遊戯王GX 凡骨のデュエルアカデミア (凡骨の意地)
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第一話:デュエルアカデミア

 城之内克也は、輝いていた。

 プロのデュエリストが集う、プロリーグにて、熱い決闘を魅せていた。デュエルキング、武藤遊戯の側にいた人物として恥じないデュエルを見せ、固定ファンもたくさんいたという。戦術も一風変わっていて、武藤遊戯やそのライバル、海馬瀬人はパワーや的確な戦術で戦っていく、いわゆる正攻法で勝負するのだが、城之内克也はそういったものではなく、運を試すカードを頻繁に使ったり、相手のカードを奪って逆転したりなど、トリッキーな戦法をする。勝率はとても高く、武藤遊戯、海馬瀬人と並ぶほどのデュエリストと評されていた。

 ……だが、彼らに悲劇が訪れた。

 プロリーグに在籍していた多数のデュエリストが、参加資格を剥奪されたのだ。理由としてはスポンサーとの契約解除なのだが、実際の理由は、プロデュエリストの居座りを解消するというものだったと、武藤遊戯は語っている。新参のプロデュエリストも、城之内や海馬、遊戯に当たったら最後、プロから落第である。そんな悪しき状況を打開するために、それまでのプロデュエリストを切り落としたのである。無論、城之内克也もその犠牲を被った。

 それから10年たち、高校生だった城之内はすっかり大人になった。ニート同然になってしまった彼に、転機は訪れるのだろうか……。

 

 

 

 

「うーむ……」

 

 パソコンの画面に張り付くように睨みながら、城之内克也は唸る。今彼が見ているのは就職サイト。しかし、どれも面白そうな仕事ではなく、城之内はげんなりする。

 

「なんかこの……自由にやれる仕事とかってないのかな……。自分の好きにやれる仕事っていうのは」

 

 そして自分の心の中で、あるわけねーだろと返す。何故なら、今まで喧嘩ばっかりやってきて、勉強もろくにせず、好きなものと言ったらデュエルモンスターズ。デュエルモンスターズの腕ならば、全国クラスではないかといわれるくらいだけれど、所詮は子供の遊び、就職には役に立たない。

 デュエルモンスターズが仕事の役に立つなんて、おもちゃ屋か海馬コーポレーションなんだろうけど、どっちも彼のお世辞にも良いとは言えない学歴と素行のせいで入れない。それに海馬コーポレーションなんてこっちから願い下げである。海馬の下で働くなんて反吐が出る。

 一方、彼の大親友の武藤遊戯の実家がおもちゃ屋だけれども、そこで働いたら、遊戯や遊戯のじいさんに迷惑がかかるだろうから遠慮している。

 となれば彼に残されているのは力仕事。検索をかけて募集しているところを探すのだが、待遇が悪く、正直行く気がしない。でも、就職しなければ、社会人として終わりだ。

 

「はぁ……」

 

 ため息をつきながら城之内は、パソコンの画面をスクロールして流す。すると、土木工事の面接の案内が、目に映った。食いつくように覗き込む。

 

「おっ、あったぞ。どれどれ……学歴不問、労働日時は週4日、給料もまあまあ……。これで行こう! 電話番号は、っと……あったあった。さっそく電話してみるか」

 

 城之内は近くにあった携帯電話を手にとって電話をかけた。面接の申し込みをしたいという旨を伝えると、明日面接するという快い返事が返ってきた。

 一息つき、パソコンを閉じた時、声が大きく響いた。

 

「お兄ちゃーん、御飯だよー!!」

 

「おう、すぐ行くよ!」

 

 ふと、妹の静香の声が下の階から聞こえた。自分の部屋のドアはしめているのに、声がよく聞こえるのは、この家がぼろいからなのか、それとも静香の声がデカいからなのかはわからない。

 階段を降り、居間に入ってテーブルに着く。するとそこには、おいしそうな食事がずらっと並んでいた。昼間はあまり食べていないので、現金な腹が空腹を訴えてだらしなくきゅーっと鳴る。城之内は席に着き、箸を取ると、早速大好物のコロッケにありついた。

 

「うまいな、静香のコロッケ。相変わらずうまいぜ!!」

 

「そうかな? よかったあ……今日ちょっと失敗したかなって思ってたんだけど、美味しかったようで何よりだわ」

 

「ああ、静香のコロッケはいつ食べてもうまいぜ!」

 

 衣はサクサク、中はふわっとしていて、舌が唸る。ソースとの相性も絶妙で、これ以上にうまいコロッケを城之内は知らない。

 そんな中、このコロッケを食べると城之内は、罪悪感を覚えた。いつもそうだ。だから、このコロッケを食べるのは、ちょっとだけ嫌な気がする。美味しいけれど、気分は少し憂鬱にさせてくれる。静香は悪くないのだ。全部、情けない自分のせい。

 

「なあ、静香。お前、今日デートするんじゃなかったのか?」

 

「デート? ああ、今日別れちゃったの。彼とは合わないから」

 

 静香は料理の後処理をしながら答えた。

 静香は、兄の自分から見てもとってもかわいい女の子だ。しかも家事洗濯何でもできるという恐ろしいハイスペックであるので、とてもモテる。付き合った男の数は多いけれど、いつも破局している。城之内は優しい静香に原因があるのではなく、男の方に原因があるんだと、最初は思っていた。

 でも、もしかして別れる理由は城之内自身にあるんじゃないかと、最近は思うようになった。ことは、5人目の男の時だ。一度家に遊びに来たのだが、とってもいいやつで、静香と結婚させたいくらいだった。でも、その次の日に別れてしまった。理由を聞くと、その人と合わないからと、それまでと同じ理由だった。その時から俺は確信した。静香は、こんな情けない自分のために、あえて独身を貫いているんだと。自分のせいで、静香はこの家から巣立つことができず、自由を奪われているんだと。

 だから、静香がおいしいコロッケを振舞ってくれるのは、少し辛い。自分なんかよりも、本当に好きな奴に、そのおいしいコロッケを振舞ってほしいのに。時に涙が出そうになる。自分が静香を苦しめていると思うと、情けなくなる。

 

「……ごめんな」

 

「え?」

 

 唐突に、言葉が出る。胸の中でうずく静香への罪悪感がついに喉を通った。静香は手を止めて見る。

 

「お前の自由にさせてやれなくて、本当にごめんな……」

 

「お兄ちゃん、それどういうこと?」

 

 首を傾げながら、苦笑する静香。城之内には、それすらも見ていられなかった。

 

「俺がいつまでたっても就職できなくて、厄介になっているせいで、お前が本当に好きな人と付き合えない。そうなんだろ、静香」

 

「そんなことはないよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんを助けたいから、私はここにいるし、好きな人なんて、いないから別れているだけだよ」

 

「そうかもしれないな。でも、お前は俺なんかと一緒にいるより、お嫁に行っていい奴と暮らした方がずっと幸せだ。お前はこんなにうまいコロッケを作れるし、俺にはもったいない優しい妹だ。だけど、そんなお前を、俺は縛っているんだ。本当に、俺はダメな兄ちゃんだ。デュエルしかできない、ダメなやつなんだ」

 

 コロッケをかみしめながら話す。涙が出そうになる。自分が嫌になる。自虐的に笑おうとしている自分が、憎くてたまらない。

 

「そんなことないよ、お兄ちゃん」

 

 静香は、優しい声で近くに寄ってくる。兄の事なんて鬱陶しい筈なのに、煩い筈なのに、優しい。城之内は顔をあげて、静香の顔を見た。

 

「私、お兄ちゃんにこの目を貰ったの。今の私がいるのはお兄ちゃんのおかげ。だから、お兄ちゃんのそばにいることは、全然苦にならないし、私はそうしたい。お嫁になんか行かなくてもいい。私にとって、お兄ちゃんのそばにいることが、お兄ちゃんの幸せになることが一番だから」

 

 静香は、かつて目が見えなかった。手術すれば治るのだが、馬鹿な城之内の親父がギャンブルで金を使い果たしてしまい、手術費が払えない状態だった。でも、城之内は決闘者の王国で賞金を稼いで、静香の治療費を払った。そのおかげで、静香は目が見えるようになり、皆と同じように生きることができた。

 思えばその時からうぬぼれていたかもしれない。カードで、人が救える。そんな夢物語を信じていたのだ。普通に考えたらありえない。だってたかがゲームだ。確かに人を勇気づけることはできるかもしれないが、人の本質を見抜けるかもしれないが、静香や他の誰かを救うことなんて出来やしない。真紅眼の黒竜だって、人造人間ーサイコ・ショッカーだって無理だ。この就職難を救うことなんて出来るわけがない。遊戯が、魅力的なデュエルをしてきたからそう思うようになっただけで、本当は、ただ楽しむだけのカードゲームに過ぎないんだ。何で今まで分からなかったんだろう。

 確かに真のデュエリストには憧れた。世界も救った。青春も輝いた。友情を育むことだってできた。でも……カードゲームはそんな素晴らしいところばかりじゃない。カードゲームは、遊びの範囲を抜けることはない。たくさんの特別な力をもった、大流行した、その事実は変わらないけれど……やはり社会から見ればそれはただの遊びで、役に立たない紙屑である。カードゲーム界で全てを制することができるのは一部の人間だけだ。それ以外の人間は、カードゲーム以外に何も持っておらず、破滅をたどるだけだ。それが、今の自分だ。カードゲームは好きだったし、デュエリストということに誇りを持っていたけれど……そんなのは、子供の幻想、大人になったら下らないものにすぎない。城之内は辛そうに顔をしかめた。

 

「静香。俺は確かにお前の目を治すことはできた。でも、今はお前の足かせにしかなっていない。就職もできず、ニート同然だ。やっと今日、土木工事の仕事が見つかったくらいさ。まだ面接すらしてねーけど。だけどな、俺、もっと頑張ってお前を幸せにしてやるから。せっかく治ったんだから、お前には幸せになる権利がある。俺のそばにいるのが幸せならそれでもいい。でも、もしいい男ができたなら、お前にはそっちを選んでほしい」

 

 城之内は静香の目を見ていった。静香には、幸せになる権利がある。兄を捨ててでも、幸せになる権利がある。静香が幸せになるなら、飢えて死んでも構わない。城之内は、その想いを目線で伝えた。

 

「分かったよ、お兄ちゃん。でも、私は今でも十分幸せだよ。さ、食べよ。冷めちゃうよ」

 

「……ああ、そうだな」

 

 止めていた箸を持ち直し、コロッケを食べた。少し冷めてしまったけれど、やっぱり美味しかった。明日の面接、絶対受かって静香を幸せにしてやる。そう誓いながら、無理矢理コロッケを頬張った。

 

 

「じゃあ、行ってくるからな」

 

「頑張ってね、お兄ちゃん!」

 

 次の日の朝8時。玄関先で、静香が見送ってくれた。面接の時間までまだ1時間あるし、徒歩10分で行けるけれど、早目についておけば印象がいい。

 静香の姿が見えなくなると、城之内は前を向き、ため息をつく。面接を受けるのはこれで何度目だろう。少なくとも二桁はいっているはずだ。

 家を出て少し歩くと、大通りが見える。大きなビルが聳え立ち、昼間だというのに、大きな音が街を包み込む。まだ学生だったころは、ただの何の変哲のない小さな町だったのに、今じゃまるで都会だ。

 

「ずいぶん、変わったんだな……」

 

 天を衝くほどのビルを見上げながら俺は呟く。この10年で、世界は大きく変わった。海馬コーポレーションも大きくなり、デュエルモンスターズも深く浸透していった。これには、海馬のデュエルディスクの低価格販売の動きが大きくかかわっている。お金のない子供たちでもデュエルを楽しめるように、ソリッドビジョン付のデュエルディスクを大幅に値下げして販売しているのだ。しかも、初心者用のデッキや拡張パックも安く大量に販売されているので誰でもデュエルモンスターズをすることができる。海馬はあんな性格をしているが、子供たちには随分と優しいことがうかがえる。海馬もプロリーグから追放されたはずなのに、プロリーグを目指す子供たちを支援している。何かこそばゆい。

 だけど、この街にずっと住んでいる城之内でも気づかない変化があった。

 

「ん?」

 

 ふと、大通りの先の交差点を見て見ると、たくさんの学生が道路をぞろぞろと横切っているのが見えた。どこか受験でもするのだろうか。それにしては、どうも違う気がする。勉強をたくさんしているような連中にはとても見えない。

 ……まあ、いいか。

 とにかく面接に行かなくてはいけない。俺は目を逸らし、面接会場へと向かう。

 しかし、城之内の横を、一筋の黒い影がよぎった。ものすごい騒音を立てて。

 

「うおっ!?」

 

 城之内は体を両腕で庇い、静寂を待つ。両腕の合間から覗かせると、そこには一台のバイクが目の前にあった。何で歩道にバイクがあるんだよ……。

 その理由はすぐにわかった。バイクに乗っていたのは、特徴的なリーゼントをした、古くからの親友、本田ヒロトだった。

 

「よっ、城之内!」

 

「なんだ、本田かよ。脅かせやがって……」

 

 城之内が不満そうに睨み付けると、自慢のリーゼントを撫でながらわははと笑う。

 

「悪い悪い。たぶん気づかねえと思ったからお前すれすれで通ってやったのさ」

 

「まったく……んで、何の用だよ?」

 

「別に。お前を見かけたから話しかけたけど、なんか急ぎの用事でもあったか?」

 

 本田は、リーゼントをかき分けながら聞いてきた。彼はデュエリストではないけれど、高校からの付き合いで、遊戯とも親友だ。バイクが好きで、こうして乗り回している。それでいて仕事も決まっているから何となくムカつくのは内緒だ。

 

「別に急いでねぇけど、これから面接なんだよ」

 

「どこの?」

 

「土木工事のだ」

 

「それってもしかして、童実野建設の事か?」

 

「そうだ。給料はまあまあだしよ」

 

「んまたしかにな。でも、俺のダチがそこで働いてるっつーけど相当きついらしいぞ」

 

「きつくてもやるしかねえよ。職なしじゃ大人として恥ずかしいし」

 

「まあな。でも、お前にはもっとピッタリな仕事があると思うぜ」

 

「どうかな。俺は学歴ないからロクな仕事には就けそうにはないな」

 

 まあそりゃそうだなと、本田は返してくると思った。しかし、本田は不敵な笑みを浮かべた。

 

「でもこれを見ても、それが言えるか」

 

「なんだと?」

 

 本田はバッグから何かを取り出した。どうやらチラシのようだ。本田はそれを城之内に手渡した。

 

「なんだこれ?」

 

「いいから読んでみろって」

 

 本田に催促されたので読み始める。チラシにはこう書かれてあった。

 

『デュエルモンスターズが好きなあなたに、朗報です!!

 デュエルモンスターズの学校、デュエルアカデミアの講師になれるチャンスです。学歴不問、寮もついています。必要なのは、あなたのデュエルの実力と、愛のみです。

 次世代のデュエリストを育てるいい機会です。さあ、あなたもデュエルアカデミアで生徒と共に学びましょう!! 本日午前10時に筆記試験、試験デュエルを行います。プロのデュエリストの場合は、デュエルのみで構いません』

 

「デュエルアカデミアって……デュエルモンスターズの学校ができてたんだな……」

 

「まあな。そんでよう、単刀直入に言うぜ。……お前ここ受けろ」

 

「えっ……?」

 

 そういわれるであろうことは予測していた。でも、城之内は思わず声に出していた。

 

「お前の大好きなデュエルモンスターズで仕事できるんだ。これほどいいことないだろ。お前が教師に向いているかどうかわかんねえけど、少なくとも土木工事なんかよりかは絶対ましだと俺は思うぜ」

 

「そうかもしれねえ……でも……」

 

「なんだよ、お前だったら迷わず受けると思ってたけどな」

 

「昔だったらな。でも……今は、デュエルモンスターズをやる気にはなれない」

 

「どうしてだ?」

 

 本田は両腕をバイクのハンドルにもたれさせながら聞く。

 

「俺がまだ高校生で、遊戯と一緒にカードやってた時はさ、純粋に楽しかったし、カードでいろいろ物事が変わっていった。静香の目も治せたし、かけがえのない友達もできた。でも、大人になったらどうだ? 大人から見たらただ紙切れで遊んでいるだけにすぎない。就職するのに、子供の遊びなんていらねえんだ。要するにだ。青春をカードで使っちまったから、今こうして苦労しているのに、これからのガキをカードにますます染めちまってもいいのか、俺はそう思うんだ」

 

 城之内はぞろぞろと歩く学生を見る。きっとあれはデュエルアカデミアの受験生たちだろう。彼らはプロのデュエリストになりたくて、その道を歩いている。でも、それがいいことであるはずがない。プロのデュエリストになれるのはほんの一握り。それこそ遊戯や海馬クラスにでもならないと、無理だ。

 

「ま、お前のいうことも一理あるよ。カードは人生の役には立ってないな。就職とか、生活とかにはむしろ邪魔なもんさ」

 

 本田は顔をあげて言う。本田は今までカードをやったことはないし、城之内たちのデュエルをいつも見ているだけだった。だから、全うな人生を送れているのかもしれない。城之内には本田がうらやましいと思った。なんだかんだで、賢い選択をしている。

 

「でもよ、何の役にも立たないっていうのは、ちょっと違う気がするぜ」

 

 しかし、本田は意外なことを言い始めた。思わず本田を見てしまう。

 

「どういうことだよ?」

 

「どうもこうも、さっき言ったじゃねえか。カードのおかげで、静香ちゃんの目が治せたり、遊戯や獏良、御伽、それにマリク、そのほかにもいろんな奴と友達になれたじゃねえか。それだけで十分なんだよ」

 

「そうはいうけど、人間飯を食っていかなくちゃいけない。静香を早く嫁に行かせて幸せにしてやりたい。でも、そうさせてくれなかったのはカードなんだよ」

 

「それは違うぜ城之内。俺が前に行ったこと覚えているか? お前たちがカードで人との絆を紡いでいくのが、俺は好きだって」

 

「……決闘都市のときだったな、それ」

 

 あの時のことは覚えている。城之内がグールズに、魂のカード” 真紅眼の黒竜”を奪われて落ち込んでいた時、本田が手術に踏み切れない静香ちゃんを励ましてほしいと頼み込んだ。その時に、カツを入れたのがこの言葉だった。

 

「お前は様々な相手とデュエルして、絆を紡いでいった。でもお前は今デュエルモンスターズを否定している。ってことは、お前が今まで紡いできたそれは、全部いらないものになっちまうってことなんだよ」

 

「それは……」

 

「お前と静香ちゃんの仲がいいのだって、全部デュエルのおかげだ。遊戯とかけがえのない親友になれたのも、デュエルのおかげだ」

 

「んで、何がいいたんだ?」

 

「あそこを受けようと思っている奴らに、それを教えてやるんだ。お前が次の世代に、デュエルの大切さを教えてやるんだ。だから、デュエルアカデミアを受けろ」

 

「―――!!」

 

「それに、静香ちゃんのためにもなる。就職して幸せにしたいんだろ? だったら、さっさとなっちまえ。土木工事なんかより、静香ちゃんは絶対喜ぶ。お前がデュエルしている姿が、とっても好きなんだからな」

 

 本田は、心の中にするすると入っていくように説いた。本田は城之内と同じバカ騒ぎしてたような奴だったけど、城之内とは違う視点で物事を見ているから、時に参考になったりする。デュエリストとしてではなく、一般人としてで考えてくれるから、心にすんなりと入る。いい友達を持ってよかったと、心から感謝した。

 だったら、本田の提案を断るわけにはいかない。たくさんの友人を与えてくれたデュエルモンスターズのために働くのも、悪くない。

 

「本田、悪いけど俺のうちまで送ってもらえないか?」

 

「……別にいいけど、どうしてだよ?」

 

「へっ、決まってんだろ?」

 

 俺はにっと笑って答えた。

 

「デッキ取りに行くんだよ。だから頼むぜ」

 

「やる気になったな、城之内! 早く乗れよ、ヘルメット貸すぜ」

 

 本田がヘルメットを城之内に投げてきたので受け取る。バイクにまたがり、本田の腰に両腕を回すとバイクがものすごい騒音を立てて発進した。

 

 家に着くと、静香が庭の掃除をしていた。静香は驚いた顔で城之内たちを見る。

 

「ただいまー」

 

「お兄ちゃん面接終わったの!? それに……本田さんも!?」

 

「よっ、静香ちゃん」

 

「こんにちは本田さん。どうしたのお兄ちゃん?」

 

「ちょっと忘れ物を取りにな」

 

「そ、そうなんだ」

 

 城之内は玄関のドアを開けて、階段を駆け上がる。自分の部屋に入り、押入れを探す。

 

「あったぜ……」

 

 乱暴に積まれた段ボール箱の山のてっぺんに、”カード”と書かれたところがあった。それを取り出し、床にどさっと置く。

 

「デッキケースはどこだ……? っと、あったあった」

 

 よく使っていたデッキが入っている、小さなケースを探す。ごちゃごちゃしていて見つけづらかったけれど、デッキを見て見ると、確かにそこには懐かしいモンスターたちがいた。

 

 ―――ワイバーンの戦士、パンサーウォリアー、フィッシャーマン、サイコ・ショッカー……。こいつらと共に戦ってきたんだ、俺は。

 

 城之内は彼らが入っているデッキを取り出し、バッグに入れる。10年たってしまった今、このデッキが通用するかはわからない。でも、仮に通用しなくても構わない。こいつらとともにデュエル出来れば、それでいい気がしてきた。

 城之内は携帯電話を取り出して、面接のキャンセルをした。つまりもう後がない。デュエルアカデミアに受からなければニートだ。最低の男になる。

 

「面白ぇじゃねえか……」

 

 不思議とやる気になる。背水の陣なのにもかかわらず、やる気しかない。もっとも城之内は、生か死かを賭けるデュエルを経験してきた。死にやしないデュエルなんかにビビってられない。城之内は立ち上がり、部屋を出た。

 

「ふう、終わったぜ。さあ、そろそろ行こうぜ本田」

 

 玄関外に出た城之内は、バイクにまたがる本田に声をかけた。

 

「おっ、もう準備できたのか?」

 

「まあな」

 

「あの、お兄ちゃん、本田さん、どこに行くんですか?」

 

 静香が聞いてくる。これからデュエルアカデミアの面接をするなんて、言っていいのだろうか。昨日あれ程カードを貶していたのに。

 だが、そんな迷いを、本田が一蹴した。

 

「デュエルアカデミアだよ。城之内の奴、そこで教師になるつもりなんだ」

 

「ちょ、バカ言うなよ!!」

 

「デュエルって、まさか……デュエルモンスターズの学校!?」

 

 静香が身を乗り出して聞いてくる。

 

「……ああ。本田に薦められてよ、仕方なくだ」

 

「……よかった」

 

「えっ?」

 

 静香が唐突に呟いた。

 

「だって、お兄ちゃん今すっごく楽しそうな顔してるもん」

 

「……そうかな?」

 

「うん、だって昨日のお兄ちゃんなんか泣きそうなくらい辛い顔してたもの。やっぱりお兄ちゃんには、デュエルが一番だよ」

 

「そうかも、知れねぇな。静香、俺必ず受かるからさ、待っててくれよな」

 

「うん、頑張ってね! お兄ちゃんの好きなカレーライス作って、待ってるから!」

 

 ありがとう、って言おうとしたけれど、俺は別の言葉を言うことにした。

 

「本田、今日お前暇か?」

 

「まあな。今日は俺仕事休みだし」

 

「ならさ、静香をバイクに乗せてやってくれよ」

 

「え?」

 

 静香は戸惑いの表情を浮かべた。城之内は静香に笑いながら話す。

 

「静香はいつも俺のために家事をやってくれている。でも、たまには羽を伸ばさせてやりたいんだ。晩飯を作ってくれるのはありがたいけど、今日は遠慮する。本田と遊ぶのが嫌なら仕方ねえけど、今日くらいは、遊びに行って来いよ」

 

「私は構わないけれど、本当にいいのお兄ちゃん?」

 

「何度も言わせんな。俺はお前に感謝してるんだ、だから本田とツーリング行って来いよ」

 

「分かったよお兄ちゃん。本田さんと遊んでくるね」

 

 静香は嬉しそうに笑った。それを見て本田がバイクから身を乗り出して聞いてくる。

 

「マジか城之内!? 静香ちゃんとツーリングしてもいいのか?」

 

「かまわねえよ。だけど、変なことするなよ?」

 

「分かってるよ。俺はもうスケベじゃねえんだ」

 

「エロ戦車とかやってたよな、昔」

 

 エロ戦車というのは、デュエルモンスターズに出会うまでにやっていた下らない遊びだ。段ボール一枚で作ったT字で、女子のスカートを捲るっていうものだ。それでよく遊戯の幼馴染みの真崎杏子のパンツを覗いていて、怒られた。今じゃそんなことはしないが。

 

「いい思い出だよまったく。とにかく、お前を会場まで送ってくよ」

 

「でも、静香は?」

 

「静香ちゃんにはちょっと待ってもらって、それから行くさ」

 

「分かった。場所はどこなんだ?」

 

 城之内が聞くと、本田は皮肉そうに笑いながら言った。

 

「海馬ランドだよ」

 

「……マジかよ」

 

 海馬ランドとは、その名の通り、海馬コーポレーション、というより海馬が建てたテーマパークだ。名目上は、よい子のための無料の遊園地だったが、実態は海馬が遊戯や城之内たちを殺すための場所だった。酷い目にあわされた経験しかないので、苦笑いするしかない。現在は普通のテーマパークとして運営されており、遊戯から杏子とデートにに行った時の写真が送られてきた。遊戯の奴、ひょっとして忘れているんじゃないのかと思ったほどだ。

 

「とりあえず、行こうぜ城之内」

 

「おう! そんじゃ、静香。今日は楽しんで来いよ?」

 

「うん、お兄ちゃんも頑張ってね」

 

「ああ!!」

 

 バイクにまたがり、けたましいエンジン音を立てて発進する。ここから海馬ランドまでの距離はそう遠くない。試験には余裕で間に合う。

 街並みが速く流れていく。未来へのロードも見えてくる、何て思ったりもする。

 

(久しぶりだな……今日は、頼むぜ)

 

 心の中で、バッグに眠るデッキたちに語り掛けた。精霊と喋ることはできないけれど、心はきっと通じ合っている。

 

「城之内、ついたぜ!」

 

 暫くすると、大きな遊園地が見えた。青眼の白竜のオブジェが慄然と立っている派手すぎるゲートに相変わらずげんなりさせられる。海馬は、ブルーアイズ中毒だ。もう結婚してもいいと思う。

 ゲートの横に看板が立っている。

『デュエルアカデミア編入・採用試験会場はこちらです』

 どうやら、海馬ランドの脇の大きなドームで行うようだ。俺はバイクから降りて、会場を見る。

 

「海馬の奴、どこまでやる気なんだよまったく……」

 

「あいつは本当にフリーダムな奴だからな。世界中探してもどこにもいないよ」

 

「まったくだ。さてと、そろそろ行こうかな」

 

 伸びをしながら言った。あとはないデュエル。ここで制さなくては、将来はない。城之内は親友の顔を見る。親友は、親指を立てて送り出す。

 

「頑張って来いよ、城之内」

 

「ああ。全力でやってくるぜ」

 

 それだけ言って、俺は歩き始めた。やがて本田のバイクが去る音が聞こえたが、振り返ることはしなかった。長年の付き合いの二人に、余計なものは要らないのである。

 

 

 

 城之内は世間から見たらプロのデュエリストだった。デュエルアカデミアの受付で城之内克也と名乗ると、目を丸くされた。いつのまにか俺の知らないところで持ち上げられていたものだと思ったりもした。確かに俺はよく遊戯と町中でデュエルをしたり、プロリーグとかに出演とかは前はしていたけれどそれはもう10年前の話だ。とっくに忘れ去られているのかと思っていたのだが。何にせよ少し嬉しかった。

 デュエルだけでいいと言われた城之内は、別室に案内される。そこには、一人の男がいた。

 顔が異常に細長く、目が相当垂れている。髪は金髪で風格は日本人のそれではない。

 

「話は聞いているノーネ、シニョール克也。デュエルキングと双璧をなすデュエリストがこの学園に入ってくれるとは、光栄なノーネ」

 

 なるほど、そういう扱いか。遊戯と肩を並べているデュエリストのようだ。

 ……とんだ間違いだ。

 

「買い被りすぎだ。遊戯の方が一歩も二歩も先にいっている。それにプロなんて昔の話だ。でも、採用してくれるなら歓迎だ」

 

「こちらとしてもぜひ採用したイーノネ。でも、そういうわけには、いかなイーノネ。規則であるので、デュエルするしかナイーノ」

 

「そうか……あんたは何者なんだ? おそらく教師なんだろうけどな」

 

「申し遅れましターノ。私、デュエルアカデミアの教師をしているクロノスと申しマース。では、早速試験デュエルをするノーネ」

 

 クロノスはそういうと、腕に構えていたデュエルディスクを展開する。城之内も同様にする。旧式であるが、やはり慣れている方がいい。この重み、ギシギシときしむ音、全てが体内に染み込んでくる。

 

(久しぶりだな……この感覚。デュエリストを前にすると、ワクワクするこの気持ち。どんなデュエルが待っているんだろうという期待感。俺はこの気持ちが、雰囲気が好きだ。―――見ててくれよ、静香。お前を幸せにするために俺は戦うぜ!!)

 

「イキマスーノ!! キングオブデュエリスト、城之内克也!!」

 

「おう、いくぜクロノスさん!!」

 

 城之内はちらっとデッキを見る。10年以上埃を被っていた魂のカードたちを眺める。そして小さく頷いて―――。

 

 

「デュエル!!」

 

 両者一斉に、戦いの火蓋を切った。



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第二話:10年ぶりの相棒

お気に入り、評価ありがとうございます。


「デュエル!!」

 

 戦いの火ぶたが切って落とされる。お互いカードを5枚加え、ちらりと確認する。悪くない手札だ。戦法としては、相手に依存するものだった。相手が高火力モンスターばかり使ってくるならサイコロ系のカードで返り討ちにしたりする。特殊能力を使うようなら、罠カードなどで対処する。そういった戦いだった。

 久々にデュエルするから、プレイングミスとかしそうで怖い。でも、四の五言っている暇はないようだ。ここは男らしく、攻めるデュエルをするまでだ。デッキを信じる心がある限り、絶対に負けることはないのだから。城之内は、きっと目を細め、叫ぶ。

 

「まず俺の先行、ドロー!」

 

 カードデッキに手をかけて、カードを一枚引く。6枚の手札がある中、どの行動を選べばいいか。まずは守りを固めるしかない。

 

「俺はカードをセット。さらにリバースカードを二枚伏せて、ターンエンド」

 

「アナタらしくない堅実な守りデスーノ。デハワタシのターン、ドロー。ワタシは古代の機械騎士を召喚ナノーネ」

 

 古代の機械騎士 星4 ATK1800 機械族 地属性

 

 クロノスが召喚したのは、古代の機械騎士。大槍も、盾もすべて機械でできているようだ。しかも、攻撃力もなかなかだ。ただ、クロノスの目線は、目の前にあるリバースモンスター。恐らく、リバースモンスター効果を警戒しているのだろう。

 

(あれはリバースモンスターの可能性があるノーネ。迂闊には攻撃できないノーネ。でも、それを防ぐ手立てがナイーノ、ならば―――)

 

「古代の機械騎士でセットモンスターに攻撃ナノーネ!」

 

「そうはさせるか! 俺は罠カード《攻撃の無力化》を発動、効果により、お前のモンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!!」

 

「ナンデスーノ!? なぜ攻撃を止めたのデスーカ?」

 

 クロノスは叫んだ。常識的には考えられない行動である。何故なら、守備モンスターが攻撃されても、ダメージは受けない。リバースモンスターだとしたら、その効果で反撃ができる。わざわざ守る意味とはなんなのか。それともただのプレイングミスであるのか。

 

「……ワタシは一枚伏せてターンエンドナノーネ」

 

「じゃあ行くぜ、俺のターンだ。ドロー!」

 

 城之内はドローカードを見る。その顔がふっと笑っていたのを見て、クロノスは全てを察した。

 

(そうだったノーネ。シニョール克也は、キングオブデュエリストは上級モンスターを召喚するためだったノーネ。それでリバースモンスターだと錯覚させて、もしそれで引っかからなかった場合は、罠で攻撃を食い止めるということだったノーネ。でもそれ、残念ながら無駄なノーネ。私の伏せは、落とし穴。それでおしまいナノーネ)

 

 クロノスのデュエル歴は長い。生け贄召喚で攻撃力の高いモンスターを召喚し、相手を圧倒していくデュエリストは何人も見てきた。だが、それらの弱点として、罠を警戒しない。だから罠を仕掛けておけば、相手は大きな損失をこうむり、負けへと直結する。

 だが、クロノスは本当の意味で分かっていなかった。今戦っているのは、10年のブランクこそあれ、元はデュエルキングと肩を並べる、伝説のデュエリストであることを。

 

「来てくれたな、俺の相棒!! 俺は、セットカードを生贄にして《人造人間ーサイコ・ショッカー》を召喚!!」

 

 セットカードが光の粒子となって去り、新たにサイコ・ショッカーが現れた。機械の目を持つ人造人間には、罠は通じない。長年のデュエル経験を持つクロノスには解らざるを得なかった。

 

(そうか……キングオブデュエリストはそこまで考えて、サイコ・ショッカーを召喚したノーネ。ワタシが罠を張っているのを分かっていて……さすがナノーネ)

 

 人造人間ーサイコ・ショッカー 星6 ATK2400 機械族 闇属性

 

 城之内の代名詞の一つである人造人間を見た時、クロノスはしてやられたと思った。自分の仕掛けていた罠なんて、最初から読まれていた。相手は罠を過信するデュエリストをよく知っているから、サイコ・ショッカーを出す手順をきちんと踏んでいたのである。

 

「よし、バトルだ! サイコ・ショッカーで古代の機械騎士を攻撃、サイキック・ウェーブ!!」

 

 サイコ・ショッカーの機械の目から放つ、紫色の光線は、機械騎士をとらえて破壊した。衝撃がクロノスを襲い思わずのけぞった。

 

「ノォォォォッッ!!」

 

 クロノス:LP4000→3400

 

「俺は一枚伏せてターンエンドだ」

 

 サイコ・ショッカーの効果でお互いに罠を使うことはできない。恐らく伏せたのは速攻魔法だ。とにかくサイコ・ショッカーを早急に撃破しなくては、面倒なことになる。次のドローは、どう出るか。

 

「そうデスカ。では、ワタシのターンドロー」 

 

 

 城之内は、相棒サイコ・ショッカーが登場してくれたことで安心する。罠が封じられたことで、相手の逆転の芽を摘むことができる。だが、相手はデュエルアカデミアの講師。そう簡単にいきそうにない。

 クロノスがドローをした。その時、勝ち誇ったような笑みを見せる。

 

「ヌフフフフ。ワタシのドローは素晴らしいノーネ。ワタシは手札から、《サンダー・ボルト》を発動スルーノ。効果により、あなたのフィールドのモンスターをすべて破壊するノーネ!!」

 

「なっ、サンダー・ボルトだと!?」

 

 サンダー・ボルトはいわずと知れた、最強の除去カードだ。ノーコストで相手モンスターすべてを破壊できるなんてインチキにもほどがある。

 クロノスがカードを掲げると、突如空が暗くなり、雷が落ちる。槍のように先細った雷光がサイコ・ショッカーに真っすぐ突き刺さり、消滅してしまった。

 

「サイコ・ショッカーが!!」

 

「まだまだ終わりじゃアリマセンーノ! ワタシは手札から《死者蘇生》を発動ナノーネ。あなたのサイコ・ショッカーを貰うノーネ」

 

「サンダー・ボルトに死者蘇生か……いい手札じゃねえかよ」

 

 千年アイテムの一つにそっくりの死者蘇生が掲げられ、サイコ・ショッカーが光にまとわれて、クロノスのフィールドに復活した。コントロールも奪われるうえに、罠も使えないなんて最悪だ。城之内は思わず舌打ちする。

 

「このままバトルナノーネ。サイコ・ショッカーでダイレクトアタック!! サイキック・ウェーブ!!」

 

 このままいけば、2400の大ダメージが襲い掛かってくる。それは、かなりまずい。念のために用意しておいたリバースカードをオープンする。

 

「攻撃宣言時、俺はリバースカードをオープン! 速攻魔法《収縮》を発動!! 効果により、サイコ・ショッカーの攻撃力を半分にする!!」

 

 海馬が使っていたのだが、結構強力だったからちょこっと入れてみた。まさかここで役立つとは思っていなかったが。 

 収縮が発動されると、サイコ・ショッカーの体が徐々に小さくなり、半分の大きさになってしまった。だが、それでも光線は止まることはない。

 

サイコ・ショッカー ATK2400→1200

 

「ナルホド、守りを固めてきましタカ。デスーガ、攻撃はさせてもらうノーネ。サイコ・ショッカーでダイレクトアタックナノーネ!!」

 

 サイコ・ショッカーが放つ光線は弱まったものの、城之内目がけて突き刺さった。

 

「ぐっ!!」

 

 熱による暑さとかそういうのは感じないが、何しろ衝撃がすごい。久しぶりに訪れるノックバックに思わず倒れそうになるが、何とかこらえる。

 

城之内:LP4000→2800

 

「ではワタシはターンエンドナノーネ」

 

 クロノスのターンは終了した。ここでどう逆転するかによって、勝敗は変わってくる。手札は3枚。サイコショッカーをどうにかしなければ、この先に希望は見えない。

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 城之内のドローしたカードは《ものマネ奇術師》。これなら、倒せるかもしれない。

 

「俺はものマネ奇術師を召喚! モノマネ奇術師の効果を発動、相手フィールドのモンスターを一体選択し、もともとの攻撃力、守備力をコピーする! 俺が選択するのはもちろん、サイコ・ショッカーだ!!」

 

 ものマネ奇術師 星1 ATK0→2400 魔法使い族 闇属性

 

 ぴょんとカードの枠から現れた奇術師は手元にある鏡をサイコ・ショッカーに向ける。すると姿がサイコ・ショッカーそっくりになってしまった。

 

「なるほど、これで相打ちをするのデスーネ」

 

「いや、相打ちじゃねえさ。バトルだ、サイコ・ショッカーに攻撃!! サイキック・ウェーブ!」

 

「迎え撃ちナサーイ、サイコ・ショッカー!!」

 

 サイコ・ショッカーにまねたものマネ奇術師は見様見真似でサイキック・ウェーブを放つ。本物のサイコ・ショッカーも同様に放つ。

 

「へっ、勝つのは真の所有者だ! 俺はダメージステップに速攻魔法発動! 《天使のサイコロ》! サイコロを振った目の数×100ポイント攻撃力、守備力をアップさせる!! いくぜ!」

 

「ナッ!!」

 

 サイコロを持った天使が現れ、ぽいっと転がす。出た目は、2。したがって、ものマネ奇術師の攻撃力は200上がる。

 

ものマネ奇術師 ATK2400→2600

 

 ものマネ奇術師は、天使の力を得て、わずかだが、サイキック・ウェーブの威力が上昇した。サイコ・ショッカーはその衝撃に耐えられず、競り負けてしまい、消滅した。

 

「ヌゥゥ……!」

 

クロノス:LP3400→3200

 

「俺は一枚カードを伏せて、ターンエンド! エンドフェイズにものマネ奇術師の攻撃力は2400に戻るぜ」

 

ものマネ奇術師 ATK2400

 

 サイコ・ショッカーは城之内の墓地に戻り、クロノスのフィールドはがら空きだ。

 クロノスは歯噛みしながらも、カードを引く。すると、心底嬉しそうな表情をした。何故なら、今引いたのは彼の切り札なのだから。

 

「ワタシのターン、ドロー!! ……ヴァララララ!! ワタシは最強のカードを引いたノーネ!!」

 

 奇声をあげながらたった今引いたカードを裏のままにして掲げる。

 

「けっ、切り札を引いたっていうのかよ……!」

 

「その通りナノーネ。まずワタシは《二重召喚》を発動するノーネ。効果により、ワタシは二回召喚出来るノーネ」

 

 二重召喚は、上級モンスターの召喚によく使われるカードだ。だが、上級モンスターの中で屈指の攻撃力を持つサイコ・ショッカーはそうそう倒せないはずだ。デーモンの召喚が入るようなデッキでもなさそうだ。

 

「ではまずワタシは、《古代の歯車》を召喚するノーネ」

 

 古代の歯車 星2 ATK100 機械族 地属性

 

 歯車に車輪がついたような、ちっこいモンスターが現れる。まるで遊戯が戦いの儀に使ったガジェットたちのような感じだ。

 

「さらに、場に古代の歯車がいる場合、手札の古代の歯車を特殊召喚できるノーネ」

 

 フィールドの古代の歯車がカタカタとなり始め、手札の古代の歯車がそれに応えるように出現する。まさかこの二体で、最上級モンスターを召喚するのか!? クロノスは、初めからこのモンスター二体と、二重召喚を握っていて、そのコンボを狙っていたのか!?

 ニヤッと笑ったクロノスは、ドローカードを表にして掲げ、高らかに叫んだ。

 

「では、二度目の召喚ナノーネ! ワタシは手札の、《古代の機械巨人》を二体の古代の歯車を生贄にしてショウカーン!!」

 

古代の機械巨人 星8 ATK3000 機械族 地属性

 

 二体の歯車たちが消滅し、天から巨人が現れた。歯車があちこちについており、土煙が待っている。まさに古代の機械だ。

 

「古代の機械巨人は、バトルフェイズに魔法と罠を封じる効果があるノーネ。さらに相手の守備力を攻撃力が上回っていればその差の分だけダメージを与える貫通効果もあるノーネ!!」

 

「なにっ……!?」

 

 つまり、このモンスターの前には、相手の攻撃に反応するミラーフォースや魔法の筒、時の機械タイムマシーンも使えないということか。しかも守備表示にして耐えることすらできない。古代といっても侮るなかれ、守りの手段は一切通用しない。

 

「バトルナノーネ!! 古代の機械巨人で、ものマネ奇術師に攻撃!! アルティメット・パウンド!!」

 

 古代の機械巨人の剛腕が大きく振りかぶられ、サイコ・ショッカーに扮した奇術師が下敷きになる。サイコ・ショッカーではあるが所詮偽物、本体の力はとても脆い。

 

「くっ……やべぇな」

 

城之内:LP2800→2200

 

「では、ワタシはこれでターンエンドナノーネ!!」

 

 クロノスはターンエンドの宣言をした。手札は1枚。次のドローで、すべてが変わる。これで引けなければ、城之内は負ける。

 しかし手札には、モンスターは一体しかいない。しかも、この場では何にも役に立たないレッドアイズだ。このままダイレクトアタックを食らってしまえば、俺は負けてしまう。勝つためには、最低でもあのカードを手札に加えなくてはならない。

 

(静香……頼む。俺に力を貸してくれ……。ここで負けるわけには、いかねぇんだ……)

 

 今ごろ本田とツーリングしているであろう静香に、城之内は願う。俺の運命が決まるラストドロー。そこに全てを……賭けるッ!!

 

 

 

「俺のターン……―――ドロー!!」

 

 

 

 デッキからカードを全力で引く。この動作に、意味はない。でも、カードを信じる心があれば、自ずとこうなる。俺はカードを信じている。だから、カードを引いたまでだ。風が巻き起こり、デュエルディスクがカタカタとなる。俺には、取って置きのカードを引いたように思えた。

 果たして俺のドローカードには―――《天使の施し》が握られていた。

 

(来たぜッ……!! これが俺の、ラストドローならば……やるしかねえ。全力で、やるしかねえ!!)

 

 城之内は、クロノスを見据える。クロノスは、後ずさる。城之内には、今すさまじい覇気が感じ取れる。デュエルモンスターズを、遊びだと思い込んでいない、真剣な表情。並のデュエリストには絶対にできない、強い表情は、クロノスのあこがれだった。デュエルキングも、起死回生の一手を引いたときはいつもこんな表情だったのを、テレビのデュエル中継で見たことがある。少年時代のクロノスも、それを見てデュエルにあこがれたのだ。

 ―――やはり、伝説のデュエリストと呼ばれるだけのことはあるノーネ。

 

「俺は手札から魔法カード、《天使の施し》を発動! 俺は3枚ドローし、その後手札を2枚捨てる!! 3枚ドロー、さらに俺は《真紅眼の黒竜》、《雷の剣》を墓地に捨てる!!」

 

「真紅眼の……黒竜デスーノ?」

 

「レッドアイズ、今だけは墓地に眠っててくれ。さらに俺は、手札から《サンダー・ボルト》を発動! 効果により、クロノスさん、お前の古代の機械巨人を破壊するぜ!!」

 

「アンビリーバボー!?」

 

 クロノスの使った魔法を引いた城之内は、とっさにそのカードを掲げて雷光を呼び寄せる。たちまち雷雲がフィールドを覆い、光の槍が、古代の機械巨人を貫いた。

 

「オーマイガーッ、マイフェイバリットカードが!!」

 

 これでクロノスのフィールドはがら空きになった。あとは、一枚伏せてある魔法か罠カードのみ。けれど、恐れることはない。城之内には―――信頼している相棒がいるのだから。

 

「さらに俺は手札から、《死者蘇生》を発動! 人造人間ーサイコ・ショッカーを蘇生させる!」

 

「くっ、ここで出してきますか……厄介デスーノ」

 

 クロノスは、次があると信じていた。何故ならサイコ・ショッカーの攻撃力は2400、ライフポイントは3200と、削り切ることはできない。手札もすべて使い果たしたのでもう何もできない。

 けれど―――。

 

 

 

「何次があると、勘違いしてんだ、クロノスさん。もう、そんなのないぜ」

 

 

 

 

 元プロデュエリストが発した、勝利宣言。真っすぐで、真実を射抜いていたけれど―――。

 クロノスは納得がいかないように、尋ねる。

 

「何言っているのデスーカ? アナタの手札はすでにノーハンド! サイコ・ショッカーだけでは私のライフを削ることはデキマシェーン!」

 

 クロノスの表情は焦っていた。あの眼は間違いなく、本物だ。本当に勝つと確信している眼だ。はったりなんかではないと、クロノスの脳内で警鐘が鳴っている。

 

「ハッタリではナイノデスカ!?」

 

「ハッタリなんかじゃないさ。《死者蘇生》にチェーンして……リバースカードオープン、《墓荒らし》を発動!!」

 

「墓荒らし!? ―――ま、マサカ!?」

 

 墓荒らしは相手の墓地の魔法カードを奪い、2000ライフポイントを払えば使用できる罠カード。相手に依存するけれど、相手が使った強カードをもう一度使用できる強さを持っている。

 ……例えば、死者蘇生とか。

 

「そのマサカだよ! 俺はお前の死者蘇生を手札に加える!!」

 

「ノォォォォッッ!!」

 

 表に現れた罠カードから飛び出した、いたずらっ子な悪魔がクロノスのデュエルディスクの墓地へと入っていく。そして、その悪魔は《死者蘇生》を手に持って、城之内の手札に運んでくれた。

 

「サンキューな。まずは、俺の死者蘇生を発動。効果により、人造人間ーサイコ・ショッカーを蘇生させる!!」

 

 クロノスも用いた死者蘇生の力で、二度もやられたサイコ・ショッカーが復活する。俺のエースは、何度でも蘇るのだ。クロノスは、せっかく処理したカードが再び舞い戻ったことに歯噛みする。罠が使えないからどうしようもない。

 

「さらに俺はお前の死者蘇生を発動! その際、ライフコスト2000を払う!」

 

 相手の死者蘇生を用いようとしたが、カードにこもった怨恨が城之内の体をむしばむ。

 

城之内:LP2200→200

 

 だが―――その代償として与えられた、死者蘇生を使用する権利を使える。天に掲げたカードから、光が放たれる。すると墓地がその光に共鳴するように、輝き始め、一枚のカードが吐き出される。

 

―――さあ、飛翔しろ。紅き瞳を持つ、黒き竜よ!!

 

 カードから、激しい炎をまとった何かが現れて、フィールドに登場した。爆音がとどろき、炎のバリアが解かれていく―――。

 

 

「グルウウウウアアアアアアァァァッッーーーー!!!」

 

 天地を揺るがすほどの、叫びをあげる黒竜の姿は雄々しかった。青眼の白龍を究極の美とするなら、真紅眼の黒竜は、未完成の美。だけれども―――その竜は可能性を果てしなく追い求める。勝利への可能性を秘めた、伝説の龍は、ここに爆誕した。

 

真紅眼の黒竜 星7 ATK2400 ドラゴン族 闇属性

 

 

「これが……真紅眼の黒竜……」

 

 クロノスが、思わず声をもらす。このドラゴンは高価で取引されていて、使うデュエリストは数人もいない。所有者は、ほとんどおらず、なかなかお目にかかることはできない。だから―――クロノスは感動していた。目の前で、あこがれだったモンスターを見られたのだから。このモンスターに、やられるならば―――悔いはない。

 

「久しぶりだな……レッドアイズ」

 

 城之内は、語り掛けた。真紅眼の黒竜は、グルルと息を漏らして答えた。それだけで、意思疎通はできた。

 長年戦ってきたパートナーだ、遠慮はいらない。

 城之内は、にっと笑う。これで、最期だ。

 

「バトルフェイズに入るぜ。サイコショッカーで、ダイレクトアタック!! サイキック・ウェーブ!」

 

 レッドアイズの横に立つ、サイコ・ショッカーが目から光を放つ。クロノスに命中し、爆発が巻き起こる。 

 

「……」

 

クロノス:LP3200→800

 

 さあ、これで最後にしよう。

 黒龍は、口を大きく開く。がら空きのフィールドに、一撃が突き刺さりそうだというのに、クロノスは笑っている。

 

「いけっ、レッドアイズ!! クロノスにダイレクトアタックだ!! 黒炎弾!!」

 

 真紅眼の黒竜は、口に強力な炎のエネルギーをためる。この世のすべてを燃やし尽くしてしまいそうなほどに、熱い。その一撃が―――放たれた。

 

 

 

 

クロノス:LP800→0

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 あのデュエルから、数日後。城之内は正式にデュエルアカデミアの講師になれた。クロノスに激しく感謝され、困惑しながらも楽しいデュエルができたことをうれしく思った。

 今城之内は、デュエルアカデミアの職員室にいる。今日の授業内容を確認し、部屋を出る。

 廊下を歩くと、チャイムが鳴る。生徒たちがあわただしく教室に戻る。懐かしい景色だ。城之内もよく、外や廊下で遊んでいて、急いで教室に戻ったものだ。

 今自分は教師としてここを歩いている。想像していなかった未来だ。もしかしたら、あの男に、遊戯に合っていなかったらつかめない道だったかもしれない。親友というのは、デュエルモンスターズというのは、捨てたもんじゃない。

 

(なあ、静香。俺、遠くの島に来ちまった。お前を置いていくことになっちまったけど、俺は今、うれしい気分だ。デュエルモンスターズは、将来を破滅させるものかもしれない。だからこそ、俺はデュエル以上に大切なものを、教えていきたい。だから、応援してくれ。たまには、帰ってくるからな)

 

 遠く離れている妹に、想いを馳せる。静香はきっと、元気でやっていることだろう。俺の合格を、自分の事のように喜んでくれるほどに優しいやつなんだ、きっと大丈夫。そう、思っている。

 俺の担当の教室へと着いた。どんなデュエリストの卵がいるのか、楽しみだ。俺から、どれだけのことが伝えられるだろうか。できるだけ多くの事を、教えていきたい。

 若干の緊張が身を固くする。でも、どうにか振り払う。俺は教師だ、デュエル以上に大切なものを教える、教師なんだ。だから―――行こう。

 

 ドアに手をかけて引く。ガラッと音を立てると同時に、生徒たちが城之内を見る。その目が驚きと歓喜に変わる中で、一人教壇に立った。

 

「始めまして、今日よりデュエル実技を担当する、城之内克也です。どうぞ、よろしく」

 

 

 

 



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第三話:ハネクリボーの認めたデュエリスト

デュエルシーンを一度修正して再投稿しました。

間違いばかりおかしてしまい、申し訳ありません。未熟ですがよろしくお願いします。


 新入生、遊城十代は、とてつもなくワクワクしていた。友達の丸藤翔から聴いたのだが、何でも今日新任の先生が来るらしいのだ。どんな人かはまだわかってないらしいけど。

 あと一分で授業が始まる。十代は、隣に座る翔に話しかけた。

 

「なあ、どんな人が来るんだろうな? 楽しみだぜ!!」

 

 眼鏡をかけたおとなしそうな少年、翔は困り顔で答えた。

 

「アニキ、さっきも答えたじゃないですか……。分からないけど、噂じゃあプロデュエリストらしいですよ」

 

「プロデュエリストか……くぅ~早くデュエルしたいぜ!!」

 

「ムチャだよアニキ……入学試験でクロノス教諭に勝ったとはいっても、相手はプロかもしれないんだよ?」

 

「かもな。でも、やってみたいんだ」

 

 そう、クロノスに勝った十代は楽しそうに笑った。

 その時ちょうどチャイムが鳴り響き、全員が静かになる。少しすると、ガラッとドアが開いた。

 ドアから現れたのは、大きな男だった。鶏冠のように、前髪が尖っているのが特徴だ。端正な顔立ちをしていて、背の高いこの男を知らぬものはいなかった。

 

「う、うそだろアニキ……」

 

「どうしたんだよ翔?」

 

 翔が立ち上がり、震えた声でドアの方を見る。それにつられて十代も立つ。その瞬間、彼の背中に戦慄が走った。

 他の生徒たちも同様だった。何故、ここにいるんだろう。そんな疑問が、新たにこの教室に入ってきた講師に向けられる。

 講師はそんな視線に動じずに教壇に立つ。そして、笑顔で一言自己紹介をした。

 

「はじめまして、今日よりデュエルの実技を担当する、城之内克也です。どうぞ、よろしく」

 

 城之内克也は、デュエルモンスターズをやっているものなら誰でも知っている名前だ。デュエルキングと肩を並べるほどのデュエリストとして、名を馳せている。現在はプロではないけれど、尊敬を受け続けている。

 十代も一度見たことがある。彼の魅力的なデュエルを。デュエルキングとの試合だったが、普通デュエルキングと相対するデュエリストは震え上がってあっという間にやられてしまう試合ばかりを見せていた。けれど二人のデュエルは全く違った。お互い笑顔を浮かべて、ギリギリの試合を繰り広げていた。互いに親友同士だというのもあるのだろうけれど、それ以上に、デュエルを楽しんでいるからだと思う。そんなデュエリストが、このデュエルアカデミアにいるとなれば……興奮しないわけがない。

 

「マジなのかよ翔……俺すっげえ幸せだ!!」

 

「僕今まで生きていて良かったよアニキ!!」

 

 二人の生徒が手を繋いで喜ぶ。無論それは当然、十代たちだけではなかった。

 

「城之内さんだ!!」

 

「すげぇ、本物だよ!!」

 

「俺デュエルアカデミア受かってよかったぁ!!」

 

 次々に歓喜の声があがる。目の前に立つ城之内先生は、にっこり笑って応じた。やがて手をあげて静かにさせると、とたんに静かになった。すでにもう、心をつかんだということだ。

 

「改めて、城之内克也です。君たちや他の生徒など、すべての生徒を対象にして授業をします。俺がやるのは実技方面です。だけどまだ俺はお前たちの実力を知らない」

 

 実力を知らないという発言に複数の人間が顔をしかめる。それは無理もない。このデュエルアカデミアでは、実力によって住む寮が分けられていて、制服もそれぞれ違うからだ。3つのランクに別れていて、高い順にそれぞれ青のオベリスクブルー、黄色のラーイエロー、赤のオシリスレッドとなっている。実力が高いのは青ということになっているので知らないというのはおかしいのだが。

 

「そこでだ、最初の授業では俺とデュエルをすることにする。俺に勝てれば点数をあげよう。誰でもいいぜ。もし、デュエルしなかったら、今日はこのまま講義に入るけどな」

 

 城之内先生はその事情を知っているのか知らないのか分からないがそのまま続ける。

 しかしデュエルだと? プロデュエリストと、デュエルだと? 確かにまたとないチャンスだが、今の自分達では勝てるわけがない。だから誰も受ける人はいないだろう。そう、この場にいる人間は思っていた。

 

 

 ―――ただ一人を除いて。

 

「待ってくれ先生、俺やります!」

 

「えっ、アニキ!?」

 

 クラスの中でどよめきが起こった。クラスの中で誰も手をあげないなか、一人の生徒が名乗り出たのだ。しかも彼はオシリスレッド、実力は低いはずだ。

 

「おいおいレッドかよ……大丈夫か?」

 

「ドロップアウトが、プロに勝てるわけねえだろ」

 

「やめろ、まじやめろ」

 

 ブルーの生徒の嘲笑が聞こえたが、実際彼の親友の翔は無謀だと思っていた。確かに学園の中で実力を持つクロノス教諭を倒した。だが、それがプロの城之内に通用するとは思っていない。城之内先生は、受けるのだろうか。このデュエルを。

 城之内先生は手をあげて制する。そして、十代を見て、こういった。

 

「俺とデュエルするのか?」

 

「ああ」

 

「よしわかった! デュエルスタジアムに来い。そこでやろう」

 

 城之内先生はそれだけ言い残して、ドアの外へと出た。十代もそのあとに続く。

 

「ど、どうしよう~……いくらアニキでも、無茶すぎるよ……」

 

 翔は頭を抱えて喚き始める。自分の敬愛するアニキ分が、そのさらに上をいく人物にデュエルを申し込んだのだ。

 

「たしかにそうだな」

 

