ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。 (スパルヴィエロ大公)
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プロローグ 比企谷八幡は新天地へとゆく。

俺ガイルか?ローゼンメイデンか?
・・・どっちをラブライブとクロスさせるか迷いました。JUMの方がスペック的に分はありそうですが(裁縫)、僕は八幡を選びました。

来月はインターンだ・・・執筆できるかな・・・。


「―――それが、学校側の決断ですか」

 

放課後。

生徒指導室には眩しい夕日が差し込んでくる。ドラマなら青春の一ページとして絵になるんだろうが、生憎ここにいるのは俺とアラs・・・平塚先生のみ。

おまけに表情を見れば、誰もが俺たちの間で何か深刻な話をしているんだと気づくだろう。

 

やっぱり、俺に青春なんて言葉は似合わないんだ。

 

「・・・ああ。先日君のご両親とも話した通りだ。

 

比企谷、本校としては君に転校を勧める。これ以上"被害"が大きくならないうちにな」

 

被害。被害ねぇ・・・。

生憎小学生の頃からその手のことには慣れっこなんだがな。

 

しかも、今回の件は100パーセント、自業自得だ。こうなっても仕方ないと覚悟したうえでのことなんだから。

 

 

話は文化祭の時に遡る。

やりたくもない文化祭実行委員の職務をやらざるを得なかった俺。

それだけだってぼっちには苦痛なのに、加えて奉仕部にとんだ案件が持ち込まれたのだ。

 

―――ウチ、委員長の仕事自信なくて~。でもみんなに迷惑かけるわけにいかないじゃん?

 

そう、文実委員長の相模の件だ。

自分から立候補したのに職務を果たせそうにないとみるや、奉仕部にサポートの依頼を頼んできた。

潔いのか、怠慢なのか。まあそれはどうでもいい。

 

問題はそこから。

雪ノ下は理念に反してあっさり依頼を承諾、そして相模を上回るリーダーシップを発揮して文実を回していった。

途中で骨格外強k・・・陽乃さんの介入でなんやかんやあったりしたが、それでもどうにか立て直し、本番まで順調に・・・。

 

進むかと思った。

 

俺が失念していたのは、この過程で自分の無能さに打ちひしがれ、いたくプライドを傷つけられた相模の存在。

開き直って雪ノ下らにすべてを一任し、自分はいいとこ取りして美味い汁を吸うかと思っていたら、最後の最後になってあいつは逃げ出した。

よりによってエンディングセレモニー開始前に、だ。

 

捜索に割く人員はほぼゼロ。できることは校内放送の呼びかけ。刻々と迫る時間。

埒が明かない。

なので、俺は雪ノ下や由比ヶ浜を振り切って相模を探しに行った。

途中見かけた葉山と相模の取り巻き連中は、ただ他の生徒に相模を見かけなかったか尋ねるだけ。それじゃあ甘いぜ、リア充の紳士淑女の皆さん方。

餅は餅屋。心を傷つけられたやつが黄昏たいときに行く場所を、俺は知っている。そこを探せばいい。

ソースは例によって俺の経験。

 

屋上。ビンゴ。

そこに相模は蹲っていた。白馬の王子を待つ姫の様に。

だが、現実とファンタジーは違う。そんな都合のいい展開が待っていると思うか?否。

 

だから俺は言ってやった。

相模に現実を直視させるために。

怒りを炊きつけ、失われた誇りを呼び起こしてやるために。

 

 

―――お前に関心がない俺が真っ先にお前を見つけた、つまり誰もお前を本気で探してなかったってことだろ。

 

 

―――なあ、どんな気分だ?こんな奴に好き勝手言われてる、今の気分は。

 

 

結論を言おう。

この作戦は、無残にも大失敗に終わった。

 

相模は発奮するどころかむしろ絶望し、集計表を投げ捨てて走り去ってしまった。

あれから葉山も取り巻きも相模を見つけられず、結局エンディングセレモニーは雪ノ下とめぐり先輩の手で執り行われた。

文化祭は無事終わったが、その後の影響は計り知れないものとなった。

 

まず相模。

エンディングセレモニーのドタキャン劇をサボりと見なされ、クラス、いや学校での居場所を失った。

いつどこでも、敵前逃亡した情けない将とレッテル張りをされる。一週間で学校に来なくなり、その後転校したと伝えられた。

 

そして俺。

相模の取り巻きか、文実で俺のやったことを知っている奴か、あるいは両方か。

そいつらの手によって俺が相模に嫌がらせをしたと広められた。半分以上当たっているので弁解のしようもない、いや無実だとしても世間は俺をクロと言うだろうが。

今度は俺が学校での居場所を失う番だ。

 

それが行き着くところまで行ったのが3日前。

一人飯をしに屋上へ向かったら、待ち構えていた見知らぬ同学年らしい男子三人組に取り囲まれ、ボコボコにされた。

そういえば、屋上って不良共のたまり場でもあったな。すっかり失念していた。

 

怪我自体は大したこともなかったし、相模と仲が良かったらしい三人は即座に停学処分になったが、その後も俺への憎悪は止まる気配を見せない。

学校側も、じき修学旅行だというのにこれはまずいと思ったのか。

 

 

それが、俺に転校を勧めるということになった。

 

 

「・・・君にも罪はあるが、元を辿れば相模にも原因がある。何より彼女の件で君が皆から嫌がらせをされていいということにはならん。

そう言っても無駄だった。大事になる前に被害者を転校させた方が傷が浅くて済む、とな」

 

誰の傷なんだか、と言いたげに先生は舌打ちをする。

そりゃ、学校のメンツに決まっている。未だにいじめ事件が起きればニュースで騒ぎになるご時世だ。

校長を含め教員の多くは責任を取らされるだろう。世間の好奇の目にもさらされる。

 

だが、現時点ではこれが最良の選択肢だ。

受け入れない手はない。

 

「別に構いませんよ。先生の仰る通り、俺にも責任がありますし」

 

「・・・本気か」

 

「最大多数の最大幸福、ですよ。俺は嫌がらせをされなくて済む、周りの皆は嫌なやつが消えて清々する、先生方は俺の件で惑わされなくて済む。

葉山とかもこう言うんじゃないですか?"みんなが笑って幸せならそれでいい"って」

 

「ッ・・・!」

 

いや、絶対そう言うだろうねあいつは。

葉山はいついかなる時でも皆のことを考える。マジョリティのことを考える。つまり徹底した民主主義者なのだ。

 

先生は俺の意見に正論すら返せなくなったのか、ただ悔しさを滲ませるだけだ。

流石に俺の所為でいつまでも苦労を掛けるわけにもいかない。そろそろ先生を解放するときでもある。

 

「先生、美人が台無しですよ」

 

「・・・今さら世辞はいらん。本当にいいんだな?」

 

「俺も人の子ですし、いつまでもこの状況に耐えられるとは思えません。大人しく新天地を見つけますよ」

 

「新天地、な。

・・・私はつくづく、教育者としてどうなのかと思うよ。大人しく実家で花嫁修業でもしていれば良かったのかもな」

 

「悔やむくらいなら、いっそ俺を恨んでくれた方がマシです」

 

そこで平塚先生は、クスリと笑った。

実に捻くれた君らしいなと言って。

 

それはまるで、今生の別れの光景のようだった。

 

 

二週間後 東京都千代田区神田

 

「・・・遠いな」

 

電気街兼オタクの聖地アキバを超え、いざ行かん新天地へ!

・・・どこの海賊王だそれは。麦わら帽子被った人?

目が腐ってるから案外似合ってたりして、いや怖いなそんな俺。

 

その後両親を交えて話し合った結果、国立音ノ木坂学院への転校が決まった。

場所は東京、元女子高で去年から共学になった伝統校とのこと。

・・・ぼっちにとって条件キツすぎじゃね?男子は圧倒的マイノリティ、ぼっちはさらにマイノリティ。悪目立ちすること間違いなし。

全然嬉しくない。俺の精神力も女子社会でやっていけるとは思えん。

 

とはいえ隣の海浜総合ではすぐ俺の情報が洩れ、そこでまた嫌がらせ再発になることは流石に予想が着く。

私立高は学費の件で無理。となると、近場には俺の行ける高校などない。

 

なら、ということで俺は東京で一人暮らしをしつつ音ノ木坂へと通うことになったのである。編入試験、手続、引っ越し、この二週間やることは多かった。

因みに小遣いは4割カット。なにそれバイトするしか・・・ああ社畜へのフラグが・・・。

 

まあ、どのみちバラ色の青春なんて待ってるわけがないのだが。

嗚呼、世知辛い世の中よ。もういっそ、トマス・モアばりに新天地どころかユートピアを求めたくなるまである。

 

 

「―――いっけなーい!今日も遅刻しちゃうよ~!」

 

 

げ。

 

なんか災難の元が背後から近づいてくるぞ。

 

「穂乃果がまた寝坊するからです!いつになったら自分で起きられるようになるんですか!」

 

「怒ってる場合じゃないよ、あと五分で一時間目始まっちゃうよぉ~」

 

さらに二名、喧しいのがいる。

あー、なんかすごいリア充してそうな奴らなのは分かった。あと脳筋熱血のイケメンがいれば完璧だ。

あれ、いつからリア充って動詞になったん?

 

そんな三人―――一人は春香サン、二人目は千早、三人目は・・・あずささん?てかなぜアイマs・・・―――は俺を省みることなく、横を猛スピードで過ぎ去っていく。

バイクかお前ら。制限速度くらい守れよ。

 

と思いきや、オレンジ髪のサイドテールのくせにどこか春香さんぽい一人が振り返った。

 

「そこの目が腐った人ーー!急がないと遅刻するよーーー!!」

 

・・・絶賛遅刻中のお前が言うか。つか不審者って勘違いされるだろうがどうしてくれる。

案の定千早似の連れに頭を叩かれ、引きずられていった。

てか俺はいいんだよ、理事長さんと話あるんだし。

 

とはいえ一刻も早くここを離れたいのと、完全シカトするのも体面が悪いとあって、俺は小走りで音ノ木坂へ向かっていった。




前置きが長くて済みませんでした。俺ガイル文化祭編ともちょっと設定変えてますし。
凝り性なのが僕の欠点(てへぺろ(・ω<)

次回はも少しゆるーくいきます。
・・・だからってμ'sをアイマスキャラに例えるなんて二度とするなよ?!


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おまけのおまけ!
没ネタ集~こんなssがあったらな~


ことり「こ、こんな内容ので水増しするなんてどうなのかな~・・・?」

八幡「知らん。てか作者に言おうぜ」

穂乃果「ひ、比企谷くんメタ発言だよそれ!?」

海未「・・・穂乃果、貴方の今の発言も十分アウトです」


てなわけでちょっと作者の妄想入ります。貼っていきます。



1.やはり俺のゾンビ・サバイバルはまちがっている。

  原作:俺ガイル×ドーン・オブ・ザ・デッド(2004)

 

人類最後の、夜が明ける。

 

高校に入ってもぼっち生活を続ける比企谷八幡。

夜はいつものようにリア充の爆発と世界の破滅を願う。その日も例外でなく。

 

―――そして目覚めると、世界は終わっていた。

 

生ける死者の蔓延する世界。変わり果てた姿の愛する妹。

本物の絶望を味わいながらも命からがら逃げだした八幡は、やがて生存者たちの集まるショッピングモールへ辿り着き、仲間として受け入れられることに。

 

しかし日に日に、モールの生存者たちの力関係は変化していき―――

 

〈補足〉

ガガガの「オブザデッド・マニアックス」を読んで、八幡ならどうすんだろ、と妄想してたら書きたくなって、でも書けなかったお話。

ゾンビハザードになったら、そっち方面の主人公補正のない八幡はお陀仏じゃねーかと思って止めました。

 

 

2.やはりぼっちと精霊は、この世界にとって異物である。

  原作:俺ガイル×デート・ア・ライブ

 

「精霊を救うために、デートしてデレさせる。それができるのは、アンタ一人だけよ」

 

謎の秘密組織に所属しているらしい妹の友人によって、世界最強の怪物"精霊"を救う役目を負わされた八幡。

1人、2人、3人・・・精霊たちの心を開かせ、関係を築くことに成功していく。

 

だが、彼女たちにとっての真の敵は、ASTでも、DEM社でもない。

 

それは、他ならぬ世間だった。

 

〈補足〉

人間に戻ろうとも、それを認めない世間によって迫害を受ける十香たちと、自らも孤立し迫害を受ける覚悟で彼女たちに寄り添おうとする男らしい八幡とのヒューマンドラマ。

・・・そんなものを書ける才能が作者にゃなかったぜ!(汗)

 

 

3.青春ぼっち野郎は美人で金持ちな先輩との夢を見ない

  原作:俺ガイル×青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない

 

比企谷八幡。ぼっち。奉仕部長(1名のみ)。引きこもりの妹を抱える。

 

雪ノ下陽乃。美人。社長令嬢。―――現在、八幡以外の人物に姿が見えない。

 

八幡とその周囲の人物に次々起こる、"思春期症候群"の災禍。

それを解決すべく、奉仕部は行動を開始する・・・。

 

〈補足〉

書こうとした途端、クロスさせる必要性が無いことに気付いた。

これならさくら荘とにしたほうがいいかなー・・・で、ボツ。

 

 

4.幼女は如何にして極東の覇者となりしか

  原作:幼女戦記×艦隊これくしょん

 

時は西暦1989年、帝政ワイマール。

同盟国日本皇国の軍事戦略を論文で酷評した海軍少佐、ターニャ・デグレチャフは即刻左遷となり、日本海軍へ軍事顧問として送り出される。

そこで見たものは、緊縮予算と戦略性なき上層部の戦争指導、深海棲艦への徹底抗戦をやみくもに主張する愚かなる大衆。

そして、そのはざまで苦しみ続ける新兵器"艦娘"。

 

帝国軍きっての異端児にして"神の授けた頭脳"、ターニャの闘いが始まる。

 

〈補足〉

つくづく思うが、自分にはミリタリー系のssを書く才能が本当にない。文才だってまだまだ乏しいのに、どうやって戦闘描写を掛けるのかと。

国際情勢、歴史・・・・他にも足らない知識は盛りだくさん。すぐ挫折しました。

 

 




おしまい。
もう当分こんなふざけたことはやりません、許してください。

・・・あ、誰か上の没ネタ書ける人がいらっしゃったら教えてください。大歓迎です。


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外伝 やはり俺の青春がラブコメっているのはまちがって・・・いる?with μ's
西木野真姫編~ひと夏の青春は、紅き色にて彩られている。


はじめての外伝です。
やっぱりたまにはイチャらぶしたい!てな訳で今回は真姫ちゃん編どうぞ。
・・・改変あり、言わなくても分かるね?あと作者の妄想全開なのでご注意。

それと読む前に。

真姫ちゃんかわいいー?サン、ハイ!


人はパンのみにて生きるにあらず。

キリストの有名な説教である。

 

俺はこの言葉を、二つの理由でその通りだと思っている。

一つは人間というのは物質的に、つまりただのんべんだらりと生きていればいいってもんじゃない。

常に何かしら目的意識をもって行動する。そうでないとあっという間に堕落していってしまう。

 

特に、時間の有り余る大学生活においては、な。

 

そして二つ目。

これは聖書の解釈ではなく捻くれた・・・じゃなくてリアリストの俺の理論だが。

実際問題人間パンだけじゃ生けていけないのだ。栄養面の問題もあるし、加えて文明の高度の発達した現代、医療なり娯楽なり生活に必要なものは多岐にわたる。

 

で、それらを手に入れるためには、何より金と職。

結局はこれが決定的に重要なのだ。

そして職を得て金を稼ぐには、学歴と資格、それなりのコミュ力がまた必要になってくるのである。

 

・・・ああ、必要なもの多すぎるだろ常識的に考えて。

イエス様よぉ、ほんっと人ってパンだけじゃぁ生きてけないっすよぉ~。やはり人生は辛かった、ぼっちにとっては。

あと改めて働きたくないなあと思いました(小並感)。

 

 

「―――相変わらずね、ホント・・・。

ポエムとも愚痴とも取れない文章を書かせたら一人前だわ。今度海未にも読ませてあげようかしら?」

 

「やめてくださいしんでしまいます」

 

さて今、人生で何回目か分からない土下座の最中である。

一回目は・・・えーと小学生の時教室の花瓶が割れたのを俺のせいにされて校長に謝りに行った時だっけか?おかげで笑って許してもらえたけど。

そっからあとは知らん。旅と人生の恥はかき捨てるものなのだよ、諸君。

 

「ま、今回は大目に見てあげる。その代わり今晩の夕食は一緒に作って一緒に食べること、いいわね?」

 

「・・・おい夜に女子を部屋に連れ込むのってちょっとまずいんだが」

 

「い・い・わ・ね?」

 

「はいよくわかりました」

 

そこで彼女は―――西木野真姫は満足げに、小悪魔的な笑みを浮かべたのだった。

 

俺たちが高校を卒業して、既に2年目になる。

人生いろいろと歌にもあるように、高坂達μ'sの面々もまた、それぞれの道を歩んでいた。

 

俺の知る限り、高坂は短大に行き将来アナウンサーを目指している。南は欧米に留学し服飾を勉強中。

園田は体育大で武道を専攻し、星空も同じ大学で陸上選手として活躍している。絢瀬会長は生まれ故郷ロシアでバレエを、東條副会長は神道を勉強しているとか。

矢澤は本格的にアイドル歌手としてデビュー。どっちかっつうとお笑い芸人のほうが向いてる気もしないが、言ったら殴られるから言わないけど。

小泉は児童心理を学びつつ、ファッションモデルとして活動していると聞いた。

・・・何で知ってるかって?だって向こうが教えてくるんだもん俺は悪くねぇ!

 

そして西木野。

国立大学の医療系学部へと進学。ちなみに俺はというと、同じ大学の文学部。

おそらく臨床心理士を目指しているようで、俺も一応教職課程で教員資格を取るつもりだ。

 

で、まあ・・・その、なんだ。

 

西木野が今年の春に大学合格が決まると同時に、俺たちは交際を始めることになった。

 

え?金絡み?援助?それは犯罪です。ちゃんと向こうのご両親からお墨付きも得た正式なもんだってばよ。

あん?何か脅したに違いない?ヌポォ裏切り者よ爆発しろぉぉ、だって?

・・・脅しなんて誰がするか大体仕方ねえだろ、「私と一緒に夢を叶えるんだから!だから貴方、先に行って待ってて!」なんて言われたら惚れるしかないだろうが。

今まで暗黒に限りなく近いバレンタインの日。それが鮮やかな紅に染まった初めての時だった。

つまり俺は悪k(ry・・・あと財津くーん?海老名さんと二人で同人ゲーサークル作ってるんじゃないのかね?

先にのろけ話を聞かせまくっていたのはお前だろうに、今さら何を言うか。

 

さて、今は夏だ。それも大学生の夏だ。

文系と理系――特に医学部――とでは断然後者の方が忙しいとはいえ、それはあくまでも大学生としての話だ。

やはり夏休みというのは結構時間が空く。そんな時こそ、と思い立ったのが大学で紹介された免許合宿だ。

前にも書いたがパンだけじゃ生きてはいけぬ。金と職、それらを手に入れるために学歴と資格が必要なのである。

勿論大学でも資格を取るために学問を修めているわけだが、それを手にするのにはまだ時間がかかる。それでまずは比較的取りやすく、そして必ずや必要となる運転免許を、ということになった。

・・・コミュ力はどうしたって?そっちはもうどうにもならんだろ。

あと愛しの小町から「ドライブできる男の人はポイント高い」なんて言われりゃ取りに行くしかないだろ、常識的に考えて。

 

で、来る前はやはり合宿ということで元ぼっちの俺にはきついだろうと思っていた。

ほら、やたらチャラいリア充とかに馴れ馴れしくされて、こっちがそっけなく接してると村八分にされるとかさ。だから集団生活は嫌いなんだよ。

しかし蓋を開けてみれば、朝食を皆で取る以外にこれといって合宿要素はなかった。・・・それでいいのか、おい。

期間が決まっている分教習はそれなりにキツいことぐらいか。まあ、今は2人ともどうにかついていけているし問題はないな。

 

「・・・さてと!来週はいよいよ仮免試験ね、気合い入れていくわよっ」

 

「お前・・・なんか矢澤っぽくなったな、性格が」

 

「に、にこちゃんは関係ないでしょ?!この浮気者!」

 

あ、西木野がデレツンモードに入った。やっぱ矢澤に似てきてるだろお前。

それと足踏むの止めてください足がダメになったら免許がああああ!

 

 

それから一週間経ち。

どうにかこうにか2人とも仮免は突破、晴れて路上教習への道が拓けることになった。

 

「それにしても、意外とみんな制限速度守ってないものね・・・恐怖を克服するのに時間がかかりそう」

 

「ま、周りがそうだと杓子定規に制限守る方が却って危ないわな。腹立たしいことだが」

 

日本人の悪癖のひとつ、"何でもすぐ周りに合わせる"がここでも垣間見える。

このケースは交通安全という命にかかわる問題だけに色々と厄介だ。でもな、頼むからドライバーさんよ、こっちが初心者マーク持ちだっつうことを忘れんでくれ。

 

そんなこんなで、路上教習と座学ですっかりくたくたになった俺たちだが、それでも守っていることがある。

夜は自炊する、以上!

何せここの教習所は田舎にあり、集中して免許取得に励めることをウリにしている。それは裏を返せば娯楽も何もないということだ。

まあ、暇な時間は二人で勉強すればいい。あるいは音楽でも聞くとか。しかし飯は、安く美味く済ませるには自炊以外に道はないのである。

 

「しかしお前・・・ホントにトマト好きだな」

 

「ハヤシライスからトマトを抜くなんて味噌汁に豆腐を入れないくらいあり得ないわ」

 

「野菜サラダにもトマトあるじゃねえか・・・」

 

夏野菜だからいいけどよ。

ともかく腹が減った、さっさと食おう。

 

「「いただき、ます」」

 

―――あ。

 

「・・・」「・・・///」

 

ハモった。

これまた絶妙にハモった。お願い、照れんといて西木野はん。

 

「お、落ち着くのよ真姫ちゃん、0、2、3・・・///」

 

「0は素数じゃねえぞ。取り敢えず水飲んで頭と顔冷やせ」

 

「う・・・し、知ってたわよ・・・は、八幡だって顔、赤いわよ・・・///」

 

「・・・お、おう」

 

ごめん。

やっぱりこいつ、可愛過ぎるだろ。

 

 

夜。

飯とその後片付けが済むと、西木野は一旦自分の部屋へ戻った。

近くの河原で花火大会があるので浴衣へ着替えるとのこと。

 

別にそこまで気を使わなくてもいいだろうに。

浴衣でなくてもどんな服でも、美人が美人であることには変わらないのだから。

 

その時、部屋の扉がノックされる。

やべ、オラすっげぇドキがムネムネすっぞ。どこの変態幼児だ俺は。

 

「は、八幡・・・入っていいかしら?」

 

「ん、ああ・・・いいぞ」

 

 

その次の瞬間。

 

髪の色とは対照的な、蒼い浴衣姿の西木野が姿を現す。

 

 

美しい。瞬きも止めてじっと見入ってしまう。

 

 

「ど、どう?」

 

「―――完璧、だ。似合ってる」

 

「・・・ばか///」

 

ツンデレ、いただきました。

 

俺も手早く支度を済ませ、2人揃って家を出る。

一応合宿なので門限はある。それでも1時間半はあるので、祭りの終わりまではぎりぎり余裕はある。

さっさと行くとしよう。

 

「「・・・・」」

 

外は、とにかく暑い。それが熱帯夜の所為かは分からん。

ま、間違っても2人並んで手を繋いで歩いているからじゃないんだからね!きっと、多分、メイビー。

男がツンデレてどうすんだよ、俺乱れすぎだろ。

落ち着け、落ち着くにはどうすればいいか。1.逃げる。2.だんまりをやめて話しかける。

・・・実質一つじゃねーか。

 

どうしようか。

 

その時、ふと、胸に浮かび上がってきたことを言ってしまう。

 

「・・・こんな時になんだが、一つだけ聞いてもいいか?」

 

「何?そんな深刻な顔しちゃって」

 

「進路のことだ。本当はお前、音楽を学びたかったんじゃないのか?」

 

「!」

 

我ながら、空気の読めていない質問だと分かってはいた。

そう、西木野は音楽の才能に満ち溢れ、かつては学業面でもその道へ進むことを考えていたはずなのだ。

あわよくば、海外へ行くことだってあり得たはず。

 

まさか、俺なぞのために夢をあきらめたのか?

 

情けない話だが、そう聞くのが怖いと思う自分がいた。

何をしてる。

お前の求める本物とはこの程度なのか?こんな素晴らしい彼女に、醜く失着してしまうのか?

 

「―――バカね」

 

「は?」

 

「医療と音楽が関係ないなんて、大昔の話じゃない。

今は音楽療法が難病の治療とかでもすごく重要だって、聞いたことないの?」

 

―――あ。

 

音楽療法の重要性は、さておき。

そういえば学内の広報誌で、俺が入学した年から医学部に音楽療法士の育成課程を始めたと、いつか読んだことがあった。

 

「・・・お前はそれを取ってたってわけか」

 

「そういうこと。夢を諦めたとか、か、彼氏に迷惑かけたくないとか、そんな理由じゃないわよ?

私の音楽という能力、それがもし難病の子供が救える一つの道しるべになるなら、この道を選ぶ価値はある。

だから私は、西木野真姫はこの道を選んだのよ」

 

西木野はそう、きっぱりと言い切った。

 

「なるほど。変な事聞いちまって悪かったな」

 

「ううん。むしろ、聞いてくれてありがと。

・・・この道を選んだきっかけは、八幡、貴方にあるんだからね」

 

「・・・マネージャーのことを言いたいのか?」

 

高校時代、μ'sの(実質)マネージャーもどきをやっていたときのことが蘇る。

最初のうちは一緒に筋トレに参加するとか、ただ練習を眺めているだけだった。

それが次第にマッサージを手伝ったり、飯やドリンクを作ったりPV撮影でカメラマンをやらされたり・・・。

あれ、俺立派に社畜してたじゃん。もう(逃げ道が)ないじゃん。

 

まあ確かに、それなりに尽くしてきたし、皆から感謝もされた。

でも西木野にとって、人生の重要な決断をするほどの影響があったと言うのだろうか。

 

「決まってるでしょ。

穂乃果たちと無関係の貴方が、マネージャーとして動いてるときは本当に親身に、真剣に働いてる。

普段はちょっとひねくれたあまのじゃくな男の子が、ね」

 

「あまのじゃくは余計だろ。それに結局は単に流されやすいだけってこった」

 

「そんなことある訳ないじゃない。もし逆に、大切な時にまで変に意地を張るようだったら、貴方は単に私の悪いところをコピーしただけの、本当の意味でヤな男よ。

私から告白するだなんてあり得なかった。この意地っ張りの、私が。

そもそもμ'sだって、貴方の支えなしじゃ機能しなかったわ。違う?」

 

「・・・・」

 

そこで沈黙が訪れる。

 

俺は、今の言葉を信じていいのだろうか。

これは、本当に本物で―――

 

「―――もう。素直になっていいのよ?」

 

すると、いきなり西木野が近づいてきて。

 

 

お互いの唇が、そっと触れる。

 

 

暫くして、離れる。

思考の停止が収まると、西木野をじっと見る。

 

「貴方は、自分を卑下する必要なんて、もう、ないのよ?」

 

「・・・それも医学部での受け売りか?」

 

「ふふ。考えるな、感じなさい」

 

格闘家か、似合わねえぞ。

 

でも。

 

「・・・あ、ありがとうな」

 

「ど、どういたしまして///」

 

お前も緊張してたのかよ。

 

その時、夜空に二つの花火が上がる。

ひとつは紅。もうひとつは蒼。

 

「行くか」

 

「そうね。行きましょう、八幡」

 

夏の夜は、まだまだ終わらない。

 

 

 




かきくけこー!


というわけで読んでいただきありがとうございました。急な企画でごめんなさい。
今は冬とかそんなもん全無視で書いちゃいました。
なお、免許合宿については作者自身の体験を基にしたフィクションです。実際の合宿とは一切関係が(ry
当たり前だが本来は男子の部屋に女子は入れない、逆も然り!忘れんなよ!

ちなみに僕は、夏色えがおで1,2,Jump!が一番大好きです。
今年の夏コミもこれを聞きながら各ブースを回ったのだぜ・・・懐かしいのだぜ。


さておき外伝に関してですが、次回の予定は、

矢澤にこ編~ツンデレアイドルとクールぼっちの恋愛ルートは、案外王道なのである。(仮)

まずにこにーはほぼ確定として。

東條希編~スピリチュアル系女子との四国遍路は波乱万丈である。(仮?)

絢瀬絵里編~ロシアの大地は赤か、白か・・・いや、黄金色である。(・・・仮)

りんぱな編~グルメ系女子たちとの東北旅は以下略。(仮!)

ほのことうみ編~ゴールデンなウィークにはやはり旅をするのが以下・・・。()

以上、予定しています。イチャらぶメインと思っていただいて構いません。
・・・なぜ旅ばっかなんだ?というのは置いておいて。
りんぱなとほのことうみについては完全に嘘予告風ですが、やる気はあります。
ただ個別に八幡とくっつく展開が思いつかんのだよ・・・。

本編の更新と同時に、冬コミ前に一本は投下する可能性あり。
そしてその本編は、二期は劇場版と合体させて書いていく予定です。二期すっ飛ばすとか舐めたこと言って本当ごめんなさい・・・絶対、時間かかってもやります。絶対。

では作者の次回作に(ry





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夫婦漫才編その1~やはり俺がペアを組むのはまちがっているかもしれない。

今回の外伝は、オムニバス形式でラブなコメディに挑戦。
メインヒロインは穂乃果・絵里・海未・真姫・希です。

時系列的には、3~4月の春、八幡や穂乃果、ことりに絵里たちは3年に(※)、真姫と花陽に凛は2年に進級するころだと考えてください。


※本作では、穂乃果たち2年組と絵里たち3年組は同じ2年生という扱いです。あしからず。


「よしっ!それじゃ今日は、ペアに分かれてストレッチをやりましょう」

 

・・・・。

 

はい?

え、今って体育の授業?違うよね?

μ'sの練習だよね?それも春の新入生歓迎ライブ前の。

 

あれれー?おっかしいなー?

 

もうくどいほど説明してきたが、はらわたが煮えくり返りそうなのでもう一度言うと。

この手の「ペアになって」方式で俺は過去散々割を食ってきた。

必ず好きな人同士で、という前提が付くのだが、そうなると真っ先にリア充な奴らがペアを組んでしまう。

残りの余り者は気まずいながらも渋々ペアを組み始める。で、最後に残るのが俺だ。

「なんだ~比企谷は誰とも組んでないのか?じゃあしょうがないから先生とやるぞー!」・・・いつもこのパターン。

んなことでかい声で宣言すんじゃねえよ、ぼっちだってバレるだろうが。いやとっくにバレてますけどね、ええ?

そしてクラスメート全員から余すことなく憐れみと軽蔑の視線を向けられる。そんな苦い思い出は決して忘れないだろう、今でも胸が苦しくなる。

 

とはいえ俺も伊達に十何年と生きてきたわけではない、このペア方式に対する対抗策だってきちんと練り上げているのだ。

早速提案者の絢瀬会長に向かって、

 

「あの、悪いんですけど俺体調悪いし迷惑かけると思うんで一人d「ほら!比企谷くんもぬぼーっとしてないでペア組んで!」・・・アッハイ」

 

あれれー?

我が伝家の宝刀が通用しなかったぞー?おっかしいなー?

 

・・・てかそもそも言い切る前に遮られてるじゃん。

駄目じゃん。

 

 

「それじゃ比企谷くん、いっくよー!ファイトだよっ!」

 

「おっおうおてやわらかにたのむぜ」

 

いかん、テンションについていけん。一瞬棒読み口調になってしまった。

 

軽く手首を回してウォーミングアップが済んだら、いよいよペアでの運動だ。

相手は高坂。この分じゃボディータッチとか平気そうでマジ怖い。

俺のようなぼっち男子の精神力じゃ容易に限界点を超えそうだ。頼むから体とか押し付けてくるなよ?絶対だぞ?

 

「そーれっ!」

 

「うぐ・・・」

 

俺が前屈みになったところで、高坂が背中を押す。

以前はつま先に手が届かないぐらい硬かった俺の筋肉も、割と柔らかくなっているようだ。それでも十分痛いが。

 

「よーしっ、このままこのまま~!」

 

「ちょ、おい、あまり押すなっつの・・・」

 

・・・ああくそ、やっぱり体が近い。

フツーに吐息まで感じるぞ、殺す気か。ストレッチで心臓発作とかシャレにならん。

 

だが、それでは終わらなかった―――

 

「―――はいどーんっ!!」

 

ぎゅっ。

 

「うぐうおおおおおおおっ!?!!」

 

高坂が思いっきり体を密着させてきたかと思うと、そのまま自分まで前屈みに。

背中には柔らかな感触そして腹部と腰に凄まじい激痛が―――

 

俺の意識は、そこで段々薄れていった。

 

「あ、あれ?比企谷くぅーん!?!」「ほっ穂乃果!?貴方いったい何をしたんですかっ!!」「ひ、比企谷くんが気絶しちゃったよぉ~!」

「た、大変ですぅ!今栄養ドリンクとおにぎりを!」「違うにゃかよちん!絆創膏と消毒液を!」「・・・怪我した訳じゃないでしょ」

「み、みんな落ち着いて!今保健室に運ぶわよ!」「ほな、ウチとにこっちで運ぶ?」「ちょ、にこの体じゃ無茶よ?!潰す気!?」

 

・・・ええい、騒がしい。

完全に意識を失う前更なる柔らかなふくらみの感触を感じたのは、墓場まで持って行く秘密としよう。

 

 

「よし、あと20秒よ!頑張って」

 

「・・・・」

 

声が、出せん。あと俺今絶対キモい顔だと思いますハイ。

 

本日のペアは会長と俺。

以前もやった片足立ちの体幹トレーニングである。会長はストップウォッチにて計測中。

大分安定して長く立てるようになったとはいえ、これもキツいことには変わりないのだ。

 

「あ、そういえば話に聞いたんだけど」

 

「・・・なんすか?」

 

おい、今の状態で話せと申すか。まあ返答した俺も俺だが。

 

「体育のテニスの授業で、いつも一人で壁打ち練習してる男子がいて結構上手いらしいって、女子テニス部の部長から聞いたの。

・・・それって、もしかして貴方?」

 

え、もしかしてバレてた?

先生の目が届きつつ他の奴らの目には届かないところでやってたんだが。

ほらアレじゃん、クラスに一人しか男子居ないじゃん?他女子じゃん?

だか迷惑かけないように・・・ね?

 

「まあ、ハイ、俺です」

 

「・・・その、どうしてその時は一人でやっているの?」

 

分からぬか、その理由が。

ならば教えてあげましょうぞ、雪の女王エリーチカ陛下。

 

「中途半端に上手いとペア組みずらいってことですよ。

俺の場合、下手クソと組むと向こうさんからこっちのレベルに合わせろってなじられますし。

逆にもっと上手い奴だと練習にもならねーから俺たちの玉拾いしてろやってどやされるんで」

 

もちろん、すべて過去の実話だ。

 

「・・・・」

 

ふふ、会長もドン引きしたようだな。これでもう話しかけてこようとは思うまい―――

 

「・・・分かるわ」

 

「は?」

 

「その気持ち、分かるわ・・・私も中学の頃、バトミントンの授業でバド部の人と組んでたまたま勝っちゃったことがあるの。

そしたら根に持たれて組んでくれなくなって、あとはずっと一人で壁打ちやってたのよ・・・」

 

「あ、その、えっと」

 

「それだけじゃないわ!今度は卓球の授業で、また部員の人と組まされてこの時は大負けしたの。

そしたら『ロシア人はスケートとバレエだけやってろww』って、また一人で壁打ち練習する羽目になったわけ!

ふざけないでよ!一度の失敗やまぐれの成功なんて誰でもあるでしょ!?ああもう思い出しただけで頭来た!

Ураааааа!!!!」

 

「・・・あのー」

 

「「「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」」」

 

その日、残る8人から浴びせられた「何とかしろよあくしろよ」の冷たいどんよりとした視線を、俺は生涯忘れることはないだろう。

つか副会長、アンタこそどうにかしてくれよ。親友だろ。

 

 

「さあ、比企谷くん!竹刀を握って構えて!」

 

「いやちょおい」

 

―――バシーーーン!

 

園田の竹刀が、俺の面に見事命中。

・・・痛いっつうか、怖い。顔に攻撃されるってマジ怖い。

 

「ふぅ、ふぅ・・・いったん休憩しましょう、お疲れ様です」

 

「・・・なあ、これやっぱ俺いらなくね?女子部員でどうにかなると思うんだが」

 

「そうもいきません、来年度の新入生には男子生徒も30人以上入学するらしいとのことですから。

その時剣道部に男子が一人もいないとなると、やはり行きづらいものはあるでしょう」

 

まあ、それは分かる。

スケベ心満載で見学に行ったはいいものの、実際の女子社会の雰囲気を知ると足が遠のくものな。

 

で、なんで今日、俺は助っ人として来月の新入生歓迎会の部活紹介の実演に参加するためその予行演習をしなきゃいけないんだ?

 

いやまあ何度も「お願いします!比企谷くんしか頼れる人が・・・!」なんて言われてつい承諾しちまうのがいけないんだが。

やっぱり運動部ってマジ3Kだわ。まあ、少なくともきたなくはないか・・・。

 

「でも、本当に引き受けてくださってありがとうございます。

廃校の噂が流れていたときはこの剣道部も、予算削減のために廃部処分の可能性があったので・・・。

今はどうにか盛り返してきていますが」

 

「確かに・・・部員数自体そう多くはないからな」

 

「それに加えて実績でも、ここしばらくインターハイの予選すら突破できていない有様でしたし。

それでも去年個人試合で、1年生が準々決勝まで進むことができて、これからというときに・・・廃部になるかもしれないと皆が動揺したんです。

ですから、これからは男子の戦力も絶対に必要になってくると思うのです」

 

「まぁな」

 

未来が明るいのかどうかは神のみぞ知ることだが、それでもできることはやる。

 

園田がそのつもりでいるなら、俺も微力ながら手を貸すことにしよう。

 

「・・・分かった。俺も素人だが、歓迎会の日までそれなりに頑張ってみる。

だからしっかり鍛えてくれ」

 

「・・・はいっ!」

 

園田がニッコリとほほ笑む。こいつもこんな風に笑うときがあるのか。

しとやかな薔薇のように。いや、むしろ園田らしいかもしれない。

 

少し、心が和らいだ。

 

「では次です!切り返しの稽古に移りましょう!」

 

「・・・はっはい」

 

スパーーーン!

 

・・・綺麗な薔薇にも棘があることを、俺は改めて知ることとなる。

 

 

「なあ・・・今度ばかりはリタイアしてもいいか?」

 

「だ、駄目よ!は、八幡はこっこの私の知識と技術を、信用できないの!?」

 

「・・・声震えてんぞ、あと無理して名前呼び捨てにしなくていいから」

 

今度は歓迎会の委員会紹介の助っ人。

西木野の保健委員会、その発表の予行練習なのだが・・・。

 

どう考えても、人工呼吸と心臓マッサージの実演はいき過ぎだと思うの。

 

「普通こういうのって、等身大の人形使うもんじゃないのか?」

 

「もうだいぶ前に壊れちゃったのよ、それが。

だからって応急救護処置の実演、省くわけにもいかないでしょ?今時知ってる高校生なんてそういないし」

 

「・・・顧問の先生とか、他の女子とかに頼むとかは?」

 

「先生は当日、出張があるからって言うし・・・。

花陽や凛は当日別の委員会の仕事で忙しいし、他の子は・・・と、とにかくもう他に頼める人なんていないのよ!

はちま・・・比企谷さんくらいしか!」

 

いやそのりくつは・・・おかしい、のか?

そういやこいつもあんまり友達いないみたいだったな。ぼっちはつらい、頼みごとのできるほど親しい人がいないから。

あ、それと呼び方戻ったね。無理はするな何事も。

 

「と、とにかく!始めるわ、えーっと・・・まずは、意識の確認・・・。

反応なし・・・次、呼吸・・・なし・・・で、では、胸骨圧迫を行います」

 

手と手を重ね、そのまま、グッ、グッ。西木野がその動作を繰り返す。

 

「ふっ、ふっ・・・」

 

「・・・・」

 

割と苦しいな、これ。

マッサージされてるのに苦しいっておかしくない?

 

「・・・・」「はっ、はっ・・・//」

 

あと、顔近い。余計緊張して心臓に悪いと思うんですがそれは。

てかなんでお前が照れてんの。八幡イミワカンナイ。

 

「そ、それでは・・・!

気道確保して、人工かきゅ、じ、じ、人工呼吸をおこない・・・!」

 

・・・噛んだな。もうこれはだめかもわからんね。

 

「は、八幡、口、開けて―――ちっ違うの、これはファーストキス、じゃなくて・・・。

ヴぇ、なっ何を言ってるのよ私は!」

 

「・・・・」

 

西木野、まずお前が落ち着け。リアルだったら俺、処置間に合わずに死んでるぞ。

 

結局その日の練習は中止となった。

 

 

「ほな?今日のゲストは、比企谷八幡さんや。

皆さん、よろしゅう~な~♪」

 

「・・・どーも」

 

次、占い研究部の助っ人。テレビ番組風にやるらしい。

・・・前々から思ってたが、部活といい委員会といいなんでそんな人数少ないんだ。

もういくつか統合しとけよ。

 

あと東條副会長、黒装束似合い過ぎだろ・・・道端で露店開いてても違和感ねえぞ。

 

「さて今日のテーマは、恋愛ということでやっていくで。

そのためには本人の適性を知らないかんけど・・・比企谷くん、まずは君が理想とする相手、教えてくれへん?」

 

「俺を養えるほどの財産と仕事を持った女性なら誰でも」

 

「うん、それはただのヒモや。またの名を穀潰しとも言うね」

 

うるさい。これでも大真面目に答えたんだぞ。

 

「と、このように彼は大変捻くれた性格の持ち主やねん。

そんな彼と相性の合うパートナーはいったいどんな人物か?今からウチが、このトランプで占ったるで~★」

 

副会長のトランプ捌きが始まる。

・・・あー、胡散臭い。どうせアレだろ?一生貴方はぼっちです、ですが諦めなければまだ希望はあるとか。

んなもんで金取るなと言いたい。こちとらカウンセリングに来たわけじゃねえぞ。

 

「・・・・」

 

「・・・あの、結果は」

 

「・・・聞きたい?ホンマに?後悔せん?」

 

うぜえ。こういうわざとらしい演出マジやめてくれ。

面倒なので頷いておく。

 

「ほな!比企谷八幡くんの、将来ふさわしいパートナーとなる相手は~・・・?」

 

「・・・相手は?」

 

 

「その発表は、みんながウチの部に入部してからのお楽しみや!」

 

「あぁん!?」

 

 

・・・やべえ、久々にキレちまった。

その後は嘘泣きする副会長をなだめるためにマッカンを奢る羽目になった。

 

ちなみに結果は、美人だが仕事運が悪く酒好きでかまってちゃんな年上女に引っかかってズルズル付き合うでしょう、とのこと。

平塚先生・・・頼むから結婚してくれ。

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
凛・花陽・にこ・ことりは今日の夜、もしくは明日コミケから返ってきたら投下いたします。

あ~お宝ざっくざっく手に入れてえ~。


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夫婦漫才編その2~やはり俺がペアを組むのは・・・まちがっている。

年が・・明けてしまった。
コミケ帰りで足が痛くて紅白見てなんやかんやしてるうちに。

というわけで夫婦漫才シリーズ後編。
ネタ要素に走りまくっていますのでご注意を。


俺にも苦手なことは多々ある。それ自体は人間自体が不完全な生き物であるのだから、誰にでも得手不得手はあるということで説明はできるだろう。

その中でもベスト10に入るのがおそらくマラソンだ。

とにかく長距離をただ走り続けるというのが苦痛だ。加えてビリに近いと笑いものにされる。

ビリタニビリタニと囃し立てられた日々は決して忘れん。あの時はスポーツのできるリア充を事故に遭ってしまえと本気で呪いを掛けたもんだ。

だから今でもマラソンは嫌いだし自分からはやろうと思えない。

 

ただ、それが親しい人物からの誘いとなると―――例外も勿論あるが―――話は変わってくる。

 

「いっちに!いっちに!ラーメン!ラーメン!

ほら、ハッチー先輩もいっしょに歌うにゃ!」

 

「・・・それ、歌なのか?」

 

春休み、と言ってもほとんどはμ'sの練習に明け暮れていたが本日は久々の休暇。

そんな日に、なぜか星空に付き合ってほしいにゃ~と文字通りの猫なで声で言われ、ペアでマラソン中。ラーメン屋巡りのついでにということらしい。

・・・ハッチーて、俺はみなしごハッチかよ。まあヒッキーより大分マシだが。

無理してあだ名で呼ぶなと言ったのだが、本人は完全に乗り気ですっかり慣れてしまった以上止めようがない。

でも恥ずかしいもんは恥ずかしいです、ハイ。

 

「で?どこのラーメン屋まで行くつもりだ」

 

「うーんと・・・池袋の屯ちんとか、生粋とか・・・。

あ、もちろんラーメン次郎もだにゃ!」

 

「遠すぎだ!」

 

それなんてジョー・ダンテ・・・とはいえラーメンマニアのこいつならやりかねんから困る。

俺なんか遠くの名店より近くのサイゼだし。食への感心がそこまで高くないのだ。

 

「うん!冗談にゃ!」

 

「・・・当然だ、脚がやられる」

 

ため息をついて、もう一度走り出す。

 

でも、流石にこれはかなりキツかった。練習でもマラソンはメニューにあまり入れていなかったし、俺も経験が少ない。

どうしても10分程過ぎると息が上がってしまう。元陸上部らしい星空とは雲泥の差だ。

 

結局目的のラーメン屋に着く前に、俺がバテて休憩を入れることになった。

 

「だ、大丈夫、ハッチー先輩?」

 

「水飲んで、休めば・・・また、走れる、気にすんな」

 

そう言いながらも息は絶え絶え。ホントに無理はするもんじゃないな。

ライブでぶっ倒れた高坂を笑えなくなる。

 

少し長めに休憩を取ったところで、再開。すると、星空が少し真剣な表情で話しかけてくる。

 

「ハッチー先輩って・・・やっぱり、走るの苦手?」

 

「それもあるが、人にそれを見てバカにされるのが何より嫌でな」

 

「?えっと、それって・・・」

 

「昔からぼっちってことで人様からは軽く扱われたもんだ。・・・昔の話だから気にしなくていいぞ」

 

加えて、星空には少々酷な言い方だが、俺とは性格も立場も違うこいつには理解できないだろうと思う。

それを言うと角が立つので伏せておくが。

 

「・・・・」

 

「・・・どうした?」

 

「あ、うん、えっとね・・・凛も子供の頃、男子に男の子みたいだーってよくからかわれたなーって。

だからそれがショックで、スカートとか女の子の服を着るのがすごく嫌だった時があったの。

それと似てるなって思ったんだにゃ」

 

・・・・。

ああ、なるほどな。

 

「!でもきっと、ハッチー先輩の方が凛より嫌な目に遭ったりとか、してるよね。

・・・その、ごめんにゃ」

 

「―――いや」

 

「え?」

 

「気持ちは、よく分かる。

むしろ、俺の受けた仕打ちよりお前の方がずっと嫌な気持ちだったろうな。謝る必要なんざない」

 

思春期のバカガキというのは、いつもこうだ。

好きな異性に対しては好意を素直にぶつけられず、いつもからかい半分で悪戯をし、意地悪をする。星空に悪口を言った男子も恐らくそうだったのだろう。

いささか度の過ぎた冗談だったようだが。その結果、星空は未だに見た目なり性格が"男っぽい"のだと思い込み、コンプレックスを抱いているわけか。

 

俺の励ましごときでそれが解消できるかは分からないが、やってみる価値はあるかもしれない。

 

「・・・・」

 

「だけど、今は違う。

お前はスポーツが得意で、ラーメンが大好きで、明るいμ'sのムードメーカーの一人だ。

そうだろ?こんなやつが、男っぽくて可愛くないだなんて言えるか?」

 

「え・・そ、その」

 

「小泉だっていつも言ってるだろ、『凛ちゃんは可愛い』って。

・・・それでも足りないなら俺からも言うぞ、恋愛経験豊富な俺がな。

 

 

星空凛、お前は立派に可愛い女子だ。自信を持て」

 

「~~~ッ!!///」

 

・・・あー。

言っちまった、言っちまったよ。恋愛経験っつっても失恋の方なんだが。

告白する前に「キモいからもうこっち見ないで」って言われたりとかさ。なにそれ超ウケない。

 

「は、は、は、」

 

「・・・すまん、やっぱり俺なんかに言われてm「ハッチー先輩のバカあああ!すけこましいいいい!!」・・・げ」

 

や、やはり駄目だったか・・・。

おい、取りあえず落ち着け。急に走ると体に良くないぞ。

 

何とか星空に追いつこうと、俺は必至でその背中を追いかけていった。

・・・変質者ではないので勘違いしないように。

 

 

(で、でも・・・本当は、すっごく・・・嬉しいにゃ・・・///)

 

 

・・・いかん。

 

どうやら今、俺は風邪を引いているらしい。錯覚ではなく。

微熱があり喉が痛く、おまけに体も少しだるい。今朝から春先なのにどこか寒気がするなと感じた時点で嫌な予感はしていた。

春休みなのに休みなしで高坂達の練習に付き合ったのが災いしたか。

 

で、こういう時本来なら薬を飲んだ後は一人寂しく寝床に着くはずだった。

だが今枕元には半分ほど口を付けたお粥に暖かいミルクティーがある。勿論今の俺にこんな食事を用意する体力などないわけで―――

 

「は、ハッチー先輩・・・体は、大丈夫ですか?」

 

看病をしてくれているのは、小泉花陽。

ハムスターとか小動物という例えがぴったりなおどおど系女子。そんなこいつに意外にも世話焼き属性があったとは驚いた。

たまたま練習の帰り道が一緒になり、俺が具合悪そうにしていたところを付いてきて、そのまま成り行きで家に上がらせてしまった。

いや、もちろん感謝してるけどね?もしこれがインフルとかだったらそのままお陀仏という最低な最期も覚悟しなければならなかったわけで。

死ぬ時までぼっちとは辛すぎる。・・・でももし本当に死んだら小泉には悪いことしたなと悔いが残るか。死後も相手を気遣う俺、マジポイント高い。

 

というか、お前までハッチー呼びとはこれいかに。ホント星空と仲いいな、良すぎて甘すぎて胸焼けするまである。

 

「少しはだるさも抜けてきたし、後は飯をちゃんと食べれば大丈夫だろ、きっと」

 

「そ、その、本当はお粥も"サトウのごはん"じゃなくってちゃんとした南魚沼産のコシヒカリを使いたかったんですけど!

早く作らなきゃって思って、買ってこれなくてすみませんでした!」

 

「・・・いやそこまで気使わなくていいから」

 

どんだけ高級米に血道上げてんだ。今流行りのお米女子か?

・・・いやそんなものあるわけがって、最近は何でも"○○女子"ってブームにしたがるだろ。

あれホントなんなんだ?別にグルメや歴史や刀が好きな女子がいたって別段おかしいとは思えないが。

 

「まあとにかく、飯まで作ってもらって悪かった。明日には多分治ってるだろうし、明るいうちに帰ってもらっていいぞ」

 

「そっ、それはいけません!急に容体が悪化したりしたら先輩の身体が・・・」

 

「それはそうだが・・・一応救急車を呼ぶぐらいはできるし」

 

「それだけじゃありません、もし今の状態で泥棒とか不審者が侵入してきたりしたらとってもとっても危ないです!

だから不肖ひんそーでちんちくりんな私が先輩をお守り・・・!」

 

・・・おい、途中からキャラ変わってんぞ。貧相って、お前ちーちゃんの前で同じセリフ言えんの?

あと俺の目つきの悪さなら不審者でも裸足で逃げるレベルだから。ある意味魔除けである。

 

「・・・本当にいいんだな?家まで送るとかはできないぞ」

 

「はいっ!私にお任せください!」

 

なんかドジッ娘臭が滲み出ていて余計不安だ・・・おまけに女子を泊めると言うシチュ。

冷や汗が止まらん、風邪が余計悪化しそうだ。

 

「じゃ、折角なので軽くお部屋の掃除をしますね」

 

「ホントに軽くでいいぞ」

 

これで死亡フラグが回避できるかは分からんが、一応念は押しておく。

どんがらがっしゃーんとかは流石にないだろうが・・・。

 

そして小泉は、整理をしようとしたのか俺の本棚に近寄って本の出し入れをはじめ。

 

「・・・・」

 

あれれー?

なんでだが死亡フラグがびんびんだぞー?

 

小泉が手を止めたかと思うとぷるぷる震え出したが・・・いかんやばい。

 

「あ・・・、う、うう・・・」

 

「・・・どした?」

 

「は、ハッチー先輩、こ、これ・・・」

 

そして、小泉が震える手で差し出したもの、それは。

 

 

「アイcat's!!~センターア○リは変態びっち!?ファンを監禁してオス奴隷調教~」

 

 

まぎれもなく大人の絵本、あだるてぃな薄い本であった。

それも大人から子供まで大人気のアイドルもののアニメの。ドルオタらしい小泉ももしかしたら知っているかもしれない、いやそれどころか推しメンの可能性だってある。

そういえばちょっと前に材木座と会った時にあいつを家に入れてしまって飯をたかられたことがあったがその時もしや―――

 

「材木座・・・貴様あああああああ!!!」

 

「あ・・・あぅ・・・///ア○リちゃんが、こんな・・・///」

 

翌日、回復した俺がトレーニングで罰として腕立て100回をやる羽目になるが、それはまた別の話である。

 

 

「ご主人様~、お帰りなさいませ~♪」

 

「「「お帰りなさいませ~!」」」

 

春休みもあっという間に終わり、新学期となった。

そして新入生歓迎会まで残り2日間。その一環として、なぜかメイド喫茶を開いたパーティーが予定されている。

今日は本番に備え予行練習中、だったのだが。

 

「ほら、比企谷くんも、ね?」

 

「・・・お、お帰りなさいませ」

 

問題は、俺が執事役、そして南がメイド長として切り盛りしなければならんということであった。

 

・・・どう考えてもおかしいだろ?

俺のようなぼっちでコミュ障なやつに務まるものかよ。現に今だって声が震えとるわ。

 

「フツーに男装した女子が執事で良かったじゃねえか・・・」

 

「でも比企谷くんの燕尾服、とーっても似合ってるよ♪」

 

「・・・はあ」

 

もしこの燕尾服を南自身がデザインして作ったから、という理由でなければ絶対に断っていた。

いや・・・それだけではない。

 

(―――比企谷くん、おねがぁい♪)

 

これだ!これなんだよ!

 

必殺、ことりの うわめづかい。久々にこれを喰らった時は面食らった。

最後は引き受けるからやめてくれええと号泣・・・まではしていないか。まだまだ俺も修行が足りぬ。

 

「ほら!比企谷くん、ちゃんと笑って笑って!」

 

「男の見せ所だよー!」

 

「気合い入れてけー!おらー!」

 

「お、おう・・・」

 

・・・そしてヒデコさん以下三人衆も応援に駆け付けている。

最早俺の逃げ場はふさがれていると言っていい。やるっきゃナイトである、騎士だけに。

あ、ちなみに店名のことな。「Café de cavalier」って、なんだその中二めいた名は。

歴史研究会の部室を借りているからってそこんとこまで気を使う必要あるか?あと材木座が悶絶してそうでキモい。

 

そうぼやきつつも冷やかしに来た連中を追い出したり、先生方相手に接客したりする。

すると、見慣れない男子がちらちらとこちらを覗いているのに気づいた。新2年生らしい。

 

「・・・あの人、南先輩だっけ?可愛いよな~」

 

「どうする?せっかくだし声掛けてこうぜ」

 

「メアド交換ぐらいしてくれそうじゃん?」

 

うわ、分かりやすいくらいに女漁りか。

よくもまあ、女社会のこの学校でそんな勇気ある・・・いや、愚行を犯せるものだ。

その根性はどうか別の場所で発揮して頂きたいものである。つうか、初対面でいきなりメアド交換できるとか自信過剰過ぎるだろ。

絶対こいつらキャバ嬢にブランド品とか貢いでポイされるな。

 

「・・・むすー」

 

あ。

どうやらメイド長さんは大変お怒りのようです。ナンパ目的、それも自分が目当てとなるといい気持でないというのは分からないでもない。

それでも「むすー」なんて声に出して言うなよ、勘違いして萌え死ぬ奴とか出てくるぞ。

 

「比企谷くん、ちょっといいかなあ?」

 

「・・・あいつらのことなら別に俺一人でも追い出s「おねがぁい♪」・・・アッハイ」

 

うわめづかいには かてなかったよ・・・。

 

南に手を引かれるまま、俺はメイド喫茶を出る。すると男どもがへらへらと南の方を向く。

なお、俺には対してはゴミを見る目だったのはこの際気にしない。一応俺、先輩だからね?

 

「ご主人様、お帰りなさいませ♪」

 

「あっあの~、よかったら先輩、俺らと写真を―――「あっいけない!大切なお方を紹介しなくっちゃ♪」―――え?」

 

南は俺の手を握ったまま―――いや、途中から腕を組み、体を擦り付けてきて。

おいよせこらもうとっくにごかいされているぞ。

 

そして、今までの中でも最大級のニッコリ笑顔で南は言った。

 

 

「私の隣にいるのは、当メイド喫茶の執事にして私の旦那様、比企谷八幡くんです♪」

 

 

「え?」「「「は?」」」

 

 

その後。

一か月近く、校内では"天使のメイドをたぶらかした"極悪人として俺の名が語り継がれることとなった。

 

・・・なにそれワロエナイ。

 

 

「さぁ~て!みんな、新入生歓迎ライブお疲れ様ーー!!」

 

「「「「「「「「おーーーーっ!!!!」」」」」」」」

 

・・・あー、うん、本気でそう思ってるなら終了直後に打ち上げとかやめようか。

 

実際今回のライブは講堂も生徒含めほぼ満席で、ライブは大盛況と言っていい。

裏を返せばそれだけ裏方が大変な目に遭っているということだ。現に俺もステージのセットなりスポットライトの調節なり、後片付けなりで体がガチガチに痛い。

いつポキっと骨が折れてもおかしくないレベル。あ、ついでにメイド喫茶も大繁盛でした、ハイ。

もう給料貰ってもいいよね俺?奴隷労働じゃんこれじゃ。

 

「それじゃ、折角カラオケに来たんだし、今日はペアを組んでタッグマッチよ!」

 

「それだとにこちゃんが絶対有利だよ~・・・穂乃果たちじゃ勝てないよー」

 

「逆や、逆。にこっちが上手くても相方がへたっぴなら駄目。

つまり一人がそこそこでも二人合わせれば勝算もあるっちゅうことやよ」

 

「ふむ・・・それならばある程度公平な勝負になるでしょうね」

 

「で、でも、やっぱり恥ずかしいよ・・・」

 

ま、公平とかはどうでもいい。

何より不安なのが、誰と組まされるとかいうことなのだが・・・。

 

「よしっ!じゃ今からこのクジを引いて、先っぽが同じ色の人同士でいくよっ!」

 

 

結果、俺&矢澤。

 

 

うーん、これは最悪のパターンだ。いや誰と組んでも最悪なんだけどさ。

 

「ちょっと!このにこ様と組めるんだから光栄に思いなさいよ!何なのそのぶすっとした顔!」

 

ぶすっとした顔って、お前が言うか。むすっとしとるやんけ。

 

「・・・ああ悪かったよ、元から顔も悪いしな俺は」

 

「え・・・いやそんなことないわよ。むしろ目以外は、その・・・」

 

「あん?」

 

「な、何も言ってないわよっ!!//」

 

いや聞こえてるから。やはりお前はツンデレか。

 

そこからカラオケ勝負の幕が上がり、やがて順調に俺たちの出番となる。

 

「私から誘う勇気を~・・・くださいと月に~・・・♪」

 

先行は矢澤。

こいつはアニソンで打って出てきた。ムッツリ変態スケベ王子と笑わないクーデレ猫後輩のラブコメのアレか。

うわ・・・上手いだけに何かそのドヤ顔ムカつく。味方なのにムカつく。

取り敢えずお前全国のゆかり王国民に謝罪して来い。

 

「ふぅ・・・91点か、まあ妥当なとこね」

 

わーすごーい(棒)。

じゃあ俺もうリタイアで良くね?良くね?

 

「比企谷・・・この勝負、にこ達がもらったわよ。アンタにもしっかりやってもらうからね!」

 

ダメでした。

 

ふと周りを見ると、他の奴らもやけに怖ーい笑顔で俺を見つめている。

逃げんなよ。そう言いたいならはっきり言えばいいだろう。

無言のプレッシャーほどぼっちにとって恐ろしいものはない。

 

何か無難な曲でやり過ごす方法も・・・ダメだ。

これじゃ高得点が狙えない。そうなって負けたらどうなるか。

罰ゲームでは世にも恐ろしいポッキーゲームが待っているということだ。絶対トラウマになるに決まってる、学校中に言いふらされて。

 

やむを得ん。ここは目をつぶり、覚悟を決めて―――

 

 

「・・・プリティでキュアキュア ふたりは プリッキュア~!」

 

 

俺の十八番が炸裂ゥ!やはりプリキュアと言えば初代opだろう、常識的に考えて。

さて、おあとは・・・

 

「「「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」」」

 

・・・ですよね。

大変よろしくない、どころかぶち壊しである。終わった・・・。

100点と出たスコアマシーンの表示が虚しく映る。

明日からまたぼっち生活だな。今日のうちにマネージャーの辞表は書いておくか。

 

「あ、あ、アンタ・・・」

 

あん?

 

「時々プリキュアの主題歌だけで高得点かっさらうやつがいるって聞いたけど・・・比企谷、アンタだったのね!?」

 

え。

何それ初耳なんですけど。

 

「ちょっと、今から全部にこに教えなさい!ここあやこたろうがよく歌ってくれってせがんできて困ってたのよ・・・!

だから恥ずかしくないようにコーチしてほしいの!ほら早く、全部歌うのよ!」

 

「えいやちょその」

 

おい、誰か助けろ。

 

「・・・穂乃果ちゃ~ん、何か食べたいもの、ある?」

 

「そうだ、私はピロシキを食べようかしら・・・」

 

「私は、トマトのスライスを・・・」

 

「凛はかよちんの好きなものでいいにゃー」

 

・・・・。

 

 

やはり、俺がペアを組むとロクなことにならない。まる。

 

 

 




終わり。
改めまして、皆さま明けましておめでとうございます。
新年もよろしくお願いいたします。
・・・これから不定期更新になりそうだけど(ボソっ)

凛ちゃんだけ真面目にやりすぎたかもしれん。あとプリキュアって・・・古すぎ・・・?
後悔してるのはこれぐらいです。

コミケではどっさり収穫ができました。
これで今年も頑張れる。


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第一章:新たな人生は、新たな街と共に。
第一話 やっぱり比企谷八幡は救世主にはなれない。


思いついたら即執筆ッ!
感想早速ありがとうございます。インターンまでにはも少し更新したい。


「ここが、男子更衣室になります。男の先生方も時々利用されるけれど、あまり怖がらないでね。

それと右手に来客用のトイレがあるから、そこを使ってください」

 

「・・・はあ」

 

そりゃ元女子高だから生徒用の男子トイレなんてまだないのは分かっていたが。

2年の教室は3階、ここは1階だぞ?間に合わなくなったらどうしろと言うんだ。

・・・と思ったらエレベーターがあるらしく、万が一の時はそれを使っていいとか。助かるっちゃ助かるが、どこかポイントズレてないか?

 

ともあれ、登校してすぐ音ノ木坂学院の南理事長の元へ向かい、簡単に挨拶を済ませた後、俺は彼女の案内の元校内を見学していた。

この前の手続きで来た時は碌に見てなかったしな。

それにしても理事長自ら案内とは至れり尽くせりし過ぎではと思っていたが、学校内を周っていくとそのぐらいのサービスをしなければならない理由も分かる。

 

どこに行っても、空き教室だらけなのだ。

 

一時期は各学年6クラスあったという音ノ木坂。それが今や3年生で3クラス、2年生で2クラス、1年生で1クラスと悲惨なほどの過疎っぷりだ。

授業中であることを考慮しても余りに静かすぎる。もう幽霊や不審者がいても誰も気にしないまである。

・・・不審者はお前だろとか言うな。

 

その時、南さんが急にこちらに振り向く。

その笑顔はどこか達観しているというか、寂しげというか。

 

「・・・比企谷くんが考えていることは、分かります。こんな人のいない学校、つまらなそうだし不気味に見えるわよね」

 

「・・・いや、そこまでは思ってないですよ。不思議とは思いますけど。

あと人の少ない方が個人的には楽です」

 

にゃんぱすーなド田舎どころか、この学校は東京、しかもアキバの目と鼻の先にある。

加えて事前にネットなどで音ノ木坂について調べたときも、総武高よりワンランク劣るとはいえ偏差値も進学実績も悪くないし過去に不祥事をやらかしたということもない。

大体伝統校なら都民であればそれなりの知名度を得ているはずだし、ますます生徒が集まらない理由が分からない。

 

・・・いや、分からなかったと言うべきか。現場を直に見るまでは。

 

「生徒が減ったのはね、ライバルに顧客を奪われたから。・・・UTX学園ってご存知かしら」

 

「ああ・・・アキバの中心にありましたね、会社かってぐらいでかい学校が」

 

「そう。十年前にUTXが開校して、充実した設備と難関校にも劣らない受験指導で生徒を集めていった。

加えて・・・一年前、A-RIZEがあの学校から、スクールアイドルとしてデビューしたの」

 

スクールアイドル。

俺も名前しか知らないが、あくまで学生として活動するアマチュアアイドルのことなんだそうだ。

そしてそのA-RIZEというのがUTX学園の看板スクールアイドルにして、今やプロにも劣らぬ人気ぶりを獲得しているという。

 

正直UTX学園にしてもA-RIZEとやらにしても、如何にもschoollifeをtogetherしたい!・・・みたいなリア充のためのものとしか思えなかった。

まあアイドルやろうがそれは個人の自由なんだが、それを前面に押し出すところがどこか鼻持ちならない。

 

「私が3年前に理事長に就任したときも、かなり危機的な状態ではあったのだけれど・・・。

それがA-RIZEが来て、完全に止めを刺されたというところかしらね」

 

「そんなものに釣られていく奴の正気を疑いますよ」

 

「・・・そうは言っても、学校も営利事業ですから。音ノ木坂は市場のニーズに追いつけていない、そこは率直に認めるしかないわ」

 

そして、認めたうえでどうするか。

どうにかしようとはしたのだろうし、そしてどうにもならなかったのも容易に想像できた。

 

この学校の良いところであり悪いところは、"普通である"この一点に尽きる。

設備も進学実績も、何から何まで有り触れていて、言ってしまえば替えが効く。インパクトに欠ける。

その点では確かにUTXの方が圧倒的強者ではあった。私立だから資金力もあるのだろうし、さぞやPRもうまくやっているんだろう。

 

「それで、その場凌ぎに共学化したって訳ですか?」

 

「悔しいけれど、概ねその通りです。・・・でもこの決定に対して、評判はいいとは言えなかった。

保護者会でもOBからも、なぜ伝統をかなぐり捨てたのか、とね」

 

それは当然だろう。

唯一残った"女子高"というブランドまで捨てたら、本当にこの学校には何も残らなくなってしまう。

加えてギャルゲーじゃあるまいし、女子高に入学したがるような猛者なんぞ現実にはそういない。事実、俺を除く男子生徒は1年生に5人だけ。

・・・戸塚だったら女装して潜入したりもできるんだろうがなあ。嗚呼僕の天使戸塚よ。

 

「・・・まあ、聞いたところでどうしようもないですけど。取り敢えず色々と説明ありがとうございます」

 

「ふふ、どういたしまして。それにどうしようもないということはないんじゃないかしら」

 

「は?」

 

「平塚先生から貴方のことは色々伺わせてもらっています。総武高校では人を助けるための部活で活動していたそうね」

 

「・・・助けるとはまた違うんじゃないですかね。飢えた人間に魚の釣り方を教えるみたいなものですし。

人によっては残酷に見えるんじゃないですか」

 

「立派な人助けよ、それも。きっと前の学校でも、貴方に救われた人がたくさんいる筈よ」

 

転入前に俺がやったことは、"立つ鳥跡を濁す"だがな。結果皆が不幸になって、俺は逃げ去った。

見てくれも性格もみにくいアヒルのこな俺にはピッタリな所業だろう。

 

だから、頼むからここでも奉仕部みたいなことをやれなんて言わないでくれよ。

 

「もしかしたら貴方は、音ノ木坂の希望の星かもしれない。期待しているわ」

 

「死兆星かもしれませんよ」

 

皮肉を言うと、南さんは馬鹿言わないのと言って微笑み、また案内を再開した。

もっとも、行先は大体予想が着く。案内が始まって30分、粗方校内は回ったはず。

 

となると、俺の新しいクラスだ。

 

 

「えー、本日転校してきました比企谷といいます。できるだけご迷惑を掛けないようひっそりと暮らしていく所存で・・・」

 

パコン。

 

「お前、本社から左遷されてきたオッサンか?もうちっと覇気のある挨拶にしようや」

 

・・・いや、誰にも迷惑を掛けませんっていい言葉じゃない?あと出席簿で頭叩くな。

 

という訳で、俺の素晴らしい自己紹介は担任の山田先生のツッコミにより台無しになった。

案の定クスクス笑ってる奴何人かいるし。どうしてくれんの?

 

「まーしょうがない、今本人も言った通りこいつは比企谷八幡。千葉の総武高校からの転校生だ。

ウチは人数が少ない分、みんな仲良くしてやれ。あ、比企谷、女子へのセクハラは絶対厳禁だぞ」

 

しねえよ。

 

「席は後ろから三番目・・・高坂と南の真ん中だな。

ところでお前、教科書は揃えたか?」

 

「いえ、明日までかかるかと」

 

「ならしゃーない、隣の高坂からぶんどれ。居眠りの常習犯だから気にしなくていいぞ」

 

「ちょっと先生?!穂乃果いつも寝てるわけじゃ・・・」

 

「前の英語の授業、机から崩れ落ちたらしいな」

 

爆笑。

・・・ってか朝のあいつらか。真後ろにも千早さんカッコカリいるし、黄金の三角地帯だな。

いや魔の三角地帯か、なにそれ嬉しくねーよ。

 

「んじゃ、さっさと席付け。今日の保健体育は、第二次性徴についての続きからいくぞー」

 

・・・うわぁ。

よりによって性教育かよ・・・。

 

 

さて、放課後である。

幸い休み時間も昼食中も、えげつない質問攻めに遭うことなく、穏やかに過ごすことができた。

それならば俺がやることは一つ!よりみちせずにおうちへかえりまs・・・

 

「比企谷く~~ん!!」

 

・・・うるせえええええ!!真横で叫ぶな。

春香さんカッコカリ改め高坂穂乃果、まさに嵐を呼ぶ野生児である。

おまけにのび太が舌を巻くくらいの居眠り小僧。午前中はずっと寝ていてその度お叱りを受けていた。

だから休み時間は寝ておけとあれほど・・・言ってねえわ。

 

「・・・あー高坂さん、何k「用?あるよ!」・・・」

 

先読みすんな。

由比ヶ浜といいこいつといい、このテンションの高さはどこから来てるんだ。魔法石でも埋め込んでるのか?

