高校生艦長と自衛艦の航海日誌 (みたらし饅頭)
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設定を書いてみました。
何かあればご報告を


時代:1962年

世界観:

艦娘たちが深海棲艦と戦っている「艦これ」の世界。

1953年頃までは正常な歴史をたどっていたが深海棲艦が出現したことでそれ以降の現代の歴史とは全く違うものになっている。(沖縄はアメリカから異常事態のため返還された、トラック泊地等は深海棲艦から奪還。)

ただし日本国内では技術の進歩が大きく、昭和後期と現代が7:3の割合で混ざった状態である。(新幹線は開通しており、かなり高価ではあるがスマホもある。)

1954年に保安隊から自衛隊になる予定だったがGHQからの命令が下る前に深海棲艦が出現したことで予定上の陸上自衛隊は日本国陸軍に、海上自衛隊は日本国海軍に、航空自衛隊は日本国空軍になった。

陸軍と空軍は深海棲艦からの本土攻撃に対処するため戦車や戦闘機で武装しているが、海軍は艦娘が深海棲艦と戦い制海権を取り戻そうと奮闘している。

 

 

 

以下は艦娘について書かれた本

 

『艦娘について』

 

第一章「艦娘とは」

 

艦娘とは何か、簡単に言えば過去の軍艦に宿った艦魂が元。

艦魂とは艦船に宿る魂のことで霊感のある人物や一部の人間は普通に見えたり透けて見えたりする。

艦娘は簡単に言えば艦魂が実体化して人の身体を持った存在である。

因みにほぼ人間と同じ体であるので女性としての器官はある、つまりはヤることはヤれる。(主人公が証拠。)

艦娘は艤装をつけることで身体能力が上がりスーパーマンまがいのことが出来たり、海の上を走り、戦闘を行う事が可能となる。

 

第二章「戦闘等について」

 

艦娘は基本的な戦闘は艦艇時代を基礎としている。

艦娘は全員、水上スキー方式で移動と戦闘を行う。

艦娘のほとんどは過去の経験から戦闘を行っている。

艦娘と深海棲艦の行う攻撃は元の兵器と同じ威力があるためたとえ小さいサイズであっても駆逐艦の砲弾一発で船が沈むことなんてザラである。

艦娘は艤装をつけることにより身体能力が上がり、海の上を走り、戦闘を行う事が可能になることとほぼ人間と同じ体であることは第一章で説明したが艦娘は装甲が上がるとはいえほぼ人間と同じ体。

つまり艦艇では起こらない脳震盪などが起こる。

実際に戦場で脳震盪を起こしそのまま死亡轟沈した例がある。(ブラック鎮守府の屑がやらかした)

この現象は内臓までは強化が出来ないことが原因。

実際に今でもあまり練度が無い艦娘では被弾時に軽い脳震盪等を引き起こす。

戦場で艦娘が死亡した場合は轟沈と同じで海に沈んでいく。

轟沈した艦娘がどうなるかは分かっておらず、一説によると深海棲艦としてよみがえるという話だ。

実際に轟沈した艦娘にそっくりな深海棲艦も発見されているためこの説が有力である。

ちなみに高速修復材は肉体を直すことが可能なので上半身と下半身がさよならバイバイした状態でもくっつけたり治すことが可能です。(但し対処が遅くなったりすると跡が残ったり死亡する)

艤装を付けた状態でなければ艦娘も人と同じように怪我をする。

 

第三章「艦娘に関する争い」

 

何処の世界、いつの時代でも人は論争を起こすものだ。

艦娘についての論争は何処でもある。

主に兵器として扱うか、人として扱うかである。

これについては憲法と法律に定められていない為どこかの国の国会ような意味のない会議がたびたび開かれる。

最近は憲法に従って艦娘に関する法律を作ろうとする勢力が大きいが、それに反対する勢力も一歩引かない状況となっている。

まぁ大抵反対勢力の奴らは汚職などをしているため逮捕されている。

そのため艦娘に関する法律が出来るのも時間の問題となっている。

 

またもう一つの争いが「艦娘解放団体」が行うデモだ。

これはどこかの頭のおめでたい人が「艦娘を軍から解放しろー!」とか言って始まった団体。

どこかの国の護憲と言っている団体に近い。

自分たちは戦わないせいか分からんが艦娘を軍から解放してその後、彼女たちをどうするのかは決めていないようでそのことを言われると「別のことだ」とか言う。

つまり早い話、自分たちの未来が掛かっている事を理解できない頭の中がお花畑な方々なのである。

少し失礼なことを言った気がするので謝罪します。

すみませんでした。

 

第四章「艦娘に関する問題」

 

艦娘に関する問題はブラック鎮守府による過酷な労働などで反乱を起こしたりPTSDになること等さまざまである。

特に多いのが提督諸君による暴行、セクハラ、強姦などである。

憲兵が調べていても隠し通したり、憲兵がグルだったり、賄賂が流れたりなど腐った木材より腐りきっている。

最近は数が減ったものの、まだまだ汚職軍人はいる。

さらに艦娘を人身売買する事案も過去にあった。

以上の事案から精神に異常を患った艦娘用の病院も存在する。(艦娘精神病院と言い横須賀市内に存在する。)

しかしそこに就職する者は精神異常者の艦娘が恐ろしいためか少ない。

 

後書き「今までをまとめて」

 

今までの事柄をまとめると艦娘は艤装を付けているとき以外は普通の人間と大差ないが差別はある。

しかも勝手な都合で争いに巻き込まれ、更には汚職提督諸君に良いように扱われているのも現状だ。

艦娘をどう見て、どう接するかは提督諸君の勝手だろうが大切に扱って欲しいと筆者は思う。

彼らはこの国を守ってくれる者なのだから。

 

1955年11月12日初版発行。

著者:みたらし饅頭

発行所:株式会社和菓子社

 

(後は汚れていて読めない)

 

 

 

『艦娘について』をファイルにとじました▼

 

 

 




後半に2つネタを書いています。
わかった人は流石です。


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用語集

最近更新していなかったので用語集を・・・。
投稿に関しては活動報告をご参照ください。
本編でなくて本当に申し訳ありません・・・・。


~単語編~

 

『横須賀鎮守府』

海軍の中でもエリートが集うと言われる鎮守府。

他鎮守府と違い、多くの艦娘が歴戦の猛者であり、尚且つ海軍内の人間からいくつもの噂が流れ出る場所。

ここに転属になった者は必ず出世するとまで言われ、大本営組が喉から手が出るほど欲しがる場所でもある。

毎年、一番多くの艦娘候補生学校からの配属希望書が届く事でも有名。

 

 

『艦娘候補生学校』

自衛隊では幹部候補生学校に当たる場所。

大本営で建造、又は新しく発見された艦娘が基本的なことを学ぶ場所。

多くの初期艦や特別配属艦娘がここを卒業し、各鎮守府や泊地へと旅立っていった。

現在も多くの艦娘が在籍し、既に退役した艦娘たちからの教えを受けている。

 

 

『特別配属艦娘』

大本営から一定の戦果を挙げた鎮守府へと配属される艦娘の総称。

此方の世界でいう報酬艦娘に該当する。

 

 

『配属希望書』

艦娘候補生学校卒業を間近に控えた艦娘が書く希望書。

必要事項を記入し、成績表を同封して各希望の鎮守府や泊地に配送され、そこで提督が選考を行い、配属を許可されたものは配属する。

許可されなかった場合は他の鎮守府へと配属される。

 

 

『兵器派』

艦娘を兵器もしくは道具だと思い、人間らしい扱いをしない派閥。

暴行、セクハラ、強姦、賄賂、人身売買未遂等、黒いものは叩けば叩くほど出てくる。

構成員のほとんどが汚職軍人か、権力を振り回す阿呆であり「みらい」や海上自衛官、霧先を狙う軍上層部の人間もここに所属する。

また、作戦考案を行う人間もここに所属している場合が多い。

 

 

『人間派』

艦娘を人間もしくは兵士だと思い、人間らしい扱いをする派閥。

兵器派とは打って変わって艦娘への給料や有給の保証、住民票作成などを行ってきた。

まだ勢力的には勝っているものの、時たま行われる兵器派からの妨害に頭を悩ませている。

殆どが軍上層部ではないため、大本営内では力が少し弱い。

 

 

『特殊艦隊』

横須賀鎮守府に所属する艦隊で、現在は第二艦隊まで存在している。

他鎮守府で建造が確認されていない艦娘によって構成された艦隊。

霧先を最高指揮官とし、主に防衛と救援が任務であり、如何なる場合においても専守防衛と自衛隊法を厳守することが決められている。

第一艦隊は旗艦をみらいとし、ゆきなみ、伊152の艦艇時の姿を持つ艦娘で構成される。

対して第二艦隊は天城、土佐、伊勢、日向で構成されている。

かなりバランスが悪いように見えるが、他の艦娘が別艦隊に所属しているため兼任できないのが大きな原因。

 

 

『シースパロー』

正式名称はRIM-7 シースパロー(英語:Sea Sparrow)。

空対空ミサイルであるスパローを元に開発された個艦防衛用の艦対空ミサイル。

初期はランチャーから発射するタイプであったが、改修を重ねて垂直発射装置(VLS)に対応するようになった。

しかし誘導中はイルミネーターレーダーを一発につき一基占領する為、防空に特化したRIM-162 ESSM(英語: Evolved Sea Sparrow Missile)、「発展型シースパロー」が開発された。

「みらい」に搭載されているのはRIM-7Fというタイプで有効射程18㎞、速度は最高で時速3060㎞m、平均で1512㎞。

 

 

『アスロック』

正式名称はRUM-139 VL-ASROC。

Mk 41VLSに搭載される先端部にMk.46対潜魚雷を装備した対潜ミサイル。

射程は22㎞。

発射後は空中でミサイル部と分離し、着水後は自身の持つ探信音か標的の発する音によって追尾する。

初期のものはシースパローと同じく、ランチャーから発射するタイプであった。

因みにこれが配備され始めたのは1961年で、終戦から僅か16年後である。

その為、本小説内のアメリカ海軍はこれを装備している可能性がある。

 

 

『トマホーク』

正式名称はトマホーク(英語:BGM-109 Tomahawk)。

アメリカ合衆国で開発された対艦巡航ミサイル。

核弾頭タイプがあったが既に退役済み。

射程460㎞、時速880㎞という性能で撃墜はほぼ不可能と言われる。

『みらい』に搭載されているのはBGM-109Bというタイプ。

しかし実際の海上自衛隊はハープーンや90式対艦誘導弾で間に合うため配備はしておらず、近年の米海軍もコスパの関係から退役させている。

 

 

『OTOメララ127mm54口径単装速射砲 』

正式名上はオート・メラーラ 127mm砲(英語:Oto Melara 127mm gun)。

イタリアのオート・メラーラ社が開発した艦載砲システムで、高発射速度と軽量化を両立し、優れた性能を有する。

口径こそは大戦時代の砲と同等であるが、優れた射撃管制能力と速射性により雲泥の差がある。

射程は通常弾で30㎞、特殊弾で100㎞。

発射速度は毎分45発で最大で66発搭載可能、44発まで連続発射ができる。

現代戦においては、あくまで副兵装として敵航空機やミサイルからの最終防衛に使用される。

1972年から製造され続けているベストセラー兵器。

 

 

『Mk.46短魚雷』

アメリカ合衆国の軽量対潜水艦魚雷。

自らが探信音を発して追尾するアクティブモードと標的の出す音を基に追尾するパッシブモードを選択可能。

また、水上目標への攻撃も可能である。

射程は7.3㎞、ヘリコプターなどの航空機からも発射可能である。

 

 

『ハープーン』

正式名称はハープーン(英:Harpoon)。

アメリカ合衆国のマクドネル・ダグラス社が開発した対艦ミサイル。

航空機用、水上艦用、潜水艦用があり、それぞれ射程やサイズが異なる。

『みらい』が搭載しているのはRGM-84と呼ばれる艦船発射型ハープーンで、格納庫と発射機を兼ねる専用のキャニスターから発射される。

射程140Km、速度は時速1040Km。

 

 

『Mk41VLS』

正式名称はMk41垂直発射システム(英語:Mk 41 Vertical Launching System)。

世界的に広く用いられているミサイル発射システム。

数多くのミサイルを搭載でき、一発ずつが独立した構造となっているため、一部が故障しても他の発射機には影響を及ぼさない構造になっている。

また、発射後はミサイル・セルと呼ばれる入れ物にミサイル本体を入れた状態で、クレーンによって持ち上げて再装填を行う。

 

 

『Mk48VLS』

正式名称はMk.48垂直発射システム(英語:Mark 48 Vertical Launching System)。

小型ミサイル専用のミサイル垂直発射システム。

小型の個艦防空ミサイルであるESSMを含むシースパローのためのMk.41の小型・軽量化版で、それより大型のミサイルの搭載はできない。

海上自衛隊では「むらさめ型護衛艦」のみに配備されている。

だがこれが『みらい』をDDHに分別させる要因となっている。

 

 

『SH-60J』

SH-60Jとは、日本の海上自衛隊がシコルスキー・エアクラフト社製SH-60Bを基に開発した哨戒ヘリコプター。

主な任務は対潜水艦戦と水平線外索敵であり、副次任務は捜索救助や空中消火、撮影などである。

74式機関銃を搭載することで支援攻撃や自衛射撃が可能となり、Mk.46短魚雷を二本搭載することで対潜攻撃も可能。

乗員は三名、最大搭乗員数は8名となっている。

最大で580㎞の航続が可能。

発展型にSH60Kという機体がいる。

 

 

『MV/SA-32J「海鳥」』

「みらい」に搭載されている架空の艦載機。

モデルはオスプレイだと思われる。

ガトリング砲を装備しており、空からの支援射撃が可能。

最大速力は時速450kmで主な偵察が任務と対空、対艦、対地攻撃になる機体。

尚、現実では構造上の問題から物理的に不可能と言われている。

 

 

~人物編~

 

『霧先友成』

この小説の主人公。

都内の平凡な高校生であったが、祖父と釣りをしている際に、艦娘の蒼龍を救助。

そのすぐ後に突然落ちた落雷によって艦これの世界へと飛ばされる。

艦これの世界に飛ばされてからはみらいの指揮を執り、数多の海戦を潜り抜けることとなる。

また、高屋提督の手配によって横須賀鎮守府工廠長と海軍少佐の地位を得る。

後に「W島攻略作戦」及び「横須賀鎮守府強襲対抗戦」で戦果をあげ、戦死者を出さずに帰還した功績が認められ中佐へと昇進。

父親は既に他界しており、母親である神通とは世界線が違うことで出会うことが出来ずに育った。

元の世界に残した義理の妹を心配しており、駆逐艦娘を見て思い出すことがある。

母親が艦娘の神通であるため、神通の艤装を使うことが出来、どんな重症な怪我も、跡は残るが高速修復材で修復可能。

自分より他人を優先することが多く、それによって負傷することがある。

艦長という面が多いが、明石と夕張の教えを受けた立派なエンジニアであり、艤装の修復から改装までお手の物。

軍属になってからは仕事が多く回ってきており、夜間警備や艦娘間でのもめごとの鎮圧や工廠関連の処理、所属艦娘の把握、演習関連の処理、艦隊の指揮など多岐にわたっている。

大淀曰く「提督より仕事をしている裏の鎮守府最高責任者」

父親は陶器職人であったが、神通と出会った際には別の職業をしていた。

しかし霧先本人はそれをまだ知らない。

 

 

『みらい』

この小説のサブ主人公。

言わずと知れたジパングで登場する架空艦。

ジパング正史でマリアナ海域に多くの海上自衛官達と共に大和を止めるべく奮闘。

最終的に轟沈し海底で静かに眠りにつくが、突如として艦これの世界にタイムスリップ前の姿で現れる。

当ても無く海を漂流していた時に、甲板に現れた友成を保護し艦長になるよう頼み込む。

以降は友成のことを艦長と呼び、慕うようになる。

極力敵を痛めつけることを嫌い、仕方がない状況では戦闘に積極的に参加する。

例え敵でも救いを求めれば助けるという精神は副長であり、梅津一佐亡き後の艦長でもあった角松譲りである。

大和との仲は比較的良好ではあるが、お互いにマリアナ沖海戦でのことを話したがらない。

容姿は黒髪ロングで頭の下の方をゴムで止めているポニーテールの160㎝ほどの中肉中背の女性。

服装は上は藍色の和服、下は膝ほどの長さの袴に白のハイソックスにスニーカー(P○MA製)。

背中、肩、手にイージス艦の装備を小さくした艤装を戦艦娘の様に身につけている。

胸部装甲は推定E。

 

 

<日本海軍>

 

『高屋浩二』

日本海軍横須賀鎮守府最高指揮官で階級は大将。

友成の直属の上官。

人当たりの良く、フレンドリーな人物。

ガタイは良いが、嫁には頭が上がらず尻に敷かれている。

多くの艦娘を指揮する中で、初期艦の特三型駆逐艦四番艦「電」と恋に落ち、めでたく結婚。

しかし、友成やほかの一部艦娘からはロリコンと言われている。

作戦指揮の際には真面目ではあるものの、普段は比較的はっちゃける性格で落差が激しい。

人命第一を掲げていて、異端児扱いされるも戦火は上げるため、一部の軍人からは嫌われている。

同期に草加拓海少佐がいる。

鎮守府大空襲の際に負傷し、現在は横須賀海軍病院に入院している。

 

 

『草加拓海』

日本海軍通信参謀所属、階級は少佐。

その正体は、ジパング正史でみらいや角松らと対峙した草加少佐本人。

原爆を完成させ大和を利用したものの、作戦は失敗に終わり、頭を打った際の怪我が致命傷となり死亡。

大和と共にマリアナ海に沈んだがなぜか日本海軍として霧先とみらいの前に姿を現し、角松との勝負は自分の負けとして今後は惜しみなく友成やみらいと協力していくことを宣言する。

高屋とは同期で階級は関係なく砕けた口調で話す仲。

前世で「みらい」艦内から拝借した平成12年の100円硬貨を今も持ち歩いている。

 

 

 

<海上自衛隊>

 

『梅津三郎』

「みらい」艦長を務める一等海佐。

叩き上げの自衛官で、経験豊富。

「まあよかろう」が口癖という温和な性格で、隊員からは昼行燈と称され親しまれている。

どんな戦闘においても専守防衛を貫き、部下や艦娘を守ることを優先する。

「W島攻略作戦」においても、艦娘を援護するという名目で自衛隊法を使うなど、柔軟な対応をとる。

阪神タイガースのファン。

 

 

『角松洋介』

「みらい」副長兼船務長を務める二等海佐。

尾栗、菊池とは防大からの同期で友人。

防衛大学校や海上自衛隊幹部候補生学校で学生長を務めたこともあり、同期の尾栗や菊池より1階級上を行くエリート。

海上自衛官だった父親の角松洋一郎の影響を受け、自らも自衛官となる。

何においても人命を第一に考え、艦娘を守るために「W島攻略作戦」に参加するときには異論を唱えなかった。

融通が利かないときもある。

 

 

『尾栗康平』

「みらい」航海長を務める三等海佐。

角松、菊池とは防大からの同期で友人。

元暴走族で血の気が多かった過去がある。

現在は冷静な判断ができるが、感情が高ぶると取っ組み合いになってしまう。

気さくで感情に素直、情に厚い性格で、艦娘とも仲良くなっている。

友成を良くからかうことがあり、彼と仲のいい自衛官の1人でもある。

これは、友成が海上自衛隊の二等海佐にあたる中佐に昇進しても変わっていない。

 

 

『菊池雅行』

「みらい」砲雷長を務める三等海佐。

角松、尾栗とは防大からの同期で友人。

冷静沈着という言葉が似合う人物で、角松と尾栗からの信頼も厚い。

当初は艦娘のいる世界で強大な力を持つ「みらい」を海軍に拿捕される可能性を危惧し、戦闘にかかわることを避けようとしていた。

そのため、霧先と衝突することもあったが、「横須賀沖海戦」で現実に直面する。

そして大鳳へのトマホーク発射を梅津に具申するまで考えを改めるようになった。

 

 

『米倉薫』

「みらい」水雷長を務める一等海尉。

「みらい」が伊168から雷撃を受けた際、恐怖とパニックでアスロック対戦ミサイルを独断で発射。

気づいた菊池に胸ぐらを掴まれ、怒号を飛ばされた後、CICから叩き出された。

 

 

<元の世界>

 

『霧先良二』

元陶器職人で霧先の父親だった人物。

ある時に霧先と彼の義理の妹の前で通り魔に刺され死亡。

曲がったことが嫌いな性格で正義感の強い人物であった。享年42歳(満年齢)

陶器職人になる以前、神通と出会った頃は別の職業についていたがそれは明らかとなっていない。

故人である霧先の祖母、霧先恵理とは前の職業の関係で口論になることが多かった。




最近ガルパンにはまってきてしまって作業がおぼつきません・・・・。
まぁ、私が悪いんですがな!


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始まりの航海編
第零話「出会い」


どうも、みたらし饅頭という者です。
今回は普段Pixivで上げている小説を出してみました。
私は自衛官ではないので可笑しな点があると思います。
ですのでそういった場合はお知らせいただけると幸いです。
それでは本小説をお楽しみ下さい。


2014年7月23日の日本の瀬戸内海。

そこに面する愛媛県のある小さな港では壮年の男性、霧先勝成が漁船に乗り込んでせっせと準備をしていた。

手に持っている釣り具やその数から誰かと釣りに出かけるようであり、彼は笑みを零して準備をしていた。

 

「友成と釣りもええもんじゃ。警官人生が終わって一人でのんびり過ごすのもええが孫と釣りも良い人生の花じゃな。」

 

軽く笑って準備を行っていると、勝成の後ろに10代後半と見える少年が現れた。

迷彩柄の大きなリュックと黒のトートバックを手に持っていた少年は勝成の後ろ姿を見ると大きな声で呼び掛けた。

 

「じいちゃん!」

「おっ、友成か!まっとたぞ。さ、のれいのれい!」

 

勝成は少年、孫である霧先友成も観るや否や満面の笑みで漁船へと招き入れる。

友成は慣れた様子で船に乗り込むと、操舵室に荷物を置いてから救命胴衣を着用し、準備を終えた。

勝成も救命胴衣をして霧先が座ったのを確認すると漁船のエンジンをかけて、ゆっくりと港を出港した。

 

 

 

潮風が優しく流れるのどかな海、瀬戸内海には、勝成の漁船が止まっていた。

現在漁船が止まっている場所には多くの魚が集まる知る人ぞ知る穴場の釣りポイントであり、朝早いこともあってか周囲には漁船一隻すらいなかった。

 

「爺ちゃん、何か釣れた?」

「おかしいなぁ~、いつもはすぐ釣れるもんだがなぁ・・・。」

 

垂らした釣り竿が波に揺られて寂しそうに揺れている光景を眺めながら、友成は勝成に何か釣れたかを聞いた。

しかし勝成も何も釣れていなかった。

普段はどんどん釣れるという場所なのに釣れないということに違和感を感じながらも、勝成は釣りを続ける。

どうにか暇を紛らわせたい勝成は、友成に言葉を投げかける。

 

「そう言えば。友成、成績はどうだ?」

「う~ん、そこそこかな?」

「まったく、上を目指さんといかんぞ?」

 

しかし、いまいちな反応しかしない孫に返答に勝成は少し顔をしかめる。

 

「釣れないなぁ~、ん?」

 

何も釣れず、唯々呆けながら釣り竿をもっていた霧先は、ぼ~っと海を眺めていると、ある物が近くで浮かんでいるのに気づいた。

それは着物を着た人間だった。

ピクリとも動かないその人を見かけた霧先は、普通ではないと悟り勝成を大声で呼んだ。

 

「爺ちゃん!海に人が!」

「なに!?すぐに助けるぞ!」

 

友成の言葉を聞いた勝成は警官時代の癖か過ぎに身体を反応させ、老人とは思えない速さで救助の準備に取り掛かった。

そのかいあってか、海に浮かんでいた女性の漂流者は即座に無事救助され、一命をとりとめたようであった。

そしてその後、意識を取り戻した女性は特に後遺症もなく普通に二人と話していた。

 

「いや~、助かりました。」

 

海から助けた女性は紺色のツインテールに弓と甲板のようなものを身につけていた。

傍から見れば唯の痛いコスプレイヤーだ。

友成はそんな格好をしている女性にまず名前を尋ねることを考え、尋ねた。

 

「大丈夫そうで良かったです、お名前を聞いても?」

「あっ、分かりました。・・・・改めまして救助して頂き感謝します。二航戦の航空母艦、蒼龍です。」

 

霧先が名前を尋ねると、その女性は立ち上がって海軍式敬礼をしながら大きな声でハキハキと自己紹介をした。

ビシッと綺麗な姿勢でそういう女性に、勝成は頭を打ったのではないかと思い、友成は少し考え込んだ。

その結果、ある答えが出てきた。

 

「もしかして、蒼龍さんってミッドウェー海戦で沈んだ、あの蒼龍さんですよね?」

「ミッドウェー?何それ美味しいの?」

「正直に話すか、警察に異常者として突き出されるのとどっちがいいですか?」

「ごめんなさい・・・前者で・・・。」

 

イラッと来た友成は少し声を強めながら蒼龍に選択を迫る。

怒気が露わになった友成に蒼龍は深々と頭を下げて正直に話し始めた。

蒼龍曰く、深海棲艦と呼ばれる存在との戦闘中に落雷を受けて気を失い、気が付いたらこの漁船にいたという事。

友成がどこの所属であるかを聞くと、日本海軍だと言い海上自衛隊については知らないと話した。

 

「ちょっとすいません。」

 

友成は蒼龍に一言断ると、勝成と共に船首へと離れて蒼龍に聞こえないように会話を始めた。

 

「じいちゃん。あのひとどうやら軍人みたいだよ。」

「軍人?自衛官じゃなくてか?」

「うん。もしかしたら異世界の人間かも・・・。」

「そんなけったいなことがあるか?」

「これを見て。」

 

友成は自分の考えが間違っていないことを示す様にスマホを取り出して画像を見せる。

そこには蒼龍と瓜二つの人物の画像が載っていた、あまりの似すぎていて勝成は目を見開く。

 

「友成、こいつは・・・。」

「大日本帝国海軍蒼龍型正規空母一番艦『蒼龍』、その艦を擬人化したもので、ゲームのキャラクターなんだよ。」

「つまり・・・。」

「蒼龍さんの言動から推察するに・・・あの人はこの世界の人間じゃない。」

 

友成の仮説に勝成は頭を悩ませた。警察官であった勝成は法律にも精通している。

もし蒼龍異世界人であるのであれば、日本の外。つまり外国から来た不法入国者ということになる。

それに彼女のことを証明するものがない以上、最悪の場合は自衛隊や警察沙汰となってしまう。

 

「じいちゃん。このことを蒼龍さんに話して何とか対策を考えよう。」

「そうだな。とにかく今の状況を教える方がいいだろう。」

 

蒼龍に聞こえないように相談し合う二人は何とか内密に対処することにし、方針を固めた二人は、蒼龍に現状を話すことにした。

友成は蒼龍に近づくと、声をかけた。

 

「蒼龍さん。少し良いですか?」

「はい、なんですか?」

「少々言いにくいが・・・ここはあんたのいた世界じゃない。」

「えっ?」

 

勝成の言葉に、蒼龍の頭の中は疑問符で埋め尽くされることとなった。

続けて友成が訳を説明した。

 

「僕たちが知る限り、『日本海軍』や『深海棲艦』なんて存在は確認されていません。つまり、ここは蒼龍さんがいた世界とは別世界であると・・・。」

 

霧先の推測を聞いた蒼龍の思考回路が停止する。

数十秒の間、思考が停止してから、再起動した脳で理解した蒼龍は大声を上げた。

 

「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

蒼龍があり得ない事象に出くわしたことに驚いていると、友成たちの乗る漁船に自衛艦旗を掲げる護衛艦隊が近づいて来た。

物々しい雰囲気を漂わせながら近づいてきた護衛艦隊は、友成たちの乗る漁船の目の前で停止した。




さて、今回は蒼龍が救助されました。
次回から本格的に物語は動き出します。


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第壱戦目「遭遇」

連続投稿です。
第弐戦目以降は後程投稿します。


「どうしよ~皆きっと心配しているよ~。」

「・・・・・とにかく落ち着いて下さい。」

「でもぉ~。」

 

泣きそうになる蒼龍を何とか慰めようとする友成であったが、こういう事態に遭遇して経験が無いためうまく対応できていなかった。

その時、巨大な艦が漁船に接近してきた。

 

「何だアレは?」

 

勝成が見た先には、日本の神の盾と言われる、イージス艦の「こんごう」「きりしま」「あたご」「あしがら」の四隻の姿があった。

これだけを見れば海上自衛隊に詳しい人物は異常だと思うだろう。

本来、イージス艦というものは複数の対空目標を正確にかつ迅速に迎撃するためにアメリカが開発した冷戦時代の産物である。

それにこれらの艦はそれぞれ各方面隊に散り散りに配備されている。

それが一度に集結するなどリムパック演習位の大事なのだ。

 

「何で海上自衛隊のイージス艦が・・・・?」

「イージス艦って?」

「端的に言えば・・・神の盾です。」

「その割には貧相な巡洋艦みたいだけど・・・。」

 

不思議そうに「こんごう」を見る蒼龍の問に友成が答える。

意味としては友成の答えは一切間違っていない。

イージスとはギリシャ神話で神の盾を意味し、名付けられた理由もそこから来ている。

空からの攻撃を守る「盾」、一見しただけでは蒼龍にはただの貧相な巡洋艦にしか見えないかもしれない。

蒼龍が不思議そうにイージス艦を眺めていると、「こんごう」から拡声器を持った自衛官が出てきた。

 

「すみません!これから任務のため、この辺り一体を封鎖します!直ちに港に戻って下さい!」

「何だ、いきなり来て封鎖だと?」

「とにかく戻ろうよ、蒼龍さんの事を自衛隊に知られたら不味いし・・・雲行きが怪しくなってきている。」

 

いきなりの事で憤りを隠せない勝成を友成が何とか抑えようとする。

現に友成の言う通り、蒼龍の事を認知されることも危惧される上、少し雲行きが怪しくなっていた。

その現状を思い出した勝成は友成の言葉に納得し、拡声器を手に取った。

 

「分かった!今から港に戻る!」

「ご協力、有難うございます!」

 

勝成が拡声器を置き、漁船のエンジンを掛けた時ゴロゴロと空から重い音が鳴り始めた。

 

「ん?・・・あっ!爺ちゃん!蒼龍さん!危な・・・!」

 

友成がそこまで言うと、突如視界がホワイトアウトするほどの強烈な光が漁船を襲った。

 

「!!大丈夫ですか!」

「いたた・・・友成、大丈夫か?」

 

自衛官が漁船で倒れている勝成に声を掛ける。

どうやら命に別状はないらしく、起き上がった勝成が友成を呼ぶ。

しかし友成が答えるはずがなかった。

 

「友成?」

 

先程までそこにいたはずの友成は荷物と蒼龍と共に姿を消し、そこには居ない。

ただ彼や蒼龍、荷物があった場所が黒く焦げてるだけだった。

 

「友成!!」

 

突然孫を失った勝成の悲痛な声は空しく瀬戸内海に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

その頃、霧先は何処かの艦の艦内ベットらしきところで倒れていた。

 

「うっ・・・・。こ、ここは?」

 

霧先は見慣れない所で目が覚め、辺りを見回す。

しかし周辺には2段ベットがあるだけで人影はない。

 

「あれっ?確か自衛隊の人に港に戻るように言われて・・・その後に雷が・・・そうだ!雷に打たれたんだ!」

 

霧先はそこまで思い出して完全に意識が覚醒した。

そして現状を確認するべく、まずは起き上がって周辺の状況確認を始めた。

 

「ここは・・・・居住区かな?」

 

まず廊下に出てみた霧先は部屋の扉にある札を見てみる。

そこには居住区と書かれていてここが日本の護衛艦の艦内であることを示していた。

 

「誰も居ない・・・・。」

 

廊下には誰もおらず、静寂だけが居た。

少し不安になる霧先だがまずは人がいそうな場所を探すことにした。

 

「とにかく艦橋に行ってみよう、流石に艦橋には人がいるでしょ。」

 

そう考えた霧先は早速、艦橋への道を探すために艦内を彷徨い始めた。

 

 

 

 

丁度その頃、日本の横須賀にある横須賀鎮守府では空母「赤城」が提督に報告していた。

彼女は「艦娘」。

突如、世界の海に現れ制海権を奪い、人類に敵対する「深海棲艦」に対抗する在りし日の戦艦が実体化した存在だ。

 

「提督、艦隊が帰投しました。」

「ご苦労様・・・・飛龍?どうかしたのか?」

 

赤城の報告を聞いた「大将」の階級を付けた第一種軍装を纏う提督と呼ばれた長身の男性が、オレンジ色の着物を身に着ける空母「飛龍」に声を掛ける。

 

「提督、蒼龍を見ませんでしたか?」

「飛龍、実はだな・・・。」

 

同僚で親友の空母「蒼龍」を探す飛龍に戦艦「長門」が申し訳無さそうに言う。

そして次の長門の言葉で場が沈黙してしまった。

 

「蒼龍が消えたんだ。」

「「えっ?」」

 

提督と飛龍がマヌケな声を出し場は沈黙してしまった。

唐突な部下、同僚の消失という奇想天外な言葉が彼らの思考回路を停めてしまっていた。

 

「ドッキリ的な何か?」

「違います!私も見たのです!」

 

ドッキリかなにかと勘違いした提督に大きな声で駆逐艦「電」が言った。

 

「私も見たわよ、蒼龍が私達の目の前に居たの。」

「そしたらいきなり雷が落ちてきて!」

「居なくなったと?」

「そうよ!」

 

電の姉である駆逐艦「雷」も加わり提督に必死に説明した。

 

「雷電の言ってることは本当デース。探そうにも、深海棲艦の攻撃と天候が激しくて無理デシタ。」

 

そう言うのはイギリス生まれの戦艦「金剛」。

雷と電の言葉が真実であることを提督に告げた彼女は溜息をついた。

 

「ふむ・・・。」

 

提督は三人の話を聞き、考えこむ。

通常ならばおかしな話だが、現状行方不明となっている蒼龍を助け出すことが最優先という考えにまとまり、すぐに指示を下した。

 

「補給をした後、直ぐに長門、金剛、翔鶴、赤城、電、雷は蒼龍を探しに向かってくれ。」

「了解!」

 

その場にいた全員が敬礼をして応えた後、出撃の為に出撃ドックへと向かう。

それを見た提督は唯々、蒼龍の無事を祈っていた。

 

 

 

 

 

 

艦隊が準備を行っている頃、霧先はやっとの事で艦橋を発見していた。

 

「やっと見つけた・・・・。」

 

艦内は狭く、乗組員ではない霧先が艦橋への道を知っているはずもなく、かなり迷った挙句、艦橋へと辿り着いた。

霧先は鉄製と思しき重い扉を開けて艦橋を覗く。

 

「すみません、誰か居ますか?」

 

霧先の言葉に誰も答えない。

そこに居るべき自衛官が居なかったのだ。

 

「誰も・・・ん?」

 

霧先はここにも誰もいないと思い、艦橋を後にしようとした時、誰かが艦の舵をとっているのを見た。

少し不気味にも見えるが女性が舵を取っていた。

霧先は勇気を出して女性に声を掛けた。

 

「あの・・・。」

「あっ、お目覚めになりましたか。」

 

舵をとっていた女性は霧先に気づくと安堵の表情を見せた。

女性は、蒼龍のように上は和服、下はスカート、そしてイージス艦を小さくしたようなものを腰につけていた。

 

「あの・・・お名前を聞いてもよろしいですか?」

「分かりました。」

 

その女性は蒼龍と同じ様に敬礼をしてから、霧先に自己紹介をした。

 

「海上自衛隊、横須賀基地所属、ゆきなみ型護衛艦のみらいです!」

 

その言葉を聞いたときに霧先の脳裏にはあることがよぎった。

しかし、それがまだ確定的になっていない今は言うべきではないと考えて言葉を飲んだ。

その代わりに霧先自身も自己紹介をする。

 

「僕は霧先友成と言います。」

「友成さん、初めまして。」

「初めまして。」

 

お互いの自己紹介を終えた後、霧先はみらいに気になったことを聞いた。

 

「そう言えば、僕以外に人は?」

「蒼龍さんが甲板に居ますが・・・それ以外に人は確認していません。」

「爺ちゃんは居ないか・・・、無事かな・・・。」

「すみません、私は甲板に現れた居たお二人を運んだだけですので・・・。」

「大丈夫ですよ、爺ちゃんはそう簡単には死なないし。」

 

祖父がそう簡単に死なないぐらい元気に生きていることを知っている霧先は笑って答えた。

その時、みらいが霧先に尋ねた。

 

「あの、霧先さん。一つお願いがあるのですが・・・。」

「何でしょうか?助けてもらいましたし、僕に出来る事なら良いですよ。」

「有難うございます、では。」

 

みらいは一呼吸置いてから霧先に言った。

しかし、それは霧先を驚愕させるのに十分な言葉だった。

 

「私の艦長になってもらえませんか?」

「ええっ!?」




さて今回登場した、みらいさん、知っている人は知っているでしょう、あのジパングのみらいさんです。
とりあえず容姿とかを書いておきます。

名前:DDH-182 みらい(ヘリコプター搭載護衛艦)

容姿等:黒髪ロングで頭の下の方をゴムで止めている。(ポニーテール)
    服装は上は和服(藍色)下はスカート(膝丈)に白のハイソックスにスニーカー(P○MA製)
    背中、肩、手にイージス艦の装備を小さくしたものを身につけている。
    身長は170cm位、胸はEカップ位。

兵装:VLS29セル・アスロック(MK50短魚雷)
         ・スタンダードミサイル
         ・トマホーク(対艦ミサイルHE弾頭)
   VLS48セル・短SAMシースパロー
   OTOメララ127mm54口径単装砲×1
   68式3連装短魚雷発射管×2(MK50短魚雷)
   RGM-84ハープーン対艦ミサイル4連装発射管×2
   高性能20mm多銃身機関砲(CIWS)×2
   RBOCチャフ発射機×4
搭載ヘリコプター:・MVSA-32J海鳥
         ・SH-60J

こんな感じですかね。
では次回予告です。

日本を出発したイージス艦「みらい」
ミッドウェー付近で異常な暴風雨に巻き込まれた「みらい」はもう一隻の「みらい」に出会う。

次回「二隻のイージス艦」
それでは次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!


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第弐戦目「二隻のイージス艦」

どうも、第二話でございます、なんなりとご覧ください。


「えっ!?」

 

友成は全くもって予想外なことを言われて驚き、戸惑っていた。

よもやダ他の一般人である自分が艦長になるなど予想すらしていなかった。

 

「僕でいいんですか?海自のことはかじった程度の知識かありませんけど・・・」

「はい、元は私は護衛艦なので艦長が居ないと不安というか・・・も、もちろん自衛官ではないのはわかっています!・・・ですが、どうやってもあの時の癖が抜けなくて・・・」

「・・・・・・・・・分かりました、やってみます」

 

あの時というのは、おそらく艦艇だったころだと推測した友成はみらいの頼みを承諾した。

本当はこんな役職が務まるわけないと思っていた彼だが、今現在の状況では仕方あるまいと思い、自分にできることを最大限しようと考えていた。

 

「じゃあ、この服をお渡ししておきます」

 

友成は、みらいから海上自衛隊の紺色の幹部用作業服を渡された。

普通の作業服だが、多少知識のある友成にはその幹部用作業服がそれが重く感じた。

 

「・・・『あの人』の後任かもしれないのかぁ」

 

幸先不安な友成は溜息を交えつつそう呟いた。

 

「そう言えば、今はいつですか?」

 

ふと思い出した友成は、今現在の時を知るためにみらいに聞いた。

彼の持つ知識では、みらいがいる時点で最悪、この海が過去ということもあり得るからだ。

 

「その・・・1962年6月15日です」

「間違い・・・ないですか?」

「はい、時計がそうなっているんです・・・・」

 

最悪の結果である過去の日付を聞くことになった友成は、頭を抱えつつも続けて燃料と現在位置について聞いた。

燃料ついては残量は問題なく、位置は大体ミッドウェーから東に離れた付近ということが判明しており、燃料の残量を聞いた友成はすぐに目的地を決め、みらいに告げた。

 

「じゃあ横須賀入港を目指し、現在の日本の体制を確認しましょう。あとのことは・・・国内の情勢を知ってからですね」

「了解、進路を270度とします」

 

1962年現在、正しい歴史であるなら日本には自衛隊は存在しているはずであり、ことはすんなり進むであろう。

もし違うのなら日本への入国を諦めなければならない。それほど重要なことになってくるため、日本の体制を確認するのは最優先事項であった。

友成の指示を聞いたみらいは艦の機関を始動させ、横須賀へと進路を取った。

 

 

 

 

 

「みらい」が横須賀へ向けて進路を取り始めて1時間後。

友成は今、海自の幹部用作業服に救命胴衣を身に着け、臨時艦長としてみらいに指示を出していた。

 

「ん?霧が出始めましたね」

「そうですね」

 

先程みらいからこの辺りが丁度ミッドウェー海域と聞いていた友成は、体にじめじめと張り付くような嫌な予感がした。

だが、それが起こるかわからない以上は下手に行動することも出来ないため、みらいに注意しておくことにした。

 

「僕はこの海域のことは知らないですし、何が起こるのかわからないので警戒を厳にしてください」

「了解」

「それと、非常時に備えて甲板に居る蒼龍さんを連れてきて下さい」

「はい、では少し環境から離れますね」

 

みらいは蒼龍さんを連れてくるために艦橋から出て行った。

嫌な予感が消えない友成は、艦橋の窓から見える海を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

2004年6月4日のミッドウェー沖合、そこには日米合同演習のために一路、ハワイの真珠湾へと向かう海上自衛隊の護衛艦隊が航海を続けていた。

旗艦に「ゆきなみ」、僚艦に「はるか」「みらい」といった最新鋭イージス艦と補給艦「あまぎ」を加えた実弾を持った自衛艦隊。その護衛艦隊に所属し、訓練を終えた直後の「みらい」艦橋では、艦長の梅津三郎一等海佐が天候を怪しんでいた。

 

「この空・・・・妙だな・・・」

 

そこに、副長兼船務長の角松洋介二等海佐が報告にやって来た。

 

「訓練終了しました、艦長」

「了解」

 

報告した角松は腕時計を確認する。

 

「未だ、5分遅れです」

「まぁ、良かろう、一ヶ月前の10分から見れば、練度は上がっとるよ」

「はっ」

「張り切り過ぎちゃあ、先が持たんよ。緊張も程々にな」

 

梅津は張りつめ過ぎないように角松に注意を促す。

それと同時に気になっていた天候を気象庁に問い合わせるべく、航海長である尾栗康平三等海佐に声を掛けた。

 

「ところで航海長、気象情報について問い合わせてくれんか?」

「はっ」

 

そして十数分後、気象庁からの報告を待っている間に荒れてしまった海を「みらい」は航海している。

雲はむせるような禍々しい赤色となっており、遠くでは時折落雷が発生している。

大きな波に7700トン級の護衛艦は揺さぶられながらも航海を続ける。

 

「艦長、気象庁から報告です。」

 

その中でようやく気象庁から連絡が届き、角松がそれを持ってきた。

そして彼は早速、気象庁からの報告を読み上げた。

 

「ミッドウェー島北西に低気圧あり、気圧965ヘクトパスカル、風速40メートル、なお勢いを増しているとのことです」

「予報には無かったな、シケに備えよう、荒天準備となせ」

「了解」

「追艦距離4000ヤード、連絡を密にせよ」

 

梅津は今後、更に海が荒れると考えて事前に準備するように指示を出した。

いくら最新鋭のイージスシステムを搭載した護衛艦とはいえ、大自然の前では意味をなさない。

梅津が命令を下すと同時に「みらい」の艦内放送が流れる。

 

『荒天準備、移動物の固縛を厳となせ』

 

放送を聞いた自衛官達は装備を整え、持ち場に向かった。

 

「こりゃあ演習じゃねぇえぞ、本物だぜ!」

「海に出て30年と三ヶ月、こんな雲は見たことがないな・・・」

 

嵐に尾栗は興奮し、梅津は初めて見る現象を不思議そうに見る。

その時、突如として「みらい」に雷が落ちた。

 

「うおおお!」

「な、なんだ?落雷か!?」

 

自衛官たちが動揺する中、日々の訓練で培った経験に基づき、身体が反応した角松が即座に艦内電話を手にとった。

 

「応急指揮所!艦内各部の損傷を報告せよ!」

『電気系統、機能正常、艦内各部、異常なし』

 

角松が応急指揮所に損害状況を聞いていると、艦橋にCICから連絡が入った。

 

『艦橋、CIC、水上レーダー、僚艦を捉えられません、僚艦をロスト!』

「レーダーが効かないって事があるか!通信は!」

『二番艦「はるか」との交信不能、「あおば」、「あまぎ」、共に返信ありません!全交信周波数、完全に沈黙!』

「5分前まで4000先の『はるか』を確認している!衛星はどうなんだ!」

「JSAT、捕捉できません!」

「衛星追尾アンテナ、チェックせよ」

「故障ではありません、全艦から応答ありません!」

 

海上自衛隊の中でも最新鋭の護衛艦、それが「みらい」だ。

そんな「みらい」の機器に異常が出るという異変が起こり、自衛官達は戸惑う。

勿論、日々多くの訓練に耐えた幹部である角松もだった。

 

「一体・・・何が・・・。」

「ロストした僚艦を全力で探せ、まさか沈んだ訳じゃなかろう」

「はっ!」

 

角松が梅津に応えた時、外にある物が現れた。

 

「航海長・・・これは・・・。」

「ヒュー、まさか・・・ここはハワイ沖だぞ・・・!」

「でもこれは、紛れも無くオーロラに雪です!」

 

突然の事に、尾栗と部下の柳一等海曹は驚愕する。

何故なら本来、赤道より下のハワイ沖に現れるはずのないオーロラが「みらい」上空に現れ、雪が降り始めたのだ。

 

「各種計器に以上発生、制御不能です!」

「強力な磁気嵐に入ったのかもしれん、CICはどうなっとる?」

「CIC、艦橋、状況を報告せよ」

 

自衛官からの報告を聞いた梅津は磁気嵐に入ったと考え、確認を急いだ。

指示を受けた角松は艦内電話を使ってCICに確認する。

 

「全ての探知システム、管制システムが障害を起こし、機能しません、艦内電話もノイズが酷く聞き取れません!」

「この艦は最新鋭艦だぞ!こんなことがあってたまるか!」

 

CICで砲雷長の菊池雅行三等海佐は机にヘッドホンを叩きつけた。

しかし、そんなことをしたところで症状は治らず、悪化するだけだった。

 

「な、何だ?どうなってんだ?大丈夫なんだろうなぁ、この船・・・うわぁ!」

 

部屋で休んでいたジャーナリストの片桐が驚くのも無理は無い。

彼はジャーナリスト、いや一人の人間として初めて腕時計の針が猛スピードで逆時計回りに回転しているのを見たからだ。

だが「みらい」は何とかオーロラと雪が発生している所から脱出した。

 

『各種計器、通信機器回復しました!』

 

計器や通信機器が正常になった事を聞き、梅津は安堵のため息をついた。

 

「抜けたようだな。ダメージがないかチェックを急げ」

「はっ!」

 

異常気象地帯を抜けた影響からか、CICではモニターや対水上レーダーが正常に作動し始める。

だが映し出された画面は先程とは違う状態だった。

 

「うぉ!」

 

突然、レーダーを確認していた青梅が声を上げる。

 

「なっ何だ?前方に目標一隻、こちらに接近してきます!」

「もしかするとロストした艦かもしれん、確認しろ」

「海自バンドで確認しろ」

「目標からのSIF応答なし、目標接近!」

 

霧が少しずつ晴れて、ウィングから対行艦の姿が見えてくる。

 

「ニューポート・ニューズかロアノークか!?」

「ニューポート・ニューズは1978年6月27日に退役、ロアノークも1958年10月31日に退役しています、ここには居ません」

「じゃあ・・・一体・・・」

 

尾栗と柳は、遠くに見える艦影からアメリカ海軍の軍艦だと考えるが、そもそも該当艦が存在しない。

そうしてる間に対行艦はどんどんと近づいてくる。

 

「面舵いっぱい」

「面舵いっぱーい」

 

梅津の指示を受け、舵担当員が復唱しながら面舵を取る。

「みらい」はゆっくりと進路を変えて回避行動を取った。

波を切る音が不気味にこだまする海の中で、多くの自衛艦は目の前の光景を忘れることはないだろう

 

「艦長・・・コイツは・・・」

「私の目がおかしくなっているのか?」

 

角松と梅津も目の前の光景を疑った。疑うしかないだろう。

彼らが乗る「みらい」は正体不明・・・いや正体が判明した艦を回避した。

 

「イージス艦「みらい」・・・!」

 

角松は対行艦「みらい」を見ながら現実を、自身の目を疑った。




どうも、今回で第二話目です。
今回海上自衛隊に関する用語が出て来ましたが、所詮ジパングを見たぐらいしか知識が無いですので間違いがあればご指摘下さい。
さぁ、今回からジパングのキャラが出ました。
皆さん大好き「あの人」もでますよ~。
今回はここまで、次回予告です。

角松二佐達と出会った友成たちは横須賀を目指すことになる。だが・・・・・・その先に待ち受けるものは紛れもない、戦場だった・・・。

次回「第参戦目 「敵艦隊見ゆ!」」
それでは次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!


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第参戦目「敵艦隊見ゆ!」

今回は短めです、ご了承ください。


角松「イージス艦・・・みらい・・・!」

 

尾栗と柳は外に出る。

 

尾栗「みらいが・・・どうして!?」

 

 

友成「あれは!」

みらい「私が・・もう一隻!?」

友成「みらいさん!すぐにあの護衛艦と無線連絡を!」

みらい「分かりました!」

蒼龍「何だか大変なことに・・・。」

 

 

自衛官「みらい・・・いえ、正体不明の護衛艦より無線連絡。」

角松「返答しますか?」

梅津「ふむ、相手が護衛艦である以上、返答したほうが良かろう。」

角松「無線をつなげ!」

自衛官「了解。」

 

 

みらい「無線、つながりました。」

友成「よし。」

 

もう一隻のみらいに友成の声が無線を通して流れた。

 

友成『こちら海上自衛隊、横須賀基地所属、ゆきなみ型護衛艦のみらい艦長の霧先友成です、貴艦の所属及び艦名と航行目的を教えていただきたい。』

梅津「こちら艦長の梅津だ。我が艦の艦名は海上自衛隊、横須賀基地所属、ゆきなみ型護衛艦、三番艦みらい、航行目的は演習及びパールハーバー入港である、貴艦の航行目的も教えてもらいたい。」

友成『我が艦の航行目的は横須賀基地入港である。』

梅津「失礼ながら聞くが、貴艦は本当にみらいなのか?」

友成『間違いありません。』

梅津「ではアメリカ海軍と海上自衛隊の船を見かけなかったか?」

友成『・・・・・残念ですがこの海域には存在しません。』

 

自衛官達はその一言で少しざわめく。

 

梅津「存在しないとはどういうことだ?」

友成『我々は第二次世界大戦終戦の1945年から約17年後の1962年6月16日に存在しているからです。』

 

自衛官達に衝撃が走る。

 

角松「艦長、自分に話をさせて下さい。」

梅津「うむ、良かろう。」

角松「みらい副長の角松だ、でたらめは言うな。」

友成『では、デジタル時計を見て下さい、何年です?』

角松「確認を急げ!」

自衛官「はっ!・・・・・間違いありません、1962年6月16日です。」

角松「何だと!」

友成『信じて頂けましたか?』

角松「聞きたいことが山ほど出来た、答えてもらうぞ。」

友成『よろしいですが、こちらにも条件があります。』

角松「条件?」

友成『我が艦と共に横須賀入港を目指して頂きたいのです。』

角松「艦長どうします?」

梅津「私が話そう。」

 

角松は梅津に無線機を渡す。

 

梅津「群司令からの命令変更がない以上、本艦は予定通り、パールハーバー入港を目指す。」

友成『では・・・・。」

 

友成がそこまで言った時。

 

友成『わわっ!そ、蒼龍さん!危ないですって!』

蒼龍『いいから貸して!』

梅津「どうかしたのか?」

蒼龍『聞こえてますか?』

梅津「誰だね?」

蒼龍『大日本帝国海軍、横須賀鎮守府の二航戦所属、航空母艦、蒼龍です。』

梅津「二航戦の航空母艦?」

 

尾栗と柳はヒソヒソと話す。

 

尾栗「柳一曹、蒼龍ってたしか・・・。」

柳「航空母艦、蒼龍、1942年6月のミッドウェー海戦にて沈没した船です。」

蒼龍『いいですかよく聞いて下さい。』

梅津「何だね?」

蒼龍『今すぐ、友成くんの言う通り、横須賀に向かって下さい、この先は危険です。』

梅津「危険?」

蒼龍『そうです、この海域には深海棲艦が居る可能性があります、こんな重巡洋艦はあっという間に攻撃されて沈められます!』

梅津「深海棲艦?」

蒼龍『終戦後、突如として現れて、制海権を奪った存在です。』

梅津「なるほど・・・。」

 

梅津は考えこむ。

 

角松「艦長、どうします?」

梅津「彼らは我々より現在の状況に詳しそうだ、それに情報も必要だ。」

角松「と、言うと?」

梅津「あの艦と両艦を探しながらこれまでの進路を戻り、横須賀入港を目指す。」

角松「しかし、相手はおかしな事を。」

梅津「責任は私が取る、それに彼らは嘘を言っていないようだしな。」

梅津「霧先艦長、聞こえるか?」

友成『聞こえています。』

梅津「我が艦は貴艦と横須賀入港を目指そう。」

友成『有難うございます。』

梅津「ただし、情報は頂く。」

友成『分かっています。』

梅津「進路変更、横須賀基地へ。」

尾栗「はっ、進路を270度とします。」

尾栗「面舵30度。」

自衛官「面舵30度。」

梅津「副長、チャートを。」

角松「はっ。」

梅津「衛星が使えないとなるとジャイロコンパスと天測が頼りだ。」

梅津「総員、警戒を厳にせよ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

午前5時 イージス艦「みらい」艦橋

 

二隻のみらいは横須賀入港を目指し単縦列で航海している。

 

 

友成「ぐぅ・・・・。」

みらい「艦長!」

友成「はっ、みらいさん、ごめんなさい。」

みらい「しっかりして下さいよ・・・ん?」

友成「どうかしましたか?」

みらい「本艦艦首、20000ヤードに艦隊が。」

友成「数は?」

みらい「12です、配置から見て交戦中かと。」

友成「まずいですね、梅津艦長と繋いで下さい。」

みらい「了解。」

 

友成「こちら霧先、梅津艦長、聞こえますか?」

梅津『梅津だ、どうした?』

友成「レーダーで本艦艦首20000ヤードに12隻の船を確認、配置から交戦中かと。」

梅津『交戦中?』

友成「はい、もしかしたらそうではない可能性もありますので、警戒を厳にして接近しようかと。」

梅津『そうか、分かった、何かあれば報告してくれたまえ。』

友成「了解。」

友成「みらいさん、警戒を厳にして下さい。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

友成「あれは・・・?」

みらい「対空砲による黒煙と思われます。」

友成「戦っているのは?」

みらい「恐らく・・・人かと。」

友成「人!?」

蒼龍「あっ!あれは!」

 

蒼龍は声を上げる。

 

友成「いきなりどうしたんですか?」

蒼龍「長門さん、金剛さん、比叡さん、翔鶴さん、赤城さん、電達だ!」

友成「蒼龍さんの仲間の方ですか?」

蒼龍「そうです、助けないと・・・。」

友成「ちょっと待ってください、みらいさん、無線を。」

みらい「分かりました。」

 

友成「こちら霧先、梅津艦長、聞こえますか?」

梅津『こちら梅津、何かあったのか?』

友成「先ほどレーダーで確認した12隻の船を確認、交戦中です。」

梅津『こちらも確認した。』

友成「実は、戦っているのは蒼龍さんの仲間です。」

梅津『なるほど。』

友成「そこで一つ提案が。」

梅津『何かね。』

 

友成は少し間を置き言った。

 

友成「戦闘海域に突入、蒼龍さんの仲間の方を救助したいと思います。」




どうも、今回は敵艦隊を発見、戦闘海域に接近しました。
では、次回予告です。

みらい『貴方は何ですか?』
角松「・・・・俺はイージス艦「みらい」の副長で一自衛官だ。」

みらい「本艦艦首、1500ヤード対空目標40発見!此方に接近してきます!」
友成「対空戦闘よーい!」

友成「CIC指示の目標、撃ちぃー方始めぇ!」

45年後の兵器が戦地に向かう。

次回「第肆戦目「我、戦闘海域に突入す!」」
それでは次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!


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第肆戦目「我、戦闘海域に突入す!」

角松「21世紀初頭、海上自衛隊の最新鋭イージス艦「みらい」は横須賀基地から出航した。

だが、太平洋上にて、異常な暴風に巻き込まれたみらいは、1962年6月16日、ミッドウェー海域に出現した。」

友成「そして、2014年7月23日、艦これ、ジパングが存在する世界で、僕はじいちゃんと釣りを楽しんでいた。

そこに漂流してきた蒼龍さんを救助した僕たちは海上自衛隊の人に港に戻るよう言われる。

しかし突然の落雷に襲われ僕と蒼龍さんは1962年6月16日の艦隊コレクションの世界で漂流していたイージス艦のみらいさんの甲板に飛ばされる。

僕はみらいさんに艦長になって貰いたいという願いを受け入れ、船の上では一等海佐の階級をもつ自衛官となった。」

角松「人の形をしたもの同士の戦争のただなかに放り出された、我々241名の自衛官と。」

友成「一人の高校生と一人の艦娘は。」

角松「この時代、この世界で、何をすべきなのか、答えは未だ、見つからない。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

友成「戦闘海域に突入、蒼龍さんの仲間の方を救助したいと思います。」

 

 

ありゃ?不味いこといっちゃったかな?

 

 

梅津『しかし、相手は戦闘中だ、どうするんだ?』

友成「・・・・このみらいの全イージスシステムをもって、彼女たちを救出します。」

梅津『発砲か?しかしそちらの艦にも搭乗員がいるはずだ。』

友成「このみらいには僕を含め3人しか乗っていません。」

 

角松「3・・人?・・・。」

梅津「たった3人でみらいを・・・?」

小栗「たった3人でCICや艦橋はどうなっているんだ?」

 

友成「不味いこと言っちゃったみたい。」

みらい「艦長、梅津艦長に話をさせてください。」

友成「会話を許可する。」

 

梅津「(いったい・・・どういうことなんだ?それに、彼は自衛官ではないような・・・。)」

みらい『聞こえますか?』

 

みらいの声が艦橋に響き渡る。

 

角松「艦長、自分に話を。」

梅津「よかろう。」

角松「みらい副長、角松二佐だ。」

みらい『知っています。』

角松「知っているとはどういうことだ?」

 

角松はみらいの言葉に対し疑問を持ち聞いた。

 

みらい『角松二佐、貴方は何ですか?』

角松「は?」

 

角松は予想外のことを聞かれ間抜けな声を出す。

 

みらい『貴方は何ですか?』

角松「・・・・俺はイージス艦「みらい」の副長で一自衛官だ。」

みらい『それが聞けて良かったです、自衛官なら目の前の命を救うべきです。』

角松「確かにそうだ。」

みらい『詳しいことは彼女たちを救助してから貴艦に乗艦してお話します、よろしいですか、梅津艦長?』

梅津「よかろう、総員、これから我々は戦闘海域に突入する、対空、対戦、対水上警戒を厳にせよ!」

友成『梅津艦長、我が艦が彼女たちを救助し、貴艦が後方支援をしてください、そうすれば被害は最小限で済みます。』

梅津「よし、その作戦で行こう。」

梅津「副長、艦内マイクを。」

 

梅津『達する、艦長の梅津だ。』

梅津『我々は現在戦闘海域付近にいる、これから起こる事は訓練でなく本物の戦闘だということを分かっていてほしい。』

梅津『総員訓練時以上に気を引き締めてくれ、以上だ。』

 

艦内はざわめく

 

自衛官「本物の戦闘って、俺達どうなるんだ?」

 

一人の自衛官が恐ろしそうに言った

 

自衛官「分からないが、艦長のことだ、正しい判断をしているよ。」

 

もう一人の自衛官は艦長のことを信じてそう言う。

 

自衛官「そうだな。」

 

少し安心した彼は作業を続けた。

 

 

 

友成「みらいさん、あの人たちに電文を。」

みらい「了解。」

友成「文面は・・・・。」

 

こうして未来の艦は救助を行うため動き出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

長門「くっ、なかなかだな。」

金剛「みなさん大丈夫デスカー?」

比叡「私と電ちゃんが小破、翔鶴さんは珍しく無傷です!」

翔鶴「珍しくって言わないで下さいよー。」

 

翔鶴は比叡の言ったことに対して言わないように求めた。

 

赤城「!みなさん、偵察機より入電!見たことない艦影の重巡洋艦クラスが此方に接近中!」

 

赤城に偵察機から入電があった。

 

長門「こんなときに・・・赤城!翔鶴!艦載機で対処してくれ!」

電「待ってください、その艦から電文です!」

金剛「なんて書いてマスカー?」

電「えっと、我が艦に攻撃の意思はない、これから貴殿らを救助する。宛、日本国海軍 駆逐艦 電、発、日本国海上自衛隊、「みらい」艦長 霧先友成一等海佐。」

長門「カイジョウジエイタイ?日本にそんな組織は無いぞ。」

金剛「!ヲ級が艦載機を発艦シマシタ!」

長門「何処に飛んでいる!?」

翔鶴「謎の重巡洋艦に向かっています!」

長門「いったいなにが・・・とにかく戦闘を続けるぞ!」

全員「了解(デース)(なのです)!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

みらい「本艦艦首、1500ヤード対空目標40発見!此方に接近してきます!」

友成「対空戦闘よーい!」

みらい「了解!対空戦闘よーい!」

蒼龍「な、何が始まるんです?」

友成「21世紀の戦闘です、気を付けてくださいね。」

蒼龍「う、うん。」

 

これから僕は戦闘をする、自衛官としての訓練も受けていないのに・・・・。

僕が間違えれば2隻合わせて搭乗員244名の命を危険にさらすことになる・・・。

・・・・みらいさんにとってはリベンジ戦だからかな?目がすごく真剣だ、僕も気を引き締めないと・・・。

 

友成「CIC指示の目標、撃ちぃー方始めぇ!」

みらい「トラックナンバー2628主砲、撃ちぃー方始めぇ!」

 

ドオォォン ドオォォン ドオォォン ドオォォン

 

OTOメララ127mm54口径単装砲から発射された砲弾はヲ級の放った艦載機を次々落としていく。

 

みらい「トラックナンバー2628から2630、撃墜!」

みらい「新たな目標、210度!」

 

ドオォォン ドオォォン ドオォォン ドオォォン

 

再びOTOメララ127mm54口径単装砲から発射された砲弾が敵機を落としていく。

 

ヲ級「コ、コレハ・・・。」

 

みらい「トラックナンバー2642、さらに接近!」

友成「シースパロー発射始め!サルボー!」

 

バシュュュウゥゥゥ バシュュュウゥゥゥ

 

VLSから発射されたシースパローは敵機に次々命中していく。

 

ヲ級「ソ、ソンナ・・・。」

 

3分後、ヲ級の放った艦載機40機は全て撃墜された。

 

友成「これより我が艦は深海棲艦艦隊と戦闘を開始する。」

みらい「了解。」

蒼龍「これが・・・21世紀の・・・戦闘・・・。」

 

蒼龍は21世紀の戦闘を狐につままれたような顔をして見ていた。




どうも、今回は敵艦載機と交戦、戦闘海域に突入しました。
因みに今回の戦闘はジパングの「1対40」を元にしています。(もう一回同じような感じになる予定ですが)
では、次回予告。

菊池「見る限りではアレは第二次大戦の装備だ、この艦は1940年代の米機動部隊とも互角に渡り合える・・・蝶々どころの話じゃない40年後の兵器だぞ。」
菊池「我々の行為一つで未来が大きく変わってしまう、違う世界だからといって歴史に関わってはいけない・・・我々は歴史にとって危険なんだ・・・。」
尾栗「じゃあ・・・俺達は何でここにいるんだ?」

友成「トマホーク・・・攻撃はじめ!」

友成「ここは、・・・間違いなく『艦隊これくしょん』の世界だ・・・ということは戦争の真っ只中と言う事か・・・。」

友成は生まれて初めて戦闘を指揮することとなる。

次回「第伍戦目「戦闘と救出」」
それでは次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!


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第伍戦目「戦闘と救出」

菊池「本当にいいのだろうか・・・。」

 

菊池はヘッドホンを外し艦内電話を手にとった。

 

菊池「艦橋、CIC、そちらに出向いてもよろしいですか?」

角松『了解、許可する。』

菊池「青梅一尉、ここを頼む。」

青梅「了解。」

 

艦内には菊池の足音が響いている。

 

菊池「(もし我々が手を出せば・・・・この世界が・・・。)」

 

菊池「失礼します。」

 

菊池が艦橋に入ると艦橋内は少し重々しい空気になっていた。

 

角松「砲雷長、どうした。」

菊池「艦長、お話が。」

梅津「なんだね?」

菊池「本当によろしいのですか?攻撃をしても・・・。」

梅津「・・・・・。」

尾栗「菊池、どういうことだ?」

菊池「尾栗、ここは俺達がいた時代じゃない!ここは過去・・・しかも別の世界なんだぞ!」

 

菊池の声に艦橋内にいた全員が反応する。

 

尾栗「じゃあ!お前は戦うなって言うのか?戦っているのは人かもしれないんだぞ!少し攻撃して止めれば6人が助かるんだ!」

菊池「それを・・・バタフライ効果と言うんだ。」

尾栗「蝶が・・・どうした?」

菊池「北京で蝶が一匹羽ばたけば、その小さな気流が一ヶ月後ニューヨークに嵐を起こすことになる・・・ミクロな現象でもマクロに大きな影響を与えることになる。」

 

菊池は淡々と話す。

 

菊池「見る限りではアレは第二次大戦の装備だ、この艦は1940年代の米機動部隊とも互角に渡り合える・・・蝶々どころの話じゃない40年後の兵器だぞ。」

菊池「我々の行為一つで未来が大きく変わってしまう、違う世界だからといって歴史に関わってはいけない・・・我々は歴史にとって危険なんだ・・・。」

尾栗「じゃあ・・・俺達は何でここにいるんだ?」

 

尾栗が言い返す。

 

尾栗「見ろ菊池!アレは戦争だぞ!この新鋭艦でどれだけ戦えるか、試してみろってことじゃないのか!?」

菊池「冷静になれ、コレは偶然だ、偶然に意味など・・・無い。」

 

菊池は尾栗を落ち着かせて説得しようとする。

 

尾栗「偶然・・お前はコレがただの偶然だと・・・副長!副長はどうお考えですか?」

 

尾栗は角松に意見を求める。

 

角松「俺は・・・さっき、あの「みらい」に乗る女性に聞かれた、俺は何なのかと・・・。」

尾栗「は?」

角松「俺は「イージス艦「みらい」の副長で一自衛官だ」と答えた。」

角松「すると相手は「自衛官なら目の前の命を救うべき」と言ってきた。」

 

尾栗も菊池も黙って角松の話を聞いた。

 

角松「今の俺達の任務は例え歴史に介入することになっても、目の前の命を救い、乗員241名とこの「みらい」を無事、横須賀帰港することだ。」

角松「砲雷長、航海長、以下総員、そのことを第一義に考えて行動してほしい。」

 

梅津「(この先相手がどう出るか・・・。)」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

友成「みらいさん、敵は?」

みらい「まだ攻撃してきません、艦隊との距離10000ヤード。」

友成「戦闘用意!」

みらい「了解!」

みらい「!敵艦砲撃してきました!」

友成「衝撃に備え!」

 

ドォオオォォォン

 

友成「艦内各部の被害状況を報告!」

みらい「艦内各部異常見られません!敵弾右舷800ヤードに着水した模様!」

友成「出し惜しみをするとまずい・・・数は少ないが・・・トマホーク発射用意!」

みらい「了解!トマホーク発射よーい!」

友成「みらいさん、蒼龍さんの仲間にトマホーク発射の警告文を。」

みらい「了解。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

長門「そろそろ終わりだな。」

比叡「敵は空母ヲ級、小破、戦艦レ級、中破のみです!」

電「!また謎の重巡洋艦より連絡です!」

長門「今度は何だ!」

電「えっと、これから我が艦は貴殿と交戦中の者に対艦ミサイルを発射する、相当な爆風を予想するため撤退を願う。宛、日本国海軍 駆逐艦 電、発、日本国海上自衛隊、「みらい」艦長 霧先友成一等海佐。」

長門「またカイジョウジエイタイの奴か、どうするべきか・・・。」

電「えっと離れてみたほうがいいと思います。」

長門「だが・・・。」

赤城「でもあのヲ級の艦載機を3分で全て撃墜していました、試す価値はあります!」

長門「仕方ない・・・電文を送れ!内容は・・・。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

みらい「電より電文です。」

友成「読んでくれますか?」

みらい「はい、『これから我が艦隊は貴艦に従い敵艦隊と距離を置く。宛、日本国海上自衛隊、「みらい」艦長 霧先友成一等海佐、発、日本国海軍 駆逐艦 電。』以上です。」

友成「了解、距離は?」

みらい「爆風被害範囲から出ています。」

友成「トマホーク・・・攻撃はじめ!」

 

バシュュュウゥゥゥ

 

VLSから発射されたトマホークは真っ直ぐ深海棲艦に向かって飛んでいった。

 

レ級「ナ、ナンダ、ア・・・。」

レ級が全て言い終える前に。

 

ドゴオォォン

 

レ級にトマホークが直撃、爆発し、レ級は吹き飛ばされ、沈んでいった。

 

ヲ級「アレハ、イ・・・。」

 

ドゴオォォン

 

ヲ級にもトマホークが直撃、爆発し、ヲ級もレ級と同じく吹き飛ばされ、沈んでいった。

 

みらい「敵勢力壊滅、対潜、対空、対水上目標なし。」

友成「戦闘用具納めー!機関停止ー!これより救助を開始!もう一隻のみらいに連絡!」

みらい「了解!戦闘用具納めー!機関停止ー!」

蒼龍「あのヲ級とレ級が多少被害を受けているとはいえ・・・一撃で・・・。」

友成「蒼龍さんはここで待機していてください。」

蒼龍「え?あっ!はい!」

 

 

長門「なんだあれは・・・!」

 

長門は目の前で起こった事を信じられずにいた、その艦はいきなり暗くないのに照明弾を打ち上げたかと思うと、それが深海棲艦めがけて飛んでゆきあっという間に沈めてしまった、しかも戦闘終了とともに驚異の加速力でこちらに近づいてきた。

 

金剛「誰か出て来マシタヨ。」

 

金剛が指をさした先には藍色の服を着た者が居た。

 

 

友成「全員無事みたいですね、みらいさん、皆さんを艦に乗艦させて下さい。」

みらい「了解です、皆さん!こちらから上がってきて下さい!」

 

長門達はみらいに指示されたところから40年後の艦に乗りこんだ。

 

友成「皆さん、初めまして、現在この艦の艦長を務めています、霧先友成一等海佐です。」

みらい「海上自衛隊、第一護衛艦隊所属、ゆきなみ型3番艦「みらい」です。」

 

長門「私は長門型戦艦の長門だ、この艦隊の旗艦を務めている。」

金剛「英国で生まれた帰国子女の金剛デース。ヨロシクオネガイシマース!」

比叡「金剛お姉さまの妹分の比叡です。」

電「い、電なのです。」

赤城「一航戦正規空母の赤城です。」

翔鶴「初めまして、翔鶴です。」

 

挨拶が交わされ、友成が艦娘たちに言った。

 

友成「早速で悪いのですが、これから皆さんには手伝ってほしいことがあります、手伝って頂ければそちらが疑問に思っていることにお答えします。」

長門「別に構わないが、一ついいか?」

友成「何でしょう?」

長門「蒼龍という者を見なかったか?」

友成「現在、本艦の艦橋にいます。」

長門「本当か!?」

友成「本当です、後で連れてきます。」

電「良かったのです・・・。」

友成「みらいさん、皆さんはお疲れのようだからコーヒーか何か出してあげて下さい。」

みらい「了解しました、皆さんこちらへ。」

 

艦娘たちは、みらいに連れられて行った。

 

友成「ここは、・・・間違いなく『艦隊これくしょん』の世界だ・・・ということは戦争の真っ只中と言う事か・・・。」

 

友成は艦橋に戻った後、蒼龍に仲間に会うように言い、梅津と連絡を取り一時間後に作戦会議を行うこととなった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

1時間後

イージス艦「みらい」付近、救命艇上

友成「緊張するなぁ・・・。」

みらい「リラックスして下さい。」

友成「そうですね、それでは皆さん、乗艦しますので付いてきて下さい。」

 

タラップを上がり一人の高校生自衛官と八人の艦娘たちが「みらい」に乗艦した。

 

梅津「どうも、艦長の梅津だ。」

角松「副長の角松二佐です。」

尾栗「航海長の尾栗三佐です。」

菊池「砲雷長の菊池三佐です。」

 

そこには角松らが友成たちを待っていた。

 

友成「みらい艦長、霧先友成一等海佐です。」

梅津「お若いようだが・・・いくつかね?」

友成「17歳です。」

角松「17歳!?自衛隊は18歳以上でないと入隊できないはずだ。」

友成「それはこれからお話します。」

梅津「そういうことだ、霧先艦長、こちらに。」

 

友成たちが案内されたブリーフィングルームには士官の自衛官が座っていた。

 

梅津「これより、作戦会議を行う、尚、今回はこの世界に詳しい者達に来てもらった。」

梅津「彼女たちに大まかな説明をしてもらう。」

長門「長門型戦艦の長門だ、これから現在の世界状況、艦娘について説明する、まずは・・・。」

 

 

それから30分間艦娘たち(みらい除く)によって説明がされた・

 

 

尾栗「えーっと、じゃあこの世界はいま深海棲艦って言う怨念みたいなものが制海権を奪って、それを取り返すために戦っているアンタ達は大戦中の艦の艦魂みたいなものだと・・・?」

電「そうなのです。」

角松「君達が大日本帝国海軍の軍艦の艦魂のようなものというのも本来なら信じがたいがこの状況では信じざるを得まい。」

菊池「洋介、まだ大切なことが残っている、何故もう一隻「みらい」が存在し、17歳の者が艦長を務めているかだ。」

角松「そうだな、聞かせてもらおう。」

友成「分かりました、実は・・・。」

 

 

そこから10分間、友成が何故、艦長を務めるかまでの経緯を説明した。

 

 

梅津「大体は理解した、しかし、みらいさん、貴方にそんな権限があるんですか?」

みらい「艦である私が艦長を決めたんです。」

尾栗「艦ってことはアンタも艦娘なのか?」

みらい「凄く珍しい艦娘ですかね・・・。」

菊池「珍しい?」

みらい「実は私は1940年代の太平洋戦争にタイムスリップして米艦隊との交戦中に被弾して撃沈されたんです、でも爆発した艦体ごと何故かこの世界に来てしまって・・・。」

尾栗「なんてこった、みらいは過去に行っていたのか!?」

みらい「詳しいお話はできませんが、そうです。」

 

ブリーフィングルームが騒がしくなっていく中、梅津が口を開いた。

 

梅津「ともかく我々が危険な状況にあることは違いない、霧先君、君は一等海佐だ、君はどう考える?」

友成「まずは横須賀入港を第一目標とし、向こうでの補給、港の確保を第二目標としたいと思います、戦闘は出来るだけ回避、仕方がない場合は戦闘という形を取りたいと思います。」

梅津「よし、その案で行く、霧先艦長、もう一隻のみらいは任せた。」

友成「了解!」

梅津「コレにて解散!各自持ち場にもどれ!」

友成「みらいさん、SH-60Jを飛ばせますか?」

みらい「直ぐに。」

友成「梅津艦長、SH-60Jを着艦させてもいいですか?」

梅津「許可しよう。」

 

数分後「みらい」から発艦されたSH-60Jがもう一隻の「みらい」に着艦した。

 

友成「梅津艦長、ありがとうございました。」

梅津「帰りも気をつけて。」

友成「はい、皆さん乗って下さい!」

長門「これは・・・。」

赤城「かなり大きなオートジャイロね。」

友成「とにかく乗って下さい!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

5分後

イージス艦「みらい」艦橋

 

友成「みらいさん、皆さんは?」

みらい「甲板で海を見ながら談笑していますよ。」

友成「このまま無事に横須賀についてくれれば良いんですがね。」

みらい「不吉なこと言わないでくださいよ・・・。」

友成「嫌な予感がするんですよ・・・。」

みらい「そんなこと・・・!艦影確認、数5!本艦艦首、約30000ヤード!」

友成「何で当たるの・・・対潜、対水上戦闘よーい!」 ※対水上戦闘は対艦、対空をまとめたものです。(対艦)攻撃、(対ミサイル)防御のためですね。

みらい「了解!対潜、対水上戦闘よーい!」

友成「艦内マイクを。」

 

友成『達する、艦長の友成です、皆さんすぐに艦橋に集合して下さい!』

 

長門「何かあったのか?」

比叡「行ってみて聞いていましょうよ。」

 

友成「みらいさん、海鳥を発艦、艦隊を確認して下さい。」

みらい「了解です。」

友成「それと梅津艦長に連絡をお願いします。」

みらい「分かりました、私達、どうなるんですかね・・・。」

友成「ともかく今は目の前のことを乗り越えることが第一です。」

みらい「そうですね。」




どうも、今回は初の戦闘シーンでした。
次回も戦闘はありますけどね。
では次回予告

瑞鶴「わかりません、しかし機体に海上自衛隊という文字と日の丸があるそうです!」

武蔵「分からないが深海棲艦かも知れない、伊168、一発だけ撃て!」
伊168「りょうかーい!」

みらい「魚雷音聴知!左80度、計測44ノット、距離3200、高速接近!接触まで2分10秒!」
友成「梅津艦長に連絡!対潜戦闘よーい!」

米倉「そんなに・・・僕達の・・・力が・・・見たいのか・・・?」

米倉「やられる・・・前に!」

人は恐怖に駆られたとき思いがけない行動をする。
次回「第陸戦目「対第二艦隊」」
それでは次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!


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第陸戦目「対第二艦隊」

推奨BGM「みらい 戦闘」


長門「いきなり呼び出してどうしたんだ?」

友成「これから戦闘が起こる可能性があるので皆さんに艦内にいてもらおうとおもいまして・・・。」

電「せ、戦闘ですか?」

友成「そうです、先程不明艦を五隻発見しました。」

金剛「深海棲艦デスカー?」

友成「わかりません、しかし先程、海鳥を偵察に向かわせました。」

全員「う、海鳥・・・?」

 

あ、これ多分皆さん別の海鳥を思い浮かべてるよ・・・。

 

友成「と、鳥の方ではないですよ・・・もうすぐ戻ってくると思うので・・・。」

比叡「あれ?そういえば、みらいさんは?」

友成「CICに映像を取りに行っています、もうすぐ戻ってきますよ。」

 

ガチャッ

 

噂をすれば・・・。

 

みらい「艦長!映像出ました!」

友成「見せて下さい・・・、これは・・・!」

 

まちがいない!これは・・・まずい事になったぞ・・・。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

横須賀鎮守府第二艦隊

 

武蔵「第一艦隊から連絡が途絶えてどのくらいだ?」

日向「30分ぐらいだ。」

武蔵「急ごう、嫌な予感がする。」

 

武蔵が速度を上げようとしたとき瑞鶴に艦載機から連絡があった。

 

瑞鶴「偵察機より連絡!謎の飛行物体が此方に向かっています!」

武蔵「深海棲艦か!?」

瑞鶴「わかりません、しかし機体に海上自衛隊という文字と日の丸があるそうです!」

武蔵「カイジョウジエイタイ?日の丸と言うことは日本軍か?」

瑞鶴「分かりません・・・。」

加賀「これだから五航戦は・・・。」

瑞鶴「それは関係無いでしょ!」

 

武蔵「二人はほっといて伊勢、提督と伊168に連絡を頼む。」

伊勢「了解!」

日向「あれが謎の飛行物体じゃないか?」

武蔵「なんだあれは・・・!総員対空戦闘よーい!」

全員「了解。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

長門「もう一度言ってくれ。」

友成「分かりました、確認できたのは、武蔵、伊勢、日向、加賀、瑞鶴です。」

蒼龍「だ、第二艦隊の人達じゃないですか・・・。」

長門「私たちの通信機は故障している、へたをすれば砲撃されるぞ。」

友成「出来るだけ刺激しないようにします・・・。」

 

でもこの編成鬼畜過ぎない?戦艦三隻に正規空母二隻とか。

本気で来られたらまずいよ・・・。

 

電「でも、伊168さんがいないのです。」

友成「潜水艦までいるんですか!?」

 

雷撃は避けたいなぁ・・・。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

伊168「本当に撃っていいの?」

武蔵「威嚇だけだ、本当に当てるな。」

日向「何故単艦なのに9つも反応が・・・。」

武蔵「分からないが深海棲艦かも知れない、伊168、一発だけ撃て!」

伊168「りょうかーい!」

 

伊168は武蔵に言われたとおり友成の乗る方の「みらい」に酸素魚雷を発射した。

そして始まってしまった・・・友成が恐れていたことが・・・。

 

 

 

みらい「魚雷音聴知!左80度、計測44ノット、距離3200、高速接近!接触まで2分10秒!」

友成「梅津艦長に連絡!対潜戦闘よーい!」

みらい「了解!」

友成「(このままでは・・・まずい!)」

 

角松らが乗るみらいでも魚雷接近が判明し、艦内は慌ただしくなってた。

 

自衛官「魚・・・雷・・・!?」

角松「訓練通り躱してみせろ!」

自衛官達「了解しました!」

艦内放送「対潜戦闘よーい!」

尾栗「全力即時待機と成せ、ソナー、エコー機投入よーい!一秒たりともロスするな!」

片桐「おいおい、魚雷って、マジなのか?」

 

CICでも自衛官達が各々の配置につく。

そんな中、菊池はソナーに問い詰める。

 

菊池「ソナー、CIC、探知は出来ないのか!」

自衛官「推測状況の悪い表面化のダクトに居た模様です、この海域の海洋データが、不足しています!」

菊池「馬鹿者!お前らの訓練不足だ!」

自衛官「すいません。」

菊池「距離!」

自衛官「距離2000!」

米倉「うっ・・・・。」

 

菊池らは気づいていなかった、この状況下で起きてしまう出来事を。

 

 

 

友成「最大戦速!」

みらい「最大戦速!ヨーソロー!」

長門「わわっ!」

電「あっ!」

友成「おっと!大丈夫?」

 

危ない危ない、体格が小さいから転けやすいのかな?

 

電「有難うなのです。」

友成「何かに捕まっててね、皆さんも気をつけて下さい。」

全員「先に言って欲しかった(デース)・・・。」

 

みらい「魚雷接近!距離1000!」

友成「総員衝撃に備え!」

 

 

 

麻生「衝撃に備え!」

 

魚雷は単縦陣で航海していた2隻のみらいの内友成らが乗るみらいの後部甲板と角松らが乗るみらいの艦首のギリギリを通過していった。

 

角松「CIC、艦橋!魚雷発射予想位置にデイタムを設定!」

青梅「方位240度、距離3800!」

米倉「や、やられる・・・・。」

 

 

 

伊168「う、嘘・・・武蔵さん!あの重巡魚雷を交わした!」

武蔵「何だと・・・速度は?」

伊168「さ・・・35ノット・・・。」

武蔵「35!?そんな速力を出せる船なんて日本にはないぞ!」

伊168「ど、どうするの?このままだと鎮守府に辿り着くよ!」

武蔵「仕方ない・・・砲撃よーい!相手が攻撃してきたら撃て!伊168はもう一度、今度は4発を放射上に撃て!」

伊168「りょ、了解!」

 

 

 

米倉「はぁ・・・・はぁ・・・・。」

菊池「大丈夫だ、みらいの足なら必ず躱せる・・・尾栗、頼むぞ・・・。」

米倉「歴史が変わるだって・・・?どうせ僕達は帰れないんだ・・・。」

 

自衛官「新たな魚雷音!魚雷計四本右へ広がってきます!」

尾栗「やってくれるぜ!」

角松「どうする?」

尾栗「慌てるな、10度に戻せ!」

 

米倉「そんなに・・・僕達の・・・力が・・・見たいのか・・・?」

 

伊168から放たれた魚雷はみらいに少しずつ近づいていた。

 

米倉「攻撃してくる・・・お、お前らが・・・悪いんだぞ・・・。」

 

本物の戦闘と迫り来る攻撃に恐怖心を抱き冷静な判断ができなくなった米倉は友成が最も恐れていた行動を取る。

前甲板のVLSが静かに開く、しかし砲雷長の菊池もCICにいる者もそのことには気づかない。

 

米倉「やって・・・やる!」

自衛官「距離3000ヤード!」

米倉「やられる・・・前に!」

 

みらいの艦橋から出て外に居た長門は見てしまった。

 

長門「照明弾?いや・・・。」

 

もう一隻のみらいから米倉が独断で放ってしまったアスロックを。

 

長門「あれは・・・まさか・・・!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

自衛官「前甲板、VLA開放!アスロック飛翔中!」

菊池「何っ!」

 

CICは慌ただしくなっていた、それも当然だ、艦長である梅津の許可もないまま何者かが独断でアスロックを撃ったからである。

 

自衛官「!魚雷発射ポイントに向かっています!」

菊池「誰が発射ボタンを・・・っ!」

 

菊池はすぐに犯人を発見した。

 

菊池「米倉ぁ!貴様ぁ!一人で戦争をおっ始めるつもりかぁ!」

 

菊池は米倉の胸ぐらをつかみ怒号を飛ばす。

 

米倉「やらなければ・・・やられます、砲雷長・・・。」

角松「CIC、艦橋!誰が撃てといった!現状を報告せよ!」

 

艦橋からの放送も角松の怒号がながれる。

 

菊池「うっ・・・くっ!」

 

菊池は米倉を突き飛ばした。

 

菊池「ヒューマンエラーだと報告しろ、それからコイツをCICから叩きだせ!」

自衛官「魚雷計四本の内二本、本艦との距離1000ヤード!」

 

 

 

長門「おい!何かが発射されたぞ!」

友成「くそっ!」

 

恐れていた事が起こってしまった・・・このままだと僕を含めて二隻で250名の命が・・・!

 

長門「聞いているのか!さっきのは・・・。」

友成「アスロック、MK50短魚雷です・・・。」

赤城「魚雷・・・。」

友成「それもただの魚雷ではありません、対潜用で探針音を放ち追尾する魚雷です。」

比叡「つ、追尾って!」

友成「これをたとえるなら・・・【サジタリウスの矢】」

電「【サジタリウスの矢】?」

友成「決して外れることのない神の矢という意味です。」

翔鶴「じゃあ、イムヤさんは・・・。」

友成「このままだとアスロックを受けて撃沈です。」

蒼龍「ど、どうするの!」

友成「みらいさん、魚雷は?」

みらい「距離1000ヤード!」

 

約1km・・・なら・・・。

 

友成「この中で魚雷の視認が得意な人は!」

電「私は自信があるのです!」

友成「よし、この鉄帽を、これから魚雷を見つけてもらいたい!」

電「わ、わかったのです!」

 

・・・・・第二艦隊は恐らく僕達を敵とみなす、相手には正規空母が二隻・・・最悪の条件が揃ってしまわないようにするためには・・・。




どうも、今回はあのアスロック米倉が出てしまいました。
では、次回予告

尾栗「柳!この魚雷はどこの魚雷か分かるか!?」
柳「日本海軍の魚雷、九五式魚雷に違いありません!米海軍の魚雷はMk14ですから航跡は視認できます!先ほどの魚雷は二酸化炭素を排出していました!」

角松「CIC、艦橋!魚雷そのまま、指示を待て!」
菊池「!・・・。」

友成「みらいさん、対空、対水上、対潜戦闘用意・・・。」

提督「海上自衛隊・・・まさか・・・調べてみるか・・・。」

歴史は変わっていく。
次回「第質戦目「最悪の交戦」」
それでは次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!


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第質戦目「最悪の交戦」

「見えますか!?」

「海面の反射でよく見えないのです!」

 

電と共に魚雷をを探す霧先。

しかし彼の心には焦りがあった。

 

「早くしないとこの艦が・・・。」

「雷跡視認なのです!」

 

その時、電が雷跡を視認した。

酸素魚雷も最初の数百メートルは雷跡が出るのだ。

魚雷を視認したのは柳達自衛官もだった。

魚雷の詳細を知るため尾栗は柳に聞いた。

 

「柳!この魚雷はどこの魚雷か分かるか!?」

「日本海軍の魚雷、九五式魚雷に違いありません!米海軍の魚雷はMk14ですから航跡は視認できます!先ほどの魚雷は二酸化炭素を排出していました!」

「航跡が見えないんだな・・・何とか角度は分からないか!」

「左130度!相対速度約5ノット!」

 

魚雷の説明を聞いた尾栗はすぐに指示を出した。

それは霧先も同じだった。

 

「面舵いっぱーい!」

「距離250なのです!」

 

霧先の指示と共に艦が面舵を取る。

そして電から魚雷の距離が告げられる。

角松らが乗る「みらい」のCICでは光点が艦に接近してくる。

 

「30!」

 

二発の九五式魚雷は二隻の左舷をギリギリ通過していった。

 

「躱した!」

「まだだ!残り二本!航跡知らせ!」

 

躱したことに安どする柳だったがまだ戦闘は集結していない。

まだ二本の酸素魚雷が迫って来ているのだ。

尾栗はコースを知り修正するために柳に聞いた。

霧先らが乗る「みらい」でも電から報告が来る

 

「雷跡真艦尾!広がりつつ接近!距離500なのです!」」

「もどーせー!」

 

霧先の指示で再び艦が動く。

そしてもう一隻の「みらい」CICでは光点が迫っていることを自衛官が報告していた。

 

「距離150ヤード!接触します!後5秒!4秒!3秒!2秒!1秒!」

 

残りの九五式魚雷は角松らが乗る「みらい」の艦尾で左右にわかれた。

躱すことに成功したのだ。

 

「魚雷全弾躱しました!遠ざかります・・・。」

 

両艦に安堵の空気が流れるがまだ戦闘は終了していなかった。

まだ「みらい」の放った【サジタリウスの矢】が伊168を追っていた・・・。

 

「アスロック、目標追尾中!」

 

CIC要員の報告を聞いた菊池は思案していた。

 

「(あの潜水艦は本艦の情報を相当収集したはず・・・魚雷を躱した運動能力など浮上したらその情報は日本海軍に報告される・・・放っておけば敵の新勢力と誤認されてどこまでも追尾して攻撃を仕掛けてくるだろう・・・本艦の安全と秘密を守るためにはこのまま・・・報告されたとしてもまだ選択肢はある・・・だが、情報通りなら相手は国のために戦う罪のない艦娘・・・沈めてしまえば・・・もう後戻りは・・・。)」

 

艦娘の命を取るか自分たちの安全を取るかの決断を迫られた菊池は艦内電話を手に取り艦橋に進言した。

 

「艦長、魚雷の自爆を、進言します。」

 

艦橋では菊池の進言を聞いた梅津が考えていた。

 

「副長。」

「はっ!」

「我々にとって艦娘たちは・・・敵なのか?」

 

副長である角松は少し黙った後、自分の考えを梅津に具申した。

 

「・・・・・・・・・・攻撃してくる脅威を敵と判断し、排除することは、正当な自衛権の行使です。」

「・・・・・よかろう、指示を頼む。」

「はっ!」

 

梅津の指示を受けた角松は艦内電話を使用しCICに指示を送った。

 

「CIC、艦橋!魚雷そのまま、指示を待て!」

「!!」

 

角松が出した指示。それに菊池は驚愕せざるを得なかった。

魚雷をそのままにするということは艦娘を撃沈するということだ。

仮にも艦と同じ強度を持つ艦娘にアスロックが命中すればただでは済まない。

一方、伊168は軽くパニックを起こしていた。

謎の音が自分の方へと接近してくるのだ。

 

「何なのよあの音!ソナー?・・・。」

 

しかし伊168はある音を聞く。。

 

「!魚雷・・・魚雷から探震音・・・!武蔵さんに報告しながら逃げないと・・・!」

 

それは魚雷が水中を進んでくる推進音だった。

伊168の頭にある推測が浮かんだ。

この魚雷はソナーを発し、自分を延々と追いかけてくるものだと。

伊168は即座に旗艦である武蔵に連絡した。

 

『こちら武蔵、どうした、イムヤ。』

「武蔵さん!あの艦は、ばばっ化け物ですよ!」

『化け物?』

「いきなり照明弾を撃ったかと思ったらへんな音を出す魚雷を撃ってきて・・・それが生き物みたいに追いかけてくるんですよ!」

『何っ!とにかくその魚雷を躱せ!』

「だから生き物みたいに追いかけてくるんですよ!」

 

武蔵も伊168もパニックを起こしかけていた。

無理もない。

彼女たちの時代の魚雷というものは対艦兵装であり水中の向かいところを潜航することは無い。

しかし現代の短魚雷は基本的に対潜・・・潜水艦を沈めるために使われる。

それにこのアスロックの弾頭、Mk46短魚雷が配備されたのは1967年だ。

彼女たちにとっては信じられない兵装となる。

「みらい」CICでは魚雷命中時間が報告されていた。

 

「魚雷命中まであと10秒!」

 

CICから伝えられたその情報を聞いた角松は艦橋から指示を出した。

 

「菊池!魚雷を自爆させろ!」

「了解!」

 

菊池は即座にアスロックの自爆スイッチを押す。

それと同時に伊168に接近していたアスロックは水中で爆発した。

 

「うわあぁぁぁぁぁ!」

 

その爆発の衝撃で伊168は前に吹き飛ばされる。

そして海面に水柱が上がった。

自爆を確認した角松はソナーへ無線を入れる。

 

「ソナー、何か音は聞こえるか?」

『聞こえませんが・・・微かに何かが浮上する音が聞こえます。』

 

ソナー要員からの報告を聞いた梅津は静かに話しだした。

 

「これが我々のとれる最善策だったと思いたい・・・だが・・・また一つ、追いつめられたことは確かだな。」

「はっ・・・。」

 

その言葉に角松は同意しながら艦内での指揮を執るため気を引き締めた。

そのころ第二艦隊では武蔵が必死に伊168に呼びかけていた。

 

「イムヤ!聞こえるか?イムヤ!」

 

しかし伊168は通信機器を破壊されているために通信不能なのだ。

それを知らない武蔵の無駄な掛け声が響く。

 

「どうします?偵察機を飛ばしましょうか?」

「頼む、それと提督に連絡と第一次攻撃隊の準備を、これから戦闘を開始する・・・。」

 

加賀の提案を了承した武蔵は現状を報告するために無線の周波数を変更した。

その頃、霧先はある決断を迫られていた。

これから起こるであろう出来事で「みらい」艦長として下すべき決断を。

 

「・・・・・。」

「艦長・・・。」

 

心配そうに見つめるみらいに霧先は一つの指示を出した。

 

「みらいさん、対空、対水上、対潜戦闘用意・・・。」

「艦長!まさか!」

「僕たち250名が横須賀にたどり着くには避けて通れません。」

「・・・了解!」

 

霧先が下した決断。

それは第二艦隊と交戦することだった。

それを知らない蒼龍はみらいに尋ねた。

 

「みらいさん、どういうことなんですか?」

「これから我々は回避不可能な戦闘をしなければなりません。」

 

その言葉を聞いた長門はすぐに察した。

 

「まさか!第二艦隊と戦うつもりか!」

「はい、その通りです。」

 

霧先は静かにはっきりと言った。

そのことを聞いた長門は霧先に掴みかかる。

 

「貴様!まさか武蔵達を殺す気か!」

「あくまで最悪の場合です!今、必死に方法を考えているんです。」

 

霧先からの命令があればシースパロー、トマホーク、主砲、68式短魚雷、ハープーン、この「みらい」の全イージスシステムを使い第二艦隊と交戦することはできる。

だが、これらは元々、対艦、対ミサイル用に設計された兵器だ。

第二次大戦の日本海軍の軍艦、ましてや艦娘という存在に対して設計されていない。

発射して被弾すれば死体も残らないかもしれないのだ。

 

「どうすれば・・・。」

「艦長・・・。」

 

みらいに罪悪感を覚えさせてはならないと思う霧先は必死に考える。

その時、みらいは艦娘だということに気づいた。

 

「そうだ!みらいさん!」

「ひゃっ!かっ艦長!?」

 

霧先はみらいの装備を確認した。

VLS、127mm単装速射砲、68式3連装短魚雷発射管、ハープーン対艦ミサイル4連装発射管、CIWS、チャフ発射機がきっちり完備されていた。

それを確認した霧先はある作戦を思いつく。

 

「みらいさん!」

「はっ、はい!」

「毒をもって毒を制すという言葉がありますよね?ならば艦娘をもって艦娘を制するんですよ!」

「へ?」

「どういうことですか?」

 

霧先の言葉をイマイチ理解できていないみらいは疑問符を浮かべ、赤城は霧先に尋ねた。

 

「みらいさんに戦ってもらいたいんです。」

「私が・・・?」

 

霧先の言葉にみらいは唯々驚いていた。

作戦を説明した霧先はすぐに梅津に無線連絡をした。

連絡を受け取った自衛官は梅津に報告した。

 

「艦長、霧先艦長から無線が。」

「分かった・・・霧先君どうかしたのかね?」

 

梅津はマイクを手に取り霧先との会話を始めた。

 

『第二艦隊との交戦の被害を最小限に抑える方法を思いつきました。』

「ふむ、聞かせてもらえるか?」

『はい、まずは・・・。』

 

霧先は作戦の趣旨を伝えた。

それを聞いた尾栗は即座に声をあげた。

 

「無茶だ!みらいさんを一人で行かせるなんて!」

 

尾栗がそういうが梅津は静かに霧先に聞いた。

 

「霧先君、本当にその作戦は成功すると思うのかね?」

『出来るか、出来ないかではなく、やるんです、責任は自分が全て負います。』

 

霧先の覚悟を感じた梅津は一言伝えた。

 

「・・・・分かった、試してみよう、良いかな?みらいさん。」

『はい、覚悟はできています。』

「よし、許可する。」

『了解!』

 

梅津の了解を得た霧先は早速作戦を実行するべく行動を始めた。

その頃、第二艦隊旗艦の武蔵は提督に連絡していた。

 

「とういうことだ、提督どうする?」

『・・・・攻撃してくるなら、相手は俺達を敵とみなしているということだ、それに深海棲艦が居る海域に堂々と居るのも不可思議だ、つまりはそういうことなんだろう。」

「攻撃は?」

『許可しよう。」

 

深海棲艦のいる海域にいる艦はおかしいと考えた提督は武蔵達の「みらい」への攻撃を許可した。

 

「分かった、戦闘が終了したらまた連絡する。」

『気をつけろよ?』

「心配する必要はない。」

 

武蔵はそう言った後、無線を終了した。

提督は交信が終了した後、ある単語が引っ掛かっていた。

 

「海上自衛隊・・・まさか・・・調べてみるか・・・大淀、少しの間頼むぞ。」

「了解しました。」

 

そう言って提督は大淀に作戦指揮室を任せてある単語を調べるために資料室へと向かった。




どうも、そろそろ戦闘も終わりですかね。(但しこれでこのシリーズでの戦闘が終わりとは言っていない。)
では次回予告

友成「目標、正規空母加賀、瑞鶴の飛行甲板、主砲、撃ちー方始め!」

みらい「目標、航空戦艦、伊勢、日向の飛行甲板、ハープーン発射!」

友成「最終目標、戦艦、武蔵の副砲、トマホーク発射!」

瑞鶴「動かないで。」

人は武器を突き付けられたときどのように動くのか。
次回「第捌戦目「避けられない戦い」」
それでは次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!


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第捌戦目「避けられない戦い」

友成「みらいさん、危険だと思ったらすぐに退却して下さい。」

みらい「了解しました。」

 

僕が敬礼をした後みらいさんも敬礼をしてから海に降りた。

 

友成「・・・始まるのか。」

 

 

 

みらい『こちら、みらい、敵艦隊まで後1000ヤード。』

友成「了解、こちらからは僕の指示があるまで攻撃しないように。」

みらい「了解。」

 

さて、後は伊168さんを救助しに言った蒼龍さんと電ちゃんの帰りを待つのみ。

 

蒼龍「友成くん、戻ったよ。」

友成「お疲れ様です、大丈夫ですか?」

伊168「・・・・・。」

蒼龍「ちょっと、イムヤ!」

友成「いいですよ、少し艦長席で休ませてあげて下さい。」

 

まぁ、自分を殺そうとした奴に心を許せる訳ないよなぁ。

 

みらい『こちら、みらい、敵艦隊と接触。』

友成「了解、敵艦隊と交渉せよ。」

みらい『了解。』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

武蔵「どうだ?」

加賀「偵察機より入電、謎の艦娘がこちらに接近しています。」

武蔵「何っ!」

加賀「速度は約37ノットとのこと。」

武蔵「島風並の速度か・・・。」

伊勢「どうするの?」

武蔵「相手によるな、場合によっては先頭になるだろう、総員戦闘用意!」

 

 

 

日向「来たな。」

 

みらいが第二艦隊に接近してきた。

 

瑞鶴「所属と艦名を言いなさい!」

 

瑞鶴が強く言うとみらいは口を開いた。

 

みらい「海上自衛隊、横須賀基地所属、ゆきなみ型護衛艦、3番艦みらい。」

武蔵「海上自衛隊ということはイムヤを攻撃した奴らの仲間か?」

みらい「はい、仲間のヒューマンエラーによるものです。」

加賀「ヒューマンエラー?」

みらい「私達は交戦の意思がありません、横須賀に入港したいだけです。」

伊勢「怪しい奴らを横須賀に入れるわけにはいかないのよね。」

日向「こちらの仲間も攻撃を受けたからな。」

 

お互いに一歩も引かない状態で一触即発の状態だ。

 

武蔵「悪いが深海棲艦の仲間ではないと言い切れないからな、ここで負けてもらおう。」

 

武蔵は完全にみらいに対し敵意を抱いていた。

 

みらい「艦長、どうしましょう。」

 

みらいの問に友成はこう答えた。

 

友成『今から言う事をそのまま伝えてください。』

 

友成の言ったものはみらいを驚愕させた。

 

みらい「・・・・分かりました、艦長を信じます。」

 

みらいは武蔵達に向き直り言った。

 

みらい「私の艦長からの伝言です。」

武蔵「何?」

みらい「『我々を攻撃するのは貴殿らの勝手だ、だが我々の艦艇には蒼龍、赤城、翔鶴、電、長門、金剛、比叡の七名の艦娘がいる、更に我が艦隊は火力は大和型戦艦並、速力は駆逐艦島風並の速度を有している艦を二隻が在籍している、艦娘のみらいも同様である。」

全員「なっ・・・。」

 

全員が息を呑んだ、探していた者達が相手の艦艇にいるというのだ。

 

みらい「『更にみらいは、あの米空母「ワスプ」を砲弾一撃で撃沈し、大和型戦艦大和を機関停止に追い込んでいる、交戦するかは貴殿ら次第だ。』以上です。」

 

そこには静けさと潮風が漂っていた。

 

武蔵「ハッタリはそこまでか?」

みらい「・・・・っ!」

瑞鶴「でも、武蔵さん、翔鶴姉が居るって・・・。」

武蔵「どうやって知ったかは知らんが嘘だろう、まず第一に火力が私、大和型に匹敵する艦艇など存在しない。」

みらい「では、開戦ということですか?」

武蔵「そうだ、全員戦闘よーい!」

全員「了解!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

友成「そうか・・・対空、対水上戦闘よーい!」

みらい『了解!対空、対水上戦闘よーい!』

友成「目標、正規空母加賀、瑞鶴の飛行甲板、主砲、撃ちー方始め!」

 

みらい「目標、正規空母、加賀、瑞鶴の飛行甲板、主砲、撃ちー方始め!」

 

ドオォォォン ドオォォォン ドオォォォン

 

伊勢「主砲を撃ってきた!!」

日向「当たるのには数発後だ加賀!瑞k・・・。」

 

ドゴォォォン ドゴォォォン

 

加賀「そんな・・・。」

瑞鶴「キャアァァァ!」

 

みらいの艤装から発射された主砲弾は無慈悲にも驚くべき正確さで吸い込まれるように飛び加賀と瑞鶴を大破に追い込んだ。

 

友成「新たな目標、航空戦艦、伊勢、日向の飛行甲板、ハープーン発射!」

 

みらい「目標、航空戦艦、伊勢、日向の飛行甲板、ハープーン発射!」

 

バシュュュウゥゥゥ バシュュュウゥゥゥ

 

発射されたハープーンは伊勢と日向の飛行甲板を破壊する。

 

武蔵「伊勢!日向!」

 

友成「最終目標、戦艦、武蔵の副砲、トマホーク発射!」

 

みらい「最終目標、戦艦、武蔵の副砲、トマホーク発射!」

 

武蔵「っ!」

 

ドゴォォォン

 

武蔵「ぐぁあ!?」

 

圧巻、まさにその言葉が合う戦況・・・いや、最早戦闘と言える状況では無かった。

加賀、瑞鶴は飛行甲板に被弾、炎上。

伊勢、日向は飛行甲板と主砲を折られ大破状態。

武蔵は装甲の薄い副砲を狙われ弾薬庫に引火し大破。

彼女たちにとってはありえない戦闘だった。

 

みらい「まだ・・・続けますか?」

武蔵「くっ・・・。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

少し前

 

長門「交戦の経験は?」

友成「はっきり言ってないです。」

蒼龍「勝てる自信はあるの?」

 

そうだよね、まずそこが気になるよね。

 

友成「・・・そうですね、勝機は有ります。」

長門「どうするつもりだ?」

友成「まずは正規空母を主砲で攻撃、甲板を使用不可にします、次に伊勢、日向の主砲と飛行甲板を破壊、最後に武蔵は装甲の薄い副砲を撃ちます。」

 

問題はここだ。

 

友成「ただ、最悪の場合は轟沈します。」

全員「!!」

 

そりゃ、あんな反応するよね。

 

翔鶴「そんな、瑞鶴が・・・。」

長門「どういうことだ・・・?」

友成「元々護衛艦はミサイルや高速で飛行する戦闘機を撃墜するために作られています、第二次大戦の兵器相手に戦闘なんて端から想定していません、それにみらいさんは一度ワスプを沈めている、正規空母加賀は元々は戦艦として作られていたため大丈夫かもしれませんが瑞鶴が無事な確率は低い。」

全員「・・・・。」

友成「あくまでこの戦闘は我々が生き残るための戦いです。」

 

ただ、確率が低くてもそれに掛けるしか無い、戦争は何があってもおかしくない。

 

みらい『艦長、開戦です。』

友成「そうか・・・対空、対水上戦闘よーい!」

 

この先がどうなるのか・・・。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

みらい『艦長、敵艦隊、降伏しました。』

友成「了解、これから救助艇でそっちに接近する。」

みらい「了解。」

 

梅津館長に許可をもらっておかないと。

 

友成「こちら霧先、梅津艦長応答願います。」

梅津「こちら梅津、どうした?」

友成「梅津艦長、これから敵艦隊の保護を行いますので小銃の持ち出しを許可して頂けませんか?」

梅津「君がその艦の艦長だ、君が決めるといい。」

友成「了解、これから敵艦隊の保護を行います」

 

 

 

みらい「来ましたね。」

友成「みらいさん!全員無事ですか?」

みらい「武蔵以下5名全員無事です。」

友成「了解、皆さん、この救助艇に乗って下さい、但しこちらも小銃で武装していますので。」

 

僕は64式を構えながら言った。

 

全員「・・・。」

 

だんまりですかそうですか。

 

友成「では、武蔵さんから順に乗って下さい。」

 

僕が言うと皆が動き出した。

順調に乗ってるね

 

友成「後は一人ですか、みらいさんも早く。」

みらい「はい。」

 

後は伊勢さんだけか。

 

伊勢「・・・・。」

 

ボンッ!

 

伊勢「えっ?わっ!」

 

なんだ!?いきなり艤装が爆発した!?

 

日向「伊勢!」

 

ちょ!沈んだ!?まずい!

 

友成「みらいさんは周辺警戒を!」

みらい「艦長は!?」

友成「仮でも自衛官名乗ってんだから日本国民を救うんだ!」

 

そして僕は伊勢さんが沈んだ場所に飛び込む。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

あぁ、海ってこんなに冷たくて暗いんだ。

ごめんね日向、もうだめだよ。

・・・・・沈んだら深海棲艦になるのかな?

何だか眠くなってきたなぁ。

 

・・・・・?誰かに引き上げられてる?

男の人かな?でも助かった・・・かな?

 

 

 

友成「ぷはぁ!」

みらい「艦長!」

友成「伊勢さんを救助艇に!」

みらい「分かりました!」

 

僕とみらいさんで救助艇に伊勢さんを乗せてから僕も乗り込む。

 

友成「とにかく梅津艦長に連絡して桃井一尉を呼んで。」

みらい「了k・・・艦長、後ろ!」

 

みらいさんの声で後ろに振り向くと。

 

瑞鶴「動かないで。」

 

64式を構えた瑞鶴さんがいた。




どうも、次回書きになる終わり方です。
では、次回予告

みらい「艦長!CIWSの発砲許可を!」

友成「恐い?そりゃ恐いですよ、でも今ここで無駄な血が流れて誰かの家族が死ぬくらいなら自分から命を絶ちますよ。」

友成「気が付いたらこの時代から約40年、彼女が艦艇だったころから約60年後の軍艦の中、そんな中で正気を保つこと自体が難しい話ですよ。」

武蔵「友成が神通の子供とはどういうことだ?」

真実は時に考えられないようなものでもある。
次回「第玖戦目「突き付けられた小銃と真実」」
それでは次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!


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第玖戦目「突き付けられた小銃と真実」

友成「銃を下ろしてください・・・。」

 

僕は瑞鶴さんにお願いしてみた。

 

瑞鶴「いやよ、それにこの銃をどこで手に入れたか聞きたいわ。」

 

まぁ、下ろしてくれるはずもなくさらには伊勢さんを除く全員が敵意丸出しである。

こんなhardなことになるなんて誰が想像しただろうか。

とにかく彼女たちにとっては敵の艦長がホイホイ捕まってくれて有難いと思っているはずだろう。

 

みらい「艦長!CIWSの発砲許可を!」

友成「ダメです!誰かが死ねば立場が悪くなるだけ・・・その人の命も無駄になる!」

 

僕が経験したからこそ皆さんには経験して欲しくない。

大切な人が目の前で死ぬ姿を見るという経験を。

 

友成「瑞鶴さん、伊勢さんは今は危険な状態にある、助けるためには貴方に銃を下ろして頂く必要がある。」

瑞鶴「そんな口車に私が乗るとでも?」

 

やっぱり聞かないよね、もう最終手段を使うか。

 

友成「そうですか・・・では。」

瑞鶴「!」

 

僕は瑞鶴さんの持つ64式を自分の眉間に押し当てた。

 

友成「どうぞ、遠慮なく引き金を引いてください、そうすれば僕も父さんに会うことが出来ます。」

日向「どういう気だ、こわくないのか?」

 

日向さんが僕に聞いてくる。

 

友成「恐い?そりゃ恐いですよ、でも今ここで無駄な血が流れて誰かの家族が死ぬくらいなら自分から命を絶ちますよ。」

加賀「どういう事かしら。」

友成「僕は目の前で本当の父親を殺されました、母親は僕が生まれてからすぐに亡くなりました。」

 

僕の一言で全員が黙る。

 

友成「目の前で殺された父さんは一言言い残しこの世を去りました、今でも父さんの体温が冷たくなっていく感覚を覚えています。」

みらい「艦長・・・。」

友成「そんな状況を作り出すくらいならみらいさんの臨時艦長で貴方達を引き止めている僕を撃ち殺して逃げてしまった方が僕達にも、貴方達にとっても良い。必要最小限の血が流れるだけで済む。瑞鶴さんが銃を下ろさないのなら残された未来の中では良いとは思いませんか?僕も父さんに会えますし。」

 

僕は瑞鶴さんに微笑みかけた、ここで瑞鶴さんが引き金を引いても恨む気はない、そうなる可能性が高かったそれだけだ。

あとは瑞鶴さんが決めてくれる。

 

瑞鶴「何よ、そんな話されて撃てるわけないじゃない・・・。」

 

瑞鶴さんは64式を落として立ち尽くし、僕は64式を拾い上げた。

 

友成「今の話は本当ですが万が一嘘だったらどうするつもりですか?」

瑞鶴「嘘をついている人が普通泣く?」

 

やっぱり・・・出ちゃうんだよなぁ。

 

友成「ははは、兎も角、貴方達が抵抗しない限り我々からは危害を加えません。ご理解とご協力をお願いします。」

武蔵「・・・良いだろう、貴様のその度胸を認めて指示に従うことにする。」

友成「ご協力感謝します、みらいさん!桃井一尉を呼んでください!」

みらい「了解!」

 

こうして被害を受けた艦娘の収容と治療が始まった。

 

 

 

友成「・・・・ふぅ。」

蒼龍「大丈夫?」

 

僕が医務室で伊勢さんが起きるのを座って待っているとき不意に蒼龍さんに声をかけられた。

因みに服装はこの艦に飛ばされた時に着ていた半袖の白地に黒字で「笑ったら負け」と書かれたTシャツと黒の薄手の半ズボンに「みらい」の識別帽をかぶっている。

 

友成「蒼龍さん、大丈夫ですよ。」

蒼龍「伊勢、まだ目を覚まさないんだね。」

友成「一応容体は安定していますが起きた時が大変ですね。」

蒼龍「だから鉄砲を持ってるんだね。」

 

蒼龍さんは苦笑いしながら僕が持っている9mm機関けん銃を見た。

反動の制御が結構難しく、あくまで近距離戦での自衛を想定した火器だから今回の状況にはうってつけだった。

因みに今はスリングを付けて左肩から掛けて所持している。

 

友成「気が付いたらこの時代から約40年、彼女が艦艇だったころから約60年後の軍艦の中、そんな中で正気を保つこと自体が難しい話ですよ。」

蒼龍「そうだよね・・・そうだ!」

 

何か思い出したのか蒼龍さんがいきなり声をあげた。

 

蒼龍「ねぇ友成くん、私のことは呼び捨てでいいよ。」

友成「えっ?でも・・・。」

蒼龍「私は堅苦しいのは嫌いだからさぁ・・・ね?」

 

僕は反論しようと思ったが恥ずかしそうに頬掻きながら言う蒼龍さんを見て反論するのも気が引けた。

 

友成「分かったよ。」

蒼龍「ありがとう!あっ、私も呼び捨てで良いかな?」

友成「もちろん良いよ。じゃあ、これからもよろしく蒼龍。」

蒼龍「よろしくね!友成!」

 

そんなこんなで僕と蒼龍さんは仲良くなった。

 

伊勢「うっ・・・ん?」

友成「あっ!気が付いた!」

蒼龍「伊勢!大丈夫!?」

伊勢「ここは・・・?」

友成「僕が臨時艦長を務めている艦です。」

伊勢「艦?・・・蒼龍!大丈夫なの!?」

 

意識が完全に回復したのか伊勢さんは飛び上がって蒼龍さんの肩を掴んだ。

 

蒼龍「大丈夫だから・・・あっ、こっちはこの艦の艦長で私を助けてくれた命の恩人の霧先友成だよ。」

友成「どうも、臨時艦長の霧先友成です。」

伊勢「ご丁寧にどうも、伊勢型航空戦艦一番艦伊勢だよ。蒼龍を助けてくれてありがとう、それでこの船はどこの所属なの?」

友成「海上自衛隊、横須賀基地です。」

 

僕が所属を応えると同時に伊勢さんの目つきが変わった。

 

伊勢「っ!私たちを捕まえて何が目的なの!?」

友成「酷く無いですか!?」

蒼龍「そうだよ!友成は伊勢を海に飛び込んで助けたんだよ!?」

伊勢「え?・・・じゃああの時引き上げてくれたのって・・・。」

 

 

 

長門「蒼龍、主砲の再装填は終わっ・・・。」

伊勢「すみませんでした!!」

長門「どういう状況なんだ・・・。」

友成「ははは・・・。」

 

そりゃそう言いたくもなるよね・・・。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

みらい「艦長、先ほどリュックサックとボストンバックを見つけたのですが・・・。」

友成「え?あぁ!僕の着替えと買ったものだよ。一緒に来てたのか。」

 

艦長席で外を眺めていた僕の元にみらいさんが持ってきたのは僕の着替え、夏休みの宿題、街で買い物したものが詰まった黒のリュックサックと陸自迷彩のボストンバックだった。

 

蒼龍「何が入っているの?」

友成「着替えとかその他諸々・・・ん?」

 

僕は鞄の中に見慣れない箱があるのを見つけて取り出す。

縦30㎝、横20センチ位の木で出来た箱だ。

 

伊勢「何が入っているの?」

友成「さぁ・・・僕も初めて見ます。とにかく開けないことには分かりませんし開けて見ます。」

 

僕はその箱を作業台に置いてゆっくりと開けてみる。

 

友成「よっと・・・これは?」

 

まず目に入ってきたのは魚雷発射管、しかしよく見てみると所々凹んでいる。

次に指先が無い上腕の半分くらいまでありそうな砲塔のようなものが付いた手袋。

最後に鉢金、と言うよりこれ見たことが・・・えっと・・・。

 

友成「そうだ!艤装だこれ!」

日向「待て!ただの艤装では無い、これは沈んだ神通の物だ!」

長門「何だと!」

 

日向さんの行った声に始まり、みらいさんを除く艦娘全員が驚く。

 

友成「どういう事なんです?」

赤城「実は横須賀鎮守府には昔、神通と言う艦娘がいたんです・・・ですが改二と言う強化をしてから暫くしてからある作戦で深海棲艦に囲まれて・・・第一艦隊を逃がすために囮になり轟沈しました。」

瑞鶴「そしてその艤装が沈んだ神通さんが持っていた特徴的なものなのよ。」

 

そうだよね、確か神通の艤装の手袋は指先が出て無かったはずだし。

 

友成「でもなんで僕の荷物の中に入っていたのかな?」

赤城「それが分かればいいのですが・・・。」

??「それについては私が説明します!」

 

当然した声に全員が驚き声がした方を見る。

其処にはヘルメットをした子を含め数人の小さな女の子がいた。

 

友成「もしかして・・・ダメコン妖精さん?」

ダメコン妖精「よくわかりましたね!流石、神通さんのお子さんです!」

 

・・・いま何かとんでもないこといったよね?

 

加賀「今の言葉、もう一回言ってくれるかしら?」

ダメコン妖精「え?流石、神通さんのお子さんです・・・。」

友成「・・・ファアア!?」

みらい「今、人間とは思えないような声が聞こえましたよ・・・。」

友成「ごめんなさい、それより・・・。」

武蔵「友成が神通の子供とはどういうことだ?」

 

普通に台詞とられた・・・。(´・ω・`)

艤装にふさしって書いてやろうか!ヽ(`Д´#)ノ

 

ダメコン妖精「それは・・・。」

 

ダメコン妖精さんは詳しく話してくれた。

赤城さんが言っていた作戦で沈んだ神通・・・つまり僕の母さんは轟沈した後、謎の渦で僕がいた現代に飛ばされた。

そこで偶然出会った父さんに助けて貰った後、二人は相思相愛になり父さんがコネを使って戸籍を取り結婚した。

でも僕が生まれてすぐ母さんは元の世界に戻ることになった。

どうやら世界を移動したときに出来た歪みのようなものが母さんを元の世界に磁石のように引っ張っていたらしい。

そして万が一の時のために艤装を僕に残していなくなったそうだ。

 

翔鶴「そんなことが・・・。」

ダメコン妖精「あの時の友成君のお父さんがした決断は凄かったよ、愛した人がいなくなるのに「神通が元の世界に戻っても俺がしっかり友成を育てて一人前の男にしてやるからお姉さん達に元気な姿を見せな!」ってね、神通さんが帰って行った後も泣くことなく嬉しそうな顔で「必ず戻れよ。」ってね、しっかし友成君も良い男になったよね。」

友成「知らなかった、母さんが・・・。」

 

僕はダメコン妖精さんから貰った古い写真を見ていた。

其処には父さんと赤ちゃんの僕を抱いた母さんが写っていた。

 

ダメコン妖精「友成君のお父さんが死んじゃったのは残念だったけどお母さんはまだ生きてる、多分横須賀に住んでいるんじゃないかな、別れる前にそう言っていたからね。」

友成「そうなのかな・・・でもなんで母さんは僕に艤装を?」

ダメコン妖精「そりゃ、これを装備して使えるからだよ。」

友成「まじで!?」

ダメコン妖精「マジ、いざってときには着けなよ、私たち妖精が全力でバックアップするからさ。」

友成「わかりました、その時はよろしくお願いします。」

 

僕が敬礼すると妖精さんたちも敬礼で返してくれた。

こうして僕は母さんがいなくなった意味を知った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

みらい「艦長、後1000㎞で横須賀です。」

友成「丸三日・・・やっと横須賀に来たか。」

 

現在梅津艦長が乗艦しているみらいが先導艦となり横須賀へ近づいていた、丸三日の航海である。

食料も(主に一航戦の人達の所為で)底を着きかけていたので嬉しい限りだ。

因みに僕が艦娘の血を引いていることは梅津艦長には報告していない。

 

友成「だけど・・・。」

みらい「艦長?」

友成「この横須賀は全くの他国、他国の軍が入って来ようとしているときに軍隊がすることはひとつだ・・・。」

みらい「まさか・・・。」

友成「手持ちのカードでは相手には決定打を与えることはできない・・・みなさん。」

 

僕はこれから起きることを話した。

 

友成「本当に血が流れることになるのはこの横須賀になるかもしれません。」

 

そして、僕は戦争の意味を知ることとなる。




どうも、みたらし饅頭です。
ついに明らかになった友成の母親の行方。
しかし横須賀では非常ベルが鳴り始める。
異世界から来た自衛隊と高校生、艦娘が下す決断とは!?
サジタリウスの矢は放たれてしまうのか!
次回「第拾戦目「戻ってきた横須賀」」
それでは次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!


