ガンゲイル・オンライン:Apex of Gunfighters (EoEo.)
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【主要登場人物紹介】

▼これは本作に登場する主要登場人物の紹介枠です。

▼新キャラクター登場の際に毎回更新していきます。

▼一部話数を踏まないと開示できない情報もあるのであしからず。

  10/22:後の話と辻褄が合わなくなるため、サーニャのGRY SBRを削除、
09/20:サイボーグのプレイヤーの名前を公開、武器紹介追加。
  07/12:全体の書き方を修正。
07/07:サーニャの武器と双子の悪魔のアバター名と武器を公開。
'17 01/03:再筆記に伴い設定の見直しとサーニャの本名と武器の変更。
'16 01/20:内容変更に伴いラファールの武器の一部を削除。
12/25:サーニャの武器、ラファールの武器、スコッチの武器を追加。
11/04:"花咲 葵"の項目追加、"ピエージェ"の内容を更新
10/30:"少年風のアバター"の項目を"ピエージェ"に変更、更新。"双子の悪魔"の項目を追加。
10/06:"少年風アバターのプレイヤー"の項目を追加しました。
09/17:サーニャの使用武器を更新しました。
08/19:【武器のレア度の参考】を追加しました。
08/19:メインウェポン、サブウェポンの概念を無くしました。
08/17:"サイボーグのプレイヤー"の項目を追加。
07/31:サーニャとラファールのステータスを調整しました。
'15 07/28:サーニャのステータス調整とサブウェポンを更新しました。


【武器のレア度の参考】

・★☆☆☆☆☆ 星1
始めたばかりのプレイヤーでも持てる程度の武器。
普通のショップに売っていたり、フィールド下級モンスターから良くドロップする。
維持コストや基本的な性能値の武器が多いため初心者から上級者まで、幅広いプレイヤーが使用する。


・★★☆☆☆☆ 星2
普通のショップで売っているが、星1よりも少し値が張る。
フィールド下級モンスターからドロップするが、確率は星1よりも低い。
性能と維持コストが良く、使用するプレイヤーも多い。
例として、一世代前の自動火器などがここに入る。


・★★★☆☆☆ 星3
普通のショップで売っておらず、大型ショップに売っているが、星2より値が張る。
フィールド下級モンスターからドロップするが、確率は極めて低い。
フィールド中級モンスターから良くドロップする。
性能と維持コストが釣り合う位。
例として、最新式の銃や、カスタム品の銃などがここに入る。


・★★★★☆☆ 星4
大型ショップに売っているが、星3より値が張る。
フィールドモンスターからはドロップせず、ダンジョンモンスターからドロップする。
ボス級モンスターの通常ドロップとして良くドロップする。
性能値は高いが、大口径の銃器が増えてくるため維持コストは高くなる。
例として、最新式の第5世代ライフルやカスタム品の銃、一部古い設計の銃などがここに入る。


・★★★★★☆ 星5
大型ショップでは売っておらず、ボス級モンスターのレアドロップとして落とす。
GGO内に1つの武器が10~20つ存在する位。
性能値はとても高いが、特殊パーツなどの使用率が多いため修理費が高い。
例として、.300ウィンチェスターマグナム弾や.338ラプアマグナム弾を使ったスナイパーライフルなどがこの枠に入る。


・★★★★★★ 星6
ある特定条件でボス級モンスターを倒した場合のレアドロップ。
RMTでは10万円以上の値が付くことも。
GGO内に1つの武器が2~5つ存在する位。
性能値は他を凌駕するが、各コストも比例する。
例として50口径の対物ライフル等がこの枠に入る。


・★★★★★★★ 星7
ゲーム内に1つ、もしくは存在しているかどうかも不明。


※その他、カスタムによって性能が上がりランクが上がる場合もある。


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・牧宮 沙羅 (まきみや さら)

17歳、本作の主人公。

ロシア名、アレクサンドラ・チャイカ。

ロシア人の父親と日本人の母親との間に生まれたハーフ。

11歳でモスクワ第9女子士官候補生寄宿幼年学校へ入学し通常科目のほか軍事戦略と射撃を含む軍事基礎、更に独学で科目以外の戦術などを学んでおり極めて優秀な成績で卒業している。

同級生からは、大人しくあまり感情の起伏が無いと思われがちだが熊のぬいぐるみ(テディベア)に目がなく、祖父母の家の至る所に置いてあるほどのコレクター。全てコレクションを日本には持って来れなかった為、選りすぐりの5体をバックに入れて持ってきている。

 

 

・アバター名(ローマ字表記)

サーニャ (Sanya)

【挿絵表示】

(イメージ)

 

沙羅のアバター。

アバター名の「サーニャ」はロシア国籍名の彼女の愛称から。

銀髪で長い髪のF-1400系レアアバター。(F-1400系アバターのアカウントは約600~700万クレジット、現実換算で約6~7万円ほどで取引されている。実際ゲーム開始直後に、他GGOプレイヤーからアカウントを購入したいと声をかけられた。)

沙羅がまだ幼年学校に在学中の時からザ・シードによって作られたVR空間での訓練を受けていたせいか、その時の仮想世界での身体能力補正値をGGOにコンバートされてしまった。

通常のプレイヤーはステータスやバレットサークルによるゲーム補正で射撃をカバーするが、サーニャは射撃の経験があるため、ゲームシステムに頼らない射撃が可能。

ゲーム内スキルと«現実世界»で培った戦闘動作をシステム外スキルとして織り交ぜた戦闘スタイルが特徴。

しかしゲーム内スキルへの順応が出来ていないせいも有り、極AGI型特有の現実では考えられないような素早い動きをするプレイヤーや、STR、VITを重点的に上げ、撃たれてもなかなか倒れないプレイヤーの様な"現実的では無い"プレイヤーに対しては苦戦することある。

 

 

・使用武器

 

USSR "AK74":★★☆☆☆☆ 【鉄と鉛の世界~】

AK-47の改良型AKMをベースとし、使用弾をフルサイズ短小弾7.62mm×39弾から変更、高速小口径弾5.45mm×39弾を使用するアサルトライフル。構造はAKMとほぼ同一だが、発射炎が小口径弾では従来より大きくなるため、大型のフラッシュハイダーが取り付けられている。

幼年学生時代に慣れ親しんだ銃でサーニャはこれを最初の銃としてアルフレッドの店で譲り受け、少しずつカスタマイズしている。

 

Remington "M700":★★★★★☆ 【傷心 《前編》~】

サーニャが狙撃用に購入した.300ウィンチェスターマグナム弾を使用するスナイパーライフル。

サーニャはこれにカスタムストック、8.5-25倍50mmスコープ、伸縮式バイポッド、サプレッサー等を装着している。

 

FN "SCAR-H TPR Mk20 SSR":★★★★☆☆ 【アップデート】

SCARの7.62mm版SCAR-Hに長銃身と延長フォアエンド、精密射撃用のバットストックを

備えた狙撃用/DMRモデル。

サーニャの所有物ではなく、アルフレッドの店から借りた物。

スコープは3.5倍から15倍の物が装着されている。

 

【New!】BLASER "R93 Tactical2":★★★★★☆ 【暗闇の再会~】

直動式(ストレート プル)ボルトアクションスナイパーライフル。

ボルトハンドルを手前に引くだけで次弾の装填ができる為、素早い次弾装填が出来る。

.338 ラプアマグナム弾を使用する。

スコッチが倒したプレイヤーの物を使用。

 

AF "Strike One":★★☆☆☆☆ 【鉄と鉛の世界~】

9x19mmパラベラム弾を使用する装弾数17+1発のポリマーフレームハンドガン。

軽さとコンパクトさ、低反動が特徴。

アイテム、"使用弾薬変更用パーツ"を使えば使用弾薬を変更できる。

 

SOG "VOODOO HAWK":★★★☆☆☆ 【バレット・ラインの先へ 《前編》~】

小型で汎用目的に使われるトマホーク系の斧。

全長約32.5cmとコンパクトなサイズで、全体がブラックカラーで仕上げられた

デザインが特徴的。ストレートなブレードには錆びにくいステンレス鋼材。

ハンドルにはガラス繊維強化ナイロンを使用している。

軽く、振りやすいこの斧は敵に致命的な一撃を食らわせることができる。

--------------------

 

・一ノ瀬 詩子 (いちのせ ともこ)

沙羅と同じクラスに居るゲームオタク女子。

メガネをかけているが眼鏡を取ると美人らしい。

 

 

・アバター名(ローマ字表記)

ラファール (Rafale)

詩子のアバター。

ラファールとはフランス語で突風の意味。

橙色の長い髪に緑の瞳、«現実世界»の詩子と違いメガネはしていない。

F-4500系アバターで沙羅のアバター程ではないがレアである。

女性GGOプレイヤーが少ないこととレアアバターの美形も相まって、下心見え見えで

近づいてくる男性プレイヤーも少なくない。

軽装とAGI型能力構成による一撃離脱戦法を得意とするが軽装故に打たれ弱く、また、チームでの戦闘はステータス振りからあまり得意ではないがこれについては本人はあまり気にしていない様子。

 

 

・使用武器

 

******:★★★★★★★

現在公開できません。

 

Glock "Glock18C" x2:★★★☆☆☆

フルオート機能を搭載した機関拳銃。

小型である上にポリマーフレームが軽量なため連射時の反動は多少大きいが

毎分1200発の連射力は伊達ではない。

(ラファールはこれを2丁持ちしている)

 

--------------------

 

・店長

沙羅のアルバイト先の店長。

既婚者で、二児の父。

 

 

・アバター名(ローマ字表記)

アルフレッド (Alfred)

ショップ"Alfred Weapon Shop"の店主。

9割ラファールが手に入れてきた商品を並べて商売をしている。

本人はGGO内に登場するWW2時代の武器等を集めている。

 

 

・使用武器

 

Haenel "Sturmgewehr(StG) 44":★★★★☆☆

現代的なアサルトライフルの原形とされる自動小銃。

拡張性に乏しく旧式な銃ではあるが、威力は現代のアサルトライフルに

引けをとらない。

 

Mauser "C96":★★★★☆☆

クリップ式装填を採用した旧世代の自動拳銃。

ハンドガンとしては大型ではあるが、7.63x25mmマウザー弾の威力は高い。

別途アイテム"ストック"をつけられる。

 

 

・アバター名(ローマ字表記)

スコッチ (Scotch)

SBCグロッケンから、西部にある小さな町"ウェストタウン"を拠点としていたガンマン。テンガロンハットとメキシカンポンチョ、伸ばした顎髭が特徴で髭を触りながら話すのが癖である。

スキル"ガンスピン"(戦闘にはあまり関係の無いスキル)、"ファニングショット"、"抜き撃ち"をマスターしており、さながら西部劇に登場するガンマンそのもの。(スキル"抜き撃ち"のおかげで銃を構え、トリガーに指をそえなくともバレットサークルが表示されるため、あのような技が可能)

 

 

・使用武器

 

Colt "Single Action Army" x2:★★★☆☆☆

古い設計のシングルアクション式回転式拳銃。

装弾数は6発で現代の回転式拳銃と違いシリンダーが固定式のため、装填と排莢は銃後部のローディングゲートから行うか、またはシリンダーそのものを取り外して装填する。

いくつかの種類が存在する。

(スコッチが使用するのは2丁ともブラックパウダー(つや消しブラック)モデルのアーティラリー(約5.5インチ) .45ロングコルト弾仕様。

 

Sawed Off Shotgun:★★★☆☆☆

水平2連式ショットガン。

ソードオフ化とショートバレル化しているため、取り回しが良く、バレルを短くしたことから発射直後に散弾の拡散がすぐ始まるため散弾の近接戦闘では絶大な殺傷力がある。その代わり射程距離は犠牲となってしまった。

 

Winchester "M1886":★★★★☆☆

西部開拓時代に名を馳せたWinchester(ウィンチェスター)M1873レバーアクションライフルの改良型。

パーツ等を交換せずに45-70ライフル弾他、強装の50-110ウィンチェスター弾まで使用出来る。

 

--------------------

 

・花咲 葵 (はなさき あおい)

サーニャ達と同じ学校の中等部2年生。

女の子のような名前のため、同級の一部生徒からいじめを受けている。

GGOプレイ開始直後に軽度のフルダイブ不適合者と発覚、銃によって狙いを付けようと意識すると視界がゆがむ、距離感がつかめなくなるなどの症状がある。

ゲーム内では«現実世界»での自分を出さないために、強気な姿勢をとっている。

 

 

 

・アバター名(ローマ字表記)

ピエージェ (Pieuje)

葵のアバター。

普段は口元をスカーフで隠しているが、その見た目は少年風。

軽度のフルダイブ不適合者のため、銃を使うことは殆どないが完全バレットライン頼みの射撃をすることもある。

サーニャ達のスコードロンに入ってからは主にメンバーのサポートを担当。

DEX値の高さから来る周到なトラップを仕掛け、敵を翻弄する。

 

 

・使用武器

 

SWD "M11/9":★★★☆☆☆

"MAC-11"を改良し、使用弾を.380ACPから9mm×19弾に変更し毎分1200発と制御しづらかった連射性能は毎分650発に調整され、扱いやすくなった。

瞬間火力こそなくなったが、威力と扱いやすさは向上している。

 

Beretta "Px4 Storm":★★★☆☆☆

9x19mmパラベラム弾を使用する重心バランスの良さとグリップの握り易さが特徴のポリマーフレームピストル。

同社のM92シリーズと違いオープン型スライドをやめ、標準的なフルカバー型に変更。

他にもロータリーバレルを採用している。

 

C4爆弾:★★★☆☆☆

軍用プラスチック爆薬。

本体は粘土状で粘土状であるため、自由な形に整形し使用できる。

起爆方法は有線式からリモコン式までさまざま。

銃撃によって起爆することは無く、解体することでしか無力化できない。

ちなみに食すと毒状態になるため注意。

ピエージェは黒い箱に詰めて振動センサーと時限式を合わせた(動かすと時限装置が作動する)による罠として使用した。

 

跳躍地雷(スモーク):★★★☆☆☆

通常は殺傷兵器である跳躍地雷を炸裂によって周囲に煙幕を張ることが出来るようピエージェによってカスタムメイドされた物。もちろん殺傷力は無い。

 

クレイモア地雷:★★☆☆☆☆

湾曲した箱状をした指向性対人地雷。地上に敷設し、起爆すると爆発により内部の鉄球が扇状の範囲に発射される。

リモコン、ワイヤートラップ、時限式など起爆方法は様々。

 

Ontario Knife Company "OKC-3S":★★★☆☆☆

アメリカ海兵隊に採用されているコンバットナイフ。

M16やM4にバヨネットとして装着することも可能。

他の銃剣当に比べて大型で、刃渡りが長い。刃側の根元には鋸になっており、枝程度なら切断することが出来る。

 

--------------------

 

・ショール(schorl)

全身を強化外骨格、パワードスーツに身を包んだ謎のプレイヤー。

二つの光剣を使用し敵の銃弾を切り捨て戦うその姿は、以前GGOに現れた光剣使いのとあるプレイヤーを思わせる。

普段はメタマテリアル光歪曲迷彩(ステルス迷彩)が使用できるマントを羽織っているが、透明化させるのは何か目的がある時だけのようだ。(XM25の爆風によって耐久値が0になったマントは、普通のマント)

 

 

・使用武器

 

カネシゲX6 x2:★★★★★★

光剣シリーズの上級武器。刃光は赤。

シリーズ下級の"カゲミツG4"の威力が強化されたが、オーバーヒート対策に新型の冷却装置と、長時間使用できるよう大型のバッテリーを採用したため本体が大型化、重量は重くなっている。

(第6話でサーニャたちがダンジョンでレア武器入手するために周回していたのはこの光剣のため。サイボーグのプレイヤーはこれを同時に二本使用する。)

 

SilencerCo "Maxim 9" x2:★★★☆☆☆

9x19mmパラベラム弾を使用する銃とサプレッサーが一体となったハンドガン。

大柄な見た目とは裏腹にフロントヘビーによるリコイルコントロールのしやすさ、一体構造による他に類を見ない消音効果は静かに敵を殺めるには最高の武器だろう。

 

 

--------------------

 

・双子の悪魔(デビルズ・ツイン)

髪をツインテールに結び、ミリタリーワンピースにトレンチコートを羽織った瓜二つのアバターで、声をかけてきたプレイヤー(特に男性)を甚振ってから倒す、二組のプレイヤー。

どんな相手にも近接戦闘を仕掛けようとするリアとそれを絶妙なバランスでサポートするシアとの息の合ったコンビネーションはまるで現実でも姉妹の様に思えるが?

 

 

・使用武器

 

・リア (Ria)

【New!】M1897 Trench:★★★★☆☆

ポンプアクション式散弾銃、外装式のハンマーとチューブ型弾倉を備える。

通常のM1897より銃身は短く切り詰められ、閉鎖空間での制圧力が高まっている。

放熱板や着剣装置、負革の吊環が追加されている。

 

******:★★★☆☆☆

現在公開できません。

 

 

・シア (Shia)

【New!】Grossfuss MG42:★★★★☆☆

軽機関銃、毎分1200発以上の発射速度を誇る。

一人で運用出来るよう、50連ベルトを収納できるドラムコンテナを装着している。

 

******:★★★☆☆☆

現在公開できません。



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第一章:Game Start
OPS 01:旅立ち -Fixed-


今話では主人公が日本に来るまでの物語となっています

まだVRMMOについては触れません、次回からです。


2017/06/20
ナレーションを三人称に統一+一部セリフを修正


「敬礼!!」

 

凛とした声の女性教官の声とともに、その場に集った軍服姿の少女たちが背筋を伸ばし一同に敬礼をする。

 

「休め!!」

 

その言葉とともに手を背の後に下げ、しかし背筋はピンと張り、身動きひとつしない。

彼女達はモスクワ第9女子士官候補生寄宿幼年学校を今日限りで卒業する卒業生だ。

その中の一人、彼女の名前は"アレクサンドラ・チャイカ"彼女の同級の友人達からは"サーニャ"の愛称で呼ばれている。サーニャは11歳の時にここ、士官候補生幼年学校へ入学。普通の学生がする勉強に加え、その他に軍事戦略と射撃を含む軍事基礎を学び、女性士官の卵として教育されてきた。

 

「アレクサンドラ・チャイカ!」

 

彼女の名前を呼ばれた、サーニャはすぐさまその場から一歩踏み出し壇上へと歩みを進める。

すれ違う彼女の同級の者は真剣に前を向く者、涙を必死に堪える者、様々。

ここを卒業すると皆、陸軍大学に入学したりするのが一般的だが、彼女、サーニャはこの時既に心に決めていた。

 

"日本へ行く"と。

 

 

 

「じゃあサーニャは"日本(イポーニヤ)"に行くの?」

 

無事卒業式が終わり、サーニャは同級生と今後のことについて話をしていた。

 

「うん、まぁね」

 

サーニャは今日、同級の仲が良かった友人に日本に行くことを初めて打ち明けた。

 

「私やナターシャ、アンナは皆陸軍大学に進学するけど本当にそれでいいの?」

 

「1年前くらいから決めてたことだしね…お母さん死んじゃってから日本(イポーニヤ)に行ったこと無かったから。」

 

この学校に入学する者達は入学以前から成績優秀者の他に、親が居ない子や身寄りのない者が多い。サーニャも実はその中の一人である。

サーニャはロシア人でロシア語講師の父とその生徒であった日本人の母の元に生まれ幼少を日本で過ごした。

しかしサーニャが小学校に上がってすぐ病で母親が病死し、父親とサーニャはロシアへ帰国。そして数年後、今度はサーニャの父が不慮の事故で他界してしまう。

サーニャは父方の祖父母の家に預けられたが、幼いながらもサーニャは祖父母の迷惑にならないようにと幼年学校へ入学したのだった。

 

「まぁ、サーニャが決めたことだしなんとも言えないけど…勿体無いと思うけどなぁ」

 

「教官にも言われたよ、ここで学んだことをムダにするのか!ってね」

 

「だろうねぇ…」

 

日本(イポーニヤ)にこんなことわざがあるよ、『可愛い子には旅をさせよ』って」

 

「それ自分で言う!?」

 

そんな話をしながらサーニャとサーニャの友人達、そして同級生は共に過ごした幼年学校を後にした。

モスクワから電車に揺られ4時間、サーニャの祖父母の家、そして生まれ故郷のサンクトペテルブルクに帰って来た。

 

「6年ぶりかぁ…」

 

モスクワもそうであったが、サンクトペテルブルクもまだ雪が降り積もってる。

6年も経てば町並みも若干変わっていた、あったはずの店が無かったり無かったはずの

物が出来てたり、サーニャはそれが新鮮であって懐かしくも感じていた。

モスコーフスキー駅からタクシーでサーニャの祖父母の家に帰って来た。

 

「ただいまー」

 

サーニャが扉を開けると、懐かしい匂いがした。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「おかえりなさい、元気だったかい?」

 

最初に彼女を出迎えてくれたのはサーニャの祖母だった。

 

「うん、おばあちゃんは?」

 

「私はいつでも元気だよ、それにサーニャの顔が見れたんだ、ますます元気さ」

 

彼女の祖母はニッコリと笑う、サーニャが6年ぶりに見た顔だ。

 

「あれ、おじいちゃんは?」

 

「あぁ、爺さんは暖炉に使う薪を採りに行ったよ」

 

「それはまぁ元気なことで…」

 

「さぁさぁ、せっかく帰って来たんだお入り!」

 

久しぶりの家、やはりサーニャはここが一番落ち着く。

 

「それで、サーニャはどうするんだいこれから、この間電話で日本(イポーニヤ)に行くって言っていたけど。」

 

サーニャがソファーに座った途端、話を切り出してきた。サーニャは祖父母には事前に電話でそのことを話していた。

 

「うん、みんなと一緒に陸軍大学に進学するのもいいんだけど、やっぱり私諦めきれなくて…」

 

「そうかい、まぁサーニャが決めたことさ、間違ってないないと私は思うよ。」

 

「おばあちゃん…」

 

「ワシも婆さんと同意見だよ」

 

サーニャが後ろを振り向くと、薪を持ったサーニャの祖父が立っていた。

 

「あら、お帰りなさい。サーニャはさっき着いたばっかりだよ」

 

「そうかそうか、おかえりサーニャ」

 

「うん、ただいま」

 

「よし、じゃあサーニャも帰って来たし今日はごちそうだねぇ!」

 

「ありがとう、手伝うよ」

 

当たり前のようなやりとりでも、6年間寮に泊まりこみだったサーニャには懐かしく、幸せな気持ちであった。

 

「今週中にはここを出るよ」

 

食事の席でサーニャは祖父母に話した。

 

「そうかい、じゃあそろそろサーシャに渡す時かねぇ…」

 

「?」

 

サーニャの祖父がすっと席を立ち、部屋の隅の引き出しから一枚の封筒を取り出した。

 

「それは?」

 

「これはサーニャ、お父さんと日本(イポーニヤ)のお母さんが残したお金だよ」

 

「えっ…」

 

「自分達に何かあった時のためにと、二人がサーニャのために貯めていたものだよ、これを向こうに持って行き」

 

サーニャが両手でその封筒を取ると、ずしりと来る重さだった。

 

「で、でもおじいちゃんやおばあちゃん達は…」

 

「ワシらはもう老いぼれだ、できることとすればサーニャ、お前が幸せに生きて行けるように見守るだけさ」

 

サーニャの祖父がそう言うと隣りにいるサーニャの祖母もうんうんと頷いている。

 

「おじいちゃん、おばあちゃん...」

 

自然とサーニャの目から涙がこぼれていた、彼女が父親を亡くした時も彼女の祖父母は暖かく迎えてくれた。

サーニャは、「二人に恩返しは出来ただろうか?いや、私が幸せに生きることが二人への恩返しなのだろう」と心の中でそう思っていた。

3日後、スーツケースとバッグに荷物を詰め彼女は祖父母の家を後にした。

祖父母は笑顔で見送ってくれたが、どこか少し寂しそうな顔をしていた。

サンクトペテルブルクから電車に乗り、モスクワのドモジェドヴォ空港から日本への

直行便の飛行機にサーニャは乗り込む。離陸するとサーニャは瞬く間に故郷が遠くなった気がした。

サーニャは日本で暮らすにあたって、日本の高校2年生から留学として卒業まで学ぶことになった。

書類関係は彼女の祖父の友人、元仕事仲間などの手助けを借り、彼女が住む家までも手配済みという、手の回し様。サーニャは少し祖父の人脈について恐怖を覚えたのだった。

モスクワから離陸して10時間半ほど、日本の成田空港に到着。

サーニャはそのまま高速バスとタクシーを使って約3時間、彼女が住む家がある街に着いた。

 

「真っすぐ行って…路地を曲がって…ここ…?」

 

メモに書かれた地図を頼りに進むと、目の前には平屋の家が佇んでいた。

 

「い、一軒家…」

 

サーニャはてっきりアパートだと思っていた為に、開いた口が塞がらない。

新居の前で立ち尽くしていると、隣の家の扉が開き男性がこちらを見るやいなや小走りで近寄ってきた。

 

「あぁ!君がサーニャちゃんだね、おじいさんから聞いているよ~、一人で暮らすんだって?

大変だけど、困った事があったらいつでもいってね~」

 

彼はそう言うと、来た道を戻り始めてしまった。

 

「あのっ…!貴方は…?」

 

「ん?あぁ~、ごめんごめんつい同じ出身の人が近くに引っ越して来るっていうんで

テンション上がっちゃって…うん、僕は君が暮らすこの家の大家のセルゲイって言うんだ、よろしくね」

 

「同じ出身ということは貴方も…」

 

「そうだよ~、僕も産まれはロシアのサンクトペテルブルクさ!」

 

「あぁ…えっと祖父とはどういう…?」

 

「ん、あぁ、君のおじいさんとは僕が学生時代の担任でね、僕は今ロシアからこっちに

移り住んできた人達に家を提供する仕事をしてるんだ」

 

サーニャの祖父は昔、教師をしていた。

 

「大切な孫がそっちで暮らすから家を提供してくれないかって言われてね、丁度ここが空いてたってたって訳! あっ、ちなみに2年分のお金はもう貰ってるから好きにして

くれちゃっていいよ~!、もっとも、2年分にしては多すぎるくらいだけどね!」

 

「あはは…どうも…」

 

サーニャの祖父、恐るべし。

 

「じゃあ、困ったことがあったら何でも言ってね!」

 

「あっ、はい、ありがとうございます…」

 

こうして、彼女の一人暮らしが始まったのだ。




というわけで第1話でした。

まだVRMMOについては触れていませんが、次回から入るかと思います。

それでは。



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OPS 02:ログイン -Fixed-

2017/07/08
ナレーションを三人称に統一+一部セリフを修正


- 自宅 玄関 -

 

 

 

「行ってきます。」

 

サーニャは玄関先で誰もいない居間に向かってそう言う。

もちろん返事は帰ってこない、なんとなく彼女が言いたかっただけだ。

今日はサーニャが高校へ行く日である。制服やノート、教科書も揃え準備は万端だ。

 

「戸締まり良し、っと」

 

鍵をかけ、家を出る。

 

「おっ、おはよう!今日から学校かい?」

 

隣に住む大家のセルゲイが、自宅の前を掃き掃除していた。

 

「おはようございます。はい今日からです」

 

「そっかそっか、気をつけてねー」

 

「はい、ありがとうございます」

 

お辞儀をして、駅へ歩き始める。

サーニャが通う学校へは最寄りの駅から二駅、そこからバスで最寄りのバス停まで行き、徒歩で5分。通学時間は大体1時間位である。

何度かサーニャが通う高校の学生と思わしき人々に電車やバスでひそひそと彼女のことについて話している声が聞こえた。

ハーフといえど日本の高校の制服を着た見慣れぬ女子が居たらそれは当然でもある。

そんなこともありながら、無事学校へ到着。

 

 

 

- 都内某中高一貫校 校内 -

 

 

 

「今日からお世話になる、アレクサンドラ・チャイカです。」

 

職員室へ挨拶に来た。

 

「おぉ君か!慣れない環境で分からないこともたくさん有るだろうけど

 

先生や生徒の皆に何でも言ってくださいね」

 

彼女が通う高校の学校長がサーニャに挨拶をする。

 

「はい、ありがとうございます。」

 

「それにしても、日本語が上手だねぇ、勉強したのかい?」

 

「いえ、以前日本で暮らしていたことがあったので」

 

「なるほど、アレクサンドラさんでいいのかな?」

 

「いえ、一応日本語名も持っているんです。牧宮沙羅(まきみや さら)って言います。」

 

ロシア名だと色々と不便なため、幼少の頃日本で使っていた日本名を使おうとサーニャは考えていた。

"牧宮"は母方の苗字から、"沙羅"はアレク"サ"ンド"ラ"から取って付けられたものである。

 

「沙羅さんだね、いい名前だ」

 

サーニャが学校長と話していると、1時間目を知らせるチャイムが鳴った。

 

「おっと、それじゃあ頑張ってね」

 

学校長との話を終え、担任教師の後について行き自分のクラスのドアの前に着く。

 

「じゃあ、呼んだら入ってきてくださいね」

 

「はい」

 

担任の先生は扉を開け、たぶんいつもの様に朝の会を開始した。

 

「じゃあ、入ってきていいよー」

 

担任教師の合図が飛んできた。

扉に手をかけ、ゆっくりと開ける。教室の全員がサーニャを見つめる。

 

「かわいい…」

 

「かわいい…」

 

「かわいい…」

 

「かわいい…」

 

小さくではあるが教室内の数人が同じことを言っていた。

 

「じゃあ自己紹介お願いできるかな?」

 

「はい」

 

ふりかえると黒板、のような濃い緑のボードが壁に立てかけられていた。

 

「えーっと…」

 

「あっ、使い方わからない?」

 

「はい、すみません…」

 

「ごめんね、これを使って書くんだ」

 

渡されたのはチョークに似せて作られたタッチペンのようなもの。

幼年学校に限らずロシアではまだこういった機材が入ってる学校は少ない。

なにせ仮想世界、VR技術がロシアに入って来たのもほんの数年ほど前位だ。

サーニャはぎこちなくではあるがなんとか名前を書き終えた。

 

「ロシアから来ましたアレクサンドラ・チャイカと言います。日本とロシアのハーフです。あっちではサーニャって呼ばれてました。日本名の牧宮 沙羅って名前もあるので呼びやすい方で呼んでください」

 

拍手が教室に鳴り響く。

 

「じゃあ薪宮さんは真ん中の列の一番奥の席が空いてるからそこに座ってね。」

 

「はい」

 

クラスメイトの席の横を通り過ぎる度に視線を感じる。

自分の席に座り、サーニャは一息ついた。

初日はクラスメイトから質問の嵐だった。ロシアの事はもちろんロシアに居た時の学校のことについても聞かれた。

彼女はごまかした。

普通の学校に通っていたと。幼年学校のことを話すと異色な目で見られると思ったからである。

そんな事もあってサーニャの学校生活一日目は終わった。

 

 

 

- ゲームショップ "ゲーマニア" 店内 -

 

 

 

日本に来て数日が経ち、サーニャは日本での学校生活にも少しばかり馴染めてきたようであった。

実はサーニャが日本に来て始めたのは高校生活だけではない。

彼女の家の最寄り駅前にあるゲームショップがアルバイト募集をしていたのでサーニャは軽い気持ちで応募した所、見事通ってしまった。

店長いわく「可愛い女の子が入ってくれればお客さんがいっぱい来てくれる。」とかなんとか。

 

「じゃあサーニャちゃん上がっていいよー」

 

「りょうか…、はい…」

 

時間は夜の10時、サーニャは学校が終わってからこの時間までアルバイトをしていた。

そして彼女はアルバイト中に気になる本を見つけた。

それは"月刊VRMMO GAMES"という本、店にはゲームだけではなくそういった情報雑誌も

販売しているのだが彼女自身、幼年学校に居たこともあって持ち運べる古い携帯ゲーム機は何回か遊んだことはあるが、VRMMOゲームといったものに触れたことがないのだった。そもそも"MMO"とは何なのか、それすらサーニャには分からなかった。

 

「店長さん、この本買います。」

 

雑誌を手に取り、レジへ。

 

「あれ、そう言えばサーニャちゃんってVRMMOゲームやったこと無いんだっけ?」

 

「はい、全然…」

 

「この雑誌いろいろVRMMOゲームの事書いてあるから、興味湧くんじゃないかな?あっ、お金は従業員価格で安くしておくね!」

 

「はい、ありがとうございます。ではおつかれさまでした」

 

雑誌を購入して家路につく。

 

「ただいま。」

 

もちろん返事は帰ってこない。

シャワーを浴びて、夕飯を作り、食べる。

 

「そういえばこっちに来て"あの"袋開けてないんだっけ。」

 

"あの"袋、とはサーニャが幼年学校にいた時に使っていた制服や道具が入ったものである。サーニャは日本に来てから押入れに閉まったままであった。

 

「えっとたしかここに...あった」

 

中を開けると制服が最初に目に入った。

 

「まぁ、もう着ないかな…」

 

次に卒業勲章。

 

「これは飾っておこう」

 

そして一番下に大きな円形状のものがあった。

 

「これは…」

 

バイザーのような形をした器具。

 

「確かVR訓練の時に使ってた…アム…アニュ…何だったっけ」

 

ふと、時計を見ると既に1時を回っていた。

 

「あっ、もうこんな時間。明日はアルバイト無いし、制服とかは明日帰ってきてからアイロンがけしよう。」

 

制服とバイザーのような器具を袋につめ、電気を消し彼女はそのまま寝てしまった。

 

 

 

- 都内某中高一貫校 2-C教室 -

 

 

 

「じゃあ授業終わり、課題来週までに提出ねー」

 

翌日、普段通り学校に行き休み時間。

 

「あれ?」

 

サーニャはふとバックを見ると、昨日買った雑誌がバックに入れっぱなしなことに気付いた。

 

「うーん、まぁ丁度休み時間だし読もうかな。」

 

表紙には新発売または発表したばかりのゲームタイトルが載っており、そのゲーム内スクリーンショットが掲載されていた。

サーニャがページを捲るとファンタジー系のゲームだろうか、羽が生えた妖精のような

キャラクターが飛んでいる。アルヴヘイムオンライン、通称ALOというゲーム名である。

また次のページを開くと、今度は銃を使ったゲーム。

ゲーム内通貨還元システムと言うものが存在し、ゲーム内でプレイヤーが稼いだ金銭を

現実の実際の金銭に還元でき、一部の上級者は月に約20~30万円稼ぐ強者もいる様だ。

 

「牧宮さん」

 

「はい?」

 

ふと、雑誌越しに声をかけられた。

 

「ゲーム、好きなの?」

 

「え?あぁ、いや、私VRMMOゲームってやったこと無くて…」

 

「そうなんだ!、雑誌読んでるからついVRMMOプレイヤーかと思っちゃったよ」

 

「えっと貴女は確か…」

 

「あっ、私は一ノ瀬 詩子(いちのせ ともこ)です!まだ名前覚えられない?」

 

「うん、ごめん…」

 

「あぁ、いいよいいよ!私なんて特に覚えづらい名前だからね、ってGGOが載ってる!」

 

話しかけてきた彼女はその本に乗っている一つのゲームタイトルに気づくとサーニャの隣にやってきて雑誌を覗き込む。

 

「知ってるの?」

 

「知ってるも何も私このゲームのプレイヤーだもん!」

 

意外や意外、入学間も無い頃の紹介でクラス委員をやっているとサーニャは聞いていたが、見た目は失礼ではあるが眼鏡以外の特にこれと言った特徴がなかった為、サーニャも名前を覚えることができなかった。

 

「なんか敷居高そうだと思ったよこのゲーム…」

 

「まぁ一部のプレイヤーが自分の生活をかけて死に物狂いでプレイしてるってだけで、そこまでじゃないんだけどなぁ、あぁ…こうやって書くからGGOのプレイヤーが増えないのよ…!」

 

彼女は拳をぐっと握りしめて力説する。

 

「あはは…」

 

「ところで牧宮さん。」

 

「?」

 

彼女はサーニャの両肩を手で鷲掴みにし。

 

「すごい唐突なんだけど、このGGO一緒にやらない!?」

 

「えっ…!?」

 

「大丈夫!私がちゃんと、手取り足取り色々教えてあげるから!」

 

「えっと…私まだゲーム機も持ってないし、確かあれ10万円くらいするよね…流石に手が出せないなぁって…」

 

「まぁそうだよねぇ…VRマシンはナーブギアの時よりも安くはなっているけど、それでもまだゲーム機としては手が届きづらい価格だもんねぇ...」

 

"ナーブギア"、その言葉はサーニャも聞いたことがあった。

数年前に初めて作られたVRゲーム機、発売後すぐに1万台以上売り上げたがゲーム機本体と同時発売であった"ソードアートオンライン"、通称"SAO"にログインした者はゲーム内に閉じ込められ、そしてゲーム内で死亡した場合は現実世界のプレイヤー自身が本当に死亡するという前代未聞の事件が起きたことを。

丁度サーニャは幼年学校に居た際、食堂にあったテレビでニュースになったのを見ていた。

 

「今発売してるVRゲーム機、えっと…」

 

「アミュスフィア?」

 

「そう、それはあのナーブギアみたいにはならないの?」

 

「心配ご無用、安全装置も付いてるし脳に送る電磁パルスの出力はナーブギアより大幅に弱められて、脳の破壊は物理的に不可能になってるからね。」

 

サーニャのアルバイト先でも販売していて大丈夫と分かってはいるが、改めて彼女はホッとしていた。そして、それと同時にサーニャはあることに気づく。

 

「もうひとつ聞いても良い?」

 

「うん、何?」

 

「アミュスフィアってどんな形してるの?」

 

「うーん、この雑誌に載ってないかな?今は色々なメーカーが出してて一概にこの形とは言えないけど、基本形でレクト社が出してるのは…あった、これこれ」

 

サーニャも他の形は見たことが有る、アルバイト先のゲームショップで売られているからだ。しかし彼女が指さしたのは別の場所で見た、というよりも昨日見たばかりであった。

 

「私…これ持ってる…」

 

「えっ、持ってるの!?でもこれ初期型だよ?」

 

「うん、確かにある」

 

「ゲームやったこと無いんだよね…?」

 

「ゲームはやったこと無いけど…」

 

幼年学校で使っていた事を言うと先日ごまかしたのが水の泡である。

 

「あっそっか、ゲーム以外にもリラクゼーションとか医療用でもアミュスフィアは使えるんだっけ、私ゲームしか頭になかったから、ごめんごめん!」

 

運良く気付かれずに済んだ。

 

「じゃあ後はソフトだけだね!」

 

「えっ、ま、まぁ...」

 

サーニャは一方的に流されている様である。いや流されてる。

 

「今日放課後時間ある?」

 

「う、うん今日はアルバイト入れてないし大丈夫だけど…?」

 

「じゃあ私の行きつけのお店に一緒に行って見てみましょう!」

 

「えっ、あぁ…」

 

休み時間終了、次の授業開始のチャイムが鳴る

 

「じゃあ、後でね!」

 

彼女はささっと、自分の席に戻ってしまった。

 

「い、イメージとぜんぜん違うなぁあの子…」

 

 

 

- 都内某所 駅前 -

 

 

 

放課後、サーニャはクラスメイトの詩子とお店に行くことなった。

 

「ここ、私の行きつけのお店!」

 

「えっと、ここは…」

 

道すじからしてサーニャは嫌な予感はしていた、案の定サーニャのアルバイト先であった。

 

「いらっしゃいませ!ってあれ、サーニャちゃん?今日はお休みなんじゃ?」

 

入口近くの棚で作業していた店長が気づく。

 

「店長さんこんにちは!」

 

「あれ!?詩子ちゃん!サーニャちゃんと知り合い?」

 

「知り合いも何も同じクラスですよ!」

 

「ふ、二人とも知り合い…?」

 

「詩子ちゃんはこの店の常連さんでね、GGOを買ったと思ったらもうあんなに強くなっちゃって、この街じゃたぶんナンバーワンプレイヤーだよ!」

 

「店長さんそれは言いすぎですよー」

 

「っと、で、今日はなにかお探しかな?」

 

「はい、牧宮さん、サーニャさんにGGOを始めて貰いたくてソフトを探しに!」

 

「えっ、サーニャちゃんがGGO!?」

 

店長はサーニャが今まで見た以上にびっくりしたような顔をしている。

 

「い、いや、まだ私はまだ一言も...」

 

「うちの店からまた女の子GGOプレイヤーが出るなんて!うちにもMMOトゥデイの取材が来るのもそう遠くないねぇ…」

 

「またまた大げさなー、それで、GGOのソフトあります?」

 

「そりゃあもう、売れ残った在庫が沢山だよ…」

 

「お値段は?」

 

「在庫処分しないとだからね…、元々7000円だったのが4000円になってるよ。」

 

「4000円かぁ...どうする?」

 

「どうするって...えっ?」

 

サーニャに二人の鋭い期待の眼差しが刺さる。

 

「そうだ!サーニャちゃんが買うなら社員割引効かせるよ!そうだなぁ…特別に2900円かな!」

 

「あぁ安い!さぁ、買おう!一緒にやろう!」

 

「えぇぇぇ…」

 

「さぁ!」

 

「どうする!?」

 

「…」

 

 

 

- 都内某駅 改札前 -

 

 

 

「いやー、私嬉しいよ!一緒に出来る人が居てさ!」

 

サーニャの手にはお店の袋、押しに押され買ってしまった。

 

「でも買ったは良いけど、私やり方とか遊び方全然わからないよ…?」

 

「大丈夫大丈夫、アミュスフィアとの接続方法は説明書にも書いてあるしゲーム内では

 

私が教えてあげるから、ね?」

 

「う、うん…」

 

サーニャが日本に来てこんなに話したクラスメイトは初めてで、初めての友達もできてよかったのか、いや、ちがうそうじゃない。

 

「じゃ、私帰ったらログインしてスタート地点にいるから!」

 

詩子はサーニャの住む街の駅から更に1つ先に住んでいるため、サーニャは改札の前まで見送った。サーニャも家路につき、服を洗濯しシャワーを浴びて夕飯を済ませる。

 

「さて、と」

 

昨日押し入れにしまった袋を再び取り出す。

 

「アミュスフィア…」

 

幼年学校で教材として使っていた機器をVRMMOゲームで使用するとは彼女自身思っても見なかった。

購入したGGOのソフトをケースから取り出し、説明書通りに挿入する。

ネット回線は、サーニャの住む家に既に通っている為、ケーブルを差し込むだけで済んだ。

ベッドで横になりながらプレイするのが推奨と書いてある為ベットへ行き、ゲーム開始方法の項目欄の最後に"ログインするには瞳を閉じ、リラックスしたまま心の中で「リンクスタート」と言ってください"と書かれていた。

サーニャはVR訓練を開始する時、この言葉を言っていたのを思い出した。

 

「まさかゲームをするためにこれをまた付けるなんて思わなかったな…」

 

アミュスフィア内側のモニターには左上に現在時刻21:00、右上には内蔵バッテリーの

充電容量が記されていた。

 

「じゃあ、早速…」

 

深呼吸をし、目を閉じて体をリラックスさせる。

 

『リンクスタート』

 

目を瞑っている筈であるのだが、ゲーム起動エフェクトが確かにサーニャの視界に流れた。



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OPS 03:鉄と鉛の世界

▼本文の書き方を変更しました。

▼あとがきに銃器紹介があります、本文中ルビ"*"は、あとがきで詳しく紹介します。


*お詫び

サーニャのハンドガンに関して、銃の名前と説明が一致しておりませんでしたので
変更となりました。


account:*****

password:*******

 

たぶん幼年学校に居た時のアカウントに接続しているのだろう。

 

"???????????????のデータがあります、コンバートしますか?"

 

yes no

 

「え、コンバート...?とりあえずyesで...。」

 

幼年学校のVR訓練を思い出しながら目の前に出てきたメニューウィンドウの○ボタンを押す。

 

yes

 

login...complete!

 

welcome to Gun Gale Online!!

 

"ゲーム開始地点に転送されてます。幸運を。"

 

夢から覚めるようにゆっくり目を開ける...、そこにはさっきまで居た自分の部屋とは違う、埃と、鉄、サビの匂いがする空間、だが見るからに広大で、現実世界にはない雰囲気が漂っていた。

 

хорошо(ハラショー)...」

 

つい母国語が出てしまった...が、それほどここまで広いVR世界は初めてだった。

 

「えっと、結局説明書に書いてあった通りじゃなかったけどまぁゲーム自体はできてるし大丈夫かな。」

 

さて、まずは一ノ瀬さんを探さないと...。

 

「もしかして、サーニャ?」

 

後ろから聞こえたき一ノ瀬さんの声、振り向くと見知らぬ橙色のような髪色をした人が立って居た。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「えーと...牧宮さ...」

 

自分の名前を言おうとした瞬間

 

「あー待った待った!、オンラインゲームで本名はまずいよー!」

 

止められた。

 

「ほら、ゲーム始めるときに名前みたいの決めたでしょ?」

 

「いやそれが...コンバート?しますかって聞かれてyesって押して現在に至るわけで...。」

 

「えっ、コンバート?まき...サーニャさんゲームやったことないんだよね?」

 

「うん、えっとコンバートって何?」

 

「コンバートっていうのは同じVRMMOの別のゲームから全てじゃないけどキャラクターのデータを引き継げる機能のこと。」

 

「ふむふむ...」

 

「じゃあリラクゼーションで使ってたアカウントをコンバートしちゃったってこと...?私そんなの聞いたことないけど...。」

 

その言葉を聞いて心当たりがあった。

 

「そう...なのかな?」

 

どうやら幼年学校に居た時のVR訓練のアカウントをコンバートしてしまったようだ...。

 

「まぁいっか...それでアバター名は?」

 

「アバター?」

 

「あーっ...そこから教えないとだね...今ゲーム内のサーニャさんの身体がアバターだよ。」

 

「なるほど、でアバター名は?」

 

「アバター名はそのアバターの名前、右手の親指人差し指中指をこう、くっつけて上から下に振ってみて。」

 

彼女がその動作をすると、彼女の前に小さな画面が表示された。

自分も試してみる。

 

「...出た、えーっと...」

 

「右上の、帯に白文字で書かれてるの。」

 

「"Sanya"サーニャって書いてある。」

 

ここで心当たりがあったことが確信に変わった。

 

「海外の人は名前をそのまま使えるもんねぇ...じゃあ改めましてサーニャよろしく!」

 

「よろしく、いちの...」

 

私が名前を言いかけた瞬間

 

「ちがーう!」

 

また止められた。

 

「ゲーム内での私の名前は"Rafale"ラファールだよ!」

 

「ラファール?」

 

「フランス語で"突風"って意味、実際にフランスの戦闘機にこの名前が使われてるよ?」

 

「いちの...、ラファールさんは詳しいんだね。」

 

「また言いかけて...まぁここじゃなんだし、まずは武器を買うためにショップに行こう!」

 

「そーこのお嬢ちゃん達!」

 

彼女に連れられて向かおうとした所、突然走ってきた男性に声をかけられた。

 

「そこの銀色の髪の子!、それF-1400系のレアアバターだよね!5、いや6メガクレジット出す!売ってくれないか?!」

 

「えっ、えっ...?」

 

男性の顔が近づいてくる。

 

「ちょっと!おじさん顔近い!嫌がってるでしょ!」

 

「うぉ!お姉さんのアバターもレアだねぇ!F-4500系でしょ!この子よりはレアじゃないけど3メガクレジットで買うよ!」

 

「私もこの子もコンバートしたアバターだから、お金には変えられないし変える気はないの!」

 

「うーん、そっかー...も、もし気が向いたら声かけてくれよな!」

 

「ほらサーニャ行くよ。」

 

「う、うん。」

 

彼女、ラファールに手を引っ張られながらショップへと向かう。

途中何度も男性に声をかけられたが、彼女に手を引っ張られながらスルーした。

 

「はい、色々あったけど到着!」

 

目の前にでかでかと、更にネオンの光できらびやかに...ではなく電気が切れかかり点滅した"Alfred weapon shop"と書かれた店があった。

 

「ここ?」

 

「まぁ、大きいマーケットもあるんだけどサーニャお金ないし、なにせここは私の行きつけのお店なんだー。」

 

「へぇ。」

 

看板の下に地下へ続く階段があり、彼女、ラファールを先頭に一弾一段降りてゆく。

すると木製の扉が待ち受けていた。

 

「アルフレッドさーん!居るー?」

 

店に入った途端、彼女は声を上げた。

 

「はいはーい、今ログインした所だよー。」

 

カウンターの向こうから聞いたことのある声がする。

 

「お、ラファールちゃんということは、サーニャちゃんもいっしょだね!」

 

「えっ、なんで私のことを...」

 

名前は確か出てないはず...