 

「掃除か?委員会か?それとも居残りか?」

 

「ううん、そうじゃなくって、一緒に帰ろうかなって♪それとよかったら、穂乃果ちゃんの家でお茶しない?」

 

素晴らしき猫撫で声のあずささん、もとい南ことりが続ける。

・・・流石女子高、男子に対してアレルギーがないとは本当だったか。

だが俺クラスになると美人局を疑うまであるぞ。これ以上誤解させるのは止めて頂きたい。

 

「比企谷さんは引っ越しされたばかりなんですよね?なら、この辺りの地理にも詳しくないのではありませんか」

 

「・・・まあ、秋葉原は夏コミ行くとき通ったくらいですし」

 

「なら折角ですし、帰り道ついでにご案内しましょう」

 

秀才型大和撫子、千早もとい園田海未がもっともらしい理由を述べ、帰りのお供へ誘ってくる。

こいつら本当に男への警戒心がないのか。むしろ蔑みの目で見られる方がありがたいとすら思える。

いや、俺、マゾじゃないからね?

 

「その、俺・・・」

 

「今行こうよ!すぐ行こうよ!ほらほらっ!」

 

腕を引っ張るなぁぁぁ!!

ボニファティウス教皇並に憤死させる気か?このままアヴィニョンのド田舎に幽閉されちゃうのん?

 

今日の世界史で習った知識が脳裏に蘇ると同時に、俺は教室の外へと引っ張り出されていた。

 

 

「ほら!神田大明神から見る夕焼けって、すっごく綺麗なんだよー」

 

「ついでにほむまんも美味しい♪」

 

「ことり・・・また太りますよ、ダイエット中なんでしょう?」

 

花より団子、ではなく夕焼けと饅頭、そして神社。

三つの組み合わせは確かに悪くない。あまり読んではいないが、三丁目の夕日にもこんなシーンがあったんじゃないかと思う。

・・・これでもう少し静かなら、人生とは何か思いを馳せていたかもしれないが。

 

「比企谷くん、今一人暮らしなんだよね?大変じゃない?」

 

「確かにぼろアパートだが、掃除すりゃそれなりだしな、一応そこそこ自炊もできるし。そっちこそ和菓子屋の手伝い大変じゃないのか」

 

「んー、やらないとお小遣い貰えないし、それに小学校の頃からやってるしで、そうでもないよ」

 

「なら何故未だに寝坊と居眠りが治らないんですか・・・」

 

慣れ、か。

自営業者の子供なんて案外そんなものかもしれない。乱暴者のジャイアンだって八百屋じゃ営業スマイルだろうしな。

 

ともあれ、創業ウン十年の「穂むら」お勧めの逸品は、確かに乙な一品であった。

閑古鳥の鳴く音ノ木坂と違い、結構繁盛しているのも頷ける。

ついでに高坂の母親らしい店主さんもいい人だしおまけしてくれたし。うちの母ちゃんも見習ってほしい。

 

「・・・そう言えば、比企谷くんって・・・。お母さん、ううん、理事長に会ったんだよね」

 

「あー・・・成る程、苗字が同じだな。ああ、会ったぞ」

 

「なら、音ノ木坂が廃校になるかもしれないって聞いた?」

 

「そこまでストレートには言ってないが、経営が思わしくないってのはな」

 

流石、世間は狭い。加えて親子間の以心伝心、情報なんぞ筒抜けだ。

 

「あのね、これから一ヶ月したら、創立記念日と同時に一般向けに学校公開をするの」

 

「オープンハイスクールか?」

 

「いえ、オープンハイスクールは6月にあります。それとは別に音ノ木坂独自に学校公開をしているんです」

 

園田が補足してくれる。

それにしても、同じイベントを2回もか。そこまでサービスしなければならないほど、やはり学校は追い込まれているのだ。

 

「それでね、もし来てくれる人が少なかったりすると・・・来年からは、新入生の募集をやめちゃうかもしれないの」

 

「・・・つまり、3年後には学校がなくなるかもしれないってことか」

 

「かも、ではなくほぼ確実に、でしょうね。下手をすれば私たちが卒業するよりも早く」

 

「う、海未ちゃん!言い過ぎだって!」

 

見れば、南が小さく肩を震わせている。

自分が通い、尚且つ身内が経営者である母校がなくなってしまうことのショックは、確かに相当辛いであろうことは想像に難くない。

 

だが泣いて喚いて、それで解決するのは赤ん坊の時までだ。

急に東大合格者が100人出て超進学校として名を馳せるなんてことはあり得ないし、親切な老紳士がポンと大金を寄付してくれるなんてこともない。

頭を捻って、自力で解決するしかないのだ。もっともそれができないから困っている訳だが。

 

・・・なんか、菓子食って綺麗な夕焼け見に来てたのに、いつの間にか話が重くなってるな。

 

「それで、策でもあるのか?俺は転校してきたばかりだし、力にはなれないぞ」

 

「ふっふっふ~・・・実はね、穂乃果すっごい名案思いついちゃったんだー」

 

はあ。

どうせビリギャルよろしく難関大に挑戦するとかだろ?

無理無理かた陸奥り。火遊び厳禁、安易なチャレンジも厳禁よ。

 

 

「それはね―――ズバリ、スクールアイドルなんだよっ!」

 

 

「「・・・はい?」」「・・・♪」

 

俺と園田が同時に凍り付くのと対称的に、南は救いのヒーローを見る目で高坂を見つめていた。

 

 

同時刻 音ノ木坂学院生徒会室

 

「はぁ・・・」

 

絵里は椅子に深く腰掛けると、深くため息をつく。

みっともないと分かってはいても、常に威厳を保った生徒会長でいることはできない。

加えて、この廃校寸前の学校で生徒会役員をやるということはかなりの重圧。

"地獄への道は善意で敷き詰められている"。その諺を思い出し、内申点アップと唆されて易々と生徒会に入ったわが身を呪う日々。

 

「エリチ、また学校公開のことで悩んどるね」

 

「・・・それはそうでしょう。ただ学校を見せてハイおしまいじゃ、誰も来たがらないわ」

 

「UTX学園なら別かもしれんけど。ほんま、貧乏は辛いなぁ」

 

副会長、いわば参謀たる希もため息をつく。もっとも表情から、幾分か落ち着いているようには見えた。

 

それは、希が問題への解決策を持っていること。そこから彼女の自信に繋がっているのだ。

 

「・・・な、この前の提案、も一度考え直す気あらへん?」

 

「スクールアイドルのこと・・・?嫌よ、神聖な場で文化祭の出し物以下のことをするなんて」

 

「なら、座して死を待つか。このままUTXに、生徒も伝統も、真の誇りも一切合財浚われて、惨めに潰れて消えていくんか?音ノ木坂は」

 

「止めてよ・・・!そんな任侠映画みたいに」

 

「ウチが言いたいんは、大きなことを成すために小さな恥は甘んじて受け入れようっちゅうこと。

・・・いや、そもそもエリチが思っとるほど、スクールアイドルなんて恥ずかしゅうないで」

 

「どこが」

 

「バレエを演じるのと、歌とダンスを披露するのも同じ事や。皆を楽しませる、笑顔にさせることにおいては、な」

 

絵里は押し黙った。

 

流石に友人だけあって、希も言葉を選ぶべき時はきちんと選んでいる。

かつて絵里が執念を燃やして取り組んだバレエを、アイドルの歌や踊りと同じと言った。

それは絵里の思うように下劣ということではなく、同じくらい尊いものなのだと。

 

「それに、もう時間はないで。人生、ここぞというときの決断が大事やって言うやろ」

 

「・・・希。貴方、時々すごく卑怯よね」

 

「女の子はみんな、そういう生き物なんや」

 

そこで絵里も初めて笑う。

壁に掛けられた日めくりカレンダーを見つめ、そっと呟いた。

 

 

「今日来たあの転校生くんだったら、一体どうするかしらね」

 

 

 




「救世主は一人だけ。何人もいたら意味がない」

僕の好きなノベルゲームの名言。
これをひっくるめて、言ってみたい。

「解決策は一つだけ。幾つもあったら意味がない(甘えを生じさせる)」


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第二話 何かを成し遂げるには、計画性より大胆さの方が時として重要である。

しつこいようですが原作改変酷いです。
ご理解・ご了承のほどよろしくお願いします。


秋葉原 某スクールアイドルグッズ専門店

 

「すんませーん、スクールアイドルのこと分かるような本とかって置いてあります?」

 

・・・なんてことを聞いてはいけない。モロにわか丸出しだからである。

いや、にわかなんだけど。どんなスクールアイドルがあるかなんて碌に知らないんだけど。

そもそもぼっちにそんな勇気なんて以下略。

 

20分前、高坂が唐突にLet'sスクールアイドルを宣言。

園田が慌ててリスクだの解決しなければいけない難題だのを説き反対するも、

 

(やるったらやる!穂乃果、もう決めたからねっ!)

 

・・・の一言で封じてしまった。

おまけに南は「ことりがみんなの衣装作るねっ♪」と同調する始末。手に負えん。

そして最後は各自でスクールアイドルについて調べてくる、ということで解散となった。

あれ・・・なんで俺もやることになってるの・・・?なんて野暮なことは聞けない。

同調圧力ってやつだ。園田の反対が封じられた以上、俺がどうこう言っても白い目で見られるだけである。

あ~やっぱり俺、仕事運最悪だわ。

 

「で・・・え~っと・・・あ、『月刊school idol magazine☆~今話題の人気グループベスト20特集号!~』か、これだな」

 

捻りもクソもないタイトルだが、分かりやすい。

どこぞの材木座も見習うべきだ。いつもいつも必殺技やら世界観設定に訳分からん言葉とルビ使いやがって。

型破りな事をするなら型をつくってからやれということだ。

 

 

「・・・ちょっと」

 

 

「ん?」

 

その時、不機嫌そうな声が背後から聞こえ振り向くと、如何にもコスプレっぽい制服のツインテールのチビッ子が一人。

流石アキバ、レイヤーさん大杉ィ!・・・じゃなくて俺邪魔じゃねーか、早く買って出よう。

 

「・・・サーセン、すぐどきますかr「アンタさ、スクールアイドルに興味あんの?」・・・は?」

 

いや、その質問はおかしい。友達とか、サークルの集まりとかでするべきだろう。

間違っても初対面のヤツに聞くことではない。つまり、こいつは宗教勧誘とか邪な目的を持っている可能性大ということだ。

 

「ちょっと用事あるんで、失礼します」

 

「ちょ!?いいから答えなさいよ!」

 

ウぜえ。つか肩掴むな、店内で騒ぐな。

警察呼ぶぞ?あ、俺が被疑者だと勘違いされそうだからダメだな。

 

「・・・あの、なんで俺なんすか」

 

「今はにこが聞いてんのよ。その雑誌手に取ってるってことは、何かしらスクールアイドルに関心あるんでしょ」

 

いきなり名乗っちゃったよこの子。まあ偽名かもしれないが。

上から目線のくせにどこか抜けている。雪ノ下をポンコツにしたらこうなる、ってところだな。

・・・あ、これ死亡フラグかも。雪ノ下の ぜったいれいど!八幡は たおれた!

 

「ま、まあ、あるっちゃあるんじゃないですかね?」

 

「自分のことなのに何で他人事なのよ・・・じゃあもう一つ、"sakura five!"ってグループ知ってる?」

 

「いや知らん」

 

いい加減さっさと切り上げたかったのでつい素が出てしまった。

やべ、逆ギレされてビンタ喰らうパターンか?なにそれツンデレじゃん。デレ成分ゼロだけど。

ゼロなのはカロリーだけでたくさんです。

 

「・・・そう。時間取らせて悪かったわね、もういいわ」

 

そこでツインテールは踵を返し、スタスタと店を出ていく。

え?そんだけ?何しに来たんだお前は。

 

ま、美人局でも痴漢冤罪でも勧誘でもなかったので良しとしよう。

こっちもさっさと買うもの買って、我が家に帰るのだ。誰も待ってないけどね。

 

 

翌日

 

「へぇ~、これが大阪の"やっちゅうねん☆"ってグループなんだ~!」

 

「見りゃ分かるだろ」

 

昼休み、いつもなら静かに屋上で一人飯を食う時だ。

今日はそれが許されず、持ってきた雑誌を高坂たちと見ながらアイドル研究に励む。そして時々パンを齧る。

しっかしホント捻りがないな、このグループ名。ある意味潔いっちゃ潔いけど。

 

「それでもダンスは凄く派手なんだね~、なんか不良っぽいかも♪」

 

「所謂ヒップホップ系なんでしょうか」

 

向こうのおばちゃんとかすげえケバケバしいもんな。関西人ぽさというか独自性はあるのかもしれない。

 

「で?他人のことより、お前らはどうすんだよ。どんなグループにするとか決まったのか?」

 

「あ、はい。まずグループ名ですが―――――μ's、です」

 

石鹸・・・じゃないよな。

てか園田さん、アンタいつの間に乗り気になったんだよ。

 

「・・・確か、ギリシア神話に関係なかったっけか?」

 

「はい。芸術を司る女神たちのことで、ミュージックやミュージアムの語源だとか」

 

・・・なんか材木座の高笑いが聞こえるんだが何故だろう。ヌポォ、とか言ってそうでキモい。

頼むからラノベの新作に使うんじゃねえぞ。

 

まあ、確かに名前だけ見ればカッコイイ、というか体裁は取れているようには見える。一見は。

 

「なあ、一ついいか。確かその女神、9人いなかったっけか?」

 

「・・・はい」

 

「・・・俺を除いたら、お前ら3人だよな?あと6人はどうすんだ?」

 

「はっはっはー、勧誘だよか・ん・ゆ・う!これから他のクラスとか学年の子にどんどん声掛けてくよー!」

 

簡単に言ってくれるな・・・。

そんな物好きがどれほどいるのか。総武にだって数えるぐらいしかいないだろう。

ましてやこの過疎地ならぬ音ノ木坂で・・・。

 

「まあ、そうか。なら頑張ってくれ応援はしてやる」

 

「ちょ、比企谷くんも手伝うんだよ?!言ったよね!?」

 

そんなことはいってねえ。てかこれからもぜったいいわん。

・・・ヤバい、こいつの知的レベルに合わせて平仮名口調になってしまった、てかそんな口調あんのか。

 

「・・・具体的には」

 

「ことり、昨日勧誘ポスター作ってきたの。『メンバー&ファン募集』って♪」

 

その原本を見ると、素人臭さはあるもののそこそこお洒落で可愛いポスターになっている。

・・・しかし何の知名度もないのにいきなりこれはやりすぎじゃないか?

 

「後で先生方から許可を貰って、掲示板に貼るつもりです。あとは・・・その・・・放課後に・・・」

 

「・・・チラシとして配るってことか?」

 

いいいいやだおれはむりだ!はちまんもうかえる!絶対誰も受け取らねーよ。

ソースは俺。一度試しに街頭でティッシュ配るバイトやってみたら総量の1割も消化できなくて散々怒られた。

カネに困ったとしても二度とやりたくないバイトだ。あの黒歴史を再び甦らせようってのかこいつは?

 

「海未ちゃん不安がっちゃ駄目だよ!可愛いんだからあとは声さえ出せばみんなホイホイ釣られてくるよ!」

 

「人様を魚みたいに言うな」

 

ま、実際は普通の人間なんてみんな大抵はバカなんだが。魚の方が賢そうまである。

 

「そ・れ・で♪、比企谷くんも、手伝ってくれるよね~?」

 

・・・グハァッ!

ことりは うわめづかいを つかった!八幡は たおれた!

・・・いや死んでねーよ、俺弱すぎだって。

 

「・・・ビラ配りは勘弁してくれ。先生の許可と学校の掲示板に貼る役目は引き受けるから」

 

「そうですか・・・ではすみません、比企谷くんにお任せします」

 

「海未ちゃんもやるんだよ~?」

 

「わ、分かっています!・・・って穂乃果、抱き着かないで暑苦しい!」

 

ホントだよ。

もうじきに秋になるんだぞ?ここだけ熱帯の島に思える、まさに陸の孤島だな。

 

「・・・お前ら、もう昼休み終わりだぞ?いつまでイチャコラしてんだ」

 

その時、山田先生の怖い声と顔で俺たちは現実へと引き戻されたのだった。

 

 

「うぷっ・・・」

 

碌に昼飯を食っていないのに、込み上がる吐き気。

生徒会室ってなんでこんな圧力があるんだろう。まだ入ってもいないのにね。

 

先ほど勇気を出して職員室へ行き、許可を貰いに行くと、

 

(あ、ポスターとビラ配りだって?それなら生徒会行って許可取ってきて)

 

と、あっさり一蹴、会議だからと追い出された。

・・・俺の勇気を返せえええ!胃薬代で勘弁してやるから、な?

 

ともあれ生徒会室へ向かおうとすると、目的地に近づくたびに何かの圧力を感じる。

一体ここの生徒会ってどうなってんだ。悪魔崇拝者かブードゥーの儀式でもやってんのか?

なにそれオカルトすぎ。

 

そして今、その生徒会のドアの前にいる。冷たく黒いオーラが漂う。

ヤバい。すごく帰りたい。許可取ったことにして帰りたい。

 

 

「―――どなたか、ドアの前にいらっしゃるんですか?用件があるのでしたら、入ってください」

 

 

・・・中から声が。

ああああバレたああああ!!もうダメだいっそ覚悟決めて・・・!

 

「し、失礼しまっす!」

 

何とかドアを静かに開けるまでの理性は残っていたが、それが限界だった。

声は震え、顔も真っ青。まあ一回噛んだぐらいならセーフか。

「~っす」って便利だよな、個人的に敬語じゃないのに敬語に聞こえる言葉遣いナンバー1だし。

 

・・・まあそれは俺の中での話。

目の前の相手はそうは思ってくれないだろう。

 

「貴方・・・昨日転校してきた比企谷くん・・・よね?」

 

「あ、はい」

 

自動的に返事をしてしまう俺の脳みそ、すごい。そしてもう名前を覚えられている俺、最強。

 

・・・んな事はさておき、目の前の机に腰かけた女子をちょっと観察してみる。

金髪碧眼。白い肌。間違いなくハーフ、それもヨーロピアンの血が混じっているんだろう。

昔バカ親父がその手の大人の本を読んでいたのだ。俺だけお年玉を理由なくカットされた腹いせに全部処分してやったが。

 

そしてどこか雰囲気が冷たい。容姿そのものは全く似ていないが、雰囲気はまるで雪ノ下だ。

この冷たいオーラ、彼女が発していたのか。

 

「ふふ~ん、比企谷くん、エリチに惚れちゃったん?」

 

「えっ!?ちょ、ちょっと希・・・」

 

唐突に右横から声を掛けられたのでそっちを向くと、今度はいかにもな大人のお姉さん風の生徒がいる。

あ・・・これあかんやつや。瞬時に分かる俺の目力半端ねえ。

 

「・・・いえ違います。貴方は?」

 

「ウチ?副会長をやっとる東條希や。それでエリチは生徒会長絢瀬絵里。よろしゅうな」

 

「はあ、どうも」

 

オーラが黒いぞ、天才的だぞ。この人は陽乃さんそっくりだな。

あと関西弁、ちょっと似非臭いぞ。

 

「もしかして、ウチの言葉遣い変やと思っとる?」

 

「・・・率直に言えば、芸人が無理してやってるみたいな」

 

「ウチ、両親は神戸の出身なんやけどウチ自身は東京生まれの東京育ちなんや。だから、標準語と関西弁のちゃんぽんになってしまうんよ」

 

「そう、ですか」

 

はあ。

なんか文化的アイデンティティーが混乱してるみたいな?さぞかし苦労も多かろう、というのは分かった。

 

「別に敬語は要らへんよ?同じ学年なんやし、もっと気さくに接してくれて」

 

「・・・学年は同じでも、立場はお二人の方が上でしょう。だから一応敬語で通さしてもらいます」

 

「可愛くないなぁ~、モテへんよ?」

 

いえ、それ以前にぼっちなんで。

 

「・・・それで?用件を伺いましょうか」

 

あ、エリチさん存在感なかったね。無視してごめんなさい。

 

「えーっと、ポスターを掲示板に貼りたいのと、あとビラ配りの許可を頂きたいと」

 

「そのポスター、ちょっと見せてくれる?」

 

そこで彼女に手渡す。

やべえ、バレンタインのチョコかよ。オラすっげえドキドキすっぞ。

 

「・・・スクールアイドル、μ'sメンバー&ファン募集・・・ねえ、これって」

 

「あ、俺じゃなくてクラスのやつが「それは分かるわ」・・・」

 

ですよね。

 

「ほほぉ、遂に音ノ木坂もスクールアイドル復活、ワクワクするなぁ。エリチもそう思わん?」

 

「・・・あの件のことはやめて。あと私はまだやるつもりは―――」

 

復活とか例の件とか、気になることはあるが黙殺する。

寝た子を起こすな、藪をつつくな。人間界で最も弱いぼっちの鉄則である。

その禁忌を破る者には死を。それぐらい、社会は苦く、冷たい。

 

「それで、許可は頂けますか」

 

「・・・分かったわ。二つとも許可します、ただしじきに下校時刻だから明日からでいいかしら」

 

「構いません」

 

「・・・そう」

 

・・・なぜそんな哀愁漂った感じなんだ?

まあ確かに前途多難、実現できるのか分からないが。それでも、負け戦に臨む兵隊を見るような目で見られるいわれはない。

さっきの"あの件"のことが関係して―――いや、もうやめよう。

 

「ありがとうございます。では、失礼します」

 

「また来てやー、協力できることがあったらいくらでも頼ってええよ?」

 

「・・・その時は」

 

静かに部屋を出る。

ドアを閉めた後、会長と副会長が途端に何かコソコソ話し出したのが分かったが、内容なんぞどうでもいい。足早に立ち去ることにした。

 

 

俺は、何のために生きてるんだ?

誰しもそう考える。俺もそうだ。

俺は、いつもいつもトラブルに巻き込まれ、トラブルに背負いこまれるために生きてるのか?

 

別に一人で生きたいなんて本気で思っちゃいない。

たまには一人でいる時間も必要だろ?ただそれだけなんだ。

 

でも周りの好奇心―――主に悪意―――は、どうしても俺を放っておいてはくれないらしい。

 

根暗、キモい、ゾンビ、地蔵。

小学生の時、毎日のように言われた罵詈雑言の数々。不快にさせたつもりはないのに向こうはそう思わなかった。そして嫌がらせが始まった。

ミカサでなくても、この世界は残酷だと気づくだろう。

 

そんなことを、通りかかった音楽室から響くベートーヴェンの「悲愴」の調べを聴きつつ思う。

ウチのバカ親父が珍しく好んで聞いた曲。皇帝となり、俗物と化したナポレオンに失望し、そして最後は重い鬱病に苦しんだベートーヴェンのピアノソナタ。

 

まあ、今回は少なくとも悪意から発せられたことではない。

高坂穂乃果と言うアホの子の、熱意と純朴な好奇心からのこと。

どのみちトラブルに巻き込まれたということには違いないが。

 

でも仕方ない。

俺のような凡人に選択肢はない。流されるのはみっともないけれど、自ら委ねるなら、多分いいだろう。

 

 

少なくとも、今回は。

 

 

「あ・・・やっぱり、もう行っちゃったのね」

 

真姫は音楽室を出ると、自分の演奏を聞いてくれた一人の観客を探す。

ふと気付いたら誰かが廊下に立っていて、演奏が終わって顔を上げるとまたいなくなっていた。

 

顔も見えなかった―――男子らしいのは分かったけれど―――その人物に、なぜか親近感が湧く。

同じクラスの人物でないことは分かった。うちのクラスの男子は、それこそ単細胞で芸術性のかけらもない奴ばかり。

ピアノが好き、音楽をやっていると言えば、

 

「へえ・・・可愛いね」「すげえ」「ヤバい」「カワイイ」

 

お前ら、一体どこを見ているんだ。

音楽と可愛い、どこをどう結び付けたらそうなる。口説くなら口説くで、もう少し日本語を勉強しろ。

加えて男子からチヤホヤされていると、クラスの女子からは嫉妬と侮蔑を買う。たまったものではない。

 

「・・・今の人なら、きっと分かってくれるのかしらね」

 

静かに呟くと、真姫は帰り支度をするため再び音楽室へ入っていった。

 

 

 




にこの過去のスクールアイドルグループ名、希の家族構成は捏造。
ついでに「悲愴」とナポレオンとは特に関係性がないこともお断りしておきます。詳しくないんであれですが。


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第三話 音楽で壊れる絆も、音楽で生まれる絆もある。

やだ・・・にこの扱い・・・酷過ぎ・・・?
と思った方、もう少しご辛抱ください。ファーストライブの下りさえ終われば・・・ッ・・・!


朝。

クラスの皆がわいわいとお喋りに花を咲かせる中、にこはただ一人席に座っている。

 

「・・・はぁ」

 

"sakura five!"が、LoveLive!一回戦で敗退したとき。

クラスメートでもあるメンバーがあっさりとアイドルへの情熱を失い、次から次へと抜けていったとき。

 

その時点で、彼女にクラスでの居場所はなくなったのだ。

 

でも、今はそれでいいと思う。

もう慣れ合うだけの友達付き合いはうんざり。臥薪嘗胆、切磋琢磨し、高め合わなくては、アイドルとしてやっていけない。

それすらも分かっていないで安直にアイドルになろうとしたかつての友人たちには、ただ失望するのみだ。

 

何より、家に帰れば可愛い妹と弟が待っている。自分は一人じゃない。

 

だから、にこは平気。そう思っていた。

今朝、家を出るときまでは。

 

「何なのよ、このチラシ・・・スクールアイドルやりたがるヤツが、まだいたなんて・・・」

 

その手に握られているのは、先ほど昇降口で隣のクラスの女子が配っていた"μ'sメンバー&ファン募集!"のチラシ。

 

古傷に塩を塗られるときの気持ちを、にこは存分に味わっていた。

 

 

「昼休み返上でやれってか・・・なーにが他のクラスに配りに行くからよろしくねだっつの」

 

つい最近も思ったことだが、どんどん奴隷への道を進んで歩んでいる気がする。

最後にはあいつらにぶたれようが何されようが、喜んでワンと鳴くんじゃなかろうか。そんな忠犬ポチ公は御免だ。

"地獄への道は善意で敷き詰められている"、まさに古人の言うことは正しかった。そして、"覆水盆に返らず"ってこともな。

 

それはさておき、俺は高坂から頼まれ学校中の掲示板にポスターを貼っている。

ついさっき食堂で一仕事終えたところ。女子たちが楽しく飯を食っている中、空腹をこらえ一心にポスターを貼る男の姿は実にみじめだったろう。

ま、もともと俺の存在自体がみじめなんだけどね☆・・・あとで高坂には穂むらで菓子奢らせよう、そうしよう。

 

と、音楽室の前を通りかかった時、またピアノの伴奏が聞こえた。

 

「・・・メンデルスゾーンの『結婚行進曲』か」

 

例によって親父が結婚式で使った曲だと自慢しやがった、曰くつきの曲だ。

ホントにあの親父、息子に何度惨めな思いをさせる気だ。精神的虐待で訴えたら有罪じゃね?

冗談だけど。路頭に迷っちゃうからしないけど。

 

ま、ともあれ空腹を紛らわし疲れを癒すスパイスぐらいにはなる。

壁にポスター貼る振りでもして聴いていくか。

 

 

「お客さん?聴きたいなら入ってきていいわよ」

 

 

・・・ん?もしかして、俺に言ってる?

いや、気のせいだな。そもそも幻聴だろ、うん。

 

すると演奏が止み、音楽室のドアが開く。

中から出てきたのは、赤毛の少女。楽譜を抱え、真っ直ぐに俺の方を見ている。

 

「今聴いてたの、貴方でしょ」

 

「あ、ああ・・・悪い、邪魔したな」

 

「邪魔?とんでもない、むしろ大歓迎よ。入って?」

 

・・・え。

何か俺、あんたの興味引くことした?ただぼーっと聴いてただけなんだが。

恋の予感?いいえ、それは死亡フラグです。

 

「・・・どうしたの?ぬぼーっとして」

 

「あ、いえ、何でもないです」

 

何で急に敬語なのよ、と呆れつつ、彼女は俺を中に案内した。

 

 

素晴らしい曲を聴き、感動したとき。その時は素直に一言、こう言えばいい。

 

「完璧だな」

 

「小学生の時通ってたピアノの先生にも、同じこと言われたわ。まさに早熟の天才、メンデルスゾーンそのものですって」

 

いくらなんでも褒めすぎよね、と西木野真姫は笑う。

そう言えばメンデルスゾーンは、一度見た楽譜を完璧に覚えるほどの能力を持っていたという。小学生で今の伴奏ができるレベルならあながち間違いでもないだろう。

 

「私、この曲が好き―――というより、メンデルスゾーンの曲が好きなの」

 

「そうなのか?」

 

「ええ。知ってる?メンデルスゾーンってどんな人か」

 

「ドイツの作曲家・・・だよな。すまんがそれ以上は分からん」

 

実際結婚行進曲以外の曲はさっぱりだしな。そもそもクラシックそのものに造詣がない。

加えてリア充をdisりながら、学園生活を楽しむ内容のアニソンを好む奴だし、俺。音楽の神様からすりゃ呪い殺されてもおかしくない。

 

「・・・彼はね。ユダヤ人の家庭に生まれたの」

 

「ユダヤ?」

 

「ええ。そんな出自だからすごく差別を受けて、本人もキリスト教に改宗しないといけなかった。

でも彼は、洗礼を受けたときに貰った姓を自分からは使いたがらなかった。自分がユダヤ人だってことを屈辱とせず、誇りに思っていたの。

そこが、信念の人なんだって思ったわけ」

 

はあ。

ヨーロッパ人が不寛容で意地悪過ぎてメンデルスゾーンカワイソス、としか思えない俺はきっと幼稚なんだろうな。

加えて、ひねくれ者でもあるが。

 

「ねえ、今私が言ったことって変だと思う?」

 

「いや、全く。例えば歴史上の人物を好きになって、そこから歴史を好きになったって、変だなんて思わないだろ」

 

「・・・ふふ、ありがと」

 

西木野は静かに笑う。

その笑顔は、木漏れ日の差し込む音楽室と相まって、とても絵になる光景だった。

なるほど、こいつは生まれついての芸術家気質なのか。

 

「そろそろお昼休み終わるから、帰るわね。・・・あ、それと」

 

「何か?」

 

「今貴方が持ってる、そのチラシ。今朝も二年の人が配ってたけど、貴方も何かしら協力してるんでしょ。

誰か曲を作れる人、いるの?」

 

・・・いません、ハイ。

高坂を再び呪いそうになる。暴走特急は映画の中だけにしていただきたいんだがな、ホントに。

 

「・・・呆れた、作曲もできないのにアイドルやろうとしてたの?」

 

「面目ない、ってかそもそも高坂が何も考えてないのがな・・・」

 

「もういいわ・・・じゃ、その高坂さんに歌詞ができたら私の所に持ってくるように伝えて」

 

「・・・作曲、できるのか?」

 

「中学の頃は、自分で曲作って歌って、動画サイトに投稿したりしてたから。それなりに自信はある」

 

神よ・・・!

今まで無神論を通してきた罪深い我を許したまえ・・・!此の身を貴方に捧げる者也。

・・・いかんちょっと材木座っぽいぞ。要は捨てる神あればなんとやらなのである。

 

「すまん。恩に着る」

 

「できるだけ、急いでね。あとは、あの人たちと頑張って」

 

「ああ」

 

愛してるぜ、の台詞はどうにか呑み込んだ。だってそれじゃ俺変態じゃん。

 

久々に、人と別れるときに清々しい気持ちになった。

 

 

「もー!なんでその子ついでに勧誘してくれないかなー!」

 

「・・・あの、走りながら怒るのは止めてもらえますかね」

 

ただでさえ限界近いんで。もうホントバテそうなんで。

マラソン大会なんてびりっけつになって笑われるためのものだったしな・・・蘇る俺のトラウマ。

 

放課後、配るチラシがなくなったのでアイドルとしての基礎トレーニングを始めることにしたらしい。始めは柔軟体操、続いて神田大明神の階段をダッシュで昇り降り。

それがなんで俺も付き合わされてんだよ・・・。言っとくけど俺、ステージで踊ったり歌う訳じゃないからね?

 

「比企谷くん、もしお辛いようでしたら、その・・・休憩されては」

 

「・・・あと3往復だろ?流石にそれくらいは何とかなる」

 

「ふふ、でも比企谷くんのお蔭で作曲の問題はなくなったし・・・あ・と・は、海未ちゃんが歌詞を考えるだけだね♪」

 

「や、止めてくださいことり・・・!プ、プレッシャーでお腹が・・・」

 

「単に走り過ぎただけだろ、それ」

 

ともあれ、園田が歌詞を書くと聞かされた時はびっくら仰天した。

しかもそれが過去の黒歴史ノートの件をちらつかされて脅された末にだとは・・・同情するぜ、園田さんよ。

あとそういう類のものは古紙回収に紛れて捨てれば万事解決なのだ。覚えておくといい。

 

「本当に無理なら、少しは手伝うぞ?それに西木野に頼る手もある」

 

「いえ・・・ここまでして頂いたのに、これ以上甘えるわけにはいきませんから」

 

真顔で言い切られる。

自信はなくとも、芯はある。そう言いたげに。

なら、任せても大丈夫だろう。

 

「よっし!じゃあ一旦練習終わり!ほむまん食べよっ!」

 

「・・・走る前も食っただろ」「動いた後すぐ食べてどーするんです」

 

「うんっ♪」

 

ことりさん・・・あンた、甘すぎんよ。

 

 

「エリチ、見とる?」

 

「・・・ねえ、なんで私、こんなスパイの真似事やってるのかしら」

 

電柱の陰から、3人・・・とあと1人を見つめる人影2つ。

絵里と希。希の方はなぜか巫女服だったが。

 

「やっぱりあの子ら、本気なんやね。アイドルの基礎はまず体力やもんなぁ」

 

「・・・それで本当に、学校公開の時にライブを依頼するつもりなの?まだ彼女たち、自分たちの歌もできてないのよ」

 

「これから作るんやろ。あと1ヶ月あるんよ?そんな目くじら立てんと、慌てずどっしり構えとき、会長さん?」

 

「そんな楽観的な・・・それに、彼女のときのことを考えたら」

 

「・・・エリチ。にこっちの話はなしや。彼女は彼女、μ'sはμ's、違う?」

 

ここでも絵里は口をつぐまざるを得なかった。

飄々としているように見えて、希は時折ここまで真剣な表情を見せるときがある。その時はどうしても強く出ることができない。

 

「でも・・・!」

 

「―――にこっちの時は、にこっちと他のメンバーとの絆がうまく築けてへんかった。だからあの子がどんだけ頑張ったって、遅かれ早かれ崩壊してたと思うで。

でも、あの4人はそうやない。うちのカードは、"穏やか且つ温かな連帯"が4人を結んでると告げとる」

 

「・・・また、タロット占いの話?」

 

ため息をつきながらも、絵里は4人から目を離すことはない。

静かに、静かに見守る。聖母マリアの如く。

 

 

 




真姫ちゃんちょろいんかわいいな!
・・・短歌になってねーよ。まあ八幡への印象は悪くないとは言えますが。


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第四話 真面目なだけでは、物事を上手くこなせるとは限らない。

早いとこファーストライブ回に・・・もうちょっとかかるかも。
あ~インターンが~(汗)


 

パカーーン!

 

 

・・・景気のいい音と共に、今日も山田先生の愛の出席簿下ろしが振るわれる。

 

「・・・比企谷、高坂。またまた朝のホームルームから居眠りとはいい度胸だなコラ」

 

いってえ・・・。まあ平塚先生のファーストブリットには負けるが。

あっまた死亡フラグがっ(ry

 

「す、すみませ~ん・・・」

 

「お前のすみませんは強盗犯の『お借りしたものは返します』発言ぐらい信用ならないんだよ」

 

「・・・あの、流石にそれは言い過ぎなんじゃ「共犯のお前に弁護する資格なし、二人とも一時間目は立ったまま授業受けろ」・・・すいませんでした」

 

居眠りに共犯ってあるのか。俺初めて知りました。

 

さて、トレーニングの日程は早朝5時から1時間、夕方4時から2時間。筋トレ、ジョギングぶっ通し。

それが始まって一週間。筋肉痛と睡眠不足、これはもう引きこもり野郎な俺の体力ではどうにもならない。

大体三日で1週間分の体力を消費してしまう。ああ・・・神様助けてちょーだい。

 

しかし高坂たち3人はトレーニングだけでなく、発声練習、そして見よう見まねでダンスの基礎練まで始めたという。

幸い園田は子供の頃から日本舞踊に親しんでおり、指導者としてなかなかうまくやっているそうだ。

加えて高坂も寝坊の達人と笑われていたのが、ここ数日は珍しく自分から起床しているとのこと・・・その代わり授業中の居眠りは増えたがな。

俺?ホームルームの時だけですよ居眠りなんて。おかげでここ最近一時間目の授業は直立不動で受けていますが。

 

そんな訳で、μ'sのアイドル活動は順調・・・。

 

な訳がない。

 

目下最大の課題は、如何にしてオリジナル曲を完成させるかということ。今朝園田に聞いたら、「どうしても10日はかかる」とのことだが・・・。

そんな悠長な暇はない。

 

なぜなら、すでに一ヶ月を切った学校公開日に、μ's初ライブが決定したからだ。

 

(貴方たちのアイドル活動を学校として正式に認めるには、ライブでその成果を示してもらう必要があるわ)

 

二日前、生徒会に呼び出された俺たち4人は開口一番、絢瀬会長にこう告げられた。

講堂および演出装置のスタッフ3名が貸し出される。そしてノルマは、最低20人の客を集めること。

 

(ウチらもここまでするんやから、君らも失敗してもお咎めなし、とはいかんやろ?)

 

そう、言っていることそのものは東條副会長が正しい。

ただし、もしノルマ未達成の場合、μ'sは即時解散となる。以後どんな形であろうと高坂たちがスクールアイドル活動をすることは厳禁。

どんなブラック企業だって一回のノルマ未達成で即クビにはしないだろうとツッコみたくなるほど理不尽なものだった。

 

(ぶ、部活動として続けることすら許されないんですか!?)

 

(これは遊びじゃないのよ?本当の意味で学校の顔としてアイドルをやるの、生半可な気持ちでやるならここで止めて頂戴)

 

園田が妥協点を見出そうと反論するが、会長はにべもない。

暫く睨み合いが続いたのち、こちら側が諦めて退散する結果となった。

 

そんな訳で、できるだけ急いで準備に取り掛からねばならない。

別に園田を信頼していない訳ではない。真面目な奴だとそれなりに分かってはいる。

ただ、そろそろ結果を出してもらわねばいけない。

 

 

結論を言おう。

もう、10日間も待ってやる余裕なんて俺たちにはないんだ。

 

 

「「「・・・・」」」

 

空はこんなに青いのに・・・と、どこかの不幸型戦艦姉妹のような台詞を吐きたくなる。

晴れわたる大空、小鳥のさえずり。なのにマイベストプレイスたる屋上は、澱んだ空気に満たされている。

言っておくが今回は俺、わるくねーぞ。そんなに。

 

園田が昼休みは図書館で役立つ資料を探したいと言った時、迷わずそうしてくれと伝えた。高校の図書館でアイドルの歌関連の本なんてあるとは思えないが。

俺から園田に聞いても恐らく遅れを責めたてるような雰囲気になってしまうだろうし、ならば高坂か南に聞くのが一番いいと思ったのだ。

それも、園田のいないところで。

 

「・・・それで、あいつから何か聞いてないか?進み具合のことで」

 

「え、え~っとね・・・あはは」

 

おい高坂、目をキョロキョロさせんな。俺だって隠し事するときそんなキョドらねーぞ。

 

「・・・海未ちゃん、今とっても苦戦してるみたい。どんな雰囲気の曲にすればいいのか、よく分からないって・・・」

 

南が沈痛な面持ちで呟く。

・・・それじゃ、実質白紙のまま進展してないってことじゃないか。

 

「それであと10日で、どうやって書き上げるつもりだったんだ・・・」

 

「そ、そのね・・・海未ちゃん、昨日みんな家に帰った後泣きながら電話してきたんだ・・・。

私はアイドルの曲はあまり聴いたことがないから、どうしてもイメージが湧かないって・・・」

 

「そうか・・・じゃ、お前らはどうだ?なんか知ってるアイドルの曲とかあるか?」

 

「「・・・・」」

 

あ、だめだこりゃ。

まあ俺も普段聴くのはアニソン9割ボカロ少々なんだがな。アイドルになりたいのにアイドル関連の楽曲についてはさっぱりってどうなのよ。

単にカッコカワイイから憧れちゃったとか?・・・いや、もうよしておこう。愚痴を言うのは馬鹿でもできる。

 

とにかく、園田に"それっぽい曲"をたくさん聞かせて、イメージを湧かせること。

それならアニソンでもそれほど問題はないか。

 

「その、今日は海未ちゃんのためにもトレーニングは中止したほうが・・・」

 

「いや必要ない。ただ、俺は抜けるぞ」

 

「え!?比企谷くんどっか行くの?」

 

「参考資料集めだよ。アキバの店で仕入れてくる。

あと園田には気分転換のためにもトレーニングは絶対やらせてやれ、それにお前らの付き添いも必要だ」

 

そこまで言い切り、強引に話を打ち切る。

なぜか二人が茫然とした目で俺を見るが気にしない。てか授業遅刻するぞ?

 

 

秋葉原 某家電量販店 CD売場 

 

〈参考資料としてのアニソン選びについて〉

 

1.女性シンガーであることが必須条件。

 

2.激しい曲調、カッコ良過ぎるのは却下。

 

3.スイーツ(笑)が好みそうな、青春や恋愛をテーマにした曲がベスト。

 

最後だけ皮肉っぽくなってしまったが、今回のアニソン選びにあたってこの3条件は絶対である。

単に俺の好みの曲を紹介してやるんじゃ何の意味もない。よりアイドルらしいものでなくてはいけないのだ。

・・・プリキュア?俺としては悪くないがプリキュアってだけで幼稚に思われるしれないので諦めよう。

 

「最近のだと・・・放課後のプレアデスのopとかか?」

 

あれ、確かニコ動の歌い手がやってんだよな。

色々賛否両論ありそうだが、可愛いPVが曲とよくマッチしているとは思う。CDを見つけたので即カゴに投入。

あとは~・・・ハナヤマタのopとかも良さそうだな。あのアニメ自体部活動青春ものだし。ならいっそけいおん!も買っておくか。

他には田村ゆかりとか、最早ゲーソンの類だがKOTOKOとか榊原ゆいとか。以前材木座に勧められちょっとハマったのが癪ではあるが。

財布の中身が空っぽのピーちゃんになるが、どうせ今月は欲しいラノベもないのでまあいいだろう。世のため人のために金を使うのも、たまには悪くない。

たまには。

 

「かよち~ん!はやくラーメン食べに行くにゃ~!」

 

「ごっごめん、凛ちゃん今会計終わったか・・・!あっ!」

 

と、何やら騒がしい声がしたのでそちらを向けば、ショートボブの女子が躓いて手提げ袋を床に落としていた。

てか音ノ木坂の生徒かよあの子。よく見たらUTXらしい制服着た奴もちらほらいるし。

生徒にとっては近くに遊び場があるのは大助かりなんだろうが、学校側としてはどうなんだろうな。

 

ま、今は手を貸してやるのが先だ。

 

「・・・落としましたよ」

 

「え、えっえっ!?あ、すいません・・・助かりました」

 

そんなにテンパらんでも・・・あ、もしかしなくても俺のせい?

全部目が腐ってるのが悪いんじゃあ。

 

「かーよーちーんー!はーやーくー!」

 

「・・・ほら、連れが待ってるぞ」

 

「あ、すみませ・・・り、凛ちゃん今行くってば~!」

 

慌ててエスカレーターのそばの、髪型だけはそっくりな友人へと駆け寄っていく。

だけ、というのはよく観察すればお分かりだろう。おそらくエスカレーターの子がぐいぐい押していくような感じで、片や今のドジっ子は控えめそうに見える。

所謂凸凹コンビってやつだ。もっともどちらも慌てん坊そうな印象はあるし、そこが共通項として互いに惹かれ合い・・・ガールズラブかよ。

なんで俺みたいなぼっちの恋愛観って、すぐねじ曲がってしまうん?

 

・・・考えると哀しくなるのでよそう。

今は園田のために、さっさと用件を済ませなくては。

 

 

【side:花陽】

 

「ん~~、やっぱここの豚骨ラーメンは最高にゃ~~♪」

 

「・・・・」

 

このところ、自分の友人の笑顔を見ていると痛々しさばかり感じてしまうのはなんでだろう。

花陽はそんな鬱屈した感情を胸に秘め、麺を啜る。

・・・旨いことは旨いけど、どうにも量が多いし味付けが濃い。これといって運動などしない花陽にとっては少々食べるのが苦痛だ。

 

加えて、これから友人が聞かれたくないであろうことを尋ねるのだから、食欲なんて増すわけがない。

 

「・・・凛ちゃん」

 

「ん~?かよちん、どしたの?お腹減ってないの?」

 

凛はほっこりとした表情で隣の友人を見やる。

もっとも、彼女が発した次の言葉で、その笑顔も、瞬時に固まる。

 

「その、ね。・・・凛ちゃん、ここ最近部活に出てないんだって?」

 

「・・・え」

 

沈黙。それが一分も続く。

二人にはそれが数時間分に感じられる。

周囲の客も何事かと訝しむ。

こうなるのは分かっていた、それでも花陽は聞かずにいられなかった。

 

この生まれついてのスポーツ大好きっ子な友人が、どういうことか、夏休み明けからずっと陸上部を休んでいるのだから。

 

「・・・かよちんにも、バレちゃったんだ」

 

「その・・・ごめんね。前に凛ちゃん家に電話したとき、凛ちゃんのお母さんがそう言ってたの。だから、ずっと気になってて・・・」

 

弱弱しくも、必死に声を振り絞る。

 

いつも自分の性格のために、凛に迷惑ばかりかけてきたから。急に友人がそんなことをし出したのが、不安でたまらなかったから。

全部ひっくるめて言えば、花陽は友情というものを信じて疑わない、純朴な一人の少女だったのである。

 

「そっか・・・だから今日は、かよちんの方からお出かけしようって誘ってきたんだね」

 

「・・・うん」

 

そして、沈黙。

花陽は、友人に自分の思いが届いて欲しいと願い。凛は、友人に答えるべきことをどうしても言えない苦しみに苛まれ。

 

「・・・別に、かよちんが心配してるようなことじゃないから、安心していいにゃ。でも、ちょっと恥ずかしくて・・・今は、言えない」

 

「・・・!」

 

驚きの表情を見せる花陽を前に、凛は立ち上がる。

 

「今日は、ありがと。お代は凛が払っておくね。用事があるから先に帰るにゃ」

 

「り、凛ちゃん・・・!」

 

そして顔を伏せたまま、店を去ってしまう。

残された花陽は、今にも泣きだしそうな顔で立ち尽くすのみ。

 

「なんで・・・また・・・私、凛ちゃんに・・・」

 

彼女の小さな手には、「μ'sメンバー&ファン募集!」のチラシが握られている。

そのチラシが手から離れ、ひらひらと床へ落ちていった。

 

 

【side:八幡】

 

待ち合わせに遅れてはならない。

相手―――特に女の場合―――が待ち合わせに遅れたとしても、気分を悪くしてはならない。それが30分以上待たされたとしても。

今回の場合は・・・おそらく強引に設定したのであろう高坂が諸悪の根源なのだから。あいつ絶対穂むらで何か奢れよ。

 

帰宅して二時間、日もすっかり暮れた後、高坂から神田大明神で園田が待っているから渡すものがあるなら来い、と連絡を受けた。

もちろん即座に家を出て現地へ向かった。いくら俺でも人を待たせるような真似は出来ん、すぐ悪評立つしな。

・・・なぜ高坂が俺のメアド知ってるかって?こないだ休み時間に強引にスマホを奪われたからだ。

教えなければ戻ってくると思うな~なんて脅しやがって、何それいじめかよ。おまけにまた騒いでるなお前らと、二人して山田先生に怒られるし。

喧嘩両成敗も程々にネ!教育者の皆さんとのお約束だゾ!・・・キメえな。

 

で、十分経たずして神田大明神に到着・・・したのだが、辺りには人影なし。

高坂のイタズラで皆してどこかに隠れているのかと探し回ったが発見できず。そして今に至る。

あ、そもそもいじめか、「お前なんか待っててやるわけねーだろバーカ」ってか?

・・・やっぱり俺の青春ラブコメはまちがっているようです。

 

「・・・ひ、比企谷くん!」

 

・・・あら。

これは幻覚、幻想、それとも妄想・・・もうこの世の女子は全て幻なのか?

俺、末期だな。

 

「すみませんでした!今さっき、穂乃果から連絡を受けたので・・・」

 

「・・・あいつ、待ってるってのは嘘だったのか」

 

「・・・嘘というか、後ですぐ私に連絡すればいいと考えていたんじゃないかと思います」

 

チッしゃーない、ぼっち生活で培った俺の度量に免じて許してやるとするか。次は・・・結局許すんだろうな、何だかんだで甘い男だし、俺。

脇が。

・・・というかさっさと用事を片付けたい。

 

「それで、二人から聞いたんだが・・・スランプ、らしいな」

 

「!・・・それは、実は・・・」

 

「・・・何も言わなくていい、俺も責めるつもりはない。で、もし参考になればと思って、持ってきた」

 

そこで俺は紙袋を手渡す。

中身を見るや、園田の顔が即座に変わる。ああ、次のセリフは「こんなもの受け取れません!」だな。

 

「こ、こんな高価なものなんて、とても・・・!」

 

「ああ、歌詞が書き上がったら返してくれればいい。もしそこにある曲を聴いて2日以内に何も思い浮かばなかったら教えてくれ、また別のを持ってくる」

 

「ですが、これ以上ご迷惑を・・・!」

 

「俺のことより、高坂と南、それと初ライブのことを考えろ。お前の歌詞が完成するかに懸かってるんだ」

 

そこで沈黙が訪れる。

園田は、考えている。優等生気質かつ友達思いであるこいつならそうするだろう。

そして、結論が出るのも、早い。

 

「・・・分かりました、受け取らせていただきます。必ず有効に活用しますので。

どうもありがとうございました」

 

「さっきも言ったが俺のことは気にしなくていい。それより、送ってくか?」

 

「い・・・いえ!もうすぐ家ですので」

 

なぜか顔を赤くされた。

嫌・・・ではないのか、それだけマシだな。人生には妥協が大事。

 

「分かった。じゃ、気を付けろよ」

 

「はい。また明日学校でお会いしましょう」

 

今度は笑顔。そして別れる。

 

このところ、人と別れるとき胸が温かい。それは喜んでいいのか、それとも警戒しておくべきなのか。

 

今は、考えるのを止めておく。

いや、考えたくないんだろうな、きっと。

 

でも、いいのだ。

今は立ち止まらず、歩み続けるんだ。

 

 

「―――比企谷くん。彼女たちは、キミを裏切るなんて、絶対せえへんよ」

 

 

 

 




かよちんと凛ちゃんやっと出せた・・・。
ちょっとシリアスが唐突過ぎたかもしれませんが、ちゃんと回収するのでご安心を。
凛ちゃんもめちゃくちゃ深刻な状況、という訳ではないので。

最後の希(陰で見守ってた)のセリフは独白。もちろん八幡には聞こえてません。


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第五話 こうして、物語はようやくスタートラインへ立つ。

今回、俺ガイル以外のラノベネタがあります。
ネタバレはしてないけど・・・。


【side:海未】

 

「・・・この人たちも、私たちと同じなんだ・・・」

 

海未は、一冊のライトノベルを手に取り読んでいる。

そのタイトルは、「アニソンの神様」。日本のアニメソングが大好きで留学してきたドイツ人の少女が、日本の高校生とたちとバンドを作って活躍する物語。

 

言うまでもなく、比企谷八幡から参考資料として受け取った品の中に入っていたものだ。

 

この本の主人公は、どこか穂乃果と似ている。

ちょっとおバカで、でも行動力があって、そしてどんな逆境にもめげない。

昔から見てきて、普段は素直に出せないけれど、どこか尊敬の念を抱いていた、幼馴染の姿と。

 

それだけではない。それまでどこか遠い世界のように感じていたサブカルチャー文化を、この本は海未に身近に感じさせてくれる。

今まで本と言ったら参考書とか辞書とか古典文学ばかりだった彼女は、勿論ライトノベルなど馴染みがなかった。文学の恥さらしという一部の世評を、真に受けている部分もあった。

でも、この本はそんなにひどい物とは思わない。いや、青春ものとしてきちんと物語が成り立っていると言っていい。

周囲の無理解や妨害にさらされながらも、少年少女がその苦難を乗り越えバンド活動に打ち込む、王道の青春物語。

 

そして知らず知らずのうちに、登場人物たちと自分たち4人の姿を重ね合わせ、その世界に取り付かれている自分がいる。

 

「比企谷くん・・・本当に、ありがとうございます」

 

海未は一旦本を閉じ、再びノートへと向かう。このまま波に乗れれば、今日の夜の間に歌詞が出来上がる、そんな気がする。

 

そんな彼女の耳には、カラフルなイヤホンが着けられている。

かすかに流れるメロディ。それは、「けいおん!」の「ふわふわ時間」だった。

 

 

【side:八幡】

 

「・・・は?もう完成した?曲が?」

 

「はい!比企谷くんの本とCDのお蔭です」

 

高坂と南が、揃ってすごーいとハもる。

・・・いや、もう絶句するレベルだぞこれ?ちょっとアニソン聞いてラノベ読んだら一晩で歌詞が思いつきましたって。

しかも歌詞を読む限りパクリの痕跡は微塵もない、完璧なオリジナルだ。

 

まあ要するに、脳がこちんこちんになったままでは折角の才能も隠れてしまうから、解きほぐす必要があるってことだ。

小学生の頃、プリキュア見てたら「勉強はどうしたー」と怒鳴りつけて俺を引っ叩いた親父に言ってやりたい。脳にもリラックスがいるんだってことを。

大体俺、その時ちゃんと勉強終わらしてたから。しかも後でちゃっかり自分はゴルフ見てるし。寝そべって。

 

「それじゃ・・・あとは西木野にこの歌詞持ってくわ。それで作曲と編曲を頼んでみる」

 

それで曲が完成して、ようやくμ'sはスタートラインに近づける、という訳だ。

どんな衣装がいいか、どんなダンスにするのか、曲のどの部分を誰のパートにするのか。

それらも、曲のイメージが固まらないことには何とも言えないのだから。

 

「あ!そういえばさ~、真姫ちゃんってどんな感じの子なの?」

 

「・・・ん、まあ大人しそうというか、一人でいるのが好きって印象はあるな」

 

意訳:あいつはお前とは馬が合わない。だから会いに行くのは止めとけ。

 

・・・直球でぶつけるのは躊躇われたので、遠回しに言ってみたがさてどうだろうか?

「どんな感じ~」の下りで瞬時にこいつが西木野に会う気満々なのは分かった。俺の観察眼を舐めてはいけない。

 

同類扱いするのは西木野に失礼だし、というかその時点で俺は無意識の内に彼女を下に見ている傲慢な屑ということになる。

確かにどこか人を避けているような印象はあった。どうも俺は例外だったらしいが。

しかし、それは俺のように単に他者を嫌い、人付き合いを怖がり逃げているのとは違うと思う。

その上、容姿端麗で優れた音楽の才を持ちながら、それを誇り偉ぶるようなところは微塵も見せない。

しかもこちらが抱えている問題を察し、汲み取り、自分から助力を申し出る。

かなり人間としてできた奴なんだと、この前会った時にそう感じていた。

 

だからこそ、高坂に悪意がないと分かっていても、いきなり二人をくっつけるのは早すぎる。

もう少し丁寧に、時間を掛けていく必要がある・・・

 

「じゃ、今から会いに行ってこよーっと!」

 

「あっ穂乃果!?あと10分で授業ですよ!」

 

「って穂乃果ちゃん、海未ちゃんの歌詞カード忘れちゃってるよぉ?!」

 

「・・・あのバカ・・・」

 

ドイツのゼークト将軍曰く、"無能な働き者は即刻銃殺しなければいけない"。

銃殺はオーバーとはいえ、馬鹿の行動力が変な方向で発揮されると碌なことにならないという点ではあながち間違っていないようだ。

お前のその行動力がいつも役に立つとは限らないんだぞ・・・高坂よ。

 

 

「・・・で、貴方が朝、クラスで私のことを聞きまわってたって言うのは事実?」

 

「ハイ・・・スミマセンデシタ」

 

昼休みの音楽室。

女3人寄れば姦しい、という諺は今回は間違っているようである。だって4人いるのにこんなしんみりしてるんだもの。

 

しかし俺が高坂の真後ろに居なくてよかった。

何せ今、ちょっとご機嫌ななめな西木野に高坂が土下座中なのだ。もう2分間ずっとその姿勢。

おっ園田、顔が赤いってことは気づいてるんだろうが、後で教えたりとかするなよ?クスクス笑ってる南、お前もな。

男だって家族以外に下着晒すのは勇気がいるもんである。女子は言わずもがな。

 

「別に、責めてるわけじゃないわ・・・あの時は今みたいに音楽室に居たから知らなかったし。

・・・それに、騒がれるのは慣れてるから」

 

「・・・騒がれる?それはどういうことなのですか」

 

「私の両親が、総合病院を経営してるのよ。昔っからやれ金持ちだのお嬢様ぶってるだの、みんな囃し立ててくるから、もう慣れっこよ」

 

・・・家柄に、周囲の環境。

まるで雪ノ下・・・いや、あいつほど世間を斜めに見ているようには見えない。

それでも、その一歩手前ってところか。少々危うい位置に、西木野は立っている。

 

「今朝も、穂乃果のせいで何か言われ・・・たの・・・?」

 

顔を上げた高坂が、震える声で西木野に問う。

西木野はため息をつきながらも、落ち着いた表情で答える。

 

「・・・2年のアイドルの人が来て西木野さん探しに来たってことで、男子が私のアイドル姿が見れるだなんてはしゃいじゃって。

それ見た女子の人たちから睨まれたけど・・・別に、大したことじゃないから」

 

淡々と話す西木野を見て、園田と南は過去のトラウマに苛まれるかのような、苦虫を噛み潰した表情をしている。

まあ、決しておかしくはない。

そんな黒歴史とは無縁の明るい青春を過ごしているのだと思いそうになるが、こいつらだって血の通った人間だ。

夢と希望に満ちたラブコメディな世界の住人ではないし、ましてディスティニーなお伽噺の住人でもない。そんな経験のひとつやふたつあったって当たり前だろう。

 

「・・・ぐすっ」

 

ん?高坂さん?今なんか聞こえちゃいけない音が聞こえたけど?

 

「ごっごっ、本当にごめんねぇっ真姫ちゃぁんっ!」

 

「ちょ!?いきなり抱き着かないでよ!それになんで泣き出すのよ意味わかんない!」

 

・・・あーあ。

純粋なのって時に罪だよな。自虐とか卑下っていう、形を変えた冗談が通じないんだから。

 

「おい高坂、落ち着け・・・もうお前の謝罪は十分西木野に伝わってるから」

 

「うぅ・・・でも穂乃果のせいで」

 

「別にあなたが悪いんじゃないわよ。勝手に勘違いして騒いでるウチのクラスの連中がいけないんだから」

 

キリっ、という効果音が聞こえそうな位落ち着き払った、この態度。

反省の証として西木野の爪の垢を高坂は煎じて飲む、ということにしたらいかがでしょうか。・・・高坂さん本当にやりそうで怖いです。

 

「それで?・・・歌詞が完成したから、見て欲しいんでしょ?」

 

「あ、はい・・・こちらなんですが」

 

やっと本題に入った・・・やっぱり俺が一人で行った方が良かったんじゃないか?

流石の西木野お嬢様でも、騒ぎの原因となった人物がいきなりテリトリーに侵入してきたときは顔色変わったしな。

時は金なり、まさに金言である。

 

「ふーん・・・『START:DASH!』・・・なるほどね。

タイトルもそうだけど、デビュー一発目から気合の入った曲ね・・・」

 

「・・・その、ダメでしょうか」

 

「いいえ、むしろやってやるぞ、って意気込みがすごく伝わってくる。いいと思うわよ。

・・・2日間時間をくれる?貴方たちの期待に応えられるよう頑張ってみる」

 

・・・交渉成立。

いや、交渉なんてしてないけど。なら商談成立って言った方がいいか。

 

「真姫ちゃん・・・本当にありがとね!」

 

「その、申し訳ありません、急に押しかけて頼む形になってしまって」

 

「お礼はいいわよ、それよりライブの準備、ちゃんとしておきなさいよ」

 

下級生に言われちゃ立場ないな、実際結構切羽詰ってるんだが。

まあ色々課題はあったし歩みも遅いとはいえ、着実に準備は進んでいる。

あとはなるようになる、と信じる・・・しかない。

 

「それじゃ西木野さん、引き受けてくれてありがとう♪後はよろしくね?」

 

「まったね~!」

 

「それでは、本当にありがとうございました」

 

「じゃ、もし出来上がったら連絡してくれ」

 

「そうね・・・それと、比企谷さんは残ってくれる?」

 

「はい?」

 

え、これはもしかして・・・きっと責められるんだろうな。

お前のせいで高坂に酷い目に遭ったっていびられて・・・泣くぞ。

 

その後さっきの泣きっぷりが嘘の様にワイワイとはしゃぐ高坂、そしてそれを見て微笑む園田と南が音楽室を出ていく。

ああ・・・止めてくれ、俺と西木野を二人にしないでくれ・・・!

なんて心の叫びは聞こえることなく、ドアは閉ざされた。

 

ああ、神よ助けたまえ。

 

「・・・あの、園田さんが歌詞と一緒に持ってた本のことなんだけど。

あれ、もしかして貴方が貸したんじゃない?」

 

・・・ん。

 

「ああ・・・『アニソンの神様』な。・・・なんで分かった?」

 

「彼女、結構普段は堅い本とか読んでるんじゃない?こないだ図書館で見かけたときも、坂口安吾の『堕落論』読んでたし。

自分からライトノベルなんて読むような人種には見えないわ」

 

「・・・で、俺か。いや短絡的過ぎないかその結論?」

 

「実際当たってるでしょ?私、あの本中学生の時に読んで好きになったから知ってるのよ。

・・・まさか、園田さんのスランプ解消に役立つとまでは思わなかったけど。すごく大切そうに持ってたわよ」

 

あ、スランプって分かったのね。

まあ分かりやすいくらい目に隈できてたしな・・・。高坂は1時間目終わるころにやっと気付いて心配してたが。

 

実を言うと、俺もあの本が好きだ。

まだ高校に入ったばかりの頃、僅かばかりに"青春"の残骸を信じていた頃に出会って、読んで、こんな高校生活が過ごせたらと妄想に耽ったものだ。

結局すぐそんなことある訳ない、と分かって不貞腐れていたわけだが。

 

・・・でも、今は。

形は少々違えども、もしかしたらそれは実現に近づいているのかもしれない。

 

西木野と俺は、二人して微笑む。ニヤケ面と言った方が正しいか。

こいつもこんな笑い方をするなんて、な。でも不快には思わない。

 

「いい仕事、したわね。後は私に任せておいて」

 

「どうも。・・・あいつらのためにも、よろしく頼む」

 

「そんなお父さんみたいな頼み方しないでよ、私を信じて頂戴」

 

自信満々ならぬ、自信満面。

そんな彼女を見て、俺も明日への希望を―――

 

 

・・・ぐぅ~・・・。

 

 

げ。

いかん腹の虫が・・・!

 

「・・・あはっ」

 

西木野お嬢様が、意地悪そうに笑っていやがる・・・!

 

神様、やっぱりアンタは意地が悪いぜ。

 

 

【side:凛】

 

「・・・やっちゃったにゃ」

 

今日は帰宅してからずっと、凛は部屋のベッドに蹲っている。

後悔、そして戸惑い。

昨日、打ち明けてしまえば楽だったかもしれない、でもやっぱり恥ずかしくて言いだせない。

 

・・・ああ、よく考えてみれば最初から部活になんて入らず、放課後は花陽とアキバで遊んでいればよかったのかも。

そもそも仮入部もろくにしないで入部してしまったのが、大きな間違いだったんだ。

あの時、花陽は先輩などに部の状況をよく確かめてからにすればと、そう忠告してくれていたのに。

 

4月、新入生気分で浮かれていた凛は、入部期間中に陸上部に入部届を提出した。

何の迷いもなく。

中学時代と同じように、みんなで一緒に汗を流して、記録を更新して、大会で入賞して―――そんな未来を、漠然と考えていたのだ。

 

甘かった。

 

音ノ木坂の生徒数はかなり少ない。そうなれば部活も必然的に小規模になる。

そして、凛の入部した陸上部は、部員は少なくその質も低く、顧問もやる気がなく、そして予算もない、ないないづくしの最悪の環境だったのだ。

 

それでも、何とか自分だけでも頑張って、部に貢献したい。

中学の陸上部での練習メニューを元に自己練に励み、地区大会にエントリーし、失敗すれば計画を立て直し。

そんな地道な努力を続けてきた。

 

・・・それが続いたのも、7月頃までの話。

 

相変わらずみんなはやる気がなく、ただダベりに来ているようなもの。顧問は碌に顔を出さない。

生徒会にはそこを指摘され、元より少ない予算はさらに減らされた。

 

極めつけは、部員が自分の陰口を言っているのを、こっそり聞いてしまったこと。

 

―――1年の星空さんだっけ?部活なんてゆるーくやってりゃいいのに、何故にあすこまで必死こいてやるかなぁ~?

 

―――スポーツは青春!とかマジに思ってんじゃん?あーいうのいるとさ、ホンっとウザいわー・・・こっちまで気ィ抜けないっつーの。

 

そこで、やる気も何もかも、ぽっきり折れた。

 

以来だんだんと足は遠のいていき、夏休みからは一度も顔を出していない。向こうも当人たちの言うように"ゆるい"部だから、全く気にしてこなかった。

日課のランニングは続けていたけど、もう仲間たちと練習で汗を流し、大会で優勝して皆で喜びを分かち合うとか、そんな夢は遠い彼方に消え去った。

 

過ぎ去ったことは、仕方ない。

でもせめて、花陽という親友に知られたくはなかった。

 

母に八つ当たりしても意味がない。花陽を責めることはできない。

それでも、凛は自棄になる寸前だった。

 

「もう・・・凛、やだよぉ・・・」

 

その時。

ノックと同時に、母の声がする。

 

 

「凛ー?花陽ちゃんからお電話よ、なんかスクールアイドルのことでお話があるって・・・」

 

 

 




紹介した「アニソンの神様」、個人的にはラノベ版「ビート・キッズ(中学生の時読んだ)」みたいでオススメの一作です。

・・・編集部の回し者じゃないですよ?!


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第六話 彼は過去を断ち切り、今を生きる。

再び、このssは原作改変が(ry

材木座が八幡と同じクラスだったり、八幡の過去だったり。
これからもちょこちょこ変わるので、違和感を覚えた方はブラウザバック推奨です。


10月某日

 

天高く、馬肥ゆる秋。

・・・こんな諺を理由に食っちゃ寝生活を送っている奴、考え直せ。クリスマスにケーキもチキンも食えずに泣きたくないならば。

ま、俺としてはその泣き顔を見て鼻で笑ってやれるから大歓迎なんだがな。

ただ高坂よ・・・お前の場合、1年365日ずっと食ってばっかりじゃないのか?昼飯にランチパック3個はちょっとヤバいと思うんだが。

園田が毎日目を尖らせるのも分かる。そしてその親心が報われない無念も。

 

さておき、学校公開日と初ライブまであと1週間と2日。

曲は西木野の協力によって完成しており、衣装デザインも南の手によって完成した。それを見た園田が「破廉恥です!」なんて涙目になっていたが。

今はひたすらダンスと歌の特訓に明け暮れる日々・・・あ、俺はいつも通り筋トレやってますよ?

素人目に見ても、3人の技術面の上達は中々だと思う。

ダンスのぎこちなさ、歌うときに声がこわばってしまうということは目に見えて減っているように感じる。

後は・・・結局、それをきちんとステージで発揮できるかどうか。5日後に講堂での予行練習を控えているから、それで判断するしかない。

 

で、そんな慌ただしくも輝かしい俺の学園生活は――――昨日突然、終わりました。

 

 

『はぁぁちぃぃぃむぁぁぁぁん!!前世からのぉ、心の友たる我に断りもなく去るとはッ!!

無礼千万っ、笑止千万であるぞぉぉぉ!!!』

 

 

・・・ハイ、もうお分かりですね。材木座義輝くんのご登場です。

俺としては、このまま勝手に独り芝居を演じてもらって、そのまま妄想の彼方へ消し飛んで行ってもらいたいものです。

 

実は転校してからも、こいつからは何度かメールや電話が来ていたが、すべて無視していた。

なんてったって忙しかったし、一度情にほだされて返信しようものなら時間を相当潰されると分かっていたからである。

転校前、最後に連絡を取った時なぞ、まだ書き上がってもない自分のラノベの設定集について30分も語るときたもんだ。

しかも夜11時だぞ?言いたいことはいろいろあったが、取り敢えずお前、喋るより書け。

まずはそれからだろうが。

 

で、昨日の夕方ついに情に負けて電話に出てやったところ・・・案の定1時間潰れました。

通話料大丈夫か?あ、あいつも俺以外に話す奴いないし平気か。

 

「・・・あのな、それ昨日も言ってたろ。俺も分かったすまんっつったよな?」

 

『否!貴様は分かっておらぬ、どれ程我と貴様との友情が強固で命にも勝る尊い物であったか・・・!』

 

「要は体育の授業で組む奴いなくなるから困ってるんだろ」

 

『ブべらっ!?』

 

電話で奇声上げんな、キモいぞ。

 

「まっ安心しろ、厚木はなんだかんだ甘いしな。一人でもやれることやっときまーすって態度見せときゃいいんだ」

 

『・・・その、我が電話したのはその件の為ではない。ここ最近、クラスの様子がきな臭いのだ』

 

「あん?」

 

『・・・皆が皆、お互いに対して不信感を抱いておる。だから監視し合って・・・とにかく、よくない空気が蔓延しておる。

今、我から言えるのはこれだけだ』

 

・・・・。

 

なんだ、それは。

 

「・・・おい、一体俺が転校してから何があった?」

 

『すまぬ・・・この件に関しては、由比ヶ浜氏や雪ノ下氏に聞くといい。我も迂闊に漏らすのは怖いのだ』

 

おいおい、厨二病がとうとう末期症状になったのか・・・。

 

なんて、冗談を言える雰囲気ではない。

あの調子こいたいつもの口調とは違う。こいつでも、こんな暗い声を出せるとは。

 

・・・まさか、相模が消え、俺が消え、俺に危害を加えた奴らが同じ立場になり。

そして、皆が皆・・・。

 

・・・いや、考えたくない。

そんなカオスな状況が、仮にも進学校のクラスに出現するなんて、考えたくもない。

映画か小説でやってくれという話だ。気持ち悪すぎる。

 

要するに俺は、怖かったのだ。

 

「・・・平塚先生は、何か言ってたか?この件で対策は?」

 

葉山・・・は、端から当てにならない。なる訳がない。

どうせ「みんなで話し合おう、それで解決しよう」と綺麗ごとを言って、皆その時はそうだ賛成と頷き、あとは元通り。殺伐とした状況に。

ただ三浦なら、自身の権力を使って押さえこもうとするはずだが・・・。あいつも基本的には争いごとを好まない。

女王は下々の連中が五月蠅く騒ぐのを嫌う。それでも、何ともならなかったというのか?