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第拾戦目「戻ってきた横須賀」

現代の大阪市内のある家にて

 

「お母さん!テレビテレビ!」

「どうしたの、血相変えて・・・。」

「いいからテレビ見て!」

 

『今入ったニュースです、今日午前11時ごろ、瀬戸内海で釣りをしていた霧先友成さん17歳が行方不明になっていることが分かりました。

友成さんは今日祖父と釣りをしていたところ、海上自衛隊に撤収するように言われ作業を行っている途中で突如、落雷に打たれ行方が不明になりました。

また一緒にいた祖父の霧先勝成さんの証言では友成さんのほかに彼の荷物と漂流していた女性がいなくなっているとのことです。

現在は防衛省と警察庁、海上保安庁が連携して友成さんと女性を捜索中です。』

 

「そんな、友成が・・・。」

「どうしよう、お兄ちゃん大丈夫かな・・・。」

「とにかくお父さんに連絡しないと!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ここは日本の横須賀にある横須賀鎮守府。

ここには約200近い艦娘が所属生活している。

普段なら非番の艦娘達の楽しそうな会話が聞こえる時間帯だが現在鎮守府内は警報が鳴り響き慌ただしくなっていた。

 

『緊急警報発令!緊急警報発令!横須賀上空に謎の航空機が巡回中!予備第一、予備第二艦隊所属の艦娘は敵勢力迎撃のため直ちに出撃!第三、第四艦隊所属の艦娘は鎮守府防衛のために出撃せよ!』

 

謎の航空機が横須賀上空に現れたことによって慌ただしくなる鎮守府の中で一人の海軍軍人と思しき男は資料を眺めながら静かに座っていた。

その佇まい、そして肩についている『大将』の階級章から見て確実にこの鎮守府の提督であることが伺える。

 

提督「海上自衛隊・・・第二次大戦が終結した後にできた海上保安庁内の海上警備隊が発展して出来る予定だった組織、1954年に組織される予定だったが、53年の深海棲艦の出現により日本国海軍に変更、事実上は存在しない組織か・・・何故そんな組織が・・・。」

陸奥「提督、失礼します。」

提督「ん、陸奥か。」

 

提督が海上自衛隊に調べていると秘書艦である陸奥が執務室に入ってきた。

 

陸奥「第一、第二艦隊、出撃完了しました。」

提督「よし、諸君聞いてくれ航空機がいるという事は発艦するための艦がいるという事だ予備第一、予備第二艦隊には敵艦隊の索敵、迎撃、戦力偵察を、第三、第四艦隊は鎮守府の防衛を命ずる、各員敵勢力の攻撃を絶対に横須賀に向けさせるな!」

 

提督は館内放送用のマイクを取り艦娘達に命令を下した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

少し前

 

友成「本当に血が流れることになるのはこの横須賀になるかもしれません。」

長門「そうだろうな。」

 

長門さんはわかってたんだ、ここで起きる可能性を。

 

友成「ともかく、被害は最小限に押さえます、みらいさん、梅津艦長に連絡、作戦会議を行うことを具申すると伝えてください。」

みらい「了解!」

 

 

 

角松「これより横須賀近海に置いての作戦行動について会議を行う、今回の作戦は横須賀基地・・・この世界では横須賀鎮守府だがその周辺、および日本国海軍の力量についての偵察になる。作戦内容は簡単、海鳥による偵察と哨戒を行うこれだけだ。」

友成「しかし、相手が攻撃してくる場合も考えられるのでは?」

長門「いや、提督のことだ、此方から攻撃しない限り攻撃はしては来ないはずだ。」

梅津「決まりだな、海鳥による偵察を行い、相手との会談の場を設ける、それが今回の目的だ。自衛目的以外の砲撃は禁止する、各員配置につけ!」

全員「了解!」

 

こうして海鳥が鎮守府に向かうことになった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

現在CIC内では艦長の梅津以下角松二佐、CIC所属の自衛官と友成、みらいが海鳥と交信していた。

 

佐竹『フォーチュンインスペクター、シーフォール、発艦に異常なし、視界内クリア。』

 

自衛官「シーフォール、横須賀上空まで30分。」

菊池「艦長、いくらHSリンクで映像を送受信しても、危険では・・・。」

梅津「危険は覚悟の上だ、横須賀に入港出来るかどうかがこの偵察飛行で決定される編集不可なライブ映像を自分の目で確認して隊員に判断を下して欲しいのだ。」

 

佐竹『フォーチュンインスペクター、シーフォール、目標インサイト、上空まで20分、雲量2、視界きわめてクリア。』

 

自衛官1「おぉ!横須賀だ!」

自衛官2「パッと見、現代と変わらないように見えるが・・・。」

 

自衛官たちは食いつく様にテレビのライブ映像を見ていた。

 

一方、海鳥は横須賀上空に到達していた。

 

佐竹「横須賀市、横須賀港が見えます。現在、高度2800フィート・・・港沿いに高度500フィートまで降下するぞ。」

森「500は危険です!」

佐竹「おぉい、俺の腕を」

森「信じてますよ、でなきゃガンナーは務まりません、ですが・・・。」

 

森は機内に設置されたサイドミラーを見る、そこには既に「みらい」の姿は無かった。

 

佐竹「ですが?条件付きの信頼なんぞ豚に食わせとけ!」

佐竹「行くぞ!」

 

海鳥は一気に高度を下げ低空飛行になる。

 

佐竹「シーフォール、これより湾内に降下します。」

菊池「湾内右手洋上に物体が見えるが船か飛行機か分かるか?」

佐竹「待ってください、旋回します・・・見えます!洋上に標的らしき小型船舶二隻、その後方に・・・水上機と思われます。」

 

自衛官1「あぶねぇぞ!見つかったら!」

自衛官2「逃げ切ってくれよ・・・。」

柳「・・・!」

 

佐竹「湾岸には兵舎と思われる構造物、現代と同じ横須賀鎮守府の建物が見えます!間違いなくここは現代ではありません!」

 

自衛官1「やっぱりか・・・帰れないんだ俺達・・・。」

自衛官2「でも、霧先が宛てがあると言っていた・・・少なくとも日本には帰れるんだ!」

 

そんな会話がある中、佐竹らに危機が迫っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

海鳥が横須賀上空に来る前

 

綾波「夕張さん、どうしたんですか?」

夕張「綾波ちゃん!実は倉庫にしまいっぱなしだった二式水上戦闘機を見つけて整備してたのよ。」

 

そう言う夕張の顔は満面の笑みだった。

 

綾波「動くんですか?」

夕張「今から試すとこ・・・!?何あれ!」

綾波「て、敵襲―!敵襲ー!」

 

綾波が叫ぶと同時に警報が鳴り始める。

 

夕張「仕方ない・・・妖精さんお願い!」

妖精「了解しました!」

 

妖精は敬礼をし、二式水上戦闘機に乗り込み、海鳥を追いかけはじめた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

森「七時の方向距離1500!二機あがってきます!速力230!水偵にしては早すぎます!」

佐竹「230!?」

 

海鳥に向かって二機の水上機が迫りくる。

 

佐竹「こいつら!ただの偵察機じゃないぞ!」

森「目標!急速接近!此方の最大速力に届いています!」

佐竹「エマージエンシ―コール!日本軍機の接敵を受けました!」

 

梅津「いかん!」

菊池「シーフォール、直ちに全作戦を中止!離脱せよ!」

 

佐竹「了解!直ちに帰還します!」

 

自衛官1「見ろ!二機食いついているぞ!」

自衛官2「危ない!振り切って逃げろ!」

 

その時艦内放送が響く。

 

艦内放送「対空戦闘よーい!」

 

放送を皮切りに自衛官たちは一斉に持ち場につく。

 

角松「霧先一佐、あの偵察機の武装は?」

友成「偵察機?あれは偵察機じゃありません二式水上戦闘機という20ミリと7.7ミリ機銃を二門ずつ備えた戦闘機です!」

角松「何っ!」

 

横須賀上空では追われている海鳥がバンクを振っていた。

 

森「何のために翼を振ったんですか佐竹一尉!?」

佐竹「バンクといってな、当時の味方機だという合図だ、どこまで通用するか分からんが・・・。」

 

妖精1「日の丸をつけているけど、海上自衛隊なんて隊は海軍には無い、バンクを振っておいてなぜ逃げるの?」

 

みらい艦橋では尾栗がマイクを持ち抗議していた。

 

尾栗「何をグズグズしているんだ!海鳥を見殺しにする気か!柳の話じゃ、あれは水偵じゃない!二式水戦ってフロート付きの!」

角松「戦闘機だ。」

尾栗「分かっているならさっさと発砲を許可してください!佐竹は迎撃機をどうにかしない限り帰って来れない!奴らをみらいに案内することになるからだ!」

角松「分かってる!」

尾栗「だったら見つかった以上、向こうを撃ち落とすしか手は無いんだ!」

菊池「尾栗、発砲は許可できん。」

尾栗「菊池!佐竹がやられたらお前の責任だぞ!」

 

ついに堪忍袋の緒が切れたのか尾栗は怒鳴る。

 

梅津「副長、もう一度、海鳥に念を押してくれ。」

みらい「待ってください梅津艦長!発砲を許可してください!」

角松「ダメだ!お前が「みらい」なら専守防衛を守らなければならないことはわかっているだろ!」

友成「そう言ってまた森二尉を見殺しにする気ですか!」

角松「何だと、どういうことだ?」

みらい「私が過去の世界に飛んだ時、今と同じような状況があったんです、その時同じく搭乗していた森二尉は二水戦の機銃を受け殉職しました。」

友成「みらいさんにとって、これは悪夢のリプレイなんです!お願いです、発砲許可を!」

角松「だが・・・。」

 

??「それなら私の出番ですかね?艦長!」

 

そこにいた全員が振り返る、そこには海鳥の搭乗員が着る服と同じ深緑色のつなぎと白いヘルメットをかぶった妖精がいた。

 

角松「何だコイツは!?」

海鳥妖精「酷いですね角松二佐、自分はみらいさんの艦載機、海鳥のパイロット妖精ですよ。」

友成「海鳥の妖精・・・。」

海鳥妖精「それで艦長、どうします?自分とガンナーの妖精は準備万端ですよ。」

友成「・・・わかった、海鳥発艦と発砲を許可する!但し目標は相手のフロート部のみ!責任は全部僕が取る!」

海鳥「了解!海鳥、発艦準備に入ります!」

友成「みらいさん、艦首で発艦して来て下さい。」

みらい「了解!」

 

みらいさんは敬礼をしてCICを出て行った。

 

菊池「いいのか、歴史に手を加えるんだぞ!」

友成「もう、第二艦隊と交戦している時点で歴史に手は加えています、後はどれだけ犠牲を少なくするかです、菊池三佐。」

 

もう、後戻りはできない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

角松『佐竹一尉、現在そちらにもう一機の海鳥が向かっている、サイズは小さいが十分に戦える装備をしている、本艦が発見されても良い、すぐさまその海鳥と共に直ちに帰還せよ!』

角松『海軍機がこちらに来てもなんとかする・・・・・全責任は俺が取る!二式水戦(インターセプター)の動きは常に一機が発砲可能な位置を取っている危険だ!』

角松『先制攻撃をしないのは我々が守るギリギリのルールだ、不利な状況で戦う必要はない帰還しろ!これは命令だ!!佐竹一尉!』

佐竹「先制攻撃を禁ず・・・・創隊以来それでやってきたんですからね・・・慣れてますよ。」

 

佐竹はヘルメットについているゴーグルを下ろし気合いを入れる。

 

佐竹「捕捉されたのは私の責任です、絶対に振り切って帰ります。」

 

佐竹が言うのと同時に二式水上戦闘機が動き始めた。

 

佐竹「動いたぞ!」

森「背後の射線を狙ってます!」

佐竹「左旋回(レフトターン)!」

 

ダガガガガガガガ!!!!

 

佐竹「!!始めやがった、右急速旋回(ライトターン)!洋上に出るぞ!」

森「了解!」

 

 

二式水上戦闘機が放った7.7mm機銃は惜しくも海鳥に避けられてしまう

しかし彼らにも考えはあった。

 

森「もう一機の姿が見えません!ロストしました!」

佐竹「上だ!」

 

ダガガガガガガガ!!!!

ガカカカカカカカ!!!!

 

もう一機の二式水上戦闘機が放った7.7mm機銃は海鳥に確実に被弾しダメージを与えた。

 

佐竹「やるじゃねぇか・・・破損状況チェック、電装品・操縦系統共に異常ないな・・・・・・・・燃料タンクも無事・・・・・損傷軽微カスリ傷だ!」

 

海鳥は被弾したものの装備等には損害はそれほどなかった。

 

佐竹「森二尉、今度はこっちの・・・・」

 

確かに海鳥「には」被害は無かった・・・・。

 

佐竹「森っ!?」

 

搭乗員を除いて・・・。

 

佐竹「森ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

 

ガンナーの席と窓に森二尉の血が飛び散った光景を見た佐竹一尉の悲痛な叫び声が横須賀上空に響き渡った。




どうも、そろそろ横須賀沖海戦です。
次回はストック切れのため亀更新になるのでご了承ください
では、次回予告

二式水戦妖精1「手ごたえはあったけど・・・浅かった・・・止めを刺すわよ!」

角松「シーフォール、発砲を許可する!ただし、照準はフロート部のみだ!」

菊池「それでもだ、相手は必ず攻撃を仕掛けてくる。その時どうするつもりだ?」
友成「護衛艦の艦長を務めている以上、搭乗員の人命と日本国民である艦娘の皆さんを護るために自衛隊法第95条を適応します。」

状況は時に最悪の未来を選ぶ。
次回「第拾壱戦目「攻撃命令」」
それでは次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!


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横須賀沖海戦編
第拾壱戦目「攻撃命令」


推奨BGM戦闘「みらい」

被弾してしまった海鳥。
友成の主張に角松はどうこたえるのか。
始まりの航海編最終話です。


横須賀上空では海鳥が未だ二式水戦から逃げ続けていた。

しかし、相手が海鳥の最大速力位に届いている以上、振り切ることはできない。

佐竹は銃創を負った森に言葉を投げかけ続けていた。

 

「森二尉!答えろ!貴様の生年月日は何年何月何日だ、えぇ!?確か1982年9月3日乙女座だったろ!今何年だと思ってやがる、1962年だぞ!1982年生まれで1962年死亡じゃ勘定が合わねぇんだ!死ぬな!」

 

佐竹は一刻も早く振り切ろうと尽力するが妖精らは諦める気配すらなかった。

 

「手ごたえはあったけど・・・浅かった・・・止めを刺すわよ!」

 

妖精はもう一人の妖精に手信号で合図する。

その合図を見た妖精は意味を理解して、佐竹と森の乗る海鳥を仕留めるべく動き始めた。

「みらい」CICでは角松が佐竹に連絡をしようと呼びかけていた。

 

「シーフォール、フォーチュンインスペクター映像途絶!どうした海鳥!?現状を報告せよ!佐竹一尉どうなっている!?」

『こちら・・・シーフォール・・・・・・・・・・・・コックピットに・・・被弾。』

「何っ!?」

『ガンナーが・・・・。』

「森二尉がどうした!?」

『銃創を・・・・血が・・・・。』

 

佐竹の言葉にCICにいた全員が絶句した。

無理もないだろう、海上自衛隊・・・ひいては全自衛隊に置いて初の戦闘負傷者が出てしまったのだから。

 

「そんな・・・・うそ!」

「みらいさん落ち着いて!」

 

みらいは佐竹の報告を聞き、過去の出来事を思い出したのか頭を抱えたまま座り込んでしまい、霧先が落ち着くように促す。

佐竹からの報告を聞いた角松は即座に指示を下す。

 

「全速で離脱!日本軍機を振り切れ!できるか!?」

『目標2機、本機を完全に補足・・・・振り切れません!!・・・・・・・・・・・・・・副長、攻撃命令をお願いします!一刻も早く森二尉を収容しないと!放射させて下さい!』

「相手も同じ日本人だぞ・・・同じ民族で、殺しあわねばならんのか・・・・!」

 

佐竹の焦る声がCICに響く、それだけ事態は不味いことが分かる。

だが、角松は指示を下せなかった。

彼の海上自衛官としての超えてはならないラインは勿論、同じ日本人同士が戦い、血を流すことは認められなかった。

そこに若い曹の自衛官が角松に意見を言った。

 

「副長、この艦は自分たちにとっての国と同じ、攻撃されたら反撃は当然です、攻撃命令を!」

 

部下に言われても未だ角松は迷っていた。

その時、霧先があることを思い出す。

 

「フロートだ・・・!」

「フロート?」

「フロートを破壊することが出来れば、二式水戦はバランスを崩し戦闘を継続できません。更に、あのタイプの水戦はフロート内に燃料タンクがあって、破壊されれば例えバランスを保っても航続距離は落ち、本艦までの追跡は不能になります。」

「本当か?」

「あくまで、あの水戦が第二次大戦の頃と同じだったらです、しかし、今はそれしか手段はありません!」

 

霧先の意見、それは二式水戦のフロートを破壊することだった。

霧先の言葉を聞いた角松は佐竹に指示を出した。

 

「・・・シーフォール、発砲を許可する、但し照準は目標のフロート部のみだ、佐竹お前ならできるはずだ。」

『副長、それは攻撃命令ですか?』

「そうだ、攻撃命令だ。」

『ですが、実戦での射撃は初めてです、フロート以外にも着弾する可能性が・・・。』

「それは認めん!お前の腕を信じている。」

 

事実、飛行する航空機の一部を打ち落とすのは相当な技術を要する。

更に、今回の二式水戦は大戦時の機体、確実に当たるかは佐竹の腕にかかっていた。

佐竹も覚悟を決めて行動に移った。

 

「了解!バルカン砲アイリンクシステム接続!」

 

佐竹は機器を操作し戦闘態勢に入った。

アイリンクシステムと呼ばれる操縦者の目線で火器が動くシステムを起動し、稼働を確認する。

 

「接続確認!」

 

接続を確認した佐竹は二式水戦に攻撃する手段を窺った。

「みらい」CICでは霧先がみらいの発艦させた海鳥に命令を出した。

 

「シーフォールセカンド、聞こえましたね?今回の攻撃はあくまで自衛権の行使です、目標はフロート部のみ!」

「了解、これよりシーフォールの援護に回ります!」

 

海鳥が佐竹らの援護に向かうが間に合うかどうかは怪しい。

その間にも二式水戦は機銃を撃つ準備を進めていた。

 

「射線確保!よし、いつでも撃てるわ!」

 

妖精はこの時明らかに慢心していた、いつも通り相手を落とせると。

そして、その慢心が命取りとなる。

 

「プロペラピッチ改変!ティルト変更60度!・・・80度!」

 

佐竹の操作によって海鳥の翼が徐々に折れていく。

そんなことを考えもしない妖精は引き金を引こうとする。

 

「止めよ!」

 

しかし妖精が発砲しようとしたとき海鳥が視界から消えた。

これは妖精の慢心の所為だった。

 

「き、えた!?下に!?急降下で逃げたの?いない・・・どこ・・・!」

 

妖精が海鳥を探すがどこにも見当たらない。

その時、妖精の乗る二式水戦に影が掛かり、おかしいと思った妖精が後ろを振り向くと、前にいたはずの海鳥が翼の折れた状態で太陽を背にしながら自分たちを狙って居た。

 

「よくも森を・・・!」

 

佐竹はバッチリと標的を定めていた。

 

「目標一機をロックオン、ファイア!」

「うわああ!」

 

佐竹の声と共に、海鳥に装備されたバルカン砲が無数の弾を吐き出す。

それは正確に二式水戦の機体とフロートを繋ぐ部分に命中し、破壊することに成功した。

妖精の乗る二式水戦はフロートが外れ、飛行が不安定になった。

 

「ダメ!バランスが取れない!」

 

何とかバランスを取ろうとするがそれはタダの悪あがき。

結局妖精の乗る二式水戦は海にあっけなく墜落した。

佐竹がもう一機の二式水戦を追っていると小さな海鳥が合流した。

 

『こちら海鳥パイロット妖精!佐竹一尉、後の一機は私達に任せて早く「みらい」に!』

「・・・誰だか知らんが恩に着る、後は任せたぞ!」

『了解!』

 

交信を行った後、佐竹の乗る海鳥はみらいに進路を変える。

パイロット妖精の乗る海鳥は、佐竹に代わって二式水戦を追いかけた。

 

「先輩の仇を取ってやるわよ!」

「了解!目標ロックオン!」

「ファイア!」

 

もう一人の妖精の乗る二式水戦は海鳥の発砲による被弾でフロートが外れ、フロートは空中で爆発した。

その後、フラフラとよろめきながら水面に墜落した。

 

「何なのよ・・・あの機体は・・・。」

 

妖精が操縦席から出てくると丁度海鳥が此方に向かってきていた。

 

「化け物め!」

 

そう言う妖精の上を海鳥は最大速力で飛び去って行った。

 

「よし、帰還するわよ。」

「了解・・・森二尉は大丈夫でしょうか?」

「今まで自衛隊には戦死者なんて一人もいない、そしてこれからもよ。」

 

射手妖精にそう言ったパイロット妖精は「みらい」CICへと通信を入れた。

 

『フォーチュンインスペクター、シーフォールセカンド、目標二機とも洋上不時着、パイロットの生存を確認!報告終了。』

「医療班待機!」

 

パイロット妖精からの報告を受けた角松はすぐに医療班を手配した。

こうして海上自衛隊と日本国海軍の航空機による戦いは海上自衛隊側の勝利として終わった。

それから数時間たった「みらい」医務室では霧先が桃井一尉を訪ねていた。

 

「桃井一尉、森二尉は?」

「大丈夫、致命的な場所は当たっていないわ、ただ感染症が心配ね。」

「奇跡ですね、今回は。」

「今回?」

 

桃井は霧先の言葉に疑問符を浮かべる。

霧先は桃井に説明した。

 

「相手はかなり警戒しています、近いうちに再び戦闘がおこる可能性があります。」

「・・・被害が出ると?」

「少なくともイージス艦と言っても完全無欠ではありません、操作する者の隙があれば反撃は必ずうけます。」

 

霧先の言葉は、かつて「みらい」が受けた攻撃のことを言っていた。

だがそれを知らない桃井は、霧先の的を終えたような発言に納得していた。

 

「そうならないことを望むわ。」

「自分はこれで、会議があるので。」

「分かったわ、気を付けて。」

 

そういって霧先は医務室を後にしてブリーフィングルームへ向かった。

霧先がブリーフィングルームに到着すると、今回の作戦の反省と今後の行動の計画の為「みらい」の幹部自衛官と、艦娘達が既に集まっていた。

霧先は書類を手に、空いている席へと座る。

全員が集まったことを確認した角松が仕切り、会議が始まった。

 

「これより横須賀近海に置いての作戦行動の結果会議を行う。霧先一佐、報告を。」

「分りました、被害の方は海鳥の各所の鋲が戦闘中に紛失、フレームに歪み多数、森二尉が意識不明、しかし命に別条はないとのことです。」

「森二尉が負傷か・・・・。」

 

霧先の報告に尾栗はため息交じりに呟いた。

不安そうな尾栗に霧先が補足を加えた。

 

「あの時シーフォールセカンドの到着が少しでも遅れていたら戦闘は継続され森二尉は助からなかったそうです。」

「危機一髪か。」

「えぇ、内臓に被弾していなかったのも功を奏したようです、報告は以上です。」

 

霧先の報告を聞いた角松は長門に視線を移す。

長門は特にこれと言って動揺している様子も無く、腕を組んだまま報告を静かに聞いていた。

角松はそんな様子の長門に問いかけた。

 

「さて、長門、貴様は日本海軍が先制攻撃はしないと言ってきたが・・・・この状況はどう説明する?」

「恐らく提督は命令していない、艦娘の誰かが動かしたと推測している。」

「そんな言い訳が通るか!お前の言っていたことは嘘なんじゃないのか?」

「嘘は付かない、第一嘘をついて私に得があるか?」

「・・・・。」

 

角松は長門の言葉に納得はしていた。

周りを固められている以上、長門らが嘘をついて自分たちに損害を与えたとしても、袋叩き似合うことは分り切ったことだ。

だが、角松は長門たちへの疑惑が払拭できていなかった。

 

「副長、まずは今後の作戦を考えるべきでは?」

「・・・・そうだな、何か案があるものはあるか?」

 

会議が停滞すると考えた菊池の提案によって、角松は長門への疑惑を置いて案を募った。

殆どの物が黙り込む中、霧先が手を挙げた。

 

「あります。」

「どういう案だ?」

 

角松が聞くと、霧先は用意されているホワイトボードに近づき、貼られている地図を用いて説明し始めた。

 

「まず、僕たちの乗る「みらい」で横須賀湾内に進行。そこから僕と第一、第二艦隊の誰か一名と共に内火艇で横須賀鎮守府に上陸、横須賀鎮守府最高司令官と交渉を行います。また自衛のため9mm拳銃、64式小銃を携行します。」

 

霧先の言葉を聞いた尾栗は、驚いて立ち上がった。

 

「進行って、それじゃあ相手の思うつぼだ!瑞鶴みたいにマリアナの七面鳥撃ちだぞ!」

「航海長さん!誰が七面鳥ですって!」

「瑞鶴さん、少し静かにしていてください・・・・。」

「アッハイ・・・・。」

 

尾栗の言葉に反応した瑞鶴が怒り出す。

だがそれを霧先が少し怒気を交えた言葉で制すると、やっぱり神通の子供だであることを感じ取った瑞鶴は静かに引き下がった。

みらいも、周りにばれない程度には霧先の怒気に怯えていた。

瑞鶴が座ったことを確認した霧先は、尾栗の言葉に答えた。

 

「進行して攻撃されることは見えています。しかし、行動しなければいつまでたっても平行線、燃料も食料もつきかけています。更にいえば僕たちの乗る「みらい」は全員で15人、被弾しても被害は最小限に抑えられます。」

「それでもだ、相手は必ず攻撃を仕掛けてくる。その時どうするつもりだ?」

 

霧先は淡々と尾栗に説明した。

だが、菊池は納得できず、霧先に聞く。

 

「護衛艦の艦長を務めている以上、搭乗員の人命と日本国民である艦娘の皆さんを護るために自衛隊法第95条を適応します。」

 

霧先の言葉に自衛隊員らが驚いている中、艦娘たちは疑問符を浮かべていた。

当然、彼女たちが自衛隊法を知るわけがない。

 

「じえいたいほう?」

「自衛隊の行動について書かれた法律の事だ、95条ってことは武器使用か?」

 

蒼龍に尾栗が説明した。

95条が何であるかも素早く答えると、霧先は頷いた。

 

「だが、それは・・・・。」

「これは自衛官に適応する法律です、そこで「みらいさんは護衛艦である」つまり彼女自身は自衛官であると僕は思います。」

 

角松が言う前に霧先は打開策を持ち出した。

自衛官ではない霧先が、この法律を使うことは出来ない。

しかし、自衛艦であるみらいならば可能と彼は考えた。

 

「自衛隊法第95条、自衛官は、自衛隊の武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備又は液体燃料を職務上警護するに当たり、人又は武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備若しくは液体燃料を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第36条又は第37条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。刑法第36条又は第37条に該当する場合は「正当防衛」と「緊急避難」の事です、例えばみらいさんに明らかに敵意を持った駆逐艦や99式艦爆が砲撃や爆撃をしようとした場合ハープーンで弾薬庫を吹き飛ばして沈めても、シースパロ―で迎撃してもそれは自衛隊法第95条、更に日本国民を守るための自衛隊としての自衛権の行使になり合法になります。」

「えっと・・・?」

 

長すぎる法律を電は必死に理解しようとするが出来なかった。

それを見た霧先が、端的な言葉を使って意味を説明した。

 

「簡単に言えば攻撃してくる艦娘に対して警告しても無視してきた場合、自衛官は銃で頭を撃ち抜いて殺害しようがハープーンで沈めようが艦載機を撃ちおとそうが法には触れないのです。」

「それでは死者が!」

 

加賀の言葉に霧先は頷く。

そして言葉を続けた。

 

「それは承知の上です。ですが、もう僕たちに選ぶ道はこの世界は残してはくれていません。どこでも戦いが起こっている世界で綺麗な手でいることはできない。いつかはその手も汚れる。遅かれ早かれその事実は戦闘艦に乗って、武力を保持している限り、僕たちに起こりうることなんです。」

 

霧先の言葉を聞いた加賀は黙り込む。

彼の言う通り、強大な武力を持つものが生き残るためには、その力を使うしかないということは加賀も分っていた。

内容を聞いた梅津は霧先に尋ねた。

 

「・・・・・霧先艦長、その作戦、被害はどうなる?」

「相手が正規空母で40機を発艦させたとして・・・みらいさんの過去の戦闘から考えると、ECM、主砲、SPY-1レーダーに損傷、艦橋左舷と士官室で火災、この艦と同じ数の隊員が同じ配置にいたとして負傷者12名、死者5名・・・・そしてトマホークによる攻撃で敵正規空母が轟沈です。」

「・・・・・代償か。」

 

梅津は呟くと指を絡め、肘を机について溜息をついた。

 

「敵を葬ることに躊躇した当時の砲雷長のまねいた結果だそうです。」

「その当時の砲雷長とは?」

 

菊池に問われた霧先は少し眉に皺を寄せた後、答える。

 

「・・・・・それはまだ話せません、しかしやってみる価値はあります。」

「そんなに横須賀に行きたいのか?」

 

尾栗に聞かれ、霧先は少し思案する。

そして今はなすべきと考え、訳を説明した。

 

「・・・・実は詳細は言えませんが僕の母さんはこの横須賀にいます。」

 

艦娘たちを除く自衛官全員が霧先の言葉に耳を疑った。

霧先も異世界から来たというのに母親がこの世界にいる、それは大きな矛盾を招いたからだ。

 

「僕は8歳の時に父親を殺され、母さんの顔を知らずに生きてきました。その母さんが横須賀にいる、それだけで会いたいという気持ちが溢れてきました。しかし、僕は臨時とはいえイージス艦の艦長、おいそれと独断行動は出来ません。ですから、何としてでもこの作戦と交渉を成功したいのです。」

「・・・仕方あるまい、我々も手負いの状態、長期戦は不可能だ、補給も必要、ならばその作戦にかけて見ようじゃないか。」

「という事は・・・・。」

「霧先艦長の作戦を実行する、作戦開始は明朝0700!以上!」

「了解しました!」

 

梅津の決定に全員が応答し、作戦は決定された。

梅津自身、阪神淡路大震災で母親や父親を亡くした子供を見てきた。

それに自分も子持ちである以上、霧先に感化されたのだろう。

こうして、海上自衛隊がのちの横須賀沖海戦と呼ばれる開戦に出る運びとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、これが霧先の歩む道を決めることになるとはだれも予想していなかったのだった。




予告詐欺しちゃいました。
次回は必ず開戦します。
では、次回予告

みらい「艦長の作戦で横須賀港で戦闘をすることになった私たち、だが攻撃は私たちを襲う、そしてあの大和が・・・・。
次回「第拾弐戦目「開戦!横須賀沖海戦」」
それでは次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!


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第拾弐戦目「開戦!横須賀沖海戦」

「みらい」ブリーフィングルーム

会議後

 

菊池「霧先、少し話がしたい。」

友成「分かりました、みらいさん先に甲板に行っていてください。」

みらい「了解しました。」

 

みらいさんは敬礼をしてブリーフィングルームから出て行き、残ったのは角松二佐、尾栗三佐、菊池三佐と僕だけだ。

 

友成「話とは?」

菊池「まぁ、座ってくれ。」

友成「失礼します。」

 

菊池三佐に促され僕は椅子に座った。

 

菊池「話と言うのは今回の作戦・・・・いや、これはもう博打に近い、なぜこんな賭けをしようと思ったんだ?」

友成「さっきも話した通り、補給と入港を早急に行うためです。」

菊池「その後は考えていないのか!?」

尾栗「おい、雅行、相手はまだ高校生だ、あまり「いいんです」霧先・・・」

 

友成「僕は「みらい」の臨時艦長であるという自覚は持っています。」

菊池「なら何故この作戦を立案した!尾栗にも言ったが、この世界は別の世界、平行世界だ。だが好き勝手に歴史を書き換えていいわけじゃない、伊168や武蔵の件もある、我々は平行世界であっても歴史に名を残すようなことをしてはいけない、何故なら我々は自衛隊だからだ!

歴史に関与すると兵器についても知られる、この戦争が終わったとき自分達の持つ兵器が人間同士の争いを激化させ再び世界大戦が起こってしまう、そういう歴史に危険性を産み出す可能性があるんだ!」

友成「菊池三佐のいう事はよくわかります。」

菊池「日本海軍に拿捕され、「みらい」を悪用される危険性もか?」

友成「もちろんです、ボタン一つ押すだけで歴史が変わり、命が消えていく、その危険性は十分に理解しています、ですが僕はある程度、横須賀鎮守府に対して発言権があります。」

角松「発言権?なんだそれは。」

友成「僕の母は艦娘の川内型軽巡洋艦二番艦「神通」です。」

菊池「「華の二水戦」と言われた神通か?」

友成「はい、元々横須賀鎮守府に所属していたため僕が発言することは出来るという判断になりました。」

角松「だが、それでも必ず成功するとは限らんぞ。」

友成「犠牲になるのは最大でも銃を二丁持った高校生です、僕は貴方達を元の世界に必ず返したいんです。」

尾栗「だがお前が犠牲になる必要はないだろう?」

友成「尾栗三佐、僕が死ぬのが認められないのならあなた方に約束します、たとえ四肢がなくなろうとも僕は必ず再びこの艦に戻ってきます!」

角松「・・・・言質はとった、覚悟はあるんだな?」

友成「「みらい」臨時艦長の名に懸けて。」

角松「必ず帰ってこい、以上だ。」

友成「了解、角松二佐、尾栗三佐、菊池三佐、失礼します。」

 

僕は敬礼をしてブリーフィングルームから出て急いでヘリ甲板に向かった。

 

菊池「いいのか洋介。」

角松「あいつなら大丈夫だ、自信は無いがな。」

尾栗「お前らしくもないな、だが俺もそう思う、アイツはこの海で一番あの「みらい」にふさわしいヤツだぜ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

午前5時

「みらい」艦長室

 

僕は今、艦長室で作戦を練った後、使用するコードの表を作っていた。

友成「・・・・よし、出来たぞ。」

 

コンコン

 

誰だろう・・・。

 

友成「?・・・どうぞ。」

みらい「失礼します。」

友成「みらいさん、丁度良かったこれを。」

みらい「これは?」

友成「今回の作戦で使用するコードの表、出来るだけ覚えておいてください。」

みらい「分かりました・・・あの、艦長。」

友成「どうかしましたか?」

みらい「いえ、どうして艦長は敬語なんですか?」

友成「それは・・・癖と言うか・・・。」

みらい「そうなんですか、出来たら私と話すときは敬語でなく普通に話してください。」

友成「分かりまし・・・分かった、みらい。」

みらい「ありがとうございます。」

友成「・・・・・海戦か。」

みらい「艦長、もしかしたら「あの時」のように損傷を負う可能性があります、その時は・・・・。」

友成「僕は戦争をしたことが無い、けど君は知っている。」

みらい「ですが・・・。」

友成「自信をもって、みらいなら必ず守れる。「イージス」だからね。」

 

僕はみらいの肩を持って目を見つめながら言った。

 

みらい「艦長・・・。」

友成「例え被弾しても、誰も死者は出さない、この艦の艦長として、だから安心して。」

みらい「分かりました!みらい、必ず作戦を成功させます!」

友成「うん、やっぱりみらいは笑顔が一番綺麗だよ。」

みらい「あ、き、綺麗・・・・あうぅぅぅ。」////

 

 

午前7時

「みらい」艦橋

 

みらい「マルナナマルマル・・・艦長、時間です。」

友成「・・・みらい、敵艦隊は?」

みらい「距離20000、艦影6隻確認!」

友成「警告文を、内容は・・・・。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

木曾「!この内容は!」

大和「どうしたんですか?」

木曾「警告文だ、『本艦は貴艦隊及び日本国海軍に敵対するものではない、貴艦隊の早急なる撤退と本艦の指揮官と保護した者一名の上陸を認められたし、もし本艦に攻撃した場合は自衛権を行使し貴艦隊にサジタリウスの矢が降り注ぐ、この矢は決して外れることの無い神の矢である、貴艦隊、もしくは鎮守府に大和型戦艦一番艦「大和」がいるのなら聞いてみるといい、「みらい」という艦がいるのかと、そうすれば真実は分かる。』以上だ。」

大井「「みらい」?聞き慣れない名前ね。」

北上「まー私達にはかなわないよね~。」

大井「流石北上さん!」

 

「みらい」?まさか・・・!貴方だというの!?そんな馬鹿な!?

 

飛龍「大和さん大丈夫ですか?」

大和「・・・北上さん、あなた「みらい」に勝てると言いましたね?」

北上「ん~?まぁ、開幕魚雷で大丈夫でしょ~?」

大和「「みらい」は貴方達では勝てません!」

 

装備と覚悟があれば負けるのは・・・・。

 

飛龍「え?大和さん知っているんですか?」

大和「「みらい」はかつて私と戦い共に沈んだ艦です、私でも苦戦した艦に勝つには相当な戦力が必要です。」

島風「なら私がすぐに倒してあげるよー!」

大和「まちなさい!っ・・・飛龍さん、偵察機を!」

飛龍「了解!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

みらい「敵艦一隻、本艦に接近中!」

友成「戦艦クラスに注意!対水上戦闘よーい!」

みらい「対水上戦闘よーい!」

 

みらい「艦長、ECMによる電子戦を具申します。」

友成「電子戦は航空機が出て来てからです。」

みらい「了解です。」

 

艦橋内が騒がしくなる、艦娘の皆さんは初の船員としての実戦でもある。

相手を見極めることが戦場では重視される。

まずは敵艦が誰なのかを知る必要がある。

 

友成「敵艦の速力は?」

みらい「速力40ノット!」

友成「主砲よーい!」

みらい「了解!主砲よーい!」

 

相手は島風だろう、だったら開幕魚雷の可能性が高い。

 

友成「最大戦速」

みらい「最大戦速!よ~そろ~!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

島風「敵巡洋艦は30ノットで航行中、おっそーい!」

提督『島風、待て!敵は素性が分からんやつだぞ!』

島風「大丈夫だよ!島風には追いつけないよ!」

 

私に追いつける艦はいない、それに敵の主砲弾なんて軽く躱せる。

 

島風「敵艦補足!魚雷発射!」

 

 

 

みらい「!魚雷聴知、本艦艦首、雷速52ノット、距離8000、放射状に来ます!」

友成「面舵一杯!」

みらい「面舵一杯!」

 

僕の指示で「みらい」は面舵最大速力で魚雷をよけようとする。

 

 

 

島風「何?あの機動性!」

 

一方島風は「みらい」の機動性に目を回していた。

 

 

みらい「魚雷、本艦まで距離3000!」

友成「取舵一杯!」

みらい「了解!取舵一杯」

武蔵「何をする気だ!?」

長門「いいから、黙っていろ!」

 

島風の放った魚雷はギリギリ艦首を境に左右に分かれて離れていった。

警告はした、それでも攻撃してきたのだからやることは一つだ。

 

みらい「島風、敵判定!」

友成「主砲、撃ちぃ方ぁ始めぇ!」

みらい「トラックナンバー2548!島風!主砲、撃ちぃ方ぁ始めぇ!」

 

ドオォォン ドオォォン ドオォォン

 

僕の指示と同時に主砲から127mm弾が発射され島風に3発被弾する。

 

みらい「島風、機関停止!脅威度無し!」

友成「主砲、撃ちぃ方ぁ止めぇ!蒼龍、頼む!」

 

主砲の発射を止め、ヘリ甲板にいる蒼龍に連絡する。

 

蒼龍『了解!島風ちゃんは保護するよ。』

 

数分後、島風は大破状態で「みらい」に保護された。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

飛龍「・・・偵察機より入電、島風大破、敵艦に収容されました。」

大和「・・・・やはり。」

木曾「収容?あいつら何する気だ!」

北上「もう、突貫しちゃうか?」

 

「みらい」貴方なら出来るはず・・・なら!

 

大和「みなさん、私が攻撃します。」

木曾「おぉ!なら心強い!」

大和「但し、私の攻撃が止められた場合には降伏します。」

飛龍「何でですか!?」

大和「お願いです!」

 

私は必死の思いで頭を下げた。

 

飛龍「・・・・分かりました、皆もいい?」

木曾「大和さんに頭下げられちゃあな・・・。」

大和「ありがとうございます・・・・。」

 

私は皆さんに悟られないように通信を入れる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

大和『みらい?私の声が聞こえる?』

 

突然艦内に聞こえて来た声、間違いない大和さんだ!

 

友成「みなさん静かに。」

 

みらい「大和!?貴方なの!?」

大和『えぇ、久しぶりね、みらい。』

みらい「何故、警告文に従わなかったの!?」

大和『仲間が突発的に動いてしまったの・・・。』

みらい「お願い撤退して、攻撃しないで、そうすれば誰も怪我をしない!」

大和『なら、願いを聞いて、みらい、貴方ならできることよ。」

みらい「私なら・・・・・できること?」

大和『そう、ガダルカナルの時のように主砲を撃ちおとして欲しいの、そうすれば提督に撤退を進言できる。』

みらい「でも・・・。」

 

「あの」シーンの再現か・・・責任重大だな。

 

友成「みらい、無線を。」

みらい「はい。」

友成「大和さん、自分はみらいの臨時艦長を務めている霧先友成と言うものです、今のはすべて聞かせて頂きました。」

大和『霧先艦長、お願いです、この案を呑んでくれませんか?』

友成「分かりました、但し、貴方も全力で来ること、そうでなければ怪しまれます良いですね?」

大和『ご決断感謝します、通信を切ります。』

 

ブツッという音の後艦橋内に静寂が漂う。

 

友成「みらい、頼む、君だけが頼りだ。」

みらい「艦長・・・分かりました、私が必ず守ります!」

友成「よし・・・対水上戦闘用意!」

みらい「了解、対水上戦闘用意!」

友成「イルミネーター、スタンバイ!発砲の瞬間を見逃すな」

 

 

 

大和「みらい、貴方は良い艦長を持ったのね・・・主砲用意!目標「みらい」!撃ち方始め!撃てぇ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

みらい「出ました!大和発砲!」

友成「いくつだ!九つか!」

みらい「いえ、3です!」

友成「よし、シースパロー発射!」

みらい「後部VLSシースパロー発射サルボー!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

バシュュュウゥゥゥ バシュュュウゥゥゥ

 

2発のスタンダードが大和の主砲弾を迎撃するためにVLSから発射された。

 

 

 

みらい「シースパロー着弾まで5秒!4、3、2、1、マークインターセプト!」

 

ドゴォォォォォン!!!

 

みらいの声と共に大きな爆発が空中で起こる

 

みらい「目標全弾撃墜しました!迎撃成功です!」

 

何とか一息つくことが出来た、だが戦闘は継続している。

 

 

 

大和「みらい、ありがとう、これで戦闘を・・・。」

飛龍「大和さん!偵察機より入電!敵艦「みらい」に戦闘機40機が向かっています!」

大和「何ですって!?」

 

みらいが危ない!




また予告詐欺です・・・・すみません。
では次回予告

友成「僕たちに向かう40機の攻撃機、彼女らは問答無用でやってくる。
僕が下すべき決断とは?
次回「第捨参戦目「戦闘と代償」」
次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!」


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第拾参戦目「戦闘と代償」

霧先が指揮する「みらい」は順調に横須賀に向けて航行していた。

実に静かな航海であったが、突如として対空レーダーに反応が出る。

 

「これは!?」

 

滞空レーダーに出た反応を確認したみらいは声をあげて霧先を呼んだ。

 

「艦長!対空レーダーに感あり!数40!」

「一体誰が・・・距離と種類は!?」

「距離5000!種別は・・・三種類います!」

 

霧先も攻撃があるかもしれない事は予期していた。

しかし、誰が発艦させたかは分からない。

霧先は艦橋からの光景と、対空レーダーの光点が現れた地点を艦橋の作業台に置かれた海図に照らし合わせる。

すると丁度、猿島方面から艦載機が発艦していることが判明した。

霧先は一先ず彼らの撤退を望んだ。

艦載機には妖精が乗っていることが判明している以上、武力を振りたくないというのが自衛官でも軍人でもない彼の本心だった。

 

「ダメコン妖精さん、艦載機が破壊された場合乗っている妖精さんはどうなるんですか?」

「たしか重傷は負うけど艦娘の所に強制的に戻されるはず・・・。」

 

ダメコン妖精から聞いた霧先は、猿島方面を眺めた。

迫り来る現実に対し霧先は指示を出した。

 

「みらい、対空戦闘用意・・・・・。」

「・・・・・・了解、対空戦闘用意!」

「ECM、電子戦開始!」

「ECM、電子戦開始!」

 

霧先の決断した指示をみらいは復唱し、対空戦闘の用意とECMを起動する。

一方、猿島方面からやってきた艦載機の編隊は着実に「みらい」へ近づいていた。

「みらい」視認できる距離まで来た九九艦爆の妖精は、遂に「みらい」の航跡を発見した。

 

「右30度に航跡!」

「重巡クラス・・・間違いないわね、奴よ!」

 

指示された攻撃目標の艦であることを確認した隊長機の上を一機の戦闘機が飛んで行く。

その機の操縦士らしき妖精は親指を立てて微笑みながら飛んでいる。

 

「相変わらずね、良いでしょう、先陣は任せたわよ。だけど油断しないで、相手は未知の艦よ。」

 

隊長妖精は仲の良い熟練妖精に先陣を任せることにした。

その事を仲間に伝えようと無線機を稼働させようとするが作動しなかった。

彼女には分かるはずもないが、これは「みらい」のECMによる電子戦・・・ジャミングの影響だった。

それを知らない妖精は仲間へハンドサインを送った。

 

「やっぱり動かないわね・・・。全機、攻撃位置へ!」

「了解!これより雷撃進路につく!高度200メートルにまで降下!」

 

隊長妖精から送られた指示を受け、各九七艦攻の妖精は一気に降下を行い、雷撃準備を整え始める。

戦闘中でなければ、航空ショーと見間違えるほどの一糸乱れぬ行動で九七艦攻たちは降下していった。

だがこれは一方的な戦闘への一歩である。

「みらい」艦橋では、似た戦闘に遭遇したみらいが霧先に意見を具申した。

 

「・・・・・艦長、ここは角松二佐に援護を要請した方が・・・。」

「角松二佐達はダメだ。最悪の場合、向こうに被害が出るかもしれないんだ。」

「それは痛いほど良く分かってます!ですがこちらにはイージスシステムがあります、『あの時』の様になる確率は低い筈です!」

「・・・分かった、試しにリンク16を使用してみて。」

「了解、リンク16起動!」

 

みらいは試しにリンク16を起動してみる。

これこそ現代の戦闘艦の強みであり、相互の情報を共有することで効率的な戦闘が可能となる機器だ。

だが、みらいの期待はあっさりと裏切られた。

リンクするはずのシステムにはただ一文「Error」と表示され、あっさりと失敗が告げられた。

 

「そんな・・・リンク16がエラー!?」

「今いるイージス艦の識別番号は全員「みらい」・・・「みらい」が三つも表示されればエラーを起こすか・・・。」

 

薄々予感していた霧先は溜め息混じりに肩を落とす。

それでも諦めがつかないみらいは、更に霧先へ意見を具申する。

 

「では・・・全自動迎撃モードを!」

「全自動迎撃モードは危険だ、最悪のケースもある。」

 

全自動迎撃モードとは、敵味方選別から射撃までイージスシステムに一任するもので、目標からのIFFと略称される敵味方識別信号が反応しなければ敵と判断し、迎撃するというモードだ。

この時代の航空機には当然そのような反応を示す機器を積んでいる訳がない。

IFF反応がない場合は全機を敵と判断し全滅するか、システムを止めるまで攻撃は止まらない。

だが、霧先が狙っているのは敵の動揺。

此方は数に限りがあるミサイルが主兵装である以上、湯水のごとく使うことは難しい。

 

「未来の技術は・・・恐ろしいな。」

 

長門は状況を見てつぶやいた。

艦娘の面々には事前に全自動迎撃モードについて説明がなされていた。

それを聞いた全員は冷や汗をかいた。

自分達が艦船だった時代は人の手で確率によって奪われていた命がスイッチ1つで確実に消し去られる。

しかも感情を持たない機械によって行われるということに。

彼女達は初めて技術の進歩ほど恐ろしいものはないということに気づかされた。

 

「ですが艦長!」

「僕だってこんな手段は使いたくない!!」

 

霧先の怒鳴り声に全員が驚き、引き気味になる。

自分が感情を表に出しすぎたことに気付いた霧先は静かに言葉を繋げた。

 

「・・・海上自衛隊に所属する護衛艦の臨時艦長として、被害は出来れば避けたい。でも、敵は目の前まで迫ってる上に僕たちの素性を知らない。蒼龍達日本国民を守り、自衛隊として存在するには通らなければならない道なんだ。」

「・・・・今回は仕方がありませんね。指示をお願いします。」

 

霧先の言葉に折れ、覚悟を決めたみらいは指示を仰ぐ。

みらいの覚悟を受け取った霧先は深めに識別帽を被り、指示を述べた。

 

「みらい、モニターにレーダーを表示。」

「了解。」

 

指示を受けたみらいは、艦橋のモニターにレーダーを映す。

レーダーには無数の光点が表示されており、「Enemy 九七艦攻」「Enemy 九九艦爆」「Enemy 零戦」と表記されていた。

これら全てが霧先が相手をすることになる勢力だった。

 

 

 

その頃上空では攻撃隊が動き始めていた。

 

「艦爆隊、隊長機に続け!高度3000まで上昇!」

 

一機が上に上がると続いて複数の戦闘機が後を追うように高度を上げる。

その様子を見た零戦妖精は声を漏らした。

 

「流石、隊長。無線が使えない状況でも一糸乱れぬ飛行だ・・・。敵機が一機もいないんじゃあ戦闘機の出番はないけど、高みの見物と行きますか。重巡一隻に40機、あっという間に海の底でしょうね!」

 

しかし彼女たちは、それが大きな慢心であるということに、すぐ気付く羽目になる。

雷撃を行う艦攻隊と上昇する艦爆隊の様子はレーダーにしっかりと捉えられていた。

 

「80度、7マイル、主砲、短SAM攻撃用意!目標群α、13機、80度、距離5マイルに接近!目標群ブラボー、22機、170度、6マイル!」

 

みらいはCICからの情報を読み上げて準備を行う。

霧先はそれを聞きながら攻撃手段を模索していた。

 

(友成に教えて貰った、同時に128目標を補足、追尾可能なイージスシステム。さっき言ってた、全自動迎撃モードを使ったなら、40機とそのパイロット約80名。影さえ留めないかもしれない・・・。)

 

蒼龍が推察していると、攻撃手段を決めた霧先が、みらいに指示を下し始めた。

 

「ミサイルドーマント、最も近い6機に照準、発射管制は手動で行う。」

「発射管制、手動に変更!」

 

それを聞いた蒼龍は目を見開いた。

 

(手動で・・・6発だけ?・・・いや、これは威嚇?まさか、この世界に存在しない兵器を見せて、相手が動揺しパニックを起こすのを見計らっている?確かにそうすれば相手も下手には手を出せずどちらにも損害は余り出ない。なるほどそれなら!)

 

蒼龍の推察はほぼ当たっていた。

霧先は敵を動揺させ、指揮がままならない状況を作り出そうとしていた。

そうすれば相手も下手には手を出せなくなる。

ただ、蒼龍の考えと違うところは、最低でも30機を撃ち落とすことを考えているところだ。

彼の手は小刻みに震えていた。

 

(これから起こるのは血が流れる戦闘。この艦一隻でどこまでやり合えるか・・・僕はこれから生きているモノ相手に・・・・。)

 

 

 

 

一方、角松らが乗艦するみらいでも、異変は感知されていた。

レーダーを見ていた青梅は声を上げる。

 

「ッ!みらいαに40機接近!」

「何っ!?」

 

青梅からの報告を聞いた菊池は、艦内電話を手に取り、即座に艦橋に報告した。

 

『艦橋、CIC!此方砲雷長!10㎞先のみらいαに敵航空機40機接近!』

「何だと!?何故報告しなかった!?」

『レーダー索敵範囲が届かない位置から発艦したようです。』

 

角松からの問いに菊池は冷静に答えた。

その時、航海長である尾栗はすぐに原因を見つけた。

 

「まさか・・・猿島か!洋介!アイツら、猿島の影に隠れてやがったんだ!」

「猿島か・・・・・艦長、どうしますか?」

 

角松は最高指揮官である梅津に指示を仰ぐ。

指示を求められた梅津は目を閉じて考えた。

そして考えを終えると、静かに一言だけ述べた。

 

「・・・・我々は、霧先艦長を信じるしかあるまい。」

「では・・・このまま待機ですか?」

「航海長、ここは深海棲艦の危険もある。我々は彼を信じてここで待つほかない。」

「了解です・・・。」

 

尾栗は悔しげな声で答えた後、自分の仕事に戻った。

 

(霧先、みらい・・・無事でいてくれ・・・。)

 

外を双眼鏡で見ていた角松は、祈ることしかできなかった。

その頃、九七艦攻隊は「みらい」へ、雷撃進路をとっていた。

 

「全機!突入進路確保!攻撃地点まで5マイル!」

 

九七艦攻隊が海面まで近づき「みらい」に向かってくる。

だが「みらい」は既に戦闘準備を終えており、その向かってくる編隊の内の一機に主砲が向けられる。

 

「たかが一門の砲で何が出来るの?」

 

妖精達は完全に慢心していた。

その艦がこの世界ではあり得ない存在であるという事を知らないせいで。

だが、その艦の存在を知るときにはもう遅かった。

 

「右対空戦闘、CIC指示の目標、撃ちぃ方ぁ始めぇ!」

「トラックナンバー2636、主砲、撃ちぃ方ぁ始めぇ!」

 

重厚な音を立てて、127㎜主砲から発射された主砲弾は、一機に吸い込まれるように着弾し、九七艦攻を木端微塵にした。

 

「っ!」

 

それだけでは終わらず、「みらい」の主砲は射撃管制装置によって次々と照準を定めて撃墜していく。

九七艦攻妖精は、主砲弾を目視するも避けきることが出来ない。

それ故、なされるがままに被弾し、粉砕されてしまった。

 

「トラックナンバー2636から2638撃墜!新たな目標、210度!」

 

右舷側のレーダー上に表示された光点が消えると、主砲が旋回し、反対側の敵を持ち前の連射速度と命中精度で一掃する。

次々と攻撃機の残骸が海に浮かび、CICの対空レーダーから「Enemy 九七艦攻」と表示された光点が消えていく。

 

「っ!!」

 

妖精たちは確信してしまった。

自分たちが戦っているのは唯の敵では無い、恐ろしい悪魔なのだと。

 

「隊長!九七艦攻隊がぁ!」

「えっ?」

 

後部座席の妖精に声をかけられて、隊長妖精が下にいるはずの九七艦攻隊に視線を移した。

しかし、さっきまでいた九七艦攻隊はそこにはおらず、黒煙と残骸になり果てていた。

そしてその中心では「みらい」が白い航跡を描きながら優々と航海していた。

 

「!?」

「くっ!」

 

その光景が目に飛び込んだ熟練妖精率いる九九艦爆隊は「みらい」に一斉攻撃をかけようと急降下をする。

 

「ッ!待って!」

 

そんな声が届くはずもなく、熟練妖精達は一直線に「みらい」へ降下する。

その一連の動きは「みらい」のレーダーに捉えられていた。

 

「トラックナンバー2656、さらに接近!」

「シースパロー発射はじめ!Salvo!」

 

霧先の指示で、後部VLSから噴煙が上がり、対空ミサイル「シースパロ―」が敵機に飛翔する。

レーダーでは「Enemy 九九艦爆」と書かれた光点にシースパローが近づいていく。

 

「うっくっ・・・!?」

 

無慈悲にもシースパロ―は熟練妖精が乗る九九艦爆に一直線に飛んで行き、熟練妖精諸共、九九艦爆を爆散させた。

 

「うわぁぁ!な、何が起こっているの!?」

 

熟練妖精を追いかけていた、隊長妖精は煙の中を突き進み煙の外に出る。

そしてダメージの確認を即座に行った。

 

「どう、機体にダメージは?」

「大丈夫です隊長!銃座も身体もピンピンしています!」

「よし・・・ッ!!」

 

隊長妖精は安堵するも、目前に来たシースパローに驚き、何とか躱す。

しかし、シースパロ―が狙って居たのは隊長妖精の九九艦爆では無く、後ろの九九艦爆だった。

 

「振り切れぇぇ!!」

 

隊長妖精の願いは叶わなかった。

普段、訓練でいい成績を出してきた大鳳航空隊は、一機、二機、三機と次々あっけなく撃墜されていく。

中には躱して、逃げ切ろうとする者がいたが奮闘するだけ悪あがき。

最終的に機体と共に撃墜される運命にある。

シースパローは音速を越える戦闘機やミサイルを迎撃するために設計、開発、運用されている兵器。

たかがレシプロ機が回避することなど到底不可能であった。

あっという間に攻撃隊は撃墜されていき、数十秒後には空に無数の黒煙が出来上がっていた。

 

(何なのあの重巡洋艦は!?・・・このハリネズミめ・・・こいつに通常の攻撃は効かないわ・・・そうだ!これなら!)

 

隊長妖精にある考えが浮かぶ。

だが、それは危険が及ぶため、一人で行う博打に近い戦法だった。

だが今はそれしか方法がないため、後部座席の妖精に声をかける。

 

「ねぇ、今までの戦闘では何度もあなたに助けられたわね・・・。」

「はい!」

「脱出しないさい!」

「えっ、どうしてですか!」

「前を見なさい!」

 

後部座席の妖精が正面をよく見てみると、機体からオイルが漏れていた。

これでは油圧が低下し、大鳳まで戻ることは出来なさそうであった。

 

「オイル漏れよ、油圧が下がっている!」

「ッ!」

「残念だけど、大鳳さんの所までは戻れそうにない、今ならヤツの攻撃がやんでいる・・・脱出の時は尾翼に気を付けて!」

「隊長は・・・どうするんです!?まさか!?」

「心配しないで、まだ死ぬつもりはないわ、だけど、こいつは奥の手を隠し持っている、奴の情報を持ち帰ることが今後の戦闘を大きく変えるのよ!」

 

隊長妖精は心配する後部座席の妖精に自分に死ぬつもりはないことを伝えると、今回の戦闘の重要性を告げた。

それを聞いた後部座席の妖精は口を閉じ切ってしまった。

その時「みらい」では撃墜報告がなされていた。

 

「目標群ブラボー、14機撃墜確認、目標群エコー6機撃墜!目標群ブラボー、散開します、45度から3機、330度から2機、170度から3機接近!」

 

みらいからの報告を聞いた霧先は頭の中で考えを巡らせていた。

 

(戦闘開始から一分で彼らは部隊の半数を失った。一部パニックになってはいるが、統制は取れている・・・・やはり経験では勝てないか・・・。)

 

相手との練度の差に限界を感じていた霧先は次の一手をどうするかだけを考えていた。

だが、戦場ではそれが命とりとなる。

 

「トラックナンバー2667、急接近!」

(まずい!一瞬の隙を!)

「友成さん!航空機が右60度20より真っ直ぐ突っ込んでくるのです!」

 

霧先の一瞬の隙を狙い、隊長妖精の九九艦爆が「みらい」めがけて突っ込んできた。

軍人ではない霧先の隙が、敵に勝機をもたらしたのだ。

 

「隊長!先に行きます!」

「えぇ、後でね!」

「くっ!」

 

後部座席の妖精はコックピットから飛び出てパラシュートを使って脱出した。

そして隊長妖精は九九艦爆の速度を上げて「みらい」に向かった。

 

(シースパロ―はもう間に合わない・・・。)

 

シースパローが間に合わないことを悟った霧先は最終防衛火器であるCIWSを使うことを決定した。

 

「CIWS!AAWオート!」

 

霧先の指示が下ると、射程に入った九九艦爆にCIWSが銃口を向ける。

 

「距離1500・・・照準よし!これでも喰らっていなさい!」

 

同時に隊長妖精の九九艦爆からも、爆弾が投下された。

CIWSは、それを迎撃する為に発砲するが、的が小さく中々当たらない。

体に響くようなCIWSの発砲音が響き渡る艦内で、霧先は悟った。

 

『完璧な計画ではなかった・・・僕の経験不足と妖精の乗る艦載機への攻撃の躊躇。それがこの事態を生み出した。僕の肉体は・・・戦闘を理解していなかった!!』

 

ファランクスはやっと爆弾を迎撃したが、艦橋に近すぎた。

 

「わぁあぁ!!」

 

艦内にいた艦娘と妖精達は爆風による振動で転げまわり、霧先は羅針盤に手をつかんで振動に耐えた。

爆炎から脱したのを確認すると、霧先は被害状況を聞いた。

 

「みらい、艦内各部の損傷は!?」

「ッ!左舷SPYレーダー故障!」

 

問題はさらに起こった。

 

「敵機直上!急降下!」

「っ!」

 

上空にはまだ九九艦爆が残っていた。

その艦爆の搭乗員である隊長妖精は、機内で最後の調整をしていた。

 

「突入角度80度・・・経験のないこの角度で私は・・・まだ、正気よ!この化け物め・・・お前のうめきを聞かせてみなさい!」

 

隊長妖精は引き金を引き、機銃を「みらい」に浴びせる。

だが銃弾は、艦橋や暴風窓に被弾し、かすかに損傷を与えるだけだった。

 

「引き起こさないの!?」

 

空母である赤城は、この距離になっても機体を引き起こさないことに驚愕していた。

同時に霧先も相手の攻撃を悟り、回避行動を指示した。

 

「面舵いっぱーい!右停止、左一杯急げ!総員艦橋から撤退!」

「面舵いっぱーい!」

 

霧先の指示で、「みらい」は急速に面舵を取った。

隊長妖精の博打に近い攻撃手段、それは機体を「みらい」の艦橋にぶつけるという特攻に近い形だった。

 

「総員撤退!」

 

みらいの掛け声とともに全員が艦橋から出て行く。

だがその時更に問題が起こった。

 

「翔鶴姉?翔鶴姉は!?」

「まだ艦橋に!?翔鶴さん!」

 

瑞鶴が、姉である翔鶴を探すが姿が見当たらない。

艦橋に取り残されていると瞬時に考えた霧先は、艦橋に取り残された翔鶴を助けるべく、艦橋内へと引き返した。

 

「艦長!待って!」

 

みらいは艦橋に引き返す霧先を止めようとするが、加賀に腕を掴まれて止められた。

みらいは振り払おうとするが、加賀も離すまいと力を込めて引き留める。

 

「加賀さん、離してください!」

「駄目よ、この艦を操作しているのは貴方!貴方が死んだら誰がこの艦を操作するの!」

「でも、艦長が!」

 

みらいと加賀が言い争っている最中でも、九九艦爆は近づいていた。

 

「日本軍にこんなパイロットが!?」

 

霧先は艦橋左舷で動けなくっている翔鶴の元に駆け寄る。

一方、隊長妖精は「みらい」に衝突するように機体を保たせてから脱出していた。

再び霧先は戦闘を理解することになった。

 

 

『恐怖、怒り、感情に支配された時、人は戦いに敗れる、だが敵を倒さなければ、自らが倒される。』

 

 

「あ、あぁ・・・。」

「翔鶴さん!この鉄帽を!」

 

霧先は翔鶴に鉄帽を被せ顎紐をつけた。

CIWSは九九艦爆を迎撃しようとするが、それは出来なかった。

 

 

『単純で明白な事実を、僕は。』

 

 

「艦長!」

「翔鶴姉!」

 

みらいと瑞鶴の悲痛な声が響き渡る。

そして九九艦爆は二人の目前に迫ってきた。

 

 

『理解するのが遅すぎた!』

 

 

「クソ!」

 

霧先は翔鶴を庇うように抱き寄せる。

それと同時に、九九艦爆が艦橋左舷に衝突し、爆発炎上する。

 

「わあぁぁああ!!」

 

激突時の振動で艦内は揺さぶられ、艦娘やCICにいる妖精たちは転倒する。

 

「ぐわっ!あがっ!」

 

霧先と翔鶴も爆風で吹き飛ばされ、身体を艦橋内の機材に叩きつけられた。

揺れが収まり、床に倒れ込んだみらいは咳き込みながら立ち上がった。

 

「ううっ・・・ッ!ECM反応なし・・・艦内士官室火災発生・・・。」

 

みらいが艤装を使い、被害状況を確認しているとダメコン妖精が声をかけた。

 

「みらいさん、艦内のダメコンをするから、あなたの妖精を借りるわよ!」

「あっ、はい!お願いします!」

 

みらいの了承を得たダメコン妖精は自衛官妖精を引き連れて、艦橋を後にする。

煙が立ち込める中、艦橋へ消えた霧先のことを思い出した。

 

「そうだ・・・艦長!!」

 

みらいは慌てて艦橋に入り、後追うように瑞鶴も続いた。

艦橋内には煙が充満し、警報が鳴り響いていた。

みらいの脳裏には対ワスプ戦の時の光景が映し出されていた。

航海科の自衛官が死亡した戦闘、その光景が焼き付いて離れないみらいは呼吸が荒くなり、汗をかきながら必死に霧先を探す。

 

「翔鶴姉!」

「艦長!」

 

二人は何とか霧先と翔鶴を発見した。

翔鶴は無事だったが、霧先の方は機材に叩きつけられて意識が無かった。

 

「翔鶴姉、大丈夫?」

「大丈夫よ瑞鶴・・・でも友成くんが・・・・。」

「艦長!艦長!しっかりしてください!艦長!」

 

みらいが呼びかけるが、霧先は目を覚まさない。

そんな時、翔鶴は自分の手が濡れていることに気づく。

見てみると、それは赤く鉄臭い液体・・・霧先の「血」だった。

何処から出たのかはすぐ分かった、霧先は頭を大きく切り、そこからとめどなく血が流れていた。

自分がいたせいで、自分が腰抜けなせいで怪我をさせた。

そんな思いに潰されそうになった時、うめき声が聞こえた。

 

「うぐっ・・・ててて・・・・。」

「艦長?艦長!よ゛がっだぁよ゛ぉ。」

「ははっ、そんなに泣いたら折角の顔が台無しですよ・・・。」

 

霧先が起き上がったことに、喜びのあまりみらいは泣きながら霧先に抱き着いた。

霧先は苦笑いになりつつも、みらいを受け入れた。

 

「友成くん、大丈夫なの?」

「えぇ、翔鶴さんこそ大丈夫ですか?美人な人が怪我をしてしまってはいけませんからね。」

「美人!?・・・あっ、いえ、私の所為で友成くんが・・・・。」

 

霧先の言葉に、一瞬赤くなる翔鶴だが、すぐに霧先に謝った。

だが、霧先は翔鶴が思いもしなかった回答をする。

 

「いいですよ、これは僕が招いた結果です、翔鶴さんは悪くありません。」

「でも・・・。」

「大丈夫ですから、それに偶然とはいえ翔鶴さんのような綺麗な方にお近づきになれただけよかったですよ。」

「あ、あうううう・・・・。」

 

霧先の無自覚な口説き文句に、翔鶴は完全にノックアウトされ、真っ赤になっていた。

それにキレた瑞鶴は霧先に怒鳴った。

 

「ちょっと!なに翔鶴姉のことを口説いてるの!?」

「事実を言っただけなんですが・・・・。ともかく、被弾してしまったことは今更変えられない。被害状況は?」

「グズッ・・・艦内士官室で火災発生、ECM、左舷SPYレーダー故障です。」

 

鼻をすするみらいから損害状況を聞いた霧先は険しい表情になる。

ECMと左舷SPYレーダーがやられてしまっては「みらい」の対空能力は激減するのは目に見えていた。

 

「通信入ります・・・。」

 

みらいの声と共に艦内に放送が流れる。

 

『此方攻撃機5番機より大鳳へ!目標にダメージを与えるも撃沈に至らず!隊長機以下勢力の4分の3を損失・・・壊滅状態!第二次攻撃を要請します!』

 

「4分の3・・・!?」

 

無線通信を聞いた大鳳は驚愕していた。

相手は重巡で、島風に攻撃を仕掛けた敵だから、40機を発艦させた。

だが、いきなり電波障害ができ、その障害が消えたと思ったら航空機の4分の3を失ったとの報告が出た。

ダメージを与えれたなら撃沈できると思った大鳳は無線通信に応答した。

そして、その無線通信は、角松らが乗る「みらい」にも聞こえていた。

 

『大鳳より、任務中の攻撃隊へ、全機帰還せよ!繰り返す、現在第二次攻撃隊を準備中、こちら空母「大鳳」、第一次攻撃隊は帰還せよ!第二次攻撃隊は現在、発艦準備中。』

「諦めの悪い奴らだ!」

 

通信を聞いていた米倉は吐き捨てるように言う。

CICレーダーで一部始終を見ていた菊池は、静かに眼鏡を取り、言った。

 

「俺達は・・・諦められるのか・・・?」

 

米倉はゆっくりと振り返り菊池を見た。

菊池は眼鏡を拭いていた。

 

「戦場に置いて、諦観は美徳じゃない。」

 

菊池は眼鏡をかけ直し、ヘッドフォンを外した。

その隣で、艦橋から非常時の作戦指揮の為に来ていた梅津は、目をつぶって指で手を叩きながら何かを思案している。

菊池は梅津が此方を向くと同時に意見を述べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長、トマホークでの・・・「大鳳」攻撃を具申します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

菊池は現実と向き合うことにしたのだ。

この世界で自分たちが生き残るための現実と。




次回予告

赤城「大鳳への警告と攻撃・・・泥沼になりゆくこの戦闘を終わらせるため菊池少佐は大胆な決断をする・・・。
次回「第拾肆戦目「大鳳撃沈」」
次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!」


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第拾肆戦目「大鳳撃沈」

 

菊池「艦長、トマホークでの・・・「大鳳」撃沈を具申します。」

 

 

 

 

 

 

尾栗「撃沈だと?」

 

菊池が具申すると同時にCICにやってきた尾栗が話し出した。

CICにいる自衛官は一斉に二人を見る。

 

尾栗「菊池、沈めなくてもECMで通信機器を使用不能にすれば・・・。」

菊池「いや駄目だ、艦娘の数は100を超える・・・それにたとえ大破したとしても高速修復剤を使用すれば瞬時に修復され攻撃を仕掛けられる。」

尾栗「だが行き来するのには時間がある!その時間を使えば戦闘は回避できる!撃沈してしまえばその艦娘の命を奪うことになる。いくら自衛のためでも女の子の命を奪うことにためらいはないのか!菊池!お前らしくもない、冷静さを欠いているぞ!」

菊池「冷静なればこその結論だ、我々は霧先の言う通り既に手負いの状態、弾薬の補給も無く、これからの戦闘を防戦だけでしのぎ切れる可能性は全くない。今回はっきりとわかったことがある。彼女たちに生半可な威嚇は通用しない、ここCICに籠って我々は日本海軍じゃない自衛隊なんだと唱え続けても、この世界は理解してくれない。第二艦隊と接触した時、いやそもそもこの世界に現れた時から日本軍にとって明確な味方でない我々は明らかに敵だった!そのことを認めなければ我々は自らを守れない!あの時俺が引き留めていればこのような事態にはならなかった。このままいけば俺達も被害を受ける。砲雷長としてこれ以上の人命と艦の安全が脅かされる状況を、放っておくわけにはいかない・・・。」

 

自分の認識が甘かった、菊池は思い知ったのだ、本物の軍人相手には威嚇では無く攻撃しか効かないと。

 

菊池「艦長、124マイル先の洋上にいる大鳳までトマホークが到達するまで15分かかります、一刻も猶予は・・・。」

梅津「どんな状況に置いても思考停止・・・いや、敵味方の二元論で行動する事だけは避けたい。まず日本海軍艦隊の状況把握のため海鳥を飛ばし、撤退確認後、トマホークを自爆し作戦実行に移る。」

尾栗「了解しました。」

 

尾栗はそう言ってCICを出ていった。

 

梅津「船務士、通信機器は使えるな?」

船務士「はい!」

梅津「大鳳に警告を打つ。砲雷長、第二次攻撃を中止した時点でトマホークは自爆だ。」

菊池「了解しました。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

古鷹「(大鳳さんの航空機がそれだけ落されるなんて・・・敵の防空火力は想像以上・・・まさかその艦が武蔵さん達が見つけた・・・。)」

大鳳「あと15分で発艦可能ね。」

 

 

 

菊池は一点を見ていた、レーダー上に捕えた大鳳と書かれその上に敵と表示されている点を。

静かに、不気味にVLSが開く、その中に収納されているのは対艦ミサイル“トマホーク”発射されれば艦娘では迎撃不可能な兵器。

しかも航空母艦相手なら一撃で仕留められるものだ。

 

菊池は梅津指示を受けレーダーに向き直ってから言った。

 

菊池「トマホーク、攻撃はじめ!」

 

菊池の声と共にVLSから噴煙が上がりトマホークが飛翔する。

 

 

 

みらい「艦長!梅津艦長座乗のみらいからトマホークが!」

友成「!」

 

それは友成達からでもかすかに見えた。

豆粒サイズの艦から噴煙が上がる姿を。

 

 

 

 

サジタリウスの矢は放たれた。

 

 

 

 

大鳳「後少しで発艦可能ね。」

古鷹「大鳳さん、第二次攻撃は延期した方が・・・。」

潮「そ、そうですよ・・・もっと情報を集めた方が・・・。」

加古「相手は未知の艦だしなぁ~。」

 

今、大鳳と行動している艦娘は5人、古鷹、加古、潮、敷波、曙だ。

その中でも三人は第二次攻撃は中止すべきだといっている。

 

曙「そんなんで敵が横須賀に攻撃したらどうなるか分かる!?」

敷波「島風も主砲3発だけで大破させられてるんだよ!?」

 

残りの2人は第二次攻撃は決行すべきだと言っている。

 

大鳳「実は苦し紛れにこんなものを打電してきたのよ。」

古鷹「?」

 

古鷹は大鳳から紙を受け取った。

 

古鷹「『本艦は貴艦隊及び日本海軍に敵対する者では無く攻撃の意思も無い。本艦に対する第二次攻撃を中止を要請する。攻撃を断行するなら自衛手段としてやむを得ず貴艦隊を撃沈する。』軍艦にしては不可解な電文ですね。」

大鳳「距離は約200㎞、この距離で攻撃できる兵器なんてないわ。」

加古「だけどもし攻撃されたら?」

大鳳「対空が強いだけの艦がこの距離を撃つなんて出来ないわ。」

 

 

一方100㎞離れた洋上では航空機が帰還していた。

そしてのその下をトマホークが時速800㎞の亜音速で追い越す。

 

佐竹「フォーチュンインスペクター、シーフォール、トマホークは高度200ヤードで巡航中、目標まで62マイル、帰還する日本軍機を今追い越しました。目標到達まで7分。」

林原「佐竹一尉、大鳳が警告を受け入れるとはとても思えません。我々が納得するためのお題目、いやアリバイに過ぎないんじゃないですか?」

佐竹「林原、そいつを無くしたら俺達は如何なる?」

林原「我々は何の為、何を守るためにここにいるのでしょう・・・。」

 

佐竹は黙り込んで考えるだが答えは出て来ず大鳳が攻撃を中止することを願った。

だが現実は残酷だった。

 

林原「佐竹一尉!レーダーに反応が!」

佐竹「!・・・馬鹿野郎!!」

 

 

佐竹『日本艦隊探知、大鳳と思われる目標から航空機発艦中!』

 

菊池「!・・・・トマホーク目標到達まで4分30秒。」

 

 

 

みらい「先程のトマホーク発射、目標は明らかに大鳳です。第二次攻撃に対して先手を打ったものと思われます。」

友成「海図は?」

みらい「ここに。」

 

僕は艦橋の作業机に海図を広げる。

 

友成「この距離だと・・・残り時間は・・・。」

長門「トマホークとは?」

みらい「対艦用巡航ミサイル、有効射程500㎞。」

長門「500!?一発でどのくらいの威力だ!?」

みらい「あなた方を救助するときに発射したものがそうなのでそれと同じと考えて頂ければ。」

長門「あんなものを食らえば戦艦でも危ない・・・何とかできないのか!?」

みらい「もう・・・無理です、私がトマホークの発射方向にいるのなら迎撃できますが・・・。」

友成「出た!大鳳に着弾まで残り3分!」

赤城「3分!?」

 

余りにも短すぎる時間、もうどうすることも出来なかった。

 

みらい「艦長・・・。」

友成「推進器に異常はない・・・みらい、進路、横須賀鎮守府!」

みらい「・・・了解しました!」

蒼龍「大鳳は!?見捨てるの!?」

友成「後3分では迎撃できない、それに被害を少なくするには一刻も早く横須賀を目指す必要がある。」

蒼龍「・・・・。」

 

仕方のないことなんだ・・・。

 

 

 

 

菊池はCICでレーダーを眺め続けていた。

 

菊池「(着弾まで一分・・・俺は歴史改変、そしてこの世界のグランドラインを積極的に変えることに反対の立場だった・・・だが、この手はもう引き金を引いてしまった。・・・・ボタン一つ押すだけで歴史は変わってしまう、そして人の命が消えていく・・・これが俺の選んだ射撃の道・・・・・あと40秒で俺は・・・・。)」

梅津「ぐぬぅ・・・。」

 

尾栗「(雅行・・・・・。)」

 

もう全員は分かっていた。

大鳳にトマホークは命中すると。

 

 

 

 

古鷹「?あれは・・・・。」

大鳳「?・・・あぁ!!!」

 

古鷹と大鳳は時速800㎞で飛んでくるトマホークを目視した、そして

 

ゴォーーッ!

ドゴォォォォォン!

 

トマホークは命中した。

 

大鳳「きゃあぁぁぁ!!」

古鷹「わぁぁ!!」

 

大鳳に命中したトマホークの爆風で古鷹は飛ばされた。

 

潮「大鳳さん!」

敷波「大鳳さん発見!!・・・意識が無い!!」

曙「これ誘爆してるわよ!」

 

もう艦隊は大混乱だった。

 

加古「落ち着け!三人で大鳳さんを曳行!古鷹は!?」

古鷹「大丈夫よ!」

加古「じゃあ私と対空、対水上警戒をして鎮守府に後退!相手は尋常じゃない!」

古鷹「分かったわ!」

 

普段寝ぼけてるような加古の姿は無く、しっかり指揮を執っていた。

 

 

 

加古『こちら加古!提督応答を!!』

提督「加古!?どうした!?」

加古『大鳳さん被弾!意識不明!!』

提督「被弾!?どういうことだ!?」

加古『艦載機が帰還する方角を見られた・・・。』

提督「発艦は許可していないぞ!!敵との距離は!?」

加古『200㎞・・・あいつは、その距離を寸分の狂いなく当ててきた・・・あいつは姫なんかかすんで見える正真正銘の悪魔だ!』

提督「・・・・直ちに帰投しろ。」

加古『了解!』

 

通信が終わった後提督は一言絞り出すように言った。

 

提督「・・・・悪魔か。」

陸奥「提督・・・どうするの?」

提督「・・・・大和たちの艦隊に連絡を入れて奴の動向を探る。」

 

提督は無線機の周波数を弄って大和に連絡を入れる。

 

提督「大和、聞こえるか!?現在の状況を報告しろ!」

大和『・・・提督、負傷者は?』

提督「大鳳が被弾、意識不明だ・・・。」

大和『提督、先程私はあの艦に砲撃をしました。』

提督「沈めたのか!?」

大和『いえ、全弾迎撃されました・・・。』

提督「何だと!?」

 

提督は信じられなかった。たかが重巡一隻が大和の主砲弾を迎撃したということを。

 

大和『提督、あの艦を私は知っています。あの艦に勝てる者はいません、撤退を!』

提督「相手に降伏するのか?」

大和『相手は対話を要求しています、それに此方から攻撃しなければ攻撃はしないとも言っています。提督、決断を!!』

提督「・・・・。」

 

提督は悩んだ、ここで相手の言葉を信じて撤退するか。攻撃して沈めるか・・・。

だが、結論は出ていた、相手は空母を彼方から沈める力を持つ。

そんな相手に戦いを挑んでも負けるのは目に見えている。

提督は周波数を弄った。

 

提督「・・・・全艦娘に告ぐ、ただちに撤退せよ、敵艦は此方から攻撃しない限り攻撃してこない。攻撃せず撤退せよ!」

 

提督が下した決断、それは敵を招き入れることだ。

 

 

 

みらい「本艦艦首30mに艦影。」

友成「あれが・・・戦艦大和・・・。」

 

流石、大和撫子と呼ばれるだけはある。

 

友成「機関停止、みらい、蒼龍、準備を。」

みらい「了解。」

蒼龍「わかった。」

 

 

一方外では艦娘達がみらいの損害状況を見ていた。

 

 

大和「酷い・・・。」

北上「おー、派手にやられてるねぇ・・・。」

大井「誰か出てきましたよ。」

 

友成「」ジャカッ

 

僕は躊躇無く64式を構える・・・これは戦争だと自分に言い聞かせて。

 

飛龍「銃!?」

木曾「おっぱじめるつもりか!?」

 

友成「自分は「みらい」臨時艦長、霧先友成!貴艦の所属と艦種を報告せよ!」

 

大和「横須賀鎮守府所属、大和型戦艦一番艦大和!」

 

友成「」ジャカッ

 

僕は所属と艦種を聞いた後64式を下ろして敬礼をする。

 

友成「確かに確認しました、これから救命艇を下ろすのでそちらから乗り込んで下さい。」

 

 

そして数分後、収容は完了した。

 

 

友成「改めまして、「みらい」臨時艦長、霧先友成です。」

大和「大和型戦艦一番艦大和です・・・みらい、久しぶりね。」

みらい「大和・・・・。」

飛龍「え?知り合い?」

大和「かつて私と戦った艦よ。」

北上「わぁお・・・。」

 

さて、収容も完了したし作戦行動を・・・。

 

大和「霧先艦長。」

友成「何でしょう?」

大和「あれだけの損害、死傷者は?」

友成「・・・幸いにも負傷者は二名、内、軽傷者一名、重症者一名です。」

大和「霧先艦長が重症者でしょうか?」

友成「はい、軽症者は翔鶴さんです。」

飛龍「翔鶴さん!?」

友成「他にも本艦には金剛、比叡、長門、伊勢、日向、武蔵、赤城、加賀、瑞鶴、蒼龍、伊168、島風、電を保護しています。」

木曾「保護?捕虜じゃないのか?」

 

友成「自衛隊は戦争をするためにここにいるのではありません、それは理解していてください。」

 

友成「機関始動、最大戦速!」

みらい「了解、機関始動、最大戦速!よ~そろ~!」

 

みらいの声と共に機関が始動し艦が動き出す。

因みに急加速だったため何人かがこけかけた。

 

友成「大和さん、撤退は?」

大和「提督が実行に移しました、艦隊は全艦引き上げています。」

友成「よし、みらい、梅津艦長に打電、『0800より作戦最終段階を決行、注意して航行されたし。また今回の戦闘による殉職者は無し。』。」

みらい「了解しました。」

 

 

 

自衛官「梅津艦長、みらいαより電文です。」

梅津「何と書いてある?」

自衛官「はっ『0800より作戦最終段階を決行、注意して航行されたし。また今回の戦闘による殉職者は無し。』以上です。」

梅津「・・・・成功したようだな、死者がいないのも幸いだ・・・最大戦速、これより横須賀に入港する。」

 

角松らが乗る「みらい」も横須賀内に進みはじめた。

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府まで距離8㎞となったところで僕は内火艇に乗り込んだ。

 

友成「よし、準備はOk、瑞鶴さんは?」

瑞鶴「大丈夫よ。」

友成「じゃあ、みらい、行ってくる。」

みらい「良いのですか?作業着では無くて。」

 

みらいの言う通り僕は今、私服に「みらい」の識別帽を被っている上に救命胴衣を着ているだけの服装。

傍から見たら艦の指揮官とは思えないような服装だもんね。

 

友成「大丈夫、いない間、艦を頼みます。」

みらい「了解。」

 

その言葉を交わした後、内火艇は下に降りて着水した。

 

瑞鶴「操縦は?」

友成「じいちゃんのを見てましたから大丈夫です。」

 

僕は内火艇を動かし、横須賀鎮守府に向かった。




次回予告

友成「銃を持つときはガク引きや引き金に指をかけっぱなしにしないその安全性を後から知っても遅い。
僕はそれを知った。
次回「第拾伍戦目「兵器と扱うもの」」
次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!」


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第拾伍戦目「兵器と扱うもの」

台本形式で書くのが辛くなったので少し変えました。
今までの物も少しづつ直していきます。

というよりUAが10000越えていてビックリ!( д) ゚ ゚!
皆様ありがとうございます!!


「お願いですからいきなり攻撃でバーンなんてやめて下さいよ・・・。」

「不吉なこと言わないでよ!」

 

瑞鶴さんにビシッと言われたところで僕は木製のボート用桟橋に内火艇を接岸し、内火艇が流れない様に縄をかけた。

 

「さて、歓迎ムードではありませんね。」

「寧ろ静かすぎる位よ。」

 

桟橋を含め湾内には僕と瑞鶴さん以外は誰もいなかった。

 

「多分、様子を窺っているじゃないですか?まずは索敵がモノを言うと聞いたことがありますし。」

「そうかもね。」

 

いきなり攻撃されてもまずいので64式のセレクターを回して「レ」にしておく。

 

「さーて、どこから来ますか?」

 

僕が64式を構えて進み、その後ろから瑞鶴さんが歩いてくる。

 

「・・・・!」

 

何かが動いた影が見えた僕は64式をその方向に向ける。

 

「どうしたの?」

「何かがいました・・・ゾンビとかだったら泣きそう。」

 

ガチで止めて、幽霊ならまだしもゾンビはダメ。

WalkingDeadで泣きかけた。

 

「瑞鶴さんはここで待っていてください、確認してきます。」

「大丈夫なの?」

「・・・・・1割は。」

「残り9割は!?」

 

華麗なツッコミありがとうございます。

 

「とにかく見てくるだけだったら大丈夫ですよ。」

「どっからそんな自信沸いて来るの・・・後その顔はいらない。」

 

キリッと決めた顔がダメという事なので大人しく見てきます。

 

 

 

・・・・・?謎の影の姿は影も形も無かった。

居ないならいいけど・・・何だったんだろう。

 

コッ

 

とか考えなかったらよかったと今になって後悔しております。

何故って?今後頭部に鉄製っぽい筒を突きつけられております。

しかもしゃがんでいるのでサイズから考えて駆逐艦あたりです。

 

ここまでくればお察しの通り、艦娘に砲らしきものを突きつけられております。

 

さて、問題「僕はこの後どうなるでしょう?」

 

1、頭がパーン☆

2、牢屋にぶち込まれる

3、唯のドッキリでした

4、岩盤に叩きつけられる

 

正解は・・・。

 

 

「стой」

「はい。」

 

5の大人しく捕まるでした。

・・・・一人で何やってるんだろう。

 

「侵入者とは吃驚だね、しかも武装と来た。射殺も許可されるかもね。」

「やめて下さい死んでしまいます。」

 

わーお、この子すごい恐ろしい!

ゾンビより人の方が怖いって本当だったんだぁ!(涙目)

 

「この小銃は自衛用だから・・・攻撃してこなかったら使わないものだからセーフでしょう?」

「そんな言い訳が憲兵さんに伝わればいいね。」

「うわぁぁぁぁ!瑞鶴さん助けてぇ!!憲兵さんより比叡カレーの方がましです!!」

「?なんで比叡さんの料理のことを知っているか知らないけど来て貰うよ。」

「ウワーン!!」

 

そうして僕は引き摺られていく。

短い人生だった・・・。

 

「暁姉さん、掴まえてきたよ。」ポイッ

「痛い!もう少し優しくお願いします響さん。」

「響の名前を知ってるってことは軍関係者なんじゃ?」

「それは無いと思うよ、そもそもこんなTシャツと短パンに訳の分からない帽子をかぶっている武装した軍人はいないし・・・。」

「たしかに・・・居ないっぽい。」

 

はい、僕はいつの間にか艦娘に取り囲まれています。

艦娘は響、暁、睦月、夕立の四人。

遠征帰りかなんかでしょう、それより取り囲まないで、恐い。

 

「一応これでも軽巡洋艦の臨時艦長ですが・・・。」

「信じられないね、そんな証拠があるのかい?」コッ

「ず、瑞鶴さんが証明してくれます!だから連装砲を下ろしてぇ!!」

 

武器を突き付けられるのはガチで恐いです。

 

「ちょっと!あんた達何してんのよ!」

「ぽい!?」

 

やっと来てくれた瑞鶴さん・・・もう心臓が破裂しそう・・・。

 

「瑞鶴さん・・・。」

「いい年して何子供みたいに泣き叫んでいるのよ・・・。」

 

そんな風に頭押さえないで下さい、もう黒歴史なんです、心の傷が抉れます。

 

「瑞鶴さん、この侵入者は軽巡洋艦の艦長かな?」

「?こいつは重巡の艦長よ。「すみません「みらい」は全長は重巡ですが排水量では軽巡で現代では駆逐艦に分類されるんです。更に現代では、巡洋艦は、もう曖昧な存在なのです。」初めて聞いたわよ・・・。とにかくそいつは艦長で沈んだはずの神通さんの息子なの、それに神通さんは生きていて横須賀にいる。下手したら絞られるかもね。」

 

と、瑞鶴さんのその言葉を聞くが早いか全員が一列に並び。

 

「「「「失礼しました!」」」」

 

敬礼して謝罪の一言。

そして全員が滝のように冷汗を流している。

あぁ・・・母さんはスパルタ教官か何かだったんだな。

 

「どういう事なんだ?」

 

そして同時に現れたのは白い軍服を纏った軍人だった。

 

「えっと・・・気にしたら負けというやつです。ハハハハ・・・・。」

「そ、そうか・・・。」

 

「触らぬ仏にたたりなし」というやつです。

 

「とりあえず・・・自分は「みらい」臨時艦長、霧先友成です。」

「日本国海軍、横須賀鎮守府最高司令官、高屋浩二大将だ。」

 

自己紹介の後に敬礼を交わす。

 

「後ろの方々は?」

「第二艦隊と第三艦隊、第四艦隊の艦娘だ。」

 

高屋大将閣下の後ろには川内、神通、那珂、深雪、白雪、綾波、鈴谷、熊野、ビスマルク、扶桑、山城、榛名、霧島、古鷹、加古、潮、敷波、曙といった面々がそろっている。

・・・・ガチ勢じゃないですかヤダー。

下手したら消し炭・・・いや、塵さえ残らんぞ・・・。

 

「ちなみに、大鳳さんの所属は?」

「第二艦隊だ。」

 

そうだったのか・・・どうりで数人の艦娘が僕を睨んでいるわけだ。

 

「・・・・あんたは何なのよ。」

「曙、静かにしてろ。」

「うっさいわねクソ提督!こいつは大鳳さんを攻撃した奴なのよ!?」

「それは分かっている、だが彼らは対話を要求してきた、少なくとも今は敵意が無い。」

 

これは非常にまずい・・・。

原因が首を突っ込むが仕方あるまい。

 

「そんなに憎いのなら僕に砲撃しますか?」

「・・・・あんた何言ってんのよ。」

「先に行っておきますが先に先制攻撃を仕掛けたのは、そちらから仕掛けてきたから、僕達は、それに対する自衛権を行使したに過ぎないだけ言わば、やられてばかりじゃ精神的衛生上好ましくないから。そちらが臨検をするなら受けるつもりでした。ですが潜水艦や水上艦艇から魚雷を撃たれ、艦爆から爆撃を仕掛けられた以上、身を守るためには、自衛権を行使し攻撃したものを情けなど掛けずに七面鳥ごとく打ち落とし総乗組員256名の命を優先した。ただ事実は、それだけです。」

 

原因は作戦立案をした僕にある。

今回の被害も、戦闘のきっかけもだ。

 

「作戦立案をしたのは僕です、僕のことが憎い人はどうぞ、殴るなり撃つなり好きにすればいい。だけど、みらいや他の自衛官に手を出すのなら、攻撃の暗号を伝えて迎撃します。」

「たいそうな自信ね。」

「一応作戦立案も出来ない馬鹿高校生艦長でも、ある人の子供でしてね。」

「そう、とりあえずアンタは後で料理するけど武器は押収するわ。」

「どうぞ、ただし安全装置を・・・。」

「あんたに持たせてズドンなんて食らいたくないわ、響、鉄砲を渡して。」

「曙に持たせると危なっかしいから綾波に持たせるよ。」

「遠まわしに馬鹿にしてるでしょ!」

「馬鹿にはしていないよ。綾波、気を付けて持っておいて。」

「わ、分かりました。」

 

・・・・一気に曙が子供っぽくなっちゃったよ。

 

「あ、瑞鶴さん、これ。」

「?拳銃?」

「後で隠してたとかでハチの巣にされたくないんで。」

「なら出しておきなさいよ。」

「瑞鶴さんの方が信頼できる人ですから。」

「はいはいそうですか。」

 

冷たい。

 

「所で霧先艦長、交渉の為に貴艦隊の主要人物を呼んでもらってもいいか?」

「えっと・・・少しお時間を頂いても?」

「かまわないぞ。」

「では、失礼して・・・。」

 

僕は高屋大将閣下に許可をもらい無線機を使った。

 

 

 

 

 

 

みらい「艦橋」

 

『梅津艦長、聞こえますか?』

「こちら梅津、聞こえている。」

『作戦は順調に進んでいます、後は交渉を行うだけとなりました。ですが最高司令官が交渉の場に主要人物を呼んで欲しいと。』

「成程、人質という事か。」

『そうかは分かりませんが・・・。』

「分かった、丁度「みらい」の近くに停船した所だ。これから内火艇でそちらに向かおう。」

『了解。』

「さて、副長、航海長、共に来て貰っても構わんかね?」

「自分は大丈夫です。ですが・・・。」

「大丈夫だ副長、霧先艦長の言葉を信じてみよう。5分後に砲雷長と内火艇に集合せよ。」

「「了解しました。」」

 

 

 

35分後

 

 

 

「来ました!」

「結構かかるわね・・・。」

「時速13㎞の内火艇では仕方ありませんよ。」

 

瑞鶴さんと話した後、僕は少し離れた高屋大将閣下の所に向かった。

 

「内火艇が到着するまで後5分ほどかかります。」

「なかなか早いな。」

「では、接岸の準備をしますので。」

 

そう言って僕は瑞鶴さんのところに戻った。

 

「このまま何事も無いように・・・・。」

「そんな不吉なこと言わないでよ・・・。」

「僕の感ってよく当たるんですよね。所で・・・・。」

 

少し気になっていたけど・・・。

 

「ここで何しているんです?」

「別に良いだろー?」

「少し興味があるっぽい。」

「私は面白そうなので来ました。」

 

いつの間にか駆逐艦の深雪と漣と夕立がいました。

 

「あれ?君はさっきいなかったような・・・・?」

「だから面白そうなんで来ました。」

 

あぁ、そういうキャラだったね。

 

「でも普通は警戒位しない?」

「そんな悪そうな人に見えませんから。」

「そんなのでいいのか君は・・・。」

 

マイペースというか、なんというか・・・・。

 

「ほらほら、あんた達、作業の邪魔だから退いて。」

「え~いいじゃん。」

「ここで見ていたいっぽい。」

「そうですよ、ケチケチしているとせこい人になりますよ。」

 

そんな会話を見て聞いている僕は姉さんと妹の喜菜を思い出す。

二人も僕のいた世界に居たままだ・・・。

必ず帰らないとな・・・・。

 

「・・・・!・・・・成!」

 

?誰かの声がするな・・・。

 

「友成!提督!」

 

声の主は桟橋に向かって走って来ていた。

僕の目に入ったその人は服装は違うが顔は神通だった。

 

「まさか!」

 

ある考えにたどり着いた時、僕は見てしまった。

 

「(!?)」

 

声に気付いて振り返った綾波が持っていた64式の銃口が瑞鶴さんに向いていて引き金に指が掛かりっぱなしだった。

そしてセレクターが「レ」のままだったことを思い出した。

 

「瑞鶴さん!すみません!」

「え?なっ、キャアア!」

「「わわっ!!」」

「ぽいー!!」

 

僕はそう言った後瑞鶴さんにタックルをして深雪と漣と夕立ごと海に突き落とした。

そして・・・・

 

ダダダダァァァン

 

四発連射の銃声が聞こえた後に僕は吹き飛ばされるような形で桟橋から海に転落した。

海に転落する瞬間、時間が遅くなったように感じて身体にふと目をやると胸から血が噴水のように溢れていた。

このとき心臓を撃たれたと確信した。

そして海に落ちて身体が沈む感覚を感じながら遠くなる海面を見たのを最後に意識を手放した。




次回予告

瑞鶴「銃撃を受け意識不明の友成。
心臓を撃たれた彼はどうなるのか。
そして鎮守府に現れた女性は・・・・。
次回「第拾陸戦目「世界線を越えた繋がり」」
次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!」


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大演習編
第拾陸戦目「世界線を越えた繋がり」


撃たれた後、目が覚めたと思ったらある場所にいた。

そしてその光景を見た後に今僕が体験しているのは過去の記憶だとわかった。

・・・・・最悪の記憶だが。

 

今見ているのは父さんが殺された時の記憶だ。

あの日僕は喜菜と父さんと一緒に近くのテーマパークに行っていた。

今、目の前に広がるのは切りつけられた人々と不気味に笑う男とその男を押さえようとする父さん。

次の瞬間一気に視界に赤い色が飛び散る。

父さんが刺された。

僕が父さんに近づくと父さんは一言言って動かなくなる。

喜菜が動かなくなった父さんをゆする。

父さんが冷たくなっていく。

父さんは二度と目を覚まさなかった。

父さんを刺した男は笑い続け警察官に取り押さえられたが男は警察官の拘束から逃げ出し喜菜に手をかけた。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そこまで見た後目が覚めた。

身体中が脂汗で濡れている。

 

「大丈夫?」

 

声が聞こえた方を見るとある人が居た。

 

「瑞鶴さん・・・。」

 

瑞鶴さんだ。

 

「ここは・・・?」

「鎮守府の医療棟よ。」

「僕は・・・撃たれて・・・。」

「えぇ、心臓を撃たれたわ。」

「・・・・そうだ、母さんは?みらいは?」

「落ち着いて、順に話していくわ。」

 

深呼吸をして落ち着いた僕は瑞鶴さんの話を聞いた。

 

 

 

 

 

あっという間だった。

私は友成に押されたかと思うと

 

ダダダダァァァン

 

銃声が鳴り友成が血を流しながら海に落ちた。

 

「友成!!」

 

そして後を追うように神通さんが海に飛び込んだ。

桟橋に上がった私は事情が分からなかったけど綾波を見て理解した。

 

「あぁ・・・わ、私・・・・無抵抗の人を・・・・・・殺した・・・・・・。」

 

綾波がブツブツ言いながら頭を抱えていた。

そのすぐ横には私が友成に向けたことのある銃と金色の筒が落ちていた。

綾波が撃ってしまったのだ。

 

「瑞鶴さん!友成を!」

 

神通さんの声が聞こえて振り向くと血を流して海を赤く染めている友成と支えている神通さんが目に入った。

それを確認した瞬間に身体が動いていた。

 

「ど、どうしよう・・・心臓に当たってる・・・。」

 

友成を持ち上げたまでは良いが当の本人は心臓を撃たれて血が流れていた。

普通なら死に一直線で手の施しようがない。

 

「落ち着いてください瑞鶴さん、提督、高速修復剤はありますか?」

「あ、あぁ、備蓄してある。」

「ではひとつ分けて下さい。姉さん、那珂ちゃん、友成をドックへ運んでください!」

「「りょ、了解!」」

 

神通さんの指示で川内と那珂が友成を持ち上げてドックへと運んだ。

 

 

 

 

「そしてギリギリ間に合って怪我は治ったけど流れた血が多すぎて丸二日寝てたわ。」

「丸二日!?他の人は?」

「安心して、一応燃料と食料を「みらい」に運んだから大丈夫よ。」

「そうですか・・・母さんは?」

「神通さんは提督に貴方のことを話しているわ。」

 

よかった・・・ほか人は大丈夫で・・・・・そうだ!

 

「そうだ、交渉しに行かないと・・・。」

「ちょっと!動くのは早いわよ、もう少し休みなさい。」

「でも、入港しないと・・・。」

「・・・・・分かったわ、提督に話してくるから待ってなさい。」

 

そう言って瑞鶴さんは部屋から出ていった。

そのすぐ後にドアがノックされた。

 

「誰だろう・・・どうぞ。」

 

僕が言った後にドアを開けて入ってきたのは

 

「友成・・・。」

「母さん・・・?」

 

母さんだった。

 

「友成、大きくなったわね。」

「本当に母さんなの?」

「えぇ、あの時以来だけど。」

「母さん・・・。」

「友成ごめんなさいね。」

「いいよ、母さんだって仕方がなかったわけだし・・・。」

 

母さんにも事情があったんだ、それをどうこう言う気はない。

 

「お父さんは元気?」

「・・・・・・父さんは・・・僕が8歳の時・・・9年前に死んだ。」

「えっ・・・。」

「僕と義理の妹の喜菜と遊園地に行ったとき、通り魔に襲われて・・・僕たちを守ろうとして死んだんだ。」

「・・・・・・そう、最後までお父さんはお父さんだったのね。」

「ごめん母さん、父さんを守れなくて・・・・。」

「あなたは8歳だったんでしょ?だったら仕方ないわ・・・。」

「母さんは大丈夫なの?」

「大丈夫よ。あの人が死んだのは悲しいけど、いつまでも悲しんでいたらあの人に説教をされるわ。いつまでも泣くなって。」

「父さんなら言いそうだね。」

 

僕と母さんは笑いあった。

僕は17年会う事のなかった母さんに会えた。

だけど母さんに父さんを会わせられなかったことが少し悔しい。

でも父さんの言葉を思い出して気を取り直した。

 

「これからどうしよう。」

「大丈夫よ、提督は優しい人だから。」

「でも不安だよ・・・そう言えば、綾波は?」

「綾波ちゃんは部屋に籠りっぱなしよ。」

「自分の手で人を殺しかけたんだからね・・・。」

「・・・・私たちは前世で戦争をしていた、けど自分で殺したという実感は無かった。」

「綾波はそれをモロに受けた・・・。」

「そういう事よ。」

「後で会わないと・・・。」

 

瑞鶴さんの話から考えてかなり精神にダメージを負っている筈だ。

 

「入るわよー。」

 

母さんとそこまで話したところで瑞鶴さんが入ってきた。

 

「あれ?神通さん居たんだ。」

「どうも瑞鶴さん。」

 

入ってきた瑞鶴さんと神通さんが挨拶を交わした。

 

「友成、提督さんはこの後交渉をやるって、後で迎えが来るからその子に付いて行って。」

「瑞鶴さんは?」

「私は修復が終わったから「みらい」に行ってきて伝達よ。」

「そうなんですか。」

 

瑞鶴さんは、じゃあね。と言って出ていった。

その数十分後に撃たれた時の服に着替えた後、母さんと話しているとドアがノックされた。

 

「どうぞ。」

「失礼します。」

 

僕が言った後に声がするとドアが開いた。

 

「時雨です、霧先艦長をお迎えに上がりました。」

「どうもありがとう、あと堅苦しく話さなくてもいいよ。」

「そうかい?じゃあ遠慮無く話すよ。」

「時雨ちゃん、友成を迎えに来たのね?」

「うん、提督に頼まれてね。じゃあ案内するよ。」

「わかったよ・・・ととっ。」

「大丈夫?」

「うん、ありがとう母さん。」

 

倒れそうになったところを母さんに支えて貰った。

貧血みたいだな・・・。

 

「僕について来て。」

 

時雨に言われて母さんに支えられつつ僕は時雨の後ろを歩いた。

 

 

 

 

「ここだよ。」

 

時雨に案内されたのは「会議室」と書かれた部屋だった。

 

「時雨、入るよ。」

『いいぞ。』

 

中から返事があった後に時雨が扉を開ける。

 

「し、失礼します。」

「失礼します、提督。」

 

部屋に入って挨拶。

挨拶は基本中の基本。

 

「霧先艦長、気分は?」

「大丈夫です。」

 

寝覚めは最悪だったけど・・・。

 

「そうか・・・さっき瑞鶴から連絡があってな、「みらい」から四人ほどやってくるようだ。」

「四人ですか・・・。」

 

梅津艦長達が来るのか・・・・。

 

「まぁ、私自身君たちに危害を加えるつもりはない。そんなことをすれば神通が・・・「て い と く ?」・・・・ナンデモアリマセン・・・・。」

 

恐いよ母さん・・・・。

僕ちびってないよね?

 

その後、提督と母さんは色々話している隣で僕はジュースを飲んでいた。

そして10分は経っただろうか、ドアがノックされた。

 

『提督、「みらい」乗組員をお連れしました。』

「入ってくれ。」

 

高屋提督が言うと艦娘の陸奥さんが入ってきた。

・・・・・ナイスバディ。

 

「失礼します。海上自衛隊、護衛艦「みらい」艦長梅津三郎一等海佐です。」

「同じく「みらい」副長、角松洋介二等海佐です。」

「同じく「みらい」航海長、尾栗康平三等海佐です。」

「同じく「みらい」砲雷長、菊池雅行三等海佐です。」

 

全員が自己紹介を終えると高屋提督が座るように進めた。

 

「私は日本国海軍、横須賀鎮守府最高司令官、高屋浩二大将です。では交渉を始めましょう。」

 

その言葉を皮切りに交渉が始まった。

 

「まず霧先艦長はどんな要求を?」

「はっ、まずは自分たちの安全の保障とみらいの入港、修復の手伝いを許可して頂きたい。」

「分かりました、梅津艦長は?」

「はい、我々も安全保障、みらいの入港を許可して頂きたい。」

「分かりました、では此方から条件を言います。」

 

始まった、ここからが重要となる。

 

「今この世界は深海棲艦と戦争をしています。」

「それは存じ上げています。」

「瑞鶴からの情報を元に考えればあなた方は強大な、深海棲艦に対抗できる力を持っている。」

「つまり、入港や安全を保障する代わりに我々に協力せよという事ですか?」

「その通りです梅津艦長。」

 

・・・・つまり僕達に戦線に加われと言う事か。

なら条件付きでならどうだろう・・・。

 

「分かりました、但し、戦闘に伴う補給などはあなた方日本国海軍が負担することとそれに伴う技術を開示するのは工作艦「明石」と工廠にいる妖精と許可した者のみとします。またこの戦闘に参加するのは僕が指揮している「みらい」のみです。」

「霧先、正気か?お前は戦線に加わるつもりか?」

 

角松二佐が僕に問いかけてきた。

 

「角松二佐、深海棲艦は全世界から見てテロリストです、なら自衛隊が動くのは自衛隊法に違反しません。それに、ここは別世界でも日本・・・ならその日本を守るのも自衛隊の使命ではないですか?」

 

異世界でも日本・・・僕は自衛官では無いからどうとは言えないけどここの日本人を見捨てることはできない。

 

「分かりました、そちらにも事情があるのでしょう。此方もその条件で妥協します。」

「交渉成立ですね。」

「えぇ、海上自衛隊の方々の兵舎を建築するのでそれまでの間は我慢して頂きたい。」

「了解です。」

「それでは、これからよろしくお願いします。梅津艦長、角松二佐、菊池三佐、尾栗三佐、霧先艦長。」

「「「「「よろしくお願いします。」」」」」

 

こうして交渉は成功に終わった・・・・・かな?

ともかくこれで横須賀沖海戦は終結した。

 

 

 

 

 

 

 

その後横須賀鎮守府所属の艦娘の誘導で「みらい」二隻が入港し、僕が乗っていた「みらい」はドック入りとなった。

 

「あちゃ~結構ひどくやられていますね・・・。」

「サイズ差があるとはいえファランクスの弾幕を避けて機体を艦橋にぶつけてきましたからね・・・。」

 

今僕は修復作業が行われているドックにみらいと来ていた。

「みらい」甲板で被害をチェックしているのは工作艦の明石さんだ。

 

「明石さん、ミサイル関連の複製は?」

「今やってますけど妖精さんでも苦戦するほどですね・・・対空レーダーは解析開始済みで明日には修復開始可能です。」

「もう修復の目途が立っているんですか!?」

「はい、妖精さん達も楽しそうで。」

 

みらいも驚いてるけど妖精さんぱねぇ・・・・。

 

「主砲弾は使用可能か・・・・で、あの人は軽巡洋艦「夕張」で間違いないですよね?」

 

さっきから主砲を眺めて目をキラキラさせているのは艦これ知識が間違って無ければ夕張さんのはずだ。

 

「えぇ・・・少し熱中しているようですけど・・・。」

 

明石さんも呆れ顔で言う程に夕張さんは「みらい」の兵装を見ていた。

 

「艦長、流石にジロジロ見られるのは・・・。」

「・・・・ちょっと注意するか・・・。」

 

僕は夕張さんの所に歩み寄った。

 

「あの~すみません、危険なのであまり兵装に近づかないで下さい。」

「・・・・・?、えっと・・・どなたですか?」

「あっ、この艦の艦長、霧先友成です。」

「あぁ!神通さんの!できればこの兵装をよく見てみたいんだけど・・・・。」

 

話聞いてないのかい!

 

「で、出来ませんって。」

「お願い!実験艦として見ておきたいの!」

「で、ですが・・・。」

「お願いだから!!」

 

かなりしつこい人だな・・・。

 

「分かりました、もしご覧になりたいのなら梅津艦長、角松二佐、尾栗三佐、菊池三佐に許可をもらった上でみらいにも許可を貰って来て下さい。」

 

流石に諦めるだろう。

 

「その人たちは何処にいますか?」

「え?確か港で「みらい」の警備をしているはずですが・・・。」

「明石さんちょっといってきます!!」

 

夕張さんはまるで新幹線の如く超スピードで「みらい」から降りて走って行った。

・・・・遅いと思っていたけど、夕張さんって足速いんだ。

 

その後に満面の笑みで夕張さんが許可をもらったとのことでみらいに許可をもらい主砲の構造を観察した。

因みに尾栗三佐に聞いてみるとかなり必死に懇願していたため角松二佐と菊池三佐も最初は許可しなかったが結局折れたとのこと。

・・・・・・一番警戒するのは青葉さんだな・・・・。




今回はかなり書くのが難しかったです。

次回予告

みらい「何とか入港することが出来た私たち。
ですが艦長に喧嘩を吹っかけてきた人が・・・。
艦長は喧嘩をやめるべく行動にでる。
次回「第拾質戦目「艦娘と演習」」
次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!」


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第拾質戦目「艦娘と演習勝負」

再投稿です。


「艦長・・・少し疲れました・・・。」

「まぁ、あれだけ質問攻めにされればね・・・。」

 

疲れますな。

 

「とりあえずもう昼時だし食堂を使おう。高屋提督にも許可は貰ってるから。」

「はい、お腹すきました。」

 

というわけで工廠から食堂へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「人一杯だな・・・。」

「そうですね・・・。」

 

食堂は昼時というのもあってか沢山の人でごった返していた。

 

「とりあえずどうやって食べるのかな?」

 

まずはそれが分からんと意味が無い。

 

「む?お主どうかしたのか?」

 

声をかけられて振り向くとそこにいたのは利根型重巡洋艦一番艦「利根」と二番艦「筑摩」だった。

 

「あっどうも。実はどうやって食事をしたらいいかわからなくて・・・。」

「何じゃそういう事なら吾輩が教えてやろう。」

「ありがとうございます。あっ、僕は霧先友成です。」

「私はゆきなみ型護衛艦三番艦「みらい」です。」

「おぉ、お主が友成か!確かに似ておるのぉ・・・ということはあの川の字・・・夜戦バカの甥か・・・。」

「ハハハ・・・・・。」

 

思わず空笑いがでた。

確実に川内伯母さんのことだよね・・・。(汗)

 

「自己紹介をしておらぬな。吾輩は利根じゃ!」

「私は筑摩です。よろしくお願いします。」

「さて、ここでの食事だがここに書いてあるメニューに載っているものを間宮に頼むのじゃ。」

「成程・・・・結構一杯載っていますね。」

「間宮さんはお料理が上手なので。」

 

そう言えばそんな話を読んだことがあるな・・・・。

 

「みらいはどうする?」

「えっと・・・このオムライスセットが良いです。」

「じゃあ僕は日替わり定食にしようかな。」

「決まったようじゃな、筑摩はいつもので良いか?」

「はい、お願いします。」

「では吾輩が頼んでくるぞ。」

 

「少し待っておれ。」といって利根さんは注文しに行った。

それと見た後に筑摩さんが僕に声をかけてきた。

 

「あの、霧先さん・・・・少し御伺いしたいことがあるのですが。」

「何でしょう?あっ、別にさん付けでなくても良いですよ。」

「分かりました。実はみらいさんの力についてお伺いしたいのですが・・・。」

 

・・・・そういう質問か。

 

「具体的にはどういうことを聞きたいのですか?」

「・・・・みらいさんに勝てる艦娘は居るのですか?」

「うーん・・・ケースバイケースですね。例えば戦艦で固めた資材吹き飛び覚悟の艦隊なら、みらいとて無事では済まないでしょう、逆にこちら側の艦・・・・他の護衛艦がこの世界に来てみらいと艦隊を成せばそちらの勝率も下がる。」

「では、状況次第では勝てると・・・?」

「そうですね、ただみらいは500㎞先から敵を迎撃できます。この世界でその距離を反撃できる艦娘はいますか?」

「・・・・・。」

 

約500㎞攻撃できるのはトマホークの数だけ、後は対艦で攻撃できるのはハープーンのみ、90式艦対艦誘導弾なら200㎞が限度と言われている。

結局のところ、その時その時の戦況で勝てるかどうかが変わるのだ。

 

「ありがとうございました、現状は私たちが勝てる確率はあるということが分かりました。」

「目的は達成できたみたいですね、ところで何故こんなことを聞いたんですか?」

「実は青葉さんが私達では勝てない艦娘がいると話してまして・・・・気になったんです。」

 

・・・・・アオバワレエ!!

と、言いたい台詞を心の中でぶちまけたところで。

 

「はぁー・・・みらい、拳銃の携行を許可する。もし「みらい」周辺で青葉さんを発見した場合は危害射撃を許可する。」

「りょ、了解です・・・。」

 

警備強化も視野に入れるか・・・・。

 

「おい、でめぇちょっと聞きたいことがある。」

 

頭を抱えた時に声をかけてきたのは眼帯で左目を隠した女性とアンテナのようなものが頭に付いている女性。

 

「摩耶さん、天龍さん?」

 

筑摩さんの言った通り天龍型軽巡洋艦一番艦「天龍」と高雄型重巡洋艦四番艦「摩耶」だった。

 

「えっと・・・僕ですか?」

「お前以外に誰がいるんだよ。」

「あのー・・・艦長はお昼ご飯を待っているので。」

「お前は黙ってろ。」

「すみませんでした・・・。」( ´;ω;`)

 

天龍さんの一蹴でみらいは涙目になった。

・・・・・これはいかんよなぁ?

 

「その言い方はないんじゃないですか?」

「うるせぇ、俺はお前に話があるんだよ。」

 

これは話を聞かない奴ですな。

 

「要件は何ですか?」

「てめぇはあの艦の艦長だってな。」

 

あの艦・・・「みらい」のことか・・・。

 

「そうですね、ただし、臨時艦長ですが。」

「細かいことはいい、あたしたちはお前の艦と戦いたいんだ。」

「演習ということですか・・・。」

「分かっている様だな。俺より強いなんて噂らしいが、あんな艦はすぐに勝てるぜ。」

 

噂っていうのは広がるのが早いな。

 

「良いでしょう、高屋提督からの許可がおりたらですが。」

「すぐに許可なんてもらってきてやるぜ!あたし達に勝てるわけないさ!」

 

摩耶さんがそういって二人は食堂を出ていった。

 

「・・・・みらい、昼食の後にドックに集合。」

「了解です。」

 

・・・・・力量試しか。

 

 

 

 

 

 

 

昼食を食べた後に僕はある場所に案内してもらっていた。

案内してくれているのは「朧」

・・・・向かっているのは綾波の部屋だ。

 

「ここです。」

「ありがとう・・・。」

 

僕はドアの前に立ちノックした。

 

「入りますよ。」

 

返事が無いのでドアを開ける。

 

 

 

中はカーテンが閉じられて真っ暗だったが部屋の真ん中に布団でくるまった「何か」がいた。

 

「綾波?」

 

「何か」ピクリと動いて此方を向いた。

 

「ヒッ!」

 

綾波の顔は酷かった。

眼には隈が出来ていてやつれていた。

そして僕の顔を見ると幽霊でも見たかのような目で小さな悲鳴を上げた。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・。」

 

綾波は譫言のように言い続けていた。

その目は完全にハイライトさんがoffになっていた。

 

「落ち着いて!大丈夫だから!」

 

僕は気が付いたら綾波を抱き締めていた。

よく考えれば父さんが死んだときも妹を抱き締めていた。それを思い出して無意識にやったんだろう。

 

「え?」

「僕は生きている、謝ることはないよ。あれは不慮の事故だったんだから。」

 

正確には僕の不注意が原因だけどどちらにしろ綾波が悪いわけでは無い。

 

「でも、私・・・。」

「僕はこれでも「神通」の息子。そう簡単に死ねないよ。」

 

母さんは過去に真っ二つになっても戦った。

息子の僕が颯爽と死んだら駄目だ。

 

「ごめんなさい・・・。」

「野郎の胸で良ければ貸すよ?」

 

綾波は目に涙を浮かべて僕に抱きついた。

その眼には光が戻っていて早期治療が良かったことが証明されていた。

その後少しの間は綾波は子供の様に泣き続けてて僕は彼女の頭を撫でていた。

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

「はい・・・あのお見苦しい所を・・・。」

 

そう言う綾波は顔を赤くして伏せた。

 

「ま、まぁ誰でも甘えたい時はあるから・・・。」

 

僕は頬掻きながらフォローしたつもりだったが・・・。

 

「あうううう・・・やっぱり忘れて下さい!」

 

逆効果だったようだ。

 

「ごめん、そうだ!用事を思い出した、僕はもう戻るよ。」

「あっはい、あの・・・・ありがとうございました。」

 

僕が立ち上がって帰ろうとすると綾波も立ち上がってお辞儀をした。

 

「原因は僕にあったから、責任はちゃんととらないとね。それじゃあ。」

 

僕はそう言って工廠へと足を進めた。



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第拾捌戦目「演習開始」

なんでか短くなる。
不思議!


~工廠・ドック~

 

「本当に申し訳ない・・・。」

 

入るなり高屋提督は僕に頭を下げてきた。

 

「あの・・・もしかして演習の件ですか?」

「そうだ、折角歓迎パーティーの計画も水に流れてしまって・・・。」

「いえいえ!あの時は僕もカッとなっていて受けて立つと言ってしまって・・・。」

「だが・・・。」

「それに演習で先に僕達の実力を見せておいた方が良いでしょう?」

 

それは提督自身が「みらい」の力を見る口実にもなる。

そうすればたとえ外部に情報が漏れても高屋提督が相手に脅しで歯止めをかけることが出来る。

 

「僕たちは準備万端です。あとは許可さえあれば演習は可能です。これからの事も考えて今回の演習は重要ですよ?」

「・・・・・分かった。これから編成に加わる者の力量を知るのも大切だからな・・・演習は明日の1500に演習場でどうだ?」

「了解です。1500に演習場で。」

「では、失礼する。」

 

そう言って高屋提督はドックを後にした。

 

「艦長、大丈夫ですかね?」

「弾薬以外はね・・・。」

 

唯一の問題点はそこだ。

 

「明石さん、通常の演習はどうやるんですか?」

「確か演習用の札を艤装に張り付けて演習弾とする方法と演習弾を使う方法の二択があるはずよ。前者は簡単だけど資材消費が少し多くなるの、だから前まで新参者の育成の為に使われていたけど今はあまり使用しないの。後者はより実践に近くなって消費資材も現実的になるわ、だからこっちが主流ね。」

 

成程、なら前者を使えば・・・。

 

「みらい、賭けになるかもしれないが前者の手法で行こう。」

「でも、もしもの場合は?」

「一応、各弾薬は一発づつ研究用に置いてあるから無くなっても複製完了まで頑張ればいい。」

「それはかなりの賭けよ?」

「分かってますよ明石さん。しかし手持ちのチップ(仲間の艦)では拿捕されそうになった時に足りない。だから手持ちのロイヤルストレートフラッシュ(戦闘兵器)をみせる必要があるんです。」

 

これは海上自衛隊とみらいの安全を確実にするための演習でもあるんだ。

 

「じゃあ、さっさと準備しないとね。立ち合いをお願いできるかしら?」

「分かりました。みらい、すまない。」

「いえ、艦長の決断なら私は従います。」

 

演習を乗り切れば此方に優勢になる・・・・・ことを祈ろう。

 

 

 

 

 

 

 

翌日 ~演習場~

 

翌日、午前6時の演習場には大勢の艦娘が集まっていた。

 

「すごい人ですね艦長。」

「約130人も艦娘が集まればこうなるよ。」

 

僕たちは演習場で自己紹介をするために艦娘全員の前に立っていた。

前にいるのは僕とみらいだ。

 

「全員集まったようだな。これから大演習を行う、この演習の目的は今回来た最新鋭艦「みらい」の性能を全員に知ってもらうことにある。まずはその艦の関係者を紹介していく。」

 

高屋提督は言葉を続ける。

 

「まずは「みらい」臨時艦長、霧先友成。彼については聞いている艦娘もいるかもしれないが沈んだと思われていた神通の息子だ。じゃあ紹介を頼む。」

「わかりました。今回演習にて「みらい」の指揮を執る霧先友成です。よろしくお願いします。」

「その隣が今回演習で対戦することになる「みらい」だ。」

「初めまして!ゆきなみ型護衛艦三番艦「みらい」です!」

「そして、今回は観客席に多数の軍人がいる。彼らに粗相のないように頼む、以上だ。」

 

勿論軍人と言うのは海上自衛官の人達の事だ。全員正装で着席している。

僕達の紹介が終わりルールについて説明が始まる。

 

「次は演習時のルールだ。まず演習はいつも通り6対6で行って貰う。そしてトーナメント方式で勝ち進み、最後になった艦隊と「みらい」が6対1で演習を行う。」

「6対1!?」

「気でも狂ったの?」

 

ざわざわ

 

「静かに!」

 

シーン

 

高屋提督の一言で一気に静かになった。

 

「続ける。今回戦うのはくじで決めた4つの艦隊だ。まず一つ目は木曾、神通、暁、那珂、山城、如月。」

「面白そうな演習だな。」

「が、頑張ります・・・。」

「レディーの力を見せてやるんだから!」

「那珂ちゃんいっきまーす!」

「不幸だわ・・・。」

「(何が不幸なのかしら?)」

 

「二つ目は天龍、摩耶、飛龍、瑞鳳、霧島、榛名。」

「やってやるぜ!」

「さっさと勝ってアイツを叩きのめすぞ!」

「大丈夫かなぁ・・・。」

「が、頑張りましょう飛龍さん。」

「相手は・・・作戦は・・・。」

「霧島、始める前から考えすぎるのも・・・。」

 

「三つ目は白雪、ヴェールヌイ、飛鷹、古鷹、衣笠、妙高。」

「皆さん?ご一緒にがんばりましょう。」

「最後まで行きたいな。」

「必ず勝ち進むわよ!」

「演習でも全力で行きます!」

「演習も衣笠さんにお任せ♪」

「皆さん頑張りましょう。

 

「四つ目は最上、利根、大井、北上、夕立、若葉。」

「よし、頑張るぞ!」

「出来れば川の字の甥と戦いたいのぉ。」

「北上さん!頑張りましょう!」

「うん、がんばろーねー。」

「最後までパーティーぽい!」

「それは少し違う気がするぞ?」

 

「最後に審判を務める物から一言。」

 

その言葉の後にマイクの前に立ったのは母さんだった。

 

「皆さん、お久しぶりです。神通です。分かりにくいので今後は先代神通と名乗ります。今回はこの演習の審判を務めます、ですが息子にはひいきはしませんのでご安心を。正々堂々と戦って下さい、以上です。」

 

「ではこれより大演習を行う!まずは第一艦隊と第二艦隊の演習だ!」

 

高屋提督の言葉で演習は始まった。



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第拾玖戦目「みらい 演習」

今回は結構難産でした。
次々回あたりから日常編突入です。

今回は無双用BGM「戦闘「みらい」」を聞きながらみらいの戦闘をご覧ください。


「では演習のルールを説明します、演習時間は1時間。お互いが30㎞離れた状態で開始します。大破と中破になったものが多い方が負けとします。では第一海戦、始め!」

 

母さんの掛け声により大演習が始まった。

まずは「第一演習艦隊」対「第二演習艦隊」だ。

 

最初は木曾、神通の雷撃戦と山城による砲撃が圧倒していたが、次第に航空戦力で有利な第二演習艦隊が圧倒し、第一演習艦隊は大破四、中破二、第二演習艦隊は小破三、中破一という結果で終わった。

 

「大丈夫ですか?」

 

戻ってきた第一艦隊の面々に声をかける。

 

「涼しくなっただけだ。」

「お化粧取れちゃったぁ~。」

「那珂ちゃん、なんで化粧を・・・?」

「不幸だわ・・・。」

「髪の毛が痛んじゃったわ。」

「レディーだから大丈夫よ!!」

 

と各々が言うけども木曾さん、神通さん、如月、暁が大破、山城さん、那珂叔母さんが中破だった。

 

「ともかく消毒などを行いますので此方に座って下さい。」

「そんなもん必要無い。」

 

ほほう?木曾さんは必要が無いと。

 

「もしかして・・・・消毒が怖いと?」

「そんな訳ねぇだろ!消毒なんて恐かねえ!」

「じゃあ消毒できますよね?」

「上等だ!やってやらぁ!!」

 

この手(煽り)に限る。(この手しか知りません。)

 

「ぎぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

この後、木曾以外の演習に参加した全員の叫び声が演習場に響き渡った事は言うまでも無い。

 

 

 

 

さて、治療が終了して第二海戦、「第三演習艦隊」対「第四演習艦隊」。

 

此方は偏りのない編成のおかげか両者一歩も引かない戦いだった。

しかし重巡組の火力の強さと疲労の溜りが影響してか後半は第三演習艦隊に傾いた。

結果、第三演習艦隊は大破一、中破二、第四演習艦隊は大破二、中破二となった。

 

 

「さて、皆さん。消毒をしますので並んでください。」

『『『『ガタガタガタガタ』』』』

 

勿論この後も友成の無意識な滲みる攻撃で犠牲になった艦娘がいたことは事実である。

 

 

 

「ここでお昼休憩とします。間宮さんがお弁当を作ってきたので皆さん受け取ってください。」

 

母さんがそう言うと共に艦娘全員が間宮さんの所に走り出した。

 

「あの間宮さんのお弁当ですか・・・行きましょう艦長!」

「いや、流石にあの人だかりには突っ込めないよ・・・。」

 

現在間宮さんの周辺には駆逐艦がごった返している。

あんなところに行くのは自殺行為だ。

 

「ははは・・・少し時間がかかりそうですね。」

「まぁ、残っていることを祈ろう。」

 

その後、海自の人達の分は支給されたが栄光の一航戦(大食艦コンビ)の所為で僕達の弁当は残っておらず、僕とみらいは艦内の備品の缶詰が昼食となった。

缶詰は美味しかったけど・・・・ブチ切れた母さんが赤城さんと加賀さんを血祭りにあげていた。

 

「もう終わりですかぁ?」

「「殺される・・・私達殺される・・・!」」

 

ガチでこのまま岩盤送りになりかねないので何とか母さんを止めた。

赤城さんと加賀さんはすでに満身創痍で昇天しかけていた。

 

 

 

さて、一悶着あったところで第三海戦。「第二演習艦隊」対「第三演習艦隊」。

 

この対戦は意外に早く勝負が決まった。

美味しい弁当を食べたおかげか全員戦意高揚。

その影響で航空戦力と火力で上の第二演習艦隊が優勢。

結果は第二演習艦隊は中破一、小破二、第三演習艦隊は大破六という・・・。

 

こ れ は ひ ど い

 

当然帰ってきた皆さんに消毒をしてあげました。

 

 

 

さてさて、いよいよ僕達の番となった。

僕は明石さんに事前にセットされた長机と椅子が置いてあるところに案内された。

机の上には時計、無線機、メモ帳、レーダーを映したテレビが置かれていた。

 

「友成君はここで指示を送ってね。その無線機とテレビは妖精さんの特製品で無線はみらい用。テレビはみらいのレーダーにリンクしているわ。」

「ありがとうございます。みらいは?」

「今、出航したわ。」

「分かりました。」

「応援しているから頑張ってね!」

 

明石さんはそう言うと観客席に戻って行った。

僕は椅子に座り無線機を使ってみる。

 

「此方霧先、みらい応答せよ。」

『こちらみらい、感度良好。艦長、今回の作戦は?』

「すでに考えてある、この戦法でなら確実だろう。」

『まさか、全自動迎撃モードですか・・・?』

「あれは実戦上でのみだ。今回は手動だ、指示に従って的確に動いてくれ。艦長は君になるんだ。」

『私が艦長ですか?』

「そうだ、今回は演習だから大丈夫だけど、普段艦娘として戦う時は君が艦長として戦闘時の指揮を取らなければならないんだ。」

『・・・・分かりました。』

「よし、予定ポイントは?」

『予定ポイントまで3分です。』

「了解、予定ポイントに着き次第連絡せよ。」

『了解です。』

 

無線が切れた後、僕は机の上の時計を見続けた。

 

 

 

そして三分後。

 

『此方みらい、予定のポイントに到着。』

「了解、指示があるまで待機せよ!」

 

そして母さんからの開始の合図を待つ。

 

「演習始め!」

 

母さんの号令が聞こえてから無線に手を取り指示を出した。

 

「対空、対潜、対水上レーダー起動!」

『対空、対潜、対水上レーダー起動!・・・約50000ヤードに対水上目標6隻発見!』

「対水上戦闘よーい!」

『対水上戦闘よーい!』

「トラックナンバーと陣形を報告。」

『トラックナンバー2435、天龍、2436、摩耶、2437、飛龍、2438、瑞鳳、2439、霧島、2440、榛名!陣形は単縦陣!」

 

トラックナンバーと陣形をメモしていく。

相手は単縦陣・・・戦艦とガチでやり合うのはキツイ・・・霧があればなんとかなるかもしれないが無いならこの手法・・・

 

「目標トラックナンバー2439、2440、金剛型戦艦、霧島、榛名!前甲板VLS、トマホーク攻撃よーい!」

『前甲板VLS、トマホーク諸元入力完了!発射準備よし!』

「トマホーク、攻撃はじめ!Salvo!」

 

アウトレンジ戦法しかない。

 

 

 

「トマホークとは何かしらね、提督?」

「分からないが兵器であることに変わりはないだろう。」

 

頭を傾げて考える二人に翔鶴が近付いて説明した。

 

「対艦用巡航ミサイル、射程500kmという兵器の名称です。」

「翔鶴、何故それを?」

「友成君が教えてくれました。あの兵器は正規空母を一撃で沈めることが出来ます。」

「それは本当なの!?」

「はい、私もヲ級が吹き飛ばされるのを見ました。」

「やはり、我々の技術を越えた兵器だな。」

 

提督と陸奥は驚いたように海を眺めていた。

しかし翔鶴は戦闘指揮を行う友成の背中を見て考えていた。

 

「(友成君、貴方はあの戦闘(横須賀沖海戦)まで迷いがあった。でも今は違う、貴方は学生から軍人へと成長した。この大きな進歩は貴方の人生を大きく変える。それが幸と出るか不幸と出るか・・・。)」

 

友成の変化とそれに伴う彼の人生における可能性を。

 

 

 

『目標到達まで約3分!』

「目標トラックナンバー2439、2440、金剛型戦艦、霧島、榛名!ハープーン攻撃用意!」

『ハープーン発射用意よし!』

「ハープーン攻撃はじめ!!」

『ハープーン発射!』

 

これだけ発射すればある程度損傷は与えられるはずだ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、このまま行って砲雷戦で一気に終わらせるぞ!」

「たかが一門の砲と魚雷発射管を持った巡洋艦相手に負けるはずないしな!」

 

天龍と摩耶は自分たちが負けるはずがないと思い悠々と進んでいた。

 

「何だか嫌な予感しかしないなぁ・・・。」

「大丈夫ですか飛龍さん。」

「うん。ただ、みらいは何か隠し持っている気がして・・・。」

「確か大和さんの主砲弾を落としたとか・・・。」

「私も見たけど・・・・あっという間で分からなかったよ。」

 

一方、飛龍と瑞鳳はみらいについて考えていた。

榛名と霧島は周辺を警戒していたが特に異変は見られず平穏な海だった。

だがそこに亜音速で飛んで来るものがいた。

それはあっという間に前方で警戒していた榛名と霧島に近づく。

 

「?!榛名!前!」

「えっ?」

 

霧島が気付き榛名に言うが亜音速を避けれるはずもなく。

 

ドゴオォォン ドゴオォォン

 

二人に着弾、爆発した。

 

「てっ敵襲!?」

「どっから撃ってきやがった!?電探には反応が無いぞ!?」

 

それもそのはず。彼女達の電探は30㎞程度が精々なのに対してみらいのOPS-28対水上レーダーは約500㎞先の艦影も補足する。

そして霧島たちに着弾したのはトマホーク。貫通力が無いとはいえ爆発でのダメージはそこそこある。

更にハープーンが迫っていることを彼女たちは知らない。

「偵察機を出すわ!」

「私も出します!」

 

飛龍と瑞鳳は偵察機を発艦させて霧島と榛名の代わりに警戒を行う。

しかし5分後に予想だにしないことが起きる。

 

「偵察機から報告!何か飛んでくる!!」

 

飛龍が言ったそのすぐ後に何かが噴煙を出しながら飛んできた。

 

「対空戦闘よーい!!」

 

摩耶の声と共に摩耶と天龍は砲を向ける。

しかし。

 

「上に上がった!?」

 

天龍が変な声を出すのも仕方がない。

本来ならまっすぐ飛ぶものが上に飛行し始めたのだ。

そして霧島と榛名を捉えてまっすぐ降下、着弾した。

 

「また二人に被弾した?!」

「一体全体何がどうなっているんだよ!!あの奇天烈な兵器は何なんだ!!」

 

飛龍と瑞鳳が霧島と榛名の二人を介抱する横で摩耶と天龍はパニックになっていた。

 

「飛龍さん、どうしますか?」

「二人は意識はあるけど既に中破・・・仕方ないけど提督に事情を離して演習の中断を。」

「?!電文です・・・「こちらで発射した砲弾の着弾を確認した。そちらに被弾した砲弾は深海棲艦の物ではなく本艦の未来の砲弾なので心配ない。」以上です。」

 

瑞鳳が読み上げた電文にそこにいた全員が驚いた。

 

「では、私たちに着弾した砲弾はみらいが!?」

「そう言う事ですか・・・。」

 

霧島と榛名は驚き納得した様子だ。

 

「チッ、何が未来の砲弾だ!そんなんで逃げるくらいならアイツに一撃でも当ててやる!」

「そうだ!とにかくこの演習で勝つぞ!」

 

天龍と摩耶は二人でみらいに近づこうと動き出した。

 

「待ちなさい!勝ち目は・・・。」

「俺が旗艦だ!いいからやるぞ!」

 

飛龍の制止も聞かず天龍は進撃する。

 

「仕方ないわね・・・金剛型戦艦の意地を見せるわよ。」

「榛名!進軍します!」

 

戦艦の二人もヤレヤレといった感じではあるが二人だけにできないとついて行った。

 

「もう!どうなっても知らないわよ~!」

「ま、待ってください飛龍さん!」

 

そして空母の二人も渋々ついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『艦長、敵艦隊進軍を続けます。』

「目標トラックナンバー2437、正規空母飛龍!前甲板VLS、トマホーク攻撃用意!」

『トマホーク諸元入力完了!発射準備よし!』

「攻撃隊を発艦させ次第発射。他の艦にはハープーンと主砲で対処。」

『了解!』

 

 

 

「洋介、霧先の奴の顔を見てみろよ。雅行の顔より険しくなってるぜ。」

 

観客席で演習の様子を見ていた尾栗が角松に言った。

 

「・・・・彼は俺たちの知らない戦争を知ったんだ。」

「戦後生まれで戦争を知るとあぁいう顔になるんだな。」

「雅行があぁなるかもな。」

 

尾栗は冗談半分で菊池に振る。

 

「否定は出来ないな、俺も少しだけ戦争を知ったような気になった。」

「どっちにしろ、この戦力は俺たち海自が有している戦力なんだ、日本国海軍にしてみれば喉から手が出るほど欲しいだろうよ。」

「だから守るんだ。」

 

角松の決意には尾栗と菊池は何も言わなかったが同じ決意をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

『主砲射程圏内に対水上目標6隻発見!』

「対水上戦闘、CIC指示の目標、主砲撃ちぃ方ぁ始めぇ!!」

『主砲撃ちぃ方ぁ始めぇ!!』

 

みらいの砲撃音がする度に敵艦隊に黒煙が上がる。

よく見ると空母の二人を守っているようだ。

 

『空母から艦載機発艦!数50機!』

「対空戦闘よーい!ECM、電子戦開始!」

『ECM、電子戦開始!』

「CIWS迎撃開始(コントロールオープン)!」

『CIWS迎撃開始(コントロールオープン)!』

 

ECMを起動して電子線を開始する。

勿論、CIWSも起動しておく。

 

「トラックナンバー2437、正規空母飛龍、トマホーク攻撃開始!」

『トマホーク発射!』

「続けてトラックナンバー2439、2440、2438、霧島、榛名、瑞鳳、ハープーン攻撃開始!