 ふと、隣にいた男子生徒が答える。ラーイエローの、三沢大地だった。彼はかなり優秀で、トップクラスの成績を納めている。

 

「三沢くん……」

 

「十代は確かにクロノス教諭を破った。だが、城之内先生は格が違う存在だ。あいつがやろうとしていることは、人間が恐竜に喧嘩を売ろうとしていることと同義なんだよ」

 

「アニキ絶対負けちゃうよ……」

 

 自分のアニキが負け恥をさらすのは見たくなかったけど、避けられないものとなってしまった。それを嘆く声が、教室中に響き渡った。

 

 

***

 

「先生、準備できてるぜ」

 

「よし、じゃあ始めようぜ」

 

 デュエルフィールドについた二人と、他の生徒はそれぞれの位置につく。だが、この勝負の結果は見えているも同然だった。プロとアマが戦ったらプロが勝つに決まっている。当たり前のことだ。

 だがーーー。

 

「プロと戦うなんてワクワクするな! 楽しいデュエルにしようぜ」

 

 本人はこんなことをいっている。周囲からはバカの極みだと思われるであろう発言だ。楽しむどころか、弄ばれてしまうのが落ちだ。

 

「ああ、楽しいデュエルにしようぜ。さあ、カードを引け」

 

「おう!」

 

 礼儀なのか、城之内先生も同じように返す。

 城之内と十代はカードを5枚引く。成り行きで実現してしまったどうしようもないデュエルに、ブルーの生徒たちは嘲笑を繰り返すばかりだった。その中の一人、万丈目準もそうだった。

 

「ふん、クロノスを破ったからといって調子に乗っていると後悔するぞ……ドロップアウトが」

 

 多くの人間が十代を嘲笑うように見つめるなか……デュエルの火蓋は落とされた。

 

 

 

 

「デュエル!!」

 

 

 

 

 デュエルディスクが展開され、デッキを読み込んでいく。互いの血が沸騰し、意識が鋭くなっていくのを感じる。

 

(俺に勝負を挑んできた少年、遊城十代か。クロノスが相当恨んでいたけれど、その実力はどうなんだろうか。ちょうどいい機会だ、全力で戦ってやる)

 

 城之内はフッと笑いながら十代に伝えた。

 

「先行はお前だぜ、十代」

 

「おっ、マジか。じゃあいくぜ先生。俺のターン、ドロー!」

 

 お互いに手札を確認して、十代はドローをする。ドローの仕方に力が込められているのを感じた。

 

―――こいつ、できるな……。

 

 直感的にそう感じた城之内は、いっそう目を鋭くする。

 警戒されていることを知らない十代は、早速モンスターを召喚した。

 

「俺は《E・HERO クレイマン》を守備表示で召喚!」

 

E・HERO クレイマン 星4 DEF2000 戦士族 地属性 

 

 十代が出したモンスター、クレイマンは名前の通り土のモンスターだ。巨体を丸めながら、守備に徹している。しかしその値は2000となかなか高い。

 しかし、ここでは終わらなかった。

 

「さらに俺は《融合》を発動、クレイマンと、手札の《E・HERO バブルマン》を素材にして、俺は《E・HERO マッドボールマン》を守備表示で融合召喚!!」

 

 突如、融合のカードから渦が現れ、クレイマンと手札のバブルマンというモンスターがぐるぐると混ざり合う。その渦から新たに現れたのは、クレイマンの巨体にバブルマンの顔が嵌まった、新たな戦士だった。

 

E・HERO マッドボールマン 星6 DEF3000 戦士族 地属性

 

「スゴいよアニキ! いきなり守備力3000のモンスターだ!」

 

「これならば、上級モンスターの攻撃も防ぐことができる。考えたな十代」

 

 観客席にて、翔と三沢が十代の行動を誉める。確かに守備力3000は、あの海馬瀬人のブルーアイズの攻撃力と同等の数値。それをたったワンターンで召喚してくるとはなかなかだ。

 

「さらにカードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 十代は得意気な顔で、ターンエンドの宣言をした。

 次は、城之内のターンだ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 プロデュエリストのターンは、どんな感じなのか。全員の視線が集まる。しかしそんな視線は、城之内には気にならない。彼の目線は……マッドボールマンと遊戯十代に向けられていた。

 手札に、守備力3000を越えられるモンスターは存在しない。だが、壁モンスターを張るということはこちらの攻撃を警戒してのことだ。だけれども、その壁には抜け道がある。

 

「お前は守備力3000という高いステータスを越えることはないと思っているだろうが、そういうわけにはならないんだぜ」

 

「なにっ!?」

 

 確かに高いステータスだとは思う。だが。そんなステータスにも弱点がある。

 

「俺は手札から、魔法カード"右手に盾を左手に剣を"を発動! 効果により、場にいるすべてのモンスターの攻撃力と守備力を入れ替えるぜ! マッドボールマンの攻撃力は1900、したがって、守備力が入れ替わって、1900となる!」

 

E・HERO マッドボールマン ATK1900→3000 DEF3000→1900

 

 そのカードの発動に、場にいる生徒がどよめく。3000という高い守備力がたった一枚のカードで崩されたからだ。攻撃力こそはブルーアイズと同等の数値だが、守備表示である今、何の役にも立たない。

 

「さらに俺は《ロケット戦士》を攻撃表示で召喚!」

 

ロケット戦士 星4 ATK1500 戦士族 光属性

 

 城之内のフィールドに、細長い剣を持つ、ロケット戦士が現れる。だが、攻撃力が足りない。

 

「でも先生。攻撃力1500じゃあ、守備表示のマッドボールマンは倒せないぜ」

 

「焦るな十代。俺はさらに、装備魔法《稲妻の剣》を発動! 戦士族に装備できるカードで、装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップするぜ」

 

「なっ、それじゃあロケット戦士の攻撃力は……2300だと!?」

 

「そういうことだ」

 

ロケット戦士 ATK1500→2300

 

 ロケット戦士が持っていた剣が捨てられ、電気をまとった剣が握られる。

 

「バトルだ! ロケット戦士でマッドボールマンを攻撃!」

 

 稲妻の剣を持ったロケット戦士はマッドボールマンを切り裂き、破壊される。高守備力モンスターも、こうして突破されてしまうだなんて、予想もしていなかったであろう。だが、それは間違いだった。

 

「ぐっ、マッドボールマンが! だけどこの瞬間、罠カード発動! 《ヒーロー・シグナル》。戦闘によってヒーローが破壊された時、手札、またはデッキからヒーローを特殊召喚するぜ! 二体目のバブルマンを、デッキから守備表示で特殊召喚する!!」

 

E-HERO バブルマン 星4 DEF1200 戦士族 水属性

 

 後ろにタンクのようなものを担ぐヒーローが現れた。守備、攻撃共に低いが、こいつに何か特殊能力があるのだろうか。

 

「バブルマンの特殊効果発動! 自分のフィールドにカードが存在しない場合、デッキから二枚のカードをドローできる!」

 

「まじかよ……強欲な壺じゃねえかそれ」

 

 自分のフィールドががら空きなら、二枚ドローできるなんてものすごい強いカードだ。ノーリスクで二枚ドローできる魔法カード《強欲な壺》よりかは劣るが、たいして変わらない。

 

「俺はそのままターンエンドだ」

 

 

 

「城之内先生、考えているな」

 

「え?」

 

 三沢大地が隣の丸藤翔に唐突に呟いた。

 

「十代のモンスターを破るのに、3枚の手札を使っている。けれど、それ以上の結果を、先生は残しているんだ」

 

「ロケット戦士を召喚しているっていうこと?」

 

「それだけじゃない。ロケット戦士に装備魔法をつけることによって2300という高い攻撃力を持つモンスターを場に維持できている。デュエルキングの武藤遊戯のエースモンスター、ブラック・マジシャンと余り変わらない攻撃力のモンスターを相手に見せつけているんだよ」

 

「でもアニキはバブルマンを守備表示にしている。融合でどうにかしてくれるはずだよ」

 

「そうだな。十代にもまだ、希望はある。相手ターンに二枚のカードをドローしたのは上手いと思う。だがそれは城之内先生も同じだ。手札は十代のほうがわずかに多いが、それでも相手はプロだ。どうなるか、わからない。十代が最初にバブルマンで二枚ドローしていたら結果は違ったかもしれないが」

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 十代は驚いていた。自分が3枚のカードを使って召喚したマッドボールマンを、相手も同じく3枚の手札で倒したことを。しかも場には、デュエルキングが信頼するモンスター、ブラック・マジシャンと同じ攻撃力を持つ通常モンスターがいる。自分の手札は5枚。じっと自分の手札を見つめる。

 

 2300の攻撃力を超えることは可能だと、脳が叫んだ。

 

「―――よし、行くぜ! まず俺は、手札から《強欲な壺》を発動する。デッキから二枚ドロー出来るぜ。さらに俺は《E・HERO プリズマー》を攻撃表示で召喚!」

 

E・HERO プリズマー 星4 ATK1700 戦士族 光属性

 

 光を反射する、透明な固体を主体としたモンスターが現れる。これでどうやって立ち向かおうというのか、城之内は微かにワクワクしていた。

 

(ヒーローカテゴリはとっても面白い。無限の可能性がそこには秘められている。窮地に陥っても、勝利への可能性を握りしめたまま戦う、まさにヒーローにふさわしいカードたちだ。さあ、次はどう見せてくれる?)

 

「プリズマーの特殊効果発動! 俺は融合デッキから融合モンスターを相手に見せて、その素材モンスターをデッキから墓地に落とす。さらにそのモンスターと同名モンスターとして扱うことができる! 俺はデッキから《E・HERO フェザーマン》を墓地に落とす!」

 

 一瞬、その固体―――プリズムに羽の生えた屈強な戦士、フェザーマンが映し出されると、たちまち姿が変わり、そいつに変化した。

 

E・HERO プリズマー→E・HERO フェザーマン

 

「さらに俺は手札から《融合回収》を発動! このカードは、融合と、融合召喚に使った素材モンスターを手札に加える。俺は融合と、バブルマンを手札に加えるぜ」

 

 一気に二枚のカードを手札に加えた十代は、ニヤッと笑い、叫ぶ。

 

「そして、《融合》を発動! フィールドのバブルマン、フェザーマン、そして手札の《E・HERO スパークマン》を素材にして―――現れろ、《E・HERO テンペスター》!!」

 

 再び現れた融合の渦が、三体のモンスターを吸い込んでいく。そしてその渦から躍り出た戦士は、新たな力を得て誕生した。

 

E・HERO テンペスター 星8 ATK2800 戦士族 風属性

 

 背についている、大きな羽から風が巻き起こり、城之内は思わず腕を庇う。しかし、ここまで十代の手札はほとんど減っていない。見事な戦術だ。しかも、ドローソースであるバブルマンを手札に加えるとは、考えている。

 

「すげぇなお前。ほとんど手札を消費しないで、ここまで強力なモンスターを出せるとはな……」

 

「へへっ……サンキュー先生。だけどまだまだだぜ! 俺は手札から、《おろかな埋葬》を発動! 効果により、《E・HERO バースト・レディ》をデッキから墓地に落とす。さらに《ミラクル・フュージョン》を発動! このカードは、フィールド・墓地のモンスターを除外して、融合召喚としてそのモンスターを召喚できる! 俺が除外するのはバーストレディと、クレイマンだ! そして現れろ、《E・HERO ランパートガンナー》を守備表示で融合召喚!!」

 

 墓地に眠るヒーローたちは、再び融合をする。デュエルディスクに現れた異次元への穴に吸い込まれる二体のヒーローを犠牲にして、新たなヒーローが、フィールドに誕生した。

 

E・HERO ランパートガンナー 星6 DEF2500 戦士族 地属性

 

「おいおいまじかよ……たった手札一枚で、融合モンスターを召喚かよ……」

 

「そうさ、ヒーローは無限なんだぜ先生! じゃあ、バトルだ! テンペスターでロケット戦士に攻撃! カオス・テンペスト!!」

 

 翼をはばたかせながら灼熱の炎と激流の水を合わせたパンチが、ロケット戦士の胴体を貫き、破散する。

 

「ぐっ……!」

 

 城之内:LP4000→3700

 

「ああっ、アニキが城之内先生にダメージを与えた!!」

 

「しかもダメージを与えたのは十代が初めてだ……なんて奴なんだ」

 

 翔と三沢は身を乗り出してその光景を見る。プロのデュエリスト相手にわずかながらダメージを与えるとは、かなりすごいことだ。

 

「効いたなぁ……これで終わりだろ?」

 

「いや、まだだぜ先生。ランパートガンナーの特殊効果発動! このカードは守備表示のまま直接攻撃できる! その場合、攻撃力は、ランパートガンナーの攻撃力の半分となる。よって1000ダメージだ!」

 

「そういう効果か……! やるなっ!」

 

 ランパートガンナーは、右手にある兵器からミサイルを発射して、城之内に炸裂させる。すさまじい衝撃だったが、城之内は倒れもせず、きっと睨み続けている。

 

城之内:LP3700→2700

 

「俺はカードを一枚伏せてターンエンド」

 

 

 

 城之内は、震え上がるほどに興奮していた。生徒だと思って手を抜こうかなどと考えもしたが、それは大きな間違いだった。十代は、本気で城之内を倒しに来ている。ならばそれに応えなくては、デュエリストとして、大人として、教師としての誇りが廃る。

 現在十代のフィールドには、攻撃力2800のモンスター、そして守備力2500のモンスターが二体ならんでいる。どちらもとっても強力なモンスターだ。これらを倒さなければ、次のターンで敗北してしまう。手札3枚だけで、どうやって倒せばいいんだ……?

 いや、きっと何か方法があるはずだ。ドローしたカードで、決めるしかない。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 城之内は引いたカードをちらりと見る。握られていたカードは―――。

 

(果たして、うまくいくかな)

 

 これには、運が試される。それも、十代の運も関係してくる。そして十代の知識などもだ。それらすべてが試されるこのカードを、発動した。かつてはギャンブラーデッカーと呼ばれていた城之内克也の本領が、発揮される時だ。

 

「俺は手札から、魔法カード《クイズ》を発動! 相手プレイヤーは、俺の墓地の一番下に落ちているモンスターを当てる。外れたら除外、当てたらそいつを特殊召喚だ。なお、今は墓地確認できないぜ」

 

 フィールドに突如?マークを上にのせたピエロが現れる。モンスター当てクイズに答えてくださいとピエロがしゃべる。

 

「へぇ……面白いカードをつかうんだな。よし、俺はロケット戦士にするぜ!!」

 

 たしかにロケット戦士だ。だが―――素直に頷くほど城之内は甘くない。いたずらな笑みを浮かべて彼に確認する。

 

「本当にそうかな? もしかして、ロケットの戦士かもしれないぜ?」

 

 もちろんそんなモンスターは存在しない。だが―――十代は惑わされた。

 

「あれ、名前間違えているかも……じゃあ俺は、ロケットの戦士にするぜ!」

 

「―――はずれだ」

 

「え?」

 

 ピエロが、バツマークを表示すると、パンと手をたたいて、たちまちワイバーンの戦士が現れた。

 

「残念、ロケット戦士だ!」

 

「き、きたねえぞ! 当たっているのになんでだよ!!」

 

「俺は聞いただけだからな。何も受付終了したとは言ってないぜ。素直にその通りだとでもいっておけばよかったのに」

 

 これこそが、城之内の編み出したゆさぶりテクニックだ。クイズは一見相手に依存されるカードだと思われがちだが、たとえばあまり使われていないモンスターにこのカードを発動すると、カード名が分からなくなったりする。そこで間違ったカード名で揺さぶりをかけて失敗させて、特殊召喚するのだ。

 

 

 

 

「すごいテクニックね」

 

 一方観客席では、一人の女子が、翔と三沢に話しかけてきたのが見えた。彼女はオベリスクブルーの天上院明日香、成績優秀者だ。

 

「城之内先生、十代に揺さぶりをかけたのよ」

 

「そうだな……ロケット戦士は普段見ないモンスター。だから初めて名前を聞くものも多いし、城之内先生の有名なモンスターといえばレッドアイズやサイコ・ショッカーだ。だから、十代も自信を無くして失敗してしまったんだろう」

 

「アニキもすごいけど……やっぱり先生もすごい」

 

「そうね。十代は少し違うと思っていたけれど……やはり先生はその先を行っているわ」

 

 明日香は激しいデュエルが行われている戦場へと目を向けた。

 

「ところで天上院さんはなんで僕たちのところに来たんすか?」

 

「悪いかしら?」

 

「……いえ、別に」

 

 

 ロケット戦士は特殊召喚されてしまったけれど、十代にとっては焦ることはなかった。ランパートガンナーと、テンペスターを突破できる攻撃力はないからだ。だが一方で相手はプロデュエリスト、どんな手を使ってくるか予想もできない。

―――果たして、城之内には秘策があった。

 

「ロケット戦士が特殊召喚された瞬間、俺は速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動! 効果により、俺は手札、デッキ、墓地からフィールド上の特殊召喚された同名モンスターを可能な限り特殊召喚する! お前にも適用されるが、ヒーロー融合モンスターは、融合召喚以外では特殊召喚できないようだな。つまりお前のモンスターは増えることはない」

 

 地獄の暴走召喚は、攻撃力1500以下のモンスターを可能な限り特殊召喚できる、かなり強いカードだ。最大3体まで特殊召喚できるということは、上級モンスターを召喚もできることも指していた。

 

(一応デッキ調整しておいてよかったぜ……このカードがあれば、あいつだって出せる。3体のモンスターを要求する、俺のもう一つのエースが!!)

 

「さて、すべてが整ったぜ! 俺は、三体のロケット戦士を生贄にして―――」

 

「さ、三体だと!?」

 

 十代は、三体を生贄にするモンスターを知っていた。オシリス、オベリスク、そしてラーだ。いずれもデュエルキング武藤遊戯が使用したということは聞いたことがあるが、まさか城之内先生もそれらを、あるいはそれに匹敵するほどの強さを持つモンスターを所持しているのか。

 戦慄とともに、迎えられたそのモンスターの名前は―――。

 

「俺のもう一つのエースだ、現れろ! 《ギルフォード・ザ・ライトニング》!!」

 

 雷光と共にさっそうと登場したのは、たくましい肉体に、大きな剣を持つ戦士だ。だが、威圧感のある相貌は、すべてを消し去る決意を込めている。

 

ギルフォード・ザ・ライトニング 星8 ATK2800 戦士族 光属性

 

「3体のモンスターを生贄にして……八つ星モンスターだと?」

 

 城之内が召喚したのはレベル8のモンスター。本来ならば二体で済むものをわざわざ3体を生贄にして召喚したのだ。まさかこのモンスターに何か特殊能力があるというのか?

 

「ああそうさ。だけどな、こいつには秘められた力があるのさ。3体を生贄にして召喚した時、相手フィールド上のすべてのモンスターを破壊する!!」

 

「何!?」

 

「喰らえっ、ライトニング・サンダー!!」

 

 城之内が叫ぶと、ギルフォードは剣を天にかざしてそのまま振りかぶる。すると、剣に雷が宿り、バチバチとうなる。そのまま振り下ろされた太刀からは、すさまじい雷撃が二体のモンスターに襲い掛かった。

 神に等しい力を手に入れた一人の戦士に太刀打ちできるはずもなく、二体の融合ヒーローはむなしく散っていった。

 

「くそっ……」

 

 これでフィールドはがら空きだ。あとはこのまま攻撃をたたき込むだけだ。

 

「バトルだ! ギルフォード・ザ・ライトニングでダイレクトアタック!! ライトニング・クラッシュ・ソード!!」

 

 雷のエネルギーをため込んだギルフォードはまっすぐ十代のもとへと飛び掛かり、大きな太刀で切り裂こうとする。しかし―――。

 

「この瞬間、リバースカードオープン!! 《クリボーを呼ぶ笛》発動!! 効果により、クリボー、もしくはハネクリボーをデッキから手札に加えるか特殊召喚することができる。俺は、デッキから《ハネクリボー》を守備表示で特殊召喚!!」

 

 十代は、リバースカードをオープンする。効果によって、デッキから羽の生えたクリボー、ハネクリボーが、守備表示で特殊召喚された。

 

ハネクリボー 星1 DEF200 天使族 光属性

 

 妥当な手段だと思う。2800のダメージを喰らうと何かと都合が悪い。だが―――城之内の頭の中に、一つの疑問がぐるぐるとまわっていた。

 

―――なんで、お前がそれを持っているんだ?

 

 クリボーといえば、遊戯のデッキに入っている、大切なカードだ。クリボーの派生カード、ハネクリボーもその一つで、遊戯が大切にしていたカードでもある。だが、そのカードは今十代にわたっている。

 

「どういうことなんだ……? どうしてお前が、そのカードを持っているんだ?」

 

 城之内はハネクリボーを指さしながら、尋ねる。十代はへっ? と間抜けな面を見せながら答えた。

 

「これっすか? これは、デュエルキング、武藤遊戯からもらったんだ。こいつが君の所に行きたがっている、って言われて、貰ったんだ」

 

 遊戯がハネクリボーをあげただと? 遊戯はめったにカードをあげない人間だ。ケチとかそういう問題じゃなく、すべてのカードがレアカードだと考えているから、あげようとはしない。そんな遊戯があげたということは―――まさか、この遊城十代という少年には、遊戯を認めさせるほどの力があるとでもいうのか?

 ……合点がいった。

 遊城十代は、明らかに他の生徒とは違う何かを持っている。全てのカードを信頼し、的確な戦術でヒーローを繰り出している。彼は優秀なデュエリストになれる。それも、遊戯に匹敵するほどの、立派なデュエリストに。

 でも、それだけじゃだめだ。デュエリストという肩書よりも、もっと大事なものも掴ませなくてはならない。でも、ありえないくらいに純粋なこの少年にとってはきっと楽なことに違いないだろう。遊戯はそこまで感づいて、あのカードを渡したんだろう。いや、正確には遊戯の心を知るハネクリボーが、遊戯に近い、十代のもとへと、飛び込んだのだろう。

 尚更楽しくなってきたな……遊戯のモンスターが認めたデュエリストとならば―――本気でやらない理由は一切ない。全力で相手になってやる。一人のデュエリストとして、俺はおまえを倒す!!

 

 その決意を胸に込めて、城之内は叫んだ。

 

「ならハネクリボーに攻撃だ! ライトニング・クラッシュ・ソード!!」

 

 雷を込めた一撃が、ハネクリボーに振り下ろされる。小さな悲鳴と共に散ったハネクリボーだが、主人を守ることには成功した。

 

「ありがとなハネクリボー。お前の想い、無駄にはしないぜ!!」

 

 十代は墓地に眠ったハネクリボーに一言告げると、きっと城之内を見据えた。

 

「俺は一枚伏せてターンエンドだ。さあ、かかって来い、遊城十代!!」

 

「ああ、行くぜ先生!! 俺のターン、ドロー!!」

 

 本気でぶつかり合う二人のデュエリスト。勝敗は、カードのみが知るのであった。

 

 

 

 

 

 




おろまいは十代は使っていませんが、ご了承ください。


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第四話:ギリギリの戦い

前の話を再投稿しましたので、もう一度ご覧いただければと思います。


「全く恐ろしい奴だ……遊城十代という男は。先生相手に引けを取らないどころか、状況が有利だ。ダメージも全く受けていない……」

 

 観客席に座るラーイエローの生徒、三沢大地は身震いしそうになっている。プロ相手に互角以上の戦いを繰り広げている。まるでプロリーグの試合を見ているようだ。

 

「アニキってもしかしたら……ものすごく強いんじゃあ……」

 

 丸藤翔なんかは、もはや腰を抜かしている。城之内には大ダメージを与え続けているが、十代は一切ダメージを受けていない。これは……どっちが勝つか分からない。そんな試合になってきた……!

 

「城之内先生のフィールドにはギルフォードと一枚の伏せカードのみ。さあここでどう動くのか……」

 

 明日香が息を呑んで十代を見る。手札の数も十代の方が多い。これはもしかしたら……勝つことも夢じゃない。

 

(見せてもらうわよ……十代!)

 

 

 

「俺のターン、ドロー! ―――よし、俺は、バブルマンを守備表示で召喚! バブルマンの特殊効果発動! 自分フィールドにカードが存在しない場合、二枚カードをドローできる」

 

 さらに手札がふやされる。攻めの手を緩める気はないということか。城之内は警戒の視線を止めない。

 

「よし、いいカードを引いたぜ。まず俺は、手札から速攻魔法《異次元からの埋葬》を発動するぜ! 自分および相手の除外されているモンスターを三体まで選んで墓地に戻す! 俺が選ぶのは、バースト・レディと、クレイマンだ!」

 

 突如フィールドに現れた棺に、除外されていた二人の戦士が入る。そしてそれはそのまま墓地へと入り、埋葬された。

 

「さあ、これですべてが整ったぜ! 俺はまず手札から二枚目の《ミラクル・フュージョン》を発動! 俺は墓地のバースト・レディとフェザーマンを除外して、《E・HERO フレイム・ウィングマン》を融合召喚!!」

 

 再び現れた異次元の渦。それらに二人の戦士が吸い込まれて―――風と炎が合わさる、新たな戦士が誕生した。

 

E-HERO フレイム・ウィングマン 星6 ATK2100 戦士族 風属性

 

「だがそんな攻撃力じゃあ、ギルフォード・ザ・ライトニングは倒せないぜ?」

 

 城之内は不敵に笑う。確かにギルフォード・ザ・ライトニングの攻撃力は2800と、今一つ届いていない。だが―――。

 

「先生、まだこいつは仮の姿さ。見せてやるよ、その先を!! 俺はさらに手札から三枚目のミラクル・フュージョンを発動! 俺はフィールドのフレイム・ウィングマンと、墓地のスパークマンを融合!! 現れろ、《E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン》!!」

 

 先ほども現れた異次元への渦に、一人の融合戦士と、一人の狩りの戦士が入り込む。そして現れたのは―――白き翼を生やした、炎と風と光の、ヒーローだった。強大なパワーを持ち、墓地に眠るヒーローたちの力を借りて、今ここに目覚める。そういわんばかりの威圧感がする。

 

E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン 星8 ATK2500 戦士族 光属性

 

 

「こいつが……完全体なのか?」

 

「ああ。こいつは墓地のヒーローの数だけ強くなれる! 墓地のヒーローの数の分だけ、攻撃力を300アップさせられるのさ! 墓地にヒーローは6体いる。よって攻撃力の合計は―――4300だ!! さらに、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを、受けてもらうぜ!」

 

E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン ATK2500→4300

 

 あの青眼の究極竜とほぼ同等の攻撃力を持つヒーローに城之内は戦慄する。仲間の屍の力を得た戦士は、こうも強くなれるのか。

 

「なっ……それじゃあ、この攻撃を受けたら、負ける……!?」

 

 そうだ。このまま攻撃を受けたら、合計ダメージは4000を遥かに越えてしまい、確実にライフは0になる。その事実に、この場の全員が戦慄した。

 

「よしっ、バトルだ! シャイニング・フレア・ウィングマンでギルフォード・ザ・ライトニングを攻撃!! シャイニング・シュート!!」

 

 戦士の光り輝く翼が燃え上がり、疾風のごとく迫る。この一撃は、相対する決闘者を砕くものとなる―――。

 

 

「これが決まれば―――十代の勝ちだ!」

 

「アニキが、プロに勝てるなんて……」

 

「十代……」

 

 観客席の人間も、その一撃を見守る。プロを倒すことになるのかどうかを。

 オシリスレッドがもし、プロを倒せば、イエローやブルーはおろか、その辺の教師だって倒すことができる。遊城十代には、そんな可能性が秘められているということだ。

 戦士の一撃が、光の騎士を貫かんと突き出される―――。

 

 

「罠カード発動、《マジックアーム・シールド》!!」

 

 

 

 リバースカードがオープンされる。するとそこからへんてこな機械の手が伸びてきて―――十代のバブルマンを捕まえた。そして、シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃の盾にしたのだった!

 

「バブルマンが!!」

 

 バブルマンは悲鳴を上げて破壊され、城之内先生のギルフォードは無傷となった。

 

「マジックアーム・シールドは、自分のフィールドにモンスターが存在し、相手フィールド上に二体以上のモンスターがいる場合に効果を発動できる。攻撃対象を、相手モンスターへと移し替え、そのモンスター同士で戦闘を行わせるのさ。ダメージ計算は行われ、それを受けるのは俺だが守備表示だから関係ない」

 

「そういうことか……だが先生。シャイニング・フレア・ウィングマンの特殊効果は発動する。戦闘で破壊した攻撃力分のダメージを与えるぜ」

 

「それがあったか。まあいいか」

 

城之内:LP2700→1900

 

「さらに、バブルマンが墓地に行ったことによって、シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は300ポイントアップする」

 

E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン ATK4300→4600

 

「よ、4600だと……?」

 

「俺はこれでターン終了だ」

 

 

 

「何とか先生は攻撃をしのいだが、フィールドには攻撃力4600のモンスターがいる。4600といったら、青眼の究極竜の攻撃力すらも上回る数値だ。城之内先生にこの攻撃力を超えることはできるのか?」

 

「しかも守備表示にしても、効果で破壊されたモンスターのダメージを受けなくてはならない。ギルフォード・ザ・ライトニングの攻撃力は2800……ライフは0になってしまうわ」

 

「これはアニキの勝ち確定っすか……?」

 

「確定とは言わないが、十代の方が圧倒的に有利だよ」

 

 城之内先生がもし負けたら、面目丸つぶれだ。自分たちの仲間の十代が負けるのも嫌だが、先生が負けるのも嫌だ。どっちを応援したらいいかわからない状況になっていった。

 

 

 

 

 強い。遊城十代はとても強い。

 いろいろ妨害されながらも、ついには攻撃力4600のモンスターを召喚している。このまま攻撃されたら、確実に負けてしまう。次のドローにすべてが、かかっている。

 最初はただの実力を測るための試験的なデュエルに過ぎなかったのに、いつの間にか真剣勝負になっている。それほどの実力を持つ決闘者が、なぜオシリスレッドにいるのか、城之内には疑問であった。仮にも元プロの城之内と渡り合えるほどの強さ、さすがとしか言いようがない。

 だが、男城之内もここで負けられるわけがない。ここで引かなければ―――いつ引くんだ!!

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 カードに全身全霊を込めてドローをする。見えたカードは……《伝説のフィッシャーマン》。

 

(これは……梶木がくれた、魂のカード! 梶木が、助けに来てくれたってことか……。ならばその魂、使わせてもらうぜ!!)

 

 バトルシティの時、城之内と梶木は熱い血統を繰り広げ、アンティルールによって梶木の親父の形見のこのカードを俺は譲り受けた。それが窮地となった今ここに来た。無駄にしては、ならない。

 

「俺は、ギルフォード・ザ・ライトニングを生贄にして―――」

 

「ギルフォード・ザ・ライトニングを生贄だと!?」

 

「―――《伝説のフィッシャーマン》を守備表示で召喚!!」

 

伝説のフィッシャーマン 星5 DEF1600 戦士族 水属性

 

 なんと城之内先生は、攻撃力の高いギルフォード・ザ・ライトニングを生贄にして、それよりも弱いモンスターを召喚したのだ。しかも攻撃力は1850と、レベル5モンスターとしてはあまりにも低すぎる。この期に及んでなぜその手をと思ったのか、場の人間が怪訝そうな顔をする。

 

「レッドに追い詰められてトチ狂ったのか……?」

 

「プロも大したことないんだな、そんな雑魚モンスターを出して」

 

 ブルーたちは陰口をたたく。だが、意外とそれは大声で―――城之内には聞こえていた。

 

「俺のことをバカにするのはいいが、俺の友達の魂のカードをバカにするんじゃねえ!!!! こいつは……友達の親父の大切な形見なんだぞ!!」

 

 城之内の馬鹿でかい怒鳴り声が響き、ブルーたちは肩を狭めるが、城之内のプレイングの意味を、理解していなかった。

 

 

「ねえ三沢君。どうして、先生はわざわざ攻撃力の低いモンスターを出したの?」

 

「簡単さ。シャイニング・フレア・ウィングマンは破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える効果がある。このままで行けばライフは0になる。しかし、伝説のフィッシャーマンの攻撃力は1850だ。つまり、仮に破壊されてもギリギリライフは残るというわけだ」

 

「ああ、そういうことか!!」

 

「そうだ、ちょっと考えれば当たり前のことだ」

 

 ラーイエローの三沢の当たり前という言葉が、先ほど城之内を誹謗中傷した生徒に突き刺さった。

 

 

 

「俺はこれで、ターン終了だ」

 

「よし、俺のターンドロー! バトルだ、シャイニング・フレア・ウィングマンで攻撃だ! シャイニング・シュート!!」

 

 炎と光と風が混ざり合う強烈な一撃が、海の人間に突き刺さる。

 

「くっ、フィッシャーマンが……」

 

「さらに攻撃力分のダメージを受けてもらうぜ!」

 

「がっ……くそっ」

 

城之内:LP1900→50

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 かなり短いターンだったが、与えた意味は大きかった。城之内のライフはたった50。守備表示にしても、負けは確定してしまうほどに微々たるもの。今度は、先ほどのような戦術は通用しないことを、城之内は痛感した。

 

「俺のターン……」

 

 次のドローで、すべてが決まる。今度こそ、背水の陣だ。だが残りライフがある限り、戦い続けるのがデュエリスト。俺は最後まで自分のデッキを信じる。命を張って守ってくれた、梶木の魂のカードのためにも、引いてみせる!!

 

「―――ドロー!!」

 

 

 城之内は、すべてをかけるつもりで、ドローをした。この絶望を、切り開くカギとなるカードか、はたまた、絶望へと落ちていくカードか。

 城之内が引いたのは、そのどちらでもなかった。希望を食いつなぐカードだった。

 

「俺は手札から、《強欲な壺》を発動!! デッキから二枚のカードをドローする!!」

 

 ここで、城之内は強力なドローカードを引き当てた。制限カードゆえに一枚しかないという制約があるが、この窮地で見事引き当てるとは流石である。周囲から歓声が巻き上がり、城之内は勢いよく二枚を引く。逆転の女神は微笑むのか……それとも見捨てるのか。

 

「―――!! 俺は、二枚のカードを伏せて……ターンエンド」

 

 だが、彼が行った行動は二枚のカードを伏せただけだ。あのリバースカードに逆転の可能性が秘められているとすれば、どうやって戦うというのだろうか。

 城之内は賭けた。この伏せカードにすべてを……賭けた。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 一方遊城十代は、城之内の仕掛けたカードがなにか図りかねていた。聖なるバリアミラーフォースかもしれないし、魔法の筒かもしれない。だが、現状として魔法罠を破壊できるカードは手札にはない。やるべきことはただひとつ。攻撃だ。

 

「いけ、シャイニング・シュート!!」

 

 三度目の、強力な一撃が、城之内に迫る。だが、またしても―――カードに阻まれた。

 

「攻撃宣言時に罠カード《リビングデッドの呼び声》を発動! このカードは自分の墓地のモンスターを、攻撃表示で蘇生させる!! 俺が蘇生させるのは、もちろんギルフォード・ザ・ライトニングだ!!」

 

「え!?」

 

 城之内は、突如ギルフォードを特殊召喚した。ただでさえ攻撃されたら、効果ダメージでライフポイントは0になるのに、攻撃表示で蘇生させた。意味のない行動に、場の人間は首をかしげる。

 だが―――これは、意味のある行動だった。デュエルモンスターズの極意のひとつとして、こんなものがある。

『ひとつのカードだけでは微々たるものでも、もうひとつのカードとコンボを組めば、計り知れない力を発揮する』

 それを体現したデュエリストの代表として、武藤遊戯が存在する。彼のカードの一枚一枚は確かにそこまで強い訳じゃない。何故なら彼のエースモンスター、《ブラック・マジシャン》は、同じ攻撃力を持つ《デーモンの召喚》よりも召喚しにくく、単体では扱いづらいモンスターだ。

 ―――しかし、ブラック・マジシャンの強みは、他のカードのコンビネーションにこそ存在する。千本ナイフでモンスターを破壊できたり、魔法使い族のサポートカードで弟子のブラック・マジシャン・ガールを呼んだり等、強力な戦法が実現できるのだ。

 同じように、リビングデッドの呼び声は、この状況では全く意味のないカードだ。けれどーーー他のカードとのコンビネーションをすれば……絶大な威力を発揮する。

 この場にいる、数人のデュエリストは、一見無意味なリビングデッドの呼び声を使用した意図を薄々理解していた。

 

 リビングデッドの呼び声で呼び出されたギルフォードが現れたことにより、シャイニング・フレア・ウィングマンは踏みとどまる。バトルフェイズ中にモンスターの数が変わると、攻撃が中断されるのだ。しかし、新たな標的を見定めた瞬間、再び飛びかかることができる。

 

「バトル再開だ! ギルフォードに攻撃だ!! 破壊しろ!!」

 

 ギルフォードは剣を構えて迎撃体制をとる。しかし力の差は歴然、あっという間に飲み込まれてしまいそうだ。

 だが―――ここからが、コンボの真髄だった。

 

「そうはいかねえなっ!! ダメージステップに、俺は速攻魔法《禁じられた聖典》を発動!! 効果により、このターンだけ禁じられた聖典以外のカードの効果を無効にして、お前のシャイニング・フレア・ウィングマンの元々の攻撃力にして戦闘する!!」

 

 そのカードが発動された瞬間、全員がはっと息を飲んだ。このコンボが意味するものを、察したからだ。

 戦士に聖典が掲げられ、その力で、仲間の屍の力は失われる。

 

E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン ATK4600→2500

 

 

「ああっ、シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力が2500に……!!」

 

「元々の攻撃力に戻るからか!! そしてギルフォードは2800……先生はこれを狙って、リビングデッドの呼び声を発動したのか!?」

 

 周囲のどよめきが大きくなる。ダメージステップに魔法や罠が発動されると、もう攻撃を中断できない。発動タイミングは完璧だ。

 果たして―――戦士の拳は、剣士の大剣に阻まれた。剣士は渾身の力を振るって戦士を突き飛ばし、空いた間を利用して一閃した。真っ二つに切り裂かれた戦士は、断末魔をあげて消滅した。屍となった戦士の魂を引き継いだヒーローは、ついに散ったのである。

 

十代:LP4000→3700

 

「よし、シャイニング・フレア・ウィングマン撃破!!」

 

 場に居座り続け、城之内を苦しめたモンスターを撃破したことに、観客席の生徒は震撼した。命を繋ぎに繋げ、ついに葬ったのだ。これで十代のフィールドはがら空き、反撃のチャンスが到来した。

 

「シャイニング・フレア・ウィングマンが倒されちまったか……やっぱりすげえや、プロのデュエリストは!!」

 

 自分のモンスターが破壊されたというのに随分と嬉しそうだ。本気でデュエルを楽しんでいるのだろうか。だとしたらそれは嬉しい限りだ。

 

「いや、十代。お前は俺の思った以上のデュエリストだ。さすが遊戯からハネクリボーをもらった人間だ。だけど、ここからが正念場だ!!」

 

 城之内の手札は0だ。でも、反撃は十分にできる。諦めない限り、勝機は必ず来る。それを大切な友人に教わったから、戦い続ける。それだけだ。

 

「俺は、二体目のスパークマンを守備表示で召喚して、ターンエンドだ」

 

E・HERO スパークマン 星4 DEF1400 戦士族 光属性

 

 そういえば十代はまだ召喚をしていない。やはり一筋縄ではいきそうにない。

 でも、相手は壁モンスター一体だけ。引いたカードはモンスターだ。

 

「俺のターン、ドロー! 俺は、《アックス・レイダー》を召喚!」

 

アックス・レイダー 星4 ATK1700 戦士族 地属性

 

 斧を持つ、屈強な戦士が光の戦士を見下ろす。スパークマンの守備力ではとても守りきれない。

 

「バトルだ、アックス・レイダーでスパークマンを攻撃! 疾風斬り!!」

 

 アックス・レイダーは地を思いきり蹴り、スパークマンを大きく切り裂いた。

 

「ぐっ……スパークマン!!」

 

「そしてギルフォードでダイレクトアタック!! ライトニング・クラッシュ・ソード!!」

 

 先程はハネクリボーによって阻まれてしまったこの一撃は、再び十代をとらえて、光のごとく一閃した。

 

「ぐわあああああああッッ!!」

 

十代:LP3700→900

 

 スパークマンが破壊され、がら空きになるが、ライフ的にはまだ十代の方が上だ。けれど、どちらもあと一撃を受けたら敗けが確定するほどのわずかなライフだ。

 

「俺はそのままターンエンドだ」

 

 城之内はとりあえず山は越えたと安心する。だが、十代の引きが強いのは事実だ。思わぬ一手を打ってくるかもしれない。

 果たしてーーー十代のドローは流石としか言いようがなかった。

 

「俺のターン、ドロー! 俺はまず、《戦士の生還》を発動する。墓地の戦士族モンスターを手札に加えることができる。俺はスパークマンを手札に加えるぜ」

 

 先ほど破壊されたモンスターをもう一度手札に戻している。一体何を企んでいるんだ? まさかセットし直すなどということはしないだろう。

 

「さらに俺はスパークマンを攻撃表示で召喚!」

 

E・HERO スパークマン ATK1600

 

 十代はスパークマンを攻撃表示で召喚した。だが、ギルフォードはおろか、アックス・レイダーにすら攻撃力が届かない。これで一体どうしようというのか? 

 

「おい、そんなんじゃ俺のモンスターは破れないぜ?」

 

「分かってるさ。でも、先生は最初に教えてくれた。高いステータスを、越える方法をな!!」

 

「なっ……ま、まさか……」

 

「手法はちょっと違うが、行くぜ! 俺は装備魔法《スパークガン》をスパークマンに装備する。こいつは、3回までモンスターの表示形式を変更することができる! 対象はもちろんギルフォードだ!」

 

 やられた。城之内は舌打ちをした。

 確かに城之内は、3000という高い守備力を持つマッドボールマンを相手に、守備力と攻撃力を入れ換える《右手に盾を左手に剣を》を利用して倒した。十代のとった戦法は、ギルフォードの低い守備力を利用したものだったが、高火力モンスターを倒すには十分なものだ。

 スパークマンが握りしめたスパークガンから弾丸が放たれる。ギルフォードに突如電気ショックが襲いかかり、無理矢理守りの構えを取らされた。しかし、ギルフォードはただ断つために生まれた剣士、防御などほとんど知らない。

 

ギルフォード・ザ・ライトニング DEF1400

 

「バトルだ、スパークマンでギルフォードに攻撃! スパークショット!!」

 

 頭上にバチバチと電気が弾けるエネルギー弾を受けたギルフォードは、悲鳴をあげて再び墓地へと消えていった。フィールドにあった、リビングデッドの呼び声も消えてしまった。

 

「くそ……ギルフォードが……!」

 

「そして俺は、スパークガンでスパークマンの表示形式を守備に変更してターン終了だ」

 

 なるほど、自分のモンスターに撃つことで、攻撃したあとの防御もこなせる。かなり便利なカードだと思う。しかも残り一回を残しているので、倒さなければ厄介だ。

 ……何を固く考えている? 攻撃力が900以上のモンスターを召喚すれば勝ちだ。カードに手をかけ、己が望むカードをドローするーーー。

 

「俺のターン、ドロー!! ーーー……」

 

 城之内が引いたのは、モンスターではなかった。しかし、希望を繋ぐ光には、代わりはない。いや、もしかしたら勝利への扉を開く、決定的な鍵かもしれない。その鍵は、相手を屈服させるには十分すぎるものだ。だが、この決闘は本気でやると誓った。だから、容赦はしない。

 

「バトルだ! アックス・レイダーで、スパークマンに攻撃! 疾風斬り!!」

 

 斧を構えた戦士がスパークマンに飛びかかり、斬りつけた。

 

「ぐっ……!」

 

「俺は、一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 ようやくここまで削れた。どちらかが一撃を加えるだけで勝利が決定するこの状況。誰しもが震えても仕方のないこの緊張。ワクワクどころか、ビクビク震えることしか、並大抵の人間にはできない。

 だがーーー十代は違った。この期に及んで、まだ笑顔を保っていられる。ムカつくぐらいにデュエルバカだ。能天気なのか……それとも、希望を持ち続けているのか。

 もし後者だとしたら、どんなドローを見せてくれるのか。今まで素晴らしいドローを見せてくれた。その力には、デュエルをバカみたいに楽しむ心が関係しているのだとしたらーーーこの土壇場で、強いカードを、戦況をガラッと変えるようなカードを引くはずだ。

 城之内はリバースカードをちらっと見る。恐らく、十代はこれで止めを刺されるだろう。でも、その前に見たい。十代がどんなドローをするのかを、見ることだけはさせてほしい。

 

(さあ、見せてみろ十代……最後のドローを)

 

 城之内には、これが最後のドローだということを分かっていた。。その理由もやはり、カードが説明すべきであろう。

 

「俺のターン……ドローッッ!!!!」

 

 覇気を込めた一挙一動からなる、ドローに城之内は思わず身をかばう。紙の形に変えた剣は、一体どんなものか。どれを手にして、相手に立ち向かうのか。

 十代は笑った。自らの握った剣の強さを確信した。勝利への光が見える。

 

「来たぜ、俺の勝利へのキーカードが!! 俺は手札から《死者蘇生》を発動!! 俺は、バブルマンを特殊召喚!!」

 

 光輝くカードから、現れたのは……全てを洗い流し、新たな可能性を指し示す戦士だった。それは、十代の勝利への希望そのものだった。

 

「―――流石だ、良くこんなドローが出来る。よりによって死者蘇生を引くとは……遊戯が、ハネクリボーが認めるのも納得がいく……! だけど俺は決めた。全力で戦うと。だから―――ここで終わらせてやる」

 

 城之内は笑う。決意を込めた眼差しを教え子に向けて。周囲の生徒が固唾を飲んで見守るなか……一枚のリバースカードが、開かれた。

 

 

 

「カウンター罠《神の宣告》を発動。ライフを半分払うことで、お前の死者蘇生での特殊召喚を―――無効にして破壊する」

 

 

 

 

 罠カードから、突如神父が現れて、バブルマンに手をかざす。すると手から光が放たれ、スパークマンは消滅していった。神の力を得た神父の、宣告通りに。

 

城之内:LP50→25

 

 

 

 これで、全てを失った。手札も、フィールドも、カードがひとつもない。すなわちそれは敗けを差し示す。

 だが―――十代は笑っていた。それも、心底嬉しそうに。もう十分楽しんだと豪快に笑い飛ばすように、静かに微笑む。

 

「楽しかったぜ……十代」

 

「ああ、俺もだ。これでターンエンドだよ」

 

 ターンエンド宣言、それはもはやサレンダーと同じ。十代にはもう為すすべはない。でも……いいデュエルには、そんなことはどうでもいい。死力を尽くして戦ったという証拠なのだから、胸を張るべきだ。

 

「よし、俺のターン、ドロー。……もう、いいよな。―――バトルだ!! アックス・レイダーでダイレクトアタックだ!!」

 

 アックス・レイダーは十代に飛びかかる。十代は避けることも防ぐこともせず、その一太刀を受け止めた。

 

「ぐっ……」

 

十代:LP900→0

 

 

 ライフが0になり、ゲームは終了した。

 

 城之内は、後にこのデュエルをこう語ったという。

 

『最初でクレイマンではなく、バブルマンを召喚されていたら、負けていた』

 

***

 

 

 城之内は、自室で手紙を書いていた。城之内の暮らす一室は、クロノス曰く最高級らしいが実際その通りだと思った。ベッドもとってもふかふかで広く、机も大きい。パソコンもあって近くにある露天風呂も最高だ。別に部屋なんて何でもよかったが、プロのデュエリストに悪い待遇なんてできないと言われたのでこの部屋で過ごさせてもらっている。

 さっきまで少し寝ていたからちょっと眠い。けれど、手紙を書くことは全くの苦ではない。むしろ、楽しみのひとつだった。

 

『静香へ 元気にしているか?

 

 俺が家を出てから、まだそんなにはたってないとは思うけど、もう慣れたか? まあ、静香は一人で家事洗濯が出来るような女の子だから大丈夫だとは思うけど、何かあったら遠慮なく言ってくれ。すぐにこの島を出て駆けつけるからな。

 近況報告です。

 今日は、すごい新入生とデュエルをしたんだ。遊城十代って言うやつ。ギリギリの戦いで、なにか間違えれば負けそうな、そんなデュエルだったよ。遊戯や海馬と戦ってもいい試合になったんじゃないかなって思うぜ全く。最初の方でさ、二枚もドローができるモンスターを出されてたら負けてたかもしれないな。まあ、プレイングミスさえしなければ、十代は勝ってたよ多分。お陰で疲れたよ……挙げ句の果てには、他の生徒も俺とデュエルしたいデュエルしたいって言っててさ……今日一日中生徒とデュエルしてたよ。もちろん全部勝ったけどさ、いつ抜かれるか心配になってきたよ。

 本田とのツーリング、また行くって本田から聞いたぞ。静香の次の男は、本田かも知れねえな(笑)。まあ、楽しんでこいよ。

 今日はもう眠いのでここまでにします。じゃあ、元気でな静香。

 

 克也より。

 

 

P.S 僅かだけど、化粧品や服の足しにしてくれ。こっちじゃ余り使わねえからよ』

 

 

 城之内は、便箋と、給料の半分を封筒の中に入れて、デュエルアカデミアの外の、郵便ポストに入れた。もっとも船で輸送されるのだが、ここに入れておけば問題はないとクロノスがいっていた。

 

「今日は疲れたなぁ……。でもあんまり眠れないし、散策でもするか」

 

 伸びをしながら海を見続ける。向こう側には、俺の大切な妹がいる。元気にやっているだろうか、不安になる。自分よりもしっかりとしているやつなのに。

 とりあえず外を出歩いてみようか。ここには城之内の知らない場所がたくさんある。

 だが、ふと城之内は気になった。一瞬光が見えたのだ。はっと振り向くと、デュエルアカデミアの入り口の方だった。泥棒か? だとしたら取っ捕まえなきゃならない。

 忍び足で入り口に入り、光を追っていく。光は淡く点滅したり、時には音が聞こえたりもする。何をやっているんだ、こんな夜中に。

 歩いていくと、そこは城之内が昼間使ったデュエルフィールドの近くだった。まさかここで誰かがデュエルしているのか。泥棒じゃないと分かりほっと胸を撫で下ろすが、確かこれは立派な規則違反だ。誰がやっているんだろうか。

 城之内はデュエルフィールドに足を踏み込んだ。だが―――そこには誰もいなかった。でも、デュエルをした痕跡は見られる。中央のモニターにライフ表示が残っているからだ。誰かが夜遅くにここでデュエルをしていたのだろうか。

 

「まあ、いいか」 

 

 犯人捜しをしようと思ったけど、止めることにした。そんなことに精を出すなら、明日の授業の内容を考えた方がいい。どうせ眠れないなら、そうしてしまおうか。

 城之内はデュエルフィールドを引き返し、自分の部屋に戻った。

 

「遊城十代か……まったく、すげえデュエリストがいるもんだぜ」

 

 ポツリ、今日戦った、茶髪の少年の事を思い浮かべながら。

 

 

 

 

 




次はもう少し教師らしい話を賭ければと思います。
最期のデュエル場のシーンは、万丈目と十代の最初のデュエルが行われていたのです。

追記
なんかおかしなことになっていましたので、修正しました。


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第五話:城之内の小さな苦悩

今回デュエルシーンはありません。城之内が、テスト問題の作成に励む話です。


「おはよーございまーす!」

 

 元気良く、挨拶する声が聞こえた。ここはデュエルアカデミアの職員室、朝早くから職務に励むものは多い。その中で、新任の城之内は特に早い朝だ。職員室の掃除や、授業の準備をしなくてはならないからだ。いや、本当は城之内の仕事ではないが、新任のものがやらなくてはいけないと、城之内が主張したのでその役目を受けた。

 

「ボンジョールノ、シニョール克也! 早起きナノーネ」

 

「ええ、授業の準備しなきゃいけないんで。クロノス先生も早いっすね」

 

「ソウナノーネ。ワタシ、テスト問題を考えなくてはナラナイーノ。月に一回ですから、毎度毎度メンドクサイーノ」

 

 だが、教師の朝というのは誰でもいつも早いのかもしれない。デュエルアカデミアの古株のクロノス教諭ですら、城之内と同時刻だ。そんな人に、最初のデュエルでタメ口をきいてしまったのは無礼きわまりないな。

 しかし、そろそろテストか。まさか自分が教師の立場で、この地獄のイベントを見るとは思わなかった。しかも月一とは、気の毒である。

 

「はは、俺もテスト問題考えないといけないっすもんね」

 

 話を合わせるつもりで言ったのだが、クロノスは意外にも首を振った。

 

「いや、その必要はないノーネ」

 

「え? 何でですか?」

 

「ここの学校のオーナーの海馬コーポレーションからメールが来たノーネ。読みマース?」

 

 クロノスはポケットから手紙を取り出した。確かに海馬コーポレーションのロゴが刻まれていた。開いてみると、城之内はたちまち顔をしかめた。

 

『ついこの前まで路傍で倒れていた凡骨へ

 

 久しぶりだな、凡骨。いや、馬の骨というべきか。それとも、路傍の草に埋もれた虫ともいうべき男よ。何でも貴様は不遜にも、この海馬瀬人の直轄下にあるデュエルアカデミアの講師になったそうではないか。片腹痛いわ。

 

 そろそろデュエルアカデミアのテスト期間が迫っている。問題は講師全員が個々に作るものなのだが、貴様ではロクな問題が作れそうにないだろうと思う。というより、デュエルアカデミアのレベルを失墜させるほどの出来になってしまうであろう。そこで、この俺が問題を作っておいた。貴様のはそれにすればいい。封筒に同封されているはずだから目を通すがよい。

 

 本来ならば今すぐにでも貴様を解雇してもいいが、貴様は元プロデュエリストだ。それ故に、そこらの卵に負けることはないだろうとは思っている。このデュエルアカデミアのレベルの向上に貢献して、あとは野垂れ死ねばこちらとしても都合がいい。

 そういうことだから全力でやるがいい。

 

 海馬瀬人より』

 

ーーーくしゃっ!!

 

 全てを読み終えた瞬間に城之内は手紙を握りつぶした。何が書いてあるかわからないクロノスは首をかしげた。

 

「あのやろ……絶対ぶっとばしてやる! クロノスさん、問題はどこにあるんですか?」

 

 ぴくぴくと眉を震わせながらクロノスに尋ねる。クロノスがマッテテと告げて、その辺の机から問題用紙を取り出す。

 これはその一部を抜粋したものである。

 

 

 

 

『大問1 デュエルモンスターズ基礎知識集からの問題です。次の問いに答えなさい。

 

問一:デュエルモンスターズを開発した会社は?

問二:伝説のデュエリストと呼ばれている人物を一人あげなさい

問三:…………』

 

 

『大問2 次の文章の中で間違いを探しなさい。なお、間違いがない場合はなしと書きなさい。

 

問一:

 

瀬戸「ふん、俺のターン、ドロー!! 俺は、青眼の白龍を、《カイザー・シーホース》を生贄にして召喚する!!」

 

問二:

 

瀬戸「俺のターン!! 俺は、手札より、《エネミーコントローラー》を発動する!! コマンド入力をすることによって、俺は貴様の《ロケット戦士》のコントロールを得ることができる!!」

 

凡骨「へっ、リバースカード発動、《神の警告》!! この効果により、エネミーコントローラーを無効にする!!」

 

問三:

 

瀬戸「滅びのバーストストリーム!!」

 

馬の骨「そうはさせるか!! リビングデッドの呼び声を発動!! アックス・レイダーを守備表示で蘇生!!」

 

問四:

 

路傍の石「聖なるバリア―ミラーフォースを発動!! 効果により、相手のモンスターすべてを破壊する」

 

瀬戸「ふぅん、だが甘いぞ。この瞬間、俺は月の書を発動する。効果により、俺のブルーアイズは裏側守備表示となり、破壊されない!!」

 

路傍の石「おい!! インチキしてんじゃねえぞ!!」

 

問五:……』

 

『大問3 次にあげられるモンスターの効果を持つモンスターの名前を答えなさい

 

問一:墓地にある”ブラック・マジシャン”、もしくは”マジシャン・オブ・ブラックカオス”の数だけ300ポイント攻撃力がアップする。

 

問二:手札から捨てて発動する。モンスターとの戦闘ダメージを0にする。

 

問三:このモンスターが存在する限り、相手は罠カードを発動できない。

 

問四:攻撃力が1900以上とのモンスターとの戦闘では破壊されない。

 

問五:……』

 

『大問4 次のカードの種類を答えなさい。

 

問一:死者蘇生

 

問二:マジック・アーム・シールド

 

問三:ハーピィの狩場

 

問四:狂戦死の魂

 

問五:滅びの疾風爆裂弾

 

問六:早すぎた埋葬

 

問七:カウンター・カウンター

 

……』

 

『大問5 次のデュエルシーンの穴埋めをしなさい。

 

凡骨「俺はレッドアイズ・ブラックドラゴンを召喚!! バトルだ、攻撃力1900のブラッド・ヴォルスに攻撃!!」

 

瀬戸(俺の伏せにはエネミーコントローラー、そして死者蘇生がある。死者蘇生があれば、ブルーアイズを復活させられる。どうするべきか)

 

瀬戸「俺は(  )を発動!! 効果により、(   )となる!!」

 

凡骨「くそっ、ターンエンドだ」

 

瀬戸「俺のターン、ドロー!!」

 

瀬戸(引いたカードは融合。俺の手札は、ブルーアイズ二体。奴の残りライフは1000。ならば―――)

 

瀬戸「俺はリバースカード、(  )を発動する!! これにより、(  )する!! さらに俺は融合を発動、効果により(  )を素材にして融合する!! いでよ、我が最強のしもべ(  )!!」

 

凡骨「な、なんだって……!?」

 

瀬戸「バトルだ!! (技名を入れてください)!!」

 

凡骨「ま、負けちまった!!」

 

瀬戸「貴様など、瓦礫の中にでも埋まっていろ」』

 

 

 

 

 

「てめぇが瓦礫の中に埋まってろこのブルーアイズ中毒がぁっ!!!!」

 

 城之内は喚きながらその問題をゴミ箱に投げ捨てた。しかもこんな自己満足な問題、誰も解けるわけがない。城之内をバカにしたあだ名もたくさん使っているし、ブルーアイズや遊戯関連の問題が多い。何での技名を覚えなきゃいけないんだよ!! 