 

『・・・あと2週間で修学旅行が始まるのは、貴様も知っておろう。平塚女史はそれまでに皆が態度を改めぬなら、強硬手段を取ると宣言した。

修学旅行には我らのクラスだけ参加させず、学校で強制的に奉仕活動に従事させると』

 

・・・・。

それじゃ、対処療法にもならない。どうせ修学旅行が終わるまでは良い子のふりをするだけだ。

 

でも現状、先生に取れる手段なんてそれくらいだろう。

それを除いたら、あとは最悪2年F組というクラスを解体するしかなくなる。俺が思っていた以上に、あのクラスの病根は深いところにあるということか。

 

やはり、人も、世界も、狂っている。

 

「・・・分かった。何か進展があったら、伝えてくれ」

 

『うむ、夜分済まぬ。それと新作が書けたのでメールで送る、読んだら感想を聞かせてほしい』

 

「あいよ」

 

珍しくまたか、とうんざりした返事をせずに電話を切った。うんざりしすぎて、もうそんな気力すらなかったのか。

・・・というか、あいつから夜分に済まないだなんて、相手を気遣う言葉初めて聞いたぞ。その変化は、果たして好ましいものなのか、単にあいつが自己防衛のためにそうしているだけなのか。

今はとにかく、そのことは何も考えたくなかった。

 

俺だって人間だ。弱い人間だ。ただのちっぽけな高校生だ。

そして何より、もう総武高生ではない。

 

だったら、もう"前の世界"のことで、煩わせないでくれ。

 

俺は叫ぶ。絶叫する。ひたすらに。

自分の、心の中で。

 

 

学校公開日前日 神田大明神

 

「ふぅ~~!今日のトレーニングは終了、っと!」

 

「比企谷くんもお疲れ~♪ジュース、飲む?」

 

「いや、お前らが先に飲めよ。それにこっちは持ってきたのあるしな」

 

屋上の上で改めて最後の調整を行った後、神田大明神までランニング。それで今日の練習は終了。

つまりは、ここ1週間やってきたことの繰り返しだ。

このやり方は合理的と言える。何か奇をてらったようなことなど要らない。

むしろそんなことに走り出したら、それは凶兆。ヤバいことの前触れである。

 

「この前の予行練習、録画したのを見ましたけど・・・思い出すと少し泣けてしまいますね。あそこまで私が、私たちが歌って踊れるなんて・・・」

 

「そりゃそうだよっ!みんな、あれだけ練習したんだからねっ」

 

実際、夏でもないのに俺が倒れそうになるくらい、練習量はすごい物だった。

特にダンス。始めの1週間は大小問わずミスを連発、やり直しの連続ですぐストップしていた。それがノンストップで見事に演じ切ってみせる迄になった。

やはり人間、経験を積み重ねれば進歩するものなのである。

 

・・・俺もここずっと弱音を吐かず泣き言も言わずに練習付き合ってるし、すごくね?

褒めてもらってもよくね?あ、ダメだなすぐ調子乗って社畜人生まっしぐらのフラグが立つな。

やっぱ褒めてもらわなくていいや。

 

まあ・・・俺の場合、過去の呪縛から逃れたいがために、こうして練習に付き合ってきたのだ。自分の意志で。

自分の弱さから、目を背けるために。

なら責められこそすれ、褒められる資格はない、か。

 

「そうだ!みんなで神田大明神にお参りしていかない♪」

 

「縁担ぎか?まあ、5円玉なら腐るほどあるしいいが・・・」

 

「ちょ、それだけ!?神さま相手にケチったら駄目だよっ」

 

へーへー。

中学生のとき俺が初詣の御賽銭で千円入れたら、その年は告白するはずの相手からキモチワルイ宣言され村八分になったことを聞かせてやりたいものだ。

あの年はホントに俺にとっての厄年だったぜ・・・。もう将来あれ以上の災難が降ってこないことを祈ろう。

あと賽銭は金額より心、と身に沁みて感じた年でもあった。人生何事も経験だよね!

 

さて、手と口を清めた後、ゆっくりと神殿の賽銭箱に近づく。

・・・それにしても随分静かな所だ。一応清潔ではあるし、荘厳なあるべき神社の姿だと言えなくもないが。

俺たち以外にも誰か訪れたっていいだろうに、他の参拝客も神主さんの姿も見えない。無人経営なのか?

なにそれコインパーキングかよ。

 

「ほーら、比企谷くんお賽銭だよ!お金出す!」

 

「・・・お前に払う訳じゃないんだが」

 

「いいからっ、はーやーくー!」

 

境内ではお静かに、入り口にも書いてあっただろうが・・・。

はいはい、さっさと終わらせるぞ。

 

―――チャリーン、パン、パン、パン!

 

「よしっ!今日もみんな、お疲れ様でしたっ!」「お疲れ~♪」「それじゃ、今日は解散ですね」

 

「おう、んじゃ明日な」

 

こっちも一人暮らしの身、飯の支度などやることは沢山ある。

さっさと済ませないとその分睡眠時間が短くなる、それは何事においても人を頼れないぼっちの大敵だ。

 

では、急ぎ失礼して―――

 

「そうだ!今日は比企谷くん、穂乃果と帰ろうよ!」

 

・・・おい。

なんで今日に限って・・・。

 

 

男女二人で下校。

それなんて恋愛シュミレーション、って状況だが生憎今はロマンスもムフフな展開もない。

 

「「・・・・」」

 

気まずい。

二人だけの状況で、二人ともだんまり。こういうのがぼっちにとって一番辛い状況だ。

昔からこういう時は、青春なんていらねえ!と、天に向かって叫ぶ・・・のを、必死に堪えたもんだ。

 

「・・・あ、あのね!」「・・・なあ」

 

同時。タイミングが悪い。

しかも言葉が見事に噛みあってねえ。ますます空気悪くなるじゃん。

神さま仕事しろよあくしろよ。お賽銭結局100円玉上げたぞ?

アキバの自販機でマッカン一本買える額だぞ?まだ功徳が足りんってか。

 

「比企谷くん・・・ここずっと、穂乃果たちに付き合ってくれたよね」

 

「・・・まあ、な」

 

この後にくるセリフ・・・それはなんで?何故?テルミーホワイ?

こんなところだろう。

ぼっちは人に何か聞かれるのが大の苦手だが、中でも俺は一番この質問が嫌いだ。

お前は一々人のやること成すことに理由付けをしないと気が済まないのか?だったら心理学者にでもなれ。

さもなきゃその口を一生閉じてろ。そう罵りたくなるのだ。

 

だが、次の瞬間。

 

 

「その・・・本当に、ありがとうございました!」

 

 

いきなり、高坂が俺に向かって頭を下げてくる。

 

「・・・は?」

 

いやありがとうございますって、俺は監督でお前ら野球選手かよ。

いつからそんな上下関係できたんだよ。

 

「つか頭上げろ。急にそんなことされても逆に気持ち悪いぞ」

 

「ひどっ!?で、でも、本当に感謝してるんだよ?

転校してきて、いきなりアイドル活動手伝ってって頼んだのに、ちっとも迷惑そうにしないで、海未ちゃんが困ってた時も、一生懸命力貸してくれて」

 

高坂は、いつもに増してニコニコの笑顔で言う。

 

・・・行動に理由付けをするのは嫌いだが、自分の位ならまあ許そう。

一つめは、単に流されて。

二つめは、総武高でのことを考えたくなくて。

 

そして、三つめ。

本気で何かに取り組む奴を、止める手段を俺は持っていない。

 

いつもいつも寝坊ばかりだったという高坂が、自分から起き、毎日トレーニングに励み。

ゆるふわそうに見えた南が、昼休みの間、ひたすら何枚も衣装のデザインを描き続け。

昔黒歴史ポエムを書いていたというだけで作詞を引き受け、そしてあれだけスランプに苦しんでいた園田が、一晩でオリジナルの見事な歌詞を書き上げた。

俺なぞ、ちょっと練習に付き合って、ちょっと資料を貸してやって。それだけしかしていない。

 

そこに、自ら協力を申し出てくれた西木野の楽曲センスが発揮され、見事な一つの曲が出来上がった。

それを発表するため、皆が今、各々のやるべきことを見つけ、それに真剣に取り組んでいる。

 

上っ面だけの友達、上っ面だけの友情とは違う。そんなことでは成し遂げられない。

 

"本物"が、そこにあった。

 

「・・・気にしなくていい。こっちもまあ、楽しんでやってるつもりだしな」

 

「・・・そっか。だったら、嬉しいな」

 

「とにかくだ、明日が本番だろ。礼を言われるのは早いと思うんだが」

 

「そうだね!穂乃果たち、絶対成功させるから!比企谷くんもちゃんと来てねっ」

 

「ああ、分かってる」

 

例えば、少しの手助けだったとしても。

ここまで関わったんだから、あとは頑張れよで自分だけトンズラできる訳がない。

もう、俺は逃げ出せない。否、逃げ出さない。

 

 

この日、もう一度"本物"を追い求めるのもいいと、俺は感じていた。

 




八幡のいなくなった総武高のその後については、いずれ外伝などで取り上げる予定です。

・・・明日からインターンなんで、更新遅れるんでいつになるか不明ですけど。
それより、次回ファーストライブ!金・土・日にはどうにか更新できるよう頑張ります。


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第七話 奇跡も、魔法も、たまには存在する。

繰り返す、原作改(ry

・・・しつこいかな、これ。
ともあれ穂乃果、お誕生日おめでとう。君に最高のファーストライブを。


ふと思ったのだが、朝に古いだの新しいだの、そんな概念あるんだろうか。

 

ほら、ラジオ体操の「あたらし~いあ~さがきた~」って歌詞。

千葉でも夏の運動公園でよくやってたが、これがいまいちよく分からない。

「きぼ~うの・・・」のところはまあウザいだけで済む。ぼっちに希望なんてありゃしねえし。

だが別に月日が経とうが朝は朝、誰にでもやってくる一日の始まりに過ぎないはずなんだが。そこだけがどう頭を捻っても理解できなかった。

一体そんな概念を作った奴は誰なんだ?別に責めてはいない、是非会って話を聞かせてくれ。

 

・・・この話は止めにしよう。今日は音ノ木坂学院の秋の学校公開日、そしてμ's初ライブの日。

高坂たちはどんな気分でこの朝を迎えているのか、柄にもなく思いを馳せたら脱線して先程の話になったわけだ。

流石小町に「ごみいちゃんは話を逸らすのだけは一人前」と褒められただけのことはある。・・・ほ、褒められてるんだしっ!

 

「ってノートパソコン付けっぱなしだったな、とっくにバッテリー切れか・・・」

 

親父が引っ越す前に「新品買うから持ってけ」と有難く譲ってくれた品。

お下がりとはいえ親父が息子に物をくれたことなんて我が家じゃ滅多にない、その時は素直に感謝した。

で・・・昨日材木座のラノベ読んだあとそのまま寝ちまったんだよな。

内容は確か、いつも通りボンクラ男が異世界転生してチート、しかし力を出し尽くして元のボンクラに戻り、皆から見放される中生きるためにサバイバルする話・・・だったはず。

おそらく本人は、これを書き上げたときヒャッハーオリジナルだァとドヤ顔だったのだろうが、生憎大筋は「はてしない物語」に近い。

着想はともかく、相変わらずのダラダラした文章のせいでやはり途中で飽きてしまう。残念だったな材木座!

 

「時間は・・・あと10分は大丈夫だな」

 

あいつの後学のためにも、一応批評はしてやろう。いつまともな文が書けるのかは神の味噌汁だが。

えっと、バッテリーを充電して再起動、ネットに接続・・・と。

あとはメールでいつも通り、姑のごとく駄目な点をネチネチと指摘してやって―――

 

・・・いや、ちょっと待てよ。

 

今日は土曜、加えて向こうも修学旅行が始まるまで数日ある。

もし、時間があるなら・・・ライブに来るよう誘っとくか。あいつならやはり貴様との友情は不滅だブヒィィと喜んで来るだろう。

やだ、俺悪魔。人の心を弄ぶだなんて・・・!ま、それがなくても十分クズなんだが、俺は。

 

五分してメールを打ち終わると、俺は支度をする。

その材木座宛てのメールに、こう添えて。

 

 

「追伸

スクールアイドルに興味はあるか?

なんなら音ノ木坂でライブをやる、暇なら来い

場所はアキバだ、行き方は分かるな?」

 

 

「さーせぇん、ライブやりまーす、よかったらどーぞー」

 

「・・・・」

 

・・・素通り、シカト。見事なまでに誰も取ってくれない。これで42人目ってどんだけだよ。

そんなに俺の目は酷いのか、酷いんだろうな。

 

昼、高坂達がビラを持ってきたというので俺が配る役を引き受け、3人は今最後の練習を屋上でやっているところだ。

時々校舎の屋上の方に目をやると、音楽に合わせて華麗な演技を見せるあいつらの後ろ姿がちらっと見える。

はぁ・・・もう俺なしでもお前らやっていけるだろ。

 

「おーす、比企谷くーん」

 

「・・・ん」

 

流石に名前まで呼ばれては無視はできない、ということで振り返ると3人の女子がいた。

高坂はヒデコ、フミコ、ミカと呼んでいる。そしてステージの音響担当者として協力してくれる連中だ。

 

「あっはは、さっきから見たけど全然減ってないね~。やっぱ目で避けられてるんじゃん?」

 

「自覚はしてる・・・今は放っておいてくれ」

 

爆笑。おいやめてくれ、トラウマが増える。

すると、ヒデコさんが右手を差し出してくる。その手は、俺が脇に抱えるビラの方へと近づいてきた。

 

「さっ、ウチらに貸しな。流石に20分も誰も受け取ってくれないんじゃ意味ないし、てか君が可哀相だよ」

 

「・・・おたくらも仕事があるんじゃないのか?それに一応高坂から引き受けてるんだ、だから」

 

「いいからいいからー、男ならあの子たち励ましてやんなさいっての」

 

強引に奪い取られ、校舎の方へ突き飛ばされる。

・・・男気溢れる連中なこって。肉食女子、くわばらくわばら。

 

さて、一応校舎に入ったものの、足は講堂の方へと進む。

俺の心のこもっていない励ましなど聞かされても何の意味もない。それよりは練習をきっちり終え、仲間同士で励まし合うのが賢明だろう。

そう、仲間同士で。

 

「・・・仲間同士、ねぇ」

 

昔から、こういう言葉を聞くたびに反吐が出てくる。

昔、俺を苛めていたグループの連中が合言葉のように「俺たち友達、あたしら仲間」と繰り返していたもんだ。

ところがそいつらは、俺へのいじめ以外にも色々と悪さをしていたらしく、一人教師にしょっぴかれ、次にまた一人、ということを繰り返すうちに内部崩壊していった。

「お前、今までのことチクったな?!」・・・疑心暗鬼、つまりはそういうことだ。単にバレることをバレるようにやっていたからそうなっただけなのにな。

 

高坂、南、園田・・・あの3人を見て、最初は同じようなものだと思った。

しかしあの地獄のような特訓、血の滲むような努力を見ていて・・・態度を改めざるを得なかった。

アイドルなんて裏では熾烈な競争社会。そんなどす黒さも、あいつらからは感じられない。

真に互いの為に協力し、努力する。俺が追い求めても手に入れられそうにない、"本物"。

 

だからこそ、俺もなぜか協力してしまっていた。大したものでもないが。

そして今、今この瞬間は、あいつらのライブが上手くいってほしいと、本気で神にでも縋りたい気持ちになっている。

たとえ、俺の持っている幸運を全て使い果たしたとしても。もしそれであいつらが成功できて、その姿を一目見れるなら、少しは報われるかもしれない。

 

誰もいない講堂の観客席を見つめ、その景色を噛みしめながら、祈る。

 

 

「・・・比企谷くん」

 

 

また後ろから声が。振り向くと、絢瀬会長だ。

 

「どうかしました?」

 

「それ、私のセリフよ。貴方の後ろ姿、何だか老い先短いお年寄りみたいな感じがして・・・具合でも悪いの?」

 

じいさんかよ。心配しすぎて寿命が縮まるなんてあり得んわ。

つか不審者に見られても年齢より上に見られたことなんて流石にないぞ。

 

「目以外に悪いところなんてないですよ、むしろ悪くなって入院したいまである」

 

飯がマズい以外は病院も中々快適だったしな。

あ、でもあの時は雪ノ下家が入院代払ってくれたからスイートだった訳で次は相部屋か。

それはちょっと無理ですすいません。

 

そんな寒いジョークを放っても、会長の表情は全く変わることがない。

大抵皆俺が話すと不快そうにするのだがそうしない。この人もやはり、雪ノ下にどこか似ている。

 

「・・・ねぇ。もし、ライブが上手くいかなかったらどうするの」

 

どうする、どうするか。

そんなのはもう決まってるだろう。仮にも生徒会長ならもう少し頭を使ったらどうか。

 

「成功すればあいつらはスクールアイドルのスタートを切る。

失敗すれば全ておじゃん、何もかも白紙撤回。二つに一つでしょう。・・・貴方もこの前、言いましたよね。失敗したらどうなるか」

 

「・・・ええ。

私、貴方がよく分からないわ。さっきまであんな怖い顔をしていたのに、今は堂々と、自信満々にそう言い切る・・・私が変なのかしら」

 

「やることは決まってるんだから、覚悟を決めるしかないでしょう」

 

もうこんな茶番に付き合う余裕はない。

ライブが始まるのは、午後1時半。あと40分、今頃あいつらもステージに立つ準備をしているはずだ。

 

「俺からも、そっくりそのまま返さしてもらいますよ。あいつらが失敗して、音ノ木坂再建の道も遠のいたら、貴方はどうするつもりなんです?」

 

返事は、無い。

最初から期待してもいない。俺は黙って観客席を出た。

 

 

「いやっほ~ぅ!どう比企谷くん?似合う似合う!?」

 

「おい落ち着け・・・似合っとるからまず離れんか」

 

「比企谷くん、おじいさんみたい♪」

 

そりゃ会長曰く、俺は死期の近いじいさんだそうですし。

年寄りなら誰か養ってくれるだろうしな、このまま竹取の翁みたいに山で暮らすか。

 

しかしこうも立派な楽屋がちゃんとあるなんて。

流石に講堂があるほど歴史の長い高校は違う。ステージに上がる前にリラックスできる場所があるというだけでも、気分は変わってくる。

 

「うう・・・やはり、スカートが短いのは・・・恥ずかしいです」

 

「予行練習のときは着てても踊れただろ。今さら恥の上塗りなんて気にすんな」

 

「う、上塗りって・・・!」

 

変態!ド変態!なんて罵られるかと思った。

それぐらい園田の顔は熟れて真っ赤である。・・・恥はかき捨てって言った方がよかったか。

 

「あと20分かぁ・・・ドキドキするねぇ」

 

「大丈夫ダイジョブっ、その時は人って言う字を沢山飲むんだよ!」

 

「穂乃果・・・貴女いつか本当に食べ過ぎで死にますよ」

 

・・・もう、女だけの世界に入ったか。

俺の出番は終わりだな。

 

「じゃ、俺は観客席の方に行くぞ」

 

「ふふーん、それじゃ穂乃果たち頑張るからっ、ぜーーったいに最前列で見ることっ!約束ねっ比企谷くん!」

 

・・・当たり前だろ。

俺は目が悪いんだ、視力の方もな。

 

「はしゃぎすぎて転ぶなよ?」

 

「心配いりません、私がきちんと監督しますから」

 

「ひっ酷いよっ海未ちゃん、子ども扱いしすぎ!」

 

ドアを閉めた後も、背中は熱気で満ちている。

 

 

舞台袖から観客席へと降りる。

さっきと変わらず無人・・・と思いきや、最前列に一人座っている。

 

西木野真姫。

μ's初ライブのための、作曲を引き受けた少女。

 

「・・・来てたのか」

 

「そりゃそうでしょ。曲の生みの親としては気になって当然よ。隣、来る?」

 

疑問形なのに命令形にしか感じませんが、それは。

まあ西木野相手なら・・・やっぱり緊張するわ、ごめん。

 

「予行練習の時のアドバイス、3人とも喜んでたぞ」

 

「遠回しにありがとうって言ってる?」

 

「・・・感謝の言葉もねぇよ、いきなり押しかけてここまでしてくれるなんてな」

 

「押しかけ?貴方もそうでしょ?もし私が貴方と同じ立場なら、同じ道を選んでたって思う。

あの人たちの熱意と真摯さには、きっと勝てなかった。

貴方と彼女たちが練習してるのよく見てたけど、とにかく自分たちの青春懸けてるってことだけは伝わってきたわ」

 

「まぁな」

 

理由は分からない。けれど本気で、善意で、あいつらはアイドルを目指す。

そして、音ノ木坂を立て直す。

 

面白い。やれるならやってみろ。少しばかり手助けはしてやるってんだ。

 

「かよち~ん、ちょっと怖いにゃ・・・」「大丈夫だよ凛ちゃん、二人で一緒に座ろうよ」「・・・ここで合ってるのよね・・・?」

 

ん・・・客か?

それにしてはなんか聞き覚えのある声がするんだが。

 

「・・・あ」

 

「「「?・・・えええっ!?」」」

 

一人はアイドルショップのツインテコスプレイヤー、あとの二人はCD売場の髪型だけ双子。

しかも全員運の悪いことに、バッチリ俺を覚えていやがる。なんか指名手配犯になった気分、なにそれ嬉しくねーって。

 

「ちょ、なんでアンタがここに・・・!」

 

「関係者ですよ。そっちは学校でまでなんかの勧誘活動ですか?ご苦労さんですね」

 

「何を誤解してるか知らないけど、にこも立派な音ノ木坂2年よ!アンタの隣のクラス!」

 

黄門様のご印籠の如く生徒手帳を振りかざす。

矢澤にこ・・・なるほどこれは偽造できないな。同時に初対面の男に本名を名乗っちゃうというアレっぷりもしっかり証明してしまったわけだが。

 

「貴方たち・・・星空さんと小泉さんよね」

 

「あ、うん、こんにちは西木野さん。・・・それとそこの方、この前はありがとうございました」

 

「・・・別に構わん。ただ拾い物してやっただけだしな」

 

で、向こうは西木野と同じクラスか。つまり1年。

 

その3人は、最前列へと向かって降りてくる。

 

「・・・あの、なんで俺の隣なんすか」

 

「悪い?最前列の中央はにこの特等席よ」

 

「チケット制じゃあるまいし、誰も決めてないでしょ・・・」

 

まあそれは言ってやるな西木野。そういう変なこだわりを持つ奴ってのはよくいるもんだ。

ただそれが俺の隣ってのはちょっと・・・。女子二人に挟まれるなんてそれ何てハーレム王ですか胸が痛いんでやめてくれ。

 

「ほら、凛ちゃん」「・・・うん」

 

そして2人も西木野の隣へ。

どうもこの前会った時とは立場が逆転している気がするが、どういうことだ?見る限り悪い変化・・・とは思えないが。

 

・・・いや、そんなことより。

 

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

 

静かすぎる。

開演まで10分を切った。それでも今、ここにいるのは俺含め5人だけだ。

 

・・・まさか。

ひょっとしてここには、もう誰も来ないのではないか?

 

「・・・ちょっと?どこ行くのよ」

 

そのことを俄かには信じ切れず、講堂の入口へと駆け寄った。

扉に耳を当てる。しかし、外からは喧噪も、足音の一つも聞こえてこない。

 

いや、まだだ。

扉を開ければ、遠くには講堂に向かう人が少しはいるはずだ。

少々手荒に扉を開けてみる。

 

そして、誰もいなかった。

 

女子高生も、生徒の親らしい年配の男女も、いかにもなオタクも。

一人として姿は見えない。前方、左右、廊下の隅から隅まで見渡しても。

 

「え・・・」

 

「・・・なんなのよ、誰も来ないってどういうことよ・・・」

 

「そ、そんな・・・」

 

「・・・うう」

 

そして4人も、俺の後ろから廊下の様子を見て唖然とする。

 

「あんた、この・・・μ's、だっけ?あいつらに協力してたんでしょ。・・・ちゃんと宣伝してたの?」

 

「・・・おたくが持ってるそのビラ、俺も配ってたんですが」

 

「凛たちも、ちょっと前にビラ貰ってきたんだにゃ」

 

「わ、私も、です・・・」

 

「私もポスターはしょっちゅう目にしてたわよ。だから、皆が知らない筈なんてないんだけど・・・」

 

・・・・。

 

要は、こういうことか。

 

「え?ライブ?いやいや無名のアイドルのとか有り得ねーからwww」「時間の無駄だわwww」

 

・・・なぜかDQNボイスで再生されてしまったが、想像するのはたやすい。

そうだ、μ'sには、あの3人には圧倒的に知名度が足りない。歌もパフォーマンスも、全て"これから"披露するのであって、実績もない。

 

だから、いくらビラだのポスターで宣伝しても。

いくら3人のビジュアルが良かったとしても。

いくら血の滲むような努力をしたとしても・・・。

 

終わり良ければすべて良し。

ならば逆もまた、その通り。俺たちは、初めから失敗してしまった。

 

完敗。

 

「ちょっと・・・大丈夫なの?」

 

「・・・ああ」

 

背後の西木野から声を掛けられる。

いや、本当は目の前が真っ白になりかけていたんだがな・・・中学の時「ヒキタニがあの女子に片思いだってよwww」と言いふらされた時以来だ。

・・・何をやってるんだか、俺は。

 

ふと顔を上げると、矢澤にこが急に俺の前に立ち塞がっている。母ちゃんですらしない、おっかない形相で。

 

「・・・アンタ、逃げたりしないわよね?」

 

「・・・何のことだ?」

 

おっと、地が出ていた。

でももう止める必要もないだろう。

 

「さっきも聞いたけど、アンタはあいつらに協力してたのよね。だったら、最後まであいつらに付き合いなさい。

客が来ないからって勝手に失望して逃げ出そうなんて許されない、いや、たとえ世界が許してもこのにこが許さないわよ」

 

・・・フン。

そんなの決まっているだろうが。

 

俺は、本気で何かに打ち込む奴らを止める術を持っていない。

この場から意気地なく逃げ出し、あいつらを傷つける。それはあいつらの歩みを止めること。

 

そんなものは、最初から選択肢に入ってはいない。

 

「最初からそのつもりだ。とことんまで付き合う」

 

「当たり前でしょ。さ、席戻るわよ」

 

その時。

 

・・・ビーーーーーーーーッ!!

 

開演のブザーが鳴る。

皆して慌てて最前列の席へと座る。・・・見事にさっきと同じ配置じゃねーか。

ぼっちには辛いんだからやめろって何度も・・・言ってませんでした、ハイ。

 

幕が上がる。

 

そして、白く輝く衣装に身を包んだ3人が、姿を現す。

 

「「「!」」」

 

驚愕。

3人の表情が一瞬にしてその色に変わったのはすぐ分かった。

そりゃそうだ・・・純粋に客として来たのは4人。

100人以上が入るという講堂の1割にも満たない人数だ。

 

だが、歌え。

高坂穂乃果。南ことり。園田海未。

やってみせろ。歌い踊り、その勇姿をこの会場に焼き付けろ。

 

そして、俺に、"本物"があるということを、証明してくれ。

 

勝手な欲望かもしれない。

それでも、俺はもう一度、確かめたいのだ。

 

だから―――

 

 

「お客さん・・・来てくれたんだ・・・」

 

 

センターの穂乃果が、突然涙ぐむ。

それは、失望ではなく、希望の涙だ。

 

「穂乃果、ちゃん・・・」「・・・穂乃果」

 

サイドの南も、園田も。

まだあいつらは、希望を捨てていない。まだガッツが残っている。

 

「―――皆さんっ!今日は、穂乃果たちμ'sの初ライブに来てくれて、ありがとうございますっ!

たった一曲だけですが、精いっぱい頑張るので、どうか最後まで聴いていってくださいねっ!」

 

―――やったな。

 

『それでは、μ'sファーストライブ、【START:DASH!!】。最後までお楽しみください』

 

スピーカーからもヒデコさんの声がする。

照明が灯り、ステージを照らす。

 

さあ、パーティはこれからだ。

 

 

「・・・・はぁぁちまぁぁぁぁぁん!この我が、我が同胞達を引き連れて参ったぞぉぉぉぉぉ!!」

 

「「「「「「「「「・・・・押忍ッ!!!」」」」」」」」」

 

 

「「「・・・え?」」」

 

「「「「・・・は?」」」」

 

 

「・・・あのバカ」

 

くそ、折角の感動もぶち壊しだ。

 

 

 

 




最高のファーストライブをと言ったな、あれは嘘だ(キリっ)
・・・すみませんすみません怒らないでマジ許して。

最初からお客さん来ましたよ展開、どうだったでしょうか?
個人的にはご都合主義と言われようとこうするつもりでしたが・・・何弱気になってんだか。

ともあれアニメ1期最初の山場たるファーストライブ編が無事終了でき、ほっとしてます。
また明後日ぐらいに更新しますのでお楽しみに。

材木座の同胞の皆さんにつきましては、次回ちょこっと紹介を。もちろんオリキャラです。


・・・長くなりましたが最後に。
ちょっとくらいなら不満点とか言ってくれてもええんやで?(にっこにっこにー)



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第八話 戦争は終わったが、本当の戦いはこれから始まる。

今回はラブライブ要素薄目。つかシリアス回・・・なのか?
そろそろ総武高sideの話も書いていきたいです。

サブタイの由来はアフガニスタンの諺、らしい。


「みんなー!今日は来てくれてありがとうー!!」

 

 

演奏が終わり、高坂が客席に向けて手を振る。

その瞬間、

 

「「「うおおおおおおおーーーーー!!」」」

 

「「「こっちこそありがとうーーーー!!」」」

 

「「「海未ちゃん結婚してくれーーー!!」」」

 

・・・ウゼェ。

外野がウザい、どのくらいウザいかというとクリスマスにツリーの下でいちゃつくバカップルぐらいウザい。

やっぱり材木座呼んだの失敗したわ、お前の愉快なお仲間なんか勝手に連れてくんな。しかも本人は気絶してるし。アヘ顔ダブルピースってやつか?キモい。

 

横の西木野達はと言うと、当然ながら背後からの大歓声に茫然としている。

まあアレだよな、ぼっちがリア充グループに溶け込めないのと同様、オタク特有のノリに付いていけないんだろう。

実のところあのお仲間さん達とは、以前無理やり材木座に夏コミに誘われた時に一度会っている。もっとも軽く挨拶を交わしただけだが。

そしてその後はアニメやら同人ゲーやら、濃密なオタクトークを開始、俺は背後からそっと付いて行くだけだった。

 

ま、要するにどこに行こうがぼっちはぼっち。これが血の定めである。

ちょっとアニメやマンガ、ゲームが好きなぐらいでオタ連中と仲良くなってぼっち脱出とか、それ甘い。向こうはプロ級の知識量なのだ、にわかが渡り合える訳がない。

 

さて・・・さっきから矢澤がジト目でこっちを見ている。

・・・ちょっと待て、お前は何か酷い誤解をしているぞ?まあ何をどう弁解したって今まで信用されたためしがないんだが。

もうテロもインフルエンザも全部俺の所為にされるまである。

 

「・・・アンタがドルオタ連中と知り合いだったなんてね」

 

「いや違うから。友達の友達だから。こっちは殆ど会ったことないから」

 

「友達の友達って、普通に友達じゃない・・・」

 

言うな西木野、これには複雑なぼっちの事情というものがあるのだ。

さらに正確に言うなら、材木座だって体育の時間に強制的に組まされ、向こうが勝手に友人認定しているだけなんだが。

ただ流石にそこまで言うと角が立つので言わないだけだ。

 

「ふふん、持つべきものは友、やで?比企谷くんもそんな冷たい言い方せんでもええんやない」

 

「いや本当で・・・って副会長、いたんですか」

 

「ああそれ、実は壁をすり抜けてきたんや。演奏中にドッタンバッタン出入りなんてできひんやん?」

 

「え・・・本当かにゃ?!」

 

「ウソや☆」

 

純粋すぎて最早アホの子と化している星空はさておき、東條副会長・・・神出鬼没だったり飄々としたところはやはり陽乃さんそっくりだ。

これじゃとても同じ学年だからと気軽に話せるような相手とは思えん。実は3年でしたとかOBだという方がまだ真実味がある。

 

「で、なんで貴方がここに?」

 

「そりゃ一応、ノルマもウチらが課したんやしな。きちんとチェックもしておかんと」

 

「下っ端に任せてもいいんじゃないですか」

 

「あー、彼女らは別な仕事しとるよ。今日はあくまで学校公開がメインやし・・・あれ、さっきまでエリチもおったのに、いつの間にか消えとる」

 

会長もか・・・。

まああの人はどうもライブなんて上手くいくわけないと疑っていたようだし、それがこの様ではそそくさと退散したくなる気持ちも分かる。

 

なんと言っても、今回の賭けは俺たちが勝ったんだしな。

 

「おっす比企谷くーん、お疲れー」

 

「・・・おたくら、ステージの音響と照明はどうしたんだよ」

 

「それ?うちらの後輩に任せちゃった」

 

ミカさんがテヘ☆と舌を出す。黒い、黒いぞ。どこぞの961プロみたいに。

彼女らも、いつの間にか観客席でライブを見ていた。今はフミコさんが、ステージの高坂達に飲み物を配り、奮闘をねぎらっている。

 

そうか、ならあとは彼女らに任せよう。

 

「悪い、俺あそこの連中に声掛けてくる。・・・ああそれと副会長」

 

「何や?」

 

「明後日、昼休みに高坂達と生徒会室に行くんで。決着はそこでつけましょう」

 

「・・・ふふ、了解や。楽しみにしてるで」

 

「え?比企谷くんと穂乃果たち、生徒会と勝負でもしてたん?ヤバくない?」

 

「まあな」

 

さて、いつまでもアンコールだなんだと五月蠅い連中をさっさと追い出さなければ。

・・・スーツ着てるそこのアンタ、まさか会社抜け出してきたんじゃないだろうな?

もしそうなら、俺が言えた立場じゃないが、働け。

 

 

「・・・ふぅ」

 

時刻は午後3時過ぎ。

材木座の大きなお友達には丁重に速やかなご帰宅を促し、ステージの片付けを一通り終えたところでマッカンで一服。

屋上の秋風が心地いい。

 

「ぐふぅ・・・我の体には舞台を清め岩を運ぶなどという重労働は堪えるな」

 

「コミケじゃ一時間以上立ちっぱだって平気だっただろうが。あとお前仮にも剣豪将軍なんだろ?あの程度でヘばるな」

 

もちろん材木座にもしっかり手伝わせた。

掃除以外にも、ヒデコさん達にデカい機材を持たされひたすら放送室と講堂を往復させられたらしい。うわ、ご愁傷様。棒読みだけど。

なんか雪ノ下が下々の連中を見下すときの気分がよく分かった気がする。

 

「わざわざ千葉から遠路来てくれたのは感謝してやるが、友達連れて来るんならメールで伝えとけよ」

 

「ハッ!貴様がSOSの信号を発信しておるというに、悠長に返信などしている場合か!まず駆けつけるのが先であろう」

 

・・・あー、なんだろう。

アクション映画とかアニメなら感動のシーンなのに、こいつが言うと途端に胡散臭くなる。

というかギャグにしか聞こえん。もう芸人養成所にでも入れよ、いじられキャラで終わるかもだけど。

 

「一応修学旅行の準備とかもあんだろ?もう来週の半ばなのに大丈夫だったのか」

 

げ・・・いつの間にか俺、材木座くんを気遣っちゃってるぞ。

ヤバいこれ調子乗るパターンだわ。

 

と思いきや。

 

「・・・・」

 

急に材木座は、下を向いて黙り込む。

・・・そう言えば、平塚先生が修学旅行の件で何か宣言を発したと、こいつから聞かされていた。

その内容は、確か。

 

「・・・修学旅行の件、なのだが。平塚女史がクラスの状況が改善されなければ我らだけ参加させないと宣言したのは、以前貴様にも話しておろう。

彼女は、それを実行に移した」

 

「・・・は?」

 

おい・・・マジか?

どうせ脅し程度で本当に実行するはずなどないと思っていたが。

というか、実際にそんなことをしたら大問題になる。旅行代金の返金がどうとか、せっかくの高校生活の思い出がとか・・・まあ後者は俺にはどうでもいいが。

それを覚悟で、本気で平塚静という人は、2年F組の生徒を修学旅行に参加させなかったというのか?

あまりに突拍子もないと評するべきか、信念を貫き通したことを褒め称えるべきなのか。

 

「・・・はぁ、で、なんでそんな事態になった?まあ大体想像はつくが・・・」

 

「状況が、一向に改善しなかったのだ・・・貴様が去ったあと、我らのクラスでいじめが起きていると校内で噂が立つようになってな。

全校集会でもそのことが取り上げられて、それで皆も大人しくなったかに見えたのだが・・・」

 

その後の経緯を、材木座はぽつりぽつりと話し出す。

 

全校集会でいじめ問題のことを全生徒の前で晒され、大恥をかき、意気消沈したクラス。

その後の昼休みのことだ。

葉山が唐突に、これ以上のいじめを防ぐためにも皆で解決策を話し合おうと言いだしたらしい。

 

やはり、やはりなのか葉山。だとしたらお前は本当にバカだ。

どうせ本当は皆いい奴で、ちょっと今回は道を踏み外してしまっただけとか、そんな風に考えてるんだろうが。

俺に危害を加えていた連中が皆から糾弾されて、そいつらが今度は苛められるという可能性は全く頭の中にないのか、ないんだろうな。

 

で、実際に話し合いの場でそんな雰囲気になった時。

海老名さんがこんな話し合いは無意味だ、皆自分勝手な正義感をぶつけて人を攻撃するはけ口にしたいだけじゃないか―――そう主張したらしい。

無論それは、葉山のやり方を真っ向から否定することになる。

 

「それで、今度は海老名さんが皆から嫌がらせを受けたわけか・・・」

 

「・・・うむ、三浦の姐御が彼女を必死で庇っておったが・・・無力だった、多勢に無勢ではな。

平塚女史のあの宣言も何ら効果がなかった。それで、本当に実行したという訳だ」

 

おい、勝手に姐御と呼ぶな、刺されるぞ。

ともあれ、つい3日前にはその件で緊急の保護者会が開かれたらしく、当然ながら随分と大荒れだったそうだ。

リア充どもの親が寄って集って平塚先生を糾弾する様子は実に見苦しかったと、材木座は吐き捨てた。

 

まあ、親たちは何も事情を知らなかったわけで、急に知らされては混乱するだろうし、担任教師に詰め寄るのも分からんではない。

おそらく先生もそれぐらいは覚悟しているだろう。下手をすれば転任させられることも。

 

それでまた皆、意気消沈して大人しくなったようではあるらしい。

その代わり、クラスからは談笑が消え、メールのやり取りすら誰もしなくなった。グループの連中同士でつるむ光景も消滅した。

授業を受け、昼飯を食い、掃除をして、放課後になれば皆、さっさと部活に行くか帰宅する。その間、誰も一言も発さないし誰とも組まない。

 

皆が孤立し、ぼっちになることで、事態は沈静化した。

 

「・・・確かにまあ、気味は悪いがな。それが最善策ではあるだろ」

 

「うむ・・・」

 

材木座が何か違う、と言いたいのも分からんではない。

というか、俺が千葉村で鶴見留美という苛められていた少女をどうにかしようとした時に使った方法と、クラスが辿った結末も似ている。

いじめグループを仲たがいさせ孤立させ、そうしていじめそのものを亡くす。

結果的にはそれでいいじゃないかと言えるかもしれないが、俺だってあんな手は使いたくはなかった。

 

俺も、本当は鶴見が皆と和解し、また仲良くなれるような結末の方が良かった。

ワイワイ賑やかにやっているクラスの雰囲気など壊れてしまえとは、心の底からは考えていない。

でも現実は甘くない。人間とは常に欲求不満の塊だし、それを解消するはけ口を求めている。だから些細ないじめですらなくならないのだ。

 

「・・・というより、貴様が雪ノ下氏や由比ヶ浜氏からこの件について何も聞いていないのが意外なのだが。

あやつらとなら心置きなく話せるのではないか?」

 

「無理に決まってるだろ・・・雪ノ下はそもそもあの性格だし他所のクラスだし。

由比ヶ浜はもっと無理だ、下手に接触するとあいつに被害が及ぶ可能性がある」

 

実の所、由比ヶ浜とは一悶着あって、とてもこっちから連絡を取れる状況ではない・・・というのが真相なのだが。

・・・え、戸塚?もっとないな。天使の口からそんなことを聞くわけにはまいりません、穢れてしまいます。

 

というか、聞いたところで俺にはどうしようもない。既にあの学校では過去の人なのだし。

ただ心残りというか、罪悪感というか。そのせいかは知らんが、事情だけは把握しておかねばという気持ちがある。

それだけ・・・なんだよな。そうであってほしい。

 

・・・また俺は、自分から地雷原に足を踏み入れる気でいるんだろうか。

 

「そうか、分かった。また何か変化があったらこっちに伝えてくれ」

 

「承知した。・・・おっと、我は同胞と同人誌ショップで待ち合わせておる、これで帰るぞ。

それと次回作の件なのだが―――」

 

「頼むから20ページで済む内容を100倍に水増しするなよ」

 

「げぽぉっ!?」

 

泡拭いて気絶すんな、キモい。

 

 

 

「ひっきがっやくーーん!なんで屋上にいるのさー!」

 

材木座が出ていって一分後、今度は高坂たちがやってきた。

あんだけ歌って踊って、まだはしゃぐ元気あるとかこいつは化け物か。

 

「・・・男には黄昏たい時ってのがあるんだよ」

 

「え?今比企谷くんなにか言った?」

 

「別に・・・」

 

うわ、高坂さんいつから難聴ヒロインになった?ウケねーよそんなの。

そして俺はいつからツンデレに(ry

 

「それで?何か用か、片付けは済んだだろ」

 

「うん、今から穂乃果ちゃん家でお祝いしようと思うの。比企谷くんも、一緒に来る?

一緒にお茶したらきっと楽しいと思うな~♪」

 

・・・今、気のせいか「来るぅ?」って言わなかった?

それなんて瑞鳳さんですか。おまけに「思うな~♪」なんて・・・やっぱり南ことり、お前は小悪魔だ。

 

「・・・もし、断ると言ったら?」

 

「勿論、駄目です。

比企谷くん、貴方も立派なμ'sの一員なんですよ?

何より比企谷くんがお友達を呼んで下さったおかげで、ライブは成功したんですから」

 

園田さん、「駄目です☆」の下り、笑顔が黒いです。

なんで女子の笑顔って怖いんだろうね。

 

それにしても・・・成功。

成功か。

 

こいつらもそう思っているなら、本当に大成功なんだろうな。

 

「分かった、付き合おう」

 

「よっしゃーー!そうと決まったら早速穂乃果の家に急げーーー!!」

 

「おいちょ、腕を引っ張るな・・・」

 

やはり、俺の青春とは誰かに腕を引かれることで始まるようだ。

その終点がどこに行きつくかは、知る由もないが。

 

 

"考えるな、感じろ"。

 

 

今日もまた、この有名なアクション俳優の助言に従って、身を委ねてみようと思う。

 

 

 

 




終わり。
次回は由比ヶ浜主観で総武高sideの話をやろうか、それともまきりんぱな加入の話をやるか、ちょっと考え中です。
・・・インターンあと2日残ってるんでまた更新遅れそうですが。月末にもまた別のインターンあるし・・・頑張ります(小並感)

あ、感想大歓迎、とくに駄目なところとかガンガン指摘してやってください。
べた褒めばかりされると作者は調子に乗るタイプなので。
・・・あ、サイトの規約は守ってね?お兄さんとのお約s(キモい)


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第二章:魚たちの歩みは、今日も止まらない。
第九話 少女たちは再び、明日への準備を始める。


取り敢えずインターン終わって充電中。
月末にはまた別のがあるんですがねトホホ。

さておき、評価欄拝見しました。ガビーン・・・緑二つか。
点数にすると☆3.40。言うまでもなく最低に近い点数ですな。

「俺は俺の書きたいものを書くんだ!」なんて意地を張れるほど、僕は芯の強い人間ではありません。となると路線変更しかない訳で。
シリアスを入れようとして総武高の話を持ち出してしまったのが失敗だったかなあ、と反省しております。
友人にも「この内容(第八話)さ、第六話のタイトルと矛盾してね?」とツッコミを頂戴しました。嗚呼・・・。

なので今後しばらくは総武高sideの話はしないつもりです。
もし今までの話を呼んで不快になった方、いらしたらごめんなさい。ラブライブ本編のお話に注力するつもりなので、また読んでいただければと。

気を取り直して、早速いきましょう。


【side:絵里】

 

「おねえちゃーん、お風呂あがったよー」

 

「・・・はーい!今入るわ」

 

下からの妹の声に気付いて返事をするまで、約10秒。普段なら即座に返答するだろうに。

考え事をしていると、どうにも周囲のことに疎くなる。昔からの悪い癖だ。

 

絵里の頭にあるのは、勿論今日の彼女たちのライブのこと。

公開日に学校を訪れた人は、予想より多少上回ったとはいえ、全盛期に比べれば半分程度に過ぎなかった。

ならば、全く無名の、デビューしたばかりのスクールアイドルの初ライブを訪れたい、見たいと思う人がどれだけいる?

言うまでもないだろう。

 

それでもと希に説得され、講堂に向かう。

どうせガラガラだろう、せいぜい学院生のアイドルオタクが4、5人来ていればいい方かもしれない。

最悪、誰も来なくてライブが中止になっている可能性だって―――

 

 

「―――彼方へと・・・僕は Dash!」

 

 

「「「「「―――Hey!Hey!Hey!START DASH!!」」」」」

 

 

・・・実際は違った。

 

違うといっても、100人以上を収容できる音ノ木坂自慢の大講堂に、半分以下、どころか20人程度の客が来ているだけだ。

正確に数えれば、自分たち生徒会が提示したノルマの人数を超えているかも疑わしい。

それでも。

観衆の熱狂は100人分のそれに値するほどのものだった、と思う。少なくても絵里にとっては。

・・・いや、それよりも何よりも、ステージで踊り歌う3人の同級生の表情。

 

笑っていた。

作り物、所謂営業スマイルではない。あれだけのダンスをこなし、歌いながら、たった20人程度の観客に向けて。

3人とも、一度も笑みを絶やすことはなかった。

 

ダンスに関してはどこかぎこちない動きだと感じるときもあったし、歌唱力も・・・ほぼ間違いなくプロのそれとは比べ物にならないだろう。

しかし、心に秘めた負の感情、そんな混じり気など一切感じさせない、彼女たちの笑顔を見て。

 

―――やることは決まってるんだから、覚悟を決めるしかないでしょう

 

―――そっくりそのまま返さしてもらいますよ。貴方は、どうするつもりなんです?

 

そして、ライブが始まる前、あの転校生の男子に言われた台詞を思い出して。

それでも尚、スクールアイドルを中止を勧告することなど―――

 

「できる訳・・・ないわよ。下らないままごとなんてお止めなさいだなんてね」

 

ああいう物を突き付けられたら、引き下がらずを得ない。

人にはクールで冷血な生徒会長様と見られているようだが、自分にも情はある。そして情には弱い。

これまた、昔からの悪い癖だ。

 

「・・・お姉ちゃん?もう上がったよ?」

 

「ああ・・・ごめんなさい亜里沙、すぐ入るわ。

Спокойной ночи.(おやすみ)」

 

姉を心配して部屋を訪れたのであろう妹の額にそっと口づけをし、おやすみを言って部屋に戻るよう促す。

自分もさっさと入浴を済ませよう。

体と頭の凝りをほぐすには、やはり温かいお湯を浴びることだ。

 

 

【side:八幡】

 

たとえ季節が移り変わり、涼しくなったとしても。

やはり激しい運動をしたりすれば汗をかき暑さも感じる。

極寒の冬真っ盛りならまだしも、あのクソ暑い夏をようやく忘れられるぜ!という秋のこの時期、それは果たして心地良いものと言えるのだろうか。

公園でゆっくり散歩でもしながら、穏やかな秋風を感じるのが風情というものではないか。

 

・・・ナルシストナルヶ谷と揶揄されそうなんでここで止めておこう、とにかく俺としては秋にマラソンなんて止めていただきたい。

まして昨夜散々飲み食いしたのに、急に激しい運動などしたら却って体に悪いということは経験上よく知っている。

忘れもしないいつぞやの正月・・・朝に雑煮を3杯もおかわりしたら罰として大掃除で箪笥だのデカい荷物を散々運ばされ、夜は腹痛で唸る羽目になったからな。

 

「ほらー!比企谷くん遅れてるよーー!!」

 

「ぜぇ・・・分かったから・・・叫ぶな」

 

ええい、高坂穂乃果は化け物か!町内1周してまだ体力が有り余っているとは。

そして道行く人ときたら、皆女子に追い抜かされている俺を憐れみと嘲笑の混じった視線で見てきやがる。

くっ・・・殺せ!

 

因みに現在の時刻、午前10時。付け加えると日曜日。繰り返す、"日曜の"朝10時である。

そんな時間に電話一本で叩き起こされ、いきなり「今日も練習練習!町内マラソンやるよー!」とは。日曜日は寝坊してナンボだろう。

社畜だって一部の例外を除けばこの習慣は守っているだろうに・・・高坂、お前安息日って知ってるか。

 

「急げーーー!ビリの人にはジュース2本奢らせちゃうぞーーーー!!」

 

それは・・・あかん。

ダメだ絶対にダメだ、さんざ園田の参考資料用にCDを買いまくったので余計な出費は抑えなければならない。

たとえ缶ジュース1、2本分であろうと無駄にはできぬ。下手すりゃ最後の週の昼飯は水のみで済ませる羽目になるからな。

 

急に猛ダッシュを始めたそんな俺を、道行く人は呆れと蔑みの混じった表情で見ている。

・・・じゃあどうすりゃいいんだってばよ。

 

 

「・・・ほれ、マッカン買ってきたぞ」

 

終点、神田大明神。

30分以上に及んだマラソン勝負の結果は、見事俺の大惨敗に終わりましたとさ。当然しっかりと"1人2本"飲み物を奢らされた。

チッ・・・昨日高坂家で夕飯をご馳走されていなけりゃもっと強気に出れたのに。あ、高坂のお袋さん炊き込みご飯マジ美味かったです、ありがとうございました。

・・・やっぱ無理かね、男の癖に飲み物ひとつあげないなんてすごいさもしく見られるし。

俺とて人の目とか同調圧力にいつ何時でも抗えるとは限らないのだ。特に1対3の場合は。

 

「ありがとー!・・・うぉっ、めっちゃくちゃ甘くないこれ!?」

 

「うーん、ことりはコーヒーは苦い方が好きかなー♪」

 

「飲み過ぎると・・・うーむ、糖尿病になりそうですね。穂乃果、全部イッキ飲みはいけませんよ?」

 

「わ、分かってるってばー!」

 

おのれ・・・人からの貰い物にケチをつけおって。しかもよりによってチバリアンのソウルドリンクを・・・!

どうしてくれよう、マッカンが大好きになるおまじないでもかけてやるか。

・・・それメイド喫茶かよ、目の腐ったメイドさんなんざ御免被る。

 

「あ・・・ごめんなさい、折角比企谷くんが買って下さったものを」

 

「気にしなくていい、俺もからかい過ぎた。女子にいきなりMAXコーヒーは確かにキツいだろうな」

 

「へー・・・比企谷くんって、実はそんなイジワルさんだったの・・・?」

 

うっ・・・!南の笑顔が眩しい、そして黒い。

これはどこかで男転がしの術をマスターしたな。理事長・・・ではなさそうだ、娘の躾に厳しそうなところはあるかもしれんが。

 

「・・・まあ、とにかく。高坂、今日の練習はこれで終わりか?」

 

率直に言うと帰ってプリキュア見たい。それが本音だ。

俺にとっては日曜のプリキュアが何よりのご褒美であり、そして明日への活力を養うためにも不可欠なのである。

キモいとかいう奴、どうせお前もマンガかごろ寝だろ?正直に言ってみ。

 

「あ、ううん!昨日のライブの反省会、やろうと思うんだ」

 

カタカナ語で言うならフィードバック。

意識高い系の輩ならそう言っていたかもしれない。なら最初から全部英語で言えというのだ。

つうかそれ以前に時たま間違って使ってるヤツもいるしな、この手のカタカナ語。

浅はかな人間ほど変に自分を飾りたがって逆にボロを出すという法則は間違っていないようだ。・・・ま、それはさておき。

 

「それなら、お前らの家でやった方が良かったんじゃないのか」

 

「穂乃果の家は、昨日パーティーで使っていますし・・・ことりと私の家も、そういう目的で集まるには少々適さないかと。

それなら、練習でも使ったこの場所がいいと思いまして」

 

まあ・・・静かではあるし、考え事には丁度いいかもしれない。

考え事といっても真面目なものというよりは、秘密基地計画とか悪ガキの悪巧みの方を連想するんだがな。

 

ただ反省会といっても、単にあそこでああすりゃよかったね、じゃ5秒で終わってしまう。それではどこぞのロケット団みたく何度も何度も失敗して終了だ。

それに、昨日のライブでの演技は時間にすれば10分もない。

その僅かな時間で披露した歌・ダンスについて、細かいミスや欠点を自己分析するというのは余程のプロでなければ難しいのではないだろうか。

ペーパーテストの内容なら案外何日も覚えていられるものだが、歌と踊りの演技は紙切れの上で理解し判断するものではない。

だから自分たちの演技を再度ビデオなどで検証する必要があるのだが、生憎テレビなどないし、誰もビデオカメラの類などは持ってないようだ。

 

南もそんな俺の疑問に気付いているらしく、内緒話をするようにこちらへ・・・いやちょっと、近いって君。

 

「一応ね、ことり達でもどこが悪かったかー、ってお話は昨日してみたんだ。

でも中々意見が出なかったの。そしたらね、『明日アンタ達の駄目なところを叩き直してやるから覚悟なさい!』って言ってくれる人がいて・・・」

 

「はぁ・・・。で、その人h「アンタの後ろにいるわよ」うぉっ!?」

 

嫌な気配を感じて振り向けば、そこにいたのは矢澤にこ。

腰に手を当て、前かがみで俺を睨みつけるように見ている姿はまさしくツンデレ・・・蹴られそうなんでやめとくか。

 

「い、いつからそこにいたのっ?」

 

「4秒前よ、因みにここに来たのは22秒前よ。・・・にしてもアンタ達、人の気配に鈍過ぎるんじゃない?」

 

む・・・。

時間に無駄に細かいところといい、気配を消すのに長けているところといい、これは。

 

「・・・お前もしかしてストーカーか?」

 

「なっ!?そ、そんな訳っないでしょ?!別に憧れのアイドルの追っかけやってるうちにその人の家まで突き止めたりなんてしてないんだからっ!」

 

「「えぇ・・・」」

 

やべ、つい園田と俺の声がハモってしまった。意外に俺たち気が合うんじゃ・・・やめとけ、また新たな黒歴史が立っちまう。

てか矢澤、立派なストーカー予備軍だぞお前。まああっさり暴露してしまうあたり、マジモンの犯罪行為にまでは至っていないようだが。

 

「あ、あはは・・・それじゃ矢澤さん、昨日のライブのことで、何か教えてくれるかな?」

 

「ああそうね、そっちが本題だったわ。・・・いい、耳の穴かっぽじってよーく聞くのよ!」

 

なんでいちいち上から目線なんだよ・・・。

デレのないツンデレ、だがツンドラ系とも言い難い矢澤にこ様のおありがたい説法が始まった。

・・・あ、説法はお坊さんだからお寺か、ここ神社だったわ。

 

まず、2番の歌詞の歌い始めで声がかすれ過ぎ。特に園田のパート、自信がないのか何だか知らんが他の2人より声が小さくてダメ。

全体的に踊りに躍動感がない。小動物みたいにちょこちょこ動くな、もっと大胆にやれ。

加えて―――

 

「アンタ達に決定的に欠けてるとこ・・・それはアイドルとしてのキャラよ!」

 

「・・・キャラ?」

 

「性格付けとかそういうこったろ」

 

てか普通に3人ともキャラは立ってると思うんだが。

高坂=アホの子、南=腹黒でゆるふわ、園田=秀才かつ大和撫子、あとクーデレ?なところが・・・やだ俺変態ぽいじゃん。

キモヶ谷なんて呼ばれてたのもあながち間違いではないのか?うん、辛いからやめよう。

 

「・・・ま、お前の言いたいことは分かった。

それでそっちはどうなんだ?歌唱力、ダンス、キャラ、どれ程のもんを持ってるっていうんだ」

 

挑発。

こうまでズバズバと批評してくれやがったんだから、自分の実力が相手より上であることを示すのは当然の義務だろう。

 

矢澤はフン、と鼻を鳴らし、どこぞのハルヒの如く指を突き付ける。

 

「望むところよ、このにこ様の実力、とくとご覧なさい。そうと決まれば早速場所を変えるわよ!」

 

 

秋葉原 某カラオケ店

 

「15曲全部、90点越え・・・」

 

「凄いよ・・・人間業じゃないよ・・・」

 

「当然よ、こちとら毎日学校帰りに寄ってるんだし。

休日だけ来て好きな曲だけ歌って後はお喋りしてるアンタ達とは格が違うのよ、格が!」

 

うわ、殴りてぇ・・・このドヤ顔。

目の前にいるのが矢澤でなく材木座なら間違いなく背負い投げをかましてやるところなんだが。

でもまあ、カラオケ店が今や歌うよりも女子高生の駄弁り場に堕しているという点は同意。ヒトカラ行くといつも奇異の目で見られるんだもん。

特に誕生日パーティーやってる奴ら、家でやれ。金払ってこんな所でやる意味が分からんぞ。

 

さておき、神田大明神を離れて既に1時間以上経過した。

あれからゲーセンでのダンス勝負、そしてカラオケ勝負をこなし、結果はこちらの惨敗・・・という訳ではなく、3人も自分の得意な曲であれば互角に戦っていた。

だが知らない曲、苦手な曲では全く話にならず、どんな歌でもそつなくこなした、矢澤にこの総合力の勝利となった。

 

「で?アンタはなんで歌わないのよ」

 

「いや俺、あんまりカラオケ行かないし」

 

嘘だけど。ヒトカラ行ってるけど。

まさかプリキュアのテーマソングしかダメですなんてお世辞にも言えません。

 

「比企谷くんの歌ってるとこ、ちょっと見てみたいな~♪」

 

「ちょっとことり、無理矢理だなんてよくないですよ」

 

「でも、一度聴いてみたいってのは同意かな!」

 

「・・・『千の風になって』なら」

 

一同、シーン。

あ・・・やっぱり駄目だよなそりゃ。そもそも私の死を悲しむな、なんて暗い歌詞俺も嫌だわ。

中学時代、なぜか文化祭の合唱でこれを歌う機会があったんだが、当然みんなやる気なんてなくグダグダでそれは酷い出来だった。

いっそガキっぽくてもいいからもっと明るい歌にしろよという話だ。今の俺がツッコむ権利はないが。

 

「ま、その男は置いといて・・・最後はそう、キャラ勝負ね!」

 

「うう・・・穂乃果キャラってよく分かんないや」

 

「は?ふざけるんじゃないわよ!アイドルの基本のき、でしょーが!

いい、今から手本見せたげるからよーく目に焼き付けておくのよ!」

 

あ・・・。なんかヤバいフラグが立った気がする。

キーワードは"黒歴史"。後になって何をやってたんだ俺はあああああと死ぬほど悶える羽目になるアレ。

 

さて、そのお味は―――

 

 

「にっこにっこにー♪

あなたのハートににこにこにー♪

笑顔届ける矢澤にこにこー♪

にこにーって覚えてラブにこー♪」

 

 

・・・・。

 

大変、おあとがよろしくないようで。

つまりぶっちゃけ、全員ドン引き。

 

「ハッ、みんなにこにーの宇宙一(ナンバーワン)スマイルに悩殺のようね!鼻が高いわ!」

 

しかも本人は全く気付いてねえし。むしろ盛大に勘違いしてるし。

形を変えた中二病患者かお前は。材木座と案外いい友達になれるかもしれん。

 

「・・・あ、あれ・・・?なにかすごい物を見てたはずなんだけど、気のせい?」

 

「・・・奇遇ですね。私も、何が何やらさっぱり・・・」

 

ああ・・・高坂と園田が現実逃避に走ったぞ。

南はといえば白目を剥いて気絶している。こりゃもうだめかもわからんね。

 

「で、もう分かったでしょ?アンタ達に足りないもの、欠けてるものが何かって」

 

「・・・あー、よく分かった完敗だ、潔く認めよう。これでいいか?」

 

「は?いい訳ないでしょ」

 

え、まだあんの?

ペナルティとかあんの?まさか罰ゲームにポッキーゲームとかやめてくれよ。

 

その時、矢澤が急に立ち上がり、コホンとひとつ咳払い。

・・・やっぱりまた何かしでかす気かこの痛いツインテールは。

 

 

「私が―――この矢澤にこが、アンタ達を一から鍛え直してやるわっ!」

 

 

「うんっ!是非ともにこちゃんにお願いするよ!」

 

「「立ち直り早っ!?」」

 

またしても園田と声がハモったし・・・俺たち相性がいいのか、んな訳ないよな。

自重せねば。

 

 

嵐は嵐を呼ぶ。

こうして、何もわかっていない高坂の返事一つで、また新たな火種が持ち込まれたのであった。

 

・・・あれ、何故に俺ナレーション口調?

 

 

 




終わり。
まきりんぱなより先ににこ襲来のおはなしでした。
3人も入れたかったけどこれ以上は長すぎるかと思って・・・また次回、待っててください。


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第十話 数は力、これは真理である。

まきりんぱな、最後にちょこっとだけになってしまった・・・。すいません。
あとエリーチカがちょっと残念キャラになってる感じも否めませんが、そこは今後巻き返していくので目をつぶっていただけたらと。


先手必勝。一対多。

いつも当てはまるとは限らないが、喧嘩で勝つときの大原則のひとつだ。

 

・・・言っておくが俺が誰かに喧嘩を吹っ掛けたとかそういう訳じゃない。むしろ吹っ掛けられる側だ。

昔からよくいじめに遭ってきたもんだが、大抵いじめてくる奴らはこの原則を守っていた。

そうすることで抵抗力を奪っていく。汚いが、至極合理的ではある。

 

どんなことからでも、人は学べると言う。

ならば俺も、その手法を真似させてもらうとしよう。

 

 

「えっと・・・」

 

月曜日、昼休み。

この日ほど昼休みが待ち遠しい日もないだろう。なんつったってホラ、ブルーマンデーとか言うし。

だが今日は残念ながら、昼飯を食ってポケーッとしている暇はない。生徒会に、スクールアイドルの件で話を付けに行く必要があるのだ。

 

「・・・なんだ?」

 

「あのさ、ホントに比企谷くんから話すの?穂乃果たちじゃなくって大丈夫?」

 

「ああ。というより高坂、お前から話すと何かボロを出しそうで困る」

 

「酷いっ!?」

 

「いや、当たっているでしょう・・・昔から隠し事なんてできた例がありませんし」

 

「いっつも内緒話聞くとうずうずしてたよねー、穂乃果ちゃん♪」

 

やっぱりな。

「これ、絶対ナイショだからね?」とか言っておきながら、自分から言っちゃうタイプ。

そういうやらしい奴に限ってちゃっかりクラスの人気者の座に治まり、逆に律儀に秘密を守る奴は根暗と蔑まれるのだから、全く世の中理不尽である。

・・・ま、高坂は今までの功績に免じて許してやるとするか。こ、今回だけなんだからね?

 

「とにかく向こうが指名するまでは、あと俺から聞くとき以外は、生徒会とのやり取りは任せてくれ」

 

「・・・分かった。比企谷くんを信じるよ」

 

「おうよ」

 

決戦の場はすぐそこだ。

こんな勝負、さっさと終わらせてやる。

 

 

「?・・・貴方たち」

 

「東條副会長からも聞いていると思いますが。スクールアイドルの件で話を」

 

昼下がりの生徒会室。そこに一人佇む生徒会長、絢瀬絵里。

・・・なんかこう書くとすごく卑猥に感じるな。実際絢瀬会長って人妻っぽ・・・なにをしているんだおれは。

いかんいかん、煩悩退散太田胃散。

 

「あれ?副会長さんは?」

 

「・・・今、卒業アルバムのことで写真部に顔を出しに行ってるわ」

 

―――フッ、勝ったな。

勿論その情報はとっくに入手している。写真部員らしいヒデコさんが他の2人と喋っているとき、東條副会長が昼に来るということを言っていたのだ。

あの話し上手がいるとやり込められる可能性が高い。敵を減らせるならそうしておくに限る。

流石黒八幡、汚いぜ。

 

「希のことはいいわ、それより貴方たちの今後のことだけど・・・」

 

「ええ、スクールアイドル―――μ'sはこれからも続けさせてもらいますよ。ノルマは達成しましたからね」

 

会長が目を剥いた。

ちらと後ろを向くと、背後の高坂たちはそれに動じる様子は微塵もない。よし、それでいい。

気迫で負けたら終わりだからな。

 

「・・・その根拠を示してもらいましょうか」

 

「勿論です。・・・高坂、あの写真貸してくれ」

 

「あ、うん」

 

俺はそこで高坂から一枚の写真を受け取る。

同時にズボンのポケットからもう一枚写真を取り出し、会長の机に置いた。

 

「これは・・・」

 

「どちらも、ライブが終わった直後の様子を撮ったやつです。少し数えれば20人いると分かるはずですが」

 

一つは、ヒデコさんの後輩であの時音響を担当していた女子が、ステージ付近から観客席の様子を写したもの。

もう一つは材木座が客席の周囲の様子を撮ったもの。

 

まず最前列に俺、西木野、矢澤、そして小泉と星空、計5名。

その次の列にはヒデコさん、フミコさん、ミカさんの計3名。

さらにその後列には材木座と愉快な仲間たち。計10名。

 

そして最後列には、他ならぬ絢瀬会長、東條副会長の計2名。

全て合わせれば、丁度20名となる。

 

「・・・ちょっと待って。なぜ私と希をカウントしているの」

 

「俺たちはただ20人集めろとしか言われてませんしね。視察に来た生徒会の人間はカウントするなとは言われてない」

 

「なら、貴方のすぐ後ろの列にいる音響担当の子たちは・・・」

 

「同様です。ステージの音響担当者を含めるなとも言われていませんから。

本人たちは後輩に引き継いだそうですし、進行上も全く問題はありませんでしたよ」

 

傍から見ていれば実にしょうもないやり取りだが、こうして1個1個丁寧に反論し、外堀を埋めていくのが肝要なのだ。

そうして相手が気づく頃には、裸になった城の無残な残骸があるのみ。

 

つまり、ゲームセットだ。

 

「・・・プラカードを持っているこの男性陣は?確か1人が貴方の名前を呼んでいたと思うけど」

 

「まさか知り合いだったら客として扱うなと?男はダメだと?音ノ木坂の生徒でなければいけないと?

音ノ木坂は共学化されたんでしょ。それに一般公開なら生徒の父兄が訪れることだって有りうる。

そしてそいつらの中にたまたま俺の顔見知りがいた・・・これだって何ら問題はないはずです。違いますか?」

 

Q.E.D.―――証明終了。実に呆気ない勝負だ。

これ以上反論を続けるというなら、最早屁理屈ですらない私利私欲剥き出しのエゴをぶつけることになる。

私はお前らがアイドルをやること自体そもそも気に食わなかった、とかな。

 

別にアイドルが嫌いなら嫌いで結構。というか目の前の会長の態度を見れば、はっきりそうだと言っているようなもの。

だがそれを剥き出しにして活動を妨害するなら、こちらもそれなりの手段を取る。

教師、そして理事長―――南ことりの母親でもある人物の威光を笠に着れば、大きく出ることも可能だ。

建前上は娘だからと特別扱いしないと言うだろうが、建前は建前。ましてやこのアイドル活動は許可なく勝手に始めたものではない。

生徒会長がそれを潰そうとするなら、理事長とて黙ってはいないだろう。

 

「・・・っ」

 

さあ会長さん、どうするおつもりで?

 

 

「―――エリチ、比企谷くん。もうその辺でやめとき?」

 

 

その時。

突如として閉ざされた空間に風が吹く。

 

東條副会長。

神出鬼没、飄々とした女狐・・・ちょっと言い過ぎたか。

どのみちできるだけ敵に回したくない人物であることに変わりはなく、彼女が来る前にさっさと勝負をつけたかった。

彼女とて生徒会の人間である以上、一応は会長の肩を持つはずだ。

 

そうなれば、形勢逆転。

 

「一応な、ウチも扉の前でキミらのやり取りは聞いとったよ。

なるほど、確かにウチらは生徒会の人間も音響の子も数に入れるなとは言うとらんしなあ」

 

「「「「・・・・」」」」

 

チッ、聞いてやがったのか。それもほぼ最初から。

ならいくらでも向こうには反論の余地がある。今のこの目の前にいる人間は、恐らくそうやりかねない。

 

ここまでか―――

 

「よしっ!ええよ、音ノ木坂学院生徒会は、キミらμ'sの活動を公認します」

 

「・・・はい?」「「「えっ?」」」

 

ちょ・・・マジすか?

どう考えても何か反撃繰り出してくるって雰囲気だったんですが。

 

「希・・・」

 

「エリチ?これ以上何言うても無様なだけやで?人間、けじめが大切や」

 

直球の正論。ストライク。

あっさりとバッターアウト。会長は黙り込む。

 

「そうそう、これで正式に認められたんやし、部室も貸し出さなあかんね。

場所は一階、B棟の多目的室。これでええ?」

 

「や・・・やったー!」

 

「これで、雨の日も練習できるんですね・・・」

 

そういや雨の日はずっと高坂家でボイトレだったな。そして俺は横でただ眺めていただけ。

本を読みながらごろ寝するわけにもいかず、かと言って一緒に歌う訳にもいかない。

何もしない、何もできないのが一番の苦痛とはよく言ったもんだ。・・・言うもんなのか?

まあとにかくいろいろ辛かったんですよ、俺も。

 

ともあれ、高坂達はその決定に喜び、湧き上がっている。

会長としても、ここで決定を覆して水を指すわけにはいかないだろう。

 

終わりだ。

 

「・・・それじゃ、話は以上ですね。これで失礼していいすか」

 

「そうね・・・戻ってくれて結構よ」

 

「ま、あとは頑張りやー」

 

諦めムードに入った会長、能天気な副会長の声を背に、俺たちは去る。

 

ともあれ、勝った。釈然としない点もあるが、勝った。

これで堂々と活動できる訳だ。

 

「やった・・・これで正式にμ'sスタートなんだ・・・!」

 

・・・ん?

