インフィニット・ストラトス ~神に抗った少年と少女の物語~ (ぬっく~)
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ネタバレも含んでいるので、見る際は気お付けてください。


[プロフィール]

 

[名前]

 

織斑 春名 (おりむら はるな)

※本名は不明

 

[年齢]

 

16歳

※実年齢はもっと上

 

[容姿]

 

東方projectの「十六夜 咲夜」の髪色が赤髪になった状態

瞳の色も赤

身長は150cmと平均的、体重は50kg

 

[BWH]

 

B:88

W:60

H:89

 

[学生服]

 

学校指定のIS学園の制服を無改造を着用

 

[所属]

 

IS学園一年一組

 

[設定]

 

アテナの実験の為にISの世界に転生された少女。

前世ではごく普通の生活をしていたが、現実と言う物に飽き飽きしていたが、唯一のISと言う小説が好きだったが、人生の最期はトラックに轢かれて死亡した所をアテナに拾われる。

しかし、アテナの実験に無理矢理やられ、その実験内容がその世界の主人公を殺したらどうなるか、だった。

当の本人は拒否るも、アテナにその全てを奪われ、拒否することも出来ず、実験に参加される。

だが、到着直後にISの主人公である織斑一夏の姉、織斑千冬に渾身の一撃を喰らい、記憶喪失になる。

その為、アテナの実験の指令が殆ど失われた。

「織斑 春名」は織斑家に引き取られた際に付けられた名の為、本名ではない。

年齢も不明だった為、身長的判断から16歳とされているが、最近、姉属性が見える為、一夏より歳上ではないかとされている。

成績、運動神経はダントツによいが、英語のみ悪い。

肉体は普通の検査では人間と判断されるが、精密検査でも見つけにくい程に精密に出来た擬人化ISだと判明。

当の本人はこれは知らず、これを知っているのは織斑 千冬と篠ノ之 束の二名のみ。

さらに怪我を負っても再生速度が異常である。

腕が吹き飛ばされようとも、首が無くなろうとも、瞬時に再生する。

 

[CV]

 

榊原ゆい

 

 

 

[専用機]

 

[機体名]

 

エイヴィヒカイト

 

[形状]

 

藤井 蓮の流出

黒いアレ

 

[世代]

 

不明

 

[備考]

 

アテナがIS世界に転生させる際に「織斑 春名」に与えたIS。

IS自身が「織斑 春名」だと言うことは誰も知らず、当の本人も知らない。

武装は常時展開型ブレードと銃剣の二本と短銃二丁、大剣、ワイヤー、槍、杭、日本刀、本、荷電粒子砲。

単一能力は「聖遺物」。

その能力はチートクラスの物で、聖槍十三騎士団の詠唱を唱えるだけでその力を再現させることができる。

例として、マキナの詠唱を唱えれば、幕引きの一撃を再現し、触れた物を全て破壊することが出来る。

重複は不可能で、次に唱えた詠唱が発動すると、前に使っていた詠唱は消える。

詠唱に合わせて、その武器を展開が可能になる。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 



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プロローグ

世界は実につまらない……ルールの無いゲームはゴミだと一度目の人生で私は実感した。

ただただ、時間が過ぎる毎日……自分が望んでいない職場……格安セールを買って一人部屋で食べる日々……実につまらない。

世界とは理不尽の塊なのだ。

そして、私はその理不尽に殺された。

 

(ああ……本当につまらない終わり方だね)

 

目の前には、猛スピードで向かって来るトラック。

テンプレの終わり方にしては、実に珍しい。

そんなことを考えながら私はトラックに接触し、跳ねられた。

身体は宙を舞い、道端に叩きつけられる。

真っ赤な液体が流れ、同時に温もりが冷めていく。

周りも騒がしくなっていくが、徐々に聞こえなくなっていく。

 

(でも……、これで終われる……)

 

「なら、その命。私に頂戴」

 

突如、聞こえた言葉に私は振り向く。

そこにいたのは、白いワンピースを着た緑色のロングヘアーの女性が立っていた。

 

「誰ですか……」

 

「聖槍十三柱、白円卓。第七位のアテナよ」

 

緑髪の女性はそう名乗る。

よく見れば周りは今さっきいた道端ではなく、真っ白な空間だった。

 

 

「では、アテナ。何故私の魂が欲しいのですか?」

 

「いきなり呼び捨てとはいい度胸ね……。いいわ、教えてあげる。実験をするからよ」

 

「実験……」

 

「では、ここで問題。主人公を殺したら世界はどうなるでしょう?」

 

「世界が崩壊する」

 

「一般的な答えとしてはそうなるね……でも、本当にそうなるのかな?」

 

アテナは私の周囲を歩きながら話を進める。

その内容は禁忌と呼ばれるものだった。

 

「そこで、私は考えたのだ。君にその世界の主人公を殺してもらい、世界はとうなるのか」

 

「私が了承すると思う?」

 

「うん、しないね。でも……」

 

「っ!?」

 

いきなりアテナは私の首を掴む。

しかも、女性とは思えない程の力で掴まれ、足掻くこともできない。

 

「今君がこうして形を保てるのは、私が居るお陰なのよ……」

 

見た目とは裏腹にアテナは恐ろしい顔を私の前に見せる。

 

「もう、君は私の実験の為の玩具でしかないのさ♪ 解ったなら……ボロボロに成るまで私の実験体になりなさい!!」

 

そう言ってアテナは私を手放す。

私は今までの中で最も恐ろしい存在に目をつけられてしまったのだと理解する。

 

「さて、そうと決まれば早速始めましょう」

 

アテナは空中に投影された何かの端末をいじり始める。

 

「君が行く世界にして、最初の実験場所……」

 

そこに写っていたのは一人の少年。

私はその少年が誰なのか知っていた。

 

「インフィニット・ストラトス。織斑一夏を殺して来なさい」

 

私の数少ない好きな作品の一つ。

その世界をアテナは私に壊せと命じる。

 

「さて、まずはその世界で活動出来る様にと改造しなくちゃね♪ ポチッとな♪」

 

アテナは何かのボタンを押すと、私の身体は光に包まれる。

光が晴れる頃には私は死ぬ前の服……髪型髪色までもが変わっていた。

 

「さて、頑張って殺して来てね♪」

 

私の足元に大きな穴が開き、そのまま落ちた。

 

 

 

 

重力に従っているのか、解らないけど私は落ちている。

落ちている先に光が見え、それを抜けると町と雲が見えた。

 

「え?」

 

放り出された先は空の上で今現在スカイダイビング状態で私は落下している。

もちろん、パラシュートなどと言う装備などない。

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

人生初のスカイダイビングに私は叫ぶことしかできず……そのまま、どこかの倉庫に落ちた。

それが、運が良かったのか悪かったのかが解らないが……私は一人の少年に出会った。



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1話

感想・一言何でもいいので、お気軽に感想欄にどうぞ。

感想とか書いてくれると次の投稿が早くなるかもしれませんので。


俺は夢でも見ているのだろうか……。

突如、空から少女が落ちて来たのだ。

 

「なんだ!?」

 

外にいた大人たちは墜落音を聞き、俺たちのいる倉庫に入ってくる。

 

「う……いたたた……」

 

赤髪の少女はゆっくりと立ち上がる。

俺とさほど年齢差がない赤髪の少女は天上に空いた穴から入る光に当てられ一種の芸術作品へと変わり、俺は言葉を漏らさずにはいられなかった。

 

「綺麗だぁ……」

 

その言葉は少女に届いたのか解らないけど、俺は率直な感想を言ってしまった。

 

「ん? あれ、もしかして織斑一夏くんかな?」

 

「あ、はい……」

 

赤髪の少女は俺の存在に気付くが、その前に厄介ごとがあった。

 

Ich differents, die(貴様何者だぁ)!!」

 

そう。丁度目的の人物が誘拐されていた所に落ちて来たのだ。

少女はそのまま大人たちの方に振り向き、何かを唱え始める。

 

 

    ◇

 

 

(誘拐現場とは……何か仕組まれた感じがする……)

 

私は落ちて来たことよりも、この現場、この場所に凄く違和感を感じていた。

そして、私はアテナの実験などに参加するつもりもない。

しかし、そんなことを考えていた時、私は何かを唱えていた。

 

In der Nacht, wo alles schläft(ものみな眠る小夜中に)

 

解らなかった。

 

Wie schön, den Meeresboden zu verlassen.(水底を離るることぞ嬉しけれ)

 

私は大人たちを見た瞬間、知らない詠唱を唱えていた。

 

Ich hebe den Kopf über das Wasser,(水のおもてを頭もて)

 

だけど、これだけは解る。

 

Welch Freude, das Spiel der Wasserwellen(波立て遊ぶぞ楽しけれ)

 

これは……危険なものだと。

 

Durch die nun zerbrochene Stille,(澄める大気をふるわせて)

 

詠唱を唱えるにづれ、違和感を感じた。

 

Pechschwarzes Haar wirbelt im Wind(緑なす濡れ髪うちふるい)

 

特に私が……。

 

Welch Freude, sie trocknen zu sehen.(乾かし遊ぶぞ楽しけれ)

 

そして、その違和感の正体は……。

 

Briah――(創造)

 

ISだった。

 

Csejte Ungarn Nachtzehrer(拷問城の食人影)

 

唱え終えると同時に赤髪の少女は黒と赤を基調とした全身装甲のISを纏っていた。

それだけではなく、大人たちにも変化があった。

 

Kontakt, Neffe(お、おい)……」

 

Ist, dass wenn beispiels(これは、どう言うことだよ)……」

 

cunbeweglich(動けねぇ)……」

 

全身装甲のISから伸びた影が大人たちを縛っていたことは誰も知らなかった。

展開した当本人すらも。

さらに、その影が揺れると何かが這い出てくる。

 

Wenn, wenn, monster(ば、ば、化け物)……」

 

(ダメぇ!! それはダメぇ……やめてぇぇぇ!!!)

 

私の意思とは関係なく影の怪物は無抵抗な大人たちに襲いかかった。

その出来事はあっと言う間のことだった。

 

 

    ◇

 

 

俺は解らなかった。

瓦礫の山のせいで見ることは出来なかったが、血の臭いと大人たちの悲鳴が響き渡る。

悲鳴が止むと赤髪の少女はこちらに振り向く。

そして、腰に着けらていたブレードを抜く。

俺は一瞬解らなかったが、脳内ではアラームが鳴り響いていた。

これは、危険だと。

赤髪の少女は俺に向かってブレードを振り下ろした。

 

「一夏ぁぁぁ!!!」

 

後方からの声により俺に振り下ろされたブレードが一歩手前で止まる。

 

「一夏ぁ!! 無j……うっ!?」

 

千冬は倉庫から臭う血の臭いに口を塞ぐ。

地面一帯には夥しい血の後が広がっているが、その本体が存在しない。

 

(なんだ……これは……)

 

暮桜のハイパーセンサーには二つの生態反応をキャッチしていた。

 

「(今は一夏だぁ……)一夏ぁ!!」

 

千冬は倉庫の中で一箇所だけ照らされている場所に目が止まると同時にある場面に遭遇した。

一夏の頭すれすれにブレードが振り下ろされたのだ。

 

「貴様ぁ!! 何をしている!!」

 

千冬の激怒と同時に瞬時加速で全身装甲のISに襲いかかる。

あまりの速さに対応出来ず、千冬の凪ぎ払いをまともに受け、そのまま倉庫壁を突き破り外へと吹き飛ばされた。

 

「一夏……何ともないか!?」

 

「ち、千冬姉……」

 

千冬は一夏の無事を確認したのち、優しく抱きしめる。

その後、ドイツ軍の到着と同時にこの誘拐事件は幕を閉じた。

あることを除いて……。

 

 

 

 

千冬が凪ぎ払いで外へと吹き飛ばされた全身装甲のISはなく、一人の少女が倒れていたらしい。

すぐさま、ドイツ軍の病院に運ばれるが……。

 

「ここは……」

 

「気が付いたか……」

 

少女は身を起こそうとするが出来なかった。

手首に手錠がされていたのだ。

 

「では、最初の質問だ。お前は何者だ?」

 

「私は……」

 

しかし、その質問に帰って来た答えは……。

 

「誰なんですか?」

 

少女は記憶を失ってしまったのだ。



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2話

私は誰なのか、思い出せない。

思い出そうとすると何故か頭痛が起こる。

担当医の先生の指示に従って色んなことをやらされるが、特別なことをされたわけではない。

私が知っている言語は日本と一般的な日常会話程度の英語しか喋られない。

検査が終わると担当医はこの部屋から出ていく。

今現在この部屋に居るのは二人の軍人と私だけ。

窓も無く時計も無い。

あるのはベッドのみ。

 

(これか、どうなるのだろう……)

 

私はこの先のことを考えるが、特に思い付かなかった。

 

 

 

 

一方、病院の隣にある軍施設の会議室ではあることが話されていた。

 

「その結果は本当なのかね?」

 

「はい。最新鋭の計測機による結果なので、間違いありません」

 

スクリーンに写し出されていたのは、記憶喪失の少女と何かのグラフだった。

 

「しかし……この者が」

 

「最初は我々も目を疑いましたか、事実です」

 

「IS適正……オーバーSランク」

 

「あの織斑千冬選手の適正を遥かに上回る結果をあの者がだしました……」

 

「それに運が良いのか、あの者は記憶喪失。我々のいい駒になるではないか」

 

会議室では軍の最高責任者、以下数名の軍人が赤髪の少女の処遇をきめていたが……それらが全て水の泡となることは誰も予想していなかった。

 

 

 

 

千冬は考えていた。

あの赤髪の少女のことについてだ。

意識が戻ったことを聞き、何故あの場に居たのかを問い詰める予定だったが、赤髪の少女は記憶を失っていたのだ。

たが、一つ。

赤髪の少女が覚えていることがあった。

それは、私の弟……織斑一夏の名前だけだった。

 

(あの少女と一夏に何か関係があるのか?)

 

一夏の話によれば、あの日が初めてであり、特に接点とかはない。

誘拐の仲間ではないかと考えたが、矛盾が生じる。

誘拐を殺したのはあの赤髪の少女。

自ら手を下したのかは、解らないがあの場に居たのは一夏と赤髪の少女、誘拐犯のみ、

よって誘拐犯の仲間と言う説は考えにくい。

 

(束も知らないか……)

 

ISを個人で持てるのは企業所属か国家代表及び候補生のみとされる。

しかし、赤髪の少女には国籍どころか、身分を証明するものが無かった。

 

(このまま行けば、軍の忠実な僕となってしまうだろう)

 

千冬はある賭けに出ることにした。

 

 

 

 

私はただ寝ることしか、できなかった。

両腕はベッドと一緒に手錠がされており、足も同じく手錠がはめられている。

 

(暇だな……)

 

どれぐらいの時間が過ぎたのか……時計の無い為、解らない。

そんな時だった。

突如、部屋に誰かが入って来たのだ。

 

「すまないが、席を外してもらえないだろうか」

 

監視していた二人に席を外すようにと少しばかり無理を言って頼む女性。

多少の話し合いのち、女性を残して部屋を出て行った。

 

「あの……」

 

「ああ、すまない。私は織斑千冬だ」

 

「はぁ……」

 

千冬は監視員が座っていた椅子を私のいるベットまで持って来て座る。

 

「君には今から二つの選択肢が与えられる。一つはこのままドイツ軍に所属されるか」

 

千冬は人差し指を立てる。

 

「私と共に来るかだ」

 

「え?」

 

私は解らなかった。

身元の解らない私を引き取ろうというのだ。

 

「もちろん、多少の制約が付けられるが、なんとかなるだろう」

 

「え? あの……それは」

 

「強制はしない。君の人生だ、好きに決めるがいい。で、返事は?」

 

「私は……」

 

 

    ◇

 

 

「ここが、日本……」

 

私は後者を選んだ。

千冬姉さんはドイツに借りがあるということで、ドイツに残った。

私の戸籍とかの身分は千冬姉さんの悪友が用意してくれたそうだ。

 

「おい。先に行くなよ、春名」

 

「ん? あ~ごめんね、一夏」

 

同い年だけど、戸籍上は私の兄、織斑一夏が旅行バックを片手に私の後ろから歩いて来る。

そして、私の新しい名前は織斑春名。

ここから、私の新たな物語の始まりだった。



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3話

私が日本に来てから、色んなことがあった。

織斑春名となってからの初めての学校。

一部の教科を除き、学年トップの座に着き、一夏の友達の弾や鈴と一緒にゲームセンターに行っては記録を全て塗り替える……などの充実な日々を過ごしていた。

男子の密談話では恋人にしたい人ランキング第一位……なんか、とんでもないことになっていた。

もちろん、あれもあったが割愛させてもらう。

 

「そう言えば春名はどうするんだ?」

 

弾に呼ばれ、私は顔をあげる。

私たちは丁度あるもので頭を悩ませていた。

進路調査だ。

 

「進学もいいけど、私は……あっちの方に行こうかな」

 

「女子はいい選択があるからいいよな」

 

「そう思うけど、適正がなければ即落とされちゃうんだよ」

 

「それでも、まだいいじゃん。俺たちとは全く縁がないよりは」

 

「まあ、そうだけど」

 

「IS学園か……」

 

篠ノ之束が学生時代に開発し、今の時代では知らない人は誰もいないとされているパワードスーツ。

インフィニット・ストラトス―――通称IS。

IS専門の学校が実は日本にあるのだ。

まあ、開発したのが日本というだけで、某A国は「責任を取れよ」とヤクザ的口調で押しつつけて来たらしい。

そんな世間話はどうでもいい。

 

「春名は適性検査を受けたのだよな?」

 

「うん。簡易適性検査ではA判定だったからね」

 

身体測定の日に任意で実は受けることができる。

成長に伴って稀だけど適性が上がることがあるからだ。

 

「それって、もう受かったの確定じゃん!」

 

「まあ、そうだね」

 

そう言えば、ISには大きな欠陥があるのだ。

ISは女性にしか乗れない。

開発者ですら解らない大きな謎。

300個近くのコアの残して姿を眩まし、現在は国際指名手配され捜索されるが捕まったと言う話は聞いたことがない。

とある番組もびっくりネタだと私は思っている。

 

「私は書き終えたから出してくるね」

 

「お、おう」

 

進路調査表を出した者から下校していいと、最初の時に言われていた為、私は荷物をまとめ学校を出た。

向かった先は商店街。

 

(今日の晩御飯、どうしようかな……)

