魔法科高校の武器商人<修正版> (akito324)
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設定集 組織編

これは短かったのですぐに出せました

ついでに言うと完成というわけではなく設定は話に合わせて随時更新する予定です。



・DEM社

 

元ネタ:デート・ア・ライブ

正式名称:Deus Ex Machina Industry

 

かつての式海運。現在は海運業、武器商、開発だけでなく魔法工業などに手を出しており、特に魔法工業では世界CADトップメーカーの座をローゼン・マギクラフトとマキシミリアン・デバイスと争えるほどに成功を収めている。武器と魔法機器を同時に扱っている会社では世界一の規模を持っている。日本もDEMに頼っており武器や魔法機器の6割はDEMから仕入れている。このことから日本に対し、民間企業でありながら十師族と同じくらいの発言力を有している。決して一枚岩ではないが社内における清夜(正確にはアイク)の信頼は厚く信者が出てくるほど、役職が上になるほど彼のシンパ、信者の割合が高くなっている。一見、最強企業に思えるが清夜の分析だと開発に関しては自身の研究チームが一番業績を出してしまっている上、社員に関しても信仰故か、清夜の指揮がなくなれば会社が空中分解してしまう恐れがある。

 

 

 

Nameless(名無し)

 

元ネタ:オリジナル

 

清夜の所属、所有する特殊部隊。世界で唯一の対魔法師部隊。その由来は装備にあるがそれは魔法・装備編で説明。基本、清夜も参加し指揮を執るが部隊長はエレンである。隊員は清夜、エレン、エコー、アーキン、ホウ、翠、藍、アルテミシア、予備隊員のアシュリー、レオノーラ、セシルを含めて8人である。表向きには存在しないことになっている。だが佐渡防衛から噂は出回るようになり世界ではこの部隊のことを魔法が効かない魔法師『Anti・Wizard(アンチ・ウィザード)』と呼んで恐れている。DEMの影響力にもこの噂は加担している。

 

 

 

・DSS社

 

元ネタ:オリジナル

正式名称:Deus Security Services

 

DEM社の子会社。魔法師による護衛、警備を主にしており高ランク魔法師も多数所属している。業界では日本最大手。しかし、実態は清夜の手駒であり歩兵という意味合いで裏の仕事もしている。無論、シンパや信者がほとんどだ。

 

 

 

・工藤重工

 

元ネタ:オリジナル

 

九島家が筆頭株主の会社。武器コンペにはよく参加する。

 

 

 

・ブランシュのテロ部隊

 

元ネタ:オリジナル

 

ブランシュの裏工作を行う部隊。主力とも言ってもいい。

 

 

 

・南米マフィア

 

元ネタ:デストロ246

 

南米のマフィア。ディアスという黒人デブがボス。元メイドの翠、藍により幹部も含めたディアス邸にいた全員が殺される。現在は下部組織の間で組織の主導権争いをしているとか、いないとか・・

 

 

 

・万両組

 

元ネタ:デストロ246

 

万両 苺を組長とした横浜893(暴力団、ヤクザ)。893の命とも言える看板は下ろしており表向きは不動産業および住宅斡旋業をしているが組織自体は未だに存在し横浜裏社会を支配している。もはやマフィアと言ってもいい。主な資金源はアイスとエクスタシー(どちらも麻薬)の密売で、他に株取引もしている。ただの893と思うかもしれないが魔法協会支部、つまりは十師族のお膝元である横浜で好き勝手できているのだから余程の実力と言える。

 

 

 

・西東京総合学園

 

元ネタ:デストロ246

 

的場 伊万里が所属する中高一貫校の巨大学園。その学園長である仙崎時光が伊万里の雇い主。元々、伊万里はこの巨大学園の中で起こる悪事を消す為につかわれていた。

 

 

 

・火車

 

元ネタ:デストロ246

 

主に的場 伊万里による暗殺の後処理部隊。といっても戦闘力は軍隊の特殊部隊レベルである。西東京総合学園の所属か、仙崎時光のかは不明。ミニガンを搭載したヘリも持っている。

 

 

 

・CIA

 

元ネタ:デストロ246、ヨルムンガンド

正式名称:北アメリカ大陸合衆国中央情報局

 

原作設定は省略。対外的諜報、工作活動を行っている組織。日本、DEMにも何らかの工作を仕掛けている様子。

 

 

 

・パラミリ

 

元ネタ:ヨルムンガンド

正式名称:準軍事工作担当官(パラミリタリーオペレーションズオフィサー)

 

原作設定は省略。CIAの工作活動などの実行部隊。特殊部隊あがりが多い。今ではUSNA最強魔法師部隊『スターズ』や『スターダスト』の元隊員まで引き入れている。

 

 

 

・公安0課

 

元ネタ:緋弾のアリア

 

表向きは存在しないが内乱やテロといった国難などに対処する組織。公安となっているが警察省などの指示ではなく内閣総理大臣の指示で動く。つまりは内閣総理大臣直轄。そのため内閣情報調査室と連携して動くことが多い。その構成員は誰も高ランク魔法師かつ世界トップクラスの対人戦闘スキルを持っていると言われている。武力を持つ十師族、国防軍に対する政府陣営の切り札。

 

 

 

・ホテル・モスクワ

 

元ネタ:BLACK LAGOON

 

新ソ連がバックにいるロシアンマフィア。タイ王国のロアナプラに拠点の一つを置いている。他の構成員と違いロアナプラにいるホテル・モスクワの人間は全員軍人崩れ。

 

 

 

・タイ王室魔法団

 

元ネタ:魔法科高校の劣等生

 

タイ王室直属のエリート魔法師部隊。近衛兵に近い立ち位置。原作4巻で千葉修次が剣技指南する予定だった部隊。団長はソム・チャイ・ブンナーク。

 

 

 

・ボスホート6

 

元ネタ:ヨルムンガンド

 

クロアチアの特殊部隊。軍の所属ではなく内務省中央税関保安隊の所属。

 

 

 

・リーゼルタニア

 

元ネタ:学戦都市アスタリスク

 

ドイツ地方都市から独立した小王国。しかし、その実態はDEMによる傀儡国家。民間企業による傀儡国家でいえば人類史上初。DEMはCAD開発に必要不可欠な『感応石』の採掘地域を独占するために支配・・・もとい独立と独立後の支援をしている。一年前、国連に加盟。

 

 

・MI6

英国情報局秘密情報部。一度は『SIS』という名前に変えたもののイギリスの連邦崩壊後に名前を戻した。その諜報員はUSNAの『CIA』、新ソ連の『KGB』に劣らない優秀さで特に『00セクション』と呼ばれる部署のエージェントは国から『殺人許可証』を貰うほどの実力者でありMI6の中でも群を抜いている。まさしく”殺し”においては世界最高峰の組織。




次が最後、魔法・装備編になります。
今書いているのですが、5000文字くらいになりそうです


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設定集 人物編

感想のアドバイスをもとに作ってみました。

書いてみるとオリジナル魔法はともかくデートアライブのキャラを入れすぎたかなって思いました。
反省は・・・分かりません!

原作設定は省いています。オリジナルの設定だけ書いてあるので原作設定やキャラデザインを知りたい人は検索してみてください。

あとエコー、アーキン、ホウの装備は全然決めてませんでした。申し訳ない。


・式 清夜(15)

 

元ネタ:オリジナル

職業:学生

身長:174

コールサイン:Nameless(名無し)

平時装備:銃型特化CAD『アーサー』×2(殺し合いになると銃剣がつく)

     腕輪型汎用CAD『マーリン』

     ナイフ型特化CAD『ランスロット』×2

兵装:『メルディン』+H&K MP7カスタム+ナイフ型特化CAD

   または『AMS-04(アムス04)』+平時装備+少量の砂鉄と水銀+H&K MP7カスタム

 

本作の主人公。一人称は俺、目上の人間だと自分。学校ではヘタレキャラを演じている。口癖は『フフーフン』。ヨルムンガンドでいうヨナ、デストロ246でいう透野隆一にあたる人物。内気かつ弱気で大事なものを守る時以外は暴力ができない性格だったが、妹をなくしたのを境に最強の復讐鬼に変貌する。現在は陽気そうに見えるがその本性は結果至上主義、使えない者や弱者は例え側近であろうと容赦なく切り捨てる冷酷非情で腹黒い男になる(あくまで自称であるが)。また悪をひどく憎むようになり、悪には拷問(拷問は甘い方だが)など非人道的なことでも何でもする。能力に関しては小さい頃は運動、勉学の才能はなく、魔法に関しても魔法科高校にすら入学できないと言われたほどだったが同じく妹をなくしてからは全てにおいて優れた結果を出すようになる。一見、死に物狂いの努力の賜物に見えるが裏を返せば怒りと憎悪による才能の限界を超えた暴走とも言える。

 

 

 

・アイザック・レイ・ペラム・ウェストコット(?)

 

元ネタ:デート・ア・ライブ

職業:会社社長

身長:174

 

式 清夜のビジネスネーム。通称、『アイザック・ウェストコット』。エレンやカレンからは『アイク』と呼ばれる。一人称は私(仲間内では俺)。顔は清夜の素顔ではなくホログラム装置で変装、声も変わり正体を知るものは社内でもほんの一つまみ程度。メディアに出ることは滅多にない。恐ろしい武器商人と世界各国に認識されているが、同時に画期的な武器、魔法機器を開発する天才として彼を求める声は多い。また日本の世論は佐渡防衛戦の活躍が何故か知れ渡ったため彼を英雄視している。

 

 

 

・千葉エリカ

 

元ネタ:魔法科高校の劣等生

 

本作のヒロイン。入学の二年前に誘拐され清夜に救出されるがその際に化け物と言いながらガラスの破片で彼を刺している。その時の彼の化け物ぶりに恐怖したのかその辺の記憶は封印されており思い出そうとすると頭痛が起きる。

 

 

 

・式 冬華(9)

 

元ネタ:オリジナル

 

式 清夜の腹違いの妹で式海運の跡取り。性格は現在の清夜以上に腹黒い。兄とは逆であらゆる分野で人並み以上の結果を出す秀才で魔法の才能に関しても十師族の直系と並ぶほどだった。いじめっ子や父親の暴力からいつも身を挺して守ってくれる兄を尊敬し、慕っていると同時に自分の存在が兄を苦しめていることに申し訳なく思っていた。そのブラコンさ、腹黒さ、賢さ故、小さい頃から兄を虐げる父を貶めることを策略していた。だが9歳の時に黒い何かに喰われ死亡。それでも清夜は生きてると信じているのか戸籍上はまだ生きてることになっており、現在はケンブリッジ大に飛び級していることになっている。

 

 

 

・エレン・M・メイザース(20)

 

元ネタ:デート・ア・ライブ

コールサイン:Nameless(名無し)

平時装備:腕輪型汎用CAD『マーリン』

     ベレッタ Px4 “ストーム”

     レイザーエッジ型特化CAD『ランスロット』

兵装:『ペンドラゴン』

   または『AMS-04(アムス04)』+レイザーブレード型特化CAD『ランスロット』+腕輪型汎用CAD『マーリン』

 

原作設定は省略。アイザック・ウェストコットの秘書兼護衛、そして対魔法師部隊『Nameless(名無し)』の隊長。DEM社の実質No2で基本、共に行動するが清夜が学校に通ったりで会社にいない場合は清夜の指示をもとに指揮をとる。元々USNAの魔法師最強部隊スターズの総隊長で双子の妹であるカレンとともに双子のシリウスと呼ばれていた戦略級魔法師だったがUSNAの議員の謀略にハマり軍に裏切られる。その後、カレンと共に清夜に救われ側近となる。

 

 

 

・カレン・N・メイザース(20)

 

元ネタ:デート・ア・ライブ

兵装:『メドラウト』

 

原作設定は省略。DEM幹部のエリオット・ボールドウィン・ウッドマンの秘書兼護衛。エレンと同じくスターズ隊長の戦略級魔法師だった。エレン、サイモンと並び清夜の切り札的存在である。

 

 

・エコー

 

元ネタ:ヨルムンガンド

コールサイン:Nameless(名無し)

平時装備:腕輪型汎用CAD『マーリン』

     銃型特化CAD『アーサー』

     拳銃

兵装:AMS-04(アムス04)』+腕輪型汎用CAD『マーリン』

 

原作設定は省略。USNAの特殊部隊デルタフォースの出身。チームの兄貴的存在

 

 

 

・アーキン

 

元ネタ:ヨルムンガンド

コールサイン:Nameless(名無し)

平時装備:腕輪型汎用CAD『マーリン』

     拳銃

兵装:AMS-04(アムス04)』+腕輪型汎用CAD『マーリン』

 

原作設定は省略。USNAの特殊部隊デルタフォースの出身の黒人。チームの話し合いなどにおける まとめやストッパー役になることが多い。

 

 

 

・ホウ

 

元ネタ:ヨルムンガンド

コールサイン:Nameless(名無し)

平時装備:腕輪型汎用CAD『マーリン』

     拳銃

兵装:AMS-04(アムス04)』+腕輪型汎用CAD『マーリン』

 

原作設定は省略。USNAの特殊部隊デルタフォースの出身。克人と同じくらいの図体。語尾は『っす』

 

 

 

・透野 翠(16)

 

元ネタ:デストロ246

コールサイン:Nameless(名無し)

 

平時装備:腕輪型汎用CAD『マーリン』

     ナイフ型特化CAD『ランスロット』×3

     シグザウエル P226(ウェポンライト装備)

     H&K G36

 

兵装:AMS-04(アムス04)』+平時装備

 

原作設定は省略。清夜の護衛であり同時に諜報、工作員、そしてメイドでもある。基本、藍とコンビで行動する。見た目は大人しそうだが意外とキレやすい。口癖は『キョフフ』

 

 

 

・透野 藍(16)

 

元ネタ:デストロ246

コールサイン:Nameless(名無し)

 

平時装備:腕輪型汎用CAD『マーリン』

     ナイフ型特化CAD『ランスロット』×3

     グロック 17(ウェポンライト装備)

     銃型特化CAD『アーサー』

 

兵装:AMS-04(アムス04)』+平時装備

 

原作設定は省略。清夜の護衛であり同時に諜報、工作員、そしてメイドでもある。翠のストッパー役。狐みたいな顔している。口癖は『ヒョヒョッ』

 

 

 

・アルテミシア・B・アシュクロフト(16)

 

元ネタ:デート・ア・ストライク

コールサイン:Nameless(名無し)

 

平時装備:携帯端末型汎用CAD『ヴィヴィアン』

     形状記憶剣型特化CAD『ランスロット』×2

     ベレッタ M92

兵装:『ランスロー』+ベレッタ M92

   または『AMS-04(アムス04)』+平時装備

 

原作設定は省略。清夜の学内護衛。孤児の元イギリス軍魔法師。ゆくゆくは国家を背負うほどの魔法師だったが冤罪で軍に殺されかけ、アシュリー、セシル、レオノーラと共に清夜に拾われる。アシュリー、セシル、レオノーラ、そして清夜に手を出す輩は誰であろうと許さない。本来、学内護衛は翠と藍の予定だったがアルテミシアが工作、諜報ができなかったため彼女が学内護衛になった。清夜を慕っており、学校ではお姉さんぶっている。ちなみに3年の真由美、1年の深雪のように2年の女子人気No1である。部活連副会頭。

 

 

 

・アシュリー・シンクレア(15)

・レオノーラ・シアーズ(15)

・セシル・オブライエン(15)

 

元ネタ:デート・ア・ストライク

 

原作設定は省略。CADのテスター兼『Nameless(名無し)』の予備隊員。3人とも孤児の元イギリス軍魔法師。拾われた当時は清夜を嫌っていたものの今ではとても慕っている。セシルに関して今作では普通に立て、視力も普通の人よりはないがちゃんと見えている。ただ美月と同じで霊子放射光過敏症に悩まされている。

 

 

 

・サイモン・サイトウ

 

元ネタ:デストロ246

 

原作設定は省略。七賢人の一人。清夜の情報方面の切り札である。

 

 

 

・エリオット・ボールドウィン・ウッドマン

 

元ネタ:デート・ア・ライブ

 

原作設定は省略。 DEMの幹部で清夜の書類上の保護者。清夜や冬華にとっては父親のような存在(本物の父親はいたが)。今は亡きフロイド・ヘクマティアル(ココとキャスパーの父親)と式 一正とは古い仲。清夜の『復讐』という名の暴走を止めようとしている。

 

 

 

・間村

 

元ネタ:デストロ246

 

DEMの専務。会社では数少ないアイザック・ウェストコットの敵。七草と組んで貶めようとしている。

 

 

 

・エドガー・F・キャロル

 

元ネタ:デート・ア・ストライク

 

DEMの専務。会社では数少ないアイザック・ウェストコットの敵。何かを企んでいる。

 

 

 

・ジェシカ・ベイリー

 

元ネタ:デート・ア・ライブ

 

護衛業のDSSのAランク魔法師。アイザック・ウェストコットのシンパというか信者。側近を狙っている。

 

 

・佐々木 大佐

 

元ネタ:オリジナル

 

国防陸軍大佐で国防軍の十師族派の筆頭格。十師族と関連のない企業や民間企業派の軍人に対して様々な悪行をしていたが清夜の策略にハマり失脚した。

 

 

 

・古畑 大佐

 

元ネタ:オリジナル

 

国防陸軍大佐で佐伯少将の部下。民間企業派の軍人

 

 

 

・小松田

 

元ネタ:オリジナル

 

ブランシュのテロ部隊の指揮官にして戦術顧問。リーダーの司一とは盟友である。

 

 

・式 一正

 

元ネタ:オリジナル

 

式海運の社長で清夜と冬華の父親。といっても清夜のことは政略結婚の道具、冬華も跡取りぐらいにしか見てなかった。武器商としても名が通っていた。会社倒産の危機の際にある青年のホラ話に乗せられ息子達を”生贄”に不老不死を得ようとした挙句、黒い『何か』を召喚されてしまい、そのまま飲み込まれるという哀れな末路を辿った。

 

 

 

・黒川 春奈(33)

 

元ネタ:オリジナル

 

清夜の産みの親にして冬華の母親。金持ちに近づいては誘惑してそいつの金で遊びまくる売女で金のためなら脅迫でもなんでもする。清夜が6歳の頃に兄妹を捨ててった。魔法力は冬華の方が高かったが何故か清夜の方が嫌われていた。本人曰く「”あの女”、そしてあの一族の子」だかららしい。捨てた後は南米マフィアのボスの妻になっていたが最後は清夜の魔法により拳銃自殺した。

 

 

 

・ある青年

 

元ネタ:不明

 

今作のラスボスにして清夜の復讐対象。不明な点が多く、未だ尻尾すらも掴めていない。

 

 

 

・三人の国防軍人

 

元ネタ:不明

 

ある青年の情報を知っていそうな唯一の手がかり。今ならそれなりの地位、または部隊にいるらしい。

 

 

 

・万両 苺(16)

 

元ネタ:デストロ246

装備:携帯端末型汎用CAD

 

原作設定は省略。横浜893の『万両組』の組長にして清夜の幼馴染み。893や暴力どころかクラスメイトすら使わず生徒を自殺させるほどの知略の持ち主。魔法適性も高く、魔法名家である『百家本流』と比べてもトップクラスの魔法師。だが魔法大学系列の学校には通っていない。ついでに言うとレズである。

 

 

 

・市井 蓮華(16)

 

元ネタ:デストロ246

装備:マチェット×2

腕輪型汎用CAD

 

原作設定は省略。『万両組』の組長である『万両 苺』の護衛。魔法は加速、加重、移動系統しか使えない。マチェットを使いこなし、千葉家の剣術も取り入れている。ついでに言うとレズである。

 

 

 

・佐久良 南天(16)

 

元ネタ:デストロ246

装備:携帯端末型汎用CAD

 

原作設定は省略。『万両組』の組長である『万両 苺』の護衛。魔法は加重、収束、発散系統しか使えない。小さい頃から警察のガサ入れ対策の手伝いとして重い銃火器を運んでいたためマッチョ顔負けの怪力である。ついでに言うとレズである。

 

 

 

・的場 伊万里(17)

 

元ネタ:デストロ246

装備:音声認識型汎用CAD

ベレッタM92

 

原作設定は省略。学校の殺し屋。清夜と戦闘経験ありの凄腕。大亜連合の組織による洗脳で才能の限界を超えた戦闘力を持つ。

 

 

 

・仙崎時光

 

元ネタ:デストロ246

 

原作設定は省略。伊万里の雇い主、十師族とも渡り合える人物。

 

 

 

・洲央

 

元ネタ:デストロ246

 

原作設定は省略。伊万里と仙崎時光をつなぐ連絡役。

 

 

 

・美濃芳野

 

元ネタ:デストロ246

 

原作設定は省略。魔法闇医者で伊万里の友人。清夜も利用しているほどの凄腕。しかし精神干渉の類は専門外。

 

 

 

・司波達也(15)

 

元ネタ:魔法科高校の劣等生

 

原作設定は省略。今作では深雪の精神構造干渉魔法によって情動などが戻っており母親の深夜とも分かり合えた。深雪、深夜、真夜は大事な存在だが分家との関係は変わっていない。また人並みの優しさを持っているものの基本、原作と行動パターンは変わらない。

 

 

 

・司波深雪(15)

 

元ネタ:魔法科高校の劣等生

 

原作設定は省略。今作では沖縄海戦を機に『精神構造干渉魔法』と『心の色を見る目』を手にいれており、達也に近づく相手には必ず一回は『心の色を見る目』で見ている。

 

 

 

・バラライカ

 

元ネタ:BLACK LAGOON

 

原作設定は省略。ホテル・モスクワの幹部でロアナプラ支部のトップ。元スペツナズで佐渡侵攻作戦でアイクが戦友を殺したことを恨んでいる。

 

 

 

・ボリス

 

元ネタ:BLACK LAGOON

 

原作設定は省略。バラライカの副官的立ち位置。

 

 

 

・マークス

 

元ネタ:オリジナル

 

米海兵隊特殊部隊『フォースリーコン』の指揮官。

 

 

 

・クリフ・カペラ

 

元ネタ:オリジナル

 

男性。スターズの一等星級の魔法師。階級は少佐。




次は組織編になります。

あと清夜の装備の名前を『マーリン』から『メルディン』に変えました。CADと名前がかぶってたので

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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設定集 魔法・装備編

遅れて申し訳ありません。意外とオリジナルの魔法が多かったです。ですが装備はともかくオリジナル魔法はまだ増やすつもりですよ。

というわけでどうぞ!


・電気使い

 

電気を自在に発生、操作できる清夜のBS魔法の一つ。これには電子はもちろんの事、ローレンツ力、磁力の制御なども含まれる。しかしこの世のエネルギー総量は一定なので魔法とはいえ、エネルギーである電気がひとりでに発生するのはあり得るわけなく何らかのプロセスがあるはずなのだが放出系の『スパーク』のように物質中から電子を強制的に抽出しているわけでもなく原理は不明である。無論、CADなしで発動可能。正直、御坂美琴

 

 

 

・Hgイリュージョン

 

正確には『電気使い』の応用。磁力を使って水銀を操作する魔法。自由自在に形状、硬度を変えられ動かせる。主に銃弾などから守る盾として使うが拘束や飛び道具としても利用できる。

 

 

 

Electrical Command(電気命令)

 

正確には『電気使い』の応用。電気刺激で相手に有無を言わせず命令・操作する凶悪な魔法。今では自白などもさせられる。また筋肉を動かす形になるが死体を遠隔操作することもできる。

 

 

 

Iron sand blade(砂鉄剣)

 

正確には『電気使い』の応用。磁力操作で砂鉄を高速振動させ、操り敵を斬り殺す魔法。持って戦ったり、飛ばして斬り殺すことも可能で切れ味は『高周波ブレード』以上。砂鉄なのでそこらじゅうから確保可能。

 

 

 

・デス・ストーム・ミキサー

 

正確には『電気使い』、さらに言うと『Iron sand blade(砂鉄剣)』の応用。周辺から大量の砂鉄を集め、超高速で振動させながら竜巻にする。直立戦車すらも飲み込むほどの規模でミキサーの名の通りどんなものでも大抵、ミンチになる。重戦術級魔法。

 

 

 

・CADジャマーフィールド

 

正確には『電気使い』の応用。領域内の自分を除く全てのCADに電気的干渉し電気信号の出力を妨害または改竄し別の起動式を出させることが出来る。ただし呪符の類には通用しない。

 

 

 

・マリオネット・ジャック

 

正確には『電気使い』の応用。機械兵器に干渉し操作できる魔法。むろん兵器以外にも使える。電子戦もこれを使って戦え、『電子の魔女』こと藤林響子以上の成果が望める。

 

 

 

・磁力返し

 

正確には『電気使い』の応用。『返し』となっているが正しく言うなら磁力で銃弾などを操作する魔法。敵の銃弾などに対するカウンター魔法として使うことが多い。

 

 

 

・EMJ

 

正式名称『Electric Missile Jammer』

 

正確には『電気使い』の応用。『マリオネット・ジャック』とは別でミサイル迎撃術式の一つとして使っている。その名の通りグレネード弾やミサイルの信管に電気的干渉をし誤爆や不発させたり出来る。『マリオネット・ジャック』と違い軌道変更などが出来ないが代わりに単一工程並みに簡単に発動できるのが利点。主に起爆まで時間がないグレネード、近距離で使われるミサイルに使われる。

 

 

 

粒機波形高速砲(メルトダウナー)

 

正確には『電気使い』の応用。極めて雑な表現をすると全身からビームを放つ魔法。正確に説明すると、まず『粒子』又は『波形』のどちらかの性質を状況に応じて示す電子を『電気使い』のBS魔法でその二つの中間である『曖昧なまま』の状態に固定する。そしてこの『粒子』にも『波形』にもなれない電子に『留まる』性質を持たせる。 この「留まる」性質により質量を持たない電子が擬似的な「壁」となり、『曖昧なまま固定された電子』を強制的に動かし、電子を白く輝く光として放たれた速度のまま対象に叩きつける魔法。基本、直線に飛ぶが同時に二、三本ぐらいまでなら曲射も可能。応用で電子の盾にもできる。

 

 

 

電子爆散(エレクトロン・バースト)

 

『電気使い』の応用にして清夜が持つ戦略級魔法。まず標的の上空で領域魔法「ムスペルムヘイム」を使い気体分子から大量に電子を取り出し、『粒機波形高速砲』で電子を光線ではなく光球として全方位に放ち溶かし消す。

 

 

 

未元物質(ダークマター)

 

清夜のもう一つのBS魔法。”理論上ですらこの世に存在しない物質(正確には素粒子)を生み出し操作する”魔法。清夜の意思で自由に生み出したり消したりできる。これについても生み出されている仕組みは不明。本来、この世のすべての物、事象にはサイオンで構成されたエイドスという情報体がついているがこの魔法で生み出した物質は元々、世界に存在しないためエイドスがついていない。よって物理法則に縛られず独自の法則が働くし魔法的干渉も受けない。また世界には時間的連続性を保とうとする修復力があるため、魔法式が”永続的に作用することはない”が未元物質は発動したらこの世の物質、つまりは世界を構成する一部として存在してしまうため清夜が消そうとしない限り”永続的に存在し続ける”。これら特性を利用し装備も開発されている。詳細は装備で説明。

 

 

 

・定率加速

 

物体の動きを一定割合で加速させる加速系魔法

 

 

 

心臓潰し(ハートプレス)

 

その名の通り心臓を圧迫して潰す加重系魔法だが、普通、魔法師の内臓器官などに魔法干渉するのは難しくAランクでもできるのは世界でも一握りしかいない。

 

 

 

・焔玉

 

火の玉を放つ古式魔法。

 

 

 

・木枯らし

 

葉っぱを刃にして飛ばす古式魔法

 

 

 

・リーフショット

 

葉っぱを刃にして飛ばす移動・収束系魔法。『木枯らし』と違い並みの魔法師なら数枚程度しか飛ばせない。

 

 

 

這い寄る弾(Slitherin Bullet)

 

対象の弾丸を加速系魔法『定率加速』で加速させ、移動系魔法で運動状態を操作する魔法。蛇のように銃弾が追いかけてくる。

 

 

 

・マイクロ・ヒート

 

自然に放出されているマイクロ波を高周波に変え短いサイクルで直接、照射し破壊する振動系領域加速・放出魔法。くらえば人はポップコーンのように弾け、機械兵器もブクブク膨らみ爆発する。対象はあくまでもマイクロ波のため自分の状態(エイドス)をそのまま魔法式で投射して改変を防ぐ対抗魔法『情報強化』も効かない。領域を広げればそのまま戦略級になるエレンがもっとも得意とする重戦術級魔法

 

 

 

・ヘイル・ハンマー

 

標的の上空に収束魔法で海水を集め振動系減速魔法で巨大な氷塊に変えて落とす収束・振動系減速魔法。氷塊だけでも被害は大きいのだが、まず大量の海水を集める時点で船を転覆させることができ、落とした後にも津波でより多くの船を転覆させることができることから戦略級魔法に位置づけされる。カレン・N(ノーラ)・メイザースが得意とする魔法。

 

 

 

Nightmare(悪夢)

 

敵の精神に対象の人物、組織などを恐怖の代名詞として灼き付ける精神干渉魔法。『Nightmare Revive(悪夢再び)』の1ランク下。精神構造干渉魔法ともいえる。

 

 

 

Nightmare Revive(悪夢再び)

 

敵の精神に対象の人物、組織などを恐怖の代名詞として灼き付けるだけでなく、間隔には差があるが平均で1時間のうち40分は対象に対する恐怖でのたうち回らせ、寝た時は必ず悪夢として追体験させ、まばたき以外で目を閉じるだけでもやられた時の光景を蘇らせる。ゆえに心身共に弱っていき1〜2ヶ月の間には必ず死をもたらす。治療法も精神構造干渉魔法しかない。

 

 

 

N・Steps(窒素階段)

 

収束系魔法で空気中の窒素を集めて同じく収束系の硬化魔法で硬化し空中に足場を作りループキャストで連続発動させて窒素の階段を作る魔法。しかも足場の終了条件は駆け上がったときに終わるようになっているからサイオンの消費も最小限。

 

 

・ヒューマン・サークル

 

自分を中心とした人間の数に対し密度を高める収束系魔法。指定範囲から人間を引き寄せられる。

 

 

 

Active・Inertial・Canceller(慣性停止結界)

 

元ネタ:インフィニット・ストラトス

 

設定した範囲内にある対象の慣性を停止させる移動・加速系減速魔法。『物』や『人』といった概念を対象にするのも可能だが『人』の場合、人体への直接干渉になるので干渉力が必要になるし、あまりに大きい規模だと魔法師としてのキャパシティが足りなくなり発動できなくなるのが欠点。

 

 

 

・反応加速

 

アルテミシアが持つ固有魔法。知覚してから反射神経、脊髄神経などあらゆる神経、そして筋肉が動くまでの過程を加速させる魔法。一色家や千葉家の運動速度や神経だけを加速させてる魔法とは違う。故にアルテミシアは常人の数十倍以上の速さで反応し回避、防御、攻撃が出来る。自己加速術式を併用すれば世界の名だたる近接戦魔法師をも上回る。

 

 

 

・ダブル・ブースト

 

一方向のベクトルに対して速度と重さがそれぞれ二乗になる加速・加重系魔法。この魔法を使った場合の威力(運動量)の計算は(1/2×重さ(正確には質量)[kg]×速さ^2[m/s])^2となる

 

 

 

・プロミネンス・カノン

収束・振動系加速魔法。アブリットで作られる圧縮空気弾の空気開放時に振動系加速で空気を急速加熱、その時に生じる空気の膨張で爆風を巻き起こす。吹き飛ばされずとも、その空気を生身で浴びれば全身火傷でショック死する。着弾時の急速加熱が難しいため使えるのはAランククラスの魔法師ぐらい。

 

 

 

化身刀(タケミカヅチ)

収束系の硬化魔法と加重系の『圧斬り』の近接用の複合魔法。鍛え上げた鋼の人体を一振りの”刀”にする空手の奥義を魔法で再現したもの。全身を硬くし斥力場の刃を纏わせることで手刀を始め、蹴りでさえ刃の斬撃にしてしまう魔法。

 

 

・ポグワーツの魔法。

 

元ネタ:ハリーポッター

 

イギリスの古式魔法。刻印型の呪符などを使う。特徴として呪文を唱えることで魔法を発動することができる。

 

 

・心の色を見る目

 

深雪が沖縄海戦後に手に入れた力。喜怒哀楽によって色が異なり色に濁りがないほど、その人の本質、本性は善人とされている。

 

 

・D&%~=○!s □x  M&&%ina System

 

清夜の頭か精神にある何か。起動すると清夜は人形のように動きだす。詳細は不明。魔法かどうかもわからない。

 

 

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・Equ.DarkMatter

 

Nameless(名無し)の全装備に共通する名前。Nameless(名無し)の装備は基本、清夜の『未元物質(ダークマター)』で出来ており装着すると装着者以外の魔法師から見たイデアでは装着者のエイドスは「未元物質」の”エイドスがない”という状態に上書きされ(敵が見たイデアでは装着者が未元物質化)、魔法を装着者にかけようとすると魔法対象不在という形で魔法破綻、エラーになる。つまり”魔法の対象にならない”のがこの装備の最大の特徴これが『Anti・Wizard(アンチ・ウィザード)』の由来。ただ装着者はイデアで自分のエイドスを理解(敵は目で見て頭でエイドスが隠れていると分かっていても敵が認識しているイデアでは分かっていない)ので装着者自身(装備自体には無理)に魔法をかけることができる。

 

また装備に関しては「ペンドラゴン」、「メルディン」といった一騎当千を主観においた機械甲冑のような装備である『ワンオフ・シリーズ』と『AMS-04(アムス04)』の量産・汎用性にこだわった装備に分かれている。

 

全装備共通で影、熱源すら見えない熱光学迷彩(元ネタ:攻殻機動隊)と魔法式、起動式などを壊すことができるサイオン干渉装置がついており、耐熱、緩衝、対BC兵器、強力なパワーアシストもついてる。防御力で言えば「未元物質」の独自法則により銃弾はもとより戦車の砲撃も防げる仕様

 

またワンオフ・シリーズの装備は機械的な飛行が可能なほか、手首や武装などにCADが搭載されており、運動性能、CAD性能なども『AMS-04(アムス04)』より優れている。

 

 

 

・メルディン

 

一騎当千を主観においたワンオフ・シリーズの清夜専用装備。翼の後ろにタンクが二つ付いてるのが特徴。そのタンクには水銀と砂鉄が入っており砂鉄などが集められない場合はタンクの物を使用する。

 

 

 

・ペンドラゴン

 

元ネタ:デート・ア・ライブ

 

一騎当千を主観においたワンオフ・シリーズのエレン専用装備。原作設定は省略。レイザーブレードなどの武装にもCADがついている。

 

 

 

・メドラウト

 

元ネタ:デート・ア・ライブ

 

一騎当千を主観においたワンオフ・シリーズのカレン専用装備。原作設定は省略。デート・ア・ライブでは鳶一折紙が装備していた。

 

 

 

・ランスロー

 

元ネタ:デート・ア・ライブ(原作では名称不明)

 

一騎当千を主観においたワンオフ・シリーズのアルテミシア専用装備。原作設定は省略。アルテミシアで検索すれば画像が出てくる。

 

 

 

AMS-04(アムス04)

 

正式名称:Anti Magic Suit 04

 

汎用性と量産性を目的とした装備。SFのような見た目だが隠密性で言えば無駄がない形のこちらが優れている。汎用性と量産性を目的と言っても装備できるのはNameless(名無し)の隊員だけ。

 

 

 

・ニューロリンカー

 

元ネタ:アクセルワールド

 

世界初のゴーグルを使わない仮想ウェアラブルデバイス。特別機能として思考だけで通信できる『思考通信』機能搭載。

 

 

 

・『アーサー』シリーズ

 

DEMが開発した特化型CAD。DEMの銃型CADには全てこの名が付けられる。

 

 

 

・『マーリン』シリーズ

 

DEMが開発した汎用型CAD。DEMの腕輪型CADには全てこの名が付けられる。

 

 

 

・『ランスロット』シリーズ

 

DEMが開発した特化型CAD。DEMの剣型CADには全てこの名が付けられる。

 

 

 

・『ヴィヴィアン』シリーズ

 

DEMが開発した汎用型CAD。DEMの携帯端末型CADには全てこの名が付けられる。

 

 

 

・リボルバーシステム

 

銃型CADに使われる『カートリッジ』システムの改良版。カートリッジを入れる部分がリボルバーの弾倉のようになっていて弾丸型のカートリッジを複数入れることが出来る。戦闘時はリボルバーを回すことで違う系統の魔法を使うことができる。これにより入れ替えなしで複数の系統を特化型で扱えるようになった。

 

 

 

・H&K MP7カスタム

 

基本的にはH&K MP7と同じだが先端にあるグリップ部分がトリガー付きになっておりトリガーを引くと魔法が発動できる。

 

 

 

・ハイパワーアンチマテリアルライフル

 

魔法障壁を破るハイパワーライフルの対物ライフル版。ただの対物ライフルでさえ衝撃が強いのにハイパワーライフル化させることで砲台として固定することも、衝撃緩和することも出来なくなった。だがアイクが術式を開発したことで使えるようになった。壁などを消し飛ばすほどの威力。




設定集はここまで!
といっても前、言ったように随時更新していくので忘れたりしたらこれを見てください!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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プロローグ
1話 死の商人が見る悪夢<ユメ>


と、言うわけで修正版、1話です。修正版はところどころ台詞、地の文が変わっています。
改めてサーチ&デストロイ Magic&Gunバトルの始まり始まり〜

プロローグみたいなものです 入学編までもう少しかかります


2090年 8月11日 大亜連合 某所

 

「ハァッ、ハァッ」

 

薄暗い遺跡の中を走る兄妹

いや正確には逃げている。

ズシリ、ズシリと追いかけてくる黒い『何か』から

その『何か』は美しい顔立ちをした青年により召喚され彼らの父親を飲み込み彼らを追いかけてくる。

 

「ウアッ!」

 

兄は転んでしまい足を痛めたようだ。

 

「お兄ちゃん!!」

 

「足を痛めた!お兄ちゃんが魔法でアレを止めるから冬華は逃げろ!!」

 

嘘、この兄の魔法の才能は乏しく、兄の才能では魔法科高校すら入れないだろう。

だから足止めにもならないだろう。それでも兄は”なんの罪もない”妹を守るために立ち向かおうとする

 

「イヤ!私はお兄ちゃん一緒に逃げるの!」

 

この間にも黒い『何か』は 足音からは想像がつかない速さで、すぐ近くにまで迫ってきている

 

「行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!冬華ァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

兄は妹の背を押そうとしながら叫ぶ。

 

「イヤだァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

だが妹は駄々をこねて逆に兄の腕を引き庇うように前に出て黒い『何か』と対峙する

 

「私がお兄ちゃ」

 

おそらく「私が兄ちゃんを守るの」とか言いたかったのだろう

だが、その願いは虚しくも妹自身とともに黒い『何か』に飲み込まれてしまった。

 

「冬華!!」

 

兄は藁にもすがる気持ちで危険を顧みず黒い『何か』に手を伸ばす

しかし飲み込み終えた瞬間に黒い『何か』は消えたのだ。まるで最初から何もなかったかのように

 

「ぁ・・あぁ・・ぁ」

 

彼は声にならない声を呻きながら考える

 

意味がわからない・・冬華はどこ?・・・しししし死んだ?・・・

フユ華・・・イミががががががががががあっぐぁわわわkkkkkkkkkkkkkkkkkrrnrr

$&#)("0#))$0$|{$%&#hh/!!!!hhhhh#>K__"#$"&&%9^/lbgh

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ピキッ・・・・・

何かに亀裂が入った音がした・・・・・・・・

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

2092年 7月30日 南アメリカ 某国 マフィア屋敷

 

この物語の主人公である彼は”音”で目を覚ます

 

「ふぁ・・・数分しか寝てないのに嫌な夢見ちゃったよ」

 

だがこの屋敷に存在する”音”は普通の音ではない

リロードの”音”

銃口が灼ける”音”

CADが壊れる”音”

そして破壊完了の静寂(オト)

そんな中、”音”の原因である二人のメイドが血まみれの姿で彼にこう告げる

 

「「お掃除(殲滅)完了してございます、御主人様。」」

 

目の前にはマフィアの死体が広がり、硝煙と乾いたドブの匂いがするのみ

だが彼はこの結果にとても満足し、ベートーベンの”エリーゼのために”を鼻歌で歌いだす。

だが堪えることができなかったのか、突然笑い出す。”狂ったかのように”

 

「いひひひひ、あひゃげゃえひゃひゃひゃ!!そぉだ・・・お兄ちゃんが仇を取るから、絶対に、・・・・絶対に!!」

 

時間を少し巻き戻し状況を整理しよう。

 

 

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2092年 7月20日 日本 東京 某所

 

この惨劇の始まりはサラリーマンで賑わう下町。

とある実業家がアロハシャツを着た男と南アメリカにおける武器商売で、

ここ最近からんでくる某国マフィアの”対応”を相談中

 

”二匹の殺し屋”の話を聞いた。

 

「なにこの唐揚げ、油だらけで肉少な!?。俺が料理した方がマシじゃない?」

 

「仕方ないネ。式さんがあの飯喰らい達を相手に鍛えた料理の腕に比べたら、おおかたの店が冷凍商品のオンパレード」

 

そう言ってアロハシャツの男は後ろの席を親指で指差す。

その席ではオフや付き添いなどで来ている部下で姉貴分や兄貴分でもあるココ・ヘクマティアル、キャスパー・ヘクマティアル兄妹(ちなみにそれぞれ17歳と19歳である)とそのたくさんの護衛が てんやわんや と騒いでいる。

 

普段ならココかキャスパーが交渉の際に付き添ってアドバイスなどをしてくれるんだが今回は何も言わずにただ騒いでいる。

 

これは「そろそろ自分の力で解決してみろ」というつもりなのか、もしくは てんやわんや と騒ぎたいだけなのか彼としては「そろそろ自分の力で解決してみろ」というエールとかでありたいと願っている。

話を戻そう。

 

アロハシャツを着ているのはサイモン・サイトウ、彼の税務処理を”主に”仕事にする男。

彼は照れ隠ししながらサイモンに話を合わせる。

 

「まぁ、多分あいつらは腹が減ってれば何でも『うまい』って言うと思うけど、まぁ機密レベルが高い話にはオシャレなバーやレストランより逆に人がたくさん集まる」

 

「『サラリーマンで賑わう店』でしょ?私も式さんの料理、興味あるネ」

 

「そういうこと。俺のが食いたかったらまた今度」

 

左目の下に泣きぼくろがある まだまだ幼さが抜けない男の子

名前は『式 清夜』(しき しんや)12歳 身長は平均より高い160cm

と言ってもこれは表向きのプロフィール

 

ビジネスでは「子供だから」という理由で交渉などで支障が出ないように彼の会社で開発したホログラム装置や義足のようなものでつんつん頭の白い髪と冷酷そうな切れ長の青い瞳の20代前半の青年になりすまし『アイザック・レイ・ペラム・ウェストコット』というビジネスネーム、174cmというプロフィールで通っている。

 

Deus Ex Machina Industry(以降DEMと略称)という日本を拠点に海運、武器商、魔法工業を中心にここ最近売り上げてきている企業の社長(今は交渉以外のことはやらせてもらえず部下のウッドマンにほとんど任せきりである)をしている。また今年”大学”を卒業予定で、天才的であるがどこか狂気じみているよな感じうける人物である。

 

「まぁ式さんには 色々便宜はかってもらってるから問題ないよ。感謝感謝」

 

「いいから さっきの話、聞かせてよサイモンさん。他に情報とかないの?」

 

清夜は”二匹の殺し屋”の話に戻す

 

「式さん、何を話したいか全く先が見えないよ。なんでこんな話に興味を持つ」

 

そう言いながらサイモンは鞄からタブレットを取り出す。

 

「まぁまぁ命令だよ、め・い・れ・い!ほぉ可愛い顔・・・てか俺と歳同じぐらいじゃないかな?メイドの格好させられてるのか 学校とか通ってないの?」

 

「分かるのは年だけ13歳名前もないけど魔法も使える殺し屋ネ」

 

清夜はハッ・・ただのロリコンじゃないのかとぼやく

 

「実際そういう目的もあったかもネ。けど今後のビジネスの話、関係ない。聞いてどうするつもりネ」

 

「俺が買う。まぁついで”掃除”もするけどそろそろ秘書以外に直属の護衛か諜報員か工作員が欲しい。強ければそれでいいし13なら学生にしちまえばカモフラージュにもなる。とにかく若くてもいいから即戦力が欲しいんだよサイモンさん。」

 

サイモンは頭を抱えながらため息混じりにこう言った

 

「南アメリカには第三次世界大戦以降、アフリカに負けない貧困がある。彼女らは下から二番目の貧乏。物心ついたら突然聞かれる『体を売って生きていくか、人を殺して生きていくか』と二人はわけもわからず後者を選んだ。」

 

「まぁ南アメリカはブラジル以外、地方政府分裂状態だからな。貧富の差は激しいだろうな〜」

 

清夜は興味深そうに・・だが同情しているとは思えない表情で聞く

 

「そして魔法師としての適性を計られて落ちたものはそこで処分され残ったもののみ「教育」が施される。最初、子供達は殺しには耐えられず吐き出すことしかできない。でも「施設」出る頃には笑って人を殺せるようなっている」

 

サイモンは一度、間を空けて話を続けた

 

「「施設」によって違うが魔法が使えなくても美しく賢く強く育てばそれだけで高く売れる。魔法が使えたら5倍、8倍と跳ね上がる。マフィアのボスや悪い金持ちが喜んで億単位の金で買う。いつでもそばにいる従順で強力な武力。非常に危険ネ。あなたの護衛”シリウス”がついている。充分ネ。」

 

「美しくは別にいらないが、従順で強力な武力が欲しいってのはそこら辺の”ゴミ”と同じ考えかな」

 

「Deus Ex Machina Industryはこれから大きくなる。あなたが危険なことをする必要・・・」

 

ここでサイモンが彼の意図に気づく

彼にとって”会社も世界も自分の命すらもどうでもいい”と

 

「ま、まさか!?妹さんは残念だったけど・・あなたの未来投げ捨てなきゃならない理由はないネ!!」

 

「・・・自棄になっていないさ・・・冷静に物事を進めているよ・・サイモンさん」

 

口調こそ落ち着いているものの怒りや憎悪が混じった狂気じみた目は「さっさと渡りをつけろ」と言っている。

 

「そ、それに最近ボスに新しい女ができてそれは式さんの・・」

 

そういってサイモンはタブレットを操作しもう一枚の写真を清夜に見せる。

 

「これは・・・」

 

そこに写っていたのは清夜が6歳の頃に「化け物」と呼び兄妹を捨ててった産みの母親の姿だった。




あらすじにも書きましたが「これはダメじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。

それでは魔法科高校の武器商人<修正版>を今後とも宜しくお願いします。
感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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2話 マフィアとの商談

2話でーす。前の読者さんは覚えていると思いますが入学編はまだまだ先です。
それではどうぞ〜


2092年 7月30日 南アメリカ 某国 マフィア屋敷近辺

 

 

「よし準備完了。」

 

「大丈夫ですかアイク?やはり私も屋敷に行ったほうが」

 

準備を整え『アイザック・レイ・ペラム・ウェストコット』(世間ではアイザック・ウェストコットと呼ばれる)に変身した清夜にノルディックブロンドの長髪の女性が近寄る。

 

清夜を『アイク』とアイザック・ウェストコットの愛称で呼ぶこの女性はエレン・M(ミラ)・メイザース。

 

一昨年まではUSNA軍でカレン・N(ノーラ)・メイザース(現在はウッドマンの秘書官)と共に”双子のシリウス”と呼ばれスターズ隊長と戦略級魔法師として活躍していたが軍に裏切られ現在は今の名前に変えて清夜の秘書官と唯一の彼専属の護衛を務めている。裏切られてから仲間になるまで色々あったがこの話はまた別の機会に・・・

 

「学年で言えばココと同じだけど年齢は18歳バスト8・・」

 

「突然何を言い出すのですか!?アイク!!」

 

頭にチョップを食らうアイク(清夜)は頭を押さえながら涙目にこう返した

 

「チョップまでしなくともいいじゃないかーひどいなーエレンは」

 

「あなたが何をトチ狂ったか、私のバストを言おうとするからでしょうアイク。セクハラで訴えますよ?」

 

「フフーフン♪『12歳の子供に17歳の私がセクハラされましたー』って?そんなんじゃ誰も相手にしてくれないし逆に『年下から金を巻き上げるひどい女』って思われるだけだよ。」

 

『ぐぬぬ・・・』

 

エレンは顔を真っ赤にしながら上司を睨む。

やっぱり萌えキャラだなーとかアイク(清夜)は考えながら

 

「ごめん悪かったよ。なんか奢るからさ。まぁそれはさておき・・・」

 

と言って間をあけると優しい笑顔から急に仕事の顔、仕事の声に変わる。

 

「護衛は必要ない。武器もCADも持ってるから大丈夫。それに君を連れてって変にからまれて”作戦”に支障がでるのは目に見えているし、それにこの作戦は交渉の失敗、成功に”関わらず”ひと暴れするから警察が来る。捕まらないためにも時間を稼ぐ必要があるし退路の確保、後始末も必要だ。」

 

「ココやキャスパーさんと比べて、あなたの護衛は私一人ですからね」

 

ため息をつきながらエレンは答える

 

「まぁ交渉成功なら子供だけど人員が二人増えるし、今度ココの部隊からエコーが来てくれるから君の負担は少し減るだろうし、こういう荒事に関しても作戦の幅が広がるからそれまで一緒に頑張ろう?」

 

アイクの顔で今度は優しく微笑みかけた。

 

「負担が減るのは嬉しいですが私はあなたと・・・ゴニョゴニョ」

 

「?・・っと、そろそろ時間だ屋敷に向かう。退路確保頼むぞ。あとカメラを潰すのも忘れずにな」

 

エレンは白い顔を赤くしながらなにかを語っているようだが時間のためアイク(清夜)は会話を切り上げた。

 

「りょ、了解です!」

 

エレンは意識を切り替えて返事をし屋敷に向かう彼の背中を見送りながらこう考えた。

 

(まだ彼との付き合いは短いけれど、それなりに理解してきたつもりだ。それでも分からない事がある。あなたの本性は先ほどまでの優しい笑顔ですか?それとも今あなたの背中から感じる狂気なのですか?)

 

答えは返ってこない。

彼自身も分からない。

きっとその答えはこの先の物語が答えてくれるだろう。

 

 

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2092年 7月30日 南アメリカ 某国 マフィア屋敷

 

 

 

「ガーッハハハ!!商売の話を後にほっぽり出したと思ったら、先にメイドが欲しいたぁ、顔の割におもしろいことするな〜!!」

 

そう言ってビールをガブガブ飲むこの大男(デブ)こそ、ここ最近の商売で絡んでくるマフィア(ゴミ)のボス『ディアス』である。

 

「何よりガキ二匹に10億円ポンと出せる良心!お前の慈善者っぷり気に入ったぜミスター!これからも仲良くやれそうだな。ガッハハハ!!」

 

「恐縮ですボス・ディアス」

 

そう言ってココ直伝の”作り笑顔”で対応しながらアイク(清夜)は考えた。

 

(市場価格の5倍ねぇ、買ったときも市場価格以下の費用だろうに。ぼったくりすぎだろゴミデブ。まぁこうやって”弱い”人間から金を搾取するのはの万国共通のところか。あとウザい、うるさい)

 

と”まだ”強気になるわけにもいかない。

そこで意識を少し違うところに向けたところ、あることに気づいた。

部屋が酒臭いのだ。

いや時間的にはマフィアの下っ端に案内を受けた時から感じていた。

とにかくこの屋敷のほとんどの人間が酒臭いのだ。恐らくつい先ほどまでパーティーでしていたのだろうか・・

 

いや今そんなことはどうでもいい”これから死ぬ人間”のことなのだから。

 

「あぁそうだ」

 

ディアスは思い出したかのように話し始めるので意識を戻す。

 

「ロリコンかどうかは知らないが好きモンのアンタには残念な知らせだ。こいつらs⚫︎xはできねぇから、って言っても慈善者さんには関係ねえか!」

 

そう言われて後ろで控えてるメイド達を見た。

右に控えるは平均より断然高い黒髪の少女、スタイル、顔ともに良く、16や17にでもなればモデルでもやれそうな美少女。

左の控える茶髪の少女も、身長こそ黒髪の少女に若干劣るがスタイル、顔ともに負けず劣らずの美少女だ。だがこの少女の顔はなんとういうか狐の印象を受ける。

だがどちらも”殺しなれた”雰囲気を感じる。

そんな視線に気づいたのか二人は軽く会釈をした。

ディアスは話を続ける。

 

「『施設』の人間がどう育てても無理なんだとさ。売られて殺人だけに特化したこいつらにも人間として?いや殺人マシンなりのプライドがあるらしい!ゲーッハッハハハ!!」

 

そう言って公害クラスの笑い声をあげるディアス。

だがアイク(清夜)は『いい精神だ』と称賛し、まだ会話もしたことない彼女らを気に入り始めていた。

 

「買う気がなくなったか慈善者様?」

 

「いいえ構いません。では代金は確かにお支払いしました。」

 

「そっか、じゃあ交渉成立だなミスターウェストコット。」

 

そう言って広げられた札束のケースを閉じるディアス。

すると後ろに控えていた二人は契約は終わったぞと言わんばかりにすんなり移動し、今度はアイク(清夜)の後ろに控え新しい主人に頭を下げた。

 

アイク(清夜)はまるでオモチャを与えられたかのように機嫌が今日一番良くなる。

それが気に入らないのかメイドの態度が悪いか分からないがディアスは機嫌が悪くなり舌打ちをした。

だが、そんなこと知ったこっちゃないという風にメイドに日本語で(さっきまでの会話は全部英語)こんな質問をした。

 

「その年齢でもう大学クラスの頭脳なんだってな!二人とも!日本語は話せるのか!?」

 

「へへ・・・満足か?ミスターウェストコット。だがここは南アメリカだ。日本語でくっちゃべってねぇで商売の話はじめろや・・・」

 

ディアスはますます機嫌が悪くなる。

 

「「話せてございます」」

 

「ハハッすごい、すごいぞ二人とも!何ヶ国語はなせるんだ!?」

 

それでも無視して会話を続ける三人。

ディアスは考える

 

(浮かれやがって若造がてめぇは中学生か。それにテメェは知らねーパスワードを聞かなきゃ そいつらはただのガキだ。今、覚醒されても困るからな)

 

だがアイク(清夜)

 

(・・・とか考えているんだろうなぁーどいつも考えが浅はかだな)

 

お見通しである

 

 

「まぁ俺の新しいメイドはガキどもよりセクシーだけどな!あいつらは強い上にどんなプレイもできるんだぜ!!どぉだ羨ましいだろ!そぉそぉ、ミスターそれとな・・・」

 

途端に、指を鳴らすと今度はドレスを着た”日本人”の女性が現れた。

 

「こいつは俺の新しい女、『黒川 春奈』だ。それでなぁこいつお前の会社の前の社長『式 一正』」の元妻なんだけどよぉ・・・」

 

知っている・・・

この女は『黒川 春奈』、旧姓『式 春奈』33歳。

30代前半ながら未だその美貌は衰えていない俺の”産み”の親である。

サイモンの調べでは、この女は金持ちに近づいては誘惑してそいつの金で遊びまくる売女で金のためなら脅迫でもなんでもするらしい。

だが逆に大の魔法師嫌いの一面があり。例えイケメンでも魔法師なら寄り付きすらしないそうだ。

 

(まぁ”俺”を捨てたことはどうでもいい。まだアイザック・ウェストコットの正体に気づいてないらしいし。それよりも”聞きたいこと”もあるんだけどな〜。さて、どう出るかな)

 

「どうもアイザックさん。そんなに緊張しないで、それでね聞いて欲しい話しがあるのよ。」

 

「話しとは?」

 

どうやら緊張していると誤解しているらしい。

 

「あなた、『式 一正』を殺して今の地位を手に入れたでしょう?証拠だってあるのよ。それにね、あの人には息子と娘がいるのよ。知らなかったでしょ?もちろん今は私があの子達のハ・ハ・オ・ヤ❤︎なにを言いたいかわかるでしょ?本来、あなたの会社はあの子達、つまりは私たちのもの。でもお互い裁判沙汰は嫌でしょ?だ・か・ら❤︎・・・」

 

春奈のマシンガントークに合わせてディアスがトドメを刺しに来た。

 

「要は俺たちに会社の実権と金をよこせって言ってるんだよ!!もちろんアンタに損はさせねぇ。俺たちがさばいてるヤクをさばいてもらう給金は今の倍以上になるはずだ。ガーハッハ!!」

 

アイク(清夜)は思う。

勘違いもここまでくれば笑い話だと。

もしかしたら証拠はないが『式 一正』が社長の座を退くわけがないという確信があったんだろう。

 

だがそもそも『式 一正』は倒産寸前にも関わらず青年のホラ話に乗せられ息子達を”生贄”に不老不死を得ようとした挙句、黒い『何か』を召喚されてしまい、そのまま飲み込まれるという哀れな末路を辿ってしまっただけのこと。

 

黒い『何か』の話しは思い出すだけでも父親(ゴミ)と弱かった自分に腹が立つ清夜である。

 

だが今、腹が立ったのはそこじゃない。

冬華を捨てた売女が母親ヅラしていることと、交渉にヤクを出したことだ。

 

アイク(清夜)は静かに怒りながらロシア語で話す。

 

「殺せる?魔法師も先程から隠れているメイドも含めて、この屋敷全員一匹残さず」

 

アイク(清夜)のメイド達も言語を合わせて返した。

 

「「10分ほどお時間をいただければ可能です」」

 

「よし行け!!M410503XER958!それとそこの日本人は殺すな聞きたいことがある。」

 

理解できない外国語から急に聞きなれたパスワードが聞こえてディアスが驚いて口を開いた。

 

「なんで知ってるの?」

 

マフィア達の地獄が始まった。




「これはダメじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。
感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。

まぁ話の大筋は変わってないですね。次回はバトル回なのでお楽しみに〜


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3話 genocide

3話です。 Magic&Gunバトル・・・始まります!!それではどうぞ!


2092年 7月30日 南アメリカ 某国 マフィア屋敷

 

春奈は目の前の状況(地獄)に混乱していた。

 

覚醒のパスワードを聞いた途端、アイク(清夜)のメイド達は覚醒する。

ディアスのメイド達は殺気にいち早く気づき物陰から飛び出し、一人が汎用型CADを、もう一人が拳銃を構えた。

これに対しのメイドは黒髪のメイドが特化型 CADを、茶髪のメイドがナイフを構える。

それぞれ片方が接近、もう片方が魔法を展開する形になった。

ディアスのメイドは清夜のメイド達に加重増大魔法、黒髪のメイドはCADを構えたメイドを拳銃を持ったメイドにぶつけるように移動系のランチャーの魔法を選択。

 

「うっ・・」

 

「きゃっ!」

 

結果、CADを構えるのはディアスのメイドが早かったが魔法の発動は黒髪のメイドの方が早かった。

そしてディアスのメイド達はぶつかって体勢を崩してしまい、魔法の発動も失敗してしまった。

その隙を見逃す清夜のメイド(殺し屋)達ではなかった。

 

ズパッ!!

 

すかさず茶髪のメイドは二人に近づき腕輪型CADで振動系魔法『高周波ブレード』を発動しナイフで二人の首を切り落とした。

 

パンパンッ!

 

その時、黒髪のメイドは拳銃も取り出しディアスに発砲した。

ディアスは間一髪のところで避けるが肩に被弾して赤ん坊の産声のような声をあげてしまう。

 

「オッギャーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 

「な、なんなのよ・・あ、ああああなた!?」

 

春奈は震えながらも強気に話すが逃げようというのが目に見えていた。

 

「逃がさないよぉ・・あなたには聞きたいことがあるんだからぁ」

 

そう言ってアイク(清夜)はビジネスバッグから水筒を取り出し中身を春奈にぶち撒ける。

出てきたのは銀色の液体だった。その液体が掛かるとまるで生きているかのように彼女の体を伝い、液体がそれぞれ手首と足首に到達するとそれぞれが繫がり鋼のごとく硬くなり拘束してしまった。

 

「な、なんなのこれ!?液体を操作する魔法は聞いたことがあるけど、”硬度”を変える魔法なんて聞いたことないわよ!!?それにCADも使わずにどうやって!!?」

 

ここで初めてアイク(清夜)産みの親(ゴミ)に関心をよせた。

 

「魔法師嫌いの割によくご存知で、それに混乱しているが疑問の要点はよく理解している。まぁこれは私の”二つ”あるBS魔法の一つなんだけど、まぁ答え合わせはまた後で」

 

そうして適当にあしらっていると、あまりの痛さに耐えられなくなったのかディアスはテーブルに倒れながらこう言う。

 

「ガァーーッ!!、なにしやがるコノ薄気味野郎ぉぉ!!!!」

 

「武力を買って使っています。見て分からないかなロリコン豚ゴミ野郎くん?どうです自分がやられると痛いでしょ?私の目的は教えません。意味がないからね、お前が死ぬワケはただひとつ、お前がマフィア(ゴミ)だからだ。」

 

すこし疲れたのか一度、間をおいて こう続けた。

 

「私はいったて冷静ですよ。法の裁きだとか説得とかいつまでも(ゴミ)に通じない手段も、いつまでも”敗者”でいることも、もう終わりなんだ。なにも”残っていない” ”非力”な私が金にモノ言わせて、お前らみたいな(ゴミ)をついでに掃除してやるんだ。」

 

アイク(清夜)の目に光はない。

その瞳は闇に包まれていた。

 

「それじゃあ二人とも、私は少し寝るから終わったら声をかけてね。お掃除(殲滅)よろしく。」

 

「「かしこまりました。」」

 

そしてアイク(清夜)は眠りについてしまうが

こう答えてる間にも茶髪のメイドはソファの後ろの背からアサルトライフルと鉈のようなものを取り出し腕輪型CADと一緒に装備し、武装完了している。

黒髪のメイドもまたナイフを確認し両手には拳銃と”銃剣”をつけた特化型CADを装備している。

 

すると突然、ドタバタと音が聞こえてきた。いつの間にやら呼んだのか、それとも銃声で駆けつけてきたのか、下っ端(ゴミカス)がたくさん向かっているようだ。

 

「なんだテメェこのy・・」

 

突入する数名の男達。

しかしドアを開けた瞬間、茶髪のメイドがアサルトライフルで男達を一掃。

男達はそのまま帰らぬ人になった。

 

「じゃ、部屋ひとつひとつ掃除するから、ご主人様は任せるよ。」

 

「了解♪このゴミは大きいですからね〜時間がかかりそうです。キョフフフ」

 

そう言って茶髪のメイドは屋敷中にいるゴミカスの掃除(敵の殲滅)、黒髪のメイドが主人の警護と部屋のゴミの掃除(ボスを殺す)と分担を分け、行動を開始した。

 

 

 

 

茶髪のメイドが広いダイニングキッチンに入ると、今度は12名の男達が拳銃を持って待ち構えていた。

茶髪のメイドに集中砲火を浴びせる。しかし弾丸はは全て、自己加速魔法や浮遊魔法でヒラリヒラリと蝶のように避けられ、逆にアサルトライフルで9人ほど銃殺される。

残った3人は避けられてる間に弾切れを起こしたのか、間合いを詰めて素手で茶髪のメイドに襲いかかる。

 

「メイドぉぉぉ!!裏切ったなー!!」

 

だが茶髪のメイドは片手に持っていた鉈で男達の指や手首、足を切断していった。

切り落とされた3人は悲鳴をあげ、その場でもがき回る。

 

「「「アギャァァァ!!」」」

 

「もう、ここのメイドはやめたの。にしてもガキ相手に3人がかりで殴りかかって来といて、このザマじゃな!ヒョヒョ」

 

笑いながらアサルトライフルで容赦なくトドメを刺す茶髪のメイド。

 

ババババッ!!

 

「!?」

 

すると突然、隣部屋の入り口から定率加速の魔法で速度をあげた銃弾が飛んできた。

ギリギリで避けた茶髪のメイドには心当たりがあった。

 

(この魔法は多分、あのデブ(ディアス)が”切り札”として仲間にした軍人崩れのゴロツキ魔法師の4人のうちの誰かか!?弾数からしておそらく2人、残りは別ルートで御主人様のほうか!これは早く倒して応援に行かないと!)

 

だが茶髪のメイドは慌てなかった。

何か作戦を思いついたのかアサルトライフルで”敵が部屋から出ないよう”に適当に応戦しながら、キッチンにあった燻製機にチップや炭を入れ火をつける。

その後、魔法で燃焼を加速させてある程度の煙が溜まったら収束系魔法「スモークボール」で煙玉をつくり移動魔法で隣部屋まで移動させ解除。

すると部屋中に煙が満ちて周りが見えなくなった。

この機の逃さず茶髪のメイドはスカートからガスマスクを取り出し装備し自己加速魔法で隣部屋に突入。

中に入ると早速、咳き込んでいる男が一人見つかった。

男もそれに気づいたのか腕輪型のCADと拳銃を茶髪のメイドに向けて構えた。

しかし茶髪のメイドの魔法は続いており、一気に距離を詰められCADをつけている腕ごと切り落とされてしまった。

この男は恐竜のような悲鳴をあげまくった。

 

「イギャーーーー!!おぉぉぉおっうううぉ」

 

「うるさい」

 

バババッ!!

 

そう言って茶髪のメイドはアサルトライフルで強制的に黙らせる。

だが、さすがに時間を与えすぎたのか、もう一人の男が同じ収束系魔法「スモークボール」で煙玉をつくり移動魔法で外に移動させた。

そうして視界が晴れると、娯楽室なのかビリヤード台やらスロットなどが散らばった状態で男と茶髪のメイドが正面切って対峙するような形になる。

数秒の沈黙後、男が最初に動き出した。

 

パンパンッ!!

 

魔法ではなく拳銃で攻撃を始めた。

茶髪のメイドはこれをCADを操作しながら避けてスロットに隠れる。

男は笑みを浮かべてこう思った

 

(馬鹿が!!なら今度は定率加速の魔法で銃弾を加速させスロットごと打ち抜いてやる)

 

 

すると突如、スロットから茶髪のメイドが鉈を振りかぶる姿が見えた。

 

「血迷ったな!!メイドぉ!!その距離では切りつけられまい!俺の勝t・・」

 

男は魔法の発動が出来ており後は引き金を引くだけだった。

しかし男は引かなかった。

いや引けなかった、真っ二つになった体では。

彼女が避けながらCADを操作した時に選んだのは加重系魔法「グラビティ・ブレード」、剣術の大家である千葉家で言う所の「圧斬り」だ。

この魔法は細い棒や針金を沿って極細の斥力場を形成し接触したものを割断する近接術式。

つまりは鉈の刃に見えない刃が生え伸びてスロットごと男の体を一刀両断したのである。

 

「ヒョヒョ。お前のような三流に誰が負けるか」

 

茶髪のメイドは笑いながらついでに弾をぶち込む。

だが銃声は元いた部屋の方から聞こえる雄叫びによってかき消された、

 

「おおおおがぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「今度は何?」

 

そう言って敵の殲滅を確認しながら主人がいる部屋に向かって歩き出す。

 

少し時間を戻し視点を変えよう。

 

 

最初にいた部屋では黒髪のメイドが茶髪のメイドと別れた後、主人の警護とディアスの殺害を始めようとしていた。

しかし殺害といっても痛みで倒れてしまっているので殺そうと思えば殺せるのだが、突然起き上がって攻撃されても困るのでまずは残り少ない弾を使い切り攻撃で弱らせておく。

 

パンパンパンッ!!

 

「ヒィィィィ!!」

 

春奈は怯えるが身動きができない。

ただ悲鳴をあげるだけ。

黒髪のメイドは銃をリロードし、改めてトドメを刺そうとした。

だがその時、男が二人別のドアから入ってきた。

 

「ボスっ!!無事ですか!?」

 

「テメェ・・メイド!!」

 

一人の男は顔にタトゥーがついており、携帯端末型のCADを装備している。

もう一人の男はスキンヘッドを輝かせながら刻印型のナイフと拳銃で武装している。

黒髮のメイドは二人の顔が見えた時点でディアスのゴロツキ魔法師と理解し、動けなくなっているディアスを確認してから男達と対峙した。

まず最初にスキンヘッドの男が刻印の魔法で自己加速しながら拳銃で攻撃し間合いを詰めた。

黒髪のメイドは敵の自己加速の魔法とほぼ同時に移動魔法の”ずらす”障壁を主人に貼り、自身は華麗に避ける。

だがそこにタトゥーの男が放出系魔法「スパーク」が飛んでくる。

それを今度は自分自身に移動系魔法「ランチャー」を発動しこれを無理やり避けた。

黒髪のメイドは思う。

 

(ゴロツキの割には連携が取れている。けど結局のところ三流ね。)

 

そしてメイドは体勢を立て直し今度は”あさって”の方向に弾を放った。

男達はミスをしたと判断し攻撃を仕掛けようとする

 

ブスッ・・・

 

しかし突然後ろにいたタトゥーの男がヘッドショットされた。

実は、先ほどの銃撃と同時に移動魔法をおおよその着弾地点に発動させ”跳弾”のベクトルをタトゥーの男の頭に方向に変えたのだ。

 

「く、くそ!」

 

スキンヘッドの男は驚きながらもなんとか魔法を発動しナイフで斬りかかるが、もはや連携がなくなった今、この男は黒髪のメイドにとって敵ではなくなった。

黒髪のメイドはヒョイと避け男に銃剣による突きをくらわせた。

 

ザクッ!!

 

「うぐぉ・・・」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!!」

 

スキンヘッドも殺され、部屋は再び黒川春菜の悲鳴だけとなった

と・・・思ったがそこで、ブタ(ディアス)の雄叫びをあげた。

 

「おおおおがぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

ディアスが斧を持って立ち上がる。

その目は最早正気を保っているものではなかった。

訳が分からなくなり恐怖でお漏らしをしてしまった春奈はまた悲鳴をあげる

 

「ぃぃいぃぃいぃやぁぁあぁぁぁあ今度は何ぃぃぃぃぃ!?」

 

「ウェストコット・・テメェは絶対に⬜︎%&$?⬜︎!$&・・」

 

それでも関係なそうに眠るアイク(清夜)

そして冷静に状況を判断する黒髪のメイド

 

「ヤクですか・・・出来損ないではそれが限度でしょう。」

 

そう言って、終わってしまった”ずらす”障壁魔法をもう一度、主人に貼って攻撃をずらした。

その後、リロードしたばかりの銃で全弾使い攻撃するが倒れない。

今度はディアスが渾身の一振りでアイク(清夜)を殺そうと斧を振り上げた。

 

「おおおおぉおぉおおおぉ!!」

 

そこで黒髪のメイドは銃を捨て、ナイフを持ち接近する。

そして特化型CADを操作し振り下ろそうとしている腕に下から肘をぶつけ移動系魔法「エクスプローダー」でディアスの腕を上方向に吹き飛ばした。

 

ドバンッ!!

 

メシィィ・・・

 

いやな音をたて折れるディアスの腕。

 

「これで・・・どう!」

 

ドガッンッ!!

 

ラストに黒髪のメイドは移動系魔法「ランチャー」を自分自身にかけ勢いが上がったドロップキックで攻撃した。

それでも倒れないディアス。

するとドアから茶髪のメイドが現れ

 

「お、すご〜いなんかゾンビ映画見たい」

 

ババッッバババババッッバッ!!

 

アサルトライフルで頭を打ち抜いた。

そうして、やっとディアスが倒れ、春奈以外のすべての排除を完了した。

彼女達の主人もその音に気付き目を覚ます・・・

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

2092年 7月30日 南アメリカ 某国 マフィア屋敷近辺

 

 

エレン・M・メイザースはため息をついていた。

彼女はすでに準備してある退路の確認、カメラ潰しを終えたあと、警察の足止めのために町から町はずれの山にある屋敷までをつなぐ一本だけの車道を土砂崩れに”みせかけて”通れなくする予定だったのだがディアスの部下達30名に囲まれてしまっていた。

 

「なぁなぁ姉ちゃん♪なにしてんの?もしかして屋敷に向かいたいの?」

 

「なら俺たちと一緒に行かない?♪」

 

「楽しいよ〜そうだ、これから気持ち良いことしようよ❤︎」

 

あまりに定番すぎる雑魚の戯言に呆れて殺したくなるが企業秘密の武装”ペン・ドラゴン”を使うわけにもいかないので、そこはグッと抑えて丁重にお断りする。

 

「申し訳ありませんがお断りさせてもらいます。」

 

すると男達は態度を変えた。

 

「つけ上がんじゃんねぇぞ女」

 

「なんのつもりかは知らねぇがアポなくこの道通れば誰であろうと俺たちの相手をしなきゃいけないんだよ。」

 

ギャハハハと笑い男達は武器を取り出した。

さすがに疲れたのかエレンはCADを操作して言う

 

「そうですか、では死んでください。」

 

そして彼女は浮遊の魔法を使い包囲から脱出した。

 

「へ?・・・」

 

あまりの出来事にポカンとする男達、だがすぐ正気に戻りる。

 

「ちっ!!こいつ魔法師か!?」

 

「逃げんじゃねぇぞ、このクソアマ!!殺すぞ!!」

 

「いいえ。今から死ぬのはあなた達です」

 

そう言ってCADを操作した後、山の斜面に顔を向けて無言で警告した。

すると山からドドドという音が聞こえ、一斉に斜面を向く男達。

 

「お、おいなんだこれは」

 

「俺だってわかんねーよ!?」

 

「お、おい!!あれ!ど、どっど・・土砂崩れだー!!」

 

「に、にげろーーーー!!」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

どどっどどどどどどどどどどどっどど!!

 

男達は各々いろんな方向に逃げるが全員逃げ切れず土砂に飲み込まれた。

 

 

エレンが使った魔法は『陸津波』という移動系魔法。

土を掘り起こし土砂の塊をぶつける魔法だが、『陸津波』ではAランク魔法師がどんなにがんばっても土砂崩れは起こせない。

だがエレンはAランク魔法師が最大出力でだせる『陸津波』の10倍の規模、威力で出して土砂崩れを起こしたのだ。

こんなことができてしまうのは彼女の圧倒的な魔法力ゆえ。

現代の魔法は実弾兵器に勝るという説があるが、ここまでくると最早、”災害”だ。

 

「さて、これでいいですかね。あとでアイクに褒めてもらいイチゴのケーキでも奢ってもらいましょう♪」

 

そんな災害を起こしたエレンは埋もれた男達には目もくれずスキップしながら退路に向かうのであった。

 

数日後、土砂の中から男達全員の遺体が見つかることになる。




アイザック・ウェストコットとかエレン・M(ミラ)・メイザースとか皆さんわかるかな?私は今まで読んだラノベのボスで一番かっこいいと思っているんだけど・・・
次回予告! 正直、鬱な話になるかも それではお楽しみにー 

「これはダメじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。
感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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4話 捨てた者 捨てる者

4話です。
とにかくシリアス(?)な話です。
バトルは少ないです。
それではどうぞ!!


2092年 7月30日 南アメリカ 某国 マフィア屋敷

 

屋敷の人間がほとんど死んで、アイク(清夜)とそのメイド達、黒川春奈だけが残った。

先程までの騒ぎ(殲滅)が嘘のように静かになった部屋でアイク(清夜)は本題に乗り出す。

 

「さて本題に入りましょう。といっても元々は彼女達をスカウトすることが目的だったんですけどね。あなたがいると知って優先順位が変わったんですよ。」

 

そう言ってパチンと指を鳴らすと硬くなっていった銀色の液体がみるみると水筒に戻っていき拘束が解かれた。

 

「ほ、ほほほ本題って何よ?私とあなたは今日初めて会ったはずよ。つながりと言えば『式 一正』ぐらいしかないわよ。」

 

この状況で震えも止まり徐々に落ち着きを取り戻すところ、悪女の素質は十分だなとアイク(清夜)は思う。

 

「いいえ、会ったことありますよ。まぁそれはさておき、私が聞きたいのは正に『式 一正』の事についてです。」

 

「あの男こと?何を知りたいのよ?私よりあなたの方が知っているんじゃない?」

 

「えぇ、でもプライベートとかなら私より詳しいのでは?それで・・この似顔絵の男性なのですが『式 一正』の知り合いにこのような人はいませんでしたか?」

 

アイク(清夜)はデバイスを取り出して、貴公子然とした涼やかな容貌の男性の似顔絵を見せる。

そう、この男こそ、冬華を飲み込んだ黒い『何か』を召喚した人物。つまりは”冬華を殺した”人物である。

 

現在、清夜は黒い『何か』の話は冬華が飲み込まれたことのショックで記憶障害になってしまい、所々思い出せなくなっている。

こうして思い出すだけでも頭が割れそうなほど痛くなる。

この似顔絵も頭を痛めながらの結果で、それでも名前や知り合った経緯も思い出せない。

しかも社員達に聞いてもこの男について何もでてこないし、なぜ大亜連合の遺跡に行ったのかも知らないのである。

だからこそ、わずかな可能性を信じ聞いてみたのだ。

しかし、春奈は首を横に振った。

 

「・・・いいえ、知らないわ、少なくとも家や会社とかには来たことないんじゃないかしら。」

 

「そうですか・・・この人は大亜連合の人と思われるのですが、知り合いに大亜連合の人などは?」

 

「いないわ、あの人自体、大亜連合には行ったことはないんじゃないかしら。そっちはかつての「式海運」でも手を出してなかったと思うわ。」

 

どうやら嘘はついてないようだ。

だが念のため少し強く揺さぶってみる。

 

「本当ですか?嘘だと悲しい結末になってしまいますが・・・」

 

拳銃を取り出しながら聞いてみるアイク(清夜)

 

「本当よ!!!本当の本当の本当!!だからやめて!!」

 

混乱しながらもしっかり返答する春奈。

これは本当だなと判断したアイク(清夜)は別の切り口で聞いてみた。

 

「では質問を変えましょう。『式 一正』と大亜連合または遺跡。これらで思いつくワード、人、なんでもいいので思いつきませんか。」

 

「あなたバカなの!!?だから大亜連合に知り合いなんて、ヒイィィィ!!!」

 

失礼な態度が気に入らなかったのかメイド達は春奈に銃を春奈に向ける

だがアイク(清夜)はメイド達を手で制して質問する。

 

「君達、何があっても手を出さないように、例え銃を出そうともね。まぁさて・・なんでもいいのです。誰かが大亜連合に行ったーとか、そうだ!会社以外の人間でプライベートで親しい人間はいませんでしたか?」

 

「そ、そぉんなぁこと言ったてぇ〜〜あの人は女癖悪いし・・・・」

 

と春奈は涙目になりながら答えていたが突然考えるかのように黙る。

 

「なにか思い出しましたか?」

 

さっきまでの涙目はどこへやら、落ついて思い出しながら答える。

 

「え、えぇ・・・そういえば大亜連合の人間ではないけど仲のいい軍人が3人ほどいたはず・・」

 

急に頭が割れそうな頭痛に襲われるアイク(清夜)。きっとなんらかの形で繋がっているのだろう。痛みをこらえ質問する。

 

「ぐ・・軍人?どこの国のですか?」

 

「日本の国防軍よ。その時は新兵のような立ち位置とか話しているのを聞いたわ。でも3人とも優秀で今ならそれなりの地位にいるかも」

 

「日本・・・ですか?」

 

「えぇ、それで確か・・・応接室で大亜連合とか遺跡がどうとか喋ってたわ。」

 

「な・・内容は思い出せ・・・ますか?」

 

さらに頭が痛くなり汗がたくさんでるアイク(清夜)

心配になったのかメイドの一人が自分のタオルを取りに部屋を出る。

 

「いいえ、いつもいつの間にかその三人を応接室に招いていて、媚を・・じゃなくてお茶を持って行った時も部屋には入れてくれなかったのよ。だから大亜連合の話とかも部屋からこぼれた声ってわけ」

 

この時、アイク(清夜)は思い出せなくなった記憶の一部を思い出すことに成功する。

(お、思い出した。遺跡に行く前、確かに三人の軍人と一緒に大亜連合に行った。けど名前も顔もおもいだせない・・クソっ!!)

 

「な・・ぜ軍人・・・と人数が・・分かったのですか?・・」

 

「軍人はあの人から聞いただけ、人数は靴と話し声からわかったのよ・・それよりも大丈夫?だ、だいぶ弱ってるだけど」

 

さすがに誤魔化しきれなくなったのか、図星なことを言われる。

だがそれでも止まるわけにはいかない。

 

「え、えぇ・・大丈夫です。よくなって来ましたから、それより・・」

 

そう言って戻ってきたメイドからタオルをもらい汗を拭くと質問を続けた。

 

「・・・顔や・・・名前は、覚えていますか?」

 

「いいえ、帰る時もいつの間にいなくなってるし、名前も教えてくれなかったわ。」

 

「そうですか・・」

 

残念がるアイク(清夜)、そこをチャンスと思ったのか春奈は詰め寄った。

 

「ねっ?もういいでしょ?さっきは悪かったわ♪あなた達がこんなに強いなんて知らなかったのよ。私、強い人が好きなの金でも力でも❤︎」

 

「はぁ・・あなた、確か魔法師嫌いでは?」

 

突然の手のひら返しに呆れてため息がでるアイク(清夜)

それと同時に頭痛も引きはじめたが逆に彼女に対する悪意が湧いてきた。

だがそんな表情もチャンスと思った春奈はさらに口説く。

 

「魔法も結局は力よ、私も子供もあなたみたいな人に守ってもらいたいわー❤︎」

 

「今のあなたに子供はいないのでは?」

 

「っ!?・・・・い、いるわよ!!当たり前でしょ!!」

 

さすがに調べられたらまずいと思った春奈はある案を思いつく。

(そ、そうよ。ここに住む日本人の浮気相手とできて、この間捨てた子がいたじゃない!その子をあの「化け物」・・もといあの(・・)息子にすればいいじゃない!)

 

「あ、会ってみる?かわいいわよー」

 

「いいえ、結構です。それより息子さんというのは・・・」

 

そう言って間を空けてホログラムを解除するアイク(清夜)

 

「こぉぉぉぉぉんな顔ではありませんかぁぁぁ」

 

清夜は歪んだ笑顔で春奈に問いかける。

するとまるで飛ぶかのように清夜から離れる春奈。

さすがのメイド達も主人の変身に一瞬驚くが、自分たちを買った主人であることに変わりないため、すぐに落ち着きを取り戻す。

 

「ば、ばばばば『化け物』!!!あんただったのね!?だ、だから驚かずにいられたのね!!」

 

「お久しぶりです母上ぇぇぇ、相変わらず売女を続けてるようで何よりでぇぇぇぇすぅぅぅぅ。」

 

これが産みの母親と息子との再会の挨拶だった。

春奈を怯えさせるために今度は逆に清夜が近づく。

 

「くるなぁぁぁぁぁ!!『化け物』!!」

 

春奈はそう言って死体の近くにあった拳銃で清夜を撃った。

バァンとなる銃声しかし弾丸は清夜に届かず、彼の眼の前で静止している。

 

「なんなのよ!!今といい、さっきの液体といい。なんなのよ!この『化け物』!!」

 

「そうですね。まだ答え合わせはしてなかったですね。」

 

清夜は一瞬だけ悲しげな顔をすると春奈にさっきと同じ銀色の液体が顔を除く体全体にまとわりつき、また鋼のような硬さになって彼女を拘束する。

 

「私のBS魔法の一つは『電気使い』の魔法。電気を自在に発生、操作できる魔法です。これには電子はもちろんの事、ローレンツ力、磁力の制御も可能です。ついていけてますか母上?」

 

「で、電気?、うぉおえぇんるりょぉくぅ?・・・・」

 

今までのたくさんの恐怖で頭がおかしくなったのか呂律が回らなくなる春奈

 

「まだ分かりませんか。弾丸を止めたのもあなたを拘束しているのも磁力の力です。その液体は”水銀”で硬度も操作も私の意のままというわけです。」

 

「はぁ・・はぁ・・・そ、それで私を殺すのね『化け物』!!でも残念ね!!これだけ騒げば警察もすぐ来るわ!!そして『化け物』は駆除されるのよ。ひゃっははははははっは」

 

「すごいですねぇーまた精神が立ち直るとは・・いや、逆に壊れたから元気になったのかな?」

 

そう言って清夜はデバイスを操作し新しい写真を見せた。

 

「それと希望をへし折るようで悪いのですが車道は土砂崩れで通れないようですよ。だからもう少し話しませんか?母上ぇ?」

 

「くそ!離せ糞が!!『化け物』と話すことなんてないわよ!!」

 

また一瞬、悲しげな顔をする清夜、しかし”作り笑顔”に戻しこう質問する

 

「なんで私は普通の魔法師より毛嫌いされるのでしょう?わたしの血縁の母親と何か関係か?」

 

そうすると春奈はプツンと黙り、今度は今まで以上に狂った笑顔をみせた。

 

「・・・ふふふふ・・・・そぉおおおお!!、『式 一正』から母親のこと教えられてないのねぇぇぇぇぇ!!アギャギャギャヒャヒャ。そぉぉねぇぇ、確かに”あの女”、そしてあの一族の子だからよぉぉ。だけどぉぉぉあんたも哀れよねぇぇ、その母親はあんたに魔法師として才能がないと分かったら『こんな使えない”道具”いらないわ』て言って生まれたばかりのあんたを抱きもせず帰っちゃったの!アヒャヒャ!!私は代理出産の料金と引き取りの料金はもらえたからぁぁぁ我慢したけど成長するごとに『化け物』に見えてくるから、ヒャッヒャッ!!あんただけ捨てようとしたけど冬華がアンタから離れないからまとめて捨てたってわけぇぇぇぇ分かりましたかぁぁぁぁ?アギャギャギャヒャヒャ!!」

 

清夜は”作り笑顔”で聞いていた自分の生まれについて捨てられた経緯について・・・

なにを思ったのか彼自身分からなかったが質問を続けた。

 

「私の母親とはいt」

 

「だぁぁぁぁめぇぇぇぇぇぇ教えてあげましぇぇぇん!!もう時間よぉ。私を殺してもあなたは捕まる!!この殺戮の首謀者として!」

 

「ご主人様、声もかすかではありますが外から聞こえます。まだ距離はありますが時間がないのは間違いありません。」

 

茶髪メイドが警告すると黒髪のメイドも同調してうなずく。

 

「そぉか。それではこの女に警察を引きつけてもらって、その間に我々は用意してある退路から脱出しよう。」

 

「へ?」

 

春奈は今日一番のアホ顏になる。

 

「お忘れですか?私は電気を操れるのですよ。なら電気刺激を与えて操作することも可能とはおもいません?そぉですね命令の内容は『ただ黙って銃を自分のこめかみにあて、警察官が自分に話しかけたら引き金を引く』なんてどうでしょう?貴方に相応しい最後だ。」

 

春奈の頭に手を添える清夜。

春奈は自分の結末がわかったのか、一転して今度は悲鳴を上げ助けを請うた。

 

「ま、まって止めて!!そんな惨めな最後は嫌よ!やめてお願い!!謝るから、お金あげるから、母親すr」

 

「あなたが死ぬ理由は”俺”を捨てたからではない。冬華を捨て、また自分の欲のために冬華の母親ヅラをしたからだ・・・」

 

清夜は憎悪の顔で死を告げ、今度は天使のような笑顔で最後のメッセージを送る。

 

「あぁそうそうカメラは最初から潰してあるし、魔法捜査も科学捜査もこの国の力では私にたどり着くことは出来ないので”黒川春奈”さん。安心してこの殺戮の”首謀者”として立派に務め(自殺)を果たしてください。」

 

 

 

 

 

 

それでは、さ・よ・う・な・ら

 

 

 

 

 

「いy」

 

バチィッ!!

 

これが親子の最後の会話だった。

次の瞬間、春奈の脳に電気が走り、水銀の拘束も解ける。

そして春奈は無言のまま拳銃を自分のこめかみに向けた。

 

「よし!!ある程度、証拠隠滅したのち退路に向かうぞ!!ついてこい!」

 

「「かしこまりました」」

 

そして清夜は証拠を隠滅したのちメイドたちと共にエレンの用意した退路に向かう。

この時、メイドたちが見た清夜の”涙”は決して気のせいではなかっただろう。

 

・・・・・・・・・・

ビキビキッ!!・・・・彼の中で何かが壊れかける音が聞こえた。

 

 

 

翌日、地元紙の一面をかざったのは「マフィアの仲間割れか!?首謀者と思われる日本人女性自殺!!」という見出しのニュースだった。




う〜ん。もしかしたら、これだけで仇の正体、オリ主の正体も分かった人がいるのでは?
次回予告!!オリ主、途中から一歩も動かないの巻!
それではお楽しみに〜

「これはダメじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。
感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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5話 名前

5話です。プロローグの最終話であります。

オリ主は分かる人には分かりますが美琴さんと同じ力ですね。はい
魔法能力では『さすおに』並みのチートにはしない予定です。
代わりに戦闘技術、戦術、戦略などでチートお兄様と拮抗させるつもりです。

それではどうぞ!!


2092年 7月30日 南アメリカ 某国 マフィア屋敷近辺

 

清夜とメイド達は山の中を駆け抜けていた。

 

「おかしい・・・」

 

「いかがされましたか?」

 

主人を心配し黒髪のメイドが問う。

 

「デバイスにノイズが・・山の中でも通じるはずなのに・・」

 

そう言って今度は退路を確保してくれているはずの秘書に通信をつなぐ。

 

「エレンとつながらない?・・・まさか!?二人とも伏せろ!!スナイパー!!」

「「ツッ!?」」

 

清夜のBS魔法の応用による魔法『磁力探知』が15名の襲撃者(イレギュラー)UAV(無人航空機)の存在を探知した。

その直後、清夜の数センチ前を銃弾がシュッと横切る。

 

「・・・スナイパー2、歩兵13、UAV1といったところか。」

 

清夜は探知で得た情報をメイド達にだけ聞こえるように話した。

 

「我々が警護を」

「御主人様は後ろに」

 

メイド達が障壁魔法を周りに貼り清夜の前にでようとする

が清夜は障壁魔法から出てこう言った

 

「いや、ここは俺が対処する」

 

「しかし!!」

 

「危険すぎます!」

 

「まだ身の振り方を決めてない君達に命を張らせるわけにはいけない。それにもs」

 

メイド達には理解できなかった。自分達は買われた身だから戦って守るしか道がないと思っている。

なのにこの主人はまるで道を選択できるような話ぶりをする。

理解しようと考えたがその思考も敵の警告によって中断させられる。

 

「警告する!!武器を捨て投降せよ!そうすれば命だけは助けてやる!」

 

敵グループのリーダーらしき人物が武装解除を求めた。

だがその言葉を無視して

 

「それに・・もし仕えるとしても前の主人のように弱い主人じゃ嫌だろ?」

 

そう言って年相応に可愛らしいウインクをしながら腕輪型CADを取り出す清夜。

敵は無視されたのを怒ったのか、数発発砲した。

 

パンパン!

 

「おい!聞こえているのか!武器を捨て投降せよ!」

 

「あぁ、すまない。あなた達は傭兵だね。なら逆に警告しよう。武装を解除し依頼主と依頼内容を言えば、我々はあなたたちを殺さない。」

 

清夜の笑顔の警告。

敵の挑発には充分だった。

 

「たかがガキ三人に何が出来る!スナイプ1、2 狙撃用意、目標、少年の両手、両足。間違っても殺すなよ。せっかくの金ヅルなんだから」

 

だがスナイパーから返事はない。

 

「おい!どうした!」

 

「スナイパーならすでに死んでるよ〜」

 

清夜の気の抜けた警告にさらに怒る敵のリーダー

 

「この野郎・・いつの間に・・まさか魔法師か!もういい誘拐は諦めて殺して金を巻き上げろ!!」

 

「それはこちらのセリフだ。俺の顔をここで見た以上お前らには死んでもらう。」

 

そして清夜は無表情でCADを操作、傭兵達は銃を構え発砲しようとする。

だが銃から弾が出ず慌て始める傭兵達。

それもそのはず清夜が発動した振動・減速系概念拡張魔法『凍火』によって領域にあるすべての発火現象、熱量増大現象が封じられているのだから、火薬式の銃は最早ゴミ同然だ。

 

「な、なんだ弾が出ないぞ!!」

 

「くそっ!!魔法だ!キャスター1〜5攻撃しろ!」

 

今度は五人の人間がCADを操作するだがこれも動かず起動式すら出せない。

すると突然その五人がほぼ同時に「グハッ」と言って倒れる。

敵のリーダーは混乱する。

 

「なんだよ!なんなんだよこれは!?話が違う!」

 

CADを止めたのはBS魔法を使った魔法『CADジャマーフィールド』。この魔法は領域内の自分を除く全てのCADに電気的干渉し電気信号の出力を妨害または改竄し別の起動式を出させる魔法である。

そして魔法師五人とスナイパー二人を殺したのは加重系魔法「心臓潰し(ハートプレス)」その名の通り心臓を圧迫して潰す魔法だが、普通、魔法師の内臓器官などに魔法干渉するのは難しくAランクでもできるのは世界でも一握りしかおらず、それも一人のみしかできず同時に五人もの魔法師を潰すことはできない。

おそらく、この魔法を使えるのは憎悪、怒り、執念により本人の魔法力を限界突破した清夜だけだろう。

 

焦るリーダーだがピンっと名案を思いつく。

 

「ゆ、UAVだ!上から攻撃させろ!!」

 

「む、むむむ無理です!操作を受け付けまs・・グハッ!!」

 

 

だがその希望もとい名案も傭兵達のUAVの攻撃によって潰される。

 

「残念だけどジャミングに使ってたUAVはジャックさせてもらったよ」

 

もちろんこれもBS魔法使った魔法『マリオネット・ジャック』。機械兵器に干渉し操作できる魔法

 

「貴様っ!!」

 

そう言って傭兵の一人がナイフで襲いかかるがUAVによって銃殺される。

その後リーダー以外の五人の傭兵達は逃げ始めるがこれもUAVによって銃殺される。

結局、清夜は魔法師を含めた14人の傭兵を”一歩”も動かず殺害する。

最後に残されたリーダーは控えさせていた仲間を呼ぼうと通信しようとするが通じない

 

「それも無理だよ。君たちのUAVで君たちのをジャミングしてるから」

 

未だ無表情の深夜は告げる。

そうするとリーダーは腰を抜かしながら武装を解除して白旗を揚げた。

 

「こ、降参だ!全部喋るから殺さないでくれ!!」

 

殺そうとしておいて何が殺さないでくれだ。

だが清夜はやさしい笑顔で聞いた。

 

「では全て答えてもらおうか」

 

「お、おお俺たちはただ、ここに金を持った御曹司が通ると聞いて誘拐しに来ただけだ!!」

 

「依頼元は?」

 

「突然の電話だったし分からない、でも女だった!!・・それに顔写真と一緒に山や護衛の情報と一緒に手付金3万米ドル届いたから信じたんだ。こ、これが番号だ!」

 

リーダーは番号が書かれた紙切れを渡す

 

「あっそ、ではお疲れ様。UAVは適当に落としとくよ」

 

そう言ってリーダーの頭に手を乗せる。

 

「な、何をする!?殺さない約束だろ!!」

 

「あぁ”我々”は殺さない・・お前を殺すのは”お前自身”だ。説明はもう飽きた。命令の内容は『黙って仲間の遺体を装備ごと近くの湖に捨てその水中で舌を噛んで自殺』ってことにしよう。」

 

バチッとリーダーに電気が走る。そして春奈と同じく黙って行動を開始する。

 

「それじゃ移動しようか」

 

「「か、かしこまりました。」」

 

自分達より年下なのに魔法師としても殺し屋としても差があることにメイド達は驚きを隠せずにいた。

 

この数分後、エレンと合流し脱出に成功する。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

2092年 7月31日 南アメリカ 某国 カフェ

 

四人席でエレン・M・メイザースは隣の上司にひたすら謝罪していた。

 

「本当に申し訳有りません。アイク。私も向かう途中で傭兵達に囲まれてしまい。救援出来ませんでした。」

 

「構わないよ、きっちり下準備した後に雇われた感じだし仕方がないことだ。俺も油断していたしね。謝るより我々はこれを反省し二度と起こさないようにすることの方が大事だ。で番号は?」

 

清夜は叱るわけでもなく地元紙を広げながら答えた。

 

「はい、残念ながらダミーでした。ただ私の考えですが番号のダミーの使い方、番号の数字の感じから恐らくCIAかと・・そういうダミーの話を軍で聞いたことがあります。」

 

「CIAってことはUSNAか〜ついこの間ブリオネイクを作ってあげたんだけどなー。あぁ、すまない話を始めようか」

 

そう言って前に座るメイド達に”改めて”交渉を持ちかける。

 

「改めて君達には私の護衛メイド、諜報員、工作員のいずれかになってもらいたい。目的は察しがついてると思うけど妹を殺したヤツへの復讐だ。成功報酬は二人でこの二つのケースに入ってる10億円だ。手付金として経費とかでは出せないが私から毎月給料を出す。チートを使った後マネーロンダリングした汚い金だけどね。」

 

下から二番目の貧乏だった自分達には想像できない話のため戸惑う二人

黒髪のメイドは問うた。

 

「優しい優しい御主人様、私たちは買われた身、いかようにしていただいても構いません。それにもし断ってしまったら、どうされるおつもりですか?」

 

「そういうのが嫌いなんだよ。私は君たちの”意思”を知りたい。奴隷の忠誠心なんて信用できない。忠誠心を求めるとしても意思を聞き、give and takeの絆を作り、それを超えた先にある忠誠心を求めたい。断ったならそれでしょうがない。この二つのケースの4分の1を与えて昨日のこと、私達のことについて黙ってもらうようお願いするだけさ。まぁそれでも話したり、私達に対して敵対する行動をとったら殺すけど。さて、どうする?君たちの”意思”で答えてくれ。」

 

メイド達は目を合わせ同じことを考える。

時折、狂気を悪人達に振りまく御主人様、それでも道のなかった私達に道を用意してくれた優しい御主人様についていこうと・・

二人は笑って答える。

 

「「喜んで仕えさせてもらいます。」」

 

「交渉成立だ。君達に名前を与えよう。茶髪の君は『藍』、黒髪の君は『翠』だ。何かつけたい名前はあるかい?」

 

「「いいえ、その名前でお願いします。」」

 

「ではよろしく頼むね藍、翠。そうだ他に何か欲しいものがあるかい?出来るかぎりで叶えよう。」

 

また二人は目を合わせて同じことを思いつく。

そして代表として藍が答える。

 

「では・・・」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

2092年 7月31日 南アメリカ 某国 空港

 

飛行機や人々の声で騒がしい空港ロビーで飛行機を待ちながら『アイザック・レイ・ペラム・ウェストコット』に変身した清夜と部下3人はこれからの方針を相談する。

 

「これからの予定は沖縄でエコーと合流、国防軍の兵器のコンペその後、佐渡で商談となりますがいかがしますか?」

 

エレンはデバイスを取り出し予定表を見せた。

 

「基本的に九島家が筆頭株主の工藤重工との競争か〜どちらにせよ3人の軍人を探さなきゃいけないし行くよ。」

 

「ではそのy」

 

とそこで思い出したこのようにアイク(清夜)は注文をつけた。

 

「あぁそうだ。沖縄に着いたら沖縄の”売人”をコンペ前までに探してくれない?誘拐する。実行部隊は藍と翠で、できるよね?」

 

「「準備さえできれば可能です。」」

 

二人は迷うことなく答えた。

エレンも毅然と答える。

 

「私も構いませんがどうするおつもりで?」

 

「まぁ、それは成功してからにしよう。時間だし皆、行こうか。」

 

「「「はい」」」

 

そうして彼らは南アメリカから去るのだった。

 

 

 

 

 

必ず、あの男を殺す。そのために、まずは日本国防軍・・・

 




いつの間にかUA2000越え お気に入りも30越え・・俺からすれば超嬉しいです。
感想や評価もしてくれる人が出てきてくれたり感謝、感謝です。

次回からは佐渡防衛編になります。オリ主のビジネス戦略(外道)も見せる予定です。
入学編は12話からの予定です。劣等生しか興味ない方申し訳ありません。
それではお楽しみに!!

「これはダメじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。
感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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佐渡防衛編
6話 phonetic code


6話で〜す。
さて始まりました!佐渡防衛編!
バトルももちろんありますが、私の注目はオリ主の交渉術などです!
6話ではありませんがヨルムンガンドのココの頭脳、駆け引きが活躍した話のようなシーンが入ってきます。
それではどうぞ!!


2092年 8月2日 日本 沖縄

 

南アメリカから成田を経由し、途中で一泊をして無事、沖縄にたどり着く清夜一行。

 

「到着〜いやーよかった藍と翠の偽装パスポートが通じて。途中ヒヤヒヤしたよ。」

 

清夜は笑いながら入国審査を思い出す。

だが藍と翠は清夜に抗議する。

 

「ヒョッヒョッヒョ、それは違いますよ御主人様。あれはエレンさんが悪いって。」

 

「キョフフフ。その通りです。すでに偽装の戸籍を用意してあるから堂々としていればいいのに、まるでお母さんのように心配してチラチラとこっちを見るから怪しまれるんです。」

 

「なっ!?私のせいですか!!?」

 

自分のせいだと自覚していないのかエレンは驚く。

余談だが翠と藍は着くまでの間にエレンからガールズトークを交えて仕事、能力などの会話で仲良くなった。

 

「フフーフン♪ そうだなーエレンはもう少し『ポーカーフェイス』ってのを磨いたほうがいい。」

 

「あ、アイクまで・・・分かりましたよ、頑張って磨きますよ。磨けばいいんでしょ。」

 

「はいはい、この前に約束したイチゴのケーキ奢るから機嫌直して。で、改めてこの後の細かい予定は?」

 

エレンはデバイスを操作して答える。

 

「この後は・・ここの空港でエコーと合流、その後、おn」

 

「・・っと、すまない電話だ。」

 

そう言って清夜は突然鳴った電話に出る。

デバイスを見るとココからの電話だった。

 

『ハ〜イ♪清夜、元気にやってるかーい?』

 

「どうしたのココ姉?」

 

『んもぉ〜聞いてよ、それがね今いる店のワインが不味くてね!しかも相手はキモい・・・』

 

経験上、この手の話から始める時のココの話は長い。

ギャルゲーの類なら美女相手に付き合うのが定石かもしれない。

だが清夜はギャルゲーをしているつもりもないし、仕事中に無駄話に付き合う義理はない。

 

「そう、それは大変だね(棒読み)。じゃあまたね」

 

『ちょっ!?待った、待った!!んもぉ〜つれないなー清夜は。私は清夜がいなくて寂しいんだよ〜!』

 

この女性は話が長くなりそうなのが嫌だと気付いていない。

清夜は諦めて本題を聞くことにした。

 

「それで用はなんなの?」

 

『バルメー、ひどいよー!清夜が構ってくれない〜〜うわ〜ン』

 

『ふぉぉぉぉぉ!ココが、ココが私に熱い抱擁を・・・・』

 

電話越しに部下のバルメの興奮した声が聞こえたが無視しよう。

清夜は半ばヤケクソで答える。

 

「わかった!!わかったから、仕事の合間とかオフとか電話かけるから!!今からエコーに会うんだから愚痴はまた今度!!」

 

ココはイヤッホー!!と叫んだあと本題に入る。

 

『そうそう、そのエコー”達”についてなんだけど、日本語は鍛えたんだけど、日本文化とか日本の礼儀とか知らないだろうからサポートよろしくねっていうのと、装備の受け取りの話』

 

「そう、分かったよ・・って”達”!?他に誰か来るの!?聞いてないよ!」

 

『あれっ?エコーは伝えたし、書類も送ったて言ってたよ。』

 

「聞いてないし、届いてない!あの野郎〜〜減給だな。それでメンバーは?書類もあるなら送って。」

 

突然のトラブルでも直ぐに落ち着きを取り戻す様は社長としての資質があがったなと思うココ

ココはデバイスを操作して清夜にデータを送った。

 

『USNAの元デルタフォースの二人、レームの部隊だった。アーキン元一等軍曹、ホウ元曹長、二人ともスパイじゃないし魔法も使える身元も腕も私が保証する。データ送ったよん♪』

 

「ありがとうココ姉、そういえば聞きたいことがあるんだけど。」

 

『なになに!?なんでも聞いて、スリーサイズ?服?』

 

「違うから!!・・この間、南アメリカのマフィア屋敷近くの山で傭兵に襲われたんだけど・・」

 

『大丈夫なの!?ケガしてない!?』

 

必要以上に焦るココをなだめて清夜は話を続ける。

 

「仲間も増えたし、大丈夫だから!!それでその依頼主は女、ダミーの番号だったけど・・エレンの推測ではCIAかもしれないって心当たりはある?」

 

『CIA・・北アメリカ合衆国中央情報局ね・・もしかしたらパラミリかもね』

 

ココは声のトーンを落とした。

その声色に清夜は少しの悲しみを感じた。

 

「準軍事工作担当官(パラミリタリーオペレーションズオフィサー)か・・特殊部隊あがりが多いって教えてくれたね。執拗以上に恨んでる人物でもいるの?」

 

『そう、今じゃスターズやスターダストの元隊員まで引き入れてる・・で犯人とは言わないけど注意する人物は『hex』・・』

 

「ヘックス?なんだか面白い名前だね。6角形の顔でもしてんのかね。データ送ってよ」

 

清夜はリラックスさせるためにジョークを交えたがココは真剣な声で答える。

 

『ちゃんと聞きなさい・・hexの意味は6角形じゃなくて、『魔女』って意味・・・』

 

 

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2092年 8月2日 日本 沖縄空港

 

「よぉ〜夜坊。久しぶりだな〜。てかなんだなんだ、いつの間にかハーレムになってるじゃないか。その二人の嬢ちゃんは何なんだい?」

 

清夜を『夜坊』と呼ぶのはエッカート元少尉、通称『エコー』。白人男性で元デルタフォース、実力は折り紙つきである。

 

「エコー!!あなたはそうやって雇い主に軽々しい態度をとるのは・・・」

 

エレンが説教に入るがエコーは全く取り合わず

 

「おぉ〜総隊長殿もお久しぶりでございますなー。」

 

逆にからかわれるような始末で、まるで兄妹や父娘のような状態である。

 

「はいはい、漫才はいいから。久しぶりエコー。早速だがお前今月減給ね」

 

喧嘩(?)を収める清夜だがエコーを許すつもりはないようだ。

 

「え!?なんで!?」

 

「当たり前だ。後ろの二人について俺は何も聞いてなかったぞ。ちゃんと説明して」

 

「へーい。じゃあ紹介するぜ。こちらの黒人がアーキン元一等軍曹、こっちのゴツイ白人はホウ元曹長、どちらも俺と同じレームの部隊出身の元デルタフォースだ。アーキン達にも紹介するぜ。このチンチクリンが式 清夜、俺達の雇い主だ。『夜坊』と呼んでやれ、でこのお堅い嬢ちゃんは秘書兼護衛のエレン・M(ミラ)・メイザース。見たことあるだろ?”双子のシリウス”の片割れ、元スターズ総隊長。こっちの小さい二人は知らない。」

 

「『夜坊』は余計だ。」

 

そうすると後ろの二人が清夜とエレンに近づき握手を求める。

 

「アーキンです。よろしく。呼び捨てで構いません。」

 

「ホウです。よろしくっす俺もホウで大丈夫っす。」

 

「エレン・M(ミラ)・メイザースです。よろしく。エレンと呼んでください。」

 

「式 清夜です。こちらこそよろしく。ビジネスネームは『アイザック・レイ・ペラム・ウェストコット』です。呼び方は・・まぁ『アイク』でも『夜坊』でも構いません。もう慣れました。」

 

ドッと笑いだす一同。

そして今度は清夜が紹介する。

 

「では紹介する。こちらの黒髪が『透野 翠』で、茶髪のが『透野 藍』だ。基本、俺の護衛だがメイド、諜報員、工作員もできる。出処は聞くな死ぬことになる、エコー達と比べると少し劣るかもしれないが腕は立つ。俺がちゃんと見た。翠と藍にも紹介する。エッカート元少尉だ。元デルタフォースの凄腕だぞ。」

 

「「よろしくお願いします。」」

 

「へ〜メイドさんかい。エッカート元少尉だ。エコーと呼んでくれ、腕が立つのは大歓迎だ。」

 

翠と藍は礼儀正しく、エコーはフランクに挨拶を交わした。

 

「phonetic code(欧文通話表)のエコーと同じだからやめろっていうのに・・相変わらず」

 

「そんで、この後どうするんだ夜坊。」

 

「この後は恩納空挺基地の方に行って、開発した新型CAD二機を渡しに行く。」

 

「全員でですか?さすがに子供は・・」

 

アーキンは翠と藍を見ながら清夜に問う。

 

「う〜ん。そうだね、じゃあ二手に分けよう。エレン、翠、藍は前に頼んだ”売人”探し。エコー、アーキン、ホウは俺の護衛について。」

 

ホーは納得して清夜に問う

 

「なるほど、テストというわけっすね?」

 

「そういうこと、ココやエコーを信用してないわけじゃないけど。今日初めて君達のことを知ったし、実際どんな動きをするのか見てみたいしね。本当は実戦で見たかったが、それはまた今度、今回は護衛での働きを見させてもらう。異議はないね?それじゃ行動開始!ホテルで落ち合おう。」

 

「「「「「「了解」」」」」」

 

皆ははっきりした返事をして行動を開始した。

 

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2092年 8月2日 日本 恩納手前の道中

 

アイク(清夜)達はエコーの運転で基地に向かっていた。

ホウは変身したアイク(清夜)に尋ねた。

 

「それがエコーの言っていた変身装置っすか。どっからどう見ても大人っすね。」

 

「フフーフン♪俺の研究チームで開発したホログラム装置だよ。まだどこも開発してないし、色々応用が利くんだよ。今度、皆に試してもらう予定の装備、防具にも使われてるんだ。」

 

アーキンは思い出したかのように聞く。

 

「そういえば、さっきCADを届けると言ってましたが・・そのCADにもそのホログラム装置が使われているんですか?」

 

「いいや、最新技術だからね。これはDEM専用ってことで他の所が開発しない限りは売るつもりはない。今回は新型特化型CADの試作と超長距離狙撃用の移動、加速の術式を組み込んだスナイパーライフルを届ける予定だ。」

 

アイク(清夜)は自慢げに答える。

 

こんな何気ない会話中でもエコーを含め護衛全員は無意識に警戒をする順番を決め、常に誰かが警戒をする状態を作っている。

この状態がそれぞれの集中のペース配分をうまく作り、隙のない護衛が出来上がる。これがココ、キャスパー、アイク(清夜)の護衛が優秀な理由である。

 

車を走らせていると工事なのか通行止になっている

エコーは車を左折させ別ルートに入ってからアイク(清夜)に質問する。

 

「なぁなぁ、なんでまた軍にコンペやら本格的に武器を売るんだ?外国で売ったほうが儲かるとか言ってなかったっけ?」

 

「まぁ兵器コンペの予定は元々あったんだが、俺が本格的に売るのは、つい先日から軍とのパイプが必要になってきたからだけど。なんで軍に売るのが難しいか言ったの覚えている?」

 

「あぁ〜確か軍が民間企業に頼る一派と十師族に頼る一派に分かれているから・・だっけ?」

 

エコーは頭を絞りながら思い出す。

及第点とでも思ったのかアイク(清夜)はジェスチャーなど交えて解説していく。

 

「まぁだいたい正解。軍の武器の仕入れ先で言えば九島、三矢といった十師族の関連企業と俺達のDEMが4割ずつ、残りをその他企業から仕入れている。まぁこれでも売り上げならこれで充分なんだが・・実はDEMより十師族の方が発言力が大きいんだ。」

 

そこでアーキンとホウも会話に加わってきた

 

「それで本格的に売るのですか?だけどそんな簡単に売れますか?」

 

「でも沖縄は軍の縄張り意識が高く、十師族が介入しづらいって聞いたことあるっす。」

 

アイク(清夜)は勉強熱心(?)な姿に感心を示したが今は関係ないため思考を隅において会話に戻る。

 

「そんなとこかな。簡単に言えば武器の仕入れの割合を増やし、軍に依存させ十師族より強い発言力を手に入れるのが今後の方針。売るのは簡単じゃないよ。確かに沖縄は軍の縄張り意識が高いけど、ここ最近、九島の息がかかった連中が増えてきたから沖縄でも民間企業が武器を売りづらいんだ。だがこの先にあるコンペで負けてしまうようでは足がかりも掴めない。だからコンペで勝つために今は地道に味方を増やすのさ。二つのCADはその一環。」

 

車は監視カメラもサイオンレーダーも人気もない田舎道に入る。

 

「へぇ〜そりゃたい・・・・・まずいな、前の2台のトラックは壁役か・・」

 

エコーと同じタイミングで全員異変に気付く

そこには道の真ん中で大型トラック2台が停止していた。そして後ろからも同じトラックが2台近づいて停止する。

アーキンとホーはCADや拳銃を装備し戦闘態勢に入り状況を報告する

 

「どうやら”狩場”に誘導されていたようですね・・・」

 

「横の林にもけっこうな数いるっす・・」

 

アイク(清夜)も武装しBS魔法で磁力探知し敵の装備数から人数を割り出す。

 

「前後のトラックは1台に5名ずつ・・両横の林にも5名ずつ・・かなりの最新装備だ。国防軍の闇の部隊か?一旦おとなし・・・」

 

「危ないっす!!」

 

ホウがアイク(清夜)を抱え全員脱出する。

次の瞬間、黒迷彩の服を着た男二人が現れ警告なしに銃でしかけてきた。

 

清夜達と闇の部隊の戦いが始まった。




ここで味方キャラ出ました!!
エコー、ホー、アーキンです。
彼らはヨルムンガンドのワイリさんが化学プラント工場を爆破した時にレームと一緒に行動したデルタフォースの三人です。知らない人は原作をチェック!!
次回はバトル回の予定です。

「これはダメじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。
感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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7話 DeltaとSirius

7話です。
お気に入り50越えました。読書、評価、感想をくださった皆様に感謝を申し上げます。
今回はバトル回です。タイトルどおりデルタとシリウスに注目です。
それではどうぞ!!


2092年 8月2日 日本 沖縄 恩納道中

 

黒い迷彩服を着た男達の先制攻撃が襲いかかる。

 

ダダダダダダダダ!!

 

だがホウに担ぎ出されながらもアイク(清夜)はBS魔法で磁力のシールドと電波妨害のフィールドを作っていた。

 

「こんのっ!!警告なしかよ!お返しだ!」

 

敵の銃弾は車の手前で止まる。そしてクルンと方向が反対に向くと磁力の反発で飛んでいく。

ドキュ、ドキュという音がし、最初に前から攻撃した二人の頭を銃弾が貫通する。

前方のトラックから出てきた敵は銃がきかないと分かったため武器を呪符に持ち変える。

アイク(清夜)は敵の呪符に驚いた。

 

(なっ!?CADじゃなくて呪符だと!?そういえば九の”数字付き(ナンバーズ)”は古式と現代魔法の融合について研究していた第九研究所の出身だったな・・・ってことは九島の息がかかった連中か!)

 

CADを使うならアイク(清夜)のBS魔法の『CADジャマーフィールド』で封殺できたのだが呪符を使われては封殺することができない。

 

前方の敵のうち5名ほどが古式魔法『焔玉』を発動し火の玉で攻撃をしてくる。

アイク(清夜)達は車のななめ後ろに集まり、攻撃をホーの障壁魔法で防ぐ

そこにバァン!バァン!と拳銃で牽制を始めたエコーから声が掛かる。

 

「どうする夜坊!?」

 

「一度距離をおいて殲滅する!!一人、二人拘束できれば儲けもんだ!!俺に続け!」

 

「「「ラジャー!!」」」

 

こうしてる間にも両横の林にいる敵は葉っぱを刃にして飛ばす古式魔法『木枯らし』で大量の葉っぱをぶつけようとしている。

 

だがアイク(清夜)はトラック4台にBS魔法「マリオネット・ジャック」を発動しておりスマートキーからハッキングしトラックの自動走行システムを制御下においていた。その後トラック2台を敵の攻撃の射線上に移動させ攻撃を防ぐ。そして残りの2台は前方の敵に突っ込ませ全員を轢き殺す。

 

ガガガガガッ!!

キキィーー!!ドカーン!

 

「な、なんだと!?」

 

部隊の性質上 声を上げるようなことは許されないが突然の事に驚き声を上げてしまう黒迷彩の男達。だがこの驚きが敵の”命取り”になる。

 

アイク(清夜)は驚いていた後ろの10人に”加速魔法なし”で近づく。人間の限界近い、いや限界を”超えた”速度で

 

黒迷彩の男達は驚きをなんとか堪えてナイフでアイク(清夜)を殺そうとする。

だがそれより速くアイク(清夜)のナイフが6人の黒迷彩の男達の首を斬り刻む。

残りの4人も走ってきたエコー達に拳銃、魔法で殺されていく。

結果、アイク(清夜)達は敵の包囲を破って距離をおくことに成功する。

 

残るは両横の林の敵10人だけとなった。

エコーは皆を奮い立たせるように言う。

「夜坊!よくやった!いくぞテメェら!」

 

「ボス、後は我々にお任せを」

 

「仕事はするっす!!」

 

アーキンとホウはこれに続く。

包囲が破れた今、元デルタフォースの3人は世界トップクラスの特殊部隊の力を見せつける。

 

右の林の敵5人はもう一度『焔玉』を放つがホウが移動魔法で空気のベクトルを変えて火の玉の軌道をあさっての方向にずらす。

 

左の林にいた5人は『焔玉』の攻撃をしている間に化生体を召喚をしようとしていたのか古式魔法特有の遅い発動速度で魔法を展開していた。

 

ヴスッヴスッ!!

 

しかし攻撃が外れた以上、エコーとアーキンの標的なる。左の敵は全員 正確に頭を撃ち抜かれ化生体を一匹も召喚できなかった。

 

「左、クリア」

 

喜ぶわけでもなく、まるで掃除でも終えたかのようにアーキンは敵の排除を報告する。

 

「通信が使えない!?て、撤退しろー!」

 

黒迷彩の男達の一人が声を上げる。

もはや なりふり構っていられなかった。

男達は走って逃げようとしたがアーキンはそれを見逃さない。

アーキンは減速系魔法を男達の足にかける。

すると黒迷彩の男達の走っていた足が魔法で急減速した。

バランスが取れなくなった男達はその場でビターンと倒れる。

そこにエコーは銃弾の雨を浴びせ状況終了を報告する。

 

バババババババ!

 

「右、クリア。これでオールクリアかな?一応、一人生かしてあるぜ夜坊!」

 

「OKエコー、こちらの損害」

 

アーキンが周辺を警戒しながら答える

 

「ゼロ・・ですね。車も品物も無事なようです。」

 

アイク(清夜)自身も状況終了を確認し”事情聴取”にはいる。

 

「ホウ、とりあえず武装を取り上げて拘束して」

 

「了解っす」

 

ホウは注意しながら武装の取り上げと拘束を終わらせる

 

「くっ・・・」

 

「さて黒迷彩君、君に襲撃の理由なんて聞いても意味ないと思うから君の飼い主を教えてもらおうか・・・」

 

”精神系魔法”を展開しながらアイク(清夜)は問う。

 

「!!」

 

男は何かを悟ったかのように青ざめる

精神系魔法は適性がないと使えないがアイク(清夜)には適性があった。この時のアイク(清夜)は使える理由を知らない。

この理由は後に嫌という程分かることになる。

だがそもそも黒迷彩の男には展開されている魔法が何なのか分からないため、アイク(清夜)は彼が魔法に怯えているとは思えなかった。

そして次の瞬間

 

「!・・・・・・・・・」

 

「おい!?やめろ!!・・ダメだ・・・こいつ舌噛んで死にやがった・・」

 

黒迷彩の男は自殺したのだ。まるでこれから起こる恐怖から逃げるように

エコーは男の死を確認し悔しそうに報告する。

 

「我々はまだ何も始めてませんよ?」

 

アーキンが疑問を浮かべ

 

「これから拷問でもされると思ったんすかね?」

 

ホウは普通に思う可能性をあげ

 

「それとも飼い主に恐怖したのか・・・どちらにせよ もう一人くらい生かせばよかった。」

 

アイク(清夜)は違う可能性を指摘した。

 

結局、飼い主の情報すら得られないままアイク(清夜)御一行は死体を処分して恩納空挺基地に向かうのであった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2092年 8月2日 日本 沖縄 某所

 

エレン、翠、藍もまた 頼まれた”売人”を捕らえた所で所属不明の黒迷彩の男達に襲われていた。

だが幸い(?)にも清夜達とは違い車の中にいたわけではなく林にいたので奇襲にも簡単に対応できた。

 

現在、エレンは移動しながら木を弾除けにして25人と魔法銃撃戦を繰り広げている。

 

敵の魔法は一定のエリアを事象改変内容を定義せず、干渉力のみを持たせた魔法式で覆う対抗魔法『領域干渉』で封殺しているが、拳銃とアサルトライフルでは圧倒的に火力不足なのでジリジリと後退する形になってしまっている。

 

(ここで戦術クラスの魔法を使えばまとめて片付けられるけど騒ぎを起こせばアイク(清夜)に迷惑が

かかる・・・穏便にすませる魔法にしなければ)

 

そこに後ろから声がかかる

 

「ヒョヒョッ、これは不味い。相手は”プロ”だ」

 

「ですね。売人は安全な所に隠しましたが、どうしますエレンさん?」

 

捕らえた売人を隠してきた翠と藍が銃撃戦に参加した。

だが指示の内容は意外なものだった。

 

「そのまま牽制を、私が魔法で一掃します。」

 

「派手にやると御主人様に迷惑がかかりますよ。」

 

藍がエレンに警告する。

こうしてる間にも翠と藍は後ろに回り込もうとする敵に拳銃で牽制をかけ囲まれないようにしている。

 

「問題ありません。あなた達もよく見ておきなさい”シリウス”の名が伊達ではないことを」

 

「キョフフ!!ではお願いします。」

 

そうすると翠と藍は攻撃のテンポを早める。

絶え間なく広範囲撃つため敵達は弾切れを待って攻撃しようとしていた。

すると”一発”の銃弾が敵の一人の頭を貫通した。

しかも一人に留まらず、木々を蛇のように避け二人、三人と次々に頭を貫通する。

 

「ひっ、ひぃぃぃぃ!!く、くるな!来ないでくれーー!!」

 

仲間が次々にヘッドショットされ怯える男達、とうとう逃げ始めたが一発の銃弾はそれを逃がさない。

 

最後に生き残った男は魔法で迎撃しようとしたが古式の魔法では発動が間に合わず、頭を撃ち抜かれる。

 

そうして25人の黒迷彩の男達はたった”一発”の銃弾によって殺されてしまった。

もちろん、この”一発”の銃弾は魔法の力で動いている

エレンが発動した魔法は移動・加速系魔法『這い寄る弾(Slitherin Bullet)

この魔法は対象の弾丸を加速系魔法『定率加速』で加速させ、移動系魔法で運動状態を操作する。

よって弾は貫通しても減速せず襲いかかるということである。

だが木々を避け尚且つ動く人の頭を正確に貫通させるのは難しい

それを可能とする魔法コントロールを持つのがUSNA最強魔法師の称号である”シリウス”を持っていた彼女の実力である。

 

「クリア・・と言いたいですが」

エレンが言葉を打ち切り後ろを向く

ここで三人は後ろから魔法と一人の気配を感じた。

その直後、魔法式やらのサイオン情報体を吹き飛ばす『術式解体』がエレンの『領域干渉』を吹き飛ばす。

 

そこには40ほどの犬の形をした化成体と術者と思われる男がいた。

 

「『術式解体』は高ランクの魔法師しか使えないはず・・化成体の数から見てもAランク魔法師ですね。ここはもう一度・・・」

 

エレンがもう一度『領域干渉』を発動し化成体を消そうとする。

しかし翠と藍が彼女の前に出る

 

「キョフフフ!!藍ちゃん、エレンさん”猟犬”が”猟犬”を連れてますよ。ブホォッwwwww」

 

「おっ翠がツボった!まぁそんな訳だエレンさん。ここは私達に任せて」

 

自信満々な翠と藍にエレンは策があると判断し、この場を任せる。

 

「わかりました。それではお任せします。こんなのに負けるような奴はアイク(清夜)の護衛にいりませんので そのつもりで・・」

 

「「了解」」

 

翠はアサルトライフルを、藍は隠し持っていた鉈と拳銃を構えて戦闘を始める。

それに対し男はアサルトライフルで牽制しながら化成体を突撃させた。

 

「「「「バゥバゥ!!!」」」」

 

20体の化成体が襲いかかる。

普通の火器類では化成体に通用しない。

 

ドバババババ!!

 

だが翠がそれをアサルトライフルで一掃する。

ただし普通の弾ではない。

圧縮されたサイオンの塊、つまりは『術式解体』を纏った弾が化成体を倒していく。

藍は開いた道を自己加速術式で一気に駆け抜け、のこりの20体の元に辿り着く。

男は犬の化成体に囲んで倒すよう指示しながら後ろに距離をとる。

化成体は囲んで襲おうとするが藍の「接触型術式解体」を纏った鉈が化成体を斬り殺していく。

 

ズババババ!!

 

ものの数分で切り札だった化成体を殲滅され男は腰を抜かす。

それでも藍は逃さないように両足を拳銃で撃っておく。

 

パンパン!!

 

「あぐぁ!!」

 

やっと声を上げた男。

そこにエレンが質問をする。

 

「さて、色々おし・・!!」

 

しかしこの男も舌を噛んで自殺してしまった。

 

「ヒョヒョ!これは驚いた。拷問されるとでも思ったのか?」

 

「キョフフ。犬らしい最後ですね。でも警視庁の特殊部隊とかではなさそうです。」

 

「魔法からして古式の術者。もしかしたら犬の御主人様が怖かったのかも・・・とにかく売人連れて行きましょう、ホテルへ」

 

アイク(清夜)達と殆ど同じ反応を見せる三人。

念のため警戒をしながらホテルに向かって車を走り出した。




やっぱ挿絵ないと分かりづらいかな・・?
次回は劣等生原作キャラ登場です。
お楽しみに!

「これはダメじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。
感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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8話 無い物ねだり

8話です。
今回はやっと劣等生原作キャラの登場です。
ここら辺からは原作8巻のサブエピソード感覚でお楽しみいただければと・・

それではどうぞ!!


2092年 8月2日 日本 沖縄 恩納空挺基地 応接室

 

「本当にこの度は約束した時刻に遅刻してしまって申し訳有りません。タイヤがパンクしてしまい遅れてしまいまいした」

 

エコー達 護衛に囲まれているアイク(清夜)は深々と頭を下げていた。

もちろん理由は嘘である。いくら襲われたとはいえ殺してしまったとはビジネス上言えるわけない。

 

「頭を上げてくれませんかミスター。軍の無茶なお願い『超長距離用スナイパーライフル』を要求以上に作ってもらっただけでもありがたいですし」

 

そう言って頭を上げさせる人は真田 中尉。軍の兵器開発部所属。愛嬌がある顔立ちをしている。

 

「しかも真田個人のお願いで来月発売予定のCADの試作まで提供してもらったのですから頭が下がるのはこちらであります。遅刻してもこちらは文句を言う筋はありません。」

 

そして頭を下げたのはは風間玄信 大尉。この恩納空挺基地で教官をしている。古参の風格があり、どこか油断できない人物である。

 

いわれた通りアイク(清夜)が頭をあげると真田は新作CADに歓喜しながら話し出す。

 

「にしてもこのCAD達は素晴らしいですね!世界初の『カートリッジ』システムを投入したCAD・・今までの特化型では一つのCADで一つの系統しか使えなかったのに このシステムのおかげでカートリッジさえあれば一つのCADで全系統を使えるのですから!!しかもライフルに関しては要求の2倍以上の距離を出してしまうんですから!!はぁ・・いい仕事してますよ・・それに・・」

 

そこに風間のツッコミがはいる

 

「真田。いい加減にしろ。ミスターも困っている。」

 

「し、失礼いたしました。」

 

それをなんとか苦笑いで返すアイク(清夜)

 

「い、いえ構いませんよ。それよりもコンペの話ですが・・」

 

「はい、佐伯少将や我々でも伝をあたって味方を用意しています。実際に商品を見てもDEMの方が価格が少し高いとはいえ性能では充分に工藤重工を上回ってますから。ですが・・」

 

風間が苦虫を潰したような顔をする

 

「十師族派の軍人ですね・・」

 

アイク(清夜)の問いに真田が答える。

 

「えぇ、九島の息がかかった佐々木 大佐という軍人が勢力を広げてまして。彼さえどうにかなればミスターの商品も売れるとは思いますが・・くそっ!!軍は十師族のいいなりになりすぎている。最近では佐々木 大佐たちが民間企業の商品をデモ前に壊して十師族の関連企業の商品の安全性をアピールする始末。このままでは十師族、ひいては魔法協会に支配されてしまう!!」

 

怒り始めた真田を風間がなだめる

 

「落ち着け。佐々木 大佐については噂にすぎないし証拠もない。まぁそういう感情面を抜いたとしても魔法協会に軍、ひいては政府までいいなりなれば一党独裁になると私も佐伯少将も危惧しております。」

 

アイク(清夜)は残念そうな顔で答える。

 

「ふむ・・私たちDEMも日本が拠点なので日本で商品が売れなくなるのは困ります。DEMでもできる限り手伝いましょう。ですがその場合・・」

 

真田が感謝しながら答える。

 

「ありがとうございます。もちろんこの状況が打開できれば必然的に商品が売れていきますしDEMさんにも”仕事”を回せると思いますので御安心を。」

 

「では明後日からお願いします。それでは我々はこの辺で失礼させていただきます。少将にもよろしくお伝えください。」

 

そう言って席を立ち上がるアイク(清夜)に風間が問う。

 

「なにかコンペに向けて策があるのですか?」

 

アイク(清夜)は満面の”笑み”で答える。

 

「まさか、そんなものはありませんよ。信じるものは己の交渉の腕と誠実さだけですよ。」

 

もちろんこれも嘘である。彼の頭の中では現在 策を練っている最中である。

だがそんなこと分かるわけなく風間達はアイク(清夜)達を見送りに行く。

外で見送った後、風間は小声でこう言った。

 

「もしかしたら我々は”魔王”に魂を売ってしまったのかもしれない・・」

 

「なにか言いましたか大尉?」

 

「いや何でもない。戻るぞ中尉。最近、檜垣達の素行が悪いからな たっぷり鍛え直さなければな!」

 

ほんの少しだけ不安を抱えて基地に戻る風間であった。

 

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2092年 8月2日 日本 沖縄 恩納 ホテル一室

 

清夜はエレン達と合流し互いに謎の襲撃者について報告していた。

 

「そうですか。やはりアイクの元にも・・古式の魔法を使っていましたが動きや日本人の顔からして敵は国防軍の部隊かと。でもどこの部隊なのか、そしてなぜ商売相手である我々を狙うのでしょう?」

 

エレンはホームズのように考え始める。

だが清夜には目的も敵の正体にもある程度の予想がついていた。

 

「おそらく九島の息がかかった連中だろう。軍に深く関われて古式の魔法について詳しいのは魔法師開発第九研究所の出身である九島ぐらいしかいないからな。」

 

エコーが納得いかない様子で尋ねる。

 

「九島って、あの九島烈のことだろ?俺が映像で見た限りそんなことする奴には見えねぇけどなぁ・・」

 

「いいや、九島だからといって九島烈が指示したわけじゃない。ついでに言えば今の九島の当主は九島真言に交代する噂が出ている。だからそんなことをする暇がある?」

 

エコーが初めて知ったような顔をしたが清夜は話を続けた。

 

「それに、たかがコンペ一つに必死こいてライバルを潰すメリットは九島にとって全くない。」

 

「ではあの部隊を指示したのは一体どなたなのですか?御主人様。」

 

翠は清夜にお茶を出しながら問う。

同調して頷く藍。

口調こそ丁寧だが翠と藍も黒迷彩の部隊に腹を立ててる様子だった。

 

「俺の予想にしかすぎないが・・おそらく佐々木 大佐だろう。」

 

「「佐々木 大佐?・・」」

 

翠と藍だけ頭に?を浮かべた。

エレンはすでに調査の際で知っていたし、エコー達も基地で佐々木 大佐の話を聞いていた。

なので清夜は二人に国防軍の状況と佐々木 大佐の噂について話した。

話を聞いた二人は納得した表情になった。

そして藍が清夜の予想を語る。

 

「ヒョヒョッ!なるほど、つまり十師族派の佐々木 大佐は九島家といった十師族に今以上に取り入るため十師族の利益になることをしている・・そして黒迷彩の男が自殺したのは九島や佐々木 大佐の制裁を恐れて・・ということですね御主人様」

 

「証拠はないけどね。でも彼の今までの行動は全て結果的に九島や十師族の利益になっている。九島の息がかかった連中使って我々を潰す指示を出してもおかしくない。・・あぁそうだ皆に渡すものがあったんだ。ほい」

 

清夜は皆にアーチ状の小型機械を渡す

 

アーキンやホウは?を浮かべながら予想する。

 

「何すか?これ」

 

「ヘアバンド・・にしては小さい・・もしかして首につけるのですか?」

 

清夜は見本を見せるように首につけ答える。

 

「正解!これは俺の研究チームで作った『ニューロリンカー』という仮想ウェアラブルデバイス、仮想型端末といったほうがわかりやすいか。世界初のゴーグルを使わない仮想型端末だ。普通のデバイスと同じ機能もあるけど、これには俺たちだけの特別機能が付いている。」

 

エレンが質問する。

 

「特別機能とは?」

 

「世界初の『思考通信』だよ。これで喋らなくても会話ができる。しかも通信方式も従来のと違うから通信傍受はされない!通信妨害はあるかもしれないけどね。これを普段部隊で使っている通信とは別に部隊共通の通信装置、デバイスにする。マニュアルは読んどけよ。」

 

「「「「「「了解」」」」」」

 

「んで話変わるけど、こいつ誰よ?」

 

そういって部屋の隅で拘束されている男を指すエコー

5人も気になっていたのかチラチラと男を見ていた。

清夜は笑顔で拘束されている男に近づき男の頭に手をのせた。

 

「あぁ、彼は沖縄で捌いている”売人”だよ。佐々木 大佐は十師族派の筆頭格だからね。今後のためにもそろそろ・・佐々木 大佐には”ご退場”していただこうと思ってね。彼にはこれからその”お手伝い”をしてもらうんだ・・・」

 

男は声を上げるが口にガムテープがされていて何も聞き取れない。

 

「むごっ!!むぉーー・・・」

 

バチィッ!!

