聖女じゃなくなった少女との再会を目指して (アルカリ)
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一話 最期の光景

磨けるほどの文才もありませんが、今よりましな文章を書いてみたいので練習の一貫として始めました。


いきなりだけど、雨を浴びている。不思議と、すごく温かく、気持ちいい。

 

(・・・、そうだ・・・。俺は?)

 

微睡みに近い心地良さに何とか抗い、体を起こす。そして少し、いや、凄い後悔した。・・・そこに広がる光景は、見るに堪えない惨状だった。

 

「っ!」

 

息を呑む。目に映る光景は、正しく地獄絵図。悲痛に顔を歪めた無数の兵士たち。彼等の顔が、いつだったか・・・、希望に満ちていた、俺を慕ってくれていたかつての彼等の顔と重なる。そして、何よりも・・・。

 

「あ・・・?俺の、体・・・・。」

 

ズタズタじゃねぇか。・・なんて、言葉は続かなかった。限界だった。もう、体に少しの力も入らない。

 

(お、起きてられねぇ・・・)

 

と、倒れる寸前に。

 

「・・・あ!ジルっ!あそこ!!」

「!!見つけましたよ!我が友よ!!」

 

懐かしい声を聞いた。・・・ような気がした。

 

 

 

 

 

・・・幻聴?鬱陶しく感じる雨の中、自分の方へ近づいて来る金属のガチャガチャとした音。鎧を着込んだ奴が走ると、丁度こんな音がする。

 

(誰、だ?)

 

 

 

 

その音の主は誰か。・・・まぁ、幻聴じゃなかったと、そう言える・・・。

 

「「アリス!!!」」

 

 

懐かしい、2人だった。

 

 

 

(よぉ、遅いじゃんか。お二人さん?)

 

普段なら、そう軽く返している。しかし、今はそんな軽口も届けられない。・・・それが歯痒かった。

 

「な・・、何故?何故だっ!!神よ、我が朋友を何故!?救済なさらなかった!!誰よりも祖国を愛し、多くの民草を守り抜いた彼を!!」

 

・・・ジル、か?どうした親友・・・馬鹿みたいに叫いたりして。せっかくのイケメンが台無しだぜ・・?そんなんだと、ジャンヌに・・・、また目潰しされるぞ。

 

「い、いや・・・!どうして貴方が?・・・ねぇ、起きてよ・・・。こんな所で寝たりしたら、駄目でしょう?・・・・目を、開けてよ・・!!」

 

おぉ?ジャンヌも、いたのか。・・・目を開けるつったてねぇ・・・。もう、感覚すら無いんですよ?

 

「あ、あぁぁぁ、血が、たくさん出て!?はや、早く止血・・・止血をしなきゃ・・・!!」

 

(・・・、もっと気張れよ俺、あと、少しでいいから!)

 

重いってレベルじゃない瞼を何とか持ち上げ、声を無理矢理絞り出す。

 

「・・・、ジャ・・ン、ヌ。」

「!あ、アリス!!よかった・・・。っ!アリス、気をしっかり持って!!」

「友よ!!、ご無事で何より・・・!!」

 

はは・・、無事ではない、かなぁ。

 

「お・・う、お前らも、無事で・・、」

「しゃべっちゃ駄目!!・・、お願いだから・・!」

「・・!私は他の者を呼んで参ります!!」

 

・・・・そう言ってジルは駆けていった。今、この場に残っているのは二人だけ。

 

(助かる。・・・わりぃな、ジル。)

 

友人に感謝する。少し、ジャンヌと話したかった。

・・・雨が、いい感じに眠りを誘う。思わず寝てしまいそうになるが・・・。

 

「いや、生きてっ・・!!死んでは駄目、死んじゃいやっ・・・!」

 

必死に俺を生かそうとする声が、その睡魔を退ける。・・、でも。

 

「ジャンヌ・・、もう、いいんだ。」

 

何故だか言葉は出やすくなっている。

 

「っ、よく、ない。」

 

だめ、だめ・・・!と、繰り返す少女。言い聞かせるように、伝える。

 

「もう、無理だ・・・、俺は、助からない。」 

「っ、そんなの!!・・・、分からない、でしょう・・・。」

 

分かっている。俺に言われなくても彼女はもう分かっている。・・ただそれを認めたくないだけだろう。

 

(本当に、情けない・・。)

 

結局、一度だってこの少女に恩を返せなかった。

 

(あ、やばい。)

 

視界が、暗く、・・。

 

 

 

・・・、気の利いた言葉も残せなかった。

 

?・・・何故か胸をよぎった最悪な予感。それが何かを確かめる術も無く、俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

遠くから、悲痛な叫び声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

~ジルside~

 

「・・・。」

 

頃合を見計らって二人のいる場所まで戻る。・・・私もジャンヌも、今まで幾多の死を見届けてきた。だが、今回は・・・。

 

「・・ジャンヌ・・・。」

 

崇拝する聖女が、無二の友の亡骸を抱きかかえて、灰色の空を見上げている。この位置からではその表情を見る事は出来ない。・・・しかし。

 

「・・、して・・、なんで・・?」

 

・・・壊れたように呟き続ける彼女には、かつての輝きを感じられなかった。

 

「・・、ジャンヌ。彼は・・・?」

 

そう問いかけて、戦慄した。

 

「!!!」

 

グルッと、勢いよくこちらに振り返る少女の瞳は酷く、濁っていた。・・・、誰か、教えてくれ。

 

「アリスが如何したか?・・寝ちゃったわ。ふふ・・・見て?普段の凛々しさなんてないでしょ?とっても、可愛い。」

 

彼女は、如何してしまったのだ?

 

「でもねぇ?ジル、違うの。アリスはもう起きてくれないの。三人でお喋りも出来ないし、アリスは私を褒めてくれないの。・・・・ジル?・・ジルっ!聞いてるの?誰が私のアリスを殺したの!!?っ・・!う、ううん・・、違う!死んでなんか無い!!少しの間、眠っているだけ、そうよ!きっと彼が目を覚ませないように・・・。」

 

そこから先は、まともに聞いていられなかった。『誰かがアリスにおまじないを』だの『妖精のイタズラ』だの、挙げ句の果てには・・・。

 

「・・あ、そっか。分かったわジル!」

 

『きっと全部、神様のせいよ!!』

 

『だって一度も私達を助けてはくれなかった!私の耳でああしろこうしろって、そればっかり!!』

 

『でもね、その雑音ももう聞こえないの。きっと私からアリスを奪ってそのまま逃げたのね!!』

 

『・・・るせない。許せない、許せない、許さない!!神も!彼を死なせたこの国も!!皆、絶対に・・・!!』

 

 

許さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、あの日の聖女は、一体何処へ?

 

 

 

 

 

~ジルside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正史において、聖女は聖女として後世に語り継がれる事となる。そして彼の元帥は狂人として終わりを迎えた。

 

 

ただ、これは別物、全く違う何か。

 

聖女だった少女は亡き青年を求め、多くの子供たちを贄とし、魔女として語り継がれる。・・・最期には、戦友である元帥によって首を刎ねられた。

 

元帥はどこまでも英雄として。狂う事など無かった。・・・最も、魔女を粛清した辺りからは抜け殻のようになったが。

 




口調がむずい。というか急ぎ足過ぎた?感があります。あ、誤字脱字などあれば随時直していきます。


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二話 騎士王ではなく

さて、続きです。


~切嗣side~

 

窓の外を何気なく見る。そこには雪がいつもと同じ様子で降り続けている。・・・寒い。アイリは寒くないだろうか?そう思い、妻の方を見る。

 

「切嗣?どうしたの?」

「・・いや、何でもないよ。」

「そう・・・?」

 

・・・駄目だ。こんなのではいけない。今までが、温かすぎた。

 

(しっかり、しないとな。)

 

これから僕は英霊を呼び出す。・・・人類最後の戦いをするために。きっと、いや・・・確実に、苛烈を極める事になるだろう。

 

 

最愛の妻。アイリスフィールへのこの感情は、何としてでも隠し通せ。

 

 

 

 

 

僕自身から。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・目的地へ着いた。神聖な雰囲気を醸し出す、教会を想起させる場所。

 

「さて、それじゃあ早速準備に取り掛かろうか。」

「ええ。何か手伝える事があったら言ってね?」

「ありがとう。でも大丈夫だよアイリ。このくらい一人で出来るから。」

 

