に出る。俺は横にずれる準備をする。

 

「私たちのスタートの曲です!」

 

「「「「「「「「「「聞いてください!」」」」」」」」」」

 

[僕らのLIVE君とのLIFE]

 

~♪

 

曲が終わると今度は拍手が始まる。

 

すぐに穂乃果たちのところに近づいて、みんなで笑いあう。

 

空のよく澄んだ、日曜日のことだった。

 

-To be continued-

 




やっとμ’sメンバー全員がそろいました!

ここまで駆け足だったので、随分とあっさりしてるかも知れませんw

次回は雑談コーナーもちゃんとやりたいと思います!

それでは!


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番外編:高坂穂乃果誕生祭!

これがやりたかっただけです!

μ’sのメンバーが全員そろってからこの話を書きたかったんです!

みんなそろった時間帯の設定で書けばよかったのかも知れませんが......

μ’sのメンバーに絵里と希が入ることが分かっててもそんなネタバレみたいなことはしたくなかったため、あのような駆け足投稿になりましたw

それではどうぞ!



「せーのっ!」

 

「「「「「「「「「穂乃果(ちゃん)(先輩)誕生日おめでとう!」」」」」」」」」

 

俺の号令でクラッカーの音と一緒に賛辞が飛び交う。

 

8月3日、今日は穂乃果の誕生日だ。

 

「みんなありがとう!」

 

穂乃果もすごく嬉しそうだ。

 

「でも良かったの?私たちまだμ’sに入って間もないのに.....」

 

「いいんですよ!絵里先輩だって希先輩だって、もうμ’sなんですから!」

 

μ’sに入ってそんなに経ってなくてもメンバーはメンバーだ、関係ない!

 

「穂乃果先輩の家じゃダメだったのかにゃ?」

 

「そうよ、何で部室なの?」

 

凛と真姫はどうしてここを選んだのかを聞いてくる。

 

「私の家でも良かったけど.....ここが1番広いしさ!」

 

いや~?広さで言ったら確実に真姫の家か海未の家だろ?

 

「きっと海未の家とか真姫の家だったら.....俺は渚さんや美姫さんに捕まって話しかけられまくるだろうからな.....」

 

「あぁ.....きっとお母様ならやるでしょうね」

 

「そうね.....ママならやるわね」

 

俺と海未と真姫は遠くを見るような目をする。

 

「何があったのかは知らないけど......はい、プレゼントだよっ♪」

 

ことりが穂乃果にプレゼントを渡す。

 

「おぉ!ありがとうことりちゃん!開けていい?」

 

「もちろん♪」

 

中から出てきたのはなんと、服だ。

 

「えぇ!?ことりちゃんこれどうしたの!?」

 

「自作です♪」

 

さすがことり......上下作って渡すとは.....

 

「ハラショー!」

 

最近分かったことだけど、絵里先輩の口癖はハラショーらしい。

 

「じゃあ、次は私と真姫からですね」

 

海未が手渡したのはCDだ。

 

「作曲は私、作詞は海未先輩がやって、あとはみんなで歌ったのよ」

 

「みんなってことはゆう君も!?」

 

「あぁ.....まあな」

 

何故か俺のソロまである、止めてほしい。

 

「そっか!あとで聞くね!」

 

「次は私とにこ先輩からです!」

 

あの2人が選んだ物はアイドルのグッズだ。

 

「わぁ~!すごい!」

 

「ふふん!感謝しなさいよ?」

 

限定グッズとか.....あれいくらしたんだろ?

 

「次はうちやね」

 

希先輩は.....確かスピリチュアルなパワーが込められたぬいぐるみだ。

 

「うちのスピリチュアルパワー全開のぬいぐるみやんな、これで穂乃果ちゃんの運気は最高潮やん!」

 

「可愛い!ありがとうございます!」

 

そんなパワーが込められている辺り、希先輩らしい。

 

「次は凛の番だにゃ!」

 

運動が得意な凛はスニーカーだったはずだ。

 

「うわっ!いいの!?」

 

穂乃果の靴が最近練習でボロボロになってるのはみんな気にしていたけど....よくあれ買えたな。

 

「もちろん!お母さんに言ったらポイントカードと商品券とお小遣いくれたからいつものお礼にゃ!」

 

凛の母さんすごいな!?

 

「次は私ね、はい高坂さん」

 

絵里先輩からはアクセサリー、ことりと同じで自作だそうだ。

 

「絵里先輩!ありがとうございます!」

 

最後は俺か......正直みんなのプレゼントのあとだと見劣りするけど.....

 

「誕生日おめでとう!穂乃果!」

 

「これは.....ブレスレットとアルバム?」

 

プレゼント選びの際、俺はオレンジを基調にしたブレスレットを見つけて、すぐに穂乃果の顔が思い浮かんで気づいたらそれを持ってレジに向かっていた。

 

「本当はそれ1つの予定だったんだけど、アルバムは.....これからの思い出に役立ててくれ」

 

俺は恥ずかしくなって顔を逸らす。

 

「ゆう君.....ありがと!」

 

穂乃果はブレスレットを腕につける。

 

「似合うかな!?」

 

「あ、あぁ。やっぱオレンジがよく似合うな」

 

「えへへ~!」

 

良かった、喜んでくれたか。

 

「あっ!そうだ!みんなで写真撮ろうよ!それがこのアルバムの1ページ目だよ!」

 

「そうと決まったら、ほら穂乃果ちゃん着替えて!」

 

俺は部室の外に追いやられる。

 

「もういいよ!」

 

呼ばれてから中に入ると、そこにはことりが作った服に着替えた穂乃果と写真を撮る為に並んだみんながいた。

 

「ほら!早く!ゆう君は穂乃果の隣ね!」

 

「分かった分かった!」

 

「じゃあ撮るよ~!」

 

凛がカメラをセットして戻ってくる。

 

パシャ!

 

その写真はアルバムの1番最初に入れられる。

 

みんなの笑顔が眩しいくらいだ。穂乃果の右手にはVサインと一緒にオレンジ色のブレスレットが輝いていた。

 

-To be continued-

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは本日誕生日の高坂穂乃果ちゃんです!」

穂「こんにちは!」

作「いやーもっと時間があったら.....ちゃんとした話を書くんですけどね.....」

穂「みんながお誕生日を祝ってくれて、本当に嬉しいです!」

作「もっと投稿ペースを考えてれば.....こんな取ってつけたような短い話にはならなかったと思うんですが、申し訳ないです」

穂「書いてくれただけで十分ですよ!」

作「優くんの次のゲストは大体穂乃果ちゃんですから、だから雑談コーナーもしばらくやらなかったんです。この話を書く時のゲストがちょうど穂乃果ちゃんでしたから!」

穂「裏事情ってやつですね!」

作「とにかく!お誕生日おめでとうございます!」

穂「ありがとうございます!作者さんも連続投稿お疲れ様です!」

作「それでは!」

穂「次回もファイトだよっ!」


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部室拡張!

最近夏休みということもあって毎日朝方まで起きてるため、寝不足ですw
なら続き投稿しろよって話ですよね.......



「ゆ~う~君♪」

 

俺が廊下を歩いていると海未とことりを連れてバレエのようにくるくると回っている穂乃果に呼び止められた。というか本当に口でくるくると言っている。

 

「どうした?」

 

なぜ口でくるくると言いながら本当に謎だったが、それは心の片隅に置いておく。

 

「すごいよ!ビッグニュース!」

 

「そりゃすごいな」

 

俺は海未とことりにどういうことかという視線を送る。

 

2人もまだ穂乃果から聞かされていないようで、海未は首を横に振って、ことりは苦笑していた。

 

「まだ何も言ってないよ!」

 

適当にあしらわれたのが不満だったのか、穂乃果は頬を膨らませて、距離を詰めてくる。

 

「近い、近いって!」

 

さすがに恥ずかしくなった俺は穂乃果から距離を取って話を聞くことにする。

 

「で?何がどうしたって?」

 

「とにかく部室に行こう!」

 

ここで話すんじゃないのかよ.....だから海未もことりも何も聞いてなかったんだな。

 

元から俺は部室に向かっていたため、ほんの数分で部室に着く。アイドル研究部と書かれたシールが貼ってある扉をいつものように開けて中に入る。

 

「お疲れ様です!」

 

花陽が挨拶してくる。それでもその様子はいつもと違って見えた。

 

「さて、部室に着いたところで!なんと!廃校決定が延期になりました~!」

 

「「「それって......」」」

 

穂乃果から何も聞かされてなかった俺たち3人は声が揃う。

 

「オープンキャンパスのアンケートの結果だそうです!」

 

花陽が穂乃果の話に軽く補足を入れてくれる。

 

「見に来てくれた子たちが興味を持ってくれたってことだよね!?」

 

ことりの声に俺も思わず頬が緩んでしまう。

 

「でも~.....それだけじゃないんだよ?」

 

穂乃果は部室内で今まで使われてなかった扉へと歩いて行き、扉を開く。

 

「じゃじゃーん!部室が広くなりました~!」

 

「「「おぉ~!!」」」

 

μ’sの実績が認められたってことだよな!?

 

「よかったよかった~!」

 

「安心している場合じゃないわよ~?」

 

新しい部屋に入って安堵の声を漏らす穂乃果に俺たちの背後から冷静な声が聞こえてくる。

 

「絵里先輩」

 

「生徒がたくさん入ってこない限り、廃校の可能性はまだあるんだから頑張らないと」

 

「うぅっ!!」

 

絵里先輩が話している最中に海未がいきなり泣き始めた。

 

「嬉しいです!まともなことを言ってくれる人がやっと入ってくれました!」

 

「それじゃ凛たちまともじゃないみたいだけど.....」

 

「あれ?ていうか俺もまともじゃなかったのか?」

 

心外だ。

 

「ほな、練習始めよか」

 

希先輩の声に従って俺たちは練習着を鞄から取ろうとする。

 

「あっ....ごめんなさい、私ちょっと......今日はこれで!」

 

そんな中、ことりだけは妙に慌てた様子で部室から出ていってしまった。

 

「ことり、最近早く帰るよな?」

 

そう。なぜだか最近ことりは練習が始める前に帰ってしまうことが多い。何度かそのことを直接尋ねたけどいつもはぐらかされてしまう。

 

「まあ、事情があるなら仕方ないな、ことりは仮病とかするやつじゃないし」

 

「そうだね!よ~し、ラブライブ出場目指して練習だ~!」

 

そうは言ったけど、どうしてもことりのことが気になってしまう自分がいた。

 

***

 

「なにこれ!すご~い!!」

 

練習の合間に穂乃果が屋上まで持ってきていたパソコンで順位を確認すると、そこには50位という驚愕の数字が出ていた。

 

「夢みたいです!」

 

それにしても最近の伸び具合は本当にすごい。

 

「絵里先輩が加わったことで女性ファンもついたみたいです!」

 

「背も高いし足も長いし美人だし.....何より大人っぽいですもんね!」

 

「や、止めてよ優くん////」

 

この間までの絵里先輩とは真逆な感じで素直に恥じらっているところを見るとドキッとしてしまう。

 

まあ何か辺りの空気は急に冷たくなった気もするし、後ろから穂乃果のむ~っと言う声が聞こえてくる。

 

「と、とにかくさすが3年生!」

 

誤魔化すように言うが後ろからの圧力で目線は一定方向に定まらない。

 

「何?」

 

どうやらさすが3年生と言った辺りで、無意識に目線がにこ先輩へいってしまったようだ。

 

「いえ?別に」

 

「ま、この大人の色気を醸し出すスーパークールビューティーにこに~に目線がいくのは仕方のないことだもんね!」

 

「寝ぼけるにはまだ早い時間だな」

 

俺は携帯の時計を見ながら真顔で返す。

 

「でも本当にきれい!よしダイエットだ!」

 

「聞き飽きたにゃ~」

 

「そう思うならランチパックを減らせ」

 

にこ先輩の妄言と穂乃果のダイエット宣言はいつものことだからほっといていいか。

 

とそこで俺の携帯がLINEの通知を知らせる。優莉?

 

<お兄ちゃん今すぐ帰って来れる?>

 

優莉から呼び出しがかかるなんてよっぽどのことがあったのか?

 

「ごめん、もう今日は俺も帰るわ」

 

「えぇ~!」

 

すぐに帰ることを決めて、立ち上がる。

 

「何か用事ですか?」

 

「あぁ、妹が今すぐ帰って来れるかって」

 

俺は当たり障りのない事実を告げる。

 

「ゆーサンはシスコンだったのかにゃ.....」

 

「お前英語とかよく分からないはずなのに使いどころと地雷の撒き方はピンポイントだよな」

 

さすがにそんなことを信じるやつはμ’sにはいないはずだ。.....いないよな?

 

「とにかく!今日は帰る!」

 

俺は足早にその場をあとにした。

 

***

 

「ただいま~」

 

玄関を開けると優莉がリビングから顔を出す。

 

「お兄ちゃんお帰り~!」

 

「何かあったのか?」

 

とりあえず俺もリビングに入ってソファに腰を下ろす。

 

「ちょっと一緒にメイド喫茶いかない?」

 

「......悪い、なんだって?」

 

「ちょっと一緒にメイド喫茶いかない?」

 

どうやら聞き間違いじゃないようだ。問題はそこじゃない。

 

「それだけのために俺を呼んだのか?」

 

「いや~本当にごめんね!」

 

俺は時計を確認して、ため息をついて立ち上がる。

 

「この時間だとまだ練習に帰っても間に合うな.....」

 

「だから理由があるんだって!」

 

リビングから出ていきかけた俺を優莉が引き留める。仕方ないので話を聞いてみることにした。

 

「実は、ミナリンスキーさんが働いてるメイド喫茶の限定メニューが今日まででさ、それがカップル限定なんだって!」

 

「ミナリンスキー....あぁ、カリスマメイドって噂の.....待て、カップル?」

 

「今日だけだから!お願い!それに可愛いメイドさんみたいでしょ!?」

 

「よし行こう、すぐ行こう、今すぐ行こう」

 

俺は別に可愛い女の子が見たいという訳じゃない。それならμ’sメンバーだけでお腹いっぱいだ。

 

それよりもメイドさんというのを1度見てみたかっただけだ。

 

「まず着替えてくる」

 

自室に戻ってタンスを開ける。服を着替える最中で俺はふと思う。

 

.....もしμ’sメンバーに練習途中で放棄してメイド喫茶に行ったことがバレたら....特に海未辺りに、きっと大変なことになるだろうな~。

 

とりあえず.....出るか。

 

玄関で既に準備を終えて待っている優莉のとこへ向かった。

 

-To be continued-

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは行動、発言、雰囲気、どれをとってもスピリチュアルな東條希ちゃんです!」

希「いきなりやな~」

作「いつものことですから」

希「順番通りにいけば今回は海未ちゃんだったんやないん?」

作「そうなんですけどね....今まではμ’sになったタイミングでちょうど回ってきてただけですから......」

希「つまり1年生のみんなが加わったタイミングでちょうどゲストが一巡してたわけなんやね」

作「そういうことです」

希「今回はいつもと違って短めだと思うんよ」

作「そうですね.....このままいくと切りどころが分からなくなりそうだったため、今回はここで切る形になっています」

希「そうなんや、大体分かったわ」

作「では!次回も!」

希「よろしくお願いするやん!」


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ミナリンスキーの正体

夏休みももう終わりを迎えます。
....家でゴロゴロしてるか学校で面接練習してるかぐらいしか記憶がない.....だと?

就職の内定が決まるまでは投稿ペースは上がらないと思います。
それでも面白おかしい物語を書きたいと思っているので、これからも応援よろしくお願いします!


さて、メイド喫茶の前には来たものの.....ちょっと緊張するな。

 

店に入ると

 

『お帰りなさいませ、ご主人様!』

 

とか言われるわけだけど.....

 

「ちょっと、優?何ボーっとしてるのよ?」

 

俺が頭を抱えているとそれを不思議に思ったのか優莉が声をかけてきた。

 

.....今呼び捨てにされなかったか?

 

「いや、何でもないけど.....優莉?いつもと呼び方を変えるのはなんでだ?」

 

「カップル限定メニューを注文するんだからお兄ちゃんって呼んじゃダメでしょ?」

 

そこまで本格的にやるのか.....確かに俺たちが兄妹だってことは周りには分からない訳で、それこそ優莉が俺をお兄ちゃんと呼ぼうものなら良く言えば兄妹に見える。悪く言えば彼女にそう呼ばせてる痛いやつだ。

 

「わかった、よし入るか」

 

「うん!」

 

カランコロンといい音を立てて扉を開ける。その音に気が付いた1人のメイドさんが近づいてきた。

 

「お帰りなさいま....せ?」

 

「......ことり?何やってるんだ?」

 

そのメイドさんは俺のよく知ってる顔と声をしていた。俺たちはしばらく顔を見つめ合い、その場に立ち尽くす。

 

「優?早く席に移動してよ」

 

痺れを切らした優莉が俺の肩を揺する。

 

「あ、あぁ.....」

 

「それではこちらのお席にどうぞ!」

 

ことりもハッとしてすぐに席に案内してくれる。

 

「ご注文がお決まりになられましたらお呼び下さい!」

 

「あ!カップル限定メニューでお願いします!」

 

間髪入れずに優莉がお目当てのものを頼む。カップルという単語を聞いた瞬間ことりの頬と眉がピクリと動くのを俺は見逃さなかった。

 

「かしこまりました!」

 

ことりがオーダーを受けて店の裏の方に引っ込んでいく。

 

その間も俺は終始ことりの表情を見ていたけど、笑顔だった。目が笑ってないやつだった。

 

そして、携帯が震えてLINEの通知を知らせる。俺は恐る恐る画面に目を向けた。

 

<あとで、お話、しようね♪>

 

<お店、終わるまで、待っててね♪>

 

......やばい、まじ危険..........

 

「あれってμ’sの南ことりさんだよね?」

 

優莉が俺にしか聞こえない声で言ってくる。

 

「あぁ....ただのそっくりさんではないだろうな」

 

俺も小声で返す。

 

そしてことりが入って行った方を見ると......影からこちらを伺うことりがいた。

 

口をパクパクさせて、何かを言っているようだ。じっと見てみる。

 

『ことりのお・や・つ♪』

 

「ひぃっ!?」

 

不思議とそう言っている気がした。

 

「急に大声出してどうしたの?」

 

「ちょっと本物のメイドさんを見てテンション上がっちまってな.....」

 

適当に言い訳しておいて、再度ことりの方を見る。ちょうどこちらに頼んだものを運びに来ているところだった。

 

その目にはいつもの柔らかさは無く、完全に猛禽類のそれだった。獲物が俺なことには変わりないけどな......

 

「ごゆっくりどうぞ♪」

 

品物を置いて再び裏へと戻って行き、さっきと同じ物陰からこちらを見ている。

 

カップル限定メニューとは一つのパフェを2人で食べさせ合うという今の状況じゃどう考えても嬉しいとは思えないものだった。

 

「はい、あーん!」

 

優莉がスプーンを俺に差し出してくる。食えってか!?この状況で!?

 

「い、いや!俺はいいよ!」

 

「優.....私に食べさせてもらうの.....いや?」

 

さてはお前楽しんでるな!?いや、この状況は優莉には説明してない!こいつ素か!

 

「分かった、俺、食べる」

 

さすがに早く食べてやれよという周りの目線に耐え切れず、俺はスプーンに乗ったパフェを口に入れる。

 

「美味しい?」

 

「あぁ、うん、美味い」

 

本当は味なんて分からない、ことりから異様な視線とプレッシャーを向けられて、思わずカタコトになってしまっているのもそれが理由だ。

 

「優莉、これ食べ終わったら先に帰っててくれ」

 

「何か用事があるの?」

 

「ちょっと.....命に関わってくるものがな」

 

このままじゃ本当に俺の寿命も縮んでしまう。

 

「ふーん.....じゃあ先に帰ってるね?」

 

俺は無言で頷いて早くパフェを片づけるためにひたすら食べさせあいを続けた。

 

***

 

「で?どういうことなのかな?ゆー君」

 

ことりが制服に着替えてメイド喫茶から出てきた。

 

「あれは、妹だ。カップル限定メニューを食べたいって言うから.....俺に彼女なんて存在しない、それは都市伝説みたいなもんだ」

 

自らの身の潔白を証明するためとはいえ、自分で言ってて悲しくなってきた。

 

「.....よかった」

 

「何か言ったか?」

 

ことりがボソッと何かを言っていたけど聞こえなかった。

 

「何でもないよ////」

 

「さて、じゃあ俺からも聞かせてもらう、これはどういうことだ?」

 

最大の疑問、なぜことりがメイド喫茶で働いているのかということだ。

 

「それは.....」

 

ことりは俺に事の発端から話し始めた。

 

まず、アルバイトを始めたのが俺たちがμ’sを立ち上げて間もない頃。まだ4人だけだった時、街で声をかけられたらしい。最初は断ろうとしたけど、メイド服を着てみて気に入ってしまったみたいだ。

 

「そんなことがあったのか」

 

「うん....私、ゆー君や穂乃果ちゃん、海未ちゃんとは違って何もないから.....自分を変えたいなって思ってたの......」

 

ことりは悲しげに俯いている。

 

「何もない?」

 

「うん、私はゆー君みたいにみんなの中心にはなれないし、穂乃果ちゃんみたいにみんなを引っ張ることも出来ないし、海未ちゃんみたいにしっかりもしてないから.....」

 

「でも、俺も穂乃果も海未もことりの支えがあるから頑張れているんだ。それにことりはダンスも歌も誰にも負けてない」

 

俺はそう断言出来る。

 

「それに....衣装もことりが作ってくれていなかったら、きっと俺たちは集まる前に終わっていたと思う」

 

俺の言葉にことりは俯いたまま首を横に振る。

 

「私はいつも3人について行ってるだけだよ.....1人きりだったら廃校になることも仕方ないって諦めていたと思う......」

 

「それはっ!.....いや俺も多分そうだな」

 

穂乃果がいなかったら廃校をどうにかしようなんて思えなかったんだろうな.....

 

「まあ、ことり.....お前が思ってることは多分穂乃果が聞いても同じことを言うと思うし、そんな風に言わないでくれよ。みんなにとってことりが支えになっているってことも忘れないでくれ」

 

「.....うん」

 

「よし、じゃあ帰ろうぜ!」

 

俺は鞄を持ってゆっくりと歩きだす。

 

「あ!ゆー君!」

 

ことりが思い出したかのように俺を呼び止める。

 

「どうかした?」

 

「あの....私がここでアルバイトしてること、お母さんやみんなに言わないでねっ!」

 

「ひばりさんにも言ってなかったのか!?」

 

よくばれずにできるものだ。

 

みんなにも言わないでというのはことりの考えがあるんだろう。だから今まで練習を休む理由も言ってなかったわけだし。

 

「分かったよ、じゃあ代わりにミナリンスキーさんのサインもらえるか?妹にあげたら喜ぶと思うし」

 

「うん、じゃあちょっと待っててね!」

 

と言うとことりは鞄から1枚の色紙を取り出してペンで何かを書き始めた。

 

「ことり、何してる?」

 

「ふぅ、出来たっ!はいこれ!」

 

ことりはサインが書かれた色紙を俺に手渡す。

 

「これって.....ことりのサインじゃないか?」

 

「実は.....私がミナリンスキーなの......」

 

え?

 

「えぇぇぇぇぇぇ!?」

 

ことりの困ったような笑顔を見て俺は驚きのあまり叫ぶ。

 

「気づいてなかったの?店内にサインが書かれた写真が貼ってあったよ?」

 

まじでか.....というかアルバイトが伝説のメイドと呼ばれるような世界でいいのか!?どうやったら数ヶ月で伝説って呼ばれるの!?

 

神出鬼没って意味の伝説なのか!?それじゃポ○モンと対して変わらないだろ!?

 

動揺のあまり自分で自分にツッコミを入れてしまった。

 

もういいや....帰って整理しよ.....

 

俺はことりに絶対に口外しないことを約束して、一緒に自宅へと向かった。

 

***

 

次の日、ことりはまたすぐにバイトに行ってしまい、練習は9人で行われる。

 

「でも....20位かぁ、まだ遠いよね....」

 

休憩時間に入り、穂乃果が突然そんなことを言い出した。

 

「上にいけばいくほど、ファンがたくさんいるしね」

 

真姫が冷静に事を述べる。

 

そう。20位辺りまでくると既に固定のファンだけでもその順位に留まれるぐらいはいると思っていい。これから更に人気が出るとファンもどんどん増えて、下にいるグループは中々順位が伸びなくなってしまう。

 

「何とかしないといけないわね.....」

 

絵里先輩も深刻そうな顔をしている。

 

「それよりもやらないといけないことがあるでしょ?」

 

俺たちが頭を抱えていると、にこ先輩が呆れたように言う。

 

「それは何ですか?」

 

「みんな.....ついてきなさい!」

 

にこ先輩が意気揚々と屋上を出ていくのを見て、俺たちは全員で顔を見合わせ、仕方なくにこ先輩について行くことにした。

 

***

 

「あのぉ~.....すごく暑いんですが?」

 

俺たちは今秋葉原にいる。そこまではいい。まだ外ではセミが鳴いていて夏真っ盛りだというのに.....俺たちの格好はロングコートにマフラー、マスクにサングラスという格好だ。

 

「我慢しなさい!これがアイドルに生きるものの道よ!有名人なら有名人らしく、街で紛れる格好ってものがあるの!」

 

「でもこれは....」

 

絵里先輩の困惑。

 

「逆に目立っているような.....」

 

海未の正論。

 

「馬鹿馬鹿しい!」

 

真姫はマスクをむしり取る。

 

「あっついわ!」

 

俺はマフラー、マスク、サングラスをもぎ取り、全力で地面に叩きつける。

 

「すっごいにゃー!」

 

「うわぁー!!」

 

俺がロングコートも叩きつけてやろうか迷っていると凛と花陽の声が近くの店から聞こえてきた。

 

そこにはA-RISEを始めとするスクールアイドルのグッズがたくさん売ってあった。

 

「何ここ?」

 

「近くに住んでるのに知らないの?最近オープンしたスクールアイドルの専門ショップよ!」

 

穂乃果の疑問ににこ先輩が食ってかかるように説明する。

 

「こんなお店が......」

 

「ラブライブが開催されるくらいやしね~」

 

外にいる絵里先輩と希先輩の声が聞こえてきた。

 

「とはいえ、まだ秋葉に数軒あるくらいだけど.....」

 

「ねぇ!見て見て~!この缶バッジの子可愛いよ!まるでかよちん!そっくりだにゃー!」

 

凛が興奮した様子で見せてきたバッジには紛れもなく本物の花陽が写っていた。

 

「ていうか.....それ!?」

 

「花陽ちゃんだよ!?」

 

「えぇぇぇぇ!?」

 

凛が驚くけど、本気でそっくりさんだと思っていたのか?

 

視線を横に逸らすとそこにはμ’sグッズコーナーというものがあった。

 

「うううう、海未ちゃんこれ私たちだよ!?」

 

「おおおお、落ち着きなさい!」

 

「みみみみ、μ’sって書いてあるよ!?石鹸売ってるのかな!?」

 

「なななな、なんでアイドルショップでせせ、石鹸売らなきゃいけないんです!?」

 

「落ち着けよ!?」

 

かくゆう俺も大パニックだった。

 

「どきなさぁ~い!!」

 

後ろからにこ先輩がかき分けるように俺たちを押しのける。そして自分のグッズを探し始めた。

 

それを見た俺は少々頭が冷えて、視野が広くなり、ある物に目を止めた。

 

.....これは、ことりの.....ミナリンスキーのサイン入り写真!?

 

俺はその写真を手に取ってすぐにカウンターに向かい、写真を購入する形で回収する。

 

みんなに知られたらまずいし.....早めに見つけられて良かった!

 

「ゆう君、誰のグッズを買ったの!?」

 

「え?」

 

どうやらμ’sコーナーから何かを持って行ったのを見られていたらしく、穂乃果が慌ただしく問い詰めてくる。

 

「穂乃果?どうしたのですか?」

 

騒ぎを聞きつけたみんなが集まってきた。

 

「ゆう君がμ’sグッズを買ってたんだよ!」

 

「だ、誰のグッズを買ったんですか!?」

 

みんなが真剣な目をして詰め寄ってくる。いつもは冷静な真姫も絵里先輩もだ。

 

何だよこの状況!みんな暑さで頭やられたか!?

 

どう答えていいか迷っていると外から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「すみません!あの!ここに私の生写真があるって聞いて!あれはダメなんです!今すぐ無くしてください!」

 

「.....ことりちゃん?」

 

「ぴぃっ!?」

 

ことりが俺たちに背中を向けたまま硬直する。

 

「ことり.....何をしているんですか?」

 

海未の追撃でことりはすぐさましゃがんでガチャガチャのカプセルを目に当てて、振り向く。

 

「コトリ!?What!?ドナタデースカ!?」

 

それで騙されるやつがいると思ってるのか!?

 

「が、外国人!?」

 

いた!?凛、後ろの絵里先輩も呆れてるから!

 

「ことりちゃん......だよね?」

 

「チガイマース!ソレデハ!ゴキゲンヨー!ヨキニハカラエミナノシュー!.....さらばっ!」

 

「「あぁっ!?」」

 

ことりはメイド服姿のまま走り始めた。穂乃果と海未もすぐに追いかけ始める。

 

「ん~.....じゃあうちも行くわ~」

 

「希先輩?居場所が分かるんですか?」

 

「カードがうちに教えてくれるんや」

 

希先輩は穂乃果とは別の道へ行った。

 

みんなが唖然として見てる中、

 

「ねぇ、ユウ。何か知ってるんじゃないの?」

 

真姫が何かに勘付いたのか俺に聞いてくる。

 

「ナンノコトデースカ?」

 

しまったことりのあれがうつった!?

 

「だって.....こういう時は大体みんな驚くのにユウだけ落ち着いて見えたし、何よりも追おうともしないのが不自然だわ」

 

「いや、あまりのことに反応出来なかっただけで!?」

 

すると、携帯に連絡が入る。

 

『ゆー君、捕まっちゃいました.....』

 

『.....じゃあ、メイド喫茶に集合ってことで.....』

 

『......うん』

 

電話を切って、真姫を見る。

 

「話してくれるわよね?」

 

「......はい」

 

俺には頷くことしか出来なかった。

 

-To be continued-

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは頭脳明晰!容姿端麗!KKE(かしこい、かわいい、エリーチカ)こと綾瀬絵里ちゃんです!」

絵「みんなの言っていた通り、本当に急に始まるのね.....」

作「気にしたら負けですよ?」

絵「そうね.....優くんは結局誰のグッズを買ったのかしら.....」

作「気になりますか?」

絵「そ、そんなことないわよ?」

作「まあ、それは次回で分かることですし、読者のみなさんはもう分かっていますから」

絵「その次回はいつになるのかしらね.....」

作「なるべく早くになるように善処します.....それでは次回も!」

絵「見てくれたらハラショーよ!」


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勇気をくれる場所

さて、今回もやっていきましょうかね.....

試験勉強が憂鬱すぎる....
文系(自称)の自分には数学の勉強が絶望的に厳しい.....


「「「「「「「「えぇ~!?」」」」」」」」

 

「こ、ことり先輩がこの秋葉で伝説のメイド....ミナリンスキーさんだったんですか!?」

 

「そうです.....」

 

ことりの逃走があっけなく失敗に終わり、先日ことりから自分がミナリンスキーだという話を聞いていた俺以外のメンバーは予想通り驚く。

 

「酷いよ!ことりちゃん!そう言うことなら教えてよ!」

 

「うぅ~......」

 

隠し事をされたのがそんなにも気に入らないのか......穂乃果らしいと思うけど、ここはことりのフォローをしておくか。

 

「穂乃果、ことりは事情があったんだと「言ってくれれば遊びに来てジュースとかごちそうになったのに!」

 

「そこぉ!?」

 

「隠し事されたことはいいのかよ!?」

 

俺の言葉を遮った穂乃果が何を言うのかと思えば......まぁいいか。

 

「じゃあ....この写真は?」

 

絵里先輩が店内の写真が貼ってあるボードに視線を投げる。そこには先ほど俺が回収した写真と同じようなものが貼られていた。....(・8・)という絵が描かれたマグネットと一緒に。

 

「店内のイベントで歌わされて.....撮影、禁止だったのに.....」

 

ことりはガックリとうなだれたまま喋る。

 

「とりあえず.....ほらこの写真」

 

俺は回収した写真をことりに手渡す。少し手放すのが惜しくもあるけど、元々ことりはこの写真を回収に来て、見つかってしまったんだ。仕方ない。

 

「えっ!?ゆー君.....これ、どうしたの?」

 

「まあ、μ’sのグッズコーナーがあってな?そこに飾られていたから、穂乃果たちに見つかったらまずいと思って......その行動も無駄に終わったけど」

 

写真回収の経緯を話すとことりは写真と俺をジッと見比べ、首を横に振った。

 

「ううん、その写真はゆー君が買ったものだし、それにゆー君に持っててほしい...」

 

「けど....いいのか?」

 

「うん!ゆー君に持っててもらえると嬉しいもんっ!」

 

何だ.....この天使は!?

 

「そこまで言うなら、うん、貰うよ」

 

「うんっ!」

 

家に帰ったらホコリがつかないように厳重保存だな。

 

「と、とにかく!アイドルってわけじゃないんだよね!?」

 

穂乃果が何故か焦ったように俺とことりの会話に割って入ってくる。おっと、俺たち以外にも人がいたことを忘れていた。

 

「う、うん!それはもちろん!」

 

「でもなぜです?」

 

海未が聞きたいのはなぜ黙ってたのかってことだろう。

 

「自分を変えたいなって思って......」

 

そこからはことりは俺に教えてくれたままをみんなの前で話した。始めた時期、理由、俺、穂乃果、海未の後ろについて行っているだけだということ、全部。

 

「そんなことないよ!歌もダンスもことりちゃん上手だよ!」

 

「衣装だってことりが作ってくれているではないですか」

 

穂乃果と海未は俺がことりに言った言葉をそのまま言う。

 

「少なくとも、2年の中では1番まともね」

 

真姫も賛同したように言う。......別に穂乃果が酷いというわけではないけど、海未までまともじゃないと思われてたのか?

 

俺に対する扱いはもう慣れた。

 

「ゆー君もそう言ってくれたけど......やっぱり自信が持てないの」

 

ことりのその一言に俺たちは黙らずにはいられなかった。本来ならそんな考えは全否定すると思う。

 

―――だけど.....ことりのあまりにも思い詰めた顔を見て、言葉が喉に引っかかって、出てこなかった。

 

「.....よし、みんな。今日はもう日も暮れてるし、家に帰ろう」

 

俺の提案にみんなは次々と鞄を持って席を立つ。そのまま店外へ出ると、ことりが見送りに来てくれた。

 

「じゃあねぇ~!」

 

穂乃果がことりに向かって大きく手を振る。対照的にことりは小さく手を振り返す。

 

「あっ!このことはお母さんには内緒だから!学校では....」

 

慌てたように言うと同時にシーッというジェスチャーをする。

 

「分かった!」

 

穂乃果の言葉に安心したようにことりは笑う。どこか明るさがほんの少しだけないような笑顔だ。

 

ことりと別れてからしばらく歩き、今俺と一緒に歩いているのは穂乃果と海未、そして家が俺たちと同じ方向らしい絵里先輩だ。

 

しばらく無言で歩いていると

 

「でも意外だな~、ことりちゃんがそんなこと悩んでたなんて....」

 

突然穂乃果が間延びをした口調で言う。

 

「意外とみんな、そうなのかもしれないわね」

 

「え?」

 

「自分のことを優れているなんて思っている人間はほとんどいないってこと。だから努力するのよ、みんな」

 

「そうか(そっか)」

 

絵里先輩の考え方に俺と穂乃果は納得する。

 

「確かにそうかもしれませんね」

 

「そうやって少しずつ成長して、成長した周りの人を見てまた頑張って、ライバルみたいな関係なのかもね.....友だちって」

 

なぜだろう、とても心に染みてくる。夕暮れ時だからか?

 

チラッと穂乃果と海未を見るとちょうど2人も俺の方を見た。目が合った俺たち3人は同時に笑みをこぼす。

 

「絵里先輩にμ’sに入ってもらって本当によかったです!」

 

「な、何よ急に....明日から練習メニュー軽くしてとか言わないでよ?」

 

絵里先輩は照れ隠しのように微笑する。

 

「じゃあ、また明日!」

 

「「「また明日です!」」」

 

夕日の光が反射し、絵里先輩の金髪がキラキラして見える。そんな幻想的で頼もしい背中を見送りながら俺は思う。

 

―――俺がみんなのためにしてあげられることって、なんだろうと。

 

「ねえ、海未ちゃんとゆう君は私のことを見てもっと頑張らないきゃって思ったことある?」

 

穂乃果の突然の問いに俺は一瞬きょとんとし、海未は苦笑する。

 

「数えきれないほどに!」

 

「海未と同じだ」

 

俺たちの返答に今度は穂乃果が呆然とし、すぐに声を上げる。

 

「ゆう君も海未ちゃんも何をやっても私より上手じゃん!?私のどこでそう思うの!?」

 

穂乃果の慌てる様子が面白くて、俺と海未は顔を見合わせて吹き出し、

 

「「悔しいから秘密(です)!」」

 

シンクロしたようにぴったりと言った。

 

「えぇ~!?」

 

「ことりと穂乃果、それに優は私の1番のライバルですから!」

 

海未が得意げに胸を張る。俺もライバルか.....。

 

「海未ちゃん.....うん!そうだね!」

 

「よし!じゃあライバルらしく穂乃果の家まで競争だ!負けたらジュースおごりな!」

 

俺はすぐに走り出す。

 

「うわっ!?ゆう君ずるいよ!」

 

「男らしくないですよ!」

 

後ろから穂乃果と海未の声と一緒に足音が聞こえてくる。.....ゴール前で俺がこけて、結局ジュースは俺がおごる羽目になりましたとさ。幸い怪我は無かったものの金欠気味の財布には痛手だったかも知れない。

 

***

 

今、教室にはことりが1人だ。目を閉じ何やら考えるような顔をしていたかと思えば突然目を開き

 

「チョコレートパフェ、美味しい!生地がパリパリのクレープ、食べたい!ハチワレの猫、可愛い!5本指ソックス、気持ちいい!」

 

と一見意味の無さそうな言葉を発しながらノートに書き始めた。

 

どうしてここまでことりの行動が分かるのか、それは俺が教室をこっそりと覗いているからだ。だけど俺1人じゃない。

 

「なぁ......あれって何してるんだっけ?」

 

ことりの声を聞きながら俺は一緒に見ている2人に問いかける。

 

「何を言っているのですか......作詞でしょう?」

 

海未は半眼を作り、呆れたように言ってくる。

 

そう、ことりは何故か今作詞を任されている。のだが....

 

「思いつかないよぉ~!」

 

作業はとても順調とは言えない状況だ。

 

「うーん......何とか手伝ってあげられないかなぁ.....」

 

穂乃果の言うように何か手伝えることがあればいいと思う。

 

「でも、これを乗り越えることでことりの自信に繋がるような気がするんだ」

 

「私もそう思うけど......」

 

そもそも何で衣装担当のことりが作詞を行っているのか、事の発端は先日久しぶりにμ’s全員が部室に揃った時のことだ。

 

―――

 

「秋葉でライブよ!」

 

絵里先輩が唐突に言った一言。つまりは....

 

「それって!?」

 

「路上ライブ!?」

 

そう、練習着に着替え終えた俺たちに絵里先輩が言ったのは路上ライブの提案だった。

 

「秋葉と言えばA-RISEのお膝元よ!?」

 

言わば縄張りだ。

 

「それだけに面白い!」

 

希先輩はどこかワクワクしているように見える。この人本当物怖じしないな.....

 

「でも、随分大胆ね」

 

「秋葉はアイドルファンの聖地、あそこで認められるパフォーマンスが出来れば、大きなアピールになる!」

 

俺たちが上に行くにはそれが必要ってことか......

 

「いいと思います!」

 

「楽しそう!」

 

穂乃果とことりは賛成派だな。

 

「しかし......すごい人では」

 

「人がいなかったらやる意味ないでしょう?」

 

海未の意見もにこ先輩によってバッサリと切られる。確かに人がいないライブなんて......2度と経験したくない。

 

「凜も賛成~!」

 

「じゃ、じゃあ私も!」

 

「決まりね!」

 

結局勢いに押されて、海未も賛成側になった。

 

「じゃあ!早速日程を!」

 

「......と、その前に」

 

まだ絵里先輩は話があるようだ。

 

「今回の作詞はいつもと違って、秋葉のことをよく知っている人に書いてもらうべきだと思うの」

 

そう言いつつ、絵里先輩の目線が向かうのはことりだった。

 

「ことりさん、どう?」

 

「えっ!?私!?」

 

絵里先輩は持っている作詞用のノートをことりに手渡す。

 

「あの町でずっとアルバイトしてたんでしょ?きっとあそこで歌うのにふさわしい歌詞を考えられると思うの」

 

そして屈託のない笑顔を浮かべる。

 

「それいい!すごくいいよ!」

 

「穂乃果ちゃん.....」

 

「やった方がいいです!ことりなら秋葉にふさわしいいい歌詞が書けますよ!」

 

「凜もことりの先輩の甘々な歌詞で歌いたいにゃ~!」

 

みんなことりなら出来ると思っている。そこには何も疑いはない。

 

「そ、そう?」

 

「ちゃんといい歌詞作りなさいよ?」

 

「期待してるわ」

 

「頑張ってね!」

 

ことりは手に持っているノートをジッと見つめたあと、口を開く。

 

「ゆー君は.....どう思うの?」

 

「ことりなら絶対出来る!」

 

質問に対して俺は即答する。

 

「私....頑張ってみる!」

 

―――

 

というわけでことりは今作詞に挑んでいるわけだ。

 

「ふわふわしたもの可愛いな♪はいっ♪あとはマカロンたくさん並べたら~♪カラフルでし・あ・わ・せ~♪る~る~.....ら~ら~.....」

 

「苦戦しているようですね.....」

 

「うん....」

 

しかし、先ほどから見て分かる通り行き詰っている。

 

「穂乃果ちゃ~ん......ゆー君........」

 

そんな声が教室から聞こえてくる。本当は今すぐにでも手を貸してあげたい.....

 

表情に出ていたのか、穂乃果と海未はそっと俺の肩に手を置いてきた。

 

***

 

ことりは授業中もずっと歌詞を考えていたが、そのおかげで授業に集中出来ておらず、何度か注意されるということになってしまった。

 

今は体育の時間、2人一組のペアになって準備運動をやっている。

 

俺はさすがに女子とペアを組むわけにはいかず、ただ1人で準備運動をやっていた。音ノ木坂には男性教師が皆無なため必然的にこういう時は1人になってしまう。悲しくなんてない。

 

「何書いていいのか分かんないよぉ~!」

 

「考えすぎだよぉ~!海未ちゃんみたいにほわんほわんな感じでいいんじゃない?」

 

なるほど、ほわんほわんか.....

 

「それほめてるんですか!?」

 

「ほめてるよぉ~!」

 

実際よくあそこまでいいものが思いつくなと感心する。海未の歌詞を1番に見るのは確認担当の俺だけど、手直ししたことはほとんどない。

 

『みんなのハート打ち抜くぞ~!ラブアローシュート~!』

 

以前海未が部室で1人でいる時にやっていたポージングとセリフを思い出した。あれは衝撃的だったね、ちょっと打ち抜かれそうになったのが悔しい。

 

あの時普通に部室に入ったらなぜか怒られたけど......

 

このように海未は意外なことにポージングやセリフの練習は欠かさない。それが歌詞を書く秘訣なのかもしれないな。

 

「優?今変なことを考えませんでしたか?」

 

鋭っ!?心でも読めるのかよ!?思わず心臓が激しく跳ね上がる。

 

「......考えすぎだろ」

 

「やはり変態ですね」

 

「何かとつけて俺が変態扱いされるのはお前の中で流行ってるのか!?」

 

理不尽だ。

 

 

結局体育の時間は俺が海未に軽く変態扱いされただけだった。変態扱いされてるというのに軽くというのは感覚が麻痺してるだけなのかもしれないが......

 

「う~ん.....」

 

「休み時間終わっちゃうよ?」

 

昼食の時間になってもことりは弁当に目もくれず、ずっと唸っている。穂乃果の言葉にも唸っているのか返事をしているのか分からないほどにうんうんと言い続ける。

 

放課後も何か作詞のヒントになるかもしれないと図書室に4人で行ったのはいいけど、そこでもことりは力なく頭を下げるだけだった。

 

「ことり、やっぱり俺も手伝おうか?」

 

こんなことが何日も続くとさすがに良くない。ここ最近ことりを見てたけど、授業中も勉強より作詞が優先となり、ついには職員室に呼ばれてしまうこともあった。

 

「ううん、大丈夫だよ!手伝ってもらいたい時はお願いするね?」

 

ことりは笑顔でそう言うが、どう見ても空元気にしか見えない。

 

そして今日もことりは放課後に1人で教室に残って作詞をしている。俺は穂乃果と海未と一緒に扉の影から見守っている。これももはやおなじみの光景となってしまった。

 

「やっぱり私じゃ......」

 

ふとそんな言葉を呟いたと思ったらことりは作詞用ノートを静かに閉じる。

 

ことりには手伝いがいる時は自分から言うと言われたけど、やっぱり今からでも手伝おう!

 

そう決めて教室に入ろうと扉に手をかけようとすると既に扉は開けられていた。

 

「ことりちゃん!」

 

「穂乃果ちゃん!?」

 

「こうなったら一緒に考えよう!」

 

俺よりも先に穂乃果が言いたかったことを言ってしまった。もっと早くに.....言葉だけじゃなくて行動を起こすべきだったと後悔している。

 

「何かいい方法があるのか?」

 

「うん!とっておきの方法が!」

 

自己嫌悪するのはあとだ。今は穂乃果のとっておきの方法を頼りにさせてもらおう。

 

***

 

「お帰りなさいませ♪ご主人様♪」

 

「お帰りなさいませ!ご主人様!」

 

「お帰りなさいませ...ご主人様.....」

 

穂乃果の言うとっておきの方法とは何故かメイド喫茶で実際に働いてみるというものだった。

 

すなわち今3人の格好はメイド服だ。はっきり言おう。生きててよかった!

 

やはりメイド服というのは男心をくすぐるものだ。ちくしょう!カメラ持っておけばよかった!

 

「わ~!可愛い!2人とも、バッチリだよ~!」

 

さっきまでの悩みによる暗さは一切なく、ことりの表情はとても活き活きとしたものになっていた。

 

「店長も心よく3人を歓迎してくれるって!」

 

「こんなことだろうと思いました......」

 

さて、穂乃果と海未だけなら2人でいいはずなのになぜことりは3人と言ったのだろうか?答えは簡単。自分の姿を鏡で見てみると、そこにはメイド服を着た俺の姿が映った。

 

「ゆー君も似合ってるよ♪」

 

「嬉しくない.....」

 

本当なら俺は執事服とかそんな感じのものになるはずだった。

 

―――しかし

 

『一応メイド服もあるけど.....どうする?』

 

『執事服一択でお願いします!』

 

俺に女装の趣味はない。断じてない!

 

『え~!ゆう君ならメイド服でも大丈夫だよ!』

 

『男として色々なものが大丈夫じゃないんだよ!』

 

どうやら穂乃果も店長も俺にメイド服を選んでほしいらしい。絶対に選んでたまるか!

 

『.....えいっ♪』

 

ことりの可愛らしい掛け声ととともに俺の背後でバシャっという音がした。振り返ってみると、そこにはびしょ濡れになった執事服の無残な姿があった。

 

『ゆー君ごめん♪こけそうになったからバランス崩して水が入ったグラスを倒しちゃった♪』

 

『えいって言ったよな!?狙ったよな!?』

 

強制的に選択肢を消しやがった......

 

『あー、執事服は洗濯しないとダメだね~!』

 

『だったら俺はこのままでいいんで、裏方の仕事しますよ!』

 

『え~!ダメだよそんなの!』

 

『男らしくないですよ、優!』

 

海未も急に乗ってきやがった!俺に何か恨みでもあるのか!?

 

『女装とかする時点で男らしいも何もあるか!』

 

いくらことりの手助けのためとはいえ......これはさすがに厳しい!

 

すると3人は目配せをして1歩前に踏み出し、俺の前で横並びに並ぶ。

 

そして胸の前で手を組んで、瞳を潤ませて.....上目遣いで俺を見てきた。嫌な予感というかこれはまさか!?

 

『ゆー君、おねがぁい♪』

 

『ゆう君、お願い♪』

 

『ゆ、優.....お願い.....です/////』

 

―――俺の女装が決定した瞬間だった。

 

鏡を見ながら回想していると、扉が開く音で意識が現実に戻ってきた。

 

「にゃ~!遊びにきたよ!」

 

「えへへ.....」

 

.....見られたくないなぁ~。再び意識がどこかに行きかけた。

 

「秋葉で歌う曲なら秋葉で考えるってことね!」

 

外から聞こえてきた声で三度意識が現実へと戻ってきた。

 

「優くん似合ってるよ~!早速取材を!」

 

「カメラ回さないで下さいよ!希先輩!」

 

というか何でみんながここに?

 

「なぜみんながここに?」

 

俺の疑問を海未が恥ずかしそうにしながら尋ねる。

 

「私が呼んだの!」

 

「お前かよ!知っててこれ着せたな!?」

 

今度穂乃果が学校に持ってくるパン全部あんぱんにすり替えといてやろうかな.....

 

「それよりも早く接客してくれない?特にそこの女装メイド!」

 

「お帰り下さいませ!お嬢様!」

 

「客に帰れってどういうことよ!」

 

おっと、あまりの恥ずかしさにセリフを間違えてしまったようだ、俺としたことが!

とにこ先輩と軽いコミュニケーションを取っているとことりがスッと動き始めた。

 

「いらっしゃいませ、お客様。2名様でよろしいでしょうか?」

 

「それではご案内致します、こちらのお席へどうぞ。」

 

「メニューでございます。ただいま、お冷をお持ち致します。失礼致しました。」

 

まさにレジェンド.......完璧なメイドだ。

 

「さすが伝説のメイド.....」

 

「ミナリンスキー......」

 

俺と凛と花陽がその鮮やかさに見惚れていると、ことりがケチャップで絵が描かれたオムライスを運んできた。あれで絵を描けるとか器用過ぎだろ......

 

そして俺は穂乃果と海未の姿が見えないことが気になり、洗い場を覗く。正確にはさっきから姿を見ていないのは海未だけだけど.......

 

「海未ちゃん!」

 

「うぅ...」

 

穂乃果が海未を怒っているという珍しい場面に出くわした。

 

「さっきから海未ちゃんずっと洗い物ばっかりお客さんとお話しなよ!」

 

「し、仕事はしています!そもそも本来のメイドというのはこういう仕事がメインのはずです!」

 

「屁理屈言ってる~!」

 

「海未でもそんな屁理屈言うんだな」

 

俺はメイド服の恨みもあり、半眼を作り海未を見る。海未はバツが悪そうに顔を逸らし、洗い物をし続ける。

 

「海未ちゃん、これもおねが~い!」

 

「あっ、はい!」

 

皿を持って近づいてきたことりが固い表情を浮かべている海未の顔を見て笑顔を作りながら

 

「ダメだよ海未ちゃん!ここにいる時は笑顔を忘れちゃダメ!」

 

「しかし.....ここは」

 

「お客さんの前じゃなくても、そういう心構えが大事なの!」

 

「は、はい」

 

常に笑顔を......か。結構難しいことだよなぁ......と俺は顎に手を当てて考え込む。

 

「ほら!ゆー君も笑顔だよ♪」

 

「苦笑いでよければいつでも出せるぞ、女装してる限り」

 

と言いつつもこの姿に慣れてきている自分を笑うしかないんだけどな......

 

「ことりちゃん、やっぱりここにいるとちょっと違うね!」

 

洗い終わったグラスを拭いていた穂乃果がそんなことを言い出した。

 

「えっ?そうかな?」

 

「別人みたい!いつも以上に活き活きしてるよ!」

 

確かにここに来てからかなり活き活きしている。今のことりを見て悩みがあるなんて聞いても誰も信じないだろう。

 

「うん。何かね、この服を着ていると出来るって言うか、この街に来ると不思議と勇気がもらえるの。もし、思い切って自分を変えようとしても....この街ならきっと受け入れてくれる気がする、そんな気持ちにさせてくれるんだ!だから好き!」

 

.....これって、歌詞に使えないか?

 

ことりのこの街を好きという気持ちが伝わってきて、ここにいるだけで勇気がもらえると、本当にそう思える。

 

「ことりちゃん!今のだよ!今ことりちゃんが言ったことをそのまま歌にすればいいんだよ!」

 

穂乃果もそう思ったようで、ことりに詰め寄って今自分が感じたことをことりに言う。

 

「この街を見て、友達を見て、いろんなものを見て、ことりちゃんが感じたこと、思ったこと、ただそれを...そのまま歌にのせるだけでいいんだよ!」

 

「あ....うん!」

 

***

 

そこからことりは迷いを振り切り、この前まで悩んでいたのが嘘のようにスラスラとペンを走らせ始めた。

 

―――そして遂に、ライブ当日を迎える。

 

「あれ?そう言えば衣装って今回どうするんだ?」

 

ライブ当日になってそのことに気が付く。ダンスも歌も練習したけど.....今日の夕方にはライブが行われる。今から作るのは絶対に無理だ。

 

「何言ってるの?ちゃんと用意してあるわよ」

 

絵里先輩が声とともに屋上の扉を開けてみんなと一緒に現れた。.....メイド服姿で。

 

「この衣装で秋葉に!?」

 

どうやら花陽も今聞いたようだ。屋上に俺だけ残させたのは着替えてくるためか。

 

「一応優くんの分も用意してあるわよ?」

 

「何てことを!?」

 

あの時は仕方なく着たけど、今回はそうはいかない。

 

「まぁ、今回は優くんは歌う側じゃないし、無しでいいわ」

 

「ありがとうございます!!!」

 

さすが絵里先輩!話がわかる!

 

俺は全力で頭を下げ、目の前にいる女神様に精一杯の感謝を表す。

 

「そんなことよりそろそろ行かんと時間なくなるよ?」

 

希先輩が携帯で時間を見せてくれた。今から移動し始めてお客の列の整理も自分たちでしないといけないことを考えると、ちょうどいい時間だった

 

「よーし!みんな、頑張ろう!」

 

「「「「「「「「「おぉ~!!!」」」」」」」」」

 

俺の号令に9人は拳を天高く突き上げた。

 

***

 

これがμ’sの初路上ライブの曲

 

『Wonder zone』だ。

 

ことりを中心にしてみんなが並ぶ。そしてゆっくりと歌い始めた。

 

俺はみんなの歌声を聞きながら、アルバイトの時のことを思い出す。

 

優莉、雪穂ちゃん、亜里沙ちゃんの妹トリオが遊びに来たりとか.....もちろん女装は見られた。にこ先輩と真姫がカップル用のハート型になったストローで一緒に飲み物飲まされたりとか。海未がダーツをしたら全部100点ゾーンに刺さっていたこととか。

 

色んなことが頭をよぎる。当然全部最高に楽しかった。

 

―――

 

「上手くいってよかったね!ことりちゃんのおかげだよ!」

 

ライブが終わって俺たち2年生組の4人はいつも朝練をしている神社へと足を運んでいた。

 

「ううん、私じゃないよ!みんながいてくれたから、みんなで作った曲だから!」

 

「そんなこと....でも!そういうことにしとこうかな!」

 

「穂乃果?」

 

「またすぐ調子に乗る.....」

 

あまりにいつも通りの事に苦笑する。

 

「うん!その方が嬉しい!」

 

「ことり......」

 

穂乃果とことりはお互いに笑い合い、海未はふっと微笑する。俺もつられて頬を緩ませる。心地いい空気が作られて涼しい風がそっと吹く。

 

「ねぇ、こうやって4人で並ぶと、あのファーストライブの頃を思い出さない?」

 

そんな中ことりがふとそう聞いてくる。

 

「うん」

 

「あの時はまだ、私たちだけでしたね」

 

「あぁ」

 

俺たちの目には街に沈んでいく夕日が映っている。さきまでにぎやかだったために少し寂しいような感覚が襲ってくる。

 

「あのさ.....」

 

「ん?」

 

更にことりは話を続ける。

 

「私たちって.....いつまで一緒にいられるのかな?」

 

「どうしたんだ、急に?」

 

チラリとことりの顔を見ると泣き出しそうに瞳を潤ませていた。

 

「だって!あと2年で高校も終わっちゃうでしょ?」

 

「それはしょうがないことです」

 

どうやったって時間の流れには逆らえない、いつか......必ず終わる時が来てしまう。

 

「大丈夫だよ!ずぅ~っと一緒!だって私、この先ずっとずっと海未ちゃんやことりちゃん、ゆう君と一緒にいたいって思ってるよ!大好きだもん!」

 

「へ!?/////」

 

「あぁ!?違うの!友達としてね!?/////」

 

ですよねー。

 

「穂乃果ちゃん......うん、私も大好き!」

 

そうして再び4人で笑い合う。

 

「ずっと一緒にいようね!」

 

「「「あぁ(うん)(えぇ)!」」」

 

***

 

そんな約束をしたその日、少女の元に1通の手紙が届き、μ’sとしての未来を左右する出来事が起こることを......10人はまだ知らない。

 

そして少年は誰にも聞こえないように、1人呟く。

 

「あぁ.....聞かされてないんだな、俺のこと」

 

「ん?何か言った?ゆう君」

 

「いや、何でもない」

 

―――あと2年.....ここにいられるといられるといいな。

 

今度は心の中で祈るように呟いた。

 

―To be continued―

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストはにっこにっこに~!という掛け声でおなじみの矢澤にこちゃんです!」

に「にっこにっこに~!」

作「遂に10000文字まで達してしまいました」

に「ちょっとにこの出番少なくない?」

作「今回は話的に仕方ないんです」

に「まぁいいわ、それより優が女装する意味ってあったの?」

作「本当は予定通り執事服にしようと思ってたんですが......」

に「一体どうしたのよ?」

作「実は私自身が最近女装する羽目になって、それを友達に笑われたため、八つ当たりです!」

に「今回は優に同情するわ.....」

作「まぁまぁ!では次回も!」

に「にっこにっこに~!」


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合宿へ行こう

最近前書きで書くことが思いつかないです.......
会話文以外を書くのは苦手かもしれません...


夏真っ盛り。

 

この前の秋葉ライブから数日経ち、音ノ木坂学院も夏休みに入った。長期連休に入っても俺たちはラブライブ出場を目指して今日も練習をする

 

―――ところだけど.....

 

「暑い.....」

 

「そうだね~.....」

 

「これは.....暑すぎだろ.....」

 

練習着に着替え、みんな練習に向けて気合が入っている中、屋上の扉を開けると待っていたのは....

 

照りつける太陽、コンクリートからの日光の反射、それによって発生した熱気......セミの大合唱というまさに熱烈な歓迎だった。

 

屋上は学校の上の方にあるため、必然的に太陽に近くなる。それ抜きにしても暑いのにもはやこれは人が足を踏み入れていい場所じゃないな........

 

「てゆうかバカじゃないの!?この暑さの中で練習とか!」

 

「そんなこと言ってないで、早くレッスンするわよ!」

 

それを聞いたにこ先輩と穂乃果は絶望的な表情をして俺を見てくる。

 

俺になんとかしろってか!?てかその顔やめろ!

 

「は、はい!」

 

花陽は絵里先輩の声にビクッとすると凛の背中に隠れてしまった。どうやらまだμ’sに入っていなかった時のイメージを引きずっているらしい。

 

「は、花陽?これからは先輩も後輩もないんだから、ねっ?」

 

「はい.....」

 

絵里先輩も少し気にしているようだ。花陽も凛の後ろから出てきて、まだぎこちないもののいつもの柔らかい笑顔を浮かべる。

 

「そうだ!合宿行こうよ!」

 

「はぁ~?何急に言い出すのよ?」

 

また穂乃果が変なこと言い出した.....暑いからな、仕方ないか。

 

「あぁ~!なんでこんないいこと早く思いつかなかったんだろ!?」

 

「合宿か~.....面白そうにゃ!」

 

「そうやね!こう、連日炎天下での練習だと体もきついし」

 

確かに合宿というアイデア自体は悪くない。むしろ今の先輩後輩の壁を無くすにはうってつけだ。

 

「でも、どこに?」

 

「海だよ!夏だもの!」

 

そのプランにおいて、1つ重要なことがあるんだけど.....

 

チラリと横を見ると海未と目が合う。海未は気づいているみたいだな。

 

「費用はどうするのです?」

 

そう。宿に泊まるにしてもそこそこお金がいるし、交通費だってかかる。

 

「え、えっとそれは.....」

 

穂乃果は数秒ほど目を泳がせるとことりの手を掴んだ。

 

「ことりちゃん、バイト代いつ入るの!?」

 

「えぇ~!?」

 

「ことりを当てにするつもりだったんですか!?」

 

いやー.....さすがにことりのバイト代を借りるのは無理があるだろ。

 

「違うよ!ちょっと借りるだけだよ~!」

 

「そうしたらしばらく穂乃果のお小遣い無しになるよな?」

 

バイト代って言ったら万単位だし、一般家庭のお小遣いなんて5000円ぐらいがいいところだろうし。返済するまで一切財布にお金が入ってこないことになる。

 

「そ、それは.....困るね」

 

「だろ?」

 

そうしてまた穂乃果は頭を抱える。

 

「そうだ!真姫ちゃん家なら別荘とかあるんじゃない!?」

 

「あるけど......」

 

あるのか.....やっぱお金持ち=別荘の法則は存在するのかもしれない.....

 

別荘があると聞いた穂乃果は目を輝かせ、真姫にすり寄って頬ずりをする。何か、合宿に行かなくても俺の心は既に満たされた気分だ。超眼福。

 

「真姫ちゃんお願~い!」

 

「何でそうなるのよ!?」

 

「そうよ?急に大勢で押しかけたら迷惑になるでしょ?」

 

真姫も急に話を振られて戸惑い、絵里先輩はそんな様子を見て残念そうにしながら、穂乃果をなだめる。

 

「そう....だよね.....」

 

穂乃果は急にシュンとして涙目で真姫を見つめる。きっと今の真姫の心境は捨てられた子犬を見ている気分だろう。

 

他のメンバーも期待するように真姫をジッと見つめている。

 

「ちょっと電話かけてみるわ.....」

 

真姫はそんなみんなの様子を見て、諦めたようにため息交じりに言った。

 

そうしてみんなで部室に戻って真姫が携帯で電話をかける。

 

「あ、もしもし?ママ?」

 

そう言えば真姫って親のことママとパパって呼ぶんだな。ちょっと意外だったり。

 

「合宿で別荘使いたいんだけど、あの海辺の」

 

俺たちは真姫が電話してる様子を固唾を飲んで見守る。

 

「えぇ!?いいわよ!料理人とか付けなくても!?」

 

料理人ってそんな簡単な付属品なの!?ハッピーセットか何かかよ!?

 

「あ、分かった。うん、ありがとね」

 

ピッと音を立てて真姫が通話を終える。

 

「どうだった!?」

 

穂乃果が机に身を乗り出して、真姫に問いかける。

 

「使っていいって」

 

まあ料理人をつけるつけないあたりでOKをもらえたというのはなんとなくだけど理解出来た。

 

「良かったな、お土産よろしく!」

 

俺がそう言うと9人全員がぽかんと口を開けて俺を見てきた。

 

「何言ってるの!?ゆう君も行くんだよ!?」

 

「は!?さすがに女子9人の中に男1人はきついって!」

 

「何言ってるのですか?優は全校生徒中たった1人の男子ではないですか、10人中1人なんて今更ですよね?」

 

馴染み過ぎて忘れてたけど、ここって女子高だったな........

 

「でもさすがに女子と一緒に泊まるのは....」

 

「あれ?でもゆー君この間穂乃果ちゃんのお家に私と海未ちゃんと一緒に泊まったよね?」

 

あー、それも経験済みだったか......

 

「でも、今回は行かない!」

 

この間の泊まりは親の目があったからだ。別に俺が何かするわけでもないけど、さすがに完全に子供だけの状態で女子と寝泊まりするとか俺の心臓がもたないからな.....

 

「行かないって言うんなら、この優くんの女装写真をばらまくけどええの?」

 

「何で撮ってるんですか!?撮影禁止だったでしょうが!」

 

「いや、店長が特別に許可してくれてな?」

 

あの人何やってんの!?というか被写体の俺に許可取れよ!許可しないけど!

 

「あ、そういえばママが合宿行くなら女子だけじゃ危ないからユウもついていくことが別荘を貸し出す条件だって言ってたわ」

 

「oh.....ジーザス」

 

つまり俺には最初から逃げ道なんてなかったわけだな?

 

俺は黙って机に突っ伏し、潔く合宿について行くことにした。

 

***

 

「ただいまー.....」

 

家に帰って来た。さっきの合宿うんぬんの話で身体、精神ともに疲労していた俺は力なく玄関へ入る。

 

「おかえり~、って何か疲れてるね?」

 

居間でくつろいでいたのか優莉が顔を覗かせる。俺は喉を潤すために優莉の横を通って冷蔵庫を開け、麦茶を出す。

 

「まぁ、色々あってな.....」

 

コップに注いだ麦茶をグイッと一気に喉に流し込んでようやく一息つく。

 

「それってμ’sの合宿のこと?」

 

「あぁ.....うん?」

 

少々空返事になったけど、俺は知っているはずのない単語が妹の口から飛び出たことに首を捻る。

 

「さっき雪穂からメールが届いたの、お姉ちゃんが合宿に行くからってはしゃいでるって」

 

「今頃部屋中引っ掻き回して準備をしてる本人の姿が目に浮かんでくるな.....」

 

とは言いつつ、俺も準備をしないといけないんだけど。

 

「お兄ちゃん断らなかったの?」

 

「断ったに決まってるだろ?男俺1人だぞ?心がもたないわ」

 

「あぁ、いつも通り押し切られたんだね。お兄ちゃん基本女子に対して弱いし」

 

よく分かってるじゃないか、妹よ。

 

ただし、俺が弱いんじゃない。可愛い女の子に頼まれて断れる年頃の男がいないだけだ。

 

「優、旅行に行くのか?」

 

優莉と会話をしていると父さんが居間に入ってきた。本当この人何やってるんだろう。ニートとかじゃないよな?

 

「あぁ、ちょっと合宿にな」

 

すると父さんは顎に手を当て、何か考え込む。さすがに父さんも女子と一緒に泊まるのは反対なんだろう。普通はそうなるはずだ。

 

「優、泊まりに行くのは別にいいんだがな......」

 

「いいのかよ」

 

そうだった、この人こういう人だったわ。

 

「ただ......」

 

「何だよ?」

 

父さんは真剣な顔をして俺を見る。

 

「避妊はちゃんとしろよ?」

 

「しねえよ!?」

 

まじ何言ってんのこのエロ親父!?

 

「避妊しないのか!?」

 

「そういう意味のしないじゃねえよ!バカ野郎!」

 

もうダメだこいつ......母さんに怒られてしまえ!

 

「もういいわ!部屋戻って準備する!」

 

これ以上ここにいたらツッコミの疲労で倒れてしまいそうだ、その前に離脱すべし。

 

 

 

「本当、疲れるな......」

 

キャリーバッグに必要な物を詰め込む。とそんな作業の中、携帯に誰かからLINEが届いた。

 

.....真姫?珍しいな、個人的な用事なんて。

 

俺は作業中の手を止めて携帯を見る。

 

<あのユウがいないと別荘貸し出すの許可しないって話、嘘だから。でももう行くって言ったんだから男に二言は無いわよね?>

 

俺は内容を見た瞬間に数秒固まり、そのあと静かに窓を開けて深く息を吸い込む。

 

....そして、夜空に向かって喉が潰れんばかりの大声で叫んだ。

 

「西木野ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」

 

俺の声は何度か反響した後、夜空に吸い込まれていった。

 

家が近い穂乃果、海未、ことりの家にも聞こえたようで、驚いたということ、お叱りの言葉、心配する言葉が携帯に届いた。どれが誰の言葉かは想像にお任せする。

 

-To be continued-




作「雑談のコーナー!今回のゲストは八坂優くんです!」

優「......疲れた」

作「登場して早々暗いですね?」

優「作中であんなにツッコミ入れてたらそりゃ疲れるだろ.....」

作「お疲れさまでーす」

優「作者なのに他人事かよ!?」

作「とか言いつつまたツッコんでるじゃないですか?」

優「条件反射だ、気にするな」

作「じゃあしばらくツッコミ禁止でいってみますか?」

優「一応試してみるけど.....絶対無理だな」

作「まあ、それしか見せ場ないですもんね」

優「人をツッコミしか取り柄がないみたいに言うなよ!?」

作「やっぱ無理でしたね.....はい、では次回も」

優「よろしくお願いします!!」


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過去との邂逅

毎度のことながら更新遅くてごめんなさい!
色々と他の作者様の作品を読んで描写などを勉強してはいるのですが、どうも行き詰ってしまいます.....

そしてテスト週間に入るという恐怖、あれって部活入ってないとただの拷問ですし........何より高校3年生で既に内定をもらっている私には消化試合もいいところ。

数学さえなければ......赤点回避も余裕なはず......

今回から場面変換の*の数を減らしました!

それと第26話の『あんたさえいなければっ!!!』というセリフを『お前さえいなければっ!!!』に変更致しました。




ざわざわと人が喧騒と共に行き来する。都会の駅は静けさを知らないと思うのは俺だけか?

そんなどうでもいいことを思いながら、俺は壁にかかった時計にチラリと目をやる。

 

俺が来たのが5分前あたりだから.......そろそろ誰かの姿が見えるはずだ。

 

「優、早いですね」

 

「ハラショー、10分前行動が出来るのはいいことだわ。さすがね」

 

「優くんはえらいなぁ~」

 

予想通り、待ち合わせの10分前に来たのは海未と絵里先輩と希先輩だった。

.....他のメンバーも多分大丈夫だろ。凛には花陽が付いてるし、真姫もにこ先輩もことりも時間には遅れないタイプだから問題ないだろう。

 

問題はいつも学校に行く時、時間ギリギリに来る......和菓子屋の娘とか、パンが大好きなやつとか、元気が有り余ってるやつとか、授業中いつも寝てるやつとか.....

 

それ全部穂乃果じゃん。

 

「みんなお待たせぇ~!」

 

「おう、穂乃果か......穂乃果!?」

 

バカな!?こいつが待ち合わせの時間より早く来るなんて.....

 

「何!?その反応の仕方は!?」

 

「いや、てっきりいつもみたいに遅れて来るのかと思ったから.....つい」

 

「穂乃果ちゃんは遠足の時とかには早起きするタイプだよね?」

 

と穂乃果の後ろから脳を溶かすようなふわふわな声と、その声と同じくふわふわなアッシュグレーの髪の毛の持ち主、ことりが見えた。

まあ、穂乃果ならそうだろうな。遠足行くのが楽しみ過ぎて夜寝られない癖に朝早く起きてしまう......あると思います。

 

「真姫!みんないたわよ!」

 

「ちょっと!大声で名前呼ばないでよ!」

 

喧騒の中から聞き覚えのある声が飛んでくる。それとなく視線を向けると人ごみの中から女子にしては身長が高めであろう赤髪と女子にしても身長が低めであろう黒髪のツインテールがこっちに移動してきていた。

 

「あとは凛と花陽だけか?」

 

「お、お待たせしました!」

 

「おはようにゃ~!」

 

噂をすればなんとやら、これで全員揃った。

電車が出るまでの時間にまだまだ余裕がある。不意にパンパンと手拍子の音が響き、音がした方を見る。

 

「みんな!合宿に行く前に1つだけ提案があるの!」

 

手拍子をした絵里先輩を中心に円になる。

 

「何ですか?」

 

「この合宿から、先輩後輩の壁を無くすために、先輩禁止にしたいと思ってるんだけど.....どう?」

 

「えぇ~!?先輩禁止!?」

 

穂乃果が隣で驚きを声で表す。

 

なるほど......いい案かも知れない。確かに先輩後輩は大事かも知れないけど、それがかえって硬さを生んでしまうということもある。

 

「前からちょっと気になっていたの、先輩後輩も大事だけど.....踊っている時にそういうの気にしちゃダメだから.....」

 

「確かに、私も先輩方に合わせてしまうということもありますから.....」

 

「そんな気遣い全く感じられないんだけど?」

 

まぁ、それはにこ先輩だからな.......仕方ない仕方ない。

 

「それはにこ先輩は上級生って感じがないからにゃー」

 

「上級生じゃなきゃ何なのよ!」

 

凛は人差し指を顎に当て、うーむと声に出して考え込む。そして、結論に至ったのかニパッと笑顔を浮かべ

 

「後輩?」

 

と言い放った。なるほど、中学生と変わりないと......さすが凛。超適格。

 

「てゆうか、子供?」

 

「マスコットかと思ってたけど?」

 

こいつら容赦ないな......どれも適格な解答なことには違いないんだけど。

 

「どういう扱いよ!」

 

人扱いされてないことは確かだな。

 

「じゃあ早速、今から始めるわよ。穂乃果」

 

「う、い、いいと思います!え.....ぅ絵里ちゃん!」

 

「うん!」

 

穂乃果はフッと息を吐き、胸を押さえる。

 

「何か緊張~!」

 

「じゃあ凛も!」

 

凛が勢いよく手を挙げて深呼吸する。

 

「ことり.....ちゃん?」

 

「はい、よろしくね♪凛ちゃん、真姫ちゃんも!」

 

急に振られた真姫は頬を赤らめて、そっぽを向く。その間もみんなからの視線を浴び続ける。みんな口でじぃ~っと超言っていた。

 

「べ、別にわざわざ呼んだりするもんじゃないでしょ!?」

 

これは時間かかりそうだな。と考えていると何故か絵里先輩と希先輩から視線を向けられていることに気がついた。

 

「あー.....よ、よろしく。え、絵里?の、希?」

 

「「はい、よく出来ました!」」

 

仲いいなこの人たち。

 

「仕方ないわねぇ~、私のことを特別ににこ様と呼ぶことを許可してあげるわ!」

 

「何言ってんだ、寝言は寝て言えよ、にこ」

 

「ちょっと!少しは先輩を敬いなさいよ!」

 

「先輩後輩無し、なんだろ?」

 

先輩を呼び捨てにするのに抵抗があっただけで、名前を呼ぶことは別に構わない。その点は2年や1年も名前で呼んでただけあって慣れた。

 

「先輩のにこを名前で呼ぶってどんな気分?」

 

にこがブスッとした表情のまま聞いてきた。

 

「言動に対してツッコミを入れやすくなったな」

 

俺は真顔で答えた。正直超助かる。

 

「それではこれより合宿に出発します!部長の矢澤さんから一言!」

 

にこに視線が集まる。てゆうか、またみんな口でじぃ~って言ってるし。流行ってるの?それ。まぁいいや......じぃ~。

 

あーでも、あれ急にキラーパス来て困ってる顔だな。にこは恐る恐る一歩前に出る。

 

「しゅ......しゅっぱぁ~つ!!」

 

「......それだけ?」

 

「考えてなかったのよ!」

 

出発。

 

***

 

さっきのザワザワという喧騒とは違い、電車内では心地よいガタゴトという音と人のささやかな話し声に満ちている。

それに窓から差し込んでくる光も相まって俺は少し眠気に誘われていた。

 

「海だよ!見て見て!ゆう君!」

 

「穂乃果、あまりはしゃがないでください!」

 

まあ、寝ようとしても前の席に座っている穂乃果と俺の隣に座る海未のやり取りで寝れたもんじゃない。

 

ちなみに席は

 

俺:海未

 

穂乃果:ことり

 

凛:花陽

 

真姫:にこ

 

絵里:希

 

の組み合わせで座っている。

 

「ゆー君、マカロン食べませんか?」

 

「ん?あぁ、ありがとう」

 

ことりからマカロンが手渡される。一口で口に入れる。ほどよい甘さが口の中で広がる。美味い。

 

「うん、美味い!」

 

「良かった♪作ったかいがあったよ♪」

 

「ことりの手作りか!?」

 

それを知ってたらもっと味わって食べたっていうのに......ちくしょう!

女子からの手作りお菓子なんて滅多に味わえないしな、本当もったいないことをした。

 

「じゃあゆう君、穂乃果からもこれ!」

 

「.....俺たけのこ派なんだけど」

 

穂乃果の手の上に乗ってたのはきのこを模したお菓子だ。ちなみにもう1つ似たようなものでたけのこを模したものがある。俺としてはたけのこの方が好みだ。

 

「たけのこはみんなが食べちゃって.....」

 

「つまり俺に残す気はなかったと......誰だ!いっぱい食ったやつは!?」

 

「あ、ごめんなさい.....美味しくて....その、つい」

 

「まさかの絵里!?」

 

「えりちはチョコレートが好物やもんね?」

 

そうだったのか。でもきのこには手をつけないんだな?

きのこが報われない、悲しい世界だ。

 

「海未ちゃんはどうする?」

 

「私もたけのこの方がいいのですが......」

 

「もうやめて!きのこは全部俺が食べるから!」

 

あまりにも惨めになり、俺は涙と一緒にきのこを飲む。このチョコしょっぱすぎじゃね?塩入れすぎだろ......と思ったが、これは俺の涙の味だな.......。

 

「とりあえず、昼ご飯の時間だな」

 

きのこを全部片づけ、携帯の画面を確認しながら言う。車内では同じように昼ご飯を食べ始める人が増えていた。

 

「ゆう君のご飯はどんなの?」

 

「白米とパン、両方食べられるように作ったサンドイッチとおにぎりだけど?」

 

「おにぎり!?」

 

何か花陽がものすごい勢いで食いついてきた。

 

「優さん!1つもらってもいいですか!?」

 

「あ、あぁ.....どうぞ」

 

花陽は丁寧にかつ素早くラップをはぎ取り、おにぎりを口へと運ぶ。そして、無言でもぐもぐと咀嚼し.....飲み込んだ。

 

「こ、これは.....素晴らしい炊き加減!適度な塩味もまた良し!お米がたっています!満点です!」

 

大絶賛だった。怒涛の勢いで下される評価に思わず苦笑するしかなかったけど。

 

「かよちんがここまで褒めるなんて珍しいにゃ~!」

 

花陽の後ろから凛がひょこっと姿を出した。

人に料理、と言っても握っただけだけど、褒められるのはやっぱ素直に嬉しいな。

ちなみに電車で食べることを考慮してみんな捨てられる容器に入れて弁当を作っていた。

 

「海未の卵焼き1個もらえないか?」

 

「いいですよ」

 

こんな感じで人からおかずを分けてもらうのも弁当の醍醐味だと思う。

 

「ゆう君のサンドイッチ美味しいね!」

 

「うお!?俺のサンドイッチ1個ランチパックにすり替わってる!?」

 

いつ入れ替えたんだよ!?

 

「何であんたのお弁当そんなに高級なものばっかなのよ!自慢!?」

 

「ち、違うわよ!ママが勝手に!」

 

一気に騒がしさを取り戻したが、こんな感じで目的地までわいわいと過ごした。

 

***

 

「で、駅から歩いて別荘に向かうんだよな?」

 

「そうね、大体10分ってとこかしら?いつもは迎えの車があるから、正確な時間までは分からないわ」

 

もう送迎の車があるとかは大体予想通りだったから、軽くスルーしていいよな?みんながキャリーバッグを掴み歩き出すのを視認してから自分も歩き出す。

 

しばらくみんなの話し声とキャリーバッグの車輪が立てる音が続く。

5分も歩いただろうか、そこに別の音が混ざった。

 

「ん?そこにいるのは八坂じゃないか?」

 

前方から不意にかけられたその声は聞き覚えがあった。その声の持ち主が徐々に近づいてくるにつれ、記憶も鮮明に思い出されていく。

出来れば2度と聞きたくなかった声。だから俺はそいつの正体が分かった瞬間

 

―――鳥肌が立ち、嫌な汗が出てきた。

 

「何でお前がここにいる.....三上!」

 

「何でとはご挨拶だな、八坂」

 

三上.....三上隼太(はやた)

俺の、中学時代の知り合い。家がお金持ちということもあって他人を見下すことが大好きなやつだ。

中学時代の忌まわしい記憶を作った張本人、2度と会いたくなかった相手。

 

「そういうお前こそどうしてここに.......あぁ、そういえばお前μ’sのマネージャーをしてるんだっけな?」

 

そう言い、9人の方をニヤニヤしながら見る。

 

「なぁ、そんな男なんかより僕をマネージャーにしないか?」

 

何をとち狂ったのか三上はそんなことを提案し始めた。

 

「隼太様、そろそろお時間です」

 

三上の後ろから大人しそうな女の子が話かける。肩甲骨辺りまである黒髪、前髪も少し長く、目にかかっている。

 

彼女は深瀬六葉(りくは)

中学時代の俺のクラスメートだ。三上は同じクラスじゃなかった。

深瀬と三上の関係は主従関係、彼女はいわゆる付き人というやつだ。

 

「チッ!今僕が話してるだろうが!」

 

つかつかと足音を立て、苛立ちを隠そうともせずに三上は深瀬に近寄り手を振り上げる。

 

「やめろ!三上!」

 

叩こうとする三上に対して俺は怒声を発する。

 

「.....そうだな、今はμ’sの皆さんが見てるからな、特別に勘弁しておいてやるよ、行くぞ!六葉!」

 

「......はい」

 

2人はそのままどこかへ歩いて行った。

俺はその方向をしばらく睨み続ける。

 

「ゆう君......どうしたの?」

 

穂乃果が恐る恐ると顔を覗き込んできた。

 

「時間を取らせて悪かったな!早く別荘に行こうぜ!」

 

未だに固まったままの9人に声をかける。

みんなは渋々といった感じだが、ゆっくりと歩を進め始めた。

 

そんな中、ことりが俺の傍に寄ってきて、耳打ちしてきた。

 

「ゆー君.....中学校時代のことを話したがらなかったのは、あの人が原因?」

 

「.....さすがにもう隠せないか。......うん、決めた。今日の夜、全部話すよ。俺の過去を」

 

「そっか、なら今は何も聞かないでおくね?」

 

「ありがとう」

 

ことりは穂乃果と海未の元へ駆け寄っていった。

 

.....本当は話すつもりはなかった。

だけど、三上のあの嫌な笑顔は......中学時代と同じ、自分が持ってないものを欲しがる顔をしてたんだ。

もしかしたら、9人に害が及ぶのかも知れない......

こうなってしまった今、もうみんなは無関係じゃなくなってしまった。

 

もう2度とあんなことは起こっちゃいけない。

 

でも今は合宿のことだけを考えることにした。

 

-To be continued-

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは高坂穂乃果ちゃんと園田海未ちゃんです!」

穂「こんにちはー!」

海「ゲストが複数いるというのは初めてですね」

作「たまにはいいかなーと思いまして」

穂「今回は前半が明るめで後半シリアス気味だったよね?」

作「はい、やっと優くんの過去について明らかになると思います」

海「あの男の人......とても嫌な感じでした」

作「まぁ、はっきり言って嫌なやつですから」

作「では次回も!」

穂・海「よろしくお願いします!」


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合宿スタート

ラブライブの映画の特装限定版が欲しい......
でも私の住んでいる地域で近くに予約出来るところが少なくて辛い.....
もういっそのこと他県で予約を考えているまでありますw



「すごいよ真姫ちゃん!」

 

「さすがお金持ちにゃ~!」

 

「そう?普通でしょ?」

 

駅から歩くこと約10分、俺たちは西木野家所有の別荘に着いていた。

そのスケールの大きさに各々感嘆の声を上げる。

 

「.....普通ってなんだっけ?」

 

みんなが別荘に入って行く中、俺は立ち止まって自分の想像する普通というものを再確認している最中だった。

 

まぁいいか、と考えるのをやめて荷物を持って別荘の中に入ろうとすると後ろから

 

「ぐぬぬ......」

 

と声が聞こえてきた。

 

「どうしたにこ。みんなもう行ったぞ?」

 

「なんでもないわよ!」

 

にこは俺の問いかけに荒々しく答えると荷物を掴み、みんなのあとを追っていった。

.....本当になんだったんだ?

 

いつまでもこうしてここに立っていると暑さで倒れかねないのでやや大き目な玄関をくぐる。

中に入ってみると、見掛け倒しでした。なんてことは無く、外装と同じくらい内装も整っていた。

 

「何て言うか......広すぎて逆に落ち着かない」

 

リビングに立ち尽くし、あまりにも大きすぎるスケールに俺は1人でそわそわする。

とそこに2階に続く階段から絵里と希が下りてきた。

 

「ここなら練習も出来そうね!」

 

「でもせっかくなんやし、外の方がええんやない?優くんもそう思うやろ?」

 

「そうですね~......あ」

 

名前呼びには慣れたとは言ったが、普段からの癖は抜けにくいもので、俺はつい敬語で答えてしまった。

 

「焦らなくてもいいわよ、でもこの合宿が終わるまでには慣れてね?」

 

「ご、ごめん......頑張る」

 

さっきにこと話した時は出来てたのになぁ.......やっぱり3年に見えないからかな?

気軽に接することが出来て助かるけど。

 

「で、優くんはどう思うん?」

 

「そうだな......絵里のことだから海に来たといってもあまり大きな音を出したら迷惑、なんて考えてるんじゃないか?」

 

「えぇその通りよ、よく分かったわね」

 

生徒会長時の真面目な性格から予想したけど、やっぱそう考えてたのか。

別にμ’sで活動している時の絵里が真面目じゃないなんて微塵も思ってないけどな。

 

「歌の練習もするつもりなん?」

 

「もちろん!ラブライブ出場枠が決定するまであと1ヶ月もないんだから!」

 

もうすぐで手が届くところまで来てるんだ.......ここで手は抜けないよな。

自分に問うように胸に手を置いて、これまで以上にやる気を漲らせる。

 

「えりちも優くんもやる気やね!.......ところで花陽ちゃん、そんな端で何しとるん?」

 

「え?花陽?」

 

希が階段の傍に設置された大きな観葉植物の方を見ながら名前を呼ぶと、その後ろから携帯を手に持った花陽が姿を現した。

俺の位置からは死角になっていて、希が言うまで気が付かなかった。

 

「何か.....広いと落ち着かなくって.....」

 

「なんだ、花陽もか」

 

えへへと笑いながら、俺たちの方へ歩いてきた。

何か.....こう、小動物を連想させてかなり保護欲に駆られる。

と思いながら、荷物を手に持ったままのことに気が付いた。

 

「とりあえず、この荷物をどこかに置いてくる」

 

3人を残して、俺は2階へ上がる。すると窓から海が見えた。天気もいいし、こんな日に海で遊べば気持ちいいだろうな......。

窓から目線を外し、改めて部屋を決める。

 

「というか部屋多いな」

 

誰がいつこんなに使うんだ?

もしかしたら西木野家主催のパーティとかでお客さんがいっぱい来たりするのかも知れないけど、それにしたって多い。

 

まぁ適当な部屋でいいか。俺は1番近い部屋のドアノブを掴んで回す。

 

―――水着姿の穂乃果と凛がそこにいた。

 

とりあえず扉をそっと閉じて、何も見なかったことにする。

 

「ゆう君?どうしたの?」

 

見なかったことに出来なかった。

 

「どうしたのはこっちのセリフだ、何でもう水着なんだ?」

 

「服の下に着てたから!」

 

「凜も!」

 

「小学生か!」

 

いるいる、こういうタイプの人。テンプレート的ツッコミをし、ため息をつく。

 

「気が早いだろ、ていうか海未が遊ぶことを許すと思うか?」

 

「そこは......ゆう君の力でなんとかする!」

 

「他力本願!?」

 

どうにか出来るのか脳内でシミュレーションを行う。

 

パターン1

 

『せっかく海に来たんだから、ちょっと泳がないか?』

 

『大丈夫です!練習メニューに遠泳が入ってますから!』

 

これは却下だな。次。

 

パターン2

 

『練習もいいけど.....少し遊ばないか?』

 

『いえ、練習しましょう!』

 

あ、ダメだこれ。勝てん、次。

 

パターン3

 

『まさか優まで遊ぶなんて言い出しませんよね?』

 

はい終了~!

 

俺は頭の中でゴングを鳴らし、試合終了の合図を出す。結果は全戦全敗という情けない結果だった。というか最後は発言すら許可されていなかった。

 

「俺には無理だ、諦めろ」

 

「ゆーサンなら出来る!」

 

「何その謎の信頼!?」

 

というか荷物置く部屋決めないと......こんなバカなことやってる場合じゃない。

2人に背を向けて向かい側の扉を開く。

 

―――水着姿のにこがいた。

 

「お前もかよ!?」

 

今度は扉を閉めることなく容赦なくツッコミを入れた。

 

***

 

「これが合宿での練習メニューです!」

 

海未が何故かあるボードに貼られた円形の練習メニュー表をドンッと叩く。

 

1日目

遠泳10km

ランニング10km

腕立て腹筋20セット

精神統一

発声

ダンスレッスン

 

2日目

遠泳15km

ランニング15km

腕立て腹筋20セット

発声

ダンスレッスン

精神統一

 

見ただけで筋肉痛になりそうなメニューだった。

ていうかやっぱ遠泳あったな。

 

「って海は!?」

 

「.....私ですが?」

 

「違うよ!海水浴だよ!」

 

「ぷっ!」

 

海未の天然ボケについ笑ってしまった。

俺が笑っている間にもやり取りは続く。

 

「最近基礎体力をつける練習が減っているような気がするのです......せっかくなのでこの合宿でみっちりやっておいたほうがいいかと!」

 

「それは重要だけど......みんなもつかしら.....」

 

「あと1つ聞きたいんだけど......1日目でも多いのに、何で2日目のランニングと遠泳が5kmも増えてるんだ?」

 

「いえ、1日で慣れるかと......やはり己を越えなければ鍛錬の意味は無いので!」

 

園田さん超ストイック!その考え方は好きだしかっこいいと思うよ!尊敬するよ!でも無理だから!

 

ほらもう絵里の顔も引き攣ってるし、ことりも笑顔だけどあれ苦笑だし.....花陽は口に手を当ててオロオロしてる。

水着姿の穂乃果、凛、にこに至っては信じられないものでも見るような目をしている。

 

「それ本当に出来ると?」

 

「大丈夫です!熱いハートがあれば!」

 

出たぁ!園田節!超目キラキラしてる!トレーニング好きすぎだろ!

俺は朝練のメニューを決める時を思い出して、意味もなく天を仰ぐ。

 

「やる気スイッチが痛い方向に入ってるわね.....何とかしなさい!」

 

うげえと苦虫を噛み潰したような顔をしながら、にこは傍にいた穂乃果と凛に指示を出す。

 

「凛ちゃん!」

 

「分かったにゃ!」

 

今の呼びかけと視線だけで分かるとかすごい団結力だな!?どんだけ泳ぎたいんだお前ら!

 

正直俺も練習は大事だとは思うけど、あんなメニュー見たらやる気も一周回って無くなってしまう。よって今回は遊ぶ側に一票のため、止めることはしない。

 

それにせっかくの合宿なのに、練習ばかりだとメンバー同士の仲が深まりにくいとも思う。

先輩後輩無しにしようと絵里が言ってから数時間ほどしか経ってないということもあり、俺はともかく1年生や2年生はまだまだ名前を呼ぶことにも抵抗が見える。

 

かくゆう俺も先輩に対して敬語を使うという癖が出てしまい、割と苦戦中だったりする。

 

「あーっ!!海未ちゃん、あそこ!」

 

凛は海未の手を掴み山を指差す。

 

「え?何ですか?」

 

古典的な手だけど海未は素直に引っ掛かってくれた。

その隙に穂乃果たちは別荘と海の間にある道路を走り抜けていく。

 

「あ!あなたたちちょっと!!」

 

海未が叫ぶが時既に遅し。

穂乃果たちは道路を渡り切っていた。

 

「まぁ、仕方ないわね~」

 

「え?いいんですか?絵里先輩.....あっ!」

 

「禁止って言ったでしょ?」

 

絵里は人差し指を立て、ウィンクをしながら言う。

 

「すみません.....」

 

海未は礼儀正しいからな。性格上先輩を呼び捨てにすることなんて出来ないんだろう。やってしまったという風に口を押える海未を俺は横目で見ながら考える。

 

「μ’sはこれまで部活の側面も強かったから、こんな風に遊んで先輩後輩の垣根を取るのも重要なことよ」

 

「おーい!海未ちゃーん!絵里ちゃーん!」

 

向かい側の通路に立っている、花陽が手を振りながら大声で2人を呼ぶ。

 

「はーい!さぁ、海未!行きましょ!」

 

絵里は花陽に手を振り返したあと、笑顔とともに海未に手を伸ばす。

海未はぎこちない感じで手を取ると、そのまま砂浜へ一緒に走って行った。

 

「うちらも早く行こか」

 

「そうだな、真姫も行くよな?」

 

「私は別に.....」

 

どうも乗り気じゃない真姫を見て俺と希は軽く目配せをする。

そして2人で真姫の手を取ってみんなが待つ砂浜へと急ぐ。

 

「ちょ、ちょっと!?別に1人で行けるわよ!」

 

真姫はこう言うが、俺たちは手を離さない。

いつもはそっけない態度を取っているけど、真姫だって本当はみんなと仲良くしたいと思ってるはずだ。

だから強引に連れだす。

 

真姫が素直にみんなを名前で呼ぶことが出来るようになるまでは。

 

-To be continued-

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは南ことりちゃんと綾瀬絵里ちゃんです!」

こ「こんにちは~」

絵「何か前来てからそんな時間が経ってないように思えるんだけど.....」

作「そうですね、その理由はきちんと誕生日をお祝い出来なかったからです!」

絵「そういえば私だけじゃなく、ことりの誕生日もお祝いしてないわよね?」

こ「うん.....どうして?」

作「言い訳になってしまうんですが.....ことりちゃんの誕生日の日は就職試験の4日前だったこともあり、勉強に集中しなければなりませんでした」

絵「それで私の方は?」

作「はい......穂乃果ちゃんお誕生日記念を上げて、その次が絵里ちゃんだと.....ことりちゃん1人をハブったみたいになってどうも上げ辛かったんです.....」

絵・こ「「そうだった(んですか)の......」」

作「はい、なので遅ればせながら......南ことりさん!綾瀬絵里さん!お誕生日おめでとうございます!」

こ・絵「「ありがとう(ございます)!」」

作「では、次回も!」

こ・絵「「よろしくお願いします!」」


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海での1ページ

映画の特装限定版予約しました!
まだ学生の自分の財布には中々に痛手ですが......気にしたら負けですw

それと今友達に言われて新作のファンタジー系の小説の執筆を考えております!
まだまだ構成が甘いところがあるので.....投稿までは時間がかかるかも知れません。

今回は序盤で少々優くんがむっつり的思考になっていますが、多分今回のみんなの水着を褒める時だけですので不快に思った方はすみません。




波がざあっと音を立てて砂浜に押し寄せる。照り付ける日光は少々暑すぎて鬱陶しく感じるものの、夏という感じがしてあまり不快に思わない。

俺は早めに水着に着替え終わり、現在はみんなを待っている状態だ。

 

まぁ、穂乃果と凛とにこは先に着替えてたから既に水と戯れてるんだけど......

 

「優くんは泳がないの?」

 

背後から絵里の声が聞こえる。みんなが着替えて戻ってきたみたいだ。

 

「とりあえず準備運動でもしようと思ってな」

 

答えてから振り返り、みんなの姿を視界に捉える。

当然みんなは水着姿だ。

 

「準備運動は大事やもんね」

 

希が感心感心と呟きながら近づいてきた。

 

......何で海に来てるはずなのに目の前に山があるんだ?

