秘色のフレイムヘイズ (sairu)
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プロローグ


この作品は 作者の突発的な衝動で書いた作品です
タグ通り処女作で駄文なんでどうか期待せずに願います・・・
ズゴーってなるんでw

それではどうぞ~


高校一年生の四月初頭自分は入学ほやほやの普通の高校生になる・・・・予定だった

 

中学卒業後 その年齢にふさわしく新しく入学する高校への期待に胸を膨らませていた・・・

というわけではない・・・わけではない

そんな微妙な感覚の中にいた。その理由の一つはやはり元々通っていた中学からも友人がその高校に入学しているというのが大きいだろう。

そもそも中学時代から特に一生懸命やろうとしたことがあまり無い

無いとは言っても落ちこぼれるのは嫌なので勉強はそこそこにやりテスト成績中~上をキープ程度である

故に新しい環境にたいする不安こそあれ期待はあまり無い

あまり・・・といったのは思春期特有か

 

可愛い彼女ができるかも~

 

などという妄言・・いや妄想の類である 別段夢を信じてる夢見がちな少年

というわけでは無いので

その妄想が現実に起こりえないことぐらいわかりきってるのだ

その妄想の起こる可能性が0%ではないことも・・・

 

まだ入学式まで日数があるので毎日特に用事があるわけでも無いのに足を外へ運んでいる

理由は簡単、家にいるのが暇なだけである。元々あるゲームや漫画は買うのと同時にやりつくし読みつくしているし 最後の選択肢である勉強などあってないような物だ。

 

家も普通。どっかの有名な家の血を受け継いでいる伝統ある家や大企業のご子息のような豪邸でも無い ただの普通の家だ。母は専業主婦として父は単身赴任で海外へ行っているが両者共に健在。兄弟もおらず一人っ子

新しい学校から徒歩20分程度の一軒家である。

現在自分は近頃の日課?である散歩という名の暇潰しから家へ戻る途中である。

暗くなってきているせいか、人通りはまったく無かった。

 

特に派手な人生でも暗い人生でも無いまったく持って普通の人生。

だからこそ思ってしまった

なんか面白いこと起きないかな~と

そんなことを頭の中で考えているせいか今まさに自分の家を中心に自分を含めて自分の言う

『面白いこと』

が起こっていることに気がついていなかった・・・ほとんどすべての人が動くのをやめているという

『面白すぎること』に

 

 

 

・・・数分後 自分は家の前にいた・・・周りの風景は別段変わった様子を見せていない 

ただそのなかで大きく変わっている『物』があった、明るすぎる水色の髪をした『自分』である

その水色の双眸の中に冷たくしかし熱く燃えている炎を、理解できる人が見ればそこで何があったかは察するに余りある。

 

 

 

 

 

ここに自分こと坂井悠二

秘色のフレイムヘイズの誕生である。

 

 

 





※ 秘色(ひそく)は明るい灰がかった青のことを言います

 水色のフレイムヘイズだったら少々ごろが悪いんでちと難しい言葉を使ってみましたw


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夕焼けの手前

あの日・・・・
高校生になる少し前、常識に縛られていた魂の時間が動き出した

時がたつにつれ光無き世界に光が生まれ晴天として世界を青く染める
やがて摂理に従い光は高度を下げ・・

生まれ出づる灼熱の炎が如き赤・・・

両色が混在する世界


坂井悠二は、現在進行形で深刻に悩んでいた・・

 

「う~・・・・むむむ・・いや・・でも・・う~む~・・・」

一人頭を抱えて唸っている姿は傍から見れば完全に怪しい人。

 

『全く・・・いったい何をしてるんですか』

 

悠二の腕から芯の強そうな女性・・・いや声色的には少女の声が呆れた口調で呟いた。

悠二にフレイムヘイズとして力を与えている紅世(ぐせ)の王、頂の座(いただきのくら) ヘカテーである。

 

彼らが現在何処にいるかというと

レストランや居酒屋、百貨店などが立ち並ぶ繁華街の一角にある

小さめのゲーム屋さん。その中である。

このゲーム屋さんは、悠二が通っている御崎高校の生徒の間では有名で

どんな手を使っているのか、ほかのゲーム屋さんに比べて格段に安いのだ。

 

 

ここまで話せば冒頭の悠二の悩みの理由、ヘカテーの呆れの理由は簡単に想像できるだろう

 

 

 

そう・・どのゲームソフトを買うかで悩んでいるだけだ。

 

実にくだらない理由

これでは紅世の王ヘカテーが呆れてしまうのも当然と言えよう。

だが当人坂井悠二にとっては切実かつ深刻な悩みなのである。高校生になったということで

母、千草(ちぐさ)から中学の時は5000円しか貰っていなかったお小遣いが7000円にUPしたのだ

その大事な大事なお小遣いは高校生になるのと共に買い換えた長財布の中に入っている。

そもそも長財布に換えた理由は周りのみんなが持っているからという日本人特有のありきたりな理由だったりする、そこにほんの少しだけ長財布の形とそれに付属しているチェーンがかっこいいかも・・・という思いもあるのだが・・

 

そう・・ほんの少しだけ・・

 

そのチェーンはというとジャラジャラうるさいというヘカテーの批判により外されており

長財布だけが制服の後ろポケットに入っている。

心配性なのかわからないが何度も何度も財布の中身を確認しているせいで現在微妙なバランスによってかろうじてポケットに入ってる危険な状態だ。

 

今の時代ゲームはグラフィックもシステムも良くなり高校生が気軽に買える値段では無くなってしまっている。

 

故の悩み・・・

「ねぇ・・・・ヘカテー・・・」

自分では決められないと判断した悠二は、自らの魂の相棒に声をかけるが・・

『私は知りません』

帰ってくるのは感情の篭っていない冷たい返事であった。

「はぁ~・・・・」

 

現在は4月の末、新しく入学した生徒がそこそこ環境になれ、友人同士でゲーセンやら

レストランで食事など理由で繁華街に進出してはその喧騒をさらに増長させている。

そんな中幾度目か悠二の溜息は、店の店主が織り成す紫煙の空間芸術を散らせては、消していった

 

 

 

 

 

悠二が頭を抱えて悩んでいるころ・・

 

「ここらへんでいいかしら・・」

繁華街からそう遠くない位置に女性の声が響き

囲われた部分を因果関係から切り離す炎が突如周囲に展開された

 

 

 

 

 

「・・・・・っ!!」

『封絶(ふうぜつ)・・ですね ここからそう遠くありません』

今の今までどちらのゲームがいいか頭を悩ませていた悠二の思考が瞬時に切り替り

それと同時に悠二の鋭敏な感知能力が徒と違う気配を感じ取った。

「ヘカテー・・この気配は?」

今まで感じたことの無い気配に多少の警戒をしながらヘカテーに尋ねる

『同業者・・フレイムヘイズの気配です』

「へ~この気配がね・・・ってこんな呑気にしてる場合じゃ無い!」

驚愕した顔で今まで小声で話していたことも忘れて叫ぶ。

当然周囲の人はヘカテーの存在を知らないので悠二に不審な目を向けるが

そんな事を気にする余裕の無い悠二は幅の狭い自動ドアを壊さんばかりの

勢いで外に飛び出し繁華街の喧騒の中に消えていった。

 

 

そんな急な加速に、微妙なバランスをとっていた財布が耐えれるはずも無くゲーム屋の床には真新しい財布が一つぽつんと落ちていた・・

 

「ここか・・・」

『どうやらそのようだ・・・徒(ともがら)の気配はどうだ?』

何者かの声・・前者は幼さを残した女性の声

後者は何かを通して発せられたような 重く低い男の声

しかし声はするものの男の姿は無く少女がそこに居るだけであった・・

 

眼下には赤く燃え上がる炎のドーム

陽炎の歪みの中 孤立した異質世界 人 鳥 虫 微生物にいたるまで全ての生けるものが動きを止めドーム内のインテリアに成り下がる空間

その中を動くモノがいた・・・

 

「中には居ないみたい」

『ふむ・・・中に居るのは燐子(りんね)か』

再び発せられる男女の声

 

「どっちにしても 好きにはさせない」

『当然だな・・・』

現在立っている高層とは言えないにも高いマンションの屋上から

跳躍体制になりつつ少女は見えない男と会話をする。

 

「行く・・・・」

少女が飛び降りようとする瞬間

『待て! 我らの他にもいるぞ』

男の声が少女を制止させた

「誰・・・あいつ・・・」

少女の瞳の先

白きマントを纏った者が知覚不能な炎のドームに突っ込んでいくのを見た。

 

 

 

 

「気色悪い・・・」

封絶突入後第一声がそれである・・

孤立した異質世界の制約を受けず動ける者、人の形をした人で無い者フレイムヘイズ坂井悠二。

学生服は同じだがその上に白いマントのような物を纏っている。しかしその服装など目に留まらないほど大きな違いがあった。

晴天の空の如く明るすぎる水色の髪、透き通るサファイアが如き輝く瞳

どちらも日本人・・・いや人としてありえない出で立ちである。

『毎回思いますが・・・たしかに悪趣味ですね・・・』

悠二の腕・・正確には右腕につけている腕輪から、ヘカテーの同意・・・

 

実際に二人がそう思うのも仕方ない事だ

封絶内で動いている悠二以外の人外は、容姿も酷く人を逸脱していた。

一つはマヨネーズのマスコットキャラそっくりな三頭身の人形

もう一つは有髪無髪のマネキンの首を固めた玉

さらに両方、人の倍の背丈ときている。

 

どちらも元は人に近しいものだったかもしれないが、こうなっては人形と呼ぶにも

人形に失礼な代物である。

「ん~・・あんた、だれ?」

マヨネーズ人形が巨大な目で睨みながら、子供っぽい声で自分たちの喰事(しょくじ)を邪魔するように正面に立っている秘色(ひそく)に問いかけた。

知能が低いのか封絶の中に入れ動けるのは限られている、そしてその髪と瞳の色を見れば一目瞭然なのだが・・・

「フレイムへイズね・・・最近私たちの邪魔をしてくる・・・」

悠二から見て左側の首玉が、玉の中心の裂け目から女性の声を発した。どうやらそこが口らしい・・・

こちらは首から上が付いているからか、フレイムヘイズと気づけたようだ。

「はぁ~・・やっぱり燐子か・・・」

がっくりと肩を落としつつ気落ちしたように悠二が呟いた。敵が目の前にいるのにもかかわらず、なかなかの余裕っぷりである。

『燐子を倒し続けていれば、いずれは本体である徒が出てくるでしょう』

ヘカテーも別段悠二の余裕を咎める様子は無いようだ。それだけ悠二を信頼しているのか、それともヘカテーも燐子ばかりで同じ心境なのか・・・声だけでは判断の仕様が無い

『それと・・・ほかにフレイムヘイズが居るようなので私の名前は伏せて下さい』

『もっとも私を知っている者ならあまり意味ないのですが・・・』

一応の忠告・・・悠二からの返答は無かったがヘカテーはそれを肯定と受け取ったようだ。

 

一方は自分の仲間がやられる程の相手と知っているため警戒

一方は本命ではなかったという落胆

この二極の奇妙な睨み合い?はもう少し続くように思われたが・・・

その可能性は大きく裏切られる  輝く火花を散らせ降って来る赤き流星のために・・・

 

 

着弾まで後             1秒             

 

 

 

 

『悠二!!』

悠二の右腕から焦った声でヘカテーが叫んだ。

「っ!!」

悠二もヘカテーの声に反応して瞬時に跳び退く

その瞬きする間もない一瞬後

 

封絶を突き破った者が悠二の一瞬前まで居た場所に着地した。

・・・避けなければ踏みつけるつもりだったのか・・・

 

「うぁああああぁあああ! 僕の腕がああああぁぁあああ!」

鼓膜を叩く不快な悲鳴が人形から響いた。

見るとマヨネーズ(燐子)の体が左右非対称になって、左腕のあった場所からは流血のように火花が散っている。

その左腕自体は体から離れた直後火花となって散った。

 

「ッチ・・・」

『はずしたな・・』

少女の舌打ちと男の残念そうな声が前から聞こえた。どうやら一撃で仕留めたかったようだ・・

悠二は自分を踏み潰そうとした人物を多少の憤りを持って睨んだが、相手は自分に背を向けているので当然気づくはずも無い。

それ以上に悠二はその姿に驚いた。

 

(女の子・・・)

 

紅蓮の炎を彷彿させる赤い長髪、漆黒を纏ったような黒いマント、それぞれが着地の衝撃で靡(なび)き揺れていた・・・ 

だがその背中からは少女のか弱さなど感じさせぬ圧倒的な威圧感。

その威圧感に相応しく少女の右手にはかなり大きな太刀が握られている。

マヨネーズ(燐子)の腕もそれで切り落としたと見て間違いないだろう。悠二に刀を見る目は無いが素人でも十分に業物だとわかる風格を醸し出している。

初めて見る他のフレイムヘイズその灼熱の存在感に悠二は、自分の仕事など忘れたように見入った。

 

悠二が見とれている間に少女と燐子が戦闘を開始した。

 

「お前!よくも僕の腕をををおおおお!」

マヨネーズ(燐子)は残った腕でなぎ払うように巨大な拳を振るった。人外の容姿にたがわぬ力で空気を切り裂き少女に飛来する。

少女はそれを後退することで避け、拳が自分の前を通り過ぎた瞬間右手で持っていた太刀に左手を添え

一気に間合いを詰める。

跳躍・・・そして右下段に構えていた太刀を左上に切り上げ、マヨネーズ(燐子)の左右を整える。

マヨネーズ(燐子)は腕の遠心力で釣り合っていたバランスが崩れ左に傾く、少女は切り上げた腕をそのままに体を左に回転させ、後ろからマヨネーズ(燐子)の右肩から左下へ向けて切り下す。

そして着地・・

切られたマヨネーズ(燐子)は声を上げることすらできず・・轟音を立て地面に沈んだ・・切り口から最後の火花を散らせながら・・おそらく何が起きたか理解する前に散っていくだろう

この間わずか数秒・・・その無駄の無い洗練された動きが悠二に経験の差を知らしめた・・

そして忘れてはいけないのはこの炎のドーム内にいる燐子は2つだということ

 

『後ろだ・・』

「うん・・」

落ち着き払った両者の声。

 

 

首玉(燐子)はついさっきまで目の前にいた悠二のことなどすっかり忘れ、自分の仲間を瞬殺した赤き化け物の一瞬の隙 自分に背を向けて着地した瞬間を狙って口を広げながら飛び掛った。気配を読まれてることも知らずに

 

少女は着地した時前に出していた右足を左足を軸にして半円を描くように滑らせ、

後ろを振り向きカウンターの要領で、襲ってくる首玉(燐子)を迎え撃とうとする。

 

両者がぶつかる三瞬程前、

 

 

「炎弾(フラムスパラート)」

右手を首玉(燐子)に向け、今まで忘れられていた男の呟くような声。

 

 

「うぐぁあああああああ」

首玉(燐子)は真横から明るすぎる水色の炎の直撃を受け、大きい口もその他の小さい口からも苦悶の声を上げ、その直線上にある今日は休みらしいレストランへ壁を破壊しながら入店して行った・・

 

「・・・やっぱり同業者か・・」

少女が今までの構えをとき、しかし警戒しながらこちらを向き言い放った。その瞳は髪と同じ

灼熱の色に染まっている。

(やっぱり)が付くのは確信はできないが、そうだろうと思っていたからだろうか

まぁ猛進して封絶の中に入っておきながら、敵を前に肩を落とすだけで何もしていなければ確信できないのは当然だろう。

 

『ふむ・・・たしかにフレイムヘイズだが気配が異質だな・・・それに先程の炎の色は・・』

少女の首から提げているペンダントから男の声が響いた。

姿の見えない男の正体である

 

『気を許すな・・・』

ペンダントから少女への警戒を促す言葉

「・・・・・」

少女は多少の疑問はあるが無言で悠二に構えなおした。

目の前にいる学生の証である黒い制服を着て、白いマントのような物を纏っている

青き少年に・・

 

 

「・・・助太刀は・・・要らなかったかな・・・・?」

悠二は頬を掻きながら戸惑ったように言った。

完全に自分が先に燐子と対峙していた過去など忘れきった発言。

『そうですね・・・気づいてるようでしたし』

ヘカテーからの同意・・・

『悠二がさっさと仕掛けていればこんなことにならなかったでしょう』

ヘカテーからの非難・・・

『それに・・・今の今まで悠二が見とれていたせいですよね・・・』

ヘカテーからの殺意・・・

 

「え?・・・・え~と・・・・」

悠二はどれも事実なので反論できない、手首から無情な殺気が悠二を侵食する・・

冷や汗が頬をつたう・・

 

レストランから突如轟音

 

どうやら会計をすませてきたらしい

少女も悠二もそちらへ警戒する

(ふぅ・・・・助かった~・・ありがとう燐子・・・)

警戒しながら馬鹿なことを考えている奴もいるが・・・

それがちょっとした隙になったのか悠二の後ろから、美しい・・しかしどこか無機質な雰囲気を纏う女性が、その背中に手を伸ばして来ているのに気が付けなかった。

 

『悠二!後ろ!』

ヘカテーの焦ったような叫び

「っく!・・」

振り返りざま白いマントからどう考えても収まりきらない大錫杖を反射的に取り出し防ぐ。

その錫杖は三角形の錫杖頭に三角形の遊環を持つ戦闘用というよりは祭事に使われそうな物。

『っ・・・・・』

錫杖取り出した瞬間ヘカテーが何か言おうとしていたが・・・結局言わなかった。さほど重要なことではないからか

 

完全に油断していたせいで体勢が悪い・・・いくら女性とはいえ徒が作り出した存在、その力は普通の人間をはるかに上回る。上から覆いかぶさるように力を加えてくる美女に対し、いくらフレイムヘイズとはいえ下から押し返す悠二はいささか部が悪い。そしてその両者の力を受けてビクともしていない錫杖はやはり戦闘用なのだろう

さらに悪いことは続く

『悠二、首玉がこっちに来ます』

なぜか冷静にヘカテーが言った。

レストランに吹き飛ばした首玉(燐子)が火花を纏い、かなりの速度で悠二との距離を詰めてくる

火花の出てる量から見てかなりダメージを与えていることはわかるが、悠二にぶつかる前に飛散する可能性は低い。

このとき悠二が一人であったなら、燐子は悠二にかなりのダメージを与えることができただろうが

このときはもう一人、しかも徒(燐子)にとって最悪なフレイムヘイズがいた。

 

もう一人のフレイムヘイズの少女は首玉(燐子)とは比べ物にならない速さで接近、横なぎに両断。

上下の半球になってしまった玉首(残骸)は地面に接触する前に火花となり飛散した。

 

「く・・あ・・ありがとう・・」

美女の圧力を耐えている悠二は苦しみながらも助けてもらった少女に礼を述べた。

 

「元は私の獲物・・」

姿は見えないがぶっきらぼうな返事が耳に届く

 

挟み撃ちを免れたことで多少余裕ができた悠二が美女に反撃した。

悠二がわざと力を抜き、また籠める。一見無駄、そして不利な動作に見えるがそれにより錫杖が振動し、

遊環が鳴る・・・

 

 

「星(アステル)よ!」

今日はじめてのいい声?で叫ぶ

 

それと同時に錫杖頭から“明るすぎる水色”の光弾が無数に美女に迸り炸裂。

 

「ぎゃああああ!」

美女に似つかわしくない悲鳴を上げ下半身が爆ぜる。

 

同時に

「ごが・・・・」

いい声?をあげた男が、間の抜けた声をあげる・・・

至近距離で美女(燐子)を攻撃したため、爆発の衝撃で彼女の履いていたヒールが吹き飛び見事に

錫杖を持っている腕の間をすり抜け悠二の顎にアッパーを決めたのだ。

自分の放った攻撃なので炎によるダメージはないが、爆風により吹き飛ばされた“物”は別である。

 

 

 

不運・・・・

 

 

 

『至近距離で放つからです・・』

左手で顎を押さえ薄っすら涙ぐんでいる悠二にヘカテーは呆れながら言う

「・・・・・・うう」

しかし、人間よりはるかに丈夫なフレイムヘイズを涙ぐませるとは・・・

自業自得とは言え、かなりの武器(ヒール)である。

満員電車での対痴漢撃退用具及び無差別足背圧殺器具の名は伊達では無いようだ・・

 

「フレイムヘイズ・・・討滅の道具め・・・」

下半身の爆発により今まで悠二を観察していた赤髪の少女の近くに墜落。

そして顔を憎悪で歪ませ悠二達に言い放った。

 

『そうですか』

いまだに復帰しない悠二に代わりヘカテーが興味なさそうに返す。

「ふふふ・・・私のご主人様が黙ってはいないわよ・・」

「いい加減・・出てきてほしいよ・・」

下手な脅し文句にやっと復活した悠二が顎を押さえながら溜息混じりに答えた

 

