ダンジョンに器用値極振りがいるのは間違っているだろうか (オリver)
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第一話

 オラリオ。

 神々が降臨する以前の『古代』とよばれる時代から存続する世界有数の大都市であり、同時に世界で唯一の迷宮都市である。

 

 都市中央には、天を衝く白亜の巨塔『バベル』がそびえており、都市周辺は円状に、堅牢な市壁に取り囲まれている。

 

「リベルタ君お願いだ、ボクの眷属になってくれ!」

 

「勧誘何回目だよ。そろそろ諦めろって」

 

 中央通りから少し外れた路地で、俺は屋台でバイトをしている。

 

 じゃが丸君というジャガイモをすり潰して揚げた軽食を販売しており、賃金は良い方でまかないも出る。バイトを転々としてきた身としては手放したくない労働条件だ。

 

 しかし問題が一つ。

 

 美しい人の例えだとか比喩でも何でも無く本物の女神が同僚だった。多くの神が地上に降りてきているとは言え職場が一緒になるなんて聞いたこと無いぞ。

 

 この女神ヘスティアはヘハ―――ヘハイストス? ヘファイトス? だとかいう舌噛みそうな名前の鍛冶神のもとで無職怠惰な生活を行ってたため追い出されたという駄目経歴を持つ。

 

 

「ねえねえ頼むよ―――あ、いらっしゃいませ!」

 

「やだ。らっしゃっせー」

 

 自分の眷属が欲しくて仕方が無いヘスティアは手当たり次第に勧誘する。屋台のおばちゃんや八百屋のおじちゃんまで見境無しだ。恩恵を安売りしすぎでありがたみゼロである。

 

 そして当然、バイト仲間である俺にも勧誘が来る。毎日のように。

 

 零細ファミリア、眷属ゼロ、駄女神と三拍子揃いおまけにこの前屋台の機械爆破してたから借金というオプション付きだ。だからずっとお断りしているのだがめげない。もう諦めて天界帰ってよ、向こうは何一つ不自由しないんでしょう?

 

 じゃが丸君を揚げつつため息をつく。

 

 終わらない勧誘。こうなったら俺の方で少し妥協した方が面倒が無いかもしれない。

 

「分かった。いいよヘスティア」

 

「入ってよう……ボクも眷属(子ども)が欲しなんだってぇ!? 本当かいリベルタ君!」

 

「俺も迷宮探索に興味が無いわけじゃなかったしな……ただし条件はある」

 

 その一、自分の借金は自分で払え。その二、俺にあまり干渉しすぎないこと。その三、俺はやりたいことをやる。

 

 そしてファミリアにもし誰か他に入ったときはある程度は面倒を見るが、面倒ごとは御免。

 

「なんだそんなことかい! もちろんいいさ!」

 

「じゃ、決まりだな。適当にやらしてもらうが、これからよろしくな」

 

「つ、ついにボクにも眷属が……! ありがとう! じゃあすぐ帰って恩恵(ファルナ)刻もうぜ!」

 

「まだバイト中なんだが」

 

 なんだか早まった気がしないでもない。

 

 だが、両手を挙げて子どものようにはしゃぐヘスティアを見ていると、俺もまんざらでも無い気持ちだった。

 

 あとヘスティアさん。動きすぎてあなたの巨乳すげぇ揺れてますよ。ご馳走様です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よ、よし。リベルタ君、恩恵刻むよ」

 

「初めてだから優しくしてね」

 

「任せてくれよ!」

 

 あれ伝わらなかった。流石処女神、ピュアッピュアですね。

 

「えっと、どうやるんだっけ……針で刺すんだっけ」

 

「刺すのはお前の指だからな!? 俺の背中じゃねぇぞ!」

 

「……い、嫌だなぁ、分かってるよぅ。よし、神の血(イコル)を垂らすよ」

 

 おお、と返事をすると同時に背中がカァッと熱くなる。これが恩恵か。

 

 さて、俺のステータスはどんなものだろうか。どうせ大したこと無いんだろうが別に気にしない。

 まあ冒険もバイトと両立してやりたい程度にしか考えていないからな。迷宮1、2層くらいでゴブリン狩って身体を適度に動かしたい。向上心は皆無である。

 

「……」

 

「ヘスティア? 俺のステータスまだ?」

 

「……へ? あ、ああ。ごめんごめん、ちょっと驚いちゃって……今写すよ」

 

 なんだろう、歯切れが悪い気がする。もしかしてもの凄く悪いんだろうか。やる気は無くても才能ゼロはちょっとショックだな。

 

 書き写された内容の紙を読む。

 

 

リベルタ・エーアスト

Lv.1 

 

力:I=10

耐久:I=10

器用:I=10

敏捷:I=10

魔力:I=10

 

スキル

 

【創成己道】(ジェネシスクラフト)

・器用の成長率に上昇補正。

 

【尊価代償】(サクリファイス)

・成長補正スキルの効果増大。

・他の能力値成長率の下方修正。

・上昇対象能力値への成長願望が強いほど両補正ともに強固なものとなる。

・補正能力に準じたスキルが発現しやすくなる。

 

 

 

「なんだこりゃ」

 

 スキルが発現してる。知らんけど、こういうのって恩恵貰った直後に出るもんなのか?

 

「聞いたことの無いスキルが二つも……すごいよリベルタ君! ボクも鼻が高いよ!」

 

「や、これ良いのか?」

 

 器用値が伸びやすいらしいが、他の能力値にマイナス補正かかってるんだろ? 悪い面が強すぎる気がする。

 

 ……いや、ちょっと待てよ? 何度も言うようだが俺は冒険を熱心にするつもりも無い。なら別にどうでもいいじゃないか。

 

 日常生活において一番使いそうな能力は器用値であろうからむしろ良いかもしれない。じゃが丸君揚げるの上手になったりするのかな? 楽しそうだ。

 

「さんきゅヘスティア。明日早速ギルド行って冒険者登録してくるわ」

 

「うん! 気をつけて行ってくるんだよ!」

 

 明日はちょうど良くバイト休みの日だ。死なない程度に適当に頑張ってきますかね。

 

 

 尚、この後泊まってる宿屋に帰ろうとしたところ「眷属なんだから君もこの本拠(ホーム)で暮らすんだよ!」とか言われた。え、ここに住んでるの? 廃教会だよ? 恩恵は神聖な場所で刻まなきゃ云々みたいな理由でここにいたのだとばかり思ってた。

 

 何故か見た目ロリ、胸だけ大人顔負けな女神と一緒に暮らすことになった。俺も17歳と盛りな時期だと言うのに貞操の危機とか無いのかしら。警戒心なさ過ぎて心配になってくる。手を出すつもりはないけどね! 決してヘタレではない。

 

 

 ベッドが無いから一緒に寝ようなどと抜かしてきたヘスティアに小一時間ほど説教したのち、置いてあったソファーに横になって横になる。

 

 

 願うだけ器用値が伸びやすくなるらしいので、寝る前にしっかり念じておくか。

 

 

 器用値欲しい、器用値最高、器用値さんまじパネっす、器用値だけあれば他に何も要らない、器用値増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ、うぷ、なんか酔った。増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ増えろ――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リベルタ・エーアスト

Lv.1 

 

力:I=10

耐久:I=10

器用:I=10→SSS=1268

敏捷:I=10

魔力:I=10

 

スキル

 

【創成己道】(ジェネシスクラフト)

・器用の成長率に上昇補正。

 

【尊価代償】(サクリファイス)

・成長補正スキルの効果増大。

・他の能力値成長率の下方修正。

・上昇対象能力値への成長願望が強いほど両補正ともに強固なものとなる。

・補正能力に準じたスキルが発現しやすくなる。

 

【無限収納】(アイテムボックス)

・三秒以上触れた物質を、念じることで収納空間に送ることができる。

・同じく念じることでいつでも取り出すことが可能。

・触れる箇所が固体である必要がある。また、生命体は収納できない。

 

 

 

 翌日。

 

 ゴブリンを10匹ほど狩って帰ってきた俺のステータスはなんかおかしなことになってた。

 

 

 




ほとんどの方、初めまして。
以前ほんのちょっと書いてたSAOの小説書き直そうとして設定盛り込みすぎて身動きが取れなくなったので、ダンまちブームに乗っかります(まだブーム続いてるよね……?)

SAOもいつか書き直せたら。とりあえずこの小説続けられるように頑張ります。


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第二話

早めに次話投稿。
時間空けちゃうと「本当にこれでいいのか……? やっぱ書き直そうかな……」ってなっちゃうタイプなのであまり考えずに投下します。



「よいしょー」

 

 グギャアアア、と濁った声を立ててゴブリンが灰へと変わる。周りにモンスターがいないことを確認し、ギルド支給品の安物剣を鞘に仕舞う。

 

 一日のバイトが終わり夕方。

 ダンジョン一階層、それも入り口付近でチビチビと戦っていた俺は、自分の感覚の変化に驚いていた。

 

 昨日恩恵受けたてで初めて剣を振ったときは「ほとんど変わらねぇじゃん。ヘスティアしっかりしろよ」と本人が聞いたらさぞ心外であろう事を考えるくらいには身体能力の向上は見られなかった。

 

 だがしかし今日。

 

 ゴブリンの振る鈍器がえらく遅く見えた。振るわれた棍棒をすれすれで避けたり剣の腹で押して軌道をずらしたりと、回避行動一つ取っても大きくバックステップで避けていた昨日と雲泥の差であった。

 

 攻撃面でも相手の首元や関節など急所を簡単に狙えるようになった。俺の戦い方はベテランのそれにも見えるようで、今日だけで駆けだしらしい冒険者が何人も声をかけてきた。

 やれパーティを組まないか、もっと下層に行かないか、どこのファミリアか。自由にやりたい派だったので全て適当に流したが。

 

 

 そして、昨日と違う点がもう一つ。

 

―――開け。

 

 そう念じると、俺の右手の先の空間がグニャりと歪み、グルグル渦の巻いた空間ができる。

 

 手を突っ込み「ポーション」と念じると空間は消え、俺の手には今日買いたてほやほやなポーションの瓶が握られていた。

 

 スキル【無限収納】(アイテムボックス)は、持ち物を制限無く仕舞える便利な能力だ。ポーションやドロップしたアイテム、魔石を運ぶためにサポーターを雇う必要がなくなる。

 

 とは言っても、運びきれないほどになるまで戦わないのだが。まあ軽くなるので使うは使う。全くもって俺には宝の持ち腐れな能力だな。

 

 

 

 

 体感で2時間ほど潜っていただろうか。のんびりとゴブリン20匹ほど狩った俺は帰り道にコボルトをすれ違いざまに斬殺しつつ、ギルドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘスティアー」

 

「リベルタ君帰ってきたか! ダンジョン探索はどうだった?」

 

「おお、なんか俺じゃないみたいだった」

 

 そう言うとヘスティアは「あのステータスならねぇ……」とやや引きつった笑みを浮かべる。

 

「あんな上昇の仕方、聞いたこと無いよ……上がりやすい初期でも一つのステータスが10上がるかくらいなんだぜ?」

 

「ついでに言うと、ステータスって999が限界値らしいな。なんで俺は天元突破しちゃってるの」

 

「……リベルタ君、絶対にこのことは他の人に言っちゃ駄目だからね」

 

 面白いもの大好きな他の神々に知られれば、俺を自分のファミリアに引き抜こうと躍起になるだろうとヘスティアは語る。

 別に俺はヘスティアのとこじゃなくてもいいんだが……しかし注目を集めすぎて自由が阻害される可能性が高いし、別のファミリアじゃ本格的に冒険者を強要されかねない。なら黙っているのが一番だな。

 

 

「じゃあ……更新するよね?」

 

「なんか見るの怖いよな。まためっちゃ伸びてるんじゃねぇの?」

 

「流石に昨日みたいな上昇は無いと思うけどね。能力は上がれば上がるほど伸びが悪くなるから」

 

 ヘスティア、それフラグじゃね? まあ伸びるわけ無いよなーと俺もしっかり建設しておく。

 

 俺は横になり、ヘスティアが背中に乗る。昨日も思ったけど横に座ってやらないの? なんか女神に跨がられてると邪な気持ちが湧いちゃうんですけど。

 

 胸でけぇのに体重軽いなーと口に出したら豚箱まっしぐらなセクハラ発言を心の中でそっと呟いている間に、更新は終わったらしい。毎回指に針刺すの大変ね。痛そう。

 

 そしてヘスティアが黙ってる。首だけ動かしてちらりと後ろを見れば見えそうで見えないパンツとヘスティアの呆然とした顔。

 

「ヘスティア」

 

「……ハッ! ごめん、今写す」

 

 また俺は何かやらかしてしまったらしい。

 

 

 

 

 

リベルタ・エーアスト

Lv.1 

 

力:I=10

耐久:I=10

器用:SSS=1268→MAX=1500

敏捷:I=10

魔力:I=10

 

スキル

 

【創成己道】(ジェネシスクラフト)

・器用の成長率に上昇補正。

 

【尊価代償】(サクリファイス)

・成長補正スキルの効果増大。

・他の能力値成長率の下方修正。

・上昇対象能力値への成長願望が強いほど両補正ともに強固なものとなる。

・補正能力に準じたスキルが発現しやすくなる。

 

【無限収納】(アイテムボックス)

・三秒以上触れた物質を、念じることで収納空間に送ることができる。

・同じく念じることでいつでも取り出すことが可能。

・触れる箇所が固体である必要がある。また、生命体は収納できない。

 

【戦友鼓舞】(フィール・エアフォルク)

・戦闘時、一定範囲内の眷属の基本アビリティ上昇補正。

・同恩恵を持つ者にのみ効果を発揮。

 

 

 

 いや、MAXって何よMAXって。1500が上限なのか? 一応ストップしたのかこれ?

 

 そしてスキルが増えた。しかも超いらねぇやつ。他に仲間の眷属いねぇよ嘗めてんのか。

 

 ……それにしても、他のアビリティが全然伸びねぇな。「器用値欲しい」と念じた効果がまだ残っているのか? じゃあ今日も寝る前にさらに上書きしておくか。

 

 

「MAX……? しかもスキルがこれで四個……ど、どーゆうことだい」

 

「神が分からんのに俺が分かるかい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よし、今日はダンジョン潜らねぇ。

  

 

 バイトを終え、俺は摩天楼施設『バベル』へと訪れていた。

 

 ヘスティアが安心したような、残念そうな表情も分かる。どれだけ伸びるかは楽しみだが、驚くことに疲れてきたのは俺自身否めない。

 

 よって今日は装備品の更新を予定している。一階層にしか潜っていないが、耐久値が伸びない俺にはゴブリンの一撃も十分脅威だ。

 

 頭、胸など急所を守れる軽い防具くらい着けてた方がいいだろうと考え、バベル八階のなんとかスファミリアの支店へと足を運んだというわけだ。

 

 四階から武器防具は売っているのだが、正直ぼったくりとしか思えない額の超一級品しか並んでいない。何あれゼロ適当につけてんの? 子どものおままごとでももうちょい現実的な値段つけるぞ。

 

 

 八階は駆け出し鍛冶師が作った作品が売り出されている。俺が魔石換金とバイトで貯めたヴァリスでも十分に買えるお値段だ。

 

 

 どんなの買おっかなーとちょっとワクワクしながら、テナントに入る。

 

「おうてめぇ! このクソみたいな膝当てが8000ヴァリスってどういうことだよ! ぼったくってんのか!」

 

「い、いや、適正価格かと思われますが……それに私の一存では安くすることなど……」

 

「アニキを馬鹿にしてんのか! ぶっ殺すぞ!」

 

 萎えた。え、なにこれ俺面倒くさい現場に遭遇した感じ?

 

 酒でも飲んでいるのか、三人組の冒険者が赤ら顔で店員を恐喝している。装備売ってるこのファミリアってかなり規模がでかかったような……喧嘩売るとは正気じゃ無い。酒癖悪いって怖いな。

 

 

「ああ!? なんだてめぇ見てんじゃねぇよ! 殺してやる!」

 

 やべぇ前後の文脈が合ってない。俺だって見たくて見たわけじゃねよ。

 

逃げるタイミングを失い、明日何食べようかと現実逃避をしていると、近くにあった剣を持って三人がこちらへ走ってくる。「俺はレベル2なんだじぇ」とアニキアニキ呼ばれてた男が呂律の回らない舌で言ってきたので「そうでちゅか」と返したらブチ切れられた。頭のレベルを合わせてやったのになんて奴だ全く。

 

 

 売り物の武器を傷つけちゃ悪いので俺は剣を抜かず、ゆるりと構える。

 

 アニキ(笑)の剣を半身になって避けつつ、足を引っかけて転ばす。武器の積まれた箱に顔を突っ込みそうになってたので服を引っ張って進路を逸らしてやる。手間かけさせんなよ。

 

「ちくしょー!」

 

「アニキをよくもっ」

 

 やられ役っぽい台詞とともに殴りかかってきた二人に対し、一人は避けつつもう一人の腕を取り、反対の手で胸ぐらを掴みあげて勢いを利用しつつ投げ飛ばす。

 

 ぐええ、と床に背を打ったせいか苦しそうに呻く。おい吐くなよと心の中で戦々恐々しているところに残った一人から剣が振られたので、剣の横をそっと押しつつ体勢の崩れたところで鼻っ面を思いっきりぶん殴ってやった。

 

 駆け出しだったのか俺のショボい力でもダメージは通ったようで、酔っていたこともあってかふらりと倒れ込んだ。

 

「ふう……疲れたな。もう帰っちゃおうか―――」

 

「危ない避けて!?」

 

 俺好みな可愛らしい女店員の叫び声と同時に、背後から気配を感じて思いっきり身体を反る。

 

 服が破けた。あ、これ恩恵見えちゃわね?

 

「避けてんじゃねぇよてめぇ!」

 

 見えているはずだが、反応が無いな。よく考えたら神聖文字(ヒエログリフ)を読めないか。それなら安心だ。

 

 

 本気(マジ)になったのか、先ほどとは比べものにならない速度で肉薄される。

 

 

 けっこう早めに避けたつもりだが……ピリっとした痛みの頬に手をやると赤く染まった。刃が食い込んだのかけっこう深く切れていた。

 

「はははは! これで終わりだ!」

 

 後ろは武器の山。これ以上下がることはできない。

 

 ―――開け。ポーション。

 

「酔い冷ませよ酔っ払いが」

 

 空間から取り出した瓶を、男の顔に向かって投げる。

 

「わぶっ!?」

 

 反射的に思わずたたき斬ってしまった男の顔に、液体とガラスの欠片が降り注ぐ。

 思わずのけぞった男の足を払って転ばし、再度念じる。

 

 ―――棘鉄球(モーニングスター)

 

 下っ端を相手にしているとき、アイテムボックスに収納していた(盗むつもりでは無い)一番重そうな武器を手に取る。

 

 当然、力の無い俺が振り回せるわけがないが。

 

「ぐええええ!」

 

 鳩尾に落とすくらいはできる。あらやだ痛そう。まあ自業自得だな。

 

「え」

 

「……あ」

 

 女の子の店員さん、こっちガン見してるよ。

 ……さて、スキルについてなんて言い訳しようか。

 

 足下で泡拭いて転がっている飲んだくれの腹を踏みつけつつ、俺は途方にくれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リベルタ・エーアスト

Lv.1 

 

力:I=10

耐久:I=10

器用Ⅱ:I=10

敏捷:I=10

魔力:I=10

 

スキル

 

【創成己道】(ジェネシスクラフト)

・器用の成長率に上昇補正。

 

【尊価代償】(サクリファイス)

・成長補正スキルの効果増大。

・他の能力値成長率の下方修正。

・上昇対象能力値への成長願望が強いほど両補正ともに強固なものとなる。

・補正能力に準じたスキルが発現しやすくなる。

 

【無限収納】(アイテムボックス)

・三秒以上触れた物質を、念じることで収納空間に送ることができる。

・同じく念じることでいつでも取り出すことが可能。

・触れる箇所が固体である必要がある。また、生命体は収納できない。

 

【戦友鼓舞】(フィール・エアフォルク)

・戦闘時、一定範囲内の眷属の基本アビリティ上昇補正。

・同恩恵を持つ者にのみ効果を発揮。

 

【審美眼】(プルフサイト)

・武器、防具の性能が分かる。

道具(アイテム)の効果が分かる。

 

「Ⅱ……? 新スキル……?」

 

「はい、胃薬」

 

「……ありがとうリベルタ君」



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第三話

文字数の割になんか薄っぺらいなぁ、と感じていた第二話。
ステータス二回分の表記だけで700文字行ってたことにさっき気がついた。 


 翌日、俺は再びバベルの八階の売り場を訪れていた。

 

 あの後ゴタゴタしてて結局防具を買えなかったからだ。

 

 器用Ⅱと謎の進化を遂げた俺の基本アビリティはとりあえず置いておいて―――いや置いて良い事案でもないが―――新たに発現した【審美眼】(プルフサイト)はかなり有用なスキルだ。

 

 

 昨日の店員の女の子にお礼を言われ上機嫌になりつつ、防具を見繕う。「ごめん主神に話しちゃった」と言われたときはこいつシメたろか、とも思ったが、テヘペロ顔で頭コツンされたら許すしか無いよな、うん。あれ俺チョロくね?