 

一夏か稀に帰って来る千冬姉さんが家にいる。

もちろん晩御飯を作るのは一夏と私である。

当番制にしてあるので、今日がその日でもある。

 

「時間的には……余裕があるし、ハンバーグにしようかな」

 

晩御飯を決まった事だし、ちゃっちゃっと買って帰りましょう。

 

 

 

 

 

ハンバーグの具材を買って家に戻ると靴が一足多いことに気付いた。

リビングに入ると予測通り、千冬姉さんがいた。

 

「千冬姉さん、帰っていたの」

 

「ああ、数時間したらまた行ってしまうがな」

 

「夕飯は?」

 

「食べていく」

 

「わかった」

 

と言う訳で、千冬姉さんの分を早く作ることになった。

数分後、一夏が帰って来た時には完成しており、直ぐ様自分たちの分も用意する。

 

「あれ? 千冬姉も帰っていたんだ」

 

「ああ……」

 

「今日はハンバーグなんだな」

 

千冬姉さんに出したハンバーグを見て、一夏は今日の夕飯はハンバーグだと判断する。

 

「そう言えば春名は進路調査、どうした?」

 

「私はIS学園にしたわ」

 

「へ~、そうなんだ」

 

「どうせ、一夏の事だから進学にしたんでしょ?」

 

「うっ! やっぱりばれていたか……」

 

「まあ、一夏は一夏の人生だから、文句なんて言わないわ。はい、できたよ」

 

そんな話をしながら、私はハンバーグを作り、焼き、盛り付けして、一夏の前に置いた。

もちろん、自分の分も。

 

「「いただきます」」

 

三人揃っての夕飯は久しぶりだった。

いつもだと私と一夏の二人で食べることが多い。

 

「うまい!」

 

春名の作る料理には、はずれはない。

全てが当たりであり、失敗の二文字すらだしたことがないのだ。

しかも、その料理を何処で知ったかと言うと料理雑誌を軽く読んだだけで暗記し、さらにはアレンジすらも加えているのだ。

 

「おっと、もうこんな時間か……」

 

千冬は時計を確認し、どうやら時間が来てしまったようだ。

軽く身支度を整え家を出た。

その後は特に無く風呂に入って寝るだけだったので私と一夏は何事もなく一日を終えた。

 

 

 

 

その頃、千冬はとある地下バーで誰かといた。

 

「それで、春名の情報はどうなんだ?」

 

その者は独特な服装であり、胸の膨らみからして女性だと分かる。

大人の来る所にあのような服装で来るものはこの世で一人しかいない。

 

「ぜ~んぜん、ダメ~。ミジンコの一匹すら見つからなかった」

 

不思議の国のアリスが着ている服装に機械のうさぎの耳……これ程の特徴で当てはまるのは一人だけ、千冬の悪友にしてISの開発者……篠ノ之束ただ一人だ。

 

「この天災の束さんですら、足取りが取れないなんて、本当に何者なんだろうね~」

 

「…………」

 

千冬は大方予想していた。

たが、あの束すら見たからないとなると、余計に知りたくなる。

 

「あ! そうそう、はるっちの細胞から実は面白い物が見つかったんだよ」

 

束は一枚の紙を千冬に見せる。

それは、細胞の写真とその詳細だった。

 

「……これはどういう事だ、束」

 

「見ての通り、はるっちの細胞から絶対にあり得ない物が見つかったの~」

 

「もし、これが真実なら……」

 

「そうだね。もし仮にこれが真実なら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はるっちは人ではなく、ISだね」



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4話

進路調査を出してから数週間がだった。

生徒たちは受験勉強や履歴書作りに取り組んでいた。

そして、今日はIS学園の試験日でもある。

 

「では、始めてください」

 

女性試験官の合図と同時に試験が始まった。

適正検査のち、呼ばれた生徒のみ次の試験に移れる。

ここで落ちる生徒は実のところあまりいない。(簡易調査で大方の人が諦めているからだ)

次に学力テスト、国、数、英、社(歴史あり)、理(科学あり)の五教科。

それが終わると実技試験……ISを使った試験になる。

 

「666番、666番の人……」

 

「はい!」

 

私、春名の番が来たのだ。

とう言うより、この番は何ですか!?

私はサタンですか!?

っと、まあ……こんな番号になったのは偶然だと信じながら私は出る。

 

「では、これより実技テストを始めます。勝利条件は講師の方に3発当てるか、一太刀入れることです。もちろん、これはどの位出来るかのテストなので、差ほど気にせず来てください」

 

「わかりました」

 

そう言って私はブレードを呼び出す。

それと同時に試合開始のカウントダウンが始まった。

 

3……

 

2……

 

1……

 

開始!!

 

開始と同時に私たちは前進する。

試験官の機体はラファール。

接近戦、遠距離戦と好みに切り替えろ事が出来るフランスが開発したIS。

対して私は打鉄。

防御と接近戦を得意とした日本製のIS。

 

「ていやぁ!!」

 

「っ!?」

 

一般人が教員に一撃を当てることはまずない。

企業、候補生ほどの人物であれば簡単だが、今回は一般人。

それが基本だと全員が思っていたことなのだ。

しかし、これはなんだ?

春名は教員の攻撃を全て凌ぎ、蹴りを入れたのだ。

 

「ふざけるな……」

 

どうやら、春名の相手した教員はプライドの高いタイプらしく、自分が勝つと思い込んでいたに関わらず負けた。

たかが16歳の少女に……。

 

「ふざけるんじゃぁねぇ!!」

 

「…………」

 

負けたことが受け入れず、教員は再び春名に襲いかかる。

同時に管理室もパニックになる。

 

『ストップです!! 試合は終わりました!! すぐさまやめてください!』

 

放送が流れるがその教員は止まらない。

さらには、念の為に装備さらていた実弾の入ったライフルを展開してきたのだ。

 

「めんどくさいことになったわね……」

 

こちらにあるのは、ペイント弾が入ったハンドガンとブレードが二本のみ。

状況的には不利に近いが春名となれば大きく異なる。

 

「他の教員が来るまで時間を稼げればいいね……」

 

怒り狂った教員の攻防を繰り返しながら私は時間を稼ぐ。

最低限の動きで避け、二本のブレードを巧みに操り、教員の攻撃を反らす。

結果、実弾の入ったライフルが弾切れを起こし、数名の教員によって取り押さえられた。

 

 

 

 

試験は一時中止し、後日行われることになった。

ついでに言えば今日は一夏の受験日でもあったので、今日の晩御飯は肉……焼き肉にした。

しかし、神様とは残酷でした。

私が帰ったすぐにある事件が起こっていた。

それを知ったのは家でテレビを付けた時だった。

 

「嘘でしょ……」

 

私の兄……織斑一夏がISを動かしてしまったのだ。



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5話

感想が……
お気に入りもあんまり伸びないな~

今日は休暇だぁ!!

最近の楽しみ、キャス狐を描いていること。
なぜ? 声優さんがあの人だからさ



一夏がISを動かしたことにより、一段と騒がしい日が続く。

元々、女性にしか動かせないと言うことで男性陣でISを勉強する奴なんて殆どいない。

居るとすれば、整備職か研究職をする奴のみだからだ。

と言う訳で、登校日前日までに必要最低限の知識を叩き込む。

 

「とりあえず、これで何とかなるわね」

 

現在朝の5時。

死ぬ気で覚えさせた為、一夏は燃え尽きていた。

登校まで後1時間程あるので、朝食を作りに私は部屋を出る。

 

「あの厚さの参考書をある程度理解させるには時間がなさすぎなのよ! もう……」

 

一夏が動かしてから次の日にあの広辞苑なみに厚い参考書を理解させるに普通なら一か月は必要になる。

それをたった二週間で理解させろと千冬姉さんから指示が来た時はびっくりした。

取り敢えず、徹夜してまででもうる覚えでも構わないのでやらせたが……

 

「今になってはしょうがないよね……」

 

誰も予想していなかった事態に遭遇してしまった以上やるしかない。

朝食の完成と同時に一夏をたたき起こして、私たちは登校する。

 

「早くしないと、乗り遅れるわよ!」

 

IS学園はとある孤島にある。

その為、移動手段として、船かモノレールの二つしかない。

もちろん、一般人はモノレールでしかIS学園に入れない為、私たちもそれで登校する。

 

「ちゃんとしなさいよ」

 

未だに寝ぼけている一夏を手直しする。

しかも、私たち意外の生徒も乗っている為視線が痛いが、そんなことを気にしている暇は無い。

寝ぐせを直し、朝作った朝食のおにぎりを口の中に押し詰める。

 

『次はIS学園……』

 

そして、私たちは遂にその地に足を付けた。

IS学園へと……

 

 

    ◇

 

 

私たちのクラスは一年一組。

一名爆睡中の中、SHRが始まるが……教壇に立ったのは私たちと同い年ぐらいの巨乳女性だった。

 

「はい、副担任の山田真耶です。皆さん、一年間よろしくお願いしますね」

 

どう見ても私たちと同い年しか見えない教師……山田真耶はおどおどさせながら話を進める。

その原因が私の前で現在、爆睡中の兄……織斑一夏に当てられている視線だった。

爆睡する原因は知っているので怒るにも怒れないので順番が来るまで寝かせることにした。

 

「え~と……」

 

意外と早く来てしまったので私は取り敢えず一夏を起こす。

 

「一夏」

 

「う~ん。なんだ……春名?」

 

「起きなさい。貴方の番よ」

 

「何の……番?」

 

「自己紹介」

 

「自己……紹介!?」

 

ようやく、目覚め。

慌てて立ち上げる。

その時、山田先生を驚かせてしまったが、ようやく進むことが出来た。

 

「え~と……」

 

しかし、ここに来て更なる障害が発生する。

丁度、ここの担任が入ってきたのだ。

だが、それは私たちには見覚えのある人物であり、身近な人物でもあったのだ。

 

「新学期早、騒がしいぞ。織斑」

 

「へ?」

 

実の所、一夏だけは千冬姉さんがIS学園の教師をしていることは知らない。

私は前に帰って来た時に千冬姉さんが教師をしていることを知った。

僅かだが、火薬のにおいがしたことから千冬姉さんはIS関連の仕事をしていることに気付き、そこから消去法で絞った結果、IS学園で教師をしているといたったのだ。

 

「んで……諸君。私が織斑千冬だ。君達新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。出来ない者には出来るまで指導してやる。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

千冬姉さんの登場にクラスはうるさくなるが、千冬姉さんの顔を見る限り、どうやら去年の二の舞になったようだ。

まあ、仕方ないもんね。

あのかのブリュンヒルデだから。

 

「まあいい。織斑、続けろ」

 

「え? ああ」

 

気を取り直して再度、自己紹介が始まった。

 

「えー、えっと。織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

しかし、返ってきたのは興味津々の視線だけだった。

まあ、そうだよね。

初の男性操縦者だから興味津々になるのは当たり前だと、私は気付いていたがどうやら一夏は気付いてなく。

状況が分かっていなかった。

 

「あれ? 箒?」

 

一夏は誰かを見つけたようだが、千冬姉さんの出席簿チョップを喰らう。

 

「お前は自己紹介も、まともにできんのか」

 

「いや千冬姉……俺は……」

 

「学校では織斑先生と呼べ」

 

一夏はまたも、出席簿チョップを喰らってしまう。

それより、一夏の発言で織斑先生と一夏が姉弟だと言う事にクラス全員が気付いてしまったようだ。

 

「……今のって……」

 

「織斑君って……」

 

「ひょっとして……」

 

まあ、予想通りの結果になる。

だが、これを聞いたらさらにややこしくなることはわかっているけど、しょうがない。

 

「織斑。終わったならさっさと戻れ」

 

一夏は頭を押さえながら席に戻る。

そして、私の番になった。

 

「織斑春名です」

 

それを聞いた生徒は一斉に私へと目線を写した。

 

「皆さんの思っている通り、私は織斑一夏の妹であり、織斑先生の妹です。皆さん、よろしくお願いします」

 

もちろん、これもこれで騒がしくなる。

 

「静かにしろ!!」

 

千冬姉さんの一言で騒ぎは収まる。

そんな中、窓側に座っていたポニーテールの少女は一夏を睨んでいた。

 

 

    ◇

 

 

あれからSHRは無理矢理だが全員の自己紹介を終わらせ、現在は休み時間。

しかし、私の思っていた通り廊下には多くの生徒が一夏を見に集まっている。

しかも、私たちを中心に誰も近づことうとしない。

 

「ちょっといいか?」

 

そんな中、先程から一夏のことを睨んでいたポニーテールの少女が一夏に声を掛けてきた。

一夏はその子を知っていたらしく、その子の名前を言う。

 

「箒?」

 

一夏は箒と言う名の少女と共に教室の外へと出て行ってしまった。

残された私にさえ視線が集まるが、女子と言う事で何人かは私に話し掛けて来る。

大体の内容は織斑に関することだった。

そうした話をしている内に休み時間は終わり、山田先生と織斑先生が教室に入って来る。

が、肝心の一夏と箒が戻っておらず、戻って来たと思うと織斑先生の出席簿チョップを喰らっていた。



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6話

今日は『革命機ヴァルヴレイヴ』24話、全部見た。

水樹奈々さん出ていたんだ……





「それでは、この時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明を……」

 

織斑先生が教壇に立ち、授業を始める。

 

「ああ、その前に、再来週のクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

ざっくり言えばクラス委員長を決めようととのこと。

 

「自薦他薦は問わない。ちなみに他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟しろよ」

 

と言いつつ、この推薦の犠牲者はあらかた決まってた。

「はーい!! 織斑君がいいと思います!」

 

「私もそれがいいとおもいます」

 

そう。

私の兄、織斑一夏がこの推薦で選ばれる確率が高いのだ。

しかし、このクラスの中にはそれに納得しない者もいる。

 

「納得できませんわ!!」

 

突如、後方から怒鳴り声が聞こえる。

振り返ると金髪の少女が立っていた。

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ! この学年次席であるセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえと仰るのですか?」

 

ISの登場により男女の立場が逆転した。

優遇どころか、もはや女=偉いの構図が最も分かりやすい。

それがこのクラス、私の後ろで威張っている現代女子がそこにいた。

 

「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき。それはわたくしですわ!」

 

とまあ、私にとしてはどうでもいいのだが、そう簡単には収まりそうにないだろう。

 

「何せわたくし、入試で教官を倒した者の一人ですから」

 

ほうほう。

いい度胸ですね。

 

「織斑先生。このクラスで教官を倒した生徒は何人いますか?」

 

「ん? 3人だ。それ以前に出来た者も3人しかいない」

 

『え!?』

 

クラスに居た全員が驚く。

 

「それは誰なんですか!?」

 

どうやら、セシリアはこのクラスでただ一人しかいないと思っていたらしく、喰いかかった。

 

「目の前にいるだろう。なあ、織斑兄妹」

 

織斑先生の一言に全員が驚いた。

 

「追加で言えば、私が主席です」

 

さらなる追い打ちにセシリアは言葉を失った。

上には上がいる。

それを実感してしまったのだ。

 

「っ!! 決闘ですわ」

 

セシリアは痺れを切らせ、私たちに決闘を申し込む。

 

「いいでしょう。その勝負、受けましょう」

 

私の背後では織斑先生が笑っているだろう。

ここまで、予想通りに進んだことに。

 

「勝負は一週間後の月曜日。放課後、第三アリーナにて織斑兄妹とオルコットの両者3名で行う。それぞれ用意しておくように」

 

「え? なぜ俺もなんですか?」

 

「推薦されたかに決まっているだろ」

 

それを聞いた一夏はorz状態になった。

 

 

    ◇

 

 

セシリアとの決闘が決まり、私は今第三アリーナに来ていた。

そこで私はある物を眺めていた。

 

「こっちが打鉄でこれがラファールか……」

 

整備室にあるISを私は見に来ていたのだ。

ISを借りるのに一週間以上かかると分かってしまった以上、それ以外で準備を整えることになる。

その為、私は現地視察に来たのだ。

 

「ん?」

 

並べられているISを一つ一つ確認していた時、一番奥にあったISに目が止まった。

足元にはいくつもの書類と機材が散らばっており。

どう見ても先程まで、そこに誰かがいた痕跡が残っていた。

 

「整備? いや違う。これは……作成?」

 

書類を確認するとISの基礎構造から何かも書かれており、すぐに作成していることが分かった。

しかし、ここで疑問が生まれる。

 

「IS制作にしても人がいない……」

 

機材と工具はある。

しかし、肝心の制作者たちがいないのだ。

 

「まだ温かい……だけど、これは……」

 

どうやら、このISを一人で作っていたことが分かった。

それは、無謀なことだと言うことをその者は知らない訳がない。

 

「……そこに居るんでしょ?」

 

「っ!?」

 

物影に隠れていた少女は、私に言い当てられたことに驚く。

すぐには出てこなかったが、彼女は私の前に出て来た。

 

「随分と無謀なことをやるのね」

 

「…………」

 

だけど、彼女はだんまり。

顔の表情を見る限り図星だったようだが、それでもこれを一人で完成させようとしたのだ。

 

「そう言えば、まだ名乗っていなかったね。私は織斑春名よ」

 

「更識……簪」

 

「簪ちゃんね」

 

今でも物影に隠れてしまうぐらいに、おどおどさせていた。

 

「ねえ、これさあ……私も手伝ってもいい?」

 

「っ……!」

 

簪ちゃんはそれを聞いて驚くが……。

 

「いい……。私が一人で、作る……」

 

あっさりと断ったのだ。

 

「どうして?」

 

「……お姉ちゃんは一人で完成させた。だから……」

 

「だから、私もそれぐらいできないといけない」

 

「…………」

 

簪ちゃんは頷く。

 

「それは間違いだよ。お姉ちゃんはお姉ちゃん、簪ちゃんは簪ちゃんなんだから、お姉ちゃんの真似をする意味がないよ」

 

「っ……!」

 

「私も超人的って中学の時言われたけど、英語だけはダメダメだったんだから。人はそれぞれ個性があるの。お姉ちゃんが出来たから私も出来るとは限らないんだよ」

 

「それでも……」

 

「追い付きたいと考えているけど、追い付いたらどうするの?」

 

「それは……」

 

「また引き離されての繰り返しになるだけよ」

 

私は簪ちゃんに近づき、その両手を掴んだ。

 

「だから、私が導いてあげる」

 

「え……」

 

「追い付くじゃなく、追い抜こうよ」

 

「……うん」

 

簪ちゃんは恥ずかしながら頷く。

それから私たちは簪ちゃんの専用機、打鉄弐式の完成に全力を注ぐ。

この後、痴女に出会うまで……。



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7話

そろそろ、セシリア戦に入りたいな……


ガチャ。私は疲れた身体を引きずりながら、指定された自室のドアを開けた。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様。ご飯にします? お風呂にします? それとも……」

 

―――バタン。ドアを閉じて一秒、状況を整理する。

 

「…………」

 

現在地、一年寮。私の部屋の前。

表札に織斑の字を確認。……うん、間違っていない。間違っていないはず。

 

(さっきのは夢か幻でしょう。いくらなんでも裸エプロンの痴女が私の部屋に待っている訳がない)

 

そう思いながら、再度ドアを開ける。

 

「お帰りさいませ、ご主人様。私にします? 私にします? それとも……」

 

「選択肢がない!」

 

「あるわよ。一択なだけで」

 

私の部屋で待ち構えていたのは裸エプロンの痴女だった。

しかし、この人の髪色は何処かで見たことがある。

 

「で? あなたは誰ですか?」

 

「ん? 私はこの学園の生徒会長よ」

 

夜だからいいけど、こんなのが生徒会長でいいの?