 

「紹介するよサーニャ、この人は武器商をやってるアルフレッドさん、なんだけど。」

 

ちらっと彼女が店主であろう、彼の方を見る。

 

「店は今Closed(閉店中)にしてるから大丈夫だよ。」

 

彼は返事を返す。

 

「実はこの人、サーニャも知ってるあのゲームショップの店長さんだよ!」

 

「え...えっ!?店長?!」

 

びっくり、店主の方を見る。

 

「あはは、実は僕もやってたんだ、あの時言わなくてごめんね。」

 

「あ、いえ、それはいいんですけど...」

 

「僕はここで武器とかアイテムを個人で売ってるんだ、もちろん戦闘もするけどね。ラファールちゃんにはいつもお店で売る武器の調達をしてもらってるんだよ。」

 

「その分報酬はもらってるんだけどね。」

 

「じゃあ今日はまずサーニャちゃんの武器を決めるってところかな。」

 

「そうですねぇ、あ、コンバートしてるならステータスはどうなってる?」

 

「ステータス?」

 

「さっきと同じく手を降ってメニューウィンドウを開いて、ここ...って。」

 

私のステータス画面を見たところで彼女が一瞬固まった。

 

「な、なにこれ...ゲームやって無いはずなのにこのステータス値...」

 

「どれどれ...おぉ...これはステータス値だけなら中堅、またはそれ以上だなぁ...」

 

店長、アルフレッドさんもステータスを見てそういう。

 

「えっと...ステータスって何?」

 

「えーっと、ステータスっていうのはSTR(筋力)、VIT(生命力)、AGI(俊敏性)、DEX(器用)、SEN(五感)、LUX(幸運)の6つからなる能力値で、この六角形の大きさで表されるんだ...、普通コンバートした場合はコンバートする前にやってたゲームの能力値がこのステータスに影響されるんだけど...サーニャの場合ゲームはやってなかったらしいからコンバートしたとしてもほぼ最初からの状態になるはずなんだけど...。」

 

彼女がゆっくりこちらを見る。

 

「本当にVRMMOのゲームしてなかった...?」

 

「....。」

 

隠してたのもここまで...今言うしか無いか...

 

「まぁまぁ、あんまりVRMMOで他人を深く探るのはマナー違反だからねぇ。」

 

アルフレッドさんが割って入る。

 

「はぁ...まぁそれもそうですねぇ...ごめんねサーニャ。」

 

「う、ううん大丈夫だよ。」

 

「さぁ、気を取り直してサーニャちゃんの武器を決めようか!」

 

二人には悪いけど、もう少し嘘をつかせてもらおう...。

 

「それじゃあまずメインウェポンだね、さっきのステータスを見た感じだとSTR(筋力)が若干飛び出てDEX(器用)がその次って感じだったし基本どんな武器でも持てるね。うーんちょっと大きめのマシンガンか、扱いやすさでアサルトライフルか、サブマシンガン。どっちがいい?」

 

私に問いかける。

 

「どっちって言われても...」

 

「まぁ僕的には女の子に重機関銃持たせるのはナンセンスかなぁ、アサルトライフルかサブマシンガンがいいよ。」

 

「アルフレッドさんの趣味はいいんですよっ!、じゃあサーニャまずは、アサルトライフルを撃ってみようか。」

 

「う、うん。」

 

「じゃあまずこれ!」

 

そう言うと、店の各商品に設置しているコンソールパネルを触り、お試し用だろうかそれ用の銃を召喚した。

 

M4 Carbine (*1)、5.56x45mm NATO弾を使ったアサルトライフルで比較的反動も少なくて色々カスタムできる便利な銃だよ。」

 

手渡される、初めて持ったことある銃...もちろん現実の幼年学校の時の話だけど重さは現実世界とそんなに変わらない気がした。

 

「じゃあそこの試射場でためしてみよっか」

 

店自体はそこまで広くなかったが、横幅は試射場があり50m、100m、150mまでの的が奥に設置されていた。

 

「ここがトリガーでここを引くと弾が出るよ、撃たない時はここをこうして...」

 

私がわからないと思って教えてくれるのはとてもありがたいが、AR-15シリーズ(M16、M4その他もろもろ)の扱い方は幼年学校に居た時に教わって頭に入ってるんだ...

 

「分かった、じゃあ撃ってみるよ。」

 

「そのまま構えて、トリガーに指をおいてみて。」

 

言われた通り、トリガーに人差し指をかける、すると視界に緑色の円が現れた。

 

「今視界に緑色の円が出てると思うんだこれは攻撃的システムアシスト、"バレットサークル"っていうの、その円の中に撃った銃の弾がランダムで命中するの。大きくなったり小さくなったりしてると思うんだけど、大小の動きは心臓の鼓動で変わるから緊張したりして心臓の鼓動が早くなったりすると動きが早くなるから注意ね。じゃあとりあえず一回撃ってみよっか。」

 

緑のサークル、バレットサークルが的を中心に動く、呼吸を整えリラックスさせる。

 

「(まぁ、最初は外すかな。)」

「(最初は外すなぁ...)」

「(でも構え方は様になってる...。)」

「(しかし構え方は様になってる...。)」

 

トリガーを引く、一発の銃声とともに弾は放たれ、50mの的の右端を射抜いた。

 

「ふぅ...。」

 

息を吸い、吐く。

 

「おー、当たった当たった!」

 

「初心者、と言ってもステータスのアシストが効いてるとはいえ、一発で的に当てるのは凄いなぁ!」

 

一部始終を見ていた二人を見ると、驚いた顔をしていた。もちろん50mで私が的の端に弾を外すのはありえないけど...ごまかすには仕方がない...。

 

「じゃあ次!AK-47(*2)を撃ってみよう!」

 

AK-47、これは幼年学校で実銃を扱ったことが有る。そして何百回も分解し、何万発も撃った。

 

「さっきと色々扱い方が違うから注意ね、」

 

扱い方を一から教えてもらう、これはある意味復習のいい機会だ。

 

「じゃあいってみよう!」

 

先ほどと同じように呼吸を落ち着かせ、リラックスさせる。

 

また外すか...いや今度は...。

 

ダンッ!、とM4A1の時より重く、響いた音が鳴る。反動はM4A1よりあり、より銃を撃っている感覚に浸れた。

 

「ど真ん中!」

 

二人が拍手をくれる、幼年学校では拍手とかそんなのなかったなぁ...。

 

「上手だね!、初心者とは思えないよ!」

 

ある意味初心者ではないのだけれど...。

 

「これは才能がある天才少女がまた一人、かな?」

 

「あはは...」

 

「二つを撃ってみてどうだった?」

 

「どうって言われても...うーん。」

 

店内を歩いて回る、どれもこれも、幼年学校に居た時に本で見たことのあるものばかりだ。

 

「扱ったことの有るロシア製の銃か、あるいは撃ちやすいかつ、命中精度の高い5.56mm弾を使うライフルか...はたまた接近戦に特化したサブマシンガン...」

 

ぶつぶつと、独り言を言いながら店内を物色する。ふと、目に止まったものがあった。

 

「店長、これは?」

 

実物はそこには置いてないが、銃の見本としてホログラムがくるくると回っていた。

 

「そっちはAKシリーズの棚だね、えーっと...」

 

店長もそのホログラムを確認するためにこちらに来る。

 

「"AK74(*3)"かぁ...、この銃は確かに安いけどこあんまり初心者向きって感じじゃあないけど...それに始めたばかりならクレジットが少ないんじゃないかい?」

 

そう言われ自分のステータス画面を見てみると1000クレジットと表示され、一方このAK74の方は10,000クレジットと記されていた。

 

「でもそのAK、私がゲットしてきたんじゃなかったっけ?」

 

唐突にラファールが言う。

 

「どういうこと?」

 

私はどういうことかわからず彼女に聞く。

 

「いやぁ、僕だけじゃ武器を集めたりするのは大変でね...ラファールちゃんは強いからさっきも言ったように僕が武器の調達を依頼してるんだ。」

 

「もちろんプレイヤーキルのドロップで手に入れた銃も納品してるんだけどね。」

 

「プレイヤーキル?」

 

「このゲームはね、AIの敵もいるんだけどプレイヤー同士が撃ちあって、殺し合うこともできるの、もしプレイヤーを倒せればそのプレイヤーが持ってた装備品がランダムで一つドロップして、アイテム化しちゃうから倒した人がそれを奪い取れるわけ。」

 

「じゃあこの銃もプレイヤーから奪ったもの?」

 

「まぁそういうことになるね、レア度が高ければ高いほどそれを狙ってくるプレイヤーも居るからもしゲットしたら注意しないとね。」

 

「へぇ...」

 

「それで、相談なんですけどアルフレッドさん!」

 

「は、はい?!」

 

ラファールが店長に詰め寄る。

 

「私が取ってきたのだから、サーニャに"タダ"であげちゃってもいいと思うんですけど!?」

 

「タダ?!それは困るよ!、安いとはいえそれじゃあ商売にならないし...!」

 

「このお店の武器とか防具、9割私のおかげだと思うんですけど!?」

 

「うぐっ...」

 

店長が肩を落とす。

 

「分かった分かった...好きなの持ってっていいよ...トホホ...。」

 

「だってさ、サーニャ!」

 

「えっ...本当にいいの...?」

 

「いいっていいって!、また取ってくればいいんだし~、その時はサーニャも手伝ってね?」

 

「う、うん...。」

 

というわけで、メインウェポンを"AK74"、サブウェポンに"Strike One(*4)"という選択になった。防具や装備品もラファール、彼女がひとつひとつ丁寧に教えてくれながら選ぶこととなった。

 

「これで揃ったね、うん、これで戦いに行っても大丈夫!。」

 

「あはは...」

 

「何か買い忘れのものはない?もちろんタダなんだけどね...」

 

「えーっと...何かあったかなぁ...。」

 

彼女が店内を回る。

 

「あ、大切な物を忘れてた!これこれ!」

 

彼女が指差す場所に、長8角形の宝石が埋め込まれたアイテムがあった。

 

「"防護フィールド発生装置"っていって、このゲームにはね実弾武器の他に光学銃っていうのがあって、ビームを撃てる武器があるんだけど、この防護フィールド発生装置があれば、そのビームのダメージを減衰してくれるんだ。でも実弾には効果ないし至近距離でビームが当たっちゃうと無いときと同じダメージを貰っちゃうから過信は禁物だけどね。一応持っていたほうがいいよ!」

 

「わかった。」

 

「さて、こんなもんでしょう!って、リアルの時間はもう12時になっちゃうね、また明日も学校があるし今日はここまでにしよっか。」

 

「もうそんな時間か、今日はサーニャちゃんの武器装備で終わっちゃったね。」

 

「すいません...」

 

「いいっていいって、僕もラファールちゃんも一緒にGGOできる人が増えて嬉しいからさ!」

 

店長がサムズアップを私に送る。

 

「それじゃあログアウトしようか、メニューウィンドウ開いてここでログアウトね。」

 

ラファールの指示通り、ログアウトメニューを出す。

 

「じゃあ、ふたりともまた明日ね~!」

 

「うん、おやすみ。」

 

ラファールの身体が粒子状になって消えた。

 

「サーニャちゃん明日もよろしくね、もちろんアルバイトの方も!」

 

「は、はい...!じゃあ私もこのへんで、おやすみなさい。」

 

「うん、おやすみー」

 

ログアウトボタンを押すと視界がログイン時と同じように暗転する。

 

 

 

 

 

 

夢から覚めたように...というとログインの時と同じだけどまさにそんな感じで、寝起きの良い朝という感じだが現実の時間は午前12時を回っていた。

心なしか、気持ちが高ぶっているように感じた。

 

「私今、わくわくしてる...。」

 

銃を触るのは幼年学校のときの、むこうの国に置いてきた私だけど、やっぱり私のどこかに、他のみんなと違う生き方をした自分に不安を感じているところがあるのだと思う。だからあのゲームを初めてプレイしてみてその気持ちがどうなるかって思ったけど、一之瀬さんやアルバイト先の店長の顔を見ているととても楽しそうにしている。

私もこのゲームをして同じ気持ちになれるだろうか?

 

「もうこんな時間だ、寝なくちゃ。」

 

高ぶる気持ちを抑えて、ベッドに入る。




▼本編に登場した銃器紹介

*1 "M4 Carbine(カービン)"
いわずと知れた5.56mm NATO弾を使用するアメリカ製アサルトライフル。
アメリカ各軍に配備され、アフターパーツも豊富で拡張性に優れている。
Carbine(カービン)の名のごとく取り回しがよく、フルサイズのM16より約150mm
短縮されている。
アメリカ"コルト・ファイアー・アームズ"社が製造しているがコルト社以外のM4(クローンM4)が数多くあり、今もなお熟成され数が増え続けるアサルトライフルである。
本編ではレイルシステムのない純正仕様のM4 Carbine(カービン)をサーニャが試射した。

*2 "AK-47"
こちらもいわずと知れた名作アサルトライフル。
正式名称はAvtomat Kalashnikova-47(アブトマット・カラシニコバ)(1947年式カラシニコフ自動小銃)で自動小銃の中では極めて信頼性、耐久性が高く、砂の中に埋めたり、泥水に沈めたり、歪んだ銃弾をセットした場合でも問題なく使用できる程と言われている。
M4と違って違法なコピーが多く、またそれが世界中に分散しているためAKブランドが低下する、と生みの親である設計者のミハイル・カラシニコフ氏は生前(2013年12月23日(満94歳没)語っていた。
本編では幼年学校時代にサーニャが射撃を実際に経験し、また分解や手入れの方法を学び、ゲーム内では試射する際にそのときのことを思い出していた。

*3 "AK74"
AK-47の改良型AKMをベースとし、使用弾をフルサイズ短小弾7.62mm×39弾から変更、高速小口径弾5.45mm×39弾を使用するアサルトライフル。構造はAKMとほぼ同一だが、発射炎が小口径弾では従来より大きくなるため、大型のフラッシュハイダーが取り付けられている。
ゲーム内でのレア度は高くないが命中精度も良好で、比較的入手は容易。しかし拡張性の乏しさ(カスタムパーツはあるがパーツをごっそり変える必要が有るためコストがかかる)から使用者は威力重視のAK47系に比べると少なめ。

*4 "Strike One(ストライク ワン)"
イタリアとロシアの合同企業である、アーセナル・ファイアーアームズ社が作り上げた
ポリマーフレームオートハンドガン。
作動はショートリコイル方式で、ティルトバレルではなく、独自のロックブリーチシステムになっており、撃発はストライカー方式でグロックシリーズと同じように、ハーフコックされていて、トリガーを完全に引ききらないと撃針が作動しない。
マルチキャリバーで、9mm×19互換、9mm×21 IMI、.357SIG、.40S&Wが上部の交換によって、使えるようになっている。
本編ではロシア出身ということもありラファールが薦め、サーニャのサブウェポンに
採用された。(初期から購入できるがワンランク上の武器)


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OPS 04:バレット・ラインの先へ 《Phase 1》

▼再度本文の書き方を見直しました。

▼武器名等に修正が入っています、第0話の武器紹介にも変更が加えられています。




「じゃあ、アルバイト終わったら店長さんのお店に集合ね!」

 

「うん、わかった。」

 

初ログインから翌日、一之瀬さんと学校で会いGGOについていろいろと話していた。

放課後私はアルバイトがあるため、待ち合わせを店長、アルフレッドさんの店にして電車で別れた。

アルバイト先に行くと、店長もGGOの話を私にして正直仕事という仕事はしてないような気がした...。

アルバイトを終え帰宅しいつも通りシャワー、夕飯を済ませた私はすぐさまアミュスフィアを被り、ベットに横になった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ...。」

 

早速ログインをし、集合先に向かおうとした。しかし昨日ログアウトしたのが、店長さんの店だからだろうかログインした先も店の中だった。

 

「あれ、まだみんな来てないのかな?」

 

店長、アルフレッドさんはゲームショップからまだ帰ってないから当分かかるだろう。

一之瀬さん、ラファールは...何か用事だろうか?

ふと、試射場が目に入った。

 

「ちょっと練習しようかな...。」

 

昨日購入...タダでもらったAKをメニューウインドウから手持ちのメインウェポン枠に入れ、同じくサブウェポン枠にハンドガンを装備する。

 

「よし...。」

 

試射場のコンソールパネルを操作し、人型ターゲットを使った試射を開始する。

3秒のカウントダウンの後、50mのターゲットが3つ勢い良く跳ね上がる。

 

「っ...!」

 

バレット・サークルの動きを抑えるために撃つ瞬間に呼吸を止める。すると、サークルは一番小さくなったところで、ゆっくりと動き始める。

ダンッ!ダンッ!ダンッ!とリズムよく3つのターゲットに銃弾を撃ち込む。

3つのターゲット、すべての頭部部分に命中。

程なくして50mmのターゲットは消滅し、100mに2つ新たにターゲットが出現した。

先程と同じくサークルの縮小の一番小さくなるところで呼吸を止め、動きをゆっくりにする。

ダンダンッ!と先ほどよりも速く弾をターゲットに撃ち込む。

2発の銃弾は2つのターゲットの、やはり頭部に命中。

最後のターゲットは150m。100mのターゲットが消滅した後、すぐに出現した。

 

「次も頭だ...。」

 

サークルの動きが小さくなった。

 

""Rafale is Online""

 

「っ....?!」

 

突然視界の右上に表示された、ポップアップに目をやると、そう表示された。

私はとっさに試射場のコンソールパネルを操作し、中断ボタンを押した。

 

「ごめんごめーん!、犬の散歩に行ってたら遅れちゃって...」

 

ログインエフェクト、声とともにラファールのアバターが現れる。

 

「あれ、練習でもしてた?」

 

「うん、まぁ...そんな感じ...。」

 

ぎりぎりのところで見られずに済んだ。

 

「あっそうそう、店長、アルフレッドさんねお子さんが熱出しちゃって、今日はログイン出来ないってメールが来たよ。」

 

そういえば店長、既婚者で2児のお父さんだったっけ。

 

「じゃあ今日はどうする?」

 

「今日は私がよく行く狩場に行こっか!」

 

「狩場...?」

 

「うん、広い意味では"モンスターを倒す場所"のことかな、この場合だと効率よくモンスターを倒せる場所って意味かなー、というわけで早速しゅっぱ~つ!」

 

「おー...。」

 

アルフレッドさんの店を出て、近くのタクシー乗り場から外周へとつながるゲートまで行くこととなった。

今日学校で一ノ瀬さんに聞いた話によると、私達が今いるこの、街のように見えるものは「SBCグロッケン」という大型宇宙戦艦の上で、ゲーム内の舞台設定は人類が宇宙に進出し、その後大規模な宇宙戦争が勃発、文明が衰退し残った人々は大戦で滅びた地球に宇宙移民船団で戻り過去の技術遺産に頼って過ごしている、というもの。

SBCグロッケンは移民船団の宇宙船の上にそのまま都市を築いたという設定らしく、ここ以外にも様々な都市が点在するらしい。

これから向かう場所はそのSBCグロッケンの外にある私達の知る地球の地上だったところだ。

 

「ついたよ。」

 

タクシーから降りると、目の前に大きなゲートが有り≪外周区画ゲート≫と書いてあり

扉のコンソールパネルにラファールが触れると、≪注意:都市のゲートに入らない限り完全ログアウトは出来ません!≫の文字が出る。

 

「どういうこと?」

 

「フィールド内でログアウトしても、アバターの体自体はその場所に残っちゃうんだ。もし、敵に襲われてるのにログアウト出来ちゃうと簡単に逃げれちゃうでしょ?

だから、ログアウトするときはちゃんと市街かセーフエリアに入ったりしないとだめってこと。」

 

つまり、敵と遭遇したら倒すか倒されるまで戦うか、もしくは自分の足でゲート内まで逃げなきゃならないというわけだ...。

 

「じゃあ、ゲートを空けるよ!」

 

彼女がゲートのコンソールパネルを操作すると、轟音とともにゲートがゆっくりと開きはじめ、開いた隙間から風と砂が入り込んでくる。

 

「あ、そうだパーティ組んでなかったね。」

 

そういうとメニューウィンドウを開き、何かを操作するとこちらのウインドウ画面が自動で開き"Rafaleからパーティー招待が届きました。許可しますか?"と表示された。

 

「許可してもらえれば私たちのパーティが組まれて経験値とかクレジットとかの報酬が山分けされたりするんだけど。」

 

「へぇ」

 

もちろんyesの○ボタンを押す。

 

「よーし、じゃあ行くよサーニャ!」

 

「うん」

 

ゲートの外は、内側がビルや建物があったのに対してこちらは一面砂とむき出しになった岩場など、荒れ果てた大地だった。

 

「ゲートの外側には、建物とかお店はないの?」

 

「うーん、都市丸ごと廃墟になった場所もあるにはあるけど...後は店の中だけ攻撃無効エリアのアンチクリミナルコードが有効になってるウェスタン・サルーン風の酒場があったはずだよ、私は行った事ないけど。」

 

つまりは市街地戦闘になることもあるわけだ。

 

「というわけで到着!」

 

数分歩いて到着した場所は、もともとは高速道路だったであろう場所が崩落したところだった。

 

「で、どうするの?」

 

「あそこ見てみて。」

 

ラファールが指差した先に、小刻みに蠢く物体があった。

 

「これ使ってみて。」

 

手渡されたのは双眼鏡だ。覗いてよく確認してみると、蜘蛛とカマキリが合体したような不気味なモンスターが、別の自分より小さいモンスターを食しているところのようだ。

 

「あのタイプは"リーパー系"って言って鋭い鎌を持ってるんだ、この世界のモンスターは機械系以外皆突然変異の実際に存在する生き物って言う設定だからああいうのはいっぱい居るよ。得にリーパー系は強暴だから、自分より弱いものと認識するとすぐ襲い掛かってくるから注意ね。」

 

「なるほど...」

 

「あそこはあのリーパーのスポーン場所()だから、いっぱい倒せるよ!」

 

そういって私たちはさらに巣へと近づいていく。

 

「私はAGI(俊敏性)が高いから敵をひきつけてヘイトを取るから、サーニャはバシバシ弾を撃ちこんじゃって!」

 

「わかった。」

 

そういうと、一体だけ別行動をしているモンスターに向かっていった。

 

「さぁさぁ、やりますかー!」

 

腰のホルスターから拳銃、"Glock 18C"を取り出すと、ラファールは走りながらそのモンスターに対して、射撃を始めた。モンスターもこれに気づき、進路を変えラファールのほうに向かってくる。

 

「いいよサーニャ!、撃っちゃって!」

 

ラファールがモンスターの爪攻撃をひらひらと交わしながらこちらに叫ぶ。

 

「了解...。」

 

私は銃を構え、相手の頭に狙いを定める。

的は試射場のターゲットより二回り以上も大きく、この銃の性能と距離からして外すほうが難しく思えた。

サークルが小さくなったところでダダダンッ!と3バースト射撃でモンスターの頭部に銃弾を浴びせる。

グギャアァッ!とモンスターが悲鳴を上げる、一発は胴部の横から入り、二発、と三発目はモンスターの眼球に命中した。

 

「ナイス!サーニャ!」

 

彼女はそう言うと、怯んだモンスターの背中に飛び乗り頭部に向かって走り始めた。

 

「よっと!」

 

頭部にたどり着くと、そのまま勢い良く飛び空中で体が逆さになるとそのまま2丁のGlock 18Cのロングマガジン、全66発をモンスターの頭部に浴びせた。

そのまま地面に着地すると受身を取る。

モンスターは苦しみだしたと思うと、動かなくなりそのまま消滅した。

 

「ナイス援護サーニャ!」

 

「ありがとう。」

 

戻ってきたラファールとハイタッチをする。

 

「今のモンスターは私がラストアタックしちゃったけど、むこうにもう少し弱い敵がいるからサーニャ一人で今度はやってみよう!」

 

「うん、分かった。」

 

今の位置から数百メートル歩いた先に別のモンスターの巣があり、こちらは先ほどのモンスターよりHPが低く、攻撃力も低いので初心者の私でも倒せるとのこと。

ステータスは高いにしても、基本が分かってないとやはりこのゲームで生き残るのは難しいらしい。

私はラファールに連れられ別の巣に移動する。

 

「そうそう、これ渡しておくよ。」

 

そういって渡されたのは片耳に付けるタイプのヘッドセットだった。

 

「距離が遠くなると声聞こえないでしょ?それ使って話せば大体1km位は障害なく通話できるかな。」

 

「うん、分かった私ちょっと一人で戦ってみるよ。」

 

「お、自信満々だなぁ~!じゃあ私さっきのところでリーパー系を狩ってるからもし何かあったら無線で連絡してね。」

 

「了解。」

 

ラファールと別れ、一人で狩りをする。

私自身銃を撃った事はあるけど、生きた標的に撃ち込んだ事は初めてだ。

 

「さて。」

 

銃を構え、300m程先のモンスターに狙いを定める。

 

「西の風、これくらいかな...」

 

5.56mm弾の場合、7.62mm弾より風の影響を受けやすい、そのため修正が必要だ。GGO内では風向きは視界の左下に風向き等が表示されているため調整がしやすい。

また、バレットサークルが風向き似合わせ上下左右に動くのでこれも予想がしやすい。

現実なんかよりずっと銃が撃ちやすく、当てられる。

 

「一撃で...。」

 

フィールド型モンスターの大半は頭が弱点とラファールから聞いている、そのとおり頭に合わせる。

 

「すぅー...ふぅ...。」

 

呼吸を整えて、サークルの動きを抑える。

 

「っ...!」

 

ダンッ!と一発、モンスターに向けて放つ。弾は風の影響を受け緩いカーブを描きモンスターの頭部を貫く。

弱点へ当たったダメージボーナスでダメージは2倍以上となり、モンスターは瞬く間に消失した。

 

「よし...。」

 

その後も同じように倒し、30体程狩っただろうか。ふと、ラファールの事が気になりヘッドセット越しに話しかける。

 

「ラファール、聞こえる?」

 

返答なし。

 

「ラファール?」

 

何度か通話を送るが返答がない。

 

「様子を見に行こう...。」

 

ラファールが居るのは、私達がリーパータイプを倒した場所のはず。彼女がリーパー型に倒されたとは考えにくい...が念のために、それに彼女がやられてスポーン地点に転送されてしまったら私が一人で帰る事になってしまう。と、考えていたら目の前に大きな岩がある。この岩を越えればリーパー型の巣があった高速道路が崩落していた場所だ。

岩を越え、巣のある場所を覗くとラファールが砂の上に倒れている。

 

「ラファール...!」

 

助けに...と足を踏み出した途端、反対側の高速道路崩落場所の方から3人組の男性アバターがラファールの方に歩いてくる。借りていた双眼鏡を使い、ラファールを見る。すると彼女の肩に何か光る物体が刺さっているのが確認できた。

 

-------------------------------------------------------------------------------------------

 

「くぅ....」

 

彼女は砂の地面に倒れていた。油断していたようだ。

 

「体が動かない...?!」

 

自分のステータスバーを見ると"スタン"状態のマークが描かれていた。ふと、肩に目をやる。自分の肩に光る棒が刺さっている。

 

「スタンバレット...!?」

 

"スタンバレット"、本来の名を"電磁スタン弾"と言い、当たった相手を数分間麻痺させ、身動き出来なくする事ができる弾薬だ。しかしコストが高い事、そもそも口径が大きいライフルでないと使用できないため、使っている人間は少ない。

 

「予測線は見えなかった...」

 

彼女が言う"予測線"とは弾道予測線(バレットライン)の事で自プレイヤーが敵から撃たれる際に、敵の銃口から赤色のレーザーの様な線が伸び、撃たれた弾がどこに着弾するかを視覚化したもの。自分のバレットサークルと同期しておりバレットサークルがでている間はバレットラインも銃口から出ているため、相手に弾道を予測されてしまう。ただし、目標に気付かれていないの場合、初弾はバレットラインが表示されないため相手に気づかれずに初弾を打ち込むことができる。銃撃による戦闘にゲームならではの「ハッタリ」的面白さを盛り込むため採用されているシステムである。

 

「サーニャ...ヘッドセットは倒れた衝撃で壊れちゃったか...」

 

サーニャに無線を、と思ったがアイテムのヘッドセットは麻痺時に倒れた衝撃で壊れてしまったようだ。

と、その時崩れた高速道路のコンクリート片の影から三人組の男たちが現れた。

 

「あの人達が...。」

 

一人の男はドイツH&K社製の"G36K"、もう一人の男はイタリアベレッタ社製"AR70/90"。そして最後尾の男。彼の手に握られていたのはフランス、PGMプレシジョン社製"PGM.338"スナイパーライフルだった。

 

「PGM...!?超レア武器じゃない...!」

 

彼女もPGM.338を見るのは初めてだった。モンスタードロップ系レア武器の一つでかなり高額取引されている武器の一つである。

 

「お嬢ちゃん~狩りしてる所悪いねぇ、俺達これでもPKスコードロンでさぁ~。」

 

G36Kを持った、男が声をかけてくる。

スコードロンとは、他のVRMMOで言うギルドである。

 

「早くトドメさしなさいよ...!」

 

「いやいや、こ~んなかわいい子を間近で見ないですぐに殺しちゃうのはもったいないでしょ?」

 

「でもリーダー、早くとどめ刺さないとスタンバレットの効果切れちゃいますよ~?」

 

「あぁ?じゃあ切れそうになったらもう一発ブチ込んどけよ。」

 

「いやいや弾代高いですし...!」

 

「....。」

 

ラファールは痺れている腕を何とかして動かし、目の前に転がっている自分のGlock 18Cに手を伸ばそうとする。

 

「おぉっと~、だめだめおとなしくしてなきゃ!」

 

「くぅ...」

 

伸ばした手はGlock 18Cに届かず、気付いたリーダーと思わしき男に銃を蹴り飛ばされた。

 

「でもね、その根性気に入ったよ~ねぇ君、うちのスコードロンに入らない?」

 

「お断りよ...っ!」

 

食い気味にラファールが言う。

 

「ありゃりゃ残念、じゃあもう用ないからここで死んでもらうね。あとあそこに落ちてるグロック貰ってくよ。」

 

男のG36Kの銃口が、彼女の頭に向けられる。

 

「じゃあ、さようなら~。」

 

「...っ!」

 

ラファールは反射的に目を瞑る、風で砂が流される音がいつもより大きく聞こえたような気がした...と、その時。

 

「ぐあっ?!」

 

「リーダーっ!」

 

どこからともなく、弾丸が飛んできた。弾はリーダーの男の腕に命中した。

 

「...えっ...?」

 

何が起こったのか、彼女は理解するのに少し時間がかかった。

 

-------------------------------------------------------------------------------------------

 

「腕に命中かな...さすがにこの距離じゃ倒せないか...。」

 

プローン«伏せ撃ち»の姿勢でラファールの周りにいる3人のうち一人、彼女に銃を向けていた人を狙撃した。

倒せはしなかったが、相手の気をこちらに向けることに間に合った...と私は胸を撫で下ろしたがまだ安心するのは早い。

他の二人はアサルトライフルだけどもう一人はスナイパーライフルらしきものを持っているのは双眼鏡のおかげで確認できた。本来ならこっちを優先するべきなんだろうけど、ラファールのこともあったし、先にスナイパーを撃ったところでラファールの危険度が下がるわけではない。

 

「まだこっちに気付いては...。」

 

再び狙撃を試みるが、スナイパーの方から赤いレーザーのようなものが一本こちらに伸びて、私の顔の中心に投射されているのに気づいた。

 

「...っ!?」

 

反射的に顔を反らすと頬を銃弾がかすめていった。

 

「見つかった...!」

 

私はとっさに立ち上がり、岩場を急いで降りた。

ラファールの居る高速道路が崩壊している場所へは約400~500mほど離れているけど、その場所までは稜線で隠れていて、大回りで移動すれば崩壊している瓦礫の元へたどり着くことができるはず。それまでにラファールが無事だといいけど...。

 

「アサルトライフルを持った2人が先行して前に出て来るはず。スナイパーはこの瓦礫だと状況的に不利のはず...油断はできないけど。」

 

何事も無く高速道路の瓦礫に取り付いた。

 

「AKの残弾は...あと2マガジン...ハンドガンは使ってないからフルで3マガジン...長期戦は出来ない...か。」

 

ふと、微かに声が聞こえる。

 

『狙撃してきた奴は絶対こっちに向かってきてるはずだぞ!探せ!』

 

『それにしてもリーダー、なんであの子撃っておかなかったんすか?』

 

『そんな暇ねぇだろ!、とりあえずこっちのやつが優先だよ!手分けして探せ!』

 

「ここに来たのはもうバレちゃってるのか...。」

 

しかし3人共バラバラに行動してくれてた、一人ずつ確実に倒せば...。それにさっきモンスターが落とした"この"武器も試したい。

 

「よし...」

 

ゆっくりと、できるだけ足音を立てずに移動を開始する。

まず最初の目標はリーダーではないもう一人のアサルトライフル持ち。

 

「...居た。」

 

彼は瓦礫で山になっている所を見張り台にして辺りを見渡していた。ただ、このまま彼を撃つと逆に敵の二人、特にスナイパーは見渡しのいい別の場所で狙撃体勢に付いているだろうからあの人が倒れた場合すぐに察知するだろう。

 

「おびき寄せよう...。」

 

近くに落ちていたこぶし大の石をわざと私の隠れている場所で落とした。石が地面に接触すると同時に鈍い音がする。

 

『...っ!リーダー?』

 

彼は今の音をリーダーと呼んでいる人のものだと勘違いしているらしい。彼が動き出しこちらに歩いてくる足音が聞こえる。数歩数歩、徐々に音が大きくなってくる。そしてついに私の目の前まで来た。

音を立てず、腰からその、先ほど手に入れた物をゆっくりと取り出す。

彼は幸いまだ気づいていない。

その彼に私は後ろから後ろの首めがけてその"物"を振り下ろす。そうする際に、彼の"悲鳴"が響かないように口元を強く抑えた。しかし一回振り下ろし、"刺した"ただけでは、ゲーム上のHPを削り切ることが出来ず。倒れこんだ彼の後頭部にもう一振りした。

 

「最初のプレイヤーキルがこんな形になるなんて...それにゲームとはいえ私酷いことしたなぁ...。」

 

私がモンスタードロップで入手したこの武器は名前が"VOODOO HAWK"という小型の斧のような形をした、近接武器。

首を刺し、後頭部に一振り...なんて現実でもしもやったとしたら返り血が凄いことになっていたことだろうが、幸いここはゲーム内。死亡状態になった彼はモンスターと同じように粒子状になり消滅した。

 

「後二人...」

 

斧を腰に戻し、再び残りの二人の排除に向かう...。



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OPS 05:バレット・ラインの先へ 《Phase 2》

▼サーニャ、ラファールのステータスが確定しました。
 第0話:登場人物紹介のほうに書きましたので、ご確認ください。
 詳しい表は、現在作成中ですのでしばらくお待ちください。




『あいつやられたのか、使えねぇ...』

 

近くで声が聞こえる。

どうやら私が倒した一人目に気づいたらしい。でも死体を見たわけでもないのに一体どうやって...。

 

「スナイパーは後回しで先に彼を無力化しよう...。」

 

リーダーということもあり、彼を先に倒せば指揮系統は崩れてスナイパーは孤立するはず。

ただ、倒す前に彼からスナイパーの場所を特定するための"協力"をしてもらおうと思う。

私はゆっくりと彼の背後から近づき、じりじりと距離をつめる。

ついに私と彼との距離は3m程にまでなっていた。

 

「動かないで。」

 

私はAKを彼に向けたまま言う。

 

「おっと...声からして女の子かな?」

 

「こちらからの質問以外は喋らないで。」

 

「ふーん...初心者の格好してる割に銃とガッツだけは良い見たいだねぇ~。」

 

男が首をひねり、こちらを見る。

 

「向こうを向いてて、撃つよ。」

 

「はいはい...、それで質問って何かな?」

 

「仲間のスナイパーの人、今どこにいるか貴方知ってる?」

 

「さぁ?、ばらばらに行動してるからねぇ...、それにもし知ってたとしても君に教えると思うかい?」

 

彼はあっ、と気づいた様に再びこちらに顔を向ける。

 

「そっかぁ~君が俺の腕を撃ったんだねぇ...。」

 

「そうだよ、友達が襲われてたからね。」

 

「友達...、あぁあの子ね~君に撃たれてなかったら殺せたのになぁ...」

 

「っ...それと私がもう一人の人を倒したこと、何であなた気づいたの?。」

 

「くはははははっ。」

 

男が笑う。

 

「何がおかしいの?。」

 

「これはたまげた、本当に根っからの初心者とはねぇ、左上見てごらん君のお友達の名前とHPが書いてるだろう?」

 

男が言うとおり、左上に目をやるとラファールのHPが表示されており、稲妻のようなマークがHPバーの横についていた。

 

「なるほど、これを見てたわけだね。」

 

「そうだよ〜、んじゃあ用件は済んだかな?終わりにしよっか。」

 

男が上げていた手を下げる。

 

「まだ手を...っ?!」

 

ふと、彼の後ろでキラキラと小さく光るものがあった。とっさに私は近くにあったコンクリートブロックの壁に飛び込んだ。その時、先ほどいた場所の後方の壁に無かったはずの穴が出来ていた。思ったとおりさっきの光はスナイパーライフルのスコープが反射した光だった。

 

「君、運がよかったな!」

 

仲間のスナイパーに助けられた彼は距離を取り、身を潜めた。

 

「ゲームだから死の恐れが無いってわけだ...ソードアート・オンラインなら通用したかな...。」

 

そんなことを思いつつ、AKを持ち直し壁から半身を出す。発砲音とともに弾が側面の壁に当たり破片が飛び散る。

 

「ほらほら~出て来~い!!」

 

彼は私を釘付けにしたいらしく、弾をばら撒いてくる。このまま動かないとスナイパーに回り込まれる...。

私はポーチに入れていたスモークグレネードを手に取り、ピンを抜き、彼とスナイパーがいる方へ投げた。壁に当たって地面に落ちたスモークグレネードは瞬く間に煙を炊き始めた。

 

「いま...っ」

 

私は飛び出し、反対側まで走る。

しかし、彼は煙のかすかな隙間に見える私の動きに気付いたのか、こちらに向けてタイミングよく発砲し、弾は私の左太もも、左肩に命中した。

そのまま、奥の壁にもたれかかり呼吸を整える。

 

「現実だったら動けないよこれじゃ...。」

 

改めてゲームで良かったと痛感した。

 

「さて、こっちもそろそろ打って出ないと...。」

 

とりあえず、立ち止まっていても相手に囲まれるため動き回ることにする。動き回るといってもコソコソするのではなく、ただ闇雲に。

 

「それにしても何で一番最初のカウンタースナイプの時は向こうからレーザーが出たのにさっきは出なかったんだろう...それにあのレーザー、発射数と同じ数だけ出て弾道と同じカーブを描いていたような...。」

 

私が敵の狙撃主のスナイパーライフルに装備されたレーザーサイトと思っていたものはたぶん別の...バレットサークルのようなゲーム的演出なのだろうか...。

 

「もしも本当にあのレーザーみたいなのが、弾が飛んでくる"弾道を予測するための線"だとしたら...。」

 

そう思った途端、目の前100mほど先に彼が銃を構え飛び出してきた。

 

「ゲームセット~!!!」

 

私に5つの赤いレーザーが伸びる。

 

「今...っ!」

 

私は5つの、赤いそのレーザーに沿うようにバレットサークルを合わせ、5発発砲する。

火薬の燃焼によって発生した高圧ガスの炸裂音とエジェクションポートが前後する金属音が鳴り響き、私と彼の銃から放たれた弾丸は互いの弾丸にぶつかり合い砕け散る。しかし、最後の一発だけは私の狙いが甘かったのか私が放った弾が彼の銃弾をかすめる形となりその衝撃で弾道が反れ、私の足元に着弾した。

 

「銃弾を撃ち落としたっっっ!?」

 

思いがけない行動に男がたじろぐ。

もちろん今、私が《現実世界》ではありえない事をしたのは自分が一番分かっている。しかし、この世界は《仮想世界》«ゲーム»であって、私が学んだ戦術や戦い方はほぼ役に立たないかもしれない。じゃあ逆に《現実世界》では出来ないことを出来るんじゃないかと、あの疾走中に思いついた結果がこれだった。

 

「何者だよあの子はッ!くそッッ!!」

 

すかさず彼は私に向かって銃を構えるが、もう私に向かって撃つ時間は目を瞬きする時間さえも残されて無かった。彼の数メーター手前で背中から滑り込みその際中ハンドガンに持ち替え、彼の頭に一発、胸に二発撃ちこみそのまま股をくぐり抜けた。

 

「くそがぁぁぁぁ!!!」

 

なんとか振り向き、片手でライフルを構え私に向けるが。

 

「"ゲームセット"だよ。」

 

すでにAKを構えていた私は、そのまま彼の頭に5.56mmの鉛の弾丸を命中させ、彼のアバターはそのままうつ伏せの状態で倒れこみ、DEADエフェクトと共に消滅した。

 

「リーダーの仇ッ!!!!」

 

息をつく暇もなく、背後からスナイパーの男が飛び出し私をスコープ越しに捕えていた。

 

「っ...!」

 

とっさに銃を構えようと思った矢先、私の頭上を何者かが飛び、マシンピストルの連射でそのスナイパーの男を倒してしまった。

 

「サーニャ!大丈夫?!」

 

彼を倒したのは、私が助けるはずだったラファールだった。

 

「もう麻痺は平気なの?」

 

私が聞くとラファールは、ぽかんと口をあけたままな顔をした。

 

「えっ...あ、う、うん、この通りピンピンだけど...私が麻痺してるときに狙撃で助けてくれたのもサーニャだよね...それに一人で二人も倒しちゃったの...?」

 

「そうだけど?」

 

「えっとね...私も改めて見て気付いたんだけど私が襲われてサーニャが戦ったさっきのスコードロン、名前が《トイフェル(Teufel)》ドイツ語で悪魔って意味で、腕は立つプレイヤーぞろいなんだけど狩場独占とか横槍PKとかハラスメント行為とかマナーが悪くて最近GGOのネット掲示板とかで名前がよく上がってるスコードロンなんだけど...」

 

「?」

 

「いろんなプレイヤーから恨まれてて、プレイヤーの間で懸賞金がかけられてるんだ。確か最高でもし倒したらメンバー1人辺り3メガクレジット、現実換算だと3万円って言われてる...。でも今まで倒した人居なくて...」

 

「私達が最初...ってこと?」

 

「う、うん...。」

 

ただ単純に私はラファールが襲われたから仕返し感覚で戦っていたのだけどまさかそんな事になって居たなんて...