 

 えーまあとにかく。【審美眼】のおかげで武器、防具の性能が分かる。明確な数値が出るわけでは無いが精度は高いと思う。なんなら転売して儲けることだってできそうだ。犯罪だからしないけど。

 

「……うん?」

 

 いくつかの胸当てを手に取っては箱に戻す作業を繰り返す仲、部屋の一番隅の目立たないところに置いてあったものに目がとまる。

 

「軽いな」

 

 持ってみた感じは他の胸当てより軽く、薄い。しかし【審美眼】によると性能は他の胸当てより一段上だ。

 裏側を見ると毛皮があしらわれていた。銘が【獣朗(もふろう)】。もふろうと提案されたからにはもふらないとな。

 

 手触りは最高。試しに装備してみると固くないからか着け心地が良い。他の胸当ての裏面固いんだよなぁ……

 

 気に入った。これが欲しい。名前も斬新で好みだし。「でも、お高いんでしょう?」と心の中で呟きつつ値段表を見るとなんと3000ヴァリス。え、マジかよ。設定間違ってるだろこれ。

 

 いい掘り出し物を見つけた、とルンルン気分で会計へと向かう。

 

「おい、俺の作った胸当てが割引されてるってどういうことだよ!」

 

「いえ、二ヶ月以上売れませんでしたし、そういう規則ですので……」

 

「あんな場所にあるんだから誰も見つけてくれる訳がないだろっ! あと割り引くにしても7割は無いだろ7割は! 3000ヴァリスで売れって言うのか!」

 

 受付で、何やら赤髪の男が詰め寄っていた。俺は後ろの方で様子を見つつ、自分の手に持った胸当てにそっと視線を落とす。

 

 なんだか雲行きが怪しいような……

 

「き、決めたのも置いたのも私じゃないですよぅ……文句なら担当の人に言ってください」

 

「くそっ……とにかく、俺は納得が行かない。ひとまず【獣朗(もふろう)】は回収するからな」

 

 くっまずい。このままではせっかく安く買える機会を逃しちまうじゃねぇか。なんとかしないと。

 

 

 何歩か下がり、そこからパタパタと足音を立てて受付へ向かう。何も聞いてません、今来たばかりですぅとアピールしつつ、何か言われる前に急ぎ足で移動する。

 

「会計お願いします」

 

「おい待て、その胸当ては―――」

 

「いやぁそれにしても良い買い物をしたわ! なんでこんなに良い品が安く売ってたか分からねぇけど、普通だったら12000ヴァリスはするよなこの胸当て!」

 

 

 ピタ、と鍛冶師の男は俺に向かって伸ばした手を止める。よし、計画通り。

 

 見るからに職人気質そうなこの男は、自分の防具の価値を低く見られるのが嫌だったに違いない。元の価格は一万のようだが、それでもなお良心的な値段だ。

 【審美眼】で本当の価値が分かった俺は一万二千ヴァリスと適正価格を言い当て、褒める。

 これで万事解決のはずだ。

 

「おお! 見る目があるなあんた! いいぜ持って行ってくれ!」

 

 気分を良くしたらしい男はバシバシと俺の背中を叩き上機嫌にそう言う。受付嬢が「あ、この人は制作者のヴェルフ・クロッゾさんで―――」と状況を理解していないと思ったのか俺に説明をしてくれる。

 

 俺は防具を安く買え、ヴェルフは気分良く売れる。受付嬢はヴェルフに見えない位置でガッツポーズしている様子から見て、喜んでいるのは明らかだ。いい笑顔でグッと親指立ててくる辺りいい性格していると思う。

 いやぁこれで大団円。良かった良かった。

 

 さー帰ろー、とさっさと出て行こうとする俺の肩を、鍛冶師らしいゴツゴツとした手が掴む。

 

「もうちょい話がしたいんだけどいいか?」

 

 近くで飯でも食おうぜ、とのお誘いを、特に断る理由もなかったので二つ返事で了承する。

 

 この選択を後悔するのは、ほんのちょっと先のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、リベルタ。クロッゾって名前に聞き覚えはあるか?」

 

「クロッゾ? 有名なのか?」

 

 道すがら自己紹介をしつつ、ヴェルフに連れられて来た定食屋は目立たないところにあったが、量が多くて味も良く値段も安い穴場だった。

 

 ヴェルフの質問に対し、料理に舌鼓を打ちつつも考える。冒険者に成り立てであるに加え、今まで武器防具などに興味が無かったこともあってか聞いたことも無い家名だ。

 

 言い方からしておそらく有名な鍛冶師の一族か。だとしたら俺の返答は気分を害したかもしれない。知ったかでもすべきだったか?

 

「知らないのか。クロッゾってのは魔剣が打てる一族なんだ」

 

「魔剣って誰でも魔法を打てる剣だっけ? すげぇじゃん」

 

「まあ、もう一族は全員魔剣を打つ力を失ったけどな。……でも、俺は打てる」

 

 あら自慢かしら。初対面の相手にすげぇなこいつ。

 

「お前は魔剣が欲しいか?」

 

 ふむ。ここで欲しいと言ったらくれるのか?

 ……いや、これは詐欺だな。間違いない。ここで受け取ったら一生掛かっても返せないほどの借金を負わされることになるに違いない! いやー流石俺。名推理過ぎる!

 

 うまい話には裏がある。なら、ここは適当に理由をつけて断るとしよう。

 

「魔剣って使うと壊れるんだろ? そんな高いの貰っても勿体なくて使えねぇよ」

 

 だからいらない。そう言うとヴェルフは大きく目を見開き―――豪快に笑い始めた。え、どしたの? なんか怖いよ?

 

「はっはっは! いや、悪い悪い。嬉しくてつい、な」

 

「嬉しい?」

 

「ああ。―――家名を見て「魔剣を打ってくれ」と言ってくる輩は数え切れない程いたが、断ったのはお前が初めてだ」

 

「……普通、気を悪くするもんじゃないのか?」

 

「まさか。みんな家名を見て魔剣だけを求めやがって、俺の作品を見ようともしない。いい加減うんざりしてたところだ」

 

 ヴェルフは魔剣が打てる。しかしそれは血筋のおかげであって、本人の能力では無い。

 大多数が求めているものはヴェルフ・クロッゾの作品ではない。『クロッゾ』の魔剣だけだ。それが心底気にくわないのだろう。

 

「でもお前は俺の作った防具を求めて、魔剣を断った。職人冥利に尽きるってもんだ。嬉しくないわけがないだろ?」

 

 お、おう。魔剣断ったのは勘違いからだけどな。なんかごめん。

 

「だから―――俺と専属契約をしてくれないか? リベルタには俺の武器、防具を使って貰いたいんだ」

 

 専属契約。俺が素材の調達をする代わりに、ヴェルフが装備品の生産や調整を全て行ってくれるということか。

 

 その申し出は嬉しい。だが……

 

「悪いけど、俺は冒険者とバイトを兼業している。だから―――」

 

 冒険に本腰を入れるつもりは無い。そんな奴にヴェルフだって専属契約などしたくないだろう。

 

 だから諦めてくれ。そう言おうとした瞬間、言葉を重ねられる。

 

「なんだそんなことか、気にするな! 駆け出しの冒険者は生計立てられるか不安だって理由で兼業している奴は多いぜ」

 

「え、いやそういうわけじゃ」

 

「でもお前なら大丈夫だ! なんというか、立ち振る舞いも駆け出しとは思えないしな。レベル2みたいだ」

 

 そりゃ、器用値が高いから技術だけはレベル2並だよ! でも他はほぼ一般人と変わんねぇんだよ!

 

 そう声高に叫びたいとこだが、ステータスに関わることなので中々言い出せない。

 

 何とも言えない顔をしていた俺を、どうやらヴェルフは遠慮していると勘違いしたようでぐいぐいと勧誘を続ける。くそっ善意で言ってくれているのが分かるからどうにも断りづらい!

 

「よし、早速だが俺の工房に行こうか! 自慢の品がいくつかあるから好きなのを持って行ってくれ!」

 

「いや、まだ契約するって言ってな……ちょ、引っ張るなよ!」

 

 勘定を俺の分まで払ったヴェルフに引きずられ。

 

 俺はほぼ強制的に、店を後にすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあヘファイストス。急にどうしたんだい?」

 

「この前、店でいざこざ起こしていた冒険者がいたらしいのだけど、あなたのとこの眷属が納めてくれたらしいのよ。それでお礼を言おうと思ってね」

 

 神友であるヘファイストスに呼び出された。

 何か怒られるのかと思いきや、どうやらそういう訳では無いらしい。ほっと胸を撫で下ろす。

 

「それで、そっちの子が怪我しちゃってたらしくて……良かったらこれ、使って欲しいのだけど」

 

「これ、良いポーションなんじゃないのかい? それを三つも……」

 

「ディアンケヒトファミリアの最高品質のハイポーションを用意したわ。一つはお礼、もう一つはお詫び、後は彼が使ったらしいポーションの代わりよ」

 

 これくらいさせて? と、ヘファイストスは笑う。リベルタ君が遠慮するならまだしもボクが何か言うのもおかしな話なのでありがたく貰っておく。

 

 「彼、いい子なのね」と褒められるとボクまで嬉しくなる。昨日頬を血だらけに帰ってきたときは「絡まれてる女の子助けてきた!」と誇らしげに言っていたものの、つい心配で、無理をするな! と少し怒ってしまった。帰ったら謝らなきゃ……

 

「ねぇ、話は変わるのだけれど」

 

「うん。なんだい?」

 

「昨日、あなたの眷属―――リベルタ君の背中の服が破けてね? それで、うちの子がみちゃったのよ、ステータス」

 

 神聖文字読める子でね、との言葉に、ボクは血の気が引く。あ、あのステータスが見られた……?

 

「全部見えた訳じゃ無いから、把握してるのは基本アビリティとスキルの個数くらいよ。もちろん、言いふらさないように言ってあるけど……ちょっと念のため、なんだけど、神の力(アルカナム)は使ってないわよね?」

 

「当たり前じゃ無いか! 大体もし使ってるんだったら、もっとちゃんとしたステータスをあげるよ!」

 

 器用ばかり高く、耐久など命に関わるアビリティは変化しない。そんな歪んでいて危ないステータスをどうして好き好んで眷属に与えるというのか。

 

「そうよね……変なこと聞いてごめんなさい」

 

「いや、しょうがないよ……ボクも無関係だったら神の力(アルカナム)を疑うと思う」

 

「……正直、スキルがもう一、二個多かったら信じられなかったかもしれないわ」

 

「あ、ははは……」

 

 言えない。スキルが増えた上に基本アビリティが謎の進化を遂げたなんて絶対に言えない。

 

 器用Ⅱ。レベルが上がるわけでもなく、ただ一つの能力値が昇華された。聞いたことの無いレアスキルの複数保有に加えて、リベルタ君は規格外すぎるんだよぅ……

 

 ヘファイストスの言葉に、ボクは引きつった笑みを浮かべることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘファイストスの部屋で構成員が作ったらしい美味しい料理を堪能し、お茶やお菓子まで頂いてボクは本拠を出る。見送りに来たヘファイストスに手を振り、さて帰ろうかと歩き出したとき。

 

「……リベルタ君?」

 

「ヴェルフ?」

 

 ズルズルズルーと引きずられて行くリベルタ君と、引っ張る赤髪の青年。ヘファイストスの構成員らしく、そのまま工房の方へと消えていった。

 

 ヘファイストスと顔を見合わせ、気になったので二人で彼らに着いて行く。

 

 

 

 

 

 どうやら、リベルタ君はヴェルフ・クロッゾという名の鍛冶師と専属契約を結んだらしい。ヴェルフ君が自分の作った作品を見繕いつつ嬉しそうに語ってくれた。

 

 え、でも、リベルタ君はバイトが本業じゃ……? 目が合うと「まずいまずい」と小さく呟き、首をブンブン横に振っていた。え、もしかして押し切られたのかい……?

 

 

 むむ、リベルタ君が困っている。ここはボクがなんとかするしかない! 視線で「任せておけ」と送ると「ヘスティア……お前もたまにはやってくれるんだな!」と同じく視線で返された。すごく心外だ。

 

「あー、うん。ヴェルフ君少しいいかな?」

 

「? なんです?」

 

 断り文句を口に出そうとするが、ふと黙りこくっているヘファイストスが気になり、ちらりと横目で見る。

 

「……」

 

 完全に主神()眷属()を見る目だ。よくよく耳を澄ませば「良かったわねヴェルフ」と小さく呟いている。

 

 感動するヘファイストス。嬉しそうなヴェルフ君。あ、駄目だこれ。

 

 ……この良い雰囲気を壊すなんて、ボクにはできない!

 

「リベルタ君を頼むよ!」

 

「おう、任せてください!」

 

「ヘスティアぁ!?」

 

 綺麗な手のひら返しを食らったリベルタ君の「てめぇやっぱ駄目じゃねぇかッ!?」と言いたげな非難の目を直視することができなかった。

 

 

 




スキル説明。入れた方がいいかな? と思いましたので書いていきます。

【創成己道】(ジェネシスクラフト)
・器用の成長率に上昇補正。

ジェネシス→英語で「創始」
クラフト→英語で「技巧」

 己道の部分どこ行った。

 純粋に器用値の伸びが良くなるスキル。デメリット無し。【尊価代償】が無ければ普通に喜ばれるかなりの良スキル。


【尊価代償】(サクリファイス)
・成長補正スキルの効果増大。
・他の能力値成長率の下方修正。
・上昇対象能力値への成長願望が強いほど両補正ともに強固なものとなる。
・補正能力に準じたスキルが発現しやすくなる。

サクリファイス→英語で「犠牲」「生け贄」

 私自身書いてて分かりづらかったので補足。
 リベルタ君は器用値を欲しいと思うほど伸びやすくなり、【器用】に関係するスキルが発現しやすくなる。代わりに他のアビリティの伸びが悪くなる。


【無限収納】(アイテムボックス)
・三秒以上触れた物質を、念じることで収納空間に送ることができる。
・同じく念じることでいつでも取り出すことが可能。
・固体のみに適応され、また、生命体は収納できない。

アイテムボックス→転生した人が良く持ってるあれ

 「ファンタジーと言えばこれだろ」と真っ先に思い浮かんだスキル。重さ制限無し。何気にチート性能。


【戦友鼓舞】(フィール・エアフォルク)
・戦闘時、一定範囲内の眷属の基本アビリティ上昇補正。
・同恩恵を持つ者にのみ効果を発揮。

フィール・エアフォルク→ドイツ語で「頑張れ」の意。ドイツ語は基本的に響きが格好いい。

 仲間が強くなる。自分は対象外。


【審美眼】(プルフサイト)
・武器、防具など制作物の善し悪しが分かる。
道具(アイテム)の効果が分かる。

プルフ→英語で「証明」。正しくはプルーフかも。
サイト→英語で「視覚」

 ファンタジーおなじみの【鑑定眼】に近い。でもそれだと魔物の強さが分かる~とか相手のステータスが見える~までできそうなイメージだったので名前変更。

 
 新しくスキルが出たらその回の最後に解説するようにします。
 
 ちなみに英語を組み合わせたりしていますが、文法的に合ってるかは分かりません。単語の意味は調べていますが。
 あとは基本的に響きを優先します。
 


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第四話

悩みつつ、書き直しながら投稿。でも微妙かも……

昨日のお気に入り130→今696。リベルタ君の器用値みたいな伸びに正直ビビりまくってます。

たくさんのお気に入り、評価、感想ありがとうございます!
これからも頑張らせて頂きます!



「聞いたよリベルタ君! あんた冒険者の資質があるんだってね!」

 

「え、なに?」

 

 結局ヴェルフに専属契約を断ることができないまま迎えた翌日、突然バイト先のおばちゃんにそんなことを言われた。

 

「リベルタ君が初めてダンジョンに行った日にね、ヘスティアちゃんが「スキルがもう発現している」って自慢してねぇ。もう、おばさんびっくりしたわよ?」

 

 ジロ、とヘスティアを睨み付けるとさっと目をそらした。余計なことを……!

 

「あ、そう言えばヘファイストスファミリアの人と専属契約をしたって噂を聞いたよ俺は! 期待の新人じゃ無いか!」

 

「あのヘファイストスファミリアの!? すごいじゃない!」

 

 おい、どこから漏れたその情報。あのファミリアの顧客情報の管理どうなってんだよ。

 

「じゃあ、本格的に冒険者になるんだねぇ……バイト辞めちゃうのは寂しいけど、たまに顔出しに来るんだよ!」

 

「え、辞めないけど……」

 

「リベルタ、確かに俺達のシフト的に一人抜けるときつい。でもそんなこと気にしなくていいんだぜ?」

 

 んなこと考えてねぇよ。冒険者本格的にやりたくねぇだけだよ!