電気刺激で相手に有無を言わせず命令・操作する凶悪な魔法

清夜のBS魔法『Electrical Command(電気命令)』が発動された。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2092年 8月4日 日本 沖縄 恩納

 

清夜は迎えに来た車に一人で乗り込む。

エレンとエコーには先行してコンペ会場を見てもらい、残りの4人には”ある仕事”をしてもらっている。

 

「久しぶりネ式さん。ワールドワイドニュース見た。まさか二人を早速使うとは思わなかったネ」

 

運転席にはサイモンがいた。

清夜は装置でアイザック・ウェストコットに変身して挨拶を返す。

 

「久しぶりです、サイモンさん。あれはテストだよ、使えなかったら捨ててる。」

 

車は会場に向けて走りだす。

沖縄にサイモンを呼んだのには理由が二つあった。

その一つが翠と藍の報告。

アイク(清夜)は思い出したことを口にした。

 

「そうそう、二人に『報酬以外に何が欲しい?』って聞いたら『学校に通いたい』だってさ。あはははっ!!元からそうさせるつもりだったけど本人達から頼まれるとは思わなかった。おもしろい」

 

そう言ってアイク(清夜)は笑いだす。

サイモンも似た感想を持っていた。

 

「高価な物とかじゃないのネ。ハッハ!やはり、そういう連中は行動が意味不明ネ。でも悪い話じゃない。彼女ら心を保つために本たくさん必要、そういう催眠。学校には図書館があるから心配なくなる、しかも義務的だから止まることなく知識が増えていく。」

 

ミラー越しにサイモンを見てアイク(清夜)は言う。

 

「渡りをつけたのも、武器を調達したのも、パスワードを教えたのも感謝してますよサイモンさん。あなたは『聞く者』そして『七賢人』の一人だったんだね。」

 

バレていることは知っているがサイモンは何も答えない。

もちろんアイク(清夜)は答えてはいけない事情も理解している。

 

『聞く者』・・それは凄腕の情報屋。暗号通信や国の裏事情まで仕入れられる程。しかし裏社会でもその実態を掴めない謎な人物。例えサイモンから仕入れたとしても誰もサイモンが『聞く者』とは気づかないし、知らない。ゆえに都市伝説と言われるほど。

 

そして『七賢人』はエシェロンⅢの追加拡張システムの一つ『フリズスキャルヴ』のアクセス権を手に入れた7人のオペレーターのこと。

その力はエシェロンⅢのバックドアを利用し、エシェロンⅢのメインシステムを上回る効率で世界中から情報を集め、オペレーターの検索にヒットする情報をもたらしてくれること。『七賢人』の由来はオペレーターの一人が情報機関にそう名乗ったのが始まり。

 

静かになる車内。

アイク(清夜)は別の話題を出した。

 

「そうそう。俺が頼んだ案件はどうなったんです?」

 

二つ目の理由はこれだ。

アイク(清夜)は今日の”策”のためにサイモンにお願い事をしていた。

サイモンは笑いながら答える。

 

「すでにやってあるネ。”マトリ”や”エス”に餌チラせつけたら”マトリ”が引っかかった。東京からの増援が一時間ほど前に沖縄空港到着を確認。にしても式さん、なかなか酷いことするネ」

 

「いいでしょ別に。仕返しですよ。そういうサイモンさんは翠と藍に合わす顔あるんですか?仲良くやりましょうよ?。ははは」

 

車は赤信号で止まった

そこで会話も終了する。

ふと窓の外を見るアイク(清夜)。そこには同い年くらい子供達が歩いていた。

前を歩くのはとても顔が可愛らしい女の子。後ろには無表情でついていく男の子。顔の割に鍛えている印象を受ける。

 

(雰囲気からして兄妹?でもどこか妹はよそよそしくしているな・・あっ)

 

突然、兄と思われる少年が妹と思われる少女を抱きしめるように庇う。軍服を着た黒い肌の大男から守るように。

彼らの周りを黒い肌の大男とその仲間が取り囲む。どうやら当たり屋のような事をされて脅されているのだろう。

視線に気づいたのかサイモンが解説する。

 

「あぁ〜可哀想ネ。あれは『取り残された血統(レフト・ブラッド)』。式さん あまり日本にいなかったから知らないと思うけど、沖縄には第三次大戦の際に親が戦死などの理由で取り残された米人がいるネ。彼らはその子世代。沖縄観光の注意事項にも書かれるほど素行が悪いことで有名。」

 

「へぇ〜」

 

アイク(清夜)は空返事で答える。アイク(清夜)にしては珍しく、どうしても気になる様子だった

外ではどうやら少年と大男達で言い争っているようだ。

すると突然、大男が殴りかかる。

だが少年がそれをあっさり受け止めてしまう。

 

(俺と年が同じくらいなのに強いな。あれだけでも翠と藍並みか?んっ・・どうやら大男も本気なったようだ。これは見物だな・・)

 

だが勝負はあっさり決着がつく。

少年の勝利という形で。

決着とほぼ同時に車が動きだす。

少年が少女の手を引いて歩く姿を車で通り過ぎながら見送る。

 

(あっさりと勝ちやがった。・・・・・・・・俺にも・・・・あんな強さが最初からあれば・・・冬華・・・)

 

アイク(清夜)は少年に憧れと嫉妬を抱いた。

しかし、それが彼の力なのか、家族と一緒にいれていることなのかはアイク(清夜)にも分からない。




どうでしたでしょうか?
余談ですがこの後、真田がカートリッジ機能のCADを複製して達也に渡します。まぁエンジニアとしては作ってみたくなる代物ではないかと・・

それと傭兵や春奈を操作した魔法の名前を忘れていたので売人のとこで名前を書いときました。

『ニューロリンカー』はアクセル・ワールドで出てきたものとほぼ同じと思ってくれればいいです。
あぁ〜バーストリンクしてみてぇ〜

次回は話が長くなる予定です。お楽しみに!!

「これはダメじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。
感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。





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9話 身の丈に合わぬ欲

9話で〜す
ビジネス話になります

お久しぶりです。
入学編は12話からと言ったな?あれは嘘だ。
ごめんなさい、13〜15あたりには入学編になるのでご勘弁を。
一条とかを話しに絡ませようとしたら防衛戦の話自体が長くなってしまい。投稿自体も忘れていました。


2092年 8月4日 日本 沖縄 恩納 コンペ会場

 

ガヤガヤ

会場では軍関係者、軍需産業関係者で賑わっていた。

その中でも注目される二つのグループがあった。

一つは佐々木 大佐を中心とした十師族派グループ。国防海軍少将の姿も見受けられる

もう一つは佐伯少将腹心の部下である古畑大佐を中心とした民間企業派グループ。

アイク(清夜)は秘書のエレンを護衛のエコーを連れ民間企業派の風間大尉と真田少尉と話をしていた。

もちろん秘書と護衛にすぎないため二人は黙って付き添っていた。

古畑大佐が会場に入ってきたなりアイク(清夜)の元に駆け寄った。

 

「はじめまして・・でよろしいのですかなMr.ウェストコット。御社のUUV(無人潜航艇)素晴らしいものでした。」

 

「はい、はじめましてになりますね、古畑大佐。佐伯少将との対談でお見かけすることはありましたが話すのは今回が初めてです。」

 

二人は固い握手を交わす。

普段なら名刺交換などしなければならないが二人は早速本題に入る。

 

「早速で申し訳ないがミスター。悪いニュースを伝えとく。やはり工藤重工のUUVを支持する人間の方が多い。中立的な軍人達も佐々木 大佐の手回しで取られてしまった。いつものパターンで腹が立つ!私欲のために動く軍人など・・言語道断だ!」

 

アイク(清夜)はウェイターから水をもらって口を潤わした。

 

「私は軍人ではないので私欲自体は悪いとは思わないんですけどね・・でも良くない雰囲気なのは確かですね。」

 

ちなみ今回のコンペでは無人観測潜航艇(敵軍の位置を調べたりする情報収集を目的とした機体)で競っている。

 

他の会社を押しのけて現在、有力候補としてあがっているのが工藤重工の「スソウミ」とDEMの「ラブカ」である。

 

この二つの違いはコストと性能の違いである。

 

「スソウミ」は「ラブカ」よりコストが安く。「ラブカ」は「スソウミ」より性能がいい。

つまり古畑大佐の話では軍はコストが安い方を選ぶと言うことだ。

 

アイク(清夜)は今度は風間大尉、古畑大佐に質問する。

 

「どうしますか?」

 

古畑大佐は即答する。

 

「どうもこうも、我々で説得するしかないでしょうね。中立的な軍人を出来るだけ味方にしなければ」

 

風間大尉も同意なのか首を縦に振った。

アイク(清夜)はウェイターにグラスを返して言う。

 

「では動きましょう。時間はあまりなさそうですし、時は金なりって言いますしね」

 

そしてアイク(清夜)は民間企業派のグループの元を離れる。

それを皮切りに古畑大佐達も説得のために行動を開始する。

 

数十分後

アイク(清夜)は工藤重工を支持した中立的な軍人を中心に説得を試みる。

だがそのほとんどが悩みこそするものの最終的に工藤重工を支持してしまう。

アイク(清夜)は考える

 

(ダメか・・皆、最後は私から視線をはずした。あの目は恐怖している目だ。佐々木 大佐を恐れているのか、十師族を恐れているかはわからないが・・・どちらにせよ雰囲気が変わらない限り無理だろうな。)

 

そこに軍服を着た大男がアイク(清夜)に近づく。

 

「やぁやぁMr.ウェストコット。調子はいかがですかな〜?」

 

その男は前々から話題に上がっていた人物、佐々木 大佐であった。

軍服越しからでも分かる筋骨隆々の男。しかしと言うか、やはりと言うか顔の印象はまさに私欲に満ちた男だった。

 

「はじめまして佐々木 大佐。アイザック・レイ・ペラム・ウェストコットと申します。本日はどうぞよろしくお願いします。」

 

アイク(清夜)は形式的な挨拶と”作り笑顔”をして握手を求めた。

しかし佐々木 大佐はそれを無視して話を始める。

 

「ふんっ、まぁ君はよくもあんな高価なもの出せたものだな。すでに日本には大量の資金で作った世界トップクラスの海上防衛網とイージスシステムがある。いくら予算に限度を決めてないとはいえ、そこに高コストなUUVを投入するなんて馬鹿げている。欲張りすぎているとは思わなかったのかね?」

 

初対面の相手に失礼な態度、散々な物言いに怒りを覚えたエコーとエレン。

だが経験の差なのだろうかアイク(清夜)は”作り笑顔”を崩さず、返答する。

 

「はい。私は”身の丈に合わぬ欲は己の身を滅ぼす”を座右の銘にしています。ですから私は自分の身の丈に合った欲しか出しませんし、身の丈に合った商品しか提供しませんから」

 

あえて最後は”誰の”身の丈に合った商品とは言わなかった。

佐々木 大佐はアイク(清夜)の態度が余裕に見えたのか不機嫌になる。

 

「どうせ貴様の商品など性能をごまかした粗悪品だ!!この後のデモで大ヘマでもこいて、とっとと日本から出て行くんだな!!」

 

そういって背を向けた佐々木 大佐に忠告するアイク(清夜)

 

「身の丈に合わぬ欲は出さないほうがいいですよ。」

 

佐々木 大佐は無視してアイク(清夜)の元を去る。

だが、さっきの不機嫌はどこへやら その顔には余裕の笑みが浮かんでいた.

 

(へへへへへっ そう、お前の商品はこの後のデモで暴走するのだ。そして私はぐへへへへ・・・)

 

佐々木 大佐はまだ知らない、この先に起こるアイク(清夜)による転落の人生を・・・

 

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2092年 8月4日 日本 沖縄 国防海軍演習場近く

 

アーキンと藍は清夜に頼まれていた”仕事”を終わらしていた。

 

「ふー以外と少なかったですね。ボスの予想どうりでした。」

 

「ヒョヒョッ!やはりこの前の殺した部隊の残党だったんだろうね」

 

藍は死体を確認していると翠から思考通信がかかる。

 

『アーキンさん、藍ちゃん聞こえますか?』

 

アーキンと藍は通信ボタンを押して応答する。

 

『おー翠、早速『思考通信』使ってみたか。』

 

『で、どうしたんですか?』

 

今度はホウから報告がくる

 

『こちらは翠と二人で佐々木 大佐の家の仕込みに成功したっす。』

 

翠が追加で報告する。

 

『さらに”売人”も昨夜に務めを果たし、先ほど無事にマトリからの逃亡の末に自殺しました(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。』

 

アーキン達は笑いながら自分たちの状況を報告する。

 

『はっはっは。ボスも酷いことをしますな〜』

 

『こちらも「スソウミ」に”魔法的に細工”を完了させて『ラブカ』に”機械的に細工”しようとした黒迷彩を始末したとこだよ。』

 

ホウが終了を確認する。

 

『では”仕事完了”ってことで撤収っす!』

 

そして各々、闇の中へ消えていった。

 

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2092年 8月4日 日本 沖縄 国防海軍演習場

 

結局、アイク(清夜)はほとんど説得できず、会場から演習場に場所を移していた。

この時間は実際に企業が演習場を借りてデモをして、その様子を大型モニターで見て最終評価する時間だ。

 

演習場では他の企業がデモを始めたが軍関係者の反応はよろしくない。

 

やはり工藤重工の「スソウミ」とDEMの「ラブカ」、その中でも他の企業のUUVとほぼ同じスペックでコストがかからない工藤重工の「スソウミ」に一番期待が寄せられていた。

 

アイク(清夜)は今日の今後の方針についてエレンとエコーに小声で相談していた。

「ふむ・・不味いねエレン。どうしよう」

 

「の割には余裕そうですね、アイク。」

 

「だな。夜坊のその顔は何かイタズラを思いつい・・・・」

 

ザワザワ。

すると他の企業のデモ中なのに演習場に突如どよめきが起こる。

アイク(清夜)はどよめきの原因を探すと演習場入り口にいた。

日本魔法協会の長老『九島 烈』が現れたのだ。

九島 烈の元に工藤重工の重役や佐々木 大佐が駆け寄るが九島 烈は軽く受け流しアイク(清夜)のもとに近づいた。

 

「アイザック・ウェストコット君だね?私は九島 烈という者だ。少し話でもしながらデモを見ないかね。」

周りはさらにどよめく。それもそのはず日本魔法協会の長老、元少将、そして師族会議議長が近寄って挨拶したのは、ただの民間企業の社長なのだから・・・・

 

最初に自分の元に現れたことに驚くアイク(清夜)

だがそれを”笑顔”という仮面でごまかし、護衛として前に出たエレン達を下がらせた。

 

「はじめまして九島閣下。アイザック・レイ・ペラム・ウェストコットと申します。世界最巧、そして世界最強の魔法師と呼ばれたあなたにお会いできるとは光栄の至りです。」

 

九島 烈は”笑顔”という仮面に気づいたのか、こんなことを言う。

 

「そんなに固くならなくてもいい。なに・・元々君に興味があってな、たまたま同じ沖縄にいたから話そうと思って駆けつけただけだ。後で三矢もこのコンペを見に来るだろう。」

 

そこに工藤重工の重役や佐々木 大佐が反論する。

 

「閣下がそ・・」

 

「お前たちは黙ってどこかに行っていろ。」

 

だがあっさり却下されアイク(清夜)を睨みながら去った。

佐々木 大佐は頭の中で悪口を言っていた。

 

(覚えていろ若造。お前は後で閣下の前で大恥をかくのだからな!)

 

九島 烈は謝罪した。

「すまない部下の無礼を詫びよう。」

 

「いえ、そのお気持ちで十分です閣下。それで私に話とは一体?」

 

アイク(清夜)は九島 烈の真意を図ろうとした。

 

「本当にただの世間話なのだがな・・そうだな・・では君はなぜ武器を売る?至福を肥やすためか?」

 

だが九島 烈の方が一枚上手なのか突然、武器商人の、アイク(清夜)としての本質を聞いてきた。

復讐のため・・・とは言えない。

アイク(清夜)はさらに仮面をかぶり落ち着いて答える。

 

「それはサラリーマンと変わらない理由です。」

 

九島 烈は意外な答えに疑問を持った。

 

「サラリーマンと変わらない理由とな?」

 

「はい、そもそも仕事をするのは生活をしていくためです。私にできる仕事が武器商という仕事だったにすぎません。」

 

「なるほどな・・」

 

アイク(清夜)の本当の目的が違うことに気づいたのか、九島 烈は深追いせず納得することにした。

そして九島 烈は別の質問をする。

 

「君は”あの方”についてどこまで知っている?」

 

あきらかにアイク(清夜)が十師族の後ろにいる人物を知っている前提で質問している。

ここでは素直に答えることにした。

 

「噂で十師族の後ろにいる何かを聞いた程度です。予想を言わせてもらえば・・あなた方を動かせるほどの人物・・つまりは魔法の一族としても強いとなると・・・魔法師と言われていないし、国民自体気にもかけていませんが神を祖先とし三種の神器というオーパーツを扱える天皇家が一番怪しいかと・・・あたりですか?」

 

「さてどうかな・・・」

 

そう言って黙り込む九島 烈。

アイク(清夜)はここで会話を一旦切ることにした。

 

「申し訳ありません。そろそろデモとプレゼンの準備がありますので一旦失礼させてもらいます。」

 

「ふむ期待している。」

 

そうしてアイク(清夜)はエレン達をおいて準備にかかる。

アイク(清夜)の後ろ姿を見送った九島 烈。

今度はエレンに話しかけた。

 

「久しぶりだね”シリウス”。まさか”死んだとされていた”君が彼の秘書をしているとは思わなかった。」

 

「えぇお久しぶりですね”トリックスター”。私の正体を世間にでもバラすつもりですか?潰しますよ?」

 

エレンは九島 烈の異名で呼ぶ。

 

「そんなことはせんよ。それより真夜と並び、現役世界最強の魔法師である君が何故彼に付き従う?」

 

「簡単な話です。アイクに忠誠を誓う者は皆、アイク(清夜)の優しさに惹かれたからです。本人はビジネス思考で行動しろって言いますがね・・・」

 

九島 烈はアイク(清夜)について指摘する

 

「そうか・・だが危ういぞ。あの目をした者は大抵、すぐに哀れな死を迎える。」

 

「なら忠誠を誓う者達で助けるだけです。それにアイク(清夜)はそんなに弱い人間ではありません。とにかくアイクのプレゼンでも見ていなさい。」

 

「では、そうさせてもらおう・・」

 

エコーを含めた3人は途中から来た三矢 元も加えて、おとなしくアイク(清夜)のプレゼンを見ることにした。

 

 

数分後。無事、プレゼンとデモが終わり予想以上の出来に大きな拍手を受けるアイク《清夜》

しかしそれでも工藤重工を支持する空気は変わらない。

いや変わりかけてはいるがあともう一つ足りない感じの状態であった。

この中でただ一人、佐々木 大佐は焦っていた。

 

(なぜ若造のUUVは暴走しない!?さてはしくじったな!?あとで残党の奴らはを処分しなければ・・・まぁいい、どちらにせよ工藤重工を支持する空気は変わらない。私の勝ちだ!!へへへへ・・・)

 

そして工藤重工のプレゼンとデモが始まる。

工藤重工の「スソウミ」は最初こそ順調なものの、ある一定の深さに潜ると異常が起こった。

UUVの船体の数カ所が突如凹み停止したのだ。

 

「な、なにごとだ!?」

 

工藤重工の重役は焦る。

もちろんアーキンと翠が仕掛けた遅延発動術式のせいである。

これは加重増大魔法をある一定の深度で発動するように設定したもの。

船体がある一定の深度に到達したため加重増大魔法が発動し水圧が高くなり船体が凹んだというわけである。

 

佐々木 大佐は状況を確認しに行こうとするが部下に止められる。

 

「待ってください!大佐!!」

 

「なんだ!?こんな時に!!」

 

だが冷静になって見回すと大騒ぎになっている。

軍のお偉方のほとんどがデモ中なのに電話で話したり、副官から報告を受けていた。

部下は資料を佐々木 大佐に渡した。

 

「こちらをご覧ください!」

 

「・・・・何!?インド・ペルシア連邦が!?」

 

 

もちろん資料に書かれた話は三矢 元を通して九島 烈の耳にもはいっていた。

 

「ほう・・それは本当か元?」

 

「はい、インド・ペルシア連邦がDEMのUUVを・・チョット待ってください・・・!!?。 USNAも DEMのUUVを買ったようです。しかも両陣営ともDEM社が先月開発した軍用機搭載型サイオンレーダーをセットで組み合わせて運用されるようです!!」

 

「なるほど最近では魔法でレーダーの網を掻い潜る戦艦が増えたが、これなら魔法で隠れてもサイオンレーダーに引っかかって戦艦を見つけることができるということか・・・。これは全部君たちの仕業かい?」

 

九島 烈はたった今帰ってきたアイク《清夜》に問う

アイク《清夜》は”歪んだ”笑みを浮かべて語る。

 

「故障は知りませんがココやキャスパーを使って外国に売ったのは事実です。否定はしません。」

 

「そうか、なかなか大胆な事をするんだな君は・・」

 

九島 烈も口元を釣り上げ笑う。

 

 

 

古畑大佐達はアイク(清夜)とは違う場所でおおいに喜んでいた。

 

「やったぞ!!風間くん。これで空気は変わった!あの男め〜何が『どうしますか?』だ!こんな策を用意しおって〜はっはは。とにかく我々の勝利だ!」

 

「は、はい!おめでとうございます大佐」

 

真田も真田で古畑大佐と一緒に喜んでいるが

風間は内心戸惑っていた。

 

(数十分かけて説得しても変えられなかったこの空気をたった1、2分で作り変えただと!?彼は本当に何者なんだ!?)

 

 

 

デモの途中なのに騒ぎが収まらない演習場。

そこに新たな騒ぎが起きる。

 

「全員そこを動くな!!厚生労働省麻薬取締部だ!!」

 

そういって腕章を見せ演習場に15人ほどの男達が入ってくる。

 

麻薬取締班。それはその名の通り厚生労働省所属の麻薬取締専門の捜査班で麻薬取締に限り逮捕と小型拳銃と魔法の使用を許可されている。

その捜査官は特別司法警察職員として働き、『麻薬取締官』、通称『マトリ』と呼ばれている。

 

マトリの捜査員は佐々木 大佐を見つけるなり取り囲み逮捕状を見せつける。

 

「佐々木 大佐だな?お前を「麻薬及び向精神薬取締法」違反の容疑で逮捕する!!」

 

演習場はさらにどよめく。

身に覚えのない事に焦りながらも佐々木 大佐は反論した。

 

「お、俺はそんなことしてない!!」

 

「嘘をつくな!こちらが前からマークしてた売人と取引している写真があるんだぞ!それにお前の家からも写真に写っている袋、麻薬がでてきたぞ!指紋も確認済みだ!」

 

そういって捜査員は証拠である数枚の写真を見せつけた。

そのなかには佐々木 大佐が売人らしき男から袋を受け取っているような写真があった。

 

佐々木 大佐はその男に見覚えがあった。

 

「その男は昨日ぶつかって来ただけだ!それに袋は男が落とした時に拾ってあげただけだ!!その男に聞いてみろ!!」

 

実際に本当のことを言う佐々木 大佐。

だが捜査員達は怒りをギリギリのところで抑えて言う。

 

「グッ・・・・その男はさっき自殺したよ・・『バラしたら取引相手の軍人に家族を殺されてしまう』と言って死んでいったよ・・録音もしてある・・」

 

「ち、ちがう、絶対にちがう、そんなことさせてない!!」

 

もちろん、ぶつかったのも自殺したのもアイク(清夜)のBS魔法『Electrical Command(電気命令)』によるものだ。

 

そして家から出てきたのも翠とホーが仕掛けたものだ。

 

そんなことを知らない捜査員はとうとう怒り出して取り掛かる。

 

「いい加減にしろ!!外道!!言い訳は裁判所でしろ!!」

 

ガシャッ!

とうとう捕まった佐々木 大佐。周りを見ると工藤重工の重役、そして九島 烈が冷たい眼差しで見ている。

 

「違います!!私は!!」

 

そこでアイク(清夜)と目が合う。

そしてアイク(清夜)は”歪んだ”笑顔で口パクをして佐々木 大佐に最後の挨拶をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見の丈に合わぬ欲が己の身を滅ぼしたようだな。お・バ・カ・さ・ん♪      と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、佐々木 大佐は暴れ出す

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

それが聞こえた彼の最後の言葉だった。

この後、たくさんの軍のお偉方が交渉をしにアイク(清夜)の元へ駆け寄った。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2092年 8月4日 日本 沖縄 恩納 コンペ会場

 

民間企業派の大大勝利に終わった後、古畑達に背中をバンバン叩かれたアイク(清夜)は逃げ出すように去ると

今度は九島 烈、三矢 元に捕まった。

 

十師族、つまり本来、敵である三矢 元はアイク(清夜)を素直に賞賛した。

 

「いや〜さすがはヘクマティアル兄妹のボスですね。素晴らしい駆け引きでした。」

 

「ありがとうございます。三矢殿。あなたのような国際的に有名な兵器ブローカーがそう言ってくださると私も励みになります。」

 

二人は敵同士ではあるが互いの健闘(?)を讃え握手した。

そこに九島 烈からも賞賛がきた。

 

「長生きして色々なものを見たきたから、もう驚くことはないと思っていたが・・・今回のコンペ、色々と驚かされた。素晴らしい腕前だった。」

 

何か含んだような言い方だったが素直に受け止めておくアイク《清夜》

 

「ありがとうございます。九島閣下。」

 

「今度は君の魔法師としての実力を見せてもらいたいものだ。」

 

突然、まったく関係のないことを言い出す九島 烈

 

(俺がBS魔法師でもあることに気づいたのか?いや今日は使ってすらいないからありえないか・・)

 

「いえ、私の魔法師としての才能はこの国の魔法科高校すら入れないだろうと言われるほどなので、そういうのはご期待に添えないかと・・」

 

そういうと九島 烈はフッと笑った後、「また会いに行く」と言い三矢を連れて去っていった。

アイク(清夜)から離れた後、三矢 元は問う

 

「老師、一体彼は何物なのでしょうか?」

 

三矢 元も九島 烈には劣るものの経験則から感じた彼の異質の雰囲気に戸惑っていた

 

「さぁな・・・だが彼は間違いなく100年に一人の天才・・いやカリスマか?とにかく色々な意味で彼は強い。こんな世界に置いておくのがもったいないくらいに・・・な」

 

と返答したが九島は別のことについて考えていた。

 

(そうか・・あの目、誰かに似てると思っていたがアイツ(・・・)に似ていたか・・)

 

九島はまた不思議と笑っていた。

 

そして時は少し戻り・・

アイク(清夜)が九島 烈の姿を見送るとエレンとエコーが話しかけてくる。

 

「やはり油断できませんね、アイク。」

 

「あぁ・・やはり大物は違うな。」

 

「おぉ〜怖い。俺はあんな爺さん達と戦うなんて嫌だよ。」

 

そう言って彼らも会場を後にした。




どうでしたか?えっ?コンペはこんなものじゃない?兵器にコンペはない作者はバカなので、そういう間違いは よくありますからご容赦ください。

今回UUV(無人潜航艇)にした理由は色々あります。
それは入学編で説明しようかと・・

あと『電気を自在に発生、操作できる』魔法じゃ、長いんで編集して『電気使い』という BS魔法に名を変えました。能力は変わらないので安心を

次回は新装備と清夜のもう一つのBS魔法が明らかに!?。お楽しみに〜

「これはダメじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。
感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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10話 対魔法師部隊

10話でーす!

二日連続の投稿となりました。
今回は説明回ですね〜
挿絵を入れてみました。本当はもっとかっこいいはずだったんだが・・・自分の画力ではこれが限界です・・
もしかしたら挿絵変えたり消したりするかも・・

それではどうぞ!!


2092年 8月5日 日本 沖縄 国際通り

 

コンペが終了し佐渡の商談までオフとなった清夜はエレンと約束していた苺ケーキをおごるために国際通りに来ていた(ほかの護衛は各々オフを楽しんでいる。)。

 

「やはり苺ケーキこそ至高の美食!!まさに最強である私にふさわしい一品です!」

 

すっかりご機嫌がよくなったエレン。

清夜は思う。

 

(こんなんで機嫌が良くなるならいくらでも奢るんだけどな・・苺ケーキとか子供かwとか言ったら本当に殺されるから言わないけど。)

 

エレンが何かを感じ取る

 

「アイク、今、私をバカにしましたか?」 ゴゴゴ・・・

 

「い、いやしてないよ。マジで・・・・おっと」

 

心を読まれたことに焦ったせいか清夜は女性とぶつかり膝をついてしまう。

 

「奥様大丈夫ですか?僕も大丈夫?」

 

「えぇ私は大丈夫よ穂波さん。それより・・」

 

顔はまだ見えないが二人組の女性の一人にぶつかってしまったらしい。

ぶつかった黒い服の女性が手を差し伸べる。

 

「ごめんなさい僕。周りを見てなくて・・怪我はないですか?」

 

「俺・・いえ僕も前を見てなくてごめんなさ・・」

 

そういって女性の手を取ると女性と清夜の目が合う。

だがお互い次に取った行動は戦闘体勢だった。

 

「「ッ!?」」

 

黒い服の女性は曖昧ながら魔法的直感で危険性を、清夜は本能が嫌悪を感じた。

 

「奥様!?」

 

「アイク!?」

 

それぞれの付き添いの言葉で互いに我に戻る。

清夜と黒い服の女性は作り笑顔で取り繕う。

 

「ご、ごめんなさい。突然驚かれるので僕も驚いてしました。」

 

「い、いえ私も悪かったわ。」

 

周りの人たちが注目しているがそれでもお互い目を離さない。

そこに一つの怒声が響く。

 

「なんだとこの野郎!!殺すぞーーー!!」

 

見るとの酒にでも酔っているのか『取り残された血統(レフト・ブラッド)』の男がナイフを振り回していた。

 

キャーーーーーーー!!

逃げろーーーーー!!!

うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

通り一体がパニックになり人ごみの波に流される4人

 

数分後・・・

 

なんとか人ごみから抜け出せた。黒服の女性達

だが抜け出せた時には清夜達は見えなくなっていた。

 

「奥様無事ですか?」

 

「えぇ助かったわ穂波さん。それでさっきの子達は?」

 

穂波と呼ばれた女性は周りを見渡す。

しかしどこを見ても見当たらない。

 

「いえ、消えてしまいましたね・・先程といい、何かあったのですか?」

 

「いないならいいの・・おそらく私が危険を感じたのは『取り残された血統(レフト・ブラッド)』の男ね。」

 

と言いつつも自分自身、腑に落ちない様子だった。

 

(あの子の目を見た時、達也が生まれた時以上の恐怖を感じた・・あれは気のせいだったの?)

 

黒服の女性は気付かぬうちに震えていた。

 

ちょうどその頃・・

清夜達も流されながらもなんとか脱出できた。

 

「うぇ〜苦しかった〜エレンいる〜?」

 

「は、はい・・なんとか。さっきの二人組はいなくなりましたね。敵だったんですか?」

 

「わからない・・だが見ただけ嫌悪した本能的に・・」

 

そう言って黙ってしまう清夜だった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2092年 8月7日 日本 新潟 佐渡 某所

 

清夜達は足早に沖縄を後にして貸切にした佐渡のクロスフィールド(魔法戦技のサバゲー)場来ていた。

エコーは不満そうにしていた。

 

「なんでさっさと佐渡に来ちまったんだ?別にすぐ商談があるわけでもないのに。オフだろ?沖縄のビーチで楽しむのもありなんじゃないか?」

 

清夜は武器商人として答える。

 

「すまないとは思っている。だが今回は武器商の勘を信じて沖縄を離れた。」

 

この言葉にココやキャスパーを見てきたエコーとエレンが納得する。

だが残りの4人は首を傾げていた。

翠が質問する。

 

「根拠をお聞かせいただけないでしょうか?」

 

「勘に根拠はないと思うけどな・・そうだな強いて言うなら『取り残された血統(レフト・ブラッド)』だな。俺が見たほとんどの奴らの目が何かを起こすと物語っていた。」

 

すかさずエコーがフォローにはいる。

 

「こいつら武器商人の勘は大抵当たるんだ。終戦や内戦と言った”戦争関連”は特に。だから俺やエレンは夜坊の勘を信じる。」

 

エコーの話に説得力があったのか納得した4人。

清夜は別の話を始める。

 

「話は変わるが今日は部隊共通の新装備を試してもらう。」

 

「この前言ってたホログラム装置を使った装備っすか?」

 

「銃とかも変えるので?」

 

どうやらアーキンやホウの元デルタフォースには装備にこだわりがあるようだ。

 

「う〜ん・・銃にこだわりがあるなら別にいいけどCADは統一されるよ。」

 

「そんで?その装備はどこにあんだ夜坊?」

 

エコーは楽しみなのかキョロキョロしている。

 

「落ち着けエコー。まずは『ニューロリンカー』(8話参照)の右にあるボタンを二回押せ。そうすれば勝手に装備される。」

 

エレン以外がポチポチっと押す5人

するとパァと光が体を包む。

光が消えるとそこには装備された5人がいた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「「「「「おぉ〜!」」」」」

 

思わず感嘆の声をあげる5人

そして清夜の解説が入る。

 

「その装備の名はAMS-04(アムス04),潜入用にホログラム装置の応用で作られた機械的な『熱光学迷彩』が搭載されている。藍、『ニューロリンカー』から表示されているステルスのコマンドを選んでみろ。」

 

パシュンという音が聞こえると藍の姿が見えなくなる。

 

「あら藍ちゃんが消えちゃいました。」

 

「ヒョヒョ!!私はちゃんといるぞ翠」

 

解説が続いた。

 

「カメラはもちろんのこと、サーモグラフィーの類もごまかせる。今回は見えなくしたが当然、仲間内には見えるようにしてある。他の機能はサイオンを見る機能。これは装備しなくても『ニューロリンカー』でサイオン、そしてサイオン情報体である起動式、魔法式を見ることはできたんだが・・首前についている『CRユニット』と呼ばれるサイオン干渉装置で魔法と同じ感覚で見て念じるだけで起動式、魔法式を破壊することができるようになった。」

 

「へぇ〜・・ホウ、試しに魔法使ってみて」

 

「了解っす」

 

ホウが魔法を発動しエコーが壊してみるようだ。

ピッピッ・・CADを操作し起動式が展開される。

そしてパキン!エコーによって起動式が破壊される。

アーキンは素直に賞賛する。

 

「ほぉ〜サイオンを使わずにこれはすごいですね。他にも機能はあるのですか?」

 

清夜の解説が続く。

 

「耐熱、緩衝、対BC兵器、強力なパワーアシストもついてる。防御力で言えば銃弾はもとより戦車の砲撃も防げる仕様だ。少し痛いけどね。そしてこれがこの装備の最大の機能、魔法の”対象にならない”機能だ。」

 

最後機能にエレン以外の全員が驚く。

いつも落ち着いている翠も冷静にはいられなかった。

 

「”対象にならない”ってことは魔法が”効かない”ってことですか!?それに”戦車の砲撃も防げる”って・・それこそ魔法でなければ防げません!!一体どうやって!?」

 

そこで我に戻り恥ずかしがりながら頭をさげた。

清夜は手で制して翠の無礼を許す。

 

「無理もない反応だね。これは装備に使われている素材の力だ。」

 

ここでエレンが初めて質問する。

 

「私の『ペン・ドラゴン』、カレンの『メドラウト』そしてアイクの『メルディン』もAMS-04(アムス04)と”ほとんど”同じ機能ですが一体何を使っているのですか?そろそろ教えてくれませんか?」

 

清夜は少し考え込み答える。

 

「・・いいだろう。この装備は俺のもう一つのBS魔法『未元物質(ダークマター)』で生み出した素材で出来ている。」

 

「「「「「「未元物質(ダークマター)?」」」」」」

 

声がきれいに揃う一同。

清夜は初めて他人に『未元物質(ダークマター)』について教える。

 

「そうだこの魔法は”理論上ですらこの世に存在しない物質を生み出す”魔法だ。本来、この世のすべての物、事象にはサイオンで構成されたエイドスという情報体がついている。俺たち魔法師はこのエイドスを改変するわけだがこの魔法で生み出した物質は元々存在しないためエイドスがついてない。」

 

解説が多すぎたせいか清夜は一度、間をあけてから続ける

 

「よって物理法則に縛られず独自の法則が働き防御力が高くなる。魔法についても閉じた箱の中身が分からないのと同じで未元物質(ダークマター)というエイドスがない物に覆われているから他人には装着者のエイドスは分からず魔法の対象にならないというわけだ。」

 

今度はホウが質問する。

 

「ということは、この装備は魔法を装備してるのと同じだから・・時間制限があるってことっすか?」

 

「たしかに世界には時間的連続性を保とうとする修復力があるため、魔法式が”永続的に作用することはない”。だが『未元物質(ダークマター)』はエイドスがないうえに物質として事実、世界に存在してしまっているため私が消さない限り”永続的に存在し続ける”。だから時間制限の心配はない。」

 

清夜は手で『未元物質(ダークマター)』を出したり消したりとデモンストレーションする。

清夜以外の6人は口をポカンと開けている。

無理もない、要約すれば”魔法が効かないし独自の法則で高性能になるし、なにより魔法が永続的に作用する”という魔法の常識を覆すことなのだから。

 

ポカンとする6人、最初に口を動かしたのはエコーだった。

 

「ま、まぁ装備についてはよく分かったぜ・・。それでこんな装備させて部隊って言うんだ。部隊の名前とかあるのか?」

 

「あぁ。これから先、我々は魔法師と戦うことがあるだろう。だから対魔法装備も用意した。だが本来”一般人”が部隊を持つことはありえない。以上のことからこの部隊の名前は『対魔法師部隊Nameless(名無し)』とする。」

 

その後、新装備のテストを含めた訓練が始まった。

 

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2092年 8月11日 日本 新潟 佐渡 某所

 

『アイザック・ウェストコット』に変身した清夜は商談なのになぜか基地ではなく料亭にいた。

 

「では商談は成立ということで・・これからもDEMをよろしくお願いします。」

 

そして頭を下げるアイク(清夜)

頭を下げた先には中高年ぐらいの女性がいた。

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします。DEMの武器は我々も高く評価していますから」

 

この白髪の女性こそ軍の民間企業派の筆頭格である佐伯少将。

一見、優しい校長先生に見えるが参謀として色々な敵と知能で渡り合った強者である。

ゆえに味方といえど油断できない。

佐伯少将は先日のコンペに話を移す。

 

「先日のコンペも含め感謝しなければなりませんね。ありがとうございました。佐々木”元”大佐が失脚したおかげで十師族派の勢いが一気に弱くなりました。あなたは武器商よりも軍で参謀してるほうがむいてますよ。」

 

アイク(清夜)は呆れ顔の”演技”で嘘を言う。

 

「九島閣下も勘違いされていましたが私がやったのは他国に武器を売って情報をリークさせた”だけ”ですよ?私そんな悪人に見えますかね?」

 

佐伯少将は人の悪い笑顔をしている。

『そういうことにしときましょう。』というつもりらしい。この人もなかなかの悪人である。

 

「ふふふ・・そんなつもりではなかったのですがね。・・ん?九島閣下がいたのですか?」

 

「えぇ私と話がしてみたいとかで三矢さんと駆けつけてきました。まぁ嘘だとは思いますが」

 

だが佐伯少将は考える素振りをしてブツブツと呟く。

 

「いやそうではない・・・やはり閣下も・・・考えてる・・・ブツブツ・・」

 

佐伯少将が自分の世界に入ってしまったのでアイク(清夜)は疑問をぶつける。

 

「そういえば・・なぜこのような基地とは正反対の場所で話を?」

 

佐伯少将が我に戻る

 

「これは失礼を・・それでここはお気に召しませんでしたか?」

 

「いえ。ですがこのような場所での商談は初めてですから。」

 

佐伯少将は理由を話すことにした。

 

「・・・私の直感にすぎませんがここ最近、佐渡の軍内部で不穏な雰囲気でして・・その調査の関係でここにきました。ミスターにはここまでご足労してもらい申し訳ありません。」

 

「いえ、大丈夫です。・・そうですか佐渡”も”ですか・・」

 

ここで佐伯少将は”も”という発言に気づく。

やはり参謀少将は伊達ではない。

 

「!!・・”も”というのは?」

 

「えぇ・・私も武器商の直感にすぎませんが沖縄の『取り残された血統(レフト・ブラッド)』の様子が変でして・・もしかしたら何かをしでかすかも・・・」

 

ドーン!!ドカーン!!

 

「「!?」」

 

とそこにタイミングを狙ったかのように音が響く。

しかも普通の音ではない、あきらかに砲撃や爆弾といった武器の音だった。

 

この音が島中に響き渡るドラの音として”開戦”をつげる・・




まぁ結局二つ目のBS魔法も”とある”要素ですね。
次回は完成しているのですが、主人公とか『マーリン』の装備とか描いてみたいので少し間隔が空くかもしれません。

次回をお楽しみに!!

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11話 Prince of Darkness&Crimson Prince

11話です!!
UAが一万!!お気に入りが百を超えたゾォォォ!!

読んでくださった皆様、感想、質問くださった皆様、お気に入りにしてくださった皆様
本当にッ!!ありがとうございますッッッッッ!

今回はクリームチーズがでます!!
えっ?クリムゾン・プリンス?いや知らんよ・・
作者とオリ主はクリムゾンよりスカーレットの方が好きだし・・・
あっでもキング・クリムゾンは好きですよ

それではどうぞ!!



2092年 8月11日 日本 新潟 佐渡 料亭前

 

後に『新ソ連の佐渡侵攻作戦』と言われる戦いの幕が切って落とされた。

 

佐渡島内は大混乱に陥っていた。

 

ワー!!

キャー!!

ドカーン!!

バババッバババ!!

 

島の彼方此方で火の手があがり、人々が逃げ惑う。

アイク(清夜)は別室に待機していたエレン達と合流し、佐伯少将と外にでた。

翠と藍はアイク(清夜)にぴったりついて護衛する。

佐伯少将はすぐさま基地にいた部下と連絡を取る。

だが部下の報告は想像を絶するものだった。

 

「なに!?軍艦5隻が島の近くまで!?・・軍内部からもゲリラが!?それで基地は・・・占拠された!?基地指揮官も死亡ですって!?・・そう・・一条殿が義勇軍を・・それであなたは今どこに?・・・分かりました私の所まで来て合流を・・!?」

 

「佐伯少将!!危ない!!」

 

通信終了間際でアイク(清夜)が佐伯少将を抱え物陰に隠れる。

 

ババッバババ!!

 

その直後、先ほどまで佐伯少将が立っていた場所に銃弾が飛んできた。

銃弾が飛んできた方向を見ると軍服を着た5人の男達がいた。

どうやら裏切り者のようである。

男達の一人が叫ぶ。

 

「逆賊、佐伯広海!!覚悟!!」

 

「裏切り者はテメェらだろうが!!」

 

 

エコーがそう叫ぶと

 

バババババ!!

 

エコーとアーキンの拳銃、翠のアサルトライフルが男達を撃ち殺した。

そしてアイク(清夜)が佐伯少将の無事の確認をする。

 

「佐伯少将、無事ですか?」

 

「え、・・えぇなんとか。助かりましたミスター」

 

不穏な雰囲気を疑っていた佐伯少将だが、やはり信じらない状況だったらしく冷静を取り戻すのに時間がかかった。

アイク(清夜)は佐伯少将と今後の確認をする。

 

「佐伯少将、これからどうします?」

 

「私はこれから生き残った兵士を集めて防衛線の構築と民間人の脱出を指揮します。それで・・・大変わがままののですがミスターにお願いが・・・」

 

「なんでしょうか?」

 

佐伯少将は一瞬固まり考える。

民間企業に、ましては武器商に借しを作ってしまっていいのかと・・

だがそんな考えも民間人の命と比べれば吹き飛んでしまう。

 

「民間人の脱出・・いや防衛線構築までで構いません!!どうか戦闘の手を貸していただきたい!!」

 

無理も承知だった。断られるのも覚悟していた。

無意識に目を閉じ懇願した佐伯少将に意外な回答が返ってきた。

 

「フフーフン♪わかりました。我々は個別でできる限り遊撃をさせてもらいます。」

 

「アイク!!」

 

もちろんエレンから反対の声があがる

だがアイク(清夜)は反論する。

 

「でもさぁ元デルタフォース組はやる気満々だよ。それに”私とエレン”以外は船じゃないと脱出できないし」

 

アーキン、ホウ、エコーは平然と戦っていた。

 

「とにかく武装して移動しませんか?」

 

アーキンは殺傷力を高めた放出系魔法『スパーク』で敵を感電させ

 

「いやぁ〜敵多いっす。」

 

ホウは拳銃で敵を撃ち殺して

 

「まったく民間人をやりすぎだぜ敵さんは、・・んでどうすんだ夜坊?」

 

エコーは移動系魔法『ランチャー』で敵を吹き飛ばしている

翠と藍はというとキョフフフ、ヒョヒョと笑いながら周辺警戒をしている。

エレンは怒りを通り越して呆れていた。

 

「まぁ装備テストだと思えばいいでしょう・・最悪私が一掃しますよ・・」

 

アイク(清夜)も呆れ顔で言う。

 

「もう〜できる限り戦うしかないでしょ。各々武装してから移動するよ。」

 

そして思考通信でこう続けた

 

『まだ新装備はつけるなよ。』

『『『『『『了解』』』』』』

 

そうしてアイク(清夜)達は行動を開始した。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2092年 8月11日 日本 新潟 佐渡中央 某所

 

普段ならば歓声溢れる佐渡の市街地でも戦闘が行われていた。

ゲリラ15人と上陸部隊35人に対するは一条剛毅率いる義勇軍10人

状況はかなり悪く、後退しながらの戦闘を余儀なくされていた。

義勇軍の一人が進言する

 

「剛毅殿!!もう一度後退して体制を整えましょう!!」

 

そう言われるのは肌黒の一見、海の男のような男は一条剛毅。十師族の一つ一条家の当主である。

 

「やめろ!もうこれで3回目だ!これ以上下がっても民間人をさらに死なすだけだ!酒井大佐も増援を集めている!耐えるんだ!」

 

 

後ろにはまだ民間人が数人いた。

本当ならばもう少しいた。だがそれもゲリラや上陸した兵が嬉々と殺していった。

苦戦はしているがこれでも20人近くは減らした。

しかしその分、義勇兵もやられていた。

敵の戦術はこうだ。

 

まずゲリラの部隊が鶴翼の陣のように義勇軍を半包囲し

軍事物資アンティナイトを使い無意味なサイオン波を大量に散布することで、魔法式がエイドスに働きかけるプロセスを阻害する魔法『キャスト・ジャミング』で義勇軍の魔法を封じる。

その間に『キャスト・ジャミング』の範囲外から上陸部隊の魔法師が瓦礫を飛ばしたりグレネードで攻撃。

 

この戦術で15人やられた。

別に魔法が使えないわけでもない。

剛毅などが的を一人にしぼり干渉力最大にした魔法で敵を倒している。

だがジリ貧なのは目に見えていた。

そこに一人の少年が前に出る。

 

「親父!!俺も前衛にでるぞ!!」

 

味方と敵の血に濡れたこの美少年、剛毅の息子で一条家の次期当主の一条将輝。

のちに『クリムゾン・プリンス(血に濡れた王子)』と呼ばれる人物である。

 

もちろん剛毅は彼を止める。

 

「落ち着け!!先走れば敵の思う壺だぞ!」

 

将輝は制止を振り切り突撃する。

しかし敵に近づけば『キャスト・ジャミング』の影響も強く受ける。

勢いが急激になくなり静止してしまう将輝

 

「うぉおお!!・・ぐぁ・・頭が・・」

 

「将輝!!」

 

止まった将輝は敵にとって格好の的だった。

敵は嬉々として銃を構える

 

「バカなガキだ!死ねぇ!!」

 

剛毅は走る。

一条家当主ではなく”親として息子を守る”ために

だが距離的に間に合うわけがない。

敵が引き金を引こうとした瞬間、救いの手が届く。

 

バキュッ!!バキュッ!!バキュッ!!

 

敵の頭が撃ち抜かれたのだ。しかも剛毅を狙った敵も頭を撃ち抜かれた。

敵は周囲を探る。

 

「どこからだ!?スナイパーはどこnうぼぇぁ!!」

 

ザシュ!!パパン!!ザシュ!!ザシュ!!パン!パン!

 

突然白髪の男が現れナイフで敵の首を切り裂く。

その後、飛んでくる銃弾を斬り殺した男の死体でガードし、拳銃で敵一人撃ち殺す。

すると敵が二人がかりで襲いかかってきたので逆に敵の首を刺して返り討ちにする。

最後に構えようとした敵二人を銃で撃ち殺した。

 

そうして1分とかからず敵の6人が一人の防弾装備をした白髪の男にナイフ、拳銃で殺された。

 

「一度後退を・・」

 

残り6人となったゲリラが一度後退しようとした時

 

ドカーーン!!ドカーーン!!

 

今度は後ろで爆発の音が聞こえた。

そこに後ろからの通信が入る。

 

『た、助けてくれ!!スナイパーが味方の装備の爆弾を狙って撃ってくる!!もう2回の爆発で20人はやられた!あ、お、女だ!!女が”素手で”斬り殺して、ぎぃゃーーーーー!!』

 

ゲリラ達は状況が逆転された恐怖でパニックになる。

 

「ひぃええええええ、逃げましょう!!」

 

「落ち着け!!『キャスト・ジャミング』の出力をあげて集中射撃だ!!」

 

ゲリラ達は逃げ腰ながら出力をあげようとした。

白髮の男が冷酷に声をあげる。

 

「『キャスト・ジャミング』の出力はもう落ちている・・・殺せ・・」

 

そう言うと後ろから茶髪の少女と黒髪の少女が出てくる。

 

スパーーン!!バババババ!!

 

黒髪の少女は殺傷力を高めた『鎌鼬』で茶髪の少女はアサルトライフルで

残りの6人を斬り殺し、撃ち殺した。

 

黒髪の少女は終了を確認して言う。

 

「クリア」

 

白髪の男は仲間と通信していた。

 

「そうか、そっちも終わったか。それじゃエレン達4人はこっちに合流して」

 

将輝は思った。

 

(50人はいたんだぞ!?それをたった7人で!?『クリア』って・・まるで掃除でもしたと思っているのか!?)

 

心までは読めないものの剛毅達義勇軍も同じことを思っているのが目に見えていた。

剛毅は重い口を開けて聞いた。

 

「あ、あなた達は・・?」

 

「あぁ、申し遅れました。私は『アイザック・レイ・ペラム・ウェストコット』というものです。Deus Ex Machina Industryの社長をしています。現在は佐伯少将に頼まれて戦闘に手を貸しています。」

 

なんと救援の正体はアイク(清夜)達だった。

剛毅達は驚く。

 

「DEM Industryでしたか・・」

 

「えぇ、まぁ遊撃のために移動していたら発見したので・・それよりも現在、基地とは反対のところで佐伯少将が防衛線構築の指揮を取っています。あなた達も合流を。それでは失礼」

 

そうしてアイク(清夜)は作り笑顔で立ち去ろうとする。

だが剛毅はとめる。

 

「どちらに行かれるのですか!?」

 

「フフーフン♪これから基地の方に出向いて、味方増援が来るまで基地を橋頭堡(海などの岸近くで、渡って来た部隊を守り、以後の攻撃の足場とする地点。)にさせないためにツツきに行くんですよ。」

 

「無謀だ!!わ、我々も一緒に・・」

 

「俺もついてく!!一条家の次期当主だから!!」

 

だが剛毅と同い年の将輝の提案もアイク(清夜)は笑顔から冷たい目でバッサリ切り捨てる

 

「断る。あなた方を連れて行っても足手まといだ・・さっさと”消えろ”」

 

本来なら十師族に対してあるまじき行為かもしれないが、先ほどの戦闘を見た剛毅や義勇兵はグゥの音もでなかった。

将輝以外は・・

 

「いやだ!!俺にも手伝わせてくれ!!」

 

ドガッ!!

 

アイク(清夜)は将輝を蹴り飛ばす

 

「ぐぁ!!」

 

「お前のような三流猪武者を連れたとこで私の部下を死なすだけだ。・・”消えろ”」

 

しまいには将輝に殺意をぶつけるアイク(清夜)

将輝は恐怖で何も言えなくなり、ただアイク(清夜)を見送ることしかできなかった。




どうでしたか!?えっ戦闘が3話と比べて雑?
次からは努力します・・ご期待に添えられるかはわかりませんが・・
あと素手で斬り殺したのはエレンで自身が開発した分子ディバイダーを使っています

主人公の絵と CRユニット『マーリン』完成しました!
ただ『マーリン』に関しては書いた後に?マークが出てしまいました。『マーリン』を載せるかは考えときます・・主人公に関しては入学編の最初に出そうかと・・

次回、佐渡防衛戦最終話!!お楽しみに!!

「これはダメじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。
感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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12話 三つの光

12話でーす!
佐渡防衛戦編の最終話になります。

今回は一言で言えば無双です!
そして清夜に異変が・・

マーリンに関してはマイページで公開しました
見る人は暖かい目で見てください 色々とバランスがおかしいので・・・


2092年 8月11日 日本 新潟 佐渡 基地近く

 

アイク(清夜)達は新装備の『メルディン』、『ペン・ドラゴン』、『AMS-04(アムス04)』を各々装備して身を隠していた。

 

アイク(清夜)は部下に問う。

 

「それじゃ、これから基地をツツこうと思うんだけど・・覚悟はいい?」

 

エレンが呆れながら返す

 

「どうせ基地の全員を殺すんでしょう?わかってますよ」

 

翠と藍は礼儀正しく返す。

 

「「どこまでも お側に」」

 

エコー、アーキン、ホウは笑みを浮かべはするが任務の時と同じ真剣そのものだった。

 

「あぁ弾薬も余裕であるぜ。夜坊」

 

「敵さんはこちらに気づいてないようですし、ボーナスも出るので頑張りますよ。」

 

「装備に異常はないっす」

 

ただし皆、”狩人のように目が光っていた”。

と、ここでエコーが追加注文をする。

 

「そうだ夜坊。注文がある。」

 

「なに?エコー」

 

すると突然アイク(清夜)の頭をグリグリと力強く撫でるエコー

 

「いだだ!!、なんだよ?」

 

「俺たちは金で雇われているが、金のためにお前について行っているわけじゃねぇんだよ。バカ。それとこれはココにも言ったが威圧的に喚いてないで、”いつも笑っているべきだ”。お前はまだガキだが一流のボスっていうのはそれぐらい太々しく構えられるもんだ。さっきの同い年くらいの子供を蹴っ飛ばした時から余裕が感じられないぜ。」

 

「ふ〜・・そうだね」

 

エコーには一生敵わないなと観念すると”余裕の笑みを作って”作戦を伝える。

 

「よし、作戦を伝える・・まずは熱光学迷彩で隠れて・・」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2092年 8月11日 日本 新潟 佐渡 基地

 

占領された佐渡基地では上陸した兵達によって着々と橋頭堡となりつつあった。

基地の二つの門のうち一つを担当していた門番は退屈していた。

 

「暇だな〜俺も前線にいって敵を殺したかったぜ。」

 

「ぼやくな。上官にバレたら二人まとめて罰をくらうぞ。」

 

「んなこと言ったてよ〜・・・なんだ!?」

 

門番が横を向くと ついさっきまで話していた相方の男の”首が切り落とされていたのだ”。

『ペン・ドラゴン』を装備したエレンによって。

そしてボヤいていた男もエレンのレーザーブレードで斬り殺される。

そこで異変に気付いたのか兵士達30人近くが銃を構えてやってくる。

 

「何者だ!?」

 

「撃て撃てーー!!」

 

ババババッバ!!

 

エレンめがけて一斉射撃をする敵兵士。

だがどれだけ撃ってもひるまずに歩いてくる。

敵はまるで紙くずでも投げているような感覚だった。

エレンは言う

 

「まったく・・こんなものでは傷一つつけられませんよ。」

 

「な、なんなんだ!?魔法を使え!!」

 

さらに敵が20人ほど増えて、そのうち数人が加重系統などの魔法を試みるが

 

「魔法が効きません!!エラーになります!」

 

「テストもこれぐらいでいいでしょう。私も攻撃をさせてもらいますよ。」

 

エレンはCADを操作すると空気を圧縮し破裂させ爆風を一方向に当てる収束系魔法 「偏倚解放」を殺傷力最大で発動する。

 

圧縮され解放された空気の爆発が敵を襲う。

 

「「「ぐぁーーーーー!!」」」

 

今の爆発だけで35人近くが死んだ。

魔法師だと分かったのか今度は『キャスト・ジャミング』で魔法を封じようとする。

 

「キャスト・ジャミングだ!!キャ、ボグワァ!!」

 

バキューン!!バキューン!!バキューン!!バキューン!!

 

しかし『キャスト・ジャミング』を発動しようとした兵士は全員狙撃で頭を撃ち抜かれる。

スナイパーはエコーだった。

エコーはアーキンとホウを護衛と観測手として高台に連れ熱光学迷彩で隠れていたのだ。

エコー達からの思考通信が入る

 

『無事か?』

 

『えぇ、お疲れ様です。エコー達はこのまま『キャスト・ジャミング』する敵と逃げる敵の始末をお願いします。』

 

『了解っす』

 

するとエレンの目に直立戦車の姿が3台確認された。

 

「私を相手に立ち向かう勇気は買いましょう。ですがもう面倒です。これで決めます!!」

 

エレンは重戦術級魔法の振動系領域加速・放出魔法「マイクロ・ヒート」を基地の半分を領域と指定し発動する。

 

「「「「うぐおぼいおぇ」」」」

 

パァン!!パァン!!パァン!!ドカーン!!

 

「マイクロ・ヒート」の領域にいた人間はポップコーンのように破裂し、戦車などの機械は内側からボコボコと膨らみ爆発した。

 

この魔法は自然に放出されているマイクロ波を高周波に変え短いサイクルで直接、照射し破壊する魔法。簡単に言えば高出力の電子レンジである。

 

対象はあくまでもマイクロ波のため自分の状態(エイドス)をそのまま魔法式で投射して改変を防ぐ対抗魔法『情報強化』も効かない。

 

領域を広げればそのまま戦略級になるエレンがもっとも得意とする魔法である。

 

静かになったと思ったが反対側から悲鳴が聞こえ”黒い竜巻”が見えた。

エレンは安堵した。

 

「どうやらあちらも終わったようですね」

 

時間はエレンが突入したあたりに戻る。

 

エレンが突入した場所とは反対の所でも敵にとっての悲劇が始まっていた。

そこには『メルディン』を纏ったアイク(清夜)の姿があった。

 

作戦自体はエレン達と変わらない。アイク(清夜)が正面から突入し、翠を狙撃手、藍を観測手とした狙撃チームでAMS-04(アムス04)の熱光学迷彩で隠れて援護狙撃で殲滅というものだった。

 

敵はすぐに魔法師と見抜いたのか対応に出た60人のうち20人ほどが『キャスト・ジャミング』を発動する。

しかしアイク(清夜)の干渉力の前では無意味だった。

 

「「「「「ぐべはぁ!!」」」」」

 

アイク(清夜)の加重系魔法『心臓潰し(ハートプレス)』が『キャスト・ジャミング』を使う敵10人の心臓を潰す。

『キャスト・ジャミング』が効かないことに驚く敵。

 

「ば、化け物・・・」

 

「怯えるな!!これだけの数だ!!撃ち殺せる!!魔法も使え!!」

 

バババッババババッバッバ!!

 

エレンの時と同じように一斉射撃、魔法を発動する敵。

するとアイク(清夜)が装備している『メルディン』の背中の二つのタンクから銀色の液体と黒い粉が出てきた。

銀色の液体は彼の周りを飛び交い

 

キンッ!!キンッ!!キンッ!!キンッ!!

 

と、まるで意志があるかのように射線の間に入り全ての銃弾を防いでしまう。

そしてアイク(清夜)に直接かける魔法も当然『未元物質』で対象にならずエラーになる。

銃弾を防いだ魔法は以前に黒川春奈を拘束した時と同じ魔法。

BS魔法を使った水銀を操る『Hgイリュージョン』である。

 

そして黒い粉は敵の方に飛んでいくと、全ての物切り裂いていった。

 

「ぎゃーー!!」

 

「あ、あの黒い粉に触るな!!切られるぞ!!」

 

飛んでいる粉は砂鉄であり、それも超高速で振動しながら動いている。

この魔法は『Hgイリュージョン』と同じ『電気を自在に発生、操作できる』方のBS魔法の応用で

磁力操作で砂鉄を操り敵を斬り殺す魔法『Iron sand blade(砂鉄剣)』である。

 

触るなというのも『Iron sand blade(砂鉄剣)』が車より速い速度で飛んでいる限り無理な話である。

 

「嫌だーーーーひぃぃぃぃぃーーーー!!」

 

スパーン!!また一人、二人と斬られていく

 

「応援はどうした!?この基地に350人は配置されてるはずだろ!?」

 

「それが反対でも侵入者が!」

 

「じゃあ直立戦車だ!!とにかく全ての兵器、魔法を使ってでもこの化け物をつぶぇげぁ!!」

 

ブバァッ!!

 

指示していた男はビームのようなもので撃ち抜かれた。

 

このビームもBS魔法を使った魔法『粒機波形高速砲』

極めて雑な表現をすると全身からビームを放つ魔法である

 

正確に説明すると、まず『粒子』又は『波形』のどちらかの性質を状況に応じて示す電子を『電気使い』のBS魔法でその二つの中間である『曖昧なまま』の状態に固定する。そしてこの『粒子』にも『波形』にもなれない電子に『留まる』性質を持たせる。 この「留まる」性質により質量を持たない電子が擬似的な「壁」となり、『曖昧なまま固定された電子』を強制的に動かし、電子を白く輝く光として放たれた速度のまま対象に叩きつける魔法である。

 

機械兵器すら紙のように容易く貫き溶解させる程の威力を持つ

アイク(清夜)の”切り札のひとつ”である。

 

 

仲間の死体に怯える敵兵士

 

「ひっ!!ひぃーにげ・・うぐぉ!!」

 

パーン!!

 

逃げ出そうとした男も翠の狙撃で撃ち殺される。

 

「も、もう無理だ・・と、とうk、ぎぃいいいいやーーーー!!」

 

ズパッ!!

 

投降の意志を示そうする男も喉を、腕を斬られ殺される。

突入してから始めて喋るアイク(清夜)

 

『翠、藍。二人ともご苦労。そのまま援護頼む。』

 

『かしこまりました』

 

『ご主人様もお気をつけて』

 

アイク(清夜)はレームの教えを思い出した。

 

(そう・・俺たちは殺し合いはしない、するのは一方的な殺しだけだ。)

 

とそこで直立戦車が10台現れ砲撃をしかける。

 

ドーン!!ドカーン!!

 

決まったかと思われた。だが煙が晴れると無傷で立ち尽くすアイク(清夜)がいた

突然、向こう側が赤く光る。

アイク(清夜)はそれがエレンの魔法だと分かった。

 

「そうかエレンは終わらせたのか。ならばこちらも終わらせなければいけないね。」

 

アイク(清夜)の周りに電撃が走る。

すると基地の周辺から黒い雲みたいのが現れる。

いや雲ではない、砂鉄だ。

アイク(清夜)は基地を丸ごと覆えそうなほどの砂鉄を集めたのだ。

敵は叫ぶ

 

「そ、総員退避ーーーー!!」

 

ズザザザザザザザザザザザ!!

 

これももちろん間に合わない。

アイク(清夜)の重戦術級魔法「デス・ストーム・ミキサー」が襲いかかる。

大量の砂鉄が超高速で振動しながら竜巻になって直立戦車すらも飲み込む。

そしてミキサーの名の通り戦車も人間もミンチにしてしまった。

 

最終的に350人いた基地に残ったのは破裂やミンチになった死体、戦車などの残骸だけだった。

 

 

 

どのように情報が知れ渡ったかは不明だが

後に世界はDEMの彼らを次のように呼んだ

 

魔法が効かない魔法師「Anti・Wizard(アンチ・ウィザード)」と

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2092年 8月11日 日本 新潟 佐渡 防衛線仮設司令部

 

佐伯少将は高台にある灯台から基地の様子を見ていた。

基地全てが分かるわけではないが赤い光と黒い竜巻は見えていた。

 

「一体、基地で何が起こっているの・・・」

 

驚愕している佐伯少将の元に部下からの報告が入る。

 

「佐伯少将!!一条殿が戦場を回り義勇兵をひとつにまとめてくれました!!その数80!そして無事、我らが陣営に合流しました!それで・・」

 

一瞬報告を戸惑う兵士。

佐伯少将が問う?

 

「なにかありましたか?」

 

「はっ!!なんでも一条殿はDEMの救援をうけたらしいのですが・・その後DEMの方々は基地を攻撃にしに行ったとのことです」

 

「なっ!?まさか先ほどの光と竜巻は・・・本当に何者なんですか・・」

 

だが佐伯少将はこうも考える。

 

(もう戦争は魔法で決まる時代なのね・・これを見ると益々思う・・十師族に頼らない魔法師の特殊部隊が必要だと)

 

佐伯少将は後に作られる『独立魔装大隊』について思案を巡らせる。

そこにもう一人の兵士が現れ報告する。

 

「さ、佐伯少将!!敵艦3隻が増援で現れました。しかもすでにいた艦隊は島全体に向けての砲撃準備を始めたそうです!!」

 

「なんですって!?すぐにMr.ウェストコットに通信をつなげなさい!!」

 

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2092年 8月11日 日本 新潟 佐渡 基地

 

アイク(清夜)達は全員集合して防衛線に撤退する準備を始めていた。

 

「国防軍に十分借りを作れたし帰りますか。」

 

「「「「「「了解」」」」」」

 

そこに通信が入る。

 

『ミスター!!聞こえますか!?』

 

「えぇ聞こえますよ。基地の方は・・」

 

『基地の近くに増援3隻が現れました!!しかもすでにいた艦隊は島全体に向けての砲撃準備を始めました。今すぐ退避を!!』

 

「っ!?了解!!」

 

エレンは声をあげて進言する。

 

「あれだけの数じゃ逃げても隠れても意味がありません!!私がすでにいる艦を『ヘイル・ハンマー』で一掃します!!」

 

アイク(清夜)はエコーに目を向けて意見を求める。

 

「俺も同じ意見だ。エレンの戦略級魔法で減らせるならそうした方がいい。」

 

「よし!!翠と藍とホウはエレンについて戦略級魔法発動まで護衛しろ!!エコー、アーキンは俺について周辺警戒!!」

 

「「「「「「了解」」」」」」

 

エレン達が岸に移動し始めたのを見てアイク(清夜)達も行動を開始する。

だが異常はすぐに見えた。

10歳ぐらいの女の子が敵兵士の男に連れ去られているのだ。

 

「おらぁ!!こい!!」

 

「お兄ちゃん助けて、助けて!!」

 

少女はアイク(清夜)達に気づいたわけではない。

ただただ自分の兄が助けてくれると願っているのだ。

アイク(清夜)にはどうしても、その少女が冬華に見えてならなかった。

アイク(清夜)は男に銃を向ける

 

「銃をおいt」

 

ドカーン!!

 

敵も少女もアイク(清夜)達に気付くことはなかった。

艦の試し打ちだったのだろうか。

少女達の近くに砲撃が直撃した。

アイク(清夜)達も風圧で倒れてしまう。

アイク(清夜)は震えだす。

アイク(清夜)にとって倒れたことはどうでもよかった。

問題は冬華に見えた少女が死んでしまったことにあった。

 

「ぁあ・・・あああああああああああああああああああ!!」

 

「落ち着け!!夜坊!」

 

「ボス!!聞こえますか!?ボス!!」

 

だがその声も彼には届かない。

 

ししししししし死んだ?ま、またまままま守れなかったたた?なにが?しょsっhそhそほしょしょしょ少女ぉぉおぉぉぉぉおぉx?ふふふふ冬華をををを、?俺ははははっはあっっはまた?よっよよよ弱い。意味がががっががフユ華・・・イミががががががががががあっぐぁわわわkkkkkkkkkkkkkkkkkrrnrr$&#)("0#))$0$|{$%&#hh/!!!!hhhhh#>K__"#$"&&%9^/lbgh

 

 

彼の中で何かが起動した・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

D&%~=○!s □x  M&&%ina System 起動

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイク(清夜)は再起動でもしたかのようにプツンと気絶してから起き上がる。

エコーとアーキンが様子を見てみるがアイク(清夜)の目は赤くなるが焦点はあってなく、どこかおぼろげだった。

エコーがアイク(清夜)に呼びかける。

 

「お、おい夜坊?・・・大丈夫か?」

 

「世界を・・・壊す・・・行動・・開始」

 

「どこに行くんです!?ボス!!」

 

ロボットのように生気のない声をあげると増援に来た艦の近くの岸に向かって走り出した。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2092年 8月11日 日本 新潟 佐渡 岸

 

エレンはすでに戦略魔法発動の準備が完了していた。

発動する魔法は収束・振動系減速魔法『ヘイル・ハンマー』

妹のカレン・N(ノーラ)・メイザースが得意とする魔法

標的の上空に収束魔法で海水を集め振動系減速魔法で巨大な氷塊に変えて落とす。

戦略級と言われる理由は船の被害にある。

 

氷塊だけでも被害は大きいのだが、まず大量の海水を集める時点で船を転覆させることができ、落とした後にも大きな波でより多くの船を転覆させることができるのがこの魔法の恐ろしさである。

 

「発動します!!三人とも周囲を警戒してください!!」

 

「「「了解」」」

 

とうとう『ヘイル・ハンマー』が発動される。

 

ドパーン!!

 

まず1隻が海水を集める段階で転覆する。

そして集めた海水を氷塊に変える段階で藍が異変に気付く。

 

「ヒョ?あそこにいるのはご主人様じゃない?」

 

「本当です!藍ちゃん!ご主人様もエコーさんたちもいる」

 

「本当っす!なにをするんすかね?」

 

エレンもつられて三人が向いてるほうを向く。

するとそこには確かにアイク(清夜)の姿があった。

 

「アイク!?なにを・・ええい!!どちらにせよ、もう発動しているので今は魔法に集中させてもらいますよ!」

 

 

 

その頃アイク(清夜)は・・

アイク(清夜)は岸に着くやいなや増援に来た艦に照準を合わせ魔法を発動する。

 

「ターゲット・・・ロック・・オン」

 

「な、なんだ!?敵艦に魔法を発動するのか!?おい夜坊!!・・ええい、とりあえず発動するまで護衛するぞアーキン!!」

 

「了解です!」

 

アイク(清夜)の発動する魔法は「電子爆散(エレクトロン・バースト)

 

この魔法はアイク(清夜)の『粒機波形高速砲』の応用

まず標的の上空で領域魔法「ムスペルムヘイム」を使い気体分子から大量に電子を取り出し、『粒機波形高速砲』で電子を光線ではなく全方位に放ち溶かし消す。

 

簡単に言えばその光に飲まれれば、あらゆる物が溶けてなくなるということだ。

 

 

ブバァ!!

 

 

電子爆散(エレクトロン・バースト)」の光球が増援の艦3隻を溶かし尽くす。

 

ドカーーン!!ドバー!!

 

それと同時にエレンの『ヘイル・ハンマー』が振り下ろされ艦2隻に直撃破壊され、落ちた時の波で残りの艦2隻は転覆する。

 

すべての艦が落とされたこの瞬間、佐渡防衛戦勝利が確定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

排除完了。ダメージ0、次の標的のせんてeeeee%#&"$$%&!!~?/<$#$"<・・・・・冬華・・・・

 

プツン!!

 

 

 

 

 

 

 

それと同時にアイク(清夜)は涙を流しながら気絶する。

エコーとアーキンは抱きとめ起こそうとする。

 

「お、おい夜坊!!・・・どうしたんだよ本当に・・」

 

「ん?何かつぶやいてますよ、エコー」

 

エコーは耳を傾けてみるとこう聞こえた。

 

「ごめん、冬華・・・・ごめん、冬華・・・ごめん、冬華」

 

アイク(清夜)は起きるまで、そうつぶやいていた・・・・

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

この1年後に佐伯少将は今回の戦闘をこうまとめる。

 

 

              報告書

 

・・・・・・・・・・(省略)

 

生き残った兵士、DEM、一条率いる義勇軍、酒井大佐の増援の奮闘により佐渡防衛線が構築された

 

基地にいた敵が全滅していた件については不明。

調書は取っていないが噂ではアイザック・ウェストコットが全滅させたと言われ、彼を世界最強の魔法師と呼ぶ者まで現れている。

 

その後増援の艦が3隻現れたが何者かによって全艦沈没

 

全艦の沈没後、一条家の一条剛毅、将輝の活躍により敵残党は確保、排除され佐渡防衛戦は終了

 

また沖縄も同日に大亜連合による襲撃を受けたもののこれを撃退する。

 

なお、この両戦闘において、同日同時刻に佐渡で二つ、沖縄で一つ、合計3つの光が見られた。

 

一つ目は佐渡で氷塊を落下させたことによる艦の爆発の光

二つ目は佐渡に来た艦の増援を滅ぼした光

三つ目は沖縄に現れた艦隊を滅ぼした光

 

いずれも魔法によるものと見られる。

一つ目の氷塊を落下させた魔法は先代シリウスが使っていた魔法と思われるが先代シリウスは死んだとされているため使用者は不明である

三つ目の沖縄に現れた艦隊を滅ぼした光については魔法も使用者も確認されている。詳細については送付されている別途資料に記載

ただ二つ目の佐渡に来た艦の増援を滅ぼした光については詳細も使用者も不明である。




やっと入学編に入れる(汗)・・
あと電子ということで麦のんの能力を入れてみました。
これでお兄様以外には無双できるぜ
さてさて、今回はいかかでしたか?
次回はとうとうヒロインが登場します!イチャつかないけど・・・
あと主人公の絵も載せときます!
お楽しみに!!

「これはダメじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。
感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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入学編
13話 望まぬ再会


13話で〜す
やっと来たました入学編!!
これを機会に読者を増やすぜ!
ただバトルの比率が低くなるかも・・

とにかくどうぞ!!


『魔法』それが御伽話や伝説ではなく現実の技術として体系化された現代

各国は国力増強のために『魔法』の開発と魔法技能師の育成に力をそそいでいた。

 

寒冷化によるエネルギー資源の取り合いから始まった第三次世界大戦

この戦争で核兵器の使用を世界中の魔法技能師が止めたことにより

『魔法』の価値が跳ね上がった。

 

結果として『兵器』と『魔法』、どちらが戦争にとって有用か論議が続けられているが

『魔法』は戦争において『兵器』と同等以上の価値を見出されていた

 

第三次世界大戦後、世界は

 

北アメリカ大陸の諸国をアメリカが併合したUSNA(北アメリカ大陸合衆国)

ウクライナ、ベラルーシを吸収したロシア、今は新ソビエト連邦

ビルマ、ベトナム、ラオスの各北部、そして朝鮮半島を征服した中国、今は大亜連合

インド、イランが中央アジア諸国と南アジア諸国を飲み込んでできたインド・ペルシア連邦

東南アジア諸国でできた東南アジア同盟

同じくアラブ諸国でできたアラブ同盟

EUが分裂してできた東EU、西EU

 

という8つの国家群ができた

 

他の大陸で言えば

オーストラリアは事実上鎖国状態

南アメリカに関してはブラジル以外、地方政府分裂状態に

アフリカ大陸はさらに酷く、ほとんどが無政府状態に

 

日本はというと

モンゴル、カザフスタン、USNAと同盟を組み

魔法技術大国、魔法先進国などと世界から言われている。

 

 

文化、戦争体系、色々なことが大きく変貌した世界だが変わっていないものは少なくても一つある

それはもちろん・・・

 

 

              未だ”武器商”が必要ということ

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

どんな方法でも悪を殺せば正義のヒーローだと思っていた。

だから南米のマフィアや黒川春奈を殺した時も間違ったことをしたとは思わなかった。・・

 

だがレームやチェキータ、傭兵の皆は言う。

 

 

”俺たちに正義はない”・・・と

 

 

それでも武器商の自分でも正義は残っていると信じていた。

 

自分の醜さに気付く13歳のあの日までは・・・

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2093年 2月19日 日本 ???

 

その日は肌が悴むような寒い日だった。

俺はとある”百家本流の数字付き(ナンバーズ)”の依頼で

人身売買の組織に誘拐された少女の救出を請け負っていた。

普段ならこんなことは絶対しない、たとえ他の”百家本流”の依頼であっても・・

だがその一族は違った。十師族以外で唯一、国防軍の強いパイプ持っていた。

この一族は国防軍を探る一つの手段として使えると思っていた。

 

売られてしまうと足取りが分からなくなるため時間が勝負だった。

俺は即座に作戦を考えた。

作戦は特に複雑ではない。

 

俺が組織が彷徨いていると噂される場所で囮としてに捕まり、その少女が捕まっている場所まで連れて行かれた後、様子を見てから尾行したエレン達が突入開始、それと同時に少女を連れて合流するものだった。

 

もちろんエレン、翠、藍は猛反対だった。

しかし俺は3人をBS魔法を材料に説得し作戦は始まった。

 

今思えば、裏社会からの情報で裏が取れたとはいえ少し無理があった。

 

だが、そういうシーズンだったのか俺はすぐに組織に捕まり、少女と会うことができた。

 

牢にいた彼女は暗い印象があったが赤髪が目立つ綺麗な子だった。

 

だが救出の作戦を伝えようにも泣きじゃくって話を聞いてくれない。

俺は彼女を慰めることから始めた。

女性の扱い方を知らない俺はとにかく色々な事を話したり聞いたりした。

 

もちろん嘘も混じっている、自分は特別捜査官だとか将来はマジシャンになるとか

彼女は信じなかったがそれでも”笑顔”になってくれた。

 

得られた情報もあった。

彼女の母親は依頼者の妾でつい先日死亡したらしい。

おそらく警察に頼らないのは妾がいたという事実をマスコミに知られないためだ。

警察が動けばマスコミが嗅ぎつけるのは間違いないからな。

 

それからもどれくらいか分からないが長い時間、必要以上に、時間をかけて語り合った。

なぜと言われれば「気が合った」、「同年代と話をするのが久しぶりだった」とかかもしれない。

いや、なにより・・・

 

 

 

 

 

 

 

俺が彼女の”笑顔”に一目惚れしていたからだ。

 

 

 

 

 

 

お互い気が合い、話している間に自然と寄り添う俺たち

遺跡の一件以来、”幸せ”を感じなかった俺には至福の時間に思えた。

俺も囮とはいえ誘拐されているのに”素の笑顔”になっていた。

これからも仲良くやれるだろうと思っていた。

もしかしたら”俺を地獄”(苦しみ、悲しみ)から・・・

 

だがそんな甘い考えもトラブルが潰しに来た。

 

直接買いに来た奴が現れたのか

エレンたちの突入より前に一人の男が彼女を連れ出しに来た。

 

「おい!!貴様!こいっ!!」

 

「いぃやっ!!っ!離してよ!!・・清夜君(・・・)!!」

 

彼女は涙目で俺に助けを求めた。

俺はポケットから砂鉄を取り出してCADなし(・・・・・)で『Iron sand blade(砂鉄剣)』を発動した

砂鉄を高速で振動させながらナイフに形を変える。

 

スパッ!

 

俺は思いっきり男の喉笛を斬り裂いた。

 

俺は彼女に手を伸ばす

 

エリカちゃん(・・・・・・)!!脱出し・・」

 

サクッ・・・

 

冷たい感触が右脇腹から感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ば、ばば・・化け・・物・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

産みの母親と同じことを言う彼女

見ると彼女の手には部屋に散らばっていたガラスの破片があった。

 

 

 

 

 

あぁ、そうか・・・正義なんて残ってなかったんだ・・

今なら分かる、人を殺した自分の醜さが・・化け物ぶりが・・

彼女と笑い合うことさえ痴がましいことだったんだ・・・

 

 

 

 

 

「あ、ぁ・・ぁ・・・あ・・・」

「君は・・だっ・・しゅつ・・を・・・そと・・・に・・救助が・・」

 

ブバァ!!

 

 

俺はBS魔法の『粒機波形高速砲』で壁に穴を開ける。

 

血が止まらない・・でも・・でも!

彼女は絶対に助けなければ・・

 

俺は”あの時”と同じように声を絞り出す。

 

「いけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「!!」

 

彼女は外に向かって走り出した。

 

よかった・・・

けど、痛いはずなのに、どうしてか血よりも涙の方が止まらない・・・

 

 

 

 

 

 

ごめんね・・ごめんね・・君と会ってしまって・・正義のヒーローぶって・・

ごめんね・・一生恨んでくれてもいい・・ごめんねエリカちゃん(・・・・・・)・・・

 

 

 

 

 

 

もう立ち止まらない・・希望なんかにすがらない・・自己満足でいい・・

俺の手で俺の復讐(地獄)を終わらせるから・・悪党のまま・・全ての悪を潰すから・・

 

 

 

 

だから・・君だけは・・どうk・・・

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

バキンッ!!ガッシャーン!!・・・・俺の中で何かが”完全”に壊れた・・

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月3日 第一高校 講堂

 

ガクンッ!!

 

頬杖をしていた肘が肘掛からはずれ目を覚ます清夜。

 

「んあ?・・・寝ちゃってたか・・・何か嫌な夢見てた気がするけど・・なんだったけ?・・」

 

今、清夜がいるのは国立魔法大学付属第一高校。通称、魔法科高校

魔法技能師育成を目的とした日本の国策機関である。

とある大学を飛び級で卒業した清夜には本来通う必要はないのだが

この春から一年生として入学する。

 

式 清夜

 

【挿絵表示】

 

 

もちろん理由はある。

魔法大学系列のみで見ることができる魔法研究資料を全て記憶(・・・・)し自分のビジネスに役立てること

そして最大の理由は人脈作りのためである。

 

この学校を卒業した過半数は国防軍関係者になっている。

 

つまり彼らとの人脈を作ることで後々、探している国防軍兵士3人を見つける手段として使えるということだ。

 

そうして式 清夜という表の顔でも、武器商のアイザック・ウェストコットという裏の顔でも国防軍を探る手段を手にいれるという魂胆である。

 

もちろん最終目標は黒い”何か”を召喚した男の抹殺であるが

もはや彼の”復讐”は十数年以上、いや生涯をかけた計画になっていた。

 

(にしても・・俺は適当に後ろの席を選んだのに何?前半分の席が紋ありの一科生、後ろ半分の席が紋なしの二科生になってる・・別に席は決まってなかったはずだけど?・・あぁ・・そういえば調査した時に優等生と劣等生で差別意識が高い学校とか書いてあったけ・・生きるための知恵ってやつか・・大変だな日本人は・・俺は入学すらできないと言われてたから二科生でも満足だけど)

 

そう・・この学校には入学の時点で優等生と劣等生が存在する。

入学した200名のうち100名が二科生として入学するが実質「スペア」である。

この学校では事故のショックで魔法が使えなくなり退学する一科生が毎年数名出ている。

だがこの学校は毎年100名以上の卒業生を魔法大学や専門の訓練機関に送らなければならない

そのため穴埋め要員として入れられるのが二科生である。

 

一応、二科生でも一科生と同じ授業、施設利用、資料閲覧ができ卒業できれば魔法科高校卒業資格がもらえる

 

だが一科生と違うのは二科生には魔法講師がいないことだ。

これは差別というわけではなく単純に魔法講師不足という理由である。

 

ゆえに才能ある者を優先に教えなければならない。

そして才能無き者は自力で結果を出さなければならない。

 

魔法技術大国ゆえの

徹底で残酷な才能・実力主義

これが差別意識が高い最大の理由なのかもしれない

その証拠に・・

 

制服にエンブレムがある一科生を『花冠(ブルーム)

制服にエンブレムがない二科生を『雑草(ウィード)

 

と呼ぶ風潮が生まれる始末である。

 

そんな清夜の制服にはエンブレムがついてない

つまり二科生である。

 

アイザック・ウェストコットの名とはいえ佐渡防衛戦後、世界最強の魔法師の一人としてよばれている清夜が二科生なのはおかしな話なので彼の入学までの経緯を軽く説明しよう

 

 

 

 

試験前日にココが仕事中に遊びに来る

「日本には大事な時に滝行で願掛けをする風習があるらしいよ清夜!!そういう事だからレッツゴーだ!エレン?知るか!あんなア○ズレ!」

 

 

エレンの反対を無視したココに誘拐され滝行をさせられる。

レームを始めとするココの護衛たち大爆笑

 

 

帰るとエレンに説教をされ(ココは清夜を見捨てて雲隠れ)

残業になる

 

 

試験当日に風邪をひく

 

 

なんとか実技はできたが筆記試験開始直後に倒れて救急車で運ばれる

もちろん筆記は0点

 

 

二科生だが奇跡的に入学する。

 

 

 

 

そして今に至る・・・

清夜自身は自分の落ち度と反省しているし、

それに目立ちすぎると復讐の対象や十師族に目をつけられるだろうし

なにより小さい頃の才能を思い出せば二科生のことはなんら苦ではない・・

はずなんだか、ちょっぴり涙目になる清夜

 

(俺、もしかしてボスの威厳ないんじゃない?・・)

 

そこに一番端に座っている清夜に男子生徒が声がかかる

 

「すまない、隣の席はあいているか?」

 

「あ、はい!空いているのでどうぞ」

 

と足を引っ込めて道を開けその生徒を見ると

 

「「っ!?」」

 

清夜と男子生徒は本能的に何かを察した。

清夜はこういう対応に慣れているため一瞬で、人が気づかない自然な速さで顔をごまかす。

だが男子生徒はつい、バックステップを取ってしまう。

清夜は”気まずそうなフリ”をして尋ねてみる。

 

「あの〜何か失礼なことしちゃいましたか?・・」

 

「あ、あぁ・・いや、すまない・・ちょっと驚いたものでな・・」

 

男子生徒は考える。

 

(一体、今のは?・・でも目の前の生徒から目があった時以外、何も感じなかったしな、まわりにそんな殺気とかの気配は感じないしな・・気のせいか・・さっき七草(・・)と遭遇してピリピリしすぎたかもな)

 

とりあえず座って清夜に挨拶した。

 

「不快な思いをさせて済まない。俺は司波達也だ。よろしく」

 

(司波・・数字付き(ナンバーズ)ではないのか・・でも一目で分かった。こいつはヤバイ・・”プロ”だ・・それもかなりの・・気配を誤魔化せないのが救いだった。下手に関われば殺されていたな・・・)

 

「こちらこそ よろしく司波君。式 清夜だ。清夜と呼んでくれ。魔工師を目指してるんだ。」

 

達也は意外そうな顔をした

 

「俺のことも達也でいい。俺も魔工師志望なんだ。清夜はどうしてここに?魔工師志望は大抵、技術系が多い四高に行くものだと思っていたが・・」

 

「一番近いのがここだったからね。そこまで学校にこだわっているわけじゃないんだ」

 

そこに達也の左から声がかかる

 

「あの・・お話中すいません。お隣に座っても大丈夫ですか?」

 

今ではかなり珍しいメガネをかけた女子生徒が申し訳なさそうな顔をしていた。

清夜がうなづくと達也は答えた

 

「どうぞ」

 

すると顔は見えなかったが女子生徒の後ろから3人ぐらい現れ一緒に座った。

どうやら4人一緒に座れる席を探していたようだ。

清夜はそれ以上、彼女達に関する興味が失せた。

会話も中断されてしまったので眠ろうとすると

メガネの女子生徒が達也と清夜に自己紹介をした。

 

「私は柴田美月っていいます。二人とも、よろしくお願いしますね」

 

達也も愛想よく返す

 

「司波達也です。こちらこそ、よろしく」

 

清夜は無視・・・という訳にもいかないので

”作り笑顔”で返す

 

「式 清夜です。こちらこそ・・・」

 

ガバッ!!

 

挨拶の途中だったが

突然、美月の隣にいた女子生徒が美月に抱きつきながら会話に割って入ってきた

 

「あたしは千葉エリカ!よろしくね!司波君!式k・・・」

 

と割って入ってきたのに清夜を見た瞬間止まってしまった女子生徒。

 

清夜はよく覚えていた。彼女の声を・・

聞き慣れた訳ではない。たった一回しか会ってないのだから・・

 

清夜は視線をその女子生徒に移す。

 

清夜はよく覚えていた。彼女の髪を・・

清夜はよく覚えていた。共に笑ったことを・・

清夜はよく覚えていた。清夜を刺したことを・・

清夜はよく覚えていた。清夜を化け物と呼んだことを・・

 

(エリカ・・ちゃん・・・!?)

 

その女子生徒は清夜の初恋の相手だった。




はい!!全然進みませんでした!!
本当にごめんなさい!!
すでに感想のところでは教えていますが2095年 4月3日だけで3話使います。!!すみません!!

ブランシュのテロ前にはクロスオーバーバトルをいれるので勘弁してください!
そんなわけで次回をお楽しみに!!

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14話 出会いの季節<殺意>

14話です。そしてお久しぶりです。

学校が忙しくて しばらくこのペースで載せていかせます。

まだ最初はクロス要素がないですね・・

とにかくどうぞ!!


2095年 4月3日 第一高校 講堂

 

エリカは清夜を見ながらボーとしていた。

 

(あれ?・・あたし、この人を知っている?・・なんか見ていると懐かしいような、温かい気持ちになるような・・)

 

清夜はこの偶然を呪う

 

(彼女の心の傷をほじくるつもりか!?神様よ偶然にも程があるぞ!!ふざけているのか!?・・まずい・・気づいたのか?・・とりあえず他人のフリをしなければ・・)

 

さすがにそこは武器商人。

清夜は達也の時と同じく表情を自然に誤魔化し他人のフリをする。

 

「あの・・俺に何か?・・」

 

美月も達也もエリカを不思議そうに見つめる。

だが達也はこうも考える

 

(千葉・・・ね・・今度は百家か・・にしてもどうしたんだ?俺と同じで清夜に何か感じたのか?・・という表情では・・ないか)

 

エリカは慌てて挨拶し直す。

 

「う、ううん!!なんでもないの!よろしくね式君(・・)!」

 

「あぁ、よろしく千葉さん(・・・・)

 

エリカは今のやり取りで何故か心に棘が刺さった。

清夜も平然な顔をして残り二人の自己紹介を聞いていたが心情は穏やかではなかった。

 

(気づいてない・・のか?それともフリをしているだけか?彼女の事件に関しては脱出後の始末をエレンに任せたからな。あとで聞いてみるか、達也の調査込みで・・)

 

そうして自己紹介が終わると入学式が始まった。

校長、来賓、生徒会長と話が終わり、最後に新入生総代の話となった。

 

「新入生総代、司波深雪。」

 

そうして壇上に登った女子生徒はとても美しい女性だった。

一科生、二科生、男女関係なく心を奪われていたが

ただ一人清夜だけは心に違和感を覚えた。

 

(なんとなく冬華に似ているような・・でも何だ?・・俺は彼女のことを不快に思っている?あんなに綺麗なのに?・・いや不快ではない・・憧れ?嫉妬?。少し驚くことが多くて混乱しているだけか・・)

 

深雪は話を始めた。

 

「春の麗らかな・・・皆等しく・・・一丸となって・・・魔法以外にも・・・総合的に・・」

 

新入生総代の話には選民思想の生徒が多いこの学校には際どいセリフが混ぜ込んであった。

だが新入生総代の美しさに惹かれているのか気にする者は誰もいなかった・・

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月3日 第一高校 カード配布窓口

 

清夜は基本、神様の類は信じないことにしている。

だが今の彼は神を崇めるぐらい祈っていた。

 

(どうか・・どうか・・エリカちゃん(・・・・・・)とは別のクラスでありますように・・・)

 

清夜は一人でカードを貰いに行こうとしたのだがエリカたちに捕まり、達也と一緒にカードを貰いに来ていた。

 

エリカは清夜のカードを覗見込みながら問う。

 

「皆は何組?」

 

最後に自己紹介した二人は

 

「あたしF」

 

「あちゃ〜あたしは Gだ」

 

達也と美月は

 

「Eだな」

 

「あっ!私もE組です。」

 

肝心のエリカはというと

 

「お〜私もEなんだよね〜式君は?」

 

清夜はまだ見ていないカードを恐る恐る見てみた。

 

「い、Eだ・・」

 

現実は非情である。

だがエリカはオーバーリアクションで飛んで喜ぶ。

 

「やた!式君も同じクラスだね!」

 

「う、うん・・ははは・・」

 

かく言う清夜は苦笑いにも見える微妙な笑顔で答える。

 

(な、なぜだ!!よりによって危険人物とエリカちゃんと一緒だと・・最悪な展開だ!!・・とにかく明日からは少なくともエリカちゃんから避けなくては!!)

 

とそこに達也が改めて挨拶に来た。

 

「一緒のクラスだな。改めてよろしく頼む。」

 

だがその目は明らかに何かを探る目だった。

清夜は慎重に、しかし自然な口調で答える。

 

「こちらこそね。しかしこの学校は選民意識が高いと聞いていたが達也や柴田さん、それに新入生総代さんといい、優しい人が多くて助かったよ。」

 

「ほぉ、妹を最初に見た目ではなく中身を評価した人は初めてだな。」

 

達也はどこか嬉しそうな顔した。

探る目は変わらないままだが・・

清夜は?マークを浮かべた。

 

「は?妹?・・・・あぁ!”司波”か」

 

「え、新入生総代の子って司波君の妹なの?もしかして双子?」

 

エリカと美月が話に加わってきた。

どうやら残りの二人はホームルームに行ったようだ。

 

「いや双子じゃないよ。妹が三月生まれ、そして俺が四月生まれなんだ。」

 

「やっぱり兄妹でしたか・・お二人のオーラは凛とした面差しがよく似ていましたから・・」

 

納得する美月。

だが達也はオーラという言葉を聞き逃さなかった。

達也は優しく、だが確信を持って言う。

 

「柴田さんはオーラの表情が見えるんだね。すごいや・・本当に目がいいんだね(・・・・・・・・・・)

 

「「!!」」

 

美月は見抜かれたことに驚き、

清夜はメガネの理由に気づき驚いた。

ただエリカだけは?を浮かべメガネを覗き込んでいた。

清夜は思った。

 

(なるほどね。霊子放射光過敏症か・・てことはメガネはオシャレではなく霊子放射光をカットするためか・・それでも人のオーラが見えるんだからよっぽどなんだろう・・)

 

霊子放射光過敏症

それは霊子と呼ばれる超心理現象で観測される粒子が普通の魔法師以上に見えすぎてしまう(・・・・・・・・)症状

しかしメガネをしていても見えるのだから彼女の目は特別とも言える。

 

達也は思った

 

(まさか思わぬところに伏兵がいたな。これ以上見られるのは危険だ。下手したら俺の”秘密”を・・)

 

「お兄様!!」

 

ちょうど達也のタイミングよく人混みから声が聞こえた。

これをきっかけにメガネの話は終了し人混みを向く一同。

すると人混みから噂の新入生総代が出てきた。

だがその後ろには生徒会長を含むエキストラがたくさんいた。

 

「こんにちわ、司波君。会うのは今日二回目ですね。式君も、入試以来ですね。お身体はもう大丈夫ですか?」

 

生徒会長の七草真由美は笑顔と言葉を取り繕ったセリフを清夜と達也に向ける。

達也は無言の会釈で返し

清夜は会釈してお礼を言う。

 

「はい、おかげさまで。その説はお世話になりました。」

 

清夜と真由美は初対面ではない。

入試で倒れた際に救急車が来るまで看護した人の一人だ。

といっても付き添った程度だが、お礼をしなければ今後の活動にも支障がでると清夜は判断した。

 

深雪は兄の傍に親しげに寄り添う少女達(エリカ達)を見つけた。

 

「それでお兄様、その方達は?」

 

「紹介する。同じクラスになった柴田美月さん、千葉エリカさん、そして式 清夜だ。」

 

深雪は美月とエリカを見て、まるで『含むところなんてないですよ』と言わんばかりの笑顔で問いかける。

 

「そうですか・・早速、お二人とデートですか?」

 

あきらかに目が笑っていなかった。

清夜は無視されている(?)と気づき逃げ出そうとする。

だがエリカが無意識になのか清夜の袖をつかんで離さない

達也は軽く深雪を叱り付ける。

 

「コラ深雪、そんな訳ないだろう。ただ3人と話していただけだ。そんな言い方は二人に失礼だろう、清夜も困っている。」

 

ハッとした深雪は淑女の笑顔で挨拶をする。

エリカも袖をつかんでいることに気がついて手を離す。

 

「お見苦しいところを申し訳ありません。柴田さん、千葉さん、し・・!?・・式さん。初めまして、司波深雪です。同じ一年生ですので、お兄様同様、よろしくお願いしますね。」

 

「柴田美月といいます。こちらこそよろしくお願いしますね」

 

「式 清夜です。清夜と呼んでください。」

 

「あたし千葉エリカ。エリカでいいわ。よろしく!貴方のことも名前で呼ばせてもらっていい?」

 

「えぇ、司波だけでは、お兄様と区別がつきにくいですものね。」

 

お互い初対面としては妥当な(エリカはフレンドリーだが)自己紹介をする。

しかし達也は深雪の顔が一瞬引きつったのが気になっていた。

 

(深雪も清夜を見た瞬間固まった・・もしや深雪は清夜の色を視たのか(・・・・・・)?やはり俺が感じたのは気のせいではないのかもな・・)

 

と意識を深雪に戻すと3人だけで会話が弾んでいた

達也は通行などの邪魔になると思ったので深雪に真由美達について質問する。

 

「深雪。生徒会の方達とはもういいのか?なんだったら・・」

 

「大丈夫ですよ」

 

質問を遮って回答したのは真由美だった。

 

「今日はご挨拶だけですから・・」

 

「会長!?」

 

真由美の後ろに控えていた一科生の男子生徒は呼び止める。

その男子生徒は入学式で進行役をしていた副生徒会長の服部刑部だった。

真由美は目で制して含みのある笑顔で別れを告げる。

 

「詳しい話は、また後日に・・それでは深雪さん、また今度・・司波君と式君もその時にゆっくりと・・・」

 

そして会釈した真由美は去っていく。

それにつられて服部、まわりにいた人間も解散していく。

だが真由美以外の人間は去り際、達也と清夜だけ睨みつけた。

 

初日から計画が上手くいかないことを悟った清夜は若干疲れ顔になる。

 

「どうして睨まれるんだか・・」

 

達也もクヨクヨとはしてないものの清夜に同調する。

 

「だな・・とにかく帰るか。」

 

深雪は申し訳ない表情で謝罪する。

 

「すみません。清夜さん、お兄様。私のせいで・・」

 

「いや、司波さんが反省することないよ。あんなのはただの嫉妬だろうし。」

 

「そうだな。深雪が謝ることじゃないさ。」

 

そうして慰めるように深雪の頭を撫でる達也。

すると深雪はチョコレートのように蕩けた表情になった。

美月とエリカは若干危ない兄妹に見えたが

清夜は別のことを思っていた。

 

(シスコン・ブラコン兄妹ですこと・・フフーフン↓そういう俺もシスコンか・・俺にはもう手が届かないものだから余計に眩しくて嫉妬しているんだろうな・・・冬華・・・エリカちゃん・・・)

 

美月は思いついたかのように提案する。

 

「そうだ。せっかくですから、お茶でも飲んでいきませんか?」

 

「うん!大賛成!!あたし近くにある美味しいケーキ屋さん調べたんだ。もちろん式君も来るよね?」

 

「あ、うん」

 

なぜか仕切りに清夜に構うエリカ。

清夜は笑顔で返すが、ある意味では達也以上に警戒していた。

 

(袖を掴んだり、俺に構ったりするのは何故だ?やはり気づかれているのか?どちらにせよ達也に変に勘付かれないようにしなければ・・)

 

そんなことを思っているうちに

司波兄妹は快諾しケーキ屋に行くことになった。

 

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2095年 4月3日 東京 新宿

 

春とは『出会いの季節』と呼ぶ者がいる

清夜が達也達に出会ったように、ここ新宿でも一つの出会いがあった。

出会いにしては少々、危険なものだが・・

 

「おっ!見ろよ翠。昨日のとこがニュースになってるよ。」

 

「原因は・・火事ですか。キョフフ!組長は行方不明ですって藍ちゃん。」

 

茶髪と黒髪の二人組がビルにあるモニターを見ながら会話する。

 

茶髪の砕けた口調の少女は『透野藍』

黒髪の丁寧な口調の少女は『透野翠』

どちらも私立『豊穣入谷高校』の二年生の美少女。

勉学、運動、そして魔法すら同年代の平均を頭二つ以上抜いている二人。

そんな二人には秘密がある。

それは二人が清夜に雇われた『殺し屋』だということ。

つい昨日も富岡の893事務所に押し入り

下っ端は問答無用で殲滅。

組長もドリルで身体中を穴ボコだらけにしてきたばかりだ。

 

翠と藍はニュースに対する興味が尽き歩き出す。

2095年となった今でも新宿はサラリーマンや多くの学生でごった返している。

たくさんの人が翠と藍をすれ違っていく

そんな人混みの中、二人は一人の少女を見かけた。

リュックサックを背負った小さい美少女だった。

 

二人と一人はお互い知らん顔ですれ違う。

その刹那、お互い背中越しに『殺意』と言う名の火花をぶつけ合った。

翠と藍は笑顔になる

 

「ヒョヒョ!結構長く業界にいたつもりだったけど、まだまだ『日本』面白いかも」

 

「キョフフ・・まだまだ仕事が増えそう」

 

二人は笑顔で振り返って小さい美少女を呼び止める。

 

「「止まれ!!そこのチビっちゃい奴!!」」

 

これが『893殺し』と『学校の殺し屋』の出会いだった・・

 




詳しい話は次回になりますが深雪さんは原作よりパワーアップしています。

という訳で次回!深雪の視えたものが明らかに!!そしてDEMの内部事情も見えてくるかも?
とにかくお楽しみに!!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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15話 心の色

15話です!!
次回まで4月3日となりました申し訳ありません。
今回は場面がちょくちょく変わります。
時間的には夜だと思ってくれれば・・

それではどうぞ!!


2095年 4月3日 東京 とあるマンションの一室

 

これは『893殺し』と『学校の殺し屋』の出会う少し前の話

部屋にはタバコを吹かす女性とコンビニ弁当を食べる少女がいた。

女性は少女に呼びかける

 

「あ〜集中できひんな〜・・そうだ!伊万里!」

 

「もぐもぐ・・・どうした?芳野姉さん」

 

「ウナギ食べに行かへん?」

 

「なんで食べてる時に聞くの!?」

 

一見親子に見える二人だが実はそうではない。

 

タバコを吹かすのは『美濃芳野』。

この部屋の主で闇医者をしている女

 

そして弁当を食べているのは『的場伊万里』

元文部省の殺し屋。通称『学校の殺し屋』

なぜ元かというともはやその肩書きは機能してないからだ。

今でも飼い主は変わらない

だが命令は暇つぶし感覚でだしている『悪党つぶし』に変わっていった。

 

だがそんな中で出会ったのが『美濃芳野』だった。

今では『美濃芳野』の子のようにこの部屋に入り浸っている。

そんな芳野も伊万里のことを気に入っていた。

 

(ふふ・・やっぱりこの殺し屋は可愛いな・・)

 

とそこで芳野は思い出す。

 

「あっ、そうだ。富岡に893があったやん。あそこ火事だってさ」

 

「・・」

 

伊万里は無言で考える。

 

(火事じゃない・・殺し屋の仕業・・組長も拷問されたんでしょうね)

 

「聞いてんの伊万里?てか、火事な訳ないよな。あれアンタの仕業?ははは」

 

伊万里は年相応な膨れっ面をする。

 

「む〜違うよ!なんでも私のせいにしないでよ。もう新宿行くね、芳野姉さん」

 

「うち夜いないからね〜」

 

「え〜」

 

そうして伊万里は待ち合わせ場所(・・・・・・・)に向かった。

 

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2095年 4月3日 東京 新宿

 

伊万里は人混みの中を歩いていく。

ふと自分を見る視線に気付く。

そこには女子高生二人組がいた。

もちろん翠と藍である。

 

(なんか嫌な予感がする・・)

 

すれ違う二人組。

だがその背中からは殺意が放たれていた。

伊万里も条件反射で殺意をかえしてしまう。

 

(こんな街中で殺意を隠すつもりがない!?・・もしかしてこの二人が・・)

 

すると翠と藍は振り返り伊万里を呼び止める

 

「「止まれ!!そこのチビっちゃい奴!!」」

 

(間違いない・・893を殺したのはこいつらだ・・とにかく誤魔化さないと・・)

 

伊万里は気弱そうなフリをする

 

「あの〜それって私のこと・・かな?」

 

藍がニタニタしながら話しかける。

 

「そうだよ〜あたし達には分かる。お話でもしよう。お嬢ちゃん」

 

翠もニタニタ笑いながら近寄る。

そして伊万里は警戒する

 

(見ない顔だ・・さっき御主人様どうこうって言ってたな・・いやだ・・関わりたくない・・虚をついて逃げるか)

 

伊万里は口調を戻す

 

「寄るな!!お前ら見た目からして『豊穣入谷高校』の二年生だな。あたしは三年生。ちびちび言われる謂れはない!」

 

ポカンとする翠と藍。

だがすぐに笑い出す

 

「ヒョヒョ!!年上なのww」

 

「キョフフ!!小動物みたいww」

 

だがこの油断のうちに伊万里は二人の視界から消えた。

伊万里はいつの間にか後ろに回りこみ指で二人の首筋にチョンチョンとツツく。

 

ズパッ!!!

 

その瞬間、二人は伊万里の頭目掛けて思いっきりナイフを振り抜く。

だがすでに伊万里は消え去っていた。

ナイフが虚しく空振る。

 

「消えてしまいましたか・・自己加速術式ですかね?それと彼女から甘い香りがしました。」

 

「魔法ね〜どうだろう?でも御主人様並みに速かったな!後ろとられちゃった。」

 

二人は見つめ合って笑った

 

「「なんにせよ、あの おチビさんとは いつか殺し合うことになるね!」」

 

そして二人も人混みの中へ消えていった。

 

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2095年 4月3日 東京 司波宅

 

清夜達と有意義な時間を過ごしたのち司波兄妹は自宅に着いていた

 

「お兄様。お飲み物でもいかがでしょうか?」

 

「そうだね。じゃあコーヒーでもお願いしようかな」

 

「かしこまりました」

 

達也は深雪からコーヒーをもらうと一口飲んで言う。

 

「やっぱり深雪のコーヒーは美味い」

 

「ふふ・・ありがとうございますお兄様。」

 

リビングで兄妹だけの時間を過ごす二人。

達也は頭を切り替えて深雪に聞く。

 

「深雪、自己紹介の時に一瞬固まったが・・あれは清夜の心の色を見て固まったのか?」

 

「!!・・すみません、お兄様。お兄様にできた御友人を疑ったわけではないのですが・・」

 

3年前の沖縄海戦から深雪の魔法能力は大きく変わった。

その力の一つが人の感情や本性が色として見える眼だ。

この心の色というのは深雪の特殊な魔法的な眼によって見える色である

喜怒哀楽によって色が異なり色に濁りがないほど、その人の本質、本性は善人とされている。

その深雪が色を視て固まるのだからよっぽどのことだと達也は理解していた。

 

「怒ってないよ。それに俺も清夜を見た時に何か危険なものを感じた。その後は何も感じなかったから別の誰かか、気のせいだと思っていたんだが・・お前の反応を見て気のせいではないと思ったんだ。」

 

「そうだったんですか・・」

 

深雪は初めて見た時の清夜を思い出した

達也は清夜の本性を聞いてみることにした。

 

「それで深雪には清夜の心の色がどう見えたんだい?」

 

「それが・・・真っ黒なのです・・」

 

「真っ黒?・・それだけ悪人ということか?」

 

「わかりません。おかしい言い方ですが、とても汚く濁った黒で底がみえないような感じに見えました。あんな色は本家でも見たことありません。」

 

「という割にはケーキ屋で仲良く喋れていたが?」

 

「それが視えたのは一瞬だけでしたので・・その後は普通の人と同じ色(・・・・・・・・)をしていました。喋っていても、むしろ良い印象でしたので私も気のせいかと・・」

 

達也は不安そうな深雪の頭を撫でて慰めた

 

「俺達の力だけでは判断できないな。師匠に頼んで調べてもらおう。」

 

お母様(・・・)や叔母様にご助力頂くのは無理なのですか?」

 

深雪は達也に頭を預け尋ねる。

もちろん達也は自分の母親を嫌ってのことではなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「こんなことで母さん達に負担をかけさせられないよ」

 

「えぇ、そうですね。今は叔母様を元気付けさせるのに集中させましょう。」

 

深雪は達也が3年前までとは違い、妹以外の家族を愛せること(・・・・・・・・・・・・)強い情があること(・・・・・・・・)が嬉しかった。

 

深雪が3年前に手に入れた力はもう一つあった。

それは精神構造干渉魔法だ。

 

これは母である四葉深夜から遺伝した形になるが

深雪はこの力で深夜と達也から、なくなった衝動や愛情を取り戻すことができた。

 

またそれに留まらず、深雪やガーディアンの桜井穂波の説得する積極的な行動が

深夜と達也の仲を取り戻すだけでなく

険悪だった真夜と深夜姉妹の仲まで戻してしまったのだ。

 

今では兄妹の家にも忙しい合間を縫って会いに来るようになり、真夜と深夜、二人仲良く本家で暮らしている。

 

ただ一つ不安をあげるなら姉妹の仲が戻った時から真夜の元気がなくなったことだ。

皆の前では気丈に振舞っているが深雪の眼には元気がないことが分かっていた。

 

「大丈夫さ、深雪は奇跡を起こしたんだから叔母上も元気になられるさ」

 

「ふふふ・・そうですね。それでは今から御夕食を用意いたしますね。」

 

「楽しみに待ってるよ。」

 

そうして兄妹の入学初日は終わっていった。

 

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2095年 4月3日  Deus Ex Machina Industry 本社

 

司波兄妹が家に着いたちょうどその頃

清夜はアイザック・ウェストコットに変身し仕事を片付けていた。

 

現在、DEM社は世界でもトップクラスの会社になっている。

その要因の一つが3年前の沖縄、佐渡の戦いだ。

 

まずその二つの戦いでイージスシステムと海の防衛網について見直されることになり

ちょうどその頃売り出されていたサイオンレーダーを搭載したUUV(無人潜航艇)ラブカが注目され日本から大量受注を受けた。

 

その勢いで海外でも売れるようになり、さらにはつられるようにDEMの売る武器、作る武器が売れていった。

 

魔法工業に関しても『カートリッジ』システムを搭載したCADを筆頭に色々な魔法機器が大ヒット。

 

現在ではCADトップメーカーの地位をローゼン・マギクラフト、マクシミリアン・デバイスと争っている。

 

海運に関しては元々有名だったので大して変わらなかったが他にも様々な事業に進出していた。

 

日本の世論はというと佐渡防衛戦で戦ったことがなぜか国中に知れ渡り

武器商ということを知っていながら世論はDEMを英雄視した。

 

結果、世論が味方しチョッカイを出そうとする政治家やマスコミはいなくなった。

 

 

清夜はアイク(清夜)の口調で語り出す。

 

「いやぁ〜エリオットからようやく業務をやらせてもらえることになったけどエレンがいなかったら逃げ出していただろうね。ありがとうエレン。」

 

満面の嘘偽りのない笑顔で感謝するアイク(清夜)

エレンは顔を真っ赤にしながらこう言う。

 

「か、かかか感謝はいいんです!!私の仕事ですから!!す、好きでやっているだけですから!!ゴホン、それよりもエドガーと専務の間村。それぞれ何か企んでいる二人は放置でいいんですか?」

 

だがアイク(清夜)はそこまで気にしていなかった。

油断、というわけでもなさそうだが・・・

 

「いいんじゃないかな?それで私が社長の椅子を奪われるなら、所詮私はそこまでの男ということだ。まぁ何を企んでいるかぐらいは調べておいてくれ。」

 

「はぁ・・そうですか。それと学内の護衛の件ですがB(ベル)との接触は?」

 

Bとはすでに学校に在籍している部下のコードネームのことだ。

 

2年前にBがイギリスの軍と諜報機関MI6に追われてるところを助け仲間になった人物。

新人でありながらも戦闘能力は翠と藍に負けないほど、魔法に関してはエレンに劣らない才能を持つ優秀な隊員だ。

 

「いや、してないよ。初対面ってことと関係がないことをアピールしたいから友人が見てる前で接触しようと思う。それよりも頼んだ調査報告が欲しいんだけどね」

 

「司波達也ですね。・・こちらの資料になります。」

 

そういって4、5枚の資料を取り出しアイク(清夜)に渡した。

アイク(清夜)は資料にザッと目を通した。

 

「ほう、司波達也は普通の人物だと言いたいんだね?」

 

「はい、現段階の調査結果では両親ともに普通の主婦とサラリーマン、血族、経歴なども目立った点はなし。評価についても多少ネガティブな点が挙げられていますが特に怪しい点はないかと」

 

だがアイク(清夜)は納得がいかない様子だった。

 

「う〜む。あんな気配をだす人間が普通だった試しはないんだけどね。妹さんも同様?」

 

「はい、容姿、勉学、運動、魔法の全てが平均を頭一つ飛び抜けていますが不審な点はないです。翠と藍に調べさせますか?」

 

「いや、翠と藍、それとサイモンさんも通常通り”軍人探し”をさせといて、翠と藍の場合は他の仕事も忘れずにね。司波兄妹は別の人間に調査させて、気づかれそうになったり、やばいと思ったら中断させていいから。最悪でもDEMだと気づかれないようによろしく」

 

「かしこまりました。それと千葉エリカの救助のことでしたよね。たしか救助された後は精神が衰弱していて、牢に入れられた後のことは思い出せないようです。医者の話では思い出したくない記憶ではないかとのことです。」

 

アイク(清夜)の書類を掴む手が強くなる。

エレンはその変化に気づいた。

 

「・・・千葉エリカを潰しますか?」

 

だがアイク(清夜)は目で制して言う。

 

「やめておこう。明日から関わらなければいいだけのことだ・・正体をバラしてはいないがあのことを思い出されるようなら・・私が・・」

 

アイク(清夜)が悲しんでいるように見えるのはエレンの気のせいではない

 

「・・かしこまりました。次は富岡の893についてです。」

 

「あぁ、翠と藍から報告は受けているよ。私は十分だと思うんだがエレンはどう思う?」

 

「えぇ、ドリルを探すのに手間取ったようですが反省し改善しようとする姿勢が見えるのでよろしいと思います。」

 

厳しい評価だがエレンのいつもの調子に笑ってしまうアイク(清夜)

だがそこであることを思い出す。

 

「厳しいねぇエレンは。ははは・・そぉだ。あれ(・・)からはまだ何か無理難題をふっかけられていないかい?」

 

あれ(・・)・・ですか。はい、今は何も・・あれ(・・)とは普通の武器商売でも一回しかしてません。怪しすぎます。」

 

「そうだね・・我々の情報隠蔽に手を貸すと一方的にコンタクトを取ってきたが・・無償の手助けほど怪しいものはない。あれ(・・)の警戒にこそ人員を割くべきだね。」

 

「わかりました。そのように手配しておきます。」

 

そして仕事を終わらせるとアイク(清夜)は窓から下を見下ろす

するとそこに書類上の保護者で、部下でもあるエリオット・ボールドウィン・ウッドマンから電話がかかった。

 

「もしもし、エリオット。どうしたの?」

 

『いや何、今日は高校の入学式だったんだろう?入学祝いを言っておこうと思ってな。入学おめでとう。』

 

「そんな大げさだな、まぁエリオット・・おじさんには感謝してるけどさ。そっちは元気?カレンも元気だといいけど」

 

『あぁカレンも私も元気さ、それで感謝しているなら私のお願いを聞いてもらおうか。』

 

その声から緊張を感じたアイク(清夜)

アイク(清夜)もそれに答える。

 

「それはなんだい?」

 

『もう”復讐”はやめるんだ・・冬華ちゃんだって今の君を見て悲しんでいるはずだ。高校には君の好きな人がいるんだろう?その人一緒に未来を選びなさい。』

 

だがアイク(清夜)には了承出来ない話だった。

突然、狂った笑いをするアイク(清夜)

 

「イヒヒヒヒヒヒ・・エギャあひゃげひゃえはははははは!!!いひゃえはえへへえへははっは!!まったくそんな情報どこで・・ふふ・・いやそうではない。残念だけどそれは叶えてやれない。私の時間は冬華が消えた時から動いていない、だから未来なんてものは私にはない、そして”復讐”が終わらない限り私自身を”終わらせる”ことすらできない。言っておくが”俺”一人だけになったとしても”復讐”は続ける。それじゃあね」

 

ピッ!

 

そうして一方的に電話を切ったアイク(清夜)は窓に手を叩きつけ窓に映った自分睨みつけた

 

「そぉだ・・俺はもう希望なんかに、未来なんかにすがらない・・俺の手で仇を・・」

 

そんな彼を悲しげに見つめるエレンだった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月3日 ????

 

電話を切られたエリオット・ボールドウィン・ウッドマンもまた外を見つめていた。

 

「一正が、冬華ちゃんが死んだ時からこうなるとは思っていたが・・いや、まだ止められるはずだ・・それにまだ清夜自身、わずかな希望を信じて冬華ちゃんの捜索を部下にさせているんだ。全てに絶望したわけではない。」

 

そこに秘書のカレン・N(ノーラ)・メイザースが入室する。

 

「失礼します。資料をお持ちしました。」

 

「あぁ、ありがとう。」

 

受け取った資料に書かれていたのはココの最近の動きに関するものだった。

カレンは資料の要点を伝える。

 

「上手く誤魔化して各諜報機関に怪しまれないようにしていますが、ここ最近 Dr.マイアミに様々な手段で連絡を取り合っていたのは事実です。」

 

ウッドマンは小声で言う。

 

「フロイドの娘も清夜を止めるために画策をしているのかな?・・私も出来る限り清夜を止めるが、やはり清夜を止められるのは彼女だけだろうな・・」

 

「はい?」

 

カレンは聞き取れず?になる。

 

「いや、なんでもないよ」

 

ウッドマンは夜空に浮かぶ星々を見つめるのであった。

 

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2095年 4月3日 ????

 

とある屋敷でのこと

赤のドレスを着た女性はただひとり、書斎で窓を見ながら物思いにふけっていた。

そこに黒のドレスの女性が入ってきた。

 

「こんな所にいたのね、もう夕食の時間よ。」

 

「姉さん・・」

 

「3年前からそんな調子だけど・・もしかして私のこと・・」

 

赤ドレスの女性は振り返り笑顔で否定する。

 

「それはないわ姉さん。私、姉さんとまた仲良くなれて嬉しいのよ」

 

「でも・・」

 

そしてまた赤ドレスの女性は窓を向くとこんなことを聞く

 

「ねぇ姉さん。子供と分かり合えて幸せ?家族とは一緒にいたい?」

 

「・・えぇ今はとっても幸せよ。前の夫はお断りだけど家族とは一緒にいたいわ。もちろん、あなたとも。あなたも家族になれる人探してみる?」

 

黒ドレスの女性は妹を抱きしめた。

だが赤ドレスの女性は動かない。

 

「いいえ、遠慮しておくわ・・でもそうよね。家族と一緒にいたい感情は間違ったことじゃないわよね。」

 

「・・どうしたの?」

 

赤ドレスの女性は姉に罪と秘密を告白する。

 

「私、姉さんに隠していたことと騙していたことがあるの・・」

 

そして赤ドレスの女性の懺悔が始まった。




はい、文章長い割にバトルが一回もない・・
というか入学編からまだ一回もバトルしてなかった。ごめんなさい

あと今更かもしれませんがアイクと清夜では一人称や口調などは変えています。

という訳で次回はMagic&Gunバトル始まります!。

次回予告
それいけ魔法少女!悪い人にお仕置きだ!!

「えっ、あなたは誰!?」

「私はあなたと同じ魔法少女・・」

そこに新しい魔法少女現る!!
次回!『新たな魔法少女!』
お楽しみに!

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16話 893

16話です!
久しぶりのバトル回になります!
主人公はでませんが・・・

文字数はバトルより日常系の方が多いんですが・・
うp主としてはバトル書いてる方が楽しいですね。

デストロヒロインも魔法強くなっています!
それではどうぞ!!



2095年 4月3日 東京 某所

 

これは新宿で伊万里が翠と藍から逃げた後の話

伊万里は待ち合わせの車に乗ると運転席には若い男が一人がいた。

 

「伊万里さん。任務の確認をしますか?」

 

この男は洲央

伊万里の雇い主「仙崎」の秘書を始め、裏方(・・)の仕事もこなす男である

 

「いらない。それよりも仙崎は来てないの?」

 

「仙崎がこの車に乗ったことはないでしょう?それでは目的地に向かいます。」

 

この会話だけで終わってしまい。

車の中は静まり返った。

 

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2095年 4月3日 横浜 某所

 

深夜

とあるビルに雨でもないのに赤いレインコートを羽織った少女が現れる。

それと同時にビルのあらゆるカメラのレンズから光が消える

 

少女の正体は、もちろん伊万里である。

伊万里の任務は麻薬に目がくらんだ警察官僚と売人の暗殺だった。

 

伊万里はターゲットが乗っているエレベーターに乗りあわせようとするとターゲットの他に大男2人が乗っていた。

 

(護衛・・・元国防軍と黒帯持ちね)

 

「すまない、お嬢ちゃん。この後のエレベーターに・・・」

 

「別にかまわん、乗せてやれ」

 

大男が乗り合わせることを拒もうとしたがターゲットが乗り合わせることを許した。

 

この選択が自分の死になるとは知らずに

 

伊万里は乗り込んで最上階を選択すると

 

バスッ!

 

ターゲットの首をサイレンサー装着の拳銃で撃ち抜いた。

 

「ウグォ・・・!?」

 

ターゲットは「えっ!?」と言わんばかりの顔する。

だが首を撃ち抜かれているので何も言えず尻餅をつく。

 

「クソッ!し・・・ウベァ!!」

 

バスバスッ!

 

「オラッ!!」

 

ドガンッ!!

 

元国防軍の男は撃たれた直後にCADを取り出そうとした。

だが伊万里は背中を向けたまま拳銃だけを男に向けてヘッドショットをして殺す。

 

その間に黒帯の男は自己加速魔法を使ったタックルを仕掛けようとするが伊万里の『術式解体』で魔法が失敗しバランスを崩した。

結果、あらぬ方向にタックルしてしまう。

 

男のタックルはエレベーターの壁を凹ませた。

 

「ウぁ・・・」

 

男はタックルの衝撃でよろけてしまう。

 

「異常を感知しました。緊急停止します。」

 

停止を告げる無機質な声がエレベーターに響く。

 

バスバスッ!!

 

黒帯の男の頭を銃弾が撃ち抜けた。

 

「おぁ・・・いぁ・・」

 

最後に残ったターゲットもすでに瀕死状態だった。

 

そこで何故か突然、伊万里の脳内に今日会った2人の殺し屋のことが浮かんだ。

 

「なんで今のタイミングで2人の顔が出てくるんだろ?」

 

バスッ!!

 

そんなことを呟きながらターゲットにトドメを刺した。

 

そこに洲央から通信が入る。

 

『お疲れ様です。伊万里さん。あとは火車で処理しておきます。』

 

彼女の仕事はまだ終わらない・・

 

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2095年 4月3日 横浜 某所

 

そんな事件があった頃、そのビルの地下駐車場では893による違法な薬で得た金の集金が行われていた。

 

ここでも凶悪な戦いが始まろうとしていた。

 

「もしもし、なに食べてるの蓮華?もしかしてリーフパイ?」

 

ビルから少し離れた場所に車が一台

車の中にいるのは如何にも雰囲気に合わない少女が二人。

電話をしている赤髪の少女は『佐久良南天』

美少女な見た目からでは想像できない男顔負け(正直そんなレベルではない)の怪力の持ち主。すべての系統は扱えないが加重系魔法を使いこなせる。今は学校に通いながら、ある893の組長の護衛をしている。

 

『うん、そうだよ』

 

その電話の相手は『市井蓮華』。

今はビルのロビーにいる。

金髪と青い目からロシア人などと間違われるが立派な日本人

特殊部隊出身のロシア人父に鍛えられている鉈の使い手。同じくすべての系統は扱えないが加速系統魔法の使い手で、今はある組長の護衛をしている。

 

「あたし達の分も買って来て」

 

そして南天の隣に座ってゲームをするオカッパ眼鏡のこの少女こそ二人の護衛対象である組長 『万両苺』(二人には姫や苺姫と呼ばれている)。見た目は根暗な美少女だが高校二年生にして中華街以外の横浜の裏を仕切っている大物だ。

 

組自体は看板を降ろしてはいるが未だに組織は麻薬を売って稼働し続けている。彼女自身は組織と組織の仕事を守れているのは先代からの呪いと言っているが間違いなく彼女の知力によるものだ。

 

彼女は魔法科高校に通っておらず肉体労働は不向きなものの魔法に関しては百家の数字付きでもトップクラスに入れるほどの実力。得意魔法は放出系魔法。

 

「おっ!?もう買ってきてるの?蓮華やるー!よっ!!大統領!!」

 

南天達はリーフパイの話などで盛り上がっていたが苺はあることに勘付いた。

 

「周りに気をつけるよう伝えろ南天・・」

 

「蓮華、姫が気をつけろだって」

 

『了解、南天ちゃん』

 

苺はゲームを前座席に叩きつけて怒り出す。

 

「あの腐れ豚野郎!!ルートの足引っ張っただけで死にやがって!!」

 

「護衛つけて死んじゃうんだ〜プロの殺し屋かな姫?」

 

「殺し屋もその背後にいるのもド級だ。つか殺し屋にアマチュアもクソもあるか!!このデカ乳星人!!」

 

モミモミと南天の胸を揉み始める苺。

どうやら冷静ではいたようだ。

組長としての器量なのか、男の死がどうでもよかったか、あるいは両方かは不明だが・・

 

苺には殺し屋については心あたりがあった。

最近、苺のルートが誰かに狙われているフシがあった。

なので、この日は月曜日だったが今日は木曜日にくる売人から金を集めていた。

 

ここで視点を蓮華に変えよう。

蓮華は電話越しにイチャイチャしている二人に嫉妬していた。

 

「む〜。ずるい二人とも!もう時間だから行くよ!」

 

『うん!サポートはこの南天さんに任せなさい!』

 

そこにリュックを背負った少女が現れる。

これも もちろん伊万里だ。

 

蓮華は伊万里を見て

 

「小学生?」

 

逆に伊万里は

 

「ロシア人?」

 

と呟く。

 

そこにそれぞれ通信がはいる。

 

『どうかしたの蓮華?』

 

「え、あ、いや何でもない」

 

『伊万里さん。そいつが集金人です。』

 

「へぇ〜・・」

 

ここで蓮華は伊万里の殺気に気づく。

あわてて伊万里を目で探すとドアを通り抜ける姿が見えた。

その伊万里はまるで蓮華に見せつけるかのようにリュックから拳銃を取り出していた。

 

「なっ・・!!あんな子が!・・姫!!姫!!」

 

『どうした蓮華?』

 

「姫!!殺し屋が出た!もう駐車場に入った!」

 

『落ち着け蓮華。絶対に殺し合うなよ。いいな?売人は期待できないから金を集めほしい。』

 

「わかった」

 

ババババッスッ!!

 

そうしている間にも伊万里は一台ずつ皆殺しにしている。

 

『残るは10台!!誰が最初に気づきますかね?いや気づけませんよね。ははは!』

 

「うるさい洲央。それに気づいても無理、車の出口はもう封鎖してある。」

 

バス!!バスッ!

 

次々と売人を殺していく伊万里。

その姿をバレないように隠れて金を集めながら蓮華はワクワクしていた。

 

(すごい魔法無しであんなに速い、射撃も正確、魔法に関しても無駄がなく浮遊術式の応用で着地も静かだ。殺気はお父ちゃんとは比べたくないし・・背は小さいけど・・間違いない!今まで経験した中で一番強い!)

 

残り1台になって売人は異変に気付く。

 

「な、なんかヤバくないか?に、にに逃げようぜ!!早く!!」

 

「わーってるよ!!いくz・・な、なんだ!?車の出口がしまってやがる!!」

 

そして車のドアをはさんで すぐ横に伊万里が現れる。

窓ガラスに銃口をつけると・・

 

ボスッ!バスバスバスッ!!