明らかに不味い姿に私は頭を抱える。

 

「目的はなんですか?」

 

「貴女の監視よ……春名ちゃん」

 

「私の?」

 

「そうよ。学園初の天才と呼ばれた貴女の監視よ。全教科合わせて462点と高得点取り、IS適正A+の上、教員を倒す程の実力を持った貴女を監視されない理由はないわ。それ以前に貴女の失われた経歴で重要人物に指定されているのよ」

 

「…………」

 

私の過去を知っている人物は誰もいない。

記憶喪失であることを知っているのは千冬姉さんと一夏を除けば一部の人間しか知らない。

となると……

 

「貴女は裏の人ですか……」

 

「ええ、改めて名乗りましょう。更識家17代目当主、更識楯無よ」

 

何処から取り出したのか手元には扇子が握られており、そこには『暗部』と書かれていた。

 

「つまり、私は超危険人物と言う事で自分の目の届く場所に置いておきたいと言う訳ですか」

 

「ええ、そうよ。私はこの学園の長として、生徒を守る義務があるわ」

 

ここまで警戒されてしまっているのは予想外だった。

しかし、それ以上に何かの怒りを感じる。

 

「それと……」

 

その正体をこの後、私は知る。

 

「これ以上、簪ちゃんには近づかないで」

 

更識と言う言葉で大方予想していたが、どうやら当たっていたらしい。

 

「やはり、姉妹でしたか」

 

「そうよ、簪ちゃんは私の妹よ」

 

確かに髪色を除けば、僅かだが似ている。

 

「それは、あの子が決めることです。楯無さんが差し伸べなかった手を私がやっただけですから」

 

「っ!」

 

「大方、あの子に“もう何もしなくていい”、“無能のままでいなさい”とか言ったのでしょうけど」

 

「……貴女にあの子の何が解るのよ!」

 

「今ここではっきり言わせてもらいます……貴女は愚か者です」

 

私には差し伸べてくれる手などなく、織斑家に差し伸べられた手を私は取った。

簪ちゃんは差し伸べてくれる手があったのに取ってくれなかった。

 

「人は一人では生きられない。それを貴女はあの子にやってしまった。あの子だって差し伸べて欲しかった。それを貴女は見捨てた。そんな貴女が姉を名乗るのはいいのでしょうか?」

 

「貴女に……」

 

「あの子の未来はあの子だけのもの。それが私のもっとうなので、私は導くだけです。あの子が暗部に関わる関わらないはあの子が決めることです。それだけは覚えててください」

 

「っ……」

 

それ言い残して、私は部屋を出た。

 

 

 

    ◇

 

 

更識と口論のち、私は屋上に来ていた。

空には星と月が出ており、輝いていた。

 

「この空の先に行きたい……それがISに込められた願い」

 

本当の願いからかけ離れてしまったISは未だに輝き続けている。

何時しかそうなってほしいと。

 

「そうだ。アイツはそう願って作ったが……そううまくいく訳がなかった」

 

背後から返って来た答えに私は黙る。

 

「織斑先生はこの世界はどう思いますか?」

 

「……つまらないな」

 

返って来た答えには私は黙る。

 

「だが、それがまた面白い」

 

「?」

 

その後の答えに私は疑問を抱いた。

 

「まあ、その内お前にも分かる時が来るさ」

 

「そうだと、いいんですけど……」

 

夜風になびかれた髪をまとめ振り返る。

 

「今日は織斑先生の所に泊まってもいいですか?」

 

「なんだ、更識と喧嘩でもしたのか」

 

「まあ、そうなところです」

 

「ふ。ほらよ」

 

そう言って、織斑先生は鍵を投げる。

 

「私はまだ仕事が残っているから先に行っていろ」

 

「では、お休みなさい。千冬姉さん」

 

「ああ、お休み。春名」

 

別れの挨拶を交わして私たちは屋上を後にした。



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8話

楯無との口論があり、その日は千冬姉さんの散らかった部屋を軽く片付け寝た。

そして何時のように私は登校し、普通に授業を受ける。

放課後は、第三アリーナで簪ちゃんのIS作りを手伝う。

 

「出力系は取り敢えず平均値で押さえておくね」

 

「うん」

 

マルチ・ロックオン・システムと呼ばれるデータの設計は簪ちゃんに任せ、私は機体本体の完成を目指した。

形はある程度完成していたので、出力系などのパラメーターから伝達系のシステムチェックを行っていた。

これが特に難しく、エラー摘出が多発する為、一度基本値に設定してから簪ちゃんに合わせて調節する必要があるのだ。

 

(この子の元の型は打鉄だから、ブーストの出力はこの位だったはず)

 

打鉄弐式は元は打鉄を改良した機体。

基本構造は変わらないが、殆ど手を加えられたこの機体ではあんまり当てはまらない。

だが、可能な所は直す。

後は、エラーが出ないように調節するだけ。

 

「これでどうかな?」

 

最後にEnterを押して、チェックする。

返って来た答えは……

 

『No problem』

 

機体の完成を示す文字だった。

 

「簪ちゃん、こっちは終わったよ」

 

「あり……がとう……」

 

簪ちゃんは照れながらも、お礼を言う。

丁度、簪ちゃんもシステムチェックに入っており、終了の合図が鳴った。

 

「こっちも……出来た」

 

「よっし、これで後は打鉄弐式にインストールするだけだね」

 

「うん……」

 

私たちは最後の仕上げに入った。

インストール完了した後、最適化に入る。

 

「これで終わるね……」

 

「うん……」

 

「消える訳じゃあないから、悲しまないの」

 

「うん……」

 

数日しか一緒になれなかったけど、簪ちゃんにとっては私と言う存在はどうも傍にあってほしいらしい。

しかし、物影に隠れている痴女がどうやら、それを認めてくれないようだった。

部屋に戻れば機嫌が悪いし、時々監視されている事に気付く。

今もその視線を感じていた。

 

「貴女の未来は貴方が開きなさい。それが、私から言える最後の贈り物さ」

 

最適化が終わり、全ての作業が終わる。

簪ちゃんは打鉄弐式を待機状態にする。

私は時間を確認するともう門限だった。

 

「そろそろ、戻ろうか」

 

「うん……」

 

寮まで同じ道のりだったので、私たちは並んで歩く。

その時、たまたま私たちの手がぶつかる。

 

「っ! ごめんさい」

 

「ん? 大丈夫よ」

 

あんまり人との関わり合いが無かった簪ちゃんは手がぶつかったことに驚くが、私は特に気にしていなかった。

 

「……手を繋ぎながら歩く?」

 

「え?」

 

私は空いている左手を簪ちゃんに差し出す。

簪ちゃんは一瞬迷うが……

 

「うん……」

 

私の手を握った。

 

 

    ◇

 

 

 

「またね、簪ちゃん」

 

「うん……またね、春名さん」

 

あれから何分たったのだろうか。

私たちは一緒に同じ道を歩き、寮に入った。

それぞれ、自分の部屋へ向かう為別れ、簪ちゃんは駆け足で行ってしまった。

 

「…………私たちも戻りましょうか。楯無さん」

 

「…………」

 

「気に食わないなら、気に食わないで別にいいですよ」

 

物影に隠れている楯無に私は話掛けるが返事は返ってこなかった。

 



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9話

アルドノア・ゼロって面白いですね。

なおくんTUEEEEE



あれから数日。

ついにその日がやって来た。

一年一組のクラス代表を決める戦いが。

だが……

 

「それは、本当ですか?」

 

「ああ、織斑の専用機が予定より遅れている。アリーナも借りれる時間が限られているから先に出てもらう」

 

「わかりました」

 

数日前に一夏に専用機が与えられる事がわかった。

まあ、大方。データ取り等に与えらたにすぎない。

その一夏の専用機がまだ到着していないということで私が先に戦うことになった。

 

「あの~。そんな装備だけで大丈夫何でしょうか……」

 

「ええ。大丈夫です」

 

私はこの日の為の訓練機である、打鉄に乗り込む。

 

「織斑春名。出ます」

 

カタパルトに乗り込み、外へと出る。

アリーナの観客席には一組の生徒が集まり、上空ではセシリアが待ち構えていた。

 

「あ、あ、あー。こちら春名。プライベート・チャンネルのテスト。どうぞ」

 

「何をしているのでしょうか?」

 

「プライベート・チャンネルのテスト」

 

一応、私がISに乗るのはこれで2回目。

念の為にと試合開始前にチェックをしていたのだ。

 

「チェック完了。では、始めましょう」

 

「いいでしょう。このわたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」

 

お互いの準備が揃い幕が上がった。

先制してきたのはセシリアだった。

 

「これでどうです!!」

 

ブルーティアーズのアサルトライフルをセシリアは連射する。

その狙いは正確でヒットコースに入っている。

 

(当たりですわ!)

 

セシリアは確実に当たると過信していたが、次の光景に目を疑った。

 

「はあ!!」

 

春名は打鉄の基本装備である量産型ブレードを両手に呼び出し、セシリアのレーザーを全て切り落とした。

 

「なあ!?」

 

先程の光景はただの偶然だとセシリアは思わせ、更に連射する。

しかし、それすらも先程と同じようにレーザーを全て切り落とす。

 

 

    ◇

 

 

「すげぇ……」

 

春名の試合が始まって数分後に一夏の専用機が到着した。

一夏はISに乗り込み、最適化をしながら春名の試合を見ていた。

 

「山田くん。この一週間、彼女は何をしてました?」

 

織斑先生はこの一週間の春名の行動を山田先生に聞く。

 

「三日程は第三アリーナに居ましたが、その後は資料室にしか行っていません」

 

「資料室?」

 

「はい。見ていたのは第一回モンド・グロッソの試合映像です」

 

「そういう事か……」

 

「はい?」

 

織斑先生は何かに気付いた。

あの試合映像には面白い試合が残っていることを織斑先生は知っていたのだ。

 

「イギリスとの試合ですよ」

 

「イギリス……あ!」

 

山田先生もイギリスと言う単語に思い出した。

そう、あの試合は……

 

「織斑先生が初めて、レーザーをブレードで切り落とした試合……」

 

「ああ。まさか……ここまで出来るとは、私も思っていなかったが」

 

たださえレーザーを切るなんて芸当が出来る操縦者はいないだろう。

それを春名は実現させた。

 

「この試合は面白くなりそうだな……」

 

織斑先生はそう呟き春名の試合を観戦する。

 

 

    ◇

 

 

「何故ですの!!」

 

試合が始まってから三十分以上が経過していた。

しかし、セシリアは春名の実力を改めて知ることになる。

 

(ただかわし、弾いているだけ!! わたくしの《ブルー・ティアーズ》はただの一機も破壊されていない!! 対して量産化訓練機のSEは専用機に比べて少ない……。なのに何故―――)

 

春名は二本のブレードを巧みに使い、セシリアの放つ四本のレーザーを切る。

それはまるで剣舞だった。

 

(倒せるイメージが湧かない!?)

 

相手はただの訓練機。

専用機に比べた足元に届かないポンコツ。

それなのにまだ一度もダメージと言えるものを与えていない。

 

「これが『学年主席』の実力……」

 

セシリアは《ブルー・ティアーズ》を一時引き下げる。

しかし、同時に春名はセシリアに向かって一気に距離をちじめる。

 

(まさか……!?)

 

「いくらビット兵器でも内蔵できるエネルギーには限界がある。その為、一度本体の所に戻らなければならないのがその《ブルー・ティアーズ》の弱点。更に言えばセシリアさんは同時稼働が出来ないからビットを戻している間はそのライフルで打つことも出来ない」

 

春名はこの試合の間にセシリアの弱点を見つけていた。

そして、その好機を待っていた。

 

「はぁあああ!!」

 

春名はブレードを立て、セシリアに向かって一直線に飛ぶ。

 

(まずいですわ。《ブルー・ティアーズ》のエネルギーはもう底をついています。ビットを捨てて《スターライトmkⅢ》を放つ!? それに弾こうが防ごうが追撃が来る!!)

 

元々、ブルー・ティアーズは中遠距離型を主流とした機体だった為、接近戦はからきしダメだった。

さらにセシリア自身もブルー・ティアーズに依存していた為、接近戦がダメだったのだ。

 

(このままではっ、このままでは!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたくしが……負ける?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリアの中で何かが弾ける。

 

(負けてたまるものですか!!)

 

セシリアはビットの帰還を中止する。

 

「わたくしをっ……」

 

「!」

 

「舐めないでくだいましぃいいい!!!」

 

ブルー・ティアーズの腰に在った筒状の装置から二発のミサイルが発射された。

 

「……それも、読んでいましたよ。セシリアさん」

 

その瞬間、二つのミサイルを春名は臆せず進み切り落とした。

 

「そんなぁ……」

 

セシリアは最後まで足掻き、《スターライトmkⅢ》を構えるが。

 

「私からの手土産です」

 

春名はセシリアの前にある物を投げる。

それを見たセシリアはそれが何かを理解した。

 

「スタン……グレネード」

 

「正解」

 

スタングレネードが爆発し、アリーナは光に包まれた。

それと同時に試合終了のブザーが鳴ったことは誰も知らない。



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10話

ダメだぁ……全然伸びない。
どうすれば、いいのだ……。



観客席、待機していた一夏と箒に山田先生、セシリアは春名の放ったスタングレネードの光と音で一時感覚が麻痺っていた。

特に酷かったのは目の前で浴びてしまったセシリアであった。

殆どの人が回復した時、この試合の結果を知った。

 

『勝者・織斑春名』

 

スタングレネードの効果で行動できなかったセシリアを倒す。

訓練機が専用機を倒すと言うこと自体、あり得なかったのだが……あれを見せられては全員がなっとくする。

それと同時に学年主席と言う二つ名をここに来て思い知らされたのだ。

 

「わたくしの負けですわ……」

 

セシリアはこの試合の負けを認める。

 

「また、やりましょう」

 

「ええ。その時はお互い専用機を使った時に」

 

お互いに握手を交わし、戻った。

 

 

    ◇

 

 

「ただいま、戻りました」

 

最初に来た所に戻るとISを纏った一夏とクラスメイトの箒、織斑先生と山田先生が待っていた。

安全を確認してISを降り、山田先生に後を任せる。

 

「まったく、やってくれたもんだ……」

 

帰って来て最初の言葉はこれだった。

それもそのはず、私が使っていたIS・打鉄は限界点にたしていたのだ。

もし、あの時スタングレネードを無効化された上に攻撃を受けていたら、間違いなく私が負けていた。

 

「だが、まあ。よくやった」

 

最後は姉としての言葉だったのだろうか、私を褒めてくれた。

 

「さて、最後はお前だ。織斑」

 

「はい」

 

一夏は気合いの入った返事をして、セシリアの回復が完了と同時にアリーナへと出た。

だが、ここで私はあることに気付く。

先程から私を睨む視線があったのだ。

その者は箒。

私が睨まれる理由は知らない。

 

「何故、私を睨んでいるのですか? 箒さん」

 

「お前は……何者だ」

 

「…………」

 

「初心者のお前があんな芸当ができる訳がない」

 

篠ノ之箒、ISの開発者の妹ある以前に彼女は剣道をしている。

その為、剣の扱いにはなれていたのだ。

しかし、先程の試合を見て、疑問が生まれたのだ。

 

「剣道、剣術の経験のないお前がなぜ、あんな事ができる。もう一度言う。お前は何者だ?」

 

しかし、この質問は答えることが出来ない。

 

「答えたいところですが、それはできません」

 

「何故だ!!」

 

「私には過去の記憶が無いのですよ」

 

それを聞いた箒は一瞬、織斑先生の方に顔を向ける。

私たちの話を聞いていた織斑先生は私が言ったことが本当だと言う事を証言するかのように頷く。

箒はそれを見て、まだ納得出来なかったが、織斑先生の答えが本当である以上、認めるしかなかった。

 

『試合終了。勝者・セシリア・オルコット』

 

アリーナから聞こえたアナウンスは試合終了のブザーだった。

同時に一夏の敗北の知らせでもあった。

 

 

    ◇

 

 

負けた理由は《雪片》による自爆。

追加で言えばセシリアのレーザー群を浴びてしまったこと。

帰り道で一夏を慰めながら帰る事になったのは、言うまでもない。

 

「はぁ~」

 

「また今度、頑張れればいいじゃない」

 

私は一夏の試合を見てはいなかったが、実は私の試合でやったいた技を実戦したらしいが……出来なかったらしい。

 

「あれって結構難しいのだよ?」

 

「実演してみてわかったが、春名はよくできたな……」

 

「う~ん。多分だけど、私の身体が覚えていたのだと思う」

 

「どう言うことだ?」

 

一夏の反対側を歩いていた箒がそのことについて返して来た。

 

「記憶って実の所二つあるだって、一つが人格、もう一つが身体にね」

 

「それって……」

 

「うん。記憶喪失とかになっても、道具が使えると同じ。多分だけど、前の私はISを使っていたんだと思う」

 

「そうなのか」

 

実際に私がすぐに社会に適合できたのはこれが理由でもあった。

しかし、ここで一つの疑問が生まれる。

一夏と箒は気付いてはいないだろうが、ISが使える私が何故専用機をもっていない。

企業所属であれば、すぐに身元が確認が取れるのにそれすらない。

ISが使えるとすれば、あと一つ……裏側だ。

 

