東方〜二人の白狼天狗〜 (ふれんど)
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序章〜終わりと始まり〜

今回、初めて投稿させていただきます。初めてでしたので、どんな内容かなど、悩んでしまうことが多く、なかなか進みませんでした。しかし、ある方からのアドバイスなどいただき、ようやくここまで来れました。本当に、アドバイスをしてくださった方、ありがとうございました。
東方projectの二次創作になります。文章を作るのが下手で、内容が伝わらなかったりするかもしれませんが、それでも読んでくだされば幸いです。初めてなので、どんな感じで出せばいいのかなど分かりませんでした。これから精一杯頑張って行きます。



「なんでこんな事になっちゃったんだろ……」

 そう呟いた白神 柊(しらかみ ひいらぎ)は、あろうことか狼と対峙していた。

 

  ――遡ること五分前――

 

 学校が終わり、帰り道を歩いていたら、狼がいきなり目の前に出てきたのであった。

「どうしよう……助けを呼ぼうにも山道だから人はいないだろうし、なぜか携帯の電波も届いてないし……」

 普通なら絶対に起こらないようなことが、次々と起こっていた。

 狼がこちらに近づくたび、こちらも少しずつ下がっていく。そんな状態が続いていた。

 しかし、その状態は長くは続かなかった。ふいに、自分の背中が何かに当たった。驚いて後ろを振り返ると、いつもはそこにあるはずのない壁があった。

「え!? なんでこんな所に壁があるの!?」

 いきなりのことに頭が混乱してしまう。しかし、狼はそんな事お構いなしにこちらに寄ってくる。

「やばい! どうしよう! 何か武器になる物は!?」

 あたりを探してみるが武器になりそうなものなんて見つからない。他に方法を考えるが、全く思いつかない。

 柊の脳内には次第に、「死」という言葉が浮かび上がってきていた。

「なんで……なんで私がこんな目にあわなくちゃいけないの……」

 迫る死に対する恐怖のせいか、目からは涙が流れていた。

 助かる方法もない絶体絶命のこの状況で、柊は生きる術と希望を失い、諦めてしまっていた。

 柊は俯いて泣いていたが、もう何をしても無駄だと思って覚悟を決め、狼の方を向く。

 狼は、向くのを待っていたのか、向いた瞬間に飛びかかって来た。

 柊は静かに目を閉じた……。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 狼が飛びかかってきてから、既に数十秒は経っているはずだが、一向に痛みはこない。

 柊は恐る恐る目を開けてみる。先程とほぼ変わらない風景が視界に入ってきた。しかし、変わっているところもあった。さっきの狼はおらず、後ろの壁がなくなっていたことだった。

 先程までのことが嘘のように思える。そんな不思議な状況を目の当たりにしていた。

「さっきのってなんだったんだろう……幻覚にしては出来すぎてる気がするし……そもそも幻覚を見るほど疲れなんて溜まってないし。逆に本物だったら、後ろの壁や狼はいるはずだし……」

 数分考えこむが、そう簡単に理解なんてできない。

 柊は諦めたのか、

「考えても仕方ないし、日も暮れてきたから早く帰らなきゃ」

と、言って帰ろうとした。

 しかし、そこで立ち上がる時、ふと腰のあたりに違和感を感じた。

「あれ……なんか腰に違和感が……何だろう」

 そう言って腰を見てみると、腰の下辺りから白いふさふさとした尻尾が生えていた。

「はぇ?」

 私の思考は完全に停止していた。

 それもそのはず。腰を見たら尻尾が生えているなど、普通じゃありえないどころか、絶対に起こらないことなのだから。

 状況が飲み込めないまま時間が過ぎていく。

 数分経って、やっと思考が動き出したが、

「は!? え、なに!? なんなの!? なにこれ!?」

と、完全にパニック状態であった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ようやく落ち着きを取り戻し、今の現状を整理し始める。

「え~っと、まず狼と対峙したんだよね。そこの時点でもうおかしいんだけど……で、そこから、襲いかかられたと思ったけど狼はいなくなっていた。それで、帰ろうとしたら尻尾が生えていた……ということはこれってもしかしてあの狼の尻尾ってことだよね……でもなんで尻尾だけ……?」

 さっきまで慌てていたのに、今では状況を冷静に判断していた自分が不思議に思えた。

 考えがまとまり、これからどうしようか考えていると、不意に後ろから誰かに声をかけられた。

 




初めてで字数が多いのか少ないのか分かりませんが、頑張ってみたつもりです。次回からはもっと面白みが伝わるように頑張っていきたいです。読んでくださりありがとうございました。


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序章弐〜終わりと始まり〜

弐話目です。今回は前回よりも長めに書いてみました。また、文章がおかしくなっているかもしれませんが、ご了承下さい。それでは始まります。


 呼び止められた私は恐る恐る振り向く。するとそこには、見知らぬ女性が立っていた。

「いきなり呼び止めてしまってごめんなさいね。あなたに少し聞きたいことがあって」

 そう言うと、女性はこちらに歩いてきた。しかし、知らない人を近づけることには抵抗があるため、少し怯えながらも近づくのを止めるように言った。

「こ、こっちに来ないで。あと……聞きたいことがあるなら、まずは私の質問くらい、こ、答えてもらっていいでしょ」 

 私がそう言うと、女性は少し考える素振りを見せてから、

「う~ん……それもそうね。で、何が聞きたいのかしら?」

と、交渉に応じてくれた。

 まずは、相手のことを知ることが優先的なので、私は一呼吸おいてから、ごく普通の質問をぶつけてみる。

「貴方はだれなの?」

「私は八雲 紫。ちなみに、スキマ妖怪よ」

「妖怪……?」

 いきなり妖怪だと言われて動揺してしまう。

 私はもとより妖怪なんてものは信じていない。だが、先ほどの自分の尻尾を見た時から、信じずにはいられなかった。

 そんな中、動揺してる時につい、口が滑ってしまった。私はその時に、なんでそんなことを言ってしまったのか自分でもわからない。ただ、言いたかったのだ。

「で、その妖怪が私になんかようかい?」

…………。

 不意に口から出た言葉が、時間を止めたように感じた。言った後に後悔と恥ずかしい気持ちがこみあげてくる。

(あ……あぁぁぁ! 言ってしまったぁ! 恥ずかしいって! 恥ずかしすぎるよ!)

 自分で言うのも何だが、恐らく私の顔は今真っ赤であろう。

(言ってしまったから変な状況になってる! この状況どうしよう! 自分でまいた種とはいえ、これはひどすぎるって!)

 

……数秒が何分かに思えるほどの長い沈黙が続く。

 

(あぁ……! これは怒らせちゃったよ! 馬鹿にされたと思って絶対怒ってるって……)

 そう思った次の瞬間。

「あっはははは! うふふ……ふふ!」

(え?)

「ふふっ……! な、なかなか面白いことを言うじゃない……! 妖怪と、ようかいを掛け合わせるなんて……!」

 意外な展開に空いた口が塞がらない。まさか笑うなんて思ってもなかった。

 

――八雲 紫が笑うこと数分――

 

「ふ~……なかなか面白かったわ。で、質問はもういいかしら?」

(あんなので数分も笑い続けられるもんなの……)

 しょうもない疑問が残るが、そんなことを考えてる暇はないので、話を続ける。

「……はい、ありません」

「じゃあ、今度はこっちが聞く番ね」

 八雲 紫はそう言うと一呼吸おいてから、

「あなたここら辺で狼を見なかった?」

と、聞いてきた。

 柊は、場の空気が重くなったのを感じた。

「狼……ですか……え、えぇ、見ましたよ。でも、目を閉じたらいなくなっていて」

「そう……目を開けたらいなくなってて、今の現状と……ならあれしか考えられないわね」

「え? あれって何ですか?」

「恐らくその狼、あなたに憑いてるわ」

「え? どういうことですか?憑いてるって……」

「あなたと対峙したその狼は幽霊だったの。こう言ってしまうのは申し訳ないけど、もう死んでるってことね。でも、何か未練が残っていたのかしら。霊の状態でうろついていたから、保護したのだけれど、逃げてしまったの」

「そうだったんですか……」

「それで逃げている途中にあなたにあって、多分あなたに取り憑いたのだと思うわ」

「そんな状況だったんですか……でも、なんで私にとり憑いたんでしょう……」

「ごめんなさいね。それは私にも分からないわ」

「そうですか……」

「まぁ、とり憑いたって言える根拠はあなたに付いている耳と尻尾ね」

「え? 耳と尻尾ですか?」

 尻尾はわかっているが、耳と言われたため、自分の手を耳にやって見る。

(耳って言われてもそんな変わってるはずなんて……)

 しかし、もとあった耳の場所に耳はなく、頭には違和感があった。

 頭に手をあててみると、そこには、ピコピコと動く耳があった。

「えぇ!? なんでこんなところに耳が生えてるの!?」

「あら、気づいてなかったの?」

「はい……」

「あなた本当に面白いわね」

 紫にクスクスと笑われてしまう。

「そうですか……で、私ってとりつかれてるんですよね? それって大丈夫なんですか?」

「どういう意味かしら?」

「その、体が乗っ取られて勝手に動く~とかって……」

「あぁ、そういうことなら心配はいらないわ。その狼は悪いことしないみたいだし、残念だけど、もう長くはないみたいね……そうね、考えられる理由としてはもう長くはないから、最低でも魂を残すためにとり憑いたのかもしれないわね……」

「そうなんですか……」

「それはそれでいいけど、あなたこれからどうするの? 普通の生活には戻れないでしょう?」

「あっ……」

 言われてみれば確かにそうだ。こんな、耳と尻尾がついている状態で普通の生活に戻ったら、どうなるかわかったもんじゃない。

「そうね……困ってるなら……あなた面白いし、もしよかったら幻想郷に来ない?」

「幻想郷……?」

「そうよ、あなたのような妖怪たちがいる世界よ」

「え……私っていつ妖怪になったんですか?」

「狼が消えたときからよ。憑かれたとは言ったけど、その狼の全てがあなたの中にあるわけだから、あなたは狼と同化したのと一緒よ。だから妖怪になったも同然なの」

「そうなんですか……」

 人間ではない。

 そう遠回しに言われた発言には、恐ろしいほど威圧感があった。

……もう人間として生きていくことができない。

「その幻想郷ってところには、私と同じような種族とかいるんですか……?」

「そうね、あなたは恐らく白狼天狗だから、山にいると思うわ」

「わかりました」

 人間として生きていけない。妖怪になってしまったのなら、妖怪として生きていく。それが今ある私の道ならば、進むしかない。

 

 もう後戻りはできないのだから……。

 

「お願いします。私を幻想郷に連れて行って下さい」

 覚悟は決まった。私はここから新しい道を進む。

「そう、分かったわ。じゃあ、あなたの準備が出来たら迎えにいくわね」

「分かりました」

 そう言って八雲 紫と分かれた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 私は早くに、両親をなくしていた。だから、私の家にはおばあちゃんしかいないため、「大学だから、一人暮らし始める」と言っておいくだけで大丈夫だろう。

「もういいかしら?」

「はい。もう何もありません」

 必要最低限のものを持ってそう言った。

「じゃあ、行くわよ」

 そういって八雲紫が手を出すと、そこに空間の裂け目のようなものが現れた。

「ここを通って行くわ。さぁ、入って」

 私は深呼吸をしてから、その空間の中に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 




とても長くなってしまいましたが、読んでいただきありがとうございます。
次回からは章が変わります。今後も精一杯書いていくので、よろしくお願いします。


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壱巻〜妖怪の山と天狗〜

今回からようやく幻想郷の話に入ります。
暇があるときなど読んでくだされば嬉しいです。
それでは始まります。


 空間に入ってからは紫の後を歩いていた。

「さぁ、つくわよ。まずはあなたの仲間となる天狗達のいる所に送るわね」

 そういうと、紫は空間を開いた。

「さぁ、ここよ」

 私は空間から出る。出てすぐに私の目に入ってきたのは、『天狗総会場』と書かれている立て札と建物だった。

「この建物は簡単に言えば、天狗達が集まる場所よ。ここに大天狗っていうのがいるはずだから挨拶して来なさい。私からも話はしておくから。中に入れば天狗達がいるはずだから、聞けばわかると思うわ」

 紫は丁寧に説明をしてくれた。

「ここまでしていただいて、本当にありがとうございました」

「いいのよ別に。私は当然のことをしたまでだから」

 私がお礼を言うと、紫は空間の中にきえていった。私は建物の方に体を向ける。

「ここが天狗達のいるところ……今の私みたいな姿の妖怪がいるんだよね……」

 緊張するが、何とか気持ちを乱さないようにする。

「ふぅ……よし」

 大きく深呼吸をしてから扉を開ける。しかし、中に入った途端に中にいた天狗達の視線が一斉にこっちを向いたため、思わずたじろいでしまう。

「あ、ああ、あの……」

 一人一人の視線に圧倒されてしまい、声が小さくなってしまう。そんな中、動揺している私に一人の天狗私を睨みながら近づいてきた。

 そして私の目の前まで来るとこう言った。

「動かずに質問に答えろ。まず一つ目、お前見かけない顔だが、何者だ」

「え、えっと……その……」

 いきなりの展開に私の思考はついていけず、さらに、周りの天狗に圧倒されて返答が出来ずに口ごもってしまう。

「なんだ? 簡単なことだろう? なぜ黙っている?」

 その時の私の口はまるで何かの器具で固定されているかのように動かなかった。

「そうか……答える気は無いようだな。ならば貴様は、我々天狗に化けた敵として認識し、今ここで排除する!」

(え!? は、排除!?)

 排除という言葉にさらに頭を混乱させてしまい、完全にパニック状態に陥ってしまう。

「天狗の領域に入った事を後悔して死ぬがよい!」

 この瞬間私は死を悟った。

(あ……今度こそ私は死んじゃうんだ)

 何もできないまま、死期が目の前まで迫ったその時。

「待てぃ!!」

 大きい声が総会場に響いた。全員が声のした方を向く。するとそこには、他の天狗とは少し違う雰囲気を纏った天狗がいた。

「「「だ、大天狗様!」」」

 天狗達はそう言うと、全員頭を下げた。

 ここに来て初めて誰か来たことに気づいた私は、目だけをそちらの方に向けた。

(あの人が紫の言ってた、大天狗……)

 どんな姿をしているのか確認したかったが、先ほどの混乱で首が動かず見えなかった。

「いやはや、危ない所じゃったのう。紫殿にはもっと早く言ってもらいたいものじゃ」

 大天狗はそう言って、こちらに歩いてきた。

「お主が紫殿の言っていた白神 柊じゃな?」

「は、はいっ! そ、そうです!」

 私は何とか、固まった体を無理やり動かして、大天狗の方に向く。その時に分かったのだが、とにかく高い。私の身長よりもはるかに大きく、その大きさはまさにそびえ立つ山のようだった。

「先程はすまなかったの。わしらから謝っておこう。すまなかった」

「い、いえ、そんな……謝っていただかなくても大丈夫ですので……むしろお礼を言わなければいけないのは私のほうです。こちらこそ助けて頂き、ありがとうございます」

 言葉をいくつかかわした後、大天狗はここにいる天狗達に、

「皆の者、よく聞け! 先ほど紫殿から言われたのだが、こやつはわしらの仲間じゃ! 敵なんかじゃないからのう、安心せい。だからこれから、仲良くしてやってくれ!」と言った。

「これでわしらの仲間じゃ。歓迎するぞ」

 大天狗が言い終わると、総会場に拍手が起こった。その拍手が起こる中、一人こっちに歩いてくる人がいた。

「先程はすまなかった。初めて見る奴には警戒心が強くてな」

 先ほどのの天狗だった。

「いえ……私も答えられなくて勘違いさせてしまったので……」

「そうか……そんなことも知らずに話を進めてしまって本当にすまなかった。もしよければ、これからも会うことがあるだろうから、その時はよろしく頼む」

 その天狗はそう言うと歩いて行った。

(いい人なんだな……)

 先ほどの天狗の後ろ姿を見て、そんなことを思っていると、周りが拍手しながら、話しているのが聞こえた。

「天狗の新入りって久しぶりだよな~」

「天狗自体あれだけど、女の天狗も結構久しぶりだよな」

「よく見るとかわいくね?」

 完全に私に関しての会話が聞こえてくる。

(うわぁ……凄い目立ってる……)

 人間の時から目立つことは苦手だったため、こういう人が多いところも苦手だったのだ。

 私の顔に嫌さがよっぽどでていたのか、大天狗が「柊、ついて来なさい」と、言ってくれた。

「は、はい」と、また助けられたなぁと思いながら大天狗の後ろをついていく。

 大天狗の後についていくと、ある部屋に連れてこられた。

「ついたぞ。ここがわしの部屋なんじゃが、お主に話すことがあるから連れてきたんじゃ。取り敢えず、話は中でするから入ってくれるか?」

 別に拒む理由もないため、中に入る。

「そこに座りなさい」

 私は控えながら座った。

「さて……今日から君は天狗になったわけだ。だから、天狗としてのルール、仕事など、覚えてもらう。よいな?」

「はい」

 大天狗から、まず私が何の天狗で、どのくらいのものなのかを聞き、そしてその後に、天狗としてのルール、役割など、数多くの説明を聞いた。聞いていると、改めて天狗になった実感を感じた。

 

――説明聞くこと三十分――

 

「よし、これぐらいじゃな。分かったか?」

「はい。わかりました」

「そうか、ならよい。後は……おぬしの家じゃな。こっちに来たばかりじゃし、家を持っていないのは当然か……」

「そうですね……持っていません」

「そうか……ならば、誰かの家に一緒に住んでもらうことになるが、それで大丈夫かの?」

「はい。大丈夫です」

「よし、じゃあ、戻るか」

 そして私はまた、大天狗の後についていき、あの広間へと戻っていった。

 




訂正いたしました。最低でも3分の1ぐらい、文章が変わってるとおもいます。
まだまだこれからも修正を続けさせていただきます。まだもう少し待っていただければ幸いです。
それでは、読んでくださり、ありがとうございました。


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弐巻〜新たな出会い〜

ようやく柊が自分のような仲間にあったところまで行きました。よろしければ、これからも読んで頂ければ嬉しいです。

では、始まります。


 総会場についてからは、大天狗様が話をしていた。私が仲間になったことや、これからどこの班に入るのかなど……。他にも数多くのことを天狗達に話している。

「……というわけじゃ。……そしてここからが本題なんじゃが……あ~……柊はこちらに来てまだ間もない。だから家がないのじゃが……誰か泊めてくれるものはいないかの」

 主に私の本題である家のことを大天狗様が聞いた瞬間、「「「はいっ!」」」と、大勢の天狗が手を挙げた。そして間もなく、

「俺が泊めてあげるんだ!」

「お前引っ込んでろよ! お前みたいな不潔な奴に柊さんを渡してたまるか! 俺が泊めるんだ!」

「柊だっけ? うちに来いよ! 広くていいぞ!」

などの言い争いになり、終いには喧嘩が始まった。

 そんな中、鈍感な私は、(泊めてくれる人達はいっぱいいてよかったけど……えぇ~……なんでそんなに争ってるの……)と、思っていた。

 だんだんと、総会場が騒がしくなり始め、相手を押し倒してまで自分の家に来させようとするものもでてきた。総会場はさらに騒がしくなっていく。ついに、これに見兼ねた大天狗様が喧嘩を止めようとしたその時。

「いいかげんにしてください!」

 大きな声が響き、その場が一瞬にして静まり返った。

「全く……恥ずかしくないんですか?」

 その人物はそう言うとこちらに来た。

「大天狗様、もしよろしければ私に柊さんを任せて貰えますか?」

 誰も止めないため、自分が止めようとしていた喧嘩を先に誰かに止められて驚いていた大天狗様はようやく動き出し、その人物に言う。

「お、おぉ……!う……うむ……ひ、柊、それでよいか?」

 相変わらず、場の空気を読めない鈍感な私は、「はい。大丈夫です」と言った。

「み、みなもよいか?」

 大天狗様が聞くと、全員無言でとまどいながらもゆっくり頷き始めた。

「あなた達に任せると、この子がどうなるかわかりませんからね……」

「そうじゃな……泊めてもらうなら同性の方が住みやすいじゃろうし……じゃあ、柊は椛についていきなさい」

 そう言われて最初は誰のことか分からなかったが、流れでさっきの人だということが分かったためその人の所へ向う。

 初対面で挨拶は大切なので、挨拶をする。

「あ、あのっ……し、しらきゃみ……白神 柊です! よ、よろしくお願いします!」

 緊張のあまりに噛んでしまった。

「ふふっ……柊さんですね。私は犬走 椛といいます。こちらこそ、よろしくお願いしますね」

 あまりに礼儀正しく、笑った顔も美しいかつ、可愛くて、つい見惚れてしまうほどだった。

「では、今から私の家に案内するのでついてきてください」

 そう言うと、椛さんはにっこりと笑った。その笑った顔を二度見た私は、他のことを忘れるほど見とれてしまい、動きが止まっていた。

「どうかしましたか?」

「…………あっ! い、いえ! な、なな、何でもないです!」

「そうですか、では行きますよ」

 そうして私達は総会場を後にした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 総会場を出てから八分ほど経った頃だろうか。

「あ……あの……も、椛さん……」

「は……はい……? な、なんですか?」

「なんででしょうか……すごい体が火照ってるんですけど、いつもこんな感じなんですか……?」

「い、いつもはこんなでは……ないはずなのですが……」

 不思議なことに、二人とも体温が上がっていた。

 

――遡ること三分前――

 

 柊がまだ飛べないため、総会場から歩いて移動していた。しかし不思議な事に、歩いているにもかかわらず、自分達の体温が上がり出し、体力が奪われている。そんな現象が起こっていた。

「な……なんでこんなに、暑いんですかね……」

 椛さんからの返答がない。

「あ……あの……椛さん……?」

 もう一度読んでみるが、返答がない。おかしいと思った私は前を向いてみるが、前を歩いていたはずの椛さんの姿がなかった。

「あ……あれ……どこに行かれたんだろう……」

 椛さんがいないと先に進めないため、取り敢えずそこにあった切り株に座って待つことにした。

(体温高いし、なぜかドキドキする……なんでだろう……)

 そう思った瞬間、突然後ろから誰かに抱きつかれた。反射的に後ろを見るが、後ろを見た時、目に入ってきた人物に驚きを隠せなかった。

「も……椛さん!?」

 急激な展開についていけない。先ほど消えたと思っていた椛さんが今では後ろにいて、しかも私に抱きついているのだから。

(え!? な、なんで抱きつかれてるの!?)

 とにかく、なんでこの状況になっているのか聞いてみる。

「椛さん! ど、どうしたんですふぁ!?」

 急に力が抜けていく。椛さんに耳を甘噛みされたからであった。しかもこの甘噛みが絶妙に気持ちがよく、抵抗しようにも抵抗できない。

「も、もみじさ……んっ……や、やめてくらさい……」

 私の声が聴こえないのか、椛は容赦なく攻めてくる。

(わ、私どうなっちゃうんだろ……)

 




ようやく椛を登場させることができました。 が、椛のキャラが自分で想像した感じに書いていますので、皆様が想像してるものと違うかもしれませんが、許して頂ければ……
あと、椛が出るまでの前置きが長くてすみませんでした。投票の結果を見てから出したかったので……なんと椛21位!これからも上がっていけばいいなと思います。中ボスランキングは1位だった気がします。

最後に、今回も読んでくださり、ありがとうございました。


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参巻〜幻と現〜

今更ながらこのような事を言うのはあれなのですが、私は一切他者様の作品をパクっているつもりは全くございませんので、そこはご了承を。

なんやかんやで、5巻目ですね。そろそろ展開を入れていきたいところです。そう思いつつも、今回は進展があまり無く、文章も拙いかと思いますが、読んでいただければありがたいです。

では、5話目及び、参巻目の始まりです。


 あれからどのくらい時間が経ったのか分からない。体感的には、一時間くらいに感じる……。その間、ずっと椛さんに攻められていた。耳と尻尾を重点的に攻められ、まともに話せない程になっていた。

「ふわぁ……も、もう……や、やめ……ひゃい!?」

 先ほどからずっとこんな感じである。

 

――十分後――

 

 まだ攻め続けられている。

「ほ、ほんとに……もう……や、やめてくらさい……」

 そう言った時、先ほどまで、言っても止めてくれなかった椛さんの動きが急に止まった。

(あれ……やめてくださったのかな……?)