 

売人全員の始末が完了した。

伊万里は死体を見て叫ぶ。

 

ゔぁ〜〜〜〜〜〜〜か!!(馬〜〜〜〜〜〜〜鹿!!)・・痛っ・・」

 

突然、伊万里を頭痛が襲う。

この頭痛は彼女の抵抗(・・)の証拠でもある。

 

だが痛みを気にする余裕はなくなった。

蓮華が加速系魔法で速めた投げナイフで襲ってきたのだ。

 

シュッ!!

 

ガガッ!!

 

ドフッ!!

 

投げナイフ2本の内1本は避けられて車に刺さるが最後の1本が伊万里の拳銃のサイレンサーに刺さり壊れる。

 

伊万里は笑いながら折りたたみナイフを取り出す。

 

「加速系魔法・・キャハ!!命をドブに捨てるのかな!?」

 

「楽しそうだなって思ったから・・さ!!」

 

「っ!E6!」

 

キンッ!!ギンッ!!ガッ!!

 

蓮華はマシェット(鉈のようなもの)を取り出し勢い良く斬りつける。

普通ならどちらかの武器が完全に壊れる威力。

だが伊万里は音声認識の腕輪型汎用CADでナイフと壊れた拳銃に硬化魔法をかけて破壊を防ぐ。

 

「C2」

 

ドッ!!

ブゥン!!

 

今度は伊万里が跳躍の魔法を使い車を踏み台に三角跳びの要領で飛び上がり回し蹴りをする。

さすがに避けられないと伊万里は思ったが蓮華は自己加速術式で後ろに避けた。

伊万里は戦い方からあることに気づいた。

 

「その戦い方・・千葉流剣術か?」

 

「すごい!よく知ってるね。だけどこれは お父ちゃんが千葉家から盗んで改良しているんだ。」

 

今度は蓮華のターン。

蓮華は腕輪型CADを操作するともう一度自己加速術式を発動する。

伊万里は一度距離を置こうとしたが、蓮華は一気に詰め寄る。

すると蓮華は常人離れした剣速で袈裟斬りをしかけた。

 

バシュッ!!

 

伊万里の後ろにあった車に綺麗な切れ込みがはいる。

しかし伊万里はギリギリのところで避けて距離を置いていた。

伊万里のリュックサックの紐が3cmほど切れる。

 

「・・・」

 

「チッ!避けたんだ。だけどジリ貧なのは変わらねぇよ〜な!!」

 

再び距離を詰める蓮華。

しかし体勢を整えた伊万里にそれは愚行だった。

 

パァン!!

 

銃声ではなかった。

伊万里の『術式解体』が蓮華の自己加速術式を吹き飛ばしたのだ。

 

「なに!?バランスが・・いや魔法が消された!?」

 

「キャハハ!もう少し魔法について勉強するべきよ。あなた」

 

魔法が強制的にキャンセルされたことでバランスを崩した蓮華。

そこに伊万里の顔面めがけた強烈な飛び膝蹴りがくる。

 

ドガッ!!

 

「グォ!!テメェ!!」

 

蓮華は力任せに思いっきりマシェットを振る。

だが伊万里の下がる速さに追いつけずマシェットが空を斬った。

そして殺し合いが再開される。

 

ちょうどその頃・・

苺たちは地下駐車場の入り口兼出口にいた。

 

「シャッターが降りているだと!?南天!開けてこい!!」

 

「了解!姫」

 

南天は力を込めて持ち上げる

 

「んぎぎ・・!!」

 

だが怪力の南天を持ってしても上がらない。

 

そこで痺れを切らした苺が言う

 

「もういい!魔法使ってでも壊せ!!」

 

「うん!じゃあいくよ!」

 

南天はタブレット型のCADを操作し加重系魔法を発動。それを拳に乗せてシャッターに思いっきり殴りつける

 

「こんのっ!!」

 

ドカーン!!

 

まるで爆発したかのような音が響く。

だがそれでもシャッターは壊れない。

それもそのはず伊万里が硬化魔法で壊れないようにしているのだ。

だから地下駐車場は今、一種の処刑場となっていたのだ。

 

「ちっ!!クソが!硬化魔法だな!南天、車乗って銃を用意しろ。あたしがぶっ壊す!!」

 

苺もタブレット型のCADを取り出し魔法を発動する。

魔法は振動系魔法『共振破壊』

 

対象物に無段階で振動数を上げていく魔法を掛け共鳴点を探し、対象を振動破壊する魔法

だがシャッターは伊万里のパーツの分子の相対位置を固定する硬化魔法がかかっている。

魔法ではこういう場合、干渉力の高い方の魔法の事象改変が起こる。

苺は怒りのまま魔法を放つ。

 

「なんで私のシマでーーーーーーー!!」

 

ドガシャーン!!

 

干渉力の勝負が始まり、勝負は一瞬でケリがついた。

苺の魔法がシャッターを破壊したのだ。

 

そして苺が移動魔法で壊した瓦礫をどかすと車が走りだした。

 

一方、伊万里と蓮華の戦いは続いていた。

 

キンッ!ガキンッ!ガッ!キキンッ!!

 

蓮華は自己加速術式で剣速を速めている。

袈裟斬り、突き、回し斬りなど色んな攻撃をしかけているが

驚くことに伊万里は魔法無しで蓮華の速度についていってるのだ。

それどころか・・

 

シャッキン!!キキンッ!!

 

蓮華にナイフで反撃をしているのだ。

だがここで爆音が響く。

 

ドガシャーン!!

 

「ここまでか・・まさか硬化魔法がやぶられるなんてね・・お仲間も大した実力ね。」

 

「え!?帰るの!?もうちょっと戦おうよ!!手出しはさせないから!!あ!!せめて名前ぐらい・・」

 

「お断りよ。ば〜か!」

 

シュッ!!

 

最初のお返しと言わんばかりにナイフを投げつける。

蓮華は避けたが目線を伊万里に戻すと すでに消えていた。

それと同時に苺達を乗せた車が到着する。

 

「蓮華!無事!?」

 

南天はアサルトライフルを構えるがすでに敵は逃げている。

蓮華は状況を伝える。

 

「逃げられちゃった・・」

 

苺は呆れ顔になる。

 

「たく・・あれだけ殺し合うなって言ったのに・・」

 

そうして車は蓮華を乗せて去っていった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月3日 横浜 某所

 

伊万里はすでにビルから離れたところを歩いていた。

すると洲央から詰問がくる。

 

『なぜピンクパーカーの女達を殺さなかったんです?』

 

伊万里は軽く受け流す

 

「そっちこそ忘れてない?ターゲットは警察官僚と売人よ。じゃ」

 

ピッ!

 

通信を切ると伊万里は帰宅するのだった。




予告と違ってごめんなさい!!
セリフ以外は間違っていないんですけど・・
なんだか書いてる時に『女子vs女子の魔法バトルがあるんだから魔法少女ものじゃない!?』と思ったら あんな予告になってしまいました。

次回はやっと4月4日。
といってもまた三、四話ぐらいつかいそうな予感・・
お楽しみに!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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17話 清夜の謎

17話です!

今回は達也と清夜の表パートってやつです。
それではどうぞ!!


2095年 4月4日 九重寺

 

「はあっ!!」

 

「とりゃ!」

 

ガッ!!

ブンッ!!

 

寺の僧侶達20名の攻撃を捌いていく達也

達也は日課の稽古のため、深雪は入学報告のために九重寺まで足を運んだのが

そこでは手荒い歓迎が待っていた。

とは言っても殺し合いという訳ではない。

これが今日の達也の稽古という訳だ。

 

深雪は邪魔にならぬよう山門に控えていると不意に陽気な声がかかる。

 

「やぁ深雪くん!おはよう。」

 

「キャッ!!・・もぉ・・おはようございます先生、忍び寄らないで普通にあいさつしてください。」

 

深雪は何度もこういう経験はしていたのだが慣れないものは慣れないというやつだ。

後ろにはハゲ頭と目の傷が目立つ坊主が立っていた。

 

「忍び寄るな、って言われてもね〜僕は『忍び』だから忍び寄るのは文字通りで、性みたいなものなんだ。」

 

飄々と答える坊主だがこの坊主こそ達也の師匠であり、昔で言う『忍者』、今では『忍術使い』と呼ばれる古式魔法師でもある『九重八雲』その人である。

 

「今時、忍者なんて職種はありません!!先生が由緒正しい『忍術使い』というのは理解してますが・・」

 

「それが第一高校の制服かい?ふむふむ・・」

 

別の話になっているが、いつものことなので深雪は気にせず答える。

 

「はい、今日は入学のご報告をと・・先生?」

 

深雪の制服を舐め回すように見る八雲

 

「そうか、そうか。その制服が初々しくて、清楚なんだが隠しきれない色香があって・・表すなら綻ばんとする花の蕾、萌え出ずる新緑の芽・・そうか!!これは萌えだ!萌えなんだよ〜!!ややっ!?」

 

何かに気づくと八雲は振り返り防御の構えをする。

するとそこに達也の鋭い手刀が振り下ろされる。

 

ブンッ!!

バシッ!!

 

見事に防ぐ八雲。

見ると達也の後ろでは倒れている僧侶達がいた。

 

「師匠、妹が怯えているので止めてもらえませんか?」

 

「やるね〜達也くん。僕の背後を取るとは・・・ねっ!!」

 

八雲が突きを繰り出し本格的な稽古が始まる。

達也は極め技をしかけようとする手から逃れつつ八雲の突きを躱す。

するとお互いは距離をとった。

そしてまた二人は激突する。

倒れていた僧侶たちは起き上がり深雪とともに稽古をながめるのであった。

 

〜数分後〜

 

達也は八雲に惨敗し息を荒げながら地面に倒れていた。

 

「はぁっ・・はあっ・・」

 

「大丈夫ですか、お兄様?」

 

「んっ・・・大丈夫だ。ありがとう。」

 

そう言って達也は深雪からタオルを受け取り起き上がる。

そこで達也は深雪のスカートに気がつく。

 

「すまない、スカートが汚れてしまったな。」

 

「大丈夫ですよ。お兄様。」

 

深雪は携帯端末型のCADを取り出す。

そしてCADを操作すると魔法が発動し深雪と達也の服を綺麗にした。

 

ここでCADについて説明しよう。

CADとは現代魔法で用いられている道具で昔で言う杖や魔導書のようなものだ。

CADは魔法の設計図である起動式を格納しており杖や魔導書などに代わり起動式を提供する現代魔法師の必須アイテムである。

種類としては大きく分けて二つあり魔法の系統に多様化した汎用型CADと多様化を犠牲に発動スピードに特化した特化型CADがある。

そして今、深雪が使ったのは汎用型に部類されるCADだ。

 

達也は起き上がり礼を言った。

 

「俺の分まで・・ありがとう」

 

「いえ これぐらいのことは・・それよりも朝ごはんにしませんか?先生も宜しければご一緒に」

 

八雲も喜んで頷き

何事もなかったかのように準備を始める深雪。

そうこれぐらいのこと深雪にとっては”なんでもない”ことだった。

 

食事は稽古の評価について会話しながら行われた。

そして食事が終わると達也は話題を切り替える。

 

「それで話が変わりますが、実は師匠にお願いしたいことが・・・」

 

「おや、改まって一体どうしたんだい?」

 

八雲も只事ではないと理解したのか姿勢を正した。

 

「自分のクラスメイトである『式 清夜』について調べていただきたいのです。」

 

「ほぉ・・今日はまだ入学して二日目だろう?その彼が君達に何かをしたのかい?」

 

達也は昨日の一連を八雲に話す。

達也が一瞬感じた気配、深雪に一瞬見えた清夜の心の色を

八雲は何かを、知っているような顔をする。

 

「なるほど・・気のせいかもしれないが達也君ほどが身構えてしまい、深雪君ほどが固まってしまう人物か・・それにしても『式』か・・」

 

これが誘いであると知っていたが深雪は躊躇わずに聞く。

 

「先生、何か心当たりがあるのですか?」

 

「確か”式海運”の社長『式 一正』を調べていた時に息子の名前にそんな名前があったな、と思ってね。」

 

達也も知識として式海運は知っていた。

 

「式海運・・海運で世界中に名の知れた会社でしたね。一時期は倒産の危機でしたが『式 一正』の死亡で社長が『アイザック・ウェストコット』に変わり、今では社名をDeus Ex Machina Industryに変え武器商や魔法工業でも世界トップクラスになった会社・・ですか。」

 

「私も『式 一正』については本家から聞いたことがあります。式海運の頃から武器商として護衛の傭兵とともに戦場を渡り歩いた危険人物だとか。それで彼は元御曹司ということですか先生?」

 

八雲は慌てて訂正する。

 

「待った待った!二人共、早合点はよくないな。僕は『式 清夜』君が『式 一正』の息子だと決めつけた訳じゃないよ。もし君たちの勘違いで変に警戒したら他の人間に正体がバレてしまうかもしれないよ?それじゃあ本末転倒じゃないかな?」

 

「ですが師匠。気のせいかもしれませんが あれほどの気配を出す人物が只の一般人なわけがないと思いますが」

 

「うーむ・・君を疑っているわけじゃないんだけどね。僕の調べた限り『式 一正』の息子は魔法は使えるけど魔法師としての才能がなかったんだよ。魔法科高校にも入れないぐらいね。まぁ、その妹は魔法師として才能は一級品だったけど。」

 

深雪は妹とというワードに反応する。

 

「妹・・ですか?」

 

「うん。話題がずれてしまうけど、式 一正には兄妹がいてね。息子は運動も勉学も何の才能にも恵まれくて無能と呼ばれるほどだったんだが逆に妹は魔法だけでなく容姿や勉学など様々な才能に恵まれていたとか。元々、『式 一正』の後継者は妹さんだったんだよ。兄妹仲は良かったんだけど。なんだか君達に似ているね。」

 

達也は無言で聞いていたが深雪は最後のセリフに納得いかなかった。

 

「先生!!お言葉ですが兄は無能なんかではありません!!」

 

深雪の怒気に流石の八雲も驚く。

 

「い、いや すまない!仲が良かったことを言いたかったんだけどね。」

 

達也も目で深雪を叱りつける。

すると深雪は顔を赤くしながらも謝罪する。

 

「申し訳ありません先生!!」

 

「いや、いいんだよ。話題とは違う話をしたのは僕だから。とにかく式 清夜君の調査については任せてくれ。」

 

二人は深く頭を下げ達也が礼を言う。

 

「ありがとうございます師匠。それでは学校があるので自分達はこれで・・」

 

そうして立ち去ろうとすると八雲から忠告を受ける。

 

「あ、そうそう。最近、東京の裏では893とか麻薬の悪党が沢山潰されているんだ。凄腕の殺し屋にね。少なくとも二組が暗躍している。関係ないとは思うけど気をつけてね。」

 

「分かりました。一応警戒しておきます。それでは失礼します。」

 

不安がる深雪の肩を抱いて達也は九重寺を後にした。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月4日 第一高校

 

清夜は教室に入るなり頭が痛くなった。病気とかではなく精神的な意味で・・

理由は二つ。

一つ目は達也の席が清夜の席の斜め後ろだったこと。ついでに言うと美月が後ろ。

これは清夜の正体などが気づかれるリスクもあったが達也の正体についても探れるチャンスでもあるので、これは百歩ぐらい譲ってもいいだろう。

二つ目が問題だった。

 

「失礼なのはお前だろうが!ちょっと顔の出来が良いからって調子に乗るんじゃねーぞ!」

 

「見た目は大事なのよ?だらしなさとワイルドを取り違えてるむさ男には理解できないとは思・う・け・ど」

 

それはエリカと男子生徒が清夜の席(・・・・)で言い争っていることだ。

もう関わらないという公約は早速失敗に終わりそうだ。

 

そこで達也と美月が清夜に気づき、この状況から逃げ出すために挨拶をする。

 

「式さん!おはようございます。」

 

「おはよう清夜。席はそこだぞ。」

 

達也は八雲の注意もあってか自分では先入観なく自然に挨拶ができた。

清夜も観念し自然にあいさつをする。

 

「おはよう。そうか、二人と席が近いのか一年間よろしく。それで、夫婦喧嘩中すまないけど出来れば退いてくれないかな?席に座れないんだ。」

 

夫婦という言葉に清夜の心はモヤモヤするが紳士な笑顔と不快にならない調子でお願いする。

 

「あっ!清夜君!おはよう!ゴメンゴメン今退くから・・って」

 

「おう、すまねぇな・・って」

 

「「誰が夫婦だ!」」

 

二人は息ぴったりにツッコミを入れてくる。

さらにエリカに関しては

 

ドフッ!!

 

「ぐぉっ!!・・」

 

と清夜の腹にボディーブローをぶつけてくる。

どうやら選んだ言葉に関しては間違っていたようだ。

美月と男子生徒は心配そうに見ていたが

腹を押さえてうずくまる清夜を見て達也は

 

(・・アホだ・・やっぱり気のせい・・か?とりあえず調査を待ってからでも遅くないはずだ。)

 

と若干呆れ顔になっていた。

そしてエリカは自分の行動が分からなかった。

 

(あれ?なんでアタシ、むさ男より清夜君に怒っているんだろう?・・って『清夜(・・)』君!?アタシなんで名前で!?あぁ〜もうなんなのよ!?この感覚!)

 

「うぐぅ・・千葉さん、おは・・よう・・そして痛いよ。てか・・昨日と呼び方違わない?」

 

「フン!・・清夜君が悪いのよ。名前は・・名前は・・そう!!司波君だけ名前呼びは不平等だからよ!!そう思うよね美月!?」

 

突然、美月に会話の強烈なパス!!戸惑う美月!!

 

「ひぁ!?あの・・その・・そ、そうですね。私も深夜さんとお呼びしても?あと司波君もよろしければ・・」

 

ここで美月は上手に会話をトラップ!!そして達也と清夜にパス!!

 

「えと・・俺は別にいいけど・・達也は?」

 

「あぁ俺も達也で構わないぞ。」

 

とここで会話が終了し何故か気まずい雰囲気になる。

だが男子生徒は清夜を見て気まずげに声をあげた。

 

「なんだか仲間ハズレみたくなっているが自己紹介いいか?」

 

「あ・・ああ!!もちろんだよ。」

 

彼のおかげで雰囲気が戻る。

 

「俺は西城レオンハルト!親がハーフとクォーターだから洋風な名前になってるんだ。レオって呼んでくれ。得意魔法は収束系の硬化魔法だ。機動隊や山岳警備隊の志望だ。お前の席の隣だからよろしくな!」

 

レオは手を差し出して握手を求める。

清夜はガッチリと手を握って握手に応える。

 

「式 清夜だ。俺のことも清夜と呼んでくれ。得意魔法は・・特にないかな。魔工師志望なんだ。こちらこそ、よろしく」

 

二人は笑顔で挨拶を終わらせるがエリカが茶々を入れる。

 

「『見た目通りガサツです』って言うの忘れてるわよ。」

 

「なんだと!この〜・・」

 

売り言葉に買い言葉で返そうとするレオ。

だが他の三人が止めに入る。

 

「エリカちゃん。もう止めましょう。少し言い過ぎよ」

 

「レオも、もう止めとけ。今までの経緯を踏まえればお互い様だし、口じゃ敵わないんじゃないか?」

 

「千葉さんもレオも一回席に戻ろう?そろそろオリエンテーションが始まるよ」

 

とここで5分前の予鈴が鳴り二人は渋々従う。

睨み合いは終わらなかったが。

 

「・・美月がそう言うなら」

 

「・・しょうがないか」

 

こうしてやっと落ち着けた清夜は残された時間で受講登録することにした。

 

カタカタカタカタ・・

 

達也が清夜を見つめる。

清夜は気にせず受講登録を済ませると達也が疑問を投げかける。

 

「清夜もキーボードオンリーなのか?」

 

「『も』ということは達也もキーボードオンリーなのかい?」

 

「ああ、結構気が合うようだな。」

 

「だね。改めてよろしく頼むよ。」

 

まだ二日と出会ったばかりでお互い油断ならないことは分かっていたが、互いに仲の良い友人になれると本心から思った。

 

受講登録を終えた2分後に本鈴が鳴り、それと同時にスーツを着た若い女性が入ってきた。

前に説明した通りこの学校で指導教員は一科生だけで、授業自体も実習以外は一科、二科関係なく卓上端末を使ったオンライン授業であるため教師が教壇に立つことはない。

だが清夜はその女性に心当たりがあった。

 

(小野遥!サイモンさんが警戒しろ忠告した要注意人物・・表向きはカウンセラー、裏ではミズ・ファントムと呼ばれる公安の諜報員か。まさか俺のクラスになるとは・・偶然?必然?どちらにせよ悩みの種は尽きそうにないな。)

 

そうこう考えているうちにカウンセラーの説明などが終わり一名の男子生徒が席を立つ。

どうやら受講登録を終わらせている生徒は退室していいらしい。

だが下手に退室してミズ・ファントムに印象を持たれるのは困ると判断し

おとなしくガイダンスを受けるのだった。

 

 

ガイダンスが終了し教室は一気に賑やかになる。

清夜は工房の場所を確認し席を立つとレオから声がかかる。

 

「おっ、清夜。どこ行くんだ?」

 

「魔工師志望だからね。これから工房に行くんだ。それz・・」

 

「待った!俺も工房に行きてぇんだ。一緒に行こうぜ。達也もどうだ?」

 

達也は自分のデバイスを閉じて答える。

 

「もう少し資料を眺めていようと思ったが・・OK付き合うよ。」

 

清夜も悪さをするわけではないので同意する。

 

「俺も構わないけどいいのかい?闘技場じゃなくて?」

 

「その印象も間違っちゃいねぇが硬化魔法は武器術との組み合わせがいいからな。武器の調整技術スキルが欲しいんだ。」

 

席にいた美月も遠慮気味だが同行の申し出をする。

 

「なら私もご一緒してよろしいですか?私も魔工師志望なので」

 

「あっ、確かに美月はそれっぽいかも。そこのむさ男とは違って」

 

美月の頭越しにエリカも乱入してくる。喧嘩の火種込みで

 

「なっ!オメーの方が工房に似合わねーよ!さっさと闘技場に行ってこい!」

 

「そのセリフ、そっくりそのままお返しするわ。」

 

殺し屋ほどではないがエリカとレオの間で火花が飛び散る。

清夜達はまたも仲裁に入る羽目になる

 

「あの〜喧嘩はいいから工房に行こうよ。」

 

「そうですよ!時間がなくなってしまいますよ。」

 

「そうだぞ。早くしないと俺たちが最後になっちまう。」

 

レオとエリカは最後に思いっきり睨みながらお互いそっぽを向いた。

結局、清夜は朝のメンバーと共に工房に行くことになった。

この後のトラブルに巻き込まれるとは知らずに・・・

 




関わらない詐欺をしている清夜君。彼の心のうちはどうなんでしょうね〜
まぁ私も知りませんが。

次回はとうとうアレが登場!!清夜はどうするのか!え、アレはアレですよ・・ほら、も・・・もずく?

次回もお楽しみに!

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18話 引き裂かれる(?)兄妹

18話です。
課題が忙しくて少々いつもより遅いペースになりましたね
それではどうぞ!


2095年 4月4日 第一高校 校門前

 

必ず物事には原因や経緯がある。

清夜が復讐を誓うのも司波兄妹が仲良しを通り越しているも必ず原因や経緯があるはずだ。

そう、今清夜の前で起こっているトラブルにも・・

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月4日 第一高校 食堂

 

清夜達は工房見学を終え食堂で昼食を取っていた。

魔工師志望の三人は満足気に感想を述べる

 

「工房見学とても有意義でしたね。」

 

「あぁ、設備も充実していた。」

 

「さすがは国立だよね。」

 

レオは若干唸った。

 

「う〜ん、最後にやっていた作業 俺にできるかな?」

 

「え・・・あんた自分にあんなことができる可能性があると思っていたの?」

 

もちろんエリカがバカにする。

 

「なんだと!?というか何でお前がいるんだよ?俺は達也と美月と清夜と食べてるんだ。どっか行けよ。」

 

「私が達也君と美月と清夜君と食べてるの!アンタがどっか行きなさいよ。」

 

清夜達5人は6人席で男女で向かい合う形で座っているので邪魔ということではなかったのだが

朝からこの調子なので清夜は呆れて仲裁を諦めている。

そこに授業を終えたトラブルメーカー(もちろん本人が起こしてるわけでも扇動しているわけではない)が現れる。

クラスメイトとが付いて来る形で・・

 

「お兄様!!私もご一緒してもよろしいですか?」

 

レオは面識がないので小声で達也に尋ねる。

 

「えと・・どちらさん?」

 

「妹の深雪だ。」

 

「初めまして、妹の司波深雪と・・」

 

深雪が挨拶しようとするところで深雪のクラスメイトから声がかかる。

 

「待って司波さん!!二科生(ウィード)と食事をするつもり?」

 

二科生(ウィード)なんかより、私たち一科生(ブルーム)と食べましょう。」

 

花冠(ブルーム)雑草(ウィード)のけじめはつけるべきだ。」

 

「そうだよ」と他の一科生(ブルーム)も同調する。

さらには茶髪の男子生徒がレオの前に立つとこんなことを言う。

 

「君たち、席を譲ってくれ」

 

最初に反応したのは やはりレオとエリカだった。

二人は立ち上がって睨みつける。

 

「んだと・・」

 

「はぁ?・・」

 

だが茶髪の男子生徒は気にせず、こう続けた。

 

「だってそうだろう?君達 二科生(ウィード)は補欠にすぎない。だから食事だろうと僕達 一科生(ブルーム)が優先されるのは当然じゃないか。」

 

あまりに失礼な物言い・・

さすがの美月も我慢が切れそうになり立ち上がる。

達也はというと昔ならば怒りすら込み上がらない状況だが今は違う。

表情や行動には出さないものの不快な気持ちでいた。

 

そんな二科生メンバーでただ一人、清夜だけは平然と見ていた。

まるで他人のように・・

清夜は考える。

 

(平和ボケで選民思想の人間ほど扱いやすいものはないな。どうせなら煽って双方戦わせて達也の実力を測ってみようか・・)

 

「皆やめよう?、たかが(・・・)入試の結果で争うことないだろう?」

 

清夜は止めてるように見えるが実際は『実力はないんだろ?』というニュアンスで双方を煽っている。

双方、見事に清夜の口車に乗せられ戦闘モードに入ろうとする

 

「だったら実力行使で奪ってやろうか 二科生(ウィード)・・」

 

「ハン!やれるもんなら、やってみなさいよ」

 

だが一触即発のムードの中、達也は立ち上がる。

 

「俺は終わったから行くよ深雪。」

 

「いいのかい?せっかく兄妹で食事ができるのに?」

 

「ああ、家でもできるからな。」

 

(あらまぁ、本当にお利口さんだこと・・まぁここは達也の意思を尊重しますか。)

 

「そう、じゃっ!俺もご馳走様でした♪」

 

清夜は達也を引き止めながらも便乗する形で去っていった。

すると気力が削がれたのかエリカ達も怒り、呆れながらも席を離れる。

 

「あほらし・・」

 

「まったくだぜ・・」

 

「・・・・」

 

そうして席が空く。

茶髪の男子生徒は紳士振るかのように椅子を引いた。

 

「さぁ、こちらへどうぞ司波さん。」

 

だが深雪は冷たい笑顔で断る。

 

「いえ、そこは皆さんで使ってください。北山さん、光井さん。私達は向こうの方で食べましょう。」

 

「えっ・・」

 

「うん」

 

「は、はい!」

 

深雪は今日できた友人と共に席を後にする。

自分がバカにされたわけではないが一番不快な気分でいたのは深雪だった。

だがこれはトラブルの第一幕にすぎない・・

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月4日 第一高校 遠隔魔法実習室

 

美月の提案で午後は遠隔魔法実習室にいた。

 

この授業では十師族、それも序列二位の『七草』家の長女にして遠隔魔法の天才『七草真由美』が実習をするということで教室は見学者でギュウギュウ詰めになっていた。

 

『十師族』、清夜の日本におけるビジネスの最大の難敵にして日本最強の魔法師集団。

魔法技能師開発第1〜10研究所の出身である二十八家から4年に一度の『十師族選定会議』で選ばれた10の家系が『十師族』と名乗る。

 

彼らは苗字に出身研究所の数字を入れている。

表向きは民間人なので表権力は放棄しているものの政治の裏側では司法当局を凌駕する権勢を持っている。

 

国防軍に対する発言力の強さがその証拠。

沖縄、佐渡防衛から武器などの仕入れ割合は十師族関連企業から3割、DEMからは6割となったが

発言力ではDEMが十師族と同じになっただけである。

 

といっても清夜は憎らしげに見ているわけでなく普通に見ているわけだが

後ろから先ほどの男子生徒の声が聞こえる。

 

「うおっ苦しい・・おい、なんで 二科生(ウィード)が最前列にいるんだよ!?」

 

いるも何も彼らが追い出したから早く来れたわけだが男子生徒は 二科生(ウィード)がいることに不満のようだ。

 

(達也達は気付いてなさそうだし・・・まっ、いいか。)

 

清夜は無視することに見学に集中する。

この第二幕は昼食のときとは逆に一科生の不満がたまるだけで終わった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月4日 第一高校 校門前

 

とうとう双方の怒りが抑えられなくなり第三幕が始まる。

ことの始まりは下校の際のこと。

深雪が兄と帰ると言うのに深雪のクラスメイトがしつこく付きまとったのが始まり。

だが意外にも最初にキレたのは美月だった。

 

「いい加減にしてください!深雪さんは達也さんと帰ると言っているじゃないですか!?」

 

「うるさい!!僕たちは司波さんと親睦を深めたいだけだ! 二科生(ウィード)は黙ってろ!!」

 

その言葉を皮切りに野次馬が集まる

見た目よりも芯の強い女性に清夜は驚いた。

 

(まぁどんなに穏便に済ませても納得しなければ問題の先送りにすぎないんだけどね・・にしても、まさか美月が最初にキレるとは・・いやはやご立派なお嬢さんですな。)

 

達也と深雪は二科生メンバーの一歩引いた場所で見守り

そんな清夜はそのさらに一歩後ろで見学していた。

清夜は学校で使える普通のデバイスをオンにして胸ポケットにしまう。

 

 

美月は怖じ気付かずに続けた。

 

「一緒に帰りたければ付いていけばいいのに、何で二人の仲を引き裂くんですか!?」

 

「な、なな仲を引き裂く!?な、なにを言ってるの美月!?か、かかか勘違い、勘違いですよ!?」

 

深雪は顔を真っ赤にしながら否定する。

それに対し達也は疑問を浮かべ、清夜は微笑する。

 

「なぜに焦り、疑問系になるんだ?」

 

「フフーフン♪・・司波さんは よくある恋愛ドラマを自分に置き換えて想像、もとい妄想したんだよね?」

 

「?」

 

「し、清夜さんも勘違いです!!勘違いですよ!?」

 

達也はさらに疑問を浮かべ、深雪はさらに真っ赤になる。

そんな間にもレオとエリカを加えた口喧嘩が続く。

 

「はん!そんなことは自活でやりなさいよ!」

 

「そうだ!本人の意思を無視してまでやることじゃないぜ!」

 

エリカもレオも我慢が切れていたようだ。

だがどんなに正論を述べても一科生の選民思想がそれを許さない。

昼の茶髪の一科生が前に出る。

 

「うるさい!君達雑草(ウィード)に僕達花冠(ブルーム)のなにが分かる!それに君達はこの実力主義の学校で補欠なんだ。つまり存在自体が僕達より下なんだ。下は下らしく黙って従っていろ!」

 

「同じ新入生なのに!今の時点でどれだけの差があると言うんですか!!」

 

美月の反論で一瞬静かになる・・

だが茶髪の男子生徒が口元をにやけてこんなことを言う。

 

雑草(ウィード)花冠(ブルーム)の違いも分からないか・・ならその差を体に教えてやろうか?」

 

「おもしれぇ是非ともご教授していただきたいぜ。」

 

(あ〜あ、清夜さん的にも面倒くさそうになりそう・・逃げようかな・・)

 

レオも買い言葉のつもりで言ったのだろうが その言葉が本格的な喧嘩の引き金になる。

茶髪の男性は特化型のCADを取り出すと起動式を展開する。

 

「これが実力の差だぁ!!」

 

「お兄様!!」

 

「わかってる」

 

達也は手を前に出し何かをしようとしていた。

清夜はラッキーと思い観察する。

 

(おっ!思わぬところで達也の実力が見れるんだ。起動式を見て解析してみますかね。)

 

清夜は仮想デバイスの『ニューロリンカー』で起動式を見ようとする。

仮想デバイスの使用、持ち込みは校則で禁止されているが首につけるタイプの仮想デバイスは市場に出ていないので気づかれることはなく余裕で持ち込めていた。

 

だが達也が何かをすることはなかった。

 

ガキィン!!

 

エリカが警棒で茶髪の男子生徒のCADを弾いたのだ。

清夜は残念ながらも あることに気づいた。

 

「あれは刻印型のCADか・・」

 

「そのようだ、かなり珍しいな」

 

達也も気づいていたのか同調した。

エリカは警棒を男子生徒に突きつける。

 

「この距離ならこっちの方が早いのよね。」

 

清夜は誰にも気づかれぬよう、いや自分自身すら気づかぬうちに微笑んでいた。

 

(そうか・・変わったんだねエリカちゃん。それに比べて俺は・・)

 

とそこで後ろにいる別の一科生がキレながらCADを取り出す。

 

雑草(ウィード)ふぜいがーーー!!」

 

(おとと・・感傷に浸ってしまった。どうやら盛り上がってるようだし・・達也には頑張ってもらおうか)

 

清夜はここで達也を試すことにした。

清夜は深雪と達也の前に出ると終わらせようとみせかけて煽る

 

「ねぇ、もうやめようよ!俺が言うのもなんだけど差は分かったじゃないか!これ以上やると教員とかに・・」

 

『差が分かった』という言葉にカチンと来た一科生は怒りと魔法の矛先を清夜に向ける。

 

「なんだと!!俺たちの方が上なんだよ!」

 

(さて相手が下手したり俺が避けたりすると魔法が妹さんに当たるかもよ?どうする達也?君は妹を守れるかな(・・・・・・・・・)?)

 

達也は顔をこわばらせる。

 

(まずい!止めるのは構わないがその位置では下手したら深雪に!・・いや、そもそも止める気あるのか!?とにかく魔法を止めなければ・・)

 

達也はまた手を前に出す。

だがまたしても達也が何かをすることはなかった。

 

ガッ!!

 

人混みから清夜を狙った一科生に向かって石が投げ飛ばされたのだ。

石は起動式を展開していた一科生の頭に思い切り当たる

そして魔法もキャンセルされる。

 

「うがっ!!誰だ!!」

 

一科生も美月たちも犯人を捜すが見つからない。

とそこに『思考通信(・・・・)』がはいった。

その声は冷たい、だが優しい声色の女性の声だった。

 

『マスター、何をなさっているのですか?悪目立ちはしないとか言っておりませんでしたか?』

 

その正体は学内護衛のBだった。

清夜は彼女につけた愛称で呼ぶ。

 

『アルか。な〜に、司波達也の力を測ろうとおもってね。彼の話は聞いていただろう?そして君に邪魔されちゃったってわけ』

 

『それは謝罪しますけど、もう風紀委員に通報しました。できれば控えた方がよろしいですよ・・そろそろ委員長と会長が到着します。』

 

『分かった、君の言う通りにしよう。君は何食わぬ顔で元の生活に戻ってくれ。』

 

『了解』

 

そこで通信が終了する。

だがその間にも喧嘩の盛り上がりも最高潮になっていた。

 

雑草(ウィード)が調子にのるなよ!!」

 

「私達花冠(ブルーム)のほうが強いのよ!!」

 

喧嘩相手の一科生の殆どがCADを取り出す。

それでも一科生のなかにも止めようとする人間が現れる。

それは美月の次に気の弱そうなツインテールの女子生徒だった。

 

「皆!もうやめて!」

 

彼女はすでに起動式を展開し始めていた。

深雪は止めようとするが達也が制する。

 

「大丈夫だ。それに・・」

 

その時、清夜の『ニューロリンカー』から解析予測がでた。

 

(光学系の閃光魔法・・・威力も抑えている。)

 

そして彼女の起動式が展開終了しようとした時

彼女の起動式が吹き飛ばされた。

正確にはサイオン粒子の塊で撃ち抜かれたのだ。

 

「きゃ!!」

 

「やめなさい!人を対象にした魔法は犯罪行為ですよ。」

 

「風紀委員だ!全員その場を動くな!」

 

人混みから風紀委員長の『渡辺摩利』と生徒会長の『七草真由美』が現れる。

摩利は閃光魔法を使おうとした女子を呼ぶ。

 

「そこの女子!先ほど攻撃魔法を使おうとしたな。君には特に話を聞く必要がある。」

 

「そ、そんな・・」

 

清夜はそれが攻撃魔法でないことが分かっていたが庇うつもりはなかった。

ここで庇っても風紀委員や生徒会に悪い印象を持たれ目につかれる可能性があるからだ。

 

(俺が煽ったのに、すまないな。昔なら庇ったんだけど・・今の俺は・・悪党・・なんでね)

 

とここで摩利の前に一人の男子生徒が出る。

 

「すみません 遊びが過ぎました。後学のために森崎一門のクイック・ドロウを見せてもらおうと思ったのですがあまりの勢いに手が出てしまいました。」

 

意外にも庇ったのは達也だった。

清夜もそこで森崎の名前を思い出す。

 

(あぁ、森崎って言えば護衛家業の『MSS(Morisaki Security Services)』のとこか、でも今は客も人材も『DSS(Deus Security Services)』に取られてるだろ。よくもまぁ威張る余裕があるもんだ。いやむしろ業績が下がってきてるから威張って大きく見せる必要があるのか・・)

 

「ほう、では会長が吹き飛ばした魔法も勢いで出てしまったと?」

 

摩利は起動式を展開させ照準を達也に向ける。

 

「あれは只の閃光魔法です。威力も弱めてありました。」

 

「ほう、君は起動式を見えるということか、それに誤魔化すのも得意なようだ・・」

 

摩利は達也を睨みつけるが達也は全く動じない。

 

清夜はそれがハッタリの類ではないことが分かっていた。

 

(正解・・すごいな道具なしで起動式を見たのか、いやそれよりも、あの短時間で解読出来たのか・・やっぱり普通じゃない・・経歴は嘘だな)

 

清夜は達也に対する警戒レベルを上げた。

 

その達也は笑顔で誤魔化す。

 

「実技は不得意ですが分析は得意です。それに誤魔化すなんてことは・・自分は二科生ですから」

 

摩利はまだ納得いかない様子だっだがそこに真由美からもフォローが入る。

まるで貸しだぞ言わんばかりに

 

「もういいんじゃない?達也君達は本当に後学のためだったようだし。」

 

真由美は摩利に可愛らしくウインクをする。

摩利は真由美の意図に気づいたのかニヤけた。

達也もそのことに気づいていたが仕方ないと割り切っていた。

 

「会長がこう仰っていることなので今回は不問にします。だが各々反省するように」

 

そうすると一同は頭を下げる。

罪悪感はあるものの謝罪する気0の清夜は反応が遅れてしまい慌てて頭を下げた。

摩利と真由美は何かに気づいたのか更に人の悪い笑顔になる。

そして摩利は去り際にこう聞く。

 

「君と最後に頭を下げた君の名前を聞いておこうか・・」

 

「1-E 司波達也です。」

 

清夜は聞こえないフリをしたが摩利はそれを許さない。

 

「・・君だけ出頭するかい?」

 

清夜は心の中で舌打ちして気づかなかったように振る舞う。

 

「じ、自分でしたか。すみません。同じく式 清夜です。」

 

「二人共覚えておこう。」

 

達也は心の中で「結構です」と言ったが清夜は聞こえないぐらいの小声で呟いた。

 

「結局、目をつけられたか・・三歩歩いて忘れてくんないかな」と・・




今回、オリ主が暴れると期待した皆さん!ごめんなさい!
残念ながら暴れないんですよ・・

次回予告!
エリカとまさかのイイ感じに!え、てか展開早すぎない!?

次回もお楽しみに!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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19話 VSエリカ

19話です!

これから前書きには前回までのあらすじを書こうと思います。
というわけで・・

前回までのあらすじ!

一科生と二科生の区別意識が高い第一高校に入学した清夜。彼はそこで達也、深雪、エリカ、レオ、美月と出会う。しかし清夜は深雪を巡る喧嘩に巻き込まれる。結果、喧嘩は終わったが風紀委員長と生徒会長に目をつけられるのだった。


2095年4月4日 東京 八王子

 

会長達が去った後、茶髪の男子生徒が「森崎駿」と名乗ったり摩利に声をかけられた達也と清夜に認めない宣言されたり。深雪のクラスメイトの友人「光井ほのか」と「北山雫」に達也が感謝をもらって自己紹介されたり。とにかく清夜にとっては散々な1日だった。

 

(悪目立ちせず、爽やかに優しく振舞って人脈構築するはずだったのに・・はぁ・・)

 

今は二科生メンバーと深雪とほのかと雫と一緒に帰っていた。

話題はCADの話になっていた。

ほのかは興味津々に話をする。

 

「じゃあ司波さんのCADは達也さんが調整してるんですか。」

 

「調整ってほどの物じゃないけどね。」

 

達也は謙虚に答えるが美月達はさらに賞賛する。

 

「それでもCADにアクセス出来るだけのスキルが必要ですよね。」

 

「それだけのスキルを身につけてるのか〜すげーんだな達也。」

 

深雪は兄の賞賛をまるで自分のことのように喜んでいる。

するとエリカは自分の警棒を取り出した。

 

「じゃあ達也君、今度私のCADを調整してよ」

 

「無理だ。そんな特殊なCADは生で初めて見た。」

 

達也と清夜以外どこにエリカのCADがあるのか分からなかった。

エリカは警棒を回しながら答える

 

「流石だねーこれがCADだって気付いちゃうんだ。」

 

「清夜が最初に気付いたけどな」

 

「へぇ〜清夜君もやりますな〜じゃあ清夜君にお願いしようかな?」

 

エリカは清夜に笑顔で振り向きすり寄ってくる。

清夜にはその笑顔が今日1日で何よりも苦しかった。自分は何をやっているんだと・・

だがそんな素振りは見せず答える。

 

「刻印がうっすら見えたからね。それと俺にも調整なんて出来ないよ」

 

「ちぇーつまんないの」

 

そこでレオが疑問をぶつける。

 

「じゃあその警棒がCADで刻印型の術式が刻まれているのか。そんで弾いた時に使ったのは硬化魔法か・・でもそれって魔法発動のためにサイオンを流し続けなきゃいけないんだろ?サイオンが枯渇しないのか?」

 

エリカは今日初めてレオを褒める。

それでも若干小馬鹿気味だが

 

「さすがに専門ではあるわね。でも90点。振り込みと打ち出しの瞬間だけサイオンを流せばそこまでサイオンを消費しないわ。」

 

するとその場の全員がエリカを見つめる。

 

「え、なに!?私、なんかやらかした。!?」

 

「エリカ、それって兜割りの類と同じことじゃない?サイオン量が多いとかより凄いことだけど・・」

 

深雪は冷静に解説し

 

「実は魔法科高校って一般人じゃない方の方が多いのかな?・・」

 

美月は疑問を浮かべ

 

「魔法科高校に一般人はいないと思う。」

 

初めて喋った雫がそう締めくくった。

 

そう少なくとも清夜に関しては一般人とは言えなかった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

2095年4月4日 東京 八王子

 

色々と寄り道をした一同はコミューターの停留所で解散となった。

その後一度自宅に向かうことにした清夜は一人コミューターを待つ。

 

「司波達也、PD(パーソナルデータ)を偽装した魔法師か・・まだ仮定に過ぎないが・・・こんなこと出来るのは大分限られてくるよな〜本人自身が超ド級のハッカーであるか、バックに国が絡んでいるか、それとも十師族、それも少なくとも序列3位以上の一族が絡んでいるか。うーん、藪をつついてアナコンダとか大蛇がでても困るしな〜せめて一科生を使って実力だけでも測っておくか。ん?」

 

「し〜ん〜や君!!」

 

後ろから突然抱きつかれる。

 

「千葉さん、もう帰ったんじゃなかったの?」

 

「フフン♪一緒に帰ろうと思ってね。」

 

エリカは可愛くウインクしてアピール。

あまりのベタつきに周りからは変な視線が飛んでくる。

 

「え、いや・・方向は同じかもしれないけど・・」

 

「コミュターは二人乗りなんだしいいじゃない、いいから乗った乗った♪」

 

清夜は罪悪感からなのか抵抗する

だがエリカにグイグイと押され一緒にコミューターに乗ることになってしまった。

 

 

 

コミューターは繁華街沿いの道を走っていく。

狭い車内なのにさらにベタベタとすり寄ってくるエリカ

 

「んふふ、やっと二人きりになれた〜。なんだかドキドキするね清夜君!!」

 

「そーだね(棒読み) CADでも磨くか〜」

 

清夜はリボルバー型のCADを取り出し磨き始める。

エリカは素っ気ない反応が気に入らなかったのか猫のように『フシャーッ!』と怒った。

 

「コラコラコラ!!可愛い女の子がいるのに、その態度はなんだー」

 

「自分で可愛いて言っちゃうんだ・・」

 

「む〜清夜君は女の子が嫌いなの!?・・はっ、まさか・・!!」

 

「いや、ホモじゃないから。トラブル起きたばかりなのに千葉さんは何がしたいんだい?」

 

さすがにホモ疑惑は嫌なのでキッパリと否定する清夜

正直、この後どうしようかと考えていると

エリカは顔を赤らめながら聞いてくる。

 

「ん〜、じゃ、じゃあストレートに聞くけど・・清夜君には好きな人とか・・いる?」

 

なんだ、そのマンガチックな展開は?と言いたい気持ちを抑えて

清夜は2年前のエリカと森崎のCADを弾いたときのエリカを比べる。

そして思う。

 

彼女はいい意味で変わったなと・・・

暗い印象の彼女が明るくなり、そして誰かを守る力を持っている。

なにより力を正しく使えていた。

並々ならぬ努力だったのだろう・・

 

同時に何も変わらない自分を嘆く。

 

それに比べて自分は何も進歩していないと・・

力も金も手に入れた。だが人間としてはまるで進歩していない。

力を振りかざし、人々を武器で唆し利益を得ている。

俺が憎む悪人達となんら変わらないと・・

 

清夜は静かに口を開ける。

 

「・・今は・・いない」

 

エリカはその言葉を聞くなり、さらに近づいてくる。

それは密着していると言っていい距離だった。

 

「じゃあ言うけどね。これは口説いているの・・君を。これぐらい言えば後のことは分かるよね?」

 

「口説くって・・まだ入学二日目だよ?」

 

「う、うん。入学式の日ね。清夜君見た時ボーとしてたでしょ私?あ、あの時ね・・ひ、ひひ一目惚れしてたの。『あぁ、これが恋なんだ』って。だけど清夜君ルックスがいいから・・他の子に取られると思って・・早すぎたけど告白したの」

 

未だ続く密着の状態。

エリカは恥ずかしながらも勇気をだして目を合わせているような様子だ。

それに合わせてなのかコミューターも人気のない道にはいる。

入学二日目ということを除けばそれなりに良い雰囲気

だが清夜は冷静でいた。

 

「それは気のせいだよ。入学の緊張で心が落ち着かないだけだって。」

 

エリカは涙目ながらにキッと睨む。

 

「気のせいなんかじゃない!!昨日も今も、この気持ちは気のせいなんかじゃ・・。お願い清夜君・・友達からでもいいから・・グスッ・・私と・・」

 

「・・・」

 

とうとう顔まで近づく二人。

清夜は誤魔化すためかこんなことを言う。

 

「ところで・・」

 

「誤魔化さないで!!・・清夜君・・お願い・・」

 

二人の顔が重なりかける。

そしてキスの寸前・・

 

 

 

 

 

お前誰だ(・・・・)?」

 

 

 

 

 

 

ガキン!!

 

そういうと清夜はナイフを取り出しエリカに刺しかかった。

エリカはギリギリのとこで警棒型CADで防ぐ。

エリカの目は驚きで満ちていた。

 

「何をするの!?私は・・」

 

「見事だよ・・本当に見た目は同じだ。武器も同じ、入学式や今日のことまで覚えている。そして一番驚いたのはサイオンまで同じになっていることだ。どんなトリックを使ったんだい?に・せ・も・の・さん?」

 

「ちっ!!」

 

ガガッキンッ!!

 

エリカ(?)は自己加速術式を使い高速の斬撃を打ち付ける。

だが清夜はそれを加速系魔法なしで(・・・・・・・・)すべて防ぐ。

 

「剣術の腕まで同じとは・・本当に何者なんだい君は?」

 

エリカ(?)はエリカの声で答える。

 

「それは私のセリフよ!!我らの術を見破るだけでなく、加速された斬撃を魔法なしで防ぎやがって!!で・も・まぁ、しょうがないわ。眠らせる予定だったけど骨の二、三本・・いや顔とかがグチャグチャになっても我慢してね♡千葉じゃないけど、私が愛してあげるから」

 

「・・・」

 

攻撃的で歪な笑顔を見せるエリカ(?)

清夜は無表情で見つめた。

するとエリカ(?)は次なる魔法を仕掛ける。

 

「秘剣!山津波!!」

 

「っ!?」

 

ドガギッ!!

 

『山津波』を受けてエグい音を立てるナイフ

ギリギリ清夜はナイフや骨に硬化魔法をかけて山津波を防いでいた。

しかし清夜は驚きを隠せなかった。

 

『山津波』とは千葉家の秘剣である加重系・慣性制御魔法の系統魔法である 。

術者と刀にかかる慣性を極小にして高速接近し、インパクトの瞬間に消していた今までの慣性力を上乗せして叩きつける

剣が重く、助走が長いほど威力があがる恐ろしい魔法である。

 

だが驚いたのは威力ではなかった。

『山津波』が使えることに驚いていた。

そもそも『山津波』とは知覚速度と運動神経が必要条件で型だけ真似ても「使える」わけではない 。

エリカが使えるかは知らないが千葉でもなさそうな人間がどうして使えるのか分からなかった。

 

「やっぱり、こんな警棒で助走できないんじゃ『山津波』の威力もこの程度ね。そもそも刻印されてないから発動に時間がかかっちゃうからな〜」

 

「千葉の魔法まで使えるだと・・!?」

 

「そうよ〜すべてが同じ私が清夜君を壊して、グチャグチャにして、愛してあげるから・・おいで?」

 

「お前・・・マジで死ね」

 

清夜は普段から笑顔、笑顔と言い聞かせているが今は怒りすらも隠せない。

口調も自然と変わっていた。

清夜はリボルバー型のCADで放出系魔法「スパーク」を選択する。

 

「あ〜らら♪」

 

キキキィー!!

 

「何!?」

 

突然、回転するコミューター。

どうやらコミューター制御權はエリカ(?)が握っているようだ。

清夜はバランスを崩しCADを手放してしまう。

 

「このコミューターはね。私の仲間が作ったリモコンで制御してるんだ♪しかもこのコミューターは一時間前付で廃棄処分になったことになっているの。情報上ね♪だから安心して」

 

「ちっ!!」

 

「遅いよ!」

 

ナイフを振りかぶる清夜

だがそこにエリカ(?)の容赦ない斬撃が降りかかろうとする。

 

「これで・・終わり!!・・あれ?」

 

勝利宣言をするエリカ(?)

だが彼女の手に警棒はなかった。

エリカ(?)が見渡すと警棒は宙を浮いていた。

もちろんこれは清夜のBS魔法『電気使い』で磁力を操作し金属製の警棒を取り上げたのだ。

 

「なにをしたの!?CADなしで!」

 

「教えるかよ・・だがCADならここにもあるぜ」

 

清夜はナイフを見せつける。

そのナイフは刃こそ市場に出回っているものだが、持ち手の部分は特殊だった。

普通に持った時でいう親指が乗っかる面にダイアルのようなものが付いている。

 

「そうか刻印型ではなくダイアル式で術式を選ぶ特化型・・ならもう一度・・・なっ!?、制御も効かないなんて!!」

 

これもBS魔法の応用魔法『マリオネット・ジャック』だ。

今度はお返しにコミューターを暴れさせる。

 

キキッ!!キキィーー!

 

「きゃ!」

 

エリカ(?)も耐えられなくなり姿勢が崩れかかる

 

シャキッ・・

 

「これで終わりだ・・目的と雇い主と変装術について語ってもらおうか。」

 

ナイフがエリカ(?)の首元で止まる。

先ほどまで怒っていた清夜も終わりを告げると同時に冷酷なものになる。

だがエリカ(?)の目には余裕が見えていた。

 

「喋らなきゃ殺すって?残念だけど・・」

 

「バックにある爆弾で道連れになる・・・だろ?悪いがそれも魔法で信号を受け付けないようにしたぞ。」

 

「そんな・・いつから私に気づいていたの?」

 

「抱きつかれたときからだ・・それよりも質問に答えろ。もう最初のような甘い嘘は取り合ってもらえないと思え・・」

 

エリカ(?)は観念してその場で尻餅をつく。

彼女もそれに合わせて悲しげな笑顔になる。

どうやら演技ではないようだ。

 

「最初から嘘に気付いてたんだ・・・でも一目惚れっていうのは本当なんだけどな・・私なのか彼女本人の気持ちなのか、もう分からないけど・・今は本当に大好きよ・・その冷酷な目も含めて愛してる・・術式前はこんな大胆じゃなかったんだけど・・」

 

清夜はなにも答えない。

例え本物だろうと彼の決意は揺らがない・・

彼自身はそう思っている・・

 

 

「・・・・・魔法なのか?光学系だけじゃできないだろう?」

 

「これは魔法・・我らゼロの魔法・・名前は簡易型零し・・」

 

パァン!!

 

「!?」

 

そんな音が聞こえると倒れるエリカ(?)。

清夜は急いで彼女の容態を見ると頭から血を流していた。

そう、彼女は死んでいたのだ。頭を灼かれて・・

 

「遅延発動術式・・秘密を語ろうとしたら自壊するよう仕掛けてあったのか・・」

 

倒れたエリカ(?)の魔法が解かれ彼女の本当の姿を見せた。

その姿はどこにでもいるような普通の顔立ちの女性だった。

エリカと比べても見劣りするような・・

それでも清夜は先ほどまで殺意を抱いていた彼女の頭をやさしく撫でた。

 

「・・・化けなくてもそっちの顔の方がお前に似合っているよゴミ女。」

 

清夜は外に出る。

そして操作したコミューターを彼女の死体を乗せたまま走らせた。

行き先は海、崖から落ちるルート、爆弾も落下する時間にあわせてセットしなおしてあった。

清夜は無人の地域を歩きながらこう呟いた。

 

「零・・か・・」

 

その言葉に嫌な予感がした清夜だった。




零が彼の復習劇にどう影響するのかお楽しみに!といっても入学編で編入してくるかわかりませんが・・
正直に言うと『零宮あやな』が可愛かったから絡ませたかっただけですw

次回予告!
三日目ぐらいは平和に・・・過ごせるわけなかった。同様に一科と二科の溝も一日ぐらいで埋まるものではなかった。

次回もお楽しみに!

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20話 生徒会

20話で〜す。
早く先に進めたいけど文章力ないから文字が多くなってしまう現実。

前回までのあらすじ
深雪のクラスメイトである『光井ほのか』『北山雫』を加えて下校後、コミューターの中でエリカに告白されるが、そのエリカは偽物で殺し合いに。無事、偽物を取り押さえたが彼女が自白した瞬間、自壊術式で死亡。清夜は彼女が言い残した『零』という単語に嫌な予感を感じるのであった。


2095年4月5日 東京 八王子

 

偽エリカとの殺し合いの翌日

清夜は平然と登校していた。

といっても外面だけ、彼の頭の中では問題でいっぱいだ。

 

(入学式でエリカちゃんと再会、そして詳細不明の人物『司波達也』との接触。二日目でも結局、彼女たちと関わることになり、トラブルに巻き込まれ風紀委員長と会長に目をつけられる。ただでさえ問題が多いのに”零”まで絡んでくるとは・・)

 

なんてことを考えていると前方遠くから昨日聞いたばかりの声が聞こえた。

 

「た・つ・や君〜!!」

 

真由美の声だった。

センサーでも付いていたのか自然と清夜の足が重くなる。

 

(早速、出やがった悩みの種・・・というか、今の声はあきらかに彼氏を呼ぶ声だろ。すごいな達也。生徒会長、それも”七草”のお姫様にフラグを構築するとは・・)

 

別の意味でも達也を警戒していると

ほのかと雫を除いた昨日の下校メンバーが見えた。

もちろん真由美も一緒だ。

 

・・

・・・

「分かりました。では昼休みにお邪魔いたします。」

 

(まだ気付かれてなさそうだ、目の前の人混みに紛れ込めば回避できるはず・・・)

 

清夜はそろ〜と10人ほどの人混みに紛れ込む

達也たちからは見えない位置のはず・・・だった・・・

 

「あっ!清夜君だ〜おはよう!!一緒に登校しよ?」

 

だがエリカは人混みから清夜を見つけ強引に引き出す。

こいつも昨日と同じ偽物か!?と思ったがそうではないようだ。

そういうエリカは清夜に懐かしさを感じていた。

 

(やっぱり清夜君には懐かしい何かを感じるな〜心が温まるというか、なんというか・・昨日はトラブルだらけで聞けなかったけど今日なら聞けるかも・・)

 

「千葉さん!?え、ちょ!?」

 

「おう、清夜じゃね〜か!おはよう!」

 

「「おはようございます。清夜さん」」

 

「おはよう清夜。」

 

清夜が無理やり引っ張られると

美月と深雪が同じ挨拶で、レオと達也はそれぞれ違う挨拶をしてきた。

どうやら他のメンバーは気付かなかったらしい・・

なんで気づかれた?と考え込むが七草の挨拶で中断される。

 

「おはようございます。清夜君」

 

「あ・・はい。おはようございます会長。」

 

「ちょうど良かった。清夜君も誘おうと思ってたの。」

 

「はい?・・!!」

 

なぜか名前呼びになっているがここでは言及しなかった。

というよりエリカが急に不機嫌になり清夜を睨みつけたほうが気になった。

真由美が話を続ける。

 

「今日、昼休みに生徒会室で達也君と深雪さんを招待してランチをいただこうと思っているの。清夜君もどうかな?」

 

(いやいや、絶対何か面倒ごとに巻き込まれるだろ・・もうトラブルは勘弁・・というかエリカちゃんが睨みつけてくるんだけど!?ある意味もうトラブルだよ!)

 

と言うわけにはいかないので素直にに断ることにした。

 

「申し訳ありません・・お断りさせていただきます。これ以上の悪目立ちは・・」

 

「あら、そんなことにはならないと思うわ。それに生徒会の皆は清夜君の大学の卒業研究『仮想現実を使った魔法の遠隔発動』についてとても興味を持っているの。そのお話だけでもダメかな?」

 

「「「「「大学!?」」」」」

 

5人の視線が同時に清夜に移る。

清夜はたじろいながらも答えた。

 

「あ、ああ・・USNAの大学に通ってたんだ。」

 

「それで・・どうかな昼休み?」

 

と真由美は美少女パワーを使ったお願いを仕掛ける。

恐らく昨日は見逃したんだからお願いを聞いてと言いたいのだろう。

だが答えたのはエリカだった。

 

「いえ、清夜君は私たちと昼食を取るので行けません。」

 

「あら、そうなの?でも今日じゃなきゃいけないというわけでもないですよね?私は皆に三人を招くと言ってしまいましたし・・今日だけでもダメですか?」

 

もはや清夜の了承なしで話を進めてしまっている。

清夜は慌てて止めに入ろうとする

 

「あの、俺の・・」

 

「ダメです!私だって聞きたいことがあるのに・・昨日だって・・って違う!変な意味じゃなくて友達としてよ!友達として!というかアンタは聞くなバカーー!!」

 

エリカとしては過去に会ったことがないかとか聞きたかったのだが

この状況ではあきらかに誤解される。

恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしたエリカは鞄で清夜の頭を叩きつける。

 

「はい!?グハッ!」

 

ドガッ!

 

現代ではオンライン授業のため教科書などが入っていたわけでもないが十分に痛かった。

清夜は前のめりに倒れながらこう思った。

 

(俺、女性の扱いが下手なのかな?・・)

 

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2095年4月5日 第一高校 食堂

 

昼休み

最初に食べ終わった清夜は自分の頭を摩っていた。

 

「清夜さん、まだ痛みますか?」

 

「えと・・本当にゴメンね。そんな思いきりやるつもりはなかったんだけどね・・」

 

「清夜は可哀想だよな、何もしてないのに・・お前、もっとちゃんと謝れよ。」

 

「だからこうして謝ってるんじゃない!」

 

「ははは・・もういいから喧嘩はやめよう?まだ痛むけど保険医の先生も『すぐ治る』って言ってたし、俺は最初から怒ってないよ」

 

清夜は苦笑い気味ではあったが笑顔で許した。

 

清夜が倒れた後、何があったかというと・・

気絶はしてなかったが念のためということで皆で保健室に直行。

保険医の安宿 怜美は「あなたが一年生利用者一号ね」と笑いながら怪我を見てくれた。

ついでに言うとエリカは必死に否定し誤解を解くことができた。

そして真由美はというと清夜の無事を確認すると

 

「また今度、ゆっくりお話ししましょう?」

 

と清夜に囁いて去っていったのだ。

 

生徒会としてなのか七草としての話しなのか・・

どちらにしても面倒くさそうだと清夜は思った。

 

そして話題は清夜の話に変わる。

 

「にしても、清夜が大学を出てるとは思わなかったぜ。どうしてこの学校に通ったんだ?」

 

「衛星通信の教育だったけどね。工学科の勉強をしてる時に魔工師の方が儲かると聞いたんだ。それでモグリでも良かったんだけど・・せっかくだからと思って通うことにしたんだ。」

 

もちろん、そんなことは嘘。

実際はココにボスの威厳のためだなんだ言われて入っただけのこと

清夜としてはその分の時間を復讐に使いたいというのが本音だった。

 

「儲かるって・・清夜君、頭いいのに考えることが安直すぎない?」

 

「でもいいことですよね、目標を持つことは。」

 

清夜は自分の身の上話でエリカの記憶の封印が解かれるのを懸念し、すぐに話を切り替えた

 

「そういえば明日から部活動の勧誘週間だけど、皆はどこに入るか決めたのかい?」

 

「俺は山岳警備隊の志望だからな山岳部に決めてんだ。」

 

「私は美術部に入ろうと思っているんです。エリカちゃんも一緒に入りませんか?」

 

「ん〜私にはそういうのは無理かな。明日から適当に回って決めるわ。清夜君は?」

 

「俺は特に決めてないや。達也とかはどこに入るんだろう?」

 

魔法科高校とはいえ、高校は高校。

普通に放課後になれば部活に勤しむことができる。

しかも普通科にはない魔法競技系クラブが存在し人気を博している。

また美術部といった非魔法系クラブも多数存在し、総合的な一高生の入部率は9割を超えていた。

 

一同は考え込む。

 

「達也さんは科学部とかそういう所に入りそうですね。」

 

「いや、妹さんと同じクラブに入部するだろう。」

 

「でも深雪は生徒会に入るんでしょ?」

 

生徒会の話に疑問が浮かぶ清夜

 

「え、そうなの千葉さん?」

 

「うん。元々、昼休みのアレは深雪を生徒会に誘うために呼んだのよ。」

 

「じゃあ達也と清夜を誘ったのも生徒会に入れるためか?」

 

「いえ、確か二科生は生徒会に入れなかったと思いますよ。」

 

じゃあ何でだろう?と話ながら昼休みを過ごす一同だった。

 

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2095年4月5日 第一高校 生徒会室

 

エリカが清夜に謝っている頃

ダイニングサーバーから食事をもらった達也と深雪は真由美から他の4人の紹介を受けていた。

 

「手前から紹介しときますね。会計の市原鈴音。通称リンちゃん。」

 

「そんな呼び方をするのは会長だけです。」

 

あだ名が可愛い割にはキツめの印象の美人だった。

 

「隣はご存知ですよね?風紀委員長の渡辺摩利」

 

「改めてよろしくな」

 

すでに達也は昨日会っていたが改めて見ると

こちらも美少女というよりは宝塚のような美人。

 

「そして書記の中条梓。通称あーちゃん。」

 

「会長、後輩の前で『あーちゃん』は辞めてください!私に威厳というのが・・」

 

こちらは逆に見た目も身長も幼すぎて『あーちゃん』というあだ名が似合っている。

 

「最後に剣術部部長で部活連のアルテミシア・アシュクロフト。通称アルちゃん。彼女はあーちゃんと同じ二年生よ。」

 

「生徒会役員じゃないけど二人ともよろしくね。」

 

白い肌と碧眼、そしてハーフアップに括られた金髪が目立つ少女だった。

深雪は摩利の弁当も気になったがアルテミシアに質問する。

 

「アシュクロフト先輩は留学生なのですか?」

 

「ううん、普通に学生よ。こう見えてもハーフなの。3年前に日本に帰ってきたわ。」

 

現在の国際事情で言えば魔法師が国外に出ることは難しい。

国内の魔法関連の情報が流出する可能性の話もあるが、何より魔法は良くも悪くも力だ。

国の魔法師が海外への亡命などで力を削がれるの避けるために国外に出ることは基本できない。

また魔法師スパイなどの警戒で国外の魔法師が帰化する場合なども、例え血族が日本人であっても一般人より厳しい審査を通過しなければならない。

 

そういった事情で国内の、それも国立の魔法機関に外人のような人がいるのは珍しかった。

摩利が補足に入る。

 

「こんな穏やかな顔だが剣術の腕は達人級でな男子顔負けだ。そんな私も剣術の腕ではアルテミシアに勝てないんだ。」

 

「そうなんですか」

 

達也が驚きの表情をする。

それもそのはず渡辺摩利は高校生にして、すでに一流と言える魔法戦闘技能を持つ人物で有名である。

そんな彼女が剣術で勝てないからには余程の強さなのだろうと達也は思った。

 

「そんなことないですよ。それにまだ一回しか勝負してないじゃないですか。」

 

アルテミシアは謙遜というわけでもなく否定した。

真由美はコホンと咳払いをして本題に入る。

 

「それで本題に入りますけど深雪さん。これは入学主席に対して毎年聞いていることなのですが・・深雪さん生徒会の一員になっていただけませんか?」

 

深雪は達也を見た。

達也は快く頷く。

気後れすることはないお前ならやれると・・

だが深雪はこう思った。

 

(七草先輩がお兄様も呼んで生徒会役員の誘いの話をするということは、お兄様にも生徒会に入れる可能性があるのではないかしら)

 

深雪は出すぎた真似と分かっていても聞かずにはいられなかった。

 

「分かりました・・ですが兄と一緒に入ることはできないでしょうか!?」

 

「お、おい深雪!?」

 

(俺は妹にそんな悪影響を与えていたのか!?出すぎた真似は不快につながるとお前にも分かっているだろう!?)

 

「生徒会は一科生のみで構成されます。これは規則なので司波君を入れることはできません。」

 

鈴音はバッサリと切り捨てた。

深雪はションボリしながらも丁寧に謝罪した。

 

「・・・申し訳ありません。出すぎたことを申しました。」

 

真由美は思った。

 

(そうなのよね・・一科と二科で意識の壁があって『花冠(ブルーム)』と『雑草(ウィード)』という言葉が蔓延してしまっている。だから教師不足とかは仕方ないかもしれないけど意識改革だけは私の代でやっておきたいわ。そのためにも達也君や清夜君に一科と二科の橋渡しになって欲しくて誘ったんだけど・・何かそういう役職か何かないかな〜。)

 

そこにアルテミシアから提案が出た。

 

「摩利さん、そういえば生徒会選任枠の風紀委員は決まっていないですよね?」

 

「ああ、そうだが何で・・・ああ!そうか!真由美、風紀委員は二科生の縛りとかはないんだよな?」

 

達也としては嫌な予感しかなかったが

真由美はナイスアイデアと言わんばかりに立ち上がる。

 

「ナイスよアルちゃん!摩利、私は生徒会選任枠の風紀委員を司波達也君に指名します!」

 

突然の指名に達也から間抜けな声が漏れる

 

「はぁ!?」

 

深雪はというと

 

「まぁ!さすがですお兄様!」

 

達也の指名に喜びを隠せずにいた。

 

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2095年4月5日 第一高校 魔法実習室C

 

達也は順番待ちをしながら昼休みのことを話した。

清夜は笑いながらも褒めた。

 

「ははは、凄いね達也が風紀委員か。大出世だね。おめでとう!!そのアシュ・・なんだっけ?とにかく、その人たちに感謝だね」

 

(うわ〜予想と経緯が違うとはいえ行かなくてよかった。もし行ってたら雑用とかになってたかもな〜)

 

「アシュクロフト先輩だ。それにお前なぁ、絶対他人事だと思ってるだろう?」

 

それでも二科生から風紀委員が出たことは一度もない。

だからこそ美月も褒める。

 

「でも風紀委員へのスカウトは十分に凄いことだと思いますよ。」

 

エリカは意外にも面倒臭そうな顔をする。

 

「え〜でも基本喧嘩の仲裁でしょ?面倒じゃない」

 

レオは逆に予想通りの反応をする。

 

「そうか?結構、バトル臭くて楽しそうだけどな〜」

 

そんな話の中、清夜に一つの名案が浮かんだ。

 

(そうか・・喧嘩の仲裁、そして明日から勧誘週間か・・Bから聞いた話通りなら楽しいことができそうだ。)

 

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2095年4月5日 第一高校 図書館近辺

 

放課後になると達也は風紀委員の話の決着をつけに行くと言って教室を出て行った。

清夜はというと「今日は図書館に行くんだ」と言って他のメンバーと別れた。

 

「さて、今日は限定公開資料を読み漁りますかね・・・ん?」

 

図書館に入る直前ふと聞きなれた声が聞こえる。

 

「ぐすっ・・ひぐっ・・そんなことしなくたって・・」

 

「アンタ達!昨日の今日で反省していないの!?」

 

「はん!あんな脅しにもならない威力で倒れるんなら学校、いや魔法師すら辞めるべきだな。」

 

「テメェら!やっていいことと悪いことがあるだろうが!」

 

「ここにはカメラもないんだ。僕たち『花冠(ブルーム)』が見ぬふりすればいいだけのこと!」

 

どうやら60m程先でエリカ、レオ、美月と昨日の一科生メンバーのうちの『森崎』を含めた5人でまた喧嘩しているようだった。

しかも話から察するに美月は魔法による攻撃を受けたらしい。

 

「いい加減にしなさいよアンタ達!」

 

「ならお前らも実力で黙らせてやるよ!」

 

森崎は魔法発動を素早く行うCAD操作技術『クイック・ドロウ』でCADを取り出す。

 

「二人とも逃げて!!」

 

「まずい・・レオ!美月をお願い!」

 

「バカ!お前こそ美月を連れて逃げろ!」

 

『クイック・ドロウ』の素早い操作で起動式が展開される

バックにCADをしまってあるのかエリカは迎撃ではなく二人の前にでて庇おうとする。

レオも仲が悪い(?)とはいえ友達を庇うために前に出る。

だが森崎の魔法が発動することはまたしてもなかった。

 

パリン!!

 

一瞬のうちに清夜が接触型術式解体を纏った右手でCADを奪い取ったのだ。

そして同時に起動式も接触型術式解体で吹き飛ばされる。

だが実戦経験が少しある程度の森崎達、ましては美月達には何が起こったのか分からなかった。

森崎は忌々しげに名前を呼ぶ

 

「式・・清夜!!お前一体どこから!?」

 

「こんな雑草(ウィード)さっきまでいなかったわよ!?」

 

雑草(ウィード)のくせに・・魔法でも使ったのか・・?」

 

逆にレオ達は驚きながらも感謝する。

 

「清夜さん・・ありがとうございます」

 

「ダンケだぜ清夜・・助かったぜ」

 

エリカに関しては疑問が出てきた。

 

「清夜君・・・」

 

(私・・清夜君のこんな姿見たことあるような・・つっ!?・・頭が・・痛い!・・)

 

清夜自身、無視するつもりだったので何故こんなことをしてしまったか分からなかった。

もしかしたら悪を憎む気持ちがそうさせたのかもしれない・・

とにかく清夜はそんな素振りを見せず美月達に話しかけた。

 

「えっと・・俺、女性の扱いが下手らしいから慰めることはできないんだけどさ・・いつまでも泣いてると惨めに見られちゃうよ?」

 

「は、はい・・ぐすっ・・すみません・・」

 

「おい!聞いているのか!?」

 

森崎は無視されたことに腹がたった。

清夜は馴れ馴れしく森崎の肩を掴んだ。

口調もそれに合わせて答える。

 

「まぁまぁ落ち着こうぜ森崎の旦那・・どうせ、また司波さん関係の話からこうなったんだろう?」

 

「そ、そうだ!実力のない奴が司波さんと仲良くすること事態おこがましいんだよ!というか肩を掴むな馴れ馴れしい!」

 

「まぁそう言わずに・・それでさ知ってるか?この学校には乱闘対策に模擬戦の制度があるんだよ。だから実力、実力言うんなら俺と模擬戦で決着をつけようぜ・・もちろん、そっちは5人がかりで構わない。そっちが負けたら司波さんのことで二度とつっかからないこと、美月に土下座で謝ること」

 

さすがの美月達も焦る。

 

「清夜さん!?」

 

「し、清夜君?」

 

「お、おい・・さすがにそれは勝ち目ないだろう!?」

 

森崎は清夜をバカにする。

 

「はん、そんなのしなくても実力の差は分かりきったことだろう?それに僕たちにメリットはない!」

 

「そう言うと思ったよ。ほら、一科生の皆さん、これを見てくださいよ」

 

「は?何を・・・!?」

 

清夜は普通のデバイスの映像を見せると一科生の連中は氷付く。

そこには昨日の対人魔法の一部始終が映っていた。

実は昨日、清夜がデバイスの電源を入れたのは録画のためだった。

森崎達は絶句している。

 

「な、お前・・・」

 

清夜は美月たちに聞こえないように小声で囁く

 

「これがネットに流れたらヤバイよな〜特に森崎の旦那・・ただでさえ護衛業界におけるMSSの業績がDSSのせいで落ちているのにお前がこんなことをしているのが世間にバレたら・・業績どころの話じゃないよな〜?つ・ま・り、この録画データがあるSDカードがお前たちの勝利報酬というわけだ。」

 

「いいだろう・・うけてやる・・『花冠(ブルーム)』が勝てばいいだけだ!」

 

もはやどちらが悪人か分からないこの状況。

すると騒ぎでも聞きつけたのか大男が現れた。

 

「部活連だ!お前達!そこで何をしている!?」

 

その声に一同は震えた。

清夜は小声で呟く。

 

「十文字克人・・移動型領域干渉を得意とする十師族序列第3位の十文字家次期当主・・」

 

清夜の言うとおり十文字克人だった。

肉体だけではない存在感そのものが大きい巌のような大男だった。

他の皆は震えていたため清夜が経緯を説明。

もちろん脅していることは除いて

 

「なるほど・・本来なら十師族として見過ごすわけにはいかないし、先月 魔法協会で魔法テロがあったばかりだから学校としても厳しく処罰する必要があるのだが決闘で決着をつけるというならいいだろう。柴田と言ったな。お前もそれでいいか?嫌なら風紀委員に引き渡すが?」

 

「いいえ、構いません。」

 

美月は昨日のような芯の強い姿勢で答えた。

清夜は口調を戻して聞く

 

「君たちは5人がかりでいいのかい?」

 

答えたのは森崎だった。

 

「いいや、俺一人で行く!人数を理由に言い訳されたくないからな!」

 

克人は二人を交互に見て宣言した。

 

「風紀委員長の課外活動認可が必要となるがここで宣言をしておこう。部活連会頭の権限に基づき一年A組・森崎駿と一年E組・式 清夜の模擬戦を正式な試合と認める!!なお事情が事情故この試合結果は非公開のものとする!」

 

雑草と花冠の戦いが始まる・・




悪目立ちしたくないと言ってこの体たらく。これが彼の弱さ、欠点かもしれませんね。
あと劣等生原作に出てこなかったキャラがいますね。ネタバレしてもいいなら検索してみましょう!

次回予告!
清夜、戦わない!

清「出番は!?」
お前の出番ねぇから!

次回もお楽しみに!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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21話 Strategy 1

21話です!

今回は達也の戦いを清夜視点で見た感じの話ですね。

前回までのあらすじ!
清夜はエリカたちと、達也と深雪は生徒会長の七草真由美に誘われランチを共にした。そんな中、達也は真由美に風紀委員として指名されことになる。放課後、そんなこと関係なしと清夜は図書館に向かうがそこで昨日の一科生と揉めているエリカたちを発見し助ける。その際、清夜は一科生たちに模擬戦を申し込んだ。


2095年4月5日 第一高校 第三演習室

 

「なぁ、清夜」

 

「なんだい達也?」

 

「なんでこんなことになった?」

 

「なんでだろうね・・・」

 

二人は同時にため息をつく

 

「「はぁ・・」」

 

模擬戦が行われる第三演習室は大所帯になっていた。

それもそのはず、この場には清夜達と一科生、克人の10人の他に昼休みの生徒会室メンバーと副会長の服部の8名を加えた合計18人がいたのだ。

摩利とアルテミシアは達也と清夜に気づき近寄る。

 

「来たね二人とも。清夜君には自己紹介をしとこう。私は渡辺摩利。風紀委員長をやっているものだ。」

 

「私はアルテミシア・アシュクロフト。今回、清夜君の試合の審判をするの。よろしくね。」

 

「式 清夜です。よろしくお願いします。」

 

摩利は清夜を品定めするようにジロジロ見てから言う。

 

「ふむ、私は君の話を聞きたかったんだがな〜。どうして昼休みに来なかった?」

 

「どうしても何も、これ以上の悪目立ちは嫌でしたから・・」

 

「その割にはこうして森崎と模擬戦をやろうとしてるんだがね?」

 

清夜はグゥの音も出なかった。

いや、自分自身なんでこんなことをしたのか分からないから言えないのだが・・

 

「ははは、まぁいいだろう。君の友達はすでに他の役員から自己紹介を受けている。最初の試合は達也君だから君も挨拶に行ってきたらどうだ?」

 

「分かりました。それでは失礼します。達也、頑張ってね。」

 

(できれば君の本気で戦ってほしいけど・・)

 

「ああ、そっちもな。」

 

(式 清夜・・これでお前を見極められればいいんだが・・)

 

お互い、すでに自分の相手など眼中になかった。

気をつけなければならないのは目の前の友人。

 

今回この演習室では模擬戦が2回行われる。

一戦目は達也VS服部、二戦目は清夜VS森崎となっている。

達也達に何があったかは分からなかったが清夜達が摩利に認可をもらうために生徒会室を訪れたところ

すでに達也VS服部で模擬戦が決定していたところだった。

それで清夜達が事情を話したところ、『じゃあ二試合まとめて第三演習室で行おう』ということになったのだ。

 

摩利は清夜を見送ると達也に視線を切り替えた。

 

「さて達也君。今回は一高トップクラスの実力を持つ服部が相手だが・・勝算はあるのかい?」

 

「何も正面からやり合おうとしているわけではありません。」

 

そういいながら達也は持ち込んだケースを開ける。

中には拳銃型の特化型CADが二機、カートリッジシステムのカートリッジが6つ入っていた。

アルテミシアは不思議そうにケースを見つめてた。

 

「カートリッジが6つ・・達也君はいつも複数のストレージを持ち歩いているのね?」

 

「はい、自分の能力ではこうしないと使い分けができないので・・」

 

「本当に君は面白い奴だな。さて服部は準備ができたようだ。」

 

達也は摩利に言われて視線を服部に移す。

服部の姿は森崎に似た自信に満ち溢れた姿だった。

彼の場合それに見合う実力を兼ね備えているかもしれない。

だがその相手がイレギュラーであることを彼はまだ知らない・・

 

 

清夜は生徒会役員の紹介を受けた後、深雪に達也の模擬戦が行われる事情を聞いていた。

 

深雪の話しによると・・

服部が達也の風紀委員任命に反対。

それに反論したのが深雪で服部はそれに対し身贔屓に目を曇らせるなと注意した。

だが目を曇らせているということに達也は反論し証明のために模擬戦を申し込んだということらしい。

 

「なるほどね・・つまり司波さんの言ったことの証明のために戦うんだ。」

 

「はい、私は間違ったことを言ったつもりはありません。評価方法が合わないだけで実戦ならばお兄様は誰にも負けません!」

 

若干怒り気味な声色で話す深雪。

『身贔屓なのは間違ってないな』と言ったらヤバイのは入学式で確認済み。

清夜はツッコまずになだめることにした。

 

「落ち着こう?。俺に強く言われても困るんだけど。」

 

「!・・すみません清夜さん。」

 

「いいさ、知り合って3日だけど司波さんが兄思いというのは十分理解したさ」

 

深雪はこの時でも清夜の心の色を見るのを忘れない。

兄に仇名す者か見極めるため・・

だが深雪には迷いが生じていた。

 

(ごく普通の水色・・・相手は一科生なのにとても冷静ですね。初めて見た時以外この人の心は普通の色・・濁ってないとも言えないし、澄んでいるとも言えない感じ。いえ、むしろ話せば私は彼から優しさを感じる。お兄様・・この人は信用していいのでしょうか?・・私には判断できません)

 

深雪の眼は感情と本質、本性を見抜く力であって考えを読み取れるものではない。

だが中途半端に感情と本質、本性を見抜けるからこそ深雪は迷っているのだ。

 

「そろそろ始まるみたいだね」

 

「・・はい」

 

清夜は『ニューロリンカー』の魔法解析の準備をした。

そして摩利が模擬戦の説明に入る。

 

「ルール説明だ。まずは互いから5m離れた開始線から始めること。死、または回復不能になる魔法は禁止。武器の使用は認めないが捻挫以上のダメージを与えない程度の魔法、素手の使用を許可する。勝敗は相手が負けを認めるか審判が続行不能と判断した時に決まる。これが守れないものは私が武力介入をするから覚悟しろ。」

 

服部には勝利の光景が見えていた。

 

(魔法師同士の戦いは基本発動スピードの差で決まる。そしてこの雑草(ウィード)は二科の中でも下のほうの実技成績と聞く。特化型CADを使うとはいえ余裕をもって勝てるはずだ。発動魔法は移動系魔法、壁に激突させて身の程を弁えさせてやる)

 

個人の感情はともかく魔法師との戦闘の考え方は合っている。

魔法はどれだけ大規模なものでも先に魔法で攻撃されたら発動できないケースが多い。

また鉄砲とは違い前後左右に移動しても知覚が反応できない限り大抵の魔法は当たるのだ。

ゆえに現代では正面から戦う場合、西部劇のガンマンのような魔法の早撃ち対決になるケースが多い。

 

「準備はいいか?」

 

達也と服部はCADを構えて頷く。

清夜の目に達也のCADが映る。

 

(あれは俺の研究チームが苦渋を飲まされたトーラス・シルバーの作品!一回の展開で同じ魔法式が何度も発動できる『ループ・キャストシステム』搭載機か・・)

 

「それでは始め!」

 

 

掛け声と共に二人は動き出す

その直後、服部は起動式展開途中で達也を見失う。

 

「なっ!?」

 

前述の通り前後左右に避けようと知覚できれば問題はない。

だから目の前にいた人間に魔法を当てるのは造作もなかったはずだ。

 

だが現実として達也は服部の反応できない速度で視界から消え後ろに回り込んでいた。

 

服部は動揺を抑えつけ、すぐさま座標を変えた起動式を展開し直した。

 

「ぐあ・・・」

 

バタッ

 

達也はそれよりも早く引き金を引き魔法発動させた。

それにより服部はフラつくように倒れた。

 

勝負は10秒とかからなかった。

攻撃を受けた服部も含め殆どの人間が何が起きたのか理解できなかった。

 

清夜は『ニューロリンカー』で起動式の解析結果を見た。いや見なくても魔法の感覚的に何が起こったのか分かった。

 

(基礎単一系振動魔法、『ループ・キャスト』によるそれぞれ振動数が違うサイオン波三連続、波の合成・・導き出される結論は)

 

「なるほど、すごい技術だった。司波さんは古流の武術と多変数化の技術のことを言いたかったんだね?」

 

「!!・・はい!その通りです!」

 

今はまだ油断できない相手とはいえ、兄の本当の実力のことではないとはいえ、深雪にとっては達也の実力を理解し評価してくれることが嬉しかった。

 

達也はというと冷静な観察力と推理力に驚いていたが黙って清夜を見つめた。

 

そして清夜達の声で我に帰る一同。

摩利が信じられないような表情をしながら審判を下した。

 

「しょ、勝者・・司波達也。」

 

わぁ!!

 

一科生の、それもトップクラスの上級生に勝つという前代未聞の出来事に清夜を除く二科生メンバーは大いに喜んだ。

 

「いよっしゃー!!やったな達也!!」

 

「達也君、ナイス!!まさか一高トップクラスに勝つなんてね〜とにかくおめでとう!!」

 

「す、すごいです!達也さん!勝っちゃいましたよ!?」

 

それに対し一科生メンバーは悪い夢でも見ている気分だった。

 

「そ、そんな服部先輩が!?・・ありえない!」

 

花冠(ブルーム)雑草(ウィード)に負けるなんて・・な、何か不正をしたに違いないわ!?」

 

そうだ!と他の一科生メンバーも声を上げた。

二、三年生のメンバーも偏見などで見ていたわけではないが目の前で起きたことの理由が分からなかった。

 

摩利はCADを片付けようとした達也を呼び止める。

 

「待て、疑うわけではないが一体何をした?あの速さは何だ?もしや最初から起動式を展開していたのか?」

 

疑わないと言っているが聞いていることは疑っている内容。

だが達也は正直に答えた。

 

「いいえ、間違えなくあれは身体的な技術です。」

 

二科生メンバーを含め、殆どの人間はまだ驚異的な速さに納得できなかった。

克人は清夜に話を振る。

 

「式、『古流』と言ったな?説明してくれ。」

 

「さぁ?自分もどんな武術かは知りませんが昔、古流の空手家が似たような移動法を使ったのを見たことがあります。」

 

深雪が合わせるように補足する。

 

「清夜さんがおっしゃった『古流』というのは本当です。私も証言します。お兄様は忍術使い『九重八雲』先生の弟子なのです。」

 

皆、『九重八雲』の名に驚いた。

摩利も疑いが解けて納得した

 

「あの『九重八雲』の弟子なのか・・」

 

清夜もその名を知っていた。

『九重八雲』、忍術という古式魔法を扱う魔法師。

忍術の名の通り忍術の元祖は忍び、忍者で体術にも優れた魔法師として有名だ。

 

だがそれは表社会の評判。

裏社会では忍術以上に忍びとしての諜報能力の高さで名が売れている。

日本国内の情報ならば国家機密でも手に入れられると噂され、公安、ならび国内の諜報機関にマークされている危険人物だった。

 

(達也が忍者ならあの気配も納得できる・・わけない。忍者のような諜報系の人間は基本自分の素性をあかさない。ここで忍者の弟子だとバラすのは本当にバレちゃまずいことがあるからだ。隠し、隠れることが多い忍者以上に隠さなければならないことは何なんだ?)

 

真由美は服部を倒した魔法について聞く。

 

「じゃあハンゾー君(服部のアダ名)を倒したのは忍術ということですか?」

 

「いえ、あれは振動系魔法でサイオンの波を作ってぶつけただけです。」

 

「嘘を吐くな!魔法師はサイオンを知覚するがサイオン波については日頃から浴びて慣れているはずだ!」

 

森崎が声を荒げた。

しかし真由美と摩利、克人に邪魔をするなと言わんばかりの睨みで森崎は黙ってしまった。

この三人は高校生のレベルを超えている魔法師で三巨頭という名で尊敬や畏怖的な意味で呼ばれている

しかしそれでも女性二人に萎縮してしまうのはどうかと思うが・・

 

ここで鈴音が勘付いた。

 

「なるほど、振動数の異なるサイオン波を三連続で作り出して三つの波が服部君の位置で合成するようにしたのですか。結果、三角波のような強い波動になり服部君を倒したということですね?」

 

「さすがですね、市原先輩。」

 

起こった事実としては正解だった。

だが何をどうやってという意味では回答不十分だ。

いや、むしろ一発でそこまで分かれば優秀な方。

初見で武術と多変数化と言える清夜の方が異常なのだ。

今度はエリカから質問が出た。

 

「でもさ達也君。あの短時間に三回も魔法発動できるなら実技の評価も高いんじゃないの?」

 

「もしかして『ループ・キャストシステム』じゃないですか?司波君のCADは『シルバー・ホーン』ですよね?」

 

ここで意外にも梓が割って入ってきた。

梓も鈴音の話を聞いて思いついたが、それもあと一歩足りない回答だ。

というか、倒した方法の回答というよりCADの機種を聞く意味合いの方が強そうだ。

梓は達也のCADをプレゼントを待つ子供のように目をキラキラさせばがら見つめている。

 

「シルバーって・・確か『ループ・キャストシステム』の開発者だっけか?」

 

レオの質問に梓の目はさらに輝く。

どうやら彼女は俗に言う『デバイスオタク』らしい。

 

「そうなんです!フォア・リーブス・テクノロジー(Four Leaves Technology 以降FLTと略称)の専属!全てが非公開の天才エンジニア!世界で初めて『ループ・キャスト』を実現させたプログラマーなんです!あっ!『ループ・キャストシステム』というのは・・んんん!!」

 

「はいはい〜あーちゃん、そこまででいいよ。」

 

 

アルテミシアが梓の口を塞いだ。

聞くところによると二人は親友の仲だとか。

 

『ループ・キャストシステム』

それは一度の起動式展開で同じ魔法式を起動式の展開なしで何度も使えるシステム。

昔から理論的には可能と言われていたが中々 実現できず多くの企業が挑戦した。

その中で一番始めに実現させたのがトーラス・シルバーが所属するFLTだ。

清夜も自身の研究チームで開発していたが発表まであと一歩の所でFLTに先を越されたのだ。

清夜の目的は復讐だが技術者として先を越された屈辱は忘れられなかった。

その日から清夜はトーラス・シルバーを勝手にライバル視している。

 

(そう、達也が持っているのは『ループ・キャストシステム』が発表された時のシルバーシリーズの機種『トライデント』、それも銃身が長い限定モデルだ。忘れるわけもない!だが見てろシルバー・・お前の『ループ・キャストシステム』のおかげで飛行魔法の研究がかなり進んだ。来月、再来月にはお前に見せつけてやる・・)

 

清夜がそんなことを思っていると真由美はあることに気づいた。

 

「え、でもそれだけじゃできないんじゃない?」

 

「そうですね。『ループ・キャスト』は全く同じ設定をした魔法式の展開を繰り返すだけです。振動数、波長まで異なると魔法式が変わってきます。・・・まさか式君が言ってたことは・・」

 

市原は今度こそ完璧に魔法のカラクリが分かった。

摩利が清夜に問う。

 

「清夜君どういうことだ?」

 

本人に聞けよ。とは言わず清夜は丁寧に説明した。

 

「つまり起動式の振動数などを設定する部分を全て変数にして発動する度に変数に数値を入力していた・・・てことでいいんだよね達也?」

 

「ああ、正解だ。まさか一発で気づくとはやるな。」

 

「達也のほうがすごいんじゃない?あんな技術は先輩たちにも難しいですよね?」

 

清夜は照れくさそうに反応したが心中は喜んでいなかった。

 

(それだけなら駆け出しの殺し屋魔法師にもできる。達也の実力が分からなくて残念だな。っていても必要以上に達也の事情に踏み込まなければいいんだけどね。なんだか他人だとは思えないし、踏み込む羽目になりそうなんだよな〜。まぁ明日からちょっかい出せばなんか分かるか。)

 

すると服部がフラフラしながらも立ち上がった。

 

「なるほど・・な。魔法師の評価は発動する速度、魔法式の規模、事象を魔法で書き換える強度で決まる。よって・・多変数化はどの評価にもあてはまらない。生徒会室で司波さんが『評価の仕方に合わない』と言っていたのはそういうことか・・」

 

「ハンゾー君、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫です!!」

 

真由美が呼びかけると顔を赤くしながら姿勢を正した。

 

「無理しちゃダメだよ、服部君。」

 

「だだだ大丈夫だ!大丈夫だ!!アシュクロフト!」

 

大事なことなので二回言いました。というわけではないようだ。

アルテミシアが近寄るとさらに真っ赤になったのがその証拠。

服部は誤魔化すかのようにコホンと咳き込むと深雪の前に立った。

 

「司波さん。先ほどは失礼なこと言いました。目が曇っていたのは私のほうでした。許してほしい。」

 

「私こそ生意気を申しました。お許しください。」

 

深雪は深々としたお辞儀で返す。

どうやら蟠りは解消したようだ。

達也に謝罪する気はないようだが・・

森崎の他、一科生メンバーはというとショックというより深雪の姿に惚れ惚れとしていた。

 

「それで・・だなアシュクロフト。次の試合を見学させてもらえないか?」

 

「私は別にいいけど二人は?」

 

アルテミシアは森崎と清夜を見た。

 

「自分は構いませんよ。」

 

「服部先輩、安心してください!!自分がこいつに圧勝して花冠(ブルーム)の誇りを取り戻しますよ!」

 

清夜はどうでもいいような感じで、

森崎は頼んでもいないことも含めやる気満々で答えた。




達也の試合の解釈はこれであってるのかな?
初めて原作読んだ時は難しすぎて1ヶ月くらい放置したんですよね。

次回予告!
森なんとか と 清夜の直接対決!
お互い譲らない攻防!3時間を超える激闘に!そして体力の切れた清夜に森崎の新必殺技が襲いかかる!果たして清夜はこの激闘を勝つことができるのか!?
・・・・
・・・
てな感じになるといいね。森なんとか君?

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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22話 Strategy 2

初めてメッセージが来たので読んでみると

続編気になるので更新お願いします

だった・・

文章こそ急かしてるようにも見えなくもなかったが、うp主としてはかなり嬉しかった。
というわけでお待たせしました22話です!

前回までのあらすじ!
森崎と模擬戦をすることになった清夜だったが生徒会室に行くとすでに達也と服部の模擬戦が決まっていた。
模擬戦は達也の圧勝という形だったが達也の本気が見れなくてがっかりする清夜だった。


2095年4月5日 第一高校 第三演習室

 

達也と服部の試合が終わり清夜と森崎の戦いが始まろうとしていた。

 

「清夜さん!すみません・・私のせいで・・」

 

「大丈夫だよ美月。というより、皆ごめんね。勝手に模擬戦とか決めちゃって・・」

 

「いいんだよ!模擬戦のことを知ってたら俺がしてたんだ。気にすんな!」

 

美月とレオが励ます中、エリカは冷静に清夜と森崎を見ていた。

 

「私達のせいだから こんなこと言うのはおかしいかもしれないけどさ、相手は森崎よ。今からでも私と変わらない?私もさっき思い出したけど模範実技の映像資料に載せられるぐらいの実践経験がある魔法師。一年生の清夜君がいきなり戦って勝てる相手じゃないんだよ!?」

 

「大丈夫だよ千葉さん。」

 

清夜はケースを開きながら答える。

ケースの中身は達也とほぼ同じ拳銃型、正確にはリボルバー型のCAD二機とそのカートリッジと腕輪型の汎用型CAD一機

その中からリボルバー型のCAD一機を取り出した。

 

エリカはそんな清夜の話を聞いてなそうな態度に不満、そして心配だった。

 

「清夜君!!」

 

「大丈夫だよ・・だって・・」

 

清夜はエリカとすれ違いざまに囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレハ、”バケモノ”ダカラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え・・・?」

 

清夜の後ろからエリカのそんな間抜け声が聞こえた。

 

(少し教えすぎたかな?・・・)

 

そんなことを思いながら清夜は森崎と向かい合った。

 

「他のCADを使わなくていいのか?おっと雑草(ウィード)ごときが同時操作なんてできるわけないよな〜」

 

「安心しろ。お前よりかは上手に扱えるだろうし、CADを言い訳にするつもりはない。」

 

清夜は呆れながら答えると森崎の眼の前まで近寄った。

森崎は怖気付くにはいかず、一歩も後ずさりせず向き合う。

 

「なんだよ。近づいて・・言っておくが昨日CADが弾かれたのは偶然油断しただけだ!今回は昨日ようにいかないぞ!瞬殺してやる!」

 

「お前、その時点で三流・・」

 

そういうと清夜は何もすることなくクルリと振り返り開始線に戻っていった。

しかし森崎が見た清夜の目は飽きた玩具を捨てる目だった。

 

清夜がそんなやり取りをしている頃・・

達也は深雪と共に真由美達と話をしていた。

達也が真由美達と話すのは清夜の入試結果を聞くためだった。

実は達也は真由美と初めて話した時、真由美が入試結果を知り得ていることを知ったのだ。

 

深雪は真由美から驚きの事実を聞いた。

 

「清夜さんが実技試験で2位!?」

 

「ええ、彼自身は知らないけど深雪さんと僅差の2位。処理速度では深雪さんが勝っていたけどハンゾー君でいう書き換える強度、つまり干渉力においては深雪さんを上回るほどの結果だったの。」

 

「深雪が一番得意とするのは干渉力なんですけどね。まさか深雪の魔法力の一つでも上回れる人間がいるとは・・」

 

(見た目からはそんな気配もしないんだがな・・)

 

深雪は他人に気付かれぬよう達也を心配そうに見つめる。

もちろん達也の動揺が目に見えているわけではない。

どちらかと言えば妹とか女の勘というやつだ。

心が元に戻ったとはいえ達也が動揺するのは深雪が知る限りだと珍しいことだった。

 

摩利は面白そうに話をする。

 

「そうだろう?それに大学の研究レポートも工学科なのに魔法について丁寧に説明できている。だから主席は彼だと思ってたんだが筆記で倒れてしまって筆記は0点になってしまったんだ。結局、主席どころか一科生にすらなれなかったんだ。そういえば市原も興味を持っていたよな?」

 

「ええ、彼の研究は高く評価しています。ですから私の研究に・・・そろそろ始まるようですよ。」

 

「お、本当だな。お〜い森崎!昨日問題起こして、今日またトラブルを起こしたんだ。負けたら教職員枠の風紀委員任命は取り下げる可能性が高いと思え!」

 

「大丈夫です。こんなやつ一歩も動かなくても勝てますよ!」

 

アルテミシアが審判の位置に立った。

なぜか隣に目を輝かした梓がいたが・・

 

「はうっ!式君のそれはDEMの・・・」

 

「静かにしようね〜あーちゃん。ルールはさっきと同じだよ。二人とも準備はいい?」

 

「はい、自分は問題ありません。」

 

「おい、式 清夜!なんの真似だ!?」

 

森崎は清夜に不満があるようだ。

それもそのはず清夜は森崎に背を向けて立っているのだ。

 

「お前が俺を馬鹿にするように俺もお前を馬鹿にしてるんだよ。」

 

一科生の男子はキレる

 

「ハンデのつもりか!?森崎!そんなやつ速攻で潰してしまえ!」

 

「そうよ手加減する必要なんてないわ!」

 

「だから安心しろって。負けた時の言い訳にしないし。むしろお前ぐらいなら、この状態から一歩も動かずに勝てる。」

 

さすがのレオ達も戸惑っていた。

 

「何を考えてるんだ清夜は!?」

 

「挑発にしても、これはあまりにも・・」

 

「清夜君・・・」

 

(さっきの発言といい・・剣士の目で見ても昨日までとは雰囲気が違う気がする・・)

 

上級生と深雪も似たような反応だった。

 

「式君は森崎君とスピード勝負をする気ですね。」

 

「だが市原。それは森崎の『クイック・ドロウ』と真正面から勝負するということだぞ!?処理速度なら勝っているかもしれんが『クイック・ドロウ』を含めた総合的な速さでは森崎の方が若干早いと思うぞ。」

 

「それだけじゃないわよ摩利!清夜君が後ろを向いているということは照準合わせ、つまりは座標指定のために一度必ず振り返らないといけないわ。どう考えても森崎君の方に圧倒的に分がある!」

 

「さっきのは条件が同じ勝負で俺が負けただけだ!あいつ・・司波の勝利で浮かれすぎだ!」

 

「清夜さん・・その条件で勝つには・・まさか!?負けるつもりなのですか!?」

 

それに対し、克人と達也は冷静だった。

 

「いや、あの顔は勝算があるようだ。」

 

「自分も会頭と同じ考えです。おそらくあれ自体がなんらかの策だと思います。」

 

(もしそうなら、何故こんな大胆なことやる?知り合って短いがお前はそんなエンターテイナーじゃないだろ?)

 

アルテミシア達も驚いてはいないようだ。

いや梓でいうと驚きよりも清夜のCADに興味深々のようだった。

 

「まぁ、本人がいいようだし始めましょう。それでは・・・始め!!」

 

森崎と清夜はCADを操作する。そして・・

 

「うがっ!・・」

 

バタ・・

 

達也達の試合より早く決着がつく。

結果は森崎の宣言通り瞬殺だった。

森崎が倒れるという形だったが・・・

清夜は依然とリボルバー型CADを持ってる手をダランと下げながら後ろを向いている。

アルテミシアが審判を下す。

 

「勝者、式 清夜」

 

勝利宣言をしても固まったままの一同。

先ほどの達也の試合後のような状態だった。

その中でも平然としていたのは清夜とアルテミシア、そして達也だった。

 

「まさか、『ドロウ・レス』で倒すとはな。恐れいった。」

 

「そうね。私もちょっと驚いちゃった。」

 

「二人ともありがとうございます。でもちゃんと種と仕掛けがあるんですよ。」

 

この会話で一科生以外のメンバーが目を覚ます。

最初の声は真由美だった。

 

「え、あの・・・え、どういうこと?・・」

 

エリカもたまらず声をあげる。

 

「えと・・さっきの試合以上に意味がわからないんだけど?・・振り返ってすらいないよね?」

 

「うん、一歩も動かないと言ったからね。」

 

市原でさえも勘付くことはできないようだ。

 

「司波君・・式君は何をしたのですか?」

 

「皆さん、『ドロウ・レス』は知っていますよね?」

 

「えぇ、それぐらいは・・取り出さないだけでなく特化型CADの照準補助システムなどの補助機能も使わず、CADで魔法を発動することですよね。あれは『クイック・ドロウ』より早く発動できますがその分難しいはず・・・そもそも森崎君を見てすらいないんですよ?」

 

「そうですね。とにかく清夜は『ドロウ・レス』を使って頭を揺さぶって中度の脳震盪を起こす振動系魔法『震盪波』で気絶させたんです。それでどうやって『ドロウ・レス』を使ったんだ清夜?」

 

清夜は隠すこともなく答える。

 

「そうだね説明しないと納得しないよね。では渡辺先輩、魔法を使うとき拳銃型CADを対象に向けるのはなぜですか?」

 

「そ、それは照準、つまり座標指定のためだ・・」

 

「では十文字先輩『ドロウ・レス』はなぜ拳銃型CADを向けなくても使えるのでしょう?」

 

「それは照準なしでも座標が分かって座標指定できるからだ。・・まさか五感を使わなくても知覚できる知覚系魔法を開始前から使ったから座標が分かったのか?」

 

「それではルール違反になってしまいます。でも、いい線です。自分は始まる前から正確な座標が分かっていました。」

 

深雪は信じられない様子だった。

 

「どういうことですか?」

 

「イデアの座標に変換するのに必要な座標は横の距離X、高さのY、対象までの距離Zだよね。といっても基本、魔法師は目や耳で知覚して直接変換するから距離を知る必要はないから、この場合は目や耳で知覚できない場合のことだよ?まずXについては正面を向き合っている以上0mでいいよね?」

 

「ですが残りのYとZは?」

 

「渡辺先輩、ルールでは何m離れなければならないんですか?」

 

「開始線に立たなきゃいけないから5mだ・・・・あっ!?そうかZは5mか!だがYはどうする?森崎の身長は知らないだろう!?」

 

「いえ、この部屋来る前に調べましたよ。自意識過剰な人間だと思ったら予想通り・・・とにかく、これを見てください。」

 

清夜はデバイスを取り出した。

そこには『森崎駿の華麗なる学園生活』と書かれた痛々しいブログが映っていた。

その中身を見てみるとポエムなような日記?のほかにプロフィールようなものも書かれていた。

 

 

 

      『森崎駿の華麗なる学園生活』

○月×日 

 

今日も俺様は華麗に到着。

学校一のマドンナは今日も俺様に釘付けだ。

さすがに面倒くさくてたまらないぜ・・・

ほかにも違うクラスから・・

・・・・・

・・・

(痛々しいので以下略というか皆は目を逸らした。)

 

 

 

 

 

「うわぁ・・」

 

どこからそんな声が聞こえた。

部屋が一瞬で氷づく・・

深雪の魔法よりも強力だった。

 

 

「なんだあれは・・・」

 

「きめぇ・・・」

 

「吐き気がしてきたわ・・・」

 

味方だった一科生もドン引きだった。

ついでにいうと森崎は未だに気絶中だ・・

 

「ま、まぁともかくプロフィールから身長が169.4cmと分かったというわけです。そして俺から0m、1.694m、5mの地点を中心に半径10cmの球状の範囲で振動系魔法を発動したんです。もちろん確認のために近づいた時に目測をしました。自分の身長を物差しにして・・誤差は2〜3cmで済んだと思いますよ。」

 

「なるほど・・そんな抜け道があったとはルールを見直さなければな・・」

 

まだ皆の心の氷が解けないようだったが納得はしたようだ。

ここで森崎が目を覚ます。

 

「うっ・・俺は・・」

 

アルテミシアは容赦なく結果を伝えた。

 

「あなたの負けよ森崎君。」

 

「そ、そんな・・」

 

清夜が森崎に近づいてしゃがみこむと。

 

「ほらよ・・」

 

バキッ!

森崎と他の一科生の目の前で勝利報酬だったメモリーカードを折って森崎に投げつけた。

 

「な、なんで・・?」

 

「ばら撒いても俺に得はないからな。あっ、だけど負けたんだから約束は守れよ。」

 

(まぁデータは複製してあるし MSSを脅す時に使おう・・)

 

なかなか外道な主人公である。

だがそんなことを知らない森崎たちは美月に土下座で謝った。

美月も人としてできているため、すぐに許し昨日から続く喧嘩に決着がついた。

そう・・あくまで『昨日からの喧嘩』にすぎない。

 

そうして清夜は一件落着と思いながらCADを片付けようとすると

梓が飛びついてきた。まるで犬のように・・

といってもアルテミシアが押さえつけてるからぶつかることはなかった。

 

「式君!式君が持っているのは『マルチ・キャスト』とFLTと同じ『ループ・キャスト』に適したDEM社の特化型デバイス『アーサー』シリーズではありませんか!?しかも銃弾型カートリッジが複数あって弾倉を回すだけで複数の系統、種類の魔法が使えるDEM社の特許技術『リボルバー・システム』搭載の最新機種ですよね!?しかも最新機種に搭載させるのは技術的に量産させるのはまだ難しくDEMのお得意様の特注のみと聞きましたが!?それも2機!!しかも、もう一機あったのは汎用型の『マーリン』シリーズですよね!?これも限定モデルの形状です!!それに・・・」

 

「ははは・・金はたくさんあるんですよ・・」

 

「ほら、あーちゃん。清夜君が苦笑いになってるわよ。やめなさい」

 

「でもでも・・・」

 

なんてやりとりが行われたが

達也と深雪はそれを少し離れて見ていた。

 

「お兄様、誰も気づいてないようですが清夜さんは試合前から勝負を仕掛けていたんですね。一見、座標指定の仕掛けがすごいように思えますが・・・」

 

「あぁ・・もし森崎が正面からのスピード勝負を捨て、動いてしまえば魔法が外れて負けていた。恐らく挑発も近寄ったのも背を向けたのも全て森崎の性格を考慮した上での一歩も動かさないための行動だ。清夜は道具どころか魔法すら使わずに森崎を動けなくしたんだ・・心理的にな。あれが実力だったのか分からないが正直、頭の回転では敵いそうにないな。」

 

エリカも離れたところで清夜を見つめていた。

 

(・・あれが清夜君の本気なの?・・さっきの雰囲気から見たって・・・ツウッ!!また頭が・・・痛い!!悲しい?・・なんで!?)

 

エリカはそれでも清夜を見つめるのだった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年4月5日 東京 八王子

 

試合の後、達也は摩利に連れられ風紀委員本部に深雪は生徒会に行き

レオと美月もコミュターに乗って帰った時のことだった。

 

「清夜君、話があるの・・」

 

そう言って裏道に連れてかれた清夜。

偽物ではないか?という最低限の警戒は持っていた。

 

「それで、どうしたの千葉さん?」

 

「あの、まずは謝らせて模擬戦の時、清夜君の実力を疑ってごめんなさい。それと、助けてくれてありがとう。清夜君が来なかったら私たちは間違いなく大怪我していた。」

 

 

 

 

 

 

アリガトウ?ゴメンナサイ?ナニソレ?ソンナコト・・・グウゥ・・・クルシイ・・ズキズキスル・・アタマガワレル・・イタイクルシイイタイクルシイイタイクルシイイタイクルシイイタイクルシイイタイクルシイイタイクルシイイタイクルシイイタイクルシイイタイクルシイイタイクルシイイタイクルシイイタイクルシイイタイクルシイイタiiiiiiiiiijgisrjiirmimr;ksetcmskguvmk;4t3#%djacpnva#$VS<Vl,sb・・

 

 

 

 

 

 

「清夜君?・・・」

 

エリカが顔を覗き込んできた。

清夜の目がさめる。

頭の中で様々な負の感情がミキサーにかけられたような気分だった。

 

「え、あ、ああ。謝らなくていいさ、結局はイカサマみたいなもんだし。助けたって言っても模擬戦までやる必要はなかったよ。」

 

「む〜それでも、ちゃんと言わせてよね。」

 

「ははは・・それで呼んだのはこれだけ?」

 

清夜は苦笑い気味に質問した。

エリカのいじけるような仕草は昨日の偽エリカによく似ていると思ったからだ。

戦う覚悟ができていたかは分からないが・・

 

「ううん、今日はね、聞きたいことがあるんだ。」

 

「聞きたい・・こと?」

 

清夜は恐る恐る喋る。

エリカは清夜の目を見て聞いた。

 

「清夜君。昔、私と会ったことない?」

 

核心をつくような質問。

清夜の世界が一瞬氷付いた。

苦しくてたまらなかったが清夜は即答する。

 

「いや、ないと思うよ。・・・・なんでそんなことを?」

 

「う・・変な目で見ないでね。私、記憶に空白の部分があるの・・2年前のある時期なんだけどね。私、どうしても思い出さなきゃいけないと思うの・・でも思い出そうとすると頭が痛くって・・」

 

清夜は大爆笑した。

もちろんフリだ。

 

「白馬の王子様にでも会ったのかい?www。はははははwwww、ウゲッ、ゴホッ!ゴホッ・・あははは。しかも自分の過去話とは・・あははははははwwwwwwww」

 

「そこ!笑うなーー!!む〜もういいよ・・それで兄貴たちの話だとその時私は誘拐されたんだって、他は詳しく教えてくれないけど・・・でも誘拐した組織も人間も全員捕まったし監禁された場所にいた他の子供も全員見たから思い出す必要はないんだけどね。」

 

「で俺が何か知ってると思ったと?」

 

「うん・・清夜君を見てると頭が痛くなるの・・もしかしたらって・・」

 

「う〜ん。その時はUSNAにいたからな・・それに千葉さんみたいな可愛い子と会っていたら忘れないさ。」

 

「か、かわ、!!可愛い!?」

 

(い、いや、昔からそこら辺の男にそう言い寄られたから慣れてはずよ!・・顔が・・顔が熱い!?違う!どうせ清夜君もそこら辺の男と同じなんだから!!そうよ!きっとそう!!)

 

エリカは真っ赤な両頬を両手で隠すと下を向いた。

清夜はそんなことは気にせず声のトーンを落として話を続けた。

 

「それにね・・頭が痛いっていうのは、きっと思い出したくないことのサインなんじゃないかな?だからお兄さん達も詳しく教えてくれないんだよ。・・だからそういうのは忘れたままがいい・・そう、ずっと・・・ずっと・・」

 

「清夜・・君?・・」

 

突然の変化にエリカは戸惑ったがそれ以上質問はできなかった。

 

「あの〜そこの お二人さん。ちょっといいかな?」

 

その声の方に振り向くと黒髪が長いスーツ姿の女性がいた。

千葉家であるエリカにはすぐわかった。

 

「もしかして・・刑事さん?」

 

「あ、あれ?よく分かったね。私『螢田みのり』って言うの・・ほ、補導とかはしないよ?だからね、その〜話を聞いてくれない?そうだ!そこの『アイネブリーゼ』ってかいうカフェでスイーツ食べながら話そう!?」

 

((刑事なのになんでそんな弱腰なの!?オドオドしすぎ!!))

 

「ラブラブのデートを邪魔してるのは分かってるの!!でも、ちょっとでいいからね?お願い!」

 

デートという言葉にエリカの顔がまた赤くなる。

 

「ちょ、だから!!違う!私たちはそういうのじゃ!ラブラブとか・・そういうのじゃ・・アンタも黙ってないで否定しなさいよ!」

 

「えっ!?二度目!?ガハッ!!」

 

ドカッ!!

 

結局、そんなオチなのかと思いながら本日二度目の攻撃をうける清夜だった。




がんばったけど・・課題が忙しいし就活準備で忙しいのでやはりペースは落ちてしまうかなと思います。

次回予告!
デストロsideのお話!
清夜ハーレム状態に(嘘)!だがそこは殺し屋地獄だった・・・

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23話 女死会

お久しぶりです。23話です。
今回は『デストロ246』sideのお話。
日本の裏社会は美少女(殺し屋)が い〜っぱい!まさに夢の国だよ。(特に今回の話と関係ない)

前回までのあらすじ!
森崎秒殺!その後、エリカに呼び出され2年前の話をされる清夜。そこに生活安全部少年事件課の刑事『螢田みのり』が現れた。もう一度言おう!森崎秒殺!


2095年 4月5日 東京 八王子

 

清夜とエリカは螢田みのりから話しを聞いた後二人はコミューターの停留所を目指した。

 

といっても本当に補導ではなかったかが、警告はされた。話によるとここ最近、東京では少年暗殺者や麻薬組織が暗躍していて深夜などウロついていると狙われてしまうよ。というものだった。また眉唾程度のだがドッペルゲンガーが出没して化けた本人を襲っているという話も教えてくれた。

 

「全く刑事のくせに弱腰すぎるのよ、みのりちゃんは・・」

 

「でも千葉さんが東京で暗躍している麻薬とか少年暗殺者に狙われないために呼びかけて話してくれたんじゃないか。勇気はあるんじゃないかな?仲良くなったのはいいとして、説教までしなくても・・」

 

エリカは警察と繋がりが強い千葉家として語る。

 

「ああいう弱腰な情報収集は刑事にとってはNGなの!うちの馬鹿兄貴でもあんな弱腰にはならないわよ。」

 

「ははは・・厳しいね千葉さん。」

 

彼女の中のモヤモヤしたもの吐き出すためだろうか。

エリカは半ばヤケ気味に注文をつけてきた。

 

「あと清夜君のそれ!」

 

「はい?」

 

「私は名前で呼んでるのに清夜君だけ苗字なのはズルくない!?達也君やレオだって名前で呼んでるのに!」

 

「えと・・まったく脈絡がないんだが・・それにズルいも何も千葉さんが勝手に名前で呼んだだけでは?」

 

清夜としては記憶の封印が解かれるのが嫌だから苗字で呼んでいるだけだ。

 

エリカとしても自分勝手な我儘だと分かっていたが、それでもそう呼ばれないとならない・・そんな気がした。

 

「エリカ・・」

 

「えと・・千葉さん?」

 

「エリカ・・」

 

ギロリと睨みつけてくるエリカ。

清夜は逃げようとしたがそれよりも速く腕を掴んできて離さない。

 

「いや、俺としては『千葉さん』の方が呼びやすい・・・イダダダダダ!!」

 

「エリカ」

 

「は、はい。エリカさん・・」

 

「『さん』もいらない・・」

 

「え、エリカ?」

 

「うむ、よろしい」

 

万力が如くの握力に屈服してしまう清夜。

それに対しエリカは満面の笑みだ。

 

二人はコミューターの停留所に着く。

 

「じゃあね、清夜君。殴ったり、変なこと聞いてごめんね。でも今日は楽しかったよ。ありがとう。」

 

そういってエリカはコミューターに飛び乗って去っていった。

 

そのコミューターを悲しげに見つめる清夜。

 

「嘘ついて、そしてまた君の前に現れてごめんよ。それでも俺は復讐のために・・止まるわけにはいかないんだ。だから騙し、君を利用するんだ・・きっと・・」

 

清夜はこの時悟った。

いつか必ず彼女についた嘘が仇となること・・

そして彼女とも殺し合うことになるだろうと・・

 

清夜もコミューターに乗り込む。

行き先はDEM本社でも自宅でもなく新宿だった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月5日 東京 新宿

 

みのり刑事が話したことは清夜にとって全く関係なさそうに思えるがそうではない。

 

少年暗殺者のことは内容からして翠と藍のこと、ドッペルゲンガーは偽エリカの仲間のことだと直ぐに分かった。

 

だが暗殺者の話には清夜が知らない情報があった。もちろん、ほんの触り程度の話で詳しく教えてもらえないわけだが。それでも清夜が知らない暗殺があると思ったのだ。

 

そして清夜は暗殺の情報を手に入れるために以前殺し合った殺し屋を探しに新宿を訪れたのだ。

 

時間は深夜近く、悪い奴らが現れるにはちょうどいい時刻。しかし・・

 

「あれぇ?清夜君じゃない!?ダメじゃない!!お姉さんの言ったこと忘れたの!?」

 

何故かすぐにみのり刑事に見つかった。

後ろには様々な制服を着た女子高生が6人。それは翠と藍、万両組の苺と南天と蓮華、そして伊万里だった。その中で清夜が知っているのは4人。

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

その内二人は翠と藍

彼女たちは無関係のフリをするため、あえて喋らない。

 

「てめぇ、もしかして清夜か?」

 

「姫に男子高校生の知り合い!?」

 

「姫まさかと思うけど彼氏じゃないよね!?」

 

もう一人が姫と呼ばれてる万両苺。清夜の一個上の幼馴染だ。

 

「貴方がここでウロつくとは意外ね」

 

そして最後が清夜が探していた人物。かつて殺し合った殺し屋 的場伊万里その人だった。

 

みのり刑事は幸せそうに驚きながら聞いてきた。

 

「あら清夜君。伊万里ちゃんと苺ちゃんの友達なの?じゃあ清夜君も一緒にスイーツ食べよう?夕方と同じ話もするけど」

 

「あはは、すぐに帰りまーす。」

 

「駄目よ。ゴー、ゴー!!」

 

そうして清夜と女子高生達はレストランに連れてかれた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月5日 東京 新宿 レストラン

 

「えぇと・・聖モシカ女子の万両苺ちゃん。佐久良 南天ちゃん。市井 蓮華ちゃん。西東京総合学園の的場 伊万里ちゃん。豊穣入谷の透野翠と藍ちゃん。そして魔法大学付属第一の式 清夜君ね。」

 

みのり刑事は口にしながら調書のようなものに書いていく。

そんな中、翠だけが皆に挨拶をする

 

「よろしく・・」

 

「は、はい!よろしく。」

 

「ヒョヒョッ!!」

 

しかし清夜以外、誰も答えない。

そんな姿を見て笑う藍。

みのり刑事も清夜を見て笑う。

 

「ふふふ、なんだか女子会みたいね。清夜君には居づらい集まりだったかな?」

 

「い、いえそんなことは・・」

 

すると、みのり刑事のデバイスがブブブと震えた。

 

「あ、電話だ。スイーツも来たようだし皆先に食べてていいよ。」

 

そう言って席を離れる みのり刑事。

 

 

 

 

 

 

その瞬間、女子会が女死会になった。

 

 

 

 

 

 

空気が一瞬で一触即発状態になる。

 

苺は静かにドスの効いた声をあげた。

 

「な〜にが『よろしく』だ。殺すぞクソ野郎!」

 

「ひ、ひぃ!!」

 

仲間の南天と蓮華も睨みつけてる。

しかし清夜以外誰も動じない。

 

「ヒョッ、動けなそうな眼鏡がいると思ったら893か。死にたくないなら黙ってな。」

 

逆に藍は苺に挑発する始末。

翠は笑顔だが怖い類の笑顔だった。

伊万里は苺の睨みを無視して清夜を見つめた。

 

「貴方いつまでヘタレキャラ作るつもり?そこの眼鏡も気づいてるわよ。豊穣入谷の二人は貴方の手下ってこと。」

 

「シャシャんなチビ!!清夜テメェもだ!!今確信した!ここ最近の893殺しはテメェの差し金だな!?昔から無能だったテメェが犬二匹飼って最強気取りか!いったい何するつもりだ!?」

 

二人から睨まれる清夜。

だがその表情は怯えるものでも怒るものでもなく笑顔だった。

 

「あらら、バレちゃったね二人とも?」

 

「申し訳ありません御主人様」

 

「守るためとはいえ殺気を出し過ぎたかもしれません。」

 

「構わないよ。俺も悪かっただろうし、お互い失敗を繰り返さないならそれでいい。」

 

先程の怯えぶりは全くなく余裕にしか見えない態度。

 

苺はどんどん不機嫌になっていく。

 

「テメェ・・自分のモツを食いてぇようだな!」

 

「まさか、まだ死にたくないよ。苺ちゃんと戦ったら痛手をもらうのは分かっているからね。だから苺ちゃんにはまだ手を出してないんじゃないか。」

 

「けっ!まだ・・ね」

 

苺の恐ろしさは魔法ではなく知略。

見た目こそ大人しそうだが性格は残虐かつ大の負けず嫌い。

昔、苺をいじめてきたクラスメイトを893も暴力も他のクラスメイトすら使うことなく自殺に追い込んだ人間だ。

もちろん真相は自殺した本人すら知らず、知るのは加害者の苺と幼馴染である清夜だけだ。

 

「俺は邪魔する悪党を潰すよう指示しただけだよ。」

 

もちろん嘘に決まっている。

清夜にとってはゴミ掃除をしているだけのことだった。

清夜は話を続ける。

 

 

「それに俺も確信した。麻薬ルートを潰してるのは伊万里で潰されているのは苺ちゃんだね。そして刑事に声をかけられ再会しちゃった。ハッ!お互い俺と同じぐらい間抜けじゃないか。」

 

場の空気はさらに悪くなる。

一触即発以上に核爆発寸前だ。

が、必要以上に舐められたら終わりの社会でもある。

清夜、苺、伊万里は睨み合う。(清夜の場合睨みつけてるわけでなくビジネススマイルというやつだ)

 

「んだとテメェ!」

 

「キャハハ!馬鹿ばっか!死に急ぎが多いようで」

 

翠と藍、そして蓮華と南天は静かに自分の武器に手を伸ばす。

主を馬鹿にされて黙ってるような連中ではなかった。

 

しかし殺し合いになることはなかった。

 

「ごめん、ごめん!電話長引いちゃって・・あれ?まだ食べてなかったの?」

 

 

 

 

 

女死会が女子会に戻った。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月5日 横浜

 

苺達は夜道を歩いていた。

みのり刑事が戻ったあと特に喧嘩をするわけでもなく素直に警告をうけ解散となった。

 

「たく、みのりちゃんも間抜けだよな。麻薬に気をつけろだってさ。あたしが麻薬ばら撒いている超本人だっての」

 

苺は不貞腐れながらブツブツと愚痴を漏らしていた。

だが南天は真面目な話を始める。

 

「よく我慢できたね姫。」

 

刑事の話ではない。

それぐらい苺も蓮華も分かっていた。

 

「南天と蓮華の顔見たら嫌でも分かるさ。ヤバイんだろ?」

 

蓮華も南天も高校二年生ではあるが昔から裏社会で強敵と渡り合った猛者だ。

その二人が本能的にヤバイと感じ取ったのが目に見えて分かった。

だから苺も一触即発の空気であったが殺し合いを始める気は最初からなかった。

 

「うん、あの女子高生3人を同時に相手取ってたら姫を守れなかった。」

 

蓮華としても、あの時あの場からどう苺を逃げ出そうか考えていたのだ。

 

突然、苺が自分の頭を自販機に叩きつける。

 

ドガッ!ガッ!ガッ!

 

「ドチクショー!あいつらぁぁぁ馬鹿にしやがってぇぇぇぇぇx!!あたしにも南天や蓮華みたいな力があればミンチにしてやれるのにぃぃぃ!!」

 

もう一度言おう。

苺は残虐で大の負けず嫌いだ。

例え頭から血がでようと悔しい思いが晴れない限り頭をぶつけるだろう。

 

「や、やめて!姫が怪我しちゃうよ!」

 

「そうだよ!そんな悔しいなら姫の暴力である私達が殺してくるよ。誰から殺す?」

 

蓮華や南天は組織よりも苺が傷つくことを嫌う。それぐらい苺を愛しているのだ。百合百合しい表現だが実際そういう関係でもある。

 

苺はピタリと止まって、いじけた様子でちょっぴり頬を赤くしてから答える。

 

「翠と藍と清夜。というかまず清夜・・半殺しにして私の元まで連れてこい。あたしがトドメを刺す。」

 

内容としてはエグいものだったが苺の顔を見た南天と蓮華は固まった。

女としかHしない苺が男の名で赤くなるのは彼女達にとってシェイク・スピアの四大悲劇に匹敵するほどのショックだった。

 

南天は関係を聞こうとするが動揺が隠せない。

 

「ひ、ひひひ姫!?なんで男の名で赤くなるの!?ほほほほほほ本当に彼氏なの!?」

 

「っ!?ちげぇよ!!清夜は幼馴染だ!」

 

蓮華はヤンデレに変貌する。

 

「じゃあなんで半殺しなの?姫に男なんていらない・・。姫がアイツと結婚するならアイツ殺して私も死んでやる!」

 

「落ち着け蓮華!アイツには聞きたいことがあるだけだ!」

 

暴走を始める南天と蓮華。

もはや苺の悔しさはどこかに消えていた。

 

すると路地裏から男が6人、苺達を取り囲むように現れる。

 

「どうしたの?泣かないでー」

 

「君が泣いちゃうと僕達も悲しいよー」

 

あきらかに悪そうな面、そして棒読みな心配。

あきらかにチンピラだった。

囲まれたら普通の女子高生なら手も足も出ないだろう。

だが相手が悪かった。

 

「ギャハハ!ここは管轄の狭間でな、監視カメラとか置いてないんだぜ!まぁそんなわ・・べぐゅあ!」

 

ドグシャ!

 

骨が折れるような音が聞こえた。

南天に殴られた男はそのまま動かなくなる。

南天はブチギレた。

 

「うるっさい!あんたらに構ってる暇ねぇんだよ!」

 

それに対し苺と蓮華は嬉しそうだった。

 

「まぁまぁ、いいじゃない南天ちゃん。こいつら殺して落ち着こう?」

 

「だな、ちょうど憂さ晴らししたかったんだ。それにカメラがないことも教えてくれたんだ。皆殺しにしてやらねーと失礼だろうが」

 

チンピラ達にとっては良いカモだったかもしれないが敵に回したのはライオンだった。

 

「へ・・え、いや!やめ!ギィィィィヤァァァァァ!」

 

チンピラ達はライオンに襲われる小動物と同じ末路を辿るのだった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月5日 DEM本社近く

 

清夜は翠と藍と共に本社に向かっていた。

清夜は資料を取りに行くだけで翠と藍は家までの護衛だ。

 

「ではあの眼鏡は御主人様の幼馴染ということですか。」

 

「ああ、君達は馬鹿にしていたが魔法協会がある横浜の裏社会を牛耳る万両組のお姫様だ。」

 

「ヒョヒョッ!女組長とは珍しいですね。」

 

「893の看板自体は降ろしたんだけどね。組織は未だに存在している。もはやマフィアと言っていいだろうね。どちらにせよ十師族の一番の縄張りで悪さ出来るんだ。動けないからといって油断してはならない。」

 

油断出来ないことは理解した。反省もした。だが二人は主を馬鹿にした奴らのことが許せない。

 

翠は静かに懇願した。

 

「かしこまりました。ですが幼馴染とはいえ御主人様にあのような物言い許せません。ぜひ、私達に暗殺命令を・・あひゃぁ!」

 

ぺちっ!

 

翠は清夜にデコピンされると殺し屋とは思えないほどの可愛い声を上げた。

 

藍は翠の思いがけない声に笑いが吹き出しそうになった。

 

「コラコラ、話を聞いていたかい?戦術レベルの話じゃないんだ。苺ちゃんと殺し合うことになったら会社vs893の戦略レベルの戦いに必ずなる。」

 

「ヒョ・・ヒョw では準備が出来次第という・・あへゃぁ!」

 

ぺちっ!

 

藍も翠と同じような声を上げてしまった。

藍は殺し屋らしからぬ声を出したことに恥ずかしくなり顔を下に向けた。翠も同じ行動を取っている。

 

清夜にはどうして下を向いたか分からなかったが話を続けた。

 

「君達、喧嘩っ早すぎ。目的を忘れたかい?俺の第一目標は復讐だ、自重してくれ。まぁ悪党だからいずれ潰すけど今はその準備だけかな。割に合わないんだよ万両組潰したって。麻薬売るつもりもないし、ただこちらが疲弊するだけさ。」

 

「「か、かしこまりました・・」」

 

恥ずかしさで顔を赤くしながらも頭を下げた二人。

 

清夜は頭を撫でて二人の忠義を賞賛した。いや忠義なのか洗脳なのかは分からないがこうした方がいいのだろうと思ったのだ。

エリカに1日で二回殴られた男の勘なのだが・・

 

なでなで

 

「二人が俺のために行動してくれてるのは理解してるよ。ありがとう。まぁ・・チョッカイぐらいならいいさ。もちろん伊万里にも。一回戦ったんだろう?」

 

すでに伊万里と出会っていたことに気付かれた二人。

それでも御主人様ならそれぐらい気付いて当然かと開き直った。

 

二人は姿勢を正した。

 

「「はい!これからも・・」」

 

『アイク、翠、藍!聞こえますか!』

 

せっかくの決意表明だったのだがエレンの思考通信で中断された。

だが思考通信で通信することは戦闘を除けば滅多にない。

それだけ事態が急を要しているということだ。

 

『どうしたエレン?』

 

『Pラボに侵入者です!』

 

DEMに見知らぬ影が忍び寄ろうとしていた。




とうとう対面する裏社会の人間たち。
彼女たちは十師族だろうと容赦なしの殺し屋です。

次回予告!
オリジナル回。
DEMの研究所の一つに侵入者!その正体と目的は!?

面白いかは分かんないけどリョナは喜ぶんじゃない?

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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24話 烏

24話です!鳥じゃないよ、カラスだよ!