そこで見ていて。そう彼女の厚意を無難に退ける。・・・別に意図しての事ではなく、単にこのくらいは一人で出切るからだ。彼女との│未練《思い出》を断ち切るのは、まだでいいだろう・・・。

 

「・・・よし。」

 

そうこうしている間に召喚の陣を描き終えるまであと僅か。あとは・・・。

 

「ねぇ切嗣?」

「?何かな。」

 

何か懸念があるのか、アイリがそっと声を掛けてきた。

 

「英霊を召喚するというのに、こんな簡単なものでいいのかしら?」

 

ああ、そんな事か。僕も最初は戸惑いもしたけどね。

 

「拍子抜けかもしれないけどね。実際に英霊を招くのは聖杯だ。僕はマスターとして、呼び出した英霊が現界出来るだけの魔力を供給しさえすればいい。」

 

言いながらも作業は止めない。・・・よし。

 

「アイリ。聖遺物を祭壇へ。それで準備は完了だ。」

 

 

 

~切嗣side out~

 

 

~アイリスフィールside~

 

切嗣は私が聖遺物を祭壇へ置くのを確認し、いよいよ召喚が始まった。

 

―告げる。

汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に。

聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ――

 

彼の口から紡がれる詠唱を私はどこか、上の空で聞いていた。勿論、どうでもいい事、なんて認識はさらさらない。

 

・・・ただ。

 

――誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者――

 

本当に、始まってしまうんだな。そう思っていた。彼と出会い、色々な事を知った。知識としてだけではなく、もっと人間らしいモノとして。やがて結ばれ、一人の娘を授かった。本当に、本当に可愛い、私と切嗣の子。

 

残酷な現実を予感している。両親から離れ離れになる愛娘。夫とも、娘とも一緒にいられなくなる、私。

 

いやだ。そう思うのは当然だけど。この感情は押さえるしかない。愛する切嗣の邪魔をしてしまう。

 

(だって、彼は優しすぎるから。)

 

彼が願うのは『争いの無い世界』。ほら、優しすぎる願いでしょう?彼が果たさんとするこの願いを前にして、私の│願い《わがまま》は小さすぎる。・・そうに違いないと、言い聞かせる。

 

(切嗣の、彼の願いのため。)

 

 

・・・でも、私は彼が何故。そこまでその願いに必死なのか。必死で、熱望しているのはわかる。それでも。

 

(どうしてその願いに行き着いたの・・・?)

 

 

それが私には分からなかった。

 

 

 

~アイリスフィールside out~

 

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ・・・!!」

 

 

厳かな空間に、その言葉が響く。魔力の奔流、吹き荒れる大気の音に負けない、強い意志の込められた声が。

 

 

 

 

 

光に満ちる。やがて、光が薄れ止むとそこには。

 

 

 

 

「・・おう。声が聞こえたから来たぜ?」

 

 

 

「っと。まあ確認だ。」

 

 

 

「アンタが俺の、マスターか?」

 

 

 

 

 

 

 

かつて聖女を意図せず狂わせた、あの男がいた。

 

 

 

 

 

 

 

第四次聖杯戦争。ここでも少し、道がずれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




apoでもよかったのですが、それだと思った以上に再会が早くなりすぎるかなと。


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三話 純粋に願うこと

し、諸葛亮・・!!君じゃ無いんだ!今私に必要なのは!!


雪が積もった森の入り口。丁度城で待機している切嗣達から見える位置で、大人の男一人と幼い少女がはしゃいでいた。

 

「えいっ、えいっ!!」

 

白い少女は懸命に雪玉を投げる。しかしそれを悉く避ける。雪合戦をしているようだ。

 

「はっはっはっは。無駄無駄ぁ、そんなんじゃ当りっこないですぜ?イリヤ先輩。」

 

男は回避しまくる。サーヴァントの人外レベルの速度を遺憾なく発揮して。・・・大人気ない。

 

「もぉっ!!当たってよ!!あ~た~る~の!!」

 

ムキになって投げる、投げる。だが当たらず、若干泣きそうになっている。しかし、そんな彼女を見かねたのか。

 

「うわぶっ!!」

 

男がさり気なく、少女の投げた雪玉に顔面から当たりにいった。顔に命中したのが良かったのか、少女─イリヤは途端に笑顔になる。・・・男はそこまで、大人気なく無かった。

 

「やった!!やっと当たったぁ!!」

 

ぴょんぴょんと飛び跳ね、喜びを体全体を使って表現するイリヤ。そんな彼女を微笑ましく思い、参ったと声を上げる男─セイバー。

 

「いやぁ、参った参った。」

「うふふっ。降参?降参?」

「あぁ。感服致しました、流石はイリヤ先輩。生意気言って申し訳ない。」

 

セイバーの降参宣言を聞くとより得意気になる。

 

「ふふん。当たり前よ!だって私、セイバーの『センパイ』だもんっ。」

 

(先輩って響き、気に入ってんのか。・・可愛いな。)

 

そんな感じにほのぼのしていると、セイバーの視界の端・・・城の窓からマスターの妻であるアイリスフィールが手招きしているのが見えた。セイバーは頷くと未だにふんぞり返っているイリヤに提案した。

 

「よっし。んじゃあイリヤ先輩?今度は駆けっこしませんか?」

 

 

 

 

 

~切嗣side~

 

「・・・。」

 

パソコンに浮かぶ敵マスターの情報を閲覧する。その情報をただひたすら吟味する。

 

「・・・ふぅ。」

 

少し、一息つく。生憎と、ここには妻がいる。煙草で一服は出来ない。背もたれに体を預け、目頭を揉んでいるとアイリが声を掛けてきた。

 

「あら、休暇?」

「うん。それなりに纏まってきたからね。・・・ところで、イリヤは?」

「ふふ。外で元気に遊んでいるわ。セイバーって面倒見が良いのね。」

 

微笑ましそうにしながら窓の外を眺めている妻。・・・ここでセイバーについての情報を整理し始めた。

 

 

セイバー。真名はアリス。フランスにおける英雄であり、ジャンヌ・ダルクとは同じ村の出身である。人間かどうか疑わしくなる程の武勇伝や、数多くの奇策を用いて数々の戦争を勝利で収めた。その上、上下関係をあまり気にせず、得た地位を鼻に掛けない平等さから民衆からの人気も高かったという。・・・しかし、その人気の高さ故に死んだとも言える。彼を嫌ったのは敵側の全てであり、自国の貴族。

 

(よくある悲劇の英雄だな・・・。)

 

その人気を疎む連中は、窮地に陥った彼を助けなかった。別に同情しているわけでは無い。こうした話しは珍しくもない。ただ・・・。

 

 

 

(大勢の人を救った・・・。)

 

・・・いや、違う。アレもまた『英雄』だ。血を流すことを是とした英雄なんだ。だから・・・。

 

 

(セイバーは、只の道具。)

 

余計な深入りは不要。・・・その筈だ。

 

 

・・・そう言えば、前回でアインツベルンは何を呼んだんだ?・・何となく、そんな疑問が浮かんで来た。

 

(前回について聞くと黙殺するからな・・・。)

 

全く、態度が悪い。

 

(まあ、参考になればいい、程度だったから構わないが。)

 

今回の戦いには関係ないだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

と、そこまで思考を進めていると・・・。

 

「い、イリヤの勝ち~・・!!」

 

勢いよくドアが開き、息を切らせた愛娘の姿が。・・・後ろの方から「イリヤ先輩速すぎー」と、セイバーの声が。

 

「あ、切嗣!!」

「やあイリヤ。随分走ったようだけど。外で何をしていたんだい?」

「雪合戦っ!!最初は避けられてばっかりだったけど、最後はイリヤが勝ったの!!」

 

殺伐とした心が癒やされていくのを感じる。

 

あぁ・・・。

 

(やっぱり、あの頃には・・・。)

 

戻りたくないな。

 

「・・・でねっ。いきなり切嗣とお母様の部屋まで競争しようって言うからね?」

 

この日々を失いたくない。

 

「うん。それで、どうしたんだい?」

 

窓際で優しく微笑む妻も、この最愛の娘も。

 

「いいよって言ってあげたの。そしたらね?セイバーったら『勝てばいい』とか言って先に走って・・・。」

 

 

(僕は・・・。本当に・・・。)

 

この幸せを、切り捨てられるのか?