 

「比企谷くん・・・本当にありがとねっ!!」

 

「ちょ、おいっ!?」

 

バカ、いきなり抱き着くな!周りから変な目で見られるだろが。

 

「「♪」」

 

南、園田・・・嬉しそうにしてないで止めてくれっつの。

 

 

「ほらー!全員で繰り返しなさーい!・・・さん、ハイ、『にっこにっこにー♪』」

 

「「「に、にっこにっこにー・・・♪」」」

 

「あーもう!声小さすぎって言ってんでしょ!グラウンドの運動部の連中にも聞こえるようにしなさい!

あと比企谷!アンタも一緒にやんのよ!マネージャーだからってサボりは許さないわよ!」

 

「・・・いつマネージャーになったんだよ俺は・・・」

 

「何か言った!?」

 

「・・・別に」

 

放課後。

発声練習とキャラ作りの練習を兼ね、こうして矢澤のキャッチフレーズを連呼させられている3人・・・と俺。

折角部室が手に入ったと言うのに、「大勢の人に聞こえなきゃ意味ないでしょ!」との矢澤の意見により屋上となった。

あと俺前にも言った気がするけど、ステージで歌って踊る訳じゃないからね?何が悲しくてあのツインテ独裁者のフレーズを連呼せにゃいかんのか。

 

おまけにグラウンドの連中にはしっかり聞こえていた。時折下を見ればクスクス笑っている奴らがチラホラ。

これ以上黒歴史増やしてくれやがってどうすんだコラ。

 

「うう・・・やはり恥ずかしいです・・・」

 

「は?この程度で恥ずかしいですって?冗談じゃないわ!

もしバッカみたいって笑うヤツがいたらそいつに唾吐きかけてやんなさい!それがアイドル魂よ!」

 

・・・一見正しいように聞こえるがすごいメチャクチャな根性論だな。

あと唾吐くのはいかんだろ。むしろ魂が穢される。

 

「・・・す、すごい凄まじい練習だにゃ~・・・」「ち、違うよ凛ちゃん、これがアイドル坂を登るための厳しい試練なんだよ・・・!」

 

ほら見ろ、勘違いしてる奴まで・・・。

 

え?

あいつら・・・小泉に、星空。

 

「・・・あれ?そこの子たち、穂乃果達のライブに来てくれたよね?」

 

「あ、はい!1年の小泉花陽っていいます!

今日はその、凛ちゃんと・・・μ'sに入れてもらいたいって思って・・・」

 

「えっ?新メンバー加入ですって?!」

 

「よっしゃー!勿論大歓迎だy「・・・ちょっと待て」へ?」

 

高坂、矢澤、勝手に暴走すんな。

まず2人から話を聞くのが先だろうが。

 

「あ・・・その、理由、なんですけど・・・」

 

「別にそれはいい、大体想像もつくしな。あのライブを見て何かしら思うところがあったからだろ」

 

「・・・はい!」

 

オドオドした態度は急に消え、自信に満ちた表情になる。目にも、情熱が宿っている。

 

これも前に思ったことだが、人のやること成すことに一々理由付けをするのを、俺は好まない。

どうせ単純な悪意か、単純な善意か、どちらかでしかないのだから。

人は単純じゃない、人の内面はそう簡単にわからないなんて言う奴は、一体今までの人生何をしてたんだという話だ。

 

そして少なくとも、今の小泉に悪意というものは感じ取れない。

なら、何の問題があるか。

 

「星空・・・お前はどうだ?アイドルをやりたいと思うか?」

 

「勿論だにゃ!これでも凛、体力には自信あるから!」

 

・・・ふぅ。

ならば、後は判断を委ねよう。

 

高坂も、南も、園田も。・・・あと矢澤も。

こちらを見てニッコリ笑っている。この新人を、歓迎しようとしている。

 

「・・・ようこそっ、μ'sへ!二人とも、これからよろしくねっ!」

 

「「はい(にゃ)!!」」

 

「よぉ~し、それじゃ早速アンタ達も、1000回キャラ作りの練習よっ!

気合入れていくのよ!」

 

・・・おいバカ。

何を千本ノックみたいに言ってんだ。それにそんなに繰り返したら・・・。

 

 

「――――ちょっと!さっきから五月蠅いんだけど!お蔭でピアノの音が全然聞こえないわよっ!」

 

 

・・・やっぱりな。

西木野、マジゴメン。許せ。

 

 

 

 




終わり。
明日はコミケですね。ラブライブは3日目だったっけ。

気合入れていきましょう!(・・・小並感?)


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第十一話 中高生の男女の青春は、やっぱり恋と汗でできている。

まきりんぱな後篇。てか真姫ちゃん回。

・・・勢いとノリで書いた、反省はして(ry
あ、あと独自設定も増えてます。


「はぁ・・・キャラ作りの練習、ね・・・」

 

場所を移し、新生"音ノ木坂アイドル研究部"部室。

高坂、南、園田、矢澤・・・そして俺の5名は騒音被害の件で西木野に謝罪中。その横では小泉と星空がオロオロ。

ひたすら頭を下げている様は、どこぞの汚職政治家か粉飾決算をやらかした企業の役員さながらである。

こういうときだけ偉い人の真似ができてもちっとも嬉しくねぇ・・・。だったら一生庶民でいいわ。

 

「迷惑かけたのは謝るけど・・・あれぐらいしないと、ちっとも練習になんないのよ!」

 

「下手したら職員室の先生にまで聞こえてたわよ?先生怒らせて部活動停止にでもされたらどうするつもりだったのよ」

 

「ぐ・・・」

 

正論、いただきました。

俺も少々浮かれすぎていて取り潰しの可能性を失念していた。部活動にもルールはある。

「青春ウェーイwww」なんて馬鹿なリア充がはしゃぎ過ぎているような部活やサークルは、大抵しょーもない騒ぎをやらかして潰れていく。

その轍をここで踏むわけにはいかない。

 

「・・・まあ、その、すまんかった。とにかく以後は気を付けさせる、これでいいか?」

 

「まあ・・・仕方ないわね。あとで先生にも謝っておきなさいよ」

 

特に山田先生とかな。

高坂はともかく、最近は俺まで目を付けられている気がする。最近は別段居眠りもしてなければその他の生活態度も問題ない、はずなんだが。

何というか面白がっているというか・・・やはりあの先生、どこか平塚先生に似てるな。ドSなところとか。

 

「ああそれと、実は私からも聞きたいことあるんだけど・・・貴方たち、新曲はどうするつもりなの?」

 

「あ・・・うーん、そっちはまだ・・・」

 

唐突な西木野からの質問に、高坂が戸惑う。

 

もっとも、俺としても楽曲面での今後の活動については気になっていたところだ。

ライブをやれるほど大規模な学校行事がそうぽんぽんとある訳でもない。文化祭は毎年5月にあり、当然先の話だ。

一番近い行事は12月上旬の沖縄への修学旅行・・・が、まさか向こうでゲリラライブを敢行するとかそれはいくらなんでも無理だろう。

第一、1年である小泉と星空が参加するのはかなり難しい。

 

とはいえ、行事に絡めてでないとライブをやるにも注目される可能性は低い。

なんてったってμ'sは"スクールアイドル"なのだ。音ノ木坂の顔の一部だ。

関係ないところで独自に活動しても、実りある結果になるとは思えない。

 

「・・・まあ、今度の新曲はPVにしてネットで公開すればいいと思うけど。ただあんまし時間空けすぎるわけにもいかないわよね」

 

・・・はい?

矢澤さん、何言ってんの?

 

「ちょっと待て・・・ネットで公開する意味、あるか?まだ知名度なんてそんなにないんだぞ」

 

「そう?"SIF"に登録してんでしょ、アンタ達も。だったらちょいちょい曲をアップしてけばそこそこフォロワーは付くはずよ」

 

・・・はい?

SIF?何かの情報機関ですか?日本語でどうぞ。

 

「?・・・まさか・・・アンタ、"School Idol Festa"知らない訳!?」

 

「はい、全く。ソシャゲかなんかか?」

 

・・・パッコーン!

脳天で星が炸裂したかと思ったら、顔を真っ赤にした矢澤が丸めた紙をこちらに構えている。

おい、暴力はいかんぞ暴力は。暴力系ツンデレは今時流行らんぞ。

 

「ああもう!そんなんでよくもみんなのマネージャーやってられるわね!

いい!?"School Idol Festa"ってのはね、スクールアイドル専門のSNSで、動画共有サイトも兼ねてるの!

こんくらいスクールアイドルに携わるんなら知っときなさいっ!」

 

だからマネージャーなんて誰が決めたんだよ。

こっちはちょこっと手伝ってやってるだけなんだが・・・。知らないところで誤解が広まるのは恐ろしい。

 

「ほえ・・・?そんなのあったんだ、穂乃果知らなかったー!」

 

「・・・はああ!?」

 

「え、っと・・・ことりも初めて知ったかな・・・」

 

「ほぇぇぇ?!」

 

「前に読んだ雑誌には、その手の情報は載っていませんでしたしね・・・」

 

「ぐ・・・ぐぅぅぅぅぅ!!」

 

あ・・・これにこにー噴火寸前だわ。つうかもう噴火してるまである。

 

その後俺と高坂、南と園田は、矢澤からありがたいお説教をさんざ聞かされる羽目になったのであった。

 

 

「・・・ふぅ」

 

「落ち着いた?あんまり興奮しすぎると体に毒よ」

 

「分かってるわよ・・・もう・・・」

 

あ、こりゃデレたな。やはり矢澤、お前はツンデレだったか。

 

再び場所を移し、音楽室。

今日は取り敢えず練習を中断し、西木野の優美なピアノソナタ鑑賞会となった。

そりゃあんだけ矢澤が怒りまくってりゃ、練習なんて身に入らんわな。総統閣下並に相当カッカしてたぞ。

・・・寒い?ああ失礼しましたね。

 

「今の曲って・・・ショパンの『夜想曲』、だよね・・・」

 

すると、急に小泉がおずおずと口を開く。

そういやこいつも星空も全然存在感なかったな・・・。新入部員なのにちょっと可愛そうではある。

 

「そうね、夜想曲第2番、所謂"ショパンのノクターン"ね。貴方も知ってたの?」

 

「かよちんも小学生の頃、ピアノ教室に通ってたんだにゃー!」

 

「うん・・・その曲を聴いてると、なんというか、すごく落ち着くの」

 

「まあ、そこはノクターンの語源からして、キリスト教会の晩祷だもの。

お祈りの場で使うのには、やっぱりこういう落ち着いた曲の方が向いてるわよね」

 

はあ・・・。

話が高度で付いていけん。高坂なんか船漕いでるぞ。

不信心者であることをまたもや後悔する。別にモテる必要はないんだが、集団の中で会話に入れないというのはなんだかんだツラいのだ。

しかもそれはコミュ力の問題でなく自らの知識の問題とくると、一層ツラいものがある。

 

そこで同じく会話に付いていけてないらしい矢澤が、そこでおずおずと口を開く。

こいつもなんかお喋り好きみたいなところはあるしな、会話に入れない苦しみはぼっち以上だろう。

 

「・・・ま、とにかく。あとでSIFに登録するとして、やっぱりすぐには新曲なんてできないわよね?

だったら、アンタ達3人のこないだの曲でPVを作って、当座を凌ぎましょう」

 

「PVって・・・この前のライブの映像を投稿すりゃいいんじゃないのか」

 

「それだけじゃ流石に安直すぎるわよ、それに講堂でじゃ"音ノ木坂の"アイドルだってアピールできないでしょ」

 

・・・一理ある。

となると、どこで撮るか?一番分かりやすいのは校門だろうな。

もっとも桜の木は次第に葉が落ちていて、このまま時間が経てばますますみすぼらしくなっていくだろう。

 

つまり、時間はない。

 

「そうと決まれば・・・明日にでも撮影開始ね!それと、動画の編集できる知り合いがいるから、そいつに当たってみるわ」

 

「了解・・・んじゃ、取り敢えず今日は解散でいいか?」

 

「うん!それじゃ・・・お疲れ様でした!」

 

「「「「「お疲れ様でしたー!」」」」」

 

・・・これだけ見ると、部活動ってか立派に青春してるんだよな。

はぁ、変われば変わるもんなのか。

 

 

デジャヴ。既視感。

俺のようなぼっちにとって、それはある種死亡フラグとも言える。

二度あることは三度あるって言うだろ?特に悪い方向で。

 

で、今回は―――

 

「どうしたの?何か考え込んじゃって」

 

「あ、いや・・・何でもない」

 

西木野と2人で下校。向こうから誘われた。

前にも高坂と帰り道を共にしたことがあったが・・・あの時とはまた別の意味で気まずい。

何せ、話を振ってくるのが西木野ばかりで俺はひたすら答えるだけ。なんかすごく甲斐性なしっていうか・・・。

 

つまり、その、恥ずかしい。

 

「・・・比企谷さんは、将来どうするとか考えてる?」

 

「・・・特にはな。取りあえず普通に大学行って就職さえできれば、それ以上を望むつもりはない」

 

強いて言うならば専業主夫。ヒモではないから勘違いしないように。

 

「ふふ、堅実なのね」

 

「・・・夢がないとは言わないんだな」

 

「夢があるっていうのも、案外考えものよ。・・・私も今、すごく迷ってて」

 

「何を」

 

「前にも言ったでしょ?両親が総合病院の院長をしてるの。

表立って強制はしてこないけど、それでも内心は私が後を継ぐのを期待してると思うのよね」

 

そりゃ、この辺ではかなりの規模を誇る大病院だ。

俺も以前近くを通る機会があったが、大学病院に匹敵するんじゃないかと思うほどである。

一族経営・・・というと少々アレだが、西木野の両親としても一番信頼できる人間に後を任せたいと思うのは当然だろう。

即ち、一人娘に。

 

「・・・でも私、本当はピアニストになりたい。中学の頃から、ずっと夢だった。

大学もニューヨークのジュリアード音楽院とか、パリのコンセルヴァトワールとか、その方面に行きたいと思ってて。

一度、両親にもそれとなく言ったりしてみた」

 

「・・・それで?結果はどうだったんだ」

 

「『うん、まあ・・・いいんじゃないか』・・・それだけ。たったの一言二言。

なんていうか、反対はしないけど賛成もしない、みたいな・・・すごく曖昧なのよ。

もし猛烈に反対してきたら、押し通してでもやろうって決意できたかもしれない。でもそうじゃなかったの」

 

つまるところ。

西木野は、誰かに背中を押してもらいたがっているということだ。

 

別段甘いとも言えない。

どこぞの人生相談だか哲学者だかの受け売りだが、勇気を持って決断できる人間などごく少数だ。

大抵の奴らは、迷い、もがき、苦しみ、その果てに決断する。それでもその結果がよい物だとは限らないし、後悔もする。

 

だから、西木野。

お前もせいぜい足掻いてみろ。答えは恐らく、その先にある。

 

・・・なんて気のきいたセリフは言えない訳で。

それができたらぼっち卒業ですよ、ええ。

 

「・・・なあ。俺は音楽については碌に詳しくないし、お前の進路についてもどうこう言えないが」

 

一呼吸置く。西木野が真剣な表情でこちらを見つめてくる。

さあ、ここでいっちょやってやるか。

 

 

「―――もし、答えが出せないってなら、お前もμ'sで活動してみたらどうだ」

 

 

「・・・ヴぇぇぇ!?」

 

ちょ・・・なんじゃ今の声は。

バルカン星人だって人語は喋れるはずだぞ。確か。

 

「な、なんでそうなるのよ?!」

 

「アイドルもピアニストも、音楽に関わるって事では同じだろ。それにこっちも、また時々作曲を依頼するかもしれないしな。

だから・・・歩調を合わせるというか、一緒にいた方がやりやすくはある」

 

「い、一緒にっ!?」

 

いやホントごめんなさい。

別に他意はないんだよ?他意は。うん、八幡嘘つかない。

 

「それで、お前に曲を作ってもらって、お前もあいつらと歌ったり踊ったりいていれば・・・その、なんだ。

インスピレーションが湧くと思うんだが」

 

・・・言っててなぜか悲しくなる。

とうとう俺も意識高い系の仲間入りか。everyoneとtogetherしちゃってenjoyだナ!・・・うわ、キメえ。

しかも使い方間違ってるし。

 

「・・・・」

 

・・・あー、こりゃきっと失望してるんだろうな。

あとは進路相談の教師にでも相談しろと勧めるか。

 

「別に俺も強制はしない。だから―――」

 

「ううん。私、μ'sに入ってみる」

 

・・・はい?

 

「ここまで背中押してもらって、まだうじうじ迷ってるなんてみっともないもの。

いっちょやってやろうじゃない」

 

・・・い、いきなりすぎね?

俺、喜んでいいのか困惑すべきなのか、そもそも何していいのか分からないんですけど。

 

「いや、ホントにいいのか?即決即断ってのも考えものだぞ」

 

「何よ、誘っておいて。意気地ないわね」

 

うるせえ。

そりゃぼっちだもの、意気地があったらリア充してるわ。

 

「ま、その代わりに・・・」

 

「あん?」

 

すると突然、西木野のお嬢様は俺の手を握ってくる。

・・・いやおいちょっと待って勘違いしちゃうだろがくぁwせdrftgyふじこlp・・・

 

 

「―――私と一緒に、夢を追いかけてよね♪」

 

 

ウインク。

昇天。

 

・・・神様、今日も俺の青春ラブコメはまちがっているようです。

 

 

「ふふ・・・ついに動き出したようやね。ウチも乗るしかない、このビックウェーブに・・・!」

 

 

 




真姫ちゃんやっぱりかわいいな!

・・・いや、どうしてこうなった。マジで。
特定ヒロインを優遇するつもりなんてワイにはなかったんや・・・!

もしまたはち×まきを書くとしたら、おそらく外伝になると思います。
これ以上はキケン。大変。

次回は希が意外な方向で活躍したりして。
あとにこの過去も少しずつ解き明かしていこうかと思います。


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第十二話 悪しき過去は変えられない。気に病むなら、今を生き、未来を変えろ。

ランキング入り・・・だと・・・。
サブタイがおかしくなってるのも多分そのせい。ともあれ、ありがとうございます。

今回はあまり話が進みません。あと前回と打って変わってシリアスになったり。
さっさとのんたんもエリチも入れて9人全員揃えないと・・・。


自由と責任はワンセット。

一人暮らしにも同じことが言える。

 

なにせ掃除洗濯炊事、全て自分で賄うのである。特にメシは朝と夜の2回、それを毎日だ。

幸い家に居る頃からしょっちゅうこき使われていたので一定のレベルでこなせてはいる。が、毎日となるとやはりキツい。

だが一日洗濯をサボれば翌日着ていく清潔なワイシャツがない。ただでさえマイナス感情を買いやすいぼっちは、最低でも清潔感は保たねばならない。

メシも同様。米、味噌汁、カレー、素うどん。人並みにできるのはそれくらいだ。あとのおかずはスーパーで揃えるしかなく、これを安く済ませるのには神経を使う。

血眼になってスーパーのセールで御惣菜を買い漁る母ちゃんの心情が、今ようやく理解できた気がする。

・・・でも冷蔵庫がパンパンになるほど買うのは止めてください、腐るんで。エコの精神に反するんで。

 

とまあ、色々と一人暮らしは大変だ。

加えて俺の場合・・・自由であるのかも疑わしい。定期的に家に連絡を入れるように念を押されていて、怠れば説教・小遣いカット。

引っ越し当日に連絡を入れたら「忙しいからまた後で掛けろ」と言ってきたくせに、次の日連絡しなかったら「なぜ電話してこない!」だ。

ならメールで済ませようと提案したら「何かやましいことでもあるのか」と疑られる始末。

・・・さっさと結婚して主夫になりてえ。我が家は色々と理不尽過ぎる。

あ、でもそうなると俺の嫁さんがいびられたりとか苦労しそうだな・・・まだ見ぬ嫁を気遣う俺、ポイント高くね?

 

『―――ごーみーいーちゃーん!死んでないならさっさと返事ー!』

 

・・・うう。

なんか妹まで理不尽になってるまであるし。泣きたいぜ。

誰か胸を貸してくれ、膝でも許す。

 

「死んだとか軽々しく言うな、バチ当たるぞ」

 

『お兄ちゃんが?いやいや、その強靭な精神力で簡単に死ぬと申しますかな?あり得ませんぞwww』

 

「・・・ネラー口調止めろ、ポイント低いから」

 

まさか材木座にでも吹き込まれたんじゃないだろうな?なら本当に死んでもらって転生して異世界に行ってもらおうか。

それならあいつも本望だろう・・・いや、嘘だから。あいつがそう簡単に小町と連絡取れる訳ないし。

 

さておき、両親が忙しいと電話は小町が応対することになる。というかここ最近ずっとそうだ。

連絡しろと言う癖に実際にしてやるとつっけんどんな両親より、まだ小町の方が話していて気分が楽だ。

流石千葉の兄妹、絆は伊達じゃない。

 

『それにしてもー、お兄ちゃんがいつの間にか女の子を引っかけてー、イチャコラしていただなんてー・・・。

これはもう、小町ポイントMAXだねぃ!』

 

「いやむしろ引っかけられた側だから。反対だから。あとイチャコラはしてないから」

 

『はいはい、言い訳はポイント低いよー。男なら潔く認めて交際してハーレム作っちゃおうねー』

 

「アホこけ」

 

それなんてイッセーさんですか、ワンサマーさんですか。それともシドーくんですか。

大事なことなので3つ言いました。

そこまで嫌われていないらしいのは認める・・・というか実際そうなのだが、清い交際に発展するとか、それは多分ない。

言うまでもなく、俺はただの協力者だ。高坂も、南も、園田も、西木野も・・・その協力に対して感謝してくれて、だからそれなりに打ち解けた態度を取って"くれる"。

それだけだ。

 

別に悪くはない。俺とて人に頼られ、感謝されるのは嬉しい。

だが勘違い男になってまた恥を晒すのはうんざりだ。

相手は不快になり、俺はまた黒歴史を刻む。どっちも不幸になる。それはもう終わりにしたい。

 

今のままの関係を保つ。それが最善。

 

『ま、ともあれこれでお兄ちゃんの将来のお嫁さん候補が増えるし!

雪乃さんとか由比ヶ浜さんと別れちゃったのは残念だけど、期待してるからねー』

 

・・・・。

 

 

―――人の気持ち、もっと考えてよ・・・!

 

 

はぁ・・・。

いかん、何を考えてるんだ俺は。過ぎたことをくよくよ考えるなと言うじゃないか。

 

「・・・バカだな、俺は」

 

『んー?言われなくても小町、お兄ちゃんがおバカさんなのはよーく知ってるよ?

愚兄を見捨てない妹、うん、ポイント高いっ!』

 

「あーはいはい、ありがとうよ愛してるぜ小町。母ちゃんにもよろしく言っといてくれ」

 

『ほいさっさー』

 

・・・なんかますます小町が適当キャラになってきた気がする。将来が心配だ。

 

「さて、さっさと作り置きのカレーを食べるか」

 

流石に明日には食えなくなるからな。あれをお残しすると2000円ほどドブに捨てることになるし。

こんな時まで現実的かつ計画的な俺、マジポイント高い。

 

 

「よっしゃよっしゃ、海未ちゃんええでー!そのままスマイル、スマイルや」

 

「は、はいぃ・・・」

 

「アカンアカン、引きつっとる!やり直し!」

 

さて、翌日。

放課後になってμ'sのPVを制作することになった。勿論今日は本格的な撮影には入っていないが。

 

「で・・・なんで副会長がここにいるんすか」

 

「ん?比企谷くん、何か言うたかな♪」

 

「・・・いえ別に」

 

もっとも、聞かなくても理由はとうに分かっている。

矢澤が動画の編集に詳しい人材として連れてきたのだ。・・・今までのやり取りを見ていると、むしろ監督に向いていそうだが。

 

先日の生徒会での出来事云々は別として、やはりこの女性は苦手だ。

こちらの被害妄想かもしれないが、見つめられるとどうにも居心地が悪い。

何か、こちらの心を見透かされているみたいな。陽乃さんと対面したときと同じ気分を味わう。

 

デジャヴ。

 

それは大抵、ぼっちにとっての危険信号。

だから、できるだけ関わりたくない。仮に向こうに、悪意がないのだとしても。

 

「・・・ちょっと?ぼーっとしてないで、ちゃんとチェックしなさいよ」

 

ふと、矢澤のお叱りで我に返る。

仕方ないだろ、ぼっちは誰とも話せないから自然に一人で考え込む癖がつくんだよ。自己完結自己解決、なんと素晴らしきリサイクル。

 

「ああ悪い・・・どんな感じだ?」

 

「そうね、まー大体型はできたし・・・あとはとにかく踊ってもらって、それを撮影する。それだけね」

 

なら俺要らないじゃん。

 

「・・・随分あっさりだがそれでいいのか?南のドレスも使わないで制服って、勿体ない気もするんだが」

 

「アンタね・・・校門をバックにあの白ドレスって、全然似合わないでしょ。

ちゃんとした舞台用意するなら別だけど、それだと余計な費用もかかっちゃうし、今回はデビューってこともあるし・・・。

安く抑えて、同時にしっかり音ノ木坂ブランドってことをアピールする。これが得策よ」

 

・・・案外、しっかり考えてるんだな。

まるで自分も昔やっていたかのように・・・いや、違うか。

こいつもある種ドルオタだし、調べてるうちにお仕事のことにも詳しくなったとかその類だろう。

 

「分かった、ただお前と小泉と星空に西木野はどうすんだ?今回は何も出番がないが」

 

「出番?にこは希と撮影指揮、あの3人はアシスタント。

何も問題ないでしょ」

 

見ると、小泉と西木野は機材の調整を東條副会長から教わっている。一方、星空はニコニコと高坂達に飲み物を配っていた。

・・・なんか出番取られたみたいだな。ますます俺要らない子だわ。

 

「ビシッとしてよね?せっかく真姫ちゃんも加入してくれたってのに、そんなんじゃ士気下がるわよ」

 

「・・・あいよ」

 

いつの間にちゃん付けかよ・・・。

やはり女の人間関係はすごい。てか怖い。

 

「よしっ!ほな、も一度1番の歌詞の動き、練習してみよか。

比企谷くん、花陽ちゃんに真姫ちゃん、カメラスタンバっといてやー!」

 

「は、はーい!」「オーケー、あと10秒待ってて!」

 

って、俺もか・・・。

頼むから知らないところで勝手に役目を押し付けないでほしい。ぼっちは以心伝心とかできないんで。

 

 

「比企谷くん、肉じゃができたでー」

 

「あ、はい、すんません・・・」

 

「?・・・なんで謝っとるんや、キミは」

 

「・・・いえ、すんません」

 

「ハイハイもうやめーや、ご飯がマズくなるで?」

 

皆さん、今何が起こっているかお分かりでしょうか。

・・・そうです、俺は今、東條副会長の家にお邪魔しています。

しかもご飯をゴチになっています。食費はちゃんと払ったけど。

 

撮影練習が終わり皆解散した後、スーパーに寄って夕飯のおかずを漁っていたらバッタリ遭遇。

「お、何ならウチでご飯食べん?」と言われて、無理矢理連行。

わーおまわりさーん、びじんでぐらまーなおねーさんにつれさられるー。・・・ダメだな、どう考えても逆に俺が疑われるまである。

 

二度あることは三度ある・・・その格言がとうとう現実になってしまった。

最初は高坂、練習の帰り道を共に。そしてこれまでの礼を言われる。次は西木野、帰りついでに進路相談。そして一緒に夢を追いかけてと告白(?)され。

さらに東條副会長と来た。これはもう、ただ飯を食うだけで終わりそうもないというのは容易に想像がつく。

あと何故か、人生における幸運を無駄に使い潰してる気がするんだが・・・。これから先どん底に落ちるとか止めてくれ、頼むから。

 

「前も言うたけど、そんな気ぃ遣わんでええよ。それにウチ、実質独り暮らしみたいなもんやから」

 

「・・・ご両親は何されてるんです?」

 

「おとんが転勤族でなー、今は北海道におるよ。で、おかんはその付き添い。

ウチも中学まではずーっと転校、転校の繰り返しでな・・・。ま、流石に高校は自分で決めたもんやからって、最後まで通わせたるって言うてくれて。

その代わり、最低限カネは出したるから自分で生活せえって言われたんやけどな」

 

「・・・なるほど」

 

我が家も似たようなもんだ。両親は共働きでいつも帰りが遅い。家事は物心ついた時から、小町と俺とでやってきた。

いい意味で捉えるなら人生経験させてもらったってことになるんだろうが。裏を返せば・・・家庭の食卓とか、そういうのは幼い頃の昔話だ。

ま、流石に休日は別だが。

 

「ま、そのことはええ。ささ、同じ独り身同士、ご飯食べよか」

 

「独身のアラフォー男女みたいに言わないでください」

 

主に平塚先生が泣くから。

あの人・・・せめていい相手が見つかってくれるよう祈るぜ。

 

「ふふ、そうつれなくせんで仲良うしよ?何なら今晩泊まっていってもええんよ・・・?」

 

「生徒同士でやったら大問題でしょうが」

 

「せやな☆」

 

くっ・・・俺を試そうなんてそうはいかないぞ。

 

ああ、煩悩まみれのバカ野郎だったら素直に喜んでいるシチュだろうに。

中途半端に賢い自分が恨めしい。

 

「ふぅ・・・それにしてもキミも穂乃果ちゃん達も、ずいぶん楽しそうやったなー」

 

「・・・なんですか急に」

 

「さっきの撮影。あんだけビシバシウチがミス指摘しても、みーんな笑顔でやってるんやもん。

キミだってなんだかんだ嫌そうには見えんしな。これなら協力し甲斐があるっちゅうもんや」

 

まあ、な。

あいつらは元より自発的にやっているのだし、特に高坂はポジティブシンキングを地で行く奴だ。

それが行き過ぎて地雷を踏みそうな気もしないではないが。

 

俺にしても、ここまでズブズブと付き合って、真剣なあいつらを見て、色々役割も当てられて。

足抜けなんてできそうにもない。

こりゃもう、将来も社畜としてガーガー馬車馬の如く働くんだろうな。やっぱりお先真っ暗じゃねーか・・・。

 

「「・・・・」」

 

ふと気が付くと、会話が止まっている。

ではと食事を再開しようとした時、副会長の手が止まっていることに気付く。

表情からも笑みが消えている。

 

・・・ああ、やっぱりか。

何か深刻な事情でもあって、それを俺に話そうってのか。

 

「・・・去年とは大違い。だからこそ、今度は上手くいって欲しいねん」

 

・・・去年?

ああ、最初に生徒会に顔出したとき、スクールアイドル復活ッ!とか言ってたな。

その時何があったのかは、まあ関係ない。少なくとも俺が知る必要は全くない。

 

「・・・何も興味なさそうな顔しとるね。普通は何があったとか聞くもんやない?」

 

「過去の事を聞かされても、俺はどうにもできないですよ」

 

「まあそれはそうやけど、ちょっとだけでも聞いて?

・・・にこっちのことなんやけどな」

 

そこで副会長は話し出す。

ぽつりぽつりと、落ちる水滴の様に。

 

だがその水滴は、やがて連なって、大きな流れと化す。

 

それを俺は、遮ることができない。

 

 

【side:にこ】

 

「ふぅ・・・明日も天気は晴れ、撮影には問題なさそうね・・・」

 

インターネットで天気予報をチェックし、にこはほっとため息をつく。

 

明日は特別に、昼休み前の授業1時間分を撮影に使う許可を教師から出してもらった。

時間帯としては丁度いい。放課後に日が沈みかけてから撮るのでは、デビューソングのイメージが台無しだからだ。

ハレの舞台、という言葉に掛けている訳ではないけれど、やはり太陽の出ている時が一番いい。

 

というか、自分は晴れているときが一番好き。

自分の気分の問題だけど・・・やっぱりこの条件は譲れない。

 

 

「・・・あの時は、曇りだったしね」

 

 

―――嘗てラブライブの1回戦に出たとき。

あの日はどんよりとした曇り空で。

皆、急に不安になりだして。リーダーの自分はただ叱咤することしかできなくて。それが却って混乱を生んで。

 

そして、落ちた。

対戦相手のスクールアイドルに大差を付けられて。皆の士気も、それまでの努力も、何もかもが無残に崩壊していった。

"Sakura Five!"は、わずか2、3か月の活動で終わった。

 

たった一度の失敗であっさりと投げ出したメンバー達にも腹が立つが、何より許せなかったのが、他ならぬ自分自身。

ただひたすらに厳しく指導し、皆を引っ張っていくのが正しいのだと思い込んでいた。

 

その間違いに気づかされたのが、μ's―――3人の女子と1人の男子―――と会ったとき。

以前からこっそりと練習風景を見ていたが、3人ともいかなる時も、泣き言一つ吐いたりしない。

素人にしては厳しい練習メニューをこなしているのに、笑い合いながら取り組んでいる。

 

そしてあの男子。

ぱっと見では、目つきも感じも悪そうな、よくいる嫌な奴にしか見えなかった。

実際、たまたまアイドルグッズショップで会った時の、あのつっけんどんな応対。

そんな人間に協力させて、うまくいくはずがない。

 

・・・そう、思っていたのに。

 

笑顔こそ見せていなかったけれど、3人と話し、共に練習に付き合うあいつの姿は、どこか楽しそうに見えた。

いつものつまらなそうな表情ではなかった。

そして、真剣だった。

 

何故なのか分からないけど、自分もそれに感化されて、あの4人を助けたいと考えたのだと思う。

自分のような惨めな失敗を味わわせたくない。アイドルに失望して、辞めてほしくない。

 

「―――お姉さま?ご飯の準備ができましたよ」

 

「あ・・・ごめんねこころ、すぐ行くわ!」

 

神さまが、この世にもしいるんなら。

 

自分のためじゃなくて、あいつらのために、その手を差し伸べてやって。

あいつらが、輝けるように。

 

日記の結びにそう記して、にこは部屋を後にした。

 

 

 




次回、のんたん加入編。
・・・あったっけ、そんなん。アニメで?

あと近日、俺ガイル短編集を別に始めようかと思ってます。
いくつかの話は本作の設定を流用してたり。
も少しかかりそうですが、乞うご期待。

・・・明日でコミケ最終日だぁぁぁ!(泣)


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第十三話 泣いても笑っても、乙女とは怖い生き物である。

コミケ終わりましたね。
皆さん、ラブライブ関連のお宝はどれほど手に入ったでしょうか。

・・・そろそろエリチ加入、合宿編に進みたいなあ。


ご飯の席では、基本暗い話はタブーである。

いや、そもそも話しながら食うこと自体間違ってるんだけどね?ファミレスでドリンクだけ頼んで、喧しく喋りながら長時間グダグダ居座る奴らの多いことよ。

で、店員からやんわり注意されると逆ギレして僕たちあたしたち客なんですけどぉ?だ。救えない。

ならお前らもドリンク代分働け。同じ気分を味わってみろ。

そこまでしてそれでもお客様は神様ですと、胸張って言えるなら許してやってもいい。二度と来店はお断りさせていただくが。

 

・・・おっと、話が逸れた。

今さっきまで東條副会長から、矢澤の過去話について聞かされていたのだ。それもとびっきり最悪の鬱話を。

 

過去にスクールアイドルをやっていて、見事挫折して、失意のどん底にあったかつての矢澤のことを。

 

「・・・で?俺にそんなこと言ってどうしたいんです?何かあったらあいつを支えてやれと?

今のあいつは上手くやってると思うし、俺如きが助ける必要なんてないと思うんですが」

 

「今は、やね」

 

いくらなんでも心配が過ぎる。

また失敗したら、またぽっきり折れてしまうと?そんなやわには見えない。

 

確かに材木座ばりにウザいと感じるときもある。だが裏を返せばそれほど熱心に俺たちに協力してくれているという事だ。

その原動力が自身の後ろ暗い過去にあるとか、そんなことは知る必要などない。むしろ邪魔な情報だ。

 

「それに、俺が助けるより女子同士で助け合えばいいでしょう。その方がずっと効果的だ」

 

「・・・そうかもしれんな。でも、ウチには、そんな資格ないんや」

 

「なぜ」

 

「にこっちがスクールアイドルを始めたとき、当時の会長にそれを後押しするよう頼んだんがウチとエリチ。

正式に認められた時は一緒に喜んで、応援するねなんて言って。

・・・でも、いざにこっちが挫折して、苦しんでるとき、ウチらは何もせんで、ただ見てただけ。・・・だから」

 

・・・はぁ。

 

 

「だから、何なんです?」

 

 

もういい加減にしていただきたい。

おたくは俺と飯を食いたいのか、それとも与太話を聞かせたいのか、一体どっちなんだ。

 

「だから慰めてほしいんですか?同情してほしいんですか?許してもらいたいんですか?

なら俺じゃなく矢澤に言うべきことでしょ。何度も繰り返しますが、俺にはどうにもできませんよ。

・・・それに」

 

一呼吸おいて、続ける。

 

「もし今言ったことを言い訳にしてやっぱり足抜けしようなんて、俺も矢澤も、他の連中も許しませんから。

最後まで、付き合って下さい」

 

かつてファーストライブの時、矢澤に言われた台詞そのままに言い放つ。

 

人間だから迷うのは仕方ない。だがそれを人に見せつけ、同情を引こうとする心根は気に食わない。

俺の嫌いな人種のひとつ、それはリアルで悲劇のヒロイン振る奴である。男にせよ女にせよ。

理由は単純、気色悪いからだ。人に媚びて甘ったれるその姿が。

さらにズバリ言うなら、それはメンヘラと言います。すぐ病院に行って頭の検査を受けましょう。・・・まあ、皮肉はさておき。

 

「・・・ふぅ。随分はっきり言うね、キミ」

 

「はっきり言って欲しかったんじゃないですか?だからそうしたまでです」

 

俺に進路相談を持ち掛けてきたときの西木野と同じ。

この東條希という人物も、誰かに背中を押してもらいたかったのだ。そのやり方は真逆で、乱暴なものになったが。

さぞや俺のような人間にこうまで好き勝手言われてムカついているだろう。ビンタ喰らって「出てって!」なんて―――

 

「うむっ!やっぱりキミは、ウチが見込んだ通りの男やな!」

 

・・・はい?

 

「・・・いや、大丈夫ですか?普通ブチ切れるんじゃないんですか?」

 

「何言うとるん、キミに比べたらウチの方が何倍もムカつくで。

本当に助けてあげるべきときにそうしないで、後になって同級生の男子相手にウダウダ愚痴言って・・・あー、みっともない!

いや、ホンマすっきりしたわ。目も覚めた」

 

・・・・。

 

さっきまでしんみりしてたのに、急にヘラヘラと・・・。

おい、もしかして。

 

「あんた、俺を試そうとしてました?」

 

「ん?何言うとるん?ウチ、よう分からん☆」

 

・・・図星。

 

やはり東條希は、小悪魔・・・いや、魔王だった。

 

 

3日後 音ノ木坂アイドル研究部部室

 

「ことりちゃん海未ちゃん見て見て!穂乃果たちが踊ってるよ~!」

 

「私たちが踊っているところを撮影したんですから当たり前でしょう・・・」

 

金曜日の放課後。誰もが待ってるゴールデンタイム。

つまり、いよっっしゃぁぁぁぁぁ週末だぜぇぇぇ!・・・ってことだ。

あー、今日まで長かった。1週間が1年に感じるまである。

 

さておき、昼休みのほぼ全てを使い潰し、下校時刻ギリギリまで活動して作り上げたμ's最初のPV。

それを今SIFにアップしたところだ。なんつーか、この一仕事成し遂げた達成感がパナい。

いや、パナいというかヤバい、か。また一つ社畜フラグが立っちまったわ。

 

「画質や音の乱れは・・・特になさそうやね」

 

「そうね、デビュー曲のにしては中々高品質よ。・・・あとは、さっさと反応が来ることを待つのみね」

 

「さっさとって・・・せいぜい今日の夜あたりに来ればいい方じゃないのか」

 

「そうでもないわ、SIFのホーム画面見たでしょ?

新しくデビューしたグループの楽曲を優先的に表示してくれるコーナーがあんのよ。・・・ほら、ここ」

 

矢澤がPC画面をスクロールすると、画面の下に先ほどアップしたばかりのPVがもう表示されている。

その真上にはA-RIZEなど人気グループの楽曲が並ぶ。その再生数たるや、どれもこれも数百万。

・・・恐れ多いと言うか何と言うか・・・いいいいやビビってるわけじゃねーし?

 

「え・・・もう再生数21回!?す、凄いにゃ~・・・」

 

「え、まだ上げてから5分も経ってないのに!」

 

「驚いた?これがSIFのカラクリ、そして新人たちへの配慮を忘れないSIFの懐の深さなのよ!」

 

いや矢澤、お前がドヤるところじゃないから。

オタクには他人の知らない知識をひけらかしたがる奴がよくいるが、こいつもその一人らしい。

要は寒いしみっともないからやめなされということだ。後で思い返して悶えることになるぞ。

 

「お、早速コメント来てるわよ。『校門前、制服、敢えてシンプルさを狙った演出が逆に好印象。初々しさを感じられる』ですって」

 

「『ミルキーゴールドの髪の子がぽわぽわしてそうでカワイイ!』・・・これ、ことりちゃんのことやんな」

 

「えっ!?・・・こ、ことり恥ずかしいよぉ・・・♪」

 

うわー照れてるところもあざとい。ことりさんマジパネェッス。

 

しかしこうも早く反応が来るとは思わなかった。以前調べてみたが、SIFは日本では今やSNS・動画サイトとしても3番目の規模を確立しているらしい。

加えてサイトにアクセスしたらいきなりホーム画面で見れるのなら、ミーハーさんでもポチっと見ていくだろう。

普通ならやらせを疑うところだが、当事者全員がここに居る以上それは考えにくいしな。

 

出だしは、まずまず順調。

 

その時、自身のスマホでサイトを見ていた西木野が唐突に顔をしかめる。

 

「・・・ちょっと待って。褒めてるコメントばっかりじゃないわ、『今時制服は地味すぎる。出だしからこれでは厳しいのでは』って・・・」

 

「え?!・・・う、うーん・・・」

 

ま、やっぱり厳しいコメだって付くわな。

その指摘に、高坂が一転してしょげ出す。ホント喜怒哀楽の差が激しいなコイツは・・・。

 

「流石に気にしすぎだろ、まだたった一件だけだぞ」

 

「そうよ!第一次の曲を上げるときにはもっと派手にドカーンってやればいーんだから」

 

・・・あんまり派手すぎんのも考え物だが。

慰めるにしてももうちょい言葉を考えようや。すぐ高坂が調子に乗るぞ。

 

 

「比企谷くん、まったねー!」

 

「ん、それじゃな」

 

「みんな帰りは気を付けてよ?特にアンタ、不審者と勘違いされないようにしなさいよね」

 

「・・・うっせ」

 

夕方、下校時刻を過ぎたので解散。

今日は誰とも一緒に帰ることはなく・・・べ、別に寂しくなんてなんだからっ!・・・久々に一人で帰宅することになった。

 

あれから順調に再生回数を伸ばし、1時間で100回を超えた。矢澤曰く明日には1000回近くは堅いとのこと。

それは流石に出来すぎだが、ともあれ評判はそれなりに上々なのは間違いないだろう。

ネット界でのデビューは上手くいきそうだ。あとは、次の新曲のことである。

継続は力なりとはよく言ったものだが、ネット上で知名度を上げるには更新が鈍ってはいけない。

実際問題スクールアイドルは星の数ほどあり、学校によっては2グループ以上あるところもあるという。

すぐに曲を発表できなければ、瞬く間に過去の人となり、忘れ去られていく。スタートダッシュは成功したのだから、それをどうにか次に繋げなくては。

 

まあ、俺が曲を作る訳でも歌う訳でもない。ましてやリーダーでもない。

あくまで補佐である。そこをはき違えて偉そうに指図などできない。

あいつらが動き出してからが俺の仕事なのだ。それまではじっと見守るしかない。

・・・ストーカーっぽいとか言うなよ?

 

さて、今日の飯は残り物で軽く済ませるとして、今日は久しぶりにアキバの本屋でも寄っていくか。

このところ忙しかったし、休息も必要だ。

 

 

「・・・お姉ちゃん!今日の御夕飯は何なの?」

 

「そうね、今日はピロシキを作ってくれるそうよ。さ、早く帰りましょ」

 

「やったー、ピロシキだー!」

 

 

・・・げ。

絢瀬会長に・・・妹か?いかん、ここを離れよう。

ほ、ほら俺って不審者だって誤解されやすいし・・・。自分で認めてる時点でアレなんだが。

 

「?・・・比企谷くん・・・どうしたの、急にこそこそ逃げ出して」

 

「い、いえべちゅになんでも・・・」

 

やべえ、見つかった。おまけに噛んだ、神田だけに。

名役者八幡の一人漫才でござい!・・・いやおもろくねーわこれ。

実際笑えない。不審者の嫌疑をかけられそうだという時点で笑えない。

嗚呼・・・短い生涯だったな。小町よ骨は拾っておいてくれ、お兄ちゃん一生のお願いだから。

 

「・・・やっぱり私・・・怖い?」

 

「へ?」

 

「・・・ほ、ほら私・・・いっつも怖い表情してるって言われる、から・・・」

 

あ、涙目になってる。顔赤くなってる。

やだこの人可愛い。ちょっとポンコツだけど。

 

「お、おねえちゃん・・・」

 

・・・ヤバい。

妹まで泣きそうじゃねーか、こんなの通りがかりの人に見られたら俺がぶっ飛ばされるまである。

さっさと場所を変えなくては。

 

 

「・・・落ち着きました?」

 

「・・・ええ、ごめんなさいね。廊下を通るたびによく避けられるんだけど、未だにショックなのよね・・・」

 

神田大明神、夕日を眺めながら2人でマッカン。

別にデートではない。単に俺に逃げられそうになって傷心の絢瀬会長を慰めているだけである。勿論お代は俺もち。

うん、八幡嘘つかない。

 

しかしまあ・・・俺の小学生時代を思い出すな。

廊下通るたびに避けられるなんて、「比企谷菌だー逃げろー」なんて囃し立てられた記憶がよみがえる。

その馬鹿の内一人ははしゃぎ過ぎた挙句、走って教室から飛び出して雨でぬかるんだ花壇にダイブ、全身泥まみれになったんだが。ざまあ。

 

「あの・・・お兄さん、私からも飲み物買ってきました・・・」

 

「いや別に、そんな気を遣わなくても・・・は?」

 

おい、なんで『缶入り味噌汁』なんだ。

いやありがたいけど。夕食のおかずにできるからいいけど。でも外で飲みたいか、味噌汁って?

 

「・・・亜里沙、これは飲み物じゃないわ」

 

「え!?・・・イ、Извините...(ごめんなさい・・・)」

 

いや、なぜにロシア語?

あと怯えながら言うの止めてください、誰かに見られたら即警察沙汰です。

 

「別にいいすよ、夕食の足しにしますから」

 

「よ、良かった・・・」

 

ホッとしてる・・・うわぁ。

小動物みたいで犯罪臭がすごい。俺やっぱあの場で帰るべきだったわ、振り切ってでも。

 

「・・・私の親類がロシア人なんだけど、それで亜里沙は小学生の時まで向こうで暮らしていたの。

それでまだ色々と日本の文化に慣れていない面もあって・・・。だから、驚かれたらごめんなさい」

 

やはりクォーターだったか。

正直留学以外で子供を外国で過ごさせる意味はよく理解できないが、まあそれは他所様の教育方針。口出しはできない。

 

「はぁ・・・取り敢えず2人とも落ち着かれたみたいですし、俺は失礼しますよ」

 

「あ、ちょっと待って。貴方たちの活動について色々聞きたいことがあるの」

 

チッ、そうなるか。

俺はどうも女難の相を持っているらしい。女に関わると必ずこちらの時間を消費させられるという点では絶対そうだ。

てかおたくら、飯の時間はよかったのか?どこぞの童謡じゃないが、でんぐりかえってバイバイしたいところである。

 

「副会長に聞いてみたらどうです?今、あの人俺らに協力してるんで」

 

「それは知ってるわ・・・昨日も、ウチもμ'sに入ったから、私にも入ってって持ち掛けてきたのよ。

でも・・・」

 

「はい・・・はい?」

 

 

―――え。

 

おれは めのまえがまっくらになった。

 

 

「ちょ、ちょっと!?比企谷くん?!」

 

 

 

 




「センターは誰だ?」のおはなしをすっ飛ばしたことに今さら気づいた。
あと「ワンダーゾーン」の扱いどうしようかな・・・。

クロス作品を書くと、どうしても双方の原作の設定(時期とか)にズレが出るんですよね。
そこが頭の痛いところです。


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第十四話 心が弱っているとき。そのときこそ自分を変えるチャンスである。

エリーチカ回。
ちょっと視点変更が多いです。あと八幡の出番が(ry


【side:希】

 

「ふふん・・・流石比企谷くん、憔悴した女の子にさり気なく飲み物とはやるなぁ・・・。

案外女たらしの才があると見たで」

 

夕刻、いつも通り希は神田大明神にて巫女のバイトをしていた。

 

ただ、手に持っている大きな双眼鏡と華麗な巫女服とは、どう考えても釣り合っていない。しかも今彼女がしゃがみこんでいるのは、神殿の物陰。

辛うじて彼女の可憐な容姿が、ぎりぎりのところで不審者扱いを避けていた。

 

「ま、陰ながら恋愛の成就を見守るんも、神に仕える人間の端くれの務め・・・。

エリチ、勇気だしや」

 

・・・どこか勘違いしつつも、希は影からじっと見張り―――。

いや、見守り続ける。

 

 

【side:八幡】

 

「ね、ねぇ・・・大丈夫なの?」

 

「・・・大丈夫っす、ちょっと意識飛んでただけなんで」

 

「全然大丈夫じゃないわよねそれ?!」

 

いやーだって、いつの間に東條副会長がμ's入ってたなんて知らなかったんでー。

・・・俺だって悪夢だと思いたい。高坂達ですらそんな許可出してなかったぞ。

ちょっと撮影協力で出入りした程度で入部オーケーなんて、緩いなんてそんなちゃちなもんじゃ断じてねえ。

あー、でもきっと既成事実できちゃってあの人もメンバーとして受け入れられちゃうんだろうなー。現実は非常である。

 

「まあ副会長が勝手にメンバー入りしたのはいいとして・・・俺らの活動について聞きたいんですよね?」

 

「え!?勝手にって、全然よくないじゃない!」

 

その激しいツッコミ止めろや。話が進まん。

俺だって納得してねーよ、でもどうせ俺には覆しようがないんだから諦めてんだよ分かれよ。                

 

「・・・ファーストライブの件はご存知でしょうから置いておきます。その時に披露した曲のPVを制作して、SIFにアップロードしたとこです。

あとは矢澤、それに1年の星空凛、小泉花陽、西木野真姫が新メンバーに入りました」

 

「School Idol Festa・・・スクールアイドル専門のSNSね」

 

「ええ。それについてもまあ評判は上々です。以上、そんなところですかね」

 

質問・・・もうある訳がないよな。

これ以上ないくらい、簡潔かつ丁寧に説明した。あとはその、俺たちの戦いはこれからだ!だし。

これからどうするか?あ、その質問は前にもされました、以上終わり。

 

「そう・・・」

 

「もう聞くことがないんでしたら、これで失礼しますが」

 

「・・・もう一つだけ。貴方、μ'sがこれからも上手くやっていけると思う?」

 

また、随分と意地の悪い質問だ。

そこまでアイドルが嫌か。行く末が不安か。かつての矢澤のように、俺たちが失敗するのを見るのが怖いか。

 

なら。

 

「―――そんなに俺らが失敗して惨めな姿を晒すのを見たくないなら、目を瞑って耳を塞いでればいいじゃないですか。

いずれにせよこの前許可は下りたんだし、こっちは自由にやらせてもらいますよ」

 

「!違う、私は・・・」

 

「ま、俺にとってはどうでもいいんですがね。・・・それじゃ、失礼します」

 

この人は、本当に何度茶番劇を繰り返せば気が済むのか。

大人しく会長の椅子にふんぞり返っていてくれればいいのに、中途半端な善意で行動しようとするから皆が不幸になるのだ。

いい加減、引っ込んでいてくれ。

 

「・・・ま、待ってください!」

 

「はい?」

 

すると今度は、会長の妹が呼び止める。

ははあ、姉貴に冷たい態度を取ったのが許せないってか?大した姉妹愛よ。

 

「あの・・・実は私も、さっきμ'sのPV、見ました。

・・・そ、その、凄く感動しました!私も、応援してますから!」

 

・・・・。

 

「・・・亜里沙」

 

「・・・どうも。俺からもあいつらに伝えておくんで」

 

「は、はい!これからも頑張ってください!」

 

励まされたというのに、何故か微妙な空気になったのは何故だろう。

ともあれ、こうなった時の対処法は一つ。とっとと退散することである。

 

一応会長に軽く会釈して、神田大明神を去ることにした。

 

 

【side:絵里】

 

「・・・・」

 

「・・・お、お姉ちゃん・・・ごめんね」

 

「別に、気にしてないわ・・・早く帰りましょう」

 

嫌なら見るな。聞くな。

比企谷八幡のその台詞は、絵里の心を見事に打ち抜いていた。

 

そう、絵里は怖かった。

かつてにこの率いるスクールアイドルが、ラブライブ初戦で敗退してまもなく、あっけなく崩壊した時。

生徒会として応援するねなどと言っておきながら、いざにこが困っているときに何一つ手を貸せず。

ようやく声を掛けられたときには、もう手遅れだった。

 

―――もう、遅いわ。それに、別に気にしてないし。にこが未熟だったから、甘かったからいけないのよ・・・!

 

あの光景は、今でも目に焼き付いている。

 

にこに変わって、その場面に高坂穂乃果やμ'sの他のメンバーが映っていたとしたら。

耐えられない。恐怖心に。自分の不甲斐なさに。

目を瞑ったって、耳を塞いだって、耐えられるものだろうか。

否、きっと心が押しつぶされてしまうだろう。

 

「・・・私は、どうすればいいの・・・?」

 

 

「―――どうやら袋小路に入ってしもたようやね。何ならおみくじで占ったろか、エリチ?」

 

 

「・・・希!?」

 

「ふふっ、一部始終は見とったよ。

それにしても比企谷くん、せっかくええ所やったんにあすこで逃げてしまうとはな~・・・ちょっとガッカリやわ」

 

巫女服を着込んだ友人が、いつも通りの意味ありげな笑顔でそこに立っている。

 

「昨日の話、だけど。私はやっぱりできないわ・・・μ'sに入る資格はない」

 

「まだにこっちのこと、エリチは気にしとるん?」

 

その問いに、絵里は答えられない。

沈黙は肯定。それを察した希は、静かに語り掛ける。諭すように。

 

「・・・ウチが見る限り、もうにこっちは昔のことは気にしとらん。ウチらだけだったんよ、昔のことにこだわってたんは」

 

「それが何になるの?私は今まで、彼女たちのスクールアイドルの活動を否定してきたのよ?!

今さら許して、私も入れて、そんなこと言える訳が―――!!」

 

「―――言わなあかん」

 

「!」

 

希の表情から、笑みは消えている。

その時は決まって、表情の裏に鋼の意志を宿している。そうなったら、いくら自分でもどうすることもできない。

 

「言わなあかん。言わなあかんよ、エリチ。エリチもあの子らも、音ノ木坂救いたいっちゅう思いはおんなじや。

それなら妥協できるはずやで。ここで下らん意地張ってたら、両者共倒れや」

 

「・・・・」

 

そう、友人の言うことは正しい。

 

でも、自分にそんな勇気は出せなかった。

いつも意地を張って、自分を立派に、強く見せようとして生きてきたから。

 

肩が強張る。

その肩を、ぽんと希が叩く。

 

「ウチ、前も言うたよね?

エリチの大好きなバレエも、アイドルの歌と踊りも、どっちもみんなを明るく笑顔にさせてくれる。おんなじもんなんやよ。

 

 

だから、エリチ、お願いや。

ウチと一緒に、μ's、入ろ?」

 

「の、ぞみ・・・あ、ぁぁぁぁ・・・」

 

いつの間にか、涙が溢れている。

妹が傍にいるのに。姉としてみっともないと思いながらも、それを抑えることができない。

 

「明日、ウチも一緒に謝ったげるから、な?

も一度、最初からやり直すんや」

 

「・・・う・・・うん・・・」

 

希に抱きしめられながら、絵里はひたすらむせび泣く。

その傍ら、亜里沙は黙って見守っている。

 

秋の夕暮れが、静かな神社を優しく照らしていた。

 

 

【side:???】

 

「ふぅ~・・・今日もめぼしい新人ちゃんはいないかぁ・・・」

 

夜。

 

秋葉原の中心部にあるマンモス校、その学生寮のプレイルーム。

その一角で、彼女はひたすらにパソコンをじっと眺めている。

 

「・・・まだSIFを見ているのか?いい加減練習するか、休むか決めた方がいい」

 

「そ~だよ~、それに下ばっかり見てたらいつか転んじゃうよ~」

 

「ちょっと・・・流石に貴方に言われたくないわよ。

それにね、新人の娘の歌からインスピレーションが湧いてくることだってあるの・・・おっ?」

 

急にまた食い入るようにパソコンの画面を眺めはじめた彼女を、仲間2人は怪訝な表情で見つめる。

・・・また始まったか。ロングヘアでありながらどこか男性的な少女は、そう思ってため息をついた。

 

「で?何か面白そうなのは見つかったのか」

 

「これよ・・・このμ'sって娘!敢えて制服で挑んでくる初々しさに大胆さ!

これは確実に伸びるわよ」

 

「そ・・・そうなの~・・・?」

 

2人もつられるように、μ'sとやらのデビュー曲PVを眺める。

 

プロフィールを見ると、今日初めて曲を出したばかりのようだ。

余程手馴れた人間が作ったのか、PVそのものは画・音ともに品質はいい。

ただ肝心の中の人物はというと・・・まあ歌は及第点としても、踊りがまだダメだ。

これから伸びていくにしても、かなり時間が掛かりそうだ。その間に別な実力あるグループがどんどんデビューしては、やがて追い抜かされるだろう。

 

結論から言って、敵にも値しない。

 

「・・・どうやら、2人ともこの娘達を侮ってるようね」

 

「当たり前だ。いくらスクールアイドルといっても、最近はここまでレベルの低い連中はそういないぞ」

 

「ダンスがちょっとカクカクしてて、ロボットさんみたい~」

 

「そう・・・なら、この再生数をご覧なさい」

 

「「・・・は?」」

 

2人の頭が、凍り付く。

 

間違いなく、そのPVは今日アップロードされたものだ。

なのに・・・既に1000回を突破している。

 

「まさか・・・やらせか、サクラじゃないだろうな?」

 

「失礼ね。この娘達には、スピリチュアルというか、何か運命的なものを感じるの・・・!

きっとそれに共感した人たちが続々集まっているのね」

 

それでも尚、未だ納得のいかない仲間達。

それに業を煮やした彼女は指を突き付け、高らかに宣言する。

 

「いい!英玲奈、あんじゅ!

ライバルには敬意を払って接するべき・・・μ'sは、いつか絶対に私たちA-RISEと肩を並べる存在になるわよ!

だから、明日からも気合入れていきなさい!」

 

 

彼女―――綺羅ツバサの宣言は、外にまで、皆が寝静まった夜の学生寮にも響いていた。

後日、彼女らが寮長からお叱りを受けたのは言うまでもない。

 

 

 




ツバサさんのキャラがハルヒっぽい件。
・・・劇場版でしか把握してないからキャラブレブレになると思います。マジゴメン。
今日にでも2期のDVD借りてくるか・・・。

ちょっと今回はご都合主義が多すぎたかな?
早いとこミナリンスキー回、何より合宿回に進みたいものです。


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第十五話 さらに向こうへ、もっと向こうへ。

サブタイの元ネタ。
大航海時代のスペインのモットー、"プルス・ウルトラ"より。

・・・その割には話があまり進んでない(´・ω・`) 


 

青春とは、汗と涙の産物である。

 

ついこの前までならこんな言葉を耳にするたび、くだらないと唾を吐いてきたものだ。

事実中学時代、俺の周囲の人間は腐った奴ばっかりだった。

 

友人から恋人のことを相談され、表向き応援すると言いながら裏でそいつの悪口を言い触らし、やがて不登校に追い込んでほくそ笑んでいた女子。

教師や立場の弱い生徒を恫喝し、金品を巻き上げ、学校の物品を破壊する行為を青春とのたまった男子。

朱に交われば赤くなるではないが、こんな所に放り込まれて不登校児にもならず不良にもならなかったのだから奇跡と評するべきだろう。

目と心の腐りようまでは止められなかったが。

 

だから俺は、あの時課題作文でこう書いた。

青春とは悪であり、嘘であると。

 

しかし環境が変われば人も変わる。そんなどす黒いのばかりが青春のすべてではない。

汗と涙、そして感動。そうした輝かしい青春もまた、確かに存在する。

 

結論を言えば、物の見方は決して一つではないということだ。

 

 

「・・・今まで、生徒会長の立場にありながら貴方たちの活動に非協力的だったこと。

そのことを、謝らせてください」

 

土曜日。部活ができるのは午前中までなので、結局登校する時間はいつもと変わらない。

眠い目を擦っていつも通り筋トレに励んでいた時、唐突に東條副会長・・・そして絢瀬会長が現れた。

 

で。

 

「あの・・・なんで俺に向かって謝ってるんです?」

 

「・・・え?」

 

「いやだから、俺に言われてもその、困るって言うか・・・」

 

ぼっちに限らず、顔の真ん前で喋られると人間ってドキドキすると思うぞ。

この人案外コミュ障なのか?いや、疑問形じゃなくてほぼ確信したわ。

俺のぼっち度センサーは伊達じゃない。

 

「そうよ!アンタが頭下げるべきは、そいつよりもこの3人にでしょ!」

 

「ひっ?!」

 

そいつより、って言っちゃいますか。言っちゃいましたか、さいですか。

いや分かってるけどね?他人にズバッて言われると傷つくんだよ?物怖じせずに物言える性格も考え物だな。

何より、会長がそのせいでビビってしまった。これは腹割って話し合える状況じゃないな。

 

「ちょ、に、にこちゃん・・・」

 

「あぅ・・・そ、その・・・」

 

・・・あー、いかん。空気が悪い。

高坂もオロオロしているし、他の皆も同様。

 

その時、会長の後ろにいた副会長が口を開く。

 

「・・・ウチからも、副会長、いや友人としてキミらに謝らせてもらうわ。

横についていながら諌めたり止めることもせんかったし。これはウチの責任でもある」

 

「「「・・・・」」」

 

「せやから・・・ここでひとつ、エリチの特技たるバレエの技術で、皆のダンスコーチをやってもらおうて思うんや。

どや?それで今までのこと、チャラにしてくれへん?」

 

・・・この人、一瞬笑ったな。

俺たちが断れないということを、しっかり理解していやがる。昨日上げた動画を見ていたんだろう。

黒い、オーラが黒いぜ。

 

矢澤の予言通り、PVの再生回数は一晩で1000回を突破した。しかしその分、批判的なコメも結構来ている。

中でも多かったのが「ダンスがまだ素人臭い」。実際ほぼ素人に近いのだから当然である。

園田が元日本舞踊の稽古を習っていて、矢澤も趣味で毎日ゲーセンのダンスアクションゲームをやっていて・・・。

うん、ダメだこりゃ。日本舞踊とアイドルのダンスは別物だし、ゲームと本物は違う。

そしてあとのメンバーはそもそも経験がない。したがって、プロの指導が必要というわけになる。

しかも無料で。この学校、ダンス部とかないし。だからってアウトソーシングとかできないし。

 

で、ここまでは理性的、合理的に考えた場合の話。後は、感情の問題だ。

本人も自覚している通り、絢瀬会長=怖いというイメージは根強いらしい。入室したときから小泉と星空がビビりまくってるし。

そして会長はスクールアイドル活動に対して好意的ではなかった。

そこまで露骨な妨害はまだされてはいない。だが、接するときの態度でああ、俺ら好かれてないなというのは分かっていた。

それを知っている南や園田は、果たしてどうするだろうか。

女子というのは空気に敏感だし、そんな人間を進んで仲間に入れたがるだろうか。

 

・・・え?高坂はって?

いや、あいつはいいだろ。なぜなら―――

 

「うん!会長さん、じゃなくて絢瀬さん、歓迎するよ!」

 

・・・こうなるから。

ここまでアホだと一周回って人生楽しいだろうなとは思う。だがちったぁ他人の意見に耳傾けるとか気遣いぐらいしろっつの。

あまり人の意見に左右されるのもそれはそれで考え者なんだが。バランスって難しいね。

 

「・・・本当にいいの?どんどんメンバー入れちゃって。それにあの人、あんまりアイドル好きな訳じゃないんでしょ?」

 

案の定というか、西木野は会長をμ'sに入れることに懐疑的だった。

・・・ちょ、聞こえたらまずいからって耳打ちすんのヤメテ。顔近いから。緊張するから。

 

「高坂はそういう細かいことは一切気にしないタイプだからな・・・それより矢澤」

 

「・・・何よ?」

 

「経験者としての意見を聞きたい。会長の技術と指導は必要か?」

 

少し考え込んだのち、ゆっくりと答えが返ってくる。

 

「そうね・・・。コメントでもあんだけ指摘されてれば、次の曲出すときまでに改善しなきゃいけないでしょ。

にこはこの話、乗るわよ」

 

「そこー?秘密のお話中悪いんやけど、そろそろええか?」

 

うん、やっぱりね。聞こえてますよね。

そもそもこの空間、この人数でヒソヒソ話なんて無理です。

 

「・・・他に意見は?」

 

流石にこのまま高坂のゴーサインで全て決定ではまずいので、皆の反応を窺う。

こういう「何でもみんなで話し合って決めましょう」というやり方は決して好きではないが、かといって「何でも俺様が決める」というのはもっと嫌だ。

かのチャーチルも言っていたが、民主主義は他のやり方よりかはマシなのである。何より、女子が多数のこの場でそもそも俺に発言権があること自体奇跡なのだから。

 

「凛は、会長さんに助けてもらった方がいいと思うにゃ」

 

「わ、私もそう思います!」

 

星空、小泉、賛成。

 

「会長さんも謝ってくれたんだし、ことりは入れてあげていいと思うな♪」

 

「そうですね・・・こんなところで意地の張り合いをしている場合ではありません」

 

「・・・なら、私も乗るわ。ダンス経験なんてないし」

 

南、園田、西木野、賛成。

 

「よしっ!決まりだねっ!」

 

高坂、そもそも聞く必要なし。

 

 

話し合い、終了。

 

 

「・・・皆さん、ごめんなさい。それと、本当にありがとう・・・」

 

・・・泣き出したか。

まあ予想外に反応が冷たくなかったしな。ホッとして気が緩んだのもあるかもしれない。

この人、やっぱりポンコツだわ。

 

「絢瀬さん、泣いちゃダメだよ?ほら、美人が台無しだって!」

 

「え・・・えっええっ!?」

 

なん・・・だと・・・?

・・・高坂が、会長の顔をそっとハンカチで拭いている。顔が沸騰したお湯みたいになってるぞ会長。

あのバカ、ナチュラルにあんなことをするとは・・・。

 

「くっ・・・羨ましい」

 

そして園田さん、あんた何言ってんすか。

ヤンデレ属性でもあるのか。女って怖い。

 

 

「・・・痛って」

 

「せ、先輩大丈夫かにゃ?!」

 

おっかしいなー。

このところ毎日ランニングと筋トレ付き合わされてるせいで、筋肉痛とは無縁だったはずなんだけどなー?

 

只今俺とμ'sの面々は、絢瀬会長の指導の元新トレーニングの真っ最中。

今までのダンス、そして全員の筋トレの様子を見てもらい、体が硬すぎる、基礎からやり直せとの評価を頂いた。

で、体幹トレーニングの一環として、一定時間同じポーズを保つ訓練をしているのだが・・・。

 

ハッキリ言おう、限界です。

 

「みんな、気を抜かないで!あと5分このままの姿勢で!

それと比企谷くん!男が真っ先に倒れてちゃシャレにならないわよ!」

 

早速会長の檄が飛ぶ。

いや、だから俺歌って踊る訳じゃ(ry・・・もう何回目だよこのセリフ。

実際に言っても聞いてもらえないんだろうが。

 

「・・・すんません」

 

「謝る暇あるなら早く元の体勢に!さっさと!」

 

さっきとキャラ変わり過ぎだろ・・・これだからスポ根脳筋は。

俺が怖いと思った人物は大抵実際におっかないのだが、この人も例外ではなかった。

聞いた話、幼稚園の頃から中学時代までバレエを続けていたそうだ。実際にプロ入りしなくてもそれに近い経験は積んでいるのだし、指導が厳しくなるのも分からないではない。

 

ただ・・・少しは周りを見てほしい。

 

「・・・小泉。お前、具合悪いのか」

 

「だ、大丈夫、ですっ。こんなところでへばってたら・・・!」

 

クラッ。

 

―――ヤバい。

 

「う・・・」

 

予想通り、フラっと倒れてきたのですかさず腰回りをキャッチ。

・・・セクハラじゃないからね?うん、セクハラじゃないから。

 

「ちょっと・・・どうしたのよ?!」

 

「か、かよちん?!」

 

「・・・貧血、だな。会長、悪いんですが小泉は保健室に連れていきます、星空と俺で」

 

「・・・分かったわ、彼女が落ち着いたら戻ってきて頂戴。さ、他の人は集中!」

 

・・・はぁ。

見たところ平気そうな顔してんのは星空を除き、園田に矢澤くらいだな。南に西木野などは顔が真っ赤になって、必死でフラつくのをこらえている。

そして高坂よ・・・最早アヘ顔の一歩手前だぞ。アイドルがしちゃいけない顔になってるんだが。

 

結局は、また一から出直しということか。上には上があるとはよく言ったもんである。

あれだけ日々練習をこなしていても、プロからすればまだまだこの程度なのだ。

 

ツラい。

人間だからツラいものはツラい。

 

だが今さら後には引けない。ここで投げ出したらどうなるか。

再建の望みは立ち消え、この学校はまた何の特色もない落ちぶれたかつての伝統校、として忘れ去られてしまうだろう。

何より、高坂たちの夢が消えてなくなる。

 

だから、やるしかない。

小泉の肩を支えながら、必死に闘志を絞り出していた。

・・・やっぱ俺、変態なのか?

 

 

「かよちん・・・大丈夫かな」

 

「このまま寝かしとけば平気だろ。貧血になったらとにかく食うか寝るかだ」

 

栄養と休息。体力回復にはこれしかない。

ゲームと違って薬草や注射で即復活なんてことはないんだから。

それに寝れる元気があるならすぐ回復するだろう。

 

ともあれ、保健室が空いていて助かった。保険医は後はあんたたちで面倒見てあげな、でとっとと抜け出したが。

総武もそうだったが、どこの学校も保険医ってあんなやる気ないのばっかりなのか?だったら案外、天職かもな。

一位、専業主夫。二位、保険医。人生の選択肢がここに決定した。これで安泰。

 

「それじゃ俺は一旦戻るぞ。お前のことは話し付けとくから、付き添っといてやれ」

 

「あ・・・ちょっと待ってほしいにゃ」

 

「ん?」

 

「その・・・比企谷先輩、凛たちがμ'sに入った理由、あんまり聞いてこなかったけど。それはどうしてにゃ?」

 

おい・・・。

思いつめた顔で言う事でもないだろうに。

 

理由は単純。聞く必要がないからだ。

少なくとも熱意、やる気は十分にあるように見えた。なら他の理由などどうでもいい。面接じゃあるまいし。

・・・バイトの面接とかでもいちいちしっかりとした志望動機とか求めてくるケースがあるが、あれマジ意味あんのか?

