ギャグでイケるかどうかのテスト作品です。短めなんで気軽にどうぞ。
なんかいる。
それが香霖堂から帰ってきた楽園の素敵な巫女――博麗霊夢の率直な感想だった。
なんかいる、というのは微妙に事実を表していない。これでは神社に潜む何かがいるみたいに思われてしまう。
実際のところを言うならば――境内に黒い物体が鎮座していた。
「…………」
とにかく黒い。そりゃもう真っ黒である。先ほど香霖堂で頂戴した(勝手に食べたともいう)黒糖まんじゅうより遥かに黒い。墨を全身に塗りたくったってここまで黒くはならないだろう。
そしてデカイ。重力に押しつぶされてやや楕円形になっているが、人間二人ぐらいなら軽々と受け止めそうなくらい大きい。
「……なんか、紫の言ってた人をダメにするソファってのに似てるわね」
言っていることはよくわからなかったが、とにかくそれに寝そべると色々とダメになるらしい。
普段からダメな奴なのに、これ以上ダメになる部分などどこにあるのか、と霊夢は思っていたが、口には出さなかった。
閑話休題。
さてどうしたものか。まず、そんなにヤバいような気配はしない。ピクリとも動いていないことから敵意もないだろう。そもそもこれは生物なのかすら謎だ。
妖怪――宵闇を操るそれを思い出したが、彼女の操る闇は完全な球体だ。こんな自然な楕円にはならない。
大体、彼女なら自分が帰ってきた時点で何らかの行動を起こしているだろう。
「…………」
最低限の警戒だけは怠らず、霊夢はその推定物体へと近づいていく。
手を伸ばせば触れる場所まで来ても、それは微動だにしない。
本当に何なんだ一体、と思う。
また紫のイタズラであるというなら、今度こそそれなりの態度に出る必要がある。それで改めるとも思わないが、だからといって黙ってやられる筋合いはない。
そんな物騒なことを考えながら、霊夢はおもむろに球体へと手を伸ばす。
ぶに、ともぷに、とも表せる不思議な感触が手に伝わってきた。
「…………」
ぶにぶにぶに、と手を突っ込む度に霊夢の顔は警戒しているそれから、だらしなく緩んでいく。
一しきり堪能した後、霊夢は目を輝かせながらつぶやいた。
「なにこれ、気持ち良い……!!」
どうやらこの巫女、どこから来たのかもわからぬ得体の知れない物体の虜になってしまったようだ。
霊夢は夢中になってその感触を堪能する。これは人がダメになるのもわかるわ、とかつての紫に対して盛大に同意する。
一々しょうもないことで自慢してくるこのババァうぜーな、という感想は遥か彼方に消すことにした。過去は過去、今は今である。
「……はっ、これをご神体に据えてお賽銭をすれば触り放題とかにすればお賽銭ガッポガッポじゃない!?」
そしてこの巫女、どこから来たのかもわからない得体の知れない物体を商売に利用するつもりらしい。豪胆と言うべきか、ただ単に考えなしなだけか。恐らく後者だろう。
「そうと決まれば早速これを動かして……って重っ!?」
抱えて持とうとするものの、いくら力を込めてもびくともしない。その上二の腕辺りにもぶにぶにとした感触が伝わって非常に気持ち良く、良い感じに力が抜けてしまう。
中腰になって足をガニ股に広げる、およそ年頃の少女がしちゃいけない格好になって持ち上げようとしても動かない。頭に来たので能力を使って浮かせようとしても、それすら反応しない。
「な、なにこれ、本当にどうなってんの……?」
この地面に根を張っているのではないかと勘ぐってしまうほど動かない。
ぜーはーぜーはーと息を整えながら霊夢は呆然と黒い物体を眺める。
――これで休憩したらどうなるんだろうか。
ごくり、と喉が鳴る。手で触るだけで自分を虜にして、二の腕に触れるだけで力が抜けてしまうこの触感。
これを全身で感じたらどうなってしまうのか、霊夢には想像ができなかった。
「……ちょ、ちょっと疲れちゃったし、休憩! そう、これは休憩! 少し休んだら起きる休憩なんだから! 絶対こんなのに負けたりしない!」
そもそも何と戦っているのだろうか、というツッコミを入れられる人はいなかった。
故に霊夢は自分が盛大にアホなことを言っている自覚を持つことなく、いそいそと黒い物体から少しだけ距離を取る。
「せーのっ!」
両手を上げて満面の笑みで跳躍。お腹から飛び込んだらどんなに気持ちいいだろうか。そしてこの感触を堪能するには目を閉じるのが一番だ。
この後に訪れるであろう瞬間を想像するだけで霊夢の顔はニヤけてしまう。
しかし、念願の感触はいつまで経っても伝わってこない。それどころか何かに触れることすらなかった。
「……あれ?」
おかしいな、と思って閉じていた目を開く。するとそこには――
太くて黒くて大きくてぬめっているものが霊夢の身体へ幾筋も伸びていた。
簡単に言ってしまうなら触手。薄い本的に言うならSHOKUSHU。それが霊夢の腹に巻きつき、手足を拘束していたのだ。
「――ッ! きゃあああああああああ!!」
いきなり生えてきた触手の存在に思わず悲鳴が出てしまう。どうにかしようと手足を動かすも、すでに拘束されており微かに動かすことしか出来ない。
油断した、と歯噛みする。しかしさっきまで突いていた時は無反応だったくせに、今になってこんな反応を示すとは一体どういう理屈なのか。
いや、細かいことはどうでも良い。今現在ハッキリしていることは、霊夢がこの上なくピンチであることだ。主に貞操的な意味で。
そして当の霊夢は――
(こ、これってあれよね!? 紫が持ってきた薄い本みたいなあれよね!? ど、どうしようどうしよう! 私、このままあんなことやこんなことをされて汚されちゃうのね!)