 

「切嗣。」

 

突然、優しい声が掛かった。肩には労るように手が添えられている。

 

「アイリ・・・。」

「お母様っ!!」

 

抱きつくイリヤを抱き締め返して、僕に言ってくれた。

 

 

「きっと、大丈夫よ。」

 

!!・・・敵わないな。

 

「・・・うん。そうだね。」

 

きっと、大丈夫だ。

 

「?何?何の話し?イリヤが相談に乗ってあげるよ?」

 

「イリヤが?」

「うん。イリヤはクルミの芽探しも得意だから、きっと切嗣の力になれるの!!」

 

(・・・ふふ。)

 

妻と二人で微笑み合う。・・・うん。もう大丈夫だ。だから。

 

 

せめて今は、この二人をこれ以上にないくらい、愛そうと思う。

 

 

 

 

 

 

~切嗣side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~???side~

 

セイバーが召喚されてほんの少し経った頃。

 

 

 

 

 

ふふ、ふふふふふ!!あはっ。あははははは!!!

 

 

暗がりの中、愉しげな笑い声が響く。

 

「感じたわ・・・分かったわ!!」

 

貴方の存在を感じられないわけがない!!

貴方の現界が分からない筈がない!!

 

だってこの時を待っていたの!!一人で、ずっと・・・。

 

(あぁ・・・アリス。ようやく会えるのね・・。)

 

待った甲斐があった。本当に・・。

 

 

 

 

 

数日前。

 

聖杯戦争に呼ばれて、最初は本当に面倒くさいと思った。それに、リュウノスケ、だったかしら?この男も本当に面倒くさい。適当に子供を攫って、自由にさせておけば勝手に満足するからいいけど。

 

(でも、せっかくの機会を得たのだから。)

 

「ふふ。」

 

魔女と口汚く罵るしか出来なかった連中の・・・子孫?辺りにでも、私から『彼』を奪った罪深さを教え込むのもありよね?

 

(それにしても・・・。)

 

原型をとどめていない肉塊(芸術らしいが、共感出来ない)を眺めながら、聖杯をどう使うか・・・改めて考える。

 

 

 

そして、聖杯は万能の願望機だと、そう思い出し、次いである考えに至った時、復讐なんて些末なことは吹き飛んだ。

 

 

「最初は私から貴方を奪った『あの国』を滅ぼしてやろうなんて考えていたのだけど・・・。」

 

くだらないわよね?そんな事したって、貴方は戻っては来ないでしょう?

 

「でも。」

 

それでも。

 

「聖杯さえあれば・・・。」

 

 

貴方を取り戻せる・・・!!

 

 

 

 

 

そして現在。

 

聖杯なんて必要ないじゃない!!肌で感じたわ。貴方の存在を、鼓動を、息遣いを!!・・・あ、でも、息遣いなんて・・・!!。

 

(そんな、そこまではちょっと早いわよ、ね・・・?)

 

うん、そんな距離はまだ、ちょぴりだけど早い・・・きっと。

 

 

「~~~♪」

「アレ?キャスターの姐御、今日はやけにご機嫌じゃん?どーしたの?」

 

なんかいいことあった?と、ご機嫌な『キャスター』へ話し掛ける青年。実は、彼は今世間を騒がせている連続殺人事件の犯人だったりする。

 

「うーん、そうですね。・・・長年の夢が、もう少して叶いそう、と言った所でしょうか。」

「へえー?ま、良かったじゃん。あ、でさ?もうそろそろ新しい子、調達したいんだけど・・・。」

「またですか・・・?」

 

半ば呆れた様子で『マスター』である青年、雨竜龍之介を見る。いーじゃん、大事に使うからさ。とお願いを続ける龍之介。

 

(まぁ、魔力の確保にも利用出来るし・・・。)

 

「分かりました。では少し待っていて下さい。」

 

利害の一致からか、青年の願いを聞き入れる形で外へ歩き出す。

 

「やっりぃー!!流石は姐さん、最っ高にCOOL!!」

(はいはい・・・。)

 

後方からの声援?を聞き流し歩みを早める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう少し、あとちょっとだから・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待っていてね。

 

 

 

 

 

 

 

~???(キャスター)side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




セイバーテラ空気。


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四話 機内モード

fgoでエヌマ・エリシュ撃てるのかな?


「わぁ・・・すごい。本当に飛んでいるのね。」

 

そう感嘆の声を上げているのはアイリスフィール(以後アイリ)。窓から小さくなっていく地上を見下ろして、目をキラキラさせている。

 

「技術もすげぇところまで進んだな・・・。」

 

その隣の座席にはセイバーが。時代の流れに思うところがあるのか、感慨深そうにしている。

 

─現在、アイリスフィールとセイバーは飛行機に乗っている。アインツベルンの城を後にして、いよいよ聖杯戦争が行われる冬木へと向かう。

 

マスターである切嗣は一人の女性をお伴に先に冬木へ到着している。何故自らのサーヴァントと別行動を取っているのか・・・事前にそれにつけては聞かされているため、特に疑問はない。

 

 

 

(・・・もう、お城が見えないわね。)

 

少し、思うことがある。

 

これから冬木へ、切嗣の生まれ育った国へ向かう。・・・だと言うのに、私は気分が良いとは言えない。最初こそ、初めての飛行機だとか、夫の故国だとか、そういった響きに現を抜かして忘れることが出来ていた事実。

 

(これから戦いが始まる。始まってしまう・・・。)

 

しかしその事実が、目前に迫ってきた。そうなれば、自分を上手く誤魔化すことも出来ない。

 

・・・何よりも後ろ髪を引かれる思いがある。

 

(イリヤ・・・。)

 

たった一人の愛娘。私と切嗣の子。『争いの無い世界』の為に置いてきた。広いあの城に、小さいあの子を。

 

(・・・母親として失格、かしら・・・・。)

 

どれ程の大義名分を掲げようとも、心残りは消えてはくれない。

 

・・・だめ。自分にそう言い聞かせる。今の彼女にはそれしか出来ない。

 

(・・・セイバー。)

 

何気なく視線を彷徨わせているとセイバーが目に入る。彼こそ、愛する夫の願いのために必要不可欠な存在。あまり話したことがなかったけれど、いい機会かしら?

 

(そう、ね。このまま一人で悩んでいたって仕方が無いもの。)

 

「ねぇセイバー、少し話してもいいかしら?」

 

そう問いかけるアイリ。彼女はセイバーとの信頼関係を築くと同時に、心にのし掛かる微かな、それでも確かに感じられる重苦しさを誤魔化すべく、取り敢えず・・・。

 

何を話そうかしら?

 

 

 

 

 

(ふむふむ・・・。)

 

ふかふかだな。しかもこれ、寝る時には後ろに倒せるのか・・・。なんかすごい。

 

座席の感触その他もろもろを確かめているとアイリさんが話し掛けてきた。

 

「何でしょう?」

 

「えーと、・・・そうだっ。貴方の名前についてなのだけど。」

「名前?」

「ええ。」

 

何の事だ?まあ、取り敢えず聞いてみるか。

 

「俺の名前が何か?」

「えっと、ほら。貴方の名前って、・・女の子につけるような名前でしょう?」

 

だから少し気になったの、との事。・・・ふむ。なるほどね・・・。まあ生前からよくからかわれていたヤツだ。

 

「あーそれですか。特に面白いもんでもないですが・・・。」

 

話しましょうか?と確認をする。つまらない話しをしてしまうかもな時は事前に確認するのが俺の流儀。

 

「ううん。凄く気になっていたから。是非、聞かせて欲しいわ。」

 

確認完了。つっても、すぐ終わるけどな。

 

「分かりました。では・・・。」

 

天井を見つめながら話し始める。

 

「昔、俺が生まれる前の話なんですがね。」

 

「生まれる前?」

 

「えぇ。俺の家は片田舎の農家だったんですが、兄弟が上に4人いまして。まあ、仲はあまり良いとは言えなかったんですが・・・。ああ、全員男でした。」

 

(あまり仲良くないというより、寧ろ全員仲悪かったけどな・・・。)

 