 

「とりあえず、それを扱ってるNPCがいるから町まで戻ろっか。」

 

「うん。あっ、この人達のドロップした武器全部没収してアルフレッドさんの店に仕入れよう。」

 

「あはは...。」

 

というわけで敵の落としたドロップ品を回収し、私たちはグロッケンの都市の一角にある情報交換所にたどり着いた。建物に入ると他のプレイヤーが数十名ほど居て、お互いに話し合っている人達、これから戦いに行く人たちが準備をしていた。

 

「ここはNPCクエストはもちろんプレイヤーが依頼したクエストを他のプレイヤーが受注したり、その逆も出来るって場所なんだ。」

 

「へぇ...。」

 

その部屋の一角に、壁にかけられたボード一面に張り紙が張られたものがあった。

 

「えーっと...あーあったあったこれこれ。」

 

ラファールが一つの張り紙を指差す。

 

「"スコードロン 《トイフェル(Teufel)》のやつらを倒してほしい。やつらは3人組で特徴はリーダー格の男がG36K、仲間の一人がAR70/90、最後の男がスナイパーでレアなPGM.338を使ってる。やつらの銃がドロップした場合は倒したやつが持ってってもらってかまわない。メンバー一人につき3メガクレジットを支払う。よろしく頼む。"、なるほどね。」

 

「じゃあこれを張った依頼主にメッセージを飛ばして報告...」

 

「君たち、あいつらを倒してくれたのかい?」

 

唐突に後ろから声をかけられ、振り返ると一人の男性が立っていた。

 

「一応...そういうことになりますね。」

 

ラファールが返答する。

 

「そうかそうか!、いやぁよくやってくれた!」

 

「いえいえ...!そんな...。」

 

男性は大きな声で感謝の言葉をラファールに言い、両手で彼女の手を握り上下にぶんぶんと振った。もちろんその声は周りに居る他のプレイヤーにも聞こえ、周囲がざわめいていた。

 

「私の名前は"ハーミット(hermit)"。うちの仕事仲間でスコードロンを組んでGGOをやっていたんだが、ちょうど一ヶ月くらい前にやつらのスコードロン、《トイフェル》に襲われてしまったんだ。うちはモンスター狩りを目的に活動してるスコードロンだから光学銃しかなくて、やり返そうにも自分たちじゃ歯が立たないから他のプレイヤーに頼んだってわけなんだ、いやぁまさか君たちみたいな女の子が倒してしまうなんて驚きだよ!。」

 

『あの子達があの《トイフェル》を倒したのか...?』

『たった二人だけで...?』

 

彼、ハーミットさんの声が大きいため周りのプレイヤーにも筒抜けだった。

 

「一応スナイパーの人を倒したのが私で...こっちの子が残りの2人を倒したんですけど...。」

 

「ということは、リーダーの男ともう一人かい?すごいじゃないか!君はどれくらいGGOをプレイしているんだい?」

 

「今日で2日目です。」

 

彼が固まる。

 

「ふ、2日目...?じょ、冗談はよしてくれよ」

 

「それが本当なんですよねぇ...あはは...。」

 

彼の言葉にラファールが返す。

 

「たまげた...たった初めて2日目で倒すなんて...何か他のVRMMOでもやっていたのかい?」

 

「いいえ、ゲームはGGOが初めてです。」

 

私が答えると彼がラファールのほうを見る。

 

「本当です...。」

 

ラファールが答える。

 

「じ、じゃあ参考までにどうやって倒したか教えてくれないかな?」

 

「あ、そういえば私も聞いてなかった。サーニャ、一体2人をどうやって倒したの?」

 

「一人目は転がってた石を落として音でおびき寄せて、出てきたところを後ろからこの斧で倒したよ。」

 

ドロップした斧を見せた。

 

「あれ、その斧アルフレッドさんのお店で買ってたっけ?」

 

「ううん、あそこのモンスターを倒してたらドロップしたんだ。それで最後のリーダーの人は私も2発弾があたっちゃったけどその次にあの人が撃って来た弾は撃ち落として...」

 

「ちょっと待ってサーニャ、今私の聞き間違えかな、撃たれた弾を撃ち落してって聞こえたんだけど...。」

 

「うん、撃ち落した。それでそのまま近づいてスライディングであの人の頭に1発、胸に2発撃ち込んで、股を潜り抜けて後ろに回りこんでとどめに頭に一発撃ったって感じだよ?」

 

二人ともぽかーんとしていた。周りで聞いていた他のプレイヤーも同じ感じだった。

 

「この子本当に初心者だよね...。」

 

「はい...初心者です。」

 

「いつだか光剣で銃弾を切りながら戦っていた女の子以来だなぁこんな子は...いやぁやつらも倒してもらえたし面白い子にも出会えたし、私は満足だよ!じゃあこれ、約束の。」

 

そういうと彼はメニューウインドウを出し、何かを操作すると私とラファールの前に自動的にメニューウィンドウが表示された。

 

「お礼だ、スナイパーを倒してくれた君には3メガクレジット、残りの二人を倒してくれた彼女には6メガクレジットを渡すよ。今回はありがとう!」

 

「いえいえ...!こちらこそお役にたてて幸いです...!」

 

その後、彼と別れ情報交換所を後にする。

 

「銃弾を銃弾で撃ち落すなんて聞いたことないよサーニャ!一体どうやってやったの?」

 

アルフレッドさんのお店への帰り道、ラファールに聞かれる。

 

「うーん...銃口から赤いレーザーが見えてそれに合わせて銃弾を撃つ感じかな...?」

 

「赤いレーザーって《弾道予測線》かな?」

 

「《弾道予測線》?」

 

「うん、"守備的システム・アシスト""バレット・ライン"とも言うんだけど、自分に飛んでくる弾丸の線が薄赤い光の筋で表示されるんだ。これがサーニャの言った赤いレーザーの正体だよ。」

 

「でもそういえば、2回目にスナイパーに狙撃されたときその弾道予測線の赤いレーザーは出なかったよ?」

 

「それはね、敵に気づかれずに初弾を撃つときは弾道予測線は表示されないんだ。初弾を撃った後はまた弾道予測線は表示されるんだけど、初弾の後撃たずに60秒相手に見つからなければまた弾道予測線無しの弾を撃てるんだ。」

 

「なるほど。」

 

「にしても、よくあんな早い弾を撃ち落せたよね...SEN(五感)が高いとそういうことも出来るのかな、確か私よりも高かったよね。」

 

「STR(筋力)と同じ数値だよ。」

 

「うひゃ~...一体どんな経緯でそんなステータスになっちゃったんだか...。」

 

「...。」

 

そんな話をしてると、アルフレッドさんのお店に到着。

 

「さて、なんか今日はいろいろとあったけどサーニャ疲れてる?」

 

「うーん、そうでもないかな、でも初めての戦闘は楽しかったよ。」

 

「(やられた相手は初心者にやられて悔しいだろうなぁ...)そっかそっか、じゃあ今日はもう落ちよっか、また明日学校だし明日金曜日だから終われば土曜日、日曜日とGGO出来るよ!」

 

「私土曜日アルバイト朝から入ってるよ。」

 

「がーん...」

 

「また明日一緒にやろう。」

 

「うん、そうだね!明日学校で戦闘の話もっと詳しく聞かせてよね!」

 

「う...うん...。」

 

たった数時間だったけど、《現実世界》と《仮想世界》の違いを見せられ、それを学ぶ時間だった。

私はログアウトし、伸びをしてまたベッドに寝転がりいつの間にか寝ていた。

 



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OPS 06:流離の銃弾

▼今回は1万文字を超えました。

▼本文中ルビ"*"は、あとがきで詳しく紹介します。

▼登場人物が新たに増えましたので第0話:登場人物紹介が本話投稿と同時に
更新されております。合わせてどうぞ。


SBCグロッケンから西に行った一面赤土の砂漠の地域、そこに唯一ある小さな町。プレイヤーからは"ウェスタンタウン"と呼ばれているここは、アメリカ西部開拓時代を思わせる建物やなどが立ち並び、ゲーム設定上では"文明衰退でウェスタンタウンに二度目の開拓時代が来る"とか、ここに集まるプレイヤーもカウボーイや当時の保安官を模した格好でこの世界を楽しんでいるプレイヤーが数多い。その、ウェスタンタウンのとある一角にあるウェスタンサルーン風の酒場にテンガロンハットを被り長髪で顎髭を生やした一人の男が居た。

 

「マスター、いつもの。」

 

彼はもうそれが習慣になっていると言っても過言ではないと言った素振りで口にした。

 

「はいよ」

 

マスターと言われる彼もまた、そう答え、決まったものを出すというのが習慣となっているのであった。

店主はNPCではなく、プレイヤーで情報交換もできるということもあってこのサルーンはこの街で一番人気となっている。男が頼んだのはスコッチ・ウィスキーのストレート。

マスターがカウンター席にいるその男の前にグラスを置いた。

 

「なぁ、スコッチ、今日はちょっとおもしろい情報があるんだが...。」

 

"スコッチ"店主の男はウィスキーのことを指したわけではない。カウンター席に座るこの男の名が"スコッチ"なのだ。

客の男はかなりの常連で、店主の男とも付き合いが長い。

 

「なんだ?まーたお婆さんのお使いクエストとかじゃないだろうな?」

 

彼はついこの間、マスターに報酬の良いクエストを紹介する。と言う口実で騙され、NPCのお婆さんのお使い系クエストで散々に振り回されたのだった。

 

「いやいや、今回はちょっと違うんだ。これは他のお客から聞いた話なんだけどな、GGOで2人組の少女が暴れてるって話、お前さんは聞いたことないか?」

 

「2人組の少女?聞いたことないなぁ...なにせ"そっちの"趣味は無いからな。」

 

「バカタレ、真面目な話だ。なんでもその二人、かなりのプレイヤーを倒してるらしいぞ。」

 

「ほう...。」

 

「それでだ、かなりの懸賞金が掛かってる。たしか...。」

 

と、突然店の戸が乱暴に開かれ4人組の男たちがぞろぞろと入ってきた。

 

「スコッチとか言うクソ野郎を探してる!お前しらねぇか!?」

 

入り口に一番近い客に乱暴に聞く。

 

「マスター、話は後だ。」

 

ウィスキーの入ったグラスを一気に飲み干し、テーブルに置くと席を立った。

 

「クソ野郎のスコッチは俺だが?」

 

「テメェか、表出ろ!」

 

4人組男たちに囲まれて、スコッチは店の外にでる。

 

「用件は何だ、俺とデートでもしたいってか?悪いがそう言う趣味はないんだ。」

 

「へっ、そのふざけた口叩けるのも今のうちだぜ。テメェ、ウチんとこのスコードロンのメンバー一人、賞金首になってるやつをこの間殺したよなぁ?」

 

「あぁ、お前と一緒で口だけ達者のあの男か。」

 

「可愛い部下のために俺様が直接仕返しに来たってわけだ、もしここで土下座して詫びるってんなら命だけは保証してやるぜ?」

 

男はホルスターからレミントン社の"ニューモデルアーミー"(*1)を取り出すとスコッチに向けて構えた。

 

「御生憎様、お前に下げる頭は持ち合わせてないんでね。もしやるっていうなら...早撃ちで勝負はどうだ?」

 

「いいぜ、受けてやるよ。テメェの眉間に大穴開けてやるぜ。」

 

スコッチが腰のポーチから.45ロング・コルト弾(*2)をひとつ取り出す。

 

「こいつが地面についたら開始だ、それでいいな。」

 

「上等だぜ。」

 

互いに距離を取る。

 

「準備はいいか?」

 

「いつでもいいぜ、すぐに終わりにしてやらぁ..。」

 

スコッチは弾を親指で弾き、すぐに自分のホルスターに手を添える。

 

弾かれた弾は空中で回転し、落下を始める。

サルーンの客や、周りの見物人も固唾を呑んで見守る。

そして、地面に弾が触れた瞬間。銃声はひとつ、決着はついた。

 

「なにっ...?!」

 

男が持っていたニューモデルアーミーは、シリンダーが粉々になり瞬く間に銃ごとエフェクトとともに消失した。

どうやらスコッチは、男自身を狙うのではなく銃本体の方を狙っていたようだ。

 

「クソがぁ!野郎どもアイツをぶっ殺せぇ!」

 

男が叫ぶと、取り巻きの3人が背中に持っていたローリングブロックライフル(*3)を構える。が、スコッチはコルト社製シングルアクションアーミー(*4)を構えると素人には一発しか撃っていないような速さで3発、ファニング(*5)しながら撃ち、3人を0.5秒とかからず撃ちぬいた。

スコッチは撃ち終わるとガンスピンをさせ、シングルアクションアーミーを腰のホルスターに戻した。

 

「まだやるかい?」

 

スコッチは目の前の男に聞く。

 

「えぇぇい!覚えてやがれ!!!」

 

男はへっぴり腰でそそくさと逃げていった。

 

「ふぅ、さてと酒と話の続きだマスター。」

 

スコッチは再び店に入っていった。

日曜日、私は学校とアルバイトが休みのためお昼からGGOにログインしていた。

先日の戦いでスナイパーライフルを使っていた彼がドロップしたPGM.338(*6)はお子さんの熱が下がってGGOにログインしたアルフレッドさんのところへラファールと一緒に持って行き、その日に販売された。

 

「サーニャ!カバー!」

 

「了解。」

 

私達は今、SBCグロッケンの西部外周ゲートを出て、そのまま北西に進んだ先にある廃墟都市の元地下鉄構内ダンジョンに潜っていた。

 

「ラファール、左からフォトンソード(*7)持ったのが3体。」

 

「了解!」

 

このダンジョンには"ボス部屋"と呼ばれる部屋がなく、最深部になっている駅構内のホームに先陣が残していった塹壕でモンスターのラッシュを掻い潜ると言う設定だ。

 

「あと、50体...サーニャ全弾は?」

 

「ハンドガンラストマグ、残り17発。」

 

「こっちも66発でラストマグ...。」

 

このラッシュを終えれば、報酬としてレア武器が手に入るという。確率は低いらしいけど。

 

「私、塹壕の外で戦ってくる!」

 

「気をつけて、ラファール。」

 

ラスト50匹の戦闘、ラファールは自分のAGI(俊敏性)を活かせる外で戦うために塹壕から出る。

 

「できるだけ弾数を浮かせるために、頭を集中的に狙って...!」

 

AGI(俊敏性)型ならではのラン&ガン戦法でラファールは敵のビームサーベル、フォトンソードを綺麗によけつつ、次々と敵を撃ち倒す。

対する私は、一発一発を敵の頭部に命中させるよう正確に1体づつ倒していた。

 

「残り...2体...!」

 

ラファールはまさに"突風(Rafale)"のごとく目にも留まらぬ速さで数を減らし、ついにラストスパート。

 

「ラスト1体...!貰った...!」

 

最後のモンスターに銃口を向けようとしたが、彼女の持っているGlock18C、2丁のスライドが寸前に倒したモンスターへのとどめの弾で無常にもスライドストップしていた。

それを見ていた私も、救いの手を差し伸べようとしたが私のストライクワンも同じく弾を全弾撃ち切りスライドストップしていた。

 

「そんなっ...!」

 

ラスト1体のモンスターがフォトンソードを構え、ラファールに襲いかかる。

 

「ラファール...!!」

 

はっ、と私はとっさに腰に刺していた斧、Voodoo Hawkをラファールに襲いかかるモンスターめがけて投げた。斧はくるりくるりと前回りをしながら宙を飛び、モンスターの振りかざしたフォトンソードがラファールに当たる寸でのところで斧がモンスターの後頭部に刺さり、モンスターは倒れ消滅した。

 

「ふぅぅ...た、助かったよサーニャ...。」

 

安堵の表情で私の方を見るラファール。

 

「危なかったね...。」

 

パチンと私達はハイタッチをする。

 

しかし終了後のリザルト結果報告のウィンドウに目的のレア武器の名前はなかった。

「だぁぁぁ!、あんなに頑張ったのにレア武器でないなんて意味無いじゃん!!」

 

ダンジョンの帰り道、ラファールはレア武器がドロップしなかったことが相当悔しい様子。

 

「まぁまぁ、また補給して来ようよ。」

 

ここに来るために、普段より多めに弾薬を持ってきていたが、先ほどの戦闘ですべて使い切ってしまった。

 

「昨日の土曜日いれてもう今日で10回目だよ!本当に出るのかな、そのレア武器っていうやつ!」

 

「一体どんなレア武器なの?」

 

「えーっと...アルフレッドさんによるとモンスター達が使ってるフォトンソードと同系列の武器でGGO内のフォトンソードの中でも最強らしいよ?でもこのゲームでフォトンソード使う人って指で数えるくらいしか居ないんじゃないかな...そもそも居なかったりして...。」

 

「確かこの間、トイフェルメンバーを倒すプレイヤークエスト依頼主のハーミットさんが言ってた"フォトンソードで銃弾を切りながら戦っていた女の子"っていうのは?」

 

「あぁ~、私は直接見たわけじゃないんだけどちょっと前にそういう子が居たらしいね、急に現れたと思ったら誰も使わないフォトンソード"カゲミツG4(*8)"とハンドガンの"ファイブセブン(*9)"をまるで二刀流のように使う子が居たとかなんとか...かなり強かったらしいけどでも結局別のMMORPGにコンバートしちゃったらしいよ。」

 

「へぇ...。」

 

勿体無い、と私個人の意見ではあるがそう思った。

しかし実際、剣を使うとなるとその剣が届く距離まで銃弾を避ける、もしくは技量があるならラファールの言う、その彼女のように弾を切らなければならないわけで、もし囲まれてたりでもしたらすべての敵に対応はできない、もちろんそれは銃を持った場合でも言えることではあるけど。

それを考えると、やはりこのゲームで剣というものを使うのは厳しいのだろう。

 

「名前は確か"キリト(Kirito)"だったかな?まぁ本当に剣とか二刀流が使いたいならALOとかやってたほうがいいからねぇ...。」

 

「ふーん。」

 

「私はその子より、一緒に行動してた"シノン(Sinon)"っていう子のほうが気になるよ!」

 

「どうして?」

 

「私と同じでGlock 18Cを使ってて、メインウェポンはレア中のレア!スナイパーライフル"PGM ヘカートII(*10)"を使ってたんだって。その子も結局別のMMORPGにコンバートしたって噂だよ。」

 

「なるほど。」

 

地下鉄構内から階段を上がり、地上に出る。

 

「弾もないし、街の中は危険だから注意しながら帰ろっか」

 

「うん。」

 

と、そのとき物陰からガサッと音がした。

 

「誰っ!?」

 

ラファールが音のするほうにグロックを構える、もちろん弾は一発も入ってない。

 

「おーっと...見つかったか...。」

 

建物の影から出てきたのはメキシカンポンチョをなびかせた、西部劇に出てきそうな男が出てきた。

 

「怪しい者じゃあ無い...と言いたい所だが、まぁこんな状況じゃ無理だわなぁ」

 

無造作に伸ばしているであろう髪をくしゃくしゃとしながら彼はあまり敵意のない、それでいてただの通行人でした。なんて言い出す雰囲気ではない口振りで言った。

何はともあれ目の前にいる彼の目的を聞かなければ話にならない、そう判断した私はラファールよりも先に彼に問い掛けることにした。

 

「おじさん、私達に何か用?」

 

"おじさん"と言った所に反応した様で、おじさん、おじさんかぁ...そうだよなぁ...と、彼は顎髭を触りながら明らかに落胆した独り言をぽつぽつと呟いている。

 

「ゴホン...ッ用と言うほどではないが」

 

一つ咳払いをし、ばつが悪そうに話を切り出した彼を見て、隣にいたラファールは話を戻すのか...!なんて、変に関心しているのを私は見逃さなかった。

 

「最近、2人組の少女が暴れ回っていると聞いてね。丁度キミ達がその条件に合っていたもので、つい後をつけさせて貰ったんだ。」

 

"暴れ回っている"と聞き、そんなような、しかしそうでもないような...ここ数日起きた事が頭を巡る。ふと隣のラファールを見ると、彼女もまた同じ事を考えているのか何とも微妙な顔をしている。

 

「うーん...否定も出来ないし肯定も出来ない...」

 

「その二人組、懸賞金がかかっていてね。額は一人当たり10メガクレジット。」

 

「えぇ!?、一人に10メガクレジット!?」

 

その価格を聞いて、ラファールが声を出して驚いていた。

10メガクレジットといえば10,000,000クレジット現実換算で日本円にして10万円。

 

「私達にそんな大金がかかってるって事?」

 

「まぁ、そういうことになるな。そこで本題なんだが俺と決闘をしてくれないか?」

 

彼は自信ありげにこちらに返答を求めてきた。

 

「だとしてもあなた変わってるわね...わざわざ懸賞金が掛かってる二人を前にして普通に話しかけてきて"決闘してくれないか~"だもん。普通こそこそ後をつけるくらいなら後ろから撃っちゃえばいいのに。」

 

ラファールが男に言う。

 

「いやいや、俺はそう言う卑怯な手は使わない、堂々と戦いたいのさ。」

 

「ガンマンみたいな格好でよく言うわね...。」

 

「俺は"クランクトン(*11) "じゃなくて、"アープ(*11)"なのさ。」

 

「...?まぁ戦うならそれでもいいけど2対1でいいの?そうするとあなた、不利じゃない?」

 

ラファールが、私を見て彼に問う。

 

「ふむそうだなぁ、じゃあこうしよう1対1の決闘スタイルだ。よく西部劇で見るだろう?」

 

彼が自分のベルトに手を回す。

サーニャはそれが、武器を取り出すように見えたのか素早くホルスターに手をかける。

 

「あぁ、待て待て、コレだコレ」

 

取り出したのは、弾だった。薬莢部分が普通の弾よりも長いためリボルバー用弾丸だろう。

 

「こいつをお二人さんのどちらかが上に投げて、地面に落ちたところでもう一人と俺が互いを撃つ。といった感じでどうかな?」

 

指でその弾丸を摘むようにしてこちらに向ける。

 

「おっけー...じゃあ...」

 

「私がやるよ。」

 

私は彼女の言葉を遮るように答えた。

たぶん私が何も言わなかったらラファールが決闘を受けていたはず。

彼の"堂々と"というこの言葉に興味というか、このゲームをやっているプレイヤーでそういった事を言えるということは、やはりそれほどの自信があるということだろう。

 

「えっ...?!、ちょ...」

 

「任せて。」

 

それでもなお、食い下がるような目でこちらに訴えかけるラファールに向け、私はピースサインを送った。

 

「はぁ...任せたよサーニャ。」

 

私に何を言っても無駄だと悟ったのか呆れたような顔で、しかしそれ以上に、私に期待の眼差しを向けているようにも思えた。

私達のその一連のやり取りを見ていた彼は、くつくつと笑いながら私に聞く。

 

「決まりだな、一発で決着を着けるつもりだが見ていた所ダンジョン帰りだろう、残弾はあるかい?」

 

「ライフルもハンドガンも弾が切れてるんだ。予備の銃も無いけど。」

 

私がそう答えると、彼は左手で左のホルスターから銃を引き抜く。

ホルスターから抜かれたリボルバーはコルト社の"シングルアクションアーミー(SAA)"だった。

彼はそのまま左手を使い手慣れた手つきでガンスピンをさせると、軽く宙に投げ、右手に持ち替えると銃身を持ちグリップを私の方に向け、差し出した。

 

「ありがとう。」

 

その他、予備の右用ホルスターも借りた。

気軽く彼からSAAを借りたが、私はそのガンプレイを見て彼はこの銃を自分の物にしていると思った。

 

「じゃあ、やろうか。」

 

互いに、少し距離を起き睨み合う。

 

「じゃあ...行くよ?」

 

ラファールが私と彼に視線を送る。私も彼も、準備は整っていると目線を送る。

それに従い、ラファールは親指で弾を弾きあげる。

弾が落ちるまでのその時間が、ゆっくり動いているような気がした。

しかしその刹那、一番頂点まで上がった弾丸がどこからか飛んできた別の銃弾によって弾き飛ばされた。

 

「わっ...?!」

 

ラファールが思わず、顔を逸らす。

銃声がした方を向くと、馬に乗った10人ほどの集団がぞろぞろと、こちらにやってきた。

 

「あいつら...」

 

彼のその言葉からしてなにか、心あたりがある様子。

集団のリーダーと思わしき男が馬から降りて、こちらに歩いてきた。

 

「その決着、ちょっとまってもらうぜお嬢ちゃん達。」

 

口ひげを生やした小太りの男はニヤリとこちらを見た後、ガンマンの彼の方に改めて顔を戻す。

 

「よぉよぉ!!向こうの町で見ねぇと思ったらこんなところでお嬢ちゃん達と遊んでたのかぁ!?」

 

リーダーらしき男と、その回りにいる男たちはガンマンの彼に向かってゲラゲラと笑った。

 

「お前も暇だなぁ、この間やられたくせにまた性懲りもなく...。」

 

ガンマンの彼は呆れた顔でやれやれ、と首を振っている。

リーダーらしき男は笑うのをやめ、顔を真っ赤にさせながら声を荒らげた。

 

「うるせぇ!俺はテメェの事が気に入らねぇんだよ!」

 

男は腰のホルスターから銃を引き抜くとガンマンの彼に銃口を向ける。

 

「テメェに壊されたニューモデルアーミーからスコフィールド・リボルバー(*12)に変えたぜ。」

 

S&W社製"Model 3"を.45 スコフィールド弾が使えるように改良されたリボルバーだ。それを見せびらかすように、ガンマンの彼に向ける。

 

「ハッ、あんたがアープの銃を持つなんてな、片腹痛いぜ。」

 

ガンマンの彼は男に指を指しながら、茶化した。

 

「テメェがふざけた口叩けるのも今日までだぜ、やっちまえ野郎ども!」

 

男が部下と思わしき周りのプレイヤーに呼びかける。

 

「キミさっきの銃、ちょっと返してもらっていいか?」

 

「もちろん。」

 

私が借りていたSAAを彼に投げ渡し、彼は左手でキャッチする。

 

「二人は隠れてな。」

 

ガンマンの彼は私達が弾切れしていることが分かっているためか、廃墟ビルの入口で隠れているようにと合図した。

集団の方は全員馬を降り、各自散らばるように展開する。

ガンマンの彼もさすがにこの人数は相手にしたことが無いのか、"骨が折れるぜ"と独り言をつぶやいていた。

彼は私が返したSAAをガンスピンさせ左手で回転させながら右のホルスターからもSAAを抜き、右手でもスピンをさせ、まずは一番近くにいるローリングブロックライフルを持った男二人にガンスピンをやめた2つのSAAで3発つづ弾を放つ。放たれた弾丸は二人の胸部に集中して命中し、倒した。すぐさま彼は前方へ駆け出し、弾を避けながら正面にいるM1897ショットガン(*13)に近づく。ショットガンの男もただ呆然と立っているわけではなく、近づいてくるガンマンの男に向け散弾を放つが、いとも簡単にかわされてしまい、ショットガンの銃身を押さえられSAAの銃身を腹部につきつけられてガンマンの彼が発砲。Deadエフェクトと共にその男は消滅した。

 

「あの人...強い...。」

 

私と一緒に隠れて居たラファールもその一部始終を見ていた。

先ほどまで10人居た男たちは次々とガンマンの彼に打ち倒され、半分にまで減っていた。

 

「おいお前ら!敵はたったの一人だぞ!さっさと殺せ!!!」

 

一番後方に居る小太りの男は部下たちに声を荒げるが、ガンマンの彼の攻撃を抑えることは出来ない。

 

「残り5人...」

 

2丁合わせ12発を装填していた銃弾を撃ちきったため、彼は再装填に入るがその動作一つ一つに無駄な動きはなく、2丁をリロードするのに掛かった時間は約10秒以下と早業だった。

リロードを終えた彼は左のSAAをしまうと、再び物陰から出る。

そこに居たのは4人、リーダーの男の姿はなかったが、ファニングしつつ1秒以内にその4人を撃ち倒した。

 

「バカがぁ!!何処見てんだぁ!!!???」

 

いつの間にか小太りの男はガンマンの彼の後ろを取った。どうやら戦闘が行われているすぐ隣の建物を回り後ろに出たようだ。

ガンマンの男は振り向かずに、付けていたメキシカンポンチョを男のほうに投げた。

すると、小太りの男にポンチョがかぶさりあわてて取ろうとする。

しかしガンマンはその隙に、ポンチョで隠れた背中に隠していたソードオフ水平二連ショットガン(*14)を抜く。

 

「くそったれ!ふざけた真似しやがってッ!」

 

やっとの思いでポンチョをとるが、男の視線の先には銃を構えたガンマンの彼が立っていた。

 

「ジ・エンドだ。」

 

小太りの男に有無を言わせず、水平二連を放つ。弾は小太りの男の頭に直撃し、顔面に大穴を開けた。そのままゆっくりと後ろに倒れDeadエフェクトとともに消滅した。

 

「ふう...。」

 

ガンマンの彼は一息つくと、水平二連を背中に戻し地面に落ちている自分のポンチョを拾うと再びそのポンチョを纏った。

 

「おまたせお二人さん。」

 

私達が隠れていたビルの入口に来て早々、"さっきの続きをやろうか"と私達に言ってきた。もちろん断る理由はないため、再度仕切りなおしで銃を借りお互い距離を取ってその時を待つ。

 

「そういえば名前を言っていなかったね、俺は"スコッチ"キミは?」

 

「私はサーニャ、彼女はラファール。さっきはお見事スコッチさん。」

 

「そりゃあどうも。」

 

お互い、目線は動かざずに互いの名前を言いあった。

 

「じゃあ、いくよ...!」

 

ラファールが銃弾を弾く。

時間はゆっくりゆっくりと流れ、その場の空気の流れが変わったかのように思えた。

最頂点に達した弾は回転しながら落ち始め、地面に当たると高い金属音がした。

それと同時に私は借りたホルスターからSAAを素早く抜き、撃った。

 

「なっ...!?」

 

スコッチさんが目を見開いて、驚く。

そう、互いが放った弾丸はどちらの身体にも命中はせず、丁度互いの間の距離で弾丸同士がぶつかり合い、砕け散った。

私は先ほど見た彼の動きを真似るようにガンスピンをさせ、ホルスターにSAAをさした。

 

「俺は確かに銃を持ったキミの右腕を狙って撃ったはずだぞ...!」

 

私のその動作を見て、驚きを隠せない表情で言う。

 

「目だよ。」

 

「目...?」

 

「撃つ瞬間にスコッチさんの目が私の右腕の方を向いてた、だから弾道予測線が無くても弾道を予測できたんだ。」

 

生き物は何かをする際、その方向を必ず見る習性がある。

もちろんそれは現実とは別に作られた《仮想世界》であっても変わることはない。

彼は私を撃つ際に、右腕をしっかりと見ていた。あの銃を抜いてから撃つまでの動作は0.数何秒程、それでは弾道予測線を見てから回避、または弾を撃ち落とすなんて事はできないだろう。だから私は彼の視線の先にあるゲームが創りだした物じゃない"人間自身が作り出した弾道予測線"を見て弾丸を撃ち落とした。

 

「なんだよそれ...はぁ...俺の負けだ、降参...!」

 

彼は両手を上げて、私に降参のポーズを出してきた。

もちろん私も次弾を撃つことはしない。決着はもうついたのだから。

 

「返すよ。」

 

私は借りたSAAとホルスターを彼に手渡す。

 

「それで、懸賞金のかかった私達を倒せなかったわけだけどあなたどうするの?」

 

ラファールがスコッチさんに問いかける。

 

「うーんそうだなぁ...まだ"お尋ね者"は沢山いるからな、そいつらを倒して金を稼ぐと

するよ。」

 

彼はホルスターに銃を挿し直す。

 

「今日は迷惑かけたな、でも楽しかったよありがとな。」

 

「私も、楽しかったよ。またいつかどこかで。」

 

「あぁ、またいつか。」

 

私と彼は握手をした。

それじゃ、と彼は西の方へ歩き出し、砂埃の舞う廃墟の街の中に消えていった。

 

でも、"またいつか"はすぐに来ることになった。

「サーニャ~!教えてよ~!どうやって銃弾撃ち落としたの~!!」

 

それから二日後、あの決闘を間近で見ていたラファールは私に銃弾の撃ち落とし方をずっと聞いてくる。

 

「勘...かな...?」

 

「"勘"って何よそれ~!!」

 

「ラファールちゃんはSEN(五感)上げ直さないとね。」

 

「えぇっ!?」

 

私達は学校終わりにいつもの様にアルフレッドさんの店に集まり、店の奥の別室で談笑をしていた。

そこへ、店の扉が開き一人のお客が入ってきた。

 

「いらっしゃい、今日は何をお探しで?」

 

店主のアルフレッドさんは店の方へ出て行き、いつもの様に接客対応をする。

 

『あぁ、人を探してるんだ。これくらいとこれくらいの身長の銀髪と橙色の髪をした女の子なんだが...。』

 

それを聞いていた奥の部屋に居る私達は互いに目を合わせ、お互いの髪を見つめる。

 

「サーニャだ。」

「ラファールだ。」

 

私達はコッソリと店の方を覗くと、見覚えのある男が立っていた。

 

「あの人...。」

 

私の声が聞こえたのか、こちらに目をやるその男。

ガンマンの彼、スコッチさんだった。

 

「おぉ!やっぱりここだったのか、情報屋ってのは金は高いが頼りになるよ。」

 

どうやら色々な情報で商売をしているプレイヤーに高値を払って聞き、ここに辿り着いたようだ。

 

「二人共知り合い?」

 

アルフレッドさんが私達の方を振り返り、問いかける。

 

「ほら、この間話したガンマンの話の人ですよ!でもあなたがどうしてここに?」

 

ラファールが彼に問いかける。

 

「いや、実は謝罪とお願いに来たんだ。」

 

「謝罪と...お願い?」

 

私とラファールの首が傾く。

 

「実は懸賞金のかかってた少女の二人組っていうのはキミ達のことじゃなかったんだ。俺がキミ達に決闘を申し込んでた間に新しい情報が入ってね、帰ってから改めて聞いてみたら実は人違いだったんだ。」

 

「って言うことは、私達じゃない他の女の子二人組が暴れまわってるってこと...?」

 

「そういうことだ、新しい情報ではその少女はお互いそっくりなアバターで、言動からするにどうやら、本物の双子らしい。」

 

「双子でGGOに...それも女の子でねぇ...。」

 

ラファールが苦笑いしながら聞いている。

 

「それでだ、最近ついた通り名が"双子の悪魔""デビルズ・ツイン"だとさ。何でも彼女たちの機嫌を損ねると、GGOを辞めたくなるくらいには酷いことされるらしい...。二人組にあったことのあるやつはその件に関して口を開かなくなるし、忘れたがってるようで情報があまり入ってこないというわけだ。そこでキミ達にお願いしたい、俺と一緒にこの二人組を倒してほしい!」

 

「唐突だなぁ...!」

 

ラファールは"そんな二人組にあってGGO辞めたくなったりでもしたら嫌"ということで賛成していない様子。ガンマンの彼はそれでも私達にお願いをしている。

 

「私はいいよ。」

 

「サーニャ!?」

 

それほど、その二人組が強いということなんだろう。

私は興味が湧いていた。もっと、強いプレイヤーに会ってみたい。自分が《現実世界》、幼年学校で学んだ力をどこまでこの《仮想世界》、GGOで活かせるのか知りたいから。

 

「おぉ!恩に着るよ!」

 

ラファールは頭を抱え、"うーん"と何回も唸っている。

 

「はぁぁぁ....分かった...サーニャがそうするって言うなら私も一緒に行くよ...でももし何かあったら、責任取れるんでしょうね!?」

 

スコッチさんにラファールが詰め寄る。

 

「そうだなぁ、まぁ《現実世界》で"結婚"くらいなら責任とってあげないこともないかな?」

 

「乙女をからかって!このぉぉぉ!」

 

「だははははっ!」

 

ラファールが店の中でスコッチさんを追いかけ回す。

 

「それじゃあスコッチさん、よろしく。」

 

店の中でラファールから逃げまわっていた、スコッチさんが急に止まりラファールはスコッチさんの背中に鼻を打ち付け、しゃがみ込み悶えている。

 

「あぁ、よろしく!あと"さん"は要らないぞ、スコッチで良い。」

 

ラファールは《仮想世界》で痛みがないことを思い出し、立ち上がると彼の背中を勢い良く叩き。

 

「よ・ろ・し・く・ね・!」

 

と言った。




▼本編に登場した銃器紹介

*1"ニューモデルアーミー"
レミントン社製M1858で最も生産された新型(ニューモデル)"アーミー"の事。
南北戦争で活躍したシングルアクション・パーカッション・リボルバー。
1860年から1875年まで製造され、銃身からフレームまでを一体とした堅牢なソリッドフレーム構成で優れた耐久性と精度を有していた。また、銃身下のローディングレバーを引き倒すだけで簡単にシリンダーを外すことができたため、弾薬を装填済みのスペアシリンダーを携帯しておけば、再装填も容易かつ迅速に行えた。
また、シリンダーのニップルにセイフティスロットが彫られ、シリンダーがフル装填のままでも安全に携行することができた。

*2".45ロング・コルト弾"
.45ロング・コルト弾は1872年に開発されたアメリカ陸軍に採用された拳銃弾。
主にコルト社製"シングルアクションアーミー"で使われることで有名である。
この弾を自動拳銃に適合するように短縮し、リムレス化したのがM1911ガバメントにも使用される.45ACP弾である

*3"ローリングブロックライフル"
レミントン社製"ローリングブロックライフル"は後装式小銃であり、ローリングブロックというブリーチ(銃尾)閉鎖機構を持つためこの名称で呼ばれる。
シングルショットというシンプルな構造だが、(当時の)大口径の弾薬が使用可能。

*4"シングルアクションアーミー"
1873年に開発されたコルト社製シングルアクション式回転式拳銃。当時の保安官が愛用していたことから、"ピースメーカー(Peace Maker)"という愛称で呼ばれることが多い。
装飾や塗装、使用弾の種類がとても多く、銃身長の違いによってそれぞれ、
・シェリブズ(3インチ、保安官用)
・シビリアン(4-3/4インチ、民間用)
・フロンティア or アーティラリー(5-1/2インチ、砲兵用)
・キャバルリー(7-1/2インチ、騎兵用)
・バントラインスペシャル(8インチ以上のバレルを持つSAAの通称)
と呼ばれている。
スコッチが使用しているのは2丁ともブラックパウダー(つや消しブラック)モデルのアーティラリー(5-1/2インチ) .45ロングコルト弾仕様。

*5"ファニング"
発射速度を上げるため、添え手側の手の平でハンマーを起こして連射するシングルアクションならではの撃ち方。あらかじめトリガーを引いた状態で行う。ハンマーを連続してコックするときの扇ぐような仕草からこう呼ばれている。連射性重視なので素人が行えば命中率は望めない。達人なら1秒足らずで6発全弾を撃ち切ることも可能。

*6"PGM.338"
4話で紹介できなかったため、ここで紹介。
フランスのPGMプレシジョン社が開発・製造している"ウルティマラティオ"と"ヘカートII"の中間に位置する、ボルトアクションライフル。12.7×99mm弾に次ぐ強力な.338 ラプアマグナム弾を使用するスナイパーライフルで、"ミニヘカート.338"または"PGM .338 LM"の名前でも知られる。

*7"フォトンソード"
"光剣"、"ビームサーベル"とも呼ばれ、高温のプラズマを抑制フィールド(エネルギーを逃さないための透明のエネルギーフィールド、外からのエネルギーを反射できるためこの技術は"防護フィールド発生装置"にも使われている。)に封じ込めて形成した光線剣。使用しない時はとてもコンパクト。使用時はエネルギー残量とオーバーヒートに注意しなければならない(使用を止めれば再充電され、熱も下がっていく)が、ゲーム内に存在するほぼすべての物質を切断することが可能。
6話ではモンスターが使用使用しているがプレイヤーもショップで普通に購入することができるが値段は比較的高めであり、銃を好むプレイヤーが多いためか使用者はとても少ない。標準型の"カゲミツG4"や、柄の両端から光線を出せる"ムラマサF9"などいくつかの種類がある

*8"カゲミツG4"
上記フォトンソードの種類の一つ。
基本的な性能を持つ標準型のフォトンソードで、プレイヤーが一番最初にショップで目にするであろう物。11色の色が選べ、グリップ部分と光線の色も変わる。
SAO ファントム・バレット編でキリトが使用したもの。

*9"ファイブセブン"
5.7mm×28弾を使用するFN社の自動拳銃。同社のP90をメインとした場合のサイドアームとして開発されたため、弾丸の共用が可能。
使用弾薬のSS190は、ライフル弾を小型にしたようなボトルネック形状をしており、弾頭は従来の拳銃弾のようなドングリ形ではなく鋭利な円錐形をしている。そのため弾丸の初速が速く、クラス3のボディアーマーを撃ち抜く貫通力を持つ。さらに、人体等の軟体に命中すると弾丸が横転する性質を持っていて、するりと貫通せずに体内の傷口を広げるのでストッピングパワーも高い。また、従来の9mmパラベラム弾や.45ACP弾に比べ長く細い弾薬形状のおかげで、グリップの前後幅は増したものの、装弾数は20発となっている。

*10"PGM ヘカートII"
フランスのPGMプレシジョン社が開発、製造しているウルティマラティオの最大口径モデル。NATO標準の重機関銃弾薬である.50BMG(12.7×99mm)を使用するボルトアクション対物ライフルで、約1800m以上での射撃を想定して設計されている。
本銃の設計は 他のPGM系列に属するライフルと同様に金属製スケルトン構造が採用されており、ただスケールアップが施されている。本銃は最高精度を求めるため、前方に二脚、後方に一脚を装備し、これらは両方とも調整が可能である。
銃身は放熱と重量軽減のために深いフルーティング(表面に螺旋状の溝掘り加工を施すこと)が行われた。また、7.62x51mm NATO弾を使用するライフルにおいて想定されるレベルにまで反動を軽減するために、本銃には高効率のマズルブレーキが装着された。ストックもまた調整が可能である。
SAO ファントム・バレット編でシノンが使用したもの。

*11"クランクトン"と"アープ"
1881年10月26日アリゾナ州トゥームストーンのO.K.コラル近くの路上で起こった銃撃戦(OK牧場の決闘という名で日本で知られている)を行った男達の名前。
クランクトンはいわゆる"悪役"で"アープ"が"ヒーロー"ということになる。
詳しい紹介は省略する。詳しくはwikipediaを参照して欲しい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/OK牧場の決闘

*12"スコフィールド・リボルバー"
S&W社が1870年に開発した、トップブレイク式シングルアクションリボルバーである。
ブレイクオープン操作で一度に6発全ての排莢が可能な上、グリップハンドを反すことなく装填が行えた。登場から2年後の1872年には、当時の帝政ロシアからの大量発注を得ている。この時、先方からのオーダーを受け、数度の設計変更を経て作られたのが.44ロシアン弾仕様の「ロシアンモデル」である。ロシアンモデルは、ロシア経由で日本にも渡り、明治期の日本海軍に「一番形拳銃」として採用されている。
元は"Model 3"という名前だが1875年に、ジョージ・W・スコフィールド少佐のアイデアを取り入れて改良した、.45スコフィールド弾仕様を"スコフィールド・リボルバー"という。6話でスコッチが「あんたがアープの銃を持つなんて」といったのは、ワイアット・アープがOK牧場の決闘の際に携行した銃として、その名が知られるからである。

*13"M1897ショットガン"
ジョン・ブローニング設計によるウィンチェスター社製ポンプアクション式散弾銃。同じくブローニングが設計したM1893の問題点を改善させたもので、元がレバーアクション式だった物をポンプアクションに改めたため、後のモデルと異なり、ハンマーが露出しているのが大きな特徴。そのためレシーバーの全長が若干短く、排莢孔のカバーを設けるスペースもないため、中のメカがのぞけるようになっている。
レピーター(3発以上の装弾数を持つ銃の総称)散弾銃の元祖と云われている。

*14"ソードオフ水平二連ショットガン"
ソードオフとは銃身を切り詰め、銃床も短くした(あるいは無くした)ものを指す。
水平二連ショットガンは水平に2つのバレルを備え、銃の連発化の為に考え出された中で最も歴史の古い多銃身設計の散弾銃である。二つの銃身は同じところを狙うのではなく、たとえば右の銃身は近い目標を、左の銃身は遠い目標をという具合に照準をずらしてある。本編で使用されているのはレミントン社製"スパルタン100"のソードオフ型である。


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OPS 07:正義の剣

▼更新遅くなりました。

▼武器解説は出来るものは本文で行い、出来なかったものはあとがきで、と言うことにしました。

▼登場人物が新たに増えましたので第0話:主要登場人物紹介が本話投稿と同時に
更新されております。合わせてどうぞ。



SBCグロッケン南外周ゲートを出て直ぐに、文明崩壊から手付かずの森がある。

ここは森自体が入り組んでいて、ゲーム内が夜になると明かりは一切なく、一面闇に包まれてしまう。しかし、この森のとある場所にあるダンジョンはレア武器が手に入るということもありプレイヤーの通りは少なくない。

しかし、ダンジョン帰りのプレイヤーのアイテム強奪を狙ったPKも多発しており、今まさに行われるところであった。

 

「おい、来たぞ。一番後方のやつバカみたいに背中に実弾ライフルを背負ってる...全員手持ちの武器は光学銃、一気に片付けるぞ。」

 

「今度の奴はちゃんとレア武器を落としてくれよなぁ~。」

 

「つったって、ランダムドロップだろ~。」

 

"今度の"という言葉から、彼らは短時間の間に何度もここでダンジョン帰りのプレイヤーを襲っているようだ。

ダンジョンの入り口は洞窟のようになっており、そこから4人組のプレイヤーが出てきた。

一方、PKスコードロンの男は木の陰に隠れ、仲間のスコードロンメンバー5人に、無線で指示を送る。

 

「さっきと同じ要領だ、一斉掃射でなぎ倒す。」

 

男たち5人は目だし帽を被り、全員アサルトライフル持ち、スイス、シグ社製"SG540(*1)"、台湾、第205造兵廠製"91式歩槍(*2)"、ウクライナ製"Vepr(*3)"、イラン、DIO社製"KH2002(*4)" そして、リーダーの男が持つハンガリー、FEG社製"AMD65(*5)"だ。

 

「目標まで100m、射撃用意...撃てっ!!!!!!」

 

リーダーの男の合図とともに、弾丸の雨がダンジョンから出てきたプレイヤー4人を襲う。

撃たれるまで、彼らはその存在には気づかなかったようで一瞬にして一人、また一人と倒れ、消滅していく。

 

「撃ち方止め!撃ち方止め!!」

 

先ほどまで聞こえていた雷鳴のような掃射の銃声と、空薬莢が地面に落ちる金属音は合図とともにぴたっと止み、不思議な静けさが漂う。

 

「二人はその場で全周囲警戒、残りの二人は俺とドロップ品を見に行くぞ。」

 

各持ち場から2人をその場で周囲警戒させ、残りの2人をリーダーは呼び、自分とともに倒した彼がドロップしたアイテムを見にゆく。

 

「見て下さいよコレ!!」

 

先に辿り着いたKH2002持ちの彼が死亡位置に、ここのダンジョン手に入るレア武器、イスラエル、IWI社製ブルパップアサルトカービンライフル"X95"を見つけた。どうやら入手した彼はその嬉しさのあまりアイテムストレージにいれず、スリングで肩から下げていたようだ。X95は同社の"タボール"シリーズの設計を元にサブマシンガン並にまで全長を短くしたライフルである。使用弾薬は5.56x45mm NATO弾で、そのコンパクトな見た目から、マイクロ・タボールとも呼ばれている。

 

「まだ出現が報告されてないアサルトライフルですよ!ここのダンジョンだったんですねぇ...。」

 

「売ったらどれくらいになるんだ?」

 

「さぁ、まだ市場で見かけたことはないので...。」

 

すると急に夜の空に雲が増え、雨が森に降り始めた。

 

「雨...。」

 

GGO内は時間とともに天候はランダムで決まり、雨はもちろん場所によっては雪なども降ることがある。

と、その時、見張りをしていた2人から無線が飛ぶ。

 

『敵がそっちに近づいています。』

 

「何人だ?」

 

『一人です...っ!?あいつこっちに気付...ッ、ぐあぁぁぁッ...』

 

悲鳴とともに、耳を劈くようなノイズが聞こえ通信が途絶える。

 

「おいどうした...!?くそっ、おい!そっちはどうなってる。」

 

唐突に森に銃声が聞こえる。

そして無線に返答が聞こえて来た。

 

『助けてください!!!ぎゃぁぁああッ...』

 

二人と連絡が途絶える。

 

「くそっ!何がどうなってる!」

 

すると、見張りをさせていた方から一つの影が雨の中、こちらに近づいていたのが見えた。

 

「やつか...おいお前ら!あいつに向かって撃ちまくれ!」

 

その合図とともに部下の二人はSG540とKH2002でその影、プレイヤーと思わしきものに弾を撃ち放った。しかし、その影は止まるどころか更に近づいてくる。

 

「何やってんだ!ちゃんと狙え!!」

 

二人合わせて50発以上は撃ったであろうその時、雨の切れ間にその姿が見えた。

 

「何だと...!?」

 

ゆっくりと歩きながらこちらに迫ってくるプレイヤー、両手には赤く光るフォトンソード、つまりは二刀流でプレイヤー自身はフードをかぶった黒く丈の長いマントを着ている。

 

「撃て撃て撃て!!!」

 

二人は再装填し、更に弾をプレイヤーに撃ち込む。しかしあろうことか向かってくる銃弾をその手に持った二つのフォトンソードで、

 

「嘘だろ...!?」

 

切り落とした。

 

突如、そのマントのプレイヤーは男たちの方に接近してきたかと思うと一人、二人と素早い剣舞で切り刻み、被弾エフェクトがバラバラになった身体の断面から赤くキラキラと輝いていた。

 

「冗談じゃねぇ...!、光剣をここまで扱えきれるやつがまだ存在するなんて...!!」

 

男は一目散に森を抜けるため、その場から後ろを向き、逃げる。

しかし、マントのプレイヤーは走る男の頭上を飛び越え、背中を向けて着地したかと思うと二本のフォトンソードを逆手に持ち替え後ろへ突き刺した。

フォトンソードは男の腹部を突き刺し、がりがりと継続ダメージでHPを削ってゆく。

 

「ぐあッ...お前一体...何者...。」

 

霞む視界の中で男が目にしたのは、フードの中で赤く光る"何か"だった。

そのまま振り向きざまに切り払い、男は死亡エフェクトの赤いポリゴンの欠片とともに消滅した。

フードのプレイヤーは、再びドロップアイテムがある場所に戻ると、落ちていたX95ライフルを手に取り、森のなかに消え、それと同時に降っていた雨は止んだ。

«一ノ瀬さん、具合どう?»