前回までのあらすじ
森崎秒殺!じゃなくて・・暗殺者の情報を集めに新宿に訪れた清夜だが、そこに翠と藍を含める凶悪殺し屋女子高生を連れた『螢田みのり』と遭遇してしまう。そのままレストランでスイーツをいただくことになったが『螢田みのり』が席を外した瞬間、一触即発の睨み合いに発展する。そしてその間にもDEMに見知らぬ影が近づいていた。


2095年4月6日 日本 Pラボ

 

日付が変わった頃、研究員がいなくなり静かになった研究所。

この研究所は他のDEMの研究所と違い、定時になったら研究員を全員帰宅させ警備員だけを残す珍しいところだ。

 

そんな研究所に似合わない格好をした少女1人と黒服の大人4人が廊下を駆け抜けていた。

 

「まったく・・広いわね、この研究所は」

 

痛々しい(厨二病的な意味で)格好をした少女は『黒羽亜夜子』

今年3年生になったばかりの普通の中学生♪・・・

と言いたいがDEMの施設に不法侵入したところで普通の泥棒とすらいえない。

 

後ろをついてくる黒服達も同じ意見だ。

 

「そうですね。だからこそ今回は中を探るヨル様、ヤミ様、当主様の三チーム合計11人+外を警戒する20人なのでは?」

 

「だな。さすがは別名『Prometheus Laboratory』・・武器商らしい ふざけた名前だ。」

 

「だけど世界最強が抱える研究所よ。馬鹿にできないわ。」

 

「ああ、実際に警備員の中にも当主様達でないと倒せない手強い奴もいたしな。セキュリティは本家並みに厳重だ。」

 

世界最先端の技術を有するDEMの『Prometheus Laboratory』・・つまりは『プロメテウス研究所』と呼ばれるこの研究所には新人、下っ端とはいえ他のDEMの研究所と違いDSSの魔法師が直接警備を行っている。

だがその魔法師達はすでに彼らによって無力化(殺してはいない)されていた。

なので彼らが大声で喋ろうと警備員が駆けつけることはないのだ。

 

だがさすがに喋りすぎたか黒服達の主であるヤミから通信が入る。

 

『こら!喋りすぎだ。四葉本家の命でないとは気を抜きすぎだ!ヨル姉さんもボーとしないで注意してよ。』

 

中性的な声で通信するのは『黒羽文弥』。

亜夜子の双子の弟にして『四葉(・・)』ならびに『黒羽(・・)』の次期当主候補(・・・・・・)

服装や鬘は女性物だが決して女装趣味とかニューハーフというわけではない。

『黒羽』の仕事のために変装しているのだ。

 

黒羽家・・・

十師族序列一位の『四葉』は十師族の中で唯一”分家”を持つ一族で『黒羽』はその分家にあたる一族だ。

『四葉』の諜報部門を統括しており情報収集はもとより暗殺などといった裏の仕事をこなす。

 

余談ではあるが『ヨル』というのが仕事をする時の亜夜子の名で、『ヤミ』というのが文弥の名である。

 

今回は『四葉に襲いかかる脅威から四葉を守る』という『黒羽』、ひいては”分家”の義務感としてDEMの調査に来ていたのだ。

 

亜夜子は適当に答える。

 

「はいはい、わかったわよ。ヤミちゃん。』

 

といってもその顔は真剣そのもので今もこうして他に敵がいないか警戒していた。

亜夜子達はT字路の突き当たり一度止まる。

 

「どうやら先は回廊状になっているようね。一人ずつ手分けしてこのブロックの部屋をすべて調べましょう。研究資料はたくさんあるでしょうから価値があると思ったのだけコピーしときなさい。終わったらここに集合で。」

 

「「「「了解」」」」

 

〜数分後〜

 

亜夜子は部屋にあった紙の資料を漁っていた。

 

「データはたくさんあるくせに内容は四葉より劣ったものばかりじゃない・・DEM最強戦力の『Anti・Wizard(アンチ・ウィザード)』に関するものがあればいいと思ったけど・・ここもハズレね。本当にこの研究所には『プロメテウス』に見合うだけの研究はあるのかしら?まぁこの際、脅迫できるようなネタでもいいけど・・」

 

『Prometheus Laboratory』は別名と言ったがDEMでもこの名は使われている。

それでも各研究チームのリーダー以上しか知らないので外部の人間が知っていること自体ありえないのだが・・

つまりそれだけ『黒羽』の諜報能力が高いと言える。

 

「ダメね。次の部屋に行きましょう。」

 

そうして亜夜子は資料を元ある場所に戻し部屋を出る。

すると暗闇の廊下に見知らぬ男が歩いていた。

 

そもそも亜夜子が侵入者だから見知らぬも何もないと思うが少なくとも『黒羽』の人間ではなかった。

 

(嘘!外の連中は何してたのよ!?いや、こんな呑気に歩いている人間が気づかれずに入ってこれるわけがないわね・・ということは無力化し損ねた人間ね・・にしても間抜けそう。仲間がたくさん倒されたというのに気づいてすらいなそう。)

 

亜夜子も外に人がいることに気づかず鉢合わせという形で出てきたのだが

亜夜子は得意魔法である指定領域内における任意の気体、液体、物理的なエネルギーの分布を平均化し、識別できなくする収束系魔法『極致拡散(通称:極散)』を発動して行動したため気づかれなかったようだ。

 

(ごめんなさいお兄さん。眠って・・)

 

するとここで誰かから通信が入る。

誰かというのはジャミングでもかけられたのか音がうまく聞き取れないからだ。

 

『・・・!・・・!・・!!!・・!』

 

亜夜子は男を諦め通信を取るため一度その場を離れようとする。

だが男とすれ違おうとした次の瞬間・・

 

 

 

 

「み〜つけた」

 

 

 

 

ガシッ!

男は片手で亜夜子の首を掴む。

いや掴むなんて生易しいものじゃない握り絞めたと言ったほうがいいだろう。

それだけの握力を亜夜子は感じたのだ。

 

「カハッ!?」

 

「おやおや・・・ダメじゃないか?ここは関係者以外立ち入り禁止だよ、お嬢ちゃん。」

 

「ぐぁ・・・か・・ぁ・・・!」

 

(なんで!?極散で私の存在は認識されないはずなのに!?)

 

メギシィ・・・

 

男はさらに握力を強め質問を続ける。

 

「お父さんかお母さんと一緒かな?どこにいるか分かるかな?」

 

これだけ聞けば迷子を助ける優しいお兄さん。

だが現実は大人が子供を締め上げる悍ましい状況だ。

亜夜子は暗闇の中とはいえ男の正体に気づいた。

 

(アイザック・・・ウェストコット!!まさか最初からいたの!?他の皆は!?どうして誰もこないの!?)

 

男はアイク(清夜)だった。

亜夜子の『極散』は通信のため電波は対象に入れておらずアイク(清夜)は『電気使い』のBS魔法で電波の発信源を探知で亜夜子の姿を捉えたのだ。

 

メギギィ・・

 

「聞こえるかな?あ!お兄ちゃんとか弟と来たのかな?」

 

アイク(清夜)はさらに強めていく。

亜夜子は小声ながらも笑って答えた。

 

「ぁ・・・あ・・ら?・・・わ・・たし・・は・・これ・・でも・・中学・・生・・で・・してよ・・・一人・・に・・き・・ま・・」

 

メギギギギィ・・

 

「嘘はいけないな・・そうだ君はカラスが『カ〜』と鳴く理由を知っているかい?」

 

「・・・・?」

 

突然、意味不明な話に戸惑う亜夜子。

アイク(清夜)は話を始めた。

 

「これは神話の話なんだが昔カラスは人の言葉が喋れてたんだけどね。カラスはアポロン神に嘘をついてしまったんだ。嘘に気づいたアポロン神は怒ってカラスが人の言葉を喋れないようにしてしまったんだって・・」

 

「そ・・・れ・・・が?」

 

「つまりねDeus Ex Machina・・機械仕掛けの神である私が嘘つきカラスの君に罰を与えようということさ。」

 

ギギギギギギギギギギギギギィ・・・

 

締め上げる力がさらに上がっていく。

亜夜子は苦しみながらも逃げ出すために周りを見渡す

ここで気づいてしまった・・周りの悲惨な状況に

 

(なにあの塊?・・そして・・血?・・・・まさか・・この塊は!?原型すら留めてない・・これが同じ人間のやることなの!?)

 

そう周りにはここまで一緒に来た部下たちの無残な死体・・

いや亜夜子の言うとおりミンチとか肉片という言葉が似合う状況だった。

 

そこに自分を当てはめてしまった時、部下たちよりひどい結末が頭をよぎる。

 

(さっきから締める力が落ちない・・・窒息させると思ったけど違う!この人、最初から首を圧し折る気だ!!しかもその気になればいつでもやれるのに、あえてゆっくり圧し折る気だ!)

 

恐怖や窒息で尿や便が漏れ始める。

だが亜夜子にはそんな場合ではない。

亜夜子は神にすがる気持ちで問う。

 

「じょ・・・冗談・・でしょ?」

 

目の前にいるのは機械仕掛けの神は笑顔を向ける。

お世辞にも綺麗とは言えないものだったが・・・

 

「冗談?・・・そうだね・・部下とポテチ咥えながら話すぐらいには話題の種になるだろうね」

 

(た・・達也さん!)

 

亜夜子が思い人を心の中で叫んだ瞬間だった。

 

「姉さんを離せ!」

 

文弥が魔法を展開しながら廊下の角から現れる。

選択した魔法は系統外魔法『ダイレクトペイン』

人の感覚に直接痛みを与える文弥だけの固有魔法だ。

くらえば卒倒するほど痛みをくらう。

いや、すでに文弥は致死レベルの威力に設定している。

だが・・・

 

「おや、妹さんが向かいに来てくれたようだよ」

 

「だ・・・め・・・にげ・・て・・」

 

ガシッ!!

 

『ダイレクトペイン』をくらっても尚、亜夜子を握る力が落ちない。

それどころかアイク(清夜)は空いている手で亜夜子同様、文弥の首を握りしめた。

 

「がっ!?・・・バカ・・な・・直接・・痛みを・・・与えたん・・だぞ!?」

 

「ああ、もしかして殴られてもいないのに痛いのは君の魔法か・・」

 

メギギィ・・

 

アイク(清夜)は痛がる仕草すら見せない。

だがその顔は悲しみに狂うような顔だった。

 

「だけどね・・・そんな痛さよりも冬華が受けた痛みのほうが・・ずっと・・・ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとず〜〜〜〜〜っと・・・痛いんだ。だから私は君たち悪党を・・・・ぶつぶつぶつぶつ・・」

 

メギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギィ・・・・

 

(なんだこの握力は!?『ダイレクトペイン』を耐えた忍耐力といい・・狂っている!こいつは人間か!?これが・・絶対的な力の差・・)

 

文弥の鬘がとれる。

とうとう亜夜子も文弥も呼吸することすら難しくなってきた。

握力は未だに落ちる気配すらしない。

しかし機械仕掛けの神の罰は終わらない・・・

 

「おや・・君はお嬢さんかと思ったが坊やだったか・・まぁいい・・殺す前に保険をかけとこう・・」

 

「な・・に・・・・を?」

 

「い・・・・や・・・」

 

アイク(清夜)は無媒体で魔法を展開する。

発動するのは精神系干渉魔法『Nightmare Revive(悪夢再び)

 

「ひっ!・・・」

 

「や・・・め・・・」

 

アイク(清夜)の魔法をくらった二人に今まで以上の恐怖がわいてきた。

だがこの魔法はまだこんな優しいものではなかった・・

アイク(清夜)はトドメにかかる。

 

「では終わりにしよう。よかったじゃないか?姉弟一緒に死ねて・・・すこし羨ましいよ」

 

もちろん死ねて喜ぶ者などごく僅か。

二人は涙ながらに抵抗する。

 

「じにだぐない・・・」

 

「だずげて・・・だずやざん・・・」

 

もはやなんと言っているのかわからないがアイク(清夜)は決して許さない・・

 

「私は悪と判断したら例え子供であろうと容赦はしないんだよ」

 

ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギィ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪だから殺すのかい?

なら今、殺すべきなのは君自身なんじゃない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、後ろから声が聞こえる。

後ろを向くとそこには冬華が喰われた時の清夜がいた。

アイク(清夜)は震えながら質問する。

 

「お・・・お前は・・・誰だ?」

 

小さい清夜は不気味に笑いながらアイク(清夜)に近寄る・・・

なにが起きているのか理解できなかったが幸いにも考える暇がなかった。

 

「二人を返せ!!」

 

黒羽家当主の『黒羽貢』が現れたのだ。

遅れて翠と藍も現れる。

 

「待て!」

 

「カラスのくせにシツコイ!」

 

「ちぃ!」

 

バババババババ!

 

どうやら翠と藍から逃れて息子たちを助けに来たようだ。

だがアイク(清夜)に届く前に翠のアサルトライフによって攻撃を受ける。

これを貢は移動魔法で銃弾のベクトルをあさっての方向にずらした。

 

「ほら二人ともパパが向かいに来てくれたよ〜ご対面〜!あれ元気がないぞ〜?どっ!うっ!しっ!たっ!のっ!かっ!なっ!?」

 

アイク(清夜)は先ほどまでの動揺を隠し小馬鹿にするように気絶・・

いやすでに意識不明の二人を激しく揺らしてパペットのように話す。

 

「パパ〜会いたかでちゅ〜。僕泣いてないよ!偉いでちょ〜?」

 

「あのね〜わたちたち〜この親切なお兄さんに〜お世話になってまちたの〜」

 

貢は二人が弄ばれていることに腹がたつ。

だがさすがにプロ。

下手に動けばすぐ殺されることが分かっていた。

 

「くそッ・・・こいつ・・・」

 

貢に睨まれようとアイク(清夜)は人形劇を続ける。

余裕だから・・ではない。

アイク(清夜)は貢を見た瞬間に亜夜子達レベルが違うことに気づいたから相手から冷静さを奪うのだ。

 

「ね〜パパ〜喧嘩はやめようよ〜」

 

「そうよ。喧嘩よりも皆でダンスを踊りましょう〜そうすればきっと仲良くなれるわ〜」

 

そう言ってアイク(清夜)は二人の体をブラブラと揺らす。

 

ボキッ!

 

すると文弥の腕が勢いよく壁にぶつかったのか腕があらぬ方向に曲がった。

ついついアイク(清夜)は素の声で謝ってしまう。

 

「ありゃ?やばっ!腕折れちゃったかも!?ごめん!」

 

「キィィィィサァァァァァァァマァァッァァァ!!」

 

無論、そんなことで許す親などいるわけがない。

目的こそ調査だったが貢は全力でアイク(清夜)を殺しにかかる。

必殺の精神干渉系魔法『毒蜂』の起動式を展開する。

しかし・・

 

「キョフフ・・そんなことさせるわけないでしょう。」

 

パリン!

 

「なっ!?」

 

ガシッ!!

 

翠の術式解体により『毒蜂』の起動式が吹き飛ばされる。

二人を手放したアイク(清夜)が貢の顔面をつかんだ。

二人同様、貢の顔をものすごい握力で握られる。

アイク(清夜)の目が冷酷なものになり今度は清夜の口調で問う

 

「へ〜自分の子供弄ばれて怒るんだ・・でもさ・・・俺もさ・・あまり人のことを言えないんだけどさ・・あんた自分の子供にこんな仕事させて恥ずかしくないの?あんたが子供にさせているのは俺が二人を弄んだぐらい酷いことだよ?」

 

「うぐぉ・・・ぐぅ・・あ・・」

 

「まぁいいや・・話を変えよう。君はどうせこの研究所を『Prometheus Laboratory』と思っているんだろう?実際、私の研究チーム以外そう勘違いしているし。だけど残念。このPラボのPは『Pandora(パンドラ)』のPだ。」

 

「・・・!!」

 

貢はしゃべれない状態ではあったがこの研究所の意味が分かった。

そして自分たちが罠にはまっていたことにも・・・

 

「気づいたようだね。この研究所はプロメテウスという甘い名前に引っかかる裏切り者や愚か者を炙り出し処刑するための研究所なんだ・・でも『パンドラの箱』と違うところがあってね・・それは希望なんてものは一切ないことなんだ。」

 

アイク(清夜)は貢に『Nightmare Revive(悪夢再び)』をかける。

だが同時に貢も動き出していた。

 

「ひっ!ヒィィィィィィヤァァァッァァァ!!」

 

パッ!

 

「「「なに!?」」」

 

閃光弾が破裂しアイク(清夜)達の視界が奪われる。

その間にも貢は亜夜子と文弥を持ち上げ逃げた。

 

アイク(清夜)達の視界が戻る。

翠と藍はアイク(清夜)に謝罪する。

 

「「申し訳ありません」」

 

「まさか、怯えていても子供達を担いで逃げるなんてね・・油断してしまったな・・これじゃバルメやチェキータに地獄の特訓をさせられちゃうよ。でもまぁ保険はかけておいた。」

 

「先ほどの魔法でしょうか?」

 

アイク(清夜)は『Nightmare Revive(悪夢再び)』について解説を始める。

 

「あの魔法は禁忌である精神構造干渉と言ってもいいんだけどね。同じ精神干渉系魔法『ルナ・ストライク』だと精神に直接ダメージを与えて恐怖させるけどあの魔法だと精神に我々を恐怖の代名詞として灼き付けるんだ。もちろん、かかれば二度と逆らおうとすることはないだろうね。」

 

「で、では・・」

 

魔法の恐ろしさに驚きつつも藍が『追撃しますか?』と聞こうとした

だが『Nightmare Revive(悪夢再び)』の恐ろしさはまだこんなものではなかった。

 

「いや・・実はここまでだと1ランク下の『Nightmare(悪夢)』なんだ。『Nightmare Revive(悪夢再び)』だと間隔には差があるが平均で1時間のうち40分は我々に対する恐怖でのたうち回るし、寝た時は必ず悪夢として追体験することになり、まばたき以外で目を閉じるだけでもやられた時の光景が蘇るんだ。そうして心身共に弱っていき1〜2ヶ月の間には必ず死をもたらすんだ。治療法も精神構造干渉魔法しかない。終わったよ彼らは。」

 

「「・・・・」」

 

二人は絶句する。

まだ我が主人が恐ろしい魔法を持っていることに・・

 

「ああ、追跡は忘れずに。ジェシカ・ベイリーの部隊にやらせて。それと顔を見られたことなら大丈夫。あの魔法をくらうと、やられた時の恐怖で頭が一杯になって他のことなんて、すぐに忘れちゃうからさ。」

 

「「か、かしこまりました」」

 

翠と藍はかけ足でその場を後にした。

アイク(清夜)はそんな二人を見送ると後ろに振り向いた。

 

だがそこにはもう誰もいなかった・・・・

アイク(清夜)は一人つぶやく。

 

「殺すべきは俺自身か・・それでも俺は・・」




Nightmare Revive(悪夢再び)』の魔法をかけてしまったことで、後に最強の魔法師と殺し合う羽目になることを清夜はまだ知らない・・・

清夜自身、逃したことを反省していますが3人をすぐに殺さなかったのは・・・ネタバレになりそうだからやめます。まぁ予想はつくでしょう。

次回予告!

森崎秒殺のツケが回ってくる清夜!
そして清夜の悪意が動き出そうとする・・

お楽しみに!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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25話 千葉エリカという女

25話です。
今回は女に振り回されたり、エリカの心情が見えて来る・・かも

前回までのあらすじ
DEMの『プロメテウス研究所』通称『pラボ』に四葉の分家『黒羽』が忍び寄る。しかしpラボの正体は裏切り者や敵を炙り出す為の『パンドラ研究所』だった。清夜達は『黒羽』の侵入者の殆どを抹殺したが肝心の貢、亜夜子、文弥を逃してしまう。だがそれでも保険として精神系干渉魔法をかけておいたのだった。


2095年4月6日 第一高校 生徒会室

 

新入生勧誘週間1日目の昼休みのこと

清夜は真由美からの2度目のお誘いを受け生徒会室に訪れた。

喜んで・・なわけない。

だが生徒会長、それも”七草”のお誘いを断り続けるのも学校生活に支障がでると考えてお誘いを受けることにしたのだ。

清夜は扉の前でグルグルと歩き回りながらも覚悟を持って扉をノックした。

 

コンコン・・

 

「1-Eの式 清夜です。」

 

『どうぞ〜』

 

「失礼しま〜す・・・・」

 

そう言って清夜はドアをチョビっと開けてドア縁に両手をかけた

もし彼のさっきの行動を知る人物がいるなら『おい、覚悟はどうした』と言うだろう。

中には昨日の生徒会室メンバーから鈴音を除いた者達がいた。

真由美は笑って招く。

 

「ふふふ・・そんな警戒しなくても取って食べようとするわけじゃないですよ。」

 

「す、すいません・・」

 

『ははは』と笑い出す一同。

だが達也は今の清夜の行動に違和感を感じていた。

 

(なんだ?・・今、清夜の右手が不自然に動いたような気がするが・・・魔法の形跡は感じられない気のせいか?)

 

だがそんな考えが知られるわけもなく食事が始まった。

 

 

〜12分後〜

 

 

食事が終わり清夜はこんな声を上げた。

 

「自分が風紀委員・・ですか?」

 

摩利は食後のお茶を楽しみながら答える。

 

「ああ、そうだ。昨日、私が模擬戦前に森崎にかけた言葉を覚えているかい?」

 

「確か・・・『負けたら教職員枠』とかなんとか」

 

フリとかではなく清夜は本当に覚えていなかったのだ。

そんな清夜を摩利、真由美、アルテミシアは楽しそうに見つめる

 

「うむ、『負けたら教職員枠の風紀委員任命は取り下げる可能性が高い』と言ったんだ。それで実際、負けてしまったからな森崎の風紀委員任命を取り下げるつもりなんだ。問題を起こしすぎだしな。」

 

「それでどうしたら自分に風紀委員指名がくるのでしょう?」

 

いや本当はなんとなくは分かっていた。

清夜が分からないのは何が目的かということだった。

だが隙なくアルテミシアの追撃が入る。

 

「フフフ・・予想ぐらいついてるでしょう?森崎君の任命を取り下げるならそれ以上の人材を推薦しなければならない。なら模擬戦で森崎君を倒した君なら適任というわけ」

 

清夜は少し引きつった顔でアルテミシアを見つめるが彼女の柔和な笑顔は崩れない。

 

「教職員枠ということは教職員が推薦するはずですが?」

 

「ええ、先生方は私達があげた推薦者で推薦してくれるそうです。細かい手続きがあるわけではないですし、清夜君が首を縦に振ってくれるだけで面倒なことは何もないですよ。」

 

どうにかして逃げ場を作りたかった清夜だが真由美がすかさずブロックにはいる。

詐欺師まがいな誘導をしてくるあたり、何が何でも入って欲しいようだ。

 

清夜は何も『面倒』というだけで嫌がっているわけではない。

風紀委員というのは基本取り締まるのが仕事だ。

だが取り締まられて喜ぶ者はいるはずもない。

少なからず反感は買ってしまうのだ。

だから広く人脈を築きたい清夜にとっては避けたい役職だった。

 

清夜はゴリ押しという最終手段に移った。

 

「そうですか・・ですがお断りさせていただきます。自分には荷が重すぎますので。それにあくまで最後は本人の了承が必要なんですよね?」

 

そう来たかという顔を摩利と真由美。

勝った・・と思いながら清夜は席を立つ。

しかし逃げる清夜に司波兄妹立ちはだかる。

 

「待ってくれ、清夜。俺一人が風紀委員になるのは心寂しい。友達(・・)のお前が一緒に入ってくれると心強いんだけどな。」

 

「そうですよ清夜君。それに風紀委員長と生徒会長のご期待を裏切る(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)のも失礼だと思いますよ?」

 

(友達ねぇ・・信頼を得たわけではないだろうな・・にしてもこの兄妹・・なかなか痛いところを突いてくるな・・)

 

達也としては本心半分、清夜の監視のためが半分だったが

司波兄妹の言葉は真由美と摩利を勢いづかせるには充分だった。

 

「そうだな、先輩の期待には答えるものだ」

 

「それに達也君を見捨てるのは友達としてどうかと思うわね。」

 

そんな真由美達の隣ではアルテミシアが梓に何かを吹き込んでいる。

すると梓も説得に参戦してくる。

 

「そうですね!私も式君のCAD・・・じゃない!風紀委員姿を見てみたいです!」

 

下心見え見えなセリフ。

おそらくCADの風紀委員と生徒会特権(非公式だが部活連も)であるCADの常時着用許可を使って清夜のCADを見られるとでも言ったのだろう。

 

しかし、そんなボロもアルテミシアがカバーしてくる。

 

「大丈夫。式君は入学試験の実技試験では2位だったんだから引け目に感じることはないわ。」

 

「そうだぞ。俺とは違って男子では一位なんだ。自信を持て」

 

結果、清夜以外の全員が敵に回ったわけだがゴリ押しの姿勢は変えなかった。

 

「達也も分かっているだろう?俺のは所詮『はったり』。風紀委員になってから期待を裏切るのは嫌なんだよ。それではこれで失礼します。」

 

「残念ですがドアはロックされてますよ。私がロックを解除しない限り出られません。昼休みはまだありますし、もう少し話でもしませんか?」

 

真由美は勝ち誇った顔で告げる。

だがそれでも清夜が席に戻ることはなかった。

 

「会長・・下手したら監禁の罪に問われますよ。それと猫を被るだけでなく、時には素顔をさらすことで交渉を上手く運べることもあるんですよ。」

 

と苦笑い気味にドアノブに手をかけると

 

ガチャ・・

 

ロックをかけられたはずのドアが開いてしまったのだ。

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

皆、全く同じ反応を見せた。

だがそんな反応には目もくれず清夜は生徒会室を後にした。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年4月6日 第一高校 廊下

 

放課後、清夜は一人で部活動の見学に向かおうとしていた。

レオと美月は部活は決めていたし、達也は風紀員で巡回。

そして一、二を争うの懸念要素のエリカに関しては授業が終わるなり数名の女子生徒に話しかけられていたので恐らくそのメンツで見学するのだろう。

 

とにかく、これから色々と達也に対する工作(・・)を行う上ではありがたい状況だった。

 

(う〜ん・・ここ最近思惑通りに学校生活を送れなかったから逆にこういう状況は怖いな・・ん?)

 

すると清夜は前方に見ただけでプライドが高そうと分かる一科生の上級生の一団を見つけた。

清夜は早速工作に移った。

いや工作と言うほど特別なことをするわけではない。

まずは種まきから・・・

清夜はデバイスを取り出して耳にあてる。

電話をするわけではない・・ただフリをするだけ。

 

「そんでよ〜雑草がさ〜・・」

 

「ギャハハ、マジかよ!・・・」

 

馬鹿でかい声を上げて笑う上級生たち。

そんな彼らは清夜とすれ違いざま こんな声を聞いた。

 

「へ〜ニ科生の司波達也が風紀委員になったんだ〜(・・・・・・・・・・・)一科の連中もたいしたことない・・ってことかな?」

 

ピタリと上級生達は止まった。

『一科の連中もたいしたことない』という言葉は彼らのプライドを傷つけるには充分のようだ。

 

「あ?『一科の連中もたいしたことない』・・だと?」

 

「おい、おま・・アレ?・・・いない。」

 

しかし上級生達が振り返るとそこにはもう誰もいなかった・・

上級生達は首を傾げた。

 

「なんなんだ。さっきの奴は?」

 

「いや、それよりも雑草(二科生)が風紀委員とか言ってなかったか?」

 

「ああ言ってた。二科生の司波達也・・・新入生か?」

 

雑草(二科生)が取り締まるだと・・・ふざけやがって!粛清してやる!おい、学内ネットでそいつの情報を集めろ!」

 

そう言って上級生達は情報を集め始める。

清夜はそんな姿を物陰に隠れながら見つめていた。

 

(おうおう・・期待以上に反応してくれてるね。学内ネットはどうかな?・・・おっ!さっそく二科生の風紀員の情報が広まってるよ。)

 

学内のネットにはSNSのような情報の共有ができるページが存在する。

もちろん、問題のある内容ならば運営などが消去するが消される間にも情報は広がる。

今は『二科生の風紀委員がいる』それだけの情報が広がるだけでよかった。

情報はネットとリアルで右往左往する。

 

 

 

 

おい、聞いたか!?雑草(ウィード)が風紀委員だってよ。

 

嘘!?出来損ないに取り締まられるなんて私嫌よ!

 

どうせ、七草会長でも垂らし込んだんじゃないのか?

 

え、真由美お姉様が!?誰よそいつ!?私が潰してくるわ!

 

探しましょうよ!雑草(ウィード)の風紀委員!

 

ああ、探して身の程を弁えさせてやる!

 

 

 

 

学内のネットだけでも物凄い早さで情報が広まる。

清夜の顔がついついニヤけてしまう。

 

(いいね、いい感じに学校の・・いや一科の緊張が高まっていってるのが分かる。ネットの情報というのは現実の事件によって際立つことがある・・・あとは何かしらの形で押してやれば敵意は一気に・・)

 

「あ〜!!やっと見つけたよ清夜君!」

 

「!!」

 

警戒を怠っていたわけではないが予想外な人物に清夜の心臓は飛び出そうになる。

清夜がソロ〜と後ろを向くとそこにはエリカが清夜の肩を掴んで立っていた。

 

「や、やぁ・・ちb・・」

 

「ん?」

 

ギギギ・・

 

「いだだだだ!え、エリカ!どうしたんだい?」

 

やはり清夜が『千葉』と呼ぶのは許されないようだ。

清夜がデバイスをしまうとエリカは答える。

 

「うん、清夜君は部活決めてないでしょ?だから一緒にどうかな?って」

 

「あれ?でもエリカは他の子に声かけられてなかったけ?というより一人でいるなんて珍しいね。」

 

清夜の印象としてはエリカは沢山友達を作ってワイワイ楽しむような人間で、

少なくとも静かに一人で歩く姿は想像できなかった。

 

「そう?待ち合わせたりとかしないで気ままに動くタイプだから。で、たまたま歩いていたら清夜君が見えたから誘ったわけ。」

 

(一人が珍しい・・ね。顔の割には女の子を見る目がないんだね・・ちょっと面白いかも)

 

千葉エリカという人間は一人でいることが多い。

人付き合いが苦手というわけではない。

むしろ愛想はよく、基本誰とでも仲良くやれる。

しかし、すぐに疎遠になる。

面倒というわけではないのだが、いつも一緒に・・ということができないのだ。

仲良くしていた友人は、気ままな猫みたいで醒めていると

仲違いした友人は、お高く留まっているとも言われた。

彼女自身は人間関係の執着が薄いと思っている。

男も同様、ナンパのように纏わりつく男は絶えなかったが長続きした者はいなかった。

きっとこれかもそうして生きていくんだろうと思っていた・・・

入学式の日までは・・

 

(本当は君を探してた・・なんて言えないよね。清夜君と出会ってからなんか最近変よね〜あたし・・らしくないというか・・)

 

エリカがそんなことを考えていると清夜は腕組みをして考えてから答える。

 

(工作活動中に遭遇するよりかはマシか・・エリカちゃんは最早、俺の中では神出鬼没だからな)

 

「う〜ん。まぁ、いいかな。エスコート出来ないけど・・それでもいいなら」

 

「・・・」

 

「エリカ?どうしたんだい?」

 

「あ、ううん何でもないの!あたし見たい部活があるからそこを中心に見て回ろう。」

 

(本当・・あたし どうしたんだろう?)

 

というエリカの思いとは逆に顔は不思議と微笑んでいた。




武器商の本領を発揮し始める清夜。彼の煽りは達也にどう影響するのか・・・

次回予告

エリカと見て回ることになった清夜。
清夜は無事、見て回ることができるのか!

お楽しみに!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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26話 ポップコーン

26話です!
今年最後の投稿になります。楽しんでいってください!
終わり方は中途半端かもしれませんが・・・

前回までのあらすじ!
森崎秒殺のツケが風紀委員指名として帰って来た。これをごり押しで退ける清夜。
放課後、清夜は達也に対する工作活動を始めたがすぐにエリカに捕まるのであった。


2095年4月6日 第一高校 通路 クラブテント周辺

 

校舎の外は校庭だけなく校舎をつなぐ通路までクラブのテントで埋め尽くされていた。

もはや縁日といえる賑わい。

見るだけなら楽しそうなのだが・・・

清夜はとても楽しくなかった。

 

「は、離してください!」

 

「ねぇ〜うちの部どう?」

 

「いやいや、絶対あなたにはクラウド・ボールのユニフォームが似合うって」

 

現在、エリカは大絶賛囲まれ中だった。

魔法競技系のクラブは大抵、一科の生徒を集めるものだが

これは恐らく部のマスコット、イメージガールになってもらいたいのだろう。

深雪が美少女すぎて目立たなかっただけかもしれないがエリカは客観的に見てもかなりの美少女にあたる。

普通に歩けば勧誘で群がるのは当然だろう。

清夜は特に助けるわけでもなくただ見つめていた。

 

(まぁ、ここ最近は彼女に振りまわされてたし・・ここは仕返しということで静観していよう)

 

と思っていたのだが・・

 

「ちょ!?どこ触ってるの!清夜君も見てないでなんとかしなさいよ!」

 

「「「清夜・・?」」」

 

グルリ・・

 

先輩たちの首がありえない方向に回ったように見えた。

清夜は身の危険を感じる。

 

(あっ・・い、いや〜な予感・・)

 

「いたわ!入試実技の男子1位!!」

 

「写真よりもイケメンね!必ずひっ捕え・・じゃない入部させるわよ!」

 

「スピード・シューティング部に抜かされるな!俺たち操射部で捕まえるぞ!」

 

なんで入試の成績を知っているか気になるが

清夜はそれよりも逃げることを優先させた。

 

「なんで俺まで!?チィ!エリカ、目を閉じて!」

 

「う、うん!」

 

ピカァ!

 

「うぁ!眩しい!」

 

「光波放出系の『フラッシュ』だ!クソ!」

 

清夜は『アーサー』のCADで『フラッシュ』を発動させ目くらましをした。

本来CADの着用は学校では禁止されているし魔法も好き勝手に使ってはいけないのだが

放課後になればCADも返却され魔法に関しても勧誘のデモンストレーションである程度許可されている。

 

(それにこれは正当防衛みたいなものだから罰も受けないよね・・そんなわけでもう一丁使いますか!)

 

すると清夜はエリカに駆け寄り、俗に言う『お姫様抱っこ』で持ち上げる。

 

「え、ちょ!?清夜君!?なななななな、何するの!?」

 

「嫌だとは思うけど今は逃げるから!しっかり捕まって!」

 

「い、嫌じゃない・・むしろ・・じゃなくて!って・・う、浮いてる?」

 

エリカが下を向くと先ほどの先達が自分たちを見上げているのが見えた。

先輩達も驚かずにはいられない。

 

「え、浮いてる?」

 

「いや、違う!何もない空中を階段のように駆け上がっているわ!」

 

周りの生徒達も思わず彼らを見上げる。

その中の一人に達也もいた。

 

(通報を受けて来てみたが・・面白いな・・起動式を見たところ収束系魔法で空気中の窒素を集めて同じく収束系の硬化魔法で硬化。それを足場にしているわけだが、それをループキャストで連続発動させて窒素の階段を作り上げたか。しかも足場の終了条件は駆け上がったときに終わるようになっているからサイオンの消費も最小限ってわけか・・インデックスにも載ってない魔法だろうな。)

 

達也は清夜に知的好奇心を抱いた。

ついでに達也の解析は正解で清夜はこの魔法を『N・Steps(窒素階段)』と呼んでいる。

 

この魔法を理解した者は他にもいた。

理解・・というよりは『知っていた』が正しいが・・

 

「あらあら・・マスターも大胆なことをしますね。少しだけ嫉妬です。」

 

だが達也や他の生徒と違い清夜の姿を惚れ惚れと見ていた。

 

視点が変わり、

空中にいるエリカは清夜を見た。

 

(なんだろうな・・ここ最近のこの気持ちは・・清夜君・・馴れ馴れしいと思うけど、ちょっと、ほんのちょっとでいいから甘えさせて・・)

 

そう思いながらエリカは清夜に捕まる力をほんの少し強めた。

まるで抱きしめるように・・

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年4月6日 第一高校 校舎裏

 

途中、校舎の屋上を経由して窒素の階段をおりた清夜は一息ついた。

 

「ふぅ・・到着。降りれるかい?」

 

「う、うん・・」

 

「そう、それは・・・!?」

 

「どうしたの?急に後ろを向い・・・!?」

 

そこでエリカは気づく自分のあられもない姿に。

髪は乱れ、ブレザーは脱げかけていて、ネクタイも解けていた。

いや、何より制服の胸元が少しはだけてブラが見えていた。

エリカは顔を真っ赤にし、声を震わせる。

 

「見ぃぃぃたぁぁぁぁ・・?」

 

「い、いやね・・あの・・」

 

ピコーン!

 

清夜は名案を思いつく。

 

(そ、そうだ。ここは相手を褒めて誤魔化そう!そうすれば機嫌も直って一石二鳥!)

 

「その・・・思ったより着痩せしていて、綺麗なラインだと思うよ?うん!胸も思ったより大き・・」

 

「感想なんて聞いてないわよ!というよりそれ以上喋んな馬鹿ぁぁぁぁぁ!!」

 

ドゴォッ!!

 

「顔面ストレート・ナックルォ!!?」

 

どうやら名案ではなく迷案。

清夜はまたしても選択肢を間違えたのであった。

 

「うぅ〜恥ずかしい・・なんで早く助けなかったのよ。助けてくれてたらこんなことにもなんなかっただろうし。」

 

清夜は頬を押さえながら揶揄うことにしてみた。

 

「なんで?・・そうだね〜。エリカの制服が脱げる姿を観察したかったから?」

 

「なななななな!?」

 

エリカは顔を真っ赤にしてフリーズする。

仕返しのつもりだったが、なんだか楽しくなった清夜はもう少し揶揄ってみた

 

「もちろん冗談だよ。」

 

「冗談!?」

 

「実は俺、気を集めないと魔法が使えないんだ。」

 

「え、嘘!?」

 

「無論、嘘だよ。」

 

(意外と攻められると弱いようだな・・)

 

ここまで嘘に引っかかると逆に心配になる清夜。

エリカはここで自分が揶揄われているころに気づく。

だが怒れば清夜の思うツボだと思い我慢しながら聞く。

 

「むむ・・清夜君、性格悪くない?」

 

「失敬な、これほど性格がいい人はいないよ。いつも人が悪いと言われているんだよ。」

 

「それ、ダメだよね!?」

 

「いや、悪人?、悪魔?、魔王?だったけか?」

 

「もっと悪くなってる!?・・ハッ!・・また揶揄ってるのね。」

 

「ああ、そうだね!ドヤッ!」

 

「こんの馬鹿ッ!」

 

ドガッ!

 

「うぐぉ・・アッパー・・」

 

バタ・・

 

「たく、次行くわよ〜〜」

 

ズルズル・・

 

そう言ってエリカは清夜の襟を掴んで引きずる。

 

「まぁ実際は化け物なんだけどね・・」

 

「もう変な冗談には引っかからないわよ。」

 

エリカは無視して引きずる。

 

「冗談じゃ・・ないんだけどね・・」

 

清夜はエリカに聞こえない声でそうつぶやいた。

 

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2095年4月6日 第一高校 第二小体育館

 

第二小体育館。

通称『闘技場』では剣道部の演舞の準備が行われていた。

回廊状になっている観戦エリアに着くとエリカは清夜を引きずった手を離し駆け足で武闘場を見下ろした。

 

「へぇ〜魔法科高校に剣道部なんてあるんだ。」

 

「いだだ・・剣道は日本の国技だよね?別段珍しいわけでも・・」

 

「まぁ、清夜君はレオや達也君のような武闘派と違って知能派って感じだもんね。じゃあ教えてあげるわ。魔法師を目指す剣道家は大抵『剣術』に流れちゃうの。だから魔法師を目指す高校生が剣道を続けるのは珍しいのよ。」

 

「『剣道』と『剣術』は違うのかい?」

 

「それも知らないんだ〜。『剣術』っていうのは魔法を併用した剣技のことなの」

 

「へ〜」

 

清夜としてはどちらも大して変わらないように見える。

どっちも『現代の殺し合いには適していない』という意味で・・

そんな考えに気づいたわけじゃないが清夜の興味がなさそうな態度にエリカはムスッとする。

 

「興味なそうね。」

 

「う〜ん。ないわけじゃないけど・・どっちも痛いから俺はパスかな〜」

 

「昨日の威勢からは想像できないヘタレ発言だな。」

 

最後の言葉はエリカではなかった。

二人は後ろを振り返る。

声の正体は達也だった。

 

「達也君!お疲れ様!」

 

「お疲れ達也。休憩しながら見学かい?」

 

「そんな訳ないだろう。今も巡回中だ。それで『お姫様抱っこ』をしながら魔法を使っていた人間を探していた訳なんだが・・」

 

二人はフリーズする。

エリカは真っ赤に、清夜は真っ青に。

清夜は恐る恐る聞いた。

 

「もしかして・・犯人分かってる?」

 

「ああ、というよりあそこにいた人間は全員見ていたと思うぞ。さて、これから逮捕しようと思うのだが・・そうだな缶一本で手を打とう。」

 

実際は正当防衛みたいなものだから逮捕はできても処分ができないのだが『逮捕』という言葉は清夜に効果抜群だった。

 

「う、分かったよ。何がいい?」

 

「コーヒーならなんでもいいぞ。」

 

「あたしはミルクティーね。」

 

「なんでエリカの・・」

 

「ん?」

 

エリカの後ろに般若が見えた。

おそらく、はだけた姿を見たことに対する謝礼を求めているのだろう。

清夜は敬語で答えてしまう。

 

「は、はい。買ってきます。」

 

そうして清夜は自動販売機を探しに行った。

 

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2095年4月6日 第一高校 第二小体育館 武闘場

 

達也たちがいる観戦エリアも観客で多いが

下の武闘場にも観客が溢れていた。

周りの声を盗み聞きするとアルテミシアを見に来た人が多かった。

 

武闘場に降りた清夜は剣術部の部員を見つけた。

どうやらイライラしているようだった。

 

「チッ・・もたもたしやがって剣道部の奴ら・・」

 

補欠(ウィード)のデモなんて誰も興味ねぇ〜んだよ。」

 

「そういえば補欠(ウィード)の風紀員ができたらしいぜ。」

 

「マジかよ!?」

 

こちらも一科のプライドが高い人のようだ。

清夜は今度こそ名案を思いつく。

 

(フフーフン♪面白いこと思いついた。一科と二科、それに達也・・役者は揃っている。)

 

そうして清夜は剣術部員の近くにある人溜りに隠れて聞こえる程度にこう言った。

 

「あ〜あ。剣道部のデモなんてつまらないだろうな(・・・・・・・・・)〜」

 

「ねぇ、剣術部と剣道部ってどっちが強いのかしら(・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

「そうだな、どうせなら剣術部と剣道部の戦いが見たいぜ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

剣術部員はその声に振り返るが誰がしゃべったのか分からない。

三人の声はそれぞれ違ったが実は全て清夜が喋ったのだ。

だがそんなことを知らない剣術部員は操られているとも知らずにニヤける。

 

「くすす・・そぉだな。どっちが強いか知りたいよな〜。なぁ桐原。」

 

「あん?んだよ。今、俺はイラついてんだよ。」

 

「まぁまぁ、話を聞けって・・ごにょごにょ・・」

 

清夜も予想通りの行動に喜んだ。

 

(予定通り乗ってくれたな。あとはトラブル直後に達也と合流しなくては・・な)

 

清夜の頭のなかでは事件のシナリオが出来上がっていた。

あとはポップコーンのように破裂するのを待つだけ・・




たとえ好きだった女がいようと彼の暴走、悪意は止まらない・・・

というわけで今日までこの作品を読んでいただきありがとうございますっっ!
まだまだ面白くしていきたいと思いますので来年もまたご愛読お願いします!

次回予告!

とうとう清夜の望んだ乱闘が始まる。そんな中、達也は不思議な魔法を使い始め乱闘を収めてしまう。達也が使った魔法は一体・・・

お楽しみに!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもお待ちしております。


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27話 悪意に踊らされる

27話です。お久しぶりです!そして明けましておめでとうございます
二週間に1回のペースを守れてよかったです。
え、待ってない?そんな〜(´・ω・`)
あれ?なんかこのネタやった気がする・・

前回までのあらすじ!
エリカと部活動を見て回る清夜。殴られたり、追いかけられたりしながらも第二小体育館に到着。しかし、そこは剣術部と剣道部で危険な空気になっていた。そして清夜は剣術部員に悪魔の囁きをつぶやいたのだった・・


2095年 4月6日 第一高校 第二小体育館 武闘場

 

清夜が達也達の元に着いた頃には喧嘩が起こっていた。

 

「お〜い、二人共。買ってきたよ」

 

「遅かったな。てっきり逃げたと思ったぞ」

 

「本当だよ〜どこで油売ってたのよ清夜君!?」

 

喧嘩を煽ってました〜。

と心の中で真実を語ることにした。

清夜はそれっぽい言い訳をする。

 

「えー、この人混みで出るのも大変なんだよ?それに入学したての俺に自販機の場所なんて分かんないよ。」

 

「それはそうだけどさ。いや、今はそれよりも面白いことになってるわよ」

 

エリカは笑みを浮かべる。

その笑みは森崎のCADを弾いた時と同じ物だった。

清夜はエリカの視線の先を追う。

そこにはポニーテールが可愛い剣道女子と柄の悪そうな男が対立していた。

 

「達也達がわざわざ下まで降りてるとはね。何が起こっているんだい達也?」

 

「剣道部のデモに剣術部が乱入したんだ。」

 

(いいね。俺の期待通りに動いてくれている・・が何故、達也は介入しない?)

 

清夜は二人に飲み物を渡して尋ねる。

 

「ねぇ?そこの風紀委員さん。仕事しないの?」

 

「基本的に風紀委員の仕事は魔法の不適正使用の取り締まりだからな。この程度なら個人の問題だろ。」

 

解答は何ともあっさりしたものだった。

だが清夜にそれ以上の焦りなかった。

 

(クールだな。いや、ドライか。まぁ仕事はしてもらうことになるだろうさ。オレニハワカル・・)

 

喧嘩はさらに盛り上がりを見せる。

 

「おいおい、喧嘩を売ったのはそいつだぜ。」

 

「桐原君が挑発するからでしょう!!」

 

達也は依然と動く気配がないし、エリカには関してはCADを見る梓の目になっている。

清夜はエリカに質問してみる。

 

「で、あれ誰?さっきからウキウキしているようだけど知り合い?」

 

「いいえ、顔見知りではないけど知っているわ。男の方は桐原武明。一昨年の関東剣術大会中等部1位。女子は壬生紗耶香。一昨年の中等部全国剣道大会の2位よ。と・・そろそろね」

 

(ああ、そろそろ・・ね)

 

桐原と壬生は剣を構える。

桐原は攻撃特化の上段の構え。

対し壬生は基本的な中段の構え。

 

「魔法は使わないでやるよ」

 

「魔法に頼る桐原君に剣道を極めた私を倒せると思っているの?」

 

「へぇ〜随分と威勢がいいじゃねぇか・・よっ!!」

 

桐原の言葉を皮切りに二人は激突する。

 

ガッ!ガガガ!ガッ!ガッ!

 

二人の竹刀は大きな音を立ててぶつかりあう。

 

突き、払い技、すりあげ技、引き技、etc・・・

 

色々な技の駆け引きが複雑に行われている。

しかし彼らのレベルの高い攻防を完璧に理解できるものは剣術、剣道部員を含め誰もいなかった。

達也、エリカ、そしてシラばっくれてる清夜を除けば・・

 

「ほう、女子の剣道はレベルが高かったんだな。」

 

「違う、一昨年の彼女とはまるで違う。桐原先輩も食い下がってはいるけど・・・」

 

「えっ、え?二人の話がまったく見えてこないんだけど・・?」

(と言ってみたが俺も二人と同じ意見だ。桐原先輩は面を打とうとしてない。威勢の割には甘い・・弱いトコ見せちゃ死んじまうんだよ。残酷だがそれが戦闘だ。)

 

と昨日の自分にもそう言い聞かせながら清夜は勝負を見つめる。

勝負は突然終わる。

 

パァン!

 

竹刀がクリーンヒットした綺麗な音が体育館に響く。

二人の姿を見ると・・

桐原の小手は壬生に浅く入り

壬生の突きは桐原の右肩に深く食い込んでいた。

勝敗は誰の目から見てもあきらかだった。

 

「真剣なら致命傷よ桐原君。素直に負けを認めなさい。」

 

凛と立ち尽くす壬生。

対し桐原は悔しがるわけでもなく笑いだす。

 

「ハハッ・・そうか壬生は真剣勝負がお望みか。なら真剣で相手をしねぇとな〜!」

 

そう言って左手首にあるCADを操作すると

 

キイィィィィィィ!!

 

桐原の竹刀からガラスを引っ掻いたような不快音が響いた。

桐原が発動したのは振動系・近接戦闘魔法『高周波ブレード』だ。

対象を高速振動させることで竹刀でさえも殺傷能力を凶悪にしてしまう殺傷性ランクBの魔法。

清夜の『Iron sand blade(砂鉄剣)』もこの発想からなっている。

 

「きゃあ!」

 

「なんだこの音は?・・うぅ・・吐きそう。」

 

あまりの音に野次馬の生徒たちは耳を塞いでしゃがみ込む。

中には顔を青ざめて倒れる生徒もいた。

膝をついてはいないもののエリカと壬生も例外ではない

 

「おらっ!」

 

「くっ!」

 

シュパッ!

 

壬生は桐原の斬り払いを後ろに跳び下がることで辛うじて避けたが彼女の胴着には切れた痕ができた。

おそらく掠ったのだろう。

それでもこの斬れ味は殺傷性ランクBにふさわしいものだった。

 

さらに高周波による超音波酔いで倒れていく生徒。

だがこの効果にも例外はいた。

 

「眉一つ動かさないとはな。平気そうだな清夜。」

 

「そんなことはないさ。でも倒れるほどってわけでもないしね。達也だって余裕な顔してるじゃないか。」

 

(出遅れてフリが出来なかっただけだが、これぐらいなら幾らでも言い訳できる。にしても予想通りだな。これで達也も動かざるを得ない。)

 

「俺も慣れているからな。」

 

「というより、そろそろ止めたほうがいいんじゃない?」

 

(そしてこの事件で一科生の敵意は全て君に向かう。おかげで俺はしばらくは悪目立ちすることもなくなるし、達也の正体を測れるってわけさ。頑張って目立ってくれよ。)

 

「仕方あるまい・・」

 

達也は両袖からCADをむき出しにして桐原に駆け寄る。

清夜はその姿に違和感を感じた。

 

(CAD二機を同時操作するつもりか?いやそれよりも汎用型と汎用型の組み合わせは初めて見たぞ。どういうことた?)

 

CADを二機以上装備する時は特化型×汎用型または特化型×特化型が多い。

これは早く魔法を展開できてオプションを装備出来る特化型をメインウェポンとして使い、違う系統の魔法をサブウェポンの汎用型または違う系統の特化型で補うのが目的だ。

なので汎用型×汎用型というのは沢山の種類の魔法を使えるぐらいしか利点がないのだ。

 

「終わりだ!」

 

「っ!」

 

桐原の竹刀が壬生に振り下ろされる。

しかし、壬生が切られることはなかった。

 

壬生と桐原の間に達也が割り込んだのだ。

そして達也はCADを着けた左右の腕をクロスさせると無系統のサイオン波を放った。

 

「な、魔法が!?」

 

すると竹刀から放たれていた不快音が止まる。

代わりに超音波酔いとは違った酔いが襲いかかった。

さすがのエリカも膝をつく。

 

「なにこれ、超音波酔いとは違う・・」

 

「なるほど・・CAD二機とはそういうことかい・・」

 

「し、清夜君?」

 

達也は清夜の視線を感じ取った。

 

(やはり気づいたか・・・でもこれぐらいなら問題ない。それよりも・・)

 

バタン!

 

達也は桐原を投げ飛ばしたと思えば、すぐさま左肩、左手を抑え込んだ。

吐き気のせいか、驚いてなのか分からないが第二小体育館を静寂が包んみこむ。

 

「おい、あれ!」

 

「あぁ、噂の(・・)雑草(ウィード)の風紀委員だ。」

 

静寂を破ったのはそんな悪意の混じった囁きだった。

今度は達也が違和感を感じる。

 

(噂?・・どういうことだ?俺の風紀委員入りは昨日決まったばかりだし、知っているのは僅かな人間だけのはずだが・・)

 

そう思いながらも達也は風紀委員本部に連絡を取る。

 

「こちら第二小体育館。魔法不適正使用の逮捕者1名。念のため担架をお願いします。」

 

「なっ!?、壬生も同罪だろう!?」

 

そう言ったのは桐原ではなく同じ剣術部の部員だった。

達也は事務処理のように淡々と答える。

 

「魔法の不適正使用と申し上げましたが」

 

「なんだ、その言い草は!」

 

達也としては悪意などはないのだろう。

それでも剣術部員を怒らせるには十分だった。

清夜は楽しげに見つめる。

 

(無視すればいいのに・・ククク。論破はできても懐柔させるのはできないのか。これは期待以上の結果になりそうだ。)

 

とうとう我慢できなくなった剣術部員たちは達也に逆上する。

 

「ざけんな!」

 

「このガキ!」

 

剣術部員達は達也に掴みかかる。

しかし達也はヒラリと避けてしまう。

その行動が彼らをさらに怒らせる。

 

「クソが!」

 

ドガッ!

 

「ぐぁ!」

 

今度は拳を固めて殴りかかる。

しかし拳は達也ではなく他の剣術部員に当たった。

達也が避けたことで剣術部員と鉢合わせのような形になったのだ。

二人は団子状態になって転倒する。

 

「クッソーーーーー!」

 

とうとう剣術部員全員で達也に襲いかかる。

だが達也はそれを全て見切り、いなし、躱し、あしらう。

 

(相手が素人とはいえ身のこなしがいいな、暗器を警戒しての動き方だ。そういう癖を隠せないところを見ると暗殺者ってわけじゃないが練度評価はSってとこか十分に戦場で通用する。ん?・・あのメガネ・・確か報告があった・・・)

 

「きゃー!」

 

清夜はメガネの人物に注意を向けたが周りのギャラリー、剣道部員がパニックになって見えなくなってしまう。

 

シャレにならなくなってきたのか壬生は助太刀に入ろうとする。

しかし・・

 

「待つんだ壬生!」

 

「主将・・・」

 

先ほどのメガネ・・もとい剣道部主将の司 甲が腕を掴み引き留める。

しかし、司の視線の先にあったのは壬生ではなく達也だった。

 

「雑草が!!」

 

しまいには魔法を発動する剣術部員。

だが達也がまた腕をクロスさせサイオン波を放つと魔法式がサイオンの塊となって消える。

そしてまた超音波酔いではない酔いが周りの人間に襲いかかった。

 

二度の酔いにとうとう耐えきれなくなったのかバタバタと倒れていく剣術部員。

それでも全員ではなかった。

二名ほどが辛うじて立ち上がって殴りかかろうとする。

 

「やめなさい!あなた達なにをしているの!!」

 

「ぶ、部長・・・」

 

声をあげたのはアルテミシアだった。

アルテミシアは部活連として取り締まりの応援に来ていたのだが

剣術部の女性部員に呼ばれて急いで戻って来たという。

 

達也としてはありがたい助け舟だったが終結してしまったことに不満を覚えた人物は二人いた。

一人は清夜

 

(あ〜あ、これで終わりか・・・でもまぁ情報は手に入れたし、敵意も向けた、さらには『キャスト・ジャミング』まで見れたんだ。文句は言うまい。)

 

そしてもう一人は司甲

 

「ふっ・・・おもしろい・・」

 

司甲のメガネが怪しく光る。

剣術部乱入事件はこうして幕を閉じた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月6日 八王子 アイネブリーゼ

 

「皆、待たせてすまなかったな。今日は俺のおごりだから遠慮なく食べてくれ」

 

「じゃあ遠慮なく・・」

 

「「「「いたただきま〜す!」」」」

 

現在、深雪を含めた二科生メンバーは駅からの通学路の途中にあるカフェにいた。

剣術部乱入事件の後、達也は事後処理として三巨頭に呼ばれて帰りが遅くなったのだが

深雪だけでなく、清夜を始めとする二科生メンバーも達也を待ってくれていたのだ。

もはや帰る時などの『いつものメンバー』というのになっている。

 

そういう訳で達也は礼と謝罪という意味をこめてカフェで皆の好きな物を奢っているのだ。

 

皆は入部した部活、見学したことを話したがやはり一番盛り上がったのは達也の武勇伝だった。

 

「その桐原って先輩、『高周波ブレード』を使ったんだろう?よく無事だったな。」

 

「そんなことはない。よく切れる刀と同じ対処をするだけさ。」

 

レオは感心しているのだが達也は辟易した表情で応える。

 

「それは真剣の対処は簡単ということですか?・・」

 

「いや〜俺としては達也が斬られるんじゃないかとハラハラしてたけどね。」

 

「二人がそう思うのは無理もない思うけど、お兄様なら心配いらないわ。」

 

「随分と余裕じゃない深雪?確かに10人以上を同時に相手取って捌いた達也君の実力は達人級だけど、桐原先輩も高校生ではトップクラスの実力なのよ?ちょっとぐらいは心配したでしょ?」

 

清夜と美月は顔を曇らせていたが

それを宥める深雪の顔はエリカが思ったように余裕な表情だった。

 

「いいえ、ちっとも。お兄様に勝てる者などいるはずないもの」

 

「あはは・・すごい信頼だね司波さん。」

 

(まぁ、間違ってはいない・・あそこまでの体術を弱冠15歳で習得してるんだからな。あの乱闘に桐原が加わっても指一本触れることはできないだろう。桐原だけ(・・)なら・・な)

 

エリカ、レオ、美月は絶句する。

現場で見ていたエリカでさえも深雪ほどの自信で心配ないと言い切ることができないのだ。

 

「でも高周波ブレードって普通の刀と違って超音波を発しているんですよね?」

 

「耳栓なしだと酔っちまうて聞いたぜ。」

 

「うん。実際、青ざめて倒れた人もいたよ」

 

深雪は失笑を堪えながら美月たちの懸念に応える。

 

「そうじゃないのよ。お兄様が体術に優れているだけで信頼している訳ではないの。魔法式の無効化はお兄様の十八番なのよ。」

 

「「「「魔法式の無効化?」」」」

 

司波兄妹以外の4人は同時に声を上げてしまった。

 

「エリカ、清夜君。お兄様が飛び出した直後に乗り物酔いみたいに酔わなかった?」

 

「ああ、そういえば・・エリカも結局、膝をついちゃ・・・あいた!」

 

ベシ!

 

「だまらっしゃい。でも確かにそんな感覚がしたわ。」

 

「それ、お兄様の仕業よ。『キャスト・ジャミング』をお使いになったのでしょう?お兄様。」

 

深雪は満面の笑顔で達也を見た。

それに対し達也は『お手上げ』って顔で応える。

 

「深雪には敵わんな。」

 

「お兄様のことならなんでも知ってますよ。」

 

なんだかいい雰囲気になっている兄妹。

レオがすかさずツッコむ。

 

「それはもう兄妹の会話じゃないぜ!雰囲気出しすぎだ!」

 

「そうかな?」

 

「そうかしら?」

 

「あべし!」

 

ガシャン!

 

息ピッタリの回答にレオは力尽きるようにテーブルに突っ伏した。

 

「このラブラブ兄妹にツッコミ入れようというのが大それてるのよ。」

 

「その言い方は不本意なんだが」

 

「いいではありませんか。強い兄弟愛で結ばれているのは事実ですし。」

 

「ぐべは!」

 

ガシャン!

 

今度はエリカがテーブルに突っ伏す。

 

「エリカ。この寝るときまで一緒の兄妹に皮肉は通用しないよ。」

 

「驚いたな。清夜はエスパーだったか。」

 

「よく分かりましたね。」

 

「あべま!」

 

ガシャン!

 

最後に清夜がテーブルに突っ伏す。

この兄妹に茶々を入れるのは至難の技のようだ。

達也は笑って深雪をたしなめる

 

「深雪、悪ノリしすぎだぞ。冗談に気付いてないのが一人いるからな」

 

全員はその一名を見つめる。

 

「え、え!?冗談・・・ですか?」

 

無論、美月である。

美月は恥ずかしいのか目をキョロキョロさせてしまう。

 

「ああ、それに『キャスト・ジャミング』のことが分かったのは深雪だけじゃない。・・・そうだろう清夜?」

 

「「「「え?」」」」

 

深雪でさえも息ピッタリで驚いてしまう。

清夜はニヤけながらもシラを切ることにした。

 

「男との以心伝心はちょっと嫌だな〜。どうしてそう思うんだい?」

 

「CAD二機の意味に気付いてただろう。それぐらいちゃんと見てたぞ。頼むからオフレコで頼むぞ。」

 

「まあ、あれの意味は分かっているけどさ。達也も達也で人前で出すのがいけないんじゃないかな?」

 

この言葉に深雪はムッと可愛らしく睨みつけるが

達也も自分の失策を認めて深雪を目で制した。

 

「それもそうだな。明日からは自重しよう。でも・・俺としてはお前の見解を聞いてみたくもある。皆も後で正解を教えるからオフレコで頼むぞ。」

 

ウンウンと頷く三人。

清夜はヤレヤレという表情で話し始める。

 

「あれは正確にはキャスト・ジャミングの理論を応用した特定魔法のジャミングだね。」

 

「続けてくれ」

 

「二つのCADを同時に使おうとすると、サイオン波が干渉して殆ど場合で魔法が発動しないのは知っているね。」

 

「ああ、やったことがあるぜ。」

 

「身の程知らずね〜」

 

「なんだと!?」

 

エリカとレオの喧嘩もまた『いつもの』と言えるのだろう。

清夜は気にせず続けた。

 

「とにかく達也はこの干渉を使って魔法を無効化したんだ。」

 

「どういうことですか?」

 

美月だけでなくエリカやレオも理解が追いついていなかった。

清夜はもう少し噛み砕いて説明した、

 

「一つのCADで妨害したい魔法と同種の魔法を発動。もう一方のCADで今度は妨害したい魔法の逆を行う魔法を発動させたんだ。そして同時操作による干渉波を増幅させて無系統魔法で放出したんだ。結果、妨害したい魔法に干渉波がかけられて魔法が発動できなくなった・・・ってことでいいのかな?」

 

「ああ、満点の回答だ。たいした観察力と分析力だ。」

 

「ですがこれはお兄様のように起動式が見えてないと扱えない魔法です。清夜君は魔法式が見えるのですか!?」

 

「いいや、一般的な魔法師と同じでサイオンを感じているんだ。といっても俺はそこから起動式の内容まで感じているんだ。2割ぐらいの確率で外れてしまうんだけどね」

 

起動式はサイオンでできているため魔法師は魔法式などを感じることが出来る。

だがそれは感じるだけで正確な位置が分かるのはごく僅か。

しかも魔法式の内容まで感じるとなるとスキルといっても過言ではない。

 

それでも清夜が『ニューロリンカー』を使って解析するのは2割の確率で外してしまうことにある。

実戦で万が一にも外した場合、命取りになってしまうからだ。

 

達也、深雪でさえも驚きを隠せずにいた。

清夜は若干焦り始めた。

 

(まずいな、そこまで驚くか。少し喋りすぎた。このままじゃボロを出すかもしれない)

 

だがここで清夜の意図を理解したわけではないがレオからの助け舟がでた。

 

「でもよ達也。どうしてオフレコなんだ?儲かりそうな技術だと思うけどな。」

 

「あ、ああ。一つは未完成ということ、そしてそれ以上に仕組みそのものが問題なんだ。」

 

わからない・・というより不満げにレオは問う。

 

「どこが問題なんだ?」

 

レオの質問が無知だと思ったのか、

エリカは本気で叱りつける。

 

「馬鹿ね。魔法は良くも悪くも力よ。そんな力をお手軽に無効化できる技術が広まったら社会の基盤が揺るぎかねないじゃない。」

 

「すごいですね。そこまで考えているなんて・・・」

 

「ああ、俺なら目先の名声に飛びついちゃうだろうなぁ」

 

兄への賞賛に深雪は喜びを隠せずにはいられない。

声色も自然と喜びのものになっていた。

 

「お兄様は少し考え過ぎだと思います。そもそも100%の確率で起動式を読み取るなんて誰にもできることではないと思いますよ。ですが、それでこそお兄様ということでしょうか」

 

「それは俺がヘタレということか?」

 

「さあ、どうでしょう?エリカはどう思うかしら?」

 

「さあねぇ〜?あたしは美月の意見を聞いてみたいな。」

 

「え、えぇ!?・・そ、その・・」

 

美月は顔を真っ赤にしてオロオロする。

どう答えるのが正解なのか悩んでいるのだろう。

達也は皆を恨めしそうな目で見る。

 

「誰も否定してくれないんだな」

 

ハハハと笑い出す一同。

こうして和やかなムードで終わった。

 

だが達也はまだ知らない。

清夜の悪意によって達也、一科生までもが踊らされていること。

そして明日から本番だということを・・・




まぁ今回はほぼ原作通りになっちゃったかな?
でもイジメとかの黒幕がすぐそばにいるのは漫画だと面白いけど現実だとクソ怖いですね。

次回予告!

清夜の思惑通り、一科生の敵意が達也に襲いかかる。達也はこれを捌ききれるのか!?そして清夜の元にまた勧誘が・・・

次回もお楽しみに!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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28話 Dangerous school life

28話です。やっと漫画版の3巻まで来ました
構成はもう来訪者編まで考えてはあるんですが文章化させるとなると時間と文字がかかってしまいます。

前回までのあらすじ!
清夜が望む乱闘が発生、だが達也はこれを『キャスト・ジャミング』もどきで収めてしまう。そして清夜以外にも不穏な影が達也に近づいていた。


2095年 4月7日 第一高校 通路 クラブテント周辺

 

勧誘期間の2日目。

今日も達也は学校を駆け抜けていた。

目の前には魔法による喧嘩を始めようとしている生徒が二人

 

「風紀委員です!魔法の不適正使用をやめてください!」

 

「え!?・・しまった!」

 

一人の生徒が圧縮空気弾を打ち出す『エア・ブリット』の魔法を展開した状態で達也に振り向く。

そして制御ができなかったのか『エア・ブリット』は達也に向かって放たれた。

 

「!!」

 

普通の人間なら直撃もの

しかし忍術使いに鍛えられた達也には避けることができた。

 

(誤爆か!?いや、それよりも二人を確保・・)

 

「痛!気をつけろ!」

 

「すいません」

 

捕まえようとする達也だったが

一科の上級生とぶつかってしまう。

達也は条件反射で謝ってしまうがその間に二人の違反者に逃げられてしまう。

 

(ぶつかった上級生もグルなんだろうな・・明日からは人が多いところを避けるか。)

 

達也は先ほどの違反者を諦めパトロールに戻ることにした。

そんな様子を屋上から観察する人物が一人。

無論、清夜である。

 

「へ〜本当に『キャスト・ジャミング』は使わないんだね。全部、己の身体能力で乗り切る気か・・でも日を増すごとに一科の攻撃はエスカレートしていくよ。」

 

清夜はDEMで開発した熱光学迷彩機能のあるレインコートを羽織って隠れている。

ストーカーと言われればそこまでだが清夜としては戦力調査のつもりだ。

 

「君とは仲良くやりたいよ?でも俺の復讐に失敗は許されない。そのためにも君のような経歴すら怪しいイレギュラーは困るんだよ。君は俺の邪魔者なのかい?」

 

誰も答えてはくれない・・・

 

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2095年 4月9日 第一高校 校舎裏

 

(おかしい・・・)

 

達也は疑問に思った。

勧誘期間4日目。

昨日から人気が少ない校舎裏を中心にパトロールしてる。

三日目とも全く違う巡回ルート。

ルートは誰にも教えてはいない。

なのに日に日に誤爆攻撃は増えていっているのだ。

 

(2日目は3回の誤爆攻撃だったが今日はもう10回目だ。先回りされているのか?なら、どこからか情報がもれているのか?いや、今もこうして監視されているのか?)

 

達也は現実世界とイデア(・・・)の世界の両方で探る。

以外にも簡単に見つかった。

場所は昨日清夜がいた屋上。

乗馬部の服を着た女生徒一人、学校指定の運動服を着た女生徒二人の合計3人がいた。

 

(北山さんに光井さんか・・もう一人は知らないが。まさか彼女らが情報を・・なわけないか。初日は風紀委員入りしたことを知らなかっただろうし、性格からしても無理だろう。)

 

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2095年 4月9日 第一高校 校舎屋上

 

達也が気付いているとは知らない少女たちは双眼鏡を手に達也を見つめていた。

 

「何も近くから見ていなくていいのよ。遠くからでも十分に見えるでしょ?」

 

「うん、これなら私の光学魔法を使わなくても勧誘に巻き込まれることないし」

 

「ユニフォームはいい考えだけどエイミィの乗馬服は目立つと思う・・」

 

彼女たちは勧誘期間二日目に達也への誤爆攻撃を見て結成された自称『美少女探偵団』

現在は達也の襲撃者の証拠を取り押さえるために行動しているのだが

昨日まで勧誘に追われたりで証拠を抑えるどころか達也すら追えなかった。

そして今日は屋上で見つめているのだが未だ証拠写真が撮れてない現状である。

 

達也が探している人物

つまり、清夜はというと彼女たちのすぐ近くにいた。

 

(光井さんに北山さん・・・そしてあれはイギリスの名門貴族『ゴルディ』家の令嬢か・・・にしても『美少女探偵団』て・・ストーカーの間違いじゃないか。首ツッコミ過ぎて危ない目に会わなきゃいいけど)

 

二組とも五十歩百歩である。

とここで雫と清夜が気づく。

 

「あっ!実験棟の並木道のとこ。」

 

(あのメガネはこの前の・・それにあのリストバンドは・・)

 

 

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2095年 4月9日 第一高校 実験棟 並木道

 

ちょうどその頃、達也は通報を受け現場に向かっていた。

その途中、校庭の反対側の木の陰から魔法発動のサイオンを感じる。

対象は地面。

地面の土を掘り返す移動系魔法だった。

 

(俺を転ばせるつもりか・・今から避けるのは難しい・・ならば!)

 

達也は初日とおなじ『キャスト・ジャミング』もどきを発動する。

サイオンの波が魔法式を未発のまま霧散させる。

達也は方向転換すると魔法発動者の元まで駆け抜ける。

 

「待て!」

 

その相手も相手で逃げるように走り出す。

達也の身体能力なら充分に追いつけたのだが

相手のスピードが尋常ではなかった。

 

(移動系魔法と慣性中和術式を併用した高速走行か。短時間での追跡は無理だな・・)

 

追跡を諦める達也。

顔も見えなかったが手首に着けてる青白赤でトリコロールされたリストバンドだけは見えていた。

 

 

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2095年 4月13日 第一高校 E組

 

勧誘期間から1週間経ち、達也はようやく危ないパトロールから解放された。

勧誘期間で誤爆攻撃を受けた回数は合計48回。

この回数を深雪に聞かせていたならば学校はリアル氷河期を迎えていただろう。

だが回数を知らなくても噂は流れる。

達也のクラスメイトも例外ではなかった。

 

「達也、今日も委員会?」

 

放課後の教室、レオはそう言いながら振り向いてきた。

 

「いいや、非番。ようやく解放だ。」

 

「大活躍だったって聞いたよ。もうこの学校で知らない人はいないんじゃないかな?」

 

「少しも嬉しくないぞ清夜。」

 

達也はふてくされた様に清夜を見る。

襲撃の黒幕もとい清夜も愉快な気分ではなかった。

 

(俺もだよ。上級生を中心に随時達也の位置情報をバラしてやったのに出来たのは誤爆攻撃、しかも殆ど避けられて・・・避けなくても『キャスト・ジャミング』もどきだけで対処されるとか。使えないやつら・・。)

 

レオは笑いを堪えながら補足する。

 

「でも有名なのは事実だぜ。魔法を使わずに魔法師の有望株を連破した謎の人物ってな」

 

「『謎』ってな・・」

 

「とある筋からの話だと達也くんは魔法否定派からの刺客らしいよ。」

 

そう言って清夜の机に腰をかけたのはエリカだった。

カバンを持ってるところ帰りの支度が終わったのだろう。

 

「誰だよ。そんなデマ流したのは・・・」

 

「ふっふっふ・・それはこの私!千葉エリカです!」

 

「おい!」

 

「冗談。でも噂は本当だよ。」

 

出来れば噂の中身も冗談であって欲しかったと達也は思ったが

現実が厳しいのは誰も一緒。

 

「他人事だと思って・・・一週間で何度も死にかけてみろ。走馬灯が見れるはずだぞ。」

 

レオと清夜は顔を見合った。

二人とも考えることは同じらしい。

二人は「せ〜の」と言うと・・

 

「「真っ平ごめんだ!」」

 

と達也に返してやった。

達也はニヤニヤ顔の二人をブン殴ろうかと考えたが溜息をすることで我慢した。

 

すぐそこに『式 清夜』という噂の出処がいるとは知らずに・・・

権力はなくともこれぐらいのことなら清夜にとって朝飯前だった。

 

「で、でも今日からはデバイス制限がありますから大丈夫ですよ!」

 

「ありがとう美月。お前らも美月の優しさを見習え・・・」

 

「「「え〜」」」

 

なんて言いながらもエリカ、レオ、清夜は人の悪い笑顔をしている。

無駄と悟った達也は大人しく下校の準備に入った。

といっても深雪に生徒会の仕事があるため図書館にこもるつもりだ。

そんな時だった。

アルテミシアが教室に現れたのは

 

「ちょっといいかな?」

 

「はい?あっ、先輩」

 

彼女はまっすぐ清夜の元に近寄り話しかけた。

教室の視線が清夜に集まり始める。

視線と言っても嫉妬、興味、殺意など種類はたくさん。

それでも達也のようなことは起きなかった。

 

「十文字先輩の代理で話に来たんだけどね。ちょっとここじゃ目立っちゃうから学内カフェに行かないかな?」

 

十文字という名が出た途端に視線が散っていった。

安堵、興味が尽きた意味なんだろう。

その分かりやすい視線はどうかと思ったが清夜としても内心ホッとした

 

「分かりました。じゃあね皆。」

 

「ああ、またな」

 

「おう、じゃあな」

 

「清夜さん、また明日。」

 

「・・・」

 

エリカだけは清夜を睨みつけていたが気づかなかったことにした。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月13日 第一高校 学内カフェ

 

放課後のカフェは清夜が思っていた以上に混んでいた。

パッと見渡すとぎこちなく利用している生徒が多い。

アルテミシアの話だと毎年この時期は溜まり場として利用する新入生が増えるからだとか

清夜はドリップ・コーヒー、アルテミシアはキャラメル マキアートを手に席に着く。

 

「人気者ですね。アシュクロフト先輩は・・・」

 

「ん?そんなことはないと思うけど」

 

天然なのか小悪魔なのかよく分からない反応だが

先ほどから彼女に対する熱い視線は清夜の目に嫌という程入ってきている。

周りのひそひそ話しもアルテミシアに関するものだ。

 

 

あ!アシュクロフト先輩だ!やっぱり、あの笑顔は癒されるな〜

 

アシュクロフト君マジ天使!さすがは2年女子人気No1!

 

俺、映像で先輩を見てここにしたんだよね。そしてファンクラブに入会したぜ!

 

天使だ〜。同じ二年女子でも五月蠅い千代田とは大違いだ!←数分後、千代田にボコボコにされました。

 

 

 

とこんな感じだ。

彼女の人気は入学式で学生たちを魅了した真由美や深雪に負けないものだった。

おそらく十文字の代理のくだりの話しを周りに聞かせなかったら清夜は袋叩きにされていただろう。

 

(天使ね・・・俺にはそう思えねぇけど・・)

 

清夜は会話と同時に思考通信(・・・・)を始めた。

 

「それで話というのは?」

『で?教室に直接来てまで俺に会うとは一体、何の用だい?アルテミシア・”B(ベル)”・アシュクロフト』

 

「その前に一口飲ませて、私キャラメル マキアートが大好きなの。」

『別にいいじゃないですかマスター。目立つ気満々ですし、私にもう少し構ってくれてもいいではありませんか。それにセシルもレオノーラもアシュリーもマスターが構ってくれないとボヤいてますよ。』

 

『ココと同じこと言いやがって・・俺はオモチャか犬か?君たちとの時間も取るから。で、何か報告とかあるんじゃないのかい?』

 

アルテミシア・”B(ベル)”・アシュクロフト

これが学内護衛であるコード・ネーム”B”の本当の名前である。

見た目どおり温厚で平和主義の美少女だが敵には冷酷非情な傭兵である。

二人は飲み物を一口飲んで話しを続けた。

 

「今回は部活連のお誘いの話しなの。部活にはもう入ったよね?」

『その通りですが、部活連の話も本当ですよ。まずはつい先程、私に直接報告が来たジェシカついてです。先日のPラボ侵入者が長野の山奥でロストしたとのことです。』

 

「はい、幽霊部員でもいいと言われたので調理部の方に・・・」

『・・・逃したの間違いじゃないのか?』

 

DSSからの連絡は学校にいるときはアルテミシア、それ以外はエレンを通して清夜に届く。

アイクの正体を探られないためだ。

 

「実はね、生徒会を見習って今年から部活連でも新入生の幹部候補を作ろうと思ってるの。」

『お怒りはごもっともですが事実です。その件でジェシカがマスターに釈明したいとのことです。』

 

「それでまた自分なんですか?今回は先輩が推薦人ですか・・」

『いらない。俺にも落ち度があったから処分は無しだが、あまりにこういうことが多ければ切り捨てると言っておいて。あとロスト現場周辺にUAVを飛ばして熱源探査。もしかしたら隠れている可能性もある。』

 

「ええ、といっても今度の推薦人は私じゃなくて十文字会頭。やっぱり森なんとか君の一件で上級生の実力者に一目置かれたのね。」

『了解しました。でも仮にジェシカの油断があったとしても逃げられたのはおかしいですね。一体何者なんでしょう?長野・・・まさか四葉では?』

 

「何度も言いますがあの試合は『はったり』にすぎません。自分にそのような役目は重すぎますよ。」

『長野だけで考えるならね。実はそう思わせて四葉と戦争させたい奴らかもしれない。そう考えた場合、国内で言うなら十師族なら七草、軍なら情報保全隊、政府なら公安0課、内閣情報調査室ぐらいだろうなPラボに侵入できるのは。どこにせよ、しばらくは警戒レベルを上げる必要があるけど』

 

十師族、軍、政府と分けたが何も明確に敵対しているわけでも領分を分けているわけではない。

十師族の血族の中には軍や省庁に所属している者もいるし、軍も政府と協力して作戦を行うこともある。

だからと言って仲良しというわけでもない。

それぞれの思惑が複雑に絡み合って国家を運営するのは今も昔も変わらない。

 

「本当にネガティブなのね・・・でもね、部活連は風紀委員と違って武力行使とかを行う組織じゃないから、むしろ清夜君のような頭がいい子に入って欲しいの。」

『どこも怪しくて複雑そうですね・・・この学校の一科と二科みたいに簡単に分かれてくれるとやりやすいんですがね』

 

アルテミシアは少し悲しそうな顔をする。

まわりのファンも合わせて悲しい雰囲気になる。

「なにコイツ、教祖様?」とか「なんで名前呼びになってんだよ」と清夜は思ったが話すことはなかった

 

「はぁ・・では部活連は何をする組織なんですか?」

『国家や組織というのは『ジェンガ』ゲームみたいなものだ。金、権力、派閥といった多くの種類のパーツが組み合わさって出来て、崩れたら滅びる。複雑なのは当たり前だ。そして、その金のパーツを引き抜いて代わりに武器を上に乗せるのが我々、武器商人だ。国家のバランスを保とうしたり利用しようとする奴らが出てくるのも必然だ。』

 

「部活連は主に各部活動の運営監視をする仕事でね。他にも部活動の総合予算を会議で調整して生徒会に出したりするの。」

『そしてマスターの脅威を取り除くのが私たちの仕事ということですね。そういえば後でセシル達から詳しい情報がマスターに送られるそうですが、間村専務(15話参照)の件。どうやら七草と繋がっているようですよ。』

 

「勧誘期間の時は風紀委員の応援に行ったと聞きましたが?」

『唆したのは七草弘一だろうね。大方、アイザック・ウェストコットの正体を知らない間村が七草をバックにして俺を会社の正統後継者と仕立てあげるんだろう。その後、俺を傀儡にして七草に捧げるってところか。七草弘一も含め、身の丈に合わぬ欲を出すなんて馬鹿だね〜・・・まぁ時期を見て制裁を与えるとして。アル、入学前に報告してくれた話をしたいんだが』

 

「大丈夫。全員というわけじゃないし、もし行くことになっても私が守ってあげるから!」

『反魔法国際政治団体『ブランシュ』の下部組織『エガリテ』所属の生徒がいることですか?それとも、わ・た・し♪のことですか?』

 

そう言って清夜の両手を合わせて握るアルテミシア。

あきらかに誤解される状態だった。

そしてここにも誤解をする生徒が一人。

 

「なにしているんだ清夜?」

 

「・・・誤解だ達也」

 

達也だった。

なんでここにいるのか分からなかったが

後ろから達也の連れが現れることで理解する。

 

「どうしたの司波君?ってアルちゃん!?何してるの!?」

 

「ん?部活連の勧誘だけど・・・。サヤ(彼女がつけた壬生のあだ名)こそ何しているの?」

 

「達也まさか!?・・・」

 

「・・・誤解だ清夜」

 

達也も清夜と同じ反応を見せる。

まるで鸚鵡返しをされたような気分だった・・・

 

〜2分後〜

 

なんとか誤解も解け、達也が壬生に礼を受けていることも聞けた。

清夜は疲れながら話を続ける。

 

「先輩・・・誤解を招く行為はやめてください。」

『アルの話じゃない・・・『エガリテ』の生徒の話だよ。』

 

「私は別にいいんだけどな〜」

 

アルテミシアは小声で呟いて再び柔和な笑顔をむけてくる。

清夜は数秒だけテーブルに突っ伏した。

 

「話を戻しましょうか。とにかく危ない目にはあわせないから安心して」

『それで『エガリテ』がどうしたんですか?』

 

「それでも他の生徒には反感を買いますよ。達也でもたくさん誤爆攻撃されたんですよ?」

『昨日まで達也の監視をして思ったんだが聞いた話より人数が増えているし攻撃的になってないかい?君が報告してくれたブランシュリーダーの弟の司甲が達也を襲っていた。』

 

「誰だって最初は反感を買うわ。でも清夜君なら次のテストで結果を出して信頼を勝ち取れると思うの。もちろんそれまでは私が庇うし十文字先輩も守ってくれるそうよ。」

『そうですね・・実はあちらの席にいるサヤも『エガリテ』のメンバーのようです。攻撃的になっているのも否定できません。ただ弟がいるのは偶然か、必然か分かりませんけど。でも襲ったり、煽っている以上必然なんでしょうけど証拠がありません。』

 

「仮に1位を取れても不正じゃないかと疑われるのがオチですよ。」

『この調子じゃ何かしでかすかもね・・・普通なら傍観だが、それでボロが出てしまうのもね。確か情報部(正確にはサイモン)の調べだと去年の8月のテロは反魔法国際政治団体『ブランシュ』のテロ部隊の仕業だったよね?』

 

反魔法国際政治団体『ブランシュ』とは

魔法師が優遇されている行政システムに反対し、魔法能力による社会差別を根絶することを目的にデモ活動などをする善良な団体

というのが表向き。

裏では魔法師などを標的とした立派なテロリストで警察省公安庁から厳重にマークされているため

報道規制が行われており、名前が表立って報道されることはない組織である。

 

「その時は部活連での行動で示しましょう。私も手伝うから・・・」

『はい、そうですが・・・もしかして襲撃するのですか?』

 

「そこまで言われたら仕方ないですね。微力ながら頑張らせていただきます。」

『警察省も総理直轄の公安0課も知らないブランシュのテロ部隊の大きい拠点が一つある。そこを俺たち『Nameless(名無し)』で突入。数人捕まえて一高で何をしようとしているか吐かせる。それ以外は皆殺し・・・。あのテロは魔法師どころか罪のない一般人まで殺したんだ潰すには十分な理由だろ?でも君と予備隊員のセシル、レオノーラ、アシュリーは今回に関しては断っても構わない。』

 

アルテミシア達が襲撃に不参加でもいいのは清夜のお気に入りだからではない。

彼女達は元々、冤罪で所属していたイギリス軍から殺されかけた孤児の魔法師。

それを武器商として訪れていた清夜が魔法力が高いと知り彼女達を匿ったのだ。

そして衣食住の保証と引き換えに魔法機器のテスターを兼ねた護衛として雇った。

その契約でアルテミシアは護衛以外の殺し稼業の拒否権を求め清夜はそれを受け入れたということだ。

 

アルテミシアはもう一度清夜の手を合わせて握った。

 

「ありがとう清夜君!!」

『今回は私たちも参加します。標的はテロ部隊ですし、『ブランシュ』からマスターとあの子達を守るためですから喜んで。』

 

アルテミシアは今日一番の笑顔を向ける。

まわりのファンはその笑顔でバタバタと倒れていく。

いわゆる「キュン死に」というやつだろう。

しかし清夜だけは彼女の目が怪しく光ったのが見えた。




今更ですが「」は普通の会話で『』は思考通信の会話です。
セリフと思考通信がくっついているのは同時進行で話しているからです。

新キャラ出てま〜す。彼女たちはデート・ア・ストライクのキャラとなります。
まぁ本編ではアルテミシアも優しいお姉さんですがこの作品ではたくさん人を殺します。
あと公安0課は架空の組織です。詳しくは緋弾のアリアで検索!

次回予告!

ブランシュお仕置きタイム!
清「だけ!?」

だけです。多分、前編、後編で別れるかも

次回もお楽しみに!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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29話 Let's talk about Blanche

29話です!40話いくまでには入学編終わると思うのですが・・・
まだどうなるか分かりません。

それと実は前回と15話のアルテミシアに関する話で矛盾があったので修正しました。
そこまで気にしないとは思いますが念のため・・申し訳ありません!

今回はオリジナル回ですがヨルムンガンド色が強いですね。

前回までのあらすじ!
学内護衛Bの正体は二年の人気No1のアルテミシア・B・アシュクロフトだった。彼女は清夜に報告をするのと同時に部活連の勧誘をする。そして清夜はブランシュ襲撃と部活連にはいる決心をするのであった。


2095年 4月14日 日本 某所 上空

 

人の警戒が一番緩くなる夜明け前

清夜はアルテミシア、ホウ、アーキンを連れてヘリで移動していた。

たいした目的ではない。

お話を聞きに行くだけ。

ただし圧倒的な暴力を行使してだ。

 

『もう一度作戦を確認するぞ。作戦目的はブランシュ拠点にいるテロ部隊の指揮官、または幹部の確保。いなければ適当に数人拉致るぞ。』

 

アーキンが話しを引き継ぐ。

 

『それ以外は殲滅。余裕ができれば PCなどから情報収集ですね。』

 

『そうだ。まずは俺たちで屋上に降下、潜入しセキュリティを潰す。その後、エレン率いる別働隊が地上から侵入する。上と下から攻め込んで挟みうちだ。』

 

『今さらだけどよ夜坊。ヘリで近づけば流石に敵さんも気付くぜ?』

 

そう反論したのはエコーだった。

だがヘリにエコーの姿はない。

エレン、エコー、翠、藍は拠点近くの地上で待機しているのだ。

 

『ウチの輸送班は音波振動系減速魔法持ちと光学系魔法持ちの二人以上で輸送するのが必須だ。姿と音は魔法で消すんだよ。それに魔法探知については範囲外の高度から降下するから敵には気づかれないんだ。』

 

『なるほど、なら納得だ。でもお嬢(護衛が呼ぶココのあだ名)やキャスパーさんの手伝いから帰ってきた俺たちを早速使うとか人使いが荒くねえか夜坊?』

 

『帰ってから1週間も休暇をあげたじゃないですか!?。給料分働きなさいエコー!!』

 

『リラックスのための冗談だって総隊長殿。アンタも少しはリラックスしなよ。』

 

思考通信では周囲の音は聞こえないが

ガシャッ!と銃の音がエコーから聞こえた気がした。

ホウが確認のために質問する。

 

『第三勢力の介入や不測の事態はどうするんすか?』

 

『指揮は各隊長に一任だが中の情報、誘導などは本社にあるコマンドポスト(以降、CPと略す)が伝える。CPも問題ないな?』

 

『こちらCPのセシル・オブライエン、準備完了していますマスター。』

 

『お、おお同じくレオノーラ・シアーズ!も、問題ありません!』

 

『同じくアシュリー・シンクレア!問題無しだ!というか何で私たちは前線じゃねーんだよマスター!?年はアンタと同じじゃねーか、行かせてくれよ〜!』

 

セシルとレオノーラも『そうだ、そうだ』と抗議する。

清夜は面倒臭そうな顔しているが

アルテミシアはクスクスと笑いだす。

 

(フフ・・随分と懐かれましたね。『契約』とか『弱者は切り捨てる』とか言っときながらも全てに絶望した私たちに優しく面倒を見てくれるから頑張りたくなるんですよマスター。本当に・・・復讐に囚われている武器商とは思えないぐらい優しいから・・・)

 

4人共、清夜と会ったばかりの頃はナイフで襲いかかったものだが今ではこの懐き様

彼女達自身、彼女たちの魔法力が目的だと何度も聞いたが、それでも好んで付き従っている。

アルテミシアはこれを真由美とも克人とも違ったカリスマだと分析している。

清夜はため息混じりで返した。

 

『お前ら予備隊員だろうが・・・もう質問はないか?』

 

清夜は降下組を見渡す。

質問はなかった。

代わりに「任せろ」と思わせる表情が返ってきた。

 

『地上班も質問ありません。こちらはお任せください。』

 

翠が思考通信で返す。

場所が違うため表情は見えなかったが思うことは同じのようだ。

パイロットの二人が清夜に報告する。

 

「そろそろ降下ポイントに到着します。」

 

「準備のほうをお願いします」

 

『アイク、開始前に号令を・・』

 

エレンは清夜に静かに進言した。

学校での清夜ならお断りだが部下の命を預かる身では断ることは出来なかった。

清夜は降下準備しながらそれに応える。

 

『・・・武器商人の俺が聖人君子のような偉いことは言えない。だがな罪のない人間を殺しておいて平然な顔して平等と市民運動を語る悪党を許すつもりはない。テロ指揮官、幹部確保のついでになってしまうが拠点にいる人間は一人たりとも逃がすな。絶対に殺せ・・』

 

『『『『『『『了解』』』』』』』

ヘリのハッチが開かれロープが屋上に向かって垂れ落ちる。

清夜はロープに手をかけ体勢を整えた。

 

「いくぞ、作戦開始!」

 

「降下!」

 

清夜の号令直後、アルテミシアは降下の合図を出す。

それに合わせて四人は熱光学迷彩をかけてヘリから落ちるように降りていった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月14日 日本 某所 ブランシュ拠点

 

自然豊かな地に場違いな大きな建物。

この拠点は廃棄された化学工場を改築したものだ

四方を山に囲まれ地下には巨大な空間がある。

テロリストにとってはこれ以上ない隠れ家だった。

その拠点の一室でのこと。

警備5人の元に休憩が終わった男が5人入ってきた。

 

「お〜す。異常はないか〜?」

 

「おう・・なさすぎて眠いぐらいだ。おい、外の警備に行く時間だぞ」

 

「ふぁ〜・・・外の警備の交代か〜これ終われば休憩か・・・」

 

隠れ家ゆえの安心感か、はたまた眠いだけなのか、どちらにせよ怠けた空気が包んでいる。

いつまでも気を張り続けることはできないけれども、この瞬間は男たちにとって生死の分かれ道であった。

 

キィィ・・・

 

ガガガガシャ!!

 

ドアが開く音が聞こえ一斉に銃を構える男達。

しかし向けた先には誰もおらず、ドアの外にも人はいない。

男たちはドッと疲れた気がした。

 

「たく、驚かすなよ。てか最後入った奴はドア閉めろよ。」

 

「あれ〜?閉めたと思ったんだけどな〜」

 

ハハハと皆が笑い出す中、一人はドアを閉めた。

 

バタン!

 

ガチャ・・

 

ドアが閉まる音が響き鍵がかかる。

普通の出来事のはずなのだが、おかしなことが起きた。

男は確かにドアを閉めた。

閉めたのだが鍵までかけた覚えはない。

だがオートロックでもない鍵が勝手に掛かったのだ。

男の間抜けな声が出る。

 

「は?こr・・・ウグボッ!」

 

グサッ・・・

 

男の喉に風穴が開き血が滴り落ちる。

これもまたおかしな事だった。

風穴が空いているのに風穴を開けたようなものは何もない。

それに血は何もない空中を伝い滴り落ちているのだ。

まるで見えないナイフが刺さったかのように・・・

 

「なっ!?ブァハッ!!」

 

「く・・ガビャ!」

 

ブスブス!

 

サイレンサーによる独特な発砲音が響くとさらに二人が殺される。

最初の一人が殺された時に氷付いてしまったが3人目が殺されるとさすがにヤバいと動き始めた。

 

「しんにゅ・・ベャ!!」

 

ザシュ・・

 

「撃・・デブォ!」

 

ブブブブブブス!

 

「味方がぅゔぁ!・・・」

 

グゴキッ!!

 

しかし動くのが遅かった。

4人目はナイフで頚動脈を綺麗に斬られ、

5人目はサイレンサー付きのサブマシンガンで蜂の巣にされ、

6人目は首を折られて殺された。

残りの4人は何も思わなかったわけではない。

だが仲間がたった数秒で半分以上死んでいく様を見て抵抗心よりも恐怖が上回ってしまったのだ。

四人のうち三人は膝をついて命乞いを始めた。

 

「た、たすけて・・・しにたく・・・ウヴェア!」

 

「やめてくれ・・妻と子供が待っているんだ・・だから!ガァッ!」

 

「こうさ・・ンヴァ!!」

 

ブス、ブス、ブス

 

それでも死の鉄槌を止まらない。

9人目に関しては白旗すら上げさせない。

三人とも一発ずつヘッドショットをくらい死んでいった。

とうとう一人なった男は影すら見えない何かに押さえ込まれる。

 

「ウゴッ!?・・・・ムー!ムォー!!」

 

バシュッ・・・

 

『クリア』

 

『クリア』

 

『クリア、一人残してあります。』

 

『ああ、ご苦労。おっ・・PCを発見した。そいつはそのまま押さえつけてろ。』

 

空気が抜けたような音が聞こえた。

すると誰もいなかった部屋にSFに出てくるようなフルフェイスヘルメットとスーツを付けた人物が4人が現れた。

無論、AMS-04(アムス04)を装備した清夜達だ。

本来ならば清夜、エレン、そしてアルテミシアには個別装備で戦うのだが今回は隠密の色が強い作戦内容のため装備しなかったのだ。

 

清夜はUSBメモリを取り出すとパソコンに差し込んだ。

 

Nameless(名無し)0(清夜のコールサイン)よりCPへ。ウイルスを流し込んだ。そっちでセキュリティを切れるか?』

 

『こ、こちらCP!今、セキュリティと魔法探知を切りました!』

 

レオノーラは見た目こそ大きくて怖いイメージだが本当は弱気の少女。

ビビりながらも敵は普通に殺すんだが、ここまでビビりまくってると ほんの少し不安を覚えてしまう。

 

『落ち着け。お前達が死ぬことはないんだ。監視カメラの映像も差し替えられるか?』

 

『すでに終えておりますマスター。』

 

今度はセシルから返ってくる。

三人とも不満とかを言いながらもキッチリ仕事をこなす点は清夜も評価していた。

 

『分かった。地上組に突入指示を出せ。』

 

『こちらCP。了解』

 

そうしてCPとの思考通信を終わらせる。

その間にも残った一人は口を塞がれながらも抵抗をやめない。

ホウとアーキンは余裕の表情で抑え込みながら質問した。

 

『で、こいつどうするんすか?』

 

『こいつから聞き出せるだけ聞き出す。』

 

『拷問・・ですか。レームさんも言うと思いますが私達ギャングじゃないですよ?そんなことは・・』

 

『3年前ならそうしたかもしれんが今は違う。『Electrical Command(電気命令)』で喋らせるのは初めてだが今の俺ならできるはずだ。』

 

清夜は男の頭に手を乗せると脳に電気を流す。

命令の内容は『清夜の質問に正直に話す』こと

 

バチィッ!

 

「さて質問だ。ここは何の拠点だ?、ここの人数は?」

 

「・・・ここはテロ部隊の重要拠点・・・武器や爆弾はもちろんのこと・・アンティナイトやBC兵器も管理している・・・人数は150名程・・・」

 

「アンティナイト?あれは軍需物資のはずだ。どうしてテロリストが持っている?」

 

「・・・・」

 

最初は目を朧げにしながらも答えていたがこの質問には何も答えない。

清夜は失敗かと一瞬思ったがすぐに理解した。

 

「何も答えませんねマスター?」

 

「そうか、分からないから答えられないのか。じゃあ質問を変えよう。この拠点にいて今の質問に答えられそうな奴は?」

 

「ここの指揮官・・・司様の盟友である小松田戦術顧問なら・・」

 

「そいつはどこにいる?他にブランシュ幹部はいるか?」

 

「一つ下の階の司令室・・・その奥の部屋。今はそこで寝てる・・幹部は・・いない。」

 

必要な情報は集まった。

それでも清夜は念のためにこの作戦の理由である質問をする。

 

「ブランシュは一高で何をしようとしている?」

 

「・・・」

 

「知らないか・・・ご苦労さん、死んでいいよ。」

 

ブスッ!・・・バタッ・・

 

用が済んだ清夜は男の眉間に一発くらわせてやった。

男はそのまま倒れる。

その目は死んでも尚、朧げなものだった。

アルテミシアは指示を仰ぐ。

 

『どうしますか?』

 

『・・・Nameless(名無し)3(アーキン)とNameless(名無し)4(ホウ)は屋上に戻って地上組の突入を狙撃、魔法で援護。俺とNameless(名無し)7(アルテミシア)はこの階の敵を殲滅してからターゲットの確保に向かう。地上組の突入が成功したら司令部で合流しよう。』

 

『『『了解』』』

 

あまり戦力を分散させるのは良くないのだろうが清夜が冷静に分析した上での判断。

それに納得したのか異を唱える者はいなかった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月14日 日本 某所 ブランシュ拠点周辺

 

セキュリティが切れた少し後

エレン達の元にアシュリーからの思考通信が入る。

 

『CPよりNameless(名無し)1(エレン)、2(エコー)、5(翠)、6(藍)へ!セキュリティは切った!魔法使用してもokだぜ!』

 

『こちらNameless(名無し)1。了解。外の警備を潰してから入ります。行きますよ。』

 

『『『了解』』』

 

バシュ!

 

熱光学迷彩をかけて警備の元へ忍び寄る。

警備の男3人はタバコを吹かしながら警備している。

戦闘のプロからすれば愚かな行為だ。

エレンは魔法を展開する。

 

「ふぅ〜暇だ・・ヴヴァ!!!」

 

エレンが男に手刀を振り下ろすと男の体が真っ二つに斬れた。

これはエレンがシリウス時代に開発した魔法『分子ディバイター』だ

薄板状の仮想領域を物体に挿入し、クーロン引力のみを中和し、クーロン斥力により分割する放出系魔法だ。

無論、人体を斬る場合は直接干渉になり、相手の情報強化を突破する高い干渉力が必要となるが

相手は魔法力もないし、エレンの干渉力は清夜に劣るものの世界トップクラス。

斬れないわけがなかった。

 

「何だ!何もいな・・イグォ!」

 

バババババス!

 

「んな!?影も見え・・ぐぁ!」

 

シュパッ!!

 

残りの二人にも葉っぱと銃弾が襲いかかる。

二人目はエコーのアサルトライフルだが

三人目の喉切り裂いたのは藍の収束・移動系魔法『リーフ・ショット』だ。

この魔法は葉っぱ1枚〜数枚を対象に硬化魔法で硬化、移動魔法でぶつけるシンプルな魔法だ。

ちなみに翠は音の振動波を魔法で減速させて周りに気付かれないようにしていたが

 

『こちらCP!右奥の物陰に敵2!仲間を呼ばれる前に対処を!』

 

『フ◯ック!!』

 

エコーが思考通信で叫ぶ

三人の無力化に成功したが敵がまだ近くにいることに気づかなかったのだ。

これはエコー達の油断ということではない。

もともと工場だったため建物自体、パイプ等が多く死角が多いのだ。

奥にいた男達は急いで通信をしようとする。

 

「ひっ!ぞうえ・・ヴァハッ!!」

 

バスッ・・・

 

「通信機・・・がゔゔぁあ!」

 

ズパァッ!!

 

だが通信機を手にかける前に男の頭が撃ち抜かれ、もうひとりは殺傷力最大の『鎌鼬』で切り裂かれた。

殺したのはのはエコー達ではない。

 

『こちらNameless(名無し)3。無事ですか?』

 

撃ったのは降下組のアーキンだった。

その隣には鎌鼬を展開しているホウもいる。

 

『サンキュー、助かったぜ』

 

『同じくNameless(名無し)4。屋上から狙撃と魔法で援護するっす。』

 

『ヒョヒョ、了解。死角にいる敵を頼みます。』

 

エレン達は外の警備の殲滅を続ける。

姿、影すら見えない以上、彼女達を止められる敵はいなかった。




なんだかハーレムものっぽくなっていってるような気がしますが・・・
あくまでヒロインはエリカです(さ、サブであやな・・だ、だめ?)



次回予告!

アルテミシアの剣技と清夜の銃撃の乱舞がブランシュを圧倒していく!
そしてこの作戦の終わりに原作とは少しちがう、もう一つの敵が見えて来る。

お楽しみに!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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30話 内政干渉工作

とうとう30話です!ヤバイな本当に40話までに終わるかな(焦り)
というより皆さんついていけてるのか不安です・・
でも30話までこれたのは読者の皆さんのおかげです!ありがとうございます!

前回までのあらすじ
ブランシュが第一高校で何かをやらかすと予感した清夜は自身の部隊を率いてブランシュのテロ部隊の拠点を襲撃。逃げないように静かに殲滅していくのだった。


2095年 4月14日 日本 某所 ブランシュ拠点 司令室前

 

エレン達が外の警備を殲滅した頃

清夜とアルテミシアは司令室がある階から上の階まで人間を殲滅してから司令室前に到着する。

侵入してだいぶ時間が経ったのだが警報の一つもでない。

敵が無能すぎるのか、罠なのか・・・

どちらにせよ油断せず一方的な殺しをすることに変わりはなかった。

 

『それじゃ、さっきと同じく静かに開けてから入るぞ。』

 

『了解ですマスター。』

 

キィィ・・・

 

静かに開くドア、中には30人程いたが誰一人として開いたことに気づく者はいなかった。

だが異変に気づく者はいた。

その異変はモニターに映る映像のことだった。

 

「なぁ、おかしくねぇか?」

 

「んだよ?ねみぃっつうのに・・・」

 

「だってほら、13モニターに映るアイツって今は休憩のはずだろう?」

 

「・・・・・」

 

隣の仲間は何も答えない。

寝たのかと思ったのか怒りながら隣を向く。

 

「おい聞いて・・・うぁぁぁ!・・・」

 

シュパンッ!

 

隣の男は顔を俯かせていた。

睡眠しているわけではない。

隣の男は頚動脈を斬られて永遠の眠りについていたのだ。

異変に気付いた男は恐怖で声を上げるが直後に首を斬られて頭と胴体の二つに離れた。

 

「て、ててて敵襲ーーーーー!!ガヴァ!!」

 

「こちら司令室!な、なんだ通信が使えない!?・・ベャッ!!」

 

ブブブブブブス!

 

しかし、さすがに30人いれば殺される前に一人ぐらいは声を上げられる。

それでも増援が来ることはない。

なぜなら清夜のBS魔法で通信が妨害され、アルテミシアの強力な遮音障壁魔法によって声が部屋の外に漏れることがないからだ。

そして叫ぶ男達も清夜のサブマシンガンで殺される。

 

「撃て撃てーーー!」

 

パンパンパンッ!

 

今度は5人が拳銃で一斉射撃。

司令室に入って1分も経ってないが、もう生かして捕らえるつもりはないようだ。

 

「ぎぃあっ!!」

 

「ヴォバッ!!」

 

悲鳴は清夜達ではなかった。

あげたのは撃ってきた男達の方だった。

それもそのはず、銃弾を磁力のシールドで止めてそのまま撃ち返す清夜のBS魔法『電気使い』の応用魔法『磁力返し』が男達を撃ち抜いたのだ。

 

『『Hgイリュージョン』や『粒機波形高速砲』の応用で水銀か電子の盾を作った方が良かったのでは?というより防御しなくても平気ですよね?』

 

『フフーフン♪、平気だよ。それに磁力で物を引き寄せて盾にするのもアリだね。だけど相手を恐怖に陥れるならこれが一番有効的だ。殺されかけているのに「撃ったら死ぬ」なんて分かったら怖いだろ?』

 

『本当に敬服しますよ。マスターの戦術には・・』

 

なんて会話ができるほど余裕がある(されど油断と容赦は一切していない)清夜達。

対して生き残ってる男達は必死な顔でアンティナイトの指輪を取り出した。

 

「とりあえず『キャスト・ジャミング』をくら・・・べぎゃーーー!!!指がーーー!!バブハッ!!」

 

「姿が見えない!?ヴェギャ!!」

 

ザクッ! ブブブブブブス!

 

『本当にアンティナイトですね。全員装備していますよ。』

 

『発動前に殺せるだけ殺すぞ。発動されても他の魔法は使わず遮音障壁は張り続けられるようにしろ』

 

『了解』

 

といっても心配は杞憂だった。

『キャスト・ジャミング』の発動はバラバラで発動直後、または直前に殺しているので

『キャスト・ジャミング』を浴びたとしても非魔法師強5人分程度力。

強力な魔法力を持つ二人には魔法が発動できなくなるほどのものではなかった。

 

「なんで効かない!?そして見えない!え、なんだ体が飛ばされる!!」

 

「俺たちが一箇所に集まろうとしてい・・・ぎゃぁっぁ!!」

 

ズババババ!!

 

「た、弾が追いかけて!?グベバッ!!」

 

「ガハ!!」

 

アルテミシアの剣と清夜の銃の乱舞が止まらない。

アルテミシアは自分を中心とした人間の数に対し密度を高める収束系魔法『ヒューマン・サークル』を発動し周囲の人間をアルテミシアの元まで移動させ集める。

そして綺麗な太刀筋で次々と敵を切り裂いていった。

清夜も清夜で移動・加速系魔法『這い寄る弾(Slitherin Bullet)』(7話参照)を数発の弾に使い何人もの敵を殺していった。

ギリギリ生き残っている男は近くの装置に手をかける。

 

「せめて・・・ECM(電子攻撃または電波妨害装置)だけでも・・・」

 

『させないわ・・・』

 

シュパンッ!シュパンッ!

 

腕と胴を切り捨てられる男。

最後の抵抗もアルテミシアの斬撃により失敗してしまった。

それを最後に静かになる司令室。

 

「クリア」

 

「こっちもクリアだ。」

 

部屋の中は死体の山となり。

硝煙と血なまぐさい匂いだけがむなしく残った。

 

『まだ奥の部屋で寝ているのか、ここの司令官様は』

 

『そのようですね。早く終わらせましょうマスター。一緒に学校を遅刻するのはマズイですし・・』

 

『そうだな』

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月14日 日本 某所 ブランシュ拠点 地下

 

バババババッババッバババババッ!!

 

『こちらCP。あ、あの何で物陰に隠れているのですか?』

 

『そうだぜ!こういう時はバァーーーー!とやっちゃうんだよ!』

 

そんな弱気な疑問と適当な指示がCPから届いた頃

エレン達の殲滅も終わりを迎えようとしていた。

が今は全員、敵の銃弾に釘付け状態になっていた。

仕方がない。これだけの人数だ。ずっと熱光学迷彩で暗殺していっても敵が仲間の死体を見つけ侵入に気づく。

といってもピンチというわけではなく、装備の防御力なら敵の銃弾は紙くず同然なのだが何故か全員動こうとしない。

 

『それじゃダメだ。装備の防御力に頼ってちゃ、いつか装備が使えなくなった時に簡単に殺られちまう。これはあくまで保険なんだ。そういう避けて守る技術も身につけねーとな新米共!』

 

『今回はNameless(名無し)2の言う通りです。ですが時間をかけるのもアイクに迷惑です。そろそろ仕掛けましょう。』

 

藍は背中にかけてあるマチェットと呼ばれる鉈を取り出す。

 

『ヒョヒョッ!連携ですか。』

 

Nameless(名無し)6が前に行くなら私は援護ですかね。』

 

翠はCADを操作し起動式を展開した。

CPの三人は何を言っているのか予想もつかないがエレン達四人はもう連携の役割まで決めているようだ。

 

『じゃあ、俺が弾丸担当か。いくぞ!go!go!go!』

 

エレンではなくエコーの掛け声で動き始める三人。

エコーは掛け声と同時に魔法を発動すると弾丸がピタリと止まる。

敵は魔法だと分かっても驚くだろう。

止まるだけならまだしも落ちてすらこないのだから。

これは移動・加速系減速魔法「Active・Inertial・Canceller(慣性停止結界)

DEMが開発した機密術式の一つだ。

 

突然だが魔法には曖昧な部分がある。

例えば千代田家の『地雷原』という魔法だと材質などを問わず『地面』を、千葉家の『斬鉄』では魔法の定義を材質問わず『刀』という概念を対象にする。

つまり『概念』という曖昧なものでも魔法は使えるのだ。

 

この魔法はその発想を元に作られた設定した範囲内にある対象の慣性を停止させる魔法だ。

それは慣性が働けばどんな物でも通用し『弾丸』や『物』はたまた『生物』という概念でも発動できる。

無論、『人』でも通用するが人体への直接干渉になるので干渉力が必要になるし、あまりに大きい規模だと魔法師としてのキャパシティが足りなくなり発動できなくなるのだ。

 

エコーが魔法の対象としたのは『弾丸』。

口径、威力を問わずに『弾丸』を停止させたのだ。

 

ピカァッ!!

 

そして翠は前に出る二人の後ろから、すかさず『フラッシュ』を発動させて視力を奪い抵抗できないようにする。

 

「グァァァ!!目が、目がぁぁぁぁぁ!!べぎゅぁ!!」

 

ズバババ!!

 

「とにかく撃たなきゃ・・・な、撃つことすらできな・・いぶぅぁ!!」

 

シュパンッ!

 

そうして抵抗できなくなった敵を藍の『高周波ブレード』とエレンの『分子ディバイター』が切り裂いていく。

 

〜数十秒後〜

 

ここにもまた死体の山が積み上がる。

エレン達は無慈悲に終了を告げた。

 

『クリア』

 

『クリア』

 

『クリア』

 

『クリア・・・ではここからはハッキングが出来るNameless(名無し)5とNameless(名無し)6を分けたペアで情報収集に入りましょう。』

 

エレンがそう言うと全員コクリとうなづく。

そしてすぐにエレン・翠とエコー・藍のペアに分かれて動き出した。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月14日 日本 某所 ブランシュ拠点 司令官室

 

どがっ!!

 

この基地の司令にしてブランシュ日本支部リーダーの盟友である小松田は殴られたような痛みで目がさめる。

痛いモーニングコールは清夜からだった。

 

「おはよう。ミスター小松田・・でいいのかな?」

 

「そ、そうだが・・・誰だ貴様ら!?おい兵士・・ぐぉ!!」

 

「この階から上の人間はもう死んでるよ。下の人間ももうじき死ぬ・・・」

 

「どういう・・・」

 

ガシッ!!

 

「面倒くさいから早速、話を聞かせてもらおう。」

 

バチッ!!

 

一発殴ってから問答無用で頭を掴み『Electrical Command(電気命令)』を発動。

さきほどと同じ内容

すぐさま小松田の目が朧げにになる。

 

「アンティナイトはどこから手に入れた?」

 

「・・・雇い主のスポンサーである大亜連合からもらった。」

 

「確か、本部もあそこでしたね。」

 

「まぁ、産出量はあそこが世界一だし日本とはまだ戦争中だからな。だろうとは思ってた。次の質問だ。ブランシュは第一高校で何をしようとしている?」

 

「第一目標は魔法大学系列だけで見られる魔法研究の確保・・・できるならば将来有望な魔法師の殺害、拉致。」

 

あまりにふざけた内容に清夜はブチ切れそうになるが

武器商人としてのスマイルを忘れずに質問を続けた。

 

「平等のための活動とは思えないないな。具体的な作戦内容は?」

 

「今回は司の主導で動いているとしか・・・弟の甲君を使うとか・・・」

 

「達也を襲ったアイツか・・これで確定だな裏と表のリーダーの司一は二科生を利用するために弟の甲を入学させた。」

 

ふと勧誘期間に司甲を見ていた『美少女探偵団』のことが清夜の頭をよぎる。

武器商人の勘が嫌な予感を知らせ気になろうとしていたが

それよりも隣でアルテミシアが不機嫌そうに体を震わせてる方が気になった。

 

「そのようですね。子供をテロに利用するなんて・・・ゴミ屑が・・」

 

「そうだな、お前ら子供を復讐に利用する俺も含めてゴミ屑だよ・・・本当・・」

 

フルフェイスヘルメットをしているため顔が見えないが

清夜が悲しい表情を浮かべているのが分かるアルテミシア。

すぐさま「清夜は違う」と言いたかったがエコーからの思考通信で遮られた。

 

Nameless(名無し)2よりNameless(名無し)0へ。下が片付け終わって今、1と2のチームに分かれて情報を集めているんだが・・やばいぞ、こいつら軍事物資のアンティナイトを・・』

 

『それは知っている。そっちの敵も何人か装備していただろう?』

 

『違うんだ・・・そうじゃなくて、Nameless(名無し)5が見つけた資料を見ると・・日本の魔法師と戦争するんじゃないかってぐらいの数のアンティナイトがブランシュに輸入されているんだ。写真をそっちに送る!』

 

そうして仮想デバイスによって視界の端に写真が現れる。

それを見た清夜とアルテミシアは驚きを隠せなかった。

 

『!?・・な、なんて数なの・・』

 

『!?・・なんでこれだけの数が国内に流れているのに公安も軍も気づかないんだよ・・・』

 

清夜は「気のせいではないか」と思って目を閉じてもう一回資料を見つめる。

だがそれでも変わってない。

4万という国内の魔法師の数を上回る数字は・・・

 

『だろ?いくらなんでもおかしいぜ!』

 

『それはどこにある?物は確認したのか?』

 

『いや、まだだ。エレンたちと合流してからアンティナイトがある地下に向かう。』

 

確認しに行くのはエコー達だけでいいかとも思ったが

それでも、これだけの数となると無視できない。

清夜は決心する。

 

『よし、俺たちもホウ達と合流して司令官様とともに地下に向かうぞ!』

 

『了解!』

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月14日 日本 某所 ブランシュ拠点 地下

 

『合わないな・・・』

 

『合いませんね・・・』

 

『数が全く合わない』

 

合流した一同はそんなことをつぶやく。

清夜達はアンティナイトが保管されているという大きな部屋を見渡す。

確かにたくさんのアンティナイトがあるのだが、それでも資料に乗っている数には遠く及ばないのだ。

エレンは頭をひねって考える。

 

『どういうことなんでしょうアイク?』

 

『これはもう素直に聞いたほうが早いだろうね』

 

清夜は連れてきた司令官を強引に投げる。

司令官は壁に激突して座るがその目は未だに朧げだ。

 

「なんで資料にある数と実際の数が合わないんだ?」

 

「・・・先日、司が持って行った。アンティナイトに関してはここは一時的な保管所だ。持って行った3割はある人物に売って、残り7割は一高の作戦から始まる戦いに使うとか・・・」

 

「3割も売ったのか?それは誰だ?」

 

小松田は何も答えない。

必要な情報は聞き出せるがそのさらに奥にいる何かを聞き出せないのは清夜にとって もどかしいものだった。

 

「質問を変えるぞ。大亜連合がお前らを差し向けたのは想像できた。だがブランシュに関わっているのは大亜連合だけか?他にも国家機関が関与しているんじゃないのか?」

 

「・・・・」

 

またしても何も答えない。

代わりにエレンが質問する。

 

「アイク、それはどういうことですか!?」

 

「大亜連合が関わっているとしても腑に落ちない部分が二つあるんだ。」

 

「どういうことだ夜坊?」

 

エコーは首を傾げる。

清夜は証拠も確信もない憶測を部下に伝えて変な印象や先入観を持ってしまうのは良くないかと思ったが適度な緊張を持たせるためにも憶測という名の情報をシェアすることにした。

 

「まず、この拠点。警察省どころか軍の情報保全隊、政府の内閣情報調査室、公安0課すら存在を認識すらできていないのはおかしい。そして日本が明確に敵視している大亜連合が日本でそんな情報隠蔽ができるとは思えない」

 

「では何故、我々DEMはここを突き止めることができたんですか?」

 

アーキンの言ったことは正しい。

軍でも政府の機関でもない民間企業ごときが何故見つけられるのか・・・

それは勿論、切札の一枚とも言えるサイモン・サイトウこと七賢人(8話参照)の一人が味方にいるからだが、それを知っているのは秘書のエレン、工作、諜報員として動いている翠、藍だけだ。

だから清夜はそれを伏せて答える。

 

「フフ〜フン♪俺には日本という国家機関以上の情報収集力があるからね。そしてもう一つは大量のアンティナイトの密輸入だ。これだけの量が税関や沿岸警備隊に気付かれず通れるはずがない。」

 

「ですが御主人様。小分けして何回かに分けて輸入したのでは?またはバラバラの場所から一斉に密輸したとか」

 

「魔法大国のテロ対策ゆえ、今や日本では指輪型を1個だけでも密輸するのは難しい。たとえ何回に分けようとバラバラの場所から一斉に密輸しようとしても無理だ。必ず、1回以上はどこかで税関や沿岸警備隊・・・いや、それこそさっきあげた諜報機関が嗅ぎつけて取り締まるはずだ。」

 

アルテミシアはおもわず息を飲む。

去年はそんなに根が深いことを想像すらしなかったと・・・

それでも聞かずにはいられない。

 

「どこですか、その国は?」

 

「税関や沿岸警備隊を潜り抜けられるのは『検査をある程度パスできる』といった日本が融通を利かす表面上、日本と友好的、または同盟の国。尚且つ、日本の諜報機関に負けない情報を隠蔽できる力を持つ国。そして最後に反魔法テロリストが暴れて魔法師が削られたり、研究がバラされるということは、日本の魔法という力を貶めたい国。」

 

CPを含め数名以外は予想がついた。

今度はCPのセシルから思考通信が入る。

 

『ある意味、内政干渉ですよね・・・!?マスター、まさかその国は!?』

 

「そう、日本の同盟国であり日本より魔法技術が少し遅れているUSNA。より正確に言うならば対外諜報活動と謀略活動を行える機関、隠語では『カンパニー』、正式名称は『Central Intelligence Agency』つまりは北アメリカ大陸合衆国中央情報局。通称『CIA』だ。」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月14日 ????

 

とあるホテルの一室

日が昇り出したころ。

ある女はデバイスと格闘していた。

隣には白髮の少女が寝ている。

 

「ちっ・・この様子じゃ潰されたな?・・何も言わずに情報隠蔽の手伝いをしてやったのに使えね〜。アンティナイトを持ち出せたのはいいかもしれね〜が・・もう期待できねぇ〜な。もって半年だろ。」

 

グ〜ガ〜グ〜ガ〜・・・

 

見た目こそビッチの金髪であるが

今日も今日とて愛する祖国のために仕事をする愛国者だ。

と突然デバイスが震えだす。

電話だ。

画面にはBOOK MANと書かれていた。

 

「げっ!フ◯ックマン・・・じゃないブックマン課長からか。はい、もしもし?」

 

『やぁ、あいかわらず日本とアメリカの間を飛びまくって頑張っているようだね。』

 

グ〜〜ガ〜〜グ〜〜ガ〜〜・・・

 

その相手はデブって一発で予想できるような野太い声だった。

女はこの男をよく知っているがゆえに、挨拶はしなかった。

 

「いいから用件言ってくださいよジョージ・ブラックNCS(国家秘密本部)欧州課長。」

 

『つれないとこも変わらないね君は。じゃあ聞くけど君さ日本で色々と工作活動してるじゃない?そこで変なとこにチョッカイだしてないかな?ってね。』

 

グ〜〜〜ガ〜〜〜グ〜〜〜ガ〜〜〜・・・

 

女はピタリと止まり数秒考え込む。

心当たりがあるがあるようだ。

変なとこにチョッカイではなく、ジョージ・ブラックが考えていることに。

 

「なるほど、噂のOperation Undershaft(オペレーション・アンダーシャフト)はDEM Industryが関わっているんすね」

 

グ〜〜〜〜ガ〜〜〜〜グ〜〜〜〜ガ〜〜〜〜・・・

 

『へぇ〜変なとこって言っただけでそこまで予想出来ちゃうんだ。それが分かっているならいいんだ。これからもそういうのはナシで頼むよ。それじゃ。』

 

ブツッ!プープー

 

電話の切れる音が聞こえたが切ろうとはしない

女はデバイスの画面を見つめる。

 

グ〜〜〜〜〜ガ〜〜〜〜〜グ〜〜〜〜〜ガ〜〜〜〜〜・・・

 

「たった3分の電話で封じ込めやがった。片腕をでっけぇピンで刺されて動けなくされた気分だ。要は下手に手出しして第二の四葉にするなってことだろう?まぁ私だって邪魔されない限りチョッカイだすつもりはねぇ。だがなブックマン・・・DEMに対する計画となるとHexとアンジー・シリウスが黙っちゃいねぇぜ。てかテメェ、うるせぇぇぇぇぇぇ!!」

 

ドガッ!!

 

女は隣の少女を思い切り蹴っ飛ばした。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月14日 USNA ????

 

ある一室では電話終えた男が一人。

声だけでも予想できる大食漢だ。

 

「Deus Ex Machina Industry、最早、力だけで見ても四葉に匹敵する『企業という体裁を取り繕った国家』だ。彼女が扱うには危険すぎる。まぁ釘は打っておいた。さて、次に彼はどっちのステージに出るのかな?日本の表舞台か、それとも日本の裏社会か、いいや彼は世界の舞台の方が性に合うはずだ。」

 

男は手元にある資料と睨めっこをすると不気味に笑い出した。

 

「出来れば君も日本語で言う『芋づる方式』で”お嬢(・・)”と一緒に釣り上げたいんだけどね”夜坊(・・)”」

 

その資料にはココ・ヘクマティアルと式 清夜の顔写真が載っていた。




さぁさぁ、最後の人たちは誰なんでしょう?(というよりやっと絡められた)
ちょっと伏線はりすぎたかも?

次回予告!