「それでまあ、俺を身籠もった際に『今度は娘が欲しいから』って理由で女の子っぽい名前をつけようとなったらしく。」

「・・・ご両親が、女の子が欲しかったから?」

 

え、それだけ?みたいな顔をするアイリさん。・・ナイーブな俺はちょっと傷つく。しかし、まだ続きます。

 

「いえ、あくまで生まれる前の話しです。生まれたら当然、男だった事が判明するわけです。」

 

「ええ。」

 

「それで、まあ健康に生まれて、育っていったんですがね。最初こそ男っぽい名前をつけられたのですが。」

 

「最初は違う名前だったの?」

 

「はい。それについては兎も角、成長するにつれて顔もはっきり個性が表れてくるんですが。・・・簡単に言えば、だいたい俺は14歳くらいまではほぼ女に間違えられる容姿だったんです。」

 

「えっ。そうだったの?」

 

そうだったんです。お蔭でよく親には女装させられたり、村の連中には『女男(おんなおとこ)』とか言ってにからかわれるし。・・・寧ろ逆に男みたいな娘もいたけどな。まさか、あそこまで育つとは・・・。

 

「それでまあ親が、悪乗り?して最初に考えていたらしい『アリス』って名前に改名しやがったんです。」

 

話し終えてひと息つく。最後まで聞いてくれたアイリさんに感謝。ありがとう!!

 

「そうだったの・・・。何というか、すごく貴方の昔の姿が見てみたくなるお話だったわ。」

 

そう微笑むアイリさん。とても美人さんです。

・・・感想の方はかなり複雑だけど。見たくなるって・・・。

 

 

 

 

─そうこうしている間に目的地への距離は縮まっていく。

 

その後にも二人は雑談に花を咲かせ、やがてアイリが眠りについた。

 

「・・・・・。」

 

サーヴァントは眠る必要がないが、何となく目を閉じる。脳裏に浮かび上がる、『彼女』の悲痛な顔。

 

・・・まさか、あいつが。聖女として兵士達に希望を与えていた少女を思い出す。そして、現界してまず抱いていたある思いが頭を悩ませる。

 

(・・・ジャンヌ。)

 

魔女となったらしい。信じられないが。

 

俺が・・・。もし生きていたらと、そう考える。無駄と分かっていても、考えずにはいられない。

 

「・・・俺が。」

 

・・・いや。俺がいたら、何だ?俺がいて、そんな事で変わるモノだったのか?俺がいても・・・。いや、止めよう。

 

軽く目を開き、後悔の念を塗りつぶすように、静かに城での出来事を思い出す。

 

そうだ、悔いている場合じゃ無い。必ず彼女と、此処にはいないが、俺のマスターを無事に連れ帰らなければならない。何せ・・・。

 

「約束、しちゃったからな・・・。」

 

 

頭に浮かぶのは雪色の少女。この時代で新たに出来た、大切な友人。

 

 

俺は、最強なんて名乗れるような英雄じゃない。

 

でも安心してくれ。

 

最強じゃなくたって、それでも約束の一つくらいなら、人間守れるものだから。

 

かつて、それすら出来なかった自分に言えることではないだろうけど・・・。

 

(でも、もう約束は破らない。)

 

 

 

 

 

 

『こんどは、みんなでゆきがっせんしようね!!』

 

満面に笑みで送り出してくれた彼女に誓う。

 

その顔を、絶対に曇らせやしないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─冬木まで、あと少し。




家のトイレがぶっ壊れてしまわれた。


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五話 ほのぼの

いやー・・・なんかごめんなさいm(__)m続きです。・・・・短いけど。


「着いたわね」

「着きましたねー」

 

長いようで短い・・いや、やっぱり長かった空の旅もようやっと終わり、戦場となるだろうこの場所まで来た。アイリはどこか目を輝かせながら周りを見渡し、ここにはいない夫へ向けて言葉を漏らす。

 

「ここが、貴方の故郷なのね・・・」

 

 

「あー・・・アイリさん?感動してるのは分かりますが、後ろつっかえてます。」

「え?っあ、ごめんなさい!」

 

 

 

 

 

さて、冬木へ到着。マスターは一足先にこっちに着いてるらしい。敢えて別行動なのは・・・戦略的にな?

今はアイリさんと一緒にドライブ中で、これからの事についてを再確認している。雑談を交えながらなもんだからか、物騒な内容なのに然程雰囲気は沈まない。

 

「ほー、アイリさん車運転出来るの?」

「ええ。切嗣に教えて貰ったの。結構自信あるわよ?機会があったら披露しちゃうわよ?」

「ええ、その時は是非」

 

と、こんな感じに。他にも色々あったけど・・・一番驚いたのはイリヤを出産した年齢だな。いや、ホムンクルスだっつってもさ、なんかこう、一桁だぜ?年齢・・・。言葉だけだとアブノーマルの向こう側だよ。

 

「所でアイリさん。」

窓の外を興味深そうに眺めているところ失礼します。

 

「何かしら?。」

「いえ。やっぱ興味ありますか?この街。」

見りゃ分かるけど。目がキラキラしてるし。

 

「ええ、この街・・というよりこの国に、かしら。夫の故郷ですもの。」

 

そう幸せそうに返してきた彼女に、セイバーは「よかった」と呟いて─。

 

 

「なら、観光しちゃいます?」

 

そう告げた。

 

 

 

 

 

 

「あ、セイバー!!あれってもしかして・・・。」

「え?ああ、ラーメン屋ですね。」

「美味しそう!え?もしかしてあれって・・・!!」

「はい?・・ああ、寿司屋かな?」

 

・・・うん。楽しんで貰えているようで何より。はしゃぐ様子がモロにイリヤと瓜二つに見えるのは気のせいじゃないだろう。

 

「セイバー!見てっすごく・・・何かしら、このお店?」

「・・・ブッ!!そっちはまだ早いですから!路地裏の方はダメですって!!」

 

すごく、疲れるぜ・・・。いやさ、アイリさんやっぱ目立つから。男どもも寄って来そうだし・・・。あ、丁度いいか。

 

「アイリさん。喫茶店入ってみましょう?」

野良猫をもふってるアイリさんに一つ提案。

 

「喫茶店?いいわね!!行きましょう!」

 

と、いうわけで。

 

「ふぅ、疲れたぁ。」

「お疲れ様です。」

 

いやほんと、あれだけはしゃいだら疲れるよ。・・・あ、2人です。窓際の席空いてますか?ならそこで。あと、紅茶を一つとコーヒーを一つお願いします。

 

「あら、ありがとうセイバー。」

「いえ、お代もマスターから預かってるんで。」

「え?切嗣?」

「はい。この街の地理を少しでも覚えるのと、あとは・・・ほら、アイリさんへのプチ旅行のプレゼントってことで。マスターからの提案だったんですよ。」

 

彼も直接言えばいいのに、態々の俺を使うって・・・。いや、別にいいけどさ。・・・あ、コーヒーは俺で紅茶は彼女に。

 

 

 

 

 

 

「そう・・・切嗣が。」

 

あの人がくれた自由な時間。とても楽しめた。目の前に置かれた紅茶を少し、口に含んで窓の外を眺める。特に、何も考えてはいない。漠然と広がる空を見ているだけ。

 

「ふぅ・・・」

 

喧騒も遠くに聞こえ、ゆっくりと時間が過ぎて行く。ここに切嗣とイリヤがいてくれたら・・・なんて我が儘は言わない。

 

「・・・セイバー。」

 

我が儘より、まずは今日付き合ってくれた彼に感謝を述べよう。

 

「なんですか?」

 

「ありがとう。楽しかったわ。」

 

そう言うと微笑みながら、「どう致しまして。マスターにも伝えておきますね」と返したくれた。あって間もないけど、多分初めて切嗣とイリヤ以外に、本当の意味で心を開けた気がする。

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、平和な一時を楽しんだ俺達が喫茶店を出たのは夕方。あのあとアイリさんがウトウトしちゃってさ・・・。

なので、気分転換に海を見に来ていた。これは俺の提案だ。砂浜から引いては押し寄せを繰り返す波は、目にも耳にもいい感じの癒しをくれる。風も気持ちいいし、スッキリ出来るだろ。

 

「月が出てますねぇ。」

 

「きれい・・・。」

 

うん、確かに綺麗だな・・・いつか、俺があいつらと見たのと、何ら変わりない。

ふと、目を閉じる。頬を撫でる潮風はとても新鮮な感覚だ。生前なら眠たくなってるだろうな、きっと。

 

「セイバー。今日は本当にありがとう。お陰でとても楽しかったわ。」

 

「いえ。そう言って貰えるなら良かった。」

 

お互いに少しだけ言葉を交わし、体が冷えてきたので帰ろうとなった、その時。

 

ドクンッ

 

猛烈な殺意の波が身体を通り過ぎた。

 

「・・・っ。」

「っ、セイバー!!」

 

「・・ええ。この威圧感、サーヴァントでしょうね。」

 

場所は・・・あっちか?