『もう・・・いいだろう』

確かめることは確かめたと言いたそうな低い男性の声が

美女(燐子)を見下ろしていた少女に告げる。

初めて会ったとは言え同じフレイムヘイズ、悠二がなぜ下半身のみを攻撃したのかを明敏に察していた。

徒本人の情報収集、そしてこれ以上は何もでないだろうと判断した上での言葉。

少女は躊躇無く太刀を振り上げ・・・振り下ろす。

普通なら聞こえてくる絶叫が聞こえてこず、代わりに金属同士がぶつかる高い音が響く。

 

悠二が少女の太刀を美女をかばうように錫杖で受けていた。

いい加減燐子狩りに飽きている悠二としては、なんとしても本体の場所を聞き出したかった。

故の行動。

だがその行動が裏目に出る。少女の攻撃を悠二が受け止めた瞬間、上半身だけの美女の中から

“何か”が飛び出し封絶の外に逃げ去ってしまった・・

 

少女も悠二も気づいたが、

少女は悠二が前にいるため

悠二は後ろを向いているため

どちらも反応が遅れ、逃がす結果へと繋がった。

 

「あれが本体だったの?」

『そうです』

悠二は本体が逃げた方を見つめながら腕輪に聞くとそれにヘカテーは短く答えた。

 

「はぁ~・・・せっかく追い詰めたのに逃がしちゃった・・・」

『いまさら言ってもしかたありません・・あの燐子は今まで戦ってきたものと少々異なっていました。』

「敵もようやく切り札を出してきたってことかな?」

『そう思っていいと思います』

「ずいぶん間抜けなフレイムヘイズね」

落ち込む悠二をヘカテーがフォローしていると、後ろにいる少女が馬鹿にした声をかけてきた。

振り返ると少女がこちらを憎憎しげに睨んでいた。

「あの燐子の口ぶりから久々に“王”を討滅できるかと思ったのに・・それをみすみすにがすなんて・・」

少女は忌々しそうに言う

「ごめん・・・いつもの燐子と少し違って油断してた・・それちちょっとイレギュラーもあったし・・・」

悠二は前半は多少申し訳なさそうに後半は少し責めるように言う。

ちなみにジト目で

 

『逃がしてしまった物は仕方がありません。町の人が喰われなかっただけでも良しとしましょう。』

ヘカテーが険悪なムードを打開しようと仲裁を入れた。

 

「ふんっ・・・・」

そう言って少女は封絶から出ようと一歩踏み出したとき

『待て・・・確認したいことがある』

ペンダントが少女を止めた

「「・・・・?」」

少女も悠二も意図がわからず首を捻る

 

『質問に答えてもらうぞ・・・“頂の座”』

『やはり気づいていましたか・・・“天壌の劫火”』

有無を言わさぬ男の口調に対しヘカテーは落胆気味に答えた。

『その前に・・・悠二そろそろ封絶が解けます』

「え?・・・ああそうだね」

聞きなれぬ言葉について考えていた悠二がヘカテーの声に、はっと我に返った。

「このままだと店の人がかわいそうだしね」

そういいながら右手で持っている錫杖を振るう。すると燐子に破壊されたレストランや戦闘に巻き込まれ砕けた人も時間を巻き戻すように修復された。

「ふぅ・・・これでいいかな」

そう言い錫杖をマントの中に戻しマントごと消す。それと同時に人間離れした明るすぎる水色をした瞳と髪が元の黒髪に戻る。

同様に少女も大太刀を黒いマントに入れ、灼熱の如き赤が艶やかな黒色に変化する。

 

直後周りを覆っていた炎のドームが散り、孤立した世界が元の世界と繋がった。繁華街ほどではない喧騒が耳を煩わせる。

 

『さて、し「お前、どうやって町を修復した」・・・・』

男の声に被せる様に少女が質問。ただし悠二に向かって

 

「え、どうやってって普通に?」

「そんなことは聞いてない!どこからその力を持ってきたかを聞いてるの!」

困惑したような返答に少女は強く聞き返した。

 

「自分の存在の力をつかった」

悠二は少女に当然のように答える

 

「なっ・・・」

『己の存在の力を・・だと』

驚愕する両者。それも当然、自分の存在の力を使うのは身を削る行為に等しい。フレイムヘイズとて戦闘以外に存在の力は使用しない。自らを傷つけるなど特別な趣向の持ち主以外は誰も好みはしないだろう。

 

『それも含めて、話してもらうぞ・・』

ペンダントがヘカテーに尋ねる。

『説明で「その前にさ・・・二人って知り合い?」・・・・』

今度は悠二がヘカテーを遮り質問した。

 

『知り合いと言うより知っていると言ったほうが正しいですね。“天壌の劫火”通称アラストール・・紅世の徒の間では有名な名です。同胞殺しとして・・』

悠二に会話を邪魔され不機嫌そうにしかし律儀に答えた

『同胞殺し・・か間違ってはいないが貴様も今は同じだろう』

こちらも理由は違うが不機嫌そうに返す。

『それとも何か企んでいるのか?仮装舞踏会(バル・マスケ)が三臣柱(トリニティ)“頂の座”ヘカテー』

『信じる信じないは別にして私はもう仮装舞踏会(バル・マスケ)の一員ではありません。』

『一員ではない・・仮装舞踏会(バル・マスケ)を裏切ったのか?ヘカテー』

『客観的に見ればそういうことになるでしょう。』

『信じられんな』

『さきほども言ったように貴方に信じてもらう必要はありません、アラストール』

ペンダントと腕輪の言葉の応酬、道行く人はこの状況を見て何を思うだろうか、少女と少年が向かい合ったまま一言も喋らずに見つめあう。しかしそこに恋愛のような雰囲気は無くギスギスした雰囲気が場を占めている。

『それに私が抜けたのは仮装舞踏会(バル・マスケ)と言う名の組織です。』

『つまり祭礼の蛇(創造神)を裏切ったわけでは無いということか・・だがそもそも仮装舞踏会(バル・マスケ)は祭礼の蛇(創造神)が作った組織ではないのか?』

『今は話せません。しかし私は今や貴方と同じ同胞殺し、人を喰う徒は私の敵です。例えその対象が仮装舞踏会(バル・マスケ)の一員であろうと例外ではありません』

『・・・むぅ。。』

アラストールに向けて放った(同胞殺し)を逆に自分に使うことで意表をつきさらに仮装舞踏会(バル・マスケ)に対する覚悟を突きつけることによって反論を抑える。

その結果アラストールは言葉をつなげれず呻く・・・

 

『では先程の、町の修復になぜ自分の存在の力を使う?フレイムヘイズにとって己の存在の力はそのまま戦力になる。この町には王レベルの徒がいて、もし襲ってきたときに存在の力が十分に溜まっていなければ死ぬことになる。そんな危険を冒してまで自分の力を使う意味はあるのか?』

アラストールは追求ではなく単なる疑問として聞いた。

『それは・・悠二の意地・・いやエゴですね。今回は貴方がたが居たので少し狂いましたが、本来の悠二の戦闘では極力周りへの被害は避けています。これは目立たないためでもあるのですが、それに他のフレイムヘイズと違って悠二はどんなに存在の力を消費しても使い切らない限り一日で回復します。』

悠二が最初の台詞で苦笑していたがヘカテーはきっぱりと言い切った。

『そんな都合のいいことができる訳・・・いや・・一日・・・・まさか』

アラストールが反論しようとしたところで気づいた

「どうかした?アラストール」

ヘカテーの言うことに驚いていた少女が何かに気づいたらしいアラストールに問いかける

『フレイムヘイズ自体が“ 零時迷子”を内包してる・・だと?』

『確かにそれならそのような事が可能だ・・』

少女に答える口調ではなく独り言を呟くように語った

それを聞いた少女は目を丸くして悠二を見た、正確には悠二の中にあるものを

その視線に対し悠二は照れ笑い+苦笑という奇妙な顔で受けた

 

「そんなことが・・できるの?アラストール」

 

『できないことは無い・・・ただ我もフレイムヘイズに内包している物を見たのは初めてだ・・そもそも“零時迷子”いや、それに限らず宝具は人間と“紅世の徒”が共に望む時に生まれる物、故にそのどちらにも有益でこそ害はない。気配が少々異質なのはそのせいか・・・』

少女の問いにアラストールが少々自信なさげに答えた。

 

『私と会った時すでに悠二は“零時迷子”を内包していました。それにより悠二は外部から存在の力を取り入れることも時間をかけて取り戻す必要もありません。故にフレイムヘイズの思想である“100の内99を生かす為に1を殺す”悠二はその負の部分をする必要がありません』

 

『・・・・・・・・!!』

ヘカテーの言葉にアラストールは声を失う

 

「フレイムヘイズの思想、理念は理解してる。でも僕にはその悪いところをする必要がない。だったら全ては無理だとしても、手の届く範囲の人ぐらいは救いたい、例えそれがトーチだといしても・・」

 

「それが僕のフレイムヘイズたる覚悟」

 

「っく・・・・」

まだフレイムヘイズになって間もない半人前が一丁前にフレイムヘイズの覚悟などほざいて少女はイラつく、そして殺気の篭った目で悠二を睨む、

 

『やめておけ・・・世の中には色々なフレイムヘイズがいてそれぞれが、それぞれの覚悟の元戦っている

それに対して他人がどうこう言うことはない。今こちらからけしかけて同業者に追われたくはないだろう?』

アラストールが少女を諌めた

 

「でもアラストール!こいつ・・・偉そうなこと言いながらこの町はトーチだらけじゃない、何が“人々を救う”?救えてないからトーチになってるじゃない!」

アラストールに言いながら悠二にも言う

 

「この町にいる徒は僕がフレイムヘイズになる前から居たらしくて・・・・そして僕も半人前だから要領が悪くてね・・・」

苦笑しながら少女に言いつつも自分にも言う

 

『確かに半人前で要領も悪いですが先程の戦闘で誰も喰わせていないというのはかなりいい事だと思います。』

ヘカテーの思わぬ賛辞に悠二は少し頬を赤らめ照れる

「ふんっ・・今回は私が居たからじゃないの?」

少女からの安い挑発

「僕でもあれぐらいは余裕だよ」

ヘカテーの褒め言葉に調子を良くしたのかその挑発に乗る

「どうだか・・・」

「なんだと・・・」

 

 

『悠二』

『そのへんにしておけ』

お互いの契約者が少女と悠二を呆れながら止めた

このまま放置しておくと喧嘩になりかねなかったため

さすがにフレイムヘイズ同士の喧嘩は避けたい。

 

『しかし先程の燐子は今まで狩って来た燐子と違いました。そろそろ本命が出てくるかもしれないですね』

ヘカテーの自信に満ちた言葉

「・・・・・・」

それに対して少女が何か言いたげだったが、アラストールにとめられたことを思い出し、思いとどまった

 

『そうだな・・・。だがやはり何か企みがあるかもしれん、しばらくの間監視させてもらうぞ』

『ええ、邪魔さえしなければお好きにどうぞ』

アラストールの提案にヘカテーは冷静に答えた。

 

「う~んもうすこしおしとやかだったら可愛いんだけどな・・」

ヘカテーとアラストールが話をしている間に何を考えているのか、悠二は突然少女に言い放つ。

「は?・・・・」

『ばか・・・か?』

少女は突然の事に頭がついていけず、困惑した声をあげる。

さすがにアラストールは悠二の『言葉』の意味は理解していた。

そんなことなど気にせずに悠二は顎に手を当て小声でつづける

「いや・・・逆にそのギャップがいいのかも・・・・でもな・・いや・・」

どうやら声が外に漏れているのに気が付いていないらしい。

 

『悠二・・・・家に着いたら話があります』

ヘカテーから絶対零度の声が響いた。アラストールでさえ萎縮するであろう殺気があたりに充満する。

「え・・・・何?え?どうして怒ってらっしゃるんでございますか?」

もはや敬語なのかどうかも窺わしい日本語で悠二がヘカテーに問う。

『わからない・・それ自体が罪です!』

帰ってくるのは冷たい返事のみ・・・

『さて早く帰りましょう、千草が待っています』

「は・・はははは」

悠二から出てくるのは乾いた笑いのみ・・・その意味は押して知るべし・・

「じゃ・・じゃあ色々あるから帰るね・・ヘカテーの機嫌も悪いし・・・」

少女とアラストールに悠二が言う。

『決して悪くありません!』

ヘカテーからのムキになった返事

『これだけは警告しておくヘカテーには気をつけろ』

アラストールからの忠告それに悠二は答える

「ふふふ・・僕はヘカテーを信じてるさ」

『・・・・そうか』

 

「じゃあよろしく・・」

これから監視のためそばに居ることになる、そのために挨拶をと思い

手を伸ばした

「私は貴方を監視するだけ、馴れ合う真似はしないわ」

少女は手を出さなかった。かわりに出てくるのは挑発文句

悠二は未練なく手を元の位置に戻した。もう挑発には乗らないようだ。

『悠二!さっさと帰りましょう!』

「わ・・わかってるって」

 

「じゃあ・・・いや・・・またね」

言いかけて言い直した

「ふんっ」

帰ってくるのは無愛想な返事のみ、それに対し別に何も思わなかった悠二はその場を去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あやつ・・・確信犯だな』

「え?・・どういう意味?」

『はぁ~・・・』

 

ヘカテーのことを聞いたときあいつは笑顔で答えた・・まったく疑うことをしない屈託のない笑顔で

言い切った。

 

そして自分の言葉を理解できない少女に対し、父親としてか兄としてか溜息つきたくなるのは仕方ないことだった。

 

 

 




前書きのことは華麗にスルーしてください><
いや~やってみたかっただけなんですよ・・・ね・・・
大して深い意味はありませんのでwただ自分の厨ニ病の顕現ですw

本来は悠二君のゲームの話はもっとありました、ゲームの名前やどちらを買うことによって起こる周囲の事情など
でもぶっちゃけどうでもいい話なんで結局省きました。
それにしても7000円とか・・・いいですよね~w自分もそれぐらいもらいたい・・・

長財布の話・・これは完成する直前に思いついたもので完全に蛇足ですw
この蛇足は次話に続きます。

自分の妄想を文にするのがここまで難しいものだと悟りました・・・
ノートPCで打ち込んでいる最中・・・カーソルが何故か×の上に
そして手のひらが打ち込んでいる間にマウスポインティングディバイスを叩いてしまい・・・
いままで苦心して考えた文がおじゃん・・・泣けましたね・・ということで気長にだらだらやって生きたいと思います


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山の天気と女の転機

今回は厨ニチックな詩はかきません。理由は思いつかなかったから・・・w
さてと注意ですタグにも書きましたが性格改変ですので今回から悠二君とヘカテーの性格が少し?結構?とりあえず変わります。原作の悠二とヘカテーが好きな人はあまりお勧めしません。
それでも大丈夫な人はどうぞ~^



 

「ねぇヘカテー」

『なんでしょう、悠二』

しばらく無言で帰路についていた悠二が家の前でヘカテーに問う。

「ヘカテーが他のフレイムヘイズに名前を伏せてって言ったのは、こういう事だったんだね。」

『・・・・ええ、そうです。今回は話のわかる“天壌の劫火”のおかげで、監視だけですみましたが中には私の名前を聞いただけで襲ってくる奴も居ると思います。』

悠二の問いにヘカテーは若干言いにくそうに答えた。

「ふふ・・ヘカテーは有名なんだね・・」

悠二はそう言い自分の家のノブを回した。

 

「ただいま~」

「あら・・悠ちゃんお帰りなさい、ずいぶん遅かったわね」

家に入ると悠二の母親、千草がわざわざキッチンから出てきて声をかけた。

「うん、ちょっとお店に用事があってね」

悠二はさも当然のように答えた。一応嘘ではない。

「そう、じゃあもうすぐご飯できるから着替えてらっしゃい」

「うん・・わかった」

そう言い

悠二は二階の自室へ千草はキッチンへ戻っていった

 

『悠二・・・なぜ聞かないのですか?』

自室にはいるとヘカテーがそう聞いてきた。

「うん?何のこと?」

悠二は上着を脱ぎながらそう答える。

『とぼけないでください!・・私の事についてです。』

ヘカテーは、はぐらかそうとしている悠二に怒鳴る。いつも冷静なヘカテーにしては珍しいことだ。

『今回、悠二は私のせいで監視されることになったんですよ? 』

「うん・・・そうだね、でもこっちが変なことしなかったら何もしてこないでしょ。」

自分を責めるヘカテーの問いに悠二はズボンを脱ぎながら答える。

「それとも、ヘカテーはアラストールが言うように何か企んでるのかい?」

『い・・・いえ、そういうことは何も・・』

にやけながら言った悠二の言葉にヘカテーは反論できない。だが納得もできない。

もっとも、ヘカテーが動揺したのは別の理由かもしれないが・・・

 

悠二は私服に着替え、制服を壁にかけようとするところで止まった。

「なっ・・・・・・」

『どうしました?悠二』

悠二の驚愕した声に何事かと問う

「さ・・・財布が・・・無い・・」

まるでこの世の終わりかと言うような声を絞り出す悠二。

それも当然か、新しく買った財布にはお金のほかにスタンプカードやポイントカードまで入っている。

加えて財布のお値段は約3000円・・・計一万円以上の損失である。

悠二はあきらめず上着の内ポケットや意味もなく部屋の床を探し回る。

だがあるわけもなく最終的に床に伏した。orz←これ状態・・・

 

『そういえば、ゲーム屋の床に落としてましたよ。』

さも今思い出したようなヘカテーの一言。それに対し悠二は伏したまま、声が1オクターブ下がる

「ヘカテー・・・」

『なんでしょう?』

「なんでそのとき言ってくれなかったの?」

『そのときは徒が最優先かと』

責める悠二に淡々と答えるヘカテー。

「じゃああいつと別れた後とかさぁ・・・」

『忘れてました。』

ヘカテーの非情な一言に悠二はついに暴発して腕を床に叩きつけながら叫んだ。

「何でだああああああああああああああああああ」

 

 

「悠ちゃんなに騒いでるの?ご飯できたわよ~」

扉の向こうからは穏やかな千草の声が聞こえてきた。

 

 

 

 

「ああ・・・・」

夕食と入浴を終え悠二が濡れた髪をタオルで拭きながら部屋に戻ってくる。

電気をつけ、ベットにダイブする。枕元においてある時計を見ると、もう20時を半分過ぎていた。

「ねぇヘカテー」

悠二が右腕につけている腕輪“エリーニョス”に話しかける。まだ吹っ切れていないようだが大分諦め気味だ。ちなみに腕輪にした理由は一番邪魔にならないと言う理由から、全体的に銀色で切れ目が無く流線型の模様が掘り込まれている。腕とほぼ同一化しているので外す時は自分の意思で炎にして転移させるしかない。

『なんでしょう?』

ヘカテーが普段と変らない声で返す。

「あの時聞きそびれたんだけど・・・“天壌の劫火”とか“頂の座”ってどういう意味?紅世での役職か何か?」

ベットに寝転がりながらヘカテーに尋ねる。

『私たちの紅世での本当の名前ですね。ちなみに“天壌の劫火”アラストールがフレイムヘイズとなった場合その者の外見を重視して“炎髪灼眼の討ち手”と呼びます。』

「へ~。じゃあヘカテーのフレイムヘイズたる僕はどう呼ばれるの?」

ヘカテーの説明に頷きつつさらに聞き返した

『それは・・・』

悠二の質問にヘカテーは詰まる

『わかりません。』

「へ?」

ヘカテーの率直な回答に悠二はおもわず声を上げる。

『そもそもこの呼び名は長年フレイムヘイズをやっていて、他の人がつける呼び名なので先代がいたならまだしも成りたての悠二にはまだ・・』

ヘカテーは若干言いにくそうに言った。

「ふ~ん・・・先代か・・フレイムヘイズって何回もなれるの?」

『なれる・・・という言い方はおかしいですが、私が生きている限り私のフレイムヘイズになる事は可能です。しかし人間の場合一人で何回もというのは無理ですね。悠二は“零時迷子”を内包しているのでわかりませんが、普通は契約主の王が抜けた時点でその力の媒介になっていた人間は死にます。』

「そっか・・・まぁこれだけの力だしそれぐらいの代償は必要か・・」

悠二は仰向けになり、左腕を上にのばし手のひらを開け閉めしながらヘカテーの説明に答えた。

「それにしても・・・やっぱりいい気はしないね。」

悠二は天井、その先の屋根にいる少女を見てつぶやいた。

 

そのころ屋根の上では、あの子もとい“炎髪灼眼の討ち手”が契約主であるアラストールに愚痴を零していた。

「あ~~~~~もう!むかつくむかつく~なんなのよ“あいつ”は~~!自分の存在の力を犠牲にして町を直す?それに喧嘩売って来たと思ったら急に笑顔になって握手をもとめるとか・・・もう!わけわからない!・・」