 

本来なら攻撃機が出されるまでに撃沈が最適だが演習でみらいの防空能力を見せつけるためにあえて航空機が出るまで攻撃を控えた。

そして攻撃機が出たところでトマホークで攻撃を行う。

 

『対空目標、本艦に接近中!スタンダード防空圏内に補足!』

「スタンダード攻撃開始!」

『スタンダード発射!Salvo!』

 

対空目標に対して多数の目標を迎撃しやすいスタンダードを発射して数を減らす。

 

『スタンダード全弾命中!敵航空機数36!スタンダード残弾数有りません!』

「残りの航空機はシースパロー防空圏内に補足次第シースパローで迎撃!」

『了解!対水上目標接近してきます!』

「主砲残弾は!?」

『現在冷却、補給中!主砲使用出来ません!敵弾、本艦艦首10mに着弾!』

「確実に狙ってきている・・・・トラックナンバー2439、2440、2438、霧島、榛名、瑞鳳、ハープーン攻撃開始!」

『ハープーン発射!』

 

主砲が連続射撃可能数に達し、敵弾が夾差してきたためハープーンで攻撃を行う。

 

 

 

 

 

 

 

「おい天龍!何がたかが一門の砲だ!ピンポイントで撃って来ているぞ!」

「うっせえ!とにかく撃ちまくれ!」

「何か飛んでくる!」

 

榛名が言った瞬間にはもう遅く後ろにいた飛龍に被弾、撃沈判定が出た。

 

「完全に掌で踊らされている・・・・。」

 

霧島がそう呟くと同時に衝撃が彼女を襲う。

彼女だけではなく撃沈判定が出た飛龍以外の全員が攻撃を受けた。

 

「ッ!被害は!?」

「私と霧島が大破、天龍、摩耶、瑞鳳、飛龍が撃沈・・・・私たちの負けよ・・・・。」

「・・・・そう。」

 

完全に士気が落ちていた。

そんなに強そうでは無い、砲が一門だけのたかが巡洋艦一隻が30㎞先にいる自分たちに接近せずこれだけの被害を出したのだ。

 

 

 

 

『トマホーク着弾確認!飛龍撃沈!』

「ハープーンは?」

『ハープーン着弾まで5秒、4、3、2、1、ハープーン着弾確認!霧島及び榛名、大破!天龍、摩耶、瑞鳳、撃沈!』

「了解、作戦終了、負傷者を収容し当海域を離脱せよ!」

『了解、収容出来次第、帰投します。』

 

一方、此方でもみらいの戦闘演習の終了が伝えられたところだった。

当然、会場はざわついている。

 

「あの艦隊を一隻で!?」

「そんなことがあり得るはずが・・・。」

「相手は化け物・・・?」

「あんな艦に勝てるわけが無いYO・・・・。」

 

そんな中、友成が口を開いた。

 

「母さん、判定は?」

 

誰かが唾を飲み込む、判定は当然。

 

「・・・・みらいの勝利、第二艦隊の敗北とします。」

 

友成指揮のみらいが勝利という結果だった。



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日常編
第弐拾戦目「情報制限」


次回から日常編開始です。


「みらいさんはすごいのです!」

「戦艦相手にあんなに攻撃できる艦娘はいないっぽい!」

「どうしたらそんなに強くなれるの~?」

 

ワーワーキャーキャー!!

 

演習終了後の1900に食堂では友成、みらい、海自の歓迎パーティーが開かれていた。

その中でみらいは駆逐艦や軽巡、重巡にもみくちゃにされていた。

 

「艦長~助けて下さいよ~!!」

「これも交流だから頑張りなさい。」

「そんな~!!」

 

みらいに助けを求められたけど交流という面の為に犠牲になって貰う。

合掌。

 

「ハハハ、まさか俺達の乗る艦があんな風にされているなんてな。」

 

その様子を見ていた尾栗さんが笑った。

 

「だが、流石に冷たくないか?」

「今だからできることが多い。艦だった頃では体験できないようなことが。だから艦長としては女の子としても生きて欲しいんですよ菊地三佐。」

 

彼女は苦難をいくつも乗り越え航海の果てに沈んだ。

だからせめて二度目の人生は楽しいことに多く触れて欲しいと思っている。

 

「そう言えば気になったんだがここの提督は山本長官と同じ階級だよな?意外と若く見えるんだが・・・。」

「そうだな、初対面の時は交渉の事を考えていて気にならなかったが改めてみると俺たち位に見える。」

「大体30代前半だな、それで大将とはかなりのものだぞ。」

 

尾栗三佐と菊地三佐、角松二佐の言う通り意外と高屋提督は若く見える。

あの年で連合艦隊司令長官と同じ階級とは普通では考えられない。

 

「母さんなら知っているかもしれません。」

「友成の母親がか?」

「えぇ、どうやら古参の部類に入るようで・・・。」

 

だけど重要なことは分からない。

僕だって明石さんから又聞きしただけだ。

 

「こんばんわー!那珂ちゃんだよー!」

「ダッハァ!!」

 

後ろから大声を出されて僕は椅子から飛び上がった。

 

「あれぇ?驚かせちゃった?ごめんね友君。」

「え?うん、こういうのは慣れているから・・・・。」

 

主に元の世界にいる義理の姉の所為だけど・・・。

 

「えっと・・・どちら様ですか?」

 

尾栗三佐が那珂叔母さんに尋ねた。

 

「那珂ちゃんは那珂ちゃんだよー!神通お姉ちゃんの妹だよー!」

「川内型軽巡洋艦三番艦「那珂」か、二水戦も務めた艦だったはずだが・・・。」

 

「「「(艦娘になるとこうも変わるもんか・・・。)」」」

 

菊地三佐が一言言った後に三人がそろって那珂叔母さんを冷ややかな目で見た。

 

「えっと、那珂叔母さん?そうだ、母さんについて教え、へぶう!」

 

言葉を言い終わる前に那珂叔母さんに両頬を押さえられた。

 

「那珂ちゃんはおばさんじゃないよ!」

「いや、友成から見れば叔母だし、進水した時から数えて見なよ。」

「・・・・セ、セーフだし!」

 

颯爽と現れたのは川内伯母さんだ。服装からして二人とも改二じゃないんだね。

ていうか那珂叔母さんは「叔母さん」という単語に反応したのか・・・。

 

「はぁ、えっと初めまして、川内型軽巡洋艦一番艦「川内」だよ。」

 

ため息をついた川内伯母さんが自己紹介をした。

 

「えー、初めまして?霧先友成です。」

「他人行事だねーもっと気楽に話しなよ。」

「え?う、うん・・・。」

 

なんだかぐいぐい来るな・・・。

 

「やっぱり神通に似てるね!特に目元!」

「あ、ありがとう川内伯母さん。」

「伯母さんかぁー・・・やっぱそういわれるのには違和感があるなぁ・・・。」

 

そりゃいきなり甥っ子が来てるんだもの、そうなるよね。

 

「じゃあ、お姉ちゃんって呼んでもらったらいいんじゃないかな?」

「それ良いね!友成、試しに言ってみて?」

 

那珂叔母さんの提案に川内伯母さんが賛成した。

確かに姉妹に見えなくもないけど・・・。

 

「えっと、川内姉さん?」

「いいね!じゃあ私と那珂はそう呼ぶように!」

「えぇ~・・・。」

 

少し強引な気がするけど・・・まぁ良いか。

 

「それはそうと・・・夜戦は好き?」

「え?いや、この世界に来るまでは唯の高校生だったから・・・。」

「じゃあ夜戦の素晴らしさについて教えてあげるよ!」

 

なーんだか面倒なことになったぞぉ?

 

「いや、夜戦h「夜戦っていうのはねぇー・・・。」・・・。」

 

話聞かんなこの人・・・。

 

「ん?なんだかコソコソしている艦娘が・・・。」

 

何やら挙動不審な人を発見・・・あの人は青葉だよね?・・・・まさか!?

 

「川内姉さんごめん!角松二佐!少しみらいに行ってきます!」

「あっ、おい!どうしたんだ!」

 

角松二佐が声をかけるが僕は出ていった青葉さんを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

~工廠・ドック~

 

「・・・・侵入成功。さて、一体どんな秘密があるんでしょう・・・ジャーナリスト魂がくすぐられます!」

 

青葉型重巡洋艦「青葉」はコッソリとパーティーの為、誰もいないドック内に侵入していた。

勿論、目標は「みらい」である。

青葉の目的は一体「みらい」はどんな兵器を持っているのか?どう操作するのか?どこの所属なのかを暴くことである。

 

「おぉ・・・これはまたシンプルな形ですね・・・。」

 

青葉はサッとカメラを構えて「みらい」を写真に収めていく。

 

「この単装砲は駆逐艦のものに似ていますね・・・砲が一門とは寂しいですが・・・あの艦隊を負かすぐらいです、きっと霧の艦隊の様な兵器であるに違いありません!」

 

写真に収めていく青葉が言う霧の艦隊とは去年の冬に現れた超兵器を持った艦艇のことである。

連合艦隊でも歯が立たないぐらいに強いその艦艇に遅れをとっていた海軍は同じ霧の艦隊の「イ401」「タカオ」「ハルナ」と共同戦を張ることに成功、霧の艦隊を迎撃した。

あの演習を見ていた青葉は「みらい」も霧の艦隊と似た存在だと考えていた。

 

「では、細部も見てみましょう・・・。」

 

立ち入り禁止と書かれた看板を無視して青葉がタラップを上がろうとしたとき。

 

「動くな!動けば撃つ!!」

 

友成の声が響き、青葉は止まった。

 

「VLSやCICを見られる前に追いついて良かった・・・こっちを向いてください。」

 

青葉は冷や汗を垂らしながら友成の方を向いた。

友成は9㎜拳銃を構えていて顔は完全に怒りの表情だった。

 

「何をしようとしていたんです?」

「えっと、皆さんこの艦の性能や素性を知りたがっているので・・・ジャーナリストとして公表しようかと・・・。」

 

青葉は拳銃を突き付けられた状態で苦笑いしながら答えた。

そして友成はその言葉にこう答えた。

 

「良いですか?この艦はボタン一つ押すだけで確実に深海棲艦を沈められる。そんなものを公表してもし大本営に漏れれば日本海軍はどうします?」

「えっと、そりゃ見に来ますよ。」

「その通り、ただし来るのは武装した兵士でしょう、武力行使をしてでも「みらい」を拿捕するためのね。」

「あっ・・・。」

 

そこまで行って青葉は初めて友成の言いたいことを理解したようだった。

 

「みらいを公表するときには優先的に教えます、それまでは秘密にしておいてください。」

「・・・・・分かりました、約束ですよ?」

「約束は守ります、カメラをこちらに。」

 

友成は青葉からカメラを預かり9㎜拳銃をしまった。

 

「このカメラのフィルムは処分します。」

「くっ、良いです。ですが!代わりに貴方に取材をさせていただきます!!」

「え~・・・分かりました。」

 

友成には一瞬青葉が伝統文屋に見えたような気がしたがこういうタイプの人間が引き下がらないことを知っていた為渋々承諾した。

 

その後、友成は1時間ほど根掘り葉掘り質問されパーティー会場に戻ったときには疲れていてそのまま寝てしまったそうだ。

 

 

そしてパーティーが終わって数時間後に朝日が水平線から昇る。

それは、これから先、高校生艦長と自衛艦娘、そして自衛官たちが進む航路を照らしているようだった。




短いのはご勘弁を・・・。


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第弐拾壱戦目「新たな出会い」

「あぁ・・・眠い。」

 

眠い目を擦りながら周囲を見渡す。

どうやら個室のようでパーティー会場で寝てしまった後に運ばれたのだろう。

 

「病み上がりだからかなぁ?体が重いなぁ・・・。」

 

少し体が重いけどとりあえず起き上がる。

部屋は簡単な作りで畳と窓、箪笥にテレビ、時計、三段ベッド、姿鏡といった必要なものが置かれていた。

 

「よっこいしょ・・・今は0532・・・5時32分か。」

 

時計の針は小さな音を立てながら動いていく。

僕は姿鏡の前に立つ。

 

「うーん・・・服はそのままだよね。」

 

服装は「みらい」の中に置きっぱなしだったリュックに入っていた着替えを着用しているため何も問題は無い。

ただ白地のTシャツには「飯より宿」と黒い字で大きく描かれていた。

 

「うーむ、他に服は・・・あっ、リュックがある。」

 

服が無いかと周囲を見てみると僕のリュックが置かれていた。

 

「?手紙がある・・・・『艦長へ、着替えなどをお持ちしましたのでここに置いておきます。 みらい』後でお礼を言わないと・・・。」

 

みらいの手紙を読んでからリュック内を漁る。

 

「・・・・これでいいかな。」

 

適当なものをピックアップして着替える。

 

「にしても、結構ボロボロになったなぁ・・・。」

 

着替えのついでに体を見てみた。

一週間前まで特に傷のなかった体は四発の7.62㎜弾の当たった痕と頭の切り傷が出来上がっていた。

 

「流石に怪我を跡なしににはできないか・・・。」

 

どうやら僕の体に高速修復材は効くようだけど傷なしにまでにはできないか・・・。

 

「よし!着替え完了!」

 

服装は黒地に「夜戦魂」と白い字で大きく描かれたTシャツに白に近いグレーの短パンというラフさを追求したものになった。

 

「さーて、朝食を食べに行こうかな?」

 

着替えを終えた僕は部屋を出て食堂へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!おはようございます!」

「あぁ、おはよう綾波。」

 

食堂に向かう途中で出会ったのは綾波だった。

かなりの笑顔で見ている側としては癒される。

 

「友成さんはこれから朝ごはんですか?」

「うん、その後にみらいと合流して鎮守府を見て回ろうかなと。」

「あの、良かったら私が案内しましょうか?」

「お願いしようかな、僕は詳しくないし。」

「分かりました!」

 

そう言って返事をした綾波が幼いころの喜菜に見えた。

 

「・・・・・帰らないとな。」

「何か言いましたか?」

「いや、何でもないよ。それじゃ行こうか。」

「はい!」

 

僕たちは食堂へと足を進めた。

 

「ところでその服装は・・・。」

「・・・・僕にもわからないけど見た瞬間この服が欲しくなったんだ。」

 

血は争えないね。

 

 

 

 

 

 

「さーてどこに座ろうかな?」

 

食堂についた僕たちは席を探した。

すでに総員起こしがかかった為、食堂には人が増えつつあった。

 

「あっ!艦長、こっちです!」

 

席を探しているとみらいが手を振って僕を呼んでいたのでそこに向かった。

みらいは既にある人物と同席していた。

 

「おはようみらい、大和さん。」

 

その人物は大和さんだった。

 

「おはようございます霧先艦長。」

「別に艦長とつけなくても・・・・なんせ唯の高校生ですから。」

「ですが、あれほどの指揮。既に軍人と同じ域だと思いました。流石、神通さんのお子さんです。」

「・・・・・そうですよね、軍人ですか。」

 

僕は丁度近くにあった窓を眺めた。

 

「艦長?どうかなさったんですか?」

 

みらい、綾波、大和が僕に視線を向ける。

 

「・・・・僕はもう戻れないかもしれませんね。」

「えっ?」

「あぁ、気にしないで。それより料理を頼みましょう。」

 

適当にごまかしたけど・・・僕も認めたくないんだろう。

この世界で普通の一般人として生きていけないことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を終えて大和さんと別れた後、僕たちは鎮守府を案内してもらっていた。

 

「こちらが工廠です。ここで建造、開発などを行っています。」

「中を見学してもいいですか?」

「はい、どうぞ。」

 

綾波に案内されて入った工廠はある意味工場に近いものだった。

辺りで忙しく動いているのは妖精さんたちだ。小さいから踏んだり蹴ったりしないように注意しつつ歩く。

 

「これが建造用個室でこれは操作盤です。ここに書かれている資源のダイヤルを回して建造開始のボタンを押して建造を行います。」

 

綾波が見せてくれたのは大型の扉に数字が書かれた建造用個室だ。

どうやらこの操作盤のダイヤルを回して資材を投入して建造するようだ。

先にだれか建造したのかダイヤルは戦艦レシピに指定されていた。

 

「へー、こんな風になっているんだ・・・。」

 

よく見ようと近くに寄ったとき僕は足を滑らせてしまった。

 

「うわっとお!!」

 

うっかりこけた僕は操作盤の建造開始と書かれたボタンを押してしまった。

 

ビービー!!

 

警報のようなものが鳴り響き資材が壱と書かれた個室に運ばれていく。

そしてその扉の上に出た建造時間の数字は。

 

「「72時間!?」」

 

僕と綾波は声をそろえて驚いた。

最大は大和型戦艦の8時間なのに72時間なんて聞いたこともない。

 

「これどうしようか綾波・・・。」

「一応高速建造材を使ってみましょう・・・。」

 

そう言って綾波は操作盤にある高速建造材と書かれたボタンを押す。

すると妖精さんがバーナーで個室を炙る。

パタパタと0になっていく数字を見つめつつ3秒ほどして建造完了。

 

「いったい誰だろう・・・。」

 

僕は扉の前に立ってみる。

ゆっくりと扉が開かれ出てきたのは

 

「扶桑型超弩級戦艦、三番艦の伊勢です。よろしくお願いします!」

 

存在しないはずの扶桑型三番艦の伊勢だった。



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第弐拾弐戦目「イレギュラーとイレギュラー」

「え~っと、貴方は扶桑型戦艦三番艦「伊勢」で間違いありませんね?」

「そうだけど?」

 

頭に?を浮かべる伊勢さんに僕は頭を抱えた。

伊勢さんの服装は扶桑型のそれと全く同じだった。

つまりは唯でさえここには二組のイレギュラー(僕たちと海上自衛隊)がいるのにさらにイレギュラー(存在しない艦)が増えたのだ。

 

「綾波、どうしようか・・・。」

「とりあえず案内はここで終わりだったのでこの後の行動に支障はないですが・・・。」

 

綾波も頭を抱える。

その様子を「やってやったぜ!」と達成感の顔でいる妖精さんが見ているためどうしようもない気持ちになる。

 

「ところで、貴方が提督?にしては幼いけど・・・。」

 

僕と綾波が頭を抱えていると伊勢さんが質問をしてきた。

どうやら僕を提督と思っているらしい。

 

「いえ、僕は駆逐艦の臨時艦長を務めています。霧先友成です。こっちがその駆逐艦のみらいです。」

「は、初めまして、みらいです!」

「そうだったんだ、よろしくね。それで提督は?」

 

僕と綾波は目を合わせた。

もう隠すべきことでは無いしすぐにばれるだろうから。

 

「今は執務室に居ます。案内するのでついて来て下さい。」

 

伊勢さんを提督に会わせることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何とか誰にも会わずに来れた・・・。」

 

運が良かったのか誰にも会うことなく執務室にこれた。

とりあえず身だしなみを整えてからドアをノックする。

 

『誰だ?』

「霧先友成、綾波、みらいです!」

『入って良いぞ。』

 

「伊勢さんは呼ぶまで待っていてください。」

「ほいほーい。」

 

伊勢さんに注意してからドアを開けて中に入る。

 

「執務中に失礼します。」

 

入ってから海軍式の敬礼をする。

提督も座りながら敬礼をした。

 

「それでどうしたんだ?」

「はい、実は司令官・・・。」

 

綾波が事の出来事を話してくれた。

 

「ふむ、では戦艦が建造されたんだな?」

「はい、自分も確かに確認しました。」

「その艦とは?」

「今呼びます。入って来て下さい!」

 

僕が声をかけると同時にドアが開けられ伊勢さんが入ってきた

 

「扶桑型超弩級戦艦、三番艦の伊勢です。提督、よろしくお願いします!」

「はっ?」

 

提督の間の抜けた声が聞こえるのも仕方がないのだろう。

 

「私が説明を。そもそも扶桑型は四番艦まで建造予定でしたが「伊勢」の建造が遅れ、その間に扶桑型の欠陥が発覚、急遽改修され伊勢型が建造されました。」

 

みらいが説明してくれた。

そういえば結構書物が入っていたっけ。

 

「ではその存在しない艦が出来たと?」

「そうなります・・・。」

 

「ふむ・・・では友成、四番艦建造の可能性も?」

「恐らくあると思います。」

「では・・・四番艦の建造を視野に入れよう。」

「伊勢さんはどうしますか?」

「上には友成たちの事と合わせて報告しておく。彼女は扶桑のところへ案内してやってくれ。今夜、歓迎会を行う。」

「了解しました。失礼します。」

「「「失礼します!」」」

 

僕たちは敬礼をして執務室を後にした。

 

 

 

 

 

「存在しない艦か・・・。」

 

提督は一人になった執務室で天井を眺める。

 

「何故そんな艦が建造された?」

「ある種の力じゃないかな?」

 

提督の独り言に応答する高い声が響く。

提督はその音の発せられた方を見る。

そこには身長15㎝ほどのOD色のつなぎと黄色いヘルメットを被った小さな女の子がいた。

実は彼女こそ工廠の妖精をまとめる主任妖精なのだ。

 

「主任妖精、入るときは・・・」

「ノックしろ。でしょ?今回位いいじゃない。」

「これで100は超えているはずだぞ?」

 

眉間を押さえる提督に笑いながら主任妖精が近づき彼女にとってはかなりの高さの執務机に軽々と飛び乗った。

 

「とにかく、彼の運はすごいね。」

「彼?友成の事か?」

「あぁ、彼はおそらくイレギュラーを引き込む力でも持っているんじゃないかな?」

「イレギュラーを引き込む力?」

「イレギュラーはイレギュラーを呼ぶ。そういうことさ。」

「よく分からんな。」

「私もわからん!」

 

そういって笑う主任妖精に提督は再び眉間を押さえる。

これでは提督の顔にしわが増えるのも時間の問題だろう。

 

「これは私の案だけど・・・。彼を工廠長にしてみたらどうだい?」

「工廠長にか?」

「そうすれば彼を技術者として海軍に編入できるし、私の仕事も減る。さらに遠征や資材の確認とかの書類仕事も彼に分担させることが出来てwin-win、一石二鳥だろ?」

 

提督は主任妖精の考えに一理あると考えていた。

丁度、友成や海上自衛隊の人員を等やって上に報告するか考えていた。

「みらい」の力をそのまま上に報告すれば拿捕しにやってくる。

そうなれば海上自衛隊は敵対する組織になる上、友成の母、先代神通がキレて取り返しのつかないことになる。

更には川内型三隻も敵になる可能性が出て来る。

今まで歩んできた仲間に武器を向けるような真似がしたくないと考えていた提督はどう報告するか悩んでいた。

だが、主任妖精の提案を使えばかなり楽に事は進む。

彼が工廠長となり、妖精と信頼関係を築くことが出来れば万が一の時には妖精も友成側につくだろう。

そうすれば深海棲艦に対抗する手段がなくなる。

「みらい」の技術と妖精を失うリスクを天秤にかけたとき、後者が確実に海軍、ひいては日本国にとって致命的なダメージになる可能性が高い。

これをダシに上の人間を脅せばそう簡単に「みらい」には手が出せなくなるだろう。

ついでに自分の書類仕事も減るのだ。

そこまで考え付いた提督は結論の出した。

 

「君も悪知恵が働くな。こんな良い状況を作り出す手立てを聞いて俺が却下すると思うか?」

「思わないねぇ~。これでも古参メンバーの一人だからね。君対しての悪知恵はよく働くのさ。」

 

そういって主任妖精は執務机から降りてドアの方に歩いて行った。

 

「友成の件は私から他の奴に話しておくよ。それじゃあ!」

 

そういって主任妖精は執務室から出ていった。

 

「全く・・・いいように事を運んでくれるな。君は。」

 

提督は頭をかきながら友成の証明書を書き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここです。伊勢さん。」

 

綾波を筆頭に僕、伊勢さん、みらいの単縦陣で到着したのは戦艦寮、扶桑型の部屋だ。

到着してすぐに綾波はドアの前に立ってノックする。

 

「扶桑さん、いますか?」

「綾波ちゃん?ちょっと待ってね。」

 

すぐに中から返事が聞こえ、ドアが開けられた。

中から出てきたのは扶桑型戦艦一番艦「扶桑」だった。

はっきり言ってものすごい美人です。こんな美人ばっかりとか提督も男として最高の職業についているように思える。

 

「扶桑さん、新しい艦娘が建造されたのでこちらの部屋に案内することになりまして。」

「あら、そうなの。そちらの方は確かみらいさんと友成君ね。それで、新しく来た人は?」

「この人です。」

「初めまして、扶桑姉さん。伊勢だよ、よろしくね!」

 

直後扶桑さんが固まった。

 

「扶桑さーん?」

 

とりあえず眼の前で手を振ってみるが反応がない。

完全にフリーズしてしまっている。

 

「扶桑さん!」

「はっ!あれ?私・・・・。」

 

大きな声で呼んで眼の前で手を叩いてみるとやっと戻ってきた。

 

「しっかりして下さいよ・・・。」

「ごめんなさい友成君。ところで伊勢はなぜこんな格好を?」

「いえ、彼女は伊勢型一番艦「伊勢」ではなく扶桑型戦艦三番艦「伊勢」なんです。」

「つまり・・・。」

「扶桑さんの実の妹さんですよ。」

 

僕が説明し、みらいが結論を言うと扶桑さんは再び少し止まった。

そして目尻に涙を浮かべて伊勢さんに抱き着いた。

 

「ふ、扶桑姉さん?」

「グズッ・・・会えた・・・会えなかった妹に・・・・。」

「扶桑姉さん・・・。」

 

どうやら相当嬉しかったのだろう。

扶桑さんの涙は止まらなかった。

 

 

 

「さーて、ここからは部外者は立ち入り禁止。撤退しよう。」

「そうですね艦長。」

「私もそれがいいと思います。」

 

二人と意見が一致したところで撤退することにした。

 

「それでは伊勢さん、夜に食堂で。」

「うん、またね友成君、みらいちゃん、綾波ちゃん。」

 

そして僕たちはその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜・食堂

 

二日連続の歓迎会ということもあってか昨日よりは抑えめだった。

因みに海自の皆さんは今回は出席しないとのことでこの場にはいないが順調に歓迎会は盛り上がっていた・・・・が。

 

「馬鹿めと言って差し上げますわ!」

「狼で何が悪いのよー!」

「どんどん飲め―!ヒャッハー!」

「夜戦だ―!」

「那珂ちゃん、歌いまーす!」

 

「こいつら全員を食堂から叩き出せ!」

 

高雄さん、足柄さん、隼鷹さん、川内姉さん、那珂姉さんが騒ぎ出したため取り押さえる事になった。

 

 

「ふぃーー。」

「お疲れさま友成君。」

「伊勢さん。扶桑さんたちと一緒にいなくていいんですか?」

 

窓の近くで月を眺めている時に声をかけてきたのは扶桑型の伊勢さんだった。

 

「大丈夫。それよりありがとうね。」

「何がです?」

「私を艦娘にしてくれて。」

「別に僕がっていうわけでもないんですけど・・・。」

「私はそうは思わないな~。友成君だったからこの世界にこれたと思っているの。」

 

そういって外の月を眺める伊勢さんはかなりの絵になっていた。

 

「そうですか・・・。」

 

伊勢さんの言い方に少し違和感を感じながらも気に止めないことにした。

 

「所で友成君は好きな人とかいるの?」

「ブフッ!!い、いきなり何聞くんですか!?」

「いいじゃんいいじゃん。どんな子が好きなの?」

 

悪そうな笑みを浮かべながら伊勢さんが聞いてくる。

 

「い、いませんよ・・・そもそも女子との関係なんて少ない方ですし・・・。」

「ふーん・・・そうなんだ。」

 

何か企んでないかなこの人・・・。

 

「とにかくお邪魔しました~。またね。」

 

そう言って伊勢さんはまた歓迎会に戻っていった。

明日も何かありそうだな・・・。

 

「艦長も食べましょうよ!」

「今行くよ。」

 

僕も歓迎会に戻るかな。



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第弐拾参戦目「教練対空戦闘と任命」

タイトル変えました。
前のままがよかったら言ってください。


僕とみらいは今、ドック内の「みらい」に来ている。

今朝方、明石さんから修復作業完了の通達が来たためこれからドック内に注水が行われ「みらい」がドックを出る。

つまり僕は臨時艦長として指示を出し無事「みらい」をドック外に出すという仕事が出来たのだ。

そのために僕は今タラップを上っている。

 

「友成君、タグボートなんかは・・・・。」

「必要ありませんよ。みらい一人で出渠できます。」

「そうなの?とりあえず気を付けてね。」

 

明石さんと別れた僕はみらいと共に艦橋に向かった。

 

 

 

 

「なんだか艦艇だった時の出渠を思い出します。」

「確かあの時も横須賀のドックからだったね。」

「はい・・・あの時は辛かったです・・・。」

「・・・・・森三尉は順調に回復しているし、艦橋内に被害は出たものの死者はいなかった。少なくともいい方向に進んではいる。」

「はい、艦長。それと・・・そ、その、よろしければこれからも私の艦長で・・・・いてくれますか?」

 

みらいはそう僕に聞いてきた。

少し頬を赤らめているような気がするけど気のせいだろう。

 

「先任の梅津一佐や角松二佐には劣るかもしれないけど・・・元の世界に戻るまでは君の艦長でいることは約束するよ。」

「あ、ありがとうございます!それと、艦長でいるなら「臨時」は取って下さいね!」

「ははっ、それもそうだね。自衛官ではないけど艦長を名乗るよ。」

 

そうやって話している内にドック内に注水が始まった。

 

「注水が始まったようだ。機関始動用意、流水揺動注意。」

「了解、機関異常無し。いつでも始動可能です。」

「注水が完了次第機関始動。」

 

数十秒後、ドックは海水で満たされ「みらい」は海に浮かんだ。

 

「機関微速後進!」

「機関微速後進!」

 

「みらい」はゆっくりとドックを出渠する。

 

「左舷、右舷共に関門通過!」

「速度そのまま。」

「速度そのままヨーソロー。」

 

そして艦首までしっかり出たことを確認して次の指示を出す。

 

「面舵40度、両舷微速。」

「面舵40度、両舷微速。」

 

「みらい」を回頭させて停泊のための航路をとる。

 

 

 

 

一方横須賀鎮守府湾内は大盛況だった。

皆、未来の艦がどのように出渠するのか見学に来ていた。

 

「ありえへん、タグボートも無しで一人で出渠しおったで・・・。」

 

駆逐艦「黒潮」を筆頭に全員が狐につままれたような目で見ていた。

だが彼女たちはさらに目を回す。

 

「嘘!?機関始動からたった30秒なのに!」

 

軽巡洋艦「五十鈴」が「みらい」の加速力に驚愕した。

演習では殆どみらいは回避以外で動いていなかったためこんな加速力があるとはわからなかったのである。

 

 

 

 

「SPYレーダー目標探知。スキャン結果、深海棲艦の爆撃機と判明!160度より5機接近!」

 

「教練対空戦闘よーい!」

「教練対空戦闘よーい!」

 

「教練対空戦闘用意よし。目標2機、さらに接近!」

「面舵一杯!」

「面舵一杯!」

 

訓練とはいえ気を抜かずに指示をする。

 

「敵航空機距離10000!まっすぐ来ます!」

「SM-2スタンダード攻撃はじめ!」

「スタンダード発射!Salvo!」

 

言葉上のみだけだが対空戦闘を行う。

 

「5、4、3、2、1、命中!5機撃墜確認!」

「敵勢力は?」

「新たな目標、敵雷撃機、本艦艦首6000から来ます!」

 

「主砲、CIWS攻撃はじめ!」

「主砲、スタンバイ完了、CIWS迎撃開始。」

「主砲、撃ちぃ方ぁはじめ!」

「撃ちぃ方ぁはじめ!」

 

主砲は演習用弾を装填しているため発射する。

 

 

 

127㎜単装速射砲の射撃スピードは遠くからも見えていた。

 

「凄い・・・私たちの知っている高角砲よりも速い・・・。」

 

特型駆逐艦2番艦「白雪」は目を見張る。

自分たちの知っている高角砲よりも速い速度で射撃しているからだ。

 

 

 

「敵航空機、全機撃墜確認!探知圏内の対空、対潜、対水上目標無し。」

「対空戦闘用具収め。」

「対空戦闘用具収め。」

「教練対空戦闘終了。進路横須賀、面舵一杯!」

「教練対空戦闘終了。進路横須賀、面舵一杯!」

 

対空戦闘訓練を無事終えることができ、僕は鎮守府へと進路を取るように指示を出した。

 

「みらい、SPYレーダーとECMはどうかな?」

「正常に作動しています。故障していたとは思えないぐらい立派に修復されています。」

「それはよかった。というより妖精さんも中々のチートだよね・・・。」

「そうですね、敵に回したくないです。」

 

もし敵になったら勝てる気がしない。

 

 

 

 

 

 

「機関停止、投錨!」

「機関停止、投錨!」

 

湾内に戻ってきた僕たちは艦を止め投錨した。

 

「よし、異常なしっと。みらい、降りよう。」

「分かりました艦長。」

 

 

 

 

「友成君、どうだった?」

「明石さん、ばっちりです。対空戦闘に支障はありませんでした。」

「それはよかったわ。」

 

そんなことを話している内に艦の周りには集団が出来上がっていた。

 

「ははは・・・・すごい人だかりですね提督。母さん。」

「そうだな・・・・これをどうしたものか・・・。」

「そのうちほとぼりも覚めるでしょう・・・。」

「今度搭乗も計画してみましょうか?最悪、演習や戦闘には人員が必要ですし、妖精さんだけでは・・・・。」

「そうだな、それを計画してみよう。」

 

そんな話をしていると提督がふと切り出してきた。

 

「あぁ、霧先。お前を今日から工廠長に任命するからな。」

「ファッ!?」

 

僕が驚いて奇声を上げたと同時に母さんが提督を伝説の超サ○ヤ人のようにアイアンクローを決めて持ち上げていた。

毎度思うけど母さんは何故提督に制裁を加えるんだろう?

 

「提督?保護者の私の承諾なしに友成を海軍に入れようとしているんですかぁ?」

「やめろ神通!それ以上気を高めるなぁ!やめろぉ!!」

「「それ以上いけない!」」

 

僕とみらいが仲裁したことで提督の頭が握りつぶされたリンゴのようにならずにすんだ。

 

「それで?なぜそうしたんですか?」

「あいたた・・・・いや、友成が工廠長の方が新艦娘の出る可能性が高くなるかもしれないし、妖精さんといい関係を築くことができれば上も手出しできなくなるからさ。そういうことだよ。」

「・・・・・友成はそれでいいの?」

 

母さんは僕に聞いてきた。

応える言葉はもう決まっている。

 

「・・・・どうせ有事になればこの艦に乗って戦場に出ることになるし。ここで普段食っちゃ寝するぐらいならその任を受けるよ。」

「・・・・・そう、ならお母さんは何も言わないわよ。ただ止めたくなったら言いなさい。」

「ありがとう母さん。」

 

そしてその後質問攻めになっているみらいを救助するのに尽力することとなった。

 

 

 

 

 

 

「それで艦長、何故工廠の建造区画にきているんですか?」

「いや、提督に建造してくれって言われて・・・。」

「工廠長になりましたもんね・・・。」

 

一応みらいにも説明した。

後々言うのはいけないからね。

 

「それで何を建造するんですか?」

「その前にあいさつしないと。」

 

僕たちが中に入るとすでに妖精さんたちが並んでいた。

 

「おう!君が友成だね。私はここの主任を務めている主任妖精だ。」

「よろしくお願いします。霧先友成です。」

「護衛艦みらいです。」

 

「よろしく、そしてここにいる奴らが全員今日から君の部下になる妖精たちだ。」

 

「初めまして、霧先友成です。新米なので右も左もわからない状況ですが皆さんの上官としてやっていけるように一生懸命頑張るのでよろしくお願いします!」

「よろしくです!」

「がんばりましょー!」

 

妖精さんがわいわい歓迎してくれた。

小さくてカワイイなぁ。

 

「それで?ここに来たってことは建造をするんでしょ?」

「あぁ、戦艦レシピと大型艦建造が二回だね。」

「よし!お前ら!仕事だぞ!」

 

 

「いいかんをつくれー!」

「すごいかんだぞー!」

 

妖精さんたちも張り切る。

そして僕が操作盤の建造ボタンを押して警報が鳴り資材が壱、弐、参の個室に運ばれる。

 

 

「時間は・・・・。」

 

時間を僕とみらいはあいた口がふさがらなかった。

 

戦艦レシピ:72時間

 

大型艦建造:99:59:59が2つ

 

「「ナニコレ!?」」

 

僕とみらいは叫んだ。

どうしてこうもおかしい時間が出るんだ!!

 

「仕方ない、君!工廠長権限で高速建造材の使用を許可する!」

「りょうかいです!」

 

近くにいた妖精さんに頼んだ後に何人かの妖精を引き連れて大量の高速建造材を持ってきて炙り始めた。

 

「ヒャッハー!」

「けんぞうじかんはしょうどくだー!」

「けんぞうじかんはしょうでくせねばならんな。」

 

・・・・なんだか世紀末だけど気にしない。

パタパタと0になっていき建造完了。

 

「鬼が出るか蛇が出るか・・・・。」

「出てくるのは艦ですよ艦長。」

「そうだった。」

 

そんなボケをかましていると扉が開かれた。

 

「扶桑型超弩級戦艦、四番艦の日向よ、一応覚えておいて。」

「天城型巡洋戦艦、一番艦天城です。国産巡洋戦艦の力を存分に発揮いたします!」

「加賀型戦艦二番艦、土佐です。お役に立てるよう頑張ります!」

 

・・・・・・Oh

 

「これは書類作成が難航しそうだ・・・・。」

 

こうしてこの鎮守府には四隻の存在しないはずの艦が存在することとなった。




ちょっと次回のアンケートを取るので活動報告まで足を運んでいただければと思います。


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第弐拾肆戦目「買い物と・・・。」

「・・・・・・・これで良し。みらいこの書類を確認しておいて。」

「分かりました艦長。」

 

現在10時56分、書類整理を行っている。

工廠長となった今、僕にも書類という仕事が回ってくる。

主な仕事内容は建造・開発要請書類の確認、建造・開発結果報告書類作成、建造された艦娘の詳細書作成、艦娘の艤装の損害とそれに伴う修復費の報告書作成、遠征で得られた資材の報告書の確認、演習許可書の確認、演習での消費資材の報告書作成、そしてそれらの書類の中から必要なものを提督へ提出。

それだけではなく艤装の管理・整備状況の把握、倉庫内の資材数の管理など仕事が満載だ。

当然一人で仕事ができるはずもなく提督と同じようにみらいに秘書艦として手伝ってもらっている。

 

「さて、書類はこれだけかな・・・。」

 

とりあえず背伸び。

朝の6時半からずっと書類と格闘していたためかなり気持ちいい。

 

「艦長、書類の確認終わりました。問題ありません。」

「ありがとう、僕は書類を提出してくるから遠征組が帰ってくる2000まで上がっていいよ。」

「分かりました、では間宮さんのところに行ってきます。」

 

そういうとみらいは敬礼した後、工廠長室を出ていった。

 

 

 

 

「以上が今日の書類です。」

「ふむ、資材も着々と進んでいるな。」

 

書類を読んでいく行く提督の横では長門さんが仕事をしている。

 

「それで友成、俺はこれから上に報告に行ってくる。」

「報告?僕達の事ですか?」

「あぁ、新鋭艦とそれを操るものが出たということを言わねばな。」

「了解です、良い結果が来ることを祈っています。」

「ありがとう、もういいぞ。」

「失礼します。」

 

敬礼をしてから執務室をでる。

 

「ふう、軍っていうのはやっぱり緊張するなぁ・・・。」

「あら、友成。」

 

扉の前で一息ついていると母さんに声を掛けられた。

 

「母さん、どうしたの?」

「実は今から買い物に行こうと思っていてて・・・友成も一緒に行く?」

「うーん・・・今日の書類作成も終わったし特にすることもないから行くよ。」

「分かったわ、お母さんは門前で待っているから準備をしてきなさい。」

「うん、準備してくるよ。」

 

母さんに応答した後僕は自室に向かった。

 

 

 

「母さん、お待たせ。」

「早かったわね。やっぱりお父さんそっくりね。」

「そうかな?」

「えぇ、さあバス停に行きましょう。」

「そうだね。守衛さん、行ってきます。」

「神通さん、工廠長、お気を付けて。」

 

守衛さんに挨拶した後、僕と母さんは鎮守府前のバス停に向かった。

 

「それで、天城さんたちはどうなの?」

「あー、どうやら赤城さんたちと仲良くしているようだよ。」

 

バス停に向かう途中で母さんに聞かれたことを言う。

実際会った時のリアクションがすごかったからなぁ・・・。

 

「確か赤城さんたちと出会ったときは・・・・。」

 

 

 

 

 

「えっと・・・日向さん、天城さん、土佐さんですね?」

「間違いない。」

「そうですよ。」

「ま、間違いありません!」

 

どうやら間違いない様だ。

土佐さんは緊張しているようだけど・・・。

 

にしても容姿はすごい。

日向さんは「伊勢型」の日向さんとほぼ同じ。唯一違うのは服装ぐらいだ。

天城さんは赤城さんと同じ服装、似た顔だけど飛行甲板が無いし髪の長さが赤城さんより半分短い。

土佐さんは天城さんと同じく姉の加賀さんと服装だけど飛行甲板が無いし髪を結っている方が逆。

どうやらかなり顔は似ていても多少の差で区別は出来そうだ。

 

「僕はこの工廠の工廠長を務めています。霧先友成です。」

「霧先艦長の艦、護衛艦みらいです。」

 

とりあえず自己紹介をしておく。

 

「それでは、提督の所へ案内するのでついてきて下さい。」

 

提督に説明するために案内することにした。

案内中にみらいが話しかけてきた。

 

「艦長、これって意外と騒動になるんじゃ・・・。」

「なるに決まっているよ・・・。」

 

僕も少し嫌な予感がしていた・・・。

あの時もそうだったけどたいてい嫌な予感は的中するんだよね。

 

「さて、みらい、僕が提督に報告するから呼んだら皆さんを入れて。」

「了解いしました。」

 

僕はみらいに説明した後、扉をノックする。

 

『誰だ?』

「工廠長の霧先です。」

『入っていいぞ。』

「失礼します。」

 

ちゃんと許可をもらってから入室。

ドアを開けると赤城さん、加賀さん、扶桑さんが居た。

作戦でも練っていたのだろうか。

 

「えっと・・・お邪魔でしたか?」

「いや、今度の出撃の編成を伝えていたところだ。それで用はなんだ?」

「はい、建造が完了したため報告に来ました。」

「そうか、高速建造材を使ったのか?」

「建造時間が馬鹿にならない数字でして・・・。」

「・・・・・いくつだった?」

「大型艦建造で99時間を記録しました。」

「99!?」

 

提督が叫び全員が驚いた表情をする。

 

「出てきた艦で納得する数字ですよ・・・。」

「因みにどの艦だ?」

「それは彼女たち自身から紹介して貰った方がいいでしょう・・・みらい、皆さんを入れて。」

 

僕が言うと三人がみらいの後に続いて入ってきた。

 

「扶桑型戦艦四番艦、日向よ。」

「天城型巡洋戦艦一番艦、天城です。提督、よろしくお願いしますね。」

「加賀型戦艦二番艦、土佐です。戦力となれるように頑張ります!」

 

「Oh・・・・これまたすごい艦が来たな・・・。」

「建造時間も納得でしょう?」

「あぁ・・・だが、戦力が揃うのはいいことだ・・・?どうしたんだお前たち?」

 

提督が三人の方を向くので僕も見てみると三人とも震えていた。

すると突然三人がそれぞれの姉妹に飛びついた。

 

「うわーん天城姉さん!」

「あらあら・・・こんなに泣いちゃって。」

 

「・・・・・土佐。」

「えっと・・・・ただいまお姉ちゃん。」

「・・・・お帰り。」

 

「日向ー!」

「うわっと!・・・仕方がないな。」

 

それぞれの姉妹があえた喜びを分かち合っているようだ。

特に扶桑さんと赤城さんが泣きじゃくっている。

 

「これは話しかけづらいな・・・。」

「ですね・・・。」

「だが、これで士気も向上するだろう。それに家族に会えることは何よりも癒しになる。」

「・・・それを狙って工廠長にしたんですか?」

「そうかもしれんな。だが今の状況を見れば悪くは無いだろう?」

「そうですね。むしろ、彼女たちを建造できてよかったと思っています。」

 

家族を失うというのはとてつもない苦痛だ。

そして家族に再会できたときの嬉しさもとてつもないものだ。

それを知っているからこそ今の状況に共感できる。

 

「それじゃあ邪魔者は退出します。」

「あぁ、後で長門に仕事内容を書いた紙を渡しておくから受け取って確認してくれ。」

「了解です、では。」

 

そう提督に言ったあとドアに向かおうとすると赤城さんと扶桑さんが前に立っていた。

 

「え?お二人ともどうしたんですか?」

 

僕が聞くと二人は予想外の行動に出た。

 

「ありがとう友成君!天城姉さんに会わせてくれて!」

「私も妹達に会えてうれしいわ!今、最高に幸運よ!」

「むぐぐぐ!!」

 

二人が抱き着いてきた。

しかも僕の頭が二人の胸に挟まれて呼吸ができないうえに二人の胸の感触がダイレクトに伝わる。

 

って煩悩退散煩悩退散!

今ムスコの気が高まって反応したら確実に殺される!それ以上気を高めるなぁ!

 

そんなことをしているうちに酸欠になり意識が遠のく。

あれ・・・?この世界に来てから死にかけてばっかだよ僕・・・・。

 

最後に僕に駆け寄るみらいが見えた後意識はブラックアウトした。

 

 

 

「おう・・・酸欠ってあんなに苦しいもんなのか・・・。」

「あっ、艦長。お気づきですか?」

「みらい?・・・ってうぉお!」

「きゃっ!」

 

僕は一気に意識が覚醒して飛び起きる。

なんだか頭が柔らかい感触があると思っていたらみらいが僕に膝枕をしてくれていた。

 

「大丈夫ですか艦長?」

「え?あ、うん大丈夫大丈夫・・・・。」

 

あくまで平穏を装う。

みらいが膝枕をしてくれたことに驚いたけど彼女なりに良かれと思ってやったことなのだろうからお咎めなしだ。

 

「それでこれは・・・。」

「ごらんの通りです・・・。」

 

僕の眼の前では天城さん、日向さん、長門さんによる赤城さんと扶桑さんへの説教が行われていた。

 

「気が付いたか友成。」

「はい提督、これは・・・。」

「見ての通り説教会だ、長門がいるだけでかなりのものだぞ。」

 

そういう提督の顔はかなり困っている様子なので僕が仲裁をして説教を中断させた。

長門さんは渋々といった様子だったけども・・・。

 

 

 

 

「・・・・と、こんな感じかな?」

「そう・・・もう少し説教が必要ね。」

「母さん、聞こえているよ。別に赤城さんも扶桑さんも悪気があったわけじゃないからさ。」

「・・・・そう、分かったわ。今回は見逃してあげましょう。」

「ははは・・・あっバスが来たよ。」

 

やってきたバスが停車すると僕と母さんは乗り込んだ。

 

 

 

バスに揺られること30分、着いたのは大きなショッピングモール。

ここが1962年だということを忘れそうな位に現代的な建物だ。

 

「それで母さん、何を買うの?」

「とりあえず日用品と川内姉さんと那珂ちゃんに頼まれたもの、お菓子類かしら。」

「そうなんだ。丁度僕もお菓子類を備蓄したいなと思っていたから丁度良かったよ。」

「それじゃあまずは日用品を買いに行きましょう。」

 

僕と母さんはまず二階の無○良品の店に向かった。

無印○品は79年に開業したはずだからこの世界線では17年も早く開業している。

まぁ、元の世界でも愛用していたから開業していることは嬉しいんだけどね。

 

「これ日用品は大丈夫ね。」

「次は川内姉さんと那珂姉さんに頼まれたものだね。」

 

次は頼まれたものを買いに服屋と化粧品店と本屋に立ち寄った。

那珂姉さんは服と化粧品、川内姉さんは夜戦関連の本を頼んだようだ

 

・・・・那珂姉さんの頼んだものは分かるけど川内姉さんの夜戦関連の本ってなんぞ?

 

「次はお菓子ね・・・。」

「母さん、靴屋が近くにあるから靴を買ってもいい?」

「えぇ、良いわよ。」

 

母さんに許可をもらって靴屋でスニーカーを買いに行く。

 

「これか?これか?うーん・・・こっちの方がいいかな?」

 

どこかのピエロみたいなキャラクターのセリフみたいなことを言いながらスニーカーを吟味する。

いっそのこと二つとも買おうかな?

 

「友成君?」

 

スニーカーを二つとも買おうかなと思ったら声を掛けられた。

聞いたことある声だと思って振り返ると翔鶴さんが居た。

服装は淡い青のVシャツの上に明るい朱色のパーカー下はデニムのハーフパンツを着ている。

素体が良いせいか翔鶴さんが余計綺麗に見えた。

 

「翔鶴さん?今日非番だとは聞いていましたけど・・・。」

「えっと・・・少し必要なものがあって、それを買いに来て・・・。」

「そうだったんですか。何を買いに?」

「えっと、瑞鶴のお菓子と少し靴を買いに。」

「お菓子の方はもう買い終えたんですか?」

「これから買おうかなと・・・。」

 

今から買いに行くのか・・・なら。

 

「でしたら一緒に行き来ませんか?母さんもいますので。」

「えっ?えっと友成君がいいのなら・・・。」

「じゃあ精算して母さんに合流しましょう。」

「えぇ、そうしましょう。」

 

精算を済ませた僕と翔鶴さんは母さんに合流するために靴屋を出た。

 

「あら?翔鶴さん、あなたも来ていたんですか?」

「はい神通さん。少々必要な物をと。」

「翔鶴さんもお菓子を買うそうだから一緒に行こうって誘ったんだ。別にいいでしょ母さん?」

「・・・・えぇ、私は構わないわよ。」

 

母さんが承諾してくれたところでお菓子を買うためにイ○ンに向かった。

 

 

 

「う~ん、どういうのがいいのかしら・・・。」

「この果○グミのアソートの奴なんてどうですか?量もそこそこありますし果汁○ミ

はおすすめですよ。他にもポ○キーなんかもいいですね。」

「へぇ~・・・。」

「このポテトチップスもいいですよ。おすすめはうす塩とのりしおです。」

「おいしそう・・・。」

「塩つながりならこのお○とっともいいですよ。」

「可愛いデザイン・・・食べるのが惜しいわ。」

「いろんなキャラクターがあるので探しながら食べるというのもありますよ。」

 

楽しそうにお菓子について会話する二人を遠目に友成の母親である神通は眺めていた。

その目は明らかに子供の恋人を査定する目だ。

 

「(翔鶴さんは明らかに友成に対して好意を持っている・・・様子見必須ね。)」

「母さん、飲み物も見に行こうよ。」

「えぇ、行きましょう。」

 

即座に目を変えることができる神通も神通だろう。

 

 

 

「いっぱい買っちゃったなぁ・・・・・。」

「そうね・・・友成君大丈夫?重いと思うのだけれど・・・。」

「大丈夫ですよ翔鶴さん。」

 

僕が翔鶴さんと話していると母さんが声を掛けてきた。

 

「友成?ちょっとお母さんトイレに行ってくるから少し待っててくれる?」

「別にいいよ。じゃあここで翔鶴さんと待ってるよ。」

「なるべく早く済ませるわ。」

 

そういって母さんはトイレの方に走っていった。

僕と翔鶴さんはベンチに座って母さんを待つことにした。

 

「えっと、友成君。私の服装はどうかしら・・・?」

「えっ?あっと・・・す、すごく似合っていますよ!」

「そう・・・ありがとう。」

 

何だか翔鶴さんにいきなり話を振られて慌てて返したけど我ながら恥ずかしい・・・。

翔鶴さんの顔が赤い気がするが気のせいだろう。

 

「友成君はどんな人が好みなの?」

「ブフッ!!言わないとダメですか?」

「できれば・・・。」

 

うっ!翔鶴さんの・・・・上目遣いだと!?

こんな顔されて断るわけにはいかないよね・・・。

 

「えっと・・・特出した好みは無いですけど・・・強いて言うなら頑張れる人ですかね?」

「何故?」

「なんとなく・・・・何事にもチャレンジして頑張れるような人が良いからですね。」

「な・・・成程・・・。それで・・・意中の人とかは・・・。」

「ブフッ!」

 

本日二度目の噴き出しです。

伊勢さんもそうだけどなんでそういうところを聞いて来るのかな・・・。

 

「い、いませんよ・・・元の世界でもに三人しか女の子の友達はいませんでしたし。」

「そ、そうなの・・・・あの・・・もしよかったら「お待たせ友成、翔鶴さん。」・・・・・。」

 

翔鶴さんが何か言いかけたけど丁度母さんが戻ってきたので立ち上がる。

 

「そんなに待っていないよ。ねっ、翔鶴さん。」

「はい・・・。」

 

何だか元気が無いけれどどうしたんだろう?

帰りに聞いてみようかな?

 

「それじゃあ帰りましょうか。」

「そうですね・・・。」

 

こうして買い物は終わったわけだけど結局帰りのバスでも翔鶴さんに聞けなかった。

なんと言うか本能が今は聞くなとセーブしてきた感じだった。

そんなこんなでバスに揺られて30分。

僕達は鎮守府に帰ってきた。

 

「あっ!艦長、お帰りなさい。せめて連絡してくださいよ~。」

「あぁ!すっかり忘れてた!ゴメンみらい、今度何か奢るから・・・。」

「・・・・間宮アイスを所望します!」

「え゛っ、あれって結構高い奴だった気が・・・・。」

 

少し前に息抜きがてら尾栗三佐と立ち寄った時に結構高く見えた気がする・・・しかも数量限定。

 

「それぐらい当然です。連絡しないで勝手に行って心配したんですよ?守衛さんが教えてくれたから良いものを・・・。」

「すみません守衛さん・・・。」

「いえ、これも我々の仕事なので。」

 

守衛さんに謝ってから財布を取り出す。

 

「うーん・・・提督から生活費としていくらか貰っているけども・・・。」

 

結構きつい。

今後の生活を考えねば・・・。

 

「さあ艦長!覚悟して貰いますよ!」

「うぐぐ・・・・僕も男だ、約束しよう。間宮アイスを自費で購入する・・・。」

「やったぁ!!」

 

 

 

「なんだか微笑ましいですね神通さん。」

「はい、翔鶴さん。友成がここまで成長しているとは考えてませんでしたから。」

 

この光景はかなり平和な日常に見えるだろう。

そんな光景を鎮守府の前の道路に駐車してある黒い車の中から眺める男がいた。

 

「神の企てか悪魔の意思か・・・・また会うことになるとはな・・・みらい」

 

車から眺めていた男。

少佐の階級章を付けた軍服姿の男がみらいを見てそう呟いた。

 

「大本営まで頼む。」

「了解しました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「草加少佐。」

黒い車は大本営へ走り出した。




今回もアンケートを取るので活動報告まで足を運んでいただければ幸いです。


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第弐拾肆戦目(裏)「机上戦」

前回の裏話的なものです。
短いのはご勘弁。


友成が先代神通と買い物に行っている時。

大本営の会議室では高屋提督と海軍上層部の人間が言葉上の戦闘を繰り広げていた。

 

「君は言っていることが分かっているのかね?異世界、未来の日本などと空想小説みたいな単語をつらつらと報告書に載せおって!」

「更にはそのうちの一人を技術者として海軍に編入し工廠長の任に就かせるだ?戯けたことをぬかすな!」

 

罵倒の嵐、もしくはバーゲンセールである。

余程戦果を挙げている提督の事が気にくわないのだろう否定ばかりする者が大多数だ。

 

「それに450㎞の電探に空母を彼方から沈める兵装を積んだ艦が二隻だと?そんなものが存在し得るのか?」

「お言葉ですか大将。自分ははっきりとこの目で確認しました。演習でとてつもない速さで飛び空母に撃沈判定を出すのを。」

 

ある大将の言葉に提督は普通に答える。

 

「そんなものがあれば我が海軍に敵なしではないか!深海棲艦の根絶やしにできるぞ!」

「早急に技術提供を要求すべきだ!力づくでも!」

 

提督の考えていた通り既に「そういう」考えが内部に出始めていた。

 

「彼らは我々の戦争に加わるのが目的で来たのではありません。そんな彼らに強要するのは如何なものかと。」

「君は事の重大さがわかっていないようですな。それだけの兵器があれば深海棲艦を根絶やしにでき、米軍と同等の戦力を保持できるのですよ?更には未確認の艦娘を出現させる力もある。ならば彼らを従わせて海軍に編入し、艦を奪うことも厭わないほどの価値がある。」

「ですが人事参謀長。彼らの能力と兵装から逆算すれば此方が大打撃をうけます。更に我が鎮守府に所属する艦娘と新しく存在を確認できた艦娘の反乱も考えられます。」

「それは・・・・。」

「反乱!?どういうことだ!?」

 

提督はいよいよカードを切った。

 

「実はその特殊兵装艦(みらい)の一隻の艦長を務めている者が先日帰還したことが分かった川内型軽巡洋艦『神通』の息子です。更に彼は今現在妖精とも友好的に接しています。そんな彼らに矛を向ければ妖精や艦娘達から反感を買い、日本は破滅します。」

「ぐぬぅ・・・。」

「ならば気づかれずに・・・。」

「もしばれた際に被る被害と特殊兵装艦の技術、この2つを天秤にかけてどちらが重いですかな?」

「・・・・。」

 

もはや誰も発言しなくなっていた。

提督と主任妖精の思惑通りとなったのだ。

 

「・・・・まぁ、彼らも多少は協力してくれるそうじゃないか。なら私たちが手を出すのは御法度。ある程度でラインを引くのが良いだろうね。」

 

そう言ったのは元帥の日比山庄汰(ひびやま しょうた)と呼ばれる海軍のトップだ。

上が言うのなら中々異論を言うのは難しいだろう。

 

「では元帥殿・・・。」

「うむ、高屋君。普段の君の頑張りから見てこの案を受けよう。霧先友成を海軍に編入し少佐の階級を与え、工廠長の任に就くことを海軍本部は了承する。」

「ご配慮、感謝します。」

「君たちも異論はないね?」

 

日比山元帥が聞くと全員が黙り込んだ。

 

「無言は肯定とみなそう。本日1400をもって霧先友成を正式に海軍少佐として編入する。高屋君、頼むぞ。」

「了解しました!」

 

こうして提督の闘いは思惑通りに終わった。

 

 

 

 

 

 

「お見事でした高屋大将閣下。」

 

提督が廊下を歩いて鎮守府に戻ろうとした時、会議室から出てきた一人の少佐が声をかけてきた。

 

「よしてくれ草加。同期に閣下と言われるのは未だに慣れん。」

「やはり変わっていないな高屋。」

「お前もだろう草加。」

 

声をかけてきたのは提督の同期の草加拓海だった。

 

「ところで一体どうした?お前が声をかけてくるなんて珍しい。」

「いや、実は来週あたりに視察に向かうことになっていてな。」

「視察?あぁ、あの視察にお前が来るのか?」

「そうだ、それと個人的に確認しておきたいことがあってな。」

「個人的に?お前が珍しいな草加。何を知りたいんだ?」

「さっきの会議で出た特殊兵装艦・・・艦首に『182』と書かれていたか?」

 

提督は「みらい」を頭の中に思い浮かべた。

 

「確かに書いてあったが・・・どうして知っているんだ?」

「噂に聞いたんだ。そんな艦がいるとな。」

「ほう流石は通信参謀だな・・・まぁ、来週あたりに視察に来た際に確認したらいいだろう。俺は鎮守府に戻る。」

「それではまた。」

 

草加は敬礼してその場を去って行った。

 

「(草加・・・同期の俺でもたまにわからん時があるが・・・お前は何を知っているんだ?)」

 

提督は考えながら鎮守府へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

「運命というものは奇妙で摩訶不思議なものだな・・・角松二佐、みらい。」

 

そういいながら歩く草加の手にはこの世界に存在するはずの無い100円硬貨があり『平成12年』と刻印されていた。




さて、草加を出したはいいけどどうしよう・・・。
まぁ、ある程度立場は決まっていますがね。


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第弐拾伍戦目「勘違い」

母さんと買い物に行ってから数日後。

僕とみらいは甘味処「間宮」に来ていた

このお店は間宮さんが営業しているお店で様々な甘味が置いてある。

そのなかでも人気なのがアイスクリームだ。

今回ここに来たのは先日の買い物でみらいに告げずに行ったお詫びとしてそのアイスクリームを奢る為だ。

 

「~♪~♪」

「・・・・・・・さらばわが財布。」

 

嬉しそうにアイスを頬張るみらいの前で僕は薄くなった財布を片手にうなだれた。

 

「・・・・・大丈夫?友成君。」

「大丈夫です間宮さん・・・。」

 

間宮さんが心配そうに声をかけて来てくれたけど既に僕の財布は大破していた。

 

 

 

 

 

「美味しかったです~♪」

「嬉しそうで何よりです・・・・。」

 

みらいは満面の笑みで満足しているようだ。

・・・・今度からちゃんと伝えて外出しよう。

 

「おっ!霧先少佐!デートですかな?」

「ブフッ!尾栗三佐!何言っているんですか!」

「そ、そうですよ航海長!大体隊内でそういう関係は・・・。」

「ハハッ!別にいいじゃねえか。俺は雅行ほど厳しいわけでもないし多少の事なら見逃すぜ?」

「だとしても限度というものがあるでしょう・・・・。」

 

まぁ、青葉さんじゃなくて尾栗三佐だっただけマシか・・・。

 

「そう言えば言い忘れてたが今度俺達も訓練をしたいんだ。」

「訓練?水上でですか?」

「そうそう。既にここに来てから2週間が経つ。練度維持のためにも訓練をしないとな。」

「では提督に演習申請書を貰って記入、演習許可書を受け取って僕かみらいに渡してください。」

「了解だ。それとデートなら外に連れて行った方が良いぜ?俺のカミさんもそうだったしな。」

「「だからデートじゃないです!」」

 

何だかいじられてるよ・・・・・。

 

 

 

 

 

 

尾栗三佐にからかわれた後、僕は工廠長室に戻った。

一緒にいたみらいは第六駆逐隊の面々に連行されていった。

 

「と言っても今日の業務は朝のうちに終わらせたし現在1145・・・微妙な時間だな・・・。」

 

特にやることないので椅子に座って天井を眺める。

 

「海軍少佐かぁ・・・。」

 

ふと壁にかけている第一軍装と第二種軍装が目に入った。

制帽と共にかけられている軍服には少佐の階級章がつけられていた。

 

「・・・・・実感ないなぁ。」

 

そんなことをしていると扉が開けられた。

 

「あの、工廠長?」

「綾波?どうしたの?」

 

入ってきたのは綾波だった。

 

「あの、少しお話しがしたくて・・・。」

「そうなんだ、丁度仕事もないしいいよ。」

「ありがとうございます!」

「それじゃあジュースでも・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

戦艦土佐は書類片手に工廠長室に来ていた。

偶然執務室を通りがかったところ提督に書類を渡すように頼まれたのだ。

 

「よし・・・。」

 

土佐がノックしようとしたとき中から声が聞こえてきた。

 

「(誰かいる?)」

 

土佐はそっと聞き耳を立ててみた。

 

 

「綾波・・・・そこまでしなくても・・・。」

「綾波にお任せ下さい・・・・・わぁ、工廠長の・・・・大きい。」

「まぁ・・・男だからね・・・。」

「が、頑張ります・・・・んっ。」

「あぁ・・・気持ち良いよ・・・。」

「もっと強くしますね・・・・。」

 

 

「う、嘘・・・・工廠長が・・・・・。」

 

土佐は書類を落として走り去った。

 

 

 

 

 

 

「そんな・・・工廠長と綾波ちゃんがあんな関係だったなんて・・・。」

 

土佐は落胆しながら歩いていた。

実は彼女自身友成に好意を抱いていた。

建造されて出て来た時に初めて見た優しそうな彼に一目惚れしたのだ。

そんな彼が既にそんな関係を築いているとなると彼女の思いは届かない。

その事実が分かった今、土佐はフラフラと彷徨っていた。

 

「土佐、どうしたの?」

 

土佐に声をかけてきたのは彼女の姉、加賀だ。

フラフラと生気の無い顔で食堂に歩いていた彼女を心配して声をかけたのだ。

ふと土佐が振り向き加賀を見て抱き付いた。

 

「本当にどうしたの?」

「実は・・・・。」

 

土佐は自分が聞いたことを加賀に話した。

ここで思い出してほしい。

現在時刻は1154、更にここは食堂である。

つまり多くの艦娘が昼食を食べるこの時間にこんな話をすれば当然。

 

「・・・・・。」

「し、敷波お姉ちゃん?」

「野郎オブクラッシャー!!」

「ヒィ!」

 

火に爆薬とガソリンを投げ込むこととなる。

 

「フフフフフフフフフフ・・・・。」

「しょ、翔鶴姉・・・・?」

 

「い、伊勢?」

「扶桑姉さん、ちょっと用事を思い出しちゃった。」

 

「土佐、少しここに居なさい。」

「え?う、うん。」

 

こうして怒りを胸に艤装を手に取って黒いオーラを纏った艦娘達が向かったのは工廠長室だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、肩をもんでくれてありがとう。」

「いえ、これ位では・・・。」

「さて、そろそろ食堂に向かおうか?」

「そうしましょう!」

 

僕は部屋を出ようと扉に向かった、すると。

 

ドゴォオオン!

 

「キャッ!」

「DOOR!」

 

いきなり扉が吹き飛んで僕と綾波は爆風で吹き飛ばされた。

 

「いったい何が・・・・うはっはぁ!」

 

状況確認をしようとしたらいきなり艦載機が機銃攻撃を仕掛けてきたので咄嗟に机に隠れた。

艦載機が飛んで行ったのを確認してそっと机から頭を出してみた。

 

「えーっと、皆さんどうかなさいましたか?」

 

その場にいたのは加賀さん、翔鶴さん、伊勢さん、敷波だった。

全員艤装をつけているため扉が吹き飛んだ理由が分かった。

 

「ドーモ、変態工廠長=サン、敷波です。ハイクを詠め、カイシャクしてやる。」

「アイエエエエ! シキナミ!?シキナミナンデ!?」

 

敷波がいきなり主砲を向けてきた。あっこれ終わった。

 

 

 

 

 

その日、工廠長室は謎の爆発で壊滅しました。

 

 

 

 

 

「それで?結局勘違いが元でこうなったと?」

「「「「「「ハイ・・・。」」」」」」

 

現在執務室では土佐さん、加賀さん、翔鶴さん、伊勢さん、敷波が正座をして提督と母さんに説教を受けている。

一方僕は打撲、骨折という重傷を負ったために高速修復材で完治して説教に参加していた。

 

「まったく・・・ちゃんと聞いていないのにその情報を鵜呑みにするな!」

「「「「「「申し訳ございませんでした・・・。」」」」」」

「俺じゃなく友成に謝れ!」

「・・・・・少し折檻が必要ですかね提督?」

 

母さんが笑った瞬間全員が冷や汗を滝のように流した。

しかたない、母さんは笑っているが黒いオーラがバリバリ出ている。

僕でもちびりそう・・・。

 

「あー・・・別に僕が死んだわけでもないし今回位許してあげようよ。」

「・・・・・・友成が良いなら今回は見逃してあげましょう。」

 

なんとか皆は守れた。

というより母さんも怖すぎだって・・・。

 

「まぁ、今回は友成が許してくれたからいいが本来なら軍法会議物だからな。今後気をつけろ、解散して良い。」

 

提督がそう言って全員が静かに退出して行った。

 

「さて、友成。お前の部屋が吹き飛んだわけだが再建には一日かかるそうだ。今日は別の場所で寝ることになるな。」

「もちろん私たちの部屋で寝るわね?」

 

母さんが僕にそう聞いて来た。

何だか期待を込めた目をしているのは気のせいだろうか?

 

「えっと・・・停泊しているみらいに寝るところがあるから・・・。」

 

僕がそう言った瞬間母さんは落ち込んだ様子になった。

 

「そ、そうよねそういう年頃よね・・・。」

「あっいや、偶には誰かと一緒の部屋で寝たいなぁー・・・。」

「じゃあ私たちの部屋に来てくれる・・・?」

「う、うん他に行く部屋もないし・・・。」

「それじゃあ準備しておくから夜に来て。」

 

母さんはそういって上機嫌で部屋を出て行った。

 

「・・・・大丈夫か霧先?」

「最近母さんが分からなくなります・・・。」

「まぁ、一種の欲求不満を解消したいんだろう。息子を愛でたいというな。」

「そんなの普通にすれば良いと思うんですが。」

「昔のイメージがある以上簡単には出来んのだろう。」

 

そういうもんなのかなぁ・・・。

 

「そうだ友成。今度大本営から視察が来る、これが詳細書だ、確認しておいてくれ。」

「了解しました。」

 

僕は受け取った書類に書かれた名前を見た瞬間驚愕した。

そこに書かれた名前は・・・。

 

「日本国海軍通信参謀・・・草加拓海少佐・・・!」

 

黄金の国「ジパング」を夢見た男の名だった。



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第弐拾陸戦目「下準備」

「うふふ♪」

「・・・・・・。」

 

現在2000、午後8時。

僕は川内型の部屋で母さんに抱きつかれていた。

そしてその様子を川内姉さんと神通姉さん、那珂姉さんが見ている。

何を言っているかわからないと思うが(以下略)

 

「神通・・・楽しい?」

「最っ高です!!」

 

川内姉さんの問いに満面の笑みで答える母さん。

人が変わり過ぎな気がする・・・普段の落ち着いた母さんは何処へ・・・。

 

「友成~♪」

「・・・・・・・。」

 

まぁ・・・これでもいいかな。

 

「神通お姉ちゃん、このままでも大丈夫かな?」

「姉さん、流石に友成君がこのままというのは・・・。」

「友成本人が良さそうなんだしいいんじゃない?そもそもこっちの神通より鬼な神通に勝てるわけが無いって。」

「姉さん?それは遠まわしに私が鬼だと言っているんですね?」

「アッ!」

「アーナカチャンシナライヨー。」

 

口を滑らせた川内姉さんが神通姉さんの地雷を踏んだ。

川内姉さん、南無三。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後1時間ほど愛でられ就寝することとなった。

そして現在2200、午後10時。

僕以外は全員寝ている。

因みに川内姉さんは神通姉さんによってドックに叩きこまれた。

僕はベットの中に寝ているわけだけど僕から見て左隣では母さんが僕の左腕を枕にしながら抱きついて最高の笑みで寝ている

 

「・・・・・・友成~・・・・フヒッ。」

 

・・・・・・どんな夢を見ているのかは考えないでおこう。

 

「にしても草加少佐か・・・。」

 

二日後・・・通信参謀の草加少佐がこの横須賀鎮守府に来ることになった。

流石に原爆を開発するまではしないと思うが多少警戒はしておいた方が良いだろう。

曲がりなりにも相手は情報のプロ、海大甲種卒のエリートだ。

それに「みらい」を知っているとなれば厄介になる。

もし牽制でもされたら特定しにくいだろう。

 

「・・・・艦長は二つの責務を負う・・・艦の運用そして・・・乗員の安全を守ること。」

 

僕の先任者の角松二佐の言葉を思い出す。

この台詞が今の僕にとって大切なものになるとは考えていなかったが・・・。

 

「・・・なら、僕が優先すべきことは・・・・乗員の安全だ。」

 

あの手段だけはどうしても取りたくなかったが致し方ない・・・・。

 

「『みらい』という艦が無くなれば僕達が異世界、そして未来人という痕跡は跡形もなくなる・・・証拠が無ければ追及も難しくなるはずだ。」

 

艦内の特定の場所に仕掛ける必要があるな・・・・ともかくまずは寝よう。

僕は目を閉じて明日やるべきことを考えながら眠った。

 

 

 

 

 

 

「んぅ?」

 

現在0542、午前5時42分。

友成の母、神通は偶然目を覚ましたようだ。

 

「何だかあったかい・・・。」

 

目が覚めて意識が覚醒していないのか少し呆けながら自分の目の前をよく見る。

そこは友成の胸板で神通は現在、友成に抱き締められていた。

そのことが分かった神通は一気に覚醒し顔を真っ赤に染めた。

 

「(え、えぇーーーー?!なんで抱き締められて・・・でも最高!)」

 

・・・・こうやって瞬時に切り替えられるのもある意味、神通の凄味なのだろう。

 

「・・・・母さん・・・。」

「(寝言?)」

「・・・・大好き・・・・・。」

「(ゴファ!)」

 

友成の放った神通にとって、とても甘い囁きは彼女を一撃で撃沈させた。

因みにその後、総員起こしの際に撃沈した顔が緩み切った神通が発見された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・これでよし。」

 

僕は設置したC4爆弾の確認を済ませた。

この爆弾は弾薬庫と前甲板VLSを爆破した後、機関室下部の燃料タンクに点火される。

そして誘爆で起きる秒速9200mの爆風と摂氏4500度以上の炎が気化した燃料に引火し『みらい』は完全に消し飛ぶ、僕達が異世界の未来人という痕跡と共に。

 

「さっさと退出するか・・・角松二佐たちも仕掛け終わっているだろう・・・。」

 

僕は足早に弾薬庫を後にした。

 

 

 

 

「角松二佐、遅れました!」

 

僕は埠頭にいた梅津一佐、角松二佐、尾栗三佐、菊池三佐と合流した。

 

「遅いぞ、と言っても一般人が作業しているんじゃあ仕方ないな。」

「そうだな洋介、一先ず取り付けは完了したってこった。手早く終わってよかった。」

「私と霧先三佐が持つこのトランシーバーのボタン一押しで『みらい』は跡形も無く消し飛ぶ。」

 

僕は手に持ったトランシーバーを見る。

これのボタンを押すだけで護衛艦1隻が跡形も無く消え去る。

 

「俺達が未来人という痕跡も・・・消え去るわけだ。」

「尾栗の言う通り・・・その爆風で残るものは無い。」

 

尾栗三佐も菊池三佐も覚悟を決めていた。

 

「これが我々の・・・最後の意思だ!」

 

僕か梅津一佐がもつこのトランシーバーが最後の意思か・・・。

 

「それはそうと霧先。お前、みらいには話したのか?」

 

・・・・まだ話していなかった。

角松二佐たちには「情報を使われて強要される恐れを防ぐため」という名目で爆弾を設置するように具申したがみらいには話していなかった。

 

「・・・まだ、話していません。」

「まずいんじゃないのか?バレたら。」

「分かっています尾栗三佐。ちゃんと話すつもりです・・・。」

「艦長。」

 

声をかけられて瞬発的に後ろを見る。

そこにはみらいがいた。

 

「みらい・・・。」

「艦長、御説明を。」

「・・・・・艦橋で二人で話そう。」

「了解しました。」

「梅津一佐、角松二佐、尾栗三佐、菊池三佐、失礼します。」

 

僕は敬礼をした後みらいとタラップを上がった。

 

 

 

 

 

 

「草加少佐が!?」

「間違いない、提督に貰った資料に書いてある。」

 

予想通りみらいも驚いていた。

 

「ですが同姓同名の可能性も・・・。」

「あるが用意するに越したことは無い。例え脅しが効いていても、『みらい』の存在を良く思わない者がいるかもしれない・・・。」

「・・・・。」

「僕も海軍少佐の階級を持っている。多少の権限なら使えるけど・・・僕らはこの世界では日陰者でいる必要があるんだ。」

「・・・・分かりました。艦長の意思ならば。」

「ともかく、視察中は慎重に行動するしかない、気をつけて。この日本はある意味『ジパング』だ。草加少佐の行動が読めない。」

「『ジパング』・・・・・分かりました艦長。」

 

みらいはそういって艦橋を後にした。

 

ある意味この世界は草加少佐が望んだ『ジパング』だ。

GHQがいない国体が違う独立した日本。

ある程度民主主義があってもそこには「アメリカに養われた」という経歴があまりない。

そんな国が実現した今、草加少佐が行動する予想がつかなくなる。敵に回れば危険だ。

 

「・・・・・人生何があるか分からないな。」

 

僕は艦長席に座って外を眺めながらそう呟いた。



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第弐拾質戦目「日本国海軍通信参謀 草加拓海」

・・・・なんだか短い気がするけどお許しください!


「どうかな、みらい?」

「ばっちり海軍軍人ですよ。」

 

僕は今、綺麗に修繕された工廠長室で第二種軍装を着ていた。

それがどう見えるか部屋にいたみらいに聞いてみる。

似合っているようで何より。

 

「もし草加少佐に会いたくないのなら土佐さんや天城さんに頼むけど・・・。」

「大丈夫です、いつまでも過去に囚われていては前に進めません。ですから逃げるだけは出来ないんです。」

「そこまで考えているのなら僕が言う必要はない。頼むよ。」

「はい、艦長!」

 

僕は制帽を被って身だしなみを確認する。

その直後に誰かがドアをノックした。

 

「誰ですか?」

『大淀です。』

「どうぞ。」

 

僕が応答するとドアが開かれ大淀さんが入ってくる。

 

「失礼します工廠長、先ほど視察の方がいらしたので。」

「その方はどちらに?」

「現在、提督と執務室で話し合いをされています。」

 

執務室か・・・。

 

「ありがとうございます、大淀さん。みらい、行こうか。」

「はい。」

 

少々緊張した顔でいるみらいを連れて、僕は工廠長室を出た。

 

 

 

 

 

 

「ふぅー。」

 

僕は執務室前で心の準備をしてからドアをノックした。

みらいは先に艦に向かわせた。

 

『誰だ?』

「工廠長、霧先少佐です!」

『入ってくれ。』

「失礼します!」

 

部屋に入ってすぐ提督に敬礼。

 

「霧先、此方が俺の同期で特殊兵装艦の視察に来た通信参謀、草加拓海少佐だ。」

「初めまして、草加拓海です。」

「此方こそ初めまして、霧先友成です。」

 

草加少佐と敬礼を交わす。

この男が・・・かつて角松二佐と対峙し「ジパング」を夢見た男・・・。

 

「貴方は良い目をしている。かつて私を救ってくれた恩人と同じだ。」

 

恩人・・・・角松二佐の事だろう。

 

「・・・・・自分は軍人だと思っております。」

「17歳という異例な若さで海軍少佐になったことはすごい噂になっている。だがこうして見ると軍人らしさが出ているな。」

「ありがとうございます。」

 

僕がそう言った後、草加少佐は提督に向き直った。

 

「高屋大将閣下、早速、特殊兵装艦を見てみたいのですが。」

「・・・・分かった、霧先少佐。」

「はっ、了解しました。」

 

僕達は執務室を出て、みらいに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「此方が特殊兵装艦です。」

 

僕の案内の元、提督と草加少佐をみらいの所へ連れてきた。

 

「・・・・・・やはり、美しいな・・・・この艦は。」

 

草加少佐の言葉を提督は不思議そうに聞いていた。

 

「そろそろ、そのユニホームが息苦しくなってくるのでは?霧先三佐。」

 

海上自衛隊の階級を言った瞬間提督は驚いた表情をした。

 

「草加!どこでその階級を!」

「高屋、今は霧先三佐と話している。」

 

草加少佐はそういうと言葉を続けた。

 

「霧先三佐、今の日本は素晴らしい。私の考えていた『ジパング』そのままだ。だが深海棲艦によって海上を封鎖されているのは厄介だ。輸入に頼る日本がこのまま戦争を行えばいずれ破滅する。」

「つまり?我々にどうしろと?」

「深海棲艦に対して有効な攻撃が可能な『みらい』を使って日本の力を示し、深海棲艦撲滅後もアメリカに養われることなく独立した日本を形作りたい。そのために霧先三佐、貴方に協力して欲しい。」

 

成程、そういうことか。

 

「草加少佐・・・僕はこの『みらい』の艦長です。元は高校生でも今は自衛隊の護衛艦の船員。ならば自衛隊の存在意義を考えた時に日本を守るのは確実。ですが『みらい』は盾であり槍では無い、それは『みらい』を見てきた貴方なら理解できるはずです。我々は守れても侵略することはできない。それが自衛隊です。」

「やはり似ている・・・・彼も戦時下で人命を尊重する人間だった。だがこの世界は甘くはない。貴方も私も明日ここに存在するという保証はない。」

「それは私達が一番理解しています。草加少佐。」

 

聞こえてきた女性の声の方を提督と草加少佐は見る。

そこにはみらいが立っていた。

 

「まさか・・・みらいか?」

「そうです草加少佐。貴方に三式弾を食らわされたみらいです。」

「そうか・・・艦娘になっていたとはな。私に手を下すか?」

「・・・・・えぇ、この身体になった時その手も考えました。ですがそんなことを梅津艦長や角松二佐は望みませんし今の艦長である霧先艦長も望まないと思います。」

 

みらいは直立不動でそう言った。

 

「やはりみらいの様だな、二佐によく似ている。」

「伊達に護衛艦ではありませんでしたから。」

「貴方達の考えはよくわかった。だがみらいの力を諦めたわけではないが貴方達の事だ、何かしら対策は施してあるだろう。此方としても出来るだけ争い事は避けたい。」

「意外です。いつ脅しの一つ二つをされると肝を冷やしていました。」

「今、海上から・・・・あの砲がなければあったかもしれない、霧先三佐。」

 

草加少佐が向いた方を見ると海上から砲を此方に向けた天城さん、土佐さん、扶桑型の伊勢さん、日向さんがいた。

 

「あいつらは・・・・。」

「自分からも言っておきます提督。」

 

そのうち提督にしわが増えるかも・・・。

 

「愉快な仲間達だな高屋。」

「草加、今度二人で話したいが良いな?」

「もちろんだ。さて、私の視察はこれにて終了だ。霧先三佐、出来れば私は友好な関係を築きたい。必要なことがあれば情報提供をしよう。」

「貴方がですか?」

「なァに、此方としても貴方達を良く思っていない者がいて邪魔なのでね。それに、私と二佐、みらいとの戦いは既に私の負けで終わっている。」

 

・・・・過去は水に流すってことですか。

 

「では、何かあればご連絡します。」

「互いに有効な関係を築こう。」

 

僕と草加少佐はたがいに敬礼を交わした。

 

「さて、帰る前にひとつ情報を渡しておこう。」

「情報?」

「そうだ三佐殿。恐らく貴艦も巻き込まれる大規模作戦が計画されている。」

「大規模作戦?」

「まるで『あの海戦』のような作戦だ。貴艦が来たのも運命だろう。」

 

大規模作戦・・・・まさか!

 

「その大規模作戦名は『AL作戦/MI作戦』貴官なら分かるはずだ。」

「ミッドウェー海戦・・・!」

「その通りだ、気を付けて置いて損はないだろう。では私は大本営に戻る、元帥に報告しなくてはならないのでね。」

 

そう言って草加少佐は埠頭から去った。

 

「はぁ~!緊張しましたぁ~・・・。」

「全く・・・無理なら無理といえばいいのに。」

「き、緊張しただけで大丈夫ですよ!」

 

・・・・まぁ、そう見えてはいたけども。

 

「大規模作戦があるとはな・・・大変だぞ。」

 

提督の言う通り大変になる。・・・・・主に書類作業的な意味で。

 

「ですね、資材の確認を急ぎます。」

「それもそうだが・・・ミッドウエーか。」

「これは直前まで伏せますか?」

「あぁ、そうしたい。俺は草加を見送って来る。」

「了解です。」

 

提督は走って草加少佐を追った。

 

「艦長、今回の作戦は・・・。」

「もしミッドウェーと同じなら『みらい』の対空レーダーとイージスシステムは重要だ。」

「128も追尾、迎撃できますからね。」

「あぁ、でも、あくまでこれは自衛隊としての艦娘の保護活動だ。もしアメリカなんかの他国が絡んできても相手が攻撃してこない限り我々は攻撃しないこれは絶対だ。」

「分かっていますよ艦長。」

 

さて、これから忙しくなるぞ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、横須賀鎮守府とは別の鎮守府では・・・

少し太った悪人面が似合う「大佐」が特型駆逐艦の艦娘に指示を与えていた。

 

「以上がお前の異動の大まかな理由だ。全然使えないゴミの貴様でも多少は使えるだろう。」

「・・・・・はい。」

 

艦娘は生気のない声で答えた。

 

「『あの艦』や『あの少佐』には存在してもらっては困る。必ずあいつらを消せ、捕まっても私の名は出すな。分かったらさっさと出ていけ!」

「・・・・・了解です・・・・失礼します。」

 

艦娘は静かに退出した。

 

「ゴミを処分出来て更には『アイツ』も消える・・・・最高だな・・・ハハハハ!」

 

既に「みらい」と友成をよく思わない者が動き始めていた。

そして・・・・それが横須賀鎮守府を真っ二つに割ることになるとは誰も・・・・予想だにしていなかった・・・・。




次回は艦これの主人公の登場です。


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吹雪着任編
第壱休戦目「ポッキーゲーム」


11月11日に間に合わなかった・・・。
伏字は後々しておきます。


みらいの場合

 

「艦長!ポッキーゲームしましょう!」

「突拍子もなく何を言い出すのかね君は。」

 

書類作業を黙々としていたらみらいが突然ポッキーゲームをしたいと言い出した。

何故にポッキーゲームなんだ・・・。

 

「そもそもポッキーは切らしていr」

「準備しています!」

 

サッと秘書艦用の机の陰からポッキーが現れた。

どれだけ用意周到なの?

 

「じゃあやりましょう!」

「やるなんて言っていないんだけど。」

 

僕の応答なしに箱を開けて中の袋も開封しポッキーを取り出すみらい。

今日は話を聞かんな・・・。

 

「ふぁい!じゅんひかんりょふでふ!」

「・・・・・一回だけね?」

 

みらいの反対側を銜えて少しづつ齧っていく。

だがみらいは微動だにしない、さっきまでの威勢は何処へ・・・。

 

「(勢いでしたはいいんだけど・・・・・恥ずかしい!)」

 

みらいの顔が真っ赤に染まるが続ける。

ちょっとだけ悪戯してもいいだろう。

 

「(えっ?艦長止めないんですか?だったら・・・このまま・・・艦長とキス!?)」

 

さて、そろそろかな?

みらいの唇との距離が1㎝になったところでポッキーを食べ終えてみらいから離れる。

 

「えっ?」

「はい、ここまで。分かったら早いとこ仕事を終わらせよう。」

「・・・・・・分かりましたよ!ふん!」

 

その後、みらいは僕が間宮アイスをたらふく奢るまでご機嫌斜めだった。

また一段と財布が薄くなってしまった・・・・・。

 

 

 

先代神通の場合

 

「友成、ポッキーゲームをしましょう?」

「どうしてまた・・・。」

 

薄くなった財布をどうしようか中庭で考えていたら母さんがご丁寧にポッキーを片手に現れた。

 

「さぁ、やりましょう?」

「僕に拒否権は?」

 

そんなことを聞いていると母さんが僕の両肩を掴んでポッキーを銜えて近づいてきた。

 

「か、母さん?力が強い気がするんだけど・・・?」

「(フフフ・・・これなら合法的に友成と・・・・。)」

 

あっ、これは話を聞いていないやつですわ。

仕方ない・・・。

 

「い、いただきます・・・。」

 

とりあえずポッキーを食す。

母さんも僕が食べ始めると食べだした。

そして後少しというところで食べるのをやめて左を向く。

 

「ん~~~♪」

 

そして僕の左頬に母さんの熱いキスがされた。

 

「残念だわ。」

「何を望んでいるのさ・・・。」

 

笑いながら言う母さんに何とも言えない気分になる。

 

「僕は部屋に戻るよ・・・。」

「そう、それじゃあね。」

 

かなり気疲れした僕は母さんにそう言って工廠長室に戻ることにした。

 

 

 

土佐の場合

 

「工廠長!ポッキーゲームを。」

「しません。さっき、みらいと母さんにされてちょっと疲れました・・・。」

 

僕が言うと土佐さんは目尻に涙を浮かべた。

 

「私では・・・土佐ではダメ・・・ですか?」

「うっ・・・。」

 

上目遣いなんてされて断れるわけないよ・・・。

 

「一回だけなら・・・。」

 

パァーっと笑顔になった土佐さんは颯爽と準備を終える。

 

「お、お願いしまふ・・・。」

「じゃあ始めます・・・。」

 

僕はポッキーを銜えて食べ始める。

最初は少し恥ずかしかったが三回もやった為もう慣れていた。

そしてあと少しのところで離そうとしたとき。

 

「や、やっぱりここまでで!!」

 

土佐さんの方が先に離して顔をトマトより真っ赤にしながら走り去った。

 

「・・・・・・今日は何があったんだ?」

 

口に銜えたポッキーの切れ端を食べながら考えたがイマイチピンと来ない。

今日は何かあったかな?

 

 

 

扶桑型の伊勢の場合

 

「友成君、さっき顔を赤くして走ってった土佐さんとすれ違ったんだけど・・・。」

 

部屋に入ってくるなり伊勢さんが聞いてきた。

 

「それが何か?」

「何かしたの?」

「いや、ポッキーゲームをしたんですけど・・・。」

 

そう言った瞬間伊勢さんがニヤニヤし始めた。

 

「ほほう?それじゃあ私もしようかなぁ?」

「ポッキーは切らしてますよ。」

 

書類を確認しながら伊勢さんに言うと伊勢さんが僕に右側に近づいてきた。

 

「フフッ・・・ここにあるでしょ?立派なポッキーが・・・。」

「へっ?」

 

僕に抱き着いてきた伊勢さんは胸を押し付けながら僕の腹から少しづつ下に右手を下す。

 

「あ、あの伊勢さん?」

「フフッ、これでも身体には自信はあるし胸部装甲(おっぱい)も大きい方だと思うわよ?何なら友成君が望むことをしてあげるわよ?」

 

伊勢さんが妖艶に微笑みながら顔を近づけてくる。

僕のポッキーが反応しないように理性で押さえるが長くは持ちそうにない。

 

「お姉さんとポッキーゲームしましょ?」

 

そして伊勢さんの右手が僕のモノを・・・

 

「この愚姉が!」

「あ゛だっ!」

 

掴むことは無かった。

突然飛んできたバインダーが伊勢さんの額を直撃。

短い声の後、伊勢さんはぶっ倒れた。

バインダーの飛んできた方を見ると扶桑型の日向さんが立っていた。

 

「全くこの愚姉は・・・・。」

「助かりました日向さん・・・。」

 

一応お礼を言っておく。

 

「どうしてこのタイミングでここへ?」

「実は偶々提督と会ってな。そのバインダーを君に渡すように言われて来たらそこの馬鹿が自分の上官に色仕掛けをしている場面にあったんだ・・・。」

「そうだったんですか。」

 

理由を聞いた僕はバインダーを拾って見る。

どうやら編成について書かれているようだ。

 

「さて、さっさと戻って扶桑に説教をして貰うから覚悟しろ。失礼した。」

「イタイイタイ!耳を引っ張らないでよ日向ー!」

 

日向さんは伊勢さんの耳を引っ張りながら連れて退出した。

・・・・・今日は厄日だなぁ・・・。



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第弐拾捌戦目「初めまして!工廠長!」

怒涛の連続投稿!
今回からゆっくりと大規模作戦編に向かっていきます。


草加少佐が視察に訪れてから2週間後の横須賀鎮守府。

 

「綺麗・・・・。」

 

そこで一人の少女が海を見て呟いた。

その少女はセーラー服に身を包み、傍から見れば中学生にも見える。

 

「・・・・よしっ!」

 

少女は後ろに振り返る。

そこには横須賀鎮守府の建物があった。

彼女こそ艦娘の「吹雪」であった。

 

 

 

 

 

「初めまして司令官!吹雪です、よろしくお願いします!」

「初めまして、俺はここの司令官の高屋治二大将だ。いきなりで悪いが生憎、俺も秘書艦の長門も執務で手が離せないんだ。ここの案内は適当な艦娘に聞いてくれ。皆良い奴らだ。」

「了解しました!」

「張り切りすぎるのも考え物だぞ?所属は第三水雷戦隊だ。退出しても良いぞ。」

「失礼しました!」

 

 

「はぁ・・・・どうしよう・・・。」

 

吹雪は溜息をついた。

彼女自身、新天地へ来たばかりで知らない顔の人物に堂々と声をかけるのをためらっていた。

そんな時に独りの艦娘が声をかけた。

 

「あの~・・・。」

「はっ、はい!」

 

いきなり声をかけられた吹雪は少し退きながら声をかけてきた相手の方を見る。

 

「吹雪さん・・・ですか?」

「あっ、はい!吹雪であります!本日付で第三水雷戦隊に配属になりました。」

 

吹雪は敬礼をしつつ自己紹介をした。

 

「同じ第三水雷戦隊に所属する睦月です。よろしくお願いします。」

「あっ、此方こそよろしく。」

 

敬礼をして自己紹介をする睦月に吹雪は礼をする。

しかし、肩に下げていた手提げが落っこちた為、中身のおにぎりや貯金箱、お守りが廊下に散乱する。

 

「あぁっ!!」

 

吹雪はせっせと落ちたものを拾い手提げに入れていく。

 

「あっ、可愛い~。」

「あははっ・・・。」

 

貯金箱を眺めて可愛いと発言する睦月に吹雪は笑いながら頭を掻いた。

 

「良かった~。」

「?」

「特型駆逐艦って聞いたので、もしかしたら怖い人なのかなって思っていたから・・・。」

「私も怖い人と同じ艦隊になったらどうしようって思ってたから・・・。」

 

「「うふふふ。」」

 

どうやら二人とも相性が良かったのか仲良くなれたようだ。

 

「この鎮守府はやっぱり大きいんだねぇ~。」

「大抵のことはこの中で済んじゃうの。任務や出撃に関する事だけじゃなく、休日雄過ごすための施設もあるから。睦月もほとんど外に出ることが無くて。」

「へぇ~すごいんだね・・・。」

 

吹雪が感嘆を漏らす。

彼女が前にいた鎮守府ではさほど設備は充実していなかったようだ。

 

「でも、休日に外に出る人は多くなったよ。」

「そうなの?」

「うん、ここにある娯楽施設も工廠長が提督に頼んで作ったものが多いし、明石さんの酒保に雑誌なんかを置いてくれるように頼んだのも工廠長なんだ。」

「凄いんだねぇ・・・工廠長さんって。」

「後であいさつに行こうよ。」

「うん!」

 

吹雪が言った後にチーンと音が鳴りエレベーターのドアが開く。

そして廊下を少し進んだところの部屋に第三水雷戦隊と筆で書かれた木札がかけられていた。

 

「ここ?」

「うん!」

 

睦月がドアを開ける。

 

「夕立ちゃん!吹雪ちゃん連れてきたよ!」

「ぼい?」

 

睦月の言葉に部屋で雑誌を読んでいた夕立が反応する。

 

「あっ、初めまして。吹雪です。」

「夕立だよ。あなたが特型駆逐艦の一番艦?なんだか地味っぽーい。」

 

夕立は吹雪に近づくなり品定めをするような目で見て地味という言葉を言い放った。

恐らく特型駆逐艦の一番艦というイメージが大きく思えたせいで想像していたためそんな言葉が出たのだろう。

 

「もー失礼だよー。」

 

睦月は夕立に注意をした後、吹雪の荷物を机に置いた。

 

「机はここを使ってね。それで荷物はこっちに・・・。」

 

睦月が手を掛けた引き出しを引くとそこには大きなぬいぐるみのクマが収納されていた。

ひとつで引き出し一杯になるとはかなりのサイズである。

 

「もう!夕立ちゃん!吹雪ちゃん来るまでに片づけて置いてっていったのにー!」

「だってー私の引き出しにもう入らないっぽいー。」

「あぁ、大丈夫。私そんなに荷物ないし・・・。」

「ううん、そういうのは駄目だよ。共同生活しているんだから!」

「また始まった~睦月ちゃん細かすぎるっぽい~。」

「夕立ちゃんが大雑把すぎるんだよ~。みらいさんにまた説教されるよ?」

 

「(何だかみんないい人そうだなぁ・・・。)」

 

そんな吹雪の顔を背後からまさぐるものがいた。

 

「ん?えっ?」

「ほうほう、これが特型駆逐艦の一番艦かぁ~。」

「ふぇえ!?」

 

吹雪が後ろに振り替えるとそこにいたのはオレンジを基調とした服を着た川内と神通だった。

 

「ちょっと垢抜けないけど可愛いじゃん。友成には劣るけど。」

「姉さん、また友成君に言われますよ。」

「あ、あなたは・・・。」

 

どうやら突然のことに吹雪の脳は付いていけていないようである。

とりあえず相手の名前を聞こうと尋ねた。

 

「あっ、川内さん。同じ第三水雷戦隊のメンバーで妹の神通さんと那珂ちゃんと一緒に隣の部屋にいるんだよ。」

「えっ!?川内さん!?お、お久しぶりです!吹雪です!」

「あぁ、あの時の。名前は聞いていたからどんな姿になったかと思えばこれまた地味な格好に・・・。」

「姉さん、友成君に怒られますよ。・・・姉がご迷惑をおかけします・・・。」

 

「あははは・・・・。」

 

吹雪は笑うしかなかった・・・。

 

「およ?那珂ちゃんは?」

「あれ?さっきまでいたんだけどなぁ・・・。」

 

そんな時に外から声が聞こえてきた。

 

「第三水雷戦隊の那珂ちゃんでーす!」

 

全員が窓からのぞくとそこでは那珂がビラ配りをしていた。

どうやら近々ライブをするようで宣伝をしているようだ。

・・・・・・来る人数は限られそうだが。

 

「あれが・・・那珂ちゃん・・・。」

「妹もご迷惑をおかけします・・・。」

 

吹雪は実に不思議なものを見る眼で眺めていた。

神通の胃は持つのであろうか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「後一周!吾輩に続けぇ!」

「おっそい!おそーい!」

「頑張って電!あと少し!」

「うん・・・!」

「やだぁ~髪の毛が痛んじゃぅ~!」

 

利根筆頭の元、島風、雷、電、如月が走り込みをしていた。

そこに睦月が声を掛ける。

「如月ちゃーん、頑張っていきましょー!」

「!ふふっ。」

 

睦月に気付いた如月は手を振り、睦月が手を振り返す。

その後、施設案内を続けることになった。

 

「ここが教室っぽい。」

 

教室と言われた場所の入口には駆逐級と書かれた札が掛けられていた。

 

「今日は日曜日で誰もいないから・・・明日みんなに紹介するね。」

「うん、ありがとう。」

 

吹雪は壁に張られた時間割を見る。

授業は三時間あるようで、礼法、算術(弾道計算等)、水雷(教練対潜戦闘)、艦砲(教練対空対水上戦闘)、料理、信号(手旗、モールス)、武道(銃剣道、柔道)、演習が振り分けられていた。

 

「ねぇ、睦月ちゃんと夕立ちゃんは、実戦・・・どのくらい積んで来たの?」

「実戦?この艦隊に配属になってからまだ二回かな?」

「今まで遠征と演習ばっかりだったから・・・一回目は何もしないうちに先輩たちが

倒しちゃって終わっちゃったぽいしね~・・・。」

 

どうやら二人とも戦闘経験は少ないようである。

そんな時に睦月から吹雪に言葉の爆弾が投げつけられた。

 

「吹雪ちゃんは?」

「うぅ・・・えっと・・・・。」

 

実は吹雪自身はまだ一度も実戦に出ていない。

というのも彼女は艤装がうまく扱えず前の鎮守府では落ちこぼれとして出撃はおろか艤装を付けることもなかったのだ。

 

「このくらい・・・・?」

「20?」

「え?ううん・・・いや!」

「流石一番艦!」

「およよ・・・睦月も頑張らなくっちゃ!」

 

下手なジェスチャーのせいで大変な勘違いをされてしまった。

しかし二人の勢いに飲まれた吹雪はそれが間違いだということを言い出せなかった。

その時、エンジン音が聞こえてきた。

 

「なに?」

 

三人が教室の窓を開けるとそこには無数の艦載機が飛んでいた。

 

「一航戦の先輩たちの演習っぽーい!」

 

どうやら一航戦の赤城と加賀の艦載機のようだ。

 

「一航戦?聞いたことある!たった一艦隊で数十の深海棲艦に立ち向かい、完全勝利したと言われる伝説の艦娘達だよね~!・・・ここに配属されているんだぁ・・・。」

「工廠長に挨拶しに行った後に会いに行ってみようか?」

「うん!」

 

睦月の提案に吹雪は大いに賛成した。

 

 

 

「ここが工廠長の部屋?」

「うん、工廠の中にあるけど艦娘もたくさん来るんだよ。」

「そうなんだ~。」

 

吹雪が応答してから睦月が扉をノックした。

 

『誰ですか?』

「睦月、夕立と今日配属の吹雪です!」

『そういえば今日配属だったっけ・・・どうぞ。』

「失礼します!」

 

睦月がそういって扉を開けて中に入る。

続いて夕立、吹雪が入室していく。

 

「君が吹雪だね?僕は霧先友成。階級は少佐で工廠長を務めているからいろいろな面で君たちをサポートするからよろしく。」

「私は加賀型戦艦二番艦土佐よ。よろしくね吹雪ちゃん。」

 

霧先と土佐が敬礼をして吹雪を迎えると

 

「は、初めまして霧先少佐!土佐先輩!吹雪です!よろしくお願いします!」

「そんなに堅苦しくなくてもいいよ。そうだ、お菓子やジュースがあるけどどれがいい?」

「あっ私はファ○タグレープとおにぎりせ○べいがいいっぽい!」

「睦月はカ○ピスとかっぱえびせ○がいいです!」

「えっ?えっと・・・・。」

 

どうやら吹雪はこの状況についていけないようである。

それもそう、本来ここは軍事施設であり上官が冷蔵庫や棚からお菓子とジュースを出し、それを嬉しそうに受け取る同僚が見れることないはずなのだ。

そこにサッと土佐が耳打ちをする。

 

「吹雪ちゃん、ここの鎮守府は特殊だから今のうちに慣れておきなさい。」

「わ、分かりました土佐先輩・・・。」

 

吹雪は苦笑いをするしかなかった。

 

 

これが「みらい」艦長 霧先友成と特型駆逐艦一番艦 吹雪の出会いだった。




アニメ基準になるけど轟沈はさせん!
慢心、ダメ!ゼッタイ!


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第弐拾玖戦目「伝説の一航戦」

「吹雪は何が良いな?」

「ふぇ?!あ、あの・・・お、お茶でお願いします・・・。」

「はいはーい、じゃあこのお菓子が良いね。」

 

そうやって出されたのは緑茶と羊羹だった。

 

「さぁ、どうぞ。」

「い、いただきます。」

 

吹雪は羊羹を一切れ口に運ぶ。

 

「ん~~~!!美味しい!」

 

どうやらお気に召したようである。

流石は間宮羊羹、艦娘のハートをがっちりつかんでいる。

 

「あっ、間宮羊羹ぽい!」

「睦月も欲しいです!」

「はいはい二人の分もあるよ。」

 

そうやって羊羹を取り出す友成の袖を土佐が掴んだ。

 

「工廠長・・・・。」

「そんなもの欲しそうな顔しなくても土佐さんの分もありますよ・・・。」

 

苦笑いする友成と満面の笑みになる土佐。

かなり面白い構図ではあるが吹雪はそんなことを気にするそぶりも無く羊羹に舌鼓を打っていた。

 

「そう言えば睦月たちはこれからどうするの?」

「えっと赤城さん達に会いに来ます。」

「そうか、ならそろそろ行った方が良いよ。」

「そうですね、お姉ちゃんたちの鍛錬はあと一時間ほどで終わるし・・・。」

「えっ大変!夕立ちゃん、吹雪ちゃん行くよ!」

「ぽ、ぽいー!」

「わわっ!あ、あの失礼しました工廠長!」

 

ドアを開けて睦月と夕立は飛び出ていき、吹雪は敬礼をして退出して行った。

騒がしいが馴染めているようで良しとする。

 

「言わなくてよかったんですか?工廠長。」

「ただ夢に吹雪が出てきてその翌日に配属が決まっただけだからねぇ・・・言う必要性は無いでしょう。」

 

僕は外の風景を窓越しに眺めながら土佐さんに答えた。

 

 

 

 

 

 

弓道場では赤城と加賀が鍛錬をしていた。

赤城が弓を構えて弦を引く。

そして狙いを定めて弓を離す。

弓がまっすぐ飛び光ったかと思うと零式艦上戦闘機に変化して的に機銃を撃つ。

そして零戦は機首を上げて空を飛ぶ。

 

「わぁ・・・綺麗・・・。」

 

吹雪は一連の出来事に感嘆を漏らす。

 

「あれが第一航空戦隊、通称「一航戦の誇り」正規空母赤城先輩だよ。」

「赤城先輩・・・・。」

 

睦月の解説をしている横で吹雪の目は赤城に釘付けになっていた。

 

「(凄い!放つ瞬間、一点に集中して微動だにしない。)」

 

吹雪は目を輝かせながら赤城の動作を見ていた。

 

「流石ね、赤城さん。」

「いえ、まだ微妙な調整が必要です。慢心しては駄目。」

「ん?」

 

赤城が自分の欠点を見出していると加賀は睦月たちに気付いた。

 

「あっ!ヤバいっぽい!」

「えぇっ!?あぁ、ちょっと!」

 

加賀に見つかった為、夕立と睦月は逃げ出し吹雪も後に続く。

が・・・

 

「あぐぅ・・・あ、あぁうぅ・・・・。」

 

松の木の襲撃(ただ枝にぶつかっただけ)にあった吹雪は可愛い声を出しながらしゃがみ込んだ。

 

「大丈夫?吹雪ちゃん!」

 

睦月が声を掛けるが時すでに遅し。

加賀と赤城が三人に近づいた。

 

「断りもなく入って来てはダメよ。」

「す、すみません!」

 

加賀からのお叱りを受ける三人。

そんな三人のところに二人の人物が来る。

 

「吹雪ちゃん。」

「う、うん。」

 

睦月が吹雪の手を取り吹雪が立ち上がる。

吹雪の名を聞いた赤城が声を掛けた。

 

「吹雪さん?」

「ふぇ?は、はい!」

 

吹雪は少々間の抜けた声を出し赤城の方を向く。

 

「やはりあなたがそうなのですね?提督から話は聞いてあります。」

「提督から・・・。」

「いつか一緒の艦隊で働きましょう。ふふっ。」

「は・・・はい!」

 

吹雪は嬉しそうな顔で敬礼をびしっと決めた。

 

 

 

 

 

 

所変わって甘味処「間宮」。

友成の財布が度々犠牲になるこの店には多数の人物が訪れる。

 

「はぁーいお待たせ。」

 

現れたのはそびえるような甘味が盛られた間宮名物「特盛あんみつ」だ。

・・・・甘味の量が多すぎて、もはやあんみつというよりはパフェに見える。

 

「いっただきまーす!」

 

流石にこれだけを食すのは常人には不可能だと思われるが夕立は颯爽と頬張る。

 

「これが間宮名物の特盛あんみつだよ。」

 

睦月が説明するが吹雪はというと・・・。

 

「いつか一緒の艦隊で戦いましょう・・・。ニコッ♪」

「ニコッ?」

「全然聞いていない・・・。」

 

妙にキラキラして上の空だった。

 

「赤城先輩カッコいいっぽいもんね~。ツンツン。」

「ふぇ?わぁ!なにこれ!?」

「今気づいたの・・・?」

「あはは、ごめん・・・。」

 

どうやら今の今まで妄想の世界に浸っていたらしく夕立に突かれて現実に戻され目の前のあんみつに驚く吹雪。

睦月からのツッコミに申し訳なさそうに頭をかく。

 

すると遠くから声がする。

重雷装艦の「北上」と「大井」だ。

 

「大井っちは心配し過ぎだよ~ちょっと席を外しただけなのに・・・。」

「いなくなる時はひと声掛けてからって約束したじゃないですかぁ~!」

「そうだっけ?」

「もうっ!」

 

北上ののほほんとした返事に大井はへそを曲げる。

そこに北上がある行為をする。

 

「分かった、悪かったよ。はい。」

 

北上は最中を差し出す。

 

「もう・・・。」

 

大井は少々顔を赤らめながらそれを食べる。

 

「あれは北上さんと大井さん。」

「二人でいるときは声を掛けない方がいいっぽいよ。」

「ふ~ん・・・。」

 

夕立が警告するのも無理はない。

万が一大井を怒らせると潜水艦に乗った状態で探信音を放つ魚雷に追いかけられるより恐ろしい。

吹雪はそんな二人を不思議そうに眺める。

そこに新たな客が来る。

 

「さぁーて、今日は何にすっかなぁ・・・。」

「尾栗、あまり食いすぎると病気になるぞ?」

「分かってるって雅行。だけどやめられないんだなぁこれが。」

「全く。お前は昔から甘いものに目がないな・・・。」

「洋介は甘いものが嫌いか?」

「嫌いじゃないが食い過ぎには気を付けろ。」

「はいはい。分かりましたよ。」

 

藍色のつなぎに182と書かれた帽子を被った三人の男たち。

みらい副長 角松洋介、砲雷長 菊池雅行、航海長 尾栗康平だ。

 

「睦月ちゃん。あの男の人たちは?」

「あの人たちは特殊兵装艦『みらい』の乗組員で幹部の角松中佐、菊池少佐、尾栗少佐だよ。」

「さ、佐官クラスの人達なの!?」

「うん、そうだよ。」

 

睦月の説明に吹雪は驚いた。

その反応に尾栗達が気付いた。

 

「おっ?見かけない顔がいるな。よう、初めまして。俺は尾栗康平三等海佐だ。」

「は、初めまして尾栗少佐!特型駆逐艦吹雪です!」

「吹雪・・・友成と提督が言っていた今日配属予定の艦娘か。俺は菊池雅行三等海佐。」

「俺は角松洋介。二等海佐だ。」

「は、初めまして菊池少佐、角松中佐!」

 

吹雪はきっちり敬礼して自己紹介を行う。

 

「まぁ、今後俺達は一緒に歩んでいく仲になるわけだ。これからよろしく頼むぞ。」

「は、はい尾栗少佐!ご期待に沿えるように一生懸命頑張ります!」

「うむ、その調子だぞ!」

 

尾栗三佐と吹雪がやり取りをしていると異変が起こる。

 

ウゥゥゥゥゥゥ!!