 

「誘っているのかしら?」

「でしょうね。気の早い奴もいたもんだ。・・・と、アイリさん。」

「・・・ええ。分かっているわ、セイバー。」

「はい。」

「律儀に戦場を選んでくれたのだもの。お誘いを受けましょう。」

 

 

 

 

 




沖田君を狙ってガチャガチャと。結果はワカメ祭りでしたとさ。・・・いいけれどね?モーさんとか、そっち狙うから。別に、桜セイバーなんて、欲しくないし・・・・・


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六話 初陣

最近寒いですねー。皆さん風邪などに要注意ですよ。あ、あとチート臭いの入りまーす。

文章弄りました。あとセイバー強すぎたのでそこも変えさせて貰いました。


「・・・ようやく一人出て来たか。昼間から出歩いてはいたが、どいつもこいつも穴倉を決め込むばかりでな・・・。」

 

そう佇んでいた男はこちらに声を投げてきた。対してセイバーは無言。そして何かに気づいたのか、眉をひそめて自らのマスターを演じる女性・・・アイリスフィールを遮るように前に立つ。

 

「やっと骨のある奴が出て来たようだ。決闘に応じるという事は・・・察するにセイバーかな?」

 

言葉を続ける男は簡単にセイバーのクラスを当てて見せた。とは言え、積極的に誘いを受ける者なんて限られているだろうが。

 

セイバーはクラス程度なら知られても問題ないと踏んでか、動揺などはしなかったが、相手から放たれる殺気とは別の何かに少しムカついた。

 

「そう言うアンタはランサーだな?」

「如何にも。そしてお前も否定しないという事はセイバーで相違ないな?」

 

「おう。まあ、それはそうとランサー?『それ』どうにかなんねぇのか?うちのマスター既婚者だぞ。」

 

『それ』とセイバーが指差したのはランサーの顔、厳密に言えば『泣きぼくろ』の辺り。

 

「む・・・すまんな。これは殆ど呪いのようなものでな。俺の意思ではどうにもならん。いや、本当に。」

 

指摘を受けたランサーは少し疲れた笑みを浮かべながら黒子を指でなぞる。

 

「・・・ああ、なるほどな。よく分からんが、まあそれなら仕方ないな。」

「悪いな。気に食わないならばそちらで勝手に防いでくれ。」

 

『呪い』ならば仕方ないと、素直に納得したセイバーはランサーと同じく、疲れたような笑みを浮かべた。一応、幸運の低さをその類いと認識しているセイバーはランサーの幸薄さみたいなのを感じ取って、通じるものがあったのかも知れない。

 

「っと、ここまで来て楽しく談笑だけってのもらしくねぇよな?お互いに。」

「フッ・・・ああ。それでは余りに女々し過ぎる。」

 

「んじゃマスター。指示を頂いても?」

 

セイバーが後方で静観しているマスターに一応の確認を取る。─その言葉に目を閉じてしばしの逡巡。しかしすぐにそれを断ち切り、目を見開いて頷いた。

 

「ええ。セイバー、私に・・・勝利を。この手に聖杯を!!」

 

肯定受けたセイバーは改めてランサーを見据え、開戦の言葉を口にした。

 

「─御意。それでは我が闘争を存分にご覧あれ」

 

途端にその身をくすんだ銀の甲冑が包み込み、気づけばその手には一降りの剣が握られている。つまり、いよいよ始まる。

 

「ほう・・・見事な剣だな。それを担う貴様もまた只者ではないのだろう」

 

好戦的に口元を歪めるランサー。その性分に呆れつつ自身もまた笑っている事に気づく。どうやら自分も同じ性を背負っているらしい。

 

「まぁな。それなり以上って自覚はあるが、それはアンタもだろう?。」

「ああ。そう易々と勝ちはくれてやらんぞ?セイバー。」

 

軽口の応酬。それもすぐに終わり、剣の英霊と槍の英霊は互いにその自慢の得物を構え吼える。

 

「─行くぞセイバー!!」

 

「─ああ。いざ尋常にってなぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いの火蓋が切られ、誰もがその戦いに魅せられている中、暗闇からその殺し合いを淡々と眺める者がいた。

 

「・・・始まったか。」

 

口にしたのは『魔術師殺し』。セイバーの真のマスターであり、恐らく誰よりも戦争にそれらしい覚悟を以て望む男。

 

「キリツグ。それでは・・・。」

「ああ。頼んだよ、舞弥」

 

その男に機械的に従う女性、久宇舞弥。彼女はさる事情から切嗣の道具となったが・・・それは関係ないだろう。

 

─衛宮切嗣が魔術師殺しと呼ばれる所以は、魔術師の裏を掻く事に非常に長けているから。だからこそ、今もこうして『裏側』で暗躍している。

 

セイバーと妻の二人に他の目が向いている間に敵マスターの背後を、と言った戦略。案の定、早速ランサーのマスターと覚しい者を捕捉した。こちらには気づいた様子はないが・・・。

 

「・・・チ。アサシンか。」

 

既にいない筈のアサシンが戦場を監視している。既にいないとはつまり、負けた筈であるという事。元々きな臭かったからか、驚きはしない。

 

戦で思い通りに事が運ばないのは常。一先ず頼りになる道具と共に、好機を逃さぬよう戦場を俯瞰する事にした。

 

「お手並み拝見だ、哀れな英雄さん。」

 

感情の込められていない笑み浮かべながら、彼はただ眺め続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ」

 

ランサーの槍が振るわれる。大気を裂く音を伴うそれは、セイバーの首を刎ねるには十分な威力があるだろう。

 

「あっぶね!!」

 

軽々と躱しランサーの懐に入り込む。だが器用なことに、ランサーは長槍と短槍を二本同時に操る二槍使い。セイバーに向かってもう一つ槍が突き放たれる。それも軽く身を翻して傷を一つも負わずに済ませるセイバー。両者の実力が拮抗しているか。それはまだ分からないが。

 

「っは。随分と余裕そうだなっセイバー!!」

 

言いながらも槍を振るい続けるランサー。突き、払い、長槍の大振りで誘いこみ短槍で迎撃。順不同のそれを高速でやってのける。コンテナに大きな爪痕を残し、地面を抉ってみせている事から、その威力が伺える。

 

「はぁ?そう見えてんなら眼科いけっ!!」

 

嵐の如き連撃を回避しながら、時に弾いて凌ぐ。劣勢とまではいかないが、攻めに出れないでいるセイバー。その目は左右同時に襲い来る槍を警戒している。

 

やりずらいったらない。槍二本併用するとかレアすぎる。どっちか一本の動きが鈍いとかならまだやれる。でもこいつ、両方とも鋭いし。何よりどっちが宝具かも判らない。

 

「(絶対勝てないって事もないだろうが、どうにも慣れない。)」

 

こいつ、強いじゃないか。思わずその武芸に見とれてしまう。舞う蝶のような軽やかに、豹の如き獰猛さを秘めた槍。

 

生前から経験のなかった槍捌きを前にして、その真名をただ純粋に知りたくなった。

 

 

 

ここまでで、ダメージを受けていないのはお互い様ではある。しかしランサーが二槍使いというかなり珍しいスタイルを披露しているのに対して、セイバーは言ってしまえば珍しくもない一刀流の剣士。前者であるランサーは非常に珍しい戦法により、相手の不慣れにつけ込めるというアドバンテージを持つ。

 

それでもランサーの槍が一度もセイバーに血を見せていないのは、セイバーの実力の高さ故だろう。手足のように剣を走らせ、各方向から繰り出される槍を的確に防ぐ。なによりその回避能力にも目を見張る。

 

「(まるで風を斬ろうとしているかのようだ・・・)」

 

そんなセイバーを相手にランサーもまた攻めあぐねていた。自らが操る二本の槍を警戒しているからこそ、恐らく本気で攻勢に出てはいないのだろう。しかしその防衛力を以て寧ろ─

 

「っと、やっぱそう来たか!!」

 

先程よりも戸惑いが消えている。対応し始めているのか?この短時間で・・・!!