 

«うーん...まだダメかも...»

 

«安静にね。»

 

«ごめんね~、ありがと~»

 

メールを返信できるくらいには落ち着いたのだろう。

今日、学校で一ノ瀬さんが倒れてしまい、保健室に連れて行ったら熱があるとのこと。

午後に入ってすぐ早退という形となった。

 

「さてと、課題終了。」

 

家に帰り、出されていた課題を終わらせ、アルバイトが無いのを良いことにベットに寝転がり、アミュスフィアをつける。最初はそこまで乗り気ではなかったが、今では日課となってしまった。

 

「リンクスタート。」

「あれ?今日はラファールは一緒じゃないのかい?」

 

ログインするとスコッチがアルフレッドさんの店の中で一人、銃の手入れをしていた。

 

「体調不良、今日は来れないかな。それで、スコッチはどうして夕方からログインしているんだい?」

 

社会人であろう彼に問う。

 

「俺は自分で店やってるからなぁ、客があまり来ないから店は早めに閉めちまったさ。」

 

「スコッチって、リアルでは何をしてるの?」

 

VRMMOではリアルのことを聞くのはマナー違反、とラファールから言われていたがつい聞いてしまった。

 

「俺か?俺は"八百屋"を家でやってるけど。」

 

以外にもあっさりと答えてくれた。ただ...

 

「八百屋?なにそれ...。」

 

その言葉を初めて聞いた。

 

「えっ、サーニャ八百屋知らないのか!?現代っ子だなぁ...。」

 

「いや私日本人じゃないから...。」

 

あっ、と私も個人情報を漏らしてしまったと気づくが時すでに遅し。

 

「えっ!?そんな日本語ペラペラなのに日本人じゃないのか!?一体どこのお人で?」

 

スコッチが目を丸くして私に聞く。

 

「お人って...ロシアだよ、"サーニャ"っていうアバター名も向こうでの名前から取ったんだ。」

 

「なるほど...ふふ、俺のはともかく女の子のサーニャの個人情報がいくつかわかっちまったぞ。」

 

「そういう変な事をする人なの、スコッチは?」

 

私はじっと、スコッチを見る。

 

「冗談だ冗談!、でも男でGGOやってるプレイヤーは俺みたいな紳士的なやつだけじゃないんだ、あんまりリアルのこと口すべらせて言うんじゃないぞ?」

 

「うん、紳士的かは置いといて、肝に銘じておくよ。」

 

「....。ところでどうしてそんなに日本語上手なんだ?」

 

「昔ちょっとだけ日本で暮らしてたからね。」

 

「ふぅむ...じゃあロシア人のサーニャはリアルの方もそのアバターみたいに可愛いわけだ。」

 

「どうかな?普通だと思うけど...?で、八百屋って何?」

 

曲がりくねった主旨を戻す。

 

「ん、あぁ、八百屋っていうのは物凄く小さい、個人でやってるスーパーみたいなもんだな。」

 

「なるほど、そこの"おじさん"なわけだね。」

 

「"お兄さん"な。」

 

「"おじさん"でしょ?」

 

「"お兄さん"だ!...ゴホン...まぁ、それは置いといて...。」

 

スコッチは咳払いをして話題を変えてきた。

 

「サーニャはもう二刀流の話聞いたか?」

 

「二刀流?」

 

唐突にそう言われ、首を傾げた。

二刀流という日本語は理解しているが、このゲームで、ということだろうか。

 

「その顔は知らないって顔だな。GGOに"光剣"の二刀流使いが現れたんだよ。」

 

「光剣って、フォトンソードのことだよね、モンスターも使ってる。」

 

「そうだ。でもフォトンソードはGGOでは不人気なんだよ、攻撃するために近づかなきゃならないし、そもそもガンマニアが多いこのゲームじゃ人気が無くてな、そのくせ妙に高い。」

 

「で、その二刀流の人は?」

 

「聞いた話なんだが、なんでも、PK専門ギルドの5人を光剣でバッサバッサと切り倒したらしいぞ。」

 

「その人達の装備は?」

 

「全員アサルトライフルだ。数百発は撃ちこんだらしいがHPは1mmも削れなかったとか。」

 

「前に聞いたことがあるよ、銃弾をフォトンソードで切りながら戦った女の子の話、その人じゃないの?」

 

以前聞いた、フォトンソード使いの女の子の話を思い出す。

 

「うーん...俺もその子の話は聞いたことがあるがコンバートしたって噂だしなぁ...その後にも光剣を使って周りを驚かせた女が居たけどな。」

 

「"ピトフーイ"さん...だっけ?名前はラファールから聞いたこと有るよ。」

 

「その二人が光剣を使って、少しの間光剣を使うプレイヤーが増えた時があったが...、やはりこの世界で使いこなすのはいくらステータス値が高くても難しいらしい...強いて言うなら長い間、剣を自分の手のように使ってたやつか、ステータス的な意味以外で器用なじゃないとあれを扱うのはムリだろうな...。」

 

「ふーん...。」

 

フォトンソードで銃弾を切りながら近づいてきたら銃を持ったこちらは対処できないだろう。ただ、今噂になっているそのプレイヤーのように一発も銃弾を身体に受けずに無傷で戦うには、どれだけの技術がいるのだろうか。

 

「でだ、その襲われたスコードロンの連中がどうもその二刀流使いのプレイヤーを倒すために手練なプレイヤーを募集してるそうだ。俺は参加するけどサーニャはどうする?」

 

人数が集まれば銃を使うプレイヤー側が有利かもしれない、でも銃弾数百発を防ぎきったプレイヤー。そう考えると勝敗は五分五分だろうか。

気になる。

 

「私も参加するよ。その二刀流使い、私も気になるし。」

 

「よーし、じゃあ今日の10時集合だからよろしくな。」

同日午後9時30分

 

「うわ、結構集まってる。」

 

集合場所に指定された、以前スコッチと決闘をしたSBCグロッケンから北西に進んだ先にある廃墟都市の一角に二刀流使いを倒すため、私達を含め約30人のプレイヤーが集まっていた。

 

「有名スコードロンの奴らも何人か来てるな...報酬もそれなりだったが敵一人に対しては多すぎる気がしないでもない...。」

 

「それほど二刀流の人は強いんじゃない?」

 

「まぁ今まで光剣を使って有名になったやつは皆トップランカーレベルだったしな。」

 

「そもそも、その二刀流の人がここに現れるって確証はあるの?」

 

「あぁ、どうも主催の脳筋野郎達がSBCグロッケンすべての区域に場所と時間を記した張り紙とGGOのネット掲示板に書き込みをしたらしい、。」

 

「わざわざ丁寧に向こうから来てくれるかな?」

 

「さぁな、まぁ俺もそんなに期待しては居ないが...。」

 

「期待してないのに私を誘ったの...?」

 

「いやまぁ、普段サーニャは少数の身内だけでやってんだからこの人数でのクエストはいい経験になると思ってな。」

 

「ふーん...。」

 

私達二人も、その集団の中に入ってゆく。

すると、すでに集まっていたプレイヤー達の視線が一気に私に向けられた。

 

『おい、女の子だぞ。』

『容姿は可愛いが戦えんのか?』

『いや、あの子はトイフェルを倒した子じゃないか?』

『隣のあの男は?』

『西のウェスタンタウンじゃ知らない奴は居ない手練のガンマンらしいぞ..』

 

スコッチも一部では有名らしい。

そしてどうやら私があのスコードロンのメンバーと戦ったことはすでに知れ渡っているようだ。

 

「人気者だなサーニャ。」

 

「恥ずかしいから言わないで...。」

 

私はそんなに大勢の注目を浴びるのが得意というわけじゃない。

高校編入初日の自己紹介でさえ内心とても恥ずかしかった。

 

「ほう...悪名高いスコードロンのメンツを倒した期待の新人サーニャちゃんも恥ずかしいという感覚はあるんだな。」

 

「...。」

 

私はスコッチの腕を軽く叩いた。

 

「すまん、すまん。」

 

そんなことをしていると主催の男が集まったプレイヤーの前に現れた。

 

「プレイヤー諸君、今日は集まってくれてありがとう。主催のイーライ(Eli)だ。」

 

他のプレイヤーが拍手と歓声でそれに応える。

 

「スコッチ、あの人も有名なの?」

 

「あぁ、一応プレイヤーの間ではリーダーシップやら統率関係の良さで有名だな。ただPKスコードロンの長でもあるから一部では悪名も高い。」

 

このゲーム自体プレイヤーキル(PK)推奨なため行うこと自体は何の問題もないわけだが。倒されたプレイヤーが"実体化して持っていた"アイテムはランダムでドロップされるため、モンスター狩りメインのプレイヤーがダンジョンの帰り道等にPKスコードロンに襲われ、意気揚々と手に入れたレア武器を掲げていると最悪、レア武器等をドロップしてしまう等もあり、そういったプレイヤーからは憎まれたりするそうだ。

ちなみにアイテムストレージ内に保管している物はランダムドロップの対象にはならないため、死亡する前に装備全てをストレージ内に入れることができればランダムドロップを防ぐことができる。

 

「今日集まってくれたのは他でもない。皆知っているとは思うが、GGOにまた"光剣"使いが現れた、それも今回は二刀流だ。俺達は一昨日、SBCグロッケン南にある森林地帯でその二刀流使いに襲われた。今回、奴を倒した暁にはラストアタックを決めた一人に私が所有するレア武器を一つ譲ろうと思う!もちろん今回集まってくれた全員分のお礼も支払うつもりだ!」

 

再び拍手と歓声が響き渡る。

 

『その二刀流のやつは今日本当に現れるのか!?』

 

一人のプレイヤーが声を張り、主催のイーライに訴える。

それに合わせ集まった周りのプレイヤーも、"そうだ、そうだ!"と声を出した。

 

「来なかった場合は、"光剣使いの恥"、"臆病者"とネットと張り紙でばら撒くさ。」

 

この返しに、他のプレイヤーは微笑していた。

 

「こりゃあ二刀流使いさん、意地でも来なきゃな。」

 

スコッチが腕を組んで言った。

 

「どうして?」

 

「オンラインゲーム、と言うかPKができるこういったゲームじゃあ評判の悪いプレイヤーは集団で攻撃されたり、嫌がらせされたりするからな。そのプレイヤーもそれじゃあGGOに居づらくなるだろうよ。」

 

ゲーム、«仮想世界»でもそういった人間関係、社会的地位は«現実世界»に忠実なようだ。

 

「ではこれからパーティーを組んでレイドを作るが、余った者は俺の護衛についてもらう。では始めてくれ。」

 

と、早々に何やら始まった。

 

「スコッチ、レイドって何?」

 

「レイドってのは複数のパーティの集合体のことなんだが...。」

 

「?」

 

辺りを見渡すと、他の集まったプレイヤーはすでにパーティが出来上がっているようで二人でこの場に来た私達だけがあぶれてしまった。

 

「余ったそこの二人、こっちに来てくれ。」

 

余った私達に気付いたのか、指を指され呼ばれた。

 

「申し訳ないが、君達は指揮する俺とともに最後方に居てもらう事になる。頼めるか?」

 

「あぁ、もちろん。アンタの命は保証するぜ。」

 

「有り難い。では諸君、時間まで各持ち場で待機してくれ。」

 

約30人のプレイヤーは指示された場所に散会し、廃墟都市の大通りとT字路両脇を見張り、迎え撃つ最前線A班と両脇の廃墟のビルのテラスから撃ち下ろすB班、そしてA、B班より後ろの大通りT字路正面にある元は美術館のようなギリシャ様式の建物で、その入口の周柱に陣を構えたイーライと彼のスコードロンメンバーの一人、私、スコッチの本部C班で分けられた。通信アイテムは各班リーダーに手渡され、私達本部C班だけ全員が通信アイテムを持つこととなった。

午後9時58分、時間が迫る。

イーライともう一人は双眼鏡で、二刀流のプレイヤーが来るであろう正面大通りを、私は入り口の大階段の下でT字路両端と大通りを、スコッチは私の後ろの階段に座り大通りを見ていた。

 

「サーニャは来ると思うか?」

 

「どうかな、私は二刀流の人見てみたいけど。」

 

「同感だ。」

 

・   ・   ・

 

午後10時になった。と、同時に本部のイーライへ無線が飛ぶ。

 

『こちらA班、怪しいプレイヤーが接近中。数1、どうぞ。』

 

「そいつの容姿は?、送れ。」

 

『黒っぽいマントでフードをかぶっている...顔と武器は分からない、どうぞ。』

 

「奴かどうかわからない、威嚇射撃だ。そっちのタイミングでやってくれ、送れ。」

 

『了解、威嚇射撃をする。通信終わり。』

 

イーライも双眼鏡で大通りを見る。

すると無線の通り、風でなびいた黒いマントにフードをかぶったプレイヤーらしき人影がこちらにゆっくりと近づいてきていた。

A班の一人が向かってくるプレイヤーの足元に3発ほど威嚇射撃を行う、しかしそのプレイヤーは怯みも、歩みを止めようともしなかった。

 

『こちらA班、威嚇射撃を実施したがなおも接近中。どうぞ。』

 

「了解、A班射撃準備だ。目標、こちらに接近中のプレイヤー一名。射撃用意、撃て!!」

 

1対約30名の戦いの火蓋が切られた。

数十の弾丸がそのプレイヤー目掛けて放たれるが、それと同時に両方の手元から赤く光る棒状のものが見えた。

 

・   ・   ・

 

「サーニャ、今の見たか?」

 

後ろで同じく双眼鏡で見ていたスコッチが言う。

 

「あれが二刀流...?」

 

スコッチの方から再び視線を戻し、双眼鏡で見る。

数十発の弾丸を浴びたはずのそのプレイヤーは止まることも、走ることもせず歩いてくる。両手には赤い光を帯びたフォトンソード。フードの中は...よく見えない。

T字路を見ていた残りのA班のメンバーも揃い、大通りの二刀流プレイヤーに向け集中砲火する。

銃声は大通りの建物に反響して響く。絶え間のない銃声、しかし二刀流のプレイヤーはその銃弾を目に見えない速さで飛んでくる弾一発一発を正確に切り捨てる。

あっと言う間に距離は300mほどにまで迫っていた。

 

「正面からじゃ絶対に破れないな、あの鉄壁は...。」

 

スコッチが言う。

 

『B班、攻撃開始!』

 

イーライの無線指示で隠れていたB班が両脇の廃墟のビルのテラスから一斉に合図で撃ち下ろす。両脇から放たれた弾丸は二刀流のプレイヤーに向かって雨のように降る。

しかし、すでに隠れていたことに気付いていたのか片方のフォトンソードで正面を、もう片方のフォトンソードで防いだ。

そしてついにフォトンソードの刃がA班のプレイヤーにまで届く距離にまで来ていた。

 

「こりゃダメだな...。」

 

あきらめムード全開のスコッチが双眼鏡を下ろし、首を降る。

銃がフォトンソードより有利に戦える距離をA班は完全に失ってしまった。それを証明するかのように一人のプレイヤーが二刀流のプレイヤーの攻撃を受ける。しかし、フォトンソードの刃はプレイヤーへ最も致命傷、更には一撃必殺を与えられる胴や首、頭ではなく銃を持つ両腕と、両足を切断。切断面は被弾エフェクトのような赤いポリゴンがキラキラと光っていた。その後もそのプレイヤーにとどめを刺すわけでもなく、二刀流のプレイヤーは近くにいる数人を目視では、同時にではないかというようなスピードで同じく両腕両足のみを切断した。

 

「どうしてとどめを刺さないんだアイツ。」

 

再び双眼鏡を構え直し様子をうかがうスコッチ。

こちら側は完全に二刀流のプレイヤーを"倒す"つまりは"殺す"事を目的に戦っている訳だが、向こうはなにか別の目的があるのだろうか?

ふと、今の戦闘でひとつ私の頭に疑問符がついた事をスコッチに聞く。

 

「切断された両腕両足ってどうなっちゃうの?」

 

「数十分でトカゲの尻尾みたいに生えてくるぞ。でも例えば足をブーツごと持ってかれたとしてもブーツ自体の装備耐久度が0にならない限りは足と一緒にブーツも生えてくるんだ。」

 

「なにそれ怖い。」

 

一応ゲームシステム的な救済措置だと思うし、切断された腕や足がそのまま戻って来ないとなるとゲームそのものが続けられなくなってしまう。

また、"装備"と言われる武器、各種アタッチメント、防弾ベスト、ポーチやマガジン、などには耐久値が設定されており、一定値を下回ると正常に機能しなくなり、耐久値が0になった時点で消滅してしまい、再度入手するしか手段はない。しかし、器用値(DEX)が一定以上あるプレイヤー自身が修理、または店で修理などもできるためこまめなメンテナンスも大切になってくる。

しかし下着や一部服装(戦闘用のボディースーツなど)といった、破壊されるとハラスメントコードに引っかかる、つまり脱げてはいけないものが脱げたり、壊れたりはしないようにもなっている、とか。

 

「じゃあ数十分間あの人達は戦えないってこと?」

 

「まぁそういうことになるな。」

 

その言葉通り、胴と頭だけの姿になったA班のプレイヤー"全員"はジタバタと道路上で蠢き、その様子はホラー映画なら5つ星を貰えそうなほど不気味に仕上がっていた。

それを両脇のテラスから見ていたB班のメンバーも若干、顔がひきつっているように見えた。

 

『B班怯むな!、まだ勝敗はある!』

 

その無線を聞いて我に返ったB班は再び銃を構え始め、撃てる準備が出来た者から次々と弾を敵へ撃ちこみ始める。

しかしA班ほど人数は多くなく、そこまで脅威ではないと思ったのかそのプレイヤーはB班の攻撃を無視し、ついに本部であるC班の私達のに向かって、走って距離を詰めてきた。

 

「くそっ...!」

 

それを見てイーライはメニューウィンドウを開き、アイテムストレージからとある武器を選択し実体化させた。

 

「"銃弾"が切られるなら、こいつを使うしかないようだな!」

 

その手に握られていたのはドイツ、H&K社製"XM25 IAWS"グレネードランチャーだった。

XM25 IAWSはグレネードランチャーではあるが、箱型弾倉を用いており、セミオートで6発発射することができる。そして、他のグレネードランチャーと異なる点が、専用のエアバースト弾を使用すれば、ランチャーに内蔵されたレーザーレンジファインダーで目標までの距離を測定し、プレイヤーが目標の前方3m~後方3mまでの間で起爆位置を設定すると、薬室に装填された25mm弾の信管に信管測合機が自動的に起爆位置を入力。発射後は25mm弾が自らの回転数で飛行した距離を測定して事前に決められた距離に到達すると自動で起爆するという点。これはつまり地面に着弾する前に空中でグレネード弾を爆発させることができる、ということだ。

イーライはフォトンソードで切られる前に弾を爆発させ、ダメージを与えるつもりだ。

 

「食らえ!!」

 

レーザーレンジファインダーで距離を測り、爆破距離を設定、発射。

放たれた25mmグレネード弾は二刀流のプレイヤー目掛けて一直線に飛ぶ。

私居る所まで100m少し程だろうか、それに気づいた二刀流プレイヤーも弾を切る体勢に入るが、これが手前で爆発するとはつゆ知らず。切りにかかるも爆発。

煙に包まれる。

 

「どうだ!!!」

 

XM25 IAWSを掲げ、大きく声を上げる。

しかしイーライの喜びもつかの間、赤い棒状の光が高速で振られたのが煙の中で見え、それと同時に煙が一瞬にして晴れる。

煙の中から現れたのは、全身パワードスーツに覆われたサイボーグのような姿だった。

頭部には目、では無く赤く発光しているものがいくつか付いており人間らしいのはそのシルエットのみだった。

マントは先程の爆発のダメージで耐久値が完全に0になり、サイボーグ姿のプレイヤーの周りで赤いポリゴンが舞っていた。

 

・   ・   ・

 

「スコッチ...あれは?」

 

「噂で聞いたことが有る...どこかのメカメカしいダンジョンで強化外骨格だかパワードスーツみたいなレア防具が手に入るってな、だがこの目で見るのは初めてだぞ...。」

 

マントで完全に身を隠し、アバターの顔も性別も不明だったが、そのマントの中から出てきたのは更にそれらを不明にさせるものだった。

"サイボーグ"といってもミサイルが出るわけでも、レーザービームが出るわけでもなく両手には先程から使用している二本のフォトンソードがしっかりと握られていた。

B班のプレイヤーも先ほどの剣撃とその威圧的な姿に、手から銃をポロリと落とし、両膝をつく者まで居た。しかし、B班のとあるプレイヤーが双眼鏡でイーライの持っている武器を見て、とっさにB班のリーダーから通信アイテムをさっと取り上げイーライに向け

 

『アンタが持ってるそれ俺から奪ったやつじゃないか!?』

 

と、言い放った。

 

『な、何を言ってるんだお前!?』

 

慌てた顔でイーライが言い返す。

 

『俺はついこの間、ダンジョン帰りに全員が目出し帽を被ってLMGを持った5人のプレイヤーに持っていたXM25 IAWSを奪われたところだ、それにイーライ!、お前やお前のスコードロンの連中が関わってることはそこのサイボーグが教えてくれたぞ!』

 

『何っ!?』

 

『それにアンタ、この作戦が始まる前に"二刀流使いに襲われた"って言ったよな!?サイボーグの話によりゃあ、アンタ達スコードロンがその前にモンスター狩り帰りのプレイヤーを襲ったって聞いたぜ!全員目出し帽を着けてな!。』

 

『ぐっ...』

 

『そのレア武器を本来手に入れてたのは俺のフレンドなんだよ!お前その後サイボーグが横取りしてったと思ってそれの仕返しにこの作戦を立てんだろうが違うぜ。サイボーグのあいつはわざわざ落とした俺のフレンドを探しだして、渡しに来てくれたぜ!』

 

『....ッ!』

 

そのプレイヤーの言葉を聞いて他に居たA班やB班のプレイヤーも、

 

「そういえば俺も目出し帽のやつに武器奪われたぞ...!」

「よく見りゃあの隣のやつが着てる防具、俺がドロップしたのとそっくりじゃねーか!」

 

など、敵意の眼差しはすでにサイボーグのプレイヤーではなく主催者だったイーライ達に向けられていた。

その他のプレイヤーたちが本部のある建物に押し寄せてくるのはそのすぐ後だった。

私とスコッチは押し寄せるプレイヤーにもがきながら、そこから立ち去るサイボーグのプレイヤーの姿を見た。

 

「スコッチ...お先。」

 

「あ、ちょっと待て!おーい!助けてくれ...!」

 

私はスコッチを背に、本部に押し寄せてくるプレイヤーの並を掻い潜り、サイボーグのプレイヤーを追いかけた。

 

「ねぇ...!サイボーグの人...!」

 

サイボーグのプレイヤーはやはり走るわけでもなく、ゆっくりと歩きSBCグロッケンがある南東の方に向かっていた。

私の呼びかけに応えてくれたのか立ち止まって、しかし振り向かず首を曲げ、顔だけをこちらに向けた。

 

「あなた、最初からあれが目的であの場所に来たの...?」

 

私のその問に一言も返答はない。

 

「敵にとどめを刺さなかったのは、他のプレイヤーがイーライって人にただ利用されてるだけだったからでしょ?」

 

やはり私の問に答えてくれることはない、数秒後再び前を向くとメニューウィンドウを開き、アイテムストレージからマントを実体化、それをフードとともに羽織ると。その姿は消え、透明化した。

 

「メタマテリアル光歪曲迷彩...。」

 

サイボーグのプレイヤーが消えたその現象、以前店長...アルフレッドさんから教えてもらった。あのプレイヤーが幽霊というわけではなく"メタマテリアル光歪曲迷彩"という技術を使った、と言うゲーム内設定のマントをとあるボスが低確率で落とすレアアイテム。これを羽織ったプレイヤーは攻撃を受けるまで透明になれるというものだ。そんなアイテムを持っているということは、フォトンソードを使いこなすことは別に、相当な腕を持ったプレイヤーなのだろう。

 

「今度は一戦、戦ってみたいな...。」

 

私は、消えたそのサイボーグの行方は探さず、プレイヤーが消えたその通りをただ見つめていた。




*1"SG540"
スイス、シグ社が1971年に開発した、5.56mm×45NATO弾を使用するアサルトライフル。
「新時代の軽量ライフル」として1967年に当時の5.56mm×45弾を使用する"SG530"を開発したシグ社であったが、ガス作動にローラーロッキングという複雑かつ高い生産コストのかかる内部機構を採用したがために失敗に終わった。
そこでシグはより強健かつシンプルで信頼性の高いものを求め、東側の"AK-47"に着想を得た結果、ガス・ピストン方式を採用した本銃、"SG540"を1971年に世へ送り出した。
SG540には、"SG541"のほか、バリエーションとして7.62mmNATO弾を使用する"SG542"、ショートバレルで折り畳みストックのカービンモデル"SG543"が存在する。
GGO内ではそれなりにレアなアサルトライフルである。

*2"91式歩槍"
2002年に開発された中華民国、第205造兵廠が製造しているアサルトライフル。
同造兵廠が製造しているガスピストン式M16クローンである"T65"シリーズの最新モデル。直接のクローンではないものの、その影響が色濃いところから“台湾版M4カービン”として紹介されることもしばしば。
外観はベースとなったT86に似ているが、レシーバーと一体だったキャリングハンドルが着脱式となり、レシーバートップとフロントサイトブロック下部にピカティニーレールが設けられた。
性能は平均的ではあるがGGO内での存在はレア。

*3"Vepr"
2003年頃に設計された、ウクライナ製ブルパップアサルトライフル。
ウクライナ軍が現在使用している"AK-74"を直接ブルパップ方式とした設計であり、外観はベースとなった"AK-74"の面影を残している。
使用弾薬に変更はなく5.45x39mm弾で、AK-74向け30発マガジンを流用する。
作動方式もAK-74そのままで、ガス圧、ロテイティングボルト方式である。
読み方は"ヴェープル"で、クライナ語で猪を意味する単語である。
AK-74とそれほど性能はほとんど変わらない(取り回しは良くなってはいる)がこちらもレア。

*4"KH2002"
イランのDIO(Defense Industries Organization)が2001年に設計し、開発したブルパップアサルトライフル。ベースとなったのは同社の"S-5.56"で、中国のノリンコ製"CQライフル"という"M16A1"のクローンのこれまたクローンである。それをブルパップ化したのが本銃となる。作動機構はオリジンである"M16"とほぼ同一のものらしく、排莢口からはM16そのままのボルトグループを見ることができる。
巨大なキャリングハンドルを備え、これに覆われる形でコッキングハンドルが配されている点など、外観はどことなくフランスの"FAMAS"似で、グリップガードの形状などはオーストリアの"AUG"風である。バットストックの左側には、セミ/フル/3点バーストの切替えセレクターを配しているが、現代銃らしいアンビデザインは採用されていない。
キャリングハンドル上には、スコープを始めとする各種光学照準器を装着可能で、オプションとして、フォアエンド前方にバイポッドとバヨネットが装着可能である。
こちらも同じくレア。

*5"AMD65"
ハンガリーのFEG(フェギバール・エス・ガスゲスレーケージ)が、製造したアサルトライフル。
AKMの問題点であった放熱性の改善と操作性の向上のため、ハンドガードの一部を廃し、フォアグリップが標準装備されているのが特徴。そのため上部ガスパイプが剥き出しになっている。
ワイヤーストックを装備したAMD65は空挺部隊・特殊部隊向けのモデルである。7.62mm×39弾仕様としては最小クラスの銃で、強い反動を軽減するため、銃口に大型のマズルコンペンセイターを装備している。
GGOに登場するAKシリーズの中で存在するいくつかのレアモデルの一つ。


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OPS Ex:写真とテディベア

▼更新が少し遅くなりました。

▼今回はゲーム内の話が少なめで、現実のサーニャのことについて触れる回です。


日曜日、私はお昼ごろからログインしアルフレッドさんのお店の射撃場でいつもの様に射撃の練習をしていた。もちろん、本気では無かったが。

そして私の隣のレーンには日曜をお店の休みにしているスコッチが、早撃ちの練習をしていた。

 

「銃弾を撃ち落とすくせに、射撃の精度があんまり良くないなサーニャ。」

 

スコッチがシングルアクションアーミーを撃ち終わり、一発一発再装填しながら隣にいる私に言う。

 

「うーん、まぁあれはSEN(五感)に頼ってるのもあるし...。」

 

私は誤魔化す。

 

「ふぅん、まぁ射撃の腕が良くなればもっと弾丸を撃ち落とすこともできるだろうからな、腕を上げておいて損はないと思うぞ。」

 

「うん。」

 

バレットサークルが拡大縮小をゆっくりと繰り返し、一番小さく、そして的の真ん中に来たところでトリガーを引いた。放たれた弾丸は100m先にある的の真ん中に吸い込まれるように命中した。

 

「お、その調子だな。」

 

再装填が終わり、腕を組みながらそれを見ていたスコッチが私に言った。

丁度それと同時にラファールがログインしたことを知らせるポップアップ表示が出て間もなく、私達の後ろのほうでログイン時のエフェクト音とともにラファールが来た。

 

「ふっかーつ!」

 

先日から体調を崩していたラファールが数日ぶりにログインし、元気な姿で現れた。

 

「もう大丈夫なの?」

 

私は射撃練習をやめ、銃をアイテムストレージにしまって彼女に言った。

 

「うん、おかげさまでね!」

 

先ほどと同じように元気よく答えたかと思うと、すかさずスコッチの方を見て表情を変え

 

「スコッチ、私が居ない間二人っきりでサーニャに変なことしなかったでしょうね?!」

 

と言った。

そう言われたスコッチはすかさず

 

「なっ...! するわけ無いだろ!」

 

と、言う。

 

「ほんとかなぁ...、サーニャ何もされてない?」

 

今度は私に聞いてきた。

ふと、この間のサイボーグのプレイヤーを討伐するプレイヤークエストの時、スコッチが私をからかった事を思い出して

 

「うーん...。」

 

と、唸ってしまった。すると

 

「ほらー!なんかしたんでしょ!」

 

「サーニャ?! 俺は何もしてないだろ!」

 

「あはは...。」

 

二人はこの後も夫婦漫才のように、楽しそうに話していた。

その後すぐ私はラファールに、サイボーグのプレイヤーの一件を話した。

 

「二刀流でサイボーグねぇ...また光剣使いがGGOに現れたか~...サーニャとスコッチはそのプレイヤーと戦ったの?」

 

「ううん、戦う前に色々決着がついちゃってサイボーグの人は離脱しちゃったよ。」

 

「ふーん...。なんか私が来ない間楽しそうなことしてたのね~。」

 

「しょうがないよ、ラファール熱あったんだし。」

 

「ぐぬぬ...、あ、そうだ!サーニャ明日午後空いてる?」

 

「明日の午後...?」

 

「うん、明日もテストで午前中に学校終わっちゃうでしょだから...あっ...。」

 

先週からまたいで明日の午前までテストがあり、

すぐ近くにスコッチがいることを忘れて、リアルのことを話してしまいラファールはしまったと、うっかり顔でスコッチの方を見る。スコッチは手で耳を押さえ

 

「ん?俺は何も聞いてないぞ?」

 

と、言った。

 

「うん、私は空いてるよ。どこかダンジョンかクエストでも行くの?」

 

「ふ、ふふーん!二人だけで行くからね!」

 

そう言われて、私はてっきりGGOの話だと勘違いしていた。

そして

「えーっと...。」

 

「こっちこっち~!」

 

GGOでどこか一緒に行くわけではなく現実の、リアルの方で一緒に出かけるということだった。

午後になる前に学校が終わり、そのまま一旦家に帰り私服に着替え、一ノ瀬さんの最寄り駅からすぐにある、大型ショッピングモールに行くことになった。

もちろん一ノ瀬さんも私服に着替えていた。

 

「わー!サーニャ...じゃなかった、牧宮さんの私服いかにもロシアっ娘って感じだね!」

 

「いやロシアっ娘っていうのはよくわからないけど...それと別に名前言い直さなくてもいいよ、むこうではそうやって呼ばれてたし。」

 

ラファー...、一ノ瀬さんの服装は落ち着いていて、どこかのお嬢様かと思うくらい整った出で立ちだった。眼鏡はそのままだったけど。

 

「お互い私服を見るのは初めてだね!いつも制服か、GGOでの物騒な格好しか見たこと無いからね!」

 

「あはは...。」

 

「じゃあいこっか?」

 

「うん。」

 

ショッピングモール内を軽く歩いた後、12時を回っていたのでお昼ご飯を食べた。

その後、一ノ瀬さんが本を見たいというのでショッピングモール内の書店に立ち寄った。

 

「サーニャも好きなの見てていいよ~」

 

「分かった。」

 

私と一ノ瀬さんは書店の中で一旦別行動と言うことになった。

特にこれといって読みたい雑誌があったわけじゃないが、ふらっと私が入ったのは、どちらかと言うと男性向けの軍事、ミリタリーのコーナー。

偶然か、そのコーナーに他のお客さんはおらず、私だけだった。

ふと、目に止まった本が一冊。

ロシアの軍事関係について書かれた雑誌があった。別に幼年学校に入ったからといって自分の国の政治や軍事にそんなに詳しくなるわけではないので、パラパラと載っている写真を見るだけでこの本を見終わると思っていた。でも、とあるページで私の手が止まった。"少女達が銃を持つモスクワ第9女子士官候補生寄宿幼年学校とは"というページだった。

もちろん写真が多く掲載され、懐かしい景色や教官の顔も乗っていたが、その次のページにはその幼年学校の生徒へインタビューというページがあり、私は思い出した。

 

「そういえば、あの時日本のジャーナリストの人が来てたっけ...。」

 

そして、順々にページの内容を目で追って行くと私が写真とともに載っていた。

 

「あっ...。」

 

そう、私はあの時インタビューを受けた。

まだ日本へ来る5ヶ月ほど前だったか、それよりも前だったか。

あの日の午前中は射撃訓練があり、射撃場で同級の生徒達と一緒に訓練に励んでいた。

 

「サーニャは射撃が上手だよね~。」

 

「そうかな?」

 

「そうだよ~!私達同級の中で1位だと思うよ?」

 

「それは言い過ぎ。」

 

彼女はアンナ、よく一緒に食事をしたりする一番仲の良い同級の友達だ。

射撃訓練が終わり、射撃場から次の教室へ移動するための準備をしている時。

 

「サーニャ、見てあれ。」

 

「うん?」

 

唐突にアンナが指を刺して私に言った。

指された方を見ると、1台の車が敷地内に入ってきていた。偉い人かな?と思ったが、車から降りた人物の格好で、その考えを打ち消した。

明らかに私服のようだった。

 

「誰だろう?」

 

「ジャーナリストかカメラマンじゃないかな。」

 

その人物は男性だったが、この幼年学校に居る男性といえば教官しかおらず。

その人数は片手で数えられるほどで、週によっては男性と触れ合わない日もあったため

私達の他に見ていた同級の子達も、ざわざわとなっていた。

 

「さぁ行こう、次の時間に遅れるよ。」

 

「あ、うん!」

 

その時、私は特にその来客を気にしてはいなかった。

午前の科目が終わり、昼食の時間私は一人で食堂へ向かっていた。教官の所へ行くと言って、先に食堂へ行っててとアンナに言われていたからだ。

食堂は1階にあり、私が居るのは2階のため階段を降りなければならないのだが、ここでその来客とすれ違った。

 

Здравствуйте.(こんにちは。)

 

その彼はロシア語で挨拶をしてきた。

 

Здравствуйте.(こんにちは。)

 

私ももちろん返す。

その顔を見た感じではアジア系、強いて言うなら日本人の顔のような気がした。

目をそのまま下に向けると首から下げたネームプレートがあり、"Japan"と書かれていた。

肩からは大きなカメラが下げられていて、やはりジャーナリストかカメラマンだった。

「やっぱりあの人ジャーナリストかカメラマンだったよ。」

 

「サーニャあの人に聞いたの?」

 

「サーニャ~、抜け駆けはダメだぞ~!」

 

「イリナ、口に入れたまましゃべるのはお行儀が悪いよ!」

 

私とアンナ、そして食べながら喋るイリナ、それを注意するナターシャ。私と仲の良い3人だ。

 

「いや...そういう訳じゃなくて...。」

 

「カッコ良かったか!?」

 

イリナが私に顔を近づけながら言う。

 

「普通、かな?挨拶はしたよ、日本人(イポンスキー)だった。」

 

「なーんだ、じゃあ私は興味ないな~。」

 

がっかりという顔でイリナは再び食事に手を付け始めた。

 

「失礼でしょ、イリナ。」

 

「へいへい。」

 

それを注意するナターシャと軽い返事でそれに返答するイリナ、これはいつもの光景だ。

 

「お前ら、昼食中だが聞いてくれ。」

 

男性教官が食堂に入ってくる。

 

「何だろう?」

 

「誰か銃の弾抜き忘れたんじゃないのかー?」

 

「それは昨日のイリナでしょ。」

 

「あ、えへへ...。」

 

教官が話を続ける。

 

「今日は日本からジャーナリストがここに来ている。全員失礼の無いように。」

 

その言葉を聞いて、私を含めたその場に居た全員が返事をする。

すると男性教官は私の方を向いて。

 

「それからサーニャ。」

 

「はい?」

 

「お前にはジャーナリストのインタビューを受けてもらう事になった。」

 

「私ですか...?」

 

急なその言葉に私は驚いていた。

 

「この学校で日本語を話せるのはサーニャ、お前だけだ。これも何かの縁だろう。」

 

「は、はぁ...。」

 

「というわけだ、サーニャ昼食が食べ終わったら応接室に来てくれ。以上だ。」

 

そう言うと男性教官はそそくさと食堂から出て行った。

 

「凄いじゃんサーニャ!インタビュー受けるなんて!」

 

「これでサーニャも有名人だな!」

 

アンナとイリナが私を見て言った。

 

「えぇ...私そういうの初めてなんだけど...。」

 

「あれあれ~、成績優秀なサーニャちゃんは恥ずかしがり屋さんなのかな~?」

 

イリナがフォークを私の方に向け、くるくると回しながら私をからかう。

 

「別にそういう訳じゃ...。」

 

「私は羨ましいよ~、次の科目が潰れるんだから~、あ~羨ましい~。」

 

「イリナちゃん絶対そうは思ってないでしょ...。」

 

「えー、潰れるのが羨ましいっていうのはホントの事よ!」

 

「はぁ...ごちそうさま。」

 

私は重い足取りで席を立つ。

 

「よし、じゃあ頑張ってなサーニャ!」

 

「頑張ってね~!」

 

「頑張れ~!」

 

三人が私にエールを送る。

食器類を片付け、広い敷地内の奥にある応接室へと向かった。

食堂も敷地の一番端にあるため、応接室に行くのに少し歩くことになる。

私は応接室に来るのは初めてであった。

 

「ふぅ...。」

 

息を整え、扉をノックする。

 

「失礼します。」

 

「いいぞ。」

 

返答を聞き、扉を開ける。

その部屋には先程の男性教官と階段ですれ違った例のジャーナリストが居た。

 

「では私はこれで。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

私が来たことを確認して、男性教官は席を外し外へ出て行った。

 

「やぁ、さっき階段ですれ違った時に挨拶してくれた子だね。」

 

片言のロシア語で話しかけてきた。日本人の口からロシア語が出てくるのは何とも不思議なものだった。

 

「日本語で大丈夫ですよ。」

 

私がそう言うと、彼はびっくりした表情をした。

 

「へぇ、キミは日本語を話せるのかい?」

 

「はい、少しの間日本に住んでいたので。」

 

「そうなんだ~、僕は"沢田 佳一"っていうんだ。じゃあ日本語でインタビューに答えてもらおうかな。まずは...あーそうだ、名前教えてくれるかな?さっきの人に聞きそびれちゃって。」

 

彼はメモを取り出した。

 

「私はアレクサンドラ・チャイカって言います。皆からはサーニャって呼ばれてます。」

 

「サーニャさんだね。」

 

彼はペンで私の名前をメモしているようだ。

 

「じゃあ、サーニャさんはどうしてこの学校に入ろうと思ったの?」

 

私がここに入ろうと思った理由。

別に国のためとか、そう言った理由ではない。

私以外の生徒は他の学校からの成績優秀者編入を除いてに孤児の子が多く、両親がいない子が8割から9割を占めている。

自分の居場所を探してきた子、一人で生きていくために来た子など様々。

しかし私はどうしてここに入ろうと思ったのか。

祖父母に迷惑をかけたくなかったから、それもある。しかし第一は、私が祖父母を守らなきゃと、当時の私は幼いながらにそう考えていたのだと思う。

実際今の私は一人日本に来てその目標はどこへやら、だが。

 

「家族を守る為です。」

 

そのときの私はそう答えていた。

 

「なるほど、家族の為にねえ...。」

 

彼は再びペンを動かす。

 

「ここは楽しい?」

 

「はい、授業や訓練は大変ですけど楽しいですし、友達にも恵まれてるので。」

 

「なるほどねー。じゃあ、卒業したらどうするんだい?」

 

卒業したら。

私はこの時悩んでいた。

他の皆はそのまま陸軍大学へ進むのが大半で、卒業生には政治家になった人もいる。

私は最初から陸軍大学に行くつもりはなかった。先程も言った通り、祖父母を守るという使命があったからだ。だから、卒業後は祖父母の家へ帰り、一緒に暮らすというのがここに入った当初の目標だったが、この頃の私は幼少のほんの少しの期間だけ暮らした日本に行ってみたい、出来るなら一人で暮らしてみたいとも思っていた。

 

「私の家族、祖父母の家で一緒に暮らすか、幼い時に暮らしてた日本で一人暮らしするか迷っています。」

 

「なるほど。」

 

またメモに書く。

しかし途中でペンを持つ彼の手が止まった。

 

「ちょっと僕の話をしようか。」

 

そう言って彼は自分の仕事を始めるまでの経緯を話し始めた。

 

「僕は軍事ジャーナリストもやってて、戦場カメラマンでもあるんだ。僕にはね、父親が居なくて、母親が女手ひとつで育ててくれたんだ。うちは小さな店をやっててね。僕が高校を卒業する前の日の夜の夕飯の場で仕事を継ぐって言ったんだ。その時にはもう戦場カメラマンになるって夢があったんだけど、もし僕が行った先で死んだら母親がすごく苦労するだろうと思って諦めてたんだ。でもその時母親がお前にもやりたいこととか夢があるんだろう、お前はお前の道、人生を進みなさい。って言ってくれてね。

結局そこから独学で勉強して今こんなかんじになったわけ。」

 

彼は手に持っていたメモ帳を折りたたんでペンとともに胸のポケットに仕舞って最後にこう言った。

 

「キミの家族、お爺ちゃん、お婆ちゃんも多分同じこと考えてるんじゃないかな?サーニャさんの人生は誰かのものじゃない、キミだけの物なんだからね。」

 

この時私は頭のなかでなにか、もやもやが少しばかり晴れた気持ちになっていたのを覚えている。

 

「なーんて、偉そうなこと言える立場じゃないんだけどね。うん、取材はこれでいいよ。色々お話聞けてよかったよ。」

 

「あ、いえ、こちらこそ。貴重なお話聞けて良かったです。」

 

私がそう言うと彼はすぐ隣の机に置いてあったカメラを取ると

 

「写真一枚いいかな?取材用で使いたいんだ。」

 

「はい、いいですよ。」

 

笑って笑ってと彼言っていたが、内心恥ずかしく不自然な作り笑いになっていただろう。

そしてその時の写真が今この雑誌に載っていた。

 

「やっぱり変だ...。」

 

撮り直してくれても良かったのに、と思った。

しかし、彼の言葉のおかげで今の私があるのかと思うと感謝してもしきれない。

ただ、残念なことに彼はあの取材の数週間後。とある紛争地帯を取材中に何者かに頭を狙撃されて亡くなったそうだ。その訃報はロシアでも放送されており食堂で昼食を食べていた私の目にも映った。そして、彼が最後に記したのが今私が手に取っているこれだった。そのコーナーの最後に"この本を故 沢田 佳一に捧ぐ。"と書かれていた。

 

「あの時のお礼を言いたかったな...。」

 

せめても、と思いレジへ向かおうとした瞬間。

 

「サーニャ、何持ってるの?」

 

一ノ瀬さんが一足先に本の会計を済ませ私に声をかけに来た。

 

「えっとこれは...。」

 

私が隠そうと思った途端、さっと本を取り上げまじまじと表紙を見る。

 

「ロシアの軍事...ふむふむ~サーニャも少しはこういうのに興味が湧いたのかな?」

 

表紙を見たかと思うとページをペラペラとめくり始める。

 

「ふむふむ...お、サーニャ。女子士官候補生寄宿幼年学校って知ってる?女の子しか居ない軍事学校なんだよ~。」

 

「えーっと...。」

 

「ほらほら見て!、皆かわいいよね~こんな子たちが銃を持っちゃうんだから凄いよ~。」

 

一ノ瀬さんが私にページを開いて見せる。

そして次のページをめくる。

 

「この子もかわいいな~...って...あれ...?」

 

一ノ瀬さんの表情が固まる。

そして、そのページと私の顔を交互に見て

 

「サーニャにそっくり...。」

 

と言った。

 

「一ノ瀬さん...それ私...。」

 

「へ...えぇぇぇぇぇ!!??」

 

静かな書店に一ノ瀬さんの絶叫が響き渡った。

「なるほどねぇ~。」

 

本を買い終えた私達はカフェでお茶をしていた。

そこで私は、今まで隠していたすべてを一ノ瀬さんに話した。

 

「でもなんで教えてくれなかったの?」

 

「言ったら変な目で見られて友達じゃなくなると思って...。」

 

私がそう言うと、一ノ瀬さんは

 

「あははは!」

 

笑っていた。

 

「だって...日本じゃそう言うの無いし...あんまりいい目で見られないと思って...。」

 

「私は逆にかっこいいと思うし、凄いと思うよ!そういうの!」

 

一ノ瀬さんは目を輝かせていた。

 

「うん...まぁ一ノ瀬さんはそういうの分かってそうだとは思ってたけど...。」

 

「なんか褒められてないような気がするけど...。」

 

話をしていると、ウェイトレスの人が二つのパフェを運んできた。

 

 

「さぁ~!食べよっ!」

 

「うん。」

 

グラスから大きくはみ出たチョコレートソースのかかったソフトクリームを私はスプーンですくい、口の中に頬張る。

 

「おいしい...。」

 

パフェなんて名前しか聞いたこと無くて、食べるのは今日が初めてだった。

その後も手が止まらなく、ぱくぱくと食べていた所に一ノ瀬さんが

 

「はい、サーニャ!あーん。」

 

と、スプーンに大きな苺がのっていた。

 

「えっ...それは恥ずかしい...。」

 

「別に男の子とじゃ無いんだからいいでしょ~?ほら~。」

 

一ノ瀬さんがスプーンをこちらにぐいぐいと向けたので仕方なくぱくりと頬張る。

 

「ん...おいしい...。」

 