 

「クロノス先生、こんなごみクズをテスト問題には一切しません。俺がテストを作って見せます」

 

 城之内はそういいながらももう一度テスト問題をゴミ箱から取り出した。気が変わったのかなっとクロノスは一瞬思ったが、それは大きな間違いで―――。

 

ビリッッ!!

 

 一瞬で粉々に破ってしまった。その後何も言わずに、自分のデスクに座って、パソコンを打ち始めていた。

 

 

 

 

 そして数時間が立ち、一限目のチャイムが鳴り響く。城之内は、教室のドアを開けて、授業開始の宣言をした。

 

「起立、気を付け、礼!」

 

 今も昔も変わらない、この授業開始の恒例の儀式は、学生時代の城之内には面倒なものだったが、教師の立場から見れば、とっても新鮮に映る。なんだか不思議だ。中学の時は、先生に目も当てられないような不良になっていたというのに、今じゃあ真面目な教師だ。どんな運命のつながりなのか、本人にもよくわからない。

 

「よし、座ろうか。さあ、昨日はデュエルだったけど、今日は講義だ。テストもそろそろだしな」

 

 テストという言葉を聞いた生徒はげんなりとした。しかしこのテストは、寮のランクの変化を賭けた大事なもの、気を抜いたら最後である。

 寮の方式は全てクロノスから教わった。オベリスク、ラー、オシリスの順にランクの高い領となっていて、成績優秀者は優遇された寮に配属される。しかしこの配置はオーナーの海馬らしいと思う。海馬はかつて《オベリスクの巨神兵》を所持していたが、アンティルールで遊戯の手に渡った経験がある。オベリスクを上に、遊戯の持つオシリスを下にしたのは絶対に偶然じゃないと思う。本当ならば、ラーの翼神竜が神の中でも優れた性能を持つカードなのだが。城之内にしてみれば、あのカードに焼き殺されかけた経験があるため、それもそれで嫌なのだが。

 とにかく寮のランクをあげるチャンスだ、頑張ってほしい。それには教える身が授業に戻らないといけないな。

 

「じゃあ今日やるのは、プロのデュエリストのデッキの研究についてだ」

 

 それを聞いた瞬間、おおっとどよめきが上がった。プロのデュエリストのデータは、この学園内で入手はできるが、詳しい分析を行える人はいない。

 

「城之内先生のデッキの研究ですか?」

 

 ブルーの女子生徒が騒ぐ。目をキラキラさせながら城之内に期待の眼差しを向けるが、首を振った。

 

「なわけないだろ。俺のデッキを教えたら対策されちまうし、勝てなくなっちまうかもしれないだろ? それに昨日のデュエルで結構手の内は曝したと思うけどな」

 

「そ、そうですよね……」

 

 頭をかきながら引き下がる。そういえばこの子は、俺に2ターンで負けた奴だ。プレイングミスも激しかったし、勝負にならなかった。だがブルーである理由は、女子生徒は全員オベリスクブルーに所属できるからである。いったいどうしてなんだと聞いても、ワタシにもよくわからないノーネと返されてしまった。

 

「じゃあ誰のデッキを?」

 

「今日は……こいつのデッキだ!!」

 

 俺はパソコンを操作する。すると、教室のモニターに、デッキレシピ画面が映った。題名は、こう書かれてあった。

 

《インセクター羽蛾デッキ》

 

 インセクター羽蛾の名前を見た途端、教室がざわついた。まあ、割と有名なほうか。

 

「インセクター羽蛾っていったら、確か元全日本チャンピオンでしたよね!?」

 

「まあな。卑劣な奴だけど、腕は確かだぜ」

 

 インセクター羽蛾とは何度も会っている。城之内や遊戯と何度も戦いそのたびに苦しめてきたが、負けたことは一度もない。おもに昆虫デッキを多用し、独特の戦法で相手をかく乱し、強力なモンスターでとどめを刺すのが彼の戦い方だ。

 ただ、その腕に反してとてつもない卑劣な野郎だった。遊戯の持っていた強力なエクゾディアを海に捨てたり、レアカードで買収して城之内のデッキを改ざんしたり、嫌味ったらしい言葉で相手に精神ダメージを負わせたりと、腕はいいのだが、人間的には海馬以上に最悪な奴というのを惜しげもなく披露しているような、そんな奴だった。ただ、何度も繰り返すが、デュエリストとしての腕はなかなかであるので、参考にはなるはずだ。

 

「こいつが、インセクター羽蛾のデッキだ。知っている生徒は多いと思うけど、こいつのデッキはほとんど昆虫族で構成されている。攻撃力は低いモンスターばかりだが、いずれも強力な効果を持っていて、相手を翻弄するのが得意な構築となっている。特に羽蛾のエースモンスターはグレートモスだ。ブルーアイズすら超える攻撃力を持つが、召喚するのにすげえ時間のかかる奴だ。そこで下級モンスターで撹乱し、場を破壊しつつ、グレートモスへとつなげる戦術が有効なんだ。羽蛾のデッキに参考になるところと言ったらただ一つ。一つの切り札に特化しているようにも見えて、それが仮に使えない状況にあっても、うまく使いこなせるように構築してあるんだ。仮にグレートモスが手札に捨てられてしまっても、下級の特殊効果でモンスターを破壊していき、地道に倒すなんてことだってできるんだ」

 

 デッキ構築は、すべてのデュエリストの課題であると思う。今現在参考になるデュエリストの構築をあげていければ、少しは勉強になるかなと思ったが、どうやらうまくいったようだ。真剣に頷きながら、話を聞いてくれて、とてもやりやすかった。

 

(デッキ構築を、テストに組み込んでみるか)

 

 同時に、アイディアがひらめいてもいた。

 

 

 

「だぁ~~っ、全く思い付かねえよ!!」

 

 授業が終わり、自室にて問題を考えていたとき、城之内は詰まり、大声をあげた。どうしてここで詰まってしまうのかというのかというと……。

 

「デッキ構築に関する問題なんてほとんどねえよ……カードの名前を答えなさいとかじゃデッキ構築は関係ないしなあ……構築を暗記させるのもちょっと違うし……問題数が少なければそれは不味いしなあ……」

 

 そう、城之内の教えてきたことと言えば、プロ、元プロのデュエリストの構築だけだった。あとは実践デュエルをやっただけなので、そもそもテストなんてできやしない状況なのだ。生徒からしてみれば、テストなんてないほうがいいんだろうけど、クロノスに是非テストを作ってくれと頼み込まれてしまった。

 それに、引けに引けない事情が出てしまった。城之内は海馬からの手紙が来たあと返事を書いたのだ。

 

『海馬へ

 

 この度はあんな自己満足の塊のようなテスト問題を送ってくださり、誠にありがとうございます。しかし問題は間に合っているので、要りません。というか、あんなの生徒が解けるわけないし。

 そういうことですので、問題はお返しします。同封されているので。

 

城之内克也より

 

P.S ブルーアイズなんてダサいモンスターよりも、レッドアイズのほうがカッコいいぜ』

 

 煽るような文章とバラバラになった問題用紙を送った次の日には、こんな手紙が飛んできた。

 

『たかが攻撃力2400の雑魚モンスターを溺愛する地に落ちた凡骨へ

 

 俺の問題が気にくわなければ、自らの手で作り上げるがいい。しかし、認められるようなものでなければ、貴様を即刻解雇する。俺の魂のカードをバカにしたのだ、それくらいはやってもらわねばな。

 せいぜい頑張るんだな、凡骨よ』

 

 そう言われてしまっては、問題を作らなくてはならなくてはならない。だがーーー全く思い浮かばない。どうすれば、海馬を納得させられるほどの問題を作れるのだろうか。仮にもオーナーは海馬、成果を出せなくては首にされるのが落ちだ。

 

「くっそ……どうすりゃあいいんだよ……」

 

 ここで首にされたら、今度こそ城之内は終わりだ。わりと近くに迫っている危機に、頭を抱えた。

 

「とりあえず、クロノスさんに相談してみるか……」

 

 城之内は立ち上がり、職員室へと向かうことにした。

 

 

 

「テスト問題をどうすればいいかワカラナーイ? それは困りましたノーネ」

 

 職員室につくと、クロノスがパソコンをいじっていた。目下テスト作成に集中している。クロノスの担当はカードの種類についてだ。記述問題や単語問題が豊富で、なかなかのテスト問題だ。さすがはベテラン教師、城之内とは差が激しい。

 

「問題が全く思い浮かばないんです。……デッキ構築なんてそんな深く考えるもんじゃないし……。なんというか、本人が組みたいようにすればいいだけじゃないのかって思うんすよ」

 

「イヤイヤ構築は重要なノーネ。それで、用語とかは教えたのデスーカ?」

 

「用語? そんなものあるんすか?」

 

「アリマスーノ! シナジーというのがあるノーネ」

 

 そのくらいの言葉は知っている。カードの間で波長し合うことで、要はコンビネーションを組めるようにすれば、勝ちは見えてくると言う話に尽きる。

 

「それだけだろ?」

 

「他にもあるけど、少ないのは確かナノーネ。デッキ構築に大事なのは、実際に組むことナノーネ」

 

 そう、デッキ構築こそ実践あるのみだ。だが、それを筆記に落とすなんてどうやってやるというんだ?

 

「だけど筆記試験だ、それじゃあダメですよーーーいや、待てよ? それ使えるかもしれない!!」

 

 そうだよ、筆記に落とせる方法があるじゃないか。こうすれば、テストはどうにかなる。

 たぶんこの形式は他のテストとは類を見ないほど変わっていて、且つ難しいものになるはずだ。海馬もきっと目を剥くことだろう。それで首にされたらどうしようもないが、クオリティの低い問題を提供するくらいならばーーー。

 

「何か思い浮かんだのデスーカ?」

 

「ああ、先生と話していて思い付きましたよ! そんじゃあ、問題作成に戻りまーす!!」

 

 城之内はそう告げると、すぐに走り去ってしまった。

 

「シニョール瀬人の問題を破り捨てて困っていましたケード、どうやら大丈夫そうナノーネ」

 

 クロノスは微かに安心した笑みを浮かべて、城之内の後ろ姿を見送った。

 

 

 

 一週間が過ぎ、テスト当日になった。印刷した問題用紙を試験監督に預け、職員室に戻る。

 

「いよいよテストですね」

 

「そうナノーネ。これでドロップアウトボーイが落ちれば……ヌフフフフ」

 

 クロノスは黒い笑いを浮かべている。ドロップアウトボーイとは、誰のことだろうか。

 

「ドロップアウトボーイって、誰のことですか?」

 

「遊城十代デース! ワタシをさんざんこけにしてるので、許せないノーネ!!」

 

「実力はあるんすけどね……デュエルバカなところにイラつくのも分からなくはないですね」

 

 ムキーッとハンカチを噛み締めながら恨みの言葉を吐いている。上司に歯向かうのもどうかしているし、先生に対してため口をとっているので、気に入らないのも無理はないかもしれない。

 ただ、正直、遊城十代をなぜ最低ランクの寮に入れているのか。クロノスが嫌っているからかもしれないが、それでもクロノスがそこまでするだろうか。まあどのみち、きっと今回のテストでイエローに昇格してくれることだろう。

 

「ところでシニョール克也、どんな問題にしたのデスーカ?」

 

「俺すか? ああ、俺の問題はこれです」

 

 城之内はデスクから一枚の問題用紙を取り出して、クロノスに手渡す。クロノスはフムフムと頷きながら問題を読む。しかし、その瞬間目をぎょっと丸くさせ、城之内を見た。

 

「ナナナナナンデスーノこの問題はー!?」

 

「何って、デッキ構築問題すけど」

 

「そういうことじゃナイーノーネ!! なんで問題たったひとつナノーネ!?」

 

「まあそりゃあ、それの方がいいかなって思ったからです。じゃあ海馬にも送りますね」

 

「それはダメダメダメナノーネ!!」

 

「そうしーん、かんりょー!!」

 

 クロノスが駆け寄って来る頃には、城之内はにかっと笑いながらエンターキーを押していた。げんなりと腕をどろんと垂らしながら、かすれた声で言った。

 

「……どうなっても、知らないノーネ」

 

 クロノスの暗い言葉に、城之内はにかっと歯を光らせて返す。

 

「海馬のやつ、目を剥いているだろうぜ」

 

 何て能天気な人なんだと、面を喰らったクロノスは脱力した表情で、職員室をあとにした。城之内もそれに続き、食堂に彼を誘った。

 

 

 

 

 場所は移り、海馬コーポレーションの社長室へ。

 世界最大規模を誇る企業の中枢にして頂上を司るその部屋に、一人の青年・海馬瀬人が黙々とパソコンを打っていた。業務用のメールを作成中のことだ。何でも、海馬ランドの新アトラクションの増設計画についてだそうだ。名前は『滅びのバーストストリーム・スプラッシュ』らしい。

 そんな自己満足な計画を練っている最中、メールの着信を知らせるアイコンが来た。差出人は、城之内克也と書かれてある。この間生意気なメールを寄越した奴だ。とりあえず開いてみるかと、クリックして展開する。

 

『レッドアイズよりもダサい白の龍を使っている、海馬へ

 

 約束通りテスト問題を作ったぜ。このファイルの中に入っている。クリックしてみな。

 

pdf/……

 

P.S 正解者は、きっといないだろうぜ』

 

 海馬は若干の怒りを抱きながらも、ファイルを開く。すると……先程抱いた怒りを超越した何かが、込み上げた。やがて押さえられず、大声で高笑いをし始めた。

 

「フッフッフ……ククク……アーッハッハッハッ!! 面白いじゃないか凡骨よ!! なるほど、学のない貴様らしい問題だな!!」

 

 尚も高笑いを続けるが、流石は社長という名前をしょっているだけあって、切り替えは早い。声を沈め、しかし笑みを押さえずに、にやっと笑い続ける。

 

「だがーーーデュエルの本質を上手く突いている……プロというだけのことはあるな。面白いな……」

 

 ここまで簡潔で、ここまで思いきった問題は見たことがない。それでいてテストという枠からはギリギリ外れていないが、デュエルモンスターズとしての枠はちょうど中心にピタリと収まっている。

 

(流石は、凡骨よ。貴様はまだ、生かしておいてやろう)

 

 デュエルアカデミアのレベル向上に貢献する貴重な逸材と、改めて実感させられた海馬は再び笑う。それも、社内全体に響き渡りそうなほどに。

 海馬が笑っている最中に、ノックが響く。慌てて笑うのを止めて、ノックの主に訪ねる。

 

「誰だ?」

 

「兄様、モクバだよ」

 

「入れ」

 

 弟のモクバを、自室に入れる。ここに自由に入れるのは時期社長候補である、海馬の弟のモクバと、他の重役たちだけのみである。

 

「何のようだモクバ」

 

 モクバの目を見ながら、海馬は平静を保つ。しかし、モクバは笑いながら質問に答えた。

 

「いや、兄様の高笑いが聞こえたから、どうしたのかなって思って」

 

「聞こえてたのか?」

 

「うん、すっごく大きくね」

 

 何たる失態だと悔しそうに舌を噛む。しかし、起こってしまったことは仕方がない。やや不機嫌そうな表情を隠せずに、モクバに向き直る。

 

「兄様、何かおかしなことあった?」

 

「……ああ。とってもおかしなものだ」

 

 海馬は、モクバにパソコンを見せた。そこにはーーー城之内の問題が表示されていた。

 それを見た瞬間、モクバもゲラゲラと笑っていた。

 

「これ、本当なんですか?」

 

「ああ本当だ。しかも得意気にな……だが、もしかしたら、デュエルアカデミアに於いて、最も良問かもしれないがな」

 

「そうですかね……? 俺にはそう思えないけど」

 

「ふん、モクバもまだまだ青いな。そんなんでは、社長の椅子は譲れんぞ」

 

「へっ、いつか兄様を抜かしてやるぜ! そうだ兄様、デュエルしよう!!」

 

「この俺とやる気か? いいだろう……全力で相手してやる、来いモクバ!!」

 

 二人の兄弟がデュエルディスクを構え、社長室で激しいデュエルが繰り広げられたのは、別の話である。

 

 海馬を認めさせ、デュエルアカデミアの生徒が苦戦した問題は、これである。

 

『次のデッキに勝てるような構築にしなさい。

 

《武藤遊戯デッキ》

 

なお、デッキ内容は別紙に記してある』

 



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第六話:旧友との電話と、迫る闇

デュエル試験に関してはあえて書かず、採点する城之内君と、旧友との電話を書きました。試験も書いてみたのですが、ただの焼き直しになってしまうことに気づき、城之内君を殺してしまうかもしれなかったのでやめました。万丈目サンダーさん、申し訳ない。


 

 

「デュエルアカデミアの月一のテストの仕組みを説明する。まず、各教科のテストを受けてもらい、その後午後二時から実技試験となる。実技試験の相手は生徒同士だ。組み合わせはあらかじめ決まっているので、テスト終了後に掲示板を見るといい。では、まず城之内先生のテストからだ」

 

 試験監督がテスト用紙を配り始める。黙々と生徒たちは受けとるが、一人空席があることに気づいている。その席は、クロノス教諭を破り、城之内先生と渡り合うほどの勝負をした遊戯十代のものだ。彼の弟分によると、まだ寝ているのではという。

 それはそうと、生徒達の中で、城之内先生の問題は簡単だと噂されていた。クロノスと城之内の会話を盗み聞いたものの話によると、テスト問題数は少なく、クオリティの低いものになるらしい。つまり、全員が満点をとれるような、簡単なものの可能性が高い。

 だからーーー誰も対策しなかった。

 

 数十分後、遅れてきて、なおかつ熟睡した遊城十代とその弟分の丸藤翔以外は、地獄を見た。

 

 

 

 すべてのテストが終了したチャイムがなった。最後の試験監督は、城之内だったが、何故か終わったあとの全員の目がギラギラと輝いている。いや、殺気がすごい。まるで早く終わらせろと、目線で語りかけている。どうしてそんな目をしているんだろうか?

 とにかく早く枚数を数えて、自由にしてやった。すると、全員がなだれ込むように、ドアの外へと走っていった。

 

「なっ、おい! 何処にいくんだよ!?」

 

 しかし城之内の叫びは彼らには聞こえず、我先へと走っていく。その際、彼らが叫ぶ声が聞こえた。

 

「新しいパックだー!!」

 

「俺のもんだー!!」

 

「私のものよっ!!」

 

 ああ、そういうことか。そういえば購買の人がいってたな。新しいパックが今日デュエルアカデミア内で販売されるのか。それならば……。

 

「俺もいくぞっ!!」

 

 城之内も、生徒のあとに続いて走った。なんと、先生が生徒に混じって走っていた。だが、デュエリストなら当然だ。新しいパックに夢中にならないわけがない。例え、生徒から非難を受けることになっても。

 

「先生なんでいるんですか!?」

 

「先生買う必要ないでしょう!? 午後の実技テストのために私たちは補強しなきゃいけないの!!」

 

「うるせぇうるせぇ!! 男城之内、ガキの頃はこうやってカードを手にいれてたんだよぉ!!」

 

 人波を掻き分けつつ、どうにか前に進む。だが、シャッターが目の前にそびえた。なるほど、まだ空いていないというわけか。

 だが、興奮している生徒たちはシャッターを叩いている。そこまでカードが欲しいのかよと思いつつも、子供らしいなとも懐かしく感じた。俺も遊戯の家で最新のパックを買うためにシャッターを鳴らした記憶があるからだ。遊戯がすげえ眠そうな顔でシャッターを開けて、10箱くらい寄越してくれたのを、今でも覚えている。

 

 だが、子供時代には絶対にあり得ない光景を、これから目にすることになるとは、思わなかった。

 

「そこをどけそこを!!」

 

 突然、軍服を来た大人がぞろぞろと警棒を持って生徒たちを威嚇し始めた。ここは学校、そういう輩が来る場所じゃないはずだが。

 だが、そんな訝しげな視線も期待と興奮に変わる。セイラー服を来た男がアタッシュケースを持ってきてからは。

 

「お前達のほしいものは、ここにあるぞー!!」

 

「ウオオオォォッッ!!」

 

 とっさに全員が道を開けて、男がシャッターを開ける。

 

「ついに……レアカードが……!!」

 

「俺城之内先生の問題死んだから、これで挽回できる!!」

 

「俺のレッドアイズデッキも強化できるぜ……!!」

 

 城之内も思わず興奮してアタッシュケースが開かれるのを待ったーーー。

 

 

 

 

 

「この生徒に売約済みだ」

 

 

 

 

 

 セイラー服の男がそう呟いた。アタッシュケースの中が開かれると、そこには売約済みと書かれた札が残されていた。隣には、深い帽子を被った男子生徒がいた。しかしグレーなコートを羽織っている辺り、どの色の生徒かわからない。

 

「おいおいそりゃあどういうことだよ!!」

 

「きたねぇぞ!!」

 

「ふざけんなこの野郎!!」

 

 生徒からも、城之内からも文句が殺到するが、その生徒は舐めきったような態度を取っている。

 

「もうすでに御支払済みナノーネ」

 

 控えめな声で、しかし挑発的に指を降りながら生徒達の波を掻き分けて去っていった。

 

(あれ、絶対クロノスさんだよな)

 

 そこで、一人怒りを顕わにしている城之内であった。

 

 

 

 

 

「まったく、二次試験のデュエル見たかったっていうのに、採点を先にやってほしいだと? ったく、我ながらすげえ難しい問題にしたもんだな」

 

 城之内は、一次試験が終わり、昼飯を食ったらすぐ自室へと向かった。デュエル観戦をしたいと言ったのだが、クロノスに拒否されてしまった。アナタの問題結果を、シニョール瀬人に早く渡さなければナラナイーノと、言われてしまったらしい。海馬のいうことなんて聞くなと言おうとしたが、それこそクロノスにとって無理難題であるから黙ってうなずいた。ただ、条件として新しいパックのレアカードを何枚かもらうこととなった。パックを買い占めたことは、すでにばれている。

 

「さて、そんなに強くない奴から見ていった方がいいな。まずはオシリスレッドのこいつからだ。名前は確か、前田隼人か。どれどれ……デスコアラとかそういったコアラ系のカードばっかだな。まあ、あいつコアラみたいな顔してるし。でもこれじゃあ遊戯の相手にもならないな。留年しているところ悪いけど」

 

 一枚目の答案に10と書いて、別の場所に置く。次は丸藤翔だ。確か十代と一緒にいる眼鏡の奴か。そういえば、学園内で話題になっているカイザー亮とかというデュエリストと兄弟の仲であると聞いているが、その割にはそこまで強くない。プレイングミスはあまりしていないけれど、弱気だからなかなか強いモンスターを出せていない。

 

「丸藤翔は……白紙かよ!? しかもよだれの跡が……俺試験監督は違うところだったからわかんねえけど、ねちゃあだめだろ……。こりゃあ0点だな。昔の俺の方がよっぽど取れてたな、点数」

 

 呆れながら0点をつけた。さて、次はと……。

 デュエルの強さ順に採点していって、点数をつけていく。まったくバランスの取れていない構築や、デッキ枚数が足りないもの、放棄しているものと様々だったが、中にはこんな面白いのがあった。

 

「おっ、バーン系のカードがたくさんあるな。ファイヤー・ボールに、昼夜の大火事、連鎖爆撃とかがあるけどなあ……。発想は面白いんだけどな。ただ、防御が薄いな、60点」

 

「イエローの神楽坂っていうのも面白いな。遊戯のデッキの弱点となるカード全てを洗い出してうまく組み込んでいる。死のデッキ破壊ウィルス、生贄封じの仮面とかいろいろ入ってんな。これなら勝てるかもしれないが、死者蘇生とかでブラック・マジシャンとか呼ばれたらきついだろうぜ。でも、勝てそうかもしれないから80点だ」

 

「おいおい俺のデッキ書いているぞ……悪いけど、俺じゃあ遊戯に勝つのは難しいから20点だな」

 

「遊戯のデッキを使えばいい、か。果たしてそれを使いこなせるかな? 20点だ」

 

 さて、次はいよいよ実力者のブルーだ。採点していくと、かなり緻密に練られたデッキ委が多い。遊戯を追い詰めるコンビネーションもあるし、攻守バランスの取れた構築も存在する。それらのデッキには70から90近い点数をつけたりしていった。

 中でも優秀だったのは、ブルーの万丈目、明日香、そしてイエローの三沢大地だった。万丈目は高い攻撃力のモンスターと強力な魔法・罠で構成されていて、明日香はテーマデッキのシナジーの強さを生かしたデッキ、三沢は遊戯のメタを張るような形のデッキを作っていた。どれも質が高く、90点以上の点数をあげた。

 さて、ここで城之内の期待しているデュエリストの回答を見ることにする。その名は遊城十代。きっと、まともな構築を考えてくれているはずだ。城之内をあと一歩のところまで追いつめたのだ、きっと遊戯だって苦しめられるデッキがそこには―――。

 

 

「……白紙、かよ」

 

 なんも書かれていない、真っ白な紙。鉛筆の跡すら全くない、白紙。強いて言えば―――よだれの跡だけ。恐らく寝てしまったんだと思われる。

 

「こういうやつほど、勉強とかって不真面目なんだよな。まったく、遊戯にそっくりだよ」

 

 怒りや失望を通り越して、呆れの感情が出てきた。まるで、親友を見ている気分だ。遊戯はデュエルに関しては天才的だが、テストの点数は城之内よりも少し上くらいだ。杏子が前に言っていた。デュエルでこんなに強いんだから、数学とか国語とかできるはずなのにと。

 もしかしたら遊城十代の強さの秘訣とは、遊戯によく似ているということかもしれない。やはり、ハネクリボーはそこまで感じて十代のもとへと飛んでいったのだ。

 遊城十代は、きっと城之内の伝えたいことが、わかってくれるかもしれない。デュエルモンスターズというものよりも大切なものに、きっと気づく。何故なら、武藤遊戯によく似ている、決闘者だから。

 見えないけれど、見えるものの大切さを学ぶであろう未来のデュエルキング候補の事を考えながら、白紙のテスト用紙に、赤ペンで0点をつけた。

 

 

「気づけば、もう夜か。そろそろ眠くなってきたし、もう寝るかな……」

 

 採点をすべて済ませた城之内は時計を見ると、もう夜の9時になっていた。まだまだ寝るべき時間ではないにせよ、一日中採点をしていたから疲れてしまった。なんせ何百人ものの生徒の採点をしたのだ、疲れないわけがない。飯もほとんど食わずにようやく終わらせたのだ、さっさと寝かせてほしい。

 

「もう今日は寝るか……おやすみ」

 

 ベッドに転がり、そのまま瞼を閉じた。溜まっていた疲れが徐々にほぐれていき、眠気が全身にまとわりつく。こりゃあ、一秒で眠れるな……。

 意識が落ちていき、目覚めるころには次の朝だ―――。

 

ブー、ブー、ブー……。

 

 なんだこの音?

 バイブ音か? つーことは……電話?

 

ブー、ブー、ブー……!!

 

「だあ~っ!! ……ったく、めんどくせえなあ!!」

 

 眠ろうとしていた時に起こされ、不機嫌そうに怒鳴りながら携帯電話を乱暴につかむ。

 

「はい、もしもしっ」

 

 かなり眠そうで不機嫌ですというニュアンスを込めた応対に、相手はあー……と、後悔したように声をあげて、控えめな声で謝罪した。

 

「夜遅くにごめんなさい、真崎杏子です」

 

「えっ? 杏子なのか……?」

 

「うん、そうだよ城之内。久しぶり」

 

 電話をかけてきた相手が杏子だと知った途端、城之内の機嫌はよくなった。少し眠かったけど、久しぶりに話す親友相手だと、むしろ元気になる。まあ、今は遊戯と付き合ってるらしいけど。

 

「本当に久しぶりだな、最期にあったのいつだったっけ?」

 

「5年前じゃなかったかしら。あんたがプロ引退する前日ってのはよく覚えているわ」

 

「引退っつーか、止めさせられたも同然なんだけどな」

 

「それもそうね。それはそうと、本田から聞いたわよ。あんたデュエルアカデミアに就職したって」

 

「ああ、まあな」

 

「土木工事なんかよりも、私もそっちの方がいいと思うわね。正解よ、城之内」

 

「へっ、何を偉そうに言ってんだよ」

 

 真崎杏子は、遊戯の幼馴染で、現在は遊戯の恋人だ。遊戯が告白して、即OKだったらしい。陰でこっそり見ていた城之内と本田は、あとで杏子にぶんなぐられたけど。

 杏子はデュエリストではないけれど、とても世話焼きだ。遊戯の事もよく見ていたし、誰かが困っていたら過ぐに助けてくれたり、相談に乗ってくれたりする。俺の就職の事も、さんざん相談に乗ってもらった。だから、杏子には感謝している。他人の女なのに、いい奴だとはあんまり思ってはいけないんだろうけど。

 

「そういや杏子、お前何で俺に電話してきたんだ?」

 

 こんな夜遅くに電話するほど杏子は遠慮知らずじゃない。何かあったのかなとも思うが、緊急時で最初にこんなどうでもいい話なんかしない。

 

「ああそうだね。あんたにさ、伝えなくちゃいけないことがあるから」

 

「なんだよ杏子。言っておくが告白はごめんだぜ? 遊戯が悲しむしよ」

 

「あんたみたいな安っぽい男に誰が告白するもんですか」

 

「なんだと、誰が安っぽいだと!?」

 

「あー、ったく、何であんたと話すとこんな子供みたいな言い合いしかできないのかしら。私たちもう大人なのよ?」

 

 杏子とは高校時代から言い合ってきた仲だ。遊戯をいじめていたころにも、杏子が庇って城之内にいつも食って掛かっていた。今から考えれば、芯の強くて優しい女なんだなって思う。城之内はそんな奴に威張っていただけなんだ。

 

「で、何の話だ?」

 

 城之内が杏子に聞くと、杏子は声のトーンを落として、喋り始める。

 

「遊戯が教えてくれたんだけど最近ね、童実野町で闇のデュエリストっていうのが出てきたのよ」

 

「闇のデュエリスト?」

 

「何でも、闇のゲームを仕掛けて、レアカードを奪っていくっていう連中なんだけど……」

 

「はぁ? また闇のゲームかよ。でも千年アイテムが消えちまった今、そんなことできるわけねえだろ?」

 

 そう、あの戦いの儀で千年アイテムはすべて遺跡の中に葬られてしまい、二度と手に入らなくなってしまった。だからもう、闇のゲームなんて行うことなんて出来るはずがないのに。

 

「そのはずなんだけどね。本当のことは分からないんだけど、もしかしたらそっちにも来るかもしれないから、気を付けて」

 

「へっ、なんでだよ?」

 

 城之内が間抜けな声で理由を聞くと、キツイ声が飛んできた。

 

「何でって……デュエルアカデミアはデュエルモンスターズの学校よ!? しかもあんたがいるとなれば尚更よ、あんたは元プロデュエリスト、格好の的じゃない!!」

 

「へっ、俺はそんじょそこらの奴らには負けねえよ」

 

「……静香ちゃんから聞いたわよ。あんた生徒に負けそうになったって」

 

「んなっ!? だ、だけどあれは……その、手札が悪かったんだよ。あ、あは、あはははは」

 

「まったく……あんたって本当に変わってないわね」

 

 呆れながらも、微笑んでいる杏子の声を聴いて、城之内もなんだか眠気が吹っ飛んだ。同時に懐かしさがこみあげてくる。4人でふざけあい、遊び、勉強し、恋をし、デュエルをして。

 楽しかったよ、あのころは。胸が締め付けられるほどに、懐かしさがうずく。あのころに戻りたいと、最近は抱いていなかった気持ちが、再燃し始めた。

 

「なあ、杏子。今度さ……4人で集まらないか」

 

「どうしたのよ、急に?」

 

 杏子が不思議そうに聞いてくる。

 

「俺さ、お前の声を聴いたら、4人で集まりたいなって。高校の時みたいにさ、ぎゃあぎゃあ騒いで、酒の代わりにのんでた苦いジュースをがぶがぶ飲んでさ、カラオケ行って、遊戯の考えた遊びをして……最後は夕陽を見る。休日はいつもそうだったろ?」

 

「そうだね……でも残念。私来週、ニューヨーク行くんだ。遊戯と一緒に」

 

「そりゃまたどうしてだ……あっそっか、お前ダンサーになりたいって言ってたよな」

 

「うん、まだあきらめてなかったんだ。遊戯はアメリカで大会があるんだって」

 

 杏子は高校時代、いや、もっと小さいころから、ダンサーになることを夢見ていた。だからニューヨークで修業したいとずっと言っていた。その夢が、10年後にかなったんだ。これほどうれしいことはない。

 でも、やっぱり寂しい。城之内の知らないところに、世界に皆旅立っていくのが寂しい。

 

「そっか……なあ、杏子。出発は、来週なんだよな?」

 

「うん、そうだよ」

 

「だったら、お前が行っちまう前日に、遊ぼうぜ」

 

「え? でも、ほかの皆の予定はどうなの?」

 

 へっと笑いながら城之内は答える。

 

「意地でも連れてきてやる。本田の首根っこひっ捕まえてもな」

 

「まったく、あんたらしいわね」

 

「そうとも、俺はいつまでも変わらないのさ。だから、遊戯もつれてきてくれ」

 

「……分かったわ。久しぶりに、バカ騒ぎしましょうか」

 

「おうっ! 集合は童実野高校な」

 

「明らかに怪しく見えるわね。まあいいけど」

 

「よっしゃ決まりだ!! さあ、早速本田に電話かけるぞー!!」

 

「よしなさい、もう遅くよ」

 

「お前に言われたかねえよ!!」

 

「確かにそうかもね。じゃあ、切るわよ城之内」

 

「おう、またな杏子」

 

 ぷつんと電話が切れた。いつ以来だろう、こんなに長電話をしたのは。いつもは面接の電話で数分で終わってしまうけれど、今回はとっても長く、充実した会話だった。何か、女の子が友達との長電話に夢中になるのも分かる気がしてきた。

 

「さて……本田の野郎にでも電話をかけるか」

 

 なんの悪びれもなく本田に電話をかけながら、城之内は先ほどの杏子の話に出てきた、闇のデュエリストの事を考えていた。遊戯が嘘をつくとは考えにくいし、でも闇のゲームなんてできるはずもない。千年パズルの力ならば実現できたが(そのせいで死にかけた)、普通のデュエルディスクでは到底不可能だ。いったい何なんだろうか……?

 

「よお本田、よく眠れたか?」

 

「眠れやしねえよ、今何時だと思ってんだよ馬鹿野郎!!」

 

 怒鳴り声が耳をつんざく。しかし―――今度遊びに行こうぜという話をした途端、機嫌が良くなり、愉快に電話を切っていた。あいつ、なんかストレス抱えているのだろうか。なんにせよ、誘うことには成功した。あとは、遊戯が来れば、いい。

 

 そのころにはもう、闇のデュエリストの事なんて忘れていた。しかし黒い影が、迫っていることを城之内は気がついていなかった。

 




若本さん、襲来。


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第七話:闇のデュエリスト、襲来

更新遅れました。申し訳ないです。


 テストが終わり、落ち着いた頃の夜、一人の女子生徒が寮を出てある場所へと向かっていた。名前は天上院明日香、オベリスクブルーの優秀な生徒である。そんな彼女が向かっているのは、デュエルアカデミアに存在するボロボロの寮。通称幽霊寮で、かつての成績優秀者が暮らしていた場所だ。現在は使われておらず、学校側から立ち入り禁止となっている。

 何故そんな場所に明日香は向かおうとしているのか。それは、消えた兄を探すためである。兄は行方不明となっていて、居場所の手がかりを探しているのだ。ここ幽霊寮にて最近何人ものの行方不明者が出現していて、もしかしたら自分の兄もその犠牲者ではないのかと考えたのだ。だから、そこへこれから向かおうとしたのだが……。

 

「どこいくんだよ」

 

 明日香の後ろから声がかけられた。明日香はビックリして振り向く。するとそこには、淡い茶色っぽい髪をした青年がいた。

 

「城之内先生……」

 

「天上院明日香か。こんなところふらついてどうしたんだよ、もう夜遅くだぞ」

 

 城之内先生は、明日香に注意する。幽霊寮に入ろうとしているところで声をかけるには教師として当然のことだ。だが、明日香には引けない事情がある。

 

「ここは立ち入り禁止だってことは、わかってるよな?」

 

「はい。ですが、理由があるんです」

 

「言ってみろ」

 

 城之内先生は理由を聞いた。言うべきか迷ったが、もしかしたら何か知っているかもしれない。幽霊寮に行けなくても、情報さえ聞ければそれでいいのだから。明日香はすべての事情を説明した。城之内先生は茶々を入れず、真剣に聞き終えると理解したようにうなずく。

 

「気持ちはよくわかるぜ。俺も、妹の目を救うためにルール破ってデュエルの大会に無理矢理参加したからな。だけど、幽霊寮には入っちゃいけないぞ」

 

「っ……」

 

 やはりダメだったか。今日は諦めるべきだ。そう判断して、踵を返そうとしたのだが。

 

「一人では、な」

 

 城之内先生はにやっと笑って、足を向けていた。幽霊寮へと。

 

「え、ちょっとどこへ……?」

 

「決まってんだろ? 兄ちゃんを救うんだよ。だけど女の子一人にこんなアブねえ場所には行かせられない。だから、俺もいくよ。明日香がここにいたことも目をつむるさ」

 

「……いいんですか?」

 

「いいよ。だからさっさと行こうぜ」

 

 そういうと、城之内先生はライトを持って前を歩いていった。明日香は未だに立ち尽くしていたが、城之内先生が置いていくぞーと叫ぶと、明日香は慌てて付いていった。

 明日香は胸のなかでこう思った。何て、破天荒で変わっている先生なのだと。

 

 だが、明日香がついていこうとした矢先……一人の男の影が、明日香を闇へと落としていった。

 

 

 

 

 ライトの灯りを頼りながら 、寮の中を歩いていく。蜘蛛の巣や埃が溜まっており、すごく汚い。虫の住みかとも化しており、かさかさと気味の悪い虫が這い回っている。

 

「おいおい何だよこれは……気味が悪いなあ……ったく、俺はこういうのマジで嫌いなんだよなあ」

 

 城之内は顔をしかめてライトをあちこちに動かす。気持ち悪い虫が自分のもとへと迫ってこないか、警戒しているのである。

 しかし外の散歩からいつの間に廃墟ツアーになるとは思ってもいなかった。明日香の兄がここで消えたらしいが、一体どういうことなんだろうか……それを、隣にいる明日香に尋ねようとしたが……。

 

「あ、あれ……明日香? おい、明日香!?」

 

 いないのである。消えてしまったのである。何処を見ても彼女がおらず、城之内一人が取り残されてしまったのだ。

 

「おいおい一人は嫌だぜこんな場所!? 明日香ーー!! どこだーー!! 何処にいるんだよーー!! つうか、誰かいないのかぁーーー!?」

 

 大声で誰かを呼ぶが、ここは立ち入り禁止だ、当然誰もいない。それに気づき、落胆する。

 

「とりあえず……外に出るか。来た道を戻れば、どうにかなるな……」

 

 一度深呼吸をして、恐怖心をどうにか押さえつつ、歩き始めた。頼りになるのは一本の懐中電灯、しかし照らす範囲は狭く、それがいっそう恐怖を煽る。

 

「ったく……一体どういけば、出口につくんだ……?」

 

 よく見えない視界の中、とにかく勘に任せて歩く。来た道かどうかすらよく覚えていないせいで、せっかくのアイディアも台無しだ。あとは……窓を探すか。窓を割って外に出てしまえばいい。

 そんなわけでライトを上に掲げて窓を探す。だが、そこに浮かび上がってきたのは石板だった。それも、ただの石板じゃない。日本語で書かれていない、謎のものだった。

 

「なんだこりゃ? 石板か? どれどれ……」

 

 近づいて触ってみると、確かに掘られてある石板だった。しかも見たところこれは、古代エジプト文字だ。何て書いてあるかは、アテムではないから読めやしないけど、これだけは言える。千年アイテム関連のものだ。もしかして、ここは千年アイテムに関わるなにかが起こっていたのか? 例えば……闇のデュエルとか。

 

「明日香がいってたな……ここで兄ちゃんが消えたって。ーーーマジで、闇のゲームがあるのかな……」

 

 城之内は思い出す。そういえば最近杏子からの電話があった。その時に、闇のデュエリストが現れたとかなんとかと言っていた。あのときはデマだと笑い飛ばしていたが、マジであるかもしれない。

 

「だけど……千年パズルが無い今、どうやって闇のデュエルが出来るってんだ、きっと趣味でこんなの集めたんだよ。そいつの気が知れないけど、きっとそうだよ、そう信じよう」

 

 びびりきっている城之内はそう一人で捲し立てて恐怖を無理矢理追いやる。平静を保たなければ、ここから出ることはできない。さっさと出よう、こんな気持ち悪いところ。

 だがーーー気持ち悪いところは、気持ち悪いところだった。千年アイテム全て書かれている石板もあったし、マリクの写真とかも飾られていた。

 きっとここでかつてのエリートたちは闇のデュエルに関する研究をしていたのだろう。だとしたら、消えた生徒たちは……闇のデュエルによって葬られたのかもしれない。

 だとしたら、ここから逃げ出すべきだ。はっきりいって闇のデュエルなんてやりたくない。殺されかけたのだから、もう勘弁してほしい。

 そんなとき、ふとライトを上に向けると、写真が飾られていた。しかし、闇のデュエル関連のものではない。オベリスクブルーの制服を羽織った生徒の顔写真だった。

 

「……?」

 

 この生徒がかつてここにいたということだろうか。しかもサイン入りということは、有名なやつだったということか。

 

「何て読むんだ……FUBUKI 10 JOIN……ふぶき、じゅうじょいん……? いや、ふぶき

てんじょういんか……。ってことはもしかして……明日香の兄貴か!?」

 

 天上院吹雪と書くのかどうかはわからないが、間違いない。きっとこの写真の男は、天上院明日香の兄だ。この幽霊寮で消えたのだから間違いはない。こいつを探せばいいんだ。

 だが、明日香がいない以上、どう探せばいいか分からない。闇のデュエルに関係するこの場所にも、もういたくない。どうしようか迷っていたその時だった。

 

「ーーーおーい!!」

 

 誰かの声が聞こえる。城之内ははっと振り向き、姿を確認する。そこには、3つの光があり、赤の制服を羽織った人間がいた。オシリスレッドの人間だろう。生徒であることに若干安心する。

 

「誰だ?」

 

 城之内は今来た人間に声をかけ、ライトを当てる。すると、そこには見覚えのある人物がいた。

 

「遊城十代に丸藤翔に、前田隼人……何でお前たちがここに?」

 

「誰かと思って声をかけたら、城之内先生!? 先生こそなんでここに……?」

 

 お互いに声を掛け合い、ひとまず安心すると、それぞれ来たわけを説明し始めた。十代達の来たわけは、ただの探検だそうだ。ここが結構危なっかしい場所であるとも知らずに。

 

「俺は明日香の兄貴を探しに来たんだが……その明日香とはぐれちまってよ」

 

「そうなんすか……」

 

「そう、だからどうしようかなって思って……。兎に角もう遅いから帰ろうぜ」

 

 明日香の兄貴の捜索も大事だが、今いる生徒の安全を確保するのも大事だ。帰るように促したのだが……。

 

「キャアアアアアアアアアーーー!!」

 

 耳をつんざくほどの甲高い悲鳴が、幽霊寮に響き渡った。一体誰の悲鳴だ……!?

 

「明日香!?」

 

 十代が叫ぶと、咄嗟にその方向へと走っていってしまった。あとの二人も、十代を追っていった。城之内は、置いていかれた。

 

「おい待てよ!! 俺を置いていくなよ!?」

 

 手を伸ばすも、彼らはすでに遠くへと走り去っていく。ここで置いていかれたらもうここから出られない。仕方なく、十代達の後を追った。

 長い長い廊下を駆け抜けていくと、そこには大きな広間があった。その奥には、女子生徒が不気味な棺のなかで瞳を閉じて眠っているのが見えた。あの茶髪の女子生徒は明日香だ。あの悲鳴の主は、明日香だったんだ。

 

「明日香!!」

 

 十代たちがかけより、明日香へと触れようとする。しかし煙が漂い、一行を阻んだ。その煙は霧のように広がり、視界を覆う。そしてーーー縦に伸び始めていき、人のかたちを作り上げたと思ったら、本当に人が現れた。

 帽子を被り、仮面に覆われた大男が現れると、城之内は息を呑む。間違いない、こいつが明日香に何かをしたんだ。そう感じさせるほどの威圧感だった。

 

「ようこそ、遊城十代。それに……伝説のデュエリスト、城之内克也」

 

 にやっと笑いながら遊城十代の名前を呼ぶ。何故遊城十代の名前をやつは知っているんだ?

 

「お前は一体何物なんだ!? 明日香に何をしたんだ!!」

 

 遊城十代が大声で問う。再び大男は口端を歪ませて言葉を発した。

 

「私の名前はタイタン、闇のデュエルを操る、闇のデュエリストだ。彼女ならば、深き闇の底に眠っている」

 

「闇のデュエリストだと……? あっーーー」

 

 闇のデュエリスト。そういえば杏子の奴がそんなことを言っていた。童実野町にてレアカードを奪っていくデュエリストが現れたとかなんとかと言っていたが、こいつのことなのか。

 

「闇のデュエル……?」

 

 隼人たちはその妙な響きを持った言葉を繰り返す。

 

「闇のデュエルだと!? そんなものただのまやかしだ!! 実際にあるわけがないだろ!!」

 

 十代が認めまいと叫ぶ。確かに十代たちは認めるわけがないだろう。デュエルとは、本来ただの遊びだ。明日香があんな風に眠るわけがない。

 だが、闇のデュエルは存在していた。マリクやバクラ、アテムやペガサスも行ったことがある。だけど……それはかつての話だ。今現在起こるはずもない。

 

「試してみるがいいだろうよ、小僧。ここは万人たりとも足を踏み入れてはならない領域。我はその誓いを破るものに、制裁を下す」

 

「ここでいなくなった人達を消したのは、貴様のせいだなっ!? 明日香を、返してもらうぜ!!」

 

「私に闇のゲームで勝てるのならな……遊城十代」

 

 タイタンはニヤリと笑い、体に巻き付いてある機械のようなものに触れる。よく見るとそこにはカードデッキが収納されている。つまりデュエルでやろうと言うのか。それも、闇のデュエルで。しかもまだ、闇のデュエルを知らないような十代と戦うというのか。

 だが、十代はそんなことを知ってか知らずか、隼人からデュエルディスクを受け取り、きっとタイタンを睨む。デュエルをする気なのだ。

 

「望むところだ!!」

 

 どうする? 十代に任せて見るべきか。十代ならばこのデュエルには勝てると思う。だがそれは普通のデュエルでの話だ。これはデュエルじゃない。ただの命の奪い合い。ならば……そんな戦いを子供にやらせるわけにはいかない。

 

「ーーーおい待てよおっさん。俺の存在忘れちゃあ困るぜ」

 

 デュエルしようと身構えた十代の前にたち、タイタンに話しかける。タイタンは怪訝そうな顔をして城之内を見た。

 

「何ガキ相手にムキになってんだよ。闇のデュエルとかそんなものをやらせてんじゃねえよ、大人げない」

 

「何だと!? 闇のデュエリストを愚弄するのか?」

 

 タイタンはぎりっと歯を軋る。だが、その程度で城之内はびびらない。

 

「それによ、お前が本当に闇のデュエリストか俺が判断してやるよ。闇のデュエル経験者のこの俺がな。だから俺と……デュエルしろ」

 

 城之内はデュエルディスクを構え、タイタンに言う。

 

「何でだよ先生! 何で俺にデュエルさせてくれないんだよ」

 

 突然十代が抗議してくる。城之内は十代の頭を撫でて答えた。

 

「何でかだと? お前のようなすげぇデュエリストに、こんなふざけたデュエルなんかやらせたくないからだ。言っておくが、闇のデュエルなんていうのは楽しいもんじゃない。それを、今俺が教えてやる。もっとも、デマかも知れないがな」

 

 タイタンは一瞬舌打ちしたあと、にやっと笑った。

 

「良いだろう。その代わり、貴様が負けたら貴様の魂も、闇に封印させてもらうぞ」

 

「やれるものならやってみろよ」

 

「依頼主に遊城十代にデュエルを仕掛けろと言われたのだが貴様が阻んだ以上、標的を貴様に変更する」

 

「その依頼主ってのは、この闇のデュエルを知っていたのか?」

 

「さぁな私にはわからん。兎に角だ、貴様がこのデュエルに勝てばいい話だ。プロとはいえ、私のデッキには決して勝てはせんぞ」

 

「そいつはどうかな……言っておくが、俺はそこらで野垂れ死ぬプロとは大違いなんでね。舐めてもらったら困るぜ! いくぞ!!」

 

 互いにデュエルディスクにデッキを差し込み、同時に叫んだ。

 

「デュエル!!」

 

 火蓋が落とされ、5枚のカードを引く。さて、相手のデッキはどうだろうか。

 

「私の先行、ドロー。……ふん、私は《インフェルノクインデーモン》を攻撃表示で召喚」

 

 タイタンのフィールドに、恐ろしい形相の、女王らしき服装をしたデーモンが出現する。

 

インフェルノクインデーモン 星4 ATK900 悪魔族 炎属性

 

「デーモンデッキか……なるほどな。こいつは厄介なデッキだぜ」

 

「ふん、プロのデュエリストもたじたじか」

 

「なわけあるかよ。ライフコストがあるかぎり、勝ち目は無い訳じゃないしな」

 

 デーモンと名のつくモンスターは基本的に自分のスタンバイフェイズに500ポイントのライフダメージを払わなくてはならない効果を持つ。つまり短期決戦に持ち込まなければ負けになってしまうため、それにどうにか耐えきり自滅するのを待てば勝ちは決まる。

 だが、その戦法は相手に読まれていた。

 

「ライフコストは確かに痛い。だが私にはそれを無効にするカードが存在する。私は手札からフィールド魔法《万魔殿ー悪魔の巣窟》を発動!!」

 

 デュエルディスクにフィールド魔法が送られ、光を発すると同時にデュエルフィールドが轟音をたてて変化を始めた。竜や悪魔のオブジェがあちこちに出現し始め、息苦しい空気が辺りを覆う。魔物たちの巣くう場所としては相応しいくらいに不気味だ。

 

「こ、これは……」

 

「さしずめ地獄の現れとでも言っておこうか。このフィールド魔法は、デーモンのライフコストの効果を無効にして、さらにデーモンが戦闘以外で破壊されたとき、デッキからそのデーモンモンスターのレベル未満のカードを手札に加えることができる。つまり、破壊しても新たにデーモンが現れると言うわけだ」

 

「けっ、厄介な魔法だな」

 

 城之内は舌打ちして目の前にたつデーモンを睨む。これでデーモンの維持コストがなくなり、思う存分デーモンを展開できる。

 

「私はこれでターンエンドだ。ああ、それとこの娘が気になるのならば、視界から消しておこう……」

 

 タイタンは、ニヤッと笑いそちらを見ると、ゴゴゴと音をたてながら、地中に明日香の入った棺がしまわれた。人質をとられたということを改めて認識させられ、一層きついものとなる。

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 城之内の手札にモンスターはいない。さあて、どうやって対応するか。

 

「ふっふっふ、ドローしたか。だが、私はインフェルノクインデーモンの効果を発動する。スタンバイフェイズ毎にデーモンと名のつくモンスターの攻撃力を1000ポイント上げることができる。私はインフェルノクインデーモンを対象にしてエンドフェイズまで1000ポイント上げる!!」

 

「なっ……1000ポイントもだと!?」

 

インフェルノクインデーモン ATK900→1900

 

 下級モンスターのなかでトップクラスの火力を誇る数値を持つデーモンに変貌したことに、城之内は驚く。

 

「くっ……俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

「打つ手なしか……私のターン、ドロー。私はインフェルノクインデーモンの効果を発動、1000ポイントアップする。そして私は手札から《ジェノサイドキングデーモン》を召喚」

 

インフェルノクインデーモン ATK900→1900

 

ジェノサイドキングデーモン 星4 ATK2000 悪魔族 炎属性

 

 キングにクイーン、何て組み合わせの悪い奴等だ。次のスタンバイフェイズを迎えたら、キングはクイーンの力を得て、3000という、城之内のよく知る龍とほぼ同等の力を持つことになる。

 

「ジェノサイドキングデーモンは、場にデーモンと名のつくモンスターがいないと召喚、反転召喚が出来ない。そして戦闘で破壊したモンスターの効果を無効にする効果がある。まあ、貴様に今モンスターはいないがな。ではバトルだ、インフェルノクインデーモンでダイレクトアタック!!」

 

 インフェルノクインデーモンが咆哮をあげてこちらへと迫ってくる。しかし、ただではやられない。

 

「攻撃宣言時にリバースカードオープン、速攻魔法《スケープ・ゴート》を発動!! 俺のフィールドに4体の羊トークンを出現させる!」

 

羊トークン DEF0

 

「やったぁ! これで攻撃は防げる!!」

 

 翔がガッツポーズで喜ぶ。

 

「そうなんだな。少なくとも次のターンまではどうにか凌げるんだな」

 

「ちっ……小賢しい真似を……だが、攻撃は続行できる。インフェルノクインデーモンで攻撃だ!!」

 

 タイタンは舌打ちするも、攻撃の巻き戻しでバトルが再開される。盾とはなってくれるがその力はあまりに脆く、すぐに潰されてしまった。

 

「さらに、ジェノサイドキングデーモンで攻撃!! 炸裂! 五臓六腑!!」

 

 いよいよ命令が下ると、キングの胸が破裂し、そこから蟲が沸いてきた。不気味な音を発しながら二体目の羊に迫り、食らいつくしてしまった。

 

「うげっ気持ち悪っ!! 羽蛾のモンスターみたいだな……」

 

「私は一枚伏せてターンエンドだ」

 

「くっ……俺のターン、ドロー!!」

 

「スタンバイフェイズに、インフェルノクインデーモンの効果により、ジェノサイドキングデーモンの攻撃力を1000ポイントアップする」

 

ジェノサイドキングデーモン ATK2000→3000

 

「攻撃力3000か……嫌な数値だな」

 

「ふっふっふ……元プロとだけあって、その数値の恐ろしさを理解していることだろう」

 

「まあな、俺の大嫌いな野郎のエースモンスターとそっくりだからよ。だから、全力でぶっ潰すぜ!」

 

 城之内は手札を確認する。攻撃力3000を突破する術はない。だが、間接的に断ち切ることはできる。

 とりあえず今のところは普通にデュエルできている。闇のデュエリストと言うのははったりかもしれない。それだったら嬉しいのだが。

 

「俺は、《リトル・ウィンガード》を召喚!!」

 

リトル・ウィンガード 星4 ATK1400 戦士族 風属性

 

 小さな羽の生えた、幼い戦士が現れる。こいつならとりあえずどうにかなる。

 

「バトルだ、リトル・ウィンガードで、インフェルノクインデーモンを攻撃!!」

 

 幼い戦士は小さな剣を突き出してインフェルノクインデーモンを貫いた。攻撃力が高くなるのは、クイーンのせい。ならばそれを潰してしまえばいい。

 

タイタン:LP4000→3500

 

「貴様の思惑など読めている。私は罠カード《リビングデッドの呼び声》を発動。効果により、先程破壊されたインフェルノクインデーモンを攻撃表示で特殊召喚」

 

「くそったれ……」

 

 これでは破壊した意味がない。再び攻撃力が1000あがり、面倒なことになる。一応トークンは2体存在するので守れなくはないけれど、厳しいものがある。

 

「俺は一枚伏せてターンエンドだ。エンドフェイズに発動、リトル・ウィンガードは守備表示になる」

 

リトル・ウィンガード DEF1800

 

「攻撃したあとに守備表示になるのはなかなか強いんだな」

 

 特徴的な口調で隼人が解説する。翔もそれに同意するように頷くが、十代は顔をしかめたままだった。

 

「でも隼人、この局面じゃまるで役に立たないぜ」

 

 十代の言葉がすべてを表していた。リトル・ウィンガードは攻撃したあと守備表示になるので、防御を固めることはできる。しかし、1800という数値は、この局面では頼りない。

 

「では私のターン、ドロー。スタンバイフェイズに、インフェルノクインデーモンの効果で、ジェノサイドキングデーモンの攻撃力を上昇させる」

 

ジェノサイドキングデーモン ATK2000→3000

 

「バトルだ、ジェノサイドキングデーモンでリトル・ウィンガードに攻撃だ!!」

 

 盾を構えて守る小さな剣士に無数の蟲が集る。あまりに小さすぎる盾では裁ききれず、そのまま食われてしまった。

 

「さらにインフェルノクインデーモンで羊トークンに攻撃だ」

 

 このままいけば、ダメージを食らうのも時間の問題だ。この辺で、食い止めておく必要がある。

 

「この瞬間、リバースカードオープン! 罠カード《マジックアーム・シールド》を発動!! 自分フィールドにモンスターが存在し、相手に二体以上存在する場合、攻撃モンスターとは別のモンスターのコントロールを得て、そのモンスター同士で戦闘させる! 俺が対象に選ぶのは、ジェノサイドキングデーモンだ!!」

 

 巨大な機械の手がジェノサイドキングデーモンへと迫り、掴みあげる。ダメージ計算が行われ、ライフが削られるのは城之内だが、攻撃力の高いモンスターを対象にとれば、反射ダメージとして相手ライフを削ることができる。それに厄介なインフェルノクインデーモンも再び墓地に落とすことができる。

 だが、その考えは通用しなかった。

 

「では私はマジックアーム・シールド効果にチェーンして発動。ジェノサイドキングデーモンが効果の対象になったとき、サイコロの目が2か5ならばその効果を無効にして破壊することができる」

 

 タイタンがそう説明すると、突然近くにあった溶岩らしきものから、6つの玉が現れる。それらはタイタンの手元に行き、円を作った。

 

「このデュエルでは、サイコロの代わりにルーレットを用いることにする。死のルーレットが今、回り出す」

 

 そういうと、早速ルーレットは回り始めた。炎が数字のかかれた玉を順番に飛び移る。どこに止まるのか。確率は3分の1、低い確率だが当たらない訳じゃない。

 火の玉はぐるぐると回り続けたが、ようやく動きを止めた。火の玉が選んだ数字は……2。つまり、当たりだ。

 

「ルーレットが示すのは2。つまりマジックアーム・シールドの効果は無効とし破壊する」

 

「なっ……!」

 

 機械の手は消滅してしまい、ジェノサイドキングデーモンは解放される。キングの異変に気づいて手が止まっていたクイーンだったが、何事もなかったようで安心し、羊トークンに飛びかかっていった。

 

「ふっふっふ……いくら貴様が罠で防ごうとも、破壊しようとも、デーモンたちによって阻まれてしまうのだ。つまり大人しくやられるしか、貴様に成せる術はないのだ」

 

 確かに、対象をとる効果を3分の1とはいえ無効にされてしまうのは厄介だ。しかも、仮に破壊できてもフィールド魔法の効果によって、新たなデーモンを手札に加えることが出来てしまう。地味にうざったい布陣だ。

 だが……それ以上に城之内はワクワクしていた。何故なら、相手はギャンブルを仕掛けてきたからだ。

 城之内は、ギャンブルデッカーとしても名を馳せていた。サイコロ系やコイントスを要求するカードを上手く使いこなし、勝利へと導いたことを知らないデュエリストは、存在しないくらいに有名だった。

 相手はギャンブルを挑んできたのだ、それに応えない理由はない。

 

「確かにお前の張った布陣は厄介だ。だけどな、それを破る術はあるんだぜ」

 

「何……? ハッタリは止すんだな。私はカードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「へっ、そう言っていろよ。俺のターン、ドロー! ーーー来たぜ、俺のエースモンスター!! 俺は《時の魔術師》を守備表示で召喚!」

 

時の魔術師 星1 DEF250 魔法使い族 光属性

 

 遊戯からもらった大事なカードを、ここで引けるのは有難い。さあ、力を見せてくれ、相棒。

 

「俺は時の魔術師の効果を発動!! 表か裏どちらかを宣言して、コイントスで同じ面が出た場合、相手モンスターを全て破壊し、外れた場合は自分のモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを俺が食らう。俺が宣言するのは、表だ!! いくぞ!!」

 

 城之内は手元にコインを握りしめ、ピンと親指で弾いた。くるくると回る一枚のコインの軌跡をじっと見つめる。さあ、確率は2分の1だ。

 ちゃりんと心地良い音が響くと共に、コインが地面へと落ちた。示した面はーーー表だった。

 

「よしっ、同じ面だ! よってお前のモンスターを全て破壊する!! タイム・マジック!!」

 

 時の魔術師の手から渦が飛び出してきて、タイタンのモンスターを全て吸い込み、時空の彼方へと送り込んでしまった。

 

「やった!! これで奴のフィールドはがら空きだ!!」

 

 翔が手を大きくあげて喜ぶが、隼人は顔をしかめている。

 

「だけど、あいつのフィールド魔法の効果が発動するんだな……」

 

「そこのコアラ君の言う通りだ。私は破壊されたデーモンのレベル未満のモンスターを手札に加える。私が加えるのは、《トリック・デーモン》と、《デスルークデーモン》の二体だ」

 

「何でも加えろよ。さらに俺は魔法カード《クイズ》を発動だ! 俺の墓地にいるモンスターを当ててみろ。当てられたらそいつは除外、外れたら俺のフィールドに特殊召喚できるぜ!」

 

「良いだろう……」

 

 タイタンは考えた。確か最初に奴の墓地に送られたのは《リトル・ウィンガード》だ。ならば、このモンスターしかーーー。

 いや、待て。待つのだ。その前にタイタンは他のモンスターも送っている。それは羊トークンだ。奴は先にスケープ・ゴートを発動し、攻撃を凌いだではないか。そうとなれば、決まりだ。

 

「貴様が最初に墓地に落としたのは、《羊トークン》だ! これでどうだ!!」

 

「おいおい、お前知らなかったのか? トークンは墓地にはいかないし、モンスター名としては扱わないんだ。よって、トークンじゃだめだ」

 

「そ、そうだったのか……ならば、《リトル・ウィンガード》だ!!」

 

 羊トークンでなければリトル・ウィンガードで決まりだ。だが……そうはさせてくれなかった。

 

「そいつはどうかな? リトル・ウィンガード何てモンスター、俺のデッキにいたかな? もしかしてお前、リトル・ヴァンガードじゃねえの? なんかネーミング聞き覚えあるだろ?」

 

「ん……そうかもしれん……ならば私はリトル・ヴァンガードとする」

 

「ーーー外れだよバーカ」

 

「な、なに!?」

 

 タイタンは驚愕した。なぜ新たにモンスターが特殊召喚されているのか。しかも、最初に予想した、《リトル・ウィンガード》だ。クイズに正解すれば、モンスターが増えることはないはずだ。

 

「まさかこんな簡単に騙されるとは思っていなかったな。俺が最初に墓地に落としたのは《リトル・ウィンガード》だ。リトル・ヴァンガードなんていないさ。よって、攻撃表示で特殊召喚だ!!」

 

「き、貴様ぁ!! 騙したなぁ!?」

 

「騙される方が悪いのさ。第一、少し考えればわかるだろ? リトル・ウィンガードなんて有名じゃん」

 

「有名なわけあるか!! 私は初めて知ったぞ!!」

 

 

「俺に使った揺さぶりテクニックがまたも炸裂した!!」

 

「でもあんな簡単に騙されるものかな……まあモンスターはマイナーだけどさ」

 

 

「くっ……だが雑魚がいくらわいてこようと、私のライフを全て削ることはできぬ!」

 

「まあな、でも攻撃はさせてもらうぜ。リトル・ウィンガードでダイレクトアタックだ!!」

 

 再び現れた小さな剣士が飛びかかっていく。とはいえ、1400というなかなか大きなダメージを食うのは辛いはずだ。

 だがーーーその攻撃は阻まれた。

 

「私は攻撃宣言時に罠カードを発動する! 《魔法の筒》!! 相手の攻撃を無効にして、その攻撃力分のダメージを与える」

 

「しまったっ……!!」

 

 罠を警戒するのを忘れていた。魔法の筒は攻撃を無効にするばかりか、それを跳ね返してしまうという強力な罠カード。半端ではないダメージが城之内へと反ってくることになる。

 タイタンの目の前に大きな筒が二つ現れる。そのうちのひとつにリトル・ウィンガードが吸い込まれ、もうひとつの筒から勢いよくリトル・ウィンガードが飛ばされた。あまりに素早いので躱すこともままならず、そのまま直撃してしまった。

 

「ぐわっ……!!」

 

城之内:LP4000→2600

 

 手痛いダメージだ。だが、まだ勝負はこれからだ。ぎりっと歯軋りしながらタイタンを見つめるも。

 

「ふっ……」

 

 タイタンは笑っていた。魔法の筒で迎撃でき、ライフポイントで逆転できたことの笑みではなく、もっとそれ以上の意味を持つそれだった。

 

「ーーー!?」

 

 タイタンが取り出して見せたものは、逆三角錐の形をした何かだった。黄金に光る表面には、奇妙な目の形をした何かが彫られてあった。あれは、親友の宝物だったものにそっくりだった。名前は千年パズル。戦いの儀の後に封印された、千年アイテムのひとつだ。だが、何故今この男の手に……?