 そう思ったのも束の間、今度はどこに隠し持っていたのか刃物を突きつけられた。

(えぇ!? なんで!?)

 私の頭は完全に落ち着きを失っている。ほぼ本能で、素早く椛さんの方に向いてみると、椛さんの目は、完全に殺る気の目だった。やばいと思いつつも、こういう時こそ冷静になって聞いてみる。

「も、椛さん? ど、どうしたんですか……?」

 聞いてみたが、椛は黙っている。不思議に思い、近づいた。

「え……?」

 しかしその時、椛さんがいきなり刃物を刺してきたのだ。

「あ……ぁ、き……きゃあぁぁぁ!!」

 そこで私はふっと、目が覚めた。額に手を当ててみると、汗をかいていた。

「はぁ……はぁ……はぁ……あ、あれ……?」

 起き上がって周りを見渡してみるが、そこは見知らぬ場所だった。そもそも見知らぬ場所と言っても、総会場以外知らないのだが。

「今のって……夢……だよね?」

 まさかあんな夢を見てしまうとは、それこそ夢にも思ってなかった。

「とりあえずは、夢だという事でよかった……」

 ほっと胸を撫で下ろす。

 先ほどのことが夢だったということは解決したが、もう一つ気になっている事があった。

「ここってどこ……?」

 考えてみても、当然見当もつかない。記憶も遡ってみるが、「うん……何も思い出せない」の一択で、答えは出てこなかった。

 唯一思い出せるのは、あの夢だけだったが、なるべく思い出したくはなかった。初めて会った人に、あんな事を夢で見ていたなどと、口が裂けても絶対に言えない。自分の中でそんなことを考えていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「あ、起きましたか? 気分はどうですか?」

 そこには、今一番頼りたく、夢を見た後には会いづらい人がいた。

「椛さん」

 そこには、椛がいた。

「いきなり倒れたので、慌てましたよ」

「え? 倒れたんですか?」

「はい、いきなり後ろで。……覚えていないのですね。まぁ、仕方ないと思いますよ。妖怪になって間もないようですし。それに、今日はいつもより比較的暑かったですから。暑さにやられて倒れても、仕方ないですよ」

 これからお世話になる人に、もう迷惑かけてしまったとは……と、自分でも情けなく思えてくる。とにかく、迷惑をかけてしまったことは謝らなければいけないと思い、謝る。

「あ、あの……迷惑かけてしまってごめんなさい……」

「いえ、大丈夫ですよ。それよりも私は、柊さんがうなされていた方が心配ですよ。大丈夫でしたか? 恐ろしい夢でも見てしまったんですか?」

 椛さんがとても心配そうに覗きこんでくる。

「は……はい。だ、大丈夫です……!」

 夢のことも言えないが、今の椛さんがとても可愛いことも、恥ずかしくて言えない。

「そうですか……でも、無理はなさらずに」

「あっ……はい! ありがとうございます」

 私がそう言った後、椛さんは何かを思い出したような仕草をすると、私にそれを伝えてくれた。

「あ、あとですね。大天狗様から聞いていたと思いますが、天狗には哨戒任務があります。ですから、体調が良くなったら、私が哨戒任務に必要なことをあなたに教えますが、よろしいですね?」

「はい。分かりました」

(椛さんと任務か……なんかワクワクするな)

 任務と聞いた時に、こんなことを思っていた私は、この後、まさかあんなことになるとは夢にも思っていなかったのである……

 




さて、参巻目いかがでしたでしょうか。
次回は、大幅に進展させていきたいと思います。
楽しみにしていただけると、嬉しいです。
あと、意見など、いただければ幸いです。


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肆巻〜災厄の予兆〜

今回は急展開にしてみたつもりです。
そして、途中から二人別々の視点で物語が進んでいきます。

感想くださった方、ありがとうございました。

それでは、始まります。


 充分休んだからか、翌日の朝には、すっかり良くなっていた。

「あの……ほんとすみませんでした」

「いえ、いいんですよ。では、訓練を始めていきますが、始める前にこれを来てください」

 そう言われて、包みを受け取った。

「これは……?」

「それはあなたが今後着て行く服です。おおかた任務で使うと思いますよ。それに、その服装だと動きにくいでしょうし」

 そういえばそうだった。私は今の今まで、幻想郷に来る前の服で過ごしていた。言われるまで気が付かなかったが、今思うととても動きにくい。

 この服を用意してくれた椛さんに、「ありがとうございます!」と、お礼を言って、包みの中の服を取り出し、着替える。

 

――着替え中――

 

「どうですか?」

「はい! 動きやすくて、とてもいいです!」

「それはよかったです。では、訓練を始めましょうか」

「は……」

 私が返事を返すのと同時に、山のほうで大きな音がした。

「な、なに!?」

 いきなりのことに慣れていない私が、焦りながらあたりを見回している時、椛さんはすぐに、目を凝らすようにして音がした方を見た。

「まずい……!」

 椛さんの表情には焦りの色が見えた。

「柊さんはここにいてください!」

 椛さんはそう言うと、剣と盾を持って音のした方へ向かっていった。

「あっ! も、椛さん!?」

 私が呼びかけた時には、既に飛び立った後だった。私は言われた通り、待つ事にした。

 家の外にいる者の気配にも気付かずに……。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 一方椛は、音のした所へと向かっていた。

 椛はあの一瞬で、その時にやるべき事をしっかりと判断し、自分の能力で音のした地点を見ていたのであった。そのため、爆発した地点に真っ直ぐ向かう事が出来た。

「確かここら辺だったはず……」

 椛が着いた時には既に、数名の天狗がいた。そばにいる仲間に何が起こったのか聞いてみる。

「何が起こったんですか?」

「いや、それがな……分からねぇんだ……」

「分からないとは?」

「爆発したってのは確かなのに、全くないんだよ」

「無い……何がですか?」

「痕跡だよ。爆発の痕跡が全くないんだ」

「痕跡がないですって? そんな事って……」

「そうだ、普通だと絶対ありえない事なんだ。爆発はたしかに起こった。それは山の中にいる妖怪達が、ほぼ全員見てるだろうよ。でも来てみたら痕跡なんてない。こんな状況だから何も分からねぇんだ……」

「そうですか……分かりました。ありがとうございます」

 仲間と離れた後、椛は考えた。

(爆発が起こったのに痕跡が無い……でも、爆発したところは能力で見たからそれは確かな事実……)

 いろんな仮定を考えてみるが、どれも答えにはたどり着かない。

「う~ん……」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 椛さんが出て行ってから、早くも一時間が経とうとしていた。

「大丈夫だよね……椛さん……」

 待っている間、ずっと椛さんの事を心配していた。しかし、心配する中、いきなり扉を叩く音がしてきた。

「えっ……?」

 聞き間違いかと思いつつ、耳を傾ける。すると、叩いている音がはっきりと聞こえてきた。誰かが外から扉を叩いている……。

(こんな時間に誰が……?)

 不思議に思ったが、次第に扉を叩く音が大きくなっていく。

 私の中の恐怖が膨れ上がり、足も震えだしていた。

(ここにいちゃ……だめだ!)

 私は裏口に走りだしていた。その時、扉が勢いよく開いた。

 扉を叩いていたものが入って来て、中を見渡す。そいつは、裏口が開いていることに気が付き、裏口から出て、私の事を追い始めた。

 裏口から逃げるときに見えたもの、それは、この世のものとは思えない、黒いドロドロとした塊のようなものだった。

「はぁ……はぁ……なんなの! あれは!?」

 見た途端寒気吐き気が止まらなかった。あんなものは見たことがない。

 私は後ろを振り返らず、後ろから迫る恐怖に、泣きながら必死に逃げていた。

 

 この時はまだ、これが異変だという事に誰も気が付いていなかった……。

 

 

 

 




今回もいかがでしたでしょうか。
今回から異変にしてみました。
ハラハラしてもらいたく、このようにしましたが、どうでしたでしょうか? ハラハラしなくても、ハラハラしても楽しんでいただけたのなら嬉しいです。
では、読んでいただき、ありがとうございました。
感想や意見など、いただけたら嬉しいです。


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伍巻〜信じるべき事〜

今回は短いという気がします。
今回はとても文章がおかしい気がしますが、読んでくだされば嬉しいです。

来週は事情のため、投稿出来ないので、3話いっぺんにだしました。

それでは始まります。


 椛は考えながら、森の中を歩いていた。

「やっぱり分からない……あの短時間で痕跡を消せるはずもないし……」

 しかし、どうやっても、先ほどから同じ答えしか出てこない。

「なにか手掛かりがあれば……」

 そう言葉にしたからか、椛の後ろで木の枝を踏んだ音がした。唐突な、後ろからの音に動揺しつつも、その方向に意識を向ける。さっきまで、考えていて分からなかったが、後ろをつけられていたらしい。

(常に周りに気を配っていなきゃなのに……私としたことが……)

「そこにいるのはわかっています。出てきなさい」

 椛が声をかけると、木の影から妖怪が出てきた。

「悪い悪い。別に驚かせる様子はなかったんだがな」

「邪魔をしないでもらえますかね。私は今忙しいんです」

 そういって剣を構えた。しかし、

「いや、別に邪魔しにきたわけじゃないんだ。俺はただ、お前さんの連れが大変な目にあってる事を伝えに来ただけなんだよ」

「……柊さんの事ですか?」

「あぁ、多分そいつだ。さっき変な奴に追いかけられていたなぁ……」

 天狗を今まで何度も厄介事に巻き込んで来たのが下級妖怪だが、この妖怪の言ってることはどうも嘘だと信じがたいようだ。

(下級妖怪のいう事だから、嘘かもしれない……だから無闇に信頼してはいけない……でも、もし本当の話だったら、柊さんが大変な目にあっている……)

 確かにこの話が本当だった場合、柊が大変な目にあってることになる。だが、椛には一つ引っかかることがあった。

(なぜ、この下級妖怪が教えてくれるのか……)

「なんでそんな事を貴方が教えてくれるのですか…?」

 椛は警戒しながらも、思ったことをそのまま口に出して聞いてみた。

「……なんで、か……ただの気まぐれさ……」

「そうですか……でも、一応お礼は言っておきます。今、能力で確認しましたが、本当の事でしたね。ありがとうございました」

 そういうと、椛は飛び立っていった。

「理由……か……俺は……前にあんたに助けられたことがあるからな……その借りを返したまでさ。……というよか、集中しすぎるのがお前さんの悪い癖だな。危うく、後ろにいた奴にやられそうだったぞ……まぁ、倒しておいてよかったよ。やられちまったら、借りを返すこともできねぇ。全く……危なっかしいやつだよ。……また会う機会があったらまた会おうぜ……」

 そいつは、飛び去った椛に告げて、山の中に消えていった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 椛は、急いで柊の所に向かっていた。

「いた! あそこだ!」

 一気に急降下する。

「柊さん! 伏せてください!」

 その声に私は反応する。

「椛さん!」

 私は伏せながら言った。椛さんが敵を斬り倒す。

「大丈夫でしたか!?」

「は、はいっ! なんとか……椛さんも無事でよかったです」

「よかったです……柊さん、どうして家から出たんですか?」

「いや、それが……」

 私は説明し始めた。

 

――説明中――

 

「成る程……では、さっきの奴が家の中に入ってきたのですね」

「はい……もう、怖くて……逃げる事しかできずに……」

「いいんですよ。無事ならいいんです」

「そういえば、椛さん。なんで、私が大変だと分かったんですか?」

「先ほど下級妖怪が、柊さんが大変な目にあってるというのを聞いたんです」

「そうでしたか。その妖怪さんにも感謝しなければですね。とにかく、助けてくださって本当にありがとうございます」

「いえ、無事でなによりです。では、一度家に戻りましょう。どうなってるのかも、かねて」

「はい」

 そう言って、私と椛さんは家へと続く道を進んでいった。

 




これからも読んでいただけると嬉しいです。

読んでくださりありがとうございました。


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陸巻〜無力の闇〜

こまめこまめに作っていたら出すことができました。
今回は少し残酷な描写がはいります。苦手な方はブラウザバックを推奨します。

では始まります。


「くっ……なんでこんなに敵が多いの!?」

 家へ向う道には多くの妖怪がいた。

「あまりに数が多すぎる……早く大天狗様に報告しなければいけないのに……」

 先ほど、怪我を負ってしまった柊をかばいながら、次から次へと来る敵を切り倒す。そんな苦しい状況下に、椛はおかれていた。どう考えても、一対多数という、不利な状況だ。一人で自分と柊を守らなければいけないため、流石の椛でも体力が底をつき始めていた。

「はぁ……はぁ……まずい、増援を呼ばないと……流石に、辛い……」

 そう言った時だった。

「きゃあぁぁぁ!」

 後ろから悲鳴が聞こえた。別の妖怪が柊を狙ったのである。

「柊さん!」

 椛は急いで柊の所に向かう。

「柊さん!」

「いっ……あぁぁ……」

 椛が着いた時には、柊の腹部に、剣のようなものが深く突き刺さっており、血が大量に流れ出ていた。敵は、それを薙ぎ払うようにして、柊の腹部から抜いた。その時に、柊の腹部からは、さらに血が吹き出すように出て、内臓が見えるほどまでに、傷が開いた。

「うひゃひゃひゃ! 天狗の血も、程よい赤みでいい色をしているなぁ! もっとだ……!」

 敵の妖怪は、柊のそんな姿を見て笑っている。

 その妖怪の全ての行動が、椛の逆鱗に触れた。

「き……さ、まぁ!!」

 椛の剣が、その妖怪を切り刻む。

「貴様なんて殺してやる! この世から消え去ってしまえ!」

 椛の目は、憎しみと殺意のこもった目をしていた。

 その妖怪が完全に消滅した後、椛は柊に、今の段階で最も最善な応急処置を始めた。しかし、応急処置をしてる間にも敵はどんどん迫ってくる。

 「あともう少し……!」

 応急処置がもうすぐ終わりそうな時、柊が一瞬だけ動いた。

 椛はそのことに気がつく。

「柊さん! もう少し……! もう少しだけ耐えて下さい!」

 この時椛は、柊のことで頭がいっぱいで、周りが見えていなかった。しかし、柊の目には、朧気ながらも、椛のすぐ後ろにまで来ている敵の姿が見えていた。

 柊は、掠れた声で椛に言う。

「も……じ……さ、ん……にげ……」

「柊さん!? どうしたんですか!?」

 そこまで言った椛は、ようやく後ろにいる敵に気づいた。しかし、もうかわせるほどの時間はなかった。

 「あ……」

 椛が絶望を感じた時、ふいに横から押された。

 飛ばされながらも、押された方を見ると、柊さんがこちら側に倒れてきているのが見えた。

「ひい……ら、ぎ……さん……?」

 そう言いながら見えてしまった目の前の出来事に、椛は受け入れられずにいた。

 柊さんが、倒れて地面に着いた瞬間、柊さんの背中に、思い切り振り下ろされた棍棒が、直撃していた。骨の砕けた音が、頭の中に響いてくる。

 自分のせいで、柊さんがこんな目にあっている。自分が悪いことは分かっているが、そう考えただけで、自分が押しつぶされそうになる。でも、今はそんなこと言ってる場合ではない。椛は、今は柊さんを助けたい、その一心で、柊をこの場から連れて、最速で総会場へと向かった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 椛は、天狗総会場に着いたら、柊を医務室へ運び、治療してから、大天狗様に報告した。

 報告した後、椛はどうしても、自分を責めずにはいられなかった。

(なんで私は、柊さんを助けられなかったの……! 柊さんは私を庇って、あんな事になってしまった……だったら、私が……私が柊さんを庇って攻撃を受けていれば……! 一人の仲間を助けられない私なんて……こんなんじゃ、柊さんに合わせる顔なんてないよ……)

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 椛の報告後、すぐに天狗達が呼び集められたが、既に応戦してる天狗もおり、集まった天狗の数は少なかった。

 大天狗様が、集まった天狗達に指示を出していく。

「二番部隊は一番部隊の援護じゃ! 哨戒班は……」

 しかし、大天狗様の言ってることは、椛の耳に全く入っていなかった。

 他の天狗が、全員指示場所に向かった後、椛は大天狗様に呼ばれた。

「椛、お主が辛いのは分かる……じゃがな、今ここでへこたれていても何も変わりはせんのじゃ。今わしらに出来ることはわしらの領域を守ること。領域を奪われて、お主が消えたら、柊も悲しむだろう。だからの、椛……今は目の前の事だけに集中するんじゃ。わしから柊には言っておくから、今は柊が起きるまで、この領域を守ってくれ。よいか? 椛、強くなると決めたのじゃろう? だったら、今度は同じような事が起きぬよう自分の仲間を守れるほどもっと強くなるのじゃ」

「……はい」

 その返事は小さいながらも、迷いのない真っ直ぐな返事であった。

 椛は決意を固め、自分の指示場所へと向かっていった。

「おぬしなら絶対に……」

 大天狗は、飛んで行く椛を見てそう呟いた。

 




読んでくださりありがとうございました。
感想、ご意見などいただけたら参考にさせていただきます。

読んでくださりありがとうございました。


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漆巻~能力の目覚め~

今回も少々ながら残酷なところがはいります。
残酷な場面がお好みでない方はブラウザバックを推奨いたします。
そんなこと関係ないと言う人はどうぞ。


 椛が飛んでいった後、大天狗は柊の様子を見に行った。

「あやつなら、きっと乗り越えてくれるはずじゃ」

 ふすまを開けて、治療室の中に入り、柊の状態を見ようとした。しかし、部屋を出る時まで、布団にいたはずの柊が消えていた。いや、正確にいうと柊の休んでいた布団も消えていた。

「な……どうってる!? どうして柊が消えた……!?」

 さすがの事態に、大天狗も驚きを隠せない。

(な、なぜ柊だけでなく、布団も消えた……?)

 そこまで考えて、はっと気づく。

「柊が消えただけなら、柊が連れ去られた可能性もあった。だが、持っていく必要のない布団まで消えたということは……いろいろと可能性はあるが、一番高いのは、柊の能力……か。しかし、なぜ今……?」

 最後に、どうでもいい疑問が出たが、今は余計なことを考えている暇はないので、忘れることにした。

「さて……これが能力だったとすると、どんな能力が考えられる……?」

 そんなことを言って考えだすが、数十秒後、とんでもないことに気づいてしまう。

「待て……! もし、柊の能力が瞬間移動だとしたら……それはまずい! どこに居るかも分からない! しかも、今こんな状態の森に移動したとなると、下手をすれば死ぬかもしれん!」

 大天狗は焦り始める。

「とりあえず、山全体を回るか……? だが、それだと効率が悪すぎる……」

 固まってても仕方ないため、何か手がかりがないか、柊のいた場所に行く。しかし、向かった矢先、大天狗の足に何かぶつかった。

「っ! ……こんな場所に物なんておいてあったか……」

 言いながら下を見ると、そこには、また驚くものがあった。

「ひ、柊!?」

 ついさっきまで消えたと思っていた柊がいたのであった。

(今、また瞬間移動したというのは、都合がよすぎる。もしやこれは……透明化できる能力……?)

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 椛は合流した仲間たちと戦っていた。

「おい犬走! 次の標的はどこだ!」

「十時の方角で、およそ四十メートルです!」

「分かった!」

 正確に敵の場所を特定して、仲間に伝える。

 椛が合流した後から格段に効率は上がり、そのエリアはものの数分で、そのエリアの敵を全滅にまで追い込んでいた。

「八時の方角! 百メートルで、恐らくあれが最後です!」

「よし!」

 仲間の一人が最後の敵を倒しに向かった

 

 はずだった。

 

 本当に一瞬の出来事だった。

 倒しに向かった仲間の首と胴体が、真っ二つに裂けたのだ。周りに血や臓器が飛び散る。

「「え……」」

 そこにいた天狗たちが静まり返り、呆然とする。

 異臭で現実に引き戻されると同時に、恐怖がこみ上げてくる。先程までとは違う殺気を感じた。

 

 ようやく一人が沈黙を破り、止まっていた時間が動き出した。

「くっ……クソ! お前ら逃げろ! 俺がこいつをひき止めている間に!」

 そう言いながら突っ込んでいった。

「ま、待てって! ここは一旦退こう! いくらお前でも……それは無理だ……!」

と、仲間の一人が言ったが、

「こんなの野放しにしておけないだろ! それに……死んじまった班員のためにも、こいつだけは絶対にやらなきゃいけねぇ……! だから、ここは俺一人に任せて早く逃げろ!」

「くっ……」

 その天狗はとまどっていたが、

「おい! はやくしろ!」

「わ、分かった……」

 渋々、承知するしかなかった。

 仕方なさそうに、全員の方を向く。

「時間を無駄には出来ない! 行くぞ!」

 全員で、その場から離れた。

「生きて戻ってこいよ……」




今回サブキャラが凄い主役っぽくて、本主人公の方々の出番が全然無かった気がしますが、きにしないでください!というより、気づいててもツッコまないで下さい!
読んでいただき、ありがとうございました。


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捌巻~強者~

今回で十話目です!なんかできたらいいなと思っております。

さて、今回は前回登場したキャラがメインです。
あと、自分で頑張って考えてみたスペルカードもあります。
原作には、たしかない気がしますので、オリジナルです。
それでも良いという人はどうぞ読んでみてください。

それでは始まります。


「……よし、逃げたな……」

 そう小声で呟き、妖怪の方を向く。

「お前さんよぉ。よくも俺の班員を殺してくれたな……」

 その声は低く、怒りがこもっていた。

「自分で何したかわかってんだろうな? こんな大勢引き連れて来たかと思えば、天狗に喧嘩売るような真似しやがって……まぁいい、お前には地獄で後悔してもらおうかね……班員を殺したことと、この鴉丸を相手にしたことを……」

 鴉丸があれこれ言うが、敵はそんなことお構いなしに攻撃してくる。 

「へ? ……って、うおぁ!」

 攻撃を咄嗟に避ける。避けた後、後ろにあった木が切り倒された。

「あっぶねぇ……てめぇ! いきなり何しやがる!」

 しかし、相手は無反応だ。

(目の前の空間が歪んでいたからなんとか攻撃が分かったが、この攻撃……鎌鼬か……なるほど。こいつはなかなか厄介な相手だな……さてと、どうするか)

 考える隙を与えさせないと言わんばかりに、相手は鎌鼬を飛ばしてくる。

「チッ……さっきみたいにいちいち見て確認できない……これじゃあ、音に集中するために耳に全神経を研ぎ澄まさなきゃなんねぇ……クソッ! 避けるのに精一杯だ! ……このままだと、いつまでたっても攻められねぇ!」

 ともかく攻める手立てを考えなければいけない。

「とりあえず空中に一回退くしかねぇ!」

 森のなかから飛び出し、飛んでくる鎌鼬をよけつつ、空中へと逃げる。

「距離をとれば鎌鼬が来るまでに余裕をもってかわせる。そしてなおかつこっちからは相手が見える……ここからじわじわと攻撃していくか」

 そうすると、手を前にかざし、

「そんじゃ、お手並み拝見といこうか……天符『牙旋風』!」

 牙のような風が、敵めがけて飛んで行く。

「全部命中! こんなのもかわせないのか。もしや倒せたか?」

 砂埃がかかっていてよく見えない。

「まぁ、むやみに動くよりは、待っていたほうが賢明だろう」

 次第に煙が消えていく。しかしそこには、傷ひとつない敵が立っていた。

「な!? 無傷!? あれ全部喰らっといて無傷はねぇだろ!」

 敵がこちらめがけて鎌鼬を飛ばしてくる。

「さっきよりも速い!?ダメだ!避けられ――――」

 脇腹のあたりに、鎌鼬が命中する。

 空中から地上へと落下していく鴉丸を敵は見ている。

 