少女は愚痴というより混乱しながら首に下げているペンダント“コキュートス”に向かって吼える。

『あやつは“零時迷子”を内包してる故にそのようなことが可能なのだろう。それにお前が混乱するのは久しぶりに人間と会話したからだな。まぁ今までフレイムヘイズとしてだけでここまで来たのだから、少しぐらい人間らしく接触するのもいい事ではないか?』

その“コキュートス”からアラストールが少女を落ち着かせようとしていた。

「ずいぶんあの悠二とか言う奴に寛容ね・・」

少女が声を落としながら返答する。どうやら落ち着かせるために言った言葉が癪に障ったらしい

『む?・・・そう聞こえたか?まぁ我々が監視するのは“頂の座”の方であってあの男ではないからな』

「でも・・・フレイムヘイズとして行動しているんだったら・・・監視すべきは“アイツ”でしょ?」

『ま・・・まぁそうなのだが・・』

普段の彼女らしからぬ言動に押され気味のアラストール。

そのとき屋根の下で窓が開きそこから開けた窓を踏み台にして悠二が屋根の上に上がってくる。その手には二つのカップが握られている

「一つ訂正だよ。喧嘩を売ったのは僕じゃなくて“君”でしょ?」

悠二が“君”を強調しつつカップを少女に差し出す。カップからは仄かに湯気が出ていて。その暖かさを教えてくれる

「盗み聞きしてたの?」

少女がカップを両手で受け取りつつ怪訝そうな顔で言う。

「いや・・・あれだけ大声だせば聞きたくなくても聞こえてくるし・・」

悠二が苦笑しながら答え、自分のカップに口をつける。

悠二が飲んだことを横目で確認しつつ少女もカップから飲む。

「げほっごほっ・・・うぇ・・・苦い・・」

少女は涙目になりながら口に含んだ黒い液体を吐き出す。

「あれ?もしかしてコーヒー飲んだこと無かった?一応ミルクも砂糖も入れたつもりなんだけど・・・“やっぱり”、“見た目通り”苦い物は苦手みたいだね」

悠二が一部の語を強調しながら口元を上げて言う。それに対し少女は悠二を睨み徒を倒すときに見せた神速で悠二の顔めがけてカップを投げつける。

悠二もそれをわかっていたのか、フレイムヘイズの肉体を駆使して簡単に横にずれてかわす。

「ふふふ、ひどいな・・人の好意を無駄にするなんて・・」

悠二は悪びれも無くそういってのけた。

「殺す・・・」

少女は元々狭い堪忍袋が破裂し、睨みながら少女とは思えない大地を震わすような低い声で言う。

「ふふ、ごめんごめん次はココアをもってくるからさ・・それじゃあヘカテー後よろしく☆」

『え?ちょ、ちょっと悠二、待ってください。☆?え?何ですか☆って??』

悠二は少女の睨みに笑顔で答え、手首から腕輪を外し屋根におき、窓から部屋に入っていった。

取り残されたヘカテーは完全に混乱してしまい。普段なら考えられないほど取り乱した。

 

『・・・・・・・・』

『・・・・・・・・』

『“頂の座”・・・』

『・・・・なんでしょう“天壌の劫火”』

『同情しよう・・・』

『・・・・今は素直に受け取っておきます・・・』

未だに悠二の消えた場所を睨んでいる少女のそばでペンダントが姿があるなら憐憫の目で腕輪を見つめ、言った。

 

『ちなみに“頂の座”、☆というのは絵文字で楽しい時などに使う飾り文字だ。』

『なっ・・そっそんなこといちいち言われなくても知ってます!!』

『・・・ふふ』

『・・・くぅ・・・』

アラストールにからかわれて呻くヘカテー・・・アラストール意外に楽しんでいるらしい

そこにこの騒動の元凶が帰ってきた。

 

「よっと・・・はい今度はちゃんとココアだよ」

そう言って再び少女に暖かいカップを渡す。

「・・・・・・・・」

少女は悠二を睨みながらカップを受け取り警戒しながら飲む。

「・・・・・・おいしい・・」

ココアを飲んだことが無かったのか先程の怒りを何処かへ追いやり、目を丸くして感想を言う

「ふふ・・それはよかった」

対する悠二はそういい元々自分が入れてきた若干冷めたコーヒーを飲む。

 

『悠二・・・・』

「ん?どうしたのヘカテー?」

『後で話があります・・・』

ヘカテーの声はあの時よりも殺気をはらんでいる。アラストールにからかわれたのがよっぽど悔しかったらしい

「・・・・・わかった・・・」

悠二は下手に抗わないで頷いた。若干頬がひくついているが

 

「何のよう?」

今までおいしそうにココアを飲んでいた少女が突然声を発した

「監視のところにわざわざ来るなんて・・・何か企んでるの?」

「何も企んではいないよ。ただ上に女の子がいると思ったら落ち着かなくてね・・」

「なっ・・・」

『うむう・・・』

悠二の狙っているのか天然なのかよくわからない発言に少女もアラストールも若干引く。

『悠二・・・言い方が少しおかしいです』

「え?」

ヘカテーの呆れながらの言葉にようやく悠二は気づく

「あっ・・・いや変な意味じゃなくて、そのただ上に誰かいるのは落ち着かないな~ってうんそう思って・・」

「じゃあどうすれば?嫌がっても監視は続けるわよ?」

「僕の部屋使っていいよ。外はフレイムヘイズだとしても今の季節少し寒いでしょ?僕は下のソファで寝るからさ」

悠二は笑いながら少女に言う。少女はその笑顔に悪意が無いことを確かめ言う

「変なことしたらぶっ殺すわよ」

『大丈夫です。悠二にそんな甲斐性ありませんから』

さっきの仕返しとばかりにヘカテーが即答した。

「なっ・・・・」

ヘカテーに甲斐性なしといわれ落ち込む悠二。

その間に少女は開いている窓から靴を手に持ち部屋の中へ入った。

その後ろに悠二が付いていく。

 

「座っていいよ。」

そういい悠二はベットを指差し自分はその正面に腰掛ける。

「さて自己紹介からはじめようか。僕は坂井悠二。君の名前は?」

「・・・無い」

「え?」

悠二は定番である誰でも答えられる自己紹介から躓くと思わず、声を上げて驚く。

「自分の本当の名前は知らない。呼ばれるときは“炎髪灼眼の討ち手”か“贄殿遮那”(にえとののしゃな)のフレイムヘイズって呼ばれてた。」

少女は悠二から目をそらすように下を向きながら答えた。

「ふ~ん・・・そういう人も居るんだね・・でもその呼び方だったら名前って感じがしないし・・う~んよしじゃあ“贄殿遮那”(にえとののしゃな)からシャナってことで・・・どう?」

悠二は首を捻り考え抜いた末に笑顔でそういった。

「好きによべばいい」

対する少女・・・シャナはそっけなく言った。

 

『それにしてもヘカテー“零時迷子”を内包しているとはいえ面白い奴と契約したな』

今まで黙っていたアラストールが突然声を発した。

『後半はともかく前半は聞き捨てなりませんね。その言い方では私が“零時迷子”のために悠二と契約したと聞こえます。』

アラストールの声にヘカテーが非難の声をあげる。

当の本人は

「面白いって褒められてるのかな?」

「知らない」

などシャナと会話していたりする。

『そのつもりで言ったのだから当然であろう。違うのか?』

『違います。私は“零時迷子”のために悠二と契約したわけではありません』

『ではなぜ彼と契約したのだ?彼の境遇は知らないが同じような人は世界中に何人も居る。その中でなぜお前は彼と契約した?偶然近くに居たからという安易な理由でか?そんなわけは無いだろうフレイムヘイズになればほぼ死ぬまで一緒だ、それをそんな理由でするとは思えない』

『そ・・・それは・・』

攻めるアラストールに防戦一方なヘカテー。しかもアラストールの言っていることは正しい。この言い合いは完全にアラストールの勝利と思われたところで邪魔が入った。

「やめてくれアラストール」

『悠二・・・』

悠二は諭す様な声でアラストールを止めた。ヘカテーはほっとしたがすこし怪訝に思った。

状況的にアラストールの圧勝、悠二がヘカテーに対して不信感を抱いても仕方が無い。だが悠二はヘカテを味方した。その意図が分かりかねたのだ。

「ヘカテーがもし本当に“零時迷子”が欲しいんだったら、僕を助けた後僕を殺して中から取り出せばいい、ヘカテーにはそれが可能な力がある。それができなくても僕を攫ったりとかできる。でもヘカテーは僕ばかりじゃなく家族や近所の人までも助けてくれたんだ。」

悠二は淡々と説明する。

「そして自分が自由にできなく事を承知で僕と契約してくれた。そこまでしてくれたヘカテーを僕は疑うことができない」

悠二は同じく淡々とだが力強くシャナの首にかかっているコキュートスに向けて言いきった。

「それでももしまだヘカテーを疑うなら、たとえ勝てなくても戦うよ。アラストール」

きっぱりと明確な覚悟を持って悠二は言った。殺気は出していないもののその目は炎を宿している。

その言葉にシャナは座っていたベットから立ち身構える。

シャナと悠二お互いの目がカチリと合い睨み合う。一触即発の状態。

『悠二やめてください・・』

『やめておけ・・・』

ヘカテーは弱弱しく、アラストールは諦め気味に互いの契約者を諌める。

『これでわかりましたか?“天壌の劫火”私たちはお互いを信用の元で契約しているのです』

ヘカテーは先程と異なり力強くアラストールへ向けて言い放った。

『うむ・・・』

ヘカテーに気おされてか・・アラストールは唸った

「悠二」

「何?」

シャナの呼びかけにこたえる悠二

「アラストールは“頂の座”だけを監視すればいいと言ったけど、私は今ので気が変った。あなたも監視対象にするわ。」

「わかった・・まぁたいして変わらない気がするけど・・・」

シャナの言葉に悠二はそう返して扉の方へ向かう。

「じゃあそこらへんの使っていいから、今日はもう寝るね・・おやすみ」

悠二はそう言って元々開いていた自分の部屋のドアを閉めて下の階へ降りる。返事は無かったが別に気にした様子も無い。返ってこないと分かっていたんだろう。

 

 

『悠二・・・ありがとうございました』

悠二が階段を下りている途中腕輪“エリーニョス”からヘカテーが穏やかな口調で言う。

「別に・・・本当のことを言っただけだからね」

悠二は左手で頭を掻き少し照れながら答える。

『それでも・・です。本当にありがとうございました』

今度は楽しそうにヘカテーが言う。信じられるというのはそれほど嬉しい事なのだろう。

「やめて・・・ほんと照れる」

悠二が頬を染めにやけながら反抗する。そして一階に着いた。

一階はもう暗い。単身赴任で現在一人の千草はお風呂から上がり、少し涼むとやることがないので一階に在る自室に入りすぐ寝てしまうのである。寝ている母親を起こさないように静かに歩き、リビングに入り電気をつける。壁にかかった時計を見るといつの間にかもう22時を半分以上過ぎていた。そのままぼんやりと歩き目的地であるソファに腰をどっしりと下ろす。

「ふぅ~・・・・何か疲れた・・・」

溜息をつきかすれた声で呟く。

『お疲れ様でした』

先程の件で機嫌がいいのかヘカテーは妙に優しい。

「これでもう監視はヘカテーのせいじゃなくなったね」

悠二はエリーニョスに笑いかける

『もしかして・・・わざとですか?』

ヘカテーは不振に思っていた、普段悠二はあまり物事を荒立てない。しかし今回に限り何かと厄介なことをしでかしている。およそ悠二とかけ離れた行動。

「いや・・・さすがにわざとじゃないよ・・まぁ結果的にそうなっちゃったけどね」

自嘲しつつそう呟く

「それにしても・・・普通フレイムヘイズにも名前あるよね?」

悠二は先程の会話を思い出しつつヘカテーに問う

『ええ、私もフレイムヘイズのすべてを知っているわけではないですが』

前置きをいれつつ

『名前がないというのは初めて聞きますね』

そう言った。

『彼女の場合特殊なケースなんでしょう。戦い方も少し特徴的でしたし』

ヘカテーはすこし含みの在る言い方をした。

「そういえばシャナは炎を使ってなかったね。」

『さすがですね、悠二』

悠二の返答にヘカテーはうれしそうに声を少し弾ませた。

「“炎髪灼眼の討ち手”ってそういうもんなの?」

悠二は疑問に思ったことをヘカテーに聞いてみた

『いいえ少なくとも先代の“炎髪灼眼の討ち手”は違うと聞いています。たしか天罰神アラストールの炎を完璧に使いこなし、その炎で軍勢まで作って戦ったと』

悠二の問いに惜しみなく自分の知識を披露するヘカテー、元々惜しむ必要も無いのだが・・・

「ふ~ん・・・苦手なのかな?」

『ですがフレイムヘイズそれぞれにそれぞれの戦い方があるのでどれが一番というのは決められませんね。』

悠二の仮定にヘカテーが補足した。

「たしかにあの剣術はすごかったしね」

『悠二も自在法では引けをとらないと思いますよ?』

悠二はシャナをヘカテーは悠二を褒めた

「へへへ、ありがと」

悠二は照れながらそう答えた。

 

「あ~そういえば今日の練習してないや・・・でもノート部屋にあるし・・・疲れたからまぁいいかな?」

悠二が座りながら手足を伸ばし言う。

『本当はだめですが・・・今日は多めに見ましょう。ですが少しの間だけ“出して”ください。今日は“あれ”も居るので結界をちゃんと張ってくださいね』

ヘカテーが呆れたように言う。

「うん・・・わかった」

悠二は返事をして、ソファから立ち上がり電気を消し人の姿のまま目をつぶり右手を忍者がするように人差し指と中指を立て顔の前に持ってくる。そして指先に集中し自在式を組む、自在式が完成に近づくにつれ指先の明るすぎる水色の炎が大きくなる。

目を開ける。それと同時に火のともった指を振るう。封絶とは違う式がリビングを白く光らせる。

 

 

━展開━           醒絶(ジ・セイ・ウィーグル)

 

 

 

封絶の劣化版醒絶(かくぜつ)封絶のように因果から外されることは無く中に普通の人間が入っても何の影響も受けない。この自在法の能力はこの領域内外との気配の拒絶。つまりこの領域内で何をやってもシャナにばれることはない。この自在法は近くにフレイムヘイズが居てそのフレイムヘイズにばれないようにするためだけの自在法である。理由は外から丸見えと自らの炎で目立つからだ。徒にしても封絶のほうがありがたいだろう。

光の中悠二は姿をフレイムヘイズのものに変える。黒い髪は水色に黒き瞳は澄んだ青に。白きマント朔夜(さくや)を身に纏う。その中から神器大錫杖(トライゴン)をとりだし、それを床に打ちつけ音を鳴らす。

 

━シャラン━

悠二の前に丸い弾ができる。

━シャラン━

目の前の弾に自在式が土星の輪の如く取り巻く

━シャラン━

輪を取り込みもとの丸い弾に戻る。

 

悠二はその丸い弾に自分の右腕の腕輪“エリーニョス”を入れる。

 

 

━シャラン(展開)━     傀儡(ドーフル・バーチ)     

 

 

“エリーニョス”を埋め込んだ丸い弾が徐々に人型に変化する。

小柄の人に・・・さらに全身を覆うマント帽子まで明るい水色で表現されていく。

そしてすべてが表現され固定する。同時に水色の炎でしかなかった体に足の方から色がつき再現され、明るすぎる水色の瞳を持つ小柄で無機質で繊細な容貌を持つ少女。

“頂の座”ヘカテーの擬似顕現である。

この擬似体は悠二の存在の力によって形成されているため、零時前にしか使えない。本物の顕現と比べると格段に劣るが、与えた力によっては自在法も扱える。

そのヘカテーが醒絶によって光る床の上に立つことにより、光る床と周りを埋める闇が混ざり合い両方を増長させ神秘的な空間を作り上げる。

悠二はこの自在法のおかげで彼女を見慣れているが、いつ見ても見とれてしまう。それほどヘカテーは美しく可憐なのだ。

「悠二・・・」

そのヘカテーがほんの少し笑うそぶりを見せ悠二を呼ぶ。呼ばれた悠二はトライゴンを片手にヘカテーへ近づく。そしてお互いがちょうどいい距離になったその時

 

 

 

                  ━━━━パンッ━━━━                  

 

 

 

子気味いい音がリビング内に響いた。悠二は突然の横顔に痛みと衝撃を感じ思わず光の床に倒れこむ

そして左頬の痛みと振りぬいた後のヘカテーの右腕を見て自分がビンタされたことを自覚した。

「え?ちょっな・・なんで?」

突然のことで頭が情報を処理しきれず、ビンタされた理由がわからない。今まで結構いい雰囲気を醸し出していたのに台無しになってしまった。

「今日の夕方と夜・・・これでわかりませんか?」

微笑を浮かべ悠二に教えるヘカテーだがその微笑はすさまじく威圧感が在る。今まで神秘的だった床の光もいつの間にかヘカテーの恐怖を倍増させる光へと変貌している闇もここぞとばかりか勢力を上げて悠二に食らいつく。これが紅世の王のなせる力なのか?

明るい水色で包まれている空間が一気に恐怖の空間へと変わる。

「あ・・・・・」

今頃になりその意味を理解した悠二。いくらフレイムヘイズとはいえ相手は紅世の王・・・その王に殴られ悠二の左頬には真っ赤な紅葉が張り付いている。

「次は夜の分ですね・・・」

そういい倒れている悠二の方へ歩いてくる。悠二より小柄なはずだが威圧感のせいか、悠二より格段に大きく見える。十分に近づき再び振り上げられる右手。

抵抗する無力を知っている悠二は左頬を押さえることをやめ目をつぶり、潔くヘカテーの制裁を待つことにした。

 

だが一向に衝撃は来ない。悠二がそろりと目を開けてみると右手を振り上げそのままの姿のヘカテー

どうやら悠二が目を開けるのをまっていたらしい・・・

(・・・・・鬼畜過ぎるでしょこれは・・・・)

悠二が心の中で叫んだ。

そして手が振り下ろされる。今回は悠二が倒れているおかげで手が簡単に届く位置に顔がある。

先程は見えなかったが、察するにそれと同じかそれ以上のスピードで迫り来るヘカテーの手のひら。

悠二は目を瞑りたい衝動をなんとか抑え、頬に来るであろう衝撃に備える。

だがヘカテーの手は悠二に当たる直前スピードが急に無くなり、悠二の頬に当たった。

そう打ったではなくあたった。

フレイムヘイズたる悠二にとっては撫でられるのと同じようなものだ。

「え?」

思わず声が出るのもしかたないだろう。あれほど威圧感に満ちた部屋は打って変わり元の神秘的な空間になっている。

ヘカテーは悠二の頬に手を当てたまま顔を近づける。そして悠二に自分のかぶっている帽子が当たったところで口を開いた

「今回は悠二に助けられそして、信じてもらったのでここら辺にしておきます」

言うのと同時にヘカテーの右手が発光、痛みが引くのを感じる。治癒の自在法である。

自在法を使えば当然ヘカテーが消える時間が格段に早くなる。見た目もうすでに足の先から水色の炎が散っている。

「もう、同じようなことしないでください・・」

言うのが早いか消えるのが早いか・・・悠二がとっさにヘカテーに手を伸ばすが触れるのは自らの炎だけ。

最後の言葉と共に炎が笑う形を作り散っていく。

ヘカテーが“いた”場所には支えを失った“エリーニョス”が重力に従い落下する。

それが床に落ちコンと音を上げ、その音にあわせる様に自在法醒絶が解除される。

神秘的空間が砕け闇が謳歌する

悠二はヘカテーへ向けて差し出した手を戻すことをせずそのまま床に倒れこむ。

悠二の纏う朔夜も手に持っているトライゴンも闇に解け、明るい水色の髪は瞳と共に闇に侵食され黒く

戻る。睡魔に襲われ意識さえ刈り取られ、悠二は自分を引き寄せる闇に 体をゆだねた。

 

その神秘の名残である神器“エリーニョス”は未だ闇を寄せ付けず悠二のそばで輝いている。

その中でヘカテーは悠二の眠りを妨げることもせず

暗闇の中沈黙を守り悠二を見ていた。

 

 

 




いや~なんか・・・すみませんw
厨ニ全開ですよね~・・・止められなかったわが病気・・
まぁ治すつもりさらさら無いんで嫌な方は華麗にスルーしてください。
あとこれ以降タグにも書いてありますが、更新がかなり遅くなると思います。
理由はえ~っと大学受験というふざけた行事のせいです!
つかてめぇ大学受験中に何駄文イソイソ書いてんだ!って感じですが・・衝動ですよw
因みに理系っすw
いや~ほんとなにしてるんでしょうか~・・・・
とまぁこんな理由です。お許しを・・
あと感想や愚痴、悪いところ、修正部分など何でも結構ですのでどしどし送ってください^^
それでは次項でお会いしましょう^^


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ENTRACTE─アントラクト─

いや~ホントお久しぶりです~^^
すみませんちょっと受験でねw結果は活動報告に書いたとおりやばいっす急降下どこにも引っかかることなくこのまま浪人池に落ちそうです。
ですのでこれから先またもや不定期になるやもしれないので了承願います。あと気づいた方もいるかもしれませんが(絶対いないと思う)タグの性格改変?の“?”消えたんですよ~w今回もかなり原作の性格をぶっ壊してしまってます。シャナというよりどっちかって言うとゼロの使い魔のサイトに似ているようなwそんなわけで注意してください
ではどうぞ~



 

「悠ちゃん、何でこんなところで寝てるの?」

 

 

さわやかな朝の第一声、千草の声が部屋に響き、悠二の耳に入る。

眠りも時間的に浅くなっておりその声で意識を一部覚醒させることができた。

「う・・・んん~・・ふぅ。」

悠二がゆっくりと体を絨毯から起こすと、不思議そうに覗き込んでいる千草の目と合う

「え?・・・ああ・・・下に物を取りにきてそのまま・・・」

完全覚醒していない悠二の頭では想起→理解→回答の一連作用に少々時間がかかるようだ。

「ふ~ん。まぁいいわ、とりあえず“そこ”拭いておいてね。」

千草は色々と気になることがある、と言いたげな返事をしたのだが結局は聞かないことにした。

返事を返された張本人である悠二は前半より後半の“そこ”が気になる。

そして探すように自分の周囲を見渡してみると、なんと自分の顔があった場所が輝いているではありませんか。悠二は瞬時に頭を完全覚醒させ、持ち前の頭脳を持って思考する

 

絨毯自体に発光機能など付いていない。もし付いていたならば一部だけでなく全体が輝いているはずだ。

そこだけ自分の自在法が残っている、という考えも一瞬思い浮かんだが同じく一瞬で却下。

 

ほかのフレイムヘイズ(例えばシャナ)などが自在法をかけた。

 

・・・・いや・・・ありえない。そんなことしたらいくら寝ていたとはいえ自分やヘカテーが気づくはず

第一“そこ”を光らせる理由がまったくない。

 

でわ・・・なに?