(私は裏側の人間なのかもしれないね……)

 

自分の正体を知らない私でも、これは少し恐怖を感じる。

私の手が汚れているかもしれないと……。

 

 

    ◇

 

 

一夏と箒を見送った後、自室に戻ると楯無が待ち構えていた。

いつも通り、裏の顔を全開にて私を睨んでいる。

 

「言いたいことはわかっていますけど、流石にやめてもらえませんか? メンタル面で結構きついのですよ?」

 

「貴女の正体が解るまでやめるつもりはないわ」

 

「はぁ~」

 

ここまで警戒されてしまった以上、もう無理だったことを私は理解する。

そんなこんながある中を私は寝ることにした。



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11話

ようやく、出来た。
そろそろ、プロフィールでも、作った方がいいのかな……(絵付きで)


次の日、一夏がクラス代表になったことを山田先生の口から発表された。

当の本人は理解に時間がたったが、当然だった。

私はセシリアと決闘すると言っただけでクラス代表になるとは言っていない。

メインイベントである一夏とセシリアの試合はセシリアの勝ちであるが降りたらしい。

それにより、一夏がクラス代表になることになった。

 

「がんば、一夏」

 

と言う事があり、一年一組クラス代表は織斑一夏に決定した。

 

 

 

 

今日の授業はアリーナで行われた。

私は専用機を持っていないので、一夏とセシリアの二人で飛行と展開と簡単な作動が行われる。

一夏は止まることなく地面に激突したけど、大丈夫だろう。

残りは訓練機を使って歩行の体験が行われる。

とまぁ……平和な授業であった。

 

「春名さん、この後暇?」

 

「ええ、暇ですが?」

 

「実は……」

 

「?」

 

授業が終わって私はクラスメイトに呼び止められた。

話を聞くと放課後、食堂でクラス代表就任パーティーをするらしい。

と言う訳で放課後。

 

「本当に平和ね」

 

授業も特に大きな事件等はなく、平和だった。

さすがは日本。

そんな事を考えているうちにパーティーは始まっていた。

よく見るとうちのクラス以外の者もいる。

この際だから別に気にする必要もなく、普通に楽しんだ。

 

 

 

 

パーティーが始まってから数分たった頃、一夏の周りが騒がしくなっていた。

どうやら、新聞部のインタビューを受けていたようだ。

セシリアと一夏のインタビューが終わると今度は誰かを探しだし、私を見つけると此方に向かって来る。

 

「もしかして、春名さんで間違いないですか?」

 

「ええ……」

 

「あ! 私、黛薫子と言います。これ、名刺ね」

 

そう言っては名刺を渡してくる。

 

「学園で噂になっていますよ。次代の生徒会長として色々と」

 

「はい?」

 

それを聞いた生徒(一夏を除く)たちは驚く。

私が生徒会長?

何かの間違いだろう。

 

「え? どうして私が次代の生徒会長なんですか……?」

 

「ここの生徒会長の必須条件は知っているよね?」

 

「ええ……」

 

ここ、IS学園の生徒会長は……一つの決まりがある。

それは、最強であれ。

 

「訓練機で専用機を倒せる生徒なんて、生徒会長を除いたら誰もいないよ」

 

「それを実現した私が、次代の生徒会長と言うわけですか……」

 

と言いたいが……現在、私と楯無先輩とは馬が合わず、対立している状態なのだ。

 

「あの人は私のことを敵視していますし、この話がある以上、多分近い内に戦うことになるかもしれませんね」

 

「あらら……そうなると、結構面白そうね♪」

 

黛先輩は楽し気そうに笑い、一夏は首を傾げていた。

 

「そんじゃあ、写真撮影と行きましょうか。並んで、並んで♪」

 

一夏、セシリア、私を中心にクラス写真+他クラスの生徒を撮る。

そう言えば、セシリアの一夏に対する視線が変わったことに今気付いた。

 

 

    ◇

 

 

クラス代表就任パーティーが終わり、部屋に戻ると楯無先輩は相変わらず、目を鋭くして待っていた。

 

「……まだ、起きていたのですか」

 

「当たり前よ。貴女を監視することが、私の仕事だもの」

 

「それは、ご苦労様です」

 

寝間着と下着を用意しながら、私は楯無先輩と話を続ける。

 

「さっき言っていた、生徒会長の話……」

 

「ああ、あれですか? 私はなるつもりはないのですけど、他の生徒がね」

 

そう言って、私はシャワーを浴びる為に洗面所に向かった。

シャワー音が鳴る中、楯無は……

 

「もしそうなら、その時は本気で行かせてもらうわ」

 

全てを失った少女と最強の称号を持つ少女とのぶつかり合いはそう遠くなかったことは誰も知らなかった。




感想・誤字報告・評価などがあったら、どうぞ。


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12話

「ねえ、春名……」

 

「ん?」

 

その日は何故か、私は懐かしい夢を見ていた。

小柄で妹のような彼女は私の数少ない友達で、親友でもある。

あの事が無ければ……。

 

「もしよ。もし、全ての記憶を思い出したらさ……」

 

「大丈夫だよ。私は皆の事を覚えていてみせるよ」

 

私は微笑みを見せ、彼女の頭に手を乗せる。

 

「そっか……」

 

そして、彼女は故郷へと帰った。

 

 

    ◇

 

 

「ねぇねぇ聞いた? この話」

 

「二組に転校生が来るんだって! さっき職員室で聞いたって人がいたらしいよ」

 

朝早くから教室ではその話でいっぱいだった。

入学式から一か月たった今、このIS学園に転入すること自体が難しい。

国の推薦がないと、試験自体ができない。

つまり、二組に転校して来る生徒は……。

 

「なんでも中国の代表候補生らしいですわ」

 

「セシリアさん」

 

「わたくしの存在を危ぶんでの転入かしら」

 

「このクラスに転入して来る訳ではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」

 

いつの間にか一夏と箒が来ていた。

と言うよりも、相手が代表候補生となると色々とまずいんだよ。

特に一夏が。

 

「代表候補生か……どんな奴なんだろうな」

 

「気になる(のか……?)んですの……?」

 

「え……ああ……まあ少しは」

 

確かに中国と言いたら、()()()の故郷だもんね。

ああ……元気にしているかな……。

 

「今のお前に女子を気にしてる余裕はないぞ! 来月にはクラス対抗戦があるんだからな!」

 

「そうですわ、一夏さん! 対抗戦に向けて、より実践的な訓練をしましょう! 相手は専用機持ちのわたくしが、いつでも務めさせて頂きますわ!」

 

「確かに実戦経験は必要だよな……」

 

まあ、一夏の場合、ISとは殆ど無縁だったからね。

こう言う所は専用機持ちのセシリアさんに扱いてもらうのが、強くなる秘訣だろう。

 

「そうそう! 織斑くんんは是非勝ってもらわないと!」

 

「優勝商品は学食のデザートの半年フリーパス券だからね!」

 

「それも、クラス全員分の!」

 

「織斑くんが勝つとクラスみんなが幸せだよ~~!」

 

「お……おう……」

 

クラスの皆から期待されているけれど、流石に優勝は難しいだろう。

 

「まあうちには、専用機持ちが二人もいるし」

 

「楽勝だよ! ね! 織斑くん」

 

「えっ……ああ……」

 

と言いたい所だがいくら専用機が強いからと言って必ず勝てる訳ではない。

現に私は訓練機で専用機を倒している。

 

「―――その情報……古いよ」

 

その時、懐かしい声を私は聞いた。

教室の前の入り口にその子はいた。

 

「えっ……」

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には勝てないから」

 

生徒は少しざわつくが、私と一夏はそんな事よりも彼女の事で驚いていた。

 

「お前……」

 

あの日、故郷に帰ったはずの私の親友がそこにいたのだ。

 

「鈴……お前……鈴か?」

 

「そうよ。中国代表候補生、(ファン) 鈴音(リンイン)。久しぶりね―――一夏、春名」

 

中国(故郷)に帰ったはずの、私の親友にして幼馴染の彼女の登場に私と一夏は驚くことしか出来なかった。

そして、同時に嵐の前兆だと言う事は誰も予想していなかった。

 

 

 

    ◇

 

 

鈴がこのクラスに挨拶をしてから、昼休みになった。

食堂の一角の席では……一夏、箒、セシリア、私、鈴が座っている。。

 

「鈴、いつこっちに帰って来たんだ? いつ代表候補生になったんだ?」

 

「質問ばっかしないでよ。アンタこそ男なのにISとか使っちゃって、ニュース見てびっくりしたわ」

 

鈴はラーメンを置いて、話に区切りを付ける。

まあ、言いたいことは解らなくもない。

 

「一夏さん! そろそろどういう関係か説明していただきたいですわ!」

 

「そうだぞ! 付き合ってるなんてことはないだろうな!?」

 

ええい。うるさいわね、あんたらは!!

一夏が告白される所はあったが、全部その日に終わってしまう程の唐変木なのよ?

 

「べ……別に付き合ってる訳じゃ」

 

「そうだぞ。何でそんな話になるんだ? ただの幼馴染だよ」

 

「幼馴染……?」

 

「あ~……えっとだな」

 

一夏はそのことについて話だす。

 

「箒が小四の終わりに引っ越しただろ? 鈴は小五の頭に越してきて、中二の終わりに国に帰ったんだ」

 

追加で言えば、小六の時に私が織斑家に来たんだけどね。

 

「ほら鈴……前に話したろ? 俺の通ってた剣術道場の娘」

 

「ああ……そう言えば、聞いたわね……。ふーん……そうなんだ……」

 

そう言えば、鈴って一夏の事を……

 

「初めまして、これからよろしくね!」

 

「篠ノ之 箒だ。こちらこそよろしくな」

 

うん。どうやら、どちらとも一夏が好きだと言う事に気付いたようだね。

 

「コホン。わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ……。中国代表候補生、凰 鈴音さん」

 

「…………」

 

そう言えば、忘れていたね。

あまりにも静かだったから……

 

「……誰?」

 

「なっ……!」

 

そりゃあ、そうだよ。

 

「イギリス代表候補生のこのわたくしまさか、ご存知ないの!?」

 

「うん。わたし、他の国とか興味ないし」

 

「なっ、なっ、何ですって……!!」

 

まあ、()()()()()程度だと調べない限り知ることはないだろうね。

 

「い……言っておきますけど! わたくし……あなたのような方には負けませんわ!」

 

「あっそ。でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」

 

相変わらず、自信満々に言うのね。

まあ、それが鈴か……。

 

「そう言えば、春名!」

 

「ん?」

 

「なんでクラス代表にならなかったの?」

 

「ああ、そのことね」

 

鈴と付き合いは僅かにあったので、私の実力は知っている。

だからこそ、クラス代表にならなかったことに鈴は疑問を持ったのだ。

 

「私、そういうの得意じゃないし、専用機すら持っていないのよ?」

 

「春名なら訓練機でも十分じゃない」

 

「まあ、確かに……」

 

そう言うが、訓練機を借りるだけで一週間以上かかる。

その一週間で一体どれだけ差を付けられるかわかったもんじゃない。

だから、私はクラス代表にはならなかったのだ。

 

「そろそろ、時間みたいだし戻りましょうか」

 

「……そうね」

 

腕時計を見ると後五分もしない内に予鈴がなる。

全員、手持ちのトレイを返却したのち、教室に戻った。



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13話

ついに対抗戦に突入!!
そして、春名の様子が!?


鈴の転入から数日が過ぎた頃だった。

一夏の対抗戦に備えて、セシリアと箒が付添で訓練に励んでいたが……

 

「死ぬ! 死ぬ! 死ぬ!!」

 

「逃げるなぁ!!」

 

「お行きなさい!!」

 

二体一とスパルタ訓練が繰り広げられていたのだ。

専用機を纏ったセシリアと訓練機である打鉄を纏った箒が逃げ回る一夏を追いかけると言う何とも言えない光景に私はため息を吐く。

 

「ぎゃあああ!!」

 

その日は逃げることしか出来ず、貴重な訓練を無駄にするのだった。

 

 

    ◇

 

 

放課後のアリーナを後にし、寮に戻るが珍しく楯無の姿が無った。

まあ、その方が私的にはよかったので、久々にゆっくり寝ることが出来る。

 

“織斑一夏■■■■!!”

 

「っ!?」

 

私の中にある何かが伝えてくるが、解らない。

 

「織斑一夏……」

 

私の兄に何か関係のあるのだろう。

けれど、解らない。

 

「今日は早く寝よ……」

 

寝る準備をさっさと済ませ、私はベットに潜り込んだ。

一方、一夏の部屋では鈴と箒が部屋を交換しようと言い出し、鈴を怒らせていたことは知る由も無かった。

 

(私は何者なんだろう……)

 

その疑問は解消されることは無かった。

 

 

    ◇

 

 

「今年の対抗戦の目玉は断然、織斑一夏くん!」

 

「彼の試合を観たいと生徒は数多……」

 

「けれど客席は試合前予約で既に満員状態」

 

アリーナの影で二人の生徒が見るに怪しい話をしていた。

 

「そーこーで! 何人かの生徒から座席券を買い上げたってわけよ」

 

「ふむ」

 

「後はこれを、希望者に一万程で売りつける……どう?」

 

「美味しい話ですなぁ……」

 

そんな話をしている生徒の後ろから悪魔が近づいていることに知らず……

 

「ほう……その話」

 

気付いた時には遅かった。

生徒はブリキ音を立てながら後ろを向く。

 

「私にも是非、聞かせてほしいものだ」

 

悪魔……もとい、織斑千冬がいたのだ。

その後、悲鳴が響き渡ったことは言うまでもなかった。

 

 

    ◇

 

 

「あっ、いたいたー! 織斑せーんせ! 聞きましたよ~」

 

「……職員室に何の用か? 黛」

 

「じゃーん! 対抗戦の取材許可を貰いに来たんです!」

 

黛は織斑先生に取材許可書を渡す。

 

「ってそれより織斑先生に聞きたい事が……。試合前予約で客席が取れなかった人に座席券を売ろうとした輩がいるらしいじゃないですか。噂によると首謀者達は織斑先生に制裁を下されたとか……。彼女達は何日も部屋から出ず、おもけに部屋からはうなされるような声が聞こえるとか……。一体何をしたんですか~?」

 

「人聞きの悪い事を言うな。厳重注意をしただけだ」

 

その答えに山田先生は苦笑いをする。

 

「そんなくだらない事を聞きに来たのか?」

 

「ああ、いえ。それも質問の一つではあるんですが、今年の対抗戦は例年にない目玉がありますから、新聞部も大々的に特集してるんです。それで試合直前の号に織斑先生のインタビューを載せたいと……」

 

「……目玉……か……」

 

織斑先生はため息を吐く。

 

「何も面白い事は言えないぞ」

 

「何でもいいんですって! 教師にして実の姉! 絶対読者は期待してるんですから~!」

 

「そうだな……アレは女子のようにISの教育を受けていない。ほんの数か月ISに触れただけ……。そんな人間が果たしてどこまで戦えるのか、興味深いところではあるな」

 

「ふむふむ、なる程。で?」

 

「“で”?」

 

黛の最後の言葉が解らなかった織斑先生は聞き返してしまう。

 

「いや……だからですねぇ。アイツならきっとやれる! とか、怪我しないか心配だなぁ……とか姉目線の意見ですよ!」

 

「あ……それは私もちょっと気になります」

 

「でしょー! 姉弟の微笑ましいエピソードを一つ……」

 

織斑先生には何故か弟に関しては結構敏感であることを彼女らは知らない。

 

「どうやら二人とも、私に厳重注意されたいようだな……」

 

「い……いいえ!!」

 

「めめめ滅相もありません!!」

 

「まったく……黛! 用が済んだなら教室に帰れ」

 

「ああ、待ってください~! あと一つ」

 

黛は最後の質問を聞く。

 

「凰さんも一夏さんの幼馴染なんですよね? 昔から知っている子が相手と言う事で、何か思うところがあれば……」

 

「ああ、そうだな……。よくもこう懐かしい顔が集まったものだ。凰 鈴音……それに、篠ノ之………………」

 

「「織斑先生?」」

 

「いや……少し昔の事を思い出しただけだ……」

 

 

    ◇

 

 

そして、その時が来た。

対抗戦の一試合目から注目の集まる試合、その上相手は一組の織斑 一夏と二組の凰 鈴音でもあった為、さらに盛り上がっていた。

 

「はる~はピットの方に行かなくてもいいの?」

 

「今日はここがいいの」

 

クラスメイトののほほさんに心配されるが、私は素直に答える。

その隣にはあの子もいた。

 

「簪さんは次の試合だったね」

 

「うん……」

 

あれから、あんまり会っていなかったが……元気な顔を見れてよかったと私はここの奥で微笑む。

そして、多くの観客が見る中、試合の合図が鳴った。

 

『それでは両者……試合開始!!』

 

合図と同時に最初に仕掛けたのは鈴だった。

鈴の機体はいかにも中国と思わせる機体で主力武器と思わせる剣は大きな青龍刀が二本。

しかも、それは連結可能と結構厄介な武器であることは間違いない。

 

「結構やるわね……」

 

「中国のISは燃費と安定性を第一に設計されているからね~」

 

「確かに……対する一夏の場合」

 

「速攻決着型だから、最初に仕掛けられなかったのが痛い……」

 

のほほさんと簪共にこの試合を細かく分析し、お互いに意見を交わす。

そして、ちょうどその時、中国の第三世代装備を目の当たりにする。

 

「? 今のって……」

 

「おりむ~が何かに飛ばされたね」

 

「多分あれが……」

 

音も無く、鈴の手には青龍刀があるだけ、となると……

 

「あの肩の上で飛んでいるあれか」

 

それが一夏を飛ばした正体だと気付いた頃には、鈴の猛攻が始まっていた。

 

「なる程……空間自体に圧力をかけ砲身を作り、衝撃を砲弾として打ち出す衝撃砲なのね」

 

「リンリン、すごーい!!」

 

「これ……彼に厳しいんじゃない?」

 

確かに砲弾が見えない以上、かわすのは難しいだろう。

しかし、第三世代は搭乗者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の搭載を目標している。

つまり、あの衝撃砲を打つ装備は目線先しか打てない。

 

「だけど、大丈夫。一夏は何かを隠している」

 

「?」

 

簪はそのことに聞くもよく分かっていなかったようだ。

お互いが再びぶつかり合う瞬間、アリーナの遮断シールドを破り、何かが入って来る。

 

「何……?」

 

多くの生徒が思っただろう。

しかし、次の瞬間、私たちは閉じ込められ、アリーナ側は防御壁が下りてしまう。

 

「何!? 何なのよ!!」

 

突如起こった事態にパニックなる生徒が多発し、多くの生徒が出入口付近に集まっていた。

私とのほほさん、簪を除いて。

 

「ッ!?」

 

「ど、ど、どうしたの?」

 

「頭が……ッ!!?」

 

のほほさんに心配されるが、私の頭痛が酷くなる一方だった。

さらに私の中で何かが鼓動を打っていた。

 

 

    ◇

 

 

私の中で何かが鼓動を打つ。

あれを見た時から私の中で何かが反応している。

 

「あ……あ……あ……!!」

 

身体が熱い。

煮えたぎるよに熱い。

 

「倒さなきゃ……」

 

“どうやって?”