 

 俺とヘスティアが口を挟む隙が無いまますでにお別れ会の日程まで決められている。

 

「……ああ」

 

 なんだろう、この外堀から埋められていく感じは。

 

 呆然と中空を眺める中。ヘスティアの脛を軽めにゲシゲシと蹴りつつ、これからの身の振り方を考えるのだった。いや冒険者しかなさそうだけどね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バイト先に行きづらくなった現在、収入としては冒険者業が主となるだろう。

 冒険者は危険が伴うせいもあってか収入は駆けだしでさえもそこら辺のバイト数日分は一気に稼ぐことができる。

 今まで通り安全に戦ったところで、バイトのみの時よりも収入は増える。それは間違いない。

 

 スキルもあるし、器用値も高い。死ぬ確率は……まあ、安全第一に戦っていればほとんど無いはずだ。

 

 それでも俺が冒険者をやりたくなかったのは、特に目標が無いからだ。成り上がろうとも思わんし、金や強さにもそこまで興味ない。ただ毎日をのんびりと平和に暮らしたいだけなのだ。

 

「あーあ」

 

 なんでこんなことになったのか。

 今更ファミリアを抜けたところで今のバイトは行けないし、他の仕事見つけたとしても、もし知り合いに会ったら「あれ? なんでダンジョン行ってないの?」と一々言われる羽目になるし。あれ、これダンジョン行くしかねぇじゃん。

 

 

 しかし流石に今日は行く気になれず、ブラブラと露店を回っては食べ歩きをしていた。

 

 もそもそと串焼きを頬張りつつ、怪しげな魔道具(マジックアイテム)を売ってるにーちゃん冷やかしたり、買ったパンをちぎって鳥にやって羽根まみれになったり、ドンとぶつかって来た獣人が俺の財布を盗ってきたので代わりに相手の財布スッてやったり。

 お、結構入ってるじゃん。儲けた儲けた。後ろの方で「俺の財布ゥー!?」と悲鳴が聞こえてきたが無視。

 

 そんなこんなしながら歩くこと数分。

 

 

「あれ、リベルタ君だ」

 

「うん? おお、アドバイザーの」

 

 

 むむ、この見たこと無い味のじゃが丸君買うべきか……とウンウン唸ってると、ギルド職員のエイナ・チュール氏が後ろから声をかけてきた。

 

 冒険者になる前、ダンジョンについて色々教えてくれた親切なギルド職員だ。どうせ本気でやらないし一階層でしか戦わないといった理由でアドバイザーになってもらうのは遠慮したが。

 

「エイナさん今日はもう上がり?」

 

「うん、書類作業が早めに終わったから。いつもは夜遅くまで仕事あるんだけどね」

 

 ギルドの職場環境ブラックだな。【事務作業】とかスキルで発現したら就職しようかとも考えてたけど、自由気ままにやれなそうだし止めとこ。あ、そもそも恩恵持ってる人は職員なれないんだっけか。

 

 まあそんなことはともかく。

 

「ちっと相談乗って貰ってもいい? なんか奢るから」

 

 さっきパクった金で。

 

「いいけど……冒険業に関わることならギルドの応接室の方がいいと思うよ? 誰に聞かれるか分からないし」

 

 それはそうだけど、今からギルド行かせるなんてなんか悪いじゃん。そもそもこんな時に相談なんてするなって話だけど。

 

 申し訳なさが顔に出ていたのか、俺の肩にポンポンと手を置き、ギルドの方向を指さす。 

 

「冒険者のサポートが私の仕事なんだから、気にしなくてもいいよ。さ、行こっか」

 

 格好いいなぁ。憧れると同時にバイトを転々と好き勝手生きてきた自分と比べてしまう。俺、格好悪いなぁ……今もこうして冒険もせずにブラブラしていた訳だし。

 

 ギルドに向かう途中、「てめぇ盗んだ財布返しやがれ!」「あなたはブラックリストの!」「げぇギルド職員!」みたいなやり取りがあって俺も事情徴収されたがしらを切り通した。危うく冒険者どころか囚人に成り下がるところだったわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルド本部、応接間にて。

 

 閉めきられて音が漏れそうも無い部屋に安堵しつつ、促されるままソファーに腰掛ける。あれ、俺が普段寝てる奴より柔らかい。格差社会反対。

 

「相談って何?」

 

「実は、バイト行きづらくなってなぁ。本格的に冒険者やろうと思うんだけど、モチベーションがイマイチ上がらない」

 

「……そんな考えじゃ死ぬよ?」

 

「安全安心はモットーに行くつもりだけど」

 

「それでも、下の層に行くようになるよね? ダンジョンはどんなイレギュラーが起こるか分からないのに、そんな嘗めてかかっちゃいつ死ぬか分からないよ? ……特にリベルタ君って楽観主義っぽいし」

 

 ギクっバレてる。「まあなんとかなるでしょ」とダンジョン下層へガンガン進んで行ってモンスターの袋だたきに遭う姿が容易に想像できる。いや馬鹿すぎだろ俺。

 

「で、でも、そういう考えの冒険者もいないわけじゃないだろ?」

 

「確かにそうだけど、君はパーティすら組んでいないでしょ? 何かミスしてもフォローしてくれる仲間はいないんだよ?」

 

 パーティ、か。

 

 エイナさん曰く。

 基本的にダンジョンに潜るときは同じファミリアのメンバーで5、6人のパーティを組むことが多いらしい。ギルドでも多人数を推奨しており、理由としてはやはり死亡率の低下が上げられるとか。

 

 ソロで活動する冒険者がいない訳ではない。しかし、大体は死んでしまうか、限界が来て別のパーティに参加するらしい。少なくとも、ソロで名を上げた冒険者はいない。ほぼ誰にも知られないままひっそりとダンジョンでくたばる。

 

「リベルタ君のファミリアは他に眷属がいないからしょうがないかもしれないけど……やっぱり一人はおすすめできないかな」

 

「……かといって、他のファミリアのパーティか……ここだけの話なんだけどさ、俺変わったステータスだからあんまり身内以外と組みたくないんだよ。言いふらされたら困るし」

 

「変わってるって……? あ、ごめん。ステータスの詮索は御法度だったね」

 

 別にエイナさんには言ってもいい気がするが、ただ彼女の気苦労を増やすだけじゃないかと思ったので黙っておく。

 

 

 

 

 

 

 

 結局。うまい打開策も見つからないまま、「とりあえず魔力以外の基本アビリティが一定以上になるまでは一階層で戦うこと」とエイナさんに言いつけられた。いや、それだと俺、たぶん一生一階層なんですが……

 まあ結局、バイトしてた頃とそこまで変わらなそうだ。もう楽しいとかそんな感情抜きにしてただ安全に、金稼ぐだけだなぁ。つまらねぇなぁ……でも、命には代えられないか。

 

 エイナさんとギルドを出る。お茶に誘ってみたが断られた。残念、下心バレバレだったらしい。

 

 綺麗だからアプローチされることも多いだろうし、この人は純粋であまりグイグイ来ない人が好きそうだなぁ、なんて考えつつエイナさんに別れの挨拶をしようとしたとき、トボトボと歩く少年が目に止まった。

 

「ベル君?」

 

「……あ、エイナさん」

 

 知り合いだったのか、エイナさんが呼びかけると、落ち込んだ顔でこちらへ来る。よくよく見れば服は砂だらけで、元は真っ白だっただろう髪もくすんだ色合いとなっている。

 

「……どうしたの? その格好。……ファミリアには入れた?」

 

「……全部門前払い、されちゃって」

 

 じわ、と少年の目に涙が浮かぶ。

 白い髪に、赤い瞳、小柄な身体。どこか兎を思わせるような見た目は、厳つい風格の冒険者が多い中で、あまりにも似つかわしくない。第一印象からして、とても腕っ節が強そうには見えなかった。

 

 ……冒険者はステータス依存なんだから、見た目なんて関係無いのにな。

 

 エイナさんと顔を見合わせる。親指を立てるとホッとした表情になった。

 

 俺は白い少年に向き合う。

 

「ベルって言ったっけか。ファミリア入りたいんだよな? ……一人しか眷属のいない零細ファミリアで良かったら歓迎するぜ?」

 

 え、とベルは顔を上げる。言ってる意味が最初は分からなかったのか呆然としていたが、少しして浸透したのか驚きで目を見開く。

 

「ほ、本当にいいんですか……?」

 

「うちの主神も喜ぶよ。眷属欲しいー欲しいーってずっと言ってたしな」

 

 あと俺もすげぇ嬉しい。一緒にダンジョン行ってくれる仲間ができそうってのもあるけど、ベルっていい奴そうだし。

 

 ファミリア入ろう(家族になろう)ぜ、との俺の言葉に、ベルはパアァっと明るい表情になり、思いっきりよく頭を下げた。

 

「あ、ありがとうございます! ふ、ふつつか者ですがよろしくお願いします!」

 

「あれ家族ってそういう意味?」

 

 何故か嫁ゲット。あ、違うって? やだなぁ、こんな面白いネタからかわない方が失礼だろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファ、ファミリアに入ってくれるって……?」

 

「ダ、ダメですか……?」

 

「大歓迎に決まっているじゃないか!」

 

「え、ちょ、神様ぁ!?」

 

 連れ帰ったら即時抱きしめられるベル。真っ赤な顔してまったく羨ましい。いや、けしから……やっぱ羨ましい。

 

 あまりにベルばっかり構うので拗ねてたら「リベルタ君が、デレた……!?」と驚愕した後、うざったいちょっかいを出してきたので例の紐をほどいてやった。でも何も変わらなかった。あの紐には何の意味が……? 万歳したときに持ち上げるためかなるほど。

 

 

 その後はまかないのじゃが丸君パーティーを開き、ベルを歓迎。

 俺がバイトを辞めることになってしまたことをヘスティアが謝ってきたが、あれは俺自身が流されたのが悪いし怒ってない。それにベルが入ってくれたしな! 目標はダンジョンに潜りながら考えるとして、後は何も問題は残ってない。良かった良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リベルタ・エーアスト

Lv.1 

 

力:I=10

耐久:I=10

器用Ⅱ:I=10→G=263

敏捷:I=10

魔力:I=10

 

スキル

 

【創成己道】(ジェネシスクラフト)

・器用の成長率に上昇補正。

 

【尊価代償】(サクリファイス)

・成長補正スキルの効果増大。

・他の能力値成長率の下方修正。

・上昇対象能力値への成長願望が強いほど両補正ともに強固なものとなる。

・補正能力に準じたスキルが発現しやすくなる。

 

【無限収納】(アイテムボックス)

・三秒以上触れた物質を、念じることで収納空間に送ることができる。

・同じく念じることでいつでも取り出すことが可能。

・触れる箇所が固体である必要がある。また、生命体は収納できない。

 

【戦友鼓舞】(フィール・エアフォルク)

・戦闘時、一定範囲内の眷属の基本アビリティ上昇補正。

・同恩恵を持つ者にのみ効果を発揮。

 

【審美眼】(プルフサイト)

・武器、防具など制作物の善し悪しが分かる。

道具(アイテム)の効果が分かる。

 

【盗賊心得】(ハーミット)

・隠密能力向上

・索敵能力向上

 

 

「……盗賊? リベルタ君、今日何してきたかじっくり教えて貰えるかな?」

 

「大丈夫、バレてねぇから」

 

「そういう問題じゃないよ!?」




ヘスティア「はい、ベル君のステータス」

ベル「パッとしないなぁ……スキルも無いし……」ショボン

リベルタ「みんな最初はそんなもんだろ」

ベル「あ、そうだリベルタさんの見てもいいですか?」

リベルタ「ほい」ペラッ

ベル「」


 言葉にできないステータス。



【盗賊心得】(ハーミット)
・隠密能力向上
・索敵能力向上

ハーミット→隠者。実は隠者の意味をよく分かっていない。

感想にて教えて頂きました。俗世間から離れて隠れ住む賢者の事らしいです。ヤバい想像していた意味と違った。てっきり日陰者的な意味かと(汗)

このスキルで不意打ちが得意になりそう。索敵は原作の命ちゃんのスキルほど範囲は広くない。「曲がり角の向こうに何かいる……!」くらい。でも便利スキル。

リベルタ君、バイト辞めるってよ。私もそこはかなり悩んだのですが、辞めさせないとダンジョン行かなそうだから……!

いつか器用値上がりまくった後に人員不足のヘルプとして参加予定。たぶんすごいことになる。


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第五話

お気に入りが増え、昨日は興奮して眠れませんでした。

感想たくさんありがとうございます。読んではいるのですが返す時間が無かったので、これから返信させて頂きます。

文章力、語彙力皆無なのに設定と勢いで突っ走っていることは皆さんお気づきでしょう。今回もちょっと場面の切り替え多すぎたかな、と感じていたり。


「ふぁー……」

 

 教会に朝日が差し込むのを感じ、起床。

 

 すでに寝慣れてきたソファーに愛着感を覚えつつ、二度寝の誘惑を押さえて立ち上がる。

 

「……」

 

 ふと、ベッドで寝ている二人が気になって視線を送る。

 

 ベルがヘスティアの胸に埋まってた。

 あいつ、昨日に続いて……! 悔しさで歯を食いしばるが、歯ぎしり音がならないように気をつけておく。起こしたら悪いし。

 

 寝床がベッドとソファーの二つしか無い我らが本拠。今までは俺ソファー、ヘスティアがベッドで落ち着いていたのだが、新たに一人増えたことで容量オーバーとなってしまった。

 

 いや、ベッドは広いから二人寝れるっちゃ寝れる。だが、ヘスティアをソファーに寝かせたんじゃ男が廃る。よってベッドの一人はヘスティアで確定しているのだ。

 

 さて、そこに俺かベルが加わることになるわけだが。

 

 俺はぶっちゃけベッドに行きたかった。どさくさでヘスティアの胸に飛び込みたかった。

 でもそれ以上に、自分が間違いを起こさないかが不安すぎて立候補できず、結局ベルを生け贄にした。

 だってさぁ、気が付いたらスキル【自己規制】(ズキューン)が発現してたなんてことになったら目も当てられないじゃんよぉ……え? ベル? あいつ無害そうだから大丈夫だろ。

 

 

 しかし、自分からベルを押し出しておいてなんだが役得の場面に殺意が湧く。「きゃー変態! ベル君のド変態ッ!」と幼稚で楽しい弄りを決行したいところだが、あれはどうみてもヘスティアの寝相が原因だ。よって不可能。

 

 しょうがない、「ヘスティアの痴女! 処女神のくせにっ!」で我慢しよう。

 ……いや、これはダメだな。「あれぇー? もしかしてリベルタ君、嫉妬かい?」とニヤニヤ顔で返されるに決まってる。し、嫉妬じゃねーし! 寂しいとか全然思ってねーし!

 

 

「―――!?」

 

 頭の中で独り言を呟いているうちに、ベルが起きた。自分の置かれている状況に気づいたのか声にならない声を上げ藻掻いていたので、足を引っ張って離脱を援護する。お前にこれ以上堪能させるわけには行かない。

 

「おはよっすベル」

 

「お、おはようございます……ヘスティア様って寝相悪いんですね」

 

「そうだな。いちいち困らされるのも大変だろうし、これからはベッドの下への避難をおすすめするよ」

 

「それ実質床ですよね!?」

 

 何言ってんだ。床より埃まみれだぞ。

 

 

 

「……むにゃ」

 

「あ、ベル声がでかいぞ。ヘスティア起きちゃっただろ」

 

「え、あ、すみません神様!」

 

「ふぁぁあ……いや、構わないよ。昨日はいつもよりぐっすり眠れたしね」

 

 抱き枕のおかげですかねぇ? ベル君はリラックス効果があるのかもしれない。兎っぽいしアニマルセラピーだなきっと。

 

 

 

 さて、全員で起床した訳なので早めの朝ご飯を用意する。

 一人暮らしが長かったので炊事は得意だが、流石に朝から手の込んだものを作りたくなかったので、パンを焼いてスクランブルエッグと焼いたベーコンを添えるだけだ。

 

「二人とも気をつけるんだよ? ベル君はもちろんだけど、リベルタ君もステータス的にはかなり危険なんだから」

 

「死なないようにはするって。ベル、肩の力抜いていこうぜ」

 

「はっはいっ!」

 

 ガチガチじゃねぇか。まあなんとかなるか。

 

 食後には仲良く三人で並んで、なんとなく腰を振りながら歯を磨いた。意味は特に無い。が、一番俺がキレッキレだったとだけ言っておく。……だからなんだって話だけどね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘスティアに見送られ、ベルの冒険者登録をするため、二人でギルドへ向かう。

 

 

「そういやベル。別に俺も、たぶんヘスティアにも敬語は使わなくていいぞ。まあ神相手にタメはきついってんならいいけど、俺とはそこまで歳も違わねぇだろうし普通に話してくれ」

 

 折角の仲間なんだから、俺としてはその方が気楽でいい。そう伝えると少し逡巡したものの、「うん、分かった」と頷いてくれた。うし。

 

「リベルタはどうして冒険者になったの?」

 

「なりゆきとしか言いようがねぇな……まあ、生活のためだ。ベルは?」

 

「僕は、ダンジョンで女の子助けて仲良くなるため……ええっなんで笑うの!?」

 

「ブフッ! クク……いやあ悪い。奥手そうなベルらしくない世俗的な夢でなぁ」

 

 案外こういう奴が大成しそうだよなぁ、なんて考えていると、天高く突き抜ける摩天楼へと辿り着く。ほえーと上まで眺めてボケっとしているベルの背中を軽く叩き、中へと入る。大体あなた昨日も見たでしょうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、リベルタ!」

 

 ベルの冒険者登録と装備の貸し出しの手続きに時間が掛かるとのことだったので、時間を潰すために外のベンチに座っていると、聞き覚えのある声が。

 

「げっヴェルフ」

 

「げってなんだよ」

 

 ヴェルフ・クロッゾ。結局専属契約を結ぶはめになったあの日、次々と見せてくる装備品の価値を言い当ててしまったことから余計に好感度が上がってしまった。男に気に入られても嬉しくねぇ。

 

「胸当てや肘当ての使い勝手はどうだ?」

 

「昨日ダンジョン行ってねぇから分からん。……代金はまだでいいんだよね?」

 

「むしろ先行投資として受け取ってくれてもいいんだぜ。代金払うって聞かないのはお前だろうに」

 

 タダほど怖い物はありません故に。

 

 しかし、もうバイトも正式に辞めちまったし、これから普通にこいつにお世話になりそうだなぁ。性格は普通に良いし悪い奴じゃないんだけど、最初のぐいぐい来た印象のせいかちっと苦手だ。

 

 

「素材を持ってきてくれたら武器も作るから、その時は遠慮無く言ってくれよな」

 

「おう。近いうちに訪ねさせて貰うわ」

 

「ああ! 任せてくれ!」

 

 じゃあな! と言いたいこと言ったら即去って行くヴェルフ。男らしいというかなんというか、さっぱりしたあの性格は嫌いじゃ無い。相変わらず苦手ではあるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リベルタお待たせ! ねえさっきの人って誰?」

 

「見てたのか。あいつは専属契約した鍛冶師さんだ」

 

「せ、専属契約ってすごいんじゃないの?」

 

 だって専属だよ! とオラリオ来たてのベルは語感で判断する。突っ込まれて聞くと面倒くさいので適当にあしらう。「それよりダンジョン行こうぜ」と露骨に話を逸らすと、ベルは目を輝かせていかにも楽しみな表情になる。お前絶対に詐欺引っかかんなよ。

 

 

 ベルも来たのでバベルの中へ再び入り、地下一階のダンジョンの入り口へと向かう。

 

 

「うわああ……ダンジョンってすっごく広いんだね!」

 

「最初の通路はかなり横幅広いな。もうちょい進むと入り組んでくるぞ」

 

 見晴らしがよく、モンスターの奇襲に遭いにくい上にそこまでの数は湧いてこない。まさしく初心者向け、って感じだよな。

 

 初めてのダンジョンに、ベルのテンションはうなぎ登りだ。ゴツゴツした壁を触っては感動したように声を漏らし、キョロキョロ見回す。

 小動物を思わせるような仕草だな。あざとい、ベルきゅんあざとい。俺にじゃ無くて女の子に見せつけたらモテると思うぞ。マスコット的な意味でだが。

 

 そうこうしているうちに、ビキリビキリ、とダンジョンの壁からモンスターが生み出される。ハッと息を呑むベルは緊張しているのか、手に持った支給品ナイフが小刻みに震えていた。

 

「ゴブリン二匹……片方は俺がすぐ倒すから、もう一匹と戦ってみ。やばそうだったらサポートに入るから」

 

 そう言い残して、近い位置に湧いた二匹に接近する。さて、先輩としていいとこ見せなきゃな!

 

『ギィィィ!』

 

 右足を支点に回し蹴りを放ち一匹を地面へ転がし、後ろにいた一匹は回転を弱めないまま剣を振り抜き、首を切断する。転がってる方をベルのいる方へ蹴飛ばすと、俺には叶わないと思ったのか近くにいたベルに向かっていく。

 

「う、うわあああああ!」

 

 やけくそ気味にゴブリンへナイフを振るうが、当たる気配の無いベル。お前、目ぇ閉じてんじゃねぇか……

 

 助太刀しといた方がいいか……? いやしかし、意外とベルの動きが鋭い。

 恩恵貰い立てでここまで動けるか? と疑問に思ったが、そういえば俺、【戦友鼓舞】(フィール・エアフォルク)なんてスキル発現してたな。それの影響でベルのアビリティが上がってるのか。

 

 わーわー叫んで無茶苦茶に動いているせいか、ゴブリンもなかなか近寄れないようだ。「え、どうしよう……」と言わんばかりにオロオロしている。

 

 まあ、異形なゴブリンの姿を見て向かっていっただけでもすごいんじゃないか? 俺は怖くて距離を取りつつ石投げまくって最初の一匹殺したし。

 それを考えれば、目を閉じるくらい……駄目だわ。それはねぇわ。大体余計怖いだろそれ。

 

 少しして。痺れを切らしたゴブリンが飛びかかったためナイフに自分から突っ込み自滅。ベルの初勝利の礎となった。

 

 魔石を残して灰になったゴブリンと自分のナイフを交互に見比べ、勝利に今更気づいたのかベルは目を輝かせる。

 

「リベルタありがとう! おかげで倒せたよ!」

 

「おお、そりゃあ良かっ―――」

 

「神様にも報告しなきゃ!」

 

 そう言ってベルは、ウサギのようにピョンピョンしながらバベル方面へと戻っていった。

 

 ……え、帰ったの? あの子。

 

 ゴブリン一匹倒して満足したらしい。まあ、お前がそれでいいならいいんだけどさ?