 タイタンはそんな城之内の疑惑を払うかのように、さらに口端を歪ませてると……突然それが光り始めた。全方位に放たれる黄金のそれはこの場の全員の目を射る。

 

「なんなんだこの光は……!」

 

「ふっふっふ……これが闇のゲームだ。見ろ、貴様の体を。ライフポイントが減るに従い、貴様の体は消滅していく」

 

 タイタンに言われるがままに体を見る。するとーーー体が切れ始めていた。腕の一部や胸、足などが所々なくなっている。

 

「本当に、闇のゲームなのか……!?」

 

「その通りだ。それにこの立ち込めてきた黒い霧、重く苦しい黒い霧……。どうだ、息苦しいだろう?」

 

 確かに黒い霧が辺りを包んでいる。どこか息がし辛い。ついでに足も動かない。やはりこれは、闇のゲームなのか……? 

 

「その千年パズルを、何処で手に入れてきたんだ……」

 

「ふん、エジプトでだ。発掘して手に入れたのだよ」

 

「……」

 

 確かにエジプトにある。これでは、真偽はつかめない。デュエルをしていればわかるはずだ。今は、耐え抜くんだ。

 

「俺はこれでターンエンドだ。エンドフェイズに、リトル・ウィンガードを守備表示に変更する」

 

「ふん、まだ闇のゲームの中で立っていられるのか。私のターン、ドロー。私は手札から、《手札断殺》を発動する。お互いのプレイヤーは、手札を二枚捨て、そして二枚ドローできる。私が捨てたのはトリック・デーモンと血の刻印」

 

「俺が捨てたのは、墓荒らしと拘束解除だ。そして新たに二枚ドローするぜ」

 

 城之内が手札に加えたカードは……レッドアイズだった。

 

(レッドアイズ……だが、今この状況では何の役にも立たない。もう一枚は心変わりか。強いカードだが、次の俺のターンにならないと使えない……)

 

「ふふふ……私は墓地に捨てた《トリック・デーモン》の効果を発動。効果で墓地に送られたとき、デッキからデーモンと名のつくモンスターを手札に加える。私が加えるのは、《デーモンの召喚》だ。さらに新たに加わったカード《二重召喚》を発動する。私は二回召喚できるわけだ。まずは、インフェルノクインデーモンを召喚。そしてインフェルノクインデーモンを生け贄にしてーーー現れろ、デーモンの召喚!!」

 

デーモンの召喚 星6 ATK2500 悪魔族 闇属性

 

 ジェノサイドキングデーモンよりもさらに大きなデーモンが出現する。遊戯がかつて使用していた上級モンスターだ。攻撃力なら最上級のブラック・マジシャンと同等で、扱いやすいのはこちらだ。

 

「悪魔族の中じゃトップクラスの攻撃力を持つモンスターだ……」

 

「攻撃は防げるけど、それでもピンチなんだな……」

 

「バトルだ、デーモンの召喚で時の魔術師を攻撃だ」

 

 牙の生えた口から気味悪い光線が飛び出し、時の魔術師を粉砕する。再び全体除去を使われるのを恐れたのだろう。

 

「さらに私はカードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー! ……ターンエンドだ」

 

 俺が手札に加えたのはフィッシャーマンだ。しかし、どちらにしても二体のモンスターに破壊されてしまう今、生け贄召喚する意味はない。

 

「ふふ、そうやって防御を固めている以外にやることがないか。私のターン、ドロー。まず、私はジェノサイドキングデーモンを召喚する」

 

ジェノサイドキングデーモン ATK2000

 

「たった二体では壁を破れると思うなよ?」

 

 城之内はそう挑発するが、タイタンは憎たらしそうに再び笑う。

 

「それはどうかな?ーーー貴様の防御も、このカードの前では無力だぞ」

 

 タイタンはふっと笑うと、カードをこちらに見せた。カード名は、《閃光の双剣ートライス》。

 

「ーーーまさか!!」

 

「そう、このカードの前では、貴様の壁を全て打ち破り、貴様にダメージを与えることができる。手札を一枚捨てて、デーモンの召喚に装備する」

 

 

「アニキ、あのカードはどういう効果があるんすか?」

 

「あれは装備魔法だ。手札を一枚捨てて500ポイント下げる代わりに二回攻撃ができる代物さ」

 

「攻撃力は2000になるけど、その代わりにデーモンの召喚で先生にダイレクトアタックが仕掛けられるんだな。これは不味いんだな……」

 

デーモンの召喚 ATK2500→2000

 

「バトルだ!! ジェノサイドキングデーモンで壁を粉砕しろ!」

 

 闇の力に染まったデーモンの王が、羊トークンを粉砕する。

 

「続いて、デーモンの召喚で二回攻撃!! まず、リトル・ウィンガードを倒せ!!」

 

 デーモンの召喚には似合わない、光り輝く剣に力を下げられようとも、元からある高い攻撃力に身を任せて、小さな剣士を切り裂いた。

 

「そしてもう一撃だ、デーモンの召喚、ダイレクトアタックだ!!」

 

 流れるようなステップで城之内へと迫り、そのまま目にも止まらぬスピードで切りつけた。

 

「がぁぁっ……!!」

 

 痛みはあまり無い。だが、体が動かなくなり、どんどん消え始めていく。

 

城之内:LP2600→600

 

「私はこれで、ターンエンドだ」

 

 手痛いダメージを食らってしまった。おまけに壁も失ってしまった。次に何とかしないと、城之内の敗けだ。そうなれば十代は封印され、明日香も助けられない。

 闇のデュエルはやはり実在していた。奴は本当に闇のデュエルの使い手だ。だとしたら、勝ち目はない。何で、こんな目に遭わなくちゃいけないんだ。俺はただ、教師になってデュエル以上に大切なものを教えたかっただけだ。静香を幸せにしたかっただけだ。それがどうして、闇のデュエルをすることになってしまったんだ。どうやって千年パズルを手に入れたかは知らないが、いつのまにかこいつは闇のデュエリストになっていたんだ。

 やばい、意識が霞んできた。立ち上がれない。体もほとんど消えかかっている。あれ……真っ暗になって……。

 

 デュエルフィールドにて、一人のデュエリストが倒れたのを、場の人間たちは目撃し、叫び声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なるたけ早く更新します。

心変わりは、リアルではその頃は禁止ではなかったはずなので採用しました。あれ今の時代で解き放たれたら確実に遊戯王終わりますね。


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第八話:ウジャト眼に浮かび上がる真実

5000字しかないです。


「ん……ここはどこだ……?」

 

 目が覚めると、そこは全く見たことの無い場所だった。ゆらゆらと揺れ動く闇が漂い、地面が見えない。しかしきちんと落ちずに姿勢を保っている。まさか死んだのではないのか? とりあえず立ち上がる。しかし、なにも見えない。闇の中にいるから、見えるものが見えない。

 どうすればもとの世界に戻れるのだろうか。頭を掻きながら考える。しかし、なにも浮かばない。

 

 グルルル……。

 

「ーーー何だ?」

 

 何かの呻き声が響く。そちらを振り向いてみるけれど、闇ゆえに何も見えない。

 

「…………?」

 

 気のせいか、そう思って座り込もうとした。

 

 

 

 グルゥウウウァァアアア……!

 

「なんなんだ……!?」

 

 直感で、声の聞こえた方に走ってみる。何かが俺を呼んでいるように思える。だから走ったまでだ。とにかく闇雲に走って走って走ると、ドンとなにかにぶつかった。

 

「って……なんだなんだ……?」

 

 今確かに何かにぶつかった。しかも、かなり固いものに。試しに手を伸ばしてみると、そこには確かに存在していた。しかも、ざらざらとした手触りだ。もしかしてこれは何かの生き物か。

 

 そう感じ取った瞬間……光が現れた。

 

「っ……」

 

 思わず腕で庇う。目が慣れてゆき、凝らしてみると……それは炎だった。全てを焦がすほどの熱そうな炎。それが上へと放たれてゆき、世界を照らす。照らされて、見えたものには……タイタンがいた。

 

「あいつ……」

 

 ここは、闇に隔離された世界ということか。ならばここから這い出なくてはならない。

 

「なあ、どうしたらここから出られるんだ?」

 

 何やっているんだ、俺。人間かどうかもわからないような何かに、聞いてどうするんだ。頭を押さえて、炎を見続ける。すると……そこに新たな景色が映った。

 

「あれは……俺の手札だ」

 

 俺が握りしめている手札には《レッドアイズ》、《心変わり》が見える。こんなカードで、どうしようというんだ……。

 

ーーー待てよ……レッドアイズがいるだろ……。

 

 俺は、闇の中にいる謎の何かを見つめる。ある憶測を胸の中に秘めて、俺は呟く。

 

「なあ、確か誰かがいってたよな……。青き龍は勝利をもたらす。しかし赤き龍は勝利にあらず、その可能性なり。戦う勇気があるものだけに」

 

 グルル……。

 

 頷いたように、何かは唸る。

 

「お前は、知っているのか? 可能性があることを、俺の竜に秘められた可能性を……」

 

 グルゥ……!!

 

「そっか……分かった。お前が信じるなら……俺もお前を信じる。戦うよ、俺は」

 

 俺は上を見上げた。照らす炎はもう消えてしまったけれどーーーいずれ灯る。

 

 グルウウウウウウウウウウァァァアアアアアアアアアアッッッーーー!!!!

 

 激しい咆哮と共に何かは飛び上がる。体は赤く燃え始め、闇を焦がす。すると、何も見えない世界が赤い光と熱に包まれ、俺を上に運んでくれる。それはまるで突き上げるマグマのようで、どんな深い闇すらも振り払えるほどの光でーーー

 

 紅き目をした黒き竜は、天高く飛翔しーーー世界を炎に染めた。

 

 

 

 

 目が覚めると、城之内は地べたに這いつくばっていた。先程まで体を支配していた倦怠感や拘束感はきれいさっぱり消えていた。あれはなんだ、夢だったのか。俺を蘇らせてくれた、黒き竜は、偽物だったのか。

 いや、そんなのはどうでもいい。黒き竜は俺を信じてくれたのだ……ならばそれに答えなくては。

 

「ほう……まだ立ち上がれるか……だが、貴様の命も風前の灯だ」

 

「先生! もう無理しないでくれ!!」

 

 生徒たちの叫びと、タイタンの憎たらしい笑みが城之内へと届く。だが、城之内はあえてそれには応えず、石を拾い上げた。

 

「……?」

 

 意味のわからない行動に全員が訝しげに城之内を見る。城之内はポンポンと石を弄びながら、口を開いた。

 

「なあ闇のデュエリストさんよ。あんたは、その千年パズル、何処で手に入れたっけか?」

 

「つまらん質問だ。エジプトだといっているだろうが」

 

 タイタンは不機嫌そうに答える。確かに正しい。なら、この質問には答えられるか。

 

「なら、どうやって手に入れた? エジプトの遺跡の中に飾られていたのか?」

 

「何故そんなことを聞く……?」

 

 タイタンが怒りの色を込めた声音で城之内に言う。だが、城之内は悪びれもないように手を広げて返す。

 

「いや、俺はどうやって手に入れたか知りたいだけさ。あんたが闇のデュエリストだったら、簡単に答えられるだろう?」

 

「っ……ならば教えてやる。エジプトのとある遺跡の中央に飾られていて、そこから持ってきたのだ!!」

 

 なるほど、全てが分かった。そう、この闇のゲームの全てが……。

 それに気づいた瞬間、石を投げた。千年パズルに。千年パズルの目は砕け、光を発せなくなった。

 

「なっ……貴様!! これがどういうものかわかっているのか!!」

 

「ああ分かっているさ。千年パズルに似た、ただの紛い物だってことをな」

 

「何ぃ……!?」

 

「えっ……!?」

 

 生徒とタイタンが驚愕の声をあげる。城之内は解説してやるつもりで得意気に笑いながら語る。

 

「タイタン、あんたは間違いを犯している。千年パズルは遺跡の中央なんかにはない。もうすでに、埋もれちまったんだよ……戦いの儀でな」

 

「なっ……戦いの儀だと……!?」

 

 それも初耳だったか。やはりこいつは闇のデュエリストなんかじゃなかった。今まで考えて損していた。

 

「そうさ、戦いの儀の後に、千年パズルは遺跡に封印された。もう崩れちまっていて今は誰も近づけない。戦いの儀というのはな、デュエルキング武藤遊戯と、もう一人の人格のアテムが必死のデュエルを繰り広げた戦いのことだ。そんなんも知らないでよく千年パズルの所有者だと言えたな」

 

「くっ……くそ!!」

 

 タイタンはぎりっと歯軋りをすると、千年パズルを落とし、城之内をにらむ。

 

「さっきまでの体が消える現象だって、息苦しい霧だって、全て偽物だ。きっと体が動けなかったのも、催眠術とかそういう類いのものだったんだろうぜ。認めろ、この偽物が!!」

 

「己ぇ……!!」

 

 体をわなわなと震わせて、悔しそうに唸る。そんな紛い物に振り回されたこちらも辛いのだが。

 

「闇のゲームは解けたな……」

 

「そうなんだな、でも……デュエルの状況は不利なんだな」

 

 隼人は厳しい表情で場を見る。城之内のフィールドにはなにもない。しかし、タイタンには二体のモンスターが並んでいる。このままダイレクトアタックを喰らえば、敗けは確定する。

 

「そうだ……小僧の言う通り、デュエルで貴様は負けそうになっているではないか。何ならもうデュエルする意味はない。どうする、やめるか?」

 

 普通に考えたら止めるべきだろう。闇のデュエルではないとはいえ、負けてしまうのは不味い。だが……城之内にはサレンダーという行為をもっとも好まないデュエリストであった。

 

「冗談じゃねえよ。せっかく勝てるチャンスだってのに手放すバカがいるかよ」

 

「勝てる……だとぉ? 何をバカなことを言っているんだ……?」

 

「勝てるさ……俺にあのカードがくれば、な」

 

 勝てると豪語した城之内に、生徒たちは動向を見守るしか術がなかった。城之内は、カードに手をかける。

 

(このドローで……全てをかける。頼む相棒……俺に力を貸してくれ。紅き竜に勝利を掴ませてくれ……俺のターンーーー)

 

「ドローッッ!!!!」

 

 カードが勢いよく引かれる。その軌道に沿って炎が舞い上がるかのように、熱く激しい挙動は、タイタンを始め全ての決闘者の目を惹いた。灼熱に焦がれたカードが徐々に姿を表す。そのカードは、勝利の炎を巻き起こすものか、はたまた絶望の闇へと突き落とすものか。

 果たしてそれは…前者だった。城之内が求む、ただひとつのカードだった。

 

「さあて、ここからが本領発揮だ。といっても、たった3枚のカードで決着がついちゃうんだけどな」

 

「はったりをかますとはな……呆れたものだ」

 

「はったりなんかじゃないことを見せてやるよ! 俺は手札から魔法カード《心変わり》を発動! 相手モンスター一体のコントロールを奪うことができる!! 俺が奪うのは、デーモンの召喚だ」

 

 デーモンの召喚の中に心が映し出され、光と闇が拮抗しあったが、闇に支配されて城之内のフィールドにふらふらと行ってしまった。

 

「コントロールを得て、どうするというのだ?」

 

「まあ慌てるなよ。これからすげぇところ見せてやるからさ」

 

 城之内は不敵に笑うと、手札からあるカードを見せた。それは、デュエリストならば誰でも知っているカードだった。

 

「そ、それは……融合だと!?」

 

「そうだ。お前にいいことを教えてやる。青き龍は勝利をもたらす。しかし、紅き竜はそれに非ずーーーその可能性なり」

 

 城之内は、手札の融合でデーモンの召喚を巻き込む。デーモンの召喚が血肉と化し、新たな魔物を創造する。そのパートナーとなるのは当然、紅き竜。城之内の生涯の相棒の1人が今、手札から可能性の具現へと吸い込まれていくーーー。

 

 

 

 

「現れろ、《悪魔竜ーブラック・デーモンズ・ドラゴン》!!」

 

 

 

 渦から這い出てきたのは、巨大な黒竜だった。強靭な手足、邪悪に染まった瞳、触れたら傷を負うこと必至の黒き翼、そして……万物もを喰らい尽くすほどの大きくて頑丈な口から噴き出す、怒りの感情に染まった灼熱のどす黒い焔。

 

「これが、レッドアイズの進化系……」

 

「俺とのデュエルでは見せることはなかったモンスターだ……」

 

「すごく……かっこいいんだな……」

 

 誰にも見せたことの無い、究極の竜の姿にタイタンや十代たちはもちろん、召喚した俺ですら震えていた。融合デッキについ最近入れたものだが、デッキに《デーモンの召喚》を入れたことがないため、使う機会はないと思っていたのだが……ここで始めてお披露目になった。

 

悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン 星9 ATK3200 ドラゴン族 闇属性

 

「私の……デーモンの召喚が……」

 

 タイタンは後ずさりする。灼熱の焔が今にも奴を焦がしそうだ。後はもう、ここで終わらせよう。

 

「バトルだ、悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンで、ジェノサイドキングデーモンを攻撃だ!! 黒炎悪魔弾!!」

 

 攻撃の命令が出たならば、後は焼き尽くすだけだ。ブラック・デーモンズ・ドラゴンの強靭な顎が開かれ、そこから闇と焔が混ざりあった球体が、勢いよく発射された。王のデーモンも、太刀打ちできるはずもなく大爆発を受け、熱によって焦がされてしまった。 

 

タイタン:LP3500→2300

 

「ぬぅぅぅぅ……!!」

 

 タイタンはぎろっとブラック・デーモンズ・ドラゴンを睨む。攻撃はここで終了し、次はタイタンのターンだ。3200という攻撃力さえ、何とかすればこちらの勝ちーーー。

 

「何余計なこと考えてんだよ。俺のバトルフェイズは、終わっちゃいないぜ。ブラック・デーモンズ・ドラゴンが戦闘を終えた瞬間に効果を発動するぜ!! 俺は、墓地にあるレッドアイズと名のつくカードをデッキに戻し、その攻撃力分のダメージをお前に与える。俺が戻すのは、真紅眼の黒竜。すなわち……お前には2400のダメージを受けてもらう!!」

 

「な、何ぃ!?」

 

「喰らえっ、黒炎弾ーーー!!」

 

 再び追加の炎の弾が口から放たれ、タイタンへと直撃した。すさまじい爆発と共に、フィールドが熱に覆われてゆき、その中でタイタンは炎に閉じ込められていた。

 

「ぐああああああっっ!!!!」

 

タイタン:LP2300→0

 

 タイタンは膝をつき、万魔殿も消滅して、デュエルは終結した。

 

 

 

 

***

 

 

「約束通り、明日香を離してもらうぜ」

 

「……いいだろう。そこの棺を開けておいた。では失礼する」

 

「もうレアカードとか取ろうとするなよ」

 

「きちんと返しておくさ」

 

 タイタンは去ろうとくるっと踵を返す。これで万事解決だ。後は、生徒をつれて帰るだけだ。

 生徒に向き直り、さあ帰ろうと告げようとした……その時だった。

 

「…………!!」

 

 突然壁が光り始めた。やがてそれはドミノのように連続して光始めーーー光が中央に集まった。そして奇妙な眼(名前はウジャト眼)が地面に映し出された。その後ーーー黒いエネルギーが空間を穿つように現れていきーーー。

 

「っ……不味い、逃げろ!!」

 

 城之内は生徒たちのもとへかけより、エネルギー源から離れる。あれは、自分の夢の中で出てきた闇の空間にそっくりだ。なんにも見えやしない、絶望の闇に。あれに飲まれたら最後だ。

 

「お前も逃げろ、タイタン!!」

 

 タイタンも慌てて逃げようとするが、間抜けにもこけてしまった。それでもどうにか逃げようと試みるが、エネルギーの膨れ上がる速度はとても速く、飲まれてしまった。

 

「ぐわあああああああああああああああっっっーーーー!!!!」

 

 断末魔をあげて闇に吸われていく、自称闇のデュエリストは城之内へと手を伸ばすも、届くことはなく、違う世界へと消えていってしまった。

 ばちばちと電気が飛び交い、消える際に衝撃波が襲いかかってきた。ドンという爆音が轟き、地面を揺らす。空間を穿った闇は消え去ったが……1人の人間が犠牲になってしまった。

 

「一体……あれはなんだったんだ……」

 

 十代がポツリと呟く。他の二人もポカンとしている。

 あれはきっと、罰ゲームだ。千年パズルが偽物でも、ウジャト眼が判断したのだろう。罰ゲームを下すべきものだと判断したのだろう。

 だとすれば、これは闇のゲームだ。闇のゲームは、千年パズルが消滅した今でも、存在しているのだ。

 

 

 結局、明日香の兄を探すのは時間がないので諦めることにし、明日香を起こしてそれぞれの寮へと皆帰っていった。城之内は、今日あったことを忘れようと、ベッドにさっさと潜った。

 




悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンは原作はおろかアニメですら登場してませんが、登場させてみました。レッドアイズだからいいよね?



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第九話:新たな試練

今回から数話は原作における、十代と翔のタッグデュエルの場面です。まあ大幅に変更されますがね。


 幽霊寮に入った翌日、城之内はクロノスに叱られた。幽霊寮へ入るのは立派な校則違反、怒られるのは仕方の無いことだった。中でも首謀者の遊戯十代とその弟分、丸藤翔は何かしらの処分を受けると聞いた。

 そして城之内はというと……。

 

「貴様は、社会人としての常識を守れぬようだな。さすがは凡骨、いや、馬の骨だな」

 

「……うるせぇな」

 

「貴様! 瀬人様に向かってその口は何だ!?」

 

「よせ礒野。そいつは藻屑だ、何をいっても無駄なことよ」

 

 城之内は、童実野町にある海馬コーポレーション本社の社長室に呼び出されていた。校則違反だからといってそこまでするかと言いたかったが、オーナーである海馬直々の呼び出しとあればいかないわけにはいかない。しかし、一番大嫌いな海馬に会わされるほど辛いものはなかった。

 海馬は社長室の椅子に座りながら、城之内に挑戦的な視線を投げ掛ける。それを見ただけでぶん殴りたくなるが、自重する。代わりに、嫌みたっぷりな口調で話しかけた。

 

「んで、何で俺を呼び出したんだ?」

 

「おい貴様……!」

 

 海馬の忠実な部下、磯野が城之内の肩を掴むが、海馬が手で制す。するとすすっとすぐに引き下がった。

 

「よせと言うのがわからんか礒野。この馬の骨には敬語が使えるほどの脳がない上に、使われても却って吐き気がするだけだ。ーーー貴様を呼び出したのは他でもない、此度の校則違反についてだ。幽霊寮への侵入は、教師であっても許される行為ではない。そこでだ、貴様を解雇する」

 

「か、解雇だと!?」

 

 確かに違反はした。しかし、解雇は辛い。再び職無しのニートになるのはごめんだ。静香を折角幸せにしてやれると思ったのに……。

 目の前が真っ暗になる。教師人生も、短かったな。

 と、思ったのだが。

 海馬がにやっと笑いながら続ける。

 

「だが、それでは面白くない上に、突然プロのデュエリストを解雇したとなればわが社の評判も悪くなる。そこでだ、貴様にチャンスを与えよう」

 

「ちゃ、チャンスだと? 何をすればいいんだ?」

 

 ほんのわずかに開いた希望の光に食いつくように聞いた。

 

「簡単だ。貴様にはタッグデュエルを行ってもらう。同じく幽霊寮に入ったオシリスレッドの生徒二人とデュエルを行い、見事なデュエルを見せたら放免してやる」

 

「何だ、それだけか」

 

 成る程、タッグデュエルを行って、全力でやれば放免か。相手は適当に決めればすむ話だ。そう思っていたが……海馬が次に話す言葉は城之内を困惑させた。

 

「その生徒たちは勝たねば退学になってしまうがな」

 

「えっ!? 因みに誰なんだ、その生徒たちは……」

 

 城之内が尋ねると海馬はくるっと背を向けて答えた。

 

「遊戯十代と丸藤翔の二人だ。この二人が主犯だと判断されたのでな」

 

「なっ……ちょっと待てよ! 遊戯十代はともかくとして丸藤翔は実力が低い!! 俺と他のやつと組んだとしても負けちまうだろ!?」

 

 遊戯十代単独ならば、そこらのプロに引けを取らない実力を発揮してくれるだろう。だが、その弟分はそこまで実力が高い訳じゃない。城之内と授業でデュエルしたが、特別強いわけではなかった。遊戯十代のパートナーとしては、不適切だ。

 

「せめて、天上院明日香とかの方がいいんじゃねえのか……?」

 

「知らん、そんなことは俺の管轄外だ。そもそも査問委員会で決まったことだ、この俺も覆す気にはなれん」

 

「査問委員会……? 何だそりゃ?」

 

「学校内でなにかトラブルが起こった際、それを解決する組織のことだ。今回の件も査問委員会が手を回してこのデュエルを行うことにした」

 

 成る程な。つまり、どうでもいいのと組んで全力でやって負ければちゃんちゃんと言うわけだ。とりあえず余計なことを言われる前に、帰ってしまおうと、踵を返す。

 

「成る程な。ーーーだったら話を呑むぜ。じゃあな海馬」

 

 城之内はさっさとその要求を飲んで去った。取り合えず本田辺りと組めば、彼らが負けることはないし、城之内もきっと放免だ。ここで面倒な条件でもつけられたら最悪だ、さっさと帰って本田に伝えようかと思ったが。

 

「待て凡骨。最後にひとつ言い忘れたことがある」

 

「何だよ」

 

「貴様のパートナーのことだが、俺が認めるものでなければ許さん。どうせ貴様はデュエリストではないもの、もしくは貴様以下の素人とでも組もうとしているのだろうが、そんなことはお見通しだ。最低でも、プロデュエリストだ。貴様は一週間の謹慎と言う形で、タッグを組む期間を与えてやる。もし組めなければ貴様は解雇だ、いいな?」

 

「なっ、そんなのふざけてるだろ!!」

 

 まあ読まれてるよなとも思いつつ大声で叫ぶ。だが、そんなもの海馬に通用するはずもなく、平坦に返されてしまった。

 

「貴様は今この俺に試されているのだ。パートナーくらい無事に探せ。貴様がパートナーを決めたその瞬間にデュエルアカデミアに報告し、タッグデュエルを開催する。分かったらさっさとここを出ていけ、雑魚を愛する地に落ちた凡骨」

 

 

 

「くっそ……海馬のやつ、ふざけやがって……あいつらを止めさせたいのか……」

 

 海馬コーポレーションを出たあと、壁を蹴って鬱憤を晴らす。けれど全て晴れたわけではなく、イライラは一層募る。海馬がオーナーとなるのはやはり辛い。海馬のいうことをへーこら聞かなくてはならないからだ。しかもあそこまで自分勝手なやつだ、正直参ってしまう。

 さっきの話を要約すると、つまり十代と翔がタッグを組んで城之内とパートナーに挑んでくるのだが、パートナーは最低でもプロデュエリスト、しかも海馬の認めた奴でなければならない。見つけられなければ城之内は解雇、十代たちに勝ってしまったら彼らは退学してしまう。つまり最善の道としては、一週間以内にプロだけど弱い人間を見つけてどうにか勝たせればいいのだ。

 あとは遊戯十代のプレイングを邪魔しないことだ。あいつは相当強い。だから、彼の手を邪魔せずに戦っていけばきっと負けることができる。それは戦っている最中に配慮すればいいことだ。

 

「さぁて……問題は誰をパートナーするかだな」

 

 城之内は知り合いの名前を順番に思い出していく。そこからデュエリストというふるいをかけてみる。

 

(まず、遊戯はダメだ。あいつと組めば間違いなく勝ってしまう。海馬は死んでも手を借りる気はない。羽蛾の野郎は弱いからいいけど、戦績も悪いから海馬から認めてくれるはずもない。それに個人的に嫌だ。ダイナソー竜崎も同じだろうな……。キースももうダメだし……となれば誰が……)

 

 城之内のデュエル友人はとことん切り捨てられいく。ちょうどいい人材がいないのは、城之内のポリシーのせいかもしれない。自分よりも上の実力を持っている人間としか戦わないという、見上げた精神のせいだろう。そのせいで、自分が越してしまった男や、未だに高みに存在する奴しか存在しないのだ。

 もう少し考えてみる。他にも友達はいるはずだ。ええと……ええっと……!!

 

「あ、そうだ!! 獏良だ!! あいつならバトルシティにも出ていたし、海馬も認めてくれるはずだ!! 電話番号は残っているかな……っとあったあった。早速かけてみるか」

 

 ポケットから携帯を取り出して、電話を掛ける。するとすぐに繋がった。

 

「はいもしもし、獏良です」

 

「おっ、獏良か。城之内だけど」

 

「えっ、城之内くん!? はは、スッゴい久しぶりだね……」

 

「まあな、最後にあったのは……卒業式だったな」

 

「違うよ、遊戯くんのデュエルの全国大会の決勝だよ」

 

「そうだったっけ? まあなんにせよ、久しぶりだな」

 

 獏良了。俺の大切な親友の一人だ。かつて千年アイテムの一つ、千年リングに宿る闇の人格に囚われて苦労した人間だが、今は普通の優しい男性として生活をしているようだ。獏良の声も、かつてよりも落ち着いた声になっていて、いい男になったなと感じさせる。デュエルの腕もなかなかで、プロには入っていないとはいえ、バトルシティにも出場していたから海馬も認めないはずがない。

 

「で、何の様なの城之内くん?」

 

「ああ、いや実はさ、頼みがあんだけどよ」

 

「頼みかい?」

 

「うん、実はさ……」

 

 城之内は事情を全て獏良に話した。あいつは真剣に聞いてくれた。時々質問を挟んだりしながらも、全てのことを理解してくれた。

 

「成る程ね……そういうことなのか」

 

「ああ、遊戯とかでもいいんだけどよ、あいつと組んだらそれこそ生徒が退学になっちまう。でもお前なら、変な言い方だけど、俺と同じくらいだから少し手加減してやればきっと勝たせることができると思ったんだ。それで、やってくれるか?」

 

 城之内は返事を待つ。だが、獏良は申し訳なさそうに声をあげた。

 

「うーん……力になってあげたいんだけど、ごめん。無理なんだ」

 

「そりゃどうして?」

 

 理由を聞くと、声のトーンを暗くさせて答えた。まるで城之内に、謝罪するかのように。

 

「僕、デュエルモンスターズ辞めたんだよ」

 

「えっ!? どうしてだよ!?」

 

「確かに楽しいよ。遊戯くんや城之内くんとデュエルするのはとっても楽しかった。でも……社会に出てそれが必要になるとは、思えなかった。城之内くんや遊戯くんなら、社会でもデュエルが通用する職業につけたと思うし、城之内くんは立派に先生をしている。でも僕は違う。僕は、あの闇の人格でデュエルをしていたから、実際に僕は強くない。それに、プロで生き残れるとは思えなかった。だから僕は、必死に勉強して政界に入ったんだ」

 

「えっ、お前今何しているんだ……?」

 

「国会議員だよ。毎日が大変さ」

 

 国会議員、か。いつの間に大きくなりやがって。デュエルモンスターズという呪縛を解いて大きな存在になった。そういえば、獏良は高校三年の時、遊戯たちと遊ぶことなくずっと勉強していた。そして有名な大学に入って、城之内の知らない道へと旅立っていったのだ。デュエルモンスターズで腐っていった、自分とは違う。最もそれに今は救われているという状況なのだが。

 

「……だから、城之内くんには悪いと思っている。デッキももう全部売り捌いちゃったし」

 

「そっか……まあそうだよな。いつまでも、カードやってても駄目だよな。お前は正しいことしてるよ。心から、そう思う」

 

 以前なら、卑屈になって獏良の栄光なる地位を否定していたのだろうけど、今は素直に喜べる。余裕ができたのか、それとも……物事が良く、見えるようになっていったからか。

 

「城之内くんらしくないね。てっきり怒るのかと思っていたんだけど」

 

「誰が怒るかよ。立派な職に就けたんだ、カードゲームなんかよりそっちの方が立派だぜ」

 

「まあ、今ではカードゲームだけでも食べていける時代だけどね」

 

「まあな。でも、俺はわかったんだよ。カードゲームは、そこまで楽なものじゃない」

 

「……どういうこと?」

 

 場合によっては、全てのデュエリストを否定する言葉なんだが、そのまま続ける。

 

「カードゲームで飯を食っていけるって今いったけど、それにはプロにならなきゃいけない。でも、それになれるのはほんの一握りだ。しかもそれを目指す奴等は他の何かを持っていない。そんな奴等が待つ未来はなんだと思うか? 破滅さ。そんな世界に、盲目的に没頭なんかしても意味なんかないのさ。だから、獏良は成功してーーー俺は失敗した。結局こうしてどうにか首の皮を繋いでいる状況だ。今だって、解雇されそうになっている」

 

「…………」

 

「俺は、これからの奴等にそうなって欲しくないんだ。だから俺は、デュエルアカデミアに残って、人生のどん底に堕ちた人間の経験として、伝えていきたいんだ。カードゲーム以外に大事なものをさ。例えば、俺とお前の間にある、見えないけど見えるもの、とかよ」

 

「……うん、そうだね。城之内くんも、立派だよ」

 

「ありがとよ。っと悪いな、忙しいってのに長話させちまって」

 

「ううん、別にいいよ。久しぶりに楽しい話ができて嬉しかったよ。じゃあ、またね」

 

「おう、またな」

 

 獏良の方から電話が切れ、ポケットにしまう。あいつも忙しいんだなと、しみじみと感じた。

 獏良は立派に生きている。デュエルから離れても、立派に生きている。あいつはカードの本質をきちんと理解していたからこそ、同等と光輝く道へと進めたんだ。

 城之内は、全く分かっていなかった。遊戯や海馬を見て、デュエルで生きていくことを決めてしまったのが最後だった。気づいたときには、デュエルの道を外されて、何も道がなくなって、ずっとそこに立ち止まったままで……結局光が指してきた方向も、デュエル関係からだった。結局城之内はデュエル以外に見出だせる道なんて存在していないんだ。

 ならば、これからの人間に同じ思いはさせられない。デュエルアカデミアに通う生徒たちに、気づいてほしい。カード以外に見出だせる、可能性の存在を。若さゆえに見えてくるはずの道を、消してほしくない。

 だからこそ、ここで消えるわけにはいかない。何としてでも、パートナーを探して見せる……!

 決意を固めた城之内は、一先ず考えるために、久々の我が家へと足を向けたのだった。

 

 

 

 家に帰ると、静香が暖かく出迎えてくれた。すごく元気そうな表情で、城之内を風呂に入れてくれて、久々の我が家の風呂でゆっくりと浸かった。静香は新たに彼氏を作り、家に呼んでいたらしいので凄く申し訳ない気持ちになったが、彼氏の方は凄く優しい奴で、城之内がいても全く気に病むことはなさそうにしていた。ただやはり申し訳ないので、今日は遊戯の家にでも泊まろうと考えていた。勿論、俺がそいつを本当に認めた場合だけだが。

 風呂から上がると、久しぶりに静香の手料理を戴いた。静香の手料理はデュエルアカデミアで食べる豪勢な食事に比べたら質素だったが、味は絶対にこっちの方がうまかった。コロッケも、カレーも、全部心がこもっていてあっという間に平らげてしまった。彼氏の方も凄く早く平らげていて、心から上手そうにしていた。不味いといったらぶっ飛ばす気でいたが、杞憂に終わったようだ。

 飯を食べ終わると、彼氏からデュエルを仕掛けられた。何でも、妹さんを勝ったらくださいという話だったらしいので、城之内は受けることにした。静香は必死に彼氏を止めていたけれど。

 無論結果は城之内の勝ちだったがなかなか一生懸命で、評価できる点は多かった。そしてこういってやった。静香と結婚していいと。あの落ち込んだ表情から、パッと輝くまでの劇的な変化を見せてやりたい。

 結婚が認められた男女がすることはただ一つ、そう感じた城之内は遊戯の家に電話して泊めてくれと言ったが駄目と断られてしまった。そろそろ日本を立つくせに新商品の入荷で忙しいらしい。仕方がないので本田に泊めてもらうことにした。

 しかしそれは間違いだった。静香に振られた本田のやけ酒に付き合わされ、寝ることができなかった。せっかくこの街に久しぶりに帰ってきたのに、休めやしなかった。その途中からかつて玉砕した御伽も乱入して、ある意味最高な夜を明かした。静香と彼氏が共に夜を明かしたことを告げなかったのは賢明だと思う。

 

 次の朝、城之内は早く起きた。一時中断していたパートナー探しをするためだ。携帯電話を取り出して、電話帳を開く。きっとここに、番号を交換したデュエリストがいるはずだ。

 しかし探してもほとんどいない。番号を交換するようなデュエリストは、ほとんどいない。携帯電話の番号を交換しているのは付き合いの長い奴だけ、遊戯や本田、杏子くらいだろうか。あとは海馬も付き合いが長いが、番号なんて絶対に知りたくないし、第一海馬コーポレーションに電話すればすむ話だ。

 となれば電話帳は無理だ。どうすればいいだろうか……。

 

「相談してみるか……遊戯に」

 

 困ったときこそ、友達だ。そんな文句を聞いたことがある。遊戯ならば、なにかアドバイスをくれるはずだ。古くからの親友ならば、なおさらだ。番号を入力し、電話をならす。

 何度かの発信音のあと、電話が繋がった。

 

「はい、武藤です」

 

 穏やかな声で電話に応答したのは、紛れもなく遊戯だった。その懐かしい声に、城之内は心から安心を覚える。

 

「おう遊戯、城之内だ」

 

「城之内くん? 久しぶりだね!!」

 

 遊戯は元気そうに声をかける。でもその声はどこか大人びていた。まるで、かつて遊戯の中に潜んでいた闇の人格、アテムを思い出すようなそんな声だ。アテムは結構な自信家で、強気だったけれど。きっと、無意識にあいつを目標にしているんだろう。

 

「そうだな遊戯。昨日は悪かったな、夜遅くに電話しちまって」

 

「いや、僕の方こそごめんね……昨日、杏子が家に来ていたから……」

 

「あれ、お前昨日店の仕入れで忙しいって……」

 

「あっ、しまった……!」

 

 今の会話で全てを察した。遊戯のやろう、杏子を呼んで二人であんなことやこんなことをしたんだな……。そのために城之内を追い返したとなれば……許すまじ。

 

「遊戯……お前、大人の階段を一人で上りやがって!! 何でよりによってお前だけなんだよ!! 俺も連れていってくれよぉちくしょう……!」

 

「お、大人の階段って……た、確かに昨日は疲れたけど……」

 

「あぁ!? 世間一般の童貞に謝れよこのヒトデ頭が!!」

 

「ヒトデじゃないよ!! 城之内くんだって、彼女の一人や二人いるんじゃないの?」

 

「くぅ~~勝者の余裕ってヤツかよちくしょー!! 誰かいい女を紹介しろ!!」

 

 床に膝まつき、涙を流す。因みに城之内と同じように童貞ロードを突っ走っている本田と御伽はぐっすりと寝ている。当分起きることはないだろう。

 

「いい女って言われても、僕はあまり女性とは知り合わないよ……強いて言うなら、前に舞さんにあったよ。舞さんなんかいいんじゃないかな、城之内くんのこと、気になっているはずだよ」

 

「ああ……舞か。そういや久しく会ってねぇな。でもあいつ、俺のことただのかわいい坊やだと思ってるだけじゃねえの?」

 

「そんなことはないと思うよ。たまには会いたいって言ってたし」

 

 舞、本名は孔雀舞は女性デュエリストだ。城之内や遊戯より年上の綺麗な女だが、デュエルの腕は凄く、ハーピィたちを華麗に操るプロのデュエリストとして知られている。何だかんだで城之内たちと行動していて、仲間の一人だーーー。

 

「……デュエリスト?」

 

「どうしたの、城之内くん……?」

 

 遊戯が心配そうに声をかける。だが、そんなことも気にも止めずに思考を続ける。

 舞はプロのデュエリストだったはずだ。しかも実力も城之内と同等以上、海馬も認めるほどの腕をもつ。そして何より、最近遊戯と交流がある。つまりーーータッグを組めるかもしれない!!

 一人で計算を導きだし、にやっとわらう。上手くいけば、最高の結末を迎えられそうだ。

 

「ねえ、どうしたのさ城之内くん。急に黙っちゃってーーー」

 

「なあ遊戯、舞は今でもデュエリストか?」

 

「えっ、いきなりどうしたの……?」

 

 遊戯は困惑したが、構わず叫ぶ。

 

「教えてくれ、大事なことなんだ!!」

 

 だが、少しばかりボリュームが大きかったようで遊戯は驚いてしまった。短くすまんと謝り、遊戯に答えを求める。

 

「舞さんは今でもデュエリストだよ。僕と一緒にアメリカの大会に出場するって聞いたから」

 

「それで、今日本にいるのか?」

 

「日本にはきっといると思うよ。僕と電話したとき、来週日本を経つとか言ってたかな」

 

「よし、都合がいいぜ!!」

 

 思わずガッツポーズをする。これは都合がいい。早速舞に交渉して、タッグを組んでもらえば解決だ。問題は舞がアメリカに旅立ってしまうことだが、それまでにタッグデュエルするように交渉すればどうにかなるはずだ。

 

「ねえ、城之内くん。どういうことなの? 何が起こっているの?」

 

「ああ、それはだな……」

 

 そういえば遊戯にはなんにも言わなかったな。というか他人にこの事を説明したのは獏良だけだ。城之内は、遊戯に教師になったことを含めてすべての事情を簡潔に説明した。

 

「なるほどね……城之内くんが教師だというのは杏子から聞いていたけど、大変なことになったね。僕なら喜んでタッグを組んであげるのに」

 

「俺も遊戯と組みたいさ。だけど、お前と組んだらどんなに手を抜いても負けるし、手を抜いたらそもそも俺が解雇だ。だけど舞なら、多分いい勝負ができそうだからよ。何せ、俺と同じくらいだもんな」

 

「それほどまでに強いの、その生徒?」

 

 遊戯が興味ありげに尋ねる。強い奴と戦うことに、探究心を持ち続けているのだろう。今はまだお前より下だがなと思いつつ、ああと肯定した。

 

「俺も、あと少しで負けそうになった。だから……そいつさえ本気でやれれば、きっと俺たちのタッグに勝てるさ」

 

「なるほどね……」

 

 遊戯はうんうんと頷くように心地よい相づちを打つ。そして遊戯は穏やかな声で突然言う。

 

「教師らしいね、城之内くん」

 

「え? そうかな……」

 

「うん、ここまで真剣に、生徒のことを考えているなんて、すごいよ」

 

「へへっ、そう思ってくれるなら嬉しいぜ。ま、城之内様だったら何でもできるがな」

 

「ははは……でも、城之内くんの一生懸命なところ、僕は好きだよ」

 

「好きって……照れちまうだろうがっ」

 

 しばらく二人で笑い合う。互いのことをよくわかっているから、遠慮なく誉められる。互いを認め合える。城之内は、それがとても嬉しい。

 城之内にとって、友達と呼べる存在はいなかった。いてもせいぜい喧嘩を吹っ掛ける仲間くらいで、周りの人間を傷つけていた。遊戯だっていじめていたし、他の奴等にも歯向かっていった。自らの心の寂しさを塗りつぶすように、拳を振るってきた。それが楽しくて仕方がないと思い込むようにただただ荒れていった。

 でも、遊戯があの悪徳風紀委員から庇ってくれた日から、すべてが変わった。見えないけれど見えるものの存在を知り、それを大切にした結果……見えないものも見えるようになった。拳を振るわず、言葉で人と向き合うようになった。場合によってはカードで闘い、心を交わしあった。

 友情は何よりの宝物だ。カードはそのきっかけにすぎない。カードによって道が狭められようと、こうしてどうにか生きていけるのは、残された友情があったからだ。だからその友情に感謝するよう、育むよう、これからの奴等に伝えたい。この思いが変わることは、ないだろう。

 

「とりあえず、舞の電話番号を教えてくれ」

 

「うん、いいよ。…………」

 

 遊戯が電話番号を告げると城之内は早速メモった。字は汚いがどうにか読めそうだ。

 

「サンキューな、遊戯」

 

「ううん、こちらこそ電話できてたのしかったよ」

 

「俺もだぜ。遊戯、出発って、いつだったけ?」

 

「出発は来週末だよ。だから、その前日にみんなで遊ぼうね」

 

「へっ、やっぱ覚えてたか。楽しみにしてるぜ。じゃあな、遊戯!」

 

「うん、またね!」

 

 遊戯がそういうと、電話をギリギリまで待って切った。そろそろ遊戯の家のカードショップがオープンする頃だ、きっと遊戯も品出しで忙しいのだろう。さすがに朝から杏子とおっ始めることはしないだろうから本当に頑張っているのだろうな。

 遊戯も、獏良も、その他みんなも、それぞれ己の道を突き進んでいる。城之内も、いつまでもそこに立ち止まることは許されない。己の生きる道を見つけたのならば、全力で進まなくてはならない。

 城之内は、自分が書いた殴り書きのメモを見る。自分の道から外れないための第一歩を踏むことはできた。城之内がやるべきことは、カードゲームに夢中になっている学生に対し、もっと大切ななにかを見つけるのを手伝うこと。それを成し遂げるには、それができる立場に残り続けなければならない。海馬が与えた試練も全てクリアしなくてはならない。

 ならばそれをこなすだけだ。海馬のためじゃない、城之内のためでもない。これからを生きる若者のために、静香のためにだ。

 手に握られた携帯に番号を入力して、発信する。何度かの発信音と共に緊張が膨らんでいく。間違い電話だったらどうしようと言う思いもそうだが、久しぶりに話すのだ、胸がドキドキしないわけがない。

 

「あっ、もしもし……城之内だけどさ」

 

 案の定彼女の声だった。その声は、全く変わっていなかった。ライバルであり、仲間でもある、大事な奴の声だった。

 

 

 

 




舞さんが、次登場します。この作品ではDMメンバーもまあまあ登場します。


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第十話:孔雀舞との最強タッグ

舞さん登場ですが、少しおしとやかな感じになっている気がします。


「あたしは手札から、魔法カード《ハーピィの羽根帚》を発動! 相手の魔法・罠をすべて破壊する!!」

 

「くっ……俺のミラーフォースが……」

 

「バトル! ハーピィ・レディで相手にダイレクトアタック!! 爪牙砕断(スクラッチ・クラッシュ)!!」

 

「ぐわああああっっ!! あと少しで俺のものだったのに―!!」

 

 ハーピィ・レディにとどめを刺された男はうずくまりながら絶叫し、涙を流した。男の対戦相手の女性・孔雀舞はふんと小さく鼻を鳴らしながらその場を去っていく。

 

「あんたのような弱い男と結婚なんて冗談じゃないわね。もうあきらめたら?」

 

「くっ……くそっ! 次は勝ってやる!!」

 

 男はそういうや、走って逃げ出した。半ば呆れつつも舞もその場を去り、ストリートを出て童実野ホテルへと向かう。

 

「はぁ~……なんか張り合いがないのはつまらないわ……」

 

 ホテルの一室のベッドに寝転がり、ため息をつく。孔雀舞は女性デュエリストの中でかなりの実力を持っていて、そこらの男なんて圧倒できるほどだ。彼女の目標は武藤遊戯だが、デュエルキングである以上、張り合えるという中ではない。今は、張り合うライバルと言える人物は一人もいない。

 いや、一人いた。城之内克也だ。

 武藤遊戯の唯一無二の親友で、プロのデュエリストだった男だ。最初はそこらの男と全く変わらない弱いデュエリストだったけれど、成長して今やすっかり舞と同等の力をつけるようになった。

 プロ入りしてからも、しょっちゅう二人でデュエルをし、ギリギリの戦いを繰り広げた。それがすごく楽しく思えた日々が懐かしい。あのバカで、純粋無垢な笑顔が今となっては愛しい。

 でもそんな日は、終わりを告げた。城之内や遊戯、海馬瀬人らが一斉にプロから降板させられたのだ。理由はプロの入れ替えのため。舞はそこそこの戦績を保っていたため、プロリーグ残留という形になったが、城之内はなんだかんだですごい勝率を誇っていたので、その憂き目にあった。

 あの時の城之内の憔悴しきった顔は忘れない。全てを失ったというような目を見せて、プロリーグの地から去っていったあの足取りは見ていてつらかった。言葉をかけてやりたかったけれど、ダメだった。

 でも、あいつはいい奴だった。あたしも同じようにつらそうな表情をしていると、城之内は微笑んで振り向いた。そして、何の曇りも見せないような顔で、頑張れよと言ったのだ。最期まで、舞の事を思っていたのだ。

 舞はその瞬間に、城之内に対する思慕の念が一層強くなった。駆け寄って抱きしめてあげたい。ぼろぼろになった心を癒してあげたい。一人でずっと戦ってきて、他人を拒絶していた舞からは信じられない思いだったけれど、何にも疑問に思わなかった。当然のように感じていた。

 でも、足は動かず……城之内はタクシーに乗って去っていった。それからは、一度も会っていない。

 

「城之内……か」

 

 ふと、つぶやいてみる。すると、急に胸がどきどきする。この感情は一般的に言えば、恋というものらしい。昔の自分ならばそんな馬鹿なと一蹴しているけれど、今はどこかすんなり受け入れられる。どうでもいい男が、体目的でからんできて、デュエルで負かしていくうちに、城之内に対する思いが強くなっていったせいだと思う。

 だけど―――電話番号もメールアドレスも全部知らない。遊戯と連絡するときに教えてもらおうとしたけれど、なかなか踏み出せずにいる。

 好きだ、好きだけど……もう会うことも、ない。

 

「あたしったら何考えてるんだ、デッキ調整しなくちゃ」

 

 いけない。これ以上余計なことを考えていたら、ふわふわしてどこかへと行ってしまう。とりあえず、次のアメリカの大会のためにデッキ調整をしようと、デッキに手をかけた。

 

 だが、テーブルに置いてあった携帯電話が鳴り響く。

 

「誰……?」

 

 こんな朝早くに誰だろうと思いつつ、手にとって耳にあてた。

 

「はいもしもし、孔雀です」

 

 控えめな声で応答する。すると―――

 

 

 

「あっ、もしもし……城之内だけどさ」

 

 

 懐かしい声が、聞こえた。もう聞くことはないと思っていた声。何年も昔に最後に聞いた声よりも、大人びていて落ち着いている声だけれども、間違いはなかった。電話をかけてきたのは、まぎれもなく、城之内克也だった。

 舞はしばらく放心したように固まっていた。まさか電話が来るとは思ってもいなかったからだ。

 

「あ、あんた……なんで? あたしの電話番号、どうやって……?」

 

「ん? ああ、遊戯の奴から聞いたんだ。ちょっと用があったからよ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 あっけない反応しかできない自分が悔しい。素直になりたいけど、恥ずかしくて難しい。でも、城之内は用があると言った。いったい何だろうか?