 

普通に考えれば100人中90人以上が“それ”は“よだれ”と呼ぶことぐらい容易に想像がつく。

状況説明は至極簡単。睡眠時、頬筋《きょうきん》の弛緩及び唾液の漏出 結果唾液池の生成。

という事だ。

それが朝日を反射して光っているだけ。

 

このような簡単なこと悠二にとっては考えるまでも無い事と思えるが、悠二のプライド《誇り》とヘカテーが見ているという状況下では自分がよだれを垂らすなどという行為は最初から頭に入っていない。

いかに明敏な頭脳を持っていようと知識が無ければ意味が無いという事だ。

もっとも

『悠二、早く拭いてください汚いです。』

というヘカテーの言葉に悠二の誇りなどはあっさり砕け散ってしまうのだが・・・

 

 

 

 

 

「はぁ~・・・・」

『どうしたのですか悠二?溜息などついて』

所、時間軸と共に変わり現在学校への通学路。左の車道では車が風を切って道を駆ける、悠二の歩いている歩道には悠二と同じように学校へ行こうとする生徒がちらほら(・・・・)と。

友達を待っているのかその場で周りをキョロキョロしている子

なにか学校の用事に遅行しそうなのか脇目も振らず必死に走って行く子

眠気も限界を超えるとこんなことができるのかという寝ながら歩いている子

友達同士でキャピキャピガヤガヤとうるさい子達

多種多様な生徒がいる

そのなかで悠二は肩を落とし、周りにブラックなオーラを振りまいている。いまだに朝のことを気にしているとは・・・意外にナーバスらしい

因みに朝部屋に戻ったときにシャナはもう居なかった。ヘカテー曰く

『朝早くに出て行きましたよ』

だそうだ。

そして前の会話に戻るわけである。

 

『悠二、溜息の理由は良く分からないのですが・・このままでは学校に遅刻しますよ?』

「へ?」

時計は現在8時20分を回ったところ、御崎高校では25分までに校門をくぐらなければ遅刻である。

「やばっ」

悠二はあたりに形成していたブラックオーラを消し普通《・・》の速度で走り出した。

 

Χάος(カオス)・・・日常でも混沌としている様子や雑然とした場所などについて、「カオス」と形容することがある。また、文脈や展開的に支離滅裂になった場合にもしばしば使用される。

 

辞書によるとそういう意味らしい・・・なぜこのような注釈がここに入るのか理由を説明すると今まさにこの状態にあるからに他ならない。

学校とは例外あれど同じ年頃の男女が青春を謳歌するsanctuary(聖域)。社会的に見ればこの聖域がカオスなのは自然、ハジけてなんぼの、世情も時には法律も無関係な世界。

そのカオス(学校)の中のカオス。

 

 

朝の挨拶後の休み時間、教室で男同士で抱き合ってるのである。

 

男女でさえ珍しい光景、それをやった男子は間違いなく英雄(ヒーロー)だろう。

それを男同士で・・・・

一人は歓喜に今にも涙を流しそうだが、もう一人は若干頬が引きつっている。

 

歓喜しているのは本作主人公 坂井悠二

頬を引きつらせてあからさまに迷惑そうにしているのは 佐藤啓作

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━以下回想━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「ふぅ・・・なんとか間に合った・・」

言葉通りなんとか(・・・・)25分までに校門をくぐり抜けて、教室の自分の机に鞄を置きつつ

悠二は誰に言うわけでもなくつぶやいた。

『結構危なかったですね』

悠二の独り言にヘカテーが小さい声で言う。それと同時に教室の前の扉が開き担任の先生が入ってきた。

悠二にとっては普通の朝、いつも通りに朝の挨拶から連絡まで順調に進んでいく。しかしフレイムヘイズにとってはありえない朝である。フレイムヘイズとは“人としての全存在”を捧げて驚異的な力を手にする。つまりその人の過去、そしてこれから先迎える筈だった未来を失う事、過去が消える事により人間関係もたとえ親子だとしても例外ではなく消え去る。

にも拘らず悠二は今までどおり学校に通い母親である千草にも息子と認知されている

これはヘカテーの力によるもの。人が消えると言うのは簡単な事ではない、例えば悠二を媒介として友達になったもの同士など、自分がいつどの様にしてこの人と友達になったのかが分からない、知っているのに知らない此処に矛盾が生じる。

そこに世界的に消えてしまった坂井悠二と言う媒介を強制的に植えつける、いわば集団催眠のような物かそれにより矛盾が消える。世界的に矛盾していても人間的に矛盾していなければ人間は気づかない、いや気づき様が無いのだ。多少の違和感はあるかもしれないが、その違和感が悠二が存在する事に繋がることは無い悠二を消した方がはるかに違和感があるからだ。

 

そうして先生の連絡は終わり休み時間に入る。悠二が机の横に掛けた鞄からノートと筆箱を取り出しているとクラスメイトであり良き友人である佐藤啓作がニヤつきながらこちらに歩いてくる。

男の自分から見ても美少年と言える奴がニヤつきながらこちらに来ると、良く分からないがとにかくムカつく。

「なに?」

朝のこともあり不機嫌な声で目の前の“美”少年様に言う。

 

啓作はその声と顔に全く堪えておらず寧ろ嬉しそうして言った

「坂井、昨日なんのゲームかったの?」

尚もニヤつきながらの発言だったが悠二は“ゲーム”という単語に反応する。それと同時に様々な事がありすぎて忘れていた記憶が蘇って来る。

フラッシュバックした記憶で怒りに震える悠二だったが憎むべきは目の前の“クソ野郎”では無く

昨日学校で自慢気に話た自分だ。悠二のそんな葛藤の渦中に啓作はポケットから細長い物を取り出し、悠二の机の上に置く。悠二は憎しみの篭った目で其れを睨み止った。

見たことのあるフォルム、煩いと言われて外したチェーンの穴、うっかり落として踏んでしまった僅かな汚れ。昨日の夕方何度確認したことやら・・・見間違えるわけは無い自分の“財布”

それが自分の目の前に置かれている。

顔を上げると神とも言うべき美少年佐藤啓作様が笑いながらおっしゃるではありませんか

「たまたま俺もあそこのゲーム屋でなんか買おうと思って行ったら、お前に散々自慢された財布と同じ奴

がレジの横に置いてあってね、もしかしたらと思って中身確認したら見事正解だったってわけさ。心配しなくても中身は何もとって無いから安心しろ」

悠二はその言葉を半分も聞いていなかったが、感極まって啓作に抱きついた。

「佐藤~!」

「うわっちょっ坂井、やめろはなせ!」

悠二は一応ちゃんと手加減はしている様だが普通の人間にどうこうできる力ではない。

こうして抱き合う男達(一方的)が完成した。

悠二は啓作のかっこよさに嫉妬しているが悠二自身もそんなに悪いわけでは無くむしろいい方である。

できあがった(美)少年達の抱擁像により周りの反応もまたさまざまである。

引くものも居れば興味深そうにするもの、囃し立てるもの、一部の女子は顔を赤くしている。

そしてカオスは出来上がった。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━回想終了━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「悪い・・・少し取り乱した」

先ほどの混乱が収まり、自分の机を挟んで前に居る啓作にそう謝罪した。

「少し・・・じゃない気がするけどまぁいいさ」

啓作はそう右手で顔を押さえている悠二に言い机から離れた。

 

「朝からずいぶんな、見世物だったわね」

悠二の右隣、平井ゆかりからの声だった。未だに顔を押さえていた悠二だがゆかりに違和感を覚えた。

ゆかりとは隣ということもあって何度か話したり、色々お世話になったことがある。だからこそ

そんな(・・・)発言などしないと分かる。それに声も違う気がする、なんだか極々最近聞いたことあるようなムカツク声。これらのことを元にして導き出せる答えはひとつだ 隣に座っているのはゆかりではない。悠二は溜息が出るのを押さえ、顔から右手を離し右をむくとやはり“絶壁”だ。

なにげに整った顔を引き締め、腰まである長い髪を後ろに流し、無い(・・)胸を張ってセーラー服まで着ている。

「なんであんたが此処にいるんだ?そこ平井の席だぞ」

「昨日言ったでしょ、監視するって、どういうわけか知らないけど学校に通ってる危ないフレイムヘイズをね。それと私が平井よ。」

シャナは足を組みながらさも当然のように言い切った。

前半は解る。確かに昨日監視すると言っていた。だが後半が解らない、私が平井?頭でもぶつけたのだろうか?いや人間でもそう簡単に頭がおかしくなったりしない、フレイムヘイズなら尚のこと。

『トーチに割り込んだんだと思います』

悠二の契約主であるヘカテーが小声で悠二に説明する。

トーチ・・・“紅世の徒”がフレイムヘイズからの追撃を逃れるため、フレイムヘイズが『世界の歪み』の衝撃を和らげるため、故人の“存在の力”から作る『人間の代替物』。 つまりその場凌ぎの命。

確かに平井ゆかりはトーチだった。悠二がフレイムヘイズとなり人とトーチの区別ができるようなったときすでにゆかりはトーチだった。同じクラスメイトとして何とかしてやりたいとは思ったが、すでにゆかりの本当の命は失われている、どうすることもできない、それが現実なのだ。

日ごとに燃え盛る命が弱まっていくのを隣で見ながら、せめて燃え尽きるまではと同じクラスの友達として接してきた。

それに・・割り込んだ?一体どういうこと?

「そういうことよ。今では私が平井ゆかりってこと、お前以外の人は私を今までいた平井ゆかりと認知する」

悠二の疑問は声に出してはいなかったが顔に出ていたのかシャナは律儀に説明してくれた。

「ま、私もこういう所滅多に来ないから、監視のついでに経験してみようと思っただけ」

シャナは少し楽しげに言ってのけた。だが悠二は楽しくない、理屈ではわかった、だが感情が付いて来ない昨日までトーチだとしも存在していたゆかりが、さも当然のようにシャナにより消えさせられた。

あまりに簡単な理由で・・・

「じゃあもう平井さんはいないってわけか・・・」

悠二が歯を食いしばりシャナを睨みながら言った

「お前の言う平井さんはね、今は私が平井」

悠二は無意味だと解っていても、いなくなった平井さんのためにも反論したかった。

だが悠二の置かれている立場上そういうことが起きてもおかしくない世界にいる。

それでも最後の抵抗をした

「あんたと平井さんじゃ全然違う」

「それはそうでしょ、元々は別人だもの、でもあんな印象の薄い子いなくても誰もわからないわよ

消えるだけの運命に私が入ってあげたんだから感謝して欲しいぐらいだわ、私があの子より劣っている部分がある?」

悠二が悔しがっているのを見て上機嫌となったシャナは舌が止まらない。どうやら昨日馬鹿にされたことを根に持っているらしい

「あるよ・・・決定的に違う部分が・・・」

悠二は反撃の好機と見て言い出した。

「ふ~ん・・・まさか顔とか言わないわよね?前も言ったけど顔は別人だからしかたないわよ」

「いや・・・顔じゃないさ、顔よりももっと決定的に違う部分がある!」

悠二の声に力がもどった。

「へぇ~どこ?」

シャナは余裕を持った返事をする。まるで自分が完璧になったかのような陶酔に陥っていた。

 

「胸だ!平井さんは大きくは無くとも少なくともあった!てめぇのは何もねぇただのまな板じゃねぇか!」

悠二、魂の叫び。どう歪曲しようとも最終的に行き着くとこはそこらしい。たしかにセーラー服の上からでは女性特有の二つの丘が全く見えない。その凛々しい顔立ちのせいで髪と服を代えれば少年とも言える

体つきだ。悠二は巨乳好きなわけではないが、男のロマン、心の宝石とも言える心理はたしかに存在した

そして馬鹿にできる部位がそこだけしかなかったと言えばそれまでなのだが・・・。

『・・・・』

『・・・・』

二人の契約主であるヘカテーとアラストールの沈黙・・

だが二人の沈黙は決して同じ沈黙ではなかった。

 

一方は引きつつもなんとな~く心が痛い沈黙

もう一方は同じようなことを思ったことがある故の沈黙

 

因みに悠二の叫びは周りにも聞こえていた。だが唐突過ぎる叫びにみんな何が起きたのか理解できていない。

 

酔いがさめた、いや覚まされたシャナはシャナで色々考えさせられていた。フレイムヘイズとして今まで戦闘とそれに関すること以外には全く意識していなかった。

だが同じフレイムヘイズの異性にそのように言われて、考えてみると確かに自分の体は未熟だ。フレイムヘイズなのでこれ以上体の成長は望めない・・・だがそうは言っても女性として少し悔しいやら恥ずかしいやら羨ましいやら、自分でも良くわからない感情がある。

シャナの顔が困惑に変わったのを見て悠二は自分の勝利を確信しさらに追撃しようと言葉を発しようとしたが、以外にもあるいは妥当にもこの無意味な争いの終止符を打ったのは教室に入ってきた先生だった。

 

 

 

 

4時間目・・・生徒にとってこれが終われば長い休み時間と昼食が待っている。故にあとひと踏ん張りと思う時間帯なのだが、現在そのような状況にあらず、重苦しい空気が教室に漂っている。もの音は4時限目の授業担当の英語教師が黒板にチョークで書く音だけだ。本来の授業の望むべき静寂なのだがなぜこうも息苦しく居心地が悪いのだろうか?それは教室の真ん中に腕を組んで鎮座している少女の醸し出す空気に他ならない。ノートも教科書も開いておらず、ただ先生の動向を見ているだけの生徒 これだけのことが先生を動揺させている。その視線の中には観察以外の何も入っておらず先生のことを教師とではなく観察対象として見ている。これを4時間連続で続けているのだ。

この態度をとる生徒に先生は、薮蛇とはこのことか 突っかかっては撃退されていた。

そしてこの英語教師も二度あることは三度あるではなく三度あることは四度あるよろしく、板書を終えてから振り返りシャナに突っかかって来た。

「平井、最近(・・)不真面目だぞ。ノートをとらんか」

シャナはそれに答えずただ言う

「おまえ」

敬意の篭ってない声と言葉、だがこの言葉にシャナのオーラが加われば普通の人は動けなくなる。

この中年の英語教師も例外では無く気迫におされ固まる。

「その穴埋め問題、全然意味の無い場所が開いてるわ。クイズじゃないんだから、前後の文脈で類推できる所をあけなさいよね」

シャナは姿勢を変えずにただ言う

「う・・・・」

「正しい答えは“That which we call a rose,By any other name world smell as sweet.”だけど原文を覚えてないとできるわけない」

外人さん発音通称ネイティブ発音でくりだされる英語。誰もが正解かどうかは別として発音や雰囲気で正解と確信させられる。ここまで言って間違いだったら恥ずかしすぎる。

言いように言われる教師だが、シャナの言ってることが的確かつ正しいので反論のしようがない。

普段の生意気な生徒なら虚勢を張り、勢いや人生経験により打開できるのだがこの生徒の前ではそのような物はあって無いようなものだった。この前まではこのような生徒は居なかった筈だ。だが現実目の前にいる、何時このようになったのかは自分でも良くわからず最近としかいわざるをえない。

このような現実逃避をしていてもシャナの追撃は終わらない。

「その板書も、段落で見たら、後二文字も足りないわ。お前が持っているマニュアルのページ単位で書きき移しているだけだから、そんなことになるのよ」

容赦なく叩き潰すシャナ・・・

なにかうっぷんを晴らすように聞こえるのは自分だけなのだろうか?

「お前、教師の癖に、学力が無くてマニュアル外に手が届かないし、説明も下手でダラダラ要領を得ない話をするだけ・・・なってないんじゃない?」

英語教師の顔が醜く歪む、生徒からも説明が解り難いくせに宿題は大量に出す先生として嫌われていた。そのせいで本来なら拍手喝采物だが4時間もこれでは生徒の体力の方がもたない。

「私に教える気があるなら、ちゃんと勉強してからで直しなさい」

かくして4人目も蛇の餌食となった。哀れに思う人もいたが先生が先生なだけに極僅かだ。

 

ちなみに悠二はヘカテーにより言語の記憶の植え付けをされているのでこの授業がどうなろうと関係ない

というより最初から授業など受けてはいなかった。学校におけるもっとも重要でもっとも暇な時間でもある授業中という時間を使ってヘカテーと共にノートに自在法の式を考えている。

だが頭のいいやり方でもある。教科書とノートを開いて鉛筆を動かしていれば、たいていの先生は喩え授業中一度も黒板を見なくても、何も言わない。

それが成績優秀者となれば尚のこと。悠二は中学生の時ぽや~っと勉強していても中~上の成績を取っていた、それがフレイムヘイズとしての勉強時間のための勉強、だと確固とした目標を持ち勉強すると、このように生成優秀者として名前が出てくるのだ。

 

そんなこんなで気が付けば4時限目の無事(・・)終わり昼休み兼昼食時間になる。

 

普通の授業でさえ4時間は学生にとってかなりの負担となるのに、今回はそれに不穏な空気や緊張で余計に神経がすり減らされた。それによりその余韻が残る教室からさっさと出たいという理由からか大多数の生徒が教室から出て行き残った人も、居心地の悪さを感じ一人また一人と教室を後にする。

そして気が付けばシャナと二人っきりの教室。

女の子と二人っきりの教室とは・・・ある意味いいシチュレーションかもしれないが、

やはりいいシチュレーションとは可愛い女の子と一緒にいる場合だけだ。いかに女の子と二人っきりでも相手が不細工なら胸糞悪くなるだけ、今回の場合は容姿はいいのだが性格がちょっと・・・という具合

しかも2人であって2人じゃない。正確には4人が此処にいるのだ。そうアラストールとヘカテーである。

そんなことを考えながら右隣をみるとアラストールとシャナの二人がいる、実際目に見えるのはシャナ一人だが・・・どこで買ったのか美味しそうにメロンパンにパクついている。可愛い女の子がメロンパンを両手で持ってメロンパンにパクついてるのを見ると・・・なぜだかリスのような小動物的可愛さとの相乗効果によって抱きしめたくなるのだが・・・・それを欲望のままにした場合後が“ものすごく”怖いので我慢しておく。今日の帰りにメロンパンを買ってヘカテーにプレゼントしてみようと心にしっかり刻みつつ、自分はコンビニで買ったおにぎりにかぶりつく。

 