 

突然サイレンが鳴り始めた。

これは友成と工廠妖精が作り出した警報装置でレーダー内に深海棲艦が現れた場合に鎮守府内にサイレンを流す仕組みになっている。

つまりレーダー探知圏内に深海棲艦が現れたのだ。

 

「野郎ども・・・来やがったか!」

「最近奴らの動きが活発しているという話だったが・・・こうも早く出てくるとは。」

「尾栗!菊池!今すぐ『みらい』に戻るぞ!」

「「了解!」」

 

「私たちも行こう!」

「えっ!?う、うん!」

 

甘味処「間宮」に居た自衛官と艦娘達は外へ出る。

丁度そこに友成と土佐、みらいが合流した。

 

「角松二佐、尾栗三佐、菊池三佐!睦月たちも!」

「おい、霧先!何があった!」

「ここから100㎞先に深海棲艦を確認。軽空母とその護衛艦と思われる艦隊です尾栗三佐。」

「よし、霧先三佐。俺と菊池、尾栗は梅津艦長に報告して迎撃態勢に入る。」

「了解です、角松二佐。自分はみらいと出撃します!土佐さん。吹雪たちを連れて出撃ドックへ!」

「分かりました!皆、急いで!」

 

こうして迎撃行動が始まった。



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第参拾戦目「特型駆逐艦吹雪 出撃!」

鎮守府に設置された出撃ドックは出撃する面々が集合していた。

 

「主力の第一機動部隊、第二支援艦隊、第三水雷戦隊。稼動全艦隊の出撃準備、完了しました、提督。」

「うむ。」

 

提督は作戦指揮室に備え付けられている放送用マイクを手に取った。

 

「提督の高屋だ。第四艦隊が本日演習中、敵艦隊に接触した。その際に敵の本隊が駐屯する場所を発見した。最近活発化している深海棲艦の動きに関与していることは間違いない。並びに今回探知圏内に発見された艦隊も関与しているはずだ。この艦隊を撃破し、敵の駐屯地を叩く!」

 

提督の放送に全員が意気込む。

 

「叩く・・・いよいよ反撃ですか!」

「ここは譲れません。」

 

冷静に落ち着いている赤城と加賀。

 

「ワァーオ!鼻息が鳴るネー!」

「お姉さま間違ってる・・・。」

 

興奮する金剛と間違いを訂正する比叡。

 

『布陣は正規空母の赤城たちを主力とした第一機動部隊が敵駐屯地を強襲、第二支援艦隊はこれを援護。第三水雷戦隊はこれらの主力の前衛として警戒に当たる、以上だ。本作戦の目標は深海棲艦による日本国本土強襲の危険の排除と海域の安全確保。敵の行動の妨害にある。各自覚悟して作戦に当たって欲しい。』

 

全員が集中した状態で放送を聞く。

 

『既に霧先少佐以下、天城、土佐、伊勢、日向と海上自衛隊によって本土へ近づく艦隊の排除を行っている・・・が、慢心は禁物だ。』

「誰に言っているのかしら?」

「(姉さんじゃないかな?)」

 

暁が疑問に思う横で響はそう思っていた。

その向こうでは放送を聞いていた吹雪が驚いた。

 

「霧先少佐が!?」

「吹雪ちゃん、霧先少佐は普段は非戦闘員なんだけど本土強襲なんかの大変な時には艦に乗って戦うんだ。」

「す、凄い・・・。」

 

『では、第三水雷戦隊!主力に先行して進発!』

 

提督の言葉の後、吹雪たちの乗った昇降機と出撃ゲートがブザー音と共に動き出した。

 

「(ど、どうしよう・・・!)」

 

初の出撃がこんな形になるとは思っていなかった吹雪は不安そうな顔をして腹を押さえていた。

 

「頑張っていきましょう!吹雪ちゃん!」

「う、うん・・・でも。」

「?」

「あ、あのね?私、実は・・・。」

 

吹雪は自分が出撃未経験だということを勇気を指して言おうとした。

が・・・。

 

「うん!素敵なパーティにしましょう!」

 

能天気な夕立によってその努力は粉砕された。

 

『第三水雷戦隊出撃してください。』

 

大淀のアナウンスの後、昇降機が停止する。

 

「吹雪ちゃん、出撃だよ!」

「あぁ・・・。」

 

嬉しそうに準備する睦月と対象に吹雪は不安そうだ。

 

「(うぅ~ここまで来たら、やるしかないよね!)」

 

もはや取り返しがつかないと感じた吹雪は逆に精一杯頑張ることにした。

そして全員が定位置につくと照明が落ちて床が光り出す。

因みにこの効果をつけようと提案したのは友成で、OKを出したのは主任妖精だ。

この主犯格共曰く、『カッコいいから付けた!』とのことで艦娘からは人気である。

 

「第三水雷戦隊、旗艦神通、いきます!」

 

神通の言葉の後、床からプレートが飛び出し出撃の文字が浮かぶ。

ここまで出来る妖精さんはかなりオーバースペックだ。

 

「(これに乗ればいいんだよね?多分・・・。よし!)」

 

意を決した吹雪は駆け出す。

 

「吹雪、行きます!ふぇぁあ!」

 

吹雪は見事プレートに着地した。

そして同時に風が吹き出しプレートが変形、アームが吹雪の艤装を彼女に取り付ける。

 

「うぇええ!?」

 

その後プレートはさらに変形し吹雪はバランスを保持しようとする。

その間に夕立、睦月は慣れた様子で信号が変わると同時に水上を滑るが吹雪は半強制的に射出される。

 

「わあぁぁぁぁ!きゃっ!・・・プハッ!」

 

おかげで水にダイレクトに潜り浮き上がった。

出撃ドックの天井に備えられている名札が一昔前の反転フラップ式案内表示器のようにパタパタと変わり吹雪の名が出る。

そして鎖が巻き上げられて吹雪の艤装が海中から飛び出し吹雪に装着される。

最後は連装砲を吹雪が手に取り完了、吹雪は海に出た。

 

「先行艦隊出撃しました。主力第二支援艦隊、第一機動部隊出撃します!」

 

大淀が報告している一方では第一艦隊が出撃準備をしていた。

 

「一航戦赤城、出ます!」

「加賀、出撃します。」

 

彼女たちも艤装を付けた後、水上を滑って海に出る。

そして後から鎖に巻き上げられた空母であることを象徴する飛行甲板と矢筒が海中から出てきて装備される。

妖精さんの技術はどうなっているんだ・・・。

 

 

 

 

 

 

その頃、鎮守府から離れた海域ではライトグレーの塗装に包まれ182の番号が書かれた重巡洋艦級の艦船が旭日旗を掲げて航行している。

その艦には艦名と思しき文字が艦尾にかかれていた。

その文字は「みらい」。

この世界の人間なら「軍艦が何をのんびり航行している!」とブチ切れるがこの艦は現在戦闘中だ。

それを表すのはこの艦に装備された8つの筒。

その筒のうち右舷側の2本が空になっている。

艦橋では霧先友成と一人の少女、艦娘の「みらい」が会話していた。

 

「ハープーンは?」

「目標に向けて飛翔中。命中まで5秒、4、3、2、1、着弾!目標反応消滅!撃沈です!」

「よし、天城、土佐、伊勢、日向に伝達。『直ちに鎮守府に帰還し防衛せよ。』と。」

「了解です艦長。」

 

霧先友成とみらいが行っていたのは対水上戦闘だ。

まず、天城、土佐、伊勢、日向の四人が敵空母の護衛艦を撃沈しその空母を「みらい」の対艦ミサイル「ハープーン」で撃沈するという作戦だ。

 

「天城から返信です。『了解。これより霧先三佐の指揮を離れ、独自の指揮で鎮守府に帰還し防衛します。』以上です。」

「よし、これより第一機動部隊、第二支援艦隊、第三水雷戦隊の援護に向かう!面舵一杯!機関、最大戦速!」

「面舵一杯!機関、最大戦速!」

 

天城からの返信があった後、友成はみらいに指示をだす。

みらいは指示を復唱し面舵を取った。

 

 

 

 

 

 

友成とみらいが敵空母を撃沈した頃、吹雪の所属する第三水雷戦隊では吹雪がボロを出し始めていた。

 

「ふ、ふぇえ!え、えぇ!うわぁ!うぇえ!早いよぉ!!」

 

何とかバランスを崩さないようにと姿勢を保とうとするがその甲斐なくまるでスケートを始めたての人のような動きを取る。

 

「特型駆逐艦!陣形崩れてるよ!」

「す、すみません!」

 

川内から注意され謝る吹雪だがまだ安定しない。

 

「大丈夫?」

「どこか調子悪いっぽい?」

「う、うん。大丈夫・・・わぁぁぁ!」

 

睦月と夕立が心配して声を掛けるが少し安定したと思うとすぐにバランスを崩す。

 

「吹雪ちゃん・・・もしかしてあなた・・・。」

「え!?あ、あ、えっと・・・。」

 

流石は教官を務める神通、吹雪の動きを見て察したようだ。

 

「「「「実戦経験がない(っぽい)!?」」」」

 

海上に神通と吹雪を除く四人の声が響き渡る。

 

「ゼロって!じゃあ今日が初出撃!?」

「練度もゼロってこと?」

「出撃させてもらえなかったぽい?」

「もらえなかったというか・・・無理っていうか・・・。」

 

川内、睦月、夕立の質問に吹雪はのどを詰まらせる。

だが少し安定して航行できている。

 

「どうして?」

「だ、だから、私運動が・・・わぁあ!あっあぁ!わぁ!あぁぁぁぁ!!・・・・ぷはっ!」

「はぁー・・・。」

 

吹雪は再び体勢を崩し何度も海上を転げまわる。

またしてもスケート初心者のような行動をとった吹雪を眺めて5人は彼女が出撃させてもらえなかったのを理解したようだ。

確かにこんなによく転ぶ様では戦闘は不可能。さらには艦隊行動にも支障をきたし作戦の遅延や失敗を招く。

そんな艦娘を艦隊に入れるのは危険極まりない。

 

「なんで言わなかったの?」

「その・・・言い出せなくて・・・それに司令官が大丈夫、心配ないって。」

「いい加減ぽーい。」

「それよりも皆さん。そろそろ敵海域に・・・!」

 

川内と夕立が吹雪の話を聞いていると神通が集中するように促す。

しかし水平線の向こうから敵艦隊が現れた。

 

「お仕事の時間みたいだね!」

「わぁ!」

 

颯爽と進む那珂と夕立に続き吹雪も戦闘態勢に入る。

敵は駆逐イ級。

下級だが侮っていてはいけない。

 

「(これが深海棲艦・・・・こんなに大きいんだ!)」

 

吹雪は初めて見る敵に少し恐怖心を抱く。

 

「砲雷撃戦始め!川内姉さん!」

「夜じゃないのに!」

 

その横で経験が多い神通と川内は即座に砲を構えて砲撃を行う。

 

「那珂ちゃんセンター!一番の見せ場!いっけぇ~!」

 

ある意味で意味不明な掛け声を出しながら那珂が雷撃を行う。

酸素魚雷が二酸化炭素を出しながら敵に向かう。

そして命中した敵は盛大に爆発した。

 

「どっかーん!」

 

喜ぶ那珂だが海中から他の駆逐艦が出てきて反撃の砲撃を開始し二発が那珂と川内に命中。

 

「姉さん!那珂ちゃん!」

「顔は止めて―!」

「やったなー!」

 

神通が声を掛ける。

幸い当たり所が良かったらしく那珂は小破、川内は小破寄りの中破となった。

 

「大丈夫ですか?」

「アイドルはへこたれない!」

「夜になったら見てなさいよ!」

 

そういって那珂、川内、神通は戦闘を継続する。

 

「(これが・・・生身での戦い!)」

 

恐らく友成が感じたであろうことを吹雪も感じていた。

彼女自身、前世で戦闘を経験しているがそれは心のない鉄の塊の時。

人間と同じ体を持った今では恐怖心というものが吹雪にはある。

 

「見て!」

 

睦月が声を掛け吹雪が視線を移すとそこには多くの敵艦がいた。

恐らく増援が来たのだろう数は最初の倍はいる。

 

「落ち着いて、もう一度陣形を組み直しましょう。単縦陣に!」

 

全員が単縦陣をとり砲弾の雨の中を進む。

 

「(足手まといにならないようにしなきゃ!)」

 

既に姿勢は安定した吹雪は足手まといにならないように注意して航行する。

 

「撃てぇー!」

 

掛け声の後に一斉射。

その内の吹雪の放った一発が敵に命中する。

 

「やった!」

 

吹雪が喜ぶが黒煙の中から敵が現れ報復砲撃を行う。

そしてその砲弾は吹雪をかすめる。

つまりは初弾で夾差してきたのだ。

これは早急に移動しなければ早々に被弾することを意味する。

 

「ヒッ!」

 

そのことを瞬発的に理解した吹雪の顔は青ざめて恐怖の色に染まる。

そこに川内から注意を受ける。

 

「ビビっている暇はないよ!」

「はぁい!」

 

そう、ここは海上自衛隊や友成のいた平和な海ではなく、いつ沈められるかわからない今日も明日も生きている保証がどこにもない硝煙の臭いが立ち込める戦場の海。

ここでビビっていたらすぐに沈められる。

吹雪は即座に砲を構え直して砲撃を行う。

 

 

 

 

 

 

「第三水雷戦隊及び第二支援艦隊交戦中。主力第一艦隊、あと五分で敵射程に入ります。」

「『みらい』は?」

「『みらい』は現在30ノットで航行中、敵射程まで6分です。」

「頼むぞ・・・。」

 

大淀の報告を聞いた提督は拳を握り締める。

その提督の手の横には吹雪の履歴書が広がっていた。

『演習経験のみあり 優秀』と書かれた履歴書が。

 

 

 

 

 

 

「バーニングラーブ!」

「不死鳥の名は伊達じゃない。」

 

金剛や響が砲撃を行うが相手も砲撃を行う。

すると被弾者も出る。

 

「ちょっと、後ろの主砲が壊れてしまったね・・・。」

 

敵の砲弾が最上に被弾し、中破になった。

 

 

 

一方第三水雷戦隊は何とか敵を殲滅し進んでいた。

 

『まもなく敵駐屯地に到着します。』

 

大淀の通信の後、辺りが薄暗い雲に覆われた不気味な海域に突入する。

 

「あれが・・・敵駐屯地・・・。」

「吹雪ちゃん!」

 

注意力が掛けている吹雪に睦月が声を掛ける。

吹雪が目の前を見ると赤いオーラを帯びた敵駆逐艦がとびかかって来ていた。

 

「きゃああ!わっ!きゃっ!あっ!」

 

何とか躱すも敵駆逐艦が海に飛び込んだ時にできた波で吹雪は弾き飛ばされる。

 

「吹雪ちゃん!」

 

睦月が叫ぶ。

吹雪は起き上がり目を開く、そこにはさっきの敵駆逐艦が砲を向けていた。

あわや撃たれる!そんな時に一発の砲弾が命中し敵駆逐艦は沈んだ。

 

「吹雪ちゃん!撃って!」

 

吹雪を助けた那珂はそう叫ぶ。

吹雪が立ち上がると別の敵駆逐艦が迫ってくる。

 

「お願い!当たって下さぁい!」

 

しかし目をつぶってしっかり測量もしないで撃った砲弾が当たるはずもなくむなしく外れる。

そして敵駆逐艦は砲を吹雪に向けて近づく。

 

「あぁ!!」

「吹雪ちゃぁん!」

 

夕立が叫ぶが敵は近づく一方。

吹雪にはスローモーションに見える。

 

 

 

 

 

 

そして発砲音が鳴り響いた。




出撃シーンと戦闘シーンが難しいYO・・・・。

因みに吹雪の不安定さでの描写でスケート云々を使いましたがあれは実話です。
作者はガチで初めて滑った時に吹雪と同じような感じになりました。(白目)


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第参拾壱戦目「神盾と護衛艦」

アニメ一話分に四話・・・大規模作戦編をアニメ基準でやると後四十四話も書くことになるのか・・・・。(白目)


発砲音の後に黒煙が広がる。

その攻撃を受けたのは敵駆逐艦で吹雪を救ったのは赤城所属であることを示す識別帯を機体に描いている零式艦上戦闘機だ。

零戦は機銃を掃射して攻撃を行った後別の敵を攻撃する。

吹雪が空を見上げるとそこには無数の灰色の機体が飛び交っていた。

 

「第三水雷戦隊、ご苦労様でした!下がってくださいここからは第一機動部隊が参ります!」

「ここは譲れません。」

 

赤城と加賀は言葉の後に矢を放つ。

その矢は輝く九九式艦爆に変化し攻撃を開始する。

十分な数の九九式艦爆が一定の高度から急降下を始める。

目標は敵艦隊、目標をとらえると次々爆弾を投下して当てていく。

 

「凄い・・・。」

 

吹雪、睦月、夕立はその光景を棒立ちで見ていた。

そこに敵艦が忍び寄る。

 

「敵艦接近!回避!」

 

夕立が叫ぶが敵は既に補足している。

よけるのは不可能・・・・だったが。

 

ドガァアン!

 

敵艦がいきなり爆発、轟沈した。

 

「いったい誰が・・・・。」

 

攻撃したのは零戦ではない。

なら誰なのか?

吹雪が周囲を見るとあるものを発見した。

 

「あれは!」

 

それはライトグレーの船体で艦首に「182」と書かれた7700トン級の艦。

海上自衛隊 ゆきなみ型護衛艦3番艦「みらい」だった。

 

 

 

「艦長、主砲命中!敵駆逐艦轟沈!」

「よし、対水上戦闘継続!ハープーン発射用意!」

「ハープーン発射管、一番から三番に諸元入力完了!」

「指示があれば発射!それまでは第一機動部隊、第二支援艦隊、第三水雷戦隊の援護を徹底しろ!」

「了解!」

 

みらいでは着実に準備を進めていた。

今回の敵の親玉は「泊地棲姫」。

「艦これ」でもかなりの強さだがなぜこんな海域にいるのかが不明だ。

それを知っている友成は早めにケリをつける為に補給が確実化していないハープーンの発射を許可した。

本来ならトマホークでの一斉攻撃が確実だがトマホークはこの世界に来た時、長門達を救助する際に2発使用、残りの一発は妖精たちの複製の研究用に置いてきたのだ。

よって残っている対艦兵器はハープーンのみになる。

しかしそのハープーンも一発は研究用に置いていて先程2発使用した為、5発だけとなっている。

無駄撃ちはできないのだ。

 

「(ハープーンをうまく誘導できなければ被害が・・・タイミングが重要だ・・・。)」

 

一方、泊地棲姫に九九艦爆隊が爆撃を仕掛けるが謎のバリアーで保護されていて中々攻撃が通らない。

泊地棲姫は高角砲で九七式艦攻隊に砲撃、いくつかが命中して九七式艦攻が粉々になる。

 

「主砲、斉射!」

「全砲門ファイアァー!」

 

比叡と金剛の砲撃がいくつか命中するが有効打にはならない。

 

「うそっぽい・・・。」

「障壁が・・・はっ!」

 

夕立が驚いている横で神通が異変に気付く。

泊地棲姫のバリアー「障壁」にヒビが入った。

そして艤装と思しきたこ焼きのような何かが縫いつけられた口を開き機銃攻撃を始めた。

それを見た赤城は魚雷を装備した九七式艦攻を発艦。

雷撃を行いいくつかが命中、泊地棲姫の障壁を完全に破壊した。

 

「友成君!攻撃が通ります!」

 

赤城が妖精さん特製「みらい」専用無線で連絡する。

 

「ハープーン攻撃始め!」

「ハープーン発射!」

 

友成が指示を出しみらいが叫ぶとハープーン発射管から噴煙が上がり九九式艦爆から爆弾が投擲される。

 

「・・・。」

 

泊地棲姫が最後に見た光景は自分に降り注ぐ爆弾とハープーンだった。

巨大な爆発が起こり泊地棲姫は消滅。

同時に敵の残存艦は殲滅されて海域には青空が広がった。

 

「艦長、ハープーン全弾命中。泊地棲姫の反応消滅しました。更に残存艦の反応も消滅。」

「対水上戦闘用具収め!第一機動部隊、第二支援艦隊、第三水雷戦隊を収容後、当

海域を離脱し帰還する。」

「了解、収容作業を急ぎます!」

 

 

 

一連の戦闘を見ていた吹雪の目は輝いていた。

 

「(凄い・・・なんて・・・カッコいいんだろう!)」

 

鎮守府にも敵撃破の情報が伝わった。

 

「『みらい』より入電。『敵、『泊地棲姫』は本艦のハープーン対艦ミサイル及び赤城所属の九九式艦爆隊の爆撃により撃破・・・本海域における安全の確保完了。作戦は成功なり。』やりました!」

 

大淀は喜びながら提督に報告する。

 

「ひとまずは安心か・・・。」

「だが提督、この後も・・・。」

「あぁ、奴らは何かしかけてくるだろう・・・。」

 

安堵する提督だが長門は真剣な顔でいた。

 

 

 

作戦海域では全艦娘の収容作業が終わって帰還しているところだった。

 

「凄かったなぁ・・・。」

 

「みらい」のヘリ甲板で吹雪は一人、海を眺めていた。

 

「あら?あなたは・・・。」

「へっ?」

 

声を掛けられて吹雪は振り返る。

そこに立っていたのは艦娘のみらいだった。

 

「初めまして。ゆきなみ型護衛艦3番艦「みらい」よ。」

「は、初めまして!特型駆逐艦「吹雪」です!」

 

吹雪はサッと立ち上がり、みらいに敬礼をする。

みらいも敬礼をした。

 

「よろしくね、吹雪ちゃん。ところでヘリ甲板で何をしていたの?みんなは食堂よ?」

「いえ、少し考え事を・・・。」

「考え事?」

「はい!みらい先輩の戦い方がカッコよくて!」

「フフッありがとう。」

 

吹雪は目を輝かせながらみらいと話した。

 

「あの・・・みらい先輩は戦うことは怖くないんですか?」

「戦うことが怖い・・・か。私は前世である戦艦と米艦隊を相手に戦ったの。三式弾で目を焼かれたり有効打が撃てない状況でも。未来の日本のために戦ったの。」

「戦艦と米艦隊相手に!?」

「えぇ、私の艦長。霧先艦長の前任者と共に戦い、私は200余名の乗員と共に沈んだ。でも怖くても手を下さなければならないの。本当に守りたいものがあるならば・・・例え怖くなろうとも決断しなければならないの。」

「守りたいならば・・・・。」

「えぇ、それが護衛艦というものだと考えているわ。まぁ、実際は慣れなんだけどね。」

 

今の今までいい話をしていたのに最後の最後でぶち壊しである。

おかげで吹雪もずっこける。

 

「ともかく、睦月ちゃんと夕立ちゃんが探していたわよ?早く会いに行くといいわ。」

「えぇ!?あ、ありがとうございます、みらい先輩!失礼します!」

 

走って食堂に向かう吹雪の背中をみらいは見つめていた。

 

「(みらい先輩・・・か。まさか帝国海軍の艦艇だった子に言われるとはね。・・・・・・・ゆきなみ姉さん、あすか姉さん、角松二佐。私はここで精一杯生きていきます。あの日本に帰れなくても・・・私には守るものがある。)」

 

みらいは海を眺めて遠い場所にいる自分の元艦長と姉妹に心の声を言い艦内に戻った。

 

 

 

 

 

 

本土の横須賀鎮守府に戻った後、入渠と報告を行う艦娘達とは別に吹雪は鎮守府内の海が見える崖で夕焼けの海を眺めていた。

 

「(赤城先輩とみらい先輩・・・・私もあんな風に戦えたら・・・・。)」

 

吹雪は赤城とみらいを思い浮かべる。

 

『いつか一緒の艦隊で働きましょう。』

『例え怖くなろうとも決断しなければならないの。』

 

「無理だよね?・・・私なんかじゃ・・・。」

 

弱音を吐く吹雪に一人の人物が言った。

 

「やる前に諦めて・・・投げ出すのかい?」

「えっ?あぁ!工廠長!」

 

そこに立っていたのは友成だった。

 

「吹雪、何事もチャレンジする前に諦めたら損だ。損するならチャレンジしてから損をしろ。その方がいい経験にもなるじゃないか。」

「でも・・・・。」

「良いかい?何もしなければ得るものは無い。だけど何かすれば少なからず何か見つかるはずだ。だから何事にも全力で挑め。僕は応援する。」

 

吹雪は少し考えた後にこういった

 

「はい!工廠長!私、一生懸命頑張って赤城先輩やみらい先輩の護衛艦になります!」

「うん、頑張ってくれ。」

「失礼します!」

 

吹雪は元気よく敬礼をして走り去った。

 

「(磨かぬ石は唯の石ころ、磨いた石は宝玉となる・・・。その通りかもね、父さん。)」

 

今は亡き父の言葉の意味を改めて理解した友成は報告書作成とドック掃除のために崖を去った。

 

 

 

「ますます魅力的になっちゃった~キャハ☆」

「あれ?川内さんは?」

 

那珂の言葉を完全スルーした寝間着姿の睦月はどら焼きを食べながら那珂に聞いた。

 

「まだ入渠してたよ?大破だったからね~。ふぁあ!」

 

那珂が説明していると勢いよく扉が開かれた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・。」

「吹雪ちゃんどうしたの?」

 

肩で息をしながら入ってきた吹雪を心配した睦月は声を掛ける。

 

「事件ぽい?」

 

夕立が聞くと吹雪は言った。

 

「はぁ・・・はぁ・・・私決めた!はぁ・・・。」

「え?決めた?」

 

吹雪の言葉に睦月が聞き返す。

 

「うん!私頑張る!強くなっていつか・・・いつか赤城先輩とみらい先輩の護衛艦になる!一緒に戦う!」

 

吹雪は一世一代の宣言を高らかにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにこのころ入渠ドックでは・・・。

 

「お掃除お掃除~♪」

 

モップとブラシ、使用済みの修復バケツを持った友成は躊躇なく戸を開く。

何故なら札が使用中になっていなかった為誰もいないと思ったからだ。

 

「「えっ?」」

「ファッ!?」

 

しかし予想は大はずれ。

そこには全裸の川内と最上がいたっ!

 

「「出ていけこの変態!」」

「洗面器は危ないってb・・・グボァ!!」

 

二人の投げた洗面器が顔面にヒット!友成は大破した。

因みにこれは流石の先代神通も擁護出来なかったそうだ・・・。

 

「作戦成功ピョン!」

「その作戦、詳しく聞かせてくれるかしら?卯月ちゃん?」

「へっ?」

 

卯月が振り返るとそこには笑顔だが黒いオーラがバリバリ出ている先代神通がいた。

 

「ドーモ、卯月=サン、センダイジンツウです。ハイクを詠め、カイシャクしてやる。」

「アイエエエエ! センダイジンツウ=サン!?センダイジンツウ=サンナンデ!?」

 

その後1時間正座で説教を受けていた卯月が目撃されていたそうだ。




友成にはオチのために犠牲になっておらいました。
蛇足でしたらカットします。

次回「悖らず、恥じず、憾まず!」

皆さんは元ネタ、知っていますよね?


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第参拾弐戦目「悖らず、恥じず、憾まず! 上」

頑張って二分割にしようとしたけど無理でした。\(^o^)/
今回は三分割になります。(予定)
アニメ3話以降基準は二分割にしたい。(願望)


深海棲艦の駐屯地を破壊して数日後。

 

朝早い鎮守府。

現在0530、午前5時半だ。

総員起こしまで30分あるが第三水雷戦隊の吹雪、睦月、夕立の部屋ではすでに一人起床していた。

 

「如月、弥生、望月、長月・・・・・・。」

 

静かに眠る夕立と姉妹の名前を寝言で言う睦月ではなく起床していたのは吹雪だった。

 

「・・・・よし。」

 

吹雪は青い短パンと黄色のパーカーを着ると立ち上がって部屋を静かに出た。

すると丁度一人の艦娘と出会った。

 

「ふぁぁ~・・・。」

「ん?あぁ、川内さん。早起きですねぇ。」

「んえ?まさか、これから寝るところ。何?トレーニング?」

 

どうやらこの夜戦馬鹿今の今まで起きていたようだ。

 

「はい!少しでも早く皆に追いついて迷惑掛けないようにしないと行けませんから。」

 

ほっほっほっ、と呼吸のリズムを一定にしながら吹雪は駆け足で宿舎を出ていった。

 

「元気だねー・・・ふぁぁ・・・。」

 

川内はさっさと部屋に戻っていった。

 

 

吹雪が走り込みをしていると丁度山の方から日が昇った。

 

「わぁあ・・・・。」

 

吹雪は埠頭の端まで来るとそこで足踏みをして意気込んだ。

 

「よーし、頑張るぞぉ!目指せMVP!うわっととととっ!」

 

何もないはずのところで吹雪は躓いて台無しである。

もしかするとそういう特性でも持っているのだろうか・・・。

 

 

 

 

 

 

総員起こしが終わって2時間後の0800、教室に何人かの駆逐艦娘が集まっていた。

 

「電、リボン曲がっているわ。」

「はわわ!ありがとうなのです。」

 

面倒見のいい雷は電のリボンを直す。

丁度その後に吹雪、睦月、夕立の三水戦トリオがやって来た。

 

「わぁあん!吹雪ちゃぁん!見せてっぽいぃ・・・・。」

「また・・・・?」

「ダメだよ!昨日一緒にやろうって言ったのにやらなかったの夕立ちゃんだよ?」

 

どうやら夕立は今日提出予定の宿題をやっていなかったようだ。

自業自得とはいえ学生時代に経験した者なら誰しも夕立の心境が分かると思う。

しかし睦月は吹雪にすがる夕立をピシャリと叱る。

 

「睦月ちゃんケチっぽい!」

 

夕立の自業自得であるというのに反省の色も見せない。

根本的な改善は見込めないだろう。

 

「夕立、また宿題やって来なかったの?」

「うぅ~ぽいぃ~・・・。」

「おはようなのですぅ。」

「おはよう。」

 

涙目な夕立を完全スルーした電と吹雪は挨拶をする。

そこにもう一人艦娘が入ってくる。

 

「おはよう。」

「あぁ、如月ちゃん!」

 

それは睦月型二番艦「如月」だった。

 

「聞いて如月ちゃん。夕立ちゃんまた宿題やって来なかったんだよ?」

「そうなんだぁ・・・。」

 

「睦月ちゃん、如月ちゃんの事好きだよねぇ・・・。」

「姉妹艦だからっぽいしねぇ・・・。」

 

仲良く話す二人を見ている吹雪と夕立。

そこに更に一人教室に入って来た。

 

「おっはよー!」

 

元気よく挨拶をしたのは島風型駆逐艦「島風」この鎮守府で速度なら最速の部類に入る艦娘だ。

足元の連装砲ちゃんと呼ばれる謎の子たちも泣き声を上げながら手をあげる。

 

「んもう!大声出さないで!レディにはレディの振る舞いがあるんだからぁ!」

 

大声を出す島風に怒ったのは特三型駆逐艦「暁」だ。

彼女は一応吹雪の妹にあたる艦娘で、立派なレディにあこがれている。

だがレディでもきちんと挨拶をすべきだ。

アイサツは大事。古事記にもそう書いてある。

 

「あれ?暁ちゃんまた背縮んだ?」

「縮まないわよ!もぉお!!」

「(そりゃ縮むだけの身長が無ければ縮むわけがないさ。)」

 

響が声に出さずに突っ込む。

すぐに怒る様では暁が立派なレディになるのはだいぶ先だろう。

 

 

 

さて、そんなことをしている内に座学が始まった。

今日の講師は妙高型三番艦「足柄」だ。

 

「はぁい、じゃあ昨日やったところから続きをやるわよぉ~・・・夕立!」

「は、はい!」

 

当てられた夕立はさっと返事をして起立する。

 

「問題よ。我が水雷戦隊の主兵装、酸素魚雷の優位性は?出来たら、さっき罰として出した追加の宿題・・・半分にしてあげるわよ?」

 

足柄がいる教卓の横には国語辞典がおおよそ2冊から3冊ほど積みあがったのと同じ位の量の宿題と書かれたファイルが積みあがっていた。

夕立の自業自得なのだが流石に可愛そうに思えてくる。

 

「ほ、本当?えっとぉ・・・えっとぉ・・・。」

「昨日の授業、飢えた狼の様に聞いていれば、ちゃんとできるはずだけどなぁ・・・。」

「そう思うっぽいのですが・・・・ぽいぃ・・・・。」

 

夕立はかなり焦っているのか滝のように汗を流し震えている。

 

「ぽいぽい五月蠅いと・・・20㎝砲でポイしちゃうわよ?」

「ぽいいいいい!」

 

ある意味足柄の本領発揮といったところか黒いオーラを感じた夕立は絶叫する。

その横で睦月と如月がヒソヒソと話し始める。

 

「足柄さん、機嫌悪いねぇ。」

「この前の合コン、また失敗したって、うぅぉあ!」

 

如月に突然飛んできたチョークが見事額に命中し如月が盛大に転ぶ。

かなりの威力だ。

 

「私語は厳禁よ。」

「ぽいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃ!」

 

緊張が吹っ切れて夕立は絶叫する。

その後ろから吹雪が助け舟を出す。

 

「圧倒的長射程・・・・。」

「えぇ?圧倒的・・・長射程。」

「そして雷速・・・・。」

「そして雷速。」

「炸薬量でも優位・・・・。」

「炸薬量でも優位・・・ぽい?」

「ふぅん、正解よ。じゃあ吹雪。」

「あっ、はい!」

 

吹雪の言葉をそのまま繰り返す夕立。

何とか正解して次は吹雪があてられる。

 

「酸素魚雷にはもう一つ大きな優位性があるわね?何かしら?」

「えっと、普通の魚雷と違って、圧縮空気じゃなくて酸素を使っています。なので発射後、排出されるのは二酸化炭素になりますね。これは海水で溶け易いので敵に雷跡が発見されにくい。つまり攻撃の隠密性が高くて・・・。

『『『おぉー!』』』

 

吹雪の完璧な回答に全員が声をあげて拍手をする。

吹雪は照れて顔を赤く染めた。

 

「よく勉強しているわねぇ・・・知識は十分なのにどうして・・・。」

 

 

 

 

 

 

足柄による座学が終わった後、利根と筑摩による演習場での実戦訓練が行われている・・・・が。

 

「うぅわぁぁ!あっっ!わっ!あぁ!うぅぅぅぅあっ!わぁぁぁぁ!」

「どうしてこうなってしまうのじゃぁ・・・・。」

 

実践訓練の講師である利根は頭を押さえる。

無理もない、吹雪は後ろにこけると器用に3回海に叩きつけられながら海面を進み更には転がる。

そして何故か飛び上がり顔面から海面にまた突っ込み数メートルほど進んで動摩擦力によって止まった。

知識だけは人一倍なのにこの様では利根が頭を抱えるのも無理はない。

 

「ぷはっ!はあぁぁぁぁ・・・。」

「重心を落とせと言っておるだろー!」

「姉さん、あの子はトップヘビーなんだから。大目に見てあげないと。」

「それはできませんよ筑摩さん。」

 

ため息をつく吹雪に利根が大声で注意をする。

それを筑摩が咎めるが異論を出すものがいた。

 

「友成!お主何をしに来たのじゃ?」

「いや、整備講習の休憩の散歩がてら吹雪の様子を見に・・・。」

 

異論を言ったのは友成だった。

彼は今、主任妖精と明石、夕張に艤装や兵装の整備、修理方法を学んでいる。

というのも本人が習いたいと言い始めたからなのだが。

そのため友成は今、三等海佐の階級章を付けた海上自衛隊の幹部用作業着に「みらい」の識別帽というスタイルでいる。

 

「筑摩さん、利根さんも分かってはいるはずです。ですが彼女の目標のためにはかなり厳しくないとダメなんです。なんせハードルが高いものですから。」

「友成君・・・。」

「『みらい』艦長としてはっきり言うと今の吹雪ではみらいや赤城さんの護衛艦は到底無理です。最悪衝突事故を起こしかねない。」

「お主も厳しくなるのぉ・・・。」

「これでも一艦の艦長ですし、『みらい』艦長としても彼女の上官としても期待しているので。」

 

友成と利根、筑摩が話していると吹雪が言った。

 

「もう一回!お願いします!」

「おぉう!」

 

陽気な声で筑摩が答えると吹雪は再び海上を滑り始めた。

 

「根性はあるんだがなぁ・・・。」

 

「大丈夫?このままだと吹雪ちゃん、逝っちゃうかも!」

「そうだよねぇ・・・。」

 

如月と睦月がそんなことを話しているとまた大変なことが起こった。

 

「うわぁあ!うわぁ!うわぁぁぁぁあ!」

 

バァアンという音が鳴り全員が目をつぶる。

ゆっくりと目を開けてみるとそこにはまたしても暴走した吹雪がさっきのバァアンといういい音と共に両手足を大の字にした状態で顔面と身体を海に刺さっている丸太に思いっきりぶつけていた。

 

「Oh・・・痛そう・・・。」

 

顔をしかめた友成の言葉の後、吹雪は丸太から剥がれ落ちて海に落下した。

遠くから川内型の3人が吹雪の訓練の様子を見ていた。

 

「あの特型駆逐艦、しばらく三水戦にいるんだよね?」

「提督はそう仰っていましたし、友成君も相当なことがない限りしばらく変更はないと言っていましたけど・・・。」

「アイドルのオーラがないなぁ・・・センターの座は安泰だね!キラリーン☆」

 

場違いな事を言う妹を完全スルーする姉たち。

案外ここの艦娘はスルースキルが高いのかもしれない。

すると川内が隣に誰かいることに気付く。

 

「な、長門さん!」

 

隣にいたのは提督の秘書艦を務める長門だった。

それに気づいた川内と神通は即座に敬礼をする。

 

「那珂ちゃんでぇーす!あいた!」

 

空気を読まない妹に敬礼を崩さず川内がチョップを入れた。

 

「どうだ?」

「大分、苦戦しているようです。」

「そうか。」

 

川内から状況を聞いた長門は訓練風景を見ていた。

その時叫び声が響き渡る。

 

「うぇえ!ふぁあああ!ふぇあぁぁ!わぁわぁぁぁぁぁ!わぁぁぁぁぁぁ!」

「スピードを落とせ!スピードを落とすんd・・・ぶわっぷ!」

 

またしても吹雪が暴走して海面を猛スピードで駆け抜けていた。

しかも足の艤装が先行しているため吹雪は後ろに斜め40度の状態で暴走している。

友成が助言するも吹雪には聞こえておらずさらには友成の顔面に暴走する吹雪から水がぶっかかった。

 

「提督は何をお考えなのでしょう・・・。」

 

神通は提督の考えが読めず困惑していた。

 

「特型駆逐艦はこれからの戦いに必ず必要となる艦隊型駆逐艦。提督が期待されるのもわかる。」

 

吹雪の訓練の様子をみて長門はそうつぶやいた。

 

 

 

「はぁ・・・ダメだぁ・・・。」

「落ち込まないで。」

「そうさ、まだまだこれからだろ?」

「ミカンあげるっぽい。」

「あむっ。」

 

甘味処「間宮」の店内でうなだれる吹雪を励ます睦月と友成。

夕立は自分が食べている特盛あんみつのトッピングのミカンを差し出し吹雪はそれを食べてまたうなだれる。

 

「睦月もね?最初は失敗したり怖かったこともあったんだよ。だから吹雪ちゃんもきっと練習すればうまくなるはずだよ!」

「睦月の言う通りだ。僕だって最初、『みらい』の艦長をしていた時は艦に損傷を出す結果になったこともあったけど何度か艦に乗って指揮をすればそんなこともなくなったし。」

 

睦月と友成が励ますが一行に吹雪は元気にならない。

 

「そうかなぁ・・・でも、こんな艦娘初めてだって噂になってるって・・・。」

「誰がそんなことを・・・。」

「夕立ちゃんがー。」

「何言ってるんだ夕立!」

「夕立ちゃん!」

 

吹雪が夕立を指さすと同時に友成と睦月の突っ込みが入る。

 

「嘘言ってもしかないっぽい~。」

「やっぱり・・・そうなんだね・・・はぁ・・・。」

「よく抜けしゃあしゃあと僕のポケットマネーから出たあんみつを食べながら言いおってからに・・・・。」

「工廠長!キャラキャラ!」

 

友成のキャラが暴走しかけているのを注意する睦月の隣で何事もなかったかのようにあんみつを頬張る夕立。

これはキレても仕方がないっぽい。

 

「くそう!それが上官に対する態度なの?・・・・・仮にも僕、上官だよ?」

 

今度は友成の心が大破してしまった。

 

「利根さんはなんて?」

 

これは手に負えないと思った睦月は会話を続けることにした。

 

「吾輩を筆頭に鎮守府にはいいお手本が沢山いるからそれを見て学べって。」

「まぁ、それが確実だよねぇ・・・。」

「(復活早っ!)」

 

いまだに調子が戻らない吹雪に対して早々に復活した友成に睦月は驚いたが敢えて言わなかった。

 

「お手本かぁ・・・。」

 

誰が一番いいか睦月が考えようとした時に吹雪が起き上がった。

 

「はっ!赤城先輩かみらい先輩は!?」

「ふえ?」

「(早っ!)」

 

吹雪の提案がすぐに出たことに睦月は頭の上に「?」を浮かべて、友成は驚いた。

 

「お手本の為に、赤城先輩とみらい先輩を見に行くというのはどうだろうか!」

「「吹雪(ちゃん)、口調変わってる(ぽい)。」」

 

夕立と友成が口を合わせて指摘するが吹雪は気にしていないようだった。

 

「でも赤城先輩は空母だし・・・。」

「みらいはこの時代の艦じゃないし・・・・・。」

「でも、カッコいいよ!!」

「「(学習<カッコよさ って・・・。)」」

 

吹雪の暴論に友成と睦月が少しあきれながら同じことを考えた。

 

「とりあえず、赤城さんなら入渠ドックにいるはずだよ。一応加賀さんに聞いてみるといい。」

 

友成はそう言って席を立った。

 

「工廠長はこれからどちらへ?」

「主任妖精さんと明石さん、夕張さんの整備講習を受けてくるんだ。間宮さん、勘定お願いします!」

「ごちそうさまっぽい。」

 

友成はポケットから財布を取り出して勘定をしにレジに行った。

 

「じゃあ、これを食べ終わったら赤城さんに会いに行こう?」

「うん!」

 

睦月の提案に吹雪は快く答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・今度の給料日は再来週かぁ・・・。」

「別にツケでもいいのよ?友成君。」

「いえ、大丈夫です。それは本当にお金のない時にします・・・・。」

 

心配そうに言う間宮に友成は大丈夫と言って薄くなった彼の財布から少ない現金を悲しそうに取り出した。




どんどん友成の財布が薄くなるwwww
さて、この小説ではいまだ2014年夏イベント前ですが、皆さんは2015年秋イベントを楽しんでください。


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第参拾参戦目「悖らず、恥じず、憾まず! 下」

前回三分割にすると言ったな・・・・アレは嘘だ。
今回非常に長いので注意!


友成にゴチになった吹雪たち三水戦トリオは友成の助言通り加賀に赤城の居場所を聞いて入渠ドックにやって来た。

 

「ここ?」

 

吹雪は暖簾に顔を突っ込み中を覗く。

睦月と夕立も手で暖簾を押しのけて中を見る。

 

「いない・・・・。」

 

吹雪がそういって中の更衣室を見回した。

更衣室はかなり良い和風な内装となっており温泉施設といっても良い出来だった。

 

「加賀さんと工廠長がここだって言ってたけど・・・。」

 

情報通り来たものの赤城を発見できない三人はとりあえず更衣室に入った。

 

「吹雪ちゃんは、本当に赤城先輩が好きなんだね。」

「好きって言うか・・・憧れ?」

「憧れ?」

 

睦月の問いに吹雪が答えて夕立が聞き返した。

 

「うん!私もあんな風に・・・みらい先輩や赤城先輩みたいに皆を守れたら、素敵なのにな~って。」

「駆逐艦には無理っぱい~。」

「それは・・・分かっているけど・・・・。」

 

吹雪がそこまで言うと奥の浴場から水の音が聞こえた。

誰かが湯船から上がってくるようだ。

 

「赤城先輩かなぁ?」

 

吹雪は目を輝かせながら浴場と更衣室を隔てる引き戸を開けた。

 

「ふぇむっ!!」

「あらぁ!」

 

すると吹雪の顔は突然二つの大きな柔らかいものに挟み込まれた。

 

「ぷはっ!」

 

吹雪が挟まれていたのは高雄型重巡洋艦二番艦「愛宕」の胸だった。

 

「あ、あなたは・・・・。」

「こんにちは~。えっと確か~新しく入った駆逐艦の・・・・。」

「吹雪です・・・。」

「そうそう!吹雪ちゃん!どうしたの?ドックに来るなんて、もしかして被弾した?鼻のとこちょっと赤くなってる~。」

「うぇ、いや、これは・・・・。」

「早く入った方がいいわよ?今空いているから~。」

「うぇ?あ、いや・・・でも・・・・。」

 

愛宕のマシンガントークについていけない吹雪は困惑する。

その様子をサッサと逃げた睦月と夕立が暖簾の陰から眺めていた。

 

「は~い、バンザイして~?」

「バ、バンザイ?」

「バンザ~イ!」

「バンザーイ?」

 

揺れる愛宕と揺れない吹雪。

両者の差は明らかだがひとまず置いておこう。

吹雪をバンザイさせることに成功した愛宕は躊躇なく吹雪の服を掴み・・・。

 

「ふぇ?」

「吹雪、抜錨しま~す!」

「ふぁぁぁあああ!?」

 

脱がした。

意外にも吹雪は少しビキニに近い下着を着用している。

吹雪好きな提督がいたならば感謝感激雨あられな場面だろう。

 

「ちょ、ちょっと~!」

「さぁ脱いで脱いで!下もバンザ~イ!」

「バ、バンザーイ!」

 

「どうしよう・・・?」

「戻ってるしかないっぽい~・・・。」

 

睦月と夕立は協議の結果「触らぬ神に祟りなし」ということでサッサと撤収することにした。

そして睦月と夕立に置いてけぼりにされた吹雪は愛宕に身ぐるみを剥がされ浴場にタオルを身体に巻いて入った。

浴場もこれまた立派な作りで温泉施設のようだった。

 

「どうしよう・・・。」

 

吹雪は見回しながら浴場を進む。

そして大きな共同風呂を見つけた。

 

「ここに入れってことかな?」

 

吹雪はゆっくりと爪先を湯につける。

 

「はぁあ・・・あったかぁ~い。」

 

かなりいい温度なのか吹雪の顔は緩んだ。

そしてタオルを脱いでゆっくりと風呂に入り肩までつかる。

 

「(何か不思議な感じ・・・身体が包まれるっていうか・・・身体が軽くなるっていうか・・・何か気持ち良すぎて・・・・。)はぁぁぁ~~。」

 

心地よい温度が吹雪の全身を包み込み、安楽をもたらす。

艦艇時代では味わえなかった至高の安楽が。

「風呂は心の洗濯」と言われるがその通りだろう。

おかげで吹雪は緩み切った顔で輝いていた。

 

「気持ちよさそうですね。」

 

そんな吹雪に声を掛けたのは彼女が探していた本人、赤城だった。

何故か一人風呂でプチプチで遊んでいた。

吹雪はサッと振り返る。

 

「あ、あ、赤城先輩!ふぁぁ・・・。」

 

恥ずかしい場面を見られた吹雪は少し困惑した。

そこに赤城がプチプチをしながら尋ねてきた。

 

「ダメージを受けたのですか?」

「あ、いえ!実は全然入渠の予定なんかなくて・・・赤城先輩は?」

「昨日の戦いで敵の魚雷を受けてしまって・・・迂闊でした。」

「昨日・・・えぇ!?」

 

プチプチをしながらことの顛末を離す赤城が「昨日」と言って吹雪は赤城の後ろの反転フラップ式案内表示器方式の修復時間を見て驚く。

何とそこには15:30:15・・・つまり修復に15時間半もかかると表示されていた。

 

「こ、こんなに掛かるんですか!?」

 

吹雪が驚いているとブザー音が鳴り天井のレールから「修復」と書かれたバケツが搬入されてきた。

 

「何ですか?」

「高速修復材よ!友成君が許可してくれたのね。」

 

この鎮守府では高速修復材は原則提督の許可がないと使用は控えられていたが、工廠長という役職が出来上がった現在は工廠長である友成の許可があれば使用される。

但し入渠時間が5時間以上か後続が詰まっているなどという場合のみで使用数も限られている。

高速修復材は赤城の上に来ると止まり湯船に中身を投下した。

 

「わぁ!」

 

吹雪が驚くのも無理はない。

高速修復材が全部入ると少し淡い緑色に湯船が光り修復時間が一気に0になったのだ。

 

「ふぅ~~~・・・!ふぅ、上々ね。」

「はぁ・・・。」

 

吹雪はただ驚いていた。

 

 

 

そして赤城の入渠が完了したが昼時だったので吹雪と赤城は食堂に向かった。

で、机の上に載っているのは吹雪のカレー大と赤城の山もりカツカレーだ。

 

「それ・・・食べるんですか?」

「頂きます♪はむっ。ん~~♪」

 

山もりカレーを口に含み幸せそうな顔をする赤城。

吹雪もさっそくカレーを食べてみようとする。

すると満面の笑みでカレーを頬張る赤城が目に入る。

 

 

「ふ、ふふ。」

「ん?どうかしましたか?」

 

 

赤城は吹雪が何故笑っているのかを聞いた

 

「いえ、赤城先輩ってやっぱり素敵だなぁって思って。」

「え?どうしてです?」

「どうしてもです!頂きます!」

 

赤城はイマイチ吹雪の言うことが理解できず頭に「?」を浮かべ吹雪はカレーを食べ始める。

 

「赤城さん、よくそれだけ食べますよね・・・。」

 

ふいに一人、赤城に声を掛けてきた。

 

「あら、友成君・・・ってその恰好はどうしたんですか!?」

「へっ?工廠長?って!どうしたんですか!?」

 

声を掛けたのは友成・・・・なのだが彼は非常に汚れていた。

 

「いやぁ・・・実は・・・・。」

 

 

 

 

 

 

遡る事数十分前。

吹雪たちと別れた友成は工廠で講習を受けていた。

 

「ここがこういう構造でここがこうなっているの。」

「じゃあ明石さん、こうしたらいいんですか?」

「そうそう!理解が早いわねぇ~。」

 

友成は明石指導の元、艤装の修理を練習していた。

その横で夕張と主任妖精は複数の工廠妖精と何かを作っている。

 

「じゃあ次は飛行甲板の・・・。」

 

明石が次のステップに入ろうとした時、事件は起こった。

 

「うわあぁぁ!暴走したぁぁ!!」

「何事ですか夕張さん!」

 

突然の夕張の声に友成が振り向くと何かが空中を飛んでいた。

 

「あれは!ハープーン!?」

「あっ!壁にぶつかる!」

「総員退避!衝撃に備え!」

 

明石が壁にぶつかるというと同時に友成が退避指示を出す。

そしてハープーンは壁に大穴を開けた。

 

 

 

 

 

 

「・・・・というわけでして・・・。」

「あら?なら何故爆発音が聞こえなかったのかしら?」

「恐らく演習艦隊が砲撃訓練をしていたので・・・その砲撃音でかき消されたのでしょう。」

 

そういう友成は頭を掻きながら言った。

 

「まぁ、備品や装備には損害もないですし壁の修復もすぐに完了します。それに暴走したのは複製品のハープーンで研究用も現存しているので被害や損害はあまりないですよ。」

「そうですか・・・くれぐれも気を付けてくださいね?」

「分かってます、赤城さん。それと吹雪。」

 

赤城と話し終わった友成は吹雪に話しかける。

 

「な、何でしょうか工廠長?」

「いや、椅子から立たなくてもいいよ・・・みらいを探していたようだから一応場所を教えておこうと思ってね。彼女なら訓練場に後2時間はいるそうだから。」

「あ、ありがとうございます!」

「いや、いいよ。じゃあ、僕はさっさと身体を綺麗にしてくるよ。こんな体で食堂にいるとまずいから・・・。」

 

吹雪と話し終えた友成は二人に一言いって食堂を出ていった。

 

「・・・・・友成君も『此方側』になってきましたね。」

「『此方側』?」

 

赤城の言葉を吹雪は疑問に思い、聞く。

 

「いえ、何でもありません、冷めないうちに食べましょう?」

 

赤城はそう言った後、カレーを再び食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

「ここにみらい先輩が・・・。」

 

吹雪は食事を終えた後、赤城と別れてみらいに会うために訓練場に来ていた。

 

「あっ!みらい先輩・・・・。」

 

吹雪が訓練場を見るとみらいが目を閉じて海面に艤装を付けた状態でいた。

吹雪は少し様子を見ることにして離れたところから見る。

そしてみらいは深呼吸をして目を開けた。

 

「教練対空、対水上戦闘用意!元機起動異常無し!SPYレーダー及び対水上レーダー、所属不明艦載機15機と艦影4隻補足!方位本艦右舷120度、距離30000、所属不明航空機、急速接近!最大戦速、面舵一杯、急速回頭!」

 

みらいは訓練を開始してからほんの30秒で機関を作動させ最大まで加速し対空戦闘の体勢をとる。

その様子の吹雪は驚愕していた。

 

「(す、凄い!たった30秒でもうあんなに加速して対空戦闘を・・・。)」

 

それだけでは終わらずみらいは訓練を続行した。

 

「スキャン結果、深海棲艦の艦載機と判明!対空戦闘用意!敵艦載機15機、127㎜主砲への諸元入力完了!敵艦載機主砲射程内!右対空戦闘、CIC指示の目標!127㎜主砲、撃ちぃ方ぁ始めぇ!」

 

みらいは言葉通り艤装の主砲を回転させる。

そして空砲が127㎜単装速射砲から放たれる。

 

ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン

 

「敵艦載機10機撃墜!残り5機進路変わらず本艦に接近!距離20000!前甲板VLS一番から五番、スタンダード対空ミサイルへの諸元入力完了!スタンダード発射!Salvo!」

 

みらいの言葉と同時に艤装のMk41VLS 5基が勢いよく開く。

しかし中にスタンダードは搭載されておらず空洞となっている。

これは訓練中に誤射をすることが無いようにみらい自身が抜いたのだ。

 

「スタンダード目標に向け飛翔中!目標到達まで約5秒!4、3、2、1、命中!探知圏内の敵航空機無し!深海棲艦隊に対し対水上戦闘用意!ハープーン発射管、一番から四番への諸元入力完了!ハープーン対艦ミサイル発射準備完了!右対水上戦闘、ハープーン発射!」

 

これも事前にパープーンに諸元を入力しないようにしているので発射はされない。

ミサイルの補給が確立されていない今では訓練で撃てるのは主砲だけなのだ。

 

「ハープーン着弾まで10秒・・・・・・5秒4、3、2、1、命中!敵艦の反応消失!探知圏内の対空、対水上目標無し。対空、対水上戦闘用具収め!」

 

あっという間にみらいの訓練は終了した。

吹雪はあっけにとられていた。

 

「(えぇ!?あれだけで終わり?!す、凄い!)」

「!?誰かいるのですか!」

「わぁあ!」

 

吹雪に気付いたみらいが怒鳴ると吹雪が物陰からこけて出てきた。

 

「吹雪ちゃん?どうしたのこんなところで?」

「み、みらい先輩・・・・すみませんでした!コッソリ覗いて!」

 

頭を下げる吹雪にみらいは少々テンパって対応した。

 

「べ、別に起こっているわけじゃないのよ?ただどうして隠れるように見ていたのかなぁ~って思って・・・。」

「それは・・・実はみらい先輩をお手本に訓練をしようとして声を掛けようと思ったら訓練中で・・・。」

 

みらいは吹雪から事情を聴いて手を顎に当てて少し考えた。

 

「う~ん・・・そうだったの・・・でも私は平成12年・・・・2000年生まれだから1940年代の艦艇だった吹雪ちゃんとは使用目的や目標が違うし、構造や技術も60年の差があるわ。だから本当に申し訳ないと思うけど私じゃ、お手本になれないわ・・・。」

「そ、そうですか・・・・済みませんでした。」

 

そういって再び頭を下げる吹雪にみらいは一言言った。

 

「でも立派な艦になるには経験値は相当いるはず。私が持っている知識が役に立つかもしれないからあなたの訓練を見てあげましょうか?」

「えっ?良いんですか!?」

「これでも『太平洋戦争の生き字引』と呼ばれた船員が乗艦していたし、私の艤装のデータにはびっしり戦時の記録があるから大丈夫!」

「あ、ありがとうございます!」

 

自信満々の顔でサムズアップをするみらいに吹雪は心底感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、寮に戻った吹雪は寝間着姿で同じ寝間着姿の夕立と睦月に今日の出来事を話した。

 

「えぇ!?じゃあ赤城さんとご飯食べてきた上にみらいさん直々に訓練を見てもらったぽい?」

「うん!」

「噂だけど、みらいさんの訓練ってとても厳しいらしいとか。」

「あっ!私も聞いたことあるっぽい!どうなの?」

 

二人は噂の真偽を確かめるべく吹雪に聞いた。

しかし吹雪は。

 

「ふふっ、それは、秘密。」

「えぇ~・・・。」

 

秘密といって教えなかった。

夕立は少し残念そうにする。

 

「明日から頑張ろうっと。赤城先輩もみらい先輩も同じ艦娘なんだもん。私にもきっと出来ることがあるよ!じゃあおやすみ~。」

 

背伸びをしながら吹雪は立ち上がってベットに向かった。

 

「どういうこと?」

「さぁ・・・?」

 

夕立と睦月が首を傾げていると突然部屋の扉が勢いよく開け放たれた。

 

「「わぁ!」」

「特型駆逐艦!」

 

扉を乱暴に開けたのはオレンジ色の服に身を包んだ夜戦馬鹿こと川内だった。

川内は寝ようとしていた吹雪のところに近づく。

 

「ふぇ?」

「特訓だよ!ニヒッ!」

 

 

 

消灯時間前に吹雪は川内によって外へ連れ出された。

 

「特型駆逐艦は重装備だから・・・お世辞にもバランスがいいとは言えない。普通の艦娘より優れたバランス感覚と足腰が無いとダメなんだ。やってみて?」

 

吹雪の眼の前には野球ボールが2つ置かれていた。

恐らく「これに乗って足腰とバランス感覚を鍛えろ」ということなのだろう。

 

「え?でも・・・今夜中ですけど・・・。」

 

吹雪の言う通り現在は2215、午後10時15分だ。

消灯の指示があったばかりで少しはついているが、寮の電気も殆ど消えているし、

月が夜の一帯を照らしているという状況だ。

普通は寝るはずの時間帯・・・だが相手が悪かった。

 

「それが?」

「はぁ・・・。」

 

どうやらこの夜戦馬鹿は常識の「いま」が「何をする時間か」を理解できないようだ。

こういうタイプは言っても無駄だと悟った吹雪はボールに乗る。

 

「よっと・・・。」

「おぉ!いい感じ。バランスは足と腰で取るようにして。」

「は、はい!」

 

中々いい感じに取れていた吹雪だがちょっと重心がずれると・・・。

 

「うわあぁぁ!!」

 

思いっきり後ろにこける。

柔道の受け身を心得ていない者はかなり痛い目にあうだろう。

 

「いったぁ~・・・うぅ~・・・。」

 

そんな様子を睦月と夕立は寮の部屋から見ていた。

 

「まだ・・・掛かりそうだね。先、寝てよっか?」

「ぽい。」

 

二人は先に寝ることにしたようでベットに入る。

で、吹雪はというと。

 

「うわぁ゛ぁ゛!ったた・・・・・ぁぁ・・・・はぁ。」

 

結局お日様が「気合い!入れて!こんにちはー!!」するまで特訓をしていた。

 

「しっかし、うまくならないねぇ・・・。こんなに練習しているのに・・・。」

「すみません・・・。」

「でも、感心したよ。見事な水雷魂だ!」

「水雷魂?」

 

聞きなれない単語を耳にした吹雪は聞き返した。

川内は説明を始める。

 

「水雷戦隊に必要な心意気みたいなもんだよ。悖らず、恥じず、憾まず!ひひっ。」

「悖らず・・・恥じず・・・憾まず・・・・。」

「水雷魂を忘れず、明日からも頑張ろう!」

「は、はい!」

 

こうして吹雪の特訓は終わった。

吹雪は寮の部屋に戻り、少し寝ることにした。

 

「ふぁぁ・・・疲れたぁ・・・早く寝なきゃ。」

 

そういってベッドに入ろうとした時、部屋の扉が開かれる。

 

「あの・・・。」

「あっ、神通さん。おはようございます。」

 

開けたのは神通だった。

 

「丁度良かった。今起きたところね?」

「え?い、いえ・・・。」

「少し・・・練習してみない?」

 

哀れ、吹雪は休息をとることはできなくなった。

そして神通に連れ出されたのは訓練場。

海面に水上標的の的が浮かんでいる。

そこに吹雪は艤装を付けて立っていた。

神通は浮桟橋で見ている。

 

「特型駆逐艦は重装備だから砲撃もほかの艦娘よりバランス良く行わないといけないの。やってみて?」

「はぁ・・・。」

 

吹雪は言われた通り砲を構えて撃つ。

 

ドォオオン

 

砲弾は真っすぐ飛ぶかと思われたが的とは逆の方向に着弾した。

 

「基本は夾差よ。それが出来れば必ず当たる。」

「はい・・・。」

「とりあえず、今日は一度当たるまで頑張ってみましょうか。」

「えぇ!?」

 

笑顔でアドバイスする神通だったがかなりハードな内容を突き付けた。

例えるなら、野球部に入って来たばかりの新部員に「野球部のエースピッチャーの剛速球に当たるまでバットを振れ」と言っているようなものだ。

だが吹雪の目標を考えると仕方ないのかもしれない。

 

 

 

鐘の音がチーンと3回鳴る。

そんな中吹雪は教室で居眠りをしていた。

 

「それでこうなっちゃった訳ねぇ~・・・。」

 

睦月と夕立が事情を説明して第六駆逐隊と共に吹雪を取り囲んでいる。

雷は理由を聞いて納得したようだ。

 

「無理ないよ。昨日から一睡もしていないんだもん。」

「レディのする顔じゃないわね。」

「可愛そうなのですぅ。」

 

思い思いの事をそれぞれが言っていると声が響いてきた。

 

「吹雪ちゃぁ~ん?」

 

教室に入ってきたのは那珂だった。

ここまで来ればもうお約束。

 

「あっ!居たぁ!」

 

那珂は寝ている吹雪に駆け寄る。

 

「吹雪ちゃん、起きてぇ~起きてよぉ~!」

「ふぇ?」

 

那珂に連れ出された場所は鎮守府の運動場だ。

そこの朝礼台に吹雪は欠伸をしつつ立たされていた。

 

「みんな~!艦隊のアイドル、那珂ちゃんで~す!今日は新しい子が入ったから紹介するねえ~!特型駆逐艦の吹雪ちゃんで~す!」

 

そういうと那珂は吹雪の口元にマイクを近づける。

 

「え?あっ、吹雪です・・・。」

「そんなんじゃダメだよ~!アイドルはスマイル!ニコッ!」

「ニコッ?」

「アイドルはパワー!アイドルはキュート!」

「吹雪、です!」

 

またしても吹雪好きな提督諸君が喜びそうな場面である。

可愛いポーズを取って自己紹介とはどういう気分なのだろう。

 

「そう!できるじゃ~ん!」

「でも恥ずかしいです!」

「え?なんで?」

「というか!これがどうして特訓になるんですかぁ!!」

 

恐らく那珂を除く全員が思っているであろうことを吹雪は言い放つ。

こんな羞恥プレイがどう戦闘の特訓に役立つと言うのか・・・。

 

「だって、艦娘にとって一番大切なのは、いかにアイドルになれるのかだよ?並みいる無数の艦娘の中でいかに目立つ!いかに羽ばたく!いかにセンターを奪うか!

それが旗艦の、そして秘書艦になるために一番必要なことなんだよ?」

「そうなんですか・・・・?」

 

違う・・・違ぁぁぁぁう!と叫びたくなるような知識を語る那珂に吹雪は疑わしげだ。

 

「そうなんだよ!だから、吹雪ちゃんも頑張って歌って!」

「歌・・・?」

「そう!皆~聞いてねぇ~!初恋水雷戦隊!」

「えっ?えぇ!?」

 

突然、歌を歌う事になった吹雪はテンパる。

しかし那珂がポーズを取ったので吹雪もポーズを取る。

そして歌い始めようとした時・・・・。

 

「おっ!北上さ~ん!」

「うぇえ?えぇ!?」

 

那珂はマイクをほっぽり投げてそれを吹雪がキャッチする。

那珂は球磨型重雷装巡洋艦三番艦「北上」に駆け寄った。

近くには不機嫌そうな球磨型重雷装巡洋艦四番艦「大井」もいた。

 

「探してたんだ~ねぇねぇ!吹雪ちゃんに魚雷の撃ち方を教えて?」

「魚雷?」

「見ればわかるでしょ?今、忙しいのよ!あっち行きなさい、しっしっ。」

 

大井は不機嫌そうに言った。

 

「えぇ?いいでしょ?ちょっとだけ。」

「なっ!あなた!何してけつかる!んです!」

 

北上の手を握った那珂に対して大井は怒鳴る。

因みに~してけつかるとは近畿圏の方言で「~してやがる」と言う意味だ。

恐らく神戸生まれだから地の方言が出たのだろう。

 

「けつ・・・かる?」

 

決して尻を狩る訳ではない。

 

「何でもないです・・・。い、行きましょう北上さん。」

「あぁー痛いよ大井っちー。」

 

大井は北上を引き連れてその場を去った。

 

「もう!訳わかんない!」

「それは・・・・私のセリフです。」

 

誰もが吹雪と同じ事を思うだろう。

 

 

 

吹雪は夜、寮の部屋でちゃぶ台にうなだれていた。

 

「お疲れさま。」

 

睦月が吹雪にお茶を出す。

 

「三人で寄って集って特訓なんて、いじめっぽ~い。」

「そんなことないよ・・・みんな私のためなんだし・・・。」

 

そんなことを話していると部屋の扉が強く開かれた。

 

「特型駆逐艦!いる!?」

「川内さん・・・・?」

 

またしても川内だ。

やめて!吹雪のライフはもうゼロなんだ!

 

「さぁ!今日も特訓だよ!ん?」

 

川内の眼の前には睦月が立っていた。

顔は完全に怒っている。

 

「お話があります!」

 

 

 

川内達の部屋に川内、神通、那珂、睦月そして友成がいた。

 

「えぇ?じゃあ姉さんと那珂ちゃんも、吹雪ちゃんに特訓を?」

「だって神通が心配そうにしていたからさ・・・。」

「姉さんでしょ?心配していたのは・・・。」

「那珂ちゃんは心配してないよー?」

「那珂ちゃん(姉さん)には聞いていません(ないよ)。」

 

神通と友成のツッコミが決まった。

続けて友成は言葉を発した。

 

「睦月が巡回中に声を掛けてきたから何事かと思ったけどまさか不眠不休で特訓とは・・・。」

 

友成は頭を押さえて言った。

彼は「みらい」識別帽に藍色のTシャツに薄手の濃緑ジャージで腰のベルトに9㎜拳銃とライト、手錠が装備されている。

なぜ彼が巡回中なのかというと業務が増えたのだ。

今までの仕事に加えて鎮守府内の巡回と艦隊内の揉め事の仲介も増えた。

後にそれに特化した海自で言う「陸警隊」や「警務隊」に近い部隊を編成するまでの間とはいえ初の仕事がこの様では友成も幸先が悪い。

 

「軽巡の先輩方なので黙っていましたが、もう我慢できません!このままじゃ吹雪ちゃんが轟沈しちゃいます!」

「姉さん達。確かに赤城さんやみらいの護衛艦になるには並みの訓練では物足りない。だからと言っていきなり10をやれというと吹雪の身体が持たないよ。」

「でも・・・。」

「でももヘチマもない(です)!」

 

睦月と友成の怒鳴り声に川内はたじろぐ。

 

「ですが・・・。」

 

神通は友成と睦月に訳を説明した。

 

「長門さんがそんなことを?」

「それじゃあ結果的にあぁなるのも・・・。」

 

友成は納得したように言った。

 

「うん、近々出撃があるから、それまでに出撃可能か見極めたいと・・・。」

「もし無理そうだったら吹雪ちゃんを艦隊から外すように提督に進言すると・・・。」

「同じ艦隊に入ったんだから、メンバーは欠けることなく最後まで一緒にいたいもん!」

「でも・・・姉妹でちゃんと話し合ってからにすべきでした。いくら吹雪ちゃんを思ってのこととはいえ・・・。」

 

神通は深く反省したように言った。

吹雪のためにとやったことが裏目に出たのだから仕方ない。

丁度その時、扉がノックされた。

 

「夕立ちゃん?どうしたの?」

 

入ってきたのは夕立だ。

何か言いに来たのだろう。

 

「吹雪ちゃんが・・・。」

「夕立、吹雪がどうしたって?」

 

友成が聞くと夕立は話し出した。

 

 

 

「よっはっ・・・よっはっ・・・よっはっ・・・・。」

 

体操着姿の吹雪は外でスクワットをしていた。

全員は寮の入口でその様子を見ていた。

 

「吹雪ちゃん・・・。」

「本当に、根性だけはあるんだよなぁ・・・・。」

 

睦月は心配し、川内は吹雪の根性に感心していた。

 

「どうするっぽい?」

「吹雪のやっていることだ。なら僕たちにできるのは一つだ。」

「第三水雷戦隊の旗艦として艦隊にいてほしいです。あのような心がきちんとしている子には。」

「那珂ちゃんも賛成。」

「睦月ちゃんは?」

「そんなの決まってるでしょ?」

 

全員が吹雪に近寄った。

 

「みんな・・・・。」

「吹雪ちゃん、皆で協力します。頑張りましょう!」

「絶対できるようになるって!」

「アイドルに一番大切なのは、根性だよ!」

「夕立も手伝うっぽい!」

「次の戦いも、この6隻で出撃しよ!」

「上官としても個人としても手伝う。君が頑張れる環境を出来るだけ作ろう。」

 

神通、川内、那珂、夕立、睦月、友成は順に言った。

 

「皆ぁ・・・うん。」

 

全員が手を重ねた。

 

「睦月ちゃん。」

「はい。えっと、じゃあ皆!頑張っていきましょー!」

『『おー!』』

 

そしてその日から第三水雷戦隊全員と友成による特訓が始まった。

早朝からは川内による基礎体力作り。

神通とは砲撃訓練。

吹雪自身も早朝ランニングやバランス維持訓練を自主的に行った。

北上もそんな吹雪の様子を眺めていた。

そして那珂が更に頼み込んで何とか北上による酸素魚雷講座が吹雪のために行われた。

一緒にいた大井は終始不機嫌そうだったが。

吹雪自身もキラキラしながら講義を聞いていた。

一方友成も仕事や講義の合間に吹雪の艤装が滑らかに作動するように艤装を丹念に調整していた。

 

その甲斐があってか1週間後にはかなり上達していた。

ただ気を抜くとすぐにこけるのは変わらないが。

 

 

 

 

 

 

その頃、執務室では提督と秘書艦の長門が話していた。

 

「確か今日も吹雪は訓練か。」

「はい、確か本日演習が行われているはずです。」

「そろそろ決め時だな。頼むぞ長門。」

「分かりました、その場で最終判断をし、彼女たちに伝えます。」

 

そして長門は訓練場を尋ねた。

そこには川内型三姉妹と講習の合間に来た友成がいた

 

「どうだ?」

「長門さん!」

 

神通が長門の名を言った後に利根の声が響いた。

 

「では次!吹雪!」

「はい!」

 

返事をした吹雪は所々怪我をした後があった。

筑摩が心配そうに見ているが、それを見た利根は察したようだ。

 

「その傷・・・。」

「随分特訓してきた様じゃの!期待しておるぞ!」

「はい!お願いします!」

 

そういって構える吹雪は初日とは全く違っていた。

 

「吹雪、行きます!」

 

水上の的が全部起き上がると同時に吹雪は動き出した。

海上に出ている棒を次々躱している吹雪は立派に見えた。

 

「(出来る!信じなきゃ!)」

 

そう思って進んでいる吹雪だが。

 

「わぁ!きゃっ!」

 

体勢を崩して倒れた。

 

「身のこなしも砲撃も、まだまだ実践レベルとは言えません。」

「ふむ。」

「ですが・・・。」

「ん?」

 

川内が言い換えようとすると長門は耳を傾けた。

 

「ですが彼女には、それを補った水雷魂があります。直すべき所を教え、進むべき道を示し、経験を重ねていけば、彼女は飛躍的に成長するでしょう。」

「上官や先輩ならば、その道と教えるところを指摘して行くべきです。」

 

神通と友成は自分の見解を長門に言った。

吹雪は砲を構えて狙いをつけて砲撃。

初弾は夾差だった。

そして吹雪は砲を構え直して撃つ。

すると次は一発が命中した。

 

「悖らず。」

「恥じず!」

「憾まず。その心がある限り。」

「ふっ、水雷魂か。」

 

吹雪の訓練は無事終了した。

当の本人は肩で息をしていた。

 

「はぁ・・はぁ・・・・はぁ・・・。」

「吹雪ちゃん!」

「良し!良く立て直した!そこは認めてやろう!もう一度じゃ!」

「はい!」

 

利根に激励された吹雪は元気な声で返事をした。

 

「良いだろう。第三水雷戦隊、旗艦神通。」

「はい。」

「6杯の編成で、このまま出撃準備に入れ!今度の作戦は・・・・・お前達に掛かっている!」

 

長門の判断は「吹雪は出撃可能」だったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、執務室では提督が電話をしていた。

 

「大佐、これはどういうことだ?」

『閣下、申し訳ございません。こちらの手違いだったようで・・・。』

 

話し相手は吹雪の元指揮官の提督のようだ。

 

「何が手違いだ!此方にも不備はあったが危うく沈めるところだった!霧先少佐が駆け付けたからいいものを!」

『このところ書類作業が多いものでして・・・間違えて演習経験ありと記載してしまったのです・・・・・彼には礼を言っておきたいのですが・・・・。』

「・・・・・私から言っておく・・・・次何かあったらただじゃ済まさないからな?」

『心得ました。それでは失礼いたします。』

 

そして電話は切られて提督は受話器を置いた。

 

「・・・・・すまん霧先、吹雪。俺の失態でお前たちに苦労を掛ける・・・・。」

 

そういって提督が目をやったのは机の上に置かれた紐で括られファイリングされてた書類の束だった。

その表紙には「AL作戦/MI作戦」と書かれていて「最重要」の印が押されていた。




11377文字まで書いちまったぜ・・・・(灰化)

次回「W島攻略作戦!」

運命は変える意思があるものが変えていく。


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第参拾肆戦目「W島攻略作戦! 上」

また二分割の予定です。
何だか尾栗三佐がジパング勢で一番多く出てるような気がする・・・。


数日前の執務室で長門は提督から受け取った書類を眺めていた。

 

「いよいよ、始まるのですね。」

「あぁ、今回は霧先少佐と梅津大・・・一佐からの了解を得た。」

「と、言いますと?」

 

尋ねた長門に提督は応える。

 

「本作戦において海上自衛隊の参加は自衛隊法に定められた第九十五条と第九十五条の二に基づき現状、最高指揮官の梅津一佐が承認した。」」

 

ここで梅津一佐の柔軟性が発揮されたようだ。

第九十五条と第九十五条の二は友成が横須賀沖海戦で使用したものだ。

しかし、自衛隊には「専守防衛」と「日本国憲法第九条」が纏わりつく。

自衛隊であることを捨てないとする梅津一佐は深海棲艦が宣戦布告しているのを前提に第九十五条と第九十五条の二に基づき必要と判断し限度を超えない武力を行使するということで了承した。

 

「よって本作戦では海上自衛隊とのより密な連携が要される。そこで、君に大まかな選定を頼みたい。」

「分かりました。至急、任務にあたる部隊を選定いたします。」

 

 

 

そして現在、長門は訓練場で吹雪の訓練を見ている。

 

「ふっ、水雷魂か。良いだろう。第三水雷戦隊、旗艦神通。」

「はい。」

「6杯の編成で、このまま出撃準備に入れ!今度の作戦は・・・・・お前達に掛かっている!」

 

こうして第三水雷戦隊は海上自衛隊との作戦行動艦隊に選定された。

 

 

 

作戦室前に吹雪たちの姿はあった。

吹雪は一旦引き戸に手をかけるが離す。

そして息を飲んだ。

 

「どうしたの?吹雪ちゃん?」

 

不可解な行動をとった吹雪に疑問を抱いた睦月は尋ねる。

 

「作戦説明って初めてだから・・・ちょっと・・・緊張ぉしてるでごじゃる。」

「吹雪ちゃん、また口調変わってるっぽい?」

 

夕立が苦笑いをしながらツッコむが・・・。

 

「え?私、何か変?」

「気付いて無いっぽい?!」

 

まさかの無自覚だったようだ。

天然なところでも入っているのだろうか・・・・?

 

「えへへ、大丈夫だよ!さぁ、早く入ろ!」

 

睦月の後押しで吹雪は引き戸を開けた。

 

中では艦娘組の川内型の三人に加えて球磨、多摩、夕張、如月と幹部作業服に身を包んだ海自組の角松、尾栗、菊池、友成が既に待機していた。

 

「あっ、睦月ちゃん!」

「如月ちゃん!」

 

2人は駆け寄って仲良く離し始めた。

 

「もしかして、如月ちゃんもこの作戦に?」

「えぇ。」

「わぁあ!久し振りに一緒だね!」

「そうね。」

 

その様子を遠巻きに見ている者たちがいた。

 

「相変わらずあの二人。あたしたち姉妹の中でもべったりコンビだよなぁ。」

「工廠長室に怠けに来るよりかは大分ましだよ望月。」

「霧先の言う通りだ。少しはだらけ癖を直せ。」

「うぇ、霧先少佐に菊池少佐・・・・。」

「羨ましくなんか・・・ない。」

 

友成と菊池に叱られる茶髪のメガネっ子と物静かな紫髪の子を吹雪は珍しそうに見た。

 

「吹雪ちゃんは2人、初めてっぽい?」

 

夕立がそう言うと吹雪に気づいた二人が自己紹介をしてきた。

 

「んぁ?あぁ、望月でーす。」

「弥生です。あっ、気を使わなくて良い・・・・・です。」

「吹雪です!よろしくお願い致します。」

 

自己紹介を軽くする望月と控えめにする弥生に対し、吹雪は礼をしながらする。

そこに長門と陸奥が書類を携行して入ってきた。

 

「総員整列!」

 

角松の掛け声とともに全員が整列する。

 

「敬礼!」

 

そして川内の号令で全員が敬礼をする。

長門が敬礼をし、下ろした後に全員が下ろす。

 

「秘書官の長門だ。早速だが諸君に提督と梅津一佐からの作戦を伝える。先日の敵駐屯地の発見と殲滅により、近在の深海棲艦の拠点が消滅したことは、皆も承知の事と思う。」

「(先日の・・・。)」

 

長門の説明に吹雪は初出撃の時を思い出した。

 

「あうぅ・・・。」

 

自分の行動を思い出した吹雪は恥ずかしさからか少し涙目になる。

 

「これにより近々、大規模作戦が発令される見通しとなった。」

 

『『えぇー!』』

 

艦娘組が驚愕の声を上げた。

一方海自組は強張った顔でいたままだ。

 

「本作戦はその試金石ともなる作戦である。」

 

長門は地図を使って説明を続けた。

 

「目標はここ。W島だ。」

 

長門が差した島を見て尾栗が友成に話しかけた。

 

「おい、友成。あそこって・・・。」

「僕たちの時代ではウェーク島と呼ばれている場所です。柳一曹が詳しいと思いますが・・・第一次攻略戦において、駆逐艦『如月』が轟沈しています・・・・。」

 

友成の言葉を聞いて尾栗は驚愕した顔で如月を見た。

長門の説明は続く。

 

「この島を守備している敵水雷戦隊を・・・夜戦による奇襲で殲滅して貰いたい。」

「やったぁ!待ちに待った夜戦だぁー!」

「姉さん・・・!」

 

大声で叫ぶ川内に神通は恥ずかしさから顔を赤らめながら注意する。

 

「基本の作戦は、『みらい』がそれぞれの艦隊に付属。第三水雷戦隊が囮となり敵を引き付けて転進。第四水雷戦隊が展開する海域まで誘導し、2隊を挟撃する。W島を攻略できれば、哨戒線を押し上げ、更なる作戦展開が可能となる。質問は?」

 

長門が効くと「みらい」砲雷長の菊池が手をあげた。

 

「菊池三佐。」

「はっ。何故、今作戦に置いて我が艦・・・『みらい』の出撃が必要なのでしょう?」

「よく聞いてくれた。『みらい』は本作戦に置いてスムーズに作戦を成功させるのに必要不可欠だ。更に昨日、工廠の妖精さん達によって主兵装のミサイルが複製可能になった上、450㎞先を探知できるその電探能力があれば予想外の事態にも対処可能だと踏んだからだ。」

「了解しました。」

 

菊池は長門の説明に納得したようだ。

 

「他に質問はないな?」

 

長門が聞くが誰も手をあげない。

 

「覚悟は良いか!?」

『『はい!』』

 

全員の声の後作戦説明は終了した。

 

 

 

 

作戦説明終了後、甘味処「間宮」では三水戦トリオと尾栗、友成がいた。

 

「夜戦の奇襲かぁ・・・・緊張するね。」

「吹雪ちゃん、顔色悪すぎっぽい?」

「そんなに心配しなくても・・・。」

「まぁ、仕方ないな。」

「(拒絶反応なんだろうな~。)」

 

吹雪の調子を心配する夕立と睦月に対して尾栗と友成は歴史的観点から見て仕方ないと考える。

吹雪自身、前世は夜戦で轟沈しているため本人が知らないところで拒絶反応が出ているのだろう

と考えていたのだ。

そんな5人にお客さんが来た。

 

「三水戦の皆、工廠長、航海長。出撃するのね?」

「夜戦だと聞いたのです!だからこれ・・・吹雪さん達に食べて欲しいのです!」

 

やってきたのは第六駆逐隊だ。

電が差し出したのはザル一杯のブルーベリーだった。

 

「ありがとう。これって・・・。」

「ブルーベリー。」

「目に良いっていうでしょ?これで夜戦もばっちりなんだから!」

 

説明する響と暁。

えっへん!と、胸を張る暁を見て尾栗が友成に耳打ちをする。

 

「なぁ友成。『みらい』のレーダーがあれば大丈夫ってことは・・・。」

「言わない方が良いでしょうね。最悪、暁がいじけますよ。」

 

そんなことを言っていると他の艦娘も来た。

 

「吹雪ちゃぁ~ん?出撃ですって?」

「あっ、はい!」

 

吹雪の肩を掴んだのは愛宕、姉の高雄と共に来たようだ。

 

「パンパカパーン!はいこれ、良かったら貰って?」

「お守り?」

「敵の砲弾が当たらないおまじないです。・・・実は、中に愛宕ちゃんの。」

「高雄ちゃん!」

 

吹雪に耳打ちしようとする高雄が愛宕に止められる。

 

「私達からも、無事を祈らせて下さい。」

「あぁ、ありがとうございます。」

 

「・・・・・なぁ友成。」

「尾栗三佐、僕も知っています。ですが、ここで言えば憲兵さんのお世話になりますよ。」

「・・・・・だよなぁ。俺もこうなるんだったら嫁さんの。」

「はいストップ!」

 

珈琲を飲んでいた友成はカップを即座に下ろし尾栗の発言を大声で止めた。

尾栗は冗談半分で言ったようで「ハハハ」と笑っていた。

 

「はい!どうぞ!たくさん食べてね!」

 

間宮が吹雪の前に特盛あんみつを置いた。

 

「あ、私頼んで・・・。」

「吾輩からじゃ!悔いが無いよう、思う存分食べておけ!武運長久を祈るぞ!」

「あぁ、ありがとうございます・・・。」

 

どうやら利根からの物のようで吹雪はお礼を言う。

 

「悔いが無いよう・・・ねぇ、嫁さんともうちょっと出かけてればなぁ・・・。」

「仕事柄仕方ないですし縁起でもないこと言わないで下さい。帰って来ることだけを考えるんです。」

「それもそうだな。」

 

尾栗と友成が話していると、渡すものを渡した者たちは解散していた。

それを吹雪は笑顔で送り出す・・・・が。

 

「はぁ・・・・。」

 

直後疲れた表情で溜息をつく。

 

「吹雪ちゃん、大人気っぽい?」

「って言うか・・・。」

 

吹雪が言おうとしたときに別の人物の声が遮った。

 

「退きなさい!北上さんの邪魔よ!」

「うぇ!すみません!」

 

大井に言われた吹雪は即座に謝った。

 

「ん?あぁ、お見舞い品かぁ。」

「次の作戦で被弾する可能性が一番高いのこの子だしね。」

「はうぅ!」

「吹雪ちゃん!しっかりだよ!」

 

大井に指を指されて吹雪の心は大破した。

睦月の励ましの声が響く。

 

「まぁ今更じたばたしても仕方ないし・・・気楽にやればぁ?」

 

そういって北上は手をひらひらさせながら店内に入って行く。

 

「良いこと?北上さんが私との時間を割いてまで教えたんだから、一発くらいは当てて帰ってきなさいよねっ?」

「うぅ!あっはいぃ・・・。」

 

大井に額を叩かれ若干涙目になりながら頭を押さえる吹雪。

 

「面倒見がいいのか・・・・百合百合しいだけなのか。」

「本人に聞かないと分からないですねぇ・・・・。」

 

何とも言えない表情をしながら言う尾栗に対して友成は慣れた様子で受け答えをする。

実はここ最近揉め事の仲介で大抵大井と衝突することが多いのだ。

殆ど出撃で北上と一緒になれない等北上絡みの問題なのだが。

 

「私、訓練してくる・・・・。」

 

大井にきつく言われた吹雪はトボトボと店を出ようとした。

それを夕立達が引き留める。

 

「だめっぽい!今晩は明日に備えてゆっくり休めって言われたっぽい!」

「そうだよ吹雪、流石に訓練のし過ぎで出撃不可と言うのは・・・。」

「でも私・・・皆の足、引っ張っちゃうし・・・。」

 

吹雪を引き止める夕立と友成だが彼女はネガティブになっていた。

そこに睦月からの一喝が入る。

 

「そんなことないよ!」

「睦月ちゃん?」

 

睦月は吹雪の手を取った。

 

「大丈夫!きっと出来る!吹雪ちゃん、あんなに一生懸命、特訓したんだもん!」

「でも・・・。」

 

まだ自身が無い吹雪に睦月は手を一層強く握った。

 

「私は信じてる!自信をもって!吹雪ちゃんなら絶対大丈夫だよ!」

「睦月ちゃん・・・うん!」

 

吹雪はやっと自信を取り戻したようだ。

 

「あら?少佐たちは何も言わないんですか?」

「友情を深め合っているんだ。邪魔しちゃ悪いだろ間宮さん。」

「吹雪も自信がつけば大丈夫。それだけのポテンシャルはあるんです。」

「お二人とも信頼しているんですね。」

「俺は今度の作戦の仲間だし。」

「僕は上官で仲間ですから。」

「「信じなきゃ仲間じゃないでしょ?」」

 

三水戦トリオと友成、尾栗、間宮の笑い声が響く店内を如月が遠くから見ていた。

 

「(うふっ、睦月ちゃんに大切なお友達が出来て良かった。)」

 

 

 

その夜、寮では吹雪が髪の毛をブラッシングしていた。

そこに風呂上がりの夕立が声をかける。

 

「吹雪ちゃん、もう大丈夫っぽい?」

「うん!睦月ちゃんのおかげだよ。」

「わ、私は唯・・・昔、如月ちゃんに同じように信じてるって言われて・・・すごく、元気になれたから。」

 

睦月は自分の飲んでいたお茶を見ながら言った。

 

「如月ちゃんが?」

「あのね?私、睦月型の一番艦なんだけど・・・如月ちゃんの方がちょっとだけ就役が早いお姉さんなの。」

「へぇーなんか珍しいっぽい?」

「うん、それで、私が鎮守府に着任してすぐに実戦があって・・・何にもしない内に先輩たちが片づけてくれんだけど。私、小破しちゃったの・・・・そしたら如月ちゃんが付っきりで面倒を見てくれて・・・励ましてくれて・・・凄く、感謝しているの!」

「まるで私と睦月ちゃんみたいだね!」

 

吹雪は目を輝かせながら言った。

 

「はっ!?私なんて全然・・・。」

「そんなことないよ。睦月ちゃんがいてくれたから、私、頑張れたんだもん!」

「吹雪ちゃん・・・。」

 

2人で話している帆膨れている者がいた。

 

「むうぅぅ!夕立邪魔っぽい!?」

「あぁ!勿論夕立ちゃんも!ほんっとぉに感謝してるから!」

 

吹雪が何とかしようとするが・・・。

 

「うぅぅ・・・取って付けたっぽいぃ。」

「あぁ!本当ですぅ!!」

「嘘っぽいぃ!」

「本当ですぅ!!」

「嘘っぽいぃ!」

「五月蠅いぞ!もう寝る準備をしなさい!」

 

騒ぎ過ぎたようで友成からお叱りが入る。

 

「うぅ・・・工廠長さん!吹雪ちゃんが夕立の事、除け者にするっぽいぃ。」

「違うよぉお!!」

「はぁ・・・・幼い子供か・・・。」

 

自分に抱きついて泣く夕立の頭を撫でながら友成は頭を押さえた。




次回から戦闘に入ります。
新艦娘たちも次回から。


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第参拾伍戦目「W島攻略作戦! 下」

はい、第三話終了です。
長いのでご注意を。


朝日が昇る鎮守府。

小鳥のさえずりが心地良い朝だ。

そんな朝早くに目が覚めた睦月は窓の外である人を見た。

埠頭に走っていく人、間違いなく吹雪だった。

それを見た睦月は着替えを始めた。

吹雪は朝早くから艤装をつけて訓練場にいた。

急速回頭から砲を構えて撃とうとするが足が滑ってふらつき狙えないという状態だった。

 

「はぁ・・・。」

 

何とか立て直したが実戦ではダメだと思う吹雪は溜息をついた。

そんな吹雪に声をかける者がいた。

 

「頑張っていますね?」

「あっ・・・。」

 

吹雪が声が聞こえた方を見るとそこには赤城がいた。

 

「あっ、赤城先輩!」

 

赤城は驚く吹雪に微笑みかけた。

 

「ちょ、ちょっとだけ、おさらいしたくって!・・・・・みんなに特訓してもらったのに、私・・・。」

「ちょっと、見ていてくれる?」

 

赤城は吹雪にそう言って弓を構えた。

その目は最初は的をじっと見ていたが矢を引き切ると同時に目をつぶった。

そしてそのまま矢を放つ。

矢は零式艦上戦闘機に姿を変えて機銃を打ち的を破壊した。

 

「わぁ・・・すごいです!」

「正射必中という言葉があります。正しい姿勢でいれば、自ずと矢は当たるということの意味ですけれど、私はきちんと訓練すれば結果は必ずついてくる。そういう意味だと思っています。」

「正射・・・必中・・・。」

「自分で十分に訓練したと思えるなら、ただ任せてみて?身体がきっと。覚えているから。」

「・・・はい!」

 

吹雪は赤城の言葉に元気よく答えた。

丁度その時、朝日が山を越えて辺りを照らし始めた。

吹雪は気になっていることを赤城に聞く。

 

「ところで・・・あの・・・赤城先輩、どうしてこんなに朝早くから・・・。」

 

赤城は静かに横を向く。

吹雪もその先を見ると・・・。

 

「あっ。」

「あっ!」

「バレちった・・・。」

 

物陰に隠れていた睦月と友成がいた。

 

「お、おはよう・・・。」

「き、気持ちの良い朝だな吹雪。」

 

ばれたことが気まずくなったのか二人は咄嗟に挨拶をする。

 

「たまたま早起きしたらドアの前でノックしようとしていた彼女達がいて・・・。」

「わ、私は!如月ちゃんだったらこうするかもって・・・そう思っただけだから!」

「あー・・・僕は睦月の提案を聞いて、こうした方が良いと思ってね。」

「睦月ちゃん・・・工廠長・・・。」

 

吹雪は少し暗い顔をする。

赤城は気になり尋ねた。

 

「どうしました?」

「私・・・睦月ちゃんや工廠長にお世話になりっぱなしで・・・如何したら恩返しできるのかなって。」

「私なんかいいよ!・・・・でも、私もおんなじこと考えてたかも。如月ちゃんや先輩たちにどうやってお礼したらいいんだろうって。」

 

 

「誰も恩返しなんて望んでいません。だから、ただ言えばいいのです。・・・ありがとうって、思っていることを、素直に。」

 

赤城がそういうと吹雪と友成は驚いた。

 

「それだけで!・・・いいんですか?」

「はい、私たち艦娘は存在したその瞬間から・・・戦うことを義務付けられています。・・・・・反攻作戦が開始されれば、戦闘は激化するでしょう。今、この鎮守府にいる艦娘達はどれだけ無事でいられるか・・・でも、それでも私は艦娘で良かったと思います。大切な人達を守ることが出来る。大好きな仲間と一緒に戦えるのだから。・・・・鋼の艤装は、戦うために。高鳴る血潮は、守るために。秘めた心は愛するために。ありがとう、大好き、素敵、嬉しい、大切な人への大切な気持ちを伝えることを恐れないで。明日、会えなくなるかもしれない私達だから。」

「・・・・はい!」

 

赤城の言葉を聞いた吹雪は即座に睦月の元へ向かった。

睦月も桟橋の先に向かう。

2人は手を握りあった。

 

「ありがとう睦月ちゃん!大好きだよ!」

「私も、大好き!」

「・・・・それから、あの・・・。」

「?」

 

吹雪は赤城に向かって言った。

 

「赤城先輩!私、先輩の事、尊敬してます!い、いつか同じ艦隊で戦いたいです!」

「ありがとう。待っていますね。」

「はい!」

 

吹雪は満面の笑みで答えた。

 

「(良い感じだし。VLSへの補充もあるからさっさと立ち去ろう。)」

 

友成は桟橋から「みらい」が停泊しているところに向かって歩き出した。

 

「工廠長?どちらへ行かれるんですか?」

「あぁ、VLSの補充だよ。時間がかかるからね。」

 

友成は吹雪にそう言ってその場を離れた。

 

「(赤城さん、僕の手足が動くうちには誰も会えなくなるなんてこと、させやしませんよ。)」

 

あることを決意して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かぁー・・・重たいぜぇ・・・・。」

「そんなこと言っても私たちがお願いしたことなんだから、しっかりしないと。」

「・・・・・もう帰りたい。」

「初雪姉さん。もう少しだから頑張ろう?」

 

そんなことを話しあって大きい台車を押している四人の女の子がいた。

吹雪と同じ服装をした彼女らは特型駆逐艦二番艦「白雪」、三番艦「初雪」、四番艦「深雪」、九番艦「磯波」だ。

彼らが押している台車には大きな四角形の物が丸太積みで上にOD色のカバーが被せられている。

 

「にしてもこの『ぶいえるえす用せる』?とかを積み込んであの墳進弾を撃てるようになるのか?」

「工廠長が言ったんだから本当では?」

「白雪姉も半分疑問形じゃん・・・。」

 

そんなことを言いながら押していると目的の場所についた。

 

「おっ着いた!おぉ~い!工廠長!」

「ん?あぁ深雪か。みんなお疲れさま。そこの君、カバーを外して。」

「了解です。」

 

深雪と積み荷に気付いた友成はお礼を言った後、妖精にカバーを外すように頼む。

カバーが退けられ出てきたのは細長い白い箱だ。

その箱には大きく黒い文字で「MK41VLS用 トマホーク」「MK41VLS用 SM-2」と書かれていた。

 

「シースパローは装填済みだしこれで最後だね・・・よし!クレーン頼む!」

 

友成の声に反応して妖精がクレーンを動かし上にあるVLSセルから順に持ち上げ装填していく。

 

「この様子だとVLS装填用クレーンは必要ないから廃止するかな・・・・そうすれば余分に積めるし・・・・。」

「深雪スペシャル!」

「痛っ!」

 

友成が順に手に持ったバインダーに挟んだ書類に記入していると深雪の蹴りが炸裂した。

 

「いったぁ・・・・なにするのさ・・・。」

「撫でるぐらいのお礼はないのかよ!」

「ただ単に深雪ちゃんが撫でて貰いたいだけじゃ・・・。」

 

尻をさすりながら友成が深雪に問いかけると「ぷんすか」という擬音が見えそうな様子で怒りながら答えた。

その様子を見た白雪はひっそりとツッコんだ。

 

「ごめんごめん・・・。ありがとう深雪。」

「・・・・・・・えへへへへ。」

 

友成に撫でられた深雪はさっきと打って変わって頬を赤らめながらにやけ始めた。

 

「白雪姉さん、深雪姉さんどうしたの?」

「・・・実は工廠に遊びに行ったときに頭をぶつけてね・・・その時工廠長に撫でて貰ってからあんな感じに・・・。」

 

顔を緩ませている深雪を指さして白雪は溜息をついた。

 

「そういえば白雪たちもご苦労様。」

「ひぇ!?」

「あっ、ダメだった?」

「あっ、いえ、大丈夫です。」

 

友成に頭を撫でて貰った白雪はスカート握り締めて赤らめた顔を俯かせる。

それを見た妹二人は。

 

「「((落ちたな)ましたね)」」

 

同じことを考えた。

そしてこの後、この二人も白雪と同じようにスカート握り締めて赤らめた顔を俯かせるのであった。

 

 

 

 

 

「「「「「「「なんと贅沢な。」」」」」」」

神盾、二航戦のはみ出る方、元二水戦、青い戦艦、違法建築戦艦、五航戦空母、黒豹がその出来事を各々の隠れ場所から見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方出撃ドックには出撃する艦娘が集結していた。

 

「さぁ!夜戦だ夜戦だ!腕が鳴るぅ!」

「私も・・・身体が火照ってしまいます。」

「誘き出すのは任せてね!那珂ちゃんの魅力でみーんな誘惑しちゃうから!」

「それは不安だクマ。」

「みんな置いて行かないでね?」

「大丈夫にゃ、問題にゃい。」

 

出撃前から士気もばっちりな川内と神通と那珂。

そして那珂に対して冷静に突っ込む球磨。

自分の事を置いて行かれることを心配する夕張と、言う人物が人物ならフラグが乱立しているであろう魔法の言葉を放つ多摩。

それぞれの艦娘を眺めて如月は微笑む。

そこに姉である睦月が来た。

 

「ねぇ、如月ちゃん。」

「なぁに?」

「あのね?・・・この作戦が終わったら・・・話したいことがあるんだ!」

「あらぁ?愛の告白かしらぁ?」

「違うよぉ!」

 

睦月の発言に如月は頬に手を当てながら頬を赤らめる。

それに対し睦月はトマトもびっくりな赤さの顔で焦って否定した。

 

「って・・・あんまり違くないけど・・・でも、あの・・・。」

「・・・・分かったわ。約束、ね!」

「うん!」

 

そう言って約束を交わす二人を見ていた吹雪は嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

作戦指揮室では大淀が時計を凝視する。

そして予定の時刻になると提督に言った。

 

「作戦開始予定時刻です。」

 

大淀の知らせを聞いた提督は放送マイクを手に取った。

 

『W島攻略作戦を発動する!第三、第四水雷戦隊、出撃せよ!』

『『『『『『はい!』』』』』』

 

提督の言葉に全員が大きな声で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出撃から3日後、第三水雷戦隊と梅津一佐指揮の「みらい」はW島沖の岩礁で息をひそめていた。

 

「みーっけ!」

「気づかれてませんよね?」

「うん!今日はお忍びだもんね!」

 

那珂に敵が気づいていないことを確認した神通は全員に言う。

 

「作戦通りここで敵の動向を探り、夜まで待ちます。姉さん、零式水偵を。」

「はいよ!」

 

神通と川内は準備を進めた。

神通は「みらい」に連絡する。

 

「こちら神通。これより零式水偵を発艦します。」

『こちら角松、了解した。』

 

角松に連絡した神通は自分の艤装に零式水偵を乗せる。

 

「お願いしますね?」

 

神通の言葉に妖精は敬礼で答える。

 

「いっけぇー!」

 

川内の掛け声とともに二機の水偵が発艦する。

 

「吹雪ちゃん、夕立ちゃん、睦月ちゃん。貴方たちには交代で目視による哨戒をお願いします。いくら『みらい』の力があっても限度があります。」

「「「はい!」」」

 

三人は返事をした後、哨戒を行い始めた。

 

 

 

一方「みらい」CICでは新たな光点が映し出されていた。

 

「『川内』『神通』より航空機発艦!サイズは小さいですが間違いなく零式水偵です。」

「ふむ・・・あの光点が消えなければ我々が気付かれることはあるまい。」

「はい、ですが艦長。艦娘の身体健康を考えた上とは言えSPYレーダーの出力を弱めるというのはどうかと・・・。」

 

CIC要員の報告を聞いた梅津はCICのレーダーの表示された画面を見ながら言った。

菊池はSPYレーダーの出力を低下させることを危惧していた。

 

「確かに出力を弱めると範囲は狭くなる。だが最低でも200㎞あれば迎撃は可能だ。それにこの資料によればこの近海に航空勢力を持つ敵艦はいないとされている。」

 

梅津は「W島攻略作戦用資料」を書かれた紙束を出した。

 

「ですが艦長、戦争とは予想しない出来事が多いそうです。警戒を怠る訳には・・・。」

「分かっている。だからこそ、今回はいつも以上に警戒せねばならんな。」

 

梅津はCICの画面を見つめながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、岩礁では未だ哨戒を行っていた。

 

「ふぁぁぁぁぁ・・・・・。」

「ねぇ、夕立ちゃん。」

 

夕立も単純作業に慣れてきたのか欠伸をしていた。

睦月はそんな夕立に声を掛ける。

 

「ん?」

「私、夕立ちゃんの事・・・大好き。」

「んわっ!」

 

睦月の突然の言葉に夕立はずっこける。

 

「と、唐突過ぎる~!睦月ちゃん、緊張で壊れちゃったぽい~!?」

「違うよ~・・・実はね・・・今朝・・・。」

 

大切な友が極度の緊張で壊れ、女色に目覚めてしまったのかと心配する夕立に睦月は説明した。

その横で川内は空を睨んでいた。

 

「水偵が中々戻らないね・・・。」

「収録が押しているのかな?」

「少し、心配ですね。『みらい』に連絡を取ります。」

 

神通は「みらい」に連絡をした。

横で睦月と夕立は話し合っていた。

 

「で、赤城先輩が。」

「ふーん、そんなことがあったんだ。ちょっと、素敵っぽい。」

「でしょ?それで・・・思ったの。睦月、夕立ちゃんにはあんまり言えてなかったなって。」

「そ、そういうことならわ、私だって・・・睦月ちゃんたちの事・・・。」

 

二人がそんな事を話していると吹雪は何かを発見した。

 

「嘘!?」

「どうした!特型駆逐艦!」

「10時の方向!敵機です!」

 

敵航空機は第三水雷戦隊の上を通り過ぎていった。

 

 

 

CICでも異常は感知されていた。

 

「深海棲艦艦載機、本艦隊上空を通過!」

「何故感知できなかった!!」

「直前まで超低空飛行をしていた模様!」

「相手は我々の詳細を知っているというのか!」

 

CIC要員からの報告を受けた菊池は机を殴りつけた。

 

「敵艦載機に発見されたということは敵に我々の場所がばれたということは敵艦載機が来る!総員対空、対水上戦闘用意!」

「!本艦左舷50度のW島敵艦隊移動開始!距離30Km!」

「127㎜主砲への諸元入力完了!」

「零式水偵の反応消滅!撃墜確認!」

 

続々と入ってくる情報を整理して迎撃態勢を整えていく。

 

 

 

第三水雷戦隊も行動を起こそうとしていた。

 

「そんな・・・『みらい』の索敵を躱して!?」

「それよりも!偵察機に発見されたってことは・・・。」

 

川内がそこまで言うと那珂が言った。

 

「敵の艦隊が動き出したよ!」

「司令部に打電を!」

 

川内が叫んだ。

 

 

 

「馬鹿な!」

「どうしますか?三水戦が発見された時点で奇襲作戦は破綻です。四水戦と『みらい』二隻を正面対決へ持ち込ませますか?」

 

机をたたく提督に長門は提案をした。

 

「いや、三水戦を下がらせる。全速力で現海域を離脱するように指示を出してくれ!」

「了解です!」

 

提督の指示に従い大淀は通信を行う。

 

「ですが敵は軽巡2、駆逐艦4の計6隻です。二隊と『みらい』が合わされば十分に迎撃可能だと思われますが。」

「それだけならな・・・・・。」

「まさか!」

 

三水戦と「みらい」は最大線速で海域を離脱しようとしていた。

 

「姉さん!あれ!」

 

「みらい」の前を先行していた三水戦旗艦の神通はあるものを発見した。

それは無数の敵艦載機と軽空母ヌ級二隻だった。

ヌ級は次々艦載機を発艦していき敵艦載機は増えていく。

 

「嘘!」

「ヌ級が二隻も!?」

 

夕立と那珂が驚愕する。

 

「発見されたよ!来る!」

「輪形陣!対空戦闘よーい!」

 

神通の指示で全員が輪形陣を取り対空戦闘を行う。

「みらい」CICは騒然していた。

 

「敵艦載機!続々と増えていきます!数60を超過!」

「対空戦闘用!127㎜主砲と後部VLSに諸元入力!CIWS迎撃開始(コントロールオープン)!」

「127㎜主砲、準備完了!」

「後部VLSへの諸元入力完了!シースパロー準備完了!」

 

対空レーダー要員からの報告に砲雷長の菊池は指示を下す。

そして砲撃長とミサイル要員からも準備完了と伝えられ「みらい」の攻撃態勢は整った。

 

「撃ち方始め!」

「対空戦闘!主砲、撃ちぃ方ぁ始め!」

 

神通と梅津の声が重なったとき全主砲が火を噴く。

「みらい」の主砲弾は次々と命中する。

それに続き艦娘達も砲撃する。

 

「(帰るんだ!絶対!皆と一緒に!)」

 

睦月は戦闘の中で決心した。

 

 

 

「トラックナンバー1985から1998、撃墜!」

「新たな目標、本艦右舷10度からさらに接近!」

 

青梅の指示した方向に主砲は旋回し、撃つ。

敵航空機は次々粉砕されていった。

 

「トラックナンバー2153、さらに接近!」

「シースパロー発射始め!Salvo!」

 

砲雷長の菊池の指示でミサイル要員が発射ボタンを押す。

事前に諸元を入力していたシースパローは後部VLSから噴煙を上げて飛翔。

亜音速で敵航空機に向かって飛び、撃墜していく。

そして二発ずつ命中するとまた後部VLSから二発ずつ発射される。

 

 

 

 

 

「空母が二隻も!?」

「やはり・・・航空機を扱うやつがいたのか。」

「このままだと三水戦と『みらい』が挟み撃ちに!」

「そうはさせん!大淀!四水戦と霧先少佐に打電!敵水雷戦隊の足止めを!」

「分かりました!」

 

提督は即座に判断し大淀に指示を下す。

 

「ですがこの後は?増援は出せません。」

「いや、まだ手はある。奇跡的にな。」

 

提督は念のために手を打っていた。

 

 

 

 

 

「敵水雷戦隊を発見したクマ!」

「砲雷撃戦よーい!」

 

夕張の掛け声で全員が砲を構える。

が、如月は航空機が飛び交っているところを見る。

 

「(睦月ちゃん・・・。)」

 

睦月のことを心配していたのだ。

だが敵は目の前にいる。

 

「みんな、ここで食い止めるから!てぇー!」

 

夕張の掛け声で攻撃が開始された。

 

 

 

「艦長!四水戦、攻撃を開始しました!」

「よし!対空目標が近づけば撃墜!それまでは主砲で敵艦に攻撃だ!」

「了解!主砲!撃ちぃ方ぁ始め!」

 

艦長である友成の指揮でみらいは主砲での攻撃を開始する。

 

 

 

 

「那珂ちゃんはー!みんなのものなんだからぁ!そんなに攻撃しちゃダメなんだよー!」

「ふぁああ!ブンブン五月蠅くて落とすの難しいっぽいー!」

 

全員が対空戦闘を行い続ける中、睦月と吹雪も必死に戦う。

 

「ねえ!吹雪ちゃん!絶対!絶対に一緒におうちに帰りましょう!」

「はい!」

 

神通が敵艦に向けて雷撃を行うが敵航空機に阻まれて魚雷は破壊される。

その時川内が睦月に指示を出した。

 

「睦月!魚雷!その位置からなら!」

「てぇええええ!」

 

魚雷は惜しい位置まで行くが破壊されてしまう。

そこに敵攻撃機が機銃攻撃を仕掛ける。

そして敵機の爆弾が睦月の目に入る。

 

「睦月ちゃーん!!」

 

夕立が叫びもう駄目だと思った瞬間、努力が実を結んだ。

 

「うわああああああああ!!!!」

 

吹雪が叫びながら睦月と敵機の間に入る。

そして即座に砲を構えて敵爆撃機を見事撃墜した。

だがそれだけではなかった。

 

「吹雪ちゃん!睦月ちゃん!後ろ!」

 

神通が叫ぶと後ろから敵爆撃機と駆逐艦が迫っていた。

だが彼女たちが攻撃されることは無かった。

何故か?答えは簡単だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「127㎜砲、撃ちぃ方ぁ始め!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酸素魚雷発射!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵爆撃機は砲撃で破壊。

駆逐艦は雷撃で撃沈した。

 

「いったい誰が・・・・!?」

 

川内が向いた方にはある艦影が見えた。

その艦は非常に「みらい」と酷似していた。

だがその艦の艦首には「180」と書かれていた

 

 

 

「新たな反応を発見!・・・・これは!」

「どうした!また敵艦か!」

「いえ!違います・・・・・・IFF反応あり!味方です識別番号は・・・・・。」

 

菊池を含め全員がその言葉に驚愕した。

 

「ゆきなみ型護衛艦一番艦「ゆきなみ」です!!!!!」

 

いるはずのない「ゆきなみ」があらわれたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと見つけたわ・・・・・『みらい』。お姉ちゃんを置いて沈ませないわよ!」

 

「ゆきなみ」艦橋では艦娘のみらいに似ているが細部が違う服装の女性がいた。

和服はみらいとちがい灰色。スカートはグレー。

ハイソックスやスニーカーは同じだが髪型もショートカットだ。

 

「対空、対水上戦闘開始!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆきなみ姉さん!?」

「それは本当か!?」

「はい!他にも潜水艦を確認!急速浮上してきます!」

 

ゆきなみが現れたことを聞いた友成は驚愕するがほかの情報も入る。

 

「対潜戦闘用意!」

「待ってください!この特徴は!」

 

みらいがそこまで言うと潜水艦が浮上した。

そしてその艦影を見たみらいは叫んだ。

 

「やっぱり!伊152です!」

「こりゃまたえらい方が来たぞ・・・・。」

 

友成は突然の事に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久し振りね、みらい。今度は物資輸送ではなく本当に力を貸しに来たわ。」

 

伊152の艦内では淡い青の着物に身を包んだ黒髪ロングヘアーの女性がそう言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然の援軍の到着に驚いたのか深海棲艦の艦載機は旋回していた。

その隙を睦月は見逃さなかった。

 

「吹雪ちゃん!魚雷!正射必中だよ!」

 

睦月に言われ、吹雪は進み始めた。

 

「(自分を信じて・・・。)」

 

吹雪はしっかりと狙いを定めた。

 

「お願い!当たって下さい!」

 

魚雷が一斉発射され内4発が命中。

ヌ級の艦底に当たった為、ヌ級の動きが止まった。

 

「みんな!今!」

 

神通はすかさず指示を出し集合する。

 

「てぇええ!」

 

その言葉と共に全員が魚雷を放ち殆どが命中。

ヌ級は大爆発を起こし消滅した。

 

「やったぁ!おおっ!」

 

睦月は喜ぶが敵機の銃撃が夾差した。

 

「気を抜かないで!まだ敵は!」

 

川内がそこまで言うと何かが飛んできた。

全体が赤いそれは航空機の群れの真ん中で爆発し小さな球が飛び散り航空機を撃墜する。

 

「三式弾!?水平線の向こうから!?」

 

川内が気付いた通りこれは「三式弾」だ。

それを発射できる艦娘は限られてくる。

 

「間に合ったか・・・。」

 

提督は笑みを浮かべた。

提督が打っていた手、それはある艦隊を遠征に出しておいたのだ。

それは金剛型四姉妹で編成された艦隊だった。

 

金剛は比叡に合図をし、比叡は準備をする。

 

「主砲!一斉射!」

 

比叡の言葉の後、放たれた徹甲弾は残っていたヌ級に命中し、爆発させて撃沈した。

 

「すごい・・・。」

 

吹雪達は驚くことしかできなかった。

 

「そうだわ・・・やっぱり、遠征に出ていた第二艦隊です!」

 

神通は嬉々として報告した。

 

「そっかぁ・・・この海域まで戻って来てたんだ!」

「見るクマ!敵の残存艦が撤退していくクマ!」

 

夕張が理解した様子でいると球磨が報告する。

球磨の言う通り残存艦は皆撤退していた。

それもそうだ、こんな艦隊に勝てる訳がない。

逃げるのは賢明な判断だろう。

 

「・・・・・・ふぅ。」

 

その場で立ち止まり溜息をついた如月は爆沈したヌ級の黒煙が上がっている方を見た。

 

「よかった・・・これでもう大丈夫そう・・・。」

 

その時強い風が吹いて如月の髪が揺れた。

 

「ヤダ、髪の毛が痛んじゃう・・・。」

 

そう言って髪を押さえる如月に黒煙を上げた艦載機が近づく。

 

 

 

「艦長!本艦左38度より敵艦爆急降下!」

「如月を狙っている!?」

「シースパロ―で!」

「ダメだ間に合わない!主砲は!?」

「現在補給科妖精が向かっています!」

 

状況を聞いた友成は一つの答えを導き出した。

 

「補給科隊員を退却!最大戦速で如月と敵艦爆の間に入れ!」

「・・・・・了解!機関最大戦速!CIWS迎撃開始(コントロールオープン)!」

 

「みらい」はガスタービン特有の音を響かせながら最大戦速で航行する。

 

『艦橋、CIC!如月、敵艦爆の射程まであと5秒!』

「艦長!目標ポイントまで7秒!」

「機関一杯!」

「機関一杯!ヨーソロ―!」

 

CICで補佐の役割をしている砲雷長妖精から報告が入る。

「みらい」艦橋では指示と報告が入り乱れていた。

そして5秒後、CIWSが動き、発砲する。

 

『艦橋、CIC!砲雷長より報告!敵爆撃機、爆弾投下後CIWSにて迎撃!敵弾、本艦の主砲に直撃するラインです!』

「総員衝撃に備え!」

 

そう言った後、友成はウィングに出る。

 

「艦長!?」

 

みらいが叫ぶが、もう遅かった。

 

「如月ー!退避しろー!」

 

友成が叫んだ後、敵の爆弾をCIWSが127mm主砲付近で迎撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの鎮守府に第三水雷戦隊は帰投していた。

 

ゲートが開くと鎮守府で待っていた艦娘達と先に帰投していた「みらい」の幹部たちが拍手で出迎えた。

 

「金星を取ったそうではないか!よくやったの!吹雪!」

「すごいのです!」

「その通りだよ!」

「よくやったな。」

「流石は頑張っただけある!」

 

利根、電、響、菊池、尾栗が吹雪を激励する。

 

「皆さんのおかげです!本当に、ありがとうございました!」

 

吹雪は深々とお辞儀をした。

その後ろで睦月は誰かを探していた。

 

「・・・・・四水戦の皆さんと工廠長さん達は、まだ?」

 

その言葉を聞いて利根を筆頭に事情を知るものたちの顔が少し暗くなる。

 

「あぁ、まだじゃ。」

「どうやら機関関連に問題が発生してな。遅れているんだ。」

「一応、通信は出来ていたから問題はない。」

 

利根と菊池、角松が事情を話した。

 

「分かりました!」

「睦月ちゃん?どこ行くの?」

 

いきなり駆け出した睦月に吹雪が尋ねる。

 

「岬!一番最初に、如月ちゃん達をお迎えしたいの!」

「待って!私も!」

 

そういうと吹雪も睦月を追って岬へと走り出した。

その様子を利根達は神妙な面持ちで見ていた。

 

「(それでいうんだ!大好きです、ありがとうって!きっと如月ちゃん、最初は驚くよね!でもきっとその後、すっごく照れて・・・笑ってくれるはず!そうだ!工廠長や、みらいさん達にも言ってあげよう!)」

 

その様子を想像した睦月は笑顔で走った。

その後姿を見ている利根と梅津、角松、尾栗、菊池、神通が話す。

 

「言っておらんのか?」

「まだ確定していない上に状況が分からない以上、無駄に伝えるのは良くありません。」

「梅津艦長の言う通り、変に希望を崩すのは害でしかない。」

「じゃが、その方が残酷なこともあるぞ?」

「だが、一番の問題は『みらい』と連絡が取れないことだ。」

「『みらい』の精度から考えれば問題はない。だが・・・・。」

「私も・・・信じたくないんです。友成君の乗る『みらい』が・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、ご報告いたします。本日1542。W島沖56㎞の海域にて、イージス護衛艦『みらい』及び駆逐艦『如月』、敵艦載機の爆撃により『みらい』は大破炎上、『如月』は爆風で岩礁に衝突、機関大破。夕張達が救助に向かうも霧先少佐が敵艦隊に襲われた場合の絶望的戦闘を回避すべく撤退命令を下し、上官指示で救助を断念。10分前に、新たにこの世界に現れたゆきなみ型護衛艦一番艦『ゆきなみ』と潜水艦『伊152』と共に当該海域を離脱しました・・・・・・・・。」

「形式上の報告は分かった。彼らの生存は?」

「目撃証言とあの近辺の深海棲艦の量から、霧先少佐以下、みらい、如月の帰還は絶望的と判断します。」

 

長門の報告を聞いた提督は黙り込んだ。

 

「提督・・・・・どうなさいますか?」

「せめて・・・せめて戻ってきてから半日は待ってやれ。それを越えたら・・・・彼女たちに報告だ。」

「了解しました。」

「少し・・・一人にしてくれ。」

「・・・・・失礼しました。」

 

長門が退出すると提督は「W島攻略作戦用資料」を取り出した。

それも全く同じものが二つも。

 

「・・・・・『みらい』達の存在を許さないからと言って・・・・・自分たちの手で堂々とやらず・・・・欺瞞をし、彼らの母国を守りたいという思いを悪用し、高みの見物を決め込むのが日本国海軍のやり口なのかぁ!!」

 

提督は怒りに任せて書類を投げ捨てた後、机を殴りつけた。

その投げ捨てられた書類は殆ど同じことが書かれているが、今までに深海棲艦を確認したポイントが掛かれた位置が少し違っていた。

その違っていた場所こそが梅津一佐指揮の「みらい」と三水戦が軽空母ヌ級と出会った場所だった。




みらいをアニメ基準に割り込ませるの大変です・・・。
轟沈はこの小説にはない。(断言)

次回「私たちの出番ネ!Follow me!」
彼女たちは辛い現実に目を背けないことが出来るのだろうか。


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第参拾睦戦目「私たちの出番ネ!Follow me! 上」

W島攻略作戦が成功して友成達が行方不明になってから3日が経った。

鎮守府にはいつも通り朝が来ていた。

吹雪は少々うなされながら起床し、一欠伸。

すると三段ベットの上からカーテンを開ける音が聞こえた。

 

「睦月ちゃん?」

 

吹雪が見上げるが顔を出していたのは夕立だった。

夕立は黙って首を横に振る。

 

「そっか・・・睦月ちゃん、今日も・・・。」

 

夕立と吹雪は窓の外を眺めた。

外からは太陽が朝だということを知らしめるように辺りを照らし始めていた。

その照らされている中で睦月は一人、埠頭で未だ帰らぬ妹と上官達を待ち続けていた。

 

 

 

 

 

遡ること3日前の鎮守府の運動場では海自関係者と先代神通、ゆきなみ、蒼龍、翔鶴、赤城、天城、加賀、土佐、扶桑型の伊勢、日向、綾波、工廠関係妖精、明石、夕張、第三水雷戦隊が呼び出されていた。

海自関係者の一部と真相を知るもの以外は何があったのかと騒いでいる。

そこに提督と梅津一佐が現れ静まる。

 

「・・・総員敬礼!」

 

角松の声と共に全員が敬礼をする。

そして、提督が話し始めた。

 

「先日行われた作戦で、我々は無事、勝利できた。・・・・・・だが掛け替えの無いものも同時に失ってしまったかもしれない。」

 

提督の言葉に真相を知るもの以外の全員が驚いた。

 

「先日の作戦で・・・霧先三佐とみらい、如月と妖精たちを含めた『みらい』乗組員は未だ、帰還していない。」

「嘘・・・・。」

 

提督の声に誰かが言葉を漏らした。

ここで初めて聞かされた者は顔をどんどん青ざめさせる。

 

「半日しても戻って来なかった以上、霧先三佐以下総員は・・・・・・・戦死したものと判断する。尚、捜索は霧先三佐の意向で打ち切られる。これ以上、無駄な犠牲は出せない。」

 

提督が言うと先代神通が倒れる。

それを川内が支えた。

 

「ねぇ・・・・姉さん。冗談でしょ?友成が戦死だなんて・・・。」

 

先代神通は悲しみに満ちた顔で姉の川内に詰め寄った。

姉である川内は声を振り絞って言った。

 

「ごめん・・・神通・・・・本当にごめん・・・・・・・!」

「嘘・・・・嘘・・・・・。」

 

川内は泣きながら神通を抱きしめた。

 

「私だって助けたかった・・・・!自分の甥を見捨てたくなかった・・・・!でも、友成は・・・・・自分のせいで他の人を巻き込むのは嫌だって・・・!」

「なんで?どうして?・・・・・良二さんの事は受け入れられた・・・・・けど・・・・どうして友成までぇぇぇぇ・・・・。」

 

必死に涙ぐんで妹を抱きしめる川内と大声で泣く先代神通。

彼女の悲痛な叫び声は鎮守府内に木霊した。

彼女だけではない。

友成と親しかった艦娘も大声をあげて泣いた。

 

「本当に・・・・申し訳ない・・・。」

 

提督は深く制帽を被りそういった。

 

 

 

 

 

これが三日前の事である。

この速報は青葉が出している「青葉新聞」なる鎮守府内新聞で伝えられ全員が知ることとなる。

そして事実を知った艦娘達の中で重傷だったのは深雪、綾波、土佐、扶桑型の伊勢、先代神通だった。

この全員が何かしら大きいショックを受けてしまったのだ。

 

「ねぇ、深雪ちゃん?少しでも食べないと。」

「・・・・・・・いらない、白雪姉。」

「じゃあ何が欲しいの?」

「・・・・・・・工廠長。」

 

どうやら友成に惚れていた部分が抉られたせいか食事はほとんど食べず、特型駆逐艦の部屋で籠りっぱなしだった。

 

 

 

「綾波姉、少しは外に出なよ。」

「ほっといて敷波・・・。」

「あんな奴のどこがいいんだか。」

 

曙がそう言った瞬間、綾波は鬼の形相で曙に掴みかかった。

 

「訂正しなさい曙!今すぐ!」

「いやよ!大体あんな奴なんて!」

「もういいです、殴ってでも訂正させてやる!!!」

「落ち着きなって綾波姉!」

「そうですよ!漣も流血沙汰はマジ勘弁ですよ!」

 

曙が友成を諭したことが綾波の逆鱗に触れ、普段の彼女らしからぬ言葉を言った後殴りかかろうとした為、一緒にいた姉妹が止める。

途中、角松、尾栗、菊池が様子を見に来て止めるまで揉め事は続いた。

 

 

 

「土佐?」

「・・・・・・。」

 

一方土佐も重傷だった。

友成が戦死したとされたという事が伝えられた後、部屋に戻った彼女は真っ先に倒れ二日間意識不明だった。

 

「ふふっ、工廠長、カッコいいです・・・。」

「土佐・・・・。」

 

土佐は誰もいない壁に向かって話しかけていた。

恐らく彼女の精神防御行動なのだろう。

そこにいない友成を作り出すことで脳が精神の崩壊を防いでいるのだ。

 

「・・・・・友成、早く戻ってきなさい。神通さんの息子であるあなたが簡単に死ぬわけないでしょう・・・。」

 

加賀はただ、友成の帰りを待つことしかできなかった。

 

 

 

「神通・・・・・。」

 

川内は自分の妹である先代神通を見つめていた。

彼女は自分と友成の並んでとった写真を見つめていた。

その彼女の目には明らかに光が宿っていなかった。

 

「友成・・・・・。」

 

愛した夫にも先立たれ最愛の息子までも自分の元からいなくなってしまったことが相当応えたのか息子の名を譫言の様に呟きながら写真に映っている友成を指で撫でていた。

 

 

 

「伊勢?」

「扶桑姉さん・・・。」

「またその写真を見ていたの?」

 

伊勢が手に持っている写真立てに入っているのは伊勢と友成が写っている写真だ。

偶然近くを通っていた友成が写り込んでいて青葉から二枚買い取ったのだ。

一枚は飾るために、もう一枚はお守りとして何時も懐に入れている。

 

「うん・・・・これを見ていると、友成君が近くにいる気がして・・・・。」

「前向きね。」

「友成君が死ぬわけないもん。」

「前向き思考な妹をもって嬉しいわ、さぁ今日の演習は伊勢と日向よ。」

「ほいほーい。やっぱり同じ名前は慣れないなぁ・・・。」

 

そう言って部屋を出ていく伊勢はかなり軽傷に部類されるだろう。

当初はかなり落ち込んでいたが今ではかなり回復している。

伊勢だけではない。

蒼龍、翔鶴、天城、日向もショックを受けていたが今は回復して友成の生存を願っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

これが現在の横須賀鎮守府の現状だ。

三日たった今は生存の見込みがないがそれでもほとんどが友成の生存を願っていた。

一方、提督は作戦指揮室で地図を広げていた。

前回の反省点を踏まえて次の作戦を練っている。

そこに長門が書類を持ってやって来た。

 

「夕張からの最終報告書です。隊から行方不明者を出したのを相当悔やんでいるようです。」

 

長門が提出した報告書は水滴が乾いた跡がいくつもあった。

恐らく夕張は泣きながら報告書を書いてたのだろう。

 

「W島海域解放と引き換えに特殊兵装艦一隻と海軍軍人一名、艦娘二名に

妖精多数・・・今後の事を考えれば少ない犠牲だ・・・。」

「提督、失礼ですが嘘をつくときは決まって蟀谷を掻きますよ?」

 

長門の言葉に提督は少し黙る。

 

「今度は南西海域だ。友成の前例がある以上、海上自衛隊に無理に協力を要請することはできない。それにこの作戦を・・・・止めることはできん。止めれば世界は終わりだ。」

 

一方教室では座学の時間の終了を告げる鐘が鳴っていた。

 

「ふぁぁぁぁぁ・・・・やっと授業終わったぽい~。」

 

授業に疲れた夕立は机に突っ伏した。

 

「みっともないわね!そんなんじゃ一人前のレディなんて程遠いわよ?」

「いや、これはかなり気持ちいいな。」

「響まで真似してるんじゃないわよ!」

 

暁は夕立を咎めるが妹の響も同じように突っ伏す始末。

 

「ん?ねえ電、そういえば今日の授業って何やったっけ?」

「んもう!雷お姉ちゃんはたるんでいるのです!今日は・・・何をしましたっけ?」

 

雷に至っては授業が頭に入っていないようで電に聞く。

電は雷にたるんでいると注意するが当の本人も思い出せなかった。

やはり仲間と上官の戦死が確定したことに慣れていないようだ。

 

「あれ?何かみんな元気ないね?」

 

全員が一気に唯一元気な睦月を見る。

 

「そうだ!皆で間宮さんの所にでも行かない?甘いあんみつでも食べたら、きっと元気出るよ!」

 

全員は隣に彼女の妹がいないのに元気に話す姿を不安そうに見た。

 

「む、睦月ちゃん!」

「なぁに?吹雪ちゃん。」

「あっ・・・・その・・・・・・・。」

 

普通に聞き返す睦月を見て吹雪は口ごもってしまった。

 

 

 

「私の言った通りでしょ?」

「あぁ、士気がかなり落ちている。あれでは誰も、授業など頭に入ってないだろうな。それに中には精神的に参っている艦娘もいる・・・。」

 

足柄と那智は話し合いながら廊下を進む。

先日の作戦以降、友成達は戦死と断定され、それで士気が下がっていることを話っている。

そこに一人の艦娘が走って来た。

 

「那智姉さん!足柄姉さん!」

「あら羽黒。何か用?」

 

走って来たのは足柄たちの妹、妙高型重巡洋艦 四番艦「羽黒」だった。

 

「あの・・・駆逐艦の子達の様子は・・・。」

「足柄とも話したが、こればかりは時間か奇跡が解決してくれるのを待つしかないな。」

「そう・・・ですか・・・・それだけに、心苦しいです。」

 

羽黒は改めて姿勢を正して言う。

 

「吹雪ちゃんと島風ちゃんを秘書艦の長門さんがお呼びです。特別任務だと・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、吹雪は執務室に呼び出されていた。

物凄い汗をかいた彼女は緊張のせいか少し震えている。

 

「おう!おう!」

 

隣でオットセイみたいな声をあげるのは駆逐艦「島風」。

今回の作戦で吹雪と共に作戦行動を行う仲間だ。

 

「う、うぅぅぅぅぅ・・・・。」

 

未だ緊張で震える吹雪に陸奥が話しかける。

 

「大丈夫よ。」

「ふぇえ!」

「どうせすぐにそんなに緊張しているのが馬鹿馬鹿しくなってくるから。」

「うえ?」

 

陸奥の言葉に吹雪は頭に「?」を浮かべる。

 

「はぁ・・・。」

 

秘書艦である長門は頭を抱える。

 

「ねぇねぇ!それより任務って?」

「少し待て、全員そろって提督が戻って来られてから説明する。」

「全員?」

「えぇ、今回二人は金剛を旗艦とする南西方面艦隊に一時的に配備されるの。」

「よかった~一時的にかぁ・・・。」

 

まさか自分が第三水雷戦隊から外されるのではなかったのかと肝を冷やしていた吹雪は安堵する。が・・・。

 

「って!金剛さん!?えぇぇぇぇ!?」

 

吹雪は驚愕した。

実際彼女が目にしている金剛は凛々しい戦士だった。

そのため吹雪の脳内イメージの金剛はかなり美化されていた。

 

「あの人もカッコよかったなぁ~♪」

 

吹雪が頬に手を当ててにやけていると外から大声が聞こえてきた。

 

「テェェェェ!トォォォォォ!クゥゥゥゥゥゥ!!」

 

その叫び声と共に振動は大きくなり執務室前に来たとたん扉が勢いよく開け放たれる。

叫び声と振動、扉をあけ放った張本人は金剛型戦艦 一番艦「金剛」だった。

 

「バーニング!ラーブ!!」

 

そう叫んだ金剛は飛んで回転しながら執務室で作業をしていた大淀に抱き着いた。

 

「んー!チュッチュッ!テ―トク!・・・・あれ!?これはテ―トクじゃなくて、Oh!淀デース!?」

「大淀です。」

 

変な呼ばれ方をした大淀のツッコミがすかさず入る。

飛びつかれたときに彼女の眼鏡は緊急脱出したため大淀は眼鏡をかけていない。

 

「生憎、提督は席をはずしている。」

「Shit!でも次は負けません!テ―トクのハートを掴むのは私デース!」

「うぇ・・・?こ、金剛さん・・・・?」

 

吹雪には金剛の後ろに炎が上がっているように見える。

そのためか吹雪はどう対応したら良いのか、わからない様子だ。

 

「・・・・Oh!Youが噂のNewfaceデスネー?」

「あっはい!特型駆逐艦の吹雪です!」

「元気のいいGirlネー!でも元気の良さなら、私だって負けないネー!」

 

何を思ったのかいきなり吹雪に張り合う金剛。

元気の良さを見せるというが何をするのかというと・・・。

 

「金剛型一番艦!英国で生まれた帰国子女!金剛デース!」

「同じく二番艦!恋も戦いも負けません!比叡です!」

「同じく三番艦!榛名!全力で参ります!」

「同じく四番艦!艦隊の頭脳!霧島!」

「「「我ら金剛型四姉妹!」」」

「デース!」

 

どこから現れたのかわからない比叡、榛名、霧島と共に金剛は決めポーズを取る。

吹雪はあっけにとられ、長門はより強く蟀谷を抑える。

その横で陸奥は必死に笑いをこらえていた。

吹雪の金剛に対するイメージに、ひび割れが入った瞬間である。

 

「全く・・・何のつもりだ?」

 

少々お怒りのご様子で長門が金剛たちに聞く。

 

「それが・・・・遠征から帰還後の初任務ということで・・・・。」

「提督にアピールしようと、金剛姉さまのテンションが上がりまくりまして。」

「そもそも比叡達はいつからここで準備をしていた?」

 

もし訳なさそうに言う榛名と霧島にため息をつきながら長門は再び聞く。

 

「それはもちろん!コッソリ迅速に忍び込んで!」

「はぁ・・・・・・そんなことをするための高速戦艦ではないだろうに・・・・・・。」

 

もう怒る気力も失せた長門はただ溜息をついて突っ込む。

陸奥は吹雪に再び耳打ちをする。

 

「ほら、緊張するだけ無駄でしょ?これでも一航戦に並ぶエースなんだけどね。」

「うぅ・・ぅぅ・・・・ぅぅ・・・・。」

 

吹雪の中での金剛のイメージが粉々に砕け散った瞬間である。

 

「はぁ・・・・・。」

「おっ?全員そろったようだな。」

「て、提督!」

 

長門がため息をついたとき丁度、提督が戻って来た。

それに気づいた全員が敬礼をする。

提督は敬礼をした後、執務机の上に地図を広げる。

 

「よし、全員いるようだから作戦の説明をする。南西海域に眠る豊富な資源。今後激化する作戦に備え、何としても押さえておきたい・・・・・が、敵も能無しじゃあない。」

「深海棲艦も狙いは同じようです。戦艦二隻を中核とした艦隊の接近を確認しました。」

「大淀の言う通り、敵もここに狙いを定めている。これを要撃するために編成されたのが、お前達だ。」

「理由は現在、南西海域に発生中のスコールですね?」

「そうだ霧島。」

「つまり・・・一航戦のような航空戦力が使えないから・・・。」

「そうだ。高速戦艦の機動力を持って敵を撃滅する。だが理由はもう一つある。」

 

全員が「?」を浮かべる。

これ以外の理由が分からないようだ。

提督は静かに言った。

 

「3日経ったが、帰投はおろか連絡すらない霧先三佐以下『みらい』乗組員。彼らは戦死と断定され、海上自衛隊への協力要請が実質不可能となった。本作戦における我が艦隊の絶対的優位は消え去ったというわけだ。」

「500㎞先の艦影や航空機を捉える電探や対艦、対空墳進弾を発射できないということですか。」

「そうだ霧島、その為、本作戦ではお前達の機動力がカギとなる。何か質問は?」

 

提督が聞くと金剛と比叡が首を傾げる。

 

「WHAT?」

「「お前ら・・・・・・・。」」

 

提督と長門が額に青筋を立てて震える。

 

「要するに、遠くから一方的に攻撃できないなら、すごい速さで近づいて。」

「一気にドカーンっとやってしまえばいいというわけです!」

「なるほど!分かりやすい!」

「全く!頼りになる妹たちデース!」

「あぁ!良いな良いなー!」

 

提督と長門は霧島と榛名の要約に助けられたことを良く思ったが金剛と比叡の自由気ままさに頭痛を患うのであった。

 

「島風ちゃん、この任務どうなっちゃうのかなぁ?」

 

吹雪が気負っていると金剛に島風共々抱き寄せられた。

 

「ヘーイ!ブッキー!ぜかまし!」

「えぇ!?ブ、ブッキー!?」

「むぅ~私ぜかましじゃなーい!」

 

妙なあだ名をつけられたことに不満な島風と驚く吹雪だが金剛本人は気にしていない様子だ。

 

「心配しなくても!私たちがついているのでNo problemデース!」

「えっ?」

「もぉー!ずるいーずるいー!」

 

一気に騒がしくなる執務室で陸奥は必死に笑いをこらえて壁をたたき、提督と長門は深いため息をついた。

 

「作戦決行は明日。以上だ。」

 

提督がそういうがほとんどの者は聞いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう駄目・・・・疲れたぁ・・・・・・。」

「吹雪ちゃんお疲れさまっぽい。」

 

その日の夜、寮で吹雪は畳に倒れ込んだ。

夕立はその横で煎餅を食べている。

 

「まさか金剛さんがあんな人だったなんて思わなかった・・・・。」

「意地悪っぽい?」

「そういうんじゃなくてね・・・・。」

 

吹雪が説明しようとした時、部屋のドアが開かれた。

 

「ただいま。」

 

その声を聞いた吹雪は飛び起き、夕立は声のした方を見た。

部屋に入って来たのは睦月だった。

 

「お、おかえり~。睦月ちゃん今日も遅いっぽい。」

 

夕立と吹雪はそこか無理をしたような笑顔で迎える。

 

「えへへへ、御免ね。」

「睦月ちゃん・・・もしかしてずっと波止場にいたの?」

「・・・・えへ、すごいね。なんで分かったの?」

 

吹雪は今朝の事を思い出した。

 

「分かるよ。」

「えっ?」

「明日も・・・ずっと?」

「うん!だって、帰って来た時にだれもいなかったら如月ちゃんや工廠長さん達、寂しいでしょ?じゃあ、私もう寝るね?」

「睦月ちゃん!」

 

睦月が三段ベットのカーテンに手を掛けたとき吹雪が呼び止める。

 

「き、如月ちゃんと工廠長さんたちは!もう・・・・。」

 

泣きそうな声で言う吹雪に睦月は言う。

 

「吹雪ちゃんも早く寝た方がいいよ。明日、任務でしょ?」

「あっ!」

 

睦月はそう言ってベットに入った。

吹雪と夕立は心配そうに見つめ合った。




多分あと一話はみらい達の出番はありません。


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第参拾質戦目「私たちの出番ネ!Follow me! 下」

「教練対潜戦闘終了!」

 

一人の女性が海上でそう言った。

その女性は体にみらいと同じ、イージス艦を小さくした物を戦艦の様に装着していた。

その艤装には「180」と「ゆきなみ」という文字がライトグレーの艤装にに白で書かれていた。

そう、彼女はみらいの姉、ゆきなみ型護衛艦一番艦「ゆきなみ」だ。

 

「やっぱりこの体に慣れるのは時間が掛かるかなぁ?妙に肩が痛いし。」

 

腕をぐるぐる回すゆきなみ。

原因は一部の大きなモノだろう。

推定で最低Fはあるように見える。

 

「・・・・・今日もか。」

 

彼女は水平線を見たまま呟いた。

 

「まっ、待つのは慣れてるし、ゆっくりと待ちますか。」

 

そう言って陸に上がった。

その彼女に近づくものがいた。

 

「大丈夫なの?」

 

着物にミニスカ、深緑色の髪をツインテールに結った彼女は翔鶴型航空母艦二番艦「瑞鶴」だ。

彼女はやや不機嫌な表情でゆきなみを睨みつける。

 

「何がですか瑞鶴さん?」

 

ゆきなみは微笑みながら瑞鶴に聞き返した。

 

「みらいの事よ!あんた、なんとも思ってない訳?自分の妹とその上官が死んだかもしれないっていうのに!」

「なんとも思ってない訳ない!」

 

瑞鶴にゆきなみは掴みかかった。

 

「な、なによ!」

「あなたはいいですよね!自分の姉が目の前で沈んで分かるだけ!私は!・・・・・・1週間・・・1か月・・・・1年・・・・5年経っても妹は帰って来なかった!沈んだのかどうかもわからず唯々徒に時が過ぎていった・・・・・。やっと会えてすぐ戦死なんて認めたくない!」

 

ゆきなみは怒りと悲しみで顔がぐちゃぐちゃになっていた。

瑞鶴は今更地雷を踏みぬいたことを自覚したようだ。

ゆきなみが手を放しその場を去ろうとした時に瑞鶴が言った。

 

「・・・・・・・・貴方の気持ちを考えなかった私が言うべきではないけど期待すると後が痛いわよ。」

「・・・・・・・みらいは生きている。私はそう思うの。」

 

ゆきなみはそう言って去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方「みらい」ウイングにも人影はあった。

角松、尾栗、菊池の三人だ。

 

「菊池、砲雷科はどうだ?」

「短い期間とは言え、話したりすることもあったみらいと霧先の戦死判定はかなり隊員内で話題になっている。次は誰が死ぬかということもだ。」

「航海科もおんなじだ。友成の戦死が確定されてから皆自分のやりたいことをできるだけやるようにしているよ。」

 

菊池と尾栗の報告を聞いた角松はウイングの手すりに重心を掛けて考えこんだ。

 

「だが、今回の出来事は俺達にとっていい薬になったな。」

「何だと菊池!?お前は友成達が死んで良いと、本気で思っているのか!!」

「そうは言っていない!俺たちのいるここは異世界、しかも戦場だ。海上自衛隊でいられるのは自衛隊法と専守防衛に徹しているからだ。だが俺達は確実に軍人になっている。『第二艦隊』『W島攻略作戦』俺達は確実に実戦経験を積み、軍人になり始めている。だがこの世界では実戦経験だけでは生き残れない。分かったんだ、霧先の戦死がほぼ確定したのを聞いてから。俺達には仲間が死んだということを乗り越える力が必要になるんだ!」

「だからって友成達が死んだとは限らねえだろ!」

「現実を見ろ!主砲を跡形もなく消し飛ばされているんだ!ハープーンは8発、トマホークは3発、随伴艦なしの対艦攻撃手段がないイージス艦が深海棲艦の生息地を航海するなど自殺行為!戦死も妥当な判断だ!」

「だが、もしもがあるだろ!」

「戦場ではもしもは当てにならん!」

「そこまでだ!」

 

菊池と尾栗の互いに掴みあいの口論が激化しようとした時に角松が止めた。

二人は互いの服を離す。

 

「今は友成達の戦死について口論をするべきじゃあ無い。俺たちがやることは艦娘と我々の身をどうやって守り、あの日本に帰る手段を探すことだ。二人ともそのことを第一義に考えろ。」

「悪い洋介、少しヘリ甲板で頭冷やしてくる。」

「俺は資料室で今後の行動について考察してくる。」

 

尾栗と菊池は自分の頭を冷やすために角松に告げそれぞれの場所に向かった。

 

「俺達には仲間が死んだということを乗り越える力が必要になる・・・・か。」

 

角松は一人ウイングで菊池の言った言葉を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の朝、金剛型四姉妹と吹雪は出撃ドックに来ていた。

が、

 

「ムッキー!どうしてぜかましーは!いつまでたっても来ないんデスカー!!!!」

 

金剛は憤怒していた。

とっくに集合時間を過ぎているというのに一向に島風は現れないのだ。

作戦が決定して艦隊も決定している以上、急遽変更というわけにもいかない。

 

「い、今、霧島が指令室に連絡していますから・・・・。」

 

そう言ってなだめる比叡。

同じくなだめようとしている榛名と共に困った顔でいる。

 

「ブッキーは何か聞いていないデスカー!?」

「うぇ?わ、私ですか!?いえ!特別、何も・・・・・。」

 

遂に堪忍できなくなった金剛は吹雪に問う。

しかし、当の本人は島風はおろか、自分の姉妹を含め、他の駆逐艦全員と話したわけではない。

必ず何人かは哨戒に出ていたり、出撃したり、用事をしていたりするのだ。

そこに霧島が走って来た。

 

「お姉さま!大淀さんに確認しました!」

 

『間違いなく、任務を忘れていますね。何とか合流して任務に向かってください。ただ・・・以前は提督の私室のこたつに潜んでいたり・・・鳳翔さんの膝枕で眠っていたり・・・とにかく自由な艦娘なので見つかるのには少々手間取るかもしれません。提督には私から作戦の遅延の可能性を話しておきます。』

 

「とのことです。」

「島風ちゃんってばぁ・・・・。」

 

この一場面を見れば大淀が無責任と思うが彼女も通信員なので仕方ない。

 

「ウフ、フフフフ・・・・。」

 

突如笑い出した金剛は何かを思いついたようで、高らかに言った。

 

「それなら私にいい考えがありマース!」

「おぉー!」

 

どこかの某超ロボット生命体司令官が戦略立案で言えば100%失敗しそうな言葉を言い放った金剛を下の妹たちは凄いと思っているようだ。

が吹雪は心配していた。

 

「大丈夫・・・かなぁ・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「~~~~~~~♪」」」」

 

何をトチ狂ったのかいきなり運動場のど真ん中でコンサートをし始めた金剛型四姉妹。

吹雪は横でタンバリンを鳴らしている。

そこに第六駆逐隊がやって来た。

 

「あれはお祭りなのですか?」

「いや、違うと思うな。」

「楽しそうね!私たちもやらない?」

「じょ、冗談じゃないわ!一人前のレディはあんなことしないわよ!」

 

祭りと勘違いする電に響が言い、雷が姉妹を誘う。

だが長女の暁はレディのすることではないと言い、吹雪の羞恥心を煽る。

 

「もー!!これって何なんですかー!」

「Wow?分かりまセンカ、ブッキー?例えばclosedの部屋に閉じこもって出てこない人がいるとシマース。デモ、部屋の外でsing danceされたラ気になりますネー?そしてドアが開いたその瞬間。棒をねじ込んでドアをopen!外に引きずり出シマース!つまり・・・・梃の原理こそ最強デース!」

「結局ただの力づくになってますよ!?」

 

吹雪の言う通り唯の脳筋の考え方だ。

どこかの某元コマンドーの大佐並の筋肉論である。

どこかの某超ロボット生命体司令官の方が失敗しても構想がしっかりしているだけマシだろう。

 

「まぁまぁ、見つけるのが難しい以上、島風さんの方から出てきてもらう。さすがは金剛お姉さま!見事な発想の転換です!」

 

それでいいのか艦隊の頭脳といいたくなる面である。

 

「そんなにうまくいくのかなぁ?」

「Hey!ブッキー!それ以上は言葉にしなくても分かりマース!」

「えっ?」

「次はブッキーが歌いたいデスネ―?」

「「「おぉー!」」」

「全然わかってないじゃないですかー!」

 

ある意味この艦隊の常識人は吹雪だけなのだろう。

だがそう仮定すると四人が急激に残念な子に見えてくる。

 

「その通り!全然わかってないわ!」

 

普通の人ならこう思うはずだ。

「またお前か。」

至極当然だろう。

 

「黙って聞いていれば!たとえ相手が戦艦だろうと絶対に許さないんだから!」

 

現れたのは自称艦隊のアイドル那珂。

いっそのこと黙って聞いていて欲しかったが乱入したら仕方ない。

 

「那珂ちゃん・・・・。」

「この鎮守府のアイドルは!誰が何と言おうと!那珂ちゃん何だからね?」

「ですよねー・・・。」

 

吹雪は那珂に淡い期待を抱いていたがそんなものはすぐに崩れ去った。

 

「にわかアイドルになんか負けないんだから!」

 

ここで普通の人はこう思うはずだ。

「誰か止めないの?」

至極当然だろう。

だがここに集まり見ている艦娘達は殆どが飲食物をもって観戦する気満々なのである。

 

「さぁ!これを受け取りなさぁい!」

 

そう言って那珂が放り投げたのはマイクだった。

 

「聞いたことがアリマース!」

「知っているのですか?お姉さま?」

「貴族が手袋を投げるように、アイドルはマイクを投げて決闘を申し込むのデース!」

 

一体どこから手に入れて知識なのかを小一時間問いたい位だが置いておこう。

金剛はマイクを取ろうとするが颯爽と横から飛んできたものがかすめ取る。

それは霧島だった。

 

「マイク音量大丈夫?チェック、1、2、よし!問題ありません!はい、お姉さま。」

「Tha、Thankyouネー、霧島。」

 

霧島は何がしたかったのだろう。

本能が動いたのだろうか?