 

「それで、何の用なのさ?」

 

「ああ、実はさ……お前に頼みがあってよ」

 

「頼み? あんたらしくないわね。聞いてあげるわよ」

 

 頼みか。どんなものだろうか。できれば役に立ってあげたい。

 

「実はさ……」

 

 城之内は、説明し始めた。

 話によれば、城之内がデュエルアカデミアの教師になったけれど情けないことに解雇の危機に立っている。それを防ぐためにタッグデュエルをしろと言われたのだが、相手が生徒なうえに、プロのデュエリストと組まなければならないと告げられたようで、相手探しに困っているようだ。すごく面倒な問題に巻き込まれたようだ。

 ……しかし、城之内が教師って……。

 

「……ププッ!」

 

「な、なんだよ!!」

 

 城之内が文句を言うように叫ぶ。しかし、舞は笑いを堪えられなかった。なんせ、気合と根性だけでどうにかしようとしてきたアホ丸出しのあいつが、教師となるなんて思わなかったからだ。デュエルアカデミアはデュエルさえ強ければいい場所だけど、物を教えるのは大変だ。それを城之内がやってのけるなんて……。

 

「だ、だってあんたが教師でしょ!? 天地がひっくり返ってもあり得ないのに……! まったく、ここ一番に笑わせてもらったわ!」

 

「あーったく、悪うござんしたよ!!」

 

「そんな怒ることじゃないよ城之内。でも、そういうまっすぐなところ、変わっちゃいないね」

 

「真っすぐすぎて危険な目に合っているところがか?」

 

「違うわよ。いい意味で」

 

 若干むすっとした声を出して、そうかと納得したところで話を戻す。

 

「で、それであたしとタッグを組んでほしいということ?」

 

「まあそういうことだ。俺、正直なところ生徒に勝たせたい。でも手を抜いたら首だしな。まあ、対戦相手の生徒の一人は俺に近い実力を持っているから、ばれない程度に手を抜いたらたぶん生徒が勝てると思う。だけど、俺の相方が遊戯クラスとかなら、手を抜いても勝ってしまう。そこで俺と近いお前となら、どうにかうまくいきそうだと思っているんだ」

 

「そういうことね。要はあたしはガキに遠慮しながらあんたとタッグを組んでデュエルするというわけ? それも負けるようにして」

 

 少しいじわるっぽく言ってみる。城之内は案の定困った声を出す。

 

「んまあ、遠慮する必要は一切ないけどな。なかなか強い生徒だから負けるように戦う必要はないし」

 

 しかもまっすぐだから真面目に考えている。謝っておこうかと考えたが、ばかばかしいのでそれは止めておく。何か、だんだんペースがつかめたみたい。

 

「強いってどのくらいよ? あんたと同じくらいの実力って言ってたけどもう少し具体的に」

 

「正直に言うと、俺がもう少しで負けそうになったくらいだ」

 

「ええっ!? そんな奴がデュエルアカデミアにいるの?」

 

 舞は今度こそ本気で驚いた。デュエルアカデミアの実習生にもかかわらず、プロのデュエリストに匹敵するほどの力量を持つなんて。もし卒業したら……武藤遊戯に並ぶほどの実力を身に付けているなんてことになりかねない。正直舞としては退学させたいと言うか、これ以上強くさせたくないのだが。

 

「まあでも、ここで退学はさせたくないんだ。だから、頼むよ舞」

 

 しかし、城之内が頼み込んでいるのに無下に断れない。その生徒の実力を感じることができればそれはそれでいいし……それに久々に城之内と会えるのだ。デュエルを共にできるんだ。最初から断る気なんてない。

 

「分かったわよ。あんたの頼みだし、受けてあげるわ。それっていつなの?」

 

 よっしゃあと言う大きな叫び声が電話越しに聞こえる。質問そっちのけで喜んでいるようだ。まあ、それも城之内らしい。素直に喜べる大人なんて本当に少ないのだから、羨ましくもある。

 

「サンキューな舞。んで、いつかって言うとだな……パートナーが決まってすぐに始めると言うけど……デッキ調整とかもあるから5日後とかにするつもりだけど」

 

「5日後か。あたしがアメリカにいく前々日ね。良いわよ、それでいきましょ?」

 

「じゃあさ、どっかで会おうぜ。今日辺りとかな」

 

「そうね……じゃあ、童実野デパートのレストランとかどうかしら?」

 

「お前童実野町にいるのかよ。ちょうどいいぜ、じゃあ12時にそこで会おうぜ」

 

「うん、じゃあね城之内」

 

 城之内はすぐに電話を切って通話が終了した。舞はしばらく通話終了時になるつーつーという侘しい音をいつまでも聞いていた。まるでそれが極上の音楽であるかのように。

 

(あいつと……会える……)

 

 舞の胸の中にあるのは、それだけだった。何年もの歳月もあっていないので少し緊張するけれどこうして問題なく話せたんだ。きっと大丈夫だろう。

 胸の内にある思いを伝えようとか、彼女になりたいとか、そんな乙女チックなことは思っていない。でも、会えるということはものすごくワクワクする。それだけで一生分の幸せを得られる気がする。

 

「さて、支度しなくちゃ」

 

 部屋着を脱いでお気に入りの服に着替えて、化粧もする。あの鈍感に気付いてもらえるとは思っていないけれど、一応努力はする。化粧台の鏡と格闘し、何とか飾ろうと頑張った。12時までの時間がとっても長く感じていたのだった。

 

 

 

 その後城之内とレストランで会い、昔話もはさみつつ、タッグデュエルのためにデッキを調整したりもした。

 次の日は海馬ランドに誘い、二人で満喫した。まるでデートだったが、城之内はただ友達と遊びにいくという感覚であったことに少し落胆したのは内緒だ。

 その次の日は二人で一日中デュエルをして、互いの実力を高めあっていく。城之内の戦い方は相変わらず根性と運を主軸としたスタイルで苦戦したけれど、舞も引くことなく攻めた。久しぶりに興奮するデュエルだった。この瞬間が、一番楽しかった。

 その次の日の次の日は、また遊んだ。買い物にも付き合わせたけれど、城之内の服のセンスは悪くなく、似合う服も選んでくれた。一生の宝物にしようかなと考えた自分に、甘くなったなと感じたのだった。

 

 そして迎えた、デュエル当日……。

 

 

 

 

 

 

「おっ、たくさん人がいるぞ。緊張するな、翔」

 

 用意されたデュエルスタジアムに向かうのは、遊戯十代とパートナーである丸藤翔だった。遊戯十代は持ち前の精神力と、能天気さで恐怖も何も感じていない。しかし、劣等感を抱いていた翔は恐怖こそ少ないが、不安はある。自分のアニキの足を引っ張りたくないという想いに加え、デュエルアカデミアの帝王と噂されているカイザー亮の弟として恥じない戦いができるのかというプレッシャーがある。

 だが、自分の尊敬するアニキ分に負けないように戦うとこの5日間の生活で誓ったのだ。相手が誰であろうと、やらなきゃいけない。胸を張って、十代の横を歩く。

 デュエルスタジアムに入ると、たくさんの生徒たちの視線が集まる。そこには、十代や翔のルームメイトの隼人、そして翔の尊敬する兄の亮もいた。亮の試すような視線を受け止めて翔は前に進む。歓声が巻き起こり、それを受け止めながらデュエルフィールドへと足を踏み入れる。

 

「ではこれより、タッグデュエルを始めますノーネ!!」

 

 そこにいたのは、クロノス教諭だった。高らかにデュエル開始の宣言をする。

 だが、肝心なことを忘れていると、一同は考える。それを代弁するかのように、校長の鮫島が声をかける。

 

「それで、対戦相手は誰なんですか? 教員ですか、それともオベリスクブルーの生徒ですか?」

 

「いやいや、これは立ち入り禁止区域に入った生徒の校則違反を審議するタメーノデュエルデスーノ。まあ、それを犯したシニョール克也もデスーガ。とにかく、それにふさわしいデュエリストでなければなりませンーノ」

 

「ほう、それで……?」

 

 目を輝かせながら鮫島は尋ねる。鮫島校長も、対戦相手が気になるのだろう。

 

「不届きものを叩きのめタメーニ、伝説のデュエリストを呼んでいるノーネ!!」

 

 クロノスは十代を指差す。どうやら本気で十代たちを叩きのめすつもりだろう。

 

 その時、微かな足音が響いた。十代たちがすでに上っているステージに上がろうとする影が二つ見える。その影を見た瞬間、スタジアムにいる全ての人間が驚愕の表情を露にした。無論、これから戦おうとしている十代や翔も、だ。クロノスは、本気だ。本気で十代や翔を退学にさせようとしているんだ。十代はともかく、翔は体が震え始めていた。

 

「おおっ……!!」

 

 一方で鮫島は期待に胸を膨らませた。罰則の審議云々よりも、面白い試合を望んでいるのだ。

 

 

 

 

 注目を集めながらそこに立っているのは二人の決闘者だった。

 

 

 

 

 一人は孔雀舞。女性ながらも海馬瀬人や武藤遊戯に引けを取らない実力を持つ美人デュエリストだ。ハーピィを華麗に使いこなし、相手を圧倒するプレイスタイルは翔も憧れている。

 そしてもう一人は―――。

 

 

 

 二人を教えている講師でありながら、デュエルキングとほとんど変わらない実力を持つ、城之内克也だった。

 

 

「さあ、デュエルを始めようぜ。十代、翔」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回からタッグデュエルです。ルールはOCG準拠とします。


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第十一話:圧倒的な壁

タッグデュエルのルールは現在のルールとします。舞さんは原作で使用していないハーピィも使います。割りとガチなっているかも。ただハーピィと相性のいい、別のモンスターカードを使うことはないです。


「さあ、デュエルを始めようぜ。十代、翔」

 

 城之内は、目の前にたつ二人に声をかけた。

 

「どうして先生が相手なんだよ。それに強そうな人をつれてさ」

 

 十代が質問する。翔は完全にびびっている。まあ、プロのデュエリスト二人相手では、そうなるもの当然だ。

 

「そりゃあ俺も罰則違反やらかしたしよ、いいデュエル見せなきゃいけないってオーナーに言われたんだ。だから、お前たちと戦うことになった。ただ俺たちは勝ち負けは関係ないがな」

 

「マジかよ……まあいいや、また先生とやれるんだ、興奮するぜ!!」

 

「はは、そうかそうか。じゃあ楽しいデュエルにしようぜ。な、舞」

 

 城之内は舞の肩をポンと叩く。孔雀舞はかなり有名なプロのデュエリスト、そんな相手に気軽に話せるのはすごいと翔たちは思う。

 

「そうね城之内。あんたの育てている卵の力、見せてもらうわね」

 

「そうだな……おい、クロノスさん。もう始めてくれ」

 

「りょーかいしたノーネ。ではでは両者位置について」

 

 いよいよ始まると、観客は歓声をあげる。教員席に座る鮫島校長は目を輝かせて試合開始を見守る。その後方に座る、奇妙な髪をしたオシリスレッドの寮長、大徳寺先生は猫を抱いてフィールドを見つめている。

 両者が位置につき、デュエルディスクを構えると、クロノスが中央にたってルール説明を行った。

 

「タッグパートナーへの助言はダメなノーネ。自分とパートナーのフィールド、墓地は共有、バトルフェイズが行えるのはワンターン目の最後の後攻プレイヤーからなノーネ。よろしいノーネ? 各チームのライフポイントは8000なノーネ。では……」

 

 ルール説明は終わった。城之内と舞はニヤリと笑い、十代と翔は厳しい表情を浮かべて、共に叫んだ。

 

「デュエル!!」

 

 火蓋が切って落とされ、カードを互いに5枚引く。先行は、生徒チームの翔からだ。

 

「僕のターン、ドロー! 僕は、ジャイロイドを守備表示で召喚!! ターンエンド」

 

ジャイロイド 星3 DEF1000 機械族 風属性

 

 プロペラを持つ小型航空機が現れる。舞にはあまり馴染みのないモンスターだ。モンスターを召喚してターンエンドということは、手札が悪いのか、それともそのモンスターに特殊能力があるのか。

 

「俺のターン、ドロー! 俺はカードを二枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 次は城之内のターンだが、モンスターを召喚せず、カードを伏せたのみだった。守りを固めるつもりなのか。

 

「俺のターン、ドロー! へへっ、俺は《E・HERO クレイマン》を守備表示で召喚! カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

E・HERO クレイマン 星4 DEF2000 戦士族 地属性

 

「守備力2000の壁か……ちょっと高いね」

 

 

 舞がじっとクレイマンを睨む。どうやら舞の手札には、この状況を変えるカードがないようだ。次からバトルフェイズが許されているターンだ。ここからデュエルは動き出す。

 だが、タッグデュエルと言うのは一人で戦っている訳じゃない。当然、相方のカードも舞のものである。

 

「あたしのターン、ドロー! っふ……」

 

 舞はドローカードを見つめる。それは《ハーピィ・レディ》だった。このデッキのエースカードをいきなり引くとは、幸運だ。だが、まだ使わない。舞台が整うまでだ。

 まずは……舞台を整えるために用意してくれた道具を使わないと。舞はちらっとリバースカードを見つめた。

 

(あんたのカード、借りるわよ)

 

 用意してくれた相手に目線で伝え、宣言する。

 

「リバースカードオープン! 《天使の施し》! 三枚カードをドローして、二枚手札を捨てる」

 

「なっ……通常魔法だと!?」

 

 十代は目を見開いて驚く。魔法、罠ゾーンに伏せるのは基本、速攻魔法か罠カードだ。だが、こうして通常魔法を伏せるのはあまりない光景だ。何故なら使うなら手札から使った方が安全に決まっているから。もし一度伏せてしまったら、サイクロンなどの魔法除去カードを使われて無駄になってしまう可能性がある。そのリスクを考慮してまで城之内は舞にカードを手渡したのだ。

 

 

「流石だな……城之内先生と孔雀舞のタッグは」

 

 観客席にてそうコメントを残すのは、ラーイエローの三沢大地だった。十代と知り合い、彼の実力は理解しているが、相手はやはり悪い。城之内先生にあと少しで勝てそうになったとはいえ、現役プロの孔雀舞もいれば勝てるはずがない。

 城之内先生のプレイングもさすがだ。天使の施しは手札こそは増えないが、手札交換、墓地肥やしのどちらもこなしてしまうほどの強カードだ。それを自分が使えばいいものを、それを相方に渡した。これによって、ただでさえ強力な天使の施しをノーハンドで使用できるので一枚手札が増えるという更なる効果を産み出すのだ。そこまで計算して、孔雀舞にそのカードを渡したのだ。言い換えれば、手札消費が激しいプレイをするかもしれないということを初めから知っていてそのカードを遠慮なく渡せるほどの信頼関係があるということ。十代や翔には大きすぎる壁だ。

 

「この戦い、ますます厳しくなっていくわね」

 

 オベリスクブルーの天上院明日香がコメントを加える。三沢はああと同意する。

 明日香は後悔していた。自分もあの場にいたので十代とタッグを組んであげればよかったと。翔では悪いけどパートナーは務まらない。十代の方は問題ないが、翔はあのプロの放つプレッシャーに耐えられない。明日香もどうだかはわからないが、少なくとも翔よりは実力があるとは思っている。

 だが、一方で十代がいればどうにかなるかもしれないと思う部分もある。十代には、そんな風に思わせてくれる、特殊な魅力があるのだ。

 

 

「早速いくよ。あたしは手札から《ハーピィ・クィーン》を捨てて発動する。あたしはデッキからフィールド魔法《ハーピィの狩場》を手札に加える!! そしてハーピィ・チャネラーを召喚!!」

 

ハーピィ・チャネラー 星4 ATK1400 鳥獣族 風属性

 

 妖艶な笑みを浮かべながら黒き翼を生やす、杖持ちのハーピィが現れる。

 

「さらにハーピィ・チャネラーの効果を発動! 手札を一枚捨てて、デッキからハーピィと名のつくモンスターを守備表示で特殊召喚する! あたしが捨てるのは《ハーピィ・ガール》。そして特殊召喚するのは《ハーピィ・ダンサー》!!」

 

ハーピィ・ダンサー 星4 DEF1000 鳥獣族 風属性

 

 ハーピィ・チャネラーが杖を構え、呪文を放つと新たにハーピィの躍り手が出現する。

 

「さらにハーピィ・ダンサーの効果を発動! 自分フィールド上の風属性モンスターを手札に戻し、もう一度手札のモンスターを召喚できる! あたしが戻すのは《ハーピィ・ダンサー》。そして《ハーピィ・レディ・SB》を召喚する!!」

 

「召喚をもう一度!?」

 

 翔は驚くがそれは無理もない。召喚は1ターンに一回しか出来ないという制約があり、二回召喚するためには《二重召喚》などのカードを使わなければいけないが、モンスターにそんな効果を持つものがあったとは知らなかったからだ。

 電気を纏う鞭と強固そうな鎧を装備したハーピィが、翔たちを睨む。その力はひ弱なハーピィのイメージを全て覆すほどだ。

 

ハーピィ・レディ・SB 星4 ATK1800 鳥獣族

 

「だが、これじゃあクレイマンは破れないぞ」

 

「甘いわね遊城十代。あたしはフィールド魔法《ハーピィの狩場》を発動!!」

 

 手慣れた動きでカードを発動すると、フィールドが一変した。硬質の床は地面と化し、緑溢れる森に囲まれていった。まるで行きなり大自然に放り込まれたような、そんな感覚だ。

 

「この効果は、フィールド上の鳥獣族モンスターの攻撃力、守備力200ポイントアップさせる。さらに、手札から魔法カード《万華鏡ー華麗なる分身ー》を発動!! 場に《ハーピィ・レディ》が存在する場合に発動できる!! 手札、またはデッキから《ハーピィ・レディ》、若しくは《ハーピィ・レディ三姉妹》を特殊召喚する。因みにハーピィ・レディ・SB、ハーピィ・チャネラーは墓地やフィールドではハーピィ・レディとして扱うわ。あたしが特殊召喚するのは、《ハーピィ・レディ1》!!」

 

ハーピィ・レディ1 星4 ATK1300→1500 鳥獣族 風属性

 

 ハーピィ・チャネラーたちは力を込め始める。すると二つに分裂し始め……新たなハーピィが誕生した。そのハーピィは、自分の近くのハーピィに力を分け与える。

 

「さらに、自分フィールドにハーピィ・レディ、若しくはハーピィ・レディ三姉妹が召喚、特殊召喚に成功した場合にフィールド魔法《ハーピィの狩場》の効果が発動する。フィールドにある魔法・罠を一枚選択して破壊する!」

 

 ハーピィ・レディ1は飛びかかり、背中の羽を飛ばして伏せカード《ヒーロー・シグナル》を破壊した。これは、自分のヒーローが破壊されたときに、デッキまたは手札からヒーローを特殊召喚できるというリクルーター。厄介なカードゆえ、破壊しておいてよかった。

 

「舞の奴本気だしてるなあ……」

 

 城之内のコメントこそ簡素だが、1ターン目からここまで展開するとは恐ろしい。すでにモンスターの数は3体、しかも攻撃力も高めになっている。

 

「ハーピィ・レディ1の効果を教えてあげるよ。フィールドの風属性の攻撃力を300ポイントあげるわ。ジャイロイドも上昇するけど守備表示だから関係ないわね」

 

「つまり、場のハーピィたちの攻撃力はあわせて500ポイントアップする……」

 

「そういうこと。この子たちは一体一体は弱くとも、支えてやることで真の力を発揮するのよ」

 

ハーピィ・レディ・SB 1800→2300

ハーピィ・チャネラー 1400→1900

ハーピィ・レディ1 1300→1800

 

クレイマンの守備力を越えることができた。あとは攻めるだけだ。

 

「バトル! ハーピィ・レディ・SBでクレイマンに攻撃!! サイバー・ライトニング・ウィップ!!」

 

 唸る電気鞭がクレイマンの巨体にヒットし、悲鳴をあげて散っていく。電気を通さないはずなのにやられるとは余程の力なのだろう。

 

「次にハーピィ・レディ1でジャイロイドを攻撃!!」

 

 ハーピィ・レディ1ジャイロイドに飛びかかる。しかし、圧倒的な力をどうにかプロペラの回転で防ぐ。しかしすぐにへし折れてしまい、次は防げない。

 

「ジャイロイドの特殊能力発動! 一度だけ戦闘では破壊されない」

 

「それもおしまいだよ。ハーピィ・チャネラーで攻撃!! ジャイロイドを粉砕して!!」

 

 チャネラーが持つ杖から光線が放たれる。ジャイロイドのプロペラももう役に立たず、無惨に破壊されてしまった。

 

「あたしはカードを一枚伏せてターンエンド」

 

 十代たちのフィールドを全滅させて、ターンエンドを宣言した。

 

 

 

 すごい……すごすぎる。

 翔は感じていた。あれがプロのデュエリストの力であると。攻撃こそどうにか食い止めたが、フィールドが一瞬にして破壊されてしまった。しかも手札もほとんど減っておらず、消費合計枚数は伏せカードを除いて3枚だ。手札にまだ、3枚もののカードが残されていることはかなり大きい。

 こんな相手に、勝てるのだろうか。不安が彼を蝕む。舞だけじゃない。舞の行動を支援する城之内のプレイングも忘れてはならない。二つの大きな壁に、翔たちは立ち向かおうとしていることを改めて実感する。

 でも、アニキが戦うなら僕も戦う。その思いを胸に、カードを引いた。

 

「僕のターン、ドロー! よしーーー僕は手札から《融合》を発動! 《レスキューロイド》と《キューキューロイド》を手札融合して、《レスキューキューロイド》を融合召喚!!」

 

 消防車と救急車をもじったようなモンスター二体が融合の渦に巻き込まれ、赤と白のトラックのような、消防車と救急車を合体させた車が現れた。

 

レスキューキューロイド 星6 ATK2300 機械族 炎属性

 

「さらに僕は、《エクスプレスロイド》を守備表示で召喚!」

 

エクスプレスロイド 星4 DEF1600 機械族 地属性

 

 蒸気機関車をもじった機械が現れる。守備力は低いが、ここで召喚するというのにはきっとなにかメリットがあるのだろう。

 

「エクスプレスロイドの効果を発動! 召喚、反転召喚、特殊召喚に成功したとき、墓地にあるロイドと名のつくモンスターを二体手札に戻すことができる!! 僕が戻すのはキューキューロイドとジャイロイド!!」

 

「なるほど……面白い効果だな」

 

 面白いといいながらも、城之内にはその効果の恐ろしさを理解している。そのカードの使いようによっては融合素材を再び手札に加えられるので、もう一度融合召喚とかができるという強みがある。アドバンテージを稼げるいいカードだ。

 

「バトルだ! レスキューキューロイドでハーピィ・レディ1を攻撃!!」

 

 レスキューキューロイドはホースのようなもので炎を噴射する。最早救急車両としての役割を担っていない気がする。

 しかし、そんな攻撃は舞にも城之内にも読めていた。

 

「罠カード発動、《攻撃の無力化》! 効果により、相手モンスター一体の攻撃を無効にして、バトルフェイズを終了させる!!」

 

「そ、そんな……仕方ない。僕はこれでターンエンドだ」

 

 翔はげんなりした表情でターンエンドを宣言した。十代はドンマイといってくれるが、布陣を崩せるチャンスを逃したのは痛手である。同時に、兄貴分の足を引っ張ってしまうことにも、なった。そしてそれが、崩壊の引き金になっていた。

 

 

 ちょっとやり過ぎたか。いや、相方にやらせるようにさせてしまったか。

 城之内は内心で後悔していた。翔はともかく十代ならば本気でやっても問題ないと思っていたが、そうでもなかったようだ。舞との相性がいいのか、十代と翔の相性が悪いのか。どちらかはわからないが、手を抜くべきかもしれない。

 いや、それではダメだ。それでは城之内が解雇されてしまうし……何よりそれは二人の友情を否定することになる。

 客観的に見れば、ただの学生がプロデュエリストのタッグに挑むなど無謀だし、勝てるわけがない。蟻が恐竜に喧嘩を売るようなものだ。

 でも、城之内はそれを可能にしてきた。常に格上の相手と戦ってきた。羽蛾、竜崎、梶木、舞、マリク、キース、海馬……そして遊戯。でも、そいつらを破ってこれたのは、もしくはまともに戦えたのは、デュエルの腕以外に大切なものがあったからだ。

 それは友情だ。対戦相手同士との、もしくは城之内を応援してくれる人間との絆がなければ負けていた。あっという間にやられていた。

 落ちこぼれだった自分でもそれができた。だったら……十代や翔でもできるはずだ。お前たちの友情で、このピンチを乗り越えてみろ。俺に、友情の力を見せてみろ。

 これはデュエルの腕を見せるものじゃない。二人の友情を見るためだ。もし彼らが負けてしまって退学になってしまっても、このデュエルで友情さえ教えられたら、育むことができたら、それは嬉しい限りだ。だから、本気でやる。柔な友情では勝てないくらいに。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードは、《クイズ》だ。城之内はちらっと翔の伏せカードを見てから、発動した。

 

「舞の魂のカード、借りるぜ」

 

「あたしのカードを使うんだから、きちんとしなさいよ?」

 

「分かっているぜ。俺は手札から魔法カード《クイズ》を発動! 俺たちの墓地の一番下にあるモンスターの名前を宣言して、当たったら除外、外れたらそいつが特殊召喚される。さあ、誰が答える?」

 

「俺が答えるぜ。前みたいに揺さぶりテクニックは通用しないぜ」

 

 十代が前に出て言うと、城之内もニヤリと笑う。

 

「そうか……じゃあいってみろ」

 

「最初に墓地に落ちたのは……あれ?」

 

 城之内は指を指してはっきりと宣言するーーーと思いきや、詰まってしまった。

 それも無理はない。そもそも墓地に落ちた場面にて、カードを確認する暇はほとんどないからだ。

 

(あれ、最初に落ちたのって……天使の施しの時に捨てた二枚だ。その中にモンスターカードが含まれているかどうかわからない……。もし含まれていなかったとしたら、孔雀舞さんが落としたハーピィ・クィーンだ。ハーピィ・クィーンはフィールドと墓地ではハーピィ・レディとして扱うから……これにかけるしかない!!)

 

「俺が宣言するのは……ハーピィ・レディだ!!」

 

 だが、城之内はその瞬間にニヤリと笑い……正解を告げた。

 

「外れだ。答えは……ハーピィ・ガールだ!!」

 

「が、ガールだと!?」

 

「そうだ、ハーピィ・レディだけだと思うなよ! 俺は舞の墓地から《ハーピィ・ガール》を守備表示で特殊召喚する!」

 

ハーピィ・ガール 星2 DEF500→700 鳥獣族 風属性

 

 ハーピィ・レディのまだ小さなころの女の子が現れる。能力自体は低いが……どんなカードにも可能性がある。そのカード単体だけでは役に立たないけれど、他のカードと組み合わせれば強くなる。役に立つ。

 ーーー例えば、自分と相手の罠を封じるカードにも。

 

「そして俺は、《人造人間サイコ・ショッカー》を、ハーピィ・ガールを生け贄にして召喚!!」

 

「そんな!!」

 

 翔は絶叫する。自らの張る罠が通用しなくなるからだ。サイコ・ショッカーが場にいる限り、自他ともに罠カードが使えない。すなわち聖なるバリアーミラーフォース等で迎撃したりすることができなくなるのだ。

 

「じゃあバトルだ! サイコ・ショッカーでレスキューキューロイドを攻撃!! サイキック・ウェーブ!!」

 

 サイコ・ショッカーの放つ紫色の光線が当たり、レスキューキューロイドはやられてしまった。

 

「うう、そんな……」

 

十代&翔:LP8000→7900

 

「まだまだだぜ、ハーピィ・レディ1でエクスプレスロイドを攻撃だ!

 

 ハーピィ・レディがエクスプレスロイドに飛びかかり、切りつけた。あとはもう、がら空きだ。

 

「さあ、ハーピィたちでダイレクトアタックだ!! 行けーーー!!」

 

 タッグデュエルでは、自らが操るモンスターだけではなく、パートナーのものも使える。つまり舞が展開したハーピィ・レディたちも、城之内の命令に従うことになる。

 ハーピィ・レディたちは城之内を信頼して次々と飛びかかる。パワーアップしたハーピィたちの力は大きく、十代や翔を苦しめた。

 

「ぐわああああっっーー!!」

 

十代&翔:LP7900→6000→3700

 

 ハーピィ・チャネラー、ハーピィ・レディ・SBの順に攻撃した。そのダメージの合計は4200。ワンターンでここまで奪い取られるとは予想しておらず、翔は唖然とする。続いて絶望が彼を覆い、力が抜けていく。手札を落とさないようにするのが精一杯だ。

 

「俺は一枚伏せてターンエンドだ」

 

 

 

「なんという攻撃だ……始まってほとんどたたないうちに、怒濤の攻撃だ……」

 

 観客席の三沢が驚愕を露にして発言する。明日香も同意の首肯を交わすのに精一杯だ。もしプレイングをを間違えていたら、負けていたかもしれない。

 

「気づいている、三沢君? この二人のコンビネーションの真髄を」

 

 明日香は三沢に問う。三沢はその真意を察し、頷きながら答えた。

 

「ああ。二人のコンビネーションの真価は、まさに互いの弱点の補強という点にある。城之内先生のデッキは展開力があまりなく、孔雀舞のデッキは個体個体の火力がない。だが、それぞれの長所を生かすことによって二人のデッキの弱点を補強しつつも、本来のパワーを発揮できる。こう答えればいいかな、天上院君」

 

「大正解よ。ハーピィそのものは弱いけど、それを補強するために妨害カードのサイコ・ショッカーを維持している。これにより罠による切り返しを防ぎ、この布陣を維持できる。無論、ブラック・ホール等を引けば話は別だけど、それはあまりにも確率が低すぎるわ」

 

「次は十代のターンか……雲行きが悪くなっていく。ここでどうにかしなければ、敗けが決まるぞ十代……!」

 

 

 

 

 追い詰められる寸前だ。十代は直感的に感じた。

 残りライフ3700、罠封じのサイコ・ショッカー、ハーピィ・レディが召喚される度に発動する魔法、罠除去効果、それに3体のハーピィたち。

 これをどうにかしなければ勝ち目はない。カードに手をかけて、勢いよく引く。

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 右手に握られたそのカードは……《天使の施し》だった。先程舞が使ったカードである。

 これで逆転のカードを引けるかも、知れない。

 

「俺は《天使の施し》を発動する! デッキから3枚ドローして、その後2枚捨てる」

 

 十代が引いたのは、《E・HERO バブルマン》。フィールド上にカードが存在しない場合に発動するドロー効果を使えば、希望は見えてくる。

 

「俺は、《E・HERO バブルマン》を召喚する!」

 

E・HERO バブルマン 星4 ATK800 戦士族 水属性

 

「来たか……お前の希望のカードが」

 

 困ったときにバブルマンが登場し、逆転のカードを引かれた城之内は警戒の表情を緩めない。舞は効果を知らないが、強力な効果であることだけは感じ取れた。

 

「ああ、来たぜ!! バブルマンの特殊効果を発動! 自分フィールド上に何もない場合、デッキから二枚ドローできる!!」

 

 十代の効果説明を聞いた瞬間、舞は目を見開いた。かなり強いドロー効果だ。同じような効果に強欲な壺が存在するがあれは制限カードゆえに一枚しか入れられない。しかしバブルマンは無制限であるので強欲な壺が4枚入っていると考えることができる。それだけでも恐ろしい効果だと実感する。

 その恐ろしさを知っているのなら、取る行動はただ一つだった。

 

「この瞬間、リバースカードオープン!! 速攻魔法《禁じられた聖杯》を発動!! モンスターを一体選択して、攻撃力を400アップして効果を無効にする!!」

 

「何っ!?」

 

「えっ……!!」

 

E・HERO バブルマン ATK800→1200

 

 翔はおろか、一同が驚愕する。十代の逆転のドローが封じられたということは、新たな可能性を見いだすことができなくなったということ。ついでに言うなれば、攻撃力の低いモンスターを野放しになってしまっているということ。攻撃力がアップしたとしてもそれは雀の涙ほどの数値、サイコ・ショッカーたちには全く敵わない。

 

 

「ヌフフフフ……これでドロップアウトボーイズはオシマイナノーネ。ここまで圧倒的なら、倒されちゃうノーネ。ドローもできなければ、それでフィーネナノーネ」

 

 教員席にて、クロノスがくくくと忍び笑いをしている。これは、生徒に勝ち目などない。誰もがそう思う状況だ。

 だが、それは間違っていたようで、背後から声が聞こえる。

 

「いや、まだわかりませんぞ。デュエルというのは最後までわからないものです」

 

 クロノスは面倒くさそうに顔をしかめると振り返って反論した。

 

「イエイエデモデモ、これ以上彼らを苦しめないためにも、もうデュエルをやめさせるべきではないのデスーカ?」

 

「彼らが、まだやる気だとしても、ですか?」

 

「ナンデスーノ?」

 

 クロノスが振り返り、十代の目を見る。その目に光はまだ宿っている。これほどの窮地でなぜそんな目ができるのだろうか。クロノスにはイライラさせるものでしかなかった。

 

 

 

(俺の手札には融合はない。モンスターカードばかりだ。唯一希望があるとすれば……このカードしかない)

 

 バブルマンの二枚ドローが封じられた今、頼りになるのはこのカードしかない。

 

(ドローはできなかったけれど……これで逆転はできる!!)

 

 十代は確信を得て、そのカードをデュエルディスクにセットする。

 

「俺は装備魔法、《バブル・ショット》を発動する。バブルマンのみに装備できる。装備モンスターの攻撃力は800アップする!!」

 

 ランチャーのような武器がバブルマンの肩に担がれる。

 城之内は驚愕する。バブルマンの装備魔法なんて見たことがない。しかも800ポイントアップするということは……攻撃力は予想以上の値になる。

 

E・HERO バブルマン ATK1200→2000

 

 2000という値が指す意味はつまり……ハーピィ・チャネラーを倒せるということ。ハーピィ・レディをデッキから特殊召喚するモンスターを倒してしまえば、ハーピィ・レディたちを倒すのが容易になる。

 

「げっ…攻撃力あげなきゃよかった……」

 

「城之内あんた何やってんのよ!?」

 

「し、仕方ねえだろ!? 二枚ドローされるよりましだろ!?」

 

 おまけに口喧嘩する始末だ。十代はまだまだ勝負はこれからだと感じ、気分が高揚する。

 

「バトルだ、バブルマンでハーピィ・チャネラーを攻撃! バブル・ショット!!」

 

 肩に担いだランチャーから、勢いよく水が発射される。ハーピィ・チャネラーはその勢いを殺すことができず、呑まれてしまった。

 

城之内&舞:LP8000→7800

 

「俺はカードを一枚伏せて、ターンエンドだ。バブルマンの攻撃力はもとに戻るぜ」

 

E・HERO バブルマン ATK2000→1600

 

 十代はこれでターンエンド宣言をした。

 

 

 

 

 舞は少し複雑だった。城之内が手を抜かないからだ。生徒たちに勝たせたいと言っておきながら、舞の用意したモンスターを容赦なく使いこなして、ライフを大きく削っていった。しかも、結果的には上手くいかなかったが頼みの綱のドロー効果すらも封じてしまうという鬼のようなプレイスタイルをする当たり、かなり本気だ。

 無論手抜きしたらオーナーの海馬瀬人に解雇されるという事情は分かっている。しかし城之内は勝たせるように手を抜くとかそんなように取れることは言っていた。

 一体何が彼を本気にさせるのだろうか。疑問に思いながらドローをした。

 

「あたしのターン、ドロー」

 

 先程失ったハーピィ・チャネラーは手札にいない。再度召喚が可能なハーピィダンサーはいるが、この場で召喚する意味はない。ここで動く意味はない。

 

「バトル! ハーピィ・レディ1で攻撃!!」

 

 ハーピィ・レディがバブルマンに飛びかかる。バブルマンに攻撃が当たるが、それはバブルマンの持つランチャーに阻まれる。それは破壊されてしまったが。

 

「バブル・ショット効果を発動! 戦闘によってモンスターが破壊される場合、装備カードを破壊して戦闘ダメージを0にして破壊を防ぐ!!」

 

「しぶといね。じゃあ、ハーピィ・レディ・SBで攻撃!!」

 

 だが、ランチャーを失ったバブルマンは丸裸同然。その体に、ハーピィ・レディ爪が襲いかかり、倒されてしまった。

 

十代&翔:LP3700→2200

 

「これでとどめよ、サイコ・ショッカーでダイレクトアタック!! サイキック・ウェーブ!!」

 

 がら空きになったフィールドに、サイコ・ショッカーの光線が突き刺さる。これが通れば……十代たちの敗けだ。

 全員の視線が十代へと集まる。十代はどうするのか? そんな声が伝わる。

 

 果たして、十代は動いた。

 

 

 

 

 

「この瞬間、墓地にある《ネクロ・ガードナー》の効果を発動!! このカードを除外して、モンスターの攻撃を一度だけ無効にする!!」

 

 

 

 

 サイコ・ショッカーの光線が十代に刺さるその直前、ネクロ・ガードナーが幻影となって現れ、その光線を打ち消した。

 

 

 

 どうにかゲームエンドを防いだ十代たちだったが、劣勢には変わりはない。けれど、十代の目では、相変わらず焔が燃え上がっていた。

 

 

 相方の目が、光を失いかけていることに気がつかずに……。

 

 




次回に続きます。なんかGXのタッグデュエルよりえぐいことになってるw


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第十二話:城之内の教えたいこと

更新遅れました。申し訳ない。


 デュエルアカデミア1の実力を誇り、帝王の名を貰っている男、カイザー亮は、タッグデュエルを遠くから見ていた。客観的に見れば不利な試合、自分だったらどう戦っているのだろうか。

 今、自分の弟が遊城十代とタッグを組んで戦っている。弟のプレイングは今のところ間違いはない。手札の枚数もなかなかで、勝てる余地はないとは言い切れない。

 だが弟には、そんな冷静な思考を保てるだけの余裕はない。この場に立つだけで精一杯だ。無理もない話だが、それではいけない。この戦いは、翔の運命を決める戦いなのだから。

 

(見せてもらうぞ翔。お前の強さを……)

 

 

 

 

 翔は震え上がっていた。

 残りライフは2200、モンスターは0。これでは勝てない。しかも罠も張っても意味がないというこの状況で、どうしろというのだ。攻撃力が2400もあるモンスターに、敵うカードは今の翔の手札には、ない。先程手札に戻したモンスターたちも、融合なしではなにもできない。

 この状況を招いたのは自分だ、ハーピィ・レディ1や、ハーピィ・チャネラーを倒しておけば、こんなことにはならなかった。次に何かをしなければ、デュエルに敗北し、退学になる。全ては、翔にかかっているのだ。

 ……そんなのできっこない。できるわけがない。相手はプロ、僕の足掻きなんて通用しない! 僕のモンスターじゃ、勝てやしない!!

 気持ちが沈んでいく。沼に落ちて嵌まってしまったかのように、どんどん沈んでいく。力も抜けていく。視界が暗くなる。

 

(もうだめなんだ……僕じゃあ、兄貴のパートナーなんて、務まらないんだ……。でも、もういいよね……僕頑張ったんだから……)

 

 翔は、あるひとつの方法を見出だす。デッキに手を置くことである。相手に戦意の消失を見せて、敗北を認める方法だ。デュエルにおいて一番嫌われてる負け方だが、翔に言わせれば、もっとも楽になれる方法だ。このまま無理に試合を続けるよりかは、ずっと有意義だ。

 サレンダーしよう。

 気持ちが楽になる。それは正直偽りの快感だけれどもそんなのはどうでもいい。本当の苦痛が消え去るのならば……偽りだろうがなんだろうが関係ないーーー。

 

 

 

「翔、まだまだこれからだぜ。お前のターンだ」

 

 

 え? 兄貴?

 

 翔は手を止めて十代を見る。十代は……目に光があった。諦めていなかった。しかも、笑っている。

 どうして笑っていられるの? 相手はプロだよ? しかもライフももう少ない。勝てるわけ、ないよ……。

 翔にはわからなかった。何で、十代はいつも笑っていられるんだろうと。いつだってそうだ。どんなに不利なデュエルだって、常に笑っている。興奮している。そして……勝利する。兄のカイザー亮には負けたけど、そんな風に戦って、兄を認めさせていた。十代の強さの秘密は、そこにあるのかもしれない。そこに惚れて、兄貴と従っているのかもしれない。

 だけど、だからこそ翔は辛かった。こんな弱い自分が、十代にふさわしい弟分で良いのかと悩んだ。もっと強い人はいる。もっといい人もいる。一緒に戦える人はたくさんいる。自分に、十代のとなりは相応しくないんだ。

 

「……ねえ兄貴。どうして、僕とタッグを組んでくれたの?」

 

 でも、何故か理由を聞きたくなった。アニキのとなりにいたいという、ただの希望を食い繋ぐためでしかないのに。

 

「何だよいきなり……そんなの決まってんじゃん」

 

 十代は、にかっと笑って答えた。どんな闇をも振り払うほどの光がある笑顔で。

 

 

 

「お前がデュエルを楽しそうにしているからだよ」

 

 

 

「え……?」

 

 楽しそう? 僕が?

 

「お前、俺とデュエルするとき、いつも楽しそうにしてるだろ? 俺も楽しいんだよ、お前とデュエルするの」

 

 思い返してみる。翔はよく、十代と寮の小さな部屋でデュエルをしていた。ソリッドビジョンは使わないけれど、お互いの腕をあげるためにたくさんデュエルをし続けた。

 十代は強かった。でも、翔も負けなかった。二人の間に、笑顔が尽きることはなかった。

 でも、それと今回のタッグデュエルは……関係ないよ。

 そう言おうとした。でも、口に出せない。いや、出したくなかった。

 ……関係なくなんかない。兄貴は、デュエルを楽しんでいる。僕と違ってメソメソと泣いて勝利を諦めることなんて……しない人だ。だから強いんだ。だから僕を、選んでくれたんだ。僕とやれば、楽しいデュエルになるからって……!

 

「だからさ、楽しくやろうぜ。それでもって……勝とうぜ!!」

 

 十代は親指をたてて、翔に言った。その笑顔は、翔の心の闇を焦がすように熱く、明るかった。

 卑屈になってどうする? 僕は……兄貴についていくと誓ったんだ。兄貴と……デュエルしたいんだ!!

 

 足に力を込めて背筋を伸ばす。カードを握りしめて想いを込める。そして……空いた右手で、カードを引いた。

 

 

「僕のターン……ドローッッ!!」

 

 

 翔の引いたカード……それは《強欲な壺》だった。自分の兄貴がピンチの時によく引く、逆転のドローカード。諦めなければ、可能性は生まれるんだ。そう、十代が教えてくれたみたいだ。

 まだいける。まだ、戦える!! カイザーに、城之内先生や孔雀舞に、そして十代に、それを証明して見せる!!

 

「僕は手札から魔法カード《強欲な壺》を発動!! 効果により、デッキからカード二枚ドローする!!」

 

 翔は二枚の剣を手にした。その剣はこの布陣を断ち切るほどの威力を秘めている。まず、1つ目の剣だ。

 

「僕はまず手札から《死者蘇生》を発動!! 効果により、墓地からモンスターを蘇生させる。僕が蘇らせるのは……《E・HERO エッジマン》!!」

 

E・HERO エッジマン 星6 ATK2600 戦士族 光属性

 

 全身が金色に光るボディを持つ強靭なヒーローが現れる。

 

「えっ……!? そんなカードあったか!?」

 

 城之内と舞は驚く。逆転のカードを引いたというだけではなく、そんなモンスターを破壊したこともない。

 

「いや待って、城之内! 遊城十代が天使の施しで二枚墓地に落としていた……さっきのネクロ・ガードナーが墓地にいたのも、そのタイミングだよ!!」

 

「つまり……その時にエッジマンも落ちていたというわけか……」

 

 城之内は唇を噛む。十代はこれを狙って死者蘇生で特殊召喚をしたわけか。こちらに罠はない、迎撃は不可能だ。

 

「まだまだ終わりじゃない! 手札から《融合》を発動!! 僕は《ユーフォロイド》とエッジマンで融合する!! 現れろ、ユーフォロイド・ファイター!!」

 

 融合によって現れた渦に、エッジマンとユーフォロイドが吸い込まれる。そして現れたのは……UFOが逆さになったような乗り物に乗っているエッジマンだった。

 

「じ、地味な融合だな……」

 

 翔がやったのはただ乗っただけ融合。しかし、自分のことを棚にあげていることに気づいていない。

 

ユーフォロイド・ファイター 星10 ATK? 機械族 光属性

 

「地味かもしれないけれど効果はすごい! ユーフォロイド・ファイターの効果を発動! このカードの攻撃力・守備力は、融合素材にしたモンスターの攻撃力の合計した数値となる!! よって……1200と2600合計で3800!!」

 

「さ、3800ですって!?」

 

ユーフォロイド・ファイター ATK?→3800 DEF?→3000

 

 3800と言えばブルーアイズも簡単に越えるほどの攻撃力。ということはつまり……妨害カードのサイコ・ショッカーも破れるということだ。

 希望が見えた。翔は勢いよく叫んだ。

 

「バトル! ユーフォロイド・ファイターで人造人間サイコ・ショッカーに攻撃!! フォーチュン・エッジマン!!」

 

 エッジマンをのせたユーフォロイドは、サイコ・ショッカーへと体当たりをかました。サイコ・ショッカーはその衝撃に耐えられず、爆散する。

 

城之内&舞:LP7800→6400

 

「僕はさらに一枚伏せてターンエンド」

 

ジャイロイド 星4 DEF1000 機械族 風属性

 

 ターンエンドを宣言した。

 

 

 

 友情の力は、すごい。

 城之内は感じた、二人の間に宿った何かを。先程まで翔はへたれていた。勝負を諦めかけていた。でも……十代がそれを引き留めた。翔を復帰させるほどの信頼と勇気で勝負に挑みに来ているのだ。だから翔は引き込まれた。戦う決意をした。

 そしてあの死者蘇生。翔は、十代が天使の施しでエッジマンを墓地に落としたのを見逃していなかったのだ。城之内や舞ですら見逃したというのに。

 あの二人の友情の力は本物だ。ならば……もっと見てみたい。もっと、確固たるものにしたい。あの二人なら、デュエル以上に大切なものを、分かってもらえるかもしれない。

 そのためには、勝つ気でいかなければいけない。でなければ……二人の力を見ることは出来ない。

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 城之内が引いたのは……《時の魔術師》だった。遊戯にもらった、友情のカード。これで、勝負だ……!

 

「俺は、《時の魔術師》を召喚!! 頼むぜ、相棒!!」

 

時の魔術師 星1 ATK500 魔法使い族 光属性

 

「あんたらしいね、それで覆そうだなんて」

 

 舞が半ば呆れたように呟く。だが、これは城之内と遊戯の友情の証の1つでもある。このデュエルには、相応しいカードだ。

 

「時の魔術師は、1ターンに一度、コイントスをすることができる。その際表か裏かを宣言して、同じ面なら相手フィールドのモンスターを全破壊、違う面なら自分フィールドのモンスターを全破壊して、破壊されたモンスターの攻撃力の半分のダメージを受ける! 俺が宣言するのは、表だ!! いくぞっ!」

 

 親指から、デュエルディスクに内蔵されていてコインが弾かれる。友情によって召喚されたユーフォロイド・ファイターが破壊されるか、守られるか。果たしてどちらの友情が、勝るのか。

 くるくると舞い上がり、運命の裁定が下されようとする。やがて落下を始め、コインは城之内の手の甲目掛けて軌跡を描いていく。一同の視線がコインに集まり手に吸い込まれる。もう片方の手で覆い被せ、開いてみると……。

 

「ーーー表だ」

 

 城之内はニヤリと笑う。まだ、友情ならばこちらの方が上だった。だが、胸に秘めた、友への想いが力となることを知れば、彼らはもっと強くなる。

 城之内は高らかに効果処理を宣言する。

 

「同じ面であるので、相手フィールドのモンスターを全て破壊する!! タイム・マジック!!」

 

 時の魔術師は念を込めて、時空の渦を作る。ユーフォロイド・ファイターはそれに吸い込まれてしまい、遥か彼方の時間へと飛ばされていってしまった。

 

「ユーフォロイド・ファイターが!!」

 

 十代が叫ぶ。二人の友情の結晶が散ってしまったからであろう。これで、フィールドはがら空きだ。

 ……ここで終わるのかどうかは、わからないが。

 

「バトルだ! ハーピィ・レディ・SBでダイレクトアタック!!」

 

 城之内はバトルを宣言する。ハーピィ・レディ・SBは翔へと飛びかかっていく。これが決まれば、確実に翔たちの敗けだ。さあ、どうするんだ……!?

 ハーピィ・レディ・SBの爪が翔に突き刺さりそうになったときーーーリバースカードがオープンする。

 

 

「罠カード発動!! 《聖なるバリアーミラーフォース》!! 攻撃表示のモンスターを全て、破壊する!!」

 

 

 ハーピィ・レディ・SBの長い爪が翔に届く直前……バリアが彼女を弾いた。やがて灼熱のそれが広がっていき、ハーピィ・レディ・SBはおろかハーピィ・レディ1や時の魔術師を巻き込んでいった。

 

 やっぱりな。

 城之内はそう思った。もし、モンスターが全破壊されたら普通は勝負を諦める眼をする。だが、彼らの目に光があった。だから、そういった攻撃反応系の罠カードがあるかもしれないなとは思っていた。最も、それを避ける手段は持っていなかったのだが。

 でもそれでも攻撃したのは、手抜きでもなんでもない。彼らともっと戦いたかったからだ。仮に罠があったとしても、それに引っ掛かっても良いとすら、思ったりもしたのだ。全ては、二人の友情を試すためだ。

 だがこれで相方のハーピィを消してしまった。それは謝るべきだ。不機嫌そうな相方に向き直って謝った。

 

「悪いな、舞。でも、こいつは教師として……必要なことだと思ったんだ」

 

「見え見えの罠に引っ掛かるなということかしら?」

 

 嫌味ったらしく舞が言う。城之内は、真剣な表情で答えた。

 

「そうじゃねえ。もっと、大切なもんだよ。……デュエル以上にな。ーーー俺は1枚カードを伏せてターンエンドだ」

 

 

 

「仕切り直したか……時の魔術師とミラーフォース。この二枚で一気に場が空いたというべきだ」

 

 観客席の三沢は冷静な顔で解説する。隣の明日香もそれに頷き、付け加える。

 

「そうね……ここで十代がどうするかによって、全てが変わるわね。十代が融合を引けば、大きなダメージが与えられる」

 

「ああ。だが、嫌な予感もするんだ」

 

 三沢は顔をしかめる。明日香は振り向いてどういうことか尋ねる。

 

「城之内先生は、明らかに伏せに何かがあると思って攻撃をした。それによって、ハーピィたちが墓地に落ちている。それだけじゃない。天使の施しを渡したり、やたらと手札を消費していたりと、墓地に落とそうとするプレイングが目立つ」

 

「言われてみればそうね。……もしかして、カオスカードを……?」

 

「その可能性は無きにしもあらずだが、もしかしたら……それ以上に強力な何かを狙っているかもしれない」

 

 三沢は十代を見つめる。彼がここで勝負を決めれば、懸念は消え去るのだ。

 

 

 

「俺のターン、ドロー! 俺は、魔法カード《強欲な壺》を発動!! デッキからカードを二枚ドローする」

 

 ようやく十代のターンだ。しかも、がら空き、今が攻めるときかもしれない。最初から城之内のフィールドに一応伏せはあるけれど、それが仮にミラーフォースならば使うタイミングはいくらでもあったはずだ。新たに伏せたカードが何かわからないが、突っ込むしかない。翔が繋いでくれたこのターン、無駄にはしない。

 

「俺は、《融合》を発動!! 手札のバースト・レディとフェザーマンを融合! 現れろ、フレイム・ウィングマン!!」

 

E・HERO フレイム・ウィングマン 星6 ATK2100 戦士族 風属性

 

 炎と風が融合して現れたのは、十代のエースモンスターと言われている、フレイム・ウィングマンである。戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与えるという強力な効果を持っているので、警戒すべきモンスターだ。

 

「更に俺は、《融合回収》を発動!! 墓地の融合と、バーストレディを手札に加える。ーーーそしてさらに、《戦士の生還》を発動!! 墓地にある戦士族モンスターを手札に加える。俺が加えるのは、クレイマンだ。そしてっ!! クレイマンとバーストレディで融合だ!! 現れろ、ランパートガンナー!!」

 

 再び現れた融合の渦に、クレイマンとバーストレディが飲み込まれる。その渦から現れたのは、固い壁に強力な兵器を備えた戦士だった。

 

E・HERO ランパートガンナー 星6 DEF2500 戦士族 地属性

 

「バトルだ!! フレイム・ウィングマンでダイレクトアタック!! フレイム・シュート!!」

 

 十代が叫ぶ。フレイム・ウィングマンは右手にある武器で炎を吐き、城之内たちを焼き払う。

 

「ぐっ……やべぇなこりゃ」

 

城之内&舞:LP6400→4300

 

「さらに、ランパートガンナーの特殊効果を発動!! このカードは、攻撃力を半分にして、直接攻撃ができる!!」

 

 ランパートガンナーは兵器のようなものでミサイルを放ち、城之内たちに攻撃する。

 

城之内&舞:LP4300→3300

 

「かなり追い詰められたね、城之内」

 

「みたいだな……」

 

 一気にここまで削られた。しかも、攻撃力2100と守備力2500の壁はきつい。仕切り直しからここまで削るとは、大したものだ。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 

 

 今相手に伏せはなく、城之内のフィールドに一枚存在するだけ。これを使えば、状況は有利になる。

 しかし、気になることがある。城之内は、一体このデュエルで何を伝えたいのだろうかと。疑問を抱いたのは、プロにとっては見え見えの罠に引っ掛かったときである。罠が伏せてあり、しかも光を失わないならば、何かしらの罠やら何やらは張っているはずだと、疑うべきである。

 しかし城之内は気づいていて、こんなことをしたのである。手を抜いたのか、それとも何かの意図があったのか。

 彼は先程まで本気で生徒を叩き潰そうとしていたのだ。容赦なくライフを削り、絶望する寸前にまで追い詰めたのだ。

 城之内は罠にかかったときに、いっていた。教師として必要なことなんだと。あれは間違いなく、見え見えの罠に引っ掛かるなよということではないはずだ。それ以上の意味が、あるのだろう。

 だとしたらそれはなんだ? タッグデュエルという特殊なデュエルの意義? それとも……。

 

ーーーそう言うことか。

 

 タッグデュエルにて、大切なことを、教えようとしていたのだ。それは、結束の力。武藤遊戯がプロリーグのタッグ戦で、城之内と組んだことがあった。相手は新参で僅か2ターンで勝負がついてしまったことがあった。舞なりに分析すると、互いのコンビネーションの次元の差だった。二人のコンビネーションは理論的には正しいし、完璧だった。だがそれ以上に、二人の間に見えない何かがあって……死角がなかった。勝てるはずもなかったのだ。

 城之内のやつは、それを伝えたかったのかも、見たかったのかもしれない。友情、そして結束を。だから本気で叩き潰そうともしたし、罠にも引っ掛かったりもした。

 

(教師らしいね、城之内)

 

 苦笑いを浮かべながら、ドローをした。

 

「あたしのターン、ドロー!!」

 

 舞は、カードを引く。そのカードは、まさに舞の切り札であった。だが、今はまだその時ではない。まずは、相方のカードを使うべきだ。

 

「リバースカードオープン! 《墓荒らし》発動! 相手の墓地から魔法カードを奪い取る! あたしが奪い取るのは、死者蘇生!」

 

 ちらりと城之内を見て、伝える。城之内の意思は、理解した。だが、本気ではデュエルする。

 墓荒らしの小僧が、舞の手元に死者蘇生を運び込む。ライフはまだ3000以上あるので、発動条件は満たしているはずだ。

 

「さらにあたしは死者蘇生を発動! 墓地の《E・HERO エッジマン》を蘇生する。この際、2000ライフを払うわ」

 

城之内&舞:LP3300→1300

 

「現れろ、エッジマン!!」

 

 舞が叫ぶと、金色に光る戦士フィールドに現れた。

 

E・HERO エッジマン ATK2600 戦士族 光属性

 

 舞は手札を見る。今は、攻められる手札じゃない。だがーーー伏せカードを破壊することは、できる。

 

「更にあたしは《ハーピィ・ダンサー》を召喚する。ここでフィールド魔法《ハーピィの狩場》の効果が発動するよ。フィールドの魔法・罠を一枚破壊する。あたしが破壊するのは、遊城十代の伏せ!! そして、ハーピィ・ダンサーの効果を発動、フィールドの鳥獣族を手札に戻して、もう一度召喚する。あたしはハーピィ・ダンサー自身を手札に戻す」

 

 ハーピィ・ダンサーはフワッと舞い上がり、背中の羽で十代の伏せ《融合解除》を破壊した。融合モンスターの融合を解き、素材モンスターを墓地から蘇生させるというものだ。追撃にも防御にも使える優秀なカードだが、破壊されてしまっては意味がない。

 破壊を終えたハーピィ・ダンサーは素早く後ろへと飛び、舞の手札に戻っていく。ノーコストで破壊ができるとは、とても優秀と言わざるを得ない。

 

「バトル!! エッジマンでランパートガンナーを攻撃!!」

 

 舞はどちらを攻撃するか迷った末、ランパートガンナーを選ぶ。必ず1000ポイントのダメージが入るというのは残り1300しかない今の状況では痛いものだからだ。

 エッジマンの拳はランパートガンナーの盾を破壊し、突き刺さった。

 

「ランパートガンナーが……」

 

 翔の悲痛な声が聞こえるが、構いなしに考えた。先程引いたカードをここで伏せておけばいい。そうすればーーー勝ちは決まる。舞のデッキの最大の切り札である、柔なものではない。

 

「更にあたしは一枚のカードを伏せて、ターンエンド」

 

 今、城之内と作り上げた結束の力が、炎をあげる。

 

 

 いよいよ大詰めだ。お互いのライフも殆ど差がなくなった。舞さんが何をするかわからない。いや、勝負がどう転ぶかわからない。

 現在翔と十代のフィールドには、フレイム・ウィングマンが棒立ちしているだけだ。だが、攻撃力2100では、2600のエッジマンには勝てない。そして翔の手札には、序盤で墓地から手札に戻した《ジャイロイド》と《キューキューロイド》のみ。これでは、勝てない。ジャイロイドで耐えてもいいが、それはあまりに無意味。このギリギリの戦いにおいて、守りに徹するのは無謀だ。

 だけど攻めるにしたって何があるんだろうか……? あるとすればーーー兄に封印されたあのカードだ。でもあのカードを使ってもいいのだろうか?