「なぁんてな。どこ見てんだ、お前」

「!?」

 敵は咄嗟に後ろを振り向くが、、

「もう遅い」

 敵は二つに斬れ、消滅した。

「お前が相手してたのは、全部俺の能力で作った残像。俺の残像は、仲間からも厄介だと思われるほどでね。残像でも攻撃できんだよ。上手かったろう? ……って聞いても意味ないか。……まぁ、一つ言わせてもらえば、残像と戦ってるお前は滑稽だったよ」

 そうその場に残して、仲間の後を追った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 場所は戻って天狗総会場。

 私は、目を覚ましていた。傷はほぼ完治しているようで、体は動かせるようになっていた。

(やっぱり、治癒力が凄い……)

 起きた私は大天狗様から、私が眠っている間に起こった出来事の話を聞いた。自分の能力が分かったということ、そして、その能力がどういうものなのかを聞いた。

 

 

 

 

 




読んで下さり、ありがとうございました。
次回もよろしければ、読んでもらえたら嬉しいです。
どうも、読んで下さり、ありがとうございました。


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玖巻~吉か凶か~

ようやく柊の能力がわかりましたね。
その場面からです。


ではどうぞ


「私に能力……ですか……?」

 自分自身に能力があるなんて初めて聞いたし、そんなものあったのかと驚く。

「そうじゃ。わしがお主の様子を見に来た時、お主の体と布団が消えていたのじゃ」

「消えていた……といいますと?」

「そのままの意味じゃ。見えなくなっていたんじゃよ」

「もしかして……それが私の能力の効果ですか?」

「恐らくな。だからわしは、お主の能力は、透明化の能力じゃないかと考えている」

……開いた口が塞がらない。

(え、なに? そんな能力私が使っていいの? いやでも、デメリットとかは絶対あるだろうし……)

 そんな葛藤を繰り返していると、

「しかし、透明化だと考えているが、まだ確証はない。そこでじゃ、今一度確認するために能力を使ってほしいのじゃが……できるか?」

と言われた。

 私には、特に断る理由なんてないため、喜んで引き受けた。

「は、はい! やってみます!」

 しかし、簡単に引き受けたものの、どうやって能力を発動させるのか検討もつかない。

「あ……あの……大天狗様……」

「ん? なんじゃ?」

「その……能力ってどうやって発動させれば……」

「そうか、わからなかったか、すまなかったの。やり方……そうじゃな……例えば、念じてみるのはどうじゃ? うちの天狗には念写するのもおるからの」

「わかりました。やってみます」

 私は目を閉じて、消えろと念じてみる。

 

 沈黙が続く。

 

 おそらく、結論を言えば、

「何も起こりません……」

「そうか……じゃあまだコントロールできていないのか、もしくはやり方が違うのか……」

 

――考えること八分――

 

 ここで私は、一つの考えに辿り着く。

「私さっき念じた時になにも対象を決めてなかったから、もしかしてできなかった……?」

「ほぅ……それもあるかもしれんの……試す価値はあると思うが、やってみるか?」

「はい、やってみます」

 私は再び目を閉じて念じてみる。

(布団よ消えろ布団よ消えろ布団よ消えろ……)

 

――数十秒後――

 

 これぐらいでいいのだろうか、念じるのを止め、目を開けてみる。しかしそこは、さっきと一風変わらぬ風景があった。

 

「できませんでした……」

「そうか、できないか……う~む……どうしたものか……」

「う~ん……どうすればいいんでしょうか……」

 そう言いながら枕に手をつけたその時であった。

「え……?」

 手元にあった枕が消えていた。

「柊! お主どうやって能力を使ったんじゃ! 枕が……枕がきえているではないか!」

「え……えぇぇぇぇ!?」

 自分でもどうやったのかわからない。

「え、えぇっと……思い出して、さっき何をしたか……」

 必死に、さっきやったことを思い出そうとする。そして、私の中で歯車が、かみ合わさったかのように全て合致した。一つの答えに辿り着く。

(さっき私は枕に触れた……ということは、触れたら透明にすることができる……?)

 試しに、布団に触れてみる。すると、そこにあった布団が消えてしまった。

「やっぱりそうだ……触れたら透明になるんだ……大天狗様! 触れると能力が発動します!」

「そうじゃったか、だからあの時も……いやはや、発動条件がわかってよかった」

 ここで私が、あることに気が付く。

「でもこれって……」

「うむ? どうした?」

「なんでもかんでも触れると消えるって、すごく不便じゃ……」

「いや、大半の妖怪はそうなんじゃが、おそらくまだ能力を制御できていないだけじゃろう」

「じゃあ、自在に操ることは可能なんですか?」

「そうじゃな。練習すればすぐにでも制御できるようになるじゃろ。しかしまた、便利な能力じゃな……」

(透明か……やっぱり便利なんだな。そんなに便利なら、もう足を引っ張らなくても大丈夫になるかな……)

 私は、これまでにないくらい、能力を使いこなそう。そして、誰かのためになれるようになろうと決心していた。

 

「そうだ、この能力の解除の仕方が……」

「いや、解除はおそらく触れられるか、あるいは、柊の意思で解除できると思うぞ」

「そうなんですか。ありがとうございます」

「いや、いいんじゃ。柊の能力がどんなものかもわかったことじゃし」

 そういうと、大天狗様は立ち上がって私に言った。

「あとはお主の練習次第じゃな。自分でその能力の欠点や、どこまで扱えるのかを知っておくことも大切じゃ」

「はいっ!!」

 私は大きな声で返事をした。

 




今回も最後まで読んで下さり、ありがとうございました。いままでよりもほんの少しですが、量を増やしてみました。少しずつでも多くなっていけばいいと思っておりますので、これからも頑張っていきます。

今回も最後まで読んで下さり、ありがとうございました。


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拾巻~奇妙な出来事~

ではでは拾巻はじまります。

では、どうぞどうぞ


 椛のいる哨戒班では、作戦を練っていた。

「どうするか……」

「このまま無闇に攻めても無駄だしな……」

「だからと言って、このままじっとしてんのかよ!?」

「動くのは構わないが、どう殲滅していくか……」

「そこが問題なんだよな。効率よくやっていかないと……へたすりゃ死ぬかもしれねぇからな……」

「「う~ん……」」

 

――悩むこと十分――

 

 ここまで悩み、一人の天狗が異様なことに気づく。

「おい、思ったんだが……椛、ちょっといいか?」

「はい、なんでしょう?」

「ちょっと能力で周り見てくれねぇか?」

「え? いいですけど……もしかして、何かあったんですか?」

「いや、そういうことじゃないんだがな……少し気になってることがあってな……」

「言えないなら言えないで大丈夫です。じゃあ見ますよ」

 椛が能力を使う。

「椛、敵がいるか?」

「いえ、周りに敵の影は見えません」

「そうか、ありがとう」

 その天狗は椛にお礼をいうと、立ち上がって他の天狗達のところに戻る。

「みんな」

「どうした?」

「薄々おかしいとは思っていたが、みんな思わないか?」

「なにがよ?」

 別の天狗が言う。

「敵だよ……敵が全く来なくなったじゃないか。さっきまであんなにいたのに」

 そこで全員気づく。確かにここに来るまでの道、そして今ここにいてこれを言われるまで気が付かなかったが、敵を見ていなかったのだ。

「……確かに不自然だな」

「普通にいてもおかしくないよな……でもいないって……」

「俺達がここに来てから、十分以上たっているがここの周りに敵の気配もない……」

「あの数なら山全体を回るのに一時間もかからないだろう」

「だから敵に見つかってないってのがおかしい……ということか……」

「いやでも、敵が応戦に向かっているという可能性もあるんじゃないか? 俺達じゃない他の班のところに」

「あったとしても、その可能性は低いんじゃないか……?」

「なんでだ?」

「何度か生き返る敵がいただろう。あれは他のやつが応戦に行かないようにするためにそうしたんだと思う。逆に言えば、相手はそれほど本気らしいな」

「そうか……」

 別の天狗が、また別の考えを出す。

「だったら犬走、能力を使って山ん中みてくれねぇか?」

「すでに見ておいたよ」

 先ほど椛にお願いをしていた天狗が言った。

「因みに、このあたりには敵はいなかったそうだ」

「はい、いませんでした」

「そうだったか……じゃあ今度は、山の隅々まで見てくれないか? どこのどれくらいいるのか確認したい」

「はい。わかりました」

 椛は能力を再び使い、山の隅々を見る。

 

しかし

 

「え……そんな……なんで……?」

 一人が椛の異様な反応に気がつく。

「どうしたんだ?」

「て、敵が……どこにもいません!」

「「はぁ!?」」

 そう、どこにも敵がいないのである。先ほどまでいた敵全てが跡形もなく消えてしまっていたのである。

「な、なんでいないんだ……?」

 天狗達が動揺が隠せないところに、

「お~い! みんな無事か!?」

と、聞き覚えのある声がした。そこには、鴉丸がいた。

「鴉丸!」

 鴉丸が降りてくる。

「お前無事だったんだな!」

「あたりまえじゃねぇか!」

 仲間たちと再開をした。

 

 しばらくして一人が、

「鴉丸、ここにくる途中に敵は見たか?」

と聞く。

「……そういえばやけに来るのが楽だったな……」

「そうか」

 別の天狗が言う。

「どこにもいないとなる、ほんと恐ろしいっすね……」

「そうだな……でも警戒はしておかないとな……」

 そういろいろと言っているところに、他の班の天狗が来た。

「なんだ、どうした」

「迅速に伝えろと言われたことがありまして。先ほど博麗の巫女が、異変を解決したとのことです」

「「へ?」」

 全員すっとんきょうな声をだす。

「え……まじ? 解決したの……?」

「はい、解決したようです。敵が急にいなくなったでしょう? その時には終わったようです」

「そうか、だからか……」

「では、私は次のところへ向かわないと行けないので」

「おう、ご苦労だった」

 そう言うと、飛んで行った。

「終わったのか……」

「終わったんだな……良かったよ、全く……」

「どうせ招集がかかるだろうから、先に総会場に向かってようか」

 みな、重い体を動かし、総会場へ向かった。

 




最後までよんでいただき、ありがとうございました。
異変も終わり、ようやく柊が妖術を身につけることができます。
次回は修行かな?

では、最後までよんでいただきありがとうございました。


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拾壱巻~幻想郷の情報屋~

異変終了後です。
なんかすみません。
今回も脱線しまくってます。
そして、なるべく(笑ってもらえるかわからない)笑いをいれました。
それでも良い方は、


どうぞ


 異変終了後、各班は大天狗に報告をする。椛のいる班は、一番早く報告を終えた。そしてその後椛は、柊に会いに行った。

「柊さん……」

「椛さん……」

 沈黙の後、椛さんが私に近づく。

「柊さん、ごめんなさい! 私が、私が……!」

「そんなこと言わないでくださいよ! 私だって……無力で……!」

 私と椛さんは抱きながら、泣きあった。

 

 そして椛さんは、任務の疲れと泣いた疲れで眠ってしまった。

 

「椛さん相当疲れてたんですね……」

 私は大天狗様を探しに行った。

「大天狗様」

「ん? なんじゃ?」

「その……本当にありがとうございました。私の看病だったり、能力のことだったり……」

「いや、いいんじゃよ。わしは仲間が無事ならそれでいいからの。ところで椛はどうした?」

「私と泣いた後に眠ってしまったようで……」

「そうか。椛は頑張っておったからのぉ……起きた時にお主がいないとまた椛が慌てるかもしれんぞ……? 戻ってやったほうがいいと思うぞ。今のあやつには、お主が必要じゃからの」

「大天狗様……わかりました。では私は戻るので失礼します。本当にありがとうございました」

「うむ。一応、森にまだ下級妖怪がいるかもしれんから気をつけるんじゃぞ」

「はい。失礼します」

 私は、椛さんのいる部屋に戻る。そして寝ている椛さんを抱え、椛さんの家に向かった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 帰り道は何ごとも無く、無事に帰ってくることができた。

 椛さんを布団の上に寝かせる。私にも、一応疲れはあったため、すぐに寝ようとしたが、ふと椛さんのことが気になってしまう。

 私は椛さんが寝ている布団に近づき、椛さんの顔を覗き込む。

(椛さんの寝顔かわいいなぁ~……すごい肌がつやつや……)

 椛さんを見た後、私の体は不思議な行動にし始めた。なんと椛さんにキスしようとしたのだ。

 なんでこんな事をしてしまったのかは分からない。ただ、椛さんがかわい過ぎたため、体が勝手に動いてしまうのだった。

 自分の唇を近づける。

 

 

 

が、

 

 

 

 椛さんが寝返りをうった。その瞬間に私は驚いて体を反らした。そこで自分が何していたのかを知る。

「な……なんで……私……そんなこと……!」

 

 その場で固まる。

 

 そして私は、顔を赤らめながら布団に向かっていった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

――翌日――

 

「んっ……」

 窓から日が差し込んでいる。

「ふわぁぁ……」

 一伸びして起き上がり、台所へ向かう。台所につくと、既に椛さんがいた。

「あっ、柊さんおはようございます」

「椛さんおはようございまふ」

 眠けで口が回らなく、語尾がおかしくなって赤面した。しかし椛さんは気づいてないようだった。

「昨日はごめんなさい、柊さんに迷惑かけてしまって……」

「いえ、そんな迷惑だなんて……」

 ごく普通の会話を続ける。

 

 そして、食事をしている時にある話になった。

「そういえば柊さん、能力がわかったんですよね! 透明化の能力って!」

 柊には予想もしていなかった言葉が飛んできておもわず慌ててしまい、むせてしまう。

「げほっ! ごほっごほっ! も、椛さん!? な、なんでそれを!?」

「え、なんでって言われても、新聞にのってますよ?」

「し、新聞!? ちょっと見せてもらえますか!?」

 椛さんから新聞を受け取る。

 その新聞には、大きな見出しで、

 

『新入り白狼天狗の柊、ついに能力が発覚!』

 

と、大きな字で書かれていた。

「な、なんですかこれはぁぁ!?」

 そして素晴らしいことに、顔写真つきである。

「しかもなんで顔写真も!?」

「あれ、知らなかったんですか」

「いやいやいや、知りませんよ! てかこんなのいつ撮られたんですか!?」

「やっぱり気付かなかったんですね。まぁ盗撮のプロですから仕方ないです」

「仕方ないじゃすみませんよ! これプライバシーですよ! プライバシー!」

 私が必死にプライバシーと言っても椛さんはきょとんとしている。それもそうだろう、こっちにはまだそんな言葉はないのだから。

「あぁ! もう誰なんですか! これ撮ったの!」

「誰って、あの人しかいませんよ。私の上司にあたるあの……」

 そう椛さんが話をつづけようとした時だった。

「すみませ~ん! 毎度おなじみ、文々。新聞です! 白神 柊さんに取材をしに来ました!」

 大きな声が玄関からしてきた。

「噂をすればなんとやら……ですね」

 椛はつぶやいた。

 

 




どうも読んで下さり、ありがとうございました。
ついに十三話経て、次回あの方のご登場です。
顔写真付きの柊!どうなってしまうのでしょうか!

え?訓練はどうしたか?……はい、出来る限り早めに訓練にしたいです!

ではでは、読んで下さり、ありがとうございました!


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拾弐巻~怒りのさなか~

では、始まります


 私は誰かわからないまま、椛と玄関に向かい、ドアを開ける。

 ドアそこにいた人物に椛は話しかける。

「文さん、やっぱりいつも通りですね」

「なにせ新しい情報が売りですから」

「だったら捏造じゃなくて正しい情報を早く知らせてくださいよ。まぁ、今回は正しかったようですが」

「あやややや、嘘なんて書いた覚えはありませんけどねぇ~」

 そう言って鴉天狗はとぼけたように、笑いながら話す。

 私には何もわからないまま話が進んでいく。

「あ、あの……」

 鴉天狗が私にきづく。

「あなたが柊さんですか! 取材してもいいですか?」

 そこに椛さんが突っ込む。

「いやもう記事にしてるでしょう」

「あれは能力の事ですから。今回は柊さんについての記事ですよ」

 鴉天狗は誇らしげに言う。

 私が口を開く。

「いや、あの……誰ですか?」

「申し遅れました。私、『文々。新聞』を書いている射命丸 文というものです」

「文々。新聞……って、あなたもしかして!」

「おや、ご存知でしたか」

「私のこと盗撮した人ですよね!?」

「盗撮なんて、そんな人聞きの悪いことしませんよ~」

「してるじゃないですか! 思いっきり! 私、撮っていいか聞かれてないのに、この新聞にのってるじゃないですか!」

「いやぁ……それはですね……」

「撮るならちゃんと……許可とってくださぁぁい!!」

 

 こうして私のお怒りモードが始まった。しかしこの時の私は、この文さんが自分の上司になる方だということを知らなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「まったくもう……」

「まぁ、あれがあの人のやり方ですから……」

 あの後文さんは、こんな状態では取材は無理だと判断したのか、帰っていった。

 

 私と椛さんは椅子に座る。

「そうだ、柊さん」

「なんですか?」

「そろそろ訓練を始めましょう。前回は仕方なかったのですが……ある程度の力をつけていないと、敵と戦うことすらできずにやられてしまうでしょう」

「そうですね……」

「ですから、訓練をはじめませんか?」

「……実は私も同じことを考えてました。この前のことで私が、どれほど足手まといで、無力だったのかを……ですから、一段落着いたら椛さんにお願いしてみようと思っていたんです」

 私は、一呼吸おき、自分の石を伝える。

「ですから椛さん、私に……一から教えて下さい!」

 頭を下げる。

「柊さん……」

 椛さんはそんな私の肩に手をおいてこう言った。

「あなたの覚悟、しっかりと受け取りました。これから頑張っていきましょうね!」

「……はいッ! ありがとうございます!」

 

「そして訓練なんですが、今日はもう夜もふけてますし、明日でもいいですか?」

「はい、私は大丈夫です」

「では、明日の訓練に備えて寝ましょうか」

「はい。では、おやすみなさい」

「おやすみなさい、柊さん」

 こうして、明日から私の訓練が始まるのであった。

 

 




次回は真面目に、訓練様子がかければいいなと思ってまふ。

あとがきは短いです、許してください

では今回も読んで下さり、ありがとうございました!


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拾参巻~特別訓練~

最近いいタイトルが思いつきません。助けて下さい.


では、どうぞ! 拾参巻です!


「ん~! いい朝ですね、柊さん!」

「はい! そうですね!」

「では、特訓始めましょうか!」

「はい!」

二人は開けた場所に移動する。

「あれ、まだ柊さんに私何も教えてないですよね?」

「はい、何も教えてもらってないです」

「わかりました。では、基本から行きましょう」

「はい!」

 

 

――説明省略――

 

 

「次に妖力の使い方、抑制の仕方です」

「は、はい!」

 

 

――説明省略――

 

 

「次は弾幕についてです」

「はい……」

 

 

――説明省略――

 

 

「では、スペルカードについて教えます」

「スペルカード……ですか?」

「はい、スペルカードとは非殺傷の弾幕です」

「なるほど、普通の弾幕とは違うんですね」

「そうです。まぁ、あとで作り方とか教えますので、今は使い方だけで」

「はい」

 

 

――説明省略――

 

 

「あとは……能力ですね。能力は自然に使えるぐらいにならなきゃいけません。そのためにはまず妖力が操れないといけません」

「は、はい……」

「ですからそれも兼ねて、次はトレーニングにうつります」

「はい」

 

 

――説明省略――

 

 

「毎日これを三セットやってもらえば、すぐにでも妖力を操れるようになりますよ」

「は、はい!」

(三セットかぁ、なかなか辛そうだなぁ……でもやらなきゃ……)

「では教えるのはこれくらいですね」

「あ、ありがとうございました!」

「いえいえ。それよりも、教えることに集中しすぎて気がつきませんでしたが、もう夕方だったんですね」

「え!?」

 慌てて空を見る。

「あ、ほんとですね! 私も気がつきませんでした」

 私と椛さんは笑い合う。

「では、お腹も空いてきましたし、夕飯にしましょうか」

「はい! そうしましょうか! あ、私も手伝います!」

「じゃあ一緒に作りましょうか」

 私たちは笑い合いながら家に帰った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 夕飯はとても美味しく感じ、久しぶりに誰かと明るく話しながら食べることができた。夕飯の後は、食器を片付けて寝転んでいた。しかし、寝転んでいる時にふと気づく。

「あ、こういう時間にトレーニングやっておけばその分早く使いこなせるようになるんじゃない?」

 そう自分に問いかけて、

「そうだね。よし、やろう」

と、自問自答をした。

 この場面を椛さんに見られていたらと思うと、とても恥ずかしい気持ちになった。

 

 

 

 

 私は気持ちを切り替え、トレーニングに集中する。

「言われた通りにやっていけばいいんだよね……」

 順調に一セット目、二セット目とこなしていく。

「ふぅ……はぁはぁ……意外と体力使ってて、辛い……」

 そうして三セット目をやる。

「ふぅぅ……疲れた……」

 息が荒くなる。

(辛い……でも、辛くない特訓なんてない……これをこなしていけば、必ず……!)

 自分に言い聞かせてトレーニングを乗り越える。

 三セット目を終えたちょうどその時

「柊さぁ~ん!」

と、椛さんの声が聞こえてきた。

「はぁ~い! 今行きます!」

と、返事をする。

「どうしたんですか? 椛さん」

「ちょっと来てもらえますか?」

 椛さんの声が震えている。椛さんに近づく。

「あの……あ、あれ……」

 椛さんが指を指した方を見る。そこには蜘蛛がいた。

「柊さん……は、早く……!」

「…………椛さんもしかして蜘蛛ダメなんですか?」

 椛は半分涙目になりながらゆっくりと首を縦にふった。

「お願いします……あ、あれ、あれをどこかに……」

「わかりました! わかりましたから、泣かないで大丈夫ですから!」

「いえ、泣いてなんかないですよ……」

「椛さん。涙目ですよ」

 そう椛さんに言うと、椛さんは下をむいた。

「すぐに逃しますから。大丈夫ですって」

 私は早々と蜘蛛を追い払った。

「はい、椛さん。もう大丈夫ですよ」

 私がそう言うと椛さんが咳払いをして言った。

「あ、ありがとうございました。さっきは見苦しいところをお見せしちゃいましたね……すみません……」

(いや、涙目の椛さんも可愛かったから私としてはよかったけどなぁ……)

 内心そう思いながらも冷静を装いながら言う。

「いえ、大丈夫です」

 その後沈黙が続き、気まずい空気になったので、私は話しかけた。

「で、ではもう寝ましょうか!」

「そ、そうですね! では、柊さんおやすみなさい」

「おやすみなさい」

 私と椛さんは寝床についた。

 

 




伍巻あたりで起きた爆発、書き忘れてましたがあれ、鴉丸の幻影の爆発です。あそこではもう既に鴉丸は戦い始めてる設定でした。ちなみに、幻影のクオリティはとても高い設定です。
さて、今回は特訓内容…ではなく、椛の涙目を意識して書きました。特訓は文字数により、省略させていただきました。すみません。

では、読んでくださり、ありがとうございました!