「はい、よく出来ました~。」

 

私達はパフェを食べ終え、温かい紅茶を飲みながら話をする。

 

「じゃあコンバートされたあのアカウントはなにか関係あるの?」

 

「多分あの学校に居た時に訓練で使ってたVRゲームみたいなやつのアカウントをコンバートしちゃったんだと思う。あれは確か自身の身体能力をそのまま仮想世界に持っていくってやつだったし...。」

 

「どんなことやったの?」

 

「GGOみたいな銃の撃ち合いだね、人を撃つことに抵抗をなくすためチームで分かれて撃ち合うっていうゲームだった。痛みはGGOほど無かったけど。」

 

「GGOでサーニャが強いわけがわかったよ、納得。この事、クラスの皆には言う?」

 

一ノ瀬さんが聞く。

 

「うーん...一ノ瀬さんと同じ反応を皆がしてくれるとは限らないし...」

 

「それなら私に任せなさいな!これでもクラス委員なんだから!」

 

お茶を飲む私に向かって自信ありげにピースをする。

 

「じゃあお願いしよっかな。」

 

「任せて!、あ~そうだ。サーニャにいい忘れてたんだけど。」

 

「うん?」

 

「GGOで私、スコードロン作ろうと持ってるんだけどサーニャ入ってくれないかなーと思って、どうかな?」

 

スコードロンはSAOやALOで言うギルドのようなもので、スコードロンメンバー用の専用ルームが与えられたり、アイテムをしまっておけるロッカーを無料で使用できスコードロン用の共有アイテムストレージが使用できるなど、メリットは様々である。

 

「うん、入りたい。」

 

「そっかぁ!ありがとうサーニャ!」

 

テーブルを乗り出し私の手をにぎる。

 

「でも2人だけ?スコッチとかアルフレッドさんは誘う?」

 

「アルフレッドさんは商売仲間と商用スコードロンを組んでるらしくって誘えないかな~、スコッチは...うーん。」

 

一ノ瀬さんが頭をかく。

 

「まぁ...ちょっと"変な"所はあるけど、腕は確かだし...。」

 

「まぁとりあえず数合わせとして、メンバーに誘って様子見かな!」

 

「あはは...。」

 

 

 

 

 

私とサーニャはカフェでの会計を済ませ、店を出る。

時間は午後5時過ぎを指していた。

 

「うーん、サーニャは他に見たい所ある?」

 

時間も時間でそろそろお開きかなと思っていた。

 

「うーん...、あ。」

 

サーニャは辺りを見回して、ひとつのお店を見つけた。

そのお店の看板には"Bear・Bear"と書かれていた。

 

「あそこ見たい。」

 

「うん、いいよ~。」

 

サーニャは少し早歩きで店に向かって歩いていた。

ショッピングモール内にある他のお店とは違い、木製の白い扉があり、サーニャがそれを開けるとそこはクマのぬいぐるみばかりが置いてある、テディベア専門店だった。

 

「うわぁ、すごい数。」

 

所狭しと店の中に飾られたテディベアは大小、種類様々で、店内の壁には"世界中から集めたテディベアを販売しています。"と、書かれていた。

 

「あれ?サーニャ?」

 

さっきまで私の前に居たはずのサーニャが突然姿を消した。

ふと、店の奥に目をやると一つのテディベアを手に取り、じっとそれを眺めているサーニャが居た。

 

「サーニャ、テディベア好きなの?」

 

じっと無言で眺めているサーニャに声をかける。

 

「うん、大好き。」

 

意外や意外、普段やGGO内でもあんまり表情を変えて見せないサーニャにこんな一面があるなんて。

 

「もしかして家にもテディベアがあったり?」

 

「お爺ちゃんとお婆ちゃんの家に30体あるんだけど、こっちに来るときにバックに入る5体だけ持ってきた。」

 

「30体!?全部サーニャの?」

 

「うん。」

 

サーニャにこんな可愛い一面があるなんて。いや、普段から可愛いけど。

 

「これ、丁度日本に来る日に発売したやつだ...こっちじゃ買えないと思って諦めてたのに...。」

 

「買う?」

 

「うん。」

 

そう言って、そそくさとレジに向かうサーニャ。

ふと、置いてあるサーニャがレジヘ持っていったテディベアのリボンから延びた値札を見ると"\5,980"と書かれていた。

 

「サーニャ!これ高いよ!?」

 

レジに向かったサーニャの方を振り返るとすでに会計を済ませていた。

 

 

 

 

 

「今日は楽しかったよサーニャ!」

 

「うん、今日はゲームやる?」

 

「もちろん!スコッチにスコードロンの話しなきゃだしね!」

 

「そっか、じゃあまた後でね」

 

「うん!きをつけてね~!」

 

駅まで見送りに来た一ノ瀬さんに手を振って、改札に入った。

私の手には本とお気に入りのテディベアが入った袋が握られていた。

丁度ホームへ降りると電車が来ていてそれに飛び乗る。

電車に乗り、私の家の方へはこの時間に行く人は少ないのか席には空席が目立っていた。私は開いている席に座り、今日のことを振り返った。

夕飯のための買い物を済ませ、家につき、シャワーを浴びて髪を乾かし、夕飯の準備。の前に、買ってきた本のページをめくって私の写真が載っているページを開き、テーブルの隅に置いてある小物入れからカッターを取り出して、その写真のあるページの下に厚い当紙を敷いてその写真を切り抜く。

もう一方の袋からテディベアを取り出して切り抜いた写真と一緒に手に取り、立ち上がり壁にかけてあるコルクボードにピンでとめた。コルクボードには幼年学校卒業の時に私、アンナ、イリナ、ナターシャで撮った一枚と日本へ出発する前に私と祖父母の三人で撮った写真。そして今貼った、ジャーナリストの人に撮ってもらった私の写真。テディベアはその横に置いた。

「おまたせ。」

 

ログインするとテーブルに座ったスコッチとその前で立っているラファールが居た。

 

「おっ、サーニャ待ってたよ~。スコッチにはもうスコードロンのこと話したよ。」

 

「もちろん俺も参加するぜ、双子の悪魔を俺一人じゃ探せないしな。」

 

「私もその双子の悪魔とかっていう女の子のプレイヤー気になるし、まぁ全く情報はないんだけどね。あ、サーニャも座って座って。」

 

ラファールに案内されたスコッチの隣の開いていた席に座る。

 

「まぁそれはそれとして、さっきGGOからメールが届いてたんだけど、サーニャは見た?」

 

「ううん。」

 

「日付が変わる明日の0時に、アップデートが入るんだって!それも結構大型の!」

 

「今まで乗り物は私物化出来なかったんだが、今回のアップデートでそれができるようになるらしい。まぁ入手方法は簡単じゃないようだがな。」

 

「それと新しい土地も増えるんだって、私明日学校休んで一巡りしてこようかな~」

 

「俺も明日店閉めて朝からプレイするか...。」

 

「えっ...!スコッチはともかくラファール明日学校だよ...!?」

 

「仮病仮病~!大丈夫、成績はクラスでもトップだし~。」

 

「駄目!」

 

さすがに冗談だとこの時ばかりは思っていたのだが、以外に本気でこのあと何度も説得することになるとはこの時の私は知る由もない。



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OPS 08:アップデート

▼更新がとても遅れました。

▼今回は試験的に第三者ナレーションで書いています。

▼大型Update "Vehicle Kill"実装。

【Vehicle Kill】
今までSBCグロッケン外の戦闘区域で拾った車両しか運転できなかったのが今アップデートによりショップから車そのものの購入や、設計図と素材を集めることによって
車両を作成出来るようになりました。
設計図や素材はモンスタードロップやショップにて販売。
装甲が一切無い一般車両や重装甲の軍用車。車に加え、オフロードバイク、4輪バギーなど種類様々。
別途で車両に取り付けられる各種装備を作成可能。
また、これによりSBCグロッケン内の区画が整備され車両用道路が通行可能になりました。

※今回のアップデートで戦車、IFV、APCは追加されていません。


火曜日、アルバイトが終わって帰宅したサーニャの携帯のメール受信の音楽が鳴る。

 

『サーニャ!見せたい物があるから時間があったらGGOにログインして!アルフレッドさんの店で待ってるね!』

 

彼女は結局サーニャの説得で学校に来ていた。

しかし昨日は遅くまでやっていたようで、サーニャが寝てからもアップデート語コツコツと何やらしていたらしい。

 

『今帰って来たよ、シャワーとご飯済ませたらログインするね。』

 

そうサーニャは返信し、服を脱ぎ洗濯機にそれを放り込みシャワーを浴びた。

シャワーから上がってすぐ夕食の準備。サーニャの祖父母の家から送られてきた鍋を使い料理を作る。

最初段ボールで送られてきた時サーニャはなにかと思ったが、箱を開けてみると大げさすぎるクッションに埋まった一人用の小さな鍋だった。鍋の蓋を開けると手紙が入っており、サーニャの祖母からだった。

 

『サーニャへ、元気ですか?ちゃんと美味しいものは食べていますか?鍋を入れておいたのでボルシチなど作ってみてはどうでしょう?もう一枚にレシピを書きました、参考にしてください。お節介なお祖母ちゃんより。』

 

と、書かれていた。

日本に来てからサーニャは料理本を買ったり、インターネットでレシピを漁って色々作ってはいたのだが、一人暮らしをしている大切な孫を心配してくれたのだろう。

書かれている通りサーニャは二枚目を確認するとボルシチのレシピが手書きで書かれていた。

さすがに肉や野菜は悪くなると思ってか送られては来なかった。

帰宅途中に食材を買い、今日はレシピ通りボルシチを作ることにした。

サーニャは作りながら、立ち込める匂いで祖母が作っていたボルシチを思い出す。

 

Вкусно пахнет...!(良い匂い...!)

 

ついサーニャの口から母国語が出てしまう。

出来たボルシチの鍋をテーブルに運び

 

「いただきます。」

 

今夜の夕食は故郷を思い出す時間だった。

 

「さて、一ノ瀬さん待ってるかな。」

 

夕食を堪能し、一息ついたところで約束を思い出す。

サーニャはベットに横たわり、ふと横を向くと祖父母の家から持ってきたテディベアがこちらを向いていた。

 

「行ってくるね。」

 

サーニャはテディベアの頭を撫でる。

アミュスフィアを被り、一呼吸し瞳を閉じ«仮想世界»への扉を開く。

 

「リンクスタート...。」

午後10:30

 

「やっほー!サーニャ!」

 

「こんばんはサーニャちゃん。」

 

「遅かったじゃないかサーニャ。」

 

ログインしたサーニャをラファールとスコッチ、それから店主のアルフレッドが出迎えた。

 

「こんばんは皆。それで、見せたい物って?」

 

サーニャはさっそく、ラファールにメールの内容について聞く。

 

「うん! それじゃあアジトへ移動~!。」

 

"アジト"と、ラファールがそう呼んで居るのはスコードロン専用ルームのことである。

昨日サーニャ、ラファール、スコッチの三人でスコードロンを結成した。

SBCグロッケンの中央広場の一角にある建物、もともと建物自体は有ったがシステム的に中には入れない事になっていた。しかし今回のアップデートでプレイヤーが建物を購入し、使用できるようになったようだ。

集合場所のアルフレッドの店から歩き、建物に到着。ラファールが扉を開けると

 

「あれ?来る場所間違えた?」

 

一番最後に入ったサーニャが辺りを見回して言った。

昨日、スコードロン結成後すぐに下見に来た時は閑散とした室内だったが、今はオシャレなバーのような内装になっており、バーのように見せているカウンターの奥にはキッチン、グラス棚、ボトルまで完備されていて明らかにそれは正真正銘バーだった。

 

「今日一日使って全部整えちゃった~、まぁこのへんのアイデアは仕事をほったらかしにしてログインしてたスコッチだけど。」

 

「どうだ、良いセンスだろう?」

 

スコッチが、辺りを見回しているサーニャに聞く。

 

「うん、内装はおしゃれだね。ただ、ここを一番使うのはスコッチだろうけど。」

 

「あちゃー、バレたか。まぁ、マスターは俺がやるから酒が飲みたくなったら来てくださいなアルフレッドさん!。」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて今度是非!」

 

がはは!と、笑いながら大人二人はそんな話をしていたが

 

「スコッチ、私達まだ未成年。」

 

「おっと、そうだった! 失礼失礼。」

 

ラファールにそう言われスコッチは顎髭を弄りながらサーニャとラファールに謝る。

 

「って、本題はここじゃないの! サーニャ、そこの扉開けてみて!」

 

ラファールが指を刺した先に、木製の扉があった。

サーニャは言われた通りその扉を開ける。

 

「うわ。」

 

「びっくりした?」

 

「どうしたのこれ...?」

 

「どうしたのって、今日一日使って出来たんだよ~!」

 

サーニャが開けた扉の先にはバーのようなメインの部屋の二倍はあるであろうガレージがあり、そこには車が止まっていた。

 

「だって...今日アップデートされたばっかりだよね...?」

 

「ふふーん、寝ずに素材と設計図を集めるのに苦労しただけはあるよ~!」

 

彼女こそオンラインゲーム廃人と呼ぶにふさわしいだろう。

 

「SUV、戦闘用ってわけじゃないけど5人乗りので快適だよ」

 

アルフレッドがサーニャのために説明する。

悪路でも走破出来る高い車高に、錆臭いこの世界らしい小綺麗にまとまったSUVだ。

 

「ちゃんと防弾仕様、四駆改造までしてるんだから!まぁ、本当は軍用の装甲車とかが良かったんだけどね...。」

 

「誰が運転するの?」

 

「もちろん私よ私!」

 

自信満々でラファールが答える。

 

「ふぅん...。ん?」

 

サーニャが車両の反対側に回ると、もう一台分のスペースがガレージにあり、そこには一台のオフロードバイクが置いてあった。

日本のカワサキ製KLX250を米国、ヘイズディーゼルテクノロジー社が米軍特殊部隊向けにカスタマイズしたオフロードバイク、"M1030 A4"である。

エンジンはカワサキ製250cc水冷4ストローク単気筒エンジンからディーゼル250cc水冷4ストローク単気筒ディーゼルエンジンに載せ替えている。これは引火しやすいガソリン燃料を前線で扱わずに済み、また輸送ラインを1種類にできるという利点から陸、空軍の燃料をNATO規格の"JP-8"に統一したからである。車体色はカワサキ特有のライムグリーン、では無くボディーからフレーム、エンジンまでのほとんどすべてを黒で塗装され、市販車には無い威圧的な印象がある。

 

「これは誰が乗るの?」

 

「サーニャ。」

 

「えっ、私...!?」

 

サーニャが驚くと、ラファールが言った。

 

「この中でバイクに乗ったことあるのスコッチとサーニャしか居ないんだ~」

 

サーニャは幼年学校に居た際、訓練の一環でオフロードバイクに乗ったことがある。

そのことを先日のショッピングモールへ出かけた際に話したことが今回抜擢されたのだろう。

そして、このことを普通にスコッチたちに聞こえる声で言ってるということはサーニャの事を言ってあるということだ。

 

「サーニャのことは聞いたぜ、言ってくれたってよかったんだぞ水臭い。」

 

「スコッチは信用ならないからでしょ。」

 

ラファールがそう言うと、スコッチはなんだと...っと少しショックを受けていた。

 

「スコッチはバイク駄目なの?」

 

サーニャは自分以外にバイクに乗れるスコッチに聞く。

 

「俺はバイクより馬が良いんだよ!」

 

「って、言ってバイクには乗らないんだってさ~。」

 

彼いわく、"普段乗れない馬に乗りたいのと西部ガンマンがオフロードバイクでは性に合わないから"だそうだ。

 

「さーて、じゃあトライブと行きますか!」

 

サーニャ、ラファール、スコッチの三人はメインの部屋のもう一つの扉を開けると、再びワープゲートがそこにあり、そこを潜るとSBCグロッケンの中央広場に帰って来た。アルフレッドは店番があるからと、一人店に戻っていった。

 

「さてさて、こっちこっち!」

 

ラファールはサーニャの手を引っ張り、とある場所まで連れてゆく。その後ろをスコッチがついてくる。

 

「じゃあサーニャ、ここのコンソールに触れてみて。」

 

手を引っ張られ、連れられて来たのはゲートのあった場所から10mほど離れたバス停のようになっているロータリーだった。ここは以前殺風景な空き地だったが今回のアップデートで追加されたものだ。

サーニャは言われた通りコンソールに手を添えると、"転送させる車両を選択してください。"と、彼女の目の前にウィンドウが表示された。

ウィンドウには"自宅:まだ所有していません。""スコードロンガレージ内:使用可能2台"と書かれており、ラファールの言葉でスコードロンガレージの方のUIに触れると更にウィンドウが立ち上がり、"転送する車両を選択してください。"とポップアップ表示された後、"SUV"、"M1030 A4"と名前、画像が表示され今回は3人のためSUVのUIをタッチする。すると、コンソールの目の前にある転送装置らしきものが青白く光りだしたかと思うとバラバラのポリゴンが出現し、それが瞬く間に先ほどガレージで見たSUVの姿を成形し、彼女の目の前に転送された。

 

「どう?凄いでしょ!これで乗れるよ!」

 

「うん...!」

 

「今回ばかりは、馬はお預けだな。」

 

3人は7.62mmを防ぐ装甲化された少々重いドアを開け、乗り込んだ。

ラファールが運転席、スコッチは助手席、サーニャはスコッチの後ろの席に座る。

 

「出発するよ~?二人共、シートベルトはしたかな?」

 

「大丈夫。」

 

「OK、いいぞ!」

 

「ではしゅっぱ~つ!」

 

そう言うと、ラファールは一気にアクセルを踏み込む。

タイヤがキュルキュル!とスキール音を鳴らし、急発進した。

 

「ちょっ...ラファール...?!」

 

「なに~?」

 

「もっとゆっくり...。」

 

ロータリーから車道に合流、ラファールはスピードは一切落とさず車と車を縫うように進む。向かうは、荒野のフィールド。

 

「やっぱり俺が運転しておくべきだった...! うっ、おえ...」

 

「私でも良かった...うぅ...。」

 

「ひゃっほーい!たーのしーいっ!!」

 

2人の発言をよそに、楽しげに運転するラファール。

なんとか無事、フィールドに出ることは出来たものの精神的なHPはごっそり持って行かれた2人だった。

車両を一旦止め、休憩をする。

 

「久しぶりに車酔いしたぜ...仮想世界でもなるんだな...。」

 

「もう乗りたくない...。」

 

「えぇ!?二人共そんなに駄目だった...?」

 

ラファールが二人に聞く。

 

「駄目だな...。」

 

「駄目だね...。」

 

二人は口をそろえて言った。

 

「次はスコッチが運転を...、ん? あの砂煙は...。」

 

サーニャが車の運転をスコッチに変わるよう要求しようとした時、後ろから迫ってくる砂煙を見つけた。

ポーチから双眼鏡を出し、その砂煙を上げている主を確認する。

1kmないしは800mほど先に荒野の砂の色と同じ色の車両、M1151 HMMWV(ハンヴィー)だ。

 

「むこうから車がこっちに近づいてる...。」

 

「何台?」

 

ラファールが聞く。

 

「1台だけ、武装は特に付いてないみたい。」

 

サーニャの双眼鏡には一切止まることの無い、HMMWVが徐々に迫ってきていた。

すると、突然HMMWVのルーフから一人のプレイヤーの胸から上が出てきた。

その手にはなにか黒い、長い物、銃が握られていていた。

 

「スコッチ、運転お願い。ラファールは助手席、私はうしろから狙う。」

 

「狙うって...、その人達敵なの?」

 

「すぐに分かるよ...。」

 

サーニャがそう言った途端複数の赤いバレットラインが砂煙の舞う方から伸び、そのラインはラファールの方へ。

 

「うわっ!?」

 

間一髪、ラファールは銃弾を避けたもののとっさの回避で尻餅をついてしまった。

 

「ラファール!乗れ!」

 

スコッチが運転席に乗り込み、開いている助手席のドア越しにラファールを呼ぶ。

ラファールが助手席に飛び込むとスコッチはアクセルを踏み、その場から退却する。

 

「危なかったなラファール。」

 

「うん...。サーニャ、敵は?」

 

それまで横たわる感じで助手席に乗り込んだラファールは姿勢を直すと、サーニャに敵の動きを確認する。

 

「追ってきてる、敵のほうがちょっとスピードが早いかも。」

 

「向こうさんのほうがトルクが有るのかもな...。」

 

スコッチが運転しながらそう言った。

足を取られる砂漠を走る上でサーニャたちのSUVよりトルクがあるHMMWVの方が

有利のようだ。

敵車両との距離は3、400mほどまで縮まっていた。

サーニャは車内に立てかけておいた自身のAKを手に取り、車両の後部座席の窓を開けて敵の車両に狙いをつける。三発を三回に分けて放つが、車両の揺れで当てることが出来なかった。

 

「ラファール、アルフレッドさんから借りてた"アレ"貸して。」

 

「え、あぁうん、分かった...!」

 

サーニャがそう言うとラファールはメニューウィンドウを開き、自身のアイテムストレージからある武器を実体化させた。

 

「はい、サーニャ!」

 

サーニャに手渡された武器は3.5倍から15倍まで望遠機能を持つスコープが取り付けられ、長銃身と延長フォアエンド、精密射撃用のバットストックを備えた"SCAR-H TPR"米軍採用名称"Mk20 SSR"。ベルギー、FNハースタル社が開発したSCARの7.62x51mm NATO弾仕様、H(Heavy)シリーズのマークスマンライフル仕様である。

先日の狩りの際にアルフレッドの店から借用したライフルだったが返すのを忘れ、俗に言う借りパク状態であった。

 

「ありがとう。」

 

サーニャは助手席に座るラファールからMk20 SSRを手に取ると、AKを車内に無造作に置き、Mk20 SSRに持ち替えた。

適車両との距離は200m、先程からこちらに数発づつ撃ってきてはいるがさすが装甲を有する車両だけあり一発も貫通していない。

 

「今度こそ...。」

 

サーニャは銃を窓から出すが自分の顔や身は出さず、半分まで開けかけた防弾窓ガラス上に置くようにして右手でMk20 SSRのピストルグリップを握り、左手は親指と人差指で銃を持ち中指、薬指、小指はガラスの縁に押し付けるようにして伏せるようにして構える。揺れる車両で少しでも安定した射撃ができるよう、銃をホールドしながら撃てるようにしたのだ。

拡大されたスコープの中には運転席に座っているドライバーの姿が見え、頭にバンダナ、目元にゴーグルを着けたプレイヤーということがわかる。

サーニャは車両の動きを止めるべく、ドライバー向けて狙いを定め一発撃つ。

 

「当たった...けど...。」

 

放たれた弾丸はHMMWVのの運転席目掛けて飛び、フロントの窓ガラスを貫通、することが出来なかった。

 

「防弾ガラス...。」

 

M1151 HMMWVは装甲や窓ガラスの防弾が強化されたモデルで、Mk20 SSRの7.62x51mm NATO弾では貫通することは不可能であった。

 

「じゃあタイヤは...。」

 

続いてサーニャはHMMWVのフロントタイヤを狙う。

今度は二発撃ちこむ。一発目はタイヤ、車体に当たること無く地面に当たったが二発目は見事にタイヤに命中。しかし車両の動きに変化は無く、更に接近してきている。

 

「パンクしないタイヤ...。」

 

軍用車両の殆どはタイヤが銃撃を受けても、すぐに離脱できるよう市販の車とは違ったタイヤが装備されている。もちろんGGOでもそれは変わらない。

敵の車両はサーニャ達の車両の進行方向から見て左側に車両を付けると、体当たりをしてきた。

 

「うわぁぁっ!?」

 

「ぐぅっ...!」

 

衝撃で車内が左右に揺れる中、スコッチがなんとか車体の体勢を戻す。

サーニャも衝撃で、尻餅をついていた。

サーニャがリアゲートから顔を出さなくなった途端、HMMWVのルーフからプレイヤーが顔を出す。

その手にはベルギー、FN社の軽機関銃"ミニミ"の7.62x51mm NATO弾仕様"Mk48 mod.0"が握られていた。体勢を立て直したサーニャが顔を車両後部から覗かせると、赤いバレットラインが複数サーニャの頭に点射され、サーニャはすかさず頭を車体に戻す。弾は伏せたサーニャの頭上をかすめた。

サーニャの姿が消えたことを確認すると、サーニャ達の車両にいくつも弾丸を浴びせる。しかしその装甲はHMMWVと同じく、7.62mmを弾きタイヤもパンクしないタイヤであった。

 

「大丈夫サーニャ!?」

 

「うん、向こうの車両にも銃弾は利かないね...。」

 

「ロケットランチャーはないけどグレネードは有るよ?」

 

GGOには元々車両が実装されてなかったため、ロケットランチャーの類は実装されておらず、あるとすればグレネードランチャーがあるくらいだ。

もちろん手榴弾や地雷、GGO世界の技術で作られたプラズマグレネードなどの爆弾類は多くある。

 

「二人とも、プラズマグレネード持ってる?」

 

「私は二つ、スコッチは?」

 

「俺も二つ。」

 

サーニャは二人からプラズマグレネードを拝借すると、すでに相手の車両のほうのルーフから先に顔を出していたプレイヤーに向かってブラインドファイアの如く、窓からAKだけを出して相手の車両に向けて撃つ。ルーフから顔を出していた敵プレイヤーは怖気づいたのか途端に顔を車内に引っ込めた。隙ありとばかりにサーニャは射撃をやめ、窓から顔を出すと二人から拝借したプラズマグレネードを3つ手に取り、起爆タイマーを最低の3秒にセットし横付けしている相手の車両の前方の方に投げる。サーニャの手から離れた3つのプラズマグレネードは荒野に弾むこと無く落ちると、セットされた起爆の瞬間までインジケーター部分を赤く点滅させている。

相手の車両はサーニャの一連行動に気付いたのか、スピードを落とし回避行動をする。

3秒後強烈な青白い発光とともに、3つとも起爆。周囲の土、砂が吹き飛び。地面に大きな穴が3つ開いた。

 

「気付いちゃったか。」

 

相手の車両は早めに気づいたことが功を奏し、爆発を回避。しかしサーニャ達の車両から少しばかり離す事ができた、が、サーニャは。

 

「倒してくる、それまで走り続けて。」

 

そう言うと、プラズマグレネード一つをポーチに入れ、未だ走り続ける車両の後部ドアを開けて飛び降りた。

 

「えっ、ちょっと?!」

 

「サーニャ!?」

 

突然の行動にスコッチとラファールが驚くが、時すでに遅くサーニャは荒野の地に足をつけていた。

受身をし、着地したサーニャは顔を上げ敵車両を最後に確認した方を見る。しかし、爆風で巻き上げられた砂が彼女の周りの視界を覆い、その姿を確認できない。

 

『サーニャ、無事なの?!』

 

通信用アイテムの音声が耳元でラファールの声を再生している。

 

「大丈夫、さっき言ったそのまま走り続けて。」

 

『敵は車だよ!?』

 

「大丈夫任せて、切るよ。」

 

『あっ!ちょっ...!』

 

サーニャはラファールが言い終わる前に通信を切った。

そうしているうちに巻き上げられた砂は落ち着き、視界が回復し始める。

すると、100mほどの距離に先ほどの車両が止まっていて、すでにサーニャの事を捉えているのか今まさにサーニャの方に向かって進み始めた。

 

「さぁ、一騎打ちだ。」

 

サーニャはそう言うと、あろうことか向かってくる車両に全力疾走で向かってゆく。

車両もサーニャの行動に気づき、速度を上げその距離は50mになっていた。

サーニャには運転手とルーフでこちらに照準を合わせている射手の顔がはっきりと見える。

 

「今...っ!」

 

ぶつかる直前、サーニャは地面を蹴りジャンプ。右足で、向かってくるHMMWVの分厚いボンネットを再度蹴りジャンプ。右手に持っていたハンドガン、"ストライク ワン"をルーフから呆然とこちらを見ている射手のプレイヤーに銃弾を2発撃ちこむ。それと同時に左手に持ったプラズマグレネード一つをルーフの隙間に投げ入れ、そのまま空中で前転をしつつ、再び荒野の地に足をつけた。

射手のプレイヤーの頭に2つの赤いヒットエフェクトが煌めき、死亡判定。消滅。

残された車両は投げ入れられたプラズマグレネードに気づき、HMMWVの扉を開け逃げようとしたが間に合わず、プラズマグレネードの爆発に巻き込まれバラバラのポリゴンの塊となり消滅した。

 

「すぅ...ふぅ...。」

 

サーニャはホルスターにストライク ワンを戻し、深呼吸をする。

すると、一部始終を何処かで見ていたのかラファール達が乗っている車両が遠方からサーニャのもとに向かってきて、サーニャの近くに止まる。

 

「サーニャ!」

 

助手席からラファールが飛び出すように降り、サーニャに駆け寄る。

 

「サーニャが全部やったの...?」

 

ラファールがドロップアイテムと化した車両のパーツと先ほどのプレイヤーが落としたと思われる、装備を見て言った。

 

「うん。」

 

「あぁ...ホント見かけによらず大胆なことするよねサーニャって...。」

 

「うーん、何かこう"倒したい"って思ったら体が勝手に動いちゃって...。ごめん...。」

 

「いや、改めてサーニャが強いって実感したよ!」

 

「GGOを始めて数週間でこの強さだ、やっぱりサーニャがあっちで送ってきた生活のおかげなんだろう。ほらサーニャ、忘れ物だ。」

 

運転席から降りてきたスコッチが、サーニャが飛び出していった際に車内に置いていったAKを片手でサーニャの方へ投げ、サーニャはそれを両手でキャッチする。

 

「サーニャお前の強さは本物だ、それを実感した。改めてだが、今後共よろしく頼む。」

 

スコッチがサーニャに握手を求め、サーニャはそれに応える。

 

「ありがとう。」

 

「ふーんスコッチ、ナンパ?」

 

間に入るラファールが言う。

 

「違うわ!」

 

その後、ラファールはちゃっかりとHMMWVの残骸からドロップアイテムのパーツ類とプレイヤーの落とした装備を回収し、サーニャ達の車両に設けられたアイテムストレージにしまう。

 

「それじゃあ帰ろっか。もうリアルじゃ12時回ってるよ...。」

 

「ラファール、明日もちゃんと学校来るよね?」

 

メニューウィンドウで現実世界の時間を確認していたラファールに顔を覗かせサーニャが言う。

 

「うっ...アップデートのせいでこんなにも学校に行きたくなくなるなんて...!」

 

ラファールが肩を落とす。

 

「学生は勉学が第一だぞ。」

 

「うるさい、八百屋のおじさん。」

 

「おじさん言うな!...っていうかラファールがなんでそれ知ってるんだよ!?」

 

「...。」

 

サーニャが顔を逸らす。

 

「サーニャお前...。」

 

「私達が学生って言うの知ってるんだし、私が知っててもいいでしょ別に!」

 

三人は再び車に乗り込みラファールを運転手に、アルフレッドの店まで向かった。

しかし、2人は忘れていた。ラファールに運転させると駄目なことを。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」



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OPS 09:傷心 《Phase 1》

▼更新遅れました。

▼今回は少なめの総文字数になっており、この話も合わせて二部構成となっております。

▼今回も試験的に第三者ナレーションで書いています。




- GGO内 SBCグロッケン外部 旧住宅地エリア -

 

 

 

 

休日、午後1時過ぎ。

GGO内、一面に広がる荒野に元は人々で賑わっていたであろう住宅地跡がある。その一角の、とある一軒家の二階に彼女は居た。

ラファールは用事があるらしく、今日は夜まで来れない。スコッチも仕事が終わってから同じく用事があり今日は来られないそう。

 

「ちょうどいいかな。」

 

サーニャは部屋にあった机を窓際に移動させ、そこにこの間(※5,6話参照)のユーザークエストの報酬として貰ったクレジットを使い、アルフレッドの店で安く買ったサプレッサーとバイポッド付き"レミントン M700(*1)"(以下"M700")を置き、いくつかマガジンをアイテムストレージから実体化させ机に並べた。机と同じ場所にあった椅子を再び机に合わせて置き、そこへ腰掛ける。

そしてアイテムストレージから三つ、棒状の、袋で包装されたそれを破り中から出てきた食べ物をサーニャは一口。

 

「ゲーム内で食べ物を食べたこと無かったけど、これは中々...。」

 

サーニャはここへ来る前にSBCグロッケンのショップで三つほど買ってきたフィンガータイプ(長方形の形)のショートブレットを食べていた。VRMMOの、あくまで"娯楽"の一部。サーニャがラファールから聞いた話では有名なSAO事件の際、SAOのプレイヤーは現実と同じような空腹感が存在したらしいがALO、GGOに至っては改善されそれほど空腹は感じなくなり、「~のような味」や「~のような食感」といった食べ物は無く、アミュスフィアの味覚エンジンもナーブギアのものより向上され全て現実世界と同様に美味しくなっている。 事実、今サーニャが二袋目を開けたこのショートブレットも現実世界で食べたことの有る味、パサパサ感も全く同じで口の中の水分が奪わてしまうほどその再現度は完璧であった。ゲームの設定上では元々これは宇宙食としてSBCグロッケンの船員が食していたもので、サーニャの居るこの旧住宅地の一角にそれを作っていた工場跡の建物も存在する。

 

「水筒っと...。」

 

ウィンドウを開き、アイテムストレージから水筒を取り出す。

水筒はサーニャよりDEX(器用)値の高いラファールに素材を持ち合わせ作ってもらい、素材は以前サーニャがクエストで手に入れた"チタン"を使用した。

チタンは耐久性に優れ熱伝導率が低く保温に優れているためサーニャはこの素材を選んだ。

保温性が良くても水筒本体を握ったときに熱くないため、ストレージから出したとき便利である。ただ素材がそれなりにレアであり、銃のカスタム用素材、防具の素材としても使われるためそれを水筒を作る素材としてこのゲーム内で使用するのはサーニャが初めてだろう。中身はもちろん温かい紅茶、洋菓子のショートブレットによく合う。

すると、事前に窓から見える箇所にいくつか設置したセンサービーコンがストロボ点滅した。センサービーコンは一定距離に移動物が近づくとストロボ点滅し、敵やモンスターの存在を知らせてくれるアイテムだ。

 

「さっそく引っかかった...。」

 

食べかけのショートブレットを机に置き、右手でグリップ部分を握り、スコープを覗く。スコープで拡大されたそこには、大きく凶暴化した羊のようなモンスターが二体ゆっくりと歩いていた。

距離は約700m、風は無し。バイポットで机に固定しているため非常に安定して目標を狙うことが出来る。指をトリガーにやさしくかけ、バレットサークルを出現させる。モンスターが草を食べるモーションに入り、再び顔を上げバレットサークルが最も小さくなった時トリガーを引いた。

サプレッサーが装着されたM700の乾いた射撃音とともに.300ウィンチェスターマグナム弾が銃口から放たれた。銃弾はその大きな羊型モンスターの左側頭部から入り、その後のモンスターの奥の砂煙から察するに反対から抜け、貫通した。

大きな羊のモンスターは即死判定がなされ、どさりと倒れた後ポリゴンの結晶となり砕け散った。すぐ近くにいた二匹目は仲間の死に気づいたのか来た道へ全速力で逃げ始めた。

次弾を装填するためボルトハンドルを上に起こしてボルトを回転させ、これを後方に引き、排莢。ボルトを再び前方に押して装填、ボルトハンドルを下に倒して薬室を閉鎖させる。

 

「次...。」

 

サーニャは全速力で走るもう一匹に標準を合わせようとしたが、丁度手前の建物に隠れてしまい狙うことが出来なくなった。

 

「一匹だけかぁ...。」

 

ふぅ、と息を吐いてスコープから目を離し、机に置いたショートブレットを再び頬張る。

倒したモンスター分の取得経験値、クレジットが個別のウィンドウで表示される。ふと、スコープで再度そのモンスターの居た所を良く見るとなにか黒い物体が落ちている。

 

「ドロップアイテムが落ちるのってプレイヤーの時だけじゃなかったっけ?」

 

モンスターからのドロップアイテムはプレイヤーからのドロップアイテムと違い、フィールド上に実体化はされずウィンドウ画面を通してプレイヤーに送られる仕様。だが万が一レアアイテムだとしたら他のプレイヤーに拾われてしまうため、サーニャはM700をアイテムストレージにしまい、AKを取り出すと急いでモンスターが居た場所へ向かった。

 

「えっと、確かこの辺のはず...。」

 

先ほど狙撃していた家からなぞり、旧住宅地を抜け荒野に出る。

 

「あったあった、この黒い物体が...?」

 

荒野のど真ん中にぽつんと、そのドロップされたと思わしき物は落ちていた。

それは縦横15センチくらいの正方形の塊だった。手に取り、サーニャはそれを裏返してみるが何もない。不意にその物体からピピッっと電子音が鳴る。

 

「...っ!?」

 

嫌な予感がして、サーニャは手に持っている物体を遠くに投げる。すると投げてわずか2秒ほどで爆発。爆風はサーニャにまで届くほどの威力だった。

 

「仕掛け爆弾...。」

 

モンスターからのドロップアイテムで爆弾、それもトラップ系の物が落ちるなどサーニャはラファールから聞いたことはなかった。

爆風の衝撃が収まり、辺りを見回し仕掛けたと思わしき犯人を探す。しかし探す間もなく仕掛けたそのプレイヤーサーニャに歩み寄ってきた。

 

「怪しもうともせずドロップアイテムを拾うなんて、さては君ルーキーかな?」

 

サーニャが居たところから後方数十メートルに岩場があり、プレイヤーはそちらから歩いて来る。どうやらそこから様子をうかがっていたようだった。

プレイヤーはサーニャとほぼ同じ程度の身長の、口元をスカーフで隠した少年風アバターだ。

 

「あなたがさっきのを仕掛けたの?」

 

「あぁ、そうさ。君が狙撃してモンスターを倒したと同時にあの爆弾を置かせて貰ったよ。」

 

あの時私は一度スコープから目を離し、ショートブレットを頬張っていた。どうやらその隙に仕掛けられていたようだ。

 

「武器やら装備は上物だけど、経験者のフレンドあたりに貰ったと見える。」

 

確かにサーニャの装備は他のGGO初心者プレイヤーと比較してプレイ時間と不釣り合いな豪華な装備をしている。

実際は手違いのコンバートによるステータス補正とユーザークエストで一気にクレジットを貰ってしまった為なのだが。

 

「それで目的は?罠は失敗したようだけど?」

 

「その装備一式、ここに置いて行くんだ。そうすれば命だけは保障するぜ?」

 

「それは出来ないよ、この武器装備は友達と一緒に選んだ大切な物だから。」

 

「へぇ…、じゃあ交渉決裂だなっ!」

 

彼はホルスターからハンドガン、ベレッタ社製"Px4 ストーム(*2)"を取り出し私に構え一瞬の迷いも無く引き金を引いた。

その動作をみすみす見逃すわけも無く、サーニャも同じかそれ以上の速さで肩から前に下げていたAKを構え、撃つ。狙うはもちろん少年風のアバターの彼が放った弾丸。サーニャの頭部目掛けて放たれた弾は反対側の、サーニャのAKから発射された弾と向かい合い接触、瞬く間に弾け飛びそのまま相手の顔をかすめ荒野の彼方へ飛んでいった。

 

「ちっ、まぐれで銃弾に当たったのか!」

 

撃ったはずの弾がサーニャに当たらなかったことにすぐさま気づくとパンツのポケットからスイッチを取り出し作動させる。するとサーニャの周りの地面から6つほど囲むように細長い筒のようなものが跳ね上がる。跳躍地雷の中身をスモークグレネードに変更した地雷であった。サーニャは特有の動きに身構えたがその物体が炸裂するとあたり一面が煙に覆われ、煙の中に姿を消すプレイヤーの姿があった。

 

「用意周到な...。」

 

サーニャは煙をかき分け、煙幕の外に出ようとする。と、その時足元に黒い球体の物体が転がってくる。

 

「まずい...っ! うあっ...!!」

 

サーニャは煙の中を一目散に駆けたが、後ろからの爆発による風圧と衝撃で5メートルほど吹き飛ばされた。転がってきたのはプラズマグレネード、タイマーは最小の3秒にセットされていた。

 

「げほ...げほっ...」

 

吹き飛ばされた衝撃でサーニャのヒットポイントが3割程度削られてしまった。下が柔らかい砂だったのが不幸中の幸いである。砂まみれの体を起こし、辺りを見回すと遠方に動く黒い影。先ほどのプレイヤーが旧住宅地に入ったのを確認した。

 

「居た...!絶対倒す!」

 

サーニャは身体についた砂を払い、彼が荒野の砂漠に残した足跡を追って旧住宅地へと再び向かった。

 

「1対1の市街地戦...。」

 

先ほど狩りのために旧住宅地へ訪れた時とは違う緊張感があり、360度を常に警戒しながら建物と建物を縫うように移動してゆく。

一軒家の建物に差し差し掛かりそのまま歩みを進めるサーニャだったが、一歩踏み込みかけた足元を何気なく見ると、一本のワイヤーが張られていた。

 

「ワイヤートラップ...。」

 

サーニャは間一髪作動させること無く気づくことができた。ワイヤーの先、草に隠すようにクレイモア地雷(*3)が設置されていた。あのプレイヤーの仕業だろう。

ふと、前方で家の隅に隠れた黒い影に気づく。サーニャはワイヤートラップを跨ぎ、AKを構えながらゆっくりと近づく。影が隠れた角に差し掛かり、カッティングパイ(*4)の要領で慎重に家の角をクリアリングする。

 

「だぁあああああ!!」

 

突如サーニャの後ろから叫ぶ声、ナイフを持ったあのプレイヤーがサーニャ目掛けてに突っ込んできた。クリアリングを中断し声がする後ろに銃を構えるが、彼はAGI(俊敏性)型のようでサーニャが構える間もなくナイフの間合いに入った。

 

「っ!」

 

間一髪、サーニャはAKMを地面に落とすことで上から振りかざされたそのナイフを両手で防ぐことができた。しかし両手は塞がりライフルは地面に、足を少しでも動かそうものなら、サーニャのバランスが崩れ不利になってしまう。

ナイフは彼のそのアバターには不釣合いの大型バヨネットタイプ、アメリカ海兵隊が使用しているオンタリオ社製"OKC-3S"ナイフが手に力強く握られていた。

 

「あの爆発で死んでなかったとは、初心者にしちゃあ良い運の持ち主だ!それに近くで見ると中々可愛らしい顔つきじゃないか。」

 

「それはどうも...!」

 

お互い会話をしているが、お互い手、腕に力を集中させ合っている。

 

「くく、あんた気に入ったよ!どうだ俺の部下にならないか?」

 

「どういう意味...?」

 

サーニャはこちらに向いたナイフの刃を見つつ、手の力は抜かず聞き返す。

 

「スコードロンさ、俺がリーダーであんたが部下、どうだ?!」

 

彼の、私に向けたナイフを持つ手に力が入る。

 

「申し訳ないけど...、あなたの部下になるつもりはないよ...!」

 

サーニャはそう言うと、力いっぱい彼のナイフの腕を押し返す。

 

「せいっ...!!」

 

相手に重心が移ったところでサーニャは彼の腕をねじり

 

「なっ...!?」

 

痛みから反射的に手の平を開いた彼のその手からナイフが地面にゆっくりと落ち、すかさず距離を取るためサーニャは彼の腹部を力強く蹴り飛ばし、身体をその場で回転させながらハンドガンを引き抜き銃口を彼に向けた。

 

「まだやる?」

 

「くそっ!!」

 

彼は右手で再びポケットに手を伸ばしスイッチを取り出して押そうとしたが。

 

「くぅっ...!?」

 

その動きに気づいたサーニャがスイッチを持った彼の右腕を撃ちぬく。撃たれた衝撃で彼は後ろによろめき、スイッチを地面に落とした。GGOでは現実ほど痛みは感じないが、当たり所によれば戦闘に支障が出てしまう。今回サーニャが撃ったのは右手首、そのため彼は右手を握る力が入らなくなってしまった。

 

「初心者だと思ったが...とんだ間違いだったようだ...。」

 

彼は撃たれた右手を左手で抑えながら言った。

 

「確かに私がこのゲームを始めたのは数週間前だよ。」

 

サーニャはストライクワンの銃口を彼から外さず、その言葉に答える。

 

「それでこの状況でこの戦い方、それに精神力...、あんたリアルでも只者じゃないな...?」

 

「それは...ご想像におまかせかな?」

 

「はぁ...俺があんたみたいな強い奴だったら、こんな苦労はしないのにな...。」

 

視線を一瞬そらし、独り言のように彼は言った。

 

「え...?」

 

サーニャは話の続きを聞こうとしたが。

 

「そらっ...!!!」

 

彼は足元に落ちていたスイッチをサーニャ目掛けて蹴った。サーニャは飛んでくるこれを手で弾く。彼が再び走って逃げようとしたところですぐさまハンドガンで反撃しようとするががサーニャによって弾かれたスイッチが家屋の壁にあたった衝撃で作動。けたたましい連続した爆発音が鳴り響く。

 

「えっ...?!」

 

サーニャの右手にあった建物が爆発で崩れ始め彼が逃げた側の通路は塞がれた。家屋が崩れる轟音とともにサーニャの方に倒れてきている。

どうやら彼はこれに巻き込むために元々細工をし、ここに誘き寄せるつもりだったようだ。

正面の通路は塞がれてしまったためサーニャは家と家の間の細い通路を反対側に走った。

幸い崩れるスピードが遅かったため、なんとか通路を抜けた先の崩れた家の庭へと抜けることができた。サーニャが通路を抜けて約5秒後、家は完全に崩れ隣の家にもたれ掛かる様に止まった。

 

「あのプレイヤーはどこに...。」

 

サーニャは先ほどのプレイヤーを探す。庭の端の小さな門から先ほど通ってきた通りの一つ隣の通りに出ることが出来た。

こちらは先ほどより大通りなためか、車両の残骸がよく目立っている。

すると車の残骸の隙間で人影が動く。

サーニャはAKを構えその影に撃った。すると驚いたのか先ほどのプレイヤーが飛び出てきた。その彼にサーニャは弾丸を浴びせるが。

 

「速い...!」

 

AGI(俊敏性)型の素早さに射撃が追いつかず、弾は彼の後ろを通り過ぎるだけだった。

彼は右手をだらんとさせながら大通りの一角にある工場の中に入っていった。

 

「決着をつけよう...。」

 

サーニャはマガジンを交換、再装填して工場へと向かう。




*1 "レミントン M700"
アメリカのレミントン社が開発した、狩猟用ボルトアクション式小銃。
1962年に登場したM700は生産コスト、性能、耐久性のいずれも当時のライフルでは群を抜いており、今なお第一線で使われ続けている。
高い集弾性を持つため"ワンショット・ワンキル(一撃必殺)"を旨とするスナイパーに好まれている。
(サーニャのM700は.300ウィンチェスターマグナム弾を使用し、ストックをMAGPUL社製ハンター 700L ストックに変更したもの)