よくわからないがマイクを差し出す霧島になんとも言えない表情で金剛はマイクを受け取る。

 

「さぁ!これで決闘成立!アイドル頂上決戦開始よ!」

「Ye、Yes!私は逃げも隠れもシマセンヨー!那珂チャーン!」

「「「おぉー!金剛お姉さまー!」」」

「Hey!ブッキー、榛名、霧島!ここは私に任せて、先に行くデース!」

 

キリッと言う金剛。

時と場所が良いならカッコいいのだが・・・・。

 

「お姉さま・・・・。」

「ご武運を!」

 

榛名、霧島、吹雪は比叡と金剛を残してその場を去り、島風を探しに向かった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・あの・・・金剛さんたち本当に置いてきてもよかったんですか?」

「えぇ、お姉さまたちであれば何も問題はありません。」

「(この二人なら、なんか普通かも・・・・・。)」

 

榛名の対応を見て安心する吹雪だが・・・・。

 

「でも、霧島。どうやって島風ちゃんを誘い出すつもりなの?」

「榛名、ここは金剛型四姉妹の頭脳と呼ばれた私に任せてちょうだい。フッフフフフ・・・・・・。」

「うぅぅぅぅぅ・・・・・。」

 

早くも吹雪の予想は外れそうである。

 

 

 

 

 

「何かかわいい花咲いてるねぇ~。」

「そうですね。もちろん、北上さんの方がずーっと可愛いけど。」

 

花壇の前に設置された椅子に座って花を見ているのは北上と大井だ。

大井の方は「花より団子」ならぬ「花より北上」な訳だが。

 

「私の計算によれば女の子は92%の確率で女の子は甘いものが好き。」

 

そこに蝶が飛んできて北上をくすぐる。

 

「ふふっ、くすぐったいってばぁ。」

「もう、悪戯な蝶ね。・・・・・うぅ、羨ましい。」

 

大井の煩悩がダダ漏れである。

 

「ですが、それよりも好きなものがあります。それは甘い恋の話!」

 

「おぉ!大井っちも可愛いよ。」

「北上さん・・・・。」

 

大井は顔を赤らめる。

 

「さぁ!この甘い語らいに引き寄せられなさい、島風さん!」

「あの、さっきから何か?」

「お気になさらず。」

 

隠れて待つということを知らないのか霧島は正座して二人の前にいた。

当然、大井も睨んで聞く訳だ。

 

「そ、そろそろ行きましょうか北上さん。ね?」

「えぇ?」

 

二人は立ち上がってその場を去ろうとする。

 

「待ってください!場所を移動されると計算をやり直す必要が!!」

「済みません、急いでいるんです!」

 

どんな計算式で解くのか知りたいが、霧島は大井と北上を追いかけていってしまい、吹雪と榛名だけが取り残された。

 

「霧島の計算が外れるなんて!」

「えぇ!?」

「仕方ありません・・・榛名、いざ出撃します!」

 

そして出来上がったのは籠を棒で立たせて糸で結び餌に引っかかったところを糸を引いて籠に閉じ込めるという古典的な罠だった。

しかも籠が小さいうえに餌は金剛の写真集。

どこから入手したのかは分からないが引っかかるのは極々一部だろう。

吹雪と榛名は近くの建物の陰に隠れていた。

 

「お姉さま方や霧島と違い、非才な榛名にはこれが精一杯。ですが!これならきっと島風ちゃんも!」

「そうですね。」

 

棒読みで答える吹雪のハイライトがOFFになりかけているのは気のせいだと信じたい。

もはや金剛姉妹がやることに関して考えることを放棄したようだ。

その時榛名がひもを引く。

 

「掛かりました!」

「えぇ!!嘘ぉ!!!」

「ヒエェ!!」

 

うん、確かに大物がかかった。

だがしかし島風ではなく比叡だった、しかも満面の笑みで雑誌を銜えている。

 

「何しているんですか?比叡さん・・・。」

 

吹雪は冷ややかな目で比叡を見ていた。

無理もない。

職場の上司や学校の先輩がこんなことをしていればそんな目で見るようになってしまう。

 

「あぁいえ!違うの!体が、勝手に、動いて、ね?」

「分かります!」

「分かっちゃうんですか!?」

 

早口で弁解する比叡に榛名が同情する。

そこに切れのいい突っ込みを入れる吹雪。

突っ込みスキルが日々磨かれて最早突っ込み要員になってしまっている。

 

「そんなに興奮しちゃNoヨ!ブッキー。」

「あっ、ありがとうございます。」

 

吹雪は差し出されたティーカップを受け取るが。

 

「って!何してるんですか金剛さん!!」

 

優雅にティータイムを楽しむ金剛にまたしても吹雪の磨かれたつぅこみが炸裂する。

このまま吹雪が過度のストレスで禿げないか心配だ。

 

「うっかり今日のTea timeを忘れていたネー。」

「金剛姉さま、お手製のスコーンもここに。」

「大盛りでー!」

「はい!榛名、全力でいただきます!」

「あっ、いいにおい。私も食べるー!」

 

ごく自然に紛れ込む比叡と榛名、そして島風。

 

「ちょっ!こんな簡単に!?」

 

吹雪の苦労は一体何だったのだろうか。

彼女が育毛剤を手にする日もそう遠くないのかもしれない。

 

「んーおいひー!」

「美味しいです~。」

 

結局吹雪もティータイムに参加することとなり座っている。

その表情はどこか浮かない様子だ。

 

「ハーイ、ブッキー!アーンするデース!」

 

口を開け何かを言おうとした吹雪の口に金剛は無理やりスコーンを押し込む。

 

「むぐむぐ・・・・・美味しい!」

「さぁ、Tea timeの後は、深海棲艦とパーティーネ!」

 

 

 

その言葉通り、金剛たちは南西方面へ向けて出撃した。

一方、睦月は未だ埠頭で帰りを待ち続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、南西諸島に到着した吹雪たちはスコールに遭遇していた。

 

「わっ!す、すごい雨・・・・。」

「これでは確かに航空戦力の投入は無意味。速度に秀でた艦隊が編成されるわけです。」

 

霧島の言う通りこの状況下では視界も良好ではなく航空戦での勢力も落ちる。

こんなところに航空戦力を投入すれば全滅しかない。

 

「みんなおっそーい!」

 

そう言って島風は一人、速度を上げて艦隊から離れ始めた。

 

「島風ちゃん、先行しすぎです!」

「そうだ!旗艦は金剛お姉さまよー!」

「かけっこしたいの?負けないよー!」

 

比叡の論点がずれている気がするが置いといて。

榛名が注意すると島風はかけっこを始めた。

本隊から離れるのがどれだけ危険か理解しているのだろうか?

 

「人の話を聞け―!」

「フッフフ・・・。」

「やっとsmileを見せたネ、ブッキー。」

「うえ?」

「雨も滴るいい艦娘デース!」

 

金剛はそう言って島風を追いかけ始めた。

金剛たちが明るく馬鹿っぽくしていたのは吹雪を笑わせるためだったのだ。

彼女たちも仲間が戦死と聞かされて大丈夫なわけではないがそれをバネに壁を乗り越えているのだ。

深海棲艦もっと強大な、自分という敵に勝つために。

その時、艤装から警報が鳴る。

 

「水上電探に感あり。来ます!」

 

霧島の言葉の後、水平線から敵艦隊が現れた。

全員が締まった顔になり戦闘用意を行う。

 

「比叡!切り込み役は任せたネー!」

「任せてください!てぇぇい!」

 

比叡の言葉と共に爆発音が鳴り砲弾が発射される。

しかし初弾命中とはいかなかった。

 

「ル級の相手は私たちネー!」

「「「了解!」」」

「ブッキーとぜかましーは駆逐艦の足止めヨロシクネー!」

「は、はい!」

「はーい、ぜかましじゃないし・・・。」

 

金剛の適切な指示により吹雪と島風は駆逐艦の砲雷撃戦を行うことになった。

 

「撃ちマス!fire!」

 

金剛の放った砲弾は敵戦艦の向こう側と近くに命中し遠弾と至近弾判定、つまり夾差になった。

 

「初弾夾差!次は行けます!」

「OK!fire!」

 

榛名の報告を聞き、仰角を修正した金剛の放った砲弾が見事命中し敵戦艦にダメージを与える。

 

「流石金剛お姉さま。私も!行きます!」

 

 

 

「凄い・・・・。」

 

吹雪はさっきまで突っ込みどころ満載だった四姉妹の変貌ぶりと戦いぶりを見て驚いている。

その横を島風が連装砲ちゃんと駆け抜ける。

 

「連装砲ちゃん!おねがーい!」

「キュイ!」

 

泣き声を上げて応答した連装砲ちゃんは砲撃を開始する。

ピョンピョン飛び回りながら砲撃を行い敵駆逐艦が混乱しているところに島風が近づく。

 

「五連装酸素魚雷!行っちゃってー!」

 

島風から放たれた魚雷は敵駆逐艦に命中、撃沈した。

それを見た吹雪は進路を敵駆逐艦に向ける。

 

「私だって!大丈夫!この間は上手くできたんだもん!」

 

吹雪は敵の砲弾が当たらないようにジグザグ航行をしつつ砲撃を行い敵駆逐艦に近づく。

 

「いっけぇ!!!」

 

吹雪の魚雷発射管から放たれた6本の魚雷は見事敵駆逐艦に命中し撃沈した。

吹雪にとっては初の艦艇の成果である。

だが慢心とはこういうところで起きるのだ。

 

「やった!これならもっと!」

 

欲張った吹雪はさらに前に出る。

 

「吹雪ちゃん!前出過ぎ!」

「うぇ?きゃあぁ!!」

 

比叡が注意するも時すでに遅し。

吹雪に砲弾が命中。

中破状態になった、目に見えて損傷しているうえに速度も低下、足の郷も沈み始めていた。

 

「なに?あっ!」

 

吹雪は今、自分の間違いに気づいた。

そして目の前には敵戦艦が邪悪な笑みを浮かべて吹雪に狙いを定めた。

次々敵弾が夾差する。

吹雪が被弾するのも時間の問題だろう。

吹雪は走馬灯で残してきた親友を思い浮かべた。

彼女を残し自分も去ることになると思った吹雪は両膝をついた。

 

「いやだ・・・・いやだよぉ・・・・!」

 

吹雪はそう言うが敵戦艦は冷酷にも砲弾を発射する。

そして吹雪へとその砲弾が向かう。

が、突如割り込んだ金剛に殴られた事によって弾かれたその砲弾は別の方へと飛んでいった。

涙目になり金剛を見つめる吹雪に金剛は微笑みかけた。

 

「てぇぇぇい!」

「ここは、ひとまず私たちが。」

「お姉さまは吹雪ちゃんを!」

 

比叡、榛名、霧島は二人を守るため敵艦の注意を引きに行った。

 

「う、うぅぅぅわ、わたわた・・・・・・。」

 

必死に謝ろうとする吹雪を金剛は優しく抱きしめた。

 

「大丈夫、ちゃんと分かりますヨ。」

「(そうか・・・・・・そうなんだ・・・・・。)」

 

吹雪の心境を表すのかスコールも晴れ青い空が広がる。

金剛の手を取り吹雪は立ち上がった。

 

「あの、金剛さん!」

「一気に決めマース!」

 

そう言った金剛は姉妹達と合流し残存艦を殲滅しに向かう。

 

「Follow me!ついてきてくださいネー!」

「「「はい!」」」

 

金剛の言葉に妹たちは息のそろった返事をする。

 

「主砲!砲撃開始!」

 

榛名が発砲し数発命中する。

 

「比叡お姉さま、弾着修正右1,5、お願いします!」

 

霧島の指示を聞いた比叡は砲塔の向きを修正する。

 

「主砲、斉射!撃ちます!」

 

比叡の砲弾も命中し敵戦艦二隻が接触事故を起こした。

 

「「「お姉さま、止めを!」」」

 

三人が場所を開け、金剛が砲撃準備を行う。

 

「Burning Love!!」

 

金剛の砲弾が命中した敵戦艦は大きな爆発を起こし跡形もなく吹き飛んだ。

丁度島風も敵駆逐艦を殲滅した。

 

「こっちも完了だよー。」

 

「Hey!私たちの活躍、見てくれた?目を離しちゃNo!なんだからネ!」

 

そう言ってピースをする金剛に吹雪は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの鎮守府。

睦月は未だ妹たちの帰りを埠頭で座って待ち続けていた。

帰ろうかと思いその場を去ろうとした時、人の気配を感じて振り返る。

 

「如月ちゃん!?」

 

しかしそこにいたのは如月ではく吹雪だった。

 

「ただいま、睦月ちゃん。」

 

未だ中破状態のまま吹雪は微笑みかけた。

 

「おかえり、吹雪ちゃん・・・・って!大丈夫!?怪我は!?」

「ううん、全然平気だよ。」

「良かった、帰って来てくれて・・・・。ほら、早く休まないと、風邪ひいちゃうよ?」

 

そう言う睦月に耐えかねたのか吹雪は行動に出た。

 

「睦月ちゃん!」

「吹雪・・・ちゃん?」

 

吹雪は睦月を力一杯、優しく抱きしめた。

 

「急に、どうしたの?・・・・・・吹雪ちゃん、痛いよ・・・・離して、もうやめて・・・・。」

 

睦月が頼むが吹雪は離さない。

これは必ず乗り越えなければならないことなのだ。

 

「だって、痛い・・・・・すごく・・・・胸が痛いんだよ・・・・・。」

 

睦月は目に涙を浮かべながら吹雪から離れようとするができない。

次第に涙は溜まっていき・・・

 

「うぅぅうぅう・・・・・ヒグッ、如月ちゃぁぁぁぁぁぁん!」

「「うわぁぁぁぁ・・・・・・!わあぁぁぁあぁぁぁぁあ!!」」

 

感情があふれ出し二人とも泣いた。

大声で泣いた。

友成のいた平成の世の中では考えられないことが起こっている。

友や家族の戦死、それは戦争で起こり得ること。

その壁を乗り超えて彼女たちは一流の軍人へと成長するのだ。

その様子を見ている物がいた。

 

「吹雪ちゃん、睦月ちゃん・・・・貴方達は成長したのね。海自の私にはまだわからないわ。」

 

ゆきなみだ。

吹雪たちはもう踏ん切りをつけたというのに自分はできていないことを悔やんでいた。

 

「(私には友も家族もいない・・・・・このままみらいが戻らなかったら・・・・後を追うかもしれない。・・・・・・あすか、私は・・・・・なんでこの世界に来たの?)」

 

ゆきなみは自問自答をしながらその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、吹雪はいつも通り起床した。

ふと気になって睦月の寝ている段を見てみるがそこに睦月はいなかった。

(また戻ったのかな?)

そう考えた吹雪はどうしようかと考える。

その時声を掛けられた。

 

「吹雪ちゃん。」

 

吹雪が振り返るとそこには寝間着姿の睦月が立っていた。

 

「おはよ。」

「おはよ!」

 

睦月の挨拶に夕立は微笑み、吹雪は大きく返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして敵が鎮守府の索敵範囲内に侵入したことを知らせる警報が早朝の鎮守府に鳴り響いた。




次回「神の矢と神の盾」

壁を乗り越えた彼女たちは空襲を阻止できるのか。


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第参拾捌戦目「神の矢と神の盾」

何だかあっさりしてますがご勘弁を。


鎮守府は早朝から騒然としている。

海上自衛隊員たちは即座に起床し「みらい」へと向かう。

菊池がCICに着くとすでに夜間「みらい」監視員として居た妖精と自衛隊員がSPYレーダーを起動しスキャンを開始していた。

 

「砲雷長!スキャニング結果、深海棲艦の爆撃機と戦闘機が40機ずつの総勢80機の編隊です!距離50000!」

 

先に到着していた青梅一曹からの報告を聞いた菊池は歯を食いしばった。

そしてまだ対空レーダーに映る光点は接近してくる。

 

「LINK16起動!『ゆきなみ』と対空攻撃を行う!」

「了解!前甲板、後部VLSスタンダード、シースパロー、127㎜主砲への諸元入力完了!」

「CIWS迎撃開始!」

 

続々とやってくるCIC要員が対空攻撃の準備をしておく。

 

「砲雷長!敵空母と護衛艦隊は!?」

「まずは航空戦力が先だ!スタンダード発射!」

「前甲板VLS解放!スタンダード発射!!」

 

ミサイル発射要員の言葉と共に「みらい」前甲板VLSが解放、スタンダードが飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹雪たちは既に服を着替え廊下を走ってた。

 

「あっ!川内さん!」

 

吹雪は走っている途中川内を見つけた。

川内も妹たちと共に走っている。

 

「特型駆逐艦急いで!さっさと出撃するよ!」

「は、はい!」

 

第三水雷戦隊の面々は急いで出撃ドックへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!もう!ブンブンブンブン五月蠅いわね!!」

 

「ゆきなみ」艦橋ではゆきなみが艦を操作して対空射撃を行っていた。

 

「(いくら防空に特化した私や『みらい』でも残弾は無限じゃない。もしVLSや主砲が発射可能数に達したとき・・・・。)」

 

ゆきなみは艦橋からCIWSを覗く。

まだ射程内に敵航空機が来ていないためCIWSは動いていないが起動はしている。

 

「(残されるのはCIWSのみ。そのCIWSも装弾数は1550発・・・・・・連続発射じゃ20秒も持たない!)」

 

もともと艦隊単位で編成され運用されることを想定されたイージス艦。

たった二隻ではできる防衛行動も限られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵航空機未だ進行してきます!!!」

「緊急警報!127㎜主砲、連続発射可能数超過!」

「前甲板VLS、スタンダード残弾数ありません!」

「後部VLS、シースパロー残弾16発!」

 

敵は次々艦載機を発艦させる。

未だ艦載機が健在でありながら「みらい」に残された攻撃手段は無くなってきていた。

敵航空機35機はそのまま突っ込んでくる。

 

「(残るは前部と後部のCIWSと16発のシースパロー・・・・だがシースパローは同時に3発までしか誘導できない・・・・)」

 

菊池が解決策を考えていると続報が入る。

 

「『ゆきなみ』より入電!『我、対空兵器の残弾なし!これより主砲とCIWSによる迎撃攻撃に移行する!』」

 

ゆきなみも残弾がなくなり主砲とCIWSでの攻撃しかできない状況になった。

 

「敵航空機、本艦1,5㎞に接近!」

「CIWS迎撃開始!!!!」

 

菊池の怒声と共にCIWSが動き出す。

そして「みらい」を振動が襲う。

 

「ぐっ!一体何なんだ!?」

「本艦左舷に至近弾!敵戦艦の砲撃です!」

「敵空母二隻と戦艦に向けトマホーク発射用意!」

「前甲板VLS、トマホークへの諸元入力完了!」

「トマホーク、攻撃始め!」

「トマホーク、発射!」

 

菊池の指示の後トマホークも飛翔。

数秒後、敵艦隊のヲ級二隻を撃沈、戦艦ル級一隻を中破に追い込む。

しかしレーダー要員の顔は青ざめた。

 

「新たな敵勢力補足!艦隊数12!スキャニング結果・・・・・空母5、戦艦3、軽巡4!」

 

その報告に全員が恐怖した。

 

「終わった・・・・・勝てる訳がない・・・。」

 

菊池は眼鏡の位置を戻した後、無線を入れる。

 

「神通、聞こえるか?」

『はい、菊池三佐!今出撃しました!』

「俺たちの手には負えない。これ以上は援護などは無理だ。」

『そんな!』

 

 

 

「どうしたの神通!」

「菊池三佐から援護はできないと!」

「仕方ない!私たちでやるよ!」

「対空戦闘用意!」

 

神通の指示で全員が対空戦闘の体勢に入る。

 

「撃ち方はじめ!」

 

神通の声と共に砲撃が開始される。

いくつかは当たって落ちるが全然数は減らない。

 

「雷撃機一機逃したっぽい!」

 

夕立が叫ぶ。

睦月が見るとその方向には軍艦がいた。

 

「あのコースには『みらい』が!」

 

睦月が叫ぶがもう手遅れだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

丁度CICでもレーダー要員から報告が入る。

 

「敵雷撃機、接近!雷撃されます!」

「総員衝撃に備え!」

 

菊池が言ったのはただ一言だった。

全員が衝撃に備えて体勢を取る。

そして報告が入る。

 

「敵雷撃機撃墜確認!続けて空母5、敵戦艦3、軽巡3へ向けてトマホーク、ハープーン飛翔中、更に軽巡1に向け短魚雷確認!!」

 

その報告から数秒後、敵艦隊の光点は消え去った。

 

「敵艦隊撃沈確認!対水上目標なし!!攻撃したのは・・・・・霧先三佐指揮の『みらい』です!!!!」

 

その報告の後CICでは歓声が響き渡った。

 

「帰って来たんだ!!」

「生きてたぞ!迎えに行こう!!」

「まだ敵航空機が残っている!気を抜くな!!」

「「「「は、はい!!」」」」

 

菊池の一喝で全員が落ち着きレーダーを睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、残存航空機は横須賀鎮守府所属艦娘によって根絶やしにされ上空の安全は確保された。

鎮守府前の洋上では第3水雷戦隊が並んで警戒していた。

 

「・・・・・・あっ!あれ!」

 

吹雪が指をさした先には水平線の上に艦影があった。

良く見なれた艦影だったが明らかに足りないものがあった。

 

「主砲が・・・・跡形もなく・・・・。」

 

神通が言った通り、特徴的な127㎜単装速射砲が跡形もなく消失していた。

 

「さぁ、『みらい』を誘導するよ!」

 

川内に続き全員が『みらい』を誘導するため動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長、発光信号です。『我に続き入港せよ』との事。」

「よし、入港よーい!」

「入港よーい!」

 

「みらい」艦橋では戦死と思われていた二人、みらいと霧先友成が立っていた。

しかし友成の方は左目に包帯をまいて松葉杖をついている。

 

「艦長・・・・本当に休んだ方が。」

「大丈夫、入港してからゆっくり休むよ。」

 

そう言って友成は被っていた88式鉄棒を脱いで識別帽をかぶった。

 

「まずは重傷の如月が優先だ。機関、最大戦速。」

「了解!機関、最大戦速。ヨーソロー!」

 

「みらい」は艦首が海面を切り裂き、小さな波と航跡を出しながら横須賀へ入港していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投錨し、タラップを設置した「みらい」を自衛隊員と艦娘達は取り囲んでいた。

そこに松葉杖をついた友成がみらいに支えてもらいながら現れる。

 

「洋介、友成の奴・・・・・。」

「本当に戻って来たな尾栗。あいつはもう、ただの高校生じゃない。軍人だ。」

 

友成とみらいがタラップを降り切ると提督を筆頭に全員が敬礼をした。

友成も敬礼をして応えた。

 

「霧先少佐、只今「みらい」乗組員と共に帰還しました!!」

「よく戻ってくれた。すまん、私の不適切な判断のせいだ・・・・。」

「提督は悪くありません。全部正規な判断を下せなかった自分の・・・・せいで・・・・・。」

 

友成はそのまま力なく地面に倒れた。

 

「艦長!」

「工廠長!」

「友成君!!」

 

そこにいた全員が友成の安否を心配する。

みらいは即座に脈を測った。

 

「脈が弱くなってます!すぐに如月ちゃんと共に治療を!」

「如月は!?」

「艦内の医務室にいます、提督!」

「よし、神通、川内!お前達で友成を運べ!吹雪と夕立、睦月で如月もだ!」

「「「「「「了解しました!」」」」」」

 

現場は騒然となりながらも友成と如月を治すべく二人を運び始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・うっ・・・・。」

 

友成は目を覚ました。

彼の右目の視界には白い天井が広がっている。

 

「知らない天井・・・・・・じゃないよね、撃たれた時にもここ見たし。」

 

友成は周りを見る。

そこは彼が綾波に撃たれた時に運ばれた病室と同じだった。

 

「戻って・・・・・・来れたんだ・・・・。」

 

友成の頬を涙が伝う。

彼は生きて帰って来れた喜びを噛み締めていた。

明日生きている保証もなく、敵の陣地を航行している間張りつめた緊張の糸が切れたのだ。

1時間ほどたっただろうか。

ベットをリクライニングしてもたれながら体を起こした状態で窓の外を見ているとドアがノックされた。

 

「どうぞ。」

 

友成が言うとドアが開けられ明石と桃井が入って来た。

 

「明石さんに桃井一尉。」

「霧先三佐、相当無茶やったそうじゃないの。」

「うぐっ・・・・。」

「しかも左目を失明して右足を骨折、左手首は捻挫。さらには過度の疲労で体調を崩す始末・・・・。」

 

友成のカルテを読む明石は頭を押さえて桃井はヤレヤレといった表情で友成を見た。

 

「本当に申し訳ありませんでした・・・・。」

「謝るんなら私たちじゃなくこれから来る面会人に言いなさいよ。」

「面会人?」

「はい、理由は後で話しますけど・・・・気を付けてくださいね。」

「?」

 

桃井と明石の言葉をイマイチ理解できていない友成は頭に「?」を浮かべる。

 

「一応、高速修復材での治療は済ませてますので視力は回復しますが・・・。」

「1週間は最低でも安静にすること。いいわね?」

「はい、明石さん、桃井一尉。安静にします。」

「よろしい。じゃあ私たちはこれでお暇するわ。」

「あっ、工廠長の仕事は私と夕張さんでしておきますので。」

「本当に何もかもすみません。」

 

友成が頭を下げた後、二人は気を付けるように言って部屋を退出した。

 

 

 

それから10分後位後、ドアがノックされた。

 

「どうぞ?」

 

友成が言うとドアが開けられる。

入って来たのはくせっ毛のショートカットへアーに吹雪と同じ制服に身を包んだ深雪だった。

 

「よ、よう工廠長!ど、どうだ?」

「一時間前に起きたところだよ。まぁ、ちょっとだるい感じはするけどね。」

「そ、そっか・・・・。」

 

深雪は顔を俯かせながら友成の側に近づく。

 

「深雪?」

 

深雪は突然友成に抱き着いた。

 

「み、深雪!?ど、どうしたの!?」

「ウクッ・・・・よがっだ・・・・・いぎででぐれでぇ・・・・・!!」

「深雪・・・・・。」

 

友成は泣きじゃくる深雪を抱きしめて頭を撫でた。

そして30分程経ってから深雪が落ち着いたため話し始めた。

 

「落ち着いた?」

「・・・・・・うん。」

「心配かけてごめん。」

「・・・・・・今度一緒に寝る。それで許す。」

「ははは・・・・・治ったらね。」

「約束だからな!あと、白雪姉とかにばらすなよ?」

「分かったよ、ほかに用事は?」

「特にないかな?とりあえず、約束忘れんなよ。」

「分かったって。そんなに忘れん坊じゃないよ。」

 

友成の言葉を聞いた深雪は笑いながら。

 

「んじゃまたな!工廠長!」

 

そう言い残して病室を去っていった。

 

「結構心配させちゃったなぁ・・・・。」

 

友成はそう言って備え付けの水差しの水をコップに入れて2、3杯飲み干した。

そして少しゆっくりとしていると再びドアがノックされた。

 

「工廠長!綾波です!」

「いいよ。」

 

友成が応えてドアが開かれる。

ドアを開けた綾波はきちんと閉めてから敬礼をする。

 

「そんなにきっちりしなくてもいいよ。もっと気楽に。」

「は、はい分かりました。」

 

綾波は肩の力を抜いてから友成の近くの椅子に座る。

 

「工廠長、お体の具合はいかがですか?」

「気を失う前よりはいいよ。たぶん疲労が駄目だったんだろね・・・。」

「そうですか・・・・でも何とか鎮守府に損害は出ませんでした。」

「そっか・・・・よかったよ。」

 

友成が言った後、綾波は黙り込んでしまった。

突然前触れもなく黙った綾波を心配する。

 

「綾波?」

 

友成が声を掛けると綾波は顔をあげた。

その眼差しは凛としていて鋭かった。

 

「工廠長、私はあなたの事を艦娘としても個人としても尊敬しています。お力になれることがあったら何でもおっしゃってください。」

「え?う、うん。何かあったら頼むよ。」

 

突然の綾波の言葉に友成は驚くが特に気にしないことにした。

 

「それでは、綾波、失礼します!」

「うん、気を付けてね。」

 

立ち上がって退出する綾波に友成は気をつけるように言った。

綾波が出ていった後、友成は再び外を見る。

外では海鳥が呑気に飛んでいる。

 

「・・・・・何だか嫌な予感がする。」

 

その感は命中することとなった。

 

「ゆぅぅぅぅぅぅぅせぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「こ、この声は!!」

 

足音が響きドアの前まで来ると勢いよく開け放たれる。

その張本人は。

 

「やらせろーーー!!」

「わぁああああ!?」

「この痴愚姉!」

「ぶべら!!」

 

扶桑型の伊勢だった。

思いっきり友成にルパンダイブを仕掛けた。

しかし優秀な妹の回し蹴りが炸裂。

それを直に顔面に受けた伊勢は床に叩きつけられ鼻血を出しながら気絶した。

 

「全く・・・・すまないな。」

「いえ・・・・・伊勢さんは?」

「気を失っているだけだ。死んだわけじゃない。」

「それでも重傷だと思うんですが・・・・・。」

「まぁ、大丈夫だろう。」

 

友成が的確に指摘するが日向は特に気に留めていない様だ。

伊勢に姉の尊厳というものがないのがよくわかる場面である。

 

「ともかく君は傷を癒すことに専念してくれ。」

「あっはい。分かりました。」

 

「それじゃ。」と言って日向は伊勢の右足を掴んで引き摺りながら退出していった。

 

「伊勢さん大丈夫かな・・・?」

 

友成は伊勢の心配をした後、時計を眺める。

時間は既に1200になっていた。

 

「道理でおなかが空く訳だ。」

 

食堂に行きたいが絶対安静を義務付けられている以上動けないためどうしようかと首を捻って唸っているとドアが開けられた。

 

「工廠長!お昼ご飯をお持ちしました!」

 

入って来たのは食器を乗せたお盆を持った土佐だった。

お盆からはいい匂いが漂ってくる。

 

「あぁ、土佐さん。丁度良かったです、おなかが空いていたので。」

「少々お待ちください。」

 

土佐はそう言うと医療ベット用の机をもってきてその上にお盆を置く。

 

「はい、アーン。」

「えっ?」

 

突然の事で友成の脳は思考停止する。

お盆を土佐が置いたため自分の利き手の右手で箸を使おうとしたところ土佐がアーンをしてきたのだ。

まるで意味が分からんぞ!となっている友成はどう行動すべきか判断できない。

 

「・・・・・・・うぅ・・・。」

「!!」

 

土佐が涙目になった為友成は即座に食す。

 

「・・・・・うん、美味しいです。」

「あ、ありがとうございます!一生懸命作ったんです!」

「そうだったんですか。」

 

友成が食べてくれたので一気に表情が明るくなる土佐。

どうやらこの料理は彼女が作ったようだ。

 

「じゃ次はこの肉じゃがを・・・。」

「はい!アーン。」

「アーン・・・・。」

 

このやり取りは一時間ほど続いた。

そして一時間後、土佐は食器を片付けるために退出し、昼食を終えた友成は暇で仕方ないため呆けていた。

 

「・・・・・・。」

 

はたから見れば相当な阿保面をしているが本人は気にせず呆け続ける。

意外とそれがいいのだろう。

その時、ドアがノックされた。

 

「どちら様?」

「ゆきなみ型護衛艦一番艦『ゆきなみ』と『伊152』です!」

「どうぞ。」

 

ドアを開けて入って来たのはみらいの姉、ゆきなみと過去にみらいを助けた伊152だった。

 

「始めまして霧先艦長!改めましてゆきなみです!」

「伊152です。」

「みらい艦長兼横須賀鎮守府工廠長、霧先友成少佐です。」

 

敬礼をしてきたゆきなみと伊152に敬礼をした友成は自己紹介をする。

 

「お二人とも、どうかしましたか?」

「いえ、一言お礼を言いたくて。」

「お礼?」

「この度は私の妹を指導し生存させていただき、ありがとうございます!」

「私からも、ありがとうございます。」

「い、いえ!特段何かをしたといったということは無いのでお二人とも頭をあげてください!」

 

ゆきなみと伊152は頭を下げる。

友成は慌てて頭をあげるように言った。

 

「フフッ、やっぱりみらいの言う通りの方ですね。」

「え?みらいが?」

「はい、とても優しく気のいい魅力的な男性だとお聞きしています。」

「え、いや・・・・そんなことは無いですよ伊152さん・・・・。」

 

自分が煽てられ恥ずかしいのか赤面した友成は恥ずかしそうに言った。

 

「他にもですね・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

そのまま三人の会話は続き、結局日が暮れるころになるまで続いた。

 

「あっ、いけない。もうこんな時間。ゆきなみさん。」

「あっ、本当だ・・・。ではそろそろ失礼します。」

「うん、僕もいい暇つぶしが出来たよ。」

「「失礼します!」」

 

二人は敬礼した後一言言って退出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、誰かが病室のドアを開けた。

 

「友成?」

 

入って来たのは先代神通だ。

母の姿を見た友成はハッと元の顔に戻る。

 

「母さん、どうしたの?」

 

母に尋ねる友成だが彼女は黙ったまま近づく。

 

「母さん?」

 

先代神通は静かに友成を抱きしめた。

そして静かに泣いた。

 

「ただいま、母さん。」

 

そう声を掛ける友成に先代神通は泣きながら頷いて答えた。

そして泣きつかれ寝てしまった母と共に友成は一夜を過ごした。




次回「五航戦の子なんかと一緒にしないで」
思い付きが生んだ最悪の編成が最高の編成へと生まれ変わる事は出来るのか?


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第五遊撃部隊結成編
第弐休戦目「添い寝と思い」


筆の進みが悪いので番外編を・・・・。
来週までテストなので次は遅いです。
留年は避けねばならんので・・・・。


敵艦隊が横須賀鎮守府を強襲し、友成らがこれを撃退してから9日が経った。

夜も深まり始めた2100、午後九時。

「おい、パイ食わねぇか?」と黒で書かれた白地のTシャツにスウェットパンツ姿の友成は一人、工廠長室で書類をまとめていた。

本日の秘書艦は綾波だったが2000、午後八時に既に上がらせていた。

友成がまとめている書類、それはW島攻略作戦での戦況を記録したものと敵が現れた位置を記録したもの、使用した兵器、艦隊への損害、補給と修復に要した資材を算出したもの、そして友成達がどういう航路で帰還したか等を記入した報告書がまとめられていた。

 

「これでよしっと。やっぱり学校の授業ノートを自己流に纏めるより疲れる・・・・・。」

 

友成は纏めた書類をトントンと机で叩いて整えて、黒い表紙を前後に挟み、事前に開けた穴に紐を通して縛り、ファイリングしてから机に置く。

これは後に提督へ提出した後に資料室へ保管することになっている。

 

「・・・・・・昇進ねぇ・・・。」

 

友成はまとめた書類と別に置かれた書類を手に取って見る。

その書類には大本営の印が押されており重要書類であることは明らかだった。

そこには辞令と書かれており友成の名と彼が「W島攻略作戦」及び「横須賀鎮守府強襲」で戦果をあげ、戦死者を出さずに帰還した功績が認められ中佐へと昇進したことが書かれていた。

 

「あっという間に中佐かぁ・・・・・角松二佐でも防衛大学校をいい成績で卒業してかなり掛かるのにこんなポンポン階級が上がっていいものか・・・・。」

 

海上自衛隊は日本国海軍と違い訓練の成績や勤務態度云々が反映され昇進が決まる。

だが日本国海軍は成果をあげれば反映され早期昇進につながる。

だからおかしいことは無いのだが・・・・。

友成も完全には軍人になっていないということだろう。

友成が書類を眺めているとドアがノックされた。

時計を見ると2108、午後九時八分だ。

この時間に来るのは彼女しかいないと考えた友成は返事をする。

 

「開いているよ。」

 

ドアがゆっくりと開く。

入って来たのは寝間着姿の深雪だった。

少し顔を赤らめていて俯く彼女はかなり外見年齢相応に見えるだろう。

 

「この時間に来たってことはあの約束だね?」

「あ、あぁ。白雪姉たちには秘密でコッソリ来た。」

「そうなんだ。じゃあ隣の部屋に行こうか。」

 

友成は工廠長室に新しく取り付けられたドアを開けた。

そこは元々使われていない物置だったのだが、とある日の「謎の爆発」により工廠長室が吹き飛んだ際に友成が仮眠を取るための部屋としてリフォームされた。

中はシンプルな内装でベットと部屋の隅に畳が敷かれているだけだ。

二人は早速ベットに腰掛ける。

 

「僕も添い寝なんて久し振りだからうまくできないかもしれないよ?」

「久し振り?前に誰かにやったのか?」

「妹にね。父さんを亡くしてすぐの時だったよ。」

「あっ、ごめん・・・・。」

「別にいいよ。もう過ぎたことだからね。」

 

友成はベットに寝ころび一人分のスペースを開けた。

 

「おいで深雪。」

「・・・・うん。」

 

小さく頷いた深雪は顔を真っ赤にしながら友成の横に寝ころぶ。

友成の右腕を枕にして友成に抱きつくと友成が布団をかぶせた。

 

「電気消すね。」

 

友成はべットの近くに設置した棚に置いたリモコンを手に取り電気を消した。

もちろんこれは妖精さん製だ。

電気を出した後、深雪が友成に頼んだ。

 

「・・・頭撫でて。」

「お安い御用。」

 

友成は深雪の頭を撫でた。

頭を洗ったためかふんわりとした髪の毛を撫でる度にシャンプーのいい香りが漂った。

 

「・・・・・工廠長は、怖くないのか?」

「何が?」

「死ぬこと。」

 

深雪の頭を撫でながら友成は少し思案する。

だが回答はすぐ出たようで深雪に答えた。

 

「ここに来た当初は怖かったよ。だけど何度か戦ううちに慣れたかな?」

「本当に?」

「本当に。明日も今も存在することが決定づけられていない戦時だからかは分からないけど・・・・・多分、死ぬことを恐れることに麻痺し始めているんだと思う。」

「麻痺?」

「うん。W攻略作戦で負傷したときに目を潰されたんだけど・・・・・目の一つぐらいどうってことは無いって瞬時に考えた。その時に僕は思ったんだ。僕はあの平和な時代の・・・・21世紀の人間から大きくはみ出し始めたんだってね。」

「・・・・・・・。」

 

友成の言葉を深雪は静かに聞いていた。

そして友成は逆に深雪に聞いた

 

「なんでそんなことを急に聞いたの?」

「・・・・・私、前世で沈んだ後ここに来たんだけど・・・今でも怖い。いつ自分があの時みたいに沈むんじゃないかって思うと体が震えて・・・・!」

 

目に涙を浮かべ、友成の服を力強く掴む深雪を友成は優しく抱きしめた。

 

「ならこう思えばいいんじゃないかな?『自分は沈まない、必ず鎮守府に帰る。』ってね。」

「え?」

「気休めでしかないけど・・・僕は待つよ?深雪の事。」

「・・・・うぅ・・・・。」

「泣きたいなら泣いていいよ。吐き出したいだけ吐き出せばいいんだ。」

「うぁぁぁぁ・・・・・・工廠長・・・・・・・・。」

 

泣き出した深雪を友成は抱きしめながら撫でる。

友成の出す母性に余計安心したのか深雪は泣き続けた。

そして泣き終わるころには疲れて寝てしまった。

 

「・・・・・・深雪だけじゃなくでトラウマを抱えている艦娘はいるかもしれない。表に出さないだけでみんな捌け口を探しているかもしれない・・・・・・・・・。今回は大丈夫だったが・・・もし僕が見つけたときに力になれるのだろうか?21世紀の彼女たちの経験を写真や伝記でしか知らない僕が・・・・。」

 

友成はそのことを考えつつ横で安心した顔で眠る深雪を見た。

だが書類整理の疲れからか眠気に負けた彼は考えている途中に重い瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、色々脚色された青葉新聞が発行。

友成は軽蔑の眼差しを向けられた上に白雪を筆頭に、彼に好意を抱いている艦娘から事情聴取を受けることとなった上に誤解が解けるまで1日かかった。

因みに青葉は先代神通によってボロ雑巾にされてドックに放り込まれた。

一方深雪だが次の日の出撃でル級を撃沈するという輝かしい成果をあげた。

僚艦だった艦娘は「何故かキラキラしているように見えた。」と話している。



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第参拾玖戦目「五航戦の子なんかと一緒にしないで 上」

次は遅くなるといったな・・・・。
あれは嘘だ。
というわけで「第五遊撃部隊結成編」です。


友成が帰還してから二週間後。

第三水雷戦隊は作戦指揮室に呼び出されていた。

神通は言われたことを聞き返した。

 

「再編成?」

「あぁ、提督から正式に通達があった。第三水雷戦隊は現時点をもって解散、ほかの艦娘と共に新たな艦隊を編成する。」

「艦隊を・・・全て・・・・!?」

「その通りだ。」

 

川内の質問に長門は肯定する。

 

「そ、そんなぁぁぁぁぁぁ!!」

 

吹雪は驚愕し叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、吹雪達は異動の為に寮で荷物をまとめていた。

 

「良し!っと・・・これで全部だね。」

「うん!」

 

吹雪に応える睦月。

部屋には沢山の箱が積み上げられ、紐で開かないように縛られていた。

 

「でも、なんで急に再編成になったんだろ・・・・もしかして、私のせい?」

 

吹雪は二週間前の南西諸島制圧作戦で中破してしまい、それが原因で第三水雷戦隊の信用を無くして解散に追いやったのではないかと考える。

 

「ううん、ほかの艦隊にも解散が通達されたらしいし。」

 

そこにすかさず睦月のフォローが入った。

夕立は心配なのかうなだれる。

 

「次はどこの艦隊になるっぽいかなぁ・・・・怖い人と一緒だったらどうしよう・・・・。」

 

夕立がそう考えるのも無理はない。

実際、編成は基本的に提督が過去のデータから算出して行う。

これは特例がない限り、秘書艦にも秘密である。

が、工廠長、霧先友成は別だ。

彼は今現在、提督と共に作業を行っている。

というのも、彼の方が艦娘の情報量、損害状況や編成での成果の情報を有しているため今回、作業に呼ばれたのだ。

それを知らない三人は怖い人と一緒になった場合どうすべきかということが頭をよぎる。

 

「大丈夫だよ!それにまた、一緒の艦隊になれるかもしれないし!」

「そっか!そうだよね!」

 

少し悪くなった空気を睦月の前向きな考えで和らげる。

実際こういう空気では睦月が緩衝材となりいい空気に変えることが多い。

 

「それどころか、赤城先輩やみらいさんと同じ艦隊になっちゃったりするかも!」

「えぇ!?あ、赤城先輩とみらい先輩と?フ、フフッ」

 

睦月の言葉を聞いた吹雪は物凄くだらしない笑みを浮かべた顔で妄想の世界に入った。

 

『今日はよく頑張ったわね。助かったわ。』

『吹雪ちゃんのおかげで私も全力を出せるわ。ありがとう。』

『あ、ありがとうございますぅ~。』

 

赤城とみらいの二人に抱きしめられてなでなでされるという状況を妄想する吹雪。

 

「フッヘヘ・・・それほどでも~・・・。」

「吹雪ちゃん、ちょっとキモイっぽい~。」

「はっ!」

 

おっさんのような妄想を働かせる吹雪に夕立が一発突っ込む。

実際、傍から見たら頭の中がおめでたい残念な子に見えてしまうだろう。

突っ込まれた吹雪は即座に現実に戻ってくる。

 

「じゃあ、明日も早いからもう寝ましょ?」

「うん、そうだね。」

 

睦月の提案に吹雪は賛成し全員が寝間着に着替える。

 

「「「おやすみ~(なさい)」」」

 

挨拶をした後、消灯し周りは一気に暗くなる。

吹雪は中々寝付けず荷物が積み上げられた部屋を見ていた。

 

「ねぇ、吹雪ちゃん。あのね、睦月、こうやって吹雪ちゃんの上で寝るの好きだったよ。安心できて。」

「うん。私も、睦月ちゃんの下だとよく眠れた・・・。ありがとう。一緒の艦隊になれて本当に良かった。」

「うん・・・・。

 

「「あのね!」」

 

吹雪は起き上がり、睦月は上から逆さまに顔を覗かせ二人同時に言いだす。

その出来事がおかしかったのか二人は少し微笑む。

 

「ちょっとだけお散歩行かない?」

「うん!私もそう言おうと思ってた。」

 

 

 

 

 

 

 

二人は服を着替えて月に照らされた埠頭にやって来た。

暗い夜に月が輝き、その光が海面に映されて絶景になっている。

 

「わぁ・・・綺麗・・・・。」

「月が明るいからだね。」

「川内さんが見たらきっと喜ぶね。夜戦だー!って。」

 

楽しそうに雑談する二人。

しかしそこに乱入者が現れる。

 

「二人だけずるいっぽーい!!」

「夕立ちゃん!」

「寝てたんじゃないの!?」

 

二人が振り向いた先には腰に手を当てて頬を膨らませた夕立がいた。

どうやらご立腹のようである。

二人が寝ていると思い放置したのが原因だろう。

だが、二人に悪気がなかったことを知った夕立はもう怒っていなかった。

 

「最後だと思ったらちょっと眠れなかったぽい。」

「本当?夕立ちゃん、そんなこと全然気にしてないと思ってた。」

「んん!酷いっぽい!二人が寂しそうにしていたから言えなかったぽい!ね?」

 

夕立は再び頬を膨らませ怒り振り向いた。

そこには川内型三姉妹がいた。

 

「川内さん達まで・・・。」

「キャハ☆」

「おぉ!夜だぁ!!やっぱり夜は良いねぇ!血が騒ぐよ!」

「姉さん、夜戦に来たわけではないですよ。」

「分かってる。」

 

睦月が驚いていると那珂がポーズを決め、川内が騒ぐ。

そしてそれを妹の神通が咎めるといういつもの光景が出来上がった。

そして咎められた川内は吹雪と睦月に手を差し出した。

 

「手、出して。ほら。」

 

川内に催促され吹雪が手を出すと川内が掴む。

そして全員が手を掴むと輪が出来上がった。

 

「別々の艦隊になっても、この第三水雷戦隊で培った水雷魂は、ずっと持ち続けていましょう。」

「神通さん・・・。」

「なぁんか締まらないなぁ・・・・神通は真面目すぎるんだよねぇ、那珂!」

「おっ、はーい!えっとお、じゃあ・・・皆ぁ!新たな艦隊に行っても!水雷魂で頑張っていくぞぉ!」

「行きましょー!」

「「「「「「おぉ!!」」」」」」

 

夜の埠頭に第三水雷戦隊の面々の声が響いた。

そしてそれを離れたところから見る影がいた。

 

「これが絆っていうのかな?」

「そうでしょうね艦長。」

「二佐・・・・・・中佐?ともかくこんな時間に出てていいんですか?」

 

その影は89式を肩から下げている友成とみらい、ゆきなみだった。

 

「大丈夫、それに僕たちが守るものが分かるでしょう?ゆきなみさん。」

「守るもの?」

 

友成の言葉にゆきなみは頭を傾げた。

 

「あの笑顔です。今、僕や貴方達のいた日本がない以上、僕たちが守るのはこの日本と国民のほかに、あの笑顔とみんなが無事に帰って来られる場所でもあるのかもしれません。」

 

真っすぐと第三水雷戦隊の6人を見る友成の顔を見てゆきなみは微笑んだ。

 

「やはり貴方はみらいの艦長に適任です。」

 

そう言ったゆきなみは姿勢を正し友成に敬礼をした。

 

「ゆきなみ型護衛艦一番艦『ゆきなみ』、正式に貴官の指揮下に入ります!よろしくお願いしますね。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

友成も敬礼を締まった顔でする。

 

「私は除け者ですか~?」

 

そしてみらいの不満の声で二人はずっこけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、鎮守府では多くの艦娘が執務室前に集合していた。

一人ずつ呼ばれ、提督から所属を告げられるのだ。

 

「次、軽巡洋艦『夕張』。」

「はい!」

 

多くの艦娘がワクワクしている中で吹雪は落ち着かない様子だ。

どうやらかなり緊張しているようである。

 

「あぁ・・・どうしよう・・・・・。」

「次、駆逐艦『吹雪』。」

「は、はい!」

 

手をモジモジさせていると吹雪の名が呼ばれた。

吹雪は緊張から大きな声で返事をして執務室に入った。

 

「駆逐艦吹雪!参りました!」

 

吹雪はビジッと敬礼をする。」

 

「まぁまぁ、そう固くなるな。早速だが色々とすまんね、中佐の事件や南西海域への出撃、果てには私の不確認のせいで。」

「あっいえ!そんなことは・・・・。」

「今だけはそう言わせてくれ。本題だが・・・特型駆逐艦『吹雪』、本日をもって君を『第五遊撃部隊』に配属させる。新艦隊の元、上手くやってくれ。もし無理なら私か霧先中佐に変更の旨を伝えてくれ。次があるから退出してもいい。これが君の配属書だ。」

「あっはい!失礼しました!」

 

吹雪は配属書を受け取って退出した。

外で配属書を確認していると吹雪に睦月が声を掛けてきた。

 

「吹雪ちゃん、どうだった?」

「『第五遊撃部隊』・・・・。」

「凄い!新しく結成された特別部隊だよ、それ!噂では工廠長が監修したとか!」

「えっ?そうなの?睦月ちゃんは?」

 

事の内容を知らない吹雪は睦月の言葉に驚いた。

そして睦月の配属先を聞く。

 

「私は・・・第四艦隊。」

「そっか・・・・。」

 

違う艦隊で残念に思った吹雪は少し声のトーンを落とす。

そこに睦月がフォローを入れた。

 

「しょうがないよ。演習の時は、これからも一緒なんだしがんばろ?」

「うん・・・。」

「じゃあ私こっちだから。」

 

そう言って睦月はその場を走り去る。

吹雪は不安そうな顔で入っていく睦月の背中を見つめた。

 

「(そうだよね!頑張らなきゃ!」)」

 

しかし、ぐっとガッツポーズをとり意気込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと・・・・第五、第五・・・・。」

 

吹雪は配属書を頼りに艦娘寮内を歩いていた。

基本的に艦娘寮では姉妹艦、もしくはそれに準ずる艦娘と同じ部屋になるのだが艦隊に編成されているときは他の僚艦の艦娘と共同生活を取ることになっている。

そのため艦娘寮はかなり広く迷うこともあるのだ。

 

「あっ!あった。」

 

吹雪が見つけたドアには達筆で「第五遊撃部隊」と書かれていた。

 

「緊張するなぁ・・・・。」

 

緊張しつつもドアの前に立った吹雪はドアをノックした。

そしてドアを開けて中を覗く。

 

「あのぉ・・・・こんにちわぁ・・・・。」

「それでね?ここにお花を置いたらいいと思うの。それでこの壁に私と北上さんの写真を貼って・・・・。」

「いいんじゃない?」

 

吹雪を全力で無視する二人。

少々危ない発言をする大井とマイペースな北上だ。

 

「でもまた大井っちと一緒になれるなんて思ってもいなかったよ。」

「『運命』です!」

 

凄く良い言葉に聞こえるのだが実際は提督を脅している。

提督には「粉々にされた後、深海棲艦の餌にされたくなかったら北上さんと話さないでくださいね。」

と脅していた。

しかも黒いオーラバリバリで。

 

「何があっても二人は離れられない運命なんですよぉ~。」

「あ、あのぉ・・・。」

「そうそう、それでこのベットだけど・・・・。」

「あのー。」

 

少々危ない発言をする大井と流される北上に吹雪は声を掛けた。

二回ほど声を掛けると二人はようやく気付いたようだ。

 

「こんにちは。」

 

吹雪を見ると大井は不機嫌そうな顔になり北上は声を掛けた。

 

「あぁ、あなた確か特型駆逐艦の・・・・。」

「部屋を間違えているみたいね。ちょっと案内してくるわ。」

 

大井は北上の口を人差し指で抑えた後、吹雪を外へ引っ張り出した。

そして外に出てドアを閉めると黒いオーラを出し始めた。

 

「何の用かしら?」

 

相当二人の時間を邪魔されたのが気に食わなかったのだろう、声のトーンがかなり低く彼女が怒っているのがよくわかる。

 

「え?あっいや、今日からこの艦隊に・・・・・。」

 

吹雪が威圧されていると通りがかった人物が声を掛けた。

 

「大井さん!また北上さん絡みですか!!何度注意すればわかるんです!」

「チッ。」

「今舌打ちしましたよね!?」

 

通りがかったのは友成だ。

海自の幹部用作業服に「二等海佐」の階級章を付けた服装であることから明石の講習を終えた後の様だ。

 

「いい加減にしないと本当に北上さんと艦隊を離したり最悪解体もありえますよ?」

「うっさいわね!私たちの時間を邪魔しないでくれます?」

「一応僕は上官だけど・・・・まぁいいか、へっぽこ中佐だから気にしませんけど本当に勘弁してくださいよ?壁の破損等や始末書ならまだしも他の艦娘に怪我をさせるのだけは。」

「はいはい、さっさとこの子を隣の部屋に案内して。分かったら・・・邪魔しないでもらえます?」

 

大井はそう言い残してドアを強く閉めた。

ドアの向こう側では北上に対して猫をかぶる大井の声が聞こえた。

 

「「はぁ・・・・。」」

 

吹雪と友成は同時にため息をついた。

 

「さて、吹雪。隣の人にも挨拶をしよう。」

「工廠長は・・・何故ここに?」

 

吹雪が訪ねると友成は少し思案するような表情をしてから言った。

 

「・・・・第五遊撃部隊全員が揃ったら言うよ。ともかく挨拶をしに行こう。」

「あっはい!」

 

吹雪は友成の後に続いて隣の部屋に向かう。

友成がノックした後、二人は顔をドアから覗かせる。

 

「「あの~・・・。」」

 

「つまり、提督の編成が気に入らないってこと?」

「いいえ。私は唯、五航戦の子なんかと一緒になりたくないといっただけ。」

「ほう・・・随分ハッキリ言ってくれるじゃない。」

「嘘はつきたくないから。」

 

吹雪と友成は苦笑いをしながら「しまった!」と思っていた。

当然こんな険悪なムードのところに顔を出せばそう思う。

 

「嘘!?つまり一航戦の方が上だから五航戦の私とは一緒になりたくないってこと?」

「そうよ。それが?」

「ほう・・・。」

 

売り言葉に買い言葉とはこのことだろう。

遂にプッツリといった瑞鶴は椅子から立ち上がった。

 

「あ、あの!」

「瑞鶴さん!」

 

吹雪と友成が止めようとした時、二人の後ろから人が入って来た。

 

「瑞鶴。」

「翔鶴姉・・・・。」

 

それは瑞鶴の姉、翔鶴だった。

 

「やめなさい、加賀さんは一航戦の正規空母。私たちよりも艦隊にとって重要で力も上なのですよ?」

「でも!」

「良い?この前の戦いで私たちが活躍できたのも、すべて随伴艦の皆さんが頑張ってくれたおかげなのよ?」

「『随』伴?」

 

加賀の反応するところがおかしい気がするがおいておこう。

翔鶴が瑞鶴をなだめた後、加賀に向き直る。

 

「無礼、申し訳ありませんでした。今後とも瑞鶴をよろしくお願いします。」

 

お辞儀をして謝った後、翔鶴は部屋を出ようとした。

 

「頑張ってね吹雪ちゃん。友成君、妹がご迷惑をおかけします。」

 

そう言って翔鶴は部屋を退出した。

加賀の弱点らしきものを得た瑞鶴は悪い笑みを浮かべながらドカッと椅子に座った。

 

「よろしくお願いします。『随』伴艦さん。」

「少し、腹が立ちました。それで貴方達は?」

「え?あ、あえっと!部屋を間違えました!失礼します!」

「え?」

 

加賀に指摘された吹雪はとっさの事に驚き友成を残して部屋のドアを閉めた。

 

「・・・・・・・・アハハハハハ・・・・・ハァ。」

 

最初は瑞鶴と加賀に笑いかけていた友成だが、それはすぐに溜息へと変わった。

 

 

 

一方外では吹雪は後悔していた。

 

「どうしよう・・・・入りたくなくて、つい嘘ついちゃった上に工廠長を置いてきちゃった・・・・。」

 

吹雪が部屋の前で航海していると元気な声が響いてきた。

 

「Hey!ブッキー!」

「金剛さん・・・。」

 

そう、金剛だ。

金剛は吹雪に会うなりいきなり抱き着いた。

 

「What?どうしたんデース?」

「あの・・・実は私、今度この艦隊に所属になったんですが・・・。」

「Wow!Congratulations!私も一緒デスネー!」

「えっ!?金剛さんが・・・?」

「ヨロシクオネガイシマース!」

「金剛さんが・・・・・良かったぁ!良かったよぉ・・・。」

「Wow?如何したんデース?」

 

金剛が一緒の艦隊と分かった吹雪は金剛に抱き着いて泣き出した。

よほど親しい艦娘がいて嬉しかったのだろう。

 

 

 

そして全員が一室に集まり話し合うことになった。

 

「コレがNo.5遊撃部隊デスカー?」

 

全員が黙り込みどう見ても問題児の集まりにしか見えない。

 

「Tea timeにでもしますカ―?」

 

金剛の場違いな言葉に全員は黙ったままだ。

友成は溜息をついた後金剛に話しかけた。

 

「Hey Ms,Kongou. That is Improper. Now time is choose of No.5 raid forces housing assignment.」

「Oh. Sorry yusei. Then! Please everyone choose of No.5 raid forces housing assignment!」

「ごめん、なに言ってるかわからない。」

「これだから五航戦は・・・。」

「なら分かるの?」

「いいえ。」

「オィイ!」

 

瑞鶴の適切な突っ込みが炸裂する中、友成が訳を言った。

 

「僕が言ったのは『金剛さん、それは不適切です。今は第五遊撃部隊の部屋割りを決める時間です。』金剛さんが言ったのは『あぁ。ごめんなさい友成。さぁ!皆さん、第五遊撃部隊の部屋割りを決めてください!』です。」

 

「「「「「おぉ・・・。」」」」

 

友成が言った後全員が感嘆の声を漏らす。

 

「友成ならUKでもNo problemネー!To speak English very wellネー!」

「ありがとうございます。それよりもまず決めないと・・・。」

「早く終わらせてもらえます?そろそろ北上さんと食事に行きたいので。」

「でも、その前にちゃんと部屋割り決めなきゃ・・・。」

 

大井と北上の言葉を聞いた吹雪は発言した。

 

「あっ、はい!とりあえず皆さん荷物もありますし・・・。」

「私は五航戦の子とは別の部屋にして。それだけ。」

「私も一航線と一緒はお断りよ。」

 

加賀と瑞鶴はお互いを毛嫌いしているため一緒の部屋は御免の様だ。

 

「言っときますけど!私と北上さんが同じ部屋でなかった場合。61㎝四連装魚雷が黙ってませんけど良いですか!?」

「い、いやぁ・・・でも・・・・。」

「ぼ、僕は御免被りたいです・・・。」

 

大井の発言に吹雪と友成は後ずさりをする。

 

「これは中々funnyな艦隊デース!こうなったら皆、相撲でWinnerを決めるといいデスネー!」

「面白がってる場合じゃないですよぉ!」

「それにfunnyって『おかしい』なんかの意味を持つ形容詞でしたよね!?」

 

ガッツポーズを決める金剛に吹雪と友成のツッコみが決まる。

 

「と、とにかく・・・・。」

 

全員がここまで協調しない艦隊があっただろうか?いや無い。

 

「は、はは、はははは・・・・・。」

 

吹雪はただ苦笑うしかなかった。



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第肆拾戦目「五航戦の子なんかと一緒にしないで 下」

「はぁ・・・・・・・。」

 

友成はあの後工廠長室に戻り私服に着替えて溜息をついていた。

 

「あらぁ・・・溜息をつくと幸運が逃げるわよ?工廠長さん♪」

 

そう言って体を密着させて小悪魔な言葉を友成の耳元で囁くのは如月だ。

現在彼女は療養ということで予備戦力に回っている。

何故ここにいるのか?

答えは簡単、彼女は今日の秘書艦だ。

絶対安静が解けた途端友成のところに突撃し秘書官にしてほしいと懇願してきたのだ。

事実、みらい以外の秘書艦は扶桑型の伊勢、日向、翔鶴、土佐、天城、綾波、蒼龍、最近は深雪も加わりローテーションを組んでいる。

だが、みらい以外は全員自分から進んでやりたいと願い出てきたのだ。

如月もその一人でローテーションに組まれることになって現在に至る。

友成の溜息の原因はこれも含まれるかもしれない。

 

「幸運が逃げるならその原因を作らないでほしいかな・・・・。」

「こんなかわいい子に抱き着かれて嬉しくないなんて・・・まさか男色?」

「僕はちゃんと女の子が好きだけど?」

「あらよかった♪」

 

喜ぶ如月と未だ調子が良くない友成。

この対比はかなりシュールだろう。

 

「まぁ原因はこれなんだけどね。」

 

友成は一冊のノートを取り出し机の上に置いた。

そのノートには「編成案」と書かれていた。

 

「これは?」

「僕の考えた編成案。いろいろなものを参考にしたりしたんだ。」

 

友成はそう言いながら付箋が挟んであるところを開いた。

 

「あら、第四艦隊と第五遊撃部隊の編成・・・・。」

「そう。第四艦隊は輸送と遭遇戦を重視して五十鈴さんを旗艦に最上さんと睦月型二隻、吹雪型二隻で構成してみた。第五遊撃部隊はそれぞれの欠点を補う形で選んだんだけど・・・・。」

 

友成は言葉が詰まった。

事実、この編成はかなり良い。

吹雪のような駆逐艦は足が速く小回りが利き潜水艦や敵戦艦への雷撃も可能。

だが魚雷数が少ない上に装甲もない。

そこで重雷装艦の北上と大井の登場だ。

そこそこ速力もあり搭載数も多い。

しかしこの三隻は航空機に弱いうえ対水上レーダーやソナーが頼りになってしまい範囲が狭まる。

それを補うのが空母艦娘である瑞鶴と加賀だ。

瑞鶴は馬力が強い代わりに搭載数が少ないが加賀は馬力が劣る代わりに搭載数が多い。

互いの欠点を補うことでバランスが成り立つ。

更に金剛という戦艦の補助で砲撃戦もばっちりだ。

だがこれは感情を欠いた兵器としての話。

ノートにも注釈がある。

まず吹雪は実戦経験が少なくうまい戦闘は難しい。

加賀と瑞鶴はお互いを毛嫌いしているせいで連携などない。

北上は基本マイペースなうえに大井はこのシスコンぶりで他者を常に威嚇し暴力沙汰になりかけたこともある。

友成は揉め事仲介人をしているため特にこのことを知っている。

そして極めつけはどこかズレている金剛。

特に問題は無いのだが戦闘以外では何となくその場の雰囲気と違うことをしそうで怖い。

更には明後日までに旗艦を決めなければならないのだ。

友成は今回第五遊撃部隊の顧問的役割を担っている。

早い話、彼が直属の上官となり部隊を提督の次にまとめなければならないのだ。

そんな役割がある友成は幸先が思いやられていた。

 

「どうなるのかなぁ・・・・。」

 

友成はそうつぶやきながら座学の時間が終わるのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだぁ~~!!」

 

一方吹雪も第五遊撃部隊の面々のせいで机に突っ伏していた。

その近くには夕立と睦月がおり、心配そうに見ていた。

 

「そんなことがあったんだ。大変だったね。」

「う~ん、何だか部屋にいても落ち着かないし、皆なんかピリピリしてるし・・・。

「金剛さんと工廠長さんはなんて?」

 

吹雪は聞かれた後、二人の言葉を言った。

 

『何とかなるネー!!暑さ寒さも彼岸までネー!』

『とりあえず座学の後、少ししてからもう一度集まって。それから今後の事を考える。座学の間に心の準備もしておいて。』

 

「金剛さんの言葉意味わかんないよー!!工廠長も仕事に戻っちゃったし・・・・。」

「それで睦月ちゃんの艦隊はどんな感じっぽい?」

 

夕立は話題を変えて空気を良くしようとした。

 

「うん!睦月の艦隊には最上さんがいて・・・・。」

 

『僕でよければいつでも教えるよ。」

 

「いいないいな!いいなぁ~~!!」

「夕立ちゃんは?」

 

睦月は羨ましがる吹雪を脇目に夕立に尋ねる。

 

「夕立は那珂ちゃんと一緒だったぽくって・・・・。」

 

『『ぽいぽいぽいぽい♪』』

 

「いいないいな!いいなぁ~~!!」

「楽しそうでよかったね。」

 

吹雪はまるで駄々っ子の様に机を叩いて羨ましがっていた。

あの顔ぶれでこの差なのだから仕方ない。

睦月は夕立が良い艦隊で過ごせそうで喜んでいる。

 

「それに比べて私は・・・はぁ~・・・。」

 

座学の後、吹雪は甘いものが食べたくなり甘味処「間宮」に向かった。

 

「はい、お待たせ。いつもの二人は?」

「新しい艦隊の親睦会があるとか言って・・・。」

「そっかぁ・・・まぁ元気出しなさいよ。」

 

元気がなさそうに言う吹雪に間宮が励ました時、誰かが店にやって来た。

 

「いらっしゃい!」

「あぁ!赤城先輩!」

 

入って来たのは赤城だった。

それを見た吹雪は一気にキラキラし始める。

 

「いつものをお願いします。」

「はーい!」

 

赤城の注文を聞いた間宮は早々に厨房へと向かった。

赤城は注文をした後、キラキラしている吹雪に話しかけた。

 

「吹雪さん!聞きましたよ。加賀さんと同じ艦隊になったんですって?」

「あ、あっはい!そうなんです!正規空母の先輩と同じ艦隊なんて私光栄です!」

 

吹雪は即座に起立し、強張った表情になった。

 

「大丈夫?加賀さん、五好戦の子と一緒になって『心外だ。』なんて言ってましたけど・・・・。」

「あはは・・・・。」

 

しかしその表情も赤城の質問で苦笑いとなった。

 

 

 

「そうですか・・・そんなことがあったんですね。」

 

吹雪の説明を聞いているうちに特盛あんみつを平らげた赤城は手を合わせながら言った。

 

「私、あの艦隊が上手くいくなんてとても思えないんです。司令官、どうしてあんな編成にしたんだろう・・・。」

「分からないんですけど・・・恐らくFS作戦と友成君が関係しているんじゃないかと。」

 

赤城は今は確定してはいない、憶測の段階である情報を言った。

 

「工廠長と・・・FS?」

「えぇ、この前開始された反抗作戦の正式な名前よ。南方に確認されている二つの巨大な深海棲艦の駐屯地。その二つの駐屯地を繋ぐ航路を分断し無効化する。そうすれば、謎に包まれている深海棲艦がどこから現れ、何を目的としているのか、分かるかもしれないってそう言われているんです。ただ、作戦を成功させるには私たちの練度を高め、あらゆる事態に対応する力を身につけなければならない。そう、友成君が具申したのかもしれません。」

「だから司令官は・・・・。」

「あくまで推測ですけど。提督や立派な軍人の友成君が何の意図もなく艦隊を編成したりすることは無いんだと思います。何か意味があるのよ。」

 

赤城の言葉に納得がいった吹雪は見る見るうちに元気な顔になっていった。

 

「はぁ・・・・そうか!そうですよね!」

 

吹雪はアイスを頬張り食べ終わった後、赤城に別れを言って走り出した。

目的地は寮だ。

 

「(そうだよ!きっと何か意味があるんだ!)」

 

吹雪はそう考え一生懸命に走った。

 

「(周りを羨ましがって落ち込んでいる場合じゃない!頑張らなきゃ!赤城先輩やみらい先輩の護衛艦になるために!)」

 

そう決意した吹雪は勢いよくドアを開けた。

だがそこにいたのは加賀と瑞鶴、そして腹部と頭を押さえる友成と気まずい空気だった。

 

「それはどういう意味!?」

「フン。」

「ぐぎぎぎいいいいいいうぐぐぐぐんぎぎぎぎぎいいいいい!!」

「はぁ・・・・明石さんに胃薬と頭痛薬貰おう。」

「が、頑張らなきゃ・・・・・。」

 

吹雪と友成の未来は明るくなるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぎぎいいいいいい!!」

「・・・・・。」

 

犬のように唸る瑞鶴に対して加賀は気にせず書類を眺めていた。

友成は頭と腹部を押さえて吹雪は汗をダラダラかいていた。

 

「早く決めてくれる?」

「あの・・・これは何を・・・・。」

 

尋ねる吹雪に金剛と友成が答える。

 

「Oh!ブッキー!Flag shipを決めていたのデース!」

「フラ・・・旗艦ですか?」

「あぁ・・・加賀さんの売り言葉に瑞鶴さんの買い言葉でこの様だよ。」

 

金剛は頷き友成はやっと体の不調が治った様子で吹雪に説明した。

 

「そうなの。この艦隊で一番旗艦に向いているのは誰か・・・貴方はどう思う?」

「うぇ!?えぇっと・・・えっと・・・・えっと・・・・・・。」

 

全員の視線が注がれる中吹雪は考える。

だが誰も向いていないとはきっぱり言えなかった。

 

「あはは・・・難しいですねぇ・・・・。」

「何よそれ!」

 

瑞鶴の突っ込みが炸裂する中、金剛が口を開いた。

 

「やはり!戦艦であるMeが努めますネー!」

「金剛さんが?」

「Yes!」

 

吹雪の言葉に自信満々で答える金剛。

それに異を唱えるのは瑞鶴だ。

 

「英国帰りの帰国子女がいきなり務まるの?」

「(けど金剛さんって南西方面攻撃隊の旗艦だった気が・・・・。)」

 

友成の考えが正しい気がしなくもないがそれは別として。

加賀も意見を言いだした。

 

「私は辞退します。皆のレベルに合わせた指示を出す自信がないです。」

「ふっ、分かったわ!じゃあ私がやるわ。」

「それは反対。」

「どうしてよ!」

 

やはり犬猿の仲である二人はそりが合わないのか喧嘩に発展する。

延々と決まらないためにしびれを切らした大井が言いだす。

 

「戦艦と空母の先輩たちがちゃんとしないと安心して戦えないわ!北上さんに何かあったらどうするんです!?」

「軽巡だからって私たちに任せてちゃダメよ?」

「重雷装巡洋艦です!そんなこともわからないの?甲板胸が!」

「か、甲板・・・。」

「(あっ、これはまずいかも。)」

 

友成が思った時にはすでに遅く瑞鶴の逆鱗に触れてしまっていた。

 

「今なんて!」

「貴方のような未発達な艦に旗艦は務まらないわ。私がやった方がましよ!」

「えっ?大井っちが?嫌だな・・・・旗艦だと標的にされることも多いだろうし・・・。」

「北上さん!私の事をそこまで・・・・!いいわ、ならこの甲板胸に任せましょ!」

「待て!今なんてった!!!」

 

最早秩序や協力なんて言葉は無かった。

お互いがお互いに火に火薬とガソリンをぶち込む行為を行うため手が付けられない状況に落ちいっていた。

 

「あ、あのぉ・・・。」

「皆さん落ち着いて・・・・・。」

 

吹雪と友成が何とか落ち着かせようとするが金剛が声をあげた。

 

「分かったネー!では試しに一人ずつ旗艦をやってみてMVPがFlag shipになるデース!」

「うぇ?」

「・・・・それでいいんじゃない?一航戦と五航戦、どれほどの差があるかもわかるだろうし。」

「えぇ!?」

「そうね、今後の為にも自分の実力は知っておいた方がいい。」

「ええ!?」

「では決まりデスネ?ブッキー!友成!準備ヲ!」

「うぇえええ!?」

「トホホ・・・・また書類書かなきゃ・・・・。」

 

金剛の提案を効いた全員が納得した。

おかげで吹雪も流れで参加することになり友成は消費資材を報告する書類を書く羽目になり頭を抱える。

友成が提督に具申したところ、許可され正式に第五遊撃部隊は出撃することになった。

まずは金剛が旗艦で出撃だ。

 

「さぁ!ではまず私からデスネー!行くデスヨ!Follow me!」

 

と、意気揚々と出撃したはいいものの・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「艦長、爆発炎確認。SH60から全艦損傷の報告です。」

「はぁ・・・・ハープーン発射。敵艦隊を撃沈せよ。」

 

ここまで綺麗に失敗したことに呆れる友成は撃沈の指示を出す。

 

「了解、ハープーン諸元入力完了!ハープーン発射!」

 

みらいの言葉の後、ハープーンが飛翔し敵艦隊に向かう。

そしてハープーンは命中し敵艦隊は撃沈された。

 

「対水上目標ありません。」

「よし。伊152とゆきなみに通達。『敵艦隊に注意しながら護衛せよ』」

「了解です。」

 

そして第五遊撃部隊は第一特殊艦隊の「みらい」「ゆきなみ」「伊152」に護衛されつつ帰還した。

 

「うぅ・・・失敗したデスネー・・・。」

 

入渠ドック内の浴槽で金剛は腕枕をしながら突っ伏す。

全員仲良く入渠の様だ。

 

「作戦が強引すぎます。」

 

加賀の辛烈な言葉が飛ぶが仕方ないだろう。

一方北上は大井を気にする。

 

「大井っち、大丈夫?」

「うぅ・・・。」

 

どうやら大井も酷くやられたようである。

 

「だから言ったでしょ?次は私よ!」

 

瑞鶴の言葉の後、友成が許可した高速修復材が運ばれ全員が修復された。

そして今度は瑞鶴を旗艦として出撃することとなった。

 

「空母瑞鶴、抜錨します!アウトレンジで決めたいわね!」

 

結果は・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「爆発炎視認。全艦損傷です。」

「・・・・・・ハープーン発射。」

 

 

 

 

 

「はぁ・・・・。」

 

全員仲良く入渠である。

 

「結果は同じだったねぇ・・・・。」

「うううぅぅぅ・・・・・・。」

 

北上が言うと大井も肯定するように唸る。

また手酷くやられた様子。

ある意味で普段の罰が当たっているのかもしれない。

 

「アンタが指示に従わないからこうなったのよ!」

「明らかに間違った指示に従うわけにはいかない。」

「ほう?」

 

瑞鶴の指示が間違っていたにしろ、だからといって加賀の指示違反もどうなのかと思われる。

 

「やはり五好戦の子に任せておいたのが間違い。私がやる。」

 

そして高速修復材を使用し加賀を旗艦として再び出撃するが・・・・。

 

 

 

 

 

「爆発炎視認。全艦損傷です。」

「・・・・・。」

「・・・・ハープーン諸元入力完了。」

 

 

 

 

 

「やっぱりこのレベルに合わせるのは難しかったようね。

「初戦でいきなり中破したのはどこの誰よ!」

 

みんな仲良く入渠タイムと相成った。

そしてまた高速修復材が使用され出撃となる。

 

「じゃあ!次の方行くデスネー!」

 

 

 

 

 

「爆発炎確認。」

「書類・・・資材・・・・浪費・・・・始末書・・・・・・あばばばばばばば」

「か、艦長!しっかりしてください!」

 

 

 

 

 

「アー、次デスネー!」

 

 

 

 

 

「ば、爆発炎確認・・・・。」

「・・・・・。」

「か、艦長ーー!!!!」

 

みらいがゆっくり振り向くと友成は白目をむいて立った状態から後ろにぶっ倒れた。

 

 

 

 

 

「どうして上手くいかなかったんだろう・・・・。」

「指示がNothingデシタネー。」

 

北上の問いに金剛が答えた。

 

「私と北上さんは完璧だったはずなのに・・・・。」

「北上中心の輪形陣に一体何の意味があったんでしょう?」

 

あまりにもひどい陣形だ。

本来なら空母や輸送艦などが来る位置に重雷装艦を連れてきたも何の意味もない。

 

「はぁ・・・・・。ん?」

 

吹雪はただ溜息をつくしかなかった。

その時、加賀がタオルで何かしているのを見た。

 

「可愛い!ウサギですか?」

「・・・・赤城さんに教わったの。入渠している時間が長いから。いる?」

「あっ・・・・。」

 

加賀は説明した後、吹雪にタオルで作ったウサギを渡した。

吹雪は差し出されたウサギを手に乗せてよく見てみた。

 

「赤城先輩が・・・・。」

 

ウサギは小さく丸っこい可愛い形をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入渠後、第五遊撃部隊と何とか回復した友成は寮の部屋に集合した。

 

「こうなったら、提督に話してくる。」

 

瑞鶴は椅子から立ち上がりそう言う。

友成以外は全員瑞鶴の方を向いた。

 

「こんな状況で本格的な反抗作戦になったら、他の艦隊の足を引っ張るだけよ。編成を変えてもらうしかないわ。」

「funnyな艦隊デスケドネー。」

「ファニーかどうかじゃないでしょ?」

「そもそも、構成されているメンバーのバランスも悪いし、編成の再編成を提督に進言した方がいいかもしれない。」

「賛成です。」

 

瑞鶴が言いだすと加賀、大井、北上も賛成した。

 

「ま、待ってください!」

「なによ?反対なの?」

「反対っていうか・・・でも、せっかく新しい艦隊になったばかりなのに・・・・。」

「だからこそ早い方がいいのよ。どうしたって分かり合えない関係ってものは存在するの。そんなもの同士が近くにいても、互いにつらいだけでしょ?」

「・・・・・・でも。」

 

吹雪が机に手を伸ばした時にあるものに手が当たった。

それは加賀が作ったタオルのウサギだった。

 

「なにそれ?」

「えっ?」

 

瑞鶴はそれを手に取ってみる。

 

「可愛いわね。」

 

そう言ってよく見た後そのウサギを吹雪に返した。

 

「今度作り方教えてよ。」

 

そう言うと瑞鶴は提督へ具申するために外へ出ていった。

吹雪は加賀へ視線を向けた。

加賀は何ともない表情で座っている。

吹雪は手に乗ったウサギを見つめた後に友成を見る。

友成は小さく頷いた。

それを見た吹雪は瑞鶴を追いかけ部屋を出た。

 

「それで?貴方はなぜここにいるのかしら?」

 

吹雪が出ていった後、加賀は友成に聞く。

友成は静かに答えた。

 

「・・・・・僕がこの編成にするように提督へ具申しました。そしてこの艦隊の顧問になることを条件にそれは許可されたんです。」

「Oh!友成がMakeしたんデスカー?」

「はい。僕が編成しました。」

 

友成の言葉の後、大井が言葉を発した。

 

「ならなんでわざわざこんな編成にしたんです?もっとほかの編成があったでしょう?」

 

大井の質問に友成は溜息をつきながら識別帽を脱ぎ答えた。

 

「考えたらわかりませんか?それでは艦娘としてどうかと思いますが。」

「喧嘩売ってるのかしら?だったら買うわよ?」

 

その言葉の後、友成の何かが切れた。

 

「その好戦的な態度は良いです。ですがここは戦場!もしかしたら近くない未来に子の面々しか出撃できないかもしれない!その時あなた方が出撃できなければ終わりです!もしかしたら僕たちが帰った後かもしれない!いつ起こり得るかわからないんです!その時に・・・・貴方達が出なければ日本国民や提督、あなた方の姉妹の死を見るんですよ!!貴方達はそんなものを見たいんですか!!!」

「何を知った口で・・・・。」

 

大井のその言葉が友成の逆鱗に触れた。

彼女からしたら何となく出た言葉だが友成にとっては過去を掘り返す起爆材となった。

 

「貴方こそ・・・何を知った口で・・・・僕は目の前で父さんを殺された!犯人は捕まっても精神異常で減刑!刑が終わった後に妹も犯人に殺されかけた!・・・・・もう、誰も死なせたくないんです!僕は・・・・・・・。」

 

友成は感情に任せて言いたい放題行ってしまったことを悔やんだ様子で部屋を退出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹雪は部屋を出た後、瑞鶴を追いかけた。

幸いそんなに離れていなかった。

 

「瑞鶴さん!」

 

吹雪は瑞鶴を呼び止める。

呼ばれた瑞鶴は疑問符を浮かべながら吹雪の方を向いた。

 

「何?」

「私・・・・私やっぱり。この艦隊で頑張りたいです!始まる前にあきらめるなんて、やっぱり嫌です!!」

「吹雪・・・でも・・・・。」

 

瑞鶴は否定しようとしたが吹雪の怒りとも揺るがない意思とも見える表情を見て考え直した。

 

「あの・・・・・。」

 

瑞鶴が言いだそうとした時、怒鳴り声が聞こえ、少しした後に友成が部屋から出てきてドアを強く閉めた。

 

「友成?」

「工廠長?」

 

二人がどうかしたのかという表情で見ると友成は微笑んでいった。

 

「あぁ、何でもないよ。少し意見衝突しちゃってね。それより・・・。」

 

友成の言葉は鳴り響くサイレンの音で止められた。

深海棲艦が現れたのだ。

 

 

 

 

 

緊急招集がかかった第五遊撃部隊と第一特殊艦隊は出撃準備のために出撃ドックと埠頭に向かった。

 

「吹雪、少し出撃には時間がかかる。その間にできれば迎撃してくれ!」

「わ、分かりました工廠長!」

 

そう言った後友成は第五遊撃部隊と別れて走っていった。

吹雪も仲間にはぐれないように走って付いていき出撃ドックへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『偵察機より入電。鎮守府近海に敵深海棲艦雷巡チ級を旗艦とする艦隊を発見。鎮守府目指して北上中です。』

 

大淀のアナウンスを聞き全員が気を引き締める。

 

『第五遊撃部隊は直ちに出撃しこれを速やかに駆逐せよ!援護には霧先二佐以下第一特殊艦隊が回る!』

 

提督の言葉の後、全身が艤装を装着し出撃した。

その20㎞後に友成ら第一特殊艦隊がついていく。

 

「enemyは何処デスカー?」

「雷巡数隻って言ってたわよね?楽勝じゃないの?」

「北上さん、一気に片付けてきましょ。」

「うん。」

「えっ?待ってよ!私も行く!」

 

恐らく顧問である友成が見ていたら目元を叩いていただろう。

慢心する上に勝手に各々が行動する・・・・部隊としての統制が取れていないどころか軍関係者なのかも怪しい。

そこに吹雪が言った。

 

「待ってください!」

 

その言葉を聞いた瑞鶴は動きを止める。

 

「敵の戦力に関わらず、艦隊として規律を持って戦うことが大切だっていつも演習で教わってきませんでしたか?」

「じゃあどうしろというの?」

 

大井が吹雪に聞くと吹雪はある作戦を立て上げた。

 

「瑞鶴さんと加賀さんはまず索敵を。」

「索敵?たった数隻の敵に?」

「私まで?」

「だからこそ、ちゃんとした方がいいと思うんです。」

 

瑞鶴と加賀は疑問に思うが吹雪は意見を押す。

吹雪の目を見た加賀はその意思を汲み取った。

 

「分かったわ。」

 

加賀は一言そう言って前を向いて矢筒から矢を一本取り出し発艦した。

 

「大井さんと北上さんは左舷雷撃戦の用意を。」

「そうだね。分かった。」

「北上さん!?でも、誰が前に出るの?」

 

北上は了解し大井も理解はしたが誰が前に出るか疑問に思い吹雪に聞く。

 

「私が行きます!」

 

吹雪はそう力強く言った。

 

「「え?」」

 

大井と北上はハトが豆鉄砲を食らったような顔になる。

吹雪は続けて言う。

 

「私が引き付けますから、みんなで攻撃を!」

 

吹雪が作戦を言い終わった後、加賀と瑞鶴の放った偵察機が敵艦隊を発見した。

そしてその情報は加賀にモールス信号で伝えられた。

 

「敵艦見ゆ!」

 

その言葉を合図に吹雪は体勢を取る。

 

「行きます!!」

 

機関を最大戦速で稼働させた吹雪は全速力で敵に向かう。

吹雪が敵を視認すると敵も砲雷撃戦を開始した。

吹雪は何とか当たらないようにジグザグに動き回り砲弾と魚雷を回避する。

これも駆逐艦だからこそできる芸当だ。

しかし敵の魚雷と砲弾によってできた波で吹雪の動きが一旦止まる。

敵はこれを見逃さなかった。

旗艦の雷巡チ級は吹雪に向けて砲を撃とうとするが艦載機が攻撃を仕掛け阻止する。

吹雪に集中しすぎたあまり航空機に気づかなかったのだ。

敵が気付き対空戦闘を行おうとした時には既に雷撃機が雷撃を行っていた。

そしてそれはチ級に命中。

その後には金剛が待ち構えていた。

 

「撃ちマス!Fire!」

 

しかし金剛の放った砲弾は躱されてしまう。

 

「Shit!!」

 

チ級が再び攻撃しようとしたが吹雪の作戦にまんまと引っかかった。

 

「大井っち。」

「北上さん!」

 

雷巡二人の雷撃をモロに食らったチ級は吹き飛び轟沈した。

 

「「やったぁ!!」」

 

大井と北上は成功したことを喜びハイタッチをする。

吹雪は一連の光景を見ていた。

始めて第五遊撃部隊が機能した瞬間だ。

 

 

 

 

 

「艦長!敵艦隊旗艦の反応消滅!」

「敵残存艦は?」

「急速に撤退していきます。どうします?」

「自衛隊である以上無駄な攻撃はしない。対水上戦闘用具収め!」

「対水上戦闘用具収め!」

 

みらいに指示を下した友成はウイングに出て双眼鏡を覗く。」

 

「やったな、吹雪。」

 

友成は笑みを浮かべながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「き、旗艦!?」

 

吹雪は驚きの声をあげた。

吹雪が正式に第五遊撃部隊の旗艦に任命されることになったのだ。

 

「そうデース!ブッキーで決まりデスネー!」

「ちょっと待ってください!聞いたことないですよ駆逐艦の旗艦なんて!」

 

吹雪が言うと瑞鶴達が返した。

 

「私も思ったんだけどさ。」

「空母、雷巡が二杯ずつに戦艦と駆逐艦が一杯。本来なら絶対にありえない編成にありえない顧問。」

「ならむしろ『旗艦もあり得ない方がいいんじゃない?』って話になったの。」

 

瑞鶴、加賀、北上に言われたが吹雪は未だ不安だった。

 

「で、でも・・・。」

「ゴチャゴチャ言わないでやってみるデスネー!One thousandの道もOne stepからデース!」

「訳、分かりませんけど・・・・。」

「『千里の道も一歩から』の意味はどんなに大きな事業でも、まず手近なところから着実に努力を重ねていけば成功するという教えなんですが・・・・。」

 

金剛の間違ったことわざの使用に吹雪は困惑し、友成が突っ込んだ。

そしてそんなこんなで第五遊撃部隊は無事、旗艦も決まり部隊として機能し始めた。

 

 

 

その夜、部屋割りは結局「吹雪、加賀、瑞鶴」と「金剛、大井、北上」に分けられ吹雪は部屋で机に座り頬杖をつきながらタオルのウサギを見ていた。

 

「本当にこれでよかったのかなぁ?」

 

吹雪が疑問に思って言うと隣から声が聞こえてきた。

 

『Tea timeはマダデスカー!?』

『静かにして!とっとと寝てください!』

『ブ―!』

『うるさいですよ!静かにして!』

 

どうやら金剛が駄々をこねて大井と友成に叱られているようだ。

それを聞いた吹雪は笑う。

 

「良かったんだよね。」

「吹雪。」

 

吹雪は疑問が解けたところで瑞鶴に声を掛けられた。

瑞鶴は椅子に座り話し始めた。

 

「さっきのこれ、作り方教えてよ。」

「えっ?じゃあ加賀さんに聞いてください。これ、加賀さんが作ったんです。」

「えっ?」

 

吹雪が向いた方では加賀がベットに座ってアイスを食べていた。

 

「教えて貰ってもいいですか?」

「うぇ!?ちょっと、まっ!」

 

瑞鶴は止めようとするが遅かった。

 

「別にいいけど・・・。」

「うぇ!?」

 

まさかのOKだ。

当然、瑞鶴も驚く。

 

「行きましょう。」

「えぇ?」

 

吹雪は加賀の近くに座った。

 

「よいしょ!」

「・・・狭い。」

「良いんです!瑞鶴さんも早く来てください。」

「えぇぇぇぇぇ?」

「ほら速くぅ!」

「ちょ、ちょっと待ってよぉ!!」

「狭い。」

「瑞鶴さん、もうちょっとこっちに・・・・。」

「近い。」

「うぅぅぅぅ・・・・。」

 

青白い月明かりが照らす寮の一室ではこんなやり取りがあったそうだ。

第五遊撃部隊も今後親睦が深まることであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友成は見回りを終えた後工廠長室で書類をまとめていた。

その時、彼の体に異常が現れる。

 

「うっ!ゴホッ!ゲハッ!」

 

友成は突然咳込み椅子から落ちた。

その後何度か咳込んでから机に掴まりながら立ち上がった。

口元を押さえていた右手は赤い液体・・・・彼の血液で染められていた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・・負荷は酷いな・・・・。」

 

友成の言う「負荷」。

それは彼が絶対安静が解かれた直後の事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?副作用?」

「えぇ。提督にはまだ言っていないけど・・・友成君の身体は半分は艦娘、もう半分は人間。人間は普通、高速修復材が効かないけれど友成君は特殊だから効果があるの。だけど友成君の身体にも限度がある。」

「その限度を超えたと?」

「その通り。」

 

「負荷」とは副作用の事だ。

本来、高速修復材は艦娘のみに効き、人間には唯の入浴剤のようなものだ。

これは艦娘の驚異的な治癒能力を大幅に促進させる作用があるためだ。

そのため治癒能力が艦娘に比べて低い人間には効果がない。

だが本来驚異的な治癒能力を持たないはずの友成は母親が艦娘の為これが効く。

しかし、友成は半分は人間だ。

当然作用には限度がある。

それを重傷を負うたびに使用し、無理やり治しているのだ。

簡単言うと一本だけで支えている棒の上に重心を傾くように物を置くようなものだ。

それだけ無理をすれば体のバランスを崩し体に不調をきたす。

それが判明したのだ。

 

「工廠長、部下の工作艦『明石』として意見具申します。これ以上の負傷による高速修復材を使用を避けるために前線に出るのはやめてください。」

「それは出来ません。どうせここにいても空爆を仕掛けられれば同じです。それに副作用を無くすことを調べた方がいいでしょう。」

「ありますよ。」

「何ですって?その方法は?」

 

明石の言葉に友成は食いついた。

 

「副作用を無くすには定期的に高速修復材を接種する・・・・・ですが体に不調が出ますよ?」

 

だが友成は出された選択肢に即座に答えた。

 

「高速修復材を摂取します。」

「いいんですか?最悪、皆の前で心肺停止なんてことも・・・・。」

「備えあれば憂いなし。いざというときに高速修復材が使えないのは困るでしょう?」

 

友成の眼差しを見た明石は少し笑った後に答えた。

 

「工廠長の自分を蔑ろにする性格にはホトホト困り果てますよ・・・・。」

「すみません・・・でも、もう後悔したくないんです。誰かの死を目の前で見て。」

「・・・・・・分かりました、明日から一日一回、接種してもらいます。覚悟してくださいね。」

「ありがとうございます、明石さん。」

 

友成はそう言って明石に頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが友成の「負荷」なのだ。

明石の見立てではあと一か月から二か月はかかるという。

 

「ハァ・・・・・ハァ・・・・・・・・だいぶ落ち着いたかな。」

 

友成はトイレの流しで手を洗いつつ呼吸を整えた。

手はすっかり綺麗になっていた。

友成は鏡で自分の顔をじっと見た。

 

「・・・・・覚悟はもう決めたんだ。」

 

友成は近くに置いていた識別帽を被りトイレを後にした。




今回はアンケート(というより質問?)をとるので皆さま活動報告までご足労頂ければと思います。

次回「第六駆逐隊、カレー洋作戦!(なのです!)」
戦場にも休息は必要なのです!


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休息編
第参休戦目「航海日誌」


内容が薄っぺらいですがご勘弁を・・・・。


突然だが少し遡ろう。

絶対安静が解かれた頃、霧先は工廠長室で書類をカリカリと書いていた。

その傍らには「航海日誌」と書かれた表紙のノートが置かれていた。

 

「えーっと?あの日の状況は・・・・。」

 

そんなことを言いながらノートを開いて調べる霧先。

ノートにはびっしりと30分毎に状況が書かれていてその間に異変が少しでもあれば時間を記入した上で書きこんでいた。

それを確認した霧先は「報告書」と書かれた紙に文字を書いていった。

今霧先が書いているのは「W島攻略作戦」後にW島攻略艦隊から離脱しとった行動の報告書だ。

絶対安静が解かれた今、彼の最優先の仕事はこの書類の作成であった。

彼が書類を書いていると数人の女性が入って来た。

 

「工廠長、只今戻りました・・・・お仕事中でしたか。」

「艦長お邪魔します。」

「こんにちは工廠長さん。」

「あぁ、天城さんお帰りなさい。あと、みらいに如月?どうしたの?」

 

霧先は今日の秘書官の天城が戻って来たことに気づき挨拶をする。

そして天城と共に現れたみらいと如月に霧先は疑問符を浮かべる。

 

「如月ちゃんが艦長に申したいことがあるといって・・・・。」

「工廠長?お願いしたいことがあるの。」

 

霧先は相変わらず疑問符を浮かべるが如月の言葉を聞く事にした。

 

「何かな?僕にできる範囲でなら善処するよ?」

「それじゃぁ・・・・私も秘書艦にさせて下さい♪」

「へ?別にいいけど・・・・。」

 

あまりにもあっさりした願いに霧先は間の抜けた言葉を出してから快諾した。

 

「ありがとうございます、よろしくお願いね♪」

「う、うん。よろしくお願いするよ・・・・。」

 

いまいちテンションが戻らない霧先は何とも言えない表情で報告書作成に戻る。

 

「あら?工廠長、それは何かしら?」

 

ノートに興味を示した如月は霧先の「航海日誌」を覗き込んだ。

それを霧先は説明した。

 

「報告書作成のために記録しておいたノート。あの12日間を記録しておいたんだ。」

「そうなんですか。私、少し興味があるので教えてくれませんか?」

 

興味を示した天城が霧先にお願いする。

霧先も休憩がてら読むのもいいだろうと考えて天城の提案を承諾した。

 

「それもそうですね。では読みますね・・・。1542―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは19日前の「W島攻略作戦」の時まで遡ることになる。

 

19日前 W島沖56㎞の海域

 

 

 

霧先は爆風によって飛ばされウイングの構造物に叩きつけられ意識がもうろうとしていた。

 

「うっ・・・・くっ・・・・・・・。」

 

手すりにつかまり周囲を見渡す。

まるで荒波に飲まれているような視界感覚にふらつきながらも前甲板の被害状況を確かめるために歩く。

左目を開こうとするが激痛が走り視界が塞がった状況だ。

だが霧先は歩みを止めずに前甲板の方へ歩く。

そしてたどり着いた霧先が見たのは主砲があった場所がメラメラと燃えていた光景だった。

 

「まずいな・・・主砲が使えないとなると今後の活動も制限される・・・。

 

霧先がそんな事を考えていると彼を呼ぶものがいた。

 

「艦長!ご無事ですか!!」

 

みらいだ。

顔を青ざめてウイングに現れた彼女は振り向いた霧先の顔を見て更に青くなった。

それもそのはず。霧先の左目は主砲の破片らしきもので潰されていたのだ。

 

「か、艦長!左目が!!」

 

慌てるみらいとは裏腹に霧先は落ち着いた様子で自分の左目付近を触り指に付いた血を少し眺めた後、みらいに言った。

 

「みらい、ここは戦場だ。上官の目がつぶれようとも戦場だ。今は如月の収容が先だ!内火艇の準備!」

「りょ、了解です!!」

 

霧先の言葉に押されたみらいは敬礼をした後内火艇の準備のために艦橋へ戻った。

霧先はウイングの手すりを持ちながら水平線を眺めていた。

 

「(僕は・・・・・・もう戻れないラインを超えてしまった。あの平和な時間を受ける平成日本人から大きくはみ出したんだ・・・・・。)」

 

自分の変化を感じた霧先は心で言葉にした後、ウイングから艦橋に戻った。

 

 

 

 

その後、自衛官妖精と霧先によって如月は収容された。

だが、みらいが被弾したときの爆風で飛ばされ岩礁に衝突。

機関が大破した上に頭も負傷していた。

霧先は早急に応急処置をするよう妖精たちに命じた後、通信のやり取りをした。

 

「夕張さん、救助の必要はありません。本艦だけで独立して帰還します。」

『ですが!主砲が無い今はみらいの攻撃手段は格段に低下しています!』

「だからこそです。今浮き標的と化しているみらいがあなた方に付けば余計な攻撃を受ける。なら『伊152』と『ゆきなみ』に護衛をさせた方がましです。」

『でも・・・・・。』

「軽巡夕張、これは命令だ。直ちに本艦を見捨てて帰投せよ!」

 

しつこく粘る夕張に霧先自身も声を荒げて言い放つ。

彼も彼なりに辛いのだ。

 

『・・・・・・・・分かり・・・・・・・ました・・・・・・・。』

 

夕張の無念な声がCICに響いた後、通信は遮断された。

 

「艦長、よろしかったんでしょうか?」

 

そう声を掛けたのは自衛官妖精の中でも幹部に入る「砲雷長妖精」、みらいの前世で砲雷長を務めた菊池雅行三等海佐の記憶を受け継ぐ妖精だ。

 

「砲雷長、僕だって辛い。だけどその辛さに負ければ、余計な被害を出す。指揮官である以上は余計な損害をこれ以上出せない。」

「・・・・・・・分かりました。イージスシステムはほぼ無事です。ですが・・・・右舷前部SPYレーダー、前部CIWS、前部イルミネーターレーダーは主砲の破片により損傷、主砲は跡形もなく吹き飛び使用不可能です。」

「なるほど・・・・・・前甲板VLSは?」

「問題ありません、いつでも発射は可能です。」

 

砲雷長妖精から聞いた霧先は少し考え込む。

そして結論を出してから告げた。

 

「SPYレーダーの出力を出来るだけ維持。航空機にはシースパローで対処。出来るだけ会敵は避けることに専念。」

「了解です。」

 

霧先は指示を出した後、治療のため医務室へと向かった。

 

 

 

医務室では霧先が「衛生士妖精」から治療を受けていた。

この妖精も衛生士を務めた桃井佐知子一等海尉の記憶を受け継ぐ妖精だった。

 

「はい艦長、もう大丈夫ですよ。」

「ありがとうございます。如月の容態は?」

「良くないですね、頭を強く打っているので・・・・今は安定していますがいつ急変するか・・・。」

「そうですか・・・・遠回りにはなりますが太平洋を大廻する形で航行する予定なのでお願いします。」

「分かりました。でも何故大廻する必要が?」

 

衛生士妖精が首を傾げるので霧先は丁寧に説明した。

 

「いくら深海棲艦でも地球の7割を占める海洋を全部把握するのは不可能。だからこそ広い太平洋では危険が少ないと考えたのです。」

 

霧先が考えるのはもっともだろう。

太平洋は広い。それは抜け目があるということ。

深海棲艦も某ポケットなモンスターのゲームの草むらから出てくるキャラのようにポンポン出てくるわけではない。

そのため広い海洋を大廻する方が島などの付近を航行し会敵するより確率は低いと考えたのだ。

 

「分かりましたが・・・・出来るだけ急いでください。」

「分かってます。如月さんを頼みますね。」

 

霧先はそう言い残して医務室を去った。

そしてその足は艦橋へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

数日後。霧先はCICに呼び出された。

 

「砲雷長、見て欲しいものとは?」

「これです。」

 

霧先を呼び出した砲雷長妖精は対空レーダーを指さした。

そこには両舷にそれぞれ一つずつ光る光点が映っていた。

それはいいのだ。しかしその光点の名称が問題だ。

表されていた名称。それは・・・・・。

 

「深海棲艦偵察機 Enemy」

 

これだった。

つまり接近してきているのは深海棲艦の偵察機なのだ。

 

「まずいことになった・・・・総員対空戦闘用意!」

「対空戦闘用意!!」

 

霧先の言葉をみらいが復唱し艦内に鐘が鳴る。

そして霧先も艦長席に座り指示を出し始めた。

 

「みらい、取り舵一杯!」

「取り舵一杯!!」

 

みらいの言葉の後、艦が左に回頭していく。

 

「砲雷長!敵偵察機の視認範囲をレーダーに映して。」

「了解、映します。」

 

映された輪は敵の視認できる範囲。つまりこの輪に入れば唯ではすまないのだ。

霧先は更に指示を出す。

 

「二機の予想コース表示!」

「予想コース表示します。」

 

その言葉の後レーダーには線が現れる。

その線を見た霧先は即座に判断しみらいに指示を出す。

 

「みらい!面舵10度!」

「了解!面舵10度!」

 

その言葉でレーダー上のみらいが少し移動する。

そしてある程度動いたところで次の指示が出る。

 

「機関停止!舵戻せ!」

「機関停止!舵戻せ!」

 

みらいの復唱の後、機関は停止し航跡も消えた。

CICにも緊迫した空気が漂う。

光点は少しずつみらいに近づく。

 

「(そのまま通り過ぎて・・・!そうすれば無駄な戦闘は起こらない!)」

 

自衛官妖精の一人が願いつつ光点を見つめるそして・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「敵偵察機本艦付近通過!!索敵されませんでした!」

 

その報告でCIC内の張りつめた空気は一気に取り除かれ全員が安堵する。

 

「数分後、機関始動!再び航行を開始する。」

「了解、敵偵察機転身、帰還します。」

 

報告を聞き終わった霧先は溜息をついた後、椅子に深く座り込んだ。

それを見たみらいは霧先を労った。

 

「お疲れさまです艦長。」

「ありがとう。と言いたいけれど戦闘はこの後起きるかもしれない。」

 

霧先はそう言い未だ神経を張らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「W島攻略作戦」から12日後、霧先は艦橋で地図に付箋やらメモやらをびっしり書き込んでいた。

それは全て何処でどんな深海棲艦の艦隊を発見したのかというものだった。

 

「艦長?随分書き込んでますね・・・・・・。」

「まぁ、書いておいて損はないからね。」

「そんなこと言ってもう12日目ですよ!?そろそろ休んだ方が・・・・。」

「二時間も睡眠をとってるから大丈夫。それで?どうしたの?」

 

話をそらすためにあからさまに話題を変える霧先。

みらいも多少ムスッとした顔つきになるが話した。

 

「あからさまに話題変えましたね・・・・いいですけど。対水上レーダーに

艦影を複数確認。さらに東京湾がレーダーに映りました。」

「それは良かった。その艦影は?」

「今スキャニングしています。もうそろそろモニターに表示されるはずですよ。」

 

みらはそう言いつつ艦橋内のモニターを見る。

それと同時に詳細が現れた。

しかしそれは一瞬で艦橋内を驚かせた。

 

「し、深海棲艦の艦隊です!敵爆撃機の発艦も確認しました!!!」

「鎮守府に総攻撃を仕掛ける気か!?対空、対潜、対水上戦闘用意!!最大戦速!!!!」

「対空、対潜、対水上戦闘用意!!」

 

霧先の言葉をみらいが復唱し妖精たちも配置につく。

戦闘を控えた妖精や霧先、みらいの顔は既に戦闘を何度も経験した軍人の顔つきになっていた。

 

「目標に向けてハープーン発射用意!!}

 

そしてこの一言が起死回生となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまぁこんな感じですかね?掻い摘んでますけど・・・・。」

「工廠長にも困りました・・・・二時間しか寝てなかったら普通持ちませんよ?」

 

日誌を読み終えた霧先に天城は困り果ては表情で言った。

これだけ無茶をしていればそんな表情をされても仕方ないだろう。

 

「えー僕も頑張ったんですが・・・・・・。」

「その前に!!艦長は自分の身をしっかりしてください!!」

「は、はいぃ!!」

 

机をバン!と叩きながら講義してきたみらいに変な声を出しつつ答える霧先。

これではどっちが上官か分からない。

それがおかしいのか天城と如月は吹き出しみらいも連れられて笑う。

 

「そんなに笑わないでくださいよぉ~!!」

 

必死に霧先も抗議するがそれは聞き入れられなかった。

こんな風景が見られるのも霧先がいるからなのだろう。



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第肆拾壱戦目「第六駆逐隊、カレー洋作戦!(なのです!) 上」

今更ながら「World of Warships」にハマりました。
対人戦強すぎぃ!
次々回あたりまたまた新艦娘登場!予想してみてください。


作戦指揮室では長門と陸奥が話し合っていた。

表情からしてかなり真剣な話の様だ。

 

「ついにこの時が来たわね。」

 

そう言いだしたのは陸奥だ。

 

「あぁ・・・来てしまったな。」

 

低い声で言う長門。

物凄く真剣な表情だ。

 

「良いの?」

「私は秘書艦となった以上。この鎮守府に己の全てを捧げる覚悟はとうにできている。」

「貴方はいつもそう。何もかも自分一人で抱えて・・・そして一人で泣くの。」

「それが艦娘としての私の使命だ。」

「本当・・・・不器用なんだから。」

 

姉の覚悟に陸奥は泣きそうな声で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入渠ドックではある四人組が遠征帰りの汗を流していた。

 

「かゆいところは無い?電。」

「大丈夫なのですぅ。雷お姉ちゃんは髪を洗うのが上手なのです!」

「いいのよこれくらい。もっと私を頼ってくれてもいいのよ!」

「甘やかし過ぎよ!一人で髪を洗えないなんて一人前のレディになれないんだから。」

 

電の頭を洗ってあげている雷にそう言う暁だが自分もシャンプーハット無しで洗わない点ではブーメランな発言だ。

そこを指摘しない雷は優しさにあふれているだろう。

 

「ってこら響!アンタまだ髪洗ってないでしょ!?」

「髪が濡れるのは好きじゃない。」

 

暁の指摘にさっぱりと答える響だが単に面倒くさ画っているようにしか見えない。

そして頭は一番汚れやすいところでもあるので洗わないと大変汚い。

 

「それが艦娘の言うこと!?」

 

暁の言葉が最もに聞こえるのも珍しいだろう。

その時誰かの笑い声が響いた。

電を除く全員が声がした方を見ると知恵の輪で時間潰しをしている赤城がいた。

どうやらまた被弾して入渠の様だ。

友成のストレスに余計拍車が掛かっているに違いない。

 

「仲良しさんですね。」

「あら、赤城さん。」

「えっ?あっ、ど、どうもなのです!」

 

赤城に気付いた雷が挨拶をすると泡で前が見えない電も挨拶をした。

 

「みんなで遠征任務の汗を流しているのよ!」

 

ない胸を張る暁の「遠征任務」という単語に赤城は食いついた。

 

「遠征!?もしかして!!」

「ボーキサイトなら大量。」

 

赤城の期待に答えるように響がサムズアップして言った。

 

「本当?流石ですね。」

「と、当然よ!それが暁たち、第六駆逐隊のお仕事なんだから。」

 

そう言って胸を張る三人だが電は泡で前が見えず不安になり皆を探し始めた。

 

「み、みんなはどこなのです?」

 

そして突然立ったのが悪かった。

 

「はわわ!!」

 

ドスンという音と共に電は勢いよく泡で足を滑らせて頭を床に打ち付けた。

そのドスンという音に反応し、全員が目をつぶる。

かなり痛そうだ。

 

 

 

 

その後、何とか軽傷で済んだ電は偶然ジュースの補充に来ていた霧先に治療してもらっていた。

 

「これでよしっと。大丈夫、電?」

「大丈夫なのです。工廠長さん、ありがとうなのです。」

 

電の頭を優しく撫でる霧先の横で雷は美味しそうに牛乳を飲み干した。

 

「プハー!気分スッキリ!明日の遠征任務も頑張るわ!ね?暁!」

「はぁーーー・・・・。」

 

元気な声で言う雷とは裏腹に暁は浮かない表情だ。

 

「ど、どうしたのです?暁お姉ちゃん、遠征嫌なのですか?」

「嫌なら言ってくれれば僕が編成を変えるよう提督に具申するけど・・・・・。」

 

電と霧先が心配して暁に言うが暁が思っているのは別の事だ。

 

「遠征任務は別にいいのよ。でもね、やっぱりあれだけは無いわ!!」

 

暁の言うあれとは輸送用ドラム缶の事だ。

 

「あんなの絶対レディらしくないもの!」

「まーた暁のレディが始まったわね?」

「そうよ!レディならもっとこう・・・優雅でエレファントじゃないといけないの!」

「ブフォォ!!フォッハハ!!」

「暁お姉ちゃん、それを言うならエレガントだと思うのです。」

 

暁の盛大な間違いに思わず霧先は吹き出し笑いを必死に堪えた。

電の訂正に暁は顔を赤らめた。

 

「そ、そうとも言うかもね・・・・。」

「エレファント・・・・フォッホホ・・・・。」

「いつまで笑ってるのよ!!」

 

未だ霧先は笑いを堪えている。

それに怒った暁は大声で言った。

そんな状況をしり目に響は壁に張られたポスターを眺め始めた。

 

「ん?どうしたの響?」

 

雷がポスターを眺める響に声をかけた。

 

「これ。」

 

全員が響が見ていたポスターをみる。

そのポスターには「鎮守府カレー大会」の文字が書かれていた。

 

「鎮守府カレー大会?自慢のカレーで優勝を目指せ・・・。」

「(そう言えば寸胴鍋の開発要請があったけど・・・これが原因か。)」

 

暁たちがポスターを眺めているとドックに高雄と愛宕がやってきた。

 

「あら、第六駆逐隊の皆に・・・友成君?」

「ジュースの補充と設備チェックに・・・・。」

「そうだったの。」

「ヤッホー。パンパカパーン!」

「「パンパカパーン!」」

 

高雄が霧先と話す横で愛宕は雷と響と一緒に謎の儀式をしていた。

 

「「それ挨拶なの?」」

 

そこに暁と霧先は突っ込んだ。

 

「ぱんぱかぱーん・・・なのです。」

「(可愛い・・・。)」

「付き合わなくていいのよ?それよりどうかした?」

 

霧先が可愛いものを見る目で電を見ていると高雄が注意した。

高雄が聞くと電が言った。

 

「え、えーっと、これなのですけど・・・。」

「?」

 

高雄と愛宕は電が指差したポスターを見る。

 

「またこの日が来たのね・・・。」

「去年は楽しかったわねぇ~。」

 

2人の言動から察するにこの大会は毎年行われているようだ。

第六駆逐隊が疑問符を浮かべていると高雄が説明した。

 

「鎮守府では週に一度、金曜日にカレーの日があることは知っているわね?」

「はいなのです!」

「海上勤務の多い艦娘達が曜日感覚を失くさない為と前世からの慣わしでしょ?」

 

電が答え、響が詳しくいうと高雄は頷き続けて話した。

 

「いわば艦娘にとってカレーとは日々の道しるべたる崇高な料理。この大会の優勝者にはそのレシピが一年間採用されるという名誉が与えられるわ。」

「なんかすごい!・・・かも?」

「(僕も最近は書類関連が多くなって曜日感覚が薄れてるなぁ・・・。)」

 