しばらく二人・・・四人は無言でそれぞれの食べ物にかぶりついてあいるはパクついていたのだが

沈黙に耐えられなくなった悠二がシャナに質問をしてみる。

「そういえばどうしてフレイムヘイズになったの?」

他に聞くことが無かったというかメジャーにと志望理由を聞いてみた。

「お前の知ったこっちゃ無いわ」

返って来たのはぶっきらぼうな答え。ここから話を広げようとしていた悠二としては残念だ、未だに朝のことを気にしているのか?と思ったが別段そういう感じはしない。

『悠二、フレイムヘイズにとってなぜなったのか?を聞くのはあまり好ましいことではないと聞いたことがあります。』

不思議そうにしている悠二にヘカテーは言った。

「ふ~んそうなんだ」

『基本的にフレイムヘイズは復讐者ですからね。なる理由は本人にとって一番のトラウマ、聞かれたくないのは当然でしょう』

ヘカテーの言葉にそう言われてみればそうだなと思い、同時にシャナに悪いことしたなと後悔の念が生まれ、謝罪をしようと口を開きかけたとき

『ほう~貴様がそのようなフレイムヘイズの機微を知っていようとはな・・・』

午前中は無言でシャナの首にぶら下っていたアラストールが言う

『何が言いたいのですか?天壌の劫火』

アラストールの言葉にヘカテーがツンとした言葉で返した。

『いやなに・・・フレイムヘイズを討滅の道具としか、思っていない貴様がそのような繊細なことを知っていることに驚いただけだ』

普段冷静で大人なアラストールが挑発する。

珍しいとは思ったが、初めてシャナに会った時・・・と言っても昨日のことだが・・を思い出して

そうでもないかと思い直した。

『そうですか』

ヘカテーはどうでもよさそうに答えたが明らかに不機嫌になっているのをヒシヒシと感じる。

空気が悪くなったので席を外そうとするとシャナから声がかかった。

「どこいくの」

「ごみ捨てだよ」

悠二はそう言って自分の食べたおにぎりの袋を買ったビニール袋に全部入れ、教室から出ようとした。

教室内の美化のために~とゴミ箱は外の廊下に設置してある。

「待って」

よく通るシャナの声。何の用だと振り返ると空の(・・)メロンパンの袋を差し出してそれを前後にひらひらと振っていた。

シャナが次の言葉を発する前に理解し吐き捨てる

「自分で捨てに行け」

今度こそ教室の外に出る。後ろからケチと声が聞こえるが無視した。

ごみを捨てた後行くべき場所も無いので、教室に行こうとして歩き出した途端男の声に呼び止められた。

「おい、坂井・・!」

その呼びかけの通りに振り返ると仲のいい3人がいた。その内の一人は朝世話になった佐藤啓作である。

今呼びかけたのは中学からの友人で、人も頭もいい、メガネマンこと池速人だ。

悠二は呼びかけられた方に駆け寄りつつ声を掛けた。

「みんなは食堂で食べたのか?」

その問いにメガネマンが首を振りつつ答える

「違うよ。それより坂井、お前、よくあんな騒ぎの後で、事の張本人と飯が食えるな」

その言葉に美少年が続ける

「ホント、勇気のる奴。下手すると、お前までセンセーどもに目ぇつけられるってのに」

「だいたいお前らってそんなになかよかったか?というよりお前の彼女じゃなく彼氏はこいつじゃねぇのか?」

と美少年佐藤啓作を指差しながら絡んできたのは田中栄太。大柄だが愛嬌があって粗暴に見えない。

「「ちげぇよ!!」」

あまりな事を言われたので啓作と悠二の声がハモった、それがまた栄太にネタを上げることになる。

「ふたりとも息ぴったりじゃねぇか~・・ははははは~ぐげぇっ」

あまりに調子に乗っていたので啓作から鉄拳制裁が下った。

「ったく・・でホントはどうなんだ?ん?」

邪魔者を消し去った啓作がシャナとの関係を聞いてくる。

「いや・・・そんなんじゃなくて~なんていえばいいか・・」

本当のことは言えないし、仕事仲間といったところでどんな仕事かを聞かれるだけで。

結果的に言葉を濁すことしか悠二にはできない。

「二人っきりで飯食って会話して。十分“そんなん”だろ」

「平井ちゃんも可愛いっちゃ可愛いけど、なんつーか、マニアックな趣味だな」

「まぁ今の世代多いからなロリ属性の奴。まさか坂井がそうだったとは・・・」

さすがにピキッと来た

「だから~・・・」

言い返そうとして止まった。

よくよく考えてみればヘカテーもロリ属性に入るんじゃないのか?いやでも徒だし・・・でも

シャナも・・・いやまてまてシャナは同業者だから、ヘカテーは相棒だからさ・・・・

確かめるために二人の共通点を列挙してみよう

・小柄

・顔が幼い

・胸が・・・

・・・・・・・・・・・

あれ?最初の3つでもう詰んだぞ・・・

悠二が自分と向き合っては否定を繰り返している間に友人たちは攻め立てる

「やっぱり・・・やましいところがあるな?」

池が都合よく眼鏡を煌かせて追求してくる。

「お前がそっちの趣味なのは良くわかった!その根性を見込んで他の女の子とも、是非渡りをつけてくれ」

啓作がまじめな顔をして懇願と嫌味を言ってくる。朝の仕返しだろうか?

「このムッツリが!啓作だけでは飽き足らず、ロリっ娘までに手を出すか!どういう催眠術を使った!!教えデゥ!!」

最後の馬鹿には啓作と共にとりあえずボコしておいた。ちゃんと手加減はしているけどね。こんなくだらないことで大切な、共にバカをやれる友人を失うわけにはいかない。

目を閉じて決意を新たにしていると、声が・・・いや命が停止した。

失ったわけではなく停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

封絶・・・・・第二ラウンドのゴングは静寂として辺りに鳴り響いた。

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました~^^
実はちょっと困っていて・・・ヘカテーさん何ですけどタグにはヘカテー×悠二って書いてあるから色々としなくちゃな~って思っているんですがヘカテーの事で恋愛感情を知っているか知らないで進めるかでちょっと迷ってますwどっちかがいい~って言う希望があったら言って下さい^^
こんな駄文ですが感想や批判など、どしどし書いちゃってください
では次回でお会いいたしましょう。


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初心者≠弱者

まえがき
いや~本当に申し訳なかったです。。。予備校うんぬんでw
注意
今回の作品は今までの比ではないほどキャラクターがぶっ壊れています。
ゆえにサブタイトルからわかると思いますが(仮)ですw
この話はいつも通り一気に作ったわけではなく、時間の合間に合間に作ってたんで色々とおかしい所や読みにくい所があるかもしれません。
それでもいいって方はどうぞ~^^


 

 

 

ガシャンバキバキガシャゴシャバキン・・パキ

 

 

 

静寂に包まれた炎のドームに何かが壊れる耳障りな音が木霊した。

その音源地に秘色の髪をして白いマントを纏うものが居た。

フレイムヘイズ化した坂井悠二である。その悠二の眼前には先ほどまで共に戯れていた、友達だったものが散らばっている。悠二が右手に持っている錫杖トライゴンで横薙ぎった結果がこの惨状。

悠二は若干《・・》顔を曇らせてトライゴンを持つ手と反対の手を、振り返りながら自分の後ろの廊下に向ける。

 

 

(炎弾《フラムスパラート》)

 

その悠二の掌に秘色の炎が現れ、廊下を一直線に横切る。途中に居る同じように友達同士で笑い合い、そのままの形で止まっている生徒たちを、破壊に巻き込みながら反対の壁に当たり、壁を爆砕する。

悠二はそれを確認した後直ぐに、徒の気配がする自分の教室に向かって駆け出す。

この方法こそが悠二の人の守り方。徒に喰われる前に自らで人を壊す。いくら徒だろうと人の形で無い物から存在の力を喰らうことはできない。だからこその手段。そしてその修復に自分の存在の力を躊躇無く使える悠二だからこそできるやり方でもある。

 

 

 

悠二が友達を壊して(・・・)いる頃、教室ではシャナが口の端を少し吊り上げ教室の中心で窓を睨みながら立っていた。

「やっときた・・・」

その目は待ってましたと言わんばかりに爛々と輝いている。

そして戦闘に邪魔な自分の近くの(主に悠二の)椅子と机を蹴飛ばし、足を肩幅に開き、堂々と窓を正面に立つ。そして腰まである長い黒髪が、黒い大きな目が、灼熱の光を灯す。

 

火の粉が舞う中、黒いコートを纏い、右手に大太刀を携えた少女、天壌の劫火がフレイムヘイズ炎髪灼眼の討ち手がそこに居た。

直後後方から爆音が聞こえてきた。

「っ!?」

自分の気配探知が間違っていたのかとすぐさま振り返るが、何も起こらない。怪訝そうな顔をするシャナにアラストールが叫ぶ。

「前だ!」

またもや慌てて振り返る。そして何も起こらなく・・・無かった。

「トランプ?」

期待していた物と違っただけに気の抜けた声が出てしまう。

封絶の炎の中、窓の外に炎の光をエッジで反射させ、浮かぶものは長方形の遊具。

反転し見せた柄は、スペードのエース。

その宙に浮く一枚のカードから、何をどうやったのか二枚目のカードがはらりと落ちる。

それを皮切りに三枚目、四枚目、五・・・窓の外に次々とカードが現れ増殖していく。

やがてスピードを増し、目にも留まらぬ速さでカードの海を作る。

 

そして突然、今まで自由気ままに動き回っていたカードが一点を指向する。

フレイムヘイズ、シャナに向かって。

静かに漂っていた海は突如荒れ狂い、津波の如く窓ガラスをぶち破り、教室になだれ込んだ。

カードの刃の奔流がシャナの小柄な体を飲み込もうと、目前に迫る。

 

まさに目と鼻の先。その数cmもしくはmmに青い壁が現れる。

それだけではなく、シャナの周りを円形に青い壁が守護する。

触れたカードは、跡形も無く燃え(・・)上がり、数を減らす。

 

「これは・・・」

目の前に突如現れた青き炎、シャナは目を見開き、つぶやく。

知っている炎の色、人を散々からかってくれた嫌な奴、そして要りもしないときに手を出す変な奴。

(・・・悠二)

 

─シャン─

シャナを囲っていた炎が火力を上げ、シャナを円の端に、中心を廊下側へと拡大。そして教室を半分を幻想的な明るい水色で包み込む。

シャナと対極に位置する教室の入り口に秘色の髪をした人が白いマントそ翻し立っていた。

 

 

「今度は、助太刀が必要かい?」

二人目のフレイムヘイズ悠二がシャナに笑いかける。

 

 

 

シャナはチラリと悠二を一瞬見、視線を目の前の青炎、その奥のカードの激流に戻す。

今なお数多のカードが奔出し、壁に当たっては燃やされていた。

 

灼熱の光を灯すシャナの双眸がカードの流れの中心を見抜く。それに向けて体制を低く、太刀を両手で持ち右上段刺突の構え。

 

 

「いらないわ!」

 

 

言い終わるが早いか行動が早いか

 

瞬間

 

両足に溜めていた力が開放され赤き弾丸となり青壁を突き抜ける。幾多の生徒や机、他もろもろを支え続けていた頑強な床は突如受けた規格外(・・・)の力に耐えられず、悲鳴をあげ皹(ひび)裂ける。

シャナは速度を落とすことなく両手で持つ大太刀の切っ先をカードの流れの中心に突き立て、何かに刺さった感覚を感じると即座に太刀を抜く。

シャナが切っ先を突き立てるのと同時に宙を流れるカードの統制が乱れ、炎の壁を飛び出してきたシャナを囲み切り裂くといった一連の作業ができない。

それ以前にトランプの刃程度ではシャナの羽織っているコートを貫くことができないので、その行動自体が無意味なのだ。

 

 

 

「白・・・・か」

シャナが青い壁を突き破ったのと同時に、火力と範囲を狭めつつ教室の中心に向かう悠二が思案気な表情に観察者の目という研究者顔負けの顔をしながらつぶやいた。

もし悠二が池速人のような眼鏡をかけていたら、確実に、絶対に、キラーンという効果音を体のどこからか発し眼鏡を輝かせるだろう・・・

 

フレイムヘイズになるからといって、少女向け(今は成人男性も含まれるのか?)の魔法少女よろしく

服装が変化するわけではない、羽織る程度はあっても着ている物が変化すること無い。

ゆえに、学校に来ているシャナも悠二も羽織っているものは違えど中身は学生服なのだ。

極々普通の学生服・・・そんなものを着ながらアレだけの跳躍をするとどうなるだろうか?

そう・・・見えてしまうのだ。

 

何とは言わないが・・・

仮に悠二がただのミステス(宝具を内包した封絶内を自由に動けるトーチ)だったなら、早すぎて見えなかっただろう。

 

何とは言わないが・・・・

そこはフレイムヘイズ、動体視力も並の物では無い。それ以前に周囲の人がほぼ全員固まっているのでそれを見たらいいのではないか?などと年齢ゆえに考えたりはするが、

 

何とは言わないが・・・・・

それをやったら最後、右腕に付けている悪魔が光臨し間違いなく、冗談ではなく、文字通りに“ぐちゃぐちゃ”にされるだろう。

 

『・・・どういう意味ですか?』

真剣に思案している悠二に、意図がわからずヘカテーは怪訝そうに尋ねる。

 

「え・・?いやなんでもない。」

悠二は今見た映像を自分の脳内フォルダに保存することに夢中で、言い訳を思いつく暇がない。

『・・・・・』

もしヘカテーが顕現していたら、訝しげな顔をして悠二に詰め寄る事ができるのだが現状況で、それはかなわなかった

 

悠二がこのような事を考えている間も戦闘は続いていた。

トランプの流れの中心にいた何かから切っ先を抜いたシャナは、空中で態勢を整え大太刀を振りかぶり刀身に炎を纏わせ一気に振り下ろした。

悠二の炎とは比べ物にならない破壊の力を含んだ灼炎(しゃくえん)は周りにあるカードと酸素を取り込み大爆発を起こす。

炎と爆風は教室内を縦横無尽に駆け回り、後方にいる悠二にも襲いかかろうとしたが悠二の周りに張られている青い炎に防がれた。防御に主を置いている自在法なだけに、外からの攻撃

に対しては強いのだ。

爆炎と爆風が薄れたころ悠二が目にしたのは、教室の端に悠然として立つシャナと、それとは対照的な教室の姿。

先の踏込でも傷ついたと言うのにさらに追い打ちを食らっていた。傷に塩を塗るどころではない傷にナイフを突き刺すような所業だ。

床は焼き剥がれコンクリートがむき出しになり、黒く燻っている。周りにあった机や椅子は原型を留めている物がほとんどない。

封絶内では人でも物でもいくら壊しても修復できるが、いつも見慣れている光景なだけにさすがにいい気はしない。

 

「ここまでしなくても・・・・」

『凄まじいですね・・』

両者からその様な言葉がでても仕方がないだろう。

悠二は苦々しい表情で周りを見て、そして、シャナを見る。その時初めてシャナの持っている大太刀の切っ先に何かが引っかかっている事に気づいた。

昨日、悠二が庇ったために取り逃がしてしまった人形の燐子。

人形は無残にも肩からバッサリと切られ、切っ先を胸に深くめり込ませながら太刀の先に掲げられている。

その腹には風穴が空き、白くはみ出た綿と共に火花を流血のように振り撒いて、シャナの初撃が的確に当たっていた事を証明している。

 

「う・・ぎぎ・・・が」

人形が口から低い呻きを漏らす。冷静に考えてみれば少し不思議である、昨日の燐子も苦悶の声や悲鳴を上げていたが果たして道具に痛みなどあるのだろうか?

燐子の制作過程の副産物なら仕方ないのだが、痛みを付けないほうが道具としてはいい仕事をすると思われる。

シャナは、人形に何か話しかけようとしたが途中で止め、周りを見渡す。

いつの間にか人形から散っていた花火が地面を飛び跳ね、シャナを取り囲んでいる。飛び跳ねているうちに、なぜか大きくなる火花がシャナを中心に回り始める。

「う、くくく。。。」

呻き声をいつの間にか忍び笑いに変え、傷口から大量の火花を放出した。その火花の一粒一粒がマネキンの頭の形を作り人形と合体。

そして火花からできた首がいくつもくっつき人形を中心にして巨大化していく。中心に人形が入っているが首玉再臨。

シャナを取り囲んでいる火花も首に変化はしたものの人形にはくっついておらず、依然シャナを中心に回り続ける。

突如、首の一つがくすくすと笑いだす、それに呼応して首玉やシャナの衛星と化している首もくすくすと笑いだす。

異様な光景が、教室を包み込む。普通はあんまりな光景に腰を抜かす|乃至≪ないし≫唖然として固まってしまうが

もうとっくに見慣れてしまった悠二とヘカテーはそれにたいし反応すらしない。

 

「シャナ、体を守って」

いままで教室の中心付近に、青い炎を張り傍観(・・)に徹していた悠二がふいにシャナに言う。

 

─シャラン─

 

悠二が右手に持つ錫杖トライゴンを床に打ち付け鳴らすと、今まで悠二の周囲を囲っていた青い炎が飛散、及び複数に分かれて収束。

光球を作り出す。

 

─シャラン─

 

「星(アステル)よ!」

悠二がトライゴンを真っ直ぐシャナに向けて叫ぶ。

同時に悠二の周りを浮遊していた光球が、それぞれの目標である首玉に光の尾をを引いて走る。

 

着弾。

「ギャアアアアア!」

「ぐううぅぅぅ!」

「ぐあああああ!」

 

それぞれの首がそれぞれの叫び声や苦悶の声を上げ、爆砕する。

爆風による砂埃が晴れた時、中心には・・・

 

「ゴホッゴホッ・・・呼びかけと・・行動の間が、ゴホッ・・短い!」

爆炎や爆風は黒いコートで防いでいたものの、舞い上がった砂埃によって苦しめられるシャナがいた。

 

「あ・・・ごめん・・」

「ごめん・・・じゃ、すまないわ!!」

悠二はトライゴンをおろしつつ謝罪するが、埃まみれになったシャナの怒りが収まる訳もなく、足を地面に打ち付け両手をふるい体全体で

怒りを露わにする。

 床が可哀想だ。

 

「うふふ、すごい爆発だったね。こんにちは。おちびさんにのっぽ君、逢魔が時に相応しい出会いだ」

と突然韻を浮かせた声がかけられた。別に悠二が長身かと言うとそうではなく、対比物であるシャナが小さいために悠二が大きく見えるのだ。

 

壊れた窓の奥、長身の男が純白のスーツを着こなし、その上に同じく純白の長衣(ちょうい)を纏い浮いていた。

純白の長衣と浮いていることで、シーツのお化けを彷彿(ほうふつ)させる曖昧な存在。

触れれば輪郭がかすれそうな、線の細い美男子。声は独特な韻を含み、壊れた弦楽器のようだ。

 

悠二もシャナもお待ちかねの紅世の王。だが・・・

 

 

「だから・・・シャナなら防ぐって思ってたんだよ!それにもう謝ったじゃないか!」

「あんな至近距離から打って、謝ってすむと思ってるの!? それでも特別に譲歩して許してあげるから、一週間私にメロンパン買ってきなさいって言ってるの!」

「それ全然譲歩になってない、むしろ逆(ry!」

「うるさ(ry!」

「(略)!」

「(略)!」

・・・・

・・・

・・

二人は色々と忙しくて全く気付いていなかった。当然こんな言葉の暴風雨に曖昧な存在による韻の浮いた声など通る筈もない。

 

「あ・・あの・・・」

完全に蚊帳の外である王は予想もしていなかった事態に茫然としてしまい、隙だらけの敵を攻撃することさえ忘れている。

相変わらず韻の浮いた声だが明らかに先ほどのような自信は見られない。

 

『悠二!いいかげんにしてください!敵です!』

『いい加減に落ち着け!敵だ!』

 

このくだらない争いに終止符を打ったのは、やはりというべきか其々の契約主である。

「え?」

「ッ!」

その言葉で両者は目が覚め、窓の奥にいる姿を確認し驚きの声を上げる。

シャナはとっさに太刀を構え王を睨み戦闘態勢に入るが、悠二は王という違和感に戸惑い、体が動かない。

 

「あんたが主?」

シャナが今までとは違う凛とした声で問う。

 

「・・・・そう、“フリアグネ”、それが私の名だ・・」

返す男は声に力がなく、何故か(・・・)戦う前から疲れているようだった。

 

アラストールが若干疲れた声で投げやりに言う。

『“フリアグネ”・・・ああ・・フレイムヘイズ殺しの“狩人”か・・』

フリアグネと名乗った男はアラストールの声色で若干元気を取り戻す。

「殺しの方で、そう呼ばれるのは好きじゃないな。本来はこの世に散る“紅世の徒”の宝を集める。それゆえの“狩人”の真名なのだけどね・・・」

その少し光を取り戻した目がシャナの胸元のペンダント“コキュートス”の中を射抜こうとがんばっている。

「そういう君は、我らが“紅世”に威名轟かす“天壌の劫火”アラストールだね。直接会うのは初めてかな。こっちの世界に来たとは聞いていたけど・・・・君の“フレイムヘイズ”も初めて見たよ」