達也も達也で先日の壬生について語るとブランシュの影が見えて来る。
そして達也は真由美達をも驚かす意外な推理を始める。

次回もお楽しみに!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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31話 自己犠牲と自己中心的な理由

31話です!!
今回は平和的・・・かな?
というか春夏秋冬、平和じゃない学校って・・どうかと思う

前回までのあらすじ!!
ブランシュテロ部隊の拠点を襲撃した清夜達『Nameless』。そこで大量のアンティナイトを見つける。そして最後に見えてきたのは大亜連合と同盟国であるはずのUSNAの二つの黒幕だった。


2095年 4月14日 第一高校 生徒会室

 

「そういえば達也くん。昨日、カフェテリアで二年の壬生を言葉責めにしたというのは本当かい?」

 

生徒会でブランシュの話題が上がったきっかけは摩利のそんな話だった。

 

昼休み、もはや恒例となった食事会は今日も行われた。

メンバーは達也、深雪、真由美、摩利、あーちゃん、アルテミシアの6人だ。

清夜は克人に呼び出されている。

 

幸いにも話した時には食事を終えていた達也だったが、

もし食事中だったら吹き出していただろう。

 

「先輩も立派な淑女なんですから言葉は選んでください。深雪の教育上も良くないです。」

 

「お、お兄様?私、もう高校1年生ですよ?」

 

深雪は達也が自分の年齢を勘違いしているんじゃないかと思って抗議をする。

しかし、そういう議論は家でもできるので達也にしては珍しくスルーする。

 

「ははは、私をレディとして見てくれるのは達也君ぐらいだよ。ありがとう。」

 

「そうなのですか?渡辺先輩の彼氏は淑女扱いしてくれないと?」

 

「そんなことはない!シュウは・・・」

 

摩利は真っ赤になって立ち上がるが発言はそこで止まってしまった。

「しまった」と言いたいのだろう。

それでも助け舟は出ない。

 

「・・・ブフッ」

 

「・・・クスクス」

 

アルテミシアと真由美は必死に笑いを堪えている。

質問した張本人はというと・・

 

「・・・」

 

無表情で摩利を見つめている。

この沈黙という名のバトルは摩利の負けだった。

 

「誰も何も言わないのか・・・」

 

「あら、では摩利さん。私が質問を、彼氏さんとは・・・」

 

「だ、黙ってろ!!アルテミシア!」

 

摩利はさらに真っ赤になるが、これ以上はさらに状況が悪くなると判断し席に座った。

そして軽く咳払いしてから視線を達也に戻した。

どうやら、これで「今の話は終了」と言いたいらしい。

 

「ごほん!・・・それでさっきの話は本当かい?目撃者もいるんだが・・・」

 

「・・・そんな事実はありませんよ。もしかして目撃者というのはアシュクロフト先輩ではありませんか?変なことを言いふらすのは辞めて下さい」

 

「あら、バレちゃった。」

 

達也はジトッとした目でアルテミシアを見つめるが

アルテミシアは罪悪感100%なしの柔和な笑顔で返すだけだ。

 

「それに先輩も昨日は後輩の清夜の両手を握ったりして口説いていたじゃないですか?」

 

「あわわ・・・アルちゃん、そんなことしてたの!?」

 

「まぁ!」

 

「ほほう・・それはそれで面白そうだな。」

 

達也としては仕返しとして攻め方を少し変えたのだが

深雪も梓も食いついてきて意外といい攻撃だったのではと思った。

しかしアルテミシアは達也の予想をはるかに超えた返しをする。

 

「それはそうよ。だって本気で口説いてたんだもの。」

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

行が数段空いてしまうぐらいの間ができてしまう。

そして達也の声を皮切り生徒会室が揺れる。

 

「「「「「えええええ!?」」」」」

 

「ま、待ってください。自分が嘘ついたのも悪かったですけど、昨日は部活連の勧誘の話をしてたんですよね!?」

 

普段は冷静沈着な達也も一本取られた様子。

それでもアルテミシアの柔和な笑顔は崩れない。

 

「ええ、そうよ。勧誘しながら手を握って口説いてたつもりだったんだけど。口説きとは思われなかったのかな?でも勧誘には成功したのよ。」

 

「ほほほ、本当に式君が好きなのアルちゃん!?」

 

「じょ、ジョークですよね先輩?」

 

「本気よ。真由美さん、深雪さん。」

 

「これはファンクラブの連中が荒れるな。」

 

摩利が若干震えながら語る。

恐らくそれほどシンパの度合いが高いのだろう。

達也は心の中で合掌した。

 

(袋叩きにされて死ぬだろうな・・・清夜。油断できない男だったが俺にとっては一番の友人だったぞ。あと幽霊なってでてくるなよ。南無阿弥陀仏・・・)

 

「はぁ・・ハンゾー君には聞かせないほうがよさそうね。とにかく清夜君には無理矢理でもここに連れてこないとね。」

 

「ああ、話を聞かせてもらわないとな。勧誘の件も含めて、ゆっくりと・・」

 

真由美と摩利の目が不気味に光る。

それに対し問題を起こした張本人は天然なのかパンと手を叩いて話を戻した。

 

「ま、そんなことより。昨日、司波君がサヤの顔を真っ赤にしたっていうのは本当だから。」

 

ピキリ・・・

 

深雪から何かヒビ割れのような音が聞こえる。

無論、人からそんな音など出ないが

達也にとってはそれぐらいヤバい気配を感じたのだ。

 

「お兄様・・・一体何をしていたのですか?・・・」

 

ピシ、ピシ

 

深雪が鬼妹(?)モードになった瞬間、何かが氷付く音が聞こえる。

今度は幻とかの類ではなく、お茶や弁当が本当に氷付いたのだ。

 

「ヒッ!・・CADも使わずに冷気を・・・!?」

 

「深雪さんの干渉力の高さは知ってたけどここまでとはね・・」

 

そう、氷付いているのは全て深雪の無意識による事象改変。

普通の魔法師ではまず起きないことなのだが、

特定の魔法に特化していたり、干渉力が強ければ無意識で事象改変が起こることもある。

しかし、該当する魔法師が全員そうかと言えばそうではない

優秀な魔法師は自分の力を完璧に制御して無意識による事象改変を防げている。

つまり深雪は自分の力を制御できない未熟があると同時に卓越した才能を持っているということだ。

 

「落ち着け深雪。ちゃんと説明するから」

 

「はっ!・・申し訳ございません。」

 

(また、やってしまいました・・・)

 

「それで昨日の事ですが・・どうも生徒には風紀委員に不満があるそうです。」

 

達也は昨日の会話を簡潔に説明する。

自分が礼を言われた事

剣道部に勧誘された事

魔法競技系クラブが優遇されている事

風紀委員が点数稼ぎのために摘発を乱発している事

そして非魔法系クラブで連帯して学校に考えを伝えるから手伝って欲しいと頼まれたことを

 

「ーーーーということなんですが」

 

真由美と摩利は顔を曇らせる。

 

「それは壬生の勘違いだ。風紀委員に点数制はない。全くの名誉職で得する事は殆どない。」

 

「部活に関しても同様ね。私の剣術部とサヤの剣道部も同じスペースが与えられているし去年の予算もほぼ同じよ。」

 

「でも風紀委員が校内で高い権力を持っているのもまた事実。学校の体制に不満がある生徒には敵だと思われているわ。実際にはそう印象操作(・・・・)している者がいるんだけど・・」

 

印象操作という言葉に根が深い話だと予感する達也。

達也は以前の襲撃者のリストバンドを思い出しながら聞く。

 

「正体は分かっているんですか?」

 

「え、あっ!噂よ、噂。出処も確定できてないし」

 

「分かっていれば止めさせているさ」

 

二人の顔は困った表情から隠し事をした表情に変わる。

嘘がバレバレですよ・・・とは言わなかった。

代わりに達也はさらに一歩踏み込んだ発言をする。

 

「そうではありません。その印象操作の裏にいる連中です。もしかして反魔法国際政治団体『ブランシュ』では?」

 

「何故その名を!?」

 

「報道まで規制されている組織だぞ!」

 

達也には確信があった。

先日、達也を襲った男がしていた赤と青で縁取られた白のリストバンドはブランシュ下部組織『エガリテ』の証。

だからこそ自身を持って聞いたのだが二人の反応を見れば結果は明らかだった。

 

「情報というのは規制程度で塞ぐことはできませんよ。学校がそのような事態であれば、むしろ情報を公開するべきです。」

 

達也は国を責めたつもりだった。

だが真由美は自分を責めるような口調になり顔は暗い影を落としはじめる。

 

「達也くんの言うとおりね・・・それなのに私たちは正面きって戦うことから逃げてしまっている・・・」

 

「会長の立場なら仕方ないですよ。規制しているのはこの学校を運営している国なんですから」

 

「えっ!?えと・・・慰めているの?」

 

慰めの言葉のわりには暖かさがない声色

どう反応するべきか迷った末の真由美の発言だった。

ここで梓がボソッと一言

 

「でも、追い詰めたのも司波君ですよね?」

 

「ほほう、自分で追い込んでから慰める。達也君もやるね〜」

 

「どうしましょう深雪さん?お兄さんが真由美さんをも籠絡させる男・・・通称『ジゴロの達也』になってしまうわ。」

 

梓の一言がきっかけにまた達也がからかわれることに

しかもアルテミシアに関しては煽っているとしか思えなかった。

深雪が隣の兄に冷たい視線を送る。

達也はため息が出そうになる。

 

(あとで誠心誠意の説得が必要か・・・ケーキでも買っとかないとな)

 

それでも今の優先順位は自分の話の方が高かった。

 

「・・・先輩方、からかうのはそこまでにしてください。まだ話・・・というより、ここからは推測があります。」

 

「推測・・・ですか?」

 

意外にも一番初めに食いついたのは揶揄いの原因を作っているアルテミシアだった。

それに合わせて他のメンバーも気持ちを切り替える。

 

「実は二科生だけでなく、一科の生徒も誰かにを煽られているのではないかと思いまして」

 

「それは『ブランシュ』が・・・ということですか達也君?でも・・・」

 

「いえ、背後関係は分かりませんがブランシュとは別口で学校の人間、それも学校での権限などがある人間だと思われます。」

 

「まて!それは生徒会、風紀、部活連の誰かだと言いたいのか!?」

 

摩利は机を叩きながら立ち上がる。

自分達の仲間に裏切り者がいると言われれば声が大きくなってしまうのもわけない。

それでも達也は冷静に推測だと強調する。

 

「あくまで推測です。それに権限で言うなら教師以上の人間もありえます。」

 

「・・根拠を聞かせてもらえないかな司波君?」

 

「まず第二小体育館で取り押さえた時、周りから『噂の風紀員』という発言が多数聞き取れました。自分が風紀委員になったのは前日の夕方、その時で知っているのは風紀委員でも委員長をいれてわずか3人。他の風紀委員は活動前のミーティングで知ったほどです。噂になるのが早すぎるんです。他にもその翌日から始まった誤爆攻撃、サボっていたわけではありませんが、自分は人気の少ないところを毎日ルートを全て変えて事前に教えもせずに巡回していました。それなのに尾行者もいなにはずなのに示し合わせたかのように先回りされていました。それに誤爆攻撃の実行者は他の風紀委員も追いかけていたはずなのに、これまた示し合わせたかのように風紀委員がいないルートから逃げられたりして現行犯では一人も捕まえることができませんでした。」

 

「なるほど・・・それなりの権限を持つ人間ならば、お兄様の風紀委員入りを事前に知れますし、風紀委員はLPS(ローカル・ポジショニング・システム)つきのカメラデバイスを持たされて位置情報が学校を経由して本部に送られるので権限で位置情報を手に入れ流すことで先回りと逃走ができる・・・ということですねお兄様?」

 

達也は深雪を見てコクリと頷く。

推測の域は出ていないのだが、あまりの論説ぶりに信じてしまいそうになる上級生。

しかしアルテミシアは一人違うことを思っていた。

 

(すごいわね・・・犯人は違えど一科生を煽動しているマスターの存在を嗅ぎ取った。さすがはマスターが十師族の生徒を差し置いて警戒する人物。これは益々、PDが怪しくなる。でも今はマスターの存在を気付かれないのが先!まだ推測の域を出ていないし、犯人も間違っている。つまり、『そんな人間はいませんよ』と悟らせられるはず。)

 

「それはちょっと考えすぎじゃないかな?噂っていうのは思ったより早く広がるものよ。実は私も当日に噂を聞いた人間だけど噂の発信時間は司波君が巡回を始めてからそれなりに時間が経ってからよ?」

 

「どうして時間が分かるのアルちゃん?」

 

「はい、実は学内ネットが噂の始まりでその時間が巡回を始めた後なんですよ。それに関する情報ページは運営によって削除されましたが写真ぐらいなら残ってますよね?」

 

「ああ、そういえば削除したと聞いたなスクリーンショットも風紀委員としてもらってある。えーと・・・ほら、これだ。」

 

そう言って摩利はデバイスを操作し写真を見せつける。

確かにそこには『雑草の風紀委員』というタイトルで情報共有がされていた。

作られた時間も達也が巡回してから後の時間だった。

アルテミシアは話を続ける。

 

「たぶん、始めてすぐに見つかってしまったんでしょうね。それに誤爆攻撃のことも人気がないって言ったけど、それは他と比べて・・でしょ?誰とも会ってないわけじゃない。毎年、あのシーズンはどこも人だらけだし、勧誘とか関わりたくない人は人気のないとこで屯ろして勧誘終了時間までやり過ごすとか。それも全学年の生徒にいるから毎年多いんですよね摩利さん?」

 

「その通りだ。その中に誤爆攻撃の仲間がいたんだろうな。まったく暇な奴らだ。」

 

「そして犯人のことだけど、もしかして私の部が起こした事件を煽った人物と位置情報を流した人物は同一人物だと思っている?」

 

「はい、最初は複数犯も考えましたが先輩たちに煽っているのを悟られもしないとなると一人としか考えられないかと」

 

この時、達也と深雪はアルテミシアの知的ぶりに驚いていた。

なぜなら身近な剣術家(摩利とエリカ)は大雑把というイメージしかなく

同じ剣術家アルテミシアがここまで綺麗にロジックを重ねてくるとは思わなかったからだ。

アルテミシアは謝罪しながら話を続ける。

 

「私がいない間に私の部が達也くんに迷惑をかけてしまったのは本当にごめんなさい。私もあの後、色々と部員に問い詰めたの。それを放課後、生徒会に伝えるつもりだったんだけど・・実は桐原くんを唆した、つまり煽った部員がいてね。その部員は権限とかハッキングの腕もないし、その部員も周りの複数人の観客から「剣術と剣道の戦いを見たい」という声が聞こえたから唆したんだって。」

 

「そうでしたか・・・勝手な推測で皆さんを戸惑わせてすみませんでした。申し訳ありません。」

 

達也は立って礼儀正しく謝罪する。

それは勿論、自意識過剰な想像をしてしまったからだが

達也の心の中では何故か悔しさだけが残った。

 

「いや、君は悪くないさ。悪いのは嫉妬して誤爆攻撃をする奴らさ。」

 

「そうね、気に病むことはないわ。でも結局、一科と二科の溝に戻ってしまうのか〜。これだけは私の代で埋めたいわね〜」

 

自意識過剰な想像でも不快に思わないのはこの人たちが人間としてできているからのなのだろう。

少なくともブランシュや誤爆攻撃の連中よりはできていると達也は思っている。

 

「そうだな。それで達也君、話はかなり前に戻るが壬生への返事はどうするんだい?」

 

「『考えを学校に伝えてどうするか?』その質問の答えを聞いてから考えます。また話しをすることになっていますから」

 

「君ができる範囲で構わない・・頼んだぞ。」

 

摩利は今日一番の真面目な視線を送る。

そんなことを言われて答えないわけにはいかない。

いや、そうでなくとも放っておけなかった。

 

「その程度であれば引き受けましょう。」

 

昔の達也ならば深雪のためだけに奮闘するが今は違う。

自分と深雪にできた友人、家族のためにもできる限りの奮闘を心の中で誓うのだった

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月14日 第一高校 クロスフィールド部部室

 

生徒会室で『ブランシュ』の話しが行われていた頃・・

清夜は勧誘を受けたことを後悔していた。

確かにOKはした。

たがそれは思考通信をしていると悟られないための会話であって会話が不自然にならないように相槌を合わせたようなものであった。

通信だけでなく会話にも意識を向けていたならこうはならなかっだろう。

つまりはアルテミシアに一本取られたのだ。

 

(ちくしょー・・・やられた。おそらく風紀委員勧誘で加担したのもこれのための布石だったんだろうな。アルテミシア、マジで天使じゃねーよ)

 

「わざわざ来てもらってすまんな。改めて自己紹介をしておこう部活連会頭の十文字克人だ。」

 

「式 清夜です。明日からよろしくお願いします。」

 

「ああ、よろしく頼む。とりあえず座ってくれ。」

 

克人に勧められ円卓のテーブルに備えてある椅子に腰掛ける清夜。

清夜の中で予想はしていたが改めて対峙してみると高校生とは思えないオーラを克人は出している。

 

(さすが十文字家次期当主・・・いや事実上の当主とはいえ、高校生がこんなオーラ出せるわけないでしょう。いくつかサバ読んでるだろ。)

 

「まずは勧誘の件について謝罪しよう。俺の推薦なのに俺が勧誘に行けなくてすまなかった。家の用事があってアシュクロフトに任せてしまったのだ。」

 

「いえ、十師族の用事の意味はある程度理解していますから。」

 

「そう言ってくれると助かる。だが、用事があってもなくても勧誘はアシュクロフトに任せようとは思っていた。こういうことは俺ではなくアシュクロフトの方が適任だからな。それに男より女に勧誘された方が嬉しいだろう?」

 

「は、はぁ」

 

清夜は驚きの表情を浮かべながら頷く。

見た目は巌なのにやり口は意外と搦め手。

どう反応したら良いのか分からなかったのだ。

 

「さて、お前を呼んだ理由は二つ、一つは部活連での役職だ。お前には明日から部活連副会頭として仕事をしてもらう。」

 

「副会頭・・・ですか?いきなりすぎませんか?」

 

「幹部候補として任命するからな。育成するにはこれぐらいの役職がちょうどいいはずだ。補佐にはお前と同じ副会頭のアシュクロフトが付く。本人たっての希望だから遠慮なく質問して彼女から色々と仕事を教えてもらえ。」

 

アルテミシアたっての希望はどうかと思ったが

護衛と行動できる理由ができたのは作戦や工作をする上ではありがたいことだった。

清夜はそれ以上質問をすることなく、次の理由を問うことにした。

 

「分かりました。それで二つ目の理由はなんでしょう?」

 

「これが本題と言っていいかもしれんな、出来れば知っている人数は少ない方がいい。その前に式は『ブランシュ』という組織を知っているか?」

 

「魔法による差別撤廃を掲げる反魔法組織で裏では立派なテロリストと認識してます。自分は海外にいたのでニュースなどで知り得ましたが日本では報道規制がかけられてるとか・・」

 

「うむ、俺から言わせればその認識であっている。実は今、第一高校はその下部組織『エガリテ』の侵食を受けている。赤と青で縁取られたリストバンドは見たことあるか?あれが信者の証になっている。今は七草の生徒会、渡辺の風紀委員と連携して警戒している。」

 

克人としても教えるのは苦渋の判断だったのかもしれない。

しかし清夜は知っている。

彼は失礼なのも承知だが情報を共有する気は一切なかった。

とりあえず、驚いたフリをする。

 

「反魔法組織が魔法科高校に!?なにか仕掛けてくるのでしょうか!?」

 

「分からん。今のとこは単純に花冠(ブルーム)雑草(ウィード)とかをなくそうとする運動だからな。それだけなら願ったり叶ったりなんだが、どうやらその活動がエスカレートしてる傾向にあるようだ。そこでお前の知恵を借りたいと思っている。」

 

「知恵と言えるほど自分は頭の回転がいいわけではありませんが・・・」

 

「森崎を一歩も動かずに勝利した知恵で十分だ。いや・・その前に知恵というほどでもないかもしれんが、お前には部活連の仕事と同時にアシュクロフトと共に『エガリテ』をマークしてもらいたい。無論、護衛はアシュクロフトがするし、方法についても犯罪や校則違反でない限り好きにやってもらっていい。出来ればそれで事件を事前に、ダメでも最小限の被害で済むように動いて欲しい。お願いできるか?」

 

清夜は目を閉じて考える。

自分の計画、会社などにもたらせれるブランシュ、ならびに学校、十文字からの損得。

己の心情、学校などは二の次だ。

それを合理的に考えた結果は・・・

 

「・・・分かりました。できる範囲で動きます。ですが危険と判断した場合、自分はこの案件から降ろさせてもらいます。」

 

降りるといっても敵がそれを許すとは思えないが・・

清夜は達也と似た了承をする。

違うのは損得といった自己中心的な理由。

だが了承した要因の一つに友人やエリカがあったかは清夜にも分からない・・・

 

「そうか・・では」

 

ブブブ・・・

 

清夜のデバイスが震える。

克人が無言で頷いているを確認してチェックする。

デバイスには学校のサインがついているメールが一件。

内容はカウセリングへの呼び出しだった。

ただし、カウンセラーの名前は裏で『ミズ・ファントム』と呼ばれる公安の諜報員の名だった




生きた妹に囚われる者、死んだ妹に囚われる者。
似ているようで考えてることはまったく違う・・・

次回予告!!

清夜にとってカウセリングは情報戦にすぎない。
そして不貞腐れるエリカにとうとう清夜は・・・

次回もお楽しみに!!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。



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32話 陰謀渦巻く地

32話です!
まずは申し訳ありません!!
前回予告のエリカどうこうは次回になっちゃいました!
手直ししてたら1万字いきそうだったんで二つに分けた結果こうなりました。
エリカの部分をカットしても良かったんですがヒロインなのでカットできませんでした!

今日はもうあらすじなしでどうぞ!!


2095年 4月14日 第一高校 カウンセリング室

 

清夜の昼休みは終わらない。

メールの内容から察するにカウンセリンング・・・

 

「いきなり呼び出してごめんなさいね。今日はカウンセリングの協力のお願いなの。とりあえず座ってくれるかな?」

 

という名の情報収集なのだろう。

少なくともこの女でないならそう思わなかったはずだ。

 

「失礼します。それで協力とは?」

 

席を勧められるのも協力されるのも昼休みだけでも二回目なのだが

勧められるなら巌より美人がいいとか、そこらへんは気にしないことにした。

 

「まぁまぁ、そんな急がなくても次の授業は遅刻しても出席扱いになるから安心して。それで学校生活にはもう慣れた?」

 

「その前に一つ聞いてもいいですか?」

 

「あら・・・どうしたの?」

 

自称カウンセラー(清夜にとって)の小野遙はかなり開いている胸元を見せつけるかのように前のめりに座り直し足を組む。

何も知らない男子生徒なら、いや知らなければ清夜も喜ぶのだろうが、

警視庁公安部の人間と知っている清夜は違った。

 

(会話での情報戦は基本、先に主導権を握ったほうが多く情報を得られる。こいつの場合、色仕掛けで主導権を手に入れるんだろうが・・・揚げ足を取られれば、たちまちに主導権を取られ踊らされるんだよね。俺の経験上は。)

 

「先生はストリッパーの経験があるんですか?」

 

「え!?なんでそんな話になるの!?」

 

思いの外、いい反応を見せる遙。

彼女は顔を真っ赤にして聞いてくる。

清夜は内心では勝ちを確信したがそれを見せないように冷静にふるまう。

 

「いえ、先生の格好は社会人としてTPOにあってないと思われますし。USNAにいたころ友人が先生のような格好をしたストリッパーを呼んだことがありましたので・・・」

 

「ご、ごめんなさい!そういうつもりじゃなかったの!!」

 

(なにこの子!?MITを次席で卒業とは聞いてたけど、ここまで人生経験豊富な15歳なの!?)

 

遥は慌てて胸元のボタンを閉め、組んでいた脚を揃える。

これ以上は変な目で見られると思った遙は本題に入ることにした。

 

「ご、ゴホンゴホン。えと本題なんだけどね。毎年、生徒の精神分析のために1割前後の生徒を選出して定期的なカウンセリングを受けてもらっているんです。それで式くんが選ばれたということなの。お願いできないかな?」

 

「なるほど、ですが自慢ではありませんが自分の経歴は少々特殊です。モデルデータとして扱うのはいかがなものかと・・」

 

「だからこそよ。君の経歴は見せてもらったわ。その上で来年以降、君みたいな子が来た時に役立てたいのよ。」

 

「分かりました。後輩のた・・・」

 

(ん?・・・この感覚は・・)

 

清夜のBS魔法による感覚が部屋にある物を感じさせた。

見た感じ遥自身、気づいてはいなそうだが・・・・

 

「どうしたの?」

 

「いえ、何でもありません。始めてください先生」

 

(どうやら自分で仕掛けたわけじゃなさそうだな・・・後でさりげなく教えてやるか。)

 

清夜は武器商スマイルを見せつける。

清夜からしてみれば敵意をぶつけているのだがそんなことを知らない遙はカウンセリングを始めた。

 

 

〜数分後〜

 

 

(普通すぎる!!!)

 

それが遙が質問を終えた時の第一印象だった。

遙は公安の人間として怪しい人間を経験則から来る勘で選んでカウセリングしていた。

清夜はある人物(・・・・)の次に怪しい人物と思っていたのだが・・・

 

(経歴のわりには普通すぎる。付け加えるとしてもちょっと人生経験が多いぐらい・・・はぁ・・ハズレだったわねこの子は。怪しいと思った私がバカみたい・・。でも、違う話をしてもうちょっと引き出してみますか・・)

 

でも打ち解けてくれたと遙は思っている。

出来るならば、このまま仲良く続けて自分が捜査している案件などについて情報が手に入ればと・・

 

「質問はここまでね。にしてもUSNAで工学を勉強してたんだ〜頭がいいのね〜。先生機械音痴なところがあるから今度教えて欲しいな」

 

「い、いや〜そこまで言われると照れますね。そうですね〜・・・ああ、そういえばちょっと気なったというか、注意なんですけど」

 

清夜はデバイス充電用に使っている電源タップを指差す。

遥もつられてそれを見る。

すると遥は信じられないような表情になった

 

「コンセントを一つしか使ってないのに電源タップを使うのは良くないデータがたくさん出てます。火事とか爆発とか色々、危険がありますよ」

 

「え、あっ、そうなんだ〜タメになったわ〜・・・」

 

(嘘!?私あんなもの使っていない!!まさか盗聴器!?ブランシュや大亜連合の人間がこの部屋に入れるわけないし・・・エガリテのメンバーにも一層注意しているのよ!てことは私以外にも学校の中に国内の諜報機関の人間がいるの?内閣情報調査室と0課は上との話し合いで連携して動くことが決まっているから国防軍の情報保全隊か・・いや十師族の諜報組織かもしれない・・ブランシュを探っているの?・・でも根拠もないし・・)

 

「先生?」

 

清夜の声で現実に戻される遥。

清夜との話をどうするか・・・

とりあえず外国の諜報機関の可能性も考慮し話しても問題なさそうな話をする

 

「ご、ごめんなさいね。えと仕事の質問じゃないけど噂で清夜君は一科の生徒に勝ったて聞いたけど本当?」

 

「う、噂ですか・・それは多分、クラスメイトのモテモテ君の話ですよ。」

 

「モテモテ君?なになに聞かせてその子のこと!おもしろそう。」

 

「フフーフン♪秘密ですよ?実はクラスメイトの司波達也ってのが中々、面白くて。目立ちたくないのに風紀委員になっちゃったり、七草会長に口説かれたり」

 

遙は自ら情報をくれるなんてラッキーと心の中でガッツポーズをとった。

しかし、人生そんなに甘くないというのは遙自身知っているはずなのに・・・

 

「へ〜モテモテね〜。まだ何かあるの?」

 

遙はおもしろそうに話を聞く。

一応、話も面白かったと思っているが

内容が興味深かったのだ。

実は達也こそ遥が一番怪しいと思っているある人物(・・・・)だったのだ。

だからこそ遙はさらに聞き出す。

 

「実はこの間、カフェテリアで剣道部の壬生先輩と達也が話してたんですよ。しかも壬生先輩の顔は真っ赤!たぶんアレは壬生先輩が達也に交際をお願いしたんですよ!きっと!・・・と・・・終わったのに居座り続けるのも悪いですね。先生、これで失礼します。」

 

「ふふふ・・・あ、そうね。じゃあ、また来てね!」

 

(本当にありがとう。おかげで『エガリテ』の壬生さんと司波君の情報が両方手に入ったわ・・・盗聴器の件も含めてね。意外と盗聴器関連の話を聞くのもいいかもしれないわね。)

 

遙は優しい笑顔で見送る。

それに対し清夜は遥かに見られない角度で口を歪ませる。

 

(どうやら俺への警戒はなくなったようだ。代わりに今後、達也の話をしなきゃいけなくなるが・・・。まぁいい、予定通り『エガリテ』の壬生と達也に注意を向かせたし、話せば話すほど達也に注意が向くはずだ。呼ばない可能性も最初は考えたが・・俺を呼ぶんだ、どうせ達也も最初からカウンセリング対象という名の要注意人物として呼ぶ気なんだろ?『エガリテ』捜査のついでで・・。せいぜい両方頑張って調べてくれや。そして達也を調べ終えたら『Electrical Command(電気命令)』で喋らせて殺す。それまで幸せにな・・)

 

静かに部屋を出る清夜。

だがその目は間違いなく狂気が孕んでいた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月14日 第一高校 ???

 

盗聴器が発見された頃。

ある教室でのこと。

ある女性はデバイス片手にイヤホンで何かを聞いていた。

 

「あ〜あ・・・気づかれてしまったね。藤林さんからのお願いとはいえ、これは流石に無理があったか。まっ、喧嘩するのは上層部と公安部だし僕には関係ないか」

 

されども不満はない。

そういう目的ではなかったが才能ある人物を見つけたのだから

 

「式 清夜・・・へぇ〜式海運の元御曹司か。そこまでイケメンというわけではないが僕好みの男性だね。おもしろい・・・」

 

「いこうよ〜◯◯◯」

 

「ああ、今いくよ!マドモアゼル」

 

「だから私はエイミィだよ!」

 

少々、宝塚っぽい女性ではあるが・・・頭がおかしいというわけではない。

彼女はメガネを知的にクイッとあげて教室をでた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月14日 第一高校 廊下

 

(外部の人間で知ってるのは天下りした元軍人ぐらいだがあの周波数は恐らく軍の情報部が好んで使われるやつの一つだ・・・まさか情報保全隊か?今、把握しているだけでもブランシュ、大亜連合、USNA、警視庁公安部、そして国防軍・・・この学校は思ったより多くの陰謀が渦巻いているんだな。それに、いずれ”零”も何らかの形で関わってくるのか)

 

なんてことを清夜は考えているが

未だ、教室には帰っていない。

亀のようにゆっくりと歩いている。

その理由はエリカにある。

 

実は昨日の帰りからエリカの機嫌が悪い。

清夜は特に何もしていなのだが朝になっても睨み付けたり、無視してくる。

それが距離を置くとか絶交とかなら清夜としては互いのためにもありがたいんだが、

しきりに清夜の机に座ったり、近づいたりして睨み付けてくるから困るのだ。

そのくせ話そうとしても『フン!』と言って話を聞こうとすらしない。

達也たち三人は気遣ってはくれるんだが彼らも原因分からないらしい。

いや美月は知ってそうな顔をしているんだが知らないの一点張り。

つまり今の教室に帰るのは清夜にとって気が重いのだ。

 

 

なので清夜は少し回り道をして帰ることにした。

とりあえずは目の前の問題のことを考える清夜。

ただしそれはエリカではなく『エガリテ』について

 

(さて、動いてくれと言われたがどうしたものか・・・。エスカレートして犯罪になる場合、そこまでして活動するとしたら演説か何か、それとも交渉か・・・いや両方というのもあるか。その場合、自爆テロの類は難しいな。爆弾持ちを入れるほど学校も間抜けじゃないだろう・・・ということは立てこもりか。そうなると学校中に演説などを伝えることができる部屋・・・学内放送ができる職員室か放送室か!)

 

とピタリと止まったのは偶然にも放送室前だった。

清夜は放送室のドアを見つめて思考を続ける。

 

(この二つに絞られるが・・職員室は教職資格のある高ランク魔法師が多い。仮にアンティナイトを持ったとしてもすぐに取り押さえられる・・・てことはここで何かを起こす確率の方がが高いか。)

 

清夜は通り過ぎようとした時、

自分の推理と夜明け前に聞き出したことの矛盾に気づいた。

 

(あれ?でも待てよ。司令官の話じゃ魔法研究資料の強奪が第一目標だったよな?じゃあ、図書館で犯罪?いや確かにブランシュは実際そういう組織だが壬生とかは純粋に意見を伝えたいはずだ。それに、あそこで立てこもりは難しいしな〜・・う〜ん・・・とりあえず、どっちで起きてもいいように用意しておくか・・)

 

「あれ?確か式くんだよね?」

 

横を向くと茶髪ロングの女性とがいた。

その女生徒には見覚えがあった。

 

「ああ、鈴野さんだよね?入学式で会った。」

 

「そう、G組の鈴野明菜で〜す!どうしたの?放送室に何か用?」

 

彼女は入学式であって同じクラスになれなかった女生徒だ。

清夜は適当に嘘をつくことにした。

 

「いや、入る気はなかったんだけど放送部にすこし興味があってね。ちょっと、どんなとこか見ておこうと思って」

 

「じゃあ中に入る?私、放送部に入ったの。」

 

「え?いいのかい?」

 

清夜にとっては願ってもない話だった。

 

「いいの、いいの!でも出来れば入部も考えてくれると嬉しいかな〜先輩も君を欲しがってたし。」

 

「う〜ん・・・分かった。考えてはおくよ。」

 

「本当!?イエイ!!じゃあ、入って入って。」

 

そうしてドアが開く。

清夜はボルトロックが入る穴にそっと手を掛けてから放送室に入るのだった。

エリカが物陰で見ているとは知らずに・・・




まぁ情報戦と言っときながら大したことは出来てないのです。
これは単にうp主の実力が足りないだけです
盗聴している人物は原作に出ていますが設定はうp主の予想にすぎません。
私はこいつこそが達也が九校戦のエンジニアとして出ることを風間達に教えた犯人だと思ってます!
外れたらタダの妄想だったと思ってください!!

次回予告!!

ふてくされるエリカに清夜はとうとう・・・
そして深雪はじめてのストーキング!!

次回もお楽しみに!!

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33話 チェイサー

33話です!!

就活準備中で忙しく来週は投稿できないかもしれません!申し訳ない!
一応、ストックは2話分用意しているのですが投稿すべきかどうか・・・要望があればそうするかも

前回までのあらすじ
カウンセリングという名の情報戦に勝利する清夜。しかし、この学校は思った以上に陰謀が渦巻いていることに気づく。そして清夜はとりあえず目の前の問題を片付けることにし放送室に入っていくのだった。


2095年 4月15日 第一高校 魔法実習室

 

「1050ms・・・だ、大丈夫!まだ時間あるからもう一回頑張ろう」

 

「フン!・・」

 

エリカの機嫌はいまだ直らない。

むしろ悪化している気がした。

しかも偶然にもペアでやる課題な上に清夜のペア相手はエリカだったのだ。

 

今回の課題は基礎単一系魔法を999ms以内にコンパイルして発動させること。

もう授業が始まって大分経ち、ほとんどの生徒が終わらせて休んでいるのだが清夜とエリカは終われずにいた。

 

「1064ms・・・・ぐぎぎ・・・」

 

いや清夜自体は一発で終わったのだがエリカがずっとこの調子で終わらないのだ。

 

「少し休んでからやり直さない?」

 

「フン・・」

 

「あのさ・・」

 

「うるさい、黙ってなさいよ。」

 

1日経って事情を察しつつあった清夜もここまで来ると我慢ができなかった。

清夜はエリカの腕を掴んで睨みつけた。

 

ガシッ!

 

「いい加減にしろよお前。俺にはやることがあってこの学校に来たんだ。お前の機嫌をとるために学校に来てるわけじゃない。文句があるならちゃんと言え、絶交なら絶交で俺に構うな。」

 

「ひっ・・・」

 

大声で叫んだわけじゃない、むしろ普段より小さい方

痛みつけたわけではない、軽く握った程度だ。

目立ったわけでもない、このやり取りを見るものは偶然にも誰もいなかった。

 

だがエリカは怯えた・・・二年前のように・・

 

おそらく兵士としての殺気がでてしまったのだろう。

清夜は二年前を思い出して目がさめる。

エリカのその怯えた顔は今もなお彼のトラウマとして刻みついていた。

清夜は腕を離すがそれでもエリカの顔は晴れない

 

「ご、ごめん・・・脅すつもりはなかったんだけど・・」

 

「う、ううん・・・ごめん、私が悪かったから・・」

 

「いや、いいんだ。事情はなんとなく察していた。・・・アレなんだよね?」

 

「え・・・」

 

暗い表情から一転、気の抜けた声を出してしまったエリカ。

アレとは何か?まったく思いつかないのだ。

清夜にしては珍しく顔を赤くして恥じらう。

 

「だから・・・その・・”生理痛”の時のイライラってやつだよね?」

 

「は!?い、いや・・そういうのじゃ・・」

 

まったくの見当違いに戸惑うエリカ。

しかし清夜は「皆まで言うな」と表情で制して話を続けた。

 

「俺は男だからそういうのはよく分からないけど多分、今まで殴ってたのもそういう理由でしょ?本当にごめん。」

 

清夜は精一杯の謝罪を込めて頭を下げる。

だが彼は分かっていない。

そんなことよりデリカシーのなさを謝らなければならないことを

エリカは頬を赤くして怒りはじめる。

 

「そ、そんなんじゃないわよ!!全部アンタのせいよ!こんのっ、ウスラトンカチ!!アシュクロフト先輩に呼び出された時、本当は一緒にケーキ食べにいこうと誘いたかったのにできなくて!!自分勝手な話なのは分かってる!!だから何だか誰にぶつけていいか分からない怒りが溜まってこうなったの!!!!というか昨日の昼休みは明菜と放送室に入っていったでしょ!?なにしてたのよ!?」

 

大きい声で長い説教(?)

これでは休んでいるクラスメイトの目も集まってしまう。

エリカはとうとう顔一面真っ赤にすると小さく「すみません」と言いながらも清夜を睨みつけた。

 

「いや、あのね。先輩との話は部活連の勧誘で今日から副会頭になったの、それで活動の一環として放送部を見学してたんだ!。本人には秘密にしてね、だからそんな怖い顔して睨みつけないで!あと殴るのなし!なしでお願いします!」

 

清夜は手で頭をガードしながらしゃがみこむ。

この状況でも『ブランシュ』のことは言わずに筋が通った嘘をつくとは流石、武器商人だ。

だからなのか殴られることはなかった。

エリカは小声で呟く。

 

「ケーキで許すわよ・・・・・」

 

それと、もうちょっと私のこと知ってほしいな・・

 

「はい?」

 

「ケーキで許すって言ってんの!さっ、はやく終わらせちゃいましょう!あぁ〜もう恥ずかしい・・・」

 

エリカは熱がひかない顔を隠すかのように据え置き型CADに向かった。

 

(落ち込んだり、怒ったり、よく分かんない子だ。面倒するのは嫌なんだけどな・・)

 

それでも清野は満更でもなさそうにエリカの課題に付き合うのであった。

 

〜数分後〜

 

「1070ms・・・また遠のいちゃったね・・」

 

「うぅ・・・」

 

気持ちが切り替わって終わるのかと思われていたが未だに終わっていなかった。

どうやら気持ちや集中力がどうこうの話ではないようだ。

エリカが涙目になって見てくる。

 

「涙目になるくらいなら素直に意見求めればいいのに」

 

「教えて!」

 

「はやっ!?まぁいいや、とりあえず理由は聞かずに右手だけでやってみなよ。」

 

エリカは言われた通りやってみる。

するとタイムが一気に縮まる。

 

「1010ms!?すごい!速くなった。なんでなんで!?」

 

「エリカは普段、魔法を使うときってあの警棒だけだよね?つまり片手だけのほうがサイオンを操りやすいと思ったんだ。ほら、速く終わらせよう?」

 

「うん!」

 

そんな二人を少し離れたところで見ている美月。

『やれやれ』とでも言いたいような表情をしている。

実は美月だけは何故エリカが怒っているかは予想がついていた。

それでエリカに相談されたときも清夜のことじゃないかと言ったのだが聞き入れてもらえなかったのだ。

 

「まったく、気にしてないって言ってたのに、やっぱり気にしてたんじゃないエリカちゃん。清夜君も少しぐらいエリカちゃんを見てあげたほうがいいですよ。」

 

「どうした美月?」

 

「いえ、何でもありません。さっ、次で終わらせましょう達也さん。」

 

この数分後、いつものメンバーはレオを除いて全員終了。

しかし、レオだけは終わらず達也と清夜に教えてもらい、やっとクリアしたのであった。

 

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2095年 4月15日 東京 八王子

 

放課後、まだ夕暮れというには少し早い時間。

深雪は学校近くの商店街を物陰に隠れながら移動していた。

俗に言う『尾行』というやつだ。

 

(一人で下校・・・ではなさそうね。コミュターがある駅とは正反対の方向ですし。心の色は前と変わらず普通の水色だけど・・・)

 

その相手は一高の二科生の制服を着た男性。

黒髪のつんつん頭で体格は服越しからだと平均的、顔は美男子とも言えなくない(深雪からだと非常に微妙。無論、お兄様は世界一!)が悪く言えば軟弱、草食系な顔つき。

つまりは清夜だった。

深雪が生徒会の備品を買いに出たところ、一人で校門を出る清夜を発見した次第である。

 

(そもそも、昼休みに今日から副会頭として働くと話していたのに放課後すぐに下校すること自体、おかしいわ。・・・もしかして、彼は『エガリテ』のメンバー!?)

 

なんて考えをしながら店の看板、置物などに隠れながら追いかける。

それに対し清夜はキョロキョロと周りを気にしながら歩いている。

無論、深雪の中で清夜に対する疑念が膨れ上がっていった。

 

(周りの目を気にしている?・・・あ、止まった。ということはここが・・・)

 

「ククッ・・司波さん。さっきから目立ってるよ。」

 

「ひゃ、ひゃい!あいた!」

 

突然止まったと思いきや深雪に喋りかける清夜。

深雪は思わず尻餅をついてしまった。

清夜は深雪に近寄り手を差し伸べる。

 

「ごめん、驚かすつもりはなかったんだけど・・・大丈夫?」

 

優しい笑顔・・と言っていいんだろう。

だが深雪はあえて手を取らず立ち上がった。

 

「・・・気づいてたんですか?」

 

「司波さんは隠密とかにはむかないんじゃないかな?司波さんは美少女だから周りの目につくんだよ。常に周りが俺の後ろを注目してるとなると流石にカーブミラー越しに見たくなっちゃうよ。」

 

「一応・・褒め言葉と受け取ります。」

 

といってもナンパの類として深雪は認識しているが・・

深雪は周りを見渡す。

確かに言われた通り周りの人は全員深雪を見ている。

端から見ればストーカー。

それに気づいたのか恥ずかしさと悔しさが混じった表情で清夜を軽く睨みつけた。

清夜は苦笑い気味に質問する

 

「う〜ん・・それで何で俺を尾行しているんだい?」

 

「清夜さんこそ何をしているんですか?今日から部活連の仕事が始まるのでしょう?」

 

「だからその仕事中。備品の買い出しに来たんだ。」

 

「はい?」

 

清夜が指で右を指した先には文房具店。

鉛筆から購買部や普通の商店にはない3Dプロジェクターの記録フィルムまで売っている学校御用達の店だ。

そして深雪の買い出しの目的地でもある。

深雪自身、今まで買い出しを忘れていたが・・

 

「それでどうする?これから買い物するけど尾行続ける?」

 

「・・・いえ、やめときます。私も生徒会の買い出し中でしたから。一緒に買いましょう。」

 

二人は店の中に入っていく、。

二人の距離は近いはずなのにその姿は仲睦まじいとは言えなかった。

 

〜数分後〜

 

一緒に買い物はしているが話すわけでもなく、ただ黙々と品物を集める二人

その途中、我慢できなかったのか深雪がこう切り出した。

 

「理由を聞いたり、怒ったりはしないのですか?」

 

「フフーフン♪理由は俺がブランシュのメンバーだと思ったからだよね?達也ほどじゃないけど二科生なのに悪目立ちしすぎた。そう思われるのも仕方ない。怒ってもいないよ。だって達也のため・・・つまりはお兄さんのためなんだよね?」

 

「・・・っ!」

 

(見抜かれてる!・・・)

 

清夜の心の色が深い藍色に変わっていく。

色からすれば殺意とは思えなかったが母親から遺伝した魔法的直感が深雪に冷や汗をかかせた。

だが清夜から思わぬ答えが返ってくる。

 

「なら、とことん疑い、調べればいい。」

 

「へ・・ぁ・・・え?な、なんで?」

 

先ほどまでの恐怖と意外な回答の驚きで深雪は上手に話せなかった。

普通なら優等生のおかしな反応に笑うとこだが清夜は真面目に語り出す。

 

「だって怪しいと予感していたのに何も出来なかったんじゃ達也が傷ついた時に悔しいじゃないか?大事な家族を守るためならどんな事でもすべきだよ。無論、犯罪などを回避して解決できるならそれに越したことはないけどね。」

 

最後は優しく微笑みながら諭す清夜。

深雪は再び心の色を見る。

数十秒前は深い藍色だったのが優しさや穏やかを示すオレンジ色に変わっていた

 

(好意というわけではない。なのにその色は何?家族にむけるような・・そういえば聞いたことがありませんでした。)

 

深雪は八雲の言っていた妹を思い出した。

もちろん八雲の言っていた人物が清夜と確信したわけではない。

それでも深雪は清夜の家族が気になって仕方なかった。

 

「あの・・ではお言葉に甘えて、質問をしていいですか?」

 

「するだけならどうぞ。答えないかもしれないし、嘘をつくかもしれないけど。」

 

「清夜君には・・妹さん・・がいますか?いや、そのですね、私達兄妹を気にかけてるように見えるので・・」

 

清夜の表情が一瞬曇った。

いや、百人中百人が「変わってない」と言うぐらい一瞬だったのだが深雪にはそう感じた。

しかし事実として清夜はショックを受けていた。

 

(気にかけたつもりはなかったんだけどな・・しかもピンポイントで妹と来たか。いないとは言えないな少なくとも後ろには九重八雲がいるんだ。いることはすぐにバレる。なら・・)

 

「ああ、いるよ。俺が家族と呼べるのは妹の冬華だけでね。俺とは違って何でもやれば人並み以上の結果を出すし歳は俺の一つ下だけど勉強も俺より出来る、何より他の魔法師の一つ上をいく魔法の才能がある。自慢の妹さ。そういった意味でシンパシーを感じたのかもね。」

 

「妹さんは今どうしているのですか?」

 

「今はイギリスの大学にいるよ。この先どうするのかは聞いてないけど。これで満足?」

 

満足かと言われれば満足ではない。

深雪は何か霧のような物を掴んでいる気分だった。

 

「・・いえ、今はそれで結構です。」

 

だが深雪はそれ以上質問するつもりはなかった。

深雪達自身も秘密を抱えて第一高校に来たのだ。

きっと自分達と似たような事情があるのだろう・・深雪はそう思うようにした。

甘いのだろう。

でも清夜が妹を語る姿は兄似て、深雪にはとても悪い人とは思えなかったのだ。

 

「じゃあ並ぼうか。」

 

「はい」

 

二人は入り口近くのレジに並ぶ。

来る時間が悪かったのか、文房具店の割に長い列がレジに出来ていた。

深雪は話すことが思いつかなくなり、ふと外をみる。

 

(あら?あれは雫にほのかに・・もう一人は知りませんが一体、何を?・・)

 

深雪の中で、ここ最近の彼女達の行動が引っかかった。

彼女達は達也を襲った人物について探っていたこと、そして匿名通報の写真に写っていた剣道部の部長を探していたことを・・

深雪はまた冷や汗をかく。

先程よりかは怖くないがそれでも嫌な予感がするのは変わらなかった。

 

「清夜君!会計をお願いしていいですか!?私は少し外を見てきます!」

 

「え?あ、うん。」

 

「お願い」と言ってはいるが深雪は言い切る前に籠を清夜に預け外に出た。

清夜は勢いに負けて引き受けてしまう。

しかし清夜は深雪が外に出る姿を見ると清夜の中でも嫌な予感を感じた。

武器商人の勘ほどではない。

それでも清夜は一度列を抜け、思考通信を始める。

 

『アル、聞こえるか?』

 

『はい、何かありましたか?こちらはまだ話を続けていますよ。司波君にも気づかれていません。』

 

現在、アルテミシアは部活連の仕事として(命令は清夜だが)達也と話をするという剣道部の壬生をマークしている。

その進捗も気になるとこだが今は別の指示をだした。

 

『二人の会話の内容は後で聞く。今はそれよりも情報部に連絡。衛星で司波深雪を見つけて監視しろ。先程までいた座標を送る。』

 

突然の指示だが社長の雰囲気で語る清夜にアルテミシアは落ち着いた口調で答える。

 

『了解しました。今は放課後なのでアシュリー達や翠達を送れますがいかがしますか?』

 

『そこまでしなくていい。というより彼女たちを動かすだけの根拠がない。武器商人の勘とも言えない。念のためだ。』

 

『了解しました。何かありましたらエレンさんを通じて連絡させます。それでは』

 

そうして思考通信を切る。

清夜は核弾頭並みの威力の地雷を踏もうとしていることにまだ気づいていない。




う〜ん・・・シリアス系や戦闘はマシになってきた(自画自賛)と思っているけどエリカとのシーンがイマイチ上手くいかない。イチャイチャさせたくはないんだがなんというか・・・

次回予告!!

久しぶりに登場!美少女探偵団!(後ろからヒーロ物で使われる爆発ドカーン!)
そして魔王と破壊神の殺し合いの火蓋が切って落とされる・・・

次回もお楽しみに〜

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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34話 VS司波達也 Round1

34話です!
ええ、わかってます。出せないとか言ってたのに出せちゃいましたよ。
意外と電車の移動中に書いてたら出来ちゃいましたよ!
あとデレステのリセマラで速水奏ssrがでない(ぼやき)・・・

前回までのあらすじ!
エリカとの喧嘩(?)も終わった清夜。放課後、深雪は一人学校を出た清夜を見かけ尾行するが簡単にバレてしまった。だが怒られるわけでもなく一緒に買い物となったのだがそこで深雪は美少女探偵団を見つけたのだった。


2095年 4月15日 東京 八王子

 

「どこまで行くんだろう?」

 

「そろそろ学校の監視システムを出ちゃう」

 

「むむ〜名探偵エイミィの勘がビビッときますな〜」

 

ここにも同じく尾行をしている者達がいた。

明智 英美ことエイミィとほのか、雫を含めた美少女探偵団だ。

といってもその尾行は深雪よりも酷い尾行(本人は真面目に尾行しているが)。

盛大に足音を立てるし、しきりに隠れる所を変えるから周りから怪しい目で見られている。

 

このお粗末な尾行の発端は達也が襲われた勧誘期間後に巻き戻る。

勧誘期間後、美少女探偵団は独自に調査(調査と言えるものじゃないが)

達也の襲撃者が剣道部部長の司甲と突き止めて匿名の通報システムで通報したのだが一週間経っても音沙汰なし。

そんな時、部活があるはずなのに下校をしている司甲を見つけ尾行を始めたのだ。

 

「雫、エイミィ・・私、なにか嫌な予感がするの・・・」

 

「実は私も!」

 

「私だって不安がないわけじゃない・・でも・・」

 

雫の言葉で三人は見つめ合って思う。

私たち三人なら・・・と

一科生だからという自惚れではない。

三人の絆ならという意味合い。

だがそれも自惚れに過ぎないことを後に知る。

それは司甲の突然の逃走から始まる。

 

「気付かれた!?」

 

「それよりも今は追わなきゃ!」

 

三人は形振り構わず走り出した。

司甲は店の間の狭い路地を巧みに駆け、三人もそれを追いかける。

しかし追跡むなしく、最後は司甲が逃げた角で見失ってしまった。

 

「あれ、いない・・」

 

「逃げられちゃ・・」

 

ブォン!ブォブォブォンッ!!

 

エイミィが悔しさを言おうとした時、複数のバイク音が響いた。

三人が後ろを振り向くと4台のバイクが走ってきて取り囲んできた。

乗っている男達は黒のライダースーツに黒のヘルメット。

普通に見ればライダーだが統一された格好が自分たちを襲おうとしていると察知させる。

三人はその危機感で無意識に身を寄せ合った。

 

「な、なんなんですかあなた達は!」

 

「コイツらか。我らのことを嗅ぎ回っているのは」

 

男達は質問に答えずジリジリと近づく。

このままでは捕まると思い、雫が二人に耳打ちする。

 

「二人とも、合図したら走るよ。CADのスイッチを・・・」

 

二人は気付かれない程度に頷きCADを構えた。

 

「我々の邪魔をする者は例え子供だろうと・・・」

 

「GO!!」

 

男の一人が近づいたのを皮切りに三人は走り出す。

男達は慌てて手を伸ばすがタイミングが良かったのか虚をつく形で包囲から逃げ出せた。

 

「逃がすな!!」

 

「ちぃ!!」

 

それでも男の大人と女子高生。

すぐに追いつかれエイミィが捕まりそうになる。

その直後、エイミィはスピードを上げるでもなく、むしろ振り返って男と対峙し

 

「ただの女子高生だと・・・思わないでよね!!」

 

ズドン!

 

「ぐぁ!!」

 

魔法によって圧縮された大気をぶつける収束系魔法『風槌』を発動させ男達に叩きつけた。

この魔法は空気弾をぶつける『エア・ブリット』に似ているがこれは圧縮率を下げることで威力を犠牲に発動速度を上げた魔法だ。

無論、殺傷能力はないが殺さず男を倒れこますにはうってつけだ。

 

「エイミィ!?」

 

「自衛的先制攻撃だよ。殺してもいないし。」

 

エイミィは可愛くウインクして答える。

しかし、そんな余裕もなく男達は起き上がって追いかけようとする。

 

「ッ!私も!」

 

ピカァッ!

 

「クソッ!!視界が!」

 

今度はほのかが『フラッシュ』の魔法で目くらましを仕掛けた。

ほのかは家の性質から光波を操る魔法を得意としており、その威力は以前使っていた清夜や翠のものを超えている。

その威力のおかげで男達は目を抑えるどころかしゃがみ込んだのだ。

 

「行こう!」

 

「うん」

 

「あと少しで出れるよ!」

 

三人は路地から脱出しようと再び全速力で走り出す。

表通りまであと少し。

男達もまだ全員立ち上がれていない。

 

私たち三人なら・・・

 

そう確信した次の瞬間だった。

 

「くそ!!この化け物め!これでも喰らえ!」

 

キィィィィィィィ!

 

男達は指輪を出したと思うと

突然、不快な音とともに三人の頭が痛みだした。

頭が割れるような痛みだ。

 

「「「きゃぁ!!」」」

 

三人はその痛さに膝をついてしまう。

男達は指輪を見せつけながらゆっくりと立ち上がった。

 

「ふふ。苦しいか化け物・・」

 

「司様からお借りしたアンティナイトによるこの『キャスト・ジャミング』がある限り、お前らは魔法を使えない」

 

そう、これはキャスト・ジャミング特有の魔法師にしか分からない痛み。

ほのか達、いや軍の魔法師でもこの人数で近距離の『キャスト・ジャミング』は耐えられない。

軍人でもない3人は魔法が使えなくなれば抵抗する術はない。

それでも三人は諦めない。

 

「ほの・・か・・・」

 

「・・・っ」

 

「まだ抵抗できるようだな」

 

キィィィィィィィ!

 

『キャスト・ジャミング』の出力を上げる男達。

さらに強くなる痛さに、とうとう三人は横に倒れてのたうち始めた。

 

「アア・・・ガァッ・・・」

 

男達はニヤケながらその様を見続ける。

そして雫とエイミィが気絶し、意識があるのはほのかだけとなった。

 

「エイミィ・・・雫・・・」

 

1分ほど経ったが未だ気絶しないほのか。

男達は痺れを切らしたのかナイフを取り出した。

 

「ちっ、もういい殺すぞ」

 

「ああ、ここで死ぬがいい化け物!」

 

(深雪!・・・達也さん!)

 

男達は声を上げてナイフを取り出す。

それに対し来るはずのない人達を思うほのか。

しかし思いは叶った・・・半分だけ

 

「ほのか達から離れなさい」

 

バキィン!!

 

ナイフが氷付き弾けた。

『キャスト・ジャミング』がある以上、魔法とは思えない。

だがそれはあきらかに魔法によるものだった。

 

「ひっ!・・」

 

男達は恐怖と後ろからくる寒気に思わず震え上がる。

頭が割れそうな痛みに耐えながら、その声の主の姿を見ようとほのかは視線を向ける。

そこにはCADを片手に立ち尽くす深雪の姿があった。

 

「みゆ・・・き・・?」

 

「バカな!?これは純度が高い特注品だぞ!」

 

「非魔法師の『キャスト・ジャミング』など私には通用しません」

 

冷たく告げる深雪。

その表情は静かな、冷酷な怒気にあふれていた。

それでも信じられるわけなく男達は指輪を構えなおし襲いかかる。

 

「おい!もっと出力をあげろ!!どうせ、はったりだ!」

 

「無駄です・・・」

 

深雪は静かにパネルにさわる。

発動させるのは頭を揺さぶって中度の脳震盪を起こす振動系魔法『震盪波』

 

「「「「グァァァ!!」」」」

 

男達は結局、触れることすらできずに倒された。

これが魔法師としての才能の差。

深雪ほどの干渉力があれば4人の『キャスト・ジャミング』など紙くず当然。

才能の差を実感したと同時に深雪が助けてくれたことに安堵するほのか。

意識を保つのはもう限界だった。しかし・・

 

「大丈夫?」

 

深雪が駆け寄ろうとした時だった。

深雪の後ろに増援と思しき同じ姿の男達4人をほのかは捉えた。

ほのかは気絶しかける寸前、力を振り絞って叫んだ。

 

「深雪!後ろ!!」

 

「!?」

 

ガシッ!!

 

ほのかが気絶し、深雪が振り返ると邪悪な笑みを浮かべてナイフを振り下ろす男が一人。

だが深雪が斬られることはなかった。

 

「清夜君!?」

 

「イタタ・・・ごめんね。お兄様じゃなくて」

 

そこにはナイフを片手で受け止める清夜がいた。

健気に笑っているが手からは血が滴り落ちている。

深雪は驚きを隠せない。

振り返った時には見えなかったのに目を閉じて開けた時には現れていたのだ。

男達も同様だ。

完璧な不意打ち、周りにも警戒していたのに接近すら気づけなかったのだから。

 

ギギギ・・・バキンッ!!

 

「なっ!?片手でへし折った!?なんなんだ貴様!どこk・・ガグォ!!」

 

ドゴォッ!!べきっ・・・

 

男の骨が折れる音がむなしく響いた。

清夜は叫ぶ男の胸に強烈な肘打ちを叩きつけたのだ。

その表情は無表情に変わっていく。

 

「こんなオモチャじゃ簡単に折れるに決まってんだろ・・」

 

「化け物が!!正義の鉄槌の邪魔するか!」

 

「死ねっ!」

 

今度は男2人が挟み込んで斬りかかってきた。

対して清夜は一歩も動かず腕輪型CADを操作するだけ

 

ドガン!!ビギギギギギギ・・・

 

「「「ガバァッ!!・・」」」

 

斬りかかった男たちは両壁に、もう一人は地面に叩きつけられた。

特別な魔法ではない清夜が使ったのは単純な移動系魔法。

しかし、その威力は壁や地面の凹みを見れば一目瞭然だった。

しかもそれだけではない。その後は加重系魔法を使って押しつぶしている。

 

「うぅ・・がぁ・・もう、やめt・・・」

 

ギギギギギギギィ・・バキッ!・・バキッ!

 

「やめるわけねぇだろ。テメェらがどんな正義かがげているかは興味ねぇが、子供殺そうとして正義を名乗れると思うなよクズ。」

 

さらに出力を高め押し潰していく。

歯が抜け血が出て、顔が潰されてグチャグチャになっていようとも言葉通り辞めようとしない

男たちは抵抗も出来ぬまま恐怖しながら意識をなくした。

 

「お〜わりっ!!無事?・・・ではなさそうだね・・後ろの三人は。とりあえず怪我がないか確認しよう。手伝って」

 

男達が気絶したのを確認すると無表情から一転、やさしい表情で話しかける清夜。

本当はそんな優しい気分じゃない。

出来ることなら男達を虐殺してやりたい。

だが同級生の、それも自分を怪しんでいる人物の目の前で殺すのは出来れば避けなければならなかった。

 

「・・・・は、はい。」

 

深雪は呆気にとられ少し間を空けてから答えた。

圧倒的な魔法力。

森崎の試合では見れることがなかったがこれほどとなると干渉力で負けたのも納得できた。

 

(なんて干渉力・・・というより攻撃に手加減どころか躊躇すらない。だからこそ一方的・・・でもお兄様なら・・)

 

それでも深雪の兄が最強である自信は揺るぎはしなかった。

 

〜数分後〜

 

別条がなかった三人はその後すぐに目覚め深雪達に感謝し、事情を話した。

そして話し合いの結果、深雪の事情で大事にはせず男の処遇を深雪に任せることに決定し美少女探偵団は帰っていった。

深雪は優しく見送りながら清夜に尋ねる。

 

「・・・どうしてここが?」

 

「司波さんが出たあとに怪しいバイク乗りが走って行ったんでね。嫌な予感がして追いかけたらここに着いた。」

 

本当は監視していた情報部から連絡があって駆けつけたのだが清夜にそれを話す気はない。

幸いにも深雪からの追求はなかった。

話の筋がそれだけ通っているということだろう。

今度は清夜が尋ねた。

 

「で、どう処分するの?やり方に文句はつけないけど見届けさせてもらうよ。」

 

「分かりました。それでは九重先生に身柄を預けようと思います。電話してきますので彼らを縛り上げといてもらえますか?」

 

「うん、任された。」

 

そうして深雪は電話をしに一旦離れた。

一人残された清夜はその後ろ姿を静かに見つめる。

 

(何をしているんだ俺は?・・・あえて助けなければ達也は怒って本気を出すだろうし、その副産としてブランシュをある程度抑えられただろうに。エリカとのこともそうだ。もしかして、おかしくなっているんじゃないか俺?・・・)

 

過剰防衛はともかく、人としては正しい行動でおかしいということはない。

だが復讐鬼(・・・)の清夜には致命的な異常と思えてならないのだ。

 

”矛盾”

 

という武器商にふさわしい言葉が頭に浮かぶ。

心から余裕と冷静が失われ、そんな思いを誤魔化したくなってくるとタイミングよく思考通信がかかってきた。

 

『マスター、今よろしいですか?』

 

『アルか。どうした?』

 

とても悩んでいるとは思えない清夜の口調ぶり

『ボスはそういう弱さを部下に見せない。』

これはココの部隊にいるレームからの教えだった。

 

『サヤ達の会話が終わったんですけど突然、司波君が血相を変えて走り出したものでどうしたものかと・・』

 

『何だい、それは?』

 

『私もよく分からなくて、司波君はそのまま学外に出てしまいました。』

 

『まさかと思うけど・・・』

 

深雪のピンチを察知して走り出した。

なんて、ありえない予想が清夜の頭をよぎる。

その予想は上から来る鋭い殺気とともに現実のものになった。

 

「やはりお前は敵だったか・・・式 清夜!!」

 

「なっ!?達也!?・・・グフゥッ!!」

 

ドガァ!!

 

上から飛び降りてきた達也の踵落としが清夜に襲い掛かる。

これをギリギリのタイミングで腕をクロスし頭への直撃を防ぐ清夜。

それが唯の踵落としでないのは清夜にはよく分かった。

 

(加重系と加速系!?しかも今、起動式なしで魔法式を直接展開(・・・・・・・・)したぞ!?)

 

「やめろ達也!クッ!!」

 

「黙れ、深雪に傷つけようとして俺が気づかないと思うなよ。お前だけは絶対に殺す・・」

 

ガッ!ガッ!ドガッ!!

 

勘違いしている達也の攻撃は止まらない。

清夜の逃げ場を塞ぐように着地したと思いきやバネのように跳ね上がりながら掌打

次に左からの抉るようなボディブローでつなぎ

最後はグルンと回ってからの強烈な回し蹴り。

清夜は全て紙一重で防いでいたが最後の回し蹴りでそのまま壁に激突して崩れ落ちてしまった。

 

「ガハッ!!・・・クソ・・」

 

完璧な奇襲は敵の戦闘力を半分に落とすとまで言われている。

そんな言葉を体現化させたような達也の奇襲

さらにタチが悪いのは魔法。

一歩踏むごとに振動系魔法を使って揺れを増幅し、清夜のバランスを崩しているのだ。

ゆえに清夜は体勢、起動式の準備すら整えることができない。

 

「終わりだ」

 

ガシャ

 

達也は銀のCAD『シルバーホーン』と冷たい視線を清夜に向けた。

清夜にはそれがどんな魔法を使うかまだ分からない。

だが武器商人の、戦闘の経験から

 

 

殺される

 

 

そう直感した瞬間、清夜の思考が加速した。

心から余裕と冷静が失われた状態で

 

シ、シヌ?ナンデ?フユカノカタキトレテナイ・・・アクヲホロボシテナイノニ・・・

イヤダ、デキナイ、死ヌことナンテできない、いやイヤ嫌イヤ、絶タイに・・・

 

「死ねるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「!?」

 

達也は思わず、本能的に一歩下がってしまう。

怒声に怯えたのではない。

清夜から噴き出たドス黒い禍々しい光(・・・・・・・・・)が達也を下がらせたのだ。

 

(なんだこの黒いのは!?まさかサイオンなのか!?しかも今まで見た誰よりも量が多い!!とにかく一度投げ飛ばしてから雲散霧消で・・)

 

達也は片手背負い投げをしようと手を伸ばそうとする。

その瞬間、地面に手をついていたはずの清夜が突然、達也の目の前に現れた。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

「なっ!!ブォッ!?」

 

ドゴォッ!!

 

清夜の右ストレートが達也が腕を伸ばしきる前(・・・・・・)に顔に直撃した。

物理的にも精神的にも達也の表情が歪む。

 

(速い!?立ち上がる姿すら見えなかった。いや、それよりもカウンターだ。俺の手は掴むどころか伸ばしきれてさえいない!!反応速度0秒のカウンターとでもいうのか!?)

 

気づくとすでに達也自身が壁際に追い詰められていた。

清夜のクロスレンジに危険を感じてはいるがこれでは下がることも出来ない。

とにかく突き飛ばさなければならない達也は左膝で膝蹴りを仕掛ける。

 

「っ!!」

 

ボキィ!!

 

しかし、またもや攻撃しようとした瞬間(・・・・・・・・・・)に清夜は左にサイドステップ。

そのまま達也の右腕を掴んで折ったのだ。

これで先ほどのがマグレの類じゃないと理解した達也。

それもそのはず、これは清夜の『Electrical Command(電気命令)』を利用した技。

本来、攻撃を受けそうになったとき人は脊髄反射以外、感覚器→脊髄→大脳(感覚野)→(分析・判断)→大脳(運動野)→脊髄→筋肉という過程をえて防御、回避が行われる。

だがこの技はあらかじめ、敵の攻撃方法に対応した動きをプログラムで設定しておくことで発動中、攻撃を知覚した瞬間に『Electrical Command(電気命令)』による電気信号が走り体が自動的に動くようになっている。

これにより反応速度が0秒に限りなく近いオートカウンターが実現したのだ。

一見、クロスレンジ最強の技に見えるが実は欠点だらけ(・・・・・)で清夜が実戦に使うのは滅多にないのだがそれはまた別の話。

 

(今はマグレでもどうでもいい。クロスレンジだがここで使うしかない!)

 

達也は腕を折った清夜の隙に勝機を見た。

清夜は腕を折ってCADを手放させようとしていたようだが達也はCADを手放さなかった。

例え手放そうとも達也は無媒体でその魔法を使える。

敵を文字通り塵にする魔法(・・・・・・)を・・

 

カシッ

 

達也は迷うことなく引き金を引く。

しかし清夜が塵となることはなかった(・・・・・・・・・・・)

むしろ、より殺意を尖らせて達也に攻撃を仕掛けてくる。

 

「こんな所でっ!!死ねないっ!!」

 

「な!?ぐっ!あぐぅっ!」

 

ザクッ!

 

清夜はいつの間にかナイフを取り出して達也の右腕を刺す。

暗器を警戒した戦い方は小さい頃から徹底されていたが達也は清夜のナイフに気付けなかった。

いや問題なのはむしろ魔法が効かなかったこと、これは先程の驚きを遥かに超えていた。

 

(エラー(・・・)!?何が起きたんだ!?)

 

達也の魔法の腕が悪かったという訳ではない。

実は清夜は叫んだと同時に自分の肌と同色の未元物質を薄く展開していたのだ。

これによってと『メルディン』や『AMS-04』同じようにイデア上で未元物質化し自分のエイドスが隠され、達也の魔法が対象不在のエラーになったということだ。

普段の達也なら興味が尽きない場面だが今は戦闘中、驚きもまとめて感情の高鳴りを抑えた。

 

「っあ!!」

 

「ちっ!」

 

ガンッ!

 

達也は刺された直後に頭突きで無理やり清夜を引き離し距離を取り、再び意識を右手の魔法に集中させた。

もしかしたら先程のは何かのミスだったかもしれない。

そう思って同じことをするのだ。

しかし

 

「清夜君!?まさか・・お兄様!誤解です!清夜君は敵ではありません!彼が守ってくれたんです!」

 

「!!・・深雪・・・」

 

黒いサイオンを感じて戻ってきた深雪が兄を呼び止める。

清夜を心配してではない。

深雪と達也には魔法師としてある一つの在り方を目指している。

それは兵器ではなく、人間としての魔法師。

誤解とはいえ、無実の人間を殺してしまえば、人間ではなくただの兵器としての魔法師に成り下がる。

兄妹にとって、それだけは断じて許されないことなのだ。

達也は深雪の言葉で正気に戻り戦闘を止めた。

おそらく深雪の意図も理解したのだろう。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

ガッ

 

でもそれは兄妹の話。

殺されかけている者にはそんなこと知ったことじゃない。

清夜は達也の頭と顎を掴んで力を込めた。

 

「お兄様!!」

 

「くっ!!離せ!」

 

ドゴォッ!!

 

首を折られると分かった達也は空いてる左で清夜の顎をアッパーを喰らわせる。

ダメージが溜まっていたからか、ノーガードだった清夜はそのまま気を失う。

達也たちは気づいていないが未元物質も同時に消失する。

しかし行動が終わったわけではなかった。

 

グゴギッ!!

 

「ガヴァッ!!」

 

「お兄様!?」

 

へし折った。

清夜は気絶しながらも達也の首を折ったのだ。

清夜の手から力が抜け前のめりに倒れる。

それと同時に達也の左の、呪いの魔法が動き出した。

 

 

 

首の骨折を確認

自己修復術式オートスタート

コア・エイドス・データ、バックアップよりリード

魔法式ロード・・・完了

自己修復・・・完了

 

 

 

かかった時間は刹那ほど。

達也は何事もなかったかのように意識を戻した。

深雪は急いで駆けついて達也の状態を確認する。

 

「お兄様!今、首を・・・」

 

「大丈夫だ深雪。俺の魔法はお前もよく分かっているだろう?でも、魔法なしで殺されるなんてな。黒いサイオンも含め何かあるようだ。」

 

「ですが無抵抗になったお兄様を攻撃するなんて許せません!いっそ、ここで・・」

 

「そこまでだ深雪。元々は俺の誤解で死にかけたんだ。俺が攻撃を止めたところで殺されかけた相手の防衛本能は許してくれないさ。それにお前の命の恩人である清夜を殺したら、それこそ俺達は人間ではなくなる。」

 

「そうですね」と深雪が言おうとした時

清夜の中でも何かが起動した。

 

 

 

 

 

外傷による戦闘力、低下を確認

 

 

 

D&%bo○!s □x  M&c%ina System 起動

 

 

 

下位個体『 De?p Sn0w 』の反逆意思を確認

脅威レベルをAと判定

守護者の『T¥e De5:r0y』ともに戦闘力の剥奪を開始する。

 

 

 

 

 

「ぐぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

「きゃぁぁぁぁぁあ!!」

 

直後、兄妹の頭が痛みだす。

キャスト・ジャミングの痛みではない。

頭の中で棘のついた虫が暴れるような痛さ。

それだけでなく霊体そのものを痛みつけられたような感覚もある。

再び達也の左の、呪いの魔法が起動するが

 

 

 

自己修復術式オートスたぁぁあぁぁととトトとととttttttttttooooo

 

ジョジョじょううuiいいこぉお体のけけけ毛けんけん権ggGgえぇぇ限によりkkkkkkkkyoyrfrseyうせい停止しシシィしsslia@dTgjdmwt

 

 

 

何かが邪魔するかのように止まってしまった。

そして痛みは終わることなく兄妹を苦しめる。

 

(自己修復術式が作動しない!?)

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ・・・」

 

「み、みゆき・・・っぅ・・・」

 

 

 

二つの下位個体の戦闘力低下を確認。

脅威レベル低下まで残り5分

同じようなことを繰り返さないために二つの個体に対する対応システム、戦略、戦術、新魔法の構築を推奨

推奨を許諾

これよrrrrrm#%m&m*mfjiperjvuwob@vno+prw;tjnwp?ndqdpm@

 

・・・お母さん(・・・・)・・くるしぃy・・

 

プツン!!

 

 

 

何の前兆もなく始まった頭痛は同じく何の前兆もなく終わる。

過ぎた時間はおよそ2分。

しかし体感した時間は1000倍以上。

二人は不思議な感覚のなか意識を持ち直した。

 

「・・・・あれ?ず、頭痛が・・・ハッ!お兄様!!」

 

「あ、ああ・・こっちは大丈夫だ。深雪も無事なんだな。」

 

「はい、今のは一体・・?」

 

「分からない・・・とにかく俺から離れるな深雪。まだ今の攻撃の術者がいるかもしれない。」

 

達也は自己修復が作動しなかったことを伝えない。

言えば深雪は心配し己すら達也を守る盾として動いてしまう。

二人は周りを警戒する。

 

「清夜君はどうしましょう・・」

 

「敵がいないのを確認したら俺の魔法で回復させて担いで学校まで連れていく。」

 

その清夜は未だ目覚める気配はない。

代わりに目からは一粒だけ雫が垂れ落ちていた。

 

 

怒りと憎しみの進化は止まることを知らない




というわけで優等生3巻のエピソードとオリジナルバトルでした〜。
試合に勝っても勝負には負けたって感じかな二人とも?
でもやられたまま黙っているオリ主ではありません。Round2までには強くなりますよ、きっと
え?死にかけてるなら砂鉄とか使え?いやいや多分、使えなかったんですよ。心に余裕なかったし(深い意味はない)

次回予告!

保健室で目覚める清夜。そこで彼の恐ろしさの片鱗が見えてくることに・・
そして敵の準備も着々と・・・

次回もお楽しみに!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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35話 悔しい

35話です!お久しぶりです!
就活が忙しくなり、とうとう2週間に一度を破ってしまいました。
話はまだつづけるのですが次回がいつになるのか分かりません!申し訳ないです。
あと映画化決定です!お兄様!
聞いた時にはその場でジャンプしてしまいました。

前回までのあらすじ!
暴漢に襲われた美少女探偵団を助けた深雪と清夜。しかしその後、達也の勘違いで殺し合いが始まり清夜を蝕む呪いが起動したのだった。そして司波達也は、伝説となる(ただのパクリ)


2095年 4月15日 第一高校 保健室

 

清夜はアルテミシアの叫び声で目を覚ました。

 

「どうしてそんなになるまで傷つけたの!?そこまで彼が憎かったの!?治癒魔法をかければいいって訳じゃないのよ!」

 

「待ってください!!誤解です!お兄様は・・」

 

どうやら深雪とアルテミシアの口論のようだ。

美少女二人に起こされるのは清夜にとっては夢みたいなものだったが

二人の高い叫び声は頭によく響いて痛くなる。

夢と現実の差に落胆した清夜は目を開いて重い体を上げようとした時、異変に気付いた。

 

(う、うるせぇ。寝起きなんだから静かに・・・て、あれ?俺何で寝てるの?)

 

ベットで横になったつもりはない。

では何をしていたか?

清夜は自問するがイマイチ思い出せない。

 

「う、う〜ん?・・・」

 

「起きたのね清夜君!体は動く!?」

 

「清夜君!怪我はありませんか?」

 

「清夜!痛むとこはないか!?」

 

清夜が体を起こすとそこにはアルテミシア、深雪だけでなく達也の立ち姿もあった。

周りを見渡すと薬品が入った棚に白いカーテン・・・つまりは学校の保健室だった。

 

「い、痛いとこはないけど・・・というか近い近い。落ち着こう。」

 

「落ち着く!?そんなことできるわけない!!あなたは一方的に攻撃されたのよ!」

 

アルテミシアは普段とは変わって鬼気迫った顔で清夜の肩をぎっちり掴む。

それとは対照的・・とも言えないが司波兄弟は沈んだ表情を浮かべた。

清夜は高い声で響く頭を手で抑えて問う

 

「いったいなんの・・・」

 

「ことですか」と清夜は言い切らなかった。

思い出したのだ。

深雪に尾行されたこと、暴漢を倒したこと、そして達也に奇襲を受けたことを

 

(そうだ達也から奇襲を受けて・・・そして俺は殴られて気絶したんだ・・・)

 

清夜の記憶から冷酷な表情で『シルバー・ホーン』を構える達也の姿が蘇る。

深雪は俯いた清夜の手を握って弁明する。

 

「違うんです!!お兄様は清夜君を私を襲った暴漢と勘違いして攻撃してしまったんです!」

 

「勘違いでも勘違いでなくても過剰防衛よ!魔法で威力を高めた踵落としに掌打、ボディブロー、トドメは回し蹴りって・・・殺す気!?無抵抗(・・・)の相手を一方的に痛めつけてておかしいと思うでしょう普通!?」

 

「・・・っ」

 

アルテミシアの正論に言い返せない深雪。

いや本当は言い返せるのだが達也にそれを言うのを止められていた。

清夜もすぐには言わなかったが数秒たって違和感に気付いた。

 

「え、無抵抗?・・・自分は達也に反撃したと思うのですが・・・」

 

「いや、反撃しなかった・・・というより”させなかった”だな。本当にすまない清夜。深雪の恩人であるお前を一方的(・・・)に殴ってしまって・・・」

 

「でも俺は達也の腕を・・・アレ?」

 

清夜は達也の右腕を触る。

清夜の記憶が正しければ達也の右腕は折られ、ナイフの刺し傷があるはず・・・

だが達也の腕はピンピンしているし刺し傷もない。

浅い擦り傷や軽い打撲程度なら治癒魔法ですぐに完治するが骨折や深い傷はそうはいかない。

昔と比べれば完治まで短くなったものの数日はギプスが必要だ。

つまり清夜の記憶は違ったのだ。少なくとも清夜の記憶(・・・・・)は・・・

 

「最後の方は頭を回し蹴りしてしまったからな。記憶の混濁があるかもしれない・・・。繰り返してしまうが本当にすまなかった。許してくれとは言わない・・・でも謝罪を・・・」

 

達也は拳を強く握りしめる。

清夜に怒ってるわけじゃない、自分に怒っているのだ。

自分の命よりも大事な深雪の命を守ってくれた恩人を殺そう(・・・)としたのだから

昔の達也ならこうなっても、ここまでは怒らないだろう。むしろ割り切るぐらいだ。

だから達也にとってこれは嬉しいことなのだが今は喜びよりも怒りが強い。

 

「・・・・いいよ、達也。許すさ、治癒魔法で治ってるようだし、反省もしている。何より友達だろ?繰り替えなければそれでいいさ」

 

「清夜君・・・ありがとう・・ございます」

 

「清夜・・・だがそれじゃあ・・」

 

清夜が達也に向けたのは少しぎこちない笑顔だった。

しかし、そのぎこちなさが逆に深雪を涙ながらに感謝させ、達也を驚かせた。

 

「いいの清夜君!?本来なら司波君は最低でも停学、悪ければ退学なのよ!?」

 

「はい、構いません。自分、友達作りが下手ですから達也にいなくなってもらうのは困るんですよ。ははは・・」

 

「でも・・・」

 

「構いません、先輩。」

 

「ッ!?」

 

アルテミシアは食い下がろうとしたが二回目の「構いません」で止まってしまった。

それは納得したというわけではない。

部下になって2年の経験で分かってしまったのだ。

達也に向けた笑顔は武器商としてのスマイルということ

「構いません」の本当の意味が「黙れ(・・)」という意味だと・・・

 

「まぁ、達也が納得いかないというならこれは”貸し”だ。君たち兄弟に一つずつ、大きな”貸し”。」

 

「ああ、分かった。ありがとう清夜。」

 

「はい、いつか必ず・・・ありがとうございます清夜君。」

 

二人は深々と頭を下げて感謝する。

おそらく助けたことも含めてなのだろう。

清夜はそのことに気づき、少し照れながら質問した

 

「あ、あのさ。それで俺はもう元気だし、帰っていいのかな?」

 

「待ってくれ、一応先生に診てもらおう。外にいるから呼んでくる。」

 

「お兄様、お伴します。」

 

そう言って二人は保健室を出ると互いの顔を見合いながら歩きだした。

二人とも安堵と疑問が混ざったような表情だ。

 

「よかったです。お兄様が退学にならなくて。」

 

「ああ、それに俺の魔法が気づかれないのもよかった。だが・・・」

 

「私たちに謎の攻撃をした謎の術者、そして清夜君ですね。」

 

「暴漢のこともある。まぁ、あれはブランシュだろうけど。」

 

謎の攻撃をうけた達也たちはあの後、術者を見つけることができなかった。

その後、暴漢を駆けつけた八雲に任せ、達也は左の魔法で清夜を回復させて学校に担ぎ帰ってるところをアルテミシアに見つかり咎められたのだ。

 

「攻撃の術者は手掛かりがないから、ここでこれ以上考えるのは難しいとして問題は清夜だな。師匠からの報告はまだだが数日過ごして改めて深雪は清夜をどう思う?」

 

「・・・何かを抱えているとは思います。ですが悪い人とは思えません。彼から妹さんの話を聞きましたがその時の彼はとても優しい目をしていました。私は彼を信じたいと思います。」

 

「そうだな。黒いサイオンのこともある。あいつも俺たちと同じく何か秘密があるのだろう。だが本当に悪い奴なら手に傷を負ってまでお前を助けないだろう。俺も清夜を信じようと思う。もちろん俺たちの秘密は気づかれないようにしなければならないがな」

 

「はい!私は嬉しいです。こうしてお兄様が友情を育まれるのですから」

 

「おいおい、俺はお前と同じ高校1年生だぞ・・・」

 

仲睦まじく歩く二人。

しかし、深雪は保健室にいる時見るべきだった。

始めて見たとき以上に真っ黒く濁った清夜の心の色を・・・

 

 

 

 

二人が出た頃、保健室は清夜とアルテミシアだけとなった。

そしてその瞬間、清夜の顔はホラーのように笑顔から突如、無表情になった。

アルテミシアは椅子に座り謝罪する。

 

「マスター申し訳ありません。学内護衛の私がいながら・・・」

 

「仕方ないさ。俺が君に仕事を頼んだのだから。エレンの説教は二人で受けよう。」

 

声色こそ明るいものの表情は変わらない。

変わっているとすれば瞳がだんだん小さくなっていることだ。

アルテミシアは人形と話している気分だった。

 

「冷静さを欠いてたとはいえ反撃は出来ていた思ったんだけどね。怪我をしてないところを見るに幻術だったのかな?どちらにせよ決戦用に『超電磁砲』の魔法の完成を急がせたほうがいいね。あと魔法を直接展開したのは素晴らしかった。俺もあの技術を身につけなければ・・・とにかく今日から実戦訓練を増やして対達也戦の戦術を組み立て・・・」

 

「待ってください!!治癒魔法で治ったものの完治したわけではありません!数時間空けて後二回は治癒魔法を受けなければなりません!ただでさえ社長業務後、私以上にハードな訓練をなさって体力的に危ないのに、さらに怪我してから訓練を増やすのですか!?しばらくは訓練をお休みください!これ以上は本当に体を壊します!!」

 

「アルテミシア・・・それは何の冗談だい?」

 

「ッ!?」

 

「これぐらいで休む弱い奴が復讐なんて出来るわけないだろう?冬華も弱い俺に期待していない。」

 

アルテミシアに悪寒が走った。

原因は間違いなく清夜から放たれているプレッシャー。

これが清夜の・・いやアイザック・ウェストコットの本当の怖さ。

その証拠に口調はアイザック・ウェストコットに変わっていく

清夜はアルテミシアの手をとり自身の胸を触らせた

 

「それにね俺、いや私の命の灯火はね憎悪と怒りでできているんだ。あの日、冬華を守れなかった弱い私と冬華を殺したあの男、そして全ての悪に対する・・・ね。分かるかい?殺す気でいた相手に殺されるどころか生かされてしまった弱い自分を受け入れてしまったらそれはすなわち”死”なんだよ。」

 

そう清夜は記憶が戻ってから本当は一度たりとも笑っていないし、照れてもいない。

憎み怒っているのだ。

 

「そ、それは・・・司・・波君が誤解に・・・気付いたから戦闘をやめた・・わけで・・・決して生かされた・・わけでは。」

 

多くの死地を経験したはずのアルテミシアが恐怖で震える。

味方だと、自分の主人だと分かっていても清夜の狂気を纏った目は恐ろしかった。

 

「でも負けた。テストならともかく”戦闘で”、”反撃も出来ず”にね。だが次は必ず俺が殺す・・・絶対にだ。」

 

「ぅ・・・あ・・ぁ・・・」

 

「大丈夫、俺から手を出す気はない。復讐という目的は忘れてないさ。でも分かるんだ。彼の性質上、必ず何処かで俺と殺し合うことになることが。その時にでも・・・というか達也たち遅いな。俺ちょっと見てきます先輩。」

 

アルテミシアはとうとう言葉すら発することができなくなった。

そんな姿には目もくれず笑顔で保健室を出る清夜。

本来なら怪我人を行かせるわけにはいかないのだが

代わりにアルテミシアはベットに泣きついた。

 

「うぅぅぅ・・・マスターぁぁぁぁぁ・・・・お願い・・・もうやめて・・・死んじゃ嫌ぁぁぁ・・・」

 

小さくも必死に絞りだしたような高い声。

慕っているからこそ本当は言いたかった。

「妹さんはそんなことを望んでいない」と、「あなたの命の灯火は優しさでできている」と、「その優しさの炎が自分たちを癒し温めた」と、「復讐なんてやめてください」と・・・

思えばキリがなかった。

だが言えない自分がこうして存在する。

それが清夜以上に悔しくて悔しくてたまらなかった。

 

数分後、式 清夜は許可をもらい下校した。

アルテミシアは付き添いとして一緒に下校するのだが

その時の彼女の目は何かを決心したような強い目だった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月15日 東京 ブランシュ日本支部  某支部

 

都会のど真ん中のあるビルの一室。

そこにブランシュのアジトの一つがあった。

いや、アジトというよりは表向きの市民団体で使われる事務所のようなとこだ。

中には男が三人。

メガネの男は窓の外を見ながら部下の報告を確認した。

 

「あの8人は帰ってこなかったか。」

 

「アンティナイトも持ってったので、にわかには信じがたいですが捕まったとしか・・・」

 

「たしかにな。だが警察に捕まるぐらいなら情報は入ってきそうなものだが・・・。内情か公安、もしや0課?いや、あれはそもそも都市伝説か。まぁいい、このまま消息を探れ。」

 

(奴らには口を閉じてもらわなければならないからな)

 

そう、白衣のようなコートにマフラーをかけた学者や博士を思わせるこの男こそ、

ブランシュ日本支部のリーダーにして美少女探偵団に暴漢を差し向けた張本人『司一』だった。

 

「はっ!!」

 

口封じの思惑なんて知らない部下は駆け足で部屋を出ていく。

部下が出て行くのを確認してもう一人の男が司一に謝罪した。

 

「義兄さん。すみません僕のせいで・・・」

 

司一の弟『司甲』だった。

司一は弟の肩にポンと手を置いた。

 

「お前のせいじゃない。話し合いのような穏便なやり方で選民思想を変えるのは元々無理だったんだよ。もう潮時だったんだ。だから甲、第一高校の同志に決起を促してくれ。」

 

「ということは・・!!」

 

「ああ、小松田達がやられた時にはどうしようかと思ったけどね。大亜連合で売られている直立戦車の強奪成功の報告があった。横浜にも戦力と武器を用意できたし第一高校の襲撃の準備は万全だ。ふふふ・・校内の混乱が最高潮になった段階で実行部隊と直立戦車を投入だ。」

 

だが司一のそんな甘い幻想はすでに綻び始めていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月15日 大亜連合 某所

 

綻びの始まりはかつて大亜連合の大手運輸会社が使っていた大きなトラックターミナル。

『使っていた』というのはすでに会社が倒産したという意味で

地元住民も近寄らないゴーストタウン(ターミナル?)と化しているが

実はそこがブランシュ本部の拠点の一つとなっていたなっていた。

 

「クリア」

 

「クリア」

 

「クリア」

 

武装した男達、エドガー、アラン、ポーの3人の声がむなしく響く。

司達がいたような事務所という意味合いの場所ではない本格的な基地。

しかし、そんな大きな拠点にも関わらず人の気配は(・・・・・)ほとんどなかった。

 

「オールクリア。たくキャスパーが商品をウチとは全く縁のない外部の会社の貸し倉庫に入れちゃうからこんな面倒になるんだ。ミーシャ(清夜のあだ名)にバレたらクビどころじゃないわよ。」

 

武装したリーダーらしきこの女の名はチェキータ。

式海運の頃から傭兵をしている古参。

近接魔法戦闘における清夜の師匠の一人だ。

 

「ちょっと待ってくださいよチェキータさん。あの土砂崩れのせいで予定ポイントまで着けなくて、こんな田舎くさい所になったんじゃないですか。まだ仕舞える倉庫があるだけマシですよ。でも確かに本社、というか清夜にバレるのはマズイ!気付かれる前に回収しないと!」

 

そしてこの男はキャスパー・ヘクマティアル。

DEMの幹部の一人にしてアジア方面を担当するDEMの武器商人。

役職こそ清夜より下だが清夜の兄貴分でもある。

 

「ということでさ〜ミスター。おたくらは一体どこにウチの商品を移動させたんだい?我々の商品がここで入れ替えられたのはわかっているんだ。それに君が喋らなきゃ僕も君の後で死ぬことになっちゃうんだよ。お互いの命のためにもさ〜教えてくれよ〜」

 

「うぅ・・あ・・・ああ・・・」

 

(う、嘘だろ・・数では圧倒的に勝っていたのに気付いたら生き残りは私一人だけだと!?)

 

キャスパーはとてもフレンドリーにお願いする。

彼の眼の前にはハゲ頭が目立つ血まみれの男と無数の屍。

けっしてキャスパーの友達ではない。

血まみれの男は拠点の指揮官で屍はその部下達だ。

屍のその数80。

全てチェキータ達4人に殺されたのだ。

指揮官は恐怖のあまり、お漏らししながら答えた。

 

「こ、ここから100kmほど先にある港に向かっている。座標はここだ・・・」

 

「そう、ありがとうミスター。お休み中にお邪魔して悪かったね。お休み」

 

キャスパーはチェキータから拳銃を受け取ると男に向けた。

確かにお休みの時間ではあったが拳銃を向けられる意味がわからなかった。

 

「へ?・・・」

 

パァン!!

 

指揮官の男は屍の海の一部となった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月15日 横浜 某所

 

とある港。

ここではブランシュのメンバーが強奪した直立戦車を秘密裏に受け取る準備をしているはずだった(・・・・・)

 

「うぐぁ・・・ブホォッ!!」

 

ドゴォッ!!

 

「フゥゥ〜終わった終わった。蓮華?そっちはどう?」

 

「ん〜。こっちももう終わるか・・な!!」

 

「もうやめ・・ギィヤァァァァ!!」

 

ズパッ!!

 

しかし今は黒服を着た大勢の男達が十数人のブランシュメンバーを取り囲んで処刑が行われていた。

処刑人は怪力の南天と鉈を持った蓮華。

そう、これは万両組のリンチだった。

そこに黒塗りのトヨタセンチュリーが現れる。

全てのガラスがスモークシールドで覆われている完全な違法車だ。

運転手の男が後部席をドアを開けると降りてきたのは組長の苺だった。

 

「お〜う。皆お疲れ。蓮華、金庫番とかの話は聞けたか?」

 

「あっ!姫〜。金庫番は知らないらしいけど、こいつら「ブラなんとか」って組織らしいよ?なんか武器の受け取り準備で来てたとか」

 

「ちゃんと話は覚えとけよ。南天そっちは?」

 

「ごめん姫〜忘れてた。」

 

「はぁ・・・それ以前の問題だ。殺したやつはコンテナに詰めて沈めろよ〜」

 

苺はダメージが溜まっていて五体満足でいる男を一人選んで胸ぐらを掴んだ。

 

「おい、間抜け野郎。所属は?どこの手引きで何を受け取ろうとした?」

 

「我らの聖戦を邪魔する者共に誰が教えるか!!貴様らには必ず天罰が下るだろう!!ペッ!!」

 

男は苺に唾をかける。

最後まで喋らない、屈したりしない自信があってのことだろう。

だがそれとは逆に男からは大量の冷や汗がでていた。

 

「テンメェェェェ・・・」

 

「殺す!!」

 

やはり苺に唾をつけられたのは屈辱だったのだろう。

南天と蓮華は般若すら超える顔で睨みつける。

男の自信はそれだけで簡単に砕け散った。

 

「ヒッ・・ヒィィィィィィ!!」

 

「ほう、面白いやつだ。気に入った。」

 

一方、南天と蓮華とは逆に唾をつけられた苺は笑顔だった、

その天使のような笑顔に男はありもしない生存の可能性を思わせる。

 

「へ?・・・あ、じゃ、じゃあ・・・」

 

「ああ、これからウチのシマで好き勝手やる奴がどうなるのか・・・私が直々に教えてやる。私の化学の実験ついでにな。」

 

「ひぃ、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ブランシュメンバーの悲鳴は都会特有の雑音の中に消えてった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月15日 東京 某所

 

東京でも外れの外れの田舎

仮面をした少女は小さな倉庫の屋根に立っていた。

 

『準備はいいですか?伊万里さん。』

 

「いつでもいいわよ。たく、午前中の忍者といい今日は厄日?・・てかなんで仮面?」

 

学校の殺し屋もブランシュ狩りに乗り出そうとしていた。




なんかアルテミシアがヒロインぽいことしてますがヒロインはエリカですよ!(念押し)
実はというと今後の予定で劣等生のシナリオ以外でコイツの出番ほとんどないなと思い、こうなっています。
さて次回以降本当に不定期になります。次は来週かもしれないし、内定をもらえた後になるかもしれません。
出す努力はしますので勘弁を・・

次回予告!

作品の垣根を越えたクロスオーバーバトル発生!
お兄様と伊万里の殺し合い!そしてあの組織もバトルに参戦!?
そして司波達也は、伝説となる(大事じゃないけどもう一度)

次回もお楽しみに〜

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。
ところで伝説って何?


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36話 忍ぶ者の戦い

お久しぶりです!すんごい、お久しぶr←パンパンパン
「お前誰?」とか「つまんねーの帰ってきたよ」とか「おめぇの席ねぇから!」とかみたいな言葉は思ってても言わn←パンパンパン

就活ストレスの発散で書いてたら一話分投稿する余裕が出来たので投稿しまs←パンパンパン
話忘れた方は読み返すことをおs←パンパンパン

前回までのあらすじ!
達也に倒され気絶した清夜が次に目覚めたのは保健室のベットだった。達也は誤解でタコ殴りしたことを詫び、清夜が許すことで仲直りした二人。しかし、清夜の笑顔の裏には狂気の炎が燃えていた。そして話は代わり、東京のある倉庫。学校の殺し屋もブランシュ討伐に動き出そうとしていた。


これは伊万里が倉庫に入る前、午前中に起きた話

 

 

2095年 4月16日 九重寺近辺

 

的場伊万里は洗脳で強化された殺し屋である。

彼女の洗脳は幾重にも、そして複雑に絡まり重なっている。

だが彼女は甘んじて受け入れているわけではない。

彼女は彼女なりに抵抗しているし、普通の人間になりたいと願っている。

今日もその一つとして美濃に勧められた九重寺近くの癒しスポットに学校をサボって向かっていた。

はずなのだが・・

 

「そこで何をしている?」

 

「何って・・この近くにある癒しスポットに向かっているんだけど・・てか結界張ってから聞く方がどうかしてるでしょ?」

 

「危険な気配を出す人間がそんな目的で彷徨くわけないだろう!」

 

「いや、気配とかはともかくハゲなんかに用があるわけないでしょ?・・」

 

現在、裏道で九重の弟子坊主5人に囲まれていた。

特に殺気を出すわけでもなく普通に歩いていただけなのにこの様だ。

伊万里が経験した中で本当に強い奴は気づいても素知らぬフリをするから助かるのだが

生半可に強い奴はこうして相手取ろうとする(翠と藍は例外)から困る。

伊万里はより一層普通の人間になりたいと願うのだった。

だが坊主がそんな願い知るわけもない。

 

「貴様には少しの間捕まってもらうぞ。」

 

「嫌よ。もうここ最近面倒臭そうな人間ばかりに絡まれるから勘弁して欲しいの。貴方達には関わらないから結界を解いてどいてもらえる?」

 

「なら・・力づくだ!!」

 

ヒュッ!!

 

ドガッ!

 

坊主達は一斉に襲いかかる。

無駄のない包囲攻撃だった

だが伊万里は坊主の一人の股をくぐり抜け

くぐり抜け際に金的を喰らわせた。

 

「うぐぉ・・おぉ・・」

 

「魔法を使わずに この速さだと!?」

 

「くっ!もはや容赦はしないぞ!」

 

「キャハ!これを見てもまだ戦う気?」

 

シュッ!

 

バゴッ!

 

違う坊主は左の手刀をしかける

だがそれも簡単に避けられ逆に顎を思い切り蹴り上げられた。

残るは三人・・

 

坊主達は一度距離を置き三人の連携で倒すことにした。

 

「いくぞ!」

 

「「おう!」」

 

ガシュッ!!

 

ブゥン!!

 

ブン!!

 

まず最初の坊主はしゃがみこみ足払いをする。

これを伊万里が後ろに避ける

すると二人目の坊主が足払いとほぼ同時に飛び膝蹴りを仕掛けてきた。

危なげながらも伊万里は右に避けると

いつの間にか三人目の坊主が先回りしていたのだ。

見事な連携だったと言っていい。

少なくとも伊万里はそう思った。

だがそれでも伊万里はその上をいく。

 

「C7」

 

「とらえ・・・なっ!?」

 

三人目の坊主は強烈な正拳突きを繰り出したのだが

伊万里は自分自身に移動系魔法『ランチャー』を発動して無理やり後ろに飛んだ。

しかも それだけではない

 

「A9」

 

ドガッ!!

 

「ぐはっ!!」

 

伊万里は塀に運動ベクトルの倍速反転させる逆加速魔法『ダブル・バウンド』を発動させる。

そうして伊万里が『ランチャー』で頭から塀に接触すると魔法の効果で運動ベクトルが反転し倍に加速する。

そして加速のまま『ライダーキック』と言わんばかりに坊主を蹴り飛ばしたのだ。

 

残った坊主は驚愕は隠せないものの臆せずに襲いかかる。

しかし裏拳、三日月蹴りなど変則的な技も仕掛けてるにもかかわらず伊万里が背負っているリュックサックにすら触れることができない。

とうとう正攻法では勝てないと判断した坊主達は呪符を取り出す。

だが伊万里は魔法を発動させない。

 

パリン!パリン!

 

「「うぉ!?」」

 

「B12」

 

「「ぐっ!?・・はっ・・」」

 

術式解体で起動式が吹き飛ばされると坊主二人は魔法で倒れた。

 

パチパチ

 

「・・・」

 

結界も解除され伊万里が立ち去ろうとすると後ろから拍手が響く。

後ろを振り向くとそこには目の傷が目立つ坊主、つまりは八雲がいた。

 

「術式解体で起動式を吹き飛ばし、加重系魔法で脊椎を圧迫し脊髄神経を麻痺させたのか~どちらも人並みはずれた技だね。すごいすごい」

 

「忍者ね・・・始めて見たわ。忍者は何も語らないイメージがあったけど、結構お喋りね九重八雲。何か用?」

 

「そういう君は殺し屋だね。それも巷で噂の悪党を殺しまくってる殺し屋。用と言えばそうだね・・・弟子の敵討ち・・・なんてどうかな?」

 

伊万里と八雲は何も言わずに構えた。

殺し屋と忍び。

お互い闇に生き殺気を常に隠している者同士。

冗談のつもりでも、冗談と理解していても警戒を怠れない。

 

ヴヴヴヴヴ・・・

 

突如、伊万里のデバイスが震える。

 

「出ても?」

 

「どうぞ」

 

「もしもし・・・ええ、そう・・は?それ私がやるの?お断りよ。あんなのすぐに殺されるのがオチよ。私が動かなくても最悪でも0課、いやそれこそ十師族がやるわよ。・・・はぁ・・・分かったわよ。」

 

伊万里は電話を切ったと思うと構えることなく回れ右をして立ち去ろうとする。

八雲もそれに合わせるように構えを解いた。

 

「おや、やらないのかい?」

 

「・・・バ〜カ!!」

 

伊万里はそう言うと振り向きながら八雲の顔面目掛けてナイフを投げつけた。

 

シュッ!!

 

「!!」

 

パシッ!!

 

人差し指と中指の真剣白刃取りでナイフを掴んだ八雲。

投げ返そうとするが伊万里はすでにいない。

伊万里が逃げる時のお決まりパターンだ。

 

「消えた・・・やれやれ、僕もまだまだ修行が足りないな。にしてもあんな子供が殺し屋をやっているのか。俗世に興味はないんだけど・・いやはや、本当に腐った世の中だよ。」

 

八雲は頭をかきながら空を見上げた。

 

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2095年 4月15日 東京 某所

 

時刻はすでに11時を回ろうとしている頃。

達也はとある倉庫の近くに身を隠していた。

黒のブルゾンにサングラスと、その姿は明らかに後ろめたいことをしようとしていることを示している。

 

「師匠の話だとここか・・・」

 

倉庫というには少し大きく古びた感じを受ける。

達也は下校後、暴漢を預かっている八雲から出処の情報を得て話を聞くためにここを訪れていた。

実は深雪もついていくと駄々をこねていたが連れていくわけにはいかないし

何より怒り殺す姿を深雪に見せたくなく一人で来ていた。

達也は自身だけが持つ知覚系魔法『精霊の眼』を使った。

この魔法はイデアにアクセスし、壁などの障害物関係なしに存在を認識することができる達也の強さの要因の一つと言える能力だ。

しかし、これが逆に達也を困惑させた。

 

「これは・・・どういうことだ?」

 

知覚したイデアだと倉庫のなかに多数の人間がいる。

だが生きている人間はたった一人なのだ。

仲間割れと思ったが相手は強盗団ではなくブランシュ。

予想外の展開だがそれでも達也は倉庫に入っていった。

 

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2095年 4月15日 東京 某所 倉庫内

 

暗い倉庫の中には実際に頭や心臓を撃ち抜かれた死体が多数あった。

抵抗したであろう痕跡もあるが死体の殆どは無抵抗だった。

 

(アンティナイトを装備していてこれか・・・まさか師匠が言っていた殺し屋?)

 

『精霊の眼』ではまだ一人の人間いや、仮面をつけた少女の姿を捉えていた。

身長は小柄、片手にサイレンサー付きのベレッタ、スカート中にナイフとカートリッジを装備していた。

ただCADのようなものは見当たらない。

若干の違和感を感じたが達也は先制攻撃で一気に抑え込むことにした。

対象はサイレンサー付きのベレッタ。

使用する魔法は『分解』。

これは最高難易度に数え上げられる、構造情報への直接干渉の分離魔法の亜種にして系統魔法の収束、発散、吸収、放出の複合魔法 。

物体であれば、その構造情報を物体が構成要素へ分解された状態に書き換え、魔法式などの情報体であれば、その構造それ自体を分解できる。

達也はこれを左の魔法と同じく先天的に自由に使うことができるのだがこれが達也の魔法演算領域を占有しており、これ以外に自由に魔法を使えないのだ。

 

「動くな」

 

バラッ!!

 

「!?」

 

達也が声を上げて立ち上がると突如、ベレッタがバラバラになり少女は驚く。

それでも少女は落とすギリギリのところで全部のパーツをまとめてキャッチして背中のリュックサックに放り込んだ。

 

『伊万里さん!!裏口の通路です!』

 

(敵!?何をやってたのよ洲央!)

 

その少女は伊万里だった。

伊万里は仙崎の依頼でブランシュ拠点殲滅ならびに調査に来ていたのだが誰かが倉庫に入ってきたのは想定外だった。

いや、そもそも外は監視カメラなどを使って洲央と『火車』が監視していたから必要最低限の警戒だけで想定なんて全くしていないのだ。

伊万里はリュックから予備のベレッタを取り出し数発撃った。

 

パンッパンッパンッ!!

 

達也は近くの壁に飛び込んで避けた。

伊万里も手応えで当たっていないのが分かっていた。

その後、伊万里は障害物の間を移動し、しゃがんで隠れる。

だが『精霊の眼』を使った『分解』の前に隠れるのは無意味だった。

 

「これが最終警告だ。次は殺す。」

 

バラッ!!

 

(また!?知覚系魔法も併用しているのか!?つまりは隠れても無駄ってことね!)

 

伊万里は再び全部のパーツをまとめてキャッチして背中のリュックサックに放り込むとスカートからナイフを取り出した。

そして机を、天井を、壁を蹴って三次元軌道で達也の元に飛び込む。

その速さは清夜とほぼ同じ、常人の限界を超えた速度を魔法無し(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

(速い!?だが慣れた!!)

 

放課後同じ速さを見ていたおかげで達也はそこまで驚かなかった。

慎重に目で照準を合わせ達也は人を塵にする分解魔法『雲散霧消』を発動。

 

「させない」

 

しかし、その魔法式はサイオンの塊によって吹き飛ばされた。

もちろん達也は知っている。

 

「っ!?術式解体!?」

 

シュパッ!

 

ギリギリのところで達也は斬撃を避け、後ろに下がった。

それでも伊万里は自己加速術式でさらに加速し達也に追いつく。

そして

 

ザクッ・・・

 

達也の首にナイフが突き刺さった。

伊万里も完璧に殺せた手応えがあった。

だがそれはただの夢幻に終わる

 

頚動脈切断を確認

出血多量を予測

自己修復術式オートスタート

コア・エイドス・データ、バックアップよりリード

魔法式ロード・・・完了

自己修復・・・完了

 

首が修復され伊万里が握っているナイフは刺さったところから10cmほど右にずれる。

伊万里は10の18乗分の1秒前まで勝利を確信していたのに急に手応えがなくなり驚いた。

 

(勝っ・・・え!?はずれた!?)

 

狐に化かされた気分だった。

伊万里と達也は一度距離を取りお互いにどうするかと思ったが、そこにさらなる来客が現れた。

 

「公安0課だ!!そこの二人!武装を解いて手を上げろ!」

 

「「!!」」

 

『伊万里さん0課です。二階に開けた穴から脱出してください。証拠隠滅も忘れずに』

 

(無茶を言う!!)

 

声の方を向くと黒服の男女が複数人。

只者ではないことは二人ともすぐに気づいた。

すると伊万里は紫の煙幕を、達也は自身のサイオンを使った煙幕を同時に焚いて逃げる。

 

バァンッ!!

 

「ッ!!多いな、煙幕なのか?毒ガスかもしれない警戒しろ!!乾!知覚系魔法!!」

 

「ダメです獅堂さん。イデアに高濃度のサイオンがばらまかれて探知できません!」

 

「ちっ、とにかく収束系で・・・ん、このガスの匂いは・・まさか!?全員、外に出ろ!!」

 

獅堂と呼ばれるリーダーらしき若い男が叫んだ頃。

伊万里は倉庫から離れたところで発火の魔法を発動した。

発火した火は煙幕とともに放った可燃性のガスに引火して・・・

 

ドガーン!!

 

盛大に爆発して倉庫は燃え盛る。

外見からは倉庫と分からないぐらい爆発したが黒服のメンバーはギリギリのところで逃げ切っていた。

 

「クッソッ!!死体ごと証拠隠滅か!」

 

「全員の無事を確認。ブランシュの手の者ではないと思いますがどうします獅堂さん?」

 

「非常線を張れ!!どこのどいつか知らないが絶対に逃がすな!」

 

翌日、この爆発は近所の子供の火遊びによる事故として片付けられた。

 

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2095年 4月21日 第一高校 E組教室

 

(爆発も含めて本当にこの前は死ぬかと思った。いや、死ぬことはありえないんだが・・我ながら綱渡りな戦いをしたもんだ。結局何も情報がはいらなかったし、あとはもう迎え撃つしかないのか・・)

 

「はぁ・・・」

 

清夜と殺し屋との戦いから六日が経った放課後

達也は未だあの戦いを忘れずにいた。

忘れたいというわけじゃないが頭にこびりついたような感覚だ。

そんな達也に斜め前の席の生徒から声をかけられた。

 

「どうしたんだい達也?ため息すると幸せが逃げるらしいよ。科学的根拠はないけど」

 

「清夜か・・いやなに、思ったよりデンジャラスな学校生活になってしまったなと思ってた所だ。」

 

結局、あのあと清夜とは何事もなかったかのように仲良く過ごせていた。

学校生活こそ良好とは言えないが友人という面では恵まれたと達也は思っている。

 

「そうか?結構、刺激的で楽しいと思ってるぜ俺は。こうしてお前らとも仲良くなれたし。」

 

「そうそう、こんな野蛮人はともかく達也君達と一緒にいるのは飽きないし、少なくとも退屈することはなさそうね。もちろん危ない意味も込みで」

 

「んだと!?」

 

「ははは・・・でもそういう意味がなくても私は楽しいですよ。」

 

『デンジャラス』という言葉に反応したのかレオとエリカも話題に入ってきた。

そしていつも通りに口喧嘩が始まり、美月も苦笑い気味に入ってきた。

清夜は納得いかない表情で答える。

 

「もう慣れたけどさ、エリカとレオは喧嘩する割には思考が似通っているんだよね」

 

「「どういう意味だ(よ)!!」」

 

『そのまんまだよ』と達也、清夜、美月は思ったが”雉も鳴かずば”というやつだ。

とにかく刺激しすぎないように無理やり話をまとめる。

 

「とにかく確かに友人には恵まれたと思うよ、楽しいし。それに危険って言ってもトラブルは最初だけだったし、きっと偶々だったんだよ。その証拠にここ最近は何もなかったじゃないか?これからは平和な学校生活になるさ。」

 

「そうだな。俺もそう願・・」

 

達也は同意の言葉を言おうとした時、突然スピーカーから大音量の声が響いた。

 

『全校生徒の皆さん!!僕たちは学内の差別撤廃を目指す有志同盟です!!』

 

「どうやら・・前言撤回になってしまうようだね・・・」

 

「ああ、現実逃避の時間は終了だな。にしても有志ね・・・」

 

この学校では教師も生徒も好き勝手に放送を使うことはできない。

どう考えても放送ジャックとしか思えなかった。

達也と清夜には心当たりがある。

この前、達也と紗耶香の二回目の会合で紗耶香は前回から方針を変え”待遇改善要求”と大きく踏み出していた。

達也はその考えを聞いてもなお協力することはなかったのだが

これは恐らくその”待遇改善要求”のためのものだろう。

やり方としてはエスカレートしすぎた犯罪行為だが・・

 

『僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します!』

 

周りを見るとクラスメイト達は戸惑いの声をあげているが逆に一科生の方は不満の声をあげているだろう。

清夜は有志同盟とやらに呆れながらも達也に尋ねた。

 

「こういうのは風紀委員の仕事だよね?」

 

「仕事を押し付けようとするな。相手は部活連にも交渉を求めている。お前も無関係とはいかないだろう」

 

ピピピ・・・

ヴヴヴ・・・

 

噂をすればなんとやら、ほぼ同時に二人のデバイスが震えた。

清夜はアルテミシア、達也は摩利からだったが内容は同じだった。

 

「無視はできないようだし・・・行ってくるね。」

 

「俺もだ。行ってくる。」

 

「あ、はい、お気をつけて」

 

席を立つ二人に美月が掛けた声もクラスメイト達と同じ不安を感じる声。

それとは逆にエリカとレオは楽しそうにしていた。

 

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2095年 4月21日 第一高校 E組教室

 

途中で深雪と合流し三人は事件現場に到達した。

見ると風紀委員を含め真由美以外の生徒会主要メンバーが揃っている。

部活連はというと他にも数名役員がいるのだが来たのは克人とアルテミシアだけだった。

 

「遅いぞ」

 

「「「すいません」」」

 

「他の部活連役員は?」

 

「交渉になるかもしれないから今回は私たちだけにしたわ」

 

フリだけの叱責にフリだけの謝罪で返したあと清夜は簡単な確認をした。

そして摩利による現場確認に移った。

 

「犯人はマスターキーを盗み扉を封鎖。立てこもっているらしく、こちらからは開けられなそうだ」

 

(予想通りとはいえ、明らかに犯罪行為じゃないか。そこまでして交渉したいか・・・いや犯罪とすら思ってないんだろうな。まぁ、俺の仕掛けに気付いてはいないのは幸いだが)

 

「明らかに犯罪行為じゃないか」

 

誰かが清夜と同じことを呟く。

それに続くように鈴音は提案する。

 

「その通りです。だからこれ以上暴発させないように慎重に対応すべきです。」

 

「いや、多少強引でも短時間の解決を図るべきだ。」

 

だが摩利は口を挿んで反対の提案をしてきた。

どうやら扉が開かないせいではなく方針の対立が膠着している原因のようだ。

達也は仕方なしに克人に意見を求めた。

 

「会頭はどうお考えで?」

 

克人は意外感が混ざった視線を返してきた。

達也としても出しゃばりすぎたとも思っているが膠着しているよりかはマシだと思ったのだ。

 

「俺は彼らの要求に応じていいと思っている。」

 

「ではこのまま待機ということですか?」

 

質問したのは清夜だった。

話を回して早く解決したいのは清夜も同じだった。

 

「それについては決断しかねている。不法行為は見逃せないが扉や機材を壊してまでの早急な解決は要していない」

 

その言葉を聞いて達也はデバイスを取り出した。

誰もそのことに気づいてないが清夜はそれを見逃さなかった。

 

「なにをするつもりだい達也?」

 

「破壊はしないが現状を放置しない形で手をだそうと思ってな。幸い、壬生先輩の番号は残っている。」

 

「具体的には何をするんだ?」

 

話に気づいたのか摩利が質問してきた。

それに合わせるようにメンバーの視線は二人に集中した。

 

「十文字会頭の意思を伝えて出てきてもらうつもりです。」

 

「お兄様。それだけじゃ信じてもらえないのでは?」

 

「壬生先輩の自由を保証すれば出てくるだろう。」

 

「壬生先輩ね〜。もしかしてそれ以外の同盟メンバーの自由は保証しないんでしょう?本当に達也は性格悪いね〜」

 

「その言われようは不満だが、つまりはそういうことだ。」

 

摩利、克人、鈴音だけでなく清夜と深雪以外の全員が呆気にとられた表情を浮かべた。

そんなことはお構いなしに達也は通話のコールを始める。

そして清夜も動き出した。

 

「それじゃ、それを利用しつつ通話中に突入、制圧しましょう。」

 

「え、清夜君それはどういうことですか?鍵は掛かっているし壊してはマズいのでは・・・。」

 

今度は達也と深雪までもが呆気にとられた。

その間にもプルルというコールは続いている

 

「大丈夫、鍵は壊さず開けるさ。というより、もう開いているんだよね。これなら通話中だから虚を突く形で突入になって暴発する暇すら無くなるし、渡辺先輩の望む性急な解決もできる。」

 

「それはそうd・・・え、あ、壬生先輩ですか?・・」

 

達也は具体的なことを聞きたかったが壬生が電話に出てしまい聞くことができなかった。

 

「どうやら出てくれたようですね。それでは扉を開けるカウントを始めます。10・・・9・・・」

 

「お、おい!」

 

摩利は止めに入ろうとしたがアルテミシアが肩を掴んだ。

 

「やりましょう摩利さん。今なら三人の方針どおりで解決できますし」

 

鍵が壊さず開く保証なんてないのだがアルテミシアは確信している目をしている。

しかもそれだけでなく克人も「やろう」という目で見ており鈴音も渋々という感じだがgoサインを出していた。

鈴音はともかく克人までもが信頼してしまっては摩利も他の風紀委員も信じるしかなかった。

 

「う〜・・後で説明してもらうぞ!全員突入準備!」

 

「はい・・・はい・・それで・・」

 

「1・・・0」

 

ガラッ!

 

「突入!」

 

通話に割って入る形で引き戸型のドアが開いた。

中には紗耶香を含めて5人。

全員が二科生だった。

 

「風紀委員だ!おとなしくしろ!」

 

「ぐっ!!」

 

虚をつく形で突入したため抵抗する準備すらできない同盟メンバー。

そして次々と捕まり、風紀委員の沢木碧が報告した。

 

「委員長!全員拘束しました!。」

 

時間として20秒も掛からなかった。

結果、暴発させることも壊すこともなく性急に解決してしまった。

改めて摩利たちは驚いた。

 

「本当に壊さず暴発させず終わるなんてな・・」

 

「司波君!どういうことなの!私たちを騙したの!?」

 

やはりというか、一番暴れたのは紗耶香だった。

達也は答えようとしたが清夜が口を挿んだ。

 

「いいえ、達也は十文字会頭の意思を伝えようとしただけですよ。私が提案して突入させてもらいました。」

 

「あなたはこの前アルちゃんといた・・・君も二科生なら分かるでしょう!?平等に優遇してくれないこの現状を!どうして邪魔をするの!?」

 

突如、清夜の目が冷たくなった。

豚とか家畜を見る目を遥かに超えた冷たい目。

剣道を極めてきた壬生でさえビクッと震えてしまう目だ。

 

「・・・では仮に交渉するとして先輩達は何を要求するのですか?」

 

「そ、それは全般的に待遇をそちらで改善を・・」

 

「あんた馬鹿か?具体的な案は何一つ言えず、すべて生徒会と部活連任せ。そんな頭の悪い連中の話に誰が乗るかっての。今時、小学生でもそんな間抜けな回答しないぞ。それに優遇というのは誰かより”優”れた待”遇”を受けるから優遇なんだ。そこに平等などない。」

 

最早、こんな哀れな連中に敬語などなかった。

今度は違う女生徒が反論する。

 

「私たちは間違っているというんですか!でも事実として差別は・・・」

 

「あんたらの差別無くそうというのは否定しないよ。数値や制度的な差別はほとんど(・・・・)ないが意識的な差別はあると俺も思う。」

 

「なら・・・」

 

「だがそれだけだ。お前らがやっているのは結局、犯罪だ。お前らが敵だと思っている差別する奴らとなんら変わらない。そもそも、お前らの行動は自分で考えたものなのか?いいや、違うね。あのスピーチも俺を説得するセリフもこの計画も覚悟でさえ、誰かに与えられたものだな?」

 

「っ!?」

 

捕まっている生徒は全員、清夜から目を逸らした。

他の生徒から見ても図星なのが丸分かりだ。

 

「つまらない。本当に差別をなくしたいのなら己の考えたことで、行動で示せ。まっ、あんたらに言っても無駄か。それよりも誰から与えられた?答えろ」

 

「それも大事なのかもしれないけど今は彼女達を開放してあげて。」

 

「「「会長!?」」」

 

その言葉と共に現れたのは真由美だった。

だがそんなことを言われても摩利達、風紀委員は納得しない。

 

「だが真由美!?」

 

「ごめんね。言いたいことは分かるわ。でも学校は今回の件を生徒会に委ねるそうです。」

 

(委ねるそうです・・・ね。どうせ学校に脅したんだろう。学校としても警察沙汰にしたくないだろうし。こいつもこいつで親父と同じ狸だな。こっちの狸のほうが可愛らしいけど)

 

「壬生さん達。私たちはあなた達の主張を聞こうと思うんだけど来てくれますよね?」

 

「私たちは逃げません!」

 

「そう、じゃあ、私たちはこれで。行きましょうか?」

 

そして真由美は壬生達を連れて部屋を後にした。

 

 

 

相手が悪とはいえ、ついつい感情的になってしまった清夜。

いや憎しみ、怒りという意味では普段と変わっていない。

だが冷静を欠いてしまった清夜は反省し、両指で口元を無理やり釣り上げた。




ということで予告通り、達也VS伊万里のバトルでした!そして公安0課も出しました!戦ってないけど
『緋弾のアリア』最新刊にも出てたのでタイムリーですね(この話はもう大分前に出来ていましたが)。

次回予告!
討論会前日、様々な思惑が絡まる学校生活で清夜もアイザック・ウェストコットとして復讐鬼としてブランシュの思惑に介入することを決意する。そして達也と深雪は清夜の悲惨な過去と思惑(?)を知ることに・・・

次回はいつか分からないけど、おたのしm←パンパンパン

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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37話 清夜の謎2

お久しぶりです。
就活活動の移動の合間に書いたら入学編が書き終わりました。
まぁ、就活終わってないんですけどね。はいw
息抜き感覚の投稿です。

というよりSS買って読みましたけどレオめっちゃ羨ま・・・ゲフンゲフンけしからん。
エリカの話は面白かったけど読んでて「レオこの野郎っ!」と言ったり言わなかったり

前回までのあらすじ!
伊万里VS達也の戦いが勃発!お互い一歩引かない展開だったが公安0課の乱入で決着がつかず。その翌日、放送室占拠事件発生。達也、清夜の活躍で警察沙汰にならずに済んだが火種は未だ消えずに燻っていた。


2095年 4月21日 第一高校 放送室前

 

立てこもり事件の早期解決に貢献した清夜。

 

「で、説明してもらおうか清夜君?」

 

「式君、説明をお願いします。ことと場合によっては処分があるのであしからず。」

 

した・・・はずなんだが何故か摩利と鈴音による取り調べが行われていた。

清夜としては今すぐ逃げたいのだが任意ではなく強制。拒否権などなかった

 

「えと・・何のことでしょうか?」

 

「無論、扉を開けた仕掛けです。」

 

「魔法でも使ったのか?」

 

克人やアルテミシア、司波兄妹も摩利達ほどではないが気になっていた。

 

「あ〜それですか。そんなことはしてませんよ。これを使ったんです。」

 

清夜はポケットから小さいブロックのような物を取り出した。

それは銀色の特に変わったところがない鉄の塊

 

「なんだこれは?」

 

「ただの鉄のブロックですよ。これをボルトロックが入る穴に入れただけです。」

 

「それだけで何故扉が開くのでしょう?もう少し詳しくお願いします式君」

 

「これはこの会社製の扉で起こる抜け道ですが・・・。まぁ、やりながらの方がいいでしょう。少しこっちを見ないでくください。」

 

〜10秒後〜

 

「出来ました。では渡辺先輩、そのままドアを開けてください。」

 

「おいおい、私をバカにしているのか?lockと表示されるじゃないか、こんなもの開くわけが・・・」

 

ガラッ!

 

「「「開いた!?」」」

 

「・・・そうか」

 

達也はドアの縁の穴を除いた。

 

「ボルトロックが入る穴の中にブロックを入れたのか。」

 

「その通り、その状態でも扉は閉まるけど鍵はブロックにつっかえて掛らないんだ。けどこの扉のシステムだと扉が閉まっていて遠隔操作や自動施錠で鍵を掛ける動作さえ行えば鍵が掛かってなくともlockと表示されるんです。」

 

ほとんどの者が呆然として何も言えない。

そんな中、アルテミシアは思い出したかのように質問した。

 

「じゃあ、風紀委員に誘われたときの脱出も・・・」

 

「そうです。最初に顔を出した時にこれを入れて出るときに回収したってことです。要はlockと表示されているけど鍵なんて最初から掛かってなかったってことです。」

 

「ま、前から思っていたが君は魔法師というより詐欺師とかマジシャンだな・・・」

 

摩利は呆れたという感じだが納得し、これで取り調べが終了した。

皆、なんだ〜って表情で解散していくがただ一人、達也だけが違う視点で考えていた。

 

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2095年 4月22日 Deus Ex Machina Industry 本社

 

放送室立てこもり事件から1日が過ぎた日の夜。

清夜・・いやアイクはDEMの本社にあるブリーフィングルームに部下を集めた。

このブリーフィングルームは俗に言う隠し部屋であって会社の会議室というわけではない。

部屋には本拠地の軍司令室で使われるような最新設備がずらりと並んでおり、機密性にも優れていた。

そんな部屋に部屋の雰囲気に合わない感じの少女が三人入ってきた。

 

「セシル・オブライエン。ただいま参りました。」

 

「アシュリー・シンクレア参上!」

 

「レ、レオノーラ・シアーズ・・・と、到着しました。」

 

「ん、三人ともご苦労様。これで全員かなエレン?」

 

「はい。エコー、アーキン、ホウには別任務のため来れません。」

 

部屋にはアイク(清夜)と到着した三人以外にアルテミシア、エレン、翠、藍がいた。

念のために言っておくが決してハーレムを楽しもうとかそういうのはない。

アイク(清夜)はスクリーンを起動して話を始めた。

 

「じゃあ始めようか。今回、集まってもらったのは他でもない。この前のブランシュに関することだ。まずは私の学校の身の回りで起きていることを話そう。アルテミシア、頼む。」

 

「はい、まず私とマスターが通っている第一高校は3年ほど前からブランシュの下部組織に侵食されています。正直、去年まで大して目立った活動はしてなかったんですが今年から急激に活動が活発、エスカレートし、とうとう昨日には立てこもりという犯罪を犯しました。事件自体はマスターと会長の活躍で警察沙汰にならず翌日に会長一人vs同盟メンバー数人の公開討論会をすることで決着がついたのですが・・・」

 

「司甲を通じてブランシュ日本支部リーダーと直接つながっている組織である以上、穏便に公開討論会が終わるわけないと・・・」

 

「元々は大亜連合、ましてはCIAが黒幕ですから建前が差別撤廃でも本当に差別撤廃してしまえば工作活動ができなくなります。その上でやるのですから何か仕掛けてくる可能性は高い。」

 

藍と翠は胡散臭いと言わんばかり呟いた。

確かにブランシュは魔法による差別撤廃をかがけている。

だが実際は魔法が使えないという劣等感を煽り、日本の力を削ぐことを目的としたテロ組織。

その劣等感が討論会による学校改善でなくなってしまえば組織は根底から崩れていってしまう。

しかも先日の襲撃で一高での目的は司甲を使った魔法研究の強奪、魔法師の殺害と幹部が言っていたのだ。

それなのにやることは討論会・・・あきらかに裏がある話だ。

アシュリーは小学生のように手を挙げて質問した。

 

「はいは〜いマスター。言いたいことは分かるけどよ、そう確信するには少し根拠が弱くないか?」

 

「確かにこれだけだったら君達を集めて作戦会議はしないね。実はね、それに合わせるかのようにブランシュ日本支部リーダー司一が第一高校近くの廃工場で目撃されている。となると何か仕掛けるのは間違いないだろうってこと。」

 

「それでマスター、私たちは一体何をするのでしょう?」

 

淑女の微笑みを浮かべるセシル。

彼女の糸目が赤く光った・・・・気がした。

他の皆も目的はわからずとも、やることは薄々と勘付いているようだ。

 

「悪は基本殲滅だけど別に学校を守ろうというわけでも、正義の味方をしようというわけでもないさ。私は超がつくほどの悪党だからね。私の目的は戦いのどさくさに紛れて司一を誘拐すること。そもそもボロを出さないために動いてきたが公安も軍も十師族もテロを止められそうにない。ならこの状況を精一杯利用させてもらおうというわけさ。日本支部のリーダーってことはスポンサーの大亜連合、それも有力者との直接つながりがあるだろう?もしかしたら復讐に関することで何か知ってるかもしれない。」

 

「そうですね・・・少し行き詰ってるといえなくもないですし。謎の軍人を経由せずに直接アイクの敵が分かるなら手っ取り早いです。私も賛成ですアイク。」

 

「「申し訳ありません御主人様・・・」」

 

「行き詰ってる」というワードに反応したのか翠と藍は少し表情を暗くし謝罪した。

事実として二人をスカウトして3年経った今でも候補は絞れても3人の軍人の詳細は掴めていない。

そもそも家族(本人は思っていない)の清夜すら全く覚えておらず、元妻でさえ夫から詳しい話は聞いていないのだ。

候補を少し絞れただけでも、そこらの刑事や探偵より優秀なのはあきらかだった。

 

「いやいや、君達を責めているつもりはない。私が頼んだ仕事をこなしながら候補を絞れたんだ。十分に役立っている。元より期限を設けるつもりもないんだ。じっくりやってくれ。焦って違う首持ってきても困るしね。 」

 

「「かしこまりました」」

 

「あ、あの〜それでマスター。具体的な作戦はどうするのでしょう?ま、まさか自爆特攻とかですか!?ふぇぇぇ・・・勘弁してください。」

 

質問したのに何故か被害妄想をして泣き始めるレオノーラ。

すると翠と藍以外の人間から「あ〜あ」と言わんばかり視線が清夜に突き刺さる。

本当に見た目負けした性格なのだが、いつも非難されるのは彼女ではなく清夜だった。

 

「はい、そこイジメっ子を見る目で見ない・・・はぁ、なんで泣くんだよ?俺は一度も自爆特攻を無理強いさせらことないだろ?あ〜よしよし・・・いい子いい子」

 

アイク(清夜)は素の口調で話しながら彼女の頭を撫でて、袖で涙を拭き取った。

 

「グスンッ・・・そうでした。昔のこと思い出すちゃって・・・」

 

「うん、泣き止んだな。じゃあ説明するよ。部隊は学校にいる私とアルテミシアの学校チームと翠、藍の輸送チーム、エレンを隊長にしたそれ以外のチームに分ける。司一が学校に現れたら輸送チームには学校近くのゴミ捨て場に来てもらい私のチームが確保してゴミに紛れこませて引き渡す。一定時間経って現れなかったらエレンのチームが廃工場に突入、誘拐してくれ。その後、輸送チームに引き渡したらエレンたちは逃走してくれ。突入ルートなどの詳細は手元に置いてある資料に書かれている。」

 

肘掛についているテーブルには紙媒体の資料が置かれていた。

今では魔法同様、情報社会も発達しており資料は大抵データで扱われるものだが

『七賢人』というあらゆるデータをセキュリティレベル関係なく覗き見できる存在がいては

機密度が高い情報ほど紙媒体で扱わざるをえない。

資料を確認した翠が手を挙げた。

 

「私たち輸送チームのゴールは?」

 

「DEMの秘密施設ならどこでもいい、君たちの家でも、私のセーフハウスでも。本社から推奨ルートなどの情報サポートはあるが逃走のルート選定、方法などは君たちに一任する。車など必要な物は今日中にエレンか俺に申請してくれ。あと現段階における予定ルートの選定も忘れずに」

 

「かしこまりました。では我々はさっそく」

 

「すぐに提出しますのでここで失礼します。」

 

「君たちが今回の作戦の鍵だ。頑張ってくれ」

 

二人は主人に一礼して部屋を去った。

その姿を見送った清夜はくるりと回り、今度はアルテミシア達を見た。

 

「さて、次は君達だ。今回は誘拐が目的だが殺し合いは必至だろうね。だから拒否権を使うのも構わない。さぁ、どうする?」

 

「やるぜマスター!」

 

「私もです。ゴミ処理を断る理由はありません。」

 

「わ、私もやります・・・わ、わわわ私だってマスターの役に立ちたい!!」

 

アシュリー、セシル、レオノーラは迷いのない、絶大な信頼の眼差しで答える。

しかし清夜の気分はいいものでなかった。

アイク(清夜)はかつて『give and takeの絆を作り、それを超えた先にある忠誠心を求めたい』と言った。

この眼差しはまさに清夜が求めるものなのだが結果やらせているのはただの人殺し。

悪党として戦う覚悟があるのに復讐のために仲間を・・・特に翠、藍、アルテミシア、アシュリー、セシル、レオノーラのような子供達を戦わせるのに一瞬の躊躇いがあるのだ。

 

 

ここにも『矛盾』という言葉が生まれた。

 

 

以前ならこんなことはなかった。

そう、()()と再会するまでは・・・

 

(違う!違う!エリカは関係ない!そんなことで俺の復讐は揺らがない!)

 

頭では否定しているが

再会が壊れて消えたはずの”何か”を湧き上がらせて躊躇いを生んでいる.