俺もそういう年頃の男なので視界は自然と胸に向かって吸い寄せられてしまった。

とは言えあまりガン見をするわけにもいかないので、すぐさま目を逸らし準備運動に戻る。

 

「うーん......うちは別にいいんやけど、あんまりそういう目線を向けるとアカンで?」

 

希は意地の悪い顔でニヤッと笑ってみせた。

ばれてる!?あの一瞬の間に俺の意図は簡単に見抜かれてしまっていた。

 

「み、水着!似合ってる!」

 

俺は慌てて誤魔化す。

 

「だってさ、良かったやん。えりち!」

 

すると希は絵里を目の前に連れてくる。

絵里の水着は上下の柄が違うビキニタイプで希は胸元にヒラヒラが付いた薄い水色のビキニタイプだ。

 

さすが......ロシアの血は伊達じゃないな。

服の上からでもスタイルが良いと言うのは薄々感じていたけど、水着になるとその凄さが文字通り目に見えてすごい。

この後にモデルの人のスタイルを見ても簡単には褒められないぐらい圧倒的だった。

 

「ふふっ、ハラショー!」

 

ウィンクをしながら絵里が腰に手を当てる。

その姿に鼓動が跳ね上がるが、狙ったかのようなタイミングで俺の目に海水が飛び込んできた。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!?目が!?目がぁぁぁぁぁ!?」

 

咄嗟のことだったので眼球にもろにヒットする。

顔を手で押さえ、砂浜を転げまわる。背中がすごく熱い。

 

「全く......いやらしい目で見てるからです!」

 

「あはは...ゆー君大丈夫?」

 

頭上から海未とことりの声が降ってくる。

ようやく痛みが少し引いたので立ち上がって2人の姿を確認する。

 

海未は真っ白な無地のビキニでその白さが海未の清楚な感じと合ってとてもよく似合っている。日々の鍛錬で鍛え上げられているのか絵里とはまた違ったスタイルのよさだ。

 

ことりは希と同じく胸元にヒラヒラが付いた少しだけ明るめの緑のビキニだ。普段から衣装を作っているので色彩感覚がいいんだな...ことりに合った感じの色だと思う。

ほどよいくびれから更にほどよい胸元と太ももへとラインが描かれている、バランスの取れた体だと思う。

 

「でも水鉄砲で眼球狙撃するのはやりすぎだろ!」

 

海未の手には大き目な水鉄砲が握られていて、多分それで俺の目を射抜いたんだろう。

何それ?どっかの13なの?

 

「すみません、水鉄砲を持つと血が騒いで......」

 

「さり気なく恐ろしいこと言うのやめろよ......」

 

海未とことりは2人で準備運動を始めた。

そろそろ体もほぐれてきたから、泳ぐか?

と思ったが視界に何かを運んでいる花陽と真姫が映ったため、そっちに足を向ける。

 

「2人とも、手伝うぞ」

 

どうやらビーチパラソルとビーチチェアを運んでいるらしい。

 

「ありがとうございます!」

 

「んっ....」

 

手早く場所を決めて、チェアを置きパラソルを立てる。

ちなみに花陽の水着は白い生地に細めの青の縞々が入ってるワンピースタイプのもので下は短パンみたいな感じだ。

...花陽って実は結構大きいんだな......。そんなことをしみじみと思ってしまう辺り、俺は確実にあの父さんの息子だと思う。

 

真姫は上が白い縞々が少し入った薄い紫のビキニで下がスパッツみたいに見えるものだった。真姫はとにかくウェストが細い。多分μ’sの中ではというかここまでの人は中々いないと思う。だから余計にスタイル抜群に見えた。それと頭にサングラスを乗せている。

 

俺は水着にはあまり詳しくないため、見た目に対してはそんなに多くは語れないがまぁ、似合ってるということで片づけておこう。あと、やっぱ俺あの人の息子だ......これまでの自分の思考を振り返り、ふっと乾いた笑いを漏らした。

 

ひとまず汗を流すために海に向かって走り、勢いよく飛び込む。

熱を持った体が海水によって冷やされていく感覚がすごく心地いい。

 

「わぷっ!」

 

潜っていた俺は空気を吸うために海面に浮上した、瞬間顔に向かって大量の海水が飛んできて再び海の中に沈む。

 

「あははははは!!!!」

 

俺はゆらりと浮かび上がり、浅瀬の方でお腹を抱えて笑っている凛に恨みがましい視線を向ける。

 

「よーし、俺に挑んだことを後悔させてやる!」

 

浅瀬まで泳いで、凛に向かって大量の水を被せる。

 

「よ~し応戦だぁぁぁ!!!!!」

 

「覚悟しなさい!優!」

 

「3対1!?卑怯じゃね!?」

 

凛に水をかけていると危機を察したのか穂乃果とにこが敵軍に加わった。

 

ちなみに穂乃果の水着は青と白のボーダー模様のビキニで腰のところにリボンがついている。普段からパンばっか食ってるのにあまり太っていないのはμ’sの練習で鍛えられているおかげだと思う。

 

凛は水色、黄色、黒、白が入った水着でこの模様はなんと言って形容したらいいか分からない。体を動かすのが好きな凛によく合ったスポーティな感じだ。

 

にこはピンク色のビキニで胸元は全てヒラヒラによって形成されていると言っても過言ではないようなものだった。下はスカートみたいになっている。希と絵里に比べて圧倒的にボリュームが足りないもののキュートな小悪魔って感じで2人にはないものがあると思う。

 

「えいっ♪」

 

「にゃぶぶぶぶ!!!」

 

ことりの掛け声と一緒に水が飛んできて凛の顔を直撃した。

 

「ちょっ、待って!ごっぶぶぶ!」

 

にこが制止するもことりはまた正確に顔にヒットさせた。

振り返ってことりを見ると手を頬に当てて何やら恍惚とした表情をしている。

 

「ことり、助かった」

 

「うん♪どういたしまして♪」

 

危険は脱したので周りを見渡してみると、希がビデオカメラで海未を撮っている。

海未はすぐに気が付き、顔を紅潮させて体を抱くようにして隠そうとしていた。

 

あのビデオカメラいつの間に持ってきたんだ?

さっきまで丸腰だったはずだけど......

そんな疑問は波と一緒に水に流して、少し喉が渇いていることに気づいた。

 

「何か飲み物買ってくるけど、みんなは何がいい?」

 

1人1人周って聞くのも面倒だと思ったのでその場で叫ぶ。

 

「コ「サ「レ「ス「お「オ「ア「お」

 

「何その呪文!?」

 

一斉にに聞いたのが間違いだった。

みんなが同時に答えたためえらいことになっている。

 

もう面倒だから全員おしるこでいいか......

ちなみに真姫はチェアに座って本を読みながらグラスに注がれたドリンクを飲んでいるため今の呪文には加わっていないようだ。

 

「あの、優さん私もお手伝いします」

 

「ん?俺は大丈夫だからみんなと遊んでていいぞ?」

 

花陽が俺の隣に来ていた。

 

「でも10本同時に持つのって大変ですし......やっぱりお手伝いします!」

 

どうやったらここまでいい子に育つんだろ?

気遣い出来て可愛くて、きっと将来はいいお嫁さんになるはずだ。

 

「じゃあお言葉に甘えるとするか」

 

さすがにここまで言ってくれてるのに断るのも悪いしな。

俺は自動販売機の方へ歩き出す。

 

「花陽はもう先輩禁止には慣れた?」

 

「いえ、まだ意識しちゃって......」

 

まだ難しいか......といっても花陽も海未ほどではないが常に丁寧な言葉遣いだから名前呼びが難しいだけなんだろうけど。

 

「すぐに慣れると思うぞ」

 

「は、はい.....うん!」

 

「俺にもそんな固くならなくていいよ、ゆっくり慣れていけばいい」

 

俺は苦笑しながら答える。

そんなやり取りをしている内に自動販売機の前まで着いてしまった。

 

「花陽はどれ飲む?」

 

「えっと......お茶を」

 

小銭を入れて緑茶を購入する。

更に小銭を入れ、おしるこを買おうとボタンに手を伸ばす。

 

「優さん、何でおしるこに手を伸ばしてるの!?」

 

「いや、さっき飲み物聞いた時誰一人として聞き取れなかったから全員おしるこでいいかなって」

 

「怒られちゃうよ!」

 

よく考えればこんなことをしたら砂から顔を出された状態でスイカ割りのスイカ代わりにさせられる未来しか見えないので手を止める。

 

「はぁ......仕方ない、全部予想して買おう」

 

俺は頭を掻きながら1人1人思い浮かべ、好みを思い出しながら性格と一致させていくことにした。

 

***

 

何とか全員分を買い終えて、みんなのいる場所へと戻ってきた。

すると何故か全員で集まっている。

 

「あっ!ゆう君も参加ね!」

 

「何の話だ?」

 

「ドッジボール!」

 

あぁ、だからみんな集まってるのか。

 

「10人いるから運動が得意な人とあまり得意じゃない人に別れてちょうだい!」

 

絵里が持ち前のリーダーシップを活かしてテキパキと指示を出していく。

 

「私はやるって言ってないんだけど......」

 

真姫が読んでいる本から顔を上げて、渋面を作る。

ここは1つ煽って見るか...

 

「まさか......負けるのが怖いのか?」

 

こんな安い挑発に乗ってくるのかと自分でやっておきながら少々呆れてしまった。

 

「べ、別にそんなことないわよ!いいじゃない!やってあげるわよ!」

 

作戦成功。

 

まず運動が得意な組に分かれる。

俺、凛、海未、穂乃果、絵里。

 

次は運動があまり得意じゃない組だ。

花陽、希、にこ、ことり、真姫。

 

そんなこんなでチームが決まる。

 

チームA

俺・ことり・穂乃果・希・にこ

チームB

凛・海未・花陽・真姫・絵里

となった。

 

正直Bチーム強すぎませんかねえ.....凛と海未と絵里を組ませちゃダメでしょ.....

 

「今更だけど何でビーチバレーじゃないんだ?」

 

「だってネットとか無いし......」

 

なら仕方ないな。こうして試合は始まった。

 

 

 

試合終了

 

―――正直結果は分かりきってると思うが.....Bチームの圧勝だった。

だって当てても当てても全部凛と絵里が拾っちゃうんだもん。そこから海未の剛速球だよ?勝てるわけないでしょ?

 

「もう十分遊んだし、別荘に戻りましょうか」

 

「そうやね」

 

何だか釈然としないまま俺たちは別荘に戻ることになった。

 

-To be continued-

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは本日誕生日の星空凛ちゃんと小泉花陽ちゃんです!」

凛「照れるにゃー!」

花「凛ちゃんお誕生日おめでとう!」

凛「かよちん、ありがと!」

作「さて今回のお話ですが、正直最後のドッジボール辺りがかなり雑ですね」

凛「どうしてこうなったの?」

作「色々考えていたのですが、このままだと長くなりすぎて終わらないと思い、最後は瞬殺という形を取らせていただきました」

花「例えばどんなことを考えていたんですか?」

作「砂浜での鬼ごっこで最初は海未ちゃんが子供っぽいと乗り気じゃないものの優くんのトレーニングになるという一言で誰よりもやる気を出す展開とか」

凛「海未ちゃんならやりかねないにゃ......」

作「水鉄砲合戦とか」

凛「それは面白そう!」

作「しかし、描写などを入れるととんでもない長さになりかねないので断念いたしました」

花「そういえばアニメでのスイカ割りもやってないですよね」

作「私は少々原作に頼りすぎてますから......セリフとか色々と、なので少しずつ原作に沿いつつオリジナルで進めることが大事かと思って」

凛「まあ初期頃とか大体凛たちのセリフ原作通りだからね~」

花「否定出来ません......」

作「......まあここからですよ!では凛ちゃん誕生日おめでとうございます!そして次回も!」

りんぱな「「よろしくお願いします!!」」


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そして少年は

免許取得のため自動車学校に行っています!
なのでしばらく投稿ペースが遅れるかも知れませんが、出来るだけ早めの投稿を心がけたいと思っています。

それとUA20000突破致しました!本当に読んでくださっている皆さまには頭が上がりません!
お気に入りして下さっている皆さまも本当にありがとうございます!

これからも未来に響く多重奏をよろしくお願いします!



時刻は午後3時。

海での海水浴を満喫した俺たちは別荘へ戻り、今からの予定を組み立てている。

 

「えー!まだ遊びたいよ~!」

 

「そうにゃ!そうにゃ!」

 

まだ遊び足りないということを体全身を使って抗議をしてくる穂乃果と凛。

 

「いえ、時間を使ってしまったのですから練習をします!」

 

海未は2人の抗議をノータイムでぴしゃりと断ち切ってみせる。

周りを見ると練習という言葉に苦笑を浮かべてる人が大半だった。

 

......俺も今から練習は厳しい、正直結構体がだるい。

プールや海で泳いだあと特有の倦怠感に襲われ、脳と体が休憩を求めていた。

 

「あっ、そうだ」

 

俺はある考えが閃き、注目を集めるように声を出す。

 

「どうかしましたか?」

 

いち早く海未が反応してくる。その表情はニコッと笑ってはいるが、目が語っている。

 

―――まさか遊ぶという意見を出しませんよね?と。

 

恐怖で心臓が鷲掴みされたような感覚がしたが、頭を小刻みに横に振り、敵対する意思はないと態度で表す。だからその目をやめて下さい.......

 

「みんな夏休みの課題持ってきてたよな?あれ片づけようぜ」

 

そう、今は夏休み。世間一般の学生は大体直面する問題だ。俺たち音ノ木坂学院の生徒にも例外は無く、課題のテキストがいくつか配られている。

 

「......なるほど、一理あるわね」

 

絵里が腕を組みながら頷く。どうやら俺の意見は採用されたようだ。

 

「確かにそうやね、みんないるんやし片づけておいた方がいいかも!」

 

希も賛成派のようだ。

 

「そうですね、穂乃果には今年こそちゃんとやってもらわないと」

 

更に海未も賛成派に引き入れる。

これは決まったか?

 

「えぇ~!?」

 

「勉強するぐらいなら練習した方がましだよ!」

 

「勉強反対!!」

 

お前らさっきまで練習に反対してただろ......手の平返すの早すぎるだろ、手首がねじ切れんばかりだ。

それとにこ。お前はさり気なくそっち側にいってるけど、それでいいのか3年生。

 

「どうせ今年もギリギリになって海未とことりを頼りにするんだろ?」

 

「何で分かるの!?ゆう君エスパー!?」

 

逆に何で分からないと思ったのかそれが不思議だ。

 

「凛も花陽、今年は真姫にも被害が出るだろうな」

 

「かよちんだけじゃなく真姫ちゃんに頼ろうとしたのがばれてる!?」

 

「お前ら......まさか廃校救うのが忙しいから勉強を疎かにしていいとか思ってるんじゃないだろうな?」

 

俺は半眼を作り、反対派全員にジトッとした視線を向ける。

 

「そうは思ってないけど......」

 

「学校を救おうと活動している人間がテストで赤点取ったり課題をちゃんと提出しないとか、他の生徒に示しがつかないだろ」

 

「うっ......分かったわよ!」

 

ついににこが折れた。それと同時に穂乃果も凛もしぶしぶとテキストを鞄から取り出す。

 

「じゃあ、勉強頑張ったらご褒美として夏休みの間に遊びに行こうよ!」

 

「はいはい、頑張ったらというか課題をちゃんと終わらせたらな」

 

穂乃果の提案を軽く受けながし、俺は自分の分のテキストを開く。

 

「本当!?約束だよ!」

 

穂乃果はガバッとテキストに向かってシャーペンを走らせ始めた。

......なぜか他のみんなも張り切っているのが気になるんだけど。

 

「お前らまで張り切らなくてもいいだろ?」

 

「穂乃果ちゃんにだけご褒美があるなんてずるいもん!」

 

ことりは問題とにらめっこをしながら、頬を膨らませている。拗ねているのかも知れないけどすごく可愛らしい表情になっていた。

 

まぁ、いいか。折角の夏休みだしな。

 

***

 

「凛は英語のテキストか?」

 

「うん......」

 

本人曰く肌に合わないそうだ。

凛は苦渋の表情を浮かべながらテキストを見ている。

 

「なあ凛、英語で自己紹介出来るか?」

 

「へっへ~ん!凛を舐めてもらっては困るにゃ!マイネームイズリンホシゾラ!」

 

どうやら記憶力は悪くないみたいだ。前回は星空って英語で何て言うの!?だったからな。進歩したな。

 

「う~ん、じゃあこれは何て読む?」

 

俺は紙にGood morningと書いて凛に渡す。

 

「え、えっと......ごっど、もーにんぐ?」

 

「神降臨しちゃってる!?何様だお前!?」

 

Goodmorning(おはようございます)

 

Godmorning(神よ朝だ)×

 

「ていうか何でモーニングが読めてグッドが読めないんだ!」

 

「前にどこかでモーニングという言葉を聞いたことがあるから......」

 

やっぱり記憶力はいいんだな。でもこの間違いのせいで随分と神々しい朝を迎える羽目になってしまっていた。

 

気を取り直して勉強苦手組のテキストを見て回る。

自分の分はいいところまでやってしまった。このぐらいなら家に帰ってからでも十分だ。

 

ふと穂乃果のテキストに目が止まる。

所々間違ってはいるけど、結構進んでいた。

 

「ねえ、優くん?どうして分解する必要があるの?自然体じゃダメなの?」

 

穂乃果が変な悟りを開いていた。

 

「数学に理論とかは通用しても屁理屈は通用しないもんだ」

 

今の穂乃果に付き合うと時間がかかりそうだったため、適当に流し、他のみんなの所へ移動する。

 

にこの勉強は絵里と希が何とかしてくれるだろ。俺はまだ高3の範囲とか教えられないし。

 

花陽は真姫が見ているし、ことりと海未はお互いに教え合いながら問題を解いている。完全に暇になってしまった。

 

「何かおやつでも作ろうか?」

 

勉強をするのは脳を使う。だから糖分を補給するために甘いものは割と重宝する。

 

「何が作れるの?」

 

絵里が顔を上げて、質問してくる。

 

「食材によるけど、あんまり手のこんだものを作るのは時間が足りない。だから簡単なものだな」

 

俺は答えてからキッチンに向かう。

冷蔵庫の中身を確認して、ため息をつく。飲み物ぐらいしかなかった。

これは今日の晩御飯は食材の買い出しからだな.......

 

「真姫~?何か余ってる食材あるか~?」

 

キッチンから呼びかけたため少々間延びした声になる。

しばらくしてから、よく通る声が返ってきた。

 

「もしかしたら棚の中に何かあるかも知れないけど......」

 

「分かった~」

 

返事をしてから棚を1つ1つ開けていく。

 

「おっ、これでいいか」

 

手に取ったのはホットケーキの粉だ。量が少なめだから1人1枚とは行かないけど、切り分ければ何とかなると思う。

 

俺は手早く準備をすることにした。

 

***

 

すぐにキッチンに甘い匂いが漂い始める。

3枚ほど焼き上げてから皿に乗せて、みんなの所へと運ぶ。

 

「うわぁ~!ホットケーキだぁ!」

 

匂いを嗅ぎつけた凛がいち早く寄ってくる。それを合図としたかのように穂乃果も寄ってきた。

 

「ゆーサン料理できるんだね~!」

 

「ホットケーキは料理の内に入るのか?」

 

混ぜて焼くだけ、誰でも出来ると思う。

 

「凛はカップラーメンしか作れないから......すごいよ!」

 

「待て、カップラーメンは確実に料理じゃない」

 

お湯を入れて待つだけ、簡単だ。

そう考えるとホットケーキは料理といえるのかも知れない。そんなわけあるか。

 

「ただ粉しかなかったからシロップとかはかけられない」

 

調味料とかなら結構あったのに、ハチミツとかなかった。

 

「じゃあ、切るからあとは好きに食べてくれ」

 

小分けにして1人ずつ配っていく。

各々がいただきますと呟いてから生地を口に運ぶ。

 

「生地だけなのに甘いですね?」

 

「あぁ、何か果実とかは結構あったからバナナをすり潰して混ぜてみた」

 

海未が隠し味の甘さに気が付いたようだ。

 

「優は変なところで機転が利きますね、いつもそうならいいのですが......」

 

「シンプルに褒めるだけならまだしも軽く皮肉を混ぜてくるんだな、お前は本当にブレないよな。海未」

 

そんな隠し味はいらん。

 

「でも本当に美味しいです!」

 

「ゆー君ごちそうさま!」

 

ことりと花陽からそう言われると頑張ってよかった思える不思議。

 

みんなはすっかり勉強ムードでは無くなってしまった。

 

「暗くなる前に買い出しに行かないといけないわね」

 

「あぁ、やっぱり行くつもりだったのか」

 

じゃないと今日の晩御飯は今のホットケーキということになってしまう。

だけど俺はふと思った。

 

―――ここでみんなに俺のことを話しておかないと、今日の夜は疲れて早く寝てしまうかも知れないし、明日からの予定のこともある。食事中にそんな話をするのもあれだし......みんなが揃ってる今がその機会かも知れない。

 

俺は生唾を飲み込み、深呼吸をする。

 

「なあみんな、聞いてほしい話があるんだけど!」

 

声を出すと、みんなからの視線が俺に集まった。

 

「......もしかして中学生の時の?」

 

ことりの質問に黙って首を縦に振る。

緊張感がこの場に走る。

 

「これは俺の......この事件の当事者以外には話したことがない話だ」

 

俺は鉛のように重たく、まるで唇同士を縫い合わせてしまったかのような重たい口を開いて語り始めた。

 

俺の過去、憎悪を込めた話を。

 

-To be continued-

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは矢澤にこちゃんです!」

に「にこのセリフが少ない!」

作「さて、何のことやら?」

に「まあいいわ、というか優の過去は夜に話すんじゃなかったの?」

作「色々考えた結果です。これからの話を考えた結果、こっちのほうが辻褄が合わせやすいんです」

に「過去編に入るってことは、しばらく優以外の出番はなさそうね」

作「そうですね......基本オリキャラベースということになります」

に「スケール大きくなりそうだけど、面白くなかったら読者落胆するわよ?これだけ散々引っ張ったんだから」

作「ちょっと胃が痛くなってきました」

に「メンタル弱っ!?」

作「それでは次回も!」

に「よろしくお願いします!」


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少年は過去を見つめる 前編

今回から主人公である優くんの過去編に突入します。
どうやったら面白く、読み応えのある物語になるのか、授業中も頭を抱えるばかり。

文章の表現が似たようなものばかりで見苦しいかも知れませんし、見る人によってはかなりグダグダに感じるかもしれません。

それでは開幕です。


―――キンコンカンコン、と聞きなれたチャイムの音がして意識が覚醒する。

どうやら授業中に寝てしまっていたらしい。まだ眠り足りないと抵抗してくる(まぶた)を無理やりこじ開ける。

最初に目に入ったのは3年間着続けたため、少々くたびれてしまっている袖、そしてさっきまで自分が伏せていた机だ。

 

「やっぱ疲れてるのかもな、たまにはゆっくり休むか......」

 

放課後になりクラスメート達が喜々として教室を去って行く様を横目に見ながら1人ごちる。放課後といっても時刻はまだ午前。今日は偶々授業が午前中に終わる日だった。

 

「お前が居眠りなんて珍しいな、八坂」

 

そんな1人ごとを聞いたからなのか、誰かが俺に話しかけてきた。

鞄を持って立ち上がり、声の発声源の人物へと体を向ける。

 

「あぁ、桜庭か」

 

俺に話しかけてきたのはクラスメート兼元部活仲間の桜庭五希(さくらばいつき)だ。

身長は俺より2cmぐらい高いだろう、髪色は黒、人懐っこそうなそこそこ整った顔立ちをしている。

 

「まあ......ちょっと昨日彼女が寝かせてくれなくてな」

 

「何だと!?お前いつの間に!?」

 

「嘘に決まってるだろ」

 

鬱陶しいぐらいに狼狽えている桜庭の肩を叩きながら教室を出る。

こいつはリアクションが大きいため、とてもからかいがいのあるやつだ。

 

「そうだよな!八坂に彼女が出来るわけないもんな!」

 

「おいどういう意味だこの野郎」

 

桜庭と仲良くなってからはこんな感じのコント染みた会話を毎日のようにしている。お互いに遠慮せずに物を言い合える間柄だ。

 

ふと、窓を見る。

そこから差し込んでくる日光は冬のため弱く感じるが、今日は快晴のため暖かい光が窓から入り込み、体を照らす。

 

外では部活をしている生徒たちの掛け声が聞こえてくる。その青春を謳歌する姿が日光と相まって眩しく感じ、俺は目を細める。

 

俺はもう3年生、所属していたバスケ部もとっくに引退して、あとはエスカレーター式に入学が決まっている高校に進学するだけだ。

 

俺の通うこの中学は中高一貫式の学校のため、ほとんどの生徒はそのままエスカレーター式で進学する。それは隣を歩く桜庭も例外ではない。

 

「八坂?俺の話聞いてたか?」

 

「ん?悪い、何も聞いてなかった」

 

どうやら物思いにふけっている間、桜庭が何かを言っていたようだ。

 

「お前今日生徒会は?」

 

「今日は特に仕事が無い」

 

実は俺は生徒会に属している。この学校では中等部と高等部では別々に生徒会が存在する。正直あとは後輩に引き継ぐだけなので最近は仕事なんてほとんど無い。

 

「ふーん、そうか」

 

「自分で聞いたのに興味無さそうだな」

 

元々興味が薄かったのだろう、桜庭の態度を見て俺は苦笑する。

 

「......もうすぐ高校生か、そうなる前に一度はモテたいよな!なっ?八坂」

 

かと思えば急に目を輝かせ、自分の希望を言い始める。

本当に表情豊かだなこいつ......

 

「モテたいって言うより、彼女が欲しい。とかだろ?」

 

「正解!」

 

俺も男だし、一応そういうことは結構考えたりするけど、誰でもいいって訳じゃないんだよな。

いつか、そういった運命の相手とやらに出会う日は来るのだろうか?

そんなよく分からない未来に期待するしかないだろう。

 

「でも八坂の場合はすぐに春が来ると思うけどな」

 

「は?何で?」

 

桜庭の発言の意図が掴めずに俺は首をかしげる。

 

「何でって......深瀬がいるだろ」

 

深瀬六葉、俺のクラスメートで同じ生徒会役員。

顔立ちも整っていて品行方正、まさに男子の理想の女の子って感じがする。

 

「俺と深瀬はそういうんじゃない」

 

そんな彼女を狙う男は校内にたくさんいるだろう。

でも、俺は友達として彼女のことが好きなだけで今のとこそういった感情はない。

 

一緒に生徒会をしているのだって偶々(たまたま)だし、深瀬とそういう関係になってしまった暁には毎日男子から殺意の籠った目線を向けられることは必至だ。

下手したら下駄箱に俺宛の脅迫状とか届いちゃうレベル。

 

「それでも近くに居れて、話せるだけましだろ」

 

「はいはい、そうだな」

 

「ところでお義兄さん、今度優莉ちゃんと会いたいんだけど」

 

「次お義兄さんとか言ってみろ、お前と縁を切った後ドロップキックするからな」

 

「他人になった後に追い打ち!?」

 

俺は別にシスコンってわけじゃないが、同級生から義兄って呼ばれることを考えたら鳥肌が立つ。

しかし、優莉は父さんの仕事の都合上で俺と一緒には暮らしていない。

中学に入ってすぐ、父さんの引っ越しに着いて行ってしまった。

...確か音ノ木坂中学ってところに通ってるって言ってたっけ。

 

何故桜庭が俺の妹の存在を知っているのか。

それは前に1度優莉の写真を見せたからだ。

 

「バカなことやってないで早く帰ろうぜ。未だに校舎から出るどころか下駄箱にすら辿り着いてないし」

 

「そう言えばそうだな......」

 

止まっていた足を再び動かそうとした時、携帯が着信音を鳴らし震える。

誰かからの着信が入ったみたいだ。

同時に歩きだそうとした桜庭を手で先に行けと促し、携帯を耳に当てる。

 

『もしもし、八坂くん?』

 

携帯を耳に当てると同時に俺の鼓膜を揺らしたのは鈴のような聞き心地の良いよく通る声。

 

『あぁ、深瀬。何か用か?』

 

電話の相手はさっきまで話題に上がっていた深瀬六葉だった。

 

『このあと予定とかってある?』

 

『...いや、無いと思う』

 

『じゃあどこか遊びに行かない?』

 

これって......デートの誘い!? 

友達として好きでそういった感情はないとは言ったが、やはり女の子から遊びに誘われるというのは男子にとっては特別なイベントだと思う。

 

『い、いいけど......』

 

『それなら校門前で待ってるね』

 

『あ、あぁ。またあとで!』

 

電話を切り、ポケットに入れてから5秒ほど固まる。

 

な、何で俺!?

はっきり言って俺のルックスは平均もいいところだし、俺よりかっこいい人なんていくらでもいる。実際にも深瀬は世間一般ではイケメンと呼ばれている人種の人たちから何度もデートに誘われているとクラスの男子が話しているのを聞いたことがある。

最も全て断っているみたいとも聞いた。

 

もし、桜庭が言ったみたいに......いや!そんな可能性は無い!あまり期待とか高望みはするな!八坂優!

 

いつまでもここに立ち止まってるわけにもいかないので、葛藤もそこそこに下駄箱へ向かう。桜庭も俺を待っているだろう。

 

そんなことを考えている間も心臓はドクドクとうるさいぐらいに脈を打っていた。

 

***

 

「悪い、待たせた」

 

下駄箱に着くとそこには靴を既に靴を履き替えてボーっと外を眺めている桜庭の姿があった。軽い謝罪の言葉と一緒に自分の靴を下駄箱から取り出す。

 

「おぉ、電話誰からだったんだ?」

 

「深瀬からだったんだけど......このあと遊ぶことになった」

 

特に意識していない感じでさらりと言う。

靴を履き替えて振り返ると顔を伏せて肩をプルプルと震わしている桜庭がいた。

 

「どうした?」

 

俺の言葉に桜庭は震えていた肩をピタリと制止させ、伏せていた顔を俺へと向ける。

 

「ふ、ふ......Fackyou()!!!」

 

という叫び声を上げると桜庭は走り去って行った。

去り際に彼の目尻に光る雫が溜まって見えたのは多分気のせいじゃないだろう。

 

...何かyouの部分がちょっと引っ掛かる言い方だったな。まるで俺の名前を呼んでいるみたいだったけど、こっちは気のせいだろう。

 

それと桜庭、その単語は日本ならまだくたばれとかで済むけど、外国だったらえらいことになるからな?覚えとけ。

 

心の中で唱えてから深瀬が待っているという校門の前へと歩く。

 

...快晴って言っても風が吹くとやっぱり寒いな、さすが冬。

突然吹いた風の寒さで肩をすくませ、マフラーを口の辺りぐらいまで引き上げる。

寒いのは苦手だ。かと言って暑いのが得意かと言われればそうでもない。涼しくもあり、暖かくもある春か秋が1番だな。

などと考えている内に校門へと辿り着いた。

 

「八坂くん」

 

肩より下に少しだけ伸びた黒髪に少し凛としたイメージを連想させる目、俺と同じく制服に身を包んだ女の子、待ち合わせの相手、深瀬だ。

 

「ごめん!待たせた?」

 

桜庭を待たせた時とは天と地の差があるぐらいに丁寧に謝る。

 

「ううん、呼び出したのはこっちだから。それに全然待ってないよ」

 

それから2人で並んで歩き出す。

 

「そういえば......これからどこに行くかは決めてるのか?」

 

遊ぼうと言われただけで、目的地を聞いていないことに気づいた。

この辺りからだと近くにあるデパートなどがいいんじゃないか?カラオケやボーリング、ゲームセンターに食事にショッピング。大体学生が楽しめる娯楽が揃ってるし。

 

「うん。デパートでもいいかなって思ったんだけど......まあ着いてからのお楽しみ、かな?」

 

他に楽しめる場所ってあったっけ?

でも、この街は東京ほどじゃないけどそこそこ都会だからきっと俺が普段あまり行かないような場所なんだな。

 

隣を歩く深瀬の表情を盗み見る。

俺と同じくマフラーで口元は隠れているけど、その目にはどこか楽し気な光を携えている。

 

「ん?八坂くんどうかしたの?」

 

俺の視線に気づいたのかどうかは分からないけど、ちょうどこっちを見てきた深瀬と目が合う形になってしまった。

 

「な、何でもない!」

 

さっきまで平常に戻っていた鼓動がまた騒ぎ始める。

咄嗟に目を逸らしたのはいいけど、俺の顔が真っ赤だということは自分でも理解出来る。

 

「ふふっ、変な八坂くん」

 

深瀬の笑顔を見た俺は思った。女の子の笑顔とは男を殺すという意味では最も恐ろしい武器なのではないかと。殺すと言っても悩殺とか理性の崩壊を意味している。

まぁ、このままじゃ心臓が動き過ぎて本当に死にかねないかもしれないけど。

そんなバカなことを考える俺だった。

 

***

 

「着いたよ」

 

深瀬の足が止まったことを確認し、目の前の建物を見上げる。

 

「ここって......水族館?」

 

見上げた先に見えたのはイルカがあしらわれた看板にようこそという大きな文字だった。俺も何度か来たことあるけど、その数回も幼い頃両親に連れられて来た思い出があるだけで、あまり詳しくは覚えていない。

 

何故か突然脳裏に3人の女の子の姿が浮かんできた。

 

1人目は髪の毛が栗色で元気が有りすぎる笑顔が眩しい女の子。髪の右側をリボンで括っていて、彼女が跳ね回ると括られた髪が同じようにピョンピョンと跳ねる。

 

2人目は髪の毛が青色の大人しそうな女の子。髪は腰の辺りまで伸びている。オレンジ髪の少女が跳ね回っている姿を見て躊躇いがちにそれを引き留めようとしている。

 

3人目は髪の毛がアッシュグレー色の優しそうな女の子。オレンジ髪の女の子と同じく髪の右側をリボンで括り、青色の髪の女の子と同じぐらいの長さの髪で前髪辺りにあるトサカみたいな髪が特徴的だ。そんな女の子は他の2人の女の子を見て、にこにこと笑顔を浮かべている。

 

数回の内の1回、3人の少女たちに幼い自分も加わってこの水族館に来たことがある。

 

あれは......誰だっけ?思い出せそうで思い出せない......優しそうな子のことは覚えている。母さんの付き添いでついて行った時によく遊んでいた子だ。

 

「――くん?」

 

他の2人......確か.....ほ、ほの.....う.......

 

「八坂君!」

 

「っ!!」

 

突然隣から大声が聞こえ、思考が中断される。

どうやら考えごとに集中し過ぎて、ボーっとしてしまったみたいだ。

 

「具合でも悪いの?」

 

言いつつ深瀬は俺の目を覗き込んでくる。

夜空のような黒色の瞳は見ているだけで吸い込まれそうなほど澄んでいる。

 

「だ、大丈夫!何か幼い時にここに来たことあるなって思ってただけだから!」

 

「そう?なら行こっ」

 

いつもは大人しい深瀬がはしゃいでるのって珍しいな。

思わず頬を緩めながら後ろを着いて行く。

 

そのままチケットを購入し、薄暗い館内へ移動する。

平日、それも今はちょうど昼時の時間だ。館内に人はあまりいなかった。

 

偏見かも知れないけど冬に水族館に訪れる人も少ないのだろう。人があまりいないのはそれも原因だと思う。

 

「綺麗......」

 

隣から感嘆の声が上がる。

チラッと横を見ると、深瀬が水槽を覗き込んでいる姿が目に入る。

その目には水面と光が反射し、とてもキラキラと輝いている。

俺は水槽を泳ぐ魚の雄大さよりも、まるで1枚の絵を切り取ったようなその幻想的な姿に惹きつけられた。

 

でも......なぜだろうか。

ここまでかなり深瀬にドキドキしていたのは確かなはずなのに......

 

―――どうして友達以上の好意を抱けないんだろうか。

 

確かに今この時間。俺は楽しいと感じている。だけど、そんな自分の中にもう1人冷めた感情を持った自分がいる。それも間違いない。

でもこの好意云々(うんぬん)の疑問にはまだ答えは出せないと思う。なぜなら、俺は......彼女本人の意思を知らないのだから。

 

だったら1人で考えても意味のないことだな。

余計な思考を追い出すために頭を2、3回と横に振る。

その様子を見ていたのか深瀬は不思議そうに首をかしげる。

 

「本当に大丈夫?」

 

「大丈夫、この魚たちに圧倒されてただけだから」

 

嘘は言っていない。

実際に久しぶりに見る光景に感情が昂っていた。

 

「ならいいけど......」

 

どこか納得のいかない様子の深瀬。

 

空気を換えきれなかったか?

なら思い切ってずっと気になっていたことを聞いてみるか。

 

「そういえば今日俺を誘ったのは何で?」

 

遊びに行くのは全然構わない。家にいても暇を持て余すだけだし。

問題はどうしてここに俺を誘ったのかということだ。

 

「八坂くんを誘いたかったってことじゃダメ?」

 

何食わぬ顔でそう切り返してきた。

だけど、一瞬だけ深瀬の表情が曇ったのを俺は見逃さなかった。

 

...まぁ、人間言いたくないことの1つや2つあるよな。

 

納得していない自分を無理やり押し殺す。

これ以上妙な空気を作っても仕方ないし、ここは純粋に楽しむことにしよう。

 

「じゃ、もっと色々見て回ろうか」

 

空気を換えることが出来なかった代わりに場所ごと入れ換えてしまおうと俺はそんな案を口にした。

 

***

 

「今日はありがとう、楽しかったよ」

 

「こっちこそ、誘ってくれてありがとな」

 

館内を色々と見て周り、ようやく出口に着く。

体感時間ではかなり長く中にいたような気がするけど、日の傾き方からしてそんなに長くなかったみたいだ。

しかし、薄暗いのに目が慣れてしまったせいか普段より眩しく感じてしまった。

 

これからどうする?みたいな空気が流れる。

深瀬の目的は果たしたみたいだけど、このまま一緒にどこか行ったりした方がいいのか?

 

「え~っと......ゲームセンターでも行く?」

 

女の子相手にゲームセンター誘うとか一体何考えてんだ俺は。

あまりにも沈黙が気まずくて気づけばそんなことを口にしていた。

 

「うん、そうだね。行こっか」

 

「...自分で誘っといてなんだけど、いいの?」

 

深瀬は俺の質問に一瞬キョトンとし、微笑する。

 

「私こう見えて結構ゲームとかやるんだよ」

 

人は見かけによらないな.....

 

「あっ、信じてないでしょ?」

 

「うーん、半信半疑ってとこ」

 

そう告げると深瀬は少し頬を膨らませて見せる。

普段の大人っぽい感じとは違ってとても子供っぽい仕草だ。

 

「だったら勝負してみる?」

 

よほど信じさせたいのか、勝負を持ちかけてくるとは思わなかった。

 

「いいけど......罰ゲームとかはないよな?」

 

俺の発言を聞いた深瀬は顎に指を当てて何かを考え始めた。

 

「無くてもいいけど、あった方が面白そうだから......負けた方が勝った方の言うことを1つ聞くっていうのはどう?」

 

「リスキーな提案だな、それ」

 

まさか女の子からそんな挑戦を叩きつけられるとは思わなかった。

そこまで言われたら男としては受けざるを得ない。

 

「分かった、その勝負乗った」

 

深瀬は俺の答えに満足そうに頷くと、先頭を歩き出す。

...俺、今回ついて行ってばかりじゃないか?

 

『ほらゆうくんこっちだよ!』

 

水族館前で脳裏に浮かんだオレンジ髪の女の子が俺の手を引っ張る。

今の状況から昔のことを思い出したみたいだ。

 

『ゆーくんはやくはやく♪』

 

栗色の髪の女の子と一緒にもう片方の手を引っ張るアッシュグレーの髪の子。

思えば俺は昔から誰かに手を引かれていたような気がする。

 

『まってくださいってばぁ!ほの―ぁ!―とりぃ!ゆうぅ!』

 

そしてそんな俺たちのあとを転びそうになりながら必死についてくる青髪の子。

あぁ、でも逆に俺も手を引くことがあったんだよな。

 

もう少しで思い出せそうなんだけどな。

...今度母さんに聞いてみるか。このこと覚えていたらだけど。

 

色々と思い出そうとしている内に目の前にはいつの間にかゲームセンターがあった。

随分と集中していたみたいで、聞こえなくなっていた人の喧騒が徐々に戻ってくる。

店内へ足を踏み入れると同時に人の喧騒は聞こえ辛くなり、代わりに機械の騒音が鼓膜を揺らし始めた。

 

「そういえば、何のゲームを使って勝負する気だ?」

 

機械音に負けないように声のボリュームを上げ、聞く。

 

「うーん......じゃああのダンスのやつはどう?」

 

同じように声のボリュームを上げる深瀬の目線をたどって行くと、曲に合わせて矢印が表示される体感型のダンスゲームがあった。

 

「あれ結構難しいと思うけど、本当にやるのか?」

 

友達と一緒にやったことはあるが、リズム感と反射神経、激しいものになってくると動体視力も必要となってくる中々ハードなゲームだ。

 

「うん、何度か友達とプレイしてるし、いけると思う」

 

深瀬はやる気満々といった感じで鞄を傍にある荷物置き場へと置く。

俺もそれにならい鞄を置き、財布の中から小銭を取り出してゲームに投入する。

 

「じゃあ、純粋にスコアが高かった方が勝ちってことで」

 

「うん、負けないからね」

 

会話を打ち切り、お互いに画面を見る。

そして、リズムに合わせてステップを踏み始めた。

 

数分後、曲が終わって採点画面に切り替わる。特に目立ったミスもなく、かなり点数が期待出来ると思う。

 

「...あ」

 

ゲーム台から一際大きな音がなる。

俺は画面を凝視して、小さく声を漏らす。

 

「...私の勝ち、だね」

 

そこに表示されていた結果は僅差で俺の負けというものだった。

シンプルに悔しいな......

 

「じゃあ、約束の罰ゲームのことなんだけど......」

 

負けは負けだし仕方ないよな。ジュース一本とか食事奢るとか程度なら俺としても簡単で助かるんだけど。

 

「あー......ごめん、自分で言っておいて何も思いつかないや。思いついた時に言うってことじゃダメ?」

 

「負けたのはこっちだしな、敗者は勝者に従うよ」

 

そのまま今日はお開きとなり、俺は家路につく。

深瀬は何でも買い物をして帰るらしく、俺たちはゲームセンターの前で別れた。

 

母さんは今日も遅くなるのか?

もし早く帰ってくるならさっきの3人の女の子のことに着いて聞きたいんだけど......

そう思っているとポケットに入れておいた携帯が着信音と一緒に震え始める。

番号を確認すると、ちょうど母さんからだった。

 

『もしもし、母さん?』

 

『もしもし優?今日は遅くなりそう』

 

この辺りのやりとりはいつもの事なのでふーんと返しておく。

 

『それより母さん、あの昔遊んでた3人の女の子たちってなんて名前だったっけ?』

 

『3人......あぁ!ことりちゃんたちのこと?』

 

頭の中に浮かんだ女の子と今聞いた名前を照らし合わせる。

その結果優しそうな子のことだと分かった。

 

『あと2人は?』

 

『そうねぇ、答えてあげたいんだけど......母さん今からすぐ会議なの。だからまた今度ね!』

 

そう言うとすぐに電話を切られてしまう。

ことりのことは少しとはいえ、覚えてるから他の2人のことを聞きたかったんだけど......俺の聞き方が悪かったな。

 

母さん遅くなるって言ってたし、今日は何を作ろうかな......

まだ明るいから......買い物は一旦家に帰って荷物を置いていこう。

そう考えつつ、若干傾きつつある太陽に背を向けて歩き続けた。

 

***

 

「おい!八坂!」

 

次の日教室に入ると、いきなり興奮した様子の桜庭に話しかけられた。

 

「何だよ、朝から元気だな」

 

自分の席に鞄を置いてから答える。

しかし、どうやら用事があるのは桜庭だけではないみたいで、桜庭の後ろに数名の男子が控えていた。

 

「お前......深瀬と付き合ってるのか!?」

 

「はぁ!?何で!?」

 

「だって昨日遊びに行ってたし!その様子をこいつらが目撃してるし!」

 

あぁ、そのことか。

急に何事かと思ったぜ。

 

「お前には言っただろ?そういう関係じゃないって」

 

桜庭にだけ聞こえるように耳元で囁く。

 

「だからお前の後ろでショルダータックルの構えをして待機してる元ラグビー部の連中の誤解を解いてくれ」

 

朝から野郎どもにそんなむさ苦しい攻撃を食らってたまるか。

本職のタックルとか受けられる気がしねえ。

 

「仕方ない......おい、誤解だってよ!撤収!」

 

まじ何だったんだ。

 

 

 

そんな朝の一悶着を終え、時間は過ぎる。

俺はトイレから教室に戻るために歩を進めようとしていた。

 

「おい!八坂!」

 

そんなデジャヴを感じる声が背後から響く。

ただし、声の主は桜庭じゃないようだ。

 

「......何か用か、三上」

 

俺に何やら恨みがましい視線を向けているのは三上隼太。

クラスは違うが、こいつは何かと有名人だ。

まず、家がお金持ちってこと。それを鼻にかけて周りを見下してばかりいるやつだ。

つまりはあまりいい評価は聞かない。

俺自身もこいつは苦手だ。

 

「お前!深瀬とどうやって付き合った!」

 

「...は?」

 

何かと思えばまたそのことかよ。

 

「親が理事長だからコネを使ったんだろ!」

 

俺がこいつを苦手としているのは何かあれば俺に突っかかってきて、コネだの金だの言い出すからだ。馬鹿馬鹿しい。

更にこいつはどうやら深瀬が好きらしく、両想いだと信じ込み彼氏面をしてるって噂だ。

 

「人が金や権力で買えるわけないだろ」

 

俺は適当にあしらって、その場をあとにすることにした。

これ以上妄想に付き合ってられるか。

踵を返し、歩くペースを上げる。

曲がり角に差し掛かる時に

 

「なら僕が証明してやる......」

 

という三上の呟きが聞こえた気がした。

その時は気にしていなかったが、俺があしらうために言ったあの言葉がまさかあんな事件を起こすきっかけになるなんて、今の俺は(つゆ)ほど思ってはいなかった。

 

-To be continued-

 




今回の雑談コーナーは無しです。

その代わりいくつか補足しておきます。
まず、優くんと穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ことりちゃんが出会ったのは幼稚園の時です。
それからしばらく、穂乃果ちゃんと海未ちゃんには会っていなかったので優くんの記憶から抜け落ちてしまっています。

現実でも幼稚園以来会っていない人のことはほとんど覚えていないのと同じです。
ことりちゃんのことを辛うじて覚えているのは優くんの母でもある美樹さんがたまに話題に出していたからです。

だったら穂乃果ちゃんと海未ちゃんのことも話しているはずだろと思うかも知れませんが、そこはご想像にお任せします。

では、後編でまた!


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少年は過去を見つめる 後編

さてさて、後編です。
優くんの忌まわしき過去の記憶が明らかになります。





―――最近深瀬の様子がおかしい。

水族館に行ってから1週間経った。あの時は屈託無く笑っていた彼女の笑顔にここ最近は影が差した感じがする。

 

...明らかに俺と三上が会話をした後からこの変化は起こった。三上に直接問い詰めるか?いや、あいつは絶対俺の欲しい解答をしてこないだろう。なら、深瀬に聞いてみるとか......でも他人に悟らせないように笑ってるってことは話したくないってことだよな。

 

そもそも俺の勘違いって可能性もある。...いや、水族館で何で俺を誘ったのかって聞いた時、彼女は明らかに一瞬だけ表情を曇らせた。そのことと関係しているのかも知れない。

 

頭を抱えて考え込んでいるとガチャッと音がしたため、その方向をチラリと見る。

そこにはドアを開けて生徒会室内に入って来た深瀬の姿があった。

 

「あれ?八坂くん1人?」

 

「あぁ、他の人は今日も来ないと思う。多分今日も俺1人」

 

実際仕事なんてこの時期ほとんど存在しない。

引き継ぎで多少ドタバタする程度、よって生徒会メンバーがここに揃うこと自体が最近では珍しいくらいだ。

 

かくゆう俺もここにいるのは考え事をするためだった。

静かなこの部屋は物事に集中するのにちょうどいい。

 

「そうだよね~、最近ずっと暇だもんね~」

 

向かいの席に座り、体を伸ばしながら深瀬が言う。

 

「深瀬は何をしにここに?」

 

このセリフは同じ生徒会役員に言うセリフじゃなくないか?

きっと他の人がこれだけ聞いたらそう思うことだろう。

 

俺が言いたいのはこの部屋に残ってまで何をしたかったのかってことだ。

 

「私は本でも読んでいこうと思って」

 

深瀬も俺の意図を汲んでくれたみたいで、鞄からブックカバーに包まれた本を取り出しながら見せてくれた。

 

「八坂くんは?」

 

さて、この質問に俺はどう返すべきなのか。正直に考え事と言ってもいいけど、多分何の?とか聞いてくると思う。そうなったらストレートに何かあったのかと聞いていいのかが悩みどころだ。

 

誤魔化すために俺も読書と言えれば良かったんだけど......生憎(あいにく)本は教室の机の中に入れっぱなし。課題を片づけるという理由も却下だ。それは同じクラスの彼女には通用しないし。

 

でもあまりここで考えすぎると不信がられてしまう。

実際すでに不思議そうな顔をしてこっちを見ている。

 

―――聞いてみるか。

覚悟を決めるために小さく息を吸う。

 

「...実はちょっと考え事があってさ」

 

「何々?私で良かったら聞くよ?」

 

聞かせてもらうのは俺の方だ。頼むから変なことなんて起こっていないでくれよ......!

 

「...深瀬、何かあったのか?」

 

「え?」

 

まさか俺から聞かれるなんて思ってもみなかったんだろう。

深瀬は今、明らかに動揺している。

 

「な、何でもないよ?」

 

それでも普段通り振る舞おうとしている。

 

「何もないなら......そんな答え方はしないだろ」

 

何もないなら......そのまま何もないと答えればいい。

だけど彼女は動揺のせいか何でもないと答えた。その答えは隠し事がある、と言っているようなものだ。

 

深瀬は言葉に詰まったのか俯いてしまった。

 

「...ごめん。話したくないなら無理に話さなくてもいいよ」

 

このまま俺がここにいると恐らく生徒会室は沈黙に包まれると思う。

その前に立ち去ってしまおうと鞄を持って席を立つ。

そして、扉まで歩きドアノブを捻ろうと手を伸ばす。

 

「待って。話すよ」

 

扉が半分ぐらい開いたところで俯いたままの深瀬が声を上げる。

扉を開いたまま振り返って立ち止まる。

 

「...とりあえず帰りながらでもいい?」

 

深瀬の言葉に俺は黙って頷いた。

 

***

 

「私の家、小さなパン屋なんだ」

 

隣を歩く深瀬が言う。

 

「あぁ、うん。俺も何度か買いに行ったことがある。お店のパン美味しいよ」

 

1つ1つが丁寧に作られているのを感じるそんなパンだったと思う。

 

「あはは、ありがと」

 

褒められているのにどこか苦しそうに深瀬は笑う。

どうして今の深瀬は笑っているのに悲しそうに見えるんだろうか。

 

「今はそれなりに軌道に乗っているけど、昔は結構生活が厳しかったんだよ。それでも家に帰れば暖かい笑顔でおかえりって言ってくれるお父さんとお母さんがいた、苦しかったはずなのにそんな様子1つも見せないでさ」

 

「...うん」

 

俺は相槌をうつ。

 

「でも、昔の無理が今になって返ってきたのか......お父さんが病気にかかっちゃったんだ」

 

幸せだった家庭にヒビが入る、彼女はそれを経験してしまった。

何て声をかけようか迷っていると、そんな俺の様子を見かねたのか深瀬は更に言葉を(つむ)ぐ。

 

「大丈夫だよ!手術すれば治るってお医者さんも言ってたし!」

 

明るい声、だけど空元気というのは一目瞭然だ。

 

「親父さん早くよくなるといいな」

 

俺にはもうそう返すしかなかった。

これ以上深瀬の問題に踏み込んではいけないと思った。

この人は優しいから、きっと逆に俺に気を遣うだろう。だから気にしないでいいよときっと言うだろう。

いつもより優しく、いつもより笑顔で、そして

 

―――いつもより悲しそうな顔をして。

 

それからお互いに無言で歩く。

気まずい重苦しい空気が纏わりついてくる。

 

「何か飲む?奢るよ」

 

そんな空気を壊すのにちょうどよく自動販売機が見えた。

俺は財布から小銭を出すと深瀬に尋ねる。

 

「...じゃあホットココアがいいな」

 

「オッケー」

 

小銭を入れてホットココアのボタンを押すとガタンと小気味のいい音がする。暖かい缶を深瀬に手渡す。

 

さて、俺は何にしようかな......無難にホットコーヒーでいいか。

再び小銭を入れてホットコーヒーのボタンを押す。ココアと同じようにガタンと音がした。

取り出し口から取り出そうとするとひんやりとした感触が指先に広がる。

 

「は?ひんやり?」

 

自分で抱いた感想に疑問を持ち、1度手を離す。

もう1度取り出し口から手を入れて缶に触れてみると

 

―――とても冷たかった。

 

「何で!?俺ホット押しただろ!?」

 

「あはははははは!!!!!」

 

俺の戸惑う様子がおかしかったのか深瀬が声を上げて笑い始めた。

さっきまでとは違う、本当に楽しそうな笑顔で。

 

いつもなら自分の不運を嘆くところだけど、今回だけはそんな不運に感謝しておこう。おかげでさっきまでの重苦しい空気が綺麗さっぱり吹き飛んでくれたからな。

 

しかし、俺たちは気が付いていなかった。

この楽し気な様子を陰からじっと見つめているやつがいたことに。その人物が学校を出てからずっと俺たちを付けていたことに。

 

***

 

翌日、普段と同じように登校した俺は自分の席に着いた。そして机の中にある本を取り出そうと手を入れると中から紙が擦れるような音が聞こえてきた。

 

何だ......?

 

音の発信源を掴み、机の中から取り出す。

ノートの切れ端?

 

書き殴ったような文字で放課後屋上で待つ。と書いてあった。

 

「何だ?それ?」

 

ちょうど近く居たのか桜庭が興味深そうに覗き込んでくる。

 

「ちょっとしたラブレターじゃないか?」

 

まあノートの切れ端に恋を綴って男子の机の中に突っ込むワイルドな乙女がいたら見てみたいもんだけどな。

 

「まじでか......ついにお前がラブレターを......何で俺にはこないんだ?」

 

顔に手を当てて嘆く桜庭。

 

「バカだからじゃね?」

 

「一応成績いいんだけど!?」

 

そういやこいつ俺より成績上だったな。バカって言ってもそういう勉強出来ないって意味のバカじゃないけど。

 

「でもこの紙、男からみたいだぞ。字も汚いし」

 

不本意極まりない。

 

「それはそれでまじでか......」

 

肩を落としたいのはこっちだ。

何が嬉しくて男から呼び出し食らわないといけないんだか。

 

「で?お前呼び出しに応じるの?」

 

「一応な。こんなことをするやつの顔を見てみたいってのもあるし」

 

決して僕とあなたはお知り合い(お尻愛)の仲になる気は無い。

断じてごめんだ。

 

「ま、頑張れよ」

 

声色は真面目だが頬が若干緩んでる......さてはこいつ超楽しんでやがるな?

...よし!この手でいこう!

 

「そういえばさっき下級生の子がお前を尋ねてきたぞ?結構可愛い子だ」

 

「まじで!?ちょっと今から行ってくるわ!!」

 

言うや否や桜庭はすぐさま廊下に飛び出していった。

全部嘘だけどな。

 

「おい!桜庭!どこに行く気だ!?もうHR始まるぞ!」

 

ちょうど廊下で先生と出会ったのか。

聞こえてくる会話に耳を澄ます。

 

「止めないで下さい!俺を待ってる子がいるんです!!」

 

そうだな。世界中のどこかにはいるかもな。

 

面白いけどそろそろネタばらししとくか。

先生が入ってくる前に手早く桜庭にLINEを送る。

 

<悪い。全部嘘だ>

 

あれだけうるさかった桜庭の声がピタリと止む。多分俺の送ったメッセージに気が付いたな。

そして先生が教室に入って来た。その後ろには黙りこくった桜庭がいる。そのまま力なく席に座ると何やら紙に書き始めた。

 

そしてその紙をこっちに投げてくる。

紙は俺の机に綺麗に落ちた。あいつコントロールいいな。

 

文字を確認するために紙を広げてみる。

 

オマエ アトデ ラグビーブ ケシカケル オボエトケ

 

何であいつラグビー部を従えてんの?あいつ一体何やったの?

まあとりあえず、どうやって逃げ切るかを考えるか。鍛え上げた体のタックルとか受けたら確実に痛いという概念を通りこす気しかしないし。

その前に桜庭に謝っとくか。ソーリー、っとこれでよし。

紙を相手の机に投げ返し、俺は今更ながら先生の話を聞き始めた。

 

***

 

放課後、俺は屋上である男と対峙していた。

 

「何の用だ、三上」

 

こいつが俺を呼びだすとか珍しいこともあるもんだ。いつもは見かけたらめんどくさいぐらいに絡んでくるだけのやつが。

 

三上は剣呑(けんのん)な表情をして俺を睨んでいる。

 

「...おい八坂、最終警告だ。深瀬にこれ以上近づくな」

 

「...何で?」

 

三上の発言に一気にピリッとした空気になる。

勝手に彼氏面してるだけの癖して......

 

聞き返しても三上は答えない。

 

「俺と深瀬はただの友達だ、友達と話すことにお前の許可を取らないといけないとか自分勝手もいいところだろ」

 

そう告げると三上の肩がピクッと跳ね上がる。

そして顔が更に歪み始める。今三上にの中にある感情が何なのかは分からない。だけど俺に対しての負の感情が募っているのは理解出来た。

 

「...お......なければっ.......!」

 

三上から聞こえる地を這うような低い声。

呪詛のように何度もブツブツと呟いている。

 

「おい、三上?」

 

もう帰っていいのか?自分の世界に浸り始めたし。

これ以上何も話すことはないと背中を向けて扉の方へ歩き始める。

 

「お前さえいなければっ!!!!!」

 

急に背後から怒鳴り声が上がる。

俺は弾かれたように振り返り、目を見開く。

何と三上が俺に向かって拳を構えて走ってきていた。突然のことに固まってしまったが、すぐに我にかえりすんでのところで三上の拳を躱す。

 

「やめろ!!」

 

距離を取るために力を込めて突き飛ばす。三上が尻餅をついている間に距離を開ける。

 

「お前!!何がしたいんだよ!!」

 

急に殴り掛かられる(いわ)れもない。

三上の行動を問い詰めるように怒鳴る。

 

「お前さえいなければ彼女は俺を見てくれていたはずなのに!!!」

 

完全に頭に血が上り、我を忘れてしまっている。

そもそも俺がいなくても自分のことを見てくれるかどうかなんて分からないのに!

しかし、こいつは自分が深瀬と付き合っているという妄想を抱き、そのことを信じて疑わなかった。

 

こいつに何があったのかは知らないけど、多分何か勘違いするような出来事が起こったんだろう。この時期の男に多い、あれ?こいつ俺のこと好きなんじゃね?っていうやつだ。

そうして自分のことを誰よりも優れていると思っている三上はその考えを信じて疑わなかった。自分こそが正しいんだと思い続け、その結果今に至ってしまったのかも知れない。

 

あくまでも推測だけど。

 

「はははははははは!!!!!」

 

尻餅をついている三上が今度は急に狂ったように笑い始めた。

何こいつ、情緒不安定?

笑い狂う三上を(いぶか)しむ。

 

「いいさ!どうせもう心も体も僕のものになる!」

 

怒りで理性まで壊れてしまったのか、立ち上がった三上はわけのわからないことを一際大きな声で吠えると不気味な空気だけを残して屋上から走り去っていった。

 

1人屋上に取り残された俺は三上が去り際に叫んだ言葉を頭の中で反芻(はんすう)する。

 

『心も体も僕のものになる!』

 

どういう意味だ?ただの妄想が表面上に浮き出てきただけならいいけど......

どうにも最後の言葉だけは確信を持って言っていたようにしか聞こえなかった。

下らない、どうせいつもの嘘に過ぎない。そう思っているのに嫌な予感が張り付いて離れてくれない。

 

卒業まで残り1ヶ月を切っている。

このまま何も起きなければいいんだけど......

 

日が落ちて更に寒くなってきた。暗くなっていく街並みを屋上から眺める。その様子はまるで俺の何も起こるなという願いを嘲笑っているかのようだった。

 

***

 

時が流れるのは早いもので、今日は卒業式当日だ。

俺の嫌な予感は結局予感のまま現実になることはなく、今日という日を迎えることが出来ている。

でも、その何も起こらない時間こそがより一層不気味さを際立てていた。

 

辺りを見回すと、笑い合うクラスメートたちの姿で溢れている。

まあ、卒業っていってもエスカレーター式だし高校は同じになるだろうからな。涙を流す必要なんてどこにもない。

 

「八坂くん......」

 

「深瀬?どうしたんだ?」

 

浮かない表情をした深瀬から呼びかけられる。

いつの間に後ろに立っていたんだろうか。

 

「あのね、卒業式が終わったら話があるの」

 

「...分かった」

 

深瀬はそれだけ言うと元いた場所に戻って行く。

さっきまでの浮かない表情とは違う作った笑顔で友達の輪の中に入っていく。

 

シチュエーションだけ見たら告白の前みたいな感じだけどあの表情からその可能性はないと分かる。

親父さんのことはもう大丈夫って言ってたし、何か別の事か?

 

更に考えこもうとする。しかし、そのタイミングで先生が来てしまった。どうやらそろそろ会場に行かないといけない時間みたいだ。

一抹の不安を抱えながら、廊下に出てみんなと同じように並ぶ。

 

どうせこのあと真実が分かるんだから今考えても仕方ないことだよな。

その考えを最後に俺の意識は卒業式へと完全に向けられた。

 

 

 

「卒業おめでとう!みんな入学式でまた会おう!」

 

先生のその言葉を皮切りにクラスメートが教室から1人1人去っていく。

無事に卒業式が終わり、最後のHRも終わった。

これで俺に残されているのは深瀬との約束だけだ。

 

「八坂~?この後7時から打ち上げだっけ?」

 

能天気な桜庭の声。

あぁ、そういえばクラスの打ち上げとは別に仲良いやつで集まるのもあったっけ?

クラスのやつは明日、個人で集まるのは今日だ。

 

「そうだったな」

 

今日は泊まりを覚悟した方がよさそうだ。

男子数名が集まるというのは必然的に語り合う夜がくるというのと同義だからな。

 

「じゃ、またあとでな!」

 

「おう」

 

鞄を持って意気揚々と出ていく桜庭を見送り、深瀬との待ち合わせ場所へと急ぐ。

学校近くにある公園。そこそこの広さがあって、真ん中には大きな池と自然に囲まれている。歩道も整備されているため、ランニングにはもってこいな場所だ。

 

俺は深瀬の姿を見つけて、足が止まる。

 

―――何で三上と一緒にいるんだ?

 

遠目から見ても偶然居合わせたという風には見えない。でも、見ていてもどうせ理解なんて出来ない。

俺は意を決し、その場に近づく。

 

「深瀬」

 

三上の存在に動揺しているというのを悟られないように努めて冷静に装う。

 

「ふん。来たか八坂」

 

腕を組んで偉そうにしている三上が俺を一瞥(いちべつ)し、鼻を鳴らす。

しかし、その表情は機嫌がいいようにも見える。

 

「...何で三上がここにいるのかは知らないけど、話って何?」

 

その質問を待っていたと言わんばかりに得意げに笑ってみせる三上。

爽やかさとはかけ離れた薄気味の悪い笑顔。まるで人を貶めたといった感じの顔だ。

 

「僕が頼んでここに呼んでもらったのさ。―――なぁ?六葉(・・)

 

「...はい。――隼太様(・・・)

 

―――は?六葉?隼太様?

 

言っている意味が分からず俺の中で時間が止まる。

その様子が愉快でたまらないのか楽しそうに三上が喋り始めた。

 

「お前のおかげだよ、八坂」

 

「は?」

 

俺が何をしたって言うんだ?こいつにとって得になるような行動なんてしていないはずだ。

 

「六葉のお父さんが病気だって知ることが出来て、そして金や権力では人は買えないということを聞いて僕らは晴れて結ばれることになったんだ!」

 

「お前何言ってんの?」

 

益々意味が分からない。確かそう言ったのは覚えてる。だけど深瀬の親父さんのことを何でこいつが知っている!?

 

「おや?まるで理解出来ないって顔をしているな?」

 

俺は沈黙を貫く。

 

「仕方ない、懇切丁寧に説明してやろう!六葉のお父さんを手術するには多額のお金がかかった。そこでその話を聞いた僕がお金を出すことにしたんだ。ある条件付きでな」

 

病気のことまでは知っていた。でも金額のことまでは俺は聞いていない。

 

「色々聞きたいことはあるが、どうしてお前が深瀬の親父さんの病気のことを知ってんだよ!」

 

「だから八坂のおかげだって言ってるんだよ。あの日お前がこのことを聞いてくれたおかげで偶然聞くことが出来たんだからさ!」

 

こいつ......ストーキングでもしてたのか?

でも何でそれで俺のおかげで付き合うことが出来たってことになるんだ?

手術費を負担する代わりに出した条件......そしてさっきからの三上の発言。

 

「まさかお前っ!?」

 

「そのまさかさ!僕が代わりに出した条件は

 

―――六葉が僕の付き人兼恋人になること!身も心も全て僕に捧げ!一生僕に尽くすことだ!」

 

つまりこいつは深瀬の親父さんを人質に取り、そうして深瀬のことを金で買った、ということだ。

 

「...もう1つ聞かせろ。深瀬は......これから先自由があるのか」

 

「あるわけないじゃないか。だって恋人兼付き人といっても金で買われた奴隷なんだから。これから親に会うことも自分の家に足を踏み入れることもないだろうね。六葉さえ手に入れば死にかけた男とそのおまけの女なんて僕には必要ないし」

 

恐らく深瀬の両親のことを言っているんだと思う。

あまりにも身勝手な言い分に怒りが内側から爆発した。

 

「自分が何を言ってるのか分かってるのか!!!お前がやっていることは人助けでも何でもない!!人の幸せを奪おうとしてるんだぞ!!!!」

 

目の前に立っている男に激情を言葉に乗せて叩きつける。

 

「幸せを奪う?何を言ってるんだ。この条件を飲んだのは他でもない六葉だ。それを他人にとやかく言われる権利はない」

 

俺とは対照的に冷ややかに返してくる。

 

「深瀬を何だと思ってやがる!!」

 

「僕が上手くいくための道具だ。最初からそれ以外の感情は持っていない。六葉みたいないい女と付き合っていれば僕の株も上がるからな」

 

こいつが俺に絡んできていた理由が理解できた。......自分が欲しかった道具(おもちゃ)が盗られそうだったからだ。

だから執拗に深瀬と距離を置けと言ってきていたのか!こいつは!

 

「だから本当に感謝しているよ!八坂!」

 

その言葉に俺はハッとなる。

もし、自分が深瀬の親のことを聞かなかったら?

もし、三上に金や権力で人を買えるわけがないと言っていなかったら?

今回のことは起こらなかったんじゃないのか?深瀬の親父さんの手術はどうなっていたかは分からない。もっと悪い自体を引き起こしてしまったのではないだろうか。

 

深瀬の親父さんは助かった、でも深瀬とは二度と一緒に暮らせない。そして奴隷のように扱われる深瀬。

......俺が悪いのか?

 

「俺の......せい......?」

 

「そうだ!」

 

三上の肯定に力なく俯く。

 

「おっと、そろそろ時間だな」

 

そんな俺の姿に満足したのか、三上は言う。

 

「少々彼と話す時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

 

頭上から深瀬の淡々とした声が聞こえてくる。

 

「ん?あぁ、僕は今機嫌がいい。許可する。先に行っているからな」

 

三上の足音が遠ざかっていく。その場には力なく頭を垂れる俺と、静かにその場に立つ深瀬が残る。

 

「俺が君の人生を壊してしまったんだな......」

 

口からついて出るそんな言葉。

 

「ううん、違うよ。八坂くんは何も悪くないよ」

 

ここはいっそ罵倒して欲しかった。

深瀬の優しさが今は苦しい。

 

「話したのは私、三上くんの条件を飲んだのも私、だから顔を上げて」

 

そう言われても頭を上げることが出来ない。

 

「実はね、私も八坂くんを利用したんだよ」

 

「...え?」

 

深瀬の意外な言葉に思わず顔が上がる。

 

「私さ水族館に八坂くんを誘ったよね?」

 

「うん......」

 

もう1ヶ月以上経つんだな......

 

「本当はあの時三上くんがあまりにもしつこかったから彼氏でも出来たって噂が流れれば諦めてくれるかと思って八坂くんに声をかけたの。だからどうして誘ったのかって聞かれた時罪悪感を感じたんだ」

 

あの時一瞬だけ曇った深瀬の表情。

...そういうことだったのか。

 

「クラスの人に見られてなかったら、自分で噂を流すつもりだった。自分の保身のために八坂くんを利用しようとしたんだよ」

 

そんなこと、俺がしでかしたことに比べれば小さなものだ。

言ってくれれば協力をしたまである。

 

「だから私が原因なの、八坂くんは何も悪くないんだよ」

 

「でも――!」

 

「――それとね」

 

俺の言葉を遮って深瀬は何かを言おうとしている。

 

「約束、ここで使ってもいい?」

 

約束......敗者が勝者の言うことを1つ聞くこと。

1ヶ月前、結局何も思いつかないからと保留になったものだ。

 

「私のことは忘れて八坂くんはいつまでも人を笑顔にし続けて。そして八坂くん自身もずっと笑顔でいて。これが私のお願い」

 

一瞬自分の耳を疑った。

目の前にいるこの少女は今何て言った?

私のことは忘れて?

 

「無理だよ......そんな無責任なこと出来ない!」

 

「お願い」

 

短くも力強くあるその言葉にこれ以上何も言い返せない。

 

「じゃあね()くん」

 

彼女の声はそれきり聞こえなくなってしまった。

多分三上の後を追っていったのだろう。

 

最後に彼女は俺を優くんと呼んだ。そのことが深瀬が残した約束と一緒にずしりと心にのしかかる。

 

彼女がそうまで願うなら、俺は誰かを笑顔にし続けよう。自分も笑顔で居続けよう。忘れた振りをしよう。

 

自分の罪を否定するために優しい彼女の言葉に隠してしまおう。

そんな残酷な約束を守って見せよう。

 

それが――

 

 

―――俺の罪だから

 

当然クラスの打ち上げに深瀬が現れることはなかった。高校もどこか別のところに転校したらしい。

 

最後に姿を見たのはあの約束を交わした日。

それ以来俺は今日も約束を守り続けているままだ。

 

そして俺は.......音ノ木坂に来てμ’sになったんだ。

9人の女神を見守り続ける1人の少女との約束を守り続ける罪を隠した卑怯な道化。それが今の俺の姿だ。

 

-To be continued-

 




読み返してみて何だこれ?と思いました。
自分の才能の無さがすごく恨めしいです。

次回からは通常通りμ’sと少年の物語が描かれます。お楽しみに。


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約束の終わり

μ’s紅白出場おめでとうございます。
1年の終わりにテレビ、しかもあの紅白でμ’sの皆さんの姿が見られることが凄く嬉しいです。
その瞬間を最高の状態にするためにテスト赤点回避頑張ります!

あと今回無茶苦茶長いです。今まで最長です。



俺が抱えている過去。それを全部みんなに話した。

みんなはさっきからずっと俯いたまま、誰1人として口を開こうともしない。

 

...そりゃそうだよな、きっとみんなは俺に幻滅してるんだ。人を傷つけた過去を隠して自分だけのうのうと笑ってるんだから。

 

彼女たちの瞳には俺がかなり薄気味悪いものとして映っていることだろう。

出来ればこの場から今すぐ消え去ってしまいたい。

 

「話はそれで終わり?」

 

沈黙を打ち破る絵里の一声。

そう。これで終わりだ。物語の中ならもっとハッピーエンドっていうのが作れるんだろうけど、ここは現実。俺のしたことは変えられない。

 

「あぁ、これで全部だ」

 

再び静寂が訪れる。

もし俺が物語で言うところのヒーローだったなら、結末は変えられたんだろうか?

悪者からお姫様を助けることが出来て、そのままハッピーエンドを迎えられたらどれだけ報われるのだろうか?

 

「そう......さぁみんな、買い出しに行く当番を決めましょう!」

 

「はぇ?」

 

思わず変な声出た。ってそうじゃなくて!!

 

「何も言わないのか!?俺について!!」

 

そう言うと、絵里は心底不思議そうに目を(またた)かせる。

 

「何か言って欲しかったの?」

 

「そうゆう訳じゃないけどっ!!俺は――」

 

「――じゃあこれだけは言っておくわ、君は何も悪くない」

 

俺の声を遮って絵里が言う。

まるで小さな子供に言い聞かせるように、顔は笑い、声は優しく、その目には真剣さを宿している。

 

「でも......」

 

「あーっ!もう!!いつまでうじうじしてんのよ!!」

 

俺の煮え切らない態度ににこがガーッと吠える。

あまりの剣幕につい黙ってしまう。

 

「いい!?あんたは直接何かしたわけじゃない!!全部偶然でしょうが!それを全部自分のせいにするんじゃないわよ!!」

 

にこは俺に指を突き付けながらまくしたてる。

 

「にこっちの言う通り、偶々不幸が重なっただけや、自分を責めたらダメやで?」

 

希はいつもと同じかそれ以上に優しく笑っている。

 

「というわけでこの話はこれでおしまい!早く買い出しに行かないと日が暮れるわよ?」

 

絵里がパンパンと手を叩く。

それを機にみんなが顔を上げる。

 

「とりあえずお店の場所を知っているのは私だけだから......私は行くわ」

 

真姫が腕を組んで答える。

確かに店の場所が分からないと話にならないな。これ以上俺が何を言っても聞いてもらえそうにないので、俺のことは一旦頭の片隅に置いておく。

 

「あ!じゃあうちも行く!」

 

この合宿中、真姫のことをずっと気にかけていた希も当然の如く手を上げる。

 

「...あと2人ってところかしらね」

 

絵里が俺たち1人1人を見回しながら呟く。

 

「愛とかけまして荷物と解きます!」

 

凛が挙手をしながら発言する。何で謎かけ風?

こいつ自分が行きたくないだけじゃないか?

 

「...その心は?」

 

一応乗っかって聞き返す。

すると凛はむふーっと得意げな顔をする。

 

「重いものを支えるのは男の人の仕事でしょう!」

 

「上手いこと言ったつもりかよ!」

 

得意げな顔をしたままの凛にデコピンをお見舞いする。

何というか気遣われてるっていうのは分かる。どうせ行こうと思ってたから別にいいんだけどな。何か悩んでる自分がバカみたいに思えてくる。

ていうか俺みんなにちゃんと話したんだよな?みんなの様子を見てるとさっきまで暗い話をしていたというのが自分でも信じられないぐらいなんだけど。

 

「あと1人はどうする?」

 

絵里と同じように1人1人の顔を見回す。

 

「...」サッ(目を逸らす)

 

「...」サッ(目を逸らす)

 

「...」サッ(目を逸らす)

 

おいそこの3バカ、明らかに行きたくないアピールすんな。まあ、絶対こいつらならこうすると思ったけど。故に対策はしてある。

 

「別に行きたくないならそれでいいけど......そんなにここに残って鬼と一緒に課題をやりたいのか?」

 

「...」ふるふる(首を横に小刻みに振る)

 

「...」ふるふる(首を横に小刻みに振る)

 

「...」ふるふる(首を横に小刻みに振る)

 

課題という単語が出た瞬間、穂乃果、凛、にこの動きが寸分の狂いもなく完璧にシンクロする。ていうか何で無言なんだよ。分かり辛いんだけど。

 

「鬼とは誰のことを言っているんですかねぇ......」

 

「...!」ブンブン(首を全力で横に振る)

 

それだよ!その眼光が鬼って呼ぶに相応しい迫力なんだよ!もう自覚してるだろ!お前!

海未の眼光に縮み上がる。視線だけで人を殺せちゃうレベルだろこれ。底冷えするような海未の声から逃れるべく、俺は軽く咳払いをする。

 

「それなら私が......」

 

「私もお手伝いするよ?」

 

μ’sが誇る2大ふわふわ系天使の花陽とことりが控えめに手を上げる。

超いい子。

 

「いや、2人は次のライブで着る衣装を考えて欲しい。何かこう、海に来てるからいい刺激になっていいアイデアが浮かぶかも知れないだろ?」

 

「うーん......分かった、お言葉に甘えちゃうね。頑張ろうね花陽ちゃん!」

 

「うん!ことりちゃん!」

 

あぁ会話聞いてるだけで和むわぁ......この2人の声を聞きながら眠ればすごいいい夢を見られそう。

 

さて、残りは穂乃果と海未、絵里に凛ににこか。どの道海未が残れば課題、絵里が残っても課題を見てもらうつもりだから3バカが逃げる道は買い出し係しかない。

 

「ほ、穂乃果いつもお家で荷物とか運んでるから結構力あるよ?」

 

「あぁ!?穂乃果ちゃん抜け駆けはずるいよぉ!!」

 

何か始まった。しばらく観戦といくか。

 

「凜もいつもお母さんの買い物に着いて行くときに荷物持ってるから荷物持ちには慣れてるにゃ!」

 

「ちょ!?私それ言おうと思ってたのに!」

 

不毛な争いが続く。残念ながらアピールが被るのは仕方ない。早いもの勝ちだ。

 

「に、にこはぁ!にこは......くっ!」

 

「「はい!にこちゃん脱落~!!」」

 

何だこいつら、見てて面白いわ。

 

「ま、待ちなさいよ!!えっと......そうだ!いつも家で料理してるから新鮮な食材を選ぶことが出来るわよ!」

 

おぉ。ここに来て最有力候補が。新鮮な食材を選べるのはでかいぞ。

 

「あれ?にこちゃんさっき家には専属の料理人がいるから料理なんてしたことないって......」

 

ここでまさかのことりからのキラーパス。天然とは時に残酷だ。

 

「これからの時代アイドルは料理も出来ないと生き残れないのよぉ!!!」

 

「じゃあ審査に入りまーす」

 

にこの叫びをアピールタイム終了の合図にして、腕を組んで考え込む。

穂乃果は和菓子屋の娘で品出しとかするから力仕事には慣れてるっぽいっと。

凛は買い物に行く時にいつも荷物持ちをしているからそこそこ力がありそうっと。

にこは新鮮な食材を目利きすることが出来るっと。

 

今のとこ凛が1番弱いっぽいな......よし決めた。

 

「結果発表~!」

 

3バカの顔に緊張が走る。俺は1人1人ゆっくりと顔を見ていく。

 

「海未、行くぞ」

 

「「「え?」」」

 

「あ、私ですか?分かりました」

 

固まっている3バカをよそに準備を始める。

えーっと、財布財布......あ、携帯携帯っと。

 

「よし行くか、みんな」

 

「そうね」

 

「はい」

 

「せやね」

 

買い出し組が立ち上がり次々と玄関から出ていく。それに続いて俺も無駄に大きな扉に手をかける。そして扉を開き、夏特有のむわっとした空気を全身に受けながら振り返る。

 

「絵里、みんなにキッチリ課題やらせといてくれよ?」

 

そう言って俺は静かに扉を閉めた。

 

「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」

 

そして今この瞬間だけは(せみ)にも勝る大声を背中に受けるのだった。

 

***

 

太陽が海に沈み始めたため、昼間とは違い気温はそこそこ暑いといったところだろうか。少しばかり涼しくなっても歩けば汗が出てくる。しかし時折吹き付ける潮風がとても涼しいこの時間帯。

 

買い出し当番になった俺たち4人は真姫の道案内の元、目的地であるスーパーを目指して海沿いの道を歩いていた。真姫の別荘からだと大体10分以内には到着出来るそうだ。

 

俺の前方には希と真姫が話をしながら歩いていて、俺の隣には暑さを微塵も感じさせない表情をした海未がいる。

 

「なあ海未」

 

「何ですか?」

 

俺は太陽に背を向ける形で歩いている。そのためかこっちを向いた海未は眩しそうに目を細める。

やべえ......話しかけたはいいけどこれといって話題がない。ただ単に暇を持て余しただけだしなぁ......

 

「海未は俺のことどう思ってる?」

 

しかし何か言わなければと口を開いて出てきたのはそんな言葉。

 

「はい!?////」

 

あれ、これ聞き方ミスったかも。

沈んでいく夕日を顔に受けて赤くなっているがそれ以上に海未の顔は何故かそれでも誤魔化せないぐらいには朱に染まっていた。

 

「ごめんミス。俺のこと聞いてどう思った?」

 

どうしてこんなことを聞こうと思ったのかは自分でも分からない。わざわざ自分のマイナスイメージを聞いてどうなると言うのだろうか。

自分から死地に飛び込んで行ってどうするんだろうな?俺は。

 

「...その件に関しては優には特に何もありませんよ。強いてあげるならあなたは少々優しすぎです。だから自分の責任にしてしまおうとするのです」

 

「優しい......ねぇ」

 

人に対しての接し方なんてこれといって意識したことはない。自分から進んで優しくしようなんて普通は思わないはずだしな。

 

「"優"、という名前に恥じないぐらいには優しすぎます。...だからこそあなたを傷つけたあの殿方は許せませんが......」

 

くしゃりと海未の眉間に少しだけ(しわ)が生まれる。許せないと言っているのに三上に対しても未だに殿方などと丁寧に言えるのは海未の人徳と育った環境によるものだろう。

 

思ってはいけないことなのかも知れないけど、俺は嬉しかった。あんな話を聞いたあとでもみんなが普段通りの態度で接してくれることがどうしようもないほどに心の支えとなってくれる。

 

「...そう言えば今日の晩御飯は何にするんだ?」

 

このまま聞いているとどうにも涙が出そうだったので、咄嗟に話題を変える。

 

「...決めてない、ですね」

 

食材を買いながら買い物をすると目的のものが決まってないだけにかなりの時間がかかる。となるとスーパーに着く前にメニューを決めておくのが吉だろう。

 

「希ー、真姫ー、晩御飯何がいいと思うー?」

 

前方を歩く2人に向かって声を投げかける。

2人は同時に振り返ってくる。そのため少しだけ歩く速度が落ちた。

 

「うーんこの人数やからねぇ......カレーとかどうやろか?」

 

カレーか......確かに10人分の食事を1人1人に作るのは大変だしまとめて作れるカレーはいい案だと思う。

 

「...真姫もそれでいいかー?」

 

「...別に何でも」

 

特にこれといって意見はないのかチラリと俺を見てすぐに進行方向に視線が戻る。

 

「真姫は何かカレーって言うよりもビーフシチューとかの方が似合う気がする」

 

「何言ってるの?」

 

真姫は前を向きながら答えているため俺からは表情を見ることが出来ないが、声音で分かる。これ超呆れられてる。

こう言っちゃなんだけど、カレーは庶民、ビーフシチューはセレブって感じがするんだよな。ただの偏見だけど。

 

「カレーか......みんなは何か嫌いな食べ物とかあるー?」

 

普段なら好き嫌いするなと言いたいところだけど今は勘弁してやろう。

 

「うちはキャラメルが苦手かな......」

 

「私は炭酸飲料ですね......」

 

「...みかんね」

 

嫌いなものを話すだけあってみんなの顔が若干苦々しくなる。

 

「オーケー、その3つはどうやってもカレーには入れないから大丈夫だ」

 

ここにいる3人の心配は消えた。俺は特に好き嫌いとかはない。

あとは他のみんなか......一応確認しとくか。

携帯を取り出し、LINEでメッセージを飛ばす。

 

<何か嫌いな食べ物とかってある?>

 

すぐに既読の文字がつく。この速さは3バカの誰かだな......

恐らく課題から逃れるためにすぐに反応したといったところだと思う。

 

<ピーマン!>

 

穂乃果はピーマンか......付け合わせにサラダでも作ろうと思ってたから注意だな。

 

<お魚!>

 

凛は魚類?そこは猫でも譲れないのか......

 

<辛いもの!>

 

「カレーは辛くないとカレーじゃない!」

 

思わず叫んでしまう。ちょうど通りかかったお姉さんから2度見されたあげく変な目で見られてしまった。くそう......覚えてろよにこ!

 

「あなたは何をしているんですか......」

 

海未は少々恥ずかしそうにしながら俺との距離を開けていた。

悪いと思ってる。だから距離開けないでもらえます?他人に変な目で見られるよりもくるものがあるからさ。

 

<私は特にはないです>

 

花陽は好き嫌いはないらしい。好き嫌いしているやつに見習って欲しい。

 

<にんにくかなぁ......>

 

ことりはにんにくか。......嫌いなものにも女子力って感じるんだなぁ。

 

<のりと梅干かしら>

 

絵里はのりと梅干?それがなくなったらおにぎりは死滅する可能性がグッと高くなる気がする。まぁ塩むすびとか他の具が支えてくれるか。

 

これで全員、ならカレーで問題ないな。付け合わせのサラダもピーマンを抜けばいいだろう。

 

「見えてきたわよ」

 

メニューを決め終わるのとスーパーが視認出来るようになったのはほぼ同時だった。

さて......安く済めばいいんだけどな。10人分の食材なんて同時に買ったことがない俺は財布の中身を思い出し、少々心が痛くなってしまった。

 

***

 

グッバイ樋口(ひぐち)。こんにちは野口。

買い物を終えた俺は分裂して数は増えたように見えても金額的には減っている財布の中の紙幣を目にして心中で嘆く。

そして別荘への道を引き返している最中だ。日は先ほどよりも傾き、世界を更にオレンジに染め上げている。

 

「...10人分の食材って結構重いんだな......」

 

正直荷物持ちと支払いのためだけに買い出しに出たとはいえ、これが中々重量がある。ビニールが指に食い込んできてそれが特に辛い。

 

「大丈夫?」

 

希が俺の顔を覗き込んでくる。

近いって......目大きいなぁ。

 

「優、やっぱり私も持ちますよ?」

 

「いや、大丈夫だって。みんなは練習とか頑張ってるんだしこんなところで力使うべきじゃない。それに荷物を女の子に持たせるのは男としてダメだろ」

 

海未の申し出はありがたいんだけどな。優しさが身に染みるようだ。

 

「でも支払いはみんなですればよかったのに」

 

「どうせ持ってても本とかに消えていくものだ。ここで使わずいつ使う?」

 

ここぞとばかりにきりっとした顔をして見せる。

 

「なんというか......顔に汗かいてるせいで爽やかというよりも暑苦しいわね」

 

一言多いぞ。真姫。

 

歩く+荷物持ち+気温=汗をかく。

仕方ないだろ。

それに蝉の鳴き声が混ざって暑さに拍車をかけていた。1週間休むことなく鳴くことに命を費やすこいつらこそ歌手界の大スターだろ。そろそろ紅白からお呼びがかかるんじゃね?紅組アブラゼミ、白組ミンミンゼミとかな。いやー尊敬しちゃうなぁ......あーもううるさい静かにしろ。

 

暇つぶしと暑さを誤魔化すためにバカみたいなことを考えてみるが、結果はむしろ不快になっただけだった。

しかしこいつらはまだいい方だ。うるさいだけで害はない。問題は夜寝る時に耳元を(かす)めていく蚊だ。あれをされると眠気そっちのけでサマーウォーズの開戦となる。俺が叩くのはキーボードじゃなくて蚊だけどな。本当に勘弁してほしい。

 

あとは夏場の蛙な。この辺ではあまりお目にかかれないけど田んぼの近くとかに家あると夜中とかすごい合唱始めるからな。そう考えたら夏っていうのはただの睡眠キラーじゃねえか。騒音だらけだし、夜中暑すぎて何度も目覚めるし......ダメだ何か他のこと考えよう。

 

例えば蛍なんてどうだろうか。夜中に暗闇で光るあの姿は幻想的であり、その光景は思わず息することを忘れてしまいそうになる。もっとも俺が見た時は周りはカップルだらけで息をつく暇がなかっただけだけど......

 

ならば花火はどうだろう。夜空を彩る色とりどりの光。夏の風物詩でもあり大イベントだ。その派手さは目を惹きつける。あーでも俺の時は周りのカップルが花火じゃなくてお互いの顔を見つめ合いながらきゃっきゃうふふしてたんだっけな。その時はうるせえなぁ......見た目の派手さと音の大きさを楽しむだけなら雷でも見てろよこんちくしょうが。と思ったものだ。

 

あれ?俺の思い出周りのカップルに邪魔されすぎじゃね?何なのこれ?呪い?

 

プラスに考えようとしても腕にかかる重量と指に食い込むビニール袋の痛みと気温の高さと蝉の鳴き声が俺の思考にマイナスをかけていた。マイナスにマイナスかけたらプラスになるんじゃないの?それは数学だけか。

 

「あっ......卵買うの忘れた」

 

しばらく無言で歩いていたが、ふと買い物袋を見た時に声が出た。

 

「卵?カレーに入れるの?」

 

「いや、明日の朝のだ。さすがに朝からカレーは重いし......残すと持ち帰るのも面倒だからな......」

 

今から引き返せばまだ間に合うか......

 

「俺は卵買いに戻るから先に帰ってていいよ」

 

「それなら私もついて行きますよ。この道を帰る時1人だと暇になるでしょうし」

 

おぉ、話し相手になってくれるのか。

 

「うちらは先に戻ってるね?」

 

「暗くならない内に戻ってきなさいよ?」

 

「...真姫が素直だ」

 

正直ちょっと驚いた。根はいい子だと分かってはいるけどこんなにはっきりと言ってくれるなんて思ってもみなかった。この合宿の効果が出て来てるのか。

 

「べ、別に!ユウの心配なんてしてないわよ!食材が傷んだら大変だからよ!」

 

「こんな短時間で傷むわけないだろ......」

 

とは言えこれを持って戻るのも結構な労力だな......まぁいいけど。

 

「ならうちが1袋持って帰るわ」

 

ひょいっと手から1つ重さが消える。

 

「ごめん、正直助かるよ」

 

言葉と共に(きびす)を返した。

 

***

 

ユウが海未と一緒に卵を買いに行くのを見送ってから私は希と一緒に歩き出した。時折吹く潮風になびく髪を手で押さえる。

 

「真姫ちゃんは普段何をして過ごしてるの?」

 

合宿に来てからというもの希は何かあれば、いや......何もなくても私に話かけてくる。

本当に何を考えているのかが分からないわね......まぁいいか。

 

「そうね......大体は病院に顔を出してるか、勉強とか読書とかね」

 

「おぉ!さすがは真姫ちゃんやね~。ちゃんと勉強するなんて感心やん!」

 

希はオーバーリアクション気味に返してくる。

 

「別に......必要最低限のことをやってるだけ」

 

そう。別に特別のことじゃない。自分に必要なこと。だから本来ならこうしてみんなと一緒にアイドルをしていること自体が奇跡というものだ。

でも......もしアイドルをやっていなかったら、私はきっと今も1人で医者になるための勉強をしていたと思う。そうなれば凛や花陽ともこうして話すことなんてほとんど無かっただろうし、いつまでも真姫ちゃんなんて呼ばれることはなかったと思う。

だから本当は穂乃果たちがμ’sに誘ってくれたことで友達も出来て、諦めていたはずの音楽に触れられてとても感謝している。

 

もっと素直にならなくちゃいけないと思ってはいるんだけど......どうしても上手くいかないのよね......

こうして希が話しかけてくるのだって私のことを気遣ってくれているのも本当は分かってる。

 

「真姫ちゃんって趣味は何なん?」

 

ほら。私が冷たく返してしまったから、希にまた気を遣わせてしまった。

 

「それも別に普通の趣味よ。天体観測とか......写真とか」

 

「うちも星を見るのは好きや。前は南極でペンギンさんと一緒に流れ星見たっけなぁ」

 

希が冗談なのかよく分からないことを言い始めた。

 

「何て言うか......の、のぞ「おや?μ’sの......」え?」

 

誰よもう!折角人が勇気を出して名前を呼ぼうとしてたって時に!

 

希と向き合って話していた私は前方から歩いてくる人に気が付かなかった。それは希も同じみたいで顔が驚愕の色に染まる。

 

この人......ユウの中学時代の!

 

一気に空気に緊張感が含まれ始める。希も相手が誰なのか理解した瞬間顔が警戒の色に塗り替わった。

相手は何が面白いのかにこにことしてゆっくりこちらに歩み寄ってくる。その後ろにはユウが話していた女の子が表情を消した顔をして立っていた。

 

「嬉しいね。まさかこんなところで再会出来るなんて」

 

「うちらのファン?嬉しいなぁ」

 

以前希が警戒したまま白を切る。

その発言をどう取ったのかは知らないが、確か三上?とかいう男はまた一歩近づいてくる。

 

「ファンと言うか、マネージャー志望さ」

 

「生憎マネージャーは既に優秀な人がおるんよ。だから募集はしてないんや」

 

優秀なマネージャーという言葉が出た瞬間何がおかしいのか声を上げてその男は笑い出す。

 

「はははははは!!!八坂が優秀?面白い冗談だな!可愛くてユーモアがあるなんて益々あいつにはもったいないよ!!!」

 

今まで躱し続けてきた希の眉が一瞬だけピクリと動く。それでも笑顔を浮かべたままだ。

 

「やっぱりμ’sのマネージャーは僕にこそ相応しい。あんなクズに任せておいたらどんどん輝きを失ってしまうだろうなぁ......悪いことは言わない、僕をマネージャーにするといい」

 

「...うちもユーモアのある人は嫌いじゃないよ?」

 

希は笑ってはいるがその声音には好意なんて欠片も感じられない嫌悪感が滲み出ている。本当はかなり怒っているはずだ。

私も同じだから分かる。聞いていて不愉快だわ。話を聞いた限りこの男のしたことは最低のこと。それを棚に上げてどうしてユウをクズなんて言えるのかしらね。

 

「僕がマネージャーになれば一気にスターになれる。今何よりもμ’sに必要なのは知名度だ。金銭面でももちろんバックアップ出来る。無駄な努力なんてしないでも音ノ木坂を救うことが可能だ。悪い話じゃないだろ?」

 

何でこの男が音ノ木坂のことを知ってるのかは分からない。自分がいかに優れているかとかペラペラ語られても正直どうでもいい。

 

――でもこの男は今、私たちのことをバカにした。それは絶対許せない。

 

「ふざけるんじゃないわよ!無駄な努力ですって?あなたの下らないプライドなんかどうでもいい!でも......みんなでしてきたことは絶対無駄なんかじゃないわ!」

 

「真姫ちゃん......」

 

いい加減我慢の限界だわ!

 

「何もしないで救われるならそれは確かにいいことよ!でもそれは私たちがμ’sとして活動していなかった場合だけ!こうしてみんなで集まって走り出した以上あなたに廃校を救われてもそれはμ’sとして誇れないことなの!今までやってきたことが無駄になるなんて冗談じゃないわ!!」

 

これでもまだ言い足りない!