妙な方向に興奮していた。
何を隠そうこの博麗霊夢という少女――お年頃だった。具体的にはスキマ妖怪が持ってきた薄い本や、香霖堂でこっそり読む薄い本で知識だけが蓄えられていた。
飾らず言ってしまえば――耳年増である。
(そ、そうだ! こういう時に言わなきゃいけないことがあったわね!!)
なんかもう色々とアレな方向にテンパった霊夢は羞恥なのか緊張なのか、よくわからない高揚で朱の差した顔で黒い球体に向かって叫ぶ。
「や、やめなさい!! 私に乱暴するつもりでしょう!! 薄い本みたいに!!
――薄い本みたいに!!」
なぜ二回言ったし、というツッコミをする存在もいなかった。
例えいたとしても言ってやったぜ……みたいな一仕事終えた感じの顔になっている霊夢を見たら何も言えなかったと思われるが。
そんな感じに触手に手足を封じられて、控えめに言って絶体絶命どころではない状況なのに全力で欲望を優先した霊夢だが、触手はそんなこと知らんとばかりに彼女の顔に触手を伸ばす。
ある意味この上なく空気を読んでいるとも言える触手が迫ってきて、霊夢はこの後自分の身体に訪れるめくるめく快楽――もとい屈辱を想像して目をつむる。
そんな彼女の顔に黒々とした触手が触れ――
『あの、薄い本ってなんです?』
そんな声が脳内に響いてきた。
(こいつ、直接脳内に……! じゃなくて!!)
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」
『いや、あの……?』
「――幻滅よ! 触手が喋ったらダメでしょう!! もっとこう……女の子に対して鬼畜じゃないと!!」
『は、はぁ……』
「さあ、ここからどうするの!? さあ、私はあなたに拘束されて逃げも隠れもできないわ! どんな感じに私の身体をめちゃくちゃに――」
『それ以上いけない』
「はうっ」
額に触れていた触手がペシンと霊夢の頭を揺らす。カクンと人形のように首が前に折れ、霊夢は実にアッサリ気絶してしまう。
静かになった境内に残されたのはうねうねと困ったように蠢く触手と、その触手に抱えられたまま気絶しているこの神社の主。
これは基本温厚な触手と、それを見て色々とあらぬ方向にテンパる幻想少女たちの物語である。
王道……王道とは一体……。
あ、でも巫女と触手は王道だと思います(真顔)
こんなテイストで東方キャラと触手の絡み(ネチョい意味ではない)を書いていければなあ(願望)と思っています。
でもプロットもへったくれもないので、本格的に書くとしたら最低限の大雑把な物語ぐらいは作ってから書きます(真顔)
とりあえず簡単なキャラ紹介をば。
博麗霊夢
我らが幻想郷の主人公。あらゆるものから解放されて空を飛ぶとか言う能力があるが、戦闘なんて書く予定のないこの世界でそれがどんな役に立つのかと言われると果てしなく微妙。
でも触手に捕まると色々とトンじゃう子。薄い本愛読者。知識ばかりが先行している耳年増。
霊夢さんではなく霊夢ちゃん←ココ重要。テストに出す。
触手
見た目は真っ黒な人を駄目にするソファ。そこから触手を何本も生やして自在に操れる。
割と温厚で争いを好まないが、それはそれとして人間の畏れは嫌いじゃないので人をからかうのも好きなタイプ。R-18にはならない配慮をしている。ある意味今作の良心。
一応正体と目的は設定していますが、日の目を見るかは別問題。
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