 いや、まずはカードをドローしてからだ。それから決めなくては。

 

「僕のターン、ドロー!!」

 

 翔が握ったカードは、《天使の施し》だ。これならば……。

 

「僕は手札から《天使の施し》を発動!! デッキから3枚ドローして、《ジャイロイド》と《キューキューロイド》を墓地に捨てる! ーーーよし、僕はフレイム・ウィングマンを守備表示に、そして二枚のカードを伏せて、ターンエンドだ」

 

E・HERO フレイム・ウィングマン DEF1200

 

 あまりに短いターン。しかし、あの伏せには翔と十代の友情を示す、強い想いが秘められている。ターンが渡された城之内にはそれが感じられた。

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 海馬からこの話が届いたときは、十代たちを勝たせて、自分もうまくプレイしてどっちもペナルティを免れるということを考えていた。そして十代たちが序盤にやられていき、手を抜くべきか考えさせられたときもあった。

 だが、次第に二人の友情の力が城之内たちを追い詰めていった。城之内と舞が、負けそうになっている。それを認識したとき、城之内は思った。この二人には本気でやらないと、勝負にならないと、結束の力を見ることは出来ないと。その時にはもう……ペナルティのことなんて頭になかった。二人に、何かを残すことで精一杯だった。

 個々の実力もそうだが、何より二人合わさった力が凄まじいのだ。タッグデュエルにおいて、遊戯は結束の力こそが重要といっていた。個々の力こそ弱くとも、二人の力を合わせれば、絶大な力を産み出す。

 だから、プロだとか、アマだとかそんなのは関係ない。タッグにおいて、いかに結束するかが、重要なのだ。その点では、翔と十代は結束できていなかった。舞と城之内は結束できていた。だから、最初は圧倒できた。だが、二人は結束を始め、決死の力を発揮し始めた。だから、舞や城之内を追い詰めた。

 ただ、やられる気はない。城之内は舞のやろうとしていることを支援した。そして今、それが解き放たれようとしている。舞と城之内の、結束の力は、これからだ。

 二人で紡いだ、強力な結束を見せてやる……!!

 

 

「舞、今こそお前のデッキの真骨頂を使うぜ!! リバースカードオープン、《ヒステリック・パーティー》!!」

 

「ヒステリック・パーティー!?」

 

 十代が叫ぶ。どうやら始めてみるカードのようだ。

 

「このカードは、手札を一枚捨てて発動する。墓地にいる《ハーピィ》と名のつくモンスターを可能な限り特殊召喚する!!」

 

「ええっ!? そ、そんな……!!」

 

 そう、このカードを発動させるために準備をして来たのだ。ハーピィたちを墓地にたくさん落とし、いざというときに展開できるように。

 これが、舞との見えないけれど、見えるものの証だ。二人で紡いだ力は、半端なものじゃない!! お前たちは、これを越えられるか……!?

 

「現れろ、《ハーピィ・レディ・SB》、《ハーピィ・クィーン》、《ハーピィ・レディ1》、《ハーピィ・レディ》!!」

 

 フィールドに四本の光の柱が出現し、そこから4体のハーピィが姿を見せる。墓地に眠っていた鳥獣たちは、この饗宴を喜ばないはずがなく、翔たちに狂ったような笑みを見せる。限界を越えた彼女たちは、力の限界を知ることはない。

 

ハーピィ・レディ・SB ATK1800→2300

ハーピィ・クィーン ATK1900→2400

ハーピィ・レディ1 ATK1300→1800

ハーピィ・レディ ATK1300→1800

 

「ハーピィの狩場の効果を発動!! ハーピィ・レディ特殊召喚されたとき、魔法・罠を一枚破壊する。俺が破壊するのは……翔の右側の伏せだ!!」

 

 ハーピィたちが飛び上がり、一斉に羽を飛ばす。それは翔の右側の伏せに直撃し、《貪欲な壺》が破壊された。

 やはり、あれは友情の証だ。あれを渡すつもりで伏せたのだろうが、破壊されてしまってはおしまいだ。ここで一気に決めてやる!!

 

「バトルだ、エッジマン!! フレイム・ウィングマンに攻撃だ!!」

 

 エッジマンはフレイム・ウィングマンに近づき、拳を突き出す。その威力に耐えられず、フレイム・ウィングマンは倒れてしまった。

 

「ここでエッジマンの特殊能力を発動! エッジマンが守備表示モンスターに攻撃したとき、攻撃力が上回っていれば、その差の分だけ相手にダメージを与える!!」

 

「ぐっ……!!」

 

十代&翔:LP2200→800

 

 これで十代たちのフィールドはがら空きだ。これで、終わりだ。

 

「そしてハーピィたち、一気に舞え!! クィントル・スクラッチ・クラッシュ!!」

 

 4つの爪が、一斉に十代たちに飛びかかる。先陣を切ったのは、ハーピィ・レディ。続いて、他のハーピィたちも襲い掛かる。この攻撃が決まれば、確実に翔たちのライフは0になる。

 だが、翔の目には、光があった。果たして、彼は宣言した。

 

 

 

「この瞬間、《スケープ・ゴート》を発動!! 自分フィールド上に、4体の羊トークンを特殊召喚する!!」

 

 

 ……なるほど、どっちにしても、無駄だったか。貪欲な壺を破壊しなくても、次のターンに、十代に渡されることになっていた。

 やはり、タイミングが悪すぎた。もう少し待てば、止めをさせたのに……。だが不思議と悔しい気持ちはなかった。

 

「仕方ない。全ての羊トークンに攻撃だ!!」

 

 ハーピィたちは、それぞれ羊トークンを破壊する。羊トークンこそ全滅したものの、ゲームエンドには持ち込めなかった。あとは……二人の力を見るだけだ。

 

「俺は、一枚伏せてターンエンドだ。すまんな、舞」

 

 城之内は謝った。舞が用意した舞台を無駄にしてしまったことは、彼女はきっと嫌だっただろう。

 だが、舞はふっと、苦笑いを浮かべてこういった。

 

「これが、あんたなりの教え方なのね。だったら、あたしはなんも文句は言わないわ」

 

 ……どうやら、結束は十分だったようだ。

 

 

 

 翔の用意してくれたカードは、すべて消えた。でも、ターンだけは、命だけは残してくれた。そうだ、貪欲な壺を残そうとしたのは、十代を信じているからだ。だから、十代には、カードをドローして逆転する義務がある。

 

 ーーー頼む、神様……翔の繋いでくれたチャンスを、このドローカードを、無駄にしたくないんだ。だから、いいカードを俺にくださいっ、頼む……!!

 

 十代は、カードデッキに手をかける。一枚の剣をデッキという鞘から抜き払うために力を込める。

 

「俺のターン……」

 

 このドローは、運命を決める。どっちに傾くか。破滅か……それとも、勝利か。

 

 

「ドローッッ!!!!」

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 




次回でデュエルは終わります。そこから、一気に進めればなと思います。


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第十三話:タッグデュエルの決着

今回でデュエルは終結します。


「またも十代が不利になったか……くっくっく、これは気分がいい……」

 

 観客席にて黒い笑いを浮かべているのは、オベリスクブルーの万丈目準だった。彼は、十代の敗北を望んでいる。何故かというと、彼に敗北したからだ。

 月一の実技試験で、遊城十代と戦った。クロノス教諭から譲ってもらったレアカードを用いても勝てず、大衆の前で恥を晒してしまった上にクロノスからの信用も失った。取り巻きも去っていってしまい、プライドも地に堕ちていった。

 俺は海馬コーポレーションに並ぶほどの、万丈目グループの三男だぞ? 次世代のデュエルキングになる男だぞ?

 そう威張っても、もう鼻で笑われてしまう。それが悔しくてたまらない。そうさせてしまったのは、遊城十代だ。あいつさえ、いなければ……こんなことにはならなかった。あの能天気さと、無駄にあるドロー力だけは、腹が立つ。

 だが、それも風前の灯。城之内先生と孔雀舞のフィールドにはモンスターが、しかも伏せもある。これを破るなど、到底できまい。

 

(今に笑ってやるぞ……遊城十代)

 

 万丈目は一人邪悪に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十代は、カードを引いた。握りしめられていたのは……水を操る英雄だった。彼自身には力はないけれど、可能性を届けてくれる。まさに、自慢のヒーローだ。城之内は、口を呆けて開けた。まさかこんなギリギリの状態で、バブルマンを引くとは……やはり、すごいデュエリストだ。

 

「俺は、《E・HERO バブルマン》を守備表示で特殊召喚!! 手札がこのカードのみのとき、特殊召喚できる!! そして効果を発動! フィールドにカードが何もない場合、二枚ドローできる!!」

 

E・HERO バブルマン 星4 DEF1200 戦士族 水属性

 

 十代は新たに二枚のカードを手札に加える。新たに加えた中の一枚は、さらにラッキーなカードだった。

 

「さらに俺は、魔法カード《貪欲な壺》を発動する!! 墓地のモンスター5体をデッキに戻し、二枚ドローする!! 俺が戻すのは、《ユーフォロイド》、《ユーフォロイド・ファイター》、《フレイム・ウィングマン》、《ランパートガンナー》、《ジャイロイド》だ。それらをデッキに戻して、新たにカードを二枚ドロー!!」

 

「そういうことね……」

 

 舞は、一瞬で十代の行動の意図を理解した。城之内も察したようで顔をしかめる。

 

「全てが融合デッキ、そして翔のデッキへと帰っていった。それにより、デッキの圧縮率をあげているのに加え、融合ヒーローも再利用できる。うまい戦術だな」

 

「そういうことだ。だけど俺の狙いは少し違うぜ先生! さらにもう一枚目の《貪欲な壺》を発動する!! デッキに戻すのは、エクスプレスロイド、レスキューキューロイド、バブルマン、キューキューロイド、レスキューロイドだ。そして二枚ドロー!!」

 

「またっ!?」

 

 舞は驚く。なんというドロー力だろうか。バブルマンで貪欲な壺、貪欲な壺で貪欲な壺を引いて見せるとは……。それだけのドロー力があるということは……凄いものを見せてくれるのだろう。十代の手札は既に4枚、これだけあれば、勝ちへと繋がる一手を繰り出せるはずだ。城之内は、そう思った。

 

 

 

 一方十代は、《ラッキーカード》を引いていた。常に自分のそばにいて、共に戦ってくれている相棒が、手札に来たのだ。武藤遊戯がくれた、想いのこもったカード。

 このカードで……勝負を決めるぞ、翔。

 ちらっと翔を見て、十代が頷く。これだけで、翔との意思疏通はできる。カードを天に掲げて、勢いよくデュエルディスクに置く。

 

「俺は、《ハネクリボー》を守備表示で召喚!! さらに一枚カードを伏せて、ターンエンド!!」

 

ハネクリボー 星1 DEF200 天使族 光属性

 

 

 舞は、不審に思う。十代は、攻撃もせず守りを固めただけだった。ハネクリボーは確か、破壊されたターン、戦闘ダメージを0に出来る特殊効果があった。だが、破壊して損はない。恐らくその場しのぎのためのカードだろうから。

 

「あたしのターン、ドロー!! ……出来ることはないわね。なら、バトルフェイズに入るわ!!」

 

 戦闘破壊して、次のターンになにもさせずに、城之内で止めをさせばいい。

 だが……舞のそのタクティクスは、謝りだった。

 十代は叫んでいた。先程の大量ドローの末に築き上げた力を与える、カードの名前を。

 

 

 

「バトルフェイズ開始時に、リバースカードをオープン!! 速攻魔法《進化する翼》!! 手札を二枚捨てて発動し、場のハネクリボーを《ハネクリボー Lv.10》に進化させる!!」

 

 

 神々しい光が、天から刺してくる。その光を受けるのは、小さき天使、ハネクリボー。しかし、その天使は光を受けてーーー翼を生やした。その小さな体躯の何倍も大きい翼を広げ、こちらを睨み据えている。

 

ハネクリボー Lv.10 星10 DEF200 天使族 光属性

 

「ステータスは……変わっていないわ……」

 

 舞は進化したハネクリボーを見るが、翼が生えた以外に変化が見られない。ということは、なにか特殊能力があるということか。だがそれは一体なんだ?

 だが、それを考える猶予はなかった。進化を遂げたとたん、十代は……その特殊効果を発動した。

 

 

 

 

「ま、まずい……!!」

 

 万丈目は観客席から声を出していた。

 レベル10にしては守備力や攻撃力があまりにも低すぎるモンスターで、万丈目ならば雑魚カードと切り捨てている一枚であろう。

 だが、このカードは例外だ。万丈目はこのカードで止めを刺されたのだから。

 切り札のVWXYZを召喚し、十代を追い詰めたと思っていたら、このカードが出現し、ゲームエンドになってしまったのだ。

 その特殊効果は、何も知らないものにとっては驚異だ。ハネクリボーなど、十代くらいしか使わないだろうし、きっと誰も知らない。

 いけない、十代が勝ってしまったら、万丈目の心は満たされない。

 だが、どう見てもこの攻撃は防げそうには、なかった。

 

 

 

 舞が攻撃しようとした瞬間、突然ハネクリボーの体が光り始める。ハーピィたちは爪を構えて突撃しようとするが、踏みとどまる。だが、発光は止まることはない。

 

「一体……何が始まるんだ……?」

 

 城之内は呟いた。ハネクリボーは遊戯が元々持っていたカードだが、あんな効果を持つハネクリボーは知らない。そもそも大きな翼を生やしたハネクリボーは見たことがない。

 ハネクリボーの翼は、本体を守るように包み込む。パワーが溜め込まれ、翼にも光が宿り始めた。まさか……このクリボーのやろうとしていることは……!!

 

「ハネクリボーLv.10の特殊効果発動!! 相手バトルフェイズ中に、このカードを破壊して、相手モンスターを全て破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!!」

 

 ーーー何っ!?

 

 城之内と舞は小さき体躯の天使を見つめる。この攻撃を食らったライフは0になる。残りライフは1300、一体でも破壊されれば0になってしまう。つまりバトルフェイズを行った時点で、やばかったということか。

 これが、翔と十代の結束の結晶か……なるほど、相当強力だ。城之内は、満足していた。これほどまでの力を、もうこの時点で持っているとは……。

 

「本気で、遊戯も越えられちゃうかもな……」

 

 城之内のその言葉は、ハネクリボーの爆発によって、掻き消された。

 

 

 

 

 

「やったぁっ!!」

 

 翔はガッツポーズを決めた。十代がハネクリボーを進化させて、その特殊効果で城之内たちを破ったのだ。これでライフは0になり、翔たちの退学は免れる。

 翔は十代を見て笑った。嬉笑いを心から浮かべて駆け寄ろうとしたが……十代は笑っていなかった。

 

「あ、アニキ……どうしたんすか? 勝ったんじゃないんですか……?」

 

 翔の笑顔が疑惑へと変わる。十代はこっちを見て首を振った。

 

「勝ってない。ライフが0になっちゃいないからな」

 

「ええっ!?」

 

 翔は慌ててスタジアムにつけられているライフカウンターを見る。すると確かに、城之内&舞のライフは1300と変わっていなかった。だが、どうやって……!?

 先程のハネクリボーの爆発の煙が薄れていき、二人の姿が映る。モンスターこそ、全て破壊されているが、二人を新たに包むものがあった。

 神秘的な光を放つ膜が、煙を遠ざけている。まさかあれが、二人のライフを守ったものだというのか……?

 バリアが霞むと、城之内は静かに笑いながらこの現象を解説した。

 

「ハネクリボーの特殊効果が発動したとき、チェーンして《ホーリーライフバリア》を発動させていたのさ。手札を一枚捨てて、全てのダメージを0にできるんだ。モンスターの破壊こそは守れなかったがな」

 

 つまりハネクリボーは、モンスターだけしか倒せなかったということだ。十代は歯噛みしながらも、勇敢に叫ぶ。

 

「くそっ……だが、ハネクリボーの想い、無駄にはしないぜ!!」

 

「なら、それをあたしたちにぶつけることね。あたしはモンスターをセットして、ターンエンド」

 

 舞は、がら空きになったフィールドに一枚のモンスターをセットして、ターンエンドを宣言した。たった一枚の防御手段。あとは、翔のドロー次第で変わってくる。

 十代はハネクリボーの力を解放させ、フィールドのカードの枚数を減らした。今城之内と舞のフィールドには、僅かに一枚のセットカードがあるだけだ。翔と十代のフィールドにはバブルマンが存在している。どうやって、対処するのだろうか。

 舞は城之内を見た。全力は出した、あとはあんたの好きにしろと伝えた。城之内は微笑みながらうなずいた。ただそのセットカードは、少し本気を出しすぎだと、城之内は思ったが。

 

 

 

 

「頼んだぜ、翔。あとは、お前が決めてくれ」

 

 十代はにかっと笑いながら、翔に言った。十代が全てをかけた必死の攻撃のお陰で、状況が一変した。ここで、勝負を決めれば……翔たちの勝ちだ。

 翔は、ちらっと手札を見る。さっきのターンでドローした、《パワー・ボンド》である。機械族専用の融合カードで、攻撃力を二倍にして融合召喚できる代わりに、攻撃力をあげた分だけダメージを受けてしまうという制約がある。諸刃の剣とも言える、強力なカード故に、兄の亮に封印されていた。そして、十代とタッグを組んで思い悩んでいたとき……相手を思いやるリスペクトデュエルが出来なければ、そのカードを使う資格はないと兄から学んだ。

 だから、翔は相手を無視したデュエルをせずに立ち向かった。最初は怯えてしまったが、今はいつのまにか十代と共に歩めている気がする。二人で築き上げたコンビネーションが炸裂することもあった。今も十代がここまで繋いでくれたから、自分のターンが来ている。

 だったら……今こそこのカードを使うべきだ。翔が握りしめた、この強力なカードを使うときが来たのだ。

 だが、たった一枚ではどうしようもない。可能性をかけて……ドローをするだけだ。

 

「僕のターン……ドロー!!」

 

 勢いよく引かれたそのカードは……二枚目の《貪欲な壺》だった。

 翔は笑った。これなら……勝てる。これでカードを引いて、望む手札が来れば、勝てる。

 

「僕は、手札から二枚目の《貪欲な壺》を発動する!! 墓地のカードを5枚デッキに戻し、新たに二枚ドローする!! 僕が戻すのは、《ハネクリボー》、《ハネクリボー Lv.10》、《バーストレディ》、《フレイム・ウィングマン》、《エッジマン》だ。全部アニキのデッキに戻して、新たに二枚ドローする!!」

 

 全て十代のデッキに戻し、新たに二枚手札に加えた。それは、まさに翔の望むカードだった。

 

「よしっ!! 僕は《スチームロイド》を召喚する!!」

 

スチームロイド 星4 ATK1800 機械族 地属性

 

 エクスプレスロイドと同じような、蒸気機関車を模したようなモンスターが現れる。蒸気をたくさん出している辺り、カンカンなようだ。

 続いて翔は、手札から新たにカードを取り出した。それは……翔の切り札だ。これで勝負を決める!!

 

「そして僕は、魔法カード《パワー・ボンド》を発動する!! 場のバブルマンと、手札の《ユーフォロイド》を融合し、フィールドに特殊召喚する!! 限界を越えた力を発揮せよ、《ユーフォロイド・ファイター》!!」

 

 手札のユーフォロイドとバブルマンが結合し、スパークを散らす。ただの融合ではなく、結合というかたちの融合だ。まさに、機械族モンスターの融合にふさわしい。

 スパークはやがて激しくなり、爆発を起こす。城之内と舞は腕でかばう。その煙が薄れると、そこにはユーフォロイドに乗ったバブルマンがいた。だが、ユーフォロイドは常にスパークを散らしており、前に見たユーフォロイド・ファイターとは様子が違う。

 それも当然だ。これはただの融合ではないのだから。

 

「ユーフォロイド・ファイターの攻守は、融合素材にしたモンスターのそれらを合計した数値になる。しかも、パワー・ボンドの効果で、攻撃力は二倍になる!! よって……攻撃力は、800と1200を足して2000の二倍、4000だ!!」

 

ユーフォロイド・ファイター ATK?→2000→4000 DEF?→2400

 

 

 

 

 

 

「4000だと……ったく、すげえ攻撃力だな」

 

 城之内は目を丸くして、ユーフォロイド・ファイターを見つめる。ハネクリボーLv.10が友情の最終形態だと思っていたが、まさかこれが真の姿だったとは……。

 

(すげぇよ……お前たち。今の時点でここまでやっちまうなんて……。本当に、今のガキたちは凄い。俺の時よりも、可能性に溢れている)

 

 城之内はいつのまにか笑っていた。二人の友情の結束は、十分すぎる。もう、城之内が教えることがないよと言わせてくれるほどのものだ。デュエル以上に大切なものの価値を、理解しているからこそ、互いを信じるデュエルができる。軸がぶれない生き方を、見つけられる。彼らはきっと、自分の二の舞にはならないだろう。

 だが、まだ彼らも完璧じゃない。デュエル以上に大切なものを理解したら気づくはずだ。デュエルというものの、デュエルモンスターズという本質を。城之内が、苦汁を嘗めて嘗めて嘗め尽くしてようやく理解したことを、解ることが出来るはずだ。だがそんなことは、デュエルアカデミアの生徒にはまだ解ってもらえない。

 だから今はまだ……外には出させない。例え、このデュエルに勝ってでも。

 

 

 

 

「よしっバトルだ!! いくらなんでも、セットモンスターでは、その攻撃力には耐えられない!! セットモンスターで、攻撃っ!! フォーチュン・バブルマン!!」

 

 リバース効果が発動する可能性があることは、すでに把握済みだ。しかし、舞のデッキはハーピィデッキ。ハーピィデッキには、リバースモンスターは入らない。恐らく舞は、ハーピィを表側守備表示で召喚して、ハーピィの狩場を破壊してしまうのを恐れたのだろう。破壊効果は強制効果であり、現在伏せカードは一枚も無いので、ハーピィの狩場そのものを破壊してしまう。破壊しなければ、ダメージステップに表になり、守備力が200上昇する。しかしそれは……4000という威力に粉砕されるだけだが。

 4000という攻撃力の前には、誰も勝てない。あの青眼の白龍でさえも粉砕できるので、それよりも恐らくステータスの低いセットモンスターでは、防げるわけがない。そして粉砕したあとで、攻撃力1800のスチームロイドでダイレクトアタックをすれば、勝ちだ。

 嘗てのように、相手を無視したデュエルをしたりはもうしない。翔が培ったデュエルの経験をすべて活かし、相手の実力を認めた上でのパワー・ボンド。これならば、兄だって認めてくれる。デュエルだって勝つことが出来る。

 

 

 バブルマンを乗せたユーフォロイドはまっすぐセットモンスターに突撃する。裏側のカードに直撃し、カードがリバースされる。そこに現れたのはーーー。

 

 

 

 

「あっ……!?」

 

 十代の、息を漏らすような声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 ーーーマシュマロンだった。

 

 つぶらな瞳に、マシュマロのような見た目。あのデュエルキングも愛用している、()()()()モンスターが見えた。

 

マシュマロン 星3 DEF500 天使族 光属性

 

 

 

 モンスターをセットした舞は震える翔に、静かに語る。

 

「マシュマロンが裏側守備で攻撃されたとき、相手ライフに1000ポイントのダメージを与える。さらに、戦闘では破壊されないわ」

 

 

 

 

 

 

 翔は悟った。自らがおかしたミスを。最も攻撃してはいけないモンスターに、攻撃してしまったことを、悔やむ暇もなくーーー。

 カードから、マシュマロのようなモンスターが出てくる。その愛らしい見た目が、突然クリオネのように牙を向き始め、翔へと噛みついた。その小さな体からは想像もつかない威力に、翔は倒れる。

 この現象の全てを、察した人間はほぼ全員だった。翔は倒れながら、後悔をしていた。何故、攻撃してしまったんだろう。でなければ……負けなかった。

 ドサッと地面に膝をつく翔に、十代が叫んで駆け寄った。

 

「翔ッ!?」

 

 十代の叫びを聞いて、翔は見る。翔は、泣いていた。ボロボロと涙を流していた。そして一言、十代にいった。

 

 

「ごめんアニキ……本当に、ごめんなさい……!!」

 

 

 

十代&翔:LP800→0

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「くそったれ……」

 

 ドンッ。

 城之内の拳がデュエルアカデミアの壁に思い切りぶつけられる。じんと痛むが、それよりも無情感が城之内を包み込む。

 

 十代たちは、城之内たちに負けた。勝てたら学園に残留、負けたら退学という約束になっていたので、二人は退学を余儀なくされることになった。

 翔は十代に謝り続けた。けれど十代は仕方ないさと優しい笑顔で励ましてくれた。お互い何の慰めにも、ならないのはわかっていて。

 十代に負かされた万丈目準は高笑いを木霊し、クロノスは黒い笑いを堪えきれていなかった。三沢は残念そうな表情を浮かべ、明日香は落胆してその場を去ってしまった。ただ、カイザー亮は翔に歩みより、デュエルを称賛していたが、翔にはその言葉を聴く気力なんてなかった。

 

 

 やはり勝ってはいけなかったんだ。自分だけお咎め無しだなんて辛すぎる。例え勝っても退学は防いで見せると意気混んでいたけれどクロノス先生を説得できず、査問委員会に突き出すと言われてしまった。

 

 こんなことになるなら、マシュマロンなんて伏せさせるんじゃなかった。マシュマロンなんて入れさせなきゃよかった。デッキ調整のために、マシュマロンを入れてしまったのは間違いだった。

 全ては自分のせいだ。いくら二人の結束の力が強くとも、負けてしまえばおしまいなんだ。退学してもなお、友情を大切にできればそれはそれでよかった。だが、そんなことだと切り捨てて、他の道を模索するのに精一杯な状態になってしまうのは必然だ。それでは、過去の自分と同じになってしまう。

 それだけはダメだ。そうはさせてはいけないんだ。何のためにデュエルアカデミアに就職したんだ。路頭に迷わせるためじゃない、道を見つけるのに大切なものを見つけさせるためだ。

 

(考えろ、考えるんだ城之内……!! お前ならきっとなにかが思い付くはずだ!!)

 

 

 頭を捻り、考えを絞り混む。デュエル以上に考えて、考え込む。

 

 ふと、閃光のごとくなにかが頭を横切った。もしかして……?

 城之内はそれを紐解いていく。実行できるか? それでうまくいくか……?

 

 問題、ないな。

 あるとすれば……面倒な奴に頭を下げなくちゃあいけないことだ。

 だが、そのくらいやってやる。自分はもとから泥臭くやって来たんだ。

 城之内は、携帯を取り出して耳に当てた。

 

 

 

 

「ではこれより、査問委員会による審議を行う」

 

 デュエルに敗北した翔と十代は、査問委員会に呼び出され、死刑宣告を待っていた。審議とは名ばかりで最早彼らの退学は決まったものだ。査問委員会のメンバーの顔はモニターに映し出され、そのなかには鮫島校長やクロノスがいた。そこには、城之内先生はいない。

 

「遊城十代、丸藤翔以下二名は、幽霊寮への侵入を図り、制裁デュエルに敗北した。よって、二人を退学処分とする」

 

 鮫島校長先生が厳しい表情で宣告する。十代と翔は、顔を俯かせて黙り混む。

 

「これに異存があるものは?」

 

 査問委員会の人間は手をあげず、じっと十代たちを見る。クロノスに至っては笑っている。嬉しくて仕方がないのだろう。だけど、悔しいけど言い返せない。

 誰も意見するものはない。鮫島校長は確認して、改めて言い直す。

 

「では、十代君、翔君は次の船の便でこの島から出ていってもらう。速やかに帰って荷造りをするように。では、かいさーーー」

 

 鮫島校長が解散と言い終えるその直前だった。

 

 

 

「貴様ら、この俺を抜きに話をするとはいい度胸だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……あいつは今出られないか……分かったよ」

 

 電話を切った城之内は、一息をつき、デュエルアカデミアのスタジアムの観客席に座る。今はもう、生徒の姿はなく授業をしている。今日は城之内の授業はなく、こうして一人で佇んでいる。

 

「城之内、ここにいたのね」

 

「舞か」

 

 横から急に声がかけられた。城之内は手をあげるが、舞はなにも返さなかった。舞は、辛そうに眉を曲げていた。

 

「生徒たちは……どうなったの?」

 

「退学さ」

 

 城之内は淡々と答えた。落胆と言う表情を通り過ぎて、すべてが抜けきったような感じだった。舞の心は苦しくなる。自らが抱いていた罪意識が強くなる。

 

「……城之内、ごめん」

 

「どうしたんだよ、急に」

 

 城之内は、優しく声をかける。笑顔ではないけれど、心配してくれている。それが余計、申し訳なくなる。

 

「あたしが、マシュマロンを伏せなければこんなことには、ならなかった。あんたの生徒を退学に追いやった」

 

「気にすることじゃない。俺がやめさせれよかった話だし、舞が本気でやりたいという想いは仕方ないと思うぜ」

 

「でも……あんたは今、悲しんでる。あたしには、それが耐えられない。あたしは後悔している。本気でやろうとして、勝ってしまったの」

 

「舞は悪くねえ。デュエルは本気でやるもんだ、だから仕方ないんだよ。勝っちまったことを悔やむのは、十代や翔にも失礼だ」

 

 舞は俯く。城之内は手を組んでじっとデュエルフィールドを見つめている。足をとんとんと踏み鳴らしたり、貧乏ゆすりをしたりと落ち着きがない。だけど、横顔だけはとても綺麗で、思わず見惚れてしまうくらいだった。舞には、その資格はないと思いこんでいるけれど。

 

 しばらく、二人は黙り込んでいた。痛いほどの静寂が二人を包み、ストレスが募る。何かを話したいけれど思い浮かばない。舞が撒いたことなのだ、耐えなくてはならない。

 どのくらいそれが続いただろうか。舞も疲れたので座り始めた。城之内は視線を一切変えず、ずっとデュエルフィールドを見ている。貧乏揺すりも激しくなる。きっとイライラしているのだろう。それもそうだ、彼の生徒が、舞のせいで退学になったのだ。

 もう一度謝っておこうか。でないと辛い沈黙が続くだけだ。そう思って立ち上がろうとした。

 

 だが、それよりも城之内が先に立ち上がって……席を立って、背を向けた。もしかして、このまま行ってしまうの?

 舞は、恐る恐る聞いてみる。

 

「どこに行く気?」

 

「便所さ。小便がしたくてよ」

 

「そう……」

 

 下品な言葉と共に返事が来た。城之内はそのままトイレへと向かうのだろう。ただ、こんな気分で一人にされたら、凄く困る。辛いところもある。でも、一緒にトイレに行けるわけもないしこのまま待つ以外に選択肢はない。

 舞は立ち上がろうとした体を座らせる。この後悔は何時まで抱えるべきだろうか。舞は城之内の足音を聞きながら、途方にくれかけた。

 だがーーーふと、足音がやんだ。

 どうしたのだろうと気になって、舞は城之内を見上げる。城之内は、背を向けたまま、立ち止まっている。

 じっとその背中を見つめていると……城之内は、言った。

 

「舞、もう自分を責めるな。お前は何も、悪くない」

 

 城之内が再三繰り返して言ってきた、舞に対する慰めの言葉をまたも言った。鬱陶しくなんかない上に、その声を聞くと安心する。でも……城之内は、きっと怒っている。そう思えてしまうから怖いんだ。

 それを伝えたいけれど、言葉にできない。口に出せない。これほど悔しいことは、ない。

 

「私は、あんたの生徒を退学に追いやった。それでも悪くないと言える?」

 

「お前が退学させたいという思いでやったんならな。でも、そうじゃねえよ。お前はデュエルに勝つためにやったんだ」

 

「それは同じことよ……デュエルに勝ったから、彼らは退学になったのよ」

 

 何言っているんだ、あたしは。また自分を追い込んでいる。城之内を困らせている。慰めてほしいのか? 構ってほしいのか? よく、わからない。

 城之内はくるっとこっちを向いた。そして、歩み寄る。その表情は、いつになく真剣だった。声も低く、目付きはとても鋭い。堅い意思を持っている証拠だ。

 城之内は、ガキの頃に比べたら落ち着いてきていると思う。お調子になるところはなくなり、けれどその面影は残っている。騒ぐときは本当に騒ぐのは、変わらない。

 でも、いざというときには真剣になるところは全く変わっていない。真っ直ぐなところも変わっていない。何でもかんでもぶつかっていくその強さも変わっていない。

 だから舞は、城之内のその瞳から目をそらせなかった。その目がとっても好きだから。でも自分にはもう、城之内を好きになる資格なんてない。彼を傷つけたのだから。

 

 だけど城之内はそれに構わず、舞のすぐ近くに来た。城之内の汗臭い匂いがする。でも不快だとは思わない。城之内はその表情のままで、片手を舞の右肩においた。

 

「……!」

 

 舞は目を見開く。城之内はその表情を変えることなく、舞を見つめる。そして……口を開いた。

 

 

 

「舞、お前のせいじゃない。だけど……納得いかねえならーーー俺が、何とかする。何とかして、あの二人の退学を止めさせてやるよ」

 

 

 

 

 城之内はそれだけいうと、手を離してその場を後にした。舞はポカンと城之内の背中を見つめる。一瞬の胸のドキドキを、返してほしいと文句を言いそうになる。

 昔の城之内ならば、自信たっぷりに言っていたけれど、今のはそういう感じじゃなかった。必ずやってやるという強い意思で言っていた。だからーーーますますドキドキが止まらなくなる。舞は、城之内を傷つけた。でも、彼はそれを受け止めて、生徒二人を守るべく奮闘しようとしているのだ。

 

 城之内は、舞のその思いを受け止めて、外に出た。あの馬鹿野郎を、呼び出すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、誰かの声が聞こえた。そしてモニターが新たに増え、その人物が映し出される。茶髪に切れのある顎、そして冷徹な目付きが特徴のこの人物は、まさか……。

 

「あ、あなたは……オーナーの海馬瀬人ではないですか? 何故このような場所に?」

 

 鮫島校長が尋ねると、他の査問委員会のメンバーも驚きを隠せなかった。

 

「えっ!?」

 

「ま、まさか伝説のデュエリスト、海馬瀬人!?」

 

 翔や十代も驚く。何故なら、モニター越しとはいえ、海馬瀬人という、大企業の経営者兼デュエルキング最大のライバルデュエリストがすぐそばにいるからだ。

 海馬はその叫びを気にする風はなく、鮫島の質問に答えた。

 

「そうだ。久しぶりだな鮫島。少し言いたいことがあってな。しばらく見ぬうちに、人、いや、デュエルを見る目もなくなったか」

 

「……それは、どういう意味ですかな?」

 

 いきなりの挑発的な発言に一同が顔をしかめる。しかし海馬社長はまるで怯むことなく威厳たっぷりな口調で答えた。

 

「貴様には、あのタッグデュエルの真の意味が理解できなくなっているほど落ちぶれているという意味だ。その点では貴様も同じだ、イタリア被れのクロノス・デ・メディチ」

 

「イタリア被れというのは余計なノーネ!! 私は正真正銘イタリア出身ナノーネ!!」

 

「誰が貴様の下らんプロフィールを話せといった? 俺が話したいのはそんなことではない、単刀直入にーーー」

 

「お待ちください、海馬さん」

 

 女性の査問委員が海馬社長に物を申すようだ。海馬社長はじろりと彼女を見つめて聞いた。

 

「何だ?」

 

「この場の話は我ら査問委員が決めることです。オーナーのあなたに参加権限はないはずですが」

 

 査問委員会とはデュエルアカデミアの問題を解決するための組織、確かにオーナーには直接は関係しない上、海馬には参加権限がない。

 だが、そんな理屈は、海馬の前では通用しないことは彼女はわかっていなかった。

 

「参加権限だと? そんなもの、この俺の管轄外だ。俺には社長権限というのがある。この査問委員会を存続させているのは、この俺によってだ。介入する余地はある。文句があるものはこの俺とデュエルしろ。で、どうするのだ井上」

 

 井上と呼ばれた女性は詰まるような声をだし、申し訳ありませんといった。海馬にデュエルで勝てる人間など、武藤遊戯くらいしかいないことを皆理解しているからだ。言っていることは滅茶苦茶だが、決まり事のほとんどはデュエルと海馬の命令によってであるので逆らうことはできない。逆らった瞬間に、滅びのバーストストリームがソリッドビジョンの中でも、現実でも放たれてしまう。

 

「では、俺も忙しい身なので単刀直入に言うぞ。遊城十代と丸藤翔の以下二名の復学を、認めるものとする」

 

 海馬は淡々とそれを言いあげた。約束を、協定を覆すような無茶苦茶な言動に、一同は目を丸くした。解放されそうな十代や翔ですらポカンとしている。

 

「お、お待ちくださいノーネ! そのものたちは規則を破って、それの審議ということでタッグデュエルをやらせたノーネ!! 負けたら退学という条件を無効にするのはどうかと思うノーネ」

 

「確かに、貴様たちの言うことは理解できる。下らんデュエリストならば、こんなことは俺は言うつもりはない。だがな……俺はあのデュエルを見て思ったのだ。面白い奴だ、とな」

 

「お、面白いですか……?」

 

 鮫島校長は言葉を繰り返す。

 

「そうだ。はっきりいってやろう。プロのデュエリスト相手にここまで戦う生徒など、他にはいない。恐らく貴様らでも無理だ。凡骨はともかく孔雀舞は世界的に有名なデュエリスト、それと接戦を繰り広げるのは並みのデュエリストでは不可能だ。だが貴様らのやろうとしていることは、そんな奴を潰すことだ。もしかすると、未来のデュエルキングになるかもしれない男たちを、な」

 

「未来の……デュエルキングに……」

 

 十代は、海馬を見つめながら呟く。伝説のデュエリストから、そんなことを言われるとは思っていなかった。気分は最悪だったはずなのに、今はどこかいい。

 

「腕そのものは武藤遊戯やこの俺にはまだまだ及ばんが……俺には分かる。こいつらには、人を認めさせる力があることを。だからもう一度言うぞ。今回は退学を罷免とする。社長命令である以上、覆すことは許さん。どうしても不満があるのならば、デュエルで相手しよう。では、失礼する」

 

「お、お待ちください海馬さん!!」

 

 井上やその他の査問委員が呼び止めるが、モニターは切れてしまい、海馬が応答することはなかった。

 海馬がいなくなったことで、しんと場が静まり、誰も口を開かなかった。皆、海馬の無茶苦茶な言動に辟易しているのだろう。救われた翔や十代ですら、唖然とするしかない。

 

「それで……どうするんでスーノ校長先生……?」

 

 クロノスがおずおずと尋ねる。鮫島校長先生は目をつむりながら唸る。

  その時だった。

 

「先生、お願いしますっ!! 俺たちを、復学させてください!!」

 

 十代が突然、頭を下げたのだ。いつもは大人に対しても敬語を使わないような、お調子者の十代だが、ここできちんと敬語で頭を下げた。

 

「俺、もっとデュエルしたいんです。一番になりたいんです。未来の……デュエルキングになりたいんです!! だから……お願いします!! 俺を、ここから追い出さないでください!!!!」

 

 どこから声を出しているのかわからない程の声量で十代は頼み込む。翔も、それにならってお願いしますと頭を下げた。

 クロノスは顔をしかめた。クロノスにとって十代たちの退学は障害を取り除くためのものであるからだ。だがそれは、海馬の乱入によって食い止められ、今こうして生徒が頭を下げている。クロノスは一人の教師、一生懸命やっている生徒を無下にはできない。

 校長もクロノスの表情を眺めていた。そして、二人のデュエルを思い返していた。あの二人は、普段からは想像もできないほどのパワーを見せて、城之内先生や孔雀舞を苦しめた。それだけでも、本来ならば尊敬に値するほどなのだ。

 海馬の言う通りだ。目は腐っていた。あのデュエルの真の意味を、理解できていなかったのだ。強くて逞しいデュエリストを育てるのが、このデュエルアカデミアの教育方針だ。実力者を無慈悲に放棄するなど、有り得ないのだ。

 

「ーーー分かりました。二人の退学を罷免とします」

 

 鮫島校長は、笑顔を浮かべて二人に告げた。その直後ーーー十代と翔は抱き合って、喜んでいた。再び友と学び、遊び、戦える。それ以上の喜びを、二人は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

「お待たせ」

 

 城之内は、舞の元へと戻ってきた。顔は、笑っていた。微かにだけれども。

 舞は城之内を見るや、立ち上がっていた。どのくらい待たせていたのだろうか。

 

「随分遅いトイレね」

 

「ちょいと立て込んでてよ。待たせちまったな」

 

 シニカルに笑う城之内に、舞は苦笑する。そして舞は、おずおずと聞いた。城之内の成果を。

 

「で、どうだったの?」

 

 城之内は、舞の質問に口では答えなかった。来いよとそれだけ告げて、城之内のあとに続く。

 城之内が歩いていったのは、デュエルスタジアムの外の廊下だ。そこにはーーー二人の男子がいた。

 

「おっ、来た来た」

 

「こんにちは!」

 

 茶髪の活発そうな少年と、眼鏡をかけた小さな少年の二人だった。先程、激闘を繰り広げた、友情のデュエリストだ。でも、彼らは退学になったのでは……?

 

「あんたたち……どうしてこんなところに?」

 

 舞が驚きながら聞くと、茶髪の少年は、キョトンとした顔で答えた。

 

「へっ? どうしてって……俺はここの生徒だからだよ」

 

「でも退学処分になったんじゃあ……?」

 

 十代はようやく舞の言いたいことがわかったことで、ああと唸る。そして、頭をかきながら笑って答えた。

 

 

「それがよ……なんだか知らないんだけど助かったんだ。いきなり海馬瀬人が現れてさ、査問委員会に俺たちを残留させろって言ってさ……。まあ助かったよ。俺はまだここで止まりたくないしな。なあ、翔?」

 

 

 茶髪の少年は、眼鏡をかけた少年・翔に話を振る。翔は、笑顔を浮かべて頷く。

 

「うんアニキ!! 僕も、アニキと一緒にデュエルしていきたいっす!!」

 

 舞は、すべてを察した。城之内が手を回したんだ。海馬瀬人を呼べる人間なんて、本当にごくわずかだ。城之内と海馬はいがみ合っているが、それ故に関係も深いのだろう。

 城之内は、そんな二人をみて、にっこり微笑んだ。そして、口を開いた。

 

「そうか……それならよかったよ。頑張れよ」

 

「はい!!」

 

 城之内の言葉に、二人同時に揃えて答えた。城之内は嬉しそうに笑いながら舞の肩に触れた。舞は、とても気分がよかった。退学にならなくてよかったというのもそうだが、何より城之内がきちんと教師をやれていることだった。生徒から全幅の信頼を寄せられるなんてそうそうできることじゃない。でも城之内はやってのけた。もしかしたら、彼は天才かもしれない。それは、二人の生徒の笑顔を見れば分かることだ。

 

「じゃあ先生、俺たちはもう寮に戻りますね」 

 

 十代は城之内たちにいった。おうと城之内は答えると、十代は翔を連れて行ってしまった。若い男とだけあって足は速い。きっと飯時ゆえに、腹が減っているのだろう。

 城之内は苦笑しながらも、二人の後ろ姿を見守って……叫んでいた。

 

「今日のデュエルは、楽しかったぞーー!! いつかまた、もう一度やろうなぁーーー!!」

 

 城之内の、子供らしい発言に、遠くから十代の、またやろうぜぇーと叫ぶ声が返ってくる。舞も笑顔で見送った。マシュマロン止めをさしてしまったことなんて、いつのまにかどうでもよくなっていた。この二人が、無事ならばそれでいい。

 

 

「さあて……明日はゆっくりと羽を伸ばすぞ……」

 

 二人が去ると、城之内は伸びをしながら、十代たちとは反対の方向へと歩き出した。舞もそのあとをついていった。

 

「ところで、舞は今日どうするんだ?」

 

「船が来るまでここでゆっくりしようかしら。あんたといっしょに」

 

「そっか……じゃあ飯でも食いに行くか」

 

 こうして、退学を決めるタッグデュエルは、幕を下ろしたのだった。




貪欲な壺は当時は二枚も積みはしなかったと思いますが、貴重なドローソースには変わりはないので、なしではないはず。制限になるのは2006年ですし、きっとこの頃は無制限のはず。

次回は少しお休み回として、遊戯と城之内をメインにした奴を書きます。その次は、遊戯のデッキ盗難事件ですね。それが終わったら、セブンスターズまで行こうかなと考えています。


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第十四話:友の旅立ち

遊戯と城之内の物語、それと舞との物語もあります。


 

 

 タッグバトルから一日たった翌日、城之内は休みをとって本田、遊戯、杏子と遊びに出掛けた。高校時代にしていた遊びが急にしたくなって、城之内が提案したのだ。だから集まって、懐かしの場所へと向かった。

 最初に向かったのは、ボウリング場。本田がガターばかり決めていて皆で大笑いした。遊戯と杏子はとってもうまかった。城之内は……まあ普通だった。高校時代にはボウリング場によく通っていて、遅くまでごろごろとボールを転がしていた。

 ボウリングを終えて、次はカラオケにいった。あの頃の歌とか最近の歌とかもたくさん歌った。ただ、遊戯の奴はそこまでうまくなかった。杏子は女性だけあってやっぱり綺麗な声だったな。遊戯が羨ましいかもしれない。

 レストランで食事を済ませたあとはカードショップにも行った。杏子や本田もデッキを借りて城之内や遊戯と戦ったけれどやはり勝てなかった。ただ、唯一いいことがあった。遊戯に勝ったことだ。まあ、遊戯のデッキには神はいなかったけど。

 遊戯がいると云うことで人が群がってきてしまい、居づらくなって出ていったあとは遊戯の家に遊びにいった。お酒やらツマミやら色々買って今夜は語り明かすぞというノリで遊戯の部屋に押し掛ける。遊戯の部屋は漫画やらゲームやらが多いから遊ぶにはもってこいの場所だ。カードをして、昔やっていたゲームもして、夕飯をじいさんと一緒に食べて、そのあとも遊びに遊んだ。

 そして夜の11時。そろそろ遊び疲れて風呂に入って寝ようということになった。遊戯も杏子も明日、飛行機でアメリカに飛び立っていってしまう。だから早く寝かせないといけない。

 

「うし、風呂に入るか遊戯」

 

「うん。本田くんは酔い潰れちゃったししばらく待った方がいいね」

 

 本田は酒を飲みすぎて酔っている。風呂に入るのは酔いが覚めてからの方がいい。

 家にある風呂に向かい、服を脱いで入る。体を洗い、垢を落としたあと俺達は共に浴槽に入る。大の大人二人が入るには狭い場所だがそんなに窮屈じゃない。

 

「ふぅ……疲れたぁ」

 

「そうだね……でも、楽しかったよ」

 

 二人して息を吐きながら笑いあう。

 

「本田の野郎がガターばっか決めてよ……ガキの頃は上手かったのにな」

 

「そうだね……4人のなかで一番ボウリングが上手かったもんね。でも残念だよ……あのボウリング場、潰れちゃうんだってさ」

 

「ああ、張り紙にあったなあ……やっぱ時代はデュエルモンスターズなのかもな。ボウリングなんて誰もやんないんだろうな」

 

「デュエルモンスターズといえば、今日いったレストランでも高校生とかが騒いでやってたよね」

 

「ああ。俺らもデュエリストだから何も言えないけど食事中にデュエルをするっていうのはあんまり良いことじゃねえな。俺たちもそんなことはしなかったよな」

 

「デュエルアカデミアではどうなの?」

 

「学生はよく分からないけど、教員食堂ではデュエルはしてないぜ。皆授業内容の話や世間話くらいさ。俺もデュエルに関しては話してないよ。授業でいやというほど話すしな」

 

「へぇ……なんか楽しそうだね、城之内くん」

 

「まあな、やりがいはあるぜ。楽しみな生徒もわんさかいるしよ」

 

 他愛のない話を二人で語り合ううちにだんだんと体が熱くなる。そろそろ出ようと促して体を拭き、寝巻きに着替える。だけど不思議と寝る気になれない。やはり、友達と泊まることに興奮しているからかもしれない。久々に遊戯と一緒にいられるのはとても嬉しいことだ。

 それでも遊戯は朝が早い。飛行機も朝一だからだ。遊戯と共にもう少し話したかったけれどそういうわけにはいかない。

 

「遊戯、もう寝るんだろ?」

 

 城之内は一応聞く。だけど遊戯はうーんと悩むような表情で答えた。

 

「そうしたいんだけどなんか眠れそうにないんだ。頭が冴えちゃってさ」

 

「そうなのか? じゃあ眠れるまで売り場の辺りで話そうぜ。そこなら迷惑にならねえだろ」

 

 内心嬉しく思いながらも城之内は遊戯と共に売り場にいく。椅子を用意して二人で向かい合って座る。

 

「遊戯、明日はもういっちまうんだろ?」

 

「うん。明日行ってデュエルトーナメントの申し込みをしてくるんだ」

 

「誰が出るんだ?」

 

「僕の知っている限りだと、海馬くん、舞さん、羽蛾君、くらいかな? まあ僕付き合い狭いからね。城之内くんも出ればいいのに」

 

「そういうわけにはいかねえよ。こっちで、やること一杯あるからよ」

 

 笑いながら断る城之内に、遊戯はある主の違和感を抱いていた。いや、充実感ともいうべきかもしれない。遊戯はそれをそのまま口にした。

 

「やっぱり、城之内くんは変わったよ。昔だったら、僕だけ大会に出ることを凄く悔しがっていたもん」

 

 城之内はとても負けず嫌いなところがあった。負けたら必死にしがみついて、勝ちを目指すその根性はどんなデュエリストにも劣ることはない。

 だけど今は、そんなそぶりを見せない。何故なら、他にしがみつくべきものがあるから。この日本で、未来のデュエリストを育てて、大切な理念を伝えるという固い決意があるから。

 城之内は照れるように頭をかく。

 

「ははは、まあ確かにそんな時期もあったなあ……。ただ、今はもっと面白いものがあるからよ」

 

「確かに、そう言いたそうな顔してる」

 

「ははは、そうかもな。俺は何でも顔にでちまう」

 

 遊戯もそれに併せて笑いながら、城之内に新たに質問をする。

 

「ねえ、この間城之内くんが電話してきたときさ、デュエルアカデミアに城之内くんと同じくらいの強さを持っている生徒がいるっていってたよね? その生徒の話を詳しく聞かせてよ」

 

「ああ、そういえばそんなこと言ったなあ……」

 

 タッグバトルの時に相談に乗ったときに城之内はちらっと遊戯にそんなことをいったのを覚えている。その人物は……遊戯に関係する奴だ。

 

「俺、授業でさそいつとデュエルしたんだ。もう少しで負けそうになったんだけどよ。名前は遊城十代っていうんだ」

 

「遊城、十代くん?」

 

「そう。HEROデッキーーーまあつまりは融合デッキーーーを使うんだけどな、とっても強いぜ。俺もあと少しで負けそうになったくらいだ。お前ともきっといい勝負になれると思うぜ」

 

「でもちょっと信じ難いよ……元プロの、しかもトップクラスの城之内くんを苦しめるほどの腕をもつ生徒がどうしてデュエルアカデミアにいるんだろうね。僕の友達とかそういうのを抜きにしても城之内くんは凄く強いデュエリストだよ」

 

「俺はそんな強くねえよ。お前には全く及ばないさ」

 

 城之内はそういうが、遊戯は城之内の強さを十二分に理解している。持ち前の根性と運の強さに加え、それを引き出す場面の的確さも素晴らしいものになっている。耐えなくてはいけないときは根性で粘り、攻めるときは運と緻密な戦略をフルに活用して攻める。そんな器用でかつ、まっすぐな決闘者はほとんどいない。

 そんな彼を追い詰めた遊城十代の功績を、遊戯は戦慄なしでは聞くことはできなかった。

 

「そういやよ、あいつとデュエルしてて気になったことがあったんだ。お前、遊城十代ってやつにハネクリボーのカードをあげたろ?」

 

「え、どういうこと?」

 

 城之内は、遊城十代の使ったハネクリボーのカードの話をした。遊戯にこのカードをもらったと言っていたことを話すと、遊戯はああと納得したようにうなずいた。

 

「そういうことか……確かに渡したよ。ハネクリボーがそっちに行きたがってからね。精霊の声がしたんだ」

 

「へぇ……俺には聞こえないがな、カードの声は」

 

「でもハネクリボーの選択は正しかったかもしれないね。強くて楽しいデュエリストに巡り会えたんだから。きっとその子は大物になるよ」

 

「だろうな。だからよ……楽しいんだ。デュエルだけじゃなくとも、人が成長するのを見るのが、楽しいんだよ」

 

「そっか……。城之内くん、僕アメリカいっちゃうけど、頑張ってね。応援しているよ」

 

「おいおい、応援するのはこっちの方だぜ遊戯。大会頑張れよ」

 

「うん、ありがとね。ふわぁ……眠くなってきたな、もう僕寝るよ」

 

 遊戯は眠たそうにあくびをする。城之内も見ているうちに眠くなった。時計を見るともう夜中の12時だ。そろそろ寝床についておかなくては。

 それぞれの布団に入り、目をつむる。本田はぐうぐうとイビキを掻きながら寝ている。酔いつぶれて風呂にも入らずに寝るとは、よっぽど疲れたのだろう。苦笑しながらも城之内は目を瞑る。

 今日は楽しかった。昔に戻れた気がした。ぎゃあぎゃあさわいで、遊んで、酒を飲んで友と語らう。こんなことは、大人になったらもうできないと思っていたけど、案外出来るものだった。やっぱり友情さえあれば、何でも出来るんだ。

 俺は胸が暖かくなったのを感じた。同時に眠気が襲いかかってきて、すぐに意識を手放した。

 

 

 

 

***

 

 

 朝を迎えると、早速城之内たちは空港へと向かう。酔い潰れた本田もどうにか起き上がり、みんなで最後の朝飯をパーキングで食べる。会話は少なかったけれど、気まずくはなかった。今生の別れでもないのだから、別れの言葉をいちいち模索する必要がない。

 空港につき、受け付けに向かって便のチケットを貰う。アメリカのサンフランシスコ空港行きの搭乗ゲートに談笑を交わしながら向かう。

 

「あ、着いたぞ」

 

 城之内がゲートに指を差す。既にたくさんの人がゲートに来ている。そこに並べば、もう日本ではない場所に旅立つことになる。つまりここが、友との境界線と云うわけだ。大袈裟な表現かもしれないが。

 遊戯と杏子はゲートに並ぶ前に立ち止まり、城之内と本田へと振り返る。二人とも笑顔を浮かべていた。それもそうだろう、自らの夢の舞台が近くにあるのだから。

 城之内は素直に喜んだ。親友たちがこうして大きな世界へと羽ばたくのを、僻みや妬みで見ることはなかった。心から胸を張れる。自慢できる、最高の奴等だ。

 だけど一方で、寂しいと思う気持ちもある。城之内の強さ、というより勇気の源泉は、近くにいる友人たちだ。本田が近くにいてくれるけれど、やっぱり4人揃って始めて強くいられるのだと、固く信じている。

 だから本音を言ってしまえば行って欲しくない。でも、それは単なるエゴだ。許されないことだ。それこそ友情を無視した、最低な思考だ。

 城之内は柔らかく、笑みを浮かべた。遊戯たちの、希望への笑みに応えるように。

 

「じゃあ、そろそろいくね」

 

「城之内、本田。元気でね」

 

 杏子と遊戯は城之内と本田の手を握る。二人は新たな道へと足を踏み出すべく、手を離してしまった。まあもう、飛行機は出発してしまうから仕方ないのだけれど……やはり寂しいものはある。

 二人の姿はゲートの向こうへといってしまった。次はいつ会えるのだろうか。城之内は不安になるけれど、それは尋ねない。二人の邪魔はできないし、メールとかでもいつでも言える。城之内と本田は二人が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

「行っちまったな……」

 

 二人がゲートへと消えて、他の乗客も飛行機に乗ると、急に静かになる。二人残された身としては、やはり寂しいものはある。城之内もそれに同意するように頷いた。

 

「城之内、飛行機見に行かねえか?」

 

 本田は名残惜しそうな目で、城之内を誘う。でも……城之内の頭には、別のことが思い浮かんでいた。

 

「悪い、俺ションベンが出そうなんだ。だから、先いってくれ。まだ飛行機は発着しねえだろうし」

 

「ああ、そうか。でも早くしろよ」

 

 城之内はそれを告げて走っていった。城之内には、やることがあったのだ。それも、小便が出そうになっても我慢するほどに。確かにまだ遊戯たちの飛行機の発着まで時間はあるだろうが、急がなければ間に合わないだろう。

 

「……トイレ、そっちじゃねえだろ?」

 

 何も知らない本田はポツリ呟いて、走り行く親友を半ば呆れてみていた。

 

 

***

 

 

 

 舞は一人で空港に来ていた。もちろん、アメリカで行われるデュエルモンスターズの大会に出場するためである。サングラスをつけて、黙々と登場ゲートに向かい、航空券を取り出す。

 舞はふと後ろを振り返る。しかしそこには、親子連れやサラリーマンなどがわんさかいるだけで、舞がいつも見ている景色とまるで変わらなかった。

 私は何を期待したんだろう。

 自問して、やがてすぐに答えが思い浮かぶと苦笑せざるを得なかった。愚直なあの男を、求めていたのだろう。でも、きっと来ないだろう。

 舞は止めていた足を動かし、再びゲートに向かおうとした。

 

 しかし、舞の細い腕をゴツゴツした男の手が捕まえた。

 

「えっ?」

 

 舞は驚き、咄嗟に振り返る。ガードマンか? でも何も疚しいことはしていないはずだ。そう慌てさせるくらいに、手の掴み方は強かった。

 だが、後ろにいたのは紺色の制服を羽織った男ではなかった。背の高い、茶髪の青年だった。

 

「何独り寂しく行こうとしてんだよ。見送りくらい、呼んでくれてもいいじゃねえかバカ野郎」

 

 とても低くて、男らしい声で舞に言う。こんなキザで、ド直球で、心に響く奴なんて、一人しかいない。

 

「城之内……あんたどうしてここが……?」

 

 そう、舞は誰にも教えていない。搭乗時間も、搭乗ゲートの場所も、具体的な行き先も。まあ、行き先に関しては話したけれど。

 だがそれでもこうして出会うなんて思っていなかった。

 城之内は、はっと短く笑い飛ばすと後ろの髪を掻きながら答えた。

 

「俺は遊戯と杏子の見送りに来たけどよ、もしかしたら舞も飛行機同じなのかなって思ってな。でも、飛行機は違ったみたいで遊戯たちと同じ行き先のゲートを探したんだ。そうしたら案の定お前がいたんだよ。ったく、時間がほとんど変わらねえから急いじまったぜ」

 

 城之内はニカッと歯を見せて笑った。その笑顔で舞は、全てを察した。

 城之内は、きっと初めから独りで旅立つ舞を見送りにいくつもりだったんだ。独りで寂しいだろうなと気を遣ってこうして来てくれたんだ。

 余計なお世話だ。そう、嘗ての私なら思ったであろう。

 でも、今はそんなことはなかった。寧ろ、嬉しかった。城之内のことが好きだからか。

 ……いや、それは違う。城之内があたしの、孔雀舞の側に寄り添ってくれたんだ。愚直な、でもすごく心に染み渡る闘志と、優しさで。だから変われた。好きになったんだ。

 

「そっか……やっぱ、あんたバカだね」

 

 クスッと笑いながら、舞は城之内を見る。ポロっと出た言葉で、城之内はんなっと情けない悲鳴をあげる。

 

「あ、あのな!! 俺は必死に探したんだぞ!! そりゃあ俺は頭は悪いからそういうことしかできないけどーーー」

 

「でも、そんなあんたのことが好きだよ」

 

 城之内の言葉を遮るように、一連のフレーズを告げる。城之内のその鈍感な頭に、その言葉が飛んできたとき……目を大きく開き、文句の言葉を飲み込む。

 恥ずかしい。本当に恥ずかしい。恋なんてどうでもよかったのに、今はすごく、恥ずかしい。でも、もうあとには引けない。

 

「あんたのこと、ずっと大好きだった。あんたのそのバカでまっすぐなところが好き。その優しさも好き。出来ることなら……あんたと一緒に行きたかった」

 

 舞は目を伏せて、言葉を待つ。城之内は相変わらず面食らったような顔をして、何も言わない。突然、こんなこと言われたらビックリしないはずがない。

 気まずい空気が流れる。狭い部屋で少しでも触れたら、爆発してしまうような爆弾を互いの間に置かれているような緊張感が二人を支配する。

 やっぱり失敗、かな。城之内は、あたしのことなんて好きじゃ、なかった。

 城之内はいつもそうだった。城之内は友情に篤い男で、恋愛なんてほとんど知らない奴だった。そしてそれは舞も同じだった。舞は、孤独で恋なんて微塵も触れなかったから全くわからない。

 もういいじゃないか。城之内にこの気持ちが伝えられたから。自分の口で、言えたからもう悔いはない。

 舞はくるっと背を向けようとした。これ以上ここにいると胸が、痛くなる。だからもう飛行機に乗って、また一人ぼっちに戻る。それだけだ。

 だけど……またしても舞は掴まれた。今度は、優しかった。掴んだ人間の顔は……とても綺麗だった。いい加減なアイツの顔じゃなかった。

 

「行っちまうのはいいけどよ、涙くらいは拭けよ」

 

 掴んだ手を離し、ハンカチを握らせる。けど、涙なんてなかったはずーーー。

 

「え……」

 

 気づいたら、頬には暖かい何かが伝っていた。そっとさわってみる。確かにそれは、暖かい涙だった。でも、何故だ……?