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拾肆巻~裏~

今週は、課題やら、私の誕生日(意外と昨日だったり…)だとか、課題やら、テストやら、課題やらで遅くなってしまいました。  すみません…

で、前回の話に付け足しですが、椛が蜘蛛嫌いなのは、私の勝手な想像です。そんなだったら可愛いかなと、考えてみました。
このように、私の勝手な想像も入りますので、ここまで来て言うのもあれですが、
苦手なかたはブラウザバックを

そして今回、柊が容赦なくいためつけられます。なので、注意にもありますが、残酷な描写も含まれます。それも苦手な方も、ブラウザバックを

それでもよろしいかたは、どうぞ読んでいって下さいませ、

ではでは、始まります


 時が経つのがはやく、特訓から早二週間が過ぎていた。

 私は時間があれば、特訓をしていた。そのおかげで、私は能力を使いこなせるようになっていた。

「柊さん、だいぶ能力使えるようになってきましたね」

 椛さんは私を見て言う。

「操れるようにはなりましたけど、でも実際、能力と妖力だけですし、戦闘なんてまだまだ先だと思います……」

 椛が一瞬その言葉に反応する。すると椛さんは、

「柊さん、ちょっと外に来てもらえますか?」

と言い始めた。

 しかし私には何のことかわからない。

「え? どうしたんですか?」

 私は言われるままに、椛さんについていく。

 

 椛さんは外にでるなり、

「柊さん、これを持って下さい」

と、木刀を渡してきた。

「椛さん……? な、何をするんですか?」

 しかし椛さんは、私のいうことを無視して、

「私がやめと言うまで、戦って下さい」

「へ? な、なんでですか! 私が戦えるわけないじゃないでs……」

「なんでそう否定するんですか……」

 椛はそう呟いた。

 しかし、私にはよく聞こえなかった。

「え? 何ですか?」

「なんでもないです。行きますよ」

 椛さんはそう言うのと同時にこっちに向かって飛んでくる。

 私は、弾幕をバラまく。

 しかしそれを全て回避され、右側から木刀で叩かれる。

「……いッ!!」

 飛ばされながら、体制を立て直す。

 椛さんの一撃が重い。今の一撃でも相当なダメージだ。

(このままじゃもたない……せいぜいよくても、二分かそこらしか持たない……はやく能力を使って隠れないと……でも、椛さんが見ていては、能力が……!)

 

 柊の能力は、透明化できる程度の能力である。

 概要を説明すれば、柊自身も消えることができ、柊がものに触れ、妖力を少しでも送らせれば、その触れたものも透明にすることができる。

 しかし、どんな能力にもデメリットがある。そして、柊が使うこの能力は、二つのデメリットがあった。

 一つは、柊以外の人、妖怪などが触れると、透明化の能力が無効化されること。そしてもう一つは、柊が他人に見られている間は、能力が発動できないということである。

 透明にするところを見られてしまうと、能力が発動しないのだ。

 そして今は、二つ目に言った、見られているという条件があるため、能力が発動できないのであった。

 

 椛さんの木刀を弾き返す。そして隙があれば、すぐに弾幕をはる。

(だめだ、この繰り返しじゃいつまでたっても終わらない!)

 私は、空中へと逃げる。すぐ後ろを向き、スペルカードを唱えようとする。

 しかし、椛さんはそんなに甘くはなかった。

 私にあけられた差を、一瞬でつめていた。

「は、はや……」

 椛さんの肘が私の鳩尾にはいった。

「ガッ……! かはっ……」

 そこに追い打ちをかけるように、叩き落とす。私は木にぶつかりながら落下していく。

 

「かッ……! は……ァ! ぁあ……うぅ……」

 うまく息を吸うことができない。意識は朦朧とし、視界が歪んでいて、おまけに頭には激痛がはしる。立ち上がろうにも、体が動かない。そこへ正面から、歩み寄る人影があった。

 

 椛さんだった

 

 なんとか呼吸を整え、息ができるようになったが、喋ることができない。

 椛さんが近づいてくる。

 私は何もできずにいた。そんな私を椛さんは一瞬見る。そして、何の前触れもなく、私の脇腹におもいっきり蹴りをいれた。

「グハッ……!」

 私は吹き飛ばされ、木にぶつかる。

「柊さん、はやく立ち上がって下さい」

 その言葉を言った椛さんの目は、一瞬悲しんでいるように見えた。

 しかしそれを遮るように、椛さんが私の背中に木刀を叩き込む。

 

(なんで……なんで……)

 椛の攻撃を喰らう。

(なんで……)

 椛さんはやめない。

 

 

 ―――――――――――――

 

 

 

 何かを感じ取った椛の動きが止まった。

 その何かは、今まで感じたことのない、妖気……いや、邪気とも言えるほどの気だった。

 

 椛は気のせいかと思い、そのまま柊に攻撃を加えようとした。

 

 

 

 その時、柊の体が消えた。

 

 

 

 




なんでこうなったのかは、次回にでも入れたいと思います。

では、読んでくださり、ありがとうございました


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拾伍巻~椛の想い~

続きをわすれそうで、書きたくて、書きたくて書きました。


前回の続きで、柊が消えた後からです。

おかしいところは無いと思います。
もしよんでいて、ここってどういう意味?だとか、これ文章がおかしくない?というのがあったら、よろしければいってもらえるとありがたいです。

今回は前回ほどではありませんが、ほんのすこし、椛が攻撃を喰らいます。
苦手なかたはブラウザバックを、よろしい方のみ、

ではでは、どうぞ


「なっ……! 消えた!?」

 今起こった出来事に、椛は動揺する。気配を探ってみるも、周りには柊の気配を感じない。

「一体どうやって……」

 考えてみるが、いつまでもこうしてては、何も始まらない。

 椛はあたりを探し始める。

 

 

 これは、柊の言葉によって始まった。

 

 

 

   自分は戦闘なんてできない

 

 

 

 椛はそれを聞いた時に、そんなことは無いと思っていた。二週間であそこまで成長したのは、椛でも驚きだった。

 だから楽しみにしていた。もうすぐ柊さんと一緒に戦えるのではないかと。

 

 しかし柊は戦えることを否定した。

だから椛は、柊が十分に戦えることを自分でわかってもらおうと思い、無理やりこの戦闘を仕掛けたのだった。

たとえ椛が言葉で「戦えますよ」と言っても、否定することがわかりきっていたから。

戦闘中に追い込むことでしか力を引き出させる方法が無く、結果としてこうなってしまったのだった。

 

 そして戦闘を始める。

 椛は、柊が十分に戦えることをわからせようとするのに必死だった。しかし、わからせようとして柊を攻撃するのは、同時に椛の心も傷めていた。

 

 

自分が今一番好きだと言える人を攻撃しなければいけなかったから。

 

 

 椛は柊が来てから、毎日が楽しくて仕方がなかった。女性の白狼天狗も少なくないのだが、今までこんなに明るく楽しく話せた白狼天狗はいなかったからだ。

 だからせめてもの恩返しとして、柊にきづかせたかった。

 これを恩返しというのかはわからない。でも、椛は自分が返せることとして何があるかを自分なりに必死に考えた。考えた末、これにたどり着いた。

 もしかしたら柊に嫌われるかもしれないという可能性も考えた。だが、それを恐れて柊の力を使わせないまま終わることのほうが椛としては辛かった。

 だから、椛はこの戦いを無理矢理行った。

 

 そして今に至る。

「もう少し、もう少し……」

 椛はつぶやく。

「もう少しで力にきづくはず……!」

 先ほど、あれだけの気を発せることができたのだ。

「だから探して、最後に一言言えば、絶対に……!」

 

 後ろに気配を感じる。

(あの気だ……)

 椛は後ろを向く。そこには柊が立っていた。

 椛は思っていたことを言う。

「柊さん! あなたはあれほどの能力をもっているんです! さっきのでわかったはず! 柊さんは自分では気づいていないだけで、実際はもっと強いんです! だから、柊さん! あなたは十分戦……え」

 さっきまで数メートル離れていたはずの柊が、一瞬にして目の前にいたのだ。

(ッ……! はやい!)

 椛が後ろに避けようとする。

 柊が、スペルカードを唱える。

「吼符『天の咆吼』」

(あれは音のスペルカード! まずい、耳が……!)

 耳を塞げずに、近距離で聞いてしまう。

 頭に響き、視界が歪む。

 椛がふらつく。

 そこに柊が容赦なく、攻撃をする。腹に一発、脇腹に一発、背中に一発いれ、木刀で薙ぎ払う。

 その剣さばきは、今までよりも数倍速かった。木に直撃し、背中に激痛がはしる。

 

 椛が一瞬でここまで喰らうことは初めてだった。今までにないほどのダメージを負い、椛は立ち上がれずにいた。

(仕方ないよね……こんなになっても……だって、それだけのことをしたんだから……)

 椛は戦闘してる裏で、恐れていることがひとつあった。

 

 それは、柊の力、能力が椛では抑えきれなくなってしまうこと。いわゆる、柊の力の暴走であった。柊が強いことはわかっていた。しかし、その強さがどこまでなのかは予測がついていなかった。だから暴走した時に止められない可能性があったため、これを恐れていた。

 そして今、恐れていたことが起きている。

 

 柊がゆっくりと近づいてくる。

 

 暴走しているため、もう柊を止められない。

 誰が味方なのか敵なのかわからない状態のようだ。

 また、攻撃したら殺してしまうかもしれない、かといって何もしないと殺されてしまうかもしれない。

 だったら、自分の好きな人を殺してしまうくらいなら、自分が死んだほうがましだと思っていた。

 

 

「柊さん……ごめんなさい……」

 

 

 

 ここで奇跡がおきた。

 

 

 目の前で柊の動きが止まった。

 そして止まってから数秒後、柊は倒れた。同時に椛の意識はそこで途絶えた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「……じ……ん!」

 遠くから声がする。

「も……さん!」

 どこか聞き慣れた声。

「椛さん! 椛さん!」

 この声は……と椛は目を開ける。

「椛さん!!」

 視界には柊がうつっていた。

「椛さん! 大丈夫ですか!? しっかりしてください!」

 椛は体を起こそうとする。

「だめです! 寝ていて下さい!」

 柊にせいされてしまう。

 椛は覚えてる限り思い出そうとする。

(確か柊さんを止められなくて……)

 なぜあそこで止まったのか椛には分からない。椛が柊に聞いてみたところ。

「いや、その……私もあんまり覚えていなくて……椛さんになんでこんなことされなくちゃいけないんだって思っていたら、急に意識が遠のいていって……それで、しばらくした後椛さんの声が聞こえたんです」

 椛は相槌を打ちながら聞く。

 

「あの、椛さん」

「はい」

「その傷はどうしたんですか?」

「この傷ですか? これは柊さんがやったんですよ」

「え?私……がですか? 本当にごめんなさい! すみませんでした!」

「謝らないでください。実はですね……」

 椛は、今回の戦闘の趣旨を話す。

「そうだったんですか……でも、こんなに傷つけてしまって……」

「いいんですよ、そうやってひきだそうとしたのは私なので」

「でも……」

「もういいですから、気にしないでください。それよりも、柊さん。あなたにはこれほど力がついたんです。ですから、あなたにも十分戦闘はできます。だから……もう自分が無力だとは言わないで下さい。もっと自信持っていいですから」

「椛さん……ありがとうございます……」

 柊は泣き出してしまった。

「柊さん……」

 柊は涙を拭きながら柊の方を向く。

「本当にありがとうございます……」

「いいですって。それより、一つ頼みたいことが」

「なんですか? 私にできることならなんでも」

「その、私を総会場の医務室まで運んでくれませんか?」

「あ、はい! すぐに連れて行きますね」

 

 柊は椛のおかげで、力に気付くことができ、椛はそれを助けとすることができた。

 二人は、笑いながら総会場へと向かった。

 

 

 

 

 

 




はい、今回はいかがでしたでしょうか?
よろしければ、感想でもいただけたら嬉しいです。

書きたいことがたくさんありました。


次回からどうなっていくのか、気長にまっていただければ嬉しいです。

では、読んでいただき、ありがとうございました!


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拾陸巻~出会いの連鎖~

遅くなってしまって、申し訳ないです。
最近ちょっと不調でして、すぐに眠ってしまうことが多かったので…

もしかしたら、投稿ペースが落ちてしまうかもしれません。すみません…
それでもいいという方は、今後ともよろしくお願いします。

さて、今回はブレイズさんに考えていただきました、新キャラもでます!
考案してくださってありがとうございます!

ではでは、拾陸巻、どうぞ


 これは、椛が怪我をしていた時に柊が一人で哨戒任務をしていた時の話。

 

 

「はぁ~……」

 私はため息をつく。

 自分では覚えてはいないが、なぜ椛さんにあんなことをしてしまったのかということに落ち込んでいた。

 

 独り言に自分でツッコミを入れながら、山の見回りをしていると、誰かが倒れているのを見つけた。

「誰か倒れてる……」

 倒れている人に近づく。近づいて初めて分かったが、その人は傷だらけだった。

「ひどい怪我……! 早く手当てしないと!」

 手当てを始める。しかし、手当てをしようとした時に、その人が私に話しかけてきた。

「な……にやって……巫女が……きちゃう……」

「巫女……?」

(巫女ってあの、よく神社とかにいる人達のことだよね。その人達が来る?)

 私には訳がわからなかったが、妙な胸騒ぎを感じた。

「そう……巫女、よ……博麗の巫女……一緒にいたら……あなたも……!」

「博麗の……巫女……?」

 その言葉を口にした時、背筋が凍るほどの殺気を感じた。足が震えだし、本能的に能力を発動させてしまう。

 その人は私に言った。

「ほら……来ちゃった……! はや、く……! 今……なら、まだ……逃げられる……!」

 その人が言った時、もの凄い速さで巫女が来た。その人の表情は凍りついていた。まるで死を覚悟したかのようだった。

 

 

 

 が、

 

 

 

思っていたのとは違う言葉が飛んできた。

 

「あれ~、おかしいわね。こっちに来たと思ってたんだけど……しかも途中で妖気が消えてる……もう、面倒くさいったらありゃしないのに……」

 博麗の巫女は目の前にいるのに、そんな言葉を述べて、どこかへ行ってしまった。この不思議な状況を見て、驚かない人なんていないだろう。

 案の定、その人は唖然としていた。

「え……なん……で……? どうゆう、こと……?」

 全く現状を把握できていないその人に、私は説明する。

「あの……実は、私の透明化にする能力で、透明にしちゃったんです」

「え……」

 説明したら、一瞬止まったが、

「あ、そうだったの!?」

と、驚いて、興奮し始めた。

「あの、ありがとう! 本当に助かっちゃって……命の恩人だよ! あ、私は、水霧 双葉(みずきり ふたば)って言うの。あなたは?」

「私は……柊、白神 柊」

「柊……柊! ほんとうにありがとう! 感謝しきれないよ」

「ううん、私も力になれてよかった。実際、足が動かなくって本能で能力出しちゃったから」

 私は逃げようにも、逃げられなかったのである。でも、目の前の人が困っている状態で逃げ出そうとするのもそれは悪いことだ。だから、怖くても逃げなかった。

 

 ここで私は忘れていたことを聞いてみる。

「ところで、双葉ちゃん」

「ん? なぁに? 柊ちゃん」

「けが、大丈夫なの?」

 双葉は自分の怪我を見た。

 

 

 その後、双葉が倒れたのはいうまでもない。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 私は、双葉ちゃんを手当てしながら思い出していた。先ほど能力を発動してみてわかったことを。

 一つ目は、能力発動中は気配も消すことができること。私は、戦ったことがなかったので、実際に能力を特訓以外で使ったのは初めてだったため、先ほど知ったのだ。

 そして二つ目は、二人以上(自分と妖怪及び人)が同時に消えている時、消えているものどうしを見たり、会話ができるということだった。これも一つ目と同様に、使う相手がいなかったため、先ほど知ったのだ。

 私はこの二つを知った時、相変わらず複雑な能力だなと手当てをしながら思っていた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 手当てをし終え、私と双葉ちゃんはとりあえず椛さんのところへ向かっていた。椛さんに双葉ちゃんのこと説明するためだ。

 双葉ちゃんには、椛さんのことを少し紹介しておいた。

「いやぁ……一箇所に留まるのは好きじゃなくてね。この広い幻想郷を見て回ってたんだ」

「へぇ~」

 私は、双葉ちゃんが今まで見てきた景色のことを聞いた。

 双葉ちゃんの話しを聞きながら、まだ見知らぬ世界へと行ってみたいな……と、思いながら、私達は椛さんのところへ向かった。

 

 




はい、新キャラの名前は水霧 双葉ちゃんでした。
髪は水色で性格が明るい可愛い子(だそう)です!
あ、因みに、妖怪です。(妖怪だと思ってます)
まずは、ブレイズさん考案してくださり、本当にありがとうございます!

そして、読んでいただいてる方、遅くなってしまい、申し訳ないです


では、今回も読んでくださり、ありがとうございました!


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拾漆巻~一つの過去~

最近肌寒くなってきました。
この小説を書き続けて、早四ヶ月ほどです。
いや、実に早いもので。

今回は少々、説明にも書いてある、(自分では)R―15要素(ガールズラブ)が含まれます。
苦手な方は申し訳ないです。
前半では、ちょっと悲しみ系(だと思っている)を、後半はガールズラブをいれました。

ではでは、どうぞ





 私は椛さんに双葉ちゃんを紹介し、事情も説明した。

 事情を聞いた椛は

「私はいいですけど……まだ二日ほど病院にいなくてはいけないみたいなので……」

「そう……なんですか……私のせいで、ほんと……ごめんなさい……」

「だから謝らないで下さい。柊さんのせいじゃないんですから」

「でも……」

「大丈夫ですから。だから柊さん、家をおねがいしますね」

「うぅ……はい……」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 私と双葉ちゃんは病院をあとにした。

「椛さんって聞いてた通り優しい方だね~」

…………。

沈黙が流れる。

 

 私は双葉ちゃんに言った。

「椛さんが今あそこにいるのは、私のせいなの」

 双葉ちゃんは驚いたようだが、真剣に話を聞き始める。

 私の声は自分でも分かるほど震えていた。

「私はつい最近妖怪になったばかりで、弱かった……足を引っ張るばかりで、お荷物で……だから周りの人や椛さんに迷惑かけちゃって……」

 今にも泣き出してしまいそうなほどの声で話し続ける。

「もう、迷惑かけたくなくて……強くなりたくて……! なりたくて、特訓も続けた……! ……でも私は、その特訓をしている時に、まだ自分に自信がなくて、戦えるということを否定しちゃった……そしたら、椛さんが気を使ってくれて、私が……私自身が戦うのに十分力を持ってるということをわからせてくれようとしてくれた、なのに私は……! そんなこともわからずに、椛さんを傷つけてしまった! だから、今……椛さんが大変な目にあっているのは私の……私のせいなの……」

 

 私の頬に涙がつたっていた。自分のせいなのになんで泣いているのだろう。泣いてはいけないのに、勝手に涙が溢れてくる。

 

 

 

 

 今の話を聞いていた双葉は、柊に近づき柊を抱きしめた。

「そうだったんだね……一人で抱え込んで……私にもわかるよ、その気持ち。迷惑をかけたくないって気持ち……苦しかったよね。自分のやってしまったことで自分を追い込んで……柊ちゃん、こんな私でも力になりたい。柊ちゃんが苦しんでいるところを見たくないから。だから……もし何か私に出来る事があるならしてあげたい。相談でも、話相手でも、何でもいいから。私に何かできることがあれば言って? 柊ちゃんは私にとって恩人だから」

 そう言い終えると、双葉は柊の顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、柊の唇に自分の唇を重ね合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 さっきまで泣いていた柊が、涙を流しながら頬を赤く染めた。

 双葉が柊の口の中に舌をいれていく。口の中で舌が絡みあう。甘くとろけるような感覚で体も火照り出してきた。その感覚は、時間をも忘れさせてしまうほどだった。

 双葉が口を離す。

「ほら泣かないで……って、大丈夫?」

 柊は完全にショートしてしまっていた。

「ねぇ、大丈夫?」

 双葉の呼びかけに、柊が我にかえる。

「ちょ、ちょっとぉ! な、なに! 何してるの!?」

「何って? キスだけど? 深い方の」

「深い方って……! ていうか、なんでキスするの!?」

「だって、落ち込んでたし。した方がいいのかなって?」

「なんでそういう考えになるの!?」

「なんとなく?」

「なんとなくって……! 双葉ちゃん……」

「ほら、元気になったからいいじゃん! 言ったでしょ? 苦しんでるところは見たくないって」

 思ってみれば、柊が泣いていたから励まそうとしてくれたのかもしれない。

(だけど、キスなんて卑怯だよ……)

「双葉ちゃん……ありがと」

「明るくなってよかった! じゃあ、いこ? 椛さんのおうちに」

「うん!」

 

 




いかがでしたでしょうか。
実際、R―15シーンを書くのは初めてな気がします。
前半部分では、ちょっとでもしんみりしてもらえればいいなと思ってます。

では、今回も読んでいただき、ありがとうございました。


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拾捌巻~繰り返される夢『回夢』~

タイトルがもうおかしくなってきた拾捌巻です。
合計だとこれが二十話目ですね。
今回は少々残酷な描写といいますか、ひどいことが入ります。苦手なかたはすみません。ブラウザバックを推奨いたします。


それでもいい方は、どうぞ


 私と双葉ちゃんは、椛さんの家についた。

「ここが椛さんの家だよ」

 私は双葉ちゃんに言って、家の中に入ろうとするが、双葉ちゃんは立ち止まっている。

「双葉ちゃん? どうしたの?」

「ううん。なんでもないよ。すぐ行くね!」

 それを聞いた私は家の中に入っていった。

 

 家の中に入っていく柊を見届けた双葉がほくそ笑んだとも知らずに。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「お腹すいたね。何か食べる?」

「そうだね~、なんか食べたいかも!」

「じゃあ、適当になんか作るね!」

 そう言うと、柊は台所に行った。

 

 双葉は、柊が準備を始めたのを確認すると、音をたてずに、立ち上がった。そして、足音をたてずに柊に近づいていく。

 

 

 柊は食材の準備を始める。切ったものを鍋に入れ、次の食材を切ろうとした。

 

 しかし、

 

「あれ? 包丁がなくなってる」

 つい先程まで使っていた包丁が見当たらない。

 そう思った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 腹部に鈍い痛みが走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 腹部に手を当ててみる。ぬるぬるとした感触があった。

 触った手と服が赤く染まっていく。

「なん……で……?」

 徐々に、血が出ているという状態を把握し始める。

 口から血を吐き出す。床にも血が広がっていく。

 しかし、全てを把握する前に、全身から力が抜けていった。意識が遠のいていくなか、一人の人物が目に入った。

(双葉……ちゃん……?)