 

「大体あなたの場合は廃校を救ったヒーローという肩書きが欲しいだけ!私たちはあなたの評価を上げるための道具じゃない!そんなあなたがμ’sの努力を無駄って言ったり、ユウをクズって言うんじゃないわよ!!!!」

 

こんな自分のことしか考えてないような男にみんなのために一生懸命になれるユウをバカにされたくなかった。普段は頼りなくてみんなから振り回されてばかりだけど、この男よりは100倍ぐらいマシだ。

 

セリフをほぼ一息で言い切った私は肩で息をする。

大きく息を吸いながら相手の方をキッと睨み付ける。

 

すると突然相手の肩がプルプルと震え始めた。

 

「こ......この女ァ!!人が下手に出てればいい気になりやがって!!」

 

男は唇を戦慄(わなな)かせ、どんどん間合いを詰めてきて私の前にくると手を大きく振り上げる。

 

「真姫ちゃんっ!!!」

 

叩かれると思って反射的に目を(つむ)る。しかしいつまで経っても衝撃はこない。代わりに聞こえてきたのは希が私を呼ぶ声とべしゃっという音。

 

「うわっ!?」

 

そして男の悲鳴だった。

そっと目を開けてみると顔が黄色くなっている男とそれを呆然と見ている付き人の女の子、ホッとしたような顔をした希ともう1人。私の前に立つユウの背中が目に飛び込んできた。

 

***

 

「ん?希から着信?」

 

卵を買った俺は海未と一緒に帰路に着いていた。そんな時ポケットに入れたままの携帯が音を鳴らす。

 

何かあったのか?

 

怪訝に思いながら電話に出る。

 

『もしもし?』

 

呼びかけてみるも反応は返ってこない。仕方ないので耳に当てたまま待っていると携帯から誰かの声がする。

 

...この声、まさか!?

 

『悪い話じゃないだろ?』

 

誰の声か分かった瞬間......気づけば駈け出していた。

 

「優!?どうしたんですか!?」

 

後ろから足音と一緒に慌てたような海未の声が追いかけてくる。

 

「三上が希たちに接触した!!」

 

説明するのももどかしく海辺の道を全力で駆け抜ける。

もしかしたら何個か卵が割れてるかもしれない。

しばらく走っていると真姫たちの姿が見えてきた。

 

「こ......この女ァ!人が下手に出てればいい気になりやがって!!」

 

三上は激昂(げっこう)し、真姫に向かって大きく手を振り上げる。

俺は咄嗟に袋から卵を1つ取り出し、走りながら三上めがけて真姫を避けるような放物線を描くように全力で投げつけた。

 

「うわっ!?」

 

前方からべしゃっという音と三上の悲鳴が聞こえてくる。どうやら運良く当たってくれたみたいだ。

 

「...間に合ってよかった」

 

安堵の息を吐き、卵にまみれた三上を睨む。

 

「もし真姫、というかμ’sのみんなに手を出してたら俺は本気でお前を殴っていたと思うぞ、三上」

 

まあ殴ろうとした時点で俺の怒りは既に燃え盛る炎のようだ。未だに尻餅をついている三上を見下ろしながら言う。

 

「や、八坂ァ......この僕にこんなことをしといてただで済むと思うなよ!?僕はあの三上財閥の――」

 

「――隼太?何をしてるんだ?」

 

近くに車が止まったと思ったら中から1人のスーツを着た男が降りてきた。

 

「ははっ!!ちょうどいいところに来てくれたね!父さん!!」

 

どうやらこのスーツを着た男は三上の父親らしい。

その三上は味方を得て心底嬉しそうに笑う。

 

「この男が僕にいきなり卵を投げつけてきたんだ!」

 

尻餅をついたまま三上が俺を指差す。

まずいな......三上の父親ってことはあの三上財閥の社長ってことだ。俺なんて権力でいくらでもどうにでも出来るだろう。

三上もそれを期待しているのか完全に勝ち誇った顔をしている。

 

「...はぁ」

 

言葉を待っているとネクタイを緩めてため息をつき始めた。

 

「隼太......お前には失望した」

 

「...え?」

 

その言葉にはこっちも呆然となる。

三上に失望?どういうことだ?

 

「僕が何も知らないと思っていたのか?お前が過去にしたことだって知っている、だが僕はお前に自分の過ちに自分で気づいて欲しかった」

 

「父さん?何を言って......」

 

つまり......深瀬のことに気づいていた?

 

「と言っても気づいたのは最近だ。前から不信には思っていた。どうしていきなり自分で付き人を雇うなんて言い出したのか......六葉さん。今まですまなかった」

 

「......いえ」

 

少しだけ間を開けて深瀬は返事をする。

その心中は分からない。

 

「やっぱり僕たちはここで終わりだな......もうお前と母さんの身勝手に付き合ってられない。お前は母さんと暮らせ、母さんとは離婚させてもらう」

 

「そんな......嫌だよ!嘘だと言ってよ!父さん!」

 

「...お前はもう三上家の子じゃない、以上だ」

 

まるで道端の小石を見つめるような目で三上の親父さんは三上を見る。その目が全てを物語っていた。これは冗談なんかじゃないと。

 

「......」

 

それが分かっているからこそ三上は何も言い返せない。魂が抜けたように俯いて動かなくなってしまう。

 

「六葉さん。今更謝っても許されないことだと思う。隼太がしたことにもっと早く気が付いていれば......っ!」

 

頭を下げる。三上の親父さんは手をきつく握りしめ、歯を食いしばっている。

 

「...私は......これからどうすればいいですか?」

 

初めて深瀬に感情らしい感情が見える。

きっと困惑だ。様々な感情の中で今最も大きな感情。それが表面に出てきたんだ。

 

「...親御さんと一緒に暮らすべきだ」

 

深瀬が肩をピクリと揺らす。

 

「お父さんとお母さんと......一緒に暮らしてもいいんですか......?」

 

「もちろんだ。すぐにでも車を手配する。僕もご両親に謝罪しないと気が済まない。決して許されないだろうけど、せめてもの罪滅ぼしをさせてほしい」

 

三上の親父さんが話終えると深瀬は膝からゆっくりと崩れ落ち、顔を覆う。そして間もなくして嗚咽が聞こえてきた。

 

「お父さんとっ!!!お母さんとっ!!!また!一緒に!!暮らせるっ!!!」

 

そんな嗚咽混じりの叫びが涙と一緒に溢れて止まらない深瀬。俺はしばらくそれを見つめ続けることしか出来なかった。

家族に会わせないようにした三上に対する因果応報。彼はその一歩間違えば尊敬に値する異様な自尊心によって(むしば)まれ......結果、自らが家族を失った。

 

俺たちが関わっていなくてもいずれはこうなっていたのではないだろうか。そんな仮定の話をしても仕方ないのかもしれない。だけどこう考えずにはいられなかった。

 

しばらくして深瀬は泣き止んだ。三上の親父さんが手配した車が到着する。助手席に三上が乗せられる。

 

「ねえ......優くん」

 

深瀬は車に乗り込む前にくるりとこっちを向いてくる。

 

「ありがとね」

 

「...俺は何もしてないよ」

 

今回は本当に何もしていない。ただ時間が解決してくれた。

 

「そうじゃなくて......約束、守ってくれてありがとね」

 

「あぁ......」

 

大したことじゃない。深瀬が耐えてきたことに比べれば。

しばらく沈黙が続く。この時間が俺たちの間に出来た溝なんだ。

元々対して距離の近くなかった俺たちだけど、多分それも時間が解決してくれる。

 

「優くん、もしあの時私が優くんのことが好きだって言ってたらどうしてた?」

 

「多分断ってた」

 

考える間もなくそう答えていた。それでも多分というのが自分らしくて少し笑う。

 

「なんてね、冗談だよ」

 

深瀬もまた照れくさそうにはにかむ。

再び沈黙に包まれる。深瀬の親父さんが時計を確認しながら近づいてくる。どうやら時間のようだ。

 

「またね、優くん」

 

「あぁ、また」

 

彼女が初めて優くんと呼んだ時、じゃあねと別れの言葉を一方的に告げられた。それはもうきっと会うことがないだろうと思っていたからだと思う。

でも、今俺たちはまたねとお互いが言い合った。今度はまた会えると信じているから。

深瀬は車に乗り込んだ。

 

「君が八坂君か......優也さんは元気にしているかい?」

 

「父さんのことを知ってるんですか?」

 

もうこの程度のことでは驚かない。

 

「あぁ、優也さんには昔お世話になったんだ。......自己紹介が遅れてすまないね。僕は三上隼人、優也さんによろしく言っておいてくれないか」

 

「分かりました......1つ聞いてもいいですか?」

 

俺はこれから先起こり得る未来を想像して話す。

 

「なんだい?」

 

「三上はどうするんですか?」

 

放っておけば恨みを行動力にして、俺たちに害を加えにくるかも知れない。

 

「ふむ......最後の情けでしばらく生活に困らないよう妻に生活費を渡しておく。2人とも海外にでも行かせよう。そうすれば君たちに害が及ぶことはないだろう」

 

それだけ聞ければ十分だ。俺は無言で頭を下げる。

隼人さんはそれを確認すると車に乗り込む。すぐに車は動き出し徐々に遠ざかっていく。それは点となり消えていった。

 

俺が話を終えたのを確認して海未と真姫と希が近くにきた。

 

「時間を取らせてごめん、あと巻き込んでごめん」

 

「別にいいわよ......」

 

「せや、気にする必要ないで?」

 

「それより早く帰りましょう。みんなが待っています」

 

俺は短くあぁ、とだけ返し、歩き出した3人のあとを追った。

 

***

 

「...そんなことがあったの」

 

別荘に戻ると俺たちは先ほどの出来事を全て話した。俺たちと言っても俺はすぐに食事を作ることに取りかかったので話す方は真姫たちのに任せることになった。

 

語り終えてしばらくしてカレーのいい匂いが漂い始める。ご飯を炊くのは花陽に任せ、俺は付け合わせのサラダも作り終える。

 

お皿にサラダとカレーを盛り付けて、テーブルの上に運ぶ。

 

「じゃあいただきまーす!」

 

穂乃果の合掌を合図に各々(おのおの)がいただきますと手を合わせる。

うん、美味い。それはいいとして......

 

「花陽だけ何で茶碗に白米?」

 

1人だけ平皿ではなくカレーと別々の茶碗だ。しかも結構量あるっぽい。

 

「気にしないで下さい!」

 

「かよちんは大体いつもこんな感じだよ?」

 

お、おう。あんだけ食べて太らないって......栄養はどこに行って......あー。

視線が花陽の胸に到達した瞬間答えは見えた。

 

「ねぇ......ゆう君?」

 

穂乃果の低い呟きが俺の耳に届く。

まずい!花陽の胸を見てたことに気づかれたか!?

 

「穂乃果ピーマン嫌いって言ったじゃん!何で入ってるの!?」

 

どうやら気づかれていないみたいだ。安心した。

 

「それはピーマンじゃなくてパプリカだ」

 

「一緒だよ!色が変わっただけじゃん!」

 

「パプリカは甘いんだぞ?ピーマンとは違う」

 

厳密には赤く熟したピーマンだけどな。よく知らんけど。

 

しばらく談笑しながら食べ続ける。そうして全員が食べ終わる。

食べ終われば次は皿洗いだ。これは避けては通れない。

 

「じゃあ皿洗うから持ってきて水に漬けてくれ」

 

洗剤をスポンジに含ませ、泡立てる。

 

「あの、優さん。お手伝いします!」

 

花陽がひょこっと顔を覗かせる。何この小動物?どこのペットショップに売ってるの?

 

「そうよ。優くんにだけやらせるのは悪いわ」

 

その後ろから絵里が出てくる。

 

「穂乃果!少しは手伝いなさい!」

 

海未が穂乃果を叱りながら絵里の後ろから出てくる。

 

「ゆー君は少し休んで?あとは私たちがするよ」

 

ことりが優しく申し出てくれる。何この天使?どこの女神の使い?

 

「いや、気持ちは嬉しいんだけど......みんなは先に風呂に入っちゃってくれ。疲れてるだろ?」

 

男1人の俺はいいが、女子は9人。どう考えても早めに女子に風呂に入ってもらった方いい。かなり汗をかいてるだろうし、早く汗を流したいはずだ。

 

「その間に俺が皿洗いを終わらせておくよ」

 

どうやら俺がここを譲る気がないと言うのが伝わったのか、みんなは渋々とお風呂に向かっていった。

 

とはいえ洗い物も大した量じゃなかったため、すぐに終わった。あとはみんなが戻ってくるのを待つだけだ。

 

『うわー!露天風呂だぁ!!』

 

別荘に露天風呂!?改めてすごいな......

 

『別に大したことないわよ』

 

これが大したことないと言うのだろうか。

 

『かよちん洗いっこしよ!』

 

『うん!』

 

『お!ええやん!どうせならみんなでやらない?』

 

...俺耳塞いでた方がいいんじゃないか?

そんなに距離が離れてないのか、さっきから会話が丸聞こえだ。

 

『花陽ちゃんって結構お胸あるんだねー!』

 

『うわぁ......絵里ちゃんやっぱり......すごい!』

 

大丈夫......まだ耐えられる......俺の鋼のメンタルを舐めるなよ!?だから落ち着け!マイジュニア!

 

『にこちゃん肌綺麗だにゃー!!』

 

『ふふん、当然でしょ!』

 

『真姫ちゃんスタイルいいよね.....羨ましいな』

 

『花陽だってそんなに悪くないじゃない』

 

聞くのがまずいと思うなら耳を塞げばいいじゃないかと思うだろうが、それが出来る男は存在しない気がする。

 

『海未ちゃんはお胸、大きくなりましたか?』

 

『そんなにすぐに変わりませんよ!!』

 

『穂乃果ちゃんも食べてる割にスタイル良い方だよね~!』

 

『凛ちゃんは引き締まった体してるよね!さすがだよ!!』

 

声だけって言うのが余計に想像力を掻き立てる。耐えろ......俺!

 

『私はことりのバランスを取れた体がちょうどいいと思うけど......でもやっぱりすごいのは希よね』

 

『えりちに言われると自信出てくるやん!』

 

『希ちゃんたゆんたゆんだにゃー!』

 

俺はその会話が聞こえた瞬間靴を履いて外へと飛び出し夜空の下を全力で疾駆した。

鋼のメンタル?そんなもん頭に熱を持った瞬間溶けて消えて無くなった。やっぱ鉄は当てにならないわ。熱の前では無力。

 

 

頭を冷やして別荘に戻ったころ、既にみんなは風呂から上がっていた。

 

「あれ?ゆう君どこに行ってたの?」

 

「......ちょっと走りにな」

 

嘘は言っていない。

 

「そうなの!?すごい体力だね!」

 

「とりあえず汗を流してきてはいかがですか?」

 

「そうだな......真姫、風呂ってどこ?」

 

もう早く色んなものを流してしまいたい。汗とか会話を聞いた罪悪感とか。

 

「そこの廊下の突き当りを右よ」

 

服を鞄から取り出し、言われた通りに進む。

1人で露天風呂とか贅沢ここに極まれりだな。楽しみだ。

 

扉を開けると満点の空が見える。露天風呂から上がる湯気と少し濁った色のお湯。最高に絵になる光景だった。

 

体を洗いながら、今日あったことを考える。でもすぐに中断する。色んなことを考えすぎて風呂に入る前にのぼせてしまいそうだったから。それに疲れていたから。

体を洗い終え、湯船につかるとそんな思いが一気に吐き出されてきた。

 

***

 

風呂から上がるとみんなは布団を敷き始めていた。

何でも今日はもう寝て、明日の早朝から練習。夜に花火らしい。

 

......ここで寝るのか?

 

「俺部屋で寝ていいか?」

 

「ダメだよ!みんなで寝るの!」

 

何で俺が間違ってるみたいになってるんだ。

 

「まさか何かしようってわけじゃないですよね?」

 

「出来るわけないだろ......」

 

そんなことしたら明日の新聞の一角に少年の死体が海にて発見とか書かれちゃうだろ。

 

「もう電気消すわよ」

 

ピッと音がしたかと思うと辺りが暗くなる。

しばらくすると誰かの寝息が聞こえてきた。寝んの早いなおい。

そしてついでにバリボリという謎の擬音も聞こえてきた。

 

「...1回電気つけるわよ」

 

ピッと音がすると辺りが明るくなって......布団の中で煎餅(せんべい)をかじっている穂乃果の姿があった。

 

「お前何してんの?」

 

「お腹がすいちゃって......何か食べれば寝れるかなぁ......と」

 

そう言ってバツの悪そうな顔する穂乃果。

 

「ちょっとうるさいんだけど......」

 

にこがむくりと布団から起き上がり睨みつけてくる。

......空気が凍る。

 

「おいにこ。いや......化け物」

 

「化け物って何よ!?」

 

だって薄緑色の顔にきゅうりを貼ってるやつがいたらまず知り合いじゃなくて化け物の(たぐい)を疑うだろ普通。

 

「......にこちゃんそれ何?」

 

凛が恐る恐る尋ねる。顔はこれ以上ないぐらいに引き攣っている。

 

「何って......美容法よ」

 

「ハラショー......」

 

絵里の顔も引き攣っている。ていうか髪下ろすと更に可愛いな。何というか大人っぽさがグッと増してる。

 

「怖い......」

 

そうだよなー。普通その反応だよなー、花陽ー。

 

とりあえず無言で枕をにこに投げつける。2つの枕がにこの顔を直撃する。どうやら俺以外にも投げたやつがいるみたいだ。

 

「真姫ちゃんダメだよー!枕投げたらー!」

 

白々しい希の声が聞こえてくる。あっ犯人この人だ。それを真姫に擦り付けてる。

 

「面白そう!凛もやるー!ほらほら!かよちんも!」

 

「え?えぇ!?」

 

「よぉーし!負けないよ!」

 

次々と飛び交う枕の銃弾。

おいおい。明日早朝から練習だろ?でも超楽しい。

時に受け流し、時に受け止め投げ返す。

 

そして流れ弾が数発海未に当たる。......やばくね?

そう思ったのもつかの間、海未がむくりと起き上がる。髪で陰になって顔が隠れて表情が見えない。

 

「...何をしているのですか?」

 

ゾッとして背筋がピンとなる。俺の知り合いに阿修羅なんていなかったはずなんだけど......今までの中でトップ5入りするぐらいの恐怖が俺を襲う。

 

「ことり......海未ってもしかして......」

 

「うん......寝てる時に起こされると機嫌が悪くなるタイプだよ......」

 

その時俺の傍を超高速の物体が通り過ぎていき、後ろからへぶっ!という声がする。後ろを見るとにこが仰向けに倒れてダウンしていた。

 

「にこが......やられた......」

 

当たった人が気を失うレベルの枕投げなんてやりたくない。というか枕は普通音速にいかない。あと命の危機も感じない。

俺たちはどうやら悪魔を目覚めさせてしまったらしい。

 

「...上等だ!勝って生き残ってやる!!みんな!力を貸してくれ!」

 

俺たちは枕を持って中心にいる狂戦士(バーサーカー)に立ち向かっていった。

 

***

 

がさごそとちょっとした音で目が覚める。昨夜の戦いを何とか勝ち抜いた俺たちはそのまま崩れるようにして眠りに落ちた。

 

とりあえず体を起こそうと手を横に着こうとすると何かに当たる。

 

「っ!?」

 

手に当たった柔らかい感触。穂乃果の手だ。

近い近い近い!!!それに凄いいい匂い!

起こさないようにそっと体を起こそうとするとお腹の上に誰かの手が乗ってきた。

 

「んん......」

 

絵里が俺に抱き着くような形になった。

ふぉぉぉぉぉ!!??声が出そうになるのを必死にこらえる。

もう当たってるというか押しつぶされてるぞこれ!?

服から谷間が見える。違う!今お前は呼んでいないぞ!我が息子!もうちょっと寝てろまじで!!

 

何とか拘束から抜け出し、周りを見渡す。

真姫と希がいない。さっきの物音はそれか......

 

みんなを起こさないように静かに立ち上がる。多分外に2人ともいるはずだ。靴を履いて扉を開ける。まだ朝日が昇り始めて間もない時間だ。それでも夏なので寒くはない。新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。

 

砂浜まで歩くと2人が立っていた。何やら話しているみたいだ。

 

「おはよう。2人とも早いな」

 

声をかけると2人同時に振り向いてくる。

 

「おはよう。優くんも早いやん!」

 

「...おはよう、ユウ」

 

まあ音がしたから起きたってだけだ。いつもならまだ寝てる。

 

「希は......俺たちのことをよく見てるよな」

 

ふとそんなことを口にしてみる。

 

「...μ’sはうちにとって特別なものやから......それに可愛い子供のようなもの。みんなを見るのが楽しくて仕方ないんよ」

 

そういえばμ’sってつけてくれたのは希だったな。そう言った意味では本当に母親のようなものなのかもしれない。

 

「おーい!!」

 

後ろから響く穂乃果の声。どうやらみんな起きてきたようだ。

 

「じゃあみんな揃ったところで穂乃果、一言頼む」

 

「ラブライブ出場目指して!!頑張ろう!!」

 

ありきたりな言葉だが、今の俺たちにはどんな言葉よりも勇気を与えてくれる。

 

「ねえ希、絵里、にこ......ちゃん、穂乃果、海未、ことり、凛、花陽......あとユウ。...ありがとね」

 

真姫が俺たちの名前を呼ぶ。俺だけついでっぽいけど。照れくさそうに感謝の言葉を口にすると凛と穂乃果に囲まれてわいわいし始める。

 

「あの......優」

 

みんなの輪を離れて見ていた俺の傍に海未がくる。何か言いたげだ。

 

「どうかしたか?」

 

「えぇっと......今までお疲れさまでした」

 

聞くと海未は言い辛そうに口を開く。

 

「お疲れさま?え?俺解雇でもされるのか?」

 

「いえ!そうではなくてですね......」

 

「分かってる約束のことだろ?」

 

なんとなく空気で察した。

 

「分かってるじゃないですか......それだけです」

 

海未はみんなの元に戻っていった。

みんなの輪と海から覗く朝日を見ながら俺は思う。

あの約束をした日から、今日まで1年と約数ヶ月。俺はずっと約束を守ってきた。年だけとって結局はあのころから一歩も前に進んでいなかった。その場でずっと足踏みをしていただけだったんだと。

 

今日という約束の終わりの日を迎えて、ようやく......俺はきっと一歩を踏み出せた。そんな気がしている。

 

―To be continued―

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは東條希ちゃんと西木野真姫ちゃんです!」

真「今回長すぎじゃない?」

希「区切るっていう選択肢はなかったの?」

作「正直迷ったんですが......この切りのいい40話で合宿編を終わらせたいと思ったんです」

真「約18000文字よ?」

希「読者さんも読むのめんどくさくなるかもな......」

作「やってしまったという感じはあります......でもいかに退屈させずに読ませるかってことも大事なことだと思います!」

真「はぁ......バカね」

希「まあまあ!叩かれたらそれまでやし、読んでもらえることが作者さんにとっては嬉しいことなんや。今回は気合が入り過ぎたってだけで......」

作「そういうことです!では!次回も!」

真・希「よろしくお願いします!」


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サマーバケーションデートタイム!1年生編

更新遅くなってごめんなさい!
書こう書こうとはしていたのですが、どうにも筆が進まずこのようなことに......

一応ネタを考え続けてはいたんですけどね......


「よーし!今日の練習はここまで!」

 

 夏らしく熱を持つ屋上での練習が終わる。合宿から帰って来てからは毎日のように屋上での練習が行われている。もうすぐラブライブに出場出来るところまで来てるだけあって、みんなの気合の入りようもこの猛暑に負けない程熱いものだ。

 

「疲れたぁ!」

 

 元気が取り柄の穂乃果もこの日差しの中での練習は流石に応えるらしく、すぐに日陰に行って座り込む。

 

「暑いにゃー......」

 

 同じく元気が取り柄の凛も穂乃果の横に走って行き、壁を背にして水分を補給する。

 

「まぁでも明日から一応3日間の休みに入るわけだし、久しぶりにゆっくり出来そうだな」

 

 俺は汗をタオルで拭きながら日陰へと避難して、疲れを深いため息にして外へと送り出す。

 

 せめて涼しい風でも吹いてくれればこの暑さももう少し余裕を持てるぐらいに変わるのだろうが、そんな俺の思考を嘲笑うかのように熱風しか吹かない。これならばいっそ風なんて吹かない方がマシに思えるぐらいだ。

 

 夏休みも残すところ1週間。課題も終わらせてるし、明日からの連休は何をして過ごそうかな......。

 

「休んでる暇なんて本当はないぐらいだけど、休むことも大事なことよ」

 

 スポーツドリンクとタオルを手に持った絵里がいつの間にか俺の横で休んでいた。汗でシャツがピッタリと肌に張り付いていてボディラインが強調されている絵里に全力で意識がいかないようにする。

 

「ところでゆー君、3連休の中のどこかに予定は空いてる?」

 

 これまたいつの間にか隣に来ていたことり。汗をかいているというのにどうして女の子というものはいい匂いがしてしまうのだろうか。というか絵里もことりもいつ近づいて来たんだ?まるで忍者みたいだってばよ。

 

「ん?まぁ予定は空いてるな。どうかしたのか?」

 

 頬が赤くなってるのは暑さのせいなのか、瞳を潤ませ、ことりは意を決したように口を開く。

 

「それなら......デート、しませんか♪」

 

 なん......だと......?

 

 今デートって言ったか?暑さのせいで耳までやられたのか?もし今の言葉が暑さで起こった幻聴なら俺はきっと恨みのあまり暴れてしまうだろう。それもきっと暑さのせいだからな。俺は悪くない。

 

「ゆー君?」

 

 返事がない俺を見て不安になったのかことりは上目遣いで見上げてくる。

 

「......ごめん、ぼうっとしてた!いつにする?」

 

「えー!?ことりちゃんだけずるいよぉ!!私もゆう君と遊びたい!!」

 

 ことりとの会話が聞こえていたのだろう穂乃果が横から大声を上げる。

 

 あーもう近い!この人たち少々俺に対してガード甘すぎませんか?もっと気を遣わないととんでもないことになるぞ!......俺の理性が。

 

 それとなく穂乃果から距離を置きつつ俺は周りを見渡す。するとこちらをチラチラと見ていた花陽と目が合った。

 

「もしかして......花陽も?」

 

「は、はい......」

 

 急に名前を呼ばれ、びっくりしたのか肩をビクッとさせ、俯きがちに答える花陽。

 

「凛もかよちんたちと遊びたい!!」

 

 凛が花陽の後ろからひょこっと顔を覗かせる。

 

「待て、連休は3日間しかないんだぞ?......じゃあ穂乃果とことり、凛と花陽をセットにして日にちを分ける!これでいいか?」

 

 確認していると視界に映る金髪が落ち着きなくそわそわし始める。......おい、まさか......

 

「絵里?ひょっとして......」

 

「えりちが行くんならうちも行く!」

 

 そわそわしている絵里の代わりに希が手を挙げる。これで休日が3日潰れたわけか......いいんだけどね?うん。

 

「なら希と絵里がセットで......明日は1年、その次は2年、最後が3年だ。それでいいか?」

 

「真姫ちゃんも一緒に遊ぼうよ!」

 

 我関せずといった感じで髪を指でくるくるとしている真姫に凛が呼びかける。

 話が全然まとまらん......こうなったら仕方ない。

 

「もう全員で遊ぼう。1年生3人は明日、2年生3人は2日目、3年生3人は3日目だ。異論は認めない!」

 

「私もですか!?」

 

「私もなの!?」

 

「勝手に決めるんじゃないわよ!」

 

 海未、にこ、真姫がそれぞれ声を上げるが、知ったことか。

 

「ここまで話が肥大化したら誰が欠けても不公平だ。それぞれ行きたいところを絞っておいてくれ。9人分のプランを考える余力は俺には無い!」

 

「かっこ悪いのに言い切った感じが清々しくて逆にカッコよく感じるわね......」

 

 ほっとけ。9人分のプランなんか練ってたら夜が明けるだろうが。それぞれ好みも性格もバラバラなんだから......

 

「ことりもそれでいいか?」

 

「......うん」

 

 笑顔なのに複雑そうな顔してるんだけど......どうしたんだ?

 

「あの、私はお稽古があるんですが......」

 

「渚さんには俺から説明しよう。これで解決だ」

 

 こうして連休をフルに使ったデート?の計画が決まったのだった。

 ......小遣い足りるかなぁ。

 

 一抹の不安を抱えながらも実は結構楽しみだったりする。夏休みもわずか1週間、思い返せば練習の思い出しか残っていない。別に今の生活に不満があるわけじゃないが、少しぐらい楽しい思い出を残しておきたいというものだ。

 

 さてと......どんなプランを経てて来るのか楽しみだな。

 

 完全に男子と女子の立場が真逆な気もするが、今の俺は文字通り熱に浮かれてそんなことは微塵も気にならなかった。

 

***

 

 翌朝、聞きなれたアラームの音で目が覚めた。天気は快晴、今日も良い日になりそうだな。

 時刻は9時前、俺は朝食をとるために1階へと下りる。 

 

「お兄ちゃんおはよう」

 

 既に起きていた優莉が朝食の準備をしていた。リビングはパンのいい匂いと窓から入ってくる柔らかな朝の陽ざしに包まれている。いつもなら5時にはすでに朝練をし、この時間は学校で授業を受けているだろう。

 いつもは慌ただしい朝も今日はひっそりとしている。

 

 偶にはこんなのんびりとした時間も悪くないな。休日最高。

 

「ゆーサンおはよう!」

 

「おう、優莉も凛もおはよう」

 

 冷蔵庫から麦茶を出してコップに注いでから違和感を覚える。

 

 何だ?何が違った?

 

 俺は違和感を探るために起きたところから全て思い出していく。

 まず起きた。ここまでは普通だ。1階に下りてきてリビングに入って優莉と凛に挨拶を......

 

 そこまで考えて後方にあるテーブルに向かって思いっきり振り返る。

 

「何でいる!?」

 

 当然のように居座っている凛に思わず大声を出してしまう。

 

「かよちんと真姫ちゃんもいるよ?」

 

「え、えっと......おはようございます」

 

「やっと起きたの?」

 

 凛と同じくテーブル付近の椅子に腰かけた花陽と真姫がそれぞれ声をかけてくる。

 

「何で俺の家を知ってるんだ......」

 

「穂乃果ちゃんから聞いた!」

 

 ......なるほどな。

 

「で?何で家にいるんだ?」

 

「ドッキリ大成功!!」

 

 ドッキリというかビックリしたんだが......朝起きたらいきなり後輩の女の子が俺の自宅に!?そんなラノベみたいな展開なんてノーサンキューだ。実際はマジで心臓に悪い。見慣れた光景の中に見慣れないものが入ってくるだけで違和感しかない。

 

 しかしそんなことを延々と言ってても意味が無いので喉元まで出かけた言葉を麦茶と一緒に飲み下し、ため息として外に逃がす。

 

「折角だしご飯食べていくか?」

 

「いいの!?」

 

「凛ちゃん、それはさすがに迷惑だよ......」

 

「私はいいわ、家で食べて来てるから」

 

 凛と花陽は食べずに来たのか......念のため聞いておいてよかった。

 

「今更何人分用意するのも変わらないし、花陽も遠慮しなくてもいいよ。優莉も休んでろ、あとはやるから」

 

 とりあえずこれなら目玉焼きかスクランブルエッグだな。あとはトーストを焼いておいて......いや、ここはフレンチトースト辺りにしておくか。

 冷蔵庫から食材を取り出しつつ、ついでに飲み物を取り出す。

 

「飲み物は何がいい?オレンジジュースとかリンゴジュースとかあるぞ」

 

「オレンジジュース!!」

 

「あ、私はリンゴジュースを......」

 

 コップを3つ取り出してそれぞれに液体を注いでからテーブルにいる3人の前に出す。

 

「私頼んでないんだけど......」

 

 真姫にはミルクティーを出しておいた。何か1人だけ飲み物出さなかったら仲間外れにしたみたいだし、ドッキリの形とは言えお客様だからな。

 

 食材の下ごしらえも平行して行ったため、スムーズに調理を行うことが出来る。

 

 ......あっ。

 

「なあ、花陽は朝はご飯派っぽいけど......これで良かったのか?」

 

 白米に対して物凄いこだわりを持ち、好物も白いご飯と答えるぐらい白米愛好家の花陽にとって朝からパンを出すと言う行為は挑戦状を突き付けるに等しいものなんじゃ......。

 今更ながら自分の失敗に気づく。

 

「ううん、確かにいつもはご飯だけど......朝からお家に押しかけて朝食まで出してもらってるんだから、わがまま言ったらそれこそ迷惑だよ、だから気にしないで下さい!」

 

 天使の寛大な心とお言葉に全俺が泣いた。

 いい子過ぎるでしょ!?これはもう全身全霊をかけて美味しいものを作らざるを得ない......!

 

「お兄ちゃんが燃えてる......」

 

「えっと......優莉ちゃんもごめんね?朝から急に」

 

 そういえば優莉はみんなと話すのは初めてだったな。

 

「いえ、いつもはお兄ちゃんがお世話になっていますし......それにいつもお兄ちゃんと2人の食卓だから、こうして賑やかなのも久しぶりで楽しいです!」

 

 母さんは今1人暮らしで家におらず、父さんもこの時間は寝てるかどこかに出かけている。よっていつもは2人だけの物静かな食卓だ。静かと言っても普通に会話もするし、騒がしくないという意味だ。

 それに優莉は俺が来るまで大体1人で食事をしていたんだ。だからこんな空気が楽しいんだろう。

 

 俺も似たような感じだったし。母さん忙しいからな。

 

 俺がそんな感情に浸るのと、リビングに甘い匂いが立ち始めるのはほぼ同時だった。

 

***

 

「それで?最初はどこに行くんだ?」

 

 朝食後、時間にも限りがあるのですぐさま外に出る。

 俺は目的地も知らされてないため、3人に尋ねた。

 

「まずは映画を見ようってことになってるよ」

 

 映画か......そういえば最近は映画館に行って見ることが無かったな。テレビでたまにやってるものを見るか、DVDとかを借りて見るかばっかりだし。

 何気に映画で1番好きな瞬間は予告動画を見ながらポップコーンを食べることや本編が始まる前の暗くなる瞬間だったりする。これって俺だけか?

 

「何の映画?」

 

 再び3人に問いかける。

 

「着いてからのお楽しみです」

 

 なるほど、この映画の案を出したのは花陽なのか。てっきりアイドルショップにでも行くと思ってたから少し意外だ。

 そのまま談笑しながら歩く。人通りが増えてきたってことはもう少しのはず......って言ってるそばから着いたな。

 

「どの映画のチケット買えばいい?」

 

 建物の中に入り、人でごった返しているロビー。なんとか券売機の前に並ぶことが出来た。凛と真姫にはポップコーンの方に並んでもらっているため、隣にいる花陽に聞く。

 

「えぇっと......あっ!これです!」

 

 花陽の指の先に視線を投げる。

 どうやらスクールアイドルを題材にした青春群像劇らしい。

 

 なるほど......これならアイドルショップじゃないのも納得だ。

 

「はい、チケット」

 

 4枚分の内の1枚を引き抜き花陽の手の平に置く。

 

「ありがとうございます......今お金を......」

 

「いや、いいよ。ここは俺が持つ」

 

 財布からお金を出そうとしている花陽を止める。

 

「そういうわけには!」

 

 それでもお金を出そうとしている花陽と一緒に列から出て凛たちの方に向かう。

 

「いいって。チケットって結構高いしさ。それに後輩、しかも女の子に払わせることなんてあんまり好きじゃないし」

 

 さすがにポップコーン代までは厳しいかもだけど。

 

「はぅっ///」

 

 急に花陽が目を泳がせながら赤面しだす。

 

「どうかした?」

 

「な、何でもないよ!あっ!凛ちゃーん!!」

 

 俺がそう聞くと花陽は誤魔化すように凛たちを呼びに行ってしまった。

 何だったんだ?

 

 合流した凛たちからポップコーンを受け取りつつお金を手渡しながら入場待ちの列に並ぶ。

 その間にロビーの小型テレビでやっているCMに軽く目を通して内容をふわっと掴んでおく。

 

 なるほど......舞台は女子高。年々入学希望者が減っていく中、共学化の案が出されてある1人の普通の男子が試運転に伴いその女子高に転入したところから物語は始まるのか。それで1人の女の子がスクールアイドルを始めて仲間が増えていく過程で恋愛方面にも発展していくと。

 

 ......すごい既視感。何この映画?前にどこかで見たことあったっけ?

 

 人が流れていく列と一緒に思考も流す。そのまま劇場内に入り席に着く。

 俺は映画館の席は全体が見えるように大体いつも1番後ろ辺りの列の席を取る。前に人がいなかったらなお良し。でもスクールアイドルを題材にした映画が出来るなんてな......スクールアイドルの知名度も段々と上がっていってるってことだよな。

 

 なぜかちょっと誇らしい気分に浸りつつ、若干暗くなり始めた劇場内から徐々にざわめきが薄れていくのを肌と耳で感じ取る。

 同時に意識をスクリーンに集中し始める。

 すると隣の席からすぅすぅという微かな息遣いが聞こえ、肩にコツンという軽い衝撃と共に僅かな重さが加わった。スクリーンにいきかけていた意識を少しだけそちらへ傾ける。

 

......嘘だろ!?もう寝たのかよ!?

 

 視線の先にあったのはまだ本編が始まってもいないのに寝こけている凛の姿だった。

 肩に頭が乗ってる為、いつもよりも近い。

 微かに漂ってくる柑橘系の香りと時々かかる寝息で鼓動が忙しく動き回り始める。

 

 そのおかげであどけない表情で眠っている凛の顔から目が離せなくなる。

 恐らく平均以上に整った顔立ち。

 スッと通った小ぶりな鼻につやつやとした形のいい唇と長めのまつ毛。

 

 普段の賑やかな感じも寝ている時には息を潜める。

 それすらもミスマッチな魅力を感じる。

 

 俺は星空凛という少女の魅力を改めて再認識したのだった。

 

***

 

「あー!面白かったぁ!!」

 

 映画館から出るなり、凛は伸びをしながら大声で言う。

 

「何?夢が?」

 

 俺の言葉に凛は心外そうな顔をする。

 

「違うよ!ちゃんと途中で起きたにゃー!!」

 

 途中で起きた時点でダメだろ......でも確かに凛が起きたのは映画が始まって10分後ぐらいだったはずだからほとんど見ることが出来ていると思う。

 

「次はどこだ?」

 

 時刻はちょうど昼時といったところ、昼ご飯を食べるにはちょうどいい時間帯だな。

 

「次は凛の提案だよ!こっちこっち!」

 

 凛はそう言うと駅の方面に向かって歩き出す。

 どうやら少し距離があるらしい。

 途切れを知らない人の波をかき分けて電車に乗ると冷房の冷気が暑さを忘れさせてくれる。

 運よく空いていた席に座って一息吐く。

 

「結局どこに行くんだ?」

 

 凛が行きそうな所を脳内でピックアップしながら聞く。

 運動系とかだとボウリング、他に凛って言ったら......動物とか?

 

「何だと思う?」

 

 当ててみるにゃ!と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる挑戦的な凛を見て、思わず俺も口角が上がる。

 俺も結構な負けず嫌いらしい。

 

「ボウリングか動物園だろ」

 

 さっきあらかじめピックアップしておいた情報から有力候補2つを抜き出す。

 

「にゃっ!?」

 

 どうやらどっちかが当たりっぽいな。

 

「んー......動物園かな」

 

 何となくだけどそう思った。

 まだ昼も食べてないこの時間に体を動かすとは考えにくい。

 もしかしたら食べながらボウリングをするのかも知れないけど......大体は園内に食事が出来る施設のあるだろう動物園が俺の中で残った。

 

「はずれにゃ!」

 

 してやったぜという顔と外れてホッとしている顔を2つ同時に行う凛。

 器用だな......

 

「凛って動物好きそうだから動物園かと思ったんだけどな......」

 

「動物は好きだけど......凛が好きなのはネコだし、動物園にネコはいないにゃ......それにいたとしても凛はネコアレルギーだから触れないし......」

 

凛はガクッと肩を落とす。

 

「......そっか。よし!ボウリング楽しもうぜ!」

 

 これ以上は酷な話題だ。

 俺はそう思い、盛り上げる方向で話題を変える。

 好きな物なのに触れないとか何て残酷なことを......

 

「スコアで俺に勝てたらラーメン奢ってやる!」

 

 落ちた肩がビクッと跳ね上がり、それと同時に凛の顔がきらめく。

 

「本当に!?よーし!負けないにゃー!!」

 

 電車がガタンと揺れて停止する。

 

「あっ!降りないと!」

 

 どうやらこの駅らしく、俺たちは慌ただしく電車から降りる。

 移動と言っても一駅分程度だったみたいだな。

 

「早く早く!」

 

 ラーメンがかかってるとあって凛のやる気は全開みたいだ。

 すぐ近くに目的地のボウリング場を含む娯楽施設があり、駆け足でそこに入って行く。

 

「昼はどうする?」

 

 一応凛に続いてボウリング場に入って、レーンを借りながら後ろにいる花陽たちに聞く。

 

「そんなに激しい運動じゃないし、終わってからの方が良くないかにゃ?」

 

 貸し出されているシューズを借りながら凛が返してくる。

 

「そうだね。その方がお店が空いた時間に食べられるだろうし......」

 

 花陽も凛の隣でシューズを借りながら言う。

 

「そうね、人が多いと並ぶのも面倒だし」

 

 真姫は棒立ちで花陽と凛の横にいる。

 

「......真姫?シューズ借りないのか?」

 

 1人だけ見ているだけの真姫にそう問いかける。

 

「か、借りるわよ......」

 

 と言いつつも真姫の視線は泳ぎ続けている。

 ......もしかして?

 

「真姫ってこういう所来るの初めてか?」

 

「べ、別に!」

 

 あーうん分かった。その反応が全部物語ってる。

 

「凛。花陽。真姫にシューズの借り方を教えてあげてくれ」

 

 レーンを借りて自分自身もシューズを選びながら2人に指示を出す。

 そうしている間にも辺りにはパッカーンという小気味のいい音が響く。

 

 ボウリングするのも久しぶりだな。

 シューズを選び終わり、靴を履き替えてロッカーに入れながら雰囲気というものを楽しむ。

 

「まず玉を選んできてくれ。自分に合った重さのものだぞ」

 

 これ女の子にとっては少々重かったりするだろうからな......場合によっては腰を痛めかねないし。

 俺の指示で3人はそれぞれ玉を選びに棚に向かう。

 

 見た感じ、花陽と真姫が同じで凛がそれより1段階重めのやつっぽい。

 

「どうする?個人でもいいけど......初心者っていうか未経験者もいるからチームのスコアで勝負する?」

 

 でもそれじゃ俺と凛の賭けに真姫と花陽を巻き込むことになるか......

 

「凛はどっちでもいいよ!」

 

「でもチーム戦も面白そうだよね......」

 

 うーん......チーム戦で賭けは俺と凛だけってことにすれば問題ないか。

 

「じゃあチームでやろう。どう組む?」

 

 俺と凛は確定で別れるとして、あと2人をどうするか......

 

「ゆーサンとかよちんでいいんじゃないかにゃ?」

 

 凛が花陽と組まない方を選ぶなんて意外かも?

 

「まあそれでいいか」

 

 少々引っ掛かりを覚えるけど......納得してるならいい、よな?

 

「まずは凛から!えいっ!」

 

 綺麗なフォームで転がされた玉は吸い込まれるようにして中央のピンに当たる。

 しかし運悪く奥の両端が残った。

 

「これはプロじゃないと無理だよぉ!!」

 

 泣き言を言いながらキッチリと片方のピンを倒す。

 さすが凛だな。

 

「次は俺だな。しょっ!っと」

 

 そこそこの速度で中央のピンに当たってピンが一本だけ残った。

 これは楽にスペアが取れるな。

 

「うぅ......先手取られたにゃ」

 

 こうしてボウリング対決は幕を開けたのだった。

 

 

 

「よしっ!ストライク!」

 

 対決は終盤に差し掛かりスコアはほぼ同点。

 次の投球者である花陽が投げて、ラストが真姫だ。

 

「えいっ!......やったスペア!」

 

「おぉ!ナイス花陽!」

 

 これで真姫がスペアを取れば俺たちの負けだ。

 ここまで真姫は覚えたてというのもあり、あまりいいスコアを取れていない。

 花陽もあまり得意ではないらしく、俺と凛の双方がスコアを取ってカバーしあうという試合展開だった。

 

 でもここで花陽がスペアを出してくれたおかげで勝ちが近づいた。

 

「真姫ちゃん頼んだよ!」

 

「ま、任せなさい!この私にかかればっ......あっ!」

 

 真姫が転がした玉は中央のピンに当たった。

 しかし、凛の最初の時のように奥の両端だけが残ってしまう。

 

「ま、真姫ちゃん......」

 

「まだよ!見てなさい!」

 

 そう言って最後の投球を行う真姫。

 玉は片方のピンに当たって......その飛ばされたピンがもう片方の残ったピンを弾き飛ばした。

 

「ス......スプリット......」

 

 すげえ......初めて見た。

 

「や、やったわ!」

 

「真姫ちゃんすごいよ!!」

 

 負けたけど、楽しかったからいいか。

 

「じゃあ約束通りラーメン奢りだな」

 

「わーい!!やったぁ~!!」

 

 あまり夜に女の子を連れまわすのは良くないし、ちょうど今から昼食だ。

 だったら今から奢るのが1番早そうだな......

 忘れていた空腹が今更やってきて、俺はついお腹をさすった。

 

***

 

「美味しかったにゃ~!」

 

 結局凛だけじゃなく花陽と真姫にもラーメンを奢り、寂しくなってきた財布の中をチラッと覗いてから静かにポケットにしまう。

 凛は満足気に笑い、真姫は意外と悪くないわね。みたいな顔をしている。花陽は奢られることに納得がいっていないようだったけど、今はみんなと同じで満足そうだった。

 

 ......貯金を出して明日や明後日に備えないとな。

 最悪父さんから少しもらおう。しかしあの人マジで何の仕事してるんだろ?優莉は知ってそうだけど......

 

「最後は真姫か」

 

 今はちょうど15時30分。

 まだまだ日が暮れることはないだろう。

 真姫がどこで何をするのかは分からないけど、これなら外の場合も大丈夫のはずだ。

 

「真姫ちゃんはプラネタリウムだよね?」

 

「まあ......そうね」

 

 プラネタリウムにはさすがに行ったことがない。 

 あぁいう所ってカップルで溢れかえってるイメージしか浮かばないんだよな......

 俺は彼女なんて出来たこと無かったし、もし星に興味があっても男同士で入ってカップルに囲まれようものなら、多分その後に話すのは星のことではなくどうすればいちゃついてたカップルを星に出来るかという最低な内容となるだろう。

 

「真姫は星が好きなのか?」

 

 少し黒く染まった内面を出さないように聞く。

 

「似合わないとでも言いたいの?」

 

 皮肉気に答えてくる真姫。

 

「いや、そんなことない」

 

 単純に興味本位で聞いただけだ。

 真姫も本気で言ってはいなかったのか、軽く微笑むとくるりと(きびす)を返す。 

 

「真姫ちゃん待ってよー!」

 

 凛はたたっと駆けていき、真姫の隣に追い付くと並列して歩き始める。

 花陽はそれをにこにことしながら見守っている。まるで保護者だ。

 

 合宿以来、真姫はみんなとどんどん打ち解けているように見える。

 最初からグイグイいっている凛や穂乃果はともかくとして、他のメンバーには少々一線を引いていたように見えた。

 でも合宿から帰って来て、みんなの名前を自然と呼べるようになり、少しだけ素直になった気がする。

 

 まぁ、まだ照れ隠しも多いみたいだけどな。

 

「優さん?どうかしたの?」

 

 花陽の不思議そうにしている声が耳に届く。

 

「ん?何が?」

 

 どうしてそんなことを聞くんだろう?

 

「何だか楽しそうだなって」

 

 どうやら無意識の内に笑みを浮かべていたらしい。

 気を付けないと街中で急に1人笑顔になるとかやばい奴だと思われちゃうな。

 

「そりゃ楽しいからな」

 

 これだけ充実した休日を過ごすのは結構久しぶりだ。

 いつもは休日でも1人でゲームをしたり本を読んだりするだけだからな。

 

 ......これただのぼっちじゃね?

 音ノ木坂には男子生徒がいないから休日遊べる友達がいない。その為必然的に1人で出来るようなことに限られるというわけだ。

 

「えぇっ!?急に泣き出してどうしたの!?」

 

 笑顔だった相手がいきなり涙を流し始めたらこういう反応になるだろう。

 

「いや、目にゴミがな......」

 

 自分が置かれている状況を思い出し、悲しくなっただけだ。

 

「着いたわよ......って何してるのよ......」

 

 前方から呆れたような真姫の声。

 

 あぁ、もう着いたのか......意外と近かったんだな。

 

「気にするな、それよりも早く入ろうぜ。暑いし」

 

 チケットを購入する為に受付へ行き、4枚分を購入する。

 当然代金は俺持ちだ。

 

「何て言うか......ユウは将来確実に尻に敷かれるタイプね」

 

「俺もそう思う」

 

 どうにも俺の周りの異性は変わり者ばっかりでその為かどうにも頭が上がらな......って単に俺が女の子に対して弱すぎるだけか。

 

「今の時期だと夏の大三角形が見られるわね」

 

 今回は夏の星座特集らしく、あまり星に詳しくない俺でも知っているものが挙げられる。

 

「あぁっ!それ知ってる!えぇっと......確かあるたいるにべが......それと、で......でぶね?だよね!」

 

「おい、最後普通に悪口じゃねぇか」

 

 何ということだ。並び変えるだけで綺麗な星があっという間に汚い悪口へと変わったではありませんか。

 正しくはデネブだ。

 

「凛にはこの機会に覚えて帰ってもらいましょ......」

 

 真姫もさすがにこれを訂正するのは疲れると思ったのか、この後の講演に丸投げしていた。

 

 会場内に入ると席がたくさんあり、人もぽつぽつと座っていた。

 指定された番号に行き、腰をかける。

 講演が始まるまでしばらくの間は雑談していたが、辺りが暗くなり始めた為にすぐに口を閉ざす。

 

 そして満点の星空が映し出され、俺は感嘆のため息を吐く。

 チラリと横を見てみると凛も花陽も真姫の目にもキラキラとした夜空が映り込んでいるのが見える。

 反射して輝く瞳は頭上に見える星と同じく輝いていて、吸い込まれそうな感覚になった。

 

***

 

 その後はいい時間帯になっていた為、普通にみんなを家に送り届けてから、家に帰った。 

 明日もまたこんな風に楽しい1日になることを期待する。

 何となく部屋の窓を開けて、作りものじゃなく本物の夜空を見上げてみる俺だった。

 

―To be continued―

  




作「雑談のコーナー!今回のゲストは3人、1年生トリオです!」

凛「すごいざっくりと略されたにゃ......」

花「あはは......」

真「遅いわよ」

作「いや、本当にネタを考えてはいたんですけど......むしろ考えすぎて迷ってたといいますか......」

凛「例えばどんなの?」

作「本文にも出てきたボウリングと動物園で迷ったりしました、割と真面目に」

花「凛ちゃん体動かすの好きですし、動物さんも好きですもんね」

作「凛ちゃんは絶対動物は好きだと思うんですが......それなら花陽ちゃんの方が動物好きそうだなと映画の辺りを書き終えてから気づきましたね」

真「作中で凛が花陽とユウを組ませてたけど、あれにも何か意味があるんでしょ?」

作「そのことには優くんも違和感を覚えていましたが、詳しいことはあまり言えません。強いて言うなら花陽ちゃんのことを大事に思ってるんです」

凛「照れるにゃー!」

真「なるほどね」

花「えぇっと......」

作「まぁこの話の内容を覚えていれば、いずれ本編で分かる時が来ると思います!それでは次回も!」

まきりんぱな「よろしくお願いします!」


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サマーバケーションデートタイム!2年生編

あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!

正月だというのに夏休みの話を書いている朝灯です!

今回はタイトル通り2年生のターンです。
それではどうぞ。


 連休2日目。

 昨日と全く同じ時間に目が覚める。今日も快晴だ。

 

 今日は穂乃果たちか......

 

 ベッドから這い出て、ドアへと向かう。

 確か昨日は凛たちがドッキリとか言って家にいたんだよな......

 

 と考えつつもあくびをしながら階段を下りてリビングに入る。

 

「あっ、お兄ちゃんおはよう」

 

 優莉の声が鼓膜を揺らす。

 

「ゆう君おはよう!」

 

 ついでにバカでかい穂乃果の声が鼓膜を殴る。

 

「優莉も穂乃果もおはよう」

 

 挨拶もそこそこに冷蔵庫から麦茶を出してコップに注ぐ。

 

 ......また違和感を感じる。

 とりあえず、起きたところから思い出して......いや、もうそれはいい。

 

 昨日と全く同じ思考をしようとした頭を軽く二、三度振ってから麦茶を飲む。

 

「穂乃果......そのドッキリは昨日凛たちがやったぞ」

 

 種を明かす前に自分から答えを言うドッキリ潰しをしておく。

 きっと穂乃果は俺が何でここにいるのかと聞くと思っていたはずだからな。

 

「えぇっ!?そうなの!?」

 

「というかお前が俺の家を教えたんだからそのぐらい気づけよ」

 

 驚愕に目を見開く穂乃果にため息を吐きつつ一応ツッコミを入れておく。

 

「凛ちゃんがゆう君の家の場所を聞いてきたのってそういうことだったんだ......」

 

 穂乃果がいるってことは......まぁいるだろうな。

 再びため息を吐く。

 

「だからもう出て来いよ......この部屋のどこかにいるんだろ?海未、ことり」

 

 と言っても隠れてる場所ぐらいは見当がつく。っていうか誰かの足がカーテンから見えてる。

 

「あはは......おはよう。ゆー君」

 

「...おはようございます。優」

 

 苦笑しながらことり、何故かしかめっ面をしながら海未が姿を見せる。

 

「おはよう、海未。ことり」

 

 カーテンの後ろから現れた幼馴染2人にジトッとした視線を向けつつ、挨拶を返す。

 

「何故分かったのですか......気配は完璧に消せていたはずなのに......」

 

 海未の呟きが聞こえてきた。

 

 あの?ちょっと園田さん?姿見つからないように気配を消すとかどれだけ本気なんですか?

 俺暗殺でもされかかっていたんだろうか?

 そうなったら上手いことダイイングメッセージを残さないとな......

 

「優?何か言いたいことでもあるんですか?」

 

 海未が怪訝な表情を作って俺を見ていた。

 

 まさか遠回しに遺言は聞きますよって言われているのか? 

 くそっ!まだ俺にはやり残したことがっ!

 ならせめてこれだけは言わせてもらおう......

 

「死ぬ前に......せめて......彼女が欲しかった......」

 

「何を朝からバカなことを言っているのですか......」

 

 まぁ、冗談はここまでにしとくか。

 海未の視線が痛いし。

 

「海未なら朝から押しかけるなど迷惑になります!って言って止めそうなものなのによく参加したな?」

 

 そのことを指摘すると海未はバツの悪そうな顔になり、申し訳なさそうに口を開く。

 

「いえ......私も最初は止めていましたが......あぁなってしまった穂乃果はとても頑固ですから......せめてその意志の強さを少しでも他のことに回してくれれば助かるのですが......」

 

 海未のお小言に穂乃果は視線を逸らして耳を塞いでいる。

 

 穂乃果も穂乃果だけど、お前途中からノリノリだったじゃん。

 きっとやると決めてしまったからには手は抜けなくなったんだろうけどさ......まあこれが長所にもなって短所にもなることがあるから一長一短ってところかな。

 

 ことりはむしろこういうことは楽しんでやりそうだし、穂乃果とことりの2人に頼まれたら海未でも断れなかったんだろうなぁ......まるで作詞を頼んだ時みたいに。

 

「とりあえず何か食べる?朝食作るよ」

 

 多分何も口にしていないだろうと思い、凛たちと同じように朝食を振る舞うことにした。

 

「いいの!?わぁーい!!ゆう君のご飯美味しいから楽しみだよ!」

 

 バンザイをして窓から見える太陽みたいな眩しい笑顔を浮かべる穂乃果。

 

「穂乃果!朝から押しかけた挙句に朝食をごちそうになるつもりなのですか!?」

 

「いや昨日凛たちにも作ったし、ことりも海未も遠慮するな。作る側としては穂乃果みたいに喜んでもらった方が断然嬉しいしな」

 

 その言葉が決め手となったのか遠慮気味にしていたことりと海未もイスに腰を下ろす。

 

「穂乃果はパンだろうし、ここはサンドイッチとかでいいか?海未は和食って感じがするけど」

 

「私の家の場合は日によって変わりますからそれで大丈夫ですよ」

 

 へぇ...そうなのか。

 

「ことりもサンドイッチでいいか?」

 

 言いつつも既に袋からパンを出そうとしていた手を一旦止めて振り返る。

 

「うんっ♪大丈夫だよっ♪」

 

 ...めちゃくちゃ笑顔だな。

 何でこんなに機嫌がいいのかは分からないけど、この笑顔に恥じないものを俺は作って見せる!

 

「お兄ちゃんがまた燃えてる......」

 

 おっと、また表面上に出てたか。

 

「優莉ちゃん、雪穂がいつもお世話になってます!」

 

 聞こえてくる会話につい耳を疑ってしまった。

 

 あの穂乃果がお姉ちゃんしてるだと!?

 いつもは雪穂ちゃんに世話かけてばかりの穂乃果が......

 あーでも穂乃果は意外と礼儀とかしっかりしてるんだったな。

 

「いえ、私いつも雪穂には助けてもらってばかりで......それにこちらこそお兄ちゃんがいつもお世話になっています!」

 

 このしっかり者が私の自慢の妹です。

 これで中学3年生、実は普段の海未と絵里クラスにしっかりしていると思う。

 

「本当にもう優には世話をかけられっぱなしで......」

 

「ごめんなさい......うちのお兄ちゃんが」

 

 おかしくね?

 何で俺が共通の敵みたいになってんの?

 

「そうそう、穂乃果もいつもゆう君に振り回されててね?」

 

「しれっと嘘を吐くな」

 

 本当にこいつは......

 

「嘘じゃないよ!ねっ?ことりちゃん?」

 

 ことりを味方につけようとするなよ!?汚いぞ穂乃果!

 

「そ、そうだね......(色々な意味で)......」

 

「もういいや、優莉、皿出すの手伝ってくれ......」

 

 穂乃果に強要されたとはいえ、ことりにそう言われてしまうともうこれ以上は何も言えない。

 

 かと言ってここでこれ以上この話題を続けていても俺が色々と言われるだけなので優莉に手伝いを頼むことで早々に話題を打ち切る。

 八坂優先生の次回作にご期待ください。

 

 話ながらも手は動いていたので、パンが焼けるいい匂いとスクランブルエッグとベーコンが焼ける音が目の前のフライパンから聞こえ始める。

 

 あぁ、飲み物何がいいか聞くの忘れてた。

 ...とりあえずサンドイッチ出来てからでいいか。

 

 俺は考えつつもコンロと一緒にそこで考えるのも止め、静かに皿へと具材を乗せるのだった。

 

***

 

「最初の予定は?」

 

 特別何もないまま朝食を済ませ、まだ太陽による猛暑が襲ってきていない外へ出る。

 

「映画だよっ!」

 

 穂乃果からその言葉が聞こえた瞬間、思わず足を止めてしまう。

 

 ...映画?まさか昨日見たアレじゃないよな?

 嫌な予感がレーシングカー並のスピードで頭の中を走り出す。

 

「...何の映画?」

 

 しかし、不安な表情を出さないように努めながら一応違うかも知れないという希望を抱く。

 

「ん~......着いてからのお楽しみっ♪」

 

 ことりさん、大変可愛らしい笑顔だと思うのですが......今は不安材料にしかならないです。

 

 しばらく歩いていると昨日も見た建物のシルエットが見えた。

 今もなお頭の中の警報は鳴りやまない。

 

 人混みの先にある券売機の前へと着いて、恐る恐る口を開く。

 

「それで......どの映画だ?」

 

「んーっと......あっ!これだよ!」

 

 穂乃果の指の先を目で辿る。

 

 ...分かってたさ、どうせ昨日見たやつと同じだろうなってことは!

 背中を嫌な汗が伝っていったが、汗が出たのは決して暑さのせいじゃないんだろう。

 

「この映画って私たちのことみたいですよね......って優。どうかしたのですか?」

 

「いやちょっと過去を振り返った気分になってただけだ」

 

 昨日のこととか、音ノ木坂に転入してきた時のこととか。

 本当に自分の過去を見ている気分だ。

 

「噂だとかなり評判いいんだよね、この映画!ゆー君はこの男の子は誰とお付き合いすると思う?」

 

「えぇっと......どうだろうなぁ......どの子も違った魅力があるだろうしなぁ......」

 

 目をキラキラと輝かせながらことりが聞いてくる。

 俺は不自然にならないように上手く誤魔化す。

 

 ごめんな......もう結末まで分かってるんだ......。

 

 俺に出来るのはせめて穂乃果たちが不信に思わないように振る舞うだけだ。

 ひとまずチケットを4枚購入して、それぞれに手渡す。

 

「とりあえずポップコーンとか飲み物いる人は買いに行こうぜ」

 

 列から抜け出しながら、また別の列を目指す。

 しかし、進もうとするとくいっと俺の袖を誰かが引いたため足が止まる。

 

「待ってください、まだチケット代を渡していません」

 

 海未の言葉にことりと穂乃果も続いて財布を取り出そうとする。

 

「別にいいよ、昨日凛たちにもそうしたし......俺が好きでやってることなんだから」

 

「そうはいきません!それなら優のお財布の中身は余計に寂しいはずです!」

 

 まあ普通に貯金崩したし、今日はまだそれなりに余裕はある。

 父さんはこういう話題とかは協力的だからいつもより多めにお金もらえたし......

 

「んー......じゃあいつもかけてる迷惑料だと思ってくれ」

 

「ですが......いえ、分かりました......」

 

 俺がどうしてもお金を受け取る気はないというのが伝わったのか、海未は納得はしていないという顔をしながらも渋々と引き下がってくれた。

 

 毎回こうやって俺がお金を払うごとにその分を渡そうとしてくるのはありがたい。

 むしろ奢られることが当たり前と思っているやつはこういうことすら言ってこない。

 そっちの方が俺は嫌いだ。

 

 ならお金を払った分を素直に受け取ればいいじゃないかと思うだろうけど、これがそんなに簡単な気持ちじゃないんだよな......

 乙女心は男には分からないと言われるけど、結局のところ、男は単純で分かりやすいと言われてもその実、女性も男の気持ちはあまり理解出来ていないものだ。

 

「ほら、早く買う物買って劇場に入ろうぜ」

 

 背中を押して進もうと思ったけど海未の場合セクハラとか言って殴ってきそうなので肩を軽く押して先を促す。

 

「穂乃果は飲み物だけでいいですよね?」

 

 レジ前の列に並んでいる間に買う物を決める。

 するとなぜか海未が穂乃果に対して飲み物だけでいいかと聞き始めた。

 

「えぇっ!?私もポップコーン食べるよ!?」

 

 むしろ真っ先にポップコーンの入れ物が空になりそうだしな。

 

「あなたは上映中に大体の確率で眠るじゃないですか」

 

 何の為に映画館にお金を払って見に来てるんだろうか......

 

「途中からちゃんと起きるよ!」

 

 寝てる時点でアウトだ。

 全く凛といい、穂乃果といい......

 

「それに今回はゆう君もいるし!」

 

「俺のことを歩く超高性能型目覚まし時計だとでも思ってるのかお前......」

 

「さらっと自分のことを超高性能と言いましたね」

 

 言葉のあやだ。

 歩いて喋って自分のことを起こしてくれる目覚ましを高性能と言わずになんて言うんだよ。

 

「とにかく!穂乃果もポップコーン買うからね!」

 

 もうお好きにどうぞ。

 余ったら俺が処理すればいい話だし。

 

 それぞれが欲しい食べ物や飲み物を購入し、すぐに劇場内に入る。

 ことりの言うように評判は結構いいのか、劇場内にはかなり人がいた。

 いつものように1番後ろの列、自分が買った番号のイスに座る。

 

「むーっ......私ゆう君の隣がいい」

 

 席順としては奥からことり、俺、海未、穂乃果になっていたのだが、急に穂乃果がそんなことを言い出した。

 

「仕方がないじゃないですか、そのチケットを真っ先に取ったのは穂乃果です」

 

 今もなお、ふくれっ面のままの穂乃果を海未が(さと)しにかかる。

 

 まったく......本当に子供みたいだな。

 笑ったり、拗ねたり......表情がころころと変わる様は見ていてまるで退屈する気がしない。

 

「穂乃果、早く座れよ。映画が始まるぞ?」

 

 横目で穂乃果を見つつ、携帯の電源を切る。

 すると海未がため息を吐いた。

 

「分かりました。では席を交換しましょう。それでいいのですね?」

 

 穂乃果が座る予定だった席に海未が座る。

 

「何で急に席変えようと思ったんだ?」

 

 小声で問いかける。

 海未はチラリと俺を一瞥(いちべつ)し、視線をスクリーンに戻しながらふっと苦笑する。

 

「考えてみれば、席を変えれば穂乃果の枕にならずに済むと思っただけですよ」

 

 あー納得。

 

「だから寝ないよぉ!」

 

「静かにしろよ」

 

 耳元でボリュームに気を遣いながら叫ぶ穂乃果をバッサリと切っておく。

 

 さて、そろそろ始まるな。

 今回は昨日とは違う場面に注目しながら見てみよう。

 

 

 

 

 

 

 さて、いよいよクライマックス。

 主人公が自分の思いを自覚し、ヒロインのところに行き、告白。

 そしてお互いの思いが通じ合ったところでキスをしてエンディングだ。

 

 しかし、今の状況を説明しよう。

 ちょうどキスシーンに差し掛かった映画。

 

 俺の右隣ではことりが頬を手で押さえながらうっとりしている。

 対して左側、穂乃果は宣言通り起きていて、真剣に画面を見つめているが、問題はその奥。

 

「あぁぁ......若い男女が......そ、そのようなことを.......」

 

 映画を見ないように手で顔を覆い隠しながらも指のすき間から確認するようにしている海未がいた。

 

 こいつキスシーン苦手なのかよ......恋愛映画見れないじゃん。

 というかどうやったらこんな純粋になるの?

 でも渚さんがあの性格だからなぁ......それなら海未はむっつりということになるな。

 普段から俺たちがいないところでポージングとか練習してるわけだからただの妄想家ってだけかもしれないけど。

 いや、ここは乙女チックと評しておくことにしよう。

 

 エンディング曲が流れ始めるのが聞こえた俺は残っていた飲み物をストローで吸い上げた。

 

***

 

「ここが穂乃果の行きたかった所?」

 

 映画を見終わり、昼食も食べて、穂乃果の提案した場所に来た。

 見上げた先にあるのは大きな建物、さっきの映画館よりも大きい。

 

「そう!水族館!」

 

 何故か思い出深いように感じる場所だ。

 

 そういえば......小さい頃、この4人で行ったっけな。

 俺たちが来たのはここじゃなかったけど、何か懐かしい。

 

 当然あの頃よりは身長が伸びている。

 だからこそ、時間の流れを感じ、少しだけ切なくなった。

 

「ゆう君の中学の時のお話を聞いたら思い出しちゃって......どうしても行きたいなって思ったの。場所は違うんだけど......」

 

 笑顔のまま振り向く穂乃果。

 その顔は大人びて見えて、心臓がドクンと音を鳴らす。

 

「でも水族館に来たらお魚が食べたくなっちゃうんだよねー!」

 

 鼓動が通常のリズムに戻った。どうやらさっきのはただの不整脈だったようだ。

 成長しても結局穂乃果は穂乃果だな。

 

「中に入ろうぜ。いつまでもここにいたら干物になりそうだ」

 

「干物も美味しいよね!」

 

「いい加減食べ物から離れろ」

 

 ていうかさっき昼食べたのにまだ食べ物の話するのかよ......

 この腹ペコ娘...いや、略して腹ぺ()だな......

 

 そんなくだらないことを考えている内に視界が青に包まれる。

 一面水の世界。魚が通る度に影が回りを通過していく。

 いつか誰かと見たことがある景色だ。

 

 誰かって言うのは変か......今ここにいるわけだし。

 

「うわぁ......綺麗だねぇ~!」

 

「えぇ......まるで自分も水の中にいるみたいです」

 

「うん......すごいね!」

 

 幼馴染3人は青の世界の中でただじっとその風景を見続ける。

 俺自身も3人と変わらずに、今は......こうし続けていたいと願う。

 もう少しだけ......この場所で、こうしていたい。

 柄にも無く、そんなことを思ってしまうような景色。

 

 何がそう考えさせるのか、この3人といるからなのか、それともこの景色がそうさせるのかはとてもじゃないが理解出来そうにない。

 

「おっ!イルカのショーだってさ!早めに行って前の方の席で見ようぜ!」

 

 真っ直ぐな廊下を進んでいくと、途中に看板を見つける。

 

「えっ!?ほんと!?見たい見たい!!」

 

 穂乃果が子供のようにはしゃぐ。

 

「全く......あまりはしゃがないで下さい。周りの迷惑になりますから」

 

「だってさ穂乃果」

 

「えぇ?ゆう君のことでしょ?」

 

 声の大きさ的にお前しかいないだろ。

 

「優のことです」

 

「俺だけ!?」

 

 どんな採点基準してんの!?

 明らかに穂乃果の方が声大きかっただろ!

 

 不服に思いながらもショーが行われる場所へ行くと、まだ開演前なのに結構席が埋まっていた。

 それでも前方の席で空いている場所を見つけ、そこへ急ぐ。

 

「水がかかっちゃいけないから携帯とか機械類はビニール袋に入れた方がいいな、それかかからない場所に移動させる」

 

「私配ってるものをもらってくるね」

 

 ことりがたたっと駆けていき、そして戻ってくる。

 

「ありがとう......って3枚だけ?」

 

 戻ってきたことりの手には3枚だけしか袋は無かった。

 

「あ、う、うん!あと3枚しか無かったみたい!」

 

「そっか......じゃあ俺は遠慮しとくよ。3人で使っ――」

 

「――良かったら一緒に使いませんか?」

 

 3人に袋を譲ろうとするとことりが俺の言葉を遮る。

 

「けど......いいのか?」

 

「うん!もちろんっ♪」

 

 じゃあ、ここはお言葉に甘えることにするか。

 

 ことりが差し出してくれている袋に鞄ごと入れる。

 続いてことりも自身の鞄を袋に入れて、袋を膝に抱えた。

 

(えへへ......ゆー君と一緒♪)

 

「何か言ったか?」

 

「ううん?何も言ってないよ!」

 

 気のせいか。

 

 そうこうしていると派手な水しぶきと一緒にイルカが登場する。

 背中には飼育員が乗っていて、イルカがステージへと近づくと、乗っている人がステージへと足をつける。

 それだけで会場は拍手で一杯になり、これから先への期待度も増す。

 

「やーん♪イルカさん可愛い♪」

 

 ここはお前の方が可愛いよと言った方がいい場面だろうか......

 言わないけど。

 

 ばしゃんという派手な音で意識が音のした方へ向く。

 それから多彩な芸で観衆を沸かせ、イルカは去っていった。

 

***

 

「ショッピングって言っても何買うんだ?」

 

 イルカのショーを堪能したあとはことりがやりたいと言ったショッピングをしに近くのデパートに入った。

 まぁ女の子は服とかアクセサリとか色々あるんだろうな。

 

 それが楽しみでもあるんだろうけど。

 男なんてファッションに拘らなくても生きていけるし。

 夏なら上はTシャツを着て何かを羽織って下はジーパン。

 冬なら上は長袖のシャツを着て、パーカーとかコート、下は長ズボン。 

 大体はこれで乗り切れる。

 

「まずはお洋服かなぁ?」

 

「そうか、時間はあるし、ゆっくり見ても大丈夫だぞ。そして荷物持ちは任せろ」

 

 グッと力こぶを作る動作をする。

 

「わぁーい!男の子だね!」

 

 穂乃果が言いながら腕にぶら下がってくる。

 

「痛い痛い痛い!?バカか!お前は!!」

 

 人はさすがに無理だって!!

 

「穂乃果?まさかまた太ったのですか?」

 

「えぇ!?そんなことないよ!!」

 

「いや、いくら女の子でも人はぶら下げられない。せめて小学生から軽めの中学生が限度だ」

 

 穂乃果がぶら下がった関節部をさすりつつ、フォローをしておく。

 

「ゆー君がいるならたくさんお買い物しても平気だね!」

 

 こんな笑顔が見られるなら、俺はいくらでも荷物を持てるような気がする。

 何ならそのままことりをお持ち帰りしそうなまでだ。

 

 ...そしたら俺は警察にお持ち帰りされることになるか。

 あっぶねえ、行動に移す前に気が付いて良かった。

 

「海未も何か買ったら言えよ?荷物持つから」

 

「いえ、私は鍛えていますから。そしてこのことも鍛錬の一環です」

 

「それでもだ。お前は女の子、俺は男。こういうのは俺の仕事だ」

 

 普段表舞台に立って廃校を阻止するために頑張ってるのは俺を抜いた9人だ。

 だからこういうところだけでも何か力になりたい。

 

「...ふぅ。分かりました。お願いします」

 

 呆れたように微笑む海未。

 

「ゆう君ゆう君!アイス食べたい!」

 

「まず服見るって言ってんだろうが」

 

 人の話を聞きなさい。

 

「犬かお前は。少し落ち着けよ。あと太るぞ」

 

「大丈夫だよ!2つしか食べないから!」

 

「はい、それで既に(わん)アウト。犬だけに」

 

...超くだらねえ。

 

「0点ですね」

 

 ごもっともだな。

 自分でもくだらないと思ったんだから。

 

 他愛の無い会話すらも楽しみつつ、エスカレーターで上を目指す。

 更にどうでもいい話だけど、俺はエレベーターが苦手だ。

 あの動くときの無重力感がどうにも慣れない。

 なので大体エスカレーターか階段を使うことが多い。

 

「可愛いお洋服がいっぱい~!」

 

 目の前にたくさんある服を見て、ことりが歓喜の声を上げる。

 

「おー......普段女性用の服なんてほとんど見ることないから新鮮だな」

 

 いつもならこの辺はチラッと見つつ、通りすぎるだけだからな。

 

「ゆう君!何か穂乃果たちに服を選んでみて!」

 

 これは......世の中のカップルの8割(俺調べ)がやっているであろう、彼氏が彼女の服を選んであげるシステム!?(命名たった今)

 

 まずこれには男のファッションセンスが問われる。

 自分の趣味と合わないようなものを選べば幻滅され、逆に気合が入り過ぎてもドン引きされる......至極理不尽なものだ。

 ピンポイントかつ、特に気負ってもいないように見せるのが高評価へと繋がるはずだ。

 

「うーん、ファッションとか詳しくないし......そういうのはことりに聞いた方が良くないか?」

 

 ただし選ぶとは言っていない。

 時には逃げることも必要だ。

 

「私が選んでもいいんだけど......ゆー君の意見も聞いてみたいな!(服装の好みとか分かるかもしれないし...)

 

 しかし回り込まれた!

 

「あんまり期待はするなよ?」

 

 ことりに頼まれたら断れるわけがないだろ!!

 

 近くの服を物色しつつ、どんどん奥へと移動していく。

 夏らしい服がいっぱいあって正直どれを選べば正しいのかが全然分からない。

 

「じゃあこの夏用のカーディガンでいいんじゃないか?」

 

 色のバリエーションも豊富だし......3人でお揃いにも出来るな。

 値段もお手頃価格。

 

「分かった!試着してみるね!」

 

 穂乃果がオレンジ色のカーディガンを掴んで近くの試着室へと向かう。

 

「ことりと海未も行ってこいよ。待ってるからさ」

 

「うん♪行こっ!海未ちゃん!」

 

「い、いえ!私は......引っ張らないで下さい!ことりぃ!」

 

 ことりが白と青のカーディガンを持って海未を引っ張っていった。

 どうやら俺はこの服を選ぶというミッションに成功したようだ。

 

 ...今度優莉にファッションについて聞いてみよう。

 

「じゃじゃーん!お待たせ!ゆう君!」

 

 最初に穂乃果が戻ってくる。

 

「結構似合うもんだな」

 

 肩出し型のオレンジ色のカーディガンは穂乃果のイメージとピッタリ合っていた。

 

「本当!?じゃあこれ買ってくるね!」

 

「あっ!おい!」

 

 似合っていたとはいえ、もっと良く似合いそうな服を自分で選べばいいのに......

 

「あれ?穂乃果ちゃんは?」

 

 ことりとその後ろに隠れた海未が戻って来た。

 

 穂乃果と色違いの白色。

 ことりは何を着ても似合いそうだな。

 

「穂乃果ならさっきの服買いに行ったよ。それより何で海未はことりの後ろに隠れてるんだ?」

 

 顔を真っ赤にして俯く海未を見て不思議に思い聞いてみる。

 

「うぅ......露出が多くて恥ずかしいです......」

 

 肩しか出してないじゃん......

 

「海未ちゃんはミニスカートは慣れたけど、肩はまだ慣れてないんだって」

 

 苦笑気味のことり。

 

「えっ?何?部位によって慣れがあるのか?」

 

 なんて不便な体をしてるんだ......

 

「殿方の前でこのような格好......あぁ、お母様、お父様......私は汚れてしまいました......園田の跡取りとしては相応しくありません......」

 

「そこまでかよ......」

 

 悲観的になりすぎだと思うんだけど?

 

「海未は肌が綺麗だからむしろ見せないのがもったいないと思うぞ」

 

「な゛っ!?は、破廉恥です!セクハラです!」

 

 赤かった顔が怒りか羞恥かで更に赤くなる。

 

「バカやめろ!そういうことを大声で言うな!ほら店員のお姉さんが電話片手にこっち見てるだろうが!ごめんなさい!誤解です!!」

 

 数分後、なんとか落ち着きを取り戻したものの、大いに疲れるショッピングになってしまった。

 

***

 

 荷物を持って穂乃果とことりを家まで送った。

 すっかりと日が暮れて、2つの長い影が道に伸びている。

 俺と海未のものだ。

 実は最も家が近いのが俺と海未、お互いに無言で角を曲がる。

 

 すると海未の家が見えた。

 

「優。ここまでで大丈夫ですよ。ありがとうございます」

 

 丁寧にお辞儀をして見せる。

 

「おう。それにしても本当にどこも行きたい場所はなかったのか?」

 

 今回は穂乃果とことりの行きたい所に行っただけだ。

 なんでも、『私はいいですから穂乃果とことりを優先してあげてください』とのことだった。

 

「はい。現に楽しかったですから」

 

 なら、いいか。

 

 お休みと口を開こうとすると、誰かの携帯が着信音を奏で始めた。

 

「あっ、すみません。私ですね......お母様から?」

 

 携帯を耳に当てる海未。

 

『はい、海未です。......えぇっ!?もうお家の前にいるのですが!?」

 

 何か慌ててるな、渚さん何言ったんだろ?

 

『えっ?優ですか?はい、いますけど......』

 

 何でそこで俺の名前が出てくる。

 

『分かりました、代わります』

 

 えっ?

 

「優、お母様がお話をしたいとのことです」

 

 海未はそう言って携帯を差し出してくる。

 受け取るのを一瞬ためらったが、ここは素直に電話にでておくことにした。

 

『もしもし、八坂です』

 

『お久しぶりですね、優さん』

 

 控えめながらもよく通る声が携帯を通して聞こえてくる。

 

『はい、それでどうかしたんですか?』

 

『実は海未さんの分の夕食を用意していませんので2人でどこかに食事に行ってほしいのです』

 

『はい!?』

 

 どういうことだ!?

 

『今日は元々海未さんの分を用意するつもりはありませんでした。優さんから連絡があった時に決めていたことですよ』

 

『えぇ!?いや!何でですか!?』

 

 とんでもないこと言ってるぞこの人!?

 

『海未さんのことですから穂乃果さんやことりさんばかりに気を遣って自分のしたいことを出来ないでいたのでしょう?だからですよ』

 

『...その通りです。分かりました』

 

『お願いしますね』

 

 電話口から渚さんの声が途絶える。

 ひとまず海未に携帯を返す。

 

「というわけらしいな......」

 

「えぇ......すみません、うちの母がご迷惑をおかけしました......」

 

 まぁ、驚きはしたけど渚さんの言ったことも正しいのは確かだ。

 

「じゃあ、海未が行きたい所を決めてくれ」

 

「優が決めてくれて構いませんよ」

 

 また人を優先する......。

 

「海未、今日はまだ終わってない。だからお前が行きたい所に行こう」

 

 まだ......今日はまだ2年生の日だ。

 

「...分かりました。では行きましょうか」

 

「あぁ」

 

 2つの影は沈み始めた夕日に向かって歩き始めた。

 

―To be continued―

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは2年生の3人です!」

海「凛から聞いていた通り雑な紹介ですね」

こ「あはは......」

穂「皆さんあけましておめでとうございます!」

全『おめでとうございます!』

作「今回の話も結構考えるの大変でした......」

穂「水族館のお話もあったよね」

作「あれは書いている途中にどうせ水族館にするならそこに昔来たことがあることにした方が思い出深いなと思い、全力で後悔しました」

海「と言うと?」

作「優くんの過去で深瀬さんと一緒に水族館に行った際、ここに来たことがあると言ってしまっているので歴史改変は出来ませんでした」

こ「確かに中学生の頃のお話と違ってきちゃいますね」

作「なので思い出を残したまま、先に進むことにいたしました」

穂「ていうか海未ちゃん!ゆう君と2人で食べに行くなんてずるいよ!」

こ「そうだよ!海未ちゃん!」

海「あれはお母様が勝手にしたことですよ!」

作「はいはい、ここで揉めないで下さい。あとで優くんを問い詰めればいいじゃないですか」

こ「ふふっ♪おやつだね」

穂「むーっ......」

海「これに関しては優も何も悪くない気がするのですが......これを書いたあなたが悪いと思います」

作「おっと、そろそろ時間ですね、今年も!」

穂・海・こ「「「よろしくお願いします!」」」


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サマーバケーションデートタイム!3年生編

遂にお気に入り100人越えました!
読んでくれている皆さま本当にありがとうございます!

実はお気に入りが100人に到達することを密かに目標としていたので、大変嬉しい限りです!
(つたな)い小説ですが、これからもどうぞよろしくお願いします!




 連休3日目。

 今日は一段と暑くなりそうな予感がする。

 余計にうるさく感じる蝉の鳴き声のせいだろうか?

 

「今日は3年生だし......少しは落ち着いた感じの休日になればいいんだけどな」

 

 ...さすがにもう家には来てないよな?

 

 考えすぎかも知れないけど、2日も続けてドッキリを仕掛けてきたバカが2人いたからな。

 でも希ならやりかねないよな?

 何かとんでもないものを仕掛けたりしてそうなんだけど......大丈夫だよな?

 

 起きたばかりの脳をフル回転させ、軽くあくびを1つ吐く。

 

 考えていても仕方ないか......いざ!戦地に(おもむ)かん!

 

 謎の気合を入れ、静かに階段を下りる。

 リビングから物音がするのが聞こえてきた。

 優莉の立てた音であって欲しい。

 

「優莉、おはよう」

 

 ドアを開けるとイスに腰かけているマイシスターの姿が目に入った。

 いつものように挨拶をしながら周囲に視線を飛ばす。

 

 人影は無し......どうやら今日は本当に誰も来てないみたいだな。

 

 ホッと胸をなで下ろし、もはや習慣となってしまった冷蔵庫から麦茶を取り出すという行動に移る。

 

「うん、おはよう。お兄ちゃん」

 

 サクッと食パンをかじる良い音をさせながら優莉は挨拶を返してくる。

 

「今日は誰も来なかったんだね」

 

「毎日数名ごとに違う女の子が家に来てたらご近所さんから変な噂をされて白い目で見られることになるだろうし......本当さすが3年生だ」

 

 別に家に来られて迷惑というわけじゃないけど、この間近所のおばさんから彼女9人いるの?って聞かれてしまい耳を疑ったばかりだからな。

 おかしいだろ。彼女いるの?って聞かれるならまだしも9人いるの?って......

 あとどこからそんな情報が流れたのかが知りたいところだ。

 穂乃果と海未とことりは近所に住んでるからまだ目撃情報があっても不思議に思わないけど1年と3年のことはどこから知られたんだよ......怖えよ、おばさんの情報網。

 

「おっと、そんなことよりも早くご飯食べて準備しないとな」

 

 今日はお茶漬けとか食べたい気分かなー......などと思っていると来客を知らせるチャイムの音が響く。

 

「誰だろうね?」

 

 優莉が食パンを咀嚼しながら首を傾げる。

 

「さぁ?はーい!今出まーす!」

 

 玄関まで急ぎ、鍵を開けてドアを開ける。

 

「どちら様です「優くんおはよう」......か?」

 

 ドアの前に立っていたのはμ’sが誇るスピリチュアルガールこと東條希。

 

「朝からごめんなさい」

 

 我が音ノ木坂学院の生徒会長を務めるモデルと言っても通じるスタイルの持ち主綾瀬絵里。

 

「何で私まで......」

 

 そして我が音ノ木坂学院のアイドル研究部部長を務めるアイドル大好き矢澤にこその人だった。

 

「とりあえず.....何で俺の家知ってるんだよ......」

 

 思わず額に手を当てて天を仰いでしまう。

 個人情報筒抜けすぎだろ......

 

「ふふっ、カードがうちにここやって教えてくれたんよ」

 

「怖え!スピリチュアルパワーまじ怖え!」

 

 いつかこの人は世界を掌握する気がしてならない。

 

「と言うのは冗談や。みんなに教えてもらったんよ」

 

「希が言うと冗談に聞こえないんだよ!」

 

 この3日の中で1番のドッキリを受けた瞬間だったかも知れない。

 とはいえ、いつまでも家の前で立たせておくわけにもいかないな......

 

「とりあえず入ったら?朝食ぐらい出すよ」

 

 来てしまったものを今更どうこう言っても仕方がない。

 

「うちらはえりちの家で食べてきたんよ」

 

「じゃあ飲み物だけでも出す」

 

 この時間帯はまだ涼しいといってもそれなりに喉は渇くからな。

 こまめな水分補給をしておかないと体調に影響出るかもしれないし。

 

「優くんは紳士やなー。ねっ?えりち?」

 

「どうしてそこで私に振るのかしら......?お邪魔します」

 

 2人の掛け合いを見ながら、俺もあとに続く。

 

「にこ、入らないのか?」

 

 仏頂面をしたままのにこは玄関の前から動こうとしない。

 

「私はここでいいわよ」

 

 顔と違わずのそっけない態度で答えてくる。

 

「何で?」

 

「このスーパーアイドルにこにーが男の家に上がり込んだなんてスキャンダルを「はーい、更に1名ご案内!」ってちょっと!!話は最後まで聞きなさいよ!!!」

 

 めんどくさかったのでとっとと肩を押して家の中に入れる。

 するとぶつくさと言いながらも観念したのか、渋々と靴を脱いで廊下に上がる。

 

「いつも亜里沙と遊んでくれてありがとね、優莉ちゃん」

 

 リビングに戻ると優莉がすでに飲み物を配り、絵里たちと話し始めていた。

 

「いえ、亜里沙といると毎日が楽しいですから!」

 

 片手間にその会話を聞きながらにこの分の飲み物を用意する。

 

「にこー、お前コップとジョッキと湯飲みどれがいい?」

 

「あんたバカじゃないの!?普通にコップよ!!」

 

 準備ついでにちょっとしたボケを入れるとキレのいいツッコミが返ってきた。

 もうアイドルってよりも芸人に近いレベルだな。

 

「じゃあ飲み物はどうする?」

 

「何があるのよ?」

 

 ジトッとした目を作りながら聞いてくる。

 

「うーん、牛乳とミルクと練乳だな」

 

「牛乳もミルクも同じでしょうが!!それにさりげなく混ぜてるけど練乳は飲み物ですらないじゃない!!」

 

 おおっ!このボケにも対応してくるのか!

 

「冗談だ。本当はオレンジとアップルとブドウと麦茶と水とミックスジュースだ」

 

「今度は無駄にラインナップが豊富ね......じゃあミックスをお願いするわ」

 

 ミックスね。......ありゃ?もう少ないな。

 仕方ない。

 

「...ちょっと待ちなさい。その両手に持ってるオレンジと牛乳のパッケージをどうするつもり?」

 

「いや、ミックス少なかったから作ろうかと」

 

 自分で聞いておいて出せないのもアレだし。

 

「どうしてその2つを選ぶのよ!?それならせめてオレンジとアップルでしょうが!!」

 

「いや、にこはもっとカルシウム摂った方がいいかなって......」

 

「あんたケンカ売ってるわけ!?」

 

 何を言う、親切心だ。

 

「悪い、ミックスなかったからオレンジでいいか?」

 

 にこはツッコミを終えて肩で息をしている。

 

「...普通のものならなんでも......いいわ......」

 

「もう、優くん?あまりにこっちをいじめたらあかんよ?」

 

 希が見かねたのか、笑顔のまま軽く俺を(たしな)める。

 だけど俺は知っている。こいつがこういう顔をした時は何かを企んでいる時だということを。

 希は笑顔で俺からトレーを受け取り、にこの所に持っていく。

 

「ほらにこっち、オレンジ持ってきたで」

 

 希はツッコミの疲労から少し俯いているにこの前にトレーを置く。

 

「あ、ありがと......ってこれただのオレンジじゃない!?絞れって言うの!?」

 

 そう。希がにこに持っていったのはジュースではなくただの果実。

 本物はここに置いたままだ。

 

「希!」

 

「優くん!」

 

 お互いにパンっと手を合わせ、ハイタッチをする。

 

「「イェーイ!!」」

 

「あんたたちねえ!!!爽やかな顔してんじゃないわよ!!」

 

 よーし、今はここまでにしとくか。

 あくまでも今は。だけどな。

 

「本当うちのお兄ちゃんがごめんなさい......」

 

「もう優がそういう人間だっていうのは分かってるから、気にしないでいいわよ?」

 

 だって反応が面白いんだもの。

 ついやっちゃうんだよな。

 

「悪かったって、ほらジュースだ」

 

 今度こそ本物を渡して近くのイスを寄せてから座る。

 

「そういえば絵里って家族と一緒に住んでるのか?」

 

 昔ロシアに住んでいたってことは両親も一緒に来てるんだろうか?

 そんな疑問がつい口を出る。

 

「いいえ。今は亜里沙と2人暮らしよ。両親と一緒に日本で住んでいたころの家を使っているの」

 

 そうだったのか。

 

 その後、俺が朝食を食べ終わるまで色々と会話は続いた。

 

***

 

「...」

 

「何よ急に黙って......どうかしたの?」

 

 そりゃあなぁ......3日連続映画館に来ることになったら誰でもこうなると思う。

 自分で行くって決めて来たならまだ納得はいく。

 でも3日間連続で内緒にされた挙句に行きついた先が全部同じなんだぜ?

 テンションを保つ方が難しいんだよ......

 

「いやー、映画来るの久々だなぁ......って思って」

 

 しかも相手に嫌な思いをさせないようにもう既に二度見ていることは言えないんだぞ?

 もしかしたら他の映画の可能性もあるかも!なんて無駄なことをほんの少しだけ思ったけど、にこがいる以上は100%この2日間見てきたものだ......

 

「ふーん.....じゃあ早速チケット買いましょ」

 

 俺は無言のまま券売機に向かう。

 

「ちょっと?見る映画分かってるの?」

 

「...どうせこれだろ?」

 

 視界に表示されているのは俺の生き写しと言ってもいいような映画。

 何でこう何度も自分の過去みたいなものを振り返った気分にならないといけないんだか......

 というか1年や2年からデートの内容聞いてないのか?

 

「何よ、分かってるじゃない」

 

 この問題だけは絶対外す気だけはしなかった。

 寸分の迷いなく購入ボタンを押して、チケットを受け取る。

 

「ほら、チケット」

 

 まずにこに渡す。

 続いて絵里と希。

 渡した順番に特に意味はない。

 ただ近くにいた順だ。

 

「優くんありがとう!」

 

「ハラショー、優くん」

 

「あ、ありがと......ほらチケット代!」

 

 これももうお約束だな。 

 

「このぐらいは俺が出すよ、ほら行こうぜ」

 

 と言って素通りしようとするとがしっと腕を掴まれる。

 

「何言ってんのよ。先輩が後輩に払わせるとかかっこ悪いにも程があるでしょうが」

 

 にこが意外なことを言ったおかげで完全に足が止まる。

 

「...何よ?」

 

「いや、にこがそういうこと言うとは思わなかったから......」

 

 まじでびっくりした。

 

「あんたねえ......ま、いいわ。とにかくこの世界では礼儀が1番大事なの、だから細かいこと言わずに受け取っておきなさい」

 

 にこが言うこの世界とは多分アイドル業界のことで、先輩が後輩の面倒を見るのも仕事の一環だったりするのだろうか。

 

「...悪い、やっぱ受け取れない」

 

 にこが何か言いかけるが、結局何も言わず目だけで先を促してくる。

 本当話がスムーズに進んで助かる。

 

「これは俺からの投資だ」

 

「投資?」

 

 にこは発言の真意を探るように目をジッと見てくる。

 こいつ今日は勘が鋭いな......

 

「あぁ、スーパーアイドル......いや、宇宙№1アイドル矢澤にこへの投資だ」

 

 それだけ言うとにこはふーんと呟く。

 どうやら宇宙№1というのがお気に召したらしい。

 

「分かったわ、そこまで言うなら今回はそれでいいわよ」

 

 ため息混じりの言葉を吐き、そのままお金を財布に戻すのが目に入る。

 

「でも、これが投資って少々安くない?」

 

「それはこれから頑張ります......」

 

 俺に何が出来るかは分からないけど、ここにいる限りは何かをしてみようと思う。

 

「それなら私と希は投資を受け取れないからお金払うわよ?」

 

「じゃあμ’sへの投資だ、これで文句ないな?」

 

 俺の屁理屈に近い言葉に希と絵里は苦笑し、そのまま何も言わなくなった。

 

「どうする?ポップコーンいる?」

 

「いや、飲み物だけでいいわ」

 

 絵里がそう言うと希とにこも頷く。

 じゃあ俺はホットドッグでも買っておこうかな。

 

 レジで素早く清算を行い、シアターの方へと歩き出す。

 

「そういえば1、2年からデートの内容は聞いてないのか?」

 

 先ほど気になった疑問を聞いてみる。

 

「聞かないようにしようって決めてたんよ」

 

「どうしてだ?」

 

 もし聞いていれば俺の映画3日連続という悲劇は生まれなかったわけだし、ちゃんと理由が聞きたい。

 次回があればこんな悲劇は繰り返されるべきじゃないからな。

 

「凛ちゃんたち1年生は1日目だからどことも被らないからまだいいと思うんよ。でも穂乃果ちゃんたち2年生がどこに行ったのか、なんて聞いてもし行先が被ってたら計画練り直すのが大変やん?」

 

「なるほど」

 

「だから優くんがおらん時にみんなで決めたんよ」

 

 その結果がこれか。

 ま、日にちずらしてるのにみんなが最初に映画館をセレクトして同じ映画を見るなんて普通思わないもんなー。思う訳ないもんなー。思って欲しかったなー......