 

 ヘスティアのことだから空気を読まずに「え? たった一匹倒して帰ってきたのかい……?」みたいなこと言いそうだな、なんて考えつつ、しょうがないから俺一人で戦闘を続ける。

 

 ビキビキと壁から異形のモンスターが生み出された。三匹同時は珍しいなと思いつつ、接近する。

 

「―――?」

 

 ふと、違和感を感じた。正確には先ほどから、なのだが。敵にではなく、俺自身の感覚の違いに。

 

 ―――世界が遅い。

 

 コボルトの一挙一動が、はっきりと視える。

 

 迫り来る鋭い爪を少し屈むことですれすれで避け、カウンター気味に剣の刃を相手の首へと押し当て……ほとんど力を入れるまでも無く、頸動脈を的確に切り裂いた。

 

 ゴポ、と溢れ出す血と共に、灰となって消える。一瞬目を遣りつつ、残る二匹に向き直る。

 

『グギャアアア!』

 

 大口を開けて噛みつこうと飛びかかってきた所で、前進。口の中に剣を突き立てる。

 

 飛びかかってきた最後の一匹の爪攻撃を、今しがた剣に刺さったコボルトを盾にしてやり過ごす。トドメを刺されて灰へと変わった瞬間、呆然とする一匹の胸の辺りに、角度を調節しつつ。

 

 ―――トン、と刃を埋める。

 

 カラン、と魔石が身体から押し出されたコボルトは、ポカンとした表情のまま絶命した。

 

「……」

 

 俺がダンジョンに潜った回数はこれで三度目。

 一回目は恩恵貰い立て。二回目は器用値SSS。そして今回は――器用値Ⅱ。

 

 IからSSSの過程でも、俺は自分の感覚の差に戸惑った。ここまで世界が変わって見えるのか、と。

 

 だが、今回。おそらくは器用値のみのレベルアップと言っても過言では無い成長を遂げたことで、さらに世界は緩やかになった。

 最適化された動きが解る。

 足運びも、剣の振り方も。どこをどう斬れば、致命傷になるのか、も。

 

 

 次は、一匹で歩いているゴブリンに、【盗賊心得】によって忍び足で接近する。

 

『っ!? ギ―――』

 

 声を発するまもなく、振り向きざまに喉をかっ斬る。

 

 

「……はぁー」

 

 一撃やん一撃。一階層の雑魚モンスターってのもあるが、正直一切の危機を感じない。

 油断は禁物だが。それでも、なんだか俺が場違いな所にいるみたいな気分だ。

 

 

 

 

 

 それからもこちらは一発も被弾すること無く一撃で屠り続けることしばらく。

 

「―――リベルター!」

 

「あ、ベルおかえり。なんて言われた?」

 

「……「それだけ?」って……」

 

 やべぇヘスティア期待を裏切らねぇ。きっと今頃「余計なことを言った」とバイト先で落ち込んでいることだろう。

 

「さて、折角帰ってきたんだし、一緒に狩るぞ。それなりにうまく教える自信も出たところだ」

 

「ありがとう! ……あ、でも僕短剣だよ?」

 

「なんでそんなリーチ短いのにしたんだよ」

 

 今度俺も借りて来て使ってみるか。少し練習したら教えられそうだし。

 

 

 

 声を掛け合いつつ、スローペースで戦って今日の探索を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白亜の塔、バベルの最上階に、一柱の女神がいた。

 

 神々の中でも随一の美貌を持つ『美の女神』は、嬉しそうにギルドで魔石を交換する白髪の少年を、遙か真上に当たる位置から『視て』いた。

 今まで見たことが無いほど透き通って綺麗な魂に、美の女神―――フレイヤは目を奪われた。今日地上の人々を眺めていたとき、偶々見つけた存在。

 

 残念ながらすでに恩恵を貰っていたようだが、今は一旦預けておくだけだ。いずれ必ず自分のモノにしてみせる。

 歪んだ独占欲に鋭く口角を上げ、笑う。

 

「―――あら」

 

 視線に気が付いたのか、白髪の少年がブルりと震え、訝しげに辺りを見回す。

 同じファミリアの仲間なのだろうか、黄土色の髪の青年が声をかける。自然とそちらに目が移った瞬間―――バッと天を仰ぎ、こちらを『視た』。

 

「……面白いわね」

 

 元は凡庸であっただろう、歪な形の魂の持ち主。

 

 驚くわけでも無く、フレイヤは微笑む。

 視線の元を辿られたことも、歪んだ魂も。初めての経験では無かったからだ。

 

 フレイヤは視線を逸らし、別の方向を見据える。

 

 商店街を歩く、燃えるような紅い髪の女性。視線に気づき、ふぅとため息を吐いてジト目で視られる。

 

 小規模な薬舗でつまらなそうに留守番をしていたハーフパルゥムの少年。不機嫌そうに睨み付けられる。

 

 酒場で暴れるファミリアの仲間に辟易する、狼犬人。チラリと一瞥し、苦笑して肩を竦める。

 

 フラフラと屋台を歩き、買い食いを繰り返す小さなエルフ。気がついたようだが無視される。

 

 全員が歪んだ魂。だが、それでいて磨かれた美しさも兼ね備えている。

 

 

 

 白髪の少年のように、欲しいとは思わない。ただ、彼らは視ていて飽きない存在ではある。

 

 新たに『5人目』が現れたことによって、どのような物語が紡がれるのか。

 美を司ると同時に、娯楽好きの神の一柱でもあるフレイヤは、その双眸を楽しげに細めた。

 

 

 

 

 

 

 




明日は私用で更新が難しそうです。
ストックもだいぶ減ってきたので、少し不定期になるかもしれません。

そして戦闘描写があまりうまくできない……もうちょい戦わせたいけど、格上くらいじゃないとリベルタ君一瞬で戦闘終わっちゃう……


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第六話

遅くなりました! 展開にめっちゃ悩んでおります。

今回。情報収集(?)の回です。


「よっすよっすエイナさん。急に呼び出しなんてどしたの? あ、そこの喫茶店でお茶でも」

 

「行きません。……リベルタ君、ちょっと応接室まで来て貰える?」

 

 ヒラヒラと手を振り軽い足取りでやってきたら予想外のガチ目のトーンの声にすげぇにビビった。あれ、これ確実に怒られる雰囲気だ。なんで?

 

 何かしでかしただろうか、と首を傾げつつも、黙って着いて行く。例によって俺の寝床より柔らかいソファーに腰をかけ、ピンと背筋を伸ばす。

 

「ねぇ、リベルタ君。君のレベルっていくつ?」

 

「え、もちろん1だけど。知ってるだろ?」

 

 何を今更。むしろ器用意外の基本アビリティに至っては伸びてすらいないというのに。

 エイナさんは俺の言葉に双眸を細め、どことなく見極めているようにも見える。

 

「じゃあ、証拠として背中のステータス見せて貰ってもいい?」

 

「別にいいけど」

 

「……えっいいの?」

 

 聞いてきてなんで驚くのか分からない。エイナさんがステータスを他の人に話すとも思えないし、俺は一向に構わないぜ。……ところで証拠ってどゆこと?

 

 俺の言葉に何故か訝しげなエイナさんは頭にハテナマークを浮かべつつも、俺が捲り上げた背中を見るために移動する。どうやらスキルの部分は見せなくてもいいらしいので、脱いだ服をスキルの位置に巻き付けることにした。

 

 

リベルタ・エーアスト

Lv.1 

 

力:I=10

耐久:I=10

器用Ⅲ:MAX=1500

敏捷:I=10

魔力:I=10

 

 

「……」

 

「エイナさん?」

 

 後ろで何も反応が無いのでそっと振り向いてみると、エイナさんが眼鏡を外し、目頭をきゅっと摘まんでいた。「疲れてるのかな……」とポツリと呟き、目を何度か擦った後に再度背中を見て、また目を擦る。なんかエンドレスになりそうだったので服を降ろし、向き直る。

 

「前に言ったじゃん。変わったステータスしてるって」

 

「……え? じゃあさっき見たアビリティは本物?」

 

 うん、と頷くと、エイナさんは目を大きく見開き、パクパクと何か言いたげに口を開閉して―――

 

「えええええええええええ!? 何なのこれぇ!?」

 

 うん、その叫びはヘスティアとベルから散々聞いたよ。最近は慣れたのか何も言わなくなってきたけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 珍しく取り乱したエイナさんが落ち着いた頃を見計らって、声をかける。

 

「【尊価代償】ってスキルの影響でさ。能力の成長が偏っちゃったんだよ」

 

「偏るにしても限度があるよ!?」

 

 訳が分からない、と言った表情を浮かべていたエイナさんは一回気を取り直すように首を軽く振り、次いで申し訳なさそうに謝罪する。

 

 

「……実はリベルタ君がレベルを偽っているんじゃないかって報告が来てて……疑ってごめんね」

 

 エイナさんの元に最近、こんな書類が寄せられてきていたらしい。

 

『ダンジョンの3階層付近で、どこのファミリアでも初心者指導をしてくれる上級冒険者がいる』

 

『あの動き、ぜひうちのファミリアに引き抜きたい。所属教えて』

 

『黄土色の髪で、駆けだしらしい白髪の後輩と一緒に潜っていた。先輩の鏡』

 

 ……え、これ俺? 評価美化されすぎじゃね? 何も知らない人から見るとこんな感じに見えるのか。

 

 器用値の影響で動きが鋭い俺に声をかけてくる冒険者は多かった。折角だから一緒にパーティを組んだりしたし、ついでに指南も行ったりはした。大したことしてないと思っていたし、スキルも使わないようにしてたんだが意外と目立ってたんだな。

 

 

 見た目の特徴から、件の上級冒険者が俺だと判明した。しかし実際には駆けだしのレベル1の冒険者として登録してあった。

 

 レベルの虚偽申請にはペナルティが科される。すでにヘスティアファミリアは黒とされ、罰金の処遇がほぼ決定していたらしい。マジかよ怖ぇな。

 

「上層部にはスキルの影響だって言っておくね。本当にごめん、リベルタ君」

 

 むしろエイナさんが確認してくれて助かった。ペナルティは回避できるだろうけど、そのためには見ず知らずの信用できないギルド職員達にステータスを見せなきゃいけないだろうし。それはすごく嫌だ。

 なので「気にしていない」と手を振るが、エイナさんは納得していないのかむむ、と唸っている。……はっこれはもしかしてお食事に誘うチャンス!? 今なら断られない気がする!

 

「あ、そうだエイナさん。この後―――」

 

「そうだ! その【尊価代償】ってスキル、ギルドのデータ調べたら何か分かるかも。他のアビリティ伸びてなかったみたいだけど、もしかしたら伸ばせるように―――どうしたのリベルタ君、そんなに唇噛みしめて」

 

「……や、なんでもない。調べてくれると大変に嬉しいです、はい」

 

「そう? じゃあちょっと待ってて。資料探してくるから」

 

 部屋を出て行くエイナさんを見送りつつ、考える。

 ヘスティアは俺の成長を見て「前代未聞」だと言った。なら、ギルドに情報がある可能性は限りなく低いだろうと俺は思う。そもそも、そんなに何人もいたらおかしくないか、こんな成長の奴。

 

 あーあ、さっさとデートに誘えば良かったなーなんて考えつつ。スキルの情報を期待しないで待っていた俺は、10分ほどでエイナさんが持ってきた大量の書類に目を白黒させることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あまりにも量が多かったので、教会へと持ち帰らせて貰う。別に極秘情報の類いでもないので構わないらしい。

 

 帰ってきたがベルもヘスティアもいなかったので、一人で資料を読みあさることにする。手分けして読みたいところだったが、内容も気になるので待っていられなかった。

 

『この書類を読んでいるってことは、君も【尊価代償】が発現したってことだよね?』

 

 こんな前書きから始まった。やけに枚数が多いと思ったが、まさか【尊価代償】持ちの人間が書いた内容が整理されないまま残っていたのか? 話し言葉じゃ長いわけだ。

 

『いやぁ、今のところ私しかいなさそうだけど。それでも、いつか発現する人のために、このメッセージを残したいと思います。―――ザマアァァァァ!!!』

 

 ビリッ。

 思わずちょっとだけ破いてしまった俺は悪くないと思う。そういえば俺の切った場所以外に三箇所切れ込みがあったがなんでだろうか。

 

『はい、ごめんごめん。ちょっとストレス溜まってて。うん、ちゃんと情報は残すから! あ、私は力子(ちからこ)! よろしくね!』

 

 流石に本名っぽく無いのでコードネームだろうか。その文の下には『自己紹介乙 by守備男(しゅびお)』と書いてある。書き込んでいいのかこの書類。

 

 ……え? 力子以外にも【尊価代償】持ちいんの?

 

『えーまず。このスキルが発現した段階で上昇対象能力以外は諦めた方がいいと思うよ。願った分補正が付くって説明に書いてあるくせに、「もう要らない」と思っても上昇率戻ってくれないから! 心のどっかで執着が残ってるのかな? 私はそんなつもりないんだけどなぁ。あと下方修正、上昇より明らかに強すぎると思う。これもう伸び率ほぼゼロじゃね?』

 

 ……これはなんとなく俺も予想はついていたが……改めてそう言われると厳しいものがあるなぁ。

 最近は一切『器用値増えろ』と念じていないにも関わらず器用はどんどんと伸び、他のアビリティは10のまま不動を保っている。ぶっちゃけ器用が1000伸びるより他のが1伸びる方が嬉しかったりする。

 

 力子のこの文章の後には、今までの試みが綴ってあった。

 

・必死に「力要らない!」と願うこと数日。効果ゼロ。

・「他の能力欲しい!」と願うこと数日。効果ゼロ。

・逆に力欲しいと少し願う。伸び率増えてそのまま固定。

・耐久が伸びるように体を張る。効果ゼロ。

・敏捷が伸びるよう走り込む。力が上がった。

・器用が伸びるよう遠距離武器に挑戦。弓が引きちぎれる。

・魔力が上がるように本を読んだ。肉体強化の魔法が発現。

 

 結果。読んでいて涙ぐましい努力の甲斐なく、他のアビリティは1も伸びなかったらしい。

 

 

 あ、ここにもコメントがある。

 

「やりこみ感謝。そして黙祷 by守備男(しゅびお)」「情報あざっす。しかしマぁジっすか……厳しいっスねーby(はや)たん」「ありがとう。私のも別の書類に書いておくわ by魔女りん」

 

 ……多いよ! なんか一気に増殖したよ! 何人いるんだよ!

 

 その後ろに「魔女りんありがとー! by力子(ちからこ)」。おい情報提供者、後から覗いて書き足してんのか。とりあえず俺も「さんくす。キチィな by技之助(わざのすけ)」と書き込む。これで基本アビリティ勢揃いだな。

 

『他のはどうせ伸びないから、ただひたすら対象能力の上昇を願ってた方がいいかもね。良いスキル発現すればカバーできる場合もあるし。で、冒険者続けないならさっさと恩恵捨てた方がいいかも。私なんか、最近は持った食器割っちゃったり、相手の肩軽く叩いたら関節外しちゃったり。最近誰も近寄ってくれない(泣)』

 

 すげぇなそれ。全く制御効いてねぇじゃねぇか。「これでも飲みなよ つ酒 by守備男(しゅびお)」「ジョッキも割れるんじゃねぇっスか by(はや)たん」「私もよく暴発するのよ。器用値欲しいわー by魔女りん」「器用うらやま by力子」。

 これは書き込まざるを得ないと判断し、「呼んだぁ? by技之助(わざのすけ)」と後ろに続ける。まだ見る奴がいるかは知らんけど。

 

『あとは基本、親しい人以外には黙っていること! 他の神が気づいたら絶対おもちゃにされるし、大規模なファミリアじゃないと無理矢理な引き抜きされる可能性もあるよ』

 

 分かってるよ。ヘスティアにも散々言われたし。

 「おk」「おけ」「りょ」の後ろに「かしこまっ☆」と綴る。

 

『で、ダンジョン行くなら無理しないこと! 途中まで楽勝だったのに、ちょっと敵が強くなるとすぐ死ねるから! 耐久特化じゃないなら、少し痛みに慣れておくことも必要かも。いざって時怯んで動けなくなると困るし』

 

 おお、体験者らしい具体的な意見だな。参考になる。

 「僕は必要無し by守備男(しゅびお)」「力子ちゃん大丈夫っスか by(はや)たん」「暴発で痛いの慣れてるから必要無し by魔女りん」「噛まれるのはまた違う痛みだと思うよ魔女りん。あと(はや)たんありがとう。無事じゃなかった by力子(ちからこ)」「力子お陀仏様 by技之助(わざのすけ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅー」

 

 夕焼け空が一番綺麗に見える時間帯になったころ、俺はようやく最後の一枚まで読み終えた。

 力子だけでなく、他の三人も自分の体験談を書類に纏めていた。全て話し言葉でその度にコメントが挟まるもんだから随分と読むのに時間がかかった。が、有意義な内容を見れたとは思う。

 

 全員が強調することは『油断しないこと』。階層を下に降りるほど短所が目立ち始め、どうにもならない事態に遭遇してしまうこともあるらしい。

 力子のノンフィクションのグロ話はエグかった。短所が足を引っ張った結果、仲間を危険に晒してしまう事も多いらしいので、本当に引き際を見誤ってはいけないと感じた。

 

 さて。最後の一枚に目を通そうか。

 

『はーい、ここまで読んでくれてありがとう! この情報が少しでもあなたの役に立ったらいいな、と思います』

 

 おう。ありがとな力子。

 

『で、この書類、実は一番最近のものです。とある報告をするために、この一枚を書きました! 実は―――』

 

「僕たち4人」「出会って、意気投合して!」「パーティよく組むようになったのよ」

 

 ……はい?

 

『なんかね、【尊価代償】持ちって近づくとなんでかお互い分かってね』

 

「親近感が湧くというか」「同類だと認識できるっス!」「ビビッと来たわ」

 

 

『それでね、あと一人「器用」がいないけど、どこかにいるかもしれないので!』

 

「場所は教えられないけど」「身バレ怖ぇっスから!」「個人情報だし」

 

『気づいたらこっちから声かけさせて貰うね。偶にでもいいので、一緒にダンジョン行こう!』

 

「器用値はよ」「便利君大歓迎っス」「楽しみにしてるわ」

 

『そして最後に。あなたの極振りライフに幸あれ!』

 

「頑張れ」「短所に負けるなっス!」「行けるとこまで行きましょ」

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

「ありがとな! 会えるの楽しみにしてる。極振りサイコーだぜ! by技之助(わざのすけ)




ストックしてあった話だと今回で力子ちゃんと出会わせていたんですが、流石に早すぎるかなーと思ってこんな形に。

あとすみません。ちょっとラウルっぽい話し方の奴がいますがもちろん違います。もう頭の中で速たんはこの口調なんです……! 今更変えられない。

他のアビリティへの下方修正の度合いですが、詳しくは不明ですがほぼゼロ固定との情報をリベルタ君は得ることができました。器用値だけで生きなされ。

次回、おそらくミノ戦。


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第七話

感想欄で極振り達のあだ名が浸透していて嬉しいです。そして名前が出ているリベルタ君まで何故か技之助呼び。
これは名前が忘れ去られるのも時間の問題か……! ちなみに私も返信で技之助って打っちゃってます。ついあだ名使いたくなる。


そしてごめんなさい! 他の極振りまだ出せなかった! じ、次回こそは!