次いで気だるげにシャナに目をやる。

「・・・・ふぅ・・・これが君の契約者“炎髪灼眼の討ち手”か・・・噂っていうのは本当に噂なんだね・・・」

何故か勝手に哀愁を漂わせ、ひとりごちる。

 

フリアグネが遠い世界へ行っている間、悠二は違和感に慣れヘカテーと会話していた。

「宝を集めるか・・・紅世の徒でも収集家ってのはいるんだね・・・」

『宝具にはかなり役に立つ物も数多くありますからね。でも“狩人”フリアグネの場合収集家ではなくこちらの世界で言う宝具ヲタク、宝具萌え~に近いと思われます。』

「・・・・・・・・・・・・宝具萌え・・ね」

『そうです』

「・・・・・・・・・」

ヘカテーの口調はいつも通り淡々としいたが、明らかに引っかかる単語がある。

悠二は中学の頃と違い、学校で授業ではないにしろ楽しく過ごしてそれに伴い様々な知識や人間関係も増えた。

中学の時冷め切って、養いきれなかった感情が次々と生まれ、成長していく。

だが、それは一緒に学校に行っていたヘカテーも同じだったと言うことだ・・・。

 

「さて・・・君だね。私の大事な燐子を散々壊してくれたフレイムヘイズは、一体誰の・・・いや待てよ。その色とその声は・・・」

遠い世界から帰ってきたフグネリアは悠二を見て、自分の過去の記憶を探る。

「驚いたね・・・。“頂の座”まさか君が人間に力を貸しているとは・・・その子よっぽど重要な物(・)なのかい?」

『何が言いたいのですか。フリアグネ』

フグネリアの言葉にヘカテーの声のトーンが少し下がる。悠二も僅かながら目つきが鋭くなり、トライゴンを握り締める。

「ふふふ、そんなに殺気立たないでくれ、ただ興味深いと思ってね。創造神の人形(・・)である君がそんな行動を取っている事が」

フグネリアの薄い切り口のような唇の両端が持ち上がる。

「やめろ!ヘカテーは人形なんかじゃない。お前の燐子と一緒にするな!」

悠二は我慢できなくなり、フリアグネに向かってトライゴンを振り叫ぶ。

「一緒になんかしてないさ。・・・そうだね、私の方が少し優秀かな」

少し前の疲れはなんだったのか?今は目はギラギラと輝き、口はこれ以上釣りあがらない所まで上がっている。

「お前・・!!」

悠二の目には憎しみの光が煌々と燃え、歯を食いしばり、今にも飛び掛りそうだ。

『悠二!やめてください。落ち着いて・・』

ヘカテーが悠二の腕から必死に叫ぶが悠二の耳に届かない。悠二の怒りに呼応してヘカテーの契約者の証である明るすぎる水色の炎が体から火の粉となって辺りに振りまかれる。

ヘカテーが止められず、フリアグネに飛びかかろうとする瞬間。

悠二の視界が黒く染まる。

シャナが悠二とフリアグネの間に、悠二を背にして立っていた。

『言動に惑わされるな坂井悠二。多数の宝具を駆使し、フレイムヘイズを幾人も屠っている強力な“王”だ。成りたてのお前には荷が重い』

意外にも悠二を諌めたのはシャナの契約主であるアラストールである。

「邪魔。下がって」

シャナから非情な一言。だがその非情な言葉が悠二の頭の血を下げた。

今まで流れや怒りで麻痺していた、本来の感覚が徐々に戻ってくる。それと同時に自分がどれほど馬鹿な真似をしていたかがわかる。ほんの少しでも集中すればわかるであろう自分との絶対的な経験と力の差。

嬉々としてシャナに手を貸した時の自分の言葉が頭の中を反芻し、悠二の心を蝕む。

(何が助太刀だ・・・逆に足手まといに・・・)

先ほどとは違う理由でトライゴンを握り締める。

 

「ヘカテー・・・ごめん・・」

対峙しているシャナとフリアグネ。そのシャナの後ろで悠二は沈痛な顔でヘカテーに謝った。

『自分と敵との力の差を見極められなければ無駄死にします。今度は気をつけてください』

ヘカテーが悠二を叱る。今の悠二にはヘカテーのその言葉がそのまま心に響き渡り、深く刻まれた。

「・・・ご『でも・・・ありがとうございました』・・・・??」

悠二が二度目の謝罪を言うのに被せてヘカテーが言った。

『私のために怒ってくれたんですよね?』

いつもは淡々としているヘカテーの言葉に少しながら感情が篭る。

「え・・・そ「マリアンヌ!!」ッ!?」

今までシャナと対峙して話をしていたフリアグネが急に調子っ外(ぱず)れな声を上げる。その声と同時に今までシャナ背後に居たと言うことで怠っていた警戒を瞬時にする。

フリアグネの顔は悲しみの色に染まり再び叫んだ。

「ああ、ごめんよ、私のマリアンヌ!こんな怖い子達と戦わせてしまって」

妙に芝居がかっている動作で振られた、やはり純白の手袋の先に、一枚のカードが挟んである。

ぴ、と指の振りと共にカードが浮き、

「なっ!?」

「ん?」

シャナと悠二の周りで焦げたカードが一斉に宙を舞う。

その焦げたカードはフグネリアの指先に浮かぶ一枚のカードに収束し、元の一枚のカードになる。ただし半分以上が焦げており、もうトランプとしては使えないだろう。

それを見たフリアグネは表情を変え驚嘆した。

「へぇ、私自慢の“レギュラーシャープ”をここまで、消し炭にするとは」

ただの燃えカスになったカードを指先で取り、マジシャンよろしく袖に滑り込ませる。

もう片方の手には何時のまにか、ぼろぼろのびりびりになった人形マリアンヌが大切に抱かれていた。

フグネリアは再び表情を悲しみの色に戻し愛する人形の有様を見つめ。

「ああ、全くいつもフレイムヘイズはひどいことをする」

マリアンヌが口を無理やり動かし詫びる。

「申し、訳あり、ません、ご主人、様」

「謝らないでくれ、マリアンヌ。君を行かせた私も悪いんだ。それにフレイムヘイズがまだ同じ所に二人もいるなんて思わなかったんだよ」

フリアグネはひどく優しい笑みを浮かべ、マリアンヌに息をかける。すると、先ほどまで今にもばらばらになりそうなマリアンヌの体が光輝き、ぼろぼろの姿になる前戻った。元々くたびれてびれていたのか、新品同様とまでは行かなかった。

「さぁ、これで元通りだ。慣れない宝具なんてもたせて、ごめんよ」

フリアグネは猫なで声で愛おしそうにマリアンヌを抱き寄せ頬ずりする。

「そんな・・・身に余るお言葉です。ご主人様、でも今は・・」

マリアンヌが僅かに潤んだ目でフグネリアに言う。

それにフリアグネはうんと答えようやくシャナ達のほうへ顔を向ける。

 

その奇行を見ていた悠二はヘカテーに

「ヘカテー・・・さっきの言葉修正するよ」

『?どの言葉ですか?』

色々と気落ちした声で呟く、

「フリアグネは宝具萌え~じゃなく人形・・フィギュア萌え~だ・・・」

『フィギュア萌え~ですか・・・』

実際に持っているのはフィギュアじゃないのだがそこらへんは割合した。

『宝具とどう違うんですか?』

ヘカテーは変更の意図がわからず悠二に純粋に聞く。

「あれ(・・)を人間が普通にやってるかやって無いかの違いだよ」

『・・・・本当なんですか?』

悠二は遠い目をして語っているが、ヘカテーはなにやら認めたくないようだ。

「ヘカテー」

『はい』

「世界はね・・・広いんだよ」

『・・・・そう・・みたいですね』

ヘカテーの姿は見えないが恐らく、悠二同様遠くを見つめているであろう・・・。

 

 

悠二とヘカテーが遠くを見つめている間。シャナとフリアグネの話は続いていた。

「ふふふ、昨日と今日でわかったけど、おちびさんの方はフレイムヘイズのくせにまともに炎が扱えないようだね。もう一人の方はまだ未知数だったけど・・ありがとうアラストール、君のおかげで謎が解けたよ」

シャナはフリアグネの前半の言葉に過敏に反応していた。一方アラストールは自分の言葉のどこに落ち度があったのか、必死に考えている。だがそれをフリアグネが丁寧に説明してくれた。

「彼はこの町に急に現れた、この町の周囲は監視してるつもりだったからそれでも十分驚いたけど、それ以上に彼の戦い方がわからなかったのさ。」

フリアグネは続ける

「燐子を派遣して調べさせても、体外の燐子は炎弾で処理されてしまう。炎弾しか使えないのかと思い少し強めの燐子を送るとあの杖を出し新たな自在法で倒されてしまう。そしてその杖は何なのか確認する前に直ぐしまってしまう」

「そして今回もそうだ。また新たな自在法を出して実力が未知数だったのさ。だけどそれが“フレイムヘイズに成り立て”と契約主が“頂の座”なら全部繋がる」

「つまりそういうことだよ。感謝するよ“天壌の劫火”アラストール」

フリアグネは満足そうな顔を浮かべシャナの首に釣り下がっているペンダントを見る。

『むう・・・だが契約主が誰なのかは炎弾の色を見ればわかったのではないか?』

確かに自分のせいで敵に情報を与えてしまったアラストールは、呻くしかできない。だが一応最後の抵抗という名の責任逃れをした。

「ふふ、確かにね。でも確信がなかったのさアラストール、君もそうじゃないのか?あの頂の座がフレイムヘイズになるはずが無いってね」

『く・・・』

自分もヘカテーがフレイムヘイズになるわけが無いと警戒して、悠二を監視しているので否定の仕様が無い。

「ふふ・・・じゃあもう十分情報は集まったし今日はここら辺でお暇させてもらうよ」

そういってフリアグネは踵を返そうとする。

 

「待ちなさい!」

去ろうとするフリアグネをシャナが止める。シャナ自身、自分を侮辱されたことに腹を立てていた。

「何か用かい?無能なフレイムヘイズ君」

フリアグネはめんどくさそうにだが律儀にシャナの方を向く。

「誰が無能ですって?」

シャナは感情を隠そうともせずぶつける。

「耳が聞こえないわけじゃないだろ?君だよ“炎髪灼眼の打ち手”」

「無能かどうか、見せてあげるわ・・・」

シャナはそういい太刀を両手で右下段に構え跳躍の準備をする。

「ずいぶんと無粋なことをするね。やめておいたほうがいい炎が使えないって事は自在法が使えないことととほぼ同義だ。今ここで空中戦はつらいだろう?ただの剣士さん」

フリアグネは心底呆れた顔でそう言い放つ。

そして悠二に視線を向ける。何故かものすごく可愛そうな物を見る眼で見つめ返されるが気にしないことにした。

「別に急ぐことも無いし、ふさわしい状況をつくってからまた伺うよ」

そういい残し、元々細い輪郭がさらに細くなり、背景と同化して消えていった。

 

「くううううううううううう・・・・・」

シャナは言われたことが本当に悔しいらしく、歯を食いしばり柄を握り締めていた。

その様子に悠二は関わらない方がいいと直感的に思い封絶内を修理する事に専念しようとする。

体は事務的に自分の存在の力を使い、教室と友人を修理していく。

だがその心中では今日あった様々な事が去来する。自分の弱さ、そしてシャナ無しでは王を倒せない事

如何にして自分達の力を駆使してあの王を倒すか。考えども答えは直ぐには出ない。

周りでは自分達の日常風景が戻ってくる。床が直り椅子が直り、自分が壊した人も元通りに・・・

昼休みの後には普段(・・)通りの5限6限が待っている。

 

そして封絶が・・・・解けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ・・・面白いね。私が何時襲ってくるかわからないのに、彼はなんで自分の存在の力を躊躇なく使っているんだと思う?マリアンヌ」

「申し訳ありません。ご主人様、私にはなんとも・・・」

「ふふ・・・ごめんよマリアンヌ私もわからないからね・・・もうちょっと調べてみよう」

 

 




どうでしたか?やばいでしょw
批判、感想、誤字脱字報告、質問などドシドシ送ってください~。
尚ヘカテーの恋愛感情云々はまだまだ募集中ですwそちらもお願いします


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グレネードランチャー(GLR)計画

いや~~~~~~~まいった・・・
寛大すぎる読者様のせいで作者がまたもや、やってしもうたぞw
今回もかな~~~~り壊れてます。原作のキャラが好きな人は見ない事をお勧めします。
それでも大丈夫bっていう人はどうぞ~~~↓


 

 

 

「・・・であるからしてXには3がそしてYには5が入るわけだ。わからないやつは・・・・」

 

 

普段どおりの授業。皆自分や教室などが半壊していたなど思いもせず、5限目の数学を受けている。

今のところ何の問題もないのだが、悠二の隣には何故か(・・・)すこぶる機嫌の悪い不発弾が設置されていた。

軽く触れれば誰かまわず暴発しそうな・・・いや触れずとも自然爆発しそうなほどの不機嫌オーラを辺りに散らして、教室は午前中とは違う空気で静まり返っていた。

そんな中悠二は、背筋がゾクゾクするのをなんとか意識の外に追い出し自在法ノートにペンを走らせている。だがやはりいつものように集中することは出来ず、隣に居る危険物にに目をやり先ほどの戦いに思いを馳せていた。

 

(さっきの戦い・・・なんで僕の机と椅子だけ原型を留めないほど破壊されていたんだ?それとシャナは白だったけど・・・ヘカテーは何色なんだろ?やっぱり髪と合わせて水色とか? いやその法則だとシャナが赤や黒になってしまう・・・というより、そもそも紅世の徒って下着つけてるのか?もしかしてノー・・・いやいや落ち着け坂井悠二。煩悩に支配されるな心を静かに、頭はクールに、素数を数えろ 1、2・・・)

 

 

 

・・・・・訂正。最初から戦いに関する思考など欠片も入っていない、動き続けるペンが書き連ねるのはなにやら怪しげな言葉と様々な色。

深刻な表情で悩んでいる悠二の顔とは裏腹に意味のわからない語句が並ぶノートに、ヘカテーは一人悠二の腕輪の中で頭を悩ませていた。

 

そんなこんなで5限、6限と授業がおわり現在放課後。

 

『あの・・・悠二。もう学校終わりましたよ?それとさっきから何を考えているのですか?』

学校と言うことでヘカテーが小声で悠二に話しかける。

「いやちょっとまって・・・今宇宙の真理が僕によって解き明かされようと・・・」

何をどう歪曲したらそのような思考に行き着くのだろうか?

『・・・・そうですか。とりあえず宇宙の真理は解き明かされることを望んでいないと思うので、帰ってきてください』

間を置いてから発せられたヘカテーの声は驚くほど冷静であった。まぁ反応してあげたのはヘカテーの優しさ故だろうが・・・普通の人ならばスルー乃至、心の壁形成だろう。。。

 

その眠り姫悠二を起こしたのは妥当?と言うべきか騎士(ナイト)啓作とその他(速人、栄太)であった。

「おい、悠二。学校終わったから一緒に帰ろうぜ!」

その美声は思考の海に呑まれていた、悠二を引き上げるのに十分な力を持って脳内を揺さぶる。

「ん・・ああわかった。まってて準備する」

そう言い悠二は机の上と中にある教科書やノートを鞄の中に入れる、その時偶々視界の端にシャナを捕らえた。もうとっくに片付けを済まし、帰ったとばかり思っていたが教室の入り口に寄りかかりこちらを横目で見ている。

 

悠二がシャナを視界の端から中央に移そうと首を回した瞬間、

「おい、悠二はやくしろよ~~~~」

栄太が遮るように悠二の顔の前に立ち、待ちくたびれたとばかりに言い放つ。

悠二は栄太の言葉を無視して背もたれから背中を反らしシャナを捜す、だが先ほど居た場所にシャナはもうおらず周りを見てもシャナらしき小柄な生徒は教室には居なかった。

「?どうしたんだ?」

栄太は自分が無視されたことより、悠二が何を探しているのかが気になり振り返りながら尋ねる啓作も気になるらしく、悠二の視線の先を探る。だが悠二自身が既に目標を見失っているので二人も悠二が誰を、もしくは何を見ていたかはわからなった。そう二人は・・・

だがここにはもう一人いる。メガネマンこと池速人、彼は悠二とは離れた位置に居たので、悠二が何を探しているのかを見て知っていた。

「ゆかりちゃんなら、今帰っちゃったよ」

声では普通に振舞っているが、顔は少しにやけ眼鏡が輝いている

「っ!」

「ほう」

「へぇ~」

三者三様の答え、メガネマンの活躍により一人は顔を少し歪ませ、他の二人をニヤケマンに代えさせた。

当然歪ませたのは悠二でニヤケマンのお二人は啓作と栄太だ

「なんてことだ・・・・僕は一人の友人の密やかで甘やかな恋路を邪魔してしまったのか・・・」

栄太が右手で顔を覆い天を見上げながら、芝居がかった口調で嘆く。手で覆い切れていない口元がはっきりと笑っているのが余計癪に障る。

「そういえば悠二5限も6限もなんか上の空だったよな・・・それでか・・・」

啓作が腕を組み頷きながら言う、こちらも当然口元が笑っている。

「昼休みでは、そんな気無いって言ってたのに・・・やっぱり嘘だったんだね~」

メガネマンが眼鏡の光度をさらに上げ完全にニヤつきながら悠二の近くに歩いてくる。

「・・・・・」

まったく見当違いもいいとこなのだが、悠二はどこをどう否定すれば良いのかわからず・・・というよりもはや諦めて椅子にもたれかかったまま沈黙した。どうせ否定しようと意味はない、仲が良い友達だからこそこうなった時、やられてる本人が何を言おうと信じてもらえず結局周りが飽きるまで続くのだ。

自分もやったことが在るだけに悲しいほど現実が見えていた。

 

「まぁ俺はそうなると思ってたけどね~お前ら仲よかったしな」

栄太が芝居がかった口調をやめ、悠二の頭を軽く叩きながら言う。

「?・・・田中お前、昼には仲良くはなかったって言ってなかったか?」

栄太の軽口を啓作がニヤ顔をアレ顔にして指摘する。

「あれ?そうだっけか?」

「うん。僕も聞いてたよ、たしかに仲が良いとは言ってなかったね」

メガネマン池速人が啓作を支持する、その時悠二は少し疑問を持っていた、栄太の言い間違えなんてしょっちゅうあることだし、そんなことを指摘するより皮肉にも自分を弄っていたほうが絶対楽しいと思う。なんで態々そこを指摘して会話を変えるのかそこが気になった。

決して弄って欲しいとか寂しいとかは断じて思ってない!

 

絶対に思ってないさ!

 

・・・・・

だがその答えは悠二そっちのけの3人の会話で解決することになる。

 

「あんまり気にしてなかったけどさ・・・入学してきたときのゆかりちゃんって覚えてる?」

栄太が珍しく少し真剣な顔をして二人に聞いた

「え・・・・?あ・・・そう言われて見れば・・・あれ?・・なんかぼんやりとしか思い出せない」

速人が困惑したような憔悴したような顔で栄太の問いに答える。一応学級委員長をやっているので、普段から多くのクラスメイトと接しているはずなのだが、ゆかりだけ(・・)がなぜか薄ぼんやりとしている。

「そうだよな・・・アレだけインパクトあるのになんでだ?・・・というより何時から?」

啓作も真面目に考えながら、的確に栄太に答える。

「そう!それだよな!・・・・何時からなんだ?なんか最近って感じはするんだけど具体的に何時からかってのがホント曖昧なんだよな・・・悠二お前はどうなんだ?」

栄太は待ってましたと言わんばかりのジェスチャーで表現し、今まで空気同然として扱ってきた悠二に話を戻した。

「あれ?そういわれてみればそうだね。何時からなんだろ・・・僕も記憶が曖昧(・・)で・・・」

悠二もさも同じことを思ってたと言う様に答えた。頭の中では2人の平井ゆかりがばっちりと浮かび、理由もわかっているのだが・・・言うわけにはいかなかった。

 

「ん~まぁ悩んでもしかたねぇよな~ゆかりちゃんはゆかりちゃんだし・・・・そろそろ帰ろうぜ、周りほとんど帰っちまってるよ」

言いだしっぺの栄太がこの会話を終わらし、本来の目的である一緒に帰るという行事に帰着させ教室のドアへと歩き出す。なるほど周りを見るともうほんの数人しかおらず、日は西に傾き教室を赤く染めていた。速人も啓作もそれに続き教室のドアへと向かう、悠二は椅子から立ち上がりとっくに荷造りし終えた鞄を手に持ち自分の隣の机を見て止まる。想像とし椅子に座っているのは、フレイムヘイズではなくトーチとしての平井ゆかりの姿、「おーい悠二、何してんださっさと帰るぞ~」消えてしまった、いや消されてしまった物、だがトーチとして生きていたゆかりは悠二の中に思い出として残っていた。そう・・入『悠二、友人が呼んでますよ』・・・

「え?・・あ、今行く!」

思い出に耽りそうになった悠二をヘカテーが呼び戻し、廊下で鞄を頭上でブンブン振っている栄太の下へと走り出す。

 

「それでさ・・・・ここからが本番なんだよ・・・・」

・・・所かわって下校中の通学路。その交差点で栄太が何やら声を低くして、だが力の篭った声で三人に話す

「GLR・・・スナイプポイントをついに、発見した!」

最初の方は声を抑えていたのだが、段々力が入り最後にいたっては鞄を持っていない右手で胸の前に握りこぶしを作る興奮ぶりとなった。

「ほう~~さすが田中・・・期待を裏切らない男だ!」

啓作も興奮して栄太の背中をバシバシ叩きながら叫ぶ。彼らの口調からして大分前から色々と画策していたようだ。

だがここに居るのは学級委員長であり優等生の池速人。よくわからないが良いことではないことは確かな行動、彼がそんな行動をゆるすはずが・・・

「君達・・・このグレネードランチャー計画がばれたら僕達は一巻の終わりだ、はしゃがず入念な検証の元、実行しよう」

なくなかった・・・。メガネマンはノリノリでその眼鏡を右手の人差し指で押し上げ、落ち着いた口調で二人を嗜めた。彼が首謀者なのだろうか?