 

 内心でやさぐれながらも、楽しそうに話す絵里、希、にこの3人を見て頬を緩ませてしまう自分がいた。

 それは俺という犠牲を何度払ってでも見たいと思わせる。

 そんな笑顔だった。

 

***

 

「久しぶりに来たなー。遊園地」

 

 3年全員というか、絵里の希望が遊園地で、希とにこは特に行きたい所も無く、午後は昼食も兼ねて全ての時間をここに費やすことになっているらしい。

 

「私は実際に来るのは初めてね」

 

「え?まじで?」

 

 遊園地に来たことが無いという絵里。

 ロシアにいた頃とかは行かなかったのか?

 

「小さい頃は毎日バレエの練習があったから、忙しくて行けなかったし......小学校と中学校の修学旅行では目的地に遊園地は無くて、遠すぎて自由時間に行くことが出来なかったの」

 

「高校は?」

 

「うちらの代は北海道にスキーやスノボをしに行ったんよ」

 

 あぁ、なるほど。

 他の地方だと大体行先は東京になるんだけど、東京に住んでるのに修学旅行は東京に行くなんて言い出したらその教師の頭を疑ってかかるべきだしな。

 それで自然を味わうとか言って田舎ばかりになるものどうかと思う。

 せめて歴史的建物の多い京都が1番いい選択と言えるのではないだろうか?

 

「じゃあ友達と行かなかったのか?」

 

「...今までの私は真面目すぎたのよ」

 

「何かごめん」

 

 ふっと遠い目をする絵里に思わず謝ってしまう。

 

 μ’s加入前の絵里は言っては悪いけど、堅物と言っても良かったぐらい真面目だった。

 責任感が強すぎるあまり、自分を押し殺すことも多かったのだろう。

 だから周りからは友達というよりも尊敬から来る近寄り辛さとかの方が強かったのかもしれない。

 

「一応えりちは誘われてはいたんよ?でも忙しいからって全部断っててな?本当はすごく行きたかったんよ」

 

「ちょっ!希ぃ!」

 

 おぉ、希が赤面する絵里を見て超にやにやしてる。

 良かったな、絵里。希と出会えて。

 

「こほん。とにかくそういうわけだから今日はすごく楽しみなのよ」

 

「そうね、決める時からずっとそわそわしてたものね」

 

「今度はにこなの!?もうやめてよ!恥ずかしいから!」

 

 わざとらしく咳ばらいをする絵里ににこからの追撃が入る。

 まるで溜まりに溜まった鬱憤(うっぷん)を晴らそうとしているみたいだな。

 それにしても......ホームページを見たり、パンフレットを握りしめたりしながらそわそわする絵里か......

 ...すげえ見てみたい。

 まぁ絵里に限っては場所が重要なんじゃなくて友達と一緒に遊ぶってことが重要なんだろうな。

 

「それじゃ早速中に入ろうか。時間がもったいないし」

 

 入口でチケットを購入し、ゲートをくぐる。

 入口の前でも十分賑やかだったのだが、中は人だけじゃなく、アトラクションの音も混ざりそれが興奮を(あお)る。

 

「ハラショー......」

 

 1番楽しみにしていた絵里も目の前の巨大なアトラクションの数々に呆気に取られているようだ。

 それでもハラショーは忘れてないんだけど。

 

「まず何から乗る?」

 

 入口付近の店からパンフレットを取ってきて絵里に渡す。

 しばらくあっちを見たりこっちを見たりと忙しかった絵里の視線がある一点で止まる。

 その視線を追っていくとそこにあったのは......

 

「いきなりジェットコースターか」

 

 この遊園地で一際大きな悲鳴が上がっているであろうアトラクションを見て、少し尻込みをする。

 こうして見ている今も歓声なのか悲鳴なのか判別し辛い叫びが俺たちの耳に届いていた。

 

「じゃ、昼食は軽く摘める物にして、あれに並ぼうか」

 

 ゴミは乗った後に処理すればいいだろうしな。

 ジェットコースター付近の店でそれぞれが食べたい物を購入するとすぐに順番待ちの列へと移動を始める。

 

「そう言えばにこはこれ乗るのに身長足りるのか?」

 

 ついついからかいに走ってしまう。

 

「そんなに小さくないわよ!」

 

「いやいや、分からんよ?ギリギリ足りないかも知れんやん?」

 

 俺の悪ふざけに希も加わる。

 

「はぁ!?そんなわけないでしょ!?」

 

 にこがこっちをくるりと振り向く。

 

「あっ......」

 

 にこはこっちを見たままなので、まだ気が付いていないみたいだ。

 

「今度は何よ?」

 

「にこっち、前見た方がええで?」

 

 希も当然俺と同じ方を見ているから気が付いている。

 そして絵里も。

 

「前?」

 

 急に真剣な口調で言い始めたのが気になったのか、にこは前を向く。

 

「っ!!痛ぁ!!」

 

 前を向いたにこの頭に身長制限のバーがぶつかる。

 歩くペースでかなりゆっくりぶつかったから怪我とかはないと思う。

 

「...良かったなにこ。身長、足りたぞ」

 

「嬉しくないわよ!!ていうか笑いこらえてるのバレバレなのよ!!」

 

 口調こそ真剣だったが、にこの言う通り俺は笑いを我慢している状態だ。

 絵里も希もそれは同じようで、顔を俯かせて肩をぷるぷると震わせている。

 

「悪い、ちょっと言い過ぎたな......くっ!」

 

「笑うなぁ!!」

 

 にこの叫びからしばらく経つとようやく俺たちの順番が回ってきた。

 

「席順どうする?」

 

 並んでる間に決めておけばよかったな......

 

「えりちと優くん、うちとにこっちでいいと思うよ?」

 

「時間も無いし、それでいくか。ほら絵里、こっちだ」

 

 荷物を足元に置いて、落ちないようにする。

 絵里を見るとおっかなびっくりといった感じで立っていた。

 

「ほら、こっち」

 

 絵里の手を掴み隣に乗せる。

 

「っ!///あ、ありがとう」

 

 そのまま絵里の荷物も同じようにする。

 そして安全バーが下りてきて体を固定すると微かな衝撃と共に乗り物が動き始めた。

 

「...(手を握ってエスコート......ハラショー)

 

 隣で絵里が何かを呟いているが、風の音で全く聞こえない。

 乗り物は徐々に坂を昇っていく。

 

「ね、ねえ。これ大丈夫よね?」

 

 絵里は不安そうな表情で俺を見てくる。

 普段の大人っぽい感じとはまた違う可愛らしさ。

 

 これがギャップ!?

 

「大丈夫だって。ほらちゃんと固定されてるだろ?」

 

 そして頂上付近になると絵里は青白い顔をして体を固定しているバーを無言でギュッと握りしめる。

 

「だからそんなに緊張しなくても大丈夫だって!......(アーメン)

 

「今アーメンって!?きゃあああああああああああ!!!!」

 

 直後、強烈なGが俺たちを襲う。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 そのまま乗り物は生きているようにレールの上を走り続けた。

 その後無事に終着地点へとたどり着く。

 

「どうだった?」

 

「とても面白かったわ」

 

 ジェットコースターが気に入ったらしい。

 後半は悲鳴が歓声に変えり、顔も笑顔だったしな。

 

「じゃあ次は後ろ向きに走るやつに挑戦だな」

 

「そ、それはさすがに......でも楽しそう」

 

 俺は実際に乗ったことはないけど、どうやらそういうジェットコースターが存在するらしい。

 背中から落ちるってどういう感覚なんだろうか......

 

「えりちえりち、次はあれ行かん?」

 

 希が指差す方向には暗い洋館っぽい外見の建物がある。

 

「お化け屋敷か......って絵里、顔が引きつってるぞ?」

 

 視線を絵里に戻すと、そこには何とも微妙な顔をした生徒会長様の姿があった。

 もしかしてこいつ......

 

「お化けとか苦手?」

 

「に、苦手とかじゃないけど......」

 

 言葉と表情が一致してないぞ。

 そんな怯えた表情しながら言われても説得力がない。

 

「まあまあ、優くんもおるし大丈夫よ。2人で組んで行けばいいやん」

 

「今日は俺と絵里を組ませることが多いけど、何かあるのか?」

 

 この質問こそ特に意味はないけど。

 

「んー、やっぱり初めての遊園地やし......男の子に案内してもらいたいと思うんよ!」

 

「そういうことか」

 

 口では納得したように言っておくが、ほんの少し違和感がある。

 何かはぐらかされている気が......

 

「ほな、行こか」

 

「絵里、行けるか?」

 

「だ、大丈夫よ」

 

 本当にいいのかよ。

 ...本人がいいって言ってるし、やばくなったら途中で抜ければいいか。

 

「絵里にも苦手なものってあるのね」

 

 にこが心底意外そうに言う。 

 普段は気の強い落ち着いた雰囲気の年上の人がお化けや暗闇が怖い、なんて言い出したらそれはむしろプラス要素にしかならないんじゃないか?

 弱点があって可愛らしいとしか思わない。

 

「にこは何が苦手なんだ?」

 

「この私に苦手なものなんてあるわけないでしょ?」

 

「あー、うん。嘘が苦手なんだな?正直でいいことだ」

 

 いつも通り軽くあしらっておく。

 

「...そういう優は何が苦手なのよ?」

 

「うーん......強いて言うならば、あの黒光りしたカサカサ動くあいつかな」

 

 あえて言葉を濁す。

 

「あれは耐性が無い人全ての共通の敵でしょ?」

 

「いやいや、俺のは人のとは少しだけレベルが違うんだ」

 

 実害を受けてない人には分からないものがあるからな。

 

「へえ。何よ」

 

「小さい頃までは別に平気だったんだけど......ある日あいつが俺の顔に向かって羽を広げて飛んできたんだ。それだけだ」

 

 想像して見てくれ。

 小学生ぐらいの時に顔に向かって羽と手足を目いっぱい広げて飛んでくるんだぜ?

 そりゃあトラウマにもなりますよ。

 と言っても今は苦手なだけで撃退ぐらいは普通に出来る。

 

「...夢に出てきそうね」

 

 本当にな。

 というかこの話題出したら大体の女の子は悲鳴を上げるんだけど......にこは平気なのか?

 見た目に反して随分とたくましい精神を持ってるんだな。

 

「お、やっと俺たちの番か」

 

 苦手なものの話題が思いのほか盛り上がり、気がつけば目の前には薄暗い空間があった。

 隣で絵里の喉が鳴る。

 

 4人で一緒に足を踏み入れるとおどろおどろしいBGMが聞こえ始め、ひんやりとした空間に切り替わる。

 へぇ......結構雰囲気あるな。

 と感心しているとがしっと腕を組まれる。

 

「...絵里?」

 

「ごめんなさい......やっぱりこういうのちょっと怖くて......」

 

 いやいいんだけどね?

 歩き辛いだけで別に何ともないしさ。

 でもその......豊かな双丘が当たってるんだけど。

 何これ?試されてる?

 

「きゃああああああああ!!!!」

 

「うおおおおおおおお!?」

 

 絵里が仕掛けに驚き、更に腕に抱き着いてくる。

 するとあら不思議。俺の腕が谷間に埋もれたじゃありませんか。

 ちなみに絵里のは本気の悲鳴。俺のは興奮から来る衝動だ。

 

「2人ともいいリアクションやん」

 

 違うんだ......俺は別に怖くなんてない。

 いや、怖い。

 無邪気に俺の理性を削る絵里が怖い。

 

 くっ!お化け屋敷......なんて恐ろしい所なんだ......

 

 今もなお、俺の腕にはたゆんとかぽよんとかいう感覚が張り付いていて、俺の心を(むしば)んでいく。

 ハラショー......

 

 更に仕掛けは続き、恐怖が襲い掛かってくる。

 

「「きゃあああああああ!!!!!!!」」

 

 そして、俺と絵里の悲鳴は完全にシンクロを果たした。

 色々な危機を乗り越えて出口に着く頃にはすっかりぐったりした俺と絵里の姿があった。

 

「何よ、優も私と違って怖かったんじゃない」

 

 あぁ、にことは何もかもが桁違いだった......主に体の作りとか。

 普段ならお前もびっくりして希にしがみついてただろうが、とか言っているだろうけど今はちょっと無理だ。

 

「じゃあ、次は何に乗りましょうか?」

 

「何で敬語なん?」

 

「気にしないで下さい」

 

 途中から俺は完全に悟りを開いた。

 この状況なら故意に触っても怒られないんじゃないか?

 そんな欲求を抱いてしまった自分をぶん殴りたいほどだ。

 

「さぁ、時間ももったいありませんし......どんどん周りましょう」

 

 その後、30分ほど俺は敬語のままだった。

 

***

 

「全く......どういうつもりなの?」

 

 あれから色々な遊具に乗って遊んだ。

 そして今は観覧車の中で夕日を浴びながら希と2人っきりだ。

 何故か優と絵里は2人だけで別の観覧車に乗っている。

 

 まぁ......聞かなくても分かるけどね。

 

「にこっちも気づいとるんやろ?えりちのこと」

 

 微笑みを絶やさない希。

 

「何となくだけどね......それよりあんたはいいの?」

 

「...うちのことよりも今はみんなのことの方が大事なんよ」

 

 表情を全く変えないから相変わらず何を考えているのか分からないわね......

 

「そういうにこっちはどうなん?」

 

「別に......何とも思ってないわよ」

 

「ふーん......」

 

 観覧車内に静寂が訪れる。

 何とも思っていないはずなのに、希の言葉が心に引っ掛かったまま取れてくれない。

 きっとここから見る夕日のせいでセンチメンタル気味になっているだけね。

 それとも絵里の影響から来ているせいなのかしら?

 

「明日からまた練習やな」

 

 どれだけの時間お互いが喋らなかったのかは分からないけど、希が不意にそんなことを言う。

 

「そうね。ラブライブ出場は目前なんだからいつも以上に気は抜けないわよ」

 

 そう言った時、ちょうど観覧車のドアが開く。

 そして先に降りていた優と絵里に合流し、一部の話を伏せて観覧車の中で何を話したのかを言い合いながら遊園地の出口へと向かった。

 

―To be continued―

 




作「雑談のコーナー!今回は3年生の3人です!」

に「せっかくお気に入り100人越えたんだからちゃんと紹介しなさいよ」

希「まあまあ、ええやん!」

絵「仕方ないわよ。凛や穂乃果たちからも聞いていたことでしょ?それに輪をかけて今は浮かれてるんだから」

作「だって100人ですよ!?他の作者さんたちが書いたラブライブの二次小説と比較したらUAも少ないぐらいですし、これぐらい喜んでるんですよ!!」

希「でも気を抜いたらどんどん読者さんたちが減っていくことになりかねんと思うんよ」

作「そうですね......読んでいただける読者の方々を増やすために作品のクオリティの向上を目指したいと思います!」

絵「その為にはもっと他の作者さんたちの作品を読み込んで勉強が必要ね」

作「学校の勉強に比べたらとても楽しいぐらいですよ!現在も色々な作者さんの作品を読んで笑わせてもらっているぐらいですから!」

に「というか今回の話全く振り返ってないけどいいの?何か裏エピソードは?」

作「そうですねぇ......今回は特に悩んだりはしていないんですよ。何となく全学年の中で1番書きやすかったですし、頭にスッと浮かんできましたから」

に「ふ~ん、ならそろそろコーナー終わらせないと長くなりすぎてだれるわよ?」

希「にこっち、もう手遅れやん」

絵「そうね。時間もいい頃だし、そろそろ終わりましょ」

作「本当はまだまだ話したいぐらいなんですけどね......では!次回も!」

に・絵・希「「「よろしくお願いします!!!」」」


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想いは花火のように

高校最後のテスト週間に入ります。
それに免許を取得するために勉強もしないといけないのでしばらく投稿が遅れるかもしれません。
あくまでもかも、ですが......


「ゆう君!夏祭り行こうよ!」

 

「夏祭り?」

 

「そう言えば今日でしたね」

 

 練習の休憩中に穂乃果が急にそんな提案をしてきた。

 しかも開催日は今日らしい。

 また突拍子もなく......

 

「花火も上がるんだよ?こうっドカーンと!!」

 

 穂乃果は手をいっぱいに広げ、場の雰囲気を再現する。

 

「子供かお前は」

 

「休憩中なのにそんなに体力使ってもいいのですか?」

 

 さっきからずっとそわそわぴょんぴょんとし続けていて非常に鬱陶しい。

 暑さが増すだろうが......

 あとさっきから跳ねる度に制汗剤の匂いが俺の鼻をくすぐり、こっちまで何か落ち着かない気分になってきたんだけど......

 

「今日は一応練習は午前で終わりだから......別にいいんだけどさ」

 

「ゆーサンたちもお祭り行くの?」

 

 騒ぎを聞きつけた凛が俺たちの所に走ってくる。

 

「あぁ。せっかくだからな」

 

「凛とかよちんも行くんだよ!あっ!真姫ちゃんも今年は一緒に行こうね!」

 

 落ち着きなく花陽たちがいる方へと振り向く。

 急に話を振られた2人はちょっと驚いているのが分かる。

 

「そうだね。真姫ちゃんも一緒に行こうね!」

 

 驚きながらも花陽はにこっと微笑み真姫を誘う。

 

 うわ、真姫がすごい嬉しそうだ。

 そっけなくしているものの頬が緩んで口角も少し上がっているのが分かった。

 

 そんな緩んだ空気の中で1人、浮かない顔をしているやつがいた。

 手を腰の辺りで組んで、ぼんやりと空を見ている。

 

「ことり?」

 

 聞こえるように呼びかけるとビクッと肩を跳ね上げる。

 

「えっ!?あっ......こ、ことり浴衣着ていくねっ!」

 

「何だと!?」

 

 ことりの様子が気になったが思わずそっちに反応してしまった。

 だって、ことりの浴衣姿だぞ!?

 もう水のヨーヨーとりんご飴か綿あめを片手ずつ持って頭にお面をつけている姿が俺の中でくっきりと見えたぜ!!

 

「大袈裟ですね、優は」

 

 そうは言うけどな海未。

 男にとっては可愛い女の子の浴衣姿というのはどう取ろうともご褒美なんだ。異論は認めない。

 既に暑さでやられかけていた頭が妄想でショートしそうになる。

 

「えぇ~ことりちゃんだけずる~い!穂乃果も浴衣着る!!」

 

「何?夏祭りの話?」

 

 そこに新たに希たち3年組が加わる。

 

「希たちも行くのか?」

 

「そうやね、面白そうやし!えりちとにこっちはどうするん?」

 

 この流れだとμ’s全員参加になりそうだな。

 会話を聞きながら俺はそう思う。

 

「そうね、行くわ。亜里沙も連れて行って大丈夫かしら?」

 

「んー、多分だけど亜里沙ちゃんは優莉と雪穂ちゃんと一緒に行くんじゃないか?だからどのみち会えると思うぞ」

 

 優莉は夏祭りの話を知ってるだろうしな。

 あいつならいつも仲良くしているその2人を誘うだろ。

 

「そう言えばそうね。一応声はかけてみるわ」

 

「せっかくだしみんな浴衣で行こうよ!!」

 

 何!?

 μ’s全員の浴衣だと!?

 

 それは男にとっては眼福以外の言葉は出てこない。

 ナイスだ!!穂乃果!!

 心の中でガッツポーズをしつつ、携帯の中の要らない写真を消しておこうと思った。

 それぐらいしないと容量が足りなくなるかも知れないしな!!

 

 この時の俺は暑さで本当にどうかしていたと思う。

 

「私まだ行くとは言ってないんだけど?」

 

「私も」

 

 真姫は指で髪をくるくるとしながら、にこは腕を組みながら言ってくる。

 こいつらは......ここまで来たらそういうのは無駄だってことは理解出来てるはずなのに結局言っちゃうんだよな。このツンデレコンビが。

 

「じゃあ行かないのか?」

 

 仕方ないから素直になりやすい空気を作ってやる。

 

「「べ、別に行かないなんて言ってないでしょ!?」」

 

 ふっ、ちょろい。

 さてこれで言質は取れたし......μ’s全員の浴衣姿、もとい桃源郷を見ることが出来そうだな。

 

「そう言えば、お前ら課題は終わってるのか?夏休みも今日を入れてあと2日しかないわけだけど」

 

「...」

 

「...」

 

「...」

 

 俺の一言に約数名の動きが止まり、場が凍り付く。

 こんなに暑い中でも決して溶けない氷のような冷たさが場を支配する。

 

「...お前ら、ちょっと来い」

 

 穂乃果、凛、にこの順に目の前に正座させる。

 

「さて、言い訳があるなら聞こうか?」

 

「ち、違うよ!!やる気はあったんだよ!?でも練習で疲れてて帰ったらすぐに眠くなっちゃって!!」

 

「そうにゃそうにゃ!!」

 

「そうよそうよ!!」

 

 なるほど。確かに疲れている時に勉強は厳しいよな。

 

「うるせえっ!!言い訳するな!!!」

 

「えぇ!?自分で聞くって言ったのに!?」

 

「横暴だにゃー!?」

 

「この鬼!!悪魔!!八坂優!!!」

 

 ということは何か?こいつらは課題も終わってないのに連休遊んだってことか?

 にこは俺が無理やり誘ったからちょっと罪悪感がある気がするが、どうせこの調子だと誘ってなくても手はつけなかっただろうから一瞬で帳消しだ!!

 あと俺の名前を悪口みたいに使うんじゃねえ!!!

 

「黙れ!!条件はみんな一緒だっただろうが!!」

 

 鋭く一喝する。

 それでもまだ喚き続けてくる。

 

「頭の出来っていう条件は一緒じゃないにゃ!!」

 

「そうだよっ!!だって穂乃果バカだもん!!!」

 

「そうよそうよ!!!!」

 

「こういう時だけバカっていうことを肯定するんじゃねえよ!?」

 

 叫びすぎて喉、あまりの体たらくに頭が痛くなってきた......

 一度深呼吸してわずかながら落ち着きを取り戻す。

 

「...それで?あとどれだけ残ってるんだ?」

 

「「「半分ぐらい......です......」」」

 

「やってられるかぁぁぁ!!!!!」

 

 こいつら合宿の時から手ぇつけてないな!?

 あまりの酷さにツッコミすらも放棄しかける。

 

「海未!絵里!ちょっとこのあと手伝ってくれ!こいつらには少々お灸を据えてやる必要がある!!」

 

「どうやらそのようですね......場所はどうしますか?」

 

 家に父さんがいなかったら俺の家でもいいけど......いたらあの人は絶対にちょっかいをかける。

 俺の直観がそう告げている。

 でも今は悩んでいる時間すら惜しい......この際仕方ないか。

 

「俺の家でいい」

 

「海未は分かるけどどうして私もなの?」

 

「俺が3年を教えられるわけないからな」

 

 1年の凛はまだ見てやれるとしても、穂乃果もいるしとてもじゃないがにこまで気は回せない。

 そのことから教える側はこの編成だ。

 

「ぷぷっ!人の事言っておいてあんな問題も解けないの?」

 

「お前まじでぶっ飛ばすぞ!?」

 

 普段なら絶対女の子に対してこんなことは言わないけど、今回に限ってはそんな余裕はない。

 今のにこの煽りを流せるほど、俺は冷静じゃなかった。

 

「さぁ!練習再開だ!!早く終わらせて課題に取りかかるぞ!!」

 

 練習終わるのがあと1時間だと仮定して、早朝から練習してるから終わるのが大体10時頃。そこから俺の家に集まって......ギリギリいけるか!?

 まず俺が凛を見て、海未が穂乃果、絵里がにこ......でも家に着替えに帰る時間も......いや、浴衣とか荷物は持ってこさせよう!

 こうして、俺たちの時間との戦いが幕を開けたのだった。

 

 この頃にはことりの様子がおかしかったことなどすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。

 

***

 

「穂乃果!ここ間違っています!」

 

「えぇ!?嘘ぉ!?」

 

 海未鋭い指摘が飛び――

 

「にこ、この問題間違ってるわ」

 

「げっ!?」

 

 絵里の的確な指摘が飛び――

 

「凛!ここさっき教えただろうが!!」

 

「あいどんのーわっとゆーみーん!?」

 

「俺が言った余計なことまで覚えるなよ!?」

 

 俺の鬼気迫った指摘とツッコミが飛ぶ。

 ちなみに凛が今言ったのは『私にはあなたの言っている意味が分かりません』という意味だ。

 

 練習が終わったあと、俺は課題を終わらせるために速攻で招集をかけた。

 この3バカは今、俺の家のリビングで缶詰に等しい状態だと思ってくれていい。

 優莉の話だと父さんは幸いなことに出かけているらしく、ツッコミに割く時間を十分勉強方面に回すことが出来ていた。

 

「お兄ちゃんお昼ご飯出来たよー」

 

 そして優莉には昼食を作ってもらっている。

 凛にかかりきりで教えている俺にはそんな余裕はなかったからだ。

 

「悪い、あとでコンビニのデザート奢るから!」

 

 大皿に乗ったおにぎりを運びながら、今出来る最大限の感謝を表しておく。

 本当良く出来た妹だ。

 

「とりあえず昼休憩だ!腹が減ってたら戦は出来ないからな!」

 

 練習が終わって全員が家に揃ったのは11時、課題をやり始めてから既に1時間以上経っている。

 時刻は12時30分。

 ここまでノンストップで来ているが、練習後に何も食べていないこともあり、さすがに気力と集中力が切れかけてくる頃合いだ。

 休んでいる暇がもったいないが、ここに来て効率が落ちるのはまずい。

 

「30分間しっかり休んどけ」

 

 ここまでフルに酷使していた喉にお茶を流しこむ。

 冷え切った液体が俺の熱を冷ましてくれることに感謝だな。

 

「優莉、お前夏祭り行くのか?」

 

 休憩中だから遠慮なく雑談を挟める。

 

「うん、亜里沙と雪穂と一緒にね」

 

 予想通りだった。

 

「お兄ちゃんたちも行くんでしょ?」

 

「あぁ、このペースでいけば何とか間に合いそうだからな」

 

 とりあえず答えを写していないことだけは褒めてもいいだろう。

 ...ん?今玄関の方から物音がしたような気が......

 

「優、優莉ただいま!」

 

 リビングのドアが開き、父さんが顔を覗かせる。

 ...神は俺に休む暇すら与えてくれないわけですね?そうなんですね?

 

「お父さんお帰りー」

 

「帰れ。もしくはこの部屋から立ち去れ」

 

「今帰ってきたばかりなんだけど!?」

 

 優莉は普通にお帰りと言っているが、俺の仕事を増やすようなやつは例え父親だろうと容赦しない。

 

「こんにちは、お邪魔しております」

 

「おじさんこんにちは!お邪魔してます!」

 

 穂乃果と海未は俺の父さんのことを知っている。 

 昔何度か顔を合わせているからな。

 

「おぉ!?穂乃果ちゃんに海未ちゃんか!?随分可愛くなったな!」

 

「ナンパ発言やめろ。母さんに言いつけるぞ」

 

 全く。油断も隙も無い......

 

「えへへ~///」

 

「か、可愛いだなんてそんな///」

 

「あぁ、凛とにこと絵里にも紹介しておくよ。一応これが俺の父さん」

 

 もう放っておいても勝手に自己紹介するだろうけど、ポカンとしている3人に前振りだけはしておく。

 

「父親をこれ扱いってどうなんだ?......初めまして。八坂優也です」

 

「えぇっと......初めまして!星空凜です!ゆーサ......優先輩にはいつもお世話になっています!」

 

 八坂先輩じゃなくて優先輩とかすごい新鮮だな。

 悪くない。

 

「初めまして。綾瀬絵里と申します。いつも息子さんにはお世話になっています」

 

 生徒会長モードに入ったかな?

 きりっとした感じがするし。

 

 あとはにこだけだけど......

 絶対にっこにっこに~とか言うんじゃないぞ?

 

「初めまして、矢澤にこです。息子さんにはとても良くしてもらっています」

 

 良かった普通だな。

 父さんは1人1人の顔をジッと見て何か考えている。

 

「うん、覚えた。それにしてもみんな可愛らしい子ばっかりだな。優はどの子が好みなんだ?」

 

「頼むからまじで黙ってくれ」

 

 いきなりなんてこと聞いてくるんだよ......あんたにはデリカシーっていうものがないのか?

 どうして母さんはこの人を選んだんだろうか?

 ただ別に俺は父さんのことを嫌っているわけではなく、ツッコミに疲れるからめんどくさいという家族に抱くにしてはちょっと珍しい感情を持っているだけだ。

 

「そうだな......父さんが悪かった」

 

「珍しく素直だな?」

 

 黙れとは言ったものの、こうも素直だと薄気味悪くて仕方ない。

 父さんはうんうんと何度も頷いて、声を発した。

 

「父さんの息子なら聞くまでもなく......好みは巨乳の子だもんな!」

 

「あんたと一緒にするんじゃねえよ!!!!!!!」

 

 この人みんながいる前で何てこと言ってんの!?

 これじゃ俺の好みが本当に巨乳の人ということになってしまう!!

 

「優......あなたという人は......」

 

「違う!全部この人の妄言だ!!あ゛ーもう!!いいから父さんは自分の部屋に戻ってくれ!!」

 

 俺は父さんとリビングから押し出す形で廊下で2人きりになる。

 ...疲れる!もうすっげえ疲れる!

 

「優、お前は1つ勘違いしてるぞ?」

 

「...何がだよ?」

 

 父さんは自室のドアを開けながら、真剣な顔をする。

 

「俺の息子は確かに巨乳好きだが、お前は違うだろ?」

 

 そしてドアを閉め切る前にそんなことを言い放ってくる。

 疲労のおかげで頭が回らず、しばらくその言葉の意味を考え続けて意図に気づきハッとなる。

 

「あんた本当に最低だな!?」

 

 父さんが静寂が訪れた廊下に残していったものはただのド直球の下ネタだった。

 はぁ......課題しに戻るか。

 

 そしてとんでもない疲労感を残していった。

 あとで誤解を解くのにもまた別の労力を使ったが、乗り切ることが出来た。

 

***

 

「あー......疲れた」

 

 しかし、この疲労は無駄ではない。

 3バカはなんとか課題を全て片づけることに成功した。

 それぞれが浴衣を持ってきていたが、絵里は持っていないということで海未の家に余っていたものを借りたらしい。

 穂乃果はオレンジ色の浴衣、海未は青色、にこは桃色、絵里は空色、凛は黄色だ。

 これってそれぞれのイメージカラーだな。

 

 既に会場に到着しているが、人が多くてまだ全員で合流出来ていない。

 回りを見られるようにちょっとした広場に出る。

 

「どうどう?ゆう君!似合ってる?」

 

 すると穂乃果が袖を持ってクルクルと回る。

 

「こけるぞ?それにさっきも言っただろ?みんなよく似合ってるって」

 

「えへへ~!ありがと!」

 

 穂乃果を見ていると、何やら誰かの視線を感じる。

 

「何よ?巨乳好きが移るじゃない。こっち見ないでよ」

 

「おいこら、誰が巨乳好きだ?さっき誤解だって言っただろ」

 

 というか移るわけないだろ。

 いつまで引きずってるんだよ......にこめ。

 

「巨乳がどうかしたん?」

 

「うわぁ!?びっくりした!!」

 

 いつの間にかμ’s1の巨乳である希が俺の背後に立っていた。

 正確なサイズまでは分からないけどな。

 ちなみに希の浴衣は紫色だ。

 

「どうしたん?そんな驚いて......それと巨乳が何なん?」

 

「いや!何でもない!気にするな!」

 

 まじであのクソ親父は許さん。

 優莉と母さんを敵に回して泣き喚け。

 

「あっ!みんないたよ!真姫ちゃん!」

 

 ライトグリーンの浴衣を身に着けた花陽が赤色の浴衣を着た真姫を引っ張って走ってくる。

 

「引っ張らなくてもいいわよ!」

 

 これであとはことりだけか。

 

「あっ!みんな~!」

 

 噂をすれば、人混みをかき分けて頭にお面、片手にりんご飴を持ったことりが駆け寄ってくる。

 まじかよ想像通りじゃん......

 

 白い色の浴衣に身を包んだことりも合流することに成功。

 これで今日は全員揃った。

 俺は携帯で静かに写真を撮る。

 みんなの笑顔が切り取られ、俺の携帯に保存された。

 

「もうすぐ花火が上がるみたいだよっ!」

 

「それなら人が少ない所でゆっくり見たい」

 

 こんな所で立ち止まって落ち着いて見られる気がしないし。

 それにみんなが誰かに足を踏まれたりしたら大変だ。

 

「それならいい場所があるよ!」

 

 言うや否や穂乃果がすぐ俺の手を引く。

 そのままどんどん人混みから遠ざかり、辺りに静けさがやってくる。

 

「お前よくこういう穴場知ってるな......」

 

「昔は海未ちゃんとことりちゃんとよく探検してたからね!」

 

 なるほどな。

 見上げると星の海が俺たちを圧倒する。

 

「それと!さっき見たいにこっそりと写真撮らないで、みんなで一緒に映ろうよ!」

 

「...気づかれてたか」

 

「あんなに露骨に携帯を構えれば誰だって気づきますよ」

 

 もしかしてみんな気づいてるのか?

 まぁ写真を消せって言われても消さないけどな。

 

「あんた盗撮魔の癖もあるの?」」

 

「ねえよ!」

 

 あともってなんだ!俺が他に何かあるみたいじゃないか!失礼だぞ、にこ!

 

 俺はみんなと話しながら、今日1日のことを振り返る。

 朝は夏祭りの話から課題の話に移ってツッコミから始まり、午後もツッコミ、今は疲労か......

 ろくな1日じゃないじゃねえか......

 何だこれ?芸人のスケジュールか?

 よく喉がいかれないものだと我ながら感心してしまう。

 

 そんな疲労感溢れる1日を振り返り、更に疲労を溜めてしまうというバカなことをしていると、右袖がくいっと引かれる。

 

 見るとことりが俯き気味に俺の袖を引っ張っていた。

 その表情はよく見えないけど、少なくとも楽しんでいるような雰囲気は感じない。

 

「少し......お話があるの」

 

 ことりはみんなから離れた所に俺の袖を引っ張り誘導する。

 俺はその誘導に身を任せ、ことりのあとをついて行く。

 

「どうしたんだ?何か大事な話なのか?」

 

 静寂。

 ことりは俯いていた顔を上げて、寂しそうに笑って頷く。

 

 ――どうしてそんな寂しそうなんだ?

 まるで今からお別れを告げる、そんな表情じゃないか......

 

 言いようのない不安が胸を焦がす。

 そして今朝のぼうっとしたことりの姿が今のことりの姿と重なった。

 

「あのね......実はね?」

 

 この先を聞いてしまったらもう、元には戻れないような......そんな気がする。

 でも、俺は止めることが出来なかった。

 儚げで今すぐ消えてしまうんじゃないかと錯覚してしまう雰囲気。

 そして悲し気な表情。

 ことりは静かに口を開き、静寂に音を加える。

 

「私ね――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――留学しようと思ってるの」

 

「......え?」

 

 バーンと打ち上がる花火の音が遠くのもののように聞こえた。

 

―To be continued―

  




作「雑談のコーナー!今回は久しぶりに主人公の出番です!」

優「お前段々と紹介が雑になってないか?」

作「まぁ、そんなことはいいじゃないですか」

優「誤魔化しやがった......今回の話は終盤にシリアス展開を入れてきたんだな」

作「はい、前半部分はギャグ方面を強く意識して、後半で静かな感じを取り入れてみました。正直ギャグもシリアスもあまり得意じゃないのですが......」

優「じゃあ何も書けないじゃねえか」

作「ですから四苦八苦しているわけですよ。自分が書いたものを見直している最中にこのギャグ面白いのかな、と自分で思ってしまうこともありますから」

優「なるほどな」

作「というわけで次回も!」

優「よろしくお願いします!」


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雨模様

新しく二次創作で小説を書き始めたので、こちらの投稿は少々遅れるかもしれません。
出来るだけ遅れないようにするつもりですが、話が思いつかない日もあるので、そこは未来の自分に任せたいと思います!




『留学って......どういうことだよ?』

 

 俺が聞くとことりは寂しそうな笑顔のまま、たった今花火が上がったばかりの夜空を見ながら口を開く。 

 

『...元々服飾関係のことには興味があったんだけど......μ’sの活動で衣装を作っている内にその思いがどんどん強くなっていって......思い切ってお母さんに相談してみたらじゃあ知り合いに聞いてみるわね。って言われて......お返事が届いたの。留学してみませんかって......』

 

 どうして......どうしてこのタイミングなんだよ!!!

 もうすぐ、ラブライブに出場出来るってとこまで来てるのに!!!!

 俺は叫び出しそうになるが、理性で感情をねじ伏せる。

 今、ことりがこうして俺を呼びだしたってことは、内密にしたいってことかもしくは既にみんなは知っているかのどちらかだ。

 でも、みんながそんなことを知って平然としていられるわけがない。それはみんなのことを見てきた俺が良く分かってる。

 

『いつから......悩んでた?』

 

 代わりに別の話題を口にすることでちょっとでも冷静であろうとする。

 

『...あの秋葉原でライブをした日に家に帰ったら......お母さんからお手紙を渡されたの。その時から』

 

 そんなに前から......

 それは夏休みに入る前のこと、約2ヶ月は経過している。

 俺たちが......合宿だなんて言っている間もことりはずっと1人で悩んでたんだ......

 

『何で言ってくれなかったんだよ!?』 

 

 思わず叫んでしまうが、どうやら穂乃果たちには花火の音で掻き消されて届いていないらしい。

 ことりは上に向いていた視線を俺の方へ戻す。

 しかし、目線は後ろにいるみんなへと向けられている。

 

『だって......こんな大変な時期に言えるわけないよ。ゆー君もそうでしょ?』

 

 一瞬心臓がドキリと音を鳴らす。

 ことりは......俺のことを知っているのか?

 そんな訳ない。だってあれは誰にも伝えていないから。

 きっとことりは『ゆー君が同じ立場でも言えないでしょ?』と聞いているんだ。

 

『そうだな......言えない、と思う』

 

 今言った言葉は自分とことりに向けられたものだ。

 簡単に言えたら苦労はしない。

 一緒にいればいるほど、楽しいと感じるほど、口に出すのが難しくなっていく。

 

『...みんなは知ってるのか?』

 

 自分で聞いておいて、何だそれと思ってしまった。

 今ことりが言えるわけがないって言ったってことは誰にも言えてないってことなのにな。

 

『...ううん。ゆー君が最初だよ。次は海未ちゃん、かな』

 

 本当は真っ先に穂乃果に伝えるべき、なんだろうな。

 いつも仲良しで、ことりにとっては初めての友達。

 

『...穂乃果にはいつ言うんだ?』

 

 このことはきっと打ち明けなければいけないことだ。

 本人が言えないと思っていても、いつか近い内に選択を迫られるだろう。

 

『海未ちゃんに話したあと......かな』

 

 あぁ、1番近い人には言い辛いもんな。

 海未ならきっとことりの背中を押してやれる。

 

『...文化祭のライブは出られるのか?』

 

 俺たちは人の集まる文化祭でライブをすることになっていた。

 近所の中学生も来るため、入学希望者を増やす絶好のチャンスとなっている。

 

『うん......きっとそれが私の最後のライブ』

 

 最後。その言葉が俺の心に深く突き刺さる。

 拳を握りしめて、必死に冷静さを取り戻す。

 

『行くな、なんて言っても今更だよな?』

 

 少しだけ、ことりが困った顔をする。

 

『...もう留学先の学校にも連絡しちゃったしね』

 

 それを抜きにしても、俺に止められただろうか?

 μ’sの衣装を作っている内に、もっとたくさん服を作ってみたいと思うようになって......夢を叶えるためのチャンスが目の前にあって、それでも俺は止められただろうか?

 

『...そっか。......すごいな!ことり、頑張れよ!』

 

 ことりはきっといいデザイナーになれる。

 もう納得するしかないじゃないか。

 

『...うん!』

 

 俺たちは笑顔だ。

 でも、何で2人とも傷ついたような笑い方をしてるんだろうか?

 ことりはそのままみんなの輪に戻り、俺はその場で上を見る。

 

 ...すると花火がヒュ~っと気の抜けるような音を鳴らしながら、空へと旅立ち、パンっ!と派手な音を鳴らした。

 まるで今の俺のようにふらふらとして最後は弾けて消えていくように。

 そこで、俺の目が覚めた。

 

 あれから数日経っているのに、俺は毎日のようにあの時のことを夢に見る。

 文化祭のライブまで残り2週間を切った。

 

「全部夢だったら良かったのにな......」

 

 そう思えば思うほど、より鮮明に思い出してしまう。

 これは夢じゃないんだ。

 

 俺は嫌な汗で肌に張り付いた服の感覚に顔をしかめ、シャワーを浴びるために練習着と制服を取り出して風呂へと向かった。

 

***

 

「は?講堂の使用権がくじ引き?」

 

 放課後になって部室に来ると、先に来ていた絵里と希からそう言われた。

 

「そう。何故か伝統らしいの」

 

「まじかよ......それって運が悪ければ講堂でパフォーマンスが出来ないってことだよな?」

 

「せやね、最も人が集められる場所だし雨が降っても実行出来る場所が取れないとなると文化祭のステージを用意すること自体が難しくなるね」

 

 おいおい......もしかしたらこれでラブライブの出場の決定と廃校の阻止、両方が出来るかもしれないのに......

 音ノ木坂学院の文化祭は他校の生徒やこの地域の中学生がやってくるイベントだ。

 それで中学生に来てもらい、この学校に入学したいと思ってもらえれば、きっと廃校は止められるはずだ。

 

 なおかつライブ風景をカメラに収め、ネットに上げることでランキング順位も上げてしまおうというまさに俺たちにとってはビッグチャンスとなる。

 

 ...それにμ’sが9人全員揃って出来る最後のライブなんだ......

 詳しい日付は聞けていないが、きっとことりに残された時間は長くないはずだ。

 

「せっかく19位ってところまで来てるのに......今からくじを引きに行くのか?」

 

 俺たちのランキング順位はなんと19位まで上がっていた。

 本当くじ引く人重要。まじで。

 

「そういうこと」

 

「じゃあ希に引いてもらえば......」

 

 そう。俺たちには希がいる。

 今こそスピリチュアルパワーを発揮する時だ!

 

「それが出来たらええんやけど......これは部の代表が引くっていうことになってるんよ」

 

「...ということはにこか!?あいつくじ運はいいのか?」

 

「...優くん、いつものにこっちの運をどう思うん?」

 

 ...どちらかというとすごい不幸に見舞われているような気がするっ!

 

「やばくね?」

 

 どうするべきか頭を抱えていると部室のドアが開き、黒髪のツインテールの片方が見えた。

 噂をすればなんとやら、部長の登場だ。

 

「何話してたのよ?」

 

「...にこ、お前にしか出来ないことがある」

 

 両肩ををガッと掴み、真剣味を帯びた声を発する。

 にこは突然のことに身じろぎするが、俺は力を緩めない。

 

「...何よ?」

 

「俺たちの命運がお前にかかってるんだ!!」

 

「本当に何の話よ!?」

 

 おっと、説明が足りなかった。

 めんどくさいので手短に説明を行う。

 

 話を聞き終わったにこの眉間にどんどんしわが集まる。

 おい、一応アイドルなんだから顔には気をつけとけ。

 気持ちは分かるけど。

 

「絵里!何とか出来ないの!?」

 

「私も何とかしたいんだけど......μ’sである以前に私は生徒会長だからそういう不平等は許されないわ」

 

 ...本当廃校がかかってるんだから学校側も少しは融通をきかせて欲しいな......

 思ってても言わないけどさ......無駄だって分かってるからな......

 

「何々?何の話?」

 

 にこに事情を説明しているといつの間にか穂乃果たちが後ろにいた。

 穂乃果は俺の両肩に手を置いて、首だけひょっこりと覗かせている。

 距離は僅か数センチ。首に吐息がかかる。

 

「まず離れてくれ、重い」

 

「酷いよぉ!!」

 

 つい照れ隠しでそんなことを言う。

 そして目線は自然とことりに向かう。

 ちょうど俺の方を見ていたのか、バッチリ目が合ってしまった。

 良く分からない曖昧な笑顔を浮かべることり。

 

 俺は耐えきれなくなって、目を逸らす。

 もう一度見るのが怖い。

 今自分がどういう表情をしているのかが分からない。

 

「...?」

 

 目を逸らした先にはことりと俺を見て、訝し気な顔をしている海未がいた。

 顎に手を当てて何かを考えている。

 

 ことり......まだ海未には話せてないのか?

 表情から察するにあれはそういう解釈で間違っていないはずだ。

 

「...とりあえず、移動しながら話す」

 

 くじ引きのことは部室から出てからだ。

 みんなが部室から出ていく。

 

「あっ、1年に書置きしておかないとな」

 

 遅れる理由と屋上で先に練習しておいてくれ、と書いた紙をテーブルに残して俺はみんなの跡を追った。

 

***

 

「うぁ~疲れたにゃー......」

 

「良く頑張ったな。休憩のあとの1セットで今日はもう終わりだからよく体を休めておけよ」

 

 文化祭ライブ前日。

 今日も今日とて照りつける陽ざしの中、屋上を動き回る10人分の影があった。

 2週間前ぐらいから練習してきたダンスは今までで最高の出来と言っても過言ではない。

 

「...」

 

 みんなの士気が高まる中、ことりは1人でぼうっと立っていた。

 俺は見かねて声をかける。

 

「ことり、もしかしてまだ?」

 

 話しかけるとゆっくりと顔を俺に向けてくる。

 

「...うん、言おう言おうとは思ってるんだけど......海未ちゃん最近家でも忙しくて、学校では弓道部の方にも顔を出さないといけないこと知ってるから......中々タイミングが見つからないの」

 

 それで結局2週間も経ってしまった。

 ことりの性格を知っている俺にはそのことを責められない。

 優しい。気遣いが出来る。

 その性格が今はことりを苦しめている。

 

「...うん、絶対今日中には伝えることにする。もう時間がないから」

 

「っ!」

 

 俺はまだいつ留学するのかさえも聞いていない。

 ...俺もことりと同じじゃないか。

 言いたいことも言えていない。

 

「あのさ......ことり......いつ留「うわぁ~ん!!ゆーサン!!にこちゃんがイジメてくるよぉ~!!」

 

 思い切って聞いてみようとして、口を開いた矢先に凛が俺の背中に飛びかかってきた。

 

「...暑いんだけど?」

 

 とりあえずことりから距離を置き、不機嫌な理由を暑さのせいにして悟られないようにする。

 今も凛は俺の背中にぶら下がったままだ。

 

「凛がいつまでもくじ引きのこと言うからでしょ?」

 

 真姫の声に俺も顔を(しか)める。

 ...あれは嫌な思い出でしたねぇ。

 

「だって凛たち講堂でライブ出来ないんだよ!?そう簡単には割り切れないにゃー!!」

 

 そう。

 くじ引きの結果、俺たち音ノ木坂学院アイドル研究部は講堂を使用出来ないことになってしまった。

 忘れはしない、あの白い玉が零れ落ちていく瞬間を。

 

「もう決まったことは仕方ないでしょ!?」

 

「あー!?開き直ったにゃー!!」

 

「いい加減背中から降りろ。花陽、凛の世話は任せた」

 

 結果として、俺たちはまさにこの場所......屋上にステージを設置し、ライブをすることになった。

 まぁ、凛は素直で物分かりもいいから、にこをからかってるだけなんだろうけどな。

 既にステージは設置済みだ。あとは細かい調整だけ。

 

「よぉ~し!!みんな!!練習始めよう!!」

 

 部室に替えのタオルを取りに行っていた穂乃果と海未が戻ってくる。

 もう休憩終わりか。

 

「今日はこれがラストだから、気を緩めないようにな!」

 

 パンパンと手拍子をして、みんなを集める。

 みんなは何も言わずにそれぞれがステージ上の立ち位置に行き、俺は曲をかける。

 

 俺の手拍子に合わせてみんなが踊る。

 初心者の俺から言えることはほとんどないと思えるような出来だ。

 

「ことり、ちょっとずれたぞ」

 

「...う、うん!」

 

 ...今別のこと考えていたな。無理もないか。このあと海未に打ち明けることになってるんだから。

 でも、本番は明日。

 俺は今出来ることに全力を尽くさないと。

 

「よし!終わり!」

 

 最後の手拍子をパンと鳴らして、曲を止める。

 

「ハラショー、みんないい感じね!」

 

 ダンスの練習には一段と厳しい絵里から称賛の言葉が出るってことは最高の出来ってことだ。

 みんなも満足そうな顔をしている。

 

「じゃあ今日の練習はこれで――」

 

「――待って」

 

 明日に備えて疲れを残さないようにしろ、と言おうとする俺を穂乃果が遮る。

 

「もう一回やろう」

 

「...本番前の無茶な練習は故障の元だ。今日は終わり」

 

「今の、ことりちゃんのタイミングがずれたんでしょ?なら合わせないと!」

 

 穂乃果?

 何か様子がおかしい。

 

「...暑さでぼうっとすることぐらいあるだろ。みんなの体のことを考えて今日はもう終わりだ」

 

「大丈夫だよ!みんな同じ気持ちでやってるんだもん!廃校を阻止して、ラブライブ出場!そうでしょ!?」

 

「...みんなはクールダウンしておいてくれ!」

 

 声が届かない程度まで移動して穂乃果と向き合う。

 

「どうしたの?」

 

「最近メンバー内に何か変わったこととかないか?」

 

 さっきの同じ気持ちでやってるという言葉、あれは少しだけ間違っている。

 

「んー......特にないよ!」

 

「...例えばことりの様子が変だーとかはないのか?」

 

 幼馴染なら少しぐらいはことりの様子がおかしいことに気づいていてもいいはずだ。

 

「いつも通りだと思うよ?練習中ぼうっとするのも暑いから無理ないよね!」

 

 何だと?

 この穂乃果の発言に俺は初めてじゃれあい的な意味を抜いて、本気でイラッとした。

 ぼうっとしていることに気づいているなら何でもっと奥のことに気がついてやれないんだ......

 目前の目標に目が向き過ぎて視野が狭くなってるのか?

 

「とにかく!今日は終わり!オーバーワークは絶対ダメ!」

 

「えぇ~!!!ケチ!!」

 

 背後で文句たらたらの穂乃果を置いてみんなの所へ戻ると、既にクールダウンを終えて部室に戻って行く最中だった。

 俺も階段を下りるためにドアを開ける。

 

「優、少しいいですか?」

 

 すると階段前に海未がいた。

 いつも以上の真剣な眼差しを向けてくる。

 

「...夜、電話してくれ。服着替えないと汗で気持ち悪いだろ?」

 

 本当は帰りながらでもいいんだけど......今の穂乃果を1人にしたら残って練習しかねないからな。

 海未は俺の提案に無言で頷いた。

 

***

 

 海未が家のことを終えて、電話してくるのを待っていると、外からザァーっという音が聞こえてきた。

 雨か、最悪だな......明日のステージ大丈夫なのか?

 ステージが濡れて滑りそうだ......

 

 天気予報確認しておいた方がいいな。

 そう思い、リビングに下りるといつも通り優莉がソファでくつろいでいた。

 

「優莉、ちょっとテレビのリモコン取ってくれ。明日の天気が気になる」

 

「んー、はい」

 

 間の抜けた返事と共にリモコンが手渡される。

 ...どうやら明日も少し降るらしい。

 どしゃ降りにならないといいんだけど......

 

「リモコン返す」

 

「はーい......っとそうだお兄ちゃん」

 

 自室に戻ろうとしてリビングから出ようとすると優莉に呼び止められる。

 

「どうした?」

 

 顔を優莉がいた方向に戻し、ついでに何か食べ物と飲み物でもないかと冷蔵庫に向かう。

 

「穂乃果さん、大丈夫なの?」

 

「は?あいつ何かしたの?」

 

 つい冷蔵庫を開けようとした手を止めてしまう。

 

「んー......別に何かしたってわけじゃないけどさ」

 

「...何だよ?」

 

 何もしてないならいいだろ。

 

「さっき雪穂と話してたんだけど、この雨の中走りに行っちゃったんだって」

 

「何だと!?」

 

 あのバカ!!オーバーワークはダメだって言ったばかりなのに!!

 いくらフードなんか被ろうが、走っていれば顔も髪も濡れるし体だって冷える!

 風邪でもひいたらどうするつもりだ!!

 

「どこに行ったとか聞いてないか!?」

 

「ごめん、そこまでは......でもきっと行ったことのない場所には行ってないはずだよ」

 

「ちょっと出てくる!」

 

 いってらっしゃい、という優莉の言葉を背に俺は2階へと駆け戻る。

 そして電話を引っ掴み、海未に電話をかける。

 

『もしもし、優ですか?ちょうどこちらからかけようとしていたところです』

 

『海未!悪い!今急いでるんだ!今から言うことに簡潔に答えてくれ!そのあとかけ直すから!』

 

『...どうしたのですか?』

 

 切羽詰まった状況に海未の落ち着いた性格は助かる!

 

『穂乃果がこの雨の中、走りに行ったらしい!あいつならどこに行くと思う!?』

 

『はぁ、本当に穂乃果はもう......優、それなら恐らく神田明神ではないですか?』

 

 海未のため息混じりの声を聞きつつ、神田明神への最速ルートを頭の中で照らし合わせる。

 

『分かった!サンキュ!』

 

『...戻ってきたらことりのことでお話がありますので、忘れずにかけ直してきて下さいね?』

 

 分かったと言いながら電話を切って、合羽を着込んで傘を掴む。

 そして全力で雨の中を走り出す。

 

 

 

 

 

「はぁっ......はぁっ!」

 

 自分の息が荒くなっていくのが聞こえる。

 そのまましばらく走っていると、神田明神の階段を上り下りしている影を見つけた。

 穂乃果だ。

 

「はぁっ......はぁっ......穂乃果!!」

 

 呼吸もままならない状態で叫ぶ。

 心臓がずっとバクバク言っている。

 膝に手をついて少しでも多く酸素を吸う。

 

「あれ?ゆう君?どうしたの?」

 

「どうしたの?じゃねえ!!何やってんだ!!本番前日に!!風邪でもひいたらどうするつもりだ!!」

 

 俺の怒声が空気を裂く。

 しかし、すぐに雨に掻き消されて響くことはない。

 まるで今の穂乃果の心境を表しているみたいに。

 

「大丈夫だよ!!穂乃果風邪なんてひいたことないから!!!」

 

 そう言って、くるりと階段の方へ向いた穂乃果の手を掴む。

 まだ走るつもりだ。

 

「帰るぞ」

 

「やだ」

 

「本番前日にやったって逆効果だ、1日でどうにかなる問題じゃない。こんなことしても意味がない」

 

「意味がないって何!?ゆう君には関係ないでしょ!?穂乃果たちの気持ちなんて何一つ分からない癖に!!!」

 

 穂乃果が俺の手をバッと振り払う。

 

「穂乃果......?」

 

 ガツンと、頭を何かで殴られたみたいな衝撃が走る。

 関係ない。気持ちが分かっていない。

 その2つの言葉が頭の中をぐるぐると反芻する。

 

「表舞台に立って必死にやってきた穂乃果たちの気持ちはゆう君には絶対に分からないよ!!!練習に参加していても、実際に本番があるのは穂乃果たちだけだもん!!ゆう君は失敗出来るかも知れないけど......穂乃果たちには2度目なんてないんだよ!?絶対失敗出来ないんだよ!?」

 

 そこまで一息に言い終わり、穂乃果はハッとする。

 

「あ、ご、ごめん......」

 

 分かってるさ。

 ちょっとイライラして言いすぎることなんて誰でもあることだ。

 俺も言い過ぎた、意味のないことなんてないよな?

 そう言いたいのに、頭がそれを拒否する。

 心が穂乃果の言ったことを飲み込んでしまう。

 

 みんなのことなんて......俺は分かっていなかったんだな。

 理解出来たつもりになっていただけ。

 今まで一緒にやってきて、自分も何かをした気分になってしまっていただけ。

 みんなは俺にたくさんのことをしてくれた。

 

 ――じゃあ俺は?みんなに何か1つでも与えられたのか?

 分からない!分からない!!分からない!!!

 

 ...もういいじゃんか。

 だって、関係ないって言われただろ?

 

「...ゆう君」

 

 穂乃果が手を伸ばしてくる。

 あぁ、そうか。

 関係無くなるのは本当だしな。

 

 今度は俺が穂乃果の手を軽く払いのける。

 

「...俺帰るよ。邪魔して悪かった」

 

 本当、同じ気持ちでやっていたつもりになっていたのは俺だけだった。

 勝手に理解したつもりになって、1人ではしゃいで......バカみたいだな、俺。

 

 雨音が遠ざかる。

 自分が吐いている息の音すら、どこか遠くに聞こえる。

 気がつけば、俺は自分の家の前に立っていた。

 

***

 

『...悪い、遅くなった』

 

『いえ、それはいいのですが......穂乃果は連れ戻せましたか?』

 

『...ごめん、見つからなかったんだ』

 

 俺は嘘を吐いた。

 言える訳ないだろ、ケンカして止められなかった。なんて......

 もう穂乃果は家に帰っただろうか?

 というかそうじゃないと困る。

 だって、風邪なんてひかれたらステージが台無しになるからな。

 今俺が心配しているの穂乃果の体調?それともμ’sのことか?

 分からない。

 心の中はぐちゃぐちゃだ。

 

『そうですか......優、大丈夫ですか?声に覇気がありませんけど......』

 

『あぁ、ごめん。ことりのことだよな?』

 

 海未に心配をかけるわけにはいかない。

 これは俺の問題だ。関係ない。

 そう思うと、胸の辺りがズキッと痛む。

 

『はい......留学、するのですね。先ほどことりから連絡がありました。文化祭のライブが終わった1週間後には日本を発つそうです』

 

 あと1週間弱しか......みんなといられないんだな......

 

『穂乃果にも伝えないとな、ちゃんと、ことりから』

 

『はい、私もそうするべきだと思います』

 

『海未は......止めたいと思わないのか?』

 

 純粋な疑問。

 

『正直、止めたくない。と言ったら嘘になります。でも......幼馴染の背中を押せないのも嫌なんです』

 

『複雑な心境だな......』

 

『...(止められるとしたら、それは穂乃果か)......』

 

『ん?どうした?』

 

 海未が小声で何か言っている。

 

『いえ、何でもありません』

 

『そうか?』

 

 沈黙。

 

『...ことり()いなくなっちゃうんだな』

 

 いつもなら絶対に口を滑らせないようなことが気づけば漏れていた。

 

『も?他にも誰かいるんですか!?』

 

 もういい機会だし、海未には話しておくか。

 慌てている海未と反対に俺はかなり落ち着いている。

 いや、もうどうでもいいと思っているのかも知れない。

 

『...海未、試運転ってことは期間があるよな?』

 

『はい、そうですね......え?』

 

 いつか言わないといけなかったからな。

 俺と理事長、ひばりさんしか知らないあのことを。

 

 海未は今のやり取りで勘付いたらしい。

 本当物事が進めやすいなぁ......

 

『音ノ木坂学院共学化、試運転生徒の八坂優』

 

『...その試運転の期間というのは?』

 

『3年生が卒業すると同時に俺もこの学校からいなくなる予定だった』

 

『だった?ということは無くなったのですか?』

 

 海未の声が少し嬉しそうに聞こえる。

 そうだったら良かったんだけどな......

 

『...廃校が阻止出来れば、俺はここにいる意味が無くなるんだ......つまり、文化祭のライブのあと......入学希望者が増えれば、俺は転校する』

 

『そんな......』

 

 途中で投げ出すことになって悪いな。

 でも、俺がいなくてもみんな上手くやっていけるさ。

 いなくなる人間のことなんか忘れてくれ。

 

 あっ、でもことりのことは忘れるんじゃないぞ?

 

『...だからって明日のステージを失敗するなよ?』

 

『成功させますよ、必ず』

 

『なら良し。明日頑張ろうな』

 

 俺が何を頑張るっていうんだろうな?

 

『はい!......おやすみなさい』

 

『あぁ、おやすみ』

 

 携帯を机に置く。

 ベッドに仰向けに寝転がる。

 

 あぁ、風呂に入らないとな......さっき帰ってきて、タオルで髪を拭いたけど......体は冷えたままだ。

 緩慢な動作でベッドから立ち上がると、手元に一滴、雫が落ちる。

 

「まだ、髪が濡れてたんだな......」

 

 この流れ落ちる雫の正体が髪についた水滴ではないということは気づいていたはずなのに、俺は何度も何度も髪を拭い続けた。

 

―To be continued―

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは引き続き八坂優くんです!」

優「二連続で呼び出されるとか......さてはネタ切れだろ」

作「今までは均等になるように呼んでいたんですが、今回は色々とありまして」

優「そこで暇そうな俺を呼びだしたと?」

作「大体その通りです」

優「...帰る」

作「...前回の投稿日が実は花陽ちゃんのお誕生日だったんですよね」

優「話を聞こう」

作「それを知ったのは投稿したすぐ後だったんです......私はなんてことを......」

優「...なるほど、さすがに女性陣にボコボコにされたくはないというわけだな?」

作「正解です......」

優「...今回の話は、穂乃果ファンの人は不快に感じるかも知れないよな」

作「穂乃果ちゃんを悪役にしたいわけじゃないんです!ただ、話を書いていたらこうなっていたんです!責めるなら私を責めて下さい!」

優「この駄作者!」

作「本当にすいません!!」

優「ったく......次回もよろしくお願いします!」


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雨のち嵐

やっと勉強の嵐が終わりました!
しばらくは解放されます!
学校のテスト勉強と同時進行で仮免の試験も勉強するのは本当に疲れました......




「...朝か」

 

 文化祭当日。

 外を見てみると僅かながら雨が降っている。

 

 ......学校行きたくないなぁ。

 

 昨日の今日でどんな顔をしたらいいのだろうか?

 穂乃果とケンカをしてしまった。

 結果は俺がボコボコにされてKO負け。

 

「休むわけにはいかないよな......今日は大事な日だし」

 

 恐らく、廃校か否かが決まり、ラブライブ出場の為の最終段階。

 これを休んでしまえばきっとみんなに恨まれてしまう。

 鉛のように重い足をベッドから引き離し、ドアへと向かう。

 

「お兄ちゃんおは......何か目赤くない?どうかしたの?」

 

 リビングに入ると、いつものように優莉が朝食を摂りながら挨拶ではないが声をかけてきた。

 多分昨日そのまま眠りについたからその跡が残ってるんだ。

 

「あぁ、ちょっと考え事があって睡眠時間が少なかったんだ」

 

 しかし、余計なことを言うと心配をかけてしまうので、嘘を吐いて誤魔化す。

 優莉は怪訝そうな表情をしたけれど、それ以上は何も聞いてこなかった。

 

「今日の文化祭、雪穂や亜里沙と一緒に行くよ!頑張ってねお兄ちゃん!」

 

「...任せろ!」

 

 虚勢を張ったのはいいものの......みんながステージに立っている間に......俺は何を頑張ればいいんだろうな......

 昨夜も何度も考えたけど、結局答えは出なかった。

 それどころかどんどんドス黒い何かが心の奥底に湧いてきて、そのまま張り付いているような気がしてならない。

 

「じゃあ、俺は先に出るから......気をつけて来いよ?」

 

「はーい、また後でね~」

 

 外に出ると雨は降っていなかったが、空は今にも振り出しそうな嫌な色をしていた。

 晴れ間が覗くことのない一面の曇天模様。

 心の中が酷い状態だからせめて空だけは晴天を見たかったのに......

 そんな空の下、俺は逃げるように走り出した。

 

***

 

「ゆーサンおはよー!!」

 

 部室に入るなり、凛が開口一番挨拶してくる。

 何となく元気がもらえる爽やかさに内心拝みつつ、軽く手を上げる。

 

「おはよう。凛は今日も元気だな」

 

「当然にゃ!今日は特に気合入ってるもんね!」

 

 両手を大きく上に広げ、やる気は十分だとアピールしてくる凛を横目に、俺は荷物を置きに奥の部屋に入る。

 

「優さんおはようございます!」

 

 部屋に入ってきた俺に気がついた花陽が真っ先に挨拶してきくれる。

 そして部屋の中にいたみんながこっちを向く。

 

「優くんおはよう、生憎の天気だけど張り切っていきましょ!」

 

「優くんおはようやん!」

 

「「遅いわよ......って真似(するんじゃないわよ)(しないでよ)!!」」

 

「清々しいぐらいいつも通りだな......みんなおはよう!」

 

 普通に挨拶してくる絵里と希、思いっきりセリフが被ってお互いにツッコミを入れ合うにこと真姫。

 μ’sは今日も平常運転だ。

 

 まぁ、それは今から話しかける人物を除いてだけどな.......

「海未もことりもおはよう」

 

「は、はい......おはようございます」

 

「うん......おはよう」

 

 3人の間に微妙な空気が流れる。

 これは一度ちゃんと話し合った方がいいかも知れないな。

 

「...ちょっとトイレに行ってくる......(海未、ことり、階段の辺りに)

 

 俺はそれだけ言って部室を抜け出し、トイレには行かずに指定した場所へ移動する。

 数分程待っていると、海未とことりが衣装に着替えた状態でやって来た。

 

「...改めて言っておく。俺は多分文化祭後に転校することになる。μ’sの人気が上がり続けている今、廃校はきっと阻止出来る......はずだ」

 

 ことりが目を見開く。

 海未......ことりに言ってなかったのか.......

 

「...でもこの空気をライブまで引きずるのはまずい。難しいとは思うけど......いつも通りを装ってみんなに気づかれないようにしよう」

 

 2人が黙って頷く。

 

「...俺はこのことをライブが終わったあとに打ち明けるつもりだ」

 

「...うん、私もライブが終わったら言うよ......穂乃果ちゃんにもみんなにも......」

 

 沈黙が場を支配する。 

 息苦しい、今すぐここから逃げ出したい。

 逃げ出そうとしている自分の足に力を入れ、俺たちはいつも通りの会話を演じ始める。

 

「そう言えば......穂乃果はまた遅刻か?」

 

 階段から部室に戻る途中に話し続ける。

 白々しいが、息苦しい沈黙よりはましだろう。

 

「はぁ......全く穂乃果は......こんな日ぐらいは早く来てもらいたいものです」

 

「あはは......穂乃果ちゃんらしいね」

 

 なんて自然に不自然な会話をしているんだろう。

 いつも通りなら、こんな感じはしない。

 会話ってこんなに難しかったっけ?

 

 何とか場を持たせながら部室に戻ると、ちょうど穂乃果も部室のドアの前にいた。

 

「穂乃果、おはよう」

 

 気まずさを覚えながらぼうっとしている穂乃果の肩を軽く叩く。

 ...あれ?こいつの体温こんなに高かったっけ?

 

「...あ、ゆう君......おはよう......」

 

 心なしか顔も赤く、視点も定まっていない。

 声も枯れている。

 

「ほら!早く着替えて!」

 

 絵里が着替えを促す。

 穂乃果はゆっくりと歩き出すが、ふらついてことりに寄りかかる。

 

「あはは、ごめんことりちゃん......緊張しちゃって......」

 

「う、うん......」

 

 そしてそのまま奥の部屋へと消えていった。

 ...まさか......あいつ......

 

 頭をよぎる最悪の可能性。

 俺はそっとことりに近づいて、確信を持って聞く。

 

「...なぁ、ことり。穂乃果......熱があるだろ」

 

「...うん。微熱だと思うけど......熱かった。間違いないよ」

 

 俺が......ちゃんと連れ戻していたら......

 今から言って止めることは......出来ないだろうな......

 昨日の穂乃果の調子からして、俺の言うことなんて聞かないだろう。

 自分の体調をみんなに隠してステージに立つだろう。

 

「...無駄だとは思うけど、一応俺から言っておく」

 

「...うん、お願い」

 

 みんなは先に屋上へと向かって行った。

 部室には俺と穂乃果が2人きりになる。

 しばらくすると着替え終えた穂乃果が出てきた。

 

「...あっ、ゆう君......」

 

「穂乃果、お前熱あるだろ」

 

 視線を床に落とす穂乃果。

 そして静かに口を開く。

 

「...止めても出るよ......」

 

「...だろうな。だから俺が無理だって判断したら......その時は素直に言うことを聞いてくれ」

 

 本当は腕を掴んででも無理はさせるべきじゃない。

 でも、俺だって大事な場面ならみんなには絶対言わない。

 少なくとも俺なら絶対そうする。

 

「...うん」

 

「ほら、のど飴。舐めとけ」

 

 μ’sに入ってから、ボイストレーニングをするみんなの為に俺は鞄の中に常にのど飴を入れている。

 こんな形で役に立ってくれるなんてな......

 

「あ、ありがと......ゆう君......」

 

「ほら、早くみんなの所に行こうぜ」

 

 穂乃果が何かを言おうとしているみたいだったけど、ただでさえでも体調が優れていない今、少しでも早く終わらせるべきだ。

 俺は多少なりとも体力の温存させようと、穂乃果に肩を貸して歩く。

 でも屋上を手前に穂乃果を離す。

 

「...行ってこい」

 

「...うん!」

 

 穂乃果はステージの裏へと走っていく。

 かなり雨が降っているが、観客の人たちは傘を持って今か今かと瞳を輝かせてステージを見つめている。

 そんな群衆の中に見知った顔を見つけた。

 

「優莉」

 

 傘を差して立っている妹の元へと小走りで向かう。

 

「あっ、お兄ちゃん......傘は?」

 

「持ってない」

 

 傘を持ってくる辺りまで気が回らなかった。

 優莉はそのまま傘を差しだしてくる。

 

「...お前が濡れるぞ?」

 

「いいよ、私は雪穂か亜里沙に入れてもらうから」

 

 それならば、と傘を受け取って傍にいる雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんに声をかける。

 

「うちの妹と仲良くしてくれてありがとな」

 

「優莉って八坂さんのご兄妹だったんですね!お姉ちゃんから聞いて驚きました!」

 

「って亜里沙気づいてなかったの!?」

 

 亜里沙ちゃんは天真爛漫という表現が似合うぐらいに笑い、雪穂ちゃんはそんなマイペース気味な亜里沙ちゃんにツッコミ、というかリアクションを行う。

 

「まぁ、あまり似てないからな。無理もないよ」

 

「...いえ、八坂先輩は中性的な顔立ちなので女装すれば似てると思いますよ?」

 

「女装の話は止めてくれ、心が痛い」

 

 もはや黒歴史確定の記憶を思い出し、苦笑いする。

 

「それと、優でいいよ」

 

「...分かりました、優先輩」

 

 雪穂ちゃんは少々くすぐったそうにしながら呼び方を改める。

 

「は~いっ!ゆうセンパイっ!」

 

 亜里沙ちゃんは純粋無垢な笑顔を浮かべる。

 

 辺りから歓声が上がり始めた為、俺はステージに視線を注ぐ。

 そこには衣装に身を包んだ9人の姿があって、スタンバイ状態だった。

 アップテンポな曲が流れ始める。

 

 今日の為にみんなで作った曲。

 

 《No brand girls》だ。

 

 それに加えてみんなのダンスが始まり、会場のボルテージは最初からマックス状態になる。

 雨をもろともしない、弾けるようなみんなの笑顔。

 練習時よりも最高のキレ。

 

 そうして、1曲目は最高の形で終わる。

 2曲目への期待が高まる、そんな中――

 

 

 ――穂乃果の体がゆっくりと崩れ落ちた。

 ばしゃりという水溜りの音。

 

 俺は一目散に駆けだした。

 

「穂乃果っ!!!!!」

 

 何が起きたのか分からないという風にざわめく観客に向かって声を張り上げる。

 

「すいません!!メンバーにアクシデントがありました!!少々お待ち下さい!!!」

 

「すごい熱!!早く屋内へ!!」

 

「俺が行く!!」

 

 穂乃果の体を担ぎ上げると、体はライブが始まる前より数段熱かった。

 

「まだやれるわよね!?」

 

 そして背後から聞こえるにこの悲痛な叫び。

 俺は耳を塞ぎたくなる気持ちをこらえて、穂乃果を部室へと運ぶ。

 結局全メンバーが部室に戻ってくる。

 穂乃果は秋穂さんが迎えに来てくれることになった。

 

「...優くん、知ってたんでしょ?穂乃果の体調のこと」

 

 絵里が咎めるような視線を飛ばしてくる。

 俺はそんな視線を真正面から受け止めて、声を出す。

 

「あぁ。実は穂乃果は昨日雨の中走りに行っていたんだ......俺はそれを連れ戻せなかった」

 

 拳を強く握る。

 しかし、決して昨日のケンカの事は明らかにしない。

 そんな告げ口みたいな真似はしたくない。

 

「そして今もまた止めることが出来なかった。それほどまでに穂乃果の意思は固かったんだ......」

 

 絵里はフッと笑い、俺の肩に手を置く。

 

「...きっとここにいるみんな、自分の体調が悪くても隠していたと思うわ......ごめんなさい、責めるような真似をしてしまって......」

 

 絵里の優しい言葉が胸を締め付ける。

 罪悪感でいっぱいになる。

 

 ...違うんだ、責められて当然なんだ......

 指示を出したのは俺で、止められなかったのも俺で......全部俺が悪いんだ......

 

 そんな思いを吐き出すことが出来ずに、俺は下を向いて立ち尽くす。

 結局、秋穂さんが迎えに来るまで俺はみんなの顔を見ることが出来なかった。

 

***

 

 数日後、熱が下がらずにずっと学校を休んでいた穂乃果の家に全員でお見舞いに行くことになった。

 本当はすぐにでも行くべきだったはずだけど、体調が下がるまで待った方がいいという意見で収まったのだが穂乃果が2日と学校に来ない日が続いたため、これは行った方がいいということになり、俺たちは穂むらへと訪れていた。

 

「秋穂さん、穂乃果の様子は?」

 

「もう全然大丈夫よ!ごめんなさいね......どうせあの子が無理言って押し通したんでしょ?」

 

 高坂家の遺伝なのか、穂乃果にそっくりな明るい笑みを浮かべ全部分かってるわよ、と付け加える。

 

「いえ!謝らなきゃいけないのは俺の方です!ごめんなさい!娘さんをこんな目に合わせてしまって!!」

 

 腰を90度に折って、土下座もいとわない覚悟で謝罪する。

 今回のことは全面的に俺が悪い。

 

「全然いいわよ!あの子も偶には痛い目みないと分からなかっただろうしね......無理は禁物だってこと!」

 

 朗らかに笑う秋穂さんに余計申し訳なさを感じる。

 本当、痛い目みないと理解が出来ないみたいだ。

 

「そんなことより、上がっていって!あの子も退屈しているみたいだし!」

 

「...みんな、悪い......ここは俺に任せてくれないか?言わなきゃいけないこともたくさんあるし......」

 

 本当に、色々と言わないといけない。 

 ...いつまでもこんな重いものを引きずって歩くのはごめんだ。

 

「...分かったわ、みんなと外で待ってるわね」

 

 絵里が店の外に出るのを見送り、俺は2階へと足を運ぶ。

 そして穂乃果の部屋の扉を軽くノックする。

 

「穂乃果......入っていいか?」

 

「...は~い、どうぞ」

 

 控えめな返事をもらい、俺は静かに扉を開く。

 中にはマスクと熱を冷ます冷却シートを額につけてプリンを片手に持った穂乃果がベッドに座っていた。

 

「...体調はどうだ?」

 

「うん、もう大丈夫。お母さんが今日はプリン3個食べていいって言ってくれたし」

 

 既に2つ目に手をかけている穂乃果を見て、俺は軽く笑う。

 

「...太るぞ?」

 

「こんな時ぐらい大目に見てよ......」

 

 そして、お互いに相好を崩す。

 

「...ゆう君、本当にごめんなさい!あんな酷いことを言っちゃって!!それに私っ!!」

 

「...気にしてない、とは言わないけど......俺も言い過ぎたしお互いさまってことにしてほむまん1個で手を打とう」

 

 ちゃっかりと自分の要望を伝えて、再び頬をほころばせる。 

 ようやく胸の中のもやもやが1つ消えてくれた。

 

「ライブのことは誰が悪いとか言っても仕方ない。無理したお前も悪いし、止めなかった俺も悪い......そういう話はみんなとしたからな」

 

「...私考えたんだ!もう1度......小さいものでいいからライブが出来ないかなって!!」

 

 そうして意気込んで見せる穂乃果。

 

「...穂乃果、聞いてくれ。......俺たちはラブライブ出場を......辞退した」

 

「...え?」

 

 まるで聞き逃したかのような反応をする穂乃果に俺は目を伏せることなくもう1度告げる。

 こんな残酷なことを2度も言いたくはないと訴えてくる心を無視して、口を動かす。

 

「ラブライブ出場は辞退した。......もう、μ’sの名前はランキングには乗ってないんだ......」

 

「そんな......どうして......」

 

 これは絵里が理事長から言われたことらしい。

 

「...『無理し過ぎたんじゃないかって、こういう結果を招く為にアイドル活動をしていたのか』って理事長が言っていたらしい」

 

 穂乃果はジッと俺の声に耳を傾け続ける。

 

「だから、俺たちは辞退しようってみんなで話して決めたんだ」

 

「...うん、そっか!仕方がないよね!」

 

 あからさまな作り笑顔。

 見ているこっちが痛々しいほどの綺麗な空元気。

 

「...俺はもう帰るから、早く学校来いよ!」

 

 それだけ言って俺は背を向けて部屋を後にする。

 そして、扉を閉めて立ち止まると、中からすすり泣くような声が俺の耳に届き始める。

 唇をグッと噛みしめ、叫びだしそうな自分を押し殺して、俺は穂むらを出た。

 

 みんなと合流するころには唇は少し裂け、口の中は少しだけ血の味がし始めていた。

 

***

 

「みんなおはよう!」

 

 次の日、やっと登校出来そうだとメールが届いたため、俺たちは久しぶりに待ち合わせて4人で学校に行くことになった。

 

「本当にもう大丈夫そうですね」

 

「その節は、大変ご迷惑を......」

 

「何でそんな仰々しいんだよ」

 

 俺と穂乃果を取り巻いていた気まずさはすっかりとなりを潜め、軽口を叩き合える仲に戻っていた。

 

「ってあれ?ことりちゃんは?」

 

 今日は珍しくことりが1番最後となった。

 事情を知っている俺と海未は不自然に目を逸らす。

 

「...偶にはことりだって寝坊するだろ」

 

「そっか~......今日は雨が降るかもね!」

 

「それは穂乃果が早く来たからではないですか?」

 

「全くだ」

 

「2人とも酷いよぉ!!」

 

 変な空気になったことを悟られないように、海未と2人で誤魔化してみる。

 

「ごめんなさい!遅れちゃった!」

 

 そこに息を切らしながらことりが現れる。

 

「まだ全然間に合う時間だから、ゆっくり行ける。大丈夫だ」

 

 そうして通学路を歩き始める。

 まだ少し暑さの残る、いい天気の日だ。

 

「あっ......」

 

 穂乃果が呟きと共に足を止める。

 視線の先にあるのはA-RISEのポスター。

 

 ...まぁ、すぐに割り切れって言う方が無理か......

 仕方ない学校に着くまで内緒にしておこうって話だったんだけどな......

 

「そんな落ち込んでいる穂乃果に朗報だ!」

 

「ふぇ?」

 

 期待度を高めるように間を取ってゆっくりと口を開ける。

 

「な、ん、と......ほい、詳しくはこのプリント!」

 

 先日コピーを取っていたものだ。

 内容は次のようになっている。

 

「...来年度入学者受付のお知らせ......これって!?」

 

「中学生の入学希望者のアンケートの結果が出て......学校の存続が決まりました!」

 

 そう、去年を上回る希望者の数により、音ノ木坂学院の存続が決まった。

 ラブライブ出場は果たせなかったものの、俺たちの悲願でもあった廃校の阻止は見事に成し遂げることが出来た。

 

「や......や......やったぁ!!!!!!!」

 

 穂乃果は叫んでバンザイする。

 落ち込むことなんて一切介入を許さないそんな満点の笑顔。

 

 あぁ、良かった......これで思い残すことは何もない。

 俺は役目を終えたんだ。

 これで......音ノ木坂とはお別れだ......

 

「みんなにも知らせないと!!」

 

「落ち着け!お前以外はみんな知ってるよ!」

 

 今にも走り出しそうな穂乃果を止めつつ、俺は海未へと視線を移す。

 喜んではいるが、同時に惜しむような顔をしている。

 ことりも同様だ。

 

「今日はそのお祝いらしいぞ!放課後は部室でパーティだ!!」

 

「ぃやった!!!!!夢じゃないよね!?」

 

「はい、夢ではありませんよ!」

 

「早く学校へ行こう!!」

 

 穂乃果が先陣を切り、走りだす。

 俺は複雑な心境になりながら、その後ろ姿を目を細めて見つめる。

 

「...優、そろそろ......」

 

「あぁ、分かってる。俺のこともことりのこともいい加減に伝えないといけない」

 

 俺は......

 

「みんな~!!早く早く!!」

 

 穂乃果の声が聞こえる。

 弱音を吐いてしまいそうな自分の頬をパンっと両手で叩く。

 

「あぁ!今行く!!」

 

 これから言わないといけないと思うと、手に持っている鞄すらとても重たく感じてしまった。

 

***

 

「乾杯!!」

 

 そのにこの一言で、俺の意識は戻ってきた。

 どうやらぼうっとしていたらしい。

 みんなはお菓子を摘み、廃校が無くなった喜びに浸っているが......その一方で俺とことりはいつ言えばいいのかとタイミングを計っていた。

 

「...少々、よろしいでしょうか」

 

 海未の声。

 決して大きくは無かったはずのその声は響き、みんなが俺たちに注目する。

 

「...まずは俺から報告がある」

 

 辺りがシンとする。

 こういう空気って無駄に言い出し辛いよな......

 

「...俺は......転校、することになったんだ......まだ日にちは決まっていないけど、俺はこの学校にはいられない」

 

「...え?」

 

 誰の呟きだったのだろうか?

 その呟きを合図に止まっていた時間が動き出す。

 

 そして、ことりが一歩前に出る。

 

「...私は海外で服飾の勉強をする為に、留学することになりました......4日後、日本を発ちます」

 

 ガタンっと音を鳴らして穂乃果がゆらりと立ち上がる。

 そうして、俺たちへとゆっくり近づいてくる。

 

「どうして......どうして言ってくれなかったの!?」

 

 怒り、悲しみ、様々な感情が乗った叫びは......俺たちを俯かせるのには十分な威力を秘めていた。

 

「...海未ちゃんは知ってたんでしょ!?」

 

「...はい」

 

 穂乃果が俺の肩を揺さぶる。

 

「...言おうと思ったよ?何度も......何度も!!」

 

 遂にことりの感情が爆発し、穂乃果は目を見開き、動きが止まる。

 

「でも穂乃果ちゃんはライブに......ラブライブに夢中で......言い出せなかった!!本当は誰よりも早く相談したかったよ!?そんなの当たり前でしょ!?初めて出来たお友達なんだから!!!!」

 

 ことりはそのまま部室のドアから走り去ってしまう。

 俺が追わないと......しかし、海未が俺の体を制す。

 

「ここは私が行きますから......後はお願いします」

 

 海未はことりを追っていってしまった。

 

「...俺の転校は最初から決まってたんだよ。この共学化の試運転には元々今の3年生が卒業するまでって期限があったんだ。廃校が無くなって......それが早くなっただけ」

 

「...ゆう君もことりちゃんと......同じなの?私がもっと視野が広ければ......相談出来てたの?」

 

 弱弱しい穂乃果の声。

 でも、それは勘違いだ。

 

「...俺の場合は相談しても仕方ないことだろ?ここは女子高で俺は男、それだけのことじゃないか」

 

 元々、俺はこの学校に立ち入ることすら許されていない人間だ。

 学校が違う以前に性別が違う。

 ここにいられることが奇跡なんだよ。

 

 パーティは後味の悪いまま、お開きとなった。

 

***

 

 そして、次の日の放課後......俺は理事長室を訪れていた。

 ことりが日本を発つまで残り3日。

 

「では、前の学校には戻らずにこの辺りの学校に通うということでいいのね?」

 

「はい、あの学校には少々複雑な思いがあるので......」

 

 転校の手続きをしながら、俺はひばりさんと話を続ける。

 

「...本当にいいの?」

 

「...いいも何も......俺がこのままここにいることなんて許されませんよ......それに我が儘なんて言えません。この音ノ木坂の廃校を食い止められたんです。それだけで十分なんですよ」

 

 俺の奥深くまで見透かそうとする瞳から目を逸らし、それっぽいことを言って誤魔化す。

 

「...ことりはどうしてますか?」

 

「今は家で引っ越しの準備をしているわ」

 

 おしゃれ好きなことりのことだ、きっと1番整理するのに苦労しているのは衣服類なんだろうな。

 

「...そうですか。じゃあ俺も練習があるので、これで失礼します」

 

 これ以上ここにいると余計なことまで口走ってしまいそうだったので、早々に退出させてもらおう。

 背中を向けて廊下に出る。

 

(全く......みんな意地っ張りなんだから)......」

 

 そんなひばりさんの呟きが聞こえたような気がしたが、気のせいだろうか?

 俺は部室で練習用の服に着替えて、屋上へ続く階段を上っていく。

 

 そうして扉の前へ辿り着いた。

 さて......どんな顔をしたらいいだろうか?

 考えていると、屋上からパンっという乾いた音が聞こえてきた。

 

「あなたは最低ですっ!!!!!!」

 

 次いで海未の声、そして扉が力なく開き......左の頬を赤くした穂乃果がふらふらと歩いて階段を下りて行った。

 

「...何があったんだ?」

 

 理解出来ない......状況から見て、海未が穂乃果に平手打ちをしたみたいだけど......どうしてそんなことに?

 俺の質問には絵里は沈痛な面持ちで口を開く。

 

「...穂乃果が......μ’sを......スクールアイドルを辞めるって......」

 

「.......え?」

 

 長い長い沈黙のあと、俺は頭の中が真っ白になった。

 

―To be continued―

 




今回は雑談のコーナーはお休みです。
ネタ切れというのもありますが、ゲストのローテーションの調節と考えてもらえれば......です。

それでは次回もよろしくお願いします。


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日の出

今回は半分程穂乃果ちゃん視点で進行します。
書いている最中常々思うのですが......優くん以外の口調の表現が難しい!
セリフならまだ大丈夫ですが、地の分がどうも難しかったです!



 ことりが日本を発つ前日。

 ...穂乃果は、本当に練習に来なくなってしまった。

 学校には来ているものの話しかけられるような空気ではない。

 部室でのパーティと屋上での一件以来、穂乃果は心ここにあらずといった感じで俺やμ’sのみんなを避けている。

 

 ことりは学校にも来なくなり、話したくても話すことが出来ない状況が続いている。

 それでも話を聞こうとことりの家に行ったが、今は会いたくないとのことで顔を見せてくれなかった。

 

「海未、何か聞いてないか?」

 

「すみません......私もことりのお家には行ったのですが、準備が忙しいとのことで......」

 

 今更ことりに会って俺はどうしたいんだ?

 もし会えたとして、何て言うつもりだ?

 行って欲しくないと言う?

 

 ――じゃあそれはどうしてだ?

 

 μ’sがバラバラになるから?

 ことりの夢はどうでもいいのか?

 

 自分だっていなくなる身の癖していなくならないでなんて言う気か?

 バカみたいじゃないか。

 

「...俺はまず、穂乃果のことを何とかしたいと思う」

 

「...そうですね」

 

 俺はもうすぐいなくなるけど、それまでは俺はこの音ノ木坂の生徒だ。

 友達が悩んでいるのに何もしないわけにはいかない。

 

「...今、私が穂乃果と話すのは難しいですから」

 

「...あぁ」

 

 そういえば派手にケンカしたんだっけ......

 お互いが頑固な性格だから、意地を張り合って絶対に自分から謝ろうとしないだろうしな。

 そういう時はことりが仲介役になって上手く切り抜けてたんだけど......

 でも今回のことは穂乃果を責めるに責められない状況だ。

 誰だって自分の大切な友達がいなくなるって分かれば、大なり小なり荒れる。

 海未が怒るのも良く分かるし、穂乃果が自暴自棄になるのも良く分かる。

 

 この問題を解決するにはまず先に穂乃果をどうにかしないといけない。

 それを解決すれば多分全部解決する気がするからな。

 

 数ヶ月とはいえ、あれだけ情熱を注いだものを簡単に捨てることなんて出来やしない。

 中には何年経っても割り切れずに引きずる人だってたくさんいる。

 

 あれだけ毎朝寝坊するようなやつが、朝練だけには遅刻せずに来たんだぞ?

 嫌だと思っていたら出来やしない。

 最初は学校を救うため必至だったとはいえ、きっと今ではそれだけじゃないはずだ。

 傍で見ていただけの俺がそうなんだ。

 

 きっと、穂乃果は俺よりもμ’sの誰よりも......スクールアイドルでありたいと思っているはずだ。

 その思いは生粋のアイドル好きであるにこや花陽と同等ぐらい、いや......もしかしたらそれ以上かもしれない。

 

「何か考えがあるのですか?」

 

「...無い!」

 

 海未の期待を込めた眼差しを力強く一蹴する。

 

「...」

 

「やめろ、そんな目で見るな」

 

 あぁ、そんなことだろうと思いましたよ。と言わんばかりの侮蔑を込めた眼差しを受けつつ、俺は思考を巡らせる。

 

「...とりあえず、出来ることをやる!」

 

「はい、頼みましたよ?」

 

 ...もう何するかばれてるっぽい?

 俺ってそんなに分かりやすいのか?

 

「任せとけ」

 

 そんなことより今は、やらなきゃいけないことがあるからな。

 そして、チャイムが鳴った。

 

***

 

「穂乃果!」

 

 放課後になった瞬間、逃げられないように俺は速攻で穂乃果の席に足を運ぶ。

 

「...何?」

 

 顔をこっちには向けないものの、足を止めてくれたってことは一応話を聞いてくれるってことなんだろうな。

 

「今から時間あるか?」

 

「...練習には行かないよ?それに今からヒデコたちと約束があるから」

 

 なるほどな。

 それなら......

 

「おーい、ヒデコさんたち!今日ちょっと穂乃果を借りていってもいいか~?」

 

「えっ!?」

 

 穂乃果の驚く声が聞こえるが、今はノータッチだ。

 歩いてヒデコさんやミカさんやフミコさんの所に行くのは時間が惜しかったので大声で呼びかけることにした。

 

「え?う~ん......いいよ!」

 

「悪いな~。よし、穂乃果!......遊びに行こうぜ!」

 

 いきなりのことに今度は声も出ないようだった。

 しかし数瞬の後、穂乃果の回りの時間が動き出す。

 

「えっ......えぇぇぇぇ!?どういうこと!?」

 

「あー、うん。一度しか言わないぞ?......ちょっとデートしようぜ」

 

 教室のど真ん中で何を恥ずかしいことを言ってるのかと思うだろうが、今は言葉を選んでいる時間はない。

 

「というわけで街へ繰り出すぞ!」

 

「ま、待ってよ!ゆう君!」

 

「時間が無いんだから話はあと!」

 

 穂乃果の手を掴んで教室を飛び出す。

 ...明日クラスのみんなから何を言われるんだろうなぁ......そんなことを一瞬だけ思ったが、もうあまり気にしないことにした。

 

「どこか行きたい場所はあるか?」

 

「へ?あ、う~ん......じゃなくて!!本当にどういうこと!?」

 

「どういうことも何も......深い意味はないけど?」

 

 まぁ、あれだ。

 少しでも元気付けたいってとこだ。

 ことりのこともあるけど......目の前にあることから1つ1つ片づけていこうと思っただけだ。

 

「練習はいいの!?ラブライブだってまだあるかも知れないのに!!」

 

「μ’sの活動はしばらく休止だ.......やっぱりμ’sのことが気になるのか?」

 

 この質問は意地悪だな、と自分でも思う。

 でも、俺が悪役に徹してでも穂乃果の本音を聞き出すつもりだ。

 みんなの為なら、どんな汚名だって甘んじて頂戴しよう。

 

「...ことりちゃんがいなくなって、それで8人になったとして......そんなの、μ’sだなんて呼べないよ。だってμ’sは9人......海未ちゃんがいて、凛ちゃんがいて、花陽ちゃんがいて、真姫ちゃんがいて、絵里ちゃんがいて、にこちゃんがいて、希ちゃんがいて......ことりちゃんがいて、ゆう君も揃ってμ’sなんだから」

 

「それなら穂乃果が欠けてもμ’sじゃない」

 

 9人の歌の女神、それがμ’sというグループ名の由来。

 そこから俺を抜いたところで何の痛手にもならないはずだ。

 俺はただ9人の女神に尽くすだけの従者の1人だからな。

 

「活動が休止になったのって私のせいだよね......ごめん」

 

「...今は遊ぼうぜ、これからはそういう暗い話題持ち込み禁止な!」

 

 今はここまでにしておこう。

 穂乃果の本音を少しだけ聞けたし。

 あとは本人の口からはっきりと言わせないとな。

 

 ――アイドルが好きだって。

 ――μ’sでいたいって。

 

 あと少し、もう少し、何か後押しが欲しい。

 雑踏の中を歩きながら、俺は考えた。

 

***

 

「とりあえず、まずはこれだな」

 

 まだ絵里と希がμ’sじゃなかった頃にリーダー決めで来たゲームセンター。

 その中にある、以前使ったダンスゲームの筐体を前にして、俺は腕を捲る。

 

「...よーし穂乃果、勝負だ!俺に勝てたらクレープ奢ってやるよ!」

 

「えぇっ!?いいの!?」

 

「勝てたらな」

 

 甘いもの、しかも自身の育った環境とは真逆に位置する洋風のスイーツに釣られた穂乃果は同様に腕を捲り、筐体に立つ。

 コインを投入して曲を選ぶと、賑やかな音が聞こえ始める。

 そしてリズムに合わせてステップを踏む。

 

 ...いつものダンスレッスンのおかげで優しく感じる。

 タンタンタンっと床を踏み鳴らし、集中する。

 

 そんな中、穂乃果はジッと立ち尽くしていた。

 その目に何を映しているのか、何を考えているのか。

 

「...穂乃果?始まってるぞ?それともハンデのつもりか?」

 

 画面に視線を戻しながら、俺は穂乃果に言う。

 

「...っ!!」

 

 ぼうっとしていた穂乃果が軽やかにステップを踏み始める。

 元々運動神経は良かった。

 それに加えて日々のトレーニングの成果もあり、リズムをほとんど外さない。

 サビに入る頃には開いていたスコアの差がほとんどなくなっていた。

 

「よしっ!勝ち!」

 

「あぁー!......悔しい!!」

 

 それでもやはり最初のミスが勝敗を決し、結果は俺の勝ち。

 隣でジタバタしている穂乃果を見て、勝ち誇る。

 

「クレープが......」

 

「さ、クレープ食いに行こうぜ」

 

 筐体の前の荷物置き場に放り込んでいた鞄を掴み、穂乃果の肩を叩く。

 

「へ?」

 

「あれ?いらないのか?」

 

「...いるっ!」

 

 パッと頬を綻ばせて、穂乃果は俺の隣に来る。

 

「でも穂乃果勝ってないよ?」

 

「まぁ......何だ......世の中には残念賞って言葉が存在していてだな?」

 

 今回偶々その賞品がクレープだったってだけだ。

 訂正、今回勝っても負けても奢るつもりでした。

 

「何それ~!変なの!」

 

「奢らないぞ?」

 

「ゆう君かっこいい!」

 

 急に手の平返したな......まぁいい。

 ちょっとは元気出たみたいだしな、やっぱり穂乃果はこうじゃないと。

 

***

 

「ちょっと神田明神に寄ってもいいか?」

 

「うん」

 

 夕方になり、ゆう君と私は私たちにとって縁のある神田明神に行こうと言ってきた。

 何の目的があるかは分からないけど、聞いても多分教えてくれないよね......