そんな気がしてならなかった。

考えれば考えるほど迷いという名の沼にはまっていく。

清夜は考えを捨てアルテミシアに目を合わせた。

 

「・・・私も参加します。私たちはマスターについていきます。あなたの願い・・叶えてみせます。」

 

あきらかにそれだけではない目をアルテミシアはしていた。

アルテミシアの力強い眼差しが清夜の心をさらに抉る。

 

「・・・そうかい。では今日は解散にしよう。作戦開始前には指定ポイントで待機してね。」

 

清夜はそれをアイク(清夜)という結果至上主義者の仮面で隠した。

そんな心の機微に気づくわけでもなくアシュリー達は笑顔で部屋から出た。

 

「じゃあなマスター!今度はこの前のサッカーゲームの決着をつけようぜ!」

 

「それではマスター。あっ、そうそう今回の報酬はいらないので今度、4人でマスターの家に引越させてもらいますね。」

 

「わ、私は・・な、ナデナデしてくれるだけで・・・・で、ではお疲れ様でした!!」

 

「・・ああ、お疲れ様・・・って待てセシル!?引っ越すってなんだ!?」

 

セシルの何気ない一言に遅れて気づき、アイク(清夜)はあわてて部屋をでるが彼女達はもういなかった。

アイク(清夜)はヤレヤレという表情をしてからまたシリアスな気持ちになる。

思わず小声で呟く程に・・・

 

「分かっている・・・やってることは元父親と同じってことも、殺すべきは自分自身ということも・・・それでも」

 

Pラボの時に現れた幻の自分が言ったことを思い出した。

親にすら拒絶されるほどだ。子供に殺しを命じているのだからなおさら。

自分がこの世に存在すること自体許されないのは理解していた。

しかし、それを否定するものもいる。

例えば後ろから追いかけてきた二人。

 

「死なせません。私が・・・必ずお守りしますマスター。」

 

「そうですね。少なくとも世界最強の魔法師である私がいる限り、アイクに最終的な敗北、死はあり得ません。」

 

「アル・・・エレン・・・聞いてたのか。まぁ、何が起きようと死ぬつもりも立ち止まるつもりもない。頼りにしてるよ二人と・・・覗きは良くないな、おしおきだ。」

 

「「!?」」

 

言葉途中でアイク(清夜)は冷徹な口調で左斜め下方向に手を伸ばす。

そして突然のことで驚く二人を尻目に無媒体で精神系干渉魔法『ルナ・ストライク』を発動した。

 

「アイク、一体何が?」

 

「ここから二つ下の階に盗撮、または盗聴用の精霊を感じた。おそらく窓に張り付いているんだろう。精霊は殺して、術者にも致死レベルの精神系干渉魔法をうった。念のためすぐにこのビル全体をチェック、呪符の類が貼り付けられてる可能性もある。」

 

「了解しました!すぐに知覚系の魔法師、並びに西洋、東洋の古式術者を手配して調べさせます。」

 

エレンはデバイスを取り出しながら駆け足でアイク(清夜)の元から離れた。

残されたアルテミシアは未だ驚きを隠せずに聞く。

 

「サイオンを感じるだけで起動式の内容を8割の確率で当てるとは聞きましたが精霊まで感じ取れましたか・・・」

 

「ここ最近84%にアップしたけどね。でも精霊を感じ取ったのは初めてだ。明日は作戦があるが君にも一応警戒してもらおう。ここから1階までDSSの警備員と共に侵入者がいないかチェックしてくれ。」

 

「了解!」

 

アルテミシアも駆け足で去っていく。

とうとう一人なったアイク(清夜)は窓から夜空を見上げた。

 

「何があろうと止まるわけにはいかない・・・明日もこの先も・・・冬華がいなくなったあの日から救いなんてないのだから」

 

そしてアイク(清夜)は武器商人として振舞う。

 

「平和な学園が明日反転する。さぁ、控えろ人類。戦争の開幕だ!」

 

星は雲に隠れて見えない。

まるで彼の心を隠す仮面のように・・・

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月22日 九重寺

 

清夜がブリーフィングを始めたころ達也も自宅ではなく師匠がいる寺を妹と訪ねていた。

しかし寺に明かりはついていない。

不在かと思ったが母屋のほうに向かうと呪具などが散乱(?)した縁側に八雲はいた

 

「こんばんわ、師匠。もしかしてお邪魔でしたか?」

 

「こんばんわ二人とも、それはまさかだ。これらの道具は調査のための術の準備だ。」

 

「先生、それこそ私たちが見ては不味いものでは?」

 

明かりがないのも気になるが、それよりも術の興味が上回る二人。

術を教えてもらうことができない二人にとっては不味いとわかっていても気になるのだ。

そんな葛藤に八雲は気づいていたが普通に答えた。

 

「いや、今回は君たちに関係する調査でね。準備してたら、ちょうど君たちから電話をもらったってわけさ。それは後にしといて今日は何の用かな?もしかして殺し屋の件?残念ながらそっちの成果はないんだ。まるで忍者だよね。」

 

「いえ、そちらも気になりますが、追加で師匠の力で調べていただきたくて。実は学校にエガリテがいて、そのメンバーと思しき司甲という男がブランシュと強く関係していると自分は考えています。司甲を通じてブランシュが何をしようとしているのか調べてもらえませんか」

 

「それぐらいなら調べられるけど・・・見当がつくなら風間くん達に頼んだほうがいいんじゃないのかな?」

 

「少佐に頼むのは・・・」

 

達也は苦い顔で話すが最後まで喋らなかった。

いや八雲によって遮られたのだ

 

「叔母君達がいい顔しないか。それなら仕方ない」

 

達也は気を遣わせたことに対し無言で頭を下げ謝罪した。

実際は元気がない叔母にこの程度の案件を調べさせるのは気苦労になるだろうと思ってだが八雲は彼らの事情を正しくは知らない。

「気にする必要はない」と手を振って合図した八雲は前置きなしに語り始めた。

 

「司甲。旧姓、鴨野甲。普通の家庭出身だけど実は古式の名家『加茂』家の遠い傍系だ。甲君は霊子放射光過敏症なんだけど一種の先祖返りなんだろうね〜。旧姓というのは親が再婚していてね。その再婚相手の連れ子がブランシュのリーダーをしている。表向きにも裏の仕事的にも・・・ね。目的は分からないけど何かを目論んでいるのは間違いないだろうね〜」

 

そういえばと達也は思い出す。

今日の放課後、隠れていた同盟メンバーが大量に現れ討論会に向けた勧誘をしていた時に司甲は美月を霊子放射光過敏症の悩みを抱えたメンバーによるサークルに誘っていた。実際はエガリテの勧誘なのだろうが本人も霊子放射光過敏症なのだろう。

と、その前におかしいことがある、

 

「参考にはなりましたが・・俺が調査をお願いするのを予見していたのですか?」

 

「いや、僕は忍びだからね。それとは関係なく縁が結ばれた場所で問題になりそうな曰くをもつ人物は一通り調べることにしているんだ。」

 

達也はわずかに目を細めた。

 

「それは俺たちもですか?」

 

「いや、調べようとした時は分からなかった。君たちに関する情報操作は完璧だ。」

 

達也と八雲からきな臭い空気が流れ始める。

一触即発とは言わないもののそれに近い感じの空気だ。

それに気づいた深雪は慌てて口を挿んだ。

 

「そ、それで先生。前にお願いした清夜君のことは?・・・」

 

「うん、問題の『式 清夜』君に関することね。ある程度は調べられたよ。といっても君たちでどうするかもう決めてしまったように見えるけど」

 

「随分長かったんですね師匠。」

 

「まぁね。なにせ僕の記憶通りなら世界最強の魔法師にして世界最恐の武器商人『アイザック・レイ・ペラム・ウェストコット』と縁が繋がっているのだから。どこに”デウス教”の信者が分からない以上、慎重にいくしかないさ。それに彼の日本における経歴の裏は取れたけど海外の経歴は裏が取れなかったし、この前の黒いアレも分からずじまいだ。」

 

深雪は『アイザック・レイ・ペラム・ウェストコット』と『デウス教』いう名に反応しゴクンと息を飲んだ。

二人ともその意味はよく理解していた。

 

「元々大きい企業だったとはいえ倒産の危機からたった5年で世界トップクラスの企業に成り上がったDEM・・・その秘密に通じる門の門番が『デウス教』・・お母様が昔、そう教えてくださいました。」

 

「本家が確認した限り戦略級魔法師が少なくとも二人、真相はさだかではないがアイザック・ウェストコット自身も含めれば三人もいる。それだけでなくSFのような最先端兵器を沢山所持している。海外からも人材を引っ張るから高ランク魔法師も『七草』以上に抱えている。純粋な暴力だけで見てもすでに十師族と張り合えるといえるだろうな。しかし師匠、『デウス教』は噂程度だと認識していましたが・・・」

 

「それは少し情報が古いよ達也君。何かしらの確信があるんだろうね。公安や軍の情報部はすでに信者の探り出しを始めている。君たちの実家も動き出しているだろう。といっても、どの組織も確証を得られた人物はまだ一人もいないんだけどね。隠れキリシタンより見つけるのは難しいよ。規模や人数もわからないんだから。」

 

『デウス教』・・・規模も教えも分からないが噂としては存在していた。

曰く、アイザック・ウェストコットの魔法による洗脳された人たち

曰く、世界征服を目論むテロ組織

曰く、外国の諜報組織が公安等の注意をDEMに向かせるためにでっちあげた虚実の組織

などなど・・・・

なにが本当なのか、正直ネットで生まれたデマとしか思えない内容

だがどれも共通として言われているのが『政財界、魔法界だけでなく、ありとあらゆる組織に存在し、DEMの秘密を知ろうとするものがいないか監視している』ということ。

 

「もし本当なら恐ろしいですけど・・・それで清夜は一体何者だったんですか?」

 

「結論から言うと僕の記憶通り、『式海運』の式一正の息子だった。」

 

「ですが先生、その息子さんは無能と呼ばれるほどで魔法の才能もないとおっしゃっていたではありませんか?贔屓目でなしでも清夜君はかなり優秀ですよ。」

 

授業などでは目立ったことはないものの達也も深雪も清夜の有能さは認めていた。

八雲もそれが面白いのか楽しそうに話を続けた。

 

「まさにそれだよ。僕も最初は信じられなかったけど調べていくうちに理由が見えてきた。」

 

「理由ですか?」

 

「そうなんだけど、まずは彼の生い立ちから話していこう。彼は式 一正と黒川春奈の間に生まれた。最初こそ御曹司として扱われていたんだ。だが育っていくうちに運動も勉学も魔法も才能がないと分かり、ぞんざいに扱われ始め、後継者は妹に変わり、最終的には戸籍も式海運の富と権力によって変えられ同じ家に住んでいるのに縁も所縁もない赤の他人にされてしまったのさ。つまりはいない子扱い。だから式 一正に息子がいるなんて知っているのは殆どいなかったんだ。」

 

深雪は誰にもぶつけられない怒りで何も言えなかった。

兄も実家では使用人や分家に似たような扱いを受けていてるから深雪はこのような仕打ちが嫌いだった。

達也はそれに気付き深雪の肩を抱きながら質問することで続きを促した。

 

「母親は?」

 

「彼が6歳の頃に離婚、そのまま捨ててった。彼女は魔法師嫌いでね。彼に魔法の才能はないと言ったが使えないわけじゃない。だけど逆にそれが彼女の気に触ってね「化け物」と呼んで拒絶していた。少し不思議なんだけど魔法の才能がある妹以上に嫌っていたらしい。」

 

「ひ、酷い・・・自分の子を」

 

深雪が必死に絞りだせたのはそれだけだった。

言ったところで所詮同情や哀れみでしかないが、それでも言わずにはいられなかった。

 

「でも妹の冬華さんとは仲が良かったようだよ。妹さんもむしろ彼だけが家族だと思っているらしい。彼女に関しては前回話した通り、まごうことなき天才。魔法師の才能も一流と言っていい。現在はスキップしてケンブリッジ大で経営学を学んでいるとか。」

 

「その大学についても裏は取れてないんですね?」

 

「うん。大学のデータベースには載っているから嘘ってことはないと思うけど。」

 

「それで赤の他人にされてから何があったんですか?」

 

「ああ、そうだったね。それで彼が10歳の頃に父親をなくしてね。富だけは残ったんだけど本来、妹さんが受け継ぐはずの会社をアイザック・ウェストコットに乗っ取られたんだ。当時の会社幹部たちもその時にバッサリとクビを切られて奪い返すチャンスさえ潰されたんだ。」

 

「先生?”富だけは”といっても赤の他人の清夜君は受け取れないんじゃ・・・」

 

「たぶん妹さんが配慮してくれたんだろう。それだけ大事だったんじゃないかな?そしてそこから信じられないぐらいの成長が始まったんだ。彼は必死に勉学を打ち込み、遺産を使いスキップでマサチューセッツ工科大に入学、次席で卒業。それだけでなく空手、ブラジリアン柔術、ムエタイ、中国拳法、剣道、フェンシングにも取り組み今の強さを手に入れたんだ。その強さは身を持って思い知らされてるよね?」

 

達也は二つの意味で驚いた。

一つは成長。努力すれば必ず報われるというが現実にはそうはならないし、長続きさせるのも10歳の子には難しい話だ。それだけの原動力がなんだったのか気になるところだ。

もう一つは剣道とフェンシング。強さこそこの前の戦いで痛感している。問題は何故剣術、リーブルエペーでないのか。現在でもやっているところは沢山あるが以前エリカが言ったように魔法師がやるとなると殆どの人が途中で魔法を交えた剣術、リーブルエペーに移ってしまう。それのにあえて剣道、フェンシングを続けるのは意外だった。

 

「なぜそこまでの努力を?それに日本に戻って魔法科高校に通う理由は?とても魔工師になるためとは思えない。」

 

「そこはちゃんと裏が取れた。彼はねアイザック・ウェストコットから会社を奪って妹さんに返すために努力し帰ってきたらしい。旧幹部との接触もあった。第一高校に通うのは十師族や百家とのパイプを築くためだろう。あそこが一番多く十師族、百家の直系が通っているからね」

 

「正直言って正気の沙汰とは思えません。それに十師族・・ですか」

 

達也と深雪は苦い顔をする。

なにせその序列1位の直系(・・・・・・・)なのだから。

自分達も無関係とは言えない。

 

「清夜の頭脳ならあながちそうとも言えないな。昨日の事件からしてみても予見する力が高いと言えるしな。」

 

「昨日のマジックのような解錠ですよね?あのトリックは驚きましたが・・」

 

「確かに昨日のドアを開けたのはトリックといえるものだ。だがあれは事前に鉄のブロックを入れなければならない。清夜が持っていたブロックは一つ。」

 

達也の言いたいことに理解した八雲が引き継いで説明する。

 

「なるほどね。彼は立て篭りが起こることを予想していた(・・・・・・・・・・・・・・・・・)んだね。予知能力の類いでない限り普通はそんな予想出来ない。」

 

「はい、立て篭り犯と話していた俺でさえ事件を予想していませんでした。かたや若くして世界トップクラスの業績で武器、魔法を売り、世界最強の魔法師とまで呼ばれる天才。かたや大学をスキップするほどの頭脳を持ち観察眼、先見の眼

に優れ、深雪の魔法力を上回れる天才。信頼できる男ではありますが下手に踏み込みすぎてこの天才同士の戦いに巻き込まれたら・・」

 

それ以上達也は言わなかった。

だが深雪も想像は出来ていた。

達也は人の評価に関してはすごく辛口だ。(だからと言って楽観視するような無能ではないが)

その達也が天才と言うのだ。

例え、昔無能と言われていようと達也がそう言う以上、そういう目で見てしまう。

 

「そう、だから信じるとかは自由だけど深く入り込まないようにね。泥沼には気をつけること。」

 

「分かりました。それで・・結局その呪具はなんの調査で使うんですか?」

 

清夜に関係すること・・

話に出てきた妹のことだろうか?それとも家のことだろうか。それぐらいの程度で考えていた達也だが

八雲は飄々な顔から突然、真面目な顔になり準備を始めた。

 

「これからやるのはね視覚同調という術でね。精霊を通して遠くの場所の映像を見るんだ。いわば精霊の盗撮カメラかな?元々は吉田家の術法で本当は五感まで同調できるんだ。けどこれは亜流で視覚と聴覚だけ。これでアイザック・ウェストコットがいるDEMを調べようと思う。」

 

「危険です先生!もしバレたら殺されるかもしれないのですよ!?」

 

「『虎穴を入りずんば虎子を得ず』というだろう?縁が繋がってしまった以上調べとかないと”もしも”の時に困る。」

 

深雪の警告に飄々と答えるがそれは声だけ顔は真剣そのものだ。

達也としても調査するのは危険だと判断した。

 

「『ミイラ取りがミイラになる』って言葉もありますよ?」

 

「それにも考慮して弟子に協力してもらってるよ。何かがあった時にすぐ中止できるように。それじゃあ始めようか。」

 

八雲が言うといつの間にか弟子数名集まっていた。

呪符でやるというより数人で取り囲んで儀式で発動する感じだ。

術が始まり辺りはシンと静まり返る。

一見何もないように見えるが達也の眼には八雲の周りに複数の精霊が漂ってるのが見えた。

そしてどこか遠くからか管のようなものが八雲にくっつき繋がった。

 

八雲は集中し精霊の見ている景色を見ようとする。

 

(さてさて何が出てくるかな?アイザック・ウェストコット)

 

しかし

 

 

 

 

 

覗きは良くないな。おしおきだ。

 

 

 

 

 

何処からともなく声が聞こえると八雲達に魔法による何かしらの攻撃がきた。

 

「「「「ぐあっ!!」」」」

 

「師匠!?」

 

「先生!?」

 

複数の弟子が倒れ気絶する。

術者の八雲は気絶こそしてないがギリギリ耐えた感じだ。

 

「うっ・・・やられた。まさかこんな攻撃があるなんて・・・君達の言う通りもう少し注意するべきだった。」

 

達也と深雪は急いで弟子の容態を確認した。幸いにも気絶だけで命に別状はなかった。

深雪は近くにあった湯飲みに水を入れ八雲に手渡す。

 

「先生、一体何が?」

 

「ゴクゴク・・・はぁ・・はぁ。精霊で見ようとした瞬間、誰かに気付かれて致死レベルのルナ・ストライクを仕掛けられた。」

 

「ルナ・ストライク!?精神干渉系魔法じゃないですか!?それにどうやって遠くから師匠に攻撃を当てたんですか?」

 

八雲は縁側に寝そべり息を整えて答えた。

 

「それがなかなかのやり手でね。僕は精霊と管のようなもので繋がって見ようとしたわけだけど、相手は精霊を殺すと同時に逆にその管を伝い僕達にルナ・ストライクを仕掛けたんだ。ギリギリのところで僕が術を中止して管を切ったわけだが、あと数瞬遅かったら全員お陀仏だった。いやーまいったまいった。」

 

最後には元の飄々とした口調に戻ったが

その時、兄妹は初めて八雲の悔しそうな顔を見るのだった。

 

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2095年 4月22日 ????

 

とあるホテルの一室。

長期滞在なのか部屋はブックマンから電話が来た時と同じ状態だった。

ビッチそうな白人の女はデバイスを操作しながら隣でテレビを見ている少女に話しかける。

 

「おい紅雪。テレビばっか見てるけど明日の準備はいいのかよ。くたばるのは勝手だけどテメェの死体袋を担ぐのと上に怒られるのは嫌なんだよ私は」

 

「うるっせーなスクリーム!この紅雪様が銃のメンテもCADの調整もせずにテレビを見るわけないだろうが。というかテメェこそ私が着る制服さっさと用意しろよ!」

 

「たく、あー言えばこう言う。文句ばっか言いやがってテメェはアレか?3歳児辺りが好んで履く、歩くたびにヒップヒップ鳴く靴かっての!?ほらよ制服だ。たく国立の学校だからレプリカ手に入れるのに苦労したぜちくしょー」

 

今にも喧嘩しそうな勢いだがこれが二人の日常。これを毎日のように見ればホテルマンも慣れるというものだ。

そんな調子で少女はもう一つ不満を言った。

 

「てかよー平和ボケしたガキしかいないとこでどうして私がパラミリと組んで仕事しなきゃいけないの!?バカなの?死ぬの?」

 

「あ?ンなもん不安だからに決まってんだろ。カツト・ジュウモンジやマユミ・サエグサがいる学校だぞ?それにテメェじゃあクラッキングとか出来ねーだろうが!」

 

「うわ、ウゼーこのビッチ。婚期逃して死ぬな、間違いない。キッシシシ・・・まっ、せいぜい楽しませてくれよjapanese。」

 

その少女の白い頭とデザートイーグルがキラリと光った。

 

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2095年 4月22日 第一高校

 

予測された日の放課後、話し合いの通りに討論会は始まる。

ほとんどの生徒は部活動を休んでまで参加、傍聴するようだ。

だがほとんどの生徒、いや深雪も達也もまだ知らない。

様々な思惑が孕んだ戦いになる事を・・・・




鍵穴のネタ元は『スパイラル 推理の絆』にあった話です。
現実にあんなことがあるのか分かりませんけどw
そこまで気にしないでください。


次回予告!
とうとう戦いの火蓋が切って落とされる。勝つのは一体誰か!?
そして戦いの中で清夜の心は大きく揺れ動き・・・

次回はなんと倍のニ万字越えです!
お気付きの方もいるかもしれませんがデストロのあのキャラも・・・
次回をお楽しみに!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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38話 剣と銃と魔法の円舞曲

どうも!感覚を開けながら入学編を最後まで出そうと思いまして投稿しました!
原作とは少し違った展開をお楽しみください!

前回までのあらすじ!
討論会前日、達也と深雪は八雲から清夜の辛すぎる過去を聞かされる。その後、八雲がDEMに対し精霊を使った盗撮を試みるが逆に返り討ちにあい殺されかけた。一方、殺しかけた本人こと清夜は作戦会議後、自身の抱える矛盾に悩むが考えを放棄し武器商人という仮面の下に隠した。


2095年 4月22日 第一高校 図書館

 

討論会は真由美の独壇場だった。

同盟側から出された討論者の曖昧な意見を真由美は明確な数字でことごとく論破する。

元より意識的な問題でほとんどが言い掛かりに過ぎないのだ。

それにたった一つだけある差別的制度に気付けていない。

そんな口先だけの連中に真由美が負けるなんて清夜には思えなかった。

会場はすでに真由美の演説会という雰囲気で同盟に賛成的な生徒でさえ真由美に魅入っている状況だ。

 

(この空気は論破されただけのものじゃないな。彼女の身振り手振り、声色、トーンが見るもの全てを引き寄せている。これを素でやっているなら正しくカリスマだな。)

 

今、清夜がいるのは図書館内の本棚の通路。

実際に清夜は討論会にいるわけではなく、講堂に付いているカメラにマリオネット・ジャックでハッキングして映像を脳内で再生していた。

壬生達を叱りつけておいてこの体たらくだが元より正義の味方ではない。

逮捕される心配もない。

サイオンレーダーは全て停止させてあるし、警察が調べたぐらいじゃ魔法だと気づけないし、ハッキングまで気付いたとしてもブランシュがしたことにできる。

清夜は討論会を楽しげに見ていると討論会も最高潮になり真由美がこうまとめる。

 

ブルーム(一科生)ウィード(二科生)・・残念ながら多くの生徒がこれを多用しているように生徒の間に差別意識があるのは事実です。しかし二科生もそれを諦めと共に受け入れる風潮も存在します。その意識の壁こそが問題なのです』

 

『そんなの誤魔化しだ!』

 

(無駄だな。ヤジはもう遅い。お前らが長年かけて作り上げた勢いは七草のたった数分の演説で潰されたんだよ。)

 

『学校の制度としての区別はあります。ですが同盟側があげた差別はないのです!もちろんそれを言い訳にするわけではありません。私はこの現状に満足していません。なぜなら一科も二科も関係なく全員がここの生徒であり、生徒にとって一度だけの三年間なのですから。』

 

会場に大きな拍手が響く。

誰の目から見ても勝利はあきらか。

真由美はとどめに宣言する。

 

『ここで一つ公約をあげときましょう。実はこの学校には差別する制度が一つあります。それは生徒会役員の指名は一科に限られる制度です。私はこれを退任時の総会で撤廃させることを最後の仕事にします。人の心を力ずくで変えては(・・・・・・・・・・・・)ならないし、してはならない(・・・・・・・・・・・・・)以上・・・それ以外のことで出来る限りの改善をしていくつもりです。』

 

人の心を力ずくで変えては(・・・・・・・・・・・・)ならないし、してはならない(・・・・・・・・・・・・・)・・・か。部下を切り捨てることが出来ない甘ちゃんのセリフだな。まぁ俺はそういう奴は大好きだけどな。付き合いという意味でも”利用しやすい”という意味でもな)

 

『アイク。報告が』

 

廃工場近くに待機中のエレンから思考通信がかかる。

コールサインではなく『アイク』と呼ぶのは作戦が始まってないということだ。

 

『どうしたエレン?』

 

『私たち以外に所属不明の日本人の二グループ。それぞれ15。気付かれてはいませんがどうしますか?』

 

『ふ〜ん・・どこか知らないけどこの国の人間もそこまで無能じゃなかったか。とりあえず今は指示があるまで待機。指示より前にそいつらが司一を捕まえるようならそこを強襲、強奪してくれ。』

 

『了解』

 

エレンならどうにか出来るだろうが不確定要素は清夜にとって容認できない

清夜は仕方なしに『七賢人』という切り札をきることにした。

 

『どうせだから彼らで実験するか・・・・・サイモンさん。聞こえる?』

 

『聞こえるネ、式さん。秘書さんに頼まれてもう調べてある。一つは警視庁公安部、もう一つは軍情報部ネ。お互い相手の存在に気付いてない。』

 

『さすがサイモンさん。早いし、俺が欲していた情報だ。じゃあ、そのままの監視と構成員全員の位置情報計測をよろしく』

 

通信を切り、今度は輸送チームに切り替える。

 

『翠、藍。待機中悪いけど仕事お願いできるかい?』

 

『なんなりと』

 

『二チームからそれぞれ一人殺してきてほしい。あとで仲間が見つけられるようにして、出来るだけむごたらしく。』

 

『むごたらしく・・・ですか。キョフフ、お任せください。』

 

「さて、下準備は完りょ・・・!!」

 

ドカーン!!ドーン!!

 

突如、轟音で揺れる図書館。

中にいる生徒は悲鳴を上げてしゃがみ込む。

地震ならば正解の行動かもしれないがこの音はあきらかにそれとは違う。

ただ一人、清夜はゆったりとした歩調で二階窓から外を見た。

本校舎、実技棟などからは火の手が上がり、中庭では武装した男達が生徒を襲っている。

そして予想通り・・というべきだろうか

何人かの二科生が武装した男達に協力している姿もチラホラと見えた。

特に驚いてはいない清夜だったが大げさに叫んだ。

 

「ててててて、テロリストだーー!爆弾持ってこっちにきてるぞーーー!」

 

逃げろーー!

 

キャー!

 

中にいた人たちは事務員も含めて全員蜘蛛の子を散らすように逃げる。

もちろん、そんな事実はなく図書館を無人にするための嘘。

いずれ来るのだからあながち嘘ではないというのがこの嘘の醍醐味だ。

 

『マスター、もう間もなくテロリストとサヤ達がそちらに。司一は見当たりません。おそらく本陣の廃工場かと。』

 

『アルテミシアか、ご苦労様。じゃあ来たテロリストは俺が処分しとくよ。』

 

『・・・サヤ達も殺すのですか?』

 

声色こそ変わらないもののアルテミシアが嫌がっているのはすぐに分かった。

剣道部のエースと剣術部のエース、お互い剣の腕を認めた友人だからこそためらっているのだろう。

清夜はその甘さに不信感、不快感を抱いた。

 

『お前が殺すわけじゃない。契約とは関係ないケースだが?』

 

『も、申し訳ありません。』

 

『・・・努力はしよう。だが俺の秘密を一端でも知るようなことになったら殺す』

 

『!!・・ありがとうございます。入り次第、剣術、マーシャルマジックアーツ、操射部で防衛線を構築し。誰も入ってこれないようにします。』

 

清夜はため息をつきながら一階ロビーに移動する。

とりあえず裏切る気がないのは確認した。

しかし不快感こそ消えど不信感が完全に消えることはなかった。

 

(案外、最初にチームを裏切るのはアルテミシア・・・いやセシル達を含めた4人なのかもな)

 

「そこのお前!何をしている!」

 

感傷(?)に浸る間もなくテロリスト5名ほどが侵入してきた。

さすがに第一目標のためだからか、高純度のアンティナイトだけでなくグレネードランチャーが付いているアサルトライフルまで装備している。

そしてテロリストの後ろにはアルテミシアの言う通り壬生の他二科生二人が付いて来ていた。

清夜は勇気ある青年を振舞う。

 

「そう言う君達こそ何をしている?この学校は関係者以外立入禁止だ。」

 

「式君!そこを退きなさい!」

 

「壬生先輩・・・やはり貴方もそちら側に立ちましたか。本当に哀れだ。雨の日に捨てられている犬より惨めだ。」

 

「人を馬鹿にするのもいい加減にしなさい!」

 

「自分の立場を危ぶんでまで貴方を心配している人がいるのに・・・その人のためにもここは通しませんよ。何があって・・ガハッ!」

 

バチン!バタッ・・

 

突如、雷のような音が響き倒れる清夜。

壬生を始めテロリストも二科生徒も何が起きたのか分からなかった。

しかし、すぐに壬生と二科生はその音の意味を身をもって知る。

 

バチン!バチン!バチン!

 

「「「ウガァッ!」」」

 

(こ、これは電撃・・・いやスタンガ・・・)

 

首に衝撃が走り三人の視界が闇に落ちる。

 

「お、おい!?お前達!?どうした?」

 

「なんだ、なんなんだ!?」

 

「落ち着け!敵も気絶したんだ!むしろ都合がいい。今の内に・・」

 

 

 

 

 

 

「彼女達は私の魔法で気絶したよ。BS魔法で出来たスタンガンでね」

 

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

最後のセリフはテロリスト達ではなかった。

その発信源は前のめりに気絶しているはずの清夜からだった。

テロリストは驚きながらも銃を清夜に向けた。

 

「な!?気絶してたんじゃないのか!?」

 

「演技だよ。これからゴミ屑を処分するのに目撃者は必要だからね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って言う目撃者がねぇ」

 

「ふ、ふざけるな!化け物!!」

 

バババババッ!パンパンッ!

 

清夜に向けて集中射撃するテロリスト。

だがというか、もちろん弾が清夜に当たることはなかった。

 

「へぇ、弾のほとんどがヘッドショットコースだ。よほど殺し慣れてるようだね。君たちが今のブランシュ一番の精鋭ということか。」

 

「な、なんで弾丸が手前で止まる!?キャストジャミングしながら撃て!とにかく撃て!」

 

キィィィィィ!

 

バババババッ!

 

「子供誑かしてテロを手伝わせて、そして子供を殺そうとしたんだ。まさか自分だけ無事でいられると思ってるの?・・」

 

テロリストは必死に撃つが全てが清夜に直撃する直前で静止する。

清夜にとってはもう見慣れた景色だ。

いつも無駄だと分かっていても恐怖で撃つことが止められない光景。

 

「く、クソがーー!!」

 

バゴン!バゴン!バゴン!

 

「「「「「ヴェグバッ!!」」」」」

 

グレネードランチャーを使おうとした次の瞬間、爆発音が鳴りテロリストが血を流して倒れる。

爆発の衝撃とグレネードランチャーが暴発(正確には腔発)し壊れたアサルトライフルの破片が喉や腹に深く突き刺し傷つけたのだ。

これは事故によるものではない。

『EMJ』

正式名称『Electric Missile Jammer』と名付けたこの魔法は清夜の『電気使い』の応用にしてミサイル迎撃術式の一つ。

その名の通りグレネード弾やミサイルの信管に電気的干渉をし誤爆や不発させたり出来る。

『マリオネット・ジャック』と区別するのは軌道変更などが出来ない代わりに単一工程並みに簡単に発動できるからである。

 

「ぅ・・・k・・ぐ・・たす・けて」

 

「さて、ここでクイズだ。武器も壊れ、手足も動かせない、このままじゃ出血多量で死んでしまう君達に私は何をすると思う?」

 

「う・・・ぁ・・?」

 

清夜は階段に座り込み優しげに微笑む。

しかし、その答えはテロリストの想像以上に優しくなかった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あぁ、きっと虫より惨めに死ぬんだろうな。この世の悪全てがこうなったら素晴らしいのに」

 

「ぉ・・・・鬼・・・ぃ」

 

「悪・・・・魔ぁぁぁ・・・。そ・・れで・・も人・・かはっ・・・」

 

テロリストが最後に見たのは優しげな微笑みではなく、轢かれて死んだ猫を平然と眺めるような冷たい目だった。

 

「これぐらいで嘆かないでくれよ。冬華が君達悪に受けた仕打ちに比べたら、こんなのはお遊戯にもならない」

 

返事が出来ない屍を横目に『ニューロリンカー』に送られた公安と情報部の構成員の正確な位置情報、顔写真を見る。

 

「さて公安部、軍情報部の諸君。君達にもお仕置きが必要だ。スパイまで送り込んで生徒の心の隙間に付け込んで情報を盗むくせに、いざとなったら助けもせず高みの見物を決めるなんて非道いじゃないか。君達や法の善悪なんて知ったこっちゃない。善悪を決めるのはこの私だ。」

 

これは魔法に必要な情報。

清夜は笑みを浮かべた。

今度は歪んだ顔で・・・

 

「じゃあ始めようか。新魔法の実験を・・・」

 

清夜が発動したその魔法式は禍々しく黒光っていた。

 

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2095年 4月22日 第一高校 講堂

 

一科と二科の蟠りに一応の決着がついた講堂でも事件は起きていた。

爆発を合図に動きだした同盟メンバーをマークしていた風紀委員が取り押さえる。

すると今度は窓からガス弾が投げ込まれ、同時にガスマスク装備のテロリストが入ってきた。

ガスと武力で制圧されると思われたが服部の収束系と移動系の魔法によりガスが拡散することなく外に戻っていく。

そして目論見が外れたテロリスト達は摩利の魔法で返り討ちに会い拘束された。

こうして講堂のパニックは未遂という形で終息を迎えたが外も同じというわけではない。

達也は摩利に進言した。

 

「委員長!爆発があった実技棟を見てきます!」

 

「お供します!お兄様!」

 

摩利はどうしよかと思ったがここはパニックを事前に予測した功労者の一人に任せることにした。

 

「二人とも気をつけろよ!」

 

「「はい!」」

 

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2095年 4月22日 第一高校 中庭

 

「お兄様の予想通りになりしたね。」

 

「あぁ、清夜が予想してピックアップしたマーク対象者リストもほぼ予想通りだった。だがここまで大規模とは思わなかった。主力を集中させたのが裏目に出たな。」

 

テロリストの奇襲により各棟、校舎から火の手が上がっている中、何故講堂だけが未遂だけで済んだかと言うと風紀委員と部活連で講堂の襲撃を予測していたからだ。

その中で特に達也と清夜は襲撃ルート、パターン、襲撃に参加するであろう同盟メンバーなどをいくつも予測していたのは大きかった。

しかし講堂に清夜の姿はなかった。

 

「その清夜君は?」

 

「あいつは「戦いは得意じゃない」と言って参加しなかった。まぁ、思い切っり嘘だが俺は特に何も言ってない。だが予想以上に戦場が広がっている以上、何もしてないわけじゃないだろう。」

 

爆発、発砲音、怒声、悲鳴が鳴り止まない中庭を駆け抜ける兄妹。

実技棟に近づくとよく知っている人物がテロリスト3人を相手取っていた。

 

「レオ!」

 

「達也!こりゃ一体!?」

 

「お兄様、ここは私が!」

 

深雪がCADのパネルに指を滑らせるとテロリストは上空に飛ばされて倒れる。

とそこにエリカも現れた。

 

「レオ!CAD・・ってもう援軍が来てたか。これは達也君?」

 

「いいえ、私よエリカ。お兄様にそんな手間をとらせないわ」

 

「はぁ〜・・ハイハイ、平常運転ですこと。それでこいつらは何者なわけ?問答無用でぶっ飛ばしていいの?」

 

エリカとレオは好戦的な目を向ける。

やはり似た者同士と思ってたが達也はあえて言及せず敵の説明する。

 

「こいつらは侵入してきたテロリストだ。生徒でなければ手加減無用だ。」

 

「あはっ、高校ってもっと退屈なところだと思ってた。」

 

「お〜こぇ〜。好戦的な女だぜ。」

 

「だまらっしゃい。ところで清夜君は?一緒じゃないの?」

 

達也はほんの一瞬、エリカの目に不安の色を見た。

 

「いや、一緒じゃない。恐らくどこかで清夜なりに戦ってると思う。」

 

「そう・・・でこれからどうする?実技棟は先生達が制圧しちゃたけど」

 

「なんだか思ったより戦力少ねーな。俺が言うのもおかしいがこいつら3人がかりで魔法も練れねーようだし弱いぞ。」

 

当たり前のように言っているが3人を同時に、しかも素手だけで相手取るのは容易ではない。

なんとなくは感じていたがレオもかなり腕がたつようだ。

だか達也はふと思った。

一番最初に攻撃したのに戦力が少ないということはここが目的ではない。

となると学校の運営などに影響が出る場所が標的。

そうなると考えられるのはすぐには調達できない資料または機材がある・・

 

「もしかして図書館と実験棟か・・・その場合、選択肢は3つ。図書館か、実験棟か、二手に分かれるか」

 

「テロリストの標的は図書館よ。すでに主力は向かっているわ。壬生さんもそこにいるわ。」

 

答えは後ろからもたらされた。

振り返るとそこにはカウンセラーの小野遥がいた。

いつの間に!?、とかあるが今はそんな場合じゃない。

 

「後ほど説明を」

 

「却下します。と言いたいけど仕方ないわね。代わりに壬生さんに機会をあげて!私が不甲斐ないば・・!」

 

遥は思わず一歩下がる

それもそのはず深雪が物凄い剣幕で睨んでいるのだから。

深雪は隠行と達也の言葉で気づいていた。

遥がただのカウンセラーではなく国の諜報の人間だと。

だから許せなかった。

カウンセリングを利用して情報を集めていたこと。

テロを防ぐ人間なのに、カウンセラーとしても止められる力もあるはずなのに戦いもせず子供に押し付けようとしていること。

なによりも心を取り戻した兄の優しさにつけこむことが許せなかった。

 

「甘いですね。行くぞ深雪」

 

「はい」

 

「おい!達也!」

 

「レオ。余計な情けで傷付くのは自分だけじゃないんだぞ。」

 

切り捨てる趣旨の発言をする達也。

でも深雪は分かっていた。

それでも自分の身をすり減らしてでも出来る限り助けようとしてしまうことを。

本当は嬉しいのにそれで兄が傷付くのは嬉しくなかった。

 

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2095年 4月22日 第一高校 図書館前

 

図書館前は拮抗した小競り合いになっていた。

それは応戦している生徒の方がテロリストより人数が少ないのにだ。

生徒達は剣術、マーシャルマジックアーツ部員を先陣に操射部員などで側面支援して敵を着実に倒している。

いくら将来有望な人材とはいえ実戦経験なしでここまで綺麗な連携は出来ない。

 

(恐らく優秀な指揮官が・・・なるほど彼女だったか)

 

達也はその指揮官こそ清夜だと思ったが違う人物が指揮をとっていた。

 

「半田君!2時方向から敵が抜けようとしているわ!片山先輩は一度下がって大谷さんのカバーに入ってください!」

 

ズバッ!!

 

「グブァ!」

 

「バハァッ!」

 

アルテミシア・アシュクロフト

二年剣術部部長にして部活連副会頭。

彼女は自ら前線に立ちながら適確な指揮をとっていた。

その指揮も見事だが達也達が驚いたのは彼女の実力。

木刀一振りで2、3人を斬り倒している。

剣術家のエリカもその強さに驚いていた。

 

(強い!?力に特化してるでも、私のように速さに特化してるでもない。総合的なスペックが高すぎる。それに・・)

 

「くたば・・・グギャアッ!」

 

ズバババッ!

 

(敵の一回の攻撃の間に3回以上は斬りこめる。それも私のような自己加速術式によるものじゃない。なにかしらの固有魔法で可能にしてるんだわ。あの女でも、いや私でも勝てるか分からない。下手したら次兄上でも・・面白いじゃない)

 

恐らくこんな場合じゃなかったら勝負を仕掛けに行っただろう。

だが今すぐというほど馬鹿ではなく、自分の今の実力を過信していなかった。

 

「アシュクロフト先輩!無事ですか?」

 

「司波君!深雪さんも来てくれたのね!私は無事だけどこのままじゃ生徒から死傷者が出るかもしれないわ!手伝って!」

 

「俺が行くぜ先輩!うぉぉぉぉぉぉ!パンツァー!」

 

ドガッ!

 

「グアッ!」

 

いの一番にレオが飛び出し敵を殴り飛ばした。

普通なら叫ぶ必要はないが彼が魔法を使うのには必要だった。

 

「音声認識型CADとはまたレアなものを・・」

 

「お兄様。今、硬化魔法の起動式の展開と魔法の構成が同時進行していたましたが?」

 

「あれは10年前に流行った逐次展開という技術だ。魔法終了までに同じ魔法の起動式を展開しておくことで終了と同時にさっきと同じ魔法が発動する。つまりタイムラグなしで硬化魔法が継続されるんだ。」

 

なんて会話している間にも達也達は襲いかかる敵をあしらっていく。

レオに関してはテロリストの魔法で飛ばされる瓦礫や氷礫を拳だけ防ぎ、襲いかかるナイフも刺さることなく砕け散らせている。

 

「プロテクターの形をしているとは言え、あんな使い方してよく壊れないわね。」

 

「CADや服自体に硬化魔法をかけているんだ。今のレオは全身がプレートアーマーに覆われている状態だ。ついでに言うと硬化魔法は硬度を上げる魔法ではなく分子などの相対位置を固定する魔法だ。物が壊れる=分子などの相対位置が変わることだから固定されてる限り壊れることはない。」

 

「それにプレートアーマーと言っても動きづらくなるわけじゃないわ。だからこそあんなに動けるのよ。」

 

達也達が敵を倒しながら中央に近づくとアルテミシアも近寄る。

 

「皆、清夜君見てない!?」

 

「いえ見てませんが」

 

「図書館にはいたらしいんだけど逃げて来た人の中に彼がいないの!」

 

その言葉にエリカにしては珍しく不安で焦った顔をした。

 

「先輩!もしかしたらまだ中にいるかもしれない。私が見てくる!」

 

「待てエリカ。一人で行くんじゃない!」

 

「でも!」

 

「分かってるわエリカ。だから私とお兄様も行くわ。」

 

達也はエリカの実力を知らないわけじゃない。

不安なのも涙目を見れば分かる。

だがだからこそ焦って一人にさせるわけにはいかなかった

 

「行ってこい三人共!ここは任せろ!」

 

「ここはなんとかするわ!清夜君をお願い!」

 

「お願いします先輩!」

 

「ごめん・・・頼んだよレオ!」

 

達也達は二人に背中を押してもらう形で

図書館内に入っていた。

 

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2095年 4月22日 第一高校 図書館

 

図書館内は静まり返っていた。

この建物には警備員もいたはずだが、きっと実技棟の方に誘い出されてしまったのだろう。

達也は入り口近くに身を潜めると館内の存在を探る。

 

(これは・・どういうことだ?)

 

おかしな雰囲気。

そう、まるで殺し屋がいたあの倉庫と似た状態。

 

「お兄様?」

 

「・・・階段上り口に9人。その内4人が気絶していて5人が死んでいる。」

 

「達也君、知覚系魔法使えるんだ。すごいね!でもそれってどういうこと?意識ある人間が一人もいないって。もしかして・・・清夜君!」

 

言葉途中でエリカはスペースから飛び出し階段を目指す。

着くとそこには達也の言う通りテロリストが5人死んでいる。

残り4人は壬生と剣道部員二人、そして清夜だった。

 

「清夜君!!清夜君!!起きて!起きなさいよ!」

 

「落ち着いてエリカ。怪我してて悪化したらどうするの。まずは怪我の確認よ。」

 

そこに深雪と達也も到着。

気絶してる清夜を怪我をしてないか慎重に調べた。

 

「怪我はなさそうだが・・む、首の付け根近くに痕が二つあるな。相対位置から考えてスタンガンで気絶させられたのか。」

 

「死んでないの?」

 

「ああ、大丈夫だ。とりあえず起こすか。おい清夜、清夜!」

 

ゆさゆさと揺らすと清夜は目を覚ました。

 

「ん・・あ、あれ?達也?司波さんに、エリカも」

 

「清夜君!よかっ・・い、いや大丈夫なのは分かってたわ!」

 

「あらエリカ。さっきまで泣きそうな顔して必死に起こし・・むごっ!」

 

「ちょっ!?黙ってなさい深雪!」

 

「とにかく無事で何よりだ清夜。皆、心配していたぞ。」

 

エリカと深雪はじゃれ合い、達也が安心した顔を向ける。

それに対し清夜は状況が飲み込めないのか目をパチクリしていた。

 

「え、えとこれは・・ツッ!?そうだ壬生先輩と対峙した時に後ろから攻撃を喰らって・・!?。こ、この死体は達也達が?」

 

清夜は青ざめた表情で三人を見つめた。

自分が殺しておいてなんと白々しいことか。

だがその演技を見破る力は達也にはなかった。

 

「いや来た時にはこうなっていた。それで・・」

 

「ん・・!?青竹さん!皆!」

 

ここで一つ清夜にとって予想外のことが起きた。

気絶していた紗弥香が目覚めたのだ。

 

「司波君!式君!これは貴方達がやったの!?」

 

「いえ、俺達ではありません。我々以外の第三者にやられたのでしょう。それより壬生先輩は何をしようとしていたのですか?」

 

「そ、それは誰もが等しく優遇されるために魔法研究資料を公開するつもりだったのよ!」

 

一瞬言い淀むが開き直りに近い声を上げた紗弥香。

清夜はますます哀れんだ。

 

「先輩まだそんな戯言を言うのですか。自分が正しい人間とは言えません。でも生徒を傷つけて、産業スパイの手伝いをして本当にそれが正義だと思うのですか!」

 

「その通りです壬生先輩。これが現実です。誰もが等しく優遇される世界。そんなものはあり得ません。もしあるとするならば誰もが等しく冷遇される世界以外にありません。先輩は利用されたんです。これが他人から与えられた耳当たりのいい理念の現実です。」

 

「どうしてよ・・・何がいけなかったと言うの!?差別は確かにある!貴方達だって同じでしょう!?特に司波君はそこの妹さんと比べられてきたはず!そして侮辱されてきたばずよ!誰からも馬鹿にされたはずよ!」

 

それは叫びだった。

不当な差別を受けてきた紗弥香の悲痛な

叫び。

だがこの二人の心には届かない。

一人はそういうものだと「受け入れている」から。事実として「認識している」から。

もう一人は「興味がない」から。彼が生きているのは「復讐」のためだけ。復讐さえ出来れば不当な侮辱も差別も許容範囲だ。ましてや哀れな人間の言葉などで心動かされるほど優しくはない。

この二人はそんな人間だ。

その代わりではあったがその傍らにいた二人には届いた。

 

「私はお兄様を侮辱したりしません。もちろん清夜君のこともエリカのことも」

 

「あたしもよ。出会ってまだ短いけど私は一度たりとしてこの三人を侮辱したこはないわ。」

 

エリカと深雪は二人の一歩前に出て紗弥香と対峙する。

 

「例え全人類がお兄様を侮辱し差別しようと私は変わることのない敬愛を捧げます。魔法の力故ではありません。そんなものはお兄様の魅力の一端にもすぎませんから。」

 

「そもそも「誰もが侮辱した」って言うことじたいが許しがたい侮辱よ。確かに二人を侮辱する輩はいたわ。でもそれと同じくらい二人を認めてくれる人をあたしは見たわ。先輩にはそんな人いなかったの?」

 

「いいえ、少なくともお兄様は認めていましたよ。貴女の腕前を、容姿を」

 

「そんなもの上辺だけのものじゃない!」

 

「でもそれも先輩の一部でしょ?」

 

「それにたった数回しか会ってない相手に何を求めているのですか。結局、誰よりも貴女を侮辱していたのは貴女自身です。」

 

「うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!もういい!そこを退きなさい!斬り捨てるわよ!」

 

二人の正論による言葉責めは彼女を操る糸を断ち切るとはできなかった。

紗弥香はあらかじめ持ってきていた。スタンバトンを構える。

達也、深雪、清夜は戦闘体勢をとるがエリカがそれを制した。

 

「ここは私がやる。」

 

「エリカ・・」

 

「手助け無用だよ清夜君。少しは私を信じなさいって。それじゃ始めましょうか先輩。私は千葉エリカ。よろしく」

 

清夜の声をよそに警棒を構えるエリカ。

紗弥香はすぐには動かなかった。

いや、動けなかった。

笑っているエリカだが通り抜ける隙が一切ないのだ。

そして少しの間の後、戦いは始まる。

気合の掛け声も合図もなしに。

 

ガキン!ガキンガキン!

 

初撃はエリカ。紗弥香の首元目掛けて警棒が振られる。壬生はその速度に驚きづつも無意識に払って防いだ。

しかし、防いだ次の瞬間にはエリカは背後に回りこんでいた。

紗弥香は振り向きながらバトンを縦に構える。

直感とも言える防御だったがダメージは衝撃だけで抑えた。

定石ならばここで鍔迫り合いに持っていくのだが、すでにエリカは間合いの外に逃げていた。

 

「自己加速術式・・渡辺先輩と同じ?」

 

渡辺というワードにエリカの足が一瞬止まる。

たかが一瞬、されど一瞬。

紗弥香が攻撃に転ずるには充分な隙だった。

 

キィィィィィ・・

 

「っ!?」

 

紗弥香が指輪にサイオンを注入すると

キャストジャミング特有のノイズとともにエリカの表情が険しくなる。

 

ガキンガキンガキン!!

 

面、面、胴、袈裟斬り、小手、斬り上げ

紗弥香の連続攻撃がエリカに襲いかかった。

古流をも取り入れたその剣筋にエリカは防戦一方に・・・見えた。

清夜にはエリカの表情が見えた。

 

(笑っている?)

 

そもそも防戦一方ということがおかしい。

紗弥香は攻撃に力を入れすぎてキャストジャミングが弱くなっているから自己加速術式で距離をとることができるはず。だがエリカは自己加速術式を使わない。

その理由はすぐに分かることになった。

 

「はっ、はっ、」

 

「あら、もう息切れ?じゃあ次はこちら・・からっ!」

 

ガキンガキンパキーン!!

 

怒涛の連続攻撃。

すぐに息が切れるのは必然だった。

エリカはその息切れの瞬間、お返しと言わんばかりに小手、袈裟斬り、斬り上げの連続攻撃を仕掛ける。

そして最後の一撃でスタンバトンをへし折った。

さながら剣の円舞曲。

エリカの華麗な攻防に清夜も目を奪われていた。

しかし勝負は終わっていない。

 

「拾いなさい。そして貴女の全力を見せなさい。あたしの最強をもって貴女を縛るあの女の幻影を斬り捨てる。」

 

エリカの視線の先には剣道部員が持ってきた一本の脇差。

覚悟を決めたのか、紗弥香はアンティナイトの指輪を捨て、ブレザーを脱いで構えた。

 

「こんなものには頼らない。私の剣で渡辺先輩と同じその技を打ち破る。」

 

「あたしの剣はあの女のものとは一味違うわよ。」

 

そこにはもう怒りも迷いもない。

純粋な闘志が場を支配していた。

そして二人は駆け抜ける。

全てをたった一撃に込めて。

 

ガキン!

 

決着は一瞬でついた。

 

「ごめん先輩。ヒビが入ったかも」

 

「・・いいわ、てかげんできなかったんでしょう?」

 

膝をついたのは紗弥香だった。

それでもエリカは賞賛する。

 

「うん、先輩は誇っていいよ。千葉の娘、それも印可の剣術家に本気を出させたんだから。あたし剣術なら目録のあの女より強いんだから」

 

「そう・・・ねぇ、おね・・」

 

「あ、あの!」

 

感動の幕切れに水を差したのは清夜ではなかった。

かと言って達也でも深雪でもない。

その声の主は裏口通路近くの本棚から出てきた。

 

「そ、その、わたわた私!爆発があってからずっと隠れてたんですけどもう大丈夫なんですか!?」

 

日本人にしてはやや白い肌。

黒い髪に可愛らしい目。

身長こそ小さいものの美少女と言える少女だった。

紗弥香が知らないところを見ると同じ一年生なのだろう。

エリカは笑いながら構えを解いた。

 

「えぇ、だいじょ・・」

 

「「全員、そいつから離れろ!!」」

 

達也と清夜が叫んだのとほぼ同時だった。

その少女はスカートから拳銃を取り出し発砲する。

 

バンバンバンバンッ!!

 

達也は深雪と紗弥香を、清夜はエリカを抱えて本棚に避ける。

本棚が木製じゃないのが幸いだった。

だが数発撃たれれば貫通するかもしれない。

なぜなら少女が持っているのは拳銃でもトップクラスの威力を持つデザート・イーグルなのだから。

 

「フジャッケんな!何で分かった!?」

 

少女は怒りながらナイフ型のCADを構える。

達也が分かったのは最初に存在を確認した時に見つからなかったから。

少なくとも嘘をついているのは分かった。

清夜はというと

 

「それ裏で売られているレプリカだろ?胸に紋章が付いてるのに肩には紋章が付いてない。そんなオーダーミスを着ている奴、入学して一カ月近くたったこの学校には一人もいないはずだ。」

 

「チッ、あのビッチ!簡単にバレるのを用意しやがって!キッシシシ・・まぁいいや。こいつらなら楽しめそうだしな。」

 

そうしている間にもパンパンッ!と少女は音を鳴らせていた。

その標的は気絶している二人。

二人とも頭を撃ち抜かれた。

 

「亀田君!木下君!」

 

「何よアイツ!?ブランシュでもないの!?」

 

「お兄様!あれは!?」

 

「雰囲気から工作員か暗殺者と考えるのが妥当だ。たぶん清夜達を気絶させたのも奴だろう。ここにいる人間を殺すのが目的なのか分からないが」

 

「どちらにせよ、このままじゃ皆殺しだろうね。どうにかしないと」

 

清夜の声をよそにエリカはちょろっとだけ本棚から頭を出す。

お約束通りならここで弾丸が飛んでくるのだが飛んでくる気配はない。

そのことを良しと思ったのかエリカは提案した。

 

「入り口は塞がれてない。例え取り押さえるのが無理でも逃げるぐらいなら。」

 

そう言ってエリカ立ち上がろうとするが

清夜に袖を掴まれ止められる。

 

「駄目だエリカ。あれは『欠囲』だ。」

 

「欠囲?」

 

「あえて退路を作ることで窮鼠の力を発揮させない、または殺すための誘導技なんだ。」

 

「清夜の言う通りだ。この場合は間違いなく後者。うかつに出口に向かったら殺される。」

 

「じゃあどうするの司波君?」

 

戦っても必ず誰かは死ぬ。下手したら全滅。

かと言って出口に突っ走るのも殺されるだけ。

しかし手がないわけじゃない。少なくとも取り押さえる力と作戦を達也と清夜は持っていた。

問題なのは人がいる前で自分の力を見せてしまうことだった。

それに殺し屋が見てから逃げてしまい、その力が危険視され命を狙われてしまうオチはよろしくない。

エリカにしては珍しく暗い表情が浮かんだ

 

 

カタッ・・・

 

 

 

清夜の中でもう壊れて消えたと思っていた”何か”が修復される音がした

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「・・方法がないわけではありません。」

 

達也は苦渋の顔を浮かべている。

そうだ。ここは達也に任そう。

そうすれば達也の力も見れるかもしれない。

俺も話や表情を合わせる。

 

「道が開いてるのは事実。なら一人が足止めをしている間に四人が脱出。これなら確実に四人は助かる・・か?」

 

「そんな!本当なの達也君、清夜君!?」

 

「お兄様・・」

 

達也は無言で頷く。

やはり俺と同じ考えか。

なら、俺がいうことは決まっている。

 

 

 

 

 

「じゃあ、俺が足止めをする。」

 

 

 

 

 

へ?

達也の声ではない。

どこの誰ですか?え、俺?

何を言ってるんだ俺?

違う、ここは「任せた」だろ?

なんで俺が引き受けるんだよ!?

 

「違うぞ清夜!それは最悪のケースという意味で」

 

「そのケースが今じゃないか。」

 

そうかも知れないが俺じゃなくていいだろう!

なんで俺なんだよ!自演だがスタンガン喰らってんだぞ!

 

「なら、俺と一緒に・・」

 

ガシッと俺は胸倉を掴む。

おいおい、何するんだ俺!?

まさか、漫画みたいな臭いセリフを、吐くんじゃないだろうな!?

 

「妹を置いてか?外だってまだ危ないんだぞ!兄なら妹の命を第一に考えろよ!兄なら死んでも妹を守りやがれ!」

 

「・・・っ!?」

 

何で泣いてるんだよ!

今は昔の自分に後悔する時間じゃないどろうが!

 

「なら私が」

 

「先輩は怪我をしていますから却下です!」

 

「私が一緒に!」

 

「司波さんも話を聞いてだろ!?兄のためにも生きるんたよ!あんたは!」

 

今は善人面するなよ!

今までだって他人の命を踏み台に生きてきただろ!

冬華の時だってそう!

今だってテロリスト殺して、公安部や情報部の命を実験に使っているだろ!

 

「じゃあ、あたしが行く!嫌だと言ってもあたしは・・・」

 

「お前じゃ足手まといだ!」

 

「!!」

 

そうだ!アルテミシアの増援だ!

何で呼ばない!?

まさか、優しい彼女を巻き込みたくないというのか!?

散々、殺させておいて何を言う!

捨て駒でもいいだろう!

裏切りの兆候はあるんだろう!?

 

「もしもーし!作戦会議は終了でーす。キッシシシ、続いてはバッドエンドのお時間ですよー」

 

「もうこれしかない。手信号のスリーカウントで行くよ。」

 

冬華の無念はどうする!?

冬華を見捨てるのか!?

俺が生きなきゃ復讐できないだろう!!

だからやめろ!

 

「式君。私がこんなこと言う資格はないけど無理はしないで」

 

「清夜君、武運を・・・」

 

「すぐに助けを呼んでくる。それまで死ぬなよ清夜」

 

「ッ・・・」

 

ちがうちがうちがうちがう

 

3

 

ちがうちがうちがうちがうちがうちがう

 

2

 

ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう

 

1

 

違う!

 

go!

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

五人はそれぞれ別の本棚から一斉に飛び出した。

 

「1分あげてやったのに思いついたのはそれか。結局、こいつらはイエローモンキーってことか・・・死にな!」

 

「お断りだチビ!」

 

ガキン!

バン!

 

「!?、グブッ!」

 

ドガッ!

 

弾はエリカの数センチ左に直撃した。

外したのではない。

清夜がナイフ型CADを拳銃に当てて銃身をズラしたのだ。

無論、それで終わらずヒザ蹴りで少女を蹴り飛ばす。

 

「ちぃっ!」

 

シュバッ!パンパン!

 

少女は衝撃で体を崩しかけながらも清夜にナイフを振り、銃で追撃をしかける。

それに対し清夜は引き剥がされる形でナイフを避け、柱に隠れて弾を防いだ。

たったこれだけの攻防だがこれで十数秒稼げた。

距離的に考えてこの時点で四人の脱出は確実と言っていいだろう。

自分が望んでない展開だがこの相手一人ならBS魔法を使わずになんとかなるかもしれない。

そんな思いも出てきた。

しかし、幸運の女神というのは非情だった。

 

パリンパリンパリンパリン!!

 

着弾の直後、二階の窓が割れる音が聞こえた。

その後に聞こえた足音の数は8

歩幅、速度から考えて教師などではない。間違いなく軍隊経験者。

つまりは敵の増援。

一瞬でそれを判断した清夜は叫んだ。

 

「止まるなーーーー!」

 

「ッ!?」

 

入り口で止まりかけた足を無理やり動かす四人。

あまりにベタな展開に清夜はヘドが出そうになるが笑い事では終わらせられない。

増援が来る前に自分も急いで出ようとするが少女がそれを阻む。

 

「おいおい、逃げんなよ殺せないだろ」

 

パンパン!ガシャン

 

数回の発砲音の後に何かが落ちる音。

武器商人の清夜はよく知っている。

弾切れのカートリッジの落ちる音だ。

それに気づいた清夜は柱から飛び出し逃げようとした。

しかし、

 

「っ!」

 

ググッ!

 

少女の加重系魔法が清夜にかかる。

清夜の干渉力を持ってすれば倒れるほどの威力にはならないし、振り払えるがリロードして発砲するまでの時間は出来る。

 

「あばよ」

 

ガシャッ!パン!

 

「誰がそんな間抜けな死に方するかよ!」

 

パンパンパンパン!

 

清夜は加重系を振り払い、仰け反りながらナイフ型CADの移動魔法で弾丸の軌道をズラした。

そして今度はリボルバー型のCADを取り出し空気弾をぶつける「エア・ブリット」を放つ。

当たらなくともけん制にはなると思ったが少女は清夜の想像を超える。

まるで昔会った殺し屋を彷彿させるような速さで

 

「キッシシシ!」

 

「なっ!」

 

(透明の弾を全部、突撃しながら避けたやがった!伊万里並に速い!?なんだこいつ!)

 

ガキンガキン!

 

「へぇ、スペシャルフォースの人間でも今の速さなら死ぬんだけどな。テメェもオウル並に速いじゃん。ぶっ壊れてやがる。」

 

「くっ!」

 

CADとはいえ皮肉にも互いにガンエッジ(両手に銃とナイフ)。

二人はナイフと銃の鍔迫り合いという形で止まった。

このまま千日手状態ならありがたいがそんなわけない。

二階の冊から覆面兵士姿の男が顔を覗かせる。

 

「紅雪!状況は?」

 

(肌が黒い・・・南米、アフリカ・・いや白人もいる!ということは・・)

 

「遅ぇんだよ間抜け。見ての通りだ。」

 

「よし、トレジャー3、4、5は行け!残りは援護だ。」

 

ババババッ!

 

「っ!・・」

 

図書館の階段が吹き抜けというのが悪かった。

五人の男は囲むように位置取り吹き抜けを見下ろす形で銃を構えると二階からアサルトライフルの弾と魔法の雨を降り注いだ。

清夜は慌てて吹き抜けから離れ本棚に逆戻り。

 

(最悪だ!あのチビでもキツイのに!!どうするBSで殺すか!?いや駄目だ!せめて上にある熱光学迷彩のコートが取れればいいんだが)

 

達也の場合なら最悪、分解で殺すという手がある。

しかし、清夜の場合はそうはいかない。

達也は彼女達がスタンガンの犯人と考えている。

仮に彼女達を殺してしまえば死体を調べられ、スタンガンがないのに気付かれる。

そうすれば過程はともかく、間違いなく達也は清夜に疑いの目を向け、犯人またはBS魔法持ちだと分かってしまうだろう。

かといってBS魔法で逃げるのも前述通り、後々、魔法のせいで彼女達に命を狙われることになる。

つまり清夜が目指さなければならないのは「BS魔法を使わず、敵を殺さずこの場を生きて切り抜けること」

なんて鬼畜な勝利条件だろう。

しかも清夜はあることに気づいた。

 

(別の階段から二階に逃げて魔法で・・・!?CADが動かない!?キャストジャミングではないとなると故障か?いや違う!CAD限定のジャミング装置か!)

 

「ははは!魔法が使えない気分はどうだ小僧!これが我が国の最新兵器の効果だ!ヒャハハ!」

 

「おい!べらべらと喋るな!時間がないんだ。下降りて援護いけバカ!」

 

増援のリーダーらしき男が部下を叱りつける。

焦ってるかのような会話だが彼らには隙がない。

紅雪と呼ばれる少女はつまらなそうに構えた。

 

「ちっ!あいつら・・・なんだかつまんねー形になったが仕方ねぇ。まぁ、私相手にテメェもよく生きたよ。誇っていい、ただしあの世で・・だが」

 

清夜は顔を顰めた。

入り口、裏口からは遠ざかってしまった。

入り口、裏口から逃げるには必ず銃弾と魔法の雨が降りかかる階段前を通らなければならない。

そして階段は一つだけではない。

二人の男が別々の階段を降りてこっちに向かってくる。

つまり出口が塞がれた状態で紅雪と増援に追い詰められている。

 

(BS魔法を使ったところで捕まって人生終了。使わなければ死ぬだけ。もうダメか・・・はぁ、短い人生だった。でも彼女を守ったんだ。気分は悪くない。冬華もきっと・・・)

 

清夜は終わりを覚悟した・・はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お兄ちゃん・・・苦しいよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬華の悲しげな顔が頭をよぎった。

 

 

 

バキバキッバキーン!

 

 

 

清夜の中で修復されている”何か”がまた壊れる音がした。

 

 

「違う・・・そんなわけない。ごめん、冬華、エリカちゃん。忘れてた。希望なんかにすがらないんだよな。悪党でいるんだよな。」

 

「?」

 

カシャン・・・

 

CADに銃剣をつける音が響いた。

いや、清夜が復讐鬼に戻る音・・・かもしれない。

すると紅雪に不思議な事が起きた。

目の前で隠れているはずの清夜の気配が消えた。

かと思いきや

 

「切り捨てられないのは俺も同じだった。数分とはいえ何してんだ俺。必ずあの男を殺す・・だから全てを捨てでも・・」

 

ザシュ・・・

 

「ギィィィィアァァァァァ!!」

 

吹き抜けになっている階段から降りてきた男の一人がナイフで刺されていた。

後ろに回り込まれた感じはしなかった。

二階で構えていた男達も同様だ。

突然、現れたとしか思えない。

 

「なっ!」

 

紅雪も男達も一斉に銃を向ける。

 

「きえ・・・!?っ!!」

 

次に気づいた時には後ろから抱きつかれていた。

彼女の首にはヒヤリと冷たいものが、もしそのまま手前に引いてしまえば首から血が吹き出てしまう恐ろしいものが当たっていた。

 

ガキン!ガガキン!

 

かろうじて抜け出した紅雪。

仕留められなかった清夜は代わりに『マリオネット・ジャック』を使ってジャミング装置を止めた。

 

(どうでもいいんだ!いや何も変わらないんだ!!命を狙われるならその時殺せばいい!疑われる?なら達也を殺せばいい!警察なら金でも握らせて黙らせろ!復讐という結果を出せるなら手段、過程は・・・問わない!)

 

そのまま二人は吹き抜けの階段前まで移動し、ナイフの斬り合い、弾のぶつけ合いを始めた。

 

「キッシシシ!おもしれぇ、おもしれぇぞお前!」

 

「・・・」

 

ババババ!

 

ガキンガキン!パァン!ガキン!ドガッ!パァン!

 

紅雪の斬りおろしを清夜は斬りあげで防ぐ。

そのまま鍔迫り合いに形が変わったが清夜はすぐに空いてる片手でリボルバー型のCADを使い「エアブリット」で攻撃。

紅雪はこれを魔法なしの自身最高速度で躱す。

すぐに清夜はナイフで追撃を仕掛けたが

防がれ、逆に頭突きをくらってしまう。

そして引き剥がされた清夜に紅雪はデザートイーグルの鉛弾をお見舞い。

清夜は横に転がることで避けた。

 

『アルテミシア。現在、所属不明の第三勢力に襲撃を受けている。すぐにきてくれ。』

 

『!・・了解!』

 

『命に代えても守ってくれるよね?』

 

『この命に代えても必ず!』

 

(そうだ、切り捨てろ、踏み台にしろ!例え仲間の命を、エリカちゃんの命を犠牲にししてでも生きて生きて!復讐を成し遂げてやる!それこそが冬華への贖罪!恩返し!)

 

自己暗示のように繰り返していくが清夜の気持ちはどんどん冷めて乾いていき、そして思考が冴えていく。

不意に誰かが呟いた。

 

「ジーザス・・・」

 

二階にいる男達全員が同じ感想だった。

新型兵器で魔法が封じられているのにCADで魔法発動していたのもおかしいが戦闘そのものがおかしかった。

そもそも男達は二人の戦いを何もしないで見ているわけじゃない。

新型兵器を起動させながら清夜に集中射撃、魔法攻撃を行っている。

それは紅雪すらも巻き込む形で。

彼女との間に絆なんてものはない。

だから巻き込むことも攻撃も容赦してない。

なのにこの二人は魔法と弾丸の雨を掻い潜りながら戦っているのだ。

 

 

例えるならこちらも円舞曲を踊る二人。

 

それは剣と銃と魔法の円舞曲。

 

止められるのは殺しあっている当人達だけ。

 

(力勝負に持っていきたいが加重系で斬撃を重くなっているから期待はできない。となると空気弾だがこれも期待は出来ない・・・!、あれはもしや!・・・なら!)

 

清夜は当たらない空気弾を諦め、弾倉を二つ動かした。

 

バシュッ!

 

本に移動系の「ランチャー」がかかり紅雪に紅雪目掛けて飛んで行く。

だがそれも軽々と避けられた。

 

「おっとと・・・やるなぁ、亡霊野郎!」

 

ガキン!バンバンッ!

 

「亡霊・・・だと?」

 

ブン!シュパッ!

 

ピクリと清夜の眉が動く。

化け物とか悪魔とかは散々、言われてきたがそれは初めての呼ばれ方だ。

 

「プロに気配すら悟らせないんだ。そんなこと出来るのは亡霊しかいねぇだろ。」

 

「黙れ・・・」

 

「ははは、何だ?図星ってか?そういや、日本語には『生き霊』って言葉があったな。惨めなお前にはぴったりだ!」

 

「黙れぇぇ!」

 

清夜は叫びながら力任せに蹴り上げた。

無論、そんな攻撃をすれば大振りになり隙が出来てしまう。

そしてその隙こそ紅雪の狙い。

 

「あらよ」

 

ガッ!!

 

「っ!?」

 

バタン

 

蹴りを避けた紅雪は軽く足払いして清夜を倒した。

ここから戦いの均衡が崩れる。

 

シュッ!パンパン!シュッ!シュッ!シュッ!

 

紅雪はとうとう自己加速術式を併用し清夜を追い詰める。

 

「くそっ!!」

 

素早い斬撃に銃弾を前に清夜は後退しながら避けることしか出来ない。

清夜にとっては絶体絶命、紅雪にとっては千載一遇。

 

「どうした、スタミナ切れか!?遅くなって・・・!」

 

紅雪の中で違和感を感じた。

目の前には清夜と入り口のガラス張りのドア。

そして()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

紅雪は気づいた。

これは()()で屈折させられた光。

『亡霊』で怒ってるのも大振りも速度が遅くなっているのも反撃しないのも()()()()

外にいる()()()()()がこの魔法を使っていることに気付かせないため。

追い詰めていたのではない誘い込まれていた・・・

 

「なっ・・・テメェ!!」

 

よく見ると清夜の目は冷たく据わっていた。

ついさっきのような演技ではない、間違いなく光のない瞳が清夜の今の本心。

清夜は侮辱するでも高笑いするでもなく冷たくこう呟く・・・

 

 

 

「お前の願い、この俺が踏みにじる」

 

 

 

紅雪は今日初めて、身震いした。

 

(こいつ本当に同一人物か!?最初に攻撃してきた時とはまるで違う!・・・はっ!?)

 

「まさかお前も()()()()()()()・・」

 

ピカァ!

 

ガラスに差し込む光が清夜の魔法で閃光に変わる。

その光が男達の、紅雪の目を眩ませた。

 

「「「うあぁあああ!」」」

 

「ちっくしょぉぉぉぉが!!!」

 

今まで隙がなかった彼女達にこの瞬間、致命的といえる隙が生まれた。

清夜は紅雪の首を目掛けて銃剣を振り下ろす。

 

「・・・終わりだ」

 

「んなわきゃねぇーだろ!!」

 

シュッ!!ガキン!!

 

「!?」

 

なんと弾いたのだ。

紅雪の視界は眩んでいるはずなのに正確に清夜の銃剣CADをナイフで弾いた。

さらに・・・

 

「もう一丁!!」

 

ガキン!!

 

清夜のナイフまでも弾いてしまった。

こんなこと出来る方法は一つしかない。

 

「知覚系魔法・・・」

 

「今度こそ、終わりだ!」

 

「・・・」

 

銃の引き金に指を掛ける紅雪。

だが未だ清夜の目の色は変わらない。

少なくともこれから命奪われる人間の目ではない。

その理由は清夜の後ろから現れた

 

バリン!

 

入り口のガラス張りのドアを突き破り一つの人影が紅雪目掛けて隼の如く突撃してくる。

 

「その人から・・・離れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

ズバババッ!

 

「デザートイーグルが!?」

 

金髪で紅雪と同じくらい白い肌の人物『アルテミシア』

木刀から日本刀に装備を変えていた彼女は紅雪に高速の斬撃を斬りつけデザートイーグルを切り裂いた。

本気の清夜と互角以上の速度で戦える紅雪が反応出来ず防御だけになってしまったのには理由がある。

 

『反応加速』

 

アルテミシアだけが持つ固有魔法。

加速系に分類される魔法だが千葉家が好んで使う自己加速術式とも自身の神経への干渉を得意とする一色家のそれとも違う。

自己加速術式は運動速度を速める魔法。

一色の魔法では神経の伝達速度を上げるのが精一杯。

それに対し、この魔法は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()させるものだ。

故にアルテミシアは常人の数十倍以上の速さで反応し回避、防御、攻撃が出来るわけだ。

自己加速術式を併用すれば世界の名だたる近接戦魔法師をも上回る。

 

これが弾丸を容易く避ける紅雪でさえも反応出来ない最大の理由だ。

 

(二段構えで本命はこの女か!?いや、それよりも命の瀬戸際だっていうのに迷うことなく自分の命を囮に使いやがった!体がぶっ壊れてるとか自棄とかじゃねぇ!こいつ脳味噌からイカれてやがる!!)

 

それでも紅雪は負けるわけにはいかない。

 

「舐めん・・うぐっ!」

 

カタン・・

 

紅雪はナイフを振りかぶる直前、手に激痛を感じナイフを落としてしまう。

見ると手には何かで穿かれたような痕があり血が出ている。

アルテミシアや清夜とは思えない。

距離をとりながら周りを見ると銀色のCADを構えた達也がいた。

 

「お前の企みもここまでだ。両手を挙げて投降しろ。」

 

「さっき逃げたむっつり野郎・・・!!」

 

だが紅雪は反撃する暇がなかった。

目の前から魔法の兆候を感じたからだ。

すると見えない壁でも出来たのか、紅雪は四角い何かに体を押された。

いや紅雪は分かっていた。

 

「当校の生徒から離れろ!」

 

「ファランクス・・・カツト・ジュウモンジか!」

 

ダンッ!タッ!

 

紅雪は押してくる壁を逆に足場にして二階に飛び移る。

そこには視界が回復した男達だけでなく、奥で作業していた三人も記録用キューブを大事そうに抱えながら来ていた。

紅雪達の損害は刺された男一人、作戦上捨て置くことは出来ず死体は担がれていた。

 

「おい、紅雪撤退だ!最低限の任務は成功・・ウォッ!」

 

「あら、どこへお逃げになるのですか?おじ様方?」

 

「マユミ・サエグサ!?」

 

ビュバッバッバッ!バキン!

 

空中にツララのようなものが出来ると弾丸の速度で紅雪達に襲いかかる。

性格にはドライアイスの弾を降らせる七草真由美の得意魔法「ドライ・ミーティア」だ。

紅雪達は全員回避するが男が大事に抱えていたキューブにはあたり砕けた。

 

「フ◯ック!キューブが!」

 

「ドライ・ミーティアだ!全員周囲を警戒!」

 

「ルート1から脱出は出来ない、ここはルート3使って脱出だ。」

 

 

紅雪達は窓を目指す。

しかしそこにも待ち伏せがいた。

というより飛び乗って現れた。

 

「行かせない!」

 

ボバッ!

 

渡辺摩利。

風紀委員長にして十師族直系の真由美、克人に並ぶ実力者。

彼女は何かしらの薬物と魔法で煙幕を焚くと先頭の男に木刀で斬りかかる。

 

ガッ!ドガッ!

 

「こいつらに構うな!行くぞ!」

 

だが男達もやられぱなしではなかった。

男は摩利の横薙ぎを左腕で防ぐとそのまま膝蹴りと移動魔法で引き剥がした。

摩利は驚く。

 

「ぐあっ!・・こいつら軍人か!?」

 

「キッシシシ・・・日本の子供は平和ボケの雑魚しかいないと思ったがそうではないらしいな。認識を改めておくぜ!特に亡霊とむっつり顔!お前らは絶対に忘れない。じゃあな次の殺し場で会おうぜ!」

 

紅雪は何故か笑顔でそう言って男たちとともに窓から屋根伝いに逃げていった。

清夜は逃げたのを確認するとヘナヘナと上体を倒れる。

今からは劣等生の式清夜の時間だ。

 

「た、助かったよ達也」

 

(笑ってる・・・のか?いや笑っているはずなのに笑ってないような・・・纏う雰囲気が変わったというか)

 

「達也?」

 

「あ、ああ。言っただろう?『すぐに助けを連れてくる』と。あの後、皆無事に脱出出来た。お前のおかげだ、本当にありがとう清夜」

 

「どういたしまして。本当、ヘタレ男子が頑張るもんじゃないね。腰が抜けちゃったよ。あはは・・・にしてもさっきのキューブ・・・」

 

「あぁ、大容量の記録キューブだ。恐らくブランシュの騒ぎに乗じてあの女が目撃者、警備員を殺して覆面の男たちで魔法研究資料を強奪する算段だったんだろう。」

 

そうして推測を確認し合う二人と・・・なぜかプルプルと震えているアルテミシアの元に三巨頭が駆け寄った。

 

「清夜君!怪我はない!?まったく無茶するんだから・・・」

 

「はい、おかげさまで。先輩方も助けていただきありがとうございました。それとすいません。逃げるのに必死で本や備品が・・・」

 

「かまわないさ。むしろよく生き延びてくれた清夜君。君のおかげで資料強奪を防げたわけだ。達也君といい、君達二人は本当によくやるよ。」

 

「それだけじゃありません。ブランシュの仲間とはいえ亀田先輩と木下先輩が・・・」

 

「俺たちもさっき確認した。だがな式、それこそお前のせいではない。俺たちが憎むのは利用したブランシュと殺した奴だ。」

 

「そう言ってもらえるとさいわ・・・・ウグゥォッ!!」

 

ガシッ!

 

言い切ることが出来ず清夜は苦痛の声を上げる。

攻撃ではなくアルテミシアが突っ込んで抱きしめてきたからだ。

先ほどまで先輩としての面子のために堪えていたが我慢できなくなったようだ。

 

「よかった・・・本当によがっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!

 

女神とか呼ばれる普段の面影はなく、まるで小学生のように泣きじゃくるアルテミシア。

端から見れば、これはこれで可愛らしいかもしれないが彼女は傭兵。

なぜか可憐な体格をしているが筋力は半端ではない。

彼女が本気で抱きしめればそれはすでに相撲の鯖折りだ。

 

「ぐ、ぐるじぃ・・・アシュ、クロフト先輩も・・・ありがとう・・ございました。だ、だから離して・・」

 

「あらあら!これは面白そうね」

 

「ほほう、モテ男だねぇ君は。」

 

「ほどほどにしとけよ。」

 

「ふっ・・・」

 

そんな清夜の悲痛な悲鳴は届くことなく鯖折りは続く。

残りの四人はというと最初こそ驚いていたが途中から楽しそうに眺めている。

そこにさらなる来客が現る。

 

「お兄様、清夜く・・って、まぁっ!」

 

「・・・ず、ずいぶんと幸せそうじゃない清夜君?こんなに美人な先輩に抱かれて・・・こっちの心配を知らないで・・・あ、あたしはこんなクソ男を・・・?」

 

「そ、そりゃ男なんだから下心ぐ「あぁん!?」・・いや違います嘘です!!それにこ、この鯖折りのどこに幸せを感じたの!?・・・ま、まって!!それもそれでお約束すぎる!先輩!離して!離してぇぇぇぇ!」

 

エリカは力を込めながら警棒を振り上げる。

逃げようにもアルテミシアの鯖折りから抜け出せない清夜。

 

「うっさい!!あたしの心配返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

ドガッバキッボコッベキッビキッ・・・etc

 

 

 

 

なんともオチがテンプレなエリカと清夜。

そんな二人を見た達也はその場を離れ現場を見渡した。

 

「無数の銃弾、魔法の痕。敵の攻撃のすざましさが見て分かりますね。お兄様」

 

「ああ、だが・・・」

 

「お兄様?」

 

「いや、なんでもない。あそこの茶番を早く終わらせて壬生先輩の話を聞こう。」

 

「はい」

 

この時、まだ達也は今日、最初にここへ来た時の違和感が拭え切れなかった。

 

(なぜあの少女は殺さずスタンガンを使って清夜達を一度眠らせたんだ?そして何故現場に戻って殺しに来たんだ?それにブランシュの男達は誰一人として記録用キューブを持っていない。これはどういうことだ?データ保存にあれは必須のはず。持っていたならどこに消えた?・・・いや、まさかな・・・)

 

達也の中にある仮説が生まれるが『友情』と『妹の命の恩人』という言葉がすぐに思考を止め、仮説を切り捨てる。

その仮説の先に疑問の答えがあるとも知らずに。

 

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2095年 4月22日 第一高校 保健室

 

空が完全にオレンジ色になった頃

保健室で紗耶香の生徒による事情聴取が行われるというので同行する清夜。

保健室には図書館にいた8人にレオが加わっていたが賑やかな雰囲気ではなかった。

道中、紅雪と戦っている間に起きたことを皆に聞くと・・

テロリスト、同盟メンバーの制圧は戦っている間に終了。

軽傷者はいるものの死者は図書館にいた二人だけ。

生徒側の主犯格『司甲』は風紀員により逮捕。

という話だった。

ほぼほぼ清夜の予想通りだが、やはり紅雪と覆面男8人が襲いかかるのは想定外。

それに対し清夜自身の起こした行動はもっと想定外だった

だが今は迷いはないと清夜は思っている。

 

(そうだ、忘れるな。結果のために俺が為すべきことは・・・)

 

『マスター、その・・・先ほどは申し訳ございません。取り乱して』

 

『もうその件はいいよ。部下と上司だと気付かれてないようだし。腰も無事だし。あとその話するだけでエリカにやられた傷が痛む・・・精神的に』

 

『で、では話を変えますがマスターを襲った奴ら、イギリス英語で話していたようですが』

 

『・・・そいつはフェイクだ。覆面越しからでも分かる()()()()()()()()()()()()()()。全員が少なくとも軍隊経験者だが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。こんなの俺は一つしか知らない。』

 

『CIAのパラミリ!あの強さで黒人のエージェントなんてUSNA以外ありえない。それにパラミリメンバーはバラバラに集められるから癖がバラバラなのも必然ということですか』

 

『ブランシュのテロ騒ぎに乗じて火事場泥棒、それも逃走ルートを複数持ってた用意周到さからして黒幕の一つなのは確定したね。最悪、大亜連合とUSNAが手を組んでる可能性も出てきた。まっ、テロされてしまった時点で全部どうでもよくなったけど。今の問題は・・・』

 

今の問題を話し合おうとしたが紗弥香が話し始めようとするので話を止めた。

 

「今思えば私、剣道小町なんて言われて浮かれていたのかもしれません。だから去年、渡辺先輩に「お前とは戦うまでもない」って言われてやるせなくなっちゃって」

 

「?・・・去年の新歓の時だろう?私はそんなことを言った覚えはないぞ?」

 

「傷つけた人間が傷ついた人の痛みが分からないのはよくあることです。」

 

摩利の戸惑いにエリカは皮肉たっぷりの口調で非難する。

 

「エリカ」

 

「何よ清夜君。まさかこの女の味方をするつもり?」

 

「俺は誰の味方でもないさ。でもエリカがそう非難するならエリカがさっき殴った俺の傷の痛み分かるよね?」

 

「うぐ・・・」

 

「今は事情を聞く時間だよ。非難もその追及もまた今度ね。」

 

「う〜・・・分かったわよ。」

 

「・・・・・俺は君の傷の痛みをよく分かってるから、絶対に忘れないからね。」

 

「?」

 

最後に清夜は小声で何か呟いた気がするがエリカは聞き取れなかった。

 

(皆、聞こえなかったみたいだし気のせいか)

 

しかし聞き取れていたアルテミシアは後ろから静かにエリカを睨みつけていた。

摩利は話を続ける。

 

「確か私は『私ではお前の相手を務められないからお前の腕にあった相手を見つけてくれ』と言ったはずだが」

 

もちろん双方とも証拠はない。

だが紗弥香は全てが解けたような清々しい気持ちになった。

 

「え、あ・・・じゃあ・・・勘違い・・・だったんだ。グスッ・・・あたしバカみたい。誤解して、自分を貶めて、逆恨みで一年間を無駄にして・・」

 

「無駄ではないと思います。」

 

紗耶香の言葉を止めて慰めたのは意外にも達也だった。

達也は一歩前に出る。

 

「エリカが言ってました。『中学とはまるで別人の強さ』だと。それは紛れもなく壬生先輩が磨いた先輩の剣です。恨みに凝り固まるでなく、嘆きに溺れるでなく、己を高めた先輩の一年間が無駄であったはずがありません。」

 

清夜も紗耶香の目を真っ直ぐ見つめて言う。

 

「達也の言う通りです。結局、その力を持って何を為すかではありませんか?今回は犯罪に使ってしまいましたが今後、何かを助けるために使えば罪は消えませんが無駄にはならないと思いますよ。」

 

「サヤ、あなたの剣は剣術部と剣道部に必要不可欠よ。だから『無駄』だなんてそんな悲しいこと言わないで」

 

アルテミシアは優しく励ますように、清夜は少し拗ねぎみに言う。

それでも二人の言葉は紗弥香の心に届き、何も言わずコクリと頷いた。

 

「・・・司波君。お願いだから少し動かないでね。」

 

紗耶香は達也の服を握りしめて胸に顔を埋めた。

何も言わず達也は肩を支えた。

 

「うっ、うう・・・うぁぁぁぁぁぁ」

 

嗚咽は号泣に変わり大声で泣く紗耶香。

普段なら深雪が止めていただろうがここで邪魔をする無粋な女ではなかった。

 

 

 

 

ようやく落ち着いた紗耶香の口から色々なことを語られた。

同盟の背後組織がブランシュであること

リーダーの弟が司甲であること

サークルを装っての思想教育を行いつつ長い時間をかけて足場を作っていたこと

清夜とアルテミシアはその全てを知っていたがそれ以外の人間は最後の事実に驚いていた。

 

「時間をかけていたのは驚きましたが予想通りでしたね。」

 

「本命すぎてつまらんがな」

 

「現実はそんなものですよ。さて問題は奴らがどこにいるのかですね。」

 

「えっ!?」

 

達也が当たり前のように語られた行動方針に思わず声をあげて驚くアルテミシア。

ほかの人間も同様だった。

 

「達也君、まさか彼らと戦うつもり?」

 

「いいえ、叩き潰すんですよ。」

 

摩利は声を荒げて反対する。

 

「ダメだ!危険すぎる」

 

「では壬生先輩を強盗未遂で家庭裁判所に送りますか?」

 

達也の言葉に誰も言い返せず絶句する摩利と真由美。

ただでさえ悪い雰囲気なのに達也の有無を言わせぬ雰囲気と感情論ではあるが正論に皆、言い返せず黙ってしまう。

しかし

 

 

 

 

「本音は?」

 

 

 

 

清夜は物怖じせず言った。

 

(!・・・お兄様の建前に気づいた!?それに心の色が深い藍色に変わっている・・・それだけ冷静にものを見ているというわけね。お兄様の言うとおり信頼はできるけど油断できない)

 

「見透かされたか・・・正直に言えば先輩のためじゃない。俺と深雪の生活がテロの標的になったからだ。俺と深雪の生活を損なおうとしたものは俺の手で排除する。これは最優先事項だ。」

 

腹の探り合いに近い微妙な視線を互いが互いに向ける。

だが二人がそれ以上、話すことはなく克人が割って入った。

 

「壬生の件も含めて納得はした。だがな司波。相手はテロリストだ。お前の事情に付き合う理由はないし、壬生のためだとしても生徒に命を賭けさせることは俺も渡辺も七草も出来ん。」

 

「当然だと思います。元より部活連や風紀委員の力を借りようとは思っていません。」

 

「まさか一人で!?」

 

「そうしたいのは山々ですが・・・」

 

「お供します」

 

すかさずお供宣言する深雪に苦笑いの達也

 

「あたしも行くわ」

 

「俺もだ」

 

エリカ、レオからも参戦の意思を表明される。

それに乗る形で清夜も手をあげた。

 

「じゃあ、()()()()()()()()()()()。」

 

「「「え!?」」」

 

周囲の視線が清夜に集まる。

今日2回目とはいえ自称ヘタレの清夜が自分から戦いに名乗り出るのが珍しいと思っているのだろう。

一番に反対したのはエリカとアルテミシアだ。

 

 

「あなたはダメよ清夜君!さっき戦ったばかりの人にそんなことさせられない!休んでなさい!これは先輩命令!」

『マスターいけません!体力が万全でない以上、万が一があります。控えてください!』

 

 

「そうよ!怪我人はじっとしてる!あたし達が清夜君の分までぶっ飛ばしとくから」

 

 

「さっきの戦いは擦り傷だけですから問題ありません。何より友人が命懸けて戦うんですから黙ってられません。」

『安心してくれ、積極的に戦うわけじゃない。心配ならアルも来ればいい』

 

 

「うっ・・・」

『しかし・・・』

 

 

「だ、だけど・・・」

(清夜君が言ったわけではないけど、もしかして私頼りにされてないの?)

 

 

「人数は多いほうがいいだろう?無論足手まといにはならないよ。」

『これは決定事項だ。異論は許さない』

 

 

アルテミシアは何か言いたげな顔を向けたが清夜の視線に負けてしまい黙ってしまう。

エリカも別の意味でだが視線に負けて黙ってしまう。

「それでも行くな」という視線は理解していた。

 

「俺はいいと思うぜ。清夜のその心意気を買うぜ」

 

しかし全員が反対ではなくレオは賛成してくれた

念押しで達也が確認する。

 

「気持ちは嬉しいが命の保証は出来ないぞ。」

 

「分かっているさ。でも死ぬつもりはないよ」

 

「すまん。頼りにさせてもらうぞ。」

 

「それでお兄様。どうやって敵の居場所を見つけるのですか?」

 

話が脱線しないように深雪が達也に促した。

 

「分からないことは知っている人に聞けばいい」

 

達也は黙って保健室のドアを開ける。

するとそこには二科生メンバーが良く知る人物がいた。

 

(工場にいないと思ったら、やはり学校にいたか。しかも俺の特注制服と同じ防刃・防弾繊維の服まで着ているくせに戦った痕がない。こいつも高みの見物か・・・クズが)

 

「小野先生?」

 

清夜の心の声をよそにエリカがその人物の名前を語った。

その当人は素知らぬふりを貫き通そうとするが深雪の怒気の混じった冷たい視線に負けて困惑気味な笑みを浮かべる。

 

「う・・九重先生秘蔵の弟子から隠れ仰せ用なんて、やっぱり甘かったか」

 

「高みの見物を決めようとする先生と違って、お兄様は優秀なんです。」

 

「そこは兎も角。今回、死傷者まで出しておいて知らないふりはありませんよね。」

 

深雪ほどではないが達也も棘の生えた言葉を吐く。

仕事だと理解しているし、自分のことを棚に上げているのも分かっている。

それでも達也も遥、いやその後ろの存在に多少なり憤りがあった。

事情を知らないメンバーを置き去りに話は続く。

 

「地図を出してもらえるかしら。」

 

達也に送られた座標データは清夜が知っている場所とぴったり同じだった。

その場所にレオとエリカは驚きながらも憤慨する

 

「目と鼻の先じゃねぇか」

 

「徒歩でも一時間かからない場所にあるじゃない・・・舐められたものね。」

 

「車の方がいいだろうな。清夜はどう思う?」

 

「俺も達也に賛成だよ。魔法で忍びよろうと結果は同じ。探知されるからね。」

 

「正面突破ということですね。」

 

達也どころか深雪まで好戦的なセリフを口にして方針を決めて行く。

それに克人も賛同を示す。

 

「なら車は俺が用意しよう。」

 

「えっ?十文字くんも?」

 

真由美の驚きは達也と清夜も同じところだった。

意外にも自分だけは前線に立つタイプらしい。

年齢離れした風格もきっとそれが要因なのだろう。

 

「十師族に名を連ねる十文字家の者として当然の責務だ。だがそれ以上に俺も一高の生徒として、この事態を看過することはできん。」

 

「じゃあ、」

 

「七草。お前はダメだ。」

 

「この状況で会長の真由美が不在になるのは拙い。」

 

「・・分かったわ」

 

摩利と克人の説得に真由美は少し間を空けてから了承する。

納得はしてない様子ではあったが。

 

「でも摩利もダメよ。まだ校内に残党がいるかもしれないんだから風紀委員長には居てもらわないと。」

 

今度は摩利が不本意ながら頷き了承した。

代わりにアルテミシアが手を挙げた。

 

「では私が真由美さん達の代わりに行きます。」

 

「う〜ん。そうだなアルテミシアなら安心できる。すまないが頼むぞ。」

 

「アルちゃん。無理はしなくていいんだからね。」

 

「はい、行ってきます。」

 

そうしてメンバーが決定し、沙耶香と遥を残して部屋を出ようとする一同。

その時、遥は達也に近づいて小さくこう呟いた。

 

「気をつけなさい。あそこには何かがいるわ。」

 

「何か?ブランシュ以外のということですか?」

 

「詳細はほとんど不明なの。でも待機していた仲間が全員死んだわ。」

 

「・・・了解しました。気をつけます。」

 

達也は会話が悟られないように背中越しに答えて部屋を出た。

 

(さっきの話といい、図書館の戦闘といい、俺たちが思った以上に複雑で根深いみたいだな。本当の敵はどこにいる)

 

ブランシュ、そして見えない敵との戦いが始まる。




妹への思いとエリカへの思いで大きく揺れ動く主人公。
その違いで彼の戦闘力は大きく変わっていく・・・

と、いうわけで今回、とうとうデストロ246キャラの紅雪ちゃん正式に登場しました!(パフパフ)
パラミリも出してヨルムンガンドっぽい戦闘させようと思ったけど
今回は29、30話と違ってデストロ246っぽい戦いだったかな?
なんか違和感あるので書き直すかも

次回予告!
敵の拠点に乗り込む達也達。
順調に敵を追い込んでいると思われた。
しかし、その戦いにはすでに異変が起きていた・・・

次回もなんとニ万字越えです!(ただ宣言通りに40話で終わらせたいだけ)
もちろんデストロキャラも活躍しますよ!
次回をお楽しみに!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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39話 戦いは悪意と狂気のなかに・・

39話です!
入学編もとうとうクライマックス!
長かったですね。
文才無くて申し訳ない。
でもバトルを中心に楽しめていただけたらと思います!

前回までのあらすじ!
学校でブランシュがテロを決行!いたる所で戦いが起こる。そんな中、清夜達は図書館でCIAに襲われ絶体絶命に。達也達は無事逃げ出せたが囮になった清夜は追い詰められ・・・復讐鬼として覚醒した。


2095年 4月22日 警視庁 公安本部

 

「メンバー全員死亡とはどういうことだ!」

 

公安部長は声を荒げる。

目の前に映るモニターにはブランシュ対策チームの遺体の姿

 

「突如、映像と通信が途切れて復旧した時には・・・幸い、学校にいた小野遥は無事でしたが他は・・・それとつい先ほど軍情報部の姿が確認されました。」

 

「情報部だと!?あいつら我々に黙って・・・!身柄を横取りするつもりか!クソ!捕まえるためなら彼らも殺すというのか!・・」

 

「いえ、それが・・・」

 

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2095年 4月22日 国防軍 情報本部

 

時を同じくして

 

「なっ!?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・つまり第三者に両チームとも殺されたと?・・・」

 

公安とは逆に絶句する情報部の指揮官。

部隊の全滅と公安部の存在の報告を受けて公安が捕縛チームを殺したものだと思ったが公安も全滅。

何がなんだか分からない。

 

「いえ、どちらが先に仕掛けたかは分かりませんが()()()()の人間が互いを殺しあったものと思われます。」

 

「それは少しおかしいと思わんか?いくら文官と我々武官に対立があれぞ会った瞬間に殺し合うか?それに『ほとんど』とはどういうことだ?」

 

「はい、実はストーカー5とストーカー7はストーカー3に殺されたものと思われます。つまりは・・」

 

「同士討ち!?まさか噂されている司一の『邪眼』か?」

 

副官と思われる男はリモコンを操作して画面を変えた。

 

「洗脳の線も考えたのですがストーカー9は心臓麻痺で死んでいます。司一の『邪眼』は人を洗脳させる魔法であり心臓麻痺を引き起こすことは不可能です。」

 

「・・・公安の死体は?」

 

「似たような状況です。同士討ち、心臓麻痺で死んだものもいます。」

 

「・・・原因が分からない以上、上は公安のせいにして公安を追及するつもりだろう。恐らく公安も逆のことをする。」

 

「もし大佐が最初に言ったようこれがブランシュ以外の第三者によるものならそういった対立も考慮した行動と思われます。」

 

「ちくしょう、我々は一体何と戦っているんだ!?」

 

結局、双方とも本当の敵の尻尾すら掴めないのだった。

 

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2095年 4月22日 東京 廃工場

 

日暮れまで残り僅かとなった頃

ブランシュの前線基地であるこの工場に2台のハンヴィーが門を突き破って現れた。

 

「レオ、ご苦労さん」

 

「・・・何のちょろいぜ」

 

「無理しなくていいわよ。走ってる車全体に硬化魔法かけるなんて至難の技なんだから」

 

ハンヴィーから降りてきたのは達也、深雪、清夜、アルテミシア、レオ、エリカ、克人、そして最後に剣術部2年の桐原だった。

保健室にいなかった桐原だがどこかで話を聞きつけたらしく克人を説得してこの戦いに参加することになったのだ。

克人は達也に指示を仰ぐ。

 

「司波。お前が考えた作戦だ。お前が指示を出せ」

 

「レオ、お前はここで退路の確保。エリカはそのアシストと逃げ出そうとする奴を仕留めろ。」

 

「捕まえなくていいの?」

 

「ああ、安全確実にやってくれ。会頭と桐原先輩は左手から回って裏口から入ってください。清夜とアシュクロフト先輩は右手から回って上のルートから・・」

 

「待って!」

 

達也を止めたのは了承したはずのエリカだった。

 

「それならあたしが清夜君の代わりに行く。あたしの方が強いわけだし。それがダメなら私が先輩と代わるというのもいいでしょう?」

 

「確かにな、なんなら俺が代わってやってもいいぜ。」

 

「うっ、否定できないけどさ・・・」

 

(森崎のは不意打ちだったし、図書館のも逃げ回っただけって言っちゃったから信用はされてないか。いや、むしろ無害をアピールするならこれがいいのか。)

 

清夜はバツの悪そうな演技をする。

しかし達也はエリカの意見をバッサリ切り捨てる。

 

「大丈夫だ。清夜ならやれる。それは俺が保障する。」

 

「でも・・・」

 

「大丈夫、千葉さん。()()()()()()()()()()()。」

 

「っ!・・・」

 

「強い」を敢えて強調するアルテミシア。

その意味に気付いたのかエリカは眉間にしわを寄せ、アルテミシアを見つめるがそれ以上何も言えなかった。

 

「というか俺達どうやって上に登るの?外階段とかなさそうだけど。」

 

「ふっ、勧誘期間にお姫様抱っこした時の魔法があるだろ?」

 

「「!?」」

 

剣道場の時と同じようにエリカは真っ赤に、清夜は逆に真っ青になる。

幸い、克人達には魔法の使用がバレなかったがアルテミシアには分かっていた。

 

「あら私、男の人に抱き上げられるの初めてだからよろしくね清夜君」

 

「は、はい・・・」

 

「よかったな式。今の話聞いたら俺以外の剣術部男子は特に可愛がってくれんだろうよ」

 

桐原はそう言うが裏があるのは確実だった。

だんだん緩んだ話しになっているため克人が止めに入った。

 

「そこまでにしろ。ここは敵地だ。いつ敵が来てもおかしくない。」

 

「そうですね。では今の作戦通りに、俺と深雪は正面から行きます」

 

そうして各々配置に向かう。

皆を見送った後、何か言いたげなエリカにレオが声をかけた。

 

「どうしたエリカ?」

 

「なんでもないわよ。あ〜あ、よりにもよってあんたと待機なんてねー」

 

「んだと!?」

 

そう言ってレオを揶揄うことでエリカは気分を紛らわした。

 

(私、なんであんなに・・)

 

だが何故そこまで彼に気遣うのかエリカ自身分からなかった。

 

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2095年 4月22日 廃工場右手

 

清夜とアルテミシアは工場の外を駆ける

 

『俺達の組み合わせ、どう思う?知っててワザとかな?』

 

『意図したものとはいえ、私達の関係がバレたわけではないかと。仲が良いという知っていて組まれたのでは?』

 

『それはそれで問題だと思うんだが・・・まぁいい、都合がいいのは変わらないんだ。』

 

なんて会話をしているとアルテミシアは思考通信を切ってピタリと止まった。

 

「じゃ、お願いね?お姫様抱っこ♪」

 

「おい、アルだってあの魔法出来るだろ?」

 

「いいえ〜今の私は清夜君の先輩だから。これは命令♪私、嫉妬してるんだから」

 

「恋人ぽい言い方するな。・・・分かりました。でも終わったら冗談はなしですよ先輩。登ってからは仕事をしてもらいます」

 

そういって清夜はアルテミシアを持ち上げると を発動し窒素の階段を登る。

その時のアルテミシアは幸せではあったが半分心配でもあった。

 

(いつもと同じように見えるけど・・・違う・・・纏う雰囲気が変わってる。先週の保健室の時と同じ雰囲気・・・)

 

アルテミシアもエリカと同様、無意識に強く抱きしめていた。

 

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2095年 4月22日 廃棄工場 内部

 

『私が中を見よう。アルテミシアは周囲を警戒』

 

上に上がる頃にはアルテミシアと話す口調までもがアイザック・ウェストコットに戻っていた。

清夜とアルテミシアが着いたのは廊下のような所だった。

正確にはそこの窓の外の足場に身を潜めている状態だ。

目の前には拳銃で武装した男が一人。

近くにはドアが開いた無人の部屋がある。

清夜はハンドシグナルを交えて思考通信した。

 

『見える限り警戒しながら歩くの男が一人。他にもいるだろうけど、まずはあれから抑える。私に続いてくれ』

 

『了解』

 

清夜は軽やかに、しかし魔法でそっと中に入り込み、男の背後に立った。

 

「こっちに敵はいな・・・ムグッ!」

 

ガシッ!

 

相手の首を締めた清夜。

そのまま、有無を物理的に言わせず転がり込む形で部屋に連れ込んだ。

男は必死にもがくが清夜の締め技からは逃げられない。

 

「んぐぐ・・んー!」

 

「9・・・10」

 

抵抗虚しく清夜の10カウント目で男は気絶した。

アルテミシアも続いて部屋に入った。

 

『廊下、敵影未だありませんマスター。』

 

『戦力は下に集中させているんだろうね。でもまだ10人以上はこの階にいるはずだ。()()の作戦のためにも手っ取り早く細工を施そう。』

 

バチバチッ・・・

 

清夜の手に電気が走った。

 

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2095年 4月22日 廃工場 一階フロアA

 

司一を最初に見つけたのは達也達だった。

達也は遮蔽物の確保など気にせず進み、敵もホール状のフロアに隠れもせず整列していたからだ。

 

「ようこそ、初めまして司波達也君!そして傍にいるのは妹の深雪君かな?」

 

「そういうお前はブランシュのリーダーだな?」

 

手を広げて歓迎の意を示す男。

背後には銃火器で武装した男達が二十人以上。

達也は冷めた視線で質問を質問で返した。

 

「おっと、これは失敬。私がブランシュ日本支部のリーダー、司一だ。」

 

その男は学者のような白衣に眼鏡を掛けた格好をしており、いかにも知的な、そして自信に満ちたアピールをしている。

あきらかに自分に酔っている。

口調や仕草からしても命令することに慣れている人間。

人の心と命を弄ぶテロのリーダーという意味ならぴったりの男だ。

深雪の目にも司一の本質、心が見えていた。

 

(濁った紫色・・・この男、狂っている・・・)

 

「そうか、一応投降勧告をしておく。武装を解除し両手を頭の後ろで組め」

 

達也は二つ持っているシルバーホーンの一つを司一に向けた。

それでも司一は薄ら笑いを浮かべる。

 

「ふむ、それはCADだね。劣等生の君は魔法が得意ではないはず。その自信の源はなんだい?」

 

司一が右手を挙げると後ろにいた男達は一斉に銃を構えた。

 

「司波君、我々の仲間になりたまえ。アンティナイトを使わない君のキャスト・ジャミングは実に興味深い。今回の作戦はかなりコストが掛かっている。それを台無しにしたことは忌々しいが君が仲間になってくれるなら全て水に流そうじゃないか。」

 

「やはりそれが目的か。壬生先輩の接触も司甲に俺を襲わせたのも同じ目的だな?」

 

「ふ、そこまで分かっていてやって来るとは所詮、子供だね。」

 

「それがどうした。言っておくが答えは最初からNOだ。」

 

「ふむ、なら・・こうしよう!」

 

その仕草は学者というよりはマジシャンだった。

司一は眼鏡を外して上に大きく投げ上げる。

 

「司波達也!我らが下僕になれ!」

 

瞬間、司一の眼が怪しく光った。

すると達也はダラんと腕を下ろし脱力してしまった。

その表情はいつも以上に無表情だった。

 

「・・・お、お兄様?」

 

「ふははは!これで君は我々の仲間だ!」

 

逆に司一は大きく高笑いした。

喜びというよりは狂気を曝け出した、そんな表情だ。

 

「では手始めに共に歩いてきた君の妹さんを手に掛けてもらおうか。」

 

己が権威を疑わぬ表情で司一は命令する。

 

「はぁ、猿芝居はいい加減によせ。見ているこっちが恥ずかしくなる。」

 

「な!?」

 

しかし、その表情は達也の言葉によって一瞬で氷ついた。

 

「意識干渉型と称しているが、正体は催眠効果を持つ光信号を相手の網膜に投射する光波振動系。単なる魔法を使った催眠術だ。旧ベラルーシが研究していた手品だったな。」

 

「お兄様、まさか!?」

 

眼を見開いて問いかける深雪に達也は答えた。

 

「あぁ、壬生先輩の不自然なまでの記憶違いはこいつの魔法のせいだ。」

 

「この下衆どもッ・・」

 

深雪は静かな怒気を目の前の下衆に向けた。

その熱にあてられ氷が解けたのか。

 

「な、なぜ?」

 

司一は呻く。

薄ら笑いすらできない。

 

「眼鏡を外す右手に注意を惹きつけ、左手で隠し持ってたCADを操作を操作する。そんな小細工が俺に通用するか。起動式の一部を抹消すればお前の魔法など意味のない只の光信号だ。同じ視線誘導の手品でも清夜のほうが100倍見抜くのが難しいぞ。」

 

タネの割れた手品にそれ以上の興味は出てこなかった。

 

「貴様一体・・・」

 

「二人称は”君”のはずだったが?大物ぶってた化けの皮が剥がれているぞ」

 

(こ、この眼・・・こいつ私のことを人間として見ていない!?敵か障害物ぐらいにしか見ていない!)

 

ざわざわ・・・

 

”催眠”や司一の態度にブランシュのメンバーがザワつき始めた。

”もしかして自分も?”、”実は操られていた?”・・・そんな疑いの眼差しだ。

だがそんな視線よりも目の前にいる化物に対する恐怖が司一の心を支配していた。

 

「う、撃て!撃て撃て!!」

 

威厳を取り繕う余裕すらない。

本能的な恐怖に駆られ司一は射殺を命じた。

 

しかし・・

 

バラッ!

 

「「「な、銃が!?」」」

 

弾丸は一発も出なかった。

代わりに達也の『分解』によってバラバラになった銃の部品が一斉に床に落ちた。

男たちの混乱が場を満たした。

そのパニックの中、司一は鎮めることなく一目散に逃げ始める。

 

「ひ、ひぃぃぃ!!」

 

「お兄様、追ってください。ここは私が」

 

「任せた。」

 

達也は追いかけようと駆け出す。

残された男たちは自然と道を開けた。

そのまま通していればよかった

 

「こ、このーー!」

 

なのに男の一人がナイフで達也の背中を刺そうとした。

 

「愚か者」

 

しかし、それは間違いだった。

冷たい声色とともに男は氷付いた。

比喩ではない

男の全身は霜で覆われて動かなくなっていた。

 

「ほどほどにな」

 

「はい、お兄様」

 

達也は男たちに声を掛けることなくフロアを出た。

追いかけるものはいない。

行けばすぐにでも同じ末路を辿ると分かっているから。

 

「お前たちは運が悪い。お兄様に手出しをしなければ命だけは助かるものを・・」

 

氷の女王が顕現した。

冗談でもバカにするでもなく畏怖の意味で、そう認識した。

 

「ま、まさか・・」

 

冷気が男たちの全身を侵食していく。

体の芯から冷えていく。

そして顔が絶望に染め上がる。

 

「この魔法h・・・」

 

「私はお兄様ほど慈悲深くはない。祈るがいい。せめて命があることを」

 

 

 

白い霧の中、深雪以外の全てが静止した。

 

 

 

「・・・」

 

もう動くことはない男たちに深雪は未だ侮蔑の目を向け続けている。

そこに一つの足音がこっちに向かってきた。

 

タッタッタッ・・・

 

「ものすごいサイオンを感じたけど無・・!・・こ、これは・・・!!」

 

現れたのは清夜だった。

そこには何故かアルテミシアがいないのだが今はそれどころではない。

清夜の登場に深雪は正気に戻る。

 

「し、清夜君・・・これは・・・その・・」

 

正気に戻った深雪にあったのは後悔。

こらしめたことにではない。

使った魔法の威力が高すぎたことに後悔していた。

その魔法は・・・

 

「振動減速系広域魔法・・・『ニブルヘイム』・・・」

 

清夜は驚きながらそう呟く。

知られてしまった。

リスクを負う必要はないと達也から言われてるとしても

やりすぎている。

正当防衛の域を超えている。

 

「わ、わたしは・・・わたしは・・・」

 

このままでは『大量殺人者』のレッテルを貼られ、せっかく出来た友人達も離れてしまう。

いや、それだけでなく自分のせいで兄からも友人達が離れてしまう。

だけど言い訳が出てこない。

予想される未来に苦しむ深雪に清夜は重い口を開けた。

 

「・・・達也は?」

 

「お、お兄様は司一を追って奥に・・・」

 

「そう、じゃあ俺は行くね・・・それと俺はここで何も見なかった。いいね?」

 

深雪に恐怖した声色ではなかった。

むしろ優しく諭すような普段の声色。

今度は深雪が驚いた。

 

「え、えあ、その・・・」

 

「言わないさ。君のことだ、達也が殺されかけたんだろう?言ったじゃないか『大事な家族を守るためならどんな事でもすべきだ』って。それに言いふらそうとすれば、殺されるのがオチだろうし。俺は利益がないことはしないよ。それじゃ」

 

嘘だ。

言いふらしても()()()()()()()()()()()()()()()()()と深雪は分かった。

だからこそ、そんな言い方でも嫌悪はなかった。

 

「本当に・・・ありがとう・・・グスッ・・・ありがとう・・・ございます」

 

その言葉を言った時にはもう清夜はいなかった。

 

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2095年 4月22日 廃工場 通路

 

 

 

「くっ、くそ!」

 

「待て!」

 

複雑な迷路のような通路で一人、達也は司一を追っていた。

小物ほど逃げ足が速いというのは相場通りなのだろう。

中々、捕まらない司一に達也は魔法を行使しようとした。

 

「司様は渡さない!」

 

しかし、突如として現れた男に達也は驚く。

ただの敵ならば警戒せずとも軽くあしらえるがこの男はそうじゃない。

手榴弾を片手にピンを引っ張りながら突っ込んできた。

つまりは・・・

 

「っ!?自爆特攻・・」

 

「そ、そうだいけ!命に代えても足止めしろ!」

 

(分解をつか・・・)

 

「司波君!後ろに下がって!」

 

「!」

 

ドカーン!!

 

男は盛大に自爆した。

思ったより爆発が大きかったのは他にも手榴弾を装備していたからだろう。

そして達也はというとほぼ無傷だった。

目の前には熱と衝撃を()()させる魔法障壁。

完全に防ぎきれたわけじゃないがそれでも怪我と呼べない程度に防げていた。

もし耐熱、衝撃を()()魔法障壁なら破られてお陀仏だった。

 

「とっさに緩和を選べるなんて流石ですね。助かりましたアシュクロフト先輩」

 

「ありがとう、そっちも無事でよかったわ」

 

本当なら分解で防げていたが達也はあえて言わず状況を確認する。

 

「それで上の状況は?あと清夜は?」

 

「俺はここだよ。」

 

後ろを振り向くとこちらに向かってくる清夜の姿が見えた。

 

「とりあえず、追いながら確認しましょう。司波君、司一はどこに?」

 

「こちらです。ついてきてください」

 

達也は司一の逃げた方に駆け出し、二人もついていく。

 

「上は敵がいたんだけど全員手榴弾持って下に降りてったんだ。」

 

「ということは・・」

 

「ええ、さっき自爆したのは上にいた奴ら。まだいるは・・」

 

「「うぉぉぉ!!」」

 

示し合わせたかのように後ろから手榴弾片手に自爆特攻する男がまた、今度は二人も現れた。

 

「自爆で死ぬなら君達だけに・・してくれよっ!」

 

「「うぐっ!」」

 

ドガーン!ドカーン!

 

敵がピンを引き抜く直前、清夜は移動魔法「ランチャー」で敵を吹き飛ばし爆発の直撃を防いだ。

単純な魔法だが自爆のタイミングを見極めるのは度胸のいることだ。

達也は清夜について、そう評価を改めた。

 

「なんなんだい彼ら!?自爆にためらないがない。」

 

「さっき分かったことだが司一は光波振動系「邪眼」を使った催眠術で人を操っている。たぶん自爆も催眠術によるものだ。」

 

「それでサヤは・・許せない!」

 

アルテミシアは図書館の時ほどではないが怒っている。

対して達也は自分で言ったことに疑問を感じていた。

 

(操られていたとはいえ奴らは狂信者だ。たが奴らの死に際の目は狂気というより、むしろ()()だったような・・)

 

その疑問に答えは出ず、ただ司一を追うのだった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2095年 4月22日 廃工場 一階フロアB手前

 

達也達はその後、何度も自爆特攻してくる輩をあしらいつつ追いかけた。

そして司一が右手の部屋に逃げていくのを見た。

 

「逃げてる道々にも部屋があったのに、迷わずあの部屋に逃げ込むってことは」

 

「待ち伏せ・・ね」

 

「さすがに戦力を散らばらせるほど馬鹿じゃないということだろう。ここは俺に任せてくれ。」

 

達也はCADを逃げた先の部屋に向けた。

魔法に障害物は意味をなさない。

しかし、それは対象の座標が分かっているというのが前提だ。

だから壁で視界が遮られているこの状態では魔法の発動は無理に近い。

それでも達也は構わず引き金を引く。

 

「「な、なんだ!?」」

 

すると壁の向こう側からそんな狼狽の声が聞こえた。

あちらで何が起きているか分からないが清夜は気づいた。

 

「知覚系魔法・・・君はそんなレア魔法も使えるのかい?」

 

「実技の成績には関係しないがな。それよりも今はあっちだ。」

 

部屋に入る三人。

それを出迎えたのは銃弾ではなく魔法師が嫌う騒音だった。

 

キィィィィィィィィィィィィ!!

 

「「っ!?」」

 

「どうだい魔法師、本物のキャスト・ジャミングのご感想は?」

 

聞こえたのは哀れな男の笑い声。

しかし見えたのは大量の、しかも高純度のアンティナイト。

そして兵士30人。

ただ不思議なことに銃はパーツレベルでバラバラになっていたが笑い声を演出するには充分な戦力だった。

アルテミシアは表情を強張らせる。

清夜はというと表情が崩れることはないが手を握りしめる力は強くなっている。

その中でただ一人、達也だけは顔色ひとつ変えず淡々と述べた。

 

「パトロンはウクライナ・ベラルーシ再分離独立派。さらにその後ろは大亜連合か。」

 

(高山型古代文明の跡地しか出てこないアンティナイトの産出地から推理したか。たいしたもんだ。)

 

ブランシュの動揺が伝わって来た。

三流にもほどがある。

 

「やれ!相手は魔法が使えないガキ三人だ!」

 

達也は面倒臭そうにCADの引き金を引いた。

このキャストジャミングの嵐の中で魔法を使うのは高ランクの魔法師でも難しい。

それなのにCADの射線上の人間が太ももから血を吹き出して倒れた。

銃やレーザーの類ではない。

 

(何だこの魔法は?早すぎてニューロ・リンカーの解析も間に合わない・・・それに魔法発動と同時にサイオン波が細波に変わった?)

 

伝説や御伽噺の産物でもなく現実の技術。

達也は『分解』で射線上のあらゆる細胞組織を分子レベルに分解して穿ったのだ。

キャスト・ジャミングも同様に『分解』することでサイオンノイズをただのサイオンの細波に変えてしまった。

 

「な、なぜだ!?なぜキャスト・ジャミングのなかで魔法が使える!?」

 

達也に答える義理はない。

代わりに司一の後ろで細かく煌めく銀光が現れた。

 

ギィィィィィィン!!

 

「なななな、何だ!?」

 

突如、壁から突き出たのは刃引きされた刀。

この刀に斬れ味はないはずだがそれを可能にしたのは魔法『高周波ブレード』

刀は特有の不快音をたてながら、そのまま壁を文字通り壁を斬り開いた。

 

「よぉ、三人共。これをやったのはお前らか?」

 

その開いた壁から出てきたのは桐原武明。

当事者の代わりに清夜が答えた。

 

「いえ、正確には達也一人で倒してしまいました。」

 

「やるじゃねぇか、司波兄。んでコイツは?」

 

怯えた顔で張り付く男を蔑みの目で桐原は指した。

達也は同じ眼差しで答えた。

 

「それが司一です。」

 

「こいつが?・・・」

 

変化は一瞬。

桐原の中で()()()スイッチが入った。

 

「こいつか!壬生を誑かしたのは!!」

 

「「「!?」」」

 

怒気ではない。

()()だ。

達也ですらたじろくほどの殺意が桐原の全身から放たれた。

 

「ひ、ひぃぃっぁぁ!!」

 

「しぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

桐原は司一の頭目掛けて刀を振り下ろそうとした。

その時。

 

ドガッ

 

「やめてください先輩!!殺しても壬生先輩は喜びませんよ!!」

 

清夜が桐原目掛けてタックルをしかけた。

もし魔法で止めようとしたら展開している間に司一は真っ二つだっただろう。

 

「離せ!!こいつを殺さなきゃ俺は!!」

 

ものすごい力で清夜を引き剥がそうとする桐原。

達也とアルテミシアも止めるのに加わろうと思ったがそこで達也は気づいた。

 

「清夜!!左だ!!」

 

「!?」

 

「司様!外に車を用意しています!」

 

「お逃げください!ここは俺たちが命に代えても!」

 

達也に倒されたはずの男達全員が清夜に向かいながら手榴弾のピンを引き抜こうとしていた。

彼らの目に迷いはない。

達也はもう一度CADを数人に向け人体の急所を穿つ。

しかし誰も倒れない。

 

(人体の急所を穿ったんだぞ!?なぜ気絶しない!?)

 

「っ!!逃げろぉぉぉぉ!」

 

「清夜君!!」

 

ドカーーーーーーーン!!

 

二人の叫びは爆発音の中に消えた。

爆発特有の煙がたちこもり視界には人はおろか前に何があるのかもわからない。

そんな中、一人の声が響いた。

 

「司波!アシュクロフト!無事か!」

 

収束魔法により煙が一つの球体に収束された。

晴れた視界に見えたのは屋根が吹き飛び、穴がいくつか開いた部屋。

その奥に清夜と桐原を守る最強の障壁、それを操る大男の姿があった。

 

「十文字先輩!!」

 

「死ぬかと思った・・・これが『ファランクス』。熱も衝撃も完璧に防ぐなんて・・・」

 

『ファランクス』

4系統8種全て含む魔法で物理障壁はもちろんのこと、他に音、熱すらも完璧に防ぐ多重障壁魔法。

世界最高峰の防御力ゆえ十文字家は『鉄壁』という異名で呼ばれている。

しかし死傷者は0でも負傷者は0ではなかった

 

「おい!桐原!」

 

「桐原先輩!」

 

「式君、桐原君は!?」

 

「大丈夫、先輩は気絶しているだけです。恐らく爆発の音で気絶したものかと・・・」

 

「む、少し音の防御をぬかっていたか」

 

清夜は桐原をそっと優しく壁にもたれさせた。

気絶したせいか桐原には先ほどのような殺意は見えず、おだやかな表情で寝ていた。

 

「・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・」

 

「ん?何か言ったか式?」

 

「いえ、司一はどこかと思いまして」

 

見渡すが部屋には司一の姿は見当たらない。

ならばと達也は密かに『精霊の目』で司一の姿を追った

 

「そこ開いたの穴から出て門の方に向かったようです。」

 

「どうしましょう十文字先輩?」

 

「ここの指揮は司波だ。司波の指示通りに動こう。」

 

視線が達也に集まる。

責任を投げているのではない。

信頼しているからこそ託しているのだ。

達也もその意味は分かっていた。

 

「では2手に別れましょう。アシュクロフト先輩は桐原先輩の介抱を、会頭と清夜は俺と一緒に穴から出て門へ」

 

全員、頷いて動き始めた。

各々が司一を捕らえるために

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2095年 4月22日 廃工場 門

 

ブランシュのメンバーが一斉に自爆する少し前。

エリカとレオは逃げてきた男達を縛りあげていた。

 

「ねぇ、さっきから色んな所で爆発してるけど応援に行かなくていいの?」

 

「心配っちゃ心配だけど達也や会頭なら大丈夫だろうよ。」

 

本人が聞いたならばその期待、信頼は否定していただろう。

レオは「それにな」と続けた。

 

「達也は俺達を信じて任せたんぜ。ここを。なら期待に応えねーとな。」

 

「・・・そうね」

 

「ブフッ、清夜が心配ならそう言えばいいのによ。」

 

初めてレオがエリカを揶揄えた。

その証拠にエリカはCADを伸ばして警棒状態にした。

 

「っ!!そんなん・・」

 

ドカァァァァァァン!

 

「「!?」」

 

ムキになって引っ叩こうとした所で今日一番の爆音が鳴り響いた。

外からでも天井が吹き飛んでるのが見えるほどだ。

二人はおふざけを止めて向き合う。

 

「レオ、何時でも車出せるようにして。エンジンくらいなら掛けられるでしょ?」

 

「ああ、分かった。お前はどうすんだ?」

 

「私はあっちに行って様子を見てくる。」

 

「いや、だったら防御できる俺の方が」

 

言葉途中で黙るレオ。

エリカはすぐにその理由が分かった。

 

「エンジン音・・か?」

 

「こっちに向かってる!レオ構えて!」

 

そう言った数秒後。

正門から一台の車がエリカ達に突撃してきた。

二人は余裕を持って躱し、距離を取る。

 

「あっぶね!轢き殺す気満々だな。何者だ?」

 

「少なくても味方じゃないわね。」

 

降りてきたのは学校にいたブランシュメンバーと同じツナギ姿の女2人。

一人は茶髪、もう一人は黒髪。

黒髪の女は出てくると同時にアサルトライフルについたグレネードランチャーを発射した。

狙いはエリカ達ではない。

 

「エリカ!車から離れろ!」

 

「!」

 

ドカァァァン!ドカァァァン!

 

二台の車は盛大に爆発し、ドアまで外れて吹き飛んだ。

 

「こんの・・!、ちっ!」

 

パンパンパンッ!

 

エリカは自己加速術式で距離を詰めようとした寸前で止め、もう一人からの攻撃を避けた。

学校にいたような奴らなら避けながら詰めることが出来た。

でも彼女達相手にそれは出来なかった。

 

「エリカ」

 

「分かってる。こいつらレベルが段違いよ。たぶん図書館にいた女と同じくらい強い。」

 

かと言って怖じ気づく二人ではない。

エリカは右からレオは左から攻める。

 

「行くわよ!」

 

「うぉぉぉ!パァンツァー!」

 

硬化魔法をかけたレオ、自己加速術式をかけたエリカ。

そこらの連中ならばこれで終わりだがエリカが言うように敵は今までとは段違いだ。

 

「悪くない手だが我々には通用しない。特にそのレベルの一芸ではな。」

 

パンパンパンッ!

 

「ぐっ!」

 

茶髪の女はレオの膝に弾を叩き込んだ。

すると硬化魔法をかけているはずのレオが痛みに膝をついた。

何故か。

硬化魔法相手では貫通させることは出来ない。

しかし、衝撃は残るのだ。

それがほぼ同じ場所に連続して当たり衝撃が積み重なれば、いくらレオでも痛みに耐えられなくなる。

茶髪の女は射撃精度という意味でも段違いだった。

エリカの相手も同様に段違いだ。

 

パパンッ!パパンッ!パパンッ!

 

「っ!、こっ!んのっ!っ!」

 

小刻みに連射する黒髪の女。

エリカは近づくことも出来ずに後ろと横に回避するだけ。

 

(こいつ!さっきもそうだけど、あたしが移動する軌道線上に弾を当ててくるから思うように踏み込めない。せめて・・)

 

「せめて間合いが詰められれば?詰めさせるわけないでしょ」

 

パパンッ!パパンッ!

 

「人の心を読んでんじゃないわよ!」

 

叫んだところで距離を詰めることは出来ない。

エリカとレオは近場にあった遮蔽物に飛び込んだ。

 

「強すぎだろ。あいつら!」

 

「でも攻め込んで来ないわね。もしかして時間稼ぎが目的?なら・・」

 

「ん?あれはもしかして」

 

レオの視界の先には司一の姿があった。

無様にも命からがら逃げているような様子だ。

 

「ひっ、ひっ、ひっ!」

 

「司様!こちらです!」

 

「急いでください!」

 

黒髪の女が手をあげ、茶髪の女がドアを開けた。

 

「間違いない!あいつらボスを逃すつもりね。」

 

「ちっ、どうにか止めねぇと・・・あれは!」

 

レオが周りを見渡しある物に気付いた。

作戦も思いつくがあと少しで逃げられてしまう以上、作戦会議している暇はない。

 

「エリカ!俺の後に続け!」

 

「ちょっ、レオ!?・・そうか!」

 

「パァンツァー!」

 

レオはある物を持って硬化魔法をかけた。

それは吹き飛んだハンヴィーに元から備え付けられていた暴徒鎮圧用の盾。

レオは片手で持ち上げて突撃した。

アサルトライフルに対して暴徒鎮圧用では簡単に撃ち抜かれるが硬化魔法ならば問題無い。

そのことに気づいたエリカもレオの影に隠れて進む。

知り合って間もないとは思えない、けど思考が似通っているからこそ出来たコンビネーション。

 

「ふーん・・」

 

パンパンパンッ!キン!キン!キン!

 

「・・・」

 

パパンッ!パパンッ!パパンッ!キキン!キキン!キキン!

 

盾を使って距離を詰め、自己加速で盾から飛び出し敵を斬りつける。

敵の二人も素直に驚いたがそれが表情に出ることはない。

右か左か、どちらから出るのか。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

答えは上からだった。

エリカはレオの肩を踏み台に飛び上がり敵を斬りつけようとした。

作戦会議なしのとっさの判断にも関わらず息の合った攻撃かつ想像もつかない奇襲のはずだった。

 

ドガッ!

 

しかし相手のほうが一枚上手だった。

エリカは何かの力を受けて叩き落とされた。

 

「エリカ!!」

 

「ぐっ!?こ、これはまさか・・・加重系・・っ!」

 

「・・・」

 

黒髪の女は何も言わず銃口をエリカに向けた。

司一と茶髪の女はすでに車に乗り込んでいる。

敗北、そして死をエリカは予感した。

次の瞬間、エリカに見えたのは何かのビジョンだった。

 

それは血まみれになった少年と自分。

 

(え、誰あなた?なんで泣いてるの?あたし何で血まみ・・・)

 

「間に合ええぇぇぇぇ!」

 

「!」

 

記憶にない走馬灯を見ていたエリカは

男の叫び声で目を覚ました。

 

ドバッ!

 

「「!?」」

 

エリカと女の間に吹き上がった土砂が割りこむ。

エリカは知識として知っていた。

この魔法は移動系の「陸津波」だと。

エリカは知っていた。

その声の人物を。

 

「清夜君!」

 

「清夜!達也!会頭!」

 

二人の声に返す余裕はない。

車は黒髪の女を乗せてすでに走り出そうとしているのだから。

達也は駆けながら問う。

 

「会頭!ファランクスで止めることは?」

 

「ダメだ。遠すぎる!」

 

達也は仕方なしにCADを構えた。

そこにどこからか缶が達也達の目の前に投げ込まれた。

缶を見た途端、エリカは達也に制止の視線を送り叫ぶ

 

「フラッシュバン!?伏せて目と耳を塞いで!」

 

「「「「!!」」」」

 

バン!

 

強烈な閃光と音があたり一帯に広がった。

清夜は見えない視界の中、前に進む。

 

「くっ、くそ!司一は!?・・」

 

「うかつに動くな清夜!」

 

カランカランカラン・・・

 

達也が叫ぶと同時に今度は本物の自販機に売られているような缶が飛んできた。

しかし、それも細工された特殊な缶だった

 

シュゥゥゥゥ・・・

 

投げ込まれてすぐ缶は煙を巻き始めた。

 

「手製のスモーク!?」

 

充分に視界を潰しているのに何故ここまでやるのか分からない達也。

だがそれはすぐに身をもって理解することになった。

 

ドンッ!

 

「達也!?」

 

フラッシュバンで聴こえづらくなった耳でも聴こえる重い発砲音が響いた。

すると達也の体はバラバラ飛び散った。

声すらも出せなかった。

 

 

全身の体組織の破壊を確認

自己修復術式オートスタート

コア・エイドス・データ、バックアップよりリード

魔法式ロード・・・完了

自己修復・・・完了

 

 

刹那の時で血も服も体も元に戻った。

克人は叫ぶ

 

「アンチマテリアルライフル(対物ライフル)!全員ファランクスの後ろに集まれ!」

 

そう、その音は拳銃とかサブマシンガンのような甘いものじゃない。

対物ライフル。

本来、戦車や輸送機といった分厚い装甲を撃ち抜くためのライフル。

かするだけでも人は死ぬし、当たれば硬化魔法でも防げず木っ端微塵になる強力なライフルだ。

達也としては今更遅い注意だが当たったとは言えなかった。

 

「達也!達也!そっちの方で音がしたけど無事なのか!?」

 

「だ、大丈夫だ清夜。()()()()()()()()()驚いただけだ。それよりも自分の身を心配しろ。」

 

達也は「精霊の目」で狙撃手を探った。

飛んできた弾道を伝い過去のエイドスを調べれば狙撃手が分かる・・はずだった。

 

(いない!?弾の発射地点に誰もいない!ライフルさえ見当たらない!どこだ!?どこにいる!?)

 

いくら探れど敵のエイドスは見当たらない。

化かされてる気分だった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2095年 4月22日 ????

 

狙撃手がいたのは廃工場からほど近い山。

と言ってもそこから達也の位置まで直線距離でも800m

その距離から当てただけでも警察の対テロ部隊のスナイパーで通用するほどなのだが当の本人は気づいてなかった。

 

「あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「当てたと思ったんだけど当たってなかった・・・」

 

「珍しいわね。あなたが外すなんて。」

 

「うぅ、やっぱりエコーさん達に任せればよかった。マスターに怒られる・・アルテミシアも私達も捨てられちゃうよ・・・ふぇぇ・・」

 

「当てなくてもいいって言ってたじゃない。役目は果たしたんだから褒めてくれるわ。それよりも薬莢拾って逃げるわよ。」

 

「う、うん」

 

観測手の少女はスコープ機能で改めて確認する。

自分達の主、その将来の難敵の姿を

 

「あれがマスターを痛めつけた男・・・。」

 

無愛想というだけで見た目は普通の男。

とても強いとは思えない。

 

「それを言ったら、あの人こそ強そうには見えないわね。ふふふ、それでは第一高校の皆さん、御機嫌よう。次は()()()でお会いしましょう。」

 

二人はその場を後にした。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2095年 4月22日 ????

 

ちょうど同じ頃、廃工場とは違う場所でブランシュのメンバーは何者かに追い詰められていた。

 

「はぁ、はぁ、どうなってやがる!?10人もやられたっていうのに敵の姿がまるで見えねぇぞ!」

 

今回の作戦でブランシュが動員したのは学生を含め200名

学校に130名、廃工場に70名という割り振りだった。

そのうち廃工場で捕まったり死んだりしたのが合計58名。

残りの12名は達也やエリカ達から逃げおおせて近くの山に逃げ込んでいた。

だが彼らも鉄槌から逃げることは出来ない・・・

 

「バカ!大きい声を出すな!やられ・・」

 

ブスブスッ!!

 

「グボェッ!」

 

男の一人が頭を撃ち抜かれた。

これが初めてではない。

ある者は同じく撃ち殺されて、またある者は”見えない何か”で体を貫かれて・・・

男も女も容赦なくだ。

今ので殺されたのが11人目。

 

「ちくしょう、俺が最後かよ・・・」

 

こうしている今でも敵がどこにいるかわからない。

とりあえず男は大きな岩に飛び込み身を隠すが

 

「無駄だぜ」

 

口調こそ男っぽいが少女の声が聞こえた。

するとその瞬間・・・

 

ドォッブスッ!!

 

「グブォッ!!」

 

”見えない何か”が体を貫いた。

感触からすれば恐らく槍。

いや、それよりも異常なのは銃弾をも防げるような大きな硬い岩を貫いて男の体を刺したことだ。

男は『何故』とも言えぬまま息絶えた。

 

バシュッ!!

 

「アタシの加速・加重系『ダブル・ブースト』は一方向のベクトルに対して速度と重さがそれぞれ二乗になる魔法だ。威力(運動量)の計算は基本、『1/2×重さ(正確には質量)[kg]×速さ^2[m/s]』だから二乗されたら結果的に威力は跳ね上がって岩をも貫くんだよ。」

 

空気が抜けるような音が響くと今まで誰もいなかった場所からフルフェイスヘルメットとアームスーツを付けた人間が二人現れた。

一人はベレッタ Px4 “ストーム” 、もう一人は少し細身な槍を装備していた。

 

「解説は結構ですがもう死んでますよ」

 

「えっ!?嘘ッ!?本当だ!」

 

「たく、あとは死体処理部隊に任せて離脱します。あまり勝手な行動をしないように。ただでさえ大幅な作戦変更が行われているんですから。これ以上のイレギュラーは困ります。」

 

「さっき許可なしに持ち場離れてマスターを助けに行ってたじゃん。助けたとはいえ、たぶん始末書ものだぜアレ」

 

「あ、揚げ足を取らなくていいんです!」

 

「は〜い」

 

バシュッ!!

 

また空気が抜けたような音が響くと二人の姿は影も形もなくなっていた。

 

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2095年 4月22日 廃工場 門

 

警戒という沈黙の中、最初に声を上げたのはレオだった。

 

「第二射が・・・こない?」

 

「こない・・・わね。」

 

エリカも見渡すが何も変化はない。

清夜は悔しげに声を上げた。

 

「狙撃者にも逃げられたね・・・」

 

「あぁ・・・俺達の負けだ。」

 

追い詰めたと思ったが最後の最後でしてやられた。

エリカは落胆し、レオは拳を地面に叩きつけた。

 

「そ、そんな・・・」

 

「せっかく追い詰めたのに・・・くそ!」

 

達也も克人も清夜も二人にかけられる声はない。

 

(疑問と悔しさしか残らなかったが・・・せめて深雪のフォローはしておこう。)

 

カシッ・・・

 

達也がCADの引き金を引いて戦いの幕は閉じた。

ただ一人、薄ら笑みを浮かべながら・・・

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2095年 4月22日 逃走車 車内

 

司一を乗せた車は廃工場地帯を抜け、山道や裏道を走っていた。

警察などの追っ手は見えない。

司一は高笑いをしながら廃工場を見た。

 

「ふへへへ・・・あは、あははははは!!ざまぁみろ!私は捕まってない!お前らの負けだ!」

 

襲撃は失敗、廃工場の戦力も潰されてしまっては勝利とは言えない。

最早、ただの負け惜しみ。

子供が屁理屈言って勝ち誇るそれと同じだ。

しかし彼には忘れられない存在がいた。

 

「にしても、し、司波達也めぇぇ。彼奴さえいなければ・・・くそくそくそ!私を、ブランシュを敵に回したことを絶対に後悔させてやる!」

 

「司様、こちらを・・・」

 

隣に座っている黒髪の女がタオルを差し出した。

司一はそれを受け取り、顔を拭くと元の大物ぶった薄ら笑いに戻っていた。

 

「ふぅ、ありがとう。それでこの車はどこに向かっている?横浜、大阪?それとも福岡か?出来れば大都市の拠点がいいが都内だけは勘弁してくれよ。」

 

「そうですね。具体的には言えませんが強いて言うなら・・・”地獄”という表現が近いかと」

 

「は?」

 

『地獄』なんて地名、司一は聞いたことがなかった。

そもそも彼女たちがどこの所属かも知らない。

司一の表情が再び氷ついた。

 

「き、貴様ら、一体どこから来た?」

 

二人は答えない。

代わりに不気味な笑みを浮かべた。

 

「ひょひょひょ・・・」

 

「きょふふふふ・・・」

 

ここでやっと司一は確信した。

逃げたと思ったらもっとタチの悪い”何か”に捕まったことを・・・

 

「ま、ままままままさか、貴様ら!どこかの諜報機関から私を殺しにきた・・・」

 

「そう言うと思って、我らが御主人様からお前に伝言がある。」

 

運転手である茶髪の女の言葉を黒髪の女が引き継いだ。

 

「『我々は君とお話しがしたいだけ。殺すつもりはない・・・けど()()()()()()()()()。」

 

「そのやり口、言い方・・・はっ!?まさか・・・」

 

司一は”何か”の正体に気づいた。

だが、まだ伝言は終わっていない。

黒髪の女は背中から鉈を取り出した。

 

「『生かさず殺さず・・・悪意と野望で塗り固められた()()()()()()()()()()()()()()()』」

 

「く、くるなぁぁぁぁぁあああぁ!!」

 

司一は腕輪型のアンティナイトを黒髪の女に向けた。

その瞬間・・・

 

ズパァッ!!