 双葉だと認識した後、柊が最後に見たものは……

 

 

 

 

 

 血で赤く染まった包丁を持って、幸せそうな笑みを浮かべている双葉だった。

 

 

 

 

 

「はぁ……! はぁ……はぁ……」

 なぜか私は、布団にいた。

 腹部を触ってみるも、血は出ていなく、傷もなかった。

「夢……」

 さきほどのものが、夢だと脳が認識し始める。しかし、夢とは思えないほどリアルだった。

 

 

 最近、よくこんな感じの夢を見てしまうようになっていた。

 誰かが誰かに殺される夢……。

 中でも、ここ最近で見た一番つらかった夢、それは柊が思い出したくない、心の奥に閉まってあったはずの記憶だった。

 それは、柊の両親が死んだ時のことだった。

 あの日のことを体が本能的に記憶の奥底にしまいこんだはずなのだが、夢に出てきてしまっていた。

 しかもそれが夢に出てきた時、柊はその日の夕方まで目覚めなかった。

 寝ながらそのまま気を失っていたのだ。

 柊にとってそれほど、辛い記憶なのだ。

 

 

「どうしたんだろう……疲れてるのかな……」

 夢の最後に見たシーンを思い出す。思い出しただけでもゾッとする……。

 双葉ちゃんのあんな顔を見たことがないし、まして、そんなことするはずがないと私は思っている。

 

 とりあえず呼吸を整える。

 そして、まず双葉ちゃんが何をしているのかを確認しようとしたが、タイミングがいいようで、双葉ちゃんが部屋の中に入ってきた。

「柊ちゃん、大丈夫? 顔真っ青だよ?」

 双葉ちゃんにはなしかけられる。

 私は、警戒していることを双葉ちゃんにさとられないようにしながら話を続ける。

「う、うん。大丈夫だよ。ごめんね、心配かけちゃって」

「ううん。いいの。でもまだ顔色悪いよ? もう少し休んでたほうがいいかも」

「ありがと。でももう、大丈夫だから……あのさ、一つ聞いていい?」

「なに?」

「私ってどうなったの……?」

 恐る恐る聞いてみる。

「あぁ……家の前でいきなり倒れたからびっくりしちゃったよ。入ろうとしてたら、倒れたから」

「そうだったんだ……ほんとごめんね?」

「いいよ! でも、もう寝たほうがいいかもね」

「そっか……じゃあお言葉に甘えて、今日は寝させてもらう。ありがとう。ほんとに」

「いいよ、気にしないで! じゃあ、おやすみ~」

「おやすみ」

 

 

 

 

 




拾捌巻、いかがでしたでしょうか。
言ってしまうと、双葉が一回目に笑ったのは柊と一緒に暮らせることが嬉しかったからです。
二回目は、柊の夢なので実際の双葉じゃないです。


では、今回も読んでいただき、ありがとうございました!


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拾玖巻~心の箱の知らない事実~

だいぶ遅くなってしまいました!申し訳ないです!
風邪をひいてしまって、作業できない日々があったので…楽しみにしてた方、いらっしゃったら、本当にすみませんでした。


今回もいろんなシーンが入ります。本格的なガールズラブ展開はないですが、もうちょっと進んだら行きそうだな~というところがあります。(ですが、ただの会話だと思います)
そして、新キャラも出てきます。
そして、今回は残酷な描写がはいります。
苦手なかたはブラウザバックを推奨します。
それでもいいかたは、


どうぞ!



「んっ……」

 窓から朝日が差し込んでいる。

 私は体を起こす。

「ふわぁぁぁ……ん~!」

 大きく伸び、台所へと向かう。

「あれ、双葉ちゃんがいないな……どこ行っちゃったんだろう」

「双葉ちゃ~ん!!」

 家の中を探してみるが、どこにもいない。

「どうしちゃったんだろう……」

 私が心配していると、

「たっだいま~!」

 聞き覚えのある元気な声が玄関から聞こえてきた。

「双葉ちゃん! どこ行ってたの!? 心配したんだよ!?」

 双葉ちゃんのいる玄関へと向かう。

「ごめんごめん! ちょっと人里に買い物しに行って……て……」

 靴を脱いで上がろうとしていた双葉ちゃんが、急に動きを止めた。

「へぇ~人里なんてあったんだ……って双葉ちゃん、どうしたの?」

「柊ちゃん、もしかして……ついに……」

「え? な、なに……?」

「まだ出会ってそんなに経ってないけど……柊ちゃんって意外と大胆だね……!」

 双葉ちゃんが照れる仕草をする。

「え、ど、どういうこと?」

「だってそんな格好してるから、準備はできてるんでしょ……?」

 双葉ちゃんに言われて気が付く。

 私の片方の肩はあらわになっており、胸の部分ははだけて、裸足だった。

「ねぇねぇ」

「い、いや、ちがっ、これは……」

「……いいんだよね?」

 双葉ちゃんが私に詰め寄る。

「だ、だめだってばぁぁぁぁぁ!!」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「で、食材とか買ってきたんだけど」

 双葉ちゃんが袋から買ってきたものを取り出す。

「いった~い。別に本気で言ったんじゃないのに」

「いやあれ絶対本気でしょ」

 

 

 先ほどの騒動は私が正当防衛でやってしまったビンタによって、その場はおさまった。

 勿論その後、私のお説教があったのは言うまでもない。

 

「って、さっきも言ったけど、人里なんてあったんだ」

「え? 知らなかったの?」

「だって私、山から出たことないよ?」

「えぇぇぇ!? そうだったの!?」

「う、うん」

「じゃあさ、じゃあさ! 行ってきなよ!」

「へ?」

「だから、行ってきなって! 人里! 楽しいし」

「え……で、でも……」

「大丈夫だって! これで好きなものでも買ってきなよ! 留守番は私がしておくからさ!」

「じゃ、じゃあ……行ってこようかな」

「よしきた! このまま真っ直ぐ行った所にあるから!」

「分かった。……じゃあ、留守番頼んだよ?」

「任せといてよ!」

「じゃあ、行ってくるね」

 私はそう言うと人里に向かった。

 

 

 双葉は、柊が出て行ったのを確認すると、

「楽しめるといいな。外の世界に。それにしても、ふわぁぁぁ……眠い……」

 この前の疲れが残っているのか、双葉は眠ってしまった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「あ~あ、暇だなぁ~……面白そうな事起きないかなぁ……」

 一人の妖怪はそう言った。

「でもまぁ、起きないなら自分で起こせばいいか。今までもそうだったし。てか、妖怪の山に行けば天狗がいるって聞いたけど……全然いないし……」

 山の中を歩きつづける。

「ん? あれってもしかして天狗?」

 その妖怪の視線の先には、一人の白狼天狗がいた。

「やっと、み~つけた。さて、どんな風に楽しませてくれるかな?」

 その妖怪は下準備をし、天狗に攻撃を仕掛けた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「このまま真っ直ぐだよね……」

 柊は歩いて人里に向かっていた。

「そんなに遠くないって聞いたけど……」

 そんなことを考えながら歩いていると、近くの草むらから音がした。

 急な音に柊は反応して身構える。

 身構えた後、音のしたほうから針が飛んできた。柊はそれを難なく避ける。

「だれっ!」

「いや~悪いね。ちょっと話がしたくってさ」

 針が飛んできた辺りから出てきたのは、青髪で見た目が今で言う中学生ぐらいの身長の男だった。

「話したいじゃないでしょ、理由は。なんで攻撃してきたの」

 警戒しながら聞く。

「バレちゃったか。仕方ない。いや~あのね~、最近そんじょそこらの妖怪だと物足りなくって飽きてきたからさ。で、そんな時、妖怪の山には天狗がいっぱいいるって聞いてね。プライドの高い天狗だとどうなるのかなって思って。あ、自己紹介まだだったね! 僕は夢宮 幻(ゆめみや げん)って言うんだ! 覚えられたら覚えてよ! で、お姉さん、名前は?」

「言うわけないにきまってるでしょ。あなたの話を聞いていたけど、結局どうしたいの? 戦いたいだけなの?」

「戦う? とんでもない。そんなことしないよ」

「じゃあ、何がしたいの……?」

「僕の目的……それはね……お姉さんみたいな天狗が狂っているところを見ることだよ!!」

 幻が言い終えた後、暗い世界に閉じ込められる。

「な、なにを言ってるの……?」

「さぁ、お姉さん……僕を楽しませてね!」

「こんなの……狂ってる……!」

 幻が針を飛ばしてくる。柊は飛んでそれを避ける。

「そうだった。天狗って飛べるんだっけ。だったら……」

 幻が何か小声でつぶやくと、幻の体が空中に浮いた。

「これで対等だね!」

 しかし、柊はニヤッと笑った。

「残念だったね……空中で天狗と対等だなんて考えちゃダメなのにね!」

 柊は斬りかかりに行く。幻が避けるそぶりはない。柊は力いっぱい剣を振る

 

 

が、

 

 

「え……?」

 

 

 なんと剣は幻の体をすり抜け、空を切った。

「な、なんで!?」

「あっはっは! お姉さん面白いよ! いいよ、特別に教えてあげる。僕の能力。僕の能力はね、別次元に体を移すことができる能力なんだ。だから、お姉さんの攻撃は、当たらないってわけ。いる次元が違うからね~。体は見えるけど、場所じゃなく、次元がちがうってこと。わかる?」

 挑発するようにまくしたててくる。

 しかし、相手の挑発に乗ってしまったらそこで終わりだ。柊は冷静を装おう。

「次元は違えど、いる場所は変わらないのなら、そこに閉じ込めてしまえば終わり!」

 柊はスペルカードを使う。

「囲符『ウィンドケージ』!」

 風が巻き起こり、幻を包み始める。風が具現化し、檻の形になった。

「たとえ場所を移動しても、この檻は中にいるものを逃がさない!」

 しかし、風の檻の中を見ても幻の姿はなかった。

「なんで檻の中にいない!?」

 柊には全く理解できなかった。抜目のないあの風の檻からどうやって脱出したのか。

 後ろから笑い声が聞こえてくる。

「あっはっはっは! いや~、さすがは天狗と言いたいぐらいだよ! こんなに楽しいのは久しぶり! でもね……まだまだこれからだよ!」

「くっ……!」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「いや~実に滑稽だな~」

 草むらの中にいる幻はつぶやいた。

「まさかこんなにあっさり僕の『幻覚を見せる程度の能力』に騙されちゃうなんて。周りから見たらただ一人で何かやってるようにしか見えないんだけどね~。あのお姉さんは一生懸命僕の創りだした幻覚と戦ってるね」

「さて、そろそろ僕のこの能力のもう一つの使い方をしておわらせてあげようかな」

 幻の能力には、二通りの見せ方があった。

 ひとつ目は、自らが創りだしたものを相手に見せる使いかた。

 もう一つは、相手の記憶からトラウマを引っ張りだし、相手に思い出させる見せ方であった。

 もちろん、二つの見せ方に欠点はある。

 ひとつ目の見せ方の場合、自分が見たことのあるものではないと創りだすことができない。

 もう一つの見せ方は、相手にトラウマが無かったり、トラウマだと思っていなかったりすると発動できない。

 この二つが欠点であった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「はぁ……はぁ、はぁ……」

 何度やっても同じことだった。なぜか私の体力だけ削られていく。

「無駄だとわかっていてもやるんだね~。それはプライドとかなのかな?」

「はぁ、はぁ……うるさい……」

「まぁ、いっか。そろそろフィナーレといこうか。ここからが楽しいんだよ……!」

 私は剣を構えた。

「お姉さん、さっきは嘘ついちゃってごめんね~。前半戦は楽しませてもらったから、お礼に本当の能力を教えてあげるよ」

 幻が無駄に話している間に私の呼吸は整えられていた。

「本当の能力……? ということは嘘だったのね」

「うん! そのほうが楽しめると思ってね。実際楽しめたし」

「それで、本当の能力は……?」

「僕の能力はね……幻覚を見せる程度の能力だよッ!!」

 そう言った時、一瞬にして柊の視界が真っ暗になった。

「何っ!?」

「僕には二つの幻覚の見せ方があってね、一つはさっきみたいに、自分で創りだす方法……」

(そうか! だから攻撃があたらなかったのか!)

「もう一つはね……これからやってあげるよ……!」

 幻が言い終えた瞬間、目の前に見慣れた景色が現れた。

「この景色って……私の家……? なんで……」

 幻が話を続ける。

「もう一つの方法はね……相手の過去を具現化するんだよ。それはその人が知ってる過去も、知らない過去も、一連のシーンとして流す。区切りのいいところまでね」

 それを聞いて私はきづく。

「じゃあ、もしかしてこの景色は……」

 全身が震えだす。

 心の奥深くにあった記憶がよみがえる。目の前で映像のように流れ始める。

 

 そして……。

「お父さん……お母さん……!」

 まだ生きていた時の私の両親がうつる。

 

 

 私はこの先の未来がわかる……

 

 

 そう思うと、自然に涙が溢れてきた。

 そして、次の瞬間……。

 

 家の中に刃物を持った男が入ってきた。

 お母さんが、私を守るように抱きしめている。その中で私が声を押し殺して泣いている。お母さんを刺そうと刃物を持った男が近づいてきた。

 

 刃物が振り上げられる。

 

 そこでお父さんが私達をかばう。

 お父さんの体から、赤い液体が流れている。

「あっ……あ……あぁ……」

 自然と声が出る。

 今の私にはただ映像を眺めることしかできない。

 

 刃物を持った男は次にお母さんを刺しに来た。

 私をかばうようにして、そして倒れた。お父さんと同じく、赤い液体が流れていた。私の前に刃物を持った男が立っている。それを、昔の私は怯えて見ている。

 脇腹を思いっきり蹴られた。

 私の精神は崩壊寸前だった。

 そして、この時初めて気がついたこともあった。

 お父さんがおきあがり、私を守ろうと、必死になって男と戦っていた。

 

 しかし、傷を負ったお父さんが勝てるはずもなく……

 

 そして私は見てしまった。

 蹴られて気絶している間のことを。

 

 

 男は、お父さんの心臓に刃物を突き刺し、下腹部まで一気に切り開いた。そして、さらに八つ裂きにしていく。あまりの惨状に、私は吐いてしまった。

 そして目の前で愛していたお父さんが八つ裂きにされていくのを見てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

……柊の精神は壊れてしまっていた。

「うふふ……はは……」

 目は光を捉えていない。涙が流れているだけの瞳……。

 

 

 柊はただただ笑っていた…………。

 

 

「やっぱりこの壊れる瞬間がたまらない……! ゾクゾクするんだよねぇ!!」

 壊れた柊を見て言った。

「これからどうなっていくのか……楽しみだ」




いかがでしたでしょうか。
長めでしたが、退屈せず、楽しく読んでいただけたなら、嬉しいです。
さて、今後どうなってしまうのか!楽しみにしていただけたら嬉しいです。

あとがきが短くなってしまいましたが、

読んでくださりありがとうございました!


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弐拾巻~変化~

この話、本編始まってはや20話ですね。

本題に入りましょう。
今回は、ひどい状態で柊が見つかります。
そんなの嫌だというかた、苦手だという方、ブラウザバックを推奨です。
最近こんなの多くてすみません。

そして、そろそろ主人公や、双葉の絵でも描ければ(願望)と思っています。


で最後に、小説についての要望、感想などがありましたらTwitterでよろしくお願いします。



   ――夕刻―

 

「ただいま帰りました~」

 椛が帰ってきた。

 しかし家の中から返事はない。

「柊さ~ん、双葉さ~ん」

 台所に向かうと双葉がいた。

「双葉さん」

 呼びかけてみても、返事がない。

 椛は双葉の顔を覗きこむようにして見る。

 

 双葉は寝ていた。

 

 椛はしばらく迷ったが、申し訳ないと思いながらも双葉を起こす。

「双葉さん」

「んっ……ん……? あ、椛さん、おかえりなさい」

 双葉が目をこすりながら体を起こす。

「ただいま。双葉さん、柊さんは?」

「あれ、柊ちゃんなら、人里に行ったはずけど……」

「いつからですか?」

「昼過ぎくらいだったかな……今って何時です?」

「だいたい申の刻ぐらいですかね」

「申の刻……人里にそんな長くいるかな……さすがに遅すぎるか……?」

「確かに遅いかもですね……何かあったんでしょうか……」

「……ちょっと私探してきます」

「だったら私も……」

「いえ、椛さんは退院したばかりなので、待っていてください」

「いや……そうですね……分かりました。では、お任せします」

「はい。あと……」

「ん? 何ですか?」

「椛ちゃんって呼んでもいい?」

「いいですよ」

 椛はニコッと笑った。

「じゃあ行ってくるね」

「はい、気をつけてくださいね」

 椛が言い終えると、双葉は柊を探しに行った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「柊ちゃんどうしたんだろう」

 そう言いながら人里へ向かっている時に、前に見慣れた姿を見つけた。

「あれって、柊ちゃんかな」

 確認のため、近づいてみる。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「やっぱり壊れた姿を見るのは楽しいなぁ……何しても抵抗しないし」

 柊の体にはアザができ、服はところどころ破け、擦り傷や切ったような傷がたくさんあった。

「まだまだいじめていたいなぁ……」

 そう呟いたら、声が聞こえてきた。

「……どうしちゃったんだろ……」

「あ~あ、誰か来ちゃったか……しょうがない、ここまでか……次の獲物でも捕まえようかな……」

 そういうと幻は去っていった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 前にいたのは、やはり柊だった。

「柊ちゃ~ん!」

 柊に近づく。

 しかし、柊は傷だらけだった。

「柊ちゃん!? どうしたの?」

 呼んでみるが、反応がない。肩を叩いてみる。

「ねぇねぇ、柊ちゃん?」

 やはり反応はない。

「ねぇ! 柊ちゃん!」

 顔をこっちに向けさせる。

「ッ!」

 その時、双葉は気づいた。柊の目は、双葉を捉えていない。目に光がないということを。

(こんなの、柊ちゃんじゃない……何かあったんだ……とりあえず連れて帰らなきゃ……!)

 双葉は柊を連れて帰った。

 




前書きのほうもよんで頂いてありがとうございます。


で、その話は終わりにして、今回は幻が狂ってるということがわかりましたね。
で、ようやく椛が退院して、三人そろったと思ったのも束の間、柊が壊れているということで、なかなかつらいですね。

次回もどうぞよろしくお願いします!
では、読んでいただき、ありがとうございました!


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弐拾壱巻~崩れた過去~

みなさんどうもです。
なんでしょうね、今回は(自分では)難しめに書いたつもりなので、深入りして、昨日は早い時間に寝落ちしてしまって、
で、遅れました、すみません。
でもこれって一応不定期なんですよ。


さて、前半は、前回のところから、少しさかのぼり、柊を第三者と、柊視点でお送りします。どっちがどっちかわからなかったらすみません。
こんな長々と書いてても飽きるだけでしょうし、本編に移りましょうか。
ちなみに、今回私がかいたこと(説明のようなところ)は、本当かどうかは、定かではございません。あくまでも、私の推測ですので、そこはご了承ください。


では、ごゆるりと


 殴られても痛みは感じない。

 もうどうにでもなれという気持ちしかなかった。

 

 たとえ幻覚でも、家族が死んだときのこと、自分は見ていなかった真相を最後まで見てしまったら、普通でいられるわけがない。

 まして、柊は元々人間であったこともあり、人間としての感覚も残っている。

 だから、平然とすることができないのも当然だろう。

 

 

 この事件が起きたとき、柊はまだ幼かったため、脳が無意識に柊の両親の死を受け入れることを拒んだ。

 

 柊は昔、自分の両親はどうしたのかと聞いたことがあった。

 その当時おばあちゃんから、事故で亡くなったと聞かされた。

 

 

 脳はそれを信じ込み、勝手に記憶を改ざんしていく。

 

 

 人間の場合だと、そういうことが多い。

 

 自分の都合のいいように、記憶を捻じ曲げて変える。

 そしてそのまま、思い出さず、消えていく。

 

 しかし、柊がそうだと思い込んでいたものとは違う現実、すなわち実際にあった出来事をもう一度見てしまうことにより、忘却の彼方にあった心の闇がもう一度動き出し始める。

 それにより、幼い頃にはなかった多くの感情が一気に溢れかえる。そして、それと同時に現実を受け入れ始めるため、自分では気が付かないうちに徐々に精神が崩れ始める。そして気づいたころには遅く、壊れてしまっていることが多い。まさに今、柊はその状態だった。

 

「お父さん……お母さん……」

 柊は、つぶやくことしかできずにいた。

 しかし、そんなことお構いなしに、幻は殴り、蹴り続ける。

 それが、いつまでも続く……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、暫く経った後、急にそれが止まった。

 だが、柊にはそんなことどうでもよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の大切な思い出、一緒にいた時間、家族みんなで笑った日々……その全てがバラバラに崩されてしまったようだったから――――――。

 

 

 

 もう今は、体に力が入らず、つぶやくこともできずにへたり込んでいた。

 頭の中では家族との思い出とあのシーンが交互に繰り返される。おそらく今の柊には、何も視界に入っておらず、声も届かないだろう。

 

 

 しばらくすると、誰かが柊の体を持ち上げた。

 この匂いは柊のかいだことのある匂いだった。

 

 その人物は、双葉だった。

 しかし、柊はそれが分かった時、自分の闇に吸い込まれるように意識を失った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「椛ちゃん!」

 双葉が慌てた様子で帰ってきた。

「どうかしたんですか!?」

 椛が尋ねると、双葉は目に涙を浮かべ、泣きそうな声で言い出した。

「柊ちゃんが……柊ちゃんが……! 私のせいだ……私が、人里に行ってきなって言ったから……」

 双葉が涙を零し始めた。

「ちょ、ちょっと待ってください! 柊さんは、どうなったんですか……?」

「今、私が見つけたときには、服はもうボロボロで、傷がひどくて……呼びかけても返事がなくて……どうしよう、私……」

 椛が双葉を落ち着かせる。

「双葉さんは悪くないんですよ。悪いのは、柊さんをこんな目に合わせたやつです。ですから、双葉さん。泣かないでください。悪くないんですから。……双葉さん、いつもの明るい柊さんに戻すために、一緒に敵を探しましょう?」

 双葉は、泣きながらうなずく。

「ありがとうございます。私はこんなことをした人を絶対に許せません。ですから、絶対にみつけましょう。柊さんのために」

「……うん」

「では、私はまずこのことを、大天狗様に報告してきますので、報告から戻ってくるまで、待っててもらえますか?」

「うん、分かった……」

「じゃあ、行ってきますね」

「うん。気を付けて……」

「はい」

 そういうと、椛は飛んで行った。




今回もいかがでしたでしょうか。
これを書いてる私自身が病んでるのではないかと、疑われるほど、ここ何話かすごいですよね。

次回まで気長に待っていただけたり、一週間の楽しみにでもしていただけたら嬉しいです。

では今回も、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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弐拾弐巻~奇妙な出来事~

前書きが思いつかない今日この頃、本編のほうも段々と書くのが難しくなってまいりました。
でも、天狗の日常と、柊が変わっていくのを書きたいからいいよねって聞いて、誰かしらにいいよと言われたいです。

なかなか打ち込む時間が取れず、長文がかけずにいます。
それは、今後検討していきたいですね。

たまに、活動報告を書いていますので、そちらのほうに小説についての情報が流れます。
(投稿が遅れてしまうとか、修正しましたなど)
そちらも気にかけていただければと思います。


長々と独り言に付き合っていただきすみません。
それでは本編を、どうぞ


――大天狗の部屋――

 

「失礼します。哨戒班の犬走 椛です。少し気になることがありましたので、ご報告に参りました」

「うむ、入れ」

 襖を開けて中に入る。

「で、気になることとはなんじゃ」

「実は柊さんのことでして」

 大天狗が一瞬驚きの表情を見せる。

「柊がどうかしたのか?」

「はい、実は本日、柊さんが人里に行ったようなのです。それで、なかなか帰りが遅いので、探しに向かったのですが……」

「もしや、見つかっていないのか?」

「いえ、いたのですが、その見つけた場所が人里へ向かう道の途中だったのです」

「それは、帰り途中だったからなのではないのか?」

「いえ、人里には行っていない様子でした」

「そうか……気になることはそれだけか?」

「いえ、まだあります。柊さんを探し、その時の見つけた状態が明らかにおかしいのです」

「どういうことじゃ?」

「見つけたときの状態が、体中が傷だらけで、呼びかけても返事がない状態でして、まるで魂が……」

 その時、襖が強く叩かれ、一人の天狗が入ってくる。

「大天狗様! 大変です!」

 とても焦っているようで、部屋は緊迫した空気に包まれる。

「つい先程から各班より、奇妙な出来事が起こっているとの報告が入りました!」

「そうか、ご苦労。で、その奇妙な出来事とはどんなものじゃ」

 天狗が悦明を始める。その内容は、つい先程椛が大天狗に伝えたものとほとんど一緒だった。

 この話を聞いた大天狗は少し考える。

「これは……一度集めたほうがいいか……」

「各班に一度総会場に集まるよう連絡せい!」

「はっ!!」

 天狗は足早に去っていった。

「椛、おぬしは家に戻ったりする用事はないか?」

「ありません」

「そうか。では、このまま総会場に向かいなさい」

「はい、分かりました」

 椛は早々と総会場に移動した。

 

...................................