たかが一日突っ立ってティッシュやチラシ配るだけの仕事に、何のやりがいを求めてくるやつがいるというのだ。ただの小遣い稼ぎに決まってるだろう。

 

「・・・お前らには十分やる気があるように見えた。あいつらもお前らを歓迎している。

なら、入れることに反対する理由なんざ無いだろ」

 

「そう・・・なの?」

 

「ああ。それとも、どうしても理由を話したいってのか?」

 

「・・・ううん。ちょっと凛、ホッとした」

 

・・・ふん、小動物め。庇護欲を煽り立てるなっつの。

 

ま、変な話を聞かされてシリアスムードになるよりはマシだ。俺もそれはそれでホッとしていた。

ここからはただ前に進むのみ。歩みを止めてはいけない。歩みを鈍らせてはいけない。

そんな時に、余計な事を聞いて、思い悩んで、無駄に足を止めてはならない。

 

 

だから今は、本能を信じて突き進むのだ。

 

 




八幡が脳筋化してきた件。
・・・いやあ朱に交われば何とやらとは(ry
キャラ崩壊タグ、そろそろつけた方がいいでしょうか。

あと更新が遅れて申し訳ないです。実は18禁版の俺ガイルssを書いていて・・・。
違う、暑さにやられたんだ。しかたないんだ。うん。

次回はミナリンスキー回さっさと流して合宿回に進みましょう。ごめんなさい。


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第十六話 自分が恥ずかしいと思っていることは、大抵他者は気にしないものである。

急に涼しくなって、唐突に夏が終わった感じがしますねえ。
僕は毎年、夏が終わるときにはowl cityの"Fireflies"を聴くのが習慣なんですが、今年はそれが早まりそうです。
・・・あ、μ'sじゃねえのかよ!というツッコミはなしで。

それに二つ目のインターンが来週から始まるんですがね。
エンドレスサマー(棒)


11月某日

 

「ご主人様~、オムライスをお持ちいたしました!只今、ケチャップをおかけします♪」

 

「うむむっ、苦しゅうない!存分にやるがよい」

 

「・・・上から目線すぎんだろお前」

 

ファミレス行った時は「ハイ」くらいしか言わないくせに。

いるよな、店員変わると態度も変わる奴。こんな客ばかりだから飲食業はブラックだと揶揄されるのだ。

 

・・・それにしても、なぜ俺は学校帰りに材木座と飯を食っているのだろう。

よりにもよってメイド喫茶で。

 

 

町を歩くとき、ふと上を見上げれば木々の葉は枯れて落ち、空は灰色の雲に覆われている。

そして背中には時折木枯らしが吹き付ける。それはいよいよ秋が終わり、冬が目前に迫っていることを示すものだ。

 

そんな季節になっても、活動的な奴というのはいる。

例えば高坂が典型だろう。朝は欠かさずジョギング、授業中は睡眠学習、昼はがっつりパンを頬張って園田に叱られ。

そして放課後はμ'sメンバーらと筋トレボイトレ、新曲の打ち合わせに励む。

・・・いくつかおかしいところもあるが気にしてはいけない。

 

そして・・・この歩く黒歴史製造機―――といっても本人に自覚はないが―――材木座も同様。

このところ週末はアキバにちょくちょく来ては、お仲間の皆さんとカードバトル、メイド喫茶巡りに勤しんでいるらしい。

家でやれとか千葉にもメイド喫茶ぐらいあるだろとか言いたいことはいろいろあるが、まあそれは置いておこう。

 

「で・・・なんで俺を誘った?」

 

「ハッ!前世からの同士たる貴様を誘わないという選択など我にはない!我はそんな薄情者ではないぞ八幡よ!」

 

・・・どうもありがとうよ。

だがそんな温かい心遣いも、学校と練習が終わってクタクタになった時、突然に待ってるから早く来いと呼び出されては微塵も感じ取れない。

無視したら夜の電話が長引くので渋々行ったけどさ。そろそろこいつには、TPOの重要性についてみっちり教育してやる必要があるのではないだろうか。

 

「大方お前のお仲間が忙しくて、でも一人じゃ行けないから誘ったんじゃねえのか」

 

「ぐっ・・・そ、それは・・・確かにそれもある!

だがな!我はこのところ巷で話題の、伝説のメイドとやらの情報を入手したのだ!それで何としても我は彼女に・・・!」

 

お近づきに?無理無理。

俺がメイドさんならこの手の暑苦しいのは相手にしたくねーわ、つか黄色い声あげて突き飛ばすまである。やったら損害賠償だけど。

だから飲食業は(ry・・・まあこの辺にしておこう、愚痴は一旦始まると止められない。

加えて、俺も俺でこいつの誘いを承諾せざるを得ない理由があった。

 

それは、μ'sの新曲のネタ探し。

 

昨晩、日課の一人飯できつねうどんを作って啜っていた時、唐突にスマホが鳴った。

かけてきたのは矢澤。・・・あー、うん、十中八九アイドル絡みのことですな、分かります。

女子と電話するというのにロマンス要素一切なしと瞬時に感じ取れる俺、最強。・・・最強なのん?

 

(大ニュースよ!クリスマスイブにね、アキバでスクールアイドルだけの特別ライブが開催されるらしいわ!)

 

応募対象となるのは、東京都の高校に在学するスクールアイドルグループ。

その中から抽選で計15組が選ばれるらしい。スクールアイドル人気にあやかって今年から開催されるそうだ。

 

確かに、これに参加すれば、知名度を爆上げできる絶好の機会といえるだろう。

但し言うまでもなく抽選に残れなければどうしようもない。残ったら残ったで、相当の準備をしなければならない。

ファーストライブの時の様に、内輪で披露するものではないからだ。要は"目の肥えたお客さん"が大挙してくるわけで、みっともないものは見せられないという訳である。

 

(さっきサイトがオープンしてすぐ申し込んだから、多分抽選には受かるでしょ。

で、早速だけど明日からはまた新曲制作やっていくわよ。アキバが舞台だから、それを上手く絡めた内容がいいかしら。

アンタにもバッチリ協力してもらうからね!)

 

・・・先着順ってわけじゃないだろうに。それを捕らぬ狸の皮算用と言います。

つか一応了承は取ろうぜ、他のメンバーに。それ指摘したら既に皆さん賛成したそうで、あっそうですか。

ぼっちはいつだって世の中から置いてけぼりだもんね。

 

さてそんな訳で、ネタを漁っているのだが。

ぶっちゃけ今はラノベ買う時に寄るぐらいだし、アキバ=オタク、電気街以外何のイメージもない。

それでどうやってアキバとアイドルの楽曲を結び付けろと言うのか。

ただ何もしないでいると矢澤の逆鱗に触れるので、取り敢えずそれっぽいことをする。この"仕事しているふり、なんか頑張っているふり"は、ぼっちにとっては必須スキルの一つだ。

体育でペアを組むとき、なにより去年の文化祭やら体育祭ではこれを使って凌いだもんである。ま、そもそも誰も俺に注意払ってなかったけど。

あと使い過ぎるとすぐボロが出るから注意しとけ。

 

「・・・まぁいいわ。それでこの店がその伝説のメイドさんの店だと?」

 

「うむ!聞いておののけ、彼女の名はミナリンスキー!

何でも彼女に尽くされた客はスペシャルコースを即座に注文すると聞くぞ!」

 

スペシャルコースって・・・パフェにコーヒー、パンケーキのセットってだけじゃねえか。しかもサイゼのより高い。

こんなものただのぼったくりだ。そのミナリンスキーさんがどんだけ接客上手いのかは知らんが、騙されて買う奴はただのアホだろう。

 

「・・・おいタケダ氏タケダ氏、あれミナリンスキー様じゃん?」

 

「mjd!?は、はようカメラカメラ!」

 

・・・周囲がざわついてきたが、どうやらお出ましらしい。

あとそこのあんた、店内は撮影禁止って書いてありますが?大体そんなデカいカメラ必要ないだろ。

 

そして、ついにカウンターから一人のメイドさんが姿を現す。

髪色はミルキーゴールド、さらにやけに甘ったるい声と表情、それは。

 

 

「はぁ~い♪皆さん、お待たせしまし・・・た・・・?」

 

 

「・・・あ」

 

その正体は、南ことりその人だった。

 

 

「うぇっぷ・・・」

 

「ひ、比企谷くん、大丈夫・・・?」

 

ええい、同情など要らん。あの中二野郎が勝手にやったんだ、気にしてくれるな。

 

あの後しばらくの間俺と南が二人して凍り付いた後、場を宥めようとした材木座が勝手に俺の分までスペシャルコースを注文。

割り勘前提だったので泣く泣く3000円近い金を支払った。あの野郎・・・この恨みは忘れんぞ。

それと明日の朝ご飯は抜きだな。これ以上の食べ過ぎは胃に悪い。

 

で、南から仕事が終わるまで待っていてほしいと頼まれ、さっきまで胃もたれに悩まされながら離れたところで突っ立っていたという訳だ。

確実に誰か通報していただろうな・・・顔色と目つきの悪い男がいるんですがって。幸いおまわりさんが来る前に南が来たわけだが。

もうこの生涯で何度九死に一生を得たか分からんわ。

 

「あ、そのね・・・ことりのこと、なんだけど」

 

「・・・メイド喫茶で働いてることは皆に知られたくないってことだろ?」

 

確かにメイド喫茶と働いている、と聞くと余程のオタクでもない限り「なにそれ?」と白い目で見られる可能性はある。

音ノ木坂や、アキバに近いこの辺の学校ならそう珍しくもなさそうだが。

 

ただ、小遣い稼ぎでバイトしたいなら他にも顔バレを気にせずに済む仕事だってある。

敢えてあんなバイトをしているというのは、おそらく。

 

「・・・うん。私、穂乃果ちゃんみたいに明るくないし、海未ちゃんみたく習い事もやってるわけじゃないし。

だから、メイドさんをやってみて、それが自分を変えるのに役立ったら、それでμ'sに貢献できたらって、一か月前から働いてるの。

それに・・・」

 

一瞬言いよどむが、続けて構わないと促すと、再び南はゆっくりと口を開く。

 

「・・・みんなの衣装作るために働いてる、なんてバレちゃったら、みんなに悪いもんね・・・」

 

「衣装代?全員で負担することになってたはずだろ」

 

「うん、それはね。でも、ミシンとか糸とか、衣装を作る道具は違う。

学校のは数が少ないし、何より家だと使えないし。これからもっと本格的に活動するようになったら、それじゃ間に合わなくなることもあるかもしれない。

だから思い切って自分のを買うことにしたの。

でも、そのことでみんなに気を使ってるだなんて思われたく、ないから」

 

「・・・・」

 

―――フン。

一体なぜ、その事を恥ずかしいことのように言うのか。

 

滅私奉公。それは一般的に言えば素晴らしい、称賛されるべきことである。

みんなの為に尽くす俺マジかっけー、なんて自分に酔ってる奴は別だが。少なくとも南はそこまでこじらせているわけでもない。

 

「なんで、そんなことで悩んでんだ?どこが恥ずかしいんだ?」

 

「え、っと・・・その」

 

「俺には誰かのために身銭切ってまで尽くすことなんざやったこともないからな。

それに無責任な言い方だが、お前の良心は間接的にとはいえ、あいつらには十分伝わってるはずだ」

 

「そう、なのかな・・・」

 

ファーストライブの時を思い出してみればいい。

最初あれだけ恥ずかしがっていたはずの園田がお前や高坂に負けず劣らず、笑顔を輝かせて歌い、踊っていた。

お前の作った衣装に対して敬意を払ってなければ、到底できない筈だ。

 

「特に、高坂と園田。幼馴染なんだろ?なら一番よく知ってる相手じゃねえか。

あの2人は誰かの優しさに付け込んで、自分はその上に胡坐を掻くような性格なのか?」

 

「そ、それは違うよ!穂乃果ちゃんも海未ちゃんもそんな人じゃない!」

 

―――そうか。

 

なら、何も問題はない。

 

「あ・・・ご、ごめんね、私のために言ってくれたのに」

 

「別に構わん。だったら、別にあいつらにそのことを隠す必要はないだろってことだ」

 

沈黙。

但し、さっきのようなネガティヴさはそこまではない。自分のしていることを恥じている様子はない。まだ少し迷っているだけのことだ。それも、じき解決するだろう。

 

そうでなきゃ困る。

μ'sの中心たる人物の一人が、この大事な時に道に迷っているようでは困る。

今は何としても前を向いてもらわなければ。

 

「ま、どうしてもってなら俺からは言うつもりはないしそっちも黙ってればいい。だが自分のやってることをそこまで否定する必要はない」

 

「・・・ううん、ありがと。穂乃果ちゃん達には後で話してみるね」

 

「そうか。なら俺はこれで帰るぞ」

 

「うん♪今日はありがとう、また学校でね」

 

そこからは、いつものゆるふわな南ことり、その人だった。

 

 

『・・・ブーーッ!』

 

ん?またバイブかよ。

一体誰だ、それともまた迷惑メール・・・

 

「ちょっと!何度かけたと思ってんの?!にこをシカトするなんていい度胸ね!

そ・れ・に、アンタ今日学校出るとき新曲の案は後で考えるとか言ってたけど、ちゃんと出来てるんでしょうね・・・?!」

 

・・・・。

 

一瞬にして現実に引き戻される。

案?勿論考えてないです。

 

・・・どうやら、説教はまた長くなりそうだ。

 

 

 




終わり。次回はお待ちかね、合宿回です。
設定を変えて、八幡とμ'sには長野のスキーリゾートにでも行ってもらいましょうかね。

ま、気長に待っていただければ幸いです。


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第十七話 青春とは絆によって成り立つものであり、絆は合宿で育まれる。すなわち青春=合宿なのである。

インターン始まる前に一本投下ぁ!
・・・これ以降はタグ通り不定期になる恐れあり、申し訳ない。
何とか9月中には一期分のおはなしを終わらせたいものです。


クリスマス。それは本来、キリストの生誕を祝う祭りであった。

サンタクロース。それは本来、貧しい者に施しをした聖者であった。

 

それがいつからか、クリスマスはリア充たちが飲めや歌えやのバカ騒ぎをしては、世間様に迷惑を掛ける日に成り下がった。

サンタも本来の救貧という目的からは遠ざかり、すぐ壊れ、すぐ飽きる癖にやたらと高いおもちゃを親が子に買って与えるだけのものになってしまった。

キリストも聖二コラオスも、こんな堕落しきった現代人を見てさぞや嘆いているに違いない。

 

結論を言おう。

やはりリア充どもは害悪でしかない。即刻彼らを教化し、更生させなければいけないだろう。

 

 

「・・・ほほう。比企谷くん、こんなの中学の冬休みの日記に書いてたんやな」

 

「なななにをいっているのかわかりませんが」

 

「せ、先輩・・・」

 

「・・・言ってることがヒトラーみたいだにゃ」

 

「随分と寂しい中学時代を過ごしていたのね・・・」

 

おい副会長、日記は読み上げるもんじゃないぞ。心の中で、心の声で静かに読むべきものだろう。

会長、そんな目で見ないでくれ。あんたの憐れみの目線はマジ怖いんだよ、もうシベリア並に凍り付きそうなまである。

小泉も母ちゃんみたく涙目でこっち見んな、俺が泣きたいんだが。あと星空、流石に生存権は認めてるぞ俺。あのちょび髭と違って。

 

大体・・・小町貴様ぁぁぁぁ!あの裏切り者、去年は俺からもクリスマスプレゼントをくれてやったというにつけ上がりおって。

前日になって急に来やがって"忘れ物だよ♪"なんて言って・・・それがなんで捨てたはずの日記帳を持たせてるんだよ。

もう今度からゴミ焼却場に辿り着くまで見届けねばならないのか。何それ、一緒に焼かれて死ねって言うの?

 

「てか人のものを勝手に漁らないでくださいよ・・・」

 

「あんな綺麗な紙袋に入れといたらお土産かなんかだって思うでしょーが!見られたくないならちゃんとリュックに入れときなさいよ」

 

ぐっ・・・そ、それが理由になると思うてか矢澤よ。

掏摸が出来心でやっちゃいましたなんて言い訳するのと同じぐらいしょーもない理由だぞ。それ以前に俺だってさっきまでこれの存在を知らなかったんだ・・・。

 

「ほ、穂乃果!まさかと思いますが・・・」

 

「海未ちゃんのポエムをしたためたノート・・・?うーん、穂乃果は知らないなぁー?

ねー、ことりちゃん?」

 

「うん♪みんなで忘れ物検査したときにトランクにこっそり入れたことなんて、ことりは知らないよ?」

 

「・・・穂乃果ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「これ・・・まともな合宿になるのかしら・・・」

 

まったくもって、西木野の言う通り。

 

・・・なんで俺たちはこんな山奥の別荘に来てまで、黒歴史披露大会をやっているのか。

せめて定番の怪談話にしようぜ?どうせつまらなくてすぐ眠くなるし。

 

 

1週間前 12月初頭

 

季節は本格的に冬になったが、町は次第に来たるクリスマス、年末年始に向けて熱気に満ちている。

それ自体は毎年恒例の行事というか世間の風潮という感じで、仕方ないとは思う。だが、傍から見ていると実に馬鹿馬鹿しくも見える。

クリスマスも正月も終わって、ただひたすらに寒さに耐え、春を待つ3か月間。いくら騒いで盛り上がって誤魔化しても、あの空虚で退屈な日々はすぐにやってくる、それは避けられない。

何を言いたいかというと、はしゃぐのも適度にしないとあっという間にエネルギーを使い果たし、冬を乗り切れないぞということなのだ。

中学時代にもそんな奴がいた。バカ騒ぎのあまり受験という人生初の難所を超える前に力尽きたアホが。

結局志望校には落ち、かつてのリア充仲間からも蔑まれる羽目になった。結論、調子に乗る馬鹿はチャンスも仲間も失います。

 

そんな訳で、俺も2年目の高校生の冬はどうか静かに過ごしたいもの。

だが・・・残念ながらそれは叶わない願いのようだ。覚悟はしていたがな。

 

「―――という訳で!無事、μ'sのアキバクリスマスライブ参加が決定したわ!」

 

「「「「「・・・・おーーーっ!」」」」」

 

「って・・・比企谷!アンタ今一人だけ黙ってたでしょ!素直に喜びなさいよ!」

 

「・・・いや口動かしてただろ俺」

 

「ふふ~ん、口パク?感心せんよ、こんな大事な場でそんな態度は?」

 

「す・・・しゅみません」

 

相変わらずオーラが黒いぞ、副会長。おかげで言い直したつもりが噛んだじゃねーか。

昔ヒキカミ八幡なんてあだ名を付けられていたのを思い出す。俺いつから神様になったんだよ、褒めてんのか?

 

「しかし15組だろ?倍率的にはどんな感じなんだ」

 

「サイトによると、都内のスクールアイドルグループ53組が応募したそうです。

新人と既に人気のあるグループ、それぞれにバランスよく振り分けられている様ですね」

 

「それだけじゃないわ・・・何と、あのA-RISEも参加するそうよ。

UTX学園の、全国トップスクールアイドルがね!」

 

「い、いきなり真打ち登場かにゃ?」

 

「うぅ、私緊張します・・・」

 

このライブは最優秀グループを表彰するシステムになっている。要はトーナメント形式だ。

矢澤曰く、これで優勝できれば全国規模で行われるスクールアイドル大会、ラブライブに向けての布石となるとのこと。

 

だが言うまでもなく、まだまだデビューして日が浅いこちらと既に人気を確立している向こうとでは天と地ほどの差がある。

上位5グループに入ればいい方かもしれない。というより逆に上手くいって優勝して・・・という方が怖い。

それは凶兆。油断を生み、後に必ず反動が来るだろう。その時の挫折感はより酷いことになる。

かといって、あまりここで無残な結果を晒していいということでもない。

五分勝ちに持ち込むのが理想だ。反省点もきちんと洗いだせるし、戦意高揚にもつながる。

 

「とにかく・・・園田さんが昨日曲を作ってくれたんだし、西木野さんに音も付けてもらったし。

あとはひたすらみんなで練習しましょう。クリスマスイブの本番まで、そんなに時間はないわ」

 

「そうね、2年生の人たちも修学旅行が終わったばかりで疲れてると思うけど・・・。

一旦気分を切り替えてもらって、再スタートしてもらわないと」

 

絢瀬会長と西木野の冷静な一言で、少々沸き立っていた空気が元に戻る。

その通り、ここでまた仕切り直しが必要だ。お祭り気分では乗り切れない。

 

「ええ。・・・特に穂乃果、貴方は旅行中散々はしゃぎ回って皆さんに迷惑を掛けたんですからね?

しっかり気合入れて練習してもらいますよ!」

 

「ひぃ!わ、分かってるってば~海未ちゃん・・・」

 

ホントだよ・・・。

沖縄の修学旅行では洞窟の中でワーキャーはしゃぎ出して大混乱。結果高坂、そして俺は二人揃って山田先生に説教を喰らった。

隣の席のお前がなんできちんと面倒を見ないのかって、いやそれは関係ないだろ。

あとで園田が平謝りに謝り、南からちんすこうを貰って・・・まあ、それで許してやったけど。

くっ、お菓子に負けるなんて・・・殺せ!

 

その時、少し静かになっていた中でおずおずと星空が手を挙げる。

 

「・・・あの、凛から一つ、提案いいかにゃ?」

 

「何々?なんでも言って!」

 

「その・・・このままずっと練習してるだけじゃみんな本番までもたないと思う。

だからその、来週の三連休使って、合宿みたいなの、どうかにゃ?」

 

「・・・合宿?」

 

連休・・・そういえばそうだったな。

ファーストライブの時、本来なら創立記念日で休日になるのを学校公開日とした件で、今さら来週の月曜を代休とするそうだ。

遅い、遅すぎだろう。世間の厳しい風に耐えて生きるぼっちに休息は必須。したがって休日はとても神聖なものなのである。

だからこんな風にテキトーに休日を設定するやり方には断固・・・賛成せざるを得ないのが悔しい。おのれ。

 

「それだけじゃないにゃ。まだまだみんな、お互いのことについてよく知ってるわけじゃないし。

・・・凛たちも、修学旅行に参加できてればまた違ってたと思うけど。だから、合宿でみんなの絆を深め合いたいなって・・・」

 

「凛ちゃん・・・」

 

・・・・。

 

まあ、このまま練習を続けていてもマンネリ化する可能性というのは確かにある。

ここでちょっとだけ変わったことをしてみようというのは分からなくもない、ただ。

 

「・・・泊まる場所はどうするんだ?まさか学校で寝泊まりするわけにはいかないだろ」

 

「ううん、部活で前に使ってた合宿所があるし・・・」

 

「そこ、ちょうど連休中にハンドボール部が使うことになっとるよ」

 

早速ボツ。

つかそれだといつもの練習とそう変わらないしな。

 

「じゃ、キャンプ場とか行かない?みんなでバーベキューとかしたら楽しいよ!」

 

「・・・冬に外で野外キャンプなんてできる訳ないでしょう」

 

高坂の提案もボツ。凍死するわそんなの。

そもそもこの時期に開いているところがどれだけあるというのか。

 

そうして、唐突に出された合宿計画が早くも迷走し始めたとき。

西木野がゆっくり口を開く。

 

「・・・待って。私の家、群馬に別荘を持ってるの。

すぐ近くに温泉も山もある静かな所よ。そこなら落ち着いて練習もできるんじゃないかしら」

 

・・・おいこの子、今何と?

別荘。別荘ときたか。・・・なんだよそれハチマンイミワカンナイ。

 

「ほ・・・ホントなの!?」

 

「ええ。それにこの前父が友人とパーティに使ったばかりだし、掃除もしたから綺麗だと思う」

 

「それでも、急に大勢使うなんて許してもらえるのか?お前の両親に悪いんじゃないか」

 

「大丈夫よ、部活の友達と使うって理由なら反対される理由もないでしょ」

 

―――ビバ、金持ち。

実にあっさり問題解決しやがった。

今太閤も言った通り、まさに金は力なり、か。べ、別に羨ましくなんてないしー。

 

「よっしゃーー!そうと決まればμ's初合宿、行っくよーーー!!

真姫ちゃんっ、本当にありがとねっ!」

 

「ちょ?!苦しいから抱き着かないでよ!」

 

おいやめろ、いきなり百合百合すんな。空気が甘ったるくなって吐き気がするだろうが。

 

「・・・穂乃果・・・気易く人に抱き付いてはいけないといつもあれ程・・・」

 

そして一人だけ暗黒化してるし。

幼馴染は大抵フラグ折れるのが常道だからな・・・まあめげるな園田、たまには報われることもあるさ。

たまには。

 

 

1週間後 合宿初日 群馬県某所 午後1時

 

「・・・なあ」

 

「あ、あはは・・・もしかして、置いてかれちゃったかなぁ?」

 

あははじゃねぇだろ・・・。

おまけにお互いスマホはバッテリー切れ。・・・充電しっぱなしにすると却って電池持ちが悪くなるとか聞いたがあれのせいか?

連絡手段と非常器具は常に点検を怠るな、また一つ人生の教訓を覚えてしまった。

今さら遅いが。

 

さて合宿当日、我らがμ's一行は電車を乗り継ぎ、群馬県の西木野の別荘へと向かうことになった。

が・・・昨晩緊張で寝付けなかった俺、そして高坂が寝過ごしてしまい、途中で下車するはずが終点近くまで到達してしまった。その間に他の連中は降りていたという訳である。

最後の列車は特急で指定席、尚且つ2人だけ他のメンバーとは別の車両だったことも災いした。

現在は見事に待ちぼうけなう。あ、なうって今時のナウでヤングな連中は使わないか。流行の流行り廃りってマジ早い。

 

「うー!この駅そぼろ弁当すっごくおいしいよー!ほら比企谷くんも食べよ!」

 

・・・食ってる場合じゃないだろうが。

おまけに女子と二人きりなのにラブコメる展開もないし。いや、期待する方が間違っているんだけどね?

 

 

やはり俺の青春は・・・まだまだ何も描かれていないキャンバスの様にまっさらなままだ。

あるいは、遠くにかすかに見える、雪山の様に。

 

 

【side:μ's】

 

同じ頃。

八幡、穂乃果とはぐれた皆はどうしていたのだろうか。

 

「・・・ほ、穂乃果ちゃんと比企谷くんがぁ~!い、急いで119番に!」

 

「消防を呼んでどうするんですか?!それより山岳救助隊を!」

 

「そうじゃないにゃ!警察を呼んで捜索してもらうにゃ!」

 

「おおお落ち着いて・・・!こ、こういう時はっ、羊を数えて落ち着くんだよ・・・!」

 

「・・・あのね。鉄道の係員の人に連絡した方がいいと思うんだけど?」

 

 

「何なのよこの有様は・・・先が思いやられるわね」

 

「・・・矢澤さん、貴方修学旅行の国際通り散策で一人はぐれてなかった?」

 

「は?!それは今関係ないでしょ!?」

 

「ふふっ、みんな慌てん坊さんやねえ」

 

―――旅は道連れ、世は情け。

その後事態を察した親切な駅長さんの取り計らいによって、2時間後に無事合流できたのであった。

 

 

 

 




合宿編ですが、前後に分けるかそれとも三分割するか現在迷っているところです。
練習風景とかどうしてもうまく描写できないんだよなー。


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第十八話 合宿とバカ騒ぎは、切っても切り離せない関係にある。

更新送れました・・・遅れたの間違いだよ!
でもやっとできて嬉しいのは間違いねえ。一期の内容がすっぽ抜ける前にササッとやっていかなければ。




人間は社会的動物である―――そんな言葉がある。

アリストテレスの遺した言葉が元とされているが、要するに人というのは善なる目的のために共同体をつくり、それへ向けて行動するということらしい。

 

まあ現実は、見ての通り人間善人もいるが悪人もいる、そして後者の方が大多数だ。

進んで良いことをする奴はおらず、むしろ誰かがやってくれると逃げに走る。挙句は「赤信号皆で渡れば怖くない」だ。

いじめやスクールカーストなどを目の当たりにすれば、太古の哲学者たちも裸足で逃げ出すだろう。いかに哲学が机上の理論で現実を反映していないかを示す証左だ。

 

ともあれ、それでも人は集団を形成して生きていく、それ自体は間違ってはいない。

そしてその中で役割を与えられ、各々の生業に励む。それを果たせない者、集団の意に反するものは村八分として冷たく扱われるわけだ。

 

結論、夏目漱石の言った通り、とかくこの世は生きづらい。

 

 

合宿二日目 西木野家別荘前

 

「・・・重い」

 

思わず呟いては、そりゃそうだろうと自分でツッコむ。

これ、もう何回目だっけか?少なくとも10回は超えたな。

・・・フッ、エリートぼっちはまだまだこんなもんじゃ終わらねぇ。一人寂しく過ごすには己と対話するテクニックがいるのだ。

逃げ?痛い?好きに言え。

 

しかしまあ、μ'sの連中もなかなかどうして人使いが荒い。というか人が悪い。

昨日は散々黒歴史ノートの件で一晩中笑い者にして、挙句今日はグンマーを生涯一度も訪れたことのない俺に、晩飯の材料を買ってこいときたもんだ。

 

(比企谷!ぬぼーっとしてんなら晩ご飯のおかず買ってきて!ちょっと歩けば近くにスーパーあるでしょ!)

 

(・・・うーんと、穂乃果たちは何でもいいかなー)

 

要するにお前が飯を作れってことですね、分かります。

あと何でもいいってのが一番困るんだが?主婦が旦那に言われてキレるワードにランクインしてなかったっけか?

しかもキッチンを覗いてみたら米もない。そのことを尋ねるとご丁寧にママチャリを貸してくれた、前後両方にかごの付いたやつを。

お前一人で行って来いってことですね、分か(ry

 

・・・そんな訳で片道30分ほど自転車を走らせ"近くのスーパー"まで向かい、5kgの米とカレーのルー、具材、おかず、飲み物等々買い揃え。

幾度と帰りの上り坂に足と心を砕かれそうになりながらもどうにか帰着。・・・せめて交通費ぐらい払ってもらってもよくね?

てかこれで食事も作ってやったらそれ家政婦じゃん。立派な職業、よって正当な賃金を要求するまである。

 

「・・・ハイっ!

まだみんな声が揃ってないわね、じゃあ一番からもう一度歌ってみましょう」

 

「あ、その前に真姫ちゃんが作った原本を再生してからにしたらどうかにゃ?」

 

「そうですね、しっかりと手本を学んでからでないとリズムも掴めませんし」

 

「その、私、サビのこの部分で上手く声が出せなくなっちゃうんです・・・」

 

「それならも一度腹式呼吸の練習した時の、思い出してやってみるとええかもしれんよ?」

 

・・・まあ、とは言ったものの、だ。

 

ご本人たちがライブに向けて必死に練習に取り組んでいるのに、俺一人何もせずぼんやりしていたらそりゃ腹も立つだろう。

つまりは同調圧力。これが単に先輩風を吹かせたいだけのオラオラ系のDQNなら遠慮なく軽蔑しているところだが、今回は違う。

ただ闇雲にガンガン練習するだけではなく、きちんと現時点での反省点を洗い出して、お互い共有する。それを次の練習に活かす。

考えてみれば当たり前のことなんだが、これがきちんとできていない組織がいかに多いことか。

そういう部活だったり企業というのはメチャクチャな精神論が幅を利かせ、何の結果も生み出せないままただただ時間と人を無意味に浪費していく。

つまり体育会系は害悪でしかないッ!・・・まあぼっちの僻みもあるんだがな。

 

その点においては、高坂達は十分に信頼できる。

ならば俺も素直に従うしかない。というか、筋トレと発声練習付き合う以外は何もしないって実際暇なんだよな。

何だかんだで俺にも役職を振ってくれたのは有難・・・社畜フラグ不可避じゃねーかどうしてくれる。

 

「あ、比企谷くんお帰りー!今日のご飯何?何?!」

 

「子供かお前は」「・・・穂乃果、はしたない真似は止めなさい」

 

「お米ですか?!お米ですよね、パンなんかじゃありませんよね!?」

 

小泉、何を血迷っている。そりゃ晩飯にパンなんて俺も嫌だけど。

 

「悪かったわね、一人で買いに行かせちゃって。作るのは私も手伝うわ」

 

「気にすんな、家事は暇人の仕事だ。お前らの仕事はライブの特訓だろ」

 

あーあ・・・フラグ折る唯一の機会を失ってしまった。これから一生社畜道まっしぐら。

なにそれ道とかあんのかよ。

 

ともあれ何度も言っているように、俺は別に歌って踊る訳ではない。

なら後方支援、裏方が俺の役目だ。そうでなければここに居る意味がない。

だからきっちり、与えられた役割を果たす。それでこそ人として生まれた上で最低限の義務を果たしているといえる。

 

「美味しいの作ってねー、期待してるよっ!」

 

「おうよ」

 

「男の人の手料理、楽しみだな~♪」

 

舐めるなよ、女子諸君。

カレー如き作れずして何が専業主夫ぞ、一人暮らしぞ。俺の隠された実力、今こそ発揮してやろう。

 

 

「ふぅ・・・」

 

「・・・比企谷くん、今鍋が終わったわ」

 

「あ、お疲れ様っす。あとはキッチン全体の片付けですかね」

 

「そこまで丁寧にしなくてもいいわよ?どうせ明日も使うんだから」

 

そうは言うがな・・・。

この狭いキッチンにこうまでカレー臭が充満しているとなると考え物だ。換気しても消臭剤をぶちまけても追いつかない。

 

作るのは前座、片付けこそ本番。母ちゃんがよく愚痴っていたが、まこと料理とはそんなもんである。

それも10人分となると相当だ。食器を一人で複数枚使ってしまうともう、皿洗いだけで気が滅入ってしまう。

これに外での労働が加わるとなると・・・鬱になるからやめよう、まあとにかく平塚先生は早く結婚してください。あとやっぱり専業主夫がいい。

 

「それにしても・・・お酒が入ったわけでもないのになんでみんな酔いつぶれたみたいになってるのかしら」

 

そこだよなぁ。

現在起きているのは俺、絢瀬会長、西木野。あと東條副会長がベランダで夜風に当たってくると言って外に出てしまった。

その4名以外は全滅。皆して好き放題に食って飲んだ後は持ち込んできたゲーム機やらダーツに励み、締めにカラオケで熱唱して朽ち果てたという訳だ。

 

「うぅ・・・穂乃果もう食べられなぁい・・・zzz」

 

・・・相変わらずだなあいつは。寝てても起きてても食うのかよ。

 

案外副会長辺りが料理に酒か薬でも盛ったのではないかと疑っているが、料理中は俺以外誰もキッチンに居なかったし、食事中も無理だろう。

結局は場のノリとかそういうもんだと結論付けた。

 

「夜はダンスを一度合わせてやってみるつもりだったんだけど・・・今からだと無理そうね」

 

「先が思いやられるわ・・・」

 

「まあ合宿なんてそんなもんだ、いつかどこかで羽目を外すときはあるだろ」

 

酒飲んで乱×・・・なんてよくあるよな、アホなリア充どもの集まりでは。

そうならなかっただけ奇跡だ。まあ男が俺一人だけという状況ではそれはないか。

ハーレム?いえいえ、生き地獄ですわ。

 

「はぁ・・・でも、みんな何だかんだで楽しんでるわよね、スクールアイドルを」

 

「どうしたんです?急に」

 

話変わり過ぎだろ。

俺が同じこと言ってたらドン引きされるぞ?どこで差が着いたか、慢心、環境そして男女の(ry・・・うん、この世は不平等だよね、分かってます。

 

「―――アイドルなんてやらしい、バカみたいだなんて心の奥底で考えてた頃の自分がバカらしくなって・・・。

私って昔から顔が怖い、冷たそうだなんて言われて仲間外れにされて、それでみんなで固まってワイワイやるのがすごく嫌だったことがあったのよね」

 

「でも、バレエは一人だけで演技するわけじゃないでしょ?その時はどんな感じだったのよ」

 

「ロシアで暮らして、向こうでバレエをやっていた時はあまり気にしてなかった。

でも日本に移った時から、貴方は表情の豊かさに欠けているってしょっちゅう指摘されるようになったの。そこで一度挫折しかけたこともあったわ」

 

まあ、ぼっちにはよくある話だ。

周りから排斥され、孤立すると、次第に集団というものを憎むようになる。ワイワイガヤガヤと騒ぐ連中を見下し軽蔑する。

それでも心のどこかでは奴らを羨ましいと思っていたりするものだ。俺はそれすら諦めていたが。

 

「でも副会長がいるでしょう、貴方には」

 

「希ね・・・そう、そうなのよね。

最初はなんで私にまで構ってくるのって思ってたけど。

でも考えてみたら、希が中学の時に私に声を掛けてくれなかったら、高校もずっと一人で過ごさなきゃいけなかったかもしれない。

高坂さんがμ'sを始めて、それに巻き込まれて、私もメンバーに入れてもらって・・・あの時から私、何も変わってないのよね。

誰かに背中を押してもらえないと、自分を変えられない、弱さを克服できないのが」

 

・・・やれやれ、贅沢な悩みだな。

 

少なくともあんたはぼっちでなくなったんだろ?一人じゃないんだろ?ならいいじゃねえか。

それこそ生涯孤独の身で過ごす人間だっているんだぞ。素直にラッキー、それで万事解決。うじうじ悩むくらいなら一人に戻ってしまえよ。

この人は優しいのかもしれないが、同時に優柔不断でもある。そこが少々目に付くのがぼっち同士としては癇に障る。

 

西木野も同じことを思っていたのか、ため息をついて言い放つ。

 

「気にしすぎよ。幸運に感謝して今を頑張って生きてればいいじゃないの」

 

「・・・気に障ったかしら。ごめんなさいね」

 

そりゃ黒歴史語りなんて痛いだけだもの。

ソースは俺、軽い自虐のつもりでやってみたらドン引きされました。

 

「謝るぐらいなら、生徒会長らしくビシバシ皆を指導してください」

 

「・・・そう?なら比企谷くん、明日の朝は皆でランニングしようと思うの。

貴方も付き合ってくれるわよね?」

 

・・・ぐっ。

急に目の色が変わった、というかその小悪魔的な笑いは何だ。

やはり女は怖い。老いも若いも油断がならぬ。

 

「ハイワカリマシタ」

 

「хорошо!(素晴らしいわ)男ならこういう時に活躍するべきよね」

 

チッ・・・男女平等どこ行った、男ならって何だよ。

渡る世間は鬼ばかり。親父が日々愚痴っていたその言葉、間違ってはいないようだ。

 

「―――おっ、どうやら片付けは終わったようやね、お疲れさん。

どや、折角だし夜の空でも見ぃひん?」

 

って・・・あんたいつの間に戻ってきてたのかよ。気配消すなよ。

 

「・・・クソ寒いし俺は遠慮しときます、てか少しは手伝ってくださいよ」

 

「ウチ?毛布持ってきてみんなに掛けたやんかー」

 

何プリプリしてんの、すげーあざとい。

てか全員ここで寝かせるつもりかよ。そりゃ一人ひとり寝室に運んでいくなんて御免被るが。

 

「まあ、それは言いっこなし。起きてる人間だけでプラネタリウム鑑賞しましょうか」

 

「ほら、比企谷さんも行きましょ。寒いならマフラー、貸すわよ?」

 

「おっおい西木野・・・」

 

だから勘違いしちゃうからやめれと何回も・・・。

 

それでも手を掴まれている以上、もう止められない。

窓をくぐり、冬の夜空へ駆け出す。

 

そこにあったのは、田舎特有の満天の星空。

 

「хорошо...プラネタリウムより綺麗ね・・・」

 

「わぁ・・・どこもかしこもお星さまだらけやね。ほな比企谷くん、ウチと写真撮ろ♪」

 

「カメラの光で夜景が台無しになるでしょうが」

 

「夜景モードに切り替えればなら大丈夫よ、ほら並んで。

会長も一枚目は私が撮るから、よかったら入れば?」

 

「いいのかしら?ならお願いするわ」

 

チッ・・・戸塚とツーショット撮った時はあんなにも嬉しかったのに。

よりによって魔王様とかい。おまけに小悪魔も。

 

ともあれ、青春という名のまっさらなキャンバスに、ようやく色が着いた瞬間だった。

 

 

【side:理事長】

 

「友達同士で合宿だなんて・・・何年ぶりかしら」

 

ホットミルクを飲みながら、感慨深げに呟く。

いくつになっても子供は子供。たまには無邪気な一面を見るのも悪くはないものだ。

 

・・・もっとも、音ノ木坂の現状を思えばそんな楽観的ではいられないのだが。

 

来週に入ってすぐ、教育委員会の担当者との会合がある。

そこで学校の現状を説明し、今後も運営を続行するか否かの判断がなされる。

もし将来性がないと向こうが判断すれば、廃校待ったなしだ。

 

かと言って、スクールアイドルで生徒を集める、そんな方針を理解してもらえるのか。

頭の固い委員の先生方には到底無理だろう。まずアイドルという時点で一笑に付され、或いは他所のマネしてどうすると頭ごなしにお叱りを受けるのがオチだろう。

 

でも、今の自分に選択肢はそう多く残されていない。

 

娘が今、友達と協力して夢を作り上げているのに。

それを母親である自分の無能で潰すことになったら、死んでも詫びきれない。

 

何としても、ここで踏ん張らなければ―――

 

 

・・・ピンポーン!

 

「夜分遅くに失礼しますー、郵便でーす」

 

 

―――暗闇にベルが鳴る。

それは、凶兆の知らせ。

 

ことりの母がその時受け取ったのは、フランスに住む親類からの、ことりの留学についての手紙であった。

 

 

 




他の方の小説に比べてえらい短いですが、合宿編は以上となります。
次回は、アニメ版でいう文化祭ライブ編。このssでは"クリスマスのアキバライブ"としていますが。
オリ展開って結構難しいよね(小並感)

ところでことり母の下の名前が「ひよこ」って、どこ情報?どこ情報よ?


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第三章 酸いも甘いも、人生の全て。
第十九話 リーダーがくしゃみをすると、皆が風邪をひく。


遂に突入しました、シリアス回です。急すぎたかな?
暫く鬱屈した雰囲気になりそうですので、ご容赦ください。


嫌なことほど、なぜかよく覚えている。こんな経験は結構あるんじゃないだろうか。

特に俺のような生きた黒歴史製造機クラスになると、よく今まで生きてこれたなと同情されるレベル。

忘れようとしても、無駄に賢い脳みそを持っているとこれがなかなか難しい。しっかりとハードディスクに保存されてしまっているからだ。

・・・まあ、とにかく時間さえ経てば、いつの日か笑い話として受け流すこともできよう。それを語り合う相手なんざいないけど。

 

外へ出ると、世間はまだまだ年明けだなんだと盛り上がっている。

俺一人だけがそこから浮いているように見えた。ぼっちであることを前提にしても、これはひどい。

流石に高校生になってからは道行く人に避けられたことなんてそうそうなかった。今は最低でも、すれ違う人のひとりかふたりが変人を軽蔑する目で見てくる。

最低でもだ。

 

そりゃまあ、そうだろう。

鏡を覗いてみても、いつも以上に生気のない腐った目。そして無意識の内に猫背になって歩く癖がついてしまった。おまけに髪はボサボサときた。

そんな奴が道端を歩いていたら、そりゃ避ける。俺だって避ける。

・・・冬休み開けまでには何とかしないとな。そこだけは真剣に考えている。

 

今日も俺の頭には、ここ1、2週間に起きた出来事が蘇る。

こうして町をぶらついていても、イヤホンを付けて音楽を聞いていても。どうやっても誤魔化せない。

 

 

―――貴方抜きで、このまま次のステージへ進むこともできた。でも断念したわ、これはμ'sの総意。だから・・・受け入れてほしいの。

 

―――どうしても・・・言えなかったの。穂乃果ちゃんも、みんなも・・・あんなに頑張ってるのに、今さら・・・!

 

―――・・・μ'sは9人いてこそμ'sなんや。一人欠けてしもたら、もうそれは別のアイドルでしかない。・・・この意味、分かるやろ?

 

―――このままじゃ、ラブライブどころじゃない・・・μ'sは解散しちゃうのよ!?そんな、バカなこと、なんて・・・っ・・・。

 

―――私は、続けたいんです。穂乃果のためにも、それに自分を変えられた、μ'sのためにも・・・!

 

 

―――こんなこと、聞くなんて情けないよね。

 

―――でも、聞きたい。比企谷くんならどう思うか、聞かせてほしいの。

 

 

「穂乃果は、μ'sを続けてても、いいのかな?」「私が、μ'sを抜けて自分の夢を追いかけるのは、許されるのかな」

 

 

・・・いつもなら。

迷うことなく、そうするべきだと言っていたはずだった。

自分のやりたいことを犠牲にしてまで、共に居続ける。それは偽善であり、欺瞞でしかない。

そんなやり方が"本物"だとは、到底思えないからだ。

 

だが、言えなかった。その時は。

 

いつの間にか、俺も怖くなったのだろうか。

あいつらの関係が壊れてしまうことが。それを見てしまうことが。

つまり、俺は弱くなった。否、元からそうだったのかもしれない。

人は弱い。どれほどの金、力、頭脳を持っていたとしても、誤魔化しにしかならない。

否が応でも認めなければならないことだ。

 

だが、このままで終わらせてしまっていいわけがない。

この世に神と奇跡があるとしても、彼らが手を差し伸べてくれることはない。

天は自ら助くる者を助く、という。奇跡が欲しいなら、それこそ血反吐を吐くほどがむしゃらに挑むしかない。

 

ならばもう一度、今度こそ。

俺が、なんとしてでも―――

 

 

2週間前 音ノ木坂学院アイドル研究部 クリスマスイブまで残り5日

 

「―――よしっ!これで一通り動きも揃ったわね」

 

「歌もみんなしっかり声が出せるようになったし・・・完璧までもう一歩ねっ!

さっ、気合入れていくわよ!」

 

「「「「「おーーーっ!」」」」」

 

おー、暑苦しい。

絶対今気温30℃くらいまで上がっただろ。ここまでくると暖房代節約どころか温暖化に負の貢献をしてるまである。

もっと熱くならなくていいから。修造先生かお前らは。

 

グンマ―での地獄のような合宿―――ことに園田の提案による夜間ピクニック、10㎞も歩かせるなんてお前は俺を殺す気か?―――が終わった後。

今日の放課後も、変わらずμ'sは練習に励む日々。

合宿によってみんなとの絆が深まりました!最高の思い出でした!・・・ということは特になかったが、普段と違う場所で過ごしたことでリフレッシュできた効果は大きいようだ。

・・・夜は決まって格ゲーだの枕投げやってはしゃいでたからな、こいつら。そりゃ楽しかったろうよ。

 

それでもこうしてしっかりと練習に励み、差し迫ったライブへ向けて着実に実力をつけていっているならば、何も問題はない。

 

「・・・その、私今日も用事があるから、これで帰るね。穂乃果ちゃん、海未ちゃん、みんなお疲れ~♪」

 

「あ、お疲れさまー!」

 

「先輩、気を付けてにゃー」

 

 

―――そう、何も問題はない、はずなのだ。

 

 

「東京も群馬も、そんなに寒さって変わらないのね」

 

「夜は特にな。いくら晴れてても、都会のコンクリートがその熱を保持できないんだろ」

 

放射冷却現象の一種だっけか?日中と夜の寒暖差ってのは。

真夏は夜になってもクソ暑いのに冬はこれって、異常気象と認定してもいいレベルだろ。

 

「で・・・西木野さんはなんで俺と一緒に帰宅しているんでしょうか」

 

「・・・わざとらしい敬語使わなくていいわよ、ちょっと相談したいことがあるだけ」

 

本当に心臓に悪いからよ、頼むぜ?あと胃腸にもよくないし。

精神的ダメージはすぐに体の不調とリンクするからな。こいつは俺に気があるのかそれとも貶めようとしているのか、疑心暗鬼は大変健康によろしくない。

 

で、まあ、こいつの表情が曇ったことから察するに、その内容というのはおそらく。

 

「・・・相談ってのは、南のことだな」

 

「・・・そう。おかしいと思うでしょ?

いつも高坂さんや園田さんと一緒に帰ってたのに、先週からずっと一人で先に帰ってる。

何か知られたくないことでもあるのかと思って」

 

というか、明らかにそれだ。

女子という生き物は、良くも悪くも相手の感情を読み取るのが得意だ。

近くにいるだけで相手が何を考えているのか分かってしまう。生まれつきそういう能力を持っているとしか言いようがない。

だから胸の内を晒さないためには、極力近寄らない。これが最低限不可欠である。

それでもバレることもあるが。

 

南の場合、少なくとも以前のアルバイト問題については解決している。

高坂達に自分から打ち明けた。結果メイド服やら接客術やらのことで暫くの間いじられるようになったが、まあそれはあくまで"友達"同士のかわいいもの。

元より隠すようなことでもなし、今さら蒸し返す必要もないはずだ。

 

つまり、南はそれよりも深刻な問題を抱えている。

下手をすればμ'sの今後に影響するようかもしれない、巨大な時限爆弾を。

 

「・・・だが、高坂や園田にすら話せないことなんだろ、あの様子だと。こっちから探るのは難しいぞ」

 

「・・・そうね。あと、それともう一つ」

 

「なんだ?」

 

「高坂さんのこと。ここ最近、一人で自己練習してるみたい。・・・それも夜遅くにね」

 

・・・おい。

今までだって土日祝日返上で練習してきている。朝は朝練、放課後は下校時間ぎりぎりまでずっとだ。

なのに、まだ足りないというのか。

 

「この前、マm・・・お母さんに頼まれて買い物に行った帰りにばったり会ったの。

何時だと思う?夜9時過ぎよ。朝に放課後、あれだけの練習こなしてさらに自己練だなんて、いつか彼女倒れるわよ」

 

落ち着け、ママ呼びしたって別に俺は気にしないぞ。

 

それよりも。

西木野の言っていることが本当だとしたら。高坂のやっていることはもう、努力でもなんでもない。

ただの病気だ。

物事に―――ライブ、μ'sの活動に―――執着し過ぎるあまり、視野が狭まっている。そして暴走を始めた。

そう遠くないうちにオーバーヒートを起こすに違いない。

 

・・・やはり人生ってのは、上手くいかないもんだ。

 

「分かった、高坂のことは俺も何とかしてみる」

 

「・・・お願いするわ、園田さんとかも気づいてなかったみたいだし。

かと言って後輩の私からじゃ、はっきり止めろだなんて言いづらいしね・・・情けないわ」

 

西木野、それは別にお前の所為じゃないぞ。組織というものはどうしても上下関係なしでは成り立たない。目上の人間にはどうしても物申すのは難しい。

体育会系の部活だったらもっと凄まじいはずだ。俺なぞ絶対に意見など言えない、いやむしろ向こうが言わせないまである。

それに近くにいるから何でも分かる、という訳でもない。さっきの話とは矛盾するが。

常にお互いの距離が近い状態だと、自分で勝手に納得し安心し、油断してしまう。それはあいつらでも流石に防げなかったようだ。

 

「あまり気にするな、お前もゆっくり休め。・・・じゃ、俺はこれで」

 

「ありがと。それじゃあね」

 

人と別れるとき、こんなにももやもやした気分を味わったのは、かなり久しぶりだ。

昔ならまだよかった。いつものことだと慣れていたから。

 

だが、今は。俺にはそれが、非常に不快に思えて仕方がなかった。

 

 

冬の雨は冷たい。

浮浪者だってこんな日はおいそれと外をうろつきたくはないだろう。

 

西木野に依頼を受けてから数時間後、明日の夕食の買い物も兼ねて外へ出る。

本来なら学校帰りに済ませておくべきだったのだが。どうも億劫になって、夕食を食べてからにしようと思ったのが間違いだった。

家を出て5分後にはしとしとと雨が降り始め、ダッシュでスーパーへ向かう羽目になった。

楽あれば苦あり、次からは気を付けよう、うん。

 

さて、傘を持ち合わせていない以上、買い物が済んだからにはさっさと帰りたいのだが、そうもいかない。

高坂のことだ。いくらバカでも雨の日に外で走り込みをするほどバカではないと思いたかった。

だがそんな甘えが身を滅ぼすことを、俺は経験上嫌というほど知っている。

常に念には念を入れなくては駄目なのだ。

 

 

「・・・ほっ、ほっ・・・よしっ、あと1周!」

 

 

―――いた。

 

神田大明神の随神門の前。確か練習メニューでジョギングをする際、ここがスタート&ゴール地点になっていた。

既に何周か回ってきたのだろう、少し息を切らした状態で、びしょ濡れの高坂が立っている。

びしょ濡れなのは俺も同じなのだが。

 

「おい」

 

「?・・・あっ、比企谷くん!こんばん・・・」

 

「・・・今晩はじゃねえだろ、なんでこんな時に走ってる」

 

レインコートも着ず、手袋もつけず。

いつもの練習着姿で。

 

「あ、寒さとか雨のことならへっちゃらだよ?走ってればすぐあったまるから!」

 

それは感覚が麻痺しているだけだ。

すぐにまた寒さに気付いて凍える羽目になる。

 

「そうか、あったまったか。

ならすぐ家に帰れ。・・・西木野に聞いたが、このところずっとこの時間に練習してるそうだな。お前、いつか過労で死ぬぞ」

 

「だ、大丈夫だよ!これでも穂乃果、体丈夫だし・・・」

 

毎晩練習していたことは否定しないんだな。普通ならそっちの否定から始めると思うが。

 

「そう言ってる奴ほどあっさりインフルにやられて倒れたりするもんだ。

とにかく、こんな日までジョギングだなんて正気の沙汰じゃない。大人しく家で休め。

休むのも仕事のうちって教わらなかったのか?」

 

ついでに言えば、暗闇の中に佇む男女の姿もまともじゃない。

誘拐を疑われてもおかしくないのだ。できるだけ早く高坂を家に帰さなければ―――

 

 

「・・・分かんないよ」

 

 

高坂の顔から、笑みが消えている。

 

「・・・何がだ。何が分からないって?」

 

「比企谷くんには!大好きな学校が潰れちゃって、なくなっちゃうことがどれだけ悲しいことかなんて分かんないんだよ!

ちょっとぐらい病気したっていい!何したって、音ノ木坂を守ってみせる!」

 

「本気で言ってんのか。自分が倒れてでも死んでもやるつもりだってのか」

 

「なんで・・・なんでそんなに冷静なの?!おかしいよ!

比企谷くんも見たでしょ?!今の音ノ木坂が、どんどん人気無くして、よそに生徒が移っちゃってること!

ここで・・・ここで頑張らなかったら・・・もう、おしまいなんだよ・・・!」

 

・・・駄目だ。

 

今の高坂は、完全に頭に血が上っている。その目には、見るべきものが見えていない。

説得しても通じない。これはもう、否が応でも無理矢理連れ戻すしかないか。

 

「お前の言い分はもう結構。とにかく、嫌でも帰れ。

このままじゃ明日にでも肺炎になって死ぬぞ」

 

俺は、高坂の方へ手を伸ばす。

 

「・・・やめてっ!」

 

「おい!」

 

その手は、払われた。次の瞬間、高坂は逃げるように走っていく。

くそ、意外に速い。あっさりと距離が開いていく。

 

「いいか!真っ直ぐ家に帰れ!必ずだ!」

 

追いつけないと分かると、後ろ姿に向けて必死に叫ぶ。高坂に届いているのかは分からない。

せいぜいこの騒ぎを遠くから見た連中が、俺を誘拐犯だと通報する確率が低くなるぐらいの効果しかないだろう。

 

・・・くそ。

 

人間は脆い。ならば、人間が作ったものとて同じ。

機械、そして組織も。

 

たとえ雨がなくても、このままμ'sは土砂崩れの様に崩壊していくだろう。

その音が聞ける日は、そう遠くない。

 

心に穴が開く時の感触が、不快さを伴って蘇ってきていた。

 

 

 




終わりです。
最後穂乃果が暴走してますが、悪く書きたかったわけではないのでそこはご理解を。

アニメだと合宿編で、μ'sの皆がお互いを下の名前で呼び合ってますが、このssでは一期の分を消化して二期編突入してからにしようと思っています。
別に大した理由は無いんですが(´・ω・`)

あと真姫ちゃん優遇されすぎですね、ちょっと(ちょっとか?)
タグ入れたほうがいいでしょうか?「まきちゃん ゆうぐう やゐゆゑよ!」って。


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第二十話 創るは難し、崩すは易し。

主人公不在回。いいのか、それで。


 

【side:ことり】

 

「さーて、今日は冬休み前最後の授業になる。

クリスマスにお正月、浮かれたくなるかもしれないが、お前らはもう高校2年だということをくれぐれも忘れないように。

宿題は勿論、先月の進路相談で決めた方向で今後も進めるのか、しっかり考えておけよ!」

 

(・・・進路、かぁ)

 

この時期になると、将来の選択を再び真剣に考えなくてはならなくなる。

南ことりも、まさに今、そんな状況に置かれていた。

 

進路が決まらないのも深刻だが、かといってこうもあっさりと決まってしまっていいのだろうか。

 

合宿から帰ってきてすぐ、母から渡された一通のエアメール。

差出人は、パリに住む母のいとこ。

自分を服飾学校の生徒として推薦した、是非来年から生徒として通ってほしい―――内容はこうだった。

母は、まずは自分で悩んで、よく考えなさいとだけ告げた。

 

確かに自分は、将来はデザイナーになりたいと思っている。だから学校もその方面に進学するつもりだった。

でも・・・なぜ、よりによってフランスなんだろうか。英語だって日常会話がほんの少しできる程度なのに。

いや、語学の問題ではない。

日本を出ること、それは即ち穂乃果たちと離ればなれになることを意味していた。少なくとも3、4年の間は。

 

ずっとみんなと一緒にいられるわけではない。それは分かっている。

進学、就職を経て、やがては別れなければならないのも。

 

(でも・・・その日がこんな早く来ちゃうなんて・・・)

 

怖い。そんなの、嫌だ。

何よりみんながμ'sとして一生懸命頑張っている時、自分一人が抜けてしまったら・・・!

 

誰かに相談しようにも、責められることを想像してしまう。

情けないとか根性がないとか、逆に向こうでやっていける訳ないとか。

穂乃果たちには、もっと言いだせそうにない。タイミングがあまりにも悪すぎるのだ。

 

なら。

ライブが、ライブさえ無事に終われば。

 

その時こそ、みんなに伝えるんだ・・・。

 

 

【side:穂乃果】

 

「あの、先生。比企谷くんは・・・」

 

「ん?ああ、体調不良で休みだそうだ、全く冬休み前から・・・。

園田、お前らであいつにプリントをもっていってやってやれ。南と・・・それに高坂も!

寝なかったのは許すがボーっとしろとも言ってないからな」

 

「・・・は、はひっ!」

 

・・・・。

 

あれ・・・?

今日って、こんなに寒かったっけ。教室、暖房入ってるよね?

ふとそんな違和感を覚える。

 

・・・もしかして、風邪?

 

頬を軽く叩いて、下らない可能性を振り払う。

大丈夫だ、そんなはずない。昨日は帰ってすぐお風呂に入って、温かいコンソメスープとパンを食べて寝たから。

絶対、だいじょうぶ。

 

(・・・でも、比企谷くんは・・・)

 

あの時の自分は、確かにおかしかった。冷静じゃなかった。

いや、もっと前からだ。

合宿が終わった次の日、学校に行った時。理事長であることりの母が、教育委員会の偉い人たちと話しているところを、偶然覗いてしまった。

 

―――学校公開日の訪問者数、前年とくらべても2割減、ですか。・・・・はぁ、お話になりませんよ。

 

―――スクールアイドル?あれは元々人気のある学校が始めたから人気が出たんじゃ?音ノ木坂じゃ無理でしょ。

 

 

―――ま、どうしてもと言うなら来年までは待ちましょうか。もし入学者が定員割れするようなことが繰り返されるなら、次はありませんから。

 

 

・・・話を聞いている間、頭が凍り付いていた。

最後の"次はない"という言葉で、ようやく我に返った。

 

そうだ、次はないんだ。このままじゃ、学校がなくなるんだ。

そのことをすっかり忘れていた。昔からバカだバカだと言われてきたけど、この時ほど自分がバカだって思ったことはなかった。

だからその日から、みんなとの練習とは別に自分でも練習をすることにした。少しでも体力をつけて、上手く踊れるようにするために。

 

たとえ雨が降ってたって、台風が来たって。

学校をなくさないためには、なんだって・・・!

 

―――休むのも仕事のうちって教わらなかったのか?

 

・・・でも、それはやっぱり間違ってたのかもしれない。

急ぎ過ぎて、周りが見えなくなっていた。

 

何より自分が変に頑張り過ぎて、みんなを心配させるようなことがあったら。

それこそライブにとっては悪影響しかないのに。そのこともすっかり忘れていた。

 

―――おい!いいか、真っ直ぐ家に帰れ!必ずだ!

 

・・・そして。

あれ程真摯に忠告してくれた彼に、暴言を吐いて、その場を逃げ去った。

 

やっぱり、自分は、どうしようもないバカなんだ。

 

「・・・ごめんね」

 

「?どうした、高坂。・・・具合でも悪いのか」

 

「ハッ?!ち、違いますっ!」

 

「何だ、大げさだな」

 

教室に、また笑いが起こる。

いつもならつられて自分も照れ笑いを返していた。でも今日は、そんなことできない。

 

謝っても、許してくれるか分からないけど。

 

ごめんね、みんな。

ごめんね、比企谷くん。

 

 

【side:海未】

 

放課後

 

「ことり、今日はお母さんと話すことがあるから・・・練習はちょっと出られないな」

 

「そうですか・・・」

 

・・・このところ、自分たち3人の関係がおかしい。

 

まず、ことりが自分と穂乃果を避けるようになった。

最初は単に用事で忙しいという言い分を真に受けていたが、流石にこう何日も続けば変に思わない筈がない。

何か自分たちに知られたくないことがるのか・・・いや、そうとしか考えられない。

 

「・・・それじゃ、みんなにはそう伝えておくねっ!」

 

「うん・・・ありがと、またね」

 

・・・そして、穂乃果も。

ニコニコと笑っているのは一見いつもと変わらない。

だが、今日はどこか無理して笑っているように見える。必死で疲れを誤魔化しているように。

 

(なのに・・・何故私は、二人に声一つかけることも・・・)

 

昔から大人たちに、良い子だとか年の割にしっかりしているとか褒められてきた。

それは違う。

自分は弱いのだ。いつも友人に助けてもらってばかりで、自分から助けの手を差し伸べたことはない。

今までは穂乃果とことり、彼女らの頑張りでどうにかなってきた。でも、今回はその二人が元気をなくしかけているというのに。

 

(・・・でも・・・私に一体どうしろというのでしょう・・・?)

 

真面目さぐらいしかとりえのない自分に、二人をどうやってサポートできる?

お説教臭いことしか言えずに、余計に気力を失わせるようなことになったら、それこそまずい。

 

何より、怖かった。

 

本当に二人が深刻な問題を抱えているとして、自分にそれが背負いきれるのか。

解決できなくて、二人から失望されないだろうか。

もし、そうなったら・・・。

 

今まで通り、友人でいることなんて、できない。

そんなことになったら、耐えられると思えない。

 

(・・・ごめんなさい・・・ことり、穂乃果)

 

自分は臆病だ。

だから、自分を誤魔化して、臭いものに蓋をして、何とか取り繕って、今日も一日を過ごす。

 

 

【side:希】

 

「・・・希?どうしたの、柄にもなくボーっとして」

 

「・・・・」

 

放課後、生徒会室で書類整理をしていた絵里と希。

絵里はふと、俯き加減な友人に向けて声を掛ける。しかし、返事はすぐに返ってこなかった。

何かあったら向こうから声を掛けてくるのに、珍しい日もあるものだ。

 

だが希の中では、ある一つの懸念があった。

 

クリスマスイブまで、ライブまで、あと4日。なのに、日増しに事態は悪くなっている。

言うまでもなく、穂乃果、ことり、海未のことだ。

μ's創設者たる三人の関係がこのところギクシャクしている。三人が三人とも、お互いに距離を取っている。

いや、壁を作っているようにも思える。それはかなりまずい兆候だ。

 

「・・・タロット占いの結果、なんやけど。

どうも最近、あかん方へと向かってる気がするんよ」

 

「・・・つまり?」

 

「3日前は戦車、一昨日は魔術師。そして昨日は審判やった。

・・・どれも全部、逆位置で出とる。エリチ、意味分かる?」

 

絵里はしばし考え込み―――顔色を変える。

 

「暴走、臆病・・・再起不能・・・ねえ、ちょっと」

 

「そういうことや。ウチら、このままライブに突き進んでええんやろか?

エリチも気づいとるよね、穂乃果ちゃんらの様子。あれじゃ絶対本番で力なんて発揮できんと思う」

 

「それはそうだけど・・・でも、高坂さんはやるつもりでいるわよ。

ライブ出場を取り下げたら、それこそ士気もガタ落ちになるんじゃないかしら」

 

「・・・・」

 

確かにそれも一理ある。だが、このままライブに臨めば、きっと・・・。

 

希は、今日の占いの結果については敢えて言わないことにした。

 

 

"塔"。逆位置。

 

意味するところは、"必要とされる破壊"。

 

 

窓の外の暗雲が、明るい未来を覆っていく。

 

 

 

 




・・・どす黒い。ヤベえよこりゃ。
作者ですら思う、やり過ぎたと。こんなにしちゃってどうやってμ's復活まで持っていくんだ?!

まあ、何とかなるさ(棒)


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第二十一話 優柔不断、遅すぎる決意、全て大敗のもととなる。

更新が遅れた理由。

やなぎなぎの「水の中の雲」を聴いて鬱になっていたから。
いやマジで夏の終わりに聞くもんじゃねーなあの曲。自殺したくなるレベル。

え?やなぎなぎさん知らない?
・・・俺ガイル続ちゃんと見直してきなさい(上から目線~☆)

失礼しました、早速いきます。



【side:にこ】

 

 

「・・・嘘・・・でしょ・・・?」

 

 

クリスマスイブ当日。

来たる聖なる日に向け、皆が賑わうこの日。

 

天気は、曇り。しかも予報では、午後からにわか雨が降る確率が高いとのこと。

もっともライブは雨天決行なので、仮に降ったとしても進行に何ら影響はないのだが・・・。

 

―――もうあたし、ここらでやめとくよ。予選敗退じゃお話にならないもん。・・・流石にさ、アイドルに高校生活全て捧げるのはちょっとね。

 

―――にこちゃんもいい加減見切りつけたら?芸能界行きたいなら、高校出たらにするとかさ・・・今に大変なことになるよ。

 

「・・・っ」

 

かつて自分がスクールアイドルを目指し、そして挫折した日。あの日も、こんなどんよりとした不快な曇り空だった。

今朝から、何度も、何度も、脳裏に蘇る。それはフラッシュバック―――それとも、デジャヴなのだろうか。

 

それでも他のメンバーが上手くやっていたなら、自分も天気のことなど気にしなかったろう。

だがここ数日、急に穂乃果たち3人の様子がおかしくなった。それがみんなに伝わり、μ'sに動揺が広がっている。

昨日色々と問い質してはみた。どうにも満足のいく答えは得られなかった。3人とも貝のように固く口を閉ざしている。

 

特におかしいのはことり。

やけにみんなから話しかけられるのを怖がっている。それは、一体何だっていうの?

なんで仲間に打ち明けてくれないの?何かやましいことでもあるの?

 

ねぇ、答えてよ・・・!

 

何度も、何度も、伝わりはしないと分かっていながら、問いかける。

 

 

【side:花陽】

 

一寸先は闇。迂闊に進んだら、その先はもしかして崖かもしれない。

そして無様な最期を遂げる羽目になる。

 

だから花陽は悩んでいた。自分たちは、このまま今日のライブに参加すべきなのか。

今からでも取り下げるべきではないのか、と。

 

「・・・かよちんも、やっぱり不安なんだね」

 

「うん・・・」

 

実力とか緊張とか、そういう問題ではない。それ以前だ。

穂乃果、ことり、海未。3人の関係がぎくしゃくしていて、それがみんなに波及して、μ'sの雰囲気がおかしくなってしまった。

合宿ではみんな団結して、真剣に取り組んでいたのに。なんでこうなってしまったのか。

理由を知りたい、聞きたい、でもそれができない。みんな聞こうとしないから、聞きづらそうにしているから・・・。

 

なんで、勇気が出ないんだろう。自分を含むみんなのことに関わる問題なのに。

どうして、いつも私は・・・。

 

その時、いつもの快活そうな笑顔を浮かべ、凛が自分の肩を叩く。

 

「かよちん。・・・今は、凛たちが頑張らなきゃ。

そうすれば、きっと先輩たちもそれを見てくれて、自分たちも頑張ろうって気になってくるにゃ。それまでの、辛抱だよ」

 

「うん・・・うん。そう、だよね」

 

そう。

結局は空元気であろうと、何とか自らを奮い立たせて本番に臨むしかない。

μ'sのみんなが自信と希望を取り戻してくれると信じて。

 

でも。

 

「・・・比企谷先輩は、どうしてるんだろうな」

 

もう一つの懸念が、花陽の心に覆いかぶさっていた。

 

 

【side:八幡】

 

風邪。

これと水虫と癌、そのいずれかでも完全に治すか予防できる方法を見つけられればノーベル賞は確実。

そんな与太話を子供の頃聞いて、いつかは俺も・・・!などと妄想したものだ。

理系方面の才能がないと気づいて諦めたが。なんで医学部を受けるためにで数学まで使うんだよ。

 

それはさておき。

高坂を探しに行った日の翌朝、とてつもない高熱を出してダウンする羽目になった。まさしくミイラ取りが何とやら。

生涯何度目の惨めさを味わったかもう分かんねえなこれ。

 

「要はこういうことだな、馬鹿は風邪をひかないと言うが風邪をひいた俺は馬鹿ではないと証明されたわけで」

 

『またごみいちゃんはー・・・訳の分からない屁理屈を』

 

「たまには一人暮らしの孤独な兄貴の愚痴でも聞いてくれたっていいんでないのか?小町さんよ」

 

『まんま平塚先生っぽいよそのセリフ・・・そんなに寂しいなら千葉に帰ってくれば?

小町的にはポイント高いよ!』

 

うん、それ無理。第一転校した理由がアレだもの。

今さらのこのこと戻って行っても、向こうが迷惑するだけだろう。それに、俺自身総武高にこれといって未練はない。

せいぜい戸塚と会えなくなることぐらいだ。・・・え、材木座はって今でも向こうからしつこく連絡してきますし。

 

そんな下らないことより、目下当面の課題が未だ解決の糸口すら掴めていないことの方がまずい。

あれから高坂はどうなったのか。南や園田、μ'sの他の連中は大丈夫なのか。

病人である以上今まで我が家に来て会う訳にもいかなかった。チャットやメールはどうなのかと言えば、高坂にいくつか送ってみたものの返信はない。

向こうがこの前の一件を気にしなくなるまで待つしかないということか。

 

―――みんなのことは私も何とかやってみる。比企谷さんは早く治してライブに来れるようにしてよね?

 

3日前に見舞いに来てくれた西木野はこう言っていた。だが、本人には悪いが何の励ましにもなっていない。

問題に対処するにあたって、原因究明すらできていない状態で何とかすると言われて誰が信用するというのか。

そして実際その後の進展はないまま、今日―――クリスマスイブを迎えてしまった。

つまり、ライブ本番。

 

「ぐ・・・っ」

 

 

―――比企谷くんには、分かんないんだよ!