*2 "Px4 ストーム"
イタリア、ベレッタ社が"M92"シリーズと並ぶフルサイズピストルとして2005年に発売した、ポリマーフレームピストル。
ベレッタピストルの特徴とも云うべきオープン型スライドを取りやめ、標準的なフルカバー型に変更。他にもロータリーバレルを採用するなど、"M92"よりも同社の"M8000クーガー"の特徴を色濃く受け継いでいる。同じく同社の"9000S"に引き続きポリマーフレームを使用するなど、"M92"の運用思想に、"M8000クーガー"の機構、"9000S"の素材と、ベレッタ社が持つ技術の総決算とも云える。

*3 "クレイモア地雷"
ベトナム戦争で一躍有名になった指向性の対人地雷。
薄く、湾曲した長方形の本体内には約700個の鉄球が内蔵されており、起爆させると内部のC4火薬に点火。前面60°の加害範囲に鉄球を撒き散らす。最大加害範囲は約250m、有効加害範囲は約50mでこの距離では人間大の目標に30%の確率で負傷を与える。
鉄球は1/8インチ サイズで、直径3.2mm、重量1g程度とほぼ鳥撃ち散弾に等しい。しかし初速は1200m/sほどに達し、鉄球1つ1つの威力は散弾銃の9倍程度になるため、一発でも当たれば目標に大きなダメージを与えることができる。
ベトナム戦争では起爆装置の信頼性を向上させたM18A1が実戦に投入され、信管と連結させたワイヤーを設置しておき、ワイヤーを引っかけた対象に起爆させるトラップや、延長コードで繋げた起爆装置を部隊の正面に設置し待ち伏せ用として使用された。対人用の地雷ではあるが、非装甲の車両に対して使用されることもある。

*4 "カッティングパイ"
ステルスエントリー(こちらの存在を敵に悟られず、慎重に突入する意)で使われる立ち回りの一種。敵が存在する可能性のある部屋にエントリーする際、視界の角を中心に大きく弧を描くように動き、視線を「スライスしたパイ」のように見立てて部屋をくまなくチェックする、というテクニック。部屋(通路)へ侵入する時の安全確認における基本テクニック。通路の幅を上手く使うと通常より広範囲をクリアリングすることが可能。例えば曲がり角の場合、できるだけ角から離れる事で深い場所まで敵の有無を確認できる。


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OPS 10:傷心 《Phase 2》

▼今回で第一章終了となり、次回から第二章が始まります。

▼若干書き方変えました。


荒野の砂が混じった風が荒れた住宅地に流れる。

サーニャはAKのコッキングレバーを引き、離す。ガチャンッと重い金属がぶつかる音が人気のない無人の住宅地に響いた。

彼が逃げ込んだのはこの旧住宅地エリアの一角にある工場跡、戦闘前にサーニャが食べていたSBCグロッケン船員向けの宇宙食の一つ、あの"ショートブレット"などを作っていたという"設定の"場所だ。働いていた人々は皆避難したか、或いは。

 

サーニャは一歩づつ、慎重に工場へと近づいた。

工場の入り口の門は彼が通ったからか、はたまた最後にここから出ていた工場の職員がそうしたのか、鍵はかかっておらず半開きで荒野から吹く風に揺られていた。

門をくぐり工場の壁にたどり着く。至る所が錆びついており、無機質で大きな工場のはずなのに機械が動いている音などが一切しないそれに、サーニャはとても薄気味悪く感じた。

 

「...クリア。」

 

張り付いた壁にあるドアからサーニャは侵入。その扉の先は事務所だったのだろうか、パソコンや机などが並ぶ部屋だった。サーニャは部屋の中を調べるが、特にこれといって何も無く、すぐさま向かいのドアを静かに開けようとドアノブに手を伸ばし捻り、開けた。

その時"ピピッ"という電子音が聞こえた。

 

「...!?」

 

サーニャはとっさにドアから離れ、ドアに沿った壁の方に飛び込む。すると爆発音とともに扉が"く"の字に曲がって部屋の方に勢い良く吹き飛んできた。どうやらドアブリーチ用の爆薬を使ったトラップのようだ。

爆発の煙と部屋に溜まった埃が舞い、一瞬にして視界が悪くなる。

 

「げほっ...本当、爆発物ばっかりだなぁ...。」

 

ドアがあったはずの場所にはドア部分の四角い空間ができている。そのドア自体はサーニャの居るこの事務所らしき部屋においてあった椅子や机ごと吹き飛ばし、向かいの壁に立てかかっていた。

煙が少し晴れサーニャはしゃがみ、膝をつきながら開いたドアのスペースから奥を覗く、がその瞬間刻み良く連発する銃声とその縁に銃弾らしき物が着弾する音で直ぐに顔を潜めた。

 

「あの連射速度...短機関銃(サブマシンガン)...。」

 

サーニャは立ち上がりもう一度縁から顔を出す、すると今度は5発、数発は部屋の中の机や椅子に当たった。それを確認する前に素早くしゃがみ、再び顔を出して今度はサーニャのターン。

 

「そこっ...!」

 

先ほどの発砲炎から位置を割り出し、指切りで3発そこに弾丸を放つ。

 

 

 

 

 

 

「よしっ...!!」

 

仕掛けておいたトラップが作動して扉が部屋の方に吹き飛ぶ。

爆発による煙と、放置されていた部屋の埃が吹き飛んだ扉のスペースからもくもくと出ている。相手が扉を開けるその瞬間をバッチリと彼は見ていた。

しかし、煙が少し晴れたのと同時にその相手がその開いたスペースから顔を出す。

 

「なっ...!? くそっ...!」

 

トラップで仕留め損ねた彼はアイテムストレージから出しておいたサブマシンガン、SWD社製"M11/9(*1)"のチャージングハンドルを引き、装填。そして構え、発砲した。

しかし利き手の右手が使えないため左手で持ったためか、弾は相手の居るドアのあったスペースの縁に数発着弾、外れた。

 

「ちっ...さぁ...、顔を出せっ...!」

 

彼は相手の居る事務所のドアを開けた先にある生産ラインの機械を盾にして相手へ攻撃をしている。破壊したドアのスペースの上の位置から再び顔を出した相手に5発、バーストで発砲したがやはり思うようには行かず、その弾は部屋の奥の机に着弾。それを確認した途端今度は相手が急に下の位置から反撃に転じてきたため彼はすぐそれに対応することができず、また発砲炎で彼の位置まで特定されることになってしまった。

 

「ルーキーとか言っちまったが、あの動き...ベテランだ...。多分BoBやらSJとかの...。とんだ勘違いで喧嘩を売っちまったみたいだ、くそっ...!」

 

数分前の自分を殴ってやりたいと思っている彼の思考を、顔のすぐ横をかすめる銃弾の飛翔音がかき消す。

 

「くっ...! ただ...トラップは効いてるようだ、まだ...まだ行ける...!」

 

彼は手に持っていたM11/9を力良く握りしめ工場の更に奥へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

「逃げ足の早い...!」

 

動く先を予測し、指切りでトリガーを引くが工場の機械を盾にして動く彼には当たらない。どうやら更に奥へと逃げるようだ。サーニャは逃げた彼を追うために彼が開けた扉とは別の、近くにあった工場内のキャットウォークへと通じる螺旋階段を上がり上から攻撃を行うことにした。

螺旋階段を上がりキャットウォークへ、その先に扉がありサーニャは静かにゆっくりと開け次の部屋に進入する。

先程まで居た加工などを行う部署の隣は材料などを保存してある倉庫のようで、包装した材料が棚に積まれている。

すると、駆ける足音がサーニャの耳に届きすぐさまその方を見ると、すでに彼が棚と棚の間から銃を構え弾道予測線(バレット・ライン)をこちらに点射させていた。

 

「っ!」

 

サーニャはキャットウォークの策を飛び越え倉庫の棚の上に着地、彼から放たれた弾丸はサーニャには当たらず手すりに当たり、その後ろの窓ガラスを割った。

サーニャはすかさずAKを構え下に居る彼に撃つ。頬と太ももにかすりはしたが彼はとっさの緊急回避で棚の後ろに隠れた。

すると今度は彼が棚を登り頭と銃だけを出して棚の上にいるサーニャに向け発砲してきた。サーニャは反撃しながらすかさず棚から飛び降りる。

 

「埒が明かないよ...。 ん...?」

 

サーニャはふと、棚に山積みになっている茶色い大きな紙袋に目をやる。そこには"WHEAT FLOUR(小麦粉)"とでかでかと書かれていた。

 

「小麦粉...もしかして...。」

 

とあることが頭によぎり、サーニャはこの《仮想世界》を試すことにした。

この"GGO"という《仮想世界》がどれだけリアルに再現され、それが《現実世界》に近いのかを。

 

 

 

 

 

 

「どこに行ったんだ...。」

 

先程まで絶え間なく銃声がしていた倉庫が今度は突然不気味なほど静かになり、まるでそこには彼1人しか居ないような空気に包まれていた。

 

「まさかさっきのでくたばる筈は...。」

 

すると先程まで静かだった倉庫に突如、銃声が鳴り響いた。

 

「うおっ...!?そっちか...!!」

 

彼は銃声のした方へ駆ける。

銃声は彼の居るところから4つほど奥の棚の通路から聞こえ、彼が到着するとそこは床一面、白い粉が撒かれ窓の有る壁に背を向けて敵、彼女が立っていた。

 

「アンタ、気でも狂ったか...?」

 

彼は彼女に問いかける。彼女の手には先程まで握られていたアサルトライフル"AK"は無く、その代わり右手にハンドガン"ストライクワン"が握られていた。

 

「ちょっと試したいことがあってね。」

 

彼女はそういった。

彼はいつでも彼女を撃てるよう軽く胸の前でM11/9を構えていたが、彼女の方はとても余裕のある表情をしている。

 

「残念だがその実験だかなんだかに付き合っては居られない。ここで死んでもらう!!」

 

彼がそう言ってM11/9を構えた瞬間、彼女は背中から飛び込む形で後ろの窓ガラスに飛び込み、そのまま持っていたストライクワンを発砲。

その弾丸は彼の左右の大きな茶色い紙袋に命中、中から白い粉が吹き出し、もくもくと白い煙になる。

 

「残念だったな!外れだ!!」

 

彼がM11/9のトリガーを引き、発砲炎が銃口から発せられ銃弾を放つ。その瞬間銃の周りで何かが炸裂。

 

「なっ、何だ...!?」

 

直後彼は謎の爆発に飲まれ、赤いポリゴンの破片となり消滅した。

 

 

 

 

 

 

「うっっ...!!」

 

間一髪爆発には巻き込まれず窓ガラスを割って外に飛びてたものの、破った窓から放出された爆発の衝撃がサーニャの身体を吹き飛ばし、地面に勢い良く叩きつけた。

 

「いたた...あー...まさかここまでとは...」

 

GGOの使用上、数時間で元通り綺麗になるとはいえ爆発で屋根の一部が吹き飛び、サーニャの飛び出した窓ガラス以外もめちゃくちゃに割れ建物が燃えていた。

サーニャが試した実験、それは"粉塵爆発"。空気中に舞い散る可燃物(粉塵)が引火して爆発する現象のことである。粉塵は表面積が大きいので空気中に舞うと空気との反応面積が大きくなり、燃焼反応に敏感になる。 そしてその粉塵が連鎖的に燃える事で爆発するのである。

今回の場合、サーニャが窓ガラスを割り飛び出す際にストライクワンで袋に穴を開け、空中に舞った小麦粉の粉がピエージェが発砲した際のマズルフラッシュで燃え結果、大爆発を起こしたということである。

 

「流石にこの爆発で生きてるわけ、無いよね...。」

 

天井から鉄筋コンクリートが先ほどまでサーニャが居た場所に落ちる。

サーニャの実験は想像を遥かに超える成功であった。

 

「そういえば名前...聞いてなかった...。」

 

ただ敵を倒すことに集中していたため、相手の名前を聞き忘れていた。そもそも自分を倒しにくる相手の名前を伺うのもどうかと思われるが、サーニャには彼が言い残した"ある言葉"が気になっていた。

 

「"あんたみたいな強い奴だったら、こんな苦労はしない"...一体どういう意味だったんだろう...。」

 

サーニャはそれが気にかかり、町を出てすぐの岩陰に元々SBCグロッケン市街地から乗って、迷彩シートを被せ隠していた"M1030 A4"オフロードバイクに跨るとSBCグロッケンのとある場所へと向かった。

 

 

 

- SBCグロッケン 主街区エリア -

 

 

 

SBCグロッケンとその外の広大な荒野を繋げる大きなゲートをくぐり、再び戦闘から寛ぐことの出来る主街区画エリアに戻ってきたサーニャ。その一角にある"転送ゲート"前にバイクを止めた。

 

「もうどっか行っちゃったかな。」

 

SBCグロッケン外のフィールドで死亡した場合、一番近い主要都市のゲートに転送される。その大きなゲートがある場所がここである。各主要都市には必ず設置されていて先程までサーニャが居た荒廃した町から一番近いところにSBCグロッケンはあるためサーニャはここに先ほど倒した彼を探しに来たのであった。

同じエリアにはショップや飲食店などが並んでおり人通りも多く、探すのは容易ではない。

 

「うーん...あっ、居た。」

 

ぽつんとベンチに腰かけうなだれている一人の少年風のアバター、先ほどまで戦闘を繰り広げていた彼がそこに居た。

サーニャは一歩づつ近づく。

 

「隣、良いかな?」

 

サーニャは彼に話しかける。

 

「あぁ、すまない...ってお前...!?」

 

先ほど倒された相手が目の前に居ることに驚いた表情の彼。

サーニャは言葉通り彼の隣に座る。

 

「お、俺がルーキーとか言ったのが気に障ったのか!?それで俺を探しに...っ!?」

 

彼が焦りの表情を浮かべ、ベンチから身を引く。

 

「違うよ、ただあの時言ったことが気になって。」

 

「あ、あの時...?」

 

「ほら、私が右手を撃った時。"あんたみたいな強い奴だったら、こんな苦労はしない"って。」

 

サーニャがそう言うと、崩れ落ちるように彼は再びベンチに座り直し、肩を落とした。

 

「あぁ、あれか...。」

 

「差し支えないなら聞かせて欲しい。」

 

「別に構わないが...大したことじゃないぞ...?」

 

「良いよ。」

 

「俺は"こっち"じゃあこんな風にしてるが、現実の方じゃ学校で虐められてんだよ...。弱い《現実世界》の自分から現実逃避するためにアミュスフィアとこのゲームを買ったんだ...。」

 

彼はサーニャには目を合わせず、ただ下を向き話す。

 

「でもGGOを始めて、最初に銃を手に取って構えた時、違和感があった。」

 

「えっ...?」

 

「銃を構えて狙いをつけようと意識させると距離感がつかめなくて...長くしてると吐き気がしてくる...。」

 

「それって...つまり...?。」

 

「後々調べてみたら"フルダイブ不適合者"だった...。幸い銃さえ使わなければなんともない。だから見ただろ、俺が基本、爆発系の武器しか使わないの。」

 

「なるほど...利き手の右手を撃たれたせいで銃をあまり使わないのかと...。」

 

「最後の方はバレット・ラインのアシスト任せで目つぶって撃ってたから当たりゃしなかったがな...。それに俺、唯一自慢できる両利きなんだぜ?右手撃たれても問題はないんだよ。」

 

彼はサーニャに向けて初めて、明るい顔をした。

 

「でもな、俺はそのことを隠してスコードロンのリーダーをやってたことがあったんだ。」

 

彼の表情が再び曇り始める。

 

「《現実世界》じゃあ友達って呼べるような奴も居ないし、スコードロンはまさに本当の友達の集まりみたいなものだったよ。スコードロンのメンバーといろんなクエストもやった、他のスコードロンのやつとも戦った。俺は上手くごまかして自分がフルダイブ不適合者ってことを隠し続けた。でも少し経って、今ならこいつらになら話してもいいと、きっと皆理解してくれるって思って打ち明けたんだ。けど帰って来た言葉は"お前は俺達を騙してた"、"銃が使えないくせにGGOをプレイするな"とか...結局それを機にスコードロンは解散。こっちの世界でも独りぼっちになっちまった。」

 

「...。」

 

「それがついこの間の話、それで次に誰か他のプレイヤーと戦って勝っても負けてもそれが最後。"この世界"ともお別れと思ってたんだ。そんな矢先あんたがあのトラップに引っかかってくれた。」

 

「じゃあもう"この世界"とはお別れ...?」

 

「いや、あんたと戦って考えが変わったよ。あんたはどう思ってたかは知らないが、あの時の戦闘はとても楽しかった。」

 

「つまり?」

 

「俺はもう少しこのゲームを続ける。」

 

「そっか、それは良かった。もし...良かったら、私の入ってるスコードロンに入らない?」

 

「良いのか...?さっき言ったとおり俺はまともに銃を使うことは出来ないぞ...?」

 

彼は戸惑いの表情を浮かべる。

 

「たとえ銃が使えなくても、この世界を楽しむことは出来るでしょ?それに、あそこまで爆発物を扱える人は、私の入ってるスコードロンにはいないから。」

 

「じゃあ...よろしく...。」

 

「こちらこそ、私はサーニャ。あなたは?」

 

「そういえば名前言ってなかったな、俺は"ピエージェ"よろしく。」

 

「他のメンバーは今日ログインしてないから紹介は後日。私は疲れちゃったから今日は落ちるよ。」

 

「わかった、今日はありがとう。」

 

サーニャはベンチから立ち上がり、再びバイクへと戻ろうとする。

 

「サーニャ!」

 

ピエージェはサーニャを呼ぶ。

 

「?」

 

「俺は必ずあんたを倒す!」

 

ピエージェはサーニャを指差し、そう叫んだ。

周りに居た他のプレイヤーが何事かとちらちら、こちらを見ている。

 

「う...恥ずかしいから...。」

 

サーニャは軽く手を振ると逃げるようにバイクに飛び乗り、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

- 翌日 -

- 都内某中高一貫校 中等部棟 -

 

 

 

 

 

 

サーニャと詩子の通う高校は中高一貫校で、サーニャ達高等部の棟と連絡通路を挟んで中等部の棟がある。詩子はもちろんこの学校を中等部から入学しており、成績も優秀である。

 

「ごめんねサーニャ!手伝ってもらっちゃって。」

 

「良いよ、これくらい。」

 

「クラス委員長の私ばっかり扱き使うのってどう思う?!中等部の職員室に教材を持っていってとかさぁ~!」

 

「まぁまぁ...。」

 

詩子が愚痴を滝のようにこぼしつつ、サーニャとともに中等部の廊下を歩いてゆく。

丁度休み時間のためか、中等部の生徒たちが廊下に出て生徒同士で話をしている姿があり、中等部の方にサーニャが顔を出したことがないため生徒が指を刺したりと注目の的であった。

 

「サーニャ人気者だね~。」

 

「恥ずかしい...。」

 

サーニャは顔を伏せながら廊下を歩き、1階から2階へ続く階段を登ろうとした時、踊り場で中等部の男子生徒と思われる4人の姿があった。1人は壁の隅に追いやられており、他の3人が囲むようにして居る。

 

「あっ、あの子また...!」

 

「?」

 

詩子はそう言うと階段を急いで駆け上り、踊り場にたどり着くやいなや

 

「こらっ!あんた達!!」

 

詩子が1人を囲む3人に声を荒げる。

 

「あぁ?何だあんた!?」

 

「あんた達のグループか知らないけど、この間もこの子と虐めてたでしょ!」

 

3人の男子生徒の後ろには顔を背けながら佇む男子生徒がおり、彼の頬には殴られたような跡があった。

サーニャも階段を上がる。

 

「あぁあんたか、最近良く突っかかってくる高等部の女子っていうのは。」

 

3人のうちの1人、真ん中に居た男子生徒がゆっくりと詩子の方に近づいてくる。

 

「な、何よ...!」

 

「上級生だからって女が...しゃしゃり出てくんじゃねぇ!!!」

 

彼は右手に握りこぶしを作り、詩子に殴りかかった。

しかしそれを後ろで見ていたサーニャがとっさに近づき、その拳を手の平で受け止める。

 

「あぁ...?何だお前、邪魔すんじゃねぇ!!」

 

そう言うと、今度は開いている左手で今度はサーニャに殴りかかろうとするがそれをするりとかわす。勢い良く振りかぶったがそれをかわされてしまった為、そのままの勢いでよろめきながら階段の一段を踏み外し転落しそうになるが、それをサーニャが服の襟を掴み静止する。

 

「くそっ、離せよこの...っ!!」

 

「離してもいいの?私が手を離せば落ちるよ。」

 

サーニャはわざと一瞬だけ手を離して、再び掴むのをしてみせた。

 

「ひぃっ...?!」

 

サーニャが引っ張り、踊り場に引き戻すと男子生徒はそれで懲りたのか他の2人を連れてそそくさと階段を上がっていった。

 

「大丈夫?」

 

詩子が囲まれていた男子生徒に声をかける。

 

「すみません...また助けていただいて...。」

 

「駄目じゃない、前に言ったでしょ堂々としなさいって!」

 

「す、すみません...。」

 

「そうやってすぐへこへこ謝らない!ほら、とりあえず保健室行くよ?」

 

「は、はい...。」

 

男子生徒は詩子に引っ張られ、サーニャもその後について行く。

階段を降りて一階のすぐにある保健室の扉を開けると教室全体から消毒液、アルコールの匂いが仄かに臭う。生憎、保健室の先生は居らず詩子はその男子生徒を小さな丸椅子に座らせると、救急箱を取り出し手際よく応急処置をした。

 

「い、痛っ...!」

 

「男の子でしょー、我慢する!」

 

詩子が消毒をし、頬にガーゼを貼る。

 

「はい、おしまい!」

 

「本当...すみま...う...。」

 

詩子に言われたことを思い出し、口を噤む。

 

「はぁ...、ほら授業始まっちゃうよ!立った立った!」

 

「はっ、はい...!」

 

詩子に急かされ、椅子から立ち上がりいそいそと3人は保健室から出てゆく。

 

「それじゃあ私たち先生からの頼まれごとをしなきゃいけないから、"サーニャ"行くよー!」

 

サーニャは詩子に手を引っ張られる。

 

「ま、待ってください!」

 

「えっ?」

 

サーニャ達が振り返ると、慌てる様に彼が駆け寄ってきた。

 

「いま"サーニャ"さんと言いましたよね!?」

 

「そ、そうだけど...?」

 

「も、もしかしてGGOやってたりしますか?!」

 

「え...っ!う、うん。」

 

「同じ名前で!?」

 

「えーっと、うん...。」

 

彼の顔がぱっと明るくなる。

 

「僕、昨日あなたに会ってます!僕"ピエージェ"です!まさか会えるなんて...っ!!」

 

「えっ...!?」

 

サーニャはGGOとのあまりのギャップに心底ビックリした。

 

「あれ、二人共知り合いなの?」

 

サーニャと彼は事情を話し、この時は授業開始の時間が迫っていたため放課後に再度会うことにした。

 

「お待たせ~。」

 

「はい、お待ちしてました!」

 

校門から出てすぐに、彼の姿があった。

サーニャたちは駅前のカフェでお茶をしながら話をすることになった。

 

「そういえばまだ君の名前聞いてなかったね。」

 

「あっ僕は、中等部2年の"花咲 葵(はなさき あおい)"って言います。」

 

「あら、女の子みたいな名前だね。」

 

詩子がグラスに注がれた紅茶を手に取り、ストローで飲む。

 

「実はいじめられてる理由もそれなんです...。」

 

それを聞いて詩子は飲むのをやめた。

 

「あっ...ごめん。」

 

「いえ、良いんです!うちは代々名前に花に由来する名前を付けることになっているのでそれでらしいです。」

 

「へぇ...。」

 

「自分は気に入ってるんで良いんですよ、はい!」

 

「それで...、昨日はGGOでサーニャと戦ったと..。。」

 

「はい、負けちゃいましたけどね。」

 

「どうだったのサーニャ?」

 

詩子がサーニャに聞く。

 

「どうって言われても...。」

 

「強かった~とか、弱かった~とか。」

 

「うーん...トラップ主体のヒットアンドアウェイ戦法...。ただ一撃で勝負をつけないと長期戦になる、かな。」

 

「さすがサーニャ...葵君はサーニャと戦ってみてどうだった?」

 

「先程、初めてまだ数週間と聞きましたが...正直やり込んでるプレイヤーでもびっくりでしょうね...銃弾で銃弾を撃ち落とすなんて...それに動き方も初心者には思えませんでした...。」

 

「なるほど。サーニャ、言っちゃっても平気?」

 

「いいよ。」

 

サーニャが温かいコーヒーにミルクと砂糖を入れながら詩子からの問に返答する。

 

「こんな可愛い顔したロシアからの留学生のサーニャだけど、ここだけの話、実は元々向こうの士官学校生だったんだ。そこを卒業して本当はそのまま陸軍大学に入る所をこっちに留学生として来たってわけ。」

 

「というとつまり...?。」

 

「元士官候補生。」

 

サーニャはそう言ってコーヒーを飲んだ。

 

「でも凄いじゃないですか、通りでGGOでも強いわけだ...。」

 

「葵君。」

 

サーニャがコーヒーを飲む手を止める。

 

「は、はい?」

 

「なんだかGGOの時と話し方が違う...。」

 

サーニャがカップを受け皿に置いて、彼に聞いた。

 

「せ、先輩方の前なので...あはは...。」

 

「GGOの時はこんなしゃべり方じゃなかったの?」

 

あの場に居なかった詩子がサーニャに聞く。

 

「一人称は"俺"で、もっと勢いがあった。」

 

「うわーっ!サーニャさん恥ずかしいからそれ以上言わないでください!」

 

葵がテーブルから乗り出してサーニャに言った。

 

「えーっ!?今とぜんぜん違うじゃん~!」

 

「あ、あれは演技ですよ!現実の僕を出さないために!」

 

慌てて葵が身振り手振りで説明する。

 

「こっちでもGGOと同じ感じにしてたら良いのに。」

 

「それが出来たら苦労しませんよぉ...。」

 

葵が肩をがくっと落として、ため息を付く。

 

「えっと...あ、そういえば。スコードロンを組まれているということは今後、大会とかに出場する予定は有るんですか?」

 

再び姿勢を戻して、サーニャと詩子に聞く。

 

「うーん、得にはないなぁ...まだスコードロンの規模も小さいし。」

 

詩子が応える。

 

「僕、今度夏に行われるGGOプレイヤーが集う大会に出ようかと思ってたんですよ!一人でですけど...」

 

「大会?」

 

サーニャと詩子は顔を見合わせ首を傾げた。

 

「はい!リアルの1日を丸々使ってGGOで大規模戦を行う大会です!参加登録者はGGO内に設けられた別の専用マップに飛ばされて、戦うって言うものです。度夏休みを使って行われますから、予定さえ合えば可能ですよ!」

 

「うーん...まぁ私は参加...は、考えておくけど...。サーニャは?」

 

「自分の実力がどれくらいなのか試せるなら...出たい。」

 

「(あぁ、この子本気だ...。)」

 

そう思いつつ詩子は紅茶をストローでずずずっ、と飲み干す。

 

「もし詩子さんが参加するならぜひ3人で行きましょう!」

 

「あぁー...うちのスコードロンあともう一人いるんだけど...。」

 

「え、もう一人ですか?」

 

「うん、カウボーイのコスプレをしたおっさんなんだけど...。」

 

どこかでくしゃみをする声が聞こえたような気がする。

 

「は、はぁ...。」

 

「八百屋のおじさん。」

 

再び、くしゃみをする声が聞こえたような気がする。

 

サーニャが詩子の言葉に合わせて言葉を付け足す。

 

「え、八百屋...?」

 

「あぁ、八百屋はリアルのほうね...!」

 

「でも、腕は確かだよ。」

 

「まぁ確かに...。」

 

「ぜひ会ってお話してみたいです!」

 

「うーんと、じゃあ今日ゲーム内で会う?私まだ葵君のアバターは見たこと無いし、スコードロンに入るなら皆で顔も合わせないとだしね。」

 

「はいっ!」

 

「場所と時間は....。」

 

今夜、GGOで合うことを約束した3人はカフェから出ると、お互い帰路に着いた。

 

 

 

- SBCグロッケン アルフレッドの店 -

 

 

 

夜、サーニャ達はアルフレッドの店で集合し仕事が終わるスコッチを待っていた。

 

「中々かっこいいアバターね~。」

 

「ど、どうも...。ラファールさんのアバターも素敵ですよ。」

 

昨日のサーニャとの戦闘の時の彼は何処へやら、頭をポリポリし照れながらラファールのアバターを褒め返す。

 

「褒めても何も出ないぞ~。」

 

「ラファール、なんだかお姉さんって感じだね。」

 

サーニャがラファールをかからう。

 

「えぇ~、そうかな?」

 

店内の裏で談笑ををしていると、店の扉が開いた。

 

「すまん、遅くなった。」

 

扉を開けながら謝罪の言葉とともに店内に入ってきたのはスコッチだった。

それをサーニャが迎える。

 

「こんばんはスコッチ。」

 

「おう、サーニャ。新人は?男か女か?」

 

「"男の子"だね、もう来てるよ裏にいる。」

 

「男一人で肩身の狭い俺としちゃあそれはそれで安心だな。」

 

そう言うとサーニャとともに店の裏の部屋へと向かう。

 

「スコッチ来たよ。」

 

「遅くなった、で、新しく入ったのは?」

 

「俺です、どうぞよろし...げっ...。」

 

「な、なんでお前がここに...!」

 

2人が睨み合う。

 

「仲悪そうだけど何、二人共知り合いなの?」

 

椅子に座っているラファールが二人に聞いた。

 

「いや、こいつが賞金首になってた時に一度俺と戦ったことがあるんだが...。」

 

スコッチが部屋を入ってすぐの壁に凭れながら言う。

 

「卑怯な手使って逃げやがって...!」

 

「卑怯だなんて!スモークグレネード使って逃げただけで大体、便利な物があるのにカウボーイの真似事なんかしてそれ以外の武器を使わないから俺を見失うんですよ!」

 

「なんだと!」

 

2人が言い合う。

 

「はいはい!ストップストーップ!」

 

ラファールが間に入って止める。

 

「うちのスコードロンに入った以上、一緒に"仲良く"やってもらうからね!それに、今回ピエージェ君を誘ったのはサーニャだから、スコッチは文句があるならサーニャに言いなさい!」

 

「えっ、サーニャ...?」

 

スコッチがサーニャの居る方を振り返ると。

 

「(じー...)」

 

サーニャは死んだ魚のような目でスコッチを見ていた。

 

「あぁ...すまん...。」

 

「ん...。それでラファール、大会の件はどうするんだい?」

 

サーニャが先ほどリアルの方で話していた、夏の大会の参加についてラファールに聞いた。

 

「スコッチ、夏休み取れる?」

 

「夏休み...?あー、取ろうと思えば取れるが...。」

 

「サーニャは、夏休み大丈夫?」

 

「さっき店長に電話したら"行ってきていいよ"だって。」

 

「じゃあ決まりだね。」

 

ふぅ、っとラファールは一息つく。

 

「ということはラファールさん...!」

 

ピエージェがラファールに近づき聞く。

 

「えぇ、私を含め、うちのスコードロンは夏の大会に参加します!」

 

「おいおいなんだよそりゃ、聞いてないぞ!」

 

スコッチがラファールに駆け寄る。

 

「提案はピエージェ君で、教えては貰ったけど自分でも調べてみたら夏休み中に開催されて、プレイヤーがGGO内に設けられた別の専用マップに集って大規模戦をするんだとか。頑張ってねスコッチ、期待してるから~。」

 

「何じゃそりゃ!?」

 

ラファールがスコッチにウィンクをしてみせる。

すると、スコッチは後ろから肩を叩かれ、振り返ると

 

「スコッチ、頑張ろ。」

 

サーニャがサムズアップしてスコッチを励ましていた。

 

「で、でもなぁそんな大会だったら予選とか有るんじゃないのか...?」

 

「"スクワッドジャム"と同じく予選は無いですよ、こっちから主催の日本のGGO運営に参加の旨を書いたメールを送ればそれで参加完了です。」

 

「説明ドーモ。」

 

スコッチとピエージェは相変わらずお互い睨みつけている。

 

「はぁ...大丈夫かなこれ...。」

 

ラファールは大きなため息をつき、再び2人の間に入るのであった。

 

 

 

- GGO内 SBCグロッケン外部 某所 -

 

 

 

「ほら、アンタから誘ってきたんでしょ?このクズ!」

 

フィールドに響く少女の声。髪を後ろで二つに結び、その二つ結び目には大きなリボンがつけられている。

 

「も、もう許してくれぇ!ごはぁッッ!!」

 

その少女の足元には後ろ手に拘束用アイテム(*2)で拘束された男性プレイヤーが一人。

少女の蹴りがそのプレイヤーの腹部に刺さるように入る。

 

「そろそろ死んじゃうかも、また打って。」

 

「うん。」

 

少女が話しかけた相手、全く瓜二つの容姿をした少女だ。

アイテムストレージから体力回復用のオートインジェクター(自動注射器)を取り出す。

 

「おい...?!もうかんべんしてくれぇ!!!」

 

彼の言葉など耳に入らぬかのようにその少女は、取り出した注射器を彼の首筋に勢い良く刺す。

 

「その注射器ちょっと高いんだから、もっと私達を楽しませてよね~、あはっ!」

 

そう言うと、ぐったりとした彼の頭部を足で起こす。

 

「へ、へへ...。いい眺めだぜ...。」

 

頭を足で無理やり起こされた彼の目線の先には、少女のスカートの中が見えていた。

 

「誰が見て良いって言ったの?! 変態!」

 

少女は足を彼の頭から更に上げて、それを勢い良く振り下ろし彼の頭の天辺に踵落としを食らわせる。そして、アイテムストレージから自身の武器、M1897 "トレンチ"(*3)を実体化させると、ポンプを操作し装填させ跪かせた彼の両太ももに散弾を放つ。

 

「ぐあッッッ!!!」

 

彼の両太ももが赤く煌き、ポリゴンの破片が宙に浮かぶ。

 

「お姉ちゃん、そろそろ拘束アイテムの耐久値が0になるよ?」

 

トレンチガンを持っている少女と瓜二つの、もう一人の少女は拘束しているプレイヤーの後ろに立っており、拘束用アイテムが赤く煌き始め、耐久値が0になりかけているのに気づいた。

 

「えぇ~、もう時間?しょーがない、終わりにするかぁ。ほら立って!」

 

そう言って彼を立たせると、再びトレンチガンのポンプ動作をする。

 

「さっさと殺せよ...! このクソガキ...!」

 

フラフラとしながらも少女たちに悪態をつく彼。

少女達はお互い顔を見合わせて、ニッコリと笑う。

 

「じゃあ終わりにするね!」

 

そう言うと少女らしい微笑みをしたまま、トレンチガンを構える。彼の下半身に向けて。

 

「は...?」

 

短くも長く感じたその時間は響き渡る数回の銃声によって幕を閉じ、彼の今まで以上の悲鳴がフィールドに広がる。

 

「はぁ~あ、全然楽しめなかった。」

 

メニューウィンドウを操作し、まだ銃口から硝煙の上がっているトレンチガンをアイテムストレージへ戻す。

 

「そういえばお姉ちゃん。」

 

「うん?どうしたの?」

 

「夏休み、GGOの大会があるみたいなんだけどどうする?ほら、これ。」

 

もう片方の少女がメニューウィンドウを開き、ブラウザを立ち上げイベントページを表示する。

 

「大規模チーム戦かぁ。」

 

「どう?」

 

「もちろん出るでしょ!」

 

「そう言うと思ってもう"参加します"って運営にメール送っておいたよ。」

 

「流石、頼れる妹だね~!」

 

そう言って、少女はもう片方の少女の頭を撫でる。

この少女達こそ、スコッチが探している"双子の悪魔"で、数カ月後の大会でサーニャ達が戦うことになることをまだ彼女達も、そしてサーニャ達もまだ知る由も無かった。

 

 

 

第一章 終

 

 




*1 "M11/9"
1969年にゴードン・イングラムの経営するSionics社が、同社の"MAC-10"の小型版として開発した"MAC-11"を後年MAC社から製造権を受け継いだSWD社によって9mm×19弾を使用するよう改良されたサブマシンガンである。
最大の特徴は延長されたレシーバーの後半部であり、ボルトの後退量を稼いでいる。このため発射サイクルが低下し、あまりのじゃじゃ馬で弾薬を弱装の.380ACPに落とさざるを得なかった本来のMAC-11の弱点を解消し、多少コントロールしやすくなっている。

*2 "拘束用アイテム"
GGO内で使用される手錠のようなもの。
SFチックな見た目で、使い方は現実世界の手錠と一緒ではあるが、解錠方法は鍵ではなく予め設定された4ケタのパスワードを本体の小型モニターに入力しなければ解錠することはできない。
なお拘束はゲームの仕様上15分間であり、拘束したその時から耐久値が減り始め15分後に耐久値が0になり、消滅する。

*3 "M1897 Trench"
ジョン・ブローニング設計によるポンプアクション式散弾銃。同じくブローニングが設計した"M1893"の問題点を改善させたもので、元がレバーアクション式だった物をポンプアクションに改めたため、後のモデルと異なりハンマーが露出しているのが大きな特徴。M1897のグレードの一つである"トレンチ"は塹壕戦で扱いやすくするためバレルが若干短くなり、M1917バヨネットを装着するための着剣装置が加わっている。また過熱した銃身から射手の手を守るため、バレルジャケットも追加されているのが特徴である。第一次大戦では、塹壕戦の狭所戦闘にて凄まじいまでの有効性と残虐性を示し、"トレンチガン(塹壕銃)"の異名を得るほどまでに活躍した。


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第二章:アイランド・ブレイク
OPS 11:アイランド・ブレイク


▼お久しぶりです。

▼今回から第二章、大会編が始まります。

▼かなり日を分けて書いていたため、誤字やミスが有るかもしれませんがその際は
後日修正していきますのであしからず。

▼更新が遅れてしまいましたが、今後とも宜しくお願いします。


夏休みを前日に控え、世間では旅行などの計画で胸を躍らせている人々がいるが、今日もGGOではいつもの様にプレイヤーで溢れかえる。

そんな中、サーニャ達はスコードロン専用ルームでのんびりとしていた。

 

「あぁー夏休みなんて先の話と思ってたけど、もう明日からなのよねぇ~...」

 

バーの様に装飾が施された専用ルームのヘキサゴンカウンターに突っ伏して、少量入った飲み物と、ロックアイスが入ったグラスを揺らす。ロックアイスがグラスにぶつかり、音を奏でる。

 

「酔ったのか、ラファール?」

 

と、スコッチが言う。

カウンターにはハットとポンチョ、その他ここでは必要のない装備一式を解除したスコッチがグラスを磨いていた。

 

「酔う訳無いでしょ、オレンジジュースなんだから。」

 

身体はカウンターの机に突っ伏したまま、顔だけを動かしてスコッチの方を見てそう言うラファール。手に持たれたグラスの縁にはカットオレンジが添えてある。

 

「実は香り付けにブランデーを...。」

 

カウンターの中の脇においてあるブランデーの小さなボトルを指差してスコッチが言う。

 

「えっ...?!」

 

カウンターに突っ伏していたラファールがさっと起き上がり、手に持っているグラスとスコッチを交互に見る。

 

「冗談だ、 未成年に酒は飲ませないさ。」

 

「はぁ...まったく...。」

 

再びラファールはカウンターに突っ伏す。

ラファールとスコッチがカウンターで話しをしている中、部屋の中央に背の低い横長のダイニングテーブルとそれを囲う様に設置されたソファにサーニャとその向かいにピエージェが腰掛け、サーニャは銃の手入れをしていた。

 

「あの、サーニャさん...。」

 

「うん?」

 

サーニャが丁度銃の手入れを一段落させたと同時にピエージェが話を切り出した。

 

「俺、実は今回の大会楽しみなのもあるんですけど、ちょっと不安で...。」

 

「どうして?」

 

「自分は銃がほとんど使えないので、足手まといになるんじゃないかと...。」

 

「そんなこと気にしなくてもいいよ。」

 

「分かっては居るんですけど...。」

 

「君が出来ないことを、私達がする。私達が出来ないことを君がすればいい。」

 

「は、はぁ...。」

 

「明日はよろしくね、"ピー君"。」

 

「へっ...?ピー...?」

 

ピエージェは急にそう呼ばれたため、少し困惑したがサーニャは何事もなかったかのように次の銃の手入れを始めていた。

そしてゆっくりと時間は過ぎ、1日が終わり夏休み初日が始める。

 

 

 

- SBCグロッケン 総督府 地下20階 待機ロビー-

- 午前 11:30 -

 

 

 

エレベーターを使って総督府地下20階へと降りる。

サーニャ達以外にこのエレベーターに乗っているプレイヤーはおらず、談笑しながらエレベーターに乗っている。未だにスコッチとピエージェの仲は良いとはあまり言い難いが、4人とも大会への緊張はそこまで無いように見える。

あっという間に地下20階に着き、扉が開かれると今までに感じたことの無い異様な空気にさらされた。開会式が行われる総督府の地下20階に設けられた待機ロビーにサーニャ達は向かうと、開始30分前ではあるがそこにはかなりの数のプレイヤーがごった返しており、今回の大会のことなどを話し合っているプレイヤーが見受けられる。

エレベーターの近くにいた何名かのプレイヤーはサーニャ達を睨む様に何かを探っているようだがサーニャはそれを気にせず、もしくは気づいてないのか足を運んでいく。

 

「こんなにたくさん。」

 

とサーニャは辺りを見回しながら言った。

サーニャはGGOの中でこれほどの数のプレイヤーが一箇所に集まっているのを今までに見たことが無く、驚いていた。

何とか空いているテーブルスペースを見つけ、腰をかけ一息つく。

 

「BoBの時ですらこんなにいなかったわね...予選が特に無いから初心者プレイヤーも気軽に参加出来るからかしら。」

 

「ん?ラファール、BoBに参加したことあるのか?」

 

スコッチが聞く。

 

「予選落ちだけどね~、1年前くらいだけど。」

 

何度か開催されているBoB(バレットオブバレッツ)ではブロック別に予選があり、各ブロックの一位、二位が決勝に進むことが出来る。対して今回行われる大会では、人数制限は有るものの予選は無かった。

 

「という事は、いろんな人がいるわけだ。」

 

「サーニャ、楽しみ?」

 

「うん。」

 

すると、ロビーのモニターに"各参加者に番号を配布する"との文字が流れた。

モニターに文字が流れた後、一斉に参加者へ数字がランダムに送られ、ウィンドウとして表示された。

 

「"80"...数字から見るにかなりの参加者ね、これ...。」

 

「100人位は参加してるってことだよね。」

 

ラファールやサーニャの言うとおりスコッチやピエージェのウィンドウにも100番台の数字が表示された。

総督府の一階ロビーに入れる人数は決まっているため、更に上の階などにその他の参加者を振り分けられているようだ。

全参加者に番号が配布された後、モニターには"これより参加者全員を待機エリアへ転送します。"との文字が流れた。直後ロビーに居るプレイヤーは青い光に包まれ、サーニャ達も同じく光の中に消えていった。

 

 

 

- GGO内 スタンバイルーム -

 

 

 

「真っ暗。」

 

一番最初に転送が完了したサーニャが言う。

すぐに3人とも到着したが、転送された場所は一面暗闇で4人がいる箇所だけ不自然に明かりが点っているスペースだった。

 

「おい、左腕になんか付いてるぞ。」

 

スコッチがそう言い、各自が左腕を見る。

左腕には時計のような、デバイスが付いており現在の時刻を示していた。

すると、ゲーム内のアナウンスが流れ、女性の声で話し始めた。

 

『プレイヤーの皆さんの腕に装着されているのは、本大会で使用する時計型ホログラフィックデバイスです。』

 

「ホログラフィックデバイス?」

 

『はい。』

 

「返事した。」

 

アナウンスの音声はサーニャの声に対してリアクションを返してきた、ゲーム内のCPUと同じAIシステムだ。

 

『マップや、その他情報をそちらのデバイスで見ることが出来ます。文字盤を押してみてください。』

 

そう言われ、ボタンも何も付いていない時計のようなデバイスの文字盤に軽く触れる。するとサーニャ達の足元に大きく立体的なマップが映し出された。

サーニャ達4人の位置は白くマークされ、その映像に触れることも出来、いろいろな角度からマップを見ることも可能だ。再びタッチするとそのマップはばらばらになり、デバイスに吸い込まれるように消えていった。

 

「なるほど、これは便利。」

 

『銃やその他アイテムと違ってそちらの端末は壊れることが無いイモータルオブジェクトですのでご安心を。さて、今回の大会のルールですが。』

 

一拍置かず、アナウンスは大会のルール説明を始める。

 

「そうそう、それ大事よね。」

 

「そういえばまだ、ルールというルール知らされてなかったな。」

 

『大会自体は大会用に用意された島、"ISLアーネスト(*1)"にて行われます。戦闘時間は約5時間程度と予測されます。』

 

「結構ハードだなぁ...おい。」

 

スコッチが愚痴をこぼす。

 

『制限時間よりも先に1スコードロンを残して全滅すればもっと早く終る可能性もあります。』

 

「もし全滅しなかったら?」

 

サーニャが聞く。

 

『サドンデス形式で島のとある場所に転送され、決着を付けていただきます。もしそのような事になる際は運営の方からアナウンスさせていただきますのでそれは後ほど』

 

「弾とかの補充とか出来ないんですか?長い時間戦ってれば弾薬とか消耗品が無くなると思うんですけど...。」

 

ピエージェが聞く。

 

『定期的に、輸送機が上空から物資を島の何処かにいくつか投下させます。車両等はプレイヤーが持っているものは使用できませんが、島の各所に放置されている物を使用することが出来ます。』

 

「スコードロン同士で奪い合いの戦闘になりますね...。」

 

『プレイヤーはマップにスコードロンごとバラバラに配置されます。開始直後の各スコードロン間の距離は離れておりますがBoB、SJほど遠くはありません。』

 

「開始後直ぐに戦闘も、ありえるわけね。」

 

『可能性的にはあり得ます。最後まで1人でも行き残ったスコードロンが勝利です。」

 

 

「あ、そうそう今回もBoBとかSJみたいにスパイ衛星とかあるの?」

 

他の大会ではスパイ衛星という何分かに1回、上空をスパイ衛星が通過し全プレイヤーの位置を端末に表示する、というものがあった。

 

『はいもちろん、今回は30分に1回上空を飛行し、各スコードロンの位置情報データをプレイヤーへ送信します。』

 

「なるほど。」

 

『それでは他のスコードロンの方達にも説明が終わったようなのでカウントダウンをさせていただきます。』

 

そう言うとサーニャ達の前に120秒後開始のカウントダウンを示すウィンドウが現れた。

 

「さぁて、このメンバーで戦闘するのは始めてだけど他のスコードロンを倒して優勝するわよ!」

 

「無茶だとは思うが...まぁ無駄に死ぬよりそれなりに戦ってから死にたいものだな。」

 

「銃は使えませんが...足を引っ張らないように頑張ります...!」

 

「どんな人と戦えるか楽しみ、絶対勝とうね。」

 

『それでは転送します、"アイランドブレイク"開始。ご武運を。』

 

カウントは3.2.1と進み、4人は再び青白い光に包まれた。

 

 

 

- ISLアーネスト -

 

 

 

何もない空間に突如青白い光が輝き、転送されてきた4人のアバターが無数のポリゴンから成形され形になる。

 

「全員物陰に...!」

 