雷が興奮する横で霧先はボケーっとそんなことを思っていた。

 

「つまり優勝者こそが、鎮守府お料理ナンバーワン!と言って差し上げますわ!」

「お料理ナンバーワン・・・・・!」

 

高雄の言葉に暁は目を輝かせた。

 

 

 

その後、第六駆逐隊と霧先は甘味処「間宮」に来ていた。

 

「暁たちも鎮守府カレー大会に出るわよ!!」

「「「え?」」」

 

姉の唐突な発言に三人は疑問符を浮かべる。

 

「お料理といえばレディのたちなみ!・・・嗜み・・・。」

「(噛んだ。)」

「(噛んだわ!)」

「(難しい言葉を使おうとして噛んだのです!)」

「ブフッ!!」

 

電だけ評価があれだが気にしないでおこう。

カウンター席にいた霧先はブラックコーヒーを噴き出しかける。

 

「つまり!優勝してお料理チャンピオンになるのがレディの近道なのよ!」

「(チャンピオン・・・・?チャンピオン=一番・・・つまり・・・・旗艦!?)」

 

『貴方こそ私たちの旗艦よ!』

『『よろしくお願いします!』』

『良いのよ!もっと私に頼って頂戴!』

 

「それ、良いわね!」

 

謎の発想により赤城と高雄、愛宕が自分を崇める妄想をする雷。

如何したらこの考えに行きつくのだろうか。

 

「でしょ?」

「二人がやるならお手伝いするのです!」

「付き合おう。」

「そう言ってくれると思ったわ。」

「それでこそ第六駆逐隊!よーし!ファイトー!」

「「「「オー!(Yes!)」」」」

「「「「え!?」」」」

 

全員が手を重ねて気合を入れるが一人だけ全く違う言葉を発した。

四人が声をした方が向くとそこには金剛がいた。

 

「な、なんで金剛さんがここにいるのよ!!」

「フッフーン・・・残念ながらCurry大会優勝は私のモノネー!ツッキー、響、雷電!」

「「名前を纏めないで!(なのです!)」」

 

金剛は第六駆逐隊に高らかに宣言し雷と電から名前を纏めないように指摘を受ける。

その様子を聞いていた霧先はコーヒーを飲みつつ問題が起こらないことを祈る。

 

「まさか金剛さんもカレー大会に?」

「Yes!私のspecialにHotな英国式Spicy curryで優勝を狙イマース!そしてこれから一年、私のCurryをテ―トクに味わってもらうのデース!」

 

そう言う金剛に異論を唱える者が店に入って来た。

 

「甘いわね金剛!」

「何者デース!?」

 

金剛が振り返った先にいた者は。

 

「「「「足柄さん!?」」」」

 

足柄だった。

彼女は鎮守府内でも料理上手として知られている。

 

「ちょっとやそっとの辛さで私のワイルドでハードな極辛カレーに太刀打ちできると思って?優勝は私で決まりよ。」

「面白いネー足柄。流石は英国で飢えたWolfと言われただけはアリマース!」

「暁たちも忘れないでよね!辛いだけがカレーじゃないんだから!!」

 

金剛と足柄の対立から除け者にされている暁は「ぷんすか!」というような擬音が聞こえそうな様子で二人に突っかかる。

 

「ツッキーもどうやら本気の様デスネー。」

「なら心しておきなさい。優勝を狙っているのは私たちだけじゃないのよ?」

 

足柄の言う通り、他の艦娘も優勝を狙っている。

その数ももちろん多い。

 

「では、決戦の日を楽しみにシテマース!!」

「首を洗って待っていることね。」

 

そう言い残すと二人は店から出ていった。

 

「結局・・・あの二人何がしたかったんでしょう?」

「さぁ・・・?せめて注文はしてほしかったです・・・。」

 

何をしに来たのか分からない霧先と間宮は首を傾げていた。

 

「なんか燃えてきたわ!もうぜーったい負けないんだから!」

「やるからには勝つ。」

「わ、私も頑張るのです!」

「ええ、絶対優勝して暁たちがレディだって認めさせるんだから!」

「「「「おぉー!」」」」

 

意気込む雷、響、電、暁の四人を長門はコッソリ陰から見ていた。

 

「長門さん・・・あれで隠れているつもりなんでしょうか?」

「滅茶苦茶障子にシルエットが出ていてモロバレですが・・・・。」

 

但し間宮と霧先にはガッツリばれていた。

 

 

 

 

 

 

 

その後、甘味処「間宮」を後にした第六駆逐隊は鳳翔に頼み、台所を貸してもらっていた。

 

「それじゃあ・・・・。」

「早速作ってみるわよ!!」

「あ、ちょ!なんで雷が仕切るのよ!それは暁型一番艦の暁の仕事でしょ!?」

「雷なら大丈夫よ!」

「理由になってなーい!」

 

珍しく暁が真面目なことを言っている気がするがそれもそうだ。

実際雷は会話のキャッチボールではなくドッジボールをやっているのだ。

 

「はわわ!喧嘩はいけないのです!」

 

そこに宥めようと電が二人に言った。

 

「それで?カレーはどう作るんだい?艦艇の時の記憶ではバラバラだしあれから20年立っている今、作り方も具材も変わってるかもしれないよ。」

「「「あ゛っ!」」」

 

響の突っ込みに三人は固まった。

そもそもスタート地点にすら立っていなかったのだ。

結局三人は鎮守府内の資料室に収められている料理本を片っ端から読んで調べていくことにした。

そんな中、四人はある艦娘とであった。

 

「あら、貴方達は第六駆逐隊の・・・・・。」

「あ、伊152さんなのです!」

 

潜水艦伊152だった。

着物をまとった彼女は今現在「第一特殊艦隊」所属で霧先の直属の部下となっている。

普段は潜水艦娘に教鞭を執っているが今日は違うようだ。

 

「貴方達も探し物?」

「そう、カレーの作り方。」

「そうだったの。カレーは人の個性が出やすい食べ物だから頑張って作ってね。」

「伊152さんは何しに来たの?」

 

雷に聞かれた伊152は微笑みながら答えた。

 

「ちょっと雷撃関連の本をね・・・・カレー大会、頑張ってね。」

「大丈夫よ!」

 

フンスと胸を張る暁に少し笑った伊152は自分の目当ての本を探すために第六駆逐隊と別れた。

その後、様々な本を読んでレシピを考えた四人は再び厨房に戻った。

 

「さぁ!今度こそ!」

「作り方も分かったし作るわよ!!」

「だからなんで雷が!」

「良いから私に任せればいいのよ!!」

 

こうして喧嘩していると外見年齢相応と言えよう。

だがしかし末っ子の電はそれを許さなかった。

 

「もう!だから喧嘩はダメなのです~!!」

 

電の見事なまでのグルグルパンチが炸裂し二人は喧嘩を中止せざるを得なくなった。

その様子を見ていた次女である響はヤレヤレと言う様子であった。

結局、電の仲介で四人は作業を開始することにした。

雷は器用にジャガイモを包丁で剥き、その隣で電は盛大に失敗しジャガイモが小さくなり涙目になっていた。

一方暁も玉ねぎの化学反応によって涙目になっていた。

先に冷蔵庫で冷やすか化学反応が起こる前に切るようにしなければこうなる。

誰しもが経験したことであろう。

そして響も順調にニンジンを切っていく。

が、自分の指をも切ってしまい出血。

慌てた三人はすぐに救急箱を持ってきて大慌て。

そんなドタバタを交えつつも食材を切り、煮込むところまでやって来た。

 

「さぁ!後はこのままよく煮て具材が柔らかくなるのを待つだけよ!」

「シンプルイズベストね!」

「これはいい出来だ。」

「そしてよく煮えたら一度火を止めてカレー粉を溶かすのです!」

 

暁、雷、響、電は鍋を囲み、じっと見つめる。

しびれを切らした暁はすぐに言った。

 

「まだ煮えないのかしら?」

「一分もたってないのです。」

 

そして電の言葉が帰ってくる。

まだ一分も経っていないというのに暁は辛抱が出来ないようだ。

 

「もう、そんなに簡単に火は通らないわ。」

「なら、もっと強い火力で・・・。」

「でもこれ以上強い火力なんて・・・・。」

 

雷の言うことを逆に考えた響は火力を上げることを提案した。

しかし今コンロは現在強火だ。

これ以上は強く出来ない。

強い火力はないかと考えた電はあるものを思い出した。

 

「あるのです!!」

 

電は早速四人と鍋をもってある場所に向かった。

そのある場所とは霧先が責任者を務める工廠だった。

工廠の倉庫で四人はあるものを鍋に向けていた。

 

「「「「よいしょっと!」」」」

 

それは「高速建造材」だった。

このバーナーの火力なら大丈夫と電は考えたのであろう。

 

「準備完了なのです!」

 

電によって準備完了の旨が伝えられた。

それを聞いた暁は高らかに言った。

 

「それじゃあ、高速クッキング~開始!!」

 

その言葉の後、物凄い炎が鍋を直撃する。

 

「完成なのです!あっ!!」

 

電が完成と言ったがよく見てみると鍋は消し炭になっていた。

金属製の鍋が消し炭になるほどの火力は相当なものだろう。

 

「暁が煮えるのを待てないなんて言うから・・・・。」

「あ、暁の所為だっていうの!?」

「最初から私に任せておけばよかったのよ!!」

「なんですって!?カレー大会に出るって決めたのは暁よ!!」

「二人とも悪くないのです!変なことを思い付いちゃった電が悪いのです・・・・!」

「大体雷はいつも出しゃばりなのよ!暁の方がお姉さんなんだからね!」

「そのお姉ちゃんが頼りないから私が頑張ってるんじゃない!」

 

全くもって子供の喧嘩そのものである。

暁と雷の口喧嘩はヒートアップして手が付けられない状態になり電は喧嘩の原因は自分だと泣き出してしまった。

かなりカオスな状況になりつつある現状を打破したのは響だ。

 

「てい。」

「あっ!」

「わっ!」

「はにゃ!」

 

彼女は三人に近寄ると頭を叩いた。

 

「少し落ち着こう。」

「「「響(お姉ちゃん)。」」」

「第六皆で優勝するんだろう?」

「・・・・そうね。皆で一人前のレディを目指すんだもんね!」

「金剛さんたちに煽られて、ちょっと熱くなりすぎてたかも。」

「反省なのです・・・・・。」

 

全員が冷静になったところで雷が切り出した。

 

「でも、鍋はどうする?これじゃあとても変わりが欲しいなんて司令官や工廠長に言えないわ。」

「「「う~ん・・・・・。」」」

 

四人が悩んでいると誰かが倉庫のドアを開けた。

振り向くとそこにはオレンジのつなぎにハンマーを持ち、某宇宙最強のエンジニアのようなフェイスガードを着けた人物が立っていた。

気のせいか「コホー、コホー」と某暗黒面の騎士のような呼吸音も聞こえる。

 

「「「「キャーーー!!」」」」

 

普段凛々しい響も姉妹とそろって叫び声を上げて縮こまる。

それを見た繋ぎの人物は慌てて素顔を見せた。

 

「ちょっ待ってよ!ほら私!!」

「ゆ、夕張さん!」

 

電が声をあげた。

オレンジつなぎの正体は夕張だった。

 

「もう!驚かせないでよね!!」

 

暁が大きな声で言うとさらに誰かが来た。

 

「夕張さん、どうしたんですか・・・・って暁たちじゃないか!」

「こ、工廠長!?」

 

やって来たのは霧先だ。

普段のラフなふくそうであるところから仕事の休憩の合間に来ていたのだろう。

 

「ちょっと驚かせちゃって・・・・。」

「だから叫び声が・・・・そりゃ某宇宙最強のエンジニアみたいなそれ着けてれば誰でも出合い頭に叫びますよ・・・・。」

 

霧先は眉間を押さえながら言った。

夕張は笑いながら四人に話掛けた。

 

「あはははは・・・・ごめんね?装備の開発中だったのよ。皆も装備開発?魚雷?電探?」

「え~っと、実は・・・・。」

 

電は事の顛末を二人に話した。

 

「成程・・・と言うかよくその発想が出たね。見事に金属製の寸胴鍋が焦げた鉄屑に・・・・・。」

「そう言うことならお姉さんに任せなさい!!」

「本当!?」

 

霧先が関心して鍋だったものを眺めている横で夕張が自信満々に第六駆逐隊に言った。

それを聞いた四人は目を輝かせた。

 

「丈夫で熱伝導率の高い超高性能鍋を作ってあげる!よ~し!燃えてきたぁ~!!」

「・・・・・・・えっ?」

 

ハンマーを巧みに手で回して意気込む夕張の横で霧先は嫌な考えと予感を巡らせた。

夕張は嬉々としてボーキサイトを持ってきて鍋を作り始めた。

ハンマーで叩いて成形する為、金属同士がぶつかりカーン、カーンという音が響き渡る。

しかし第六駆逐隊と霧先は耳を押さえながら悶えていた。

 

「何かわからないけど・・・・。」

「妙にぞわぞわする音なのです・・・・。」

「僕は悪寒と震えと気持ち悪いのが収まらないよ・・・・・。」

 

顔を青ざめ、今にも吐きそうな霧先言い終わった後、夕張の作業が終わった。

 

「さぁ!完成よ!」

 

そこにはピカピカに光る金色の鍋があった。

 

「「「「わぁ~!!」」」」

「皆が遠征で運んでくれたボーキサイト、たっぷり使っちゃった!ちょっとやそっとじゃ壊れない最高のアルミなのよ!」

「「「「ありがとう(スパスィーバ)!夕張さん。」」」」

「いいって!後で感想聞かせてね?」

 

第六駆逐隊は嬉しそうに鍋をもって倉庫を後にした。

そしてそれを見送った霧先は夕張の肩に手を置いた。

 

「さぁ、夕張さん。資材の無許可消費の件、一緒に提督に頭下げに行ってから大淀さんのお小言をもらって、その後始末書を書きましょう。」

「えぇ!?友成君がいたからOKじゃ・・・・・。」

「装備はね。あれは私用で使ったから・・・・・。」

 

夕張はがっくりとうなだれ霧先と共に執務室へと向かった。

 

 

 

 

一方、第六駆逐隊は間宮に美味しいカレーの作り方の極意を教えて貰いに行っていた。

 

「美味しいカレーの作り方?そうね、愛情という名のスパイスかしら?」

「「「「そういうのはいいです。」」」」

「い、意外と現実的なのね・・・・。」

 

夢のある話を四人に揃ってばっさり切り捨てられた間宮はたじろぐ。

だが間宮の愛情という名のスパイスがあればどんな料理も激うまになるだろうと思う。

ばっさり切り捨てられた間宮はショックからかある噂を思い出した。

 

「ちょっと眉唾だけど・・・東のボーキボトムサウンドにあるっていう幻のボーキサイトを隠し味に使うと、どんな料理も最高の味になるって聞いたことがあるわ。」

 

但しそれは艦娘しか食べられないだろう。

良くても霧先だ。

ボーキサイトはとてもじゃないが人間は食せない。

それをすっかり忘れている四人は遠征と称して大淀からお小言を貰っている霧先とそれを難しい表情で見ている提督に許可をもらい出撃ドックへと向かった。

全員がいるのを確認した後、プレートを踏んで出撃準備に入った。

 

「暁の出番ね!見てなさい!」

「了解、響、出撃する。」

「雷、出撃しちゃうねっ!」

「電の本気を見るのです!」

 

こうして第六駆逐隊は意気揚々と遠征を開始したのであった。



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第肆拾弐戦目「第六駆逐隊、カレー洋作戦!(なのです!) 下」

一部アニメ版とは違う台詞もありますがご了承下さい。
(第六駆逐隊に死に損ないはいかんやろ・・・。)

後、簡単に出来るカツの作り方を本文中で紹介しています。


意気揚々と出撃した第六駆逐隊であったが・・・・・。

失敗であった。

 

「お疲れさま。ジュースあるよ。」

 

丁度四人が帰投したことを聞いた霧先は四人分のジュースを持ってきて差し出した。

四人はそれを受けると少し飲んで喉の渇きを潤してから溜息を吐いた。

 

「そりゃまぁ・・・幻だもんね・・・・・。」

「簡単に見つかるわけないのです。」

「Вы правы」(そうだね)

 

雷、電、響の三人がため息をつく横で霧先がしゃがみながら疑問に思っていた事を言った。

 

「と言うよりボーキサイト入れたら僕は食べれるかもしれないけど提督や海自の皆さんは食べれないんじゃ・・・・参加事項でそう書かれてるよ。」

 

霧先の言葉に三人が驚愕した顔で固まった。

ボーキサイトは本来航空機に使われる素材で人間の食するものではない。

そんなものをバリバリ食せる艦娘基準で考えては確実に死人が出るだろう。

それを聞いた三人は振出しに戻ってしまい余計にため息が出る。

そしてついに暁が声を上げ始めた。

 

「もうヤダ!やってらんなーい!!!」

 

ジタバタとする様は完全に駄々っ子の姿だ。

 

「もう・・・・止めちゃおっか・・・・・。」

 

暁が目を潤ませながら元気のない声でつぶやいた。

霧先がどう声を掛けるべきか悩んでいると一人の女性が言った。

 

「努力に憾み勿かりしか!」

 

全員が声がした方を向いた。

 

「長門さん!」

 

暁が声をあげた。

そこに立っていたのは長門だった。

 

「詳しくは聞くまい。だが、諦めるのか?」

「・・・・・・。」

 

長門の言葉に四人は黙ったままだ。

 

「それもいいだろう。十分に努力したと、胸を張って言えるのならな。」

「そんなの・・・!言えるわけないじゃない!!」

 

暁が立ち上がった。

 

「そうよね!一度や二度の失敗で諦めてちゃ、遠征任務なんてできないもの!!」

「不死鳥のように立ち上がるまで!」

「幻なんかに頼ってはいけないのです!」

 

雷、響、電も立ち上がった。

全員の気持ちが一致団結したのだ。

 

「えぇ!自分たちだけの力で勝つわよ!!」

「その意気だ・・・・。」

 

長門は静かにそう言って第六駆逐隊を激励した。

そして数日後、鎮守府内のグラウンドでステージが用意され、カレー大会が開催される運びとなった。

櫓では司会の霧島がマイクチェックを行っていた。

 

「マイク音量大丈夫・・・?チェック、1、2・・・・・・。はーい!!皆さんお待ちかね!鎮守府カレー大会開幕です!!」

 

霧島の切り出しの言葉と共に艦娘や自衛官の歓声が響く。

海上には100余名の艦娘と200余名、総勢約400名の観客が集まった。

妖精も含めると優に600は超えているだろう。

それほどの賑わいとなっている。

 

「司会実況は私、金剛型4番艦『霧島』!現場実況は。」

「艦隊のアイドル!那珂ちゃんで~す!それじゃあ出場者を紹介するよ!バーニングカレー!金剛さんと比叡さん!」

「テ―トクのStmachを掴むのハ!私たちのcurryデース!!」

「気合い!入れて!作ります!!」

 

どうやら一番手は金剛と比叡の様だ。

二人はそれぞれ生まれた国が違うがそれがいいカレーを作り出すだろうか。

霧島が次のぺアを紹介する。

 

「未来の日本を守る最高技術の艦!その最高技術はカレーも!?ゆきなみ型護衛艦『ゆきなみ』と『みらい』!」

「海自のカレーを見せましょう!」

「私たちのカレーをご堪能ください!」

 

海上自衛隊のカレーはレシピが防衛機密とされるほどすごく美味だ。

一部例外もいるが・・・・ゆきなみ型は大丈夫だろう。

続いて那珂が紹介する。どうやら霧島と交互に紹介するようだ。

 

「鎮守府の功労者!問題事や緊急時には即応!友君と大淀さん!」

「本日はよろしくお願いします。」

「アシスタントと言う形ですが精一杯頑張りますね!」

 

何と霧先が大淀と組んでカレー大会に参戦することになった。

実は霧先も参戦したいと思い丁度手が空いていた大淀に頼んだところ大淀も去年やその前から出てみたかったらしく快諾。

本日霧先と組んででることになった。

おかげで観客席では扶桑型の伊勢を筆頭に数名が悔しそうに見ている。

続々とペアが紹介されていく。

 

「五航戦の力を見せつけるために来ました!瑞鶴さんと翔鶴さん!」

「あれだけ練習に練習を重ねたんだから優勝はいただきよ!!」

「皆さんが楽しめるようなカレーを作りますね。」

 

五航戦の瑞鶴と翔鶴も参戦するようだ。

普段仲がいいだけあって息も合うだろう。

美味しいカレーが期待される。

 

「ご飯も深海棲艦もお残しは許さない!一航戦、加賀さんと赤城さん!」

「五航戦のカレーとは一緒にされたくないものね。」

「一航戦、赤城!いただk・・・作ります!」

 

即座に言い直したが赤城のボロが出た。

このままぼろを出さずに事が済めば良いのだがどうなるやら。

 

「辛き事島風の如し・・・・島風さんです!」

「これ以上辛くなっても知らないから!」

 

島風は一人で参戦の様だ。

普段速さを追及する彼女だが一体どんなカレーを作るのか見物になってくる。

 

「お嫁さんにしたい艦娘ランキング第一位の羽黒さんとお嫁に行かせてあげたい艦娘ランキング第一位の足柄さん!」

 

那珂の超特大爆弾発言によって羽黒と霧先は顔を青ざめながら足柄の方を向いた。

当然、当の本人はブチギレており、まずい状況だった。

 

「那珂・・・・ちょっとこっちに来て・・・・?」

「わ、私が押さえておきますので早く逃げてください那珂ちゃん!」

「足柄さん落ち着いて!那珂姉さんもなんでこんなこと言ったの!?」

「え?青葉さんが言うと盛り上がるって・・・・。」

「アオバワレェ!!」

 

霧先が叫ぶ。

そしてその瞬間、青葉はばれないように姿を一瞬で隠した。

その横でお構いなしに霧島は紹介を進めていく。

 

「遠征のスペシャリスト、第六駆逐隊、暁さん、響さん、雷さん、電さんです!」

 

第六駆逐隊は全員が指に包帯を巻いていた。

それから察するに何度も練習をして指を切ったりしたのだろう。

四人の努力が垣間見られた。

 

「どうやら相当な鍛錬を積んできたみたいね。約束通り相手をしてあげる。」

「Yes!正々堂々勝負ネー!!」

 

足柄と金剛が第六駆逐隊に宣戦布告している横で霧先たちは蚊帳の外である。

 

「・・・・・とりあえず大淀さん、よろしくお願いします。」

「あっ、はい!お願いしますね!」

 

そんなやり取りをしていると審査員の紹介に移った。

 

「そして審査員は・・・・・鎮守府の最高責任者である提督と世界のビック7!怒れる41㎝砲!鎮守府のまとめ役の長門さん!そしてなんと!『みらい』ではグルメな乗組員である航海長、尾栗少佐も審査をします!」

「皆のカレーを楽しみにしている、ぜひ最高のカレーを食したい。」

「私も皆には期待している。」

「海自はカレーが伝統だからな。かなり厳し目で審査するぜ。」

 

審査員の三人が一言言った後、霧島と那珂が宣言をした。

 

「お料理ナンバーワンの名誉を掛けて!」

「鎮守府カレー大会スタート!!」

 

その言葉に反応した選手は全員調理台へ向かい早速、カレーを作成し始めた。

一方、宿舎の屋上で北上と大井の二人は観戦していた。

 

「おー始まった。流石賑やかだねぇ~。」

「えぇ!とても楽しそう!これ以上北上さんとの語らいを邪魔するなら九三式酸素魚雷片舷20射線をぶち込みますけど・・・・・。」

 

不穏な言葉を聞こえないように言うあたり大井もかなりなものである。

北上は思い出したかのように会話を続けた。

 

「でもカレーかぁ・・・・どっちか、ってぇーと言うと私は肉じゃが派なんだよねぇ~。」

「まぁ!私の得意料理じゃないですか!肉じゃがと言えば良妻賢母。良妻賢母と言えば私と言うくらいに・・・・。」

 

意味不明になりつつある言葉を言う大井に北上は少し苦い顔をしながら相槌を打った。

 

「まぁ~うん、大井っちは料理上手だし今度作って貰おうかなぁ。」

「分かりました!幸せにします!」

「う、うん楽しみにしてるよ・・・・・・・。」

 

少し影がかかった顔で言う大井に危機感を感じた北上は少し身体を大井から離しながら答えた。

 

「(はぁ・・・これまで姉じゃなくて親友みたいな感じで接してきたけれどそろそろブレーキが利かなくなってきてる・・・・大井っちの今後の事も考えておかないと・・・・・球磨っちと多摩っちは論外、木曾っちは・・・・末っ子だし・・・・誰か妹慣れしていて親しみやすいのは・・・・・。)」

 

大井のことを危惧し始めた北上は腕を組んで唸りながら頭をフル回転させた。

実際前々から大井が問題を起こす度に霧先や提督に対して大井を半ば強引に頭を下げさせるために一緒に謝罪しに行っていたが特に咎めていなかった。

しかしそろそろ危険と感じた北上も姉として一喝入れようと思ったのだ。

だが肝心の妹を叱る方法を彼女は知らない。

姉に聞こうにも姉が自由奔放過ぎて妹がしっかりしないといけない状況で上の姉である球磨と多摩は末っ子の木曾に叱られる日々。

木曾に聞こうにも末っ子で姉を叱る立場であるがゆえに妹に対してはちょっと違う。

そして北上にも親しみやすい人物とそうでない人物もいる。

誰が一番親しみやすいか考えたとき、ある人物が目に入った。

丁度、カレー大会で調理をしている霧先だ。

彼なら北上の性格的にも親しみやすいし、北上は噂で妹がいると聞いたことがあった。

 

「友成っちならいいかも。」

「え?何か言いました?」

「へ?あっいや何でもないよ!」

 

大井が聞いてきたため言葉が出ていたことに気づいた北上は霧先への弔砲を防ぐためにごまかした。

 

「そうですか・・・・それよりも!」

「う、うん・・・・。」

 

結局北上は大井の言葉に相槌を打ちながらカレー大会を観戦することになった。

その頃会場では各選手がカレー制作を着々と進めていた。

 

「皆で頑張って練習したのです!」

「チームワークなら負けないわ!」

 

電、雷、響、暁の第六駆逐隊も真剣な表情でカレーを作っていた。

それだけこのカレー大会に必死なのだ。

その時ふと暁が思ったことを口にした。

 

「ほかのチームはどんな感じかしら?」

 

そう言ってほかのチームに目を向けると金剛、比叡チームは既にカレーのルーを煮込み始めていた。

 

「ンー!全ての具が溶け込んだこの黄金のcurry soup、優勝はワタシタチで決まりデース!そしたら・・・・モウ!ダメダヨテ―トク!ワタシは食後のデザートデース!!」

 

既に妄想の世界に行ってしまっている金剛の横にいる比叡はカレーの入った鍋を覗き込んだ。

具材が溶けきっているとはいえ実に美味しそうな色合いのカレーだ。

 

「(ん?このカレー、具が入ってない!!・・・・お姉さまに恥はかかせません!こんなこともあろうかと!!)」

 

具が溶けきってしまい無いことに気づいた比叡は妄想の世界へと旅立っている姉の威厳を守るため、あるものに手を掛けた。

それはザル一杯に入った名状し難き何かだ。

いや、目に入れるのも恐ろしい位だ。

 

「えぇーい!」

 

あろうことか比叡はそれを鍋の中へぶち込んでしまった。

黄金色だったカレーは一瞬にして紫色の毒々しい色合いへと変化し何故か泡立っている。

それを見ている審査員の全員が冷や汗をかく。

 

「これは私とお姉さまの合作・・・ハッ!愛の共同作業!ハァー!なんちゃってー!」

 

手を頬に当てて喜ぶ比叡。

審査員だけでなくよく料理をする鳳翔と間宮も顔を青ざめさせ始めた。

 

「それでは比叡!一緒に味見デース!」

「はい!お姉さま!」

 

この姉妹は毒々しい色合いのカレーが目に入らないのだろうか。

自然に小皿に少しだけ盛り付けて食す。

直後、とんでもない顔になり一気に体調を崩して泡を吹きながら気絶してしまった。

 

「カウント1!2!3!お姉さま方!まさかまさかのノックダウンです!」

「き、霧島さん?」

 

ノリノリで司会をする霧島に那珂は驚きを隠せないようだった。

その横で加賀と赤城のチームも着々とカレーを作っていた。

加賀は手際よくジャガイモを切っていく。

 

「栄えある一航戦に小細工なんて必要ないわ。普段通りにやればいいだけ。そうよね?赤城さん。」

「ん~そのほおりよかがふぁん!」

 

何と赤城、加賀が切ったジャガイモをつまみ食いしていた。

しかもリスのように頬を膨らませて。

更には加賀もこれを黙認する始末。

 

「加賀さん見事なスルーパス!あっ、今のは赤城さんの行動をスルーした件と食材をパスした件を合わせた解説です!」

「自分で説明しちゃうの!?霧島さん何だかテンション変じゃない!?」

 

最早普段のキャラとは違う那珂が突っ込みに回っていくスタイルと言うカオスな状況になっている。

一方観客席では睦月が赤城の変貌ぶりを見て吹雪にフォローを入れていた。

 

「ふ、吹雪ちゃん!赤城先輩はちょっと補給が必要なだけだよ!」

「そうそう!戦ってるときはすごくカッコいいっぽい!」

 

夕立も続いてフォローする。

しかし吹雪からは意外な一言が出た。

 

「あの食べっぷり!はぁ~!私も赤城先輩に食べさせてあげたいよぉ~!!」

「「恋だね(っぽい)・・・・。」」

 

まさかの親友が匙を投げる始末である。

そんな中、ゆきなみ、みらいペアも着々と作業を進めていた。

 

「ゆきなみ姉さん、それとって。」

「はいはい。艦の頃は給養員の人たちの動きを見ていただけだけど意外と何とかなるね。」

 

そう言いつつゆきなみはみらいに指示されたものを手渡す。

みらいたちが作っているカレーは完成間近だ。

 

「一応レシピは知っていたけど本当に料理するのはこれが初めてなんだけどね。」

「え?その割にはかなり包丁さばきが上手いけど・・・?」

 

料理をするのが初めてだというみらいにゆきなみは疑問符を浮かべた。

彼女からしてみれば、みらいはかなり包丁になれているように見えた。

 

「えっと・・・艦長が料理するのを横で見てたから・・・。」

「あーはいはい、ご馳走様。霧先二佐に惚れてるのは分かったから進めましょう。」

「ちょっとゆきなみ姉さん!そんな風にさっさと片づけないでよ!」

「だって・・・みらいが霧先二佐のこと話し始めると吹雪ちゃんみたいな顔して延々と語るし・・・。」

 

微笑ましいのかそうでないかはさておき、二人は上手く作業を進めながら話し込む。

実際後は煮込むだけなのでやることが無いのだろう。

 

「那珂ちゃんとしてはちょっと複雑だなぁ・・・・。」

 

近くにいた那珂は会話の一部始終を聞いてしまい複雑そうな顔をしていた。

さて、その隣では霧先、大淀ペアがカレーを作っていた。

 

「大淀さん、これを鍋に入れてください。」

「これでいいんですか?」

「はい、もう計量は済ませていますので入ってる分すべて入れてください。」

 

分かりましたと大淀は言って具材が投入され煮だった鍋にカレー粉を入れていく。

全部投下し終えたら程よいとろみを付けつつ焦げないように煮込むため大淀はお玉でグルグルとかき混ぜ始めた。

その横で霧先は1㎏のバラ肉の塊を2個ほど取り出した。

そして豪快にそれをまな板の上にドンッと置いた。

大淀は顔をギョッとさせて驚き霧先に尋ねた。

 

「そ、それどうするんです?今からだと間に合いませんよ?」

 

今からカレーに入れると思った大淀は霧先にそう言うが霧先は首を振りながら答えた。

 

「違いますよ大淀さん。これを揚げてご飯の上にのせてからカレーを掛けると何になります?」

「・・・・あっ!カツカレーですか?」

「その通りです!」

 

実は霧先、このバラ肉の塊を一口大にカットしてカツにするというのだ。

大淀に説明した霧先は早速下準備を始める。

まずバラ肉を厚さ1㎝程に切って筋を切る。

更に全て切り終わってから肉の両面に塩コショウを振りかけてなじませる。

次にトレーを5つとボウルを1つ取り出して調理台に並べる。

トレー2つには小麦粉とパン粉を用意しボウルには卵を投入。

卵を程よくかき混ぜたら次々と肉に小麦粉を付けてから卵を潜らせてパン粉を纏わせる。

最終的に上げる寸前まで出来上がったものを残ったトレーに並べていく。

そして最後に揚げ物用の鍋にサラダ油をたっぷり注いで火にかける。

油がいい感じの温度になってから次々とカツを油の中へ投入していく。

一気に揚げ物の揚がるいい音と香りが会場に広がった。

 

「おぉ!友成君はカツを揚げ始めた!しかもいい匂いだ!」

「霧島さん段々キャラがおかしくなってるし!友君も上手に料理できるとか那珂ちゃんより女子力高い・・・・。」

 

霧島のハイテンションに引っ張りまわされつつも突っ込みをする那珂。

そこに甥の方が自分より料理が上手いというパンチが入った。

 

「さてと、良いころ合いかな?」

 

霧先は頃合いを見計らってカツを油から上げる。

するとこんがりきつね色に上がった大変美味しそうなカツが完成した。

彼は次々とカツを上げて脂取り紙を敷いたトレーに置いて行く。

そしてすべて取り終わったらまだ揚げていないカツを油に入れていく。

そして次々とカツが完成していく。

 

「大淀さん、一つだけ味見してくれませんか?」

「はいではいただきますね。」

 

大淀は最初に上げたカツを口の中へ運び食す。

その後口なのかに広がる肉汁と塩コショウの味が彼女の頬を緩ませた。

 

「ん~!美味しいですよ!柔らかいですし塩コショウがちゃんとついているのでこれ単体でも行けます!」

「良かった。じゃあどんどん揚げていきますね。」

 

そんな二人のやり取りを見ていた霧先に好意を抱いている者たちは楽しそうに会話をしている大淀への嫉妬心でハンカチを食い破っていた。

勿論、翔鶴と瑞鶴のペアも順調に進めていた。

 

「フフン!一航戦おそるに足らずね!」

「そんなこと言ってはダメよ瑞鶴。五航戦の私たちが慢心してはいけないわ。・・・・でも大淀さんが少し羨ましい。」

「翔鶴姉何か言った?」

「いいえ。別に何でもないわ。」

 

瑞鶴が調子に乗った為翔鶴がそれを諭した。

しかし小声で言ったことが少し瑞鶴の耳に届いていたらしく尋ねられたが何もなかったかの様に答えた。

だが翔鶴の方を向いた瑞鶴はあることに気づいた。

 

「あっ!翔鶴姉!カレー跳ねてる!」

「えっ!何処?カレーの汚れって落ちにくいのに・・・・。」

 

それは翔鶴の服にカレーが跳ねていることだった。

カレーの汚れは落ちにくいことで知られている為、翔鶴も焦る。

瑞鶴は場所を教えるためにその場所を引っ張った。

しかし場所が悪かった。

 

「ほらここ!ここ!」

「あっ!待ってスカートはあまり触らないで!あぁ!!」

 

瑞鶴にスカートを引っ張られ動揺した翔鶴は尻もちをついてしまった。

ドシャッ!という音と共に目をつぶってしまった瑞鶴が目を開けるとそこには。

 

「はっ!」

 

翔鶴の紐で結ぶタイプの下着が現れていた。

 

「えっ?・・・・・・あぁぁ!!」

 

呆然と立ち尽くす妹の右手に握られている物を見た翔鶴はゆでだこのように顔を赤くした。

 

「もう!なんで私ばっかり!!」

「あっ!待って翔鶴姉!!わざとじゃないの!!」

 

わざとじゃなかったにしろ翔鶴にとっては恥ずかしいことこの上ない。

翔鶴は恥ずかしさからか会場内を走り回って逃げ始めた。

瑞鶴は後を追いかける。

一方自衛官たちは全員目をそらしたり識別帽を深くかぶって視界を塞いだり周りの艦娘から見えないようにされていた。

勿論提督と尾栗もだ。

 

「ありがとうございます!こういうのを待ってました!」

「霧島さん!冷静だけど実はテンションMAXだよね!?」

 

段々と霧島が壊れていき那珂もどんどん突っ込んでいく。

そして災いはさらに加速する。

 

「翔鶴姉!危ない!」

「え?」

 

ゴチンという音が会場に響いた。

翔鶴が走り回った結果、隣の調理台で揚げ物をしていた霧先に頭同士をぶつけてしまったのだ。

突然の事でよけれなかった霧先は翔鶴と衝突するが更に不幸は続く。

 

「目が、目がぁあぁぁ~!」

 

偶然、彼が持っていた菜箸が翔鶴と衝突した際に瞼を直撃。

油の中から上げてすぐだったためかなりの高温となっており霧先は目を押さえて某大佐の台詞を言いながらふらつく。

そして、そのまま霧島のいる櫓の柱に頭を思いっきりぶつけて轟沈した。

 

「し、しっかりしてください!!」

 

すぐさま大淀が霧先を介抱するがすでにたんこぶが二つほど出来上がっていた。

そんなことが起こっている横で島風は気にする様子もなく鼻歌を歌いながら鍋の中に入れた袋を取り出して開封。

連装砲ちゃんが持ったご飯をよそった皿にかける。

そう、袋の中身はレトルトカレーだったのだ。

 

「でーきたー!!」

 

笑顔でそう言う島風に疑問符を浮かべたままの那珂が訪ねた。

 

「ねぇ島風ちゃん?もしかしてそれレトルトカレーじゃ・・・・。」

「ん?だって早いもん。」

「早いからってレトルトは・・・・。」

「ご馳走様ぁ~。」

「食べるのも早!!というか島風ちゃんが食べちゃダメ!!もー!突っ込みは那珂ちゃんの仕事じゃないのにぃ~~!!!」

 

最早自由奔放過ぎる面々とカオスな惨状と化す会場に那珂も限界が来たようだ。

その様子を暁は何とも言えない気分で見ていた。

 

「周りが勝手に脱落していくこのむなしさは何なのかしら・・・・。」

「それより暁お姉ちゃん。味見お願いなのです!」

 

自分たちのする事をしっかりやり遂げるため、電は暁にカレーの味見を頼んだ。

暁は小皿に乗ったカレーを受け取ると口に含んだ。

 

「どうだい?」

 

響が聞くと暁は即座に答えた。

 

「良い!今までで一番良いわ!!」

「本当!?やったね!!」

「えぇ!周りもあんな調子だし、これなら勝ったも同然よ!!」

 

雷も喜び全員が優勝を確信した。

しかしある人物が異を唱えた。

 

「それはどうかしらね!」

 

それは足柄だった。

 

「羽黒、お願い。」

「は、はい・・・どうぞ、みなさん・・・。」

 

足柄が言うと羽黒は第六駆逐隊の四人に小皿に小分けにしたカレーを乗せたお盆を差し出した。

四人はそれぞれ一つずつ手に取ってから口に含んだ。

直後、とてつもない辛さが四人の口を襲った。

 

「な、なにこれ!辛ひゅぎる!!」

「で、でも!すごく美味しいのです!」

「痺れるほどの辛さなのに!どこかまろやかでこれは後を引く味だわ!」

「美味しいとしか言いようがない!」

 

暁、電、雷、響の四人は足柄のカレーの美味しさに驚愕した。

 

「なんで!?なんで暁たちのカレーとこんなに違うの!?」

 

暁は困惑していた。

その奥で激辛カレーと聞いた長門が汗をかきながら見据えていた。

 

「提督。まさかとは思いますが・・・・。」

「あぁ、長門は辛いものが苦手でな・・・。」

「なんで審査員やったんだよ・・・・。」

 

尾栗が呆れた声を出しながら言う。

そして足柄は第六駆逐隊に自分の強みを語った。

 

「これまでの知識と経験、そして数え切れないほどの試行錯誤を繰り返して生み出された黄金配合スパイス・・・私とあなたたちとでは年季が違うのよ!」

 

第六駆逐隊はその言葉にショックを受ける。

確かに年季が違えばそれだけ知識と経験も違ってくる。

こればっかりはどうしようもない。

 

「それに何よりも!背負っている物の重さが違う!」

「どういうこと・・・?」

 

暁の言葉に足柄は答えた。

 

「次の機会こそ、確実に決めるための女子力!お料理ナンバーワンという名誉が私には必要なのよ!・・・・・・もうね、後が無いの!」

「あぁ!!会場が一気にお通夜に!!今日は皆お祭り気分なのにこの人ガチ中のガチ!大ガチだよぉ!!」

 

目尻に涙を浮かべながら足柄が言った言葉は会場内を一気にお通夜ムードにしてしまった。

那珂の言葉がまるで皆の気持ちを代弁しているかのようだ。

 

「容赦なく教え子の心を折りに行きましたね!さすがは飢えた狼!」

「ついでに僕らの気分も折れちゃったよ!」

 

霧島の言葉に霧先が突っ込む。

既に大淀の治療を受け復帰していたのだ。

 

「許してください!私はもう!ヤケ酒に沈む姉さんを見たくないんですぅ・・・ううぅう・・・・。」

「そして羽黒さんはガチ泣き!?」

 

那珂の実況が響き渡る。

最早カオス、地獄絵図としか言いようのない収拾のつかない状況をどうしたらいいものか。

足柄の本気に第六駆逐隊はくじけそうになる。

 

「くっ!」

「私たちには重すぎるわ・・・。」

「ここまでなのです・・・?」

「あんなに・・・頑張ったのに・・・!」

 

響、雷、電がくじけかけていく中で暁は頑張った日々を思い出していた。

特訓の成果が出せないと思うと暁は泣きそうになる。

そこに長門の声が響いた。

 

不精(ぶしょう)(わた)()かりしか!お前達は十分な努力をした。ならば、後は最後まで取り組むまでだ。」

「長門さん・・・!」

「どうしてそんなに私たちを?」

「私だけではないさ。」

 

第六駆逐隊が周りに目を向けると観客の艦娘や自衛官、妖精が応援していた。

 

「なぁ~んと!会場中から第六駆逐隊コール!彼女たちの頑張りがついに会場を動かしたというのでしょうか!」

「単に足柄さんが作ったこの重い空気をどうにかして欲しいだけなんじゃ・・・・。」

 

那珂が言うことが大きな要因であることなのは間違いないだろう。

一方、蚊帳の外となったゆきなみ、みらいペアと霧先、大淀ペアは椅子に座ってお茶を楽しんでいた。

 

「一丸になるっていうのは素晴らしいね。」

「そうですね艦長。」

「あっ、大淀さんお茶のお代わりは?」

「お願いします、ゆきなみさん。」

「友君たちはなんでお茶してるの・・・・?」

「「「「暇だから」」」」

「アッハイ。」

 

那珂が気押されされた時、足柄が高らかに笑った。

 

「おーほっほっほっほ!ひよ子さんたちが私の人生の重みに耐えられて?」

「姉さん・・・・。」

 

最早羽黒は残念な姉に泣いているのか自分のこの境遇を憂いているのかが一目見ただけでは分からなくなってきた。

その時、響が立ち上がった。

 

「少し、軽くなった。」

 

続いて雷、電、暁も立ち上がる

 

「皆が呼んでくれるなら!」

「私たちは立ち上がるのです!」

「そうよ!暁たちは誓ったんだから!!皆で勝つって!」

 

皆の声援が第六繰躯体の心を折れさせなかったのだ。

 

「行くわよ皆!」

「「「おー!」」」

「くっ!ひよっこが・・・!どこからでもかかってくるといいわ!!」

 

こうして第六駆逐隊VS足柄の対決が始まった。

 

「第六駆逐隊立つ!今鎮守府の未来を掛けた運命の最終決戦が始まるのです!」

「これカレー大会だよね!?ねぇ!?」

 

霧島のノリノリな実況に那珂はこれがカレー大会かどうか怪しくなってきたようだ。

相変わらず霧先たちはお茶を飲んでのんびり過ごしている。

 

「何だかアニメの最終回みたいだよね。」

「そうですね。こっちから見たら唯のごっこ遊びに見えますけど。」

 

霧先とみらいがそんな事を話しているうちに最終審査へと移った。

審査員である提督、長門、尾栗の三人の前には四つのカレーが置かれている。

 

「さぁ!すべてのカレーが出そろいました!いよいよ最終審査の時です!」

「何だかかなり時間を取られちゃった気がするけど、とにかく審査しちゃって!」

「お、おう。じゃあまず霧先、大淀ペアのカレーからいただくとしよう。」

 

三人はカレーをすくってカツと共に口に入れる。

そして味わった後、次のゆきなみ、みらいペア、そして足柄、羽黒ペア、第六駆逐隊のカレーを食べて審査した。

途中、足柄、羽黒ペアのカレーを食べた長門は酷い汗をかいていたようで辛いのは苦手だということが十二分に証明されることになった。

 

「さ!果たして結果は!?お手元の札を上げてください!どうぞ!!」

 

霧島の掛け声とともに三人が札を上げる。

提督、長門、尾栗の三人がともに第六駆逐隊のカレーの札を上げていた。

 

「何と!本年度鎮守府カレー大会優勝は審査員の満場一致で第六駆逐隊に決定しました!!!」

「「「「やったぁ!!!」」」」

 

第六駆逐隊は歓喜の余り、はしゃぎまわる。

それを見た霧先、大淀、ゆきなみ、みらいの四人は拍手を繰り、足柄は相当悔しかったのか大声をあげて泣き叫び羽黒がそれを宥めていた。

 

「それじゃあ三人の審査員に話を聞いちゃうよ!提督はなんで第六駆逐隊のカレーにしたの?」

「そうだな。まず子供特有の簡単カレーになると思っていたが以外にも店で出されるのと同じぐらい良いカレーが出てきた。そのインパクトが一番の理由だな、インパクトで言えば霧先、大淀ペアもよかったが・・・・少し第六駆逐隊に傾いてしまったな。」

 

それを聞いて少し霧先と大淀は悔しそうだった。

那珂は引き続き長門に話を聞く。

 

「それじゃあ長門さんは?」

「ふむ、味も具材も食べやすいようによく工夫されていたし何より彼女たちはよく頑張っていた。そこも評価に入れるべきだと考え、この結果にした。」

 

長門はどうやらカレーだけでなく頑張りも評価に入れたようだ。

 

「それじゃあ最後に尾栗少佐!」

「おう、ゆきなみとみらいのカレーもよかったといえばよかったんだが・・・・なんせ横須賀カレーフェスタでゆきなみのは何度か食べたことがあるし、みらいのカレーも食べなれちまってるからな。今回のカレーはそれを足して2で割った感じだったんだ。だけども第六駆逐隊のカレーはどこか懐かしい感じの味がしてな。それを思い出したら何だか自然と札を手に取っていたよ。」

 

そう言った尾栗の言葉にゆきなみとみらいはもう少しアレンジを加えた方がいいということを学んだようだ。

 

「それではこれより!提督からの授賞式を行います!!」

 

霧島の司会でカレー大会は閉幕へと向かった。

無事閉幕した後は余ったカレーを皆にふるまうというものがあった、が。

 

「工廠長!綾波のカレー食べてください!」

「土佐のもお願いします!」

「お姉さんのもお願いしちゃおうかなぁ?」

「伊勢、この媚薬とは何だ?」

「蒼龍カレーを召し上がれ!」

「余ったものですがどうぞ艦長!」

「あの・・・スカートの件で審査には出せなかったですけど友成君が良ければ・・・・。」

「深雪スペシャルカレーだぜ!」

「如月カレー、食べて♪」

「そんなに食べきれないですよ!!」

 

霧先は怒涛のカレーラッシュを食らったようだ。

その後何とかカレーを食べた霧先は自室へと向かっていた。

 

「はぁ・・・何とか量を減らしてもらって食べきれたけど・・・ん?」

 

ふと霧先は食堂に寄った時に自分の母、先代神通が何かしているのを見た。

気になった霧先は声を掛ける。

 

「母さん?」

「ゆ、友成?」

 

先代神通は驚いた様子で霧先の顔を見た。

その手にはカレーが盛られた皿があった。

 

「母さん、それって・・・・。」

「・・・・あなたが小さいころに食べさせてあげたかったカレーよ。」

「そういえば母さんの手料理食べたこと無かったな・・・スプーン頂戴。」

「え?でもほかの皆さんのカレーを・・・。」

「大丈夫、少し胃をあけておいてあるから。」

 

そう言って霧先は先代神通の手からカレーを取ると席に座ってから頂きますと言ってカレーを食べ始めた。

 

「どう?味付けなんか工夫してみたんだけれど・・・。」

「・・・うん!美味しいよ!これが母さんの手料理か・・・・。」

 

何故か霧先の視界がぼやけ始める。

そして食べてるカレーがしょっぱくなっていく。

 

「あれ?なんでしょっぱくなるんだろう・・・・。」

「友成・・・・大丈夫?」

「大丈夫・・・美味しいよ母さん・・・・。」

 

霧先は泣きながらカレーを食べた。

出会った頃は17年間会えなかったという実感こそわかなかったものの。

母の気持ちが籠った料理を食べてみると本能的に実感がわいてくるのだろう。

霧先は暖かい母の気持ちが溢れたカレーをたらふく食べて完食した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、母と別れた霧先は第六駆逐隊にお祝いの言葉を言いそびれた事を思い出し第六駆逐隊の部屋を訪ねた。

しかし第六駆逐隊は特訓での疲れのせいか既に夢の中だった。

 

「仕方ないな。」

 

霧先は一人ずつベットへ寝かせて布団を掛けてから優しくなでて部屋を後にしようとした。

その時、ちゃぶ台の端にある優勝トロフィーが目に入った。

霧先は持っていた綺麗な手ぬぐいでトロフィーを磨いた後、落とさないようにちゃぶ台の真ん中に飾った後、部屋を退出した。

金色の錨とその上の金色のカレーという独特な形のトロフィーは夕焼けの光で一層綺麗に輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、霧先が書類を片付けていると小さな訪問者がやって来た。

 

「よう工廠長、カレー大会は大盛況だったな!」

「主任妖精さん、こんばんわ。」

 

やって来たのは主任妖精だ。

普段と違い今は150㎝くらいの女の子の姿をしている。

手には何やら大きな紙を丸めた筒をもっていた。

 

「設計図、出来上がったぜ。これでいいか?」

 

霧先が渡された大きな紙、設計図に書かれたのは格納庫のようなものだった。

題名には「地下防空壕」と書かれていた。

 

「えぇ、早速建設を進めてください。」

「完成したらこっそりと資料室と提督の部屋、工廠長の部屋の書類や書籍を全部写したものとすり替えてここに保管だったな。」

「後各資材の半分も。」

「こんなに念入りにして大丈夫なのか?」

 

少々過剰なのではないかと危惧する主任妖精に霧先はすぐに答えた。

 

「むしろ足りないくらいです。出来るだけ建設を急いでください。残り時間はもう少ないんです。」

「まぁ、良いか。一週間で出来上がるから楽しみにしてな。そんじゃ私は失礼するよ。」

「お礼の間宮羊羹、きっちり用意しておきます。」

「忘れんなよー!」

 

普段のサイズに戻った主任妖精はそそくさと部屋を退出した。

霧先は一人、工廠長室の窓から見える海を眺めていた。

 

「恐らく敵もこちらの総本山を叩く気はあるだろう。未来の力があるからと言って慢心はできない。用心に越したことは無いけど・・・使わない事を願うばかりだよ。」

 

霧先はそう言うと椅子に座り直して再び書類との格闘を再開し始めた。




久々に一万文字超えました・・・・。
次回新艦娘登場!
後、アンケートもやるので活動報告までどうぞ。

次回「艦隊の疫病神」

友成の胃がどんどん荒れてくよ!


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第肆拾参戦目「艦隊の疫病神」

新艦娘登場でございますよ。
というより題名でもうバレバレですね・・・・。


鎮守府カレー大会が終了して3日経った日。

工廠長の霧先は工廠で一大イベントを行っていた。

 

「よし・・・・戦艦レシピで何が来るか・・・・。」

「友成の運が試される・・・・・!」

「いざ!!」

 

秘書艦の蒼龍と共に意気込んだ霧先は制御盤にある大型建造の建造開始ボタンを押す。

そしてブザー音が鳴り資材がどんどん運び込まれる。

やがてすべての資材が入り出てきた建造時間はなんと「99:59:59」だった。

 

「99時間59分59秒・・・・・・また書類が増えていく・・・・。」

「あー駄目だこりゃ。戻って来てよ友成!」

 

表示された異常な建造時間に霧先は頭を抱えつつ放心する。

隣にいた蒼龍はヤレヤレといった様子で首を振りつつ放心した霧先を現実へ引き戻すために肩を持ってガクガクと揺らした。

 

「はっ!そうだ!早く高速建造材を使わないと!」

 

現実に引き戻された霧先はすぐ妖精に指示を下した。

 

「高速建造材を使うことを許可する!!」

「ヒャッホー!高速建造だー!」

「最初からクライマックスだぜ!!」

 

毎度のことながら何か変なのが混ざっている気がするが霧先は放っておく。

パタパタと残り建造時間が減っていき残り時間は0となった。

そして霧先と蒼龍が建造ドック前に立つとブザー音が鳴りドックの重厚な扉が開かれる。

そして現れたのは肩ほどの長さの茶髪で頭の上の方で結って服装は上は赤のTシャツ下はジーンズパンツで右脚に黒でUSS South Dakota BB-57と書かれていて推進器を模したハイヒールをはいていた。

腰と肩に軍艦の装備を小さくしたものを身につけている。

 

「戦艦『サウスダコタ』、たった今着任した!砲撃戦なら右に出る奴は居ない!」

 

霧先はその女性の名前を聴いたとたん頭を抱えた。

また仕事が増えるであろう。

ふらつく霧先に蒼龍は声を掛けた。

 

「大丈夫?」

「まぁね・・・初めまして、日本国海軍横須賀鎮守府工廠長の霧先友成中佐です。」

「航空母艦の蒼龍です。」

 

敬礼する二人にサウスダコタも敬礼した。

 

「さっきも言ったがアメリカ海軍のサウスダコタ級戦艦「サウスダコタ」だ。昔色々あったけどまぁ過去は過去ということでよろしく頼むぞコマンダー。」

「よろしくお願いします。」

 

サウスダコタに握手を求められた霧先は快く応じて二人はがっしりと互いの手を掴み握手した。

 

「では、案内しますのでついてきてください。」

 

霧先は早速サウスダコタを案内することにした。

但しこれから起こるであろう事を考えて嫌そうな顔をして。

 

「友成、大丈夫?」

「はい・・・但し戦艦サウスダコタは戦艦霧島と砲撃戦を繰り広げた戦艦の一隻なんですよね・・・・・。」

「霧島?それがどうかしたの・・・?」

「それが原因なんですよ・・・・もしここで霧島さんとであったりしたら。」

「工廠長?どうかしましたか?」

 

サウスダコタに聞こえないように蒼龍に話す霧先は声を掛けられた。

霧先は錆びた古い機械のようにギギギと声のした方を向く。

そこには何と霧島がいた。

 

「どうしたコマンダー?」

 

サウスダコタが固まった霧先に声を掛ける。

しかしタイミングがまずかった。

 

「あら、新しい艦娘ですか?私は・・・・・。」

 

霧島は聞きなれない声に反応して挨拶をしようとしたがその艦娘を見て霧島は石のように固まった。

そこに霧先が声を掛けた。

 

「あ、あのぉ・・・・霧島さん?」

 

しかし霧島は気にする素振りも見せずにサウスダコタに話しかけた。

 

「あなた・・・・・サウスダコタね?」

「そう言うお前は霧島か?明らかにそれらしいしな!」

 

ハハハと笑うサウスダコタに霧島はカチンと来た。

 

「へぇ・・・・あの時と今の私は違うのよ?」

 

そう言う霧島は艤装を装備してサウスダコタに砲を向けていた。

実は艦娘達は出撃の際に機械によって艤装を身に着ける事が多いが瞬時に妖精の力で着脱したり自分で着脱が可能となっている。

その為、瞬時に現れた砲を見た蒼龍と霧先は冷や汗を滝のように流した。

 

「き、霧島!今撃ったら私たちも消し炭だよ!」

「ミンチだけはご勘弁ですよ!!」

 

霧島はしばらく砲を構えていたがやがて艤装を解除した。

 

「・・・・・半分冗談よ。」

「半分は冗談じゃないのか。来て早々に血の海は勘弁だぞ・・・・。」

 

ポリポリと頭を掻くサウスダコタの横で霧先と蒼龍はホッと胸をなでおろした。

さすが戦艦の気迫と言ったところだろう、霧先のシャツは汗でかなり濡れている。

 

「えっと・・・霧島さん。これからサウスダコタさんも立派な鎮守府の一員となるので仲良くして下さいね?」

「そういうことだ、仲良くしようか霧島?ハハハ!!」

 

霧島に肩を組んで豪快に笑うサウスダコタ。

当の霧島は青筋を浮かべながら声を振り絞った。

 

「えぇ・・・・出来るだけ善処するわ。」

「はぁ・・・・。」

 

溜息をつく霧先。

何故こうも彼は不幸な目にあうのであろうか。

彼の胃が胃潰瘍になる日も近いだろう。

霧先は霧島に別れを告げた後、執務室に向かった。

途中、何人かの艦娘に出会ったが全員そろってサウスダコタを珍しいものを見る目で見ていた。

 

「コマンダー、何だか会う奴に変な物を見る目で見られてる気がするんだが・・・・。」

「そりゃアメリカの艦娘なんていないですし、珍しいものを見る目で見られても仕方がないですよ・・・っと、着きました。ここが横須賀鎮守府最高指揮官、高屋提督の執務室です。僕が旨を伝えてから紹介しますので廊下で待機していてください。」

「分かった。」

 

霧先はサウスダコタの返事を聞いた後、姿勢を正して扉に向いてノックした。

 

『誰だ?』

「工廠長の霧先です!」

『入ってくれ。』

 

中から提督の返答が聞こえた後、霧先はノブを回して扉を開けてから執務室に入室した。

提督の執務机の上には書類が多数あり執務の最中であることがうかがえる。

秘書艦の長門は静かに書類を片していた。

霧先は扉を閉めた後に敬礼した。

提督も答えるように敬礼をし、提督が腕を下してから霧先も敬礼を解く。

 

「それで?どんな様で来たんだ?」

「はっ、本日の大型建造で新艦娘が建造されたため報告に参りました。」

「ふむ・・・・・それで結果は?」

 

提督も察したのだろう。

既に嫌な汗をかいている。

霧先もその姿を見て同情するが現実は非情である。

 

「米海軍戦艦『サウスダコタ』でした。」

「・・・・・は?サウスダコタ?色々と不味いんじゃないか?」

「既に問題は浮彫ですよ。霧島さんとの関係で。」

 

霧先の言葉に提督は項垂れた。

まぁ無理もないだろう。

 

「呼びましょうか?」

「頼む・・・・。」

「分かりました。サウスダコタさん、入ってきてください!」

 

力なく言う提督の心情を察しつつ霧先はサウスダコタを呼び込む。

それを聞いたサウスダコタは扉を開けて中に入って来てからきっちりとした敬礼をした。

 

「戦艦サウスダコタ、着任した。よろしく頼むぞ提督。」

「あぁ、俺は横須賀鎮守府提督の高屋浩二だ。早速だが今現在大規模作戦の真っ最中でな、騒がしい時期なだけあって今は少しでも戦力が欲しい。基本的に演習をして貰うが実戦が急遽起きる可能性も考えておいてくれ。」

「了解だ。生憎スクラップにされた後すぐに来たもんで事情はあんまり知らないが戦力になってやるよ!」

「そういってもらえると助かる。丁度、霧先中佐が指揮を執る『特殊第二艦隊』に空きがあるからそこに入ってもらう。戦艦娘もいるから彼らに指導してもらうように、以上だ。あと霧先、サウスダコタの面倒を見てやれ。」

 

突然言われた霧先は目を見開いて驚いた表情をした。

 

「えぇ!?自分がですか!?」

「そうだ、しっかり面倒を見るんだぞ。なにほんの数日生活を指導してやるだけだ。」

「・・・・分かりました。」

「よろしく頼むぞコマンダー!」

 

ほんの数日ならと思った霧先は提督の案を承諾した。

その横でサウスダコタは満面の笑みで霧先の背中を叩いた。

 

「それでは詳細書を本日中に提出します。」

「あぁ、用件はそれだけか?」

「はい。」

「じゃあ退出しても構わん。」

「「失礼しました!」」

 

告げるべきことを伝えた霧先とサウスダコタは執務室を退室した。

彼らの出ていった扉を見つめた提督は深いため息をついた。

 

「はぁ・・・・果ては米戦艦までもが艦娘としてやって来たか・・・。」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫だ長門。」

 

溜息をついた提督の心配をする長門に提督はそう言い深く椅子に座り込んだ。

だがその後に「ただ・・・」と言葉を付け加えて話を続けた。

 

「今後の事を考えると不味いな。とにかく輸送任務の増強と演習の強化を最優先にする。MO作戦まで日にちが少ない。」

「了解です。」

「イレギュラーは深海棲艦にとっても脅威になる。だがそれを過信し慢心すれば我々が敗退することになる。それだけは避けねばならん。」

 

確かに戦力は揃っている。

だが実力を最大限に引き出さなければ豚に真珠だ。

それを考えた提督は珈琲を一口だけ口に含んだ後書類の処理を再開し始めた。

 

 

 

 

 

「コマンダー、『特殊第二艦隊』とはなんだ?」

 

霧先と蒼龍に連れられて施設紹介をおけていたサウスダコタは突然霧先に尋ねた。

説明していない事を思い出した霧先はサウスダコタに説明することにした。

 

「そういえば教えていませんでしたね。『特殊第二艦隊』は他鎮守府で建造が確認されていない艦娘で構成された艦隊で実質僕が最高指揮官を務めています。主に防衛と救援が任務になり如何なる場合においても専守防衛と自衛隊法を厳守します。」

 

特殊艦隊は現在第二艦隊まで存在している。

特殊第一艦隊は旗艦をみらいとし、ゆきなみ、伊152の艦艇時の姿を持つ艦娘で構成され第二艦隊は天城、土佐、伊勢、日向で構成されている。

かなりバランスが悪いように見えるが他の艦娘が別艦隊に所属しているため兼任できないのが原因である。

 

「ふーん・・・・分からない単語があるがそのうち分かるか。」

 

実に能天気な考えに霧先は苦笑いをするしかなかった。

そして施設紹介をしていくうちに霧先たち「みらい」「ゆきなみ」「伊152」の停泊している埠頭までやって来た。

始めてみる艦影にサウスダコタは尋ねた。

 

「コマンダー、この艦は?」

「潜水艦は伊152さんの艤装で水上艦艇の方はみらいとゆきなみさんの艤装です。三人は特殊第一艦隊に所属しています。」

「なんだか不思議な艦影だな。戦えるのか?」

 

サウスダコタは物珍しそうに「みらい」を凝視している。

霧先はその横できっぱり答えた。

 

「十分に戦えます。なんせ貴方の艦艇時代から60年後の兵器を満載していますからね。」

 

その言葉を聞いたサウスダコタはぎょっとした。

 

「60!?そんな未来から来たのか!?」

「えぇ、かくいう艦長である僕は約70年後からやって来ましたが。」

 

霧先は「みらい」を眺めつつサウスダコタに答える。

サウスダコタは頭を抱えた。

 

「驚きだな、スクラップとして売り渡されて気が付けば人の身体になって更には日本と共に戦うことになって・・・・その上、未来から来た艦を見ることになるとは・・・。」

「驚きなんてなれますよ。」

 

霧先はそう言った後に少し間を置いてからサウスダコタに話しだした。

 

「実は僕自身、貴方が現れた時に少し危惧していたんです。また日米艦艇間の争いが勃発するんじゃないかとね。でも、貴方のような性格なら大丈夫そうでしょう。」

「そんなことを危惧していたのか?コマンダーは心配性だな。」

「心配性に越したことはありません・・・ただ、戦後に生まれアメリカに養われた日本で育った僕やみらい、ゆきなみさんはともかく、この日本にいる艦娘の中には米国に対していい感情を持たない艦娘もいるかもしれません

。その時、サウスダコタさんによってアメリカへの印象が変わるかもしれないのでその点には注意してください。」

「ほ~、つまりはアメリカが嫌いな奴らにアメリカのいいところを教えればいいんだな?任せておけ!」

「あ~お願いします・・・・。」

「?・・・・・なるほど・・・・。」

 

胸を張るサウスダコタだったが霧先は少し目線をそらす。

推定G~Hはあるであろうたわわなものがいやでも目に入ってくるのだ。

それを見たサウスダコタは疑問符を浮かべるがすぐに気づいて悪い笑みを浮かべて霧先に近寄り彼の肩を掴んだ。

 

「サウスダコタさん?」

「そいよ!」

 

そして思いっきり霧先を引き寄せて彼の顔を自分の胸に埋めた。

突然の事で霧先も蒼龍も驚愕し少し石化した。

しかしすぐに我に返り霧先はジタバタと暴れ蒼龍は怒り出した。

 

「ムー!ムー!!」

「ハハハ!コマンダーも男ならこれがいいんだろ?」

「ちょっと!友成に何してるのよ!!」

「スキンシップだ。」

「何すました顔で言ってるの!!」

 

サウスダコタと蒼龍が言い争っている隙に霧先は何とかサウスダコタの拘束

から逃げ出し深呼吸をした。

サウスダコタの胸に埋まっていた間に酸欠に陥っていたのだ。

 

「し、死ぬかと思った・・・。」

 

深呼吸を霧先の横では未だ蒼龍とサウスダコタが言い合いをしている。

このとんでもない絵面が最早霧先の日常と化している。

彼の毛根と寿命が今後危ぶまれてくるだろう。




というわけでサウスダコタさん登場回でした。
アメリカの艦娘の性格は基本的に作者のイメージなので皆さんの想像とは違うと思われますがお許しください。
もう一話だけ休息編は続きます。

次回「工廠長の優しさ」

明石の気持ちとは?


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第肆拾肆戦目「工廠長の優しさ」

今回は普段、裏方での仕事に徹し殆ど話に出てこない明石さんにスポットライトを当ててみました。
霧先と出会う可能性が多い彼女の気持ちとは?


サウスダコタが建造されてから1週間が経った頃、夜の工廠の中にある工廠長室では霧先が書類の分別作業を行っていた。

時計の針は既に真夜中を少し過ぎている。

本日の秘書艦である扶桑型の方の日向を帰した今、一人だけで黙々と仕事を続けた彼ももう少しで仕事が終わる。

 

「これでよしっと!あ~疲れたなぁ~!」

 

そう言いつつ霧先は伸びをして首を傾けて解す。

同じ体制で長時間居た為かかなり凝っている様子で関節がゴキゴキと鳴った。

少し身体を動かして楽になった霧先は席を立ってからベルトを腰に巻いた。

これから夜の見回り作業に入るのだ。

その為、ベルトには9㎜拳銃と警棒、ライト、手錠が付いている。

 

「さて、見回り見回り~・・・・ってまたですか。」

 

工廠長室の電気を消してから戸締りをして見回りに出ようとして振り返った霧先の目に入ったのは疲れ果てて寝てしまった明石だった。

近くにサウスダコタの艤装があるところから整備中に寝てしまったのだろう。

 

「仕方ないか・・・。」

 

霧先は少し溜息をついた後、工廠長室の鍵を開けて隣の休憩室のベットへと明石を運んだ。

勿論、お姫様抱っこで。

そして顔に着いた煤や油を濡れティッシュで拭き取ってから彼女のつけていた作業手袋と髪を纏めているリボンを外して小さな机の上に置いてその横に棚から取り出したカップうどんとメモを置いて静かに電気を消してから退出し見回りへと向かった。

 

 

 

翌日、明石は朝日の眩しい光と総員起こしによって目覚めた。

欠伸をしながら上半身を起こして目を擦る。

そしてある程度視界がクリアになってから周りを見回す。

 

「あぁ・・・・・今日もか・・・・・・。」

 

ボサボサ髪の明石はただそう一言言った。

ここ最近彼女は何度も霧先に運ばれているのだ。

原因は彼女の寝落ち。

霧先も以前から数回は注意していたものの次第に注意することなく最近は部屋に運ぶことが多くなった。

起き上がった明石は欠伸をしながら霧先のメモを読んだ後電気ケトルの電源を入れてお湯を沸かす。

そして寝癖を直すべく洗面台へと向かう。

ここまでが最近の明石の朝となっている。

明石自身も最近の生活は駄目だと思ってはいるものの基本的に妖精以外の工廠勤務の者は霧先、夕張、明石の三人だ。

中でも霧先は例のごとく朝から昼まで執務や艦娘との交流、騒ぎの鎮圧や仲介、第五遊撃部隊の顧問、艦娘のカウンセリングや相談役、特殊艦隊の最高指揮官、自衛艦の艦長、最近では演習の監督や教官も担っている上、自主的に小銃や拳銃の射撃訓練なども行っている。

更に提督不在時には実質副官的立場である為、提督の執務もこなす。

更に夜間の警備任務も彼が担っており、2200以降は霧先が全ての区画の施錠チェックと哨戒を行っている。

中佐とはいえ本当に17歳なのか明石自身も疑わしく思えてくる時がある。

夕張は早めに自室に戻るために最後まで工廠にいるのは明石以外には霧先しかいない。

明石も艤装の修繕などで睡魔と戦うが睡魔に負けて寝てしまうことが多い。

結果、それを見つけるのは必然的に霧先になってしまう。

ただでさえ普段の激務に身を削っている霧先の負担を余計に増やすだけの自分を鑑みた明石は洗面所の鏡に映るピンク色のボサボサ髪で機械系オタク女の自分に嫌気がさしてきた。

 

「はぁ~結果的に友成君に甘えてるだけだよねこれじゃ・・・・。」

 

とりあえず髪を整える明石。

彼女自身、普段激務の霧先に申し訳ないとは思っていても甘えているようにしか思えなくなっている。

 

「何か友成君に出来ること・・・・・慰安?」

 

霧先に対して何か出来ないかと明石は考えたが真っ先に出たのが霧先への慰安だった。

しかしある人物たちを思い浮かべた明石はブンブンと首を振ってその考えを振り払った。

 

「まだ死にたくないし・・・・私なんて友成君の好みじゃないだろうし・・・・。」

 

明石が考えた人物。

それは先代神通、みらい、蒼龍、天城、土佐、翔鶴、如月、扶桑型の伊勢、綾波、深雪達だ。

天城と日向は現在不明だが青葉によるとその他全員が霧先に対して好意を抱いている。

そんなところに明石が慰安などすれば塵さえ残らずじわじわとなぶり殺しにされることであろう。

明石もそれだけは避けたかった。

それに霧先は別の女性の方が好みという可能性も否定できない。

 

「はぁ・・・・頂きます。」

 

寝癖を直した明石は電気ケトルのお湯をカップ麺へ注いで五分待った後、蓋を開けて麺を啜り始めた。

そして食べ終わった後容器をゴミ箱へ入れた時に初めて昨晩入浴していないことに気づいた。

 

「・・・・・汗の臭いもあるし入って来よう・・・・。」

 

そう言うが早いか明石はタオルと桶、着替えの服の「お風呂セット」を片手に風呂場へと向かった。

 

 

 

歩くこと数分。

何人の艦娘と出会い挨拶を交わしながらたどり着いたのは風呂場、通称「入渠ドック」だ。

基本的に艦娘しか出入りしないため明石も普通に入って脱衣所へと向かう。

しかしこの時彼女は大きなミスを犯していた。

入り口の脇には札を掛ける場所があり現在誰が入渠しているのかを判別するために名前入りの札を下げることとなっているのだ。

そこには「工廠長 霧先友成」と書かれた札が下がっているのだが明石は知らない。

その為さっさと服を脱いでタオルを持って浴場へと入った。

 

「はぁ・・・・早く入って出よう。」

 

この日何度目になるか分からない溜息をつきながら明石は浴場を歩く。

しかしその時予想だにしていなかったことが起こった。

 

「うぇえぇ!?明石さん!??」

「へ?」

 

間の抜けた声を出しながら明石は聞きなれた声が聞こえた方を向く。

そこにいたのは自分の上司である霧先だ。

明石はしばし石化してしまい動けなくなった。

しかし目は霧先の身体に集中している。

 

「(普段は服を着てるから分からなかったけど・・・・引き締まっていてがっちりとした体だし・・・・結構好みかも・・・・・。)」

 

遂に頭の思考回路がショートしたのか仕事を放棄した為、明石は場違いな考察をする。

だが霧先の言葉によって明石は現実へと戻された。

 

「あの・・・まじまじと見られると恥ずかしいんですが・・・・それと明石さんも隠してくださいお願いします。」

「え?」

 

現実に引き戻された明石は自分の姿を見る。

タオル一枚を片手に持っているだけで隠してすらいないのだ。

霧先はちゃんとタオルを巻いて隠すところは隠しているし目線も逸らしている。

これでは自分が痴女の様に見えて来る。

羞恥心によって顔を一気に赤らめた明石は即座に脱衣所へと走り出す。

けれどもここは浴場、当然濡れているため摩擦の力も弱くなり滑りやすい。

 

「きゃぁ!?」

「明石さん!!」

 

そのため唐突に走り出した明石は盛大に足を滑らせる。

それを見ていた霧先はすぐに明石を引き寄せて自分が下になる体勢で地面に倒れた。

 

「あいたたた・・・・・明石さん大丈夫ですか?」

「え?う、うん。大丈夫ですよ・・・・。」

「良かった。・・・・出来たら早めに起き上がってくれると嬉しいです。」

「へ?」

 

顔を赤らめながら視線を逸らす霧先に明石は再び変な声を出す。

そしてよく自分の体勢を見るとまるで霧先を押し倒した様な体勢になっているのだ。

ご丁寧に胸を彼に押し付けながら。

 

「ッ!!!」

「アッーーーー!!」

 

そのことに再び顔を赤くした明石は霧先の頬に綺麗な紅葉を作って顔を押さえながら脱衣所へと逃げた。

霧先は浴場の天井を見つめながら大の字で倒れたまま放置されてしまった。

そして一言言った。

 

「この息子はどうにかならないかな・・・・。」

 

それは霧先のタオルを巻いた中からこんにちはー!しているモノだった。

 

「・・・・・・はぁ、どうして男に生まれたんだろう・・・・。」

 

そんなことをぼやく霧先は下のモノを収めるため水風呂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、明石は仲が良い同僚の大淀と共に彼女の部屋で酒盛りをしていた。

酒の力によって程よく酔った明石は顔をほんのり赤らめながら酒の入ったグラスを見つめていた。

 

「それで?なんでいきなり酒盛りなんて提案したの?普段の明石ならこの時間は整備が主でしょ?」

「う゛っ・・・・。」

 

大淀に痛いところを疲れた明石は少し黙り込んだ後、ぽつぽつと話し始めた。

 

「実は・・・・・。」

 

明石は今まで思っていた事や出来事を大淀にさらけ出した。

自分が部下として役に立っていないと思っていることや霧先にどういったらいいのかということだ。

 

「・・・・・まさかとは思うけど・・・霧先中佐の事が好きなんじゃ?」

 

大淀のカミングアウトに明石は酒を噴き出した。

 

「ぶふっ!?ちょっと大淀!?私が友成君の事がすすすすす好きだなんて!!」

「だって好みなんでしょ?」

「う゛っ・・・・。」

 

またしても重要区画を狙い撃ちされた明石は黙ってしまう。

だが降参したようだ。

 

「・・・・そりゃ好みだよ。顔立ち良い、気が利く、優しい、家事全般が上手い、身体も引き締まってる、艦艇についての理解もある・・・・・これほどまでに優良な物件は無いよ・・・・。」

 

明石はそう言いつつ酒を飲む。

だがすでに味の事など考えられなくなっていた。

 

「じゃあ告白すれば?」

「・・・・友成君1997年生まれだよ?私なんか1938年進水だし・・・・友成君から見れば76歳のおばあちゃん・・・今の年代に当てはめたら24歳だけど7歳差だし友成君も同年代の子か赤城さんたちみたいな綺麗な人とか吹雪ちゃんみたいな可愛い子が良いはずだし・・・・機械系の私なんか。」

 

明石は再び酒を飲む。

そして空になったグラスに再び酒を注ぎまた飲む。

それを繰り返していくうちに明石は目に見えて顔を赤く照らし酔っていた。

大淀の気の所為ではなく明らかに酒を飲むペースが増している。

そのことを危惧した大淀は明石を止めようとした。

 

「あ、明石?そんなに飲むと二日酔いになるわよ?」

 

しかし時すでに遅し。

明石は飲み干したグラスを乱暴に机に叩きつけると大淀を睨んだ。

 

「なによ!自分は友成君とカレー大会に出てちゃっかり手料理も食べて頬を緩ませちゃって!!相当いい気でしょうね!!」

 

大淀は頭を抱えた。

明石は何かを貯め込みやすい傾向にあり大淀は昔から酒に酔った明石の噴火を経験していた。

しかし明石も本気で大淀に対して怒っているわけではなくガス抜きをしているだけだということを知っている彼女は普通に対処する。

 

「確かに美味しかったけど明石も食べたでしょ?」

「私も友成君と料理作りたいー!」

 

相当不満だったのだろう、明石は駄々っ子の様になってしまった。

しかし大淀も長年の付き合い。

そんなことに動揺はしない。

 

「だったら誘えばいいじゃない。」

「それが出来たら苦労しないわよ~!!」

 

最早めんどくさい酔っ払いと化した明石に大淀はこめかみを押さえた。

今までの明石なら「○○がでないー!」だの「○○が△△でー。」だの機械系や提督への不満などの物が多かったが今回は色恋沙汰である。

大淀は過去に一度そういう話題についての相談を受けたことがあるが耐性が無いため今回もどう対処したらいいのか分からなくなった。

明石の戯言を右から左へ受け流していると明石は勝手に酒を浴びるように飲みながら終いには酔いつぶれ眠ってしまった。

 

「はぁ・・・・昔から貯め込み型なのよね・・・・・。」

 

大淀は明石が散らかした酒瓶を片付けながら溜息をついた。

何と明石は一升瓶を丸々一本空けていた。

大淀が酒瓶を片付けつつ明石をどうするか考えていると、丁度ある人物が部屋に入って来た。

 

「大淀さん?まだ起きていたんですか?」

「中佐、どうしたんですか?」

「いや、軽巡寮から無線で騒いでるのがいるって通報を受けて来てみたんですが・・・・明石さんですか・・・・。」

 

ラフな服装に拳銃などを装備したベルトを付けた姿から見て夜の巡回中だったのだろう。

顔を赤らめながら酔いつぶれて寝ている明石を見た霧先は識別帽を脱いで頭をポリポリと掻いた。

識別帽を被り直した霧先は明石をゆっくりと起こしてから呼びかけた。

 

「明石さん?こんなところで寝てたらダメですよ?」

「ん~?んぅ・・・・。」

「はい、起きてください。部屋まで運びますので。」

 

完全に酔っ払いと保護に来た警察官の図である。

霧先が何度か身体を揺すると明石はようやく目を覚ました。

 

「あ~友成君だ~・・・。」

「はいはい、起き上がって下さい。」

「ん~?ちゅ~。」

「わわっ!明石さん!?」

 

アルコールのせいで正常な判断を出来ない明石は頬を赤く染めていて呂律も回っていない。

そんな状態の明石は微睡んだ目で霧先を見つめる。

そして突然霧先の頬に熱いキスをした。

霧先は突然の事に驚き、明石と共に後ろに倒れてしまった。

 

「えへへへへ・・・・友成君大好き~~。」

 

そう言うと明石はそのまま霧先に抱き着いて胸板に顔を埋めて眠りについてしまった。

霧先と大淀の間に微妙な空気が流れる。

 

「えっと・・・・僕は明石さんを連れていきますので。」

「あっはい。お願いします。」

 

霧先は微妙な空気から脱するために明石をおぶって大淀の部屋を後にした。

その後、霧先が明石を連れてやって来たのは軽巡寮に一応完備されている彼の部屋だ。隣には川内型の三人と彼の母、先代神通の部屋がある。

 

「よいしょ、さてと・・・・一番下でいいかな?」

 

ポケットから部屋の鍵を取り出しドアを開けた霧先は明石を部屋に置かれた三段ベットの一番下に寝かせた。

そして部屋を出ようとした時に寝ている明石が腕に抱き着いてきた。

 

「いや・・・・・・。」

「明石さん・・・・。」

 

恐らく夢でも見ているのだろう、寝言を言う明石を振りほどく気になれなくなった霧先は装備を空いている方の手で外して識別帽を深くかぶると三段ベットにもたれ掛ったまま眠りについた。

そして当然のごとく青葉に現場を撮影されすぐに鎮守府の全員が知ることとなり霧先は尋問を受けることとなった。

その中でもサウスダコタは笑いながらその光景を楽しみながらコーラを飲んでいたそうな。

青葉は当然ボロ雑巾の刑に処された。

後日、明石は比較的積極に霧先と話すようになったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、遠く離れたマリアナ沖海域の水底にはある艦影があった。

旧日本軍の高雄型に近いようだがさっぱりしたその艦影は軍艦とは到底思えなかった。

しかし、艦尾に掲げられた旭日旗がその真っ二つに折れた艦が軍艦であることを証明していた。

現在は魚たちの絶好の住みかとなっているその沈没艦は今はまだ、海底に静かに眠っている。




というわけで明石回でした。
明石さんも可愛いと思います。

次回「一航戦なんて、大ッッキライ!」

霧先と吹雪は第五遊撃部隊を成長させることが出来るのか。


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大規模作戦編
第肆休戦目「選択と訪問」


もう一話だけ休息編は続くといったな・・・あれはトリックだよ☆
というわけで番外編です。

艦これまさかの「アイオワ級」実装の可能性大ですって。
トマホークとCIWS実装の可能性も微レ存!?

ついでなのですが本小説は今話を持って本編が50話目に突入しました。
これも皆様の応援があったからこそ実現できたものでございます。
今後もどうか本小説をよろしくお願いします。


「さてどうしたものか・・・・・。」

 

昼下がりの鎮守府。

ここの休憩所の椅子に座っている霧先は手元にある冊子を眺めつつ呟いた。

最早お決まりとなったジャージパンツと「末代まで呪ってやる!」と書かれたTシャツラフな服装でいる彼の手元にある冊子。

それには拳銃の写真が並べられていた。

「九四式拳銃」「南部大型自動拳銃」「稲垣式自動拳銃」「ニューナンブM60」「S&W M37」「9mm拳銃」「S&W M39」「M1911A1」「モーゼルC96」

といった日本警察、旧日本軍、陸海空自衛隊、海上保安庁で使用されたものが使用弾、大きさ等といったご丁寧な解説付きで載っている。

原因は提督が言ったことだった。

少し前の執務室では霧先が提督に呼び出しを受けていた。

 

「(僕なんかやらかしたかな?・・・・もしくは第五遊撃部隊か特殊艦隊についてかも・・・・。)」

 

何かしたお小言を貰うのではないかと考えた霧先は汗をかいている。

しかしそんな緊張も提督の一言で消えることとなった。

 

「霧先、そう言えばお前。将校軍人なのに拳銃持ってなかったよな?」

「え?・・・・・・確かに拳銃は『みらい』艦内の艦長室にあった9㎜拳銃しか使っていませんので所有していませんが・・・・・。」

 

提督の突然言い出した言葉に霧先は間の抜けた声の後に少し考えてから答えた。

 

「やはりな・・・・そう思って既に主任妖精にお前に持たせる拳銃が作れないか聞いておいた。」

「事前に僕に聞かないで話を進めたんですか。」

「正直面倒くさいんDA☆」

「僕が部下で無かったら殴ってますよ。」

 

既に眉間に怒りジワを寄せた霧先は拳をすでに作り上げていた。

しかし提督は悪びれる様子もない。

 

「仕方ないだろ?『サウスダコタ』が建造されたことを大本営に報告した後に書類作業と艦隊運用が多いんだから。」

「その書類作業と艦隊運用は霧先中佐が8割方負担したうえで他の雑務を行っていますが?」

 

大淀にビシッと言われた提督は顔をゆがませる。

どうやら重要区画に命中したようだ。

 

「まぁ・・・なんだ。護身用に2、3丁程持っておいて損はないぞ。これは作れる拳銃のまとめだ。」

「はぁ・・・・それだけですか?」

「それだけSA☆」

「・・・・・。」

「あっちい!!!」

 

調子に乗った提督に大淀の運んできた熱々のお湯が炸裂した。

 

「・・・・・失礼します・・・。」

 

何とも言えない表情のまま霧先は転がり回る提督を後目に部屋を退出した。

そして現在へとつながるのだ。

 

「・・・・・・。」

 

霧先は腕を組んだまま思案する。

拳銃とはいわば命綱。

最後の最後に自衛手段として使用する物だ。

それならば常に万全の体制でなければならない。

 

「そうなると九四式拳銃は除外かな。」

 

霧先九四式拳銃を除外することにした。

この銃はシアが外に出ていて衝撃が加われば暴発する拳銃でアメリカ軍からは自殺用拳銃と名付けられた。

しかし撃つ直前まで基本的に装填しない日本軍では一切暴発事故は起きなかった。

とは言え戦闘になった際にどこかにぶつけて暴発、跳弾が当たって自爆なんてことになりたくないと思った霧先は真っ先に九四式拳銃を除外した。

 

「一応海軍だし南部大型自動拳銃にしよう。」

 

霧先はまず南部大型自動拳銃を選んだ。

彼も書類上海軍将校なので違和感のない南部大型自動拳銃が良いと踏んだのだ。

 

「後は回転式拳銃と自動拳銃かな?」

 

そう呟いた霧先は再び吟味する。

そして3分ほどたった時、丁度秘書官の綾波が休憩所を通りがかった。

 

「あっ工廠長。何を読んでいるんですか?」

 

綾波は首を傾げながら近づいてきて冊子を覗き込んだ。

霧先は一瞬可愛いと思うもすぐに答えた。

 

「あぁ、実は護身用拳銃を選ぶことになってね。どれにするか選んでいたんだよ。」

「そうですか・・・。」

 

綾波はそう言いつつ霧先と一緒に冊子を眺める。

霧先も考えを巡らせ選考する。

 

「やっぱり拳銃はニューナンブM60、S&W M37、9mm拳銃にするか。」

 

霧先はそう言って合計5丁の拳銃を選んだ。

彼が何故ほかの拳銃を落としたのか。

それは各銃にあることだった。

まずS&W M5906は慣れ親しんだ9㎜拳銃と比べた結果、操作に慣れた9㎜拳銃に決めたので落選。

次にモーゼルC96は弾の互換性と管理を考えた結果、落選。

最後にM1911A1は霧先自身が45口径の威力に耐えられるかどうか不安だという点から落選となった。

それを決めた霧先は識別帽をかぶって綾波に言った。

 

「今から少し工廠で話をしてくる。何かあったら工廠にいると思うから。」

「分かりました工廠長。」

 

綾波の返事を聞いた霧先はそのまま休憩所を後にした。

 

「・・・むぅ、少しは綾波にかまって欲しいです。」

 

頬を膨らませた綾波の言葉など聞こえるはずもなく。

 

 

 

「今日も空が青くて潮の匂いが良いなぁ~。」

 

そう言いつつ鎮守府内の敷地を歩いて工廠を目指す霧先。

だが正面玄関に差し掛かった辺りで何やら言い争う声が聞こえてきた。

 

「ですから事前予約なしには入れないんです!」

「私は司令官さんのお嫁さんなのです!別に怪しくないのです!」

「ですから事前の承諾がないと・・・・。」

 

霧先程の身長で茶色の長髪を折り返す形で結っていてジーパンにタンクトップ、更には引き締まった体の美人が門番と言い争っているを見た霧先はその現場に近づいた。

 

「篠間兵長、何の騒ぎですか?」

「中、中佐!いえ、此方の女性が提督のご婦人だと言い張るのですが事前確認が出来ていないためお通しで気ないもんでして・・・・。」

「だから私は怪しくなんかないのです!!」

 

そういいはる女性を見た霧先は近くで見ると電に似ていると思った。

だがその考えは後に回して彼女は特に怪しくないと考えた霧先は門番の篠間兵長に告げた。

 

「篠間兵長、この女性は僕が提督の所へお連れします。」

「で、ですが中佐!もしもの場合は!」

「大丈夫、拳銃を持ってるし何かあってもすぐわかるよ。」

 

霧先にそう言われ拳銃を見せられた篠間兵長は少し黙った後、渋々という形で承諾した。

 

「・・・・分かりましたよ。中佐殿の許可なら通すことにします。」

「話が分かって助かりますよ。」

 

篠間兵長は「それでは。」と言いい、門近くの詰め所に戻った。

霧先はそれを見届けた後、女性に挨拶をした。

 

「初めまして、こんな服装で申し訳ありませんが、日本国海軍横須賀鎮守府工廠長と特殊艦隊最高司令官を務めております。霧先友成中佐です。」

 

敬礼をする霧先に女性は慌てて敬礼をする。

 

「は、初めまして!元特三型駆逐艦四番艦の『電』です!噂は司令官さんから聞いているのです!」

 

自己紹介をした女性の名を聞いた霧先は驚愕した。」

 

「えっ?電?」

「はい!現在は退役して司令官さんのお嫁さんなのです!」

 

目の前の電と名乗る人物は敬礼を維持する。

いまいち霧先は状況を飲み込めていなかった。

だが、ある人物を思い出した彼は一瞬で納得する。

 

「(母さんも艦娘だしそんなに驚くことでもないか。それに電に似てるしそうなんだろう。第一艦娘の事なんて当の本人も僕も知らないし。)」

 

自分の母親が陶器職人の父親と結婚したことを思い出した霧先はそういうことなんだろうと考え片づけた。

 

「そうでしたか。念の為に提督に確認するまで自分が傍にいますが大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫なのです。」

 

承諾を取った霧先は電と名乗る女性の後をついていく。

鎮守府の構造を知っているのか彼女は迷うことなく執務室についた。

そして慣れた様子で扉をノックする。

 

『誰だ?』

「電なのです!」

『電?良いぞ。』

 

提督の返事を聞いた彼女は執務室に霧先と共に入った。

 

「電、どうして鎮守府に来たんだ?事前に申請しないと通れないはずだろう?」

「霧先中佐が通してくれたのです!」

 

そういう電を見た後に霧先を提督は見た。

 

「困っていた様子だったので。後確認したいのですが本当に提督の奥様何でしょうか?」

「あぁ、そうだ。可愛いだろう。」

「なるほど、提督はロリk・・・・。」

「断じて違うぞ!?告白したときは小さかったが!」

 

必死に弁解する提督とそれを疑う目で見る霧先に電は噴き出した。

 

「ふふっ。司令官さんと中佐さんは仲良しなのです。」

「電・・・助けてくれ。」

「流石にみっともないですよ・・・・。」

 

霧先は呆れた表情で電に泣きつく提督を見る。

だが少し息をついた後しょうがないといった表情で口を開いた。

 

「ともかく、電さんと提督は夫婦だということはその薬指の指輪と証言で分かったので良しとします。電さん、これからよろしくお願いしますね?」

「はい!司令官さん共々お願いします!」

「ではこれで、夫婦の時間をお楽しみくださいね。失礼しました。」

「おぉ、じゃあな。」

 

霧先はそう言って夫婦の邪魔をせぬよう退出して工廠へ向かった。

 

 

 

工廠に着いた霧先は早速主任妖精に会って欲しい拳銃を頼んだ。

 

「主任妖精さん。この四つの拳銃が欲しいんですが。」

「ほうほう・・・分かった。すぐにできるから少し待っててくれ。」

 

そう言うと主任妖精は奥に行って数分後に四つのケースと弾の入った箱を持って帰って来た。

 

「ほいよ。これが拳銃と予備弾倉を入れたケースとそれぞれの弾の箱だ。落とすなよ?」

「うわっと・・・・ありがとうございます。」

 

多くの箱を渡された霧先はそれを抱えるようにして手に持った。

そして礼を言った後、工廠長室に戻って早速拳銃を見てみた。

 

「おぉう・・・・本物だ。」

 

全部本物であることを確認した霧先は自動拳銃の弾倉に弾を込めていった。

全部の弾倉に弾を込めたことを確認するとニューナンブM60と南部大型自動拳銃を弾と弾倉を抜いた状態で机の引き出しにしまった。

S&W M37は自室の棚にしまうことにして9㎜拳銃は今持っているものと交換してホルスターに収納した。

 

「さて、射撃訓練の時間を取らないと・・・・。」

 

そう言いながら霧先は予定を書き込んだ手帳を開く。

この後、戻って来た綾波が先代神通と先代電を連れてきて霧先が仕事をする横でちょっとした茶会が開かれたのは四人だけが知ることである。



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第肆拾伍戦目「一航戦なんて、大ッッキライ! 上」

どうも・・・・。
とある計画や手首をサッカーで打撲したりでかなり掛かりました。
次回も遅いかもしれませんね。


早朝の横須賀鎮守府には、ある暗号が入電していた。

モールス信号で伝えられた暗号を大淀は紙に書いて解読していく。

暗号の解読が終わった大淀は、その内容を提督に伝えるため作戦指揮室を後にした。

そして執務室に入室してすぐに、暗号の内容を提督と秘書官の長門に伝えた。

 

「暗号の解読、終わりました。FS作戦の次なる目標と作戦詳細の通達です。」

「そうか・・・報告は?」

「はい、作戦目標は駐屯地MO。本鎮守府には空母機動部隊と攻略支援部隊への出撃命令が出ています。」

 

大淀の報告を聞いた提督は少し黙り込んだ後に口を開いた。

 

「分かった。すぐに霧先中佐と梅津一佐に通達してくれ。」

「了解しました。」

 

大淀はそう言った後、執務室を後にした。

そしてその頃、深海棲艦たちも動き出し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海上では「特殊第一艦隊」と「第五遊撃部隊」が深海棲艦と遭遇し、戦闘を繰り広げていた。

 

「Burning Love!!」

 

金剛の掛け声の後「九一式徹甲弾」が敵艦に命中、これを撃沈した。

 

「Hit!イェーイ!」

 

機嫌を良くした金剛は吹雪にサムズアップをし、吹雪も答えるように親指を立てた。

一方「みらい」艦橋では、霧先がみらいからの報告を聞いていた。

 

「艦長、魚雷音聴知!左15度、計測44ノット、距離3500!接触まで2分30秒!」

 

みらいの報告を聞いた霧先は第五遊撃部隊用の無線を使う。

 

「魚雷音聴知!左15度、計測44ノット、距離3500!接触まで2分30秒!北上、大井は回避行動を取れ!」

 

霧先の無線が聞こえた後、全員が伝えられた方角を見ると、確かに魚雷の雷跡が確認できた。

 

「北上さん、左!」

「ほーい!」

 

大井と北上は互いの手を掴んで回転し、雷撃を回避する。

その動きは、フィギュアスケートかと思うくらいに決まっていた。

 

「あっ、お二人とも!あんまり無茶しないでくださいね?明日にはMO攻略に参加しないといけないんですから。」

『出来るだけ被害は軽減したい。僕からもお願いしますよ。』

「分かってるよぉ~。」

「そうそう、明日はも~っと素敵な北上さんを見せてあげるからね。」

 

少し無茶をした北上と大井に、吹雪と霧先が注意する。

それを聞いた北上と大井は理解していることを主張した。

 

「うぅ・・・楽しみです・・・。」

『・・・・損傷は勘弁してくださいよ?』

 

吹雪と霧先は苦笑いをしつつ戦闘に戻る。

 

(装備の調整に出てばったり遭遇戦になっちゃったときはどうしようかと思ったけど・・・よかった、これなら・・・・。)

 

吹雪が現在の状況を振り返っていると、言い争う声が後ろから聞こえてきた。

 

「じゃまよそこの元戦艦!!」

「え?」

 

吹雪が振り返ってみると、そこでは加賀と瑞鶴が喧嘩していた。

 

「五航戦如きに譲る進路はありません。」

「いいから退いて!!」

『貴方達は良く飽きずに喧嘩しますよねぇ・・・・。』

 

怒る気の起きない霧先の声がため息とともに無線で流れる。

吹雪も、二人の争いに何とも言えない微妙な呆れ顔をしていた。

 

「いっただき~!」

 

加賀から進路を奪った瑞鶴がご機嫌に弓を構えてから九七式艦攻を発艦する。

 

「よし!そのまま魚雷を!」

 

九七式艦攻は敵駆逐艦に向けて魚雷を投射。

魚雷は真っすぐ敵駆逐艦を捉える。

 

「よしきまった!・・・・えぇ!?」

 

瑞鶴は決まったと思ったが、突然九九式艦爆が爆撃し瑞鶴の手柄をかっさらった。

 

「あぁ!!」

 

瑞鶴は、空を飛ぶ九九式艦爆の識別帯を見て悲鳴を上げた。

その識別帯は加賀に所属していることを示していたのだ。

 

「私の獲物・・・・ぐぎぃ!」

 

瑞鶴は唸り声を上げながら加賀を睨みつける。

一方加賀は知らんぷり。

 

「わぁ・・・すごいですね!」

「皆、優秀な子達ですから。」

 

感嘆を漏らし感想を述べる吹雪に加賀は当然という様子で答えた。

だが瑞鶴は気に入らない様子だ。

 

「もう!あんたの言い方、すごく癇に障るのよね!いっつも!」

「事実だからでしょ?」

「うぎぃい!!」

 

加賀に対して嫌味を言う瑞鶴だが加賀に返された言葉にカチンと来てまた唸りながら加賀を睨んだ。

 

「というか空母のお二人は早く下がってください!こんな接近戦は・・・。」

『吹雪の言う通り、護衛のいない空母はただの標的艦ですよ!「みらい」と「ゆきなみ」のイージスシステムが完全とはいえ被弾の確率を0にしたわけではありません!』

「ふん!大丈夫よこのくらい・・・。」

 

加賀の艦載機に気を取られていた吹雪だったが、現在の状況を思い出し二人に注意した。

霧先も無線で二人に呼びかけるが、瑞鶴はそれを無視した。

吹雪と霧先の言葉を無視した瑞鶴は一人前に出て、艦載機の発艦の準備を進める。

 

「(見てなさい・・・私の艦載機だって・・・!)」

 

艦載機発艦に気を取られていた瑞鶴は周りが見えていなかった。

その時艦橋では警報が鳴った。

 

「艦長!魚雷音再び聴知!三本です!このままでは空母『瑞鶴』に被雷するルート!!」

「何っ!?回避は!?」

「間に合いません!距離5m!!」

 

みらいからの報告を聞いた霧先は、即座にマイクを手に取った。

 

「瑞鶴に向けて左から雷撃!総員衝撃に備え!!」

 

霧先の指示を聞いた吹雪は魚雷を発見する。

そして瑞鶴に向けて叫んだ。

 

「瑞鶴さん!魚雷!」

「えっ?」

 

艦載機発艦に気を集中させていた瑞鶴は、霧先の無線を聞いていなかった。

その為魚雷がすぐそこに来ていることに気づかなかった。

 

「チッ!」

 

誰もが絶望的だと思ったその時、加賀が舌打ちを打って最大戦速で瑞鶴と魚雷の間に割り込み被弾してしまった。

 

「加賀さぁん!」

 

吹雪の叫び声が響き渡る。

「みらい」艦橋も大騒ぎとなっていた。

航海長妖精を筆頭に、全妖精が情報を収集する。

 

「今すぐ雷撃元を判明させろ!」

「待ってください艦長・・・CICから雷撃元は潜水艦だと判明!」

 

みらいから伝えられたCICの報告で、雷撃元が潜水艦だと判明した霧先は即座に指示を出した。

 

「分かった!その潜水艦の撃沈を許可する。」

「了解!前甲板VLS 26番、アスロックへの諸元入力完了!アスロック発射!!」

 

みらいがアスロックに諸元を入力し、発射。

アスロックは数十メートル飛翔しパラシュートを開いて着水。

ソナーで敵潜水艦へと向かう。

 

「アスロック、目標追尾中!命中まで後10秒・・・5秒、4、3、2、1、0!」

 

みらいの0という言葉と同時に海面に水柱が上がる、つまり潜水艦に見事アスロックが命中した事を意味する。

それと同時にレーダーの光点が消え去る。

 

「目標、撃沈しました!」

「よし!至急ロクマルと内火挺の用意!ロクマルを哨戒に当たらせ内火挺で加賀を収容せよ!」

「了解!」

 

霧先はみらいと自衛官妖精に指示を下す。

そして自分も内火挺に乗り込むために装備を取りに艦橋を後にした。

 

 

 

 

 

その頃、横須賀鎮守府では提督と長門が話し合いをしていた。

表情からして良い話題ではないのは確実だ。

 

「本当にそうお思いなのですか提督?」

「あぁ、恐らく奴らに暗号がばれたかもしれない。」

「それならば確かにW島の奇襲が失敗したのも納得ですが・・・。」

「実はな・・・俺の同期に草加という男がいる。そいつは情報のプロでな。草加の情報だと・・・・裏切者がいる可能性がある。」

「裏っ!!」

 

声を上げようとした長門は即座に口を押えた。

今ここで叫べば問題に発展しかねないと即座に考えたのだ。

海軍内部に裏切者がいるとなれば疑心暗鬼になり大規模作戦への支障も考えられる。

 

「このことは内密にな。海軍の誰かが、この鎮守府の工廠長である霧先の暗殺を目的にしているらしい。それに、もう暗殺の準備は整っているという話だ。」

「ということは・・・。」

「近々何かが起こるかもしれん。その時には、お前に一任するぞ、長門。」

「了解です。しかし・・・・。」

 

長門が言葉を繋げようとした時、扉がノックされた。

長門は振り返って怒鳴る。

 

「なんだ!取り込み中だぞ!・・・!」

 

しかし長門は入って来た人物を見て表情を変える。

入って来たのは彼女の妹の陸奥だった。

陸奥は入ってくると手に持っていた紙に書かれた情報を提督に伝えた。

 

「鎮守府沖に出ていた『特殊第一艦隊』旗艦『みらい』艦長、霧先中佐から緊急の打電です!」

「なんだと!?」

 

提督は驚きの余り声をあげて陸奥の報告を聞いた。

 

「救護班!急げ!」

 

鎮守府港内では慌しさが溢れていた。

霧先が自衛官妖精に指示を出し担架を出し、その上に加賀を寝かせてゆっくりと自衛官妖精が運ぶ。

自衛官や所属艦娘たちはそれを驚きの表情で見ていた。

 

「加賀さん・・・・。」

「痛そうなのです・・・・。」

 

暁や電が声を漏らす中、提督たちが駆け付けた。

 

「加賀!」

「随分派手にやられちゃったわね・・・・。」

 

陸奥が言った通り加賀は大破していた。

むしろ意識を保てているのが不思議なくらいだ。

そこに吹雪が声を出した。

 

「私のミスです。旗艦なのにみんなに適切な指示を出せなくて・・・・本当にすみません!」

「自分も、『みらい』艦長、『特殊艦隊』指揮官でありながら事前に危険を察知できなかった・・・・自分も連帯責任です。申し訳ありません!!」

 

吹雪が頭を下げた後、霧先も識別帽を脱いで深々と頭を下げた。

だが加賀はそれを否定し、担架から起き上がった。

 

「いえ、遭遇戦になったのは事故のようなもの。そこで出過ぎて被弾したのは私の失態です。面目次第もありません。」

 

そう言って加賀は頭を下げた。

だが瑞鶴は異を唱える。

 

「格好・・・つけないでよ・・・・。」

 

全員が瑞鶴の方を見る。

彼女は微かに震えていた。

 

「あんたは私の代わりに被弾したんじゃない・・・一番悪いのは旗艦の吹雪でも『みらい』艦長の友成でもなくて油断して出過ぎた私なのに・・・・どうして責めないのよ!!」

 

瑞鶴はなぜ自分を責めないのか問う。

加賀はそれを諭した。

 

「勘違いしないで。あなたがあの無防備な体勢で被弾したら・・・恐らく轟沈していたわ。でも、私は被弾個所を選べたし、それで沈まずに堪える自信はあった。それが例え五航戦でも提督や工廠長の編成する艦隊の貴重な戦力を失うわけにはいきません。私はあの絶望的な瞬間に見えた僅かな希望にかけただけ。そして勝ったわ。」

 

そう言う加賀に瑞鶴は反抗した。

 

「なっ、なによ!そんなボロボロのくせに!なんでそんなに偉そうに!」

「落ち着いてください瑞鶴さん!」

 

食って掛かる瑞鶴を霧先が止めに入る。

そこに金剛が入って来た。

 

「Hey Hey Eveybody、落ち着きマショー。被弾したのはbad workダケドー・・・高速修復材を使えバお湯を沸かす前にTea timeは終わりネー!」

 

金剛の案は良いものだった。

しかし金剛の案は利根によって廃棄されることとなった。

 

「すまんが・・・それは無理じゃな。」

「どうして?Why?」

「それは工廠長に聞いてみるが好い。」

 

金剛の問いに利根が答えた。

すると全員が霧先を見る。

 

「・・・・実はFS作戦の発動以来、日本海軍の勢力範囲自体は拡大しています。ですが、それは同時に補給線が伸びていることを意味します。燃料や鋼材はまだ逼迫していませんが・・・出撃が増えているせいもあってか、高速修復材が底をついているんです。現に先日被弾した赤城さんも、おかげで未だドック内に入渠しているという有様です。」

「Supplyは大切ナノニ~・・・。」

 

霧先の現状の報告に金剛は落胆する。

高速修復材が無くなれば戦力の減少につながる。

そのため現在の状況はかなり危機的だ。

 

「加賀さんもこの様子ではMO攻略作戦には間に合わないでしょう。本作戦の要は航空戦力。『みらい』や『特殊艦隊』では代替は・・・。」

「どうしたものか・・・・。」

 

霧先と提督が頭を悩ませているとある人物が名乗りを上げた。

 

「私が行きます。」

「翔鶴姉!」

 

瑞鶴の姉である翔鶴だ。

翔鶴は加賀に対して礼を述べた。

 

「加賀さん、瑞鶴を守って下さったこと。本当に感謝しています。」

「さっきも言いましたが、別にお礼を言われるようなことではありません。」

 

だが加賀はそれを否定した。

翔鶴は提督と霧先の前に立ち具申した。

 

「提督。どうかお願いします。この翔鶴を加賀さんの代わりに出撃させて下さい。」

「ふむ・・・・。」

 

提督は顎に手を当てて考え込んだ。

そして少し考えた後、霧先に問いかける。

 

「霧先中佐。君はどうだ?」

 

問いかけられた霧先は自衛官たちの方を向き、言った。

 

「・・・柳一曹。どうでしょうか?」

「はっ!本作戦の概要から考えて加賀の損失は大きな損害です。本来の艦艇ならば加賀は60機、翔鶴は72機と加賀の代用には十分です。しかし艦娘である現在は加賀が98機、翔鶴は84機、戦力は多少劣りますが、持ち前の加賀以上の馬力を使えば『みらい』と共についてくることも可能。第五遊撃部隊の編成を考慮し本作戦の内容である一気に突入し援護したのちに即退却を遂行するには一番最適かと思われます。」

 

柳は持ち前の知識を活用し、代替が効くかどうか判断する。

結果、翔鶴は加賀の代わりに十分だという結論にたどり着いた。

 

「とのことです。柳一曹の言葉通り、数値上なら翔鶴さんに代わりは十分に務まるはず・・・・自分は賛成です。」

「・・・・了解だ、この件は一旦持ち帰る。総員解散!加賀は早急に入渠せよ!」

「「「「了解しました!」」」」

 

提督の言葉の後に全員がそれぞれの持ち場へと戻り、加賀は自衛官妖精によって担架で入渠ドックに運び込まれた。

その後、吹雪は友人である睦月、夕立と共に中庭の階段に座り込んでいた。

が、先程の出来事を嘆いているようだった。

 

「あうぅうあうううううぁぁあああううぅぅぅ・・・・。」

「吹雪ちゃん大丈夫?」

「うぅ・・・多分。」

「多分って・・・・。」

 

頭を抱えて嘆く吹雪に睦月が声を掛ける。

そして吹雪の答えに夕立が苦笑いをした。

 

「だってだって!旗艦やれって言われてすっごく悩んで・・・それでも最近ちょ~っと上手くいくようになったかなぁって思ってたら・・・・初めての作戦の直前にこれだもん・・・しかもみらい先輩と工廠長の前で・・・あぁ~ってなるよ・・・。」

 

吹雪自身、旗艦に任命され霧先や提督に応えるため必死に頑張っていた。

最近は調子よく事が進んでいたのにこうなってしまった以上、吹雪の心的負担はかなりのものになるだろう。

 

「なんかね?口喧嘩ばっかりしてるけど・・・加賀さんと瑞鶴さんっていつかすっごくいいコンビになるんじゃないかって勝手に思ってたんだけどな・・・はぁ・・・やっぱり無理だったのかなぁ・・・私に旗艦なんて・・・・・。」

 

吹雪は完全にネガティブな思考になってしまい溜息をつく。

それを聞いていた睦月と夕立はフォローを入れる。

 

「それは無いっぽい?」

「うん!私もそう思うよ?だって吹雪ちゃん頑張ってたもん!私も夕立ちゃんも知ってるし、きっと私たちなんかより第五の皆や工廠長たちの方がもっといっぱい気付いてるよ!」

「そうかなぁ・・?」

 

未だ不安そうな吹雪に夕立が一押しを掛ける。

 

「そうだよ!じゃなきゃあのすっごい曲者っぽい人達なんて速攻解散してるっぽい!」

「ゆ、夕立ちゃん・・・・・ともかく!吹雪ちゃんの力で第五遊撃部隊は成り立ってるんだよ!」

「・・・・ありがとう!睦月ちゃん、夕立ちゃん!やっぱり友達って嬉しいね!」

 

吹雪は睦月と夕立のフォローのおかげで立ち直り元の明るい表情になる。

元気を取り戻した吹雪は早速寮へ戻ることにした。

一方、寮では瑞鶴がタオルで作ったウサギを突いていた。

その時、ドアがノックされ、吹雪が入って来た。

 

「あのぉー。」

「うっ!な、なに!?」

 

突然吹雪が来たため、瑞鶴は慌てて立ち上がり左手でウサギを隠し、吹雪に何をしに来たのか尋ねる。

 

「いえ、どうしてるかなぁって。」

「私は誰かさんのおせっかいで無傷だもん。全っ然大丈夫よ!」

 

心配する吹雪とは違って瑞鶴の怒りはまだ収まっていないように見えるが吹雪は瑞鶴の手に隠されたウサギを見つけた。

 

「瑞鶴さん・・・。」

 

瑞鶴に言葉を掛けよ打ちした吹雪をブザー音が遮る。

そして、大淀の館内放送が流れた。

 

『通達です。「第五遊撃部隊」、駆逐艦「吹雪」並びに工廠長「霧先中佐」。執務室に出頭してください。』

「・・・・あっ!瑞鶴さんすみません!失礼します!」

「え?う、うん・・・。」

 

放送を聞いた吹雪は瑞鶴に言葉を掛けてから寮を後にした。

残された瑞鶴は、再び椅子に座り、ウサギを突き始めた。

途中、執務室に向かう吹雪は内心、不安でいっぱいだった。

 

(工廠長も呼ばれてたけど・・・・司令官と工廠長から怒られるのかなぁ?加賀さんの事・・・。)

 

そんな不安を抱えながら吹雪は歩みつつ、執務室前に到着した。

目の前にある扉が何時にも増して大きく感じるが吹雪は腹をくくった。

 

(でも、仕方ないよね!私が旗艦なんだから!)