 

「ぎいぃぃぃぃぃいいいいあああぁぁぁああ!!」

 

鉈で腕を一刀両断された。

そして司一の意識は闇に落ちていった。

悪夢の終わりではなく悪夢の始まりと知って。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

家族の生活を守るため、命を懸ける友のため、好きな人の無念を晴らすため、

勇気ある少年少女達が悪の組織と戦った。

結果は諸手を挙げて喜べるものではなかったが多くの生徒は彼らを賞賛するだろう。

 

 

 

 

しかし、彼らの中には人の皮を被った悪い狼が一匹紛れ込んでいる。

 

 

 

 




すいませんニ万字越えませんでした。それでも充分、話が長いですが

原作とは違う結末になりましたね。
達也に捕まらなかった司一の運命はいかに!?(扱いという意味でも原作より酷いことになるのは確定。)


次回予告!

戦いは納得のいかないまま終わりを迎える。
だが納得しようとしまいと次の嵐は彼らを待ってくれない。

次は伏線を多く用意する予定です!
次回をお楽しみに〜

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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40話 エピローグと次の戦いの香り

お久しぶりです!とうとう入学編最終話です!
突然ですが来訪者編の漫画買いましたか!?
リーナ!とかレオが!とかあるでしょうが俺としてはやっぱりエリカ!
エリカのパジャマとざっくりニット・・・そして!縞パn←パンパンパン

これまでのあらすじ!
達也達は司一のいる廃工場に強襲!敵のほとんどを掃討出来るも肝心の司一だけは逃してしまうのであった。

話は39話の最後から少し戻ります!
それではどうぞ!



2095年 4月22日 第一高校 剣術部部室近く

 

これは達也達が廃工場に乗り込む少し前の話。

一人の少年は苦しい思いを壁にぶつけていた。

 

「くそ!壬生の剣はあんな奴らに・・・」

 

少年の名は桐原武明。二年生。

勧誘期間の際に沙耶香と戦った剣術部のエース。

彼は壬生と対立していたものの元は同じ道場の出だ。

中学生で剣術に鞍替えしたものの彼は沙耶香の剣を認めていたし、綺麗だとも思っていた。

だが高校に入ってから沙耶香の剣道が剣術以上に人斬りの剣に変わっていった。

勧誘期間に乱入したのはそれが許せなかったからだ。

しかし蓋を開けてみればどうだろう、沙耶香はテロリストに手駒として操られていたのだ。

保健室の外で沙耶香の話を聞いた武明は恥ずかしくなった。

 

 

ただ強さを求めて人を辞めたと誤解していた。

あいつに何があったか知ろうとしなかった。

何より、剣を交えたのに悲痛な叫びが分からなかった。

 

 

出来ることなら今すぐにでも慰めにいきたい。

でも自分にそんな資格はない。

そんな”矛盾”でもどかしくなり桐原は話途中で保健室の外から逃げだし、ここに来ていた。

 

「どうすればいいんだ俺は!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに”魔王(武器商人)”のささやきが呟かれる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら”戦う(殺す)”なんていかがでしょう?あなたの大事な人を傷つけた憎い、憎い、ブランシュのボスを・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

桐原の背筋にどっと嫌な汗が流れた。

『戦う』が『殺す』と聞こえてしまうくらいに・・・

桐原はゆっくり後ろを振り向く。

 

「・・・お前は確か一年の・・・式清夜」

 

「おや、ご存知でしたか。」

 

「どっかの風紀委員と違って目立ってはいないがそれなりに知られているぜ。で、”戦う”とはどういうことだ?」

 

一本の刀が桐原の前に差し出された。

清夜は武器商の笑みを浮かべて言う。

 

「これから私たちはブランシュのアジトに乗り込みます。もちろん、そこにはブランシュのボスであり、壬生先輩を唆した犯人『司一』もいますよ。」

 

「俺も参加して奴を殺せと?」

 

「あっははは!『殺せ』なんて物騒な。私は一言たりとも言っていませんよ。ですけどね先輩、これからいくメンバーの中に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですよ。だからあなたが壬生先輩の無念を晴らしてやってはどうでしょう。そのために私はこの刀を用意しました。」

 

ガッ!

 

桐原は清夜の胸ぐらを掴む。

 

「壬生はそんなことしたって喜んだりはしねぇ!一年坊が知ったような口を聞くな!」

 

清夜は笑みを崩さない。

これすらも期待通りの反応だから。

 

「おおっと、怖いなぁ〜。ではこのまま壬生先輩に一生顔向けできずに終わりますか?」

 

「っ!・・・」

 

「とは言っても先輩の言うことも一理あるでしょう。だからこれは()()()()()()のためというのはどうですか?」

 

「俺の・・・ケジメ?」

 

桐原の動揺した顔で言葉を繰り返した。

もう彼は清夜の()()にハマっている。

まるで麻薬のように・・・

 

「そうです。あなたが壬生先輩と向き合うために必要なケ・ジ・メ。もしこれだけで納得出来ないなら、もういっそのこと八つ当たりでどうでしょう?これなら()()()()()()()()()()・・・」

 

「・・・戦ってやる(殺してやる)。・・・・これは俺が向き合うために必要だ。八つ当たりと言われてもいい・・・」

 

桐原の心に狂気の芽が生えた。

清夜はトドメにこう囁いた。

 

「そうです。戦いましょう(殺しましょう)・・・もし先輩が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って誰も文句は言いませんよ。」

 

「・・・その刀いくらだ?」

 

「お代はいりませんよ。全てはあなたが思うがままに、感情のままに」

 

虚ろなようで狂気に満ちた目をする桐原。

そんな彼に清夜は刀を託しその場を後にした。

 

〜2分後〜

 

「・・・あれ?俺は・・・」

 

周りを見渡すが誰もいない。

なぜここにいるのか分からない。

なぜ刀を持っているのかも分からない。

 

「そうだ。俺はあいつの無念を・・」

 

だが彼の心に狂気だけは残っていた。

 

 

これは決して邪眼ではない。

これは少年を苦しめる矛盾を解いてくれる甘い甘い魔法。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 4月24日 DEM 社長室

 

ブランシュ事件から二日後。

清夜はアイザック・ウェストコットとして会社に訪れていた。

 

「ホウ、アーキン、エコー。三人とも別任務ご苦労様。」

 

「うっす。」

 

「ありがとうございます。」

 

「あいよ。といっても報告書の通りだが情報収集についてはいい結果じゃなかった。」

 

部屋にはアイク(清夜)の他にエレン、エコー、アーキン、ホウがいた。

別に労うのが目的ではない。

どちらかというと報告会議と今後の予定確認という意味合いが強かった。

 

「けど大都市にあるブランシュ拠点は潰してくれた。商売という意味でも反魔法主義者を減らしたのはありがたい。彼らみたいのはこれから商売の邪魔になるから。特にこれから()()()()()()()()()なら尚更。」

 

「ん?最後なんて言った?」

 

「なんでもないよ」

 

清夜が彼らに与えた任務はブランシュ拠点の襲撃、ならびに購入者を含めたアンティナイトの追跡

ブランシュ事件が終わった今、第一高校でない限り、どこでテロを起こそうが清夜には興味はない

しかしアンティナイトについて、特に3割の購入者とその使い道について警戒が必要。

そんな武器商の勘に従い七賢人ことサイモンに調べさせたのだが購入者は特定できず

少なくともネットでのやり取りはないと推測し彼らに足で調べさせたのだ。

エレンが改めての報告を促した。

 

「一応、ちゃんとした報告を。アーキン。」

 

「はい。横浜、大阪、福岡、名古屋、札幌の襲撃および調査を行いましたが、いずれも紙媒体の取引資料は確認できませんでした。」

 

「うん。なら今はそれでいい。あとはゲットした彼から聞くとしよう。エレン、その後の準備もよろしくね。あっ、それと奪った()()()()()()()()()()()も忘れずにね」

 

「了解しました。この後、手配させます。」

 

あえて誰とは言わない。

キューブのことも何も言わない。

彼らも気にする素振りすらなし。

ホウがそのまま質問した。

 

「それで自分たちが呼ばれたのは報告をさせるためっすか?」

 

「いや、それだけじゃない。今度の仕事についての話もある。キャビネット『案件B708』」

 

アイク(清夜)は意味不明な数字列を呟いた。

すると部屋が暗くなりアイクの後ろに世界地図の映像が出た。

 

「今度、この5人で5月の頭に東EUのクロアチアに行くことにした。」

 

「へぇ〜それはまた急なこって、んで、何すんだ夜坊?」

 

「ココから増援の要請が来てね。我々の貨物の運搬が妨害されている節がある。このままだとクロアチア空軍に届ける前に港で完全に止められる」

 

三人の目がプロの目に変わる。

ホウが詳しい説明を求めた。

 

「状況は?」

 

「レッド(戦闘)に限りなく近いオレンジ(緊張度が高い)。アーキンは質問ある?」

 

「敵、人数は?」

 

「中央税関保安隊、人数は不明。他の勢力も介入してくるかもしれない。欧州はローゼンのテリトリーだからね」

 

ローゼンとは魔法工学機器メーカー『ローゼン・マギクラフト』のことだ。

DEM、マキシミリアンと並びCAD世界トップシェア。

東EUのドイツに本社を置く会社で欧州全土に影響力がある。

画面が切り替わりアイクが話を続けた。

 

「さて、細かい話に移るが今回は第一陣、第二陣に分けてクロアチア入りする。君たち三人は第一陣。」

 

「なんでだ?」

 

「私とエレンは一度、タイ王国の某所に武器取引をしに行く。」

 

「危険です。我々も護衛に」

 

アーキンが進言した。

護衛対象の安全が第一というのは当たり前の話だ。

しかしアイク(清夜)はバッサリと切り捨てる。

 

「ダメだ。実はそれに合わせて日本政府から特別大使をしてくれと言われてね。無論、監視付きで。下手にドンパチやれば日本に捕まる。」

 

「情報をリークしてやがったか。夜坊が襲われてドンパチすれば失脚、脅迫する口実ができ、襲われて死ぬのならそれでよしということか。」

 

「考えはある。すぐに追いつくさ。」

 

ピンチにも関わらずアイク(清夜)の表情は笑顔だった。

エコーはそれを見るとアイク(清夜)の頭をポンポンと叩いた。

 

「分かった。信じるぜ夜坊。早くこいよ、お嬢も待ちわびてるだろうからよ。」

 

「はいはい。それじゃ三人ともよろしくね」

 

「「「了解」」」

 

特に敬礼は必要無い。

なので三人は何もせず部屋を後にした。

 

「じゃあ、次は君の話だね。()()()()()。図書館にいた紅雪という女の正体は分かったかい?」

 

「うっ・・・その女はCIAの殺し屋です。業界としては有名人で翠と藍も知っています。それと・・・勝手に手助けしてすいませんでした。」

 

エレンは気まずそうな顔をして謝罪した。

命令違反というのは先日の持ち場を離れて図書館に来たことだ。

思った以上の反応にアイク(清夜)は吹き出しそうになった。

 

「クク・・・ごめん冗談。あの光屈折魔法は助かったよ。ありがとうエレン」

 

「は、はい!では褒美が欲し・・・」

 

「だ・け・ど連絡なしに持ち場離れるのはダメだ。あとで反省文。」

 

「んなっ!?・・・りょ、りょうかい・・・です。」

 

上げて落とすことで部下のリアクションを楽しんだアイク(清夜)

ちょっとした息抜きにいつもからかっていることだが、成果を評価しないほど鬼畜ではない。

 

「大丈夫、成果について高く評価しているさ。給料にも考慮しておくし、あとでイチゴケーキでも何でも奢るよ。今は他の報告を頼む」

 

「約束ですよ!!・・ごほん、分かりました。それではまず4月頭の侵入者についてですが結局、見つけることは出来ませんでした。」

 

「そうかい・・・やはり、それなりの組織が後ろにいるか。保険をかけておいてよかった。記憶はないだろうし、どれだけ長くても6月までは生きられない。捜査は()()の動向を監視しているチームに引き継がせてくれ。同じ長野だし」

 

「分かりました。では次、先日の古式魔法による盗聴、盗撮についてです。まずはこちらを」

 

エレンが後ろから紙の資料をアイク(清夜)に手渡す。

無論、それなりに重要な話だからだ。

 

「吉田流派の魔法を再現しようとしたものかと。おそらく・・・」

 

「九重八雲?」

 

エレンはコクリと頷いた。

 

「生存も確認されています。まさかアイクのルナ・ストライクを避けているとは思いませんでした。」

 

忍者というのはスパイの出来損ない。

それが以前までの彼女の考えだったから驚いているのだろう。

 

「達也が依頼したのかな?やっぱり古式はすごいね。九重八雲はミスリードさせて泳がせとくとして。対策という意味も込めて我々ももう少し古式の研究、開発に力を入れようか。」

 

「よろしいのですか?今はどの国もエレクトロニクスを取り入れた魔法研究、開発が主流です。それに古式の魔法発動速度は鈍重すぎます。」

 

「大丈夫、まだ主力はエレクトロニクス系だから。発動が遅いのも理解している。けど第三次大戦が終息した今、戦争の形態は2000年代初頭に戻りつつある。古式の問題解決は今後の利益になるはずさ。復讐という意味でもね。」

 

2000年代初頭(つまり私たちの現在)の戦争は非対称戦の時代と言われている。

非対称戦とは「国家VS国家」、「軍VS軍」、「戦場」という概念にとらわれず

多様かつ自在な場所、時間、相手で行われる戦闘を指す。

”テロとの戦い”、”表には出せない作戦”が代表的だがこれらの戦いに求められるのは敵に気づかれない”隠密性”と少ない手数で終わらせられる”威力”。

つまり、戦闘こそ発動が速いから現代魔法が戦争などで多用されているだけで

速度に目を瞑れば現代の戦争に適しているのは古式というわけだ。

 

「なるほど、そうすればローゼンやマキシミリアンを出し抜けますね。」

 

「あくまで目的は復讐だけどね。ま、そんなことしなくても出し抜くけど。例のデバイスと術式の調子はどうだい?」

 

「はい、早ければ5月、遅くとも6月頭には発表できるかと。アイクのアイデアで研究が爆発的に加速しましたからね。あなたの研究チームも喜んでましたよ。」

 

喜ぶかと思ったが少し拗ね気味になるアイク(清夜)

それもそのはず、ある技術がアイデアの元だからだ。

 

「トーラス・シルバーのおかげだけどね。結局、ループキャストの応用だし・・・ん?話戻すけど最後のページのこれは何?」

 

「ああ、これですか。呪符は様々な場所に貼られていましたが、実は貼られた呪符3枚の内、2枚は九重で残り、一枚が出処不明だそうです。内容としては呪いの類ではないかとのことです。」

 

アイク(清夜)は資料に貼られている呪符と睨めっこ。

全く見たこともない呪符。

特徴的なのは描かれている絵柄(?)

 

「呪い・・ね〜。これは丸が描かれているのかい?それとも円という意味かな?」

 

「ローマ字のOかもしれません。とにかく、たくさん描かれています。」

 

「もしかして・・・零・・・なのかな?」

 

「!!、至急調べさせます。」

 

「偽エリカのこともある。騙されないようにしてくれ。」

 

偽エリカに襲われて以来、零からの刺客は送られてこなかった。

だが零と思しき噂だけなら裏社会に流れている。

この呪符もその類なら魔の手はもう迫ってきているということだ。

彼らの情報が少ない以上、後手に回るのは得策ではなかった。

今度はエレンが質問する

 

「そういえば、廃工場にいた公安と情報部の人間に魔法をかけたようですが一体何を?」

 

「ああ、君は抜け出して見ていなかったのか。え〜と・・・これだよ。」

 

アイクは思い出したかのように答え、映像を再生した。

そこには悍ましい光景が写っていた。

 

「なっ・・・こんなことが・・・・」

 

一言で言うならば『地獄絵図』だった。

そもそも本当に魔法によるものなのか分からない。

魔法によるものだとしても()()()()()()()()()()()()()()()

 

「この魔法・・・他の人間にも?」

 

「一人だけ、剣術部の桐原武明にかけた。彼はね、達也が私より先に司一を捕まえた時の保険だったんだ。言ってしまえば()()()()()()。」

 

「・・・」

 

「本来なら腕を切り落とす程度の()()しかなかっただろうに。いやぁ〜刀を脳天に振り下ろそうとした時は思わず笑いそうになったよ。改良の余地はあるが結果としては満足だよ。」

 

恐怖、驚愕・・・色んな感情がエレンの中で沸いては消える。

そして最後に残ったのは歓喜だった。

 

「す、素晴らしい・・・こんなこと十師族でも・・・いや世界の誰もできない。やはりアイクは天才です!」

 

エレンは気付かぬうちに身震いしていた。

誰にも真似出来ない、あらがえない力に体が先に反応したのだろう。

それに対しアイクは笑っているが少し悲しんでるようにも見えた。

 

「・・・ありがとうエレン。それで報告は終わりなのかな?」

 

「あっ・・・いえ、報告ではありませんが」

 

少し言いづらそうな表情になったエレン。

その手には招待状のようなものが見えた。

 

「我々でいう()()からアイク宛にまたお茶会の招待状が来まして・・・」

 

「ふむ、またかい?いつも通り、季節の挨拶いれて魔法協会経由で断りの手紙を返しておいて。」

 

「了解しました。」

 

アイク(清夜)は行く気はないものの手紙の中身を見た。

 

「こんな名家の欠片もない民間企業の社長と1対1でお茶会・・・ね。唯我独尊路線の家が一体私に何の用だい?()()()()・・・」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2095年 4月24日 東京 アイネブリーゼ

 

「「「「「「「かんぱーい」」」」」」」

 

アイクが話し始めた頃。

雫、ほのかを含めたいつものメンバーはパーティをしていた。

その中でも特にエリカはレッツ!パーリィッ!していた。

 

「よーし!!今日は飲みまくるわよーー!!」

 

「エリカちゃん、すでに盛り上がっているわね。」

 

「おいおい、酒飲んでねーよな」

 

なんて言うが美月もレオもいつも以上に楽しんでいた。

もちろん酒なんかは入っていない。

こうやって盛り上がらなければ敗北を思い出してしまうからだろう。

逆にほのかと雫はチビチビ飲みながら深雪に尋ねた。

 

「私たちも来て良かったの深雪?」

 

「ええ、もちろん」

 

「はぅ!まぶしぃ〜」

 

「はいはい、そうだね。」

 

深雪の笑顔にほのかはクラクラしそうになるが、これは鉄板ネタ。

雫はいつも通り倒れる親友を抱きとめた。

 

「そういえば式君がいないね。どうしたの?彼、達也さんと同じくらい功労者なんでしょ?」

 

「清夜君は用事があってこれないそうよ。私たちもお礼をしたかったけど・・・」

 

「いいのよ。あんなツレない冴えない薄情男は!楽しみましょ!無礼講〜〜〜!!」

 

本当に酒飲んでいるんじゃないかと思うくらい騒ぐエリカ。

そこにマスターがオードブルを持ってきた。

 

「にぎやかだね達也くん。なにか祝い事でもあるのかい?」

 

「お疲れかいのような・・」

 

「今日は達也くんお誕生日だよ!!」

 

「「え!?」」

 

達也の言葉途中でエリカが答えた。

しかし、皆が聞いていた話では”お疲れ会”だったはず。

いや、そもそも誕生日じたい、深雪と達也以外知らなかった。

 

「なんで教えてくれないのエリカちゃん!?」

 

「ん〜?正確な日付知らなかったからさ。昨日聞いた深雪に聞いた話だと4月だし、誤差の範囲内かなと・・・」

 

人の悪い笑みを浮かべるエリカ。

やはり、こいつは小悪魔だと再認識した一同。

だがそれを上回る小悪魔が一人いた。

 

「そう、お兄様の()()()()()()()()()よく知っていたわねエリカ。」

 

「へ?達也くん、今日なの?」

 

「ああ、わざわざありがとうエリカ」

 

エリカは悔しげに深雪を見た。

どうやら騙されていたらしい。

 

「測ったわね深雪ぃぃ」

 

「あら、否定はしてなかったはずよ。」

 

深雪は美少女100%笑顔で受け流す。

この女も大概・・・というのは美少女のお約束だろう。

雫とほのかはがっくりと項垂れた

 

「しまった達也さんのプレゼント」

 

「うん・・・持ってないね」

 

「わ、私が言えた話じゃありませんが気にすることはないですよ。」

 

「そうだぜ。俺らも知らなかった訳だし。同じクラスなのに・・・」

 

気まずげな4人の前にケーキが置かれた。

ケーキに乗っている板チョコには”Happy Birthday”と書いてある。

深雪は注文した記憶がなかった。

 

「マスターこちらは?」

 

「実は貸し切りの予約の後、清夜君にケーキを頼まれたんだ。達也君の誕生日とは聞いてなかったけど。」

 

「お兄様聞いていましたか?」

 

「いや、でもこの前、世間話のなかで誕生日の話はしたな。」

 

本当に世間話程度だったがよく覚えていたと達也は思った。

マスターは落ち込んでいる4人にロウソクを渡した。

 

「そうそう。彼からの伝言でね。このケーキは清夜君と君達からのプレゼントにしといてくれって言ってたよ。あとで僕からもケーキをもう一つプレゼントするからそれも含めて君たちからのプレゼントにしよう。」

 

「「「「さすが清夜(君)!!マスターもありがとう!」」」」

 

「ふふ・・・どうやら、清夜君の方がサプライズ上手だったようねエ・リ・カ♪」

 

「うぐぐ・・・分かってるわよ。」

 

深雪の言葉にエリカはそっぽを向く。

それでも表情からして満更でもなさそうだ。

 

「それとこれは今日、彼が持ってきたものだ。多分、君宛てなんだろう。」

 

「花まで用意してくれたのか。律儀だな、あいつも。」

 

マスターから花を受け取る達也。

花びらこそ少ないが白くてきれいな花だった。

 

「わぁ〜きれい。なんていう花なんだろう?」

 

「確か、それはスノードロップて花ですよ。良かったですね達也さん。」

 

「ああ、そうだな。」

 

一番に食いついたのはやはり美月とほのかだった。

達也も花を見て微笑む。

その後、写真撮影やケーキのロウソクの火を消したりなど

皆は一昨日を忘れて思いきり楽しんだ。

深雪は願った。

 

(お兄様、私はお兄様がご学友に囲まれる姿を見れて嬉しいです。特に警戒しているはずの清夜君と一番仲良くなっているのは感動で涙が出そうです。だからどうか、お兄様の幸せが続きますように・・・)

 

「深雪〜写真撮るわよ〜早く早く!!」

 

「は〜い。今、行くわ」

 

深雪は笑いながら友の輪に戻っていった。

 

 

 

ついでに2095年となった今、花の贈り物はめっきりデリバリーさせるものになっていた。

もちろん、手渡しする人間もいるが少なくとも贈る花を自分で選ぶ人間はいなくなっており

大抵、花屋が料金に合わせて花を選んでいる。

 

 

だから彼らは知らない。

その花は贈ってはいけない花だと・・・

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2095年 5月1日 第一高校 部活棟 空き部屋

 

事件の顛末は5月に入ってから知ることになった。

 

「司一が国外に亡命ですか!?」

 

アルテミシアと清夜は克人に呼び出され詳細を知った。

結局、ブランシュ事件の後処理は全て十文字家がやってくれた。

清夜も含め達也達がやったことは最低でも過剰防衛、プラス魔法の無免許使用だが司法当局による処分はなかった。

これはもちろん十文字家の手回しによるものだ。

以前、記述したように十師族は表の権力を放棄している代わりに政治の裏ではかなりの権勢を手にいている。

つまり序列3位のそれもその事実上の当主が関わる事件に普通の警察は介入できないのだ。

もちろん、文官側である普通じゃない警察も関与しているし、武官側である軍まで動いていた。

しかし、公安と情報部共に捕獲チームが全滅。魔法官つまりは十師族も十文字家が取り逃がしてしまったためにお互い何も言えないのが現実だった。

 

「逃走方法は?空港警察や海上警察は何をしていたんですか!?」

 

「まったく耳が痛い話だ。あの後、陸では警察と陸軍と十師族の、海では海上警察と海軍と十師族の間で縄張り争いがあってな。包囲網の完成が遅れてその間に網の穴から船で国外に逃げられた。」

 

これも同じく以前、十師族と軍と政府は明確に敵対はしていないと言った。

しかし実際には明確に、表向きに敵対していないだけで裏で縄張り、利権争いによる溝は存在していた。

例えるならば明治から第二次大戦までの軍部と政府の対立に近い。

そのような状態ならば隙が出来てしまうのは必然。

そう、全ては()()()()()()()の思惑通りだった。

 

「そう・・・でしたか。」

 

「残念です。」

 

二人はがっくしと肩を落とした。

克人も気持ちとしては同じのつもりだ。

 

「まぁ、そう気を落とすな。おかげでブランシュは空中分解、少なくともテロをするような奴らは壊滅した。警視総監賞といったものは色々と事情があってできないが・・・」

 

そう言って克人は軽く咳払いしてからいつも以上に真面目な眼差しで二人を見た。

 

「十師族の十文字家代表補佐を務める魔法師として貴殿らに感謝を申し上げる。

おかげで魔法師の命を害する組織を無力化することが出来た。これは師族会議、ひいては魔法協会の総意だ。本当にありがとう。」

 

ビシッとお辞儀をきめる克人。

上から目線のような物言いは変わらないが

その姿は一族の長になるに相応しい姿だった。

 

「いえ、こちらこそご助力頂きありがとうございました。」

 

「ありがとうございました。」

 

二人もしっかり頭を下げて礼を言った。

克人は微笑みながら頷くと話を切り替えた。

 

「では本題に入ろう。」

 

「今のが本題なのでは?」

 

清夜は頭を傾げて問う。

なにせ前いたクロス・フィールド部の部室ではなく、この空き部屋、それも二人だけ呼び出されたから本題はこれしかないと思っていた。

 

「それもあるが今日呼んだのは部活連の今後の方針について話をするためだ。」

 

「方針ですか?」

 

「ああ、この前の同盟の主張を受けて我々も今まで以上に積極的に運営監視して行こうと思う。」

 

「言いたいことは分かりますけど具体的には?」

 

「ここを拠点に土日を含め毎日、部活連の誰かが二人以上いるようにしておくつもりだ。」

 

しれっと言っているがやる側の人間にしてみれば簡単な話ではない。

 

「部活連のメンバーは新人の清夜君を入れても5人。さすがにそれだけの仕事をこなすのは・・・それに個人の部活動もありますし。」

 

アルテミシアの意見はもっともだった。

しかし克人もそこまで考えていないわけじゃなかった。

 

「分かっている。だから今回、部活連メンバーを増員することになった。入ってくれ。」

 

「「「失礼します」」」

 

声が聞こえて振り返るとドアが開き、三人の男女が入ってきた。

清夜とアルテミシアがよく知る人物だ。

 

「よっ!アシュクロフトと式。世話になるぜ。よろしくな。」

 

一人は桐原武明。剣術部2年エース。

 

「今日から部活連役員になりました。よろしくねアルちゃん、式君!」

 

もう一人は剣道部2年の壬生紗耶香。

 

「どうも〜あたしも部活連役員になっちゃいました。よろしくね先輩、清夜君!」

 

そして最後は清夜のクラスメイトの千葉エリカだった。

 

「桐原君!サヤ!」

 

「先輩方!それに・・・エリカ?」

 

「何であたしの時だけトーンが下がって疑問系になるのよ」

 

ベシッ

 

「アブッ!」

 

エリカは清夜に軽くチョップした

驚く二人に克人が説明する。

 

「この三人が新メンバーだ。同盟の件もあったからな壬生には一科と二科を繋ぐ役割をしてもらうつもりだ。桐原と千葉も手伝ってくれると言ってくれた。」

 

「そうだったんですか。」

 

罪に問われていないとはいえ

元テロリストをメンバーにする大胆な起用だった。

 

「それにしても午前中に退院したのねサヤ。この後、退院祝いを持って行こうと思ってたのに。どうして教えてくれなかったの」

 

「実はね、アルちゃんに謝りたかったの。・・・本当にごめんなさい。アルちゃんが認めてくれたくれた剣をあんな使い方してしまって。私、」

 

泣きそうな紗耶香。

アルテミシアはその体をそっと抱きしめた。

 

「いいの。サヤとまたこうして仲良く喋れればそれで。」

 

「まだ、私のこと・・・友人でいてくれる?」

 

「当たり前じゃない。あなたは私の良き友人で良きライバルよ。」

 

「うぅ・・・ありがとう、ありがとう。」

 

とうとう保健室と同じ様に紗耶香は泣き始めた。

アルテミシアも嬉しいのだろう。

そんな二人の姿を微笑ましく見つめるエリカ達。

その中でただ一人、清夜だけは冷めた眼差しで見ていた。

アルテミシアを責めているわけでもない。

言えば色々と長くなる。

簡単に言えば結果至上主義者になっている今の彼は妹以外の愛や友情の類に嫌悪しているのだ。

 

「それと・・・式君もありがとね。」

 

突然、紗耶香が清夜を向いてそう言った。

 

「はい?」

 

「君の言葉で迷いが生まれて、おかげで踏み込んではいけない一歩を踏まずにすんだ。だからありがとね。」

 

「いえ、自分は・・でもよかったです。」

 

清夜はきれいな笑顔で紗耶香の更正を喜んだ。

さっきの冷めた眼差しから笑顔が出来るのはもちろん彼が武器商人だからだろう。

言っておくが今の彼には更正を祝う気持ちも喜ぶ気持ちも持ち合わせてはいない。

 

「・・・」

 

「?」

 

その冷めた心のせいか、清夜は桐原の拗ねている姿が見えた。

エリカは清夜の視線に気づいてニヤニヤしながら耳打ちした。

 

「うふふ、実はね、さーや、恋の対象を達也君から桐原先輩に乗り換えたの。」

 

「さーや?あぁ、壬生先輩か。へぇ〜それはそれは。」

 

いや、音量的に耳打ちではなかった。

アルテミシアはエリカと同じくニヤニヤ。

桐原と紗耶香は顔を真っ赤にした。

 

「まぁ!サヤは剣道小町だけなく、恋する乙女の称号も手に入れたのね。」

 

「え、エリちゃん!」

 

「千葉!テメェ!ベラベラ喋るんじゃねぇ!」

 

「分かってる分かってる!男は顔じゃないってことだよね?」

 

明らかにバカにしていた。

克人は何も言わないが笑いを堪えているのが見えた。

 

「いい加減にしやがれ!このアマぁ!」

 

「そうだよエリカ。バカにしちゃダメだ。先輩は本気なんだから。ですよね?先輩」

 

フォローしたのは清夜だった。

ただ挙げた右手に持っている新型のボイスレコーダーは怪しさを隠せていない。

清夜はレコーダーの中身を再生させた。

 

ピッ!

 

「俺は・・・壬生・・・が・・・好きでした。・・・・・・壬生・・・が綺麗でした!」

 

ブツブツと音声が切れているが桐原の声だった。

桐原と紗耶香はさらに真っ赤になって硬直した。

 

「えっ、ちょっと待って式君!」

 

「なっ、なっ・・・それは!」

 

桐原には心当たりがあった。

これは克人にブランシュ襲撃の参加を嘆願した時の音声だ。

 

「てめぇ!俺と会頭の話を盗み聞きしやがったなーーー!!というかワザとらしく音声を切って合成するんじゃねえぇぇぇぇ!!」

 

怒りと恥ずかしさで硬直を解いた桐原は清夜に飛びかかった。

 

「エリカ、パス!」

 

「へいへい、キャーッチ!!あは先輩、熱いねー。ヒューヒュー」

 

「よこせ千葉!」

 

「はい!アシュクロフト先輩パス!」

 

桐原相手にパス合戦が始まった。

その後、意外にも克人が参加し、さらに盛り上がるがそれはまた別の話。

 

 

そうして、しばらく遊んでから清夜はこっそり部屋を出た。

飽きたからでない。

部屋の外から清夜を見つめる視線に気づいたからだ。

 

「あの、何か?」

 

「君が式清夜君だね。私は壬生勇三、紗耶香の父親だ。」

 

壬生の父親。

そう名乗った人物はスーツを着こなした壮年の男性だった。

 

「・・・初めまして。式清夜と申します。」

 

「ああ、初めまして。少し話いいかな?」

 

そう言って少し部屋から離れる。

清夜もそれについて行った。

 

「式君。君と司波君には感謝している。娘が立ち止まれたのは君達のおかげだ。」

 

「お礼を言われることはしていませんよ。自分は現実を言って傷つけただけ。立ち止まれたのは司波兄妹とエリカのおかげです。そして立ち直れたのはきっと彼氏の桐原先輩のおかげでしょう。」

 

清夜は申し訳なさそうに頭をかいた。

対して勇三は悔しげな表情になった。

 

「それを言うなら私は何もしてやれなかった。娘の悩みに気づいていたのにだ。終いにはテロリストと絡むまでになってしまった。娘は君の指摘で愚行に歯止めがかかって司波君の話で悪夢から目覚めたと言っていた。そして『その力を持って何を為すか。』その言葉に希望を見せられたと。だから言わせて欲しい。本当にありがとう。」

 

「は、はぁ。えと、どういたし・・・まして?」

 

「自信がないようだが君の本質は勇気と優しさを持った充分に強い男だ。もっと胸を張ってくれ。それじゃ失礼するよ。」

 

勇三はクスリと笑いながら立ち去る。

それは大人が次の世代にエールを送る画。

きっとこのまま終われば爽やかで気持ちいい締めだったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()() ()()()() ()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()さん。」

 

 

 

 

 

 

 

しかし()()()()()()()()()()()()()がそれで終わらせるわけがなかった。

 

「・・・」

 

突如、蛇に締め付けられるような感覚が勇三を襲った。

声は先ほどと同じ声のはずなのに、先ほどまで話した謙虚な青年の面影はもうない。

 

「あなたも私の正体をご存知のはずですよね?実は私もあなたと話、というよりお願いがしたかったんです。」

 

いくら国にとって一番利益をもたらす企業といえど政府が社長の正体を知らないわけにはいかない。

しかし、それでも外部の人間でその正体を知るのは一摘みの中の一摘み。

総理大臣や政界、軍の重鎮ほどでなければ知らない。

今まで出てきた佐伯といった少将や中将、各省庁の大臣ごときでは知ることも出来ない。

その中で例外の一つとして上がるのが内閣調査室だがそれでも知るのは部長以上か何かしらで彼を追う担当の課長だけということだ。

 

「・・・あなたの存在は国防軍機密保護法より厳しい国家機密保護法で秘密にされているのでうかつに話すのは良くないと思いまして。それよりも随分と細かいところまでご存知のようですねアイザック・ウェストコット殿。」

 

もちろん、それと同じくらい知るのが難しい内閣情報調査室の構成員を清夜が知っているのはおかしいことだった。

アイクは悪びれる様子がない。

 

「Need not to know・・・もしかしたら白い兎さんが教えてくれたのかもしれませんね。」

 

「!!・・・それでお願いというのは?私が出来ることはたかがしれませんよ。」

 

勇三は表情を崩さない。

それでも内心は悔しさでいっぱいだった。

 

「そんなに難しい話ではありませんよ。ただタイでの護衛とか『くだらない遊びはやめましょう』という提案です。娘さんの愚行のことで貴方達も大変なはずだ。」

 

「なにを言いたいのか分かりませんが護衛は森崎家の会社に委託しているので私にはどうにも出来ないかと。」

 

今回、タイでの護衛は国が無償で手配してくれた。

だから断るのは筋違い、それに一構成員にすぎない勇三にどうにか出来るはずじゃない。

それを分かっているはずなのにアイクは武器商人の笑みを浮かべた。

 

「あぁ、そういうのもいりませんよ。DEMのこういう時のためにMSSに一年以上前から構成員を潜らせていたではありませんか」

 

「っ・・なるほど全てを理解していての()()ですか。しかし、それは私だけを切り捨てればいいだ・・・」

 

あくまで抵抗する勇三。

もう意固地になっているのはわかっていた。

アイクは間髪入れずに攻める。

 

「壬生勇三。幹部レンジャー課程を三席の成績でクリア。その後は大越紛争で同期の風間玄信、日野木陽介とともに佐伯広海、当時大佐の懐刀、通称『烏天狗』として活躍。結婚を機に退役。しかしすぐ後にその実績、魔法素質を買われ内情に籍を置き、今なおトップシークレットの案件に駆り出されている。そんな重宝されている貴方を国が切り捨てる?ありえませんね。」

 

「っ!」

 

勇三はに「理解している」と言っていたが想像をはるかに超えていた。

アイクは鼻で笑った。

 

「全てを理解しているとはこういうことを言うんですよ。まぁ、理解しているからこそ貧弱な私は貴方のような歴戦の猛者と戦わず、こうして()()()をしているんですが。」

 

蛇が締め上げながら勇三の首元まで迫ってきた。

いつ毒牙を立てらてもおかしくない。

これが貧弱な男の出来ることか。

戦ったら一族ごと葬られると勇三の勘が警告していた。

 

「ああ、もしかして心配なのは上の方ですか?安心してください。一番上の方には部下が()()()を持ってすでにお願いしに行ってます。だからこれは現場の人間に確認をとってるだけですので安心してください。」

 

(すでに抑えらていたか・・・紗耶香のことがあったとは言え、我々、内情の年単位の努力を軽々と踏み潰した。なら今回は・・・)

 

「分かり・・・ました。護衛は外しておきます。ですが特別大使の仕事の辞退と貴方の秘書以外の護衛同行は認められませんのでご了承を・・」

 

これが勇三のせめてもの抵抗だった。

 

「ええ、構いません。ご配慮に感謝いたします。」

 

「それと娘のことは・・・」

 

「バラしませんよ。当たり前じゃありませんか。壬生先輩は自分と同じ部活連の仲間なんですから。」

 

なんと白々しいことか。

一人称を”自分”に戻して『学生の式清夜の本心ですよ』とアピールしている。

もしこれで嘘ついたらメディアや軍、魔法協会にバラすと表情が語っているのにだ。

 

「ありがとう・・・ございます」

 

勇三の体を締め付ける蛇が緊張と一緒に解けていく。

いや今回の敗北を認めたことで楽になったのだろう。

だが悔しさだけは消えずに、むしろ増大していた。

アイクは恭しく、学生のように頭を下げる。

まるで勇三の神経を逆撫でするように

 

「それではこれからも仲良くやりましょう。」

 

「・・・はい」

 

「では失礼いたしました。」

 

勇三は子供相手に悔しげに睨むような真似はしない。

代わりにデバイスを取り出して電話をかけた。

 

『はい、もしもし』

 

「もしもし俺だ。」

 

『おぉー!壬生か!?久しぶりだな。紗耶香ちゃんが生まれた時以来か?』

 

相手は同期の仲間だった。

少し特殊な所属で国内にいないことが多いが頼れる友人だ。

 

「嘘つけ。三年前にも合同作戦で会っただろうが。プライベートならつい二カ月前に飲んだだろ?」

 

『がはは!そうだっけか?歳だな、きっと。』

 

「プライベートならともかく、お前が仕事の時間、場所を一秒、一ミリたりとて忘れるわけないだろう。」

 

少々、いい加減な男に感じるが仕事に関しては正確すぎる男だ。

お互い挨拶を済ませた所で勇三ではなく相手が真面目な話を切り出す。

 

『で、紗耶香ちゃんは無事だったか?』

 

「さすが早いな、()()()。」

 

『一週間もあれば情報は入るさ。こっちにも小さい支部があるが、もう大慌てだったぞ奴ら。で、どうなんだよ』

 

日野木と呼ばれる男は昔から会うたびに可愛がっていたから肉親並みに心配はしていた。

 

「あぁ、学校の仲間に救ってもらったよ。命という意味でも心という意味でも。」

 

『ほう、よかったな頼もしい若者達がいて。』

 

確かに命も心も救ってもらった。

だが勇三の声色は明るくなかった。

 

「その若者の中にアイザック・ウェストコットがいてもか?」

 

『!・・・そういえば本名である学校に通い始めたと言ってたな。』

 

「まだ10代なのにまさに魔王と言える風格の男だった。そんな彼が一人でPO8人と殺し屋から紗耶香を逃がしてくれた。」

 

POというのは略語だ。

業界ごとに色々あるだろうが彼らの中でPOは一つしかない。

 

『CIAのパラミリか!?確証はあるのか?』

 

「いや、物的証拠はない。けど殺し屋は紅雪だったらしい。」

 

『パラミリと紅雪か。一人でよく生き残れたもんだ。いや助けたことじたいに驚くべきか?それでウェストコットから見返りの要求は?』

 

「今度の護衛という名の監視を含めたくだらない遊びはやめましょう・・・だとさ。」

 

電話をしながら建物の外に出ると部活に励む生徒がたくさん見えた。

年相応の生徒、こんな学校に魔王が溶け込んでいて娘の近くにいると思うと勇三はゾッとする。

 

『下手なちょっかいを出すなということか。よかったじゃないか。操り人形にされるよりかは遥かに。もう傀儡はいるという解釈もできるが。』

 

「その通りだ。俺の所属、経歴をこと細かに暗唱されたよ。それに『Need not to know、もしかしたら白い兎が教えてくれたのかも』と言っていた。」

 

電話越しに日野木がピクリと反応したのがわかった。

彼らは仕事柄、そういうのに敏感でなければならない。

 

「Need not to know、上層部が関わっているという警察隠語だったな。」

 

「そして白兎は因幡の素兎の話から”嘘つき”、”裏切り者”を指す内情の隠語だ。つまり・・・」

 

「『内情の、それも()()()()D()E()M()()()()()がいる』」

 

二人は息ぴったりで結論をいった。

あまりにトンだ話に日野木は怒りや焦り、不安を通り越して笑いしかでない。

 

『ははは、こりゃデウス教の噂も本当かもな。もちろんフェイクという可能性もあるがな。まぁ、お前達の後ろには総理という一国の王様がいるからじっくり裏切り者を炙り出してから仕返しするしかあるまい。』

 

「いや、総理の方には手土産が行ってるそうだ。今の内閣が陰でなんて言われてるか知ってるだろう?」

 

『たく、手土産つまりは別の総理本人のネタで脅されてるのか。腰沼の腰抜け内閣の意味まんまだな。そんでいつも皺寄せは俺達だ。』

 

言ってしまえば愚痴だが勇三も同じ意見だった。

 

「本当にひどい話だよ。それで俺の本題だが日野木にお願いがある。」

 

『なるほど、内情が動けない代わりに俺達が動いてくれということか。』

 

「察しが早くて助かる。別に逮捕も護衛もしなくていい。動向だけでも把握して欲しいんだ。」

 

日野木は少し間をあけた。

友人といえど簡単に了承していいような組織、役職ではないならだ。

 

『・・・出来るか分からんがやっておこう。場所は王都だけか?』

 

「いや、悪都にも出向くらしい。だから気をつけてくれよ。」

 

『ほう、タイ王国唯一にして東南アジア同盟最大の汚点『ロアナプラ』ときたか。』

 

日野木は少し愉快そうな声を上げた。

 

「お前の方が詳しいだろう?」

 

『タイ王国ではなく新ソ連、大亜連合、イタリア、コロンビアのマフィア達が取り仕切る港湾都市だ。タイ王国が掃討しようにも新ソ連などの諸外国からの圧力がかかって何も出来ずスパイの隠れ蓑にもなっている。だからありとあらゆる国の情報が集まるカオス地帯。俺の組織もたまに使うよ。けどあそこはアイザック・ウェストコットを死ぬほど憎む女がいたよな。元シリウスがついていても護衛なしじゃ危ないだろう?』

 

「だからこそ護衛という名目だった。増長されても困るが死なれるのも困る。」

 

『恨まれていることも襲撃される可能性も彼は分かっているんだろうな。それでも断るなんて何を考えてるか分からない奴だな。』

 

確かに話だけ聞けば何も分からない。

だが誰もが先ほどのアイクを見れば分かるだろう。

 

「マキャヴェリストだよ。少し疑問もあったが直で見て確信した。」

 

『マキャヴェリズムを思想とした人間のことか?確か、目的のためには手段を行うための熟練した腕が必要という考えだったな。』

 

マキャヴェリストというのは日本が作った造語で英語ではそう言わない。

さらにその日本でもすでに死語となっているため知るものは少ない。

 

「優等生だな。しかしそれはマキャヴェリの本来の思想だ。この場合は君主論の言葉を()()した人間のことだ。」

 

『どういうことだ?』

 

「今では誤解する人は殆どいないがひと昔前は『目的のためなら手段を選ばない』と誤解されていて批判されていた。彼はまさしくその誤解の思想を究極の形で体現させた人間だ。」

 

『ほう、まだ何かある言い方だな。』

 

勇三が誰かを饒舌に評価することは日野木の経験上ない。

少しずつだったが日野木は彼に興味が湧いていた。

 

「『目的のためなら手段を選ばない』それは当たり前としてだ。究極の形というのはな『どちらかを選ぶなら愛されるよりも恐れられよ』このマキャヴェリの言葉を恐ろしいことに彼は()()()()()()()()()()ことだ。」

 

「・・・確かにな。『畏怖』と『愛、欲』、この”矛盾”する二つの目で彼は見られている。世界中の国が喉から手が出るほど彼を欲しがっている分、同じくらい彼を恐れているの現実だ。かく言うお前も警戒しながらも彼の力を欲しているしな。」

 

「あぁ、否定はしないよ。とにかく、そんな人間が世界相手に武器を売るんだ。なにか大それたことをしようとしてるんじゃないか。私はそう思ってならない。日野木、巻き込まれるなよ。お前達のルートだっていずれ彼らと・・」

 

そんなこと日野木には分かっていた。

”武器がもたらす力”については彼自身、()()()()()()しているからだ

 

『分かってるよ。気をつけるさ。もしもの時はお前や風間、最悪の場合には佐伯少将に泣きつくさ。』

 

「日野木・・まさかお前の所も・・」

 

『悪いが時間だ。また電話してこい。じゃあな』

 

ピッ!プープー

 

返事する前に一方的に電話を切られた。

怒ったわけではなく、盗聴を危惧したのだろう。

いささか隠し事をしているように感じたが

でも盗聴されてもおかしくないくらい話しすぎた。

勇三自身も饒舌だったことに驚いている。

気付くともう外に停めた車に着いていた。

勇三はドアノブに手をかけ止まる。

 

「まさかウェストコットは戦争による世界の破滅・・・なんて子供みたいなことは考えてないよな」

 

上司や同僚に言えばバカにされるのがオチ。

しかし、自分自身はその仮説を否定できなかった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2095年 5月1日 第一高校 部活棟 屋上

 

ブランシュを中心に国防軍情報部、警視庁公安部、十師族、CIAと様々な組織が絡んだ今回の事件。

しかし、今挙げた組織の中に勝者は誰一人もいない。

そもそもどこの組織が勝者なのか、影すらも掴めていないのが本当の現状だった。

 

「ゲヘャへへひひひ・・・いひひひ、アヘハァハハハ!」

 

その勝者、つまりは達也達を妨害し、司一を国外に逃がした男『()()()』は一人屋上で狂っていた。

笑ってはいるが口元は細い三日月のように両端があり得ないぐらい吊りあがり、目は絶頂を迎えたかのように快楽に溺れている。

それは笑顔とは言えない、だから狂っているのだ。

 

「どうだ冬華?軍も政府も大亜連合もUSNAも十師族すらも出し抜いてやったよ。つまり世界が邪魔しようと俺を止めることは不可能!だから・・・もう少し、もう少しだけ待ってくれ・・・お兄ちゃんがお前の無念を」

 

笑ったり、涙を流したりと狂いは止まらない。

そして泣き止んだかと思えば再び笑い出しした。

誰もいない屋上で男は誰かと話しているかのように語りだす。

 

「そうそう、司一から情報を引き出した結果、標的も絞り込めたんだ。なんでも顧傑という奴が糞親父と遺跡、武器関連で繋がっていたとか。その男はかなりの歳らしいから違うけどその関係者を探れば見つかると思う。軍人探しと並行で探させてる。本当にあと少しなんだ。」

 

繰り返しだが屋上には彼を除いて誰一人いない。

だが彼には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が見えていた。

彼の目が次第に虚ろになっていく。

 

 

 

 

 

D&%bo○!s □x  M&c%ina System セーフモードで起動

 

 

現状確認

現在の戦闘力、魔法力を計測開始・・・完了

2090年 8月11日時点で予測されていた限界を179%上回る。

先々月より0.24%上昇。

過去最低の成長率を確認

 

 

成長率低下の原因の分析開始・・・error

低下の原因は認められない。

 

 

以上のことから

自己強kyokykykyk#'%#!$|kdmsgi狂化プログラムに基づき

さらなる進化を促し、原因の解明にあたる

 

 

 

 

 

「その後、司一はどうしたって?あぁ、あれなら虐めた後、ブランシュ本部にスパイとして送り返したよ。ははは、大丈夫。電気命令で裏切ろうとしたら心臓が止まるようにしたから。実際、一度逃げ出そうとして心臓が一回止まっちゃたし。きっと死に物狂いで情報を集めてくれるよ。裏切らなくても使えなくなったら殺して全ての臓器を恵まれない病気持ちの子供に提供するけどね。素敵だろう?」

 

うん、素敵!ゴミも再利用って言うもんね。この調子で殺そう。私を殺した男も善人を蝕むゴミも全て!

 

「冬華は嬉しい?」

 

うん!恨みも晴らしてくれるし、お兄ちゃんのかっこいい姿が見れて冬華とっても嬉しい!でもねでもね。謀殺、圧殺、刺殺、銃殺、絞殺、撲殺、焼殺、毒殺、なにで殺してもお兄ちゃんはかっこいいよ。だから強くなって!もっともっと!色んな殺し方を覚えるの!

 

「もっと・・・もっと」

 

冬華ね、()()寿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()お兄ちゃんには強くなって欲しい。そして、もしその力で復讐してくれたなら()()()()()()・・・

 

 

 

「清夜君みーっけ!」

 

 

error!error!error!

システムに異常!

異常原因のkkjgia@gjib;wbnb$5#%&%&|"!%$G・・・

 

プツン!!

 

 

「!!」

 

不意に後ろから声をかけられ彼は目を覚した。

 

「エリカ・・・か」

 

「なーにしてるの?いつの間にかいなくなるからびっくりしたよ。」

 

「ごめん、なんとなく風に吹かれたくなってね。」

 

エリカは手すりに手をかけた。

風は気持ちいいくらいに吹いていた。

 

「うーんっ!いい風ねー。でも清夜君が風に吹かれるのはちょっと似合わないかも。」

 

「ひどいな、これでも吹かれたい年頃なんだよ。でどうしたの?連れ戻しに来ただけじゃなさそうだけど。」

 

「うん。清夜君に聞きたいことがあってさ。」

 

「またかい?何度も言うけど君とは・・・」

 

「ううん、そういうのじゃないの・・・」

 

急に神妙な顔つきになるエリカ。

心臓を鷲掴みにされてるような感覚が清夜を襲った。

 

「清夜君って()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「え、あっ・・・そ、そんなことは・・・」

 

笑顔が出来ない。

普段の清夜なら武器商人の笑顔で軽く流して終わりなのに。

舌も思うように回らなかった。

 

「でも図書館でのアレ、逃げ回ったって言ってたわりには清夜君疲弊してなかったし、むしろ窓から逃げてった敵のほうが疲弊していた。本当は抵抗出来てたんじゃない?あんなのに攻撃出来るなんてすごいことだよ。どうしてそういうのを隠したがるの?」

 

たいした観察力だった。

達也でも見抜けなかった部分を見抜くのは並大抵ではない。

彼女が武の道に生きるものだからなのか、それとも別の要因があるのか。

現段階では分からないし、清夜もそこまでの思考をする余裕がなかった。

 

「ち、違うんだ!俺は・・・」

 

「あっ!責めてるわけじゃないの!図書館に廃工場と2度も命を助けてもらったんだもん。その前にも森崎の件で助けてもらったし私としては入学してから一連のことは全て感謝しかないから。ただ何でかな?って程度なんだ。」

 

エリカは本当に責めてるわけじゃなかった。

清夜もそのことに気づいてる。

けど苦しくて、喋れない。

 

「ご、ごめん・・・でも俺は出来損ないの化・・で・・・そういうのじゃ・・・」

 

「だから誤魔化さなくても謝らなくてもいいんだって。けど・・・いつか本気の清夜君を見せてね。あたしも清夜君が頼るくらいに強くなるからさ。な、なんてね。あは、あはは・・・」

 

話を聞いてるくせに話を聞こうとしないエリカ。

そして清夜の中で今のエリカと2年前のエリカの姿が重なった。

忘れもしない、彼女の拒絶姿。

ありもしない幻聴が彼女の声となって聞こえる。

 

ほ、ほら!(い、いや!)早く戻ろう清夜君!(寄らないで化け物!)

 

「ぁ・・・ぅあ・・あ・・・ぉ、俺・・・は」

 

清夜・・・君?どうしたの?(なん・・・で?生きてるの?)

 

ここでやっと清夜の異変に気付いたエリカ。

近づいて手を取ろうとするが彼女が近づくほど清夜の中で2年前のエリカが鮮明に思い浮かぶ。

 

「ち、ちが・・・ちが・・・ぁ・・あ・・」

 

顔がすごく真っ青だよ!?(何が違うっていうのよ!?)清夜君!?清夜君!?(貴方は!!化け物!!)

 

「ぃ・・・きぃ・・・てぇ・・て」

 

本当にどうしたの清夜君!?(貴方がいるから苦しむの!!)とりあえず保健室にいこう!(貴方のせいで私が傷つくの!)ほら、肩貸して!(死ね、早く死ね!)

 

「・・・ごめ・・・ん・・・」

 

バタッ

 

清夜の意識はここで途切れた。

 

 

復讐心は自身の生を望み

良心は自身の死を望む。

 

 

良心がなくなれば復讐心からくる進化に体が追いつけなくなり身を滅ぼす。

復讐心がなくなれば良心に従い自ら身を滅ぼす。

 

 

良心があるからこそ、追いつけない進化に歯止めをかけ

復讐心があるからこそ自殺に歯止めをかけている。

 

 

生かさず殺さず。

 

 

相反する、”矛盾”する心が彼に

際限無い進化を与え

際限無く苦しめる。

 

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2095年 5月1日 石川 第三高校 シャワー室

 

シャー

 

「・・・♪」

 

石川県金沢市の外れにある第三高校。

この学校は尚武の校風を掲げていて戦闘系の魔法実技、つまりは実戦を重視している。

そのためか生徒は血の気がある者ばかりで放課後も魔法戦闘の訓練にあてるものも多い。

このシャワーを浴びている生徒もその一人。

訓練のペイントで汚れたその姿と赤髪はまさしく彼の通り名を表していた。

そこに一人の小柄な生徒が制服姿で現れた。

 

「ねぇ、将輝。このニュースは見た?」

 

手にはタブレット型のデバイス。

その画面に写るのはブランシュ事件のニュースだった。

 

「ジョージか。ほぉ、第一高校にテロリストが侵入か。」

 

「事件自体はもう解決したみたいだけどね。」

 

「負傷者もいるようだが?」

 

「あれ?ライバルの心配?」

 

シャワーを終えた生徒は目立つ赤髪をタオルで拭いて出てきた。

その足でそのまま更衣室に向かい着替え始めた。

 

「いや、負傷したのはむしろテロリストの方だろう。十師族の血を引くのが二人。他にも実力ある生徒が多いからな。過剰防衛で九校戦に出れなくなったらつまらないだろう?」

 

「ははっ、将輝らしいね。でもどんなに彼らが強くても将輝に、”クリムゾン・プリンス”に敵はいないよ。」

 

「ああ、そうだな。」

 

否定しないのは裏付けされた強さがあるのか、はたまた自信過剰の間抜けか。

それは九校戦で明らかになる。

 

「あ、そうだ将輝。会長が探してたよ?」

 

「会長って佐伯基香先輩?」

 

ガラッ

 

そう言って更衣室のドアを開けると女子生徒が一人。

人懐こそうな、けど同時に異様な色気が漂う女性。

案の定、会長だった。

 

「やっぱりここにいた。一条君!演習室は使ったら掃除って散々教えたよね?」

 

「あ〜いえ、その洗い終わったらやるつもりで・・・」

 

「掃除が先よ。」

 

「まぁまぁ先輩。後で僕も掃除しますから。そういえば明日でしたよね国内留学?学校はどこですか?」

 

ジョージと呼ばれる生徒が話題をそらしてフォローした。

こういう時は本当助かると将輝は思っていた

 

「西東京総合学園よ。でも留学じゃなくて少しの間、あっちの生徒として通って校風、制度を学んでくるだけ。文化交流みたいなものかな。」

 

「九校戦には間に合いますよね?」

 

「ええ、今年で最後だから優勝のためにも一色さん達を含め君たちには期待しているわ。それじゃあね。学校の方もよろしく」

 

「「お疲れ様でした。」」

 

二人はお辞儀して彼女を見送った。

 

「ジョージ、少し赤くないか?」

 

「き、気のせいだよ。にしても本当に先輩は血の気の多い三校の会長とは思えないよね。」

 

彼女が去る最中もたくさんの生徒に話しかけられている。

その姿はまるで普通科の高校に通う普通の女子高生。

しかし、前述の通りここは尚武の校風を掲げている学校だ。

そこに武闘派ではない生徒がいるのは違和感でしかなかった。

 

「だがあれが三高の2、3年で唯一、一高の三巨頭に匹敵する魔法師だ。」

 

「模擬戦も一色さんを倒しちゃうし、技術だけなら将輝をも上回る。それでいて”数字付き”じゃないんだから不思議だよね。」

 

「ああ、不思議な人だ。」

 

そんな視線は気にもせず彼女は校舎に向かう。

 

ヴヴヴ・・・ピッ

 

「もしもし、あ、()()()()()体は大丈夫なの!?うん・・・うん・・・分かってる()()()()()()()()()、うん!()()()()()()()()()()。それじゃ無理しないでね」

 

これもこの学校には不釣り合いな、ごくごく普通な日常の風景・・・

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2095年 5月1日 ????

 

ある少女は制服を見ながら浮かれていた。

 

「兄様、兄様!とうとう私達のラブコメスクールライフが始まりますよ!」

 

「見て見て、トランプタワ〜」

 

「いやいや!?当然のようにスルーしないでくださいよ!」

 

「はぁ、そもそも俺とお前は兄妹だ。そんな展開ありません。」

 

対して兄様と呼ばれる少年は冷静にツッコミをいれた。

少年の隣には届けられた制服が置かれているが開封すらされてない。

 

「む〜!愛に兄妹もクソもヘッタクレもありません!兄様はもう少し妹を大事にしたほうがいいと思います!零りますよ?」

 

風船のように頬を膨らませる少女。

この光景も少年にとっては見慣れたものだ。

 

「こらこら、女の子がクソとか言わない。」

 

言うと風船はさらに膨らんだ。

少年はその姿にクスリと笑い、彼女の肩を抱いて甘い声で囁いた。

 

「それにな、俺はちゃんと妹を大事にしてるだろう?」

 

「!!、ふ、ふにゃ〜・・・こ、これはこのままベッドにダイブでアンアンいって結婚ルート・・・」

 

彼女はのとろけた表情で妄想の世界へダイブした。

冗談のつもりだったが、このまま放置すれば三時間は帰ってこない。

 

「いや、それはない」

 

そうはさせまいと少年は真顔で少女にデコピン。

 

ビシッ!

 

「はぅあっ!?兄様〜なんですか?」

 

「呑気に学生ライフを妄想するの結構だが現実になるか分かんないぞ。これ見ろ」

 

少年にデバイスを手渡され、画面を見る。

内容は第三高校の彼らが見ていたのと同じだった。

 

「えーとなになに・・・第一高校にテロリスト侵入ですか!?物騒ですね。」

 

「お前が思ってるより危険な学校ということだ。ましてや俺達「()」が入れば俺達を狙ってもっと危険になるかもしれない。」

 

「・・・分かりました。でもでも兄様ならどんな輩が来てもぶっ倒せますよ!私も兄様を支えますから!」

 

彼女の笑顔に少年も笑顔で返す。

 

「本当にありがとな。俺、()()()()()()()()()()()()最低な兄なのに・・・」

 

しかし、それは罪悪感に満ちたものだった。

そう、この少年は妹に関することを殆ど覚えてない。

もっと言うと一年以上前の記憶はなかった。

 

「構いません。兄様が兄様であることに変わりはありませんから。それにですねこれまでのことを覚えてないなら、これから思い出を作ればいいんです。だから任務の片手間でもいいの一緒に楽しみましょう兄様。」

 

少女は優しく兄の手を握った。

記憶はほとんどないのにその手は母のように暖かくて、とても心安らぐものだった。

少年も優しく握り返した。

 

「ああ、そうだな。それじゃあ始めようか、まやか。俺達の0から始める学校生活を」

 

「はい、0で始めて0で終わらせましょう(れい)兄様!」

 

兄妹は手を繋ぎ直す。

これから作る思い出に、出会う仲間に胸をときめかせながら。

 

生きた妹に縛られる兄、死んだ妹に縛られる兄、そしてこれから妹におこる悲劇を知らない兄。

同じ兄妹でも形は人様々。

しかし、その違いがそれぞれの兄妹の結末を大きく変えることになる。

 

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2095年 5月1日 ????

 

そこは昔から名家の人間が住むような屋敷だった。

しかし、ここにいた一族はすでに表社会から消されていた。

そんな屋敷の一室でとある少女は二つの遺影を前に語りかけた。

 

「パパ、ママ。とうとう私、一族の当主になるの。正式な襲名とか名字を戻したりするのはもう少し後になるけど。他の一族も表舞台に戻るらしいからそれに合わせる形でね。褒めてくれるかな?」

 

誰も答えない。

それでも彼女は話を続ける。

 

「たぶん零くんも表舞台に出てくると思う。といっても今の私を見たら嫌いになるだけかもしれないけど・・・。正直、零くんのことも零家の悲願も半分諦めてる。でもね!私は絶対に、絶対に二人の仇を取るからね!十師族を・・・そしてパパとママ、一族の皆を殺した実行犯を・・・」

 

彼女の目つきは今にも血涙が出てきそうに鋭く、憎悪に満ち溢れていた。

彼女は懐から写真取り出し見つめ、握り潰す。

 

「必ず殺してやる・・・()()()()()()()()()()()()()!」

 

このうら若き少女の心を占めるのは年相応の恋心でも友情でもない。

家族を殺された憎悪と怒り。

皮肉にも彼と同じだった。

 

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2095年 5月1日 ????

 

ある女性は清夜が待ち遠しくてたまらない。

それが例え、一触即発ですぐにも戦場になりそうなこの場所でも。

 

「フフーフ・・・おいで、清夜。君を理解してあげられるのはこの私だけだ。」

 

彼女は武器商人。

彼女は世界平和のために今日も武器を売る。

 

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2095年 5月1日 ????

 

とある村、いや施設の関係上表向きには存在しない村。

その、とある施設で黒いドレスの女性と赤いドレスの女性は患者の様子を見ていた。

 

「貢さん達の容体はどう?」

 

「全く駄目、魔法の内容としては夕歌さんの「マンドレイク」に近いけど、これはその100倍タチが悪い。どんどん衰弱していってるわ。同じ精神構造干渉魔法で治療するのが一番いいのだろうけど干渉力が強すぎる。昔ならともかく今の私にはどうにも。他の分家はどうだった?」

 

「こっちもあまりいいとは言えないわ。『すぐにもDEMに報復するべき』という声がほとんど。それにこの機に乗じて研究資料を持ち出して逃げる愚か者も出てきたわ。」

 

「不味いわね、こういう時に動くのが貢さん達のはずなのにこの容体じゃ・・」

 

「・・・()()()()()()()()()を呼びましょう。二人に治療と追跡をさせるわ。」

 

赤いドレスの女性は目を閉じてから決断した。

出来れば関わらせたくはなかった。

だが今は彼ら兄妹の力が必要だ。

 

「・・・そうね。全部を解決するにはそれが最善。私が連絡を入れるわ。」

 

黒いドレスの女性にとっても断腸の思いだった。

肉親なら尚更。

 

「ごめんなさい姉さん。」

 

「いいの、大事な妹のお願いだもの。それよりも彼の方はどうなの?」

 

赤いドレスの女性は首を横に振った。

 

「全然駄目・・・姉さん、やっぱり私にはそういう資格が・・・」

 

彼に対する罪悪感、そして”愛情”で涙が溢れそうになる。

黒いドレスの女性はその涙を拭い、妹の発言を止める。

 

「そこから先は言っては駄目。まだ諦めるにら早いわ。だから・・・ね?」

 

妹はコクリと頷いた。

 

罪悪感からくる『会ってはならない』という思い。

愛情からくる『会いたい』という思い。

ここにもまた”矛盾”が生まれた。




入学編はここまで!(パフパフ!)
酷い結末でしょう?たぶん他のssにはないスッキリしない結末だったと思います。申し訳ない。
でも代わりに伏線は大量に残しました。
あと壬生勇三さんとかどんだけ饒舌なんだよwって書いてて思いました。
あとあと40話で総合評価400は行きたかたっけど難しかったですね・・・

というわけで次章は九校戦編・・・ではありません!
九校戦編は二つの章をそれぞれ5話くらいやってからになります!
時期でいうと5月から7月くらいまでの話ですね。
次章はヨルムンガンドメインの+魔法科+オリジナルの『マジック&ガンメタル・キャリコロード』編
そのまた次はデストロ246メインの+魔法科+Lost Zeroの『四葉の魔薬<麻薬>』編を予定しています!

できれば俺へのメッセージでもいいんで総合通しての感想をいただけるとありがたいです。

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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マジック&ガンメタル・キャリコロード編
41話 悪都 


どうもakitoです。
アドバイスを受けまして書き直しました。
ただ、どうしても長くなってしまうので二話構成にしました。

前回までのあらすじ
ブランシュ日本支部が壊滅状態になった二日後、清夜は克人から司一亡命の報をショックを受けた・・・ように見えた。しかし、その亡命を手引きしたのは清夜自身だった。実は清夜は事件の裏で暗躍し一番の利益を得ていたのだった。そして、新たなToLaveるはもうすぐそこまで来ている・・・


2095年 5月3日 タイ ロアナプラ リップ・オフ教会

 

港湾都市 「ロアナプラ」

タイ東部にあるこの町は一見、美しい海が臨める綺麗な町。

しかし実際は武器や麻薬、それにともなう情報、金でまみれた見た目にも心にも汚い町だ。

殺し、窃盗は日常茶飯事。

警察も警察で賄賂、事件の揉み消しといった汚職にまみれていて、とても機能しているとは言い難い。

では町の統治、支配するのはどこか?

それは4つの海外マフィア。

 

 

新ソ連がバックのホテル・モスクワ。

大亜連合二大マフィアの一つ、三合会。

イタリア最悪の組織、コーサ・ノストラ

コロンビア古参のマニサレラ・カルテル

 

 

武器、麻薬の売買は全て彼らの管理、または監視下のもと行われていた。

もし彼らの許なしで勝手に武器商売を始めようものなら彼らに金玉をナッツのように潰されるのがオチだ。

そんな町でアイクは今日も復讐のために武器を売る。

 

「では商品の方は確かに納品したということでサインをお願いしますシスターヨランダ」

 

アイクとエレンがいるのはロアナプラに一つしかない教会。

祈りのためでも懺悔のためでもない。

神の類は冬華が喰われた時から信じるのを辞めている。

ここに来たのは武器取引のため。

実はこの教会は名ばかりで通称「暴力教会」と呼ばれる武器屋。

この教会はロアナプラで唯一、マフィアの管理、監視下から外れた武器商売を認められている店だった。

そしてアイクの目の前でサインを書くのはヨランダと呼ばれる老婆のシスターだ。

 

「はいはい、これだね・・・はいよミスター。いい商売だったよ。これからはキャスパーみたいはクソジャリじゃなくてミスターのような紅茶が分かる人間に来て欲しいもんだね。」

 

「気品がない部下で申し訳ない。あれでも武器商売に関しては優秀なんですよ。」

 

そう、いつもならアジア方面担当のキャスパーが商談をしている

だが彼は荷物が奪われたことがエレンにバレて、シンガポールのホテルで謹慎をくらっていた。

普通なら休めるから喜ぶ者もいるだろうが武器売りながら旅をするのが好きなキャスパーにとっては充分に厳しい処罰だった。

 

「まっ、それに関しちゃ認めているけどね。」

 

アイクは荷物をまとめて立ち上がった。

部下のエレンに持たせないのは護衛の関係で習慣になっているからだ。

ヨランダも見送るために立ち上がる。

 

「今度、彼に『べにふうき』という日本の茶葉を手土産に持たせましょう。優しい香りの茶葉でイギリスの品評会で最優秀賞をとったこともある名品ですよ。」

 

「ほう、それは聞いたことないね。楽しみにしてるよ。」

 

そんな紅茶話をしながら応接室、廊下を出ると礼拝堂に行き着いた。

 

「あれ?シスタ〜、何かあったんですか?」

 

見るとベンチに金髪のシスターが一人、おっさん座りしていた。

フォックススタイルのサングラスをかけ、シスターとは思えないガラの悪そうな女だ。

 

「納品だよ馬鹿。後で整理して仕舞うからお前も手伝いな。」

 

「分かりました。てかさてかさ、何だよ後ろの兄ちゃん。いい顔してるね〜、ほぉ〜体つきも大したもんだ。」

 

サワサワ

 

金髪の女はアイクをいやらしく舐め回すように見ると、これまたいやらしく体を撫で触った。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「あ、アイクに気安く触らないでください!」

 

苦笑いで何も抵抗しないアイク。

代わりにエレンが顔を赤くしながら金髪の女からアイクを引き離した。

 

「おいおい、なんだよ姉ちゃん。女の嫉妬は醜いぜ〜。で、どうだい兄ちゃん?今晩あたしと一杯飲まないかい?」

 

 

 

 

「いやーそれは勘弁していただきたい。ラングレー(CIA)の女性と飲んで日本政府に裏切りと誤解されるのは困りますから。」

 

 

 

 

アイクは笑顔で今さっきつけられた極小の盗聴器をバッキリと砕いた。

二人のシスターはピタリと止まった。

 

「・・・さて、何のことを言っているのか私にはさっぱり分からないね。」

 

「こんなものまで付けといて何をしらばっくれるのか・・・ふむ、まぁいいでしょう。ではここからは独り言ということにしときましょう。」

 

アイクはさほど気にもせず本題に入った。

 

「3年ほど前から私の身柄、命をつけ狙う輩がいたり、ここ最近、日本でテロリスト使った工作してるようだけど・・・」

 

 

 

私の邪魔するなら潰すよ?

 

 

 

最後の言葉は脳だけでなく全細胞が理解した。

もちろんこんなものでビビる二人ではないが普通じゃないプレッシャーは感じ取れていた。

 

(工作活動はともかくアイザック・ウェストコットの命をCIAが付け狙う?DEMといえば欧州課長の案件だけど・・・いやもしかして)

 

金髪のシスターの中で一人容疑者が浮かび上がったがあえて何も語らなかった。

アイクは警告が済むとドアを開け外に出る。

動かないシスターにエレンが改めて警告した。

 

「そういうことですので当事者の方に伝えておいてください。ヤンキー」

 

自身もアメリカ人だったのにも関わらず蔑称で呼んだエレン。

金髪のシスターは静かに睨んだ。

 

「調子に乗るなよ売女。13使徒、シリウスの称号まで与えられといて裏切った大馬鹿とその会社なんてすぐに潰せるんだぞ。」

 

「はっ、先に裏切ったのはそっちでしょう?それと貴方達は喰われても新しい頭が生え変わる巨大なヒュドラと謳い無敵や最強を気取っているようですがそれは勘違いです。」

 

エレンは怯みもせず鼻で笑った。

 

「アイクにかかれば貴方達なんて()()()()()()()()()()です。全部喰われたら生え変わるもなにもないでしょう?」

 

それは組織や個人に対する挑発ではない。

国に対する挑発だった。

 

「いいだろう。伝えておいてやるよ。」

 

「えぇ、お願いします。それでは失礼します」

 

教会を出るエレン。

金髪のシスターは静かに呟いた。

 

「まっ、まずはバラライカ相手に生きていられてからの話だけどな〜」

 

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2095年 5月3日 タイ ロアナプラ 市内

 

アイクとエレンは教会を後にすると街中に入っていった。

街は意外にも整備されており大通りに出ればどこぞのファッションブランドの店舗もある。

住宅地もスラムのようなゴミで汚いということはない。

それでも汚い印象を受けるのは恐らく人のせいだろう

道々にいる人間は悪都の名にふさわしくマフィアをはじめとしたアウトローの連中がずらずらと見える。

そのせいか、綺麗な服を着ている二人は街で浮いていた。

終いには娼婦の類だろうか素っ裸の女性がアイクを手招きしている。

だが二人はそんな連中よりも気になる存在がいた。

 

「アイク、建物から覗いてくるロシア人・・」

 

「あぁ、興味本位の視線じゃないね。今、磁力探知したけど拳銃よりも重装備の人間が徐々にここを包囲しつつある。恐らくホテル・モスクワだ。」

 

「強行突破で?」

 

「いや、私に考えがある。」

 

そういってアイクが指差したのは『イエローフラッグ』というバーだった。

 

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2095年 5月3日 タイ ロアナプラ イエローフラッグ

 

バーに入るとアイクは早速マスターに尋ねた。

 

「マスター、トイレを貸してくれないかな?連れが腹を痛めてしまってね。」

 

「あぁん?見かけない顔だな。分からねーようだがここはバーだぞ兄ちゃん。頼むならまず酒を頼みな。」

 

マスターだけでない、この場にいるアウトローな連中全員が視線を二人に送っていた。

無理もない、日本ならともかく、この街の常識でなくても通らない道理だろう。

だからアイクは鞄の中から5千ドルをポンと出した。

 

「じゃあ、これで丸々一本買える酒を貰おうか。」

 

「へっ、なんだ分かってんじゃねぇか。あいよ。トイレは奥入って左だ。男女別れてねぇからレ◯プされても知らねーぞ。」

 

「・・・ありがとうございます。」

 

「ああ、それと電話を貸してほしい。()()()()()()()()()()。」

 

一方、店の外では男が四人ほど店を監視していた。

男達は近場の物陰に隠れると襟を持ち上げて呟く。

 

「敵1、敵2は店に入りました。これ以上の接近は気付かれるのでここで待機します。」

 

男達は狩人の目をしていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2095年 5月3日 タイ ロアナプラ 『ホテル・モスクワ』ロアナプラ支部

 

男達の通信相手は机の上に地図を広げ座っていた。

その人物は意外にも女性。

綺麗な顔立ちをしているが火傷の跡と鋭い目付きがこの町に相応しい雰囲気を醸し出している。

 

「ご苦労、第1、第2分隊は正面、第4、第5分隊は裏口に回れ。残りは所定の位置で待機せよ。」

 

『『『了解』』』

 

「フゥ〜・・・どう思う同志ボリス軍曹?」

 

女性は葉巻で一服すると傍にいる軍曹と呼ばれる男に問うた。

 

「敵は尾行に気づき裏口から逃走を図っている。大尉の予測は適確であり判断もセオリー通りだと思いますが・・・しかし、数多の戦場を渡り歩いた男にしては裏口からの逃走というのは普通すぎる策かと。」

 

「私もそう思う。増援を呼ぼうとしているのか・・・よし、軍曹。各分隊に通達。窓や通気口といったあらゆる出入り口を固めろ。その後、すぐに正面と裏口にいる部隊で突入だ。深追いはするな。あくまでも誘導が目的だ。弾が当たればラッキーだと思え。」

 

「了解しました。」

 

3分後、ホテル・モスクワは封鎖を完了し店内に突入した。

もちろん店主の断りなしに。

 

『ちょちょちょっ!?ここでドンパチはよしてくれよ!』

 

通信機越しに店主のお願いが聞こえたものの止めるつもりはない。

部下のロシア人達は店のあちらこちらに発砲しクリアリングを始めた。

 

『こちら第1分隊!敵の姿が確認できません!』

 

『第4分隊!同じく確認できません!』

 

だが店内にアイク達の姿はなかった。

入り口や裏口、窓からの脱出も確認されていない。

 

「大丈夫だ、出てきてないのは確認されている。だから・・・」

 

『大尉!こちら第5分隊!ト、トイレの壁が綺麗に切り抜かれています!恐らく魔法によるものかと!』

 

壁を爆破して道を開くことがあるが魔法で、それも短時間で音すら立てずに開けるのは難しい。

それゆえに思わずボリスは通信でボヤいてしまう。

 

「なんて奴らだ・・・」

 

『こちらヴァレリー。300m先敵1、敵2発見!東交差点に向かっています!』

 

「よくやった。第3、6、7分隊はすぐに追跡し、隊を展開。まだ包囲出来るはずだ。残りもすぐに出て・・・」

 

『ドガッシャッーーン!』

 

「つぅっ!?」

 

突如、大きな音が響き通信が途絶えた。

爆発音ではない。

木材が割れる音、ガラスの割れる音、物が壊れる音・・・

そんな音が混ざったような音だ。

 

『こちらバラライカ!各分隊状況報告!何があった!?』

 

『・・・ぅ・・・・・ぁ・・』

 

バラライカと名乗った女性の声も虚しく誰も応答しない。

代わりに聞こえるのは誰かの呻き声。

 

「応答しろ!ラボチェク!ロボロブスキ!バローニン!ホドロフスキ!」

 

それでも誰も応答しない。

代わりに外にいる分隊から連絡が入った。

 

『こちら第6分隊!店が倒壊!爆薬によるものではありません!』

 

「『破城槌』・・・建物の上から圧力を掛けて倒壊させる加重系魔法か。とりあえず第7分隊は救助に」

 

「・・・いや各分隊は作戦を続けろ。彼らの救助には予備人員を向かわせる。軍曹、車を出してくれ。予定を繰り上げて我々も行くぞ。」

 

ボリスの言葉に割り込んだのはバラライカだった。

さきほどの通信とはうって変わって冷静でかつ殺気立っている。

「嘆くのは後」ということだろう。

 

「すぐに出せます。」

 

『了解!』

 

気持ちは彼らも同じだった。

だからこそ今は目の前の敵を仕留める。

 

「同志を傷つけたツケは小僧と小娘の命で支払ってもらう。奴らのケツ穴にありったけの悪意を込めて鉛玉をぶち込んでやる。」

 

ただ、それだけだ。

 

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2095年 5月3日 タイ ロアナプラ 市内

 

一方その頃、アイクとエレンは街を走っていた。

 

「おぉ〜崩れたよ。こわいねぇ〜本当、物騒な街だ。くわばらくわばら」

 

「今のアイクがそれを言うとシャレにしか聞こえません。それでCIAの考えが図れましたか、?」

 

「ん〜アジア方面担当ってこともあってブランシュを支援していたのは間違いないだろうけど・・・hexとやらとは関係ないんじゃないかな。」

 

「やはり考えすぎだったのk・・・アイク!」

 

「!!」

 

エレンの掛け声で方向転換し二人は路地裏に飛び込んだ。

すると次の瞬間・・・

 

バスッ!バスッ!

 

サイレンサーを通した銃声。

すぐ隣にあった家の壁に風穴が二つ開いた。

エレンはすぐに思考通信に切り替えた。

 

『追いつかれた!?展開が早すぎる!』

 

『いや、それはありえない。それにロシア人じゃないね。別組織?ホテル・モスクワを意識しすぎて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

建物の屋上にスナイパーと観測手が一人ずつ、他ライトマシンガンやアサルトライフルで武装した人間が3人ほど。

服装こそ似ているものの装備がホテル・モスクワのそれとは違う。

 

『アイク、とりあえず奥へ・・・っ!!、まさか!?』

 

そう言って奥に進もうとすると今度は黒コートの男女が目に入った。

こんな状況で季節外れの服を着てれば否応でも敵だと分かる。

 

シュッ!!

 

そして予想通り黒コートの男女はナイフを二本投げつけて攻撃してきた。

 

「くっ!」

 

アイクは腕輪型のCADに手を伸ばしながらも紙一重で避ける。

ただの投げナイフでならこれで終わり。

しかし

 

「まだ攻撃は終わっていません!後ろからまた来ます!」

 

エレンが叫んだのと同時、敵も声を発した。

 

「アクティベイト、『ダンシング・ブレイズ』!」

 

すると飛んでいたナイフがまるで生きているかのように方向転換

そのままアイクの背中に向かって突き刺さった。

 

バキンッ!バキンッ!

 

「ナイフが!?」

 

だがナイフはアイクの体を傷つけることなく砕けた。

敵は思わず、驚愕の声を上げてしまった。

見ると銀のナイフが茶色く染まっていた。

考えるまでもない、錆びているのだ。

 

『ラストメーカー』

吸収系の単一魔法。

防錆処理に関わらず金属を錆びさせる魔法。

この力でナイフは簡単に砕けてしまうほど錆びついたのだ。

 

さらに驚くべきは対応の早さ。

発動速度が速い単一系魔法とはいえ、あの奇襲を受ければ大なり小なり驚き魔法の発動が間に合わなくなるはず。

経験か、勘か、どちらにせよ油断は絶対に出来ない。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2095年 5月3日 タイ ロアナプラ 市内 路地

 

アイクとエレンは敵が驚いているわずかな隙に奥へと逃げ込んだ。

まだお喋りするほどの油断は出来ないがアイクは敵の正体を確認しておく。

 

『エレン、今のは・・・』

 

『はい、あれは『ダンシング・ブレイズ』。それも()()()()()()()()()牽制と奇襲兼ねた戦術です。つまりあれは『スターズ』で間違いありません』

 

『USNA軍統合参謀本部直属の魔法師部隊か。てことは迷彩服の方はUSNA海兵隊?』

 

『それも米海兵隊特殊部隊『フォースリーコン』かと』

 

一瞬とはいえ、あまりの手際の早さにアイクは今日初めて焦りを感じた。

無論、表情にはでないが。

 

(手配したのは教会のシスターか?にしては早すぎる・・・いくらCIAといえど特殊部隊のスターズとフォースリーコンを動かすのには時間がかかるはずだ。かと言ってスターズ、海兵隊の上層部が勝手に動かしたとは思えない。誰かが前々から計画してスターズと海兵隊を動かした?一体誰が?)

 

考えるが検討がつかない。

職業柄、恨まれすぎてて。

 

 

「だが・・・都合がいい」

 

 

アイクの顔に不気味な笑みが浮かんだ。




今回はここまで!
前回の41話よりかなり不利な状況になっています。
この状況でどう潜り抜けるかお楽しみに!
イエローフラッグを壊す設定にしたのは様式美です。

次回予告!
二つの勢力は取り逃しながらも着実にアイクたちを追い詰める。
護衛も呼べない絶望的状況をアイクはどう乗り越える!?

次回もお楽しみに!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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42話 前門のスペツナズ 後門のスターズ

42話です!
皆さん最新刊の試し読みしましたか?
私も今日読んだのですが・・・
イギリスが消滅しているの!?と思いました。
次の話はもう出来ていたのに・・・
オリジナル要素でイギリス要素も入れたらこのザマです。
もしかしたら書き直しで次回遅れるかもしれません。

前回までのあらすじ!!
アイクとエレンは武器の納品のためにロアナプラに降り立つ。しかし武器取引後、ホテルモスクワに襲われることに。しかもUSNAのスターズとフォースリーコンにまで襲撃を受け、事態は一刻と危なくなっていた。


2095年 5月3日 タイ ロアナプラ 市内 路地

 

USNAの一団はアイク達に逃げられたもののまだ追撃出来る範囲内だった。

その中でもこのチームγは一番に標的と接触した。

 

『こちらチームマーキュリー!すまない、逃げられた。』

 

「大丈夫だブラザー。こちらで標的を発見した攻撃を開始する!海兵の意地を見せろよお前ら!」

 

「「「「Yes, Sir!」」」」

 

ググッ!バババババッ!

 

一人が加重系魔法で足止め、残りの4名は一斉射撃を仕掛けた。

この連携はよく見られるもので

加重系魔法で敵の足止め→移動系魔法で敵の盾を排除→残りの人間で集中射撃

というのが基本的な戦術だ。

今回、移動系魔法を使わないのはアイク達が盾を持っていないからだが

彼らは一つ勘違いをしていた。

それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

「おっと!」

 

すべての弾はその手前でその運動量を失い、その場で静止した。

これはお得意の『磁力返し』による磁力の盾であったが端から見れば別の魔法のように見える。

 

「障壁魔法かクソ!このタイミングで間に合わせやがった。」

 

「それに見ろよ。あいつら情報強化が強すぎて加重系がピクリとも効かねぇぜ」

 

キャーーーー!!

 

遅れて娼婦の悲鳴が一帯に響いた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「今度は弾を魔法で加速させて障壁を打ち破る!火力を極力一点集中!・・・」

 

撃ち方用意と言おうとした瞬間、仲間の一人が気づいた。

 

「隊長!5時の方向!所属不明の武装勢力!」

 

「なんだと!?」

 

振り向くと武装した男達がこちらに向かって走っている。

アイクもそれを確認すると大きな声で呼んだ。

 

「ここは任せる!皆殺しにしろ!」

 

「ちぃっ!!DEMの増援かよ!!」

 

予想外の展開に彼らの中で自然と焦りが高まる。

だがそこは百戦錬磨の特殊部隊員。

数多の死地を経験した彼らはもたつくこともなく銃口を増援に向けた。

 

「迎撃しろ!」

 

バババッ!ババババババッ!!

 

隊長の掛け声と同時に撃ち合いが始まった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2095年 5月3日 タイ ロアナプラ 

 

チームγがアイクを見つける少し前のこと。

ホテルの一室に仮設司令室をおいたUSNA指揮官達は地図を広げ戦況を確認していた。

部屋にはフォースリーコンの指揮官と副官、それとスターズの『一等星級』と呼ばれる最上位魔法師が三人。

 

「さすが『全員がライフルマン』と言われる海兵隊。皆、見事に鍛え上げられてますねマークス中佐」

 

その中でも一際目立つのはスターズの仮面をつけた赤髪の女性だ。

赤髪と言ってもエリカのようなオレンジに近い赤髪ではなく、どちらかというとルージュに近い赤髪だった。

ハートマン軍曹ばりに強面のマークス中佐は年下であるはずの彼女に敬礼する。

 

「ハッ!USNAの最強である貴方に言われるとは光栄でありますシリウス少佐!」

 

「所属は違えど階級は貴方が上ですよ。そこまで謙らなくても」

 

「いえ!今回の海兵隊、スターズの共同作戦においてはシリウス少佐が指揮官でありますがゆえ、態度を変えることは出来ません!」

 

海兵隊で鍛え上げられた人間として規律は絶対に守らなければならないのだろう。

それに彼自身、彼女に謙ること自体に不満はない。

だからこそ頑なに態度を変えないのだ。

 

「そうですか・・・では作戦が2ndフェイズに入ってからの対象の動向を教えてください。」

 

「報告によりますとポイントL14にて交戦。路地の奥に入っていたとのことです。そこから先は確認されていません。あと私からも報告なのですが辺り一帯に薄く広範囲にジャミングがかかっています。通信は大丈夫なのですが監視衛星や仕掛けたカメラからの映像が受信できなくなっています。」

 

「敵も考えてはいますね。ですが仕掛けたカメラはともかく監視衛星は今作戦においては気にせずともよいでしょう。」

 

シリウスは叱ることはしなかった。

そもそも作戦行動中に叱るというのは時間の無駄にすぎない。

叱る暇があるならば指示を出すなり、次の一手を考える方がよっぽど有益だ。

それに現地の特殊な状況を見れば無理もない。

 

「ええ、建物の間に布が張られていますから監視衛星も役に立たないかと。ただLPS(ローカルポスティングシステム)がありませんから路地に入られるとどうしても見失います。」

 

「そこが問題ですね。そして路地に入られた今、頼りはこの紙の地図だけ・・・1stフェィズをしくじった我々が言うのもなんですがデジタルに頼りすぎるのもよくありませんね。」

 

そう言いながら次なる一手を考えていると部下からの連絡がきた。

 

『チームγよりシリウス少佐へ!ポイントM16にて標的発見、戦闘に入りましたが途中でDEMの増援が現れました!現在標的はポイントH10の方向に逃走中!我々は増援に釘付けにされて追えません!』

 

『こちらチームマーズ!ポイントB7でも武装勢力を確認!察するにDEMと思われます!』

 

他にも二件ほど同じような報告が入った。

さすがに相手は武器商人、手回しが早いということなのか。

だがシリウスは慌てることも迷うこともなく次の指示を出した。

 

「各隊そのまま迎撃して対象を孤立させてください。マークス中佐、全体の指揮をお願いできますか?我々は前線で現場指揮をとります。」

 

「少佐自ら最前線に?相手はDEMのトップと言えど二匹。3rdフェイズに移行せずとも」

 

それ以上、中佐は声を出さなかった。

いや、出してはならないと身体が勝手に判断した。

 

「・・・どうやらマークス中佐は本作戦を狐狩りか猛獣狩りと勘違いされているようですが、あれは猛獣という枠には収まりきれません。一人は先代のシリウス。四葉の『極東の魔王』に匹敵する実力者です。さらにもう一人は佐渡防衛戦で艦隊を滅ぼしたと言われている魔法師。去年ヨーロッパで『王政の春』を引き起こし各国首脳を恐怖させた知能犯でもあります。殺るなら核弾頭を撃ち込むぐらいの勢いでないと狩れませんよ。」

 

ゴクッ・・・

 

マークス中佐は息を飲んだ。

話を聞いたせいもあるが、それ以上にアンジーシリウスの纏う雰囲気が変わったからだ。

 

「りょ、了解です。」

 

(こ、これが戦略級魔法師・・・海兵として20年戦ったこの俺が少女一人に震えてやがる)

 

「これが・・・スターズ」

 

マークス中佐の副官もそう呟いて後ろに組んでいる手を震わせていた。

幸いにもスターズの人間にその姿を見られなかったが二人とも心の中で情けない自分を恥じていた。

 

「シリウス少佐、準備完了しました。」

 

「同じく」

 

スターズの二人がシリウスに報告した。

自身も装備を整えるとおおまかな方針を決める。

 

「分かりました。それではベンジャミン・カノープス少佐はチームマーキュリーに、クリフ・カペラ少佐はチームジュピターに合流を。私は遊撃に回りフォースリーコン、スターズの各分隊を援護しながら対象を追撃します。」

 

「「了解」」

 

スターズの中でも選りすぐりの一等星が動き出した。

 

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2095年 5月3日 タイ ロアナプラ 市内

 

アイク達はポイントM16から逃げた後、今度は路地出口付近でホテル・モスクワに見つかった。

それもトラックの荷台にトンデモないものを載せてる状態で。

 

「重機関銃まで用意してるのか!?」

 

「アイクこちらです!」

 

二人は右にあった道に逃げ込もうとする。

 

「標的発見!!攻撃を・・・」

 

男が重機関銃のトリガーに指をかける

しかし、そこで仲間の一人が攻撃を止める。

 

「待て!」

 

「なんだよ!?」

 

「上見ろ!」

 

仲間が指差した先には屋上を駆ける武装勢力。

ホテル・モスクワと同じくらいの重装備だ。

だから武装勢力の正体については疑う余地もなかった。

 

「DEMの私設部隊か!?」

 

男は照準をアイクから屋上の人間に移した。

アイクは逃げながらも指示する

 

「私達はこのまま逃げる!殲滅しろ!」

 

「チィッ!」

 

ドォババババッバババッバババッ!!

 

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2095年 5月3日 タイ ロアナプラ 市内

 

重機関銃の重い銃声が鳴った頃、バラライカは車に乗ってある場所に向かっていた。

 

『大尉、こちら第3分隊!DEMの増援!数は10!現在ポイント”ラドガ”にて増援と交戦中!目標二人は予定どおり北に向かいました。』

 

「よくやった、そのまま目標を孤立させろ。だが深追いはするなよ。」

 

『はっ!』

 

「よくやった」と言った割には機嫌がよくない。

彼女自体、いちいち報告聞いて飛び跳ねたり肩を落とすような間抜けではないが

報告を聞いている彼女の姿にボリスは違和感を感じていた。

 

「同志軍曹、最終地点の配置を急がせてくれ。」

 

「増援が現れたことで想定ケース4になったとはいえ、目標は順当にコースを移動しています。何か腑に落ちないことでも?」

 

「おかしいのだよ軍曹、その()()()()()()・・・」

 

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2095年 5月3日 タイ ロアナプラ 市内

 

おかしいと感じたのはバラライカだけではなかった。

アンジー・シリウスもまた違和感を感じていた

 

『は?今なんと言いましたか少佐?』

 

「おかしいんですよベン。今、前線に出て感じましたがこの状況、()()()()()()()()()()()()()()()、そしてなにより()()()()()()()()()()がおかしいんです。とにかく予定を繰り上げて最終局面に移行してください!」

 

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2095年 5月3日 タイ ロアナプラ セントラルパーク

 

十数分後、追っ手から逃れたアイクとエレンは街の中央公園に訪れた。

普段なら家族連れで賑わうはずの公園も今日に限って大人はおろか子供すらいない。

ただ二人、ベンチにいる男女を除けば・・・

 

「お初にお目に掛かる。私はホテル・モスクワのソーフィヤ・イリーノスカヤ・パブロヴナだ。」

 

「初めましてDEM代表取締役アイザック・レイ・ペラム・ウェストコットと申します。ミス バラライカ。貴方達の話は部下から聞いております。ロアナプラのホテル・モスクワは全員軍人崩れだと。」

 

自己紹介はいらんよと言う代わりににアイクは彼女のコードネームで呼んだ。

こんな時でもアイクは武器商人の笑顔を忘れない。

しかし彼女がコードネームや笑顔に嫌悪のような顔で答えることはなかった。

 

「はるばる日本からよく来てくれた。鉛玉で歓迎しようと思うがいかがかな?」

 

「おや随分と物騒な歓迎ですね。確か初対面のはずですが何か因縁でも?」

 

「なに、これは単なる個人的な逆恨みだ。3年前の佐渡侵攻戦。当事者の貴方はご存知のはずだ。」

 

「ええ、人並みよりすこし知っている程度ですが。」

 

嘘だ。

アイクは忘れられるはずがない。

始めてはっきり異常を確認した出来事なのだから。

バラライカも嘘に気づいているがあえて言及することはなかった。

 

「あの戦場には部隊が違えど血を分けた家族同然のスペツナズの戦友がいたのだよ。これだけ言えばお分かりいただけるだろう?」

 

スペツナズ

これは新ソ連の特殊部隊のことだ。

USNAのように陸海空のいずれかに属しているわけでなく新ソ連の特殊部隊は魔法師の特殊部隊を含め全てスペツナズを指している。

 

「・・・つまり貴方達は敵討ちをしたいと。」

 

「その通りだよミスター。」

 

「大方、KGB(旧ソ連の諜報機関。新ソ連発足時に復活した)に来ることを教えてもらったってところですか。それで()()()()()()()()()()()

 

「出てきなさい。アンジー、ベンジャミン、クリフ」

 

エレンが呼びかけると今度はバラライカとは逆方向の茂みからシリウス、カノープス、の三人が姿を現した。

しかもご丁寧に起動式まで展開させ、いつでも魔法を発動出来るようにしている。

 

「気づいてましたか・・・」

 

ボリスが仮面と赤髪を見てバラライカに耳打ちする。

 

「大尉、あの赤髪の女・・・まさか」

 

「分かっている軍曹。あれはアンジーシリウス率いるスターズだ。」

 

スターズとはUSNAの統合参謀本部直属の魔法師部隊だ。

陸軍、海軍、空軍、海兵隊に続く第5の軍系統として扱われており

スターズはその中でも最精鋭の魔法師が集まる。

もちろん各軍にも魔法師はいるが魔法の練度や運用方法に大きな差があり

ゆえにUSNAの最強魔法師部隊。

そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()でもあった。

エレンはジリジリと近寄るスターズの三人の前に立ちふさがった。

 

「お久しぶりですねリーナ。あぁ、今はシリウスの称号を貰ってアンジー・シリウスでしたね。それで何の用ですか?」

 

「黙れ!シリウスの称号まで手に入れといて国を裏切った愚か者め!貴様の後をついでも何の名誉にもならない!」

 

リーナと呼ばれたせいかアンジーシリウスは激昂して話にならない。

代わりに後ろにいたベンジャミンが話に入ってきた。

 

「お久しぶりですエレン・シリウス元大佐。単刀直入に申し上げます。現在、貴方とアイザック・レイ・ペラム・ウェストコットに殺害命令が下されています。しかし貴方が大人しく投降し装備を提供すれば罪を減じ大佐での原隊復帰を許可するとのことです。もちろんシリウスの称号は戻りませんし、国外に出ることは出来なくなりますが命と職は保証します。」

 

「殺す気満々だったくせによく言えたものですね。」

 

「ミスターも無抵抗でこちら側についてくれるならあらゆる協力、援助を惜しまないとのことです。」

 

「だってさエレン」

 

アイクはやれやれという表情でエレンに返した。

「自分の件は自分で決めろ」と言いたいのだろう。

だからエレンはキッパリと返答した。

 

「貴方もお久しぶりですベン。では私達も率直に返しますが答えはNOです。そもそも私とカレンをハメたウィルソン・・・」

 

「ウィルソン・フィリップ上院議員は先日更迭されました。」

 

「!!」

 

「投降してくれれば、あなたを五年前助けなかったこと警告なしに攻撃したことも全て我々、いえ国家をあげて貴方に償っていくつもりです。それを約束する大統領の書分もこちらにあります。それでも駄目ですか大佐?」

 

今度は元とはつけなかった。

シリウスと呼ばれたエレン達を陥れた元凶を退治したことを伝え、さらに情に訴える。

スターズ、根っからの武闘派と思われているがこの男は戦闘だけじゃなく交渉も出来る政治将校の適性もあるようだ。

それでもエレンは揺るがない。

 

「だとしてもいままで悪性腫瘍の存在に気づかなかった無能な国に戻るつもりはありません。それに私は例えアイクに裏切られるとしても信じてついていくと五年前に決めました。これはカレンも同じ気持ちです。」

 

「そういうことですベン。この女はすでにその男の犬に成り下がっている。戻ってきてもただの恥さらしですよ。ならいっそのことここで・・・」

 

シリウスの言葉にあわせてエレンは腕輪型のCADに手を伸ばす。

彼女ならアイクを守りながらでも殲滅は余裕だろう。

しかしその手をアイクは止めた。

 

「止めないでくださいアイク」

 

「まだ日本政府の監視があるかもしれない。それにね必要がないんだよエレン。()()()()()()()()()()()()()()()からね。」

 

ピンチにも関わらずアイクは優しく笑った。

その笑顔にエレンは少し赤くなるがバラライカの声ですぐに現実に戻された。

 

「逃げられるとでも?」

 

バンッ!

 

右の遠くの方から弾丸が飛びアイクの目の前で止まった。

止めたのはもちろん磁力の盾だ。

 

「スナイパー・・・ですか。しかも魔法で加速させているとは。狙撃地点はマンションの屋上からですかね?」

 

「敵に位置を教えるほど間抜けじゃないわ。自分で考えなさい。」

 

スナイパーと言ってはいるが何もホテルモスクワだけじゃない。

磁力探知で装備を調べた限りUSNA、恐らくはフォースリーコンの人間も別地点からこちらを狙っている。

またスターズと思われる一団とホテルモスクワの別働隊らしき一団も公園の外でバックアップの用意に入っていた。

単純に言ってしまえば先程とは比べらないほどの狭い範囲で二つの軍隊に完全包囲されたのだ。

 

「そういえば・・・私が用意した増援はどうしました?」

 

アイクは時間を稼ぐかのように、しかし焦りの表情は見せずに話を変えた。

するとバラライカはハッと鼻で笑った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()。全く、まんまと嵌められたよ。まさか()()()()()()()()()()()U()S()N()A()()D()E()M()()()()()()()()()()()()()()()()とは思わなかったよ。」

 

アイクは笑みを見せた。

まるで生徒の正解を喜ぶ教師のような笑顔だ。

 

「どうして気づきました?」

 

「別に確証があったわけじゃないわ。だけど()()()()()()()()()()がどうしても腑に落ちなかった。そこで理由を考えた時、この可能性が浮かんだの。」

 

続けるようにシリウスが語る。

 

「そしてこの可能性ならば様々な疑問にも納得できる。薄く広範囲に張られたジャミングは映像で第三勢力の存在に気付かせないため。そして貴方が増援を置いて逃げるのはどちらの武装勢力も味方じゃないから。」

 

「映像の妨害や命令ぐらいじゃDEMの増援と誤解しないでしょう」

 

「恐らく手品の種は()()()()()()()()()()。情報を遮ることで魔法はより効果を発揮し迫り来る勢力をDEMの増援と誤解させたってところですか」

 

ここだけアンジーシリウスの推測が正しくなかった。

正しくは意識干渉型系統外魔法ではなく()()()()()()()()()

より正確に言うと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()のだ。

まず先入観とは知った情報から生まれる固定的観念のことだ。

情報が少なければ少ないほど間違いやすくなるし、不安や恐怖で焦れば焦るほどドツボにはまりやすい。

 

 

アイクがやったのはまさにこれだ。

アイクはこの街にLPSがないことを利用し、両勢力が互いの存在に気付かないようにジャミングなどで妨害して情報を制限。

その後、精神干渉系領域魔法で範囲内の人間の不安、恐怖を煽った。

ドンパチに慣れているロアナプラの住人が一目散に逃げ出すのが不安や恐怖が膨れているその証拠だ。

そうして恐怖と不安をパンパンに膨れ上がらせたら最後に誘導して大きな声で攻撃命令するだけ・・・

 

 

あとは第三勢力の情報が入ってない彼らが互いに『DEMの増援』と勘違いし潰し合う。

そして潰し合えば潰し合うほどより間違った先入観を深めて、さらに潰し合う。

 

 

冷静に考えれば勘違いと気付くかもしれないが不安や恐怖が膨れ上がった精神状態で冷静になれる者はほぼいない。

だから、魔法の範囲外とはいえ冷静だった意味ではバラライカやアンジーシリウスは優秀な指揮官かもしれない。

気付くまでに双方半分以上の兵を消耗させてしまったわけだが・・・

 

 

「まぁ、そんなところですね・・・」

 

「もうお喋りはいいでしょう?そろそろ、おねんねの時間よ」

 

「こいつらを殺すのは私たちです。」

 

バラライカとシリウスがゆっくりと武器を構えた。

察するに双方ともアイク達だけでなく、互いの勢力もまとめて殺すつもりだ。

そんな危険な状況の中、アイクの顔に浮かんだのは恐怖でも怒りでもなく・・・

相も変わらず笑顔だった。

ただし先程とは違って『不気味な』という意味で・・・

 

「フフフ・・・」

 

「何がおかしい!」

 

ビュンッ!!バキン!

 

あまりの不気味さにアンジーシリウスは『ドライブリット』でドライアイスの塊を飛ばすがエレンの魔法障壁に防がれた。

バラライカも眉間にシワが寄っていた。

 

「私がこんな如何にもな場所まで馬鹿正直に誘導されたと思いましたか?違うんですよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「っ!!セルゲイ、シャミール!今すぐ奴をうt」

 

ドォンッ!!ドォンッ!!

 

バラライカの命令の直前、花火を打ち上げたかのような音が空から響いた。

そして次の瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

対物ライフルでも出来る芸当ではない。

ボリスがその正体を語った。

 

「まさか、ハイパワーアンチマテリアルライフル・・・」

 

「バカな!魔法障壁を破るハイパワーライフルの対物ライフル仕様は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ですよ!USNAでも開発中止になった粗悪品!固定砲台にも使えないというのに正確な射撃ができるはずない!撃てるわけがない!」

 

 

 

「その不可能をミスターは別の術式で可能にさせたんだよ。」

 

 

 

その声は発砲音と同じ空から聞こえた。

すると何もない所から数人の男が飛び降りる。

恐らく光学迷彩と魔法をかけた音の小さいヘリで来たからいままで気づかなかったのだろう。

命綱なしの魔法による着地は魔法戦闘の技量の高さを示していた。

音が鳴り止むとバラライカは忌々しげに睨んだ。

 

「ッ・・・タイ王室魔法団。タイ王国のエリート魔法師部隊か。」

 

だが驚くのはまだ早かった。

 

「お待たせしました。お怪我はありませんかミスター・ウェストコット」

 

「いえ、こちらこそこんな所までのお迎え感謝いたします団長。」

 

最後に降りてきた、先程の声の男に一同氷づく。

見た目こそ軍人だが屈強さで言えばボリスのほうが少し上だ。

では何故か。

それは降りてきた男達とは比べものにならない魔法師だからだ。

 

「私と同じ()()()()()()1()3()使()()()()()・・・ソム・チャイ・ブンナーク・・・」

 

「どうやら挨拶はいらないようだなアンジー・シリウス、そしてバラライカ。」

 

「なぜ貴方がこんな所に?」

 

「それは愚問だ。ここはタイ王国の領土。そして私はタイ王室に忠誠を捧げている身。別に不思議な話ではない。むしろ君こそ何でここにいる?」

 

「ッ!・・・」

 

確かに答えてはいる。

けどアンジーシリウスが聞きたいのはそんなことじゃない。

 

「そんなことはどうでもいい!こちらが聞きたいのは何故貴様がアイザック・ウェストコットを迎えに来ているかだ!!」

 

代わりに怒り爆破寸前のバラライカが理由を問うた。

 

「それはもちろんこの御仁が我が()()()()()()()だからだ。」

 

「王の客人だと!?」

 

「今回、ミスターは日本とタイ王国をつなぐ特別大使で来訪されている。だが別に撃ってくれても構わんよ。そうすれば()()()()()()()()()ができるからな。無論、ミスターとその秘書には指一本触れさせないが。」

 

掃除、つまりはここのマフィア、諜報員の一掃を意味指す。

ヘリが降りてきてアイクとエレンは足をかけた。

 

「ま、まて!裏切り者!?」

 

「くそっ!逃げるな!」

 

バラライカとアンジーシリウスが慌てて駆け寄ろうとするがソム・チャイが立ち塞がる。

 

()()()()()()()()()()()()()?」

 

「チッ!・・・」

 

バラライカは足を止めた。

特別大使とはいえ今のアイクは外交官。

それを攻撃すればすぐさま国際問題になる。

そんなことになればタイ王国はロアナプラのマフィア、諜報員を一掃する大義名分を手に入れてしまう。

しかも新ソ連が世界中から非難をあびる。

そう思うと動けなかった。

部下のためにも、祖国のためにも。

 

「団長スナイパーおよびバックアップチームの制圧完了しました。こちらの負傷者は0です。」

 

「と、いうことだ。安心したまえ制圧と言っても殺してはいない。帰るまで大人しくしてくれれば・・・」

 

「そんなの知らない!どけっ!」

 

ただそれでもシリウスだけは押し退けようとした。

その瞬間、耳につけてた通信機にノイズが入り、誰かが通信に割って入った。

 

『そこまでよ、お嬢ちゃん。これ以上は本国のプラスにならない。』

 

ボイスチェンジャー特有の声だが口調からして相手は女だった。

いや、そう思わせるフェイクか?

現段階では結論が出せなかった。

 

「通信に割り込み!?誰だ!」

 

『私の正体なんてどうでもいいじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

(まさかCIA!?どこ?一体どこに!?)

 

通信相手はこちらを見ているはず。

アンジー・シリウスは周りを見渡すが通信相手は見当たらない。

彼女はそのまま少し後ろに下がり小声で返す。

 

「プラスにならないとはどういうことだ?」

 

『ここは工作、諜報において最重要拠点の一つ。ここを失うのは我らUSNAにとって大きな損害なの。だから今すぐ撤退しなさい。』

 

「しかしこの作戦は・・・」

 

アンジー・シリウスはあくまで食い下がった。

そんなワガママ娘に痺れを切らしたのか相手は本音で語った。

 

『分かれよ小娘。ただでさえ常軌を逸した作戦行動だ。NSA(国家安全保障局)とヴァージニア・バランスの許可で来ているかもしれねぇが、もしここで攻撃するならお前らまとめて国家反逆罪が適用されるぞ。分かったか?分かったら返事。』

 

「くっ!りょ、了解・・・」

 

ブッ!

 

通信を一方的に切られた。

だが通信相手に対して恨みはない。

憎むべきは()()()()()()()()()()()()()()()()アイザック・ウェストコット。

そしてエレン・M・メイザース。

彼女は二人を睨みつけた。

それにエレンが気付き嘲りの視線で返した

 

「それではさよならですリーナ、ベン。クリフ。殺されなかったことを泣きながら感謝しなさい。」

 

「いつかその余裕の面を引き剥がしてやる・・」

 

「ふっ、詰め将棋もできない子供にやれるもんならやってみなさい()()()()。」

 

エレンはそう言ってヘリに乗り込んだ。

対してアイクはというと電話をしながらもう一人の敵に視線を送っていた。

 

「もしもしラグーン商会ですか?ウェストコットです。・・・はい、仕事はキャンセルで・・・ええ、おかげさまでミンチになりませんでしたよ。・・・もちろん前金10万ドルは貴方達のものです。・・・ええ、また機会があれば、またお願いします。2丁拳銃にもよろしく言っといてください。それでは・・・」

 

ピッ・・

 

「ちっ・・・他にも逃亡策は用意していたということか。身の保身にたけた男だ。だがこれで終わったと思うなよ。アイザック・ウェストコット・・・」

 

「私としては永遠にさよならがいいですね。外国の893者に落ちぶれた元軍人なぞに構ってやる時間も金も人員もないんでね。新ソ連軍が貴方を追い出す理由も今ならよく分かりますよ。」

 

「・・・」

 

バラライカは無言で睨みつけた。

しかし何も出来ない。

アイクは話を続けた。

 

「敵討ちという感情論で部隊を動かしといて私のようなネズミを一匹も仕留められない人間なんて軍にいらない。結局、どんなに統率が取れていて、精強で、武器を揃えていようと貴方達はただのチンピラ。そして貴方達がやっているのは”作戦行動”ではない、ただの”おままごと”だ。」

 

何も言い返せない。

いや言い返してはならない、激昂して発砲してはならない。

怒りはとっくに爆発しているがギリギリのところで行動を堪えていた。

 

 

脅威なしと確認されたのか王室魔法団の人間もヘリに乗り込んでいく。

 

「行きましょうミスター。国王がお待ちです。」

 

「分かりました。では・・・」

 

アイクが別れの挨拶をしようとした。

すると我慢が出来なくなったのか、その前にバラライカの口が開いた。

 

「・・・貴様は・・・・貴様はどうなんだ。私には分かる、貴様も我々と同じ地獄を見て己の底から湧き出る感情に従い戦っているはずだ!それなのに何故こうも違う!!」

 

この質問に返す必要も義理もない。

だが本人も何を思ったのか分からないが返答する。

 

「そうですね・・・私も貴方も浅ましい人間、いや死人だ。生きている人間の幸せが羨ましくて妬ましくてならない。では何故違うか?それは・・・」

 

 

 

 

 

私が武器商人だから

 

 

 

 

 

答えはとてもシンプルだった。

きっとこれ以上の答えはないだろう。

アイクは今度こそ別れの挨拶をした。

 

「ではさよならだ阿呆のチンピラ君。この悪都で哀れな人形として踊り続けるがいい・・・無論、永遠にね」

 

バラライカは自身の悔しさに顔をしたに向け、体を震わせていた。

 

「さすが王室直属。練度が高いですね」

 

「いえいえ、まだ白兵剣技が課題でして・・・」

 

「では千葉家や軍に剣技指南を打診してみましょうか?」

 

「おお!イリュージョン・ブレード千葉修次がいる白兵剣技の名家ですね。それはありがたい!」

 

HAHAHAHA・・・

 

しかしアイクはそんな声に目もくれずソム・チャイと談笑を楽しみながらヘリに乗り込んだ。

全員乗り終わるとヘリは飛び立ち、数分後には目で見えないぐらい遠くなっていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2095年 5月3日 タイ ロアナプラ ???

 

 

その姿を見ていたのはUSNAとホテル・モスクワだけではなかった。

 

『大佐。こちら鏑木。対象の離脱を確認。このまま王室に向かうものと思われます。スターズとホテル・モスクワはまだ撤退してません。送れ。』

 

「ああ、こちらでも確認が取れた。俺は勇三に報告があるから鏑木と黒坂は数人を連れてスターズの動向を監視。他は撤収作業に移る。送れ。」

 

言語は日本語だが見た目は船で品を売る行商人だ。

言うならばその一団は風景や人に綺麗に溶け込んでいた。

 

『こちら黒坂、了解。』

 

通信が切れ一佐と呼ばれた男は肩の力を抜くと自然と笑みが浮かんだ。

 

「がははは、あの修羅場を戦わずして切り抜けやがったか。東城、お前の雇い主そうとうブッ飛んでやがるぞ。」

 

今はいない元部下に呟きながら男は闇の中へと消えてった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2095年 5月3日 タイ ロアナプラ リップオフ教会

 

 

同じ頃シスター達も教会の中からヘリの飛び去る姿を見ていた。

 

「アイザック・ウェストコットか・・・一体何者ですかね?」

 

()()()()()()()・・・それも()()()()()()()()()()()()()だ。」

 

「はい?」

 

「何でもないよ。いいから、さっさとシスターの仕事に戻りなエダ!」

 

「は、はい!・・・ブックマン、あんたが扱うには少し荷が重い物件だと思うぜ。」

 

そうして銃と麻薬と情報と金で汚れた彼女達の日常に戻っていく。

そしてこの出来事もこの街で起こる数多くの事件に埋もれて忘れ去られていくのだろう。

憎しみと因縁だけを残して

 

 

恨みだけはどれだけ安くしても誰も買ってくれない・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2095年 5月3日 ???

 

「あ〜あ、まったく使えないじゃない・・・せっかくNSAを動かして、KGBにまで情報を流したのに。所詮は混血の小娘とアフガンの負け犬ね〜。こうなったら多少のリスク承知で日本最強のアサシンを雇いましょうか。フフッ・・・・ウフフフフフ・・・ああ、早く・・・早くあの女の壊れる顔が見たいわ。」




というわけロアナプラ編はここまで!!
詰め将棋をしていると思ったら大ドンデン返し
いかがでしたか?
少しは良くなったのではないかと勝手に思っています。
大尉がこんなポカするわけないだろうというのは今回はナシでお願いします。
これ以上の展開が私の技術不足で書けないこともありますが
大尉を出し抜くというが今回のポイントにしており、どうしても譲れないのです。

ついでにUSNAのチーム呼称で惑星の名前にしてあるのはスターズの部隊でγといった記号などはフォースリーコンの部隊となっております。
後、「王政の春」の詳しい内容は次回以降となります。
お楽しみに

次回予告!
ロアナプラを後にしたアイク達はクロアチアに到着。
そこで清夜はココ・ヘクマティアルと名乗る若い女のウェポンディーラーと再会する。
彼女は清夜に一体、何を語り、何を見せるのか!?
だがその前にヨーロッパはヨルムンガンド原作以上に危ない情勢を迎えようとしていた。

次回もお楽しみに!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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43話 魔法と武器を売る女

43話です!
書き始めてから四十数話・・・
とうとう10評価いただきました(ひぃぃぃやぁほぉぉぉぉ!)
低評価してくださった方も含めて評価していただいた方、読者の皆様
あーーーーりがとうございますっ!!
ここまで期待されたらストック分を公開するしかない!(計画性なし)
ということで忙しいけど少し手直しして投稿しました。

前回までのあらすじ
アイクを中々、追い詰めらないスターズとホテル・モスクワ。それもそのはず実はアイクの壮大な策略にハメられ互いに追う者同士で潰しあっていた。シリウスとバラライカはそれに気づき、あと一歩の所まで追い詰めたが
アイクに外交というカードをきられ逃げられたのだった。


2095年 5月5日 東EU クロアチア領空 飛行機内

 

「アイク、もう間もなくクロアチアに到着します。」

 

「そうかい、ありがとうエレン。タイではどうなるかと思ったがこの飛行機は無事に着きそうだね。」

 

「いくつも逃亡手段を用意してよく言いますよ。ですが危険を承知で乗り込んだ甲斐はありました。」

 

「ほう、では絞り込めたんだね。私の邪魔する内部の人間とスターズと海兵隊を動かした人間が」

 

エレンが『案件B708』と唱えると空中にスクリーンが投影された。

 

「USNAの方はまだ、ですがサイモンの調べで今回の商談は七草に漏れていたことが分かりました。」

 

アイクにとってはスターズと海兵隊を動かした人間の方が知りたかったが無理を言っても仕方ない。

なので海兵隊とスターズのことは頭の片隅において主旨を身内の話に移した。

 

「ということは間村専務か。でも直接漏らしたわけではないだろう?」

 

「はい、漏らしたのは別の人間です。それも巧妙に何人もの人間を通して。」

 

流石にDEMの専務。

こうした偽装、隠蔽は得意ということだ。

しかし、それは同時にアイクにも情報を与えていた。

 

「だが裏を返せば通した人間が間村の味方ということだね。」

 

「そのリストがこちらになります。」

 

リストは間村直属の部下、七草が送り込んだ社員の名前が目立つ。

だが意外にも開発部、人事部など関係ない部署の人間の名前がそれぞれ一つ、二つほどあった。

 

「へぇ、やるじゃないか。ここまでやり手とは」

 

それは間村に対する賞賛ではなかった。

賞賛するのはそれを操る「七草家」。

正確にはその当主「七草弘一」。

ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「間村の捕獲部隊、七草の殲滅部隊はすでに用意してあります。アイクの指示でいつでも始められますが。」

 

「ははは、そこまでの必要はないよエレン。ただ、工作員を七草と間村一派それぞれ一人ずつ送り込むだけでいい。工作内容、方法は私が直接指示しよう。」

 

「一人ずつ、それも工作員でいいのですか?」

 

エレンが首を傾げるのは無理がなかった。

世界が注目する十師族のそれも序列二位の一族。

政府与党にまで影響力が及ぶ強大な一族に対抗する人員はたった二人なのだから。

 

「エレン、なぜ七草は四葉より序列が下なんだと思う?」

 

「大漢を滅ぼした名声、一人一人の実力、世界最強の当主、なにより情報戦の強さ。これらが四葉が七草より序列が上の理由だと思いますが。」

 

エレンにとって意図が分からない質問だがさほど迷う質問ではなかった。

 

「まぁ、表向きには日本に対する貢献度の差らしいけど実態はその通りだ。けどね、それとは別にもう一つ理由があると思う」

 

「もう一つですか?」

 

アイクの口元が吊り上がった。

まるで子供が面白い悪戯を思いついたかのように。

まるで小学生が好きな異性を教えあうように。

アイクはそっとエレンに耳打ちした。

 

「それはね、七草弘一に腹心の部下がいないことだよ。」

 

飛行機は何事もなく着陸体勢にはいった。

 

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2095年 5月5日 東EU クロアチア 市内

 

「さて、ここでココ姉が迎えに来てくれるはずだけど」

 

「まだ待ち合わせまで十分ほどあります。もう少し待ちましょう。」

 

アイクとエレンが降り立ったのはクロアチア共和国。

東EUに所属し東西EUの境近くにある国だ。

 

EU

かつてヨーロッパ連合と呼ばれた経済連合は一時期、軍事同盟にまで発展し、旧ロシア、旧アメリカに負けない強さを誇った。

しかし第三次大戦の終戦後に目立った利益を得られなかったEUは経済思想、主義を主な理由に東西に分裂。

そのため、というか当然のように両陣営軍事力、経済力といった国力の成長が著しく低下した。

さらに去年から始まった、かつての王族を起源とする王国が次々と復活、独立する『王政の春』と呼ばれる政治運動がEU全体の経済成長にさらなる歯止めをかけ、軍事力の低下に拍車をかける始末だ。

もちろん経済においてはUSNA、新ソ連についで3、4番目の経済力はまだあるがどちらのEUもかつての軍事、経済成長の影は見えない。

それにも関わらず両陣営は未だヨーロッパの覇権を巡って睨み合いを続けていた。

 

「し〜〜〜ん〜〜〜やっ!」

 

「ん?ぐぼっ!?」

 

聞き慣れた声が聞こえたかと思うと女性がアイクの腹めがけてタックルをしかけた。

こんな悪ふざけするのは状況的に一人しかいない。

 

「げほっげほっ・・・ココ姉もっと普通に迎えてくれよ。」

 

「やぁやぁ久しぶり清夜。相変わらず胡散臭い男のホログラムを被っているね。私は素顔の清夜の方が素敵で可愛いと思うけど。フフーフ♪お姉ちゃん寂しかったぞ〜」

 

ココは指定席だと言わんばかりにアイクの背中から抱きついて寄りかかった。

 

「ココ!まず社長のアイクにちゃんと挨拶してください。」

 

「あっ、エレンも久しぶり。でもさ、これが私達姉弟の挨拶だから。ね、清夜?」

 

「ココ姉の兄妹はキャスパー兄でしょ。もう挨拶とかいいから案内してよ。ゆっくりしてらんないでしょ?」

 

いつも会うたびに寄りかかられ頭撫で回されてるので、アイクはもう挨拶についてはどうでもよくなっていた。

そんな反応が気に入らないのかココは頬を膨ませた。

 

「む〜ツレないな清夜は。じゃあ車乗って。まずは皆がいるホテルに向かうよ。」

 

三人は車に乗り込み、護衛が待つホテルに向かった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月5日 東EU クロアチア ホテル

 

ココ・ヘクマティアルはヨーロッパ、アフリカを担当するDEMの武器商人だ。

かつての式海運の幹部にして今は亡きフロイド・ヘクマティアルの娘でちょうど今の清夜ぐらいの頃から武器を売り始めていた天才だ。

そして清夜に武器を、交渉術を、偽りの笑顔を教えた張本人でもある。

 

「キリキリ歩け〜清夜隊員!ほれっ、1!2!1!2!・・・」

 

ただ師匠や先生か?と言われればそうじゃない。

一介の部下とも言えない。

それこそさっきの姉という表現が近いだろう。

清夜にとって冬華ほどではないもののそれぐらいに近い存在だった。

 

「まぁ、残念なことにゆっくりしていられないというのは清夜の言う通りだ。結局、問題が起きて東欧の片田舎に足止めされている。」

 

ホログラムを解いた清夜の手を引いたココがピタリと止まって振り向いた。

 

「問題の解決を手伝ってもらいたい。これは正式な要請であると同時に君と君の部下の実力を確認するという意味もある。」

 

ココは清夜に拳銃を手渡した。

初めて会った時もこうだった。

CADではなく拳銃を手渡す。

そこに意図があるのを感じるが未だになんの意味なのか分からない。

それでも清夜は拳銃を受け取った。

 

「ココさん、おかえりなさい。おっ、久しぶりだね二人共」

 

「久しぶり夜君、エレンさん。」

 

すると部屋の前に立っていた東南アジア系とアメリカ黒人系の男性が話しかけてきた。

彼らは清夜にとっては部下であると同時に先生の一人だった。

 

「お久しぶりです二人共。」

 

「久しぶりワイリ、マオ。」

 

「その喋り方を聞く限り、ちゃんと語学の勉強は続けていたようだね夜君。」

 

このアメリカ黒人系の男性はウィリアム・ネルソン。

通称ワイリ。

眼鏡をかけた穏やかそうな風格だがUSNAの元戦闘工兵。

そして最後の所属はエコーと同じデルタフォースだ。

清夜には語学と爆弾技術を教えており、特に爆弾技術に関してはFBIのブラックリストに入るほどの凄腕だ。

 

「まぁね、魔法語学に必要だから。マオの方は息子達元気?」

 

「ああ、お陰様でね。エコー達はもう中にいるよ。」

 

東南アジア系の男性はマオ。

元砲兵。

清夜に砲撃と長距離魔法戦術、生物を教えている。

ココの部隊の中で唯一の妻子持ちだ。

 

「んじゃ入ろうか清夜、エレン。はーい、皆!注目!」

 

バン!ドガッ!

 

ココはノックもせずドアを思い切り押し開けた。

案の定、おっさん一人が開いたドアにぶつかり持ってたグラスを落としてしまったがココも中にいた人間もそんなこと気にしない。

 

「おっ!宣言通り無事に着いたみたいだな」

 

「おつかれッス」

 

「お疲れ様ですボス。」

 

部屋にいたのはエコー達三人を含め8人。

 

「おっ!来たな夜坊〜!待ってたぞ〜ウリウリ♪」

 

清夜の頭をグリグリする金髪の白人男性はケツ・・・じゃなくてルツ。

清夜とエレンを除けば一番の若手で元警察の対テロ部隊のスナイパー。

清夜に狙撃を教えている一人だ。

 

「よぉ、夜。ちょっと見ない間に男らしくなったじゃないか。」

 

坊主頭の大男はウゴ。

ココの専属運転手。

部隊の中では珍しいマフィア出身。

清夜に車、ヘリ、軍用機など様々な乗り物の運転を教えた。

 

「そうですね。だいぶ体つきがよくなりましたね夜君。私の訓練メニューが役立ってなによりです。」

 

部隊で唯一の女性ソフィア・ベルマン。

通称バルメ。

スイス軍FRDFの元少佐。

眼帯というハンデがあるにも関わらず部隊のなかでは近接戦最強。

DEMの傭兵の中でも1位タイの近接戦最強の兵士だ。

ナイフが得意で清夜の近接戦闘、近接魔法戦闘の先生。

ついでに言うとココにゾッコンな筋肉マッチョだ。

 

「いやいや、男らしくなったのはきっと女を喰らったからで・・・」

 

茶髪のイタリア男はレナード・ソチ。

頭文字をとってR(以降アールと呼称)と呼んでいる。

見た目はイタリア男にふさわしい軟派な男だがこいつも見た目に反して鳥の羽根を頭につけることで有名なベルサリエリの部隊出身だ。

清夜には中距離魔法戦闘を教えた。

 

「あっ!そうだ聞いたぞ夜坊!社長にかこつけて部隊の女で囲ってるらしいな!一人よこせよ。」

 

眼鏡をかけた日本人男性は東城秋彦。

通称トージョ。

国防軍北部方面電子隊、国防軍情報部中央システム管理隊を経て防衛省の秘密部隊に所属していた。

今の清夜には劣るが電子戦関連が得意で清夜に電子戦の基礎と数学を教えていた。

 

「ってて・・・何だ夜坊来たのか。へへっ今はアイザック・ウェストコットじゃねぇのな。」

 

そしてドアにぶつかっていたおっさんはレーム・ブリック。

いつもヘラヘラしているがエコー達がデルタフォース時代に所属していた部隊の元隊長。

バルメと同じ最古参で式海運の初期からの傭兵だ。

狙撃で言えばDEM一の実力。

清夜には射撃と狙撃、遠距離魔法魔法狙撃を教えている。

 

「皆、久しぶり・・・てか東城とルツは離せよ。あと囲ってるなんて事実は一つもない!」

 

「本当か〜?鼻の下がキノピオみたいに伸びてるぞ。」

 

「よし、歓迎の夜坊投げしようぜ」

 

「ちょっと!アイクで遊ばないでください!」

 

「へへっ、総隊長殿は黙って見てなって。面白いぜ。」

 

飛行機までの威厳はどこへやら。

5年も前から世話になっていたから清夜はこの部隊でこういうポジションになっていた。

こんな時のための護衛も一緒になってからかい始めるし、エレンもレームに捕まって役立っていない。

終いにはプロレス技までかけられそうになった。

武器商人としての笑顔を忘れていないが流石の清夜でも限度がある。

 

ガシャッ!

 

なので先ほど受け取った拳銃を取り出しスライドを引いた。

 

(((げっ、拳銃構えやがったコエ〜)))

 

すると皆は虫のようにバッと離れた。

言っておくが彼らは凄腕の傭兵だ。

凄腕の・・・

たぶん凄腕の・・・

 

その姿を見てココは本題にはいる。

 

「はいはい、ビビるな。二人が来たから状況確認にはいるよ。トージョ、二人に現状の説明を。」

 

「変わらんね。我らのコンテナは数日前に港で足止めくったまんま。足止めしてる内務省中央税関保安隊にはココさんか社長から連絡をお願いします。」

 

「あいつら最初から通す気ないよ。だからあんな無茶な賄賂の金額だすわけだし。」

 

愚痴を零すぐらいなら別の方法を考えるべきなのだろう。

でもこの業界はこんなことばかりで時には愚痴を零さないとやっていけないのだ。

 

「というわけで私達の荷物を取り返さなければならない。意見あるかな清夜君?」

 

「増援の人間だから方針については何も言わないよ。今、俺のチームに必要なのは標的と作戦だ。」

 

あっけない返事に何を思ったかココは笑みを浮かべた。

 

「フフーフ♪総員出動準備!レームとバルメは私とは別の車でついてきて。あっ、清夜は私の運転する車ね。他は別ルートから!そっちの指揮は・・・エレンで。いいよね?」

 

「妥当だね。エレン指揮を頼む。エコー達もエレンについていって。」

 

「了解しました。」

 

「「「りょ〜かい」」」

 

エレン以外締まらない返事だがココも清夜も叱ることはなかった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月5日 東EU クロアチア 高速道

 

ココと変身したアイクは車で貨物のある港に向かう道中クロアチア内務省の通告を受けた。

 

『ミス ヘクマティアル。貴方はあのコンテナがもたらす影響を分かっているのか?我々はあれを空軍に届かせるわけにはいかない。それでも強行するというのなら、容赦しないぞ!覚悟しろよ小娘!』

 

実に脅迫的な通告だった。

しかし、なんと言われようと彼らは仕事をこなすだけのこと。

 

「そりゃこちらのセリフだよ。」

 

ピッ!