 

黒いISが目の前にある。

 

「倒さなきゃ……」

 

“どうやって?”

 

私の()()の邪魔をする者。

 

「倒さなきゃ……」

 

“どうやって?”

 

私は人形……

 

「倒さなきゃ」

 

その時、私の中に掛けられていた鍵が砕け散った。

 

Tod! Sterben Einz'ge Gnade!(死よ 死の幕引きこそ唯一の救い)

Die schreckliche Wunde, das Gift, ersterbe,(この毒に穢れ蝕まれた心臓が動きを止め)

 

das es zernagt,(忌まわしき毒も) erstarre das Herz!(傷も跡形もなく消え去るように)

Hier bin ich, die off'ne Wunde hier!(この開いた傷口 癒えぬ病巣を見るがいい)

Das mich vergiftet,(滴り落ちる血のしずくを) hier fliesst mein Blut:( 全身に巡る呪詛の毒を)

 

Heraus die Waffe! Taucht eure Schwerte.(武器を執れ 剣を突き刺せ)

 

tief, tief bis ans Heft!(深く 深く 柄まで通れと)

Auf! lhr Helden:(さあ 騎士達よ)

Totet den Sunder mit seiner Qual,(罪人にその苦悩もろとも止めを刺せば)

von selbst dann leuchtet(至高の光はおのずからその上に) euch wohl der Gral!(照り輝いて降りるだろう)

 

Briah(創造)――

Miðgarðr Völsunga Saga(人世界・終焉変生)

 

私はISを展開した。

黒い装甲、紅いラインの入った全身装甲を。



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14話

エレ姉さん「“焦熱世界・激痛の剣”の能力は『逃げ場の一切ない砲身状の結界に対象を封じ込め、内部を一分の隙間もなく焼き尽くす回避不能の絶対必中の攻撃を放つ』だ。劣等共よ、覚えておけ」


「春名さん……」

 

簪は今起こった現象を理解出来ていなかった。

苦しみだした春名が何かの詠唱を唱えると漆黒のISを纏ったのだ。

そして、春名はそのまま防御壁のある方へと歩く。

 

「はる~! どこにいくの!?」

 

のほほさんもこの状況かで冷静にいられていなく。

それでも、春名は防御壁の前まで歩いた。

そこで、二人はとんでもない光景を目の当たりにする。

 

「「きゃぁぁぁ!!」」

 

春名は普通のISでは突破することが不可能な防御壁をいとも簡単に破壊したのだ。

それも、ただの拳で……。

爆風が収まる頃には、人が通れる程の穴が空いており、春名はそのままステージへと降りた。

 

「春名さん!!」

 

「はる~!!」

 

簪とのほほさんは後を追うも、そこで更なる光景を目の当たりにする。

 

 

    ◇

 

「織斑くん! 凰さん! 聞こえています!? もしもし! もしもし!!」

 

「落ち着け」

 

「ひゃうっ!?」

 

慌てる山田先生にデコピンを一発入れる。

 

「おっ……織斑先生……!」

 

そこには織斑先生がいた。

 

「つ……通信がきれちゃって。織斑くんと凰さんが……!!」

 

「ああ。本人がやると言っているのだから、やらせてみてもいいだろう」

 

「な……何を呑気なことを言っているんですか!? 早く救助に行かないと!」

 

普通なら山田先生の言う通りだが、状況はさらに悪かった。

 

「これを見ろ」

 

「え……」

 

織斑先生が指した物を見た山田先生は……

 

「こ……これは!」

 

それはアリーナの遮断シールドレベルだった。

 

「遮断シールドがレベル4に設定……ステージに通じる扉も全てロックされている。これでは二人を救助には行けない」

 

「まさか……あのISが……!?」

 

「だろうな」

 

状況は絶望的と言える状況かだった。

 

「シールドの解除を三年の精鋭たちに任せているが、あと何分かかるか分からない。政府に援助の連絡も入れたが……それもすぐには来ないだろう。しばらく二人には……持ちこたえてもらねばならない」

 

「そんな……」

 

「シールドの解除が済み次第、ステージに部隊を突入させる。部隊以外の教員は生徒たちを屋外に避難させるように。山田先生、全教員に連絡を」

 

「は……はい!」

 

山田先生は織斑先生の指示を受け、連絡に入る。

それと同時にセシリアが入出する。

 

「わたくしも突入隊に入れてください! お願いします!!」

 

「オルコットか……。お前は駄目だ」

 

しかし、返ってきた言葉は反対だった。

 

「な……なぜですか!?」

 

「お前のISは一体多向きだ。多対一ではむしろ邪魔になる」

 

「そんなことはありませんわ! このわたくしが邪魔だなどと……」

 

その時、アリーナ全体が揺れ出した。

すぐさま、織斑先生は確認すると一部の観客席に損傷と言う文字が出ていた。

 

「あいつら、しくじったのか」

 

その観客席を写した時、織斑先生の顔色が変わる。

そこに写っていたのは一機のIS。

漆黒のISが立っており、それはステージへと降り立った。

 

「なんで、あれがある……」

 

セシリア、山田先生は織斑先生の言葉の意味が解らなかった。

そして彼女らもそのISの戦いを見ていた。

 

 

    ◇

 

 

一夏と鈴も今起こった事が解らない。

遮断シールドを破って来たISを足止めする為と一夏と鈴は山田先生の指示を無視してまでステージに残ったもの、そこらのそう操縦者より強く、手を焼いていたがそんな中に更なる乱入者が現れたのだ。

突如、観客席の防御壁から爆発音がし、そこから漆黒のISを纏った操縦者が下りて来たのだ。

だが、一夏はそのISを知っていた。

 

「あれは……」

 

「一夏、あれを知っているの!?」

 

「ああ、あれは春名だ!」

 

「はぁ!? 嘘でしょ!?」

 

鈴は驚く。

それもその筈、代表候補生である鈴だからこそわかるのだから。

 

「企業所属でもない春名がなんでISを持っているのよ!?」

 

「そう言われても、俺にはわかないぞ」

 

そんな口論をしている内に侵入して来たISは春名を攻撃して来る。

遮断シールドを破る程の威力を持つ強力なビーム兵器を躊躇なく撃つ。

 

「春名!!」

 

一夏が叫ぶが、春名はそこから動くことは無かった。

しかし、そのビームを春名は()()()()()のだ。

 

「嘘だろ……」

 

一夏と鈴はその光景に目を疑うも、春名はゴーレムとの距離を一気に縮める。

勿論、ゴーレムもその間にビームを撃つが当たらない。

春名はゴーレムの目の前に来るとその拳を振り下ろす。

だが、ゴーレムはそれを回避する。

しかし、一夏たちは驚いた。

 

「鈴! 下がるぞ!!」

 

「う、うん!」

 

春名の拳が地面に当たるとそこを中心に地面が陥没したのだ。

地響きと振動が辺りを襲うも、春名はゴーレムを追撃する。

 

「なんだよ……あれ」

 

一夏は解らなかった。

漆黒のISを見るのはこれで二回目になるのに前回見たのとは全く違って見えたのだ。

ゴーレムが春名から距離を取ると、春名は追撃を止めた。

 

Echter als er schwur keiner Eide;(彼ほど真実に誓いを守った者はなく)

 

treuer als er hielt keiner Verträge;(彼ほど誠実に契約を守った者もなく)

 

lautrer als er liebte kein andrer:(彼ほど純粋に人を愛した者はいない)

 

und doch, alle Eide, alle Verträge,(だが彼ほど総ての誓いと総ての契約) die treueste Liebe trog keiner wie er(総ての愛を裏切った者もまたいない)

 

Wißt inr, wie das ward?(汝ら それが理解できるか)

 

Das Feuer, das mich verbrennt,(我を焦がすこの炎が) rein'ge vom Fluche den Ring!(総ての穢れと総ての不浄を祓い清める)

 

Ihr in der Flut löset auf,(祓いを及ぼし) und lauter bewahrt das lichte Gold,(穢れを流し熔かし解放して尊きものへ)

 

das euch zum Unheil geraubt.(至高の黄金として輝かせよう)

 

Denn der Götter Ende dämmert nun auf.(すでに神々の黄昏は始まったゆえに)

 

So - werf' ich den Brand in (我はこの荘厳なるヴァルハラを)Walhalls prangende Burg.(燃やし尽くす者となる)

 

Briah(創造)

 

Muspellzheimr Lævateinn(焦熱世界・激痛の剣)

 

春名が詠唱を唱え終えると同時にステージの地面に亀裂と灼熱の炎が噴き出す。

瞬時に危険と感じたゴーレム、一夏、鈴はすぐさまその場から逃げる。

しかし、周りは先程いたステージでなくなっており、それはまるで砲身の様な物だった。

 

「一夏あそこ!」

 

鈴が指した先に穴が空いていたが、それも徐々に閉じて初めていた。

一夏は鈴を抱え、その穴へと瞬時加速で突っ込んだ。

穴が閉じると同時に爆音が響く。

 

「春名!!」

 

一夏がアリーナの方に振り向き、妹の名前を叫ぶ。

爆音が止むと同時に砲身らしき物が無くなり、普通のステージへと戻っていた。

その中心には漆黒のISが立っており、ゴーレムの姿は何処にもなかった。

 

「春名さん!!」

 

アリーナの遮断シールドが強制的に解除され、生徒たちが外へと逃げる中、簪は打鉄弐式を展開して春名の元に近寄る。

それと同時に漆黒のISが解除され、春名が倒れ込む。

それを簪が抱き仕留める。

 

「春名さん! 春名さん!!」

 

その日は春名は目を覚ますことは無かった。

対抗戦も中止になるも、ゴーレムの正体、漆黒のISが何だったのかは解る事無く事件は闇に包まれてしまった。



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15話

今日のアニメ。
“問題児たちが異世界から来るそうですよ?”

あれって、10話しかなかったのか!?

面白かったのにな~


対抗戦から数日がたった。

あのことがあったのに関わらずIS学園は平和だった。

しかし、一夏、鈴、簪、のほほさんを除いては……。

 

「…………」

 

一夏は春名の事について考えていた。

対抗戦の後、春名は保健室に運ばれたが、命に別状は無いとのことだった。

それとは別に知りたい事があって、一夏、鈴、簪、楯無は保健室に集まっていた。

さらに、山田先生と織斑先生までもが保健室に来ていた。

 

「対抗戦の報告ついでに教えてくだいますか?」

 

諸事情でIS学園を離れていた楯無が帰って最初の報告が対抗戦に所属不明のISが侵入。

しかもそれを倒したのはあの春名だと言うことで楯無は織斑先生を問い詰める。

 

「ああ、いいだろう。お前たちも知る権利はあるからな」

 

のほほさんと楯無を除けば、ここいたメンバーは漆黒のISを見ている。

そして、その正体が春名であることも。

 

「ただし、他言無用だ。山田くんもだ」

 

「「「「はい」」」」

 

「わかりました」

 

全員の承諾を得た織斑先生は春名の寝るベットに腰を下ろす。

そして、自分の知っている事を全て話す。

 

「最初に言っとく、春名は人ではない」

 

その言葉に一同は驚いた顔をする。

それでも織斑先生は続ける。

 

「ドイツに帰ってきたついでに私の腐れ縁に春名の調査を頼んだ。しかし、結果は惨敗。生まれなどの経歴は一切不明。あの漆黒のISの行方も不明だった」

 

織斑先生はそっと春名の頭を撫でる。

 

「だが、一つだけわかったことがあったのだ」

 

「それは……」

 

楯無は恐る恐るそれを尋ねる。

 

「春名には人体では決して使われない物が含まれていたのだ。それもある物しか使われなかった……」

 

次に放たれた言葉は予想を超える物だった。

 

「春名の皮膚、骨、筋肉、内臓、それら全てが“ナノマテリアル”だと言う事が分かったのだ」

 

 

 

    ◇

 

 

楯無は春名の正体を聞いた時から頭を悩ませていた。

あの“ナノマテリアル”が目の前にあるって事だった。

 

「あの夢のナノマテリアルで完全な人間を作ることって可能なの……?」

 

ナノマテリアル。

IS武器から装甲と何でも再現できると言う事で多く学者はそれを使ったIS開発が行なわれた。

しかし、ここでナノマテリアルの欠点につき当てってしまったのだ。

ナノマテリアルナノマテリアルは状態維持の為に常時演算が必要であり、ハイパーコンピュータなみの演算処理が必要であったのだ。

IS自身でこれを行なえば問題はないが、それだとIS自身の基本装備にかかる演算が処理できないのだ。

つまりナノマテリアルで形が出来た張りぼて機体の完成と言う訳だ。

それでは駄目と学者は色んな手この手を使うも……儚い夢で終わってしまった。

以降、ナノマテリアルを使った開発は完全衰退、ナノマテリアルもお蔵入りとなってしまった。

だが、そのナノマテリアルが人型となって姿を現したのだ。

 

「あの漆黒のISが従来のISを超える演算処理できていると言うの?」

 

春名の正体の後に漆黒のISについて話されたが、それに関しては我々更識家が知っているのと全く変われなかった。

待機状態を所持していなかった春名がISを使用すると言う事と……漆黒のIS。

この二つは共通している。

 

 

    ◇

 

 

簪もまた春名の事を考えていた。

織斑先生から春名の正体を聞かされた時は、驚いてしまった。

人のように体温、脈、感触すらあったのに、それら全てが作り物。

簪自身にとっては信じたくない真実。

だからこそ……

 

「今度は……私が、春名さんを守る」

 

ナノマテリアルの事については知っていたので、もしこれが外部にもれれば大変な事になる。

助けてもらってばかりだったからこそ、簪は心から春名を守ることを誓ったのだ。

 

 

    ◇

 

 

対抗戦から二日に春名は目覚めるも、頭を押さえる。

変わった詠唱を唱えた後からの記憶が無く、何かの使命だけが頭の中に残っていたのだ。

 

“織斑一夏を■■■!!”

 

様子を見に来た織斑先生に会うも、どうしたらいいのか分からなかったが、その日は「ゆっくり休め」と特別に授業を休む許可を貰う。

 

「わかりました……」

 

春名はそのまま寮へと足を運び、自室に入ってすぐに寝た。



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16話

最近、体内時計がかなりずれている……


女に使えないISを何故か起動した私の義兄、織斑一夏がIS学園に入学。

幼馴染たちとの再会(私の知らない所で大喧嘩していたらしい)、そしてISでの実戦……。

波乱づくしだった学園生活にようやくささやかな平穏が訪れた……と思いきや。

 

「はーい皆さん。静かにして下さい!」

 

山田先生の挨拶から始まったのだが、今日はいつもと何かが違う。

 

「今日から皆さんと一緒に勉強する転校生のシャルル・デュノア君とラウラ・ボーデヴィッヒさんです!」

 

その正体はこのクラスに転校生が来たことだった。

金髪の美男子と銀髪の少女の二人だったのだが……

 

「お……男!?」

 

その内の一人が男だったのだから。

次の嵐は眼前に迫っていた事を私はこの時知る。

 

 

    ◇

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。不慣れなことも多いと思いますが、よろしくお願いします」

 

転校生の一人、シャルルはにこやかな顔でそう告げ一礼する。

あっけにとられたのは私を含めてクラス全員がそうだった。

 

「こちらには僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国から転入を……」

 

人懐っこそうな顔。礼儀正しい立ち居振る舞いと中性的に整った顔立ち。髪は濃い金髪。黄金色のそれを首の後ろで丁寧に束ねている。身体はともすれば華奢に思えるくらいスマートで、しゅっと伸びた脚が格好いい。

印象は、誇張じゃなく『貴公子』といった感じで、特に嫌味のない笑顔が眩しい。

 

「きゃ……」

 

「はい?」

 

「きゃああああああーーーっ!」

 

ソニックウェーブというやつだろうか。いや冗談ではなくて。クラスの中心を起点にその歓喜の叫びはあっという間に伝播する。

 

「あーもう、騒ぐな鬱陶しい」

 

面倒くさそうに千冬姉さんがぼやく。仕事がと言うより、こう言う十代女子の反応が鬱陶しいんでしょう。

 

「皆さん、もう一人自己紹介が残っているので……静かに……」

 

忘れていた訳ではないが……と言うより意識の外に追いやるのが難しいもう一人の転校生は、見た目からしてかなりの異端であった。

輝くような銀髪。ともすれば白に近いそれを、腰近くまで長く下ろしている。綺麗ではあるが整えている風はなく、ただ伸ばしっぱなしという印象のそれ。そして左目に眼帯。医療用のものではない、ガチな黒眼帯。二〇世紀の戦争映画に出て来る大佐がしていそうな、アレ。そして開いている方の右目は私と同じ赤色を宿してるが、その温度は限りなくゼロに近い。

印象は言うまでも無く『軍人』。身長はシャルルと比べて明らかに小さいが、その全身から放つ冷たく鋭い気配がまるで同じ背丈であるかのように見えるものに感じさせていた。

ちなみにシャルルは男にしては小柄な方だが、もう一人の転校生は女子の中でも若干背が低い部類だろう。

 

「そっか、もう一人……」

 

「綺麗な銀髪……」

 

「ちっちゃーい……」

 

「ねぇ何あれ?」

 

「眼帯……?」

 

当の本人は未だに口を開かず、腕組みをした状態で教室の女子たちを下らなそうに見ている。しかしそれも僅かの事で、今はもう視線をある一点……千冬姉さんにだけ向けていた。

 

「ラウラ……挨拶をしろ」

 

「はい……教官」

 

いきなり佇まいを直して素直に返事をする転校生……ラウラに、クラス一同がぽかんとする。

 

「け、敬礼!?」

 

「教官って千冬様のこと……?」

 

対して、異国の敬礼向けられた千冬姉さんはさっきとはまた違った面倒くさそうな顔をした。

 

「もう私は教官ではない。ここでは織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

そう答えるラウラはぴっと伸ばした手を身体の真横に着け、足を踵で合わせて背筋を伸ばしている。……どう見ても軍人、どうでなくても軍施設関係者である。しかも千冬姉さんの事を『教官』と呼んでいたので、間違いなくドイツ。

……あの日、そしてあの事件で千冬姉さんは一年程ドイツで軍隊教官として働いていたことがある。そのあとは一年くらいの空白期間を置いて、現在のIS学園教員になったらしい。

らしいと言うのは、一夏が山田先生や他の学園関係者にそう聞いたからだ。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

クラスメイトたちの沈黙。続く言葉を待っているのだが、名前を口にしたらまた貝のように口を閉ざしてしまった。

 

「あ……あの……他には……」

 

「以上だ」

 

空気にいたたまれなくなった山田先生が出来る限りの笑顔でラウラに訊くが、返ってきたのは無慈悲な即答だけだった。

そして何故か、ラウラは私と一夏に目があう。

 

「おい……貴様」

 

 

バシンッ!