 ゆう君はいつだってそう。肝心なことは大体はぐらかす。

 

「...穂乃果」

 

「...あ、何?」

 

 ゆう君のことを考えてる時に名前を呼ばれたから、少し驚く。

 呼ばれるだけで胸の辺りが心地の良い暖かさに包まれる。

 ...今この状況でこんなことを考えられるなんて、私はとんでもなく酷い人間だと思う。

 

「...お前が気にしてるのって、多分μ’sのこともそうだけど、主に海未のことだろ?」

 

「もしかして顔に出てた?」

 

 という私の言葉にゆう君は肩を竦め、『顔には出てないけど、分からないわけないだろ?』と答えた。

 本当にゆう君はエスパーなんじゃないかって思ってしまうことがある。

 

 海未ちゃんには、本当に酷いことをしてしまったと思う。

 自分から引っ張りまわしておいて、いざ自分が落ち込んだら何もかも投げ出してしまっていつも海未ちゃんには迷惑しかかけていない。

 

 ...そりゃ怒るよね......しかも今回は平手打ち付きだもん。

 10数年付き合ってきて初めてだった。

 海未ちゃんは怒っても決して手は出してこない。

 ...ゆう君は例外みたいだけど。

 

 しかし、そんな例外を打ち破るようなことを私はやってしまった。

 ことりちゃんが留学するって聞いて......ショックで頭の中が真っ白になって......私のせいでラブライブに出られなくなって......私が全部壊してしまった。

 

 もう何の為に頑張ればいいのかが分からない。

 

「というか、穂乃果が悩んでいることが俺に分からないわけないだろ?」

 

「えっ!?」

 

 こういう時なのに、その一言で顔が熱くなるのを感じる。 

 ゆう君はずるい、だからみんな少なからず彼に好意を持ってしまう。

 

「と言っても、ことりのことは見抜けなかったんだけど......」

 

 そう言って、悔しそうに笑うゆう君の顔から目が離せなくなる。

 多分、170cmぐらいの身長に少し長めの前髪、男の子なのに女の子っぽい顔つきをした男の子。

 

「おっ!着いたぞ」

 

 いつも私たちが朝練をしていた場所。

 今は夕日を受けて、少し眩しく見える。

 

「...花陽ちゃんだ」

 

「あっ、本当だ」

 

 花陽ちゃんは練習着で階段を駆け上がっていた。

 ゆう君が階段を上り始めたあとに着いて行く。

 

「何だ、凛もいたのか」

 

「ゆーサンと穂乃果ちゃん?」

 

 花陽ちゃんと同じように練習着に身を包む凛ちゃんがいた。

 ゆう君が声をかけると凛ちゃんはてててと駆け寄ってくる。

  

 ...今はμ’sは活動休止って言ってたし......自主練かな?

 

「2人ともどうしたんだ?」

 

「自主練に決まってるでしょ?アイドル続けるんだから」

 

 ゆう君の質問に答えたのは私たちの背後から聞こえる声。

 にこちゃんがいつの間にか後ろに立っていた。凛ちゃんたちと同じように練習着を着て、腕を組んで近づいてくる。

 

「...どうして?」

 

 私の口からそんな言葉が零れ落ちる。

 

「...好きだからよ。みんなを笑顔に出来るアイドルが、途中で投げ出した穂乃果なんかと違って私は本当に大好きだから続けるの」

 

「そんなこと!!」

 

「そんなこと、何よ?投げ出したのは事実でしょ?」

 

 にこちゃんの真剣な眼差しが私を射抜く。

 ...何も言い返せないや。

 

「...練習邪魔してごめんね」

 

 私は......私だってスクールアイドルが......

 言いたかった、その続きは今の私が口にしたところでどうしようもなく、嘘みたいな言葉に聞こえちゃうんだろうなぁ......

 

「ゆう君、また明日」

 

「あぁ、また明日」

 

 私を家の前まで送り届けてくれたゆう君を見送って、私は家の中に入った。

 

***

 

「ってあれ?亜里沙ちゃんと絵里ちゃん?」

 

 家に入ると、絵里ちゃんと亜里沙ちゃんが雪穂と話をしていた。

 

 どうしたんだろう?

 でも、絵里ちゃんにも迷惑かけちゃったから......ちゃんと謝らないと......

 

「お姉ちゃんお帰りー」

 

「お邪魔してます!」

 

「突然ごめんなさい」

 

 とりあえず、絵里ちゃんを私の部屋に......

 

「絵里ちゃん、私の部屋で話さない?お茶も用意するよ」

 

「そうね、お言葉に甘えようかしら。亜里沙、雪穂ちゃんとお話でもして待っててくれる?」

 

「うん!」

 

 絵里ちゃんには先に私の部屋に行ってもらうことにして、私はお茶とお菓子を用意して部屋に向かう。

 部屋に入ると、絵里ちゃんが座布団に座って待っていた。

 

「...あの、絵里ちゃん......ごめんなさい!」

 

 部屋の真ん中に置かれたテーブルにお茶とお菓子の乗ったトレイを置いて、私は頭を下げる。

 

「μ’sの活動を休止になるようなことをしちゃって......本当にごめんなさい!!謝って許されることじゃないと思うけど......ごめんなさい!!」

 

 私は頭を下げたまま、何度も謝る。

 

 元はと言えば私が突っ走り過ぎて......大切な友達のことも見えなくなって......ゆう君の言うことをちゃんと聞かなかったから......

 

「そのことなんだけどね......穂乃果の言ってることは正しいわよ。だから私がμ’sは休止にしようって提案したの」

 

「え?」

 

 私の言ってること?

 どのことだろう?

 

「希も言っていたわ。9人揃わないとμ’sじゃないって。みんな納得してくれたわ。......まぁ、にこは最後までいい反応はしなかったけど......」

 

「にこちゃん......」

 

 そりゃそうだよね......にこちゃんは1度大きな挫折を経験しちゃってるんだから......

 そんな夢も台無しにしちゃったんだよね......私が......

 

「...実はね、明日にこたちが講堂でライブをするらしいの」

 

「...それって凛ちゃんと花陽ちゃんも一緒に?」

 

「知ってたの?」

 

「さっき自主練してるところに会ったんだよ」

 

 あれは明日のライブの為だったんだ......

 

「それなら話が早いわね、明日は見に行ってあげて。私たちも行く予定だから」

 

「...それって放課後?」

 

「ライブの準備を手伝うって言ったら、μ’sのメンバーは明日普通に授業を抜け出せるみたいよ?」

 

「でも私μ’sはもう......」

 

 そこまで言いかけたところに絵里ちゃんが真っ直ぐに手を差し出してくる。

 口を閉ざして、その手をジッと見つめる。

 

「...私はね、あなたと優くんが手を差し伸べてくれたからここにいるのよ?だったら今度は私に助けさせてくれないかしら」

 

「...」

 

 何も言えずにただその手を見つめ続ける。

 

「それに、穂乃果がμ’sを辞めたってことなんて誰も気づいてないわよ、だから抜け出してもばれないと思う」

 

「...ぷっ!あはは!!絵里ちゃん変わったね!!」

 

 以前は嘘を吐くことやサボるなんてことは絶対許してくれなかったのに。

 

「それもあなたと優くん、μ’sのおかげよ」

 

 でも、私にはまだその手を握る資格がない。

 それには失ったものが多すぎる。

 

「...絵里ちゃん、待っててね。今はまだその手を取ることは出来ないけど......ちゃんと自分のやりたいこと、見つかったから」

 

「...待ってるわ。それじゃあそろそろ帰るわね。お邪魔しました」

 

 フッと不敵な笑みを浮かべる絵里ちゃんはどことなくゆう君の面影が重なって見える。

 本当に影響受けちゃってるよ......

 

「うん、あっ!玄関まで送るよ!」

 

「ふふっ!ハラショー!」

 

 絵里ちゃんと下で待っていた亜里沙ちゃんを見送って、私は自分の部屋に戻った。

 そして、1週間も経っていないはずなのに懐かしく感じる練習着に身を包む。

 

 ...みんなを笑顔に出来る、スクールアイドル。

 最初はただ、廃校を阻止したかっただけだったのに......μ’sとして活動してる内に、歌うことや踊ることの楽しさを知って......みんなが応援してくれることがとっても嬉しいって思うようになったんだよね。

 そんな素敵なモノ。

 

 ――あぁ、そうだ。

 私は......スクールアイドルが大好きなんだ。

 する方も見ている人も笑顔になる、スクールアイドルが大好き。

 

 ――歌いたい!

 

 

 

 ――踊りたい!

 

 

 

 ――みんなと一緒に!

 

 

 

 ――μ’sの高坂穂乃果として!

 

 

 

 

 

 何度でも、何度でも、何度でも!!

 

 

 だから、迎えに行くよ!ことりちゃんのことを!

 だって......私はまだことりちゃんと一緒にいたい!!

 私はまだことりちゃんに自分の思いを伝えられてないもん!!

 

 その前に海未ちゃんにちゃんと謝らないと!

 

 ちょうどその時、携帯に海未ちゃんからのメッセージが届いた。

 

<明日、講堂でお話があります>

 

 私もだよ、と返信して、私は頬をパンっと叩いた。

 

―To be continued―

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは高坂穂乃果ちゃんです!」

穂「こんにちはー!」

作「今回のサブタイトルは穂乃果ちゃんを太陽と見立てて付けたものなんですが......話の内容を考えるのが難しかったです」

穂「そうなんですか?」

作「裏話を言うと最初3000文字ぐらい書いていたのですが、内容に納得がいかなかったので全部消して最初から書き直す、なんてことをしたりしました」

穂「えぇっ!?」

作「物語のクライマックスでしかも個人回ですよ?どうやって手を抜けって言うんですか?」

穂「無駄に決め顔だ!!」

作「まあこの話自体は前の話を投稿した日には完成してたんですけどね」

穂「それならすぐに投稿すればよかったんじゃないですか?」

作「そうすると更新速度が落ちるんですよ......だから最近のスタイルとしては1週間ごとの定期更新にして1話投稿したその1週間の間に次の話を書き溜めるという感じですね」

穂「...それなら1話と言わずにガンガン書き溜めちゃえばいいんじゃないですか?」

作「...それが出来たら苦労しないんですよ......それでは次回も!」

穂「よろしくお願いします!」


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海色の想い

まずはお礼を言わせて下さい。

この度、何とこの小説の評価バーに色がつきました!!
本当にありがとうざいます!!

投稿して、さて、UAの確認でもしてもう一回寝るかーなんて考えていたところ、目に飛び込んできたのは評価バー、色ついてる!?

ってなりましたね。

これからもどうぞよろしくお願いします!

今回の話は海未ちゃん回、なのかな?
まぁ、穂乃果ちゃんに比べて短いですが......

女の子視点は地の文が難しいです......



 穂乃果から連絡が来た。

 もう大丈夫だよって。

 

 穂乃果を家に送り届けたあと、俺は自分の部屋でぼうっとしていた。

 何分間そうしていたのかは定かではないが、そろそろリビングでも行くかと思っていたところでちょうど携帯が光るのが見えた。

 

「そうか......やっぱり穂乃果はすごいな。ちゃんと立ち上がれたんだから」

 

 フッと微笑み混じりに呟き、お帰りとだけ返信してそのままリビングに向かう。

 リビングでは案の定優莉がくつろいでいた。

 

 ...こいつ俺がいる時いつもリビングにいるけど......自分の部屋でくつろがないのか?

 

 などと疑問に思いながら俺は冷蔵庫を開ける。

 

「げっ......」

 

「どうしたの?お兄ちゃん」

 

 優莉がテレビから視線を俺へと移す。

 

「...いや、ジュース買い置きが無くなってたから......」

 

 麦茶とかはあるんだけどな......

 あれだ、ラーメン食べたいって思ってるのにカレー出される感じだ。

 炭酸が飲みたい気分の時に水道水突き付けられるような、そんな感じ。

 

「...仕方ない、ちょっとコンビニ行ってくる。何か欲しいものあるか?」

 

「んー......アイスかデザート」

 

「その2つってカテゴリー分ける意味あるか?アイスもデザートだろ」

 

 呆れ混じりに呟く。

 

「どっちも食べたい気分なんだよー......じゃあアイス」

 

「ん、了解」

 

 仕方ないな......こっそりプリンでも買ってきておいて朝にでも食べらせればいいだろ。

 そう思いながら自室から財布を取ってくる。

 念のために携帯もポケットに滑り込ませて外に出る。

 

 まだ日が沈んでおらず黄昏に染まっているこの時間帯。

 夏は日が落ちるのが遅いからまだどこかで遊んでいるのであろう小学生の元気な声が聞こえる。

 

「...ゆー君」

 

 背後から聞こえてきた声に足が止まる。

 最後に聞いたのはいつだったか......常に俺を癒してくれた天使みたいなふわふわな声。

 

「...ことり......」

 

 彼女はそこに立っていた。

 もうすぐ海外へ留学してしまう幼馴染の1人。

 

「...今からコンビニ行くんだけど......一緒に行くか?」

 

「......うん」

 

 長い沈黙の末、彼女は、ことりは頷いた。

 そして、俺たちはゆっくりと歩き出す。

 

 話したいことがいっぱいあるはずなのに、何も話すことが出来ない。

 ただ、2人が歩く音が響き続ける。

 

「...どうしてあそこにいたんだ?」

 

 ことりと会ったのは家を出てすぐ近くのことだった。

 この辺りには特別何かがあるわけではない。

 むしろことりの家の辺りの方が店が多いぐらいだ。

 

「...お別れを言いに来たの。ゆー君に」

 

 お別れ、たった4文字程度の言葉なのに重すぎる言葉。

 

「そっか......もう明日だもんな。見送りに行くよ、何時頃出発?」

 

「...見送りは来なくていいよ。来られたらきっと私は悲しくなるから......だからお別れを言いに来たの」

 

 まぁ、そうだよな......

 でも......旅立つ時に見送ってやれないのってどうしてこうも歯がゆいんだろうな。

 

「穂乃果ちゃんは......どうしてる?」

 

「...心配するな。もう大丈夫だってさっき連絡があったから」

 

 ようやく穂乃果は笑顔を取り戻したんだ。

 落ち込んでるのなんてあいつらしくないし......本当に良かった。

 

「ふふっ......やっぱり穂乃果ちゃんはすごいなぁ......もし男の子だったら絶対モテモテだよ」

 

「...女子高じゃなかったら普通にモテてるだろ。優しくされたりあの笑顔向けられた男が勘違いして告白祭りだろうな」

 

 そうして屍の山を築くんだろうなぁ......

 

「ゆー君もそうなの?」

 

「...んー......俺って人を好きになったことがないからなー......」

 

 ことりが意外そうに目を丸くする。

 

「子供の時から?」

 

「いや、そういうのじゃなくてな......幼少期の頃っていつの間にか人を好きになってるってことが多いだろ?俺ももちろんあったし」

 

 ということは俺の初恋って......

 そこまで考えて顔が熱くなるのを感じたので空を仰ぎ見る。

 

「つまりどういうこと?」

 

「えーっと......つまり俺は本当の意味で人を好きになったことがないんだよ。色んな感情を理解出来るようになってから人を好きになるっていうのはすごい難しいんだ」

 

 小さい頃はいつの間にかとかだから......自分で考えて人を好きになるって言うのは簡単なことじゃないと思う。

 

「本当に自分で考えて人を好きになったのなら、その人が本当に大切ってことなんだろうな......」

 

「...そっか」

 

 タッとことりが俺の前に踊り出る。

 

「...さようなら」

 

「...またね、だろ?」

 

 別に永遠の別れになるわけじゃないし。

 

「...うん」

 

 もうコンビニに着いたのか......というか引き留めなくて良かったのか?

 去っていくことりの背中を見ながら再び俺の思考はそこに戻った。

 

 そして携帯の震えが俺を現実に引き戻す。

 

<明日、講堂にてお話があります>

 

 海未からの連絡だった。

 

***

 

「さて、授業を抜け出したのはいいけど......」

 

 今日はにこと凛と花陽がライブをするらしい。

 その手伝いとしてアイドル研究部の部員は手伝いの為なら授業を抜け出せるというわけだ。

 

 ...そんなこと許すってこの学校大丈夫か?

 理事長曰く、残念な結果にはなったけど廃校を阻止してくれたご褒美だそうだ。

 まぁ、無くなったと言ってもまだ来年だけなんだけど......でもきっとしばらくは大丈夫だと思う。

 

「...あれだな、運動部が試合ある日に少しだけ授業を受けて途中で抜け出すようなものだ、うん」

 

 ...というか海未も同じクラスなんだから一緒に講堂に行けばいいんだけどな......

 呼び出された手前、一緒に講堂に行ってそれから話を始めるっていうのはおかしいんだけど......

 というわけで俺たちは少しずつ時間をずらしてそれぞれが講堂に向かっているというわけだ。

 

 さて、講堂に着いたわけだけど......海未は俺よりあとにくるはずだ。

 

「あれ?ゆう君?」

 

「穂乃果......海未に呼ばれたのか?」

 

 だったら一緒に来れば暇つぶしに話せたのに......

 

「うん、私も海未ちゃんにお話しがあったから」

 

 あぁ、この何かを決意した時の穂乃果の力強い眼差し。

 久しぶりだな。

 

「そうか......そろそろ海未も来る頃だと思うぞ?」

 

 俺たち2人だけだった講堂に誰かの足音が響く。

 どうやら来たみたいだな......

 

「お待たせいたしました」

 

 そのままステージに俺たち3人は立つ。

 

「...海未ちゃん、ごめんなさい!!私、海未ちゃんに迷惑かけたよね......」

 

 海未は呆気に取られたような顔をして、急に笑い始める。

 

「ふふっ!!今更ですか?私は昔から穂乃果には迷惑をかけられてばかりですよ?」

 

「うっ......ごめんなさい」

 

 そして2人して笑い出す。

 

「...この分だと穂乃果はもう心配ないですね」

 

「うん!私はスクールアイドルが好き!こんなに楽しいことを途中で投げ出すなんて考えられないよ!」

 

 あぁ、ようやく穂乃果の口から聞けた。

 良かった......最後に聞くことが出来て......

 

「...正直言って穂乃果の我が儘でスクールアイドルを始めた頃はあぁ、またか......と思ってました。私が人前に出ることが苦手だということを知ってるくせに、なんて恨んだりもしてましたよ?」

 

「えぇっ!?そうなの!?全然気がつかなかった!!」

 

「いやいや、俺でも分かってたぞ?」

 

 海未と2人で半眼を作って穂乃果を見る。

 

「...ですが、穂乃果はいつも私とことりに勇気をくれました。そして、あなた抜きでは決して見ることの出来なかった景色をいつも見せてくれました。今回の廃校のことも普通は仕方ないって諦めてしまいそうなものです。私だってそうでしたから」

 

 まぁ、普通はただの学生が廃校を何とかしよう!なんて思わないよな。

 

「ですが......穂乃果だけは諦めずに行動を起こしました。そして、μ’sが結成されて、奇跡を簡単に起こしてみせたんです。どんな状況でも諦めずに突き進めるのは穂乃果のいいところだってみんなも言ってましたよ?」

 

「...私不器用だから.....諦め悪いことしか取柄がなくて......」

 

「それが1番すごいことなんだけどな......」

 

 3人で笑い合う。

 もうすぐそれも出来なくなると思うと......いや、ダメだ。

 そんなことを考えちゃダメだ。

 

「...だからことりちゃんのことだって諦めない!絶対何とかする!」

 

 俺はハッとして穂乃果を見る。

 ははっ......本当にすごいやつだよ、お前は。

 だって......何とかなるじゃなくて何とかするって言ったんだぞ?

 運に任せずに自分でどうにかしようとしてるんだ......もうすごいとしか言いようがないな。

 

「はい、穂乃果なら絶対そう言うと思ってました。まだことりは空港にいるはずです、今ならまだ間に合います」

 

「うんっ!」

 

 穂乃果は力強く頷く。

 

「しかしまだ話は終わっていません。...優、あなたを呼んだのは少々聞きたいことがあったからです」

 

「...あぁ」

 

 そういや、話があるって言ってたしな。

 

「...あなたはこの学校に来て、楽しかったですか?」

 

「え?」

 

 何だよ......その質問。

 しかし海未の真剣な眼差しを受け、俺は記憶を掘り返す。

 

 最初は無理やり女子高に編入させられて、そりゃあ母さんを恨んだなぁ......

 それで、穂乃果やことり、海未と再開したんだよな。

 3人とも可愛くなってて驚いたっけ。

 

 そしてスクールアイドルの結成、でもファーストライブは失敗に終わった。

 悔しかった、みんなが頑張ってるのに下から見ることしか出来なかったことが。

 

 それで真姫や凛、花陽たちが俺たちの仲間になった。

 真姫のピアノには心打たれたし、凛の天真爛漫な性格には何度も元気をもらった。

 花陽はいつも俺のことを気にかけてくれて慕ってくれた。

 

 それからにこの挫折の話を聞いて、穂乃果の閃きで俺たちは晴れて音ノ木坂学院アイドル研究部所属のスクールアイドル『μ’s』になったんだよな。

 いや、それ以前からμ’sだったけど部活には入ってなかったし自主的なものだったからな。

 

 最後に絵里と希がμ’sに入ってくれた。

 最初はまぁ、固い感じだった絵里も悩み続けていただけだって分かったし、希に至っては俺たちに名前をくれて陰から色々と支えてくれていた。

 

 合宿の時は俺のせいでみんなに迷惑をかけた。

 あんな暗い話をしたあとで俺を責めるどころか、いつも通り接してくれて......実はと言えば泣きそうだったのは内緒にしておきたい。

 

 ラブライブの出場が実現しそうで、出来なかったのは残念に思うけど......俺たちの目標でもあった廃校の阻止は実現することが出来た。

 すごいことだよな......出てきて数ヶ月程しか経っていないスクールアイドルがランキング20以内に入ってラブライブに出られそうだったんだぞ?

 

 思えば、俺はこの学校に来てからというもの毎日笑っていたような気がする。

 今まで学校に行くのがこんなに楽しみだったことがあっただろうか?

 いや、絶対にない。

 断言してやる。

 今までもこれからも、絶対にない。

 

「...楽しくなかった」

 

「え!?」

 

 穂乃果が驚く。

 まぁ、最後まで聞けよ。

 

「なんて言えるわけないだろうがっ!!!!!」

 

 ビリビリと講堂が揺れたような気がする。

 それほどの叫び。

 

「あれだけすごい体験しておいて楽しくなかったとか言えるわけないだろうが!!!!!この学校に来て本当に良かったよ!!!!!!これでいいか!!!!!!!!」

 

「...いえ、それだけ聞ければ十分です」

 

 

 だから、このまま音ノ木坂に残ってみんなと一緒に笑っていたい......そう願うことだけは許してほしい。

 そんなの無理だって分かってるから......でも願うことはやめない。

 

 でも、このままじゃダメだ......みんなの中からことりがいなくなる。

 ダメだ、そんなの認められない......

 

「...優、ことりはきっとあなたと穂乃果に止めてほしいって思っているはずですよ?」

 

「...え?」

 

「ずっとことりと一緒にいたんですよ?それぐらい分かりますよ」

 

 どういうことだ?

 ことりは......本当は止めてほしかった?

 

「...とりあえず、行ってきてください。私はここで3人(・・)が帰って来るのを待っていますから」

 

「うんっ!」

 

「...あぁ」

 

 海未の言葉がぐるぐると頭の中を回り続ける。

 

 ...俺はずっと何か勘違いしてた?

 でも止めてほしいなんて一度も言っていなかったし......もう留学先には連絡したって言ったし......

 いや、あぁ......そういうことか......

 

 俺の中で1つの答えが生まれた。

 そうか、最初からそうだったんだな......

 やっと......これで堂々と引き留めることが出来そうだ。

 

「海未!絶対3人で帰ってくる!ありがとな!」

 

 そうして俺と穂乃果は講堂から駆け出す。

 

「空港までどうやって行くの!?自転車!?」

 

「距離考えろ!普通にタクシー捕まえるぞ!!」

 

 そのままダッシュで校門へと向かう。

 

「あっ!いたいた!優!」

 

 どこかで聞き覚えのある声が聞こえて足に力を入れて立ち止まる。

 

「...ちょうどいい、空港に向かってくれ......母さん!!」

 

「えぇっ!?ゆう君のお母さんって......美樹さん!?」

 

 どうしてここにいるのかは車内で聞こう。

 だから今は......

 

「いいから早く!」

 

「...何か訳アリみたいね。いいわ、乗りなさい!」

 

 一刻も早くことりの所へ!!

 

***

 

「行きましたか......」

 

 本当に世話が焼ける幼馴染です。

 優と穂乃果を見送って、私はその場で立っています。

 

「それで?本当にやるわけ?」

 

 背後からにこが出てきて、呆れ気味に言います。

 その後ろからは凛、絵里、希、真姫、花陽がステージの脇から出てきました。

 実はみんな最初から来てもらっていました。

 

「はい、優の本音は聞きましたから」

 

「ゆーサンって恥ずかしいことを平然と言うことがあるよね~!」

 

 凛、それは絶対優に言ってはダメだと思いますよ?

 きっと頭を抱えて床を転げまわると思いますから......

 

「おぉっ!良く撮れてるやん!」

 

「ふふん!当たり前でしょ!」

 

 ...どうやら希とにこは一連の流れを録音していたようですね......

 

「...大丈夫でしょうか......」

 

「大丈夫ですよ、花陽。優と穂乃果ですよ?」

 

 根拠はそれ以外は必要ないでしょう。

 

「ふふっ!そうね、優くんと穂乃果だもんね!」

 

 そうですよ、絵里の言う通りです。

 ことりはきっと帰ってきます。

 穂乃果も帰ってきて、私たちはまたμ’sとして一緒に活動出来るでしょう。

 でも、そこに優は......いなくなってしまう。

 

 そんなの嫌です。

 

 ――あれ?どうしてでしょうか?

 

 

 ――どうして優がいなくなるのが嫌なのでしょうか?

 

 

 ――みんなが悲しむからでしょうか?

 

 

 そういえば考えたことがありませんでしたね......ただショックだったのは覚えていますけど......

 ことりや穂乃果が悲しむからでしょうか?

 いえ、これはそんな感じじゃないですね......

 

 そういえば、前にお母様が優に私のことを聞いて......そ、その......可愛いなどと言われて......恥ずかしいと同時に何故か嬉しくなってしまったんですよね......

 

 それに、穂乃果やことりやμ’sのみんなとも違う心地良さ。

 胸が暖かくなるようなそんな感情。

 

 

 ――あぁ、そうか......これがことりや穂乃果が優に抱いている感情。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――恋、というものなのですね。

 

 

 あの2人の気持ちには気づいていましたが......私自身は理解出来ていませんでした。

 暖かくて、心地よくて、少し苦くて切ない。

 

 ――それでいてとても甘い。

 

 言葉では言い表せそうにない、青くて......実ったばかりの果実のような酸っぱさを持つようなこの感情が......恋ですか......

 

 なんだかとてもくすぐったいですね......

 しかし......そうなると......ことりと穂乃果には謝らないといけないかもしれません......

 まさか幼馴染3人が同じ人を......す、好きになってしまうなんて......

 でも、それでも......どうしようもなく、心の奥から暖かいモノが溢れてくるんですよ?

 

 そんなのどうしようもないじゃないですか......

 負けたくない、です。

 

 例え穂乃果やことりだろうと......これだけは譲れません!

 

 だから......優の転校なんて、絶対に嫌です!

 

「具体的な案はみんなで決めた通りです。このライブに集まってくれるお客さんに協力してもらうことになります」

 

 みんなで決めました、優の望みを叶えてみせようと。

 

「...本当は生徒会を私的に使うのは気が引けるんだけど......優くんの為だものね!」

 

「えりちは優くんの為ならどんなことでもしてあげられるんよね?」

 

「もう!希は変な言い方しないの!」

 

 ...むぅ。

 

「わ、私も頑張ります!」

 

「かよちんもやる気満々だにゃー!」

 

「も、もう!からかわないでよ!凛ちゃん!」

 

 ...どうやらライバルは多いようですね......分かってはいましたが......

 しかし、今は嫉妬している場合ではありません!

 優の転校が無くなってから、考えましょう!

 

「海未?どうかしたの?」

 

「いえ、何でもありませんよ。真姫」

 

 自分だけでも恥ずかしいのに、こんなことμ’sのみんなに知られたら私は恥ずかしすぎて表を歩けなくなってしまいそうです。

 

「...そうだ、にこ。少々提案があるのですが......」

 

「何よ?一応聞いてあげる」

 

「このライブ、私も参加してよろしいですか?」

 

「...海未が自分からライブに参加したいって言うなんて......何か思いついたの?」

 

 私を中心に全員が集まってきました。

 

「えぇ、これをμ’sの復活を飾るライブにしては如何でしょうか?」

 

「面白そうやん!」

 

「きっと、穂乃果とことりは帰ってきます、それならここで再びμ’sの活動を再開してしまいませんか?」

 

 私の提案ににこは腕を組んで考えこんでいます。

 

「...穂乃果はいつかここを満員にしてみせますって言ってたわよね。今ならそれが出来るんじゃない?」

 

 絵里が言います。

 あのファーストライブの日、穂乃果は確かにそう言いました。

 すなわちこれは私たちにとってのリベンジにもなって色々な意味が込められたライブになるのです。

 

 活動再開、リベンジ、転校阻止、そんな色々な想いが込められたライブ。

 

 やがてにこは、ため息を吐き

 

「衣装はどうするわけ?」

 

 と言いました。

 

「制服でいいんじゃないかにゃ?」

 

「うん!凛ちゃんに賛成だよ!」

 

「そうね、スクールアイドルらしくていいんじゃないかしら」

 

 1年生は制服でいいみたいです。

 

「うちも賛成!」

 

「無難なところじゃないかしら!」

 

「まあ、にこは何を着ても可愛いから別に構わないわよ」

 

 3年生も全員賛成。

 

「...では準備を始めましょうか」

 

 私たちのライブ、優の転校を無くす為の準備を。

 

―To be continued―

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは園田海未ちゃんです!」

海「よろしくお願いします」

作「ようやくここまで持ってくることが出来ましたよ」

海「と、言うと?」

作「この話は優くんが海未ちゃんの家に行って渚さんが初登場した時にはもうこうしようと考えていました」

海「時間がかかりましたね......」

作「あの話って実は海未ちゃんが優くんのことを好きだってことを気づかせる為の前振りだったんですよね」

海「い、いきなり何てことを言うんですか!!す、好きだなんて!!」

作「まあまあ、もう隠しても意味はないわけですから......落ち着いて」

海「うぅ~......し、しかし......」

作「本当は講堂の辺りの視点は海未ちゃんに全て任せようと思っていたのですが......女性視点は口調が安定しない!!特に地の文!!」

海「そ、そうなのですか?」

作「力及ばず......海未ちゃん推し失格です!!」

海「あっ!ちょっと!?どこに行くんですか!?......次回もよろしくお願いします!」

~新たに評価して下さった方々~

借金持ちの天秤座さん、パフェ配れさん

ありがとうございました!



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迷い鳥

今回はことりちゃんメインです。
そろそろアニメ第1期の物語もクライマックスに差し掛かりました。



「それじゃあ、行ってくるね。お母さん」

 

「...体調には気をつけるのよ」

 

 私を空港まで送り届けてくれたお母さんに背を向ける。

 

 もう......留学かぁ。

 穂乃果ちゃんにちゃんと謝れてないんだけど.......

 海未ちゃんにもたくさん迷惑かけちゃったし.......

 いや、それだけじゃないよね、真姫ちゃんにも、凛ちゃんにも、花陽ちゃんにも、絵里ちゃんにも、希ちゃんにも、にこちゃんにも......ゆー君にも迷惑かけちゃったなぁ......

 

「...ことり」

 

「なぁに?お母さん」

 

「...本当に良かったの?」

 

 その言葉がチクリと刺さる。

 

「...うん」

 

 私はそう答えるのが精いっぱいだった。

 そうしないと泣きそうで、そうなったら......きっと立ち止まってしまうから。

 

「そう......頑張ってきなさい。お母さん仕事があるから、戻るわね?」

 

「うん、頑張ってくるよ」

 

 カツ、カツ、と足音が遠ざかっていく。

 その音を頭の片隅で認識しながら、私は別のことを考える。

 

 もし、音ノ木坂が共学で......ゆー君が1年生の時から一緒にいたら、と。

 

 きっと、すごく楽しかったんだろうなぁ。

 穂乃果ちゃんや海未ちゃんといて、楽しくなかったなんてことは絶対に無いよ?

 ただ、それに加えてゆー君がいたら、私の高校生活はどうしようもないほどにキラキラとしていたはず。

 

 ゆー君、私の幼馴染で初めての男の子の友達。

 優しくて、面白くて、......ちょっぴりえっちな男の子。

 周りを明るくしてくれて、私をいつだって連れだしてくれる男の子。

 

 ――穂乃果ちゃんと海未ちゃんと同じで、私のヒーロー。

 

 そんな彼との出会いは、いつ頃だったっけ?

 お母さんがゆー君のお母さん、美樹さんととても仲が良くて、よく遊びに来ていた。

 その時に付いて来ていたゆー君と出会った。

 

 初めは、ちょっぴり怖かったんだよね。

 男の子とあまりお話をしたことが無くって、どう接したらいいか分からなかったなぁ。

 

 でも、そんな考えは彼と一言交わした瞬間に溶けて無くなった。

 

『あ、あのぅ......』

 

 と勇気を振り絞って声をかけた私に、彼は......

 

『はじめまして!おれはやさかゆう!きみは?』

 

『あ......みなみことりです!』

 

 ゆー君の優しい笑顔を見た瞬間、すぐに分かった。

 この男の子はきっと、見た目通り、優しくて......暖かい人なんだって。

 

『う~ん......じゃあことりちゃんだ!よろしくね!』

 

『うん!ゆーくん!』

 

 これが出会い。

 それから、穂乃果ちゃんと海未ちゃんが遊びに来て......私たち3人とゆー君は晴れて幼馴染になった。

 

『ことりちゃーん!あーそーぼぉー!!』

 

『あっ!ほのかちゃん!』

 

 チャイムを鳴らして、その鳴ったチャイムよりも大きくて元気な声が外から響く。

 

『ほ、ほのかぁ!とつぜんおしかけてはめいわくですよぉ!』

 

『だいじょーぶだって!!おかあさんたちもあとでくるっていってたんだし!!』

 

『いらっしゃい!』

 

 お家に入ってもらうと、すぐにゆー君と穂乃果ちゃんたちは出会った。

 

『あれ?おとこのこがいるよー!?』

 

『おれはやさかゆう!ことりちゃんとはともだちになったばかりなんだ!』

 

 この頃から、穂乃果ちゃんはあまり物怖じしてなかったと思う。

 穂乃果ちゃんは小さい頃は男の子と同じくらい足が速くて、よく男の子と一緒になって駆け回っていたぐらいだしね......

 

 思い出すとクスクスっと笑みがこぼれる。

 

『わたしはこうさかほのか!ことりちゃんとはおともだちだよ!』

 

 ゆー君は私とお話をした時みたいに柔らかな笑みを浮かべて、言った。

 

『よろしくね!ほのかちゃん!』

 

『うん!よろしく!ゆうくん!』

 

 そこでゆー君の視線が穂乃果ちゃんの後ろに隠れていた海未ちゃんへと向けられる。

 少しだけ不思議そうな表情を見せたあと、再びにこりと微笑んだ。

 

『おれはやさかゆう!きみは?』

 

 急に声をかけられた海未ちゃんはビクリと肩をすくませて小さくなってしまいます。

 

『うぅ~......お、おとこのひと......!』

 

『ほら、うみちゃん!だめだよ!ちゃんとあいさつしないと!』

 

『はずかしいですぅ~......ほのかぁ、ことりぃ......』

 

 穂乃果ちゃんが海未ちゃんをゆー君の前に突き出してしまう。

 隠れられる場所が無くなった海未ちゃんはお顔を真っ赤にして、俯きながら自己紹介しました。

 

『そ、そのだ......うみ......です』

 

『うん、よろしくうみちゃん!』

 

 私はその様子をにこにことしながら見ていました。

 

『よ、よろしくおねがいします......やさか......くん』

 

『んー......ゆうってよんで!』

 

『えぇっ!?むりですよぉ!!おとこのひとをよびすてなんて!!』

 

 海未ちゃんの人見知りは昔からで......当時は男の子と会話すら出来なかったぐらいだったなぁ。

 それでもゆー君とはお話出来ていた、って感じだったよね。

 

『だいじょーぶだよ!ともだち、なんだから!』

 

『...ゆ、ゆ、ゆ、......ゆう!!』

 

『うん、うみちゃん!』

 

 子供ながらによく思っていた、ゆー君が同じ小学校だったらよかったのに!って。

 そして、友達になってからはよく4人で行動していたし、確か......夏休みの間なんかはずっと私の家に泊まっていたこともあったぐらい。

 

 それでも、別れはやってくるもので、私たちは大きくなるに連れて、段々と会わなくなっていきました。

 私はお母さんからよくお話を聞いていたからゆー君のことはよく覚えていました。

 穂乃果ちゃんと海未ちゃんとは時々ですが、このことを話して今どうしてるんだろうね?なんて話し合ったりもしました。

 

 時は流れて、私たちは小学校6年生になりました。

 この頃くらいから、自慢ではなく私と海未ちゃんと穂乃果ちゃんはよく男の子から告白されるようになりました。

 穂乃果ちゃんと海未ちゃんは分かるけど、どうして私まで?と思ったのをよく覚えています。

 でも、私の心の中には優しくて暖かい笑顔が残ったままで、男の子から告白されても舞い上がることがありませんでした。

 

 中学校は女子校だったので、そういった浮いた話は出てきません。

 修学旅行の夜には友達から好きな人を聞かれてなんて答えればいいか迷ったなぁ。

 結局いないってことにしてもらったけど......

 

 高校も女子校で、ほとんどが音ノ木坂中学からの同級生ばかりだったので、中学生の時と全く変わりませんでした。

 そして、そのまま1年が過ぎて......ある日、私はお母さんから理事長室に来るようにと言われました。

 何の用事だろ?と思いながらノックをして理事長室に入ると......

 

『この男の子、覚えてる?』

 

 いきなり言われてとまどいました。

 そこにはここにいるはずのない人物、ゆー君が少し困ったように笑って立っていて、驚いてしまったのです。

 男の子が1人、転入してくるという話は聞いていました。

 

 こんな映画みたいな再会あるんだなぁ!

 そしてゆー君と過ごしている内に、μ’sが出来て、1年生の真姫ちゃんと花陽ちゃんと凛ちゃん。

 3年生の絵里ちゃん、にこちゃん、希ちゃん。

 

 9人になっていく中で......私はゆー君に対する想いを明確に自覚したのです。

 思えば初めて会ったその時には、きっともう一目惚れしてたのかもしれません。

 その人を惹きつける笑顔と性格を知ってから、私は10年間以上も片想いをしていたんだなぁ......

 

 

 

 

 

 ――もっと一緒にいたかった。

 

 

 

 ――最後の最後、卒業まで一緒に過ごしたかった。

 

 

 

 ――もう一度声が聞きたい。

 

 

 

 ――あの優しい笑顔を見たい。

 

 

 

 ――名前を呼んでほしい、それだけで私は十分頑張れる。

 

 

「ことり!」

 

 そう、こんな風に。

 

「えっ?」

 

 背後から聞こえてきた聞こえるはずのない声に、私は振り向いた。

 

***

 

「ことり!」

 

 俺が息も絶え絶えになりながら叫ぶとことりはゆっくりと振り返る。

 良かった!間に合った!

 

 大声を出してしまった為、周りからの視線が俺に集中する。

 でも、すぐに興味を無くしたのかそんな視線も無くなる。

 

「...穂乃果ちゃん......ゆー君......どうして......?」

 

「どうしてって......迎えにきたんだよ」

 

 穂乃果が一歩前に出る。

 

「ことりちゃん!私、スクールアイドルやりたい!ことりちゃんと最後まで!いつか、お互いが違う道を歩き出すとしても!.......だから行かないで!!」

 

 穂乃果がぎゅっとことりに抱き着く。

 

「穂乃果ちゃん......でも......」

 

 それでもなお、ことりは弱く呟くだけだった。

 

「ことり、俺からもお願いだ!行かないでくれ!」

 

 ピクリとことりが揺れる。

 最初からこうしていれば良かった。

 そうすればことりが悩むことはなかったんだから。

 

「...無理だよ、そんなわがまま......私、困っちゃうよ」

 

 穂乃果に抱き着かれたまま、ことりは俯く。

 

「わがままぐらい言わせろ!!!!!これが本当に最後になるかもしれないんだ!!!!!!だから今しかないんだよ!!!!!!!」

 

 さっきの弱弱しい感じではなく、ことりの肩がビクッと揺れ動く。

 そう言えば、ことりにこんなに怒鳴ったことって無かったな......

 

「...ことり、お前本当は止めてほしいと思ってたんだろ?」

 

「...」

 

 ことりは答えない。

 でも、俺は続ける。

 

「よく考えたら、お前の口から留学したいって直接聞いてないんだよ。確かにそういう考えもあったのかもしれないけど、それはお前の意思じゃない。留学のことだって、ひばりさんに言ったのは服飾の勉強がしてみたいって言っただけだろ?」

 

「私は......」

 

 まだ、ことりから本音は引き出せていない。

 

「それにさ、ことりに止めても無駄だよなって聞いた時にも......お前は連絡しちゃったから、なんて答えたんだ。行きたかったらこの時点で行きたいって言えばいいにも関わらずだ」

 

「私、私は......最初から......」

 

 俺は更に言葉を継ぐ。

 

「花火大会の夜、お前......傷ついた顔して笑っただろ?あれが何よりの証拠だ。それに今だって......」

 

 今だって、ことりは泣き出しそうに顔を歪めている。

 

「...ことり。行きたいなら、今ここで行きたいと言ってくれ。そうしたら俺と穂乃果はきっぱりと諦めるから」

 

「...ゆう君、うん......ことりちゃんが行きたいって言うなら、穂乃果は親友として背中を押すことにするよ」

 

 ここまで言って引き留められないのは、それだけことりが本気ってことで......そうなったら海未に合わせる顔がないけど、ことりが選んだことって言えば納得してくれるだろう。

 

「私......最初から自分の気持ちに気がついてたのに......どうしようもないよね」

 

 外から大きなエンジン音が聞こえる。

 

「...飛行機、乗り過ごしちゃった......」

 

 ことりはポツリと呟いたあと、穂乃果をそっと引き離し俺に近づいてきた。

 

「...ゆー君、私は......まだ......みんなと一緒にいたい!」

 

「...あぁ!帰ろう!みんなが待ってる!」

 

 ようやく、これでμ’sはもう一度動き出せる。

 その時、俺は近くで見ることが出来ないけど......学校はこの辺りだし、もしかしたら出会えるかもしれないしな。

 

「留学先の学校に謝らないといけないね......」

 

「あとで俺と一緒にひばりさんの所に行こう、それでいいか?」

 

「...うん!」

 

 きっとことりなら何度だってチャンスが訪れるはずだ。

 彼女の服飾の腕は俺たちが良く知ってる。

 

「...ねえ、ゆー君は音ノ木坂にいたい?」

 

 ことりが不安そうにしながら聞いてきた。

 

「それ、海未にも言われたんだけど......当たり前だろ、もしこのわがままが通るならお前らと一緒に学校に通いたい」

 

 これは俺の本音。

 無理でもなんでもこれだけは変わることのない想い。

 

「急がないとにこたちのライブ始まっちゃうぞ?母さんも待たせたままだし」

 

「...もしかして美樹さん!?」

 

 ことりも会うのは10年振りぐらいだもんな。

 

「あぁ、空港まで送ってもらったんだけど......あぁ、いたいた」

 

 車の前に立っている母さんを見つけ、俺たちは急いで駆け寄る。

 

「...ちゃんと役目は果たしたみたいね。それじゃ帰るわよ!乗りなさい!」

 

 そうして、俺が助手席に乗り込もうとすると荷物が目の前に置かれる。

 

「優、ここには母さんの荷物置くから、ことりちゃんと穂乃果ちゃんの間に座りなさい」

 

「何でそうなるんだよ!?」

 

 あの2人の間とか......

 いやいや、やっぱり無理だって!!

 

「いいから荷物トランクに置けばいいだろ!?」

 

「つべこべ言ってるとあんたをトランクに乗せるわよ?」

 

「実の息子をお荷物扱い!?」

 

 とんでもねえ母親だ......

 しかし逆らうわけにもいかずに、俺は穂乃果に続いて後部座席に乗り込む。

 

「...ことりちゃん、久しぶりね」

 

「は、はい!お久しぶりです!」

 

 俺が乗り込んだあと、車外ではこんな感じの会話が行われたとか。

 

―To be continued―

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは南ことりちゃんです!」

こ「よろしくおねがいしま~す♪」

作「さて、今回のお話ですが......力を入れた部分は回想シーンですね」

こ「そうなんですか?」

作「はい、幼少期からの想いを伝わりやすくするために優くんと出会った時の回想シーンを入れてみました」

こ「なるほど......」

作「他には飛行機を乗り過ごしたというセリフが自分で書いておいて1番のお気に入りですね。思いついた時はこれしかないと思ったぐらいです!」

こ「呟く感じが切ない、かもですね♪」

作「それと2年生個人回のサブタイトルですが、それぞれ名前と性格にちなんだものになっています」

こ「私の場合は迷い鳥、ですね」

作「これはことりちゃんが迷っている様子をシンプルにつけた名前です」

こ「穂乃果ちゃんの時は日の出、でしたよね?」

作「穂乃果ちゃんは太陽に例えられることが多いですから、沈んだ気持ちが浮き上がってくる様子を太陽の日の出と日の入りに例えたものです」

こ「海未ちゃんの時は海色の想い、ですね」

作「海未ちゃんのイメージカラーは青色、それに名前も『うみ』ですから、生まれたての青い気持ちをイメージカラーと名前にかけたサブタイトルですね」

こ「色々と考えてるんですね!」

作「海未ちゃんの時は無理やりな気もしますが、これ以外に思いつきませんでした!!」

こ「お疲れさまですっ♪では、次回もよろしくお願いします♪」


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女神たちを導く1人の少年

第一期最終話となりました。
長かったような......短かったような......
終わるのはあくまで第一期ですけどね!
第二期と劇場版だってまだ残してますから!

これからも応援よろしくお願いします!


車内。

 俺の隣では穂乃果とことりが運転席にいる母さんと話に花を咲かせていた。

 

 ...正直超アウェーな感じがする。

 だって、この場にいるのは男1人だぜ?

 

「しかし、穂乃果ちゃんもことりちゃんも本当に可愛くなっちゃって!それにいい子だし!」

 

「えへへ......ありがとうございます!」

 

「そんなことないですよ、美樹さん!」

 

 さっきからこんな空気だ。

 どうやってこの中に入り込めばいいんだよ。

 

「優、あんたも隅に置けないわねぇ~!こんなに可愛い子たちと幼馴染だなんて!それにμ’sのマネージャーもやってるんでしょ?それも可愛い子ばかりで!」

 

「俺がそういうの目的でマネージャーをやってるみたいな言い方やめてくれない?っていうか母さんμ’sのこと知ってるのかよ」

 

 いや、そういう気持ちがないわけじゃないけど......

 ちゃんと仕事はしてますし?

 

「当たり前じゃない!仲の良い友達の娘のことだし、息子がしていることよ?知らない方がおかしいわよ!PVとかブログとかよく見てるし!」

 

 そうだったのか......

 いずれは言わないといけないと思ってたけど、手間が省けたな。

 

「...それで?あんた一体誰が1番好みなの?」

 

「「っ!!」」

 

 どうやら爆弾を投げ込むのは八坂家伝統の技らしい。

 ふざけた伝統だ。

 

「はぁ!?そういうこと普通聞くか!?」

 

「いいじゃない!そうねぇ......私の見立てだとあの花陽ちゃんって子が好みなんじゃない?優しそうだし」

 

「本当に勘弁してください!!」

 

 確かに花陽は優しいし、俺にとっての癒しだけどさぁ!!

 何故か両隣からの圧力が凄まじいんですよ!?

 

「うーん、でもあの凛ちゃんって子もあんた好きそうよね、元気いっぱいで自分を慕ってくれる後輩だし動物で例えると猫かしら。真姫ちゃんって子も綺麗な見た目してるし、とりあえずあんた絶対初対面で美人だって言ったはずよ?」

 

 おかしいなぁ、今この人思ったじゃなくて言ったって言ったぞ?

 何で分かるんだよ......

 

「あーでも、絵里ちゃんって子はスタイル抜群で真っ直ぐな子だからそれもあんたの好みだし、希ちゃんって子は包容力があって甘えやすそうな可愛い子だし、にこちゃんって子はあぁ見えて芯の強い子だからあんたそういう子にも惹かれやすいわよね」

 

「詳しすぎるだろ!?何者なんだよあんた!?」

 

 ギャルゲーに出てくる何故か好感度を知っているお助けキャラかよ!?

 冗談じゃないぞ!?

 このままじゃ俺の好みが全面に露見してしまう!!

 

「でも何だかんだ言って、穂乃果ちゃんの元気なところとか......ことりちゃんの優しいところとか......海未ちゃんの誠実なところとか......幼馴染キャラに弱いのよねぇ......あんた」

 

「ギャルゲー感覚で話を進めるなぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 しばらく会わない内に変わりましたね!

 お母様!!!

 

「...母さん、そんなキャラだったっけ?」

 

「久しぶりに息子や娘同然の子に会えてテンション上がっちゃってね!」

 

 なんてはた迷惑な......その分の被害が全部俺のところにまわってきてるんですが?

 もう分かったぞ......確かに父さんと母さんはお似合いだったんだ......

 どうして結婚したんだろうと思ったけど、俺は間違っていたんだな?

 

「それで?誰が好きなの?」

 

「本当もうやめて......心が挫けそう......」

 

 何故この両親から優莉が生まれたんだよ......

 今なら実は養子って言っても信じる自信がある。

 

「そう言えばあんたの初恋の子って確か「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」ちゃんよね?」

 

 叫ぶ、ただ声を張り上げる。

 

「何よ?急に叫んだりして......発情期?」

 

「やかましい!!!!」

 

 ここで叫んだ時点でもうバレバレな気がするが......幼馴染だけには知られたくない!!

 穂乃果と海未とことりに知られたら俺はもう顔を合わせられない気がする!!!

 

「というか母さんは何でそんなに詳しいんだよ!?並のファンが知ってる情報じゃないぞ!?」

 

「...実はμ’sの子の保護者とはちょっとした繋がりがあってねー」

 

「まじで!?」

 

 俺もう自分の親の事がよく分からない!!!!

 穂乃果やことり、海未や真姫の保護者とは関わりがあることは知ってたけどさ!!!

 

「まぁ、一応ね!母さんも音ノ木坂出身だから関わりがあったのよ?今も偶に連絡取り合ってるし」

 

 おいおい、絵里の母さんって確かロシア人のハーフだぞ?

 そんな人とも知り合いって......世間って狭いなぁ......

 

 からからと笑う母さんを見てため息1つ。

 

「まぁ、苗字が違ったりしてるけど......渚ちゃんとか星空さんとかは苗字が同じよ?園田家は代々男性が婿に来る家庭だし......星空っていう苗字は珍しいから残そうって旦那さんが言って婿入りしたみたいね」

 

「へ、へぇ......」

 

 とは言えどうにか話を逸らせたようで内心ホッとする。

 

「...ことりちゃん。これ」

 

「どうしたの、穂乃果ちゃん?」

 

 穂乃果が携帯を取り出して、ことりに見せる。

 当然俺の前を通る羽目になる為、膝の辺りに穂乃果の手が置かれた。

 それを見ようとことりも俺に寄りかかってくることになるから、俺は身動きが取れなくなってしまう。

 

 ...柔らかいし、いい匂いするし、どうすればいいんだこれ......

 下手に動こうものなら腕が当たりそうで、俺はピタリと硬直する。

 

「こ、これって!?」

 

「うん!やったね!」

 

「どうかしたのか?」

 

 と首だけ動かして穂乃果の携帯を除き込もうとすると、穂乃果はサッと元の位置に戻り、俺から携帯を遠ざける。

 

「ゆう君には内緒!ねーっ、ことりちゃん♪」

 

「ねーっ♪」

 

 そうですか......

 

「あ、そうそう......今度真白ちゃんが会いに来るって言ってたわよ?」

 

「...ごめん、もう一回言ってくれない?聞こえなかった」

 

「真白ちゃんが会いに来るって言ってたわよ?」

 

 ふむ、聞き間違いじゃなかったようだ。

 ...よし。

 

「母さん、俺はしばらく身を隠そうと思うんだ......」

 

「どうしたの!?ゆう君!目の焦点が定まってないよ!?」

 

「真白ちゃん?って子に何か関係があるの?」

 

 関係あるも何も......俺がこうなるのはアイツ以外にはいない。

 

「...従妹だよ、優莉と同い年で来年高校生になる......」

 

 何て恐ろしい報告だ...... 

 好みの相手を言わされるよりも地獄だぞ......

 

 フルネームは九文(くもん)真白。

 俺の従妹で、俺が苦手としている人物だ。

 いや、嫌いっていう訳じゃないんだが......疲れるんだよ......

 

「ふ、ふーん......そうなんだ」

 

 雰囲気でこれ以上は踏み込むべきじゃないと察したのか、穂乃果はこれ以上何も聞いてこなかった。

 

「そういや、聞き忘れてた。母さんはどうして音ノ木坂に?」

 

「まあ、あんたたちの様子を見に来たっていうのもあるし......ひばりちゃんに呼ばれたのよ」

 

「お母さんに?」

 

 俺とことりは同時に首を傾げる。

 

「んー、何か優君と穂乃果ちゃんを助けてあげてって言われたから」

 

「「「それって......」」」

 

 つまり、ひばりさんは最初からことりの気持ちに気づいていた、ということになる。

 

「それなら教えてくれれば良かったのに......」

 

「優、ひばりちゃんはあんたと穂乃果ちゃんを信じて全部託したってことよ?誇りに思いなさい」

 

 そういうもんなのか?

 親の心子知らずってやつ?

 こればかりは同じ立場にならないと理解出来ないってことらしい。

 

「分かった、そう思うことにする」

 

「優莉と優也君は元気?」

 

「優莉とはよく電話で話してるだろ?あと人前で優也君って言うのはやめてくれ、恥ずかしい」

 

 そういや、この人普段から父さんのこと名前、しかも君付けで呼ぶんだよな......

 仲が良いのはいいんだけど、人前でやられると本当に恥ずかしい。

 

「いいじゃない、別に!むしろ惚気話を聞かせてやりたいぐらいよ!」

 

「「聞きたいです!!」」

 

 女の子ってこういう話題大好きだよなぁ......

 俺と優莉は何度も聞かされ過ぎてもう飽きた。

 

「ほら、もう到着だ!2人とも、降りるぞ!」

 

「「えぇ~!?」」

 

「えぇ~じゃない!!また今度にしてくれ!!」

 

 何が悲しくて飽きた話、しかも自分の両親の惚気話を幼馴染と一緒に聞かないといけないんだよ......

 

「それなら今日家に来る?海未ちゃんも一緒にいらっしゃいよ!聞かせてあげるわ!」

 

「「分かりました!!」」

 

 優莉に避難するように連絡入れとこ......

 そう思い、俺は数時間振りに音ノ木坂の校門を潜ったのだった。

 

***

 

 人がいっぱいの講堂に入り込むと、そこにはμ’sが全員揃っていた。

 

「穂乃果!ことり!優!」

 

 すぐに海未が駆け寄ってくる。

 そりゃ心配だったよな......送り出してくれたとはいえ、どうなるかは分からなかったんだから。

 

「海未ちゃんただいま!」

 

「ちゃんと連れて帰ったぞ、それにしても......すごい人だな......」

 

 これって全校生徒いるんじゃないか?

 

「そりゃそうよ!だって今からμ’sの活動再開ライブをするんだから!」

 

 にこが得意気にして、当然でしょ?と加える。

 

「...大丈夫なのか?練習もしてないだろ?」

 

 しかも衣装が制服のままみたいだ。

 ことりと穂乃果はしばらくμ’sから離れていたし......

 

 心配になって穂乃果とことりを見る。

 

「大丈夫だよ!体が覚えてるから!」

 

「うん!ことりも!」

 

 ...信じるしかないか。

 

「この曲はゆーサンだって踊れるはずにゃ!」

 

「そうね、思い出深い曲だから......ユウでも踊れるわ」

 

「うん!私たちの始まりだもん!」

 

 俺でも踊れて......俺たちにとって始まりの曲。

 そんなの1つしかないじゃないか。

 

 思えばファーストライブの時、すでにμ’sはここに揃っていた。

 花陽はライブを見に来ていて、凛はその花陽を探してここに。

 にこもスクールアイドルが出来たと聞いて見に来ていて、絵里も放送室から見ていた。

 真姫は何だかんだ言っても結局観に来ていたし......

 唯一、希だけは姿を見ていないが、彼女のことだ......きっと見ていたと思う。

 

「...よし!みんな、準備はもちろん大丈夫だよね!いくよ!」

 

 みんなが円陣を組んで、ピースサインを作って中心でくっつける。

 

「1!」

 

 ――穂乃果が言い。

 

「2!」

 

 ――ことりが言い。

 

「3!」

 

 ――海未が言い。

 

「4!」

 

 ――真姫が言い。

 

「5!」

 

 ――凛が言い。

 

「6!」

 

 ――花陽が言い。

 

「7!」

 

 ――にこが言い。

 

「8!」

 

 ――希が言い。

 

「9!」

 

 ――絵里が言い。

 

 そして全員の視線が俺へと向けられる。

 

「...俺もうこの学校の生徒じゃなくなるんだけど......いいのか?」

 

 視線を向けられても俺は戸惑うことしか出来ない。

 そう答えると、何がおかしいのか9人全員が一斉にプッと噴き出した。

 

「え?そんなおかしいこと言ったか!?」

 

「いいから!時間が無いんだから早くしてよ!」

 

 穂乃果に急かされて、笑いの意味を聞けないまま、俺はため息混じりに言う。

 

「はぁ......10!」

 

『μ’s!ミュージックスタート!』

 

 そして全員で声を揃え、9人はステージへと上がっていった。

 幕が上がって、辺りは歓声に包まれる。

 

『START:DASH!!』

 

 俺たちの始まりの曲だ。

 あぁ、この講堂を満員にすることが出来たんだ......

 ホッとして少し涙が零れ落ちるがすぐに目元を拭い、ステージと客席を見つめる。

 

 キラキラと色とりどりのサイリウムが輝く客席。

 それと同じように......いや、それ以上に輝いているのが今、踊っている彼女たちだ。

 

 眩しい程の輝きに包まれてライブはこうして幕を下ろす。

 ...静かにその場を立ち去ろうとすると、穂乃果が急に話し始めた。

 

「私たちのファーストライブはこの場所で行われました!その時はまだ"4人"で......お客さんなんて来ませんでした!私は思いました!いつかこの場所を満員にしたいって!今は"10人"になって、その夢が今日叶って......私はとても幸せです!」

 

「...穂乃果」

 

 意図が読めず、俺は足を止めてステージを見る。

 

「...でも、そんな私たちの大切な仲間が......今にも学校からいなくなってしまうかもしれません!」

 

「...海未」

 

 みんな、何を......?

 

「彼は私が困っている時、いつだって傍にいて助けてくれました!」

 

「...ことり」

 

 違う、助けられていたのは俺の方で......

 

「彼は諦めかけていた私に、もう一度夢を与えてくれました!」

 

「...真姫」

 

 あんな綺麗なピアノが弾けるんだ......そう簡単に諦めるなよ。

 それとも友達のことか?

 それなら多分、花陽と凛が絶対に話しかけてくれたはずだ。

 知ってるだろ?2人の優しさを......

 

「彼は勇気が出せなくて引っ込み思案の私の手を掴んでくれました!」

 

「...花陽」

 

 俺がそうしなくたって、凛がそうしたさ。

 でも、アイドルになれてよかったな......

 

「彼はいつも無茶苦茶で振り回してばかりの私に呆れずに付き合ってくれ続けました!」

 

「...凛」

 

 自覚があったのかよ。

 あと、こういう場では私って言うんだな......

 

「彼は私に再び笑顔を与えてくれました!」

 

「...にこ」

 

 それやったのって俺たちみんなだろ?

 俺だけじゃないんだよ......

 

「彼は悩んでいた私の親友を助けてくれました!」

 

「...希」

 

 自分のことじゃないのに、どうしてそんなに誇らしく語れるんだ......

 

「彼はどうしようも無く頑固だった私に手を差し伸べてくれました!」

 

「...絵里」

 

 大したことじゃないよ。

 でも、放っておけなかったんだ......

 穂乃果も希も......みんなも......

 

「そんな彼に今度は私たちが恩返しがしたいんです!」

 

「それには皆さんの協力が不可欠です!」

 

 穂乃果と絵里が叫ぶ。

 俺は未だに何をしようとしているのかが理解出来ずにいた。

 

「どうか!音ノ木坂共学化試運転生の八坂優君が正式に音ノ木坂学院の生徒になれるように許可を下さい!」

 

「...え?」

 

 ようやく理解した。

 そうか......だからここでライブを......

 

「彼が私たちと一緒に過ごせる許可を下さい!私たちと同じ2年生として過ごし、一緒に卒業出来るような未来を下さい!」

 

「ここは女子校で、本来男の子が通えないというのは分かっています!けれど......例外を許して下さい!」

 

 海未、ことり......

 俺は何をやってるんだ?

 この学校にいたいと言っておきながら、自分では何もせず......女の子だけに頭を下げさせて......

 

「っ!!!」

 

 ステージへと駆け出す。

 

「俺からもお願いします!!この際何を言われたっていいです!!それでも......この最高の思い出をくれた学校で......俺は過ごしたいんです!!!!お願いします!!!」

 

「顔上げて下さい、八坂君」

 

 スピーカーから理事長の声が聞こえてきた。

 見ると、放送室にその姿がある。

 

「学校を救ってくれたμ’sの10人のお話でしたが、皆さん如何ですか?この案に賛成の人は拍手をしてあげて下さい」

 

 俺たちはすぅっと息を吸い......

 

『よろしくお願いします!!!!!』

 

 頭を下げた。

 沈黙が1秒、2秒と続く。

 

 ――ダメか......

 

 そう思い、顔を上げる。

 

「えっ?」

 

 顔を上げた俺が見たものは立ち上がって俺たちを見ているたくさんの生徒。

 そして、その刹那――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――講堂が割れんばかりの大きな拍手が巻き起こった。

 

「ってことは......俺はこの学校に通い続けていい......んだよな?」

 

 ポツリと呟く。

 すると、僅かに右手がつねられる感覚。

 

「...痛い......穂乃果、もういい......いや、本当痛いから!」

 

 隣を見ると泣きそうな表情をした穂乃果がいた。

 あぁ、力加減出来ないのか......そんな顔してたら、当たり前だろ。

 

 再び大きく息を吸い、俺たちは叫ぶ。

 

『ありがとうございます!!!!!』

 

 俺は本日付けで音ノ木坂学院の正式な生徒として登録された。

 

***

 

「そう言えばさ、みんなさっき何で笑ってたんだ?」

 

 波乱の1日が終わり、俺たちは部室に来ていた。

 

「あぁ、あれですか?」

 

 円陣の時、何故笑われたのかが未だに理解出来ない俺は、思い切って聞いてみることにした。

 別に変なこと言った覚えはないんだけど......

 

「実は......私たちは最初から結果が分かってたんだよ!」

 

「はぁ?」

 

 穂乃果が自信満々に胸を張る。

 ...やっぱり思ったよりでか......じゃなかった。

 

「分かってたって......みんなが拍手してくれることがか?」

 

「うん!車の中で海未ちゃんからの連絡を貰った時、絶対上手くいくって思ったの!ねーっ♪ことりちゃん♪」

 

「ねーっ♪穂乃果ちゃん♪」

 

 あの時か......

 それでも何でみんなが拍手してくれるってこと分かってたんだ?

 

「優くんはμ’sの一員として今まで頑張ってやってたんよ?そんな優くんを受け入れん人なんているわけないやん?」

 

「希の言う通りよ。あなたが今まで頑張っていたことはみんな知ってるもの!」

 

「絵里......希......あ、ありがとう」

 

 恥ずかしくなって、俺はそっぽを向きながら呟く。

 くすくすと笑う2人の声が聞こえて更に恥ずかしい。

 

「ほ、ほら!パーティの準備進めようぜ!」

 

 俺たちが部室に集まっているのはこれからパーティをするからだ。

 μ’s再活動&ことりと穂乃果お帰り&俺が正式に音ノ木坂の生徒になった記念。

 まぁ、廃校を阻止したパーティのやり直しだ。

 

「とりあえず、菓子類と飲み物類は俺が行くとして......花陽手伝ってくれるか?」

 

「は、はい!もちろんです!」

 

 そうして花陽連れて外に出ようとする。

 

「どうして花陽ちゃんなの!?」

 

 穂乃果が肩にしがみついてきた。

 突然のことにちょっとバランスを崩しかける。

 

「いや、目の前にいたからだけど......」

 

「それなら花陽ちゃんじゃなくて穂乃果が行くよ!ほら、ゆう君は花陽ちゃんに荷物を持たすなんて出来ないでしょ!?」

 

 ...俺は何てことをしようとしてたんだ!!

 よりにもよって天使様2号に荷物を持たせようとしてたのか!?

 俺の馬鹿野郎!!!

 もちろん1号はことりだ。

 

「じゃあ穂乃果、行くか」

 

「うん!」

 

 穂乃果と一緒に部室を出ようとする。

 

「待って下さい!」

 

 今度は海未が俺の腕を掴む。

 

「穂乃果だと寄り道したり色々と余計な物を買うと思います!だから私が一緒に行きます!」

 

 確かに穂乃果だとやりかねないよな......

 その点海未ならきっちりしてるし、海未に手伝ってもらうか。

 

「それなら海未、頼む」

 

「はい!」

 

 海未を連れて部室を出ようとする。

 

「待って!」

 

 ことりが駆け寄ってくる。

 ...いつまで続くんだこれ。

 

「海未ちゃんにはみんなをまとめてもらうっていう役目があるから......ことりが行く!!」

 

「俺がことりや花陽に荷物をもたせられるわけないだろ!!」

 

「怒るとこそこなの!?」

 

 当たり前だろ、凛。

 何を間違ったらそんな愚かなことが出来ると言うんだ!!

 

「ゆーくぅん......お願いっ♪」

 

「行くぞ、ことり」

 

「変わり身早すぎ......」

 

 真姫、そうは言うが......これに逆らえるやつは、世界中のどこにもいない!

 更に久しぶりなこともあってその威力はいつもの倍。

 

 そのままことりを連れて部室を出ようとする。

 

「待って!」

 

 絵里が今度は引き留めてきた。

 

 もう何だって言うんだよ!!

 というか何でさっきから1人ずつくるんだよ!!

 順番制か何かか!!

 

「優くん、頼まれたとはいえ......ことりに荷物を持たせるなんて出来るのかしら?」

 

「そ、それは!?」

 

 出来るわけない。 

 

「それならここは私が行くわ。花陽もことりと同様、穂乃果も寄り道とかして時間がかかってしょうがない、海未にはみんなをまとめる役がある......ということは私しか空いてないわよ?」

 

「いや、絵里だけじゃなくて、他に4人空いているだ「私が行くわ」...はい」

 

 有無を言わせない迫力に頷くしかなかった。

 

「だったら絵里がまとめればいいじゃないですか!!」

 

「そもそも穂乃果寄り道なんてしないよ!!」

 

「ことりだって荷物ぐらい持てるよ!!」

 

「わ、私もです!!」

 

 えぇ!?

 荷物持ちでここまでもめる!?

 

「じゃあ、俺が辞退するから......誰か2人で――」

 

「「「「「それはダメ!!」」」」」

 

「おかしいだろ!?」

 

 分かったから早くしてくれ......

 いや、ここで俺が別のやつを指名すれば......いや、争いが加速しそうだな......

 

「...それなら俺が1人で――」

 

「「「「「それもダメ!!」」」」」

 

「何でぇ!?」

 

 訳が分からない!!

 

「にこ......どうすればいいと思う?」

 

「そうねぇ......諦めるかとっとと誰かを連れて行くか......」

 

 なるほど。

 確かに俺がもうこの人だって強く言えば、事態は収拾するよな......

 

「...お前ら!ジャンケンしろ!それで文句ないな?」

 

「「「「「...ジャンケンポン!!」」」」」

 

 その様子を見ながら、俺はため息を吐く。

 すると希が笑いながら近づいてきた。

 

「大変やねぇ......優くんは」

 

「そう思うなら、助けてくれよ」

 

 その希に恨みがましい視線をぶつける。

 

「ゆー君!勝ったよ!!」

 

「...なるべく軽い物を持たせるからな。あとこの紙に欲しい飲み物とお菓子を1つずつ書いてくれ!」

 

 飲み物は絶対に俺が持つ、そう誓いながら俺は1枚の紙を渡す。

 そして、紙が手元に戻ってきた。

 

「おい、誰だ!?ビールとか書いたバカは!?」

 

「冗談冗談♪優くんは本当にからかい甲斐があるなぁ~!」

 

「お前か!!」

 

 こんなバカみたいなやり取りが楽しい。

 みんなが笑う。

 

 そして俺も頬が緩む。

 いつも通りの騒がしい日常。

 

 これが、この騒がしい日常こそが俺の望んだものだ。

 音ノ木坂に通い続ける限り、これからもこんな毎日が続いていく。

 

 これからも俺は――μ’sと共に。

 

―1st season end―

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは八坂優くんです!」

優「これで一応第一期は大団円ってところか」

作「はい、そうなりますね」

優「で?これからの予定は?」

作「そうですねぇ......まず数話ほど番外編を挟みたいと思ってます」

優「番外編?」

作「ここ最近はシリアスばっかりだったのでコメディを取り入れた話を書きたいと思いまして」

優「なるほどな、後日談ってところか」

作「そこまで大それたものではありませんが、まあそういうことです」

優「第二期と劇場版はどうするんだ?」

作「第二期は必ずやると思います。劇場版については......やりたいとは思ってますが、私この4月から社会人なのでそれは未定ですね」

優「第二期だってちゃんと更新出来るか怪しいからな......仕事に慣れるまでしばらくかかるだろうし」

作「そういうことですね......あっ、思い出しました。優くんのプロフィールを教えてください」

優「は?何で?」

作「いや、親しみを持ちやすくなりますし......キャラが分かってた方がその場面も読者の皆様が想像しやすくなりますし」

優「なるほど......名前は八坂優、身長は170cm、血液型はB」

作「体重などは考えるのが難しいので割愛します、血液は私と同じで身長は大体私と同じですね」

優「こんな感じだな。まさか第1期の最後に自己紹介することになるとは......」

作「挿絵入れるのが1番早いんですけどね」

優「お前練習したなら書けよ」

作「...時間があればですね」

優「やれやれ......次回もよろしくお願いします!」


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番外編シリーズ1
真白、襲来!


第1期も終わったということで新キャラ登場です。
この回は多分この小説史上最大の暴走ですね。




俺が音ノ木坂学院の正式な生徒になってから、1週間が経った。

 9月中旬に入ったというのにまだまだ暑い日が続く今日この頃。

 今日は土曜ということで、学校は休み。

 それでもμ’sの一員として今日も練習に励む。

 

「いい天気だなー。今日も気分よく過ごせそうだ!」

 

 そう思っていたのに......

 

「おはよう!優お兄ちゃん!」

 

 ...どうしてこうなったんだろうか......

 

 

 ――事の始まりは、金曜日......つまり昨日へと遡る。

 

「ゆう君の従妹の真白ちゃんだっけ?それってどんな子なの?」

 

「...あまり思い出したくないんだけど......」

 

 学校と練習を終えた、帰り道。

 穂乃果がそんなことを言い始めた。

 そう言えば、車の中で奴の存在を知られたんだっけ?

 まじで言いたくねえな......

 

「優、従妹とは?」

 

「あぁ、その時は海未はいなかったもんな......九文(くもん)真白、優莉と同じ中3で来年高校生になる子だ」

 

 どうやら海未も興味を持ってしまったらしい。

 さて、どう説明したものか......

 

「それで、一体どんな子なの?」

 

 ことりが聞いてくるが、説明し辛いな......

 大体みんな口で言っても信じないから......

 

「はぁ......強いて言うなら、穂乃果と同じぐらいの行動力を持ち凛と同じぐらいの身体能力を持ち性格はにこに似ていて、絵里のような器用さを持つやつだ」

 

 ついでに容姿はμ’sのメンバーに混じっても違和感がない。

 普通に可愛いレベル。

 性格とかその辺全部抜けばの話だが......

 

「それは......本当に人間なのですか?」

 

 言いたいことは分かる。

 あいつが人の形を留めていることが不思議でならないぐらいだ。

 穂乃果と同レベルの行動力と凛と同レベルの身体能力を持っているだけでも手がつけられないのに......それに加えてにこみたいな猫被り、絵里みたいにやらせれば大体のレベルまでこなせるハイスペック人類。

 

「そういや近々会いに来るって言ってたな......恐ろしい」

 

「...聞く限りハイスペックなだけで特に何もないと思うのですが?」

 

 ...これを俺の口から言うのは躊躇(ためら)いがある。

 大体のやつはこれを聞いて、は?何言ってんだこいつ?って反応するんだよ......

 実際に会ってみないと分からない。

 でも、会わせたくない。

 

「海未、この世には知らない方がいいってこともあるんだぞ?」

 

「は、はぁ......?」

 

「えぇ~!!気になるよ!!」

 

 こうなったら穂乃果は逃がしてはくれないだろう。

 苦渋の決断をし、耐え難い事実を告げてやる。

 

「...あいつ、真白は俺のことを異性として大好きで......度し難いレベルの変態なんだ」

 

「「「え?」」」

 

 ほら!こうなった!

 だから言いたくなかったんだよ!!!

 

「...優。今日は良く休んで下さい」

 

「別に嘘は言ってない!やめろ!そんな哀れみに溢れる目で見るな!」

 

 従妹同士は結婚出来る。

 でもあいつのは愛が重すぎて受け入れられる気がしないんだっ!!

 

「ことり!信じてくれるよな?」

 

「...うん」

 

「目を逸らされた!?」

 

 ダメだ......だから嫌だったんだ!!

 

「ゆう君、何か悩みがあるなら言ってね?」

 

「優しさが痛ぇ!?」

 

 普段は優しさが欲しいと言ってるような俺だが、さすがにこんな優しさはいらない。

 

「...じゃあ俺はこれで」

 

 さすがにこれ以上は心が折れそうだったので、今日はみんなを家まで送ることなく、家に帰ることにした。

 まだ明るいし、近所だから大丈夫だよな?

 

「うん!また明日!」

 

「おやすみなさい」

 

「ゆー君、また明日!」

 

 靴を脱いで、家に入る。

 

「ただいまー」

 

「お帰りーお兄ちゃん」

 

 いつものようにリビングのソファに腰かけた優莉がチラリと俺を見ながら返事をしてくれる。

 

「じゃあ、俺は上にいるから、もし何かあったら呼んでくれ」

 

 俺もいつものように冷蔵庫から飲み物を取り出して、2階にある自室へ向かう。

 

「あっ、お兄ちゃん......ってもういないし」

 

 急いで2階に上ってしまった俺には優莉のその声は届かなかった。

 

「真白が明日家に来るってこと言おうと思ってたのに......まぁあとで言えばいいよね?」

 

 ...届くはずがなかった。

 

***

 

「朝か......」

 

 翌日、目が覚めた俺は体を起こしてぐぐっと伸びをする。

 

 気持ちのいい朝だな......目覚めも最高だし。

 さて、パンでも食べて早く練習に行くかー。

 

 と、ベッドから降りようとすると何か違和感があることに気づく。

 人が1人分入っていそうなぐらい隣の辺りが盛り上がっていた。

 

「...え?」

 

 何これ......朝チュン?

 いや、いやいやいやいや!?

 覚えがないぞ!?

 

 俺が身じろいでいると、その塊がピクリと動いた。

 

「ん~......あっ!優お兄ちゃん!おはよう!」

 

 容姿だけ見れば間違いなく美少女と言ってもいい、頭のおかしい変態がそこにいた。

 

「...いや、逆にお前で安心したけど......何でお前が俺ん家にいて、しかも俺のベッドに潜り込んでるんだ......真白!!!!」

 

 出来れば今すぐ親戚という関係すらも解消してしまい、会わなかったことにしたい従妹は不思議そうに首を傾げる。

 

 いや、本当こいつで安心したわ、安心出来ねえけど......もしこいつ以外が布団に潜り込んでたら間違いなく発狂してた。

 なぜ俺がこんなに落ち着いているのか、それはこの変態がいつもしていることを思い出せばこのぐらいは優しい、イージーモードもいいところだからだ。

 

「えっ?何でって......愛し合う2人がベッドの上で過ごすのは当たり前でしょ?」

 

「その言い方だと生々しく感じるからやめろ。...何もしてないだろうな?」

 

「...やだな~。いくら私でも越えたらいけないラインは分かるよ?ちょっと夜這い仕掛けただけだからセーフだよ!」

 

「それは越えたらいけないラインだ!!」

 

 急いで距離を取る。

 近くにいるとマジな身の危険を感じる。

 

「...お父さんは酷いね、真優(まゆう)

 

「お腹さすりながら言うんじゃねえ!!!!!」

 

 リアルにしか聞こえない!!

 特に両親から一文字ずつ取っていそうな辺りの名前がより拍車をかけてリアル!!

 

「なんてね。嘘だよ~!」

 

「...俺今人生最大に安心してる」

 

 一気に疲れが出てきて、俺はその場にへたり込むように座る。

 人との会話ってこんなに疲れるものだったっけと思わずにはいられない。

 

 いや、こいつを人類にカテゴライズしていいのかが判断出来ない。

 容姿云々以前に性格がぶっ飛び過ぎてるからな......

 

「...おい、いい加減布団から出てこい」

 

「はーい!」

 

 真白は元気な返事をし、布団を取ろうとする。

 

 ...何か嫌な予感がするな......

 

「待て、1つ確認させろ。お前ちゃんと服着てるよな?」

 

「あはは、大丈夫だよ!私だって乙女だからそれ相応の恥じらいはあるし!」

 

「...今のは聞かなかったことにしてやる。服着てるならいい、早く出ろ」

 

 そうして真白は布団を取って立ち上がる。

 その姿は――

 

 

 

 

 ――生まれたままの姿、つまりは裸、何も身に着けてはいなかった。

 

「嘘つき!!!!!お前にとっての恥じらいって何だ!?」

 

「そりゃ私もさすがに夜の営みをする時は恥ずかしいと思うよ?」

 

「全裸は見られても恥ずかしくないってか!?いいから早く服を着ろ!!!!」

 

 こいつに必要なのは衣服を身に着けるよりもまずは恥じらいを身に付けることだ。

 

 下着すら着ていないってどういうことだよ!!!

 やっぱりただの変態だ!!!

 

「見られて困る体はしてないよ!!」

 

「その格好で胸を張るんじゃねえ!?」

 

「優お兄ちゃんさっきから叫んでばっかりだけど......興奮してるの?」

 

「興奮しないわけないだろ!?ただし性的な意味じゃねえ!!!」

 

 親戚の子の裸なんか見て興奮したらダメだろ!!

 一応まだ身内の範疇(はんちゅう)なんだから!!!

 

「私は性的な意味で興奮してるよ!!だって優お兄ちゃんに見られてるんだから!!」

 

「優莉ぃ!!優莉ぃ!!頼む、助けてくれ!!!お兄ちゃんもうダメになりそうだ!!!!!!」

 

 朝から俺の叫び声が近所に響いた。

 

***

 

 ...はぁ、やっぱりこいつ着いてくるのか......

 横を歩くド変態をチラリと見ながら、俺はこっそりとため息を吐く。

 

 だったら走って逃げればいいんじゃないか?

 そう思うだろうが、こいつの身体能力は凛クラス......男の俺が普通に走っても負けはしないがそう簡単に撒けはしないだろう。

 

 頼むから穂乃果たちには見つからないでほしい。

 いや、やめよう。

 こんなことを考えても無駄だ......だって、こういう時に限って出会うんだからさ......

 

「ゆう君おはよ~!」

 

「おはようございます、優」

 

「ゆー君おはよう!」

 

 ほらな?

 よりにもよって幼馴染のフルコースだ。

 神様のバカやろう。

 

「あ、あぁ......おはよう、3人とも......」

 

 自分では見えないが確実に俺の瞳は今、濁っている。

 ついでに疲労も顔に出ていると思う。

 

「あれ?ゆう君その子は?」

 

「誰のことを言ってるんだ?」

 

「酷いよ!優お兄ちゃん!」

 

 存在そのものを無視する作戦失敗。

 優お兄ちゃんという言葉に幼馴染たちは不思議そうな顔をして、少し警戒の色を出し始める。

 いやいや、俺を攻撃しようとしないで。

 

「こほん、初めましてμ’sの高坂穂乃果さん、園田海未さん、南ことりさん。私は九文真白と言います」

 

「あれ?どこかで聞いたような気が......」

 

「...思い出しました。確か優の従妹でしたよね」

 

「いえ、厳密には違います」

 

 ...おい、合ってるだろ?

 認めたくはないけど、お前一応俺の従妹のはずだろ?

 いや、むしろ縁を切ってくれてラッキーなのか?

 

「私は優お兄ちゃんの――」

 

 真白はスッと息を吸い込み、一呼吸置く。

 嫌な予感しかしない。

 

「――許嫁です!」

 

「全員動くなぁっ!!!!!!!!!」

 

「「「っ!!」」」

 

 俺の叫びに穂乃果、海未、ことりの動きがピタリと止まる。

 ふぅっ......間一髪だった。

 

「OK、お前らそのまま動くなよ?今すぐそのみんなに連絡を取ろうとしている携帯をこっちに渡せ」

 

 全く、油断も隙も無い.......

 

「言っておくがただの従妹だし出来れば今すぐ縁を切りたいと思ってるぐらいだ。許嫁なんて地球が無くなろうが来世でも有り得ない」

 

「そんな......優お兄ちゃん......私たちキスだってしたのに!!」

 

「誰が動いていいと言ったぁ!!......あれ?マジでみんなに連絡取ったのか!?ねぇ、ちょっと!?」

 

「まあまあ、話は部室で聞いてあげますから」

 

「ゆー君ったら......おやつにしちゃおうかな~♪」

 

「今日も楽しくなりそうだねぇ♪」

 

 ...来世では普通の家族の元に生まれて、この変態とは血縁関係になりませんように。

 とてもいい笑顔を浮かべている3人を見て、俺はそう願わざるをえなかった。

 

***

 

「さて、それでは説明してもらいましょうか」

 

「説明もなにも本当にただの従妹だって......」

 

 部室まで連行に近い形で連れてこられた俺は、近くにあった椅子を引き寄せて座る。

 

「じゃあキスって何のことなのかな♪」

 

「記憶にございません」

 

 穂乃果と海未とことりは真っ黒に染まっている。

 その中でも断トツで怖いのがことりだ。

 笑顔のままスゥっと目が細められ、声音も俺の心臓を鷲掴むようなもの。

 

「おい、キスなんていつしたんだよ?あんまり嘘吐かれると俺の寿命が減っていくんだけど?」

 

 今がまさにその状況。

 

「今朝だよ?」

 

「普通......いや、非日常的会話をしただけだろ」

 

 宇宙人と話してるって言えばこんな感じかもしれないな。

 

「そりゃ優お兄ちゃんにはした記憶は無いと思うよ?」

 

「「「「え?」」」」

 

 幼馴染4人で同じリアクションを取る。 

 何だよ、キスしたことあるのに片方にはその記憶が無いって......とんちか?

 

「だって私がしたのって優お兄ちゃんが寝てる間だからね!」

 

 真白は胸を張って答える。

 何でそんなに自信満々なんだ?

 誇るところじゃないよな?

 

「それに私がしたのは頬だよ、唇は1番大事な時までとっておきたいしね!」

 

「変態の癖に無駄にロマンチスト......そんな時はこない」

 

 こいつのことだから大事な時は結婚式の時じゃなくて夜の方だと言いそうで怖い。

 

「いきなり連絡が来たと思えば......何の話よ」

 

「...ちなみにどんな感じの連絡がいったんだ?」

 

 真姫は携帯を俺に見せてくる。

 

<優が従妹に許嫁と言わせていてキスまでしたそうです>

 

<練習前に部室でちょっと時間もらえませんか♪>

 

<詳しくは部室で話すよ!>

 

 何故か俺が言わせたみたいなことになっていた。

 

「それで......その子は誰?」

 

「μ’sのみなさん、初めまして!私は優お兄ちゃんの従妹で九文真白と言います!将来の夢は優お兄ちゃんのお嫁さんです!」

 

 比較的にツッコミ役に回ることの多いにこと真姫と絵里は海未はこいつやばい奴だという目に変わる。

 穂乃果と凛は互いにこいつ今何て言った?夢じゃないの?と言わんばかりに頬をつねり合い、ことりは笑顔、希はおろおろする花陽をなだめていた。

 

「さ、自己紹介も終わったことだし......早く帰れ、俺たちは今から練習があるんだ」

 

 くるりと背を向けて部室から出ようとすると、真白が背中にしがみついてきた。

 ええい、暑苦しい......

 

「待ってよぉ!まだμ’sのみなさんとお話してないよぉ!!」

 

「これ以上身内の恥を晒せるか。だから帰れ」

 

 首に回っている手を引き剥がそうと奮闘していると希が口を開いた。

 

「まぁ、ええやん。うちらも少し話してみたいし!」

 

「そうね、希の言う通りよ。せっかく来てくれたんだから、ねっ?」

 

「...分かったよ」

 

 やっぱり女の子の頼みごとには滅法弱い。

 特に普段からお世話になってる絵里と希に言われると俺は強く断れないんだよな......

 

「それでは一度に全員と会話するのは大変なので、隣のお部屋で1人ずつということで!」

 

「何その面接スタイル」

 

 こうして、謎の交流会が幕を開けた。

 

***

 

『穂乃果の場合』

 

「高坂穂乃果さん、優お兄ちゃんの幼馴染でμ’sのリーダー。家は和菓子屋さんですよね!」

 

「うんっ!そうだよ!」

 

 この場には真白と穂乃果と何故か俺がいて、他のメンバーには隣の部屋で待機してもらっている。

 本当に何なんだこれは......

 

「ふむふむ、なるほど......」

 

「...何を見てるんだ?」

 

「胸だよ!」

 

「えぇっ!?」

 

 こいつ同性にもセクハラ働くのか......

 これは本格的に縁を切ることを考えないといけないな。

 というか今すぐ切ろう、それがいい。

 

「平均的ですね」

 

「うっ......穂乃果確かにあまり大きくないけど......」

 

「でも大体の男の人はそのぐらいが好きだと思いますよ!もちろん優お兄ちゃんもそうです!」

 

「やめろ!人の性癖をばらそうとするな!」

 

 真白と一緒になって穂乃果までこっちを見てくる。

 俺明日からどういう顔をして穂乃果に会えば......って俺前に穂乃果の家で裸に近いもの見てるし、胸の大きさの好みばらされた程度で今更どうにもならないか。

 どうやら俺はここで過ごす内にメンタルが鍛えられていたらしい。

 全然嬉しくねえ。

 

「しかしその人を惹きつける笑顔とカリスマ性......さすがはμ’sのリーダーです!!」

 

「えへへ!ありがとう!」

 

「でも勉強は出来なさそうです」

 

「酷いっ!?」

 

「お前いつも一言余計なんだよ」

 

 上げて落とす、こいつの得意技だ。

 

***

 

『ことりの場合』

 

「南ことりさん、優お兄ちゃんの幼馴染で服飾担当、音ノ木坂学院理事長の娘さんですよね!」

 

「そうだよー♪」

 

 頼むからことりには変なことを吹き込むなよ?

 俺の中の二大天使様に蔑まれたら俺はもう......死ぬしかないな。

 

「...なんと羨ましいスタイル......見事にバランスの取れた体をしています......」

 

「全然そんなことないよぉ!」

 

 まぁ、確かにバランスの取れた体だよな。

 前に水着姿を見たからよく分かる。

 

「私もスタイルには自信がありますが......やはり秋葉の伝説のメイドなだけはありますね」

 

「いや、それ関係無くないか......ってお前知ってるのかよ!?」

 

「ここに来るまでには大体の情報はリサーチしてるからね!」

 

 ハイスペックが無駄な方向で発揮されてるなぁ......

 こいつだけは敵に回さないでおこう......いや、既に俺の敵だったわこいつ。

 

「優お兄ちゃんって確かメイド好きだったよね?」

 

「解散っ!!!」

 

 やっぱりこいつは敵だと再認識して警戒を強化することにしよう。

 

***

 

『海未の場合』

 

「園田海未さん、優お兄ちゃんの幼馴染で作詞担当。家は日舞の家元ですよね!」

 

「はい、そうです」

 

 よし、海未なら変な感じにならずに冷静に切り返せるはずだ。

 信じてるぞ!!

 

「なるほど......日頃から鍛えてるだけあってメリハリのある体ですね。胸は平均よりも少々小さいですが」

 

「む、胸は関係無いじゃないですか!この遠慮の無さ、優の親戚というのも頷けますね......」

 

「おい、これと一緒にするな」

 

 いきなり雲行きが怪しい。

 何で矛先が俺に向く?

 いや、もう慣れたけどさ......

 

「優お兄ちゃんは胸の大きさなんて気にしないから大丈夫ですよ!」

 

「お前がフォローするなんて珍しいな......」

 

 不気味だ、そこはかとなく不気味。

 

「だって優お兄ちゃんのお部屋には大小色々な胸の大きさの女の人の本がありましたから!!」

 

「撤収っ!!!!」

 

 この後、海未から蔑みの目で見られたのは言うまでもない。

 

***

 

『花陽の場合』

 

「よし、終わろう。うん、それがいい!」

 

「何言ってるの?まだお話ししてないよ!」

 

 花陽には変なことを言ってほしくないんだよ!

 純真な花陽にはこの変態と会話してほしくない。

 自己紹介だけで終わらせてくれ、頼むから。

 

「小泉花陽さん、お米とアイドルが大好きな高校1年生ですね!」

 

「お前その情報どこから仕入れたんだ......」

 

 さっきから思ってたんだけどさぁ......

 

「は、はい!そうです!」

 

「...高校1年生にしては大きい胸ですね......それに見るだけで最高の触り心地だと言うのが分かります!」

 

「え、えぇっ!?」

 

「おいこらぁ!!!花陽にそういうこと言うんじゃねえ!!!!」

 

 ほら!!こういうこと言うから早めに切り上げたかったんだよ!!

 花陽は顔を真っ赤にして視線をあっちこっちにさまよわせている。

 

「しかも小動物みたいで可愛らしい......優お兄ちゃんの好みど真ん中!!私の次に優お兄ちゃんのお嫁さんに近いかもしれないです!」

 

「よーし、花陽もう出ていいぞ!!!」

 

 これ以上付き合わせるのは申し訳ないしな!!

 今から始まるお説教タイムに!!

 

***

 

『凛の場合』

 

「星空凜さん、身体能力抜群で猫とラーメンが大好きの高校1年生ですね!」

 

「正解にゃ!」

 

 凛は結構ズバズバものを言うタイプだからこいつとも張り合えるかもしれない。

 そろそろこいつに一矢報いてくれ。

 

「なるほど......胸よりもお尻の方が大きいようですね」

 

「ちょっと待て、何でそんなことが分かる」

 

 こいつ今座っている凛を見て言ったぞ......

 リサーチ済みってスリーサイズも?

 

「優お兄ちゃん。変態は普通の人には出来ないことを平然とやってのけるから変態って言われてるんだよ?」

 

「無茶苦茶な理論なのに筋が通ってるのが何か腹立つ!!」

 

 ドヤ顔で自らの超理論を言い放つ真白。

 超うぜえ!!

 ていうか変態っていう自覚があったのかよ!!

 

「む、胸なんてあっても運動の邪魔になるだけだよ!!だからいいの!!」

 

「あー、なるほど......多分中学が陸上部だったこともあって下半身が鍛えられているんですね」

 

 俺は今日、あと何度胸と聞けばいいんだろうか。

 恐らく全員分やると思うけど、女の子の口から直接胸とか聞くことないから何故か聞いているこっちが恥ずかしい。

 いや、俺も男だから胸に目がいったりするんだけどさ......

 

「優お兄ちゃん、私お尻も大きいよ?」

 

「何の話だ!!」

 

 中学3年生にしては確かに真白は出るとこは出てて引っ込むところは引っ込んでいる。

 でも何も感じない、だってこいつ変態だし。

 

「何かゆーサンの対応力の秘密を垣間見た気がするにゃ......」

 

「悪いな、これでみんなの分のジュースでも買ってきてくれ......」

 

 俺は凛に野口さんを手渡した。

 

***

 

『真姫の場合』

 

「西木野真姫さん、作曲担当で西木野総合病院の娘さんですよね!」

 

「えぇ、よろしくね」

 

 さすが真姫、落ち着いてるなぁ。

 俺も見習わないと。

 

「なるほど......スタイル抜群でとても美人さんですね!」

 

「別にそんなことないと思うけど......あなただってその年にしてはスタイルいいじゃない。うちにはそれ以上に育ってない人もいるし、十分よ」

 

 一体にこのことを言ってるのか凛のことを言ってるのか......

 真相は真姫にしか分からない。

 

「...今度医療関係のことを教えてくれませんか?」

 

「「え?」」

 

 突然目を輝かす真白に俺と真姫の声が揃う。

 

「それは別にいいけど......どうして?」

 

「だって......知識があった方が優お兄ちゃんとのお医者さんプレイが本格的になって盛り上がるじゃないですか!!」

 

「やらねえよ!?」

 

 真姫からゴミを見る目で見られた。

 俺悪くないよな?

 

***

 

『にこの場合』

 

「矢澤にこさん、アイドル研究部の部長でアイドル大好き高校3年生ですね!」

 

「にっこにっこに~♡初めまして!矢澤にこです!にこに~って覚えてにこ♪」

 

 あっ、そっちのキャラでいくのか。

 そういやこの2人猫被りって言えばキャラがそっくりなんだよな......

 

「高校3年生とは思えない幼児体系ですが、可愛らしいお顔ととても綺麗な肌です、羨ましい!!」

 

「...何というかこの子の性格......優に通ずるものがあるわね」

 

「これと一緒にされるのはちょっとなぁ......」

 

 というか素が出るの早くないか?

 それでいいのか?

 

「大丈夫ですよ!女の価値は胸じゃありませんから!!容姿、性格、全てが合わさって1つの魅力になるんです!」

 

「じゃあお前容姿だけで生きていく気かよ。性格全部悪い方に丸投げしてんじゃねえか」

 

「やっぱり遠慮の無さが似てるわね」

 

 やめてくれ。

 いや、勘弁してください。

 

***

 

『絵里の場合』

 

「綾瀬絵里さん、音ノ木坂学院の生徒会長でロシア人と日本人のクォーターですね!」

 

「えぇ、その通りよ」

 

 さて、絵里は......大丈夫だよな?

 俺が強制終了するパターンにならなければいいんだけど......