「隊長・・・・指示をどうぞ・・・」

池が悠二を見て、言った。・・・・やっぱりだったか・・・

 

「池・・・明日のミッション遂行予定時刻は何限目だ?」

悠二が威厳に溢れた声で池に尋ねる。

「・・・・四限目にございます。」

池が間を見計らい・・・答えた。

「ふむ・・・啓、お前は栄と共に朝の段階で下見を、池、お前はその時間お前の権限を使ってその場所に他の生徒を近づけさせるな。」

「ハッ」

「はっ」

「フッ」

答え方はバラバラだが心は一つになっているようだ。

「明日。。。俺達の長年の苦労が実る・・・皆・・我らに勝利を!」

悠二が胸に手を当てて叫ぶ。

「「「我らに勝利を!」」」

それに続いて啓作や栄太、速人が叫ぶ。ついになにかの組織が何かのために動き出した。

悠二の右腕にいるヘカテーはまたもや訳がわからない。まぁ実際ヘカテーにばれないように悠二がやっているわけなのだが・・・

 

 

GLR・・・・girl's locker room   通称グレネードランチャー

 

 

 

つまり。。。。単なる覗き・・・最低の奴らだ。

 

4人が交差点で謎な儀式を終えた後、それぞれの家へと歩みを進める。夕日に染まった道を歩く後姿はまさに戦場に赴く兵士を彷彿させる堂々たる漢の歩み。その中で何故か悠二だけは家とは違う方向へと足を進めていた。

『悠二?・・・どこへ行くのですか?』

ヘカテーが当然の疑問を口にする、それ以上に聞きたいことが山ほどあるだろうが・・・すでに色々と諦めていた。

「ん?ちょっと買い物をしようと思ってね」

先ほどとは違う軽い口調でヘカテーの問いに答え、繁華街へ続く道を進む。

『この前のゲームですか?』

「・・・・・・いやちがうよ」

悠二はそのことをすっかり忘れていたのだが、ヘカテーの言葉で思い出し2秒の葛藤の後結論を下した。

『では、なにを?』

「いけばわかるさ」

さらりと答え更に足を進める。目の前には既に繁華街の煌びやかな装飾が、耳には煩わしくも活気の出る喧騒が聞こえている、さすがに夕方とだけあって人が多い。この繁華街には食料品店も数多くあるので夕飯の買い物に来る主婦や悠二のような学生、他にも犬の散歩や母親と逸れて泣いている子供など様々な人が居る。

そうした人ごみを掻き分け繁華街を中心まで進み右の道に入る。本道では無いので人通りは比較的に少なくイルミネーションもほとんどない、昔ながらの道、その通り沿いに少し古びた外装のパン屋さんがあり悠二はその中に躊躇無く入る。どこの地域にもある穴場、母千草お墨付きの店。

 

名前は神創(しんぞう)ベーカリー

 

 

「いらっしゃいませ~」

中では三十五、六程度のおば・・・おねぇさんが愛想良い顔で出迎えてくれた。その年齢にしては美人で巷では少々噂になっているようだ。だが悠二の射程範囲からは全然(・・)遠いので特にそれに関する感想は無い。時間が時間なので普段はたくさんのパンが置かれている棚には数えるほどしかパンが残っていない、穴場とは言っても主婦の情報網は侮れない。学校で言う男子の可愛い女の子情報網のようなものだろうか?入学と同時に上級生による厳正な審査の元発表される男子の裏情報網で、上位にランクインすれば次の日に何故かさわやかな人の良い先輩が学校を案内してくれたりするそうだ・・・

 

悠二は入り口のそばにあるプレートとトングを取り、目的であるパンの前に近寄るが、その棚にはもうパンはなく、“ふわふわめろんぱん”と書かれた紙が一枚、空になったプレートの前にたてかけてある。

目的のパンが手に入らなかった悠二は、肩を落とし諦めようと体を反転させた時、違う棚に一つのパンと紙に書かれた文字が、目に飛び込んできた。

 

 

“ウニョールくりぃむパン”

 

 

「・・・・・・・・・」

 

その棚に一つぽつんと残されているパン。本来ならこれでいいかと直ぐ手に取るのだが、何故か取るのをためらってしまう、そんな響きを持った怪しげなクリームパン・・・クリームパンなのか?

色々と疑問はあるが一つしか残っていないと言うことは、やはり売れていて美味しいのだろう・・・だが悠二は奇妙な感覚に襲われていた。買ってしまったら取り返しのつかないことになるようで成らないような・・・中途半端な感覚。

 

それでも意を決してトングでそのパンを掴み自分のプレートに移す、そのまま店員さんのいるレジへパンを持って行き、お金を払い「ありがとうございました~またどうぞ~」と言う言葉を後ろで聞きながら店をでる。

 

「・・・・っはぁ、・・はぁ・・・はぁ」

意を決したからと言って息を止める必要は無いと思うのだが、何故か悠二は息をすることを忘れていた。

なぜたかがパンを買うことだけでこのように体力を消費しなければいけないのか?それは悠二本人が一番知りたかった・・・

 

その夜。

 

時刻は悠二の時計が狂っていなければ10時を半分回ったところ、すでに夕食もお風呂も済ませた悠二がベットに寝っ転がりながら本を読んでいる。

本の題名は“神の軍略”

 

 ・・・・・・どんな本だ?

 

 

『悠二・・・・買ってきたパンは食べないのですか?なるべく早く食べたほうが言いと思いますよ』

悠二の腕から外され、机の上に置いてある腕輪からヘカテーが悠二に言う、実際に買ったパンは未だ鞄と共に机の脇に置いてある。

「ん~・・・修行の後に食べるよ・・・」

悠二は仰向けで本を読みながら、ヘカテーに緩んだ声で返す。

『ですが・・・退く気配はまったくありませんよ?』

「・・・そうだね~・・・・」

相変わらず気の抜けた声で返事をしつつ体を起こして本を自分の脇に置く。

「ふぅ。。。だったら強制退去してもらうかな」

『出来るんですか?』

「出来ないこともないよ」

悠二は言葉とは裏腹に自信ありげに断定した。

そしてベットから立ち上がり、閉めていた窓を開けた。

 

 

同時刻屋根の上

 

「普通(・・)の・・んぐ・・学生ってひう・もぐもぐ・・のも疲れるひょね・・・」

シャナがお決まりのメロンパンを頬張り、屋根に胡坐をかいてアラストールと話している。

『・・・・そうだな・・・とりあえず口に入ったものを食べ終わってから話しかけてくれ・・』

・・・・またもや訂正。一方的に話しかけていた。

「んぐ・・ごくん。・・・普通の学生ってのいうのも疲れるものよね・・・」

シャナがアラストールに言われた通りメロンパンを胃に押し込んでからもう一度言いなおした。

『集団で勉強するというのが、初めてだからではないか?』

今度はきちんと文章に対する返事をした。

「勉強?あんなのとっくに知ってて学ぶことなんて何もないわ」

シャナが今日あったことを思い出し、アラストールに強く言い返した。

『たしかにな・・・だが集団というのに慣れることはできるはずだ』

「あんな連中と慣れ合うつもりなんてまったく無い・・・・んぐ・・」

アラストールの言葉にシャナは即答を吐き捨て、乱暴に食べかけだったメロンパンにカプつく。

「モグモグ・・。。ごくん・・・昼のも美味しかったけど、こっちのは特に美味しい・・」

イラついていてもアラストールに言われたことを律儀に守るシャナ。だがそのイラつきもメロンパンにカプ付くと霧散してしまうようだ・・・単純なのかそれほどまでに美味しいのか・・・

シャナが脇に置いているメロンパンを入れていたと思われる袋には・・・

 

神造ベーカリーの文字が・・・・

 

 

 

「そんなところで食べてないで、中に入って食べれば?」

窓が開いた音が聞こえていたので驚きはしない。シャナの目の前に悠二が立ってた。

「・・・・・そうさせてもらうわ・・・」

悠二の言葉に邪念が感じられない事を確かめたシャナは、そう言い右手で神造ベーカリーの袋を持ち、口にパンを咥え屋根から悠二の部屋へと入る。

悠二はシャナが自分の部屋に入ったのを確認した後続いて部屋に入った。

 

『こんばんわ、アラストール』

ヘカテーが皮肉めいた声でアラストールに話しかける。

『・・・・ああこんばんわ、ヘカテー』

アラストールも声を低くして答える。会話だけ見れば普通のあいさつに見えるのだが、なぜかその場にいるとペンダントと腕輪の中間で火花が散っているような幻視にとらわれる。

「・・・・とりあえずシャナ、コーヒーとココアどっちがいい?」

悠二はヘカテーとアラストールの会話を無視してベットに座ってメロンパンを食べているシャナに話しかける。

「ふぉふぉふぁ」

「・・・・・・・・ココアね、わかった持ってくる。」

悠二は余計な事を言わず、自分の部屋から出る。

 (・・・・やっぱりかわいいな・・・呂律まわってないところとか・・ね)

口に出していないだけで、色々と考えているようだ。

 

一階にあるお風呂場からシャワーの音が聞こえて悠二は少し安心した。なればと・・・台所に移動し牛乳を電子レンジで温め、ココアパウダーを引出しから出す。そして温めた牛乳にそれら(・・・)を入れココアを完成させる。

ココアを持ち再び自室に戻った時そこは・・・・地獄だった。

 

 

最初は火花程度の幻視だったが今では嵐や雷にまで発展してしまっている。

『だから・・・アラストール今のは、後出しです!』

『ふん・・・負け惜しみか?ヘカテー』

『なっ・・・負け惜しみなどではありません。公正なじゃんけんのルールに基づいた事を言っているだけです!審判を掌る神が聞いて呆れます!』

『なんだと・・・』

『確固たる事実ですよ・・アラストール』

『・・・・』

『・・・・』

 

 

「・・・・・・・・・・・・・」

この現状をみた悠二は呆れて物を言えない・・・どうやってそこに行きついたのか?顕現してないのにどうやってじゃんけんをしたのか?など色々な疑問が浮かぶが・・・とりあえず・・・幼稚すぎて泣ける。

 

「はい、シャナ」

「ん・・・ありがと」

悠二は無視というより見なかった、聞かなかったことにして2つ目のメロンパンを頬張っているシャナにココアを手渡した。

「僕は下で寝るから自由につかっていいよ」

そう言い悠二は机に置いてある、腕輪とかばんの横にある袋を掴み部屋をでる。

『悠二・・・・ひどいです。もう少しで勝てそうだったんですよ・・・』

ヘカテーが若干の涙声で悠二に言う、かなりレアな気がするが理由が理由なだけに何とも言えない・・

「ヘカテー・・・とりあえず落ち着いて」

『・・・はい。すみませんでした・・・。・・・・////』

悠二に諭されようやく落ち着いたのだが、落ち着いた頭に先ほどの行為は・・・少々・・苦しいらしく

後半の謝罪はかすれる様な声だった。

 

 

悠二が2階から1階への階段を下りて、腕にエリーニョスを取り付けた時

『悠二・・・・忘れてくださいね・・・』

ヘカテーの絞り出した声は、強い懇願が混じっている。本人にしてみれば死ぬほど恥ずかしいらしい。

「はいはい」

『ぜ・・絶対ですよ。』

悠二は色々と呆れていたが、悠二自身思い返してみればヘカテーの違う一面が見れて得した気分だったし、加えてヘカテーのこの言葉。からかいたくなるのが普通でしょ・・・

「ふふ・・・はいはい」

『う・・・くぅ・・・・』

ヘカテーは悠二にからかわれている事はわかっているのだが、その理由を作ってしまったのは紛れもない自分、もはや自分では悔しがる事しかできない。

そうしている内に悠二は一階の玄関に着いていた。

 

『え?悠二どこに行くのですか?』

ヘカテーはこれを機に悔しさや恥ずかしさを余所へ追いやり、ただの純粋な疑問として悠二に聞いた。

「ん?修行でしょ?」

それに対し悠二はヘカテーが気づかない事に驚き、さも当然の事のように答える。

『し・・しかし“炎髪灼眼の討ち手”がいますよ?』

「はぁ・・・ヘカテー、僕がただの善意でシャナのためにココアを作ってあげると思う?」

ヘカテーの焦ったような言葉に悠二はため息を着きながら答える。ヘカテー感情の制御は徐々に出来ているようだが、動揺はまだ収まっていないらしく普段より頭の回転が鈍い。

 

そうしたことをよそに悠二は靴を履き、家を出る、鍵をかけるのも忘れない。そしてしばらく歩いた後、大分落ち着いてきたヘカテーがひとり言のように悠二に話しかける。

『・・・・そういうことですか・・』

「ん?」

『何かの薬ですか?』

「ふふ・・・うん正解。強力かつ即効性の睡眠薬だね、自分でも一回試したしシャナにもね」

ようやく普段のヘカテーに戻ってきた事に、悠二の中では嬉しさと残念さが混在していた。

 

そうして夜の道をしばらく歩いた後

「もうそろそろいいかな?」

悠二はそう言いヘカテーを付けている腕とは反対につけている腕時計を見る。

時刻は23時23分。シャナに睡眠薬入りココアを飲ませてから約5分が経過している、抗わなければそろそろ眠気が襲ってくるはずだ。

現に悠二の部屋ではいきなり襲われた眠気に、抗う理由の無いシャナが悠二のベッドに制服のまま伏している。さすがに自分でも試しているだけあってその時間はかなり正確。

 

 

 

もうかなり遅い時間なので人通りが全く無い通り、普段は街灯と月明かりだけが道を明るく照らす。

しかし今日は違った、薄ぼんやりしたやさしい光ではなく、強烈な光が数秒辺りを照らしそしてまた、何時も通り一部を除き薄ぼんやりした暗がりに戻る。その一瞬の光源には、白く光るマントに暗がりでもわかる明るい水色の髪をした青年が立っていた。フレイムヘイズと成った坂井悠二である。

「さて、行こうか」

言葉とともに悠二の背中から髪と同色の炎が噴き出し、翼を象る。悠二の両手を大きく横伸ばしたのとほぼ同じ長さの大きな翼。

 

跳躍。

 

跳んだ勢いに合わせて翼を動かし、暗い空へ舞い上がりある一点を目指し滑空する。

 

悠二のいた道は再び全てが薄暗くなり光を飲み込んでいった。

 

 

 

 

 

スタンッ

 

何かが着地する音・・・まぁ当然悠二なのだが・・・

場所は三崎市の高くはないが低くもないマンションの屋上、ここが悠二とヘカテーの“修行場”である。

ここを修行場に選んだ理由は広いということもあるが、一番は周りを高い塀で覆ってあるおかげで悠二とヘカテーが開発した自在法“醒絶(かくぜつ)”のデミリットである光を遮断してくれるからだ。

 

悠二は背中に生やしていた翼を消し、白きマント“朔夜(さくや)”を靡(なび)かせながら屋上の中心へと移動する。

移動し終えた悠二は辺りを見渡した後、指先に炎を灯し自在法を編み込む為に集中する。

醒絶は劣化封絶なのだが、自在式は封絶よりもかなり複雑で、意外にめんどくさいようだ。

 

 

━展開━         醒絶(ジ・セイ・ウィーグル)

 

 

悠二を中心に自在式が屋上に刻み込まれ、白く発光する。普段は冴えないコンクリート造りの屋上だが、今は神秘的な空間として悠二を包んでいる。その神秘的な光は屋上の周りを囲んでいる塀に阻まれ外へは漏れないよって、上から見ない限り屋上が光り輝いているなんて誰も思わないだろう。

悠二はその中心で以前同様トライゴンを取り出し、エリーニョスを媒介にヘカテーを疑似召喚する。

 

 

━シャラン(展開)━         傀儡(ドーフル・バーチ)

 

 

以前と同じとは言ってもそれは手順だけで、込められた存在の力は桁違いだ。それだけに悠二自身の存在の力がかなり乏しくなる。

 

「ふぅ・・・・でわ始めましょうか?」

疑似顕現したヘカテーが毅然と悠二に言う。

「うん。お願いします」

それに対し悠二はヘカテーに笑いかけながら返す。

 

 

そして示しを合わせたように約2秒後二人が同時に後ろへ跳び距離をとる。

着地と同時にヘカテーが指を振り、周りに数十の光弾が現れ、 落ち着いて一言

 

「星(アステル)よ」

      

 

その言葉と同時に数十もの光弾が自在に動き回り、悠二に襲いかかる。

悠二も着地と同時に身構えていたため、いち早く回避行動をとる、当然顔は笑っておらず、真剣そのもの

襲いかかってくる光弾を成るべく引き付け、一瞬で体をずらしよける。引き付ける理由はヘカテーが光弾を操っているので、早すぎると方向修正されてしまうのだ。

だがやはり数が多いのでかわしきれない、そういう物についてはトライゴンで薙いだりして防ぐ。

 

「この程度は、避けれるようになりましたね」

ヘカテーが同じ場所で悠二に語りかける。

「ふぅ・・・まぁね、ほとんど毎日やってればこれぐらいは出来るようになるさ」

悠二は少し息が上がっているがダメージを受けた様子は無い。

 

これが悠二とヘカテーの修行法、ヘカテー自身は近距離戦闘など教えられないので、徹底的に攻撃を避ける事を覚えさせ、遠距離の特性を生かすやり方だ。さらにこの修行は、醒絶の特性を十二分に生かすやり方でもある。

 

醒絶は気配を拒絶する自在法、気配には音も入るので内側でどんなに大きな音を出したとしても決して外に聞こえることはない。だがそれだけでは無く、この自在法は複雑なだけに自在式同士の結合がかなり強くそれが膜となり地面が損傷しにくいのだ。

ヘカテーの放っている光弾は悠二と存在の力に配慮して、かなり密度が薄く地面に当たってもこの自在法を貫く力は持っていない。

 

つまり醒絶内でどれだけ大きな音をだそうと、光弾を炸裂させようとも、ヘカテーが手加減している限り周りの損傷は0なのだ。

 

そしてこの修行において悠二は攻撃を行わない。これはメインが避ける修行だからや、自分の存在の力がかなり少なくなっているから、という訳ではない。全く違うかというとそういう訳でもないのだが、一番の理由はヘカテーの存在が不安定だから・・・これに尽きる。

 

自分の契約主の疑似顕現。これだけ見ればかなり有効な自在法だと思うが、これに対するリスクが釣り合わないのだ。まず第一に大量の存在の力が必要ということ、ただ出すだけなら少なくても平気だがそれではただの邪魔で、存在の力の無駄遣いでしかない。そして二つ目が自在法でむりやり(・・・・)顕現させているという事。これが非常にリスクが大きい、ぶつけるや倒れる等の外部物理的干渉なら、ある程度は大丈夫だが、問題は自在法による攻撃だ。無理やり顕現させていてかつ微妙なバランスを取っている自在式に別の自在式が干渉すると、何が起こるか分からい。最悪の場合、契約両者二人とも消えてしまう可能性もある。だからこそ醒絶という自在法を作り、万全を期して修行をおこなっているのだ。

 

そうして悠二とヘカテーは醒絶が出来てからほぼ毎日この修行をしているというわけだ。

この修行の最終目標はヘカテーに与えた存在の力が切れるまで、ヘカテーの攻撃を避けるというものなのだが、なにぶん成りたてのフレイムヘイズ対紅世の王・・・手加減しているとはいえ勝敗は火を見るより明らかだ。