 城之内は舞が握りしめているハンカチを動かすように腕をそっとつかんで、頬へと運んでいく。優しく涙は拭き取られ、至近距離で笑顔を向けられた。バカ野郎とそっと唇で呟きながら。

 

「俺はさ、鈍感だからお前の気持ちなんて全然わからなかった。だからさ、今すっげぇ面食らっちまったけど……それでも伝えたいことがあるんだ。俺は、お前とは一緒にはいけない」

 

 城之内は目を伏せながら言う。

 それは分かっていた。城之内にはやることがあったから。

 舞は、実はずっと前からこんなことを思っていた。もし、城之内に会ったら一緒にアメリカに連れていって一緒に暮らそうと。舞は、城之内が、プロの道を外されて心も体も野垂れ死にかけたと、タッグを組んでいる間に本人から聞かされた。だから、自分が養ってあげようと、守ってやろうと思った。

 でももう、城之内にはその必要はなくなった。教え子を立派に育てて、大切なものを伝えていく、新しい生き方を知ってしまったからにはもう邪魔なんてできない。

 再び気分が落ちそうになり、同じように目を伏せようとした。だけどーーー城之内は舞の頬を両手で押さえて無理矢理視線を合わせた。城之内の目は、とってもまっすぐだった。どうでもいい男が浮かべるような、色欲に満ちた汚いものじゃなかった。まっすぐで綺麗で、蕩けてしまいそうな瞳だった。頬を押さえる両手は力強かったけれど、それですら気持ちよかった。というか、緊張感がものすごく、ヤバイ。

 そんな中、城之内は口を開いた。

 

「でも、俺舞のこと応援してるよ。だってお前はデュエリストだし、付き合い長いし……それにその……お、俺もーーー」

 

 城之内は顔を真っ赤にして口をゴニョゴニョと動かす。恥ずかしいのだろう。あんなに男前なことをしてたのに。ちょっと、可愛いかもしれない。

 だけど意を決したのか息を思い切り吸い、真剣な表情で言い切った。

 

「その、お前のことが好きだから。愛してるから……ずっと応援するよ」

 

 城之内は言い終えると、ゆっくりと歩みより、そっと舞を抱き締めた。城之内の体温が、舞の体を包み込む。

 やった。想いが、通じた。長年の気持ちがやっと届いた。ずっと結ばれたいと思っていた男とようやく、ひとつになれたんだ。込み上げてくる、達成感と充実感が全てを支配し、胸が高ぶってきた。

 舞と城之内は互いに見つめ合い、ゆっくりと顔を近づける。ああ、これからキスをするんだ。まるで他人事のように考えながら、唇と唇を触れあわせる。

 いざ唇を合わせると、城之内のそれはガチガチに固まっていた。でも、それでも良かった。あいつはスッゴク満足したような顔をしていたから。

 二人は長いこと唇を離さなかった。お互いを食べあっているように濃厚なキスを続けるうちに、それが癖となっていく。城之内の固かった唇はいつしかふやけていき、舞のそれも唾液で滑り始めていく。

 ああ、これをずっとしていたい。城之内とずっとこうしていたい。そんな密なる願いを、抱き始めた。

 だけど……現実は非情とも言うかな、そういうわけにはいかなかった。

 

「えー、まもなくロサンゼルス行きの飛行機が発着いたします。まだご搭乗されていないお客様は急ぎゲートまでお越しください」

 

 ムードを壊すような、無機質な音声アナウンスに、城之内の唇は離された。そして切羽詰まった顔をして、慌て始める。

 

「や、やべぇ!! お前もういかなくちゃな!!」

 

「え、ええそうね……」

 

 だけど舞は内心でクスリと笑っていた。城之内には全く関係ないはずなのに、自分のことのように考えてくれているのだ。

 あたしは、間違ってなかった。この男にして、よかった。あたしはもう、一人じゃない。

 舞は安心して城之内から離れた。そして荷物を持って、ゲートへと向かう。関係者に頭を下げてチケットを見せ、奥へと向かっていく。

 その時だった。城之内もかけより、舞の手をつかむ。

 

「城之内……」

 

「なぁ……日本に戻ってきたら、俺に会いに来てくれよ? いつでも、いつでも待っているからな!」

 

 今にも泣きそうな顔で舞に訴える。舞は、それがいちいちおかしくて、愛おしかった。

 だから、笑って答えた。

 

「分かったよ。あんたに会いに、戻ってくるよ。じゃあね」

 

 手をあげて舞は、飛行機に乗っていった。城之内は姿が見えなくなるまで手を振ってくれたと思う。舞も、見えなくなるまで手を振り続けた。

 飛行機の中に入り、指定された席に乗る。荷物を整理し、窓越しに外を眺める。絶景が広がるなか……舞は見逃さなかった。城之内が、展望場からその飛行機を見てくれていることを。

 つくづく幸福者だ。舞は、クスッと笑いながら一人の恋人のことを、思ったのだった。

 

 

 

 

***

 

 

「行っちまったか……皆」

 

 城之内は、ポッケに手を突っ込みながら飛行機を見上げていた。遊戯たちのではなく、舞の飛行機を。遊戯たちのも見たかったけれど、時間がなかった。舞の見送りができなくなるから。

 別に舞に頼まれた訳じゃない。舞はいつも一人だ。だから、別に城之内なんか要らなかった。

 でも結果的には行って良かった。彼女は、城之内を必要としていることを知ったから。あいつに、独りは似合わない。

 飛行機が遥か上に在る雲海へと消えていくと、城之内はふぅと一息ついた。胸に残る淋しさを噛み殺しながら、くるっとフェンスに背を向ける。

 出口のドアに歩いていくと、とんとんと肩を叩かれる。そこには、若干呆れていた本田がいた。見送りに便所で遅れるとはバカなやつだと、言っていた。

 城之内は弁解し、本田と共に帰った。共に感じた、強烈な淋しさを抱えながら。

 だけど、一方で城之内は燃えてもいた。

 遊戯も杏子も、そして舞も、新たなステージへと踏み出した。そいつらを応援もしたい。でも……追い付きたい。手の届く場所に、いたい。そこにいきたい。そうも思い始めた。

 友達が高みへと目指すのはいいことだ。でも……置いていかれるのだけは嫌だ。淋しさに溺れて壊れるのは、嫌だ。

 だからーーー俺はこの場所でやり遂げる。新たに見いだした目標を成し遂げて見せる。

 

「なーに嬉しそうな顔してんだよ、城之内」

 

「いや、何でもねえよ。さ、帰るか」

 

 いつのまにか笑っていたのかもしれない。苦笑しつつ、城之内は頭を掻きながら本田と共に、岐路に着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は、デュエルします。そしてどんどん三幻魔の戦いにいきたいですねw


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第十五話:遊戯のデッキ

更新大変遅くなりました、申し訳ありませんm(_ _)mm(_ _)m
リアルでちょっと色々忙しくて……。
本当にすみませんでした。


 遊戯と別れ、本職に復帰した城之内は、相変わらず授業をしていた。デッキ構築とそれに対抗する戦略などを教えていて、その中でデュエルの素質の鱗片を見せ始めている生徒もいた。

 そんな中ーーーとある一大イベントの知らせが、デュエルアカデミアに届いた。

 

「シニョール克也!スバラシイ知らせが届いたノーネ!!」

 

 休み時寒中、ちょうど来た業務用のメールのチェックをしようとした城之内にクロノスの甲高い声が飛び込んでくる。呆れつつも城之内は作業を中断し、振り向いた。

 

「何ですかクロノスさん?」

 

「先程オーナーの海馬コーポレーションからメールが届いたノーネ。見てみるノーネ」

 

 クロノスは懐に入っていた手紙を取りだし、城之内に差し出す。城之内は、海馬からじゃないかと顔をしかめながら封を開く。しかし差出人は、違う人物だった。

 

「デュエルアカデミア様へ

 

 この度は、新たな企画の案を示すために一筆送らせていただきました。

 わが社の社長、海馬瀬人様は、今回新たな企画を打ち出しました。それは武藤遊戯のデッキのレプリカをデュエルアカデミアに展示するという企画です。

 最強クラスのデュエリスト、武藤遊戯のデッキを展示することにより、デュエルアカデミアの生徒の向上心の上昇を図っています。

 何卒承諾していただきますようお願いします。

 

磯野より」

 

 

「磯野か……これまた普通の奴だな」

 

「デュエルキングのデッキが展示されるノーネ! ワタシも楽しみで仕方ないノーネ!!」

 

 そう、この手紙によれば近くにでも、遊戯のデッキが(本人はアメリカへと飛び立ってしまっているため、レプリカになるが)ここで展示されることになる。最強のデュエリストのデッキが展示されるとなれば、生徒たちは躍起になるだろう。しかも、ブラック・マジシャンやブラック・マジシャン・ガールなどのレアカードもお目にかかれるとなれば、注目しないはずがない。クロノスなどは歓喜の声を挙げ続けている。まあ城之内は高校の時に腐るほどブラック・マジシャンを見てきたから新鮮味はないが。……だからこそブラック・マジシャンと遊戯の絆の凄まじさを嫌でも思い知っているのだが。

 今回のデッキの展示会の意図は生徒の向上心の扇動と手紙にはあるが、城之内には別の意図がある気がした。ここのオーナーは海馬であり、そのライバルが遊戯。ということは、遊戯のデッキを見せて遊戯に対抗できるデュエリストを養成するというのが真の目的ではないのか。

ーーーいや。

 城之内は自分の憶測に首を振る。海馬はプライドの塊だ。自分以外の男に遊戯を破らせはしない。遊戯のライバルはただ一人と豪語しているあの海馬が、生徒たちにやらせようとはしないだろう。じゃあ、本当に向上心のためであろうか……?

 

 一人で悶々と考えていると、チャイムが鳴り響いた。クロノスも奇声に近い叫びを止めて、教員室を飛び出していった。城之内は苦笑しながらも後に続く。

 

 

***

 

 

 

 夜になり、ラーイエローの宿舎にて、一人の生徒、神楽坂は考え続けていた。

 今日の昼、武藤遊戯のデッキの観覧会の整理券をゲットすべく食堂にて最後の一枚を賭けたデュエルを行った。使用したのはクロノスの古代の機械デッキ。だが、オシリスレッドの生徒に敗北してしまい、武藤遊戯のデッキを拝めなくなってしまった。

 どうすれば勝てるんだ? 人のデッキを使えば、人の戦い方を研究し尽くしている自分なら勝てないわけはないはずだ。でも……何故だ!?

 何時間も考え続けた結果、彼はある一つの結論を導いた。

 最強のデュエリスト、武藤遊戯のデッキを使えばいい。無敗のデッキを使えば、誰にだって、それこそ城之内克也や……さらには武藤遊戯にだって勝てる。

 そうと決まればやることはひとつ。そのデッキを手に入れるのだ。

 

 

***

 

 

 

「おいおい……何だよこれ!」

 

 城之内は愕然としていた。横には、膝まつきがくがく震えるクロノスが、前には……粉々になって割られているガラスケースがあった。その中には、本来あるはずの遊戯のデッキがなかった。

 

 この事を知ったのはついさっきのことだった。自室で眠ろうとしたところにクロノスから電話があり、駆けつけてみるとデュエルアカデミアからデッキが消えていたのだ。ガラスが強く割られているのできっと盗むつもりだったのだろう。だが一体誰が……?

 クロノスがしくしく泣いている間に、城之内は考えた。遊戯のデッキを公開するという知らせは恐らく外部には伝わっていない。もし伝わっていたとしたら全てのデュエリストがここに来るだろう。となれば内部のもの……すなわち生徒か教員だ。

 

「エライことになったノーネ……もし犯人が見つからなかったら、首ナノーネ……」

 

 この遊戯のデッキの警備はクロノスが担当していた。となれば責任を取らされるのは間違いなくクロノスだ。遊戯のデッキが盗まれたとなれば、ただじゃすまないだろう。城之内はクロノスの肩に手を置いて、声をかけた。

 

「クロノスさんしっかりしてください。俺がなんとか捕まえます。恐らく犯人は島のどこかに居ますよ」

 

 クロノスはこちらを振り向き、鼻水を垂らしながら俺に抱きつく。思わず身を引きながらもクロノスの叫びを聞いた。

 

「頼みマスーノシニョール克也!! ワタシを助けてクダサーイ!!」

 

 なおも涙と鼻水を垂らすクロノスを無理矢理引き剥がし、城之内は外に出た。困ったことになったなと頭を抱えながら、外を出回ってみる。

 さて、どうするべきだろうか。犯人の手がかりも内部の人間ということしか分からないし、範囲を絞れそうにない。この時間に起きている生徒もたかが知れているからすでに探しに行っている生徒が見つける可能性は低い。

 今日中に見つからなければ海馬に知らせるしかないだろう。遊戯のデッキが盗まれたとなればあいつが全力で解決に持ち込むだろう。責任をとらされるクロノスさんには気の毒だが。

 いや、それは無理だ。アメリカで遊戯たちは大会に出ているということは、海馬だってきっとアメリカに行っているはずだ。あいつは遊戯を倒すことに対し、異常な執着心を持っているからだ。

 つまるところ、自分達で解決しなくてはいけない。まあ自分達で起こした問題なのだから仕方ないのだが。

 溜め息を付いて走り出そうとしたそのときだった。

 

「アニキィーーーー!!」

 

 夜の静寂な空気を裂くような絶叫が響き渡った。あれはたぶん、オシリスレッドの丸藤翔の声だ。そいつがアニキと呼び慕う奴は……遊城十代だ。

 城之内は声のした方に走っていく。眠気をかなぐり捨てるように全力で足を動かすと、そこは崖だった。崖下を見下ろすと、そこには二人の人間がデュエルディスクを構えて対峙していた。だが、城之内がたどり着いたときには既に一人の人間が膝をついていた。茶髪にオシリスレッドの生徒が地面に膝まずき、波が激しく唸る海面を背後にするラーイエローの生徒が高笑いを浮かべている。ラーイエローの生徒の前には、漆黒の魔術師、ブラック・マジシャンが慄然とオシリスレッドの生徒を見下ろしていた。

 間違いない、犯人はあのラーイエローの生徒だ。城之内は崖を降りていき、現場へと走った。

 ラーイエローの生徒はなおも高笑いを続けて、オシリスレッドの生徒を煽る。城之内は影に隠れながら、うざったい言葉を聞いていた。

 

「ち、ちくしょう……!」

 

「ハハハハハッ!! 流石はキングオブデュエリストのデッキだ、相手にもならなかったな遊城十代!! やはりこのデッキの前には、誰にも勝てないんだ!! クロノスだって、城之内克也だって、もう遠い壁なんかじゃない!!」

 

 我慢の限界だった。拳で殴りたいくらいに、怒りの感情が支配する。城之内は、静かに歩み寄った。

 それに気づいたオシリスレッドの生徒は俺の名前を呼ぶ。

 

「じょ、城之内先生……」

 

 俺はその生徒の顔を見る。遊城十代だった。かなりの実力をもつ十代が、負けたということか。俺はまっすぐと、ラーイエローの生徒を見つめる。

 それに気づいたラーイエローの生徒は振り向き、ニヤリと笑った。

 

「おやおや、城之内先生。こんな真夜中にどうしたんですか? まあ、今俺は最高の気分ですからね……! もしかして、俺のデッキを見に来たんですか?」

 

 ニタニタと笑いながら宣う姿は城之内の頭を沸騰させていく。久しぶりだ、ここまでキレかけているのは。人のデッキを、それも遊戯のデッキを盗んだ奴が最強気取りとは……。

 

「まあな。お前なんだな、遊戯のデッキを盗んだのは? 名前は?」

「そうですよ。俺の名前は神楽坂……今日から最強のデュエリストになった男だ!!」

「ふざけんな! 人のデッキを盗んでいいってもんじゃねえだろ!! そんなの、デュエリストなんかじゃねえ!!」

 

 城之内は怒りを込めて叫んだ。しかし相手は随分調子に乗っているようでへらへら笑うだけだった。

 

「ふふ、でもこれが俺の力なことに変わりはないですよ。俺はたった今、最強の力を手にしたんだ!!」

 

 こいつ、力に酔っていやがる。

 城之内はぶん殴りたい気分になり、拳を握りしめた。けれど――殴ればすべて解決する時代は終わった。それを親友が教えてくれた。もし遊戯が、デッキを盗まれたことを知ったらどんな顔をするだろうか。怒り狂うか、泣き叫ぶか。

 違う。あいつは、盗んだ奴と向き合う。優しく話して解決する。そんな奴なんだ。

 俺は怒りを深呼吸で抑える。そしてまっすぐ見つめ、口を開く。

 

「そうか……ならその力を見せて見ろよ。やれるもんなら、な」

 

 城之内は言い終えるとデュエルディスクを構える。神楽坂もそれに応えるように準備し、にやりと笑う。

 そして――両者は一斉に叫んだ。

 

「デュエル!!!!」

 

 決闘が開始されると互いに5枚のカードをドローする。ちらっと城之内が手札を確認すると、神楽坂に決定権を与えるように手を差し出した。

 

「先攻は俺がもらいますよ、ドロー!」

 

 デュエルモンスターズにおいて、先攻は基本的に有利とされている。何故なら妨害されずにいくらでも自分のペースを作り出せるからだ。強力なモンスターを敷くのもよし、次のターンの準備をするのもよし、魔法や罠を伏せて耐えるのもよしだ。

 さて、奴はどう出るか、だ。

 

「まず俺は、《魔導戦士ブレイカー》を召喚!! 召喚成功時に効果発動、魔力カウンターを一個のせ、攻撃力を300アップする!!」

 

魔導戦士ブレイカー 星4 ATK1600→1900 魔法使い族 闇属性

 

 魔力を備えた剣士がフィールドに登場すると、周囲の生徒たちは驚きの声をあげた。遊戯の使う強力なモンスターのひとつだからだ。召喚成功時に魔力カウンターを一個のせて攻撃力を高める効果も強力だが、さらに強力なのは、それをひとつ取り除いて魔法や罠を破壊できる効果を持っていることだ。これにより、迂闊にカードを伏せることが出来なくなる。遊戯のデッキの使い方を、一応は知っているようである。

 

「さらに俺はカードを二枚伏せて、ターンエンド!」

 

 神楽坂はカードを二枚伏せてターンエンド宣言をした。遊戯のデッキには強力な罠がたくさん入っている。それに注意しなければならない。城之内は息を吸うと、デッキに手をかけた。

 

「じゃあ行くぜ! 俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを確認すると、城之内は眼を見開いた。しかしすぐに神楽坂に視線を戻し、挑発するように笑った。

 

「お前の初手はなかなかだ。ブレイカーは攻撃力高いし、魔法・罠の破壊効果も怖い。でも、こいつなら問題ないぜ!! 《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》を召喚!!」

 

漆黒の豹戦士パンサーウォリアー 星4 ATK2000 獣戦士族 地属性

 

 肉厚の刃を持つ剣を手にした豹戦士が現れると、生徒は再び驚きの声をあげた。城之内を代表するモンスターの一つであり、数々の決闘で大活躍していることを知っているからだ。無論城之内も、このモンスターを信頼している。

 

「パンサーウォリアー……なるほど、直接倒そうっていうんですか……。でも、パンサーウォリアーには攻撃するとき、生贄が必要でしたよね?」

「まあ慌てんなよ。生贄はちゃんと用意しているさ。いや――」

 

 城之内は神楽坂の挑発を、華麗に受け流した。そしてシニカルな笑みとともに、一枚のカードを神楽坂に見せつけた。

 

「すでに用意されているっていう方が正しいな。魔法カード発動! 《洗脳―ブレイン・コントロール》!! 800ライフポイントを払って、相手のモンスター一体のコントロールをエンドフェイズまで得る!! もちろん、お前のブレイカーだ!!」

 

城之内:LP4000→3200

 

 カードから伸びてきた手が、神楽坂のブレイカーをとらえ、城之内のフィールドに引きずり込み、コントロールを奪った。神楽坂は驚きに満ちた顔を見せ、舌打ちを派手にならした。

 

 

「なるほど、コントロール奪取か……確かにこれならパンサーウォリアーの生贄も作れる」

 

 先ほど神楽坂と戦った十代が城之内の戦術について、近くにいる仲間の翔と隼人に向かって呟く。翔と隼人はうなずき、言葉を返した。

 

「それだけじゃないっすよアニキ。ブレイカーの破壊効果も城之内先生が使えるから、神楽坂の魔法・罠を破壊できるっス」

 

「さらにパンサーウォリアーの効果でブレイカーを生贄にするから、ブレイカーを除去することもできるんだな」

 

「コントロール奪うってスゲエんだな……」

 

 十代は感嘆の声をあげて、城之内たちに視線を戻した。

 

 

「じゃあ早速お前のブレイカーの効果を発動させてもらうぜ。魔力カウンターを一つ取り除いて、お前の魔法・罠を一枚破壊する!! 俺から見て右のカードを破壊だ!!」

 

魔道戦士ブレイカー ATK1900→1600

 

 城之内はさっそくブレイカーの破壊効果を発動し、神楽坂の魔法・罠を一枚破壊する。ブレイカーは魔力を込めて、カッター状のエネルギーの塊を飛ばし、直撃した。

 

「くっ……」

 

「《魔法の筒》かよ、あっぶねえっ!!」

 

 城之内は破壊したカードを見て冷汗をかく。魔法の筒は、攻撃を無効にしてそのモンスターの攻撃力分をそのまま相手にダメージとして返してくる強力な罠カード。もしパンサーウォリアーで攻撃していたら、2000という笑えないダメージがダイレクトに襲い掛かってくることになっていた。ブレイカーで破壊しておいて、正解だった。

 一応神楽坂の伏せは一枚残っているが、賭けに出るしかない。厄介な罠が出ないことを祈りつつ、城之内はバトルフェイズ宣言を下した。

 

「バトルだ! 魔道戦士ブレイカーで、神楽坂にダイレクトアタックだ!!」

 

 がら空きになったフィールドに、ブレイカーは斬りかかる。攻撃力が300落ちたとはいえ、1600もののダメージが一度に襲い掛かるのは脅威である。これが決まれば、デュエルは有利に働く。そう城之内は確信した。

 だが、デュエルというものはそう簡単にはいかない。

 

「――その瞬間、俺は罠カード《聖なるバリア―ミラーフォース》を発動する!! 相手の攻撃宣言時、相手の攻撃表示モンスターすべてを破壊する!!」

 

「み、ミラーフォースだと!? マジかよ!?」

 

 突如、神楽坂の前方にオーロラ色の膜が出現した。ブレイカーはそれを裂こうとし、剣をブンと振るってバリアに叩き付ける。しかし、バリアは一瞬発光して、ブレイカーを光の中へと吸い込んでいった。同様にパンサーウォリアーも巻き込まれ、悲鳴を上げて爆散していった。

 これでお互い、フィールドはがら空きになった。

 

「……何とか逃れたな……」

 

「やるなぁ……ミラーフォースは警戒はしてたけど、マジで伏せていたとはな」

 

 城之内は相手のプレイングを褒めつつ、次の戦略を練る。取りあえず、カードを伏せて攻撃をしのぐしかないだろう。

 

「俺は、二枚のカードを伏せてターンエンドだ」

 

「よし、俺のターンだ! ドロー!!」

 

 神楽坂はカードをドローし、ちらっとカードを見るとすぐに城之内に見せた。

 

「俺は魔法カード《天使の施し》を発動! デッキから3枚ドローし、さらに2枚のカードを墓地に捨てる。俺は《ホーリー・エルフ》と《幻獣王ガゼル》を墓地に捨てる! さらに、俺はドローした《ワタポン》の効果を発動! 《ワタポン》を守備表示で特殊召喚する!!」

 

ワタポン 星1 DEF300 天使族 光属性

 

「さらに、《ワタポン》を生贄にして、《ブラック・マジシャン・ガール》を召喚!!」

 

「ブラック・マジシャン・ガールだと!?」

 

ブラック・マジシャン・ガール 星5 ATK2000 魔法使い族 闇属性 

 

 流れるようなコンボを決めて、神楽坂はブラック・マジシャン・ガールを召喚した。ブラック・マジシャン・ガールは言うまでもなく遊戯の信頼するモンスターの一つだ。露出の多い服装、可愛い顔、そしてカードの持つ強さは、数々の決闘者を魅了した。城之内もひそかに彼女のグッズを集めていたりもしたものだ。

 

「まだまだ続ける!! さらに俺は魔法カード《賢者の宝石》を発動! フィールドに《ブラック・マジシャン・ガール》が存在する場合、手札、デッキから《ブラック・マジシャン》を特殊召喚する!!」

 

ブラック・マジシャン 星7 ATK2500 魔法使い族 闇属性

 

 カードの中に眠る宝石は、突如光り始め、上空に光が集中する。そこから、一人の黒き魔術師が映し出され、ゆっくりと地上に降り立った。光が解かれると、魔術師は鋭い相貌を陽のうちに向け、杖を構えた。あれこそ、遊戯の最高のパートナー、《ブラック・マジシャン》だ。このモンスターを見るたび、ほとんどの決闘者はおびえ、敗北する。唯一余裕で対峙できるのは海馬と俺、バクラやマリクなどの実力ある決闘者だけだ。

 

「ふふふ……このデッキには神のモンスターはいないが、それを補えるほどの力はある!! いくぞ、ブラック・マジシャン、ブラック・マジシャン・ガール! 城之内先生にダイレクトアタックだ!! これで、終わりだぜ!!」

 

 師弟関係にある魔法使い二人が一斉に飛び掛かる。それぞれの杖に魔力を集中させ、城之内に放つ。二人の攻撃をすべて喰らったら、ダメージの合計は4500、ライフポイントはあっという間に0になってしまう。どうにかして、防がないといけない。だから城之内は一枚のリバースカードをオープンした。

 

「リバースカードオープン! 罠カード《ピンポイント・ガード》を発動!! 墓地からレベル4以下モンスターを守備表示で特殊召喚する!! この効果で特殊召喚したモンスターは、このターン戦闘、効果では破壊されない!! 頼むぜ、パンサーウォリアー!!」

 

漆黒の豹戦士パンサーウォリアー 星4 DEF1600 獣戦士族 地属性

 

 パンサーウォリアーが墓地から舞い戻り、黒い手が守るように前に出ている。これで、ダイレクトアタックは未然に防いだ。

 

「ピンポイント・ガード……なかなか強力なカードだ。バトルフェイズを終了し、俺は一枚のカードを伏せてターンエンド!」

 

「俺のターンドロー!」

 

 神楽坂は不満そうにターンエンドを宣言すると、城之内は勢いよくカードを引いた。引いたカードは《強欲な壺》だった。これを使わない手は、ない。

 

「まず俺は《強欲な壺》を発動、デッキからカードを二枚ドローする!」

 

 新たに二枚のカードを引き込み、確認する。現在相手のフィールドには、ブラック・マジシャン師弟がいる。それに加えて二枚のリバースカード。引いたカードは《稲妻の剣》と《スケープ・ゴート》。この二枚があれば、敵を倒すことができる。城之内はパンサーウォリアーを見つめながらカードを決闘盤に叩き付ける。

 

「パンサーウォリアーを攻撃表示に変更し、装備魔法《稲妻の剣》を発動! パンサーウォリアーの攻撃力を800上げる!」

 

漆黒の豹戦士パンサーウォリアー ATK2000→2800

 

「さらに、速攻魔法《スケープ・ゴート》を発動! 4体の羊トークンを自分フィールド上に特殊召喚する!」

 

羊トークン×4 星1 DEF0

 これで攻撃力はブラック・マジシャンを上回り、攻撃のための生け贄も揃った。あとは攻撃すればいい。

 

「バトルだ、羊トークンを生け贄にしてパンサーウォリアーでブラック・マジシャンを攻撃だ!! 黒・豹・疾・風・斬!!」

 

 黒い豹は地を蹴って大剣を黒衣の魔術師に振りかざす。魔術師は杖で応じるも、強力な力には勝てず、攻撃を受けて散った。

 

神楽坂LP:4000→3700

 

「ぐっ……、だがこの瞬間、ブラック・マジシャン・ガールの効果で攻撃力を300アップさせる!」

 

ブラック・マジシャン・ガール ATK2000→2300

 

 ブラック・マジシャン・ガールは、墓地にいるブラック・マジシャンの数×300ポイント攻撃力が上昇する。つまり、今ブラック・マジシャンは戦闘破壊されたのでブラック・マジシャン・ガールの攻撃力も同時に上がったというわけだ。

 だがこれくらいなら問題はない。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 お互いの手札次第だが、このまま確実に攻めていければ勝てる。さて、神楽坂はどのように出るのか……。

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 神楽坂は若干焦りの表情を浮かべつつ、カードを引いた。

 だが、その表情はすぐに喜びに満ちたものに変わった。

 

「……ふふふ、なかなかいいカードだ! これなら、絶対勝てる!!」

 

 神楽坂は新たなドローカードを眺めながらにやりと笑って見せた。恐らく、強力なカードを引いたのだろう。神楽坂は自信満々にデスクにカードを叩き付けてカードを発動した。

 

「まず俺は魔法カード《天よりの宝札》を発動する!! 手札が六枚になるようにカードをドローする!! さらに手札から《強欲な壺》を発動、さらに二枚のカードをドローする!!」

 

 天よりの宝札は、最大六枚ほどのカードを一度に引き込める超強力なカードだ。手札が少なければ少ないほど絶大な効果を発揮するので、逆転を呼び起こせる。それに加えて強欲な壺を発動しているので神楽坂は実に八枚ほどのカードをドローしていることになる。城之内も五枚のカードをドローしているが三枚ものの差がつけられているのはでかい。

 

「まずはこいつだ!! 魔法カード《死者転生》発動! 手札を一枚捨て、墓地のモンスターカードを手札に加える。俺は《磁石の戦士α》を捨て、《ブラック・マジシャン》を加える!!」

「……!!」

 

 神楽坂がサーチしたのは、遊戯が最も信頼するモンスター、ブラック・マジシャン。当然ブラック・マジシャンを使ったコンボを決めてくるはずだ。カードを握る力が自然と強くなっていく。

 

「さらに、手札から《融合》発動!! 俺は手札の《ブラック・マジシャン》と《バスター・ブレイダー》を素材にして――現れろ、《超魔道剣士―ブラック・パラディン》!!」

 

「なっ……!?」

 超魔導剣士―ブラック・パラディン 星8 ATK2900 魔法使い族 闇属性

 

 竜をも葬り去る剣士と、全てにおいて卓越したスキルを持つ魔術師が融合し、強力な戦士が誕生した。確か、遊戯と海馬のデュエルにも使われたモンスターだ。攻撃力も高く、厄介な魔法無効効果もある。遊戯も本気でやるときは容赦なくこのモンスターを召喚してくる。

 魔導剣士は鋭く冷たい目で城之内を見据え、神経を研ぎ澄ましている。弟子のガールもその威圧感に気圧されているようだ。

 魔法なしでこのモンスターを倒すなんてかなり難しい。どう対処するか、城之内は策を練り始めた。

 だが、神楽坂はこれでは終わらせなかった。

 

「まだまだ!! リバースカードオープン! 俺は罠カード《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地のブラック・マジシャンを攻撃表示で特殊召喚!!」

 

「なっ……!?」

 

ブラック・マジシャン ATK2500

ブラック・マジシャン・ガール ATK2300→2000

 

 まただと!?

 せっかく倒したブラック・マジシャンが再び復活するとは……。

 墓地から再び舞い戻った魔術師は自分を倒したパンサーウォリアーを強く睨んだ。

 これでモンスターは三体になってしまった。だが俺のフィールドにはまだ羊トークンもいるからダイレクトアタックは喰らうことはない。

 だが、その予測は間違いだった。

 

「さらに俺は墓地の《魔導戦士ブレイカー》と《ホーリー・エルフ》を除外して――」

 

 神楽坂はにやりと笑いながら墓地のカード二枚を除外する。その召喚方法は、まさか!!

 

「《カオス・ソルジャー 開闢の使者》を手札から特殊召喚する!!」

 

カオス・ソルジャー 開闢の使者 星8 ATK3000 戦士族 光属性

 

 光と闇のカードを一枚ずつ除外して、召喚できる混沌の使者が姿を現した。遊戯が以前使っていた儀式モンスターのカオス・ソルジャーよりもはるかに使いやすいこのモンスターに、たくさんの決闘者が苦しめられた。このモンスターの持つ効果は恐ろしいものばかりだ。まず、バトルフェイズを行わない代わりに、好きなカードを一枚除外できる効果、そして二回攻撃を可能としている効果だ。

 このカードは強力なフィニッシャーになりうるから、持っている人間は必ずデッキにいれる。もっとも値段も恐ろしく高いのだが。

 今神楽坂のモンスターは四体になり、もしこれで攻撃されたら、ダイレクトアタックを喰らってしまう。

 だが、それが終わりではなかった。

 

「俺はカードを一枚伏せる。これで手札が一枚になったので、俺は《疾風の暗黒騎士ガイア》を召喚できる!!」

 

疾風の暗黒騎士ガイア 星7 ATK2300 戦士族 地属性

 

 遊戯のモンスターの《暗黒騎士ガイア》を強化した疾風ガイアが現れた。これで全員で総攻撃されたら間違いなくやられる。

 

「これで最後だ! 俺は先ほど伏せたカードを発動! 永続魔法《螺旋槍殺》を発動! 自分フィールドに《暗黒騎士ガイア》、《疾風の暗黒騎士ガイア》、《竜騎士ガイア》がいる場合、そのモンスターが守備モンスターを攻撃した時、守備力より攻撃力が高ければその差分のダメージを与える。!!」

 

 貫通効果をがつけたガイア……これはますますやばい。

 羊トークンの守備力は0、つまりダイレクトアタックと同じになってしまう。

 ここで何とかしなければ、負けてしまう―――。

 

「バトルだ!! 疾風の暗黒騎士ガイアで羊トークンを攻撃!!」

 

 バトルフェイズに入り、総攻撃を命じた。先陣を切ったのは、ガイアだ。

 ガイアは自慢の大槍で哀れな子羊を貫く。子羊を貫いた衝撃がそのまま城之内に伝わる。

 

「ぐわあっっ!!」

 

城之内LP:3200→900

 

「そしてブラック・マジシャン・ガールで羊トークンを攻撃!」

 

 次は弟子の番だ。可憐な少女は杖に魔力をため、子羊に叩き込む。一番攻撃力の低いモンスターが壁モンスターを破壊するのは常套手段だ。

 だが、城之内はこれを待っていた。

 

「罠カード発動! 《マジックアーム・シールド》!! 自分フィールドにモンスターがいて、相手に二体以上いる場合に発動できる! 俺は《カオス・ソルジャー 開闢の使者》のコントロールを奪い、《ブラック・マジシャン・ガール》と戦闘させる!」

 

 城之内が唯一伏せた罠カードを発動し、どうにか破壊を防ぐ。カードから飛び出したアームは、開闢の使者をとらえて、弟子の魔法の前に立たせた。その程度の攻撃を通すはずもなく、彼が握る剣で跳ね返した。

 

「きゃあっっ!?」

 

 跳ね返された魔法をもろに喰らった彼女は破壊され、墓地へと消えていった。これにより、二回攻撃が出来る開闢の使者を攻撃させず、さらにブラック・マジシャン・ガールがフィールドから消滅した。

 

神楽坂LP:3700→2700

 

「こざかしい……! だが、まだまだ攻撃は残っている! ブラック・マジシャンは羊トークンを、ブラック・パラディンはパンサーウォリアーを攻撃しろ!!」

 

 だがこれで終わらなかった。まだバトルが行えるモンスターがいる。

 残された二体のモンスターはそれぞれの目標に攻撃をたたき込んだ。子羊は魔法で、豹戦士は斬撃で冥土に送られてしまった。

 

城之内LP:900→800

 

「っ、やばいな……」

 

 ライフがほとんど残っておらず、追い詰められたと感じた。

 

「バトルを終了し、カオス・ソルジャーのコントロールは元に戻る。俺は、これでターンエンドだ。さあ先生、あなたのターンですよ」

 

 城之内のフィールドには二体の羊トークンが残ってはいる。しかし、これだけで次のターンの攻撃を防げるわけがない。次までに何とかしなければ……負けてしまう。

 城之内は手札を見る。先程の天よりの宝札により手札が六枚になってはいる。しかし、城之内の持つカードは《ランドスターの剣士》、《真紅眼の黒竜》、《ゴブリン突撃部隊》、《天使のサイコロ》、《墓荒らし》、《拘束解除》とこの状況を打開するのが難しいものばかりだ。結局は次のターンでやられてしまう。

 だがーーーこんな状況でも親友、武藤遊戯なら諦めない。アイツなら、デッキを信じて戦い続けるはずだ。城之内の目の前に立っているのが誰であれ、諦めるのは許されない。ましてや、人のデッキを使って思い上がっているような生徒にだけは、負けられない。

 

「俺は、諦めないぜ……ドロー!!」

 

 城之内は、希望を信じてカードを引いた。

 

 




次で決着が着きます。なるたけ早くしますのでよろしくお願いします!


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十六話:決闘王の強さ

ちょっとアニメと結末が違います。



***

 

 

「神楽坂の奴、ここまであのデュエルキングのデッキを使いこなすなんて……!」

 

 十代がぎりっと歯を鳴らしながらフィールドを睨む。今、城之内先生と相対する神楽坂は、《ブラック・マジシャン》、《超魔導戦士ーブラック・パラディン》、貫通効果を持つ《螺旋槍殺》を装備した《疾風の暗黒騎士ガイア》、そして驚異の二回攻撃能力を持つ《カオス・ソルジャー 開闢の使者》をフィールドに召喚している。十代が戦ったときだってこんなに展開はされていなかった。そしてさっきのターンに猛攻撃を受け、どうにか凌いだものの、城之内先生の残りライフは800、羊トークンが僅か二体とかなり厳しい状況になっている。このままなにもしなければダイレクトアタックを喰らって終わりだ。

 

「このままじゃ不味いんだな……何とかマジックアーム・シールドで防いだけど、このまま攻撃されたら終わりなんだな」

 

「しかもカオス・ソルジャーには二回攻撃の効果もあるから、セットしても無駄ッスよ……」

 

 やはり城之内先生に勝機はない。十代と翔と隼人は神楽坂の勝利に揺るぎはないと感じた。

 だが、城之内は諦める様子はない。闘志をギラギラと燃やしながら、カードに手をかけた。

 

 

 

***

 

 

 

 

「俺のターン……ドロー!」

 

 想いを込めたドローに、カードは応えてくれたのか。この場にいる全ての人間が城之内に答えを求めた。

 城之内はちらりとカードに視線を向ける。悪くないカードだ。状況を覆せるチャンスを生み出せる可能性がある。城之内はそのカードを躊躇なくデュエルディスクに置いた。

 

「俺は魔法カード《紅玉の宝札》を発動! 手札のレベル7のレッドアイズモンスターを一枚捨て、二枚のカードをドローする! 俺は《真紅眼の黒竜》を手札から捨てるぜ」

 

「だがこの瞬間、超魔導剣士ーブラック・パラディンの効果で攻撃力を500ポイントアップする!」

 

超魔導剣士ーブラック・パラディン ATK2900→3400

 

 レッドアイズ専用サポートカードを使って新たに二枚ドローする。神楽坂のフィールドには、あらゆる魔法を無効にするブラック・パラディンがいるが、神楽坂の手札が0枚なので発動できない。それが救いだった。最も、墓地にドラゴン族を捨ててしまったことで、攻撃力が上がってしまったが。

 切り札のレッドアイズを捨てるのは惜しいけれど、生け贄不可のトークン二体が並ぶこの盤面では全く役には立たない。

 再びドローした城之内はカードを確認する。新たに引いたカードはーーー。

 

「俺は《ランドスターの剣士》を守備表示で召喚し、さらにカードを二枚伏せてターンエンド」

 

ランドスターの剣士 星3 DEF1200 戦士族 光属性

 

 か弱い剣士を召喚し、守りの態勢に入った。だが、それは守りにもなっていない。何故なら貫通効果持ちの暗黒騎士ガイアがいるからだ。あれで羊トークンを攻撃されれば為す術もなく敗北へと陥る。

 だが、城之内だけは見えていた。たったひとつだけの、勝ち筋が。

 

「ふふ、もう諦めたんですか? じゃあ俺のターン、ドロー!」

 

 すっかり余裕の神楽坂はドローを終えたあと、すぐにバトルフェイズに入った。

 

「これで終わりだ城之内先生!! 疾風の暗黒騎士ガイアで羊トークンを攻撃だ! スパイラルシェイバー!!」

 

 暗黒騎士ガイアは真っ直ぐ馬を駆り出し、槍を羊に向けた。命を貫く槍が、すぐそばに迫ってきた。

 だが、城之内はまだ諦めていなかった。いや、むしろここからが、大逆転の始まりだった。

 

「この瞬間、リバースカードオープン! 罠カード《モンスターBOX》発動! さらにそいつにチェーンして罠カード《シフトチェンジ》! シフトチェンジの効果により、暗黒騎士ガイアの攻撃対象を羊トークンからランドスターの剣士に切り替えるぜ!」

 

 羊トークンに突っ込む暗黒騎士ガイアだったが、突如目の前に現れた悪魔がランドスターの剣士を指差した。律儀にもガイアはそれに従い、再び鋭利な槍をランドスターの剣士に突き出した。

 このまま貫かれたら負けてしまうほどに頼りない守備力だが、城之内はこのモンスターに全てを賭けていた。小さな剣士だが、その力は決して小さくないのだ。

 

「そしてモンスターBOXの効果を発動! 表か裏かを決めて、そのあとコイントスをする。同じ面なら相手モンスターの攻撃力を0にして、違う面ならそのまま攻撃される」

 

 暗黒騎士ガイアの攻撃力を0にすることができれば、ランドスターの剣士の守備力分のダメージを与えることができる。だが、これはギャンブルに成功したときのみ。つまり、城之内は運で勝敗を決めようというのだ。

 

「くっ、くくくく……はははは!! まさかギャンブルで決着をつけようってことか!?」

 

 神楽坂は城之内の戦術を察し、高笑いをあげた。他の生徒たちも疑念の色を示している。それは当然だ。ギャンブルというものは、いや、運というものはデュエルモンスターズに於いては戦略に組み込めるほどのものではない。せいぜいドローカードを左右する程度でしかない。

 だが、城之内に至っては例外だった。運というものを信じている。運も、戦略と同等に考えている。だから、この方法にするのを躊躇わなかった。

 

「ああそうだよ。俺は、コインに運命を託すぜ。表を、選ぶ」

 

 城之内は不適に笑いながら親指にブルーアイズの描かれたコインを載せた。神楽坂はそれに対し、嘲笑を浴びせた。

 

「じゃあまず、一回目だ」

 

 まず一回目。

 もしかしたらこれで終わりかもしれないこの状況で、あたかもまだ続くかのような言葉を発する。城之内には自信があった。このコイントスは、成功すると。何故だかは、分からない。強いていうなら長年のギャンブルデュエルで培った勘があるから、だろう。

 城之内は勢いよく親指でコインを弾く。心地良い音と共にくるくると回っていく。やがてコインは地面に吸い寄せられるように落ちていき、チャリンという軽い音が小さく鳴り響いた。デュエルディスクがすかさずコインの表裏を確かめる(このコインはデュエルディスクにあるものである)。結果はーーー。

 

「ーーー表だ」

 

 ニヤリと、城之内は結果を宣告した。コインは、表になった。

 

「ば、バカな!? 命中するだと!?」

 

「この瞬間効果発動! 疾風の暗黒騎士ガイアの攻撃力を0にし、そのまま戦闘する!」

 

疾風の暗黒騎士ガイア ATK2300→0

 

 モンスターBOXの効果で弱体化されたガイアはか弱い剣士すら貫けず、そのまま撤退した。

 

神楽坂LP:2700→1500

 

「くっ……だがこれはまぐれだ!! 俺には後4回も攻撃が残っているんだ!!」

 

「まぐれではあるな。イカサマはしてないし。けど、次も当たると思うぜ。ほら、攻撃してこいよ」

 

「舐めるな!! ブラック・パラディンでランドスターの剣士を攻撃だ!」

 

「じゃあ俺も発動するぜ。コインは、裏だ」

 

 強力な魔術師が呪文を放った。が、城之内は構わずコインを弾く。夜の空で暗い視界に覆われているなか、コインだけが輝いている。

 やがて輝きを失い、再び地面に落ちたコインは……裏だった。

 

「な、ななななにっ!? あ、あり得ない……!!」

 

「裏になったことで、ブラック・パラディンの攻撃力は0になるぜ。俺のコイントスはすげぇだろ? さあどうする? もうやめた方がいいんじゃねえか?」

 

超魔導剣士ーブラック・パラディン ATK3400→0

 

神楽坂:LP1500→300

 

 

***

 

 

 

「ば、バカな……俺が、逆転された……!?」

 

 城之内よりもライフが少なくなった神楽坂は全身を震わせていた。圧倒的に有利だったはずなのに、たった一枚のカードで覆されてしまった。それもーーーギャンブルカードで、だ。

 神楽坂は思い出す。城之内先生のデュエルを。彼のデュエルは、武藤遊戯や海馬瀬人のように戦略的ではなかった。半分以上は運頼みだった。神楽坂は参考にならないといって、勉強すらしなかった。

 だが、今切り捨てた戦術によって逆転されてしまっている。次にまたコイントスが成功してしまえば、反射ダメージを受けて敗けが決定する。

 神楽坂に残された選択肢は二つしかない。一つは、バトルフェイズを終えて、次のターンで巻き返す。モンスターBOXは確か500ポイントのコストが求められるはずだ。だからバトルフェイズを行わずにあと二ターン耐えれば勝ちが確定する。

 だがーーーもしこれで逆転されたら? 少なくとも相手には一ターンの猶予を与えてしまうことになる。それで残りのライフを削られてしまう可能性がないとは言えないのだ。

 なら、今戦うしかない。

 それに今の自分は最強のデッキを使っているんだ。勝てないわけが、ないんだ!!