 

「...くっ!金髪の年上系美人、しかもスタイル抜群で頭が良さそう......私の勝てるところが見当たらない!!」

 

「ハラショー!でも真白ちゃんだってスタイルいいし、可愛らしい顔してると思うわ」

 

 おおっ!絵里が押してる!!

 いいぞ!!そのまま押し切ってしまえ!!

 

「だけど優お兄ちゃんへの愛なら絶対に負けません!」

 

「すまん、聞き流してくれて構わない」

 

 その愛は一方通行だ。

 潔く諦めてくれ。

 

「...そう言えば、外国の人って夜がお盛んだって聞いたんですけど、絵里さんはどうなんですか?」

 

「えぇっ!?わ、私は......そういうことはあまり分からないから......」

 

 やばい、攻守が入れ替わる気配がした。

 

「まぁ、私は夜だけじゃなくて優お兄ちゃんが相手ならいつでも盛ることが出来ますけどね!!」

 

「はいはい、少し黙ろうか!!」

 

***

 

『希の場合』

 

「東條希さん、生徒会副会長で占いが得意ですね!」

 

「よろしくやん!」

 

 ようやくラスト、ここを乗り切れば終わる。

 希なら飄々(ひょうひょう)と躱してくれるだろ、多分。

 

「...少し大きすぎやしませんか!?ずるいですよ!!こんなのどうやったって男はイチコロじゃないですか!!しかもそれでいて包み込むような包容力のある優しさを感じる......スタイル良くて優しいなんてただの都市伝説だと思ってたのに!!」

 

「今さらっと希を都市伝説扱いしたぞ」

 

 μ’sは都市伝説の集まりだった?

 ...ある意味そうかもな。

 

「真白ちゃんはまだ中学生なんやし、将来に期待してもええと思うよ?なんならうちが占ってあげようか?それか発育に効くおまじないもあるよ?」

 

 あぁ、なんだろう。

 おまじないの正体を俺は知っている気がする。

 というか100%あれだ。

 

「いいんですか!?お願いします!!」

 

「...うん、カードがまだ希望はあるって言ってるよ」

 

 希の占いはよく当たるからな。

 まぁ、育ったところで俺がこいつに振り向くことはない。 

 いくら可愛くても変態だもの。

 

「じゃあいくよ~......ワシワシMAXや!!」

 

「あっ.....くすぐったい......んっ!!」

 

「これは絵面的にアウト!!ここまでだ!!」

 

***

 

「お話出来て楽しかったです!では私はもう帰りますね!!では!」

 

 真白はドアを勢いよく開くと走り去っていった。

 あいつ何しにきたんだろ?

 

「何というか......凄まじい子だったわね」

 

「すまん、絵里。みんなもあのド変態が迷惑をかけてごめん」

 

 練習前なのに疲れてしまった。

 あいつは実は人のエネルギーを吸い取って生きてるんじゃないだろうか?

 

「あっ!言い忘れてた!!」

 

「うぉっ!?窓から来た!?」

 

 スパーンと背後の窓が開いたと思ったら真白がひょっこりと顔を覗かせていた。

 

「私来年この学校受験するから!!それじゃ!!」

 

「え"っ!?」

 

 部室に静寂が訪れる。

 

「終わりだ......さよなら俺の学園生活」

 

 そのまま地面に膝をつく。

 

「まあまあ、まだ受かると決まったわけじゃないにゃ!だから元気出して!」

 

「...あいつは絶対受かる」

 

「何故そう言い切れるのですか?」

 

 よろよろと立ち上がりながら、椅子に座る。

 あいつは――

 

「真白は超頭いいんだよ......ぶっちゃけ高校飛び級して大学入れるぐらい」

 

「「「「「「「「「えぇっ!?」」」」」」」」」

 

 そりゃあ驚くだろうな。

 

「じゃあ何でそこまでして音ノ木坂を受けるのかな?」

 

「そんなもん俺がいるからだろ」

 

 多分、真白に会ってなかったらみんなは今の俺の言葉を信じはしなかっただろう。

 

「あいつ行動原理は100%俺に関わってるんだ......何でも勉強したのも俺といる時間を減らしたくないかららしい......」

 

 そんなあいつが今までどうして俺に関わってこなかったのか。

 いや、偶に会いには来ていた。

 だけど、あいつは猫被りだから周りの人間に上手く合わせていた。

 真白が本性を出すのは本能的に心を開けそうな人の前だけ。

 そのことをみんなに話すとやや複雑そうに笑った。

 

 九文真白という少女は、そういった部分を全部含めて変態だと俺は思っている。

 あいつは真白って言うよりも真黒(まぐろ)の方が合ってる気が俺は今更ながらだがしていた。

 

―To be continued―

 




雑談のコーナーはお休みです。

~新たに高評価してくださった方々~

9回裏から逆転さん、田千波 照福さん

ありがとうございました!


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If Story ~幸せを呼ぶクローバー~

今回はもしものお話。
リクエストもありましたし、あの人主体のお話です。



 その日は秋も近いこともあり、とても過ごしやすい天気だった。

 空は高く、綺麗な青色がどこまでも続いている、そんな天気の日。

 

「ねえねえ!!ゆう君は知ってる?」

 

 朝から慌ただしく俺の席へと寄ってきた穂乃果は机に手を着くと、大きな声で言った。

 

「あー、近い。声がでかい。......で?何が?」

 

 俺は苦笑混じりに返す。

 するといつものように海未とことりも俺の席へとやってくる。

 

「穂乃果、少々落ち着いてください」

 

「なんでも......このクラスに転校生が来るみたいだよ?」

 

「転校生?この中途半端な時期に?」

 

 ことりが言ったことを繰り返す。

 2学期始まって数週間経ってるのに転校生か......

 

「賑やかになるな。穂乃果はあまり質問攻めにするなよ?」

 

「大丈夫だよ!!」

 

「どんな子なのかな?」

 

「それは先生が来てからのお楽しみってことで」

 

 転校生の話を聞いてから気づいたけど、よく見たらクラスのみんなはどこかそわそわしているように見えた。

 聞こえてくる会話もその話題ばかり。

 

「噂をすれば来たみたいだな。ほら、早く自分の席に戻れ」

 

 3人が席に着くと同時に先生が教室に入って来た。

 

「さて、みんなももう知ってると思うが、今日から私たちのクラスに新しい仲間が増える!みんな仲良くするように!」

 

 ざわざわと喧騒が起こり始める。

 俺が来た時もこんな感じだったのか?

 いや、男が来ると知って歓迎する気持ちは少なかったか、今はすっかり馴染んでるけど......

 

「それじゃ入ってきていいぞー!」

 

 ちなみにこの男前な話し方をする先生も女性だ。

 まぁ、それはいいか。

 さてと......どんな人が来たんだ?

 

「...え?」

 

 教壇に立つその姿は、黒髪の少女。

 凛とした雰囲気を持っているそんな女の子。

 

「深瀬六葉(りくは)です!今日からよろしくお願いします!」

 

 最後に声を聞いたのは夏休みの合宿の時、鈴のような声は変わらないまま。

 彼女、深瀬六葉はそこに立っていた。

 

「ゆう君、あれって......」

 

 前の席に座る穂乃果が俺の方を向く。

 

「...あぁ。多分精度の高い偽物とかじゃないだろうな」

 

 穂乃果たちも一度は姿を見ている。

 何となく海未とことりの方を見てみると、穂乃果と同じような顔をして、俺の方をジッと見ていた。

 

「何だ?八坂も高坂も南も園田も知り合いか?」

 

 先生が俺たちの名前を呼ぶとクラスのみんなの視線が俺たちへと集まる。

 

「え、え~っと......俺の中学の時のクラスメートです」

 

「そうか、ならちょうどいいな!深瀬の席は八坂の近くだ、あとで学院内を案内してもらえ」

 

「はい!」

 

 深瀬は足取り軽やかに俺の傍へと歩み寄り――

 

「これから"また"よろしくね?優くん!」

 

 ――笑顔でそう言ったのだった。

 

***

 

「どういうことだよ!?何で深瀬が音ノ木坂に!?」

 

 休み時間は案の定、深瀬はクラスメートに捕まってとても話しかけられるような状態じゃ無かった。

 なので放課後になってからアイドル研究部の部室に来てもらった。

 というか連れてきた。

 

「実は......あれから三上君のお父さんが頼みたいことがあればなんでも言ってくれって言ってくれたから......私だけマンションに部屋を借りることになって、それで音ノ木坂に引っ越してきたの!」

 

「へぇ、そうなのか......じゃなくて!!どうしてわざわざ引っ越してまで音ノ木坂に来たんだよ!?」

 

 μ’sが全員揃って見守る中、深瀬はそっと口を開く。

 

「この部活に入部する為、かな?」

 

「「「「「「「「「「えぇっ!?」」」」」」」」」」

 

 何でだ!?

 深瀬はやっと両親と一緒に暮らせるようになって.....って、そうだよ!!

 

「両親と一緒にいなくていいのか!?」

 

「あの頃とは違って、今度はいつでも会えるんだし......私は私のやりたいことをするの!!今まで我慢してた分!!いっぱいいっぱい!!だからスクールアイドル、やってみたいなって!!」

 

 弾けるような笑顔で笑う深瀬。

 呆気に取られていた俺たちはまずは自己紹介からしていくことにした。

 

「高坂穂乃果です!よろしくねっ!」

 

「うん!同じクラスだよね?よろしくね!!高坂さん!」

 

「穂乃果でいいよ~!六葉ちゃん!」

 

「うんっ!穂乃果!」

 

 この2人は仲良くなれそうだな。

 明るい笑顔が良く似ている2人だ。

 

「私は南ことりですっ♪よろしくね!六葉ちゃん!」

 

「よろしくっ!ことり!」

 

 ことりとも上手く馴染めそうだ。

 2人で服の話で盛り上がりそうだな。

 

「園田海未です。よろしくお願いします」

 

「よろしくね?海未!」

 

「は、はい......六葉」

 

 深瀬はグイグイいくようなタイプだから、多分穂乃果のように海未を引っ張ってくれるはずだ。

 海未は人見知りだからな慣れるまで時間かかりそうだけど......

 

「あぁ、言い忘れてたけど......μ’s内では先輩禁止だから、1年生が敬語使わなくても大目に見てくれ。もちろんここにいる3年生にも敬語は無し、オッケー?」

 

「うん!もちろんだよ!なんだか距離が縮まった感じがするし!!」

 

 何というか......完全に吹っ切れたって感じだな。

 あの事は既に解決したとはいえ、本人を前にすると俺は未だに引きずってしまう。

 時間が解決してくれるものなのか、自分で乗り越えていくしかないのか、それは定かではない。

 

「凛は星空凛って言うんだぁ!よろしくにゃ!」

 

「うわぁ!素敵な名前、それにとっても可愛い!よろしくね!凛ちゃん!」

 

「っ......うん!六葉ちゃん!」

 

 ...今一瞬凛の顔が曇ったような......気のせいか?

 深瀬は同級生は呼び捨て、1年生はちゃん付けで呼ぶみたいだ。

 

「こ、小泉花陽です!よろしくお願いします!」

 

「うん!え~っと......花陽(かよ)ちゃん!」

 

「は、はい!その呼び方するのって凛ちゃんだけだったので......何だかくすぐったいです!」

 

 おぉ、和む和む。

 今日も俺の天使様2号は俺の心を癒してくれた。

 

「西木野真姫よ、よろしくね」

 

「よろしく!真姫ちゃんスタイルもいいし美人だし、何よりも手が綺麗だね!」

 

「まぁ、ピアノやってるから手にはそれなりに気を遣ってるだけよ」

 

 そういえばピアニストってそういうものだったっけ。

 そんな真姫の日々の努力によって俺たちの曲が作りだされているわけだ。

 いつも感謝しています。

 

「綾瀬絵里よ、一応この学校の生徒会長をしているわ。よろしくね」

 

「よ、よろしく......お願いします!」

 

「先輩禁止だって、ほらもう一回言ってみろ」

 

 深瀬の気持ちは良く分かる。

 絵里って初対面の時はかなり緊張するんだよなぁ。

 

「う、うん!よろしく!絵里ちゃん!」

 

「絵里はロシア人と日本人のクォーターなんだ、金髪とスタイルがいいのはそういうこと」

 

「もうっ!おだてたって何も出ないわよ?」

 

 絵里の赤面いただきました。

 こうして俺の脳内μ’sフォルダにまた1枚刻まれていくのである。

 毎日絶賛更新中だ。

 

「うちは東條希!よろしくやん、六葉ちゃん!」

 

「よろしく、希ちゃん!......何というかオーラ?が凄い!」

 

 見えるのか?

 まぁ、希って不思議な雰囲気があるから......もっとも、凄いのはオーラだけじゃない。胸とか胸部とかバストとか......

 

「...矢澤にこよ!入部するからにはアイドルがどういうものなのか、よく知ってもらう必要があるわ!いい!?アイドルっていうのは人を笑顔にする仕事なの!!生半可な気持ちでやるなら許さないからね!!」

 

「はい!!私、笑顔を失う辛さは知ってるつもりです!!だから人を笑顔にしたいんです!!よろしくお願いします!!にこちゃん!!!」

 

「にこはアイドル研究部の部長だ、見た目はこんなでもちゃんと高校3年生」

 

 この2人にはかなり似たものを感じる。

 かつて笑顔を失い、今こうして再び笑えている者同士。

 にこは不機嫌そうにしながらも、口角が上がっている。

 きっと深瀬の覚悟を受け取ったってことだ。

 

「こんなって何よ!?」

 

「痛えっ!?(すね)を蹴るな!!」

 

 容赦なく蹴りつけてきやがって......

 態勢が悪かったおかげで深くは入らなかったけど、次は危なそうだ。

 

「みんなが深瀬に自己紹介も済んだところで、各自着替えてから屋上に移動。それから準備運動してそれから絵里と海未の指示に従ってくれ」

 

「..."六葉"!」

 

 深瀬が俺の腕を掴み名前を強調してくる。

 ん?つまり、どういうことだ?

 

「私だけ仲間外れみたいじゃん!!だから名前で呼んでよ!!」

 

「あぁ、なるほど......よろしくな、六葉」

 

「うんっ!」

 

 まさかこんな日が来るなんて、俺は思ってもみなかった。

 こうして深瀬......六葉とまた同じ学校に通うことになって、同じ部活に入って、スクールアイドルの活動を一緒にやっていくことになるなんて誰が想像出来るだろうか。

 

「...さぁ!練習開始だ!!」

 

『おぉ!!』

 

 だからこそ楽しくなりそうだ。

 

***

 

「ダンスって疲れるんだねぇ......」

 

「まあ、歌って踊って、更には笑顔を維持しないといけないからな。最初はみんなそうだった。凛とか絵里とか海未とか例外はいるけど......」

 

「誰が例外ですか、日頃から鍛えていればある程度は出来ますよ」

 

 だってお前トレーニングを楽しめる側の人間だし......

 小さい頃から海未の親父さんに鍛えられてるし、それが習慣じゃん。

 

「六葉、俺たちとこっちに来てるけど......家の方角はこっちなのか?」

 

「うん、多分近所だよ。4人は幼馴染なんだっけ?」

 

「うん!」

 

「と言っても、再会したのは数ヶ月前のことですが」

 

「穂乃果ちゃんと海未ちゃんとは幼稚園から一緒なんだよ?ゆー君は学校は違ったけど親同士仲が良かったからそれで知り合ったの!」

 

 こうして見ると......4人とも本当容姿が整っているよな。

 そのおかげですれ違う男連中の視線がこっちに向くのが分かる。

 

 ...俺に向いているのは嫉妬の視線だし、刺されないように夜道には気をつけないとな。

 

「着いた、ここだよ」

 

「近所って言うか......俺ん家の目の前じゃん!」

 

 俺の家の前にそびえ立つご立派なマンション様を指差す六葉。

 えぇ......超リッチ。

 

「普通のアパートでいいって言ったんだけど......これぐらいしないと示しがつかないって......あはは」

 

「す、すごいね......」

 

「今度遊びに行ってもいい!?」

 

「穂乃果!またあなたは!」

 

 いつも通りの光景だな。

 このマンション以外は。

 

「まあまあ、海未。私は全然いいから!むしろ1人暮らしで広すぎて落ち着かないぐらいだから!何なら今からでも来ていいぐらいだよ!」

 

「えぇっ!?いいの!?」

 

「もちろん!ほら、海未もことりも!」

 

 さて、俺は帰って晩ご飯作らないとな......

 

「優くん、何帰ろうとしてるの?」

 

「はい?」

 

「今から六葉ちゃんの歓迎会だよ!ゆう君!」

 

 ...なるほど。

 

「いやいや、歓迎会は必要だけど......それはみんながいる時じゃないと意味無いだろ」

 

「だから私たちのはプチ歓迎会兼明日の準備だよ!ほらほら!!」

 

「俺晩ご飯の準備があるんだが......」

 

 プチ歓迎会って......初めて聞いたぞ......

 

「いいよー、お兄ちゃん。行ってきても」

 

「優莉、もしかして聞こえてた?」

 

「穂乃果さんの声は大きいし、ここは家の前だからそりゃ聞こえるよ」

 

 だよな。

 うーん、優莉もこう言ってるけど......軽々しく女の子の部屋に入るのは実はまだ抵抗がある。

 いくら一緒に寝泊まりしたと言っても、少しは緊張するもんだ。

 

「...はぁ、分かったよ。じゃあ何か食べる物作るから......材料を買いに行ってくる、優莉はどうする?」

 

「私は適当に作って食べるから、お兄ちゃんは安心して行ってきていいよ」

 

 出来た妹だ。

 あの両親から生まれたとは思えないなぁ。

 

「じゃあみんなで買い物だぁ!!」

 

「優、何を作るのですか?」

 

 テンションの高い穂乃果と献立を聞いてくる海未。

 

「みんなついでに夕食にするなら......簡単にオムライスかオムレツか......卵料理だな」

 

「卵料理を簡単と言ってしまえる辺り、優くんの女子力はウナギ昇りだよ」

 

 良く言われます。

 弁当を作って持って行くと大体みんなから言われる。

 

「ゆー君お料理上手だもんねっ!楽しみだなぁ~!」

 

 さて、本気出すか。

 大天使に期待されてしまっては手は抜けない。

 端から抜く気はないけどな。

 

「じゃあ、穂乃果たちはジュースとお菓子を買う!!」

 

「飾り付けも必要だよねっ?」

 

 そうか、明日の準備もするんだっけ?

 

「とりあえず、行こうか」

 

『うん!(はいっ!)』

 

 近所迷惑にならないといいけど......

 特にこのハイテンション娘。

 

***

 

「うわぁ!!広ぉ~い!!」

 

「おい叫ぶな、近所迷惑」

 

 人生初壁ドンを味わう羽目になるぞ?

 意味が違うか。

 

「では、穂乃果とことりは飾り付けをお願いします。私は優を手伝いますので」

 

「私も手伝うよ、4人はお客様なんだから」

 

「六葉ちゃんは座ってていいんだよ?歓迎会の主役なんだから!」

 

「そうは言うけど、ことり。それと同じことを聞いて言うことを聞く人なんて滅多にいないと思うよ?」

 

 まあ、主役だから休んでていいよって言われて休んでるやつを見たことないな。

 俺としては手伝ってもらえると助かる。

 

「メインは俺が作るから、海未と六葉は付け合わせを作ってくれ」

 

「分かりました」

 

「任せといて!」

 

 しばらく談笑しながら、パーティの準備は順調に進んでいった。

 会場もいい感じになり、料理も完成。

 うん、いい出来だ。

 

「主夫だね~......何というか女の私たちの立場が危ういよ......」

 

「そうですね、私たちも出来ない訳ではないですが......ここまでやられると勝てる気がしません」

 

 まあ、毎日のように自分で作ってたら嫌でも上達するもんだ。 

 手伝いじゃなくて俺が全部やってるわけだし。

 

「今更だけど、明日の歓迎会って部室じゃダメだったのか?」

 

「「「「あ」」」」

 

 うっかりしてた、と。

 早めに言い出せば良かったかな?

 

「まあ、もう飾り付けもしたし......いいか」

 

「そ、そうだよ!!」

 

 まぁ、これだけ広ければ確実にみんな入るし......菓子類が無くなったら自分で作れるし、騒音に気をつければ部室よりはいいか。

 

「早く食べて、明日の準備をしようぜ。まだ残ってるんだろ?」

 

「そうだ!早く食べないとオムライス冷めちゃう!!」

 

 冷めたらレンジにで温めればいいだけなんだけど......俺もお腹空いたし、気にしないでおくか。

 

「ご主人様♪今ならサービスでケチャップでオムライスに絵をお描き致しますよ♪」

 

 ケチャップじゃなくて鼻血で模様を描いてしまいそうだっ!!

 さすが伝説のメイド......着てもいないのにメイド服が見える!?

 

「何というか、ことりって本物のメイドみたいだね」

 

「実はメイド喫茶でアルバイトさせてもらってるの♪だけどお母さんには内緒ね?」

 

「親は理事長で娘はメイド......凄いね」

 

 そうだな、しかも普通のメイドじゃない。

 

「ことりちゃんは秋葉で伝説のメイドさんなんだよ?ミナリンスキー!!」

 

「嘘ぉ!?」

 

「六葉、ミナリンスキーのこと知ってるのか?」

 

 意外だった。

 

「知ってるも何も......ネットで有名だもん!サインはオークションにかけられてるし!!」

 

 さすが伝説、知名度は伊達じゃない。

 それでも世間にことりの姿が知られていないのは写真禁止という条件に助けられている部分が大きいんだろうな。

 

「と言っても、色々ありすぎて知ったのは最近なんだけど......」

 

 これ以上は踏み込まない方がいい。

 俺は直感でそう悟った。

 

「ことり、絵頼めるか?」

 

「うんっ♪任せて♪」

 

「...(相変わらず優しいなぁ)

 

 ...小声なのに聞こえてるぞ。

 そんなんじゃない。

 

「ことり、あれを見せては如何ですか?......優の女装の......」

 

「あっ!いいかも~♪」

 

「穂乃果携帯に写真入ってるよ!!」

 

「え!?見たい見たい!!」

 

 みんなも何となく空気を察したみたいだ。

 空気が入れ替わってくれて良かった。

 こんな話持ち出さないに越したことはないからな。

 

 だけど......そんなことよりも今は――

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!!!!」

 

 ――こいつらを止めることが先決だ!!!

 

***

 

 翌日の放課後。

 俺たちはまた六葉の家に集まっていた。

 今度はμ’s全員で。

 

「昨日言い忘れていたけど、ここ防音だからある程度は騒いでも大丈夫だよ?」

 

「ぃやっほ~!!」

 

「広いにゃ~!!」

 

「だからってわざわざ叫ぶな!!」

 

 全く、こいつらは......

 俺はとりあえず荷物を置いてキッチンに足を踏み入れる。

 

「...どうしてキッチンに入るのにそんなに貫禄があるのよ」

 

「料理の出来る男の子はモテるやろうな~」

 

 中学生の時から俺はキッチンを任されてきたんだぞ?

 まぁ、キッチン入るのに貫禄なんかいらないんだけど。

 

「こんなんでモテれば苦労はしない、じゃあパパッと作っちゃうから、みんなは六葉と話してていいよ」

 

 みんなと親睦を深めてもらう意味も込めての歓迎会だ。

 俺は中学は同じクラスだったし、あとで話せばいいからな。

 

「何か手伝えることがあれば呼んでね?」

 

「むしろ今からでも何かお手伝いを......」

 

「絵里も花陽もありがとう、大丈夫だから座っててくれ」

 

 優しすぎるっていうのも考えものだな。

 

「まずいもの作ったら許さないわよ」

 

「誰に向かって言ってんだよ、いいから座ってろって」

 

 俺ってそんなに信用ないのか?

 合宿の時も見せただろうに......

 

「じゃあここで主役から一言!」

 

 あっち盛り上がってるな......

 俺も早く参加出来るように作業を早くしよう。

 

「え~っと......今日は私の為にこのような歓迎会を開いて頂き......」

 

「固いよ!!」

 

「...本当にありがとう!!」

 

 パチパチと拍手の音が聞こえる。

 おい、誰だ下手な口笛吹いてるやつは。

 掠れた音しか聞こえてこないぞ。

 

「実は、音ノ木坂に来たのはスクールアイドルになりたかっただけじゃなくて、もう1つ大きな理由がありました!」

 

 ...あれ以外にあるのか。

 一体何だ?

 

「...八坂優くん!」

 

「...は、はい!?」

 

 急に呼ばれてびっくりして声が裏返る。

 おい誰だ、今笑い声が聞こえたぞ。

 

「...私、深瀬六葉は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あなたのことが本当に大好きになってしまいました!!!!」

 

 ...え?

 

「「「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇっ!?」」」」」」」」」」

 

 突然の展開に俺たちは揃って大絶叫。

 

「私はスクールアイドルをやる為!そして......優くん!あなたを落とす為に音ノ木坂に転校してきました!これからどんどんアプローチしていくから、覚悟しておいてね!!」

 

「...えぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 今度は俺1人が叫ぶ。

 これが俺にとっての波乱の幕開けだった。

 

 ――あったかもしれない

 

 

               もう1つの未来――

 

 これはそんな物語だ。

 

 

―To be continued?―




作「雑談のコーナー!さぁ、八坂優くん!どうぞ!」

優「今までにないぐらい雑だな」

作「まあまあ、別にいいじゃないですか」

優「今回は深瀬の話だったな」

作「はい、書いていてこんな未来があったらいいなと思いましたね」

優「あとは読者がどう受け取るかだな」

作「はい......それとストックが切れてしまいました」

優「切れるとどうなるんだ?」

作「まず、投稿が遅れる可能性が大です。自動車学校も卒検ですし、学科の方の勉強もしないとなので書く時間があまりないんです......ごめんなさい」

優「あまり読者を待たせないようにな」

作「はい、善処します」

優「次回もよろしくお願いします!」


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八坂家の日常

まずは投稿が遅れて申し訳ありません!!
職場の寮に入ったはいいものの、ネット環境が存在しておらずに書きたくても書けない状況でした!!
今は休日を利用して実家に帰って来ているので、とりあえず1話は投稿しないとマズいと思いましたので、執筆いたしました!
急ごしらえなものですからクオリティは全く保証出来ません!!




休日。それは学生にとっては嬉しいものであるがそれはやることがあったらの話だ。

 まだ時間帯は昼にもなってない。

 

「...下行くか」

 

 暇を持て余した俺はやることを求めてリビングへ入る。

 案の定ソファでくつろいでいる優莉がいた。

 

「お兄ちゃんどうしたの?抜け殻みたいな顔してるよ?」

 

「やることなくてな......」

 

 この際ヘビの抜け殻でも蝉の抜け殻でもなんでもいいが、人は暇を持て余すと大体は寝るかごろごろして過ごす。

 しかし、さっき起きたばかりの俺には眠気なんて微塵もないし、ごろごろするのは性に合わない。

 

「あ、そういえば今日お母さんがこっちに来るって言ってたよ」

 

「何!?それは本当か!?優莉!!」

 

 うざい奴がリビングに入ってきた。

 

「父さんうるさい、少しボリューム落とせ」

 

「おぉ、悪い悪い。美樹に会えるって考えたらテンションが上がってな」

 

「この間も会ったじゃん、穂乃果たちが泊まりに来た日」

 

 μ’sが復活を遂げたあのライブのあと、穂乃果と海未とことりの3人は本当に家に泊まりに来た。

 俺も一応会話に参加し、時折ツッコミをこなすという重労働を行った。

 

「そういえばあの日お父さんおとなしかったよね」

 

「そりゃ美樹がいる前で他の女性に構う訳にはいかないだろ、後が怖いし美樹が拗ねる」

 

「拗ねるのか......」

 

 この人たち結婚して何十年も経つのに未だに新婚みたいな空気なんだよな......

 俺と優莉は幼少期からそんな両親の姿を見て育ってきたからこれが普通だと思っていたけど、うちは仲が良すぎる。

 

「あと、このあと亜里沙と雪穂が遊びに来るから。お兄ちゃんはここにいてもいいけどお父さんは家から出ていって」

 

「ちょっと?今部屋すっ飛ばして家から出ろと言いませんでしたか?」

 

「特におかしいところは無かったと思うけど?」

 

 むしろどうして家にいられると思ったんだ?

 

「で、母さんいつ帰ってくるって?」

 

「う~ん、いつとは言ってなかったけど......多分運転中にどこかに車を停めて電話かけてきたんだと思う。だからそろそろ帰ってくると思うよ」

 

 案外今家の前にいたりして。

 

「あら?優莉のお友達?......穂乃果ちゃんと絵里ちゃんがここにいるってことは2人の妹さん?」

 

 本当にいたー。雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんもちょうど来てたみたいだな。

 ...ん?穂乃果と絵里?

 

「立ち話もなんだから入って入って!」

 

「「「「お邪魔します」」」」

 

 玄関から聞こえてくるのは4人分の声。

 どうやら穂乃果と絵里は本当に来ていたようだ。

 

「やっほー!ゆう君!」

 

「優くん、お邪魔します」

 

 当たり前だが2人は私服、普段は制服の方が見ている回数多いから新鮮に感じる。

 まぁ見るのは初めてじゃないけど。

 

「2人とも、どうしたんだ?」

 

 と聞きつつ俺は既に来客用の飲み物を用意していた。 

 母さんの分も入れて5つのコップを用意する。

 

「雪穂がゆう君の家に遊びに行くって言うから、穂乃果も着いて来ちゃった」

 

「私も穂乃果と同じ理由よ」

 

「2人とも俺と同じでやることなかったんだな」

 

 1人1人に飲み物を配る。

 

「優也君~!会いたかった~!」

 

「俺もだよ!」

 

「おい、そこのバカップル。お客様の目の前で何やってんだ」

 

 何故か感動の再開みたいな感じで抱き合う2人。

 仲が良いのはいいことだけど、人前でやられると本当に恥ずかしい。

 優莉も苦笑しながら目を逸らしていた。

 

「何って......家族同士のスキンシップだろ?」

 

「外でやれ、もうめんどくさいからデートにでも行って昼ぐらいまで帰ってくるな」

 

 ほらもう、穂乃果と絵里が食い入るように見てるから......

 雪穂ちゃんは優莉と同じような反応。亜里沙ちゃんはハラショーと呟きながら見ている。

 あぁ、恥ずかしい。

 

「本当に行くなら昼ご飯は作っとくから、これ以上空間をピンク色に染めないでくれ」

 

「...そうだ!バーベキューをやりましょう!」

 

 何だろう、母さんがこの間から俺の知ってるキャラじゃない。

 

「穂乃果ちゃんと絵里ちゃんがお昼ご飯まだなら当然雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんもまだよね?」

 

「「「「はい」」」」

 

 バーベキューは決定なんだな......肉とか野菜とか買いに行かないと。

 

「...どうせバーベキューやるならみんなも呼んだ方がよくないか?」

 

「...優、あんたってバカよね」

 

「な、何で?」

 

 母さんが呆れたような目で俺を見ていた。

 

「既に可愛い女の子が2人も遊びに来てるのに更に他の女の子呼ぶとかあんたハーレムでも形成したいわけ?」

 

 酷い言われようだ......

 

「俺はμ’sのみんなをハブるようなことは出来ないし......やっぱりこういうのは人数が多い方が楽しいと思う」

 

 こう言うと母さんはため息を1つ吐いてからからと笑い始める。

 おい、マジで情緒不安定なんじゃないだろうな?

 

「そういうことを真面目に言う辺りがやっぱり私たちの子供ね!」

 

「即座に否定したいところだけど、一応褒め言葉として受け取っておく」

 

 そうと決まったらみんなに連絡入れて......ん?携帯部屋に置きっぱなしか......

 緩慢な動作で立ち上がり、リビングから2階の自室に戻ってバーベキューやるから俺の家に来いと全員に連絡を送る。

 そして携帯と財布を引っ掴んで下へと戻る。

 

「大丈夫よ、絵里ちゃんも穂乃果ちゃんも可愛いんだから!」

 

 リビングに戻ると母さんが穂乃果と絵里の手を掴んで何やら力説していた。

 

「...変なこと吹き込んでないだろうな?」

 

 この前から俺はいまいち母さんのことを信用出来ない。

 テンション高い時は何をしでかすか分からない、それがうちの両親だ。

 

「別に何も言ってないわよ!息子の弱点ぐらい普通でしょ?」

 

「何故だろう、俺は今母さんを殴らないといけないような気がするんだ」

 

 もちろん本当に殴ったりはしないが。

 

「とりあえずみんな何か食材を持ってくるらしいから、俺適当に飲み物とか食材を買ってくる」

 

「優、ちょっと待て」

 

 玄関へ向かう途中、父さんが俺を追いかけてきた。

 真剣な表情を浮かべてるのを見て、俺も思わず背筋がピンとなる。

 

「ほら、お金だ」

 

 手渡されたのは野口さん。

 

「...いや、お金ならあるんだけど?」

 

 それを聞くと父さんはフッと笑った。

 

「...ゴム代「チェストォ!!」ごはぁっ!?」

 

 母さんは殴らないが父さんは殴る。

 殴ったというよりは手刀を全力で脇腹に叩きこんだ。

 

「ちょっとは学習しろよ!!!これならまだ犬とかの方が賢いぞ!!」

 

「ノ、ノーモーションであの威力......成長したな......」

 

 どうやらバカは死なないと治らないらしい。

 手刀の威力で息子の成長を確認するとかバトル漫画かよ!

 

「ゆう君、どうかしたの?何かおじさん脇腹押さえてるし......」

 

「いや、何でもない。虫がいたから退治しただけだ」

 

 リビングからひょっこりと顔を覗かせる穂乃果に手を振って何もないとアピールしておく。

 

「絵里と穂乃果も一緒に買い出し行こうぜ」

 

 ここに置いておくのは危険だ。

 さっきはデートでも行ってこいと言ったが仕事で疲れてるだろうから家でのんびりしたいだろうしな。

 

「うん!行く行く!」

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

 穂乃果たちには先に外に出てもらう。

 

「優莉、せっかく雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんが遊びに来てるのに悪いんだけど色々準備しておいてくれないか?」

 

「ん~、いいよ。正直集まっても何をするわけでもなく話したりするだけだから」

 

 この子は本当にあの2人の子供なんだろうか。

 恐らくその疑問が尽きることはない。

 

「手伝うよ、優莉」

 

「私も!」

 

 そして姉に似ずにしっかり者の雪穂ちゃんと姉に似てしっかり者の亜里沙ちゃん。

 いい友達を持ったな。

 穂乃果も練習の時だけじゃなくって普段からしっかりしてくれればいいんだけどな......

 

 妹3人衆がちょこちょこと室内を動き回る姿を見て俺は軽く微笑む。

 そしてそのまま携帯でみんなへ連絡を送る。

 

<家に来たら母さんには気をつけろ>

 

 と。

 

***

 

「ただいまー......もうみんな来てるっぽいな」

 

 玄関に靴がこんなに......初めて見たな。

 

「あっ!優さん!ご飯炊いておきました!」

 

「さすが花陽、ありがとな」

 

 喜々として駆け寄って来た花陽をねぎらいながらみんなが持ってきた食料がある所に買ってきたものを置く。

 さりげなく何を持ってきたのかを覗き見る。

 

「こ、これは......」

 

 野菜6:肉1の比率。

 え?みんなベジタリアン?キャベツ多すぎだろ。

 

「...一応確認しておくけど、肉を持ってきたのは誰だ?」

 

「それは私ね」

 

 さすがお金持ち。超いい肉。

 その他全員野菜ってどういうことだ?

 

「いや、お肉は真姫ちゃんが持ってくるって思ったから......凛はいいかなって思って」

 

「うちはみんなお肉持ってきて野菜が少なくなるかもって思ったんよ」

 

「私も同じくです」

 

「ことりも......」

 

「わ、私も......」

 

「私もみんなが肉ばかり持ってくるんじゃないかと思ったんだけど......これは予想外だったわ」

 

 どうやら俺の知らないところで無駄な読み合いが行われていたらしい。

 えぇ......肉が少なくなる逆パターン?

 

「...悪い、俺が指示すればよかった」

 

 まさかこんな展開になるなんて思いもしなかったからな......

 女の子に肉を食えって言うのもなんだがこれはさすがに肉が欲しい。

 買ってはあるけど絶対に足りない!!

 

「父さん、ちょっと肉買ってきてくれ」

 

「仕方ない......行くか、美樹」

 

「そうね、優也くん」

 

 頼んだ身の俺は一応見送りに出る。

 父さんたちが戻ってくるまでに野菜の処理の仕方を考えとかないと......

 

「それじゃあ30分ぐらいで戻ってくるから」

 

「車で行くんだろ?そんなかかるのか?」

 

 俺が首を傾げていると父さんが耳打ちしてきた。

 

「...軽いデートだ」

 

「あんまり腹減ってるみんなを待たすなよ」

 

 もう人目を気にせずいちゃいちゃしてくれ。

 ただし俺のいないところで頼む。

 

「俺も腹減ってるからなるべく早く帰るようにするが、ちょっとは大目に見てくれ。お前はいくら腹減ってるからってμ’sの女の子たちを食べるんじゃないぞ?」

 

「そうか、そんなに腹減ってるならもう一発さっきのを食わせてやろうか?「行ってくる」...よし」

 

 さすがの父さんもあれを何発も食らいたくないらしい。

 拳を鳴らして脅すとそそくさと車に乗り込んでいった。

 

「...いつになったら父さんは性的なネタを言うことをやめるんだろうな......」

 

 きっとそれは球を7つぐらい集めて神様にでも頼まないと無理だ。

 小さくなっていく車を見送りながら、俺は余りに余ったキャベツや野菜をどうやって処理するかについて考え込むのだった。

 

「もう余ったら各自持って帰ること!それで異論はないな?」

 

 はい、とみんな返してきた。

 これが1番無難な選択だと思う。

 極力余らないように頑張るつもりだけどやっぱり限度というものがある。

 

「...そういえば、みんなは何が好きなんだ?嫌いなものは聞いたけど好物は聞いてなかったよな?」

 

 結構みんなと一緒にいるけどそのことは聞いたことなかった。

 花陽と凛はもう分かってるんだけど。

 

 他にも血液型とかも実は聞いてなかったりするし。

 俺みんなの性格ぐらいしか把握してなかったんだな。

 

「穂乃果はいちご!!」

 

「あぁ、さっき買ってたよな」

 

 デザートにいくつか果物などを買ってある。

 穂乃果は真っ先にいちごを持ってきた。

 割と高かったんだよな......

 

「私は穂乃果のお家のお饅頭ですね」

 

「ほむまんか......」

 

 さすがにそれは用意出来てない。

 あとで買ってきてもいいかもしれないな。

 俺も久しぶりに食べたいし。

 

「ことりはチーズケーキかな」

 

「...鍋に入れるぐらいだもんな」

 

 詳しくは語ってないけどかつて闇鍋をしようという話になった。

 穂乃果の好きな物を持ってきてという言葉を勘違いしたことりはチーズケーキを持ってきて、みんなに急かされてあろうことか鍋に入れてしまったのだ。

 電気をつけると鍋に沈むチーズケーキの姿が......あれは凄まじかった。

 

「凛はラーメン!」

 

「うん、知ってる」

 

 俺の奢りで何回か食べに行ったことがある。

 凛は日頃から活き活きじているがラーメンを食べる姿もそれはもう活き活きしている。

 あんなに美味しそうに食べてくれるのは作り甲斐があるだろうな。

 

「私は白いご飯です!」

 

「うん、それも知ってるな」

 

 花陽をアイドルのことと同じくらい豹変させてしまうもの、それが白いご飯だ。

 凛に負けず劣らず、とても美味しそうに食べてくれる。

 合宿ではカレーのルーとご飯を別々の皿で食べていたっけな。

 

「私は......トマトかしら」

 

「あぁ、俺も好きだぞ。栄養豊富だし」

 

 何というか親近感が生まれるな。

 真姫っていいとこのお嬢様だから好物が俺たちの身近にあるような物でちょっと安心した。

 美貌の秘訣はトマトにあるのかもしれない。

 

「私はチョコレートね」

 

「へぇ、ちょっと意外かも」

 

 絵里って時々子供っぽいんだよな。

 口の端にチョコをつけてる絵里が想像出来てしまった。

 真面目に見えるけど偶に抜けてるような時があるし。

 

「うちは焼き肉かな」

 

「やっぱりバーベキューに呼んで正解だったな」

 

 肉じゃなくて焼き肉が好きなのか。

 でも今日は肉じゃなくて野菜もたくさん食べてほしいところだ。

 絵里と並んで希も意外性が高かった。

 

「にこはお菓子ね」

 

「...大体予想通りだ」

 

 辛い物が嫌いだったり、好物がお菓子だったり......

 見た目と違わず子供じゃないか。

 あれ?でも凛とにこって多分1cmぐらいしか身長違わないはず......

 それなのににこの方が子供っぽく見えるのは......幼く見えるってことにしとくか。

 

「...今ものすごくバカにされたような気がするんだけど?」

 

「考えすぎだろ」

 

 本日も着実に勘の鋭さが磨かれていくμ’sの面々だった。

 それならちょっとは察して肉買ってこいよと思わなくもない。

 

「どうせもうすぐ父さんたちも帰ってくると思うから、先に野菜だけ焼き始めておくか」

 

「そうですね、好き嫌いせずに食べてくださいよ。特に穂乃果と凛は」

 

 海未の鋭い眼光が名前が出た2人を射抜く。

 おぉ、また迫力が増したな。

 

「わ、分かってるよ!ピーマン以外ならそれなりには食べられるから!!」

 

「凛もお魚以外ならそれなりに食べられるにゃ!」

 

 ドンッと胸を張って言う2人。

 こいつらは本当に姉妹みたいにそっくりだな。

 あと、それなりにはっていうのは完全不安要素だろ。

 

「よーし、凛と穂乃果の分、野菜大盛りで!!」

 

「「鬼ぃ!!!悪魔!!!!」」

 

 だってお前ら絶対肉があったら肉しか食べないだろ。

 絶対そういうタイプだ。

 

「ただいま~、買ってきたぞ~」

 

 ドアの向こうから父さんの声がする。

 ようやくこれで焼き肉になりそうだ。

 

「それじゃ、始めるか!!」

 

 俺の号令と共に、辺りには肉が焼ける音が響き始めた。

 

***

 

「優、ちょっといいか?」

 

 みんなでのバーベキューが終わり、それぞれが自分の家に帰って行ったあと、リビングで俺と父さんは対面していた。

 

「...またそんな真面目な顔をして変なことを言うつもりじゃないだろうな?」

 

 俺の問いかけに父さんは首を横に振り、静かに口を開く。

 

「...お前、1人暮らしをしてみる気はないか?」

 

「...は?」

 

 全く理解出来なかった。

 

「すぐそこのマンションで1人暮らししてみるつもりはないか?」

 

「え、ちょっ、はぁ!?」

 

 いきなりどういう展開だこれ!?

 

「お前もあと2年もすれば社会人か大学生。そうすればどのみち1人暮らしだ。だから早めに1人での生活に慣れておくべきだと思ってな」

 

「...で?本音は?」

 

 それっぽい理由を並べてはいるが、いまいち信用出来ないのでカマをかけてみる。

 

「1人暮らしって彼女とか連れ込みやすいだろ?」

 

「余計な気遣いしてんじゃねえ!!」

 

 この男はきっと脳内にギャルゲーの選択肢でも出ているに違いない。

 

「ちなみに母さんと話し合った結果だ」

 

「2人で話した結論がこれぇ!?」

 

 バカなのか!?

 俺の親は2人揃ってバカなのか!?

 

「とにかく考えておいてくれ」

 

「...お金がかかるだろ」

 

 ここぞとばかりに金銭面のことを口にする。

 

「心配するな。あそこの大家とは俺も美樹も知り合いだからな。少しは安くしてもらえる。それにちゃんと収入もあるしな」

 

 俺の両親は本当に何者なんだろうか。

 少々人脈が広すぎる気がする。

 

「そういえば、父さんの仕事って何なんだ?」

 

「お前には話したことなかったか?小説書いたり脚本書いたりする仕事だ」

 

 ...え?

 

「父さん、小説家とか脚本家......なのか?」

 

「あぁ、最近書いたのはあれだな。お前らを題材にしたスクールアイドルの映画」

 

 ...ん?それってまさか.......

 

「今、映画やってるやつ?」

 

「あぁ、そうだ」

 

 あまりの衝撃に話があまり入ってこない。

 

「...はぁぁぁぁぁ!?道理でキャラが俺たちに似すぎてるなとは思ったよ!!」

 

「ははっ、おかげさまで大盛況」

 

 うるせえ、この野郎!!

 17年と生きてきて、初めて親の職業を知った瞬間だった。

 果たして俺は本当に1人暮らしをしないといけないのか、その日は夜遅くまで頭を抱えて悩み続けることになったのだった。

 

―To be continued―

 




雑談のコーナーは無しです。
次の投稿がいつになるかは分かりませんが、なるべく早めにしたいと思います。
次回もよろしくお願いします。


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第2期
受け継がれる誇り


さて、前回の投稿からかなり空いてしまったわけですが......本当にごめんなさい。
 
理由は色々とあるのですが、創作意欲が湧いてこなかったのが1番の理由です。
仕事している最中もネタは考えるのですが、それを文章に起こすことが出来ませんでした。

それとPCをわざわざ引っ張り出して、また片づけるのも面倒という理由もあります。
タブレットPCの購入を本気で考えたほどです。

今回の内容は文字数も少ないし、中身もぺらっぺらだと思います。
落ち着いて執筆出来る状況になるまでもうしばらくかかると思いますが、途中で投げ出したりはしないと思うので......どうか応援よろしくお願いします!



「あれ?絵里、何やってんだ?」

 

 廊下を歩いていると、何やら大量の資料を持った絵里と出会った。 

 ファイル3つ分......生徒会の仕事か?

 

「あぁ、優くん。ちょっと生徒会の仕事でね」

 

 俺は抱えているファイルをジッと見つめた後、絵里の腕からファイルを抜き取る。

 絵里は一瞬驚いた顔をするが、それはすぐに微笑に変わる。

 

「さすが優くんね、それじゃあ悪いんだけど......生徒会室まで一緒に来てもらえるかしら?」

 

「あぁ、任せて」

 

 もはや雑用をする姿に貫禄すら出てきているだろう、今の俺は。

 まぁ、別に嫌々やってるわけじゃない。

 むしろこれで少しでもみんなの役に立てるのならお安い御用ってものだ。

 

「...これって何の資料?...って生徒会でもない俺には教えてくれないか」

 

「ちょうどそのことで優くんに相談しようと思っていたの」

 

「え?」

 

 生徒会のことで俺に相談?

 

「...次の生徒会長のことなんだけど......」

 

「...もうそんな時期なのか」

 

 そう、絵里たち3年生は来年には卒業。

 生徒会の引継ぎも早い内に済ませてその人には仕事に慣れてもらっていた方が事をスムーズに運べるだろう。

 

「...で?絵里が今考えている候補は?相談ってことはちゃんと考えてあるんだろ?」

 

「ハラショー、さすがね」

 

 2人で肩を並べながら、人がまばらにいる廊下を歩く。

 絵里は口癖であるハラショーを呟きながらウィンクしてみせる。

 

「私の考えでは穂乃果、海未、ことり......そして優くん、あなたたちが次の生徒会に相応しいと思ってるわ」

 

「俺もか?」

 

 いや、まあ......生徒会の経験はあるから別にいいんだけど。

 

「生徒会長は穂乃果が適任だと思うのだけれど、どう思う?」

 

「確かに1番向いてると思うけど......」

 

 学校を廃校から救い、誰とでも分け隔てなく接することの出来る穂乃果。

 誰かを惹きつける強力なカリスマ性と天性のリーダーシップ。

 ドジでぐうたらな面を差し引いてもお釣りが来るぐらいには彼女は生徒会長に向いているだろう。

 

「...それなら穂乃果たちに言った方が早いんじゃないか?」

 

「そうね、それなら放課後......みんなが部室に集まった時にでも」

 

 さて、どういう反応をすることやら......

 

***

 

「えぇぇぇぇぇ!?私が生徒会長!?」

 

 椅子をガタっと大きく鳴らし、叫びながら穂乃果が立ち上がる。

 

「突然のことで驚くのも分かるんだけど......どうかしら?」

 

「絵里......あなたこの学校を再び廃校に近づける気ですか?」

 

「いやいや、それはないだろ海未。......多分、少なからず」

 

「海未ちゃんもゆう君も酷いよぉ!!」

 

 これはもうお約束的な流れなので誰も気にしない。

 とりあえず大きくのけ反った態勢のまま固まっている穂乃果を座らせて話を戻す。

 

「ええんやない?うちは賛成!」

 

 現生徒会の会長と副会長のお墨付きが出た。

 まぁ、俺も元から賛成派だったし......

 というか海未も口ではああ言ってるけど、心の中では穂乃果しかいないと思っているはずだ。

 

「穂乃果ちゃんしかいないと思うにゃー!」

 

「私もいいと思います!」

 

「いいんじゃない?やってみれば」

 

 1年生トリオも普段は穂乃果のことを適当に扱っているが、それは信頼の裏返しだ。

 穂乃果のカリスマ性を近くで見てきたからこその絶対的な信頼。

 

「まあ、優がやるよりはマシね」

 

「おい、何でそこで俺を引き合いに出すんだよ」

 

「女子高に男子がいるっていうのもおかしいのに、更には生徒会長とか......絶対近隣の人から怪しい噂立てられるわよ?」

 

 ...そういえばそうだな。

 最近事情を知らない警察に学校に入る時に呼び止められたりしたし......本当に気をつけないと。

 あの時は俺はここの生徒ですって言ったら鼻で笑われたなぁ......

 生徒手帳見せて理事長呼んだら頭を下げて謝ってきて......

 近所の小学生にあの人警察に頭下げさせてるー!などと騒がれたものだ。

 

 ...何で今になって女子校に男が通ってることが騒ぎになるんですか?

 今まで気づかれてなかったの?

 

「優くんと海未とことりには穂乃果のフォローとして一緒に生徒会に入って欲しいんだけど......」

 

「...まず、穂乃果がまだやるって言ってないだろ?いきなりの事だし少し時間を置いた方がいいんじゃないか?」

 

 穂乃果にチラリと目線を向けながら絵里に言う。

 

「そうね。穂乃果、考えておいてくれないかしら?」

 

「うん、分かった」

 

 ひとまずこの話は一旦ここで置いておいて......

 

「じゃあ、今日も練習頑張りますか」

 

 みんなはそれぞれ部室を出て階段を上っていった。

 

 

***

 

「で、どうすればいいと思う?ゆう君!」

 

「で?何で俺ん家に来てるんだ?穂乃果!」

 

 あの後、練習が終わりいつも通り2年生4人揃って帰宅したのだが......

 何故か穂乃果たちは俺の部屋にいた。

 

「ゆー君ってお部屋綺麗にしてるんだねー」

 

「あぁ、まあな。ってそうじゃない」

 

 うっかりことりによって会話の流れが断たれかけたが、すぐに戻す。

 

「いつも穂乃果のお家じゃ新鮮味がないでしょ?だからここはゆう君のお家でと思ったんだけど......」

 

「海未も何とか言ってやってくれ」

 

 ちなみに1人暮らしはしていない。

 結局父さんにも返事は保留したままだ。

 

「あぁ......と、殿方の......お、お部屋」

 

 あ、ダメだこれ。

 海未は正座をしながらもじもじしている。

 しばらくは役に立ちそうもない。

 

「...どうもこうも、穂乃果はどうしたいと思ってるんだ?」

 

 バリバリとポテチを食べている穂乃果に体を向ける。

 ...おいこら、カスを落とすな。掃除するの俺なんだぞ?

 

「私は......やってみたい!」

 

「なら絵里にもすぐ言えたはずだろ?」

 

 お茶で喉を潤しながら話を聞く。

 

「でも、本当に穂乃果でいいのかが不安なの......」

 

「って言ってるけど、ことりはどう思う?」

 

 部屋に来てからずっときょろきょろとしていることりに話を振る。

 俺の部屋に来ると挙動不審になる何かでもあるのだろうか?

 

「私は穂乃果ちゃんしかいないと思うよ?」

 

「だそうだが?」

 

 ことりと2人で穂乃果を見る。

 

「...不安なんだ、また張り切りすぎて......どこかで失敗しちゃうんじゃないかって」

 

「穂乃果......」

 

 文化祭の時のこと......まだ割り切れてなかったんだな。

 熱で倒れて、ライブを中止にしてしまって......俺たちはラブライブ出場を辞退した。

 そのことが穂乃果にとってはずっと心残りなのか。

 

「本当は......みんなの期待に応えたい。せっかく絵里ちゃんが私を推薦してくれてるんだもん......やってみたいよ!」

 

「...その為の俺たちのフォローだろ?」

 

「え?」

 

 絵里が俺と海未とことりを穂乃果と一緒に次の生徒会に選んだ理由。

 それはいつも一緒にいるからという意味でもあり、

 

――穂乃果が全力で無茶を出来るようにという意味もある。

 

「さ、俺たちは会長様をバックアップするために、まずは役職を決めないとな。海未、ことり」

 

「うん!」

 

「ハッ!?......はい」

 

 しれっと真面目そうな顔してるが、もう手遅れだぞ海未。

 

「とりあえず、海未は副会長か......字が綺麗だから書記とか?」

 

「ことりは......会計でいいのではないでしょうか?」

 

「あれ?ゆー君は?」

 

 俺は別に特別何が出来るというわけじゃないから、余った職に就こう。

 ここだけ見ると社畜のみなさんを舐めているような発言だが、そんなことはない。

 いつもお疲れ様です!

 

「優にはピッタリのものがあるじゃないですか。雑よ......庶務がいいんじゃないですか?」

 

「おい、今お前雑用って言ったな?相変わらず俺に対しては切れ味の鋭い口だな?鋭すぎて隠し切れてねえじゃねえか」

発言自体はすごく切れているけどな。

「まぁ、2割は冗談ですよ」

 

「ほとんど本気じゃねえか」

 

いつでも何事にも本気で取り組む姿勢は尊敬に値することだ。

でも、嘘をつく時まで本気を出すのがいいことだとは限らない。

「ゆー君は副会長でいいんじゃないかな?」

 

「えぇ、私もそう思います」

 

 

 副会長か......

 希みたいに上手くフォロー出来るかは分からないけど、やると言った以上はやるしかないな。

 

「よし、じゃあ明日絵里にこのことを伝えよう」

 

「うん!ゆー君また明日ね!」

 

「では、お邪魔しました」

 

「...あ、じゃあね。ゆう君」

 

 3人はそれぞれの鞄を持って立ち上がる。

 穂乃果の元気が無いように見えるのはきっと気のせいじゃないだろう。

 

「あぁ、また明日な」

 

 俺も立ち上がり、3人を玄関まで送る。

 3人がドアを開けて玄関から出ていくのを手を振りながら見送る。

 開いたドアが閉まったが、穂乃果は最後まで顔を上げることは無かった。

 

***

 

「期待に応えたい、か......」

 

 さっき穂乃果が言った言葉を呟きながら反芻する。 

 やっぱりお前はすごいやつだよ、穂乃果。

 普通は急に言われたらめんどくさいと断ってしまいそうなものをやってみたいの一言だ。

 

 新しいことにどんどん挑戦し続けるその姿勢は尊敬に値するもので、俺も見習わないといけないもの。

 

「それにしても......また生徒会に入ることになるとはなぁ」

 

 中学の時は親が理事長だからって理由で先生やクラスメイトに強く推薦されて仕方なくやってた感は否めない。

 でも、今回は違う。

 少しでも絵里の期待に応えるため、少しでも多く穂乃果たちを手助けために俺自身の意思でやると決めたんだ。

 

「...絵里たち3年は後6ヶ月ぐらいで卒業か......」

 

 今が9月、卒業式は3月。

 それまでに絵里や希、にこに恩返しをしたい。

 その為に俺に出来ること......

 

 ベッドに座っていた俺はそのまま後ろに倒れ込み、息を1つ吐き出す。

 

「出来るかどうかは分からないけど......賭けてみる価値はあるな」

 

 ある1つの案を思いついた俺は立ち上がり、机の上に置いていた携帯を手に取る。

 そしてそのままある人物に電話をかける。

 

『...もしもし?』

 

『あぁ、悪いな休んでる時に電話なんてかけて』

 

 耳から聞こえる馴染みのある声。

 俺の思いついた案を実行するには必要不可欠な人物だ。

 

『別にいいけど......どうしたのよ。ユウが電話をかけてくるなんて珍しいわね』

 

『ちょっと真姫に頼みがあってな』

 

 そう、電話の相手は真姫。

 他ならぬ彼女に頼みがある。

 

『...宿題教えてとかじゃなければ聞いてあげるわ』

 

『お前は俺を凛と一緒にするのか』

 

 宿題くらい自分でやるわ。

 っと、話題が逸れたな。

 

『実は――』

 

 俺は思いついたアイデアを真姫に話す。

 

『えぇ!?本当にそれやるの!?』

 

 聞き終わった真姫は彼女らしくもない驚愕の声を上げる。

 それだけこの案はリスキーだということだ。

 

『あぁ、俺が3年生の為に出来ることは多分これが1番だと思う』

 

『...本気なのね?』

 

 声から覚悟を受け取ったのか真姫はもう一度聞いてくる。

 

『やる、絶対にやってみせる』

 

『......はぁ、分かったわよ。協力するわ』

 

 しばしの沈黙のあと、真姫は俺の提案を受け入れてくれた。

 

『サンキューな。俺頑張るよ』

 

『当り前よ、この私が協力するんだから絶対にやり遂げなさいよ?』

 

『もちろんだ!あ、このことはみんな......特に3年生には絶対に気づかれないようにしてくれ。じゃあお休み』

 

『分かったわ、お休み』

 

 携帯を耳から離し、もう1つの決意を持って俺は部屋を出て階段を下りる。

 

「お、父さん。ちょうど良かった」

 

 リビングにタイミングよくいた父さんに声をかける。

 

「何だ、お前から俺に声をかけてくるなんて珍しいな」

 

 本当にな。

 いつもは余計なことしか言わないから空気として扱っているぐらいだし。

 まぁ、偶にいいこと言うのが本当に腹立たしいところではあるが。

 ってそれはどうでもいいか。

 

「俺さ......1人暮らししてみようと思うんだ」

 

「...そうか、それなら俺から連絡しておこう。でも、どうして急にする気になったんだ?」

 

 穂乃果の前に挑む姿勢から俺は考えた。

 新しいことに挑戦すること、俺には何もないから......ならいっそ1から全部始めてみればいいと。

 

 そのことを父さんに言うと、フッと笑う。

 

「やっぱり俺の息子だな。まぁ、家の目の前だし普通に1人暮らしするよりは全然イージーだと思うぞ。頑張れよ」

 

「あぁ、頑張る」

 

 不敵に笑いあった俺たち親子はそのまま夕食の時間になるまでゆっくりと語り合った。

 偶には父さんとこういう会話をするのも悪くないなと思う自分がいた。

 ただし、下ネタを挟まなければの話だけどな!

 

 こうして今日も夜は更けていくのだった。

 

―To be continued―

 




本編書くので精一杯なので、雑談のコーナーはお休みです。
次の給料入ったら真っ先にタブレットPCの購入を考えたいと思います。

次回もよろしくお願いします。


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新たなる幕開け

えー、大変お待たせ致しました!
今回から第二期開幕です!

文字数は短いですが、これからまたよろしくお願いします!

......本当にパソコン買いましたよ。
キーボードと画面が分離するタイプのやつで2in1パソコンというらしいです。
これで少しは投稿が楽になればいいのですが......

あ、ラブライブサンシャインは当然視聴しましたよ!
ヨハネの登場シーンが個人的にとても好きです!


 ざわざわという擬音が相応しい声が周りから聞こえてくる。

 時刻はまだ午前で9月半ばの過ごしやすい空気がとても気持ちいい。

 

 ...まぁ、今いるのは外じゃなくて講堂だから涼しいかどうかは分からないんだけど。

 朝学校に来るときは涼しかったって話だ。

 

 俺は八坂優。

 今置かれている状況を除けば極々普通の高校2年生だ。

 舞台袖からそっと講堂内を見渡す。

 

 女子、女子、女子。

 どこを見ても男は俺以外に見当たらない桃源郷のような世界。

 そう、ここは普通の学校ではなく......女子校である音ノ木坂学院という高校だ。

 

 俺の置かれている状況......それはある事情によりこの女子校である音ノ木坂学院に通っているということだ。

 この学校はつい最近まで廃校に追い込まれている状態だった。

 原因は年々減少していく生徒数。

 

 3年生は3クラス、2年生は2クラス、1年生は1クラスといった具合に段々と少なくなってきているのだ。

 そこでそれを危惧したこの学校の理事長でもある、俺の母さんの昔からの友人......南ひばりさんの頼みから廃校にするならいっそのこと共学にして少しでも生徒数を増やしてみたらどうか、という提案でその試運転として俺が呼ばれたというわけだ。

 

「優、さっきから何を1人でブツブツ言っているのですか?」

 

 そう声をかけてきたのは幼馴染の1人で同級生の園田海未。

 全体的に大和撫子を思わせる風貌と雰囲気、綺麗な青い髪が目を引く女の子だ。

 実家は日舞の家元で母親は日舞、父親は武道を彼女に教えている。

 成績も優秀な為、まさに文武両道。

 

「え?声に出てた?」

 

「うん、俺は八坂優の辺りから!」

 

 俺の問いに答えたのは2人目の幼馴染、南ことりだ。

 全体的にふわふわとした印象を持つ彼女は苗字から分かる通り、この学校の理事長の娘だ。

 最大限の癒し効果を持つことりは俺の中で天使と呼ばれ、今もそのヒーリングボイスが俺の心を癒す。

 ...この独り言を言う癖直さないとな......

 

「...穂乃果は大丈夫か?」

 

 俺は恥ずかしさのあまり一瞬沈黙し、3人目の幼馴染の様子を伺う。

 

「...よし!決めた!」

 

 高坂穂乃果、俺の幼馴染で和菓子屋の娘。

 いつも元気いっぱいでとにかくやると決めたことには猪突猛進。

 それが原因で失敗も多いが、挫けない心の強さを持つ俺たちの原動力。

 

「で?何を決めたって?」

 

「ゆう君!やっぱりインパクトだよ!」

 

 おっと、いきなり会話のドッチボールかい?

 そんな力強く言われてもこっちには何一つ伝わってこない。

 

「いや、だからちゃんと説明を「それでは、新生徒会長どうぞ!」おい、絶対変なことするなよ!?」

 

 何をするつもりなのか聞こうとすると、いいタイミングで穂乃果の呼び出しがかかる。

 一応制止代わりに言っておくが、不安しかない。

 

「大丈夫だよ!行ってくるね!」

 

 2学期になって俺たちは生徒会に入った。

 穂乃果は会長。

 海未は書記。

 ことりは会計。

 俺は副会長兼庶務。

 

 確実に俺のあだ名は雑用副会長とかになるだろうなぁ......

 壇上に向かう穂乃果を遠い目で見つめていると、パチパチと1人分の拍手の音が聞こえてくる。

 

「あぁ、絵里か」

 

 綾瀬絵里、元生徒会長で俺の先輩。

 ロシア人のクォーターでスタイル抜群で美人、やらせれば何でもそつなくこなす頼りになる先輩だ。

 金髪のポニーテイルが拍手をするたびにゆらゆらと揺れている。

 

 そう言えば何故、俺達が講堂にいるのか。

 それは穂乃果が呼ばれたことから分かる通り、生徒会の引継ぎの為だ。

 全校集会で挨拶をしてくれと理事長から頼まれたのだ。

 

 穂乃果はマイクを指先でトントンっと2回ほどつついて音が出るかを確認し、マイクを手に持つ。

 

『えー、私この度......新生徒会長に就任致しました!ご存じ!』

 

 そこまで言うと穂乃果はいきなり持っていたマイクを上に放り投げる。

 ......はあ!?あいつ何やってんの!?

 突然のことに呆然となるが、俺は投げられたマイクを目で追い続ける。

 

 そして穂乃果はくるりとその場で回転し、マイクをキャッチして言う。

 

『μ’sの高坂穂乃果です!』

 

 拍手喝采。どうやら生徒たちには受けはよかったようだ。

 反面、生徒会メンバーは苦笑い。

 

『えー......っと』

 

 穂乃果は何故か固まっていた。

 あいつ、まさか.......

 

「なあ、どう思う?海未」

 

 念のために俺と同じ......いや、それ以上に苦虫を噛み潰したような顔をしている海未にも聞いてみる。

 

「ええ、100%......なんて言えばいいのかを忘れた顔ですね。あれは......」

 

 だよな......どうするんだろあいつ。

 見ている側に衝撃を与え、そしてその衝撃で自分も記憶が飛ぶ.......と。

 いや、単に穂乃果の記憶力が皆無なだけか。

 

『あー......よろしくお願いします!それでは続いて副会長どうぞ!』

 

 うおい!!俺に丸投げか!?.......仕方ないな。

 慌てて舞台袖に引っ込んできた穂乃果に対して俺は満面の笑みで迎え入れてやる。

 

「お疲れ!じゃあ俺行ってくるから、あほのかはそこで正座してろ」

 

「ええ!?笑顔だったからてっきり許してもらえたと思ってたのに!!」

 

 許すわけないだろ。

 

「海未。見張りは任せたぞ」

 

 言い残し、俺はたくさんの生徒たちが見ているステージの中央に立つ。

 なるほど。これは中々緊張するな......。

 

 コホンと咳払いを1つしてマイクを掴む。

 

『この度、生徒会副会長になりました、八坂優と申します!と言っても男子は俺だけなので皆さん知ってますよね......俺は男ですがこの音ノ木坂が大好きなのでもっとより良くしていけたらいいなと思っています!頼りない副会長だとは思いますが、よろしくお願いします!』

 

 言い終えて一礼。

 パチパチとまばらだった拍手も段々と大きくなっていき、最後には講堂を包み込むほど盛大なものになった。

 会場を見渡すと見知った顔が見える。

 

 まああいつら目立つし、すぐ見つけられるな。

 軽く手を振って俺は舞台袖に引っ込んだ。

 

***

 

 あ、1つ言い忘れてたな。

 俺が特殊な状況に置かれているのは何も学校だけじゃない。

 今俺がいる場所はその特殊な活動をする部室だ。

 

「ゆーサンお疲れ~!!」

 

「サンキュー、凛」

 

 この子は星空凛。俺の1つ下で後輩だ。

 明るいオレンジ色の髪にくりっとした目が特徴の女の子だ。

 身体能力が抜群で語尾ににゃと付けるほどの猫好きでもある。

 

「優さん、お疲れ様です」

 

「花陽もありがとな」

 

 この子は小泉花陽。凛の幼馴染みで俺の後輩。

 黄土色をした髪に優しげな雰囲気を持つ女の子。

 雰囲気だけじゃなく、もちろん本当に聖母のような優しさを持つ、俺の天使様2号。

 お米とアイドルをこよなく愛する女の子だ。

 

「ユウにしては中々よかったんじゃない?」

 

「もっと素直に褒めてくれよ、真姫」

 

 この子は西木野真姫。凛と花陽と同級生。

 綺麗な赤い髪に女子にしては身長が高いのとスタイルがいいツンデレ気質な女の子。

 家は病院を経営していてお嬢様。

 歌も上手く、作曲も出来る。

 

 ここはアイドル研究部。

 名前だけ聞けばよくある部活だが、実際の活動は一味違う。

 

「ちょっと、何さっきからぼうっとしてるのよ」

 

「ああ、にこ。少し考え事だ気にするな」

 

 この人は矢澤にこ。3年生で先輩だ。

 小柄な体躯に色白な肌、手入れが行き届いた黒髪をツインテイルにしている女の子。

 花陽と同じアイドル好きでアイドル研究部の部長を務めている。

 

「やっぱり優くんに任せて正解やん!ねっ、えりち!」

 

「挨拶しただけでそれは大袈裟だろ、希」

 

 この人は東條希。前生徒会副会長で3年だ。

 明るめの紫の髪を2つ結びにし、特徴的な口調で話す人。

 本人曰くスピリチュアルパワーと呼ばれる力を駆使し、占いを行う。的中率は高い。 

 服の上からでも分かる豊満な胸の持ち主で、にこと並ぶとその差は更に明確となる。

 

「でも本当に大したものよ。注目されてる中であれだけ落ち着いて話せるんだから」

 

 そしてさっきも説明した通り、この人が綾瀬絵里。前生徒会長だ。

 

 1年は凛、花陽、真姫。

 2年は俺、穂乃果、海未、ことり。

 3年は絵里、希、にこ。

 

 この10人がアイドル研究部のメンバー。

 そして俺を除く9人が音ノ木坂学院高校所属のスクールアイドル、通称『μ’s』のメンバーだ。

 スクールアイドルとは学生のアイドルのことで、近頃注目を集めている。

 その証拠にラブライブ!という野球で言うところの甲子園みたいな大会も開かれているんだ。

 

 元々は廃校になりかけていた音ノ木坂を救うために穂乃果がやり始めたことだが、徐々に仲間も増えていき、紆余曲折の末に何とか来年度も学校が存続することが決まったわけだ。

 

「......というか、緊急の集合って何かあったのか?」

 

 本来なら部室に来た人から着替えて屋上に行っているはずの時間に全員集合しているにも関わらず皆は制服のままだ。

 

「あ、それは私が説明します!」

 

 花陽が意気揚々と立ち上がる。

 消極的な彼女がこうなる時はアイドルのことかお米絡みのことだ。

 しかし、この場面でお米のことについて熱く語ることはないだろうから、アイドル絡みのことで間違いないだろう。

 

「実は、先ほど発表があったのですが......第2回目のラブライブ!の開催が決まったそうです!」

 

「本当か!?」

 

 それは俺たちにとって吉報だった。

 前回のラブライブ!は俺たちの都合によりエントリーする前に辞退することとなってしまったのだ。

 これでリベンジ出来る、そう思うと生徒会の引き継ぎの準備で疲れていた体に活力が戻ってくるのを感じる。

 みんなの顔もパッと花が咲いたように綻んでいた。

 

「はい!!」

 

 花陽がパソコンの方に歩いて行き、HPを立ち上げる。

 ......HPまであるのか。

 

 みんなも花陽について行った。俺は皆よりも身長が高いので後ろからパソコンを見る。

 ......やばい、皆の髪の匂いが俺の鼻腔をくすぐってきて、変な気分になってきた。

 俺はそんな気持ちを頭を軽く振ると同時に振り払う。

 

「今回のラブライブ!は前回のように順位制では無く、完全にトーナメントのようになっているみたいですよ」

 

「トーナメント?」

 

 ことりがキョトンと小首を傾げ、聞き返す。

 

「そうです!ライブの様子をネットに投稿して、視聴者からの投票で本戦に進むグループが決まる。とここには表示されています!つまりは今回、どのグループにもチャンスが与えられていることになるんです!」

 

 なるほど......前回の順位が低かったグループも支持を得れば下克上が狙えるいいシステムだな。

 

「当然出場を狙うわよね!!」

 

 にこが気合いも十分に声を張り上げる。

 俺たちは笑顔で頷きあって、お互いの意思を確かめ合う。

 

 ......あれ?

 俺はそこで違和感を感じて部室内を見渡す。そして、ある部分で視線を動かすことを止める。

 

「穂乃果?」

 

 俺たちが盛り上がっている間、落ち着き払った様子で座ったままお茶をすする彼女の姿がそこにはあった。

 まるでこのことにあまり興味が無いと言わんばかりに、こちらを見向きもしていない。

 

「ん?どうしたの?ゆう君」

 

 穂乃果の様子がおかしいことに他のメンバーも気がついたのか、揃って怪訝そうな表情を浮かべ始める。

 

「穂乃果ちゃん?ラブライブが開催されるんだよ?」

 

 凛が先陣を切って穂乃果に尋ねる。

 

「どうしたのよ、まるでやる気が感じられないわね?」

 

 続いて真姫が穂乃果に近づきながら問う。

 

 そんな俺たちを見て、彼女はこう言った。

 

「ん~......いいんじゃないかな!出場しなくても!」

 

 ......は?

 

 俺たちが期待していた言葉とは全く真逆のこと。

 μ’sを作り、俺たちのエンジンでもある彼女は、俺たちの興奮もよそに、動き始めてすらいなかった。

 

「穂乃果!!あれほど落としたものを拾って食べてはいけないと注意したではないですか!!」

 

「食べてないよ!?何言ってるの!?」

 

 海未の気持ちも分かる。

 

「自分の名前は言える!?」

 

「絵里ちゃんも落ち着いてよ!!」

 

 まじめ組がこんなに取り乱すことも珍しい。

 

「そうだぞ、少し落ち着け。海未、絵里」

 

「ゆう君の言うとおりだよ!「こういう時は病院が先だろ!!」そうじゃないよ!!どうしてそうなるの!?」

 

 まあ、あれだ......誰1人として冷静ではなかった。

 

「でも、本当にどうしたんだよ。穂乃果」

 

 うぐっ!と言い穂乃果が黙り込む。

 そして、ニパッと何かを誤魔化すような笑みを浮かべて

 

「そうだ!!今日の練習はお休みにしてみんなで遊びに行こうよ!!」

 

 何かから逃げるように突然そう提案したのだった。

 

――To be continued――

 




作「雑談のコーナー!今回からリニューアルでアシスタントとして八坂優くんが常にいることになりました!」

優「正直に答えろ、お前ただ一々ゲスト呼んで内容考えるのがめんどくさくなっただけだろ」

作「まあ正直なところ、仕事終わったあとでふらふらなのに本文考えて後書きの内容も考えないといけないのは私のスペックでは厳しいですからね」

優「はあ......それで、今回から第二期が始まったわけだけど、これってアニメとは別の始まり方だよな?」

作「オリジナル展開を考えられる能力を磨く練習ですかね......これから先どんどんこういうことも増えてくると思うので」

優「まあ俺はいいが、読者の皆さんがどう受け取るかが問題だな」

作「そうですね、大丈夫、だといいですね」

優「......こんな作者ですが、これからもよろしくお願いします!」


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曇りの訳

さて、お久しぶりです。

投稿が遅れてしまい申し訳なさしかございません。
言い訳はしない!ただモチベーションがいつまで経っても回復しなかっただけなんだ!つまり全部仕事が悪い!

......本当にすいませんでした。


 結局、穂乃果に言われるまま、流されるままに今日の練習は休みとなり、俺たちは秋葉原へと遊びに来た。

 黄昏時のオレンジは喧噪さえも包み込み、そんな寂しくもあり、賑やかさも兼ね備えた街の中をクレープを食べながら並び歩く。

 

「ゆう君のクレープ一口ちょうだい!!」

 

「嫌だ、半分は持っていかれるじゃん」

 

 俺は穂乃果から遠ざけるようにクレープを持ち直す。

 

「私そんなに口大きくないよ!代わりに私のも一口あげるから!」

 

「いや、それはちょっとな......ほら、一口だけだぞ」

 

 この子は俺に対してガードが甘すぎるんだよ......普通は男女間の間接キスって気にするところだよな?本当こういうことされると俺の精神力がガリガリと削れていくから困る。

 

「うーん!やっぱりクレープは美味しいね~!」

 

「具半分以上持っていきやがった......また太るぞ」

 

 かぶり付かれたクレープを見てみると、バナナは半分以上消失していた。

 まあ、別にクレープなんかいい。問題は穂乃果だ。

 何故急にラブライブに参加しないなどと言い出して、今から遊びに行こうなんて言い出したのか。

 こうして見てると普段と何も変わらないように見える。

 

 穂乃果から視線を移し、みんなを見るように視点を変える。

 うん、いつもと変わりない。クレープを美味しそうに頬張りながら前方を歩いている。

 いや......にこだけはむすっとしながらクレープをかじっている。

 

 にこはラブライブにかける想いがとても強い。かつてのメンバーの離脱によってどうしても諦めざるを得なかった夢が、今目の前にある。

 それに、俺はこのメンバーなら優勝だって奇跡ではないと思っているし、にこの気持ちはよく分かるつもりだ。

 穂乃果がラブライブ出場に積極的ではない理由......それはきっと――

 

「ゆーサン、クレープ一口ちょうだい!」

 

 俺の思考はいつの間にか傍に来ていた凛の催促の声によって遮られた。

 

「いいけど......具は食べるなよ」

 

「それだと生地と生クリームだけ食べることになっちゃうよ......そんなの分けてもらう意味ないにゃ」

 

「見てみろ、このクレープ。もう具が少ないだろ?凛が俺のクレープをかじることによって正にお前が言った状況になりかねないんだ」

 

 ふっと遠い目をしながら呟く。

 今はもうその姿の多くを消してしまったバナナを思い......ってそんなことはどうでもいいか。

 

「あ!ゲームセンター行こうよ!プリクラ撮りたい!」

 

 たたっと穂乃果が駆け出していく。

 ...まあ今は楽しむとしようか、穂乃果のことは......あとで家に行くか、家に呼ぶかをして話をしよう。多分、俺が考えていることで合っているはずだから。

 

 などと考えていると、袖口がくいくいっと二度引かれる感覚がした。

 

「......絵里?どうした?」

 

 袖を引いているのは絵里だった。

 何かを悩んでいるような様子で、覚悟を決めたのか、俺の耳元にそっと顔を近づけ......いや、近い近い。

 

「ねえ優くん......ぷ、ぷりくら?って何かしら?」

 

 そう聞いてきた。

 

 ......嘘だろ?その発音の仕方近所のおばあちゃん(69)に俺の部活を教えた時と同じ反応なんだけど。

 

 す、すくーるあいどる?あぁ、懐かしいねえ......私も若い頃はやってたね~......ところで美味しいお菓子があるんだけど、持って帰らないかい?

 

 これがその時の反応だ。50年以上前のスクールアイドルとか逆に見てみたい。その後は話を逸らすことに必死だったのか、お菓子までくれたし。美味しかった。

 

「......あー、うん行けば分かる。行こうか」

 

 俺は絵里を連れて穂乃果たちがいるであろう、プリクラコーナーへと足を運んだ。

 

***

 

 さて、現在凛と穂乃果が絵里にプリクラの仕方をレクチャーしているところ。

 ...おい絵里が鞄持ったまま入っていったぞ、ちゃんと教えてやれよ。

 

 プリクラの筐体の中から楽しそうな声と驚愕したような声が聞こえてくる中、俺は残ったメンバーと適当にゲームセンター内を徘徊していた。

 

「せっかくだし、俺たちも何かして遊ぶか」

 

「そうやね、何がいいかな~」

 

 ダンスゲームは俺たちがやると真剣勝負になりすぎるし、UFOキャッチャーは上手い人がやらないとこの店の貯金箱になるだけだし...おっ。

 

「じゃあ俺はあれやるわ。バスケのシュートのやつ」

 

 懐かしさに目を細めながら、筐体へと近づく。ボールに触るのは大体1~2年ぶりってところだっけ...上手く出来るといいんだけど。

 硬貨を投入して転がってくるやや小さめのボールを手に持ち、リングに向かって放る。もちろんこのゲームに合わせた低めの放物線を意識しながら的確にリングへと入れていく。

 こういうのってちゃんと体が覚えているものなんだな。...ラスト一本はしっかり決めよう。

 

「さすが優くん、元バスケ部のことはあるね!」

 

「まあ、新記録更新ってわけでもなく、極々普通のスコアだけどな」

 

 こういうゲームのベストスコアは大体400を超えている。一本入るごとに2点だから1分間に200本入れたことになるな、超化け物じゃん。

 

「でも真剣にプレイしている優くんは格好良かったと思うよ?ねっ、花陽ちゃんに海未ちゃん」

 

「え!?あ、その...はい」

 

「...まあ普段が普段ですからね」

 

「ちょっと?俺普段そんなにふざけてないよ?え、ふざけてないよね?」

 

 真面目にやっているはずだ。多分、きっと、メイビー......。

 

「ほらふざけたこと言ってないで、ちょっとこっちに来なさい」

 

 にこに腕を掴まれたまま、どんどん引きずられ......はしない。体格差と男女の力量の違いを活かしてその場に踏ん張る。

 

「ちょっと!どうして踏ん張るのよ!」

 

「いや、なんとなくだけど......分かった、分かったからその蹴りの構えを解け、着いて行くから」

 

 すぐに暴力に訴えかけるのはアイドル志望の乙女としてどうなんだろうか。いや、威力はないんだけど......脛とか蹴ってくるし、本当痛いんで勘弁してほしい。

 

「で?なんだよ、告白か?ごめんなさい」

 

「そんな訳ないでしょ!穂乃果のことよ!」

 

 なんだ、ゲーム機の音がしなくて人気のない場所に連れて来られたもんだから告白かと思ってつい断ってしまったじゃないか。

 

「優、あんた穂乃果の考えてることが分かってるんじゃないの?」

 

 いつになく真剣な表情をしたにこが言葉を紡ぐ。

 ......こいつの偶に見せるこの鋭さは一体なんなんだろうか。

 

 さて、俺はここで何と答えるべきなのか。確かに俺は穂乃果の考えていることに限りなく近い解答を持っていると思う。だけど、確証はない。

 結局のところ穂乃果本人にしか答えは分からない訳で、適当なことを言って騒ぎになっても困る。

 

「......確証はないけど、あいつの考えは......俺が考えていることで合っていると思う」

 

「なら!――」

 

「――だからこそ、俺に任せてほしい。......ダメか?」

 

 にこの言葉を途中で遮って、俺は言う。

 このことは今、俺にしか動けないことだ。

 

「あぁー!!ゆーサンこんな所にいたぁー!!」

 

 にこの返答を待っていると、周りの筐体の音を劈く声が俺の元へ届いた。

 

「ゆーサンも凛たちと一緒にプリクラ撮るにゃ!ほら行くよ!」

 

「ちょ、まだ話してる最中で......服を引っ張るな!伸びるだろ!」

 

 にこの返答を待たずして、俺はプリクラゾーンに放り込まれることになってしまった。

 ......大丈夫だよな、にこのやつ......

 

***

 

「えっと......ゆう君?どうして急に呼び出したりしたの?」

 

「あぁ、ちょっと話がしたくてな」

 

 解散後、穂乃果を連れて俺の部屋。これじゃただの五七五じゃねえか。

 おふざけはここまでにしてっと......

 穂乃果も呼び出した訳を聞きたがっているみたいだけど、きっと薄々勘付いてはいるのだろう。

 

「......私がラブライブに参加しないって言った理由のことだよね?」

 

「正解、さあ今すぐ訳を言え」

 

 今は一分一秒でも惜しいんだ。二回目のラブライブ開催が決まった今、きっとどこのスクールアイドルだって必死に練習しているはずだ。栄光を掴むために、一つだけの未来、優勝という文字を目指して。

 A-RISEだって一回目優勝だからといってそこに胡坐をかかずに練習しているに違いない。

 

「......私ね、怖いんだ。また失敗したり、みんなに迷惑をかけちゃうことがさ」

 

 やがて、ぽつりぽつりと語り始めた内容は俺が想像していた通りの内容だった。

 

「ラブライブにまた挑戦出来ることは本当に嬉しいよ。でも、もう廃校の危機は一時的にだけど去ったんだって考える自分もいてね?これ以上を求めることなんて贅沢すぎるかなって思うんだ」

 

 真剣な表情の穂乃果をしっかりと見据え話を聞き続ける。

 

「凛ちゃん、花陽ちゃん、真姫ちゃん。絵里ちゃん、にこちゃん、希ちゃん。それに海未ちゃんにことりちゃん。もちろんゆう君も。μ’sというグループの活動を通して......私たちはどんどん仲良くなっていったよね。これ以上の贅沢なんて望んでもいいのかなって......思っちゃったんだ」

 

 瞳を揺らがせた穂乃果はそのまま俯く。

 ......はぁ、やれやれ。

 

「穂乃果、こっち見ろ」

 

「......ゆうk――痛ぁ!?」

 

 穂乃果が顔を上げた瞬間に思いっきりデコピンをかます。

 

「痛いよゆう君!!何でデコピンするの!?」

 

「いや、お前がバカなのにバカなことを考えてるからイラッとしてな」

 

 呆れを隠さずにため息を吐いてやる。

 

「酷いよぉ!これでも本当に真剣に悩んだんだから!」

 

「とりあえずだ。お前は本当に何も分かってない!」

 

 人差し指を穂乃果に突き付けながら俺は捲し立てる。

 

「1人でやってるつもりか!このバカ!!迷惑をかけることが怖い?今更なんだよバカ!失敗上等!お前が躓いたとしても俺がいる!みんながいる!最初からフォローもさせてくれないで逃げる気か?ふざけんなよバカ!」

 

「バカって三回も言われた!?」

 

 ここで一息入れてクールダウン。

 

「......なぁ、穂乃果。考えてみろよ」

 

「え、えっと......何を?」

 

 急に怒鳴ることを辞めて諭すように話し始めた俺を見て穂乃果が躊躇いながら聞き返してくる。

 

「今が10月だから、あと5ヶ月。これが何を意味をするかわかるか?」

 

「5ヶ月......あと5ヶ月?......3月、卒業式?......あ」

 

 ぶつぶつと呟く穂乃果、どうやら答えに辿り着いたようだ。

 

「そうだ、来年の3月には絵里たち3年は卒業だ。つまり俺たちが一緒にいられるのはあと5ヶ月だけなんだ」

 

「そんな......」

 

「だからこそ、5ヶ月という短い期間を思い出作りの為に停滞しているわけにはいかないんだよ」

 

 停滞か、前進か。どちらがいいかなんてのは明白だ。

 

「そっか......うん......ゆう君、私、いや私たち出るよ。ラブライブに」

 

「あぁ、俺も最後まで支えてやる。だから頑張れ......違うな、頑張ろう」

 

 他人事じゃない。俺を支えてくれて、ここに居続けさせてくれている彼女たちを力一杯支え返すのが俺がやらなきゃいけないことだ。

 

「うん!そうと決まればみんなに連絡......ってあれ?にこちゃんから電話だ」

 

 穂乃果が携帯を操作し、俺にも会話が聞こえるようにスピーカーをオンにした瞬間だった。

 

『穂乃果!今からラブライブ出場をかけて私と勝負しなさい!!』

 

 波乱を予感させるにこの叫びが聞こえてきたのは。

 

――To be continued――

 




雑談のコーナー?本編考えるので精一杯です!
よって今回は休み!
次回もお楽しみに!


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晴れ間の下で

創作意欲は戻ってきたものの、全然地の文が書けない......
元々あまり得意ではないのですが、仕事に忙殺されたせいもあり、書き方すら思い出せない!
投稿ペースはあまり戻らないかもしれませんが、コツコツ続けていこうとは思います。


「やっと来たわね!優、穂乃果!」

 

 穂乃果との会話から一日後の放課後、電話で決闘?を宣言された俺たちはにこから指定を受けた場所である、神田明神へとすぐに向かった。

 正直めんどくさいし、恐らくにこが考えていることは......

 

「...どうせ穂乃果と勝負して勝ったらラブライブに出場させろ、とでも言うつもりなんだろ?」

 

「そうよ!話が分かってるならさっさと勝負しなさい!」

 

 .....やばいなぁ、どうしよう。もう既に解決済みでこの勝負には意味が無いってことを伝えたいんだけど......にこのやつが話を聞いてくれそうにない。

 

「なぁ、にこ「うるさいわね!あんたは勝負の審判でもしてなさいよ!」

 

 こうなるよなぁ......

 ちなみに、この神田明神に集まっているのは俺とにこと穂乃果の三人だけではなく、他のμ’sのメンバーも全員集まっている。

 

「穂乃果、別に受けなくてもいいんだぞ?この勝負に意味ないし」

 

 隣にいる穂乃果に小声で話しかける。

 

「まあ......私が招いたことだし、勝負が終わってから説明すればいいんじゃないかな?」

 

 苦笑しながら穂乃果は言う。

 やっぱり責任を感じているらしい。

 

「......そうだな」

 

「ねえ、今なんか間が大きくなかった?」

 

「いや、いつもそのぐらい冷静なら俺の負担も減るのにな......とか思ったりしてないから勝負に行ってこい」

 

 後ろから届く思ってるじゃん!という叫び声を無視して他のメンバーのところへと移動する。

 

「優くん、穂乃果は上手く説得出来たの?」

 

「あぁ、というか絵里にはバレてたんだな」

 

「えりちだけじゃなくてほぼ全員優くんがなんとかしてくれるって思ってたんよ?にこっちは気づかなかったみたいだけど」

 

 その信頼は嬉しいんだけどな......

 

「俺.....にこにはこの件は任せろって言ったんだけど......ゲーセンの音に掻き消されて聞こえなかったとか?」

 

「いえ、優がなんとかすると言っていたけど、やっぱり自分でも動くべきだとにこは言っていましたよ」

 

 にこのラブライブにかける想いを止めるのは無理だったみたいだ。あいつのアクセルが強すぎて俺というブレーキが貧弱すぎたらしい。

 あの小さい体のどこにそんな力があるのやら......

 

「......正直この勝負ってさあ、にこが勝ったらラブライブ出場、にこが負けてもラブライブ出場っていうとても不毛な勝負になるんだけど、誰かあの人説得して辞めさせられないのか?」

 

 屈伸したり、ストレッチしているにこを遠目に見ながらため息を吐く。

 

「にこちゃんは頑固だし、こうと決めたらてこでも動かないんだからもう諦めるしかないんじゃない?」

 

「......あいつ体重軽いだろうし、てこの勢いでそのまま飛んでいきそうではあるけどな」

 

『......ぷっ!』

 

 真姫のコメントにボケで返す。すると、みんなが肩を震わせて噴き出した。

 大方、てこで空に飛ばされるにこを想像したのだろう。

 

「でも本当に勝負するにしても早く始めないと雨が降りそうだよ......」

 

「かよちんの言う通りだよ、どうするの?ゆーサン」

 

 今日の天気は曇り。雨が降りそうな雲特有の厚さで青空は微塵も見えはしない。

 ......穂乃果も終わったあと説明すればいいって納得してるし、早いとこ始めてしまわないと本当に降り出してしまいそうだ。

 

「じゃあとっとと終わらせてくるか、この意味のない勝負」

 

「ゆー君、鞄預かっておくね?」

 

 肩から僅かな重みが消える。別に大して重くもなかったし、持ってもらわなくても大丈夫なんだけど、ことりがせっかく持ってくれるって言ってるんだしお言葉に甘えておくか。

 

「......というわけで、ラブライブ出場権を賭けて、穂乃果対にこの階段ダッシュレースを始めたいと思いまーす。ルールは簡単、先に一番上まで上りきった方が勝ちでーす」

 

「ちょっと!何でそんなに投げやりに言うのよ!!」

 

「お前は気にせずに走ってくれ、走り終った先に真実があるからさ」

 

 この勝負が終わったあとに残るのは疲労感だけだ。

 それを知ってる身としてはどうにもモチベーションが保てない。

 

「いいから位置に着け。早くしないと雨が降ってくるかもしれないしな」

 

「……そうね、穂乃果!手加減は無しよ!」

 

「うん!正々堂々勝負だよ!」

 

 お互いに短く言葉を交わし合うと、階段の前で地面に手と片膝を着けてクラウチングスタートの体制をとる穂乃果とにこ。

 その表情は真剣そのもので、俺も意味の無い勝負だということを忘れて、一瞬だけ真面目にやろうかななんて思ってしまったほどだ。......やっべ、欠伸出そうだ。

 

 冬に向かって近づいていく、そんな寒さを持った風の音だけが今、この静寂の中で響いている。

 俺は静かに片腕を上げて、口を開いた。

 

「位置に着いて......よ~い......ド「お先に!!」

 

 ......言い切る前ににこが駆け出しやがった。さすがパイセン、超汚い!!

 

「はい、決着!!勝負は穂乃果の勝ちだ」

 

「なぁんでよ!!」

 

 当たり前だろ、フライングは立派な反則だ。完全に故意でやりやがっただろ。

 

「おい!にこ、前見ろ!もしくは止まれ!!」

 

「嫌よ!私は絶対ラブライブに出るの!!優こそどうして穂乃果の味方をしてるのよ!?」

 

「いいから、階段上ってる時に振り向いてんじゃねえ!!転ぶぞ!」

 

 そう言った瞬間、にこの足が段差に引っかかり、全力で走っていた勢いが前方に残されたまま転ぶ。

 幸い、少し広くなっている途中の踊り場に体が投げ出されたため、階段で頭を打つという最悪の事態は免れた。

 

「にこちゃん!大丈夫!?」

 

 うつ伏せの体制で倒れたにこに穂乃果が近づく。

 フライングしてまでつけた差が、アドバンテージが0になった。

 

「出るのよ......絶対に、出たいのよ......ラブライブに!!憧れだった、何度も諦めかけた場所が......そこにあるのよ!!どうして簡単に諦めないといけないのよ!!!!!」

 

 歯を食いしばり、絞り出すように叫ぶ小さな先輩の姿を見て......俺と穂乃果の目が揺れ動く。

 

「......あと、もう少しなんだよね......私たちが一緒にいられるのは......絵里ちゃんも、希ちゃんも、にこちゃんも......3年生は卒業しちゃうんだよね......」

 

 このメンバーで、スクールアイドルをやれる時間はもう限られている。どれだけ祈ろうが願おうが、俺たちを視界の端に写すこともなく時間は流れていくのだろう。

 だから、足を止めて流れるままに......それは違う。限られているからこそ少しずつでも足を動かしていかないといけないんだ。

 

「......ごめん、にこちゃん。私ね、怖かったんだ......また足を引っ張って、またどうしようもないぐらい大きな罪悪感に囚われるんじゃないかって、そう思ってた」

 

 穂乃果は途中で区切り、にこに向かって手を差し出す。

 

「もう、逃げないよ。後悔を残したまま3年生が卒業しちゃうなんて嫌だから......出よう、ラブライブに!この9人と......ゆう君で!!」

 

「......次に投げ出したら本当に許さないからね」

 

 差し出された手をにこが掴み、立ち上がる。

 そして、ぽつり、ぽつりと雨粒が降ってき始めた。

 

***

 

「はぁ!?じゃあこの勝負って私が転んで怪我しかけただけで時間の無駄だったってこと!?」

 

「だから最初に言おうと思ったのにお前が審判やれとか言って遮ったんだろ?」

 

 本格的に降り始めた雨を凌ぐために、建物の軒下へと避難した俺たち10人。

 そこで既に穂乃果の説得を完了していたところに、にこの電話があり、今に至るという事を告げてやった。

 

 納得がいかないという様子で歯噛みをしながらこっちを睨んでくるにこにため息を吐いておき、俺はことりから鞄を受け取り、足元に置く。

 

「......これが最後のチャンス、か」

 

「......えぇ、私たち3年は来年には卒業。μ’sとしてラブライブに出場するには今しかない」

 

 しんみりとした空気が広がっていく、そのせいなのか雨音がやけに大きく聞こえる。

 

「ごめんね、私がうじうじ悩んで迷ってたせいで貴重な練習時間を減らしちゃって......」

 

「......全く、本当は出たくて仕方がない癖に変な気を遣うんじゃないわよ。正直隠しきれてなかったわよ?」

 

「えぇ、嘘!?そんなに顔に出てたの!?」

 

 みんなが無言で頷く。あれほど分かりやすく出たい!けど迷惑になるかもしれない!って表情に出るのは穂乃果ぐらいのものだと思う。

 

「あはは、そっか......最初からバレバレだったんだね!」

 

 一区切りしてから、穂乃果は自分の両の手をジッと見つめる。

 

「どうした?」

 

 そう聞くと、穂乃果は覚悟を決めたように目をギュッと瞑り、両手を勢いよく頬へと叩きつけた。

 俺達が驚愕に目を丸くしていると、両頬を真っ赤にした穂乃果が声を張り上げる。

 

「私は......このメンバーで挑める最後のチャンスを絶対に掴みたい!!頼りないリーダーだけど、私と一緒に走ってもらえますか!!」

 

『もちろん!!』

 

 一瞬だって空けもせずに、俺たちは即答する。

 きっと、これから先も途方に暮れて立ち止まることだってたくさんある。だけど、今までそうしてきたように支え、支えられ、お互いに寄り添いながら、道を切り開いていく。

 みんなと一緒ならどんな可能性だって掴めると信じているから。

 

「よぉ~し!!こうしちゃいられないよ!!!」

 

 居ても立っても居られない、今すぐ何かしたいという様子でその場で軽く足踏みをすると、穂乃果は大きくのけ反って息を吸う。

 

「雨......止めぇ!!!!!!」

 

 大きく吸った息は、大きな声となり吐き出され、未だに雨を降らす分厚い雲へと吸い込まれていく。

 

「いや、さすがにそれは無茶が......はぁ!?」

 

 苦笑しながら、穂乃果の声が飛んで行った先を目で追いかけると、分厚い雲がどんどん晴れていき、小雨になっていき、雲間から太陽の光が差し込み始める。

 

「......ははっ!!すげえ、快晴だ!!」

 

 水溜りがないと、雨が降っていたというのが信じられないくらいに晴れ渡った青空がそこにはあった。

 

「うん、やって出来ないことなんてないよ!!......だから!」

 

 穂乃果は境内へと駈け出していき、ちょうど真ん中辺りで立ち止まると、右手を大きき空へと掲げて指を1つ立てる。

 

「このメンバーで残せる最高の結果......優勝を目指そうよ!!!」

 

 太陽のようにニッと笑う彼女を見て、俺たちも釣られて笑顔になる。

 この日、μ’sはラブライブ優勝を目標として、新たに走り出したのだった。

 

***

 

「あれ?そう言えばさ、ゆう君」

 

 神田明神での一幕、その帰り道。

 さすがに時間も時間だから練習は明日からにしようということになり、今は10人で一緒に歩いている最中に、ふと何かを思い出したかのように、穂乃果が声をかけてくる。

 

「ん?なんだ?」

 

「ゆう君の部屋に行った時さ、何であんなにガランとしてたの?ダンボールも多かったし」

 

 あぁ、そう言えばみんなにはまだ言ってなかったっけ?