 

このような解説をしている間も悠二とヘカテーの修行は続いていた・・・・

 

「はぁはぁ・・はぁ・・っく・・はぁ・・・」

この言葉を聞いただけでもかなり参ってるのがわかる。現に悠二の顔や体至る所が擦り剝けて薄っすら血がにじみ出ている。体力もかなり消費しているらしく、立っているのがやっとだ

「その程度ですか?悠二」

あいかわらずヘカテーはその場から動いておらず、ただ指を振り自在法を操っているだけ。

「はぁ・・・はぁ・・まだ。。まだだ」

肩で息をしながら悠二はありがちな台詞を言う。まぁこんな状態で台詞など考える余裕などないだろう

「そうですか・・・でわ・・・」

悠二の台詞にヘカテーがわずかに口の端を上げる・・・いわゆる黒笑・・・

その笑み通りヘカテーが腕を振ると2~30もの光弾がヘカテーの周りに現れる。

何をするのかは・・・推して知るべし。

 

 

 

「星(アステル)よ」

ヘカテーの一言で光弾全てが一斉に悠二目掛けて空をかける。

そしてもう避ける体力も残っていない悠二に微妙に着弾時間をずらして着弾。

実際全く同時に来るより若干ずらされたのが一番避けづらいのだ、だがなにもそこまでしなくても・・・

 

当然の如く悠二は全弾を体で受け止め、衝撃で空を飛び、・・・ぐしゃ・・・・カシャン・ガラガラ・・

 

・・・・・・・・・

 

 

かろうじて生きている悠二だが意識が飛んで、醒絶が解除され、光り輝いていたステージは元の硬いコンクリートに変わる。

 

その中でヘカテーはトライゴンを拾い、悠二のもとへ歩み寄り、悠二のちょうど頭の上の位置に座った。

仰向けでぐったりしている悠二の顔は色々なところが擦り切れひどい有様になっている。

ヘカテーがそのボロ雑巾悠二の頭にやさしく手を乗せ、固有色である明るすぎる水色の炎を発生させて、悠二を燃やす・・・わけではなく汚れや血などを落とすことができる自在法“清めの炎”。

それにより悠二の体から流れ出た血やゴミ、チリが取り除かれた。

 

だが傷が治るわけではないので傷口からの出血は続く、ヘカテーは自分の膝の上に悠二の頭を乗せ、片方の手を頭の後ろに回し、もう片方の手を静かに顔の上に置く。

悠二の息が掌に当たりその部分だけ温かく湿ってくる。

ヘカテーの小さい両手から先ほどと同じ色の炎が出て悠二をやさしく包み込む、今度は殺菌、消毒ではなく治癒の自在法、荒かった悠二の息が徐々に落ち着いてくるのを手に感じる。

「ん。。。。・・・」

少し呻くがまだ目を覚まさない。

 

 

 

「悠二・・・」

 

 

 

ヘカテーが静かに呼びかけるが眼は閉じられたまま。

 

 

 

「悠二」

 

 

 

今度は少し大きめに・・・・瞼が少し動くが目は開かない。

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

今度は呼びかける代わりに悠二の鼻を摘む

 

 

 

 

 

「ん・・・んんん・・・んはあああああ・・・・はぁ・・・はぁ・・・・」

 

 

 

悠二が目を覚ました

 

 

 

 

「起きましたか?」

 

「・・・・出来ることならもっと優しく起こしてほしかったかな・・」

「ふふ・・・」

ヘカテーの膝の上悠二はヘカテーを下から見上げながら呟いた。

すでに治癒は済んでいて悠二に傷はない、治療のために顔の上に乗せられていた手は、今は悠二の頭の上にある。

ほおっておいても0時を過ぎれば零時迷子のおかげで全快するのだが、存在の力が余ったのと個人的な“なんとなく”という理由でいつも悠二を治療していた。

 

悠二も最初に膝枕された時は驚いたが今ではそれが普通で、少し嬉しくてそして余裕がでてくる。

「ねぇヘカテー・・・」

「なんですか?」

悠二の下からの呼びかけにヘカテーが上から返す。

「ヘカテー、そのかぶってる帽子・・・貸してくれない?」

「・・・・・どうぞ・・・・」

悠二の意外な要求にヘカテーは少し躊躇ったが悠二の頭から手を離し、自分の帽子を悠二の胸の上に乗せる。

「ふふ・・・ありがとう」

悠二は帽子を胸で受け取りヘカテーにお礼を言う。実際に帽子が欲しかったわけではない。

 

ヘカテーの帽子をとった姿が見たかった。

 

下から夜空をバックにしてみるヘカテーの顔、そしてその夜風に吹かれ靡く髪がとてもきれいだった。

 

でも一番悠二が見ているのは・・・・

 

「ヘカテーの目って・・・綺麗だよね。。。」

口に出すつもりはなかった・・・。だけどなぜだか自然と出てしまった。

 

  ヘカテーの帽子借りておいてよかったかもしれない。情けないけど・・心臓が・・・

 

 

 

 

 

 

 

「!・・・・ありがとうございます。・・・・でも悠二の目も綺麗だと思いますよ?」

いきなりの悠二の発言に驚くヘカテーだが、すぐに素直に自分の思っていることを言う。

 

  悠二・・・脈拍がすごく速くなってますよ・・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の手は帽子を渡した後地面に置かれているが、もう一方の手は頭の後ろに回したまま。悠二に触れていた。

 

悠二もヘカテーもお互いに目をそらさない。お互いがお互いの目の中にあるものを・・・・

 

 

 

 

 

 大きな水色の目の中に今映っているのは僕の姿だけ・・・

 深く青い目に映っているのは覗き込んでいる私・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今この時間だけは貴方(君)を独り占めに出来ているの(かな)?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日付が変わるまであと1分26秒・・・・

 

 

 




デデデデーーーン、デ、デ、デ、デーン・・・・・
なんだこの前半と後半の温度差わw知っての通り制作日が違うためこのような結果になってしまいましたwあと最後のヘカテーの台詞、あれだけちょっとゴロが合わなかったんで口調を変えさせてもらいました。なんか・・違和感あると思ったら一言、言ってくださればなんとか考えますw

あとちょっと早かったかな?と思ったけどいい加減じれったくなったんでねw伝わるかな?こういう系苦手で。。。
あと設定に関しては物凄く苦労しました・・・・ゆえに色々とおかしいところもあるかもしれませんが寛大にお願いします・・・
あとわからない所とかあったら質問してください。一応ご都合主義っていうのは好きではないんで可能な限り説明します。それでは
誤字脱字報告、感想、苦情、非難どしどし送ってください^^


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ウニョールくりぃむパン

いや~~~~~~~~~~~~~~本当に申し訳ない!!
一か月も更新しなかったからって?いやそれもありますけど・・・今回の内容です。
見れば分かります。本当に申し訳ない。自分のポリシーを自分で曲げてしまうとは・・・
理由としては・・・内容的になんですけど・・・ね
それと、一か月書いていないと自分の書き方がわからなくなってしまいますね^^;
色々おかしいかもしれませんが大目に見てくださいまし><


 

 

体が熱い・・・正確に言うと体の中心、心臓のある場所が・・・・

 

 

 

悠二の体の中、零時迷子が数秒の狂いもなく発動し、悠二の残り少ない存在の力をいっぱいまで満たしていく。その事が今日の終わりと始まりを悠二に告げた。

 

「・・はぁ・・・・・今日が・・終わったね」

「・・・・・・・そうですね」

 

一つのため息を吐いた後、悠二はヘカテーに膝枕されたまま、上に向かって話しかける。しかし実際は悠二が言わずとも、見れば分かるのだ。

零時迷子が発動し悠二に存在の力が満たされる時、悠二の体はヘカテー同様淡く発光する。そのことを知らない悠二ではないが、話すしかなかったのだ、ヘカテーとこうしていられるようにするためには。

つまり時間稼ぎである。

 

事実ヘカテーが悠二を膝枕しているのは、悠二の怪我を治療しやすくするため、と言う理由が大きい。

そして治療後もその行動を続けた理由は先ほどの逆。理由がないから。

ヘカテーは紅世の徒、悠二の頭程度の重さなら足が痺れたり、痛くなったりすることは無い。

だが日付が変わった今、ヘカテーには悠二と共に家に帰ると言う理由が出来てしまっている。

だからこその行動。

 

読心術など出来るはずもない悠二には、今までのヘカテーの行動を分析して、このような結論を無意識に想起してしまっている。

 

「そういえば・・・パンは食べないのですか?」

なんとか現状を保とうと、苦心している悠二にヘカテーが上から不意に呟いた。屋上の隅忘れさられていた、パンの事を。

悠二は“パン”の言葉にすっかり忘れていた自分の考え、そしてシャナの顔と行動が鮮明に脳裏に浮かぶ。そこから導き出される行動は一つ・・・・。

「ヘカテーに・・あげるよ。・・・・・よっと」

「・・・・・・・・? ぁ・・・」

そう言い悠二は、ヘカテーの膝から身を起こし、同時にヘカテーの帽子を床に置く、そして屋上のフチ“パン”の元へ、頭を上げた時の小さな声に気づくことなく・・・足を進める。

 

いくらハシの方にあるとはいえ、よくヘカテーの攻撃に当たらなかったものだ・・・

いやヘカテーが知っていたことから、おそらく当てないようにしていたんだろう。

悠二はレジ袋の中から“ウニョールくりぃむパン”・・・・・・・を取り出した。

もちろん包まれている袋に名前など書いてはいないが、あまりにもインパクトのある名前なので覚えてしまっていた。はたしてどこら辺がウニョールなのか?それともその名前のインパクトがウリなのか?

当然答えなど出るはずもない。

パンを持ったまま、振り返るとヘカテーは元の場所にいたが、さすがにコンクリートの床には座っておらず、帽子を右手に持ち立って此方を眺めていた。遠いとは言わない間でも、まぁまぁ離れている場所にいるヘカテーの様子が、この暗闇の中分かることから、フレイムヘイズは視力まで人間離れしているようだ。

 

悠二はヘカテーに向けて、パンを放る。パンは夜空に放物線を描きヘカテーの元へ・・・

 

パシッ・・・

 

ヘカテーの顔に“ウニョールくりぃむパン”が炸裂・・・・などするわけもなく。

さも普通に顔の前でパンを両手(・・)で捕る。・・・・・当たったところ見てみたいな・・・

まぁこの程度普通に、できなければ王とは・・いや紅世の徒とも言えないかもしれない。

だからと言ってさすがに、小さい手では片手でパンを安全に捕ることはできず、帽子は再びコンクリートの床に音を立てて落ちる。

 

ヘカテーはそれを気にせず、目の前にあったパンを腕を下ろすことによって視界を確保し、こちらに歩いてきている悠二に少し大きめの声で言う。

「悠二・・・・食べ物は投げてはいけないと、千草が言っていませんでしたか?」

「・・!・・ああ・・ごめん・・・つい・・・」

わざとらしく頭を描きながら近づいてくるが、顔は本当に驚いているようだ。

まぁ悠二が驚いているのは、ヘカテーのリアクションに対してなのだが・・・

 

悠二は落ちてしまった帽子を拾いヘカテーの前に立つ。

「・・・・それでこれは・・私が食べてもいいんでしょうか?」

「・・・・ど、どうぞ」

すぐそばに来た悠二に、ヘカテーはパンを両手で胸の前で持ち、悠二を見上げながら尋ねた。ヘカテーはシャナ同様小柄なので悠二が近寄った場合、顔を見上げなければならない。必然的に上目遣いになる。当然悠二はそれを見下ろす形で目にするのだが・・・

 

考えてみてほしい。あのヘカテー(・・・・)が自分の目の前で、両手でかわいらしくクリームパンを持ち、さらに大きい瞳を上目遣いで自分に向けてくる光景を!

 

ここにほんの少し涙があればPERFECTなのだが、それを補え得る力を持った“ウニョールくりぃむパン”!

さらに・・・もしこのパンを投げなければヘカテーは帽子をかぶり、顔がよく見えなかったかもしれないのだ。ここにきてそのパンがとても神々しく感じる・・さすが神創ベーカリー侮りがたし・・・。

それにヘカテーの必殺技に耐えた悠二もまた侮りがたし・・・。

 

 

 神様・・・今この瞬間を僕にくれてありがとうございます・・・

 

 

上、下記悠二の心のより・・・

 

 

目の前には美味しそうにクリームパンにぱくつくヘカテー。さらにそれを独り占めできる優越感。

ここを天国と言わずどこを天国というのか?

 

だが・・悠二の天国は数十秒後に地獄になる。

昨今の例がある通り・・・

無性にヘカテーを抱きしめたくなったのだ。シャナの時と同様。

だが違うのはその気持ちの大きさ、シャナの時はまだあまりよく知らないので、ただその行為が可愛かったから抱きしめたくなった。今回はそんなレベルではない、ヘカテーのことはずっと好きだった・・・

いつからと聞かれれば回答に困るが、いつの間にかというやつだ。恋愛とはそういう物じゃないかと自分では思っている。

いつの間にかヘカテーの事が好きだった、だからこそ今のこの状況がものすごく幸せだが物凄く辛い。

このとてつもなく大きな気持ちのままに、行動することは容易く、なにより満たされる気がする。

だが、もし拒絶されたら・・・そうでなくても口を聞いてくれなくなったりなど・・・考えたくもない。

 

正負の気持ちの板挟み・・・・その苦悩が、はからずとも顔に、行動に現れる。

 

「・・悠二?・・大丈夫ですか?」

「え・・・ああ。うん平気」

ヘカテーの心配に慌てて答える悠二。いつの間に食べ終わっていたのか、ヘカテーの手にパンはもうない。

「・・ですが・・ひどく辛そうな顔をしていましたよ・・」

普段はさほど追及しないヘカテーが、ここまでするのは・・・悠二はそれほどひどい顔をしていたのか。

だが実際それは事実だが完全な理由ではない。ヘカテーが追及した理由は顔の他に行動、しぐさだ。

普段悠二はヘカテーの単純な質問に対し、之ほどまで動揺はしない。それともう一つあるのだが・・

「だ、大丈夫だって。ちょっとお腹が痛いだけさ・・」

完全に動揺している悠二はもはや言い訳を考える余裕もない。フレイムヘイズが簡単に腹痛などなるのだろうか?

「で・・ですが・・そ」

「だから、大丈夫って言ってるじゃん!」

ヘカテーのあまりのしつこさに悠二は思わず声を荒げてしまう。言い終わった後、ヘカテーの驚いた顔を見て、さらに体に力が入り後悔の波が押し寄せてくる。またもや悠二が思考の海に溺れそうになった時。

さすがは王、悠二の声程度ではあまりひるませられなかったようだ。

「悠二!いい加減私の話も聞いてください!」

こちらも珍しく荒くはないが声が大きくなっている。それも当然だろう・・・

「っ!・・・・・・・・」

さすがの悠二もヘカテーにここまで言わせてしまったら、肩を落として黙るよりほかなかった。

「悠二・・・右手を見てください」

ヘカテーの不思議な言葉に困惑しながらも、少しかがんでヘカテーの下におろした右手を見る。何もないように見えるが・・よく見ると少しだけクリームが付いている。

 

・・・・なめろってことだろうか?・・・・それは色々とまずいような気が・・・

 

悠二の困惑は深まるばかりで首を傾げていると、ヘカテーの鋭い声が屋上に響いた。

「自分の右手です!!」

 

悠二はそう言われ慌てて自分の右手を見て止まった。

別に封絶をかけられたわけではない、そもそもフレイムヘイズには無効。

だが悠二は止まっている。自分の右手にあるものを見て・・・

 

そうヘカテーの帽子である。

 

無残にも悠二の苦悩と後悔の犠牲者。悠二が辛さを耐えるために、握りしめていた物は自分の拳ではなかったのだ・・・

 

慌てて体機能を回復させ手を開くと、悠二に万力で握りつぶされていた部分のみ酷くシワシワになっていた。

 

「・・ご・・ごめん!・・・」

憔悴しきった顔と声でヘカテーにいい、なんとか帽子のしわを直そうと手で引っ張っている悠二にヘカテーは呆れてため息を一つ大きく漏らした。

「悠二・・・・返してください・・」

「・・・・ごめん・・・・」

ヘカテーの声に、なんとかシワを伸ばそうと頑張った挙句、引っ張った部分がまたシワとなり、またそれをのばそうと・・・・といった悪循環を繰り返した結果見事に全体がシワシワになった帽子をヘカテーに頭を下げ謝りながら申し訳なさそうに返す。

「ふぅ・・・まったく。。。何があったか知りませんけど、大切な帽子なんですから、あまりシワシワにしないでくださいね」

「・・・・・ごめん・・・・」

シワシワの帽子を持ち、何時もと違い饒舌なヘカテーは何故か笑いをこらえてるように見える。それに対し悠二は本当に申し訳なさそうに、ひたすら謝っていた。

「・・・ふふふふ・・・悠二・・ふふ・いつまでそうしてるんですか・・・ふふ」

ついにこらえきれなくなったヘカテーが、口元を手で押さえ笑いながら頭を垂れている悠二に向かって言う。

「え?・・」

いきなり笑いだしたヘカテーについていけず、頭を起こして訝しげな顔でヘカテーを見下ろす。

「ふふふ・・・本当に気づいてないんですね悠二・・・・ふふふ・・・今の私は悠二の自在法(・・・)によって顕現してるんですよ?」

「・・・・・あ・・」

「気付いたみたいですね・・・ふふ」

そういうことだ。つまり悠二の自在法で顕現しているヘカテーは、帽子も本物ではなく、自在法で作られている。つまり消して戻せばすぐに元通りになるのだ。態々あんなに謝る必要もない。普段の悠二なら気づいているだろうがあの動揺した状態ではさすがに無理だったようだ。

「ヘカテー・・・・・・」

気づいた故に悠二の声が1オクターブほど下がる。

その言葉と同時にヘカテーは屋上のフチ、その塀の上へと逃げる。

「待てッ!」

悠二もヘカテーを追い塀の上へと飛び乗る。そして塀の上で対峙。

今までは塀に囲まれ感じなかった夜風が、帽子をかぶっていないヘカテーの髪とマントを、悠二の髪と朔夜を翻らせる。

「ヘカテー・・・良くも騙したね・・・」

悠二の笑みが黒く染まる。憎しみは多少こもっているが、当然本気ではない、ヘカテーの機転で悠二は何時もの悠二にもどった。・・・べ、別に腹黒いっていってるわけじゃないんだからね!

 

「あの程度で騙される悠二が悪いんですよ」

ヘカテーは塀の上を悠二の方に歩きつつ、不敵な視線で悠二を睨み毒づく。

 

 

 

そして、ヘカテーが、“ウニョールくりぃむパン”を食べた時と同じ位置関係になった時。

悠二の胸(・)におでこをぶつけて・・・・呟いた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お腹痛いのは・・・・治りましたか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その発言と共にヘカテーの輪郭が薄れ炎と成り変わる。悠二の視点ではヘカテーの顔が見えなかった。

だけど・・・多分笑っていたと信じて。

悠二はヘカテーの中心にあった腕輪を受け取り、炎と化して腕につける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく・・・・たまには勝たせてもらえないのかな・・・」

悠二の本当に小さな独り言は夜風に吹かれ空へと消える。

 

 

その少し後、ビルの屋上付近から光がほとばしり、そこから生まれた光の鳥は夜の闇の中、一点を目指して飛んで行った・・・。

 

 




※お詫び?・・・とりあえず第4話初心者≠弱者でフリアグネが「逢魔が時に~・・・」って言っておりますが。そこは原作を意味もわからず直接引用したんですね・・・。そのせいでミスが今更ですがw逢魔が時って夕暮れ時なんですよね・・・昼休みってもろ正午じゃん!気づいていた方申し訳ありません。一応まだまだ間違えてる所あるかもしれませんがその時は報告おねがいします^^即刻なおしますんでw

あと今回の話ここまで読んでくださった方はお分かりかと思いますが、前作のもろ続きです。続きものだから同然じゃんって思うかもしれませんが。「もろ」ですwわからなかったらごめんなさい。
一応そのために5000字程度で切りました。できればですがもう5000↑の小説が今日中にUPされるかもしれません。その時はまた読んでもらえるとうれしいです。
それともう一言。悠二君へ向けて・・・
そこをかわれえええええええええぇぇぇぇぇえええ!!!
ヘカテーの上目遣い+クリィムパン持ってとか・・・・・・
うん・・・とりあえずかわろうか・・・

以上です。
お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでしたw

それと作者はヘカテーの帽子あまり好きではないのですよ。
だってほら・・・なでなでしにくいでしょ?←馬鹿w

他の人はどうなんでしょ?
あった方がいいですか?それとも無い方がいいでしょうか?
それと誤字脱字や感想などできればおねがいします^^
それではまた次回(^^)ノシ


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