 

そう考えた吹雪は息を吸い込み大声を出す。

 

「駆逐艦『吹雪』!入ります!」

『入ってくれ。』

 

中から提督の声が聞こえてから吹雪は扉を開けて中に入る。

既に霧先は、いつもの「腹を割って話そう」と白で書かれた黒地のTシャツにジャージズボンと識別帽のスタイルで中に待機していた。

そんな緩い服装の霧先とは違って、吹雪は緊張のあまりに、手と足が一緒に出ていたり古いブリキのおもちゃのようにぎこちない動きで歩く。

 

「手と脚が一緒に出ているぞ?」

「あぐっ!」

 

長門に指摘された吹雪はその場で止まった。

丁度、目の前には応接用のソファーと机が置かれている。

 

「そう緊張しなくてもいいよ、吹雪。僕も提督も、君を叱るつもりじゃないから。」

「その通りだ。逆に、提督も工廠長も、あの面子を良くまとめていると褒めておいでだ。」

「えっ?・・・本当ですか!?」

 

吹雪が驚き、聞き返すと長門は頷いた。

そして、言葉をつづける。

 

「だからこそ、お前に聞く。提督は明日の作戦、加賀の代わりに翔鶴を入れるか否かをお前の判断に任せるそうだ。」

「さっきの行動の一部始終と僕の経験から考えるに・・・いくらいがみ合っていても、仲間が目の前で死の危険にさらされたのを目の当たりにした瑞鶴さんのメンタルも気になる。姉である翔鶴さんを入れれば危険も・・・・やれるかどうかの判断は、旗艦である吹雪、君に任せる。」

「それは・・・・・。」

 

長門と霧先から課せられた選択肢に吹雪は考え込む。

瑞鶴も本気で加賀を嫌っているわけではない。

ただ単にお互いが素直になれないだけなのだ。

瑞鶴も本当は心配している。

そう考えた吹雪は練度の問題よりも瑞鶴の姉である翔鶴を心の負担の緩衝材として編入し、作戦を成功させ、その後に瑞鶴の心を整理する時間を作ろうと考えた。

そして、霧先達に答えた。

 

「やれます!」

「分かった。提督、自分は吹雪の考えに賛成です。よろしいですか?」

 

霧先は吹雪の眼差しを見た後、提督に問う。

 

「元よりそのつもりだ。現時刻を持って空母『加賀』を『第五遊撃部隊』から除隊させ、代わりに空母『翔鶴』を編入する。」

「了解です。・・・・吹雪。」

「はい、何でしょうか工廠長?」

 

吹雪の名を真剣な顔で呼ぶ霧先に吹雪は応答する。

そして霧先から、とんでもないことが告げられた。

 

「実は明日の作戦に関して・・・いや、昨今の深海棲艦との戦闘において、話しておくことがあるんだ。なんせ・・・提督が気付いたかなりまずい事態だからね。余計な混乱を避けるべく、各艦隊の旗艦にのみ、伝える事項だ・・・。」

 

そして霧先は吹雪に事を説明し始めた。

 

 

 

翌日、夕張ら「第三艦隊」がMO攻略本隊として出撃ドックにいた。

 

「『第三艦隊』旗艦、夕張。出撃します!」

 

夕張がプレートに乗り、艤装を装着した後、問題なく海に出た。

そして「第三艦隊」は無事、MOに向けて出港した。

それは作戦指揮室でも確認されていた。

 

「『MO攻略支援隊』が出撃しました。」

「他の鎮守府からはどうだ?」

 

提督に尋ねられた大淀は手元の書類を読み上げた。

 

「はい、予定通り、『MO攻略本隊』として軽空母『祥鳳』と重巡『青葉』、『古鷹』『加古』『衣笠』。また、援護部隊の軽巡『天龍』、『龍田』らも既に先行しているとのことです。」

「よし、ここまでは計画通りだな。続けて『第五遊撃部隊』と『特殊第一艦隊』に出撃命令を!」

 

提督は手元の駒を海図に置きつつ、大淀に指示を下す。

それと同時に、出撃ドック内に大淀の放送が響く。

 

『「第五遊撃部隊」は出撃位置へ!』

 

放送を聞いた吹雪は皆に声を掛けた。

 

「皆さん!頑張りましょう!」

 

吹雪の言葉に全員が頷いた。

そして瑞鶴は翔鶴に謝った。

 

「翔鶴姉、ごめんね?」

「もう、何言ってるの。私は瑞鶴と一緒に出撃出来て、本当に嬉しいのよ?一航戦のお二人が出撃できない今こそ、私たち五航戦が頑張らないと。」

 

瑞鶴に囁くように言った翔鶴は大きな声を出す。

 

「さぁ!行くわよ瑞鶴!」

「うん!翔鶴姉!」

 

そして、出撃ドックのエレベーターが降り、プレートが出てくる。

 

「『第五遊撃部隊』、出撃します!!」

 

旗艦である吹雪の言葉の後、全員が無事、艤装を装着し、鎮守府を出港した。

そしてそれを確認した「みらい」でも出港準備は進んでいた。

 

「艦長。『第五遊撃部隊』の出撃を確認しました。予定時刻通りです。」

「了解。」

 

みらいの報告に霧先は短くそういうとマイクを手に取った。

 

「こちら旗艦『みらい』艦長、霧先。『ゆきなみ』、『伊152』。応答せよ。」

『こちら「ゆきなみ」。感度良好なり、出港準備も完了です。』

『こちら「伊152」。「ゆきなみ」とのケーブル接続確認、いつでも行けます。』

 

僚艦の報告を聞いた霧先は指示を出した。

 

「了解。これから横須賀港を出港する。本作戦は戦闘が激化する可能性も視野に入れている。各艦、全力を持って作戦の遂行に当たれ!」

『「ゆきなみ」了解!』

『「伊152」了解!』

「全艦、機関全速!」

 

霧先の言葉の後、「みらい」と速度の関係上で「伊152」を曳航する「ゆきなみ」のガスタービンの特有の音が響き渡り、横須賀港を出港した。

 

丁度その頃、赤城と加賀は入渠ドックで入渠していた。

加賀は何かを心配している様子で赤城が声を掛けた。

 

「そろそろ出撃している頃ですよね?」

「そう?私は特に気にしていなかったのだけれど。」

 

少し早口で目線をそらす加賀に長年の付き合いである赤城は一瞬で嘘をついていることを見破った。

そのため赤城は指摘こそしないものの、心配を拭う言葉を投げかける。

 

「大丈夫、貴方が守った子達に、友成君たちですもの。きっと戦火←戦果を上げてくれるでしょう。」

「別に守ったつもりなど・・・。」

 

加賀は否定するが、赤城にとって、その様子は可愛い嘘を必死で隠そうとする子供と一緒であった。

その為、赤城は笑いだす。

 

「ウフフ・・・それよりも、あの子たちに感謝しないとね。」

「え?」

 

言葉の意味を理解できない加賀は間の抜けた声を出す。

赤城はその様子を楽しみながら教えた。

 

「久し振りですもの。貴方とのこういう時間は。」

「あっ!な、なにを言うの・・・・。」

 

辺りをキョロキョロと何度も見まわし、自分たち二人だけで言葉の意味合いを理解した加賀は顔を赤らめて俯いた。

その様子を楽しんでいた赤城だが途中から真剣な顔になる。

 

「ところで加賀さん。友成君の『素質』が分かるかしら?」

「『素質』?何のことです?」

 

またしても加賀は理解できない言葉を投げかけられ聞き返す。

赤城は説明し始めた。

 

「加賀さんも知っているでしょう?友成君の母、先代神通さんの別名。」

「確か・・・・『毒蛇の神通』でしたよね。」

 

毒蛇の神通とは霧先の母、先代神通のかつての呼び名であった。

どんな対象でも蛇のようにしつこく狙い。

どんな対象でも毒のように必ず仕留める。

その様子から「毒蛇の神通」と揶揄された。

それ故、深海棲艦の間でも、「決して出会ってはいけない海の魔物」とされてきた。

これは鎮守府内でも知る者は半分ほどしかおらず、後に着任した艦娘は噂程度でしか知らない。

 

「えぇ、そう。大和型と長門型、伊勢型の艦隊でも勝てることのできない軽巡洋艦。最凶で最悪の戦闘狂とも呼ばれた彼女。その息子の友成君は『素質』があると思われます。短期間での軍事世界、戦闘への順応、それが大きな要因です。それに彼は・・・・・かつて目の前で父親を殺されたそうです。」

「目の前で!?」

 

加賀は驚きのあまり口に手を当てた。

赤城はそのまま話を続ける。

 

「余りにも身勝手な人間による通り魔だったそうで・・・私や加賀さんも目の前で姉妹を無くしたことがあります。ですがそれは鉄の時。友成君は生身のまま自分の親の死を幼いころに経験している。もしその『爆弾』が爆発したとき・・・・神通さんの『素質』を持つ友成君がどうなるか・・・。」

 

赤城の言葉に加賀は唾を飲み顔を青ざめさせ冷や汗をかいた。

彼女の脳裏には血まみれで腕や脚を無くしても笑いながら64式小銃を持ちながら戦う霧先が浮かび上がった。

 

「もしそうなった際に止められる艦娘は限られます。なので彼の心的状況を、危惧しなければならないかもしれません。彼が本気で怒ったところを見たことが無い故、尚更ね。」

「分かりました。提督にも具申しましょう。」

「えぇ、加賀さんならそう言ってくれると思っていたわ。」

 

こうして赤城と加賀の友成への対処が進められる事となった。

そして同時刻。

作戦海域近くではヲ級を中心とする艦隊が展開していた・・・・。




アンケートがありますので活動報告まで足を運んでいただければ幸いです。


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第肆拾睦戦目「一航戦なんて、大ッッキライ! 下」

さて、冬イベ始まりましたね。
バレンタインデー?知らない子ですね。(白目)

突然ですが初月可愛いです。
薄い本が多くでそうですね。


数日間の航海を経て、「第五遊撃部隊」と「特殊第一艦隊」は珊瑚諸島海域へと差し掛かっていた。

 

「そろそろ珊瑚諸島海域ですね。工廠長に連絡します。」

 

吹雪は僚艦の皆に告げ、無線機越しに連絡する。

 

「こちら吹雪。間もなく珊瑚諸島海域です!」

『こちら霧先。対水上レーダーで確認済みだよ。現時点では敵性艦隊は確認されていない。が、島の陰や水中に潜んでいる可能性がある。十分に注意されたし。』

「了解。警戒を厳にします。」

 

短いやり取りが行われた後、両者は通信を終了し、吹雪も目の前に集中した。

一方、大井は既に妄想に片足を突っ込んでいた。

 

「綺麗な海と空。まるで、私と北上さんの行く末を祝福しているようね!」

「いや、残念だけど大井っち。今任務中だし雲行きも怪しいよ?」

 

暴走気味な大井を北上が止めるべく親指で後方を指した。

その方向には雷の音を響かせながら広がりつつある灰色の雲があった。

 

「チッ、空のくせに空気を読まないなんて・・・!」

(遂に自然に対してまで悪態突き始めたよこの子・・・・早いとこ姉離れさせないとねぇ~。)

 

悪態をつく大井に溜息をつきながら想う北上。

かなりの苦労している様子だ。

一方、「みらい」艦橋でその通信内の会話を聞いていた霧先は慣れたように聞き流してある人物に声を掛けた。

 

「航海長、これから作戦指揮に集中します。もしもの時は航海長に一任します。」

「了解です。」

 

航海長妖精だ。

先任に当たる尾栗康平三等海佐の記憶を受け継ぐ彼女に指示を出した霧先は呟くように言った。

 

「本来なら船務長に頼むべきなんですが・・・・。」

 

霧先は静かに艦橋内の真ん中あたりを見る。

他の妖精たちが各場所で仕事に励む中、そこだけぽっかりと空いている。

本来ならばそこに船務長たるものがいるはずなのだ。

それを見た航海長妖精は二人だけに聞こえる声で話し始めた。

 

「仕方ないですよ。角松二佐は戦死した訳ではなく、あの時代、あの世界に生を受けることのない・・・いわば幽霊のような存在です。この艦に該当する妖精がいなくても不思議はありません。」

「確かにその通りかもしれない・・・だけどあの人が残した意思はこの艦にある。深海棲艦だろうと艦娘だろうと助けを求めていれば助ける。流す血が白かろうが青かろうが、僕たちにとっては赤い血だ。それが『特殊艦隊』、引いては僕たちの進むべき羅針盤であるということは変わらない。」

「・・・・やっぱりあなたは艦長に適任ですよ。これからもよろしくお願いしますよ?」

「もちろん、艦長として最善を尽くしますよ。では艦橋を頼みます。」

「了解!」

 

ニヤリと笑う航海長に霧先は微笑みながら言った。

そして、霧先は艦橋内の海図を見て作戦を復習し始めた。

丁度その頃、吹雪は周囲を警戒していた。

そして自分の目だけでは不足だと思った彼女は後方の翔鶴と瑞鶴に近寄った。

 

「翔鶴さん、瑞鶴さん。索敵機を出してもらえますか?」

「え?」

 

吹雪の突然の注文に二人は同時に間の抜けた声を出しながら疑問符を浮かべる。

 

「いいけど・・・作戦海域はまだ先で、『みらい』の電探もあるし・・・風上に進路を変えないといけないから遅れが・・・。」

「夕張さんたちには先行してもらいます。あくまでも念のためですから、大丈夫だと分かれば全速で追いつきます。」

「いいの?瑞鶴。」

 

自身を持って言う吹雪に翔鶴は少々不安気で瑞鶴に尋ねた。

 

「大丈夫デース!ブッキーは自分がやることの意味をちゃんと理解してる子ネー!」

「まぁそうだよね。」

「だから旗艦にしてあげてるのよ?ほんとは北上さんの方が似合うのに・・・。」

「皆さん・・・。」

 

Vサインで自信満々に言う金剛。

そこに相槌を打つ北上とちょっとずれている大井。

少なくとも心理はされていることがうかがえる。

 

「ま、戦闘そのものは旗艦のくせに勢いで突っ込みすぎたりで、ちょっとっていうか、かなり危なっかしいけどね。」

「あうぅぅ・・・。」

(瑞鶴さん。ブーメランブーメラン。)

 

瑞鶴の指摘に顔を赤らめ恥ずかしがる吹雪。

そして通信を介して聞いていた「みらい」艦橋内の乗組員全員が瑞鶴の言葉に対して、内心同じ事を想っていた。

 

「Oh・・・それは私も同感デース。」

『あー僕もです。』

「もー!金剛さんに工廠長までぇ~!!」

 

そこに金剛が両手にサムズアップをして賛同し霧先も申し訳なさそうに無線から言った。

吹雪は顔を赤らめたまま、二人に怒った。

そんな光景を見ていた翔鶴は少し吹きだした。

 

「どうしたの翔鶴姉?」

「・・・・何でもないわ。今出すわね?」

 

翔鶴はそう言って風上に合わせて弓を番える。

そして放たれた矢は光り輝き6機の偵察機へと変貌した。

 

「ここから南へ30度ごとに。」

「分かったわ。」

 

吹雪の指示を受けた翔鶴は艦載機へと指示を下す。

艦載機たちはその指示に従って偵察へと向かった。

 

「オーBeautiful・・・。」

「流石翔鶴姉!」

「何をしているの瑞鶴。あなたもよ?」

「えっ?」

「そうでしょ?吹雪さん。」

 

金剛と共に翔鶴の発艦に感嘆を漏らす瑞鶴。

だが翔鶴は瑞鶴にも発艦するように言った。

疑問符を浮かべる瑞鶴に説明するように翔鶴が吹雪を呼ぶ。

 

「はい!二段索敵でお願いします。確実を期したいんです。」

「・・・・・了解!」

 

吹雪の言葉の意味を理解した瑞鶴は矢を放ち、それが偵察機へと変化する。

無事発艦した索敵機は高度を維持したまま索敵に向かった。

 

「でも、いきなりこんな密の索敵をするなんて・・・・。」

 

密の索敵を不審に思う瑞鶴は翔鶴に尋ねる。

 

「何かあるかもしれない・・・・のですね?吹雪さん。」

「無ければ・・・・一番なんですけど・・・。」

 

翔鶴は薄々気づいていたらしく吹雪に言う。

吹雪も真剣な顔でこれからの事を危惧していた。

一方、「みらい」の対空レーダーには12機の索敵機が確認されていた。

 

「艦長、翔鶴より6機の艦載機の発艦確認。」

「よし、対空レーダーには異常はない。現出力を維持せよ。」

「了解です。」

 

みらいの報告を聞いた霧先は海図を見る。

珊瑚諸島海域は名の通り、諸島である為、イージス艦である「みらい」「ゆきなみ」には現在衛星が無く、敵が索敵できない不利な状況だ。

更に、例え索敵機が敵艦隊を発見できても攻撃できるかどうかが怪しくなってくる。

レーダーが想う様に作用しないこの海域ではイージス艦は多少、不利になってしまうのだ。

 

「念のため、SH60の発艦用意を。」

「了解、飛行科に通達します。」

 

SH60の発艦用意を通達するため、みらいはマイクを手に取る。

その横で霧先は目の前を行く「第五遊撃部隊」をじっと見つめていた。

丁度その時、吹雪はあることを思い返していた。

 

『深海棲艦が私たちの使っている暗号を!?』

『その通り、確証はないけどね。だけど、疑念がある以上は最悪のケースを常に想定しなければならない。つまり・・・・』

 

霧先からの言葉に驚愕する吹雪。

霧先は未だ真剣な表情で吹雪を諭した。

そのことを思い出した吹雪は思案した。

 

(必要なのは・・・私たちの作戦目標や、艦隊の動向が敵に漏れている可能性を考えること。・・・だとすれば、敵の仕掛けは・・・。)

 

吹雪が作戦上で重視しなければならないことを踏まえたうえで、行動をどうするかという考えに差し掛かった時にモールス信号の無線が入る。

 

「『MO攻略本隊』の祥鳳さんが!?」

「多数の敵艦載機による急降下爆撃で大破炎上中!?」

「現在もなお攻撃は継続中・・・されど敵空母の位置は不明なり、速やかな発見と撃破を求む、か・・・。」

 

吹雪、瑞鶴、北上が文を読み上げる。

損害状況はかなり酷い様子だ。

 

「これなのね?」

「はい、司令官は予想されていました。」

 

翔鶴の問いに吹雪は答えた。

それを聞いた瑞鶴は焦りだす。

 

「っ!翔鶴姉!もっと索敵機を出そうよ!早く敵の空母を見つけなきゃ!」

「落ち着いて瑞鶴。悪戯に数を出しても意味が無いわ。索敵は根気の勝負、慌てた方が負けよ。」

「翔鶴姉・・・。」

 

慌てる妹を翔鶴は静かに諭す。

瑞鶴は、悔しく思いつつも姉の言うことを聞いた。

 

「とはいっても、待つだってやっぱヤだよね。」

「Search and strike. 先に見つけた方の勝ちデスカ・・・。」

 

北上と金剛はそう言いつつ前を見る。

 

「頑張ってください、艦載機妖精さんたち・・・。」

 

吹雪は偵察機に搭乗する妖精たちに祈った。

その時、行動で航行していた「みらい」艦橋はモールス信号から送られた情報の所為で騒然としていた。

 

「砲雷長、予測位置は?」

『距離56㎞、SPYレーダーには諸島の所為で捉えられず!対空攻撃は不可能です!』

 

CICの砲雷長妖精からの報告を聞いた霧先は海図を見る。

彼は現在位置と艦隊の損害状況、編成からある結論に達していた。

 

「まさか・・・・だがまだ決まったわけじゃない・・・。」

 

距離を計算した霧先は即座にマイクを手に取ってゆきなみに連絡を取った。

 

「こちら霧先、ゆきなみさん、応答願います。」

『此方ゆきなみ。どうしました?』

「負傷者収容の為、『MO攻略本隊』の救援に向かってください。『伊152』は現地に到着次第、曳航解除。」

『了解、負傷者の救援に向かいます。』

 

通信が終了すると、霧先は再び海図を睨み始める。

 

(・・・・『ゆきなみ』と『伊152』が離脱することで本艦隊の戦力はかなり低下する。だが現状、これ以外の方法では『MO攻略本隊』への損害を軽減する方法が無い・・・。例えECMを起動しても多少の混乱位だろう・・・。最悪、特攻を仕掛けられれば・・・。)

 

霧先は最悪のケースを考えつつ、この海戦において少しでも損害を軽減する事を考えていた。

その頃、鎮守府では作戦指揮室にいる提督の元に尾栗と柳が訪れていた。

 

「今・・・なんと?」

「ですから、柳の言う通り、この作戦は珊瑚海海戦そのままなんです!」

「まさか・・・確かに編成は似ているが・・・。」

 

尾栗の言葉に言い淀む提督。

そこに柳が言葉を出した。

 

「損害状況は把握できますか?」

「あぁ、先程、霧先二佐から連絡があった。『MO攻略本隊』の祥鳳が爆撃を受けて大破炎上しているとな。」

 

その言葉を聞いた柳は時計を見た。

時計は1100を少し過ぎた頃を指していた。

 

「・・・・尾栗三佐、日付以外は史実通りです。日本時間の午前9頃、米軍レキシントン攻撃隊は『祥鳳』を発見。この時、翔鶴型と誤認した為、祥鳳は狙われることとなります。『祥鳳』はレキシントン隊SBD 28機の急降下爆撃は全て回避したものの、空襲中に零式艦上戦闘機3機を発進させた時点でレキシントン雷撃機隊・ヨークタウン攻撃隊の雷爆同時攻撃を受けました。排水量1万3000tの小型空母に爆弾13発・魚雷7本が命中。空母『祥鳳』は炎に包まれ、日本時間の午前9時31分に沈没しました。」

「確か次の日には・・・・!」

「はい、空母『翔鶴』が大破炎上します。日本時間の午前8時30分頃、ヨークタウン攻撃隊は空母「瑞鶴」と「翔鶴」を発見、しかし米軍は戦列を組むために上空を旋回。その間に「瑞鶴」はスコールの下に入り、「翔鶴」は「瑞鶴」からの旗艦信号がないため独自行動を余儀なくされ、両空母の間は8~9kmも離れました。ヨークタウン攻撃隊はスコールに隠れた「瑞鶴」ではなく、後方の「翔鶴」に狙いを定め、米軍はSBD 2機喪失と引き換えに「翔鶴」に450kg爆弾2発命中。結果、合計3発の450kg爆弾が命中した「翔鶴」は沈没こそしませんでしたが、飛行甲板は完全に使用不能となり、戦死者76、行方不明33、戦傷者114を出しました。」

「なら・・・翔鶴の危険が!」

「迫っていると考えられます。」

 

柳の言葉を聞いた提督と尾栗は動揺し始めた。

もし史実通りなら余計危険な事態に発展しかねない。

 

「提督!今すぐ霧先との連絡を!」

「無理だ。作戦の隠密の為に無線は極力封鎖している。霧先にもそう伝えたばかりで『特殊第一艦隊』『第五遊撃部隊』と、鎮守府間は無線封鎖中だ。」

「・・・・!」

 

尾栗は歯ぎしりをするしかなかった。

その様子を見た柳は静かに言い始めた。

 

「確かに史実通りなら翔鶴の損傷は免れず、祥鳳も撃沈されます。ですが、この作戦に登場するはずの駆逐艦『有明』『夕暮』『追風』『朝凪』が存在しません。その上、重巡『妙高』『羽黒』、駆逐艦『曙』『潮』『睦月』『弥生』『望月』『漣』は出撃していませんし、史実にはいない『みらい』『ゆきなみ』『伊152』がいます。史実とは違う道を歩むことも十分に考えられます。」

「・・・・・・霧先を信じるしかないのか。」

 

尾栗はその場に立ち尽くした。

丁度、珊瑚諸島上空では翔鶴と瑞鶴の索敵隊が偵察を行っていた。

その時、妖精はあるものを発見する。

 

「天気がかなり崩れてきてる・・・これじゃ艦載機たちも・・・。」

 

瑞鶴が今後の事を心配し始めた時、通信が入る。

 

「ッ!四番機より入電!『我、敵空母機動部隊を発見す。編成は空母1、重巡1、軽巡2、駆逐2の計6隻。』。」

「翔鶴さん、瑞鶴さん!」

 

翔鶴からの報告を聞いた吹雪は二人の名を呼ぶ。

 

「いくわよ瑞鶴。」

「はい!」

 

翔鶴は瑞鶴を引き連れ即座に最大戦速まで機関を動かす。

そして矢を放ち、九九艦爆隊を発艦させた。

『みらい』でもその情報は伝わっていた。

 

「CIC、艦橋!直ちに四番機の方角を調べろ!」

『此方砲雷長!本艦左12度、距離65000の島影から深海棲艦隊出現!空母1、重巡1、軽巡2、駆逐2の計6隻、偵察機の報告通りの編成です!』

 

霧先は砲雷長の報告を受け、みらいに指示を下す。

 

「みらい!対空、対水上戦闘用意!」

「武鐘発動します!対空、対水上戦闘用意!!」

 

艦内放送で流れる鐘とみらいの声。

妖精たちは次々と戦闘配置に付き、準備を行う。

 

「艦長、空母『翔鶴』『瑞鶴』より艦爆隊が発艦しました。」

「視界でも確認。引き続き敵空母を監視、対空見張りを厳となせ!」

「了解!」

 

霧先とみらいの指示によって戦闘準備は万全。

いつでも攻撃できる状態となった。

時を同じくして九九艦爆隊は敵艦隊を補足し爆撃体勢に入っていた。

指南改正艦隊もそれに気づき、護衛の駆逐艦らが対空砲と撃つ。

しかし、数機撃墜するも、別の艦爆によって爆撃を受ける。

空母ヲ級は回避行動を取り、発艦させようと頭の艤装の口らしき部分をあける。

だが、そこに艦爆が爆弾を投下、丁度発艦させようとした敵艦載機に命中し内部爆発を起こさせた。

これによって空母ヲ級は中破し、発艦が不可能となった。

その報告はすぐに「第五遊撃部隊」に伝えられた。

 

「攻撃隊より入電!空母一隻を中破!」

「よーし!先手を打ったわ!これで敵は艦載機を出せない!」

 

翔鶴からの言葉で瑞鶴を筆頭に全員が喜ぶ。

吹雪は報告を聞いた後、指示を出した。

 

「それでは、私たちは残敵の掃討に向かいましょう。但し、空母のお二人は、このまま駐屯地MOへ向かって夕張さんたちの支援隊に追いついてください。」

「え?でも私まだ戦えるのに・・・・。」

 

自分たちだけ別行動が言い渡された瑞鶴は少々不満げに言った。

吹雪は訳を説明する。

 

「私たちの作戦目標は、あくまで駐屯地MOです。お二人には、まだたくさんお仕事をして頂かなくちゃいけませんから!」

「ソウソウ!ここからは、私たちにもFlowerをtakeさせて下サイネー!」

「・・・・分かったわ。でも直援機だけは出させて?それくらいは良いでしょ?」

「お願いします!」

 

訳を理解した瑞鶴は一応念のために直援機を出すことを提案する。

吹雪に承諾してもらってから、瑞鶴と翔鶴は矢を放ち、艦載機を発艦した。

 

「後、再度合流出来るまで、無線封鎖を徹底しましょう。」

『じゃあ後の護衛は僕たちが請け負うよ。』

「お願いします工廠長。それじゃあ、行きます!」

 

吹雪ら四人は機関を稼働させ、残党の掃討に向かった。

そして、その場には翔鶴と瑞鶴、『みらい』が残された。

その時レシプロ機の音が聞こえてきた。

翔鶴と瑞鶴がその方角を見ると、偵察機たちが帰還してきた。

 

「あの子達・・・!」

 

ゆっくりと高度を下げてきた艦載機は脚を出してから、甲板へと着陸。

ワイヤーによって急速に減速し、無事着艦した。

 

「お疲れさま。よく頑張ったわね。」

 

翔鶴は矢に戻った艦載機を労わりながら矢筒にしまった。

 

「スコールが近づいてきたわ。追いつかれないうちに行きましょう。」

「うん。」

 

スコールが近づいてきている為、翔鶴は駐屯地MOに向けて、瑞鶴、「みらい」と共に機関を始動させた。

スコールから逃げるように航行する彼女らは雑談を楽しんでいた。

 

「あぁ~あ!でも加賀に見せてやりたかったなぁ!私たち五航戦の艦載機が敵の空母を撃破したところ!」

「瑞鶴は本当に仲良しになったのね。私も嬉しいわ。」

「うぇっ!?無い!無い無い無い!無いよそんなの!私はあんなお高く留まったカッチカチ釣り目の一航戦なんて、大っ嫌いなんだから!」

 

瑞鶴が加賀の事を良く話すため、翔鶴が少し瑞鶴をからかう。

瑞鶴はこれまでないくらいに焦り、一生懸命に否定した。

 

「ふふっ、ハイハイ。」

『瑞鶴さん、そんなに否定すると余計怪しいですよ。』

「何よ友成!爆撃されたいの!?」

『おぉ怖い怖い。部屋を対爆撃仕様に加工しないと!』

『艦長殿も大変でございますな!』

 

瑞鶴の否定ぶりに霧先も便乗してからかう。

そして更に、航海長妖精の言葉で艦橋内に笑いが起こった。

だがその楽しい時間も永遠では無かった。

 

「・・・!?本艦上空に国籍不明機発見!!」

 

CICでのレーダー要員からの報告で艦内は一気に大騒ぎとなった。

 

「何故発見できなかった!?」

「分かりません!国籍不明機から小型目標分離!国籍不明機、急速上昇!翔鶴に向って爆弾を投射した模様!」

 

レーダー要員からの報告により、CICに砲雷長の怒声が響き渡る。

その後、翔鶴に機銃と爆弾の雨が降りかかった。

 

「きゃあぁぁ!!」

「翔鶴姉!!どうして?この艦載機は何処から来たの!?」

 

突然の攻撃に、翔鶴はなすすべなく攻撃を受け、瑞鶴は周囲を確認する。

その攻撃は艦橋からもよく見えており霧先はCICに怒声を上げていた。

 

「CIC、艦橋!!何故発見できなかった!!」

『こちら砲雷長!レーダー出力を弱めていた上、高高度で飛行していた為に捉えきれなかったと推測します!』

「他に報告は!?」

『本艦左23度、距離45000に敵艦隊補足!深海棲艦ヲ級を中核とする艦隊です!!』

「武鐘発動!対空戦闘用意!シースパローは!?」

『敵機が近すぎます!シースパローは難しいかと・・・・。』

「ならCIWSと主砲で迎撃!」

『了解!』

 

霧先は大声を出しながらCICへと指示を下す。

その間にもヲ級は次々と艦載機を発艦し、機銃を翔鶴と「みらい」に浴びせる。

 

「ッ!よくも!」

 

瑞鶴は弓を構えて艦載機を発艦しようとするが、敵機の銃撃や爆撃で想う様に攻撃できない。

 

(直援機も出せない・・・!)

「瑞鶴!」

 

直援機を出せないことに苛立つ瑞鶴を翔鶴が呼んだ。

 

「私を置いて逃げなさい!」

「そんなの・・・・出来る訳ない!!」

 

自分を置いて逃げろと言う翔鶴の言葉を瑞鶴は即座に否定して、翔鶴を抱えて最大戦速で離脱しようと試みた。

『みらい』もそれに追随して航行する。

だが、後ろから敵艦載機も追いかけてくる。

 

「野郎ども・・・ケツばっか狙ってくれるぜ!」

『艦橋、CIC!緊急報告!後部CIWS、残弾数ありません!!』

「機関一杯!回避行動を取り続けろ!」

『了解!機関一杯、回避行動!!』

 

敵艦載機が近くを飛行している為、回避行動を取り続ける「みらい」。

だが、後部CIWSの残弾が無くなってしまったため、後ろに銃撃痕が数多く出来始める。

同じく回避行動を取る瑞鶴はどうにかこの状況を変えられないかと考えていた。

 

(「みらい」が攻撃していないってことは何かしら異常が出ているはず・・・。なら、吹雪達に・・・・駄目だ、無線封鎖してるし他の敵まで呼び寄せかねない・・・。一瞬で良い!艦載機を出すチャンスがあれば!どうする?どうすればいい!?)

 

必死に考える瑞鶴。

ふと、その時に加賀の言葉が、彼女の脳裏をよぎる。

 

『あの絶望的な瞬間に見えた僅かな希望にかけただけ。』

「ッ!」

 

その言葉を思い出した瑞鶴の目にあるものが映る。

今にも青い空を黒々とした雲で覆わんとしているスコールだった。

 

(絶望な瞬間の・・・・僅かな希望!)

 

微かに割けた雲の割れ目から光が降り注いだ。

その様子を見た瑞鶴はある作戦を思いつく。

 

「翔鶴姉、スコールに入ろう!そしたら向こうも追って来れない。」

「でも、私たちだって発着艦が出来なくなるわ。それより、私を囮にして・・・。」

「大丈夫、最悪の場合は『みらい』を頼れる。それに、永遠に続くスコールはない。必ず切れ目がある。その一瞬があれば発着艦は可能だよ。」

「でも、やっぱり無理よ!スコールを出た瞬間に敵の餌食に!」

「きっとチャンスは来る。信じよう、翔鶴姉。」

「・・・・いきましょう!」

 

瑞鶴の事を信じることにした翔鶴は、わずかな希望にかけることにした。

作戦を決めた瑞鶴は霧先に連絡した。

 

「友成!これからスコールに入って敵の攻撃をかわすから!」

『了解!僕らはこのまま追随します!』

 

短い通信の後、瑞鶴と「みらい」は最大線速でスコールへと突入し、敵艦載機を交わすことに成功した。

 

「クッ、艦娘フゼイガ・・・・回リ込メ!」

 

ヲ級は僚艦の深海棲艦に指示を出し、瑞鶴らを追うことにした。

その頃、吹雪らは敵艦隊の残党掃討を終えて、一息ついていた。

 

「ふぅ、空母が一隻で良かったなぁ・・・司令官がおっしゃっていた最悪の事態はこれで・・・。」

 

気持ちが緩んだ吹雪だったがすぐにその気分は失せる。

吹雪に最悪の事が浮かんだのだ。

 

(最悪?これが!?敵が本当にこっちの作戦を知ってたとしたら・・・みらい先輩と作戦の重要性や!)

「まさか!」

 

最悪の事態に気づいた吹雪は即座に転身し、皆を呼びに行った。

その時、鎮守府にいる加賀は、何か感づいたのか、不安そうな面持ちでタオルのウサギを突いていた。

そして、雷が鳴り、荒れ狂う海を瑞鶴と翔鶴、「みらい」は必死に進んでいた。

 

「応急指揮所!艦内各部の損傷は!?」

『後部に多数の銃弾が命中!その際、後部CIWS、イルミネーターレーダー2機が破損!物理的損傷により修繕不能です!』

 

応急指揮所の報告を受けた霧先は拳を握り締めた。

後部CIWSとイルミネータレーダー2機が損傷した今、「みらい」の対空迎撃能力は大幅に損失したと言っていいだろう。

その現状を理解した霧先は瑞鶴に通信を行う。

 

「瑞鶴さん、『みらい』のイルミネーターレーダーの破損が確認されました・・・『みらい』の防空能力のほとんどが削がれたと言っても良いでしょう。今後、敵艦載機が大編隊で来た場合・・・・『みらい』では対処のしようがありません。」

『・・・・分かったわ。対艦戦闘は可能なのね?』

「えぇ・・・ハープーン発射管やVLS、対水上レーダーには異常が無いので対艦戦闘は可能です。」

『それじゃあ対艦攻撃と高角砲での対処をお願い。』

「了解、準備しておきます。」

 

瑞鶴との通信を終えた霧先はすぐに戦闘準備の指示を始めた。

そして数分後、スコールの切れ目が見えてきた。

 

「翔鶴姉!」

「えぇ。」

 

瑞鶴は姉と共にその切れ目へと向かった。

だがそこにはすでに敵艦隊が待ち伏せをしていた。

 

(もし無理でも・・・最後に一矢報いて見せる!!)

 

最後の最後まで抗うことを心に決めた瑞鶴は弓を構える。

そこに姉の瑞鶴が寄り添った。

 

「タガガ空母二隻ト砲ガ一門ノ重巡デ何ガ出来ル。オ前達、ヤレ。」

 

ヲ級の指示で駆逐艦や軽巡が砲を構える。

だが瑞鶴たちは構わず、そのまま敵艦隊へと向かい、スコールを抜けた。

まさに今、砲撃が行われんとした時、深海棲艦隊が銃撃を受けた。

 

「グッ!何事ダ!?」

 

ヲ級が狼狽えて空を見上げると、翔鶴航空隊所属の識別帯を身にまとった零戦隊が航空戦を繰り広げていた。

 

「あの子達!」

「翔鶴姉!」

「えぇ!」

「いっけぇ!!!!」

 

瑞鶴が弓を放ち、艦攻隊を発艦。

それが確認された「みらい」艦橋では指示が下った。

 

「対水上戦闘!CIC指示の目標!主砲、撃ちぃ方ぁ始めぇ!!」

「トラックナンバー1648、駆逐イ級、主砲、撃ちぃ方ぁ始めぇ!!」

 

艦攻が迎撃されるのを軽減するため、「みらい」は高角砲を持った駆逐艦を重点的に攻撃する。

 

「お願い!一発だけでも良い!五航戦の意地を見せて!」

 

瑞鶴は願った。

しかしその願いはかなわず、生き残った敵軽巡の対空機銃による銃撃で全ての艦爆が迎撃されてしまった。

最早、「みらい」しか攻撃手段が残っていない状況で万策尽きた時、彼女らに助けが来た。

 

「はぁああああああ!!!」

 

吹雪だ。

彼女はスコールを突き抜けて、敵艦隊に砲撃。

着弾こそしなかったものの、敵艦隊の砲撃を一時的に中断させるに至った。

そして吹雪らに付随して残っていた艦載機がヲ級に爆撃を仕掛け、被弾はしなかったが、僅かながら隙を作る。

 

「今!!」

 

訓練の成果が出た吹雪はその隙を見逃さず、砲撃を行い、ヲ級の目を潰した。

更に追撃を行おうと砲を構えるが軽巡と駆逐艦の砲撃によって、それは妨げられた。

 

「Fire!!」

「海の藻屑と!」

「なりなよ~。」

「皆!」

 

吹雪に続いて金剛、大井、北上が砲撃と雷撃を行う。

それを見た霧先は、みらいに指示を出した。

 

「みらい、ヲ級に向け砲撃!」

「了解!主砲、撃ちぃ方ぁ始めぇ!!」

 

みらいの声と共に主砲弾が発射される。

ヲ級がそれに気づいたときには大井と北上の放った魚雷も近づいてきていた。

だがそれをリ級が捨て身で防いだ。

難を逃れたヲ級は艦娘達と「みらい」を睨みつける。

 

「クッ、艦娘共メ・・・・!」

 

苦虫を食い潰したような表情をしたヲ級は勝てないと踏み、その海域を離脱するために、スコールの中へとその姿を消した。

 

「ヲ級、転進し離脱していきます。艦長、どうなさいますか?」

「・・・・・僕らは自衛隊だ。相手に明確な攻撃の意思が無いのなら無用な攻撃はしない。対水上戦闘用具収め。」

「了解、対水上戦闘用具収め!!」

 

こうしてヲ級の奇襲作戦は失敗し、吹雪らは勝利を収めた。

それは鎮守府にも報告された。

 

「『特殊第一艦隊』旗艦、『みらい』より入電!『本艦隊及び第五遊撃部隊、珊瑚諸島海域にて敵機動部隊と遭遇。空母ヲ級を一隻大破、一隻轟沈。尚、空母祥鳳は本艦隊所属「ゆきなみ」に収容し治療中、本艦隊及び第五遊撃部隊は空母翔鶴が大破、「みらい」CIWSとイルミネータ―レーダーのみの損傷、人的損失はなし。』!」

「やったか・・・・。」

「やっぱり、霧先はやってくれたぜ。」

 

一人も欠けることが無かった報告を受けた提督と尾栗は安堵した。

また、その報告は利根によって、入渠中の赤城と加賀に伝えられた。

 

「ヲ級を大破に撃沈・・・みらいの力を借りずに?」

「やりましたね、あの子達。」

「はい。でも、それほど驚くことではないのかもしれません。」

 

赤城が吹雪らを称賛すると、加賀は静かに言いだした。

 

「だって・・・・みんな優秀な子達ですから。」

 

加賀も実は五航戦の事を認めていたのだ。

ただ、それが表に出せないだけで。

 

 

 

 

その後、吹雪らは夕焼けの海を鎮守府に向けて駆け抜けていた。

その後方を行く『伊152』曳航する『ゆきなみ』。

その艦内に霧先の姿があった。

海自の作業服と救命胴衣、識別帽を身につけた彼はある部屋を目指して歩いていた。

 

「あら、司令。」

 

その途中、偶然にも霧先は伊152に出くわした。

声を掛けられた霧先は答えた。

 

「伊152さん。どうされたんです?」

「どうしたもこうしたも暇で仕方ないんですよ。今回の作戦も駆逐艦数隻沈めただけですし・・・曳航されてるのもつまらないんですよ?」

「すみません・・・・速度の関係上仕方が無いものでして・・・・。」

 

口を尖がらせて言う伊152に

霧先は申し訳なさそうに言った。

 

「まぁいいです。古いのは分かっていますから。」

 

そう自虐気味に言う伊152に霧先は言葉を掛ける。

 

「でも、経験も多いでしょう?その経験こそが、伊152さんの武器ですから自身を持ってください。では、僕は治療中の翔鶴さんと祥鳳さんを訪ねますので。」

 

霧先はそう言い残して敬礼をした後、その場を去った。

 

「・・・・・本当に司令は優しいですね。」

 

伊152はそう呟き、再び歩き始めた。

伊152と別れた霧先は、治療室にやって来た。

中に入ると、丁度翔鶴が治療を受けているところだった。

服が破損している為、翔鶴は海自の作業服を身にまとっていた。

 

「衛生士妖精さん。どうです?」

「特に大きな怪我はなく擦り傷などだけですね。」

「ごめんなさい友成君・・・・。」

「いえ、大丈夫ですよ。今回の作戦は僕の練度不足も影響しています。何かあったら僕が責任を取りますから。」

 

そう言って笑う霧先に翔鶴は見惚れた。

 

「そう言えば作業服を着ているんですね。」

「あっ、はい。服が破れてしまっているので・・・。」

「そうでしたか・・・これを被ればもっといいと思いますよ?」

 

霧先は自分の識別帽を脱ぎ、翔鶴にかぶせた。

翔鶴は突然の事で驚いている。

 

「中々似合いますね!翔鶴さんが綺麗だから余計映えるんでしょうけど。」

「綺麗・・・・・。」

 

笑いながら言う霧先に翔鶴は顔を真っ赤にし始めた。

それに気づいていない霧先は衛生士妖精に声を掛ける。

 

「衛生士妖精さん。祥鳳さんは?」

「あぁ・・・奥にいますよ。会うんでしたら、もう意識は回復しているので。」

「ありがとうございます。」

 

霧先は短く礼を言って奥の方へと向かった。

奥のベットには綺麗な黒髪の女性が横たわっていた。

その女性は目の前にいる霧先を不思議そうに見た。

 

「あなたは・・・?かなりお若いように見えますが・・・・。」

「どうも、横須賀鎮守府工廠長兼特殊艦隊司令官を務めております。霧先友成中佐です。一応、年齢は17ですので・・・・。」

 

霧先の肩書を知った女性は驚き飛びあがった。

 

「も、申し訳ありません霧先中佐殿!自分は呉鎮守府所属の軽空母『祥鳳』です!」

「あぁ!まだ安静にしておかないとダメですよ。もし、祥鳳さんに万が一のことがあったら大変ですからね。」

「あっ・・・申し訳ありませんでした・・・・。」

 

起き上がって自己紹介をする祥鳳を霧先はゆっくりと諭しながら寝かせた。

祥鳳はほんのりと顔を赤らめ、霧先の顔を見て謝りながらゆっくりと横たわる。

それを確認した霧先は話し出した。

 

「どうですか?本艦の乗り心地は?」

「すごくいいです。海の上だということが分かっていてもそんなに揺れない感覚になれてないですが・・・・。」

「そうですか。一応自分は本艦の艦長ですので何かあったら自分か本艦乗組員の妖精にお申し付けください。あなたは本艦の客人です。」

「私が・・・ですか?」

「えぇ、それでは自分は指揮に戻らねばなりませんのでこれで。」

 

霧先は祥鳳に敬礼をしてその場を後にした。

 

「海上自衛隊?」

 

彼の後姿を見た祥鳳は救命胴衣に書かれた文字に疑問符を浮かべるが特に気にしないことにした。

 

「・・・・それより中佐さん・・・・優しかった・・・・・。」

 

なぜなら既に祥鳳の頭は優しい霧先の事で一杯だったからだ。




まだアンケートは募集中です。
活動報告へ足を運んでいただけると幸いです。


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第肆拾質戦目「みらい トラック諸島へ」

艦これ改買いました。
クソゲークソゲー言われてますが来週の火曜からプレイしてみます。
アーケード版はVitaに移植とかされないかな?DS版ムシキング的な感じで。
・・・・・ムシキング懐かしいなぁ技カードダブりまくったなぁ。


MO攻略作戦が集結して3日後。

横須賀基地内の艦艇用ドックには「みらい」が入渠していた。

それを見る艦長の霧先は残念そうな顔をしている。

そこに、加賀がやって来た。

 

「随分やられたようね。」

「加賀さん・・・・えぇ、CIWSとイルミネーターレーダーが破損。妖精さんたちの話ではCIWSは復元可能ですが、イルミネーターレーダーは修復期間が無いという理由でスペックダウンは免れません。」

「どの位?」

「通常なら200㎞先まで可能ですが・・・80㎞が誘導可能距離です。」

 

本来なら神の盾に相応しい能力を持つ「みらい」だが、今回の損傷で大きな痛手となった。

しかし、霧先はすぐに顔色を変えた。

 

「大丈夫ですよ。あくまでトラック諸島まで持てばいいですし、向こうで完全修復の予定です。それまで何とか持たせますよ。」

「だといいのだけれど・・・・・。」

 

加賀が未だ心配をしていると、忙しなく動き回る妖精たちの中から主任妖精がやってきた。

 

「工廠長、ある程度弾痕の修復は終わったよ。あとは、CIWSとイルミネーターレーダーの複製品の作成と取り付けだけだね。」

「了解です。では作業をお願いします。」

「はいよー。」

 

主任妖精は霧先の指示を受け、ちょこちょこと歩きながら妖精たちの元へと戻った。

その時、加賀が声をかけた。

 

「友成。この後は何をするの?」

「この後ですか?一応修復作業の状況は確認したので・・・・自主練ですかね。」

「自主練?」

「はい、小銃の射撃訓練ですよ。見ますか?」

「そうね・・・・貴方の腕前が見てみたいわ。」

「分かりました。ではついて来て下さい。」

 

霧先は加賀を連れて修復作業で活気づいている入渠ドックから訓練場へと移動することにした。

そして二人は訓練場にやってきた。

霧先は手に「みらい」艦内の武器庫から持ってきた89式小銃を持っている。

 

「さっきから気になっていたけれど・・・・それが訓練に使う銃?」

「はい、89式小銃。自衛隊に配備されている主力小銃です。」

「未来の銃ね。」

「えぇ、とりあえず後ろで見ていてください。」

 

霧先はそう言って位置に着くと的があることを確認して準備を始めた。

 

「安全装置良し、薬室よし。弾込め、安全装置良し。」

 

慣れた手つきで安全を確認し30発弾倉を装填した後に槓桿を引き、初弾を装填して安全装置を確認した。

 

「ではいきますね。」

「お願いするわ。」

 

加賀に伝えた後、霧先は両手で89式をしっかりと保持して構え、脇を締めて安全装置を解除し単発射撃の準備をした。

そして引き金を一気に引くと乾いた音と共に弾丸が発射され薬莢が排莢される。

的に穴が空いたのを確認すると、霧先はさらに4発連続で発砲、その後に3点バーストに切り替え、更に15発発砲、最後に連射に切り替えて10発発砲した。

そして射撃後、安全装置をかけてから弾倉を抜き、槓桿を引いて遊底を閉鎖してから89式を下ろした。

丁度その時、ある人物が訓練場を訪れた。

 

「殆ど真ん中に命中とは上々ね。」

「赤城さん、おはようございます。」

「赤城さん?どうしたんですか?」

 

やってきた赤城に加賀は挨拶し、霧先はやってきた赤城に尋ねた。

 

「偶々近くを通ったら発砲音が聞こえてきたので・・・・それよりも全弾ほぼ中心を捉えているとはすごいですね。」

「私も驚きました。」

「僕も始めは驚きましたよ。自分がこんなにも射撃が上手いなんて。」

 

霧先の言葉を聞いた二人は顔を見合わせ、曇り掛かった表情をした。

 

「でも・・・。」

 

赤城と加賀は霧先の顔を見た。

彼は残念そうな顔をしている。

 

「軍用銃は人を殺すために作られたものです。89式も元々は守るために人を殺す道具として開発されました。それを忘れては、銃を持つ資格は無いですけどね。」

 

そう言うと霧先は顔を上げて気づいた表情をした。

 

「すみません、こんな話をしちゃって・・・お詫びに間宮を奢りますよ。」

「本当ですか!?」

「流石に気分が高揚します。」

「あっ・・・・。」

 

霧先は自分の言ったことの重要さを理解したが時すでに遅し。

約束してしまった以上、撤回する事は出来ない。

 

「早くいきましょう!」

「ここは譲れません。」

「お、お手柔らかにお願いします。」

 

霧先は89式を武器庫に返納した後、二人を間宮に連れて行くことにした。

道中、赤城と加賀は霧先に聞こえない様に話し始めた。

 

「・・・友成君は今のところ大丈夫そうですね。」

「えぇ・・・でも危険性は消えていません。」

「提督に話しましたが・・・・大和さん他数名を監視に付けるとのことです。」

「あの大和を?」

「はい、丁度今は作戦に備えて『ゆきなみ』で武蔵さんと共にトラック諸島へ行っています。なので好都合かと・・・。」

「そうですね・・・ですが今は間宮です。」

「そうですね加賀さん。」

 

最初は真面目な話だったが最後の最後は食欲に負けてしまうという残念な結果になってしまった。

そしてこの後、霧先の財布が儚く散ったことは言うまでもない。

4日後の出港日の朝、無事修復を終えた「みらい」はドックから出渠し、接岸していた。

埠頭では霧先が提督と梅津に向き直っている。

 

「では、行ってきます!」

 

霧先は2人に敬礼をして大きな声で言った。

 

「気をつけて。」

「必ず戻って来てくれ。」

 

提督と梅津一佐が言った後に霧先は「みらい」のタラップをみらいや自衛官妖精と共に上った。

そして、すぐに艦橋内で点呼を取った。

 

「搭乗員確認!みらい!以下各科員妖精!」

「はいっ!」

『はっ!』

「第五遊撃隊!吹雪!金剛!翔鶴!瑞鶴!北上!大井!」

「はい!」

「これより本艦はトラック諸島へ向けて出航する。出航よーい!舫い放てー!」

 

全員が乗り込んだことが確認された後、霧先の号令と共に「みらい」の出航準備が始まる。

担当の妖精が舫いを外し錨が抜錨される。

 

「両舷微速!」

「両舷微速、ヨーソロ―。」

 

霧先の指示をみらいが復唱して艦の元機が特有の音を上げて動き出す。

そして船体が少しづつ埠頭を離れる。

 

「総員帽振れー!」

 

号令と同時に霧先、自衛官妖精、みらいと第五遊撃隊の面々が「みらい」の識別帽を振った。

 

「気をつけてなー!」

「戻ってこいよー!」

「頑張って~!」

 

鎮守府に残った自衛隊や艦娘の面々が声をかけてくる。

霧先はある程度帽を振ってから再び指示を出した。

 

「両舷原速!」

「両舷原速、ヨーソロー!」

 

指示を出した霧先は甲板から艦内に入った。

そして3日後の太平洋上。

横須賀を無事出港した「みらい」は敵艦隊と出くわすことなく無事に安全な航海を続けていた。

 

「対空、対水上反応なし。平和ですねぇ・・・・。」

「・・・・・。」

 

みらいが呑気に言っているが霧先は怪しいと思っていた。

海は果てしなく広い。

とは言え深海棲艦も馬鹿ではない。

ならなぜこんな大きな7700トン級の艦を見逃しているのか?

偶々あっていないだけにしては可笑しいのだ。

 

「定期報告を頼む。」

「了解、現在探知圏内に対空、対潜、対水上目標無し。定刻通り航行中です。」

「よし、引き続き警戒を頼む。」

「でも艦長。そんなに気を張り詰めすぎるのは・・・。」

「僕たちは今戦場を進んでいる。そんな中で呆けていたら沈められる。」

「・・・・・了解。」

 

ただの霧先の杞憂であればいいのだが実際は分からない。

その時、艦橋内に入ってくるものがいた。

 

「へぇ~中はこうなっているんだぁ・・・。」

「やっぱり凄いねぇ・・・。」

 

ドアが開いて声がしたので霧先が振り返ると第五遊撃部隊がいた。

恐らく興味本位で来たのだろう。

 

「皆さんどうしたんですか?」

「どうしたもこうしたも飽き始めたネー。何かSurpraiseが欲しいデース!」

「そんなこと言われても・・・。」

 

サプライズが欲しいという金剛に霧先は悩む。

その時、とてつもないサプライズが起こる。

 

「!艦長、距離20000に国籍不明機影三機確認!スキャン結果、深海棲艦ヲ級の偵察機です!」

「なぜこんな近距離で!?」

「島の陰に隠れていてSPYレーダーの探知ができませんでした!」

「クソッ!対空戦闘よーい!」

「武鐘発動!対空戦闘よーい!CIWS迎撃開始!」

 

みらいの声と共に鐘が鳴る。

艦橋は戦闘に突入したため一気に騒がしくなった。

 

「工廠長、訓練ですか?」

 

吹雪が霧先に聞いてくる。

まだ視認できていないため彼女には戦闘が始まりそうだということが分からないのだ。

 

「違う吹雪。これは本物の戦闘だ!総員対空警戒を厳に!主砲、スタンダード発射用意!」

「前甲板VLS、一番から三番スタンダード及び主砲、諸元入力完了!発射準備よし!」

 

霧先の言葉を聞いた第五遊撃部隊全員が驚愕する。

対空戦闘の準備が整ったところで霧先は指示を止める。

勿論理由があってだ。

 

「何をしているの?さっさと迎撃しなさいよ!」

「相手が本当に攻撃してくるかどうかを見極めないと攻撃は許可できません。」

「何考えているの!このまま奴らに沈められるわよ!」

 

大井が霧先に掴みかかってくる。

本当は霧先も攻撃許可を出したいがそれはできない。

相手は偵察機であって攻撃機ではない以上、自衛隊法第九十五条と第九十五条の二は適用できないのだ。

 

「無理です。『みらい』は海上自衛隊の艦。それなら攻撃をされるまでこちらからは手を出せない。」

「そんな平時のお題目を唱えて何になるの!?」

「平時のお題目じゃない!これは自衛隊の矜持です!これを捨てれば自衛隊であるということを維持できない。専守防衛は我々が守る絶対的なラインです!」

 

「みらい」は自衛艦、それは専守防衛と自衛隊法が付きまとうことになる。

たとえ相手が国際テロリストだったとしても日本領、日本国民、自衛隊に明らかに攻撃しない限り「みらい」から手を出すことはできないのだ。

霧先は大井には悪いと思うがここは引けなかった。

 

「僕とみらいに課せられた任務は貴方達を無事トラック諸島に送り帰還する事。それを必ず全うします。」

「・・・・北上さんに何かあったら地獄まで追うわよ。」

 

霧先がそう言って大井は引きさがる。

だが状況はよくなっていない。

 

「艦影ヲ、見ツケタカ。」

 

その時、ヲ級は飛ばした艦載機からの情報を受け取った。

その情報は、主砲が一門だけの旭日旗を掲げた重巡洋艦が単艦で航行しているというものだ。

 

「フッ、単艦ナラバ見ツカラナイトデモ思ッタカ人間メ!」

 

ヲ級は一気に艦載機を発艦する。

その数約50。

だがヲ級は知らない。

この艦が普通の重巡ではない未来の艦であるということを。

 

「艦長!敵偵察機速度落とします!距離15000!」

「変化は?」

「待ってください・・・。!島の陰から国籍不明機確認!数50!スキャン結果、深海棲艦ヲ級の艦爆、艦攻隊!本艦へ向かうルートです!」

 

攻撃機が現れたことを知ると霧先は即座に指示を下した。

 

「偵察機は目標から除外!新たな勢力に対し主砲、スタンダード、シースパロー発射用意!」

「前甲板VLS、一番から七番スタンダード及び後部VLS、一番から四十三番、シースパロー、主砲への敵攻撃機の諸元入力完了!」

「主砲、最も近い機体に向けて10発発射!主砲撃ちぃ方ぁ始め!」

「撃ちぃ方ぁ始め!」

 

霧先の指示をみらいが復唱し主砲が発砲する。

 

「タカガ一門ノ砲デ、何ガ出来ル!」

 

ヲ級の慢心が「みらい」の勝機となる。

次々と主砲弾が砲身から放たれ真っ直ぐ突っ込んでくる敵航空機を撃墜する。

それでもなお、敵機は進行してくるため「みらい」は更に攻撃を行う。

 

「スタンダード攻撃始め!」

「スタンダード発射!Salvo!」

 

前甲板VLSの内、7基が開き、中から墳煙を出しながらスタンダードが敵航空機に向かって飛翔する。

当然敵機がよけれる訳もなく次々と黒煙が空に出来上がる。

そして7発全弾の命中を確認すると同時に霧先は次の攻撃指示を出した。

 

「シースパロー攻撃始め!」

「シースパロー発射!Salvo!」

 

後部VLSから噴煙が上がりシースパローが飛翔し敵機を撃墜する。

少し前、島影では僚艦を引き連れて攻撃をしようとしたヲ級の動きが止まる。

ヲ級自身が予想しなかった情報が偵察機から通達された。

その情報とは・・・。

 

「初弾命中・・・・第二、第三射モ命中ダト・・・!?」

 

敵の「たかが一門の砲」が艦載機を次々叩き落しているというのだ。

更には「謎の墳煙を出す何か」が次々と味方機を撃墜しているというとんでもない情報が舞い込んでくる。

 

「クッ!全機撤退ダ!オマエタチ、コレカラ帰還シテ、姫ニ報告ダ!」

『リョウカイ。』

 

ヲ級は「みらい」を深追いすることなく撤退を選んだ。

後にこの行動が今後に大きくかかわることになる。

 

「敵攻撃機撤退します!」

「どうやら警戒して引き返すようだ・・・対空戦闘用具収め!」

「対空戦闘用具収め!」

 

こうして無事戦闘は終結し、「みらい」は航行を続ける事となった。

霧先は指示を出し終わった後、吹雪たちに向かった。

 

「今ので退屈はしのげましたかね?」

「退屈をしのぐどころか肝が氷点下まで冷えましたよ!!」

 

吹雪の鋭いツッコミによって、艦橋内には見事笑いが巻き起こった。

そして2日後、吹雪は艦内で彷徨っていた。

艦内をよく理解している金剛と歩いていたはいいが、ヘリ甲板で少し目を離した隙に金剛は行方不明となってしまった。

 

「うぅ・・・金剛さんどこ行っちゃったんだろう・・・・。」

 

艦内をさまよい続ける吹雪は重厚な扉の部屋の前に辿りついた。

 

「何だろう此処・・・・。」

 

彼女は扉付近をよく見ると、暗証番号入力装置と部屋の名前が書かれた銘板を見つけた。

 

「主砲弾薬庫・・・・。」

 

どうやら主砲弾薬庫まで迷い込んでいたようだ。

吹雪がどうすべきか悩んでいるとピー、と機械音が鳴り扉のロックが外れる音が鳴った。

そしてガコンと重い音が鳴り、海自の作業服と救命胴衣、識別帽を身につけた霧先が出てきた。

 

「あっ!工廠長!」

「吹雪!?どうして此処に!」

「実は・・・・・。」

 

吹雪は恥ずかしさから苦笑いをしつつ迷子になった理由を離した。

理由を聞いた霧先は吹雪を連れて最寄りの艦内電話を使い、艦橋に連絡を取った。

 

「うん・・・うん・・・・やっぱりか・・・・。」

 

電話に出た航海長妖精から金剛は休憩室で本を読んでいるという旨を聞いた霧先は手で目を押さえつつ溜息をついた。

 

「ありがとう。今からそっちに戻るから・・・・了解。」

 

霧先は航海長妖精に礼を言ってから電話の受話器を戻した。

 

「吹雪、金剛は休憩室で紅茶飲みながら雑誌読んでるって。」

「あ、あははは・・・・・・・。」

 

これは吹雪も苦笑いに乾いた笑い声しか出なかった。

 

「ところで工廠長、弾薬庫で何をしていたんですか?」

「・・・・・・・。」

「工廠長?」

 

吹雪に弾薬庫にいた理由を聞かれて霧先の言葉は詰まった。

そして言うべきか否かを考えた結果、乗員である吹雪には教えておくことにした。

 

「実は・・・・自爆装置に異常がないか調べていた。」

「自爆装置!?」

「そうだ。もし万が一、『みらい』の力を悪用しよう者が現れるなら、僕が持っているトランシーバーで7700トン級の護衛艦一隻は木端微塵にできる。」

「木端微塵に・・・・。」

「そうだ。このことを第五遊撃部隊の皆に言うか否かは君の自由だ。」

 

霧先の言葉を聞いた吹雪は少し黙った。

そして少し考えてから霧先に聞いた。

 

「本当に・・・必要なんですか?」

「必要だ。『みらい』を含め海上自衛隊所属の護衛艦は守るために造られた。必要でない殺傷の用途には使わない。」

 

霧先の言葉に吹雪は黙り込んでしまった。

その後、霧先は無事吹雪を金剛の元へ送り、艦橋に戻っていた。

 

「あっ!艦長、見えました!トラック諸島です!」

 

みらいがウィングで双眼鏡をのぞきながら、霧先に言う。

それを聞いた霧先は艦橋内の作業台にある海図を覗き込んでみらいに聞いた。

 

「距離。」

「距離約5㎞、そろそろ準備しますか?」

「そうだね、SH60J用意!」

 

霧先が号令をかけると自衛官妖精たちは作業を始めた。

今回の上陸はみらいからSH60Jで一旦浜辺に上陸。

そこで迎えの艦娘と合流するということになっている。

なのでここからみらいと霧先は別行動となる。

 

「みらい、後は任せた。」

「了解です艦長。」

 

みらいに敬礼した霧先は彼女が敬礼したのを見届けると上陸用の道具を取りに向かうために艦橋を後にした。

 

『第五遊撃部隊の皆様はヘリ格納庫で上陸準備をお願いします。』

 

士官室でいた第五遊撃隊は艦内放送を聞いてウキウキしていた。

 

「やっと上陸かー中々快適だったねー大井っち。」

「そうですね北上さん♪」

「よく考えたら艦が艦で運ばれるのもおかしな気がしない?翔鶴姉・・・?」

「余り気にしない方が良いわよ瑞鶴。」

「ヘーイ、ブッキー!Preparationを始めマショー!」

「わわっ!待ってください金剛さーん!」

 

 

 

そんなことをしている内に「みらい」は所定の位置で停船し、SH60J発艦の準備を進めていた。

そこに吹雪たち第五遊撃部隊がやってくる。

 

「工廠長?それは・・・・。」

 

吹雪はSH60J発艦の準備をしている自衛官妖精の横で、防弾チョッキと88式鉄帽を作業服の上から着用した霧先が持っているのを不思議そうに尋ねた。

 

「あぁ、これかい?もしもの為だよ。」

 

霧先が手に持っていた物、それは89式小銃だ。

吹雪が良く見ると霧先の腰には9㎜拳銃と銃剣も装備されている。

 

「ほ、本当に大丈夫なんですか?」

「たぶん大丈夫だよ。」

 

不安そうな吹雪に対して霧先は気楽そうに言う。

こればっかりは霧先以外のその場にいた全員が不安そうな顔をする。

その後、SH60Jの準備が整い全員が乗り込み、SH60Jはヘリ甲板へと移動した。

 

「全システム異常なし、発艦します。」

 

ヘリ機長妖精と副機長妖精の的確な手順によって無事ヘリは発艦しトラック島へ向けて飛行し始めた。

そして揺れる機体に乗り続けること数分後、SH60Jは無事、トラック島へと到着した。

霧先はホバリングするSH60Jのドアを開けて周囲を確認した。

 

「よし、みらいをお願いします。」

「了解です。艦長こそお気をつけて。」

 

霧先はヘリ機長妖精に敬礼し、SH60Jから飛び降りる。

そして無事全員が下りたのを確認したSH60Jが戻っていく姿を見届けた後、霧先は第五遊撃部隊の元へと戻った。



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第肆拾捌戦目「ホテルじゃありません! 上」

艦これ改は自分はアリだとおもいました。
無茶苦茶面白いです。
吹雪を5日で改二にする位には。

アーケード版も4月末稼働ですし劇場版の前売り券も4月末にありますね。
アニメ二期もあるので自分は今から楽しみです。


「ふぅ・・・まさに夏って感じだねぇ。」

「なんせ南の島ですから。ここで厚着はきついですよ。」

 

溜息をつきながら額を拭う北上に霧先が答える。

彼も暑さから作業服の袖をまくっている。

 

「北上さん!日差しは大丈夫ですか?よかったら、そこの茂みの中で二人で・・・。」

 

大井が茂みを指さすがそこから大きな蛇が木を伝って降りてきた。

 

「ひぃい!蛇ぃ!!」

 

余りにも突然の遭遇だったので大井は悲鳴を上げながら逃げ出す。

その状況を見て霧先と北上は苦笑いをせざるを得なかった。

 

「本当にここでいいんですよね?」

「相変わらずブッキーは心配性ネー!No problemデース!・・・・maybe。」

「めいびー?」

「たぶん、もしかしたらの意味を持つ英単語だよ。」

「ダメじゃないですか!なんでそんな不確定なんですか!!」

 

誰もいないことに不安感を覚える吹雪は金剛に聞く。

金剛は自信満々に言ったがボソッと英単語を呟く。

その英語の意味が分からない吹雪に霧先が補足を加えると吹雪は怒りだした。

その時、突然茂みが揺れ始めた。

霧先は警戒の為、89式を構える。

茂みから出てきたのは赤いミニスカートに白と赤を基調とした特徴的な服を纏い、小豆色の髪を後ろの高い位置で結った女性・・・「大和」だった。

 

「皆さん初めまして。大和型一番艦大和です。」

 

にこやかな笑顔で挨拶する大和を見て霧先は89式を下した。

 

「大和さん、せめて声はかけて下さいよ。下手したら間違って撃ってましたよ?」

「ふふっ、霧先二佐ならそのようなことは無いと思いますよ?」

「どこからそんな自信が来るんだか・・・。」

 

ため息交じりに鉄帽を少し持ち上げる霧先を見て大和は微笑んだ。

 

「それでは皆さん、これから基地にご案内しますので。」

「あっはい・・・。」

 

大和に手招きをされ、霧先と第五遊撃部隊は獣道を大和に案内されながら進んだ。

そして歩くこと数分、一行は開けた場所に出た。

そこには立派な洋風のレンガ建築物が出来上がっていた。

一目で頑丈に思える出来だ。

 

「す、すごい!」

「FS作戦遂行のために作られたとても重要な基地です。鎮守府の皆さんも、もう到着していますよ。」

「本当ですか!?」

 

大和の言葉に気分が盛り上がる吹雪。

そんな彼女に声がかけられた。

 

「吹雪ちゃん!」

「睦月ちゃん!夕立ちゃん!」

 

声を掛けてきたのは睦月だった。

後から夕立も続いてやってくる。

 

「いつ着いたの?」

「さっきだよ。赤城先輩や加賀さんたちも一緒なの!」

「本当!?」

 

赤城や加賀がやって来ていると聞いて吹雪は気分が盛り上がる。

 

「今回の作戦、吹雪ちゃんの活躍で成功したからトラック諸島への航行が楽になったぽい!」

 

今回の戦力派遣の成功効率向上に一役買ったことを夕立が褒めると、吹雪は顔を赤らめて否定した。

 

「ううん、みんなが頑張ってくれたおかげだよ。瑞鶴さんと翔鶴さんなんか特に・・・あれ?」

 

吹雪が振り返ってみるとさっきまで居たはずの二人がいなくなっている。

それに気づいた大和が吹雪に教えた。

 

「翔鶴さんと瑞鶴さんは鎮守府から指示が来ているので、一旦長門さんのところに行きましたよ。」

「そうだったんですか。」

「皆さんはまず、お食事にしましょう。こちらです。」

 

吹雪達は大和についていき、別の建物へと案内された。

そこもかなり頑丈なつくりで安心感が持てる建物だった。

 

「さぁ、どうぞ。」

 

大和が扉を開けて皆を中に招き入れる。

部屋の中には長いテーブルが置かれ、高級そうな椅子も置かれていた。

テーブルの上にはろうそくや皿、ナフキンなどが置かれていて、更に高級感を出していた。

その数多く置かれた椅子のうちの一つを使って食事をする者がいた。

吹雪のあこがれの赤城だ。

 

「赤城先輩!」

「吹雪さん。元気そうですね。」

「はい!」

 

赤城は元気そうな吹雪を見ると再び手を動かし大きなステーキを食べる。

いったい何キロあるのだろう。

見てるだけで胸焼けしそうなステーキを赤城はおいしそうに口に運ぶ。

その横には大盛りのご飯が準備されている。

 

「はぁ~さすが赤城先輩だなぁ~食事する姿も凛々しいぃ~~。」

「そう?」

「いっぱい食べる人は素敵だけど・・・流石にこれは。」

「珍しく大井っちと友成っちの意見が一致したね~。」

 

赤城の食事風景を見てキラキラとかかやくような顔になる吹雪だが、大井と霧先はそうは思えなかった。

言葉は違えど意見は一致していることに北上は少し驚いた様子だ。

 

「さぁ、私たちもdinner timeの時間ネ!」

「時間を二回も言う必要性は・・・・。」

 

霧先は金剛の言葉に戸惑った。

そんな霧先を見て少し噴出した大和は準備していたものを教えることにした。

 

「今日は皆さんのために、腕によりをかけたコース料理をご用意しました。」

「コース?」

「西洋料理の正餐で供される一連の料理のこと。前菜、スープ、魚料理、肉料理、ソルベ、ローストの肉料理、生野菜、甘味、果物、コーヒーの順で出されるんだ。前菜やソルベを省いたり、肉料理を一種にする場合もあるけどね。」

「へぇ~物知りですね!」

「実は一度だけコースを食べたことがあって教えてもらったんだよ。」

 

大和の言うコース料理を理解できなかった吹雪に霧先が教え、彼女は感嘆を漏らす。

霧先は苦笑いをしながら理由を説明した。

 

「流石は霧先二佐ですね。前菜までは時間があるので、まずは飲み物はどうですか?」

 

大和がテーブルに置かれたベルを鳴らすと、メイド服姿の妖精が備え付けの冷蔵庫を開けた。

冷たい冷気が白くなって冷蔵庫から漏れ出す。

その中にあるのは大和ラムネと書かれた、大量の瓶だった。

 

「おぉ~!」

 

全員が声を上げる。

これだけ大量のラムネはそうそう見れないからだろう。

 

「すごい・・・これ、ラムネですか?」

「はい、大和特製ラムネですよ。どうぞ。」

 

吹雪が尋ねると大和は答えた。

そして大和に勧められて、全員がラムネを手に取る。

 

「冷たくて気持ちいいわ・・・まるで・・・。」

 

何かを言う大井に北上と霧先が引いたのは言うまでもない。

大井から少し離れた霧先は、慣れた手つきで中のビー玉を押し込んでからラムネを飲む。

吹雪と金剛も見よう見まねでビー玉を押し込んでラムネを飲む。

 

「プハー!美味しいデース!」

「甘みの中にある酸味が炭酸とマッチしていいですね。こりゃ柿崎が羨むな。」

 

おっさんのような飲み干し方をする金剛。

その隣で霧先は味を楽しみつつ、元の世界で艦艇&艦これオタクだった友人が羨ましがるだろうと思い、微笑んだ。

 

「では皆さん、食事にしましょう。」

 

大和が再び手に持っていたベルを鳴らすと、別のメイド服の妖精さんが布で覆われた何かから布をとる。

現れたのは銀色の入れ物で、大和が蓋を取ると中には金色色のコンソメスープが大量に入っていた。

 

「コンソメスープになります。」

「おぉ・・・本格的ネー!」

 

 

 

「とても基地とは思えないね~。」

「むしろ、ホテル?」

「ホ、ホテル!?ホテルに北上さんと二人~?」

「・・・・。」

 

基地とは思えない様子を北上は声に出す。

すると、次の吹雪の発言から大井が妄想の世界にダイブ。

北上はこっそりと大井から身を遠ざけた。

 

「ブッキーも大井も発音が違うネーホテルではなくhotel・・・。」

「金剛さん、あの・・・。」

 

発音が違うと、金剛が教えなおすためにホテルを連呼。

流石にまずいと思った霧先が、止めに入ろうとしたが遅すぎた。

 

「ホテルじゃありません!!」

 

大和の大声に全員がびっくりして大和のほうを見る。

唯一、霧先だけが申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「あっ・・・い、いえ、ごめんなさい。では、ごゆっくり・・・。あっ、霧先二佐は作戦指揮室に来てほしいと長門さんが言っていましたよ。それでは・・・・・」

 

大和はそう言い残すと食堂を去っていった。

残された4人は茫然としていた。

 

「・・・吹雪、僕はちょっと着替えてくるよ。」

「えっ、わかりました工廠長。」

 

霧先は吹雪に着替えてくることを言うと、持っていた89式を負い紐で担いで食堂を出て行った。

用意されていた部屋に到着すると、すぐに運び込まれていた荷物の中からいつも通りの服を取り出して着替えた霧先は、腰にベルトを巻いて、9mm拳銃をホルスターに入れる。

 

「さて、さっさと行かないと長門さんから説教だ。」

 

霧先は自分の持つものを確認した後、急いで部屋を飛び出した。

霧先が作戦指揮室に向かっている頃、翔鶴と瑞鶴は入浴施設で露天風呂を楽しんでいた。

 

「はぁ~ぁ、作戦が終わったからこれで翔鶴姉とはまた別々の部隊か・・・。」

「仕方ないわ、それぞれの部隊で五航戦の誇りをもって戦いましょ?」

「うん。」

 

姉と別々になるという通知を提督から言い渡された瑞鶴は気分が落ち込んでいた。

励ましても調子が戻らない瑞鶴に、翔鶴はある話題を話した。

 

「そういえば、赤城さんと加賀さんも、修理が完了して『ゆきなみ』に乗ってこの島にいらっしゃってるって聞いたけど・・・。」

「ふぅ~ん、そうなんだ。」

 

瑞鶴はそういうと再び黙り込む。

翔鶴はどうしたら妹が元気になるのかを考え続けることとなった。

一方、霧先は道中に妖精さんに道を聞きながら作戦指揮室にたどり着き、長門に航海の際に起こった出来事を報告していた。

本来、長門は霧先にとって部下に当たる存在なのだが、提督がトラック諸島内では最高指揮権を長門に委ねているため、霧先は彼女の指示に従う立場となる。

 

「報告は以上です。」

 

霧先の報告を聞いた長門はため息をついた。

 

「やはり、こちらの動きは読まれていたか。」

「或いは偶然か・・・どちらにせよ、今回の戦闘。更には前回の逃亡したヲ級。これらによって少なからず、本艦の情報は流出したでしょう。『みらい』の存在が知られた以上、何らかの対策は取ってくるはずです。」

 

霧先の言葉に長門は悩む。

最高指揮権を託されている以上、彼女の裁量で勝敗は決まる。

 

「翔鶴は先の戦闘での疲労もあるから・・・今後の戦闘にはできるだけ参加させないで休養を取らせたほうがいいわね。」

「自分も同意見です。」

「戦術的勝利、戦略的敗北か・・・。」

 

陸奥と霧先の言葉を受けて、長門は海図をにらむ。

 

「どうするつもり?MOを確保して補給路を確保。この前線基地へ戦力を結集し、FS作戦を進める・・・・・という目論見だったはずだけど?」

「補給路が伸び切っている以上、拠点MO攻略は必須だ。態勢が整い次第、再度攻略に向かうことを提督に進言する。」

「そうなるわね・・・。」

 

陸奥と長門は最善であるだろう作戦を出す。

補給線が伸びている以上、長期戦は難しくなる。

それを「歴史」として知っている霧先は、「歴史」を軍人として体験していた。

 

「でも、それまではしばし、この南の島で休息。ちょうどよかったかもしれないわね、皆には。」

「陸奥さんの言う通り、ガス抜きは大切です。現にみらいも、少しだけ疲労の色が見え始めていました。」

「ならちょうどいいな・・・みらいとゆきなみは今回の作戦に重要だからな。」

 

長門らが作戦指揮室で話し合っている頃、艦娘たちは食堂で豪勢な料理を堪能したところだった。

食堂から出て、艦娘寮に向かう吹雪は満足げな表情だった。

 

「はぁ~お腹一杯。」

「でしょ?睦月も美味しくていっぱいお替りしちゃった。」

 

食事の感想をお互いに述べる吹雪と睦月。

その時、前を歩いていた赤城と加賀の会話が聞こえてきた。

 

「ふぅ、上々ね。明日の朝ごはんも楽しみです。」

「そうですね赤城さん。」

 

それを聞いた睦月は小さな声で吹雪に話しかける。

 

「赤城先輩もおいしかったって。」

「部屋も食事に負けないくらいすごいっぽい!ベットフカフカっぽいよ!」

「本当?」

 

興奮気味で言う夕立に答える吹雪だったが、彼女にはある疑問があった。

 

「でも、どうしてこんなに至れり尽くせりなんだろう。というか大和さんって何者?」

 

吹雪が疑問を口にしたのを聞いていた加賀は立ち止まって三人のほうを見る。

そして吹雪の疑問に答えた。

 

「一言でいうのであれば、史上最強だった艦娘。」

「えぇ!?そうだったんですか!?」

 

加賀の言葉に吹雪は驚愕した。

赤城が話を続ける。

 

「私は実物を近くで見たことはありませんが・・・46㎝三連装砲を装備しています。」

「46!?」

「そんな装備なら、深海悽艦なんてぽいぽいぽ~い!」

「そうですね。」

 

睦月が驚きの声をあげて、夕立が手を使って表現しながら言う。

赤城も夕立の言葉に賛同する。

そこに加賀が付け加えた。

 

「ただ。」

「ただ?」

 

吹雪は言葉を繰り返して言葉を待つ。

その次に出た加賀と赤城の言葉は三人を驚愕させた。

 

「妹の武蔵もですが実戦には一度しか出たことがありません。」

「それどころか存在が重要であるがゆえに、その一度を抜いて艦娘と海に出たことはありません。」

「一度しか海に・・・?」

「そんなことが・・・・。」

 

三人が大和のことを聞いていると、睦月が思い出したように言い出した。

 

「そういえば加賀さん、さっき大和さんが存在が史上最強『だった』艦娘って言ってましたけど・・・その上が?」

「えぇ・・・あなたたちがより身近に感じている人物。彼女たちが大和より強い可能性がある。」

「彼女たちって誰ですか?」

 

吹雪が聞くと赤城が答えた。

 

「日本国海上自衛隊、横須賀基地所属、ゆきなみ型護衛艦三番艦『みらい』。そして、その艦長、霧先友成中佐よ。」

「みらい先輩と工廠長がですか!?」

 

吹雪は驚きのあまり大声を上げた。

赤城と加賀は静かに頷いた。

 

「大和さんの妹に当たる武蔵さんを中破に追い込み、加賀さんも大破まで追い込みました。」

「正直、あの時は悔しかったわ。たかだか巡洋艦一隻と高校生に負けたという敗北感がね。」

「工廠長さんってすごい人だったんだ。」

 

赤城と加賀の言葉に睦月は驚くしかなかった。

吹雪と夕立もあっけにとられている。

 

「それに・・・・みらいさんと大和さんは知り合いのようです。」

「知り合い?お二人って生まれた時代が違うんじゃ?」

 

吹雪がつじつまが合わないことに疑問符を浮かべる。

赤城も同じように思っていた。

 

「そうです。ですがどうも聞く気になれないんです。」

「なら工廠長に・・・・。」

 

吹雪が意見を述べようとした時、入浴を終えた瑞鶴と翔鶴が現れた。

夕食が何であるかを話し合っていた二人だが、瑞鶴と加賀の仲が悪いのは周知の事実。

そのためここにいるほとんどの者がこの後に起こることを察知した。

 

「うぐっ!」

「あら、赤城さん。皆さんも。」

 

加賀を目にした瑞鶴は見るからに嫌な表情になり、翔鶴は皆に声をかけた。

 

「入浴、済んだのかしら?」

「はい、これから夕食です。」

 

そこまで聞いた赤城は、一航戦の片割れである加賀が瑞鶴と言い合いを始めないようにするため、先ほど長門から聞いた話題を振った。

 

「長門さんから聞きました。ここ最近の活躍がすごいと。」

「そ、そうなんです!」

 

吹雪もそれを感じ取ったのか、翔鶴の活躍をほめる。

 

「吹雪さんだって頑張ったわよ。恐れずに立ち向かって。」

「いや、それほどでも・・・。」

 

どうも吹雪は褒められ慣れていないようで、顔を赤らめながら頭をかいた。

そこに瑞鶴が悪い笑い声を出して加賀の方を向いた。

 

「つまり、一航戦なんかがいなくても十分戦えるってわけ!」

 

瑞鶴の誇らしげに言う姿が気に食わなかったのだろう。

加賀は冷たい声で言い返した。

 

「もし、私たちだったら『みらい』の力なしでもMOは攻略していた。」

「うぐっ!!」

「か、加賀さん。」

 

痛いところを突かれ、少し引き下がる瑞鶴。

赤城もまずいと思い、加賀にブレーキをかけようとしたが、加賀は続けた。

 

「慢心しないで、作戦そのものの目的は果たされていないわ。」

「慢心しているのはどっちよ!戦ってもいないくせに、なに偉そうなこと!」

 

瑞鶴も歯止めが利かなくなり、言いたいことをぶちまける。

だが話している途中、加賀が近づいてきた。

瑞鶴は話すのをやめて身構えた。

だがそれは杞憂に終わった。

加賀は瑞鶴の頭を撫でたのだ。

そこにいる全員が奇跡を見るかのような目で見ている中、加賀は瑞鶴に言う。

 

「でも、頑張ったわ。」

 

目線をそらしながらそういった加賀は、その場を立ち去った。

 

「へ、変なことしないでよねっ!」

 

瑞鶴は我に返り、去っていく加賀の背に言葉を投げかけた。

吹雪らはそれを見て、少しづつではあるが、二人の距離が縮まっていることを喜んだ。

赤城は吹雪らに別れを言うと、加賀を追いかけた。

加賀は少し離れた林の中にいた。

立ち尽くしている加賀の隣に駆け寄った赤城は声をかける。

 

「ちゃんと褒めてあげるなんて、流石加賀さんね。」

「別に・・・。」

 

少し意地悪な言い方でいう赤城に加賀は簡素に答えて寮へと足を進めた。

赤城はその姿を見て、嬉しく感じた。

一方、吹雪ら三人は用意された部屋に心躍らせていた。

 

「うわっはー!フカフカだ~!」

「でしょ?」

「本当にホテルっぽーい!」

 

布団に飛び込む吹雪の姿はさながら修学旅行の宿泊先で興奮する学生だろう。

夕立の言う通り、化粧台やソファ、豪華な床や壁紙、本当にホテルのような内装だ。

 

「一流ホテルだね。」

「ホテル・・・・か。」

 

睦月の言葉で吹雪は思い出した。

「ホテルじゃありません!」と大声で否定していた大和の姿を。

あの時、本当に嫌がっていた大和の表情が、吹雪の頭に焼き付いて消えない。

 

「海に・・・出たくないのかな?」

「?」

 

吹雪の突然の言葉に、友人である二人は疑問符を浮かべる。

吹雪は寝返りを打って、天井を見上げつつ言葉を繋げた。

 

「私、砲撃も航行も苦手だったでしょ?だから、今の鎮守府に来る前は、ほとんど実戦に出してもらえなくて・・・でも・・・だから、皆と海に出たいって・・・・毎日思ってた・・・。」

 

吹雪は自分が前の鎮守府にいたときのことを思い出していた。

上官には怒鳴り声をあげられ、埃をかぶった艤装を磨き、いつか上官を見返して皆と海に出ることを考える日々。

そんな記憶を思い出していた。

 

「大和さんもそう思ってるっぽい?」

「分からないけど・・・艦娘だったらみんなそう思うんじゃないかな?」

 

吹雪は天井を見上げたままそう答えた。

その頃、大和は基地から離れた海岸で月に照らされた海を眺めていた。

大和の髪が潮風に吹かれている場にある者が近づいた。

 

「こんな時間に一人でいると危ないですよ?」

「霧先二佐・・・。」

 

霧先だった。

彼は流れるような動きで大和の横に立った。

 

「海に・・・出たいんですね?」

「・・・軍艦の性でしょうか。意思を持ってからは海に出たくなるんです。」

「最後が最後なだけに・・・・ですか?」

 

霧先の問いに大和は黙り込んだ。

少し間をおいて、今度は大和が質問してきた。

 

「二佐は・・・何故、私やみらいの過去を知っているんですか?」

 

大和が思っていた疑問、それは霧先が自分の過去を知っているということだ。

そのことを聞かれた霧先は苦い顔をしつつ、腹をくくった。

 

「僕がなぜ知っているか・・・・それはあなた方の出来事がすべて、僕の世界では娯楽の一つにしか過ぎなかったからです。」

「私たちに・・・・起こったことが・・・?」

「はい、あなたが原爆を搭載して撃沈されたことも、みらいが元の世界に帰ることができなかったことも、僕の世界では漫画の中のワンシーンにしか過ぎませんでした。」

 

霧先が言い終わると大和は彼に掴みかかった。

本来であれば軍法会議ものだが、怒りが最高点まで達している大和はそんなことを気にしていなかった。

大和は今にも喉元を食いちぎらんというような表情で霧先を睨み付けた。

 

「だったら・・・あなたは今まで漫画のことだと思っていて、みらいの艦長をしていたというんですか!!彼女の船員が死んだことも!!」

「別にそうは言ってはいません。僕だって彼女が数多くの戦いを潜り抜け、家族同然の隊員が死んだことは知っています。・・・・僕も父さんを8歳の時に亡くしました。だからこそ、誰かを失う気持ちを理解しているつもりです。『みらい』艦長を務める以上、梅津一佐や尾栗三佐達の犠牲があったことは忘れる気はありません。」

 

霧先の過去と思いをを聞いた大和は自然と手を放していた。

 

「・・・・申し訳ありませんでした。ついカッとなって・・・。」

「いえ、僕の言い方も悪かったですから。このことは内密に、もし長門さんあたりにばれたら軍法会議ものですし。」

「・・・・はい。」

 

未だしょぼくれている大和を見て、霧先は言った。

 

「・・・あなたがみらいのことを思っていることはわかりました。だからあえて言いましょう。僕らはこの世界のものではない。それは大きな歪みを生むでしょう。もしそんな時が来たとき・・・。あなたが正しいと思った行動をとって下さい。」

「私が・・・・正しいと思った行動?」

「えぇ、出来れば普段からあなたが思ったことを言って、行動してください。あなたはもう鉄の塊ではない。意思を持った人ですから。」

 

霧先はそう言って浜辺を後にした。

残された大和は霧先の言葉が焼き付いて離れなかった。

 



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第肆拾玖戦目「ホテルじゃありません! 下」

ちょっと前回の最期を修正しました。
ご覧になっていない方はご確認いただければ幸いです。


吹雪たちがトラック諸島に到着した翌日。

中佐である霧先と最高指揮権を持つ長門からしばしの間、休暇を言い渡された艦娘たちは近くの浜辺で休息を楽しんでいた。

 

「おっおお~速いでしょ!」

「相変わらず速い速い煩いわねぇ・・・。」

 

フリフリのフリルが付いた可愛らしい水着を着た大井がサーフィンで最速を目指す島風を煙たがっていると北上がやってきた。

 

「お待たせぇ~。」

「北上さん!その水着わッ!!」

「ダメかな?可愛いかなって思ったんだけど。」

 

北上は北上で黄緑色の水着を着用していた。

大井ほど大きい胸ではないが健康体と思える身体が彼女の魅力を引き立たせている。

 

「凄く可愛いです!凄く凄く可愛いです!!ですが・・・。」

 

大井はいまにも鼻血を噴き出しそうな勢いで言う。

だが即座に冷たい目になり周囲を見回した。

 

「冷たいのです!」

「これくらい我慢しなきゃ!」

「さぁ、行くわよ~。」

「ちょっと待ちなさぁ~い!」

 

周りでは電や雷、愛宕、高雄といった艦娘たちが休息を楽しんでいた。

 

「こんなたくさんの人に北上さんの水着を晒すのはちょっと・・・向こうに行きません?二人っきりで・・・。」

「それはできませんよ大井さん。」

 

大井が北上と二人っきりになろうとしていると霧先が待ったをかけた。

霧先も半袖のカーゴパンツタイプの水着姿で水着についているベルト通しにベルトを通して腰に拳銃を装備していた。

持っている拳銃もホルスターも、普段とは違ってニューナンブM60とこの時代の警察で採用されているオープンタイプホルスターだ。

 

「チッ・・・・・邪魔しないでくれます?」

「どう言われようとも無理です。最悪の事態に備える為なので我慢をお願いします。」

「まぁまぁ大井っち、騒がしいのもいいじゃん?」

「北上さんがそう言うなら・・・。」

 

霧先がてこでも動かないとしていると北上が大井にここで我慢するように促す。

北上の言うとおりにしてしまう大井は素直に受け入れた。

 

「というより・・・すごいねあの胸。同じ感娘とは思えないね。」

「え、えぇ・・でも大きければいいというものでは・・・あっ!」

「オウフ・・・・。」

 

北上が愛宕と自分の胸を比較して少し気が滅入っていると大井がフォローしようとした。

だが大井は視線に入ったもので言葉を詰まらせた。

同時に霧先も驚愕した。

 

「すごい・・・。」

「上には上がいますね・・・・。」

 

北上と霧先がそういうのも仕方がない。

三人の視線の先には少々派手な水着を身に着け、その豊満な胸を見せつける大和がいた。

 

「さぁ、早く早く。」

「泳ぐっぽいよ~?」

 

吹雪と夕立は大和を催促し、睦月は見守っている。

これは三人で考えたことで親睦をより深めようとしているのだ。

だが、その瞬間、大井がカチンときた。

 

「ど、どうでしょう?あちらに行かれては・・・というかいって下さい。」

「全くこの人は・・・・。」

「じゃあ、あっちにしましょう・・・。」

 

大井が暗い笑みを浮かべる横で霧先は頭を抱えた。

吹雪は素直に受け入れることにし、大和と少し離れたところに行こうと大和の背中を押す。

 

「・・・吹雪って泳げたっけ?念のためについていこう。」

 

霧先も吹雪たちについていくことにし、二人の傍を離れた。

 

「さぁ、大和さんも泳ぎましょう。」

「でも私・・・お昼の会食もありますし・・・。」

 

少し離れたところに着いた吹雪は早速泳ごうと大和に働きかける。

だが大和は会食があるからと断ろうとする。

 

「あとで睦月たちが手伝います。」

「早くおいでよ!冷たくて気持ちいっぽいよ!」

「ね?」

「はぁ・・・じゃあ少しだけ。」

 

睦月と夕立も一緒に頼み込んだおかげで、大和も折れ、泳ぐことにした。

するとここぞとばかりに吹雪が提案した。

 

「それで!思い切って艤装をつけて海に出てみません?そっちの方が気持ちいいと思うんです。私たちも一緒に出ますから。」

「で、でも・・・。」

「それは許可できない!」

 

大和が吹雪に押され気味になっていると声が響いて来た。

四人は声が聞こえた方を振り向く。

 

「工廠長・・・さん。」

「長門さん・・・。」

 

声が聞こえた方向に立っていたのは霧先と長門だった。

 

「この前進基地から出ることは認められん。」

「それに、大和さんの艤装は現在オーバーホール中、組み立てが終わるのも夕方だから無理だよ。」

 

長門と霧先の二人から止められては吹雪も言い出せなかった。

 

「大和。」

「はい・・・ごめんなさい。」

 

長門が呼ぶと大和は謝ってからその場を去った。

 

「大和さん・・・。」

「吹雪、余計なことはするな。」

 

長門は吹雪にそう言い残して大和と同じく戻っていった。

霧先も少し申し訳なさそうな顔をしてその場を去る。

その晩、吹雪は浴場でふてくされていた。

 

「納得できない!」

「しょうがないよ。長門さんや工廠長さんがああ言ってるんだもん。」

「じゃあ、睦月ちゃんは長門さんがあのままでいいと思ってるの?大和さんは戦艦なんだよ?ホテルの支配人じゃないんだよ?」

 

吹雪は睦月に質問を投げかける。

吹雪自身、境遇が似ている大和に同乗しているのだろう。

 

「じゃあ、どうするっぽい?」

「それは・・・わからないけど・・・。」

 

髪を洗っている夕立に打開策を聞かれると考えていなかった吹雪は言葉を詰まらせた。

その頃工廠では、霧先がオーバーホールと調整が終わった大和の艤装を磨いていた。

 

「・・・・。」

 

大和の艤装を磨いている手を止めると、霧先は台の上に置いていた艤装を台車に乗せて運ぶ。

そして艤装を艤装保管庫に収納すると、服を着替えると油で汚れた手を洗ってから工廠を出た。

吹雪は入浴を済ませて部屋で窓の外を眺めていた。

 

「吹雪ちゃん。まだ寝ないの?」

「うん、すぐ寝るから。先、寝てて。」

「うん、じゃあお休み。」

「ぽい~。」

 

睦月と夕立は言葉をかけてから電気を消してベットに入った。

吹雪は暗くなった室内から外を見ていた。

月明かりに照らされて明かり無しでもよく見える。

 

(しょうがないことなのかな・・・でも・・・。)

 

吹雪が考え込んでいると、外で大和が浜辺に向かって歩いているのを見つけた。

気になった吹雪はすぐに着替えてから部屋を出て、大和の後を追った。

大和は一人で海を眺めていた。

その後ろから声を掛けられた。

 

「大和さん。」

「吹雪ちゃん!」

 

大和の後ろには吹雪がいた。

吹雪はゆっくりと大和に歩み寄った。

 

「やっぱり、出てみたいんですよね。海。」

「あっ・・・はい、でも・・・。」

 

大和は断ろうとしたが吹雪はその隙を出さなかった。

 

「ちょっとだけ、出てみませんか?」

「えっ?」

「海は素敵です。皆と一緒に海に出るのはいいことです。大丈夫です、今ならだれもいないし。」

 

大和は吹雪の誘惑に揺れていた。

だが二人は後ろからくる人影に気づいていなかった。

 

「誰もいないかどうかは確認してから言うべきだね。」

「あっ!工廠長!こ、これは・・・!」

 

突然現れた霧先に吹雪はなんとか言い訳しようとした。

だが霧先は起こった様子ではなくヤレヤレと呆れた様子だった。

霧先は吹雪に近づいて言った。

 

「吹雪、僕は別に何も怒ってないよ?ただ最終調整のためにテスト航海が必要だから大和さんの補助に君を呼んだんだから。」

 

吹雪は一瞬、霧先の言うことが理解できなかったがすぐに理解した。

霧先が自分の役職を利用して大和が海に出てみる手助けをしたのだ。

 

「さぁ、大和さん。早速テスト航海を始めましょう。すでに艤装は保管庫にあるので展開できますよ。」

「・・・・ありがとうございます、霧先二佐。」

 

大和は霧先に礼を言った。

その横で、吹雪は浜辺に近づくと意識を集中させて艤装を展開しようとした。

吹雪の周りに光の粒子が無数に出来上がると、それが艤装の形に集合していく。

そして光が消えるころには艤装が装着されていた。

大和も同じように艤装を展開した。

吹雪は現れた艤装に圧倒されていた。

 

「凄い・・・・本当にすごい装備ですね!これが46㎝砲・・・。」

「え、えぇ・・・でも、本当に大丈夫?」

「はい!さぁ、ゆっくり行きましょう。脚を水につけて、歩くように。」

 

吹雪は大和の手を取って海に出た。

少し離れたところまで、転ぶこと無く進めた二人は月明かりに照らされる海の上に確かに立っていた。

 

「どうですか?」

「吹雪ちゃん・・・。」

「はい?」

「あの・・・大変言い難いのですが・・・。」

「えっ?何です?」

 

吹雪は大和に感想を聞いた。

だが彼女も大和が言う言葉が出てくるとは考えもしなかっただろう。

 

「お腹が・・・空きました。」

「・・・・へっ?」

 

霧先と吹雪は共に大和の言葉と腹の虫の鳴き声に間の抜けた声を出すしかなかった。

とにかく大和の空腹をどうにかしなければならないと考えた霧先と吹雪。

基地の厨房と食堂を借りて料理を作ることにして、霧先は準備、吹雪は人手を補うために睦月と夕立を起こしに行った。

途中、匂いにつられた赤城も参加。

大和と赤城が食事するという状況が完成してしまった。

一心不乱に米を口に運ぶ赤城と大和。

2人の目の前にはそれぞれ山の様に盛られた肉じゃががあった。

しかもお椀にも山盛りの米がある。

 

「す、すごい量・・・。」

「赤城先輩よりも多いなんて・・・。」

「ぽい~。」

 

睦月と吹雪、夕立が、二人の食事の量に驚いていると二人から空の茶碗が差し出された。

 

「お代わりください。」

「私も頂けますか?」

 

なんとあれだけ山の様に盛った量の米が無くなったのである。

流石に三人も驚くしかない。

 

「え、えっと・・・。」

「もう無いっぽい~・・・。」

「えぇ!?30人分を一気に炊いたんだけど!?」

 

たじろぐ吹雪に夕立がもう白米がないことを知らせる。

調理していた霧先は30人分の米が無くなっているわけがないと思って窯を覗くが、窯の中は米粒一つ残っていない状況だった。

 

「うっそぉ・・・・。」

 

霧先が目の前の状況に愕然としていると、扉が強く開け放たれた。

 

「な、長門さん・・・。」

 

長門は鋭い目で周囲を見て状況を理解した。

そして吹雪らに視線を戻す。

 

「吹雪、霧先中佐!」

「はっ、はい!!」

 

霧先と吹雪は返事をした後、外に連れ出された。

そして人気のない建物の陰まで連れて来られると事情を説明する様に言われ、事情を説明した。

 

「やはりか・・・。」

「すみません・・・まさか、こんなことになるなんて。」

「自分も、管轄でありながら、部下の組み立てミスがあったことに気づけていませんでした。申し訳ありません。」

 

吹雪はうつむいたまま謝罪し、霧先は識別帽を脱いでから深々と頭を下げて謝罪をした。

実は今回の大和の空腹感の原因、それは艤装にもあった。

組み立ての際、担当の妖精が間違って組み立ててしまったため、余計に燃費が掛かるという高燃費になった。

そのため、艤装を動かす本人が必要以上の空腹になり、艤装を動かす燃料や弾薬も多くなってしまうという結果になってしまったのだ。

 

「整備班のミスもあったけど・・・大和は睦月型みたいな駆逐艦と違って低燃費とはいかないの。動かす燃料は多いし、弾薬も砲が大きい分、多くなるわ。それ故、運用には慎重性が求められるの。」

「最重要艦なだけに、ダメージを受けて大量の資材を消費することだけは避けたい。現に、みらいと対峙した武蔵が大量の資材を消費しているからな。」

「そういうことだったんですね・・・。」

 

長門が許可しなかった理由を聞いた吹雪は自分のしでかしたことの重要さに気づいて消沈する。

 

「霧先中佐に話さないように口止めしていたことは私のミスだ。だが箱入り娘となってしまっている事は私も分っている。問題が解決され次第、実践に投入されることになるだろう。」

「じゃあ、いずれ一緒に!」

「ああ、いつと約束できないがな。」

「ありがとうございます!」

 

長門の言葉に吹雪は嬉しくなりお礼を述べた後に頭を下げる。

だが軍に所属している以上、これでは終わらない。

 

「だが、規律を破ったのは事実だ。霧先中佐と共に罰を受けて貰う。」

「えっ?」

「ですよねー・・・分ってましたけど。」

 

二人の罰は翌日から施行されることとなった。

その罰とは、規定の量の貝類を収集してくる「潮干狩りの刑」だった。

翌日早朝、二人は作業を始めた。

霧先はいつもの動きやすいスタイルで拳銃などをつけたベルトは置いてきていて、吹雪は普段はランニングなどで使用する青い短パンと黄色のパーカー姿で潮干狩りに挑んだ。

そして時は進み、開始してから3時間が経ってもまだ規定の量まで達していなかった。

 

「はぁ、まだこれだけか・・・。」

「二人でもこの量はいい方だよ。さぁ、続けよう。」

 

ドラム缶の中に貝を放り込んだ二人は黙々と作業を続けた。

すると吹雪が不意に歌い始めた。

 

「あっさりー、しじみー、はーまぐーりさーん・・・。」

「ブフッ・・・何故にはまぐりだけ『さん』付け・・・。」

 

霧先は吹雪に聞こえないように突っ込みながら笑いを堪えていた。

そんな潮干狩りをしている二人に足音が近づく。

気になった二人が見てみるとそこにはバケツと熊手の所謂「潮干狩りセット」を持った大和が立っていた。

 

「大和さん!」

「どうしてここに?」

 

吹雪と霧先は突然現れた大和に驚いてやってきた理由を聞いた。

 

「私も手伝います。」

「えっ!?いいですよ、私が勝手にやったことだし・・・。」

「僕も自分の役職を応用して偽装したので・・・。」

 

吹雪と霧先が断るが大和は微笑んでいった。

 

「手伝いたいんです。霧先二佐は言いましたよね?自分のしたいことをしろと。」

「あれま、いいように使われちゃいましたか・・・。」

 

霧先はやらかしたといわんばかりに後頭部をガシガシと掻いた。

吹雪も大和の想いに応え、一緒に潮干狩りを始めた。

 

「私、この島に来た時から毎日一度はここにきて海を眺めていたんです。あの時と変わらない海を。」

「大和さん・・・。」

 

吹雪は静かに大和の話を聞いた。

 

「私だって艦娘です。皆を守るために存在しています。だから、ホテルみたいなんて言われると寂しくなります・・・。でも、今は仕方ありません。来るべき日までここで精いっぱい頑張ります。・・・だから、もう大丈夫です。ありがとう。」

 

大和の気持ちを聞いた吹雪は嬉しい気分になった。

自分が大和の支えになれたと思えたが、彼女にはどうしても引っかかることがあった。

所変わって、浴場では長門が疲れをとるため入浴施設にいた。

流石の彼女も、まさか1艦の艦長である霧先が行動を起こすとは予測していなかったため、さらに悩む羽目になった。

それ故疲れを大きく感じていた長門は肩までつかり、心をリラックスすることにしたのだ。

長門が入浴を楽しんでいるとリスが浴場に迷い込んできた。

周囲を注意深く確認すると長門はリスを捕まえて愛で始めた。

 

「フフフ・・・可愛いな~。・・・私だって好きであんなことを言ってるわけじゃないんだぞ~?本当はこんな風に吹雪や霧先に気軽に接し・・・。」

「朝風呂?」

「うっ!」

 

疲労からだろうか、普段とは違う女性らしい声色で長門はリスに頬ずりしながら言いたいことをぶちまけた。

そのため後ろにいる陸奥に気づかず、声をかけられて正気に戻った。

 

「・・・・・聞いてたか?」

「何を?」

「いや、何でもない。」

 

長門は陸奥に悟られぬように仏頂面で受け答えをした。

だが長門は気づかないかった。

陸奥は何かを知ったように微笑んでいたことに。

一方、食堂では霧先と吹雪、大和の3人が潮干狩りを終えて椅子に座っていた。

他の艦娘も集合し、皆の目の前には綺麗なオムライスが用意されていた。

 

「オムライス?」

「はい、吹雪ちゃんと霧先二佐がとってきてくれたシーフードで作ったオムライスです。」

 

全員が「いただきます。」と手を合わせて言ってからオムライスを口に運ぶ。

卵の甘みとホワイトソースのコク、貝のうまみがちょうどよく食欲をそそる味に仕上げてくれている。

 

「レディーにも合う上品な味付けね!」

「確かに上品な味だ。」

 

暁は口にものを含みながら言い、響はそんな姉をスルーして舌鼓を打つ。

皆も食べ進め、すぐに皿の上のオムライスは綺麗に無くなった。

 

「おかわりを頼みましょう。デザートもお願いします。」

 

大和がベルを鳴らすと妖精たちがせっせとデザートを運んできた。

ケーキやマカロンなど種類は豊富だ。

 

「凄い!パーティ始まっちゃう!」

 

夕立の言う通りパーティのようなラインナップ。

艦娘たちは好きなデザートに手を伸ばしていく。

 

「本当に大和 hotelネー!」

「はい、大和ホテルの特製デザートですね。」

 

金剛の言葉に大和も乗る。

怒っていないことはいいのだが、吹雪は自分の中に何かがつっかえている気分だった。

食後、艦娘たちは浜辺で駆けっこをしたり、砂遊びをしたりビーチバレーを楽しんだりしていた。

皆が楽しむ中、吹雪は木陰で体育座りをしていた。

何かが心に残っているのだ。

 

「大和さん・・・あれでいいのかな?本当に。」

 

吹雪は現状がいいのかが分からなかった。

今のままが大和にとっていいのかどうか彼女は悩む。

そこに海の上で丸太に乗った夕立が呼びかける。

 

「吹雪ちゃんもおいでっぽい!」

「一緒に乗ろうよー・・・うぉぁあ!!」

「何やってんの・・・。」

 

夕立と一緒に吹雪を呼ぶ睦月だったが、バランスを崩して盛大に水しぶきをあげながら丸太から海に落ちた。

水着姿で拳銃を装備して警戒していた霧先は、何とも言えない呆れた表情で見ていた。

 

「睦月ちゃん艤装つけてると思えばいいっぽいのに~。」

 

艤装をつけるときはバランス感覚が重要になるのでその感覚でやればいいと夕立が指摘する。

その言葉で吹雪にいい考えが思いついた。

 

「艤装・・・そうだ!そうすればいいんだ!」

 

吹雪はすぐに立ち上がると、走って浜辺を後にした。

 

「どうしたんだ?」

 

霧先と夕立、睦月はそれを不思議そうに見ていた。

 

「いっちばんシュート!」

「グボアァ!!」

 

そして偶然、傍でビーチバレーをやっていた白露の強烈なシュートが霧先の顔面を襲った。

浜辺を後にした吹雪は着替えた後、大和をある場所に案内していた。

 

「どこへ行くんです?」

「もうちょっとです。」

 

吹雪に押されて大和が穴にされた場所は、大和がよく訪れる浜辺だった。

そこには一隻のボートが用意されていた。

 

「これは・・?」

「乗ってください。」

「えっ?」

 

吹雪に指示をされ、大和は何をするのか疑問に思った。

吹雪はすぐにやることを説明した。

 

「これに乗ったら、私が沖まで引っ張っていきます。それなら、規律を守ったまま沖に出られるでしょ?」

「吹雪ちゃん・・・。」

 

吹雪の悪知恵が働いた瞬間だ。

長門は艤装をつけての航行は認めないと言ったが、艤装をつけないで航行してはいけないとは言っていない。

つまり、言葉の抜け目だ。

 

「大和さんの言ってること、立派だと思います。でもやっぱり私、我慢できないんです。私も、海に出られなかった時期があるから分かるんです。だから・・・・。」

「ありがとう。」

「大和さん・・・・。」

 

吹雪の想いを受けた大和はボートに乗ることを了承した。

用意された木箱の上に座って準備した大和を見た吹雪は準備を始めた。

 

「じゃあ行きますよ~!」

 

吹雪が前を向いて機関を始動させようとしたとき、彼女を呼び止める声が響いた。

 

「待て、吹雪!」

「へっ?」

 

吹雪と大和が振り返ると霧先が睦月と夕立を連れてきていた。

 

「えっと・・・これはですね、その・・・。」

 

吹雪はしまったと思いすぐにごまかそうとした。

 

「やっぱり一人でこんなことしてたっぽい。」

「黙っていなくなっちゃ駄目だよ。」

「全くだ。訓練の時には教官がいるだろう?」

「皆・・・。」

 

夕立と睦月、霧先も吹雪に加担しに来たのだ。

すでに着替えを済ませている睦月と夕立は艤装を展開し、ボートと艤装をつないだ。

霧先は大和とともにボートに乗り込んで、周辺に異常がないか目視で確認していた。

 

「皆で海を行くってやっぱりいいですね。」

「はい、試しに陣形を組んでみますね。」

 

吹雪がそういうと夕立と睦月がそれぞれ左と右につく。

 

「輪形陣ですね。でも、この陣形を組むのにはもう一隻必要なんじゃないですか?」

「おお、よく知ってますね。」

 

輪形陣を一発で見抜いたことに睦月は驚いた。

大和はその理由を説明した。

 

「はい!出撃に備えてちゃんと勉強していますから。」

「じゃあ出撃の許可が下りたらすぐ一緒に戦えますね。」

「はい。」

 

皆が会話を弾ませていると霧先が念のために持ってきた双眼鏡で何かを見つけた。

空の向こうから何かがやってくるのだ。

 

「・・・ん?・・・・あれは。」

 

霧先は目を凝らしてみる。

そこには数機の深海棲艦の艦載機がいた。

 

「そんな!吹雪、武鍾発動!対空戦闘用意!」

「えっ!?どこですか!?」

「12時の方向、敵艦載機数は4!トラック諸島へなおも進行中!」

 

霧先が指示した方向を吹雪たちが見ると、確かに敵艦載機が4機、トラック諸島へ向かっていた。

 

「そういえば今朝、『ゆきなみ』宛に入電があった。艦載機を撃ち漏らしたため対空警戒を強めよという内容だった。」

「攻撃しなきゃ!」

「でも今空母もなしに制空戦なんて無理っぽい!」

「対空射撃?」

 

霧先と夕立に言われて吹雪は焦った。

吹雪は対空射撃を行おうと主砲を構えるが、睦月はそれに待ったをかけた。

 

「私たちじゃ、とても届かないよ!」

「睦月の言う通り、君たちの主砲は対艦向けに製造されている!高角砲か護衛艦の速射砲でない限り対空攻撃は不可能だ!その上『みらい』は修復中、『ゆきなみ』も島の反対側にいる、シースパローやスタンダードでの迎撃は到底できない!!」

 

もう打つ手はないと思われたとき、大和が名乗りを上げた。

 

「私がやってみます。」

 

全員が振り返ると、大和はボートを降りて艤装をすでに展開していた。

 

「大和さん・・・でも。」

 

吹雪が止めようとするが、霧先が静止してから大和に言った。

 

「戦艦大和、対空戦闘を許可する。責任はすべて僕がとろう。」

「ありがとうございます、霧先二佐。」

 

大和は霧先に礼を言うと主砲を準備した。

 

「武鍾発動!対空戦闘用意!敵機補足、三式弾装填!!」

 

大和が声を出すと主砲が稼働し、敵艦載機を補足する。

準備が完了すると、大和は最後の指示を下した。

 

「全主砲!薙ぎ払え!!」

 

大和の声とともに三式弾が勢いよく発射され、空中を高速で飛んでいく。

そして敵艦載機の目の前で炸裂し、敵艦載機を全機撃墜した。

三人はあっけに取られていた。

 

「凄い・・・。」

「一撃っぽい・・・。」

「でも・・・こんなすごい音したら・・・みんな絶対、気づいたよね?」

「十中八九そうだろうね・・・。」

 

吹雪と夕立があけっけに取られている中、睦月と霧先はバレてしまったことを確信していた。

その予想は的中、大和を見かけない長門がおかしいと思い、大和の妹である武蔵と捜索していると、46㎝砲の砲撃音を聞きつけた。

 

「第二艦隊に伝えろ、撃ち漏らした艦載機は撃破したとな。」

「はぁい。」

 

陸奥はそういうと無線連絡のために基地に戻っていった。

 

「さて、彼女らはどうするつもりだ?長門。」

「私にも考えはある。」

 

長門は武蔵にそういってその場を後にした。

少ししてから全速力で戻ってきた吹雪らは適当な岩陰に隠れていた。

 

「ふぅ・・・着いた・・・。」

「あっ!」

「長門・・・さん。」

 

吹雪は膝に手をつきながらため息をつく。

その時、夕立が声を上げたため、視線の方に顔を向けた。

そこには長門が仁王立ちをしていた。

 

「待ってください!責任は発砲を許可した自分にあります!」

「そうなんです、吹雪ちゃんたちは悪くないんです!私が・・・。」

 

霧先と大和は必死に吹雪たちを擁護しようとする。

だがその努力は流されることとなった。

 

「何を言っている?私は何も聞いていないし見てもいない。もうすぐ夕食の時間だ。」

「へっ?」

「他の者も急げ、遅れたら夕食は無しだ。」

「長門さん・・・。」

 

長門は吹雪たちを見逃した。

今回は流石に攻撃の危険性があったためという名目ができたため報告には何ら支障がない上、これ以上彼女たちを責めるのも酷だと思ったのだ。

長門は遅れないように伝えるとその場を後にした。

そして入れ違いで武蔵やってきた。

 

「まさか貴様が規律を破るとはな。」

「武蔵さん!」

「私を中破に追い込んだだけあってやることも派手だな!」

「今回は反省しています・・・。」

 

大きな声で笑う武蔵に霧先は背をたたかれながらボートのロープを片付ける。

吹雪たちはその様子を不思議そうに見ていた。

武蔵のことが気になった吹雪は大和に尋ねた。

 

「大和さん・・・あの人は・・?」

「私の妹の武蔵です。」

「大和さんの妹!?」

「全然似てないっぽい・・・。」

 

皆の会話が浜辺から聞こえてくる中、長門は基地へと足を進めていた。

途中、陸奥がリスを抱えて待ち構えていた。

 

「なんだ?」

「別に?・・・・甘いわねぇ~秘書艦の長門も。」

「うっ!ちがっ!!」

 

陸奥が朝風呂で長門がやっていた様子をまねしながら言ったため、長門はテンパる。

その顔は恥ずかしさから真っ赤に染まっていた。

片づけを終えた霧先たちは食堂に向かい、夕食を待った。

机の上には豪勢な料理が置かれていて、いい匂いが食欲をそそる。

 

「今日のディナーは特別豪華です。たくさん食べてくださいね。」

 

皆が豪勢な量にに目を輝かせる。

 

「Oh!大和 hotelの夕食、病みつきになりそうネー!!」

「金剛さん。」

「What?」

 

大和ホテルといった金剛の言葉を大和は訂正した。

 

「大和ホテルではありません。私は大和型一番艦、『大和』です!」

 

自分はホテルではなく戦艦であると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、深海では姫や鬼といったクラスの深海棲艦による会議が行われていた。

装甲空母姫、装甲空母鬼、泊地棲姫、泊地棲鬼、南方棲姫、南方棲鬼、泊地棲戦姫、飛行場姫、戦艦棲姫、港湾棲姫、離島棲鬼といった面々が集結しているため、相当な威圧感があるだろう。

その中で戦艦棲姫が始めに発言した。

 

「それで?なぜ我々を招集したんだ南方棲姫?我々も忙しいんだ。」

 

少々怒気を込めた口調で戦艦棲姫が言うと南方棲姫はクスリと笑った。

 

「確かに大変でしょう。だけどこれを見てもそう言えるのかしら?」

 

南方棲姫はそう言いながら皆に写真を配る。

写真には一隻の艦が映されていた。

それは紛れも無く「みらい」だった。

 

「何かしらこの軍艦。」

「旭日旗を掲げているな、ということは艦娘のやつらか。」

 

離島棲鬼や泊地棲姫が考察していると戦艦棲姫は机を殴りつけた。

 

「南方棲姫!貴様この写真を見せる為だけに我々を招集したというのか!?こんなたかだか一門の砲などを備えた巡洋艦なぞすぐに沈められるわ!!」

 

すでに怒りが頂点に達している戦艦棲姫は怒鳴り散らした。

だが、南方棲姫はひるむことなく言葉を繋げる。

 

「あら、私はこの艦がたかが巡洋艦と言っていないわよ?」

「なんだと?」

「この艦はヲ級の艦載機相手に墳進弾の様な何かを発射した上にこの駆逐艦程度の単装砲を連射してきたのよ?しかも墳進弾は目がついているように追跡してくる上、主砲は寸分の狂い無く、航空機に当ててきた。更には30㎞以上離れたところから攻撃しているのよ?」

 

南方棲姫によってもたらされた情報を彼女らは信じることができなかった。

そんな夢幻のことがあるなど信じられなかったのだ。

 

「そんな夢物語が!」

「あるのよ。現に鎮守府付近にいた泊地棲姫はその軍艦に撃破されている。それにMOにも現れて私たちと交戦しているわ。その事実があっても認めないつもり?」

 

戦艦棲姫の言葉をさえぎって南方棲姫は言った。

含み笑いをする南方棲姫に戦艦棲姫は歯ぎしりをした。

 

「ッ!・・・何が狙いだ?」

「簡単よ。今後はこの軍艦を沈めることに重点を置いてほしい。そして特別対策部隊の設置を認めてほしいのよ。」

「・・・・・。」

「どうかしら?」

 

戦艦棲姫の耳には確かに情報は入っていた。

しかし、新手の戦場伝説だと思ってまともに取り合っていなかったのだ。

南方棲姫が確実な証拠を集め、提出した以上、戦艦棲姫は首を縦に振るしかなかった。

戦艦棲姫が首を縦に振ったことを確認した南方棲姫は、上手くいったことが嬉しく笑みをこぼす。

 

「それじゃあ決定ね。部隊名は・・・・セクションSとしましょうか。」

 

こうして「みらい」は、因縁深い名前の部隊と対立していくことが決まってしまったのだが・・・・。

霧先も、みらいも、大和も、そのことを知る由はなかった。




次回「改二っぽい?」

不安感は人を押し潰すこともある。


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第伍拾戦目「改二っぽい?! 上」

やっと書き終わりました・・・・アーケードと劇場版を糧に執筆頑張ってます。
正直つらいっす。
今回、アンケートありますので活動報告までどうぞ。
最近アンケートばっかですみません・・・。


大和の発砲騒動から三日経った日の早朝。

大淀は作戦室に来ていた。

 

「失礼します。」

 

一言言ってから大淀はドアを開ける。

中には長門と陸奥がいた。

大淀は長門に歩み寄って、手に持っていた書類を差し出す。

 

「先日の作戦から推測される現在の敵深海棲艦の状況です。」

 

長門は、受け取った書類の一枚目をよく見た後、二枚目に目を通す。

 

「次は、先に到着した主力艦隊を加えた、我が現有戦力です。」

「すごいわねぇ・・・。」

 

長門の持っていた書類を見た陸奥は声を漏らす。

当然、書類には霧先指揮の「みらい」「ゆきなみ」そして先刻到着した梅津一佐指揮の「みらい」も記入されていた。

 

「圧倒的だな。」

「はい。この状態でMO攻略戦に入った場合。図上演習では、攻略の可能性は8割以上となっています。」

「流石、ここに主力艦隊を終結させただけはあるわね。」

 

図上とはいえ、それだけの結果が出ていることに陸奥は安堵する。

未来の護衛艦である「みらい」や「ゆきなみ」がいれば戦況は勝利へと傾くことはわかりきっていた。

 

「それもすべては、今度こそMOを攻略し、敵駐屯地を分断するFS作戦を遂行するためにある。提督もそれを想定してここに主力艦隊を終結させたのだろう。」

 

提督の考えを分析しつつ、長門は手元の資料の情報を組みなおしていく。

その長門に大淀が尋ねた。

 

「作戦実行はいつにされますか?」

「ここに集結したことで、他の戦線や鎮守府が手薄な状態が続くのもよくない。できるだけ早い方がいいだろう。本日中に霧先中佐と梅津一佐、角松二佐と相談した後、提督に上申し、決定する。」

「了解です。」

 

長門が大淀に今後の決定を説明した後、ドアがノックされた。

 

「誰だ?」

 

長門が聞くとドアが開けられ、羽黒が慌てて入ってきた。

 

「あ、あの!夕立ちゃんが!」

「どうした?」

 

慌てた様子で入ってきた羽黒に事の顛末を聞かされた長門は、すぐに夕立がいるといわれた海岸へと向かった。

海岸では吹雪、睦月、島風、暁、響、雷、電が夕立を囲むように眺めており、そこに海自の幹部作業服と識別帽を身に着けた角松、尾栗、菊池、そして霧先も混じって見ていた。

皆の視線の的となっている夕立は体が淡い光で発光していた。

 

「す、凄い!」

「ハラショー・・・。」

 

睦月と響が声を漏らす。

体が発光している艦娘なんて始めて見る以上、普通の反応だろう。

 

「ぽい~・・・。」

 

当の本人である夕立は自分に何が起こっているのかよく分かっていない様子だ。

 

「夕立ちゃん大丈夫?体、痛くない?」

「特に平気っぽいけど・・・なんかちょっと・・・熱っぽいっぽい・・・。」

「どうしたんだろ・・・。」

 

吹雪は心配して容態を聞くが夕立の大まかな状態を聞いてお手上げだった。

角松達も初めての事で頭が追い付かない状況だった。

 

「さてさてどうしたもんか・・・桃井一尉に見せるべきか?」

「それは無意味だろう。艦娘以前に人が発光していること自体、医学的に証明は難しい。」

 

尾栗と菊池がどう対処すべきか議論していると、睦月がこぼす様に呟いた。

 

「もしかして・・・恋!?」

「えぇぇぇ!!?」

「いやそれは違うな。そんなんだったら、独身の雅行はともかく俺や洋介も発光を経験してるぞ。」

「独身は余計だ。」

 

尾栗の冗談に菊池は少し怒気を含めた口調で応える。

そんな2人をほっておいて雷は意見を出した。

 

「それとも、質の悪い燃料をとったとか!」

「気をつけなさい!爆発するかもしれないわ!!」

「えぇぇっ!!?」

 

暁の言葉で全員が後ろに下がって距離を置く。

だが冷静になった角松と尾栗、菊池、霧先は爆発の原因がないことを思い出す。

 

「爆発の原因がなければ爆発はないだろう・・・。」

「そうだよな。艦娘が核融合で動いてない限りな。」

「そんなんだったら核爆発でこの島消し飛びますよ・・・。」

 

角松と尾栗、霧先が話し合っていると、電が姉の雷に頼み込んだ。

 

「雷お姉ちゃん、何とかしてほしいのです!」

「わ、私に任せなさい!えっと・・・はーっ!」

 

頼まれたら断れない性格の雷は、咄嗟に腕を突き出して大声を出した。

しかし、何も起こるわけがなく微妙な空気が流れだした。

 

「・・・・それだけ?」

「何というか・・・あっけないな。」

「なによもう!」

 

聞いてくる島風とあっけなさをそのまま口に出す角松に雷は怒る。

丁度、そこに長門がやってきた。

 

「どうした?」

「長門さん・・・。」

 

長門に吹雪が気づくとほかの皆も長門の方を見る。

振り向いた際に隙間から見えた夕立を見た長門はすぐに原因を察知した。

 

「これは・・・・・・夕立、霧先中佐。すぐに工廠へ。」

「えっ?はい・・・。」

「ぽい・・・・。」

 

原因が分からない霧先と夕立は疑問符を浮かべることしかできなかった。

気になった吹雪と睦月は工廠にやってきた。

角松と菊池、尾栗は興味はあるものの、職務があるために、駆逐艦娘を引き連れて一旦基地に戻った。

工廠ではせわしなく金属同士がぶつかる音が鳴り響き、機械が動く音がうなっている。

 

「夕立ちゃん・・・大丈夫かな?」

「特に苦しそうではなかったけどね。」

 

吹雪は不安から呟く。

睦月は、夕立に突出した異常がなかったことを思い出して言う。

 

「でも、工廠に入ったってことは、何かはあったってことだよね?・・・・あっ、足柄さん。」

 

吹雪が夕立に起こった事を推測していると、工廠の窓が開け放たれて、足柄が顔を覗かせた。

 

「あら、夕立ちゃんの事かしら?」

「はい。」

 

睦月が応えると足柄は少し室内に目線を移す。

状況を確認すると、吹雪と睦月の方を向いた。

 

「ちょうど今終わったから入ってもいいわよ。」

 

許可が下りた二人は、一目散に駆け出し工廠の中に入る。

工廠内部は薄暗く、電灯が灯っていない為、不気味であった。

木造の兵舎の様な工廠内はカーテンで仕切られているため、外からは見えないようになっている。

そのため、二人もどこに夕立がいるか把握できていなかった。

 

「どこだろう?夕立ちゃん・・・。」

 

吹雪と睦月が周囲を見渡していると一画から何かを充填するような音が聞こえた。

 

「夕立ちゃん?」

 

睦月は夕立と思い、その音がした方に向かう。

吹雪も後に続き、カーテンに手をかけて少し開けると、こっそりと覗いた。

 

「撃ってないから特に問題ないと思うけど・・・?」

「だからこそ、普段の整備が重要なんですよ?北上さん。さぁ、もう片方も・・・」

(いや・・・友成っちが、昨日の晩に整備してくれたばっかで、新品同様なんだけどなぁ・・・。それに私の足に触りたいのが本音だろうし。)

 

中では北上の魚雷発射管を大井が整備していた。

とはいえ、昨日の晩の時点ですでに、霧先がみらいを含めた全員の艤装の整備を行っていたため調整の必要はない。

つまりただ単に大井がボディタッチをしたいという欲望でやっているだけなのだ。

 

「北上さんの生足・・・・ん?なんですか?」

「あっ!いえ!」

 

大井に覗いていることを気づかれた吹雪と睦月は、即座にカーテンを閉めてその場から撤退した。

 

「あぁ・・・びっくりしたぁ・・・というより昨日、工廠長が艤装の一斉整備点検を実施してた様な・・・。」

「吹雪ちゃん、こっちかもしれないよ?」

 

大井が艤装を調整していることに疑問を覚える吹雪だったが、次に音がしている区画を睦月が発見して、その考えを置いておく。

二人がカーテンから覗くと、高く積まれたガラクタを夕張が溶接していた。

ブツブツと独り言を言いながら笑い、涎を垂らす夕張を見た二人はそっとカーテンを閉じた。

次の区画では金剛が就寝しており、夢を見ているようだった。

 

「ウェハハハッ!アハハハッ!テートク・・・耳はくすぐったいデース!ハァハハ!」

 

先代電が見ていたら提督と金剛にアームロックをかけていたに違いないだろう。

二人は幸せそうな金剛を起こさない様に、そっとカーテンを閉じた。

 

「ここ工廠だよね・・・?」

「暖かいから、皆ちょっと気持ちが大らかになってるんだよ、きっと!」

 

皆の行動に呆れている吹雪に睦月がフォローするように言うがそれはそれで墓穴をほっているようにも聞こえる。

二人が話していると工廠の奥から特徴的な声が聞こえてきた。

 

「ぽい~・・・ぽいぃ~!」

 

二人は声がした、最奥の区画のカーテンに近づくと、思いっきり開いた。

 

「夕立ちゃん!」

「あっ・・・。」

 

声をそろえて夕立を呼ぶ二人の目の前には、金色の長髪で頭頂部の一部がくせっ毛、赤い瞳で程よく成長した胸が特徴的な女性がいた

白の下着だけの女性は吹雪と睦月を見つめる。

 

「失礼しました!」

 

夕立とは全くの別人であることを確認した二人は、声をそろえて謝りながらカーテンを閉じた。

 

「吹雪ちゃん?睦月ちゃん?」

 

だが、聞きなれた夕立の声に呼ばれて、再び二人はカーテンを開けて覗き込む。

やはりそこにいるのは夕立ではなく別人の女性だ。

 

「あの・・・。」

「今、夕立ちゃんがここに・・・。」

「ぽい~!」

 

尋ねてくる二人に対して、女性は手を振りながら夕立の口癖を言う。

それを見て睦月と吹雪は何かをひらめいた。

 

「あっ、もしかして!」

「夕立のお姉さん?」

「違うよ、夕立ちゃんの姉妹艦は白露ちゃんだよ・・・。」

「違うっぽい!夕立は夕立っぽいよ~!」

 

議論する睦月と吹雪に、女性は自分が夕立であることを告げる。

 

「えっ?」

 

女性、否、夕立から告げられて衝撃の事実に二人はきょとんとしていた。

その時吹雪と睦月の後ろから人影が近づいて来た。

 

「夕立、新しい服と艤装を・・・・何してるの?」

「工廠長!」

 

吹雪が振り返ると、夕立の丁寧に磨かれた艤装と畳まれた服を持った霧先が立っていた。

 

「足柄さんに受け付け頼んでたけど・・・・許可したみたいだね。」

「気になっちゃって・・・。」

「まぁ、吹雪と睦月には怒ってないし。僕はこれを夕立に・・・・。」

 

霧先がカーテンの方に視線を移す。

しかしそのカーテンは開かれており、霧先の目には下着姿の夕立が映った。

 

「あっ。」

 

睦月と吹雪が、声を合わせて気づくも時すでに遅し。

顔を赤く染めた夕立が、霧先の顔面へ金属製のごみ箱を投射。

それが霧先の顔面に見事命中し、霧先はその場に倒れこんだ。

その後、職務が一段落ついた角松、尾栗、菊池の三人と、浜辺で集まっていた駆逐艦娘が、工廠に集まった。

 

「改装?夕立が?」

 

雷が聞くと、額にシップを張った上で包帯を巻いた霧先が頷いた。

それと同時に夕立が、木箱の上に乗って、皆に改装後の姿をお披露目する。

 

「おおぉぉぉ!!」

「より取り見取りっぽい!」

 

夕立の大幅に変化した外見を見て、皆が声を上げる。

 

「すごくかわいいのです!」

「レディよ!これぞまさしくレディだわ!!」

「装備は?」

「たしか・・・。」

 

電は率直な感想を述べ、暁はレディらしくなった夕立に見惚れる。

響が装備について聞くと、霧先が答えた。

 

「12.7cm連装砲B型改二と61cm四連装酸素魚雷だよ。」

「利根さんに聞いたら、彼女はもう駆逐艦の火力じゃないって。」

「そうらしいっぽいけど・・・まだ分からないわね。」

 

睦月の言葉に夕立が答えると、一瞬空気が静まった。

 

「わね?」

「なんだか・・・外見だけじゃなく性格も変わってないか?」

 

睦月と尾栗は突然の夕立の口調の変化に戸惑った。

一方で菊池と角松は冷静に解析していた。

 

「しかし・・・大規模改装が、こんなにも変化を出すものだったとはな。」

「駆逐艦『夕立』は、第三次ソロモン海戦で大暴れしたらしいからな。艦娘になっても反映されているんだろう。」

 

その二人の横で吹雪は夕立の改装にくぎ付けになっていた。

 

「大規模改装って凄いんだねぇ・・・前までと全然姿が違うもんねぇ・・・足モスラーッとしたし・・・背もすごい大きくなったし。」

 

成長した少女になった夕立をよく見ていると、吹雪はある部分に目が行った。

程よく主張してくる胸だ。

吹雪は自分の未発達な胸と見比べて少しへこむ。

 

「・・・・気になるのか?」

「ふえ?な、なにがです?」

 

尾栗に聞かれた吹雪は慌てながら聞き返した。

 

「改装だよ。俺ァてっきり、吹雪が先だったと思ってたがなぁ・・・。」

「私がですか?」

 

何故吹雪が先に改装するのかと、疑問に思う吹雪に尾栗が教えた。

 

「ああ、だって駆逐艦の中で一隻だけだろ?旗艦なのは。」

「あっ、そうですね・・・・。」

 

吹雪が自分が第五遊撃部隊の旗艦であることを思い出したと同時に、夕立に皆が質問攻めをする。

その時、吹雪の中に何とも言い難い靄がかったものが生まれた。

大和の時とは違った蟠りだった。

その蟠りを抱えたまま、昼食を迎えた吹雪は、先輩である赤城に思い切って聞くことにした。

 

「大規模改装ですか?」

「はい・・・どうやったらなれるんですかね?」

 

元気な下げに言う吹雪に、赤城は自分の経験に基づいて答えた。

 

「そうですね。私の時は、ひたすら鳳翔さんに扱かれてましたが・・・・一般的に言えばある一定の練度になれば可能ですね。」

「う~ん・・・練度か。」

「どうかしました?」

 

悩む吹雪に、隣で食事をとっていた大和が尋ねる。

 

「何でもないです・・・ただ・・・。」

「旗艦まで務めたのに、どうして吹雪さんはならないんだろう。」

「赤城先輩!?」

 

言葉の最期がしぼむように声を小さくしながら吹雪は大和に答えた。

そんな吹雪の言葉を言い当てた赤城は、吹雪の横に移動して再び箸を進めた。

吹雪は、それと自分の言葉が言い当てられたことに驚いて赤城を見た。

 

「そういわれたんですね?」

「いや・・・まぁ・・・。」

「成程。そういえば、第五遊撃部隊の旗艦ですものね、吹雪ちゃん。」

 

吹雪は言葉を小さくしながらうつむいた。

ご飯をよそうために立ち上がった大和は、ご飯をよそいながら赤城が言い立てた吹雪の想いを理解した。

 

「それはそうですけど・・・。」

「練度は練習の状況や、内容によって変化してきますし。大規模改装が可能になる条件も各艦によって様々。気にしてもしょうがありません。」

「ですよね。それに私たちの目的は、深海棲艦を倒し、海を奪回することですもんね!」

 

ご飯を山盛りによそった赤城は、席について再び箸を進め始める。

赤城に諭された吹雪は、本来の目的を思い出して自分の思っていたことを打ち捨てた。

 

「その通りです。『努力に憾み勿かりしか』、吹雪さん、貴女は頑張っていますよ。腐らず続けて行けば、必ず結果はついてくると思うわ。」

「赤城先輩・・・。」

「頑張りなさい。」

「はっ、はい!」

 

自分が進むべき進路を見出した吹雪に、赤城は五省の内の一つを言ってから期待の意味も込めて吹雪の頭を優しく撫でた。

吹雪は、自分のあこがれる赤城に撫でてもらったのが余程嬉しかったのか、すぐに椅子から起立し、指の先まで伸ばした状態で返事をした。

その後、満面の笑みで自室に戻った吹雪は、心の底から溢れてくる喜びから踊りだす。

 

「撫でられちゃった!撫でられちゃった!なーでらーれちゃったー!」

 

踊りながらも、吹雪は静かに本を読んでいた睦月に、横から顔をのぞかせて報告した。

 

「赤城先輩に撫でられたぁ!褒められたよぉ!ウフフ~。」

「えぇ、本当?」

「うん、頑張りなさいって!あはぁははは!どうしよぉ~!?特型駆逐艦吹雪、幸せであります!」

「よ、よかったね・・・。」

 

調子に乗ったのか、敬礼をしてウキウキな吹雪。

あまりの吹雪の変貌ぶりに睦月も苦笑いをするしかなかった。

 

「そうだ!今日はお風呂に入っても髪洗わないんだぁ~!ウフフ~。」

「ええっ!?ダメだよ、洗おうよ~!」

「せっかく撫でてもらったのに洗ったら落ちちゃうよ~。」

 

何が落ちてしまうのかいまいちできない睦月はあることを提案した。

しかしそれが吹雪の崩壊を加速させることとなる。

 

「また、撫でてもらったらいいんじゃないかなぁ?」

「また?つまり、もう一度!?」

「う、うん。頑張ればきっと、また撫でてもらえるよ!」

「よし!」

 

吹雪は何かを思いついたのか、立ち上がってドアへと向かう。

それを不思議に思った睦月は尋ねた。

 

「どこ行くの?」

「ランニングしてくる!努力に憾み勿かりしか~!!」

「・・・・・・・・・・・・いってらっしゃい。」

 

完全に吹雪に振り回された睦月はそう言うしかなかった。

そして吹雪を明石と霧先に診断させようと心に誓ったのであった。

月が照らすトラック諸島の夜。

虫の鳴き声が涼し気に聞こえるぐらいの暑さの夜、ランニングをすると決めた吹雪は急ぎ足で量を飛び出した。

すると偶然にも、霧先と煤汚れた夕立が反対側からやってきた。

 

「あっ!工廠長に夕立ちゃん、お散歩ですか?」

「いいや、火力や雷撃、艤装の動作チェックを今までやってたんだ。」

「疲れたよ~。」

「そっか・・・夕立ちゃん、ごくろうさま。じゃあ私、ちょっと走ってくるね。」

 

霧先から説明を受けて、疲労困憊の夕立を吹雪は労わった。

二人に走ってくると伝え駆け出そうとしたとき、足柄が本棟から出てきて声をかけた。

 

「吹雪、夕立!長門さんが呼んでるわ。」

 

二人は何かしたこともなく、身に覚えの無い呼び出しに疑問符を浮かべた。

霧先と別れた二人が呼び出されたのは作戦指揮室。

そこにはすでに長門が待機していた。

 

「こんな時間にすまないな。」

「いえ、まだトレーニングの最中だったので。」

「夕立はもう眠いっぽい。ふぁ~・・・。」

「ちょっ、ちょっと夕立ちゃん!」

 

謝る長門に吹雪は大丈夫であることを述べ、夕立はあくびをしながら寝たいと長門に言う。

吹雪は夕立に注意をしながら長門の顔色を窺った。

その様子を見ていた陸奥は長門に提案した。

 

「やっぱり明日にした方がいいんじゃないの?」

「いや、何かのはずみで耳に入るといけない。早めに伝えておくのが吉だろう。」

「早めに?」

 

吹雪は、早めにという単語に重要性を見出していた。

長門は二人に宇部きことを話し出した。

 

「実は先ほど提督から、二人に辞令が下った。まず、駆逐艦『夕立』。」

「はぁ~い・・・。」

「明日から第一機動部隊に転属を命ずる。」

「えっ?」

 

突然言い渡された辞令に、吹雪と夕立は声をそろって驚く。

赤城達精鋭の所属するエリート艦隊とも言われる第一機動部隊に所属されるということは、それ相応の実力を認められたということになる。

 

「ゆ、夕立が?」

「ああ、提督がお前に頼みたいとのことだ。明日の0600には、編成担当の霧先中佐にも通達する。」

「ぽい・・・でも、本当に夕立でいいの?」

「ああ、既に確定している。」

「どうしよう!?夕立、主力艦隊になっちゃった!」

「おめでとう・・・・。」

 

自分がエリート艦隊に抜擢されたことに喜ぶ夕立。

吹雪にはそんな夕立がとても羨ましく思えた。

 

「FS作戦成就に向けて、これから戦いはさらに激化していくことが想像される。常に準備は怠らないように。」

「ハッ!深海棲艦に悪夢見せてあげる!」

 

長門に注意されつつも、すでに好戦的な夕立。

彼女が前世で「ソロモンの悪夢」と称されただけの事はあるだろう。

そんな夕立は、吹雪にとって眩しい存在になっていた。

 

「続いて、駆逐艦『吹雪』。」

「はっ、はい!」

 

次は吹雪へと辞令が下る。

しかし、それは決していいものとは言えなかった。

吹雪と夕立に辞令が下された後、睦月は必死に吹雪の事を探していた。

睦月が吹雪を探すきっかけは夕立が自室に戻って呼び出しを受けた事と、二人に言い渡された辞令の内、吹雪への辞令だった。

 

「吹雪ちゃん、提督さんから鎮守府に戻って来いって言われたっぽい。第五遊撃部隊も解散になって、旗艦の任も解かれて・・・・。」

 

夕立から聞かされた言葉に睦月は突き動かされ、睦月は必死で探し回った。

 

「どうして!吹雪ちゃんが!」

 

睦月は必死に吹雪を探す。

寮を探しつくした睦月は中庭に出てみるが、吹雪はいなかった。

丁度そこに、夜間巡回をしていた霧先がやってくる。

 

「睦月、こんな時間にどうしたんだ?もう寮に戻ってないといけないはずだろ?」

「工廠長さん!吹雪ちゃんは!?」

「えっ?夕立と本館に入ったきり見てないけど・・・どうしたのさ?」

 

すがるように効いてくる睦月に、霧先は訳が分からず戸惑いながらも答えてから、理由を尋ねた。

睦月は端的な言葉で、霧先に吹雪を探している訳を教える。

 

「吹雪ちゃんが・・・鎮守府に帰還するように言われて・・・・私心配で!」

 

睦月の必死さから、事の重大性が分かった霧先はまじめな表情になる。

そして過ぎに行動を提案した。

 

「分かった。できるだけことを大きくしないようにはするが僕も探してみる。睦月は本棟の方を、僕は工廠をあたってみるから。」

「ありがとうございます!」

 

霧先は工廠方面へ駆けていき、睦月は本棟の方を捜索し始める。

別れてから数分後、睦月は屋上で手すりに持たれながら遠くを眺めている吹雪を見つけた。

それを見た睦月は、無我夢中で過疎と階段を駆け上がり、吹雪の元へとたどり着いた。

息も絶え絶えとなった睦月は吹雪に声をかける。

 

「吹雪ちゃん!」

「あぁ、睦月ちゃん。どうしたの?」

「鎮守府に戻るって聞いたから・・・。」

 

てっきり打ちひしがれていると思った睦月は、普通な対応をする吹雪に違和感を感じつつも、探していた理由を述べた。

 

「うん、なんか、気づかないうちに失敗しちゃってたみたい。フフッ・・・・。」

「そんなこと無いよ!だって、この前の戦いでも活躍したんだよ!?みんな、凄いって言ってたもん!尾栗三佐や菊池三佐、赤城先輩に、工廠長もみらいさんも!」

「ウフフ・・・ありがと。」

 

自分が失敗を犯したせいで左遷されたと思う吹雪は自嘲気味に笑う。

睦月は、そのようなことがないことを必死に訴えかけるが、吹雪の心境は変わらなかった。

 

「本当だよ!睦月、本当にすごいって思ったもん!吹雪ちゃんの努力と勇気、見習わなきゃって!!」

「でも、司令官が戻って来いって・・・ここに残ってみんなと出撃しなくて良いって、そういってるんだから。」

「それは・・・。」

 

睦月は自分は吹雪の事を尊敬していることを打ち明けたが、吹雪の心の溝は埋まらなかった。

 

「そうだ、私、ランニングの途中だったんだ・・・。」

「吹雪ちゃん・・・。」

 

吹雪は苦しまげれな言い訳を使って、その場から逃げ出す様に階段を駆け下りた。

睦月は、その後姿を見ると、追いかけようにも足が動かなかった。

睦月から逃れた吹雪は、浜辺を駆けていた。

今までの思い出を思い起こしつつ、努力が水の泡になってしまったことから、吹雪の頬を汗とは違う水滴がしたたり落ちる。

 

(司令官が・・・・・・!司令官が・・・・・・!)