 

「(初戦からこれ程の手練れと斬り合えるとは!!)」

 

ランサーは騎士であり、武人である。その武人としての性が、より彼の戦意に火をつけた。

 

 

 

 

 

 

「仕切り直しっと・・・。」

 

フゥ、一息つくか。見た限りではあれ以上の火力は出ないかな?切り札は使ってないのか、全部避けられてるのに割と余裕そうだし。・・・ありゃ脳筋なだけか?

 

「どうしたセイバー?臆したか?」

 

「はぁ?んな訳あるか、その台詞はせめて俺に一撃でも入れてから言え。」

「フッ。それはこちらの台詞でもあるぞ?」

 

相変わらずの軽口。しかし雰囲気も相まってその軽口ですら斬り合いの如き闘志を秘めている。

 

「しっかしまぁ、アンタ強いな。そんだけ出来りゃ名声なんて思うままだったろう?」

「何を、貴様の方こそ見事な腕だ。まずは称賛を受け取れ、セイバー。」

 

 

 

互いに死の応酬を繰り返した者同士だからこそ、奇妙な絆を感じさせるやり取り。敵対者への殺気はあるが、真実両者ともお互いを尊敬しあっている。

 

『じゃれ合いはそこまでだランサー。』

 

そこに割って入る第三者の声。察するに、ランサーのマスターか。

 

『あまり勝負を長引かせるな。そこのセイバーは難敵だ、速やかに排除しろ。─宝具の開帳を許す。』

 

 

 

宝具の開帳。命じられたランサーは肯定の言葉を口にし、続けざまに「取りに行く」と宣言した。

 

そして槍を隠していた布が取り払われる。露わになった紅い槍。

 

長槍が宝具か?現にランサーは短槍を捨て、改めて紅い槍をこちらに向ける。しかし一向に攻めてこない。

 

「何のつもりだ」

 

「いや、何。こうなっては貴様には悪いがそちらに勝ち目はない。せめてまともに斬り掛かるチャンスをやろうと思ってな。」

 

明らかな挑発だ。だがセイバーは好都合と考えた。それなら、お言葉に甘えさせて貰おう。

 

「・・・」

 

隙をうかがう。目の前に立つ男の一挙一動を見逃さない。間合いを計るセイバーに合わせて後退するランサー。しかし─

「っ!!」

 

戦いの影響でクレーターのようになっていた地面に足を滑らせる!!

 

 

貰った!!そう思うが早く、一息で間合いを詰めるセイバー。後方で見守るアイリが息を吞む。誰もがセイバーの勝利を確信していた。だが。

 

足を滑らせたそこにあったのは捨てた筈の短槍。それを足で掬い上げ、長槍のみを警戒していたセイバーに突き立てる!!

 

「ッぐぅ・・・!!」

「っくそ!!」

 

一瞬の交差の内に行われた攻防。ランサーは苦悶の声を上げ、セイバーは悪態をつく。見ればランサーは肩を軽く裂かれていた。

 

何が起こったのか?それを正確に把握できているのは当事者である両名のみ。セイバーが短槍を弾くと同時に、ランサーの胸元に剣を叩き込む。

 

対してランサーはそのセイバーが自分の横を抜けた際、無防備に晒された背中に弾かれた勢いを利用し、黄色の短槍を薙いだ。

 

今更だかランサーは軽装だ。肉体の形が見て取れるくらいに。しかしセイバーも実は重厚とは言えない、寧ろ必要最低限の鉄か纏っていない。どちらかと言えばスピードを重視しているらしく、所々が革や布。背中もまた頑丈な作りではなかった。

 

結果的に言えば、痛み分けか?肉を抉られたランサーと、辛うじて背中への攻撃を避けたが、背中を庇った際に槍に晒した脇腹を裂かれたセイバー。幸いなことに、致命傷には至らないようだが。

 

初めて互いに血を流した瞬間であると同時にセイバーが宝具の使用を決意し、戦局が傾き始めた瞬間でもあった。

 

「・・・!!ってぇ。やってくれたなランサー」

 

互いに負傷し、患部を押さえて睨み合う。

 

「っセイバー!!」

 

直ぐさまアイリが治癒を施す。しかし、セイバーは傷を確認する─そして少し顔を歪めた。

治癒を求めてアイリを見るが、彼女の顔は焦燥感に駆られていた。曰く「傷を負ったその状態で既に、完治している」のだと。

 

次いでランサーに眼を向けるセイバー。その顔は酷く能面だ。

 

「っ、傷み入る。我が主よ」

 

ランサーの醜態に憤りつつも治癒を施すランサーのマスター。いつものセイバーならここで軽口を投げ掛けるだろうが、それ所ではない。

 

この傷は、癒えない。その手の呪詛を含んだ宝具だったのか、セイバーを焦らせる。

 

仕方がないか?他の目がある以上、宝具なんて晒したくないが。

 

「なるほど。乙女を惑わす泣きボクロ。癒えない傷を残す黄槍と来たら、紅い方は魔を絶つって槍か?ディルムッドさん。」

 

彼の正体を確信したセイバー。そもそも二槍使いなんて彼くらいしか思いつかない。確信を得るには十分斬り結んだのも真名に至った理由だ。

 

「ふっ。ああ、そして我が『必滅の黄薔薇』は決してその傷を癒やすことはないだろう。他ならぬ、この俺を倒さない限りはな」

 

「へえ?良いことを聞いた、お前を倒せばこの鬱陶しい痛みも消えると。なら─」

 

「ならば、どうしたセイバー。その状態でまだやるか?それとも、そちらも真名を明かすか?」

 

余裕の表情を浮かべるランサーは、宝具の使用を催促している様子でもある。それに対してセイバーは当たり前のように頷く。

 

「おう。この傷は引きずりたくない。討つべき敵はまだまだいる。どうせ二つ槍にももう慣れた、今度はこっちから攻めに出る。『────』」

 

 

明確にセイバーが何かを口にした瞬間、ランサーは流れる血が凍りつく感覚に襲われた。直後─

 

「!!」

 

すぐ目の前にセイバーがいた。近距離とは言え、起こりさえ見えなかった・・・!!

 

そうして振り抜かれた剣戟は、両腕で、槍を重ねて漸く受けて切る事が出来る程に強烈だった。

 

その重さに思わず苦痛に濡れた息が、声が漏れる。だがセイバーは止まらない。上段からの袈裟斬りに続き、反撃を許さないスピードでの連続剣。

 

腕、脚、額、肩を裂いていく。致命傷とまでは行かないが、それでも無視できないダメージを蓄積させていく。

 

「─ぐ、あぁぁ!!」

 

苦悶の声か、圧倒されているが故の怒りか。どうあれランサーが圧されているのは誰の目から見ても明白だ。しかし、当の本人であるランサーが賭に出た。

 

「・・・っこの!!」

 

肉を切らせて骨を断つ、と言ったか。セイバーの骨を断つ事は叶わなかったが、それでも敢えて攻撃を受け、その勢いを利用して吹き飛んだ。

 

「─驚いたな。けど・・」

 

セイバーは唐突なことで少し判断が遅れたが、その際に互いに与えた傷は。無論、転がって行った隙を見逃してやるほど優しくはない。

 

ここで決める!!痛みに苛まれながらも、して大きく踏み込もうとした、正にその瞬間─

 

「AAAAALaLaLaLaLaLaie!!!」

 

騒々しい雄叫びを上げながら雷鳴を轟かして─

 

「─双方剣を納めよ。王の御前である!!」

 

「我が名は征服王イスカンダル。此度はライダーのクラスを得て現界した─」

 

 

強烈な覇気をまき散らす、征服の王が参戦した。

 

 

「ら、ライダァァァ!!」

 

ついでに全力で自己中な相方の暴走を嘆いてか、怒ってか、その両方か?ともかく感情のまま叫びを上げる三流マスターも。

 

 

 

 

 

 

騒然とする戦場。当然である。セイバーはいち早くアイリを庇うように立ち、ランサーは槍を杖のようにしてライダーを睨む。

 

「ハハハ、まあそう警戒するな。」

「警戒するなって・・・そりゃ無理だろうさ。何言ってんだアンタ?」

 

ものは試し、ちょっと探ってみますか。ちなみにこの間「何をしているランサー!!」だの「さっさと立て!!この役立たず!!」だのヒステリックな声が聞こえたりもした。・・・あ~クソ、治癒してやがる。

 

せっかく追い詰めた獲物がその傷を癒している様子を見るしか出来ない。他ならぬこの征服王とやらのせいだ。

 

「ほう?余の名を聞いてなお物怖じしないか・・・。うむ!!良いぞ、先ほどの武芸といいさぞ名のある猛者なのだろうな!!」

 

「え・・・?お、おう。どうも?」

 

余りに気さくなのもんで逆に、なんかこう、ね?