4人は同時に転送が完了し、ラファールの掛け声ととも近くの腰ほどの高さの壁に身体を隠し、張り付く。

 

「よしっ、皆無事に転送完了したみたいね。」

 

全員が壁に居ることを確認し、ラファールは「ふぅ...」と息を吐いた。

 

「ピエージェ君、現在位置教えてもらえる?」

 

「了解です!」

 

ピエージェは転送前に説明された端末を操作すると、空間上に大きくマップが

表示された。

 

「うわっ、広いなぁ...。と言うか少し涼しいような寒いような。」

 

マップを開いたピエージェが言う。

表示されたマップは縮小表示されており、約200km²の島全体が映し出され、島の見て呉れは常夏のリゾート地ではあるが異常気象という設定のおかげか夏とは思えない気温であった。

 

「歩いて全部回るのは大変そう。」

 

コッキンングレバーを引いて初弾を装填、ピエージェの開いたマップを横目にそういう。

 

「とりあえず自分たちが居るのはここ、ISLアーネストの北東にある島です。」

 

縮尺表示されたマップの右上の少しばかり小さな島にサーニャ達がいることを示す白い表示がされており、そこに触れると拡大表示されより詳細を知ることが出来た。

ISLアーネストの本島から北東、橋を挟んだ先にある高級ホテルやプール、ビーチがあり、その島のホテルとビーチの間に湖に浮かぶ円形のレストランにサーニャたちは居た。

 

「見た目はいかにも南の島って感じ...、現実世界で来てみたいわねぇ...もちろん夏に。」

 

「これからどうします...?」

 

「うーん...多分こっちの島がそれだけの広さがあるとすると私達以外にも、もう1、2組ぐらい居るでしょうね。」

 

ラファールも自分の端末からマップを開き、序盤の行動を練っている。

 

「とりあえずここに留まっていても仕方がない。まずはそこらに放置されてる車両を...。」

 

スコッチがそう言い、身を隠していた壁から立ち上がると銃声とともにスコッチの鼻先を銃弾が霞め、向かいにあったカウンターに穴を開けた。

 

「スコッチ伏せて!」

 

サーニャが立ち上がったスコッチの腕を引っ張り、壁に再び引き込む。

 

「すまないサーニャ...。」

 

「まだ始まったばかりなのに...! どこからか分かる?」

 

ラファールがそう聞くと、サーニャは壁の端の方まで移動し壁の終わりから顔をのぞかせる。サーニャが顔を出して2秒ほどたって弾道予測線が射手から伸び、サーニャのほうに再び弾丸が飛んできた。

 

「向こうのホテルから狙撃して来てる。」

 

「二手に分かれるわ!、ピエージェ君とスコッチはここでスナイパーの目を引いてて!私とサーニャはホテルに近づくから、もし何かあったら無線で連絡して!」

 

ラファールはそう言うと自身のホルスターから二丁のグロック18を取り出す。

 

「相手も一人だけってことはないから十分注意して!行くよサーニャ!」

 

サーニャに呼びかけ、カウンターから出て行こうとするラファールにスコッチが

 

「言っておくがリーダーはお前だ!死ぬなよ?!」

 

「任せておきなさい!」

 

スコッチはラファールの返答を聞くとストレージから"ウィンチェスターM1886(*2)"を取り出し、応戦する。

それを背にサーニャとラファールは、ホテルへと走りだす。




*1 "ISLアーネスト"
今回の大会の舞台、SBCグロックケンから遠い面積約20km²ほどの南の島。
ホテルやレジャー施設などが有り、観光客で賑わっていたが今では異常気象と文明崩壊により島全体が廃墟と化している。
サーニャ達が転送されたのはISLアーネストから橋を挟んで北東にある別の小さな島で、そこには高級ホテルの跡地と美しい砂浜、ビーチがある。

*2 "ウィンチェスターM1886"
ウィンチェスターM1886のベースとなった"ウィンチェスターM1873"はレバーアクションで有名な、西部開拓時代もといアメリカを代表する名ライフル。「西部を征服した銃」と呼ばれる。ウィンチェスター社初の銃である"M1866"に様々な改良を加えたもので、西部開拓民が先住民と戦う際に多く使用された。制式名がM1873で口径が同じであることから、コルト SAAの相棒ともいわれる。スコッチが使用するウィンチェスターM1886は内部構造の見直しによって、フル規格の45-70ライフル弾他、強装の50-110ウィンチェスター弾まで使用できる。


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OPS 12:ファーストコンタクト

▼ご無沙汰しております。約1年ぶりの更新です。

▼武器や大会の設定が1年前と少し変わっているところがございますので、以前見てくれていただいた方は、恐縮ですが前回の話も踏まえてご覧になっていただけたら幸いです。


- ISLアーネスト ホテル上層階-

 

 

 

青い海、白い雲、キラキラと眩く浜辺、誰もがバカンスを楽しむであろうこの島では

不釣り合い過ぎる程、銃声が鳴り響いている。

 

「馬鹿!撃つなって言っただろ!」

 

「2人しか見えなかったんだよ!」

 

リゾートアイランドには場違いな格好をした二人組の男が、ホテルの最上階付近で何やら揉め事をしている。

 

片方はヘルメット、もう片方はニットキャップを被り、二人共々ドイツ系の装備を身に纏っている。メインの武器はヘルメットを被っている男が"G36A2"(*1)、ニットキャップを被っている男が"ブレーザーR93 Tactical2"(*2)を装備し、ニットキャップの男がスナイパーということが伺える。

 

「おいっ!二人が走り始めたぞ!撃て撃て!」

 

ヘルメットの男がそう言ってスナイパーの男を急かすと、物陰から走っていった2人のプレイヤーに射撃する。

が、初弾を外したためバレットラインが見えているのか上手く当たらない。

 

「さっき頭出してたのはあいつらか?」

 

「いや、今走ってったのは女の子二人だ。俺が最初に撃ったのは髭の生えた男だったぞ。」

 

スナイパーの男が言った矢先、狙撃していたテラスの壁に数発弾が着弾した。どうやら相手が位置を特定して反撃した様だ。二人は慌てて身を屈めながら部屋へ避難する。

 

「くっそ!位置バレてんじゃねぇか!結局敵は何人だ!?」

 

「4人だ4人!」

 

「じゃあお前は位置を変えて再度狙撃しろ!俺は走ってった二人を探す!」

 

「了解了解!」

 

二人は作戦を立てると、慌しく部屋を出て別れた。

 

 

 

- ISLアーネスト ホテル外 -

 

 

 

二手に別れたサーニャとラファールは、開始早々狙撃をしてきたスコードロンを倒そうとしている。

リスポーン地点のレストランから敵からの狙撃を避け、ホテル側に走り込み、サーニャとラファールはホテルの裏口と思われる扉の前に張り付いた。

 

「ふぅ…なんとかホテルまでたどり着いたわね…。」

 

そうラファールは言うと、一呼吸置いてリスポーン地点で別れたスコッチとピエージェに通話用アイテムで連絡を取る。

 

「こっちはホテルにたどり着いたわよ、そっちは大丈夫?」

 

『あぁなんとかな…!いま狙撃が止んだから俺たちも別の場所に移動してる所だ。』

 

サーニャの耳に装着された通話用アイテムからも同じく声が聞こえる。スコッチは続けた。

 

『こっちで確認出来たのは2人だけだが、他にまだ居るかもしれない。気をつけろよ!』

 

「そっちもね、じゃ!…よしっ。」

 

「向こうも大丈夫そうだね。」

 

「だといいんだけど…じゃあ私達も行こっか!」

 

「うん」

 

サーニャとラファールは早速扉の前に。

ラファールが指で3、2、1…とカウントダウン。サーニャはAKの安全装置を

解除し、合図でラファールが扉を開けるとサーニャが先行して入り、左右を確認。

 

「クリア、ラファール入ってきていいよ。」

 

扉の後で待機していたラファールを呼ぶ。

右側にはホールの様な開けた場所、左にはエレベーター。

どうやらここはロビーと各フロアへ行けるエレベータを結ぶ通路のようだ。

 

「どうする?」

 

リスポーン地点から移動していた時、上から狙撃してきたプレイヤーの他にもう一人居たのはスコッチからの無線で把握済み。狙撃が止んだという事は、サーニャ達の位置がバレて位置を変えたか、下から攻めてくる事を察して迎え撃つ為に下に来ているか…

そんな事をサーニャが考えていると、左のエレベーターから「チン」という音がした。サーニャが気づいた時には扉が開きかかり、プレイヤーの姿を確認した。

 

「ラファール!」

 

「えっ…!?」

 

ラファールを連れて近くの柱に隠れ様としたが、間一髪間に合わず、目視された。

 

『げっ!もうここまで来てんのかよ!』

 

柱に逃げ込むと後ろから相手プレイヤーの声が聞こえ、同時にこちらに対して弾を撃ち込んできた。

 

「ラファール撃たれた?」

 

「ううん、大丈夫。エレベーターで降りてくるなんて大胆ね…!」

 

一瞬弾幕が止み、隙有りとサーニャも柱の陰から応戦しようと試みたが、エレベーターの扉は静かに閉まっていた。

エレベータの前まで歩いて行くも、すでにエレベーターは動き出し、エレベーターの階を示す数字が上へと進んでいた。

 

「また上の階に行ったみたい。」

 

エレベーターの現在位置を知らせるランプは25階で止まった。

 

「私達もエレベーターで後を追うよ!」

 

このホテルは25階(屋上を含め26階)もある大きなホテルで、階段を使うとなるといくらゲームでも体力が持たない。

私たちは先程のプレイヤーが乗っていたエレベーターとは別の右側にあるエレベーターに乗り込む。

 

「あの人は25階で降りたから、私達はその一つ下、24階で降りよう。」

 

「おっけーい!」

 

何故一つ下の階に降りるのか、それは屋上を除いた25階で降りた場合待ち伏せされ、扉が開いた瞬間にグレネードでも投げられたら堪ったものではないからだ。

また、25階より上の階を押し降りようとしても直前で25階のボタンを相手プレイヤーに押されたら結果は同じである。恰好の的にならずに済むには24階から進む方が安全なのだ。

 

エレベーターはぐんぐんと上り、24階のランプが点滅すると"チン”という音と共に扉が開く。

各部屋へ行く通路はスーツケースや衣類、ペットボトルなど物が散乱しており、海辺とは一転世紀末、廃墟的な感じが漂っている。

 

「じゃあ、行こうか。」

 

ラファールに声を掛け、サーニャは24階の部屋をクリアリングしてゆく。

隈なく、そして素早く正確に一つの部屋を終えて行く。

ラファールも辺りを警戒しながら進んでいるが、サーニャの動きに感心してチラチラとサーニャの方を見ていた。

幾つか部屋を見回し終わって2406番客室に入った時、サーニャはある事に気づいた。

 

「ここからの景色…。」

 

「どうしたの?」

 

ラファールが後から声をかけ、近づいてくる。

 

「わぁ!すっごい綺麗!」

 

眼下に広がる青い海と晴天の空、その境界がはっきりと分かる。

ここが戦場だと忘れるほどである。

実際、ラファールは忘れているのか目をキラキラと輝かしながら景色を楽しんでいる。

 

「確かに綺麗なんだけど…ほら、あそこ。」

 

我に返るラファールは、サーニャが指差した場所を確認する。

 

「うん?あっ、私達がスポーンしたレストラン?」

 

そこは丁度サーニャ達が居たホテルのバルコニーから1時の方向にスポーンしたレストランが見えた。

 

「狙撃されてるときに私が見たスナイパーの位置と、今私達の居るこの部屋がぴったり一致するんだ。」

 

サーニャがそう言うと、二人の耳に付けた通話用アイテムからノイズ音と共にスコッチの声が聞こえた。

 

『そろそろ一回目の偵察衛星の時間だぞ。』

 

スコッチの言葉で、ホログラフィックデバイスの腕時計を見るラファール。

時計は午前 12:29を指し、残り30秒足らずで衛星が通過する。

 

「ありがとう、今何処に居るの?」

 

『ラファール達が入った所と正反対の入り口だ、距離はあるがそっちに向かう。』

 

『僕はスコッチさんと別行動で、少し離れた位置からホテル全体を監視しています。24階のテラスに居るサーニャさんとラファールさん以外見えないですし、屋上にも人影はありません。」

 

「オッケー、二人共気をつけて。」

 

「ラファール、衛星来るよ。」

 

サーニャはスコッチとピエージェの無線を聞いて、ホログラフィックデバイスのマップを開いていた。

ホログラフィックが島全体を映し出し、サーニャの操作で彼女達の居る島の北側のホテル周辺を表示させる。

電子音のアラームが腕時計から発せられ偵察衛星通過が開始される。現状サーニャ達と相手のスコードロンの位置が表示される筈だが、ホテルの周辺にはプレイヤーが居るマーカーが一つしかなかった。ちなみにスコッチたちの位置が表示されていないのは、マーカーはスコードロンのリーダーの位置しか表示されないからだ。

 

「私達しか居ないよ…?」

 

サーニャが言う。

 

「いや…ちょっと待って…。」

 

ラファールがホログラフィックに触れ、マーカーに触れると"サーニャ達スコードロン名"(*3)のポップアップと同時に、知らないスコードロン名"EAST BATTALION"のポップアップが重なって表示される。

 

「ねぇ、これって…。」

 

ラファールがそう言うと、サーニャはこくっと首を動かし肯定すると、天井を見上げる。

サーニャはスリングで体の前に垂らしていた銃を再び握ると、天井に向かってダダンッダダンッ!と連射し、それに続き今大会始まって初めてラファールも、自身のグロック18Cを放った。

偵察衛星からプレイヤーの位置情報が分かるというシステムは便利なものだが、高低差までは再現しきれない為、複数の階層がある建物内で別プレイヤー同士が別階層で重なっていると、マーカーもそれに伴い重ねて表示してしまう。

今回の場合、敵が一つ上の階にいる事は明白(ピエージェからの事前の無線で2つ上の屋上に人影が無い事は確認済み)だった為、サーニャ達は現在居る部屋の真上の部屋に敵が居る事に気付いたのだ。

 

『銃声がしたが大丈夫か…!?』

 

スコッチが銃声を聞いて慌てて無線を飛ばしてきた。

 

「私達の上の部屋に敵が居る、さっきの偵察衛星のマーカーでそれが分かったんだ。」

 

サーニャが撃ちながら答え、続ける。

 

「スコッチ、今のうちにエレベーターを使って屋上で待ち伏せしてて。」

 

『屋上…?まぁいい、分かった。』

 

スコッチにそう指示したあと、ラファールに

 

「階段を先に抑えるよ、付いてきて。」

 

と言った。

 

「う、うん分かった!」

 

射撃をやめて部屋から出た二人は、移動中にリロードをしつつ、一箇所しか無い階段へと向かった。

 

 

 

- ISLアーネスト ホテル25階 2506客室 -

 

 

 

「はぁ?逃げてきた?」

 

客室で装備を整えていたスナイパーの男が駆け足で入ってきた仲間のもう一人に

ため息まじりで言った。

 

「向こうは二人だぞ!オレ一人でどうにもできねぇだろ!」

 

「上に逃げたら袋のネズミじゃねぇか…どうすんだよ…」

 

「っ…最悪うまいこと隠れてやり過ごすしか無いだろ…それか通路で

挟み撃ちにして倒しちまえばいい」

 

逃げてきた男は、図星を指されるもそう言い返した。

 

「そう簡単に行くかよ…それにそろそろ衛星が来る時間だぞ?」

 

そう言ってスナイパーの男は上を指差す。

もう一方の男がホログラフィックデバイスの腕時計を確認すると残り数十秒で衛星が

上空を通過するのを示していた。

 

「丁度いい、衛星に気を取られてる間に逃げちまおうぜ!」

 

「馬鹿野郎、下手に出れるか!敵の位置を確認するのが妥当だ。あとお前もう少し声の

トーン下げろ!」

 

そんなやり取りをしていると、衛星通過が始まるアラームが鳴った。

表示されたマップには彼ら二人の居るはずの場所にしかマークが表示されていなかった。

 

「おい、俺たちしか居ねぇぞ…?」

 

「表示バグってんのか…?こんな時に…。」

 

スナイパーの男が、彼らのマーカーをタップすると詳細表示のポップアップが表示され

そこにはスコードロン名"SILVER BULLETS"(*3)の文字が出ていた。

 

「俺達のスコードロン名じゃねぇな…。」

 

「なぁおい、これってもしかして…。」

 

二人が顔を見合わせたその時、銃声とともに二人の間を弾丸がかすめた。

お互い尻餅をつきながら、部屋から出る。

 

「あいつら俺達の真下の部屋にいやがった!」

 

「表示が重なってたって事かクソっ!」

 

部屋から死に物狂いで脱出した彼らは偵察衛星から送られてきた敵の位置情報マーカー

が一つしか表示されなかった意味を今理解した。

 

「階段だ!階段へ急げ!」

 

二人は25階の通路を全速力で走り、階段へと向かう。

しかし下りの階段を一歩踏み込んだ時、目の前に先程1階で出会った敵プレイヤーである

二人と鉢合わせしてしまった。

 

「あっ…。」

 

『あっ。』

 

敵プレイヤーの二人はすでに24階から階段で25階へと上がってこようとしていた。

 

「やっべぇ!」

 

彼らは素早く方向転換し上へと登る階段へ駆ける。

 

『待ちなさいこらぁ!』

 

声からして女性であろう敵側のプレイヤーが怒号を散らしつつ後ろから

追いかけてくる。

 

「上へ行っても逃げられないぞ...!どうすんだ!?」

 

息を切らしつつ階段を駆け上がりながらスナイパーの男が言った。

 

「最悪屋上で迎え撃つ…!」

 

階段を勢い良く駆け上がると、屋上へと通じる鉄扉が見えた。

二人は一気に登りきり、ドアノブを回すと同時に体当たりするかの如く扉を開け、閉まると

同時に外から鍵をかけた。

一息ついたと同時に、ドアの向かい数十メートル先にエレベーターがあるのを確認する。

 

「あれだ!あれで一気に下に降りるぞ!」

 

二人は嬉々としてエレベーターの方へと向かおうとすると、チンッとエレベーターの方から音が鳴った。

エレベーターの扉がゆっくりと開くと、中には二人が開始早々仕留めようとした髭を生やしたカウボーイ姿の男が一人立っていた。

 

『あぁ、ぴったり到着ってところか。お前達二人だけか?』

 

カウボーイの男はそう言いながら一歩ずつゆっくりとエレベーターから出てくる。

 

「あぁそうだよ、クソったれっ!」

 

二人は手持ちの銃を構え撃とうとするが、トリガーに指をかけるすんでの所でカウボーイの男から1、2発の銃声がした。直後、足と手の力がとたんに抜け、二人の手元にあった筈の銃がガシャンと金属音を立て地面に落ちた。

 

「ぐッ…!」

 

ガクッと二人は膝をつく。

二人の手元、丁度手首のあたりと膝を撃たれ、その箇所から赤いダメージエフェクトがキラキラと光っている。

 

 

『なぁ、敵さんをほぼ無力化したんだが俺でトドメを刺してもかまわないか?』

 

カウボーイの男は他の味方と連絡を取っている様で、耳元に装着された通話デバイスから微かに誰かの声が漏れている。

 

<<…って…は…よね…>>

 

通信デバイスからは微かに女性の声だと聞き取れる音声が二人の耳に届き、先程二人が

階段で出会った女性プレイヤーのどちらかと予想がついた。

 

「ハッ…お前そんなカウボーイみたいな小洒落た格好しといて、女とつるんでるのかよ…!」

 

スナイパーの男はカウボーイの男に向かって挑発する。

男は視線を挑発したカウボーイの男に向ける、そこには屈強な男でも後ずさりするのではないかと思わせる程冷酷な目つきをしていた。

 

「…っ!?」

 

挑発したスナイパーの男が息を飲むと同時に、二回小刻みに銃声が鳴る。

それと同時に挑発したスナイパーの男は倒れ込み、頭上には死亡した事を示す

DEADマークが表示されていた。

もう一人の男は気付いた、一つはこのカウボーイの男が只者ではない事に。

先程1、2発の銃声しかしなかったが、単純に"聞こえなかった"のだ。彼は人が聞き分けられる

音の速さよりも早く4発の弾丸を放ち、彼らの手首と膝に命中させていた。

そして残りの2発の弾で挑発したスナイパーの男の頭部を貫いた。GGOでは一発でも生身の頭部(特に脳組織)に命中すれば死亡判定だが、この男は情け容赦なく1発多くオーバーキルをしていたのだ。

 

<<ちょ…だ指示は…!>>

 

『ああすまん。無力化した筈だったんだがな、抵抗されて仕方なかった。』

 

カウボーイの男はそう言いながら跪いた男を尻目にリボルバー

"シングルアクションアーミー"の排莢を行う。

 

<<…よ…こっていれば…さして…>>

 

もう一人の男には、通信デバイスからは十分な音声は聞き取れなかったが。

これから何をされるのかはその会話から十分に取れていた。

カウボーイの男は排莢が終わり、銃弾を一発だけ装填する。

 

「悪かった!、降参(リザイン)す…」

 

『だ、そうだ。』

 

懇願する男の声を遮る様に、カウボーイの男は銃口を向ける。

 

『"お姫様"達から許可が出たんでな、ここでさようならだ。』

 

カウボーイの男は貼り付けた様な、目だけ笑っていない笑顔を男に向けるとトリガーに指を掛けた。

 

 

 

- ISLアーネスト ホテル屋上 -

 

 

 

サーニャはホルスターからストライクワンを抜き、鍵の掛かったドアノブ目掛けて数発打ち込み蹴破る様に開けた。鉄扉が勢い良く開きサーニャはそのままハンドガンを構え屋上へと到着し、その後ろに少し息を切らせながらラファールが続いて入っていく。

入ってすぐに二人の目についたのはごろりと無残にも床に転がっているプレイヤーが二人。頭上にはDEADマーカーが煌々と表示されている。

その近くでは銃を回転(スピニング)させ、ホルスターに銃を収め終わったスコッチの姿があった。

 

「おぉ、お姫様方のご登場だ。」

 

二人に気づいたスコッチは調子の良い笑みを向けると、これまた調子の良い台詞を発する。

 

「なによそれ。こっちはアンタが危なっかしいから急いで駆けつけたってのに!」

 

「ん?俺がいつ危なっかしい事をしたんだ?」

 

「さっきの無線の事よ!抵抗されたとか言ってたでしょ!」

 

「ああ、なんだ心配していくれたのか?可愛い所もあるんだなぁ。」

 

「っはあぁ!?だーれが心配なんか、初っ端で戦力を失くすのは勿体無いからよっ!」

 

翻弄されているラファールと、良い様に弄んでいるスコッチを尻目に、サーニャは転がっている二人のプレイヤーを調べていた。

 

「…。」

 

片方のプレイヤーに視線を向けると、弾痕が頭部に二つある事に気づく。

無線では抵抗されたからと言っていたが、それにしては狙いが正確である。

まして一発当たれば倒したとシステム上で気付く筈がなのだが、どうした事か正確に二発撃ち込んでいるのだ。

 

「なるほど…。」

 

サーニャが思索に耽っている後ろでは未だきゃいきゃいと言っているラファールと、まるで幼子をあやすかの様に頭を撫でくり回すスコッチのやり取りが続いていた。

途端、スコッチが目の色を変えるや否や

 

「サーニャ、隠れろ!」

 

と。声を荒げて言う。

刹那、ドスッと鈍い音が聞こえた。

サーニャはとっさに伏せたが、よく見るとスコッチは近くに居たラファールに覆い被さっていた。

 

「うぐ…っ」

 

スコッチからは小さくではあるが低く呻き声を発していた。

どこから狙撃されたのか定かでは無いが、一つ分かる事としては弾丸はスコッチの丁度右肩を貫いていた。

 

「いたたたた…っ?!スコッチ!?」

 

スコッチが覆いかぶさった事が功をなしたのか、ラファールは負傷を免れていた。

 

「悪い…ケガは無いか?」

 

「ケガは無いかじゃないわよ!あなた、私を庇って…!ダメージは!?大丈夫なの!?」

 

ラファールが正体不明の狙撃から狼狽している中、サーニャは先程の敵プレイヤーの亡骸の側に落ちているスナイパーライフルに手を伸ばすと

 

「二人共、そのままで。」

 

未だ狼狽えているラファールと負傷したスコッチに声を投げ掛ける。

そう言った最中敵からの第二射が放たれ、これはホテルの壁に命中したようだ。

こちらに撃ってきてはいるが射撃音が聞こえない、これはサプレッサーの影響であろう。

しかし二射目の狙撃の場合、バレット・ラインが見えるはずなのだが見えなかった。

 

「何処…。」

 

数十分前のスパイ衛星の際、サーニャ達の付近には倒した二人組のマーカー以外は一切写っていなかった。

サーニャの眼が緑色に光り、スコープは覗かず、視力強化スキル"ホークアイ"(*4)の目視で見つけようとする。

すると遠方に何やらギラギラと反射する光が点滅していた。それはスコープの反射光で

サーニャはそれを見つけ、ピエージェに無線で連絡を入れた。

 

「ピーくん今何処?」

 

『これからホテルへ向かって合流しようと思ってます。』

 

単独でホテル周辺を見張っていたピエージェから返答が来る。

 

「ごめん、スコッチが狙撃で負傷しちゃった。」

 

『えっ!?サーニャさん達は?!』

 

「私達は大丈夫。ピーくん、今から教える場所を偵察して欲しいんだ。」

 

サーニャは極AGI型のピエージェに偵察を要請した。

 

『わ、分かりました!どうぞ!』

 

「私達の居るホテルから南方約800m位、私達の居るこのホテルよりも少し大きめのホテル。」

 

サーニャは光が発光。敵狙撃手のスコープレンズが反射していた位置をピエージェに伝えた。

 

『見えました!あれですね!』

 

「もし気付かれて攻撃されたら引いて構わないから」

 

『了解です!』

 

サーニャは無線を切ると、スコープを覗いてスコープレンズの反射に向かって躊躇なくトリガーを引く。

弾丸は逸れたが向こうもこちらに悟られた事に気付いたのか、移動を始めた。

 

「外した…。」

 

サーニャは拝借したブレイザーR93のボルトを引き排莢し、再びボルトを戻して次弾を装填するが、スコープから目を放しラファールとスコッチの方へと駆け寄る。

 

「大丈夫?」

 

ラファールとスコッチはサーニャがピエージェと連絡を取り合っている間に、ホテルの最上階階段前まで退避していた。

 

「あぁ、肩に当たったみたいだ。」

 

スコッチの言葉通り、肩に少し大きなヒットエフェクトがキラキラと赤く光っている。

 

「ごめんなさいスコッチ…私の不注意で…」

 

ラファールは肩を落とし、俯きながら言った。

 

「気にするな、なぁにちょっと痺れてる位すぐ元通りになるさ。」

 

スコッチはそう言うとラファールの肩をぽんと叩いた。

とは言え、利き手である右の肩を負傷している為、一定時間は射撃精度などの

ステータスにデバフ効果が働くのは確かであった。

 

「とりあえず今ピーくんに偵察に行ってもらったから、どんな敵かはそのうちわかると思うよ。」

 

 

 

- ISLアーネスト 南側ホテル -

 

 

 

ピエージェは先行してサーニャ達を狙撃したと思われるホテル近くの建物に到着していた。

先程ホテルからサーニャが撃った銃声以降、周囲一帯は静まり返っている。

耳元に装着した通信用アイテムにサーニャが連絡を送ってきた。

 

『そろそろスパイ衛星が来るよ。』

 

ピエージェは時計を見る、あと数十秒で2回目のスパイ衛星通過だ。

 

「そっちは大丈夫ですか?」

 

『うん、今の内にさっきスコッチが倒した敵から使えそうな弾薬とか整えておくから。ピーくんも気をつけて。』

 

「了解です!では。」

 

通話を切ると、腕時計型のホログラフィックデバイスを展開する。

展開すると同時に衛星が丁度のタイミングで通過した。サーニャ達を狙撃してきた

敵スコードロンは既にホテルを出て居る様だ。

幸い、チームリーダーであるラファールが先程のホテルに居る為、ピエージェの姿はマップにマークされない。

 

「もう移動してる…行動が早いな…。」

 

ピエージェもデバイスを閉じ、建物と建物を縫いながらホテルを大回りする。

ホテルの外周を回ってみると、地下駐車場へと続くゲートと広めの通路が見えた。

 

「さっきのマーカではここの筈だけど…。」

 

すると、地下駐車場ヘと続く通路の奥から車と思わしきエンジン音が聞こえてきた。

ピエージェが恐る恐る近づこうとすると、地下駐車場から猛スピードで車が出口に向かって走ってきた。

 

「やばっ!?」

 

車の形状はピックアップトラックで前に二人と後ろの荷台部分に4人の計6名が乗っている。敵側もピエージェに気づいたのか、荷台の4人が銃を構えピエージェに向かって発砲してくる。

ピエージェも棒立ちという訳とは行かず、持ち前の俊敏さで間一髪近くのコンクリート壁に身を隠し難を逃れた。

 

「サーニャさん達、聞こえますか?」

 

ピエージェはサーニャ達に連絡を送る。

 

『聞こえてるよ、敵見つけた?』

 

応答したのはサーニャだ。

 

「はい、でも見つかってしまって。敵は5人でした車を使って多分あの方角だと南側の本島の方に向かって行ったと思います。」

 

『了解、じゃあさっきのホテルの1階で落ち合おう。詳しい事はこっちに戻ったときに聞くね。』

 

「了解です!」

 

ピエージェは無線を切るとサーニャ達の居るホテルへと向かうのであった。




*1 "G36A2"
G36はドイツのH&K社が製造したアサルトライフルである。
フレームはプラスチックを多用して軽量化に努めている。また、マガジンも半透明のプラスチック製として残弾数を一目瞭然にし、ケースと一体成型のラッチを設けてクリップ無しにマガジン同士の連結を可能としている。
通常型であるG36(輸出モデルはG36E)の他、銃身を短くしたG36K(クルツ)、さらに短くしたG36C(コンパクト)、バイポッドを装備しドラムマガジンにも対応した軽機関銃版のMG36、スポーターモデルとしてアメリカの法規制に合わせたサムホールストックのSL8がある。
今回の敵である二人のうちの一人が通常型G36の改良型であるG36A2を使っていた。

*2 "ブレーザーR93 Tactical2"
ドイツのブレーザー社が1993年に開発した、狩猟用の直動式(ストレート プル)ボルトアクションライフル。
直動式ボルトアクションは、ボルトハンドルを手前に引くだけで次弾の装填ができるというもの。
ブレーザー社はスイスのシグ社の傘下に入ったことをきっかけに、それまで採用していた狩猟用の木製ストックではなく、アルミ合金のシャーシに、フォアエンドやバットストックを取り付けるというモジュール構造を採用。
競技スポーツ用としてLRS(Long Range Sporter)モデルがあり、今回敵側のニット帽を被った狙撃手が使っていたのは公的機関用としてフラッシュハイダーやバイポッドを装備したタクティカルモデル。

*3 "SILVER BULLETS"
サーニャ達のスコードロン名。
リーダーは一応ラファールなのだが、ざっとメンバーを並ばせると銀髪のサーニャが
一番目立つ為と、チームのマスコット的な意味でこの名前がつけられた。

*4 "視力強化スキル "ホークアイ" "
GGO内のスキル。
視力を強化するスキルで双眼鏡を使わずともある程度ズーム出来、また視界の
解像度が増し索敵がしやすくなるがスコープや双眼鏡との併用はできず、スコープや
双眼鏡ほど拡大されない。


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OPS 13:暗闇の再会

▼挿絵が完成したら投稿する予定でしたが、先に投稿させていただきます。
 挿絵はもうしばらくお待ち下さい。


- ISLアーネスト 東側市街地-

 

 

 

 

サーニャ達がまだホテルで戦闘を行っていた頃、本島東側に位置する市街地でも戦闘が起こっていた。"戦闘"と言ってもそれはあまりにも一方的で、早々に勝負は決したも同然であったのだが。

 

「はぁ…!はぁ…!くっ…!」

 

一人の男が息絶え絶えに市街地の大通りを走り、半身振り返りつつ右手に持ったハンドガンを彼が走ってきた方向へ乱暴に射撃を行う。

その方向の、ハンドガンの射線から外れた建物の屋根の上に二人の少女が佇んでいた。

 

「お姉ちゃん、あの人が最後だよ」

 

走る男に指を指す一人の少女はスリングを肩から斜めに掛け、小柄な身体には

とても不釣合いな"グロスフス MG42"(*1)を下げている。

 

「呆気なかったわね、装備的にもっと骨があると思ったんだけど」

 

ため息混じりにそう言った"お姉ちゃん"と呼ばれている少女は建物の屋根に座り込みながら足をぷらぷらとさせて、膝の上には散弾銃"M1897トレンチガン"が

置かれている。

 

 

「次の衛星がそろそろ来ちゃうし、早くしないと他のプレイヤーも来ちゃうかも」

 

「そうね、でもこの大通りで始めちゃうとそれこそ他のプレイヤーから狙撃されそうだし適当にあの人を路地に誘導して」

 

「了解、お姉ちゃん」

 

トレンチガンを持った方の少女は膝の上に置いたトレンチガンを手に取ると、そのまま

屋根を蹴って、飛び降りる。

一方トレンチガンの少女を見送ったMG42を持った少女は、銃に備え付けられたバイポットをその場で展開し、伏せの姿勢で銃口を男の方に向ける。トリガーに指をかけると銃口から赤々としたバレット・ラインが逃げる男の方へと伸びた。

空気を切り裂く細かく連発した音が轟き、男の足元の左側を10発ほどの弾丸が着弾する。

 

「っ…!?クソっ!」

 

男はそれを避けるように右の路地へと逃げ込んでいく。

 

「右手の路地に入ったよ、お姉ちゃん場所わかる?」

 

通話用アイテムで思惑通り男の進路を路地へと導いたMG42の少女はその旨を、先程屋根から飛び降りていったトレンチガンの少女に知らせる。

 

「もちろんよ」

 

路地を見下ろすトレンチガンを持った少女の口元が、怪しげに微かに歪む。

 

「はぁっ…何処まで追ってくるんだあいつら…!」

 

じりじりと追いつめられている男は息を切らしつつ、路地から逃げてきた大通りの方を覗き込み、追手が来ていない事を確認する。

人影がない事に安堵し、再び路地の方へ振り向くと建物のせいで日の当たらない日陰に先程まで居なかったはずの人影が路地の数百メートル先あった。

 

「ッ…!」

 

一瞬で察した男はハンドガンを人影に向け、数発撃ち込む。

しかし人影の動きは素早く、バレット・ラインが伸びて弾を撃ち出す時には、既に予測していたのか回避されてしまう。

人影がぐんぐんと距離を縮め、日陰から陽のもとに晒された姿はやはり男を追ってきていた少女二人組の片割れだった。

 

「ふふっ、そんな銃で私を倒そうなんて!」

 

狭い路地の建物の壁を走り、と思うと今度は壁を蹴って反対の壁に移ったりと、狭い路地を最大限に活用して男との距離を縮める少女。焦りから思う様に狙いが定まらず、その場で恐怖心を抱きながら震える手で銃口を少女に向けようとする男。勝敗を決めるには十分な材料であった。

少女が壁を蹴り、空中で一回転して男の数十メートルまで近づくと地面を思い切り蹴って男の元へロケットのように急接近する。

 

「なっ…!?」

 

無念にも弾が切れ、スライドストップの掛かったハンドガンのマガジンを交換する時間は男には残されていなかった。

少女は男の右側の足元へ抜けたかと思うと身を時計回りに回転させ、それと同時に手に持ったトレンチガンに付いた銃剣で男の両足を太ももから切断した。

 

「ぐあぁぁ!」

 

切断された足は中を舞うと空中でエフェクトのきらめきとともに消滅。

男のバランスが崩れ足が無いせいで体が宙に浮いてる中、少女は身体の向きを男の方に変えて今度は強烈な足技を男の腹部に入れると、男はすぐ横の壁へと吹き飛ばされた。

 

「一丁上がりね」

 

少女は男にゆっくりと近づく。

男はまだHPがゼロにはなっていなかったが、戦闘意欲は完全に喪失していた。

少女は手に持ったトレンチガンを男に向ける。すると男がポツリと一言呟く。

 

「っ…お前ら…最近噂の"双子の悪魔(デビルズ・ツイン)"だろ…?」

 

男がそう言うと少女はにやりと笑って。

 

「ご名ー答!」

 

少女は元気よく返答すると手に持ったトレンチガンを男の頭部目掛け連射、DEAD表示が出て破壊不可能なイモータルオブジェクトになるまで。撃たれた男の顔はエフェクトのきらめきがその破損具合にモザイクをかけるかの如く煌々と輝いていた。

 

「お姉ちゃーん!って、うわぁ…」

 

路地の奥から駆けてきたMG42を持った少女が男の亡骸を見るやいなや少々顔がこわばる。

 

「普通だとすぐに倒したプレイヤーは消えちゃうけど、大会中は消えないからこうやって見れるのは新鮮ね」

 

そう言いながら彼女は自身の銃の銃口で、力なく項垂れた男の頭部を突付く。

 

「それはともかく!もう衛星来ちゃうからそろそろ移動しないと!」

 

「そうね、そろそろ移動しましょうか」

 

そう言うと少女達は路地の暗がりへと再び消えていった。

トレンチガンを持った少女の名を"リア(Ria)"、MG42を持った少女の名を"シア(Shia)"

彼女達こそ、スコッチが追い、GGO内で噂されている"双子の悪魔(デビルズ・ツイン)"であった。

 

 

 

- ISLアーネスト ホテル2階客室通路-

 

 

 

開始早々2名のプレイヤーから攻撃を受け、なんとかこれを退けたサーニャ達は最上階から2階客室へと降りていた。

 

「それじゃあ私達着替えるから、外の見張りお願いね」

 

「はいよ」

 

ラファールはそう言うとサーニャとともに客室へと入っていった。

サーニャとラファールの装備が半袖だったりと薄着であり、異常気象という設定で少しひんやりとしたこの島では少々肌寒い。それもあってどういったマップに飛ばされるかわからない為念のためにと持ってきた服に装備を変更する所であった。しかしGGOでは装備を変えるには、1度装備を外さなければ変更する事は出来ない。

流石にゲームとは言え、女性が堂々と着替えられる訳もなく2人は客室の一室を借り、スコッチは外で見張りという事になった。

最後に入ったサーニャが扉を閉めようとするが再び少し扉を開けて、

 

「覗いたら駄目だよ」

 

サーニャが顔だけ出してスコッチに言う。

 

「見ねぇよ!」

 

サーニャはスコッチの顔をじっと、扉が閉まるまでスコッチを見ていた。

 

「はぁ…俺、信用ねぇのか…?」

 

サーニャの行動で、自分に信用がないと捉えたスコッチは落胆の表情をし、肩をがっくりとさせていた。

そんな彼の少し離れた通路から、

 

「そりゃそうですよ」

 

先程の独り言に対し同意する声が聞える。

 

スコッチが声の方へ振り向くと、丁度偵察から戻ってきたピエージェがそこに居た。

 

「どういう意味だ、それは」

 

「大人の男が二人の女性に付いてたら、そりゃ変に思われますよ」

 

ピエージェはじろりと、スコッチに警戒心の篭った視線を送るとはっきりと一言、

 

「俺も、貴方の事は信用してませんから」

 

スコッチに向けて言った。

 

二人はサーニャやラファールの居ない所では常にこんな感じで少々口喧嘩をする事がある。実は先程の戦闘の際、サーニャ、ラファール達と分かれて行動した際も常にこんな感じであった。

 

「お前…俺はさっきラファールをスナイパーから救ったぞ!?」

 

「当たり前の事です。ラファールさんやサーニャさんを守るのは僕達、男の仕事ですから」

 

「うっ…そりゃなぁ。それは同意見だが、それならもう少し信用されても…」

 

「まだまだ甘いですね、僕なんて──」

 

ピエージェがそう言いかけた時、サーニャ達が入った部屋から一瞬サーニャとラファールの"うわぁ!"という声とバタンッという鈍い音が聞こえた。

 

「なんだ!?」

 

「大丈夫ですかっ!?」

 

ピエージェがサーニャ達がいる部屋に向かって聞くが、応答は無い。

 

「敵かもしれません!入りますよ!」

 

「ちょっ、おいおいおい!」

 

ピエージェはスコッチの止めを振り切り部屋へと突入する。

 

 

 

- ISLアーネスト ホテル2階 201号室 -

 

 

 

ホテル内の客室はどれも部屋が荒れていて物が散乱しており、とても綺麗とは言い難い。

サーニャとラファールは部屋へ入ると装備を一つ一つ解除していき、二人の姿は

下着一枚となっていた。

 

「サーニャ、下着が初期状態のままじゃない。別の持ってないの?」

 

「そう言われてみれば、ラファールのと私の全然違うね」

 

女性プレイヤーの少ないGGOではあるが、女性プレイヤーの為に下着を販売する

ショップは幾つか存在する。とは言ってもプライバシーの観点から男性プレイヤーは立ち入ることは出来ないのだが。また、オシャレアイテムという扱いなので、ステータスには全く反映されないアイテムである。

 

「今度一緒に買いに行ってみる?」

 

「うん」

 

「それにしても…」

 

「?」

 

ラファールがサーニャをじっと見つめて、

 

「サーニャのアバター、ほんと可愛いわよねぇ…」

 

足先からから徐々に上へとサーニャのアバターを眺める。

 

「リアルのサーニャも可愛いけど、こっちもなかなか…ねぇ、ちょっと触らせて!」

 

「えっ…!?」

 

そう言うとラファールは両手をわきわきとさせ、サーニャにジリジリと近づいて行く。

が、サーニャに触れる既の所でラファールは足元のペットボトルを踏み、滑ってバランスを崩すとサーニャに覆いかぶさる様にして倒れた。

 

「「うわぁ!!!」」

 

二人は床に下着姿のまま倒れ込む。

 

「痛たた...サーニャごめん、大丈夫?」

 

「う、うん…」

 

サーニャは自分に当たる、ラファールの豊満で柔らかな二つの"それ"を羨ましく思っていると間髪入れず、部屋のドアが勢い良く開く。

ドタドタと足音が近づき、最初に姿を表したのはピエージェだった。

 

「どうかしましたか!?って…」

 

ピエージェの表情が固まる。

その目に飛び込んできたのは、下着姿のサーニャと、彼女に覆いかぶさった同じく下着姿のラファール。そして彼女のそれはそれは肉付きの良い──

 

「ピエージェ君!?」

 

ラファールは素早い動きでサーニャから離れると部屋のベットにあったタオルケットを

自分とサーニャを包む様にして隠した。

 

「うわっ!?ご、ごめんなさい!!!」

 

ピエージェは目を手で覆いそれを見ないようにする。

 

「あぁ…お子様にはちょっと過激すぎたな」

 

スコッチは部屋で固まっているピエージェを外に連れ出す為に自身の目を両の手のひらで隠しながら部屋に入ってくる。

 

「~っ!スコッチも早く外に出る!!!」

 

ラファールは足元にある、こんな状況を作ってしまった元凶である潰れたペットボトルを拾うと、男性2人に向け勢い良く投げる。

 

「では失礼...痛ッ!?」

 

見事、スコッチの頭に潰れたペットボトルがヘッドショット。

頭を擦りながらスコッチはピエージェの肩を抱き、部屋から出ていったのだった。

 

 

 

- ISLアーネスト ホテル地下駐車場通路 -

 

 

 

サーニャ達一行は装備を整え、ホテルの地下駐車場へと向かっていた。

 

「なぁ、機嫌直してくれよ…」

 

スコッチが前を歩くラファールにそう言うと、ラファールはゆっくりとスコッチの方を振り向き、それはそれは警戒する猫の様にスコッチを睨んだ。

 

「すみませんサーニャさん、ラファールさん…見るつもりじゃ…」

 

3人について歩くピエージェは、ペコペコとサーニャとラファールに頭を下げながら言った。

 

「まぁまぁラファール、"ピーくんは"私たちに何かあったんじゃないかって心配して入ってきたんだし」

 

そう言ってラファールの肩をポンポンと叩き、ラファールを説得するサーニャ。

 

「そうね、"ピエージェ君は"心配して駆けつけてくれたんだもんね。"ピエージェ君は"」

 

ラファールはそう言うとサーニャとともに、スコッチをじっと見た。

 

「お、俺だって心配してたぞ…!?まぁ下心が無かったかと言われたら…」

 

「次同じような事あったらマガジン全弾、お見舞するから…!」

 

ラファールはそう言い返したが、彼女の顔がほんのり赤くなったのをサーニャは気づいていた。

サーニャはふと、ピエージェに偵察をお願いしていたことを思い出した。

 

「そういえばピー君の偵察の報告をまだ聞いてなかったね、どうだった?」

 

「あっ、はい!無線でもお話した通りサーニャさん達を襲った敵は6名のフルスコードロンで黒いピックアップトラックに乗って南下していきました」

 

ピエージェがメニューウィンドウのメモ欄を見ながら答える。

 

「敵の装備とか分かる?」

 

「そうですね…銃までは判別できませんでしたが全員黒いマントを付けていました」

 

「なるほど…ありがとう」

 

サーニャ達は通路を抜けてホテルの地下にある駐車場へとたどり着く。そこは電気は

通っていなく、数メートル先は闇という状態であった。

 

「これじゃ見えないわね…、誰か見える?」

 

「私はスキルでなんとか。一応車が数台置いてあるね」

 

サーニャは先の戦闘で狙撃された際に使用した"視力強化スキル "ホークアイ"の暗視を使い、ナイトビジョンゴーグルのような視界を得ていた。

 

「一応俺もサーニャと同じスキルで見えてるぞ」

 

スコッチもサーニャ程のスキル熟練度ではないが、一定の視界を保っている。

 

「僕はラファールさんと同じで見えないです。」

 

「ふむ、それじゃあ駐車場での車探しはサーニャとスコッチに任せるわ。私とピエージェ君は駐車場の出口を確保しておきましょう!」

 

そう言ってラファールとピエージェは地下駐車場の出口へと向かった。

 

「それじゃあ俺達は動かせそうな車を探すとするか、っておい。サーニャ?」

 

スコッチが振り向くと、その場からじっと動かないサーニャの姿があった。

 

「どうした?」

 

「ごめんスコッチ。銃は抜かないでね」

 

そう言うとサーニャは、駐車場の車が止まっていない駐車スペースに身体を向け──

 

「さっきからそこに居るよね、誰?」

 

サーニャは誰も居ないはずの場所に向かって声を掛ける。

 

「おいおいサーニャ…、誰も──」

 

スコッチがそう言い掛けた時。誰も居なかった筈の駐車スペースの空間が一瞬歪むと、ポリゴンが人の形を整形し始めた。その姿は以前、サーニャとスコッチが出会った光剣二刀流使い、頭部パーツなど所々一新されているが全身をサイボーグのような装備で固めたあのプレイヤーだった。

 

「なっ…!?」

 

スコッチはホルスターに手を添えようとするが、サーニャに言われた言葉を思い出しその手を止めた。

サーニャは特に驚きもせず、ここに来た時から気づいていたかのようにサイボーグの人物をじっと見つめる。

 

「流石、一人で凶悪スコードロンを全滅させただけのことはある。」

 