 

 つい数分前に連絡がまわったばかりだというのに、総会場には既に大半の天狗が集まっていた。足りない分は、恐らく柊と同じ目に合っている人たちだろう。

 大天狗が話し始める。

「さて、集まってもらったのは他でもない。今この山で起こっていることについてだ」

 会場内がざわつく。

「まぁ、知らぬ者もいるだろうから説明はしておく」

 大天狗が説明を始めた。

 要点をかいつまんで話しているので分かりやすく、短時間で全員が理解をしているようだった。

「今回の件は、誰かが意図的にやっていると考えておる。だからわしらが今やることは、今この奇妙なことを起こしている元凶を見つけ、それを食い止めることじゃ。これ以上犠牲者を増やさないためにも、今この出来事の被害者を元に戻すためにも、絶対に犯人を見つけ出すのことがわしらのやるべきことじゃ。わかったら山中を探して、見つけだせい!」

「「はっ!」」

 一斉に、天狗が班ごとに集まり、探しに向かう。

 椛も自分の班のところへと向かう。

「椛、無事だったか。お前がいないとこれは辛いからな」

「えぇ、私の能力で犯人を絶対に見つけますよ」

 班長である、鴉丸と一言交わす。

「班員はこれで全員だったかな……あれ、そういえば白神は?」

「……柊さんは被害者になりました……」

 椛のこの言葉には怒りがこもっていた。

「そうか……だったら許せねぇな」

 鴉丸が口を開く。

「うちの仲間に手を出すったぁ放っておけねぇ、絶対に見つけ出すぞ」

 椛の哨戒班も移動を始めた。




いかがでしたでしょうか。
この挨拶がお決まりになってきていますね。

久しぶりの椛が一話丸々登場しました。活躍が楽しみですね。


読んでくださってる方がいらっしゃるのなら、その人が満足するよう、次回が楽しみになるようにこれからも書いていきたいと思います。

では、長文および、今回も読んでくださり、ありがとうございました。


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弐拾参巻~山の治安~

前書きは割愛します。


では弐拾参巻、どうぞ。



「クソッ! どこにいやがる! 犬走、見つからねぇか?」

「すみません! 先ほどから各方向を探しているのですが、見つかりません!」

 椛のいる哨戒班は、山全体を移動しながら探していた。

 だが、手がかりすら何もつかめておらず、全く進展がないまま、一時間が経とうとしていた。

「こんなに見つからないことなんてあるのか!? もう山は一通り見たぞ!?」

 移動しながら探していると、目の前に弾幕が張られていた。

 班員がとっさに声をかける。

「班長!!」

「だぁ~! もうめんどくせぇな!」

 巻き起こした風で弾幕を消す。

 しかし、また弾幕を張られる。

「かかれ! 今こそ天狗を潰す時だ!」

 天狗に不満を持っている妖怪達が騒ぎを聞き、天狗を潰そうと襲い掛かってくる。

「チッ……雑魚共が……てめぇらなんぞにかまってる暇なんてねぇんだよ!」

 先程と同様に弾幕を消し、指示を出す。

「離れすぎずに、何人かまとめて相手してやれ! 天狗に逆らったことを後悔させてやれ!」

「はいっ!!」

 それを聞いた班員達は、敵の中に突っ込んでいく。

 天狗一人一人の力は強いため、妖怪達は蹴散らされていく。

 

 だがしかし、数が違った。

 一人一人は強くとも、さすがに一度に相手にできる数には限界がある。

「チッ……クソッ! 数が多すぎた!」

「鴉丸さん! このままだと数で押し切られます!」

 勿論、逃げるという選択肢はだれでも持っている。

 だが、天狗にはプライドというものがある。こんな下級妖怪なんぞに背を向けて逃げてもいいのか。

 プライドが許さなかった。

 逃げていいはずがない。

 逃げたとしたら、それはこの下級妖怪共に恐れをなしたことと一緒である。だから、決して逃げるわけにはいかなかったのだ。

 自分たちのプライドを傷つけないために。

「班員全員に告ぐ! 押し切られないように、死ぬ気でかかれ! そして互いに助け合いながら戦え!! こんな雑魚共なんかに負けるんじゃねぇ!!」

「はっ!」

 各々がスペルカードを使い、敵を怯ませながら剣で斬り倒していく。

 ただただ斬り続ける。

「まだまだ続けろ!」

 しかし、次第に体力も底をつき始め、集中力も切れていく。

「あっ……!」

 一人が剣を落としてしまった。

 すぐに剣を拾おうとするが、敵に押さえつけられ、上に乗られる。

 どけようとするが、首を絞められる。

「ッ……!」

 隊長がこれに気づく。

「まずい! 誰か助けに行けねぇか!?」

 聞いてはみるが、やはり自分たちの敵の相手をすることで精一杯のようだった。

「くっ……!」

 だんだんと、どかそうとする力が弱まっていく。

「クソッ……! 何とかならねぇのかよ!?」

 しかし、叫んだところで現状は変わらない。

「もう少し、もう少しもってくれ! 頼む!」

 首を絞められている仲間に聞こえるように言うと、可能な限り敵を離し、助けに向かう。

「そこからどけぇ!!」

 首をはねようと剣を振るが、

 

 

 鈍い金属音がなり、剣が跳ね返される。

 

 

 敵の仲間が剣で攻撃を防いだのだった。

「邪魔するんじゃねぇ!」

 攻撃をするが、防がれる。

「時間がねぇ……もう少しだ! 頼む! もう少し耐えてくれ……!」

 

 しかし、限界が近いようだった。

 

 手から力が抜けていっていた。

(クソッ……! 俺は班員を守ることすらもできねぇのか……!)

 

 ただ手が地面につくことを眺めることしかできなかった。

 敵の首を絞めていた手が離れた。

(クソッ! 俺のせいで……! 俺のせいで……!)

 そう思っていたとき、首を絞めていた敵が吹き飛ばされ、鴉丸の前にいた敵も吹き飛んだ。

「なんだ!?」

 そこには、先程死んだと思っていた班員が立っていた。

「お前……! 生きていたのか!」

「隊長、忘れましたか? あたしの得意技は演技ですよ。隊長までひっかからないでください」

 思ってみれば、あの場から助かるには死んだフリをするしかなかった。

 あの状況で咄嗟に判断をし、行動にうつせるとは凄いと思う。

 しかしフリでも、やけに時間がリアルすぎて、本気で死んでしまったんだと信じてしまっていた。

「まぁ、お前が無事で本当によかった。じゃあ、このまままだいけるか?」

「えぇ、いけますよ」

「じゃあこの辺りは任せたぞ」

 鴉丸も、持ち場に戻り、敵を倒していく。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 天狗が総会場に集まっている頃、幻が家を見つけた。

 その家はまさに今、あの二人がいる家だった……。

 




はいどうも。
今回もいかがでしたでしょうか。

前回宣言した通り、少し長めに書いてみました。
長く感じましたかね?

もうすぐ11月です。
だんだんと寒くなります。体調管理にはしっかり気を付けて、これからも頑張っていきたいと思います。

では、今回も読んでくださり、ありがとうございました。


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弐拾肆巻~真相~

前回の投稿から、早一ヶ月が経ってしまいました。申し訳ございません。
今回から、また今まで通りにやっていけたらなと思っています。

では、久しぶりに


どうぞ


――椛の家――

 

「柊ちゃん……」

 双葉は、どうにかして柊を元に戻せないかをずっと考えていた。

 だが、なぜこうなっているのか、この状態はどんなものなのかの情報が何も無いため、方法なんて見つかるわけもなかった。

「やっぱり私のせいだ……」

 双葉が自分を責め始めた時だった。

 家の玄関の辺りで爆発音がした。

「!?」

 双葉は柊をなるべく安全なところに連れて行く。

 幸い、玄関からの位置は遠かったため、破片などが飛んで来るようなことはなかった。

 双葉は玄関へと向かう。

 立ち込める砂埃の中に人影があった。

 ゆっくりとこちらに来ている。

「おっじゃまっしま~す!」

 そう言って砂埃の中から出てきたのは、一人の妖怪だった。

 足を止めずに入ってくるが、入った時には既に、目の前に双葉が立っていた。

 その妖怪は双葉に気づいたようだ。

「あれっ? この家の中に妖怪がいたんだぁ~」

 その妖怪は、双葉を見据えてそう言った。

「あなた何者?」

 双葉は率直に聞く。

「僕? 僕はねぇ、夢宮 幻っていうんだ! でもねぇ、さっきから天狗達に名前を言ってるんだけどね、誰も覚えてくれないんだよ。困っちゃうよね!」

 幻というやつはそう言った。

 双葉は、今の幻の言葉の中で、気になったことを聞いた。

「あなたさっき、天狗達に名前を言ってるって言ってたけど、なんのために?」

 幻は惜しみなく話しだす。

「いやぁ、実はね、今までいろんな妖怪にもやってきたんだけど、今度は天狗が壊れるのを見たくなってね。壊すついでに名前を教えてるんだよ。やっぱり思った通り、天狗は一味違ったね。最初はねぇ、確か白狼天狗のお姉さんでしょ。次はねぇ……」

 双葉の耳が反応した。

 今の、白狼天狗のお姉さんは柊のことで、こいつが柊ちゃんをあんな目に合わせたんだと直感で感じた。

 双葉の中で、殺意が沸き起こる。

 今すぐにでも殺りたい。双葉には、その頭しかなかった。

 こんなに自慢気に話してきて、尚且、天狗も倒してきたということもあるから、腕にはよほど自信があるように見える。

 だが、双葉は感じていた。

 

 この妖怪には、まやかしの強さしかないことが。

 

 双葉には、幻が能力だけに頼っているように見えていた。

 幻は、まだ楽しそうに話している。

 双葉は、殺気を悟られぬように幻を呼ぶ。

「ねぇ……」

 幻は呼ばれたことに気が付き、話をやめた。

「ん? なn……」

 双葉は、幻が話をやめ、こっちを向いた瞬間に思いっきり殴り飛ばした。

 幻が家の外まで吹き飛ばされる。

 その勢いのまま、大木に全身をうった。

「やっぱり……」

 双葉はつぶやく。

「強い妖怪なら、少しは衝撃を和らげてダメージを減らすはずなのに、あいつは何もしようとしなかった。やっぱり能力が少し強いだけね」

 双葉は幻が飛ばされたところに向かう。

 

 

 双葉の今の行動には、ちゃんと理由があった。

 一つは、今言ったように、相手の実力を知るため。

 そして何より、もう一つの理由のほうが大切だった。

 もう一つは、柊からこいつを遠ざけるためだった。

 今、家の中で一人という状態も危ないが、あのままあの場所で戦っていても、その方が危険性が高いと判断したからであった。流れ弾にあたってしまうかもしれないし、見つかれば人質にとられてしまう可能性もあったからだ。

 

 

 双葉が幻のところへついた時、驚くべきことが起こっていた。

 幻が既に立ち上がっていたのだった。

「あ! お姉さんなかなか凄い力持ってるね! でも、いきなりでびっくりしちゃったよ!」

 幻は笑いながら話してきた。

(そんな……嘘でしょ!? 全力とは行かないけど、八割ほどの力だったのに無傷だなんて……!)

 ここで双葉は気づく。いや、気づかされた。

(避けられなかったから喰らったんじゃない……避ける必要がなかったから避けなかったのか……! 試していたのは私じゃなくて、あいつだったんだ……!)

「白狼天狗のお姉さんと戦ったけど、やっぱりまだ君のほうが少しは暇が潰せそうだよ! しっかし、あのお姉さんはほんとマヌケだったなぁ~」

 幻は思い出し笑いをしている。

 その言動が双葉を完全に怒らせた。

「あんたを……絶対に許さない……ッ!」

 幻はそれを見て楽しみ始める。

「え~? 明らかに見た目がか弱そ~な君が、どうするっていうの? ねぇねぇ、どうするのぉ?」

 幻は挑発をしてくる。

 だが双葉は、自分のことよりも、柊を馬鹿にされたことに怒っていたため、幻の言葉など、耳に入っていなかった。

「絶対に……殺す……!」

 

 




今回は間がかなり空いてしまった久しぶりの投稿、いかがでしたでしょうか。


ここからしばらくですね、双葉と幻の戦い話に入る予定です。
でも中盤から終盤にかけて、本家のキャラはちゃんと出しますからね?
もしかしたら長くして一話でおわるかもしれませんね。

というわけで、次回からは双葉と幻が激突します!

それでは、今回も読んでくださり、ありがとうございました!


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弐拾伍巻~踏み入れた時~

前回双葉と幻が戦うと言いました。

言いましたけど…今回は椛がメイン?の話です。
変わることもあるんです。許してください。

というか、椛が活躍だったりだとか、そういうの深く書きたいとは思ってるんですけど、けど…
今回のこのまとまりが終わったら書きたいと思ってますので、そこはほんとに許して下さい。


では、どうぞ


――椛のいる哨戒班――

 

「はぁ……はぁ……これで大方片付いたろ……」

 流石と言うべきか、大群で押し寄せてきた妖怪を、数十分で倒していた。

「まったく……何か起こるたびにこんな事になってたら体がもたねぇよ……」

 全員の顔には疲れが見えていた。

 鴉丸がみんなを集める。

「仕方ねぇが、少し休まないと体がもたねぇろ。五分ほど休憩だ。その後また動き始めるぞ」

「はい!」

 全員が声を揃えて返事をした。

 

 

 

 休憩中、本来は気も休めるべきなのだろうが、椛はそわそわしていた。

 柊と双葉のことが心配だったのだ。

 今こんな状態の山で、安全である保証なんてどこにもないからだ。

「どうしたんだ?」

 仲間に声をかけられる。

「いえ……その……少し気になることがあって……」

「そうか……班長に言ってこようか?」

 椛は一瞬迷ったが、

「いえ、大丈夫です。自分で言ってきます」

 それだけ言い残して、班長の所へ行った。

「あの……班長……」

 鴉丸は椛が呼んでいることに気づく。

「ん、どうした?」

「実は……」

 椛は、自分が今心配していることを正直に言った。

「そうか……」

 鴉丸は迷うそぶりを見せたが、

「いいよ、こっちは任せておけ。お前はそれを確認しに行け」

「あ、ありがとうございます!」

 椛はお礼を言った後、すぐに飛んでいった。

 

 

 

 

 

 椛は急いで自分の家へと向かう。

「どうか無事であって……!」

 椛は不安な気持ちを抱えながら、家に行くスピードを上げた。

 

 

 

 しかし、椛が見た光景は、明らかに無事だと言えるものではなかった。

 家の戸は吹き飛ばされたのか、なくなっており、床や壁には穴が空いていた。

 しかも外には、土が抉られているような痕があった。

「何があったの……」

 椛の不安な気持ちが膨らんでいく。

「柊さん……! 双葉さん……!」

 椛は家の中を探し始める。

 

 

 数分して、ようやく柊を見つけた。

「柊さん! よかった……」

 しかし、柊は見つかったが、双葉の姿が見当たらなかった。

「双葉さんはどこに……?」

 そう考えた時、すぐ隣の森の中から、轟音が聞こえてきた。

「なに……!?」

 椛は柊を抱えて森の方へ向かった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 双葉も、柊のことを心配していた。

 心配していたからこそ、幻から遠ざけたつもりだった。

 だが、壊れた家に、誰も入らないなんて保証はない。

 だから双葉は、他の妖怪にやられるかもしれないということが気になっていた。

 しかし、この少しの気がかりが、後々、どれほど邪魔なものか、そして、どれほどの後悔を生み出すものなのかは、この時の双葉は、まだ知らない。

 

 

 

 

 




今回も読んでいただき、ありがとうございました。


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弐拾陸巻~恐怖~

後書きにまとめました。
本編読み終わったら、後書きをどうぞ。



では、どうぞ。


「絶対に……許さない……!」

 双葉は怒りのこもった声で言う。

 しかし幻は、受け流すように聞いている。それどころか双葉の気持ちを弄ぶかのような言葉を返す。

「許さないって言ったってさぁ、か弱~いお姉さんが僕をどうやって倒すというの? 冗談やめてよ~!」

 幻は笑いながら言った。

 そんな幻を尻目に双葉は呟いた。

「私を怒らせたことを……後悔させてあげる……」

「え、何いっt……」

 そういった時、幻の右腕が吹き飛んだ。

「ぐあぁぁ……!」

「さっきまでの余裕はどこいったの……?」

 双葉の手には、いつ準備したのか、剣が握られていた。

「うぐっ……ふふ……あはは……お姉さんやっぱり面白いや……」

 この状況にしてなぜか幻は笑っている。

「何がおかしいの……?」

「だって……こんな強気なお姉さんが壊れたらどんなに面白いか……」

 幻が目をこっちに向けた。双葉はその目に、一瞬寒気を感じた。

 幻は双葉の目を見て言った。

「想像するだけでも楽しみだからねぇ!」

 幻は能力を発動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、少し待っても能力は発動されなかった。

「あれ……なんで!? なんでだ!? なんで能力が発動しない!?」

 幻が発動させたはずの能力が発動しなかった。というより、双葉に効かなかったのだ。

 幻にとって、今までには絶対ありえなかったことが起きた。

「ただ言っただけで何の意味もないみたいね……大体の能力は、能力者が死ねば解除されるからね……柊ちゃんのためにも、ここで……!」

 双葉が剣を振り下ろす。

「クソォォォ!」

 幻は咄嗟に、別の効果を発動させた。

 剣を振り下ろしていた双葉の目の前に、いきなり氷塊が現れた。

 双葉は、反射的に身構える。

 

 しかし、数秒経っても攻撃は来ない。

 手をどかして見た時には、氷塊は無く、幻も姿を消していた。

「逃げられちゃったか……」

 双葉は、すぐにでも幻という奴を探しに行きたかったが、その半面、柊のことが心配で仕方がなかった。

 だから双葉は、

(どうせ弱ってるから、放っておいても暫くは動けないだろう)

と思い、柊の元へと急いだ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「クソッ……! なんだあの女は! 僕の能力が効かないなんて……!」

 幻にとっては前代未聞の出来事だった。

 今まで能力が効かなかった者などいないなか、つい先ほど効かない者が現れたのだから、驚くのも無理はなかった。

「あの女は早めに潰しておかないと……何か作戦を……いや、その前に応急処置が先決だ」

 幻は早々と応急処置を終えると、作戦を考え始めた。

「何か利用できるものがないか……」

 ただただ考える。そして、あることに気づいた。

「そういえばあの女、白狼天狗のお姉さんのことを言った時、過度に怒っていたな……だったら、そのお姉さんを利用するか……」

 幻は薄ら笑いを浮かべると、動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 




幻は、案外戦闘中と、それ以外の時でキャラが変わります。
ちなみに、今回のサブタイトルは、幻と双葉、二人のそれぞれの恐怖を題名としてみました。

で、今回も、皆さんが思っていた日よりも遅くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。
遅い時には、気長に待っていただけるとありがたいです。


さてさて、次回はどんな話になるんでしょうかね。
次回はなにかが…?なんて、楽しみにしたかったら、楽しみにしていて下さい。
今回と、さほど日は離れないと思います。


では、今回も読んでいただき、ありがとうございました。


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【番外編】~冬の月夜に二人の白狼天狗~

※まず、本編の進行内容には、関係はございません。
※今回双葉はでません。申し訳ございません。
※最近柊とか椛が明るくないから、明るくしようという作者の気分です。
※そもそもクリスマスなんで、クリスマスにちなんで書こうと思ったら、終盤ぐらいにしかクリスマスっぽいのがないです。


今回は番外編でございます。
楽しんで読んでもらえれば嬉しいです。



では、どうぞ


「ふわぁ~……ん~! うぅ、寒い……ここ数日間冷え込んできたなぁ……」

 布団から出て、外の空気を吸うために外へ行く。

「今日も清々しいなぁ~! ……あれっ?」

 私はある物に気づいた。

「雪だ!!」

 地面は白くなっており、雪が積もっていた。

「わ~! 凄い! こっちにも降るんだ!」

 向こうにいた時にも、雪が降っていたことを思い出す。

「懐かしいなぁ~……」

 私が思い出に浸っていると、椛さんが外に出てきた。

「雪降ったんですね」

「あ、椛さん! おはようございます!」

「おはようございます」

 椛さんはニコッと笑う。

 やっぱり椛さんは美しいと思う私だった。

 

 そういえば、椛さんとゆっくりお話をしたことも無かったなと思い、

「椛さんって、今日何か用事ありますか?」

と聞いてみる。

 椛さんは、

「特に何も無いですよ」

と言った。

(それはよかった)

「じゃあ、今日……」

 私が話し始めた時、玄関の方から声がしてきた。

「文々。新聞ですよ~!」

 文さんだ。

「あ、文さん。おはようございます」

「文さん、おはようございます」

 私と椛さんは、二人揃って挨拶をする。

「おはようございます。椛と柊」

「文さん毎朝忙しそうですね」

「そうですか? 私は好きでやっているので、別に苦ではないのですよ」

 文さんは笑いながら言う。

「そうなんですか」

 その後、文さんと他愛もない話をする。

 

 

 

「……さて、私は次の所へ行かなければいけないので、これで失礼しますね」

「「はい、頑張ってください」」

 そう私と椛さんが言うと、文さんは飛んで行った。

「では、朝食でも食べましょうか」

「そうですね!」

 私と椛さんは家の中に入っていった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 朝食を食べながら新聞を読んでいると、私はある事に気づいた。

「えっ! 今日って十二月二十五日なんですか!?」

「そうですよ、どうかしたんですか?」

 椛さんが聞いてくる。

「椛さんって、クリスマスって知ってます?」

「クリスマスですか? 知ってますよ」

「え! 知ってるんですか!? 私はてっきり幻想郷にはクリスマスなんて無いのかと思っていたのですが……」

「当初は、私も知りませんでしたよ。でも、八雲 紫が柊さんの居た世界の文化をこっちの世界に広げたため、そこから流行りだしたんです」

「へぇ~……そうだったんですか」

(八雲 紫ってそんな凄い人だったのか)

 思い返してみれば、空間を操っている時点で凄いことがわかる。

 まぁ、この世界の人達自体が普通に凄いんだけど。

 能力でどこにでも行けるということを聞いた時には、本当に驚いた。

 

 

 

「う~ん……」

 私は唸り始めた。

(椛さん、予定が無いって言ったけど、今日クリスマスだし、もしかしたら予定とか入るんじゃないのかな……私、誘わないほうがよかったかな……)

 あれこれ悩む。

 そんな私に、椛さんから思いもよらぬ発言が。

「あの、柊さん。柊さんも今日お暇ですよね?」

「えっ……! あっ、はい。暇です」

「もしよければ、その……私と今日、出かけませんか?」

「えっ……?」

(えっ……? まさかの椛さんからのお誘い? え、嘘。ほんと? ほんと?)