 

 

「いきなり何しやがる!!」

 

一夏はラウラに、それも無駄のない平手打ちでいきなり、殴られた。

 

「私は認めない……。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか。そして……」

 

そう言って、私の方へと振り向く。

 

「貴様の所有権は我々ドイツの物だ」

 

「それは、どう言う意味かしら?」

 

「ふん……」

 

来た時同様すたすたと私たちの前から立ち去っていくラウラ。空いている席に座ると腕を組んで目を閉じ、微動だにしなくなる。

ドイツの物ねぇ……。私が保護されたのはドイツだから、適性の事を知っているだろうしい、私の適性を考えればあちら側は私が欲しいんだろうねぇ……。だけど、それを千冬姉さんに邪魔されたことがどうやら気に食わないらしいんだろうね。

 

「な…………何今の……」

 

「あの子、ちょっと怖い……」

 

「HRは以上だ! 今日は二組と合同で模擬戦を行う!! すぐに着替えて、第二グラウンドに集合!」

 

「は……はい!!」

 

気まずい空気の中を千冬姉さんが行動を促す。一夏も先程のことに腑が落ちないと言うか無茶苦茶腹が立っているんだろうがそうも言っていられなかった。

 

「織斑!! デュノアの面倒を見てやれ! 同じ男子だろう!」

 

「あ……はい!」

 

千冬姉さんはシャルルえお一夏に押し付ける。

一夏はそのままシャルルを連れて、駆け足で教室を出て行った。

 

「おっと、忘れるところだった。春名」

 

「はい?」

 

千冬姉さんが教室を後にしようとした瞬間、私を呼び止める。

ポケットから一つのブレスレットを取り出す。そして、私の耳元で何かを伝える。伝え終えるとそのまま教室を後にした。

 

 

    ◇

 

 

「本日から格闘……及び、射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

一組と二組の合同実習なので人数はつもの倍。出て来る返事も妙に気合いが入っていた。

 

「ん? 何だよセシリア」

 

「一夏さん……。ちょっとよろしいかしら?」

 

何かの因果か隣の女子はセシリアだった。四月のクラス代表決定戦以降、やたらと一夏に構ってくる。

 

「あの……先程の……そのボーデヴィッヒさんとは……どのようなご関係ですの?」

 

「なになに、何の話? 混ぜなさいよ」

 

「鈴」

 

「それが……一夏さん。今日来た転校生の女子にはたかれましたの」

 

「はぁ!? アンタまた馬鹿なことやらかしたんじゃ……」

 

「おいそこ……授業中に随分楽しそうな話をしてるじゃないか……」

 

「「あ」」

 

視線の先ではもちろん鬼が待ち構えていた。

バシーン!

蒼天の下で今日もまた出席簿アタックが響くのだった。

 

「くぅ……! 何かにつけて人の頭を……」

 

「ううう……一夏のせい、一夏のせい……!」

 

「俺のせいかよ!」

 

ズキズキと叩かれた場所が痛むのか、セシリアと鈴はちょっと涙目になりながら頭を押さえていた。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。織斑妹!」

 

「は、はい!」

 

私は千冬姉さんに呼ばれ、前と出る。

そして、小声で伝えて来た。

 

「今から言う事をイメージをしろ」

 

「……はい」

 

「黒い騎士をだ」

 

「黒い……騎士ですか……」

 

春名は千冬姉さんの言われた通りに黒い鎧を着た騎士を思いかべた。すると春名の身体が発光し、一機のISを纏った形で現れる。

そのISは対抗戦の時に現れた漆黒のISだった。

 

「え?」

 

当の本人も何故ISを纏っているのかが分かっておらず、そこにいた生徒たちも鳩が豆鉄砲を食ったよう顔をしていた。

 

「ええええええーーー!!!」

 

案の定、当たり前だが生徒全員が後になってから驚きの声を発した。

私はこの機体の情報を提示し、名前などを調べる。

 

「えっと……機体名は……エイヴィヒカイト?」

 

どうやらこの機体の名前はエイヴィヒカイトと言うらしく、武装に関してはよくわからない物がいくつも入っていた。

基本装備はどうやら腰の所についているブレードと銃剣のようだ。

それどころか、収納されている装備に関しては何故かロックが掛けれれており、取り出す事ができなくなっている。

 

「役者が揃ったところで、織斑妹。お前の対戦相手は……」

 

キィィィン……。

 

ん? 何この音?

するとエイヴィヒカイトから上空から落下物の警告が表示された。

 

「あ、ああ、あああーーー!! どいてください~~~っ!!!」

 

親方! 空から女の子が! と言わせるかのように山田先生が一夏の真上から落下して来る。

一夏も気付いた時には遅く、山田先生の突進を受け、数メートル吹っ飛ばされた後ゴロゴロと地面を転がった。

 

「白式の展開がギリギリ間に合ったな……。一体何が……」

 

むにゅ。

 

「あ……あのう織斑くん……。その……困ります……。こんな場所で……その……」

 

先程、吹っ飛ばされてゴロゴロと一緒になって転がった結果、一夏が山田先生を押し倒している状態になっている。しかも一夏の手はしっかりと山田先生の乳房に触れていて、今でも鷲掴み状態である。

 

「いえ! 場所だけでなく私と織斑くんは教師と生徒で……あ、でも織斑先生がお義姉さんというのはとても魅力的な」

 

見の危機を感じた一夏は即座に山田先生の方へと押し倒す。刹那、一秒前まで一夏の頭のあった場所をレーザー光が貫いた。

 

「ホホホホホホ……。残念、外してしまいましたわ……」

 

顔は笑っているがその額にははっきりと血管が浮いているのが見てわかる。蒼穹の狙撃手ことセシリア・オルコットとブルー・ティアーズ(大逆鱗バージョン)である。

 

「…………」

 

ガシーンと何かが組み合わさる音が聞こえた。

 

「一夏ああああああ!! いつまで乗っかってんのよ!!」

 

鈴の武器《双天牙月》を連結させ、ためらいもなく投げて来た。

 

「うわっバカ!!」

 

ドンッドンッ!

短く二発、火薬銃の音が響く。弾丸は的確に《双天牙月》の両端を叩き、その軌道を変える。

キンッキンッと地面に薬莢が跳ねる音を聞きながら、私は一夏のピンチを救ってくれた射手に視線を向ける。それはなんと山田先生だった。

 

「え……山田……先生……?」

 

両手でしっかりとマウントしているのは五十一口径アサルトライフル《レッドバレット》。アメリカのクラウン社製実弾銃器で、その実用性と信頼性の高さから多くの国で正式採用されているメジャー・モデルである。

しかし驚いたのは何よりも山田先生の姿で、倒れたままの体勢から上体だけを僅かに起こして射撃を行ってあの命中制度なのだ。雰囲気も、いつものバタバタした子犬のようなものとは全く違い、落ち着き払っている。

 

「流石、元代表候補生だな」

 

「昔の事ですよ。候補生止まりでしたし……」

 

ぱっと雰囲気がいつもの山田先生に戻る。くるんと身体を回して起き上がると、肩部武装コンテナに銃を預ける。それからずれた眼鏡を両手で直した。

 

「これから山田先生対織斑妹の模擬戦闘を行なう」

 

私の記憶上、二度目の試合を千冬姉さんは宣言するのだった。



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17話

「山田先生が元代表候補生!?」

 

「うっそぉ……」

 

「もしかして山田先生ってすごい人……?」

 

いつもの山田先生から想像できない事に生徒たちは再び驚く。

 

「え~と、織斑先生。私の相手は山田先生と言う事でよろしいんでしょうか?」

 

千冬姉さんは私の質問に頷く。

 

「では、はじめ!」

 

号令と同時に私は飛翔する。それを目で一度確認してから、山田先生も空中へと躍り出した。

 

「参ります!」

 

「い、行きます!」

 

言葉こそはいつもの山田先生だったが、その目はさっき程と同じく鋭く冷静なものへと変わっている。先制攻撃をしたのは私だったが、それを簡単に回避された。

 

「さて、今の内に……デュノア! 山田先生が使っているISについて説明してみろ」

 

「あ……はい!」

 

空中での戦闘を見ながら、シャルルがしっかりとした声で説明を始める。

 

「あのISはデュノア社製……『ラファール・リヴァイヴ』です。第二世代最後期の機体ですが、第三世代にも劣らない安定性と汎用性、豊富な後付武装が特徴です。現在配置されている量産型の中では世界第三位のシェアを持ち……七ヵ国でライセンス生産。十二ヵ国で正式採用されています。特筆すべきは操縦の簡易性で……それによって操縦者を選ばないことと多様性役割切り替え(マルチロール・チェンジ)を両立しています。そして装備によって格闘・射撃・防御の全タイプに切り替え可能で、参加サードパーティーが多いことでも知られています」

 

「よし……説明はそこまでで十分だ。そろそろ決着がつくぞ」

 

シャルルの説明に聞き入っていた女子たちは、戦闘がどうなっているのかを完全に忘れていた。

改めて見ると、春名のブレードをガードと同時に弾き飛ばし、そのままアサルトライフルを捻じ込む。

(負ける……)

 

その時、春名の中で何かが鼓動を打つ。

 

「!!」

 

山田先生が引き金を引くと瞬間、春名は山田先生の射撃を回避したのだ。

そして、一本の白いブレードを展開し斬りかかるが、山田先生はもう片方にあった銃でそれを防ぐ。

山田先生は一旦距離を取るが、それは悪手だと後で気付かされた。

 

War es so schmählich,(私が犯した罪は)――

 

ihm innig vertraut-trotzt’(心からの信頼において) ich deinem Gebot.( あなたの命に反したこと)

 

Wohl taugte dir nicht die tör'ge Maid,(私は愚かで あなたのお役に立てなかった)

 

Auf dein Gebot entbrenne ein Feuer;(だからあなたの炎で包んでほしい)

 

Wer meines Speeres Spitze furchtet,(我が槍を恐れるならば) durchschreite das feuer nie!( この炎を越すこと許さぬ)

 

Briah(創造)

 

Donner Totentanz――Walküre(雷速剣舞・戦姫変生)

 

詠唱を終えると春名の機体と身体が発光する。

それは織斑先生の予想を遥かに超える展開でもあった。先程の射撃を受けて、この試合は山田先生が勝つはずだったのだが、春名はそれを回避する。その上、よくわからない現象が起こった事によりこの試合は未知へと変わった。

 

「っ!?」

 

それは一瞬の出来事だった。

春名は一瞬にして山田先生の後ろへと移動し、手元のブレードを斬り上げる。

その行動に気付いた山田先生はアサルトライフルを楯に空いた方の手にマシンガンを呼び出す。

欠かさず、山田先生が反撃に入るが……

 

「え!? うそですよね!?」

 

アサルトライフルとマシンガンの同時射撃を春名は一本のブレードで防ぐ。

否、何発かは機体に当たっているのを確認していたのだが、それら全てが()()()()()()()()()

その後の展開は山田先生は春名の猛攻に耐え切れず地面へと落下した。

 

「これは、予想外だったな……」

 

「ほ、本当ですよ~……」

 

辛うじて生きていた山田先生は落ちて来た場所から自力で上がってくる。

春名は試合が終わると同時に発光していた身体が元に戻る。

 

「さて……これで諸君にも教員の実力が理解できただろう。以降は敬意をもって接するように」

 

ぱんぱんと手を叩いて織斑先生は皆の意識を切り替える。

 

「この後は八人ずつのグループで実習を行う。グループリーダーは専用機持ちが行うこと」

 

織斑先生が言い終わるや否や、一夏とシャルルに一気に二クラス分の女子が詰め寄って来る。

 

『織斑君、(デュノア君、)よろしくお願いしまーす!!』

 

「この馬鹿どもが……。出席番号順に分かれろ!!」

 

鶴の一声というやつだろうか。それまでわらわらとアリのように群がっていた女子たちは、蜘蛛の子を散らすがごとく移動して、それぞれの専用機持ちグループは二分とかからず出来上がった。

そんな中、春名は先程の事を思いかいしていた。

山田先生との模擬戦、負けると分かった瞬間、私の中で何かが鼓動を打った。その後は、うろ覚えだが山田先生を圧倒し勝った。

 

(これが、エイヴィヒカイトの力なのかな……)

 

今は授業の方を優先し、放課後にでもこの機体を調べる事にした。

 

 

    ◇

 

 

昼休みは購買で軽く買って教室で食べることにした。

その前に一夏から屋上で食べないかと誘われたが、このISについて調べたいからと理由を言ってその誘いを断った。

 

「……分からない」

 

ハッキリ言ってこの『エイヴィヒカイト』は色々とおかしい。

世代は不明、出力系統のデータも表示されず、唯一表示されたのは名前と武装、各装甲のダメージレベルのみと一般的なISとは全く違っていたのだ。

 

「制作者すら分からないとなると、これは……」

 

自分の記憶の手がかりになると思ったのだが、外れてしまったのが一番のショックでもある。

しかもあの後、千冬姉さんから人気のない場所で『エイヴィヒカイト』の事について聞かされた。

 

(私自身がISだったなんてね……)

 

予想外の真実に私自身も驚いていた。

その時外が騒がしい事に気付くと、そちらの方へと視線を向ける。

そこにいたのは、あの人だった。

 

「やあ!」

 

「……何の用ですか? 楯無さん」

 

かの生徒会長が私のいる一年一組の教室に足を運んで来たのだ。よっぽどのことがあるのだろう。

そう思っていると楯無はある物を私の前に置いた。

 

「……果たし状?」

 

「そう。その意味がわかるよね?」

 

何時しか話ことを思い出した。

たぶん、私が専用機を持ったことが関係あるのだろう。

 

「楽しみに待っているよ♪」

 

そう言って、楯無はこの教室から出て行く。

 

「面倒事が増えた……」

 

更なる予想外の展開に私は肩を落とすしかなかった。



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18話

久々に確認したらお気に入りが120を超えていた……



「ええとね……一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握してないからだよ」

 

「そうなのか? 分かっているつもりだったんだが……」

 

シャルルが転校して来てから五日が経って、今日は土曜日だ。IS学園では土曜日の午前は理論学習、午後は完全に自由時間になっている。とは言え土曜日はアリーナが完全開放なので殆どの生徒が実習に使う。それは一夏も同じで、今日もこうしてシャルルに軽く手合せをしてもらった後、IS戦闘に関するレクチャーを受けていた。

 

「知識として知っているって感じかな? さっき僕と戦った時も間合いが詰められなかったよね」

 

「うっ、確かに……。『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』も読まれてたしな……」

 

「白式は近接格闘オンリーだから、射撃武器の特性を理解しないと勝てないよ。特に瞬時加速(イグニッション・ブースト)は直線的だから軌道を予想できれば攻撃されちゃうしね」

 

「直線的か……うーん……」

 

「あ……だからって加速中に軌道を変えない方がいいよ。空気抵抗や圧力の関係で負荷がかかると怪我しかねないしね」

 

「なる程……。にしてもシャルルの説明は分かりやすいな! ……今までこう」

 

一夏はシャルルの言葉をしっかりと聞きながら、話の度に頷く。

何せシャルルの説明は分かりやすい。非常に分かりやすいのだ。

 

『こう、ずばーっとやってから、がきんっ! という感じだ』

 

『何となく分かるでしょ? 感覚よ、カ・ン・カ・ク』

 

『防御の時は右半身を斜め上前方へ五度傾けて、回避の時は後方へ二十度反転ですわ』

 

一夏に今まで教えてくれた自称コーチたちのありがたいお言葉がこれだ。

色んな意味で行き詰まっていた(そして息詰まっていた)一夏の前に現れた救いの主ことシャルル・デュノア。その感動はとてもではないが言葉では言い表せない。男同士気を遣わなくていいのも最高だった。

 

「今まではこうなんだ? 一夏」

 

「あんなに親切に教えてやったのに何よ!」

 

「何が不満だったと言うのかしら?」

 

自称一夏の専属コーチ×3が後ろでぶつくさ言っている。

さっきも言ったように土曜の午後はアリーナが全開放されているので、ここ第三アリーナでも多くの生徒が所狭しと訓練に励んでいる。しかし、学園で二名しかいない男子が両方いるせいか、第三アリーナは使用希望者が続出。かなり過密な状況だった。

 

「とりあえず射撃訓練をするのがいいと思うんだけど……『白式』って後付武装(イコライザ)がないんだよね?」

 

「ああ……拡張領域(バススロット)が空いてないらしい。だから量子変換(インストール)は無理だって言われてる」

 

「多分だけどそれってワンオフ・アビリティーの方に容量を使っているからだよ」

 

「ワンオフ・アビリティー……『零落白夜(れいらくびゃくや)』のことだよな」

 

「そう……ISと操縦者が最高の相性状態にある時、自然発生する能力のことだよ」

 

こう言う説明がすらすら出て来る辺り、シャルルが如何に優秀かが良く分かる。

 

「相性に依存する能力だから発動しないケースが多いけどね。それを補う為にアビリティー以外の特殊能力を複数の人間が扱えるようにしたのが第三世代のISなんだ」

 

「へぇ……」

 

「白式は第一形態なのにアビリティーがあるっていうだけで物凄い異常事態だよ。前列が全くないからね。しかも、その能力って織斑先生の……初代『ブリュンヒルデ』が使っていたISと同じだよね?」

 

どうもそう言うことらしい。千冬姉さんと同じなのは武器だけではなく、その仕様までもが同じらしい。何とも因縁めいている。

 

「まあ、姉弟だからとか、そんなもんじゃないのか?」

 

「ううん。姉弟だからってだけじゃ理由にならないと思う。さっきも言ったけど、ISと操縦者の相性が重要だから、いくら再現しようとしても意図的に出来るものじゃないんだよ」

 

「そっか。でもまあ、今は考えても仕方ないだろうし、そのことは置いておこうぜ」

 

「あ、うん。それもそうだね。じゃあ、射撃武器の練習をしてみようか。はい、これ」

 

そう言って一夏に渡してきたのは、さっきまでシャルルが使っていた五五口径アサルトライフル《ヴェント》だった。

 

「え? 他のやつの装備って使えないんじゃないのか?」

 

「普通はね。でも所有者が仕様許諾(アンロック)すれば、登録してある人全員がつかえるんだよ。……うん、今一夏と白式に仕様許諾を発行したから、試しに撃ってみて」

 

「お、おう」

 

一夏に至っては、初めての銃器は妙な重さを感じてあた。実際にはISのエネルギーフィールドがあるので重たくは無いはずなのだが、初体験の武器なので精神的にそう感じたんだろう。

 

「か、構えはこうでいいのか?」

 

「えっと……脇を締めて。それと左腕はこっち。わかる?」

 

ひょいと一夏の後ろに回ったシャルルは身長差があるものの、ISの特性で浮いていることから自由な動きで一夏の身体を上手く誘導する。

 

「火薬銃だから瞬間的大きな反動が来るけど、ほとんどはISが自動で相殺するから心配しなくてもいいよ。センサー・リンクは出来てる?」

 

「銃器を使うときのやつだよな? さっきから探しているんだけど見当たらない」

 

高速状態での射撃なので、そこは当然ハイパーセンサーとの連携が必要になる。ターゲットサイトを含む銃撃に必要な情報をIS操縦者に送るために武器とハイパーセンサーを接続するのだが、白式にそのメニューが見つからないようだ。

 

「うーん、格闘専用の機体でも普通は入っているんだけど……」

 

「欠陥機らしいからな。これ」

 

「100%格闘オンリーなんだね。しゃあ、しょうがないから目測でやるしかないね」

 

千冬姉さんと同じ機体と言っている時点で私は白式にセンサー・リンクが無いことは予想がついていた。

 

「じゃあ、行くぞ」

 

「うん。とりあえず撃つだけでも大分違うと思うよ」

 

感覚と言うのはやってみなければ絶対にわからないもの。一夏は一度深呼吸をしてから、ぐっと引き金に力を込めた。

 

バンッ!!