 

「ふむ。ランサー、お主も中々どうして根性のある男よのぅ!!余はお主もまた、大いに気に入ったぞ!!」

「は?はぁ・・?」

 

傷はまだ完治していないが、それでもさっきよりはマシになったのか。余裕を取り戻し始めたランサー。セイバーとランサーに共通して言えるのは、とても混乱しているという点。

 

「そこで、だ!!」

 

だがしかし、混乱が治まるまで待ってくれるほど常識人では無いのがこの征服王という男。ライダーは混乱状態にある戦場のど真ん中で高らかに─

 

「余の臣下となり、共に聖杯を勝ち取ろうではないか!!」

 

 

 

そんな事を宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ノッブ再臨完了!!それはそれとしてロンドンまだかな。

※文章弄りました。


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七話 狂戦士、退場

正直、前の文章から繋ぐのが苦手です。どうやったら違和感なく続きを書けるのか、、、要練習ですね。

※ステータス変更しました





いやぁ・・・妙なことになった。多分俺以外の全員が漏れなく思ってるだろう。突然すぎる勧誘─いや、そもそも何もかも突然なんだが。

 

 

 

どうあれ、こいつは本気で俺達に仲間になれ・・と言ってるのか?・・・全く理解できないなんだこいつ、ライダーだっけか。

 

・・・なんだオイ、返事を期待してんのか?雰囲気で察せよったく。こちとら真面目に戦ってたのに。

 

「あー・・・いや、普通に断るぞ?俺は。ランサーは?」

 

何故か?と問われる前にランサーにも振る。嫌だから嫌だ、で納得しそうにないし。

 

「・・・ああ。俺も断らせて貰う。俺が忠誠を誓ったのは今生にて契約を交わした主のみ。─断じて貴様ではないぞライダー!!」

 

・・・案の定総スカン。うっわこれはキツイな。後ろをチラ見したらアイリさんもよく分からないけど、なんだこいつって目をしてますし・・・。完全にアウェーだこれ。

 

「ふぅむ・・・。待遇は応相談だが?」

「くどいっ!!」

 

あの雰囲気で勧誘続行すんのか・・このライダー、ある意味大物なのか?いや、彼の口にした名前─イスカンダル。これが本当ならば疑いの余地無しで大物だが。

 

「むぅ・・・勿体ないなぁ。」

 

・・・この時点でセイバーはまず、ブラフではないと判断した。本人が無自覚に発露している王気を肌で感じた、と言うべきか。それ以前に嘘を言う男には見えなかった。

 

ついでに視線をライダーの下に移す。・・・そう、何よりライダーの乗っているあの戦車。真名から察するなら、あれを牽いている二頭の牛はゼウス神に捧げられていたらしい神牛で間違いないだろう。思えば雷を帯びているようにも見えた。

 

なるほど。ある意味納得というか。彼の征服王は逸話からして中々に突拍子のない行動を取ってたりする。いや、必要以上の疑念は不要だ。彼を『征服王』と断定した。

 

 

「な、何してんだよ!?真名ばらした挙げ句に、結局総スカンじゃないかっ!!」

 

そう叫き散らすのは恐らくライダーのマスター。気持ちは分かるぞ、セイバーは心の中で同情の声を掛けた。

ライダーのマスター、ウェイバーが相方に縋るようにしながら文句を吐いているとどこからともなく嫌味ったらしい声が響いて来た。

 

「まさか、よりにもよって君だったとはな。ウェイバー・ベルベット君。」

 

その声を聞いた瞬間、ウェイバーの動きが止まる。・・・明らかに怯えている様子だった。関係性に興味はないが、続く言葉から浅からぬ因縁が感じて取れた。

 

聖遺物を盗んだ、ねぇ・・・。つまり嫌味男はライダーを呼ぼうとしていたと?それ、ランサーの前で言うか?いたたまれないぞ・・・なんか。

 

その後にとっくりーとか言っていたが、聞き流していた。相手にトラウマでも有るのか、必要以上に恐れているウェイバーだったが、彼を他ならぬこの場へ連れて来たライダーが庇う。

 

「余のマスターは余と共に戦場を駆ける勇者でなくてはならん!!」

 

おお・・・言うなぁライダー。流石の覇気だ。

俺は別に臆病でも、自分の意思で戦いに臨むって奴なら構わないけどな・・・。

 

目の前で繰り広げられた茶番。結局ライダーがケイネスを言い負かす形で幕を下ろした。ところがライダーが周りを見渡しながら吼え始めた。

 

「それより!!ほら、他にも居るだろうが!!」

「・・どういう事だ?」

 

ランサーの疑問にサムズアップで応えるライダー。何でもまだ覗き見している輩がいるとか。

 

やべぇ、もしかしてマスター?と一瞬焦ったがそれは杞憂だった。立て続けにライダーが「ここまで言って顔を見せないなら侮蔑するぞ」と、明らかな挑発を行い─

 

「よもや、この我を差し置いて王を名乗る不埒者が湧いて出るとはな」

 

破格の王者が、ライダーの挑発に応えた。

 

 

 

あれは─

 

「アサシンを倒したサーヴァント・・・!!」

 

そう誰かが呟く。圧倒的な存在感を纏うアーチャーは他を気にも留めず、ただライダーを紅い双眸で睨む。

 

「難癖つけられたか・・・。とは言っても、余は世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが?」

「戯け」

 

「天上天下に、王はこの我ただ一人。他は有象無象の雑種に過ぎん。」

 

なんという傲慢不遜。だがセイバーはその黄金の男の傲慢さを肯定した。─その傲慢が許されるほどなのだろう、と。

雑種と確実に下に扱われているようだが、見下されるのはまあ慣れているし、勝って見返せばいいと考えるのがセイバー。

しかしライダーは別だった。少しムッとしてそこまで言うなら名乗りを上げろ、そう返す。

 

その言葉に対して理不尽にも「この顔を見ても分からない?なら死ね」とのこと。言い終わるった直後、空間を裂いて絢爛な槍と剣が現れた。

 

あれは、間違いなく宝具・・・!!明確に殺意を笑みで表し、アーチャーはライダーへ切っ先を向ける。

 

各陣営が見守る中、唯でさえ混沌としたこの場所へ更なる爆弾が投下される。

 

「!!」

 

セイバーが睨んだ先はアーチャーの乗っている電灯の真下辺り。何もなかったそこから突然黒い陰が現れた。

 

「A rrrrrrrrr!!」

 

その黒の姿は・・・ハッキリとは判別出来ない。しかし低く唸るような狂気の音が、人とは思えない濃厚な殺気が、それを『バーサーカー』だと証明していた。

 

 

 

 

・・・なんだ?この状況。

俺、ランサー、ライダー、アーチャー。これだけでも十分カオスなのに、バーサーカーも?何?寂しがり屋なの?交ざりたかったの?ざけんな、帰れ!!