 

「俺引っ越すんだよ」

 

『えぇ!?』

 

 何気ない一言のつもりだったのに予想以上にみんなが食いついてきた。

 

「引っ越し!?ということは遠くに行っちゃうの!?」

 

 ことりが距離を詰めて、問い詰めてくる。

 ......あれ、みんな何か誤解してる気がする。

 

「転校してしまうのですか!?せっかく音ノ木坂の正式な生徒になったのに!?」

 

「どういうこと!?ゆう君!!」

 

 穂乃果がラブライブに出ないと言った時以上の大パニックが引き起こり始めた。

 説明しようにも口を開く前に矢継ぎ早に問い詰められてしまい、そんな隙が見当たらない。

 

「優さんがいなくなるなんて......私嫌だよ!!」

 

「考え直すにゃ!!今ならまだ間に合うよ、凛とかよちんからの一生のお願いにゃ!!!」

 

「いや、だから――」

 

「言い訳なんて聞きたくない!!」

 

 あーもう騒がしい!!!!

 

「落ち着けぇ!!!!!ただ1人暮らしするから荷物まとめてるだけだよ!!!転校なんてするわけないだろ!!!」

 

 大声を張り上げて事態を鎮圧する。

 

『1人暮らしぃ!?』

 

「なんなんだよ!!お前らテンションおかしくないか!?」

 

 完全に騒ぎが治まったのはそれから数分後、住むところやそうなった経緯を説明し終えたあとだった。

 謎の疲労感を残して、今日も日々は過ぎていく。

 

―To be continued―

 




次回に続きます。


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そうだ、合宿に行こう

えー、お久しぶりです。
半年以上空けてしまい申し訳ありませんでした。
というのも色々ありまして、悩んだ末に6月のボーナスを貰い、今の仕事を辞めて転職することになりました。

理由はよくある人間関係に疲れたからなのですが、これから転職活動をしないといけないとなるとまた気が滅入る思いです。

そんなことはさておき、少年と女神達の物語再開です。


爽やかな風を受けながら、駅のホームに降り立つ。一面の緑は日々、都会の喧騒に揉まれ疲れ切っている心身を癒してくれそうだ。

 俺以外の面々も背伸びをしたり、大きく深呼吸をしたりとこの綺麗な空気と景色を堪能しているようだ。

 

「空気も美味しいし、とっても綺麗な景色だねっ!ね、ゆー君!」

 

「あぁ、そうだな.....俺としては西木野家って一体いくつ別荘持ってるのかってツッコミを入れたいとこではあるけどな」

 

 チラリと赤髪のお嬢様に目線を向けると、髪の毛をくるくると右手の人差し指で弄りながら、振り返ってきた。

 

「別にこれぐらい普通だと思うけど。まず国内に......」

 

「ごめん、もういいわ」

 

 まず国内にとか言っている時点で規模が違う。お金持ち感覚の普通で語らないで欲しい、こちとら女子校に通ってるって境遇が少し特殊なだけで育ちは一般的もいいところなんだからさ。

 

「そっちから聞いてきたんじゃない......まぁいいけど。全部思い出すのは面倒だったし」

 

「なに自慢してるのよ」

 

「べ、別に自慢なんてしてないでしょ!?意味わかんない!!」

 

 にこと真姫がぎゃあぎゃあと言い合いを始める。

 ......一応この争いの火種を蒔いたのは俺だし、止めた方がいいよなー......などと思っていると、ドスリと重ためな荷物を置く音がした。

 

「さあ、無駄話はそれぐらいでいいですね!早く真姫の別荘へと向かいましょう!」

 

 音の発生源は登山ガチ装備の海未だ。

 電車に乗る前から気になっていたんだけど、何であんなに大荷物を持ってきたんだろうか?

 

「......なぁ、海未?何でそんなに重装備なんだ?」

 

「何を言っているのですか!!優こそなぜそんなに軽装備なのですか!!山を舐めているんですか!!」

 

「い、いや......えぇ?」

 

 単純な疑問だったので、軽い調子で聞くと、物凄い剣幕で詰め寄られて2、3歩ほど後退る。

 海未はそのまま重たそうなリュックを見てるこちらに重たさを感じさせない様子でひょいっと背負い直し、これまでに見たことがないようないい笑顔で改札の方へと向く。

 

「さあ、行きますよ!!山が待ってます!!!!うふふふふ!!!!!」

 

 俺はそんなハイテンションな海未の背中を見ながら、ことりの傍に近づく。

 

「......もしかして海未って、登山マニア?」

 

「あはは、......うん」

 

 ことりが苦笑しながらふいっと目を逸らす。

 この反応はあれか、小学校や中学校とかであるハイキングや自然教室で何かやらかしたんだな?

 

 例えば、キャンプ場の係員よりも知識があって、逆に間違っているところを指摘したり......まさかな。

 

 ......まぁ、うん、あれだ。あまり深く追求はしないでおこう。

 

 海未のあとに続いて皆が次々と歩き出す中、凛はしきりに唸ったり首を捻ったりとを繰り返していた。

 

「どうした?早く行かないと皆に置いてかれるぞ?」

 

「いや~......何か、こう......重要なものを忘れてる気がするんだけど......あれぇ?」

 

 そう言われてみれば、なんとなく違和感があるような、ないような?

 

「......そう言えば、今日は随分と静かだな。穂乃果」

 

 いつもだったらはしゃぎすぎて海未に2回は怒られているであろう穂乃果の声が全く聞こえない。

 俺と凛はそこでピタリと全ての動きを止め、お互いに顔を見合わせて冷や汗を流し始めた。

 

「......ここに来る時には穂乃果、いたよな?」

 

「......いたにゃ」

 

 電車の中で寝るまでは、いつも通りテンションの高い声が聞こえていたのを覚えている。

 

「凜!!!皆のとこまでダッシュ!!今の状況を簡潔に伝えてくれ!!」

 

「ラジャーにゃ!!!!」

 

 凛が駆け出すのと同時に俺は携帯で素早く穂乃果にコール。

 

『......おはよう、ございます』

 

『何やってんだ!!!!この......ア穂乃果ぁぁぁぁあああああ!!!!!!!』

 

 俺の渾身の叫び声がやまびこになって帰って来る様は、とてもシュール極まりないものだった。

 

***

 

「酷いよ!!!!どうしてみんな起こしてくれなかったの!?」

 

「それに関しては悪いと思ってる......が、電車の中で爆睡したお前も悪い」

 

「ごめんね?忘れ物ないか確認してたら......うっかりしてて」

 

 30分ぐらい経ってから、穂乃果とは別荘近くのバス停で合流することが出来た。

 乗り物に乗る時は、大体ことりが穂乃果の隣に座るので、起こし忘れたことからかことりがシュンとしながら謝罪をし始める。

 

「そうか、うっかりなら仕方がないな」

 

「ことりちゃんとの対応に差を感じるよ!?」

 

 日頃の行いのせいだ。

 

「大体ゆう君だって寝てたのに......何で起きられるの?」

 

「まぁ、仮に爆睡してたとしてもだ、隣は海未だし。寝過ごすことはないだろ」

 

「優は目的地のアナウンスが聞こえたと同時に目を覚ましていましたよ」

 

 何か電車やバスの中で寝ると、眠りが浅いせいか音はハッキリと聞こえるんだよな。

 そのおかげで寝過ごしたことはない。

 

「ほらほら、ただでさえ時間をロスしてるんだから話は歩きながらにして」

 

「絵里の言う通りよ、予選まであまり時間がないんだから!」

 

 にこは腕を組みながら、仏頂面で言う。

 

「そうね......新曲の作詞に作曲、ダンスの振り付け、フォーメーション、衣装だって考えないといけないんだから、その為の合宿でしょ?」

 

「真姫ちゃんの言う通りです!今回のラブライブ予選は前回とは似て非なるもの!他校のスクールアイドルも予選に向けて新曲作りに取りかかっているはずです!私たちだってのんびりはしてられません!!」

 

「分かった、分かったから少し離れてくれ、花陽。歩き辛いから」

 

 花陽のアイドルモードの勢いに押され気味になり、軽く上半身を後ろに逸らしながら歩く。

 当の花陽は俺の言葉にハッとなり、顔を真っ赤にしながらすいませんと声を上げて飛びのくように俺から離れていった。

 

 第2回ラブライブの予選はこれまでに未発表の曲に限られるというルールを知らされた俺たちは絵里の提案により、連休を使って真姫の別荘を借りて合宿することになった。

 それが今俺たちが山に向かって歩いている理由という訳だ。

 

「全く......どうして今回はこんな面倒なルールになったのよ」

 

「確か、参加希望チームが多すぎるし、プロのアイドルのコピーをしたグループまで現れて......みたいな感じだったような気がするぞ」

 

 真姫のぼやきにここに来るまでに軽く調べておいた情報を伝える。

 前回は順位制だった予選とは違い、今回のルールはライブを行って上位4グループに選ばれればいいということもあり、より多くのスクールアイドルが参加しやすい形となった。

 既に予選まで1ヶ月足らずで新曲を作り、衣装を作り、ダンスを仕上げる。

 それが出来なければ参加する資格すら得られないということだな。このルールによって前もって振るいをかけようということなのだろう。

 

「あ!もしかして......あれが真姫ちゃんの別荘!?」

 

 凛の声で思考が止まり、彼女が指差す方向に釣られるように見上げると、そこには物凄くリッチな雰囲気を醸し出す、どう考えてもお金持ちが住んでいるようにしか見えない建物が眼前に広がっていた。

 

「えぇ、そうね」

 

「ほえ~、さすがやね......真姫ちゃん家の別荘は」

 

 希は感心して少々呆けた声を出し、真姫に微笑みを投げ、それを受けた真姫は照れたようにそっぽを向いた。

 

「いいから早く入ろうよ!!真姫ちゃん鍵開けて~!!!」

 

 目を煌めかせた穂乃果はそっぽを向いた真姫に擦り寄り、別荘の扉が開くのを今か今かと待っている。

 

 しかし、まぁ......流石は病院を経営しているお金持ちだな。

 一体この別荘にいくらかかってるのやら......うん、想像するのはよしておこう、どうせ想像を遥かに凌ぐものだろうし。

 

「うぐぐぐぐぐ.......!!!!」

 

 隣でうぐぐっているにこを置いてみんなに続いて玄関をくぐる。

 中も外見と違わず、木造設計だ。

 

「ピアノ!」

 

「そうだな」

 

 そりゃあるに決まってるだろ、無いと曲作り出来ないし。

 

「お金持ちの家でよく見るやつ!!」

 

「そうだな」

 

 天井に付いている大きなプロペラみたいなやつだな。

 

「そして暖炉!!!」

 

「そうだな」

 

 まんまだ。

 

「もう!ゆう君さっきからそうだなしか言ってないよ?もっと他にないの?」

 

「そうだなぁ......」

 

「イントネーションを悩んでる風に変えただけじゃない」

 

 ツッコミありがとう、真姫。

 まあ、別に俺も驚いてないわけじゃないけど、西木野家の別荘ならこれぐらいあるかと思ってただけのこと。

 

「とにかく......荷物を置いたら早速練習に取り掛かるわよ、真姫とことりと海未は曲、衣装、歌詞の作成に。他のみんなは練習、これでいいわね?」

 

「じゃあ俺はなんか食べるものでも作るから、出来たら呼びかけるよ」

 

 絵里の指示に従って、クリエイト組は別荘内に残り、他のみんなは着替えてから外に出て行った。

 真姫は1階のピアノが置いてあるリビングで作曲、海未とことりはそれぞれ2階の衣装と詩に関する資料が置いてある部屋が割り当てられた。

 

「さて、俺も始めますか」

 

 腕を捲り、キッチンへと足を踏み入れたのだった。

 

***

 

「よし、出来たっと......」

 

 料理も完成したし、みんなを呼びに行くか。

 先に真姫に声をかけておこうとキッチンからリビングを覗き込む。

 

「お~い、真姫?ご飯出来たぞ~、ピアノの音すら聞こえなかったんだけど、どうかしたのか?」

 

 返事がない、音が聞こえないほど集中してるのか?

 俺の位置からじゃピアノまでは見えない為、リビングに移動する。

 

「......いない」

 

 いつの間にか真姫の姿は消えていた。

 気分転換に散歩でも行ったのか?

 

 仕方ないから、先にことりと海未を呼んでこよう。

 2階に続く階段を上り、海未のいる部屋をノックしてから中へと入る。

 

「海未?......ってなんだこれ!?」

 

 海未のいたはずの部屋ももぬけの殻であり、机の上には習字で文字が書かれた紙が置いてあった。

 

『探さないで下さい。園田海未』

 

「この短時間でお前に一体何があったんだよ!?」

 

 悠長にツッコんでいる場合じゃない、一大事だ。

 俺はすぐにことりがいる隣の部屋に駆け込んだ。

 

「ことり!!海未がいねえ......って何があったァ!!!!!」

 

 部屋に駆け込んだ俺を待っていたのは布でタスケテと張り付けられた文字だった。

 

「ことりまで失踪!?もうわけがわからないぞ!?......ん?」

 

 よく見るとカーテンと生地が結び合わされ、窓の外に放り出されていた。

 とりあえず下を覗き見てみる。

 

「......あ、いた」

 

 木の下で膝を抱えて座る3人の姿があった。

 ......真姫もかよ!

 

***

 

『スランプゥ!?』

 

 外にみんなを呼びに行くついでに3人を回収。

 事情を聴くとどうやら何も思いつかないとのことらしい。

 

「もしかしてプレッシャーがかかってるとかかにゃ?」

 

 凛の言う通りなのかもしれない。

 ラブライブ予選まで1ヶ月も無いが、当然全てにおいてクオリティは落とすわけにはいかない。

 そのことが3人に硬さを与えているのかも。

 

「......こうなったら、みんなでサポートするしかないわね」

 

「そうは言うけど......具体的にはどうやってだ?」

 

 絵里の提案に頭を捻る。

 

「じゃあ、3人ずつに別れて作業を手伝うっていうのはどう?」

 

「それいいね!......でも組分けはどうするの?」

 

 希の発言に穂乃果が食いつく。

 組分けか......

 

「じゃ、クジでも作るか」

 

 ノートから紙をちぎって、簡易的なクジを作り、みんなに引いてもらう。

 

「えーっと......作曲組は真姫を筆頭ににこと絵里」

 

「分かったわ」

 

 真姫が頷く。

 

「作詞組は海未を筆頭に希と凛」

 

「はい、分かりました」

 

 海未が頷く。

 

「最後、服飾組はことりを筆頭に穂乃果と花陽だな」

 

「うん、よろしくね。穂乃果ちゃん、花陽ちゃん」

 

 俺は各組のサポートに回ることになっている。

 というのもお互いの邪魔をしてはいけないから別荘内ではなく、各組ごとに別々の場所にテントを張り、今夜はそこで寝泊まりをしようという話がクジを引く前に持ちあがった。

 俺は3組の進捗を確認しながら、手伝えることは手伝う、大変だけどみんなもやるのに俺だけ何もしないわけにはいかないだろう。

 

......そうと決まれば。

 

「よしっ!!じゃあμ’s一丸になって頑張るぞ!!!!」

 

『はいっ!!!!!』

 

 こうして、みんなで作る新たな曲作りが幕を開けたのだった。

 

――To be continued――

 




続きを書こうとして、アニメを見始めて結局書けない。
この繰り返し、自分の意志の弱さに感服です。


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じゃ、山登ろっか

一応書けたはいいものの、今回は描写も雑!!
省きに省いています。

ぶっちゃけ今までで一番酷いかもしれない......

サブタイトルも投げやり気味、いくら投稿出来てもこれじゃまずいので、反省点は次に活かします。


「さて、最初はどこの組から回ろうか」

 ことりを中心にして穂乃果、花陽で組まれた衣装組。

 海未を中心にして希、凛で組まれた作詞組。

 真姫を中心にして絵里、にこで組まれた作曲組。

 

 中心にいる3人がスランプに陥り、それを打破してラブライブ予選を勝ち上がる為の曲を作り出すのが今回の目標だ。

 

「と言っても......きっかけさえあればスランプなんて簡単に抜け出せそうなんだよな、3人は」

 

 これまでだってμ’sの曲、衣装を作り上げてきたあの3人の能力は今更疑いようがない。

 恐らく、ことり、海未、真姫がいなければ廃校を阻止するどころか、スクールアイドルとして活動することすらままならなかっただろうしな。

 

「......よし、最初は衣装組の方に顔を出してみるか」

 

 確か、あの3人がテントを張ったのは川沿いの場所だったはず......

 作曲組と衣装組のテントの組み立ては俺も手伝ったから場所は知っている。

 

 作詞組はまだ場所が決まっておらず、後で呼びに来るとのことだ。

 

 考えながら歩いていくと、涼やかな風に水の匂いが混じり始め、テントが見える。

 テントの近くの川辺にはことりが座っていて、何やら難しそうな顔をして、手に持ったスケッチブックとにらめっこを繰り広げていた。

 近づく俺に気が付いたことりがスケッチブックから顔上げて、こちらを見た。

 

「どうだ、調子は?」

 

「うん、さっきよりはアイデアも浮かんでるんだけど......イマイチまとまり切らなくて......」

 

 えへへと笑いながらことりは言う。

 確かにスケッチブックにはデザインのラフとイメージが書かれていて、白紙のページではなかった。

 それだけでも安心だな。

 

「あ、優さん。様子を見に来てくれたんですか?」

 

 背後から花陽の声がしたので振り返る。

 両手でかごを持ち、その中には白い花が入れられているのが分かった。

 花の名前は分からないけど、とても綺麗な花だ。

 

「花陽、その花は?」

 

 聞くと彼女はかごから1輪花を取り出して、俺に差し出してきた。

 

「綺麗だったから、なんとなく衣装のアイデアにもなるかもしれないんじゃないかと思って......」

 

「わぁ~、綺麗!ありがとう、花陽ちゃん!」

 

 白い花を手に取ってにこにこと笑うことりと花陽。

 これがこの世における平和と癒しの終着点か......

 川辺で花と戯れる、その姿はまるで......

 

「妖精みたいだな......」

 

 無意識だったが、思っていた言葉がついこぼれ出る。

 俺の言葉に花陽はほんのりと頬を赤く染め、ことりは目を丸くして固まった。

 

「え、えぇ!?いや、そんな妖精だなんて私なんかが......おこがましいです!!!」

 

「い、いや!そんなことはないけど、ただ川の側にいて、花を触っている姿が、そう見えただけだ!!!」

 

 今度余計なことを言ったら俺はこの口を縫い合わさなきゃいけなくなる......

 

「ゆー君......いいアイデア思いついたかもしれない!!」

 

 固まったままだったことりが、目を煌めかせ、その興奮のまま俺に顔を近づけてくる。

 いや、近い!めっちゃいい匂い!間近で見ても可愛い!妖精って言ったのは失敗だったか!?これは天使の方がよかったんじゃないのか!?俺のバカ野郎!!

 

「ありがとう!!ゆー君、私頑張るねっ!」

 

 そう言うと、ことりはスケッチブックに一心不乱にアイデアを書き出し始めた。

 俺の失言が功を奏したようで、まぁ、よかったかな?

 

 俺と花陽はことりを1人にする為に、頷き合ってそこから離れる。

 あぁ、忘れるところだった。

 

「ほら、差し入れ。あとで3人で食べてくれ」

 

 俺は作っておいたおにぎりの入ったタッパーを花陽に手渡した。

 

「はうっ!これは優さんのおにぎり......ありがとうございます!!」

 

 頭を下げながら、嬉しそうにおにぎりを抱える花陽を見て、笑みをこぼしつつ、ふと1つ疑問を抱いた。

 

「そう言えば......穂乃果は?」

 

「えっと......あはは」

 

 花陽が苦笑いをしながら指さした先にはテントがあって、近づくと中からは幸せそうな寝息が聞こえてきた。

 それを聞いた俺はため息を吐きながら、しょうがないなと呟き、次の組の様子を見るべくその場を離れたのだった。

 

***

 

「次は......普通に考えて、作曲組か?作詞組はまだ場所が決まってないみたいだし」

 

 衣装組に差し入れのおにぎりを渡した俺は、他の組に渡すための差し入れを取りに一度、別荘へと戻ってきていた。

 

「にゃー!!!ゆーサン助けてぇー!!!!」

 

「おわっ!?り、凛!?」

 

 テーブルに置いてあったタッパーを手に取った瞬間に、泣き声と共に背中に衝撃が走った。

 どうやら凛が飛びついてきたらしい。

 

「どうしたんだ?虫でも出たか?」

 

 俺の問いに凛は涙目のままで首を横に振る。

 

「優、ここにいたんですか、私たちのテントの設営場所が決まったので手伝ってもらいたいのですが......」

 

 海未がテントの道具を持ってリビングへと入ってきた。

 後ろには希もいて、キャンプ用の道具を手に持っている。

 

「あぁ、場所が決まったから助けてってことか?」

 

 凛は依然として首を横に振り続けている。

 この怯えようは一体何なんだ......?

 

 そういえば、海未たちの持っている道具はキャンプ用にしては物が多いような気がする。

 ......何か嫌な予感がしてきたぞ?

 

「よし、じゃあ海未と希は先に外に出ておいてくれ。俺はちょっとトイレに行ってから出るから。凛はこの

タッパー持ってここで待っててくれ」

 

「何故凛だけ残しておくのかは気になりますが......はい、分かりました。では希、行きましょう」

 

「せやね。いやー、でも山に登るのはうちも久々やね~」

 

 ......聞き逃せない単語が聞こえた気がするけど、凛に聞けば全部はっきりするか。

 

「で、助けてっていうのは......もしかして......」

 

「そうにゃ!海未ちゃんが山の上でキャンプしようなんて言い出して......凛、山になんて登りたくないよ!!ゆーサンだって嫌だよね!?」

 

「嫌に決まってる、まだ作曲組のところにも回ってないし、登山なんてしてたら体力がもたねえ」

 

 つまり、俺はテントを設営しに、山に登り......設営を終えて下山するわけだ。

 こんなハードコース誰だって嫌に決まってる。

 

「よし、話は分かった。要するに海未の気を山から逸らして、山のことを忘れさせて、別の場所にテントを張らせればいいってことだな?」

 

「さすがゆーサン!!話が分かる!!」

 

 俺は凛と固い握手を交わし、決意を露わにした表情で海未たちの元に移動する。

 とりあえず......話題を逸らしてみるか。

 

「では!行きましょう!!山が私たちを待っています!!」

 

「海未、その前に1ついいか?」

 

「はい?なんでしょうか?」

 

 ......言い出したはいいけど肝心の話題を考えてなかった!!

 やっべえ、どうしよう!?

 

 迷った末に俺はある1つの話題を閃き、口にする。

 

「しゅ......修学旅行ってどこに行くか......もう聞いてたりするか?」

 

 俺のアホォ!!!このタイミングで修学旅行の話を振るやつがあるか!!!

 

「え、修学旅行ですか?......どうして今聞くんですか?」

 

 めっちゃ怪しまれてるな......そりゃそうだろうな......

 

「り、凛も気になる!!お土産とか、頼んでおきたいし!!」

 

 冷や汗だらだらな俺に凛から精一杯のフォローが入る。

 凛が目線でもうちょっとマシな話題はなかったのか問いかけてくるが、お前が聞いても大して変わらないだろと、アイコンタクトを投げ返す。

 既に醜い内輪揉めが起こり始めていた。

 希は全てを見通したかのように、にやにやしながら俺たち2人を眺めている。

 

「......はぁ、今はラブライブの予選に集中するべき時ですよ?......ひとまず、沖縄だというお話は伺っておりますが」

 

 どうしてこのタイミングで修学旅行の行き先を尋ねたのか、少々腑に落ちない表情の海未だが、これで少しは気が逸れたのかもしれない。

 ここで畳みかける!!!

 

「へ、へぇ~!沖縄かぁ......ということは、あれだな!!水着だ!!!俺、海未の水着楽しみにしてる!!!!!」

 

「なっ!?あなたはいきなり何を言い出すのですか!?ハレンチですよ!!!!」

 

 俺の落とした爆弾は、海未を赤面させ硬直させるほどの威力はあったようだ。

 してやったぜ!という目を凛に向けると、ドン引きしたような顔をして、そこから2歩ほど距離を空ける凛の姿があった。

 何でだよ!!!味方しろやごらぁ!!

 威嚇気味に凛を睨むと、渋々といった感じで元の距離まで歩いて戻ってきた。

 

 ......コイツっ!!!

 

 もはや協力関係すら無くなりかけている俺たち。

 漫才ならコンビネーション抜群といったところだろう。

 実際、希は顔を俯かせて、肩を震わせて、笑いをこらえていた。

 

「......何か、忘れているような気もするのですが、一体何の話をしていたんでしたっけ?」

 

「何も忘れてなんかいないだろ?忘れてたとしても、忘れるのは大した用事じゃなかったからだ」

 

「そうだよ!!気にしすぎだよ!!」

 

 凛から俺への好感度を犠牲に、ミッション完遂は間近なようだった。

 このままだと俺は女子の水着姿を楽しみにする変態という評価になってしまうが、それはあとで口封じしよう。

 ......ラーメンという抑止力を使って。

 

「......さっきから2人して怪しいですね。何か私が思い出したら都合の悪いことがあるんじゃないですか?」

 

 ま、まずい!!ここまできてバレてたまるか!

 目標は達成間近だ!!気合で押し切る!!

 

「いやいや、何も隠してないから!!なっ?凛!!」

 

「そうにゃ!別に何もやましいことなんてないにゃ!!」

 

「......やましい。はっ!!そうです!山です!!」

 

『えぇぇぇぇぇぇ!?!?』

 

 なんと、やま、付いた言葉に反応して、思い出してしまったようだ。

 

「やましいなんて使い慣れない単語使うんじゃねえよ!!」

 

「誰もそこから連想して思い出すなんて想像つかないにゃ!!!」

 

「あー、見てて面白かったで?ほな行こか」

 

 ひとしきり笑い終えた希の言葉と海未のこれ以上余計なことを言ったら......どうなるかわかりますね?という無言の圧力を受けて、俺と凛ははいと言いながら素直に後ろに付いて歩くしかなかった。

 

***

 

 結果、俺がまだ作曲組のテントに回っていないということを必死に伝えて、どうにか山の中腹でテントを張るということに落ち着いた。

 海未は渋々だったが、風の影響が強いから山頂までは無理という希の言葉が後押しとなり、俺と凛は希に向かって拝み倒し、急いでテントを設営することになった。

 

 それにしても、こういう山の天候にまで詳しい希って一体......

疑問を頭に浮かべたまま、作業を進めていく。

 

「では、ことりはスランプを脱しそうなのですね?」

 

「あぁ、さっきいいアイデアが思いついたって言ってからスケッチブックにひたすら何かを書き込んでたぞ」

 

 作業中に先ほどまで、ことりたち衣装組のところにいたということをかいつまんで説明し、穂乃果が寝ていたという部分まできっちり伝えた。

 

「......すみません、私はまだ何も思いついていなくて......山を登ったという達成感からインスピレーションを得ようとしたのですが......迷惑をかけてしまいましたね」

 

「いいよ、俺登山ってしたことなかったから、案外やってみるといいものだな。なんか......こう、今までに見えなかったものが見えてきそうな感じがするよな」

 

 ......この険しい道のりが、μ’sの今を表しているんだとしたら......長く険しい道を超え、登り、その先に待っているのが夢への挑戦権だとしたら、彼女たちはきっと――

 

「――μ’sは今、夢の扉を開きかけているんだな」

 

「......夢の扉、なんだか......ストンと胸に落ちてくるような......優、ありがとうございます。おかげでいい詩が書けそうです」

 

 そう言った海未の横顔に、もう迷いは存在しなかった。

 テントを張り終え、役目を終えた俺は、残された作曲組のテントへと向かうため、登山で疲れた足に鞭を打ち、1人下山を始めるのだった。

 

―To be continued―

 




お詫び、まず衣装組辺りの話がスッカスカ!話も作詞組の半分以下の短さ!
更新することに拘ってクオリティを落としてしまいました。

次で合宿編は最後になる予定なので、ちゃんとクオリティを上げられるように頑張りたいと思います!


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考えすぎないで

合宿編を終える予定だと言ったな、あれは嘘だ!




「ほとんど休憩無しで登山と下山したらこんなにしんどいんだな......」

 

 作詞組が山に登ってそこでテントを張るということで手伝いに行ってきた俺だが、テントを張った後すぐ降りたので、登山と下山の間はほとんど空いていない。

 しかし、山を登るのはそこそこ時間がかかるわけで、辺りには既に太陽と日の光の姿はなく、代わりに月と星と暗闇が顔を見せるようになっていた。

 

 やべえ、足めっちゃぷるぷるしてる。生まれたての小鹿みたいに立っているのもやっとな感覚がある。

 ......作曲組のテントまで行ったらさすがに座ろう。

 

 最後に残した作曲組のテントは別荘から1番近く、真姫たちがいるであろう場所からはたき火でもしているのか煙が夜空に向かって吸い込まれていた。

 

 俺はそのたき火を目印に3人がいるであろう場所へと向かう。

 しばらく歩くと、火を前にしてにこと真姫が肩を並べて座っていた。

 2人は俺の足音に気が付いたのか、揃って振り返る。

 

「......何でアンタそんなに疲れた顔してるワケ?」

 

「あと少し、服が汚れてるけど......何してたの?」

 

 俺の表情と恰好を見たにこと真姫からのありがたい一言がとても疲れた体に染みて、俺は2人から少しだけ距離を取った場所に崩れるように腰を下ろす。

 

「......海未、山、これで察してくれ。正直ちょっと休みたい」

 

『......海、山......川?』

 

「そういうことじゃねえよ、二人そろって何言ってんだ」

 

 確かに川辺にも行ったけど、断じて違う。

 

「ツッコめるだけの元気があるならまだ余裕でしょ?」

 

「......そういえば絵里は?」

 

 さすがにこれ以上余計なおしゃべりに使う体力は残していない。

 あー、テントの中か?灯りが漏れてるし。

 

「絵里は暗闇が怖いらしいからその中で光源を用意してるわ」

 

 絵里は怖いものが苦手だしな。

 

 たき火もどんどん弱くなってる気がするし、そろそろ燃やせそうなもの入れた方がいいか。

 多少なりとも回復した足で立ち上がり、その辺に落ちている枝を拾っていく。

 すると、ぱきっと音がして、たき火の火が一層弱弱しくなったのが分かる。

 

 俺と同様に火が消えかけているのを感じとったにこは、長めの枝を使い、たき火を整えながら必死に息を吹きかけ始めた。

 

「って、にこちゃんも怖いんじゃない」

 

「はぁ?怖くないですぅ~!優が怖くて仕方ないって顔してるから仕方なくやってるんですぅ~!」

 

「あー、はいはい。ありがとうございますぅ~」

 

 とりあえずあとでしめる、覚えておけ。

 

「私、こんな先輩たちの為に曲を作らないといけないのよね......はぁ」

 

 真姫が疲労を顔に出しながら、ぼやく。

 そのぼやきを聞いたにこがキッと目を吊り上げて、真姫を見つめる。

 

「......アンタ、ひょっとして私たちの為に曲を作ろうとしてるワケ?」

 

「そ、それは......」

 

 にこに睨まれる形となった真姫はバツが悪そうに視線を逸らす。

 しばらく、たき火の中の音がパチパチと鳴って、生まれた沈黙を埋めようとしているように感じる。

 

「はぁ、らしくないわね。何悩んでるのよ」

 

「し、仕方ないじゃない!これが最後になるかもしれない!そう思ったら、今までのクオリティじゃ満足がいかなくなって......絶対にこちゃんたち3年生の為にいい曲を作らないといけないんだから!」

 

 木々を揺らしたのは、真姫の想いか、それとも風か。

 にこはため息を吐き、たき火を見つめる。

 その目には火が反射していたが、俺には別の何かを見つめているように見えた。

 

「......バカね、そこから間違ってるわよ。いい?曲はね、いつどんな時だって、メンバー全員の為にあるのよ。私たちの為だとか、そんなに考えすぎないで......いつも通りいい曲作りなさいよ。......でも、ありがと」

 

「にこちゃん......うん」

 

 あー、やっぱりこういうとこはにこには敵わないよな。

 きっと、今の言葉で真姫は吹っ切れた。

 俺は軽く微笑み、火を枝で突く......と、中に何か固いものが入っている感覚があった。

 

「......焼き芋?」

 

「ちょうど焼けたぐらいかしら、ほら真姫」

 

「わっ!熱っ、熱っ!」

 

 両手で軽く弄びながら、熱を冷ましていく。

 というか火から出した直後のものを手渡すなよ、火傷したらピアノどころじゃないだろ。

 

「あ、熱いけど美味しいわね。初めて食べたわ」

 

「......自慢?」

 

「違うわよ!」

 

 もう大丈夫そうか。

 俺は立ち上がり、その場をあとにしようとする。

 

「ユウ、別荘には露天風呂もあるから戻るなら誰も来ない内にお風呂済ませておいたら?」

 

「ん、そうする。サンキュ」

 

 疲れた体に露天風呂なんて、贅沢ここに極まれり。

 早く入っておかないとメンバーの誰かと鉢合わせになっても困るし、早めに済ませて......寝よ。

 

「待たせたわね、これで大丈夫よ!さぁ、真姫!なんでも相談して!」

 

「もう大丈夫よ、絵里」

 

「問題はとっくにこのにこにーが華麗に解決してみせたわ!」

 

「えぇ!?」

 

 締まらねえ......何やってるんすか、賢くて可愛いが売りの人。

 背後から聞こえる喧騒を聞きながら、別荘にあるという露天風呂に向かうのだった。

 

***

 

 汗で少し湿った服を脱衣用の籠に向かって綺麗なシュートを決め、そのかごを適当な棚へとダンクシュート気味に叩き込み、外へ。

 体温の上がった体に秋の夜風が直撃、涼しいとかじゃなくもはや寒い。

 

 俺はシャワーへと小走りダッシュし、ちゃんとお湯が出るかどうかを確認してから頭からシャワーを浴びる。

 あまりの疲労感のせいか、これだけでも最高に気持ちがいい。

 思わず声を上げそうになるが、グッとこらえて手早く頭と体を洗い、駆け足で湯舟へと。

 

 桶で軽くすくって、肩からかけ、湯加減を確認。

 体温が冷めない内に体を湯舟に滑り込ませる。

 

「っ~~~~~!!!!!あぁ、俺生きてるぅ!」

 

 シャワーで我慢した分を、ここで全て開放し、心からの叫びをあげる。

 これだよ、これこれ!!!この感じ!

 疲れれば疲れているほど、風呂は気持ちいい。異論は絶対認めない。

 

 更に上を見上げれば、ひんやりとした空気の更に向こう側、世界を包むような夜空に満面の星空と大きな月。

 俺が大人なら桶に酒を入れて晩酌していたかもしれない。

 

「疲れたけど......これで、なんとか......ラブライブ予選には、間に.....合い――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――あれ、俺寝てたのか。

 

 ぴちゃんと水滴が落ちる音がやたらと大きく聞こえ、意識が次第にはっきりとしてくる。

 

 ん、髪の乾き具合から見て......10分から、20分の間ぐらい、か。

 やばいな、いくら何でも寝るのはまずかった......もう上がっておかないと風邪をひくかもしれない。

 ここ外だし、今秋だし。

 

 両手を空に突き上げ、大きく伸びをしてから立ち上がって腰にタオルを巻き付け脱衣所の方へ歩く。

 

(露天風呂楽しみだね~!)

 

(そうだね~♪穂乃果ちゃん)

 

(あ、あれ?これって.....2人とも少し待っ)

 

 ん?今脱衣所の方から声がした気が......気のせいか?

 

 風の音と聞き間違えたんだと思い、扉に手をかける――

 

 

 ――寸前で扉が音を立てて開き、咄嗟に手を引っ込める。

 

 

『......え?』

 

 

 俺と扉の先にいた誰かの声が重なる。

 

「穂乃果?」

 

「ゆう君?」

 

 お互いにフリーズ、距離は手を伸ばしきらなくても触れられるほどの距離。

 視線が下の方へと吸い寄せられていく。

 

 俺の方が10cmは背が高いため、必然的に胸の谷間が目に飛び込んでくる。

 タオルで前を隠してはいるが、穂乃果も俺が入っているとは思っていなかっただろうし、隠し方が甘い。

 

 胸からウエストにかけて体の線が縮まっていき、ウエストからお尻にかけて、また膨らんでいる。

 

 穂乃果の後ろには花陽とことりが呆然と立っていて、そこまで確認してようやく脳が回り、事態を急速に理解した。

 

 oppai god(おっぱいは神)......いや、間違えた。oh my god(やるじゃん、神様)

 

 そして、俺の耳を3人分の悲鳴が襲った。

 4月からスクールアイドルを始め、発声練習と鍛え抜かれた肺活量によって強化された最強クラスの悲鳴。

 それを至近距離でくらった俺の耳はもうダメかもしれない。

 

「ご、ごめん!!っていうか脱衣所に俺の服あったのになんで気が付かないんだよ!!」

 

「すみません......私途中で気が付いて、声かけたんだけど、もう手遅れで」

 

 花陽が目を逸らし、顔を真っ赤にし、柱の陰から申し訳なそうにしながら顔だけ覗かせる。

 しかし、顔を覗かせるに伴って鎖骨から胸へかけてのラインが若干見えていて、そこに目線がいきかけるのを必死に抑え込む。

 

「えっと~......お、お背中お流ししま~す♪ご主人様♪」

 

「しなくていい!!しなくていいからな、ことり!」

 

 何をどう思ったのか、どうしてここでカリスマメイドとしての本能的な何かを出してきたのかは分からないが、タオル一枚の恰好でそんなこと言われても困る。

 本音を言えばしてもらいたいに決まっているが、今の俺には刺激が強すぎる。

 

 3人がタオル一枚のように、俺もまた腰に巻いたタオルだけが生命線なんだ。

 これ以上、視覚的刺激に加えて感触まで味わったらここにもテント張ってしまうことになる。

 

 って、そんなクソくだらないこと言ってる場合じゃねえ。

 

「いいから!早く露天風呂の方に出てくれ!扉を閉めたら着替えてすぐに出ていくから!」

 

「わわっ!!ことりちゃんも花陽ちゃんも、早く!!」

 

「う、うんっ」

 

「は、はいっ!」

 

 3人に背中を向けている間に、扉が閉められる音が聞こえて、大急ぎで体を拭いて服を身に着ける。

 もう少しで前かがみになって誤魔化さなきゃいけなくなるところだった。

 

 もし、最初に目に飛び込んできたのが希や絵里だったらと思うと恐ろしくて仕方がない。

 荷物を抱えて脱衣所を出るが、俺の耳は未だに耳鳴りを続けていた。

 

―To be continued―

 




というわけで、あまり長くなりすぎて描写が書けなくなってもアレなので程よく切れるところで今回のお話は締めさせていただきました。

4000文字もいってないですし、サブタイトルは小説内のにこちゃんのセリフから抜粋しました。

次回こそは合宿編の終わりまでいけると思います。
次回もよろしくお願いします。


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衝撃の展開!?

やっと書けた・・・・・・
お待たせしました! 合宿編は今回で終わりです!





「うん、ようやく耳鳴りも収まった、かな?」

 

 露天風呂での胸囲......脅威の3人分の悲鳴を耳に受けてから恐らく10分近くは経過しているだろうか?

 俺はキッチンで夜食の準備をしつつ、右耳を手でトントンっと軽く叩き具合を確認する。

 

 すると、玄関の方から物音が聞こえてくる。

 誰かが戻って来たのか?

 

「――真姫? どうした?」

 

 リビングに姿を見せたのは外のテントでにこと絵里と一緒にいたはずの真姫だった。

 

「ん、ちょっとね。今ならいい曲が出来るって思ったの」

 

 真姫はこちらを一瞥しつつ、ピアノの前に座り、大きく深呼吸をすると指を鍵盤へと伸ばす。

 

「......真姫? それに優も」

 

「海未、山から下りて来たのか?」

 

 俺ほどではないにしろ、登山と下山を短期間で行ったはずの海未には全く疲れた様子は見当たらない。

 化け物ですか?

 

「はい、今ならいい詩が書けるような気がしたんです」

 

 そう言って椅子へと腰かけて、海未はテーブルにメモを置き、精神統一とばかりに姿勢をよりピンっと正して目を閉じ、集中状態に入った。

 

「あれ? ゆー君に海未ちゃん? それに真姫ちゃんも」

 

「ことりもか? いい衣装が思いついたんだな?」

 

 同じことしている人間が2人もいる、これならさすがにことりが来た理由も恐らくは同様のものだろう。

 

「うん、アイデアたくさんもらっちゃったから」

 

 ことりはいつもの柔和な顔に真剣味を帯びた目を携え、ソファへと静かに腰を下ろし、スケッチブックに向き合い始めた。

 

 ピアノが鳴る音とペンを走らせる音が張り詰めた空気の中で混ざり合い、一つの音になって俺の元へと届く。

 恐らくだけど、3人の世界には既に自分のイメージしか映っていない。

 

 こうなってしまえば、俺に出来ることは見守ることだけだ。

 ことりが座っていないソファに腰を下ろして、静かに目を閉じる。

 

 数分間経っても音は鳴り止まず、さっきまでスランプだったというのが嘘みたいに感じるぐらいの進行具合。

 今日一日の疲れが、何故か、少しだけ緩和されたような感じ。

 

 いつしか、俺の意識は、心地のよい、まるで子守歌のような作業音の中に沈んでいった。

 

***

 

「眩しい・・・・・・」

 

 カーテンの隙間から襲い来る日光に敗北し、目を開く。

 俺としては瞬きしたら夜が明けていたって感じなんだけど、まぁ・・・・・・疲れてたんだろうな。

 

 見守るつもりが寝落ちしていた体を起こすと、誰がかけてくれたのかは分からないけどかかっていた毛布がずり落ちていく。

 

 それを拾ってソファへと置き直すと、立ち上がって部屋を見回す。

 視線の先には、何かをやり遂げたという表情ですやすやと寝息を立てる海未、真姫、ことりの姿があった。

 

「あぁ、起きたらお疲れ様の一言ぐらい言わないとどやされるな、これは」

 

 苦笑と共に、3人の手元を見て回る。

 そこには完成した楽譜、衣装デザイン、歌詞が置かれていて、言うまでもなく渾身の出来栄えだというのが見て取れる。

 

 3人の肩に毛布を丁寧にかけて、俺は外へ。

 早朝ということもあって、いつもより澄み渡った山の空気に少しだけ霧がかかった景色。

 

 体をグッと伸ばして、朝露で湿った葉っぱと土を踏みしめて歩き始める。

 なんとなくふらふらと歩き続けていると、開けた場所に出た。

 

 左手には崖、右手には森がある。

 落ちたらただじゃ済まないよなぁ。

 

 数秒ほど崖を見つめて、当たり前の思考に至って、ブルりと身震いが起きる。

 散歩は終わりにして戻るか・・・・・・ん?

 

 元来た道を戻ろうと、後ろを向こうとした時だった。

 右手の森から、ふらふらと見覚えのある人物が歩いてきたのが見えた。

 

「穂乃果?」

 

 まるでゾンビのような足取りで崖に向かって歩いているのは穂乃果だった。

 何やってんだ、あいつは?

 

 動向が気になり、しばらく見つめていると、弾かれたように穂乃果が走り出した。

 

「ランチパックの川があるー! 待ってぇぇー!!!」

 

 その先はもちろん崖がある。

 

「お前が待って!? 何やってんだバカ!!」

 

 その先にあるのはランチパックの川じゃなくて三途の川だ!!

 俺は全力で穂乃果に追いついて、肩を掴んだ。

 

 すると穂乃果は脱力したように俺に体重をかけてきて、体の柔らかさと体温に脳が沸騰しかける。

 

「お、おまっ!! ・・・・・・嘘だろ?」

 

 確認するように、顔をこちらに向けると、そこには間抜け面をして口から涎を垂らす穂乃果が。

 

 さっきまでのって寝ぼけてたのか!? 寝相が悪いなんてレベルじゃないぞ!?

 

「おい、起きろ~。穂乃果ぁ」

 

「もう食べられないよ~・・・・・・やっぱりまだいける」

 

 なんだかよく分からないが、自分の限界を超えることに必死なようだ。

 しかし、このままここに放置するわけにもいかないし、仕方ない。

 

「よいしょっと・・・・・・やっぱ人の体重って女子だろうと重いわ・・・・・・」

 

 起こすのを諦めて穂乃果を背負うと、別荘の方に向けて歩き出す。

 歩いている間もくうくうという安心しきった寝息が一定のリズムで聞こえてきて、苦笑しながら歩を進め続ける。

 ・・・・・・苦労代として、背中に当たり続ける2つの柔らかな膨らみの弾力を楽しんでやることにしよう。

 

 いや、別に俺が自分から触ってるわけじゃないし? あの場に放置していく方がもっと悪だし? 背負うと自然に当たるんだからしょうがないじゃん?

 

 ・・・・・・誰に対しての言い訳だよ・・・・・・はぁ。

 

 男って本当に虚しい生き物だね。

 

 無駄に悟っていると、前方に別荘が見え、そして花陽、凛、希、絵里、にこの5人が集まっていた。

 5人は近づく足音に気が付いて、一斉に振り返り、静かに歩いて近づいてきた。

 

「おはよう、みんな早いな」

 

「さっき目が覚めて・・・・・・穂乃果ちゃんとことりちゃんの姿が見えなかったから、もしかしたら戻ってきてるのかもと思って」

 

「あぁ、ことりたちは別荘の中で眠ってる。多分だけど、さっきまで作業してたんだと思う」

 

 チラリと絵里とにこの方を見ると、2人は揃って頷いた。

 私たちも同じ理由で戻ってきたの、という意味の頷きだろう。

 

「ところで、穂乃果ちゃんはどうしたの?」

 

 凛が俺の背中を覗き込み、不思議そうに首を傾げている。

 

「あぁ、夢の中でランチパックの川をシンクロナイズドスイミングしてる」

 

 ため息交じりに寝ぼけて森の中を徘徊していたということも伝えてると、それぞれの苦笑が手元に返ってきた。

 まぁ、普通に寝ながら歩いてるのって普通じゃないからな。

 

「それで、これからどうするのよ? 当然練習はするとして」

 

「うーん、あと2~3時間は寝かせておいてやろうぜ。8時ぐらいから13時ぐらいまで振り付けとフォーメーションの確認して、夕方前には家に着いてるぐらいでいいんじゃないか?」

 

 にこの問いかけに、穂乃果を軽く背負い直しながら答える。

 

「えぇ、そうね。今回の合宿の目的は達成しているんだから、仕上げるのは明日からの練習でも遅くないだろうし・・・・・・」

 

「うん、分かった。じゃあわたしは朝食の準備を進めますね」

 

「あとで俺も手伝いに行くよ、凛は穂乃果をいい加減に起こしてくれ」

 

「分かった! 穂乃果ちゃ~ん!! 起っきるにゃぁぁぁぁあああああ!!!!」

 

 忘れないでほしい、穂乃果の耳元に向かって叫ぶということは俺の耳元で叫ぶのと同じ意味なのだということを。

 

「うるせえ!! 背中から下ろしてから叫べ!!」

 

「起こせって言ったのはゆーサンにゃ!! ・・・・・・というかこれだけ近くで騒がれて起きない穂乃果ちゃんがおかしいよ!」

 

 それに関しては同意なんだけど、起きないもんはどうしようもない。

 ふぅ、とため息を吐いて希を見る。

 

 希は俺の視線に含まれた意味を的確に理解したみたいで、うちに任せとき! と言わんばかりのいい笑顔とサムズアップを返してきた。

 

 ひとまず、別荘の中に入り、二階のベッドへと穂乃果をそっと下ろす。

 さ、あとは任せよう。希と穂乃果を残して、部屋を出てから扉を静かに閉める。

 

 閉める前の僅かな隙間からは希が手をワキワキと動かして悪い顔で笑っているのが見えたが、気のせいだろう。

 俺は何も見ていない。

 

 よし、まず花陽と朝食作ってから、みんなが使っていたテントの回収でも行くか。

 背後から穂乃果の叫び声と、希のワシワシMAXやという声が俺のあとを追って階段を下りてきたような気もするが、それもきっと気のせいだろう。

 仕事しよ。

 

***

 

「休憩したら次が最後の確認だ! 各自しっかりと体を休めること!」

 

 手をパンパンっと2回叩くと、周りの山々に反響して音が返ってきた。

 それを合図にみんなは座ったり、立ったままタオルで汗を拭いたりを始める。

 

 パッと見はいい感じだな、あとはしっかりと本番までに仕上げられればきっと地区予選は突破出来る。

 なんとなしに、周りを見渡していると、気になるものが目に入った。

 

「お前ら何やってんの?」

 

「うぐぐぐぐ・・・・・・見れば分かるでしょ!! アンタも手伝いなさいよ!」

 

「いや、さっぱり分からないんだけど? 組体操でもしてんのか?」

 

 俺の位置からは左手で木を掴んでいる凛と凛の右手を左手で握って、斜面へと体を伸ばしているにこしか目に入らない。

 そのポーズは傍から見ると、ただの組体操にしか見えなかった。

 

「そんなわけないでしょ!!! いいから手伝いなさい!!」

 

「にこちゃんまだぁ~!? 凛もう限界だよぉ~!!」

 

「手伝えって・・・・・・とりあえず凛がやばそうだから一旦やめてやれ」

 

 渋々といった感じで、にこが体を起こして、凛が一気に脱力する。

 さて、一体何をしてたんだか・・・・・・って、あぁなるほど。

 

「なんであんなとこににこのリストバンドが落ちてんの?」

 

「リスに取られたのよ! 全くいくらにこにーが野生動物すら惹き付けてしまう魅力があるからって盗難なんて許されないわ! ファンならマナーを守ってこそファンでしょうが!!」

 

「凛、大丈夫か? 正直あれは2人じゃ届かないだろ。俺も加わってギリギリってぐらいじゃないか?」

 

「うぅ~ゆーサン辛かったにゃあ・・・・・・」

 

 にこのよく分からない憤慨は置いておいて、凛に声をかける。

 いくらにこの体重が軽くても、凛の細腕では辛かっただろう。

 凛は運動は出来るけど、力のあるタイプじゃないからな・・・・・・。

 

「じゃあ、多分一番リーチがある俺が先頭で、凛には悪いけど、3人いないとリストバンドには届かないし、もう少し頑張ってくれるか?」

 

「分かったよ、頑張る!」

 

 むんっと力こぶを作る後輩に対しては今度何かで(ねぎら)おう。

 

「それでどっちが真ん中に来るかなんだけど・・・・・・じゃんけんで決めてくれ」

 

『ジャンケンポン!! あいこでしょっ!!』

 

 結果は凛、にこ、俺の順番になった。

 けど、2人とも非力だろうし、大丈夫か? これ。

 

「もう休憩終わるし、とっとと始めるわよ」

 

 元はと言えば取られた人が悪いんじゃないですかね?

 まあ、手伝うと言った以上はやるけど、さっ!!

 

 左手でにこの右手を掴んで、左腕を目一杯伸ばす。

 指先が触れるか触れないかの辺りまで25と文字が入ったピンク色のリストバンドが近づくが、あと一歩足りない。

 

 後ろからは凛とにこの苦しそうな声が聞こえてきて、焦りが出る。

 凛には片腕に俺とにこの体重がかかり、にこは俺と凛に左右から引っ張られる形になっている。

 

 現状一番楽なのは俺なんだから根性見せろ!! うぐぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!!

 支えている右足をグッと踏ん張り、左足を可能な限り開脚する。

 

 当然、足は攣りそうになるし、より一層の負荷が後ろの2人にかかってしまう。

 だけどその甲斐もあって、指先でリストバンドを掬いあげることに成功した。

 

 ――その矢先だった。

 

 にこの右手が俺の左手をパッと離す。

 すると、どうなるか。

 

「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!? 何してんだにこバカお前ぇぇぇぇえええ!!!!!!」

 

 当然、俺の体重が前にかかっていたことと、斜面だったこともあり、俺はグングンと加速して坂を駆け降りる羽目になる。

 って冷静に言ってる場合じゃねえよ!!

 

「もう・・・・・・ダメ・・・・・・限、界・・・・・・にゃああああああ!!!!」

 

「ちょっとぉぉぉぉおおおお!!! 踏ん張りなさいよぉ!! きゃぁぁぁぁあああああ!!」

 

 何故か先に走っていたはずの俺に2人が並ぶ。

 

「お前にこぉ!! なんで手離したぁ!?」

 

「しょうがないじゃない!! 重かったし!!! それにこの宇宙No.1アイドルにこにーが男と手を繋いだなんてスキャンダルが出回ったら困るじゃない!!」

 

「お前あの状況でんな下らないこと考えてたのかよ!? というかこの山の中でどこの誰にスキャンダルが広まるんだよ!!! 野生のリスに手を繋いでるのを見られて困ることでもあんのか!?」

 

 俺とにこの口論と共に、斜面を駆け降りる速度も徐々に上がっていく。

 

「2人とも今は口論してる場合じゃないにゃぁぁぁああああ!!!」

 

 凛の叫び声での指摘に口論は止まるが足は全く止まる気配を見せない。

 

「マジでどうすんだよこれ!?」

 

「知るわけないでしょ!? アンタマネージャーなんだからなんとかしなさいよ!!」

 

「この状況にマネージャーは関係ないだろ!! 神様かよ! 俺は!!」

 

「それは自惚れすぎだと思うにゃあ!!!」

 

 軽口の応酬が出来ている辺り、案外余裕があるのかもしれないが、割と本当に切羽詰まっている。

 って、うわ!?

 

「なんで! こんないいところに! 丸太が! 転がって! るんだよ!」

 

「知るわけ! ないでしょ! というか! 無駄口叩いてると! 舌! 噛むわよ!」

 

「にゃ! にゃ!! にゃあああああ!!!」

 

 まるでハードル走のように迫りくる、というよりは俺たちが近づいているだけの地面に転がっている丸太をジャンプで躱していく。

 普通のハードル走と違うのは、俺たちは常に全力で走っている為に全くスピード調整が出来ないということだ。

 

「へぶぅっ!?」

 

「にこぉ!?」

 

「にこちゃん!? 大丈夫!?」

 

 そしてにこは突き出た枝を躱せずに顔から葉っぱの中に突っ込んでいく。

 痛そうってレベルじゃない。

 

「痛いわね!! にこにーの顔に傷が残ったらどう責任取ってくれるのよ!? 優!!」

 

「俺ぇ!?」

 

 全くよく分からない八つ当たりが俺にきた!?

 まぁ木に当たっても仕方がないけどさ!!

 

「にゃ!? にゃあぁぁぁ!? あれ!! 前を見るにゃ!!」

 

『あれって・・・・・・崖ぇ!?』

 

 斜面の終わりには地面がなく、このままだと3人仲良く谷底に向かって真っ逆さまだ!

 下がどうなってるのかは分からないけど、このままじゃやばいってことだけは分かる!!

 

 あー!! もうやるしかねえ!!

 

「にこは左手! 凛は右手を後ろに伸ばせ!!」

 

「それでなんとかなるの!?」

 

「いいから!! 早く!!」

 

 少しだけ歩幅を調整して、体重をやや後ろへとかける。

 すると、止まりはしないけど、俺はにこと凛の背中を追いかける形になる。

 

 そして、俺の言った通りにそれぞれ手を後ろに伸ばしている2人の二の腕の部分を掴んで思いっきり後ろに引っ張る。

 両腕に体重がかかり、走っていた勢いもプラスされて腕が軋みを上げる。

 

「ぐっ!? こ、のぉぉぉおおおおお!!!!!」

 

「ちょっ!? 優!!」

 

「ゆーサン!?」

 

 全体重を乗せて、にこと凛を後ろに引っ張ると2人は尻もちを着いて少しだけ滑った後に完全に勢いを止めて、停止した。

 

 必然的に、俺は2人を引っ張った反動で前へと出る。

 まるでスリングショットから射出される球のように、勢いよく。

 

 眼前にはグングンと崖が近づいてきている。

 これはもうどうしようもないだろう。

 

「うわぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!」

 

 俺の足が何もない空間に足を踏み入れると、刹那に襲い来る浮遊感。

 視線を下に向けると、そこには川があった。

 

 思いのほか、高さはそうでもない。

 でも良かった、もしこの高さからでも落ちたら捻挫してしまうかもしれなかったわけだし。

 

 ――あぁ、本当、2人を助けることが出来てよかった。

 瞬間、俺は自身の上げた悲鳴と共に着水し、激しく上がった水柱に飲み込まれた。

 

***

 

「へっくし!! へっくし!! さみぃ・・・・・・」

 

「ゆー君大丈夫・・・・・・?」

 

「あぁ、大丈夫。ごめん練習中断させて・・・・・・」

 

「全く!! 崖の下が川で深い部分だったからよかったものの・・・・・・もしそうじゃなかったら命を落としていたかもしれないのですよ!!」

 

「あぁ、落ちたのが俺だけでよかったと心底思う」

 

 川から上がった俺はすぐに別荘の方まで戻った。

 先に戻っていたにこと凛が話を通してくれていたらしく、待っていたのは海未のお説教と火のついた暖炉という身に染みるものだった。

 

「まぁまぁ、優くんも無事だったんやし、海未ちゃん落ち着いて」

 

「・・・・・・はあ。すみませんでした。取り乱しました」

 

 希の一言に海未は深呼吸1つでこの話にもオチがついた。

 

「でも海未の言う通りよ? 身を挺して女の子を守ってあげるのはカッコいいけど、あなたが無事じゃないとみんな悲しむんだから」

 

「・・・・・・ごめん、ヘックション!!」

 

「でもゆう君が無事で本当に良かったよ!! 崖に落ちたって聞いた時は心臓が止まるかと思ったんだから!!」

 

「優さん、ケガはしてないみたいだから・・・・・・良かった・・・・・・」

 

 花陽の心配が一番罪悪感があるんだよなぁ・・・・・・マジでケガしないように気を付けよう。

 

「ゆーサン、本当に怖かったよぉ・・・・・・」

 

「凛、俺は大丈夫だから、泣かなくてもいいだろ?」

 

 自然に凛の頭を撫でる。

 

「・・・・・・ふんっ! 助けてもらわなくたって、私ならなんとか出来たわ!」

 

「え、お前宙に浮けんの? 人?」

 

「こ、この宇宙No.1アイドルにこにーにかかれば宙に浮くことぐらい!」

 

「にこっち~? 浮くのはクラスの中だけにしとき? お礼も言えないなんてアイドル以前に人としてどうかと思うな~」

 

「う、うるさいわね!! 今はクラスのことは関係ないでしょ!! 分かってるわよ!! 助けてくれてありがと!!」

 

 まぁ、一連の流れはにこの照れ隠しということは分かっているから、笑って謝罪を受け取る。

 というかお前クラスに友達いないの? 俺そっちの方が心に来るんだけど・・・・・・。

 

「真姫も暖炉使わせてもらってごめんな?」

 

「・・・・・・別にいいけど、あとでちゃんと掃除してよね。その暖炉は冬になったらサンタさんが使うんだから」

 

『サンタさん?』

 

 真姫の一言に、思わず俺たち9人の疑問の声がハモる。

 

 待て待て、整理しよう。

 俺たちの何が疑問なのかと分からないという顔をしている真姫を見る。

 

 まぁ、夢は壊すべきじゃないよな、うん。

 

 俺は真姫以外に目配せをし、黙っておこうとジェスチャーを送る。

 

「ぷぷっ・・・・・・真姫が・・・・・・サンタぁ?」

 

 このバカ!! 何1つ理解してねえ!!

 

「穂乃果! 凛! 希!」

 

『了解!』

 

「ちょっ!! ちょっと!? 何すんのよ!!」

 

 素早く指示を飛ばすと、穂乃果と凛がにこを両側から掴んで宙に浮かす。

 そして希がにこの脇の下から両手を差し込んで簡易型の処刑台が完成した。

 

「さて、被告人。何か言い訳は?」

 

「だって・・・・・・あの真姫がサンタよ!?」

 

 足をジタバタさせて抵抗を試みるにこ。

 

「ふぅ・・・・・・真姫、花陽と一緒に風呂の準備頼めるか? 服乾かして、俺も体を温めたい」

 

「いいけど・・・・・・それなら1人でも出来るじゃない」

 

「ここのお風呂広いから、私真姫ちゃんと一緒に準備したいな~・・・・・・お願いっ!!」

 

「ヴェェエエ!? 分かったわよ!!」

 

 さすが花陽、ことり直伝のおねだりを使うとは。

 真姫は花陽に背中を押されて、部屋を出て行った。

 

「にこ、お前に姉妹はいるか?」

 

「・・・・・・何よ急に? いるけど」

 

「さて、お前はアイドルだな?」

 

「そうよ」

 

「アイドルは人に夢と笑顔を与えるものであって、奪うものじゃないな? あとは分かるな?」

 

 うぐっと喉を詰まらせて、目を逸らすにこ。

 

「分かればいいんだ、じゃ希。あとは頼む」

 

「なんでよ!? もうしないってば!!」

 

『やめるとは言ってないから!!!』

 

 俺と穂乃果、凛と希の声が完璧に揃う。

 

「この鬼畜共ぉぉぉぉぉおおおおお!!!!!!」 

 

 当然、このあとにこの悲鳴が響き渡った。

 

 俺は服を取りに、荷物を置いた部屋へと戻ると着替えを取る。

 暖炉の前にいたおかげで少しは乾いているけど、肌に張り付いて気持ちが悪い。

 

「あ、ゆー君! みんなで話し合ったんだけど、ゆー君がお風呂に入ったあと私たちも汗を流してちょっと早いけど、明日の練習に備えてもう帰ることにするって!」

 

「そうなのか、本当ごめんな? 練習時間少なくして」

 

「ううん、元はと言えば私がスランプに入っちゃったからだし・・・・・・気にしないで?」

 

「あぁ、じゃああまり待たせるのも悪いし、なるべく早めに上がるよ」

 

 俺は若干駆け足になりながら、浴室へと駆け込んだ。

 

***

 

 その後、みんなで暖炉を掃除して、13時を少し過ぎたところで電車に乗り込んだ。

 穂乃果に今度は寝過ごさないようにと注意して、一笑い起きて、無事に東京に着いた。

 

 時刻は16時過ぎ、思ったより早く帰ってこれた。

 あー、どうしようかな・・・・・・そうだ。

 

「早めに隣室の人たちに挨拶を済ませておこう」

 

 合宿に行く前に、大きめの荷物は部屋に送っておいたし、あとは小物を部屋に運び入れるだけだ。

 先に挨拶を済ましておくことに越したことはないだろう。

 

「よし、早速行くか」

 

 菓子折りを穂むらで買い、自分が住んでいる家のすぐ近くにあるマンションへ。

 マンションは10階建てで、俺の部屋は最上階の一番奥にある角部屋だ。

 

 その内、同じ階に住んでいる人にも挨拶にいかないとな。

 でも、もう今日はそんな時間もないし、とりあえず隣人だけ・・・・・・。

 

 インターフォンを鳴らして、中から応答があるのを待っていると、扉が急に開いた。

 

「英玲奈~? あんじゅ~? 今日18時からって・・・・・・あれ?」

 

「・・・・・・ん?」

 

 扉が開いた先には、見覚えのある人が立っていた。

 短めの前髪、ショートカットのデコ出しルックで活発そうな印象を受ける、小柄女の人。

 

 ・・・・・・この人は!?

 

「A-RISEの・・・・・・ツバサさん!?」

 

「確かあなたは・・・・・・μ’sの、八坂・・・・・・優君?」

 

 まさかの部屋から出てきたのは、トップスクールアイドルであるA-RISEの綺羅ツバサ、その人だった。

 

-To be continued-

 




さて、どうでしたか?
最後駆け足になった感が否めませんが、なんとか合宿編も終えることが出来ました。

実はリストバンドや暖炉の展開は前回の話で入れておくべき部分だったのですが、うっかり書き忘れて、急遽後付けで入れさせてもらうことになりました。

それはそれとして、サンシャインの映画も観に行ってきました。
無印とは感動のベクトルが違うものの、終わりの感じも爽やかな感じで私は面白いと思いました!

この無印編を書き終えたらサンシャイン編も小説書きたいなとは思っていますが、だったら投稿早くしろやって感じです。

実はサンシャイン編の方へは繋ぎ方も既に考えており、主人公の設定も頭の中では練り終っています。

まずは頑張ってこの多重奏を進めていきたいと思います!


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A-RISE

今回はサブタイトル通り、A-RISE回です。
えーこの回には作者の妄想による多大なるキャラ崩壊が含まれております。

実際は絶対にこんなキャラじゃないと思うので、そういうのが嫌な方はブラウザバックを推奨致します。


・・・・・・まぁ、二次創作だし、多少はね? という方は先にお進みください。


 ・・・・・・どうしてこうなったんだっけ?

 

 ラブライブ予選の為に新曲と衣装を完成させて、合宿から戻って来た。

 で、俺はマンションの隣室の人に引っ越しの挨拶を済ませようとして、菓子折りを持って隣の部屋のインターフォンを鳴らした。

 そしたらトップスクールアイドルのセンターが出てきました。

 

 ・・・・・・うん、訳分からん!

 

「え、えっと・・・・・・本物で、いいんです・・・・・・よね?」

 

 あまりにも予想外の展開に真っ白になった頭を無理矢理働かせて、ようやく出てきたのはなんともアレな質問だった。

 

 そんな俺の様子に、ツバサさんはクスリと笑った。

 

「えぇ、こっちもビックリしちゃったわ。あのμ’sのマネージャーさんがまさか部屋を訪ねて来るなんてね」

 

「あ、えっと。俺、隣に引っ越してきたので挨拶をしようと思ったんですけど・・・・・・これ、つまらないものですが・・・・・・よかったらどうぞ」

 

 手に持っていたほむまんを差し出すと、ツバサさんはキラリと目を光らせてほむまんを受け取った。

 

「うわー! ありがとう! 私甘いもの大好きなの! 立ち話もなんだから、ほら上がって!」

 

「え!? いや、俺は・・・・・・」

 

「いいから、ほら!」

 

 返答を迷っている内に、ツバサさんは部屋の中に戻ってしまった。

 ・・・・・・まぁ、ここで帰るのはさすがに失礼だよなぁ・・・・・・。

 

 というか思ったより、子供っぽくて押しが強いタイプなんだな。

 ・・・・・・まるで誰かさんみたいだな。

 

 頭の中に浮かんできた、幼馴染を片隅の方に追いやり、ツバサさんのあとに続く。

 

 部屋の間取りは俺の部屋と同じで、1LDKと一人暮らしにしては広々としすぎた間取り。

 何よりもこのダイニングが広い。

 μ’sの9人と俺を合わせて10人入っても問題はないくらいには。

 

 でも、同じなのは間取りだけだった。

 

「・・・・・・んん?」

 

 眼前に飛び込んできた景色が信じられずに、2度、3度と目をこする。

 

「・・・・・・ツバサさん?」

 

「なにかしら? あ、適当なとこに座っていいわよ?」

 

 いや、俺が言いたいのはそういうことじゃない。

 なんていうか、大変言い辛いことだけど、この際ハッキリと聞いてしまおう。

 

「なんですか!? この部屋の散らかり具合は!?」

 

 そう、食べ物類は放置されていないものの、部屋には衣服類や何かの小物が大量に散らばっていたのだ。

 

「あぁ、それね。気にしないで? いつものことだから!」

 

「いやいや! 乙女にあるまじき散らかり具合でしょ!?」

 

 その癖、アイドルグッズの類は完璧に整理されていて、そこだけ切り取ってみればとても几帳面だ。

 あそこだけなんか逆に浮いて見えるんだけど!!

 

「そうかしら? 割と世の中の女性ってこういう感じだと思うけど」

 

「やめて!? 俺の中の女性像が壊れちゃいます!! ていうか自分を女性代表にしないでください!!」

 

「もう、八坂君って英玲奈みたいなこと言うのね?」

 

 そりゃ言うでしょ!! むしろ統堂さんが言ってるのに直さねえのかよ!!

 というかよく見たらツバサさんの服装もジャージだし!! 髪だって若干ぼさぼさじゃん!!

 

「わぁ! このお饅頭美味しいわね!! あ、飲み物は何がいい?」

 

 なんてマイペースな人なんだ!? 既にほむまん一つ食べてる上に口元に餡子付いてるし!!

 

「えっと、お構いなく・・・・・・」

 

 正直叫んだりもしてるし、喉は乾いているけど、今はこの状況を整理したい。

 

「そう? でもお客様にはちゃんとおもてなしをしないといけないし、お茶入れるわね」

 

 そう言うと。ツバサさんはグラスを用意して、麦茶のペットボトルを冷蔵庫から取り出した。

 礼儀が正しいのがもうなんとも言えない。

 

「はい、どうぞ。私はコーラコーラ♪」

 

「ありがとうございます・・・・・・」

 

 手から伝わってくるグラスのひんやり感が俺を慰めてくれているみたいだ・・・・・・。

 

 そんな俺の心労など、微塵も感じとっていないツバサさんは、冷蔵庫から1.5ℓのペットボトルを取り出して、あろうことかそのまま男らしくラッパ飲みし始めたけど。

 

「やっぱりコーラは美味しいわね♪」

 

「出来ることならトップスクールアイドルのセンターの人がコーラをラッパ飲みしてる場面なんて見たくなかったです・・・・・・」

 

 これが・・・・・・あの、ラブライブを制したA-RISEのリーダー・・・・・・。

 にこや花陽にはとても言えない。多分、いや、絶対知ったらショック死する。

 

 PVで見かける彼女は、クールに見えて大人っぽくて品格溢れるカリスマオーラを持っているわけで、目の前の人は全く真逆の人物像だ。

 ずぼらで子供っぽくマイペース。礼儀は正しいけど威厳なんて微塵も感じられない。

 

「・・・・・・はぁ」

 

「どうしたの? ため息なんて吐いて」

 

「いえ、知らない方がいいこともあるんだなって思って」

 

 これ以上のツッコミはきっと誰も得をしない。

 よし、考えるのをやめよう。

 

「あ、1つ質問いいですか?」

 

「むぐむぐ・・・・・・何?」

 

「どうして俺の名前とか知ってたんですか?」

 

 無邪気にほむまんを食べているツバサさんに引っかかっていたことを尋ねる。

 

 俺は基本的には表舞台には出ていない。たまにμ’sのブログに写真とかが載る程度だし、全く有名人じゃない。

 

 だからこそ、名前すら知っていたことに今更ながら驚いた。

 

「そんなの、私がμ’sの大ファンで、ブログも度々チェックしてるからに決まってるじゃない!」

 

「・・・・・・そうなんですか?」

 

 そういえばアイドルグッズだけはやたら綺麗に整列しているし、アイドル好きなんだろうなとは思った。

 

「えぇ! だから前回のラブライブを棄権したって聞いてショックだったわ! せっかく生でμ’sのライブが見られるって思ってたのに!!」

 

「いや、一応俺たちって優勝争いとか、勝ち上がることを目指して競い合う間柄じゃないですか」

 

「そんなこと関係ないわ! 私はスクールアイドルA-RISEである以前に、アイドルが好きな女子高生、綺羅ツバサでもあるんだから!!! 好きだから自分でもやってるし、好きだからファンになって応援もする!! そこに敵も味方関係ないでしょ?」

 

 ・・・・・・すっげえ、なんていうか、今・・・・・・ようやくこの人がトップである理由が分かった気がする。

 ツバサさんはただ、アイドルが大好きで、好きなことを好きなようにやり続けている。

 だから、この人は輝いて見えるんだ。PVの中のツバサさんは好きなことを思いっきりやっているから、常に全力だから、勝ち負け関係なく、自分が楽しめているか否かのスタンスを貫き通せるんだ。

 

 そのカリスマ性はまさにμ’sのリーダー穂乃果、アイドルに対しての情熱は花陽とにこクラス。いや、それ以上かもしれない。

 

 思考にふけっていると、どこからか軽快なリズムの着信音が響き始めた。

 ツバサさんの携帯だよな・・・・・・近くに埋もれてるのか?

 

「あ、私のスマホだ。多分その辺にあるはずだから、一緒に探してくれない?」

 

「はぁ、いいですけど。というかスマホ雑に扱いすぎじゃないですか?」

 

「いいのよ、部屋でのアイドルの情報収集は寝室にあるパソコンでやってるし、頻繁に連絡取ってくるのも英玲奈かあんじゅぐらいだから」

 

 この分だと寝室もとんでもないことになってそうだ・・・・・・。

 そもそもなんでスマホが服類の山に埋もれてるんだよ、常備してないのか? あ、今日日曜か。

 多分、たまたま練習が休みで、休日だったから余計に散らかってるんだ、そうに違いない。

 

「えっと、音からしてここ、かな? あ、あった。ありましたよ、ツバサさ・・・・・・っ!?」

 

「ありがとう! うわぁ、やっぱり英玲奈からだ・・・・・・」

 

「いや、ちょっ!? 手元見てください!!」

 

「何を言っているの・・・・・・あ」

 

 ツバサさんのスマホを掴んだ俺は思わず声が裏返ってしまった。

 なぜなら、スマホに付いているキーホルダーに引っかかって、ライトグリーンのパンツが釣れてしまっていたから。

 

 つまり、ツバサさんは今パンツをスマホからぶら下げて、電話に出ようとしていた。

 

「・・・・・・きゃあ!!」

 

 凄まじい勢いでスマホからパンツを分離させ、衣服の山の中に手を突っ込んで隠すツバサさん。

 

「ツバサ!? 近くまで来たから電話をかけてみたんだが、何だ今の悲鳴は!? 大丈夫か!?」

 

 そんな声と共に、一人の女性が部屋の中に駆け込んできた。

 切れ長の瞳と左目の下には泣きぼくろがあって、更には長身のスラリとした、かっこいい雰囲気の女性。

 

「統堂英玲奈さん!? ・・・・・・って、うぉ!?」

 

「貴様ァ!! ツバサの部屋でツバサに何をしているこの下種がァ!!!」

 

 物凄い勢いでこっちまで走ってきたかと思うと、真っすぐに顔に向かって右ストレートを放ってきた!?

 

「ちょっ!? 話を!! 聞いて!! 下さい!!」

 

 いや早い早い!! こんなパンチ喰らったら顔吹っ飛ぶって!? 

 捌いて、避けてを必死に繰り返す。

 

「うわぁ!! すごいわね!! 英玲奈のパンチをここまで躱すなんて!! まるでドラマみたい!!」

 

「いや!! そんなこと言ってないで、いい加減助けてもらってもいいですか!?」

 

 少し、目を離してから英玲奈さんの方に視線を戻すと、何故か英玲奈さんの背中が視界に飛び込んできた。

 

「はぁっ!!!!!」

 

 迫真の気合と共に長い足が喉元へと伸びて来る。

 

 回し蹴り!? 当たったら絶対死ぬ!!

 

「はいはい、英玲奈。スト~ップ」

 

 部屋の入り口から聞こえてきた声に、英玲奈さんの踵が喉元数cm手前でピタリと止まる。

 

 た、助かった・・・・・・。

 

「あ、ありがとうございます・・・・・・。命拾いしました」

 

「いえいえ~、ほら英玲奈、早とちりしすぎよ。よく彼の顔を見て?」

 

「・・・・・・君は、μ’sのマネージャーの・・・・・・」

 

 ゆるめのふわふわとした声に、英玲奈さんは目をパチパチと瞬かせ、キョトンとしている。

 

「えっと、本当・・・・・・助かりました、優木あんじゅさん」

 

 英玲奈さんを止めてくれたのは、A-RISEの3人目、優木あんじゅさんだった。

 身長はツバサさんより高く、英玲奈さんよりは低い。

 

 声と同じくふわふわとしたパーマがかかったセミロング、なんというか全体的に甘々な雰囲気を漂わせているお嬢様みたいな人だ。

 

「す、すまない・・・・・・悲鳴が聞こえてきたから、ツバサが襲われているとばかり・・・・・・」

 

「そもそも、どうしてツバサは悲鳴を上げていたの?」

 

『え、ええっと・・・・・・それはぁ・・・・・・』

 

 あんじゅさんの疑問に俺とツバサさんの声がシンクロして、その様子を見たあんじゅさんは笑みを深くしている。

 

「はは~ん、大体分かったかも。まず、英玲奈が電話をかけてきた時、ツバサの携帯はきっといつも通りこの部屋の衣類の下に埋もれていた、それで探すのを八坂君に手伝ってもらって・・・・・・スマホと一緒に何か悲鳴を上げるものを引っ張り上げてしまった、ここまでは合ってる?」

 

「すごいですね、完璧です」

 

 どんだけ洞察力と推理力を持ってるんだろうこの人。

 僅かな情報だけで、ここまで完璧に推理してみせる人なんて初めて見た。

 

「んー、多分だけど・・・・・・この部屋高い位置にあるし、部屋自体は虫とか湧く環境じゃないと思うから~、きっと下着類ね」

 

「正解よ、さすがあんじゅね!」

 

 ツバサさんの称賛に気をよくしたのか、あんじゅさんは衣類を軽く除けてから満足そうにソファに座った。

 

「相変わらず、あんじゅの推理力には感服する・・・・・・だが!!」

 

 英玲奈さんはツバサさんをギロリと睨みつけ、足音も重く、壁際まで部屋の主を追い詰める。

 

「あれほど・・・・・・部屋はちゃんと片付けろと言っているよな? なぁ、ツバサ?」

 

「え、ええっと・・・・・・顔が近いわ、英玲奈? あとあんまり怒りすぎると綺麗な顔にしわがついて取れなくなるわよ?」

 

 ツバサさんの一言に英玲奈さんの瞳が更に鋭くなる。

 

「誰のせいだ!! 誰の!! 大体ほんの三日前に来て部屋を掃除したばかりだろう!? どうしてまたここまで汚すことが出来るんだ!!」

 

「うーん・・・・・・才能」

 

「うるさい!!! 今日という今日は絶対に許さないからな!!!!」

 

 ポカンとする俺に、愉快そうに2人を眺めるあんじゅさん。

 これが全スクールアイドルの憧れのトップユニットの日常・・・・・・。

 

「あ、そういえば八坂君はどうしてツバサの部屋にいるの?」

 

「実は俺、この部屋の隣に引っ越してきまして・・・・・・挨拶をしに来たんですよ」

 

「へぇ~!! 偶然ね! ここはツバサのお爺様が管理しているマンションなの」

 

「・・・・・・ツバサさんってもしかして結構お嬢様なんですか?」

 

 つまり、父さんとツバサさんのお爺さんは知り合いだったということになる。世間は狭いね。

 

「ツバサも昔はこうじゃなかったんだけどね~。どこに出しても恥ずかしくない名家のお嬢様だったし、性格だって大人しいものだったわ」

 

「それがどうしてここまで自堕落に?」

 

「名家のお嬢様らしく、教育方針で色々と教え込まれていて、窮屈だったんでしょうね。一人暮らしになった途端にこうなったから・・・・・・反動じゃないかしら、外ではしっかり者らしく振舞うんだけど、部屋に帰ってくると気が緩んじゃうみたい」

 

「大変なんですね・・・・・・いや、部屋ぐらいはちゃんと片付けた方がいいとは思いますけど」

 

 それにしても、反動が大きすぎるよなぁ・・・・・・。

 

 ぎゃあぎゃあと言い合いを続けている2人をよそに、あんじゅさんとの会話を進めていく。

 

「3人は幼馴染なんですか?」

 

「えぇ、一応ツバサのお目付け役、ってことになってるわ」

 

 なんていうか、この3人の関係性が、穂乃果と海未、そしてことりたち3人のようなものだということが分かった。

 バランスのいい3人組だな。

 

「八坂君! 君からも何か言ってやってくれ! 男性からして部屋を片付けられない女性なんてありえないだろう?」

 

「八坂君、英玲奈に言ってあげて! 男性からして細かいこと気にしすぎる女性はありえないでしょ?」

 

「うーん、部屋ぐらいちゃんと片付けましょうよ」

 

「そんな!?」

 

「ほら見たことか!!」

 

 まあ、確かに細かいこと気にしすぎる神経質なタイプは苦手だけど・・・・・・これは全く細かくないと思う。

 というか勝ち誇ってる英玲奈さんに何か言うとボコられそうなので、何も言いたくないっす。

 

「そ、そういえば! μ’sはもうどこでライブするのかは決めたの!?」

 

 ツバサさんが必死に話題を逸らそうとして、俺に話題を放り投げてきた。横では英玲奈さんが話を逸らすなと叫んでいるけど、俺自身もその話題事態には興味があった為、スルーさせていただく。

 いや、決してさっきの回し蹴りにビビっているわけではない、うん。

 

「・・・・・・ライブの場所ですか、正直言ってどこでやるかとかはまだ考えてませんでしたね」

 

 今回のラブライブ予選では参加チームが多いから、運営が用意した会場以外でも歌うことが許されていて、もし自分たちで場所を決めた場合はネット配信でのライブの生中継を行い、そこから全国の人にライブを見てもらえるみたいだ。

 つまりはどこでライブを行うかも、投票数に絡んでくるということだ。インパクトが強ければ強いほど、印象に残りやすくなって票ももらいやすくなるかも知れない。

 まぁ、それでも結局はダンスの内容と歌が重要だとは思うけど、やれることはやっておくに越したことないよな。

 

「A-RISEはライブの場所は決まってるんですか?」

 

「私たちはUTX学院の屋上よ、どこでやろうとも私たちに出来る最高のライブをするだけだから」

 

「あんじゅの言う通りだ、どこでやろうとも私たちにかかれば最高のライブステージに変えて見せるさ」

 

「と、言うことよ」

 

 A-RISEの3人は一瞬の迷いもなく、そう言い切った。

 これが・・・・・・トップスクールアイドルか・・・・・・。

 

 そこには普段からの血の滲むような努力から来る絶対的な自信が見えて、さっきまでコント同然の空気だったはずなのに、一瞬でピリッとした空気に切り替わるのが肌で感じ取れる。

 それは実質、宣戦布告とも取れるような発言だった。どこでやろうとも最高のライブをしてみせるから、誰と競い合おうと絶対に負けないという強い意志。

 

 ツバサさんはさっき敵も味方も関係無いと言っていたけど、それも本心だろうけど・・・・・・この人、いや、この人たちは相当な負けず嫌いだ。

 負けて気分がいい人間なんていないだろうけどさ、それにしたって、この人たちのは隠し切れない獰猛な獣のような鋭さを思わせる。

 

 呆気に取られて、思わず口を閉ざしてしまう。何か言い返さないと、勝負が始まる前から気迫で押されてどうする! 

 

「俺た『ぐぅ~!』ちょっと、いいところでお腹鳴らさないでもらえます!? なんかこのあとどんなカッコいいこと言ったって絶対締まらないでしょこれ!! どうしてくれるんですか!?」

 

「ごめんね、そろそろ晩御飯の時間だから」

 

「さっきほむまん2つ食べてたでしょうが! どんだけ腹に獰猛な獣飼ってるんですか!!」

 

 どうやら隠し切れない獰猛な獣は食欲だったようだ、うるせえ、ちくしょうが。

 

「・・・・・・でも、もうこんな時間ですか。そろそろ俺も失礼しますね。このあとスーパーに行って今日の晩御飯の材料を買わないといけないので」

 

「・・・・・・君が作るのか?」

 

「料理出来る系男子って素敵ね、何を作るの?」

 

「今日は仕込む時間もないし、簡単に丼物・・・・・・親子丼とかにしようかと」

 

「・・・・・・親子丼」

 

 ツバサさんがジッと見つめてくる。・・・・・・一体どうしろと?

 

「じゃ、俺はこれで」

 

 部屋を出ようとすると肩をガッと掴まれた。

 

「・・・・・・食べたいんですか?」

 

 めっちゃ勢いよく首を縦に振り始めたんですが。さっきまでのシリアスはどこに?

 

「いいですけど、ツバサさんは自分で料理とかしないんですか?」

 

「出来るけどめんどくさい」

 

「ツバサはやらせれば大体何でも出来るぞ、めんどくさがりなだけで」

 

「テストも90以下は取ったことないわよね」

 

「超人かよ・・・・・・統堂さんと優木さんも食べますか?」

 

 何気なく聞いてみると、2人して思案するような顔になった。

 

「では、ご相伴に預かろう。あと私のことも英玲奈でいい、ツバサを名前で呼んでるんだ。気にすることはないだろ? 私は優君と呼ばせてもらおう」

 

「私もあんじゅでいいわよ。ゆうくん」

 

「私も優くんって呼ばせてもらうわね」

 

 コミュ力高すぎぃ・・・・・・そういえばツバサさんは最初から名前呼びだったな。特に気にも留めなかった。

 

「えと、じゃあ4人分材料買って来るんで、その間に部屋の片づけお願いします。さすがにこの環境でご飯は食べられないんで」

 

「え゛っ!?」

 

「そうだな、こんな環境じゃあ、なぁ?」

 

「そうね、こんな環境じゃあ、ねぇ?」

 

 顔を引き攣らせるツバサさんに悪い笑みを浮かべて詰め寄る英玲奈さんとあんじゅさん。まるで悪魔みたいだ。

 俺は巻き込まれない内に部屋を抜け出して、自分の部屋に財布を取りに行く。

 財布を取ってから、スマホを使って電話帳から相手を選択し、電話をかける。

 

『あ、もしもし? 花陽?』

 

『はい、もしもし? 優さん? どうかしたの?』

 

『ごめん、合宿終わって疲れてるだろうけど、明日のことについて話しておこうと思って』

 

『ううん、疲れてるのは優さんも一緒だから、気にしないで? それより話って?』

 

 今の一瞬のやり取りで俺の疲れはどこか彼方の方へぶっ飛んでいった。声だけで体力回復効果があるんですか?

 

『ライブ会場のことなんだけど、明日の内に決めてしまった方がよくないか?』

 

『えと、分かった。そのことについて明日みんなで話し合おうってことだよね?』

 

『あぁ、そういうことだ。じゃ、いきなり電話かけてごめんな? おやすみ』

 

『いえ! (電話をかけてもらえるのは嬉しいから)・・・・・・ってなんでもないです!! おやすみなさい!!』

 

 ブツリ、と物凄い勢いで電話が切られた。声が小さすぎて最後の方はなんて言ってるのか聞き取れなかったけど、まぁ、気にしないようにしよう。

 

 さ、晩飯の材料買いに行くか。でも、まさか引っ越した先の隣人があの綺羅ツバサさんだったなんてな、にことかに言ったらさぞ面白い反応をしてくれるだろうな。いや、信じてもらえないか。こんな作り話みたいなこと。

 

-To be continued-

 




如何でしたか?
A-RISEについては作中でほとんど語られていないので、どんなキャラにしようか想像するのは楽しかったです。

リハビリがてら、作品を書いていますので、苦労はしていますが、やっぱ書くの楽しいからやめられないんですよね。

では、次回に続きます。


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残響跳弾ハウリング

お待たせしました。語呂だけは無駄にいいサブタイトルです。


「えっと、つまり・・・・・・ライブをする場所は自分たちで選んでもいいってことぉ・・・・・・でいいんだよね!」

 

「そういうことだ。あとこれ公式のHPとかルールブックに書いてあることなんだけど・・・・・・さてはお前読んでないな?」

 

「うっ・・・・・・いやぁ、えへへ~! 文字を読むと眠くなっちゃって~」

 

 なるほど、それで現国と古文の授業の時は寝るのが早いんだな? 俺の席は穂乃果の1つ後ろで窓際の1番後ろの為、授業中にクラスのみんなが何をしているかもよく見える。

 ちなみに、穂乃果は現国と古文の時は3分で眠りについている。カップラーメンか、お前は。

 

「穂乃果?それでもルールぐらいはちゃんと読んでおかないと駄目じゃない」

 

「絵里ちゃんごめんなさい! 帰ったらちゃんと読んでおきます!!」

 

 いいぞ、絵里。もっと言ってやってくれ。

 

 A-RISEとの突然の邂逅から、時間が経って翌日のことだ。昨日花陽に電話で話した通り、俺たちは昼休みの時間を利用して練習を終えたあとに部室に集まって緊急ミーティングを開いて、会場を決めようと話を進めているというわけだ。

 

「・・・・・・こほん、では、穂乃果に説明をするついでとして、ルールを順に追って話していきます」

 

 色々と図が書かれたり、文が書かれたりしているホワイトボードの前に海未が立って、注目を集めるように手拍子をする。

 

「まず、各グループの持ち時間は5分! 出演時間が来たら自分たちのパフォーマンスを行い、このHPにその様子が表示されて、そのライブを見たお客さんが良かったグループに投票をして、順位が決まるのです。ここまではいいですね?」

 

 俺たちは無言で頷いて、それぞれが思考を巡らせるように、ラブライブの公式HPが表示された画面を食い入るように見つめる。

 

「そして、上位4組が最終予選に上がることが出来るのよね?」

 

「はい、その通りです」

 

「4組か・・・・・・かなり狭き門ってことよね」

 

 絵里の言葉に頷きと共に、静かに答える海未に、顔を顰めてラブライブに出る為に突破しないといけない壁のことを考える真姫。

 4組か、確かに狭く、厳しい門だけど、俺は絶対にμ’sなら突破出来るって信じている。根拠も確証もないけど。

 

 だけど、実際は4組ではないはずだ。

 

 ――なぜなら

 

「特にこの東京地区は1番の激戦区やからね・・・・・・それに」

 

「この東京地区には・・・・・・彼女たちがいます。全スクールアイドルの憧れでトップの彼女たちが・・・・・・」

 

『A-RISE・・・・・・』

 

 希の言葉を花陽が引き継ぎ、最後はみんな同じ考えに辿り着いて、同時に呟く。

 そう、この東京地区予選には彼女たちA-RISEがいる。前回のラブライブを制し、既に人気は全国区の彼女たちが・・・・・・まず、A-RISEは確実に予選を通って最終予選に勝ち進むと断言してもいいだろう。

 だから、予選を突破する為の枠は残り、3つしか残っていないと考えてもいいはずだ。

 残り3つの枠に入る為にも、μ’sは最高のライブにしてみせなきゃいけない。

 

 全員が同じ発想に至ったのか、空気がより重いものになっていく。腕を組んで険しい顔をする人、俯きながら目を閉じて思案する人。反応は様々だったけど、考えることはみんな同じなはずだ。

 

「でもさ! あと3つもあるんだよ!! 私たちのベストを尽くせば、きっと大丈夫だよ!! 頑張ろうよ!!」

 

「穂乃果・・・・・・そうだよな。やってみないと結果なんてどう転ぶか分からないもんな!」

 

「そんな甘い考えでラブライブ予選を勝ち抜けるとは思わないわ。この大会にかける想いはどのグループだって一緒よ! みんな死に物狂いで枠を勝ち取りに来るわ!」

 

「・・・・・・前回のライブではランキング上位20グループまでしか本戦には参加出来なかったんだから、どこのグループだって下剋上を、トップを目指して最高以上のライブをすると考えておいた方がいいんだよね・・・・・・」

 

「それでもやるったらやる!!! 私たちだってラブライブ優勝を目指してやってるんだもん!!! 諦めない!!」

 

「凛も穂乃果ちゃんに賛成!! 退くなんて選択出来るわけないにゃ!」

 

 にこも花陽もアイドルに対しての想いはかなり大きい。だからこそ、簡単に勝ち抜けるとは思っていないんだろう。それでも、穂乃果は諦めない。むしろ、その強すぎる、心のアクセルを緩めるどころか、いつも以上にフルスロットルで唸らせている。

 その想いは、周りの人間を、俺たちを巻き込んでどんどん大きく、凶暴なものに成長していくんだ。

 

「・・・・・・で、会場はどうしようか?」

 

 なんとも締まらないリーダーの言葉に、俺たちは思わず椅子からずり落ちた。

 さっきまではカッコいいと思ってたのに! 前言撤回だ!!

 

「その為のミーティングだ! 何か意見がある人から言っていってくれ! 海未、書記を頼む」

 

「はい、分かりました」

 

 ホワイトボードの前に移動して、裏返して、真っ白な面を用意する。みんなは案を考える為に、ノートを取り出して色々書いたり各自が相談をしたりし始めた。

 

「はい! この学校をステージにするとか!」

 

「学校を?」

 

「うん! ここなら緊張せずに私たちらしいライブが出来るんじゃないかなと思って! どうかな?」

 

「なるほど・・・・・・確かにそうだな」

 

 緊張してしまうとどうしても動きが硬くなってしまいがちだし、μ’sの、彼女たちらしさを最大限発揮出来るような環境でライブが出来るということはかなり有利な点になるはずだ。

 普段から緊張しやすい性格の海未や花陽にとってはアウェーな環境よりはホームグラウンドでパフォーマンスをしてもらった方がいい、とは思う。

 

「ちょっと待って! その考えは甘いわ!」

 

「にこちゃんの言う通りだと思います!」

 

 甘いのか? 俺には結構いいアイデアに思えたんだけどな・・・・・・。

 でも、にこと花陽、この2人の意見はアイドル知識に乏しい俺たちにとっては有益すぎると言っても過言ではないし、きっと2人にしか見えていないものがあるんだろう。

 

「中継というのは1度切り、失敗は効かないんです! もし、失敗してしまえばそのライブが全世界にさらされてしまうことになるんだよ!!」

 

「それに!! 生で見てもらうよりも中継の方が難しいのよ!! 画面の中で目立たないといけないから目新しさも必要になってくるんだから!!」

 

 目新しさってなんだ? 画面越しでも見劣りしない強烈な何かがいる・・・・・・それは一体なんだ?