 

脳裏に浮かぶのはお払い箱という言葉。

吹雪が最も恐れる言葉だった。

それから逃れようと走り続けた吹雪は、偶然何かにぶつかり、しりもちをつく。

 

「Wow・・・ブッキー、大丈夫デスカー?」

 

ぶつかった相手は金剛だった。

金剛は突然ぶつかった吹雪を気に掛けると、吹雪から涙がこぼれた。

 

「ひっぐ・・・うぅぅ・・・・・・。」

「No!ブッキー、そんなに痛かったデスカー!?」

「金剛さんッ!」

 

金剛は最初、吹雪が泣き出したのは自分のせいだと思ったが、抱き着いて泣き出した吹雪を見て何かを察した。

 

「何かあったのデスネ。」

 

金剛は静かに抱き寄せた。

吹雪はたまっていた涙がなくなるまで泣き続けた。

寄せては引いていく波がそれを誘うようにも見える。

丁度そこに、金剛を探しにやってきた比叡が現れた。

 

「金剛お姉さ・・・ひえーーー!」

「うるさい!」

「あいた!!」

「シー、quiet please ネ?」

 

金剛に吹雪が抱き着いているのを見た比叡は驚愕のあまり叫び声をあげる。

それを偶然、吹雪を捜索しに近くを歩いていた霧先が後頭部にチョップを食らわせて黙らせる。

金剛はできるだけ静かにするように頼むと、再び吹雪に目を移す。

泣き疲れた吹雪は寝てしまい、霧先によって自室まで運ばれた後、金剛と睦月に着替えさせられてからベッドに寝かされた。

部屋の前では、霧先と睦月が金剛と比叡に事の顛末を話した。

 

「そうだったのデスネー・・・そんなことが。ですが、テートクにもきっと考えがあっての事デス。テートクは、ブッキーが頑張っているのを知らないはず無いデスネ。」

「そうですよね。さっすがお姉様。」

「吹雪にも事情はあるでしょうが・・・・今は彼女自身の立ち直りを待つ他ありません。」

「頑張れ、吹雪ちゃん・・・・。」

 

金剛、比叡、霧先、睦月の四人は、寝ている吹雪を見守った。

そこに長門がやってくる。

 

「霧先、少々間が悪いが来てくれないか?」

「長門さん・・・分かりました。」

 

長門に言われるがまま、三人と別れた霧先は作戦指揮室へとやってきた。

室内には梅津、角松、尾栗、菊池の四人がすでに待機していた。

「みらい」幹部が集められるということは余程の事だと推察した霧先は、自然と表情がしまる。

 

「5人方には楽にして頂きたい。」

 

長門がそういうと、5人は安めの状態で長門の話に耳を傾ける準備をとる。

それを確認した長門は、5人を集めた理由を明かした。

 

「『みらい』指揮官以下、主要幹部の貴官らを集めたのは・・・提督からの指示があったからだ。」

「その指示とは?」

 

梅津が聞くと、長門は用意しておいた紙を取り出して読み上げる。

 

「・・・・『「みらい」以下、海上自衛隊の護衛艦は全艦、撤退を命じられた艦娘を乗艦させた上で即座に帰投せよ。尚、全指揮権は梅津三郎一等海佐に委ねるものとする。』これが指示だ。」

 

提督から下された指示に5人は驚く。

先日は攻めの大勢だった提督が、あっさりと撤退を指示してきたのだ。

 

「海上自衛隊の護衛艦は全艦帰投って・・・それじゃあ、どうやってMOを攻略するんだ!」

「尾栗の言う通り、安易な作戦変更は『みらい』引いては艦娘のサバイバリティを減少させます。それを考慮しての撤退なら話は別ですが・・・。」

 

「みらい」幹部として、この場にいる尾栗と菊池は長門に問う。

長門は静かに答えた。

 

「・・・提督にも何か考えはあるはずだ。現時点で撤退が決定しているのは戦艦と駆逐、重巡だ。それ以外には特に決定していない。」

「あくまで提督しか理由を把握していないというわけか・・・・艦長、どうします?」

 

長門の言い分を聞いた角松は、上官である梅津に指示を仰ぐ。

梅津は少し視線を落として考えた後、結論を述べた。

 

「まあ、よかろう。我々としても、艦娘を護衛することに異存はないと思っている。どうかね?副長、霧先艦長。」

「異存はありません。」

「自分も、梅津一佐の決定を支持します。」

 

梅津が自分の決定の是非を問うと、角松と霧先は賛同する。

尾栗と菊池も賛同している様子だ。

それを見た梅津は長門に答える。

 

「了解、『みらい』艦長、梅津三郎。指示に従い横須賀入港を目指します。」

「出港は明日の0900を予定している、言うべきことは以上だ。最後に霧先。」

「はっ?」

 

梅津の言葉を聞いた長門は出港予定時間を述べると、霧先に声をかける。

霧先が返事をすると、長門は別の二つ折りにされた紙を手渡した。

 

「通信参謀、草加拓海少佐からだ。」

 

長門から聞かされた名前を聞いて、霧先はすぐに紙を開く。

中に書かれた文面を読んだ霧先は、すぐに部屋を飛び出し、自室へと走った。

それを尾栗たちは不思議そうに見ていた。

 

「何事だ?友成があんなに慌てるってことは重大なのか?」

「さあな、ただ通信参謀ってのが引っ掛かるがな。長門、草加少佐はどんな人物だ?」

 

尾栗がドアから顔をのぞかせて、霧先の後姿を見送る後ろで角松は長門に聞いた。

すると長門も顔をしぶ目ながら答えた。

 

「はっきり言うと分からない男だ。術科学校を次席で卒業した提督の同期とは聞いているが・・・一度会った時は掴み所のない男だったな・・・・。」

「次席で少佐か・・・提督は主席なのか?」

「いや、草加少佐よりも下だそうだ。根気と艦隊指揮能力だけで上り詰めたからな。」

「まるで洋介だぜ。」

 

長門の草加に対する評価と聞いた角松は何かを考え込む。

提督の経歴を聞いた尾栗が提督と角松が似ていると笑いながら言うが角松は思案にふけっているため耳に入っていなかった。

 

(草加拓海・・・・妙な胸騒ぎがするな・・・・。)

 

角松は、とも言えない違和感に襲われるが、それの正体は分からなかった。

 

その頃、霧先は、指定された浜辺に第一種軍装を纏って訪れた。

そこにはすでに草加が、海を眺めて霧先を待っていた。

霧先は静かに草加に近寄った。

 

「・・・・ここは・・・静かだな。」

「でしょうね。ここは一応軍事地域ですから。」

 

草加の言葉に霧先が答えた。

その言葉を聞いた草加は、微笑みながら振り向いた。

 

「大規模作戦中申し訳ない、霧先二佐。」

「僕は海上自衛官ではないですよ・・・・あなたと同じ海軍軍人です。」

 

そう答える霧先に草加は笑った。

 

「フフ・・・あなたが角松二佐と違う身であっても未来・・・ひいては異世界から来たことに変わりはないでしょう?」

「あなたが敬語だとは気味が悪いですね。」

「なぁに、ただの上官への気遣いさ。」

 

霧先の言葉に草加は軍帽を深く頭ながら砕けた口調で話す。

霧先は早速、目的を尋ねた。

 

「ところで、わざわざ通信参謀軍人が二式大艇でこんなところへ?」

「あぁ・・・本題はそれだ二佐。少々厄介なことに発展した。恐らく横須賀が割れる。」

 

霧先に二式大艇を使ってまでトラック諸島へやってきた理由を聞かれた草加の表情は強張る。

草加の表情からよほどの事だと悟った霧先は、真剣な眼差しで静かに話を聞く。

 

「実はある通話記録を入手した。そこにはある海軍軍人と艦娘のやり取りが記録されていた。」

「ある海軍軍人と艦娘・・・?」

「そうだ。海軍軍人の名は人事参謀『悪田 広根』、艦娘の方は特徴が無く通信では難しかったが特定できた。」

「その参謀軍人と艦娘がどう関係してくるんです?」

「通話記録から見て艦娘の狙いは君の命と『みらい』だ。それに艦娘は横須賀鎮守府所属だ。」

 

霧先はその言葉を聞いて冷や汗をかいた。

今まで接してきた艦娘の誰かが、自分の命と『みらい』を狙っているというのだ。

 

「まさか!誰かが僕と『みらい』を!?」

「そうだ。さらに厄介な事に『みらい』の情報を手に入れた後、『みらい』を君たちの仕掛けた自爆装置で爆破させるという話だ。」

 

「自爆装置」という単語を聞いた霧先はある事を思い出した。

自爆装置の事を知っている艦娘はみらいと吹雪だ。

それ以外の艦娘は基本「みらい」に乗っても弾薬庫などにはいかない。

つまり、自爆装置を知る艦娘は1人に絞られる。

そこに草加が付け足すように言った。

 

「思案中の様だからヒントを与えよう。悪田はある鎮守府の提督も兼任している。一か月以内、そこから一人艦娘が横須賀に来たはずだ。」

 

その草加の言葉によって、霧先の脳裏にある艦娘が浮かび上がった。

艦娘の情報を管理する霧先が知る中で一か月以内に横須賀にやって来たのは一人だけだ。

いつも純粋な眼差しと赤城やみらい達、先輩を目標に健気に頑張る駆逐艦。

吹雪の姿が浮かび上がってしまった。

霧先は草加を見る。

草加は真剣な顔で霧先の事を見ていた。

 

「まさか・・・・!」

「分かったようだな。君の命を狙っているのは・・・・・特型駆逐艦一番艦『吹雪』で間違いない。」

 

霧先の考えは的中してしまった。

衝撃の事実に霧先の頭は混乱していた。

 

「霧先二佐。私的には早急に吹雪を処罰すべきだと確信している。貴官はどうだ?」

「・・・・吹雪が本当に裏切り者かどうかは、上官である僕が決める。例え吹雪が裏切り者でも命を奪うような真似はしない!」

 

霧先の鋭いまなざしを見た草加は笑った。

まるで予期していたような笑い方だ。

 

「やはりあなたは『前任者』によく似ている・・・・それは貴方達の愛すべき限界だな。」

「この限界は・・・誇りです。」

 

胸を張って言う霧先を見た草加は、水平線に目を移す。

月が反射した海は幻想的だった。

 

「これからはきつくなるぞ?」

「それを承知で『みらい』艦長と海軍中佐を兼任していますよ。」

 

草加の言葉に霧先は笑みを見せながら答えた。

草加も呆れたように微笑む。

 

「貴官はよく無茶をするな・・・・私はこれで失礼しよう。」

「・・・・・何かあったら頼みます。」

「もちろんだとも。」

 

草加はそういうと足早にその場を立ち去る。

霧先も明日の出港のため、草加とは反対の方へと足を進める。

月に照らされた海は、波を立て始めていた。



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第伍拾壱戦目「改二っぽい?! 下」

吹雪は夢を見ていた。

夢の中で吹雪は必死に果ての無い水面を走っていた。

後ろから赤城が艤装をつけて水面をかけていき、吹雪を追い越していく。

 

「まって!先輩!赤城先輩!」

 

吹雪は赤城の名前を呼ぶが赤城はそのまま先へといく。

 

「ぽい~。」

 

次は夕立が吹雪を追い抜いていった。

夕立の挙げた波でずぶぬれになる吹雪はいまだ二人を追いかける。

だが距離は一向に縮まらない。

次はみらいが吹雪を追い越した。

 

「みらい先輩!」

 

吹雪の声は三人には聞こえていないのか、三人は速力を上げてそのまま吹雪から離れていった。

 

「待って!!」

 

叫び声をあげた吹雪はベッドから飛び起きた。

夢のせいで完全に寝起きが悪い上に、汗で寝間着はずぶ濡れになっていた。

服を着替えた吹雪はおぼつかない足取りで湾内へとやってきた。

朝日が昇ってすがすがしい気分になれそうな光景が広がっていたが、吹雪の気分は晴れなかった。

 

(ダメだなぁ・・・・あんな夢見るなんて。)

 

吹雪は今までの事を思い出していた。

短期間ではあったものの、吹雪は見事成長し、旗艦を務めあげた。

近海深海駐屯地破壊作戦、W島攻略作戦、MO攻略戦。

数々の戦いの中で吹雪は自分を磨き上げてきたつもりだった。

 

(結構・・・頑張ってきたんだけどなぁ。)

 

自分の運命が決まってしまったのかと思う吹雪はあきらめかけていた。

その時、何かが水をけるような音が聞こえた。

吹雪が顔を上げると、そこでは夕立が艤装をつけて早朝から訓練をしていた。

まだ総員起こしもかかっていない朝からだ。

 

「夕立ちゃん?」

 

気になった吹雪は、夕立と並走する形で堤防の上を走って夕立を追いかける。

 

「ハンモック張ってでも戦うよ!」

 

夕立は複雑な動きをした後、連装砲を構えて砲撃を行う。

全弾が的に命中すると再び動き始め、監督をしていた神通と霧先の元へと戻る。

 

「うん、良くなりました。」

「本当っぽい!?」

「命中率と回避率、艤装の操作性も上昇している。総合的に見れば、かなり扱いに慣れているよ。」

「そういうわけなので、今度はもう少しスピードを上げてやってみましょう?」

「はい!」

「よし・・・始め!!」

 

神通と霧先からいい評価を受けた夕立は、神通に言われた通りスピードを速めて訓練を行うことにした。

霧先の号令とともに再び機関を始動させると、回避行動をとりながら砲撃を行っていく。

吹雪はその光景を遠巻きに見ていた。

 

「ここに来るずいぶん前・・・。」

「川内さん!?」

「吹雪が第五遊撃部隊の旗艦になったころから、あの子『練度上げたい!』って、朝に演習するようになってさ。」

「えっ?夕立ちゃんが?」

「頑張ってる姿を見て、自分も努力しなきゃって思ったんだって。『同じ駆逐艦として、水雷魂を忘れちゃ駄目だ。』って。」

「水雷魂・・・。」

 

突然やってきた川内に夕立が陰で努力していることを伝えられた吹雪は、自分以外にも努力している人物がいたことに驚いた。

川内はそれに付け加えるように言葉をつづけた。

 

「それに、友成もだよ。」

「工廠長も?」

「うん。いつも夜遅くまで見回りとか書類作業とかしてるくせにさ。見回りが終わったら、自室で私たちが戦った戦闘なんかを綴った本を何度も読み返したり、艤装の分解図を眺めたり、果てには海図の上に駒をおいて戦略を練るほどかっこつけてさ。・・・・・・・・・・あの戦争から70年。友成はどこにでもいる学生だったんだ。それが70年前と同じ状況に引きずり込まれて、自分の命の危険があっても私たちと歩こうとしてるんだよ。」

 

二人の努力を聞いた吹雪は自分が小さく思えた。

夕立は、吹雪を見習って今まで異様に努力した結果が改二だった。

霧先も、普段から命の危険がある職務での戦闘艦の艦長をしているのに、自分たちのために必死になってくれる。

そんな努力をしている人物がいるのに、自分と来たら旗艦を外された程度で落ち込んでいる。

その事に吹雪自身、怒りが湧いて来た。

 

「バカだな・・・私。みんな頑張ってる。みんな、みんな頑張ってる!自分のために、皆のために。」

 

自分の間違っている所を見出し、進む進路を見つけた吹雪は、にこやかな顔で夕立に向かって声をかけた。

それに気づいた夕立も大声で呼びかけに応じた。

訓練中であるにもかかわらず怒られないのは、霧先と神通がほほえみながら見ているからであろう。

そうしていくうちに日は高く上り、帰還艦隊の出航時間となった。

港では先行隊としていくことが決定された最上、吹雪、睦月が長門と霧先から指示を受けていた。

後ろには角松も控えている。

 

「梅津一佐、霧先二佐と話し合った結果、『みらい』と『ゆきなみ』に帰還隊の一部を搭乗させることになった。その先行隊として偵察と護衛を頼んだぞ。」

「理由はレーダーも千里眼じゃないからだ。少々危険なことは承知の上だが、君たちの目を借りたい。」

「了解しました!」

 

長門が概要を説明し、角松が補足を加えた。

今回先行隊が編成されたのは霧先の提案からだった。

現代の戦闘艦に搭載されているレーダーは広範囲をとらえることができる。

だが、肉眼で見る細かな情報とは違ってしまうことは避けられない。

その為、先行隊の艦娘に監視してもらうことで、より精度の高い戦闘と情報収集を行おうと画策したのだった。

長門と霧先の指示と言葉を受け取った三人は、声を揃えて敬礼をした。

そのすぐ後で、吹雪が睦月に問う。

 

「本当にいいの?一緒に来てもらっちゃって。」

「うん。」

 

吹雪の言葉に即答する睦月を見て、最上は微笑んだ。

 

「睦月ちゃんは本当に吹雪ちゃんが好きなんだね。自分から志願するなんて。」

 

睦月は吹雪が帰ることを聞いてからどうにかできないか考え続けていた。

その時、尾栗が長門と霧先、梅津と角松の四人で帰還編成を考えているということを呟いているのを聞いた。

そしてギリギリ滑り込みで四人に土下座までして編成に加えるように具申。

結果、編成責任者を担当する霧先の許可によって睦月も帰還艦隊先行隊へ加わることができたのだった。

それを聞いた最上も、二人の友情に感心していた。

 

「最上さんは睦月ちゃんと同じ艦隊にいたんですよね?よろしくお願いします。」

「こちらこそ。」

 

初めて一緒の艦隊になる最上に吹雪が頭を下げると、最上も笑って答える。

そして、出航時刻となった。

 

「それじゃあ、三人には本艦隊の先行隊として出向してもらう。通信は渡した特殊通信機で頼むよ。」

「はい!出航します!」

 

三人が声を揃えて、機関を始動させたのを確認した霧先と角松は被っていた識別帽を脱ぐと、頭の上で振った。

そしてある程度距離が離れたのを確認すると、出航準備が整った己の乗るべき艦へと急ぎ足で向った。

そして二人が乗艦すると、間もなく三隻の護衛艦も機関を始動させ、先行隊の三人の後を追うように港を出航した。

それを眺めていた陸奥は静かに言った。

 

「大丈夫そうね。」

「ああ。これ以上何かが起こることはないと願いたいな。」

 

長門がそういって海を見ていると、大淀が大慌てで駆けてきた。

肩で息をするほどに急いで走ってきた彼女の手には一枚の紙が握られていた。

 

「どうした大淀?」

「た、大変です長門さん!提督から、MO攻略作戦は中止の通達が!」

「中止!?」

 

突然の中止命令に長門は絶句した。

今まで攻めの大勢だった提督があっさりと方向転換したのだから無理もないだろう。

基地に戻る過程で長門は大淀に確認をした。

 

「間違いないんだな?」

「はい、全MO攻略関連の作戦を中止し、鎮守府へ帰投せよと。」

「分かった。だがもう一度提督に今ならMOを攻略できることを伝える。それでも命令が変わらなければ全艦帰投する。」

 

長門は陸奥と大淀に伝え、足早に通信室へと向かった。

そんなことがトラック諸島で起こっているとは露知らず、帰投艦隊は順調に航海を進めていた。

航海開始から数日後の「みらい」艦橋では霧先が作業台で海図に線を引きながら計算をしたりと作業をこなしていた。

その近くでは伊勢型戦艦一番艦「伊勢」が艦隊司令官用の席で深めに座り込んでいた。

だらけきって姉の威厳など全くない伊勢に、みらいは渋い顔をするしかなかった。

 

「はぁ・・・未来の軍艦はいいねぇ~極楽極楽・・・・空調は神様だよ。」

 

満面の笑みで空調が効いた艦橋での休息を楽しむ伊勢に、みらいは冷たい視線を向ける。

だが当の本人は気付いておらず未だにだらけ切っている。

溜息を吐き出したみらいは霧先に近づいて小さな声で尋ねた。

 

「・・・・・艦長、いいんですか?」

「まあ、特段業務の邪魔になってるわけでもないし。僕は艦長席だから問題ないでしょ?」

「でも艦橋でだらけ切るのは士気にも・・・。」

「いいんじゃない?適当に緩んでおくのが僕の運用方針だからね。」

「ええ・・・・・?」

 

昼行燈と称される梅津が艦長だったみらいでも、流石に霧先の緩さ加減には微妙な顔をするしかなかった。

その時、艦橋と通路を繋ぐドアが開け放たれ、伊勢型戦艦二番艦「日向」が艦橋に入り込んできた。

そのことに気付いたみらいは舵の元へ、霧先は識別帽を深めにかぶりなおして作業へと戻った。

そして案の定、だらけ切っている伊勢の脳天に日向の怒りの鉄拳が炸裂した。

相当な痛みだったのだろう、伊勢は瞬く間に艦隊司令官用の席から転がり落ちて床で頭を押さえながら転がり始めた。

 

「ったぁ・・・・何すんのよ日向!」

「馬鹿者!それでも航空戦艦か!?艦橋内でだらける奴があるか!」

「いいじゃん迷惑かけてないし!ね?友成?」

「えっ?・・・迷惑ではないですけど・・・・。」

 

突然振りかけられた言葉に霧先は驚きつつも本心を日向に伝えた。

それを聞いた伊勢は水を得た魚の如く、ドヤ顔を披露する。

 

「ほら!艦長からOK出てるんだし、だらけてもいいでしょ?」

「まったくこの姉は・・・・・。」

 

あまりの開き直りに、怒る気も失せた日向は頭を抱えて目の前の愚姉に溜息をついた。

それを見ていた霧先は、苦笑いをしつつも日向に声をかけた。

 

「ま、まあこの航海自体は自衛隊で行われている体験航海を長くしたものですし・・・・伊勢さんがあきるのも仕方ないですから。基本的に自分や乗員の迷惑にならなければ大丈夫ですので。」

 

霧先が日向に説明すると、伊勢が泣き顔で友成に抱き付いてきた。

霧先は驚きつつも伊勢を受け止める。

 

「うぅ・・・友成だけが味方だよ・・・。あんな堅物な妹より友成みたいな弟が欲しかった・・・・。」

「聞こえてるぞ・・・・。」

 

伊勢の言葉が耳に届いていた日向は明らかに怒りを込めている表情を露わにしながら伊勢をにらみつけた。

姉妹喧嘩勃発の兆しが見えた霧先は何とか日向をなだめようとした。

 

「と、とりあえず日向さん、伊勢さんのことは僕らが注意したりするので・・・・。」

「・・・・・はぁ、すまないがその愚姉を頼む。」

「りょ、了解しました・・・・。」

 

あまりのことで霧先は思わず敬礼をして日向を見送った。

去り際に伊勢に悪態をついていたのを聞いた霧先は、後で日向を訪ねることを考えた。

姉妹喧嘩一歩手前の事態を回避した霧先は作業を終え、艦橋内の指揮権をみらいに委託した後、日向のいる居住区を訪ねていた。

道中、複数名の艦娘と敬礼をかわしつつ、やってきた居住区前で霧先は息を整える。

 

「さて・・・・。日向さん、霧先です。いますか?」

「いるぞ。入るなら入ってくれ。」

「失礼します。」

 

ノックをして日向がいるかを確認すると、中から本人の声が聞こえてきた。

本人からの許可が下りたため、霧先は一言断ってから士官室に入室する。

中ではベットに腰かけた状態で日本刀の手入れをしていた。

それを見た霧先は静かに対面のベッドに腰かけた。

日向は手入れを済ませると日本刀を鞘に戻して脇に置いた。

霧先はそれを確認したうえで口を開いた。

 

「日向さん、先ほどのことは流石に伊勢さんに贔屓しすぎたとは思っています。それをお詫びします。それと、伊勢さん自身も言い過ぎたことは自覚しているようでした。」

 

霧先が頭を下げると日向は首を振った。

 

「別に艦の長である君が頭を下げる必要はない。私も伊勢もよく喧嘩するからな。今回ばかりは私も熱がこもってしまったんだ。久しぶりに出撃があるかと思ったら帰還でな。」

「そうでしたか・・・・それについては自分から提督に日向さんたちを編成に加えるように伝えます。」

「さて、君が言うことが終わったのならすぐに・・・。」

 

出撃が出来ない事で鬱憤が溜まっている事を聞いた霧先は、提督に編成に加えてもらえるように申し出ることを日向に伝えた。

それを聞いた日向は立ち上がって言葉を述べる。

だが、その途中で艦内に武鐘が鳴り響いた。

その音を聞いて霧先もすぐにベッドから立ち上がった。

 

『対空戦闘用意!』

「対空戦闘!?何が・・・。」

「艦長がここにいるわけにもいかないだろう!?早くいくんだ!」

「分かりました!日向さんは他の人に救命胴衣とテッパチの配給を!」

「ああ!」

 

霧先は日向に緊急時に備えて救命胴衣と88式鉄帽を配給するように伝えてから居住区を飛び出て駆け出した。

居住区から艦橋に向かうよりもCICが近いと考えた霧先はCICに駆け込んだ。

CICのドアを開けると中では既にCIC所属の妖精たちによって戦闘態勢が築かれていた。

霧先はその合間に入ると砲雷長を呼んだ。

 

「砲雷長、どうなってる!?」

「艦長!航空機が本艦上空を通過、鎮守府へと進行中!」

「レーダーには引っ掛からなかったのか!?」

「対水上レーダーには何も!」

 

砲雷長妖精から聞かされた情報を聞いた霧先はこぶしを握りしめた。

遂に相手方が反攻作戦に出た上に対みらい戦術を取り始めていたのだ。

その現実に苦汁を舐めさせられるがどうこう言っている場合ではないと心を切り替えて霧先は戦闘に臨むことにした。

ヘッドフォンを装着すると霧先は艦橋へと連絡を入れる。

 

「みらい、僕は今CICにいる!進路270度を維持したまま最大戦速で横須賀を目指せ!」

『了解、進路270度!最大戦速!』

 

霧先が指示すると「みらい」は速力を上げて横須賀を目指す。

最初の指示を終えた霧先はレーダーを見ていた。

「Enemy 深海棲艦艦爆機」と表示されている光点は霧先たち護衛艦に目もくれず横須賀へと向かう。

そのことを知らせるとともに指示を出す為に霧先は無線機に手をかけた。

その頃、先行隊の三人も感知していた。

最上の艤装から警報が鳴り、それに気づいたときは遅かった。

 

「対空電探に感あり!・・・・何っ!?」

 

最上が霧先からの無線に応答していると三人の上を航空機が飛んでいく。

それを見て吹雪が咄嗟に主砲を構えるが、睦月が止めた。

 

「無理だよ!届かない!」

「航空機はみらいたちが対処するらしい。僕たちは鎮守府に!」

「最上さん、鎮守府とトラックに打電を!」

「分かった、友成に伝える。」

 

吹雪の言葉を受けて最上は無線機に手を伸ばした。

だが、睦月の言葉によってその手は止められてしまう。

 

「みんな!あれ!」

「鎮守府が!」

 

睦月が指差した方向には燃え上がる鎮守府と工廠が広がっていた。

黒煙が立ち上り炎が炎々と燃えており明らかな打撃を受けていることが伺えた。

そのことはトラック島基地の通信室にいた長門にも対空戦闘中の「みらい」から伝えられていた。

 

「何だって!?」

「報告時間から見て1215より爆撃を受けた模様で・・・・壊滅的な被害だと・・・・。」

「手薄になった防衛線を突破されたか・・・・深海棲艦の機動部隊がそこまでするとは・・・・。」

 

大淀の報告を受けて長門は険しい表情になる。

だが、その時に提督が帰投するように命令した意味を理解した。

 

「まさか提督は・・・この動きを察知して戻れと・・・!?」

「定かではありませんが・・・・現在、残党航空機の排除活動が帰投艦隊の三隻によって行われています。」

「くっ・・・・・全員を招集!直ちに帰還するぞ!!」

 

長門は早急に退却することを決意し、大淀に招集を命じる。

一方その頃、残党航空機を対空兵装で排除した帰投艦隊は、運よく無事だった港に接舷して停泊作業を終えたところだった。

搭乗していた艦娘の人数を数え終えた自衛官妖精たちは88式鉄帽をかぶり、医療器具やバールなどといった物品をそろえて港に整列していた。

霧先はその前に立つと、大声で言った。

 

「現在、鎮守府では火災と崩落が発生している!早急なる人員把握と搬送を命ずる!第一分隊は艦に残って対空、対水上警戒!第二、第三分隊は早急なる人員把握と搬送!第四分隊は運動場での宿舎と医療施設の設置を急げ!第五分隊はロクマルによる火災鎮火と海鳥での被害状況の把握!総員全力で任務に当たれ!以上、解散!」

 

霧先が早口で指示を出した後、全員が敬礼をしてから道具をもって各々の任務についた。

霧先も持ち合わせた道具を手に取ると先行隊の三人に声をかけた。

 

「最上さんは他の人たちを率いて、第四分隊と共に設営の手伝いをお願いします。吹雪と睦月は、僕と被害状況の確認に向ってもらいたい。」

「了解!」

 

三人は霧先の言葉を受けて行動を開始した。

霧先と吹雪、睦月が最初に向ったのは甘味処「間宮」だった。

主要な柱が折れて屋根が落ちてしまい、中に入れない状況の店を見て溜息をつく間宮を見て、霧先たちは声をかけた。

 

「間宮さん!」

「あなたたち!戻ってきたのね。」

「はい。みんなは?」

 

霧先たちの姿を見て安堵の表情を浮かべる間宮。

間宮が無事であることが分かった吹雪は、皆の状況を聞いた。

 

「えぇ、多少の負傷者はいるけど無事よ。間一髪だったけど、提督がみんなを避難させてね。」

「よかった・・・・司令官は?」

 

仲間たちが無事であることに安堵した吹雪は提督の行方を聞いた。

すると間宮は安堵の表情から一転、暗い顔になって説明し始めた。

 

「うん・・・・提督は司令室に残っていたの。『避難が終わるまで自分が尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない』って・・・。それで残っていて、逃げる時に瓦礫で頭を打って・・・・今は横須賀海軍病院に搬送されているの・・・。」

 

霧先たちは突然の指揮官の損失に驚きを隠せなかった。

だが、こうしている間にも深海棲艦の機動部隊は動き回っている。

その現状ここまで崩壊していては早急な復旧が必要だった。

その為、当日中に人数の把握と負傷者の処置が完了してから体を動かせる者は復旧に力を入れていた。

勿論、角松ら海上自衛官達も作業に積極的に参加していた。

 

「吾輩は何度もいっとるぞー!工廠とドック、友成の奴が配備した地下倉庫の入り口の開放が最優先じゃとー!」

「はい!」

 

工廠、ドック区画の責任者に任命された利根は自衛官や艦娘たちにせかすように言葉を飛ばす。

無事だった資材保管庫では、破損したシャッターの代わりに第六駆逐隊が板をはっていた。

 

「どう?私に任せておけばこんなもんよ!」

「なんだか釘が・・・・ってうわぁぁあ!!?」

「はわわわ!工廠長さんが下敷きになってしまったのです!!」

 

乱雑な釘の打ち方に鎮守府復旧総合責任者の霧先は微妙そうな顔をする。

だが、そのあとで立てつけが悪かった板が霧先の方に倒れて下敷きになり、電が慌てふためくことになった。

また、損傷がひどかった部屋の掃除はその部屋に住んでいた艦娘が担当することになり、北上と大井は自分達の部屋だった場所を片づけていた。

そして、瓦礫から北上と大井が写った写真を拾い上げた大井は怒りが有頂天になっていた。

 

「深海棲艦の機動部隊め・・・私と北上さんの思い出を・・・!」

「大井っち、今はそれどころじゃなくて復旧だよー。」

「くっ!」

 

その眼力で、戦艦を沈められるのではないかという程にまで、怒りをこめた眼をする大井に、北上は流すように諭す。

とにかくあふれる怒りを地面にぶつける大井の姿はある意味恐怖といえる。

夕日が現れる頃になると、間宮を筆頭に担当の艦娘や自衛官が炊き出しを行った。

 

「豚汁でーす!」

「お疲れ様でした、まだありますよ!はい、響ちゃん。」

「感謝する。」

 

睦月や吹雪も率先して手伝いをしていた。

そして数日後に瓦礫の撤去は大方済んでおり、トラック諸島から帰還した艦娘たちも集結していた。

皆が尽力して慈愛の収集にあたり、復旧の目途が見えてきた。

その復旧の目途が見えてきた日の夜、長門と霧先は所属艦娘と海自隊員を招集していた。

全員が集まったことを確認すると、長門は皆に言葉を向けた。

 

「幸い皆の協力もあり、鎮守府復旧の目途はたった。この後、工廠、ドックなどが使用可能になり次第、敵機動部隊への攻撃を開始する!」

「反攻作戦ですね・・・。」

「ですが、提督が!」

 

長門の宣言に加賀は険しい表情になり、赤城は指揮官がいないことを述べる。

それを聞いていた長門は予期していたのか、対策を話し始めた。

 

「ああ、残念ながら提督は今も意識不明で回復する時も分からぬまま。しかし、ここに提督の残した作戦指示書が見つかった。作戦とともにここに提督がもしも指揮できない状況に陥った際の対応策も書かれいている。それによれば『もし臨時で指揮が必要であるとされる場合、全指揮権を霧先友成海軍中佐に委託する』とある。つまり霧先が臨時で提督の代役を務めるということだ。」

 

長門が対策を述べると皆が騒めきだした。

中佐とはいえ軍人になってから数か月の霧先に代役は重いと判断したものもいる。

そんな中で霧先は皆の前に出た。

 

「長門さんの言う通り、提督の代役を務めることになりました。中佐程度が満足にできるかどうかはやってみなければ分かりませんが・・・・お願いいたします。」

 

霧先が頭を下げると少しづつ拍手が起こった。

中には不安げな顔をしたり認め切れていないものがいるが、大多数が霧先を迎え入れてくれた。

それを確認した霧先はもう一度頭を下げた。

そして拍手が終わると、長門が再び口を開いた。

 

「霧先が臨時提督になるということで決定したわけだが・・・早速最初の指示を出す。駆逐艦吹雪!」

「は、はい!」

 

長門に名前を呼ばれた吹雪は、緊張で声が裏返りそうになりながらも答えた。

半分の緊張と半分の怯えに身を震わせながらも吹雪は次の言葉を待つ。

次に長門が述べた言葉は彼女を困惑させるものだった。

 

「貴官を含めた未改装者に大規模改装を実施する!!」

 

突然の大規模改装の通達に、吹雪は呆然と立ち尽くしていた。




最近書くのがつらいですね~。
楽しいからやめられないんですけどねww

次回「頑張っていきましょー!」

一つのことに集中しすぎると重要なものを見失ってしまう。


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第一特別戦目「普通の日常」

流石に用語集投下だけはいけないと思い、突貫工事でネタはあったけど一話にするには短すぎる三本の短編を作り上げました。
データ復旧までの間は何本か投稿する予定ではあります。
それではどうぞ。


~如月の誘惑~

 

「ウフフ、おはようございます工廠長。」

「お、おはよう如月。」

 

朝早い鎮守府の工廠長室。

その部屋に用意されているソファで夜の巡回を終えた霧先は睡眠をとっていたが、巡回が長かった為、既に起床ラッパが鳴る10分前になっていた。

その事に関しては特に異常はなく、霧先本人も分かりきっていた。

だが一番の予想外の出来事が目の前で起きていた。

目の前には腹部に馬乗りになっている如月が妖艶な雰囲気を醸し出していた。

起きたばかりということもあって霧先の主砲は最大仰角であり、これは非常にまずい状況であった。

 

(お、落ち着け!こんな状況にはどうすればいい!?今までの戦略で培った頭脳を活用するのだ!!)

 

霧先が短時間で脳をフル回転させて対策を講じるが、そんなことはお構いなしに如月は胸に顔を摺り寄せる。

良い香りが霧先の鼻をくすぐり、思考を弱らせる。

 

「ウフフ・・・工廠長も男の人ですものね?」

「ま、まぁね・・・・・。」

 

何とか理性を保ち続け逃げる言葉を考える。

普通の人間ならここで突き飛ばしてでも逃げ出すべきではあるのだが、如月に怪我を負わせる可能性を考えた霧先は下手に動けなかった。

更には余計なことを言って如月を傷付けることも割けることを考えていた。

しかし、如月のような女性に免疫がないがゆえに逃げ道を失い、理性が崩されそうになっていく。

 

「ねぇ、工廠長?如月と楽しい事、しましょう?」

 

霧先は静かに息を飲んだ。

如月から放たれる良い香りと甘い言葉によって理性は解けきっていた。

ここで止めの言葉を言われたら霧先も一線を超えてしまう状況であった。

 

「さぁ、私を・・・・・。」

「おはようございまー!・・・・す。」

 

如月が最後の言葉を述べようとしたとき、元気よく扉を開けた蒼龍が現れた。

蒼龍は目の前で起きている状況を見ると今まで持っていた明るさを無くし、一気に暗いオーラを出し始めていた。

それを悟った霧先は冷や汗を滝のように流し始める。

 

「・・・・友成。」

「は、はい。」

「覚悟、できてるよね?」

「えっ?」

「攻撃隊、発艦はじめっ!」

 

その日、朝から霧先と如月はドッグへと叩きこまれた。

その後に霧先はみらいと先代神通から、如月はほかの霧先に好意を寄せる艦娘と睦月から説教を受け、蒼龍は提督から罰として、航海長である尾栗監視の元、一日霧先乗艦の「みらい」の甲板掃除を課せられたのであった。

 

 

 

 

 

 

~扶桑型戦艦日向の憂鬱~

 

横須賀鎮守府内にはいくつかの休憩所がある。

小さな物には第○休憩室と番号が振られるが、本館にあるものは大休憩室と言われている。

中には「みらい」艦内にあった自動販売機を複製されたものが複数設置されており、一段上がった畳敷きのスペースやベンチ、ソファにテレビが用意されていた。

さながら温泉施設の休憩スペースではあるが、多くの艦娘がここを利用する。

そんな休憩室で一人、暗い雰囲気を漂わせながら頭を抱える人物がいた。

皆その人物を避けるように座ったり休息を取ったりするが、目を離せないでいた。

 

「はぁ・・・・・。」

 

重い溜息を吐きながら暗い雰囲気を漂わせる人物の正体は扶桑型戦艦四番艦「日向」。

霧先によって建造された艦娘であった。

しかし彼女にはその霧先に関して深い悩みがあった。

 

「何故、あの馬鹿姉は事あるごとに上官に卑猥な行為を取るのか・・・・・私の苦労も考えろ!」

 

怒りに身を任せ机にこぶしを下す。

その行為と突然の怒声と音に休憩室にいた艦娘の数名は驚きながら視線を逸らす。

その事に気づかない日向は溜息を吐くと再び頭を抱え始めた。

そんな時、ふと休憩室を訪れる人物がいた。

 

「む?なんだこのただならない雰囲気は?」

「あぁ、日向か・・・・。」

 

伊勢型戦艦二番艦「日向」だった。

目線をそらしていた先が入り口だった木曾がいち早く気づき、声を漏らした。

名前を呼ばれた日向は丁度良いと思い、木曾に尋ねた。

 

「木曾、いったい何事だ?」

「あぁ、あれ。もう一人のお前だよ。」

 

木曾が目線で指した方へ顔を向けると、そこには明らかに暗く重い空気が漂う場所があり、その中心部にもう一人の日向がいた。

その姿を見た日向はスタスタと躊躇することなく近づいていった。

そして近くにあった椅子を引くともう一人の自分に声をかけた。

 

「おいどうしたんだ?私らしくないぞ?」

「私らしくないか・・・・あの馬鹿の所為でこっちは何度工廠長に頭を下げねばらないのか!これでは扶桑型戦艦の恥だ・・・・。」

「何があったんだ?」

「実は・・・・。」

 

日向は今まで心の内に潜めていた恨みをもう一人の自分に洗いざらい話した。

それに対して相槌を打ちながら真剣に聞く日向。

そこはすでにお悩み相談所のようになっていた。

 

「その上、扶桑は『仕方ないわ。』で済ませるし山城は扶桑以外に眼中にない・・・・。」

「そうか、それは大変だったな。だが、彼が伊勢に対して文句を言っているところを聞いたか?」

「いや?」

「だろう?第一、彼は司令官用の席でだらけるようなうちの伊勢を許すくらいには緩い男さ。そんなことでネチネチするような器じゃない。」

「・・・・それもそうだな。」

「それに、何か度を過ぎたことをしでかせば彼も怒るさ。」

「そんな場面想像できないな。」

「まったくだ。」

 

先ほどまでの雰囲気はどこへやら、二人はとっくに世間話へと移行して盛り上がっていた。

同一に近い人物同士だから成せるのか、はたまた同じような姉をもっているからこそ意気投合できるのか。

それは誰にもわからないが、二人の仲が深まったのはその場にいた全員が感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

~犯人は・・・~

 

「ふい~疲れた。」

 

霧先は自身の仕事場でもある工廠長室での作業を終え、体を伸ばしながら一息つく。

意外と早く終わった為、時刻はまだ昼前。

体を十分に伸ばし終えて、書き終えた書類を仕分けながら午後からの巡回などに備えようとするが、あることを思い出した。

 

「あ、昨日風呂入り損ねたんだった。」

 

昨晩は、霧先の伯母である川内が「夜戦だー!」と騒ぎ立てて艦娘たちから反感を買い、霧先もその騒ぎの鎮圧に赴くことになった。

何とか川内をなだめ、皆に謝罪をして場を収めることはできたものの、霧先は風呂に入るタイミングを完全に失っていた。

それ故、今現在は非常に汚い状況でもある。

 

「・・・・・偶には昼風呂もいいな。」

 

霧先はすぐに着替えやバスタオル、ナイロンタオルを袋に入れて浴場へと向かった。

 

 

 

浴場はとても広いが、この時間は誰もいない為に余計に広く感じる。

霧先は服を籠に投げ込んで、一般的なタオルとナイロンタオルを手に浴場に入る。

 

「何度見ても思うけど広いなぁ。温泉施設張りだよ。」

 

そういいつつ、霧先は真っ先にかけ湯をかけてから大きめの風呂に入る。

普段の疲れを癒しながらオッサンのような低い溜め息を吐きながら肩までつかる。

 

「まだ17なのにオッサンみたいだなぁ。」

 

頭にタオルを載せて、オッサンへと近づく自分を感じながら、暖かさによって取れていく疲れを感じる。

そんな至福のひと時を楽しんでいると、とても聞きたくない音が響き渡った。

浴場と更衣室を隔てる引き戸が開かれた音だった。

 

「久しぶりに昼湯と行きましょー!」

「朝湯をしたばかりだったんだがな。」

「たまにはいいですねぇ。」

「あー眠い・・・。」

「もう!起きて加古!昨日もお風呂入ってないでしょ!」

 

霧先には声だけですぐに誰か分かった。

伊勢型の伊勢、日向、綾波、加古、古鷹の五名、さらにはまだ複数の足音や話し声が聞こえる為、ほかにもいることは明確だった。

 

(名札ひっかけたよな?無視して異性、ましてや上官がいる風呂に入ってくるわけないよな!?いや、現在進行形で入ってきてるけども!)

 

突然の事態に頭がショートしかけるが、何とか保ちつつも打開策を講じる霧先。

だがそれは次に響き渡る声で水の泡と化す。

 

「あれ?誰かいる?」

(終わった・・・・・。)

 

先頭にいた伊勢が浴場内に誰かいることに気づいたのだ。

湯気の所為で見えてなかったが近づくにつれて後姿がはっきりしてきた。

そしてその人物が誰であるかということを理解した伊勢は、顔をゆでだこよりも赤らめながらその人物の名を呼んだ。

 

「ゆ、友成?」

「ど、どうも・・・あっ。」

 

名前を呼ばれ振り向いた霧先は大きな間違いをしていた。

大方タオルで隠していると思ったのだろう。

だが目の前の伊勢は生まれたまの状態で、大人らしい体つきの体をさらしていた。

 

「ッ!」

「あっ!ごめんな・・・アッー!!!」

 

完全に顔を赤一色に染めた伊勢は、躊躇なく霧先の顔面に戦艦級の拳をお見舞いした。

 

 

 

殴り飛ばされた霧先は水風呂で顔を冷やした後、浴場の地面で土下座の姿勢をとっていた。

 

「本当に申し訳ありません!!」

 

湯船につかっている艦娘たちは全員、戸惑いながらタオル一丁で土下座をする上官の姿を見ていた。

 

「まぁ、気にするな。伊勢の馬鹿も気が動転してたしな。」

「そうそう、私も別に見られて困る訳じゃあるまいし。見たいなら好きなだけ見ればいいよ。」

「加古!」

 

土下座で謝る霧先に日向と加古が気にしなくてもいいと言う。

しかし加古のとんでもない発言で古鷹が怒り出す。

そんな姉に臆することもなく、加古は湯船でのんびりし始めた。

 

「できればせめて、体を洗わせてほしいなと思い・・・・。」

「別に構わんぞ?そもそも先客なのは君だ。」

「わ、私も大丈びっ!」

「綾波姉、舌噛みましたな?」

 

体を洗う許可を求める霧先に日向は何の抵抗もなく応え、綾波も顔を赤らめ、ガチガチになりながらも応える。

しかし緊張していた為、勢い余って舌を噛んでしまい、妹である漣がニヤニヤしながらいじり出す。

 

「ありがとうございます!顔はむけないのでご安心を!」

 

そういって立ち上がった霧先は目をつぶりながら歩き出す。

だが視界がなければ当然足元がおぼつかない訳で、歩き出して早々に盛大に転んで頭を打ち、その場でもだえ苦しむ。

また立ち上がって歩き出すが、今度はルートを誤って風呂へと落下してしまった。

 

「はぁ・・・私たちはタオルで隠しておくから目を開いて歩け。」

「すみません・・・・。」

 

未だにゆでだこ状態で「もうお嫁にいけない」と繰り返す呟く姉の横で、日向は目の前の上官に呆れかえっていた。

 

(全く、真面目な癖して何故こういうところは抜けているのか・・・・・。)

 

おそらくこの場にいる殆どの者が思うであろうことを心の中で呟いた日向は、やっとシャワーの前にたどりついた霧先を眺めていた。

すると、霧先に近づくものが視線の中に入ってきた。

さっきまで古鷹にガミガミ言われていた加古だった。

日向が古鷹の方を見ると、当の本人もぽかんと見ているだけだった。

霧先に近づいた加古はおもむろに彼が手に持っていたナイロンタオルを奪い取り、思いもよらない発言を言い出した。

 

「普段からの礼ってことで私が体洗ってやるよ!」

「ファ!?」

 

霧先も予想だにしなかったのか、変な声が口から飛び出す。

当然その場にいた全員がその行為に愕然とし、開いた口がふさがらなかった。

 

「ほれほれ、チャチャっと済ませてやるから。」

「いやあの、自分でできるので・・・。」

「いいからいいから。私に任せておけって!」

「いえあの・・・・・・ワカリマシタ。」

 

決して譲らない加古に対して折れてしまった霧先は、必死に自分の主砲が反応しないように耐えることとなった。

その後に加古は古鷹から、霧先はみらいとゆきなみ、那珂から説教を受けることとなる。

尚、この日以来、霧先に対して好意を持つ艦娘の間で加古は要注意人物に認定されたという。

 

「偶にはこんな刺激もいいっしょ。」

 

そして、この騒動の原因は悪戯心で名札を外した北上であったことは誰も分かっていなかった。

北上はニタニタと笑いながら悪戯が成功した事を喜び、霧先へのお詫びの品を選ぶために酒保へと向かった。



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第伍拾弐戦目「頑張っていきましょー! 上」

今回胸糞悪いシーンあるので注意。
あっ、大本営なら陸自に解体を頼んでおきましたぜ。


鎮守府が空爆を受けてから数日後。

復旧が進み、朝靄が立ち込める早朝の鎮守府内を走る人影があった。

その人影の正体は、動きやすい黄色のパーカーと青色のハーフズボンを着た吹雪だった。

テンポ良いリズムで走る吹雪が甘味処「間宮」の前に差し掛かると、丁度開店作業をしていた間宮に出会った。

早朝からランニングをしている吹雪に気づくと、間宮は声をかけた。

 

「おはようございます!今日も頑張ってますね!」

「はい!うわっとっとっと!」

「大丈夫?」

「はい!もう一周行ってきまーす!」

「行ってらっしゃい!」

 

間宮の言葉に答える吹雪は躓いてこけかけたが、何とか体勢を立て直してランニングを続ける。

心配する間宮に大丈夫であることと、もう一周走ってくることを伝えると、吹雪は甘味処「間宮」から離れていった。

 

「あと一息、私もがんばろっかな。」

 

そんな吹雪の頑張る姿を見た間宮も、開店準備を終えるために店内へと入っていった。

鎮守府内を走り続ける吹雪の脳裏には、霧先が臨時提督に任命されてから下された最初の命令がこびりついていた。

霧先が下した命令、それは未改造艦の徹底訓練と改装を終了させることだった。

吹雪を含め、複数名の艦娘が改装を修了していない。

横須賀には多くの歴戦艦娘がいるが、毎回出撃する艦娘は高練度がほとんどであった。

大きな要因は横須賀に回される任務の難易度。

大本営から告げられる任務や命令は、鎮守府ごとの成績によって難しいものから簡単なものを振り分けている。

当然、歴戦の艦娘が集っている上に成績も上位を確保している横須賀には難易度が高い任務が多く出される。

よって、新規に着任した艦娘達の出撃の機会は無くなり、演習や遠征に回される。

そして古参の艦娘が任務達成の為に出撃するという構図が完成する。

長らく夕立や睦月達駆逐艦が実戦に出ていなかったり、経験が少なかったのもこれが原因だった。

以上の事を提督から聞かされていた霧先は、まず手始めに艦娘の練度を底上げしなければ領海、ひいては本土防衛は現在の体制では成しえないと判断した。

その為、今回の計画を実行に移したのだった。

その事を告げられた吹雪は一刻も早く練度を上げなければならないと思い、早朝からのランニングをしていたのだった。

 

「もう一周!」

 

改に必ずなるという意思を固めた吹雪は、大きな声で意気込みながら鎮守府内を駆け抜けた。

 

 

 

 

一方、鎮守府本館にある執務室では霧先が多くの仕事を捌いていた。

復旧に数日を費やした結果、多くの仕事がたまりこんでしまったのだった。

それ故、霧先は普段の業務に加えて、普段提督が行っている報告書の作成や書類の確認、電話から流れてくる上官からの怒号に対応しなければならなかった。

 

「えっと・・・みらい!資材関連の書類どこ!?」

「天城さんの近くの所です!」

「綾波ちゃん!復興のための建材の品目書できてる!?」

「此方に準備してあります!」

「ゆきなみ、すまないがこれを工廠へ届けてくれ!」

「了解です日向さん!」

 

当然それだけの仕事を捌こうとすれば執務室は地獄絵図となる。

扶桑型の伊勢とみらいが資材関連の書類を、部屋の中でに山のように積み上げられている書類の束から探し出し、土佐が大急ぎで綾波から出来立ての書類を受け取り、伊勢型の日向が寄り分けた工廠宛の書類をゆきなみへと引き渡す。

そんな惨状が広がる中、霧先は執務机に向かったまま必死にサインや報告書を書いていた。

すると脇に置いた電話がけたたましくなった。

今日何度目になるか分からない電話にうんざりしつつも霧先は受話器に手をかけた。

 

「はい、横須賀鎮守府臨時提督の霧先友成中佐です。」

『私は大本営の作戦立案部の中将なのだがね。最近は横須賀の勤務態度がよろしくないように思えるんだよ。さっさと深海の奴らを倒してもらわないとこちらも困るんだよ。』

「申し訳ありません中将閣下。現状は鎮守府の被害が大きく、修復に時間がかかっておりまして・・・・敵艦隊の動向の調査と焼け落ちた宿舎や設備の再建、無くなった資材の確保、艦娘たちの練度向上を並行しているので多少の遅れは・・・・。」

 

相変わらず催促をしてくる大本営の人間の言葉に多少の苛立ちを覚えながらも、霧先は丁寧に現状を説明した上で、遅れていることに対して理解を求める。

だが相手はそんな霧先に対して声を荒げながら霧先を怒鳴りつける。

 

『私が言っているのはそう言う事ではないんだよ!調査なら駆逐共を深部に向かわせればいいだろう!?宿舎も艦娘どもには必要ないし、資材も潜水艦や駆逐共を休ませずに使えばいい!敵艦隊に爆弾でも抱えさせて突入させたらどうかね?わざわざ練度を上げる事など無意味なのだよ!艦娘は所詮兵器。いくらでも代替は効くんだからな!』

 

中将の言葉に霧先の理性はプッツリと切れそうになるが、手から血がにじみださんばかりに握りしめて耐え抜く。

艦娘、ひいては軍を率いる者として常軌を逸した発言に大きな怒りを覚えていた。

ここまで己惚れや過信でさらりと自爆攻撃すら命令しようとしてくる人間がいる事さえ信じられなかったのだ。

それでも霧先は海軍軍人、そして艦娘たちの指揮官としての面子を守るために自らの怒りを必死に抑え込んだ。

 

「それは分かっております。ですが目先の戦果ばかりでは足元をすくわれる可能性がある。その危険性がない方が作戦立案部にとってもいいのではないでしょうか?危険性がないことを確認すれば作戦立案部の信用は維持されますよ。」

『それもそうだな。ただ停滞自体は見過ごせないのだよ。』

「それに関しては今週中に敵艦隊の動向を確認した上で出撃する計画であります。」

『そうかね。精々頑張り給えよ、親の七光りやコネで中佐になった若造君。』

 

何とか言いくるめることに成功した霧先は、嫌味たらしく捨て台詞を吐いた中将が乱暴に受話器を叩きつける音を聞いた後で、受話器を戻した。

そして再び書類と向かい合って作業を再開し始めた。

 

 

 

 

霧先たちが書類や大本営からの嫌がらせと戦っている頃。

作戦指揮室では長門が霧先の代わりに、梅津指揮の「みらい」と共に偵察に出ていた蒼龍と飛龍の二名からの報告を聞いていた。

 

「そうか、見失ったと・・・・。」

「はい。」

「その内、一隻は隻眼のヲ級であることを確認しました。」

「鎮守府を爆撃した機動部隊のはずなんですが・・・・・同伴していた『みらい』を見たとたんに逃げ出してしまい・・・・申し訳ありません。」

「気にする必要はない。むしろ、敵艦隊の編成が確認出来ただけでも大きな収穫だ。」

「・・・どう?」

 

自分たちが逃したことを悔しそうに述べる二人に長門は気にしないよう告げる。

蒼龍と飛龍の報告を長門の傍で聞いていた陸奥は、部屋に完備された機器を操作している大淀に敵艦隊がやってきた場所が特定できるかどうかを尋ねた。

 

「残念ですが・・・情報が不十分で特定は不可能です。」

「そうか。」

 

流石に情報が少なすぎたため、敵機動部隊の本拠地を特定することは不可能であった。

それを聞いた長門は短く応答し、手元の書類に目を通し始めた。

その書類は提督の残した作戦指示書と、霧先がそれを熟読した上で加筆修正を行った作戦実行書だった。

 

「『我が連合艦隊の総力をもって駐屯地AFを攻略、敵の機動部隊を誘因し、これを撃滅せよ』か・・・。」

「それが提督の残した作戦・・・・。」

「駐屯地AF・・・・聞きなれない単語ですね。」

 

長門の読み上げた作戦を聞いた蒼龍と飛龍は聞きなれない駐屯地AFという単語が引っ掛かった。

その反応を見た陸奥は自分の仮説を二人に述べる。

 

「恐らく情報の漏洩に備えて、提督が暗号で書いたと思うの。何かわかる?」

「・・・分かる?」

「そんな急に聞かれても分かるわけないじゃん。そもそも聞いたの始めだし・・・。」

「だよね~・・・。」

 

陸奥に聞かれて咄嗟に1940年代からの記憶を引っ張り出してみるが、二人の頭の中にある記憶にはAFという単語に関係することは一切なかった。

長門は視線を外の水平線に向けて、いまだ見つからない駐屯地AFに関して頭を使い続けた。

 

 

 

 

時は過ぎて午前10時ごろ、艦娘達は一時限目の授業や演習を終えたところだった。

吹雪達も例外ではなく、先ほどサウスダコタによる初心者英会話の授業が終了したところだった。

休憩時間を迎えた教室では夕立が自分の机で苦痛に耐えた表情を表していた。

 

「うぅ・・・机がちょっと低いっぽい・・・・。」

「わ、私も低いかもしれないわね!」

「暁お姉ちゃんはぴったりなのです。」

 

夕立は改二になったことで身長が大幅に伸びて机のサイズが合わなくなっていた。

例えるなら高校一年生が小学六年生用の机で授業を受けるようなもので、彼女にとっては終始体が痛くなる体勢で授業を受けなければならない拷問でもあった。

そんな夕立が羨ましいのか、暁も机が小さいなどと言い始めるが、電にあっさり「丁度良い」と言われてしまった。

夕立が机に対して不満を示す中、吹雪がノートと鉛筆を持ちながら尋ねてくる。

 

「それより、後は?後は?」

「えっ?う~ん・・・特にはないわね。」

「うぇえ?これやったときに練度がドーンっと上がったなぁみたいなの・・・。」

「また聞いてるの?」

 

吹雪が夕立に聞いているのは練度に関する事だった。

理由は練度を効率よく、且つ早く上げたかったからだ。

それを繰り返し聞いていた為、丁度やってきた睦月は半分呆れた様子で吹雪に聞いた。

 

「だって、まだまだ足りないんだもん。もっとやる事色々増やさなきゃって。」

「えぇ・・・?まだ増やすの?」

「しょうがないよ。改になるには練度を上げるしかないって赤城先輩にも言われたし・・・ふぁぁ・・・。」

 

まだやることを増やすと言いながらも、明らかに眠そうに欠伸をする吹雪を見て睦月は不安になった。

今の吹雪は完全に練度を上げる事を優先していて自分の事ですら二の次にしているのは明白だった。

このままではいつか間違いや問題を起こすのではないかと、睦月は心配していた。

これが提督がいて、霧先の仕事が少ないときであれば、気軽な気持ちで彼に相談出来たものの、今は当の本人が執務室に引きこもっていて相談できるような状況ではなかった。

不安を胸の内に秘めたまま、睦月は改になることに夢中な吹雪を見ていた。

 

 

 

 

やがて演習の時間になると、教官の利根と尾栗の監督の元、吹雪の訓練が行われた。

今回の種目は移動しつつの砲撃。

吹雪が最も苦手な種目ではあったが、今ではすっかり克服している。

 

「次!行くぞ!」

「気合い入れてやれよ!」

「はい!」

 

利根と尾栗の言葉に応えた吹雪は射撃体勢に入る。

直後、水上に設置された的が起き上がり始め、吹雪はそれらを的確に砲撃で破壊していった。

行動しつつの射撃であっても外すことなく、すべての的を破壊した吹雪は一旦停止してから二人にもう一度的を用意してほしいと頼む。

それを聞いた利根と尾栗は念のために置いてあった的を立てさせ、訓練を続行した。

的が起き上がったのを確認した吹雪は、再び機関を始動させ、移動しながらの砲撃訓練を再開した。

 

「すごく上手になったのです!」

「うん・・・。」

 

それを遠巻きに見ていた電は吹雪の上達を喜んでいたが、睦月はそういう気持ちに離れていなかった。

 

 

 

 

「じゃあ、行くわね。」

「うん、また明日。」

「演習頑張ってね!」

 

夕方になると夕刻を告げる鐘が鳴り、艦娘たちは各々の行動場所へと散っていく。

その中でも夕立は第一艦隊配属になった為、吹雪達とは違った訓練が用意されていた。

その為、夕立は二人に別れの言葉を告げてから演習場所へと向かう。

演習場へと向かう夕立を見送った二人は、宿舎へと足を進めていった。

 

「そうそう。今日から間宮さんの所、正式に営業するらしいよ。」

「本当?よかったぁ~。」

「うん、寄ってかない?」

 

睦月は試しに二人っきりで話し合ってみようと思い、甘味処「間宮」に誘ってみた。

だが、吹雪からは思ってもいなかった言葉を言われた。

 

「あっ、今日はいいや。」

「えっ?」

「トレーニングのメニュー、残ってるし。あんまり食べると眠くなっちゃうし。間宮さんによろしく伝えといてよ。」

「・・・・うん。」

「じゃあね!」

 

睦月の誘いを断った吹雪は、そう言い残すと駆け出していった。

途中、曲がり角で赤城と加賀に出会うも、「失礼します」と言い残して走り去っていってしまった。

 

「珍しい。あの子が赤城さんを見つけて、そのまま行ってしまうなんて。」

 

普段とは違う吹雪の行動に赤城も加賀も違和感を感じていた。

その時赤城の目にはさみしそうな目で吹雪の背中を見つめる親友の睦月の姿が映りこんだ。

 

 

 

 

その翌日、川内、神通、那珂、吹雪、夕立、睦月の第三水雷戦隊の6人は作戦指揮室へ呼び出されていた。

理由は偵察、いくつもの艦隊が北方海域や南西海域に繰り出しているが有力な情報がないため、唯一偵察をしていないMI方面へ第三水雷戦隊を向かわせることが決定したのだった。

そして今回、海上自衛隊も参加することになっており、角松、尾栗、菊池が作戦指揮室で長門、陸奥と共に第三水雷戦隊との事前説明に参加していた。

 

「確認のために言っておくが、任務は駐屯地AFの特定だ。北方海域や南西海域には既に別艦隊が出ているがこれといった収穫は無し。残るのはこのMI・・・ハワイ方面だ。鎮守府に爆撃を行った機動部隊が敵の主力部隊であることは間違いないだろう。近づけば必ず動くはずだ。」

「つまり、近づいて動きがあった駐屯地の付近に機動部隊がいる。」

「そういうことだ。今回は俺たち海上自衛隊も参加する。」

「角松二佐たちも参加するっぽい?」

 

長門の説明を理解した吹雪に角松が付け加えるように言う。

それを聞いた夕立を含めた全員が驚いた表情を見せた。

 

「あぁ、本来なら霧先たちが参加する予定だったがな。」

「あれじゃまともに出れやしないってことで、俺たちがお前たちの護衛につくってわけだ。」

 

角松と尾栗が書類漬けになっている霧先を思い浮かべながら、気の毒そうに説明した。

その横にいた菊池は二人が説明し終えると、補足を付け加えた。

 

「そこで問題がある、俺たちは海上自衛隊だ。梅津艦長もそのことは変えないつもりでいる。緊急を要する場合や敵の攻撃があった場合は攻撃できるが・・・・。」

「攻撃を受けていない状態での先制攻撃は認められない・・・・ということですね。」

「そうだ神通。だから、俺たちの役割は戦闘の回避になる。」

「指示には従ってもらうからそのつもりで頼むぞ。」

「了解しました。」

 

菊池の言葉を聞いた神通は全てを把握し、尾栗と角松は念押しをしておく。

それを確認した長門は一呼吸おいてから声を発した。

 

「以上をもって事前説明を終了する。第三水雷戦隊、及びイージス艦『みらい』、出撃せよ!」

 

長門の言葉に応えるように、全員が敬礼をしてから作戦指揮室を後にした。

陸奥と二人っきりになった長門は、何かを考えていた。

見かねた陸奥は単刀直入に聞いた。

 

「何か気になることでも?」

「いや、最近霧先の奴が妙に怪しい気がする。まるで何かを確かめているような行動をとるんだ。」

「そうかしら?あなたの気の所為かも。」

「そう・・・・・だといいのだがな。」

 

どこか引っかかるような気持ちになった長門は、謎の不安感を拭いきれていなかった。

気のせいで済まされないような気がしたのだ。

 

 

 

 

第三水雷戦隊と「みらい」が出港してから数日後。

予定通りMI海域・・・ミッドウェー海域へと接近した一行は特に襲撃を受けることなく進んでいた。

それ故か、那珂は鼻歌を歌いながら航海していた。

気づいた神通が中に注意を呼びかける。

 

「那珂ちゃん駄目よ。ちゃんと警戒して。」

『だがノリがいいぞ神通。今時のアイドルみたいだぜ。』

「那珂ちゃんはアイドルだよ!」

『ハッハッハッ!そうだったな!』

『尾栗、ふざけてる暇があったら真面目にしてろ!』

「そうですよ尾栗三佐。ちゃんと警戒しないと。」

『へいへい・・・・。』

 

角松と神通の二人からとがめられた尾栗は渋々といった様子で職務へ復帰する。

そのやり取りを聞いていて苦笑いになる夕立だったが、すぐに川内に尋ねた。

 

「偵察機の方は?」

「・・・・駄目みたい。」

『此方もロクマルと連絡を取ってみる。シーホーク、フォーチュンインスペクター。現状を報告せよ。』

『此方シーホーク、艦影は発見できません。敵航空機もなし!』

「海は静かだね・・・。」

 

川内や角松が偵察に出た水偵とSH60Jに連絡を取るが、艦影はおろか航空機すら見つからなかった。

上空を飛んでいく水偵やSH60Jでも何も発見できない以上は何もないと思われ、ここでもないかという落胆感が皆を覆った。

「みらい」艦橋も例外ではない。

 

「ふむ・・・・ミッドウェーでもなかったか・・・・。」

「艦長、そうと分かれば撤退を具申します。今からなら深海棲艦隊が多数確認されている海域を夜の内に抜けることができます。」

 

何もいない以上、燃料や時間を空費するのは無駄だと考えた角松は梅津に意見を具申する。

角松の案を聞いた梅津は、今すぐ行動した方がいいと判断し、尾栗に声をかける。

 

「だな。航海長、進路270。」

「了解、進路270。面舵いっぱーい。」

「面舵いっ・・・・。」

『フォーチュンインスペクター、シーホーク!深海棲艦の戦闘機発見!こちらに接近中!』

 

操舵手が尾栗の指示を復唱し、面舵を取ろうとした瞬間にSH60Jから通信が艦内に響いた。

声からもどれだけ逼迫した状況なのかが良く分かる。

 

「シーホーク、フォーチュンインスペクター!引きはなせるか!?」

『無理です!後ろについて照準を合わせようとしてきます!今必死に機体を揺らして避けてるところです!』

「わかった。もし発砲してきたのなら機関銃で威嚇射撃を行え!こちらが発見されてもいい。今すぐ戻ってこい!」

『了解しました!』

 

角松とSH60J機長の柿崎との会話は第三水雷戦隊にもばっちり聞こえていた。

だがしかし、念を入れて、角松は第三水雷戦隊にも連絡を入れる。

 

『今の会話は聞こえたか神通!?』

「はい、間違いなく!」

『総員対空、対水上警戒を厳となせ!』

「分かりました!総員、戦闘用意!」

 

全員が、これから来る戦闘に備えて用意を進める。

「みらい」でも武鐘が鳴り響き、CICではレーダーに表示されたSH60Jと深海棲艦の戦闘機が徐々に近づいていた。

 

「対空戦闘用意!」

「対空戦闘用意、スタンダード、シースパロー発射用意よし!」

 

もしもの攻撃に備えて、CICでは砲雷長の菊池指示の元、対空戦闘の準備が整えられた。

だが敵戦闘機は「みらい」上空を飛び越えると、SH60Jから離れていった。

それと同時に対水上レーダーに艦影が表示された。

 

「まずいな・・・・。」

 

菊池は艦内電話を手に取ると、艦長の梅津に連絡を取った。

 

「艦橋、CIC!艦長、本艦の情報を近海の深海棲艦に報告されました!敵艦隊が本艦左104度から接近中!」

『了解だ、この海域から離脱する。非常時に備え、対水上戦闘用意!』

「了解!総員対水上戦闘用意!」

「対水上戦闘用意!主砲、トマホーク、ハープーン、Mk46魚雷、発射用意よし!」

 

対水上戦闘に切り替えたCICでは光点が徐々に近づく。

当然、第三水雷戦隊も戦闘準備は整えていた。

航空機から一を知らされている以上、最大戦速でも追いつかれる可能性が高い。

それを理解した梅津と神通は、このまま同航戦に持ち込むことにした。

最悪の場合は威嚇射撃でひるんだところを見て逃げることも視野に入れていた。

全員が神経を研ぎ澄ませている時、吹雪が「みらい」から知らされた方角の水平線上にある物を発見した。

 

「敵艦発見!」

「回り込まれたみたいだね。」

「もう!しつこいんだから!」

「こうなったら素敵なパーティー始めるしかないわね。」

「だめです!」

 

吹雪の報告に回り込まれたことを確信した川内。

その横で那珂は敵のしつこさに嫌気がさしているようだった。

そんな中で、回り込まれた以上は交戦する気満々の夕立に神通がくぎを刺した。

 

『敵弾来る!総員衝撃に備え!』

 

「みらい」から飛ぶ角松の声に全員が衝撃に備えた体勢を取る。

程なくして敵弾が艦隊の付近に着弾し、水柱をいくつも上げた。

 

「敵の数は!?」

『駆逐4、軽巡2だ!どうする?こちらの最大戦速に届くかもしれんぞ!』

「そのくらいなら・・・・やるしかない!」

「仕方ありません・・・三水戦戦闘用意!」

 

本格的に戦闘が決定し、艦娘たちは戦闘態勢に移行する。

「みらい」も彼女たちを援護すべく、予備弾が潤沢な主砲を準備する。

そんな中、吹雪にある考えが浮かぶ。

 

(ここで私が倒せれば・・・練度が!)

「吹雪ちゃん・・・・。」

 

睦月はいやな予感しかしなかった。

吹雪は目先の練度という欲望に取りつかれて正常な判断を失っていた。

そして普段なら言わないことを言い始めたのだ。

 

「私!前に行きます!」

「えっ!?」

 

突然の事に神通も止めることができず、吹雪は前に進んでいく。

それを「みらい」艦橋から見ていた自衛官達は騒然としていた。

よもや吹雪が単身で敵に突撃していくことなど夢にも思っていなかったからだ。

 

「あの馬鹿野郎!洋介!」

「分かってる!吹雪!何をやっている!今すぐ戻れ!」

『大丈夫です角松二佐!』

「副長、シーホークを向かわせてくれ!」

「了解しました!シーホーク、フォーチュンインスペクター!吹雪の馬鹿が単身突撃した!援護と最悪の場合に備えてくれ!」

『フォーチュンインスペクター、シーホーク!了解しました!』

 

角松らが対応に追われている間、吹雪は敵艦への砲撃を行っていた。

砲弾は初弾から夾差をたたき出し、吹雪の技術が上がっていることを示していた。

味を占めた吹雪はそのまま前に出た状態で砲撃を敢行、軽巡に砲弾が命中して喜ぶ。

だが駆逐艦の艦砲程度で軽巡に有効なダメージが出るわけもなく、あっさりと反撃を受けて中破にまで追い込まれてしまった。

 

「吹雪ちゃん!」

「下がりな吹雪!」

「平気です!川内さんたちは敵駆逐を!・・・向こうも損傷しています。あと一撃、当てることができれば!」

 

川内が吹雪に下がることを指示しても吹雪は平気だと言い張り、完全に勝率がないに等しい博打に出た。

敵軽巡に一発でも当たれば撃沈させることは可能だろう、だが同時に吹雪が轟沈する恐れもある。

しかも確率的に言えば後者の方が高いのだ。

そんな博打に躊躇無く突っ込んでいく吹雪。

しかしほかの敵艦から砲撃を受け、余計にダメージを負う。

最早博打ではなく死にに行くようなものであった。

それは「みらい」艦橋からお良く見えており、梅津はCICに怒号を飛ばした。

 

「主砲撃ちぃ方ぁ始め!」

 

「トラックナンバー1452!軽巡ホ級!主砲、撃ちぃ方ぁ始め!」

「撃ちぃ方ぁ始め!」

 

「みらい」の127㎜主砲から砲撃音が鳴り響いた後、海上に黒煙が上がった。

 

 

 

 

吹雪が目を覚ますと、そこは入渠施設の大浴場だった。

湿気によってできた露がポタポタと落ちる音が響き渡る浴場で、最初はぼんやりしていたものの、意識がはっきりとした吹雪は自分が湯船に浸かっていることに気づく。

 

「あれ?・・・・夢?」

 

さっきまでのは入浴中に寝てしまっていた自分が見た光景だと思った吹雪は取り合えず起き上がる。

すると後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。

 

「おっ、気づいた?」

 

川内の声が響くと同時に睦月が駆け込み、湯船に飛び込んで吹雪を抱きしめた。

突然のことに完全にに脳がついていっていない状態吹雪だったが、睦月は服が濡れることも気にせずにただ吹雪を抱きしめながら泣いていた。

 

「吹雪ちゃん!よかったよぉお!!」

「あの・・・私?」

「敵の最後の一発が奇跡的にも逸れてね、当たってたら轟沈だったよ。」

 

自分がどの様な状況だったかを川内から説明された吹雪はあることを睦月に尋ねた。

 

「睦月ちゃん!あの深海棲艦、私倒せた!?」

「吹雪ちゃん・・・・。」

「残念だけど、そっちも外れ。結局『みらい』の艦砲射撃で撃沈だよ。」

「そうですか・・・はぁ、もう少しかと思ったのになぁ。」

 

自分が倒せなかったことに溜息をつく吹雪に睦月も限界が来た。

普段の睦月が出すことがないような声で絞り出す様に呟いた。

 

「そんなの・・・どうでもいいよ。」

「え?」

「吹雪ちゃん、轟沈するところだったんだよ!」

「睦月ちゃん・・・・。」

 

普段怒こることがない睦月でもこの時ばかりは激怒していた。

目の前の改という欲望にばかりに目がくらみ、自分の命を軽々しく扱う吹雪が許せなかった。

 

「駄目だよあんな事しちゃ・・・轟沈したら、もう戻ってこれないんだよ!?戦うことも歩くことも!みんなとお話しすることも!出来なくなっちゃうんだよ!後悔もできないまま・・・・海の中に消えちゃうんだよ!」

「でも・・・・。」

「私もうやなの・・・もしも吹雪ちゃんがいなくなったらって思ったら!」

「睦月ちゃん・・・!」

 

過去に「W島攻略作戦」で一時の間行方不明になった妹の如月。

睦月にとってあの時の時間はトラウマとなっており、奇跡的に如月は帰還出来たものの、吹雪の場合は本当に死んでしまいそうだった。

耐えきれなくなった睦月は泣きながら、そのまま浴場から出て行った。

 

「少しは気持ち、考えてあげないとね。」

 

川内の言葉に自分のしでかしたことに気づいた吹雪は落ち込んだ。

だがそれで終わったわけではなかった。

睦月が出ていくと同時に漣が血相を変えて大慌てで転がり込んできた。

 

「せっせせせ川内さん!やべえですぜ!」

「どうしたの漣。アンタらしくもない。」

「こっこここ工廠長殿がブチ切れてますぜ!あの武蔵さんが震える位に怖いです!」

「うわぁ・・・・・なんでまた。」

「実は・・・・。」

 

漣によると、今回の出撃の報告を聞いた霧先は、武蔵でも震え上がるほどの怒気を溢れ出させながら聞いたこともないような低い声で吹雪を呼ぶように言ったという。

もし来なかった場合にはそれ相応の罰を与えるとも言っていた。

話していくうちに青ざめていく漣の表情からは嘘が感じられず恐怖しか感じられなかった。

その事を聞いた吹雪は大急ぎで浴場から飛び出し、着替えの服を着用して入渠施設から執務室へと向かった。

川内もそのあとをついていくと、執務室の前には海上自衛官、艦娘、妖精がごった返していた。

中でも戦艦組を含めほとんどの物が青ざめていた。

 

「これはさっさと行った方がいいかも。」

「・・・・分かりました。」

 

既に扉越しにも溢れ出てくる怒気によって川内と吹雪も体の震えが止まらなかった。

それでも行かなければ自分が酷い目にあうことが分かりきっているため、意を決した吹雪はドアをノックした。

 

「・・・・入れ。」

 

確かに霧先の声だが、普段からは予想できない低い声で応答してきた。

吹雪はノブを回してドアを開いて中へ入る。

流石に吹雪だけは酷だと思ったのか、川内は丁度近くにいた神通と那珂、先代神通も連れて一緒に入った。

部屋の中はカーテンが閉じられており、廊下からの明かりで照らされているところ以外は全くの暗闇だった。

吹雪以外にも川内たちが入ったことに気づいてはいたが、霧先は特に止めることはしなかった。

吹雪は霧先の前に立ち、敬礼をした。

 

「と、特型駆逐艦吹雪、参上しました。」

「・・・・今回の作戦で起こった事態の確認をする。報告は既に受けている。嘘はつくな。」

「は、はい・・・・。」

 

霧先は手元の資料を読むために電気スタンドのスイッチを入れる。

明かりのおかげで霧先の顔も照らされるが、普段の笑顔などどこにもなかった。

 

「特型駆逐艦吹雪、君は本作戦において旗艦である神通、さらには川内の指示や注意を無視した上で軽巡洋艦に突貫した。間違いないな?」

「ま、間違いありません・・・。」

「なぜそんなことをした?」

「・・・・・・練度が。」

「ふざけてるのか貴様は!」

「ヒッ!」

 

作戦について間違いがないことを確認した霧先は吹雪になぜこんな行動を取ったのかを聞く。

そして吹雪の答えを聞くと机を殴りつけた上に彼女を怒鳴りつけた。

脇で見ていた川内たちも怖くなり、ガタガタと震え始める。

あの先代神通ですら震えて冷や汗を掻いていた。

 

「そんなもので築き上げた練度など意味はない!そもそも『みらい』の護衛艦にも選考は無理だ

!練度は確かに身を削って積み上げるもの。だが死にかけていては元も子もないだろうが!『みらい』乗組員にも死者が出るところだったんだぞ!!お前は家族や友達を平気で見捨てる気なのか!!?」

「あ・・・・あ・・・。」

 

口をパクパクさせながら涙を目じりに浮かべる吹雪。

だが霧先はそれで止めることは無く、吹雪に対して言うべきことを言った。

 

「僕が言うことは以上だ。分かったらさっさとすべきことをして来い!」

「・・・・・すみませんでした工廠長!」

 

吹雪は礼をしてから執務室を飛び出した。

その際に泣いていることを見てしまった川内は霧先に突っかかった。

 

「ちょっと友成!あんなに怒鳴りつけることないでしょ!」

 

机を両手で叩きつけながら身を乗り出して抗議する川内に対して、霧先はイスに深く座りながら一息をついてから話し始めた。

 

「ふー・・・川内姉さん、僕だって心苦しいよ。部下にあんなことを言うのは。でも今回の事はそれだけの危険があった。彼女はそれに気づかなければならないし、上官に怒鳴られなければ重大さに気づかないかもしれない。今後の事を考えれば、僕が恨まれようとも今回の事は実行しないとね。」

 

普段ののんびりした口調に戻った霧先は「お菓子食べる?」と菓子を取り出して皆に差し出す。

その豹変ぶりに川内は目を丸くして固まった。

 

「・・・・え?じゃあ今までのは演技?」

「怒ってたのは事実だよ?怒ったのは久しぶりだけど・・・・・。」

「・・・・なにそれ。」

 

笑いながら菓子と茶をつまむ霧先に対して、川内は呆れかえっていた。

そして霧先は立ち上がり、外にいる者たちを払った。

 

「さて、川内姉さんたちも明日に備えて宿舎に帰った方がいいね。はいお菓子。」

「何故にお菓子・・・もらうけど。」

 

菓子をもらった川内たちは霧先に背を押されるようにして執務室から退散することになった。

そして宿舎へと向かうことになったのだが、川内はあることを思い出して先代神通に尋ねた。

 

「あれ?そういえば神通も震えてたけどさ、なんで?」

「那珂ちゃんも知りたーい!あれだけ強い神通おねえちゃんが何で震えてたの?」

「だって・・・・・あの友成が怒ったんですから!お母さん怖いよぉ・・・・。」

「えぇ・・・・・?」

 

先代神通の言葉に川内型の三人は微妙な顔をしたまま、泣き出す元戦闘中毒者を眺めるしかなかったのだった。

 

 

 

 

元戦闘中毒者が泣き出す光景をどうしていいかわからない表情の川内型三人が困り果てているとき、作戦指揮室では陸奥と長門が作戦を講じていた。

横では大淀が出撃中の艦隊と連絡を取っている。

 

「三水戦と『みらい』が一番激しい攻撃を受けたとなると・・・駐屯地MIが本命か。」

「でもそれだけで特定するのは早計じゃない?」

「分かっている。何か決め手となるものさえあれば・・・・。」

 

ある程度まで絞り込めることはできたものの、確定的でない状態で艦隊を出撃することはできない。

たとえ派遣したとしても、そこが駐屯地AFでなければ対策を取られるうえに、最悪の場合は艦隊の全滅というシナリオが待ち構えている。

長門も、それを避けるべく慎重な姿勢でいた。

その時、普段は声を上げない大淀が声を上げた。

 

「何なんですかさっきから・・・・後で明石か工廠長に修理してもらわないと・・・・。」

「どうしたの?」

 

通信機を叩いた後、ブツブツとつぶやく大淀に陸奥が問いかける。

 

「いえ、さっきから千歳さんに連絡を試みてるのですが・・・通信機の不調らしく、混線してるんです・・・・古いからかなぁ?」

「・・・!大淀!」

「はい?」

 

通信機の以上で混戦しているものと考えた大淀はブツブツと言いながら再び操作する。

その以上にあることを感じた長門は大淀に声をかけた。

 

 

 

 

その頃、吹雪に怒鳴って浴場を飛び出した睦月は一人で桟橋にいた。

この夜の時間帯には誰も来ない倉庫区画の桟橋で、睦月は一人で体育座りをしていた。

ふと、後ろに気配を感じて振り返ってみると、そこには吹雪が立っていた。

 

「睦月ちゃん。お話があるの・・・・。」

 

吹雪はただ、そうつぶやいた。




さて・・・・三か月ぶりに書くから霧先のキャラが崩壊しているような気が・・・・。
ま、キャラなんてあってないようなものなんだけどね!


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第二特別戦目「霧先の過去の出会い」

過去編です。
最近筆が進みにくいものでして・・・因みに後5話でアニメ編修了です。
それ以降は・・・・お楽しみに(ゲス顔)

あっ、VITA版で吹雪とケッコンしました。(≧▽≦)
法被姿もええのぉ!

11月の劇場版公開までにアニメ編間に合うかね?(´・ω・`)
そして予告版を見ておもったのですが・・・・・・劇場版の内容で吹雪やほかのキャラが本当に意味もなく沈んだのなら、私は監督と脚本を絶対に許さない。絶対にだ!!(吹雪提督)


古き良き日本の風景が残る山間に位置する田舎の村。

そんな場所の川で水遊びをする少年達がいた。

その中でも特に平凡そうなある少年は、川で泳ぐ魚やカエルを同じ年頃の少年少女と共に追いかけたりして遊んでいた。

微笑ましく、実に風景にあっている光景であった。

そんな光景が続くかとおもいきや、平凡な少年はある違いに気づいた。

 

「あれ?あそこに誰かいるよ?」

「誰もいないじゃん。」

「誰もいなよ?友成君の見間違いだよ。」

「いるよ!見てくる!」

 

平凡な少年、そんな彼は後に海上自衛隊所属護衛艦の艦長、そして横須賀鎮守府所属の海軍中佐となる「霧先友成」であった。

同年代の少年少女から人影を見たところには誰もいないと言われ、幼い思考らしくムキになった彼は一人で人影を見た茂みへと飛び込んだ。

後ろから引き留める声が響いてくるが、彼には聞こえるはずもなく、ただひたすらに茂みの奥へと突き進んでいった。

 

「・・・あれ?誰かいたはずなのに・・・・。」

 

しかし、どれだけ進んでも人影は見えず獣道が続くばかり。

あても無く彷徨っていると、偶然にも開けた場所に出た。

 

「ここ・・・お寺?」

 

そこは近くの古びた神社だった。

年季を感じさせる境内の中を霧先が歩いていると、二人の少女が本堂に腰かけているのを見つけた。

 

「あっ!いた!」

 

霧先は大声をあげ、それに驚いた少女達は本堂から足を滑らせて落っこちた。

それを見て放っておく事ができなかった霧先は、急いでその少女達の元へと駆け寄った。

 

「大丈夫?」

「え、えぇ。少し驚いただけだから・・・・。」

「いててて・・・・この体になれないなぁ・」

 

そういうと滑り落ちた少女達は起き上がった。

一人はパッと見では霧先よりも少し年上位の見た目で、小豆色の髪を黄色いリボンでまとめており、髪と同じ色の目は透き通っている。

服装も、今の時代では珍しい小豆色の着物と桃色の袴であった。

もう一人は中学生ぐらいで紅色の長い髪を赤いリボンで二つに分けて結っており、服はノースリーブにスカート、しかもへそ出し状態という開放的な服装であった。

そんな服装を気にすることもない霧先は平然と少女達に声をかけた。

 

「僕は霧先友成!お姉ちゃん達は?」

「私?私は・・・・・神風型駆逐艦一番艦、神風よ。」

「白露型九番艦、改白露型駆逐艦の江風だ。」

「かみかぜがた?しらつゆがた?くちくかん?良く分からないけど宜しくね、神風お姉ちゃん、江風お姉ちゃん!」

 

神風と江風を恐れることなく、純粋無垢な笑顔をむける霧先。

そんな笑みを向けられた神風と江風は自然と笑顔になった。

それからはトントン拍子で進んでいった。

霧先は毎日神風と江風に会うために神社へと赴き、そこで神風からいろんな遊びや話を教えてもらい、江風と日が暮れるまど遊んでから家に帰る。

そんな日々を繰り返していくうちに、霧先と神風、江風の仲は急速に深まっていったのだった。

 

 

 

 

そして幾日か立った日の夕方、霧先はいつも通り二人に別れを告げて帰路へ着いた。

その姿を見送った二人は夕暮れに目を向けて言葉を漏らした。

 

「あれから60年ね・・・・。」

「終わったのって45年だっけ?江風は43年に沈んじまったからなぁ。」

「そうでしたね・・・あれから60年、日本は変わり子供たちも変わったわ。」

「だな~空襲やら配給に悩まされる事もないし、平和だよな。」

「・・・・この先の日本が心配ですが。」

「あぁ、自衛隊だっけ?世知辛い世の中だよな、自分たちが助けてもらってるのがどーして分かんねえんだか!」

「カッカしないでください・・・少なくともこれから変わる余地はありますから。」

「かねぇ?」

 

日本の変化と今後について話し合いながら沈む太陽をみる神風と江風。

嘗て祖国の為に決死の想いで戦った軍艦たちは、太陽が沈み切るまでを眺めていた。

 

 

 

 

「・・・・。」

「ほら友成、早くいかないと。」

「やだ・・・。」

「おいおい、親父さんを困らせるなよな?」

「でもお姉ちゃんたちと居たい!」

 

霧先が引っ越すことになった日、霧先は神社で駄々をこねていた。

どうしても神風と江風と離れたくない霧先は二人の説得に耳を貸さなかった。

 

「友成!いい加減にしなさい!日本男児たるものが駄々をこねてどうするのです!」

「だ、だって!お姉ちゃんたちと居たいもん!}

 

神風が声を張り上げて叱るが、それでも霧先は納得しなかった。

その様子に江風はお手上げ状態だった。

 

「ここまで懐かれるとはなぁ・・・しゃあねぇ、約束するか。」

「そうね・・・友成、私たちはいつか必ずああなたの所に戻る。だからこれを持って待っててくれる?」

 

奥の手を取り出した神風と江風。

それは指二本分程の木の板で、両面に神風と江風の名前と艦種、艦番号が彫られていた。

 

「これを・・・?」

「そう、絶対に戻ってくるから。」

「約束だぜ!」

「・・・わかった、絶対だよ!」

 

神風は微笑みかけ、江風はにんまりと笑って霧先に約束をした。

霧先もそれを了承し、木の板を受けとってから二人に別れを告げた。

 

「・・・またね、神風お姉ちゃん、江風お姉ちゃん。」

「ええ、またね。」

「またな、友成!」

 

二人との別れを終えた霧先は神社の階段を駆け下り、自分の家へとひた走った。

その後姿を見送った神風と江風は境内で立ち尽くしていた。

 

「・・・・顔がすごいことになってますよ。」

「だってぇ・・・!友成が引っ越すんだぞぉ!!スビッ!」

「はぁ、とりあえず鼻水を洗い落してください。私たちも行かないといけないんですから。」

「・・・・本当に、会えるのかな?」

「そこは神頼みです。さぁ、行きましょう。」

 

そういった神風の姿はだんだんと透けていき、江風の姿も透けていった。

そして完全に二人の姿は見えなくなり、境内には静寂のみが取り残された。

寂しい風が吹く中、一枚の桜の花びらが舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁあ・・・朝か。」

 

その出来事から10年後、成長した霧先は軽巡寮内にある自分の部屋で起床した。

目覚まし時計を切り、のそのそとベットから起き上がる。

手短なところに置いてある自分のスマホで時刻を確認し、立ち上がってから湯沸かし器の電源を入れる。

そして湯が沸いてからコーヒーを一杯淹れて一息つく。

 

「久しぶりにあの夢だよ・・・・。」

 

霧先は自分のスマホに取り付けてある木の板を眺めながらそう呟く。

淹れたコーヒーを飲み干すと、早々に部屋を出て食堂へと向かい、朝食をとって今日も業務を再開する。

姉と慕った少女達との再会を心待ちにして。



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第伍拾参戦目「頑張っていきましょー! 下」

月明かりが高台の崖を照らし、波の音が静寂をかき消す中で、吹雪は睦月に謝った。

 

「ごめんね。いろんなことが急に起こって・・・・目の前の欲に目が眩んじゃってて・・・。」

「ううん、吹雪ちゃんの気持ちはよくわかってるつもりだよ。私の方こそごめん・・・。」

「ううん・・・・。」

「どうしても怖くなっちゃって・・・。」

 

睦月が激怒した理由を聞いた吹雪は静かに立ち上がった。

そして睦月にあることを離し始めた。

 

「あのね、私・・・・工廠長に怒られちゃったんだ。『そんなもので築き上げた練度には意味がない。そもそも『みらい』の護衛艦にも選考は無理だ。練度は確かに身を削って積み上げるもの。だけど死にかけていては元も子もない。『みらい』乗組員にも死者が出るところだった。お前は家族や友達を平気で見捨てる気なのか。』って、凄い剣幕で怒鳴られちゃった。」

「あの優しい工廠長さんが?」

「うん。今考えたら・・・工廠長は私が自分で気づくように説教してくれたのかも。自分がどれだけの事をしでかしたのか。」

「工廠長さんが・・・・。」

「うん。・・・・考えてみたら夢からかけ離れたことしてるなぁって思ったし。」

「夢?」

「誰かの役に立つこと。どんな些細なことでもいい、みんなの役に立ちたいの!」

「じゃあ、みらいさんや赤城先輩の護衛艦になりたいって言ったり改になろうとしたのも?」

「うん。前の鎮守府では足を引っ張ってたから・・・誰かの役に立ちたくて。」

「そっか・・・。」

 

睦月は吹雪の夢を聞いて目線を下げた。

 

「ごめんね・・・。」

 

吹雪は睦月が立ち上がると、彼女に向き直って手を握りしめながら約束をした。

 

「睦月ちゃん・・・ごめんね。二度とあんなこと、しないから。」

「うん、約束だよ吹雪ちゃん。」

 

その一部始終を赤城と加賀は少し離れたところから見ていた。

吹雪が約束した時、赤城は加賀にある言葉を漏らした。

 

「以前、提督に言われたことがあるんです。私の随伴艦は、私が決めなさいと。」

「赤城さん・・・。」

「勿論、霧先君にも言われました。そして今、その時が来たようです。」

 

赤城の言葉に加賀は何も言えないままだった。

加賀が見た吹雪を見つめる赤城はまさに、戦闘時の肝の据わった凛とした眼であった。

 

 

 

 

数日後、朝早くから戦闘指揮室には多くの人物が詰めかけていた。

長門、陸奥、大淀はもちろん、「みらい」幹部である梅津、角松、菊池、尾栗も入室しており、当然のことながら臨時提督である霧先も部屋にいた。

そして全員がミッドウェーの図面を見ていると、通信係である大淀から新しい情報を聞かされた。

 

「戦力が増強されている?間違いないか?」

「はい、水上機母艦の千歳、千代田、並びに護衛艦ゆきなみが確認しています。」

「やはりか・・・。」

 

長門は予測していたことが的中し、図面をにらみ始めた。

昨夜の混線の原因を霧先と明石調べたところ、別の通信機との交戦域に接触してしまい、混線が多数発生。

しかもそれはかなりの数の通信が混ざり合っていたということだった。

それを聞いた長門は、その周辺にある島が怪しいと踏んで偵察隊を派遣したのだった。

予想は見事的中。ゆきなみ、千歳、千代田の三名によって大収穫といえる情報が手に入ったのだった。

 

「重要拠点であれば、情報伝達の量は多くなる。」

「航空戦力もかなりの量が集結しているな・・・。やはり・・・。」

「でも、あくまで可能性の話よ?」

「わかっている・・・。」

 

ミッドウェーを駐屯地AMと断定しようとする長門に陸奥がストップをかける。

必ずしもここがAMとは限らないと陸奥は考えていたからのことであり、長門もそれはわかっていた。

だが尾栗は陸奥に対して抗議し始めた。

 

「おい陸奥、こりゃどう見たってミッドウェーが駐屯地AMだろう?こんだけの戦力が集中してるんだ、ここじゃないはずがないだろう!?」

「落ち着け尾栗。たとえここがやつらの拠点だったとして、AMとは限らんだろう。」

「だが洋介、これだけの戦力が集中している。十分に足る確証だと考えていいだろう。ゆきなみのデータで艦種も把握済み。これは大きな確定的情報だ。」

 

尾栗と菊池からAMがミッドウエーであることを断定する意見が出たことから、角松は艦長である梅津に意見を聞いた。

 

「艦長、どう思われますか?」

「我々だけの判断ではいささかまずいだろう。ここは、この鎮守府の最高責任者に決断してもらうほかあるまい。」

 

梅津はそういって霧先に目を向けた。

梅津自身もいささか苦ではあるとは思っていたが、ここは海上自衛官である自分が答えるべきではないと考え、霧先に決断をゆだねた。

霧先もそれを理解していたようで、梅津に言われてすぐに答えを出した。

 

「・・・指令書に残された駐屯地AMはMIと断定、直ちに攻撃計画を練ることにする。」

「了解しました。」

 

長門と陸奥、大淀は霧先の決定を聞くと、早々と準備に取り掛かった。

決断をしてしまった霧先は戦闘指揮室の窓から水平線を眺め、今後の出来事を警戒していた。

 

 

同刻、艦娘寮の前では吹雪が身体を伸ばしていた。

服装はいつもの朝のランニングスタイルで、まさに今走り込みを始めようとしていた。

 

「よし!」

 

吹雪は気合を入れると太陽を背に走り出した。

だが走り始めて数メートルもいかないところで吹雪は足を止める。

突然聞こえた音の方へ視線を向けると、三機の零戦がそれを駆け抜けていった。

 

「あれは・・・。」

「おはようございます、吹雪さん。」

「あ、赤城先輩!」

 

声を掛けられた吹雪が振り返ると、そこには赤城が立っていた。

朝早くから赤城がここにいると思っていなかった吹雪は少々思考回路が停止するが、赤城に言葉を投げかけられて再起動する。

 

「どう?新たな自分は見つかりそう?」

「あ、はい・・・頑張ってはいるんですけど・・・・。」

「そうですか・・・実は、貴方にお願いがあってきました。」

「え?」

 

赤城の唐突な言葉に吹雪の頭の中は疑問符で埋め尽くされた。

何故早朝から自分を訪ねてきたのかわからない吹雪は、赤城に言われるがままに服を着替えた。

心当たりさえ無い吹雪は内心ビクビクと緊張しながら赤城の後をついていく。

そして連れてこられたのは人気のない桟橋だった。

そこで、赤城から吹雪へと驚愕の言葉が告げられた。

 

「随伴艦・・・ですか?」

「えぇ、受けてくれるかしら?」

「私が・・・。」

 

赤城から告げられた言葉、それは吹雪に赤城の随伴艦として作戦へ参加してもらうことであった。

吹雪からしてみればまたとないチャンス。それをわかっている吹雪はすぐに返事を返したかったが、それはできなかった。

何かが吹雪の胸に突っかかり、返答をさせなかったのだ。

吹雪が返答できずにいると、彼女の後ろからもう一人やってきた。

 

「赤城さん。」

「加賀さん・・・。」

 

やってきたのは加賀であった。

普段から無表情や表情が硬いなどと評される加賀であったが、今回ばかりは真剣な顔をしているのが見て取れる。

そんな加賀は来て早々に自分が思っていることを二人へ言い始めた。

 

「赤城さんの意思は尊重したい。けど、貴方は私・・・いえ、連合艦隊にとって書くことのできない一航戦の正規空母。・・・・吹雪さん、貴方に赤城さんを守る力があるのか、試させてほしいの。」

 

加賀が吹雪へ求める実力、それは至極真っ当であろう。

吹雪に赤城を守るだけの力が無ければ当然部隊壊滅への糸口となってしまい、被害は計り知れない。

今回の作戦なら当然ともいえる加賀の意見に、吹雪は何も言い出せなかった。

 

「無理だというのなら、今ここで辞退して貰うわ。そのために、寝ている彼を叩き起こしたんですからね。」

「ぶん殴ってまで叩き起こしておいて置いていくのはどうなんですかねぇ・・・・。」

 

遅れて桟橋へとやってきたのは何と霧先だった。

普段通りであれば現在の時刻は部屋で仮眠をとっている彼は今朝早々に加賀によって殴り起されていた。

そして起こされた理由も知らされぬまま、加賀の後追って遅れてやってきたというわけであった。

遠くから話の断片を聞いて大方の現状を把握した霧先も、吹雪へ言葉をかける。

 

「吹雪、僕は赤城さん自身が選ぶことに問題はないと感じてはいる。とはいえ僕も艦隊規模で考えると不安感が残る。加賀さんの言う通り、今ここで君の現状を見て最終的な判断を下したい。やるか?やらないか?」

「私は・・・。」

 

霧先からの問いに吹雪は拳を握り締め、深呼吸をしてから答えた。

 

「やります・・・やらせて下さい!!」

 

 

 

吹雪の答えによって即座に演習の準備が用意された。

艤装を纏った吹雪は呼吸を整え、いつでも動ける状態で待機していた。

そんな中、工廠区画の倉庫からいくつかの木箱を持ってきた霧先が到着する。

一見すると陸上自衛隊の砲弾用の木箱にも見えるそれには「訓練用九九式艦上爆撃機」や「訓練用零式艦上戦闘機」という文字が刷られていた。

霧先は箱についている南京錠を外し、中に入っていた矢を赤城と加賀の矢筒に入れていく。

そして既定の本数入れると、それを赤城と加賀に装備させてから、箱と一緒に少し離れた位置へと退避した。

 

「今度の戦いは機動部隊同士の航空戦が予想されるわ。護衛艦として、防空能力も必要。」

「はい!」

「今から演習用の機体を放ちます。その攻撃をよけながら、全機撃破してみせて。」

「お願いします!」

 

加賀から概要を聞いた吹雪は大きな声で返答し、それを聞いた霧先が号令を出した。

 

「全艦準備完了、教練対空戦闘用意!」

 

霧先の号令と共に赤城と加賀は矢をつがえて目一杯まで引く。

 

「教練対空戦闘開始!!」

 

そして開始の号令と共に弓矢を放った。

放たれた矢は光りながら艦載機へと姿を変え、吹雪へと機銃掃射を掛ける。

吹雪も負けじと対空砲撃を行い、撃墜はするものの機銃掃射によって隙を見せ、航行不能判定を出してしまう。

当然加賀がそれを見過ごすはずもなかった。

 

「それでは赤城さんの護衛艦を務めさせるわけにはいかないわ!もう一度。」

「はい!」

 

吹雪はへこたれることも無く、再び赤城と加賀の航空隊へと立ち向かっていった。

 

 

 

やがて時が過ぎ、朝の講習の時間となった。

各教室では受講者の艦娘が集結しており、駆逐艦娘のクラスも殆どが既に教室に集まっていた。

その中で睦月が吹雪を見かけないため、近くにいた電に尋ねた。

 

「吹雪ちゃん?来てないのです・・・。」

「え?トレーニングに行ったまま戻ってきてないからてっきり・・・。」

「まだ走ってるっぽい?」

 

睦月と夕立はまだ戻ってこない吹雪をおかしく感じ、どうすべきかと考え始めた。

その時、教室のドアが勢い良く開けはなたれて一人の自衛官が駆けこんできた。

 

「あ、尾栗三佐っぽい!」

「おぉ、夕立!おまえら大変だ!今演習場で吹雪が!」

「えっ!」

 

 

 

演習場ではもう何度目になるかわからない対空戦闘に吹雪が息を切らし始めていた。

だが、加賀は手を緩めようとはしなかった。

 

「もう一度!」

「はい!」

 

再び艦載機が発艦して機銃掃射を行い、それに負ける事無く、吹雪も対空砲撃で応戦する。

だがどうやっても隙を見せ航行不能判定になり、やり直しになっていく。

騒ぎを聞きつけた艦娘や自衛官、妖精たちによってごった返す演習場に、夕立と睦月もやってきた。

 

「早く立って、それとも諦める?」

「やります!」

 

吹雪は何度でも立ち上がった。

睦月にはそれは耐えられたい光景だった。

ただ友人が何度も攻撃される姿を、訓練とはいえ何度も観るのは睦月にとって拷問であった。

だが吹雪はあきらめない。

既に吹雪は中破しており、下手をすればこのまま演習を続行するのは無理であった。

 

「もう無理だよ・・・もう!」

「駄目!」

「吹雪ちゃん・・・!」

「私、赤城先輩の護衛艦になりたいの・・・!誰かの役に立ちたいの・・・!」

「吹雪ちゃん・・・・。」

「お願いします・・・もう一度・・・・・もう一度・・・・」

 

睦月からの制止を無視してでも演習を続けようとする吹雪。

だが、彼女の疲労と艤装の損傷は限界を突破しており、その場に崩れ落ちた。

 

「吹雪さん・・・・。」

「行きますよ!」

「赤城さん!?これ以上は危険です、もう吹雪の疲労も艤装の損傷も限界です!」

「あなたは黙ってなさい!」

 

これ以上の演習は危険だと判断した霧先が演習の中止を呼び掛けるも、赤城は一蹴した。

そして霧先が黙り込んだことを確認すると、今度は吹雪を掻き立てた。

 

「・・・立ちなさい、あなたのこれまでの努力はそんなものではなかったはずです!」

「先輩・・・。」

「私は知っています、海上を進むことすらままならなかったあなたが、悖らず恥じず恨まず、いかに前を向いて歩いてきたか!あなたなら、できるはずです!立ちなさい!」

 

赤城に言われ、もはや安定して立ってること自体が不思議な状態になっているにもかかわらず、吹雪は立ち上がって砲を構えた。

その眼には囂々と燃える意思が垣間見えていた。

 

「吹雪ちゃん・・・。」

『誰かの役に立ちたいの。』

 

吹雪が先日言っていた言葉を思い出した睦月は吹雪の中で燃えるものが何かわかったような気がした。

今の彼女の原動力、それは誰かの役に立ちたいという気持ち。

ただそれは自分が役立たずであるからという理由ではない。

彼女自身が誰かを助ける役に立ちたいと思うからこそ、いま彼女は立ち上がれると睦月は感じた。

そして再び演習が始まった。

吹雪は絶え間なく攻撃してくる零戦の動きを予測しながら機銃掃射回避し、対空砲撃を行う。

対空砲撃もやみくもに打つのではなく、相手の行動を予測して砲撃を行い、一撃一撃を見事に命中していく。

その光景はさながら護衛艦の対空射撃とも遜色ないほどであった。

ついにあと1機を残し、吹雪は最終攻撃の構えをとる。

 

「あと一機!頑張っていきましょー!!!」

 

睦月からの応援も入るが流石は一航戦の艦載機、吹雪の砲撃をかわして攻撃を加えて旋回する。

今までの吹雪ならここで海面に叩きつけられているのだが、今回は違う。

後ろに飛ばされながらも砲を構えて突入してくる艦載機に照準を絞る。

 

「いっけぇええ!!!」

 

吹雪の最後の一撃は見事最後の一機を粉砕した。

だからと言って吹き飛ばされた際のエネルギーが消えることはなく、吹雪は海面に打ち付けられながら沿岸部へと激突した。

その際に起きた水柱で霧先が吹き飛ばされ、睦月と夕立に水がかかる。

水柱が消え去り、全員がその場を覗き込むと、そこには息が絶え絶えになった吹雪がうつ伏せに打ち上げられていた。

 

「吹雪ちゃん!」

「吹雪!大丈夫か!」

 

睦月と夕立、霧先がかけより、吹雪を起こす。

息切れを起こしているものの、吹雪の意識はしっかりとあり、三人は安堵していた。

 

「吹雪さん、よく頑張りました。」

「ははは・・・ありがとうございました赤城先輩。」

 

吹雪へ慰労の言葉を述べた赤城に吹雪は感謝の言葉を述べる。

すると突然吹雪の体が発光し始めた。

これは夕立に起きた現象と同じであり、吹雪の練度が改造可能連弩に達したことを意味していた。

 

「上々ね、すぐに工廠へ来なさい。」

「は、はい!」

「よし、睦月と夕立は吹雪を工廠へ、あとで僕も行くから。」

 

睦月と夕立に運ばれていく吹雪を見送った霧先は一息ついてから赤城と加賀に向き直った。

 

「・・・・改造は僕の仕事なので、赤城さんと加賀さんは後片付けお願いしますね。」

「えっ!?」

「当然でしょうが!あれだけ危険な演習したんですから当然の罰です!それとも、ロクマルからひもなしバンジーで、これから一か月、間宮抜きのほうがいいですか?」

「喜んでさせていただきます!」

 

全く威厳のない一航戦の敬礼が披露され、その場にいた全員が緊張から解き放たれたのと、威厳のない二人を見て何とも言えない心情になり、苦笑いをするしかなかったのであった。

 

 

 

演習が終わり、吹雪の改造が始まって1時間後。

工廠ではいよいよ新しい吹雪の姿がお披露目されることとなった。

 

「いい?」

「いいよ。」

 

睦月から許可をもらった吹雪はカーテンを押し広げて個室から出る。

そこでは夕立と睦月が姿鏡をもって待機しており、吹雪は改造後に初めて自分の姿を見た。

 

「わぁあ・・・これが改?わぁ・・・ほあぁ・・・・ん?」

 

新しい自分の装備に目を光らせる吹雪だったが、ある一点に注目した際に一気にテンションが落ち込んだ。

 

「あれ?・・・・あれぇ!?」

「あんまり変わらないっぽい?」

「夕立、きっぱり言いすぎだよ・・・・。」

 

普通に吹雪へ止めを刺そうとする夕立に霧先は頭を抱える。

 

「よかったね。」

「よくないよぉ!まさか、改装されてないとか?」

「いや、たしかに僕が改造したんだけど・・・。」

「そんなことないよ!ほら、長10cm砲になってるし、服もちょっと変わったし。艦娘によっては姿が変わらないこともあるんだって。」

「そうなの?」

 

吹雪は半信半疑ながら睦月の言葉を聞く。

目の前には親友の夕立が持つ女性らしく発達した胸部装甲が鎮座しており、吹雪は自分の胸へと手を当てた。

だが現実は非情であり、吹雪の胸部装甲は相変わらずな厚さを維持していた。

 

「うぅ~・・・なんか頑張ってちょっぴり損した気分。」

「そんなこと言うなよ・・・吹雪の改装は特別なんだぞ?」

「特別?」

「あぁ、別鎮守府の吹雪たちから改装のデータを集めて僕と明石さん、夕張さんで試しに作ってみた改装案なんだ。」

「そしたら思いのほかうまくできちゃって。改二の可能性も出てきたんだよねぇ」

「うっひゃあぁぁ!!!」

 

霧先が吹雪に改装の特別さを伝えた時、後ろから夕張が現れた。

予期していなかった霧先は叫び声をあげながら飛び上がった。

 

「し、心臓に悪い・・・。」

「ごめんごめん・・・。」

「あ、あの!夕張さん、改二の可能性って・・・。」

「あぁ、それね。吹雪ちゃんやほかの鎮守府の吹雪ちゃんのデータをもとにより強い改装ができそうなの。」

「だから、期待して待っててね!」

「だっひゃぁぁぁ!!」

 

次は夕張の説明に明石が割って入り、霧先は再び飛び上がって今度は床に倒れこんだ。

 

「も、もう死ぬ・・・・。」

「あははは・・・・。」

 

吹雪たち三人はしてやったりという明石と夕張の笑みを見て、苦笑いをしながら佇んでいた。

そこに丁度赤城がやってきた。

 

「赤城先輩!」

「吹雪さん。約束通り、次の戦いの随伴艦はあなたにお願いします。引き受けてくれますね?」

「・・・は、はいっ!!」

 

今までのひたむきな苦労が報われた吹雪は、遂に赤城の護衛艦となることができたのであった。

 

 

 

事の全てが終わり、赤城は作戦指揮室で一連の出来事を長門へと報告していた。

 

「そうか、ご苦労だった。」

「いえ、私も望んでいたことですから。」

「ですが、何故提督はそこまで?」

「私にも分からない。ただ、指令書に書かれていたのだ。『駆逐艦吹雪が、この作戦の鍵となる』とな。」

 

指令書に記された不可解な一文に四人は頭を悩ませ続ける。

だがその答えは当分出ないだろうという可能性が、四人の頭にほんのりと浮かんでいた。

 

 

 

その頃鎮守府近くの崖では、吹雪が夕日を眺めていた。

 

(赤城先輩の護衛艦になれた!・・・・でも、これはゴールじゃなくてスタートなんだ!)

 

「よーし!頑張るぞー!!」

 

夕日に包まれる中、吹雪は拳を天へと突き上げ、これからの出来事へ向けて気合を入れるのだった。




えっと・・・あけましておめでとうございます(殴
天城「で?」
ショートランド泊地に着任(殴
土佐「綾波さんを沈めましたよね?」

いやーすみません。ここのところ筆が進まず劇場版三回見にいってさぼってました(殴
その上に設定上のミス発覚。
(主人公2014年から来てるのにアニメ版知ってるっておかしいだろ、私ってホントバカ)
とまあ、2017年もよろしくお願いします(砲撃)
吹雪「こんな司令官ですみません」(土下座)


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第伍拾肆戦目「MI作戦 ! 発動 ! 上」

お久しぶりです・・・
陸自のお仕事は忙しくて更新できてませんでした・・・ごめんなさい
あ、あと活動報告の方でアンケート募集しているのでお願いします


薄暗い海、その上を飛ぶのはエンジンから火を上げた零式艦上戦闘機。

機体に書かれている識別帯から赤城航空隊所属の戦闘機であることがわかる。

だがその機体もすぐに撃墜される。

数多くの深海棲艦の艦載機、それの餌食となっていく一航戦、二航戦の航空隊。

助けも無く、唯々撃墜される航空機を尻目に何とか逃れようと赤城と加賀は回避行動を続ける。

加賀は既に大破して自力での高校が不安定であり、赤城は加賀に肩を貸した状態で逃げ回っていた。

変わらない現実、変わらない運命。

三隈、蒼龍と次々に仲間が沈んでいく。

それに絶望している赤城に一発の爆弾が降りかかってきた。

 

「ごめんなさい・・・雷撃処分・・・してください・・・」

 

赤城の最後の願い、それをくみ取った僚艦が最後に手を添えることになった。

駆逐艦達が魚雷を赤城に向け、発射。

雷跡を描きながら一直線に魚雷は赤城へと向かっていった。

 

 

 

「・・・!」

 

魚雷が着弾する直前、赤城は目を覚ました。

息を荒げながら起き上がると、そこは一航戦の2人の部屋で、隣では加賀がまだ寝ていた。

時計を見ると、時刻はまだ0524、午前5時24分であり、総員起こしまで30分程時間があった。

 

(また・・・あの夢・・・作戦が決まってから毎晩のように・・・あれは・・・)

 

自分の過去にそっくりな悪夢に険悪感を覚えながらも、上着を羽織ってから立ち上がって窓辺へと近寄る。

カーテンを開けると、丁度運動場のトラックを吹雪が走り込んでいた。

 

「赤城せんぱーい!おはようございまーす!!」

 

大きな声で赤城への挨拶をする吹雪。

そんな彼女に赤城は笑顔で手を振りながら答えた。

だが内心、彼女は不安と心配の渦が入り乱れ、大きなうねりを作り上げていた。

この時、友成による「MI作戦」発動まで22時間を切っていた。

 

 

 

作戦指揮室では友成が頭を抱え、長門が手を組みながら肘をついて考え込んでいた。

 

「まだ決まらないの?いい加減決めないと、皆浮足立っているわよ?」

「分っているんだがな・・・どうも決め手に欠けるんだ。どんな編成にしてもこれで良いという確証が得られない」

「加えてこの鎮守府には100以上の艦娘が在籍してます。遠征、訓練、警備にどのように回すのかも問題になりますし、何より一番の問題は自衛隊の艦です」

「確か・・・大本営から作戦参加停止命令が出たのかしら?」

「ええ・・・」

 

陸奥の言葉に顔を歪めながら頭を抱える友成。

原因は先程も陸奥が言っていた大本営からの自衛隊の護衛艦の参戦停止命令だった。

大本営曰く「高度な技術力を持つ艦を激戦地に派遣した際の損害は大きい」ということだった。

これはあくまで表の意見だろうが、友成が推察するに、これによるMI作戦失敗とその責任追及を友成に負わせ、護衛艦を確保、研究する気ではないかということであった。

もし悪用を目的とした軍部の人間の手に渡れば日本が再び軍国主義に目覚めてしまう可能性があり、自衛隊としては断じてそんなことになってはならないのである。

無論、大本営の指示など防衛省所属の自衛隊には無効であるが故、抜け道はいくらでもある。

だが表だってやってしまえば、大本営の軍人たちが騒ぎ立てるため、友成と長門は切り札である自衛艦隊が使えず頭を悩ませていた。

友成と長門の二人が長い溜息をついて再び編成表に向き合おうとしたとき、部屋がノックされた。

 

「はい?」

 

陸奥が応えると扉が開かれ、普段の弓道着を着用した赤城が入室してきた。

 

「一航戦、赤城です!霧先提督代理及び長門秘書官に意見もうしたいことがあり、参りました」

「意見・・・ですか?」

「はい、MI作戦における私の第一機動部隊の編成について少し考えるところがありまして・・・今の編成案を窺ってもよろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ」

 

友成は赤城の申し出を快諾すると、手元にあった編成案を手渡した。

 

「一応五航戦のお二人もいれる予定だったんですが・・・修復バケツが底をついている所為で修理が間に合わないんですよ。」

 

申し訳なさそうに言う友成だったが赤城の変化を見逃さなかった。編成案を見た赤城の目が微かに歪んでいたのだった。

赤城が見た編成表にはあの悪夢と同じ艦娘の名が載っていた。それだけで赤城の不安感は一気に増していた。

たまらず、赤城は言葉を口に出した。

 

「お願いがあります」

「お願い・・・ですか?」

 

唐突な赤城の言葉に友成と長門の頭は疑問符しか浮かばず、お互いの顔を見合った。

 

 

 

6時間後、昼前を迎えた食堂では第六駆逐隊の面々が集結してた。

その中でも雷は何故か牛乳を睨みつけていた。

 

「雷ちゃん。牛乳ちゃんと飲まないとダメなのです」

「立派なレディになれないわよ」

「分かってる!フルーツ牛乳なら飲めるのに・・・」

 

雷が牛乳を睨みつけていた理由、それは苦手で飲むのを躊躇しているという理由だった。

何の罪もない牛乳は睨み付けられた上、それに少し味を付けただけのフルーツ牛乳に敗北する始末。

一体どこで差がついたのか。一体牛乳が何をしたというのか。もはや牛乳に相談ではなく、牛乳が相談するレベルであった。

 

「高雄さんや愛宕さんはミルク好きっていうよね」

「それね!それが秘訣なのね!!」

 

響の発言によって謎の方程式からある答えを導き出す暁。

もはや日常茶飯事なので、電も雷も苦い顔をしながら特に気には留めず、止めようともしなかった。

 

「あと、もし私たちが明日の作戦に参加することになったら・・・」

「ミルクは栄養たっぷり!出撃前には体にいいのです!」

「そ、それもそうね・・・よーし!」

 

もしもの時に備えて栄養を補給するように、響きと電に勧められた雷は意を決して牛乳を飲んだ。

その横では吹雪がジョッキに目一杯注がれた牛乳を飲み干していた。

 

「プハー!」

「吹雪ちゃん凄い!」

「新記録っぽい?」

 

傍から見ればビールを一気飲みしている酔っ払いのような一連の動作に睦月は感嘆の声を上げ、夕立は新記録を超える勢いの吹雪に驚愕している。

 

「改になってから、前よりももーっとごはんがおいしくて、いくらでも入っちゃう感じなの!」

「流石、赤城先輩の護衛艦だね!」

「えへへ~」

 

理由を聞いた睦月は何故かすごいと吹雪をほめる。

ここに友成やその他常識人の人間がいれば「違う、そうじゃない」とツッコミが入るだろうが、あいにく現在、食堂にはツッコミ要員がいないという悲惨な状況である。

ときにはツッコミに回る夕立も、今回はボケのようである。

それを見ていた雷は意を決して牛乳を飲もうとする。しかし、丁度その時にブザーが鳴り、放送が入った。

「秘書官の長門だ、皆そのままで聞いて欲しい。これより、明日実施されるMI作戦の艦隊編成を発表する。まずは、本作戦の要となる第1機動部隊から。一航戦、赤城、加賀。二航戦飛龍、蒼龍。護衛として戦艦金剛、比叡。重巡利根、筑摩。雷巡北上、そして駆逐艦夕立、吹雪!」

 

編成が発表され、意気込む艦娘達。夕立と吹雪は顔を見合わせ、共に頑張ろうと視線を交わした。

尚、大井は北上と同じ艦隊に含まれておらず、この世の終わりのような顔をしていた。

 

「また、攻略の主力艦隊には本鎮守府から戦艦榛名、霧島、雷巡大井がトラック島から出撃する大和を旗艦とした艦隊と合流することになっている」

「大和さん、とうとう出撃するんだ!」

「さらに本作戦には、攻撃目標が駐屯地MIであることが敵に悟られぬよう、陽動部隊を駐屯地ALに向けて出撃させることも含まれている。AL作戦には、他の鎮守府から隼鷹と龍驤が参加する。この2艦の軽空母と共に重巡那智、軽巡球磨、多摩、駆逐艦暁、響、雷、電、以上が参加する。」

「他の艦娘達には鎮守府及び近海域の警備にあたって貰う。諸君の検討を期待する!」

 

唐突な任務と編成に艦娘たちは動揺するも、その殆どが息巻いていた。

無理もない。元々は軍艦、血気盛んなのは生まれながら必然な事象と言えよう。

そんな艦娘達の合間を縫って、とある艦娘達が吹雪達の元へ近づいた。

 

「改になったんだし、しっかりやるのよ!吹雪!」

「今回だけセンターは譲るから!」

「夕立ちゃんも頑張ってね!」

「はい!」

 

川内、那珂、神通からの激励を受け、夕立と吹雪は声を合わせて答える。

そんな二人を見て、睦月は笑顔を更に深まらせた。

 

 

 

賑やかな鎮守府内でも重い空気が流れる場所はある。作戦指揮室はその一つと言えよう。

発表してからも、霧先と長門は頭を抱えて悩んでいた。

 

「二人とも本当に良かったの?最初は舞風達第四駆逐隊を編成に・・・という案もあったのでしょう?」

「そうですか、あのように言われてしまっては・・・」

 

霧先たちが編成を変更した理由は、赤城からの意見具申があったからだ。

赤城が変えるように具申した理由、それは彼女が感じた違和感から来たものだった。

彼女はそれを【定めの頸木】と称し、長門にも感じたことがないかを問う。

頸木とは牛などに物を引かせる際の道具であり。それをつかって作り上げたこの例え言葉は言い得て妙といえよう。

少なからず感じていた長門も、この言葉には黙り込んでしまう。霧先も同じであった。

そして、赤城は「もしそんなものが存在するなら、それに抗いたい」と言ったのだった。

そこまで言われてしまった以上、二人とも赤城の意見に首を横に振るわけにもいかなかった。

こうして第四艦隊の参加は見送られたのだった。

 

「よかったの?」

「正直、色々思う点はある。他鎮守府でも報告されている前世通りの編成での敵艦隊撃破とその艦隊以外での撃破不可。極めつけは轟沈した艦娘のうち、少なからず前世と同じ海域で沈んでいる者もいる」

「奇妙な事ですが・・・確かに運命が働いているのかもしれません・・・有り得ない力・・・全く使う意味は違いますが、【見えざる神の手】とでも言いましょうか」

「【神】か・・・そんなものがいるなら聞きたいものだ。過去の大戦や、今の戦いで散っていった者たちの運命というものを」

 

誰に向けたものかわからない皮肉を飛ばす二人を見て、陸奥は心配になっていた。

二人ともすでにかなり疲弊している。長門は艦隊業務に補佐、霧先は提督業に艦長職務を行っている上に大本営から嫌味を含めた発破をかけられる。

そんな状況では疲弊しないのもおかしい話であった。

 

最も、そのすぐ後にそこに北上と別艦隊になったことで怒り心頭となった大井がカチコミに来ることになるのではあるが。

 

 

 

夕暮れの埠頭で、赤城は艦載機を格納していた。そこに丁度、吹雪が現れ声をかける。

2人は並んで埠頭に腰掛けて夕暮れに照らされた海を眺める。

 

「明日の準備は、出来ましたか?」

「はい、やっと先輩と一緒の艦隊で戦うことが出来ます!これもみんな、先輩のおかげです!ありがとうございます!」

「それは違いますよ。本当に誇るべきなのは諦めず努力し続けたあなた自身。私は少しだけ手を貸しただけです。全ては貴方の生き方や考え方が実ったものなのですよ」

「赤城先輩、私この鎮守府が大好きなんです!睦月ちゃんや夕立ちゃん、三水戦の川内さん達、金剛型のお姉さんたちや第五遊撃隊の皆さん・・・暁ちゃんたちや高雄さんや最上さん。間宮さんや利根さん、島風ちゃん、工廠長に海上自衛隊の皆さん。そして、赤城先輩。この鎮守府に来て、皆凄いなって!みんな素敵でかっこよくて・・・私もみんなの仲間に・・・この鎮守府の本当の中になりたいって、そう思ったんです。だからやっぱり、私が頑張れたのは皆のおかげで・・・だからやっぱり、ありがとうございます!」

 

吹雪の言葉を聞き届けた赤城は吹雪に向かって立つ。その真名時は真剣であった。

 

(提督が果たしてこのたった一隻の駆逐艦に何を見出したのかはわからない、けれども打てる手は打った、後は抗うだけ。今はこの子の信念、想い、眼差しには答えなくてはならない。それが先輩である私の務めだから・・・!)

 

「勝ましょう!吹雪さん!」

「はいっ!」

 

波止場で確かな意思を心に決めた二人。夕日が彼女たちの航路を静かに燃えるような光で灯す。

MI作戦開始まで残り9時間、運命は近づく。




始まるMI攻略作戦
太平洋で始まる大海戦の勝利はどちらの手に渡るのか!?
運命に抗う艦娘達の未来は・・・

次回「MI作戦 ! 発動 ! 下」

人は敷かれたレールしか歩けないのか?


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