 

 

どう考えても、高坂が(あのアホが)いくらポジティブシンキングだとしても、それでも。

 

悪い予感ほどよく当たる。もしその通りなら、あいつらは・・・。

 

駄目だ。

もう寝ている場合じゃない。

 

『・・・お兄ちゃん?』

 

「・・・・」

 

『ちょっと!?調子悪いの?!だったらまだ寝てなきゃダメだよ!

こら、ごみいちゃん返事―――』

 

「すまん」

 

それだけ言って、電話を切った。

悪いな、小町。本当に俺はごみいちゃんだよ。

だが急がないと間に合わない、このバスを逃したら永久に地獄にとどまることになる。

 

下がったとはいえ熱はまだある。全身の倦怠感も抜け切れていない。

それでもやらなければいけなかった。

まずは高坂達に会う。そして高坂がまだ、自分を見失っているのだとしたら。

最悪ライブの出場を取りやめさせなければならない。そうなれば、どうしてもμ'sに瑕がつくことは避けられないだろう。

それでも失敗による破滅より遥かにマシな選択だ。俺たちはもう、無限の可能性などという謳い文句を信じて行動するような歳ではない。

だから無鉄砲に突っ込むのではなく、時に戦略的撤退を選ぶこともしなくてはならないのだ。

 

着替えを済ませ、最低限一般市民から怪しまれないように身なりを整えると、すぐに家を出る。

 

「どうにか、間に合ってくれよ―――」

 

 

【side:???】

 

 

(先輩として、忠告させてもらうわ。

今は貴方たち、ベストな状態じゃない。リタイアするべきよ)

 

 

(まだ―――まだ、これからなんですっ!穂乃果、負けませんよ!)

 

 

 

 

(おい、今センターの娘、倒れた・・・よな・・・?)

 

 

(ヤバいぞ!早く救急班呼べ、急げ!)

 

 

(会場の皆さん、申し訳ありませんが一時ライブを中断いたします!暫くの間そのままでお待ちください!)

 

 

 

 

青春は、消耗品。

 

そんな言葉を、何かの映画で聞いた気がした。

 

当たり前の話だ。

人間は必ず死ぬ、ならば人生の一部分たる青春もまた然り。

そして、ガラス細工のように脆いということも。

 

一旦砕けたガラス細工は、精巧であればあるほど、二度と元には戻らない。

 

 

―――そう、"元には"。

 

 

 

 




ラストは三人称。
つまり神の見えざる手ならぬ、見えざる目。そういう風に解釈して頂ければ。

・・・中二過ぎるだろ俺・・・。

それと、ラストを絶望と見るかかすかな希望を感じ取るか。
皆様にお任せいたします。


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第二十二話 こうして彼ら彼女らは、振りだしへと戻される。


9月中に一期の内容を終わらせる・・・そう思っていた時期が僕にもありました。


という訳で!
どうにかこうにか暇もでき、(一時的に)スランプ脱出!皆さまお待たせいたしました。
・・・まってるひと、いるのかなぁ?あはは。




走馬灯。

それはいつも、決まって死にかけた時に見えるものとされる。

 

由比ヶ浜の犬を助けるため、車に飛び込んで轢かれたあの時もそうだった。

中学時代にフラれた時のこと、黒板に指名手配犯風に改造された俺の写真が貼り付けてあったあの日のこと。それが意識を失っている間、ずーっと脳裏に蘇ってきたもんだ。

・・・もうホント碌でもねえな、俺の人生。死ぬ前に回顧録でも出したら売れるかもな。

 

いや、そんな暇はない。なにせ今、どういうことか黒歴史が脳裏に蘇っている。現在進行形で。

まさに八幡、死亡フラグまっしぐらだね!数秒後に車に轢かれちゃう可能性が微レ存・・・・?

 

「・・・だからんな場合じゃねえっての」

 

一人でボケて、一人でツッコミを入れる。まさにぼっち最強伝説。

まあ、今まで病気で一日中寝ていた身で全力疾走しているのだ。そういう下らないことでもしなければ、逆に正気を保てない。

さもないと瞳孔の開いたスマイルを周囲に振り撒き、即座に通報されるまである。

 

さておき、現在時刻は午前11時43分。ライブ開始は午前11時。

言うまでもなく大遅刻だが、病気のことは伝えているので情状酌量の余地は・・・あるだろ、多分。

それに高坂達の順番は、午前中に行われる第一回戦では確か最後の方となっていた。まだ、急げばギリギリ間に合うはずだ。

あいつらのライブが始まる前に。

 

あの雨の日以来、高坂は落ち着いただろうか。それとも、未だ自分を見失ったままなのだろうか。

ぼっち風情が他人を心配するとはと笑われそうだが、あいつがコケたらμ'sがコケる。そうなれば音ノ木坂学院そのものが危うくなる。

大学受験を前にして通っている高校が潰れました、そんな洒落にならない悪夢も現実になるかもしれない。

高坂のように熱烈な愛校心は俺にはないが、それでもその様な事態になることは絶対に避けたい。そして、俺にとっての"本物"をもう一度信じてみたい。

だからこそ、今まであいつらに微力ながらも協力してきたのだ。

 

それが、向こうから自壊するようなことになったら。

自分の努力の結晶が無残に壊れていく様を、冷静に見つめられる人間などいるだろうか。俺だって直視できない。

高坂達だってそれは同じだろう。

 

ならばやるべきは一つ。高坂達に会うこと。

もし高坂がまだ冷静さを欠いているのなら、出場を止めること。

それができれば、最悪の事態は何とか回避できるはずだ。

 

急げ、急げ―――

 

 

ブーーーッ!

 

 

・・・?なんだ、俺生きてるじゃん。

一瞬、車のブレーキかと思った。にしては音が小さすぎるし、車も怒り狂ったDQNなドライバーも近くにはいない。

思わずズボンのポケットを探ると、スマホが振動していた。

相手は材木座・・・おい、何でこんな時に、切るぞ・・・。

 

 

『お主はどこにおる?

我はアキバのライブだ 高坂氏が倒れた はよう!』

 

 

・・・は?

 

電話ではなくチャットの新着だと知って全文を読む。瞬間、頭が凍り付く。

 

材木座がライブ会場に入ることは置いておく。

まさかあいつが、出場者の控室などに行けるはずはない。あいつでなくとも男が勝手に入れば取り押さえられるか通報されるだろう。

 

ということは、もうすでにあいつらは舞台に・・・そして高坂が・・・

 

「・・・クソっ!」

 

今度こそ周囲のことなど気にせず、会場へと走る。

 

 

歩行者天国に作られた仮設ステージ。

本来なら、そこではキラ☆キラなアイドルが聴衆に笑顔を振りまきながら演技を披露しているはずだった。

だが今、舞台にいるのはアイドルではない。スタッフとおぼしき男たちが、拡声器でライブの一時中断を叫んでいる。

そして観客席はドルオタ達の怒号の嵐。普段はこいつらだってこんなデカい声を出してやいのやいのと騒がないだろうに。

それでも群れを成すとこの有様だ。赤信号みんなで渡ろう怖くない、の精神は間違いなく遺伝子レベルで日本人に刻み付けられているんだろう。

 

で、当然そんな中にもノリについていけない奴というのは居る訳で。

目当ての人物を見つけるのはそう大変でもなかった。・・・やっぱりお前、ぼっちだろ。人のこと言えないけど。

 

「材木座!」

 

「む・・・八幡!貴様今まで何を―――」

 

「風邪で寝込んでた、悪い。・・・高坂が倒れたってのは、いつだ」

 

普段ならこいつ相手に悪いなんて気遣うことはなかったろうが、今は気にしていられなかった。

 

「・・・およそ8分前ぞ。理由は分からぬが、前に出場するグループが唐突に辞退したのだ。

それで高坂氏らの出番が早まった。そして出番が来て、演奏が始まって1分ほどして・・・」

 

・・・ああ、ダメだこりゃ。

 

あの雨の日の特訓が原因かは知らない。とにかく高坂は、心だけでなく体にも不調を抱えていた。

そして今日になってその無理が祟り・・・もう犬猫でも容易にその後の展開は想像できる。

バカ正直ゆえに体調不良も何とか誤魔化していたのだろう。その労力を、別なところで発揮して欲しかったのだが。

 

ステージで倒れた。それも、演奏途中に。

最悪のシナリオドンピシャだ。演奏が終わってからとかなら、まだやりきったからと言い訳も効く。

やりきる前にリタイアしてしまってはそれができない。会場のこの混乱を引き起こす原因を作ってしまったことといい、μ'sのイメージ悪化は避けられないだろう。

 

「・・・八幡。我も、貴様に謝っておかねばならぬことがある」

 

「何がだ」

 

「ライブが始まる前、高坂氏らと会って声を掛けられたのだが・・・その時から、高坂氏は様子が変だった。

今にも崩れ落ちそうで、何とかそれを誤魔化そうと必死になっておった。

周りのおなご達も皆、それに気付いていたが、どうにも声を掛けられんように見えた・・・あの時、もし我が何か一つでも引き止めることができていたら」

 

「・・・お前が気に病むことじゃない。俺も、押しが足りなかった」

 

メールや電話、相手が出なければ出るまでしつこく送ることもできた。

だが俺は、生憎ぼっちでコミュ障なので~と、無意識のうちに自分に言い訳をしていた・・・のかもしれない。

ストーカー紛いだの勘違い熱血だの、そんなのはクソ喰らえと。

 

やらずに後悔するよりやって後悔しろとは、よく言ったものだ。

 

「後始末をしてくる。お前はどうすんだ?」

 

「貴様が戻ってくるまで、我はここにいよう」

 

「・・・そうか。雨降るらしいから気を付けろよ」

 

「承知の上ぞ、貴様も気を付けるがよい」

 

控室は、確かステージの裏だ。

後始末というか事後のケア程度なんだが。それすらできるのか、どうにも疑わしいように思えた。

 

 

「・・・それじゃ、俺はこれで失礼します」

 

「分かったわ・・・お大事にね」

 

「その、家まで送りましょうか?」

 

「いや心配ない。そもそもそんなに体調が悪かったらここまで来れないしな」

 

「気を付けなさいよ?アンタにうつされたらにこが困るんだから・・・」

 

お気遣いどうも。というかやっぱりツンデレじゃねーか。

病の身だとやけに人の情が温かく感じられるものらしい。

 

と思ったのもつかの間。

控室である仮設テントを出れば、他のスクールアイドルグループの連中―――つまりぼっちの敵たるJKの冷たい視線に晒された。

・・・いやおたくら、俺一応許可取ってここにいるんだからね?おたくらに用はないからね?何もしないからね?だからジロジロ見るの止めてください死んでしまいます。

全部この目がいけないんです刑事さぁん!って、まだ俺捕まってないから。

 

「・・・やっぱり比企谷さん、まだ風邪が治ってないんじゃない?何ならウチの病院まで送るけど?」

 

「・・・いや、これは体調不良じゃなくてだな・・・とにかく俺のことは大丈夫だ、急に訪ねて悪かった」

 

「別にウチらはそんなこと気にせん。それより君、ちゃんと体直さなあかんよ?」

 

「分かってます、それじゃ」

 

僅かばかりのμ'sメンバーらの温かい見送りと、大多数の冷たく余所者の男を歓迎しない視線に追われ、その場を去る。

 

・・・はぁ。

 

結果は予想通りというか、期待外れというか。やはり俺からはこれといって何もできずに終わった。

 

取り敢えず高坂は高熱こそあったものの重症ではないこと。医務テントでの処置が済み次第家へ送ること。

そしてμ'sはここでライブの出場を取りやめること。そのことを全員から確認した。

 

一応今回のライブはトーナメント形式なので、当然敗者復活戦のようのものもあるにはある。

だがリーダーたる高坂が欠け、皆が意気消沈している中出場を続けても碌な結果が出せないのは目に見えている。そこで残ったメンバーの満場一致で辞退が決定した訳だ。

会長達からは俺に相談せずに決めたことを何度も謝罪されたが、そんなことは端から気にしていない。そもそも男の俺に相談が来ることなど考えてもいない。

それに繰り返すようだが俺はあくまで補佐役なのだ、あいつらと一緒に踊って歌う訳ではない。仲間同士で話し合って決めたことに水を差すのは野暮と言うものだろう。

 

それよりも、今はこれからどうするかを考えなければいけない。

今の状態は非常にマズい。が、こうまで悪くなってはこれ以上悪くなりようもないだろう。

つまり、高坂達の関係が崩れるきっかけを作った―――言い方は少々アレだが―――南に話を聞くきっかけができるわけだ。

もうこっちも逃げて誤魔化すことはできない。それは向こうも同じこと。

明日、メイド喫茶でのバイトが終わり次第待ち合わせすることになっている。ラブコメ要素が皆無なのが悲しいが、俺の人生にそんなものはなかったぜ!・・・と考えれば何も問題はない。

ないよね?うん。

 

空を見上げる。相変わらずのどんよりとした曇り空。今の気分にはおあつらえ向きだ。

ライブはというと、じき再開するようで観客の騒ぎもさっきよりかは収まってきている。

それだけ人が減ってしまったということでもあるが・・・またしても、柄にもなく申し訳ないと感じる。

対処のしようがないので、全くの無意味なのだが。

 

取り敢えず、材木座を拾って今日は引き上げるとするか。

 

「―――ちょっと待って」

 

・・・なんだよ。

思わず声に出そうになるがそこは堪える。

 

今の状況、不機嫌そうな声。となると、ほぼ間違いなく今のは俺を呼んだのだ。

だから、俺はもう用は済んだからすぐ出ていくっつうの。出入り口に向かって歩いてくのが分からんのか。

 

しかし無視すれば、確実にこの場の女どもを敵に回すことになる。生きて無事には出られないだろう。

やむを得ず背後を向く。表情はいつも通り、見る者に「何アイツ?暗っ」と言われそうな無感情さを保ったままで。

 

そこに居たのは、綺羅ツバサ。人気スクールアイドルグループ、A-RISEのリーダー。

 

 

「・・・キミが、μ'sのマネージャーさんね。ちょっと用事があるの、顔を貸してもらえる?」

 

 

―――やはり、ただではここを出してもらえないようだ。

 

 

 




投下完了。
再び、お待たせして申し訳なかったことと、そして言い訳。

前話を投稿した際、残念ながらあまりいい評価はいただけませんでした。
過剰にシリアス分を入れてしまったこと、そして穂乃果たちμ'sメンバーを暗いキャラにしてしまったこと。それをズバリ指摘されてしまいました。

主人公が八幡であるという都合上、そしてμ's崩壊の危機を迎えるこの辺の話はシリアスなくしては通れないのですが、やはり僕自身の未熟さゆえにやり過ぎてしまった感はあると思います。
これからも試行錯誤しながら、ゆっくりとではありますが書き続けていきたいと思うので、よろしくお願いします。

次回は、八幡とA-RISE遭遇編。そしてことりの秘密が遂に明かされることに・・・
ご期待(?)ください。


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第二十三話 ライバルの忠言は、時として耳に痛い。

また遅れて更新。
シリアス回、そろそろ終わらせたい。でもテキトーに済ませる訳にも・・・。

例によって改変が酷いということは申し上げておきます。



 

【side:μ's】

 

「・・・ことり。今言ったことを、もう一度言ってくれませんか」

 

「・・・・」

 

一人の少女を、四人の少女たちが取り囲む。

言うまでもなく尋常ならざる光景だ。

 

沈黙は金とよく言われる。が、必ずしもすべての状況に当てはまる訳ではない。

この場合も―――南ことりの沈黙も、この場の空気が一層悪くなることにますます拍車をかけていた。

 

2分ほどして、テーブルに矢澤にこの拳が叩きつけられる。

狭いカラオケボックスの中に、怒声が響いた。

 

「どうしてっ・・・そんな大事なこと、にこたちが聞くまで黙ってたのよ!

アンタとμ'sの今後に関わることでしょっ!」

 

「にこっち、今はそない言うたらあかん。ことりちゃんはまだ留学行くしか言うてへんやろ?」

 

「それがなんなの?!パリに服飾の勉強に行くんでしょ。

そしたら、これからまたライブに出場しなきゃって時にどうやって参加するつもり?アンタだけ欠番なんて訳にいかないでしょうが!」

 

「矢澤さんっ!・・・お願いだから、落ち着きましょう。もっと早くにこの事を聞かなかった私たちにも、責任があるんだから・・・」

 

今にもことりに飛び掛からん勢いのにこを、絢瀬絵里が制止し、にこは渋々席に座る。

 

そこで、再び沈黙。先ほどの嫌な空気が蘇っただけだ。

 

誰もがこの雰囲気を変えたい、変えなければと思っている。

でも、できない。雰囲気が、空気が、皆から勇気を奪ってしまうから。

 

―――ピリリリ!

 

その時、誰かの携帯が鳴り出す。

ギョッとしつつも、同時にホッとしてもいるだろう。

ああ、この嫌な空気から解放されるかもしれない、と。

 

鳴ったのは、園田海未の携帯。

 

「・・・すみません、少し席を外します。終わったら戻ってきますので」

 

足早にカラオケボックスの一室から立ち去る。

海未はそんな自分を恥じる。それでも心の中ではどこか安堵感を覚えていた。

少しでもいい、あの重苦しい空気から逃げ出したい。

 

 

だが、神はそれを許さなかった。

 

 

何故なら、電話の相手が高坂穂乃果だったから。

 

 

【side:八幡】

 

表立って女に逆らうな。せいぜい面従腹背でいけ。

でないとこの世は凄まじく息苦しくなる。

 

親父の忠言で役立った数少ないものの一つがこれだ。

いじめられていた女子を庇って村八分になった自分。相手を高嶺の花と知っていながら告白して袋叩きにあった自分。

懐かしい、だがクソッタレな思い出だ。

 

だから俺は女子には基本、逆らわない。

 

相手が大人気スクールアイドルのセンターだとしても。こちらの意思を無視して喫茶店まで連行されたのだとしても。

・・・だから周囲のお客さんよ、犯罪者みたいに見ないでくれます?ひそひそ話も止めてくれます?パパラッチでも三流芸能ライターでもないんで、俺。

あと店も止めろよ、こちとら客だぞ客。

 

「周りのことは気にしないで結構よ。どうしてもって言うならあとで私からオーナーに言っておくけど」

 

「・・・大丈夫っす。つか店のオーナーに物言いできるってどんだけですか」

 

「曲がりなりにもアイドルなのよ、私。・・・うーん、やっぱりちょっと五月蠅いわね」

 

そこで綺羅ツバサは店員の方をチラッと見る。慌てて店員が「どうぞお静かに願います」と客に促し、騒めきは止んだ。

・・・流石はトップアイドル、格が違う。この程度の店など簡単に揺さぶりをかけられる訳か。

どこぞの大魔王を思い出させる。あの人クラスになると、ただ笑っていても何を要求しているか瞬時に判断することを求められるレベル。

さぞかし店員の胃にはよくないだろう。早めの転職をお勧めする。

 

「よし。じゃ、まずどっちから先に聞く?」

 

「なら、俺から聞かせてもらいましょうか。―――あんた方A-RISEが、出場を取りやめたことについて」

 

―――そう。

この理由を教えると言われなければ、極低い確率で振り切ってでもあの場を逃げ出そうとしたかもしれない。

 

あのライブの時、A-RISEはμ'sの前の順番だった。

それを彼女ら3人―――綺羅ツバサ、統堂英玲奈、優木あんじゅ―――は突如辞退を宣言。

結果μ'sの出番が繰り上がった。その後の展開は、言うに及ばず。

 

もし、A-RISEの面々が予定通り出場していたら。

何とか俺は高坂達の元へ駆けつけ、話もでき、最悪の事態は避けられていたかもしれない。

そんな後悔と、少々の目の前の人物に対する怨念を俺が抱いていなかったかと言うと嘘になる。

恥ずかしく浅ましいことではあるが。

 

「あんた方、ね・・・まあ、あんな風に連れ出したんだし無理もないか」

 

「分かってるんでしたら、早く話を進めましょうよ」

 

「ま、ま、落ち着いて。―――貴方、青春とか友情とかライバルって聞いて、どう思う?」

 

胡散臭え。

ゲロ以下の匂いがプンプンします。

 

まあ最近はここまで酷くはないが、自称リア充(笑)どもが軽い感じでそんな言葉を使っているのを見聞きすれば軽蔑せずにいられない。

本当の青春ってのはなあ、苦くて息苦しくて辛いんだよ。多数の人間がそれを引き受けてるから、一部の連中は平和を謳歌できるんだ。

 

綺羅ツバサも、どうやら俺の苦々しい思いを感じ取ったらしい。

・・・うん、まあ、こればっかりは顔に出てたと思うししゃーないわな。苦笑いで済ませてもらえるだけありがたいものだ。

 

「その顔だと、あり得ないとか下らないとか思ってるみたいね」

 

「・・・まあ、ご自由に想像してください」

 

ぼっちの卑しい僻み根性とでもな。

 

「貴方自身がどう思ってようと、それはそれで構わない。

でも、その下らないことを本気で信じてる人間も、世の中には存在するの。私たちみたいにね」

 

「と言いますと?」

 

「もしかしたら、知ってるかもしれないけれど。

私たちが"A-RISE"としてデビューしたのは、UTX学園に入ってからなの。それ以前は、ド素人の女子中学生3人が雁首揃えた無名のアイドル。

当時はスクールアイドルが一大ブームになる前だったし、無理もないわね」

 

聞いたことがある。

矢澤から教えられた、スクールアイドル専門のニュースサイトの特集やインタビュー記事。

当然ながらA-RISEの記事もあるのだが、その中に"下積み時代"の彼女たちの物語があったのだ。

 

「嫌味に聞こえるかもしれないけど、その時は本当に大変だった。

まず親も教師も猛反対するし、同級生からも白い目で見られる。活動費も全部自分たちでこっそりバイトしてどうにか貯めてた。

そんな辛い時でも―――たった一人、私たちに力を貸してくれた人がいた。

それに、いつか私たちもこうなりたいと思った、憧れのライバルも」

 

それも知っている。

当時彼女たちが通っていた中学の生徒会長。彼女らを支え、浴びせられる心なき批判や中傷に対し堂々と反論した。

そしてじわりじわりと人気を上げていき、スクールアイドルの礎を築いたといわれるグループ、"Starlights!"。

もっともメンバーの高校卒業で一年前に解散したそうだが。

 

「あの時は苦しかったけど、同時にそれを乗り越えるのがすごく楽しかった。

それに、こんな自分たちに手を貸してくれる人がいたことが嬉しかった。初めて本気で憧れた人ができたことも。

それがなかったら、"A-RISE"としてデビューするまでにとっくに心も折れてアイドルなんて諦めてたでしょうね」

 

要は、人は一人では生きていけない、と。

友情は美しい、ライバルは貴いものだ、と。

 

俺は必ずしも当てはまらないだろうと考えているが、彼女が本気で信じているなら止めることはできない。

思想の自由は最大限尊重されてしかるべきだ。

 

「・・・それが?今回の辞退とどう繋がると?」

 

問題はこれだ。

こっちはあんたの思い出話に付き合いたくてこの洒落た喫茶店にいるわけじゃないんだが。貴重な休息――主にプリキュア――の時間が台無しだ。

そのくらい察してるよな?トップアイドルでUTX学園の優等生の綺羅ツバサさんよ。

 

「・・・それが、辞退の理由よ。

親友もライバルも存在しないライブに出場、私たちはあっさり優勝だなんて、そんな味気のないライブ冗談じゃないわ。

確かにファンのみんなには悪いと思ってる。でもやるからにはベストな環境で、ベストのパフォーマンスを見せたかったの。

だから、μ'sが参加すると知った時は本当に嬉しかった。・・・なのに」

 

「ちょっと待ってください。おたくはあいつらと個人的に付き合いでも?」

 

「あるわよ。私の母と南さんのお母さんは古い付き合いで、南さんとも会って話す仲なの。

それに私も貴方たちのPVを見たのよ。新人でここまでハジけてるのなんて久しぶりってね」

 

その時、綺羅の目つきが一変する。

俺を見据え―――と言うより、睨みつけるように、表情も険しくなり。

 

そして静かに、俺を問い詰める。

 

 

「だから、余計に許せなかった。

南さんが海外留学のためにアイドル活動を続けるか迷って苦しんでいるのに、力になろうとしない、話も聞こうとしない貴方たちが」

 

 

・・・・。

 

隠し事ってのは、それだったのか。

 

「・・・案外ショック受けてないのね」

 

「多少はありますよ。ただ、向こうから言いだしづらいってのも分かります」

 

「だったら!なんで貴方、そんな風にぬぼーっとして斜に構えてるのよ!

μ'sのマネージャーなんでしょう?!メンバーが苦しんでるのを放置してどうするつもりなの!」

 

だからいつ俺が・・・と、心の中ですら愚痴るのが許されないほど、綺羅の剣幕は凄まじかった。

一時静まり返っていた客が再びこちらに目を向ける。そちらに気を払うことも、やはり許されないらしい。

 

「・・・貴方だけに言うのは不公平だから、他の人たちへは英玲奈とあんじゅに代わって言ってもらうことになってる。

上から目線の余計なお世話って思われるだけかもしれないけど。それでも、このまま南さんを一人で追い込ませるわけにはいかないわ。

皆で本人の苦しみを分かち合うべきよ」

 

「俺も、南には話をしなければとは思っていたんですがね」

 

疲れからか、本人も認めるように上から目線の物言いに少々カチンときたのか、つい言ってしまう。

綺羅は一瞬ポカンとして・・・そして、鼻で笑い飛ばすかのように、言った。

 

「・・・今さら?ライブが終わってから?

失敗して、高坂さんも倒れて、μ'sが危機的な状態になってから?」

 

「遅すぎるのは分かってますよ」

 

「分かってた、思ってた、何から何まで言い訳がましい男ね。

・・・"分かってる"だろうから言ってあげるけど、貴方、マネージャー落第ね。

そのしょぼくれた面らしく、教室の隅っこで一人でぼけーっと過ごしてれば?」

 

「・・・・」

 

「貴方が今まで放置してた理由、私には分かるわ。

どうせ目が腐っててキモがられてるから、相手にされないだろうから、南さんには他にも友達がいるから。

だから自分が動かなくても問題ない。概ね、そんなところじゃないの?

 

 

そんな捻くれた情けない考えしてるから、みんなからキモがられるのよ」

 

「・・・ッ」

 

 

―――手前に俺の何が分かる。軽口も大概にしろ。

 

 

そんな感情的な反論ぐらいしか、今の俺には返せそうにない。

 

綺羅の指摘は、間違っていないのだから。

南だけでなく高坂への対応にも、当てはまっているのだから。

 

感情だけで動く人間をバカと呼ぶ。

そこまで堕ちきるわけにはいかなかった。

 

「ぐうの音も出ない?・・・ますますもって、マネージャー失格。

顔洗って出直してきなさい」

 

「・・・ご忠告、痛み入ります」

 

「・・・フン、そう」

 

そこでお互い支払いを済ませ、別れる。

後に残ったのは、失望と後悔。そして多少の不快感。

 

 

それは、昔の俺が味わったことと何ら変わりなかった。

 

 

 




終わりです。

ツバサが嫌味な感じのキャラだったり、八幡が何も役に立ってないとか色々駄目なところはありますが、作者に悪意はないということは分かっていただければ幸いです。

今後の予定としては、一期の内容が終わったら二期を飛ばして劇場版に入り、それを終えて本編完結・・・という風なのを考えています。あとは各μ'sメンバーの外伝とか。
来月劇場版がDVD化されますしね。
・・・いや、実の所まだ二期全部見てないんだよなぁ、ってのが本当なんですが。
夏合宿は外伝にしちゃう?

・・・それ以前に、本編を進めなきゃどうしようもないんだけれども。


余談ですが伊藤計劃の「ハーモニー」、見てきました。
八幡があの世界にいたら、どう思うんだろうなぁ。


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第二十四話 決断は苦しく、苦い。

急募!
ガルパン×ラブライブのクロス作品、求ム!賞品はマッカンと干しイモ一年分!

・・・落ち着けよ僕。
だって絶対誰かやってると思ったのにないんだもの・・・。劇場版公開されたんたぜ、なあ?

さておき本編です。話が進んでないとか言わないで(泣)




「・・・それじゃあな」

 

「・・・うん。またね、比企谷くん。ごちそうさま」

 

アキバでのライブ翌日。

ファミレスで安いコーヒーとケーキを食した後、俺と南は別れた。

 

まあ想像は付くと思うが、女子と二人きりだというのにそれはそれは重苦しいティータイムであった。

何だよ放課後ティータイム()って、あんなキャピキャピしたもんじゃ断じてねえよ。

せめて砲火後ティータイム()にすることを要求するまで・・・どこぞの金剛型似非英国淑女を連想するからやっぱダメか。

 

俺は俺で先日綺羅ツバサと最悪の出会いを果たし、別れ際には俺の職務怠慢ぶりをクソミソに貶された。

南は南で――会う前に園田から連絡を受けて知ったのだが――矢澤たちに海外留学のことをゲロった結果、当然の如く何故黙っていたのかと責めたてられていたらしい。

そんなブルーな二人が集ったところでロマンスが生まれるはずもない。どころか、席に着くや否や南が震えながら泣き出す始末。

周囲の客は別れ話は外でやれ、飯がマズくなる・・・とでもボヤいたことだろう。

 

そんなことで俺から話を聞くことはなく、少ない懐からスイーツを奢ってやるのに留めておいた。

それでも南の精神が完全に落ち着いた、ということはない。HPにすれば10も回復していないと思う。

いつもニコニコあざとい笑顔の南が、今日はとうとう一度も笑うことがなかったのだから。

 

そして別れる前に、南はポツリとこう言った。

 

 

―――私が、μ'sを抜けて自分の夢を追いかけるのは、許されるのかな・・・?

 

 

これがただの部活動なら、自分で考えろと言って終了だ。

しかしμ'sの活動は、廃校危機に陥っている音ノ木坂の命運を懸けたもの。メンバーの脱退に関しておいそれと答えを出せるものではない。

特にμ'sのリーダーたる高坂の幼馴染であり、衣装製作を担当している南が抜けるというのは大きな痛手だ。

 

本当のことを言うなら、抜けてほしくないに決まっている。

 

南ことりという人物をそれなりに信頼しているということもあるし、何よりμ'sを――俺が"本物"だと信じたものを、壊れてほしくないと願っているのもある。

もう一度信じてみようと、この新天地でやってきた。ある種の利己的な行いだと分かっていても。

なのに、自分が創ってきたもの――俺はせいぜい、建材を提供しただけにすぎないだろうが――それが、実はただの砂上の楼閣に過ぎないと気づいてしまったら?

心に残るのは、虚無。そして後悔。

やっと掴み上げたはずの"本物"は、これまでの人生の中でもひときわ激しい黒歴史として擦り付けられるだろう。

 

ああ、くそ。

これなら転校してからも、俺らしく斜に構えたひねくれぼっちとして生きていけばよかったのだ。

 

「・・・・」

 

いかん、また自棄になっている。

 

思わず空を見上げる。冬らしい、どんよりとした曇り空。

昨日から全く変わっていない。そこにお前の求める答えなどないというように。

 

そして、俺も事態も停滞したまま何一つ変わっていないということも。

 

 

しばらく歩くと、いつの間にか「穂むら」の前に居た。

・・・やってることがストーカーっぽいとか言うなよ?そうだ、これは偶然なんだ。

何度か訪れたこともあるんだ、だから普通にしていれば客として見られる・・・と、思いたい。

 

「?あれ・・・比企谷、さん・・・ですよね?」

 

すると、店から店員らしき少女が出てくる。

高坂雪穂、あいつの妹。俺も以前何度か顔を合わせたことがあったな。

その度に雰囲気があまりに小町そっくりなので戸惑っていたが・・・。

上のきょうだいが駄目な奴だと下はみんなこうなるのかもしれない。は?俺はって?いやいやいや、今は違いますから。

 

「もしかして、お姉ちゃんのお見舞いに来てくださったんですか?」

 

「・・・どうも。見舞い品とかはないっすけど」

 

ところで、なぜ見舞い品というと籠に入ったフルーツなのか。バナナは兎も角、リンゴや梨は切らなきゃいけないしマジ面倒臭い。

病人に丸齧りしろと言うのは酷だし、かと言って本人や家族、看護師に切ってもらうというのもそれはそれで余計な手間を与えることになる。

相手を気遣ったつもりがこれでは本末転倒だろう。・・・俺の場合はそれすらなかったとか・・・言うなぁ・・・。

母ちゃんと小町には今後贈り物が届かない呪いをかけてやろう、そうしよう。

 

「いえいえ、そんなお気になさらず!お姉ちゃんももう熱は下がってますから。

会ってあげてください、きっと喜びますよ」

 

そう言うと背中を押され、無理矢理店内へと押し込まれる。

・・・あーうん、この強引なところもやっぱり小町そっくりだわ。

 

何より高坂が俺に会ったところで喜ぶはずもない。それは自分でもよく分かっているはずだった。

それでも――会いたい、ではなく会わなければいけない様な気がした。だから引き寄せられるようにここへ来た。

・・・ストーカーを通り越して電波系か。俺も末期だな・・・。今ならキモ谷と呼ばれても怒らないまである。いやそれもちょっとおかしくね?

 

案内されるがまま、家の階段を上る。

登り切って少し歩けば、すぐあいつの部屋だ。妹が部屋の扉を叩く。

 

「お姉ちゃーん!比企谷さんだよー!お見舞いに来てくれたよー!」

 

「・・・ぅ、ぇ・・・?ひきがや、くん・・・?」

 

中からか細く、高坂の声が聞こえた。

 

―――大丈夫じゃなさそうだな。

 

熱は下がったかもしれないが、心身ともに健康を回復したとは到底思えない。

今日会った時の南と同じだ。

 

それでも今、会って少しだけでも話をするべきだろうか。それとも―――

 

その時だ。

 

「―――・・・いいよ、入ってきて・・・」

 

なんと。

 

俺は高坂雪穂と顔を見合わせる。流石にこの辺りは小町ほど図太くもなかったようで、不安が感じ取れる。

ただ、俺が高坂と会うことを否定してはいないようだった。

 

ならここは遠慮なくいくとしよう。

 

「・・・お邪魔します」

 

中に入る。

病人の、とはいえ、女子特有の甘ったるい香りと整頓の行き届いた部屋は以前訪れた時と何ら変わりない。

そこは腐っても女子の部屋と言うべきか。

 

「・・・比企谷くん」

 

そして高坂は、ベッドの上に腰かけていた。

まだ表情にいつものような、最初に会った時のような光は戻ってはいない。病み上がりの俺が言えたもんじゃないが。

 

そこで高坂雪穂はお茶を持ってきますと言い残し、部屋を出ていく。

 

二人。重い沈黙。

一瞬眩暈がするほど気分が悪くなった。いかん、落ち着け比企谷八幡よ。一言も声を掛けずにどうする。

 

「・・・よう。具合、どうだ」

 

「へへ・・・今は、だいじょぶ、かな・・・」

 

うん、大丈夫じゃないね。そもそも普段のお前ならそんなこと言うまでもなくオールオッケーっぽいし。

それはともかく。ならば何を話すか?

のこのこ勝手に人様の家を訪れておきながら、今更こんなことを考えているとはと分かってはいるのだが。分かっていても実行できない、そこがコミュ障の悲しい一面である。

誘われるまま合コン参加してもちびちび酒呑むだけで話しかけられても「アッハイ」しか言えないとかな。絶対にあんなの参加しねえと改めて決意したのであった。

 

「・・・私ね、聞いちゃったんだ。

今回のライブ、敗者復活戦に参加できたのに、みんな穂乃果を気遣って取りやめたって。

それに、ことりちゃんのことも。私が夢中になってアイドルやってるのに、それに水を差すみたいなこと言えなくて、ずっと怖くて悩んでたって・・・

 

みんなっ、私のせいで、こんなことに・・・っ!」

 

「・・・・」

 

水を差す云々はこいつが付け足したことだろうが、あとはすべて真実だ。

安易にお前は悪くないよなどとは言えたもんじゃない、むしろ過剰な肯定は却って反発を招くだけだ。

それが通じるのはせいぜい葉山あたりだろう。イケメンは存在そのものが(無)罪ってはっきり分かんだね。

 

ふと何の気なしにジャケットのポッケを漁ると、マッカンが一本あった。・・・いつから青狸の四次元なんちゃらになった?

まだ手を付けてないし温かい。それなら問題ないか。

 

「・・・おい、取りあえず落ち着け。これでも飲め」

 

「あ、ありがと・・・ってこれ甘すぎだよ!?コーヒーじゃないよ?!」

 

あ、素に戻ったな。てかお前前も飲んだだろ。

やはりマッカンの力は偉大であった。ジークマッカン、千葉県民全てに唱和の義務を課さねば。

 

さて、次。どう話を保たせるか?

 

「昨日のライブのことはひとまず忘れろ、園田が言うにはSIFに励ましのメッセージがいくつか来たぐらいで大した騒ぎにはなってない。

あと南のことで必要以上に罪悪感を感じるのもやめろ。話し出せなかったあいつにも、同じ幼馴染の園田にも、俺や他のメンバーにも罪はある」

 

「ううん、それは――」

 

「チームで活動するってのはそういうことだろ。

リーダー一人だけが全責任を負わされてあとの残りは無罪、それが健全って言えるか?」

 

高坂が独裁的な権限を握っているのなら話も変わってくるが、μ'sの場合一応は合議制で動いている。

だから、責任は全員に帰すのがまっとうな考えだ。良くも悪くも平等というのはそういうこと。

誰か一人がいいとこ取りして状況が悪くなったらトンズラというのは許されない。幸いそんな奴はいないというのが奇跡だったが。

 

「・・・そっか。そう、だね。

ごめんね、比企谷くん。この前の、ことも・・・」

 

「そのことも気にしてないから忘れろ。

それよりこれから先のことだが・・・南の留学の件は、余程のことがない限りはもう覆らないはずだ」

 

「・・・うん」

 

「それで―――お前はどうする?あいつなしで、μ'sを続けていくつもりはあるか?」

 

今後の方針。

こればかりは、グループにおいてリーダーが決定しなければ円滑に活動が進まない。

勿論周りもサポートするなり物申す必要はあるが、まずはこれと決めていただかなければならないのだ。

 

だから俺は聞いた。

高坂穂乃果よ、お前の未来は何か、どうするのかと。

 

 

「「・・・・」」

 

 

答えは、まだ出ない。

 

 

【side:雪穂&ほの母】

 

「いらっしゃいませー・・・って、おかーさんか・・・」

 

「・・・あんた、親が仕入れ先から戻ってきたってのに気遣いのひとつもないのかね。お父さんは?」

 

「薬局。お姉ちゃんのお薬切れたから買ってくるって」

 

もう熱も下がってるのに本当親ばかなんだから、そう言って雪穂はため息をつく。

全くの善意からやっている行いなだけに、本人の前では嫌味も言いずらい。どうしてこうも世の父親は娘を持つと揃って親ばかになるのだろう。

 

「ま、お父さんいると初めてのお客さんがぎょっとして買わずに帰っちゃうこともあるし。たまには出てもらった方がありがたいか」

 

「・・・お母さんも大概だよね、お父さんへの態度。あ、今比企谷さんがお姉ちゃんのお見舞いに来てくれてるよ」

 

「ほほう?あのちょい悪そうなオトコノコが、穂乃果に、ねぇ・・・」

 

あ、また変な事考えてるな。雪穂は直感する。

大方病気の姉を八幡が気遣い、そのうち二人は恋に―――そんなところか。

今時の少女漫画だってそんな早くから恋愛フラグを立てるものか。

加えて姉も八幡も、恋愛面では間違いなくヘタレと言える。過去、一緒にいるときの様子を観察していればお見通しだ。

仮に二人がお互いに好意を抱いているとして、恐らく先に進みだせないままこじらせる公算が・・・可哀想だからここまでにしておこうか。

 

「ちょい悪って・・・比企谷さんに失礼でしょ、普通に親切で真面目な人だよ」

 

「そこがお父さんと似てんのよ~、外見は悪っぽいのに実は人見知りなだけのいい男ってとこ。

どうにかしてウチの店継いでくれないかね?案外お父さんともうまくやってけそうだと思うけど」

 

「・・・それ、まだ本人の前では言わない方がいいよ。嬉しさと悲しみのダブルパンチで心臓発作起こすから」

 

「ん?悲しみって何さ?

別にお母さん、あんたか穂乃果が比企谷くんに嫁ぐだなんて言ってないけど?」

 

「だっ、そうじゃないってばーもう!私宿題片付けるから、これで店番終わりね!」

 

雪穂はエプロンを脱ぐと小走りで階段を駆け上がっていく。

母はそれを見てクスリと笑う。まだまだ中学生、所詮は子供。この手の冗談を受け流すだけの余裕はないらしい。

 

「・・・ま、それはそれでいいとして、ね」

 

穂乃果のやっているスクールアイドル活動。それが今、岐路に立っているということは知っていた。

単に失敗しただけなら叱咤激励してやれば済む話。

しかしなんと、幼馴染が留学のために抜けるときた。これは知人とは言え他所の家の問題でもあるし、自分が深入りすることはできない。

 

さて、穂乃果はどうするんだろう。

 

あの娘のことだ、今頃ことりちゃん抜きで続けるなんてできない、本人に申し訳ないとでも思っているんだろう。

実際衣装作りなどで散々協力してもらっているのだ。

その恩人を無視してでもアイドルを続ける、そんなある種非情な決断が、果たして娘にできるだろうか?

 

「・・・ふぅ」

 

親である自分にも、簡単に答えが出せることじゃない。本人たちはもっと苦しいだろう。

そうしてもらうしかない。人は悩んで大きくなる、どこかの偉人の名言にもある通り。

 

「ま、お母さんは子供にゃ楽しく学校生活を過ごしてもらいたいだけなんだけど。・・・小中学校みたいなことがないように、ね」

 

そうため息をつくと、母は厨房に入り、残りの仕事を片付けに取り掛かった。

 

 

 

 




終わりです。
ほのママのキャラはこれで大丈夫かな?変なところあったら言ってください。

今後の予定をもう少し。
次話は穂乃果の過去話(この部分は作者の創作)に触れ、他のメンバーの動向を追っていきます。
その後は2話でこのシリアス編を終わらせ、そしてエピローグ1話で一期のおはなしはおしまいです。

正直僕自身もシリアス展開を考えるのがきつくなってきたので、そろそろ締めに取り掛かりたい。
読者の皆様にもこの流れを望んでいない方がいらっしゃるでしょうし、何とか頑張っていきます。
・・・ご都合主義で収束させるという悪夢もあるのですが。

では、読んでいただきありがとうございました。


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第二十五話 舞台は山場から、谷底へと転落する。

劇場版早くレンタルして~(´・ω・`)

今回と次回が山場となりそうです。


 

まだ、終わりじゃない。

そう信じていたいからこそ、俺はこの場に踏みとどまり続けている。

 

「「・・・・」」

 

しかし現実はやっぱり冷たくて、二度目の奇跡も未だ起こりえないようだった。

 

「・・・どう、しよう。どうすれば、いいのかな」

 

ようやく口を開いた高坂から出た言葉、それはリーダーらしくもない気弱なもの。

あれほどの手痛い失敗を犯し、病気で寝込んでいた以上は無理もないのだが。

 

ただ、ずっとこのまま前に進めないというのなら、よくないことになるのは確かだ。

 

「あはは・・・。穂乃果、バカだよね。

μ'sだって自分からやろうって言いだしたことなのに、勝手に暴走して滅茶苦茶にしちゃって・・・。

なのに、どうやって後始末をしたらいいか、分からないでいるの」

 

俺は何も言わず、ただ俯いて話を聞く。

 

「・・・こんな事聞くなんて、情けないって自分でも思う。でも、聞いてもいいかな?

 

 

穂乃果がμ'sを続けるのは、許されるのかな、って」

 

・・・・。

 

えらい難問を突き付けてくれるじゃねえか。

人生に正解はないとはよく言ったものだが、この質問はどう答えても×しかもらえる気がしないぞ。

突き放すのも肯定するのも何も、どれもこれも。胃がきりりと痛む。

 

だが、何をしてもダメになると言うなら、結局は腹を決めるしかない。

でくの坊のように突っ立っていても余計辛くなるだけだ。

だから、やれ。やるんだ。

 

「・・・んなこと聞くからには、まだ辞める気はないんだろ。アイドルは」

 

「よく、分かんない・・・。自分のことなのに、自分が何をしたいのかなんて・・・」

 

「分からない、自分じゃ何も決められないってのはそういうことだよ。

お前が本気で辞めようと決心してるなら、はっきりと皆の前でそう言ってるはずだ」

 

そこで高坂は、ついさっきまでの俺のようにうなだれる。

こんなことを面と向かって言われれば自分が責められているのだと、誰もがそう思うだろう。

 

だから、その幻想をぶち壊す。

 

 

「でもまあ、少し安心したわ。

今まで朝に放課後と散々っぱら付き合わされてきたのにそれが全部チャラになるって訳じゃ、今のところはなさそうだからな」

 

 

「え・・・」

 

「俺だって無償で奉仕引き受けてるつもりはない。

あっさり止めますだなんて言われた暁にはお前ん家の和菓子全部を報酬として請求するまである」

 

半分は本気だ。そんなに簡単にやめてもらっては、何のために今まで付き合ってきたのか意味が分からなくなってしまう。

流石に全部は食えないので小町にでもくれてやるつもりだが。いや4分の1が精いっぱいか?それじゃダメじゃん、俺。

 

「あはは、流石に全部は無理だよ~・・・」

 

「知ってる。冗談を真に受けんな」

 

「あー!比企谷くん最初から騙すつもりだったんだね?!ひどーい!」

 

ふぅ。

これで言いたいことは大体言った。

 

さて、今ので少しはこいつを前向きにできただろうか?

高坂は顔を上げ、俺の方を見ながら話す。一応しっかりと耳を傾けてくれていたらしい。

それならあとは暫くこいつだけで考える時間にするべきだ。というか、お互いまだ風邪が治っていないのに居続けるのはマズいしな。

一旦引き上げだ。

 

「―――園田たちは、明日も練習するそうだ。

決心がついたらいつでも来い、その時改めて南と話す機会は作ってやる」

 

「・・・分かった。ごめんね、比企谷くん」

 

「いいから、後はお前も早く治せよ?・・・それじゃな」

 

「うん、またね・・・」

 

そう言い、静かに部屋を出る。

これで少しは事態が進展してくれることを祈るしかない。どうにか、上手くいっていてくれ。

 

階段を中ほどまで下りると、妹の高坂雪穂が心配そうに佇んでいるのが見えた。

そりゃ結構長々と居座ったしな、姉貴の身に危険が及ばないか気にはなるところだろう。いい妹だ。

俺も小町が部屋に男を連れ込んだら、不測の事態に備え即座に撲殺できるよう常に身構えているまである!兄妹愛は素晴らしきもの也。

 

「あ、比企谷さん・・・お姉ちゃん、どうでした?」

 

「・・・体調とアイドル活動のことなら、俺からは何とも言えないっすよ」

 

「でも、色々と励ましてくれてたんですよね?きっとお姉ちゃんもこれで元気になりますよー」

 

・・・・。

それは、神のみぞ知ることだ。今の俺ができるのは祈り、待つことのみ。

 

「じゃ、俺はこれで」

 

「あ、待ってくださーい!お母さんがお礼にお茶菓子渡したいって言ってるんで!」

 

いや、お礼されるようなこと何もしてないからね、俺?・・・そう言う前に厨房へと行ってしまった。

やっぱりああいう強引なところは小町そっくりだ。

 

 

朝。

俺はいつものように神田大明神へ向かう。μ'sの会合があるからだ。

さぞや年末年始らしい静かで厳かな朝を・・・とも思いきやその予測と願いは見事に打ち砕かれた。

 

入り口にはμ'sの面々、そして先頭には仁王立ちの矢澤にこ。

あぁ、これはまた説教から入るパターンだわ。あとどうでもいいがパティーンとか言ってオサレを気取る奴、爆発しろ。

 

「ちょっと!遅いわよ、何やってんの!」

 

「いや、まだ開始まで10分あるだろ・・・」

 

「20分前に来て準備するのが当然でしょーが!ビシッとしなさい、ビシッと」

 

うわぁ、それなんてブラック部活。サビ残ならぬサービス出社かよ。

略してサビ出・・・イマイチ語呂が悪いな。誰かセンスのある奴はさっさと作ってほしいものである。

 

「ふふーん・・・女子の中で一番遅かったんは誰やったかな~?」

 

「ちょっと!?そ、そんなところ、っ、わしわしするんじゃっ、ないわよっ!」

 

いやお前、わしわしするところがないじゃn・・・スミマセンデシタ忘れてください睨まないでにこさん。

 

さて。

高坂の家を訪れてから今日で5日経つ。

その時の成果はといえば―――

 

「・・・高坂さんと南さん、今日も欠席なのね」

 

西木野の呟きで、沸き立っていた場がしんと静まり返る。

 

そう、結局まだ高坂は、冬休み期間中の練習には一度も参加していない。

南も然り。

μ'sの戦力であるメイン2人が戦線離脱したままなのだ。これでは痛手から立ち直るのは難しい。

 

急いてはいけないと思いつつも、どうにも止めようがない。

もっと強硬な手段を取るしかないのか。それはそれでもっと最悪の結末が見える気がする。

 

いつの間にか、多くのメンバーが園田に視線を向けている。

幼馴染なら何か知ってるだろう、知っていてくれそうでなきゃおかしい。そう言いたげに。

俺ですら同じ気持ちで視線を向けていたので責めることはできないが、一歩間違えば園田へのリンチになりかねないマズい状況だ。

絢瀬会長もそれを察したらしく、皆を下がらせて静かに尋ねた。

 

「園田さん・・・高坂さんと南さんから何か連絡はある?」

 

「・・・申し訳ありません、穂乃果にはこちらから連絡をしても返事がなくて・・・。

ことりからは一昨日、留学の準備をしないといかないからと告げられたきりです」

 

皆には許してほしいとも言っていたと付け加え、それきり園田はうつむいてしまう。

こんな状況で下手に嘘をつく理由もない、全て本当なのだろう。

 

「・・・それじゃ、2人はこのまま、辞めちゃうのかにゃ・・・」

 

「そ、そんなはずないよ・・・きっと戻ってくるよ」

 

「でも、園田さんから連絡しても返事を碌にしないなんて・・・向こうから来るとは思えないわ」

 

あっという間に不安が広がっていく。波を打ち壊すことはできない。

 

そしてそこに、さらなる一撃が加わる。

 

「―――そうなってしもたら、もうμ'sはμ'sじゃなくなるっちゅうことやね」

 

「!?・・・ちょっと、希―――」

 

「エリチ、落ち着いて聞いて。みんなも分かっとるよね?

μ'sの由来と意味を。9人の女神が1人か2人でも欠けたら、そんなの女神やないんや」

 

場にさらなる動揺が生まれる。

恐らくそのことも自覚しているはずなのだ。それでもなお東條副会長は続ける。

 

もう、よしてくれ。

 

「穂乃果ちゃん、ことりちゃん、海未ちゃんがいて。

花陽ちゃん、凛ちゃん、真姫ちゃん。エリチににこっち、うちがおって。

その9人と、比企谷くんっちゅう助っ人がいてくれて。これがみんなの、μ'sなんやよ。

 

だから、そこから誰かが欠けるなんてことは―――」

 

「じゃあ、どうするっていうのよ!」

 

爆発。

ついに耐え切れなくなった矢澤が、副会長に食ってかかる。

 

「2人を無理矢理この場に連れてくればいいっての?!

前ににこが今すぐ復帰させるべきだって言ったら、あんたなんて言った!?

本人たちの意思を無視しても余計こじれるだけや、って!それを何を今さら、危機感抱いてるみたいなこと言ってんのよ!矛盾してるじゃない!」

 

「それは、分かっとる。ウチも少し見通しが甘かったとこはあるって・・・。

でも今度はただ見守ってるばかりじゃアカンって、やっと・・・」

 

「その知ったかぶった言い方、やめなさいよっ!なんで・・・あの時止めようとしたのよっ・・・!

今からじゃ、もう・・・手遅れ、じゃない・・・!ラブライブに出る前に、解散だなんて・・・!」

 

「せ、先輩・・・!やめて、ください!落ち着いて・・・」

 

・・・クソ。

 

どうして俺は、何も言えずにいる。こんな形で内輪揉めなんぞ見せられたところで面白くもない。

なのに止めようとすると体がすくんでしまう。どうしてこんな時にメンタルの弱さが露呈してしまうんだ。

 

このままじゃ、せっかく掴みかけたものが、壊れてしまうのに。

 

「矢澤さん、希も!みんな、騒ぐのはやめて!

今はとにかく、練習開始よ!準備急いで!」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

・・・・。

 

 

やはり俺は、どこまでも無力なぼっちなのか?

 

 

【side:???】

 

「―――姉さん、久しぶりね。ええ、少し時間がほしいの。いい?」

 

「・・・・」

 

 

「そう、ことりの件で話を―――」

 

 

 




終わった・・・。
スマホの修理が(切実)再設定とかめんどい・・・。

次回からようやく、八幡が解散阻止に向けて行動を開始します。
無能系主人公が嫌いな方、今までごめんなさい。次こそ主人公らしく行動します。


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第二十六話 運命は、変えられるのか。

今回はちょっと(投下が)早め。
何が起こった!?

この話の八幡sideから十九話の冒頭に戻ります。あの時点では解散のゴタゴタが起こってしまっていて、ようやく八幡が行動を起こそうとしている、ということになってます。

あと、二十五話を読んでいない方は、そちらからお読みくださいませ。


【side:ことり】

 

年が明けた。

 

「・・・・」

 

 

明けて、しまった。

 

 

ことりにとって、今この時ほどめでたいはずの新年が辛く、憎く思えたときはなかっただろう。

母のいとこに急かされるまま、一週間後に自分は日本を発つ。

穂乃果や海未、μ'sの皆との関係を修復できないまま。

 

何なら今から穂乃果の家に行って、練習中の皆の所に行って、謝ってくればいいだけの話なのだ。

でも、できない。

クリスマスイブの日、問い詰められた果てに真相を打ち明け、そして責められた光景が蘇る。今も恐怖で足がすくんでしまう。

自分が悪いのだと分かっていても、怖いものは怖い。そんなもの避けてしまいたい。

このままフランスに行って、何もかも忘れてしまった方が楽なのかもしれない。

 

ふと、口からごめんね、と小さく言葉が漏れる。

誰にも届きはしない心の呟き。でも、これが今の臆病な自分にできる精いっぱいの勇気。

それで、許してほしい。

 

「―――ことり。入るわよ?」

 

その時、部屋に母が入ってくる。

支度の確認だろうか。

 

「支度は、大分できたみたいね」

 

「うん」

 

「―――穂乃果ちゃんや海未ちゃん、μ'sの人たちには、ちゃんと留学のことを伝えた?

μ'sを抜けること、謝ってきた?」

 

「・・・うん」

 

嘘だ。

自分から打ち明けたんじゃない。皆から問い詰められたから白状した。

謝罪に関しては、海未にメールで一言伝えただけ。そんなものが謝罪と呼べる代物ではないのは、十分自覚していた。

 

「そう。・・・それなら、なぜ堂々とした態度を取れないの」

 

「・・・!」

 

―――見抜かれていた。

 

「本当に自分から打ち明けて、自分の言葉で謝ることができたなら。

未だに未練がってぐずぐずとした気持ちでいるわけがない。違う?」

 

「・・・・」

 

「お母さんは、前も言ったはずよ。貴方が自分で考えて出した答えには、絶対に反対しないと。

だから自分でよく考えて決めなさいと。

でも貴方には、それができなかったみたいね」

 

「・・・ごめん、なさい・・・!」

 

もう耐えきれなかった。

あの時のように泣きながら、泣きじゃくりながら謝る。

母に対してなのか、穂乃果たちに対してなのか、もう分からなかった。

 

母は穏やかにかつ厳しく、諭すように言った。

 

「貴方が謝らなければいけないのは、お母さんじゃない。お友達の皆に対して、でしょう?」

 

しゃっくり上げながら頷く。

分かっているのに、今までできなかった。自分は弱いから、臆病だったから。

 

「なら、やるべきことは分かるわね。―――今からもう一度、お友達の所に行ってきなさい」

 

それだけ言うと、母は静かに部屋を出た。

 

 

「やっぱり、あの子にはまだ早かったみたいね。一人で留学するのは」

 

 

廊下に、そっと呟きが漏れた。

 

 

【side:八幡】

 

毎年毎年、ハッピーニューイヤーと叫び狂喜する馬鹿どもがいる。

俺は決まってそいつらを見下してきた。死ななきゃ新年は誰にもやってくる。

それに一喜一憂するとか、馬鹿なの?死ぬの?

 

ただ、今年はそれを馬鹿にするのも、自分の鬱屈した精神が最大の原因だ。

つまりはジェラシー。

浅ましい行為だが、所詮は俺も凡人でしかないということが証明されたわけである。

思い上がり、ダメ、絶対。

 

さて、俺は今高坂の家に向かっている。当然だが菓子を買いに行くわけではない。

 

今日再び、高坂を説得しに行く。そしてあいつを、μ'sに復帰させる。

 

さっきも年明け二回目のμ'sの会合があった。が、二人は来なかった。

そして誰もそのことを指摘しようとはしない。言い争いの種にしかならないと分かっていたからだろう。

以前にも矢澤と副会長が揉めているしな。だからお茶を濁し、臭いものには蓋をしておく。

そうなるのもやむを得ないことだ。

 

ならば、俺が動く。

失敗しても傷ついても誰も損をしない、この俺が。

 

―――分かってるだろうから言ってあげるけど、貴方、マネージャー失格ね。

 

ああ、全くその通りだよ、ツバサさんよ。

やっと決心がついた。

さっきも高坂を連れ戻すと宣言した時、園田や会長たちは唖然としていた。

だが、やる。μ'sを元に戻すために。

それで俺と高坂達が対立するというのであれば、俺がそこから身を引けばいいだけの話だ。

そうしてあいつらが、もう一度"本物"を掴めるように。

 

気づけば、穂むらの前に来ていた。

今度ばかりは、向こうからは会わせてもらえないだろうかもしれない。ならば多少強引にでも入る。

・・・通報されないのを祈るのみだが。やっぱ無理かね?

いや諦めんなお前!もっと熱くなれよ!・・・熱あるのか俺。

 

「いらっしゃ・・・あれ?比企谷さん!

明けましておめでとうございます」

 

「・・・ども」

 

店の扉を開けると、妹の高坂雪穂がいた。

また店番か、ご苦労なこって。この辺は小町にも見習わせたいものだ。

あいつがグータラすると俺がひどい目に遭うからな。

 

さて、さっさと話を切り出すか。

 

「いきなり悪いんだが、高坂、今家にいます?ここずっとμ'sに顔出してないんで、あいつ」

 

「・・・え?」

 

え?

 

あっそうか、俺はおかしなことを聞く不審者だと思われたのか。

数分後、そこにはパトカーで連行される比企谷八幡の姿が!嗚呼・・・短い人生だったぜ・・・。

 

「・・・お姉ちゃんなら、"今日も"練習に行ってくるって、家を出ましたけど?」

 

「・・・は?」

 

頭の中で、非常事態を告げるサイレンが鳴った。

 

 

【side:穂乃果】

 

一軒目のゲームセンターを出る。

目当てのグッズは手に入らなかった。またお年玉を無駄遣いしちゃった。

後でお母さんや雪穂に怒られるかな。

 

「次は、どこ行こうかな・・・」

 

今日もまた、ゲームセンターを渡り歩いて暇つぶし。

それで一日が終わるのかな。そう思うと、虚しさを覚えずにはいられない。

 

でも、今さらμ'sに顔を出すのも、怖くなってしまった。

 

あのクリスマスイブのライブで倒れ、お見舞いに来てもらったのが最後。

それきり年内には一度も顔を合わせず、新年を迎えてしまった。

スマホには海未ちゃんからのメールや電話などがたくさん来てるけど、返事を出せなくてずっと放置したまま。

学校が始まっても、まともに会えるか分からない。いや、もう会いたくない。怖い。

 

このまま自分が戻らなかったら、μ'sはどうなるんだろう。

 

解散・・・そんなはずないか。いずれ自分のことなんて忘れて、8人で・・・。

8人?

 

そうだ、ことりちゃんだ。

もうフランスに行ってしまうのかな。

 

ことりちゃんだって苦しんでいるのに。本当なら自分が、何か助けてあげなければいけないのに。

今さら顔を合わせる勇気なんて出なかった。

 

自分は、穂乃果は、本当にバカだ。

 

こうして町をふらついていると、中学生の時のことを思い出す。

あの時もバカな事ばっかりやってて、クラスのみんなから笑われてた。

でも中には、気を引きたくてわざとやってるんだろうって、穂乃果のことを悪く言う人もいた。

それに耐えきれなくて、一度学校をさぼってしまったことがあったっけ。

 

あの時は、海未ちゃんやことりちゃん、お母さんや雪穂が探してくれた。

穂乃果を、助けてくれた。

だからその後は、中学校を無事終えることができたんだ。

 

でも、今度はもう、そんなことはない。

誰もこんなバカな女の子のことなんて助けてくれるわけない。自業自得だ。

 

もう、穂乃果にアイドルを目指す資格なんて・・・。

 

「―――ねえ!そこの君、ちょっといい~?」

 

ふと、後ろから声がする。振り向くとヤンキー風の男の人がいた。

三人いる。全員穂乃果のことを見て、ニヤニヤした表情を浮かべていた。

 

ナンパだ。

 

いつの間にか人通りのない裏路地に来てしまっていたんだ。

そしたらガラの悪い人に目を付けられるに決まってる。おまけにこの先は行き止まり。

 

ど、どうしよう。

 

「ちょっとさ、僕らと遊んでこうよ。君、ヒマでしょ?」

 

「わ、私っ、今から、用事あるから・・・」

 

自分のことを穂乃果と言わないだけの理性はまだあった。

でも、内心すっごく怖い。どうしよう・・・?

 

「―――あ?嘘でしょ?」

 

急に男の人の声が、ドスを聞かせたそれに変わった。

 

「!?う、嘘じゃ・・・!」

 

「いやだってさ、君制服着てんじゃん?

学生でしょ?冬休みでしょ?現にここ数日、町ブラブラしてるとこ俺ら見ちゃってるんだよね~」

 

・・・しまった。

 

「つー訳で、嘘とか通用しないから。

あ、それと今持ってるスマホ、渡してもらえる?連絡されたら困るし」

 

「あ、あ・・・」

 

どうしよう、どうしよう、どうしよう。

誰にも助けてもらえそうにない。このままどこかに連れ込まれて乱暴されるんだろうか。

 

怖くて動けずにいると、男の一人が穂乃果の腕をガシッと掴んできた。

ああ、もうだめだ。

 

みんな、ごめんね―――

 

 

「―――おい」

 

 

その時。

ふと、聞き覚えのある声がした。男たちも後ろへ振り向く。

 

 

「あんたら、うちのアイドルに何してんだ?」

 

 

そこには、比企谷くんが立っていた。

 

 

 

 




終わり!
次回でようやくシリアス編終結に向けて、けりがつけられそうです。

なお、西園弖虎様には本話執筆に関して、参考となるアドバイスをいただきました。
この場を借りてお礼を申し上げます。


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第二十七話 ヒーローになれなくても、その志はみんなの心の中にある。

八幡、無双なるか?

ついにこのシリアス編に、決着がつきます。


「・・・くそ、どこにいるんだよ・・・」

 

探し始めて20分ほどしか経っていないというのに、既に心に焦りが見え始めていた。

バカ、落ち着くんだ。まだあいつが行きそうな場所を全部回ったわけじゃないだろうが。

そこをしらみつぶしに探してからだ。

 

メイドカフェ、アイドルグッズショップ、本屋、ゲームセンター・・・。

ざっとこのあたりだろうか?特にゲーセンは、しゅっちゅうあいつがUFOキャッチャーの景品を自慢げに見せびらかしていたことからも重点的に捜索する必要がある。

あとは、まあ・・・大人っつうか"紳士"以外お断りのお店もあるしな。

・・・そういえば材木座の奴が、その手の薄い本を入手したことを自慢げに語りやがることがあるが、一体どうやってんだ?

まさかあの身なりのせいでノーチェックで入店できたりとかじゃねえだろうな。もしそうなら即座に警察に通報せねばならん。

見た目だけが不審者っぽい俺とは違うのだよ。結論、変態はアホなリア充と同じくらい罪が重い、爆発しろ。

 

話を戻そう。

高坂がこのところ毎日のようにμ'sの練習に行くと嘘をついて家を抜け出していることが発覚し、俺はアキバの街の捜索を開始した。

妹の高坂雪穂も協力したいと申し出てくれたので、今は二手に分かれて行方を追っている。

 

―――昔も、おんなじことがあったんです。お姉ちゃんが学校を抜け出して、みんなで探し回ったことが・・・。

 

捜索を始めたとき、高坂妹が沈痛な面持ちで言ったことが蘇る。

日頃のアホっぷりを演技でやっている、男子の注目を浴びてムカツクと言われ。クラスの女子に嫌がらせを受け、やがて耐えきれなくなったと。

 

まあ、よくある話だ。

実際に男どもの気を引くために天然を演じる計算高いやつなんていくらでもいる。

だが、大抵その手の女子はトップカーストで誰も手を出せない位置にいるのだが、高坂の場合は違った。

つまり、危害を加えやすかった。おまけに本人は素でアホだから、悪意に晒されて追いつめられるのも早かったというわけだ。

 

「・・・そりゃ、西木野と会ったあの時もガチ泣きするわけだわな」

 

高坂は、あいつはアホだが、優しいのだ。

世の中の悪意を知ったうえで、自分も酷い目に遭ったうえで、それでも人を信じている。

 

だからこそ、やはりあいつはμ'sに必要なのだ。

 

行動するのが遅すぎた。反省している。

ならばそれを行動で示すしかない。高坂を見つけたら、次は南だ。

多少強引な手を使っても、μ'sは絶対に崩壊させない。それで俺の評価が下がって音ノ木坂で孤立しても、もう構うものか。

走っているうちに覚悟も決まった。今は全力でやり抜くのみだ。

 

「あれー?もしかして、比企谷くん?」

 

え。

今、比企谷くんって言ったよね?俺のことだよね?

 

足を止めて振り向くと、ヒデコ・フミコ・ミカの三人衆がいた。

・・・この人ら、そういやいつも3人で固まってるところしか見たことないな。もしかして漫才トリオだったりするのか?

それともガチで三つ子とか。こんなバラバラな三つ子というのもそれはそれで興味深いけど。

 

「・・・うす」

 

「なんか急いでるみたいだけど・・・あ、もしかして、穂乃果探してたりする?」

 

あ、やっぱり分かります?いや何で分かった?

女子の読心術マジ怖い。

 

「ああ・・・ちょうど聞こうと思ってた。おたくら、あいつ見かけてないか?」

 

「それなんだけど・・・10分ぐらい前にセガの前ですれ違ってさ。

声掛けたんだけど無視されちゃって・・・」

 

「なんかすごく思いつめた表情してて、それ以上はちょっと・・・ね」

 

ヒデコさんにミカさんが、これまた沈痛な面持で振り返る。

・・・ヤバいな、すぐにでも見つけ出さないと。本当に時間がない。

 

「・・・それで、そこから高坂がどこに向かってったか分かるか?」

 

「えっと、確かね・・・・裏道の、パソコンのパーツとか売ってる店がいっぱいあるとこだね。

そっちの方に入ってったよ」

 

フミコさんが答える。

よし。そこまで分かれば十分だ。

 

「すまん!恩に着る!」

 

イケメンにしか許されないグッドサインからのダッシュ。

あ、多分ドン引きされてるわこれ。もうどうにでもなれ。

 

「頑張れー!」

 

「負けんなー!愛を取り戻してこーい!」

 

「男なら当たって砕けろー!」

 

・・・おい。

別の意味で勘違いしてるぞあの人ら。あと通行人がジロジロ見てるからやめて。

もうほんと、どうにでもなれ。

 

3人から教えられた通り、ゲーセンのある角から裏道に入る。

ホビーショップやDVDショップを通り過ぎ、さらに入り組んだ細道へ入り―――

 

 

「ほらほら、さっさと歩きなよ。な?」

 

「どうすんよ?カラオケボックス連れてく?ギャハハ」

 

 

「う、や、めて・・・」

 

 

―――いた。

 

高坂、その周りを男3人が取り囲む。

どんな状況かは、すぐに分かった。

 

「―――おい。あんたら、うちのアイドルに何してんだ?」

 

自然と、信じられないくらいにドスの利いた声が口をついて出ていた。

 

 

【side:穂乃果】

 

比企谷くん。

 

最後に会った時より髪が伸びてボサボサで、少し不健康そうだけど。

確かに、比企谷くんだった。

 

なんで・・・。

なんで、こんなところにいるの?

 

早く、早く逃げて。

 

「・・・は?お前、誰?」

 

男の一人が、比企谷くんに声を飛ばす。

恫喝するかのように。

 

「あんたらが今、ナンパしてる女子のマネージャーやってる者だ」

 

「は?ナンパって、俺らこの娘とおしゃべりしてただけなんだケド」

 

「それを世間じゃナンパって言うんだよ」

 

比企谷くんが冷たいけど、強い口調で言い放つ。

よく分かんないけど、すごい。今まで見たことのない比企谷くんだ。

 

でも、周りの男たちはそれで怯んでないみたいだった。

 

「は?お前さ、さっきから何様?」

 

「は?は?って、あんたら、さっきからバカ丸出しだな。

ちゃんと人の話は聞いておけよ。繰り返すが、俺はそこの女子のマネージャーだ」

 

「・・・んだとぉ?」

 

男たちは穂乃果から離れて・・・今度は、比企谷くんを取り囲む。

 

ああ―――!

どうしよう、誰か、誰か。比企谷くんを、助けて。

 

「お前さ、わけわかんねぇ嘘とかついてんじゃねえよ。

あの娘がアイドル?お前がマネージャー?んなはずねぇだろ」

 

「なんだ、あんたらは知らないのか」

 

「いや、知る知らない以前にアイドルとかあり得ねぇだろっつってんだよ」

 

比企谷くんは一歩も引かない。

男たちの方もますます殺気立っている。このままじゃ、比企谷くんがひどい目に遭ってしまう。

 

なのに、穂乃果は。

怖くて、声も出せなくて。何もできなくて―――

 

 

「ああ、そうかもな。

そいつは別に、どこにでもいて、そしてアホの子な女子高生だよ。

 

だが、それでも立派なスクールアイドルだ。

そして、これから大物になる。日本一の、スクールアイドルになる。

 

俺はそれを見守って、見届ける義務がある。だから、あんたら如きに邪魔はさせん」

 

 

―――。

 

え。

 

いつの間にか、涙が溢れていた。

 

いつものちょっと捻くれた、でも実は優しい男の子とは、また違う。

目は腐ってるけど、真っすぐなまなざしで。

 

かっこよくて、でもやっぱりちょっと捻くれてる比企谷くんが、そこにいた。

 

「・・・は?」

 

男たちは、ぽかんとして比企谷くんを見つめてる。

 

今なら、もしかして。

 

「まだ理解できないってなら勝手にしろ。・・・高坂、行くぞ」

 

「あ・・・う、うん―――」

 

「―――ふざけんじゃねェぞこのキモオタがッッ!!」

 

その時。

男が比企谷くんの服の袖を掴み、引っ張って思い切りコンクリートの壁に叩きつけた。

 

比企谷くんは、その場にうずくまったまま、動かない。

 

あ、あ。

 

「チッ、この程度で簡単に吹っ飛んでんじゃねーよ。雑魚すぎ~」

 

「その雑魚相手に暴力行使して、それで満足か?―――底が浅いんだよ、あんたら」

 

「・・・あ゛ぁ!?」

 

よかった、生きてた・・・じゃなくて!