 

「ったく。」

 

これじゃ、益々他を仕留めるのは難しい。いやそれ所かアイリさんまで危険じゃないか。

傷つけさせやしないが、如何したものか・・・。隙を見て離脱?この際それが一番か。

 

よし。そうと決まれば

 

「アイリさんこ「誰の許しを得て我を見ている?狂犬めが・・・」?」

 

ここから離脱しましょう。そう言い切る前にアーチャーが口を開いた。・・・どうやらバーサーカーに不躾に見られたのが癇に障ったらしい。

 

気付けばライダーへ向けられていた宝剣はバーサーカーへ向けられていた。

 

「─せめて死に際でこの我を興じさせてみよ。雑種」

 

その嘲りが開幕の宣言となった。虚空から鎌首をもたげていた剣と槍は、王の不興を買った不届き者を蹂躙せんとバーサーカーに飛来する。そして、落雷の如き轟音を上げ被弾した。

 

「っな!!」

 

刹那の交錯。驚愕の声を発したのは果たして誰か。しかし無理もない。何故なら、被弾などしておらず。

 

「貴様・・・その汚らわしい手で我が宝物に触れるだと?─そこまで死に急ぐか、犬っ!!」

 

高速で放たれた剣を掴み取り、続く槍を打ち払う。誰にでも出来る芸当ではない。それもバーサーカーなら、尚更。

確かにのの絶技にも目を見張ったがしかし、今はその技量ではない。

 

「ならばその小癪な手癖の悪さを以て、どこまで凌ぎきれるか・・・見せてみよ!!」

 

アーチャーの背後から、またも宝具が。それも幾つもだ。惜しげもなく晒されたそれらを湯水の如く撃ち放つ。まるで無尽蔵と疑ってしまうほどで、アーチャーが一体どれだけ異常なのかは周囲の驚愕を通り越した表情を見れば一目瞭然。

 

バカな・・・!!宝具は多くても三つか、五つだ程度だろう。だがあのアーチャーは!!

セイバーが・・・勿論彼だけはないが、おおよそこの現場を見る全員が、今だけ各々の思惑を忘れて見入る。

その間にもアーチャーは英雄の象徴を弾き飛ばしている。バーサーカーもまた、それらを当たり前のように捌き続ける。

 

 

 

しかし突然、その激しい攻めと防ぎの応酬も終わりを告げた。バーサーカーが突如、その精彩な動きを止めたのだ。

 

バーサーカーが動きを止めても、容赦なく刃は射られる。鉄を貫き、肉の裂けた音が五、六か。

 

「フン・・・所詮その程度か?雑種・・・。下らん、疾く失せろ」

 

そうアーチャーが冷たく見下した先には、複数の武具に刺し穿たれたバーサーカー。

 

「art─」

 

最期に何かを呟き、終ぞその来歴を明かすことなく黒を纏う狂戦士は消え去った。

 

その後アーチャーは軽く飽きたらしく、最後までジャイアニズムに溢れた言動を残して帰って行った。

 

 

 

 

「な、何だったんだ・・・?」

 

残された者達を代表してウェイバーがポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しだけ前─とある地下水路にて

 

「ぐっ、がぁぁぁぁ!?」

 

図太い悲鳴が響く。その声の主─間桐雁夜は、己が血肉を手駒へと捧げ、身悶えていた。

 

その最中、突然何者かに襲われた。

 

そしてその背後から迫り来る誰かはクスクスと、何が愉しいのか、溢れてくる笑みを堪えるようにして雁夜を追い詰める。

 

「ぐぅぅ、・・クソっ!!だ、誰だ?!」

 

鋭利な何かに斬られ、血が溢れ出る自らの腕を─令呪の宿った腕を押さえながら必死に走る。走るとは言っても、元々肉体が壊れかけているため非常に遅く、すぐに追いつかれたが。

 

「はい。よく頑張りましたね?溝鼠さん。」

 

「・・・!!」

 

行き止まり。やばい!!そう考えた時には既に遅く。

 

「全く・・・ネズミ風情がよく、こうも逃げ回りましたね?とは言っても、ここで終わりですが」

 

雁夜は改めてその正体を見る。

「・・お、おん、な?」

 

そう口にした直後に雁夜は光を失った。目を、潰されたのだ。

 

「!!?」

 

次いで足が潰されたのが、何となく分かってしまった。

その女は、雁夜の苦痛を気にも留めずに一方的にしゃべり出す。

 

「ハァ、何考えているんですか?『彼』以外で私を見るとか、それも貴方みたいな汚い汚いネズミさんが。」

 

「全く。でも、良かったですね。実は私さいっっっこうに!!気分がいいんです」

「なので少しだけ長生きさせて上げますね・・・あ、今日中には殺しますけど!!フフッ」

 

狂気を感じた雁夜は、自分の唯一の武器であったバーサーカーが放つ狂気とはまた違う、酷く恐ろしい歪を感じた。

 

「─ああ。アリス、アリス、アリス・・・!!見間違う事なんてあり得ないっ!!だって貴方のことだもの!!」

 

いや、そんな場合じゃない!!ここで死んだら誰が桜ちゃんを「ねえ、バカですか?」声と同時に、腹部に激痛が走る─!!

 

「はぁぁ。何を考えてるのかは知りませんけど。もっと痛みで可笑しくなって下さい。つまらないのは嫌いですよ?」

 

思考を逸らして、現実逃避することも許されないのか・・・!!身体を苛む激痛の波。

しかしそれもやがて治まってきた。

 

「というか貴方、臭いますよ?・・・負け犬の、面白いくらい惨めな臭いがします」

「アハハっ!!っと、私ったらはしたない。・・・ではでは、負け犬さんに令呪は勿体ないのでー」

 

そう言うと徐に雁夜の腕を掴み

 

「『これ』貰いますね」

 

引き千切った。彼女はその手にある令呪を眺める。そして一つ頷き、令呪を回収した。

 

 

 

 

 

 

ごめん。もう、ダメだ。

─少しずつ、楽になってきた。

 

「(さくら、ちゃ・・・ん、)」

 

ごめん。

 

助けられなくて、ごめん。

 

 

あおい、さん。もう一度、君に

 

もう、いい気がしてきた。何もかも捨てていい気がした。

 

 

─だって、意識を手放したら、大好きな人が・・・そこにいてくれる気がするから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?もうイってしまったのですか?」

 

事切れた雁夜を見下ろす女性。その顔は酷薄な笑みで彩られている。

 

「まあいいです。私、こんな気持ちの悪い男の人、興味ありませんし」

 

─愛しい、愛しい、あの人。

 

「アリス・・・ああ、アリス。貴方は変わらない、ちっとも変わってない。あの時と同じ、こんなにも私を夢中にさせてくれる・・・!!」

「見ていたわ・・流石よ、私のアリス。格好良かった・・・」

 

でも、あの女は誰?マスター?知らない、知らない

 

「知らないわよ・・・何それ?・・・ううん、違うわ・・折角貴方を見つけられたのだから、もっと良いことを考えましょう」

 

恋しい、恋しい?・・・ええ、すっごく恋しいわ。会いたい会いたい。早く会って、抱き締めて欲しい・・・。

 

「そう、そうよ・・・、ギュッと強く、・・・は!?ち、違うわアリスっ、まずは、その・・・手を繋いでみたり・・・」

 

頬を染めて歩く彼女は恋する乙女。・・・血塗れの刃物を、その指先で弄んだりしていなければ。

 

 

 

 

後に残った哀れな残骸。それは何処からやって来たのか、気味の悪い蟲が食らい尽くした。

 

強いて言うならむせ返る程の血の臭いが漂っていたのだが、彼女が去った後にはその臭さが不思議と和らいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今

 

「・・・!?」

 

うわ・・・今なんか、ゾクッとした。

 

 

これからどう動くか考えていた剣士が一人、何とも言えない悪寒に襲われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ステータスについては徐々に開示していく感じになります。

まずは軽く

クラス セイバー

マスター 衛宮切嗣

真名 アリス

性別 男

身長 184cm 体重75kg 

属性 中立 善

特技 怒らないこと

苦手 目が飛び出たときのジル

ステータス
筋力C+ 耐久B+ 敏捷A 魔力C+ 幸運E 宝具??

クラススキル
対魔力B
魔術詠唱が三節までのものを無効化。大魔術とかでも傷つけるのはムズい。

騎乗B
騎乗の才能。通常の乗り物なら人並みに乗りこなせる。

略歴1
フランスの英雄。ジャンヌ・ダルクやジル・ド・レェを含めた三人で語られる事が多い。農家出身であり、そこそこ出世しても傲慢になることは一度もなかった。しかし当時の人間にしては、度々神への信仰心の薄さを指摘されたこともあったという。

こんな感じにこれからちょくちょく挟んで行きます。
スキルの説明などで「何言ってんだこいつ」みたいになったらお聞きください。




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