 

「うーん・・・・・・とりあえず、校舎を見て回ってみない? なにか新しい発見があるかもしれないし、こうして部室で考えっぱなしよりはいいアイデアが浮かぶかもしれないよ?」

 

「ことりの言う通りね。時間も限られてるし、決定とはいかないかもしれないけど、アイデアが見つかっていればそこから新しいアイデアも生まれやすくなるわ。早速行きましょ」

 

 絵里はことりの意見に賛同し、立ち上がって部室の外へ出ていく。それに伴って、みんなは次々と部室の外へ。

 あ、一応ビデオカメラも持っていっておこう。画面越しに見てどう見えるかっていうのも分かると思うしな。

 

「希、ビデオカメラってどこにやったっけ?」

 

「ん~? 生徒会室やない? あれって元は生徒会の備品やし」

 

「そうだったか? ちょっとビデオカメラ取りに行ってくるから、みんなに伝えておいてくれないか?」

 

「ええよ~、じゃ先に行ってるね~」

 

 急いで取ってこよう。俺は希とは反対方向に向かって駆け出した。

 

***

 

「でも、目新しさってどうすれば出せるのかな・・・・・・奇抜な歌とかかにゃ?」

 

「衣装とかも雰囲気を変えて見た方がいいのかな?」

 

 ことりと凛の意見はもっともらしいけどなぁ。

 

「例えばセクシーな衣装なんてどうや?」

 

 μ’sのセクシーな衣装と聞いて。っとダメだダメだ! こういうことを考える時は部屋で1人きりになってからでも遅くはないはずだ、うん。いや、でもちょっとだけなら・・・・・・。

 

「んふふ~・・・・・・ところで優くん? 今何考えとるの?」

 

「セクシーな衣装について原稿用紙3枚分ぐらい詳しく話を聞きたい――ハッ!?」

 

 やっべ、つい口から本音が零れてしまった!! やめて!! みんなしてそんなドン引きした目で俺を見ないでくれ!!!

 それについては高速の土下座を披露しつつ、咳払いと共に立ち上がる。

 

「む、無理です!」

 

「チャイナドレスとか?」

 

「無理ですぅ・・・・・・」

 

「バニースーツとか?」

 

「・・・・・・」

 

「もうやめたげて!! 海未が息してないから!! しっかりしろ、誰もやるだなんて言ってないから!!」

 

 希が意地悪く、海未の耳元で囁き続けて、遂に海未から反応が消えた。あまりのいたたまれなさに思わず涙がっ・・・・・・!!

 

「じゃあえりちのセクシードレスとか?」

 

「――詳しく」

 

「気持ち悪い」

 

 うん、正直ごめんな、真姫。俺が全面的に悪かったからその目をやめていただいてもよろしいでしょうか? マジ怖いんで。

 

「着ないわよ!! いい加減にしてよ、希!!!」

 

 全世界中の男の夢が今、断たれた。いや、もういい加減話を戻そう、マジで。

 

「ふんっ!!! 私だってそんなもの着るのは嫌だからね!!!」

 

『いやいや、にこ(ちゃん)には誰も頼んでないから』

 

「よっ!! せいっ!!」

 

『イッタ!?』

 

 お前ローキックはやめろよ・・・・・・仮にもアイドル志望なんだからさ・・・・・・ちなみに凛は脇腹をつつかれ涙目で悶えている。

 

「というか・・・・・・何人かで気を惹いても仕方ないよぉ・・・・・・」

 

「・・・・・・それもそうだな」

 

 そもそも、既に衣装も歌も決まってるんだから、今更変えようがなかったな。なんて無駄な時間だったんだ。

 

「――はぁ、こんなことよりもまず先にやるべきことがあるでしょ? このままだと外で話し合ってるだけ時間の無駄だし」

 

 そう言うと、真姫は校舎の方に歩き始めて、呆気にとられる俺たちを置いて1人、校舎の中へ。やるべきこと・・・・・・なんかあったっけ? まぁ、着いて行ってみれば分かるか。真姫のことだから、確実に無駄足になるってことはそうそうないだろうし。

 

 急いで真姫の背中を追いかけていくと、2階のとある場所で立ち止まる。ここは・・・・・・。

 

「放送室? 一体なんでだ?」

 

 上に付いている教室名の札は放送室と書かれていて、見間違いではないようだ。というかまぁ、扉も開いて中も見えてるんだから、見間違えるはずもないんだけど。

 

「真姫のことですから、きっと何か考えがあってのことなのでしょうし、とりあえず中に入りましょう」

 

 海未の発した言葉に、俺は放送室へと足を踏み入れ、普段あまり見ることのない機材が置かれた室内を見回してみる。

 

「あ、西木野さんっ! 今日はどうしたの?」

 

「こんにちは。いきなりで悪いんだけど、ちょっと放送をしてもいい? 必要になっちゃったの」

 

「うん、お昼の放送でよければ大丈夫だよ」

 

 そこまで話すと、真姫は話を切り上げて俺たちの方に向き直る。

 

「こうやってマイクに向かって話せばアピールにも繋がるし、応援もしてもらえるでしょ? 中継される時の練習にも繋がるんじゃない?」

 

「なるほどぉ! さすがは真姫ちゃんだねっ!!」

 

 確かにそうだ。しっかりと生徒にアピールをし、なおかつ全校生徒に話をするということに慣れていれば、本番での緊張も少しは和らぐだろう。・・・・・・ここまで考えることが出来るなんて・・・・・・

 

「さすがは真姫!! 愛してるぜ!!」

 

「え゛っ!? 急に何言ってるのよ!? ここここ、このぐらい誰だって思いつくでしょ!? 意味わかんない!!!!」

 

 ノリと勢いで思わず叫んでしまった。さっきまで意見らしい意見も出てなかったし、このアイデアが何よりもいいアイデアだった為、ちょっと興奮してしまった。

 

「・・・・・・ごめん、思わずノリで言った。――ところで海未さんや」

 

「はい、なんでしょう?」

 

 赤面して狼狽え始める真姫から目を逸らすと、その先には何故かとても爽やかでいい笑顔をしている海未と頬を膨らませてこっちを見ていることりが。

 

「なんでさっきから俺の足にローキックかましてるの? 痛い痛い」

 

「いえ、急にローキックの練習がしたくなったんです。お気になさらず」

 

「ことりはなんでそんな顔してるんだ?」

 

「知らないもんっ、ゆー君なんて!」

 

 威力は抑えられているものの、連続して同じ場所にピンポイントでローキックを当てられるとさすがに痛い。俺のふくらはぎはもうダメかもしれない。きっと俺はもうピッチには立てない。ごめんな、ボール。せっかく友達になったのに。

 

 何気にローキックのダメージよりもことりのその反応の方がダメージが大きい。でも可愛い。

 いい加減本当に痛いし、ちょっと離れよう。ん、どうして花陽と凛は真姫を感動したような目で見つめてるんだ?

 

「2人とも、どうしたんだ?」

 

「だって・・・・・・真姫ちゃんが凛とかよちん以外のクラスメートと話してるんだよ?」

 

「頑張ったんだね・・・・・・真姫ちゃん!」

 

「そんな感動するようなことじゃないでしょ!? というか日直でたまたま一緒に話すようになっただけよ!!」

 

 真姫は照れ隠しで再びそっぽを向いてしまった。友達2人から別の友達を作ったことを喜ばれるって・・・・・・真姫、お前・・・・・・またちょっと涙が出てきた。

 

「えっと、どうして優くんが涙ぐんでるの?」

 

「いや、ちょっと・・・・・・太陽が眩しくてな」

 

「ここからじゃ太陽見えないわよ、大丈夫? 頭やられた? 病院行く?」

 

「ぶっ飛ばすぞ」

 

 絵里と話していたらにこが煽ってきやがった。さっすが煽りスキル全振りのパイセンだぜ。ついつい乱暴な言葉遣いになってしまったじゃないか。

 

「もうコントは終わりにして。早くしないとせっかくの時間が無くなるじゃない」

 

『コントなんてしてないわ』

 

 どうもありがとうございましたー。心の中でそう締めくくっておこう。というかにこと声が被ったせいで本当にコントみたいになったじゃねえか。真姫がやっぱりコントじゃないと言いながらため息を吐いてるのがその証拠だ。

 

「ほら、穂乃果。挨拶お願い」

 

 絵里に背中を押された穂乃果はマイクの前に立って1度、2度と続けて深呼吸をする。

 

『あー、みなさん! こんにち――うがっ!?』

 

 そして、挨拶と共に勢いよく頭を振り下ろし、マイクに頭突きをかます我らがリーダー。というかうがって普段生きてて女子が発しない言葉だろそれは。

 

「大丈夫か!? 穂乃果!!!」

 

「う、うん!大丈夫だよー―」

 

「――機材は無事か!?」

 

「って機材の心配!? ゆう君酷いよ!! どうして穂乃果を心配してくれないの!?」

 

 だって絶対大丈夫だから。あと機材壊したら弁償代とかバカにならなそうだし。まぁ、でもこれで掴みはオッケーかな? 放送部員の子たちもクスクス笑ってるし。おい、やめろ穂乃果。揺さぶるな鬱陶しい!!

 

 なおも心配してよ、ねぇねぇ! と俺の肩を掴んで揺さぶり続ける穂乃果は完全スルーの方向で。

 

『えーっと今のがμ’sのリーダー、高坂穂乃果で、一応俺がμ’sのマネージャーをやっています! 八坂優です! ほら穂乃果、いつまでも駄々こねてないでちゃんと言うべきこと言わないと、誰も応援してくれないぞ?』

 

『はっ! それは困る! えーっと、こほん。――改めまして、μ’sのリーダーをやってます! 高坂穂乃果です! 実は私たち、またライブをやるんです! 今度こそラブライブに出場して、優勝を目指します! みんなの力が私たちには必要なんです!! ライブ、みなさんぜひ見てください!! 一生懸命頑張りますので、どうか応援よろしくお願いします!!! 高坂穂乃果でした!!』

 

 こいつやっぱカリスマ性半端ないな、よくもまぁ、ここまで簡単に人を惹き付けられるもんだよ、本当。放送室の窓から外を見ると、運動部や食事中の生徒たちがみんなしてスピーカーの前で立ち止まって穂乃果の声に耳を傾けている。俺にはとても真似できそうにないどころか、真似したら誰1人として立ち止まってもくれなさそう。あれ? 俺、人望無さすぎじゃね?

 

「で、ここからどうするんだ?」

 

「う~ん・・・・・・せっかくだし、他のメンバーも紹介とか?」

 

「時間的に考えて2人が限度ってところだから、1番緊張しそうで練習が必要な人?」

 

「ということは、もう決まってるやん」

 

 ・・・・・・それって、

 

「えっ!?」

 

「わ、私たちですか!?」

 

 絵里の発言と希の相槌に視線は自然と海未と花陽に向かう。まあ、そうだよな。

 

『じゃあ、他のメンバーも紹介! ほら海未ちゃん! 花陽ちゃんも!」

 

「あわわわわわ・・・・・・」

 

「誰か助けて誰か助けて誰か助けて・・・・・・」

 

 見てて可哀そうになってきた・・・・・・本当に大丈夫か、これ。

 

『――園田海未役をしています、そ、園田海未と・・・・・・申します』

 

 お前は一体何を言っているんだ。

 

(みゅ、μ’sのメンバーの・・・・・・)(こ、小泉花陽です。)(好きな食べ物は・・・・・)(白いご飯です。)(あ、あの、ラ、ライブ)(・・・・・・が、頑張ります)

 

 声小っさ!? ほとんど聞き取れなかったけどなんか海未よりはまともなこと言ってるんだろうなとは思ったけどさ!!

 

「もう・・・・・・マイクの音量上げてくれる?」

 

 真姫が放送部員の子に音量を上げるようにお願いしてるけど、マイクの音量上げただけで拾えるか? この蚊の鳴くような声。

 

(おーい、もっと声出して!)(こ~えっ!)(出~し~てっ!)

 

 凛がマイクに入らないように声を落として、指示を飛ばすけど、花陽と海未はオロオロとするばかりでまるで指示の意味を成していない。

 

 ・・・・・・おい、ちょっと待て。なんで穂乃果がこっちに向かってサムズアップしてるんだよ。ってまさか!? 

 

「みんな! 耳を塞げ!! 早く!!!」

 

 ――そう声を張り上げた瞬間だった。

 

『イエーイ!!! そんなわけで!!! みんなぁ!!! μ’sの応援よっろしくぅ~!!!!!!」

 

 穂乃果を中心に爆音が鳴り響き、ハウリングとなって校舎全体を暴れ回る。きっと廊下は今頃残響跳弾でとんでもないことになっているだろう。本当うちのリーダーが迷惑かけてごめん!!

 

「お前に言ったんじゃねえ!!!!!!」

 

 お前はむしろ普段から声を抑えなきゃいけない部類の人間だろうがッ!!! みんなに耳を塞げって言うのが少しでも遅れていたらハウリングに耳掠め取られてたかもしれないんだぞ!? 大げさだけど!!!

 

あはは、と苦笑いしている穂乃果には叫び返しておくとして、そろそろ時間だな。放送部員の子曰く、これがμ’sらしさらしい。俺たち一体普段からどんな目で見られてんだろう・・・・・・あ、そろそろ締めないと昼休み終わる。

 

『え~っと・・・・・・以上! μ’sからのお知らせでした!! みんな本当ごめんなさい!!! でも応援よろしくお願いします!!!』

 

 こうして、波乱の昼休みが幕を閉じた。ってか結局どこでライブやるんだよ!!!!

 

-To be continued-

 




はい、如何でしたか? 今回から太文字の書き方を覚えた為、実際に使ってみました。

実はまた少々投稿が遅れそうです。実のところ、前に転職をすると言ったものの、結局諸事情があって、仕事をそのまま続けていたんですが、今回は本当に転職を目指して今は筆記試験の勉強をしています。

まあ、確実に勉強しないと落ちてしまうので、1~2週間程投稿感覚が空いてしまうと思います。

・・・・・・何回も半年以上投稿空けた人間の言うことじゃねえっ!!!!

では、次回もお楽しみに。


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王者の風格

お久しぶりです。
仕事を辞めて、実家に帰ってきて新たな職場で再スタートを切ることが出来ました。



 穂乃果の鼓膜ブレイク事件から、数時間が経ち、現在は放課後。

 俺たちは屋上に立っていた。

 

「とりあえず、どうする? 結局のところ・・・・・・放送室に行くだけ行って穂乃果の発声練習して終わったって感じだし、流石に今日中にライブの場所決めないとヤバくないか?」

 

「あはは・・・・・・ごめんね・・・・・・うん! もう無闇に大声は出さないよ!」

 

「既に大声」

 

「一応、緊張しない為の練習にはなったと思いますが・・・・・・どうしましょうか?」

 

 俺と穂乃果の掛け合いをスルーした海未は、軽く息を吐いて、整った眉根を八の字に歪ませ、困り顔をしている。

 

 すると、連鎖をするようにそれぞれが海未と同じように困り顔をするか、考え込むように腕を組んだりして、俯きがちになった。

 

「カメラで中継出来る所であれば、場所は自由なんだけど・・・・・・」

 

「じゃあ、やっぱり屋上とか?」

 

 花陽の呟きにいち早く凛が反応する。

 

 まぁ、ここが一番お世話になってる場所だから、慣れてる場所でライブをすれば緊張はしないかもしれないけど、それだとやっぱり目新しさには欠けるんだよな・・・・・・。

 最も、インパクトや目新しさにばかりこだわって、ライブの場所を決められないのが一番やってはいけないことだ。

 

 ・・・・・・と考えると、屋上っていうアイデアは消去せずに最終手段としてのキープっていうのがベスト、かもな。

 

「ひとまず、校内を見て回って使えそうな場所がないか探してみるっていうのはどうかな?」

 

「ん~、うちはことりちゃんの意見に賛成、かな? えりちはどう思う?」

 

「そうね、ここで意見を出し合うよりは実際に見て回った方が、何か違った見え方も出てくるかもしれないし、みんなもそれでいい?」

 

 絵里が全員の顔を確かめるように視線を巡らせ、みんなが同意見なことを確認すると、先導するように校内へ続く階段へと歩いていく。

 

「それで? 最初はどこに行く気? 当てはあるの?」

 

 にこが絵里の背中に問いかけているけど、とりあえず校内を見て回るってなっただけだし、そんな当ては無いだろうな。

 現に絵里は、右手の人差し指を顎に当てて、何かを考えているように見えるし。

 

「うーん・・・・・・こういう時はいんふぉめーしょんだよ!! 真姫ちゃんもそう思うでしょ!?」

 

「・・・・・・もしかして、インスピレーションのことを言ってるの?」

 

「そう、いんすぴれーしょんにゃ!!」

 

 凛の残念な英語知識は置いておいて、インスピレーションというのはまぁ、悪くない発想なんじゃないか? 直感で選ぶことが大事な時だってあると思うし。

 

「インスピレーションと言えば・・・・・・希、何か適当な場所を言ってみてくれないか?」

 

 こういう時に頼りになりそうなのが、スピリチュアルが信条のような希だよな。

 

「う~ん、優くんの家・・・・・・とか?」

 

「本気で言ってるなら俺ちょっと希との関係性を見直さないといけなくなるな、今までありがとう」

 

 というか俺の新しい部屋に来たいだけ説ある。

 

「あはは、冗談よ。そうやね~・・・・・・講堂なんてどうやろうか、ライブをするには最適だと思うし」

 

 なるほど・・・・・・講堂か。良し悪しはひとまず置いとくとして、行き先としては悪くない案だと思う。

 というかそれを聞いた穂乃果がよ~し! 講堂だぁ!! と言って既にスタートダッシュを決めているしそれに続いて凛も既に行っくにゃー!! とロケットスタート決めている。

 もう行くしかない流れに残された俺たちは講堂へ向かう他がなかった。

 

***

 

 さて、講堂には着いたものの・・・・・・

 

「やっぱ目新しさとか感じないよな、全校集会とかでよく使ってるし」

 

「そうだね、それにここはライブでも使っちゃってるし・・・・・・」

 

 花陽は俺の隣に来て、全体を見渡してから呟く。

 

 ここには二度、お世話になっているしな。初ライブと復活ライブの時。曲こそ同じ『START:DASH!!』だったけど、状況は全く違う。

 初ライブの時は最初誰も観客が来なくて、現実は甘くないということ、悔しさや不甲斐なさで胸が一杯になった。でも、あの時挫けずに頑張って、見事この場所を満員にすることが出来たんだったよな。

 

「ここがダメとなると・・・・・・校庭の方なんてどうでしょうか?」

 

「校庭か・・・・・・あ、おい待て!! 穂乃果、凛!! ・・・・・・遅かったか」

 

 校庭というワードに反応し、穂乃果と凛がフライング気味に駆け出すんじゃないかと思い制止をかけた瞬間には既にもう2人は走り出していて、講堂から姿を消していた。

 

「あの2人は脊髄反射で行動しないと死ぬのか?」

 

「・・・・・・それは今更じゃない」

 

「そうですよ、ツッコミを入れるだけ体力の無駄です」

 

『あはは・・・・・・』

 

 ため息混じりに誰に問いかけたわけでもないけど、もはや穂乃果と凛のお目付け役でもある海未と真姫が遠い目をしながら2人が出て行った扉を見つめ、今までの苦労を思い返すように頷く。

 そんな苦労人の言葉を聞いて苦笑する花陽とことり。

 

「あー、絵里、希。頼めるか?」

 

「ええ、穂乃果と凛を追いかけて2人から目を離さないようにすればいいのよね?」

 

「じゃ、行こっかえりち。優くん、部室集合でええかな?」

 

「あぁ、話が早くて本当助かる。俺たちも適当に部室に戻っておくから、野生動物を捕まえたら合流しよう」

 

 こういう時3年生は本当に頼りになるなぁ・・・・・・。

 

「・・・・・・それで、結局部室に戻るってことでいいの?」

 

「あぁ、やっぱ暴走列車の舵取りが出来るのは落ち着きのある3年生だろうしな、俺たちはこの先どうするのかを考えながら待てばいいだろ」

 

「というか3年生って言ってるのになんでにこちゃんには声かけてないわけ? 大体想像はつくんだけど」

 

 そういえば、何気なくにこに返事をしてるけど、真姫の一言でハッとなった。そういえばにこも3年生だった、と。

 

「・・・・・・いや、他意はないぞ、うん。すっかり忘れてたとかそんなことは絶対に・・・・・・ないぞ」

 

「そこまで濁すならもういっそハッキリ言ってくれた方がいいわよ」

 

「忘れてました。でも、穂乃果と凛の2人を相手にわざわざ止めに行きたいと思うか? こん棒の如く振り回されるぞ、きっと」

 

 元気が有り余り、1人でも俺たち2年生と花陽たち1年生を引っ張る行動力があるというのに、2人揃えばどうなるか、想像するだけでも疲れるわ。

 2つの竜巻の間に挟まれるようなもんだろ、そんなん。死んじゃう。

 

「・・・・・・部室に戻るわよ」

 

「まぁ、にこが行ったところで絵里と希の負担を増やす可能性も否めないけどな」

 

「絶対そっちが本音ですよね?」

 

 なんか海未がすごいジト目でこっちを見てくる、おいやめろ。いくら幼馴染で顔馴染みとはいえ、美少女に見つめられると照れるだろうが。

 

「部室に戻るのはいいけど・・・・・・これから一体どうしたらいいのかな?」

 

「・・・・・・思い返せば、音ノ木坂でライブを出来る場所なんてもうないかもしれないね。廊下も講堂も屋上やグラウンドだって、もうPVで使ったり、ライブをしちゃってるから」

 

 確かに、そうだ。

 ことりと花陽の会話を聞いて、これまでのライブやPVを思い返す。

 そのどれもが、基本的にこの学校内で行われたものだった。

 

 まぁ、アキバでライブしたこともあったけど。

 

「本当にμ’sは音ノ木坂学院に支えられてると言っても過言じゃないのかもな。なんかこの学校自体、μ’sの一員って言っても許されるんじゃないか?」

 

「・・・・・・何それ、意味わかんないわよ?」

 

 部室へ向かう為に長い長い廊下の先を見つめながら、ふとそう呟くと真姫がお決まりのセリフを吐く。

 真姫は俺のやや後ろを歩き、表情は見えないし、意味わかんないと口では言っているけど、口調は柔らかく、僅かに微笑しているんだろうと思う。

 

 やや傾き始めた日の光が、窓から差し込み始める頃。俺たちは部室へと辿り着いた。

 

 俺以外が部室に入っていく中で、なんとなく立ち止まり窓の外を眺めていると、廊下を走る足音と息遣いが耳に届き始める。

 視線を音の方向に移すと、穂乃果がこっちに走ってきていた。

 

「あっ、ゆう君!! ちょうどいいところに!!」

 

「穂乃果? どうしたんだよ?」

 

 俺の前まで来ると、穂乃果は立ち止まり、両手を大きく広げ、何かを訴えるように腕をぶんぶんと振り回す。

 

「今から秋葉原に行ってみようよ! 何かライブをするのにいいヒントが見つかるかもしれないし!」

 

「いや唐突だな、おい。・・・・・・なんでまたアキバなんだよ」

 

「なんとなく!! 学校でライブをするのもいいけど、今は目新しさが必要なんだよね? それだったらやっぱり学校以外も見て回った方がきっといいアイデアが出てくると思ったんだ!!」

 

「あ、あぁ・・・・・・分かったから少し離れてくれ、近いから」

 

 ほんのりと赤みを帯びた日光が、校舎を照らし、なんの変哲もない、通い慣れて見慣れたはずの廊下を思わず息が止まるような幻想的な空間へと塗り替えていく。

 

 そんな空間の中で、俺は時が止まった錯覚に陥った。

 

 この幻想的な空間よりも、今、目の前に立って、大げさに身振り手振りを使って話す、それこそ小さい頃から見慣れてしまっているはずなのに、幻想的な空間の中でもひときわ大きな輝きを持つ、高坂穂乃果という少女に、俺は不覚にも、確かに数秒の間、見惚れてしまったんだ。

 

「穂乃果? 廊下を走っちゃダメじゃない。・・・・・・優くん? どうかしたの?」

 

 多分、いつの間にか近くに戻ってきていた絵里が声をかけてこなかったら、俺はもう数秒ほど、ぼうっと突っ立っている羽目になっていた。

 

「・・・・・・あぁ、いや、なんでもない。で、アキバに行くって話は絵里たちにはしたのか?」

 

「いや、穂乃果ちゃんそうだって叫びながらすぐに走って行っちゃったから。うちとえりちが校庭に着いて部室に戻るって言う前に」

 

「お前なぁ・・・・・・もし、俺が部室にいなかったらどうするつもりだったんだ? まさか校舎中を走って俺の名前を叫ぶつもりだったのかよ」

 

「あはは、もし見つからなかったら放送室にでも行って校内放送で呼びだすつもりだったよ!!」

 

「おいバカやめろ。何が悲しくて迷子放送みたいな感じで呼びだされないといけないんだよ。迷子なのはお前だろ」

 

「凛でもちゃんと絵里ちゃんたちの話を聞いたのに、穂乃果ちゃんそそっかしいにゃー」

 

 いや、お前は人のことは言えないだろ。もうめんどくさいし黙っとこう。

 ごめんごめんと謝る穂乃果を横目に、息を1つ吐いて、さっきまでの時が止まったような感覚について考えようとしたけれど、あまりにも突発的に訪れたものすぎて、全く分からない。

 

 ・・・・・・ま、いいか。今はとりあえずは・・・・・・。

 

「それじゃ、アキバに行ってみるか」

 

 自分のことよりもライブの場所を決めるのが先、だろうしな。

 

***

 

「で、アキバに来たのはいいとしても、これからどうするのよ?」

 

「とりあえず、町を歩いてみるしかないんじゃないか?」

 

 アキバに来たのはいいけど、結局は学校を歩き回ってる時と変わらずにノープランだからな。にこが不機嫌そうな顔をするのも分かる。

 

 もう日が傾き始めていたのに、そこから移動だからな。既に夕方になり、辺りはオレンジ色の景色に切り替わっている。

 これなら、今日は無理して場所を探すんじゃなく、練習に身を入れた方がよかったんじゃないか?

 

「でも・・・・・・この辺りでライブをするのは・・・・・・」

 

「ひ、人が・・・・・・たくさん・・・・・・」

 

 学校が近所にあるとはいえ、ライブをするならこの場所は完全にアウェーになるだろうな。そうなれば、必然的に緊張に弱い花陽と海未のパフォーマンスに影響してしまうかもしれない。

 

「それに、アキバはA-RISEのお膝元やし、この辺りでライブをするとなると、ケンカを売ってると考えられてしまいそうやんな・・・・・・」

 

 ・・・・・・いや、ぶっちゃけ彼女たちなら喜んでOKしそうなもんではある。なんなら、今からLINEを入れて確認してもいいぐらいだ。

 

 昨日の邂逅でせっかくだからという理由で、俺はA-RISEの3人の連絡先をゲットしてしまったのである。既に俺を含めた4人のグループが何故か立ち上がっていて、半ば強制的に加入させられてしまった。

 

 俺は当然拒否したが、部屋に戻ってからもツバサさんから催促の電話がかかってくるわ、携帯の電源を切ればインターフォンのラッシュが待っているわで大変だった。

 

 ちなみにツバサさんが隣の部屋だということは、まだ誰にも言っていないし、ましてや連絡先を持っているなんてことは口が裂けても言えない。

 なんか言ったら命の危険がありそうだと、俺の鍛え上げられた危機回避能力が猛スピードで早鐘を鳴らしているから。

 

 というかなんで俺が女の子と仲良くしたら幼馴染組は特に機嫌悪くなるの? そんなに俺の幸せが憎いのか? まぁ、A-RISEの1人と部屋が隣になって、連絡先まで交換したなんてことはそもそも信じてもらえないだろうし、なんなら頭の心配されていい病院を紹介されるまでが一連の流れってもんだろ。

 

 ・・・・・・俺の信用無さすぎて泣ける。

 

『UTX高校へようこそ! 遂に私たちの新曲が完成しました!』

 

 モニターからの音声に顔を上げる。どうやらしょうもないことを考えている内にUTX高校の前までたどり着いていたようだ。

 

 画面の中にはA-RISEの3人が堂々たる姿で映っていて、どこにも気負っている様子などは伺えない。

 昨日言っていたことは去勢でもなんでもなく、彼女たちの本心だということは、紛れもない事実みたいだ。最初から疑ってはなかったけど。

 

「――負けないぞ」

 

「あぁ、負けないさ」

 

 昨日は気圧された形で言えなかった言葉がするりと口から躍り出て、空気の中へと溶けて消えていく。周りに出来ていた人だかりの歓声に言葉はすぐにかき消されたが、呟いた想いがμ’sのみんなに伝わる方がほんの数秒だけ早かったようで、どこか緊張していた面持ちから、みんなの表情が少しだけリラックスしたものに変わったのが分かった。

 

 穂乃果が出来ると言えば、絶対に出来ると、そう思えるから。俺は勝利を信じて疑わない。μ’sのマネージャーとして、信じることが俺の最大の仕事だろうからな。

 

 ――そう決意を固めた瞬間のことだった。

 

「――こんにちは! ちょっと来てくれないかしら?」

 

「・・・・・・へ? うわぁ!!」

 

「穂乃果!? ってあれお前いつの間に俺の袖掴んぐえっ!?」

 

 なんだ!? 人込みの中から声がしたと思ったら穂乃果がすごい勢いで引っ張られ始めたぞ!? ついでに穂乃果が咄嗟に俺の袖を掴んだせいで急な重力に耐え切れず変な声出たぞ!? あと今なんか袖からビリって嫌な音がした!!

 

 袖の無事を確認する暇もないまま、学校内の改札を通過し、何も分からないままエスカレーターを駆け上がり・・・・・・って学校内にエスカレーターあんのかよすげえな!! 

 

 相変わらず袖の安否は分からないが、ツッコめるだけの余裕が戻ってきたことは分かった。あ、エレベーターまであるすっげえや!!

 

「ちょっと!? ツバサさん!! 止まってください!!」

 

「あ、そうね。ここまでくれば人もいないし、大丈夫よね」

 

「ちょっ!? お前は急に止まるなぎゃぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」

 

 穂乃果の声にツバサさんは掴んでいた手を放し、ピタリと立ち止まるが、結構な勢いをつけて穂乃果が立ち止まりしかも止まった瞬間袖から手を放しやがったせいで、俺は足をもつれさせ、豪快なヘッドスライディングをかまし廊下を滑走する羽目になった。

 

「あれ!? ゆう君なんで一緒に来てるの!?」

 

「お前が急に袖掴んだから仕方なく一緒に来ることになったんだろうがぁ!!!」

 

 袖掴んだの無意識だったのかよ!! すげえなその反射神経!!

 

「・・・・・・今顔から派手に滑っていったように見えたんだけど、どうしてすぐ立ち上れるのかしら・・・・・・怪我すらしていないし・・・・・・」

 

「流血沙汰になったら大変ですからね、気合で押さえました」

 

 ラブライブ予選を前にして出場停止とかシャレにならないからな。

 

「いや、そういう問題じゃないような・・・・・・というか気合で押さえられるようなものかしら・・・・・・」

 

「まあまあ、今のこの状況に比べたら大したことじゃないじゃないですか。なんで急に穂乃果を拉致するような真似をしたんですか?」

 

「上からあなたたちの姿が見えたからつい。けどいきなりじゃなくてちゃんと連絡入れたのよ? 返信来なかったから痺れを切らしてこっちから出向いちゃったけど」

 

「え、本当ですか? すいません、鞄の中に携帯入れてて全く気が付きませんでした・・・・・・うわっ・・・・・・・」

 

 ツバサさんに言われて確認のために携帯を取り出した瞬間顔が引きつってしまった。

 

 

 『上から見てて、あなたたちが見えたから会って話してみたいわ! いいかしら?』

 

 『お~い! もしかして確認してないの?』

 

 『それとも気づいて無視してるのかしら?』

 

 不在着信。

 

 不在着信。

 

 不在着信。

 

 不在着信。

 

 不在着信。

 

 スタンプ。

 

 スタンプ。

 

 スタンプ。

 

 という画面が延々と表示されており、そして一番最後に送られてきた言葉が。

 

『ねぇ、今からそっちに行くから』

 

 いや怖えよ! 完全にホラーの類だろこれぇ!?

 

「だからって急に拉致しなくても・・・・・・普通に話しかけてくれればよかったじゃないですか」

 

「自惚れるつもりもないし、私たちだってまだまだだとは思うけど、一応これでも有名人だからあんなとこで周りに気づかれたらすぐに人が集まって来ちゃうじゃない」

 

「なるほど、それもそうですね・・・・・・ゔっ!?」

 

 なんだ・・・・・・この感じ? 俺は何かとんでもないミスをしたんじゃないか? 例えばそう、まるで言ってはいけないことをうっかり口を滑らせてしまったみたいな・・・・・・。

 

「・・・・・・ねぇ、ゆう君? 今さ、聞き間違えじゃなければさ・・・・・・"ツバサさんから連絡があった"っていう話をしてなかった?」

 

 ゆらり、と俯いた穂乃果が一歩詰め寄ってくる。

 

「それってつまりさ・・・・・・私たちの知らない間に"ツバサさんと会って連絡先を交換してた"ってことでいいんだよね?」

 

 更に一歩、ゆったりとした足取りで穂乃果が詰め寄って来るのを見て、俺は何故か冷や汗をかき始め、頭の中に生まれた瞬間から今までの映像が流れ始めていた。

 

 ・・・・・・ていうか走馬灯じゃねえのかこれ。

 

「い、いや・・・・・・お前の聞き間違いじゃないのか? 仮にもトップスクールアイドルと偶然知り合えるってどんな確率だよ、ははは・・・・・・」

 

 乾いた笑いを浮かべ、なるべく穂乃果の方を見ないように窓から景色を眺めながらそう言うと、穂乃果はパッと顔を上げ、彼女にしては珍しく輝きの灯っていない、所謂瞳のハイライトが消えている状態で笑顔を浮かべる。

 

「うんうん! そうだよね、気のせいだよね!! あー、良かったぁ気のせいなんだってさ! 良かったね! "海未ちゃん、ことりちゃん!!"」

 

「・・・・・・・・・・・・ゑ?」

 

 瞬間、今までの比じゃないレベルで汗が吹き出し、より鮮明に記憶がフラッシュバックし始める。

 

「うふふ・・・・・・そうですね! ところで今のお話、より詳しく聞かせてもらいたいものですね! ねぇ、ことりもそう思いますよね?」

 

「えへへ、そうだね! ちょっとお話しよっか!! ゆー君?」

 

 人生の終わりなんて唐突に訪れるもんなんだな・・・・・・。

 静かに膝をつき、額を地面に擦り付け、手を頭の前にセットし、完璧なフォームの土下座を披露する。

 

「・・・・・・せめて、せめて遺書を書く時間を頂けないでしょうかァ!!!!!」

 

 肺の中の空気を全て廊下に叩きつけるつもりで俺は叫んだ。通りすがりのUTXの生徒が俺を見て、うわぁ、と呟いた後に小走りで走り去って行ったとしても。

 

 というか鍛え上げられた危機回避能力とは一体なんだったのか。正解はCMの後で! 多分一生明けない。

 まぁ、命に関わりそうってことは予想的中でしたね、いやー本当。怖い。

 

 ・・・・・・いや、反応がない? まさか許されたのか!?

 そう思い、顔を上げる。

 

 そこには天使のように可憐な笑顔で俺を見つめる3人の姿があった。

 

『――却下♪』

 

 やっぱりかー。

 

***

 

「改めましてμ’sの皆さん、こうして直接お話するのは初めてよね。A-RISEの綺羅ツバサです。よろしくね」

 

「同じくA-RISEの統堂英玲奈だ、よろしく」

 

「優木あんじゅで~す、よろしくね~」

 

 所変わって、三回にあるラウンジのカフェスペースに移動してきた俺と穂乃果、それに後から追ってきたμ’sの面々。ぶっちゃけ、英玲奈さんとあんじゃさんが来てくれなかったもうちょっとボロボロにされてた説はあるし、本当に助かった。

 

「・・・・・・全く、ツバサが急に外に出て行って、一応様子を見に下の階に下りてみれば・・・・・・八坂君が土下座をしていて驚いたぞ」

 

「本当お見苦しいところをお見せしました。でも統堂さんと優木さんのおかげで土下座程度で済んでラッキーだと思ってます」

 

「八坂君にとってはその程度って言えてしまう行為なのね、土下座は・・・・・・」

 

 命よりは軽いでしょ。ちなみに英玲奈さんとあんじゅさんには俺のことを今は名字で呼んでくれと先ほど隙を見て口裏を合わせておいた。ツバサさんに関しては2人から伝えておいてと頼んだが、正直上手く伝わったかどうかは不安しかない。

 

「あ、あの! 初めまして! μ’sの高坂穂乃果と言います!!」

 

「えぇ、知っているわ。映像で見るよりもとても魅力的で驚いちゃった」

 

「アイドルにとって重要な資質、天性のカリスマ性を持っていて、μ’sのリーダーを務めている。確か実家は和菓子屋で良かったかな?」

 

「は、はい!! 穂むらというお店です!! よろしければ是非、一度お店に来てください!!」

 

「あぁ!! あのお饅頭とても美味しかったわゔっ! ・・・・・・なんでもないわ、機会があれば是非伺わせてもらうわ」

 

「は、はぁ・・・・・・?」

 

 あっぶねえ、今絶対口滑らして昨日食べたこと言おうとしただろこの人! というか今英玲奈さんとあんじゅさんツバサさんの脇腹を手刀で叩いてなかったか? 恐ろしく早い手刀、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

 余計なことを言われていたら今度こそボコボコにされていただろう。

 ・・・・・・主に海未の拳で。

 

「ええと、高坂さんに負けず劣らず、他のメンバーも個性的よね! ロシアのバレエコンクールで上位常連の絢瀬絵里さんもいるし!」

 

「そ、そうだな! ダンスの表現力はいつも参考にさせてもらっている!」

 

「あ、ありがとうございます・・・・・・?」

 

 ダメだこの人たち!! 嘘つくのとか誤魔化すの下手なタイプだ!!! 絵里がすごい怪訝な顔してる!! 

 

「・・・・・・こほん、西木野真姫さんの作曲はプロとも見劣りしない才能を持っているし、園田海未さんの作詞の素直な感じと相まって、μ’sの曲はどの曲もとても素晴らしいと思うわ」

 

「・・・・・・どうも」

 

「いえ、私なんてまだまだですから。日々精進あるのみです」

 

 すげえ、ツバサさんが強引に空気を引き戻した!! やれば出来る子だったんですね!! というか真姫は素気なさすぎだろ、あれか? 人見知り発動中か? それともシンプルに照れたのか? ごめん、俺が悪かったからそんな睨まないでくださいごめんなさい。

 

 もはや当たり前のように心を読まれていることに、なんの疑問も抱かなくなってきた自分がやばい。何がやばいのか具体的に言えないのもやばい。

 

「星空さんの運動神経とバネはスクールアイドルの中でもトップクラスだし、その2つから繰り出されるダンスのキレは唯一無二の武器よね」

 

「・・・・・・そうだな」

 

「・・・・・・そうね」

 

 どうして英玲奈さんとあんじゅさんがポンコツ化してるんですかねぇ・・・・・・まさかツバサさんの方が頼りになるとは思っていなかった。いや、さっきやらかしかけたし、気を抜いたら何やらかすか分かったもんじゃない。ここは俺が気を抜かずにいこう。

 

「小泉花陽さんの歌声は個性が強いメンバーの歌声に見事な調和をもたらしていると思うわ」

 

「あ、ありがとうございます!! あとファンです!! サインください!!!!」

 

「あぁ!!! ずるいわよ!! 花陽!!!」

 

 花陽は本当にブレないなぁ・・・・・・ていうかにこも貰えばいいだろうに。サイン書いている姿はめちゃくちゃスマートで悔しいけど超かっこいい。

 

「そして、表側で先頭に立ってみんなを引っ張る高坂さんの対になる存在、メンバーを陰から支える包容力を持った東條希さん」

 

「うちはそんな大した存在じゃないけど・・・・・・そう言ってもらえるのは嬉しいです」

 

 希の敬語ってちょっと新鮮だな。いつものエセ関西弁が出てこないのは緊張から来る恐縮なのか、それともただ単に初対面の相手だから敬語を使っているのかは定かではないけど。

 

「それに、南ことりさんのメンバーの個性を損なわず、それでいて最大限に魅力的に魅せるハイセンスな衣装作りも見事だわ。ね、アキバの元カリスマメイドさん」

 

「えぇ!? そんなことまで知ってるんですか!?」

 

 なんだろう、ファンっていき過ぎるとストーカーに等しくなるけど、これ一歩手前じゃね? 並のファンならことりがアキバのカリスマメイド、ミナリンスキーだということは気が付かないはずだし。

 いや、μ’sの知名度が上がっている状態でメイドカフェに行けば気が付くか? どっちにしろ普通じゃない情報網だ。

 

「――そして、矢澤にこさん・・・・・・いつもお花ありがとう!! すっごく嬉しいわ!」

 

『・・・・・・えぇ!?』

 

 今明かされる衝撃の真実にメンバーが一斉ににこの方を向く。

 

「い、いや~前からずっとファンだったから・・・・・・って違うわよ!! 私のいいところは!? あとサインください!!」

 

 花陽の時も思ったんだけど、お前ら一体色紙をどこから出してるの? まさか鞄に常に入れてるの? まあツッコんだら切りがないし、ここはもう流そうかな、うん。それがいい。

 

「メンバーに1人は必要な小悪魔系ってところかしら? はいサイン書けたわよ」

 

「あ、ありがとうございますぅ!! ってあれ? それって褒められてるの?」

 

「気にすんな、確かに具体例は挙げられてないし褒められてるかは微妙なラインだけど、必要だって言われてんだから」

 

「フォローするか貶すかどっちかにしなさいよ」

 

「ちんちくりん」

 

「歯ぁ食いしばりなさい」

 

 注文通りどっちかにしたじゃねえか、あと宇宙NO.1アイドルがしちゃいけない顔してる。

 

「そして、μ’sというグループを語る上で、必要不可欠な存在。表舞台には立てないものの裏方から9人を支えるマネージャー八坂優君・・・・・・昨日は親子丼美味しかったわ。またご相伴に預かってもいいかしら?」

 

「退避ィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 やっぱりやらかしやがったぁ!!!!!! なんで最後の最後で気を抜くんだよ!? 

 

 とはいえ、ぶっちゃけいつでも逃げられるように意識はして足に力込めていて正解だった。おかげでノーモーションで走りだすことが出来た。

 

「穂乃果!! ことり!!」

 

『了解!!』

 

 が、そこはやはり幼馴染だけあって、ノーモーションで立ち上がったはずなのに動き出しを読まれていた。

 

「ゆー君、止まって・・・・・・お願ぁい♪」

 

「ぐっ!? 悪い!! いくらことりの頼みでも今回は断る!!!」

 

 しかし、後ろからかけられた声に、コンマ数秒ほど足を緩めてしまったが、なんとか再び勢いを取り戻そうと床を蹴る。

 

「ナイスだよ、ことりちゃん!!」

 

「のわっ!?」

 

 ことりの声に気を取られたせいで、穂乃果の足に気づかず、勢いそのままに足が引っかかり、そのまま宙返り気味に宙を舞う。このままいけば背中からの落下は免れないだろう。

 

 体幹を使い、なんとか体勢を整えようとするが、それよりも早く、俺の上に影が落ちてきた。

 

「園田流奥義!!! 八坂優殺しィ!!!!!!」

 

「なんだその技名はぁ!? ごはぁっ!?」

 

 あぁぁぁぁぁぁ!? 痛い痛い痛い!!!! 鳩尾がやばい!!! でもパンツ見えた白ですかありがとうございますぅぅぅぅう!!!!!

 

 明らかに一子相伝なのに何故か俺の名前が入っている奥義の正体は身体を空中で捻ることで体重と遠心力で威力が底上げされた踵落としだった。

 あまりの威力に一回バウンドし、俺は地面に叩きつけられた。

 

「・・・・・・え、え~っと・・・・・・八坂君、大丈夫?」

 

「・・・・・・大丈夫に見えるんですか?」

 

「えぇ、割と」

 

「まあ、俺じゃなきゃ気絶してますよね」

 

 どうやら俺は頑丈らしい。母さん、頑丈に生んでくれてありがとう。おかげで今日も生きています。

 

「気絶で済むのか? というよりも人体ってバウンドするんだな」

 

 俺だって知りたくなかったそんな事実。こうやって人類の可能性は一歩ずつ前に進んでいくんだな。そんなわけあるか。

 

「・・・・・・と、ところでどうしてそれだけμ’sのことについて詳しいんですか?」

 

 花陽がおずおずと手を挙げて、A-RISEの3人に尋ねる。

 

「そうね・・・・・・これだけのメンバーが揃っているグループは中々いないし、それに同じアイドルとして応援もしてるもの」

 

「そうだな、だからこそ・・・・・・」

 

「えぇ、だからこそ、ね」

 

『――負けたくないとも思ってる』

 

『っ!?』

 

 先ほどのおふざけムードから一転、ピリッとした空気に切り替わる。

 

 これだ、この威圧感。昨日の俺もこの雰囲気に気圧されたんだ。

 

「で、でも・・・・・・あなたたちはトップスクールアイドルで前回ラブライブの優勝者ではないですか! 私たちは・・・・・・」

 

「それはもう過去の話、よね? 前回だってラブライブにあなたたちが出場してたら優勝を持っていかれていたかもしれないもの」

 

 海未の疑問はあんじゅさんの返答によって答えられた。まさか、そこまでμ’sを評価してくれてるなんて思ってもみなかった。

 

「言ってしまえば私たちは、A-RISEはμ’sというグループに惹かれている。同じスクールアイドルとしてもアイドル好きとしても」

 

「だからこそ、そんなあなたたちよりも、いえ、誰よりも今この瞬間お客さんを楽しませることの出来る存在でありたいと思っているのよ」

 

 英玲奈さんの気持ちを引き継ぐように、ツバサさんが淡々と語る。あまりの言葉の重みに、俺たちは何も言い返すことが出来ずにいた。

 

「じゃあ、μ’sの皆さん、お互いに頑張りましょう。もう一度言います、私たちは負けません」

 

 この沈黙をどう受け取ったのかはA-RISEの3人しか分からない。言いたいことは言ったと言わんばかりにツバサさんが立ち上がると、続いて英玲奈さんとあんじゅさんも立ち上がり、静かにカフェスペースから出て行こうとする。

 

「――あの!! A-RISEの皆さん!! 待ってください!!!!」

 

 沈黙を打ち破るように、穂乃果が立ち上がる。すると、さっきまで重かったはずの体が、するりと自然に立ち上がった。

 そして、全員で目の前にいる王者を見つめる。

 

「――私たちも負けません!! 今日はありがとうございました!!!」

 

 穂乃果の啖呵にポカンと口を開けて、その場でツバサさんたちが立ち止まる。

 

 この状況でハッキリと言い返せるとか、やっぱ穂乃果、お前すげえよ。

 

「・・・・・・ぷっ、あはははは!!!! あなたって面白いわね!!! ねぇ、良かったらなんだけど、ライブの場所が決まってないなら、UTXでライブをしてみない?」

 

『え!?』

 

 今日は驚かされてばっかりだ。まさかそんな誘いを受けるなんて夢にも思わなかった。

 

「屋上にライブステージがあるんだけど、1日、どうするのか考えてみてくれない?」

 

 確かにインパクトという面ではこれ以上のものはないだろうけど、こればっかりは簡単に決めていいことじゃないんじゃないか? 穂乃果にはちゃんと考えた方がいいと伝えよう。

 

 俺が口を開いて、自分の考えを伝えようとした矢先だった。

 

「――やります!!! 是非お願いします!!!!!」

 

「お前、もうちょっと考えろよ!! せっかく1日くれるって言ってるんだからさ!」

 

 そうだった、こいつはそういうやつだった。

 

「ええ!? だってあのA-RISEがライブする舞台で私たちも踊れるんだよ!? こんなのやるしかないよ!!!」

 

 穂乃果の言葉を聞いて、俺は全員の顔を見る為に、ゆっくりと視線を巡らせる。

 でも、1人として嫌そうな顔をせず、むしろ口角が上がり、ワクワクしているという表情だった。

 

 ・・・・・・まぁ、仕方ないか。

 

「決まりね。それじゃあ、またライブの日に会いましょう」

 

 そう言い残し、ツバサさんたちは歩いて行った。

 直後、携帯のバイブレーションがポケットの中から伝わってきた。

 

 ツバサさんからLINE? さっきの今で一体なんだ?

 

『ところで今日の晩御飯はなにかしら?』

 

 全部台無しじゃねえか!! ふざけんな!!! さっきまでのシリアスの空気は一体どこにいったんだよ!? ちなみに今日はハンバーグだ。

 

 なんとなくイラっとしたので既読だけ付けて無視してやろうか。

 

「あ、ところでゆう君、さっきのツバサさんの親子丼ってどういうことなの?」

 

「そうですね、私もその話を詳しく聞きたいです」

 

「今からゆー君のお家に行ってもいいよね?」

 

 ・・・・・・どうやら俺の今日はまだ終わらないらしい。

 

―To be continued―

 




大変遅くなって申し訳ありません。

結局転職して、地元に帰ってきたのは7月の中旬になってしまいました。


さて、今回のお話ですが、久しぶりに書くかと気合を入れたところ1万3千文字をオーバーしました。

本当に久しぶりに書いたものですから、書き方を思い出すのも一苦労でした。

投稿していない間にお気に入りが200件を超えていて、これは投稿しないといけないなと思い、今回の投稿に至りました。

何か月も空いているにも関わらず、読んでくれている人たちには本当頭が上がりません。

これからも頑張って投稿は続けていくので、よろしくお願いします!!


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まきりんぱなとクッキングパニック

仕事忙しすぎて吐きそう。

今回は日常回です、アニメを見直していて、絵里が二週間練習出来たというセリフを言っていたので、あ、あのA-RISEとの会話のあとってそんな空いたのか。じゃあ、何か間を埋めるために話を作ろう。

で、出来たのが今回のお話です。

サクッと飛ばして予選大会のライブ! でもよかったのかもしれないですが。

それではどうぞ。


 スクールアイドル、それは学生、高校生がアイドル活動を行うという人気急上昇中の活動のことだ。

 その知名度は人気と共にどんどん上がり、今ではラブライブというスクールアイドルたちがトップを目指して競い合う大会まで開かれるようになった。

 

 俺、八坂優が通う音ノ木坂学院にも、そのスクールアイドルが存在する。

 

 9人のメンバーで構成されているμ’sというグループ、その実力は結成して半年足らずで第1回ラブライブに出場目前までいくほどだ。まぁ、色々とアクシデントか重なり、出場機会は逃してしまったけど。

 

 そもそも、μ’sが結成された目的は音ノ木坂学院の廃校を阻止することであり、そっちの方は無事に解決することが出来た。

 

 一見すると、嘘みたいな話だけど、それでも実際に起こったこと。ただの学生が起こしたには少々身に余る奇跡と言ってもいいだろう。

 

 さて、廃校は阻止し、これからのことを考えないといけないという時に第2回ラブライブの開催が決まった。

 紆余曲折あり、もう一度ラブライブ出場を目指し、優勝しようという大きな志を掲げ、彼女たちμ’sは1週間後に迫るラブライブ地区予選大会に向けて、猛練習に励んでいた。

 

 

 ――はずだったんけどなぁ・・・・・・なんだこれ? どうしてこうなった?

 

 さて、ここで1つ忘れてはいけないことがある。

 

 いくら廃校を阻止したという偉業を持ち、スクールアイドルの頂点を目指しているという他の人が聞けば十分に特別視されてもいいぐらいの彼女たちμ’sだけど、本来はどこにでもいる普通の学生だ。

 

 それは本当、μ’sも全く例外ではない。

 

「だからわざとやったわけじゃないよ!! 真姫ちゃんちょっと大げさに怒りすぎ!!!!」

 

「なによ!! 凛が落ち着きがないからこういうことになってるんでしょ!? 意味わかんない!!!」

 

「だ、誰か助けてぇ~!!!!!!」

 

 ・・・・・・いや、本当。どうしてこうなった?

 

 調理器具や、具材が散乱する自らの部屋を見て、俺は頭痛をこらえながら額に手を当てて空を仰ぐ。

 事の発端は、ラブライブの予選の為のライブ会場がUTX高校の屋上に決まり、A-RISEと一緒の会場でライブをするというとんでも展開になった翌日。

 

 ――即ち、1週間前に遡る。

 

*** 

 

「うー! よく寝たぁ~!!」

 

「あはは、ぐっすりだったよね。凛ちゃん。私も眠くなっちゃったよ」

 

「凛は授業中寝ない方がいいんじゃない? テスト前に泣きついてきても助けないからね」

 

 A-RISEからUTXの屋上でライブをしてみないかと誘われた、次の日のことです。私と凛ちゃんと真姫ちゃんはHRを終えて、今から部室に向かうところでした。

 

 ライブの場所も決まったということもあり、私たちμ’sは朝練の時からより一層練習に熱が入っていました。もうすっかり秋が近い、空気が澄んで空も高いそんな日のこと。

 

「そう言えば、花陽。来週のことなんだけど・・・・・・」

 

「あ、楽しみだね! でも、ちゃんと出来るか不安だよ・・・・・・真姫ちゃんは大丈夫そう?」

 

「・・・・・・正直言って、あまり自信は無いわ。いつも作るのは私じゃないから」

 

「何々? 2人とも来週何かするの!? 凛も一緒にやりたい!!」

 

 鞄を自分の机に取りに行っていた凛ちゃんが戻ってきて、私と真姫ちゃんに飛びつくように抱き着いてきます。

 凛ちゃんは元気だなぁ、それも凛ちゃんの可愛らしさの秘訣なのかな? ってそうじゃなくて・・・・・・。

 

「一緒にやるも何も、凛も一緒にやるんでしょ? 来週の調理実習」

 

 真姫ちゃんが調理実習のことを言うと、凛ちゃんは笑顔のまま、ピタリと動きを止めた。

 

「凛ちゃんグループ決めの時もぐっすり寝てて、私と真姫ちゃんで勝手にグループ決めちゃったんだけど、よかったよね?」

 

 ピタリと動きを止めたままの凛ちゃんはダラダラと冷や汗を流し始めました。あれ? そう言えば凛ちゃんって確か・・・・・・。

 

「凛は料理とか出来るの? ・・・・・・無理そうね」

 

「カ、カップラーメンなら任せるにゃ・・・・・・」

 

「り、凛ちゃん・・・・・・調理実習でカップラーメンは、ちょっと無理があるんじゃないかな?」

 

 凛ちゃんは得意料理がカップラーメンというぐらい、お料理が苦手なんです。なんでも、昔手料理を家族に振舞ったところ、全員がお腹を壊し、3日も休むことになったとか・・・・・・一体何をいれたんだろう?

 

「ま、まずいよ!! どうにかして練習しなきゃ!! かよちんはともかく、凛と真姫ちゃんじゃ確実にまずいことになるよ、料理も状況も!!!」

 

「ちょっと上手いこと言わないでよ。というか流石にそこまで慌てる必要はないんじゃない? ちゃんとレシピもあるんだから」

 

「わ、私もご飯を炊く以外のことはあまり自信無いし・・・・・・私も練習しておきたいなぁって・・・・・・真姫ちゃんは週末とか空いてるかな?」

 

 ラブライブ予選大会に向けて練習中とはいえ、根の詰め過ぎはよくないので、週末の日曜日は練習もお休みになっています。そこなら、ちゃんと時間を取って練習出来ると思うけど・・・・・・どうだろう?

 

「空いてるけど・・・・・・練習って言ったって場所とかはどうするの? 3人だけだとあれだろうし、ちゃんと教えてくれる人が必要なんじゃない?」

 

「真姫ちゃんの家はダメなの?」

 

「多分だけど、設備的に練習にならないと思うわよ。うちは専属の料理人が料理を作ってるわけだし、キッチンはもちろんプロ仕様だから、学校の家庭科室とは設備が違い過ぎて対策にはならないだろうから」

 

 プロ仕様のキッチン・・・・・・きっと炊飯器も高級モデルで土鍋なんかもあったりして・・・・・・美味しい白米が炊けることは間違い無しです!! 羨ましい・・・・・・この時期は新米の季節だし、美味しいご飯が出来ると思うとますます・・・・・・うぅ、なんかお腹が空いてきちゃいました・・・・・・。

 

「かよちんが白米のこと考え出しちゃったよ」

 

「え、えぇ!? どうして分かったのぉ!?」

 

「だって花陽、急にうっとりしてお腹を摩り出したんだから。誰だって分かるわよ」

 

 は、恥ずかしい・・・・・・でも、白米の魅力には抗えないです。

 

「そ、それよりも・・・・・・誰に教えてもらうかを考えないと!」

 

「うーん、料理上手って言ったらにこちゃんとか?」

 

「・・・・・・なんとなく、にこちゃんに教えてもらうのは気が引けるというか、素直に教えてくれなさそう」

 

 え、えぇ? そんなことないと思うけどなぁ・・・・・・にこちゃんとアイドルのお話してる時なんて目をキラキラさせてるし、多分私もだけど。

 

「真姫ちゃんと同じでにこちゃんは素直じゃないからね~」

 

「誰がにこちゃんと同じよっ!! あと私たち3人が家に行っても邪魔にならない広さが必要になるし、にこちゃんの家がどんな感じなのかも分からないし、あまり現実的じゃないわね」

 

 そうだよね・・・・・・うーん、ある程度広さがある部屋で、お料理が上手な人かぁ・・・・・・。

 

『――あ』

 

 3人同時に声が出て、顔を見合わせました。多分だけど、皆同じ人の顔が頭の中に浮かんでいるはずです。私たちよりも身長が10cmは高く、黒髪の中性的な少年、かっこいいというよりはどちらかと言えば可愛い顔立ちに寄った、それでも私にとってはとってもかっこい・・・・・・じゃなくて! 頼りになるマネージャーの姿が。

 

 昨日、優さんの新しいお部屋について聞いたんだけど、μ’sの9人が入っても余裕がある広さなんだそうです。1LDKで、しかも特に使わない物置部屋があるとか・・・・・・私だったら広すぎて落ち着かないかな、なんて。

 

 なんて、お話をしながら歩いていると、部室に着いてしまいました。うん、とりあえず無理にとは言わないけど、頼めるだけ頼んでみようかな?

 

「ゆーサ~ン!! 凛たちに料理を教えて欲しいにゃー!!」

 

 部室の扉を開くなり、凛ちゃんが先に部室に来ていた優さんの所へと小走りで駆け寄っていきました。

 

「はぁ? どうしたんだよ、急に?」

 

「実は、来週に調理実習があって・・・・・・ちょっと自信無くて」

 

 優さんはきょとんとした様子から、納得がいったように頷きました。

 

「あぁ、なるほど。でも調理実習ならレシピあるんだし、俺が教えることもないと思うぞ?」

 

「凛はそれでもちゃんと作れる自信が無いよぉ・・・・・・前にお母さんたちに料理を作ったらレシピがあっても皆お腹壊しちゃったし・・・・・・・もうあんなペロ行為はごめんだにゃ~・・・・・・」

 

「ペロ行為ってなんだよ・・・・・・舐めてんのかよ、いや舐めてるんだろうけど」

 

「正しくはテロ行為よ、凛。それで、週末ユウの家に行って3人で練習したくて、教えてもらえないかしら?」

 

「予定があるなら無理にとは言わないから・・・・・・」

 

 優さんは何かを考え込む様子で、頭の後ろを右手でかき始めました。これは、優さんのなんだかんだ言いながらも引き受けてくれる時の癖みたいです。

 

 ・・・・・・本人は気が付いてないみたいだけど。

 

「まぁ予定も無いし、別にいいぞ。じゃあ、週末な。あとこの事は周りにはあまり言うなよ? 言ったらみんなしてうちに来そうだから。普段なら別にいいけど、今回は料理を教えながらだし、あまり他に時間を割いてる余裕もないだろうからな」

 

「分かった!!」

 

「分かったわ」

 

「分かりました」

 

 三者三様に頷き、私たち3人は返事をしました。こうして、週末のお料理教室が開かれることになったのでした。

 

 ・・・・・・服、何を着ていこうかな。

 

***

 

「へぇ、中々いい部屋に住んでるのね」

 

「そりゃどうも、お嬢様。でも1人だとかなり持て余すんだよな」

 

「ひっろいにゃー! ねぇねぇ! ここでバク転とか出来そうだよ!」

 

「辞めなさい、確かにお前なら出来るだろうけど、ケガしたらどうすんだ」

 

「優さん、買ってきた物はここに置いておけばいいかな?」

 

 約束した週末の日曜、俺の新しい部屋に花陽と真姫と凛がやってきた。まぁ、家の場所とか案内ついでに、スーパーで一緒に買い物してから来たから、やってきたと言えるかは微妙なんだけど。

 

「それで、何作るんだっけ?」

 

「かよちんがご飯炊く係とサラダ係で、真姫ちゃんがカレー係、凛がハンバーグ!!」

 

「いや、多いな。女子が食べる量じゃないだろそれ」

 

 ていうか最近ハンバーグにやけに縁がある気がする。呪いか?

 

「えっと、食べられる量で作ることと、余りそうならタッパーに入れて持ち帰ってもいいって先生が言ってたよ」

 

「多分、余るだろうからそもそも持って帰って家族に振舞うことが前提と考えた方がよさそうね」

 

「そうだな。とりあえず、花陽は見なくても大丈夫そうだし、カレーは具材を切って鍋にぶち込んで煮るだけだから、凛の担当のハンバーグからやっていくか」

 

「・・・・・・わ、私も自信は無いからちゃんと教えて欲しいなって・・・・・・ほ、ほら! サラダの綺麗な盛り付け方とか!!」

 

「お、おう? 盛り付けなんか俺も適当だけど」

 

「それでも構いません!」

 

 んー? まぁ、確かに盛り付け方によって美味そうかどうかって割と変わる気がするし、そこまで食に拘るなんて流石花陽だな! 俺も見習わないと!

 

「じゃ、凛。食材は失敗を見越して多めに買ってあるし、見ててやるからまずは1人で作ってみろ。ほら、レシピ」

 

「う、うん!」

 

 袋の中から、必要な食材をレシピを確認しながら出していく凛。うん、まぁここまでは誰でも出来るよな・・・・・・って

 

「おい待て、そのクッキーをどうするつもりだ」

 

「え? 隠し味とあと歯ごたえが欲しくて」

 

「没収」

 

「あぁ!? どうして!?」

 

「どうしても何もあるか! お前ハンバーグにクッキー入ってて美味しそうに見えるか!?」

 

 あぁ、こいつは所謂レシピ無視して自分なりにアレンジを加えたがる、メシマズの典型だ。そりゃ家族みんな腹も壊すわ。

 

「あのな、アレンジなんてもんは料理を長年やった人間だけが出来るもんなんだよ。料理をしたことないやつが下手にそんなことやってみろ、結婚相手がそんなことしようもんなら余裕で離婚案件だぞ」

 

「そんなに!? でも分かった! 凛も料理出来るようになりたいし、頑張る!」

 

 花陽は苦笑し、真姫が呆れた目でこっちを見ているのを確認し、最初からドッと疲れが沸いた。これは想像していた2~3倍大変なことになりそうだ。

 

「えっと、まずは手を洗って、ひき肉をボウルに入れてぇ・・・・・・」

 

 お、ちゃんと手を洗うのは何気に偉いな。当たり前のことだけど、面倒くさがってちゃんと洗わないやつもいるし。

 手つきのたどたどしさが何とも言えない不安さがあるけど、まずは手際を見ないとアドバイスも何も言えないし、いやでもこれは・・・・・・見てる方がハラハラする!

 

「玉ねぎをみじん切り・・・・・・ど、どうすればいいのぉ・・・・・・か、皮を剥いて、玉ねぎを洗って・・・・・・えっと、確かこう・・・・・・」

 

 多分何回か親の手伝いとかでやったことがあるのか。ゆっくりだが確実に玉ねぎが刻まれていく。

 

「う、うぅ、目が痛いぃ・・・・・・涙が止まらないよぉ・・・・・・」

 

 これはもはやお約束だ。というか俺玉ねぎ切る時そんな風になったことないんだけど。この場合俺がおかしいの?

 

「これもボウルに入れて・・・・・・パン粉を入れて、あっ!? ・・・・・・つ、次は卵を・・・・・・わぁっ!?」

 

 パン粉がどっさり入り、生卵は砕け散った。

 

「・・・・・・せめて、卵の殻は取り除け。手でも切ったら大変だからな」

 

「う、うん!」

 

 これだけは言っても大丈夫だろ。ケガされるのは俺も嫌だし。

 

「えっと、塩コショウを一掴み・・・・・・っと」

 

「力士かお前は」

 

 流石にこれはレフェリーストップだ。多分このあともコンロの火力を強で焼いて真っ黒にするんだろうし、ここならまだ取り返しがつくからな。

 

「まず、思ったよりは出来てる。要所要所で変なことしでかさなければ普通に及第点。手もちゃんと洗ってたし」

 

「ほ、本当!? やったぁ!!」

 

「ただ、包丁の使い方だったり、卵の割り方、あと最後の塩コショウは一掴みじゃなくて一つまみだ、そういう所を直していこう。次は俺が教えるから、一緒に作ろうぜ」

 

「うん! ありがとー!! ゆーサン!!!」

 

 おぉ、すげえ屈託の無い笑顔・・・・・・なんていうか、凛は思ってもみないところでドキッとさせてくることがあるし、きっと共学だったら男子からモテるだろうな。

 

「せっかくだし、かよちんと真姫ちゃんも一緒に習おうよ! 料理のでぱーとりーは多い方がいいでしょ?」

 

「そうね、あとでぱーとりーじゃなくてレパートリーよ。花陽はどうするの?」

 

「う、うん。せっかくだから私も一緒にするよ。あとで真姫ちゃんのカレーも一緒に作ろうね!」

 

 こうして見ると、随分と真姫は凛と花陽と仲良くなったように見える。常に口角が緩み、柔らかな雰囲気が出ているのは余程気を許してないと、そうはならないからな。

 

「とりあえず、最初からな。まずはひき肉を人数分ボウルの中に入れる」

 

 流石にここでミスするようなら2度と食材に触らず料理なんてしない人生を歩んで欲しい。ボウルに3人分のひき肉が投入される。

 

 俺の分はこの凛が前に作ったものをどうにかして調理することにしよう、幸い塩コショウとパン粉を取り除けばなんとかなりそうなレベルだし。

 

「レシピにある卵とパン粉って言うのはつなぎって言ってひき肉をこねる時、まとまりやすくなる。ついでにパン粉を入れるのは焼く時に外がカラッとなるから、みたいだな」

 

 ま、俺このタイプ以外のハンバーグを作ったことないし、カラッとなってるのかどうかは判断しかねる。

 

「玉ねぎを入れるのは肉の臭みを消し、甘みを出させる為だ。実際にやってみると分かるけど、肉だけこねて焼くと固めのハンバーグが出来る。俺はこっちでも肉肉しい感じがあって好きだけどな」

 

「なるほど・・・・・・あ、玉ねぎを炒めてから冷ましてタネに入れる人もいるけど、あれはどうしてなの?」

 

 花陽が玉ねぎをみじん切りにしながら尋ねてくる。

 手つきを見れば分かるけど、花陽は家で結構手伝いとかもやるタイプなんだろうな。かなりスムーズに切り終ってるし。あと、ちょっと目が潤んでる可愛い。

 

「俺も詳しくは知らないけど、甘みを増す為だとか、あとは水分を飛ばして肉汁の多いハンバーグを作る為らしいぞ。と言っても、俺そもそもハンバーグに玉ねぎ入れずにひき肉だけで焼くことが多いから」

 

 料理が出来ると言っても、全ての手順を毎回きっちりこなすの面倒くさいからな。省けるとこは省く。玉ねぎは入れないけど、隠し味にすりおろしたチューブのにんにくとか入れることはある。

 

「あと凛、さっき歯ごたえが欲しいって言っただろ? あれは玉ねぎのみじん切りを少し大きめに、粗目にするといいと思うぞ」

 

「粗目・・・・・・そもそもかよちんもゆーサンもなんでそんな簡単にみじん切り出来るの?」

 

「玉ねぎのみじん切りは他に比べれば簡単だぞ。まず、皮を剥いて洗った玉ねぎを半分に切って、先端の部分を切り落として、切った方の先端じゃない方から縦方向に切れ込みを・・・・・・あー、こういう風に入れていくだろ?」

 

「うん、こう・・・・・・かな?」

 

「そうそう。で、今度は縦に切れ込みを入れた方から切り落とした先端に横方向に切れ込みを入れていく。OK?」

 

「これでいいの?」

 

 凛も真姫も丁寧に切れ込みを入れていき、縦と横に切れ込みが入り、切り落とした先端の方が辛うじて繋がっている状態になった。

 

「よし、あとはそっちの切れ込みを入れた側面からこうやって切っていくだけで完成」

 

「わっ!? 本当だぁ!! 凛でも綺麗に切れる!! すごいにゃー!!!」

 

「なるほど、確かにこうすれば早いわね」

 

 凛と真姫と花陽が切った玉ねぎがボウルに入れられ・・・・・・やっぱ玉ねぎ多くなりすぎたな。ボウル分けるか。

 

 大きいボウルから中ぐらいのボウルを2人分用意し、具材を分けていく。

 

「で、あとはパン粉と卵と塩コショウ加えてこねる、それで形作って焼く。それだけだ・・・・・・ん? 電話か?」

 

 リビングに置いていた俺の携帯が着信音を鳴らす。手を洗って、画面を覗き見ると優莉からだった。

 急に電話ってなんかあったのか?

 

『もしもし? どうした?』

 

『あ、お兄ちゃん。そっちにお醤油ってないかな? 今お昼ご飯作ってるんだけど、切らしてるの忘れてて』

 

『おー、あるぞ。今から持って行くな』

 

『ありがとー、お願いね』

 

 電話を切り、花陽たちがいる方に向き直る。

 

「悪い、調理中の妹が醤油切らしてたらしいから今から持って行ってくる。花陽、あとは任せてもいいか? あまり目を離したくはないんだけど、カレーとかも作らないといけないし、時間が惜しいから」

 

「うん、大丈夫だよ。あとは包丁使うことも無いし、ちゃんと見ておくから」

 

「焼くまではいかなくていいから、形は作っておいてくれ。じゃ、行ってくる」

 

 ついでにコンビニで替えの醤油買っていってやるか。醤油片手にコンビニ入るって完全に変人だけど。

 袋に入れていけばそこまで変じゃないだろうし。

 

***

 

「ゆーサン行っちゃったけど、ここからはどうするの、かよちん?」

 

「とりあえずパン粉を入れたあと、卵を割って入れて、あとはお塩とコショウを適量入れて・・・・・・こんな感じかな?」

 

 形作るところまではやっておいて欲しいって言ってたけど、上手く教えられるかな? でも、真姫ちゃんも凛ちゃんも慣れないながらにとっても丁寧にしてるし、私も頑張らないと!

 

「花陽、私は出来たわよ。凛の方を見てあげたら?」

 

「う、うん! えっとね、凛ちゃん。卵を割る時はそんなに力を入れなくていいんだよ。こう、軽くヒビを入れるようにコンコンっとぶつけるだけで割れるから、あとはヒビに爪をかけるようにして、開くだけだよ」

 

「あ、出来たよかよちん!!! これでゆーサンも褒めてくれるよね!?」

 

「卵割れたぐらいで褒めてくれるわけないでしょ?」

 

 私だったら頭撫でちゃいそうな凛ちゃんの笑顔。・・・・・・別に優さんに頭撫でてもらう場面なんて想像してないですよ? 

 

「ふふん、このまま卵割るの上手くなって、いつかは片手割りをますたーして卵割りますたーとしてゆーサンに認めてもらうにゃ!」

 

「いや、卵割りじゃなくて料理をマスターしなさいよ・・・・・・」

 

「えっと、じゃあお塩とコショウを入れてこねてから形を作っていこう?」

 

 自分の分を完成させて、お手本を見せる。

 このぐにゃりとした感触って普段お料理をしない人にとってはかなり変な感触なんだよね。私は少しだけ、苦手かもしれません。

 

「うわっ、変な感触ぅ~・・・・・・んしょ、んしょ。これでいいの?」

 

「手が生肉とか油とかでベタベタね・・・・・・手を洗うから、蛇口捻ってもらっていい?」

 

「でも、美味しそうな感じがするね!!」

 

「あ、舐めちゃだめだよ! 生肉なんだから!」

 

 凛ちゃんがそれを実行する前に声をかけて止め、蛇口を捻ります。この油汚れって普通に手を洗うだけじゃ落ちなくて、手にぬるぬるした感触が残るんだけど、この後また形を作るのに触らないといけないし、ある程度落ちたらいいよね?

 

「こう、手に持って両手で軽くキャッチボールするようにするの。リズム良く、それである程度出来たらあとはこうやって真ん中を指で軽く押して窪みを作れば完成だよ」

 

 優さんはここまでしておいてって言ってたし、何も問題無く済みそうでホッと一安心です・・・・・・あれ、こういうのってどこかで聞いたことがあるような気が・・・・・・確か優さんが、ふらぐだとかなんとか・・・・・・え?

 

「えいっ! えいっ! なんだか料理してるって感じで楽しいにゃあ! 真姫ちゃんほら見て見て!! 凛こんなに早く出来るよ!!」

 

「ちょっとやめなさいよ、失敗してもしらなぶぇっ!?」

 

『・・・・・・――あ』

 

 凛ちゃんが両手でリズミカルに叩きつけていたハンバーグのタネが真姫ちゃんの顔に向かって飛んでいき、そのままべしゃりと音を立てて、真姫ちゃんの顔に・・・・・・そして、ビックリしてのけ反った真姫ちゃんの肘がボウルや調理器具に当たり、ガシャンっと大きな音を立ててフローリングに落ちてしまいました。

 

「ま、真姫ちゃん・・・・・・? だ、大丈夫・・・・・・ヒィッ!?」

 

 怖いっ!!! 真姫ちゃんがとても口では言えない表情を!? これはまずいよ!! 一体どうすればいいのぉ!?

 

「凛っ!!!!!!!! 何するのよっ!!!!!!」

 

 当然、真姫ちゃんはその表情通り、大噴火です。ど、どうしてこうなっちゃうのぉ!? 途中までいい感じにいってたのにぃ! と、とりあえずなんとかしてこの場を収めないとっ!!!

 

「ご、ごめん!! ついテンションが上がっちゃって!!」

 

「大体凛はいつもそそっかしいのよ!!! そのせいでいつもこっちに迷惑がかかってるって分かってるの!?」

 

「そんな言い方しなくてもいいじゃん!!! ちゃんと謝ったし、真姫ちゃんちょっと心が狭いんじゃないの!!!」

 

「ふ、2人とも! ケンカは――」

 

花陽(かよちん)はちょっと黙ってて!!!』

 

「は、はいっ!!!!」

 

 む、無理です!! とてもじゃないけど花陽には荷が重すぎますっ!!!! エキサイトしていく2人をオロオロしながら見ることしか出来ませんっ!!!!

 

「だからわざとやったわけじゃないよ! 真姫ちゃんちょっと大げさに怒りすぎ!!!!」

 

「なによ!! 凛が落ち着きがないからこういうことになってるんでしょ!? 意味わかんない!!!」

 

「だ、誰か助けてぇ~!!!!!!」

 

 その時、玄関からガチャリと音がして、ダッダッとフローリングを蹴る音が聞こえたと思ったらリビングの扉がバンっと大きな音を立てて優さんが入ってきました。

 

 そして、とても小さな声でどうしてこうなった? と呟きながら手を額に当てて空を仰ぎ見始めました。

 

***

 

「――まったく、何事かと思ったわ」

 

 部屋に入った瞬間、凛と真姫が大声で言い争っているのを聞いて、仲のいい2人がケンカとか何やったんだよって思ったけど、凛が調子に乗ってしまい、真姫の顔に飛来したハンバーグが直撃してしまったことがケンカの発端みたいだ。

 

 ひとまず、真姫には顔を洗いに行ってもらい、その間に俺と花陽で後片付けをした。

 

「ご、ごめんなさい・・・・・・私がもっとちゃんとしてればよかったのに・・・・・・」

 

「花陽は悪くないだろ? そもそも、俺が怒ったのは床に落ちている調理器具でケガしてないか心配だっただけだし。ほら、2人とも、仲直りしないならこのハンバーグ俺と花陽で食べるからな」

 

 落ちてしまったものは使えないけど、最初に凛が作った分と、花陽が作った分を細かく分けてミニハンバーグにして、もう皿に盛った状態で置いてある。

 

 というか、もうカレーもサラダも出来た状態だ。ケンカして不貞腐れてるのか、俺に怒られて不貞腐れているのかは分からないけど、凛と真姫の空気は作り方を教えていた時からどことなくぎこちない。

 

 ――ま、大方謝りたいけど言い出し辛いってところだろうな。2人とも。

 

「ご、ごめん真姫ちゃん! 本当は凛が悪かったのに・・・・・・」

 

「わ、私も・・・・・・その、つい勢いでいつも迷惑かかってるなんて言っちゃったけど、迷惑だなんてお、思ってないから・・・・・・ごめん」

 

「ま、真姫ちゃぁぁぁぁん!!!!!」

 

「あ、ごめん。やっぱりほんのちょっとだけ思ってなくもないかも」

 

「にゃっ!?」

 

 いくらステージであんなすごいパフォーマンスしてても、こいつらはまだ中学生から高校生になったばかりなんだし、いがみ合いぐらいたまにはするよな。

 

 抱き着こうとする凛を片手で制止しながら、真姫はまんざらでもなさそうに口元に柔らかな笑みを浮かべ、俺にその様子を見られていたことに気づき、赤面したあと高速でそっぽを向いてしまった。

 

 頬杖をついて、ケンカの終着点を見届けながら、俺は苦笑する。

 

「とりあえず食べようぜ。カレーはせっかくの真姫の手料理だし、冷めたらもったいないだろ。サラダにかけるドレッシングは何がいい?」

 

 そう言うと、凛が何やらすり寄ってきて、ビシッとポーズを決めた。・・・・・・いや、全く意味が分からん。

 

「何だよ?」

 

「――風を、添えに来たにゃ」

 

 聞いても分からん。風? ・・・・・・もしかして、こいつ。

 

「お前、とりあえず料理には~の風を添えて~とか付ければそれっぽく見えるとか思ってない?」

 

「うん! しべりあの風にゃ!」

 

「寒そうな上にハラショー姉さんが大喜びしそうだなおい。どうせテレビでシチリアの風って単語を聞いてうろ覚えでシベリアって言ったんだろ? それでよく実在する地名と間違えたもんだ」

 

 頭の中に賢くて可愛いあの人が浮かんだけど、速攻でロシアに送り返し、呆れながらツッコミを入れる。

 

「はぅ~、白米が輝いてます・・・・・・」

 

「ほら、下らないことやってないで、花陽もこんな感じになっちゃったし、早く食べるわよ」

 

 各々がいただきますと言い、作ったものを口に運ぶ。うん、普通に美味いな。

 これなら調理実習でも何も問題なさそうだ。

 

 まあ、トラブルはあったみたいだけど、たまにはこんな日も悪くはない。その後、調理実習は特に問題が起きたわけでもなく、3人仲良く料理が出来たと、花陽から聞いた。

 

 さ、ラブライブ地区予選大会まで、あと少し、だな。

 

―To be continued―

 




骨抜き回のつもりだったのに1万字を超えてしまった。

以前とは書き方も大分変ってしまい、描写をなるべく書くようになりましたし、読者からすれば読み辛かったりしそうとか思ってます、はい。

もう少し簡潔に書く方法とか他の方の作品を読んで研究とかしてみようかなと、思ったりもしてますね。

次回ももう一話だけ日常の話を挟むかもしれません。

お楽しみに。


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しすたーず すたでぃーでいず

お待たせしました。
今回は久しぶりにあのキャラが登場します。

ヒント、変態。


 緩やかにだけど、確実に夏の暑さから遠ざかっていくのを感じる、9月下旬。四季は秋に片足を踏み込み始めたことを感じさせる涼やかな風が吹いている。

 

 さて、10月に入ればラブライブ地区予選大会が開催されるが、それはスクールアイドルのお話。しかし、それとは別に普通の学生なら避けては通れないものがもう一つ。

 

「お兄ちゃん、ちょっと頼みたいことがあるんだけど、いい?」

 

「まぁ、いいかどうかは聞いてからじゃないと言えないだろ。なんだよ?」

 

 1人暮らしを始めたとはいえ、実家は目の前にあるし、俺は結構な頻度で妹の優莉と一緒に食事をする。なんというか、俺も優莉も一時期とはいえ離れて暮らしていたし、母さんは理事長ということもあり、家で食卓を一緒に囲んだ記憶の方が少ない。

 優莉の方も父さんと一緒に暮らしていて、父さんの仕事が忙しい場合、1人で食事をすることの方が多かったらしい。

 だから、俺たちは時間がある時はこうして一緒にご飯を食べ、お互いの近況報告をする。というのが、普段特別にお互いを縛ったりすることのない距離感の中で唯一交わされた約束、というわけだ。

 

 ・・・・・・それは今どうでもいいか。

 

「うん、もうちょっとで中間テストがあるよね? 実は勉強教えて欲しいんだよね」

 

「あぁ、そうか。10月中旬ぐらいだったな。いいけど、優莉成績悪くないだろ? わざわざ俺が教える必要ないんじゃないか?」

 

 そう、俺たち学生にとって避けて通れない中間テストという行事。赤点を取れば容赦なく補修となり、学期末テストで赤点を複数個取ってしまえば進級すらさせてもらえないという、正に学生泣かせのイベントだ。

 

 優莉の詳しい成績は分からないけど、正直どこの高校でも油断しなければちゃんと受かるレベルだと思う。

 

 そもそもの話、普段からちゃんと勉強していればノートを見て復習するだけで赤点はまず無い。もっと上を目指すならもっと勉強しないといけないけど。

 

「うん、そうなんだけどね。受験もあるし、ちゃんと勉強はしておきたいんだよ。やっぱ油断してたら変なところで転んじゃいそうだから」

 

「まあ、断る理由も無いし別にいいぞ」

 

「ありがとー、お兄ちゃん。えっと、私だけじゃなくて雪穂と亜里沙も一緒なんだけどそれでもいい?」

 

「なるほど、それは自分の勉強だけに集中ってわけにもいかなさそうだし、いいぞ」

 

 3人は受験生、人に教えながらやるよりも個人で勉強し受験生という条件に当てはまらない俺が教えた方がお互いの邪魔にもならないだろうしな。

 

「雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんがどれだけ出来るかは知らないけど、場所はここか? それとも実家の方か?」

 

「うーん、とりあえずお兄ちゃんの部屋かな。ほら、向こうはお父さんもいるし、仕事の邪魔になったらいけないし。まぁ、向こうが私たちの邪魔をしてくる可能性も無いとは言い切れないから」

 

 ・・・・・・流石に父さんも受験を控えた娘とその友達の邪魔をするほどバカじゃないと思いたい。けど、日頃の行いのせいで全然信用ならねえな。

 

「・・・・・・優莉って父さんのこと嫌い?」

 

「え? そんなことないよ? お金を稼いで私たちの生活の為に働いてくれてるわけだし。何不自由無く生活出来てるのもお父さんとお母さんが仕事してくれてるおかげだし。忙しくて顔を合わせられなくて、ちょっとだけ寂しい時もあるけど。感謝してるもん。・・・・・・度が過ぎなきゃだけど」

 

 妹がいい子過ぎてやばい。中学3年生でここまで考えてるやつとかいる? どうかこのまま真っ直ぐ育って欲しい。というわけで言動で変な影響を与えかねない父さんはくたばりやがれ。冷蔵庫に入れてたプリンとケーキとアイス勝手に食われた恨みは絶対忘れないからな。

 

「お兄ちゃん? 急に顔が怖くなったけどどうしたの? 可愛い顔が台無しだよ?」

 

「いやなんでもな・・・・・・おい待て誰が可愛い顔だ」

 

 それは女性が言われるべき言葉だ。断じて男に言っていいものじゃあない。

 苦虫を噛み潰し、口直しにブラックコーヒーを飲んだような顔をしてやると、優莉はとても楽しそうに笑ってくれやがった。

 

「ふふっ、ごめんって! とにかく、次の土曜日は大丈夫?」

 

「確か、その日は早朝から練習で昼からなら大丈夫だったはずだ。じゃあ土曜日に、なんかいるものとかあるか?」

 

「ん~・・・・・・女子って言うのは甘いものがあれば大体は生きていけるからね。その後のカロリー調整に泣くことになるけど、お兄ちゃんセンスに任せるよ」

 

 

 要するに、自分で作るのもよし、市販品を用意するのもよしってことだな。こいつめ。

 あと、女子が絶対甘いものが好きだっていう考えはどうかと思うぞ? 世の中広いんだから甘いもの苦手っていう人もいるだろ。いるよね?

 

「じゃあ雪穂と亜里沙にもそう伝えておくね」

 

「おう、来る時連絡入れてくれ」

 

 こうして俺たちは他愛のない会話に戻り、再び食を進め始めた。

 

***

 

「優センパイっ! 今日はよろしくお願いします!!」

 

「すみません、優先輩だって忙しいのに私たちまで、これつまらない物ですけど、どうぞ」

 

「はーい、ありがとう雪穂。これは喜んでいただくね」

 

「いや、俺に渡された物なんだけど。ちょっと? 優莉さん?」

 

 件の土曜日になった。練習が終わってからすぐにシャワーを浴びて、諸々の準備を済ませたタイミングで優莉から今から行くと連絡があった。

 

 亜里沙ちゃんと雪穂ちゃんはそれぞれお辞儀をしながらリビングへと入っていく。数歩遅れてからリビングに入ると、雪穂ちゃんからほむまん1箱を手渡され・・・・・・る瞬間に優莉にインターセプトされた。おかしくない?

 

「じゃ、勉強を始める前にそれぞれ得意科目と苦手科目を教えてくれないか? 苦手科目を重点的に教えていく方向で今日は進めたいと思う」

 

 得意科目で赤点を取るなんてことはないだろうし、数ある科目の中で点数が取れているからこその得意科目だからな。勉強が苦手でどれも軒並み低い点の中で比較的マシって意味で得意科目だったら頭痛ものだけど、雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんに限ってそれはないだろう。

 

「私は得意科目が英語と文系科目で、苦手なのが理数系の科目です。それに暗記系がちょっと苦手ですね」

 

「私は得意科目が理数系で苦手なのが文系科目ですっ。英語は平均ぐらい出来るけど、日本語がどうも難しくて・・・・・・」

 

「あぁ、亜里沙ちゃんは帰国子女だからか。分かった、じゃあやっていこう・・・・・・とりあえず、直近のテストを見せてくれるか? まずは苦手を潰してから次に行った方がいい。じゃないとどんどん増えていって処理出来なくなるからな」

 

 事前に優莉に言っておいたこと、それは最近のテストを持ってきてもらうことだ。過去問からテストの出題の傾向を見て、問題を解くのがオーソドックスな勉強法だからな。

 

「苦手って言ってる割には雪穂ちゃんはよく出来てると思う。普段からちゃんと復習してる証拠だ。この勤勉さを姉に分けてやってくれ」

 

「それについては全くの手遅れなので期待はしないでください。お姉ちゃんはたまに私に宿題を手伝ってと言ってくるんですよ? どうしようもないです」

 

 幼馴染の妹がとっても辛辣な件。というか妹に宿題を手伝わせようとするな。あのバカ今度説教だ。

 

「亜里沙ちゃんは・・・・・・全体の中でやっぱり文系だけがちょっと劣って・・・・・・ん?」

 

 Q:1853年に起きた出来事を答えなさい。

 

 A:ペリー雷皇。

 

 超かっけえけど、誰だよ雷皇。

 

「なんかところどころユニークすぎる答えが紙の上を踊ってるんだけど・・・・・・というかよく雷皇の漢字知ってたね」

 

「友達から借りた小説に出てきてたので!」

 

「よくこれで赤点にはなってないもんだよ本当・・・・・・」

 

「これでもまだマシになった方だよお兄ちゃん、最初の頃は殺気っていう漢字をコロッケって読んでたし」

 

「下手な鉄砲数打ちゃフィーバーの字面とか先生がツボって笑いすぎてぎっくり腰になって授業が中止になったこともあったよね」

 

「何その現場超面白そう・・・・・・じゃなくて大惨事じゃねえか」

 

 日本に疎すぎて友達から変な知識埋め込まれてない? この子のお姉ちゃんそのうち文句言ってくるよきっと。

 

「古文のありけりなんてアリを蹴るんですか? ハラショー・・・・・・って言ってたし」

 

「それはハラショーじゃなくて殺生だ」

 

「この時作者が何を考えていたかって問題では締め切りがやばいとか書いてましたし」

 

「偉い現実的な話が出てきたなおい」

 

 まぁ、元々の地頭が悪くはないんだから、覚えてしまえば間違えることも少なくなっていくよな。だから赤点になってないんだろうし。

 

「と、とりあえず始めようか」

 

 これ以上面白解答が出てきても処理に困る、というか苦手なとこ教える為の時間だし、教えながら出てきたらその都度ツッコめばいいだろ、うん。

 

***

 

「ん、ごめん。飲み物が無くなったから買ってくる。みんな何がいい?」

 

 集中し始めて、ふと時計を見ると既に1時間以上経過していた。集中力がよく持ったとはいえ、さすがにこれ以上根を詰め過ぎるのはよくない。ここは休憩を入れるべきだ。

 

「んー私少し眠気があるし、強炭酸の飲み物がいいかな」

 

「ではカフェオレを・・・・・・」

 

「ほうじ茶がいいですっ! でもいいんですか? 私もついていきますよ?」

 

「いや、休んでてくれ。この後も勉強の時間になるし。ちょっと買いたい物があったからちょうどいいから。・・・・・・ていうかほうじ茶ってチョイスが渋いね」

 

 ほうじ茶をチョイスする中学生っているの? 変なところで日本文化が染み付いちゃってるわこれ。いや、美味しいしいいと思うけど。

 

 とりあえずコンビニ行くかぁ、シャーペンの芯が切れそうだったしな。よし、財布と携帯は持った。

 

「行ってきまーす――」

 

「――優お兄ちゃん、来ちゃった♡」

 

 バタンッ!! ガチャ!! ・・・・・・なんかドアの前に変態(真白)がいたことを脳が認識する前に身体が反射的に動いてしっかり施錠までしてしまった。

 

 俺は疲れてるんだ、こんなところにやつがいるわけがない。いてはいけない、いてたまるか。目頭を手で押さえながら、リビングへと戻る。

 

「あれ、お兄ちゃん? 買い物に行くんじゃなかったの?」

 

「あぁ、行く予定だったんだけど幻覚が見えたから戻って来た」

 

「・・・・・・幻覚? もしかして後ろにいる真白のことを言ってるの?」

 

「・・・・・・後ろ? 真白?」

 

 なんだか韻を踏んだ感じになったが、優莉の言葉に背中に目線を向けるとそこには満面の笑みの真白が立っていた。

 

「・・・・・・おいこら、どうやって入った?」

 

「あいかぎ♡」

 

「犯罪者だぁ!? ふざけんな!!! そんなもんいつ作ったぁっ!?」

 

 流石に声を荒げてツッコまざるを得なかった。

 

「あ、違うよ。愛するの愛に鍵で愛鍵だよ? ちなみにルビはピッキング」

 

「そんな堂々と犯罪しましたって言うんじゃねえよ!! というか俺が1人暮らし始めたことと何で部屋の場所を知ってんだよ!!!」

 

 さては父さんか!? 父さんだな!? よし、殺そう!!(錯乱)

 

「そんなのとうちょ・・・・・・とうさ・・・・・・ストーカ・・・・・・愛のパワーだよっ!」

 

「そのセリフに全部詰まってんだよ!! 続きは警察署で話してくれ!!!!」

 

 あぁもう!! なんか雪穂ちゃんは厄介事を察知する目でこっちを見てくるし!! 優莉に至っては・・・・・・もう慣れましたみたいな感じで一切のノーリアクションだちくしょう!!

 

「それで、優センパイっ。こちらの方はどなたですか?」

 

「初めまして、絢瀬亜里沙ちゃん。高坂雪穂ちゃん。私は九文真白と言います! こちらにいる優お兄ちゃんの未来のお嫁さんです!」

 

「サラッと嘘を交えるな。こいつは従妹だよ・・・・・・みんなと同じ中学3年生だ・・・・・・」

 

「酷いっ! 私のことは遊びだったのねっ!?」

 

「うるせえ!! 黙ってろ!! これ以上面倒事を増やすな!!!」

 

 自然災害ぐらい突発的過ぎて一々構ってられるかめんどくせえ!!

 

「・・・・・・ジャパニーズ修羅場?」

 

「修羅場に国境は関係無いよ、亜里沙」

 

「というかスルーしかけたけど、どうして私と亜里沙の名前を知ってるのかが疑問なんだけど・・・・・・」

 

 気にしたら負けだし余計に疲れるだけだぞ、雪穂ちゃん。こいつの情報網おかしいから。具体的にはこいつの頭と同じぐらい。

 

「ふふん、未来の同級生のことですから! それにお姉さん方が有名人ですし!」

 

「未来の同級生ってことは・・・・・・」

 

「私たちと同じで音ノ木坂を受けるってこと!?」

 

 雪穂ちゃんが縋るような目をこっちに向けてきた。まぁ、十中八九真白にツッコミを入れるのは雪穂ちゃんの役目になるだろうから。諦めて頑張れ・・・・・・諦めて頑張れってすごい矛盾感。

 静かに合掌をすると、雪穂ちゃんは項垂れてしまった。

 

「・・・・・・私今からでもUTXに志望校変えた方がいいような気がしてきました・・・・・・」

 

「本当、なんかごめん」

 

 俺がいなければそもそも真白は音ノ木坂を受けることはなかっただろうし、原因の発端が俺だとは口が裂けても言えない。

 

「・・・・・・雪穂ちゃん、冷蔵庫にロールケーキあるけど、俺の分も食べるか?」

 

「・・・・・・いつもならカロリーが大変なことになるので、その誘いには断腸の思いで断らさせていただくところですけど・・・・・・・今回は断腸の思いでいただきます」

 

 はぁ・・・・・・雪穂ちゃんとため息のタイミングが被り、思わず2人で顔を見合わせて苦笑した。いやもう・・・・・・勘弁してくれ。

 

 飲み物買いに行くか・・・・・・。

 こうして、1日が過ぎていく。ついでにいうと真白は勉強を教えるのもとても上手かった。なんなんだよこのハイスペックモンスター・・・・・・・。

 ちなみに、何故真白が引っ越し先のこととか1人暮らしのこととか知ってるのかは結局謎のままだ。

 

 ラブライブ地区予選大会まで、あと1週間。

 

―To be continued―

 




今回の話は会話のテンポを意識して、話自体は短めに作りました。

ちなみに私は勉強から遠ざかって久しいので、テストの問題や解答は割と適当に書きました。

流石に年号は調べましたけど。


それでは次回もお楽しみに。


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