機械音声のような加工された声で話し始めるサイボーグプレイヤーはサーニャが以前行った

そのことを知っているようであった。

 

「ただ単に私達を倒すのが目的なら、姿を隠したまま私達を倒せた筈。目的は何?」

 

サーニャがサイボーグのプレイヤーにそう言うと。

 

「忠告だ。俺以外にこのメタマテリアル光歪曲迷彩マントを使う奴らが居る」

 

サイボーグのプレイヤーは自分が纏っているマントを指差した。

知っての通りこのマントはメタマテリアル光歪曲迷彩という、ほぼ完璧に背景へ同化する

いわゆる"透明マント"的な装備アイテムで、その特殊かつチートじみた効果故にマイナス効果もあり、透明中に攻撃を行うと透明化が解除され、マントにダメージを受けると"メタマテリアル物質を再構築する"という設定のリキャストタイムが発生し一定時間透明化が出来ない事、特定の重量までしか装備を持てない等がある。

 

「なんで私達にそんな事を教えてくれるの?」

 

「前回の約束を果たす為だ。俺と戦う前に死なれては困る」

 

サイボーグのプレイヤーの言葉にサーニャは心当たりがあった。

 

「もしかしてさっき私達を狙撃してきたスコードロンかな?」

 

「察しが良いな。それともう一つ、最近噂になっている二人組の少女、"デビルズ・ツイン"もこの大会に参加している」

 

「何!?本当か!?」

 

サーニャの後で静かに見守っていたスコッチが身を乗り出す様にして、サイボーグのプレイヤーに聞いた。

 

「ああ、既にたった2人で5人組のスコードロンを全滅させている」

 

「まじかよ…」

 

「俺は奴等(デビルズ・ツイン)を倒すためにこの大会に出場した。優勝はその副産物に過ぎない」

 

「あー…お前も懸賞金狙いなのか?」

 

スコッチはどうやらサイボーグのプレイヤーが自分と同業者と思っているようだが

 

「懸賞金…?そんなものに興味は無い、ただ倒す。それだけだ」

 

と、返された。

 

「なんだよ。じゃああいつらの首、俺に譲ってくれよ。あいつらを倒せりゃガッポリなんだからよ」

 

「好きにしろ、私より早く奴等を仕留められたらの話だがな」

 

そう言うとサイボーグのプレイヤーは再び暗闇の中に消えていった。

 

「あ、ちょっ…。うーん、なんだか変わった人だなぁ」

 

直後暗い駐車場に無線のノイズ音が鳴り

 

『時間掛かってるみたいだけど大丈夫?何かあった?』

 

音沙汰無い二人を心配してか、ラファールが無線を飛ばしてきた。

 

「あぁ、ちょっと不気味なお客さんが来たものでな」

 

スコッチが無線に応じる。

 

『不気味なお客さん…?まぁそれは後で聞くとして、とりあえず出口は確保したから動かせそうな車があったらよろしくね』

 

サーニャ達がまさか別のプレイヤーに遭遇したと走らず、ラファールは無線を切った。

 

「スコッチ、どう思う?」

 

「いけ好かない野郎だが、まぁ情報を俺達に寄こしてくれるってんだからあながち悪いやつじゃないのかもな」

 

「うん、そうだね。じゃあ引き続き私達は車を探そうか」

 

二人は暗い駐車場内を二手に分かれて探し、錆びて分解している車や逃げ惑う人々を表現させるかのように車同士でぶつかりあった物など使えるものは殆どなかったが、サーニャが唯一動かせそうな車を見つけた。

 

「スコッチ見つけたよ。これでどう?」

 

「ああ十分だ、これなら4人乗れるな」

 

サーニャが見つけた車は駐車場の一番端にひっそりと置かれ、ところどころ色落ちと錆があるが形が綺麗に残った一台の白いバンだった。車内は運転席と助手席の他、後部は横乗りシートになっており装備をつけたまま車内を歩くことが出来る。

 

「でも扉は開くけど鍵が無いからエンジンが掛けられないんだよね」

 

動かせそうな車を見つけたは良いが、肝心のキーが刺さっていなかった。

しかしスコッチは慌てる様子が無い。

 

「サーニャ、リアルじゃ全く使えない知識だが覚えとけ。大体こういう車はここに鍵がしまってあるもんだ」

 

スコッチはそう言うと運転席側のサンバイザーを開く。

すると挟まれていた車のキーがぽろりと滑り落ち、スコッチは落ちてきた鍵をキャッチする。

 

「スコッチが運転する?」

 

「そうしたい所だがまだちょいとばかし右腕が痺れてるんだ」

 

スコッチは先程の戦闘でラファールを庇った際に撃たれた右肩に煌めくダメージエフェクトを指してそう言った。

 

「じゃあ私だね」

 

「運転できるか?」

 

「リアルの方の訓練で車の運転は習ったし、日本での運転免許は無いけどラファールほどではないよ」

 

「それ、本人には言うなよ…」

 

サーニャは運転席、スコッチは後部スペースへ乗り込む。幸い駐車場内の通路が廃車などで塞がれているということは無く、車一台分が通れるスペースは確保されており暗い

地下駐車場を抜け日の元に出ると待ちぼうけを食らったラファールとピエージェの姿があった。

 

「すまん二人共、待たせたな」

 

スコッチはサーニャの運転するバンがラファールとピエージェの前に止まると同時に

側面の扉を開けて二人を出迎えた。

 

「あら、なかなかいいの見つけてきたじゃない!じゃあ私が…」

 

「ラファール…」

 

スコッチが手でバッテンのサインを出しラファールの思惑を全力で拒否する。

 

「ラファールさんがどうかしたんですか?」

 

当時居合わせなかったピエージェはそれが何を指すかわからず、サーニャとラファールのやり取りをぽかんと見つめる。

 

「ちょっと前にラファールに車を運転させたら、ジェットコースターより大迫力で…」

 

サーニャが運転席から顔を覗かせてそう言う。

 

「サーニャ酷くない!?」

 

「話の続きは車の中でだ、そろそろ次の衛星が来るぞ」

 

スコッチは腕時計を指差し、ラファールとピエージェをバンに入れる。

 

「ラファールは私の隣でナビとして助手席に、ピー君って運転できる?」

 

「出来ますけど、運転はサーニャさんじゃないんですか?」

 

「私も運転はできるけど運転するより戦ってる方が好きだからね」

 

「了解です、じゃあ運転変わりますよ!」

 

ラファールとピエージェもバンに乗り込み、ホテルから少し離れた路地に止め衛星通過を待った。

 

「それで、"変なお客さん"って言ってたけどどういうこと?」

 

助手席のラファールが先程スコッチが無線で言っていたことに対して質問を投げかけた。

 

「前に私とスコッチだけでパーティ組んだって話したでしょ?ほら、ラファールが熱で休んでた時」

 

「あぁ、うん覚えてるよ。確かプレイヤーからの依頼クエストだったよね?」

 

数ヶ月前、ラファールが不在の際にサーニャとスコッチがプレイヤークエストを受け、その攻略対象であったプレイヤーが先程サーニャとスコッチが再び出会ったサイボーグのプレイヤーだ。

 

「そう、そのときに会った光剣二刀流使いのサイボーグみたいなプレイヤーだよ」

 

「えっ、じゃあさっき戦ってたの!?」

 

「いや、向こうも攻撃してこなかったからこっちも攻撃してない。と言うよりあのときは向こうも戦う意志はなかったみたい。もしも有ったら今頃私達はここに居ないだろうね」

 

「どういうこと?」

 

ラファールは首をかしげる。

 

「実は最初勘違いだと思って言わなかったんだけど、ラファールとピーくんが入り口を確保する前、地下駐車道に入ったときからあの人ずっと柱の陰に隠れてたみたい」

 

「なにそれすっごい怖いんだけど!?でも私全然そんな気配しなかったけど…」

 

「僕もです、全く気が付きませんでした…」

 

「俺もだ、サーニャに言われて初めて気がついた」

 

サーニャ以外の3人が口をそろえてそう言った。

 

「で、結局そのプレイヤーの目的は何だったの?」

 

「私達に忠告だって言ってた」

 

「忠告…?」

 

「そのサイボーグの人も装備してるんだけど、前にラファールが教えてくれた身体を透明にするメタマテリアル光歪曲迷彩マントを装備してるスコードロンが居るってこと」

 

「うそっ!?あれボスモンスターの超低確率ドロップアイテムで"RMT"(リアルマネートレーディング)でも超高額で取引されるような超レア装備よ!?」

 

「それで一つ気づいたことがあって、さっきホテルで私達を狙撃してきたのは、十中八九そのスコードロンに間違いないはず」

 

「また面倒なのに目をつけられて…にしてもその感じだとそのサイボーグの人、この大会一人で参加してるっぽいわねぇ…」

 

腕組をしてうーんと唸るラファール。

 

「最後に残るまで敵意はなさそうだし、ここはあの人の助言を素直に受けておくべきだと思う」

 

「それもそうね…」

 

「さぁ、衛星くるぞ」

 

スコッチの言葉とともに車内の床に小さく島のマップが表示される。

 

「私達は今ここ、うーん映ってる限りだと今この周辺は私達しか居ないみたいだね」

 

「サーニャ、ちょっと失礼…」

 

スコッチはサーニャが床に映し出したマップを操作すると、市街地の外れに表示されたプレイヤー表示マークをタップする。

 

「こいつらだ…双子の悪魔、デビルズ・ツイン。俺が探してた賞金首…」

 

「でも女の子二人組なんでしょ?スコッチの腕ならぱっと捕まえられるんじゃ」

 

ラファールが助手席から顔をだしてスコッチに言う。

 

「それがな、さっきサイボーグのやつから聞いた話でもすでに5人組のスコードロンを二人で潰したらしい…」

 

スコッチは目線をマップから外さず、ただ顎髭を弄りながらラファールの問い答える。

 

「それはそれは…そんなに実力あれば怨みも買うわよね…」

 

「一度も見たことない奴は二人のちっこいアバターに油断するが、中身はとんでもない化物だぞ」

 

「じゃあとりあえず第一目的はその子達を倒すことを目標にしよう。第二はサイボーグの人と戦うで」

 

サーニャが言う。

 

「そうだな、ってよく見るとさっきまで駐車場に居たサイボーグのやつ映ってないぞ?」

 

スコッチがマップでマーカーをタップしていくがそれに該当するプレイヤーは見つからない。

 

「あのマントは衛星にも見つからないのよ。ほんっと、あれチート装備だわ…」

 

腕を組みながらラファールが眉を細めてつぶやく。

 

「ということは私達を狙撃してきた人たちもここには映ってないんだね」

 

サーニャがマップ上で探すがやはりそれらしいスコードロンは見つからない。

 

「とりあえずここに留まってるのもアレだ、ピエージェ車を出せ」

 

「言われなくても!」

 

ピエージェが車のエンジンをかけ、バンを発進させる。

 

「行き先は市街地、光学マントを装備してる敵に注意して」

 

サーニャがそう言い、車は市街地を目指して走り出す。

ISLアーネスト本島の市街地へ向かうにはホテルのある離れ島から南の橋を通る必要がある。

 

「ドライバーのピー君以外今のうちに武器装備、弾薬の確認を」

 

サーニャがそう言うと自身はポーチからP320の新しいマガジンを1本抜き取り数発残ったマガジンと入れ替え、スコッチは序盤で使っていた"ウィンチェスターM1886"の弾を再装填する。

 

「あれ、まだ私この大会始まって一発も撃ってない気が…」

 

ラファールは自分のグロック18Cのマガジンを確認しながらそうつぶやいた。

 

「私もまだハンドガンをドアにしか撃ってないし、これからが楽しみ」

 

再装填が終わり、唯一二人のプレイヤーを倒したスコッチはそれを聞きつつ暇を持て余した両手で、自身のコルト SAAをくるくると回しながら──

 

「じゃあこの大会で一番倒したプレイヤーの数が少なかったやつは罰ゲームな」

 

「はぁ!?なにそれ!自分がもう二人倒してるからって!」

 

ラファールが助手席からスコッチに向かって吠える。

 

「ちょっとそれ僕不利じゃないですか!?」

 

基本斥候、偵察を任され爆発物トラップ系しか扱えないピエージェは車を運転しつつそう言う。

 

「スコッチがビリだったら私、何してもらおうかな」

 

サーニャがスコッチをじっと見つめながらつぶやく。

 

「うっ…これは地雷を踏んだ気がするぞ…」

 

スコッチはサーニャの目に映る静かな闘志を感じ取り、顔が引き攣る。

 

「まぁそれはそれとして。これ、さっき倒した敵のスナイパーが落としたライフル。重量制限で私のインベントリに入れられないけど」

 

サーニャはスリングで背負っていた銃を後部の座席に置く。ホテルでスナイパーの男を倒した際に落とした"ブレーザーR93 Tactical2(以下 "ブレーザー")"だ。

途端、ピエージェが声を上げる。

 

「追手ですッ!」

 

その言葉にすぐさま反応したのはサーニャだった。

サーニャは走行中のバンの車内右側にあるスライドドアを開けると顔を出して後を確認する。

 

「黒いピックアップトラック…」

 

後方から確かに追ってくる車はピエージェの報告にあった黒いピックアップトラックだった。

 

「ピー君、あれって偵察のときに見たやつ?」

 

「はい!たしかにあの車です!」

 

「じゃあ乗ってるのは5人で1人はスナイパーで確定だね。でも一体何処に隠れてたんだろう…」

 

「なぁラファール、あのメタなんとかマントってのはプレイヤー以外も隠せるのか?」

 

サーニャに続いて後部ハッチを少し開けて追手の車を確認しているスコッチが助手席のラファールに問いかける。

 

「確かマントをゲットした装備重量制限で手に持てないレアな武器に巻いて透明化させて狙われないように隠しながら安全地帯に運ぶってテクニックがあるから多分、でもなんで今それ聞くのよ?」

 

「そっか…。5人で車の中に入って5人分の透明マントで車を覆えば車と中に居る5人全員を透明化出来るって訳だね」

 

「多分そういうことだろう。奴等、俺達が通った道の何処かで隠れてやり過ごしてたみたいだな」

 

サーニャ達がその疑問を解決している間にも、追手の車両はじりじりと距離を詰めてくる。

 

「スコッチ、場所交代して」

 

「あぁ、でもどうするんだ?」

 

サーニャはスリングで前に下げていたAK再び手に取ると、後部ハッチの片側の窓ガラスをストックの底で割り、そこから銃口を少し出して射撃の体制を取る。

 

「スコッチは横のドアから攻撃。ピー君は運転に集中して、ラファールはピー君をマップでナビしてあげて」

 

サーニャはその言葉を言い終えたと同時に射撃を開始、それに続くように敵側の車両からも攻撃が浴びせられる。

 

「ピー君、できるだけジグザグに走行して」

 

「は、はいッ!」

 

サーニャ達のバンは二車線の橋を蛇行しながら突き進む。

相手もそれを真似てか蛇行運転を開始、サーニャ達の攻撃もなかなか当たらない。

 

「サーニャ!これじゃあ埒が明かない、プラズマグレネードを使うんだ!」

 

「了解」

 

スコッチのアドバイスでポーチからプラズマグレネードを2つ取り出しタイマーを5秒にセット、サーニャは後部ハッチから勢い良く敵の車両へ向かって投げた。

 

「こんな狭い二車線だ、2つのプラズマグレネードを避けるなんてそうそう…」

 

負傷していない左手で横のドア部からSAAを撃っていたスコッチは手を止めて敵が爆散する姿を拝む筈であったが、あろうことか宙に浮いた2つのプラズマグレネードは敵の正確な狙撃によって海へと弾かれた。

 

「敵さん、なかなか手練揃いの様だな…」

 

「だね…」

 

「二人共感心してないで早く倒しなさいよぉ!ひッ!?」

 

敵側から放たれた弾丸がリアハッチを抜けてラファールの目の前のフロントガラスに穴を開けた。

 

「そろそろ市街地に入ります!」

 

サーニャとスコッチは依然距離をじりじりと詰めてくる敵の車両に向かって銃弾を浴びせるが止まる気配は無く、敵側も負けじとサーニャ達のバンへ反撃をしてくる。

 

「向こうの弾が当たるようになったぞ!市街地はまだか!?」

 

「あと500m!」

 

「くそっ!」

 

スコッチはそう吐き捨てつつSAAを敵の車両へ撃ち込む。

 

「うーん、もっと正確に狙える武器があれば…あっ…」

 

弾が抜けボロボロになったリアハッチから撃っていたサーニャがふと、座席から転げ落ち床で小刻みに揺れるブレイザーに目が行く。

 

「この子なら…」

 

サーニャが射撃をやめてブレイザーに手を伸ばしたその瞬間。

 

「ピエージェ君そこ左!」

 

「了解ッ…!つかまっててください!!」

 

サーニャ達のバンはスピードを乗せたまま橋を抜けて市街地を沿って通る道へ右折をする。

 

「っ──」

 

ふわっ、とサーニャの体が浮く。

かなりの速度で曲がったため、遠心力で車両後部が大きく振られることになり、ブレイザーを手にとるため姿勢を崩していたサーニャは後部ハッチから外に放り出された。スコッチが急いで手を伸ばすが無情にも空振りに終わってしまう。

 

「サーニャッッ!!」

 

「サーニャ!?」

 

ラファールが助手席から後ろを見て確認するがサーニャの姿はなく、あるのは手を伸ばしたスコッチの姿と残されたブレーザーだけだった。

 

「くそッ!ピエージェ!車両を止めろ!」

 

「無理です!後ろからまだ追ってきてます!ここで止まったら僕達やられますよ!」

 

スコッチはバンの内壁を拳で叩き、サーニャを掴めなかった事を悔いた。

一瞬静まり返る車内。が、それを他所に無線が飛んでくる。

 

『ごめん、放り出されちゃった』

 

その声は先程までバンの中で聞こえていたサーニャの声だった。

 

「さ、サーニャ!?無事なの!?」

 

ラファールが慌てて無線で返答する。

 

『結構ダメージ貰っちゃったけどなんとか…。そっちの位置はマップで把握してるから、こっちから合流できるように向かうよ。それまで耐えてて』

 

「一人で平気なの!?」

 

『大丈夫。また何かあったら連絡するよ』

 

ラファール、ピエージェ、スコッチの3人を載せたバンは依然敵のピックアップトラックに追われつつ市街地を沿う道路を走る。

 

一方、前を走る白いバンのリアハッチからプレイヤーが放り出されるのを黒いピックアップトラックの荷台から他のメンバーに指示する一人のプレイヤーが目視していた。

 

「敵一名落車した。"ボア"、生きてるかもしれないから確認してきて」

 

金髪ショートで凛々しさが漂う女性アバター、彼女の背中にはスナイパーライフル"DTA SRS A1 コバート"(*2)が背負われている。このスコードロンのリーダ的存在で、他の5人のメンバーを指揮している。彼女は自分の隣に居る部下の"ボア"という大男にそう告げる。

 

「了解」

 

そう言って、走行中の車から勢い良く飛び降りると市街地へと消えていった。




*1 "グロスフス MG42"
第二次世界大戦中の1942年にドイツ軍に制式採用された7.92x57mmモーゼル弾を使用する
軽機関銃。
特徴的なマズルブースターと呼ばれる銃口先端の装置は、発射ガスを絞ることにより機関部の
圧力を増加させる効果がある。これにより、多少装薬の少ない弾薬でも安定した動作を行う事が
出来た。また機関部の動作速度が上がるため、毎分1200発以上の発射速度で放たれた弾丸をまともに食らった兵士が真っ二つに引き裂かれたという話もある。
このような高い発射速度では発射音が連続して聞こえ「布を切り裂く」音と呼ばれ
また「ヒトラーの電動のこぎり」というニックネームは有名である。
今回"デビルズ・ツイン"の"レト"が使用したのはMG42に50連ベルトを収納できるドラムコンテナを装着したタイプ。

*2 "DTA SRS A1 コバート"
アメリカ、デザート・タクティカル・アームズ社(現Desert Tech社)が開発したブルパップ式ボルトアクション狙撃銃。
SRSとは"Stealth Recon Scout"の略で、シャーシ部を変えずにバレル、ボルト、マガジンの交換により.308 ウィンチェスター弾や.300 ウィンチェスターマグナム弾、.338 ラプアマグナム弾等の弾薬を使用できる。
それでいて銃自体のサイズはM4カービン並とコンパクトで携帯性に優れ、ハンドガード部四面にピカニティーレールを配し、各種アクセサリーにも対応している。
"SRS A1"は初期モデル"SRS"の更新モデルで使用可能な弾薬を追加されているが構造上、旧モデルとの違いはととんど無く、また派生モデルのSRS A1 コバート(本銃)は弾薬こそ上記で紹介した3つの弾薬しか使用することは出来ないが、コバート(Covert)の名の通り更に銃身を短く(MP5A2とほぼ同じ全長)している。
今回登場したのは"SRS A1 コバート"の.300 ウィンチェスターマグナム弾仕様。


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OPS 14:招かれざる客

▼お待たせしました14話です。


- SBCグロッケン某所 酒場 -

 

 

 

SBCグロッケンで一番栄えているこの酒場は今日も客のプレイヤー達がどんちゃん騒ぎをしている。

そして今日は特に客数が多く、その理由は酒場内に設置されているモニターで大会のリアルタイム中継が行われているからだ。

すると入り口に付けられた鐘が店内に響き渡り、二人の客が入ってきた。

二人は、がらんとしたカウンター席を選んで席に着くと他の客が二人の男に寄ってくる。

 

「見てたぜ兄ちゃん達!たった二人だけで大会に望むとは無謀すぎにもほどがあんだろ!」

 

寄ってきた男の一人が口を開くと

 

「うるせぇ、ほっといてくれ!」

 

と、二人のうち片方のニットキャップをかぶった男がそう言うとヘルメットをテーブルの横に置いたもう一人の男と一緒に酒が注がれたグラスを片手で掴み、ぐいっと一気に飲み干す。

この二人の男、大会始まって早々攻撃を仕掛け、カウボーイ風の男にとどめを刺されたあの二人組であった。

 

「一応兄ちゃん達に賭けた奴等も居たんだぜ?ほらあそこに」

 

駆け寄ってきた男の一人が指差した先には二人組の男たちをこれでもかとばかりに睨みつける数名のプレイヤーたちが居た。

 

「まぁなんだ、兄ちゃん達もライブ中継でも見て楽しんでいけよ、なんなら倒された奴等に賭けても良いんだぜ?」

 

そう言うと寄ってきた男らは自分たちの席に戻っていった。

 

「あああ!!そこで死ぬなよ!!」

 

「ははは!残念だったな!1万クレジットだ、1万クレジット!ほらお前らもだ!」

 

「くっそぉ!この金で装備を一新するはずだったのによぉ…!」

 

「またしばらく狩り生活だぜ、チクショウ…!」

 

酒場にいるプレイヤー達は大会中に起こる戦闘でどちらのスコードロン、もしくはプレイヤーが生き残るかを賭けているようで、この酒場だけで一体どれだけのゲーム内通過が飛び交っているだろうか。

 

「おい!そっちはどうだ?!」

 

賭けに一人勝ちした男は意気揚々と別のテーブルに座っている賭けを仕切っているプレイヤーの男に声をかける。

 

「これじゃあ全然賭けにならねぇ!これ見てみろよ!」

 

賭けに勝った男がモニターを覗き込む、それに続いて周りのプレイヤー達もそれに続く。

モニターには二人組の少女がプレイヤーを次から次へと屠って行く姿が映し出されていた。

 

「誰もこの娘らと戦ってる連中に賭けやしねぇ、まぁ負けると分かってる野郎に賭ける馬鹿も居ねぇんだがな」

 

「なぁ、あれって最近噂の"双子の悪魔(デビルズ・ツイン)"じゃねぇか…?」

 

「可愛い顔して容赦ねぇぜホント…」

 

周りのプレイヤーがざわざわとし始める。

 

「あぁクソ!またスコードロンが全滅しやがった!運営は他のプレイヤーを映せってんだ!」

 

描けを仕切る男がそう言うとそれに合わせたかのように映像が切り替わる。

 

「おっ切り替わったぞ、こっちもドンパチやってるな。カーチェイス中か?」

 

モニターには白いバンが黒のピックアップトラックに追われ、双方銃撃戦を行っている映像が流れている。

 

「おい、白いバンに乗ってるのそこの兄ちゃん達を倒したスコードロンだよな?」

 

「あぁ、そうだ」

 

モニターに食い入る男たちの質問に天井に吊り下げられた大型モニターをカウンターから見ていた先程の二人組のヘルメットをかぶっていた男がそう答えた。

 

「これ本島と結ぶ橋の上か?」

 

「5対4…なんとも言えんな…」

 

「なぁどっちに賭ける…?」

 

「なぁこの助手席に乗ってる子可愛くないか?」

 

「いやいやこっちの銀髪の子だろ?」

 

「何言ってんだこっちの金髪の方だろ?」

 

「俺始めたばっかだがGGOに女子って存在するんだな、都市伝説だと思ってたぜ…」

 

男達がモニターを見ながらあれこれ話していると。

 

「おい今!バンから女の子が放り出されなかったか!?」

 

カメラのアングルの関係でその様子ははっきりと見えなかったが、再び中継のカメラがバンの中を写すと銀髪の少女は映っていなかった。

 

「白いバンの中に居ないってことは…」

 

「やられたか?」

 

「なんだよ、せっかくあの子に賭けようと思ったのに」

 

酒場の客が全員そのテーブルに集まり、その映像に釘付けになっている。

ここで一人の男が口を開く。

 

「いや、まて…助手席のやつ、なんか無線でやり取りしてないか?」

 

バンの前方から映し出された映像にかすかに映る助手席のオレンジ色の髪をしたプレイヤーの姿。その手は耳に当てられ、どうやら誰かと喋っているようにも見える。

 

「もしかしてまだ生きてんじゃないのか?」

 

「あのふっとばされ方でか!?」

 

「おいこっち見てみろよ!」

 

別のテーブルのモニターの映像に気がついたプレイヤーがそれを指差すと、そのモニターには黒いピックアップトラックから大男が走行中の車から飛び降りる映像が映し出されていた。

 

「どうやら落ちたあの子にとどめを刺しに行くみたいだな」

 

「ようしお前ら!ふっとばされた銀髪の女の子とこの大男!どっちに賭ける!?」

 

賭けを仕切る男がそう叫ぶと、店内で一斉にこの二人に対する賭けが始まった。

 

 

 

- ISLアーネスト 東側市街地 -

 

 

 

「いたた…」

 

バンから放り出されたサーニャは市街地の大通りに面した一角にある高級飲食店の窓ガラスを突き破っていた。

幸いにも店内の二人掛けソファがクッションとなりダメージは半分に抑えられいるものの、サーニャのHPゲージは3分の2程度減少していた。

 

「装備は…」

 

右手でメニューウィンドウを開く、幸いにも破損した装備は無かったがサーニャのAKが手元に無い。どうやら吹き飛ばされた際に身体からスリングごと脱落したようだ。

 

「困ったなあ…、とりあえず皆に連絡しなきゃ」

 

サーニャは無線ではぐれてしまったラファール達に無線を飛ばす。

 

「ごめん、放り出されちゃった」

 

サーニャがそう言うと、途端に驚きと心配を隠せないラファールの声が帰ってくる。

 

『さ、サーニャ!?無事なの!?』

 

「結構ダメージ貰っちゃったけどなんとか…」

 

サーニャはそう言いながら自分の足元にマップを展開、ラファール達の位置を確認する。

 

「そっちの位置はマップで把握してるから、こっちから合流できるように向かうよ。それまで耐えてて」

 

『一人で平気なの!?』

 

その言葉にメインウェポンであるライフルを失った不利な状況を考える。

が、ふと天井を見上げると照明にスリングが引っかかり揺れているAKを見つけた。

 

「大丈夫。また何かあったら連絡するよ」

 

そう言って無線を切った。

改めてサーニャは店内を見回すと、長く使われてない店なのだろうか壁はぼろぼろになり、天井の隅にはクモの巣が張っている。また吹き飛ばられてきた時に突き破った窓ガラスの破片が窓際の床に大きく散乱していた。

 

「よいしょ…んんんっ…!はぁ…」

 

サーニャは天井にぶら下がった自分の愛銃を取り戻すために手を伸ばすが、少し高い天井に下がった照明とその小柄なアバターの身長故に手が届かない。

 

「何か足場になるもの…、ちょうどいいところに」

 

サーニャの近くには木でできた椅子があり、それを足場に銃を取ろうとする。

 

「よっと…あれ…?」

 

サーニャが片足を乗せ足に力を入れて上に登ろうとした途端、木の椅子は音を立てて無残にもばらばらになってしまった。どうやら長い間放置されていたため固定具にガタが来ていたようだ。

次はテーブルを足場にするかと考えていたその時、じゃりっとガラス片を踏む音が聞こえサーニャはとっさにストライクワンをホルスターから引き抜いてその音の方向へ構えるも姿は無い。

 

「…?…あっ…!」

 

一度は構えを解こうとしたサーニャだが、陽の当たる窓際に人の影があるのを見て

躊躇なくその影の主へとトリガーを引く。しかし弾は金属製の何かに当たるような音がしてサーニャも当たった感じがせず違和感を感じる。

 

「何か…防がれてる…?」

 

サーニャはその相手との距離を取りつつ其処にいるはずの人物に的確に弾を当てる。だが、やはりすべて金属質の何かに妨げられている様だ。

そして透明なその人物はサーニャがストライクワンの弾薬を撃ち尽くし、スライドストップがかかった時、姿を表した。

 

「大きい...」

 

それはまさに"大男"という言葉にふさわしいプレイヤーで、2メートルはあるのでは無いかと思える身長とそれに見合う筋肉質の太い身体と手足。そして、サーニャが感じた違和感の正体は左腕に装着された、展開式の金属製の盾であった。

すると大男はベストの背面に付けられた革製のシースから大型のマチェットを引き抜くと店内の床を大きく揺らしながらサーニャに近づいてくる。

その光景を見つつ、冷静にマガジンを交換したサーニャは立て続けに向かってくる大男に発砲するが構えられた盾は大男の全面を覆い、狙える隙間が殆ど無い。

大男はサーニャがマチェットの攻撃範囲に到達したのを確認すると勢い良く振り下ろす。

 

「くっ…!」

 

その動作に気づいたサーニャは一度後ろへバックステップ、大男のマチェットの刃は店内の木製の床に勢い良く刺さる。

サーニャは床に刺さったマチェットの背の部分に足をかけてジャンプ、大男の頭上を超えて空中から盾の無い背部へと攻撃を行う。

 

「これでどう…!」

 

手に持ったストライクワンで3発、大男の背に向けて発砲。

弾丸は裏から抜ければ確実に心臓と首を撃ち抜く位置に着弾しているが、男は全くもってピンピンしている。

どうやら彼の着ているベストは正面に限らず背面も分厚い防弾プレートが入っており、そして首周りを覆っている厚い襟も防弾素材でできている様だ。

サーニャはそれらを見て、唯一ヘルメットなどの防具が装備されていない頭部に狙いを定めるが着地姿勢に移らなければならないのと、男がすかさずサーニャに向かって盾を構えた為にこれは不可能となった。

 

「ッ…!コレじゃダメだ…!」

 

盾を貫通するどころかノックバックさえ与えられない9x19mmパラベラム弾を撃つサーニャのストライクワンでは対処しきれない。

サーニャが地面に着地するとマチェットを握っていない、展開前の盾が付いた大男の左腕が水平にスイングされ、サーニャを打撃。

 

「うっ…!?」

 

一瞬の判断により両腕でガードするも鉄製の盾によるその打撃力は凄まじく、サーニャは店の壁へと吹き飛された。

その際、手に持っていたストライクワンも弾き飛ばされてしまいサーニャは撃てる銃を完全に失ってしまった。

 

「くぅ…」

 

自身の視界右下に写っているHPを見ると4分の3程にまで低下していた。

大男は壁に打ち付けられた衝撃で床に座り込んでいるサーニャにゆっくり近づくと彼は耳元に手を当て、

 

「対象を発見、これより無力化する」

 

と、今まで塞がっていた口を開く。

送信先から何やら返事が帰ってきているようだが内容は概ね了承、許可だろう。

大男は無線が終わると、下ろしていたマチェットを再び強く握り込みサーニャに向かって縦に大ぶりで振り下ろす。

 

「隙あり…!」

 

振り下ろされたマチェットはサーニャの頭部目掛け勢い良く振り下ろされるはずだったが、直撃の既の所でサーニャは自身の背にしまってあるブードゥーホークを引き抜き、これを受け流す。

 

「何…ッ!?」

 

仕留めたと思いこんでいた大男はサーニャのその行動に一歩後ろへ仰け反るが、そこへサーニャの一撃。

 

「ここっ…!」

 

大男の装備の中で数少ない守りが薄い部分、脇の下へサーニャはブードゥーホークのとびの部分を力いっぱい差し込む。

 

「ぐあッ!?」

 

GGOの人体の急所に関する再現度はとてもリアルで、事実人間の急所の一つである脇の下に鋭い刃を差し込まれた大男のHPゲージはMAXから一気に半分を下回っている。

また脇の下は神経が集まる部分である為、サーニャが突き刺した脇のある大男の右腕は麻痺という形で動かすことが不可能になっていた。

 

「こいつッ…!」

 

大男は機能を失っていない左手で再びサーニャにフルスイングの盾パンチを御見舞いしようとするがサーニャはこれを腕で受け流すように避け、男の懐へ。

 

「…っ!」

 

「ごはッ…!?」

 

身長差を活かし、素早く懐に入ったサーニャは大男の顎に向けてアッパーを決める。

男も負けじと左手でサーニャのプレートキャリアの背部にあるハンドルを掴みサーニャを店の奥へと放り投げるが、放り投げた先には先程サーニャをフルスイングで吹き飛ばした際に彼女が落としたストライクワンが転がっていた。

放り投げられたサーニャは床を転がりつつ自身が手放したストライクワンを再び手に取ると男に向かって走りながら連射。

 

「くッ…!」

 

男は盾をすぐさま展開しサーニャの放つ弾を防ぐ。

しかし、鉄製の盾には覗き穴等がない為防いでいる間は盾を構えている側の視界は遮られてしまう。大男はサーニャが発砲しながら接近してくることに気づかないのか、盾を構えたまま動かない。サーニャはこれを利用し大男へ撃ちながら一気に距離を詰める。彼女のストライクワンのスライドストップが掛かったと同時に盾を踏み台にして大男の頭部へブードゥーホークによる一撃を食らわせようとする。

が、盾を踏み台にしようとしたその時、サーニャの目に飛び込んできたのは床に突き刺さったマチェットに立てかけられた男が腕に装備していたはずの盾であった。

 

「そんな…!」

 

一瞬サーニャがその光景に惑わされた時、急に彼女の首元が締め付けられ身体がぷらりと宙に浮いた。

 

「うっ…」

 

「あのまま倒せたと思ったか?」

 

サーニャは首を絞められながら声のする、首を締め付ける"手"と思わしきそれが伸びてきているであろう方を見ると誰もいない筈の空間が突如ぼやけ、先程まで盾の後ろに居た大男が今サーニャの目の前にその姿を表した。

どうやら大男はサーニャが盾へ制圧射撃を行っている隙に盾だけを外し、マントの透明化スキルを使ってサーニャを欺いた様だ。

彼女の首を使える左の手で持ち、腕力だけで彼女を軽々と持ち上げ勢い良く地面へ叩きつける。

 

「こうすれば手は使えないだろう?」

 

大男はサーニャの両腕を両膝で押さえつけるように馬乗りになり、尚も首を絞め続ける。

 

「ッ...あぁぁ...!」

 

サーニャは力を出し振り解こうとするも大男の巨体はまるで一枚岩のように重く、びくともしなかった。

 

「あと数秒もすれば死亡判定だ、それまで見届けてやる」

 

サーニャの視界右下に映るHPゲージの少し上に追加表示されたO2(酸素)ゲージが0になり身体は軽い麻痺状態に、既に減っていたHPゲージがジリジリと減って行き、HPゲージが危険を示す赤色表示に変わるとそれを知ってか、大男の口元がにやりと緩む。

と、その時大男の左側面に赤々とした線が2つ程伸びている。

それは紛れもないバレット・ラインだった。

 

「何っ!?」

 

大男が気づいたときには遅く、横腹と肩の位置に着弾。しかしこれは防弾装備に当たったため大したダメージにはならなかった。

が、射撃音が全く聞こえず、これに驚いた大男はサーニャの首を絞める腕を緩め彼の注意はバレット・ラインと銃弾が飛んできた方向へと向いていた。

 

「どこからだ!」

 

男はサーニャから離れ、胸のホルスターから今まで抜かなかった"デザートイーグル Mark XIX L6"(*1)を引抜き左手で構える。

すると店の入口の扉が勢い良く開き、それに気づいた大男は入口に向かって数発撃ち込む。彼の放った弾丸はまっすぐ入り口の方へ飛んで行ったが、空中で何かにぶつかり弾け飛んだ。

それと同時に誰も居ない店の入り口の空間がぼやけ、大男に発砲した人物が正体を表した。

 

「お前は…!」

 

店の入口に現れたその人物の正体は大男と同じメタマテリアル光歪曲迷彩マントを着たあのサイボーグのプレイヤーだった。右手には"マキシム 9"(*2)を、左手には刃が赤く光る光剣 "カネシゲX6"を持っていた。

 

「くっ…!」

 

大男はその姿を見るや否や、サイボーグのプレイヤーに向かって再び2発、3発、4発と次々に撃ち込むが、すべての弾丸を左手に持った光剣で切り落とされる。

サイボーグのプレイヤーはマガジン内の弾を打ち尽くし、スライドストップの掛かった大男の銃と彼を見て、

 

「お前を倒す相手は俺では無い」

 

と、サイボーグのプレイヤーはそう言うと右手に持った自身の銃を大男の方ではない店の天井の方へと銃口向け、

 

「何…?」

 

サイボーグのプレイヤーが放った1発の銃弾は天井から吊り下がった照明のワイヤーを打ち抜く。そこにはサーニャの武器、AKがスリングごと引っかかっており照明が落下すると同時に当然銃も落下する。ここで酸欠状態の麻痺から回復したサーニャが飛び込み、これを素早くキャッチ。

 

「ありがとうサイボーグの人っ…!」

 

そのまま店の床を滑りながらトリガーを連続して引き絞り、数発大男へと撃ち込む。

 

「クソっ…!」

 

大男はとっさに足元に転がっている自身の盾を蹴り上げ、銃弾を間一髪のところで防ぐ。

が、宙に舞う盾の隙間から一気に間合いを詰めるサーニャの姿があった。

大男は直ぐさまデザートイーグルの再装填を行おうとするが、サーニャの接近には間に合わずマガジンを入れる前に彼女の掲げる右腕に握られたストライクワンの銃口が彼の顎に触れていた。

 

「お返しだよ…!」

 

乾いた一発の銃声が店の中に轟き、薬莢が床に落ちる音が響いた。

大男は身体の力が抜け壁にもたれかかるようにして倒れると、顎下から脳天に赤くきらびやかなエフェクトを出しつつ頭上に死亡を表すDeadマークが表示された。

 

「ふぅ…」

 

流石大会だけあって強いプレイヤーが参加していると改めて感じ、更にゲームならではのフィクション的なスキルや装備に未だ対応しきれていない自分がまだまだであると実感したサーニャ。

ふと、店の中を見渡すと先程まで店の入口に居たあのサイボーグのプレイヤーが居ないことに気づく。

 

「また消えた?」

 

そう思いつつ激戦を行った店を後にし、逸れたラファールたちと合流しようとするサーニャであった。店を出るとそれほど遠くない距離から複数の銃声が聞こえ、自分たち以外のプレイヤーもすぐ近くで戦っているのかと思うサーニャ。

 

「おい、こっちだ」

 

聞き覚えのある機械音声のする方へサーニャが振り向くと店の屋根に立ち、こちらを見下ろしている先程のサイボーグのプレイヤーの姿があった。

 

「そこに居たんだ、さっきはありがとう」

 

「礼など要らん、それにあいつとは少し因縁が有ったからな」

 

「どういうこと?」

 

「なに、過去のことだ。それよりマップを開いてみろ、丁度衛星が回ってくる時間だ」

 

サイボーグのプレイヤーのその言葉でマップを開くサーニャ。

 

「お前の仲間は今、市街地西側の外れで戦闘中のはずだ。見てみろ」

 

サーニャ自身が居る市街地北側からマップ表示を西側にずらすと、ラファール達の表示と重なるようにして別の、先程サーニャが倒した大男も属するスコードロンのマーカーも表示されていた。

 

「奴らの名前は"BLACK SPOOK"(*3)、知っての通り奴らは全員メタマテリアル光歪曲迷彩マントを装備している。どんなものかは身を持って知っただろう?」

 

「まぁ…そうだね」

 

「俺はこのままデビルツインズを追う、気を抜くなよ」

 

そう言ってサイボークのプレイヤーは早々に立ち去ろうとする。

 

「ちょっと待って、そういえば貴方の名前を聞いて無かった。多分知ってると思うけど私はサーニャ、貴方は?」

 

サーニャがサイボーグのプレイヤーにそう言うとメニューウィンドウを開き、自身のプロフィール欄をサーニャの方へ飛ばした。

 

「"ショール"?それが貴方の…あれ?」

 

サーニャがサイボーグのプレイヤーのプロフィール欄から"ショール"(Schorl")"という名を確認し、再び目線を戻すと既にサイボーグのプレイヤー、ショールの姿は無かった。

 

「変わった人だなぁ…それはそうとラファール達に連絡を取らないと」

 

サーニャは無線アイテムでラファール達に連絡を試みる。

 

「ラファール?ラファール達大丈夫?」

 

「サーニャ!?連絡が来ないから心配してたけど大丈夫そうね…!うわあっ!」

 

ラファールの言葉の合間にノイズのように響く着弾音と発砲音。

 

「そういえばなんかデカイ人がサーニャの方に行ったみたいだけど大丈夫なの!?」

 

銃声で聞こえづらいのか、自然と声を張り上げるように無線越しでサーニャに問うラファール。

 

「ちょっと手こずっちゃったけどなんとか倒したよ」

 

「そう!なら良いんだけどこっちは今透明マントの人達と撃ち合いになっててそろそろやばいかも…!」

 

無線からでも伝わるラファールの焦り混じりの声。

 

「分かった、出来るだけそっちに早く合流できるようにする。もう少し耐えてて」

 

「おっけい…!」

 

ラファール達の戦況が気になるが一旦無線を切ったサーニャは、いち早く合流すべく移動手段となる乗り物を探し始める。しかしサーニャが振り落とされた高級飲食店を出たストリートには一台も走行可能な車両は無く、あるのは車であったのだろう錆びて朽ち果て鉄屑同然なものばかりであった。

 

「バイクとかでも良いんだけど見つからないなぁ…」

 

ラファールと連絡を取ってから5分ほどが経ちサーニャの顔にも焦りが見えてくる。

ふと、サーニャはとある家の脇にある小屋が目に留まった。

 

「うーん…?」

 

小屋の丁度真ん中には裏から栓か何かで頑丈に閉められた大きな扉と、そのすぐ横にある何重にも南京錠で施錠が施された扉。それは"いかにも重要な何か"が隠されているようなものだった。

サーニャは背にしまってあるブゥードゥーホークを手に取ると南京錠には目もくれず、ひたすらに木製の扉を叩き壊す。

ドアブリーチ用のショットガンをサーニャは持ち合わせていないため南京錠を手持ちの銃で撃っても壊れないと考えたからだ。

 

「一体こんなところに何をしまったの…さっ…!」

 

ブゥードゥーホークでボロボロになった木製扉を勢い良く蹴破るサーニャ。

叩き壊された扉の板が崩れ小屋の中が露わになり、そこにはカバーが被せられた何やら大きなものが埃を被っていた。

 

「もしかして車…?」

 

大きさとシルエットから察するサーニャは、その埃を被ったカバーを丁寧に剥がすと出てきたのは。

 

「うわぉ…」

 

小屋とカバーのおかげか、外に放置してある鉄屑と化した車とは大違いに塗装ハゲもなく新車同然の姿でその車は姿を表した。

低く構えた流線型の車体、小屋の隙間から射す陽の光がその深い青のボディを輝かせている。その形状はまさにスーパーカーである。

 

「乗り物を探しては居たけど流石にここまでは…」

 

サーニャが見つけたのはフィールドアイテムとして無数に置かれた物でもレアに位置するものであった。サーニャはまさかのスーパーカーの登場に驚きつつも戦闘中のラファールと一刻も早く合流する為、栓で塞がれていた小屋の大扉を開放し運転席の扉を開けAKを助手席に放ると自分も颯爽と乗り込む。

 

「鍵は...ここだよね」

 

駐車場でスコッチに教えてもらった鍵が閉まってある運転席側のサンバイザーを開けると、案の定車のキーが出てきた。

 

「えっと…どうやってエンジンを掛けるんだろう…」

 

間違えて戦闘機に乗り込んでしまったのではないかと思えるほどのインテリア。

サーニャは車内を見回してエンジンスタートのボタンを探す。

 

「これだ…!」

 

運転席と助手席の間にあるフロアパネルに設けられた白地で"ENGINE START"と書かれた赤いボタンをサーニャは押すとセルモーターが駆動し、地面から湧くような低くいエンジン音が車内に響き渡る。それは長く封印されていた獣が目を覚まし、走り出すのを今か今かと待ち望むように。

 

「さぁ、行こうか」

 

突き上げるエンジン音が小屋の屋根を揺らし、久々に日の下に出た獣はエンジンの吹け上がりも良くゲームの設定上とは言え長らく放置されていたにも関わらず上機嫌だ。

サーニャはアクセルを踏み込み数ブロック先のラファール達が待つ地点へと走らせた。




*1 "デザートイーグル Mark XIX L6"
強力な.50AE弾を使用することで知られるデザートイーグルの最新型。
アメリカ、マグナムリサーチ社が製造するこのデザートイーグルMark XIX L6は通常モデルのデザートイーグルから約340gほど(通常モデルの重さは約2000g)軽量化されており、バレル上にはウィーバータイプ、バレル下にはピカニティー規格のレイルを装備し各種ドットサイトやフラッシュライト等を装着可能。
マズルブレーキの為に大胆に肉抜きされたマズルフェイスは軽量化と射撃時のリコイル低減に一役買っている。

*2 "マキシム 9"
アメリカのサイレンサー市場で40%を売り上げるSilencerCoが製造する銃とサプレッサーを一体化させたハンドガンである。
その名の通り、9mm弾を使用する本銃は同社のショットガン用サプレッサー"Salvo 12"や、"オスプレイ・マイクロ"と同じく着脱バッフル方式を採用しており、ユーザーの好みによってバッフルの数を減らし、全長を短縮させることも可能。
また、内蔵したサプレッサーは発砲時のガスで反動を抑える効果もある為、反動の少なさは他の銃にない撃ち応えをユーザーに与えるだろう。

*3 "BLACK SPOOK"
サーニャ達が戦闘中のスコードロン。メンバー全員がメタマテリアル光歪曲迷彩マントを装備しているのが特徴。
サイボーグのプレイヤーと何らかの因縁があるようだが?
名前の由来は"SPOOK"が幽霊(特にシーツを被ったお化け)を指す言葉で、マントを被ったその姿がそう見えることから。


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