 

「うおっ!?」

 

物凄い火薬の炸裂音に一夏は驚く。

 

「どう?」

 

「お、おう。なんた、アレだな。取り敢えず『速い』って言う感想だ」

 

弾丸の速度はかなり速いというのはもちろんわかっていたが、自分で撃つとそれがより顕著にわかる。

それに加えて身体に来る反動は、殆どが相殺されているとはいえ、刀とは全く違う手応えに、初めての体験というもあって心臓がバクバクと鳴っていた。

 

「そう。……瞬時加速(イグニッション・ブースト)も速いけど、弾丸はその面積が小さい分速い。だから軌道予測さえ合っていれば簡単に当てることができるし、外れても牽制になる。一夏は特攻する時、集中してるけど、それでも無意識にブレーキがかかるんだよ」

 

「その隙に間合いを開けられてるってことか……なる程なあ。たまに一方的な展開に持って行かれるのはそういうことだったのか」

 

その通りね。格闘メインの箒さんはともかく、鈴やセシリアさんと戦うと一方的な展開になる理由を一夏は理解できたようね。

 

「そういう事さ。マガジン使い切っていいから続けて」

 

「ああ」

 

一夏は続けて二発三発と空撃ちをする。手から全身へと伝わる衝撃を感じながら、逆にどう間合いを詰めるかを考えていた。

 

「そう言えば一つ気になっていたんだけど、シャルルのISってラファール・リヴァイヴなんだよな?」

 

山田先生が使っていたIS『ラファール・リヴァイヴ』(通称リヴァイヴ)はネイビーカラーに四枚の多方向加速推進翼(マルチ・スラスター)が特徴的なシルエットをしていた。それに比べてシャルルのISはカラーだけでなく全体のフォルムからして違う。

背中に背負った一対の推進翼中央部分から二つの翼に分かれるようになっていて、より機動性と加速性が高くなっている。さらにはアーマー部分も山田先生のものより小さくシェイプアップされている上に、マルチウェポンラックとして大きなリアスカートがついている。そこにも小型の推進翼がついていて、主に姿勢制御に使っているようだった。

そして何より違うのが肩部分のアーマーで、本来ついている四枚の物理シールドが全て取り外されている。その代わりに左腕にシールドと一体化した腕部装甲が付けられていて、逆に右腕は射撃の邪魔にならない為なのかすっきりとしたスキンアーマーだけになっている。

 

「ああ、僕のは専用機だからかなりいじってあるよ。正式名称は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。基本装備(プリセット)をいくつか外して、拡張領域(バススロット)を倍にしてるんだ」

 

「倍!?」

 

量子変換(インストール)してある装備だけでも二十くらいはあるよ」

 

「ちょっとした火薬庫みたいだな……」

 

その様子を見ていた私たちはそのことで疑問に思っていた。

 

「二十……大した数ですわね」

 

セシリアたちも気付いていたようで、説明する。

 

「多くの装備を積もうとも、同時に使える数は限度がありますし。呼び出し時間のリスクを考えると扱いも容易ではないはず……」

 

「あの転校生。何か特殊な技能でも持ってんのかしらね」

 

私たちはシャルルに目を向ける。

 

「ねぇ……ちょっと見てよあれ……!」

 

「何だ? 騒がしいな」

 

騒ぎの元に顔を向けるとそこにはあいつがいた。

 

「ドイツの第三世代型だわ……」

 

「まだ本国でのトライアル段階って聞いてたけど……」

 

そこにいたのはもう一人の転校生、ドイツの代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

転校初日以来、クラスの誰ともつるもうとしない、どころか会話さえしない孤独の女子。

 

「あいつ……」

 

「おい……」

 

ISの開放回線(オープン・チャンネル)で声が飛んで来る。

 

「! ……なんだよ」

 

気が進まないが無視する訳にもいかない。一夏は取り敢えず返事すると、言葉を続けながらラウラがふわりと飛翔してきた。

 

「貴様も専用機持ちだそうな。ならば話は早い……私と戦え」

 

「……嫌だ。理由がねえよ」

 

「貴様になくても私にはある。……貴様がいなければ教官が」

 

ああ……そういう事ね。

あらかた予想はしていたが、どうやらアレのことをラウラは許せないのね。

 

「大会二連覇の偉業をなしえただろうことは用意に想像できる。だから私は……私は……貴様の存在を認めない」

 

千冬姉さんの教え子と言う以上に、その強さに惚れ込んでいる。だから千冬姉さんの経歴に傷を付けてしまった一夏が憎い、と……。だけど、それは……。

 

「また今度な……。トーナメントだってあるだろう」

 

「逃げる気か……ならば―――戦わざるを得ないようにしてやる!!」

 

言うが早いか、ラウラはその漆黒のISを戦闘状態へとシフトさせる。刹那、左肩に装備された大型の実弾砲が火を噴いた。

 

「!!」

 

ゴギンッ!

 

「……全く。面倒事は程々にして頂戴……」

 

「貴様……」

 

横合いから割り込んできた春名が大剣で実弾を弾く。

 

「我々に恩を返さない裏切り者が!」

 

「裏切り者とは失礼ね。それに恩なんて売った覚えもないし。どうせ、貴方達の目的は私と言う存在が欲しいんでしょ?」

 

お互いに涼しい顔をした睨み合いが続く。

 

其泣状者(そのなくさまは)……」

 

『そこの生徒! 何をしている!?』

 

春名が詠唱をしようとした瞬間、突如アリーナにスピーカーからの声が響く。騒ぎを聞きつけてやって来た担当の教師だろう。

 

「ふん……運がいいな。今日は引こう」

 

横やりを二度も入れられて興が削がれたのか、ラウラはあっさりと戦闘態勢を解除してアリーナゲートへと去っていく。

 

「一夏、大丈夫だった?」

 

「あ、ああ。助かったよ。春名」

 

つい数秒前までラウラと対峙していた鋭い眼差しはもうない。いつもの春名へと戻り一夏の顔を覗き込んできた。



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19話

お盆がだるい……


あの後、私たちは各自でアリーナから解散する。

私はアリーナの外に設置された自動販売機でスポーツドリンクを買っていた。

 

「……っ!?」

 

突如、私の頭に頭痛が起こり、手に持っていたスポーツドリンクを落とし、そのまましゃがみ込んでしまった。

 

“織斑一夏を■ろ■!!”

 

私の頭の中でこの言葉がループする。

数分して頭痛が収まるが、私は立てなかった。

 

「何なのよ……」

 

エイヴィヒカイトを展開するにつれて頭痛が酷くなる一方だった。

その度にあの言葉が私の頭の中を過る。

 

「……私って何者なの……?」

 

私はただそこで立つことが出来ず、恐怖が私を支配する。

 

 

    ◇

 

 

どうにか寮に戻り、ベットに垂れ込む。

その後はあんまり覚えておらず、いつの間にか寝てしまった。

その数分後に部屋の灯りが点き、楯無が戻って来る。

 

「もう、寝ちゃったか……」

 

寝間着に着替えず制服のままうつ伏せ状態で寝ている春名を楯無はその上に掛け布団を掛ける。

春名の正体を聞かされた時から、前よりは警戒心を解いていた。

何のために生まれたのかが分からない少女に楯無は何故かほっとけなかったのだ。

 

「さて、私も寝ましょうかな……」

 

楯無も日々の疲れが溜まっていたので早めに寝る。

その頃、一夏の部屋ではシャルルが女だと言う事が発覚していた。

 

 

    ◇

 

 

月曜日の朝、教室ではある噂で溢れかえっていた。

どこから来た噂かは分からないが、『学年別トーナメントで優勝者は織斑一夏と交際できる』と言う噂が流れている。

 

(大分、改変されているね……)

 

大方、この噂の元は篠ノ之さんだと予想される。

鈴さんやセシリアさんはこんな回りくどい事はしないどろうし、クラスの女子が言うとは考えにくい。なら、残る選択肢は篠ノ之さんに絞られる。

まあ、後は誰かがそれを聞いて流したら元から大分変ってしまったと。

 

(そう言えば、後少ししたら楯無さんとの試合だったな……)

 

私がエイヴィヒカイトを展開出来るようになった日に楯無が果たし状を送り付けて来たことを思い出す。

日時は今日から数日後の放課後に行われる。

 

(やれるだけのことをするしかないか……)

 

私は心の中でため息を吐きながら、今日の授業を乗り切った。

 

 

    ◇

 

 

そして、当日。

楯無から渡された果たし状に書かれた通りに放課後の第一アリーナのステージに私は立っていた。

向かい側には送り主の楯無が余裕の構えで立っている。

 

「待っていたわよ」

 

楯無先輩は扇子を広げ、私のことを待っていたらしい。

その背後からは強者のプライドを感じられる。

 

「殺りましょうか……」

 

「ええ……」

 

お互いのプライドをかけて一世一代の幕が明けた。

 

「エイヴィヒカイト!!」

 

「ミステリアス・レディ!!」

 

お互いのISが展開すると、カウントダウンが始まる。

 

3……

 

春名は思い返していた。千冬姉さんと出会って色んなことがあった。一夏と一緒にいて色んなことを体験した。初めての学校……初めての友達……初めての家族。だから、私は……

 

2……

 

楯無は春名に関してのことを思い返していた。経歴不明の謎の少女。天才的頭脳を備えた第二の織斑千冬と言われても可笑しくない規格外の少女。愛しいの簪ちゃんに纏わり付く害虫。その正体を知った時は驚かされたけど、それはそれ。だから、私は……

 

1……

 

「「負けられない!!」」

 

 

 

カウント0と同時に春名と楯無はそれぞれの主力武器の抜刀と展開をしながら突っ込む。

春名のブレードを楯無はランスの取手で逸らし、体勢が右に寄った瞬間を楯無はランスで衝きを入れる。しかし、春名は左手にある銃剣でそれを防ぎぐ。

 

「ちっ!」

 

「…………」

 

お互いの初撃が防がれ、一旦距離を取った。

着地と同時に楯無は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一気に春名に近づく。

春名もそれは予想していたかのように両刃剣を展開し、楯無のランスの軌道を逸らす。

戦いは更にギアを上げる。

 

Die dahingeschiedene Izanami wurde auf dem Berg Hiba(かれその神避りたまひし伊耶那美は)

 

an der Grenze zu den Ländern(出雲の国と伯伎の国) Izumo und Hahaki zu Grabe getragen.( その堺なる比婆の山に葬めまつりき)

 

Bei dieser Begebenheit zog Izanagi sein Schwert,(ここに伊耶那岐)

 

das er mit sich führte und(御佩せる) die Länge von zehn nebeneinander gelegten(十拳剣を抜きて)

 

Fäusten besaß, und enthauptete ihr Kind, Kagutsuchi.(その子迦具土の頚を斬りたまひき)

 

Briah(創造)

 

Man sollte nach den Gesetzen der Götter leben.(爾天神之命以布斗麻邇爾ト相而詔之)

 

楯無の猛攻の中、春名は詠唱を唱えていた。

そして、唱え終えると同時に春名の身体は炎を纏い、持っていた両刃剣が大太刀へと変わる。

 

(前見せて貰った能力と違う!?)

 

楯無は春名がエイヴィヒカイトを展開した時の映像を全て確認していた。そこで、あることに気付く。春名の機体に異変が起こるのは詠唱を唱えた時から発動する。

しかし、今回の変化は今までの変化とは異なっていた。

 

(詠唱の内容次第で効果が変わるという事は分かっていたけど、また新しい能力で来てしまったか……)

 

しかし、楯無にとってはこれは好機だと判断する。楯無は水、春名は炎。

楯無はランスにミステリアス・レディの「アクア・クリスタル」というパーツからナノマシンで構成された水のヴェールを纏わせる。

 

「「はぁあああ!!」」

 

春名は緋々色金を楯無目掛けて振る。楯無も蒼流旋をぶつけ春名の一撃を相殺する。

学園最強(生徒限定)である楯無を前に学年主席の春名は遅れを取らない。気を抜けば負ける。そんな戦いを二人は繰り広げていた。

 

沈む床(セックヴァベック)!!」

 

突如、エイヴィヒカイトが沈み始めたのだ。春名は脱出を試みるが出来なかった。

 

「生徒相手にこれを使う事になるとは思わなかったわ……」

 

単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)……」

 

この拘束はミステリアス・レディの単一使用能力。高出力ナノマシンによって空間に敵機体を沈めるようにして拘束する超広範囲指定型空間拘束結界。対象は周りの空間に沈み、拘束力はAICを遥かに凌ぐと言われた物だった。

 

「チェック・メイトよ」

 

「メイトはまだ早いよ!」

 

突如、楯無の真下から数本の鎖が飛び出す。突然の事に楯無は単一使用能力を解除してしまった。

楯無の拘束が解け、春名は距離を取る。

 

血の伯爵夫人(エリザベート・バートリー)……」

 

春名の手元には一冊の本があった。しかし、その本から出る気は禍々しくヤバい物だと分かる。

楯無も突然の登場に驚いたが、冷静に現状を確認する。

 

(また、別の能力を使ったの……? 詠唱させる隙は無かった。装備だけでも能力があるって事かしら?)

 

春名の手元には大太刀は無く一冊の本がある。先程の一撃はあの本の能力だと楯無は判断する。

だが、春名はその本をしまう。

 

「!? どう言うつもりかしら?」

 

「これを使うためですよ」

 

春名の背後に大きく文様が描かれた。

 

「Feuer」

 

突然の砲撃に楯無は一気に後方へと下がる。熱風からして相当大きな物が打ち出されたと判断したが、その通りだった。

 

極大火砲・狩猟の魔王(デア・フライシュッツェ・ザミエル)

 

春名の出した能力により戦局が大きく変わる。

先程の一撃はステージに大きなクレーターを作る程の威力を容赦していた。

更にと春名の前に複数の杖が出現する。

 

「Feuer」

 

それは楯無に向けられ発射された。

 

「パンツァ―ファウスト!?」

 

第二次世界大戦中のドイツ国防軍が使用した携帯式対戦車擲弾発射器を春名は出現させて来たのだ。

楯無も予想外の事に回避と同時に蒼流旋についている四門のガトリングガンを撃つ。

春名も回避すると背後の文様から先程のを撃つ。

爆撃音が響く中、楯無は指を鳴らした。

その直後、春名の周りで爆発が起こる。

 

清き熱情(クリア・パッション)

 

楯無はこの戦いの中でナノマシンで構成された水を霧状にして散布していた。ナノマシンを発熱させることで水を瞬時に気化させ水蒸気爆発を起こしたのだ。

 

「「はぁ、はぁ、はぁ……」」

 

お互いに息が上がっていた。

SEもあと僅か、後一撃を入れれば勝者が決まる。

 

「これが最後になるわね……」

 

「ええ……そうですね」

 

楯無と春名は構える。この一撃に全てを込めて……

 

「受けて見なさい! これが私の奥の手よ!!」

 

「来なさい!!」

 

楯無は今あるアクア・ナノマシンを蒼流旋に集める。

春名もそれに合わせて詠唱する。

 

Tod! Sterben Einz'ge Gnade!(死よ 死の幕引きこそ唯一の救い)

Die schreckliche Wunde, das Gift, ersterbe,(この毒に穢れ蝕まれた心臓が動きを止め)

 

das es zernagt,(忌まわしき毒も) erstarre das Herz!(傷も跡形もなく消え去るように)

Hier bin ich, die off'ne Wunde hier!(この開いた傷口 癒えぬ病巣を見るがいい)

Das mich vergiftet,(滴り落ちる血のしずくを) hier fliesst mein Blut:( 全身に巡る呪詛の毒を)

 

Heraus die Waffe! Taucht eure Schwerte.(武器を執れ 剣を突き刺せ)

 

tief, tief bis ans Heft!(深く 深く 柄まで通れと)

Auf! lhr Helden:(さあ 騎士達よ)

Totet den Sunder mit seiner Qual,(罪人にその苦悩もろとも止めを刺せば)

von selbst dann leuchtet(至高の光はおのずからその上に) euch wohl der Gral!(照り輝いて降りるだろう)

 

Briah(創造)――」

そして、その一撃が放たれた……

 

Miðgarðr Völsunga Saga(人世界・終焉変生)

 

「ミストルテインの槍」

 

お互いの一撃がぶつかり合い、アリーナは光に包まれた。



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20話

お互いの放った一撃はエイヴィヒカイトとミステリアス・レディに大きな負荷をかけていた。

小型気化爆弾4個分に相当するミストルティンの槍を春名は拳に触れた物を一撃で粉砕することが出来る人世界・終焉変生(ミズガルズ・ヴォルスング・サガ)で破壊している。

そこから生まれるエネルギーを二人はもろに浴びていたのだ。

 

「「はぁあああああ!!!!」」

 

春名と楯無は負けまいと全ての力を注ぎ込む。そして、春名はミストルティンの槍を破壊したと同時に決着を告げるブザーが鳴り響いた。

 

『試合終了。勝者―――なし』

 

……え?