 ベルがヘスティアファミリアに入って半月が経過した。

 相変わらずの偏成長を続ける俺と、良くも悪くも普通の成長を続けるベル。相性の悪いステータスかと思いきや、ダンジョンでの戦闘では意外とうまく噛み合う。

 

「一歩左!」

「分かった!」

 

 掛け声にベルは体をずらす。その先で腕を振り上げていた犬頭のモンスター、コボルトに向け、俺は左手に持った弓に矢を番えた。

 トス、と飛翔した矢は軽い音を立てて喉に突き刺さる。

 

 すぐに次の矢を放ち、灰となったコボルトの体を突き抜けてその後ろのゴブリンへと命中させる。

 

「前方三体、後方一体! 先に後ろを片付けるから、前の奴ら押さえててくれ!」

 

「うん! 早めにお願い!」

 

「任せとけ!」

 

 言い残し、俺は【盗賊心得】(グリーディブラッド)で察知していた反対方向のダンジョン・リザードへと向き直る。

 【無限収納】(アイテムボックス)で弓を仕舞い、代わりにヴェルフの作品である、細くて軽い片手剣【蛇吉(にょろきち)】を手に取る。

 

 

 四つん這いになって這い寄ってくるダンジョン・リザードの、爬虫類らしく横に裂けた口にすっと刃を滑り込ませ、そのまま尾っぽまで駆け抜ける。同時に服にくくりつけておいたナイフを掴み、振り向きざまに投擲する。

 

『ギッ!?』

 

 すでに一匹片付けていたベルへの援護射撃。流石に距離があったせいか避けられ急所には命中しなかったものの、痛みで怯んだ隙は大きい。即座に肉薄したベルのナイフに切り裂かれ、消滅する。

 

 一応【無限収納】から弓を取り出して駆け寄るが、矢を番えるまもなく最後のゴブリンが倒れる。

 

「ようベル。ナイスアタック」

 

「リベルタも」

 

 ゆっくりと歩み寄りお互いカツンと拳を打ち付け、次いで頭の上でハイタッチをかます。良い戦闘だった時の恒例行事に、二人でニッと笑みを浮かべる。

 

 

 すれ違う冒険者に賞賛の声が上げられる俺達のコンビネーション。

 

 その実、未だ二人とも駆けだしの冒険者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はああああ!」

 

 ベルが少数のゴブリンを相手している間に、俺はもさもさとサンドウィッチを頬張る。

 ご飯休憩を挟むときはこうやって余裕があるときに交代で軽食をとる。敵が増えてきたら口に咥えつつ加勢するが、そうでなければ集中していた脳を休める意味合いも込めてのんびりと時間をかけて食べるのが日課となっている。

 

 ベルの危なげの無い戦いを見つつ、思考する。

 

 俺の【戦友鼓舞】(フィール・エアフォルク)の影響もあるが、それを抜きにしてもベルは良く戦えていると思う。目を見張るような戦闘センスがあるわけではないが、日々着実に成長しているのが分かる。吸収率は良い方だろう。

 

 

 

 このまま成長を続ければ―――近い将来、俺が足手纏いになることも容易に想像できる。

 

 

 

 他の極振り達の残した文章の中に、ランクアップについての記述があった。

 

 極振りはどれだけ偉業を達成しても、ランクアップが起きない。他のアビリティが低すぎるのか、はたまたスキルの影響か。不明だが、最古参の力子は何回も死線をくぐり抜けても未だレベルは1だとか。

 

 その代わりに起こる現象が、上昇アビリティの昇華。俺で言うなら器用ⅡやⅢといった進化が、他の極振りでも起こっているらしい。

 

 【クラスチェンジ】、と力子は名付けていた。条件はアビリティがMAX=1500の状態で小さな偉業を達成すること。

 俺の場合最初のクラスチェンジは、レベル2を含めた冒険者三人(酔っ払い)の撃破。二回目が、モンスターの囲みを切り抜けた時だ。……本当に大したことやってねぇな。レベルアップの大変さを考えると雲泥の差だ。

 

 

 まあ何が言いたいか、というと。俺はレベルが上がらないから、ランクアップ時のアビリティの底上げは期待できない。しかも普段はどう足掻いても器用以外は1も伸びてはくれない。それは、いつか庇いきれないほどの弱点となるだろう。

 

 他の極振り達は中層一歩手前ほどで限界を感じている。極振り同士で組んだ後はどうなのか知らねぇけど。

 俺も、このままでは火力と耐久が足りなくなる可能性が高い。武器、防具で補うにしても限度があるだろうし。

 

「リベルター。休憩交代まだー?」

 

「あ、わりぃ。今代わる」

 

 口の中のパンを飲み下し、剣を片手にベルとすれ違いつつモンスターと対峙。

 

 まあ、まだこの辺りの層なら危機らしい危機は無い。

 

 いつかベルとパーティを解散する日が来るだろうが、しばらくは大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なあ、ベル」

 

「……うん」

 

「なんかさ、静かじゃね? 五階層ってこんなにモンスター少ないのか?」

 

 ベルも不気味さを感じ取っているのか、どこか緊張した面持ちで慎重に歩を進める。

 

 普段は3~4階層で戦っているが、余裕な戦闘が続いていたのもあり、思い切って五階に降りてみた。

 

 

 キョロ、と辺りを見回すがゴブリン一匹いやしない。上の階層でさえ歩けばちょくちょく遭遇するというのに、難易度が上がった5階層で出現頻度が減るなんて事、あり得るのか?

 

 ……これじゃ、まるで。嵐の前の―――

 

「……!?」

 

 ビリリッ!! と体中に電撃のような衝撃が走り、ブワァっと鳥肌が立つ。

 【盗賊心得】(グリーディブラッド)による索敵に加え、【危機察知】(ヴォーパルハザード)で敵の強さを感知する。

 

 前方の曲がり角の奥から感じた格上の気配を感じた直後、ベルの手を取り上層へ続く階段を一直線に目指す。

 

「な、何!? どうしたのリベルタ!」

 

「いいから走れ! ヤバいのが来る!」

 

 走り始めてすぐに、ドスドスドスッ!! と重量感のある足音が後ろから響き始める。

 

 直線上の道に敵が来たことを感じたので、確認の意味を込めて、走りながら肩越しに振り向く。

 

「……! なんでだよ! なんであんなのが5階層に!」

 

「何? 何がいたの!?」

 

 俺の手を引き始めた敏捷値の高いベルは、全力疾走を続けながらチラリと後ろを流し見て―――血相を変えてさらに加速した。

 

「え、嘘……なんでミノタウロスが―――!?」

 

 

『ヴオオオオオオオオオッッ!!』

 

 ダンジョンを震わせるような、低い唸り声が背中を叩く。

 

 捕まったら死が待ち受ける追いかけっこが今、幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇっ……ベル、俺を置いていけ!」

 

「何言ってるのリベルタ! そんなこと出来るわけないよ!」

 

「このままじゃ二人とも殺られちまうだろ!」

 

 3分ほど、この5階層を逃げ回った。

 

 直線距離を長く進まなければならない4階層への道では追いつかれる。そう判断して俺達は5階層の曲がり角を細かく移動することで、なんとかミノタウロスから逃げ続けていられる。

 

 だが、それももう限界だ。

 

 ただでさえ敏捷値の低い俺を引っ張って逃げている時点で、ベル一人で走るより断然遅い速度。距離は着実に縮められている。

 

 さらに問題なのは、俺の体力だった。

 

 器用値以外は一般人ちょい上。肉体的な上昇はおそらく力、耐久、敏捷あたりに依存しているはずだから、器用ばっか高い俺はたったこれだけの全力疾走で完全グロッキーだ。くっそ脇腹痛ぇ。

 

 ベルも俺の状態が分かったのか、狼狽えた様子を見せる。少し考え、口を開く。

 

「だったら僕が残る! その間に逃げて!」

 

「んなもん死ぬに決まってるだろ! それよか戦闘するなら俺の方がまだ生き残る確率は高い!」

 

「……じゃあ僕も残って―――」

 

「足手纏いなんだよ、どっか行け!」

 

 ビク、と震えたベルは悔しそうに歯噛みして、数秒逡巡する。

 

「……助け、絶対呼んでくるから」

 

 不安そうな声色で それでもベルが最善だと考え出した結論なのだろう。言い残して、迷いを振り切るように走り去って行く。

 

 ……悪いなベル。足手纏いだったのはどう考えても俺だったのにな。

 

 

 

『ヴォオオオオッ!!』

 

 牛頭人体のモンスターと対面する。今まで戦ってきた魔物とは比べものにならない威圧感に気圧されながらも、強がってニィッと口元を吊り上げる。

 

 

「シッ!」

 

 先に仕掛けたのは俺。

 

 轟音を立てて横凪に振られた腕を、四つん這いになることで回避。その姿勢のまま加速し、ミノタウロスの横っ腹をすれ違いざまに斬りつける。

 

「うおっ……やっぱ全然効いてねぇ」

 

 うっすらと赤い線がついた程度。ボリボリと斬った箇所を掻いている様子からして、痛痒いレベルのダメージだな。もうそれダメージって言わなくね?

 

『ヴォアアア!』

 

 対して、ミノタウロスの攻撃。グッと握りしめられた拳の振り下ろし攻撃は唸りを上げ、俺へと迫る。やっべ、これ一発食らったらアウトなやつだ。

 

 ゾッとしつつも冷静に動き、大きく後ろに転がるようにして避ける。

 

 今までのように紙一重に避けることはできない。ミノタウロスの拳は地面へとめり込み、固い破片を周囲に撒き散らす。近くにいるだけで負傷しかねない。

 

 

―――だが、視える。

 

 ミノタウロスの動きが、拳の軌道が、一つ一つの挙動が。

 

「……レベル5相当の器用値嘗めんなよ」

 

『ガアアアアア!!』

 

 苛立ったように繰り出された拳、サイドステップで躱す。

 

 踏みつぶさんと振り下ろされた足撃、バネを使って一気に前進することで躱す。

 

 俺を掴み、握りつぶそうと前へ伸ばされた右腕、跳ねてそのまま腕に着地し、駆ける。

 

 登って牛頭の顔の目の前でニヤッと嗤ってやる。そして―――

 

『ガッ!? ゴアアアァァァ!!』

 

「おう……っと」

 

 ミノタウロスの左目を思いっきり斬りつけてやる。俺程度の力でも流石に目なら攻撃は通るらしい。

 我武者羅に暴れるミノに振り落とされる形で宙を舞うが、体勢を整えて綺麗に着地する。こちらにダメージは無い。

 

 

 後はなんとか、もう一方の目を潰せりゃ逃げれるんだけどなぁ……流石にもう警戒するよな。

 

 ついでに言えば左目は、完全には視力を失っていないだろう。痛くて今は目を開けられないだけだ。そのうち見えるようになる。

 遠近感が掴めないアドバンテージがこちらにあるうちに、なんとか戦況を良くしたい。

 

 【無限収納】から出した弓で残った右目に打ち込んでみるが、腕を前に出すことで防がれる。しょうがない、作戦変更だ。

 

 弓を仕舞い、右手に剣、左手にナイフを持って接近する。走りながら俺は、ミノの左目に向かって投擲の構えを取る。

 

 それだけで、ミノタウロスの上体が上擦る。その隙を見逃さず、俺は足下へ駆け寄り―――踵の腱の部分に斬り込んだ。

 

 

『ヴォアアア! ヴォアアアァァァァ!』

 

 怒り心頭なミノタウロスは、足にダメージを負った様子ではない。が、何度も同じ場所を斬りつければ、流石に痛みくらいは発生するだろう。移動速度さえ遅く出来りゃこっちのもんだ。

 

 俺の勝利条件は、右目回復前に左目を潰すか、片足を負傷させること。もとより撃破が目的ではないし、こっちが逃げられる条件が揃えば十分だ。

 

 

 俺の敗北条件は、一撃でも被弾すること。疲れも溜まっているし、集中力が切れる心配もある。こんな心臓に悪い攻防を繰り返すのは精神的にもきつい。……これはかなり分が悪いかもしれない。

 

「うおおらぁ! 来いや牛野郎……え?」

 

 気合いを入れるために雄叫びを上げ、再び斬りかかりに動こうとしたその時、【危機察知】(ヴォーパルハザード)が発動した。場所はミノタウロスの真後ろ……って、いつの間に? 索敵に引っかかる間もなく接近したって言うのか?

 遙か格上。レベル……5、相当?

 

『ヴォブゥ!? ヴゥオアアァ!?』

 

 ミノタウロスに、斬撃が次々に刻まれていく。俺の攻撃じゃほとんど傷つかなかった強靱な肉体が、為す術も無く解体されていく姿を唖然と見つめる。

 

 響くミノタウロスの断末魔。ブシャアアアと降り注ぐ真っ赤な液体……あ。逃げ損ねた。

 

 びちゃびちゃと鉄臭い血を被る中げんなりしていると、灰となって消えたミノタウロスの後ろに、金髪の女の人が立っていた。……うわめっちゃ美人。

 

「……大丈夫?」

 

「あーうん。なんとか「リベルタァァァァァッッ!!!」 おぶぅっ!?」

 

 とんでもないスピードで、白髪の赤目な少年が俺の元へ飛び込んできた。ていうかベルだ。痛い痛い! 鳩尾に頭グリグリするんじゃねぇ!

 

「無事だった!? どこも怪我してない!?」

 

 自分に血が付くことはお構いなしにペタペタと俺の身体を触り、五体満足であることを確認するとホッと息を吐き、泣きじゃくり始める。

 

「グスっ……良かったぁ……リベル、タ、死んじゃったんじゃ、ないかって……!」

 

「……心配かけて悪かったなベル。助け呼んでくれてありがとな」

 

 鼻声で途切れ途切れに話すベルの頭をわしゃわしゃと撫で、立ち上がる。助けてくれた女の人にペコッと頭を下げると、ベルは今更、その女の人がずっとこっちを見ていたことに気が付いたのか……羞恥からか、顔を真っ赤に染め上げる。

 

 良かったね、と言わんばかりに、女の人がクスりと笑った。耳まで赤くなったベルは、口をパクパクさせ―――俺を担ぎ上げた。

 

「だ―――」

 

「だ?」

 

「だあああああああああああっっ!?」

 

 

 走り回った後だというのに、すさまじい速度で逃走を開始する。

 

 ポカンと見送る女の人―――えーと、あの見た目は確かアイズ・ヴァレンシュタイン氏だっけか。ロキファミリアの―――に、俺は担がれた状態で手を振る。

 

「アイズさんー、助けてくれてありがとなー」

 

「わわわっ! 動くと落ちるよ!」

 

「運ぶ必要がそもそもないだろうに……なあベル」

 

「何?」

 

「惚れたろ、アイズ氏に」

 

「ほわぁぁぁぁぁぁ!? ななな何言ってるの!?」

 

「いやー確かに美人さんだもんなぁ。天然っぽい雰囲気も可愛いし、鬼強い面とのギャップがいいよな」

 

「べ、べべべ別にそんなこと思ってなんて……」

 

「ええー? そっか俺の勘違いか-。じゃあ俺狙っちゃおうかなーアイズさんのこと」

 

「うええっ!? なんでそうなるのダメダメ絶対ダメ!」

 

「なんだ、やっぱ好きなんじゃん」

 

「うわああああ!!」

 

 

 俺がからかい、ベルが面白い反応をする。先ほどまで死の危険があったとは思えないほどに、いつも通りの日常が訪れ始めていた。

 

 ……お互いに、罪悪感を隠して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――今回助かったのは運が良かっただけだ。いつもこうだとは限らない。

 

 強敵から逃げ切れなかった。俺のせいで、ベルまで危険に晒してしまった。

 

 

 器用以外のアビリティが足りないことが原因で……いつか、致命的な出来事を引き起こしてしまうんじゃないかと。

 

 俺には、そう思えてならなかった。

 

 

 




読み方決まりました。
【盗賊心得】(グリーディブラッド)

グリーディ→強欲な
ブラッド→血。気質って意味もあるらしい。

新登場
【危機察知】(ヴォーパルハザード)
ヴォーパル→必中の

ご指摘ありました。この単語は造語で、意味は[鋭い]が一般的なようです!

ハザード→危険

 相手の強さが把握出来る。およそのレベルは分かる感じ。


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第八話

遅くなりました! やっと投稿出来た……!



「神様、ただいま帰りました!」

 

「おっかえりーベル君! リベルタ君!」

 

「なんだよいっつもベルにばっか抱きついて! 贔屓だ贔屓だ!」

 

「そのわきわきとした手をどうにかしてから言ってくれよ」

 

 あ、いっけね。欲望が動きとして出ちまった。

 どこかねちっこい動きをする俺の指先を見てドン引きするヘスティア。その思いに比例してか抱きつきを強くするもんだから、ベルにあの胸器がさらに押しつけられる。そこ代われゴラァ。

 

 真っ赤な顔した役得のベルに嫉妬の視線を送りつつ、バタっとベッドへ倒れ込む。

 

「更新ー」

 

「そうふて腐れるなよリベルタ君。それにしても今日は帰ってくるのが早かったけど、二人とも何かあったのかい?」

 

「あ、実はですね―――」

 

 ベル、説明乙。

 でも、あたかも俺がおとりになってベルを逃がした、みたいな言い方はやめろよな? 逃げ損ねただけだからね?

 

「リベルタ君無茶はしないでくれ……君が死んだらボクは悲しいよ。柄にも無く泣き喚いてしてしまうかもしれない」

 

「リベルタごめん……僕がもっと強かったら、一緒に戦えたのに」

 

「逃げ切れなかった俺が悪い。謝んなよベル」

 

「……僕、リベルタの隣で戦えるくらい強くなってみせる。……そして、いつか追いつくんだ」

 

 あの人に。そう言葉を続けたベルに対して俺は、何も言えない。

 俺はベルみたいに、強い想いが無かったから。上辺だけ取り繕った言葉を返すのも失礼だと思ったからだ。

 

 

 

 

リベルタ・エーアスト

Lv.1 

 

力:I=10

耐久:I=10

器用Ⅲ:MAX=1500→器用値Ⅳ:D=512

敏捷:I=10

魔力:I=10

 

スキル

 

【創成己道】(ジェネシスクラフト)

・器用の成長率に上昇補正。

 

【尊価代償】(サクリファイス)

・成長補正スキルの効果増大。

・他の能力値成長率の下方修正。

・上昇対象能力値への成長願望が強いほど両補正ともに強固なものとなる。

・補正能力に準じたスキルが発現しやすくなる。

 

【無限収納】(アイテムボックス)

・三秒以上触れた物質を、念じることで収納空間に送ることができる。

・同じく念じることでいつでも取り出すことが可能。

・触れる箇所が固体である必要がある。また、生命体は収納できない。

 

【戦友鼓舞】(フィール・エアフォルク)

・戦闘時、一定範囲内の眷属の基本アビリティ上昇補正。

・同恩恵を持つ者にのみ効果を発揮。

 

【審美眼】(プルフサイト)

・武器、防具など制作物の善し悪しが分かる。

・道具アイテムの効果が分かる。

 

【盗賊心得】(グリーディブラッド)

・隠密能力向上

・索敵能力向上

 

【危機察知】(ヴォーパルハザード)

・相対した相手の強さを把握出来る。

 

【暗視順応】(ディスタント・リセンブラス)

・暗闇での視界の確保が可能。

 

【理外者】(ルシフェル)

・神に対して嘘をつくことが可能となる。

・神による『魅了』の完全無効化。

 

 いつもと変わりなく異常な成長の俺に対して慣れたのか、「おー伸びたね」と小さな反応で羊皮紙を渡してくる。むぅ、初めの頃の仰天した反応が恋しいぜ。

 

 ベルも更新がちょうど終わったのか、服を着ている最中だった。その横で、ヘスティアが写したベルの羊皮紙を置いて指で擦って……うん? 今何か消したか?