「あ……嫌なら無理にとは……」

「いえいえいえ!! そんなことないです!! むしろ嬉しいです!!」

「そうですか。ならよかったです」

 椛さんの口調は落ち着いているように聞こえたが、私には、左右に振れる椛さんの尻尾が目に入った。

(かわいいなぁ……)

「で、では、支度しましょうか」

「そ、そうですね!」

 私も支度を始めた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 私と椛さんは、色んな所へ行った。

 人里へ行き、お互いに好きなものを食べたり、あげたり。

 はたまた、景色が綺麗な、九天の滝という場所にも行った。そこから見る景色は、言葉では表せないほどの景色であった。目の前に広がるこの世界を一望できる。しかも、二人で見るということで、また違う感覚を味わうこともできた。

 他にも、少し遠くへ行ってみたり、雪で遊んだりもした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一時は、とても幸せであり、楽しい時間だった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 次第に日も暮れ始める。

「柊さん。今日はありがとうございました。こんなに楽しかったのは、久しぶりです」

 椛さんは今日の出来事を一つ一つ思い出すように目を閉じながら言う。

「私もです……椛さん」

 私も今日のことを思い出す。

 ゆっくりとした歩調で家へと向かう。

 話してから間が空き、椛さんが再び話しだす。

「柊さんと出会ってから、何ヶ月も過ぎました……その一緒に過ごした日々の中で、柊さんのこともだんだんと分かってきたんです。柊さんは、とても良い人だと……」

「椛さん……」

「そして、私は思ったんです。柊さんは私にとって必要な方。かけがえのない、大切な人なんだって……」

「だから、柊さん」

 椛さんが私の方に向く。

「これからもどうか、私と……私と一緒にいてくれませんか?」

 

 

 日は暮れており、星々が、そんな二人を照らしていた。

 

 

 私はただただ単純に嬉しかった。

 初めて必要だと言われ、初めて大切だと言われた。

 しかも、今自分が大好きな人に。

 断る理由なんてない。

「……はい。喜んで!」

 

 

 

 

 

 二人は、夜空に昇る月の光に照らされながら、手を繋いで、家に帰った。




さてさてクリスマスですよ。
ということで、クリスマスっぽいの、書きました。
自分では、終盤の方は良かったんじゃないかと思ってます。
でもまぁ、そこは、コメントで感想だったり、批判も受けておりますので、何かあったら書いて下さい。

今回初めて番外編を書かせていただきました。

一度は書いてみたいなとは思ってました。

前書きでも書きましたが、今回は楽しんで読んでもらえれば嬉しいです。

では、後書き長くなりましたが、
今回も読んでくださり、ありがとうございました。


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弐拾漆巻~攻守交代~

皆様どうも、お久しぶりの投稿でございます。
私自身、あんなに修正が長引くとは思っていませんでした。すみません。


さて、だいぶ間があいてしまい、話の内容を覚えていらっしゃらない方もいるかと、存じますが、もしよろしければ、一回戻って読んでみることをおすすめします(私のせいです)。


そうそう、あとオリジナル小説も修正の間に書き始めたんですよ。
もしよろしければ、そちらもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。


それでは、久しぶりにどうぞ。



 椛は柊を担ぎながら、轟音が聞こえた方へ向かっていた。

「もしかしたら双葉さんが……」

 

 

 

 目的地に着くと案の定、双葉がいた。

「双葉さん!」

「ん? あ、椛さん!」

 椛は双葉に駆け寄る。

「だ、大丈夫ですか……?」

「うん、私は大丈夫だけど……その、家にいられなくてごめんなさい……」

「…………双葉さんが、柊さんを家に残して出て行くなんて、そんな無責任なことをする人ではないと分かっています。何があったのですか?」

 双葉は説明を始める。

「私が家にいたら、急に扉が破壊されて、夢宮 幻っていうやつが入ってきたの。だから、柊ちゃんに被害が行かないように、離れた場所に連れて行ってからそいつと対面した。その時に、何が目的なのかは勿論聞いた。そしたら……」

「そしたら……?」

「あいつは、天狗を壊すのが目的だって言ってた。しかもその時に、柊ちゃんのことも侮辱していた……!」

 双葉の、幻に対する怒りが増えていく。

「だから私は、あいつとの戦闘に持ち込んだ! でも……あと一歩のところで私が退いたからとどめを刺せなかった……」

「なるほど……そういうことが……」

「だから私は、絶対にあいつを許さない! 柊ちゃんのためにも……必ずあいつを殺す……」

 双葉からにじみ出る殺意は、椛でさえも怖気づくほどのものだった。

「と、とりあえず二手に別れて探しましょうか。そのほうが効率もいいでしょうし、私は柊さんを総会場の医務室に運ばなければいけませんから」

「うん、そうしようか。じゃあ、見つけたら何か合図を送ってもらえると嬉しいな」

「わかりました。それでは見つけ次第、お互いに合図を送るということで」

 二人はそこで別れた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 椛は、柊を総会場の医務室まで運んでいった。

 医務室には既に、柊と同じ状態の天狗が少数だがいた。

「それでは、柊さんをよろしくお願いします」

「あぁ、任せてくれ。お前も頑張れよ」

「はい」

 医療担当の天狗に柊を預け、椛は幻というやつを探し始める。

「どんなやつか分からないけどどうやって探せば……」

 そんなことで迷っていると、下の方で会話が聞こえてきた。

「僕の名前は夢宮 幻って言うんだ! やっぱりさ、天……」

 幻! 椛はその言葉に反応して、急降下をし、近くの木に身を潜めた。

 物陰から、会話をしている人物と幻というやつがいることを確認する。

 

 あいつが幻……。

 しかし、確認してからまもなく、幻は飛んでいってしまった。

「なっ……! どこに行くつもりなの……?」

 何をしたかったのかは分からないが、顔が確認できたことは、椛にとって大きかった。

 合図を送ろうか迷ったが、もう少し情報を得るために合図は送らない。

「あとは、どんな能力を使うかさえわかれば……」

 椛は、幻の後をつけて行った。




本当にお久しぶりです。そしてすみませんでした。



あと、小説情報にも追加させていただいたのですが、今まで感想には、全て返信をさせていただきました。ですが、これからは、返信はしないことに致します。
何卒ご了承ください。


それでも感想、おまちしております……


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弐拾捌巻~進退~

どうもみなさん。
今回もやっていきます!

幻覚編、いよいよ終盤にむかいつつあるのか……?

では、どうぞ!


「やっぱり天狗達は一味違うなぁ」

 幻は飛び回りながら、未だに天狗を探している。

「そういえば天狗じゃない厄介なやつがいたけど、あいつには別の策を用意したから、今度あったら叩き潰してやろっと。それにしても……」

 急に幻は飛ぶのをやめ、後ろを見る。

「誰かに付けられてるなぁ。こっちが後を付けるのは好きなんだけど、逆に後を付けられるのは嫌いなんだよね」

 幻は気配のする方に向かっていく。

「そこにいるの誰?」

 幻が呼びかけても返事はない。

「まぁ、返事しないのは分かってたけど、バレてないなんて思ってたの? 僕が分からないわけ無いじゃん。諦めて出てきなよ」

 沈黙のまま、時間が過ぎる。

「出て来ないなら、こっちから行くよ」

 幻は気配のする木の目の前に立った。

「ほらっ! って、あれ」

 幻が覗き込んだところには、誰もいなかった。

「いつの間に消えたんだ? まぁ、いないならいいか」

 幻は身を翻すと、また飛んでいった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「一体あいつは何が目的なの……?」

 幻を尾行しながら椛は考える。

 先程から同じようなことを繰り返しているだけで、何がしたいのか、何を目的としているのか全く検討がつかない。自分の名前を言っては、すぐにその場から立ち去る。この行動に何の意味があるのか椛は必死に考える。

「だめ……全く理解できない」

 そう思いつつ、幻の方を向くと、幻が立ち止まっていた。

 椛は不審に思いつつも、幻を観察し続ける。よく見てみると、何かを言っている。

「いきなり立ち止まって何を……?」

 椛は、何を言っているのかを聞き取ろうと、耳を傾ける。

 

 

 白狼天狗は聴覚、嗅覚がともに優れており、ある程度離れた場所からでも音を聞き取ることができるため、偵察の任務に遣わされることが多い。

 だから椛にとって、尾行は容易いはずなのだが、幻が言っていることを聞き取った時、耳を疑った。

 

 

「そこにいるの誰?」

 そう言った幻の目は、こっちの方角を向いていた。

「能力で見ているから距離はだいぶ離れているはず……なのに、私が後をつけていたことが分かるの!?」

 能力で幻を見ると、こちらに向かってきているのが見えた。

 今対面すると、確実に負ける……! 

 幻がどういう人物か、どんな能力を使うのかが分からなく、こちらに全く手札がない状態で戦うということは、最初から勝ち目の無い戦いをすることと同じである。

 逃げなきゃ! 音を立てずに最速で!

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「危なかった……気配を感じ取られるなんて……」

 呼吸を整え、これからどうするかを考える。

「とりあえずは……あいつを見失わないようにしながら、双葉ちゃんと合流しよう」

 椛は双葉に向けて合図を送った。

 




今回も読んでいただき、ありがとうございます。

次回は、幻の破片を投稿して、その後にとりかかりますが、幻の破片は半分以上できているので、さほど時間はかからないと思います。

それでは、次回にお会いしましょう。


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弐拾玖巻~解明~

前回、おそくならないとか言ってたくせして、遅くなってしまいました。すみません。


さて、どうすれば柊は元に戻るのか、いずれ判明しますでしょうが、考えながら呼んでいただければと想います!


それではどうぞ!


「どこに行った、あいつは」

 双葉が探している中、遠くの方で椛の合図が上がった。

「お! 見つけたんだ! さすが椛ちゃん!」

 双葉は急いで椛の所へと向かった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「椛ちゃん!」

「あ、双葉さん!」

「幻はいたの?」

「いたのですが、なかなか厄介でして……」

「厄介?」

「えぇ、見つけて能力を探ろと尾行をしていたのですが、距離はだいぶ離れており、向こうは一度も振り帰返っていないのに尾行がバレてしまって」

「だいぶ離れていたのにかぁ……」

「結局それで能力も分からずで」

「大丈夫、能力はおおよそ予想がついてるから」

「本当ですか!?」

「うん。あと、なんで尾行がバレたのかも、能力で証明できると思う」

「幻の能力は……?」

「あいつの能力は、幻覚を作る系の能力だと思うわ」

「幻覚を作る……あっ! 幻覚を前に置いて幻自身は後ろにいれば、振り向かなくても分かる。そういうことだったんですね!」

「そうだね、尾行が早い段階でバレてしまっていた可能性が高いわね。それでも、戦闘に持ち込んでこなかったのは……」

「それが幻覚だと分からせないため」

「そうだね、まんまとやられたわ」

「でも、幻覚って動くものなのでしょうか」

「あいつの幻覚は特別みたいで、私も戦った時分かったけど、あいつの幻覚は確かに動いていたわ」

「そうでしたか。それならあれが幻覚だった可能性も高いですね。でも……」

「ん?」

「それだけの幻覚で柊さんや他の妖怪をあんな状態にするなんてどうやったら……」

「そこはあたしも不思議に思っていた。ただの幻覚であんな風にできるわけがない。だとしたら別の何かを使ったのかとしか考えられない」

「別の何か……検討がつきませんね」

「だから困るのよね。相手の手札がわからないと何が起こるかわからないから」

「何か手がかりが掴めればいいのですが」

 その時双葉は、幻が言っていた言葉を思い出した。

「待って。あたしとあいつで戦った時……」

「何かあったんですか?」

「うん。確かあいつは“なんで能力が発動しない!?”って言ってた。でもその後、あいつの幻覚に驚かされて、その隙に逃げられちゃったんだよね。今思ってみるとおかしいんだよね」

「確かにおかしいですね。能力が発動しないと言っているのに、その後は発動している……時間制なのでしょうか」

「いや、あれほど厄介なのに自分の能力を把握してないなんてことはないと思う」

「では他に何が……」

「能力が二つ……なんてことはないか、流石に」

「二つ……双葉さん、幻覚にもいくつか種類があるのでは?」

「どういうこと?」

「先ほど、双葉さんが幻の能力を説明している時、私と双葉さんで考えていた幻覚の見せ方に違いがあり、話がつながっていませんでした。ですから、幻覚の見せ方にも種類があり、私や双葉さんが先ほど受けた幻覚とは違う種類の幻覚の見せ方があるのではないのでしょうか」

「あ、なるほど! 椛ちゃん頭いい! 多分そうだね。よし、相手の能力は大方分かったことだし、柊ちゃんを戻すために行きますか!」

「えぇ、行きましょう」






またも間が空いてしまいましたが、幻の能力を突き止め、ついに椛&双葉が動き出します。
いよいよ最終決戦か……?
次回もどうぞよろしくおねがいします。(あ、幻の破片の方もお願いします…)



それでは、読んでいただきありがとうございました。


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参拾巻~動き出す歯車~

ついに参拾巻にいきました。

いろんなことがありましたが、ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。



それではどうぞ。


 幻の能力がどんなものなのか予想がついた椛と双葉は、幻を探し始める。

「今度こそ、絶対に……!」

「倒しましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた!」

 百メートルほど先の所に幻がいた。双葉が奇襲をかけんとばかりに近づこうとしている。それに気づいた椛は双葉を止める。

「待って下さい! あれが創りだされた幻覚の可能性があります。ここは一旦見きわめてから攻めましょう」

 椛の言葉に双葉は我にかえる。感情任せになっていたようだ。

「そうだね、一回様子を見よう。ありがとう、椛ちゃん」

 幻かどうかはまだ判断は出来ないが、その周りやそのずっと後ろの方向も見た。しかし、幻と思われるような姿はなかった。

「多分あれは本物だろうね」

「恐らくそうでしょう。ですが何か……」

「どうかした?」

「何か腑に落ちない気がして……」

「いやでも、椛ちゃんの能力でくまなくあの周りを見たから大丈夫だと思うよ!」

「そうでしょうか」

「うん。そうだよ! だから早く柊ちゃんを救わなきゃ」

 そう言い終えた双葉が飛び立とうとした瞬間だった。

 後方から殺意のこもった攻撃が飛んできた。

「双葉さん!」

 椛が素早く反応し、攻撃を受け止める。

「ぐっ……!」

「も、椛ちゃん!」

 咄嗟のことで、全ての攻撃を防ぎきれずに受けてしまったようだった。

「止血して処置しなきゃ!」

 止血しようとした時に椛が、“椛と双葉がいたところの後ろの方”を睨んで言った。

「……やはりそこにいたんですね、幻」

 椛が睨んだ先には幻がいた。

「そうだよ。よく気づいたね。気配は消していたつもりだったんだけどな」

「あんな殺意のこもった攻撃されたらそりゃあ気づきますよ」

「そんなこと言っても説得力ないし、そもそも自分達の周りに不注意すぎるね」

「やはり裏をとられていたのは私達の方でしたか」

「それで何? 僕に何の用だい?」

「あんたの能力でやったこと、全部戻しなさい!」

 双葉は割って入って言う。

 しかし幻は舌を出してバカにしたように言う。

「や~だね~」

 だが、椛と双葉は了承してくれないことなど期待はしていなかった。

「それならば、無理にでも……」

「力づくで……」

 

 

「倒す!!」

「倒します!!」

 

 

 

「いいねぇ! 退屈な僕を楽しませてくれよ!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 お母さんとお父さんが死んでいくところを思い出すと胸が苦しい。何日も泣いていた。過去を見て、自分がどんなだったのかも分かった。でも、戻ろうとしても何かが私を引き止める。いや、私が過去から離れるのを拒んでいるのか、または両親を忘れてしまうことを恐れているのだろうか。どちらかは分からないが、なんにせよ心が苦しい……。

 

 そう思っていても過去は繰り返される。また同じ景色を見るとなると、それでさえも精神が滅入ってしまいそうだ。

 

 だが、私の思考なんてお構いなしに過去は始まる。

 

 

 

 けれども、今回は何かが違った。私は変化に気づき、過去をよく見てみる。

 

 

 出された景色は、葬式だった。

 

 

 

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございました。

なかなか忙しいですが、これからも頑張らせていただきます。



それではまた次回に。


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参拾壱巻~無力~

夏休み忙しいです大変ですはい。


それでもやっぱり小説は楽しいのでやめられません。


夏休み中にもう一話と、幻の破片の方も進めたいと思います。



それでは、どうぞ!


(なんで葬式……?)

 不思議に思いつつ、過去を見る。

 それはちょうど葬式が終わり際から始まった。

 

 

 両親の写真が木でできた棺の後ろ側に置かれている。その棺の横を通る人達が花を添えて、最後に何かを述べてから通り過ぎていく。その流れをよそに、幼い私は涙をぼろぼろと流しながら泣いている。周りの人達は気を遣ってくれていて、私をそっとしておいてくれたり、励ますような事を言ってくれていたことに今になって気づいた。

 

「そうだ、この時私……いろんな人達に助けてもらったんだ」

 

 周りの人達の親切な行動に心が温まる。そして、気付かなかったがここまで助けられていたことに気がつく。

 

(私も行かなきゃ……椛さんや双葉ちゃんのために……)

 

 しかし決意したのはいいが、肝心のここからぬけ出す方法が見つからない。どうすればいいか考えていると、どこからともなく声が聞こえてきた。

「なんだ、過去を見て変わっちゃったんだ~」

「この声は、幻!?」

「ふっふっふ、ご名答~!」

 そう言うと、暗闇の中に急に幻が現れた。

「早くここから出して!」

「まぁまぁ、そう焦らないで。そうだねー、出してもいいけど、その後どうするのさ?」

「え?」

「だから、出た後どうするのさって聞いてるの」

「そんなの決まってるでしょ! 椛さんと柊さんの所に行って助けになれるように頑張るの!」

「口では言うの簡単なんだよねー。本当にできるの?」

「できるかじゃなくてやる! やるの!」

「ほんとに? 今までできなかったのに?」

「…………」

「散々足を引っ張って、仲間の白狼天狗に重大な怪我を負わせておいてよく言うよ」

「……う」

「お前のせいでこんな大変なことになってるのにな!」

「……がう……」

「いいかげんに時分が無力だってことに気がつけよ!」

「ちがうちがうちがう!」

「違く無いね! そうやってまた何かから逃げるんだ! 自分の無力さを認めないで!」

「いやぁ!」

「もう諦めちまえよ! 何やっても無駄なんだからよぉ!」

「ちが……」

――――そうだ、違うんだ。

 

 

「…………たとえ自分が無力でも、誰かのために動くのは決して無駄なことではない。無力というのは、諦めて何もできなくなったことを言う。そうおばあちゃんが言ってたっけ。今思うと不思議だけど……。

 

 それに私はあの時に決めた。恐怖で何もできないより、恐怖に打ち勝つことができるほど強くなって何かを守れるようになりたい。

 

 だから私は……仲間を守るために、何度でも立ち上がる!!」

 

 真っ暗な空間に突如ヒビが入り、光が差し込む。

「そ、そんな馬鹿な……! 能力が破られるだと!? クソッ!」

 幻は暗闇に消える。

 

 その刹那、空間が崩れ、まばゆい光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に目を開けた時には、そこは総会場の医務室だった。

「なんで私はここに……幻と戦った後からの記憶があまりない……でも、暗闇の中でのことならある程度憶えてるということは……」

 そこに医務室の天狗がやってくる。

「き、き、君、意識はあるのかい……?」

「えぇ、大丈夫です。あります」

「こりゃたまげた。まさか自分で治してしまうとは……って、君! どこ行くんだい! 安静にしてないと!」

「すみませんが、行かせて下さい。休んでいる暇なんて無いんです。

 

 

 

  仲間の所に行かなければいけないので」




ついに柊が復帰しましたね。


いよいよ終盤という感じがしてきました。

ついに幻との決戦が近づいてますね。どうなるっていくのでしょうか。
次回もよろしくお願いします!


今回も読んでいただきありがとうございました。


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参拾弐巻~未来~

「くっ……強い……!」

 二対一で戦っているはずなのに、一人とは思えないほどの強さで椛と双葉の相手をしている。

「その程度か! それで僕を倒そうなんざ百年早いね!」

 幻は殺傷弾を雨のように降らせてくる。

「双葉さん、これではだめです。一度範囲外に出ましょう!」

 二人は殺傷弾の降る範囲外に移動をした。

「あいつに体力の限界はないの!? さっきからあんなに降らせてくるのに!」

「……私の考えですが恐らく、あれの全部が全部本物とは限らないはずです」

「どういうこと? 椛ちゃん」

「普通、あんなに殺傷弾を降らせていれば体力の消耗が激しいのは勿論、山への被害もも大きいはずですが、先ほどから見ていても被害が小さすぎます」

「なるほど! じゃあとりあえず斬っていけば本物か幻覚か見分けがつくんだ」

「そうなんですが、奴は近づかれたりなどをされた時、すなわち向こう側にとってチャンスだと思った時になったら必ず実弾を使ってくるはずです。そこには注意をしなければいけません」

「そうなったら、二方向から攻めれば少しは迷わせることもできるかもしれないね」

「気を惹きつけられればいいのですが……もう一つ疑うべきことが……」

 そこで二人の目の前に実弾が落ちてきたが、うまくかわして別の場所へ移動する。

「あまり時間がないですね。それで、もう一つ疑うことは幻本体です。幻覚弾を打ち出すだけの幻を作っておいて、そこに少しずつ実弾を混ぜているということも考えられます」

「ん……? どういうこと?」

「幻自体が幻覚で、幻覚の弾を撃ち出していて、そこに本物の幻が少しずつ実弾を紛れさせているかもしれないということです」

「それだと幻がどこにいるかわからないのか」

「そうです、それが厄介なんです。どうにかしてどちらの線が濃厚かわかればいいんですが」

「まぁ、とにかく殴ればわかるんでしょ? 私には能力が効かないみたいだし」

「……ふふっ。そうですね、やりましょうか」

 双葉と椛は互いに逆方向を向き、走り出す。そして、幻を二方向から襲える位置に来ると、二人は息を合わせて幻に向かって飛ぶ。

 

 

「「はぁぁぁ!!」」

 

 

「それなら僕が迷うって寸法かい?」

 そう言うと幻は両方の攻撃を受け止めた。

「そっ……」

「そんな……」

「言っただろう、百年早いって!」

 幻は二人を地面に向けて振り下ろす。地面に叩きつけられた衝撃で大量の砂埃が舞う。

「う、ぐっ……強い……」

「どこからそんな怪力が……」

 幻が二人の前に下りてくる。

「真っ向から僕を倒そうなんてやめたほうがいい。絶対に倒せない」

「願ったり叶ったりですね。わざわざ来てくれるなんて!」

 椛のその言葉で、突風が巻き起こる。

「これは、砂か! クソッ、視界が!」

 さきほど舞った砂埃を椛が突風で巻き上げ、幻の視界を奪ったのだ。

 

「倒せるか倒せないなんて、まだ決まってないのに決め付けないでください。誰かに、先を決められてる未来なんて嫌です。私の未来は私で決める……あなたが決めるものじゃない! 私は、いや……私たちは貴様を倒す!」




最後よくある言葉だわーとか言わない!言っちゃだめ!