無理矢理胸ぐらを掴んで引きずり起こして、壁に押し付けてる。

 

このままじゃ、また・・・!

 

「―――やめてよぉぉぉぉ!!」

 

気づくと、穂乃果は―――男に飛び掛かってた。

思いっきり腰を掴む。どんなに向こうが暴れたって、絶対、放すもんか。

 

「おい、ちょ、てめぇ、放せコラ!」

 

「嫌だよ!比企谷くんを、先に放してよ!」

 

「何やってんだ高坂!早く、お前だけでも逃げろ!」

 

「見守ってくれるんでしょ!穂乃果が、日本一のスクールアイドルになるの!

見届けてくれるんでしょ!

 

だから、絶対放さない!比企谷くんだけ、見捨てたりなんかしない!」

 

泣きじゃくりながら、暴れながら、必死に叫ぶ。

今まで失敗したことや、ことりちゃんが留学してしまうことのショックで、ずっとうじうじしてた。

 

でも、もう迷わない。

帰ったら、ことりちゃんとも話し合う。そして、もう一回μ'sをやり直すんだ。

穂乃果は、もう逃げたりなんかしないよ。

 

ふと顔をあげて、男のゲンコツが飛んでくるのが見えた、その時。

 

後ろから、懐かしい声がしたんだ。

 

 

「―――穂乃果っ!!」「穂乃果ちゃん!比企谷くん!!」

 

 

【side:八幡】

 

「―――穂乃果っ!!」

 

ふと、そんな声が聞こえた。

 

目を開けた、その瞬間。

園田が俺の近くにいたヤンキーを、華麗な背負い投げでアスファルトへ叩きつけていた。

 

・・・お前、柔道の心得もあったのね。もうチートすぎんだろ。

 

園田に分投げられた男は、体格的には彼女とそう変わらない。

同じ体格の人間が戦ったら武道のできる人間が勝つ、常識で考えればだ。それにしたってリアルで実演されたらドン引きものである。

 

ま、それはさておき。

 

「・・・う、あ」「や、やべーよ・・・」

 

まさか女子高生相手に仲間一人叩きのめされるとは思いもよらなかったヤンキー共は、すっかり怖気ついている。

ヤンキーの特性その1、弱きには強く強きには弱い。

・・・いや、いくらなんでもビビりすぎだからね、あんたら?

 

「これ以上、穂乃果や比企谷くんに手を出すなら、貴方たちも容赦しませんが」

 

「「ひぃ!」」

 

園田の宣戦布告に、ヤンキー共はまるで漫画の悪役のごとく蜘蛛の子を散らして逃げていった。

やーい、よわむしーよわむしー。幼稚園の頃、ガキ大将がおねしょして泣いていた光景と被って笑ってしまう。

いやホントあれは人生の中でも最大級の胸がスカッとするシーンだったわ。

 

さて、ひとまず嵐は去った。後始末に入るとするか。

俺は園田に声を掛ける。

 

「悪い、助かった。・・・なんでここが分かった?」

 

「・・・私たちも、穂乃果の家に行こうとしていたんです。

その時雪穂やヒデコから連絡を受けて、それでみんなで探し回って、ここに」

 

「今頃は、会長さんたちが学校の周り、探してくれてるんじゃないかなあ」

 

南が補足してくれる。

場所こそ見当違いだったとはいえ、彼女らも動いてくれていたわけか。

 

なら俺の果たした役割は、ほんとうにちっぽけなものでしかないってことだな。

 

だが、それでいいと思った。俺みたいなのが感謝される必要はない。

悪意を買わなくて済んだのだから、それで十分なのだ。

 

高坂の方へと向き直る。園田と南も、それに続いた。

 

「・・・そっか。みんな、穂乃果のこと、心配してくれてたんだね」

 

「そんなの・・・当たり前でしょうっ!!」

 

瞬間、園田が高坂に近寄り――――抱きしめた。

 

「私も、ことりも、皆・・・心配していたんですよっ!

穂乃果が来ない間も、ずっと、待っていたんですから・・・っ・・・!」

 

涙が混じる。

抱き合っている園田も、高坂も。それを俺の横で見つめる南も。

皆、涙を流していた。

 

「ごめん・・・ごめん、ごめんね、海未ちゃん、ことりちゃん!

穂乃果、もう逃げないから!

もう一度っ、頑張って、やり直すからっ!!」

 

「穂乃果ちゃん・・・私もっ、ごめんねっ!」

 

南も、2人の中に飛びつく。

 

「私、留学なんてしない!迷ってたけど、今の私の夢は、違うの!

μ'sのために服を作って、皆が笑顔になるのが、夢なの!

だから私も、みんなのために・・・頑張るよっ!」

 

3人で、共に謝り、共に泣き、共に支えあう。

 

なるほど、王道の青春だ。

 

だが王道の脚本も、役者が二流ならテンプレと酷評されるだけだろう。

最高の役者あってこそ、舞台は輝く。

 

こいつらなら、おそらく、どこまでも行ける。

そう、信じる気になった。

 

「あ・・・すみません、比企谷くん怪我はありませんか!?」

 

「ん、まあ背中が痛いだけで特にはな」

 

「で、でも、唇に血がついてるよ~?」

 

マジか。気づけば口の中が切れている。

そういや壁に叩きつけられたときに顔もぶつけてたな・・・蛮族め。

 

その時、ふと顔を上げると、近くに高坂の顔があった。

・・・いや、君、近いって。離れなさいな、誤解するだろ。

 

「ひ、比企谷くん・・・」

 

「・・・なんだ」

 

一呼吸おいて、届いた言葉は。

 

 

「―――さっきのセリフ、すっごく、カッコよかったよ・・・///」

 

 

「・・・穂乃果ぁぁぁ?!!」「ほ、のか、ちゃんーーーーー!!??!」

 

 

―――おい。

 

おあとが大変、よろしくないぞ。

 

 




よっしゃぁぁぁ!

少々ご都合主義だったかもしれませんが、ついにシリアス編たる第三章、次回で終わりとなります。
つまり1期のおはなしが終わるということ。第四章からは、2期+劇場版編がスタートします。
ご期待ください!

年内には、本編と外伝それぞれ一話投下して終了かな?


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第二十八話 復活ののろしは、ここから上がる。

さて、ついに最終回です。
・・・一期のおはなしが、だからね?


新学期。

 

昔からこの言葉を聞くたびに悪寒が止まらない、なぜなら辛い出来事・現実を嘘と綺麗ごとで塗り隠そうとする気が見え見えだからである。

何だよ"新"って、何が新しいんだよ。学期が変わろうが学年が変わろうがぼっちはぼっちのままで友達なんかできやしねえよ。

そしてリア充は相変わらずウェイウェイしていやがる、爆発しろ。

誤魔化したところで現実は何も変わらないんだよクソが。

 

兎にも角にも、学校が再開するのはとてもつらい。

しかも今は1月、冬真っ盛り。朝が嫌いな俺をどこまで追い込めば気が済むというのだろうか。

もう布団をかまくらがわりに立てこもりたいまである。あるいは保健室とか。

 

とはいえ、今学校に着くなり山田先生から理事長室に行け、と言われればもう早退も仮病も使えないわけで。

やけにおっかない顔で言われたが・・・俺、何かしたの?まさか退学?

もしそうだとしたらいくら一時間目の授業に出なくても済むとしてもちっとも嬉しくないぞ。

 

という訳で、やっぱり学校はつらい。大事なことなので二回言いました。

廊下を進む足取りもいつになく重い。そういや中学で色々あった時も毎朝こんな感じだったな・・・あれ、これって走馬燈?

死亡フラグ立てちゃったのん、俺?

 

「あ・・・」「ん?」

 

昇降口を通り過ぎたとき、ふと見知った顔に出会う。

矢澤にこ、アイドルマスター(自称)のツンデレツインテール。まあ色んな意味で苦手なヤツだ。

俺よりはずっとできた人間だとは思ってるがな。

 

「・・・お、おはよう」「・・・うす」

 

あー、やっちゃったよ。ぼっちの会話パターンその1、気まずいあいさつ。

出だしからしてつまづいてるから末期なのである。歌にもあるだろ、はじめが肝心つんだつんだって。

つーかあのアニメどこが詰んでんだよ、フツーにみんなほのぼのこころぴょんぴょんしてるじゃねえか。何だかんだで好きだから二期も見たけどな!

 

ともあれゴタゴタ言ってないで目的地へ行くとしよう。いくら理事長が今まで会った大人の中では優しい方でも遅刻は洒落にならん。

 

「・・・ねえ、どこ行くのよ」

 

「理事長室。呼び出し」

 

ぼっちの会話パターンその2、述語を省いた短い応答。

何と素晴らしい、これをエコ会話と名付けよう。まあ相手への印象は最悪だが。

矢澤もぼっちっぽいところはあるし多少は理解してくれるはずだ。

 

「あ、ちょっと待って!」

 

「・・・何だよ」

 

「穂乃果たちのこと。・・・なんか、アンタひとりに任せっきりにして悪かったわ」

 

「任せっきりって・・・お前らも探してくれてたんだろ?」

 

「アンタが動いてから、ね。

みんな、余計なことしたら却って酷いことになるんじゃないかって思って、何もできなかった。にこもそう。

・・・希に酷いこと言っちゃったくせにね」

 

確かに言い争って以来、二人が言葉を交わす場面はあまりなかった気がした。

高坂の件が一大事だったのは確かだがこっちも気がかりではある。

 

ただそれよりも、こいつが俺のことで余計な気負いをしているのなら。

それは間違いだと言わなければいけない。

 

「別に俺は大したことはやってねえよ、マネージャーとしての責務を果たさなきゃいけなかったってだけだ」

 

「?そう言えばアンタ、自分からマネージャーって言ったの何気に初めてよね」

 

「まぁな」

 

今ならそう名乗っても、恥ずかしいと思うことはない気がする。

もちろん、まだ半人前だが。果たしてこいつらからは、どう見えているだろう。

 

「フン!やっとあんたも自覚ができたってことね。

これからも思う存分、にこやみんなのために働くのよ!」

 

・・・あーはいはい。そういやこいつはこういうやつだった。

誇り高き(笑)アイドル、その名も矢澤にこ。

尊大でツンデレで体育会系のど根性。やっぱり俺、こいつ苦手だわ。

根はいい奴だとは思うけど。

 

「それより、副会長にはちゃんと詫び入れとけよ?俺が言うのもなんだが・・・」

 

「わ、分かってるわよ・・・!真に誇り高きアイドルは、謝罪ごときで怖気ついたりしないんだから!」

 

「ふ~ん、にこっち~聞こえたで~?」

 

「はわわわわ!?」

 

うわっ・・・いつの間に居たのかよ。この人のステルス力、高過ぎ・・・?

東條希副会長の襲来である。ゴジラよりゾンビよりも怖いもの、それは女の魔力なり。

 

「ウチ、にこっちのせいでとーっても傷ついてん・・・。

こりゃもう、いーっぱいわしわししてうーんと慰めてもらうしかあらへんな~?」

 

「なんでアンタがわしわしする側なのよぉぉぉ!?!

比企谷!マネージャーの仕事よ、希を止めなさーい!」

 

・・・悪いがやだ。

手当もらってもお断りします。

 

 

「おはようございます、比企谷くん。怪我の具合はいかがですか」

 

「怪我って・・・口を切っただけですよ」

 

なんかこの人の中では、俺は不良にボコボコにされたというイメージができているらしい。

まあ半分はその通りだが。園田のおかげでどうにかこうにか五体満足な訳で。

改めて幸運に感謝感激雨あられである。

 

さて、理事長室で会談中なわけだが。

やはりそのことが問題視されてお呼び出しってことか?普通担任や校長からじゃないのか?

俺が男子だからとかいう差別的な理由で理事長御自ら・・・なんてわけじゃないだろうな。

 

でも、穏やかな雰囲気の理事長を見る限り、そういう話ではなさそうだった。

 

「じゃあ、早速本題に入りましょうか。

まず最初に―――娘のことで、迷惑を掛けたことを謝らせてほしいの」

 

「・・・は?」

 

謝罪?留学云々のことか。

確かにμ'sのゴタゴタの原因の一部ではあるが、最大の、ではない。

わざわざ直接謝罪するほどではないと思うのだが。

 

「ちょうど皆さんが12月に合宿をしているとき、私のいとこから連絡があったの。

それでいきなり留学が決まったのだけれど、ことりはどうしても決められずに、悩んでしまって・・・。

そのためにみんなに迷惑を掛けてしまった。親としてお詫びさせていただくわ」

 

「そりゃ急に外国へ、ってなったら皆悩みまくるのが当然だと思いますけどね」

 

「ええ、そうかもしれない。

ただ、親としてもこの話はあまりに急すぎると思っていたの、最初はね。

それでもあくまで娘の決断を尊重しようと、私はなかなか助言をしなかった。・・・悪しき放任主義ね。

せっかくお友達が学校のためにスクールアイドルを始めたのに、それを潰すようなことをしてしまうなんて」

 

―――確かにそうだ。

この人が南に適切なアドバイスをしていれば、こうはならなかったかもしれない。

 

でも、それなら、謝罪をすべき相手は俺ではない。

 

「それ・・・娘さんに言ってあげるべきじゃないですか?」

 

「・・・ことりに?」

 

「ええ。母親として助けられなかったことを謝りたい、って。違いますか?

大体俺だって、あいつらを中々助けてやれなかったんですから、そこは同罪ですよ」

 

別にぼっちだからとか卑下ではなく、客観的に見ても俺の怠慢を指摘されるのは当然の話だ。

なんら謝られる筋合いはない。

 

「それに、娘さんだけのせいでμ'sがゴタゴタした訳じゃありませんし。

この件は、俺を含めてメンバー全員に責任があります」

 

「・・・ふふ。俺に、俺だけにとは言わないのね。

そういえば、穂乃果ちゃんや海未ちゃん、他のメンバーの人たちに電話した時も、みんなそう言っていたわ。

"私を含むみんなの責任です"って」

 

「そう・・・ですか」

 

ならば。

μ'sというグループは、何とかなる。これからやり直せる。

皆が責任意識を感じ、反省し、もう一度頑張ろうと思っているならば。

 

そう信じよう、と思った。

 

「それなら、もう謝罪はおしまい。

あと一つ、今度は感謝を。今年の入学志願者は定員を超えて、どうにか廃校の件は延期できそうなんです」

 

「・・・それも、俺に言うべきことじゃないと思いますよ。あいつらに言ってください」

 

「ええ、先日電話した時に伝えたわ。比企谷くんにも連絡したのだけれど・・・。

一度も出てくれなかったから、きっと襲われたときに怪我をしたのかって、心配だったのよ」

 

・・・あ。

 

そういえば、ヤンキー共にぶっ飛ばされたときにはずみでスマホが壊れていたのだ。

画面が大きく割れて操作できなくなるという惨事で、修理に出して代替品を受け取るまで誰とも連絡できないという有様だった。

おかげで親父や母ちゃんにも「なんで連絡してこない」って怒られて散々だったわ。お年玉も小遣いも減らされるし、ぐすん。

 

「・・・その節は、その、すみません、でも本当に怪我とかじゃないので」

 

「気にすることはありませんよ。それに、貴方も立派なμ'sの一員なのだから。

現に、穂乃果ちゃんのために体を張った。人間として、称賛されるべきことよ。

 

だから、どうか、お礼を受け取っていただけないかしら」

 

・・・はあ。

折れそうには、ないな。

 

「・・・分かりました。お気持ちは、受け取っておきます」

 

「ふふ、どうもありがとう。

あとはみんなで、頑張ってください。学校のトップとして、できる限りの協力はさせていただくわ」

 

ああ、是非そうして頂きたい。

俺なんかより理事長や教師の協力の方が、よっぽど重要になってくるのだから。

それでこそのスクールアイドルだ。

 

「それじゃ、これで失礼します」

 

「あ、それと。数学の期末試験は頑張るようにね」

 

「・・・アッハイ」

 

・・・こんちくしょう。

やっぱり、知ってたのかあんたも。どうやら赤点だったのは俺だけらしいからな・・・。

 

 

放課後。

気だるい授業を終え、一日が終わる。

 

と、思った?

残念!本番はこれからだ!

 

俺は屋上に向かっているが、もちろん高坂に呼び出されてのこと。昨日練習を休みにした分、今日からまたガンガンやっていくらしい。

勘弁してくれ・・・休みボケの人間にまた筋トレとかやらせる気か?

よりによって今日は晴れ、まだ気温もそこそこ暖かいのが憎らしい。さっさと寒くなってしまえ。

 

さて、屋上の扉を開k「ひっきがっやくぅーーーん!!」

 

・・・おい。

 

また視界がピンク色の何かで消えたぞ・・・。しかも、何か柔らかい感触が。

良くないぞ、心臓にとても良くない。

 

「ほっ穂乃果!?比企谷くんになんてことをしてるんですか!」ホントだよ。

 

「だって、早く比企谷くんに会いたかったんだもーん!」おい、勘違いするからやめろ。

 

「・・・それ、遠回しに告白してる?」あの、西木野さん白い目で見ないで。俺被害者なんで。

 

こんな風に心の中で突っ込んでいると、見かねた絢瀬会長が困り笑いでこちらに近づいてくる。

いや、笑うとこじゃないだろそこ。

 

「ほら、とにかく。"穂乃果"もいったん離れなさい、比企谷くんも困ってるわよ?」

 

「・・・"穂乃果"?」

 

「あ、ごめんなさいね。昨日みんなで話し合って、お互い下の名前で呼び捨てにすることにしたのよ。

先輩後輩って、堅苦しいやり方はやめに、って」

 

ナチュラルに俺がハブかれている件・・・いや、まあ、スマホ壊れてたんだし色々仕方ないけどね?

 

つうか、呼び捨てということは。

 

「だから、今度から比企谷先輩もあだ名をつけて呼ぶことにするにゃー!

有力候補は"ヒッキー"がいいっt「だが断る」・・・にゃ、速攻拒否かにゃ!?」

 

色々トラウマがあるんだよ・・・。

悪気がないのは分かる、分かるけどね?あ、なんか涙出てきたわ。

 

「・・・ま、それ以外だったら何でもいいっすけど。

で?それより、これからの活動はどうすんだ?」

 

「あっ!そ、それなんですけど」

 

俺の問いに、小泉がおずおずと答えてくれる。

 

「実は、以前のアキバでのライブで失敗してからも、応援してくれたファンの皆さんにお礼をしようってことで・・・。

復活記念に、もう一度PVをつくることに決めたんです」

 

「PV?新曲か?」

 

「違うわよ、"START:DASH!!"。これを9人全員で歌ったのを撮るのよ」

 

・・・ああ。

矢澤の意見に、思わず納得する。

 

なるほど、再スタートの出だしの曲としてはこれより最適なものはないかもしれない。

μ'sのデビュー曲。原点回帰という印象を持ってもらうにはうってつけだ。

 

「そうか、いいんじゃないのか」

 

「やったー!これ、かよちんがみんなに提案したんだよ?」

 

「り、凛ちゃん!は、恥ずかしいよぅ・・・」

 

「いやそこは誇るべきことだろ」

 

「え、えぇぇ//」

 

「ん~?比企谷くんもいつの間にかたらしになったようやね~。

これは、わしわしの刑が必要やね☆」

 

いやいやあり得ないって。

・・・つうか本当にやるなあああああ!

 

まあ、とにかく、今度こそ順調に進みそうだ。

μ's復活の歩みに向けて。

 

「それじゃ、みんな揃ったところで〜・・・改めて、ね、穂乃果ちゃん♪」

 

「うん!・・・よーしっ!それじゃ早速、PV撮影に向けて練習始めるよーっ!」

 

「「「「「「「「「おーーーーっ!!!」」」」」」」」」

 

「・・・ちょっと!比企谷アンタまた口パクで誤魔化さなかった!?」

 

「いやちゃんと今回はやったから。サボってないから」

 

 

―――困難を乗り越えて、栄光へ。(per aspera ad astra.)

 

 

ふと俺は、ローマの哲人が遺した言葉を思い返す。

 

自然と希望が沸き、笑みが浮かんだ。

 

 

 

 




終わりです。
ようやく、一期終了しました!読者の皆さま、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

色々原作に好き勝手に手を加えてやってきて、時にはお叱りの言葉をいただきながらも続けてきましたが、それがいつの間にか計31話です。
飽きっぽい僕としてはこんなに続くとは思いもよりませんでした。
ひとえに皆さまの応援のおかげです。

本編の更新は、これが年内最後になりますが、外伝としてにこかのんたんのお話を企画しているので、それは一本投下したいと思います。その時はどうかよろしく。

では、皆さま良いお年をお迎えください。
そしてこれからもこのssをよろしくお願いします。



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第四章 それはきっと、ひとりとみんなの奇跡。
第二十九話 新たな日々は、波乱とともに幕を開ける。


新章突入。
本年もよろしくお願いします。

今回は二期一話の「もう一度ラブライブ!」ですが・・・。
最後だけ、微シリアス成分なので、ご注意ください。


ゴールデンウィーク。5月の大型連休。

この時期の最もベストな過ごし方とはいったい何だろうか。

 

それはずばり、家でのんびりと過ごすに限る。

行楽地もどこもかしこも人で埋まる、ホテルやツアー会社は軒並み高めの料金を取ってくる・・・普通に考えたら外出、どころか旅行なんて狂気の沙汰だ。

まあ金に糸目を付けぬ、人のたくさんいるとこがいいんだと言うなら好きにすればいいが、そうでないなら引きこもる方が賢明である。

例え両親や妹に、いい若い者がグータラしてとか予定はないのかとかと口うるさく説教されたとしても。

外の喧騒に巻き込まれるよりかはずっとマシだと言える。・・・大体親父、アンタだってこの時期接待ゴルフくらいでしか外行かないだろうが。

 

で、今年のゴールデンウィークもそんな感じで有意義に過ごすはず、だった。

もし俺が、ぼっち"だった"としたならば。

 

「・・・ふぅ」

 

そんな俺の目の前に広がっているのは、海と砂浜。

これが一人なら、マッカンを片手に人生とは何かと思いを馳せているところだろうが―――

 

 

「―――寒いっ!」

 

 

・・・ほおら、早速災禍の渦(ディザスター・パニック)がやってきたぞ。ネーミングセンスが材木座っぽいのはこの際気にするな。

 

「ううう・・・!やっぱちょっと寒いよー比企谷くぅぅぅん!!」

 

「当たり前だそらをみろおひさまがどこにある」

 

途中から声が震える。

今日は生憎の曇り空。いくら5月になって大分暖かくなったといっても、そんな日に海辺で水着姿でいればどうなるか。

答えは一つ・・・寒い。うちかえりたい。

女子の水着姿見れてよかったじゃんって?・・・こっちだって下は水着、上は裸の上にジャンパーでとてもじゃないが堪能してるどころじゃねえ。

大体何で俺まで同じ格好をしなければならん。

 

・・・もちろん、今日は海水浴に来て水辺できゃっきゃうふふなリア充イベントを満喫しに来たのではなく。

立派なアイドル活動、PV撮影である。よりによって我が地元千葉の、九十九里浜にて。

 

あ~せめてハワイとかバリとか行きたかったなぁ~。金ない?そっすか。

 

「は、早く練習終わらせないと、みんな風邪引いちゃうね~・・・」

 

「そっそれより、本当に私たちと比企谷くん以外に誰もいないのですよね!?

こんな姿を知らない誰かに見られたら、もう私はっ・・・!もう、生きていけません・・・っ・・・!」

 

おい園田、くっ殺な女騎士みたいだぞお前。

 

正確には後から撮影係のヒデコさんら三人衆、そしてうちの小町が合流することになっているが・・・同じ女なら大丈夫だろ。

因みに小町曰く「お義姉さんたちのことはしっかり守るからねっ、小町的にポイント高ーい!」だそうだ。いや、どうやってだよ。

まあ可愛い妹の言うことだと信じる他ない。あと断じて俺はシスコンではない、これは家族愛だ。

 

「ね、ねえ、ここでШашлык(シャシリク)をやるのってどうかしら・・・?ほら、バーベキューなら焚火代わりにもなるし・・・」

 

「・・・そんなのダメに決まってるでしょ。警察来るわよ」

 

でも実際後で怒られるとかどうでもいいから火に当たりたい気分だわ。

腹も減ってきたし。寒いと腹減るからな・・・。

 

「うぅ・・・恥ずかしいよ・・・誰か助けてぇ~!」

 

「み、みんなで向こうの砂浜までマラソンするにゃ!そうしたらきっと走り終わるころにはあったかくなるよ!」

 

おい小泉やめろ、俺が通報されちまう。

走ればあったか?いやいやいや、汗びっしょりで結局後から余計寒くなるんですがそれは。つか激しい運動したくない。

上着なんて薄いカーディガンぐらいしかないし。今日は西木野の別荘戻ろうぜ、な?

 

「ああもう!みんな気合足りないわね、ちょっと肌寒いくらいじゃないの!

こんなの身体に燃えたぎるアイドル魂があればどうってこと・・・クシュンっ!!」

 

「にこっち?無理せんと、カイロ使った方がええで」

 

その通り、気合いじゃ寒さは防げぬ・・・まだそんなの持ってたのか副会長。

まあ確かに恥を気にして風邪ひいたら元も子もないのだが。水着の上にカイロってシュールすぎないか?

 

「ひ、比企谷くん・・・今だけ、今だけでいいから穂乃果に体を貸してぇ・・・」

 

「・・・おいその表現はなんだ」

 

「二人で抱き合ってれば、すぐ体もポカポカだよ!ね、だからお願い・・・!」

 

・・・・。

そうかそうか。

 

そういえば、冬におしくらまんじゅうやるのも体を温めるためだよな。水着姿のうら若き男と乙女がー、だなんて言ってる場合ではないかもしれない。

今すぐ寒さから解放されたいなら、あったまりたいのなら。

 

だが、断る。

 

「あ!比企谷くん逃げるな~!」

 

すぐさまその場を逃げる、走る。俺の脚はカモシカには劣るが、このデスレース、断じて負けんぞ。

捕まったら一生ものの黒歴史になる。

 

「ふっふふふ、穂乃果の俊足には比企谷くんがいくら男の子だって逃げられないぞ~~!!

・・・へっくしょん!ってここ窪地になってうわああああ?!!」

 

「ほっ穂乃果!?ああもう、はしゃぎすぎるからそんなことになるんです!」

 

フッ、勝ったな。

うぬでは俺には追いつけないよ・・・

 

「・・・ひっっくしょい!」

 

・・・・。

ダメだこりゃ。やっぱり、家にいればよかった・・・。

 

 

一週間前

 

4月。

新学年となり、ついに俺の高校生活も残り1年を切った。

そのことに思いを馳せていればあっという間に月末だ。桜も既に花が散り緑の葉で覆われている。

葉が散って寒々しい姿を晒し、その姿を見て哀愁に浸る日もきっとそう遠くはないだろう。

 

「よぉし!今週を乗り切れば、ついにゴールデンウィークだよっ!」

 

・・・とまぁ、高坂を見る限りそんな先のことは考えてなさそうだ。もっとも俺だって本音は似たようなものだが。

受験だなんだとクソ忙しい冬のことを考えるよりかは来週の長期休暇のことを考えていたい。意識低い系?そんなの知るか。

 

「休みになったら、そうだ、ディスティニーランド行こうよ!

ことりちゃんも海未ちゃんも、μ'sの他のみんなも一緒に!もちろん比企谷くんもいっしょだよっ!」

 

「・・・あー、悪いんだが俺ちょっと用事あって」

 

「え!?もう比企谷くん予定決まっちゃってるの?!」

 

「ああ。朝起きてプリキュアを見てプリキュアを見てプリキュアを見て寝る」

 

「それ、ダラダラしてるだけだよね・・・」

 

ぐっ・・・南の苦笑が痛い。

だが別段不健全とも言えないんじゃないのか?社会人になって一人暮らしを始めたらきっとみんなこんなもんだろう。

あとプリキュアは神聖な朝アニメ、略して神アニだ。下手なラノベ原作異能バトルものより断然面白いまである。

 

だが今年は―――おそらくそんな優雅には過ごせないだろう、残念ながら。

 

「穂乃果・・・遊んでいる暇はありませんよ。

勉強もそうですが、私たちにはスクールアイドルとしての活動もあるんですから。

この前、にこも言っていたでしょう?」

 

・・・ああ、全くだ。

実際園田の言う通り、そこまで呑気にしていられるわけではない。

 

今月の頭の新入生歓迎ライブの評判はかなりよかったといっていい。が、それでもμ'sの人気がずば抜けて上がった訳ではないのだ。

7月に行われる、ラブライブ全国大会予選。その切符を掴むためには一にも二にも知名度が欠かせない。

だから夏まで呑気に過ごしていたら、あっという間に足をすくわれる。

 

加えてこの前矢澤が調べた情報では、その夏の予選では3曲新曲を用意する必要があるらしいとのこと。

2、3ヵ月、その期間内で曲を作り、振り付けも完成させる。案外残り時間は少ない。

 

「確か、新曲は夏を題材にした曲がベストって言ってたな」

 

「全部が全部、無理に夏うたのようにする必要はないかもしれませんが。

一曲は別ジャンル・・・例えばそれぞれのグループが得意だったり好きなものにする、という工夫もできるかと思います」

 

「μ'sの、得意で、好きな曲・・・今考えても、中々出てこないよねぇ」

 

確かに、明確にこう、とは言い切れない。曲を作って歌って踊るときは、全員楽しく熱くなることが主だったと思う。

その辺は議論して方向性を決めていくしかないだろう。

 

「うぅ~、穂乃果もう一度ディスティニーランド行きたかったよぉ・・・」

 

・・・まだ引きずってたのかお前。

ディスティニーくらい三連休でも行けるだろうが。いい加減そこから離れろ。

 

「とにかく、もう放課後ですし今からみんなでどのように曲作りを進めていくか、しっかり考えましょう。

ほら、穂乃果も―――」

 

 

「あーーーー!穂乃果、いいこと思いついちゃった!」

 

 

は。

 

はあ?

 

何か嫌な予感がする、ということは分かる。そしてどうも、それが現実になりそうだというのも。

・・・やはり無能な働き者は銃殺するしかないのか。いや働き者って言うのも変か?

 

「ほ、穂乃果ちゃん?いいことって」

 

「詳しくは部室で!さぁ、レッツゴーだよ!」

 

「・・・全く、もう」

 

園田よ、心中お察しします。

 

 

「それで・・・新曲のPVを作るときは、千葉の九十九里浜で、ってこと?」

 

「そう!新曲は夏がテーマなんだよね?それならやっぱり海に行くべきだよ。

これならちゃんとラブライブへの準備もできるし、ついでに帰りにみんなでディスティニーに遊びに行ける!

まさに一石二鳥だよ!」

 

困惑する絢瀬会長の問いに、えへんと胸を張って答える高坂。

 

・・・いや、あの、君、ちょっと待ちなさい。

あと新曲のこと真面目に考えてるように聞こえるが、それ人の受け売りだろうが。

 

「ちょっとちょっとちょっと!そもそも曲自体できてないのにPVなんて作れる訳ないでしょ!?」

 

矢澤が珍しく正論をかましてくる。だが当然だ。

 

「大丈夫っ!また合宿してその間で曲を作れば!」

 

「と、泊まる場所はどこに・・・まさかっ、野宿!?

みんなでサバイバルツアーですかっ!?い、今から飯盒とお米を調達しないと・・・」

 

「・・・多分、また真姫ちゃんのお世話になるんじゃないかにゃー」

 

やっぱしそれか。

なんか金持ちにたかる蟻みたいで恥ずかしい気もしないではないが・・・。

つうかそんな都合よく何軒も別荘持ってんのか西木野ん家は?

 

「・・・一応、その九十九里の方にも別荘はあるけど。

ただ古いしあんまり綺麗じゃないわ、群馬のとは違って。それでもいいの?」

 

あ、あるんすか。正直所有してるってだけでやたらヒエラルキー格差をひしひしと感じる。

古いっていってもトトロのおばけやしきほどじゃないだろうし。あれはあれでまた住んでみたくなるんだがな。

 

「うんっ!食べて寝られればそれでオッケーだよ!」

 

「貴・方・はっ、とにかく帰りにディスティニーランドに寄りたいだけでしょうッ!!」

 

「はうっ?!うっ海未ちゅぁ~ん、穂乃果の名に免じてここは許してよぉ~・・・」

 

お前それ、絶対何度も使い過ぎて信用失ってるだろ。謝るだけなら猫と杓子でもできる、これ真理。

あとルパンみたくちゅぁ~んとか言うな。

 

「まあ、泳ぐんじゃなくて撮影だけなら、この季節でもなんとかなるでしょうけど・・・。

希?貴方はどう思う?」

 

「―――エリチ、それ違う」

 

「え・・・」

 

ふと、東條副会長の声で皆、我に返る。

 

「ウチのことはええ。

何よりまず、比企谷くんの意見を聞いてみるべきやない?

千葉出身者、そして何より、μ'sのマネージャーとして。彼を無視するんは、許されんことやと思うよ」

 

・・・・。

 

そうだ、俺がそもそも音ノ木坂に来た理由、それは。

 

自分がやらかした、不始末のため。それを拭えずに放棄し、逃げてきた。

 

―――誰もお前を本気で探してなかったってことだろ。

 

あの時は、自分がどうなってもいいと覚悟していたはずだった。

だが当事者が逃げてしまい、やがて学校から俺に転校の勧めが来ると、それを受け入れた。

これが最善だと言い聞かせて。

 

それが本当は逃げなのだと、知っているにもかかわらず。

 

「・・・どや?比企谷くん。キミの考え、ウチらに聞かせてくれへん?」

 

もしかして、副会長はその事情を知っていたのだろうか。

生徒会役員なら転校生の人物調査とかいう名目で、聞き出せたのかもしれない。

 

その上で、俺を敢えて気遣ってくれているのだろうか。

 

他の皆も俺を見ている。その色に、賛成を強要するような集団主義は一切感じられなかった。

この合宿を提案した、当の高坂にさえも。

 

そうか、そこまで俺を気遣ってくれているのか。

 

「―――俺は」

 

ならば、それに応えるために。

 

 

「それが曲作りのために、μ'sのためになるなら。合宿をやるべきだと思うし、俺もできる限り協力する」

 

 

もう、逃げは許されない。逃げたりはしない。

 

 

 

 

 

 




終わりです。

いつになるか分かりませんが、次話について。
もちろん、二期の合宿編(原作と時間軸がずれてはいますが)が主なのですが、

「過去を切り捨てるのでなく受け入れること、乗り越えること、和解すること」

これが、八幡にとってのテーマになってきます。
今回と同じように、後半部分で取り扱うつもりです。


なお、「総武高生と鉢合わせして八幡がボコられる」とか、そういう意味でのトンデモなシリアスに進めるつもりはありません。
活動報告でも申し上げた通り、「雪ノ下ら奉仕部メンバーとの再会」も、この本編では取り扱いません。これだけはお約束します。


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第三十話 ぶらり鉄道、それは地味か、優雅な旅か。

すいません、今回はタイトル通りわりと地味~な回です。

というよりはやっぱりいちゃいちゃ回なのか?もう作者にもわからん。


海に遊びに行く。

 

こう聞くと何の問題もないように感じる。が、それも年代によって見方は変わってくる。

 

例えば、小学生の子供ならきっと友達と仲良く海水浴に行くのだろうと解釈できる。

だが高校生とか、それよりさらに上のいい歳した若い連中となると話は別だ。こいつらが大人しく海水浴や砂場遊びに興じるはずがない。

大抵可愛い女子大生たちを引っ掛けてお持ち帰りするとか、そういういかがわしい目的で海辺に繰り出すのだ。

結論、海に行くリア充は片っ端から逮捕しろ。明らかに淫行条例違反だろ。

 

そんな鬱屈した気持もあって、千葉県民の一人でありながら俺はほとんど九十九里浜に行ったことがない。

せいぜいお盆休みに暇を持て余した親父と俺の引きこもり化を憂いた小町によって無理矢理連れ出されて渋々と、というのが大昔に2、3回ほど。

人はクソ多いわ喧しいわ、太陽はかんかん照りでクソ暑いわで、帰ってきたときはゲロ吐きそうなくらいにクタクタになっていた。

そして案の定、次の日からは夏バテで本当に寝込んでしまったという訳だ。・・・引きこもりはダメだから外に連れ出すって、むしろ逆効果じゃねえか。

そもそもゲーム機でゴルフやテニスができる時代、真夏日に外に繰り出すというのが間違っていたのである。

 

・・・まあ、そんな屁理屈は置いておくとしよう。

 

 

俺はやはり、怖かったのだと思う。

 

うかつに帰郷して、誰か知っている奴らに会ったらどうするか。

そこで気まずいムードになり、トラウマが蘇ったりはしないだろうか、と。

 

 

「・・・・」

 

現に総武快速線に揺られて千葉に向かう今も、高坂達はほぼ全員舟を漕いでいるというのに俺ときたらこれだ。

一時も睡魔に襲われることがない。逆に目が冴えて寝付くことができない。

前の合宿の時のように置いてけぼりにされる危険はなくなるけれども。

 

その時、隣に座っていた西木野が突然、俺の顔を覗き込んでくる。・・・なんだ、起きてたなら言えよ。

 

「・・・眠れないの?」

 

「まあな」

 

「昨日ぐっすり寝たから、っていうならいいけど・・・。市販のだけど、一応睡眠薬あるわよ?」

 

「別にいい、どうせ効く頃には到着するだろ」

 

言ったあとからしまったと思った。

嘘でもしっかり寝たから問題ないと言っておくべきだったか。正直は美徳というのも必ずしも当てはまらない。

 

「・・・その、やっぱり。八幡は、千葉に帰るのが嫌だったりするの?」

 

「・・・・」

 

一瞬、返答に窮する。

・・・そりゃ、髪の毛いじりながらたどたどしく、名前を呼び捨ての上で聞かれたらそうなるだろ。何それ恋人呼び?

名前の件はどうしても本人が譲らないので認めたが。でもやっぱ恥ずかしいわ、呼ばれるたびにしゃっくりが出そうなまである。

 

それはともかく、はい嫌でしたと答えるほど俺も野暮で無神経ではない。

だったらなんで合宿に賛成したんだと聞き返され、また気まずくなるのは必至だからだ。

 

「こっちからもひとつ聞かせてくれ。―――俺が転校してきたとき、お前はどう思った?」

 

「・・・転校生が来るのって新学期が始まってすぐだと思ってたから、10月になってっていうのはちょっと意外だったけど。

でもそれは家の事情だってあるし、取り立てて変じゃないでしょ?」

 

やはりそうか。

こいつでも"ちょっと"は"意外"に思うのか。

いや、むしろそれが当たり前なのだ、別段何もおかしくはない。

 

そもそも俺の場合、今は東京で一人暮らしをしている。それも自分から親元を離れて。

しかも高校生の身で。

家庭自体は両親共働き。経済的にちょっと・・・という訳でもなく、まあ世間一般からすれば普通の家庭だ。

親の転勤とか、そういうもっともらしい理由で転校したならまだしも、これでは何か訳ありで音ノ木坂に来たと思われても仕方ない。

 

そして実際、俺は訳ありなのだ。

 

「・・・転校の理由を、聞きたいか?」

 

「・・・・」

 

沈黙。

多分否定したのかもしれない。だが懺悔というか、それでも言っておきたかった。

 

「まあその、元いた学校で色々あってな。それも、大半の原因は俺にあるんだが―――」

 

「―――何、言ってるのよ。そんなのあり得ない」

 

「は?」

 

「元女子高で、最近共学化したところに男子を受け入れるのよ。

いくら生徒が減ってるからって、本当に問題児だとしたらそんな人間が入学できると思う?

理事長も直接会ったんでしょ。その時点で何か怪しいところがあると思われたら入学許可も取り消されるはずよ」

 

「俺がサイコパスで、理事長や教師を騙くらかして転校後に何かやらかす可能性だってあるぞ」

 

「違う。私も、他のμ'sのみんなも。本当は貴方が優しいって、分かってる」

 

・・・・。

どうやら純粋に、そう思ってくれているらしい。

 

だが、俺がμ'sのために動いたことを指してそう言っているならそれは違う。

それは自分のためでもある。決して、聖人君子などではないのだ。

 

「・・・それは、ありがたいんだが。

それでも、俺自身のせいで転校することになったのは事実だ」

 

「・・・仮に、そうだとしても。

何か目的があって、敢えてそうしたんじゃないの」

 

それは、その通りだ。取った手段は最低で、挙句最後は失敗したが。

 

「・・・なんで俺をそこまで庇える?」

 

「さっきも言ったでしょ。本当の貴方は、優しいって分かってるから。

 

 

―――私は、いいえ、私たちは、八幡を信じてる。大切な、μ'sの一員として」

 

最後はこっちの手を握り、目を見つめながら。

西木野は強く静かに言った。

 

恥ずかしいとかそんな感情はもうない。いや、その時は何も考えられなくなっていた。

 

 

その言葉を、俺は素直に受け取ってしまっていいのだろうか。

 

 

結局、少しの間があって、ようやく絞り出せたのは。

 

「・・・すまん」

 

「いいの。余計な事考えるくらいなら、向こうに着いた時のために少しでも休んでおきなさい。

・・・穂乃果みたく」

 

そこで西木野が指さす方向に首を向ける。

南と園田の間に挟まって幸せそうに寝る高坂。まさしく平和そのものと言っていい。

 

「えへへ・・・めろんぱんがこんなにいっぱい・・・zzz」

 

・・・いや、平和過ぎるのも考え物だが。それにしても相変わらず睡眠学習ならぬ睡眠飲食か。

もうホント暴飲暴食の度に注意する園田に同情するわ。高坂のおかんよりおかんしてるまであるし。

「賢母として頑張ったで賞」を進呈してもいいレベル。

 

「・・・やれやれだな」

 

「まだ時間はあるんだからいいじゃない。ほら、八幡も」

 

「お、おう」

 

そこで言われるがままに目を瞑る。

10分くらい経っただろうか、そこで少しづつ意識が落ちていく。

 

・・・最後まで西木野の手の感触を感じていたのは、この際気にしないでおこう。

 

 

千葉駅から別の電車に乗り換え、目的地に着くとまた乗り換え。

最後の電車はそう長くないので楽だが、またそこからバスに乗らねばならない。

本数も少ないのできびきび移動しなければすぐ乗り損ねてしまう。流石に高校生の旅でタクシーは贅沢すぎるからな。

悲しいが田舎を旅するというのはこういうことだ。多少の不便は自らの努力でどうにかするしかない。

 

「暇すぎてなんかお腹すくにゃ~・・・」

 

「穂乃果もだよー・・・ほむまんはもう飽きたよー」

 

「うう・・・今だったらコンビニの身切り品おにぎりが大ごちそうに感じられそうです・・・」

 

子供かお前ら。いや実際そうだけどね?

出発が割と早かっただけに昼飯を食べずにここまで来てしまったが、この分だと千葉駅周辺のモールとかで済ませてしまった方が賢明だったか。

俺がかつての顔見知りに遭遇する危険を犯したとしても。

 

千葉駅から遠ざかるごとに、目的地へ近づくごとに、車窓から見える風景は少しずつ寂れていく。

それに比例して乗客数も少しずつ減っていく。まあこの時期にわざわざ海に行くやつなんてそうそういるまい。

これから女子と合宿だというのに、ここまでもの悲しい気分になるのはきっとこの景色のせいでもあるのだろう。

電車の旅は楽しいとか、あれ絶対詐欺だわ。今ならはっきりわかる。

 

「観光地の近くなのに、こんなに静かなんて・・・驚いたわ。

おばあさまの住んでいた街は、鉄道駅のバザールにも沢山人がいて賑わっていたのに・・・」

 

どうやらお隣の絢瀬会長も同じ感想を持ったらしい。この場合の驚いたというのは、イコール期待外れ、要はつまんねってことだ。

そりゃ都会人の知る"田舎"なんつーのは、人情がー自然がーと美化されすぎるきらいがあるものな。ああいうテレビ番組のデマに踊らされてはいけない。

ただただ寂しく、氷のように冷たい空気。それこそが正しい実像だと思う。

 

「!・・・ごめんなさい比企谷くん、今のは別に悪気はなかったの」

 

「別にいいすよ、正しい評価ですし。今は海開きの季節じゃないってこともあるでしょうけど」

 

「・・・結構アンタって、シビアっていうか地元愛ないのね」

 

矢澤が少し呆れた表情で俺を見る。

いやそりゃそうだろ、田舎を田舎と言われて怒るのは余程の田舎っぺだ。ただし千葉市とマッカンを悪く言うやつ、テメーは殺す。

 

「愛とは受け入れることって言うだろ、要はそういうことだ」

 

「・・・なーんか分かるようで分かんないわ・・・つうかアンタって割とキザ?」

 

違うわ。断言するがそんな痛いヤツでは絶対にない。

俺は自分のことは客観的に見ることができるんです!貴方とは違うんです!

・・・って、キレたらダメじゃねえか。もっとクールになれよ俺。

 

「いちいち地元の悪口言われてカッカしてたらアカンよー、ってことやろ。

つまりはキリストさんいうところの、寛容と慈愛の精神やね」

 

「・・・希、アンタ神社の巫女よね?神職よね?」

 

「ウチの神さん、多神教やもんなー」

 

つまりはいい加減だってことですね分かります。まあ、信仰なぞ好きにやってくれ。

 

一旦会話を中断してまた窓の外を見る。やはり代わり映えのない、畑と家が見えるのみ。

欠伸が出るほど退屈な光景。ぼちぼち着く、それまでの辛抱だ。

 

ふと、同じように外を見る副会長が、どこか遠い目をしているのに気づく。

 

「―――でもな。何でもかんでも受け入れて我慢する必要はないと思うんよ。

そないなことばっかりしとったら、人間、いつか爆発してまうからなぁ」

 

「・・・何を言いたいんです?」

 

「日頃からもっと自分をさらけ出してみぃや、ってこと。

ホントの君は、ひねくれ者なんかじゃないんやから・・・な?」

 

・・・・。

 

それは。

 

まるであの陽乃さんみたいに、今の俺の"顔"もある種の仮面だってことなのだろうか。

この捻くれた、いじけた今の顔は。陽乃さんのそれは狡猾で恐ろしいが、では俺のはどうなのだろう。

 

単に醜いか?間抜けか?阿呆なのか?

 

「・・・・」

 

「ま、今は深刻に考えんと、ゆっくり慣らしていけばええよ。人生いろいろや」

 

Тише едешь, дальше будешь...(静かに進めば、より遠くまで。)ってね。

気長にいけばいいと思うわ、急くことなんてないんだから」

 

副会長と会長が、ニッコリと微笑みかける。

 

すると、

 

「ああもう!何辛気臭い雰囲気醸しちゃってんのよ!

ホラ!マネージャーはしっかり前見て歩いてりゃいいの!ビシッとする!」

 

また背中を叩かれ・・・いや、蹴飛ばされた。

頼むから手加減てもんを覚えてくれませんかね、このツインテールは。ヘルニアにでもなったらどうしてくれる。

 

まあ、暗い気分も吹っ飛んだので今は感謝しておこう、素直にな。

 

「・・・こりゃ、愛の鞭のご教授ありがとうございますよっと」

 

「なっ・・・何急にかしこまっ、素直になっちゃってんのよ!?

この変態!」

 

「もうすぐ駅着くぞ、はしゃいでないで支度しとけよ?

宇宙一(ナンバーワン)スーパーアイドルのにこ様?」

 

「あーーー・・・もうっ!よくもにこの調子をこうまで狂わせてくれたわねっ!

あとでたっぷりしごいてやるんだから!」

 

へいへい、荷物持ちでもなんでもやりますよっと。

 

「うう~、もう立ーてーなーいーよー・・・海未ちゃ~ん、穂乃果のことおんぶしてぇ~」

 

「もうっ!そんなのできるわけないでしょう、自分で立って歩きなさい!」

 

「穂乃果ちゃん、ちゃんと起きないとことりのおやつにしちゃうぞ♪」

 

・・・それ、意味ないじゃん。

全く、高坂も相変わらずだな・・・。俺が説教臭いキャラになるってマジ末期だぞ。

 

「おい、肩支えてやるからちゃんと立て」

 

「ひゃうっ!?ひっ比企谷くん!?

・・・ううっ、海未ちゃんとは大違いだよぉ~、比企谷くんは天使だよぉ~」

 

「・・・穂~乃~果~・・・?」

 

「ひいいいいっ!?やっぱり鬼だよっ!ほら、にこちゃんみたく笑顔えがお、にっこにっこ・・・!」

 

「いい加減にしなさーーーーーい!!!」

 

 

さて、俺が本当に素直になれるのは、いつなのだろうか。

 

 

 




終わり。

シリアスなのかギャグなのかイチャラブなのか収拾がつかなくなってきたぞ・・・。

一つ反省しなければならないのはりんぱなが出番を張る回の少なさ。
特に花陽でそれが顕著だなー、と。「新しいわたし」と「なんとかしなきゃ!」以外にも、どうにかして活躍させてあげたいものです。


あとここからはどうでもいい小ネタについて。

<バザール(市場)

もしかしてエリチのばっちゃはカフカースとか、中央アジアに近いとこに住んでたりするのかな?まあ、僕も詳しくは知らないですが。
バザールの語源はペルシャ語なので、当然中東とかイスラーム圏にこうした市場はあります。日本で有名なのはイスタンブルのグランバザールくらいか・・・

なんでこんな設定を入れたかというと、アニメやラノベで外人ヒロインが出てきたとき、単にどこそこの国の出身っていうだけでなくもっと細かい設定を入れてもいいんじゃないかなーと思うようになったからです。
特にアメリカなんか人種のるつぼでしょう。テキサスだったらいかにもな男勝りのカウガールとか、サンフランシスコ(シリコンバレー)なら電脳オタクとか・・・。
これだってステレオタイプすぎるかもしれませんがね。ロシアも国土広いし割と多民族だし、もっといろんな属性がほしいなと思うんです。

まあとにかく、ハラショーだけ言わしときゃロシア人だろという安直な設定は好きになれないので、キャラ崩壊が行き過ぎない程度にこういう小ネタをぶっこんでいきたいです。
どうぞよろしく。



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第三十一話 やはり合宿とは、ハプニングがつきものである。

まず謝罪を。

この三十一話は、いったん削除して加筆・編集を加え再投下したものとなります。
個人的に投下してからどうもしっくりこなかったので、改めてやり直す形となりましたが、読者の皆様にご迷惑をおかけしたことを謝罪いたします。
また楽しんでいただければ幸いです。

そして、再編集にあたり貴重なアドバイスをくださった西園弖虎様に、深く感謝申し上げます。

それではタイトルも一新して、三十一話、どうぞご覧くださいませ。


「うう~、誰かー穂乃果おんぶしてー・・・」

 

子供かお前は。今度は何があったって言うんだ。

 

現在、俺たちは西木野の別荘へ向けて行軍中。・・・行軍という表現もあながち間違いではないのが割とツラい。

本来なら駅からバスに乗ればよかったのだが、それを空っぽになった皆の胃袋が許さなかった。

食欲に負け駅の近くにあったラーメン屋でしっかりと飯を食ってしまい、その代償としてバスを乗り過ごす。

次の便を待っていたら途轍もない時間の無駄になってしまうということで、片道30分以上かかるらしい目的地へ徒歩で向かっているのだ。

 

俺以外全員女子なのに無茶苦茶すぎね?それなんてブラックな体育会系?と、思わなくもないが全員覚悟の上で決めたので仕方ないだろう。

が・・・。10分ほど歩いたところで高坂が突然道に蹲ってしまった。すぐに会長や園田たちが駆け寄る。

 

・・・おそらく、原因はあのせいかもしれないな。

 

「穂乃果・・・どこか具合でも悪いの?」

 

「お、お腹が痛くて・・・あと右足もつっちゃって・・・えへへ」

 

「だから替え玉を何杯もお替わりするなと言ったでしょう!凛でも一玉までにしていたのに・・・!」

 

やはりな。しかも足もやられたのかよ。

マジで子供の遠足じゃん。

 

「・・・どうするの?ここにずっといても、タクシーなんて通りかからないわよ」

 

「ふむ。誰かが穂乃果ちゃん、おぶってあげるしかないんやない?」

 

その瞬間。

副会長がこっちを見てニヤリとしたのを俺は見逃さなかった。

 

・・・分かっちゃいるけどさ、全く。男だって皆が力持ちなわけじゃないんだぞ?

さしずめ俺は引率の教師といったところか。やっぱり将来は社畜なのね。

 

「―――分かった、高坂、俺の背中乗ってけ」

 

「にゃ!?」「は、ハッチー先輩がおぶっちゃうのぉ!?!」

 

えー何その反応。少女漫画なら恋愛フラグ立つシーンだろ。

俺がイケメンじゃないからか、そうだよな。やはり漫画なんて嘘しかない。

いや最初から期待してないけどね?

 

「この中で男は俺一人なんだから仕方ないだろ・・・」

 

「わ、分かってるにゃ・・・///」「う、うぅ・・・///」

 

えー何その反応、どうでもいいけど二回言いました。

 

「アンタも荷物あるのに大丈夫な訳?何ならにこが持ってあげるわよ」

 

「別にそこまで重くないし前で抱えりゃ問題ないだろ、これもマネージャーの仕事だ」

 

「いつになく仕事熱心ね・・・」

 

なら褒めてくれてもいいんじゃね?人は褒められて成長する生き物だろうに。

 

しゃがんでリュックを一旦下ろし、胸の前で抱えるようにして肩掛けを留める。

・・・コアラの親子みたいとか言うな、きのこたけのこより俺はコアラのマーチ派なんだよ。

 

「高坂、急げ」

 

「あ・・・うんっ!」

 

何で嬉しそうなのお前・・・うっ、分かっていたが重い。

別にデブ呼ばわりしたいわけじゃなく同じ高校生だから仕方ないのだが。つまりは安請け合いした俺が悪いのだ。

これが・・・比企谷八幡の選択だよ。あれ、いつの間にか鳳凰院さんになっちゃったのん?

材木座が泣いて喜んでそうで怖い。お前とは違うんだよお前とは。

 

「うへへへ・・・比企谷くんはやっぱり天使だね・・・」

 

「穂乃果ちゃん、赤ちゃんみたいだね~♪」「全く、もう・・・」

 

おい耳元で猫なで声言うのやめろ、力が抜けるだろ。

南も嬉しそうにするなよ、あと園田もなぜ悔しがる。高坂の荷物持ってもらってるから何とも言えないが。

この分だとどのくらい時間が延びることやら。着く頃には一日分のパワーを消費してるだろうな。

仕方ない、これが・・・社畜の選択だよ。

あれ今度はちっともカッコよくないぞ、やっぱオカリンって実はイケメンじゃん。リア充爆発しろ。

 

ともあれ、別荘に着くまでの辛抱だ。そしたらソファの上で寝かせればいい。

俺もできたら寝転がりたい―――

 

「・・・・」

 

「お?」

 

その時、突然西木野が俺の隣に・・・すり寄ってきた。腕を絡ませて。

"もぎゅ"っと音がするくらいに。

 

え?え?何なのイミワカンナイ。

 

「・・・どうした?」

 

「・・・・」

 

無視。虫の居所が悪いらしい。

理不尽すぎるだろ、俺が悪いのは分かってるから理由を教えてくれ・・・。

 

 

瞬間、俺の右腕にチクッと痛みがさす。

 

 

「つ・・・っ!?」

 

よく見ると、右腕が別の手によって抓っている。それは言うまでもなく、西木野の手だ。

思わず顔を上げると、頬を赤らめ、目の潤んだ西木野の顔があって。

 

「浮気者・・・」

 

「・・・は?」

 

そう言って、腕を放してさっさと歩いていってしまった。

 

え?え?

 

「・・・比企谷くん、真姫と何かあったの?」

 

「さ、さあ」

 

俺ってまさか・・・某誠ばりのクズだったの?最後は出刃包丁で滅多刺しにされちゃうとか?

そうだったんすかホントごめんなさい。・・・小町よ真剣に償いの方法を教えてくれ、あんなクズと同列扱いは嫌だ。

 

「こらー!比企谷くん浮気はだめだよー!」

 

「いて、叩くな!」

 

おふざけしてると振り落とすぞ。

 

結局、途中で休憩をはさんだりして別荘に着いたのは1時間後だった。

・・・バス乗った方が良かったんじゃね?これ。

 

 

さて。

 

「「「「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」」」」

 

俺たちは今、2階の寝室にいる。もっと正確に言うとそこの押し入れの前だ。

そこで何をしているか。

いや何もしていない、しようと思えない。どころか何も考えたくないまである。

 

「あ・・・あ・・・」

 

「こ、れは・・・まさか・・・っ・・・!」

 

よせ何も言うな!現実は認めると辛くなるんだ。って、小泉と園田気絶してるじゃねえか・・・。

 

別荘に着き、荷物を降ろして一息入れると、高坂が「今のうちにお布団引いておこうよ!」と提案。

お前が寝たいだけだろと突っ込みそうになったが提案そのものはまともだったので、すぐさま実行へと移された。

 

が。

 

―――古いしあんまり綺麗じゃないわ、それでもいいの?

 

今にして思えば、この西木野の警告を、もっとよく考えておくべきだったのかもしれない。それか親御さんを通じて状態を確かめるとかな。

 

確かに外観は古いし内部もすごく綺麗とは言えない。それでも、数日泊まる分には問題ないと思った。

備え付けの物が古くなっているのもまあ、ある程度は仕方ないと分かっていた。

 

しかし、しかしだ。

 

布団を取り出そうと押し入れを開けたら、黒い物体が現れるとは誰が思っていただろうか?

 

・・・あー、これってあれですよね。ほら、あれよ、あれ。

分かんない?あいつだよ、人類にとって最小かつ、最恐の敵。

 

「にゃ、に゛ゃーーー!ゴキブリだにゃーーーーー!!」

 

ある者は逃げ去り、

 

「か、神様・・・Господи Иисусе Христе...Сыне Божий, помилуй мя грешную...!! 」

 

ある者は神に縋り、

 

「うわあああ!?ほっ穂乃果の所に来ないでぇ!」「ひ、比企谷く~ん、助けてほしいな~・・・♪」「・・・ふん」「両手に華、青春やなー」

 

そしてある者は文字通り、他者に縋る。

・・・なんで高坂と南は俺に抱き着いてるんですかねぇ。暑苦しいってか匂いとか色々ヤバい。あと感触も。

そこに西木野のジト目による精神攻撃も加わり・・・もうやめて、八幡のHPはゼロよ!

如何にぼっち生活で十何年間と修練を積んでいても、唐突なラッキースケベの前には無力なのである。

悔しい、ついでに胸も苦しい、小町よ助けて。

つうか副会長、ニヨニヨしてる場合か・・・せめて祈祷でもして魔を追い払ってくれよ。

 

「ぅぅぅぅぅぅ・・・・!」

 

って、今度は背中に・・・矢澤か。

ちっこい身体がぶるぶると震えている。正直普段よりかわいいと思ってしまったのは内緒だ。

 

「ひっひっ、ひきゃ、比企谷!たったた退治、退治!」

 

・・・落ち着けよ、まるで俺がゴキみたいじゃねえか。

 

そういえばゴキブリは割と身体を清潔にするらしい。何それ、まるで俺じゃん。

周りからはキモがられてるが実はA型で真面目で繊細な俺のような・・・でもやっぱり同列扱いは嫌でござる。

 

「う・・・動いた!?」「ひっ?!きゃぁぁぁぁぁぁ!!」「だぁぁぁ!!来んじゃなわよぉぉぉぉ!!!」

 

そして3人からの圧力が強まり―――押し出される。

 

 

すなわち、押し入れの中へ。

 

 

「「「!?・・・あっ」」」

 

 

瞬間、空気が凍る。

 

ここで俺は、有名な古の諺を思い出す。

 

"幽霊の 正体見たり 枯れ尾花"と。

 

そう、超常現象などこの世には存在しない。同時に、ゴミ屋敷でもない限りゴキブリが大量発生という事態もまたそうそうあり得ないのだ。

 

「・・・カビだ」

 

「え?」

 

「黴だよ。布団に着いてるのは、ゴキブリじゃねえ」

 

途端に空気が緩んでいくのを感じた。・・・いや、マシとはいえホッとするとこじゃないからね?

 

その後の調べで、備え付けてあった布団は全て黴で使用不能。

枕もほぼ同様の状態であったことが判明。即座に全て庭の物置へ移した・・・やったのは俺。

だって皆涙目で縋ってくるんだもん。女子ってズルいっす。男女差別反対。

 

これが何を意味するか。それは、合宿中はずーっと雑魚寝ということである。

 

・・・これから買い出しとかもあるのに、明日から曲作りも始めなきゃいけないのにこれかよ。

やっぱ社畜ってクソだ。それと寝床ぐらいはまともなものを云々。

 

「うわーい!合宿らしくていいよねっ!」

 

高坂よ・・・そのポジティブシンキング、今は場違いだぞ。

 

 

【side:花陽】

 

動物である以上、生きるために食事は不可欠。

そう言うと食いしんぼと笑われ、あるいは女の子らしくないとたしなめられる。どうも納得がいかない。

男の子はたくさん食べて力を付けなさいって言われるのになあ。

 

とにかく、お腹が減っているときにたくさん食べられないのは、花陽にとって一番の苦行であった。

 

「ご飯が・・・非常食すらストックがないだなんて・・・助けてぇ・・・」

 

「かよちーん、しっかりするにゃー」

 

「みんなが買い物から戻ってくるまでの辛抱ですよ。今はテーブルを準備しておきましょう」

 

あの布団騒動の後、みんなで軽く掃除をして、その後穂乃果たちは買い物に行った。その間、自分と凛に海未はお留守番。

そうお願いされた時は思わずショックで立ちくらみを起こすほどだった。

何か大変なことが起きても3人いれば対処できるとか、貴方は繊細さでは一番だから留守番役にうってつけ、ということらしいけれど。

買い物のお米選びでは観察眼が生かして美味しいものを見つけてやると息巻いてたのに・・・悔しくて、ちょっと恥ずかしい。

 

テーブルと椅子を持ってきて、食器を出す。

それが済めば皆の帰宅を待つのみ。つまり、暇になってしまった。

 

「うーん・・・暇だにゃー」

 

「そうですね・・・」

 

お菓子も既に全部食べてしまった。ゲームをするにしても3人ではちょっと足りない気もする。

かといって自分一人で雑誌を読んだりするというのはいかがなものか。

 

「それなら・・・新曲のことについて、話してみない?」

 

「・・・はぁ。そういえば合宿をやることありきで、その目的が二の次になっていましたからね。

全く穂乃果は、どこまでも向こう見ずで・・・」

 

「むっ、海未ちゃんの親バカが炸裂かにゃ?さすが自他ともに認める穂乃果ちゃんの保護者!」

 

「なっ!?わ、私はただ心配しているだけです!

大体誰がそんなことを言い出したのですか!むしろ甘やかしてばかりのことりの方が―――」

 

「あははは・・・」

 

話題、ずれちゃった。会話をするのも、結構難しい。

 

結局新曲のことからはどんどんと脱線していって。

最近興味を持ったアイドルとか海未の武道の上手さのこととか、プライベートなことを話していた。

それが終わると、μ'sのこれまでのこと。

もしμ'sがなかったら今頃どうしてたんだろうとか、4月の新入生歓迎ライブが大拍手の嵐で、思わず泣いてしまったこととか。

 

そして、その話が終わると、今度は。

 

「えっと・・・そうだ、ハッチー先輩のことだけど」

 

「ハッチー・・・?ああ、比企谷くんのことですね」

 

「かよちんが考えたんだよー?可愛いよね、"ハッチー"って!」

 

「・・・殿方に可愛いと言うのはどうなんでしょうか」

 

そう呼んでもいいかと頼んでみたとき、照れつつオロオロしながら勘弁してくれと懇願するので、結局先輩、と付けることで妥協した。

その姿が男子なのにちょっと可愛いかな、と思って意地悪したくなる気持ちになったのは内緒だ。

 

 

「「「・・・・」」」

 

 

でも。

 

よく考えたら、自分たちは彼のことについて、どれだけのことを知っているんだろう。

 

趣味は・・・確かプリキュアが好きなのと、本人曰く人間観察。多分後者は冗談なんだろうけど。

国語の成績が優秀で、数学がとっても苦手。家事も結構上手。

性格はちょっと捻くれてておかしな屁理屈を言ったりもするけど、案外面倒見のいいところもあって。

妹さんを可愛がっているらしくて―――

 

うーん。

 

これって、多い方なのだろうか。いや、まだまだ足りない気がする。

 

μ'sのマネージャー・・・これはにこが言っているだけだけど、それでも大切な仲間なはず。

それに以前、穂乃果のピンチを救ってくれたことだってあるのだ。

 

なのに、自分たちは。まだまだ彼を、比企谷八幡という人をちゃんと理解できていない気がする。

 

「そういえば、なんでハッチー先輩は音ノ木坂に転校してきたんだにゃ?」

 

「・・・ご本人からは、特に何も聞いていません。恐らく家庭の事情か何かかと」

 

「今は一人暮らしをしているって、穂乃果ちゃんが言ってたけど・・・」

 

家族もそうだろうけど、本人にも何かもっと複雑な事情があるのかもしれない。

それを他人には知られたくないのかもしれない。

 

「でも・・・ハッチー先輩は、悪い人なんかじゃ、ないよね」

 

会話が止まる。

 

ちょっと口が過ぎたかもしれない。でも本当に、疑ってるわけじゃないんだ。

彼のことは信じてる。その上で、もっと知りたいんだ。

 

「うん・・・うん、そうだよ。悪者なんかじゃないにゃ」

 

「・・・当たり前でしょう。仮にそうなら、彼が音ノ木坂に、μ'sにいるはずがありませんよ」

 

「そう、だよね」

 

 

 

だから。

 

どんなことがあっても、彼を受け止めたい。その思いが、強くなる。

 

 

 

 




終わりです。
・・・正直花陽sideの話以外はかなりいじくってます。混乱させて申し訳ない。

次回も合宿編。ようやくアイドルらしい活動をやる、のかな・・・?
いつ投稿できるか分からん。


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第三十二話 夜と闇、そこから導き出されたものは。

今回は、のぞ×はち。
合宿回はもうちょっと続きそうです。引っ張りすぎかな……。

あと、地の文が多く長いです。退屈しないといいけど。


「……ふぅ」

 

食器の片付けを終え、台所からリビングに戻る。今ここにいるのは俺一人のみ。

 

古い古いと言う割にどういうわけかここには露天風呂がある。そこで高坂達が入浴している間、俺が夕食の後片付けを引き受けることになった。

……やっぱここ、十分にお金持ちサマの別荘だわ。まあ掃除して使えるようにするのは大変だったがな。

なお副会長から冗談交じりで「比企谷くんも一緒に入らん?」とか言われたが即拒否した。どこのハーレム王だそれ。

うっかりニッコリ首を縦に振った暁には全員から侮蔑の視線で見られる未来が待っている。そんな胃がキリキリする展開にならないために先んじて手を打っておかねば。

「え~?みんなで入ろうよ~」とか高坂にじゃれつかれ、「……何デレデレしてるのよ」と再び西木野に睨まれる羽目になったが。

……結局胃が痛くなったじゃねーか、どうしてくれる。

 

まあとにかく、今日の仕事は終わった。

寝具に関しては毛布だけは無事だったので、それを体に掛けて寝ることになる。高坂達は2階の寝室、俺はこのリビングになるはずだ。

他に特にやるべきことは……ホットミルクでも用意しておこうか。就寝前の準備といったらそれくらいだろう。

明日からは本格的に曲作りを始めるという。きちんと睡眠をとってしっかり活動できるようにしておくに越したことはない。

 

 

……と、なると。

 

 

残るは、そうだな、今日の振り返りとかか?

何それ意識高い系(笑)みたいで笑えない。でも実際暇になるとついそうしたくなるんだよな。

 

朝は、まあいつも通りに飯を食って……そして小町から電話で忘れ物がどうとかオシャレな服を着てるかとか色々確認された。

鏡に映した俺の姿を写真に撮って送れと言われた時点でブツ切りしたが。妹よ、兄妹でもやっていいことと悪いことがあるぞ。

 

次、道中。

電車で西木野や会長たちと交わした会話はまだしっかりと耳に残っている。

そこで皆が俺に気を遣っているのではないかと、そう改めて考えるようになる。

別にそんなことをしてもらう必要などなかった。故郷に戻るのに後ろめたい気持ちになるのは、俺自身が悪いのだ。

 

それともうひとつ。今の俺は、一体なんなのか。

 

自分自身は"本物"に近づいているか?そもそも本物の俺とはどうなんだ?

捻くれ者ではない、別の俺がいて、それが本物だったりするのか?

 

そればかりは何度頭を捻って考えても、よく分からない。そこまで突き止める必要があるのか、変なナルシシズムに陥りはしないかと戸惑ったりもする。

 

思わず庭に出て夜空を見上げながら黄昏たくなって、窓に手を掛けた時点で慌てて思い直す。

一応仕切りがあるとはいえ、庭のすぐ隣は露天風呂。あいつらの声が聞こえてきたらヤバいことになる。

……いや俺だって男子高校生だし。色々と邪な妄想をしてしまいそうで怖い。煩悩退散、くわばらくわばら。

 

あー……話を振り返りに戻そう。駅から歩いて高坂をおんぶすることになって、着く頃にはクタクタで。

布団がカビだらけで騒ぎになり、その後夕食の買い物の帰りには元気になった高坂が砂浜で遊びだして帰りが遅れ、怒る園田と泣く小泉を宥めたり。

夕食を作る際には矢澤と小泉が急遽乱入、どっちが美味いスタミナメニューを作れるかでバトル開始。小泉の豚丼(大盛)と矢澤のロコモコ丼(大盛)で一進一退の攻防が続き……。

 

で、俺はどっちを選ぶのかと詰め寄られ、食べ比べをさせられる羽目になったり。

どっちも男子の胃袋には十分すぎるほど美味かった。が、それが問題なのだ。イケメンリア充なら「どっちも美味しいよ」が通じるんだろうが、俺の場合そうはいかん。

散々迷った末に涙目の小泉に負け、豚丼の優勝。怒った矢澤に「デザート作りなさい!」と命じらたり。

ロクな材料もない中パンケーキを作って、受けはまあまあよかったがその代わり高坂にお替わりを作ってとおねだりされ。

怒る園田、宥める南、さらに星空らお替わり賛成派と会長らお替わり反対派に割れ場は混乱。こういう時頼りになるであろう副会長は高望みを決めニヤリとほくそ笑んでいた……恨むぞ。

おまけに西木野のにらみつけるこうげきに精神はガリガリ削り取られ……。

 

結論、きょうもいちにちごくろーさん。あしたもいちにちがんばるぞい。

 

……なあ、これってリア充なの?リアルが充実してるってことでいいの?