 

先程の破壊でエイヴィヒカイトとミステリアス・レディのSEが底に着いてしまったのだ。

春名も楯無は試合結果には納得はいかなくもないが、今日はそんな事を言っている余裕がなかった。

お互いに渾身の一撃を放ち、もうくたくただったのだ。

 

「「次は……絶対に私が……勝つ!!」」

 

それを残し、二人はISの強制解除と同時に地面に倒れる。

その後、騒ぎに駆けつけた一夏たちによって、二人は保健室へと運ばれた。

 

 

    ◇

 

 

時間を戻し、春名と楯無が戦っている一方、別のアリーナでは事件が発生していた。

もう直、学年別トーナメントが開催されると言う事でセシリアと鈴はアリーナに来ていた。

しかし、そこにドイツの転入生ラウラ・ボーデヴィッヒの乱入により事態が思いがけない方向へと進む。

その騒ぎは教室の所まで来ており、一夏とシャルルはそのアリーナに訪れるも、その惨劇に目を疑う。

代表候補生である鈴とセシリアを相手にラウラは躊躇いなく二人をいたぶる。

それを見ていた一夏は白式でアリーナのシールドを破って、乱入する。

しかし、その乱入も一人の教師によって止められた。

 

「……やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

 

「千冬姉!?」

 

一七〇センチはあるIS用接近ブレードを織斑先生はISの補助なしで止めたのだ。

その後、以降の模擬戦の禁止と決着を学年別トーナメントに着けるように言った瞬間だった。近くのアリーナから物凄い爆音を響きわたったのだ。

アリーナにいた生徒たちもその爆音に驚く。そこからさらに大きな爆音が響きわたったのだ。

 

「な、何が起こっているんだ!?」

 

一夏たちはすぐさまその爆音があったアリーナに向かうも、アリーナに入ることが出来なかったのだ。

アリーナ全てにロックがかけられており、誰一人と侵入を許さない。

しかし、爆音が止むとアリーナのロックが解除される。

解除されるいなや、一夏たちはステージの方へと向かう。そこにいたのは、地面に倒れている二人の生徒だった。

 

「春名!?」

 

一夏は倒れている春名の元へと駆け寄る。

 

「春名! おい! 大丈夫か!?」

 

「あ……う……」

 

息があることを確認した一夏は春名を抱えて走り出した。途中すれ違う女子たちはその一夏を見て驚いていた。何故なら春名は今一夏にお姫様抱っこ状態で運ばれているのだ。

謎の爆発の詳細はのちに織斑先生に伝わり、一夏たち生徒には模擬戦が行なわれていたと伝えられた。



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21話

Diesがアニメ化したので、書けたぜぇ!!

前の話を修正しましたので、前話から読むといいかもしれません


春名は深い闇へと沈んでいく。

 

(駄目……これ以上沈んだら……)

 

戻れなくなってしまう。

どうにかして、上へと上がろうするが、一方に進めない。

まるで、何かに引き寄せられているかのように。

 

「うっ!?」

 

突如、頭の中に何かが入り込んでくる。

 

『エラー。システムに異常を確認。再構築を開始。オールグリーン』

 

(何……これ……)

 

解らなかった。

突如、頭の中に流れるメッセージ。

 

『抹殺対象―――』

 

抹殺対象……?

そうだ、私は―――誰かを殺す為に送られて来たんだ。

 

『織斑一夏。速やかに実行せよ』

 

そうだった。

私は織斑一夏を殺す為に生まれたんだったけ……

どうしてだっけ? 解らない。思い出せない。

それだけを残して、春名は目覚める。

 

「織斑一夏を……殺す」

 

不完全な状態で目覚めた春名。

その牙がもうじき一夏に襲いかかるのは、そう遠くなかった。

 

 

 

 

六月も終わりに入り、IS学園は学年別トーナメント一色にと変わる。その荒ただしさは予想よりも遥かに凄く、今こうして第一試合が始まる直前まで、全生徒が雑務や会場の整理、来賓の誘導を行っている。

 

「ひゃーすごい人出だよ!」

 

「学園外の人も沢山きてるね……」

 

更衣室のモニターから観客席の様子を見る。そこには各国の政府関係者、研究所員、企業エージェント、その他諸々の顔ぶれが一堂に会していた。

 

「そりゃあ企業にとっても大事なイベントだからね」

 

「黛先輩」

 

「有能な三年を見極めてスカウトしたり、援助している生徒の成長を確認する為に、色んな国・企業の人間が集まるのよ」

 

「へ~……」

 

「うう……なんか緊張してきた……」

 

「そういえば先輩はどうしてこんな所に?」

 

「それは勿論! 今話題のドイツの候補生の試合前インタビューをする為よ! まぁ、速攻で一蹴されたんだけどね……」

 

「……はぁ……」

 

「先輩はどなたとペアを組んだんですか?」

 

「私? 私はねぇ……」

 

「(私は焦ってばかりいる。一夏とのこと……候補生でも無い自分のこと……)」

 

箒は静かにまぶたを閉じながら、その心中は穏やかではなかった。

 

「(こんな有様で……今度こそ強さを見誤らず、勝つことは出来るだろうか……)」

 

ペア参加へと、箒はどうやって一夏を誘うかを考えていたらいつの間にか夜になっていた。

せめて日付が変わる前にと部屋を訪れると、待っていたのは知らない女が出て来たのだ。

その後、一夏の客だと分かると、彼女は奥に行ってしまい、その後に一夏が出て来る。

箒に返って来たのは「もうペアは組んでしまったぞ」という返事だった。

 

「あっ、対戦表発表されるみたいだよ!」

 

それからは、締め切り当日になってしまい、ペア抽選になってしまった。

 

「(パートナーがいない生徒は、当日に抽選で組決めされる。良いパートナーに恵まれるといいのだが……)」

 

このペア抽選の当たりは、シャルル・デュノアだ。

シャルルのペア決めで戦争が起こるってことで、生徒会長権限により、抽選で決めることになったのだ。

なので、例年よりもペア登録しなかった生徒が多数出てしまった。

 

「なっ……!?」

 

出て来た文字を見て、箒は声をあげた。

一回戦の対戦相手は一夏、シャルルのペアだったのだ。

 

「これはいい」

 

異様な気配を感じ取った箒は後ろを振り向く。

 

「手間が省けた」

 

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ…」

 

 

 

 

「一回戦目からか……これは、いいかもね」

 

春名は会場の外にいた。

殆どの生徒は既に会場に入ってしまって、外にいるのは春名一人だけ。

 

「たく、()()()()()()に任せるじゃなかったわ。もう、いいわ。このつまらない実験も終わらせて新しい実験でもしましょう」

 

春名はそう言い残して、会場に入場する。

そして、生徒の誰も来れないアリーナの上に座った。

それと同時に目的の試合が始まる。

一夏とラウラの試合は原作通りにことが進み、一夏がラウラを救出したと同時に春名は―――

 

Et arma et verba vulnerant Et arma(武器も言葉も傷つける)

Fortuna amicos conciliat inopia amicos probat Exempla(順境は友を与え、欠乏は友を試す)

Levis est fortuna(運命は、軽薄である) id cito reposcit quod dedit(運命は、与えたものをすぐに返すよう求める)

Non solum fortuna ipsa est caeca sed etiam(運命は、それ自身が盲目であるだけでなく、) eos caecos facit quos semper adiuvat(常に助ける者たちを盲目にする)

Misce stultitiam consiliis(僅かの愚かさを思慮に混ぜよ、) brevem dulce est desipere in loc(時に理性を失うことも好ましい)

Ede bibe lude post mortem nulla voluptas(食べろ、飲め、遊べ、死後に快楽はなし)

 

その瞬間、一夏と春名を除く、全てが―――

Acta est fabula(未知の結末を見る)

 

消えた。



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22話

「な、何が起きたんだ!!?」

 

一夏はいきなりのことにパニックを起こす。

ラウラを救った瞬間、目の前にあった……いや、この世界その物が全て一瞬にして消えたのだ。

あるのは、真っ白な世界が広がっていた。

 

「      」

 

「!? ッ!」

 

それは、一瞬のことだった。

一夏は背後に一瞬だが、誰かが近付いてきたことに反応した。それと同時に無意識だが、雪片弐型でガードする。

その反応は正解だった。

 

「は、春名!?」

 

「あれ? 何で反応出来たのかしら?」

 

一夏の首元の近くには、春名の《エイヴィヒカイト》の主力武器である名のない剣があったのだ。

 

「どうしたんだ!? なんで―――」

 

「物わかりの悪い男ねぇ~」

 

明らかにその笑みは、春名のものとは違うとしか言えない程にそいつはそこにいた。

今までに見せた事のない笑み、その笑みは殺人鬼がするような笑みとしか言えない。

 

「お前は誰だ!!」

 

「うん? それを素直に答えるとでも思う?」

 

そいつは、再び一夏に襲いかかる。

一夏はラウラとの試合での蓄積ダメージが残っており、白式のシールドエネルギーもシャルルからもらった分しか残っていなかった。その為、腕の部分展開しか出来ていない。

いくら一夏と言えど、タダでは済まないことぐらい理解できる。

 

「ちょこまかと、うざいわね」

 

そいつは、ISの操縦になれていないのか。単純な攻撃しか出来ていない、そのため一夏は何とか凌ぐことができる。

 

「あぁ! うざったいわね」

 

だが、一夏と言えど時間が経つに連れて限界に近づいていた。

ISのシールドエネルギーの自然回復を待ってくれるような相手ではなが、今なら多少だが完全展開ができる。

だが、そいつは―――

 

Fahr' hin,Waihalls lenchtende Welt(さらばヴァルハラ 光輝に満ちた世界)

 Zarfall'in Staub(聳え立つその城も) deine stolze Burg( 微塵となって砕けるがいい)

 Leb' wohl, prangende Gotterpracht(さらば 栄華を誇る神々の栄光)

 End' in Wonne, du ewig Geschlecht(神々の一族も 歓びのうちに滅ぶがいい)

 Briah(創造)――

 Niflheimr Fenriswolf(死世界・凶獣変生)

 

そいつの姿が一瞬にして消え、一夏は腹にそいつの剣をまとも受けてしまった。

 

「ガッ!?」

 

三度、一夏はバウンスし、ボロ雑巾のように打ちのめされる。

速度を極限まで高める能力だが、それ以外のステータスが極限まで下がるとデメリットのおかげで一夏は助かったが、生身での一撃は相当効いてしまった。

 

「ちっ! まだ生きているのかよ―――」

 

そいつは再び攻撃態勢に入ると、一夏は白式を起動させる。

完全展開なった白式でそいつの一撃を防ぐが、二撃、三撃と防ぐことは出来ない。

 

「いい加減に終われよ!!」

 

「くっ!」

 

一夏はそいつの攻撃を僅かにずらし、腕を捕まえる。

 

「うおおおおおお!!」

 

一瞬でいい。それが一夏の考えた作戦だった。

目では追うことは出来ない。けれど、そいつが消えた訳ではない。

必ず実体ある。なら、捕まえればいい。だから、一夏は捨て身に出た。

そして、その勝機が訪れる。

 

「な!?」

 

一閃。

一夏の一太刀がそいつに当たる。

 

「――――――――――――!」

 

だが、一撃で倒せなかったことが、一夏の一番痛手だった。

この能力にはまだ、隠された力があったからだ。

そして、それを呼び出してしまった。

 

Voruber, ach, voruber!(ああ 私は願う どうか遠くへ) geh, wilder knochenmann!( 死神よどうか遠くへ行ってほしい)

 Ich bin noch jung,(私はまだ老いていない) geh, Lieber! Und(まだ生に溢れているのだから) ruhre mich nicht an.(どうかお願い 触らないで)

 Gib deine Hand, du schon und zart(美しく繊細な者よ 恐れることはない) Gebild!(手を伸ばせ) Bin Freund( 我は汝の友であり) und komme nicht zu strafen.( 奪うために来たのではないのだから)

 Sei guten Muts! Ich bin nicht wild,(ああ 恐れるな怖がるな 誰も汝を傷つけない) sollst sanft in meinen( 我が腕の中で愛しい者よ) Armen schlafent!. (永劫安らかに眠るがいい)

 Briah(創造)――

 Niflheimr Fenriswolf(死世界・凶獣変生)

 

そいつは白く変色し、言葉にならない叫びがその場を支配した。



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23話

それは、もう戦いではなかった。

獣の様に暴れ回る白い機体。一夏はギリギリの所で耐え切っていたが、既に限界だった。雪片で一撃一撃を流し、その場を凌ぐ。

 

「はぁはぁ、はぁ。くっ!」

 

「――――――」

 

目では追うことの出来ない速度と叫びが一夏に襲う。

しかし、唯一だがハイパーセンサーにのみそれを感知することができたのが幸いだった。

 

(なんとかしなければ…………)

 

相手は容赦なく、一夏を襲う。

だが、一夏にはこの盤面をひっくり返す方法がない。

このまま行けば…………一夏は確実に死ぬ。

 

(白式…………少しの間だけでいい、耐えてくれ!)

 

一夏はふと、白式に呼び掛ける。

今、この場に立てているは白式のお陰であり、一夏もそれはわかっていた。

だから、責めてお礼ぐらいは言い残しす。

それが、一つの奇跡を生むきっかけとなった。

 

 

 

 

「――――――」

 

「ぐっ!」

 

白式のシールドエネルギーが遂に底を着き、一夏の身体は宙を舞った。

その時、一夏は思った。ここまでかと。

目の前には、大きく手を振りかざそうとする白いIS。無防備になった一夏にはもう防ぐことは出来ない。

 

「ち、くしょ……」

 

一夏は悔しかった。

誰一人として救えず、義妹すら救えない。

ゆっくりと進むその一撃に一夏はそっと目を閉じる。

 

"なら、力を望む?"

 

奇跡は一夏を見捨てなかった。

 

「っ…………」

 

いつになっても痛みが来なかった。一夏はそっと目を開けるとそこには白い砂浜が広がっていた。

先ほどいた、白い空間とは違い、ここには塩の匂い、緩やかに流れる波をはっきりと感じさせる。

 

(ここは……どこだ…………?)

 

幻想的な空間。どこまでも続く浅瀬の世界に、一夏はいた。

誰かの呼び声が聞こえる。

けれど、身体全体が鉛のように重く、思うように動けない。

 

(夢なのか……? 俺は、もう……)

 

そしてまた、誰かの声が聞こえる。

 

「あの子を救わないの?」

 

その声は懐かしく、どこか温もりに満ちている。

そうだ。俺は……春名を救うために。

 

「なら、起きなくちゃね」

 

ああ、なんて残酷な声だろう。

そんな声を聞かされたら―――。

 

「起きない訳にはいかないよなあ!」

 

俺は、全身を縛る鎖を引き千切る。

そうだ、俺は―――。

 

 

 

 

「――――――!?」

 

勝ちが確定していたこの場で、そいつは起き上がる。

しかも、目では追うことの出来ない速さの一撃を―――一夏は掴んだのだ。

一閃。一夏は雪片は振り下ろす。

逃げることの出来ない白い機体はもろに受ける。

 

「どう……なっている…のよ」

 

そして、一夏の白式が輝き今まであったフォルムが変わる。

白式が第二形態へと行こうしたのだ。

 

「ふざける……なぁ!!」

 

そいつは、剣を振り下ろすが―――。

 

「終わりだ」

 

今の一夏にはそれは止まって見えた。

半歩身体をずらし、零落白夜を最大出力で振り抜く。

春名のISは強制的に停止し、解除される。

 

「おっと」

 

強制的に解除されたことにより、春名は放り出される。

一夏は春名をキャッチし、そこからは先程まで感じていたどす黒い気が全く感じ、いつもの春名だと直ぐに分かった。

 

「あれ……一夏? 私は……」

 

「何も覚えていないのか?」

 

いままでの戦闘は何も覚えていなかった。

地上に降りると、一夏はISを解除する。

 

「そうだ! 私……」

 

その時、春名は背にゾッとする悪意を感じる。

バッと上を見上げ、一夏は突き飛ばす。

 

「なっ、何を―――するん……だよ」

 

一夏は春名のいきなりの行動に怒るが、再び春名を目にした時に言葉を失う。

先程まで一夏と春名のいた所には無数の槍が突き刺さっていたのだ。

そして、春名の身体にも同じ槍が貫かれていた。

 

「春名!!」

 

一夏はすぐにその槍を引き抜こうと触れようとするが。

 

「触っては……駄目。これは―――」

 

一夏は春名の忠告を聞かずに槍に触れ。

 

「熱っつ!?」

 

触れることの出来ない温度で、一夏は自分の焼けた手を見る。

 

「本当に役に立たないゴミねぇ。まあ、ここまで侵食出来ただけいいとするわ」

 

上から誰かの声が聞こえる。

そして、一夏は直ぐに何なのか分かる。そこから発される気は今ままで戦っていたそいつと同じだったのだから。

しかし、それよりももっと嫌な気だった。

 

「ゴミだと……お前はなんだ!」

 

「下等生物に名乗る名はないけど……いいわ。ここまで生き残った褒美をあげないといけないわね」

 

そいつは―――。

 

「アテナ。そこのゴミの造り主よ」

 

緑色の長髪。真っ白なローマ風の衣装を着た女性がいた。



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