 

「はい、ベル君のステイタス」

 

「結構敏捷が伸びてますね。……あれ? 神様、スキルの欄に二箇所(・・・)掠れたところが……もしかして何か発現しました?」

 

「いいや? ちょっと手元が狂ってね。いつも通り空欄だったよ」

 

 ですよねー……と頭をカクンと落とし、苦笑いを浮かべるベル。ヘスティアに目配せをすると「何も言わないで」と視線が返ってきたので、事情は掴めないものの口を噤むことにした。

 

 

 

「―――で、さっきの何?」

 

 ベルがトイレに発ったタイミングでヘスティアに尋ねる。

 

「……ベル君にスキルが発現した。それも二つも」

 

「良いことじゃねぇか。言ってやんないの?」

 

「聞いたことも無いレアスキルだったんだ。隠し事が出来なそうなベル君に話すべきじゃ無いとボクは判断した」

 

 なるほど、と俺は頷く。

 俺にも言えることだが、レアスキル持ちはヘスティア以外の他の神達にとっては非常に魅力的に映る。ベルにスキルのことを伝えて、情報が漏れてしまえば、強引な引き抜きが決行されるであろうことは容易に想像できる。

 

「ベルは違和感覚えるんじゃねぇの? 隠し通せるか?」

 

「……分からない。どれほどの効果があるスキルなのか予想がつかないんだ」

 

「ちょいと見せてみ」

 

 ベルのステイタスが書かれていた羊皮紙を手に取り、消された部分を直すように促すと、俺はスキルの効果で神に嘘を見破られないこともあってかヘスティアは別段渋ることも無く復元を始める。

 

「……なんだ、こりゃあ―――」

 

「二人で何話してるの?」

 

「「うおう!? ヤバい!」」

 

「ちょっリベルタそれ僕のステイタスだよね!? なんでビリビリに破くのさ!」

 

 ふう、危ない危ない。見るのに集中しすぎてベルが戻ってきたことに気づかなかったぜ。【盗賊心得】仕事しろ。

 

「今日エイナさんをデートに誘えなかったのはお前のせいだからだベル!」

 

「えっどっちにしろ断られるから同じでしょ?」

 

「正論で傷を抉るんじゃねぇ!」

 

 破いた言い訳考えたらまさかの手痛いしっぺ返し食らったでござる。いや、でもお前が「エイナさん大好き-!」とか叫ぶから。頬染めてんのに誘えるわけねぇだろ。無意識に女引っかけやがってこれだからモテる奴は……!

 

 この後俺の一方的ないちゃもんにより口論になるのだが、10分くらいで自分が惨めになって一人落ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

ベル・クラネル

Lv.1 

 

力:I=77→I=82

耐久:I=13

器用:I=99→H=103

敏捷:H=148→H=172

魔力:I=0

 

スキル

 

【憧憬一途】(リアリス・フレーゼ)

・早熟する。

・懸想(おもい)が続く限り効果持続。

・懸想(おもい)の丈(たけ)により効果向上。

 

【共闘希求】(ファミリィス・ルゼル)

・対象者の成長の影響を受ける。

・対象の分散により効果減少。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冒険者さん、落としましたよ?」

 

 翌日。いつものようにまだ寝ているヘスティアを起こさないようにダンジョンへと向かう矢先のことだった。

 

 バベルの頂上から感じた視線に俺が睨み返したタイミングで、隣を歩いていたベルは声をかけられた。同じく視線を感じていたベルは俺と一緒に驚いて飛びずさるが、その先にいたのはどう見ても一般人のウェイトレスさんだった。な、なな何だよ脅かしやがって……! 別にビビってねーし!

 

「あっすみません、ちょっと驚いちゃって……」

 

「いえ、それよりこの魔石って冒険者さんのですよね?」

 

「あれ? 昨日換金したはずだけどなぁ……わざわざ拾ってくれてありがとうございます」

 

 首を傾げつつもベルははした金にしかならなそうな小さな魔石をしまう。

 ……ベル、ちょっと待て。少しは疑え。

 

 俺が見ていた限り、ベルは魔石を落としてはいなかった。ということは、あの小さな魔石は元々あの店員さんが持っていたものだろう。落とし物と称して渡すことで会話の取っ掛かりを作り、最終的に商売の方向へ持っていくつもりに違いない。

 

 俺達が朝食がまだであることを聞くと、店員さんは自分のまかないを持ってくる。おいそれ一人分だろ。なんでベルと俺二人分として渡してくるんだ。足りるわけねぇだろ。

 

 そして朝食を貰った代わりに今晩、彼女の働く酒場で食事を取ることになった。絶対頼んでもいない飯が運ばれてきて余計に金を使わされる予感しかしない。

 

 シルと名乗った店員にジト目を送ってもどこ吹く風。……でかい店だからぼったくりはしないだろうけど、一応気をつけとこ。まあヤバかったらすぐにベル連れて出て行けばいいや。

 

 そんな風に軽く考え、ベルをさっさと連れてここから離れようとした時。

 

 

「ミアさん昨日は本当ごめん! これ椅子壊した弁償代!」

 

「まったく、あんたは何回うちの備品壊せば気が済むんだい! 酒癖悪いにもほどがあるよ!」

 

「いや、酔い方はいい方だと思うけど……ただ単に制御が効きにくくなるだけで」

 

「なんでもいいけど、毎回壊されるこっちの身にもなりな! お金持ってくるだけじゃなくて、誠意として皿洗いくらいやったらどうなんだい!」

 

「絶対割るから勘弁して……」

 

 紅い髪の人間(ヒューマン)が店に駆け込み、店主らしき人とそんなやり取りを始める。

 ……それにしても、なんだろう。会話内容が何か引っかかるんだが。

 

 そっと店内を覗き込む。

 

 同時に、視線を感じたのか紅髪が振り返った。

 

 後ろで結んだ髪と同じ色の真紅の瞳の女性。あどけない顔に対して背は女の人にしては高く、165Cほどはあるだろうか。工房の作業着らしき上着を腰に巻き、袖をたくし上げた格好は女っ気が全然無いのにどこか似合っていて、『可愛い』というよりはどこか『綺麗』『格好いい』といった印象を持つ。

 

 

「……」

 

「……」

 

 ―――近づくと同類だと解る。あの書類にはそう書いてあったっけか。

 

「……力子?」

 

「会えて嬉しいよ技之助-!」

 

 バッ!! と両手を広げてこちらへ駆けてくる力子に対して俺は。

 

「そうだな。俺も嬉しい」

 

 背骨を砕かれたくは無いので、抱擁をヒラリと避けつつそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー! いっつも二人でダンジョン潜ってるんだ。ベルに……技之助!」

 

 一緒にダンジョンに行かないかと提案してきた力子に対して、俺と同じ極振りだと知ったベルは二つ返事で了承し、彼女が装備を整えるまで待ってから三人でバベルまで来た。そのままダンジョン一階層へと歩を進める。

 

 力子の格好はもはや攻撃のことしか考えていないのか、防具の類いを着けず先ほどの作業着のままで、左手にくくりつけたでっけえクロスボウと、右肩に担がれた重量感のある巨大な長大剣がすさまじい存在感を放っている。重さが気になったので剣を貸して貰ったが案の定ベルと二人がかりでも持てなかった。落としたときに地面めり込んでたけど材質何で出来てんだよあれ。

 

「名前リベルタだって。全く、忘れんなよ……力子」

 

「リベルタもね……さっき自己紹介されたでしょ? グレンさんだよ」

 

 そうそうグレングレン。グレン・アルバ。極東に近い土地の出身らしいから、正しくは『紅蓮』らしい。

 もう頭ん中で力子呼びが固定されちゃってるからなんか違和感あるんだよな。ていうか随分と格好いい名前だ。紅髪真紅眼の見た目に似合ってる。

 

 俺がガン見していることに気づいた紅蓮はよく分かっていないのだろうがドヤ顔を浮かべ親指を立てる。なんだろう、この残念感は。黙っていたら男女問わず人気の出そうな容姿なのに言動で台無しにするタイプだな。

 

「力子。力値どんくらい? 俺は最近発現して器用値はレベル6相当」

 

「リベルタ、ステイタスの詮索は良くな―――」

 

「あ、技之助まだ低いんだね。私はレベル13相当くらいかなー」

 

 大したことなさそうに言われた内容に、ブッとベルが吹き出し、俺も目を見開く。いや、ちょっと予想超えてた……何? 本気出せばオラリオ滅ぼせんじゃねぇのお前。

 

「まー耐久値が無くて体が保たないから本気は中々出せないんだけどね。反動軽減のスキルのおかげでレベル7くらいまでの力の行使ならフィードバックゼロだよ」

 

「加減してもオラリオ最強並かよ」

 

 現在のレベル最高値はフレイヤファミリアのレベル7、『猛者』オッタル。本気じゃ無いのに彼と同格なのだから紅蓮の規格外さがヤバい。これで器用値が初期値なんだからそりゃ皿くらい割りますわ。転んだ勢いで手を突いたらクレーター作りそう。

 

 

 紅蓮の話の衝撃が大きかったのか、ベルはダンジョンの壁の側に呆けたように立つ。

 

 その後ろで。ビキリビキリ、とモンスターの産み落とされる音が鳴り始めた。位置的に見やすい場所にいた紅蓮が真っ先に反応する。邪魔だったのか長大剣を地面に落とし(陥没)、ベルの元へすぐに間合いを詰める。

 

 紅蓮は思いっきり腕を引き絞り―――動く間もなかったベルの顔面ほんの少し横を打ち抜いた。

 

「えーい!」

 

 ―――ドゴォォォォン!!と力の抜けるような掛け声とは裏腹にとすさまじい轟音をたて、生み出される寸前のコボルトの頭を壁と共に破砕する。ベルの喉から「ヒュッ」と恐怖で引きつったか細い音が小さく鳴った。

 

「うわぁ……」

 

 思わずそんな声が漏れる。

 紅蓮が殴った箇所は無残にもコボルトの肉片が飛び散り、壁は放射状に大きくひび割れ、へこんでいる。これだけの大惨事を起こした本人はというと特に気にした様子も無く、むしろやりきった顔で目の前のベルにサムズアップを向ける。

 

「危ない危ない。ベル大丈夫だった?」

 

「……きゅう」

 

「あれ? ベル? ベル!? どうしたの敵に何かされた!?」

 

 おそらく人生初であろう壁ドンを恐ろしくダイナミックな形で食らったベルが衝撃、音、精神的ショックなどの影響を諸々に受けてしまったせいか白目を剥いて気絶した。とりあえず合掌しておいた。

 

「南無……」

 

「え、嘘、大丈夫だよね?」

 

「うん大丈夫だ。大丈夫だから、脈を測るために頸動脈に押し当てたその手をお願いだから離してあげて?」

 

 

 痙攣してるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅蓮は両手が塞がっているので、気絶したベルを俺が担いで探索を続ける。どうせすぐ起きるだろ。起きなかったら紅蓮にもっかい壁ドゴンさせて起こしゃあいい。

 

「そい!」

 

 相変わらず軽い掛け声で攻撃を放つ紅蓮。地面に思いっきり長大剣を叩きつけて岩の破片を飛ばす戦い方が中心だ。時折直接斬りかかるが当然のごとく全て一刀両断。相当なオーバーキルをしていると見える。

 

「昨日お前がいればなぁ」

 

「ミノタウロスに襲われたんだっけ?」

 

「余裕だろ?」

 

「一撃だね」

 

 そうだろうなぁ。中層どころか下層のモンスターでも瞬殺できそうだもんな。

 

 そんなことを考えつつ、左肩に乗せたベルに揺れが行かないように気をつけながら右手の【蛇吉(にょろきち)】で敵を迎撃する。

 

「リベルタの動きすごいね。熟練の冒険者みたい。やっぱ器用値の影響?」

 

「だな。なんでもすぐに身につくようになった。あと、敵の動きが遅く見えるようにも」

 

「あー、それ知覚の加速かな。やっぱ器用値依存なのかぁ。動体視力辺りは力値に影響しているみたいだからまだいいんだけど、それもちょっと欲しかったな」

 

 でも力極振りで動体視力がいいなら攻撃も寸前までに気づけば迎撃か避けるくらいできそう。普通になんとかなりそうだな。

 

「お、奥に敵の反応あり。遠いしそのクロスボウ使おうぜ」

 

「一応持ってきたはいいんだけど、特注品の矢だから下層の稼ぎじゃ採算取れないんだよね……投石でもいい?」

 

「矢は回収すればいいんじゃないのか?」

 

「モンスター貫いてそのまま壁の奥深くまで入っちゃうから」

 

 何その威力。馬鹿でかい剣に目がいってたけど、そのクロスボウもひょっとして超重量なの? 紅蓮が矢をセットして俺が標準定めたら最強の遠距離攻撃になりそう。

 

 

 俺が妄想している間に紅蓮は足下の岩を蹴り砕き、拳大の大きさになった破片を一つ手に取る。

 

「―――フッ!」

 

 思いっきり振りかぶって投擲された石は唸りを上げ―――狙ったゴブリンの遙か手前の天井に衝突した。

 

「……!? えっ何今の音!?」

 

「おうベル目が覚めたか。すごい光景見れるぞ」

 

「……うわぁ」

 

 石を拾い上げ、全然関係無いところに投げつけちゃってはまた拾って投げる。まるで「数撃ちゃ当たる」とでも言わんばかりに。

 

 砕け散る破片で視界が悪くなっていく中、ちょうど袋小路に生み出されてしまった哀れなゴブリンは恐怖で一切動くこともできないまま、13回目の投石に頭を潰された。どうしよう不憫すぎて泣けてくる。

 

「……僕、絶対に紅蓮さんに逆らわない」

 

「俺は命をかけてからかう」

 

「お、極振りらしい考え。いいねぇ技之助!」

 

「極振りってこんな人達ばっかなの……?」

 

 ベルの呟きにまともな返事を返せる奴はこの中にはいない。

 

 

 

 

 




 ベル君に新スキル。悩んだけど影響を受けて貰いたかったので発現させてしもうた。後悔はしていない。

 そして力子登場。基本トラブルメーカー気質な子です。天然+格好いいキャラを目指して書いていきたい。普段は全力を出せないようにしましたが、解放条件はもちろんつける予定。


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第九話

 リベルタ君の事例から何となく察していたけど力子の名前が感想欄で全く浸透してねぇ! 名前に悩んだ時間返せい!

 なんてことは置いておいて。【無限収納】に関してですが液体NGな説明なのにポーションいいの? とのご指摘を頂きました、ありがとうございます。入れ物入ってるから固体だと勘違いしてた……中身もろ液体やん。
 
 【無限収納】(アイテムボックス)
・三秒以上触れた物質を、念じることで収納空間に送ることができる。
・同じく念じることでいつでも取り出すことが可能。
・触れる箇所が固体である必要がある。また、生命体は収納できない。

 固体のみに適応される→触れる箇所が固体である必要がある


 に変更しました。



ベル・クラネル

Lv.1 

 

力:I=82→H=160

耐久:I=13→I=35

器用:H=103→F=337

敏捷:H=172→G=215

魔力:I=0

 

スキル

 

 

 

 

 

 

 

「じ、上昇トータル370オーバー!? な、ななな、なんでこんなに伸びて……どうしたんですか神様?」

 

「知るもんかっ!」

 

 ぷいっと顔を背け、不貞腐れたように頬を膨らませるヘスティアに、ベルは首をかしげる。

 憧憬一途はアイズへの尊敬、ないしは恋慕の表れでもある。これだけアビリティが伸びるということはその想いが強いというわけで、ベルのことが大好きなヘスティアからしてみれば面白くないだろう。

 

 ベルは再び羊皮紙に目線を落として、次いで俺を見る。

 

「もの凄くリベってるんだけど、何でか知らない?」

 

「人の名前で造語作るんじゃねぇ」

 

 ベルの中では『器用値が伸びる=リベルタ』の方程式が完成しているらしい。

 

 スキルのことは言えないから「成長期じゃね?」と物凄く適当な理由を述べたのにベルは納得していた。感づくことはなさそうだなこりゃ。

 

 にしても……俺の成長に引っ張られてるなぁ。器用値の伸びがすごい。他のアビリティも物凄く伸びているから俺とは根本的に違うが。

 

 少しして拗ねたヘスティアが涙目でホームを出て行こうとしたので、「ちと待ってて」とベルに言い残して後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぅーベル君の浮気者ー……そんなにヴァレン某がいいのかい!」

 

「ヘスティア、ベルってああ見えて結構モテるから急いだ方がいいぜ。この前も―――あ、こんな話してないでスキルの考察しなきゃな」

 

「待ってリベルタ君!? ボクはそっちの話の方がすごく気になるんだけど!?」

 

 必死な表情で俺の胸ぐらを掴んで揺するヘスティア。ちょ、やめて酔っちゃうでしょ。ちょっとからかっただけだって。天然ジゴロなのは事実だけど。

 

「全体的な異常成長は【憧憬一途】の効果だろうけど、器用値と……たぶん力値も【共闘希求】に影響されているな」

 

「? 確かに力値はよく伸びているけど……誰か他の人とパーティを組んだのかい?」

 

「おお、力極振りと一緒にな」

 

「極振りは他にもいたのかい!?」

 

 あれ、存在についてヘスティアに話してなかったっけか。俺を含めると基本アビリティ全員いるんだぜ、と伝えると何故か頭痛を堪えるような顔になった。

 

「ベル君もリベルタ君もその周りも……普通がいなさすぎる」

 

「何言ってんだ、俺とか超常識人だろ」

 

「その自信はどこから来るんだい」

 

「え?」

 

「え?」

 

 マジかよ、俺くらい普通な一般人とかいなくね? まあちょっとだけ考え方とかズレてるかもだけど。うんうん、ちょっとだけ。

 

「で、俺としては【共闘希求】でベルも極振りの仲間入りかなーなんて期待しちゃってたんだけどさ、実際はそうでも無かったな。プラスの面にだけ効果がかかるんかね」

 

「他者の成長に影響されるってそもそも説明があやふやだからねぇ。そのままのステイタスじゃなくて、ベル君がどこに着目するか、でも変わってくるんじゃ無いかな」

 

 なるほど。例えばベルが「器用値極振りとかありえないんだけどwww ステイタスほとんどゴミだし全然戦えないよねプゲラ」とか思っていたら成長率が悪くなり、逆に器用値の良さに重きが置かれているのなら器用値の伸びが良くなる。こんなところか。

 

 器用値に比べて力値の伸びが下回っているのは、ベルが紅蓮に対して『共に戦いたい』と思う感情が低かったからだろうか。いやむしろドン引きしてたしビビってたのによく一緒に戦いたい気持ちが少しでも湧くな。あれか、力子美人だからか。節操ねぇなベル。

 

 さて、なんとなくスキルについて分かってすっきりしたし、そろそろ行くか。

 

「じゃあなヘスティア。ベルと美味いもん食ってくる」

 

「……えっちょっと待って。ここはボクを追いかけてきてくれた流れで一緒にご飯に行くんじゃないのかい!? やだよー1人寂しいよー!」

 

「啖呵切って出ていったのお前だろうに。ベルと気まずくないなら着いてきてもいいけど」

 

「リベルタ君の意地悪!」

 

「お土産包んで貰うから」

 

「ごめんどうかしてた」

 

 手のひら返しの速さに定評があるヘスティアの機嫌も取れたところで、さて豊穣の女主人に向かいますかね。あいつらと飲むの楽しみだなーと思いつつ、ベルを呼びに教会へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店に入ると盛況なようで、多くの席が埋まっていた。店内の雰囲気は悪くない。テーブル上に置かれた料理はどれも美味しそうで、見ているだけで空きっ腹に響く。

 

「リベルタ、紅蓮さんはどこ?」

 

「確か奥の方にいるって言ってたな。それにしても、お前は同席しなくてもいいの? あいつ残念がってたけど」

 

「うん。折角極振りだけで集まるんだから楽しんで来なよ」

 

 どうやら気を遣わせてしまったらしい。ベルも他の極振りがどんな奴なのか気になるようでキョロキョロを店内を見回すが、今朝の強かな店員―――シル・フローヴァに声をかけられ、カウンター席へと移動していった。……まあ、多少ぼったくられるくらいならベルの勉強にもなるだろう。美少女が声かけてきたら詐欺を疑うようになって欲しい。

 

「技之助―こっちこっち!」

 

 心の中でベルをドナドナされる子牛と重ね合わせていると、ひらひらと冒険者達の隙間から手を振る紅蓮を発見。その隣には幼い見た目のジト目な女の子が座ってエールを飲んでいた。酒飲んでいるからパルゥムか? 女の子ってことは魔女りんか。

 

「よう力子。ファミリアの仕事は終わったのか?」

 

「ロキファミリアが武器の製造、修理を一気に依頼してきたらしいからね。もちろん終わってないよ!」

 

 堂々とサボり宣言すんじゃねぇ。

 紅蓮とのダンジョントライ後。所属するファミリアの方で依頼が急に立て込んだらしく、慌ただしく帰っていった。飲み会にもファミリアメンバーの反対を押しきりかなり強行突破してきたらしい。

 

 出会った記念として今夜極振り全員で集まって飲み会をすることになったが、忙しい中悪いな。主に力子のファミリアの人達。

 あと備品何回も壊したここでもう一回飲む辺り、紅蓮は度胸が据わっているのか馬鹿なのか。ほら、女主人がこっち睨み付けてるけどいいの?