 神楽坂はすがるように考え、戦慄く唇から、宣言した。

 

「俺は、やるんだ……俺は最強の決闘者なんだ!! これくらい、越えてやるんだ!! バトルだ、ブラック・マジシャンで……ランドスターの剣士に攻撃だ!!」

 

 神楽坂が大声で命令する。漆黒の魔術師は、ちらっと神楽坂を見つめた。その目は、どこか哀しげだった。まるで、結果の全てを悟ってしまったかのように、神楽坂を見続けていた。

 しかし、ブラック・マジシャンはすぐに飛び立った。そして杖から渾身の魔法攻撃を叩き込む。

 

「黒・魔・導!!」

 

 黒いエネルギーの塊が、小さな剣士に向かっていく。城之内先生はなにも言わず、ただコインの表裏だけを示す。面は、表だった。

 城之内はピンと軽く弾く。城之内の顔は、確信に満ちていた。それはさっきのブラック・マジシャンのそれにそっくりだった。何もかも、分かっている。このコイントスの結果すらも、分かっている。そんなように、見えた。

 

 

***

 

 

 

 ああ、分かっているさ。

 このコイントスは成功するんだ。俺の運がすごいからじゃない。ギャンブル慣れしているからじゃない。ブラック・マジシャンの目が、哀しそうだからだ。

 あの棲んだ目を見てみろよ、神楽坂。アイツは遊戯以外に心を開いてないんだよ。戦おうって気が、ないんだよ。

 ブラック・マジシャンの魔法攻撃が今にも迫り来る。コインは、落下を始めている。

 城之内は信じている。自分のモンスターたちが、勝ちへと導いてくれることを。モンスターと想いを通じ合えることが出来れば、その力は果てしないものとなる。その事は、長年のデュエル経験が物語っている。

 城之内は目を閉じた。待っているのは、コインの落下音のみ。

 

――キン。

 

 音が小さく鳴り響く。城之内は目を開けて、結果を確認した。そして静かに、宣告する。

 

「―――表だ。よって、ブラック・マジシャンの攻撃力は0となり、反射ダメージを受けてもらう」

 

ブラック・マジシャン ATK2500→0

 

 ブラック・マジシャンの魔法攻撃は打ち消され、小さな剣士の斬撃を浴びせられる。力を失った魔術師にはそれを防御するすべもなく、ダメージを受けてしまった。

 ブラック・マジシャンは退いた後、神楽坂を見た。もはや分かっていた。こうなることが、分かっていたんだ。そう、いっているようだった。

 

神楽坂:LP300→0

 

 

 

***

 

 

 

「さて、デッキを返してもらおうか」

 

 城之内は項垂れて膝まづく神楽坂に歩みより、デッキを返すよう要求する。神楽坂は顔をあげ、城之内を見る。そして何も言わず、遊戯のデッキを取り出して返した。

 

「……何でこんなことしたんだ」

 

 城之内は遊戯のデッキをポケットに入れて、神楽坂に問う。遊戯のデッキを盗むということは、何かコンプレックスがあったのだろう。

 神楽坂は悔しそうに目をつぶり、ぼそぼそと答えた。

 

「俺はバカにされてきたんだ。レッドにも負けて、イエロー寮も危ないって言われてきたんだ……。俺は、いろんなデュエリストのデッキを研究しているのに、人一倍勉強しているのに……!」

 

 それで遊戯のデッキを盗んで、見返してやろうってことか。よほど追い詰められていたんだな。

 でも、デュエルしていて、あいつは遊戯のデッキを使いこなせていた。かなり重いし、扱いが難しい遊戯のデッキを使うというのは、相当難しいことなのだ。つまり、実力はあるのだ。きちんと遊戯のデッキを研究しているのだ。

 

「お前は遊戯のデッキを十分に使いこなせていたよ。普通なら、あんなにはうまくはいかないもんさ。だからお前は、実力がないわけじゃないんだ。でも、お前にはたった一つ足りないことがある」

 

 城之内は、デュエル中のブラック・マジシャンの瞳を思い出しながら一言告げた。

 

「自分のデッキ、自分の信じるもの、だ」

 

 自分の信じるもの。

 神楽坂は瞳孔を開いて、言葉を受け止める。しかし、戸惑いが隠せない。

 

「お前は、他人の力をまねて戦ってきた。でも、それじゃ勝てなかったんだろう? 最強のデュエリストのデッキを使っても、ダメだったんだ。だったらもう答えは一つなんだ。他人の力だけじゃ、勝てないんだよ」

 

「…………」

 

 神楽坂は俯くと、腰のあたりに触れてみた。そこには、四角いふくらみがあった。神楽坂はそれをそっと取り出す。

 

「ああ、これは俺が初めて組んだデッキだ……何時からだろうな、俺がこいつを使わなくなったのは……」

 

「また、そいつを使ってみろよ」

 

 城之内は、肩をポンと叩く。神楽坂はデッキを尚も見つめ続け、ため息をついた。城之内は踵を返し、デュエルを観戦していた生徒に向かって叫んだ。

 

「お前らーもう遅いから寮に戻れ! 明日も授業あるからはえーぞ!!」

 

 生徒たちは大人しく従い、寮の方向へと戻っていった。その表情は笑っていた。デュエルを称賛するものが浮かぶ、嬉しそうな顔だった。

 城之内はフッと笑うと、自分の部屋へと戻るべく消え去ることにした。

 

「今夜は楽しかったぜ。でも、もう二度と悪いことはすんなよ。また、デュエルしようぜ」

 

 それだけ言い残し、足を動かした。神楽坂は、後ろ姿をただただ見送るだけだった。

 やがて誰もいなくなり、神楽坂は一人こう呟いた。

 

「もう一度、これを使ってみるか……こいつでいつか、城之内先生を倒して見せるぜ!」

 

 爽やかな笑顔を浮かべながら立ち上がり、夜中の荒波を眺めながら、決意を表したのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 

 夜が明けた。

 デュエルアカデミアは、朝から賑わっていた。言うまでもない、武藤遊戯のデッキ展示ブースが原因だ。朝から人が混んでおり、行列が出来ている。しかし整理券を持っているものは優先的に入れるようだ。

 

「いやー、昨日はどうなるのかと思ったノーネ……ワタシの教師人生は終わりかと思ったノーネ……」

 

「昨日は大変だったっすね、なんとか海馬の野郎に知られずに済んだのが良かったです」

 

「ホントナノーネ。オーナーに知られたら、返ってきたとはいえただじゃすまないノーネ……」

 

 城之内とクロノス先生も、遊戯のデッキ展覧会場にて遊戯のデッキを見ながら談笑している。教師は整理券なしでも入ることができる特権があるため、並ばなくてもすむのはでかい。

 あの後、神楽坂がクロノス先生に自首をしてデッキは無事にこっちに返ってきた。神楽坂が全力で謝り、誠意を見せたお陰で処罰は無しとなった。クロノス先生は胸を撫で下ろし、安心したようにベッドに入り込み、すぐに寝たという。

 

「でも、そういや何で海馬は遊戯のデッキを公開したんすかね?」

 

 城之内は、この企画が始まって以来気になっていた疑問をクロノス先生にぶつける。クロノス先生は当たり前のことを答えるように質問に応じた。

 

「それは最強のデュエリストのものだからナノーネ! 皆がそれを参考にすれば実力は上がるものナノーネ」

 

「それはわかるんだけど……なーんか引っ掛かるんですよね。海馬は何か別の目的があるんじゃないかって」

 

「知りたいか、海馬様のご意図を」

 

「う、うわっ!?」

 

 いきなり声をかけられて、城之内は飛び上がった。するといつのまにか黒服のサングラスをかけた男が側に立っていた。

 

「び、びっくりした……あんたは?」

 

「海馬コーポレーションの河豚田というものだ。武藤遊戯のデッキ展覧会の警備に来たのだ」

 

「なるほどな……それで、理由は知ってるのか?」

 

「海馬様から聞かされたのだが、聴くか?」

 

「ああ」

 

 河豚田は城之内の首肯を確かめると、口を開いた。

 

「海馬様はーーー」

 

 

 

 

『あの、差し支えなければ教えていただきませんか? どうして武藤遊戯のデッキをデュエルアカデミアに展示なさるのでしょうか? 武藤遊戯を倒すのは海馬様ただ一人のはず、ですが、彼のデッキを公開することはすなわち武藤遊戯に対抗できるデュエリストを育成することになるのでは……?』

 

『つまり、この俺以外に遊戯を倒すものが現れるかもしれない、ということか?』

 

『は、はい……恐れながら』

 

『ふぅん、それはあり得ないな』

 

『え?』

 

『何故なら、遊戯のデッキは弱いからだ』

 

『は……?』

 

『何だ、意外か? 貴様もバトルシティで遊戯のモンスターを見ているはずだぞ。奴のデッキは、そこまで強くないのだ。最強のデッキなどと持て囃されているが、凡骨のデッキといい勝負だろう』

 

『では……』

 

『奴が最強であるのはデッキの力ではない。奴の実力と、運、そして《優しさ》なのだ。ゲームの王であった奴ですら、持っていなかった力だ』

 

『……』

 

『俺がデッキを展示するのはな、一体どれだけ遊戯の強さに気づけるかを知りたかったのだ。それはすなわち、デュエリストの強さに繋がるのだ。それに気づけないようでは……まだまだ甘いということになる。これに気づけたものは、恐らく一人もいないだろうがな』

 

 

 

 

 

 

「ーーーというわけだ」

 

「「…………」」

 

 城之内とクロノスは目を見開いた。まさかそんな意図があったとは……。はっきりいって、城之内ですら気づかなかったことだ。

 遊戯のデッキは弱い。なら遊戯の強さってなんなのだろう。それは……違うところにある。それに気づかせるのが本当の目的だったとは―――

 

「いや、あともうひとつあると思うぜ」

 

 城之内は、ふっと笑った。海馬は慈善的な人間じゃない。むしろ自分に忠実だ。だから、これだけが理由じゃない。それは、ただ一つだ。

 

「ナンデスーノ?」

 

「遊戯のライバルは海馬一人だ、って言いたいのさ。遊戯の強さを分かるのは俺一人、だから俺以外に遊戯と対等に渡り合えるものは存在しないっていうこと。まあもっとも、それが伝わるとはとても思えないけど」

 

 城之内の指摘に対し、河豚田は黙っていた。だが、微かに頬を緩めた。海馬の部下は厳格なイメージがあるため、びっくりしてしまった。

 

「あんたが笑うなんてな。そんな風には見えないけど」

 

「私だって人間だ、笑ったりはする。海馬様がこれをお聞きになった時、どんな反応をされるか気になるところだ」

 

 河豚田は僅かにトーンをあげて答えた。案外人間味があって面白いやつだ。城之内はそう思った。

 

「かもな。あいつはきっと大笑いするだろうぜ」

 

 城之内は海馬の高笑いを想像し、半ば呆れたように笑う。河豚田も同じように笑みを見せるが、すぐに仕事用の厳しい表情になり、声のトーンも怜悧なものに戻った。

 

「では、私は任務があるのでこれで」

 

「おう。じゃあ俺たちは引き続き遊戯のデッキを見ることにするぜ」

 

 それだけ言って、河豚田は歩み去った。城之内とクロノス先生もその場を去り、遊戯のデッキが飾られているガラスケースを見る。

 

「これがシニョール遊戯のデスカ……でもこれが弱いデッキって言われても、納得できないノーネ」

 

「そうですね……俺は遊戯のデュエルを目の前で見てたけど、あいつの戦い方から弱さってのが感じられないです。だからデッキも強く思えたんです」

 

「まだまだ分からないこと、いっぱいあるノーネ」

 

「そうっすね」

 

 城之内は遊戯がプリントされているポスターを眺めた。あいつは今、アメリカでデュエルをしているはずだ。うまくいっているだろうか。そして、舞はどうしているだろうか……。

 城之内は遊戯のデッキの近くに置かれている、《ブラック・マジシャン》のカードを見る。イラストのブラック・マジシャンが、輝きを取り戻したように見えた。遊戯の召喚する、強くてたくましい魔術師に戻った気がする。

 遊戯にメールでも送ってみるか。遊戯と気軽に話がしたくなった。

 

「さて、そろそろ行きましょうクロノスさん」

 

 城之内はクロノス先生を促し、展覧会場を後にしたのだった。

 

 




河豚田ってバトルシティ編に出ていた海馬の部下です。磯野を出してもいいですがつまらないので出してみました。
次は三幻魔……にしようかとおもっていますが、それまでに間が空いているのでサブストーリーを入れようと思います。学園対抗デュエルとかはぶっちゃけ城之内関係ないしw


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第十七話:未来を語る少女

三幻魔編へと入っていきます。割りと長いですがお付き合いください。
新規カードめっちゃ入ってきてますのでキャラクターカードのエクシーズシンクロ使いたいですね。《青き眼の乙女》とか《幻想の黒魔術師》とか。
もしかしたらタグをはずすかもしれませんが、極力シンクロやエクシーズは使わないようにします。(使うとしても説明はいれる)


 遊戯のデッキ盗難事件が解決してから一ヶ月ほどたった。その間にデュエルアカデミアの姉妹校との対抗デュエルが行われて、非常に盛り上がった。中でも姉妹校代表として出た万丈目準の成長は眼を見張るものがあった。彼は最近成績を落とし、デュエルアカデミアを出ていったが、たどり着いた先がその姉妹校であり、そこで腕を磨いてきて人間的にも実力的にも一回り大きくなって帰ってきたのだ。対抗戦で本校代表の遊城十代には負けてしまったものの、以前の彼が抱いていた、レアカードこそ至高という考えはもうなくなっていた。

 そしてそれから数日たったあと、新たな事件が、起ころうとしているのである……。

 

 

 城之内は鮫島校長に呼び出されていた。何の用かと思い、緊張しながら校長室のドアを叩いた。

 

「失礼します」

 

 平静を装いながらドアを開ける。ドアの向こうのデスクに、鮫島校長が座っていた。彼の表情は割りと穏やかで少し安心した。城之内は歩みより、頭を下げる。

 

「急に呼び出して悪いね。実は君に知らせがあるんだ」

 

「知らせ、ですか?」

 

「うむ。これを読んでくれ」

 

 鮫島校長は城之内にプリントを手渡した。海馬コーポレーションのロゴがついていることから、きっと海馬辺りが送ってきたものなんだろう。それだけで読む気を無くすのだが、仕方がないので目には通す。

 だが、よく見ると送り主は海馬ではなかった。

 

「From海馬モクバ……? モクバか!!」

 

 海馬の弟の名前がそこにあったとたん、城之内の表情は緩む。モクバは大の兄思いであるが割りと常識的なところがあり、海馬よりかはまともであるので付き合いやすい相手ではある。無論最初は恐ろしいほど残忍であったが、海馬の心が砕かれてからはモクバも変わっていった。

 

「海馬モクバ殿は海馬コーポレーションの次期社長になられる予定らしいよ」

 

「へぇ……あいつがですか……まあ海馬の弟ですもんね。んで、どれどれ……」

 

 城之内は手紙の内容を読んでいく。

 

『To城之内克也

From 海馬モクバ

 

 城之内に新たな仕事を与えると兄様が言っていた。これからアメリカで行われるアメリカのデュエル大会の観戦をし、更なる教育の発展を見せてほしい、だそうだ。というわけでこれからアメリカへ飛んでいってくれ。経費はすべてこちらで落とす』

 

「こういうのは海馬に似てるよなあ……」

 

 まあさすがに海馬の弟だけあって、威張りきっている文体であった。でもこれで次期社長はさすがに不味いのでは無いのだろうか……。いや、海馬の野郎はもっとひどいか。

 

「ともかく、君は海外に行ってそのデュエルを見てくるのだ。まあ君はプロデュエリスト故に見に行く必要があるのかどうかは正直疑問だが、まあ講義内容も充実することだろう。そういうことだから行ってくれたまえ」

 

「はぁ……まあでも俺も生でアイツらの、遊戯たちのデュエルを見たいんで嬉しいです! 期間はどれくらいですか?」

 

「とりあえず二週間程度だそうだ。三日後にデュエルの大会が始まるから明日にいけば問題ないだろう」

 

「そうですね。そうと決まれば支度してきます!」

 

 城之内は笑顔で部屋を出て自室へと戻った。

 まさか自分がアメリカに行けるとは思わなかった。急すぎる出張だが、城之内は別に苦にも思っていない。何故なら、親友に会えるから。恋人に、舞に会えるから……。

 詰まるところ城之内は舞に会いたいがために仕事を受けたといってもいい。舞は遊戯と共にアメリカへ飛んでいき、大会でデュエルをすることになっている。舞とは文通はしていて、一回戦の相手がなんと遊戯だそうだ。テレビで絶対応援すると書いたが、城之内が現地で試合を見ることが出来るのは、幸運である。

 

「さーて、用意をしていきますか」

 

 城之内は自室のドアを開けると早速荷物をまとめ始めた。

 

 

 その翌日。

 城之内は飛行機でロサンゼルスへと向かい、そこらのビジネスホテルにカタコトの英語でチェックインして宿泊した。そして翌日、ホテルからタクシーで数十分いったところに今回の大会のスタジアムがあるのでそこに向かった。名前は《海馬ドームUSA》だそうだ。

 またしてもカタコトの英語で緊張しながらもどうにか現地につくことが出来た。海馬ドームUSAの近くの広場では既にチケットでの長蛇の列が出来ており、すぐに売り切れてしまった。城之内はモクバが送ってきてくれたチケットで見ることが出来るので心配することはない。

 城之内は入り口でチケットを見せ、通過しようとしたが。

 

「Excuse me. Could you show me inside your bag?」

 

「え?」

 

 会場に入ろうとしたが、突然係員に止められた。だが、何で止められたか分からない。英語を話したみたいだけど、何て言っているのか分からない。

 

「Ah,,,Do you understand what I said?」

 

「の、ノー!!」

 

 マジで分からない。というか何といっているか分からないけどノーと言ってしまった。

 

「PLEASE SHOW ME BAG!!」

 

「ひっ!?」

 

 係員がキレながら城之内に迫る。城之内がいつまでも理解しないからだろう。だけど出来ないものは出来ないわけだしどうすれば……。

 

「Sorry.He is Japanese,so he can't speak English.What did you say to him?」

 

 突如後ろから流暢な英語が聞こえた。城之内は驚いて振り向くと、そこには紺色の深めの帽子をかぶった女性がいた。

 

「For our safety,I ordered him to show me his bag.」

 

「Okay.バッグの中身を見せろっていってるわ」

 

「そ、そうですか……」

 

 城之内はバッグのジッパーを引っ張り中身を見せる。呼び止めた男はじっと見つめ、確認を終えると笑顔で中に入るようにジェスチャーした。さっきまでの怒りの表情が嘘みたいだ。

 しばらく歩いて城之内は振り返る。先程助けてくれた女性にお礼を言うためだ。

 

「あ、あのさっきはありがとうございました!」

 

「いいってことよ。これくらい大したことじゃないわ。向こうにいれば自然と覚えるものよ」

 

「でもそれでも英語しゃべれるのはすごいことです。俺学がないもんですから……。とにかく、ありがとうございました」

 

「良いわよ別に。それより試合、そろそろじゃない?」

 

「ああ、そうっすね……そろそろ第一試合が始まるんですよね。じゃあ俺いきますんで失礼します!」

 

「ええ、じゃあね」

 

 女性はそういって別の方向へと向かっていった。あの女性がいなかったら城之内はあそこで立ち往生していたかもしれないと思うと、感謝の思いで一杯になる。

 ただ、いつまでもそんな気分には浸れない。そろそろ試合が始まってしまうからだ。

 

「さて、そろそろいかねえとな」

 

 城之内はチケットに記されている場所へと足を向けた。あと五分で始まってしまうため、あんまり猶予はない。

 観客席へとつくとそこには大勢の人間が既に席に座っていた。興奮の声が飛び交い、今か今かと試合が始まるのを待っている。城之内も席に座り、フィールドを眺めた。

ーーー俺もかつてはこの場所にいたんだ。

 城之内もこういうスタジアムで強敵たちとデュエルをしていたことを思い出す。どちらが勝ってもおかしくない勝負を幾度も繰り広げ、観客たちを、自分達を沸かせた。あの頃は、楽しかった。

 選択肢がない訳じゃない。もう一度ここに立てないことはない。何故なら城之内と同じようにプロリーグを辞めさせられた遊戯がこうして舞台に立つことが決まっているからだ。プロリーグの出場はできないけれど、ギャラは少ないがこうした別の大きな大会には出場できるのだ。

 でも今は、もうここに立つことはない。城之内は、この舞台から身を退いたのだから。プロの道は捨てたんだ。

 

『皆さんお待たせしました!! 第一試合が始まります!! 最初の対戦相手は、インセクター羽蛾VSエミーです!! どうぞッッ!!!!』

「は、羽蛾だと!?」

 

 まさか一回戦の第一試合にインセクター羽蛾が現れるとは……。アイツ戦績がそんな対して良くないくせに良く出られたな。

 インセクター羽蛾については言うまでもない卑劣漢だ。卑怯な手をあれこれ構じて何としてでも勝とうとする嫌な奴だが、最近はどんどん下火になってきていて、デュエル界からも姿を消したと思ったのだが。

 

『インセクター羽蛾選手は元全日本チャンピオンで、実力は相当のものと言えるでしょう! 今回のデュエルでどう見せてくれるのか楽しみです!!』

 

 元全日本か。もう十年以上も前だぞ……。

 

『対するエミー選手は、実績はないながらも的確なデュエルタクティクスで戦い抜く強者です!! プロ相手にどんな戦いを見せてくれるのでしょうか!? さあ、両選手フィールドにどうぞ!!!!』

 

 羽蛾の相手が新人か。羽蛾も腕は落ちていっているとはいえ素人では絶対に勝てない。新人で果たしてどこまで通じるだろうか。

 二人の選手が同時にフィールドに現れ、スタジアムは歓声に包まれる。特に羽蛾は知名度は高いので盛り上がりはそれなりにある。

 城之内はエミーという新人を見る。遠くて見辛いが、紫の帽子を被っている。

 

「ん?」

 

 紫の帽子を被った女性に見覚えがあった。そういえば、さっき城之内が困っていたときに助けてくれた女性にそっくりだ。あのときは顔も見えなかったが紫の帽子で分かった。遠い席の人でも分かるようにスクリーンが設置されているがそのスクリーンでは彼女の顔がアップされている。

 日本語は流暢で髪は金髪、目は蒼いので外国人のハーフだと思う。しかも舞よりも若く見え、なかなか可愛い。

 

「お、俺には舞がいるんだ」

 

 もし舞の前で鼻の下でも伸ばしていたら、殺される。背筋が寒くなるのを感じて城之内はじっとフィールドを見つめた。スクリーンを見なくてもフィールドは分かるし、フィールドの方が臨場感はずっとすごい。

 

『では、デュエルを始めます!! 先行はインセクター羽蛾からとします! では、デュエル開始!!!!』

 

 デュエル開始の合図が響き、観客は拳を突き出す。二人は互いにデュエルディスクを構えて、同時に叫んだ。

 

「デュエル!!」

 

「先行はボクだ、ドロー!」

 

 羽蛾の先行でデュエルが始まった。一体どんな風に攻めてくるのだろうか。羽蛾のことだからうざったいモンスターでじわじわと追い詰めていくのだろう。

 だが、今回の羽蛾は意外にも大胆だった。

 

「早速行くぜ!! ボクは、魔法カード《青天の霹靂》を発動!! こいつは手札のレベル10以下の通常召喚できないモンスター一体を召喚条件を無視して特殊召喚できるカード!! ボクが召喚するのは当然、《究極完全体・グレート・モス》だ!!!!」

 

究極完全体・グレート・モス 星10 ATK3500 昆虫族 闇属性

 

「ぐ、グレート・モス!? いきなりかよ!?」

 

 究極完全体グレート・モス。

 それはブルーアイズすら越える究極の虫であるが、《プチモス》というモンスターに《進化の繭》を6ターン装備しないと召喚できないという過酷な召喚条件を持つ。しかしそんなモンスターを僅か1ターンで召喚してしまうとは……!

 

「ヒッヒッヒ……さらにボクはさらに、モンスターをセットして、ターンエンドさ」

 

 だが、《青天の霹靂》にはデメリットがある。発動したターンには、攻撃も、あらゆる召喚、特殊召喚も許されておらず、更に相手のエンドフェイズにそのモンスターはデッキへと戻っていってしまう。ということは伏せたモンスターに秘策があるのだろう。

 さあ、この大型モンスターに対して、どう戦うんだ?

 

「私のターン、ドロー! 私は《鉄の騎士 ギア・フリード》を召喚!」

 

鉄の騎士 ギア・フリード 星4 ATK1800 戦士族 地属性

 

「ギア・フリード……!」

 

 城之内はエミーを見る。このモンスターは城之内も使用したことがある。装備した装備魔法を破壊する効果があり、ステータスもなかなか高い。だがそれでもグレート・モスには及ばない。となればセットモンスターを攻撃するのだろうか。

 

「バトルフェイズに入るわ! ギア・フリードでセットモンスターを攻撃!! 鋼鉄の手刀!!」

 

 ギア・フリードはセットモンスターへと飛びかかり、手刀を浴びせる。

 

「ヒョヒョヒョ、甘いな! 僕のセットモンスターは《G・B・ハンター》! 守備力は2000だから破壊はされない!!」

 

G・B・ハンター 星4 DEF2000 戦士族 地属性

 

「くっ……」

 

エミー:LP4000→3800

 

 羽蛾のセットモンスターの方がステータスが高かった。よってエミーのライフが削られる。

 しかし何故羽蛾は戦士族を使っているのだろうか。あいつのデッキのコンセプトからして違うのに。

 

「私はカードを一枚伏せてターンエンド。あなたのグレート・モスはこれで消滅するわね」

 

 エミーのターンエンド宣言の時に、《青天の霹靂》の効果が発動するはずだ。これでグレート・モスが消滅したら多少は有利になるはず……。

 

「いや、そいつは発動しないぜ」

 

「何ですって?」

 

「《G・B・ハンター》が表側表示になっているとき、フィールドのモンスターはデッキには行かないのさ。つまり、青天の霹靂の効果は無効となる!!」

 

 なるほど。羽蛾の行動の意味が分かった。1ターンしかいられないにもかかわらず、グレート・モスを召還するなんて馬鹿だなと思っていたが、こういう手を打っていたとは。羽蛾がわざわざ戦士族モンスターを採用したのにもこれが理由ってわけだ。

 ともかく攻撃力3500のモンスターがフィールドに残ってしまった。その事実は相手にとってとても不利である。

 

「ヒャヒャヒャ、ボクのターン、ドロー! そのままバトルだ、グレート・モスでギア・フリードを攻撃だ!!」

 

 グレート・モスが巨体をギアフリードに近づけて、口から気持ち悪い液体を吐き出す。攻撃力の差は明らかで、どう考えてもギアフリードが不利であった。

 だがーー。

 

「リバースカードオープン! 罠カード《鎖付き爆弾》発動!! ギア・フリードに装備するわ!! ギア・フリードの効果で鎖付き爆弾が破壊されるけど、その時に特殊効果発動!! このカードが破壊され墓地に送られたとき、相手のカードを一枚破壊する!! 私が破壊するのは、当然グレート・モスよ!!」

 

「何だと!?」

 

 鎖付き爆弾がギア・フリードの体から外れると、その瞬間に爆発し、グレート・モスを巻き込んだ。何一つ耐性を持たないグレート・モスに防ぐ術があるはずもなくフィールドで塵と化してしまった。羽蛾は悔しそうな表情を浮かべる。

 

「くっ……僕はこれでターンエンドだ!」

 

「私のターン、ドロー!! 私は魔法カード《拘束解除》を発動!! 《鉄の騎士 ギア・フリード》を生け贄に捧げて、デッキから《剣聖ーネイキッド・ギア・フリード》を特殊召喚する!!」

 

剣聖ーネイキッド・ギア・フリード 星7 ATK2600 戦士族 光属性

 

 ギア・フリードの鉄壁の鎧が外されていき、逞しい肉体を見せつける。というより、あの鎧はギア・フリードの強大な力を押さえ込むためのものであり、その拘束を解いたこのモンスターの力は壮大なものだろう。

 

「更にネイキッド・ギア・フリードに装備魔法《閃光の双剣ートライス》を

発動!! このカードは装備モンスターの攻撃力を500下げる代わりに二回攻撃を可能にする効果があるわ!!」

 

剣聖ーネイキッド・ギア・フリード ATK2600→2100

 

「二回攻撃か……だが、そんな程度じゃボクは倒せないぞ!! 僕にはまだ壁モンスターがいるんだからな」

 

「いや、これで終わりよ。ネイキッド・ギア・フリードが装備魔法を装備したときに効果発動、相手モンスターを一枚破壊する!! 破壊するのは当然、《G・B・ハンター》!!」

 

「なっ、何!?」

 

 ネイキッド・ギア・フリードの一撃により、羽蛾の壁はあっけなく散った。これで羽蛾のフィールドはがら空き、勝負はあった。

 だが、彼女はバトルフェイズにはすぐに入らなかった。

 

「私は更に《死者蘇生》を発動、《鉄の騎士ーギア・フリード》を墓地から特殊召喚する!」

 

鉄の騎士ーギア・フリード ATK1800

 

「そして私は装備魔法《盗人の煙玉》を発動、ギア・フリードに装備する。そしてギア・フリードの効果で破壊され、効果発動! このカードが破壊されたとき、相手の手札を見て一枚墓地に捨てる!!」

 

「ひっ……!?」

 

 まさかオーバーキルしようというのか。閃光の双剣で2100の二回攻撃をすればそれで羽蛾の敗けだというのに、墓地に眠るギア・フリードを復活させ、そして手札まで奪い去る。可愛い見た目によらずかなりえげつない。

 

「……なるほど、手札誘発系のカードはまだあまりないのね。なら、《死者蘇生》を捨てるわ!!」

 

「お、オーバーキルなんてマナー違反だぞ!?」

 

「オーバーキルかもしれないけど、もしあなたが《かかし》なんて持ってたらたまったものじゃないわ」

 

 かかし……? どういう意味だ?

 対戦相手の羽蛾も顔をしかめている。

 それでもひとつ間違いないのは、彼女の勝利が決定的になったことだ。

 

「バトルよ、全員でダイレクトアタック!!!!」

 

「ぐわああっっーー!!!!」

 

羽蛾:LP4000→1900→100→0

 

 ギア・フリード達の総攻撃を食らった羽蛾の断末魔が響き渡り、デュエルは終了した。

 

 

***

 

 

 城之内は先程の試合を思い返しながら廊下を歩いていた。エミーの使っていたデッキは、《ギア・フリード》だと思う。ギア・フリードの破壊効果を利用して相手の手札を奪ったり破壊したりするトリッキーなものだ。

 でも、まだ余力を隠している気がする。見せているカードも5枚程度でしかなく、奥の手のようなものは分からない。

 それに引っ掛かるのは、《かかし》という言葉だ。エミーは羽蛾の手札に《かかし》がああったんじゃないかと疑っていた。でもそんなカードは、存在しないはずだ……。

 

「ま、いいか。取り合えず舞の試合がいつか観に行かなくちゃな」

 

 難しいことは後に回すのが、城之内のやり方だ。考えても無意味だし、聞き間違いだってある。城之内はきっぱり忘れることにした。

 

 

 

 

***

 

 海馬ドームUSAの社長室にて、海馬瀬人が一人座っていた。デッキの調整をするためだ。

 だが、携帯電話が鳴り響いたため中断する。

 

「何だ?」

 

「海馬様。お客様が来ております」

 

「客だと? 通せ」

 

「はっ」

 

 携帯電話が切られると、社長室のドアが開く。このドアはオートロック式になっており、海馬がオンにすれば開く仕組みになっている。

 海馬はドアの方をみる。そこには紫の帽子をかぶった、金髪の女がいた。

 

「ん、貴様は出場選手のエミーだな?」

 

「ええ、海馬さん。あなたに少しお話があってきました」

 

「言っておくが、この俺のデッキの情報を探ろうとしても無駄だぞ?」

 

「貴方のデッキの情報を頂くために来たのではありません。貴方の、未来についてお話ししに来たのです」

 

「未来……だと?」

 

 海馬は顔をしかめた。未来の話だと?

 

「ふっ……下らん。未来のロードはこの俺が作るのだ、貴様に語られるまでもない」

 

「なら、こう言っておきます。貴方の未来のロードは、もうじき消えてなくなるのです。3枚の、神のカードによって」

 

「……何?」

 

 海馬はエミーを睨み付ける。神のカードによってすべてが終わるだと?

 ……馬鹿馬鹿しい。

 

「オベリスク、オシリス、ラーがこの世界を破壊するとでもいうのか? 確かにその力はあろうが、その所持者は遊戯だ。奴が世界を破壊するとは思えん。それに奴が世界を破壊するとなったらこの俺が完膚なきまでに叩きのめすまでだ」

 

「いえ、その三枚ではありません。私のいう3枚のカードは……三幻魔のことです」

 

「…………何だと!?」

 

 三幻魔という名前を聞いて海馬は初めて大声をあげた。

 この神達の名前は知っている。デュエルアカデミアの地下の《七精門》と呼ばれるところに封印されている神のことで、その神が復活すれば、全ての精霊達の力は消えてしまい、世界が崩壊するという。あの封印を解くものなどいないと思っていたのだが。

 

「貴方なら、そのモンスター達の恐ろしさが分かるはず。あのモンスターたちが封印を解いて復活すれば、未来は崩壊する……」

 

「……ということは、貴様の時代では三幻魔が復活してしまったということか」

 

「そう……デュエルアカデミアの地下での封印が解かれてしまい、世界は崩壊寸前よ」

 

「……なるほどな。要するに貴様は未来を変えるべくこの俺に接触し、三幻魔の封印を阻止しろということか」

 

「そういうこと。私はそのために未来から来たの。わずかに残されている、デュエルモンスターズの精霊の力でね」

 

「精霊の力か……正直戸惑うところはあるが目を瞑ろう。で、三幻魔を食い止めるにはどうすればいいのだ」

 

「封印を解く鍵を守ればいい。その鍵はデュエルアカデミアにあるのだけれどそれを狙う7人の刺客がいるのよ」

 

「要はそれを倒せばいいわけだな」

 

「そう。でもただ倒すだけじゃダメなの」

 

「なに?」

 

 海馬はぴくっと眉を動かす。

 

「三幻魔の封印を解くもうひとつの鍵は、《闘志》なの。お互いにデュエルをするときに生まれる気合いみたいなものね。それが三幻魔を復活させてしまうのよ。いくら鍵を死守してもそれが足りていれば鍵が開かれてしまうの」

 

「つまり……相手を完膚なきまでに叩き潰して戦意を失わせればいいわけだな?」

 

「その通りよ。でもそれはデュエルアカデミアの生徒ではできない。だから貴方に頼んだのよ」

 

「まさにこの俺が適任ということだな」

 

「他にもいろんなデュエリストに声をかけるつもりだけど、どうする?」

 

 エミーの言葉に対し、海馬はふんと鼻で笑う。

 

「その程度俺一人で十分よ。わざわざ他の弱小デュエリストの手を借りるまでもない」

 

「それなら話は早いわ。じゃあ私はこれで」

 

 エミーは背を向けて社長室を去る。だが。

 

「待て、最後に一つ聞きたいことがある」

 

「何かしら?」

 

「貴様がこの大会に出場したのは、本当にこの俺に接触するためか?」

 

「そうよ。私は未来を変えるために来たの。目的はそれだけだわ」

 

「そうか……余計なことを聞いてすまなかった」

 

 海馬はそれだけいい、目を閉じた。聞こえたのは静かな足音とドアが閉じる音だけだった。

 

「三幻魔の復活を防ぐにはデュエルアカデミアに向かうべきだな」

 

 海馬は手元にあるスケジュール張を眺める。予定はかなりびっしりだが、この大会の管理を別の人間に任せればまあまあ空くだろう。

 海馬は携帯を取り出し、磯野を呼び出した。

 

「磯野、俺だ。今回のデュエル大会の運営を貴様に託す。俺はこれからデュエルアカデミアに行かねばならなくなったからな」

 

「えっ、何故ですか?」

 

「デュエルアカデミアに眠る三幻魔のカードのことでだ」

 

「なるほど……では至急アメリカへと参ります」

 

「俺が留守の間頼んだぞ、磯野」

 

 海馬は通話を切り、デスクをたつ。かけてある、ブルーアイズをイメージしたコートを羽織って部屋を出る。

 海馬がたどり着いたのは自家用ジェットが格納されている場所だ。こちらもデザインはブルーアイズをイメージしたものとなっている。海馬はそれに乗り込み、エンジンをいれる。

 

「俺のロードは誰にも邪魔させんぞ……」

 

 海馬はエンジンの出力を上げ、格納庫から一気に空へと飛び出した。空はもう暗く、静かな夜だがこんな目立つ飛行機が飛ぶと下界は騒がしくなる。でも海馬にはどうでもいいことだった。これからのロードに関わる、大事なフライトなのだから。

 




エミーというキャラはオリジナルです。割りとオリジナル要素を付け足しているのですが、ご容赦ください。十代君のワンマンプレイではなくなっているので。


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第十八話:海馬VS青眼の白龍を使う男

えー、先に謝罪します。タグにシンクロ、エクシーズはなしと言いましたが……すいません今回は使います!!申し訳ありません!!
ですが、これは一応使うキャラにはそれなりの理由は用意しますし、それをずっと使い続けるとか、汎用エクシーズを使って俺TUEEEEEEをしたりは一切しません。
まあ、何で使うかっていうと……青眼の白龍とブラックマジシャンのエクシーズシンクロが出たからです……それ使いたいんですよ涙。

そういうわけですのでタグを修正し、シンクロエクシーズを少し使用しようと思います。本当に申し訳ありません。それでもいいというならお付き合いください。


 海馬の乗るジェット機は、日本にある孤島、デュエルアカデミアを目指していた。目的は、そこに襲撃してくる7人の刺客を討伐し、三幻魔の復活を阻止するためである。未来から来たというあの女を信用していいのかはわからないが、不安要素は排除しておくに越したことはない。

 

(三幻魔のカードか……一度見て見たい気もするがな)

 

 海馬は三幻魔のカードを見たことはない。存在自体はオーナーである以上把握はしているのだが、どんな効果を持っているかどうかはよく知らない。もしかしたら遊戯の持つ三幻神に匹敵する効果を持っているのかもしれない。

 それならば是非とも手に入れたい。

 

(問題はそのカードを制御できるかどうかだな) 

 

 神のカードは所有者が認められなければ扱うことができない。もし誤って使ってしまったら命さえ奪われるかもしれないほど危険だ。だから下手に手に入れられない。

 だがそれだけの力を制すれば、最強になったも同然の事だ。これさえあれば、長年の宿敵である武藤遊戯にも――そして"奴"にも勝利することができる。

 光の中に消えていった、決闘王にも勝つことができるのだ。

 

「必ず手に入れてやるぞ……三枚の、カードを」

 

 海馬はアクセルを目一杯入れて、ジェット機を加速させた。三幻魔の眠る地まで、急がなければーー。

 

「……ん?」

 

 海馬はふと脇を見る。海馬が操るジェット機の隣に、並んでいるものがあった。いたってシンプルなデザインのジェット機で、海馬のブルーアイズジェットに比べたら小物のようなものだ。

 だが、世界最速レベルのジェット機に並んで飛べるのはどういうことか。サイズは海馬のジェット機の半分くらいしかないのだが。

 海馬が顔をしかめたその時、通信用のモニターに通知が来た。海馬は応答ボタンを押す。

 

「何者だ?」

 

「…………お前は、海馬瀬人か」

 

「いかにもだ。貴様は何者だ?」

 

「すまないが、今は名乗ることはできん。だが、貴様をもっともよく知るものとだけは言っておく」

 

「俺をよく知っている奴だと? どういうことだ?」

 

 海馬は頭の中で人物を思い浮かべる。自分を知る人物といえば弟のモクバ、磯野などの海馬コーポレーションの社員、遊戯、凡骨などのデュエリストだ。しかし彼らがこんな悪ふざけをするとは思えない。

 

「俺の正体を知りたくば、デュエルしろ」

 

「…………」

 

 こいつ、何が目的だ?

 デュエルを挑むだけなら普通にデュエルしようと言えばいいだけの話だ。だが奴は正体を明かさないどころかデュエルを強要してくる。それにはきっと、何かわけがあるのだろう。

 

「いいだろう、貴様が何者かは知らんが、デュエルは受けて立つ。俺に勝負を挑んだことを、後悔させてやろう」

 

「それは楽しみだ。今の貴様に、この俺が倒せるとは思えんがな」

 

(今の貴様……? それはどういう意味だ?)

 

 引っかかる言葉が耳に入り、一瞬目を細めるが海馬は近くの離島に視線を向けて、そこに進路を変更する。

 土煙を巻き上げながら両機共に着陸する。エンジンを切ってジェット機から降りるとすでに一人の男が腕を組みながらたっていた。

 

「…………」

 

 海馬はその男を観察する。髪は茶色、顔は仮面に被われていて表情は見えない。身長は高く、黒のコートを羽織っている。コートというが実際は翼状に後ろに広がっており、風にたなびく様子もないので中に針金でも入っているのだと思う。そう、まるで自分の愛用の白いブルーアイズコートにそっくりなのだ。

 

「ではデュエルを始めるぞ。デュエルディスクを構えろ!」

 

「いいだろう……行くぞ!!」

 

 海馬と男は一斉にデュエルディスクを展開して、一斉に叫んだ。

 

「「デュエル!!!!」」

 

 海馬は早速カードデッキに手をかけて、ドローする。

 

「先攻は俺がもらう! ドロー!! 俺は《カイザー・ブラッド・ヴォルス》を特殊召喚する!!」

 

カイザー・ブラッド・ヴォルス 星5 ATK1900 獣戦士族 地属性

 

「なるほどな……確かに俺のフィールドにモンスターはないから特殊召喚はできる」

 

「ふん、知っていたか。俺はカードを伏せて、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。俺はフィールド魔法《ユニオン格納庫》を発動! 効果により《Bーバスター・ドレイク》を手札に加える! さらに俺は《Aーアサルト・コア》を召喚する!」

 

Aーアサルト・コア 星4 ATK1900 機械族 光属性

 

 草木しかない無人島が突如殺風景な工場へと変わっていくのを海馬は顔をしかめながら見た。奴が召喚したのはユニオンモンスターでこのフィールドは恐らくそれをサポートするものだ。海馬が使っていたXYZのシリーズに似ている奴だが、これも強力な合体効果を持っているのか。

 

「そしてモンスターが召喚されたことにより《ユニオン格納庫》の効果発動! デッキより新たなユニオンモンスター、《Cークラッシュ・ワイバーン》を装備カード扱いで特殊召喚する!!」

 

Aーアサルト・コア+Cークラッシュ・ワイバーン ATK1900

 

「そして魔法カード《二重召喚》を発動!! このターン俺はもう一度召喚ができる!! 俺が召喚するのは、《Bーバスター・ドレイク》だ!!」

 

Bーバスター・ドレイク 星4 ATK1500 機械族 光属性

 

(A、B、Cが揃った……ということはまさか!?)

 

「《Aーアサルト・コア》、《Bーバスター・ドレイク》、《Cークラッシュ・ワイバーン》をフィールドから除外して、合体召喚する!! 現れろ、《ABCードラゴン・バスター》!!」

 

ABCードラゴン・バスター 星8 ATK3000 機械族 光属性

 

 三体のモンスターがガチャンガチャンと合体して、新たな機械のドラゴンを誕生させた。この合体モンスターには強力な効果が秘められている。海馬は警戒を強めた。

 

「ABCードラゴン・バスターの効果を発動! 手札を一枚捨てて相手のカードを一枚除外する!! 俺が除外するのは、《カイザー・ブラッド・ヴォルス》だ!!」

 

 機械のドラゴンの顎から次元の彼方に葬るエネルギーが放たれる。もしこれで除外されてしまったらダイレクトアタックで大きなダメージを受けてしまう。

 そう計算した海馬はリバースカードをオープンした。

 

「させるか! リバースカードオープン、速攻魔法《禁じられた聖杯》! 相手モンスターの攻撃力を400アップさせ、効果を無効にする!!」

 

「凌いだか……だが戦闘で破壊するまでだ! 喰らえ、《ハイパー・ディストラクション》!!!!」

 

 機械のドラゴンがXYZと同じ必殺技でカイザー・ブラッド・ヴォルスに襲いかかる。対抗するすべなどなく、破壊されてしまう。

 

海馬LP:4000→2500

 

「くっ……だが、《カイザー・ブラッド・ヴォルス》の効果も発動させてもらう! 戦闘で破壊され墓地に送られたとき、相手モンスターの攻撃力を500ダウンさせる!!」

 

ABCードラゴン・バスター ATK3400→2900

 

「俺は一枚伏せてターンエンドだ。エンドフェイズに禁じられた聖杯の効果は切れる」

 

ABCードラゴン・バスター ATK2900→2500

 

「行くぞ、俺のターンドロー!! 俺は魔法カード《トレード・イン》を発動!! 手札から《青眼の白龍》を墓地に捨て、デッキから二枚ドローする!」

 

「青眼の白龍……!」

 

 相手はわずかに反応を見せる。海馬は笑みを浮かべながらある魔法カードをさらに発動した。

 

「そして俺は速攻魔法《銀龍の咆哮》を発動! 墓地の《青眼の白龍》を復活させる!! いでよ、我が最強にして美しい僕、《青眼の白龍》!!!!」

 

青眼の白龍 星8 ATK3000 ドラゴン族 光属性

 

 地中から輝きを放ち、咆哮をあげながら舞い上がったのは最強クラスのモンスター、青眼の白龍。海馬が酔いしれるその強さは全てを打ち砕き、勝ちを約束する。

 相手も青眼の白龍を見つめ、身構える。当然だろう、これほどのドラゴンを前にして余裕でいられるはずがないのだから。

 

「……やはり現れたか、青眼の白龍」

 

「バトルだ!! 青眼の白龍でABCードラゴン・バスターを攻撃だ!! 滅びの……バーストストリィィィィム!!!!」

 

 ブルーアイズの顎が開き、機械のドラゴンを粉砕すべく青白いエネルギーが一気に放出される。

 

「この瞬間モンスター効果発動! このモンスターを分解し、除外されている三体のユニオンモンスターを特殊召喚する!!」

 

 機械のドラゴンが分解し、ブルーアイズの攻撃を紙一重で避ける。なるほど、回避能力も持っていたのか。

 

Aーアサルト・コア DEF1200

Bーバスター・ドレイク DEF1800

Cークラッシュ・ワイバーン DEF2000

 

「躱されたか。ならばAーアサルト・コアに攻撃だ!! 滅びのバーストストリーム!!」

 

 攻撃を中断したブルーアイズが再び牙を剥け、機械のモンスターを破壊した。

 

「まだ攻撃は終わらんぞ!! 速攻魔法《竜の闘志》を発動! このターン相手フィールドに特殊召喚されたモンスターの数だけ追加攻撃できる!! 貴様が召喚したのは3体、よって俺はあと3回攻撃できる!! まずは残りの二体を破壊しろブルーアイズ!!」

 

 二連続で攻撃を放ち、フィールドの壁となっている二体のユニオンモンスターを破壊する。

 

「そして貴様にダイレクトアタックだ!! 滅びの、トリプルバーストストリーム!!!!」

 

 4回目となるブルーアイズの攻撃を食らえば大ダメージを受けてしまう。それを相手は計算し、一枚のカードを発動させた。

 

「罠カード発動、《ダメージ・ダイエット》!! このターン俺が受けるダメージを半分にする!!」

 

「だが、攻撃は喰らってもらうぞ!!」

 

「ちっ……」

 

男LP:4000→2500

 

「俺はカードを伏せてターンエンドだ。さあ、貴様のターンだ!!」

 

 互いにライフは並んだ。しかも相手の手札は僅か1枚。この状況を逆転できるカードはあまりないだろう。

 この勝負はもらった。海馬は確信に満ちた笑みを浮かべた。

 

「俺のターン、ドロー! …………」

 

 男は、自分が引いたカードを凝視し続けている。なにか、迷っているような感じだ。海馬は目を細めてじっと見つめる。

 

(一体奴は何を考えているのだ? デュエルの戦略を練っているのかもしれんが、一枚のカードだけを見続けるのは変だ。複数枚のカードを使わなければコンビネーションは組めない)

 

 手札全体に視線を配るのは自然であり、それに伴う長考は仕方ないと海馬は思っている。しかし男の場合はただ一枚のカードを見つめているだけだった。

 

「……やむを得まい。まず俺は魔法カード《強欲で貪欲な壺》を発動! デッキの上から裏側で十枚除外してデッキから二枚ドローする!!」

 

 男はようやく動き、ある魔法カードを発動した。しかし海馬は疑念を隠せなかった。

 まず海馬の知らないカードであること、そしてそのカードの性能の低さにだ。

 

(何故わざわざデッキの上から10枚を裏側で除外してまで二枚ドローをするのだ? はっきりいって強欲な壺を使った方が強いはずなのだが……)

 

 ドローカードを積むという意味でそのカードを採用しているというならわかるのだが、それならばもっと優良なカードはあるはずだ。

 

「……そして、俺は、このモンスターを召喚する!」

 

 不可解な魔法カードのあとにモンスターを召喚した。海馬は警戒を強めながらフィールドをみる。

 だがーー

 

青き眼の乙女 星1 ATK0 魔法使い族 光属性 ????

 

(何だこの表記は……?)

 

 モンスターのステータスがデュエルディスクに表示されているのだが、?マークに隠されている。?がつくことなんて今までなかった。となれば故障なのか。

 

(……いや、故障などあり得ない。現にこうして作動している以上、正常とみるべきだ。となれば、今ここに存在しているモンスターは海馬コーポレーションのデータベースに存在していない、ということか)

 

 もちろん?がつくケースはあることはある。例えば自らが製作したオリジナルカードの場合だ。しかしその場合はオリジナルと表記され、公式デュエルでは使用できなくなる。だが、そんな表記は一切ないのでこれは普通に使用できる部類だ。

 ソリッドビジョンに映し出されたモンスターをみる。女性型モンスターで名前通り青い目をしている。しかしこんなモンスター、みたことがない。

 いや、謎が色々あっても一つだけ間違いをおかしているのがわかることがある。攻撃力0のモンスターを攻撃表示で召喚していることだ。もしこれでダイレクトアタックと同じことになってしまうのでかなり危険な戦法だ。恐らく攻撃を誘っているのだろう。

 

「そして俺はこれでターンエンドだ」

 

「なっーー!?」

 

 挙げ句の果てにはなんの防御も構えないではないか。一体何が狙いなのだ?

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 カードをドローした海馬は改めてモンスターをみる。何があるというのだあのモンスターに。

 まあいい、攻撃すれば何かわかる。海馬は意を決して攻撃した。

 

「バトルだ!! ブルーアイズでそのモンスターに攻撃!! 滅びのバーストストリーム!!!!」

 

 か弱い乙女にブルーアイズの口から太い光線が放たれる。この攻撃が通れば、勝利は確定する――。

 だが、彼女に当たる直前、光線は弾けとんでしまった。

 

「な、何っ!?」

 

 海馬は狼狽する。なぜ攻撃が通らない? モンスターの特殊効果が発動したというのか。

 

「……《青き眼の乙女》が攻撃対象になったときに発動する。表示形式を変更し、手札、デッキ、墓地からーー」

 

 男は海馬のフィールドにあるブルーアイズに人差し指を向ける。

 

(青き眼……ま、まさか!?)

 

「《青眼の白龍》を一体特殊召喚する!!!!」

 

「ば、ばかな……!?」

 

 乙女の周りが光に包まれ、その横に光の柱が天から刺さる。そこから破って現れたのはーー。

 世界に所持者は海馬ただ一人とされている、最強のドラゴン、青眼の白龍だった。

 

青き眼の乙女 ATK0→DEF0

青眼の白龍 ATK3000

 

(こ、こんなことが……!?)

 

 海馬はしばらく動けなかった。自分以外に青眼の白龍を使うものがいて、且つ自分の知らないサポートカードが誕生しているとは。

 だが今はデュエル中だ。思考を切り替えてゲームを進める。

 

「くっ……バトルフェイズを終了し、カードを三枚伏せてターンエンド……!」

 

「俺のターン、ドロー。俺は、新たなフィールド魔法《光の霊堂》を発動!」

 

 殺風景な工場が一瞬にして消えていき、今度は威風堂々とした霊堂が現れる。そこには美しい竜のオブジェが何体も飾られており、青眼の白龍を連想させる。

 

(まさかこれも、俺の知らない青眼の白龍のサポートカードなのか……!?)

 

 海馬の予想は、嫌でも当たってしまう。

 

「俺は《青き眼の祭司》を召喚する! このカードが召喚に成功したとき、《青き眼の護人》を手札に加える!! さらに《光の霊堂》の効果発動!! もう一度光属性レベル1モンスターを召喚できる!! 俺は先程手札に加えた《青き眼の護人》を召喚! さらにこのカードが召喚に成功したとき、二体目の《青き眼の乙女》を特殊召喚する!!」

 

青き眼の祭司 星1 ATK1500 魔法使い族 光属性 ???

青き眼の護人 星1 DEF1300 魔法使い族 光属性 ???

青き眼の乙女 ATK0

 

「一気に三体も……!?」

 

「まだ俺のメインフェイズは終了していない! 俺は……レベル1《青き眼の乙女》にレベル8《青眼の白龍》をチューニング!!!」

 

「…………!?」

 

 チューニング? どういう意味だ?

 デュエルにおいてそんな言葉は存在しないはずーー。

 だが……二体のモンスターは突如真っ白な光に包まれた。

 

(何が……どうなっているんだ……!?)

 

 二体のモンスターが上空へと飛び上がり、やがて合わさっていく。激しい光がフィールドを包み込み、視界がホワイトアウトする。

 

「いでよ、シンクロ召喚!! レベル9《青眼の精霊龍》!!!」

 

??? 星9 ATK2500 ドラゴン族 光属性 

 

 白く染まる視界の中で、何かが誕生した。海馬は目を少しだけ開け、その姿を確認する。デュエルディスクの表示は、どうやらデータにないようで役に立たない。

 

(白銀の……龍だと?)

 

「何だその召喚方法は……!?」

 

 海馬は狼狽しながら尋ねる。フィールドのモンスターを融合なしで墓地に送って融合するなんて、聞いたことがない。

 

「これはシンクロ召喚というものだ。チューナーと呼ばれるモンスターとそれ以外のモンスターのレベルを合計した分のレベルのモンスターが融合デッキから特殊召喚されるのだ。それをシンクロモンスターという」

 

「つまりレベルの足し算をしてその結果強力モンスターが生まれる仕組みというわけか……」

 

「そういうことだ。この場合は《青き眼の乙女》チューナー、《青眼の白龍》がそれ以外でこのレベルの合計は9。よってレベル9のモンスターが特殊召喚されたのだ。因みにこのモンスターは1ターンに1度だけ墓地で発動する効果を無効にし、さらに二体以上の同時特殊召喚が封じられるのだ」

 

「……厄介な効果だな」

 

 青眼の白龍と乙女がシンクロ召喚をして、こんな姿になった。海馬の全く知らない進化だ。まさか自分以外のものがこうした召喚方法にたどり着けるとは……。

 ならこいつは一体誰なんだ? もしかしたらこいつは……遊戯すら超越するほどの決闘者かもしれない。

 

「貴様……何者なんだ……?」

 

 今の海馬に威圧できるほどの力はない。あまりに相手の力が強すぎる。青眼の白龍を自分以上にうまく使いこなすデュエルタクティクスに震えるしかない。サポートカードも海馬の知らないものばかりで青眼の白龍使いとしてのプライドがズタズタだ。

 

「……それはまだ、教えられない。貴様自身で答えを導いてほしい」

 

「何だと……!?」

 

 答えを教えてくれなかった。何故教えない? 海馬に教えない理由がどこにあるんだ?

 海馬は問い詰めようと口を開く。だが、その前に男が動いた。

 

「まだ俺のターンは終わらないぞ! 俺は《光の霊堂》のもう一つの効果を発動する! 二体目の《青き眼の乙女》を対象にとり、デッキから通常モンスターを墓地に落とし、落としたモンスターのレベル×100だけ攻撃力が上昇する。俺が落とすのは《青眼の白龍》、よって攻撃力は800ポイントアップする!!」

 

青き眼の乙女 ATK0→800

 

(何故乙女の攻撃力を上げる必要があるのだ? 青眼の白龍に使えば相討ちにならずにすむのだが……)

 

 アタッカーでもないモンスターの攻撃力をあげたところでなにもならない。それはどんなに実力のないデュエリストでもわかることだ。

 だが男の狙いは、攻撃力を上げることではなかった。

 

「ここで《青き眼の乙女》の効果発動!! このカードが効果の対象になったときに《青眼の白龍》を手札、デッキ、墓地から特殊召喚する!! 俺はデッキより3体目の青眼の白龍を特殊召喚する!!」

 

(これが狙いか……!?)

 

 海馬は下唇を噛みながらフィールドを睨む。奴の狙いは乙女の効果を着実に発動させ、二体目の青眼の白龍を呼び出すことだ……!

 乙女が呪文を唱え、再び光の柱が降り注ぐ。そして白き龍が雄々しく吼えながら現れた。

 

青眼の白龍 ATK3000

 

「ぐっ……!」

 

「さらに俺は《青き眼の祭司》にたった今召喚された《青眼の白龍》をチューニング!! シンクロ召喚だ!! 現れろ、二体目の《青眼の精霊龍》!!!!」

 

「またかっ……!!」

 

 二体目の青眼の精霊龍が現れ海馬は驚愕した。一体何体強力モンスターが立てばいいのだろうか。

 

??? 星9 ATK2500 ドラゴン族 光属性

 

 これでシンクロ召喚によって誕生したドラゴンは二体、攻撃力は2500と低めだがそれでも安心できない。何か手を打たないはずがないのだから。

 

「そして俺は魔法カード《龍の鏡》を発動する!! 墓地の《青眼の白龍》三体を除外してーー」

 

(ま、まさか……!?)

 

「現れろ、融合召喚!! 《青眼の究極竜》!!!!」

 

青眼の究極竜 星12 ATK4500 ドラゴン族 光属性

 

「やはりかっ……!!」

 

 青眼の白龍三体が融合して誕生した究極にして最強モンスターを見て海馬は冷や汗が垂れてくる。いつもは自分が使っていてこのモンスターで様々なデュエリストを粉砕してきた。だが今は敵となって現れている。

 

「そして最後に……俺は《青眼の精霊龍》の効果を発動!! このモンスターを生け贄にし、同じレベルのシンクロモンスターを守備表示で融合デッキから特殊召喚する!! 現れろ、《蒼眼の銀龍》!!」

 

??? 星9 DEF3000 ドラゴン族 光属性

 

 精霊龍が消滅し、新たな命となって生まれ変わった。青眼の白龍にそっくりの銀龍は激しい息吹を吐きながらこちらを睨み付ける。

 

「こいつが特殊召喚されたとき、フィールドのドラゴン族は効果の対象にならず、破壊されない!!」

 

「厄介な効果耐性を付与するのか……!!」

 

 海馬は悔しそうに顔を歪める。海馬の伏せカード二枚は《聖なるバリアーミラーフォース》と《収縮》で、両方とも男のドラゴンには効かない。

 

「その様子だと、ミラーフォースあたりでも伏せていたようだな。だが、ミラーフォースでは俺の攻撃は防げないぞ」

 

 おまけに罠も見破られてしまっている。これはかなり不味い状況だ。

 

「これで終わりだ! 青眼の究極竜で青眼の白龍に攻撃だ!! 滅びのアルティメットバースト!!!!」

 

 三つの首が一斉にエネルギーをチャージし、一気に青眼の白龍へと放出する。究極の次元へと高められた攻撃に青眼の白龍が叶うはずもなく、散ってしまう。

 

「ブルーアイズ……!」

 

海馬LP:2500→1000

 

「そして、青眼の精霊龍でダイレクトアタック!! 滅びのスピリットバースト!!!!」

 

 精霊の力を宿した龍が身体中に纏う光を解放し、口の中へと集中させていく。そして、全力の一撃を海馬へと向けて放った。

 だが男は歓喜に満ちた表情は、しなかった。こんなところで敗北するとは、思えなかったからだ。

 

(この男なら、ここで終わりにはならない)

 

 男の予想は、果たして裏切られなかった。

 

「この瞬間、速攻魔法《非常食》を発動する! 伏せてある《聖なるバリアーミラーフォース》、《収縮》を墓地に送り、2000ポイント回復する!!」

 

海馬LP:1000→3000

 

「魔法、罠カードを墓地に送って一枚につきライフを1000回復するカード……なるほど。看破された罠を消し去ってライフに変換したか。だが、攻撃は止まらない!! やれ、精霊龍!!」

 

 青眼の精霊龍の攻撃は止められず、そのまま攻撃は受けてしまう。

 

海馬LP:3000→500

 

「俺の攻撃を耐えきるとは大したものだ……ターンエンド」

 

 怒濤の大型モンスターの連続特殊召喚、そしてそのあとの攻撃。海馬はようやくのターンエンドに息を吐く。

 まさか自分の知らない、シンクロ召喚というものを見せられるとは思わなかった。おまけに今自分はピンチに陥っている。それも、自分しか所有者のいないはずの青眼の白龍によって。

 

「フッ……フフフフ……」

 

 海馬は思わず笑いがこぼれる。ピンチのときこそこうして笑えるのは、決闘者としての性なのだろう。

 

「全く……いま俺は驚いているぞ!! 貴様という存在に、貴様のデュエルに、そして貴様と戦っている俺の心が高ぶっているということになぁ!!!!」

 

 ワハハハハと高笑いしながら海馬は叫ぶ。男はそれをただ見つめているだけだ。

 

「この俺と同じ青眼の白龍を使うものよ……俺は負けるわけにはいかない! だから俺は勝たせてもらうぞ!! 例えどんな状況であろうとも、俺は負けんぞ!! 俺のターンーー」

 

 海馬は魂を込めてデッキに手をかける。

 

(このデュエルに勝ち、貴様の正体を暴いてやる……そして、そのシンクロ召喚を俺は、修得してみせる!!!!)

 

 海馬の野望にカードは答えてくれるのか否か。教えてくれるのは、カードだけだ。

 

「ドローッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




海馬のシンクロと遊戯のエクシーズくらいですね、いまのところ使おうと思うのは。あとは敵だけです。
城之内でレッドアイズのエクシーズがわんちゃんって感じ?まあただ城之内デッキでは難しそうですが。

この男が誰かはきっと想像がつくはず。


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