こんなのが毎日続くならやっぱリア充ってクソゲーだわ、うん。そんな世界は壊してしまえ。

そういやわたりんよぉ、千葉編刊行まだかよアニメ化決定したのに遅すぎだろあくしろよ。兄妹ものとか超俺得じゃねえか。

 

「―――穂乃果、しっかり髪は乾かしましたね?それと下着は新しく買ったのを―――」

 

「もー、ちゃんとやったってばー!海未ちゃんは穂乃果のことバカにしすぎっ!」

 

「あ!穂乃果ちゃん、昔小学校の遠足でお気に入りのパンツなくしちゃってはだかで外に探しに行こうとして、先生に叱られてたよね~。

穂乃果ちゃんったら……やんやん、かわいいっ♪」

 

「穂乃果……」「穂乃果ちゃん……」「……意味分かんない」「何やってんのよ……」「アカンね」「ダメダメにゃー」

 

「みっみんな!?それは1年生のときの話だからねっ?ことりちゃんもバラさないでよーっ!」

 

と、廊下からガヤガヤと騒がしい声がする。全員上がったらしい。

……べ、別に変な妄想とか、俺はホントはしたくないんだからねっ?向こうが火照った肌とかいい香りとか纏ってエロトークをかましてくるのが悪い。

うんそうだ俺は悪くねぇ。以上、証明完了。

そして高坂をいじって弄ぶコントはもはや定番のようだ。……あいつには当分保護者が手放せないだろうな、園田乙。

 

「遅くなって申し訳ありません、比企谷くん。お風呂が空いたので入ってください」

 

「ん……分かった、使わせてもらうわ」

 

大人数ゆえに大分待つことにはなったが、ゆったりと風呂に浸かれるなら何の問題があるだろうか。

合宿で 一人優雅に バスタイム……。フッ、決まったな。寒いとか言うなよ。

一日の締めくくりたる神聖な行為、それが入浴だ。誰にも邪魔されず、自由で、なんというか救われてなきゃダメなんだ。

文句あるやつは前へ出ろ、アームロック仕掛けるぞ。

 

支度をしてリビングから出よう、とした、その時。

 

 

「「!」」

 

 

ふと高坂と、目が合う。バッチリと。

 

目と目が合う~瞬間好きだt……いやいや、ないわ。

むしろ妙な寒気を感じたぞ。

 

「……んっふっふ~、ふふ~ん♪」

 

すぐに目を逸らして下手な口笛を吹く高坂。おい、誤魔化すな。

 

「……どうかしたのか?」

 

「べっつにー、なーんーでーもーなーいーよー?」

 

……。

怪しすぎるわ、何企んでやがる。覗きか?誰得だよ。

 

他の皆に目を向ければ目を逸らす者あり、苦笑いを浮かべる者あり、おどおどキョどりだす者あり、頬を赤らめる者あり……。

なんとまあ、分かりやすい反応だろう。俺はゆっくりと風呂に浸かることすら許されないのか。

そんな哀しい現実に打ちのめされ、ただし入浴中は警戒を怠るべからずと決意し、静かにリビングを出る。

 

途端に中からひそひそと内緒話をする声が聞こえたのは……もう、放置しておこう。

やはり俺の青春ラブコメは以下略。……毎度毎度こんなんでいいの?

 

 

「……っ……!……ッ」

 

意識が遠い彼方に飛びそうになるたび、ハッとしてソファから飛び起きる。

 

時刻は現在、草木も眠る丑三つ時。そろそろ来ると思っていたが……まだか。

実はハッタリとかか?どっちにしろ迷惑な話だが。

 

結局入浴中は何のハプニングもなく、リビングに戻ってもお嬢さん方はババ抜きに興じていた。

連戦連敗の園田には流石に同情を禁じ得なかったが。でもあんだけ感情が顔に出てれば負けますわ。

その後はホットミルクを作って飲んで、解散。高坂達は2階に、俺はそのままリビングに留まってソファの上で横になり―――

 

……いやいやちょっと待て。

 

明らかに高坂お前、風呂入ってる時に何か仕掛けてくるつもりだったろ。

別に期待してはいない、いないがあの時の態度は一体何だったんだ?ハラハラさせておいて肩透かしとか俺好きじゃないわー、激おこだわー。

……なんか口調戸部に似て軽くなったな俺。ウェーイ系のノリは寒いとか金輪際言えなくなるぞ。

 

 

―――ひたっ。

 

 

その時、背後から微かに物音がした。

一瞬だけだが、これは―――

 

「……副会長」

 

「お?……バレてしもた」

 

ネグリジェを着た東條副会長がいた。誰が名付けたか、"わしわしのポーズ"を構えながら。

 

……ははあ、悪戯ってのはこのことか?

つーか俺男なんですけど。揉む部分がないんだけど。

 

「……高坂、廊下にいるならここに―――」

 

「別に誰もおらんよ?みんなはもう寝とる」

 

「は?」

 

「最初はみんなで、こっそり比企谷くんおどかしたろーってはしゃいでたんやけど。

どうやっておどかそうって考えてはしゃいでるうちに、いつの間にか疲れておねむの時間ってわけや」

 

子供か。

いや実際そうだけど、ってこれ何度目だよ。大丈夫かこの合宿。

 

「……で、どうしてアンタはここに」

 

「ウチだけ寝そびれてしもて。なら、折角やし一人だけでも比企谷くんかわいがったろってな♪」

 

「はあ……」

 

もういちいち指摘するのもアホらしいのでやめておく。

そんな俺って弄りがいあるの?この手の人の嗜好はよくわからん。思考?そうとも言うな。

 

「眠れないなら、なんかあったかいものでも飲みます?」

 

「ありがと、でも今はええよ。それよりお喋りでもせん?」

 

―――え゛」

 

やべ、声出てたわ。

 

おしゃべり?それ、食べられるもの?

それともおしゃぶりと言い間違えたとかじゃないよな。流石に小町にすら赤んぼ扱いされたことはないんだが。

俺はそんなに下に見られていたのか……ぐすん。

 

「ん?ウチと話すの嫌?……くすん、悲しいなぁ。

ホントの比企谷くんは、そんな冷たい人やないはずや……もっと優しい人やった……。!そうや、これはきっと怨霊が憑いてしまったんや……!

な、今から恐山行って、御祓い……しに行こ?」

 

……怖っ!

 

目のハイライト、消えとるがな。口元の笑みとのギャップが一層恐怖を引き立たせる。

スピリチュアル系ヤンデレとか何それ笑えない。需要は一定数あるかもしれんが。

 

こういうとき、日本男児ならどうすべきか。太古から受け継がれてきた技、それは―――

 

DO☆GE☆ZAだ。

 

素早くソファから飛び降り、御前にひれ伏す。そこからは平身低頭、誠心誠意、ただこれのみを繰り返す他ない。

 

「マコトニモウシワケアリマセンゼヒオツキアイサセテイタダキマス」

 

さて効果は、いかほどに。

 

「よし♪ほな、ベランダいこか」

 

一転してご機嫌になった副会長に手を引かれるまま、外へ出る。それだけだとまるで魔女に連れ去られる愚者さながらだな……。

 

 

そして、夜の世界に入る。

 

 

まず空を見上げた。満天の、とはいかないかもしれないが、美しい星の数々が夜空に浮かぶ。

次に正面の、兵の隙間からかすかに見える海。耳にはさざ波の音、体には少し冷たい海風を感じる。

 

深呼吸。それを一回試してみる。

すると不思議と、自分が無に帰る―――世界と一体化したかのような錯覚を覚えた。

 

恐怖とも感動とも取れない、この不思議な感覚。

所詮は千葉の片田舎に過ぎない光景。それでもプラネタリウムの疑似世界で味わったものを、遥かに圧倒していた。

 

と、横に副会長が並ぶ。自然とこの世界に、たった二人残されたような感覚になる。

 

真面目な話、本当にそうなったらどうなるのかと考えてみる。

普段はスピリチュアルがどうのと不思議ちゃんオーラを出し、悪戯好きな悪女オーラを出しまくっているが、妙なところで機転を利かせたりもする。

現にかつてのファーストライブの時。あれはもともと絢瀬会長ではなく副会長が提案して実現にこぎつけたものなのだ。ある意味立役者、恩人と言ってもいい。

 

となると、やっぱり副会長が何やかんやと世話を焼く側、俺はひたすら尻に敷かれる側か。

それなんて理想のヒモせいかt……違う、俺は専業主夫志望だってばよ。駄目じゃん。

結局下らない妄想になってしまった。

 

「いい眺めやね。星もいっぱい、都会とは比べもんにならんわぁ」

 

「まあ田舎ですしね」

 

「そう卑下するもんやないよ?田舎には田舎のいいところがちゃんとあるんやから」

 

逆に言えばそんだけだけどな。俺だっていいところ二つ以上はあるぞ。

あるよね?ねえ。

 

「で、何話します?ライブの曲のことっすか」

 

「歌のことは、明日からでいいやん。それよりウチ、もっと聞きたいことがあるんよ。

昔話。君のな」

 

うぇ。

こっちから話したいことなんて何もないんだが……。黒歴史のオンパレードだぞ。

危うく幼稚園の遠足で置いてけぼりになりかけたことでも持ち出してみるか?痛い、痛すぎる。

自虐ネタが上手くいったためしがないんだが、今回はどうだ?

 

「……何を聞きたいんですか?」

 

「……」

 

沈黙。

 

そこでもう一度、副会長の横顔を見た。いつもの悪戯っぽい笑みはない。

 

ゆっくりと、口を開いて言われた言葉。

それは、愛の告白とかそんなロマンチックなものではなく。

 

 

「―――君の昔の、そう、総武高での生活。それを、聞かせてほしいんや」

 

 

 

 

 




終わり。
また次回は、次回だけはシリアス編になります。最後は上手く綺麗に締めるつもりなので、そこはご安心ください。



……ホントに合宿どうすんだよ!?曲作りとかこれからするのに!
一期の合宿回はたった2話で終わらせたのに!

ホントにあと3話くらいは続きそうです。
ユメノトビラ回とかツバサさんどうすんだよ……一期であんな扱いした以上二期ではしっかり描きたいですが。


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第三十三話 スピリチュアルな彼女は、彼との関係性を見出して。

お詫び。

まだまだ合宿回はつづくよ!よかったね!
……マジでどうすんだよー。

なお、希の一人称視点です。あしからず。



【side:希】

 

前に友達に、「昔の希ってどんな感じだったの?」って聞かれたことがある。

 

正直に答えたら「うそー、ありえなーい」って、笑われてしもた。そら、しゃーないなって思う。

何せ今のウチとは、何から何まで正反対。臆病で、引っ込み思案で、ちょっといじけてて。

でも、そんな一人の弱い女の子が、昔のウチの姿だったんよ。

 

こうなったのも、子供の頃からおとんが転勤転勤また転勤の繰り返しで中々友達ができひんかったから。

せっかくできた友達ともすぐに引っ越すからってバイバイして、その後は音沙汰なし……小学校の頃はこんなんばっかりや。

次第に友達を作る気もなくなって、一人ぼっちになっていた。ホントは、寂しかったけど。

人にちょっかいだしたりからかったりとか、その時はぜーんぜん考えられへんかった。やったらすぐ嫌われてしまうもん。

 

そんなウチが何してたかっていうと、占いだったりオカルトの研究をしたりすること。これは今でも続けとるけどな。

 

そして、もうひとつ。

 

『主は、今日も早帰りか。ちと早くはないかのう』

 

(……ウチ、友達おらんし。寄り道なんてせんもん)

 

"お稲荷様"と、二人でお話しすること。

 

いつ"お稲荷様"がウチの前に現れたかは、正直よく覚えとらん。気づいたら見えるようになってた、そんな感じ。

彼女は首から下は人間の姿で、巫女服を着とった。で、首から上は狐のお面を被ってて素顔は分からない。

フツーの子供だったら怖がっとるかもしれん。でもウチはそう思わなかった。

だって、"お稲荷様"が見えるのはウチだけで、他の人には見えない。それがなんかウチにとっての特別みたいやって、凄いって感じたんや。

おとんやおかんには一人で何ブツブツ喋っとるんって心配されたけど。

 

『主ならすぐ一人や二人、友などできるじゃろ』

 

(今はええよ。どうせ、すぐさよならしてしまうんやし)

 

『……ふん』

 

ま、これがその頃のウチの、そんなちょっと寂しくも不思議な日常。

それは、東京の中学に行くまで続いていた。

 

 

中学に入っても、ウチはやっぱり友達がいなかった。

そんなウチにも絡んでくる人はいるもので。でもその子らは正直、あんまり関わりたい類の人間やなかった。

いや、はっきり言ってみんなから恐れられてた。要するにクラスの女子のボス格の子。

彼女たちに目を付けられたら、残りの中学生活は無事ではいられない。そんなヤバい人が話しかけてきて、ねえクラスの誰それってウザいと思わない?だなんて、いきなり聞いてきた。

もう、そん時の恐怖ゆうたらトラウマもんや。稲川淳二はんの怪談話よりも怖くて。

怯えながらもどうにか適当に応えて、お願いはよ終わってどっか行ってと心の中でお祈りし始めたとき。

 

 

(貴女たち、やめなさいよ。怯えてるじゃない、彼女)

 

 

そこに、学級委員の子が割って入ってきた。

 

金髪に青い目の、綺麗な女の子。その子が厳しい顔をしてボスの女の子を睨んでいた。

ボスの女の子は舌打ちしながら去っていく。委員さんもそれを見届けると、気を付けてねとだけ言い残して去っていく。

ウチは突然のことに、お礼すら言えなかった。

 

それがエリチとウチとの、はじめての出会い。

 

結局その後も、お礼を言いたくても中々話しかけられずにいた。エリチもそん時は今以上にオーラが凄かったもんなぁ。

……というより、ウチがヘタレ過ぎたんや。前に進むのが怖かった。

相変わらず、家に帰って"お稲荷様"とお喋りする日常を続けて。

 

でもある日、"お稲荷様"はこう言った。

 

『ええおなごを見つけたのう、主』

 

(……絢瀬さんの、こと?)

 

『他に誰がおると申すか。彼奴は主の生涯の伴侶となるべきおなごかもしれぬ』

 

(ウチは女の子や。それに、ウチには"お稲荷様"がいてくれはったら、それでええんや)

 

その時、"お稲荷様"の声から明るさが消えた。

 

『―――それで良い訳がなかろう。主はずっとこのまま、内に籠って暮らすつもりかの?』

 

(……やめてよ)

 

『主がこうなってしまったのも、主の父君や母君にも咎があるかもしれぬ。

だが主は、自らその因果を断ち切ろうと、自ら闘ったか?自分は悪くない、他者が悪いと転嫁してはおるまいな』

 

(やめて)

 

『いづれ主の父君も、母君も死する。わらわとて不死の身ではない。

さすれば主は、まことの意味で一人じゃ。その時主は一体―――』

 

(やめてって言っとるやん!!)

 

思わず叫んでテーブルの上のトランプや水晶玉を投げつけた。トランプは床に散らばり、水晶玉は割れて粉々になる。

 

そんなウチを見て、"お稲荷様"はため息をついて、こう言った。

 

『もうよい。今の主には言葉など通じぬ、まるで獣じゃ。

―――荒療治といこう。わらわはもう、主の前に姿を現さぬ』

 

(え……)

 

『一人が怖いか?伴侶が欲しいか?では主から動いてみよ。"天は自ら助くる者を助く"―――今生の別れじゃ』

 

そして瞬く間に、"お稲荷様"は消えてしまった。

何の痕跡も残さないで。

 

(ま……待ってよ!ウチの話、もっと聞いてよ!!

 

ウチを……置いていかへんでよ……)

 

その日の夜は、ずーっと布団の中で泣いてた。ごめんなさいごめんなさいって、何遍も謝ったよ。

でも、"お稲荷様"はウチの前に姿を現してくれはることはなかった。

 

そして、覚悟を決めた。勇気出して、声掛けてみようって。

 

 

ある日の放課後。エリチは一人で教室を掃除してた。

 

(……あの。よかったらウチ、手伝わせてもらってええ?)

 

そこから、二人の交流が始まったんや。

 

最初はまだ、エリチもそっけない態度やった。

けど、得意の占いで励ましたりとかしてるうちにエリチの方からも段々声を掛けてくれるようになったんよ。そん時はもう、すっごい嬉しかったわぁ。

ウチも自然に明るくなれて、関西弁で喋るようになって。一緒の高校に行こうねって頑張って、試験を受けて。

合格発表当日は二人して受かることができて、大泣きしながら喜んで。

そして喜びの絶頂のまま、家に帰ると。

 

ウチの机の上に、狐の面が置いてあった。ちいさな手紙と一緒に。

そこにはこう書かれてた。

 

 

『主、困難を乗り越えて、栄光を掴む』

 

 

―――"お稲荷様"や。

 

そう確信して、涙を拭って、お礼を言った。「ありがとう」って。

 

……まあ実際、音ノ木坂に入ってからも色々大変やったんやなー、これが。

何と言っても廃校問題。生徒会に入ってからは会長になったエリチやみんなで解決しようとしたけど、どうにもならなくて時間だけ無駄に過ぎていった。

大人が決めたことに生徒がなにしたって無駄だって、諦めてしまう子もいた。

エリチもこの時ばかりは意気消沈しかけて、見てるのがとっても辛かった。

 

そんな中、穂乃果ちゃんがスクールアイドルを立ち上げるって言い出したんやよね。

にこっちの失敗の例を見ていたエリチはあまり乗り気じゃなかった。ウチも内心ではそうなるんじゃないかって怖かった。

でも、できる限り応援してあげることにした。

そしたら段々上手くいって、やがてウチもサポートからメンバーとして加入することになった。もちろん、エリチも一緒や。

途中おっきな失敗して危機に陥ったり……ってこともあったけど、乗り切った。学校もどうにか廃校にならずに済んだ。

だから今がある。青春という名の栄光が。

 

 

で、長くなったけど……ここからが本題や。

 

ウチには今、すっごく興味を寄せてる男の子がおる。

それが比企谷くん。

音ノ木坂に転入してきて、穂乃果ちゃんに引っ張られるようにμ'sの活動を手助けすることになって、彼はここにいる。

素直になれんとこだけはちょっと前までのエリチそっくりで、そこが見ていて微笑ましい。なのに時折男らしゅうなって自分からみんなに関わっていこうとしたりもする。

穂乃果ちゃんを探しに行った時がまさにそうやったなぁ。あの一件で穂乃果ちゃんが甘えたがりになってしもたけど……比企谷くん、海未ちゃん、ファイトやで。

あ、それとウチとおんなじ一人暮らしで、そこんところも親近感が湧くんや。家事スキルも結構高いし。

冬合宿の時のカレー、美味かったわぁ。

 

そこでふと、もっと距離を縮めてみたいって思うようになった。

……恋愛的な意味で?うーん、それはウチもよう分からん。でも、なんか放っておけない様な、そんな気がしたんよ。

まるで、昔の一人ぼっちだったころのウチの姿と、比企谷くんを重ねてしまって。

 

―――だから、なんかな。

 

たまたま目が覚めてトイレに行って下に降りたら、比企谷くんが起きていた。

いつものように脅かして、からかって。

 

そして。

 

 

「総武高での生活。それを、聞かせてほしいんや」

 

 

二人きりだからと、つい、聞いてしもた。

 

ウチとエリチは、知っている。比企谷くんがなぜ、転校してきたのかを。

軽く聞かされた程度やけど。

それは本人にとって、どれだけ辛いか、分かってた、はず、なのに。でも、おさえきれなくて。

 

違う。違うんや。

ウチはただ、力になってあげたくて―――

 

「―――それで?どこから話しましょうか」

 

そう言ってきた比企谷くんの顔は、どこか達観したというか、諦めにも似た表情で。

 

 

『主、運命の女神は、慎重なる者を愛す』

 

 

……ウチ、最低や。

 

 

こんな自己嫌悪に陥ってしまったんは、初めてのことだった。

 

 

 

 

 




終わりです。

今回は、二期8話の「私の望み」を一部先取りして改変したうえでお送りしました。
スピリチュアルなネタもブッこんでみましたが……こ、これでも頑張ったんだぜ!?
希の"お稲荷様"のイメージは、まあ、ロリババアっぽい何かで。

次回こそ八幡の過去に決着をつけよう。ごめんなさい。



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第三十四話 こうして、彼は古い自分を脱ぎ捨てる。

なんか随分間が空いた気がする……。

ファイナルシングルのタイトル決まったり真姫ちゃんがCMに出たり、冬イベでいきなりずいずいとながもんと天城姉がドロしたり……(艦これ)
色々ありましたが皆さんお元気でしょうか。僕?何か花粉症っぽい!(*´ω`)

……明日の合説終わったら耳鼻科へGO。という訳で三十四話です。


夜、海の近く。そこで女子と二人きり。

いかにも少女漫画でありそうなシーンで、しかし現実にはあり得ないと思っていた。少なくとも俺にとっては縁遠いものであるはずだと。

 

だが、それがまさか、こんな形で実現しようとは。

 

 

「総武高での生活。それを聞かせてほしいんや」

 

 

―――ああ、ついに来てしまったか。

 

東條副会長にそう尋ねられた時、別に顔が真っ青になって汗が噴き出て体が震えるとかそんなことはなく。

意外にも俺は冷静だったと思う。

 

この質問の意図すること、それは要するになぜ俺が転校してきたか、向こうで一体何があったのか。そういうことだ。

単に楽しい昔話を聞かせてくれという軽い気持ちから来たものなら、わざわざ深夜に二人きりになる必要はあるまい。

そっちの意味だったらこの人の性格上、夕食中に高坂達の前ででも聞いてくることだろうし。

 

なんともない、大したことじゃないと言って話を終わらせることもできるだろう。

だがそれは悪手だ。副会長は恐らく、"表向きの"事情に関しては知っているのだ。

合宿が始まってから、妙に俺に気を遣ってくれたことからも。つまりは善意で俺を助けたいと思っているのかもしれない。

 

それを拒絶すればどうなるか。関係に亀裂が走るのは必至だ。

 

俺も日頃リア充共の関係を散々薄っぺらいと皮肉ってきたが、どんな強固そうな人間関係でも壊れるときは一瞬というのは認めなければならないと思う。

……だからって今さらあいつらのことが好きになれるわけじゃないがな。いちいち他人の前で友情ごっこを見せつけるなよ、他所でやってくれ。

 

まあとにかく、この質問をスルーできる権利は俺にはないということだ。どこでもいつでも人から権利を奪われてきた気もするが、今回は気にしたら負けだ。

 

「……それで?どこから話しましょうか」

 

つい投げやりな口調になってしまって、これはマズいと気付く。手遅れだが。

聞かれても当然のことを聞かれているんだぞ。

思わず副会長の顔を見る。俯き目を伏せ、表情はより暗くなり。やって、しまった。

 

もう洗いざらい打ち明けてしまうしか、ない。それだって悪い結果だろうが今よりはマシだ。

 

「……ウチは構わんよ?比企谷くんの話したいとこ、話しやすいとこから言ってくれて」

 

そんなものなどロクにないのだが。仕方ない。

 

「……分かり、ました」

 

そこで、俺は最初から話すことを決めた。総武高に入学してからの、全てを。

 

入学式、犬を助けて車に轢かれて病院送り。それから一年間ぼっち生活。

ここは話す必要があるかどうか迷った。が、"なぜぼっちになったのか"。これを説明しておかねば次の年からの出来事とのつじつまが合わない気もした。

感心したのか単に可笑しいのか、副会長も笑ったので、まあ、いいだろう。

 

さて、二年生。春早々、作文で教師に喧嘩を売って今度は奉仕部送りに。

雪ノ下、由比ヶ浜との馴れ初め。初対面のとき毒舌吐かれてうへーとなったのはまあ、いい。中学なんかもっと凄かったしな。

だがしかし、クッキー騒動の件はヤバかった。あれはマジで洒落にならん……。

今頃は木炭製造機からメシマズヒロインくらいには進化しただろうか。それって進化なの?あいつにとってはそうかもしれない。

そして大天使戸塚と出会って心が浄化されたことも、初めてシスコンブラコンという土俵で張り合う?仲になった川なんとかさんのことも話す。

ついで骨格外強化、いや雪ノ下の姉こと雪ノ下陽乃についても。……あの人はもう存在自体が恐怖だ、例えるならホッブスのリヴァイアサンである。

おまけに張り付けた仮面とコミュ力による人心掌握にも長けているのだから恐ろしい。

あ?材木座?あいつは今も会ってるしいいだろ。

ここでもまだ副会長は笑っていた。ニヨニヨと小悪魔ぽいのに変わってはいたが。

 

―――さて、問題はここから。

 

夏休みの千葉村、ボランティアとして小学生に付き合った時の出来事。

鶴見留美という少女がいて、皆からはぶられていた。

それを解決させるための方法について、俺はある男と対立するところだったのだ。葉山隼人、イケメン且つスポーツマン、リア充の中のリア充。

 

葉山は確かにいい奴かもしれない。優しいかもしれない。

だがあいつには、人の暗い部分を見抜くことができなかったのだ。職業体験でのチェーンメール騒動の時にもその兆しはあったが。

結局鶴見留美の件は一応の解決を見せ、その時はどうにかなった。

ただこの時点で俺は、葉山とはきっと分かり合えることはないだろうとの確信をもう持っていたのだろう。

向こうだって君とは仲良くできなかっただろうなと言うぐらいだ。あの発言は葉山自身の過去も関係しているのかもしれないが、それは俺には関係のない話。

リア充とぼっち、カーストの差異だけではない。イデオロギーの差異、これこそが俺とあいつとを隔てる重要な要素なのだと思う。

 

この時点で副会長の表情も、再び笑みが消え苦々しいというか複雑なものへと変わっていた。

だが、それを分かっていながらも敢えて先へ進める。

 

そう―――更なる暗部へ。文化祭でのことだ。

 

文実初日の出来事、相模の職務態度。その翌日に奉仕部に持ち込まれた依頼。

思えばここから歯車が狂いだしたのかもしれない。いや、"かも"ではなくてほぼ確定だ。

雪ノ下の仕事ぶりで文実の状況は好転したが、あくまで一時的なものでしかなかった。文実を獅子の群れに例えるなら、それを率いていたのは一頭の羊だったのだから。

……いや、流石に獅子は持ち上げ過ぎか。全員を羊として、それを統率すべき羊飼いがあまりに無能力過ぎたと言うべきだな。

結局陽乃さんに乗せられた相模のお触れの所為で台無しになり、雪ノ下も疲労による病気でダウン。文実崩壊の危機である。

よくまあこれで文化祭も中止にならなかったものだ。

 

そして、スローガン決めでのあの一言。ここで俺は自分を犠牲にする覚悟を決めた。

ここでは上手くいって、全員が俺を敵と認識してくれることで文実は再び回ってくれた。

 

だが、文化祭二日目。相模は逃げ出し、俺は連れ戻す役目を任された。

タイムリミットの迫る中、説得に応じず一向に腰を上げようとしない相模。そこでもう一度、俺は切り札を使った。

相模に現実を直視させつつ、焚き付けるための一言を使って……。

 

その結果が、無残な失敗だ。相模は逃げ出した。

 

別に俺が悪者扱いされること自体は構わなかった。問題は依頼を達成できず、文化祭を"きちんとした形で"締めくくれなかったことにある。

ある種自業自得ではあるが、あれで完全に相模はプライドも何もかも失っただろう。自分が逃げ出してもイベントは滞りなく行われたという事実を、陰から見ることによって。

それではいけなかった。どうにかして舞台に立たせなければいけなかったのに。

 

挙句、一番近くに居たはずの人からすら俺は軽蔑され見放され、転校し、今に至る訳だ。

 

「……」

 

全てを話し終わり、副会長の表情を改めて直視する。

話す前と同じ、いや前よりも暗く。果たしてそこには、俺への軽蔑も混ざっているのだろうか。

 

「そっか……あのな、比企谷くん」

 

「……はい」

 

 

「ウチはな。どうしてもダメやってときは、逃げてもええって思うんよ」

 

 

――――。

 

逃げても、いい。

 

成る程、そうきたか。

 

「それはつまり?」

 

言っていることの意味は大体分かっていたが、それでも敢えて聞き返してみる。

 

「文化祭の話。君がそうでもせんかったら、文化祭、もしかしてダメになってたかもしれへんのやろ?

ほとんどの人は、まともに仕事しようとせんのやろ?」

 

「さあ、どうだか」

 

「……だったら、なんで君がそんなヤな役目請け負ってまで文化祭なんかやる必要あるんや。やめてしまえばええ。

みんなで行う行事なんやから、みんながサボってダメになった責任も、みんな等しく負うべきや。そう思わん?」

 

「そうなると、俺らの学年は文化祭一つまともにできなかったと末代までの恥晒しになりますね」

 

「でも、それがホントなら当たり前やって……ウチは思うよ」

 

確かにそうなのかもしれない。あのまま文化祭が失敗に終わることで、全員が責任を負わされる方が正しいのかもしれない。

俺にとっても、サボった方がむしろ楽だったのかもしれない。

 

だが、俺がサボるということは、すなわち奉仕部の職務を破棄することになる。それで文化祭が失敗すれば、雪ノ下の働きも報われない。

平塚先生の怖いお仕置きが後から来ることだってあり得るからな。社畜は鬼上司には逆らえん。

何より俺自身があんな連中と同じところに堕ちるのが、何か嫌だった。プライドが許せなかった。その思いが多分、強かったのだと思う。

もっとも今は、その見下した連中よりも下にいるのかもしれないが。まあ精々笑っていればいい、俺は俺でお前らのことを軽蔑しているからな。おあいこだ。

 

「俺のやったことは、確かに世間一般の感覚からすれば間違ってます。俺としても、失敗だと思ってる。

それでも何もせずに逃げるなんて、とてもできませんし。―――結局、俺はああするしかなかったんじゃないですかね」

 

「……どうして?」

 

「正攻法じゃダメなんですよ、俺の場合は。綺麗事を並べたところで誰一人聞く耳なんて持ちやしませんから」

 

「だから、逃げればええって、言ってるやろ!」

 

その時、いきなり副会長が俺の肩をガシッと掴んできた。両手で。

ビビる暇もなかった。その勢いに乗って、副会長は言葉を続ける。

 

「そんなことして君が傷ついた姿見て、おんなじように傷つく人だっているんや!

妹さん、おるんやろ?お兄さんが学校でそんな目に遭っとるなんて聞いて、彼女がどんな気持ちになると思うか、考えてみぃ!

 

ウチが、おんなじ立場やったら……自分だけ楽しいことしたりとか、そんなん、絶対、できへんよ……」

 

……。

 

ああ、そういえばそんな感じだったか。

 

文化祭が終わって学校で色々あって、その後転校が決まるまでのごたごたの間、小町とはあまり話さなかった。

兄としてのプライドというやつだ。中学の時より酷い目に遭っているのをバラさないように。

 

―――本当に疲れてるならさー……休んじゃっても、いいんじゃない?

 

だが、見事にバレていた。

雪ノ下か由比ヶ浜か、それとも平塚先生や陽乃さんから聞き出したのかもしれない。それも裏事情も含めて、全て。

それならこの事態を生み出したのが俺に原因があると言う事も、多分知っている筈だ。だが小町は、それについては何も言わず、ただ一言そう言った。今の副会長のように。

俺はそれに対しては何も返すことができなかった。ありがとうの一言も。

 

そんな形で同情されるまで、俺は落ちぶれているということを知ったからだ。

それはある意味、無視され罵倒されるより恥ずかしかった。中学の時学年中の笑いものになった、あの黒歴史の時よりも。

 

周りからすれば、俺はみじめで哀れな道化にしか見えないという訳か。どう足掻いたとしても。

 

そう思われるのは、何より嫌だ。不愉快だ。

所詮同情してもらったところで、そこから先へ、いい方向へ進むことはない。

あの人可哀想だね、自分はああなりたくないね。そこでおしまいだから。

 

そんなものは一切要らない。そして、周りの奴にはそう思って欲しくない。

 

ならば―――あのやり方は封印する他ないのだろう。

 

「……すいません」

 

いつの間にかしゃっくり上げていた副会長の顔を見つめながら、詫びの言葉を口にする。

副会長は暫くして、涙を拭って俺を見つめ返す。真っ赤な目で。

 

「……君が謝らなあかんのは、君自身にや。もう二度と、こんなことはしませんって」

 

……俺自身に、か。随分と滑稽な真似だ。

でも、そうでもしなければ、また同じことを繰り返すかもしれない。一時の恥を忍んでやる他あるまい。

 

 

「―――待って」

 

 

後ろから、声がする。

 

振り返ると高坂に南、園田。

その後ろには綾瀬会長に矢澤。おまけに西木野も小泉も星空もいる。皆、落ち込んだように目を伏せているか、目を赤く泣き腫らしていた。

 

恐らく、ほとんど全部聞かれてしまっただろうな。

 

「エリチ……」

 

「……部屋に戻るのが遅いから、具合でも悪いのかって思ったの。そしたら二人で何か話しているものだから、つい、みんなで。

その、ごめんなさい。盗み聞きなんてして」

 

「俺の所為ですから、別に謝ってもらう必要は」

 

「比企谷くん」

 

高坂が、一歩前に歩み出て俺の方へと近づいてきた。やはり真っ赤な、しかし強い目で。

 

「お願い。穂乃果に、ううん、私達にも、誓って。

自分で自分を傷つけることはしない、って。

 

比企谷くんが、そんなひどい事に巻き込まれて傷つくの、見たくない。

比企谷くんを、かわいそうな人を見るような目で見たくない。

 

 

ずっと、比企谷くんとは、友達で、いたい、もん……!」

 

そこで、いきなり抱き着かれる。大声で泣きながら。

それを拒否することはできなかった。

 

他の皆もそれを見て、下を向いている。また泣き始める奴もいた。

 

……とうとう、女子を泣かせるまでになっちまったか。俺はやはり最低だ。

 

「……比企谷くん」

 

背後の副会長から、改めて促される。

 

 

 

「俺は―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




終わりです。次回で、合宿回は最終回になるか?

今回の展開は、今まで以上に神経を使うこととなりました。
実際は、八幡の文化祭での行いは一部始終を目撃していなければ、理解し共感することはかなり難しいと作者自身も思っています。
それでも、ラブライブの優しい世界観をできるだけ壊さないようにと、このような形で決着をつける運びになりました。
ご都合主義との不満、また不快感を催す方もいるかもしれませんが、ご理解いただければ幸いです。

作中の希のセリフは、平塚先生が八幡に対して諭した時の言葉を元にしてます。
より言葉に深みをもたせるためにシチュエーションを湿っぽくしてみましたが、さて。


なお、合宿回以後の予定をここで少し。
恐らく、順番を前後して、「宇宙№1アイドル」→「ユメノトビラ」となるかと思います。
いずれも原作をかなりいじくる可能性大です(´・ω・`)

そして問題はその次。
劇場版のアメリカ渡航編、この部分を先取りしてしまおうかと考えてます。
例によって原作とは(ry
その後はアニメ二期に戻って、最後は劇場版の後編部分で〆という形になるかと。
……エターにならなければね?

このような形をとる理由については、後日活動報告欄にてお伝えします。
決して原作を汚す意図はない、そこだけご理解ください。

ではまた。


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第三十五話 やはり合宿の朝とは慌ただしいものである。

やっと会えた!
(これからも)ご指導ご鞭撻、よろしゅうな!

……某yaggy風の復帰の御挨拶でございます。
いやー、たったこれだけの文章書くのに一か月以上もかかるとは思わなんだ。
ファイナルライブも終わってしまったよ……。生ライブ、一度は見たかったなあ。

まあ、ともあれ、復帰回ということで短めですが、生温かい目で見てやってください。

あとシリアスはもう当分やりません。ここでは。
正直辛いのよね……(´・ω・`)


辛いからと言って逃げるな、逃げずに立ち向かえ。道徳の授業やスポ根漫画ではお決まりの根性論だ。

 

今も昔も、人はやたらとこの手の根性論を持て囃す。何故だろうか。

例えば、漫画やアニメの主人公。何事にも毅然と立ち向かっていくやつの方が、何でもすぐ諦めて屁理屈ばかりこねる奴より人気が出る。

そりゃあ、カッコいいものな。自分より腕っぷしの強い奴にボコられても、バスケやサッカーで強豪校に敗れても、夢破れても何度でも這い上がり再挑戦する奴ってのは。

確実に絵になる。ならないはずがない。

そんな理想のヒーロー像を見て、皆自分もこうありたいものだと夢想するわけだ。

 

そして理想に感化され過ぎた奴は、他者に対して、特に諦めの早い奴に対して、意気地がないと責め嘲る。

そういう奴ほど自分が同じ立場に置かれたら百万遍の言い訳を並べ立てて正当化したがるくせに。

子供に対してやたら干渉する偉そうな大人がいい例だ。だから俺は基本的にこの手の根性論が嫌いなのだ。

"諦めずにチャレンジ"して、人から碌な評価ももらえずただ小馬鹿にされるだけだった経験則もあってのことだが。

 

俺は面倒事には立ち向かわず逃げようとしてきた。それが変わったのが―――あの文実の場だ。

 

口だけ達者で、自分は何一つ行動しない屑どもが、勤勉な奴らを踏み台にする。しくじったら被害者面をして同情を買おうとする。

そんな奴らが文化祭を率い、グダグダにしていくことに腹が立った。だから俺は行動を起こした。

無残に失敗したが。

 

でもそれは過去のこと。もう新天地を見つけてそれなりに上手くやれているのだから、もういいではないか。

そう思っていたら、ある日突然その過去話を聞き出された。やむを得ず、正直に告白した。

責められると思った。蔑まれると思っていた。

 

だが、違った。

 

―――逃げればええって、言ってるやろ!君が傷つく姿見て、おんなじように傷つく人やっているんや……!

 

―――ひどいことに巻き込まれて、傷つくの、見たくない。かわいそうな人を見る目で、見たくない……!

 

彼女らはこう言ったのだ。俺のやったことを、全て聞き、理解したうえで。

 

言われなくても分かっているが、俺のやったことは、結局はただの反抗と暴言でしかない。周りの連中からすれば。

どんな理屈を用いても正当化することはできないだろう。おまけに最後は失敗したというオチまで付いている。

ましてや女子連中が、男の俺がやったこの破壊行為を軽蔑しない訳がない。

 

だが、あいつらはそうしなかった。

 

ただ否定するのではなく、俺が傷つき恥を晒す姿を見て、嘲り軽蔑することはしたくない。

そう言った。

 

例え俺が今までμ'sにどれだけ尽くしていようがこんなことをしでかしたと分かれば一瞬で信頼関係も立ち消えになる、そう覚悟していた。

だが、まだあいつらは俺を対等な存在として見てくれている。仲間だと思ってくれている。

 

ありがたいとか申し訳ないとか、そんな言葉では片付けられない、何とも言えない気持ちになった。

それでも懇願されるままに、二度と馬鹿な真似はしないとは言ったが。

 

ただ、改めて、一つ分かったことがある。

 

俺如きが、ヒーローの如く義憤に駆られて無茶なことをしてはいけない。世界を背負った気になってはいけない。

自分が生きやすいように生きるのがいいのだと。

 

そう思って、少し心のしこりが取れたような気がした。

 

 

「……」

 

朝が来た。

……朝ドラのことじゃねえぞ、つーかもう終わったからなあれ。

前に小町にそう言ったらやけに大げさに驚いていた。びっくりポンってか。

女子中学生ならドラマの流行り廃りくらいは覚えておけよと言いたくなったが我慢した。ニュースとプリキュアしか見ていない愚兄に説教されたくはないだろうな。

 

さて、平日ならうげぇとブルーな気分になりながら支度をするところだが、今日は違う。

GWであり休日である。その事実を噛みしめ否応なしに心が軽くなる、嗚呼素晴らしきかな人生。

……まあ合宿に来ているので、いつものようにベッドで読書をするような優雅なことはやっていられんのだが。

悠長の言い間違い?いや違うぞ。

 

時計を見る。現在、6時52分。もうそろそろ高坂達も起きて下に降りてくる筈だ。

となれば、マネージャーの俺が朝食の支度をしなければいけない。問題はどんなレシピにするかだ。

材料はまだそれなりに残っているが、手間暇かけて和食フルコースなんて流石に俺も作れない。何より全員昨日ガッツリと肉料理を食い尚且つ寝不足という有様で胃が受け付ける訳がないだろう。

かといってコーンフレークと牛乳をドンとおいておしまいではテキトー過ぎる。

 

ということで、母ちゃん直伝の必殺技、"残り物には福がある"を使う。

レシピはスープリゾット。昨晩余っていたコンソメスープを活用し、米を鍋に入れて炊くだけ。

ただのご飯やお粥よりかはずっと食も進むし、疲れた胃にも問題ない。あとは付け合わせに濃いコーヒーでも沸かしておけば完璧だ。

 

「ふわぁ~、喉乾いた~……ってあれ!?比企谷くんもう起きてたの?」

 

と、いきなりキッチンに高坂来襲。……お前まだパジャマ姿なのかよ。

こちとら一応着替えた上にエプロン装備なのだが。逆に恥ずかしいというか損した気分だ。

このお子ちゃまめ、それに園田と南はどうした?

 

「……うす。

飯の用意できたから早く支度してこい。あと他の奴らも呼んできてくれ」

 

「え!?朝ご飯、作ってくれてたの!?」

 

見りゃ分かるだろ……。

まずは人の話を聞かんか、顔が近い少し離れろ。大体なんで寝起きからこうもテンションが高いんだこいつ。

いくら休日でも俺だってスイッチが入るのには結構な時間が掛かるというのに。アホな方が人生イージーモードというのも正しいのかもしれん。

 

大体、朝食の支度をするということがそんな不思議な事なんだろうか。今は男女共同参画社会なんだろ?

男が嫌い俺が手に触れたものなど食べたくないと言うなら別だが。

 

いや、それよりも、何よりも。

 

「マネージャーなんだから当たり前だ。……それに、寝る前にさんざんお前らには迷惑かけたしな」

 

そうだ。だから俺は、その分贖罪をする。

何もおかしいところはない。違うか?

 

そう言うと、高坂は一瞬ぽかんとして、次いで慌てて叫ぶ。

 

「あ……あれはっ!ほ、穂乃果たちが希ちゃんと比企谷くんが話してるの盗み聞きしちゃったからで……!」

 

―――バカ、止せ。

 

自分に非があるように話さないでくれ。

悪いのは俺でいい。実際そうなんだからな。

 

そして、俺は感謝しなくてはならない。そんな下種でも、お前らは受け入れてくれたのだから。

だから―――

 

……と、本来なら言うべきところだが。ここで俺の捻デレスキルがなぜか発動。

 

「んなこと気にしてたら、情報源の8割がたが盗み聞きの俺はとっくのとうに死刑だろ」

 

「……え?あ、あははは、は……?」

 

あははは。

「穂乃果、バカだから分かんなぁ~い☆彡」とでも言いたげな顔だな。でも本当は理解してるし唖然としてるってはっきり出てるぞ。

素直に軽蔑してくれた方がどれだけ楽か。だがぼっち気質が治らぬ以上この習性もまた当分治りそうにない。

 

しかしこれで高坂が俺から離れる口実は出来た。

正直パジャマ姿でいつまでも近寄られると色々と困る。色々と。

 

「とにかく、お前は気にしないで自分の支度をしてきてくれ。それと―――」

 

「……ううん!穂乃果も手伝うよっ、一緒に支度した方が早いからねっ」

 

はい?

 

さっきドン引きしたかと思えばもう立ち直っていやがる。今度はこっちがドン引きする番だぞ。

 

「いや、あのな」

 

「むー!穂乃果だって、す、少しは料理できるし……!

そっそれにっ、子供の時みたいに、お皿何枚も割ったりとか、し、しないんだからね!」

 

アウト。相変わらず誤魔化し方が下手だな……。料理する前から厨房に入れたらヤバいやつだ。

イギリス人とどっちがマシか判断に迷うところである。

 

「おい、いいから……」

 

「子ども扱いしないでよーっ!穂乃果だってやれば必ず、何事も為せば成る、だよ―――!」

 

 

「―――穂乃果!いい加減に、早く上に上がって着替えなさい!

そのだらしない格好で比企谷くんと鉢合わせたらどうするんで……」

 

 

その時、再びキッチンに客が現れる。目と目が合う~♪……と、誤魔化している場合ではなく。

 

 

俺は確信した。休日だからといって、平穏な朝が遅れるとは限らないのだと。

 

 

 

 

 




終わりです。前半と後半のテンションの落差が(ちょっと)アレだったかも?

次回は朝のドタバタ騒動の続きを少しやった後、恐らく二十九話の冒頭部分に戻る。そしてやっと本来の目的のラブライブの課題曲作り……の予定です。
大会が夏なのでひとつはまず夏メロ、というのはちょこっとお話ししましたが、「ユメノトビラ」の制作に行きつくまでの過程をどうするか。
そこを検討しているところです。そしておざなりにしてしまった八幡と穂乃果たちの関係の再構築も、もう一度しっかりと。

……さて、いつになるんだろうな……。Eテレで再放送始まるんでそのあたりには……就活め……。


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vsAqours?!編~やはり恋には争いがつきものである。

復ッッ!活ッッ!!

いやはや、本当に申し訳ないであります……ピクシブの方にかまけてしまった。
明日でサンシャインも六話だちゅうに。

さて、今回はサンシャイン特別編、いっくよー!
主役は堕天使ヨハネ、げふんげふん、津島善子ちゃんであります!


※ハーレムとキャラ崩壊が嫌いな方はご注意。

時系列は……三十五話が終わって、大体ラブライブ出場前後の辺り、かな?
Aqoursができるのはμ'sの五年後?何それ知らないなぁ()


「ああ……私のメシア!生きて再び地上でお会いできるなんて、まさしく運命だわ!!」

 

 

はい?

 

「「「……は?」」」「「「「……へ?」」」」「「……ふふっ♪」」

 

おお、後ろの皆々の反応も割れてるな、まさしく三者三様ってやつか。俺?男だし声出してないしカウントされるわけないだろ。

こういう面倒なときはぼっちでいたいのだ。もう無理だけど。

 

ええと……まず過去を振り返りつつ状況を整理してみるか。

数日前、いつものようにμ'sの集まりで高坂たちと練習をしていたら、SIFを通じて一通の連絡が来た。

 

 

『大好きなμ'sの先輩方、是非お会いしてお話を聞かせてほしいです! 浦の星女学院 Aqours』

 

 

と、要するに後輩のスクールアイドルさんが教えを乞いたい、というようなもの。

尚Aqoursは静岡出身のグループで今年に入って結成された新星、海や空をイメージした衣装や明るい曲風がウケているらしい。俺は知らなかったが。

……と言ったら矢澤にえらいおっかない顔で説教を喰らい、小泉にすごい真剣な顔でAqoursの知識とやらを叩きこまれたんだよなぁ。ガチのオタクはマジ怖い。

 

さてこの申し出をどうするか、承諾するのかということだが……これに関しては特に反対は出なかった。

曰く、後輩にして良きライバルと交流を深めることは自分たちの成長に、ひいてはスクールアイドル全体の底上げに繋がると。ありきたりではあるが、確かに悪い方向に行きそうだとも思えない。

μ'sのテクや曲をスパイしてあわよくばパクるとか、まさか向こうもそんなことはしないだろう。既にそれなりの実績を上げているんだし。

その後の日程調整はトントン拍子、というか高坂の「今やろう!すぐやろうよ!」の鶴の一声で今週末に決定。おいおい、向こうの事情はどうすんだという心配は杞憂に終わった。

何故ならを出して一時間も経たないうちに、Aqoursのリーダーである高海千歌の名前で「ありがとうございます!"逝"かせていただきます!」と返事が来たのだから……。

その時俺は確信した。このAqoursのリーダー、高坂に負けず劣らずアホの子であり向こう見ずな暴走機関車であると。

向こうにも園田ポジションのメンバーがいるんだろうか?だとしたら心から同情する。

 

で、μ's&Aqours座談会(?)当日の今日、出迎えのために俺たちは東京駅へとやってきて、ご対面となったわけだが……。

 

「嗚呼……今までヨハネが受けてきた数々の受難……きっとこの日の幸運のための天界が与えたもうた試練だったのね……」

 

「……はあ」

 

なんか厨二っぽい女子に懐かれましたテヘペロ☆彡←……イマココ。

いや懐かれたとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。俺は多分、このAqoursの津島善子なる女子に惚れられたのだ。

美人局を疑いたくなるまであるが。中二病でも恋がしたいってか、すまねぇ俺ァ京アニはこの頃さっぱりなんだ。

だから堪忍してくれ。……ほら、後ろで西木野さんとか矢澤さんとかなんかめっちゃ睨んでるから!

 

周囲からキモいと思われるのは覚悟の上で、俺の手を握ったまま恍惚に浸る津島の顔をよく観察してみる。

グレーがかったロングヘアーにお団子そして尖った鼻。パッと見はクールな感じの美人というところ……だがリアル厨二病なんだよな、いや人間臭さがあってそれはそれでいいとは思うが。

 

「きゃっ……お願いメシア、あんまり見つめないで……。ヨハネ、身を焦がしてしまいそう……」

 

身をくねくねとよじらせながら照れている津島。ああくそ、演技でやってんのか分からんが目の毒になるくらいヤバカワいい。

……つーか待てよ、なんかこいつ以前どこかで見かけた気が……。

 

「―――八幡?」

 

背後からの冷たい一声。

観念して振り返ると、そこにはハイライトの消えた西木野さんの怖ーい顔。……これはNice boatされるフラグなのか?

 

「ねえ……私と一緒に夢を追いかけてって言ったわよね……?

それなのにこんな……許セナイ……強イ薬ヲ上ゲナイト……」

 

アカン。本格的に病んでいらっしゃる。

 

「ままま待て俺はその」

 

「ていうか……あ、アンタはμ'sのマネージャーでしょーが!ぬわぁにをよその娘にてっだししようとしてっ、んのよっ!」

 

「は、ハッチー先輩が……ぴゃぁぁぁぁ……!」「か、かよちーん!どうどうにゃ!」

 

おい矢澤さん、その言い方だとよそのアイドルじゃなきゃ手を出してもいいって聞こえるんですが。微妙にツンデレてるのもバレバレです。

小泉よ、顔真っ赤にして蹲らないでくれ……星空も馬をあやしてどうする。

 

「ほえー!まさか善子ちゃんに恋人がいたなんて、千歌感激だよー!」

 

「おいそれは――――」

 

「むぅぅぅ……!」

 

ここで状況を勘違いしてるバカと何故かむくれてそれに張り合うバカが参上。なおどちらもスクールアイドルのリーダーである。

いや、俺だって理系科目とかできないけどね?頼むからここは空気読んで大人しくしててくれ。

 

「Wow!街中の逢瀬なんて、とってもcutieでlovelyじゃない!」

 

「きっと善子ちゃん、恋の魔法にかかってしまったんやね……まさにスピリチュアルやなぁー」

 

「ふふっ、比企谷くんってばモテモテだねぇ♪」

 

「恋する善子ちゃん……マルたちより、何か大人に見えるずら」「ぴぃぃ……あ、あれが……大人なの?」

 

更には悪ノリする連中の所業で混乱に拍車が掛かる。こっちは分かっててやってる分たちが悪いな……。

特にエセ外人とエセ関西弁のお前ら二人。何陽気に暢気に構えてんだよ、ピンチなんだってばよ。面白がるな。

ことりさんはなんか黒小鳥で怖いんですけど。あと沼津の一年諸君、恋だけじゃなく失恋をして人は大人になっていくものだぞ。ソースは俺の体験。

 

「ちょっとちょっと、ストップストーップ!みんなヨーソローしてる場合じゃないよ!」

 

「その通りです、駅前でこんな……破廉恥すぎます!」「ええ……このわたくし、生徒会長として風紀の乱れに目を瞑る訳には参りませんわ!」

 

あ、やっと止め役が来てくれた。なんか勘違いしてる気もするが、大体ヨーソローってなんなのよ。

 

「兎に角、みんな落ち着きましょう?ここで騒いでいたら本当に迷惑になるわよ」

 

「というか……既に結構な人から注目されちゃってるよね、私ら。早いとこ撤収しないとさ」

 

ですよねー。

こんなことで有名になったって、バカッターの炎上騒ぎと大して変わらんし嬉しくもないぞ。

 

「そうだね。ほら、よっちゃん行こう」

 

「む……仕方ないわね、リリーの名に免じて許してあげるわ!」

 

そこで一旦俺と津島はお互い離される。正直助かった。

何とかこの場で修羅場になるのは回避された訳だ。

問題の先送りとかそれは言ってはいけない。もしかしたらこのまま皆が打ち解けて今のことをすっかり忘れている可能性だってあるのだ。

微粒子レベルで。……え、やっぱりそれだけしかないの?

 

「それじゃ移動するぞ、早いとこ音ノ木坂に案内した方がいいだろ。ただでさえ遠くから来てるんだから―――」

 

「あ!それならそれなら、せめて歩きながら穂乃果たちに話してよ!

なんで善子ちゃんが比企谷くんのことを知ってて好きになったのかさ!」

 

……。

 

状況、振りだしに戻る。高坂……ああくそ、そりゃ俺だって実は気にはしていたけどこれはないだろ。

 

すると津島は一転して自信満々のドヤ顔になる。こりゃ痛いことをやらかす前兆かもしれん。

 

「フフ……本当に知りたい?ヨハネとメシアとの邂逅(であい)のこと」

 

「うんっ!」

 

「……本当に?本当に?」

 

「うんっ!!」

 

「そう……では、人に物を訊ねるときは大事な言葉が必要じゃない?プr「お願い!穂乃果どうしても知りたいの!!」……ちょっと!折角格好よく決めるとこだったのに!どうしてくれるのよーっ!!」

 

あ、素が出たな。材木座と違って本来は純情というかそそっかしいタイプなのか?

何というギャップだろう。でも萌えてる場合じゃない、殺される。

 

「……フッ、まあいいわ。特別に教えてあげる、去年のヴァンデミエールのあの日……素晴らしい奇跡のことを……」

 

「ほへ?ヴァンデ……ファンデーションかなにか……なの?」

 

「……葡萄月(ヴァンデミエール)、フランス革命暦の九月を指す言葉だ」

 

どうにか態勢を立て直し、奇妙なポーズを取りながら語りだす津島。普通に九月って言えよ……。

 

 

……ん?去年?九月……?

 

 

(回想)

 

「人生は苦くともマッカンの甘さは変わらず……か。なんてな」

 

下らない独り言を言いつつブラブラと街を歩く。

電気屋やアニメショップのある駅前から離れれば、そこはどこか落ち着いた雰囲気の下町だ。千葉とは何から何まで違う。

寂しさを覚える一方で、それがどこか慰めにもなる。プロぼっちを極めていたはずの俺もここにきて流石に疲弊していたのかもしれない。

 

その日、俺は正式に総武高から東京の音ノ木坂学院に転入することになり、同時に一人暮らしを始めることになった。

引っ越しの片付けも終え、夕食も適当に済ませた。そしてやることもなくなり街へと繰り出したのである。

 

……実のところは、単に虚しさを埋めたいとかそんな感じだったのだろうが。

 

俺はまたやらかした。総武高の文化祭で、文実で、誰が見ても最低と指弾するであろうことをやってしまった。

周りの人々を傷つけ、迷惑を掛け、だからこうして他所の学校へと移ることになった訳だ。

 

自業自得。そんなことは分かり切っている。

ならばどうすればよかったのかと、心の中の疑問は拭いきれない。

崩壊寸前の文実をどうにかするために、他に俺に何ができたのか。屋上で蹲る相模を速やかに連れ戻すために、他にどんな手段があったのか。

 

まあ、今更思いついたところで時すでに遅しだがな。俺はもう総武高とは縁を切った、いや切られたのだ。

もしかしたら"本物"になれたかもしれない、その人たちとの縁まで。全ては終わった。

次の高校では大人しくしよう、目立たずぼっちで居よう。どうせ元女子高だし俺なんかに構いたがるクラスメートもいないだろうし。

人は各々の領分を弁えるべきなのだ。

 

と、ブツブツと考え事をしていた時。

 

 

「えっと……ここは外神田で……目的地には……ぐすっ」

 

 

リアル ふしんしゃ が あらわれた!

 

……ふざけている場合じゃねえ。ロングコートにマスク、サングラスにボサボサの長い髪……っておいまさか口裂け女か?いやあれは都市伝説だよな?

大体この時期にあんな厚着をするのはまだ早い。要はとことん自分の素顔を見られたくないということか。

俺も昔、外に出るときは軽く変装してヒキタニがいるとか囃し立てられないよう神経を使ったものだが……あそこまでくると完全に逆効果だ。

たまたま碌に人のいない通りで幸いだった。これが繁華街とかだったら即お巡りさんに職務質問をされるまである。

 

さて様子を見る限り、不審者さんカッコカリはどうやら道に迷って途方に暮れているらしい。でっかい紙袋を持って。

あー……何となく分かる。ぼっちに人に道を尋ねるとかそんな器用な真似はできないしな。通報されるし。

スマホの地図アプリとかも案外頼りにならないもので、あとはひたすら行ったり来たりしてゴールに辿り着くしかない。

え、お前が助けてやれって?いやいや絶対向こうから願い下げだろ。俺のような目も性根も腐った男に手を差し伸べられるなんて……。

 

「……」

 

って。

 

い、いつの間にこんな近づいてやがる?!なんだよ、全然気づかなかったじゃねえか。

サングラス越しでも伝わる、ねめつけるような視線。俺何もしてな……あ、観察はちょっとしてたわ。

別にストーカー目的じゃないんだが……通じないよな……。

 

よし逃げよう。そう決意した瞬間、腕を掴まれた。

 

「お待ちなさい、リトルデーモン」

 

「……はい?」

 

小悪魔?ゴブリンとかなら分かる気はするがそれはないと思うぞ。言って何か悲しくなってきた……。

あともしかしなくてもこいつ……厨二病だ?微妙な疑問形なのはまだ口調とかでしか判断できないからなのだが。

 

「何か用すか?あの申し訳ないんですが俺無宗教なんで神さまも壺も数珠も要らないんで」

 

「……違うわよ!い、今のはその、ついアレが……私はただ道を聞きたいだけなの!」

 

「じゃあそう言えばいいだろ……」

 

「う、うるさーーい!!……ぐすん」

 

ヤバい、泣かせてしまった。このままじゃ早晩近隣の人に怪しまれて通報されてしまう。

この歳で臭い飯を食うのは御免だ。小町を泣かせる訳には……。

 

結局その勢いのまま、俺は迷える少女を手助けすることになったのだった。

 

 

「……買い物は済んだのか?」

 

「え、ええ。これでおかあさ……コホンっ、両親へのお土産は揃ったわ」

 

別にそんな礼儀に気を遣わんでもいいだろ。いちいち気にするかよ、赤の他人同士なんだから。

 

暫くして、穂むらとかいう和菓子屋の前に来ていた。少女は旅行中で、目当てのお土産屋を探す途中迷ったらしい。

たまたま俺が今朝タクシーで通りかかったのを覚えていたのが幸いした。俺自身全く土地勘などないし、最悪ミイラ取りがミイラになって警察の御厄介になっていただろう。

 

店から出てきた少女は、今はもうサングラスもコートも外している。目鼻立ちの整った美人ではあるが……どこか陰のある感じだな。

あの千葉村であった鶴見留美と同じものを感じる。だからどうしたという話だが、今の自分の境遇が境遇なだけにどこか引っかかるのだ。

 

おっと……マズい、深入りは厳禁だ。間違っても俺から彼女のことを根掘り葉掘り聞くべきではない。さっさと別れる、これが賢明だろう。

 

「その……み、道案内してくれてありがと」

 

「別に気にしなくていい、俺も暇だったし。駅とかホテルまでの道は大丈夫だな?」

 

「……流石に一度行ったところくらい覚えてるわ」

 

「なら、もういいだろ。俺はこれで失礼する。いい旅を」

 

「え……ま、待ってよ!」

 

立ち去ろうとした途端、再び腕を掴まれる。いやもう良くね?これで万事解決じゃね?

まさか送ってほしいと?まだ明るいし付き添い無くても襲われるなんて有り得ん。

 

「……あなたさえ良ければ、私の話を聞いてくれない?」

 

「どういうことだ?」

 

「あなたと私は、雰囲気とかどこか似ているって思って……私のことが分かるんじゃないかって……」

 

おお、奇遇だな。初対面の人と意見が一致するとは。

名前も知らず碌に会話もせずに何故分かるかって?そりゃぼっちシンパシーってやつだ、似た者同士引き合うってこと。

 

無下にするのも少し気の毒ではあるので、そこで俺は少女に話すよう促す。

すると、持っていた紙袋を差し出してきた。

 

「中身を見てみて」

 

言われるままに袋を開けてみる。そこにあったのは、所謂コスプレ衣装だった。

黒装束に黒っぽいドレス、黒っぽい翼……ああ、これは厨二病ですわ。

多分堕天使がどうとかいう設定なんだろう。……うっ、なんか似合いそうでヤバい。

 

「で、これがどうした?」

 

「どうって……あなたはこれを見て引いたりしないの?」

 

「いや別に。個人で楽しむのは何も問題ないだろ」

 

昔冥界の魔王ごっこをしていた身としてはどうこう言えん。

ちゃんとしたコスプレ衣装じゃなくて、段ボールを切り張りしてマジックで塗っただけだけどな。小町にバレて爆笑されてすぐやめたし。

 

「なら……私の正体は実はヨハネという天使で。

この美しき容姿故に神から嫉妬され天界を追放、この地上へと叩き落され堕天使となった!……って聞いても?」

 

やはり堕天使か。確かにこいつは美人だけどちょっとナルシスト過ぎやしないかね……。あ、だから堕天使なのか。

 

「お前がそれで周りの人を傷つけるとかしない限りはな。それに、こんなの誰でも一度は通る道だろ?」

 

仮面ライダーだったり戦隊ヒーローに憧れたりするのと似たようなもんだ。或いは、プリキュアとかプ○キュアとかプリ○ュアとか。

あ、プリ○ラと間違えたアホは屋上な。ったく、あんなタイトルとか紛らわしいの作るなっての。

 

だから俺は、そういうのに逃げたっていいと思う。勿論リア充みたく騒いで不快感を撒き散らすなら話は別だが……。

多分こいつの性格上そこまでする度胸はないだろう。

 

「……中学校の新学年の自己紹介でご披露して、みんなからドン引きされたとしても?」

 

「うん、それはアウトだわ」

 

「やっぱりぃぃぃぃ!!む、昔からつい癖で出ちゃうのよっ、しょうがないじゃない!

……おかげで恥ずかしくて休日は家から出れないし……お母さんも心配して、それで気分転換に東京見物に行ってきなさいって言われたけど……ぐすん」

 

ああ、旅行ってそういうことか。お母ちゃん荒療治過ぎない?

なお俺の場合はやろうとして直前でどうにか押しとどまった。結局噛みまくってドン引きされたけどね。

ヨハネさんよ、いつかは懐かしく振り返る時が来るさ。強く生きろ。

 

「そういうのは内輪でやるもんだからな。分からない奴らの前でやっても意味がないだろ」

 

「その友達がいないのよ……。ああ、なんて罪なヨハネ……」

 

そうだろうと思ったよ。

 

ただ……一つお前の発言には引っかかるな、堕天使ヨハネ。

 

「……まあ、友達がいないのは罪じゃないから気にする必要はないけどな」

 

「えっ……?ど、どうしてそう思えるの?!」

 

「例えばの話だ。お前がイメチェン(笑)とか高校デビュー(笑)を決意したとしよう。

それで性格も喋り方も明るく趣味もリア充っぽいのものに変える、すると周りは間違いなくチヤホヤして寄ってくるだろうな。

お前は可愛い部類の女子だし」

 

「か、かわっ……///」

 

「……で、あっという間にリア充の仲間入りだ。どうだ?それでお前、満足できるか?」

 

そこでヨハネは押し黙る。

ぼっちだって最初から人付き合いを諦めはしない、むしろ逆だ。友人とハチャメチャして恋人とイチャコラする、そんな青春を望むものだ。

 

だが、そのためには覚悟がいる。自分を捨てる覚悟が。自分を殺す覚悟が。

 

そんな嘘と欺瞞を、俺は受け入れたくなかった。逃げたと言われようが、これだけは後悔していない。

 

「堕天使ヨハネであることをひた隠しにして、ただひたすら周りに合わせて。そんなライフスタイルに満足できるか?」

 

「……嫌だ」

 

震えながらヨハネは答える。それがこいつの出した答えなら、何も問題はない。

 

「ならそれでいいじゃねえか。お前の好きなように生きればいい」

 

「ヨハネ……本当に、いいの?」

 

「ああ。それに、いつかお前を受け入れてくれる人だって現れるはずだ」

 

俺の場合は小町とか戸塚とか、あと……材木座か?

普段はウザいとしか思ってなかったが、文実でやらかしたことが広まっても会いに来る辺りいい奴ではあるのだろう。でもいい加減まともなラノベ書いてくれよ、読ませるなら?

 

「……あっ」

 

「どうした?心当たりでもあるのか」

 

「えっと……ずら丸っていって、いつも私が休んだ時とかノートを貸してくれる子がいるんだけど」

 

なにそれ。八幡感激。

俺の時は誰もそんなことしてくれなかったからな……休み明けに机に花瓶が置いてあったことはあったが。

別に死んでないからね?目は腐ってるけど。

 

「いい子じゃねえか」

 

「うん。お礼しなきゃって思ってるけど、何ていうかタイミングが……」

 

「お前、そいつの趣味とか知ってるのか?何が好きかとか」

 

「確か……本が好きだったと思うわ。クラスでも文学少女とかって言われてるし」

 

「なら簡単だな。今度学校に行くとき、図書館にも顔を出してみろ。

会ってもいきなり声を掛ける必要はない、隣に座るだけでもいい。その内向こうから声を掛けてきて話せるようになるだろう」

 

まさか隣に座ったらキモいとか言ったりするようなタイプではあるまい。

多分上手くいけば一ヵ月で百合百合な関係に……おっと自重しておくか、これ以上はダメだ。

 

「ま、やるかやらないかはお前の自由だ、ヨハネ。……俺からは何もできなくてすまんが、無茶しすぎない程度に頑張ってみろ」

 

「分かった……その、ありがとう」

 

「だから俺は何もしてないぞ……。それじゃ、話も済んだしここいらでさよならだ」

 

「あっ、待って!あなたの名前を聞かせてくれない?」

 

「は?俺はただのぼっちだ、名乗るほどの者じゃねえ。それに多分、二度と会わないだろうしな。

じゃ、もう一度言っとく。いい旅を」

 

そこで俺は軽く手を振ってその場を去る。

ふぅ……思った以上に深入りしすぎちまったな。まあこれも同じぼっちの業というやつか。

あれやこれやと失敗し続けてきた俺のようになってほしくないからか……。まあ、きっと大丈夫だろう。

向こうからアプローチしてくれる人がいるのだから。

 

……そういや、明日の朝食どうしよう。ああ小町のベーコンエッグが食いたい……。

 

 

(あれは……もしかして、私の……救世主(メシア)?///)

 

 

「……お前まさか?!」

 

「フフッ……思い出してくれたのね!そう、私が津島善子こと堕天使ヨハネ。あなたの手によって救われた者よ……///」

 

「えっ……じゃあマルが善子ちゃんと仲良くなったのも……?」「すっすご……ピギャァァァァ!!」

 

長々と皆の前で俺とのいきさつを語っていた津島が、再びぱあっと顔を輝かせる。

 

ああ……そうだ、俺がこっちに引っ越してきた日に会った……。

つか何で惚れてんの?ちょっと道案内してちょっとアドバイスとかしただけだよね?八幡イミワカンナイ。

 

「「「「「「「「「……」」」」」」」」」

 

しかもμ'sの皆さんめっちゃ怖いんですけど!あっ副会長だけなんか面白がってるけど全然面白くないから。

 

「さあ!ではメシア、私と契約して共に堕天界へ―――」

 

いやあの、堕天界ってなんだよ。

 

「あのな、俺はメシアじゃなくて比企y「待ったーーっ!比企谷くんはμ'sの、穂乃果たちのものだよっ!!」……おい」

 

そこで高坂の介入により俺と津島は引き剥がされる。ありがたいようなうざいような……。

あと俺はお前のものじゃないぞ。

 

「愚かね。ヨハネとメシアが結ばれることは、もはや前世からの宿命(さだめ)だったのよ?

この絆に勝てるものなどありはしないわ」

 

いや、それはないと思います。

 

「違うもん!穂乃果たちも比企谷くんのこと、とってもとーーってもだいすきだもん!

絶対負けないもん!」

 

こら、道のど真ん中で大好きとか言うんじゃありません。誤解されるだろ。

 

「そう……よろしい、ならば戦争「こうなったら、比企谷くんを賭けて勝負だよっ!絶対負けないからね!」……最後まで言わせなさいよーーーっ!!ぐすん……」

 

えっなんでそうなるの。なんで俺ダシにされてるの?

 

ふと周りを見渡すと何故か皆乗り気になっている。おい、誰か止めてくれる人はいないのか?!

 

「見てなさい……この天才美少女真姫ちゃんが叩き潰してアゲルワ……!」

 

「それなら……!オラも善子ちゃんのために、一肌脱ぐずら!」

 

「は、花陽も負けません!アイドルとハッチー先輩のためなら鬼にでもなりますっ!」

 

「る、ルビィも……みんなのために、頑張ります……っ!」

 

「かよちんがやるなら凛もやるにゃー!ハッチー先輩は渡さないにゃ!テンション上がるにゃぁぁぁぁ!!」

 

「ふぅ……力勝負なら私、負けるつもりはないからね?」

 

「うふふっ、穂乃果ちゃんを悲しませる子と比企谷くんに手を出す子は、み~んなおやつにしちゃうぞ♪」

 

「おおっ!一世一代の勝負なんて燃えてくるね、ヨーソローっ!!」

 

「ふんっ!堕天使だなんて、にこにーの天使でチャーミングなアイドル力でやっつけてやるんだから!」

 

「Oh!こうなったらマリーも、LoveをBurningして全力でいくわよ!シャイニー☆彡」

 

「Хорошо!ならば私も……生徒会長として、よそ者の横暴は認められないわぁ!覚悟なさい!」

 

「望むところですわ!このわたくし、浦の星を背負う者として勝負に負けることなど……あり得ませんわ!」

 

「全ては穂乃果とμ'sと比企谷くんのため……!私の弓矢が、火を噴きますっ!!」

 

「なんだか分からないけど……千歌ちゃんとAqoursのために、やらないと……!」

 

「ふふっ、これは盛り上がってきとるね~。何が起こるか分からんのも、この世の面白さっちゅうことやな!」

 

「うわーい!μ'sのみんなと楽しく遊べるなんて感激だぁ~~!!」

 

……。

 

マジか。誰も止められないのか?

 

「お、おい、いい加減その辺で……」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「あ゛?」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

一斉に恫喝。なんでこういうときだけ一致するんだよ……。

女子力やばすぎるだろ……。

 

 

もうだめだ。小町、誰か、助けてくれ。

 

 

 

 




終わりです。
もしかしたら続くかも?何でバトルするとか決まってないのよさ……。

五話の花丸ちゃんの優しさとよっちゃんの切なさには泣けましたよ。このおはなしもそれを基に作りました(それがどうしてこうなったヽ(`Д´)ノ)。
ああ……厨二な自分を肯定してくれる人がいてくれたら……(遠い目)

何が言いたいかっつーと、Aqoursも一年生組は天使!
……ぼ、僕はロリコンじゃないんだからねっ!?

そんなこんなでグダグダですが(キャラも話も何もかも)、ではまた。


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