 

 座って座って、と促されるままに腰をかける勧められた席は何故か隣では無く向かい側だ。

 

「じゃあ、自己紹介にしよっか。残り二人はちょっと遅れてくるから先に始めちゃおう」

 

 パン、と紅蓮が柏手を打つ。軽く咳払いをし、はきはきと話し始める。

 

「一応改めて。私は力子こと紅蓮・アルバ。所属はゴブニュファミリアで、インゴット作るお手伝いをしながら冒険者やってるんだ。これからよろしくね!」

 

「守備男ことセシル・ウィルシュバリエ。ハーフパルゥム。ミアハファミリアで偶に店番しつつ冒険者やってる」

 

「えっ待ってお前守備男? マジで?」

 

 目の前に座っている可愛らしい可憐な女の子が? 守備男とか「我こそは騎士である。ムキッ」みたいな奴かと思っていたのに。いやいや、この子が男なはずが無い。中性的とか通り越して女顔じゃねぇか。

 

「信じられるか! 証拠見せろ証拠!」

 

「いいゲス顔。紅蓮の時と並ぶ」

 

「なんでそんな変態臭い反応したんだよ力子」

 

「いやぁ使命感に駆られて。ていうかそれ自分へのブーメランだからね」

 

 どうやら証拠云々のくだりは極振り全員がやっているらしい。そして実際に脱ごうとすると慌てて止めようとするところまでが一つの流れなんだとか。俺も全力で止めた。だって夢が崩れるじゃん。

 

「俺は技之助ことリベルタ・エーアスト。ヘスティアファミリアで副業特になし」

 

「へぇ、ヘスティア……唯一のお得意様のファミリアとか胸熱」

 

 神ミアハとヘスティアはずっと前から親交があるようで、俺とベルもいつもミアハファミリアからポーションの類いを買っている。お得意様、と言ってもポーションなんて二週間に一回くらいしか買わないから、偶々タイミングが悪く守備男と会えなかったみたいだ。

 

「二人ともいい? 乾杯の音頭だけ執っときたいんだけど」

 

「ああ、悪い紅蓮。かまわ―――」

 

「今日出会えたことに乾杯!」

 

「許可求めたんなら最後まで聞けよ」

 

 景気良く振り上げられた紅蓮のジョッキに、俺とセシルは自分達のをぶつける。彼女からぶつけてこないのは力が加減できないことを考慮しているからだろう。

 

 ぐいっと豪快に飲む紅蓮を余所に、セシルは彼女のジョッキが元々置いてあった場所に手をそっと伏せる。

 

「ぷはー、やっぱ疲れた後のエールは最高!」

 

 なんとも親父臭い言葉と共に―――ジョッキがとんでもない威力を纏ってセシルの手の位置に振り下ろされた。

 

 ドグゥッ!! と決して人体から鳴ってはいけないような鈍い音。だがセシルは眉一つ動かさない。流石守備男。俺だったらひしゃげてるわ。

 

「あっごめんセシル」

 

「何を今更」

 

「お前らそれ日常茶飯事なの?」

 

 そしてセシルの手を一切心配しない辺りすげぇ。実際赤くなってすらいないけど、あれそのまんま振り下ろされたらジョッキかテーブルどっちかは破損するレベルだぞ。壊れるのを防ぐ目的でセシルもクッションとして自分の手を使ったのだろうし。

 

 改めて極振りたちの異常さを目の当たりにして、どこか心が弾む。やべぇ早く残り二人にも会いてえ。

 

「速たんと魔女りんは用事?」

 

「魔女りんは放浪癖がある。だから連絡が届いてない」

 

「どっかでまた食べ歩いてるのかもねー。速たんが今探してくれてるよ」

 

 セシルに付け加える形で紅蓮が補足する。速たん苦労人の予感。

 

「いっつも四人全員でダンジョン行ってんの?」

 

「ファミリアが違うし都合が合わないこともあるから、基本潜れるメンバーで適当に集まってるよ。技之助も行こ!」

 

「今ベルと組んでるから、たまにならお邪魔させてもらうわ。できりゃ守備男がいるときがいいな。安心できる」

 

「護りは任せて」

 

ぐっと親指を立ててエールを飲むセシルはなんというか、小さな女の子が背伸びをしているようにしか見えない。つまり可愛い。俺性別って些細な問題だと思うんだよね!

 

「セシルいると心強いよ! 思いっきり戦えるし」

 

「思いっきり投げ飛ばすの間違いじゃない? 武器壊れたときとか」

 

「力子てめぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「なんだろう、怒られる理由はあるのになんでか理不尽に感じる……?」

 

 首を傾げた力子はどこか釈然としない顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅蓮が席を立ち、ベルの方へ絡みに行った。ベルは紅蓮に対して若干苦手意識があるようだが、見ている限り楽しそうに話している。

 

 俺はというと、まだ残り二人が来てないのでセシルとさし飲みだ。

 

「へぇ、生産系のスキル出てないんだ。極振りは経験が反映されやすい。だから今度うちのファミリアに手伝いに来なよ」

 

「お前ちゃっかりしてるな」

 

 一見俺のために言っているように見えて、実はほとんど打算だ。雑用押し付けるつもりに違いない。だって口をつり上げた悪い笑み浮かべてるもの。

 

「しかし耐久か。絶対死ななそうだよなー、羨ましい」

 

「それ隣の芝生。僕は器用の方が欲しい。便利そう」

 

「そういうもんか。ちなみに今、レベル換算でどれくらい?」

 

 そう言って俺は右手をパーにし、左手の人差し指を一本添える。信じるやつなんていないとは思うが、周りに人が多いし念のため口に出さない。

 

 セシルは両手を開き、一回右手を閉じて指を二本示す。12相当か。出遅れてるなぁ俺。

 

「耐久ってことは、あんまり自分から攻撃はしないのか?」

 

「いや、そうでもない」

 

「どうやって戦うの?」

 

「まず、モンスターの群れの真ん中に突進する」

 

「字面だけ見るとやべぇな。それで?」

 

「体に巻き付けたダイナマイトを着火する」

 

「お前頭おかしいんじゃねぇの」

 

 紅蓮にも言えるけど、やっぱ極振りって異常なんじゃないかと思う。普通自分へのダメージゼロだとしても自爆攻撃は思いつかないと思うんだ。

 

「あと、でかい敵には腹パンとか」

 

「……殴るって事か?」

 

「わざと食べられて中で爆発する」

 

 それ腹パァン。いやいや意味合い違いすぎるから。

 

 神経麻痺してんじゃないか守備男。試しに目の前で猫騙しをするが、目を瞑らない。指二本で目つぶしを寸止めするが、やっぱり瞬き一つしない。攻撃を食らっても大丈夫だという絶対的な自信の表れなのか、不動のまま。むぅ、なんだか負けた気分だ。

 

 癪だったので、拳の寸止めをやろうと思いっきり振りかぶったところで……ふと、手首に違和感を感じた。具体的には細い指先が肉に食い込むような。

 

「不届き者が」

 

「へべしぶっ!?」

 

 金髪でややつり目の美しいエルフさんを視界に捉えた瞬間、頬をぶん殴られて錐揉みしながらぶっ飛んだ。……レベル4相当……だと? なんでこんな奴が店員やってんだよぅ……

 

 そしてエルフさんの方もなんでか目を見開いていた。あれか、思ったより俺が脆かったからか。耐久値は駆けだし以下だしね。

 

「技之助、ポーションいる?」

 

「腫れてきた。くれくれ」

 

「一万ヴァリスね」

 

「お前鬼かよ」

 

 足下見て来やがった。

 

「……え?」

 

 暴力を振るおうとした糞野郎からいたいけな少女を守ったつもりだったエルフさんは、全然険悪では無い俺達の会話を聞いて困惑し、次いで顔色を悪くする。勘違いだって気づいたか。全く非道い話だ。これは一言言わせて貰わないと。

 

「飲み代タダにして」

 

「技之助グッジョブ」

 

 最高にいい笑顔で親指を立てるセシルと、女店主に怒鳴られるエルフさんの悲壮感に満ちた顔がすごく対照的だった。

 

 




原作ベル君のこの時期の成長

ベル・クラネル
Lv.1 
 
力:I=82→H=120
耐久:I=13→I=42
器用:I=96→H=139
敏捷:H=172→G=225
魔力:I=0

「上昇トータル160オーバー!?」



この作品のベル君

ベル・クラネル
Lv.1 
 
力:I=82→H=160
耐久:I=13→I=35
器用:H=103→F=337
敏捷:H=172→G=215
魔力:I=0

「上昇トータル370オーバー!?」

 主に器用値のせい。

 耐久と敏捷の伸びやや減少させて、力と器用を伸ばしました。最初っから器用が少し高いのは技之助の影響。


 

 守備男出せましたが、やっぱ一緒にダンジョン行った力子よりインパクト少なかったなーと見直して思う。実際にでかいモンスターの体パァンさせたらまたベル君ドン引きでしょうが。

 そしてまだ出せなかった速たんと魔女りん。次回……も出せたとしても少しだけかなぁ。

 次話ですが、明日から教育実習が始まるので(今日は文化祭の代休)またしばらく更新できません。パソコンに向き合ってても授業の指導案書いていると思う。



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第十話 キャラ紹介

ちょっとバタバタしてて投稿遅くなりました! でも話じゃないんや……すまぬ……
登場した極振り達の紹介とステイタス公開です。本編で少しずつ明かそうと思ったけど説明多くなりそうだし戦闘描写のテンポ悪くなりそうだからもう出しちゃおうと思った。


リベルタ・エーアスト(技之助) 

 

年齢:17歳

性別:男

種族:ヒューマン

所属:ヘスティアファミリア

職業:冒険者

外見

・身長172C

・黄土色の髪(ベタっとした色合いの金髪)

・やや痩せ形、顔立ちは悪くは無いがオーラが無いためイケメン認定はされない。

・目付きが少し悪い。

 

性格:馴れ馴れしい。基本自由に振る舞うが肝心なところで人に流されやすい。そこまで態度には出さないがベルとヘスティア大好き。

 

メイン武器:片手剣

サブ武器:弓

 

 

以下能力

(八話時点)

 

リベルタ・エーアスト

Lv.1 

 

力:I=10

耐久:I=10

器用値Ⅳ:D=512

敏捷:I=10

魔力:I=10

 

スキル

 

創成己道(ジェネシスクラフト)

・器用の成長率に上昇補正。

 

尊価代償(サクリファイス)

・成長補正スキルの効果増大。

・他の能力値成長率の下方修正。

・上昇対象能力値への成長願望が強いほど両補正ともに強固なものとなる。

・補正能力に準じたスキルが発現しやすくなる。

 

無限収納(アイテムボックス)

・三秒以上触れた物質を、念じることで収納空間に送ることができる。

・同じく念じることでいつでも取り出すことが可能。

・触れる箇所が固体である必要がある。また、生命体は収納できない。

 

戦友鼓舞(フィール・エアフォルク)

・戦闘時、一定範囲内の眷属の基本アビリティ上昇補正。

・同恩恵を持つ者にのみ効果を発揮。

 

審美眼(プルフサイト)

・武器、防具など制作物の善し悪しが分かる。

道具(アイテム)の効果が分かる。

 

盗賊心得(グリーディブラッド)

・隠密能力向上。

・索敵能力向上。

 

危機察知(ヴォーパルハザード)

・相対した相手の強さを把握出来る。

 

暗視順応(ディスタント・リセンブラス)

・暗闇での視界の確保が可能。

 

理外者(ルシフェル)

・神に対して嘘をつくことが可能となる。

・神による『魅了』の完全無効化。

 

 

 

 

 

スキル候補ボツ案

 

【魔物使役】(モンスターテイム)

・テイム成功率の上昇。

・従魔に対して簡単な意思の疎通が可能。

 

〇モンスター仲間にしたら戦闘で毎回使うのが面倒い。幅は広がりそうだけど。

 

【無地絵画】(インスピラシオン)

・保持魔力を半分消費することで魔法を作ることができる。一度使用するごとに再度作り直す必要がある。

・一度に三つまで魔法の保持が可能。

・適正の無い魔法は作成できない。

 

〇魔法って魔女りん枠だからあかんな。それに使い勝手良さそうだからこればっか頼りそうだし。

 

 

【禁断果実】(パラディス・フェアトライブング)

・アビリティ全てにおいて超超大幅上昇補正

・使用後五分で死に至る

・任意発動(アクティブトリガー)

 

〇死亡フラグやねこれ。ぶっちゃけ使いどころ無かったから却下。少し効果変えて魔法にして力子にあげました。

 

 

【全知眼】(ジェネラルサイト)

・視界に入った人物の恩恵の内容を見通すことが可能。

・神による細工は意味を成さない。

 

〇チート乙。これ発現したら原作キャラのステイタス書かなきゃじゃん。原作で記載無い分は怖くて書けねぇので却下。

 

 

今後は生産スキルを発現させたいと考えているけど、考えている展開的にまだ少し先になりそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅蓮・アルバ(力子)

 

年齢:17歳

性別:女

種族:ヒューマン

所属:ゴブニュファミリア

職業:冒険者、鍛冶師(インゴット作り)

外見

・身長165C

・真紅の瞳に同色の髪。セミロングの髪を下ろしたり後ろで小さく結んだり。

・幼さが残っているがやや大人びた雰囲気の美人。言動でそれらのプラス要素を台無しに。

・巨乳では無いがそれなりにある。

・作業着姿を好む。上着を腰に巻いて腕まくりスタイル。

 

性格:馴れ馴れしい。人懐っこい。細かいことを気にしない大雑把。楽観主義者。

 

メイン武器:長大剣(超重量)

サブ武器:クロスボウ(超重量)

 

 

レベル1

 

力Ⅸ:D=536

耐久:I=10

器用:I=10

敏捷:I=10

魔力:I=10

 

スキル

勇猛剛健(ウォーカウリッジ)

・力の成長率に上昇補正

 

尊価代償(サクリファイス)

・成長補正スキルの効果増大。

・他の能力値成長率の下方修正。

・上昇対象能力値への成長願望が強いほど両補正ともに強固なものとなる。

・補正能力に準じたスキルが発現する。

  

最狂戦士(オーバーウェルム)

・戦闘意欲により攻撃力上昇。

(おも)いの丈により効果向上。

 

逆境打破(フィアフルレブル)

・格上と認識した相手と敵対する間、攻撃力が上昇する。

・一対多の戦闘時、攻撃力が上昇する。

 

大往生(ヘブンズリジェクト)

・即死攻撃を無効化し、瀕死状態へと移行する。

・連続での発動は不可能。

 

獣性直感(シャープフォーサイト)

・即死攻撃の事前察知。

 

殺伐餓鬼(ベスティエ・シュトライテン)

・ダメージを負うほど攻撃力が向上。

・苦痛の大きさにより、反動の軽減効果上昇。

 

威圧眼光(メンチカット)

・格下のモンスターを寄せ付けない。

任意発動(アクティブトリガー)

 

自滅阻止(ヴェルデ)

・自身の攻撃行動による反動の軽減。

・力値の上限により効果上昇。

 

勝利願望(エクスプロイト)

能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権。

 

魔法

 

【プロミネンス・ウォーリア】

詠唱式:さあ、存分に暴れよう。

 

・力値の上昇補正。

・思考能力の低下。

 

【パラディス・フェアトライブング】

この体がどうなったっていい。今、この一戦を戦い抜く力を。

 

・戦闘能力の大幅上昇補正。

・戦闘終了後は激痛を伴った状態で長時間行動不能となる。

 

 

 

 

戦闘系スキル多め。戦闘局面が厳しいほど上昇補正が入るタイプ。

ダメージ食らいまくって敵に囲まれて絶体絶命な事態ほど真価を発揮する。

 

 

 

 

 

 

 

 

セシル・ウィルシュバリエ(守備男)

 

年齢:16歳

性別:男

種族:ハーフパルゥム

所属:ミアハファミリア

職業:冒険者、暇なとき店番

外見

・身長142C

・優しい色合いの茶髪。長さは耳にかかる程度。

・中性を通り越して女顔。どう見ても可愛らしい幼女です本当にありが(ry

・ややジト目。ナァーザさんと一緒に主神の天然ジゴロをジト目してる。 

 

性格:馴れ馴れしい。合理的。何も気にしない。マイペース。

   

メイン武器:ダイナマイト

サブ武器:短剣

 

Lv.1 

 

力:I=10

耐久Ⅷ:MAX=1500

器用:I=10

敏捷:I=10

魔力:I=10

 

スキル

守護神将(ロンズデーライト)

・耐久の成長率に上昇補正

 

尊価代償(サクリファイス)

・成長補正スキルの効果増大。

・他の能力値成長率の下方修正。

・上昇対象能力値への成長願望が強いほど両補正ともに強固なものとなる。

・補正能力に準じたスキルが発現する。

 

守護陣(シュッツガイスト)

・護衛対象への攻撃を全て引き受ける。

・対象に触れている必要がある。

・対象者は攻撃行動、および詠唱行為を封じられる。

 

天長地久(アブソル・アルマトゥーラ)

・状態異常を全て無効化。

・神による『魅了』の完全無効化。

 

事象不変(オートリバース)

・ダメージの自動回復。

・欠損部位の自動修復。

 

仁王立(ギガンティシュ)

・敵勢攻撃による吹き飛ばし効果を軽減する。

・耐久値の上限により効果上昇。

 

徹底恒常(フラムカルト)

・熱耐性向上。

・冷気耐性向上。

 

潜水超過(リフレクト・イマージョン)

・呼吸停止状態で長時間生存が可能。

 

避雷針(ミーティアー・ロッド)

・認識した魔法攻撃を自分の元へ集める。

任意発動(アクティブトリガー)

 

全装不壊(デュランダルオプション)

・自身の装備品への不壊属性の付与。

・装備解除後、不壊属性は消滅する。

 

魔法

 

【ラスト・リゾート】

我だけを見よ。我は敵。汝の唯一の敵なり。

 

・モンスターの憎悪感情の大幅上昇。

・自身の耐久値の極大減少補正。

 

【アストロン・ナイト】

我は騎士。仲間を先に死なせたりはしない。

 

・死亡した眷属を自分の命を捧げることで生き返らせることができる。

 

 

単体じゃ絶対に死なないけど仲間を守ると死の危機が。特に魔法が二つとも地雷。

感想欄で危惧されていた爆発後の服は【全装不壊(デュランダルオプション)】で無事だよ!

 

 

 

 




速たん、魔女りんは登場して少ししたら追加予定。


ステイタスで何か分からないところや疑問点があったら聞いてください。


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第十一話

色々とテンションおかしいかもです。……いや、今更か。


「紅蓮おかえり。飯代はダメだったけど飲み放題無料になったからたくさん頼もうぜ」

 

「こっちまで聞こえてたよ、リベルタありがとう! すみませーん、一番高い酒を……じゃなくて火酒ください!」

 

 注文を取るエルフ―――リュー・リオンさんが死地に赴くような絶望に満ちた顔になったことに気づいて紅蓮が慌てて内容を変更する。

 

「あっ……い、いえ、私のことは気にせず、好きなお酒を頼んでください」

 

「「「リューさん可愛いから無理」」」

 

 極振り三人の気持ちは一つになった。金髪クール系美人エルフを悲しませてはいけない。よーし今日は安酒で盛り上がろうぜ!