今回も読んでいただきありがとうございました。



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参拾参巻~疑い~

今回、残酷な描写が含まれます。
苦手な方はブラウザバック推奨です。(感じ方は個人によりますが)




それでもいいというかたは、どうぞ



「もういいわ……。お前ら仲良くあの世に送ってやるよ!」

 椛と双葉は身構える。

「『ファントム・サブスタンス』!!」

 そう唱えた幻の周りに投げナイフが並び始めた。

「何をする気なんでしょうか?」

「まぁいいよ! 今まで幻覚しか使ってないから、どうせあれも幻覚よ! さっさと攻めてしまえば終わり!」

「待ってください! まだそれが幻覚とは確認していないのに! 危険です!」

 双葉が幻に向かっていくと、幻は投げナイフを双葉に向かって投げる。

「あんたもマヌケね! 敵の前で幻覚を創り出すなんて! こっちはもうわかってるn……」

 鈍い音が脳内に響く。

「えっ……?」

 一瞬何が起こったのか理解できなかった。

「な、んで……?」

 幻覚だと思い込んでいたナイフが双葉の左足に刺さっていた。

「え、う、うそ……。あ、あぁ……」

 足の力が抜け、同時に体の力も抜けていく。そしてようやく、脳が何が起こったのかを理解して、体が痛みを感じ始める。

「いっ、あぁぁ…………!」

「双葉さん!」

 もう一本のナイフが飛んできて、双葉の右腕を直撃する。

「きゃあぁぁぁぁぁ!!!」

 痛みに叫んだ双葉が落ちてくる。

 椛は何とかして受け止めようと急いで落下点に移動する。しかし、あともう少しというところで見えない壁に激突した。

「なんで壁が……!」

 そして双葉が落ちてくる。

「双葉さん!!」

「う、あぁ……」

 何とかまだ意識があるようで一安心したいが、そんなことをしている暇などない。

 椛は何とかして壁を壊そうとする。

 しかし、攻撃が通っているような手ごたえはなく、びくともしない。剣の切れ味が落ちるばかりで、だいぶ刃こぼれもしてきていた。

「双葉さん! 大丈夫ですか!」

 声なら届くかと思い、大声で呼びかけてみるも、音すらも遮断されているようだった。

 助けたいのにどうすることもできないまま、壁抜こうから双葉を見ていた時、いつの間にか、幻が双葉の前にいた。

「幻!? まずい! 双葉さん!」

 その呼びかけも虚しく、幻の行動をただ眺めていることだけしかできなかった。

 

 

 

 ただ、その幻の起こした行動に、椛は目を見開いていた。そして、これ以上とない怒りを見せるほどの行動だった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 双葉はいたみをこらえ、なんとかして足のナイフを抜こうとしていた。とにかく退くことが優先だと思っていたのだろう。

 少しずつ少しずつ抜いていた。

 

 

 が、

 

 

 はっとして顔を上げると、幻が何食わぬ顔でたっていた。

「なっ! 来るな!」

 そんなことを言うが、幻がそんなことを聞いてくれるわけがない。

 ぐいぐいと近づいてきて、双葉に近づくとこう言った。

「抜くのに困ってるのなら、僕が引き抜いてあげようか?」

 双葉の背筋に悪寒がはしる。

(何を考えてるの……やめて、そんなことしたら……!)

 幻が双葉の左足に刺さっているナイフに手をかける。

「や、やだ……。やめて、お願い……お願いだから……それはやめて……!」

 どうなるのかを想像するだけで、涙が出てくる。

 痛みが怖いのももちろん。こんなやつに弄ばれている未来がどうなるのかの恐怖もあった。

 幻のナイフを握る力が強くなる。

「やだっやだっ! やめてお願い、お願いだから! いやっ、いやっ……いやぁぁぁぁ!」

 幻は一度ぐっとナイフを押し込むと、一気に引き抜いた。

 双葉は痛みのあまりに、悲鳴を上げることなく失神してしまった。

「やっぱりいいね。恐怖に歪む顔は。しかも、ちょうど僕の一番の能力が効かなかったやつだから都合がいい」

 椛のほうに向き直る。

「確かにこの女が言っていたこともあたりだ。僕がさっき発動した技は、幻覚を本物にする技。細かく言えば、僕が幻覚で創り出したものを、僕が本物だと思えば本物になるし、幻覚だと思えば幻覚になる。さて……」

 

 

「次はお前だ」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

(幻の能力がまだ他の人にも続いているということはまだ幻は生きている。だったらこれ以上被害を増やさないためにも何とかしなきゃ!)

 とは言ったものの、どれくらいの時間が経ったのか、今山がどういう状況なのかもわからない。ともかく、椛さんと双葉ちゃんを探すことにした。

「そういえば、どうして私医務室にいたんだろう」

 その他不思議に思ったことについて考えながら椛さんの家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に着いたとき、あまりの惨状に私は絶句した。玄関はほとんど原型をとどめておらず、扉が離れたところに落ちている。家の中は物というより、家の部品が散らばっていたり、柱が折れて倒れていた。

「なっ、なんでこんなことに……?」

 家の現状に呆気に取られるが、はっと気づく。

「椛さんと双葉ちゃんは!?」

 もし家にいて被害をを受けていったらと思うと不安になってきて、家の中を探し始める。しかし、その心配も杞憂に終わり、幸い椛と双葉はその時に家にいなかったようだ。

 ほっと胸を撫で下ろす。

「でも、どこにいるんだろう。とにかく急がなきゃ」

 そのとき、遠くの方で大きな音が聞こえた。




今回もいかがでしたでしょうか。
楽しんでいただけたのなら幸いです。


感想などに返信はできませんが、感想をくださったり、評価するほどの作品だと思って、評価していただけると大変喜びます。


それでは、今回も読んでいただきありがとうございました。


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参拾肆巻~罪とは~

 とにかく許せなかった。たったひとつの壁を壊すことのできなかった無力な自分と、幻がやったことの二つのことに対して。

 椛はもう我慢の限界だった。冷静さを失い始めた椛は、無我夢中に剣を振る。

 幻は後ろに下がりながら左右にかわしたり、受け流している。

「なんでそんなにムキになってるんだよ。別にお前に直接被害はないのに」

「私に直接被害があるかどうかなんて、関係ない! 私の大切な仲間を傷つけた! だから!」

「へぇ、じゃあ目の前にいたのにどうして助けられなかったのかね。俺の壁があったから?」

「うるさい! 黙れ! 私欲のために動いてるお前とは違う!」

 幻は剣をかわしながら続ける。

「お前のそれだって、私欲じゃないのか? 私が仲間になってあげているから仇を撃ってあげないとっていう私欲が」

「違う、違う、違う違う!」

 椛が剣を振り回す。しかし、その動きを見きった幻が椛にケリを入れる。

「うぐっ、げほっ……」

「結局最後まで無力だったな。自分の感情すらもコントロールできないで、ただ感情任せになって剣を振り回していただけだったし」

 椛は立ち上がって幻に向かって走っていくが、あっさりかわされ、また蹴飛ばされる。

「あの世で守れるように頑張りな」

 幻は双葉に刺したようなナイフを取り出すと、椛めがけて振り下ろした。

(やっぱり私は……)

 そう思っていた矢先、

「はぁぁぁ!」

「なっ……!」

 突然幻の横から剣が飛んできた。その剣は、幻の持っているナイフをはじき飛ばした。

「くっ……馬鹿な、なんでお前がここにいる!?」

 椛が顔上げるとそこには、柊が立っていた。

 柊は剣を鞘に収めながら、幻を睨みつけて言う。

「あんたにはまんまと一杯食わされた。人の記憶を好き勝手して何が楽しいだ……! 絶対に殺す!」

 柊は幻の奥を見て言う。

「椛さん!」

 その刹那、幻は振り返った。だが、そこには椛の姿はなかった。はっと気づき、すぐさま前を向く。だがそこにはもう既に、柊の姿は見えなくなっていた。

「ど、どこに行った!?」

 当然これは、柊の移動速度などではなく、柊の能力が発動しているだけだった。だが、幻は柊の能力はいざしらず、ただただ見えない攻撃に耐え続けるしかなかった。

「クッソ……! 卑怯だぞ! 出てきやがれ!」

 柊は姿自体は見えるようにしたが、幻の前には姿を見せず、声だけで返答する。

「卑怯なのはどっちだ。罪のない妖怪までも深刻な状態に落として、さらには私を受け入れてくれた天狗の皆さん。そして、椛さんと双葉ちゃんにこんなことまでした。全員に対して一方的に。それが卑怯だって言ってんの! ……卑怯者には卑怯で死ぬのが一番。目には目を、歯には歯をと同じよ!」

 

 

 

「……あなたはもう”つみ”よ!」



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参拾伍巻~助け合い~

今回ちょいグロ描写あるので、おきをつけください。苦手な方はブラウザバック推奨です。


柊の絵を完成させたいけど、画力なさすぎて辛い現状です。頑張りたいですね……

それでは、始まります。


 私はまた姿を消し、幻の周りを移動する。

「クソッ! あいつはどこだ!」

 幻がキョロキョロと周りを見る。しかし、そんなことをしても私を見つけることはできない。幻は自分の体を中心にして、ナイフを円形に並べた。その後、手を下から上にあげる仕草をした。

 私はただそれを、幻には見えないようにしながら、木の上から眺める。

 とりあえず奇襲をかけてみようと、刀を抜いて切りかかってみる。しかし、何か見えない壁に阻まれてしまう。その何かと刀によって出された音によって、幻が音のした方に反応する。

「そこか!」

 ナイフを次々と飛ばしてくる。

 だが見えないため、少し横に動くだけでかわすことができる。

 ただ、幻はそれで場所を把握したつもりなのか、その方向を向いて集中し、力を溜めている。

 私は幻が何をしたいのか分からないけれど、これほどの好機は無いと思い、刀で攻撃しようとする。

 しかしその時、幻が私の方を向いた。

「分かっていないとでも思ったか! 姿は隠せても気は隠せないみたいだな!」

 私はもろに幻の攻撃を受けてしまう。それと同時に透明化も解除されてしまう。

「全く……。お前の能力には驚いたが、使いこなせないようなら俺の眼中にもねぇ。また前と同じようにしてやる」

 幻が以前と同じように私に能力を使おうとする。しかし、どこからかクナイが飛んできた。

「ん? なんだ?」

 幻が、クナイの飛んできた方を見る。私はその隙をついてまた能力を発動する。

 もちろん私には誰が飛ばしたかなんて分かっている。

「なんだ、まだ動けたのか」

 私は今助けてもらった。今度は椛さんが狙われている。なら次は私が力になる。

 椛さんの方向を向いて、幻は話している。

 私は幻の見えない壁を壊すため集中する。昔聞いたことがあった。全てのものに核というものがあって、ある一点に集中して攻撃すると硬くても壊れるというのを。

 時間がない。一発で成功させなければ終わりと思った方がいい。

 刀の先を意識して、もう一度集中する。焦りは禁物だ。

 刀の先が止まったと思った瞬間、私は壁に向かって刺した。

 

 

 見えないが、何かが崩れ落ちた音がした。今この瞬間を逃したら、またバリアをはられてしまうかもしれない。私は無理矢理、刀を幻の首の所に持っていき首を切り落とした。

 しばらくして、幻の胴体が倒れ、首は体の近くに転がっていった。

 私は能力をといて椛さんの方を見る。椛さんは口を開け、驚いているようだった。

「椛さん、大丈夫ですか?」

 私の呼びかけに答える。

「えぇ、大丈夫です……。柊さんだけで倒してしまうなんて」

「椛さんのおかげです。あそこで気を引いてくれなければ私も死んでしまっていたかもしれませんし。とにかく医務室に行きましょう」

 そういった時、椛さんが思い出したように言った。

「そうです! 双葉さんが!」

「あ! 双葉ちゃんはどこ!?」

 私が双葉ちゃんを探そうと辺りに視線を向けた時……。

 

 

 私は血を吐きながらその場に倒れた。

 




今回も読んでいただきありがとうございました!


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参拾陸巻~空~

「ひ、柊さん!?」

 椛は何が起きたのか理解できなかった。

「まさか、幻!?」

 幻が死んだであろう場所に目をやるが、幻の死体は変わらずにそこにあった。

「幻じゃないとしたらなんで……いや、とりあえず医務室につれていかなきゃ!」

 椛が急いで運ぼうとした時、何もない場所から声がかかる。

「待ちなさい」

 椛が声のかけられた方をみると、空間が歪み、八雲紫が出てきた。

「なんで、八雲が……」

「なんでって、その子がそんな状態だから来たのよ」

 紫は幻の死体を空間に片付けながら言う。

「率直に言うわ。その子、柊はそう長くはもたないわ」

「なっ……なんてことを言うんですか! そんなことあるわけがないじゃないですか!」

「考えてもみなさい。人間の体でここまで持ったことが凄いと思うわ。負担が大きすぎたのよ。短い期間で連続して妖怪の相手をして……人間の体にただの妖狼の気がまとっているだけなのよ。普通だとこんなに力は出ないわ。なのにこんなにも力があったのだから、筋肉へのダメージも大きいはず。合わせれば並大抵の負傷じゃすまないわ。この吐血はほとんど終わりの前触れだと思ってもいいわ」

「じゃあ、どうしたらたすかるんですか……」

 椛の質問に対して、紫は何故か黙っている。

「なんで黙って……っ! 助ける手段が無いっていうんですか……? このまま見殺しにしろと……?」

 紫は黙っている。

「そう、ですか……だったら」

 椛は飛び立ち、

「何もしないよりは何かをした方がいい! あなたと話している時間が無駄だった!」

 総会場の方へと飛んでいった。

「……失敗したわねー。黙っていれば、永琳が間に合うと思ったのだけれど……行動派だったのね。まぁ仕方ないわ。後を追いましょ」

 スキマを開く。

「永琳の様子を見てからでもいいかもしれないわね」

 そう言うと、紫は空間に消えていった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「柊さん、待っていて下さい。もうすぐつきますから」

 最短距離で医務室に向かう。

「すみません! 柊さんが!」

 医務室の天狗は勢いよく入ってこられて驚いたようだが、すぐに冷静さを取り戻すと、椛の方に近づいてきた。

「とりあえずその子をここに」

 柊を布団の上に下ろし、その横に二人は座る。

「抜け出した子じゃないか。だからあれほど言ったのに……」

「いきなり血を吐き出したんです! それで――――」

 そこまで言って椛は止まった。八雲の言っていたことを言おうかためらったのである。

「それで?」

「……いえ、なんでもないです。すもません、気持ちが高ぶってたみたいで……」

「いや、いいんだよ」

 椛は言わなかった。

「しかしこれはどうしたものか……治療は――――」

 医者が続きを言おうとした時、廊下から声が聞こえてきた。

「どいてどいて! 柊ちゃんが大変なんだから!」

 椛は、柊に必死で完全に存在を忘れていた。

「柊ちゃん!?」

 双葉だった。

「双葉さん! 大丈夫だったのですね。怪我は……?」

「うん、無事だったよ。怪我はね……目がさめたら八雲が目の前にいて、あなたひどい怪我ね。神社のことは今回は免じてあげるから、とりあえず今は怪我を治しなさいって言われて、治してもらったの。そんなことろり、柊ちゃんは!?」

 双葉が布団の上に目を向けた瞬間、表情が変わった。

 

 

 

 

「嘘……死んで、る……」

 椛もいわれて目を向ける。気づいてはいけなかった。むいてはいけなかったのに、体が動いてしまった。

 そして、認めざるをえなくなった。

 

 

 柊の体から、妖気が感じられないのを。

 

 

 



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参拾漆巻~思い~

 双葉と椛は動けなかった。

 頭ではそのことを理解しようとしている。勝手に脳が働くのだ。

「そんな、うそ、ですよね……? 柊さんが死ぬわけ、ないですって……」

 双葉も同じだろう。

 どうしても信じられなかった。自分たちを助けてくれたというのに、なぜ助けた本人が一番の悪を背負わなければいけないのか。

「う、うぅ……柊、さん……」

 椛は泣いていた。それにつられて、双葉も泣いていた。

 もう柊とは話すことも、一緒に仕事することもできない。

 辛い現実が二人の目の前に突きつけられた。

「やだ……いやだよ……柊ちゃん……」

 ただ柊の名前を呼ぶことしか出来ない。

 

 

「ほんとにもう、手間かけさせるわね」

 聞き覚えのある声に、二人は振り返る。

 そこには、八雲 紫がいた。

「八雲!? なんでそこに!」

 椛は警戒して剣を抜く。

「だからそう早とちりしないの。あなたたちのためにきたんだから」

「それはどういう……」

 椛が聞き返そうとした時、紫の後ろから八意 永琳が出てきた。

「紫に頼まれて、薬を作ってきたのよ」

 そう言いながら、小瓶を取りだした。

「その薬は……?」

「この薬は簡単に言えば蘇生薬よ。ただし、蘇生薬と言っても完全なものではないわ。あくまで試作だし、何より、試したことがないの。前から研究はしていたけど、作ってみたのなんて本当に初めてなんだから。絶対に生き返るという保障はできないわ。それでもいい?」

 椛と双葉に断る理由はなかった。

「はい。お願いします」

「ちょっと待ちなさい。一つだけ言わなければいけないことがあるわ」

 紫は一呼吸おいてから言った。

「もし蘇生が成功したとしても、恐らく、柊は白狼天狗ではなくなってしまうわ」

「え……?」

「実は、前に逃げ出した狼の霊が、その子にとり憑いていて、その子の中で、その霊を飼っている状態なの。だから、中の狼が消えれば、憑依も解けて元の姿に戻ってしまうの。ただでさえ、その霊は衰弱しているのに、あの激しい戦いの連続で、もう消える寸前なはずよ。そこに、身体を再始動させるためのエネルギーを使ったら、完全に消えるわ」

「そんな……」

「それでも、いいの?」

 ここまで言われても、結局二人の意見は変わらなかった。

 助けてもらったこと、今まで楽しくしてくれたこと。それを考えれば、迷うことなんて一つもなかった。

 助けてもらったことへの、心からの感謝を伝え、また柊といつも通りに生活を送りたい。なにより、柊にもっと楽しんでもらいたい。

 これらは自分勝手なことかもしれないが、もう一度柊と話したい。

 それが彼女たちの一番の願いだった。

 

 二人はゆっくりと頷いた。



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参拾捌巻~運命~

遅れてしまい、すみません。
不定期なので許してください。
ではどうぞ



「わかったわ。永琳、お願い」

「承ったわ」

 そう言うと、永琳は柊に近づき、瓶に入った液体を柊の口の中に流し込んだ。その刹那、柊の体がほのかに光りだした。

「あっ」

 いち早く変化に気づいた椛が声を上げた。

「柊さんの耳が……」

 光が、柊の上に集まっていく。姿が人間へと戻ろうとしていた。

「……っ」

 双葉は何も言わなかった。

 やがて光は収束し、ゆっくりと天に向かって消えていった。

 

 

 

 

 

 

「う……うぅん……」

 あれ、ここは……?

「柊さん!」

 呼ばれた方に顔を向けると双葉ちゃんと椛さんがいた。

「あれ、私、どうして……」

 だめだ、頭がぼーっとしてて何も考えられない。

「良かった! 生き返った!」

 生き返った? というより、なぜかいつもより声が小さく聞こえる。

「あの、生き返ったってどういう……」

「全く、無茶するからよ」

「紫……なんでここに」

「あなたは死んだのよ、一回」

「え、死んだって……じゃあなんでいきてるの……?」

「それは永琳の薬のおかげよ。あなたの体、もとは人間なんだから、あんな連戦で妖力使ってたらその元の霊も消えちゃうわよ」

「消えちゃうって……」

 急いで頭に手をやる。

 そこには、いつもあった耳は無くなっていた。

「じゃあ私は今……」

「そうよ、人間に戻ってしまったの」

 過去の私なら喜んでいたのだろう。ただ、今の私にはショックとしか言えなかった。

 もしかして、もう一緒に闘えないのだろうか。そんなことが頭をよこぎった。

「とにかく、回復したてなのだから今日は休みなさい」

 そう言うと、紫は出ていった。

 あれ、急に眠けが……。

 

 

 

 

 

 

「柊ちゃん? あれ、寝ちゃったのか。じゃあ私達もとりあえず今日のところは帰ろうか」

「そうですね、柊さんの妨げになってはいけませんし」

 そう言って、全員帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「おい、犬走」

 呼ばれた先には、大天狗がいた。

「なんでしょう大天狗様」

「柊が人間に戻ったということは真なのか?」

「そうですが、それをどこで?」

「つい先程、八雲から聞いたのじゃ。まぁそれはどうでもいいのだが、柊が人間になった今、一つ問題が出来てしまった」

 一呼吸おいて、大天狗は言った。

「犬走、天狗界の掟は知っておるな?」

「はい、存じています」

「山は天狗のテリトリー。だから、たとえ共に闘えど、種族が違えば山から追い出さねばならぬ」

「……はい、分かっています。ですが……」

「これは今まで守られてきた伝統じゃ。それを一人の欲望のために崩さなければいけないのか? またこれは、柊の為でもある。人間という身で山にいたとしても、山には人食い妖怪などたくさんおる。ろくに外出などできなくなるだろう。そうすれば、ずっと屋内にいることになる。いや、もしかしたら家を破壊してまで喰いに来るやつも出てくるだろう。お主はそれらから柊を守れるというのか?」

「それは……」

「しかたがないのだ」

「でも、とりあえずは今日は!」

「今日はしょうがないから、別によい。ただ……明後日までには、山への未練を切らせ、柊を人里へといかせるのだ。わかったな?」

「…………はい。わかりました」

 

 

 



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参拾玖巻~別れ~

「あれ、私何してたんだっけ」

 あまり開かない目をこすりながら、昨日のことを思い出す。

「そうだ、私人間に戻ったんだっけ」

 あまり実感がない。いろんなことが目まぐるしくすぎていって、いちいち整理する時間がなかったからなのかもしれない。

「まぁ、いっか。思い出したいときに思い出せば。それより、能力ってまだ使えるのかな」

 前と同じように、昔を思い出しながら能力を使おうと試みた。

「あれ、使える」

 意外にもまだ能力だけは使えるのだとわかった。ただ、

「人間の体って重く感じる……。これじゃあ妖怪の時みたいに動き回れないなぁ」

 あぁ、椛さんの助けになることが出来ないのか。

 そんなことを考えていると、椛さんが入ってきた。

「柊さん、体はもう大丈夫ですか?」

「えぇ、だいぶ楽にはなりました」

「そうですか。ならよかったです」

 そう言ってる椛さんの顔は、言葉とは裏腹にどこか悲しそうだった。

「椛さん、どうかしたのですか?」

「……その、柊さんに伝えなければいけないことが……」

「……なんですか?」

 私は何を話されるのかがわからないまま話しを促す。

「天狗の掟上、天狗以外の種族は山に住んではいけないのです。ですから、人間に戻ってしまった柊さんはもう山にはいられないんです……」

 椛さんの表情が次第に曇っていく。

「……そんなのって、おかしいですよね……。だって、いくら短い期間だったとはいえ、私たちは共に戦った仲間です! それなのに、種族が変わってしまっただけで一緒にいられないなんて、そんなの、そんなの……!」

 椛さんの目には涙が浮かんでいた。

 それをみても、私は冷静でいられたことが不思議だった。なぜかは分からない。椛さんと離れてしまうことは寂しいことだ。だけどもそれは私にはどうしても必然のような気が前からしていたようにも思えていた。

「椛さん、私も悲しいです。ですが、やっぱり私だけの都合で椛さんに迷惑をかける訳にはいきません」

 私がそれを言うと、椛さんは驚いたような顔をしていた。

「どうかしましたか?」

「あ、いえ、大天狗様も同じようなことを言っていたので」

「あ、そうでしたか。でしたらなおさらです」

「柊さん……」

「では、すぐに支度しますので」

 この時、椛さんを見てしまうと心が変わってしまいそうで怖かった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 私は支度を終え、椛さんの家を出る。

「それでは、今まで本当にありがとうございました」

「……本当にごめんなさい……」

「椛さんが謝ることではありませんよ」

「ここからまっすぐ進めば人里に出ます。そこからは本当に申し訳ないのですが私はお力添えが出来ません」

「いえ、大丈夫です。本当にありが……」

「柊ちゃーん!」

 聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「双葉ちゃん!」

「柊ちゃん、どこいくの?」

「人里に」

「え!? なんで!?」

 私と椛さんはここまでの経緯を話した。

「そうなんだ……。人里だと私もあまり入れないからなぁ……。会う機会も少なくなっちゃうね」

「そうだね。でも完全に会えないわけじゃないから」

「そうですね、では――――」

 

 

 

 

 

 みなまで言う必要は無かった。その内容はお互いわかっていたから。もし再び会うときがあるとすれば、運命が、この世界がそうなるように仕向けるだろう。

 それまでは――――。

 

 

 

 






ここまで読んでいただきありがとうございました。

とりあえず、東方~二人の白狼天狗~の第一部はこれにて完結です。
本当にここまで読んでいただきありがとうございました。


もしかしたら、この続編が名前を変えて出てくるかも……?しれませんが、そのときになったら、その時でよろしくお願いします。


最後に、本当に有難うございました。


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