 

 褒められ慣れていないのか、お礼を言いつつも耳まで真っ赤にして戻っていったリューさんを見送る。

 

「……あれ、僕たち煮魚なんて頼んでたっけ」

 

「ん、これ? ベルのだよ」

 

「お前当たり前のようにかっぱらってきて……」

 

可哀想にベルの奴。今頃無くなった料理を悲しんでいるに違いない、そう思ってあいつの方を見ると……明らかに容量以上の料理が並べられていた。あれ絶対に頼んでない品ドンドン追加されてるよね……後で俺もつまみ貰いに行こう。

 

 

 リューさんが持ってきた火酒を呷るように飲む紅蓮を見て、俺は一抹の不安を覚える。

 

 

「なあセシル。紅蓮って酔うとヤバい?」

 

「大丈夫。近づかなきゃ。酒乱じゃないけど、注意力と制御が散漫になる」

 

 あ、だから俺は向かいの席なのね。振り回した腕とか当たったらきっと危ないからなんだな。よく見たら速たんと魔女りん用の席もめっちゃこっち側に置いてあるし。

 

 

 やっぱ力極振りって大変だなー、なんて他人事のように思いつつ酒をチビチビ飲んでいると―――店の空気が急に変わった。みんなの視線を追い、俺は何事かと店の入り口を見やる。 

 

「邪魔するでーミア母ちゃん!」

 

 糸目の神の後ろに『道化師』のエンブレムを服につけた団員達が続き店へと入る。

 

 ロキファミリアの来店。有名どころの一級冒険者を中心とした団体は予約を入れていたのか、周囲のざわつきをよそに、主神ロキがテンション高めで店主に挨拶をしつつ大テーブルの一席にドカっと腰を下ろす。

 

 アイズ・ヴァレンシュタインも集団の中にいたが、話しかけられる雰囲気でもなかったのでスルーを決め込む。相手もこっちに気づいてないみたいだし。後で話せる機会があったら今朝のお礼すればいいさ。

 

 ちなみに紅蓮は特に気にすることも無く、近くを通りかかった褐色肌の活発そうな女の子の腕を掴み「大切断これでもくらえー!」と火酒を押しつけ始めた。「げっあの時の……!?」と目を見開いた女の子に対し俺が適当にコールを送ると、一瞬の躊躇も無く一息に飲み干してくれた。ノリがいいじゃねぇか。

 

「辛ぁ!! もう一杯!」

 

「そういう奴嫌いじゃないぜ……! こっちで一緒に飲も!」

 

「さあカンパーイ!」

 

「「いえー!! カンパーイ!」」

 

「ティオナさんどこで飲んでいるんですか!?」

 

 後ろで髪を束ねたエルフの女の子が驚愕しているが、知った凝っちゃ無い。ちなみにセシルはロキファミリアの団長―――確かフィン・ディムナって名前のパルゥムの元へジョッキ片手に「勇者さんちっすちっす」と挨拶に行っていた。どうでもいいけど極振りってみんな馴れ馴れしいね、俺も含めて。

 

「あたしの団長に近づかないでよ!」

 

「前も言ったけど僕男だってば」

 

「それでも万が一があるでしょ!」

 

「ティオネは一体何を危惧しているのかな……?」

 

 頬を軽く引きつらせたフィン・ディムナはセシルを雑に扱うこと無く話始める。あれ、やっぱりセシルに気があるんじゃねぇ? と考えていたらめっちゃ睨まれた。一級冒険者は勘もいいのかしら。

 

 目を付けられても困るので視線を戻すと、アイズ氏とちょうど目が合う。

 

「……あれ、君は」

 

「あ、どうも。今朝は助けて頂きありがとうございました」

 

「ううん。危険な目に遭わせちゃったから、むしろ謝らなきゃ……もう一人の子は?」

 

「ああ、ベルは―――」

 

「あってめぇ、あん時のトマト野郎じゃねぇか!」

 

 誰だてめぇ。

 アイズ氏がいるからベルを呼んでやろうと思ったが、なんか面倒くさい奴が来たせいで呼ぶに呼べない。そっとベルの様子を伺うと、チラチラこっちを見つつも入るタイミングを逃したようでおろおろしている。とりあえず来るな、と視線を送る。

 

「うん? トマト野郎って何のことやベート」

 

「俺達が逃がしたミノタウロスが嘘みてぇに上層へ登って行ってよ! 運悪く襲われてたこいつをアイズが助けたはいいがミノの返り血で真っ赤に染まってな、傑作だったぜ! なあアイズ、あれわざとやったんだよな? 頼むからそう言ってくれ……!」

 

「……わざとじゃない。ごめんね、嫌な思いさせちゃって……ベート、あっち行って」

 

 アイズさんがいる手前、俺もこいつに言い返しづらい。アイズさんに「気にしてない」と返事を返すが、狼人はさらに調子に乗って俺を罵倒してくる。やれ「駆けだしは身の程を―――」だの「雑魚はアイズに近づくな―――」だの。……そろそろ我慢の限界近いんだけど。感情を誤魔化すために、紅蓮の頼んでいた火酒をぐいっと一気飲みする。……あれ、この酒けっこう度が強いな。

 

「なあアイズ! こんな弱っちい奴と俺、(つがい)にすんならどっちを選ぶ? 当然俺だよな!」

 

 狼人の罵倒に青筋を立てつつ聞いていると、いつの間にか告白へと変わっていた。どういうことばってばよ。

 いや、たぶん本人はめっちゃ軽い気持ちで聞いてるけどね。「こいつよりは俺の方がいいよな?」くらいの。でも内容は結婚まで視野に入れちゃってる。チグハグだな。

 

 そもそもアイズさんは何回も話を止めようとしてたのに全然聞いて貰えなかったから今絶対不機嫌だよ? お前への心証最悪だよ? よくその流れに持っていくね。馬鹿なの? 死ぬよ?(確信)

 

「……私は、そんなこと言うベートさんとだけは、嫌です」

 

 ほおら言わんこっちゃねぇ! ドン引きされてんじゃねぇかざまああああ!!

 

 さあ反撃返しだ! いい加減我慢ならなかったところだしな!

 頭の中で勝利の旗を掲げつつ、呆然とするベートを尻目に俺は後ろを向き、紅蓮とセシルに目配せする。

 

「おい聞いたかよ! この狼野郎、告白紛いなことして玉砕した挙げ句嫌われてやがんぜ!」

 

「何だって!? それはめでたい!」

 

「これは飲まざるを得ない」

 

「「「かんぱーい!!」」」

 

 俺はジョッキをとかざし、イエー! と小走りで周りの冒険者達のジョッキへ打ち付けていく。意外にもロキファミリアの、おそらく幹部クラスの奴らが思いっきりノってくれた。ティオナって呼ばれてたあのアマゾネスが特にめっちゃ楽しそう。

 

 ひとしきり駆け回ったところで、俺は狼人へと目を向ける。羞恥と怒りで顔が真っ赤だ。そろそろ煽り止めないと報復がヤバい気もするけど、もう一言だけ言いたいことできたので口を開く。

 

「そんな赤い顔してどうしたトマト野郎」

 

「ぶっ殺す」

 

 かくして、雑魚()負け犬(ベート)の醜い小競り合いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「泣いて謝るなら今のうちだぞてめぇ! 調子に乗りやがって!」

 

「お前こそフラれたんなら負け犬らしく尻尾垂れて店の角で三角座りしながらのの字でも書いてろバーカ!」

 

 なんだこの低レベルな争いは。

 ロキファミリア団長フィン・ディムナは、隣で頭痛を堪えるように額を押さえるハイエルフ、リヴェリア・リヨス・アールヴの言葉に苦笑いを浮かべる。

 

 喧嘩の原因を作ったのは、駆け出し冒険者を馬鹿にしたベートだ。元はと言えば自分たちの不手際で逃がしたミノタウロスに襲われた被害者を鼻で笑うなど、無礼極まりない行為。団長として代わりに謝ろうと席を立とうとしたフィンは、駆け出し冒険者の方が逆にベートに煽り返した様子を見て再び腰を下ろした。無論、おもしろそうな予感を感じ取ったからである。

 

「……と、止めなくてもいいんですか? へたしたら……」

 

「大丈夫だよレフィーヤ。いくらベートでも半殺し以上にはしないさ」

 

「大前提が間違ってますよ!?」

 

「本当にマズいと思ったら止めるさ。駆け出し君にも後で僕から謝る。そもそも今は対等な喧嘩をしているんだから、止めるのは無粋じゃないかな?」

 

 言っていることは正論っぽいのに、明らかに隠し切れていない口元の笑みがレフィーヤの不安を駆り立てる。ギャイギャイ言い争うベートと見知らぬ冒険者をハラハラと見つめる彼女に、ファミリアの古参であるガレス・ランドロックが声をかける。

 

「いいのぉ血気盛んで! あの新米も相手が一級冒険者(ベート)だと知ってあの啖呵か! こりゃあ将来が楽しみじゃわい!」

 

「その将来拝む前にここで潰されそうですけど!? しかもあれどう見ても酔った勢いですって!」

 

「私は止めるべきだと思うな」

 

「リヴェリア様……!」

 

「聞いてみろ口論の内容を。明らかに罵倒の質が駆け出しの方が高い。このままじゃベートは言い負けて必ず手を出すぞ」

 

 レフィーヤの中でベートの株が大暴落した。

 

 ブチ切れて殴りかかる様を容易に想像できてしまったレフィーヤは、ベートを止められそうな前衛職に助けを求めるように辺りを見回す。

 

「団長が大丈夫って言うなら大丈夫よ」

 

 ダメだ、ティオネさんは盲目だ。フィンさんが動かないなら絶対に動いてくれない。

「がんばれー駆け出し君!」

 

 ダメだ、ティオナさんは紅い髪の女の人と肩組んで一緒に面白がってる。なんでか途中からティオナさんが肩を押さえて蹲ったが、そんなこと気にしている場合じゃ無い。

 

「えっなんで自分を見るんすかレフィーヤ! 無理! あれを止めるのは無理っす!」

 

 ダメだ、ラウルはヘタレだ。

 

「男の娘キター!! おいでおいで、膝の上来ぃや! うん? 体に何巻いて……ダイナマイト!?」

 

 ダメだ、ロキは変態だ。大体あんな可愛い子が危険爆発物なんて持ってるわけないのに、うちの主神はもう酔っているのだろうか。というかそもそも戦闘能力無いから止めるのは無理だった。

 

 周りに碌な奴がいないことに悲観するレフィーヤは、最後の希望であるアイズに目を向ける。

 

「……ごめんね、あの時怖い思いさせちゃって」

 

「い、いえっ!? む、むしろお礼も言わないで逃げてしまってすみませんでしたっ! あの時は本当にありがとうございました!」

 

 ……誰ですかそのヒューマン!?

 

 レフィーヤの『アイズさんに寄ってくる悪い虫センサー』が危険度Sを示す。今すぐ駆け寄ってあのヒューマンを振り払いところだが喧嘩の行方も気になる。やきもきとしつつ迷って両方に視線を行き来させているうちに、ベートが駆け出し冒険者―――リベルタ・エーアストに掴み掛かった。

 

 

―――だが、リベルタは体を捻ってその腕を躱した。

 

「……あ?」

 

 何も掴んでいない手のヒラを開閉し、驚いたように見やるベート。周りの冒険者達がその間抜けな姿に笑いを堪える中―――レフィーヤを始め、実力のある上級冒険者達は驚愕していた。

 一級冒険者であるベートの動きは無駄が無く、速い。これだけ至近距離で、まぐれだとしても新米冒険者がそうそう躱せるものじゃない。

 

 我に返ったベートは、二度、三度と掴み掛かろうとするが、全て空を切る。

 

「……一体何が?」

 

「レフィーヤ、彼の動きをもう一度よく見てみろ」

 

 リヴェリアに指摘されて、気づく。ベートが動き出す寸前、リベルタは体を倒して重心の位置を変えている。だからあんなにも早い段階から回避行動に移ることができているのだ。だがそれはベートの動きを予測できている、ということ。

 

 何故、と疑問に思うレフィーヤに、フィンが答える。

 

「見ている位置はベートの視線、表情、体重移動ってとこかな。全てを加味して、行動を読んでいるんだろうね。……あの二人と一緒にいるからもしや、とは思ったけど、やっぱり普通じゃ無かったか」

 

 親指を押さえ、フィンは紅蓮とセシルに目を向けつつ、楽しげに呟く。

 

 つい先日行われたばかりのロキファミリアの遠征。幹部が先行し、深層へと向かう途中、彼らと出会った。

 

『階層ぶち抜いてここまで降りてきた』

 

 そんなことをのたまいつつ敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げる(比喩では無い)パーティリーダーの紅い髪の女性を始め、

 

 あらゆる攻撃を物ともせず、モンスターに飲み込まれて中で爆発する飯テロを披露したハーフパルゥム。

 

 目にも止まらぬ速さで疾走し、嘆きながら体に血肉(トラップアイテム)を巻き付け、モンスターを大量に引きつける囮兼回避盾の狼犬人。

 

 何やら頭のおかしい詠唱をしつつ結局全て暴発し周りのモンスターを巻き込む幼いエルフ。

 

 たった四人で下層まで降りてきていたことにも驚いたが、そんな些細なことに突っ込んでいられないくらい全員がぶっ飛んだ奴らだった。

 

「そして、駆け出しでベートの攻撃を避けられる人間……か」

 

 彼らは一体何者なんだろうか。興味は尽きないが、質問をしても前のようにはぐらかされるだけだろう。

 

 肩を竦めつつフィンは、とりあえずこの喧嘩の行方を見守ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この!」

 

「おうっ!?」

 

 業を煮やしたベートが殴りかかった瞬間、俺は真後ろへと体重を完全に預け倒れることで間一髪避ける。倒れる途中で体を半ば無理矢理捻り、近くのテーブルに置いてあった水を手に取り、当たらないとは思いつつベートに投擲。地面に勢いよく手を突き、斜め後ろに回転しつつ跳ね上がって起き上がり、体勢を整え、構えた。

 

「てめぇは一体……」

 

 今の一撃こそは当たると思っていたのか、それとも俺の動きに思うところがあったのか、ベートの顔つきが変わる。今までは俺が駆け出しなことを考慮してか力をセーブしていたのだろうが、そろそろ本気を出してくる可能性もある。当たったら即死攻撃はやめてくれマジで。

 何か打開策は無いものか。具体的には戦闘じゃ無くて、ゲームっぽいもので勝負できるといいんだが。

 

 キョロ、と見渡す。盛り上がる店内。席から離れ、楽しげに遠巻きに酒を飲む冒険者。「物は壊すなよ?」と言わんばかりにこちらを威圧する女店主。視界の先でこそこそ動く、銀髪の女店員……シル・フローヴァ。

 

 何事かと思って視線を向けると、何かを期待するような表情を見せてきた。少し考え、彼女の思惑を理解した俺はアイコンタクトを取り、台詞を紡ぐ。

 

「店員さん、あれをくれ!」

 

「はい、あれですね!」

 

 すぐさま駆け寄ってきたシルが手渡してきたもの。それは真っ赤でドロリとした液体―――

 

『と、トマトジュース!?』

 

 あれで一体何をするつもりだ、と驚愕する客どもをよそに、俺はシルに向けて口角を吊り上げる。

 

「おじちゃん今度お小遣いあげるわ」

 

「ふふっ期待してます」

 

 

 汚したら後で掃除するから、と一応言い残してから拳をコツンとぶつけ合い、俺は戦いへと向かう。

 

「おいベート! 先にトマトジュースぶっかけた方が勝ちな!」

 

「ッ上等だ受けて立ってやる! おい、俺にも寄越せ!」

 

「一万ヴァリスです」

 

「えっ……いや待て持って帰んじゃねぇ! それでいいから!」

 

 一瞬躊躇したベートは歯を食いしばり、シルからひったくるようにトマトジュースを受け取る。

 客の冒険者達は「いいぞやっちまえ!」と煽り立てるように激を飛ばしてくる。いいねぇ、盛り上がってきた……!

 面白そうに見ていた紅蓮、セシルが手を上げる。

 

「リベルタが勝つ方に一万ヴァリス!」

 

「僕は二万」

 

「なんやおもろいことになってんなぁ! ベートが勝つに二万五千ヴァリス!」

 

「何勝手に賭けてんだよロキ!」

 

「駆け出し君に三万!」

 

「馬鹿ゾネス、せめて俺に賭けろよ!?」

 

「……第三者がベートにぶちまける、に十万」

 

「アイズなんでお前もジュース持ってんだよ!? それをどうする気だ!」

 

 あちらさんが身内で盛り上がってる間に視線をベルへと飛ばす。ベルは俺を指さし、財布を取り出して、差し出す素振りを見せる。なるほど『リベルタが勝つ方に全財産』ね。分かっているじゃねぇか。

 

「余所見してんじゃねぇ!」

 

 声が聞こえた瞬間に、近くに置いて食べ終えの大皿を持ち盾にする。なんだよ全部ぶちまけて来いよ、そしたら有利になんのに。

 

少量の液体を全て受け止め、こちらも反撃に出る。

 

「うおお! これでも食らえーと見せかけてフェイントフェイントフェイントぉ!」

 

「うおっあぶ、うおっとと……うぜぇぇぇ!!」

 

 振りかぶっては手首をうまく使いジュースを零さないようにしつつ、ぶちまけるフリだけして煽る。器用値の無駄遣い、ここに極まれり。

 

 第一級冒険者だろうと、テーブルや椅子がひしめく店内では敏捷値も力値もそれほど発揮はできないだろう。器用値だけなら俺の方が有利なはず。この勝負、絶対勝ってやるぜ!

 

「―――この野郎っ!」

 

「ちょっ殴んのは卑怯だろ!」

 

「こんくらいならどうせ避けるだろ! これはただの牽制だ!」

 

「汚え! それが一級冒険者のやることかよ!」

 

「タバスコの栓緩めて投げつけてくるてめぇに言われたくねぇよ!」

 

 互いに罵倒し合いつつ、隙を伺う。すれ違った瞬間、ベートの死角になる位置で俺は上にトマトジュースのコップを投擲した。

 

 相手はその事実に気が付いていない。後は上手く誘導して、ベートがコップの真下に来るように位置を調節すればいい。

 

 そう思って振り向き、ベートの攻撃に備えようとして―――世界が回り、よろめく。

 ……あれ、俺もしかして酔ってる?

 

「ちょ、ま―――」

 

 ベートが俺の方をよく見ないまま振り向きざまに裏拳を繰り出してくるが、体勢が崩れて避けられない。これ当たったらヤバいって絶対……!

 

 ふと、視界にフィンさんが目に入った。フィンさんは立ち上がろうとして―――ふと、何かに気が付いた表情で結局座った。いやいや助けてよ!? と加速した思考の中で叫ぶ。無論届かない。

 

 

 どうか死にませんように……と祈りつつ、自分の現状に絶望する中。

 

「リベルタ、これ貸しね!」

 

 後方やや下辺りから声が聞こえてきてすぐに、滑り込んできた何かに思いっきり足を払われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、まずい。リベルタあれ絶対酔い始めてる。ほんのり赤ら顔だし、声も少しいつもより大きい。

 

 リベルタはそこまでお酒に強い方じゃ無い。動き回ってる間にさらに酔いが回ってベートさんの攻撃が当たったら、紙耐久のリベルタじゃ大怪我するかもしれない。

 

 周りの冒険者達が盛り上がる中、僕はそっと席を立つ。近くに居たヴァレンシュタインさんが首を傾げたので会釈をしつつ場所を移動し、クラウチングスタートポーズをとった。

 

「(―――今!)」

 

 リベルタの足がもつれた直後、低い体勢のまま疾駆。

 

「リベルタ、これ貸しね!」

 

 ヘッドスライディングでリベルタの足を掴み、前に押し出すように持ち上げる。

 

「うおおお!? ベルッ!?」

 

 リベルタの体が勢いよく後ろへと倒れる。ベートさんの拳がリベルタの目先を通過するのを下から見上げつつ確認し、ほっと安心していると―――パシャ、と水気を含んだ音がベートさんの方から聞こえてきた。

 

 見ると、リベルタがさっき上に投げたコップがベートさんの頭に命中していた。唐突な衝撃と冷たさに驚いたのかベートさんは手に持っていたコップを滑り落とし、僕と、上に折り重なっていたリベルタに中身が降り注いだ。

 

 

 

「「「あ」」」

 

 

 

 

 




結果:相打ち?


リベルタ君を誰で助けようか迷った。

①紅蓮がセシルをベートに投げつける。
②遅れて来店した速たんが救出。
③普通にフィンさん。

 でも、やっぱ一番付き合いの長いベル君が酔ってるのに気づくかなーと思ってこうした。
 ……あっ速たんと魔女りんまた出し損ねた。

 設定甘かったりちゃんと書いていないところが多いので、分からんことあったらなんでも聞いてください。


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