 

ココは電話を切るとバックミラー越しに清夜を見た。

 

「で、どうなの清夜?今度の仲間は?」

 

「・・・エコー達は充分に強い。翠と藍についても目標は見つけてないものの与えた仕事を滞りなくこなしている。アルテミシア、アシュリー、レオノーラ、セシルについては実力があるものの心的な意味で疑問が残るかな。」

 

アイクは持ってきたアサルトライフルに弾を詰めながら事務的に答えた。

もう、仕事の時間だと言う意思表示。

笑顔すら見せないのは商人としてではなく兵士としてここに来たからだ。

商人としては狂気的になり、兵士としては冷徹になる。

これが今の彼のスタイル。

でも今こうして素っ気なく答えるのは二人きりでココと話したくないというのもあるかもしれない・・・

 

「そういう話じゃないっての。もう相変わらずだね。まぁ、こちらでも君が私の元を離れてからのことをとことん調べた。」

 

「・・・」

 

アイクの動く手が止まった。

 

「南米マフィアを潰したこと、そこで母親を殺したこと、アルテミシア達のこと、第一高校のこと、ブランシュのこと、司波達也のこと」

 

「・・・」

 

「そして千葉エリカのこと」

 

とうとうアイクの目がココに向いた。

だが、それでも何も語らない。

笑顔ですらない。

 

「その反応を見て確信したよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。母親や千葉エリカに化け物と言わせる自分の力、冬華を殺した魔法の力、冬華を殺した男と繋がることになった要因の一つであろう武器という力が」

 

「別に、好きでも嫌いでも・・・」

 

「怒ってるわけじゃない。武器屋の社長をしながらそのスタイルを貫くのはむしろ喜ばしいことだと思ってる。けど・・・」

 

喜ばしいというわりには、どこか悲しそうな顔をしたココ。

少し間を開けてから真剣な顔して強調するかのようにこう言った。

 

()()()()()()()()()()()()。」

 

「・・・」

 

アイクの弾倉を握る手が自ずと強くなりミシィという音が車の中で響いた。

これが彼の本心なのかは分からない。

 

「彼女に君の求める救いはない。彼女は君を理解できないから。彼女は君を頭ごなしにしか見てないから。」

 

「俺は彼女に救いを求めたことなんてない。」

 

「嘘だね。そうでなきゃ2年前、君が殺されかけてまで助けるわけがない。ましてや入学してから森ナントカや翠の攻撃から千葉エリカを守るようなことはしない。君は心のどこかで彼女とまた一緒に笑い合えると思っているんだ。でもね、宣言してあげる。」

 

運転席と後部座席。

それだけ距離が離れているのにアイクは顔と顔がぶつかるぐらいの距離で言われてるようなプレッシャーを感じた。

ココは最後にこう締めくくった。

 

 

 

 

「 千葉エリカは最後に必ず君を見捨てる。」

 

 

 

 

「・・・」

 

アイクは何も言わなかった。

いや、言えなかったのだ。

ココに言われたほとんどは自覚があったから。

覚悟を決めたはずなのに彼女の前だと揺らいでしまう。

先日、屋上で倒れたことが何よりもの証拠だ。

 

「君は賢いはずなのにこういう所が甘いんだな。『()()』と『()』。()()()()()()()()()()()()()()()。『復讐』を選べば『愛』する人は復讐する人を受け入れてはくれないからね。」

 

「・・・事情を話せば」

 

「「受け入れてもらえるかも」って?それはありえない。もし愛する人が『復讐』を受け入れてしまったら、もうその人は復讐する人にとっての『愛』する人ではなくなっている。だって『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。絶対にそんなことは起きない。これはね()()なんだよ清夜。君は決めなければならない・・・どちらかを」

 

だからアイクは二人きりで話したくなかった。

遠回しに清夜とエリカのことを指差しディベートで言い負かすぐらいなら気にしない。

アイクが嫌に感じるのは話している時の洗脳されてるような感覚。

諭され思想を変えられるような盲目の侵略、支配。

彼女の導くまま()()()決めてしまいそうだ・・・

アイクは完全に動かなくなった。

それにココが気づき謝った。

 

「ごめんごめん。話しすぎた。別に『今の君を受け入れてくれる人がいない』とは言ってないよ。君のことをちゃんと理解して受け入れてくれる人はいる。」

 

ココは誰とは言わなかった。

 

「あっそ」

 

アイクは自身の状態に気付き慌てて無関心を取り繕った。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

時を同じくしてココの後ろを走る車にはレームとバルメがいた。

 

「で、どうよバルメ?」

 

「どうよ?と言われても。夜君のことですか?まだ再会したばかりなので何とも言えませんが。でも、少しは丸くなったんじゃないですか?」

 

「けど気配はさらに鋭くなった?」

 

「ええ、あの歳であんな気配は出せませんよ。」

 

レームは運転しながら火をつけた。

 

「へへっ、あいつ精神で言えば誰よりも異常だからな。ココが連れて来た時、『ありとあらゆる戦闘を教えてくれ』と言ったのはびっくりしたぜ。あの泣き虫のガキが妹亡くした瞬間に冷徹なソルジャーになりやがった。」

 

「そして、私達の訓練を泣き言一つも言わず、涙目すら見せず無表情でこなしていった。大人と同じメニューですよ?むしろ辞めさせるためにより厳しくしたのに逆にメキメキと強くなりました。レームは今の彼に勝てますか?」

 

「無理だな。魔法なしならギリギリ勝てるが、魔法使われたら手も足も出ねぇよ。」

 

「即答ですか・・・しかし私もです。彼の近接格闘のレベルは私やチェキータの域まで迫っています。魔法近接格闘なら完全に抜かれてる・・・ってレーム!タバコつけないでください!」

 

いつの間にか車の中を充満していた煙にバルメが咳き込む。

病気というわけではなく単に彼女がタバコ嫌いなだけだ。

 

「はいはい・・・ん?」

 

レームは仕方なく火を消した。

すると後ろにいた2台の車がレームの車を追い越して行った。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

アイクもレーム達を追い越した車の存在に気づいていた。

 

「ココ、質問。」

 

「フフーフ♪バストでもヒップでも何でも教えてしんぜよう清夜隊員。」

 

「ここの尾行者の扱いは変わってないよね?」

 

「そりゃもう!相も変わらず先手必勝!一撃必殺!」

 

バババッ!

 

アイクは車のサンルーフから体を出すと何の前触れもなくアサルトライフルを後ろの車に発砲した。

 

「ちょっ!?清夜!」

 

ココは驚きの声をあげた。

だがアイクは気にもとめず今度は後ろのの車に「マリオネット・ジャック」をかけ、同じく後ろを走っていた2台目の車に激突させた。

 

キキィー!!バゴーンッ!

 

車は案の定ブレーキをかけるが間に合わず勢い良く激突、最後にエンジン部から爆発し、2台とも盛大に吹き飛んだ。

無差別テロではない。

よく見ると車の運転手は迷彩服姿にヘルメットを着用した兵士だった。

尾行していたのか。

例えそうだとしてもココには文句があった。

 

「ちょっ!撃つならちょっとは予告してくれないかな!?というか尾行いるなら言ってよ清夜!お姉ちゃん危うく漏らすところだったよ!」

 

ココにしては珍しく涙目で訴えた。

先ほどのラスボス感はどこへやら。

仕事が出来るんだか、出来ないんだか。

そんな呆れ声は喉元で堪えてアイクは忠告した。

 

「・・・だって今さっき気付いたし。それよりも準備して、そろそろ今の斥候より強い本命がくるはず」

 

するとさらに後ろから中型のバンと普通車両がココとレームの車の間に割って入った。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月5日 東EU クロアチア 内務省

 

斥候を送った張本人、つまりは先程の電話の男もその様子を電話をしながらモニターで見ていた。

 

「まさかアイザック・ウェストコットまで現れたとは・・・あぁ、彼等の貨物は俺が止めた。さっき言った通り、睨み合いという平和をぶっ壊す危険な代物なんだ。」

 

その手には貨物の中身が書かれたリストが握られている。

 

「中身か?あれはな我が国の主力戦闘機3個飛行隊分の改修化高機動パッケージだ。周辺諸国との空軍力を均等化させるほどの品物だ。君なら分かるだろう?()()()()()()()()()()今、空での戦闘で物言うのは戦闘機の力だ。いままで両陣営で戦争にならなかったのは我が国の空軍力が劣っていたからだ。」

 

モニターに映るアイクは敵普通車両を倒した。

これはこの男にとって戦況が段々不利になってるということだった。

 

「もし、あれが空軍の手に渡れば我が国だけでも君の国だけでもない。東西EUで大戦争になる。最悪、その流れで()4()()()()()()にまで発展してしまう。」

 

ミスしてはならない。

この戦いは世界の行く先がかかっていると言っても過言ではない。

だから他国の人間にも頼らなければならない。

 

「警察は介入させてない。俺が部隊を投入させたからな。別ルートでも確保に向かっているようだがそっちは・・・そうだ彼等の()()が対処する。・・・仕方あるまい。今は力があるなら企業にでも頼らなければならないんだからな。」

 

電話の相手が男に提案した。

 

「そうか、君も動いてくれるか。あぁ、今回の活動については俺が上に言っておく。」

 

男は最後に映画でよく聞く名前をつぶやいた。

 

「頼んだぞ()()()君。」




というわけでいかがでしたか?
なんか最後にヤバげな名前出たけど気にしな〜いww
ヨルムンガンド原作よりヨーロッパやばいけど気にしな〜いww


今、私は現在卒業制作関連でまた忙しくなってしまいましたが
原作次回予告読んでから『魔法科高校生の劣等生』熱がさらに上がって上がって止まりません。
第4次世界大戦の兆候とか・・・超望んでいた展開になりそうです。
次回が待ち遠しいです。


次回予告!!

貨物に着々と近づく清夜達。
だがそれは東西EU戦争、ひいては第四次世界大戦までのタイムリミットが近づいてることでもあった。

清夜は大戦争を引き起こすつもりなのか!?

そして、世界の危機にあの男が清夜の前に立ちふさがる。

お楽しみに!


「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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44話 超電磁砲

どうもお久しぶりです。
忘れた方は改めて始めまして。
卒業制作がまるで終わる気しない・・・
というわけで44話です!

タイトルでオチが読める?
そんなことよりも久しぶりにlost zeroやってたら桜井水波が追加されててびっくりした。
後、めっちゃ可愛いかった。

前回までのあらすじ
クロアチアでココと再会した清夜。そこで彼女に己が抱える矛盾を指摘される。しかし、そんな時でもトラブルはやってくるもので清夜はクロアチア内務省の中央税関保安隊と戦い始めるのであった。


2095年 5月5日 東EU クロアチア 高速道

 

時刻は夜と言えるほどの時間になった。

日は完全に暮れたのにも関わらず未だ妨害を止める気配はない。

 

バババッバババッ!キキキンッ!キキキンッ!

 

「面倒ですね、あのバン。硬い上に反撃もウザい。」

 

バルメはアサルトライフルで割り込んだバンに攻撃する弾は貫通しない。

運転しているレームもその硬さが理解できる。

 

「防弾、それもアサルトライフルの弾をも防ぐスペシャル仕様か。」

 

「このままだと前にいるココが挟み討ちにされてしまいます。」

 

「だろうよ。脇から抜こうにも障壁魔法できっちりと塞いでくる。」

 

バルメはサンルーフから降りてナイフを取り出した。

 

「では車をバンの隣ピッタリにくっつけてもらえますかレーム?」

 

「あ、あのさ。話聞いてた?」

 

あまりの無茶ぶりにレームは思わず苦笑いを浮かべた。

 

 

一方その頃、ココ達にも新手が迫りつつあった。

 

「ココ姉、左、高速道入り口から」

 

「なに!?」

 

キキィーッ!ドゴンッ!

 

「「っ!?」」

 

左車線から現れた一台の車はココ達に体当たりを仕掛けた。

車は軍用のハンヴィー。

ブランシュに攻めいった際に乗ったのと同じ型だ。

中には同じ軍服、しかし今までの輩とは気配が違う男達が数人いる。

 

「ハ〜イ!港までお兄さんと楽しいドライブしようぜ!」

 

ココは彼等の腕についてる部隊証が見えた。

 

「ボスホート6!?」

 

「内務省の暗部部隊まで動き出したか。やり手だな、あのオッさん・・・」

 

清夜は放出系ではなく、BS魔法で電撃を放った。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月5日 東EU クロアチア 高速道

 

 

レーム達は勝負に仕掛けた。

車をバンの右に並ぶように走らせる。

当然、障壁魔法で止められそうになった。

しかし、

 

パリン!

 

「障壁が!?」

 

レームの術式解体が障壁魔法を打ち消した。

 

バンッバンッバンッバンッ!

 

レームはそのまま運転席から射撃をしながら車体をバンに寄せた。

だがレームに出来たのはそこまで。

バンはすぐに加速しレームの車を抜いて再び後部から射撃する。

バンにいた男達にとって肝が冷える反撃だった。

 

「あ、あぶねぇ・・・」

 

「気を抜くな!今度は後ろに釘付けにするぞ!」

 

一見、レームの攻撃が失敗したように見える。

先程、「レームに出来たのはそこまで」とも言った。

けど、()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ヒュッ!

 

「「えっ・・・」」

 

後ろのドアに隠れながら射撃する二人の間に風が吹いた。

振り返ると後ろにナイフを構えたバルメが。

彼女はこう吠えた。

 

「ガウッ!!」

 

ジュパッ!

 

シマウマ(男達)ライオン(バルメ)に喰われた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月5日 東EU クロアチア 市街地

 

「後ろのレーム達は追っ手を倒したようだよ清夜。」

 

「へ〜。で、こっちはというと撃ってこなくなったと。」

 

ココ達は高速道を降りて、市街地の一方通行の一本道を駆け抜けている。

無論、後ろのハンヴィー付きで。

両サイドには古き良き西洋建築のアパートがズラッと並んでいた。

 

「ねぇねぇ、さっき『ココ姉』って呼んでくれたよね?呼んでくれたよね?いやぁ〜やっぱ『お姉ちゃん』って響きはいいな〜。仕事の時でも100回ぐらい聞きたいな〜」

 

ただ一つおかしな点をあげるならアイクが言ったようにサンルーフから体を出している男が撃ってこなくなったことだ。

一般市民の被害を恐れたのか?

だったら初めから高速道でドンパチなぞ始めない。

その答えはニューロリンカーによって示された敵の発動しようとする術式が教えてくれた。

 

「ココ姉!スピードあげて!『プロミネンス・カノン』だ!」

 

「な!?」

 

ココがピンチな表情なのも無理ない。

この術式は収束・振動系加速魔法でエアブリットで作られる圧縮空気弾の着弾の際の空気開放時に振動系加速で空気を急速加熱、その時に生じる空気の膨張で爆風を巻き起こす戦術クラスの魔法だ。

着弾時の急速加熱が難しいため使えるのはAランククラスの魔法師だが威力は充分すぎるほどある。

 

「あばよ嬢ちゃん。あの世まで吹っ飛びな!」

 

「っ!」

 

バシュッ!

 

圧縮された空気弾が弾丸以上の速さで飛んだ。

当たれば戦車も吹き飛ぶほどの、少なくとも転倒するほどの爆風。

また当たらずとも空気を生身で浴びれば全身火傷でショック死するほどの熱風。

この場で発動させれば建物への二次被害も免れない。

というより、狙っているのだろう。

例え外れても、建物の倒壊などで足止めできるよう。

 

 

弾が車に当たり、膨張した爆風に飛ばされる・・・はずだった。

 

「な、なぜ・・・爆発しない!?」

 

「・・・」

 

しかし圧縮空気弾はココ達の車に当たることなく、なおかつ何処かに当たり爆風になることもなかった。

 

 

何が起きたのか。

原理としては難しいことではない。

魔法の相殺。

これは魔法科高校以前に魔法師を目指す小中学生が魔法塾で習う事だ。

物理現象を改変する魔法によって引き起こされる現象は改変されているものの、あくまで物理現象である。

だから、それに対し反対の効果を起こす魔法を発動することで改変された結果同士が互いに相殺され敵の魔法を無効化できるのだ。

移動系の『ランチャー』で飛んできた物に反対方向に加速魔法をかけることで止めることが出来るのが分かりやすい例だ。

今起きたことで言うならば空気弾の弾道上に発散系魔法を使い空気を減圧させる壁を置くことで弾が通った時に互いに魔法式の定義を維持できなくさせエラーを起こさせたのだ

もちろん、エラーになれば着弾することもなし、着弾しなければ急速加熱出来ないし、爆風を起こすことも出来ないというわけだ。

ただ実践することは簡単なことではない。

弾丸以上の速さで飛ぶ空気弾が当たるより早く正確に魔法を発動させなければならないからだ。

『プロミネンス・カノン』を扱える敵の技量さることながらアイクの技量も並外れたものだった。

 

「敵、次弾発動までおよそ20秒」

 

「大丈夫、もう彼らはCADを動かせない」

 

それは敵もすぐに気付いた。

 

「ちくしょう!もう一度・・・なっ!?CADが反応しない!?」

 

「こっちもだ!」

 

アイクの『CADジャマーフィールド』

一定範囲内にあるCADに対し電気的干渉をする魔法。

これによりCADの電気信号を妨害されているのだ。

アイクはトドメにある物を取り出した。

ココがそれを見て疑問符を浮かべる。

 

「コイン?一体何を・・・」

 

アイクは指でコインを弾き上げた。

そしてコインが彼の手元に落ちて戻ると・・・

 

「!?」

 

コインはオレンジ色の残光を放ちバンを突き貫いた。

詩的に表現するのなら光の槍。

音もなく光の残像の尾がアイクの親指から伸びていた。

 

バァァンッ!ドカァンッ!!

 

一瞬遅れて轟音、そのまた次の瞬間にはハンヴィーの爆発音が響いた。

まさしく雷のような一撃。

 

「『超電磁砲』。コインをローレンツ力で加速して音速の三倍以上のスピードで撃ち出す。俺が開発したBS魔法の新しい応用の一つだ。」

 

「ちょっと・・・威力強すぎない?あと耳が少し痛い・・・」

 

「威力だけでいうなら粒機波形高速砲(メルトダウナー)をも凌ぐ。これでも、かなり手加減してるんだ。射出速度に制限はないし、コインじゃなくても同じ素材なら大きい物でも撃てるからもっと威力は出る。本当は戦略級魔法なんだよ。」

 

「の割には射程が短いけど。」

 

「空気摩擦の関係で50mでコインが溶けちゃうんだよ。けど破壊力、携帯しやすさを合わせて考えるとこれぐらいがちょうどいいんだ。」

 

「まったくウチの弟の応用力ときたら、困ったもんだよ。」

 

「優秀な弟分に喜んでよ。」

 

二人は拳と拳をぶつけて勝利を喜んだ。

そうして片付けを終えたアイクはサンルーフから後部座席に座る。

 

(こいつを使う機会はなかったか・・・)

 

アイクはポケットに忍ばせていた試作デバイスを握りしめた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

敵との交戦終了から数分が経った。

車は一本道を右に十字路を右に曲がる形で出た。

 

「ん?」

 

ふとアイクはバックミラーに写るアストンマーティンが見えた。

アストンはアイクたちと同じ右に曲がる形で現れ、後ろからついてくる。

別に外国だし、ここは一般道なのだからアストンの一台や二台いることはおかしくない。

だがアイクはこの光景に違和感を感じた。

 

「どったの清夜?」

 

(いや待てよ!?。さっきの一本道はどこかで合流できる交差点はなかった。なのに同じ十字路を同じく右に曲がる形で現れた!?ありえるのか・・・いや!来れるはずない!てことは!)

 

そう、来れるはずないのだ。

一本道の途中には明らかに事故ではない要因で大破したハンヴィーが道の邪魔をしている。

普通の人間ならば車の爆破で道が燃えている中を追い越すことは出来ない。

仮にぴったり付いてきていたのならアイクは先ほどの戦闘で気づいている。

火を消したにせよ、ついて来たにせよ追いついてくる以上、後ろの車は間違いなく()()を使っている。

つまりは

 

「ココ!後ろのアストンに警戒!敵だ!」

 

ババババッ!

 

アイクが言ったのとほぼ同時、後ろの車のエンブレムから機関銃が出てきて発砲してきた。

 

「ココ!無事!?」

 

「つぅ・・・清夜のおかげでなんとか。いつの間にあんなのがいたの?」

 

弾は数発ほど当たっているものの、ほとんどが電子の盾によって溶け消えてた。

改造車は発砲をやめるが依然として追いかけてくる。

 

「分からない。とりあえずスピードはこのままで。ツラれて上げたら転ばされて終わりだよ!」

 

「わかった!」

 

ババババ!

 

アイクは再びサンルーフに登り、アサルトライフルでアストンに攻撃した。

だが車には傷一つつかない。

 

「機関銃といい、たかが一台に金かけている・・・うぉっ!?」

 

バサバザバサ!

 

周りにいた鳥達が突如、アイクに群がってきた。

しかも、それだけではない。

クチバシで突ついてくるのだ。

アイクは堪らず、中に入ってサンルーフを閉じた。

 

(鳥達か襲いかかる!?偶然じゃないよな。でも4系統8種の魔法じゃ鳥を操るなんて・・・)

 

ドン!

 

車の天井から音が響いた。

 

「清夜!乗り移られた!」

 

「この距離を飛んだっていうのか!?」

 

ココの話は俄かに信じがたいものだが見ると後ろにあった車はどんどんスピードが落ちて離れていた。

運転席に誰もいない状態で。

 

「ココ!手で頭抑えて!」

 

そうと分かったら、もう迷っていられなかった。

車の天井はアサルトライフルすら防ぐ防弾仕様となっていたが魔法で威力を高められれば紙切れ同然。

電子や水銀、磁力の盾で防げる保証ないし、敵の力量、距離を考えると発動が間に合わないかもしれない。

相手が魔法師の可能性があるならば 、この場はココを抱えて車両放棄が最善だった。

 

バンッバンッ!

 

外に脱出すると銃声が二発鳴った。

ハンドガンではあったが案の定、防弾仕様の天井を撃ち抜いていた。

アイクはココを庇いながら距離を取った。

 

「お前がアイザック・ウェストコットだな?」

 

その時、初めて敵の顔が見えた。

年は清夜と同じくらいの白人。

顔は二枚目だが無愛想で近寄りがたい印象。

スーツ越しで分かりづらいが恐らく、鍛えている体格だ。

例えていうならば白人の司波達也だ。

アイクは兵士ではなく武器商として振舞った。

 

「人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗るってママに教わらなかったかい?」

 

「その悪党じみたセリフで充分だ。」

 

ババババッ!

 

男が拳銃を二人に向けた瞬間、進行方向反対からアサルトライフルの弾が男に向かって飛んできた。

 

「っ!」

 

「二人共乗ってください!」

 

向くとバルメとレームを乗せた車が走ってきた。

車は敵を牽制しながらアイク達の前で止まった。

ココが乗り、アイクも乗ろうとすると

 

「Impedimenta!(妨害せよ!)」

 

「グオッ!?」

 

バゴーンッ!

 

男が叫んだ直後、アイクは建物側に突き飛ばされた。

すぐにココが手を伸ばす。

 

「つかまって!」

 

「三人共構うな!行け!」

 

「チィッ!」

 

キキキィ!

 

アイクが叫ぶとレームは悔しそうな顔しながら車を走らせた。

同時に周りの家に明かりが灯り始める。

どうやら暴れすぎたようだ。

アイクは敵との距離を保ちながら人がいない骨組み状態のビル建設現場に移動した。

 

「君、クロアチアの人間じゃないね。どこの国の諜報組織だい?」

 

ババババッ!

 

二人はビルに登り、鉄骨の上で死闘をひろげた。

 

「この国の人間じゃない?諜報組織?そんな証拠どこn・・・」

 

「背広姿の軍人なんてこの世のどこにいる。」

 

「チッ・・・」

 

パンッパンッ!

 

男の目つきが鋭くなった。

怯まずアイクは続けた。

 

「それにこの国で我々と敵対しているのは内務省だけ。そしてクロアチア内務省は他省庁との力関係上、諜報組織を持てない。となると必然的に他国の諜報組織になる。」

 

「べらべらとよく口が回るな。語るなら懺悔の言葉にしろ!」

 

バンッバンッ!

 

敵は拳銃で発砲。

アイクはよけながらも磁力の盾で銃弾を止めた。

どうやら魔法で威力を高めているものの電子や水銀、磁力で防げないほどの威力ではないようだ。

だが魔法の種が分からない。

それでもアイクは精一杯、余裕の笑みを取り繕う。

 

「いや、もうお喋りは充分できたよ。()()()()()の工作員君」

 

アイクはあえて日本政府の呼称で呼んだ。

 

「ちっ・・・だから通信の方法は改めるべきだって言ったのに。発信元バレてるぞ。」

 

アイクに言ったのではない。

敵は通信している相手に言ったのだ。

もちろん通信相手も無能ではない。

通信は海外のサーバーをこれでもかというくらいに経由させダミーの発信元も大量に用意した。

一流のハッカーでも気づかれないように探すには月単位の時間が必要だ。

それをアイクは『マリオネット・ジャック』でいとも簡単に見つけてしまったのだ。

 

「これでも時間はかかったほうだよ。普段ならすぐに見つけられるのに今回は時間稼ぎが必要だったんだから。」

 

「同じ時間稼ぎは通じない!」

 

シュ!シュシュッ!ドゴッ!

 

また話始めたアイクに敵は徒手格闘を仕掛けた。

拳銃が通じないのは先程の魔法で勘付いたのだろう。

だが拳だけでも充分強い。

アイクは最後に一発喰らって後ずさる。

 

「ぐぅっ!・・・この技量、まさか!?・・・」

 

「Incarcerous!(縛れ!)」

 

(魔法の発動媒体は恐らく音声認識型!ならCADジャマー・フィールド・・・っ!?)

 

魔法発動の兆候を感じてアイクは自身の感覚を疑った。

CADジャマー・フィールド内でCADによる魔法は不可能。

だが実際には魔法が発動し、現場に落ちていたロープがひとりでに動きアイクの首を締め上げた。

 

ギィィィィッ・・・

 

「グッ!・・・っ!・・・ぁ!」

 

誰かが持って引っ張ってるでもないのにロープの締める力は次第に強くなる。

苦しさのあまりアイクはアサルトライフルを捨て首に両手を伸ばすが解ける気配もなかった。

 

「花は用意できなかったが手向けとしてコイツを用意してやった。受け取れ。」

 

男の袖から出てきたのは一振りのナイフだった。

男はアイクの心臓目掛けナイフを突き出した。




途中からオリジナルの展開となりました。
途中からオリジナル展開です。
ボスホート6が対戦車ミサイルの代わりに使った魔法もオリジナルです。
秘密情報部の敵の魔法はアレですよ・・・アレ・・・国繫がり的な意味で斬新かなと思って・・・
面白いかはともかく・・・

次回予告!

別働隊で動いていたエレン達に謎の部隊が襲撃。
クロアチアの港町の戦いはより熾烈を増していく。
清夜は運命は一体!?
そして清夜の敵と敵の使う魔法の正体とは!?

次回をお楽しみに!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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45話 007

なんかここ数回、投稿するたびお久しぶりって言ってる気がします。
本当に申し訳ないです。
今、この次の章を書いているのですが全く書けない。
原作改変はともかく世界観そのままにオリジナルは難しいです。

前回までのあらすじ
ボスホート6を新魔法で撃退したココと清夜。しかし、すぐに新たな刺客が現れる。清夜はココを逃すも刺客に追いやられ、そして今、清夜の首元にナイフが迫る。


2095年 5月5日 東EU クロアチア 港 コンテナ置き場

 

『こちら狙撃班。進行方向のB区画に敵影は見当たらねぇ。けど、ここから東にある住宅街の方で爆発を確認した。姉御(バルメのこと)達かな?』

 

ルツがそう呟いたのはちょうどアイクがボスフォート6を倒した時だった。

エレン率いる別働隊は妨害らしい妨害は受けずDEMの貨物が置かれている倉庫近く、このコンテナ置き場に来れた。

特にどちらが囮になると決めてるわけでもないので予定通りと言えば予定通りだろう。

 

「ルツあんまり余計なこと喋るなよ。傍受されてないとは限らないんだから。」

 

『分かってんよアール。』

 

現在、部隊はウゴを車で待機させ、狙撃手を知覚系魔法を使えるルツ、今回に限り観測手のマオでペアを組ませ後衛、それ以外は前衛という形だ。

普段ならワイリに観測手をしてもらうのだがこれには理由がある。

 

「傍受されてるとしても敵と遭遇しなければいいんですが・・・ん?」

 

フラグというやつだろう。

エレンが先頭で歩いているとワイリが肩を掴んで止めた。

エレンもエレンで危険を感じ取り暗号通信の強度を最大限に上げた。

 

「やはり、この奥ですかワイリ?」

 

「ええ、この奥にあるC区画、爆弾といった罠はなさそうですがアンブッシュ(待ち伏せ)臭いです。」

 

ワイリを前衛に置いたのはこのためだ。

彼は以前に書いた通り、FBIのブラックリストに入るほどの爆弾魔。

素人の爆弾トラップなら、すぐに仕掛けた場所が分かってしまう。

そして爆弾の罠の位置が分かってしまうなら敵の待ち伏せ位置も分かってしまうのが道理というわけで。

つまりはアンブッシュ対策としてワイリを前衛として置いていた。

エレンは手信号で静止を皆に伝えた。

 

「分かりました。では先制攻撃で不意をつきましょう。こちらNameless1、情報部聞いていましたね?」

 

『はい、監視衛星からの航空画像を皆さんのデバイスに送ります。』

 

すぐに会社本部から航空画像が届いた。

画像を見る限り人影は見えない。

だが適正さえあれば光学迷彩の魔法で姿を消すのは造作もないはず。

ワイリはデバイスに届いた画像を見て、ペン機能で円を描く。

 

「多分、こことここ・・・あとここに隠れてるぽいな。」

 

「流石。小型のサイオンレーダーで調べたけど予測とぴったりだ。魔法力は測れないが予測地点にそれぞれ5人ずついる。あと対赤外線スーツは着てないみたい。赤外線スコープでも見つけることが出来るな。」

 

トウジョがサイオンレーダーの画像を皆に回した。

言った通り15人のサイオン反応、反応具合から見てただの兵士ではなく恐らく魔法師。

装備は分からないがここまで分かれば問題はないだろう。

 

「たぶん赤外線スコープ使わなくとも奇襲ダメージを与えれば光学迷彩の魔法がとけて姿が見えるはずだぜ。それよりも総隊長殿・・・」

 

「先制攻撃をどうするか、ですねエコー?」

 

エコーは無言で頷いた。

 

「エレンさん。いっそのこと砲撃で攻撃してみるのはどうっすか?」

 

「隠密作戦が好ましいですが爆発があった以上、それでもいいかもしれませんね。」

 

ホウの進言にアーキンが同調した。

エレンが見た限り、エコーを始め他のメンバーも賛成のようだ。

無論、エレンも同意見だ。

 

「マオ、これから座標を送ります。魔法で砲撃を」

 

『座標・・・届きました。砲撃準備に入ります。』

 

「では砲撃後、私以外の前衛はスリーマンセルで各ポイントに攻撃を仕掛けてください。ワイリはアール、トージョと、エコーはホウ、アーキンとで頼みます。私は単独で仕掛けますので後衛の二人は砲撃後、狙撃で私の援護をお願いします。」

 

「「「『『「「「了解」」」』』」」」

 

全員が臨戦態勢にはいった。

それを確認したマオがカウントを始める。

 

「『エアブリッド』の最大出力でいきます。Drop・・・Ready・・・Now!」

 

ドコーンッ!!

 

上空で固められた圧縮空気弾・・・いや圧縮空気砲弾が3つのポイントに炸裂した。

同時に各チームが動き出す。

各々ポイントにつくと予測通り敵の姿が顕になっていた。

 

パパンッパパパパンッ!ズパァンッ!

 

「グァッ!」

 

「ガブァッ!」

 

敵の抵抗はほとんどなかった。

砲撃を喰らってまともに動けなかったからだ。

敵は銃、魔法で次々と撃たれ、斬り落とされてった。

 

「クリア、損害0」

 

「クリア、同じく0」

 

「クリア、損害なし」

 

2分後には悲鳴も聞こえなくなり、クリアリングの声だけが虚しく響いた。

エレンは切り離した死骸の顔を投げ捨て、確認を終える。

 

「オールクリア・・・ですね」

 

『マオです。終わったなら確保を急いだほうがよいのでは?警察が来ますよ。』

 

「いえ、その心配はないです。先ほどの爆発があったのにも関わらずサイレンの音一つも聞こえません。たぶん警察は介入できない状態なのでしょう。警備やセキュリティに関しても待ち伏せしていた彼らが排除していると思います。」

 

言われてみるとサイレンの音も警報の音も全く聞こえない。

そう考えた時、アールは思い出したかのように敵の顔を持ち上げた。

 

「そういや結局、何者だったんだコイツら?」

 

『クロアチア内務省じゃねーの?』

 

ルツの指摘はもっともだ。

だがトウジョの見解は違った。

 

「いや、それにしちゃ装備が良すぎる。うちの警備部門のトップと同じくらいの最新装備だぞ。」

 

「お、部隊称発見っす。名前は・・・ないっすね・・それに薔薇とドクロ?見たことも聞いたこともない部隊称っす。」

 

「薔薇?もしかして・・・!!。エコーこいつの匂い嗅いでみろよ」

 

薔薇と聞いてワイリが突然、死骸の匂いを嗅いだ。

エコーも揶揄いながら匂いを嗅いでみる。

 

「なんだワイリ、そういうフェチズムに・・・ん?薔薇の香り、いや香水か」

 

キツイというほどではない。

本当に女性が軽くつけるくらいの薄い、けど印象に残るような優しい薔薇の匂い。

エレンはそれでワイリの予想が分かった。

 

「『Rosen Reaper』・・・薔薇死神・・・」

 

「「「!?」」」

 

名前を聞いた途端、エレンに視線が集中した。

皆、仕事柄その名は知っているからだ。

ワイリだけは頷いたが他の皆は戸惑った。

 

「待ってくれ、それって・・・」

 

「トージョの考えてる通りですよ。我々と魔法機器業界1位を争う『ローゼン・マギクラフト』、その私設部隊です。」

 

「『戦場で薔薇の香りを嗅いだ者、生きて帰れず』で有名な根も葉もない噂話でしょう!?」

 

業界では知れ渡っている噂話だ。

だが、これを誰にそれを語ることができる?

その香りを嗅いで結果的に死んでしまうのなら誰にもその事実を伝えることは出来ない。

『その幽霊を見て生きて帰れた人間はいない』という怪談話と同じだ。

 

「実在しますよ。スターズ時代、NSAから彼らの香水のサンプルを嗅がせてもらいました。その時に嗅いだのと同じ香りがします。確か敵味方識別の手段の一つとして香水をつけているとか」

 

「だとしても、なんだってドイツの会社が・・・」

 

アーキンがそう言いかけた時だった。

ルツの知覚系魔法に何かが引っかかった。

 

『1時の方向から強化スーツ着た奴らが迫ってきてる!数は2・・・いや、5!奴ら早い、それに・・・』

 

ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ルツの言葉は最後まで聞けなかった。

全員の通信機にノイズに走り、聞こえなくなったからだ。

通信が出来ないとなると出していい指示は一つしかない。

 

「総員先程のチームで散開!エコー!私の権限でAMS-04の使用を許可します!」

 

カラン、コロロ・・シューーーー

 

エレンの大きな掛け声とともにスモークが撒き散らされた。

全員は言われた通り武器を構え散開する。

数秒後、各チームの目の前に敵がその姿を現した。

数は言われた通り合計5人。

ワイリ達とエコー達にそれぞれ一人ずつ。

そしてエレンには3人も現れた。

敵の姿にトージョはボヤく。

 

「見るからにヤバそうなのが来やがったぞ。おい!」

 

薔薇の香りは同じだが殺した男達とはあきらかに武装が違った。

服は一見、ライダースーツのようなツナギ。

しかし要所を守るようにプロテクターが組み込まれていて軽くて強度もありそうなイメージだ。

頭もヘルメットに顔も分からないぐらい全部覆われていて、しっかりガードされている。

だが何よりも特徴的なのは()()()()()()()()()()()()()()()()ことだった。

 

「死ね雑魚共。シュトライトコルブン(槌矛)!」

 

ワイリ達を相手する敵が叫ぶと、拳にサイオンが集う。

敵はその拳でアールに向かって普通に殴りかかった。

 

「っ!!」

 

受け止めるという選択肢があったにも関わらず避けたアール。

その正否はすぐ後ろにあったコンテナが物語った。

 

バゴンッ!!

 

鈍い音をたて、砕けるコンテナ。

そう、凹んだのではない砕けたのだ。

パワーアシスト、魔法の補助を計算に入れてありえない強力な一撃。

もし受け止めていたらと思うと冷や汗が止まらない。

 

「アール下がれ!俺たちで援護するぞトージョ!」

 

「了解!」

 

ババババババババッ!!

 

ワイリとトージョは距離を取るアールを中心に左右に分かれて射撃する。

当たらずとも牽制にはなるはず

そう思ったのだが敵は避けるそぶりすら見せなかった。

 

「パンツァー」

 

キキキキンッ!

 

弾は全弾命中。

ただし全弾とも敵の体を傷つけることはなかった。

 

「音声認識型CADを使ったスーツに対する硬化魔法か。でもさっきのは」

 

「いいやワイリ。さっきのパンチも収束系の硬化魔法だ。」

 

「てことは強化人間の類か。三人相手に1人で来るんだから余程の自信があるんだろう・・・なっ!」

 

トージョは移動系魔法で敵を吹き飛ばそうと魔法式を展開。

 

「ハルト!」

 

対し敵は再び硬化魔法を発動。

今度は地面と自身の相対位置を固定し移動系魔法を相殺した。

 

「まだ無駄と分からない・・・っ!?」

 

カラン、コロコロコロ・・・

 

驚く敵の目に移ったのは強い閃光と音を放つフラッシュバン。

殺傷能力はないもののくらうと少しの間、目と耳が使い物にならなくなる。

だから今すぐ隠れるべきなのだ

 

(けど相対位置を固定してるから、すぐに動くことができない!くそっ!)

 

パッ・・・キィィィィィン!

 

閃光と音が目の前で放たれた。

 

「ぐぅっ!劣等種が!パンツァー!」

 

目には何も写らず、耳は自身の声すら聞き取れない。

それでも敵は敵なりに硬化魔法と情報強化で攻撃に備えた。

 

シーン・・・

 

「・・・?」

 

だがワイリ達からの攻撃は来なかった。

敵は視力が戻るとゆっくり瞼を開く

するとワイリ達はすでに目の前から消えていた。

 

「くそ!隠れてからの奇襲攻撃のつもりか。小賢しい奴らめ。」

 

予想通りワイリ達は全員同じコンテナの影に隠れていた。

 

「どうする時間稼いでエレンの救援を待つか?」

 

「普段の俺ならアールの意見に大賛成・・・だけど舐められてるぽいし、負けたくねぇな。で、何か良い案考えているんだが・・・ワイリ、どうした?」

 

トージョは1人コンテナを見ているワイリに声をかけた。

 

「2人とも手伝ってくれ、俺に考えがある。」

 

声は至って冷静。

しかしワイリの表情は爆弾魔の喜ぶそれと変わらなかった。

 

1分も経たぬうちに敵はアールの姿を捉えた。

敵はコンテナの上から襲いかかる。

 

「見つけたぞ劣等種供!」

 

「ちっ!自己加速で追いかけてきたか。」

 

「シュトライトコルブン(槌矛)!」

 

バゴンッ!

 

アールが避けることで再び砕けるコンテナ。

それなりに時間は経っているはずなのにサイオンの減少は感じない。

劣等種と言うだけの魔法師かもしれない。

だがアールも負けじと移動魔法を放った。

 

「吹っ飛びな!」

 

「同じ失敗はしない!」

 

敵は自己加速術式で加速し移動魔法から逃れた。

そしてその勢いのまま殴りかかる。

 

「やべっ!?」

 

「アール!」

 

反対からトウジョが現れ魔法式を展開する。

今度は敵ではなくアールに移動魔法をかけ無理やり避けさせた。

 

ドゴーーンッ!

 

加速で威力がさらに高まった拳はとうとうコンテナを砕くだけでなく中にあった小麦粉の袋まで破き、粉を撒き散らした。

 

「もういっちょ!」

 

アールは再び移動魔法で小麦粉の袋を動かし粉をさらに撒き散らした。

粉でアール達の姿は見えない。

目眩しでまた逃げるつもりか。

あまりのしつこさに敵はキレた。

 

「いい加減にしろ!貴様ら戦う気が・・・」

 

「HAHAHAHAHA」

 

バチバチ・・・

 

敵の言葉を遮ってワイリの笑い声が響いた。

その次の瞬間

 

ドカーンッ!!

 

「ガブァッ!」

 

轟音と供に敵は爆発をくらった。

硬化魔法で硬めた強化スーツでも流石に防ぐことが出来ない。

敵の全身に焼けるような感覚と爆発の衝撃が走った。

 

「な・・・にが・・・?」

 

ダメージが大きすぎて起き上がれない。

CADも完全に壊れている。

敵は分からなかった。

回りに爆発物はなかった。

それに爆発はしたが物が爆発というよりじぶんと周りが同時に燃え上がったような感覚。

これが意味する答えが分からない。

 

「粉塵爆発」

 

答えたのは物陰から姿を見せたワイリだった。

しかし、それでも敵は納得いかない。

 

「バカ・・・な。不可能・・・だ。あれは・・・漫画の、ように・・・簡単に、出来る、もの・・・じゃ・・・。それ、に・・・ここは・・・密室じゃな・・・い」

 

言う通り粉塵爆発は漫画や小説のように簡単な話ではない。

まず粉と酸素、これがちょうどいい塩梅でないと粉塵爆発は起きない。

粉が多すぎると燃焼するための酸素が足りなくなり、酸素が多すぎると燃焼が広がらなくなるからだ。

次に密閉された広い空間でないと威力が出ない。

これは爆発の圧力が逃げるだけでなく威力まで落としてしまうからだ。

 

「その不可能を可能にするのが魔法だろうが。」

 

「硬化魔法の使いすぎで収束系魔法の本質を忘れたみたいだな。」

 

アールとトウジョもコンテナの影から姿を現した。

 

「ほん・・・し、つ?・・・!!」

 

敵は気づいた。

粉塵爆発の正体に。

ワイリも敵が気づいたことに気づく。

 

「そう、収束系の本質は密度や分布の収束、拡散。これで酸素と粉の塩梅を調節し、圧力の拡散を防ぐ。あとは加速系で衝撃を加速させて威力を補えば密閉されてない屋外でも粉塵爆発を起こせるってわけだ。」

 

「く・・・そ。ブルグ・・・フォルゲ・・・改良・・・型である・・・この、私が・・・ファントム・・・アンツークを着た・・・この私がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

突如、動けないはずの敵が咆哮とともに起き上がった。

 

 

もしかしたらスーツである程度、防げていたからかもしれない。

もしかしたら強化人間としての自前の回復力ゆえかもしれない。

もしかしたら劣等種に負けたくないプライドと怒りゆえかもしれない。

 

 

敵は莫大なサイオンを撒き散らしながら襲いかかろうとした。

だが・・・

 

パンパンパンッ!!パンパンパンッ!!パンパンパンッ!!

 

「がはっ!」

 

抵抗むなしく・・・いや抵抗すら出来ずに倒れる敵。

ワイリ達は驚くこともなく容赦することもなく敵に鉛玉を浴びせたのだ。

 

「いくら強化スーツって言ったって、ここまで壊れれば拳銃も通るだろ。」

 

パンッ!

 

アールは最後に敵の頭を撃ち抜いた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ほぼ同時刻

エコー達の戦いも終わりを迎えようとしていた。

 

「ちょこまかと!いつの間にスーツを着たんだクソ!」

 

「こっちだぜ」

 

ババッバババッバババッ!

 

AMS-04を纏ったエコーがコンテナの上から現れ射撃した。

まだ貫通するほどではないが敵のスーツには少しずつダメージが溜まってきていた。

 

「ちっ!パンツァー!」

 

キキキキンッ!

 

敵は硬化魔法をかけ防御力を上げ弾を防ぐ。

するとエコーは射撃を止め、後ろにジャンプ。

そのままコンテナ裏に降りて敵の視界から消えてしまった。

 

「またか、待て!」

 

敵は自己加速術式をかけエコーが逃げたコンテナ裏に回った。

この速さなら()()()()、少なくとも逃げてく影くらいは見つけられる。

そう思っていたが

 

「い、いない!?」

 

コンテナ裏にはエコーの姿はおろか、逃げてく影すらなかった。

ほんの2秒前までいたはずなのに。

光学迷彩かと思うが・・・

 

「くっそ!どうなってやがる!?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

バババババッ!

 

「がっは!?」

 

今度はアーキンに後ろから撃たれた。

 

「ぐぅぅ・・・パンツァー!」

 

キキキキンッ!

 

敵は硬化魔法で防ぐ。

するとアーキンは同じく射撃を止めて視界から外れるように逃げていく。

奇襲をかけては逃げ、奇襲をかけては逃げ・・・

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

初めこそ敵は優勢だと思えていた。

何回かやれば必ず一人に追いつけて殺せる。

スーツ、自前の魔法、体の防御力なら余裕でこなせる。

あとはそれを繰り返すだけ・・・のはずだった。

だが現実には逃げたエコー達に追いつくどころか一人も見つけることが出来ない。

幻を延々と追いかけるような感覚だ。

 

「だったら・・・」

 

敵はとうとう追うのを諦め、コンテナの影ではなく視界の開けたポジションについた。

否、それは殺すのを諦めたわけではない。

敵は奇襲しようとするエコー達にカウンターをしかけようとしているのだ。

 

 

 

 

 

「さぁ、どこからでもかかっt・・・」

 

パンッ!!バキュッ・・・

 

バタンッ・・・・・・

 

 

 

 

しかし覚悟むなしく、敵は命を落とすこととなった。

俯けに倒れた死体からは血が滴り落ちて池を作ろうとしている。

死因はヘッドショットによる即死。

エコー達の手によるものではない。

射手からの距離およそ760m。

それも加速・加重系『ダブルブースト』の魔法で質量、速度を共に二乗にして高めた高威力射撃。

つまりはルツの狙撃だった。

 

 

バシュッ・・・

 

「ナイスショットだルツ。援護感謝だぜ。」

 

「この距離を一撃ですか・・・素晴らしい。」

 

「やっぱり、お嬢(ココのこと)のところは皆、強いッス。」

 

空気が抜ける音とともエコー達が何もないところから突然、姿を現した。

『AMS-04』やエレンの『ペンドラゴン』に備え付けられてる『熱光学迷彩』

()()()()()()()()()()()この迷彩が先ほどの戦い真実を物語っていた。

 

『まだまだレームのおっさんには敵わないけどな。こちらこそ敵の誘導サンキュー。にしても人間離れな連中だったな。』

 

どうやら敵を倒したことでジャミングが薄まったらしく、通信が届くようになったようだ。

 

「ま、確かに強かったですけど・・・」

 

「戦闘はともかく、戦術はまるで素人ッス。」

 

エコーは足で死体の頭をツンツンとつついた。

 

「三人に対し一人は無謀だし、普通はスナイパーを先に潰しておくもんだからな。それが全くなってない。」

 

『言われてみると最後のポジションなんかは「どうぞ殺してください」って言ってるようなもんだよな。』

 

「ようは遺伝子操作で超人になろうと戦術と技術がなければ、すぐ死んでしまうって話だ。それよりルツが援護するってことはエレンのとこは終わったのか?」

 

『もうじき終わるぜ。あんなの見たらスコープを覗く気にすらならない。」

 

ドォゥンッ!

 

直後、左手の方で白と赤の光線が轟音を響かせながら飛んでいった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

白と赤の光線が飛ぶ、少し前・・・

 

「たく、身体能力が高いから攻撃しないでデータ計測してあげてるのに・・・何ですかこの様は?」

 

「孫子曰く、『敵よりも多くの兵を集めよ』」なんて話がある。

戦略的視野で見れば、増援で来た『Rosen Reaper』はそれが出来ていない。

だが戦術的視野、つまりはエレンの所に限って言えば理に適っていた。

 

「はぁ、はぁ・・・」

 

「つ、強い・・・」

 

「これがDeus Ex Machina Industry・・・」

 

ただ相手が悪い。

敵は3人で襲いかかっているが戦闘服である『ペンドラゴン』を装備したエレンには効かないのだ

硬化魔法を使った物理的攻撃は装備の防御力と領域干渉で防がれ

エレンに直接干渉する魔法は全てエラーになってしまう。

無論、その間、エレンは一歩たりとも動いていない。

 

「『Rosen Reaper』・・・その中でも下っ端のようですね。無駄に警戒して損しました、」

 

「なん・・・だと!?『ローゼン・マギクラフト』の最高傑作である我々が弱いとでも言うのか!?」

 

「硬さが取り柄の魔法師なんて探せばゴロゴロと出てきますよ」

 

エレンはそう言うと体を軽く反らし、左背の武器を可変、脇の下から前方に伸ばした。

ランチャーのような形をしているが砲口のようなものはない。

だが敵はそれがヤバイものだと感じた。

 

「せめてもの情けです。一撃で終わらせてあげましょう。」

 

「なにか来る!!防御フォーメーション『フォートレス』!」

 

「「了解!」」

 

敵はトライアングルになるように固まると収束系魔法『フォートレス』を発動させた。

この魔法は『位置を固定する硬化魔法』、『分子の相対位置を固定して硬くする硬化魔法』、『肉体を不破壊化する硬化魔法』を組み合わせた硬化魔法の中でも難易度が高い魔法だ。

これを複数の魔法師の魔法力を掛け合わせて一つの魔法を発動させる『乗積魔法』という技術で可能にさせた。

おかげで『乗積魔法』もあいまって防御力は十文字克人の対物障壁魔法の域にまで迫っていた。

しかし・・・

 

「貫け!ロンゴミアント!」

 

ドォゥンッ!

 

エレンの魔法はそれすら上回った。

エレンの武器から放たれた赤と白の閃光は槍の如く、全てを貫き、消し去った。

当然、防御魔法を上回る攻撃がされれば防御魔法は機能しない。

敵はチリも残さず消滅、同じ射線上にあったコンテナには大きな穴が穿たれてた。

 

ロンゴミアント

エレンがそう名乗った白と赤の光線の正体は『荷電粒子砲』である。

もちろん質量兵器のような『荷電粒子砲』ではない。

魔法としての『荷電粒子砲』だ。

だから左背の武器も兵器ではなく、実はこの魔法専用のCADなのだ。

 

そもそも兵器としての『荷電粒子砲』はまだ実現出来ていない。

その理由としてあげられるのが主に2つ。

一つは直進させることが難しいこと。

これは外力による偏向、電荷による拡散、大気による減衰が原因とされている。

もう一つは加速器の問題である。

これは単純に荷電粒子を加速させるための電力、加速器の大きさが馬鹿デカいのだ。

 

ロンゴミアントではそれらを放出・加速・収束・移動系を組み合わせた魔法で解決する。

まず放出系で空気中の水素粒子を電離させ荷電を持たせる。

その次に馬鹿でかい電力、加速器を使わず代わりに加速系魔法で水素粒子を加速。

その後、射出する時に移動系魔法で軌道を定義し外力による偏向を阻止

収束系魔法で粒子の拡散を、加速系で大気による減衰を防ぎ発射する。

 

これにより直進させることが出来てかつ莫大な電力も馬鹿でかい加速器も必要ない『荷電粒子砲』が完成するわけだ。

 

もちろん誰にでも出来ることではない。

例えば加速させる過程。

いくら魔法といえど加速器並みに加速させるのは並みの魔法師では出来ないこと

強力な魔法力を持つ彼女だから出来る芸当なのだ。

 

「所詮は魔法機器メーカー。戦争のノウハウまではないようですね。いくら超人を作るノウハウがあろうと戦争を知らなければ粗悪品にしかならないというのに・・・」

 

これがエレン・M・メイザース。

四葉真夜と並ぶ世界最強の魔法師の一人。

少なくともローゼンの強化人間が敵う相手ではなかった。

 

「さて・・・アイクの方は大丈夫でしょうか」

 

エレンは最初に爆発があった方向を向いてそう呟いた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月5日 東EU クロアチア 高層ビル建設現場

 

その爆発があった方向ではアイクが命の危機に瀕していた。

日本呼称で言う「秘密情報部」所属ということ以外、正体不明の白髪の白人男性によって・・・

 

ギィィィィッ・・・

 

4系統8種の理論では証明できない、さらにはCADジャマー・フィールドが魔法妨害が通用しない敵の魔法。

その魔法によりロープがひとりでに動き、アイクの首を絞めていた。

アイクは銃を捨て首のロープを掴むが解ける気配はない。

 

「グッ!・・・っ!・・・ぁ!」

 

「花は用意できなかったが手向けとしてコイツを用意してやった。受け取れ。」

 

男は袖からナイフを取り出しアイク心臓目掛け突き出した。

油断も容赦もない、力強い一刺し。

刺されば必ずやアイクの命を断ち切るだろう。

 

 

その刺さるまでの刹那、男の瞳に()()が映った。

 

 

(この男、笑っている!?いや違う!!表情は笑っているのに目は笑っていない!?なんだこいつ!?)

 

今すぐにも刺さってしまいそうなのに

殺されてしまいそうなのに

 

 

アイクの表情は溢れんばかりの狂気を、瞳は絶対零度にも勝る冷たい殺意を浮かばせていた。

 

 

不気味だった。

見えたのは一瞬にも満たない時間だがその顔は千年経っても忘れそうにない。

その表情に男の背筋も凍る。

そして次の瞬間

 

ズパッ!!

 

「ぐっ!?」

 

アイクは()()()()()()()()()()()()()()

蹴り上げたのではない。

本当にアイクの足が男を斬ったのだ。

その証拠に間一髪で避けた男の左半身が浅くではあるがスーツごと縦に斬り裂かれている。

血を流しながらもすぐに間合いを取った男。

対しアイクはそれを追わず、代わりに締め付けるロープを指で軽く斬った。

 

「避けたか・・・私もまだ未熟だね。」

 

アイクの語りかける声は変わらない。

けど先程とはまるで気配が違う。

武器商でありながら数多の死地を乗り越えた熟練兵を思わせるような風貌だ。

それでも男は心の中で自分に喝を入れ対峙した。

 

「首に手を伸ばしたのはロープを解くためではなくCADを操作するためか」

 

「ご名答」

 

「分子ディバイター・・・ではないな。今のは空手の究極『化身刀(タケミカヅチ)』を魔法化させたものだな。」

 

「これまたご名答」

 

化身刀(タケミカヅチ)

言い方は色々あるかもしれないが

その名の通り鍛え上げた鋼の人体を一振りの”刀”にする空手の奥義だ。

手刀を始め、蹴りでさえ刃の斬撃にしてしまう現実にはありえない幻の技だ。

それをこの魔法では”鋼の体”を硬化魔法で、”刃”を『圧斬り』の応用させ全身に斥力場の刃を纏わせることで実現させているのだ。

 

(あの息も出来ないギリギリの状態でこれほど複雑な魔法を展開、なおかつ悟らせないように銃を捨て俺をおびき寄せた・・・か。死にかけの人間が考えることじゃない。)

 

「もう帰っていいかな?私はエレンほど強くないんだ。」

 

「・・・化け物が」

 

男は小さく吐き捨てた。

するとアイクはすぐに距離を詰め手刀で突いてきた。

 

「っ!Protego Totalum!(万全の守り)」

 

キンッ!

 

斬撃になっているため男は腕で防御はせず魔法で手刀を防ぐ。

アイクは攻撃をしながらもウンウンと頷く。

 

「なるほどね。魔法の発動はそのスーツに刻まれた刻印を使っていたか。」

 

「・・・」

 

この場での沈黙は肯定に等しかった。

見るとアイクが言うようにスーツの内側にうっすらと刺繍のような線が何本も刻印のように引かれている。

 

「それも詠唱型の古式魔法。ポグワーツの魔法だね。いやはや盲点だったよ。CADかと思っていたから精霊に気を配ってなかった。」

 

「・・・そこまでの分析力、戦略眼を持っていながら、どうしてこんなことをした?」

 

「何か勘違いしていないかな?私は社長だけど今回の件はココの担当だ。どうやら狙う標的を間違えてるみたいだね。」

 

「間違えてはいない。今回の件だって『王政の春』の延長線上にすぎない。だから『王政の春』の首謀者であるお前に聞いている。」

 

「・・・」

 

今度はアイクが無言で答えた。

その間も笑みは崩さない。殺意の眼差しは揺らがない。

男は『王政の春』について語り始めた。

 

「始まりはドイツ領の地方都市の小さな独立運動だった。ヨーロッパはUSNAなどと違い、第三次大戦前から独立、併合、革命の歴史があったからこの手の活動は他と比べれば一番多い。だが過去100年そのような活動が成就することは一度もなく、その地方都市の活動もすぐ下火になると思われていた。・・・しかし2年前、DEMがバックについたことによって全てが変わった。資金提供によりその独立運動はドイツ全土に拡大し、参加者が急激に増加、反対派の汚職も調べ上げてしまい、しまいにはその地方都市にかつて存在したリーゼルタニア王家の末裔まで発見、独立の大義名分まで手に入れてしまった。結果はもちろん独立賛成多数。こうして地方都市の小さな独立運動はかつてあったリーゼルタニア王国の復活という名目のもと独立を果たしてしまった。」

 

「めでたし、めでたし」

 

パチパチと手を叩くアイク。

だが話は終わっていなかった。

 

「そんなわけないだろう。おかげでEU各国で小王国の独立ラッシュ、EU経済は大混乱、両陣営はさらに溝を深めてしまった。今回の件だってその不安定化につけ込んだ軍備拡張だ。」

 

「それでもリーゼルタニア王国の国民は独立できて万々歳じゃないか。」

 

「何が万々歳だ。武器商がそんな善意で支援するわけがない。お前達はCAD開発に必要不可欠な『感応石』の採掘地域を他社から奪い取って独占するために独立とその後の産業、軍事、政権運営の支援者になったんだ。」

 

「・・・」

 

アイクは無言で続きを促した。

 

「そして王室や政府高官を掌握し、あらゆる政策から税率、身分保障に至るまで全てDEMの都合がいいようにして裏の支配者に成り上がった。こうして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()しDEMはヨーロッパでも2本の、世界でも5本の指に入るほどの規模の『感応石』採掘地域を手に入れたんだ。」

 

傍から聞けば、とんだ妄想だった。

だって信じられるだろうか?

大手企業の社長とはいえ、一民間人が国を手に入れる。

こんなものは漫画や小説の世界での話だ。

話を聞いただけなら誰も信じてはくれない。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

このことを知るのは先進国のVIPか諜報組織の人間だけ。

それだけ世界にとっては受け入れ難い事実だった。

もちろん、アイクは表向き認めはしない。

 

「ふふっ・・・顔の割に冗談がお上手のようだ。特に感応石あたりからのくだりはとても面白かった。小説にすればヒット間違いなしだ。」

 

そう言うとアイクは再び距離を詰め、手を伸ばした。

今度は手刀なんてものじゃない内臓をえぐり取るつもりだ。

 

「ああ、ここでお前がくたばれば感動のフィナーレだ。Finito Incantatem!(呪文よ終われ)」

 

「!」

 

バシィッ!

 

突如、今まで避けていた男がアイクの腕を掴んだ。

そしてアイクの驚く間も無く男は顔面に強烈な左ストレートをぶつけた。

 

ドゴッ!

 

「グボォッ!?」

 

小さな曲線を描いてぶっ飛んだアイク。

落ちそうになるがなんとか片手で鉄骨に捕まった。

だが、それでも、血反吐を吐いて落ちそうになってもなお、アイクの顔が歪むことはなかった。

物理的にも、精神的にも

 

「かはっ・・・へへ、はははっ!『化身刃』の術式を強制終了させたか!術式解体でも領域干渉でもない、ポグワーツならではの対抗魔法!素晴らしいよ。」

 

「いい加減落ちろ!」

 

「ハハハ、それは無理だ」

 

ブバァッ!!ブバァッ!!ブバァッ!!

 

蹴落そうした男に正面から3本の白いビームが飛んできた。

アイクの『粒機波形高速砲』だ。

 

「くっ!」

 

グラッ・・・ガシッ!

 

至近距離からの攻撃ゆえ防御魔法は間に合わない。

上半身を後ろに反らすことで避けた男だがその勢いでバランスを崩してしまい、アイクと同じ鉄骨で宙吊り状態になってしまった。

 

(ビームを出す魔法なんて聞いたことがないぞ!?まだこんな隠し玉を持っていたか)

 

アイクにとっては隠し玉というほどでもない。

使わないのは魔法なしでも戦えるようにするためでもあるが主な理由はアイクのBS魔法の対策をとられないためだ。

だから確実に殺せる見込みがある戦闘、佐渡防衛戦のような戦争、ハッキングといった電子戦、誤魔化しがききやすい防御などを除き、アイクはBS魔法の使用を控えている。

『砂鉄剣』といった電気を操っていると分かりやすい魔法は特に。

けど今回のような増援も期待できない状態で百戦錬磨のプロを相手にしてはそうも言ってられなかったのだ。

 

「これ以上の戦闘は私のプラスにならない。悪いがここで失礼させてもらうよ。」

 

「お前の都合など・・・!?」

 

ゴゴゴゴゴ・・・

 

大きな音をたて震え始める骨組みのビル。

下を見るとボルトの取れた鉄骨が外れ崩れ始めていた。

たまたまボルトが外れるわけがない。

『電気使い』のBS魔法だと分からずともアイクが犯人だというのは一目瞭然だった。

 

バキンッ!バキンッ!バキンッ!・・・

 

下の鉄骨が崩れることで負荷に耐えられなくなり、上の鉄骨も壊れ、崩れていく

その連鎖は彼らが捕まる鉄骨にもすぐに伝わった。

アイクはタイミングぴったりに手を離し、ポッケから新しいCADを取り出し魔法で浮遊する。

 

「フッ・・・」

 

「待て!Wingardium Leviosa!(浮遊せよ)」

 

鉄骨とともに落ちたボンドも負けじと鉄骨を踏み台にポグワーツの浮遊魔法で追いかけた。

浮遊魔法も『世界の修復力』の例にもれず無限に浮くことはできず、そこから上昇、ベクトルに逆らった移動などをすれば浮ける時間も短くなる。

だが男が使うポグワーツの魔法は現代魔法のとは違い、短くではあるが浮いたままある程度の移動ができ、浮遊時間も長い。

だから空中戦での分は男にある・・・はずだった。

 

「!?」

 

目の前ではアイクが落ちてくる数多の鉄骨を上昇しながら右へ左へと避けている。

浮遊魔法では説明できない現象だ。

答えは一つしかない。

 

「・・・飛んでいる!?」

 

「Good Bye 0()0()7()♪」

 

最後はボンドに軽くウインクして飛び去ったアイク。

See youではなくGood Byeなのは二度と会いたくないという意思表示だろう。

 

「逃すか!Expecto・・・」

 

男は着陸して魔法式を展開しようとしたところで通信が入った。

発信元は日本呼称で言う「秘密情報部」、つまり()()()()()()()()()()、通称『M()I()6()』の女性の上官からだった。

 

『作戦終了よ0()0()7()。』

 

「"M"か。まだ敵を仕留めていないぞ」

 

MI6は英国の情報組織。

一度は『SIS』という名前に変えたもののイギリスの連邦崩壊後に名前を戻した。

その諜報員はUSNAの『CIA』、新ソ連の『KGB』に劣らない優秀さだ。

特に『00セクション』と呼ばれる部署のエージェントは国から『殺人許可証』を貰うほどの実力者でありMI6の中でも群を抜いている。

まさしく”殺し”においては世界最高峰の組織。

Mと呼ばれる女性はその長官だった。

 

『いいえ、もう彼らは荷を取り返したわ。』

 

「荷を届けさせなければいいんだろ?奴を抑えればまだ間に合う。」

 

男ことボンドは跳躍の術式を用意する。

けれども今はもうそういう段階ではなかった。

 

『貴方も今の術式を見て分かっているでしょう。EUの大戦は暫く起きない。つい先程、アイザック・ウェストコットが()()()()()()()()から。』

 

()()()()()()()・・・か。どこのどいつだったかな?魔法をキャンセルさせれば空飛べるとかほざいた国の研究者は。仕組みは分からないが領域干渉は使ってなさそうだ」

 

『その研究は多額の予算を工面したあげく去年失敗しているわ。とにかく空の戦いが変わる以上、有用性を測るため両陣営ともに宣戦布告には慎重になるはずよ。』

 

「けど戦争を止めたわけではない。」

 

『その通り、あくまで一時的。飛行術式が完成した時点で戦争を根本的に止める要因はもうなくなった。どう交渉しても戦争は避けられない。最早、軽く息を吹きかけるだけでも戦争に転がり落ちる。なら今、我々英国がやることは一つ』

 

「迎撃の用意。それも時代に取り残されないよう主に空戦魔法師を用意するのか。結局、戦争の火種作ってる奴に頼るのか英国は。」

 

この事実はMと呼ばれる女性にとっても悔しいことだった。

ボンドも通信越しにその辛さが伝わっていた。

 

『残念ながらね。上はそう判断するでしょう。だからこれ以上の戦闘は彼だけでなく我々にもプラスにならないわ。よって貴方には新しい任務についてもらうわよ。』

 

「・・・分かった。帰還後、次の任務に移る。次の概要くらいは教えろ。」

 

『次はゴルディ家の相続問題に関する任務よ。帰還待ってるわ()()()()()()()()()

 

 

 

007の仕事に終わりはない。

少なくともアイクの・・・清夜の憎悪が終わらない限りは・・・

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月5日 東EU クロアチア 内務省

 

この一部始終を見ていたのはMI6だけじゃない

ココを脅した内務次官もその様子を見ていた。

 

「・・・尾行と港保税区画保安要員を撤退させろ」

 

『ボスホート6撤退せよ。繰り返す、ボスホート6撤退せよ。』

 

部屋にいたオペレーターは淡々と命令をするのみ。

きっと彼らはこの状況が示す意味をMI6ほど理解できてないだろう。

この部屋でそれを理解できているのは内務次官だけだ。

 

「ローゼンの超人も007を受け継ぐ者も止められなかった。いや、確かに今すぐの戦争は止めた。でももう避けることは出来なくなった。賭けてもいい、最初の火蓋をきるのは我が国だ。」

 

内務次官は静かに部屋を後にした。

これから来るであろう未来に絶望しながら・・・

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月5日 東EU クロアチア 貨物倉庫 外

 

飛行したアイクはそのまま貨物倉庫に着陸した。

飛んでいる最中、所々で戦いの痕が見受けられたがどれも戦闘は無事終わっているようだった。

 

「試作としては上々。これを今から売りに出してもいいが微調整が必要かな〜」

 

「アイク!」

 

呼ばれた方を向くと戦闘服からスーツに着替えたエレンが駆け寄ってきた。

アイクは手を振って答える。

 

「やぁ、お疲れ様エレン。無事で何より。」

 

「『お疲れ様』ではありません!さっきココから話を聞いて救援に向かうところでした。護衛がいるのに貴方が傷ついてどうするんですか!?」

 

「ははは・・・悪かったよ。でも、おかげで飛行魔法を他国にリークさせることができた。」

 

「貴方が死んだら本末転倒なんです!血が出てるじゃないですか!?まず手当を・・・」

 

そう言って腕を引っ張るエレン。

確かに手当も大事だが今はそれよりも状況確認が大事だった。

 

「大丈夫だよ。後遺症が残るような怪我はしてないから。先に状況を報告してくれ」

 

「・・・後で絶対ですよ?」

 

自意識はないと思うが、いじけた顔でそう言う(CV:伊藤静)エレンは中々に可愛かった。

だが、あいにくとアイクは揶揄う・・・もとい可愛がる余裕はなかった。

 

「はいはい、貨物確認したらね。」

 

「分かりました。現在、全員戦闘を終わらせここに到着。現在ココと私以外は簡単な後処理と警戒をしています。本格的な後処理はリーゼルタニアから来た部隊が処理します。」

 

「ココは何しているの?」

 

「はい、今は貴方を待ちながら貨物の確認をしております。」

 

「分かった。じゃあ俺も貨物見てくるから俺の所の後処理と手当の準備をよろしくね。」

 

「了解しました。手当、逃げないでくださいね。」

 

アイクは歩きながら後ろに手を振って了解した。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月5日 東EU クロアチア 貨物倉庫内

 

変装を解き、アイクから清夜になった。

そして倉庫の中を歩いて行くとある女性を見つけた。

ココ・ヘクマティアルだ。

彼女は薄暗い照明の中、まるで劇でもしているかのような立ち振る舞いで背を向けていた。

 

「フフ〜フ♪無事・・・というほどでもないが、ここまで来れたようだね。」

 

「くたばってて欲しかった?」

 

「まさか、最愛の弟が生きていてくれて嬉しいに決まっているじゃない。」

 

ココはすぐさま清夜に駆け寄り、後ろから抱きついた。

そしてギュッと少し強く抱きしめる。

 

「・・・本当に心配したんだよ。」

 

「・・・ありがとうココ姉。」

 

清夜も答えるようにココの手をギュッと握った。

弟として・・・

 

 

もし、これで終わるならhappy endだろう。

だが、そこは互いに武器商人。

感動的な話で終わるわけじゃなかった。

 

「・・・だから姉として、武器商として言わせてもらう。学校をやめなさい清夜。少なくとも私は千葉エリカを認めない。」

 

「断る。」

 

アイクは・・・いや清夜は即答した。

 

「ふふ・・・即答だね。そんなに学校は楽しい?千葉エリカと一緒にいたい?」

 

「楽しい、楽しくないで答えてはいないし、彼女と一緒にいたいわけじゃない。俺にはあの学校と生徒が必要なだけだ。逆に聞くけど千葉エリカごときに俺が殺されるとでも思うの?」

 

「思う。」

 

今度はココが即答した。

清夜はココの腕を剥がし対峙する。

 

「・・・」

 

「彼女が直接殺すわけじゃない。彼女の存在が君の心に『復讐』と『愛』という矛盾を与えている。そして、その矛盾する思いはいつか君を殺す。『愛』の相手が千葉エリカならなおのこと、確実に・・・それもそう遠くない未来。」

 

ココの焦点はブレることなく清夜を見つめる。

 

「だけど君は捨てられない。だってその矛盾こそ君の存在価値であり生きている理由だと思っているから。大嫌いな武器と魔法もまた然り、武器と魔法に対する憎しみは誰よりも強いのに武器と魔法を使うことの頼もしさを誰より理解しているから。」

 

白い肌に白い髪。

そして綺麗に整った顔。

ただでさえ美人なのに、その美しい碧眼に思わず全てを持っていかれそうだ。

 

「だから私につき従え清夜。何も社長を変われというわけじゃない。学校をやめて私達と再び旅をしよう。君と魔法と武器との付き合い方を、そしてその矛盾との向き合い方を教えてやる。」

 

生物的恐怖か、それとも何かに惹かれたのか

清夜もココも互いに見つめあって動かない。

そこで清夜が切り出した。

 

「ココは何故武器を、魔法を売る?」

 

「世界平和のために・・・君こそ何故武器と魔法を売る?」

 

嘘をつく必要はない。

迷うこともない。

ココは『愛』とか言っているが自分の思いは5年前からたった一つしかない

そう、それは・・・

 

「復讐のために」

 

自己満足と言われてもいい

全ては冬華の無念を晴らすため・・・

あの男を殺すため・・・




誰か挿絵とか書いてくれないかな〜(超絶頭が高い)
というわけでマジック&ガンメタル・キャリコロード編はここまで!!
原作でようやく世界大戦の兆候が見られるのに・・・清夜の存在がここまで戦争を加速させるとは・・・
そして清夜はとうとうやらかしましたね
はい、達也より先に飛行術式を完成させてしまいましたね。
深雪様激おこでしょうね。
達也が完成させるか清夜が完成させるか、これだけで飛行術式の意味合いが大きく変わっていきます
ご期待ください。


次章予告!

ブランシュの事件から少し経過し、ようやく生徒の落ち着きを取り戻した頃
清夜はエリカから『魔法力を高める薬』の噂を聞く。
また時を同じくして清夜は『零乃』と名乗る転入生と出会う。
このタイミングで転入してくる彼らの目的は一体?
そして薬の正体は?

次章、『四葉の魔薬<麻薬>編』(ネタバレになってないので大丈夫です)
次回をお楽しみに!

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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四葉の魔薬<麻薬>編
46話 薬


どうも、今回は頑張って早めに投稿しました。
ま、前と比べたらはるかに遅いですが・・・

というわけで46話です!
新章スタートです!

日本の裏社会を舞台に様々な思惑が交差する。サーチ&デストロイ Magic&Gunバトルをお楽しみください


2095年 5月8日  長野県 某所

 

「着いたぞ深雪。」

 

「はい、久しぶり・・・というほどでもないかもしれませんが、こうして帰ってくると長らくいなかった感覚がしますね。」

 

ゴールデンウイークが明けて初めての日曜日。

達也と深雪は里帰りをしていた。

学生が休日を使って実家に帰るなんていうのは特に珍しいことではない。

ただ、この兄弟の里帰りに関しては色々と普通ではなかった。

 

 

まず場所。

ここは長野と山梨の境、その山奥にある小さな村。

が、その村に名前はなく地図にも書かれていない。

決して妖の村とか、伝説の仙人が作ったとかそういうお伽話のような理由ではない。

理由は二つ。

一つは認識阻害の魔法で村に結界を張っているから。

これでUAV(無人航空機)や人による認識を逃れている。

もう一つは村の主の縁者以外ここを知る外部の人間が殆どいないから。

政府や軍の高官も村の場所を知る者はごく僅かで、それ以外で知っていた者は全員記憶を消されている。

そう、ここは俗に言う『旧魔法技能師開発第四研究所』・・・

つまりは十師族序列第一位『四葉家』の本拠地だ。

 

 

次に里帰りの理由。

普通ならば「家族の顔を見るため」とか「荷物を取りに来た」とかだがこの兄弟は違う。

もちろん、兄弟や呼び出した本人達は「家族の顔を見る」という思いがないわけではない。

むしろ、そういうのを楽しみにしている。

しかし、あくまでついでにすぎず、ここに来た一番の理由は四葉当主からの『呼び出し』だった。

ただ家族を呼ぶような『呼び出し』ではなく、上司が部下を呼ぶような『呼び出し』だ。

ゆえに何らかの報告または仕事を与えられるための里帰りだった。

 

「深雪お嬢様、達也殿。本日はよくぞ、おいでくださいました。」

 

「お久しぶりですね深雪さん、達也君。元気でなりよりです」

 

「葉山さん出迎えありがとうございます。」

 

「穂波さんもお元気そうで何よりです。」

 

達也と深雪が四葉本邸の屋敷前に降りるとすでに迎えが二人来ていた。

向かって右にいる初老の執事は葉山 忠教。

本宅の執事長で先代から仕えている四葉の重鎮だ。

対して左にいる若い女性は桜井 穂波

四葉深夜の命を守るために存在するガーディアンで身の回りの世話も担当している。

深雪や達也にとって姉に近い存在だ。

 

「それではさっそくご案内いたします。部屋で奥様方が今か今かとお待ちしています。」

 

「このまま直接ですか?」

 

「はい、何もなければこのままご案内いたします」

 

「お願いします」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月8日  長野県 某所 四葉本邸 謁見室

 

四葉本邸は意外にも大きくはない。

一般家屋と比べたら大きいだろうが七草や一条と比べればかなり小さいと言えるだろう。

だから謁見室までさほど時間もかからなかった。

 

コンコン

 

「奥様、お連れしました。」

 

「どうぞ、お入りになって。」

 

謁見室のドアを葉山がノックするとすぐに返事が返って来た。

そうして葉山がドアを開けて兄弟が部屋に入るとそこには赤いドレスの女性と黒いドレスの女性が二人を待っていた。

 

キタ━━━(゚∀゚).━━━!!!

 

「失礼いたしまs・・・うぐっ!?」

 

「!?」

 

ギュゥゥゥゥゥゥ・・・

 

深雪の言葉途中で黒いドレスの女性が兄弟に抱きついた。

 

「ああ、ああ、ああ!会いたかったわ深雪さん、達也さん!!」

 

「お、お母様!?」

 

「ぐっ、母さん・・・まだ離れて一ヶ月ぐらいしか経っていないだろう。」

 

この人は四葉深夜。

兄弟の母にして四葉当主の姉である人物だ。

三年ほど前までは息子である達也に使用人扱いの冷たい態度だったが今ではこの親バカぶり。

でも深雪にとっては嬉しいことだった。

 

「されど一ヶ月よ!しかもブランシュに襲撃したと聞いた時は心配で心配で・・・ハァァァァ・・クンカクンカクンカ!スゥゥゥゥゥハァァァァァァスゥゥゥゥゥハァァァァァァ」

 

ギュゥゥゥゥゥゥ・・・

 

「お、お母様落ち着いて!」

 

「hshs(*´Д`≡´Д`*)hshs」

 

「顔文字なんて使われたら会話できないだろ母さん!」

 

「深雪さん、達也さんどうか許してあげて、姉さん本当に心配してたのよ。部隊を編成してラ○ボーのような格好をした時はどうなるかと思ったわ。」

 

赤いドレスの女性は深夜の暴走も止めもせず、ゆっくりと紅茶を飲み始めた。

 

「叔母様、こ、このような・・・格好で失礼致します。」

 

「同じく、申し訳ございません叔母上。出来れば叔母上の元気な姿を見たいのですが・・・」

 

そう、この人こそ四葉深夜の妹にして四葉家当主、そしてエレンと肩を並べる世界最強の魔法師『四葉真夜』その人だった。

 

「この部屋には達也さん達の今の状態を知らない使用人や分家の方はいませんから楽にしてくださって構いませんよ、親子の時間は大切なものですから。お二人とも元気で幸せそうなら私としては何よりです。」

 

真夜は怒りもせず笑顔で返してくれた。

それは作り物ではない甥と姪以上に息子、娘に向けるような優しい笑顔。

しかし同時にその瞳は羨ましそうに見る寂しいものに深雪は思えた。

実際に深雪の『心の色を見る目』にも真夜の心の色が見えていた。

 

(優しさや穏やかを示すオレンジ色と落ち着きや冷静を示す青色・・・でもこの青は多分、()()()()()。お母様と分かりあった日と同じで変わっていない。叔母様は一体何に悲しんでいるのでしょう?)

 

今でこそ、優しい笑顔をする優しい人だが3年前までこうではなかった。

態度は優しくともどこか冷たく、その瞳は()()()()()()で支配されてるかのように狂気じみていた。

それが3年前に深夜と分かり合うことで、人格がまるで変わったかのように優しくなったのは分かる。

けど、そこでどうして悲しくなっているのか。

深雪には未だ分からないままだった。

 

 

そうして深夜が兄弟をもみくちゃにして数分後、真夜が切り出した。

 

「さて、そろそろ本題に入りましょうか。姉さん二人を放してあげてくださいな。」

 

「ヾ(。`Д´。)ノ彡☆」

 

「いやだから顔文字で会話しようとするのやめてください姉さん」

 

「いやよ!もう少し、息子成分と娘成分を注入させて!」

 

ギュゥゥゥゥゥゥ・・・

 

「な、なんですか?その成分・・・」

 

「俺も初めて聞いたよ・・・」

 

「そんなの認めてたらいつまで経ったて終わらないでしょう。こっちだって余裕があるわけじゃないんですから」

 

「う〜分かったわよ・・・」

 

深夜は渋々席に着いた。

ようやく解放された兄弟は礼儀正しく席に座った。

 

「それで本日は『呼び出し』ということでしたが一体どのような内容で?」

 

「今日はお二人に仕事をお願いしたくて呼ばせていただきました。まずはこちらを見てちょうだい。」

 

真夜が葉山に視線を送ると葉山はリモコンでスクリーンを出し、a4サイズの封筒を達也に渡した。

 

ペラペラ・・・

 

「紙媒体ですか。3月の時といいまた厳重ですね。・・・なるほど、深雪」

 

「はい。・・・!?」

 

資料を数ページほどめくると深雪が驚いた。

深雪は半ば信じられず真夜と深夜に改めて聞く。

 

「これは・・・本当ですか?徹底した秘密主義の四葉から研究員が研究資料の原本を盗んで逃走したというのは」

 

「ええ、そこに書かれているのは全て事実です。」

 

「残念ながら、その研究員『楠田宏光』は未だ逃走中よ。」

 

「しかし叔母上、自分もいささか信じられません。研究員なら盗み出すまでならともかく四葉が、厳密に言うと黒羽が逃亡を許すとは思えません。」

 

達也の言うように四葉から情報を盗みだすのは容易ではない。

例え村の外に出られようとも諜報担当の黒羽家が必ず仕留める。

その黒羽家という最大の障害をどう乗り越えたのか。

答えは簡単だった。

 

「その答えはこれよ。」

 

ピッ

 

真夜の声でスクリーンに映像が映された。

 

「!?」

 

「これは!?」

 

映し出されたのは3つの研究室。

そこにはひどく衰弱した黒羽の叔父と再従兄弟の姿があった。

 

 

 

『く、来るなぁあぁああぁっぁぁぁぁ!!』

 

『やだ・・・嫌だ・・・も、うやめ・・て』

 

『た・・つ・・やさ・・ん・・・・・いやぁぁぁぁぁ!』

 

 

 

より正確には衰弱しながらも恐怖で暴走していた。

見ると体はやせ細っており、いたるところに掻きむしった跡。

ろくに眠れなかったのか目の下には隈ができている。

二人は見ただけで精神干渉系魔法によるものだと分かった。

 

「叔父様に、文弥君、それに亜夜子ちゃん・・・」

 

「・・・こんなことが」

 

「現在、黒羽家は諜報担当として機能できない状態にあります。」

 

当主にその子供達がやられれば無理もない。

だが達也には研究者ごときに黒羽当主達が倒せるとは思えない。

 

「その『楠田宏光』にやられたのでしょうか?」

 

「いいえ。その前の4月6日、黒羽の精鋭28名を率いDEMの研究所に侵入した際に返り討ちを受けてこのような状態に」

 

「Deus Ex Machina Industry・・・()()()()・・・」

 

「『ここでも』?そちらで何かあったのですか深雪さん?」

 

別段、秘密にするつもりでもなかったが深雪はしまったと口を開けてしまう。

そのまま硬直してしまった深雪の代わりに達也が答える。

 

「実は学校でDEMと因縁がある少し危険な生徒と出会いまして。その報告は後でいたしますので今は続きをお願いします。」

 

「そう・・・それで貢さん達をこうした原因ですけど貢さん達がうけたのはタチが悪い魔法です。1時間のうち40分は恐怖でのたうち回るし、寝させようとしてもすぐに恐怖で起き上がりのたうち回る。食べたものもその時に吐いてしまうから心身共に弱っていく。恐ろしい魔法ね。」

 

「ほ、他の方達はどうされたのですかお母様?」

 

深雪の言葉に深夜は首を横に振った。

 

「多分、DNAの一片も残ってないでしょうね。」

 

「なるほど、それで黒羽がろくに機能しない時に研究資料の持ち逃げが起きてしまったと・・・」

 

「研究資料の原本には外部には見せられない情報もあって、場合によっては四葉の失脚もありえます。だから達也さんには資料の回収と裏切り者の始末を、深雪さんには精神構造干渉魔法を使った貢さん達の治療をお願いします。」

 

「ですが叔母上、深雪のはともかく資料の回収は別に自分でなくとも分家の方に任せた方がよろしいのでは?」

 

「それがそうも言ってられません。他の分家が貢さん達の件を知りDEMに対する報復の声をあげてしまったため、今は安心して頼ることができないのです。」

 

「報復!?危険です!!」

 

「叔母上と母さんは賛成なのですか?」

 

報復はすなわちDEMと四葉の戦争を意味している。

そんなことをすれば双方ともただでは済まない。

双方だけではない、それこそ東西EUの戦争より被害が広がるはずだ

 

「もちろん反対よ。むしろ私達はDEMと同盟を結びたいと思っています。」

 

「けど今は分家止めるだけで精一杯。裏切り者を追う余力も余裕もないの。だから親の恥を忍んで達也さんと深雪さんにお願いしたいんです。」

 

兄弟は目を合わせる。

もとより二人にお願いされて断るほど叔母不幸(?)、親不孝者ではなかった。

 

「わかりました。」

 

「確かにお引き受けいたします」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

それから少し経ち・・・

四人で軽くティータイムを楽しむと真夜が聞いてきた。

 

「それでは達也さん。そろそろ、そちらであったDEMの話聞かせてもらえるかしら。」

 

「!!・・・はい。」

 

気を抜いてはいないが真夜の本気の眼差しに達也は改めて身構えた。

それだけ真夜は警戒しているのか。

正直、先程よりも切羽詰まっている印象があった。

 

「実はクラスメイトに式清夜という男がいまして・・・」

 

達也は清夜のことについて語った。

人なり

アイザック・ウェストコットとの関係

事前に犯罪を予測する知略

深雪と並ぶ魔法力

そして

達也を殺すほどの武力と深雪が見た心の色を

 

「・・・そうでしたか。そんなことが」

 

「信頼できる人ですがその高過ぎる能力ゆえ私達の正体に気づいてしまうかもしれません。」

 

「天才とも言える知略、深雪さんに並ぶ魔法力、それに達也さんを殺せるほどの武力・・・ですか。」

 

深夜と真夜は半信半疑な表情をしていた。

 

「二人に相談せず調査してしまい申し訳ありません。」

 

「ですがお兄様は叔母様を気遣って相談しなかったのです」

 

「ええ、そのことは真夜も私も分かっているわ深雪さん。達也さんもありがとう。それで件の彼はどうする?」

 

「・・・そうね。こちらのほうで監視を用意しときましょう。葉山さん。」

 

「はい、それぐらいなら黒羽の生き残りでも充分できるでしょう。」

 

「では、そうしてください。」

 

葉山は達也と深雪に頭を下げると部屋を出て行った。

達也もそろそろと思い、深雪に目配せをし立ち上がった。

 

「では自分達もこのへんで・・・」

 

「失礼いたしますお母様、叔母様。」

 

「(´・ω・`)」

 

「いや、だから顔文字じゃ分かりませんよお母様。」

 

「えぇ〜もう帰っちゃうの〜?マジ萎え〜」

 

「若者っぽく言ってもダメだ母さん。明日は学校なんだから。週末、報告でここにくるし、深雪も放課後はこっちで治療しに来るんだからそれまで我慢だ。」

 

「あ、そうだ!いっそのこと私が二人の家に住みつけb・・・」

 

ベチンッ!

 

「あ痛ッ!?」

 

どこから出てきたか分からないハリセンで深夜は真夜に頭を引っ叩かれた。

 

「姉さん、いいかげんにしなさいな。本当ごめんなさいね二人とも。」

 

「いえ、それでは失礼いたします。」

 

「お元気で、叔母様。」

 

「二人もね。せっかくの学生生活なんだから楽しんできなさい。」

 

真夜は深夜にお尻ペンペンしながら優しい笑顔で見送る。

しかし、その笑顔も悲しみと寂しさの色を帯びていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月15日 西EU リーゼルタニア ホテル

 

クロアチアでの戦いから10日ほどが過ぎ・・・

武器商人ココ・ヘクマティアルは一人、ホテルのベランダで黄昏ていた。

 

(さすがリーゼルタニア。DEM幹部特権のおかげで武器商人でもほぼ顔パスで入国出来てこの待遇とは・・・・にしても)

 

「まさか齢15、6の少年が国を支配する時代になってしまったか〜」

 

prrrrrrr

 

するとそこに電話がかかってきた。

発信者番号は・・・ない。

非通知の着信だ。

 

ピッ

 

『よぉ、もしもしココ?』

 

「ミナミか。今日はどうしたの?」

 

『どうしたのじゃねーよ。この間、清夜来たんだろう?上手くいったのか?』

 

「もう全然〜。話は聞いてくれたけど仕事終わったらすぐ帰っちゃった。」

 

『あちゃ〜、もう止まんないなアイツ。大丈夫なのか?』

 

「大丈夫なわけないでしょう。優しかったあの子が千葉エリカと出会ってからどんどん壊れていく。私は見てられないよ。」

 

ココはヤケクソ気味にワインを一気飲み。

プハァという掛け声は電話越しにも聞こえた。

 

『壊れるのは復讐心のせいじゃないの?』

 

「違う。復讐心だけだったら心や体に負荷はかからないさ。けど()()()()()()()()()()()()()()()。あの女に対する愛や恋があるから負荷がかかる。迷うから心と体の調節が出来なくなって壊れていく。」

 

『そりゃ、そーだけど。それだったら復讐心をなくさせればいいじゃん。』

 

「無理だよ。そしたら清夜は冬華ちゃんに対する罪悪感と千葉エリカに対する思いの板挟みで押しつぶされ壊れていく。どちらにせよあの女が清夜を苦しめてる。もし別の女なら最後に助けてくれるかもしれない。けど命の恩人を裏切るような女だ。必ず最後に清夜を傷つけ殺す。だから私は・・・」

 

『うぷぷ・・・』

 

ミナミの独特な笑いが耳に入る。

ちょっとイラっときたココは不機嫌そうに聞く。

 

「・・・何よ?」

 

『いやなに、ココはただのブラコンかと思っていたが、そうとう嫉妬深いブラコンだな。いや年下だからショタコンなのか?』

 

「ミ〜ナ〜ミ〜?」

 

『まあまあ、とりあえず言いたいことは分かったから。んで本題だけど汎用的飛行術式が完成したって噂は本当?』

 

わざとリークさせてるとはいえ、表立って情報を流してはいない。

だが彼女もDEM社員、そのぐらいの噂が入る地位にあった。

 

「うん、各国にはリーク情報として流れてるけど近々、発売だって。まさか清夜が完成させるとは思わなかったけど。おかげで先進国同士の戦争は停止してるらしいよ」

 

『そんで、どうすんの()()は?このまま中止か?』

 

「フフーフ、まさか。障害が生まれたけど、もちろん予定通り、あの子のためにも必要だから。」

 

『分かった。けど予定より時間はかかることになるよ。」

 

「分かってる必要な経費は言って、あと飛行術式の資料も取り寄せられると思うから欲しかったら。」

 

『りょーかい。まったね〜。』

 

ピッ

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月15日 日本 第一高校 部活連本部

 

現在、世界では紛争などの戦闘行為が止まっている。

もちろん全ての戦争が終了したわけではないし、未だ戦闘が続いているところもある。

むしろ戦闘の準備は加速して行われている。

しかし、ほとんどの戦域で積極的戦闘はなく、近年の紛争最盛期と比べれば驚くほどの静かさだ。

その理由はDEMの汎用的飛行術式完成の噂だ。

眉唾ものの噂ゆえ各国家群の軍、並び政治のトップしか知らない情報なのだが、それでも各国家群のお偉方が戦闘を止めてまで様子見をするのは戦域戦術ひいては国家戦略を変えてしまうほどの代物だという証拠だろう。

そんな世界的影響を与えた噂の渦中の中心にいる人物は日曜日にも関わらず部活棟の一室で機械と格闘していた。

 

「さて・・・こんなものかな。修理できましたよ先輩。」

 

そう言った清夜の手に持っているのはライフル型のCAD。

バイアスロン部で使われていたものなのだが壊れたため修理したのだ。

 

「うわぁ〜ありがとう式君!本当に助かったわ。」

 

「灼けたパーツを変えただけですよ。」

 

その修理をお願いした人物は五十嵐亜実。

ショートカットが似合う女性でバイアスロン部の部長、そして部活連のメンバーだ。

苗字から察するように”数字付き”の人間だが性格、容姿ともにごくごく普通な方で清夜にとってはありがたい普通で普通すぎる普通な人だ。

 

「なんか今、普通と何回も言われたような・・・」

 

「はい?」

 

「あ、ううん!なんでもないの!」

 

「にしてもお前、ソフトとハード両方扱えるんだな。アルテミシアからMIT卒と聞いた時は信じられなかったぜ」

 

そう言って感心の視線を送ったのは二年の桐原。

今日は彼と外に出てるエリカと3人で部活連運営、対応の当番をしている。

ついでに言っておくと五十嵐はCADを受け取りに来ただけ

 

「本業の方達に比べたらまだまだですけどね。」

 

「それでもこれだけの種類扱えれば十分だと思うな〜。」

 

五十嵐の視線の先にはガラクタ・・・ではなく様々な部活から頼まれた修理した品々。

タイマーをはじめ部活用のデバイス、CADまで置いてあった。

 

「ははは・・・これじゃあ修理屋ですね。魔法師としては情けない話です。」

 

「けど、お前の株は上がって来ているぜ。この前、アルテミシアとか壬生のデバイスを調整してくれただろ?その後、アルテミシアがベタ褒めしてて噂が広がってる。調整してもらいたい奴も出て来たとか。」

 

「あ、じゃあ私・・・というかバイアスロン部でもお願いしようかな?専属技師として」

 

(あの野郎・・・必要以上に広めすぎだろ・・・)

 

なんてことは表向き先輩後輩ゆえ、口が滑ってでも言えない。

だが人脈を広げるきっかけをくれたこと自体には清夜は感謝していた。

 

「ま、まぁ専属はともかく、今度持って来てくれれば調整ぐらいはしますよ。必要な器具はここにありますし。」

 

部活連本部の部屋にはCADの調整機が置かれている。

元々、実験棟に置かれているのだが九校戦の練習のときぐらいしか使われなかったため部活連共同ということで克人が2台ほど持って来てくれたのだ。

他にも機械の修理器具の類があるがこれも克人が先生と交渉し、使われてないものを持って来てくれた。

顔の割にフットワークの軽い男だと思うが清夜はそこのところを感心している。

 

「これで式と同じようにどっかの誰かさんの評価も上がればいいんだがな。あいつは敵ばっか作りやがる。」

 

恐らく、達也のことを言いたいのだろう。

確かに達也に関して言えば上級生、特に一科生からの評価はよくない。

時々ではあるが未だ勧誘週間と同じ攻撃をされるらしい。

ブランシュ事件で壁は消えても一科と二科の溝が埋まるのはまだ時間がかかるようだ。

 

「達也君はツンデレで高周波ブレード振り回すどっかの先輩と違って正直すぎるだけですよ。」

 

エリカが帰って来た。

彼女には新体操部女子の相談に行ってもらっていた。

 

「おかえり千葉さん。」

 

「おい千葉!いつ俺がツンデレになったてぇ!?」

 

「おかえりエリカ。どうだった?」

 

「うん、とりあえず勝手に撮影する写真部を皆で一緒にぶっ飛ばしといた。卑猥な盗撮ではないけど許可なく撮るのもダメよね〜。あ、五十嵐先輩にはお菓子のお土産〜。」

 

エリカは清夜の机に乗っかりお菓子を広げた。

確か写真部には男性しかいなかったはず。

新体操部女子とエリカが強かったのか、単に写真部が弱かったのか。

多分答えは後者だろう。

 

「ぶっ飛ばしたって・・・まぁ片がついたならそれでいいか。」

 

お茶を入れながらエリカを見て、ふと清夜はココの言葉を思いだした。

 

 

 

彼女の存在が君の心に『復讐』と『愛』という矛盾を与えている。そして、その矛盾する思いはいつか君を殺す。『愛』の相手が千葉エリカならなおのこと、確実に・・・それもそう遠くない未来。

 

 

 

「あ、あの清夜君?どうしたの?そ、そんなに見つめても何も出ないんだけど・・・」

 

エリカの声で意識が戻った清夜。

どうやら清夜は思わずエリカを見つめてしまったらしい。

 

「いや、別に。お茶どうぞ。」

 

清夜はすぐに視線を外し、お茶を出した。

エリカがなぜ赤くなっているのか彼には分からないがそこについて考えることはなくココの言葉を考えた。

 

(・・・考えすぎだな。そんなバカな話あるわけがない。邪魔なら殺すだけだ・・・そう、殺すだけ・・・)

 

「わぉ、私の大好きなミニドーナツだ。いっただきま〜す!」

 

「話聞けよ千葉ぁ!」

 

そんな桐原の叫びは聞く耳持たず。

3人はお菓子をつまみ始めた。

校則ではお菓子持ち込み禁止なのだがそれぐらいの違反行為は学生なら誰でも通る道だろう。

そうして談笑も交えて数分後、エリカが気になることを言った。

 

「そういえば新体操部女子から噂聞いたんだけどさ。あ、でも噂の出処はしらないんだけど」

 

「噂?なんのだよ?」

 

「まぁまぁ桐原先輩。話は最後まで聞く。それでさぁ、なんでも()()()()()()()()があるんだってさ。」

 

「「「魔法力を高める薬?」」」

 

エリカ以外の3人が首をかしげた。

そんな話は国が公開している魔法研究でも聞いたことがない。

そこでエリカが詳しい話を始めようとするとある人物が姿を・・・

 

「そこから先は生徒会長にして十師族である私!七草真由美がおs」

 

ピッ!ガラッ!

 

現したがすぐに清夜がリモコンで扉を閉めた。

四人は何も見なかったことにし会話を再開させた。

 

「にしても魔法力を高めるなんてホントかな?胡散臭い」

 

「五十嵐先輩もそう思いますか」

 

ドンドンドン!

 

アケテ!アケテヨ!イマナラ、オネエサンのプロマイドをアゲルカラ!

 

ブランシュ事件を解決させたとはとても思えないほどの喧騒。

四人はアイコンタクトで会議し開けてあげることにした。

 

ピッ!ガラッ!

 

「ははは〜ん、どうやら私のプロマイドが欲しいようね清夜君!」

 

「どうしたんですか会長?頼まれた生徒会専用デバイスの修理なら一応できてますが(ガン無視)」

 

「うぐ、十師族相手にガン無視とはいい度胸ね。まぁいいわ、今回はね・・・」

 

「「「「今回は?」」」」

 

「視察という名目で遊びに来たわよ!いやぁ〜前々から来たかったのよ!お菓子もあr・・・」

 

ピッ!ガラッ!

 

清夜がリモコンで(以下省略)

四人は何も(以下省略)

 

「でさ〜」

 

ドンドンドン!

 

アケテヨ!アケテクダサイ!イイジャナイ!?アタシダッテ、オカシタベタイ!『達也と遊部』ジャナクテ『清夜と遊部』シタイ!

 

ピッ!ガラッ!

 

「はぁはぁ・・・もう清夜君、お姉さんの扱いが”よんこま編”並みに雑すぎない?」

 

「”よんこま編”とやらは知りませんが達也に会長が面倒臭いモードになったらこうしろと教わりました。それで用件はなんでしょう?以前の『学ランセーラ服で甘酸っぱい青春!』のような企画でしたらお断りしますが。」

 

「充分”よんこま編”知ってるじゃない・・・。気を取り直して今回の企画はコレよ!」

 

ジャラララララ〜と言いながらフリップに書き始める真由美。

すでに話が違う気がするし、嫌な予感しかしなかった。

 

「バンッ!大正ロマン・・・」

 

ピッ!ガラッ!

 

清夜が(以下省略)

そのまま、すぐさま内線で生徒会室につなげた。

 

「もしもし市原先輩ですか?・・・はい、会長がサボって遊びに来てます。・・・はい、ケツバットで構いませんので・・・ええ、釘バットなら部屋にありますので」

 

ドンドンドン!

 

キャァーーーーー!ゴメンナサイ!ジョークデス!リンチャンのバットヤダ!モウ、マジメニハナスカラ!アケテクダサイ!

 

「お、おい・・・どうする式!?七草先輩が生徒会長とは思えない幼児っぷりだぞ!!(ジョセフ・ジョースター風)」

 

「と、とりあえず真由美を入れてあげましょう。」

 

「そうね、このままじゃこのSS、シリアスではなく鬼つまらないギャグSSになってしまうわ。」

 

「・・・分かりました。とりあえず、いつでも追い出せるように移動系のランチャーを展開してから開けましょう。」

 

清夜は仕方なく真由美を招き入れた。

ちょっと涙目だったので4人はお菓子で餌付けして慰める。

 

「すみませんでした会長。ほら、お菓子ですよ。」

 

「うん・・・まぐまぐ・・・」

 

子リスのようにパイの実を頬張る真由美。

そこに呆れ顔の摩利が入ってきた

 

「なに後輩に餌付けされてるんだ真由美。話に来たんだろ?」

 

「渡辺先輩。どうも」

 

「どうも」

 

「いらっしゃい渡辺さん」

 

「む・・・」

 

摩利の姿を見るなり不機嫌になったエリカ。

清夜も前から思っていたが二人は何らかの確執があるようだ。

 

「やぁ皆、どうやらこの馬鹿が世話になったようだね。」

 

「世話じゃないわよ!いじめられてたのよ!」

 

「わかったわかった。それで今日は風紀委員と生徒会として話に来たんだが十文字かアルテミシアはいるかい?」

 

「いえ今日は十文字先輩、緊急の私用があると言って来てません。」

 

「アシュクロフトなら今日は剣術部に出てますぜ。」

 

本当なら今日、清夜は非番だったのだが十文字に頼まれ今日の運営の代表を務めていた。

清夜としては師族会議の類だと思っていたが真由美の反応を見る限り思い過ごしのようだ。

摩利と真由美は少しウ〜ンと考え、用件を話すことにした。

 

「それじゃあ仕方ないな。十文字とアルテミシアには後日、話そう。」

 

「実はね、今日話に来たのはさっき千葉さんが喋ってた薬の話なの。」

 

「魔法力が高くなるという薬ですね?」

 

清夜の問いに二人は首を縦に振って答えた。

危ない話と察したエリカはそっと扉を閉じる。

 

「そもそも公開されている魔法研究資料では見たことありません。十師族のどこかで研究されている新薬とかではないんですか?」

 

「いえ、父にも頼んで調べてもらったけど百家本流を含め、どの一族もそんな研究はしてないらしいわ。」

 

日本魔法界では一番顔が広い七草家が言うのだからそうなのだろう。

無論、他家または七草家自体が秘匿、隠蔽しているという可能性は否めないが・・・

 

「いつぐらいからそんな話が?」

 

「ちょうどブランシュ事件が解決したあたりじゃないかしら、そのあたりから魔法科高校系列の裏で流されているらしいわ。」

 

「系列ってことは・・・他の分校にも薬が出回ってるの?」

 

「噂自体は全分校に伝わっている。で、つい昨日、静岡にある第四高校の生徒が意識不明で倒れているのが発見されたんだ。それも()()()()()()()()()()()()

 

「なっ・・・昨日1日で」

 

「17人も!?」

 

桐原と五十嵐の反応も無理はないだろう。

でも偶然でないというのは数からして明らかだった。

ただそれがどう関係しているのか分からない。

エリカは摩利ではなく真由美に続きを促す。

 

「それだけじゃないですよね七草先輩?」

 

「ええ、意識不明の生徒はすぐに病院で意識を取り戻したのだけど・・・実は全員が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()になっていることが分かったの。」

 

清夜がピクリと反応した。

 

「一部分とはいえ全員が記憶喪失?それは外傷性の記憶喪失で?」

 

「現段階ではなんとも言えないらしい。殴られたような外傷は見当たらなかったそうだが魔法で直接脳にダメージを与えられた可能性もあるからね。」

 

桐原も二人に問う。

 

「サイオン枯渇っていうのは?」

 

「そっちも原因不明だ。枯渇するまでサイオンを使ったというのが一番妥当だけどサイオンレーダーには引っかかってない。魔法をかけられた線もあるがこれも同様、サイオンレーダーに記録はなかった。」

 

話を聞く限り、清夜でも検討すらつかない不可解な現象だった。

可能性があるとすれば『系統外魔法』ぐらいしかないだろう。

だが真由美と摩利には別の可能性を考えているようだ。

 

「なるほど、二人は薬の副作用だと考えているんですね。」

 

「さすがね清夜君。その通りよ。『魔法力が高くなる薬』の正体は新種の脳ドーピング薬による一時的な脳のキャパシティ上昇だと私は考えています。外傷のない記憶喪失とサイオンの枯渇は脳ドーピングによる脳の負担が耐えられなかったこと、またそれによるサイオンコントロールが維持できなくなったものと考えれば筋も通ります。」

 

確かに原因の筋は通ってる。

けど、それは薬以外でも可能性はある。

だから、それが『魔法力が高くなる薬』と繋がっているというにはまだ弱かった。

 

「ですけど予測にすぎませんよね?その流されている薬の実物すら出てきてないわけですし、それで薬と事件が繋がってると判断するには弱すぎると思います。」

 

「ええ、学校側も同じ理由で事件と薬の関係は認めず、薬の話はただのデマとして処理するようです。でも本当だとしたら裏で流されている以上、まともな薬であるはずがない。ブランシュ事件のこともあったし危い芽があるなら早めに摘んでおきたいの。」

 

真由美の言葉途中で清夜は違和感を感じた。

 

(ん?良識のある校長が薬の話をデマとして終わらせる?どうして?)

 

「そこで私はブランシュ事件と同じく生徒会、風紀員、部活連による合同調査を考えています。手を貸してもらえないかしら?」

 

「『薬を売っている組織を壊滅』なんてことは言わない。ただ第一高校での実態を調べるだけでいいんだ。参加の強制もしないから安心したまえ。代わりに今日話したことについて他言無用のお願いはするがね。」

 

対処なんて言っているが簡単な話ではない。

そもそも存在するかも分からないし、エガリテのようにメンバーを示すリストバンドをしているわけでもない。

エガリテの抗議活動のように表向きに行われているわけでもなく、全ては裏で秘密裏に行われているのだ。

そんな姿形も分からないものを子供だけでどうこうできるわけないのだが真由美達の目は本気だった。

 

「・・・俺はやります。」

 

最初に決意を示したのは桐原だった。

 

「俺は以前、目の前で起こっている事に見向きもせずブランシュ事件を迎えてしまいました。もうこれ以上、この学校で悲劇が起こるのを見逃せません!」

 

「私もやるよ。これでも五十嵐家の人間だしね。」

 

「あたしも参加する。おもしろそうじゃない」

 

エリカも五十嵐も覚悟を決めてくれた。

この場で意思を表明してないのはただ一人・・・

 

「清夜君はどうかな?」

 

真由美の声とともに視線が清夜に集まる。

清夜の経験則で言うならばこれは期待の目。

人脈を構築できるほどの信頼を得られて喜ぶべきか、それとも厄介ごとに巻き込まれるほどの信頼を得て嘆くべきか・・・

 

「自分は・・・」

 

考えるのは十文字にブランシュ事件を頼まれた時と同じ。

自分の計画、会社などにもたらせれる損得。

己の心情、学校の平和などは二の次だ。

それを合理的に考えた結果は・・・

 

 

 

 

「現段階では決められません。」

 

 

 

 

「「「「「・・・・へ?」」」」」

 

回答保留だった。




ギャグをやり始めたと思ったら急にシリアスに戻ったり・・・
一体、俺は何をしたいんだ!(作者は疲れで頭が混乱しています)

とりあえず24話の伏線は回収できたと・・・

次回予告!

清夜はエリカに回答保留の理由を問い詰められていると、近くで戦闘している生徒を見つける。気になった清夜は見に行ってみるとそこには転入生の姿があった。

次回もお楽しみに!


「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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47話 0の零(ぜろのれい)

どうも、お待たせしました。
待ってなかったら興味程度でいいので読んでみてください。
47話です。
今回はLOST ZEROが中心ですかね。

前回までのあらすじ!
達也と深雪は実家で脱走した研究員の始末と黒羽家の治療の依頼を頼まれる。視点は代わり、清夜は学校で魔法力が高くなる薬の噂を耳にする。しかも、それと関連づいてかサイオン枯渇と記憶喪失の生徒が多数現れるという怪事件の話を聞かされる。


2095年 5月15日 第一高校 グラウンド

 

「ねぇ、何で話し断ったの?」

 

「・・・」

 

真由美たちの話の後、清夜は業務の一環である見回りを開始した。

何も風紀員のように違反者を取り締まる訳でもなし(通報はするが)、実質散歩と言えるのだが面倒なことにエリカが質問しながらついて来ていた。

 

「ねぇ〜聞いてるの?」

 

「聞いているよ。別に断ってもいないじゃないか。ただ俺は『現段階では決められません。』って言っただけだよ。」

 

そう、別に断った訳ではない。

あくまで回答保留。

保留にした時の間抜け面は中々に面白かったが真由美達はオフレコを条件に克人に相談する時まで待ってくれると言ってくれた。

だからこうやって付きまとわれるいわれはないのだがエリカにとっては気にくわないようだ。

 

「な〜んで決められないの?降りかかる火の粉は事前に知っておくべきでしょ?やることだって調査とか見回り強化程度だし。おもしろそうだけど危険な仕事でもないじゃん。」

 

ここで清夜は意外感を持った。

そのことにエリカも気づいた。

 

「・・・何よ?」

 

「いや、エリカは脳筋的な性格の割には要点を理解して計算できるんだね。」

 

「誰が脳筋よ!レオと一緒にすんなっ!」

 

ドカッ

 

「ゲロッ!」

 

後ろから脇腹めがけたボディーブローはクリティカルヒット。

清夜はカエルのような声をあげた。

さりげなくレオのことをバカにしているが清夜は痛みでつっこめなかった。

 

「で、何で決められないの?今度、答えなかったらアナコンダ・バイスよ」

 

「それは嫌だな。他の女性なら嬉しいけどエリカの胸はそこまでおおk・・・」

 

「いたぶり殺された後、セクハラで訴えられる?」

 

パキボキ・・・

 

「いや、はい。ちゃんと言います・・・」

 

どちらにせよ煙に巻いて回答を拒否することは出来そうにない。

清夜はエリカを連れグランドの外れにある倉庫裏に移動した。

 

「ちょ、ちょ、こんな狭いとこ来なくたって・・・」

 

一人通れるかどうかの狭いスペース。

他の人間に聞かれないためとはいえ二人で話すにはあまりに狭く、そして近すぎた。

数センチ寄せるだけでキスできるくらい・・・

 

(ち、近い!?)

 

「いいかい?まず俺は正義感や面白そうという理由で動きはしない。それはもう何となく分かるね?」

 

「・・・(コクコクコクッ!)」

 

頷くだけでも唇が重なりそうになる。

分かっているのだがエリカは恥ずかしさから頷くことしかできない。

そもそも頭が沸騰して何て言っているのかも分からないから頷くしかないのだ。

 

「それに危険な仕事はないというけど、それは危険なことに飛び込まないだけであって相手が・・・つまりは調査に気づいた密売組織が危険を持ち込んでくる可能性がある。エリカや七草先輩なら実家の存在がその危険の抑止力になるけど、俺や桐原先輩にはないんだよ。だから販売規模も戦力も分からない上に実態すら掴めてない状態で自ら進んで調査なんて出来ないんだ。分かったかい?」

 

(とは言ってもここら辺で薬を売り捌く組織には心当たりがあるんだけどね・・・)

 

「わ、わわ分かった・・・分かったから・・」

 

「そう、良かった分かってくれたんだね。」

 

「ひゃやく・・・ひゃなれ・・・なひゃいよ。」

 

「へ?」

 

「離れなさいよ!こんのっ馬鹿!」

 

「掌底ッッッ!?」

 

バゴッ!ガン!

 

清夜は顎に掌底を受け、その勢いのまま後ろの壁に頭をぶつけた。

エリカは倒れこむ清夜には目もくれず倉庫裏を出る。

 

(ちゃ、ちゃうねん!いやいやいや、何で関西弁になるのよ!?違うのよ!あんな状態なら誰だって勘違い・・・いやいやいや勘違いじゃなくて、誰だって掌底しちゃうわよ。うん、そう、私は悪くない!)

 

「い、痛いよエリカ。俺セクハラしてない・・・ん?あれ戦ってないか!?」

 

清夜が見たのは木々が生い茂る野外演習場。

そこからチラチラと人影が見えていた。

普段なら克人が部長のクロスフィールド部、そしてレオが所属している山岳部が使っているのだが今日はたまたま両部活とも学外で活動している。

そのため野外演習場に誰かがいることはないのだが4、5名ほどが魔法で戦っているのだ。

清夜は模擬戦闘があるとは聞いてない。

あわてて風紀委員に通報しようとする清夜だがエリカがその手をとめた。

 

「え?・・・あ!待って待って、あれはレイ君達の実地試験だよ。」

 

「レイ君・・・?同級生かい?」

 

「ああ、そうか清夜君会ってないんだっけ。彼らは編入生よ。明日から正式に編入するんだけど、いつもの面子は彼らが編入手続きをした時に会ってるの。ほらゴールデンウィークの時、清夜君用事でいなかったじゃん。」

 

ゴールデンウィークの時というと、ちょうど清夜が007に殺されかけた時だ。

思い出したくない事案だが清夜はそれよりも”編入”と”彼ら”という言葉に疑問を持った。

 

「彼ら・・・ってことはレイ君とやらの他にも編入生がいるってことかい?」

 

「うん、レイ君の妹のマヤカも編入してくるわ。」

 

(編入か。入学して1ヶ月で編入生・・・それも二人。何でこのタイミングで?毎年100名以上の卒業生を魔法大学や専門の訓練機関に送らなければならないとはいえ、国策機関であるこの学校が編入生を受け入れることなんてありえるのか?)

 

「何者なの?その二人。それに実地試験って・・・」

 

「じゃあ行ってみましょ。レイ君も清夜君のこと聞いて会いたがってたし、ちょうどいいじゃん」

 

「え、ちょっ!?」

 

エリカは清夜の腕を引っ張って野外演習場へ向かった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月15日 第一高校 野外演習場

 

邪魔にならぬよう静かに入るとジャージ姿の男子4人、女子1人の合計5人が見つかった。

見た所、男子2人ずつで別れて戦っておりピンクの髪の女性が傍で見守っているという感じだ。

 

「あれは、副会長の服部先輩じゃないか。それと小さいのは・・・資産家で有名な百家の十三束」

 

「風紀委員でマーシャル・マジック・アーツ部 の沢木先輩もいるわ」

 

「マーシャル・マジック・アーツ。魔法を併用した徒手格闘か・・・・強いの?」

 

「ええ、二年では服部先輩と並ぶ強者よ。それで最後に残った男の子とピンクの髪の子が・・・」

 

エリカが名前を言おうとすると一番小さい男子、つまりは十三束が急にこちらを向いた。

 

「誰だ!?」

 

「「!?」」

 

十三束は勢いよく走り清夜に襲いかかる。

自己加速術式を使っているわけではないが鍛えられた人間の速度だ。

むしろ危険なのは突き出そうとしている右手。

清夜のニューロリンカーによる解析だと着弾点から有効範囲内の物体を一定の加速度で吹き飛ばす加速系の『エクスプロージョン』が展開されている。

それを手のひらを魔法発動ポイントにすることで座標変数入力を省略する接触型で発動しようとしている。

下手に彼の右手に触れれば簡単に吹っ飛ばされてしまうだろう。

ただ清夜はそういうことは考えていなかった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。どちらがヘタレ学生としての印象が強いk・・・!?)

 

ドゴッ!

 

「グァッ!」

 

金属が体に打ち付けられる特有の音が鳴ると十三束が苦痛の声をあげて倒れた。

やったのは清夜ではない。

エリカだった

 

「フゥ〜・・・いきなり危ないわね。」

 

「1科と喧嘩した時より速い・・・」

 

魔法なしで十三束を上回る移動速度もさることながら剣を振る速度も見事だった。

警棒を抜く動作から振り終わりまで動作に無駄がない。

そんな清夜の呟きにエリカはピースで答えた。

 

「言ったでしょ。『あたしも清夜君が頼るくらいに強くなるから』って」

 

「・・・ああ、そうだったね。」

 

思わず清夜も()()()()()を浮かべた。

するとそこに戦ってた服部と沢木が駆け寄ってくる。

 

「おい、十三束どうした!」

 

「お前達は4月の模擬戦の時の・・・十三束に何をした!?」

 

「え、え〜と・・・」

 

「ははは・・・」

 

先に襲いかかったのは十三束なのだが証拠がない。

しかも事実としてエリカが倒してしまったのだから二人は苦笑いするしかなかった。

だがすぐに助け舟がきた。

 

「い、いえ・・・僕が・・・悪いんです。僕がいきなり・・・襲いかかったから。」

 

「十三束、大丈夫なのか!?」

 

(へぇ・・・手加減されてたとはいえ、すぐに立てたか。”森なんとか”の実力を見てこの学校の生徒の強さを侮っていけどエリカといい、十三束のご子息といい、あながち馬鹿にできないな)

 

「っつぅ・・・ええ、ちゃんと手加減してくれましたから。だから大丈夫です服部先輩。」

 

「攻撃してごめんね。私は1-Eの千葉エリカ。んで、こっちが」

 

「同じく式清夜です。すいませんでした。邪魔にならないように静かに見学しようとしていたんですが返って不審に思われてしまいました。」

 

バツの悪そうな表情をするエリカと清夜。

しかし十三束は笑顔で返してくれた。

 

「1-Bの十三束鋼です。こちらこそごめんね。てっきりテロリストの類と思ってしまって攻撃してしまったんだ。それと式君。」

 

「はい?」

 

「そんな敬語とかじゃなくてもいいし鋼でいいよ。僕達同い年じゃないか。っていきなり襲った僕が言ってもあれか・・・」

 

「いや大丈夫。俺のことも清夜と呼んでいいよ。改めてよろしく鋼。」

 

「うん、よろしく清夜君。」

 

握手した十三束と清夜。

無事解決したのなら駆けつけた先輩二人も文句の言いようがない。

 

「ま、お互い納得したならいいさ。俺は2年の沢木碧だ。よろしくな二人とも。十三束は部の次期エースなんだが倒してしまうとは驚いた。」

 

「4月の模擬戦で知っているとは思うが2年の服部だ。それで、見学と言ったな?俺たちは別に構わないが一応零乃から聞いてからにしてくれ」

 

()()って・・・まさか!?)

 

清夜がそう思ったその時、服部達の後ろから残りの二人が現れた。

 

「俺達も構いませんよ。」

 

「はい、兄様がそういうのなら私も異議はありません。」

 

一人は男。ピンクの髪に清夜と同じ赤い瞳、体格は鍛えられてる訳でもなく普通。長髪で後ろで髪を束ねている二枚目だ。

もう一人は女。男と同じくピンクの髪に赤い瞳、髪はツインテールにしており幼児体型ではあるがエリカや深雪にも負けない美少女だ。

髪と瞳の色が同じなので一目見ただけで彼らが兄妹だと分かる。

 

「あ、やっほ〜(れい)君、まやか。」

 

「よ、エリカ。」

 

「ふふふ・・・来ましたか我が同志よ!」

 

「同志?」

 

まやかの『同志』という言葉に首をかしげた清夜。

エリカは慌てて話を戻した。

 

「な、なんでもないの!それで(れい)君。彼がこの前、皆が言ってた清夜くんだよ。」

 

「ん、君が式か!俺は零乃(れい)。”(れい)”でいい。よろしく。こっちは妹のまやか。」

 

「零乃まやかです。私のことも”まやか”で結構です。兄共々よろしくお願いしますね。」

 

(やっぱり零という字を冠しているか・・・あの襲って来た零とも無関係じゃないんだろうな。もう少し調査レベルを上げとくべきだったか。)

 

会社には零の調査をさせていたのだが清夜は編入してくるという報告は受けていない。

清夜の予想だと恐らく魔法協会ひいては十師族が文官(政府陣営)や武官(国防軍陣営)に今日まで知られないよう、よほど巧妙かつ秘密裏に進めていたため気づけなかったのだろう。

七賢人であるサイモンに調査させてないこと、アルテミシアにはゴールデンウィーク中、飛行デバイスのテスターをさせていたことも原因だ。

自分の判断ミスで機嫌が悪くなった清夜だがすぐに表情を取り繕った。

 

「式清夜です。俺のことも清夜で・・・」

 

「俺も敬語じゃなくていいぜ清夜」

 

「私もです!」

 

「・・・分かった。よろしくね二人とも。」

 

笑顔で二人に握手する清夜。

ただし今度のは取り繕ったものだった。

 

 

 

 

自己紹介を終えた後、演習場の中央に戻った一同。

すぐに十三束&零乃の一年タッグVS沢木&服部の二年タッグという振り分けで戦闘が再開した。

 

「行くぞ二人とも!」

 

「一年といえど手加減はしないぞ」

 

(れい)君!」

 

「ああ、全力で行こう!」

 

ガッ!ドガガッ!

 

沢木と十三束が魔法で威力を上げた突きをぶつけ合う。

対し服部と(れい)は互いに距離をとり始める。

変化はすぐに訪れた。

 

「ッゥ!やるな十三束!」

 

「ありがとうございます!」

 

互いの突きが弾け着地した両者。

服部はそこに間髪を入れず魔法を発動する

 

「だが、まだ脇が甘い。」

 

ブァッ!

 

「ウアァ!」

 

移動系の『上昇』で上に吹き飛ばされた十三束。

一応、彼も情報強化で防ごうとしたものの干渉力で負けてしまい飛ばされたのだ。

すぐさま(れい)が静止の魔法でカバーに入った。

 

「鋼、空中で姿勢を整えるんだ!こっちで受け止める!」

 

「OK!」

 

フワッ・・・

 

無事着地成功した十三束は再び沢木にぶつかり4人の闘いが繰り広げられていく。

 

 

その様子を清夜はエリカとまやかと共に外れたところで見学していた。

 

「4人ともやるわね〜。前衛が沢木先輩と十三束君、後衛が服部先輩と(れい)君か。」

 

「実地試験と聞いたけど(れい)は特に攻撃はしないんだね。援護防御は上手いけど。」

 

「いえ、実地試験と言っても魔法だけでなく新型のCADのモニターという面もあるんです。それに攻撃出来ないというわけではなく兄様の魔法は後方支援に向いているんです。」

 

「後方支援?それは・・・あ、いや、なんでもない」

 

清夜は魔法を聞き出そうとしたが口を噤んだ。

世間一般として他人の術式を聞くことは親しい人間だとしてもマナー違反。

尋問や拷問、挑発でもない限り、そこらへんのマナーはしっかりと守る清夜だった。

 

「構いません。ですが代わりにお願いがあるんです。」

 

「お願い?」

 

「はい、この実地試験は魔法力問わず校内の実力者さんに協力をしてもらっているのですが、清夜さんにもこの実地試験に参加して欲しいのです。」

 

「ついでにあたしも含めていつものメンバーは皆参加しているよ。」

 

「達也も?」

 

「うん。」

 

(てことはテロリストの類ではないのか・・・でも、とりあえず様子見かな)

 

「ごめん・・・残念だけど俺は二科生だから参加するほどの実力はないんだ。他を当たった方がいいよ。」

 

爽やかにされど丁重にお断りした清夜。

しかし、まやかは驚いた顔をして否定した。

 

「え、でも清夜さんは実技で深雪さんにつぐ成績ですよね?」

 

「・・・」

 

思わぬ切り返しに清夜の思考が停止した。

入試の成績は基本非公開のはず・・・

なぜ知っているのかと叫びたくなったがすぐに答えは分かった。

 

「それにAクラスの森崎君も瞬殺、ブランシュ事件でもプロの戦闘員8人相手に一人で生き残ったそうじゃないですか。エリカの話では他にも経絡秘孔を突いて人を爆発させたり、怒りが頂点に達すると髪が金色になって戦闘力が上がったり、etc、etc・・・とか。話を聞いて兄様も興味を持ってましたよ」

 

「・・・エ〜リ〜カ〜?」

 

「・・・ヒュ〜ヒュヒュヒュ〜♪」

 

吹けもしない口笛をしてそっぽを向くエリカ。

なので清夜は笑顔でエリカの頰をつねって伸ばした。

 

「ははは♪嫌だな〜エリカ。勝手に成績とか非公開の模擬戦とか教えちゃうなんて〜。最後の嘘なんて北○の拳やド○ゴンボールじゃないか。」

 

ギィシィィィィ・・・

 

「ギャァーー!痛い!いだい!いだ〜い!ごめんなさい、ごめんなさい!いつも清夜君謙遜するから、つい皆で喋っちゃったのぉ!すいませんでした!」

 

「ええとゲフンゲフン、それで参加はダメですか?」

 

「はぁ・・・まぁ、興味がないわけでもないからね。君が聞いた話の実力が発揮できるとは限らないけど、それでもいいなら。」

 

「いいんですか!?やった!ありがとうございます!」

 

まやかは飛び跳ねながら喜ぶ。

その姿は幼児体型の美少女らしい絵だった。

 

「では兄様というよりは零家の魔法について説明しますね。まず零家の魔法は基本、零家の人間しか扱えません。そn・・・」

 

「・・・うん?零家?零乃家ではないのかい?」

 

「ああ、そうですね。まずは零家について説明した方がいいですね。でもその前に、実地試験・・・私達は『任務』と呼んでいますが、このことや魔法、零家についての話は極力他人に話さないでくださいね?」

 

「わかった。」

 

(無論、嘘だがな。)

 

そうしてまやかは零家について教えてくれた。

もちろん、全部を教えてくれたわけでもないだろうが話をまとめると・・・

零家とは『零乃』、『零式』、『零宮』の三家からなる一族だそうだ

零家の魔法の性質上、公には認められておらず数字付き(ナンバーズ)には含まれないそうだが有用さ故、イリーガルナンバー・ゼロ(忘れ去られた零)と呼ばれ例外的に「零」という数字を与えられたらしい。

そして彼ら兄妹は『術師増幅(マギカ・ブースター)』を使った戦闘訓練と零家の魔法の有用性を検証するために魔法協会黙認で編入してきたそうだ。

 

「それで零家の魔法というのは魔法師を補佐したりするものが多く、その中でも零乃家は魔法師の能力を引き上げる魔法の研究をしています。兄様の魔法はその代表例で己の魔法力を使い魔法師の潜在的魔法力、つまりは発動する速度、魔法式の規模、事象を魔法で書き換える強度を底上げする『術師増幅(マギカ・ブースター)』という魔法を使っています。」

 

「その魔法、あたしもやってもらったけど自分が思った以上に魔法が使いやすくなったし強度も上がっていたわ。お、ちょうど『術師増幅(マギカ・ブースター)』使うみたいだね。(れい)と十三束君を見てみなよ。」

 

清夜はエリカの言うとおり二人を見る。

すると(れい)の左手に腕輪型CADとは別のCADらしきものを握っているのが見えた。

「らしき」と言うのは見たことない形状のCADだからで、その薄い金属板のような形状は札と言うよりもカードという表現が近いかもしれない。

(れい)はそのカードの表面を左の親指で軽くスライドさせると起動式を展開した。

清夜も合わせて『ニューロリンカー』でその起動式を解析するが・・・

 

(解析不能・・・てことは少なくとも会社のデータベースにはない系統外魔法か。だろうとは思ってたけど・・・でも)

 

予測の範囲内とはいえ、解析不能の結果に清夜は()()()()を抱く。

しかし、あえてここでは深く考えず清夜は成り行きを見守る事にした。

 

「いくぞ鋼!」

 

「まずい!させるか!」

 

4人の闘いは佳境をむかえていた。

服部は『術師増幅(マギカ・ブースター)』に気付いたのか妨害するために急いでCADを操作するが間に合わない。

(れい)は構築した魔法式を十三束に放った。

 

「ありがとう(れい)

 

そして3、4秒遅れて服部の『上昇』が十三束に襲いかかった。

しかし

 

「もう効きません!」

 

十三束は吹き飛ばなかった。

なんと先ほどは防げなかった情報強化で防いだのだ。

話は聞いていたが目にして改めて清夜は驚く。

 

「情報強化の強度が上がった・・・!それにさっきとは構築速度が段違いだ」

 

魔法の不発で隙ができてしまった服部。

十三束は自己加速術式を使い、沢木をすり抜け服部に詰め寄る。

 

「これで・・・終わりだ!」

 

ドガッ!

 

「グァッ!」

 

強烈な横蹴りが服部の腹を抉った。

服部はなすすべもなく倒れるしかなかった。

 

「服部!くそっ!」

 

沢木は悔しい思いを噛み締めて、すぐさま十三束に殴りかかる。

だが十三束の自己加速術式はまだ終わっていなかった。

 

「ハァッ!」

 

ドグォッ!

 

「ガ・・・ハッ!」

 

バタッ・・・

 

左ストレートのカウンター。

まさに紙一重と言えるパンチが沢木の頬にヒットした。

手加減しているとはいえ、倒すには充分すぎた。

 

「これが・・・零の力」

 

見た目こそ変わらないものの十三束の魔法力は見ただけでわかるほど上昇していた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月15日 第一高校 部活連本部

 

模擬戦は(れい)と十三束の一年生タッグの勝利という形で終わった。

その後、清夜とエリカは服部、沢木、十三束の3人と別れ、桐原と見回りを交代し零乃兄妹を部活連本部に招いた。

そこで清夜は知る。

 

「えへへ、やっぱり兄様は最強ですぅ〜。」

 

「おい、俺の腕で頬ずりすんな!世間体考えろバカ!」

 

「よいではないか、よいではないか〜。ぐへへ・・・」

 

妹のまやかは深雪に負けないブラコンだという事に・・・

清夜は仕事柄、今まで色んな人間を見てきたがこれは笑顔が引きつるレベルの人間だ。

 

(グヘへとか言ってるぞ。よだれまで垂らしてるし、もう顔が美少女をかけ離れてオッさんになってる。ヤバい、この兄妹別の意味でヤバい・・・)

 

「やめろまやか!今日できた友人がもう友達じゃない人を見る目になってるぞ!」

 

「そ、そんなことないアルよ。清夜、(れい)、友達。(目線逸らして三歩下がる)」

 

「そ、そうアルよ。その愛貫くといいよろし。(視界に入らないように距離をとる)」

 

「日本語覚えたての中国人になってるアルよ!?違うんだ決して怪しい関係じゃないんだ!だから視線外して距離を取らないでくれ!Come Back!清夜、エリカ〜〜〜〜!!」

 

「グヘへ、周りの了承を得たところで・・・フレンチなキッスから始めましょう!兄様〜〜!」

 

 

数分後・・・

 

 

まやかの頭の上にたん瘤が出来ていた。

 

「本当に・・・すいませんでした。」

 

「バカな妹ですまない。けど悪いやつじゃないんだ。」

 

まやかと一緒に(れい)は頭を下げた。

エリカと清夜は特に気にする様子もない。

 

「まぁ、あたしは知ってたし。」

 

「それに知ってなくともそういうのは司波兄妹で慣れてるから別に大丈夫だよ。その様子だとまやかは司波さんとも仲良くなれてるんだろうね。」

 

「はい、同志ですから!!」

 

「ああ、同志ってそういう・・・」

 

清夜は言いながらエリカをジトーと見つめる。

 

「ちょ!?違うわよ!あたしを超絶ブラコン同盟と一緒にしないでよね!!」

 

「はいはい・・・それより本題に入ろうか(れい)。」

 

清夜は真面目な表情に切り替えた。

(れい)もそれに調子を合わせた。

 

「ああ、協力してくれることはまやかから聞いた。だけど改めて聞かせてくれ。清夜、俺たちの『任務』に協力してくれないか?」

 

「前言撤回になってしまって悪いんだけど了承する前にいくつか質問をさせてくれないかな?」

 

「こっちはお願いする立場だからな。ぜひ聞かせてくれ。」

 

「一つ、(れい)の『術師増幅(マギカ・ブースター)』及び使っていたCADだけど生体情報や魔法力情報を抜き取ったり解析する工程はないのかい?」

 

「ちょ、清夜君!?それはさすがに失礼じゃ・・」

 

「そうです!その言い方、まるで兄様が協力とつけ込んで魔法師の情報を盗んでるって言ってるようなものじゃないですか!無礼でしょう!撤回してくだ・・・」

 

「まやか!」

 

「!」

 

(れい)の言葉にまやかは口をつぐんだ。

兄が好きな妹が怒り、兄が妹の名を呼んで制する。

そういう所は司波兄妹とそっくりだった。

 

「ごめんね、まやか。けど俺にも秘密にしたい術式とかあるからさ。正体不明の魔法でそういうのがあっても困るんだ。」

 

「清夜が謝ることは何もない。至極真っ当な意見だ。説明が足りなかったまやかが悪い。先ほどの妹の不備を含めて謝罪する。で、質問についてだが実力者を集めている所でそう思ったんだろ?でもこれは潜在的総合魔法力を数値化するぐらいで発動速度や強度、規模といった具体的な情報を抜き取ったり魔法適正や資質、固有魔法を解析するようなことはしていないから安心してくれ。」

 

「そ、なら良かった。じゃあ・・・」

 

「あ、あの!清夜さん・・・その、す、すいませんでした。説明が足らなかったこと・・・あとそれで無礼者扱いしてしまったことも。」

 

「いいよ、お兄さんが大事だもんね。守るならそれぐらい喰ってかからないと。」

 

「!・・・ありがとうございます!」

 

不快な顔一つせず許す清夜に(れい)は今度は目で礼をした。

 

「じゃあ、もう一つ質問だ。(れい)の『術師増幅(マギカ・ブースター)』、副作用とかはあるのかい?」

 

「ない。けど絶対とも限らない。だから魔法に振り回されない実力者に協力をお願いしているんだ。」

 

「サイオンを注入されたことによるサイオン中毒とか、使った後は普段の魔法力が落ちてしまうとかも?」

 

「兄様の『術師増幅(マギカ・ブースター)』は使えば一時的に魔法力が急上昇しますけど本来、魔法師の潜在的魔法力を底上げする魔法だから終了後は元より少し上の数値に戻るんで問題ありません。サイオン中毒のことも魔法式を投射しているだけでサイオンを注入しているわけじゃないからそういったのは起きないかと。」

 

「そうか、ありがとう。質問は以上だよ」

 

「納得してくれたか?」

 

「まぁね。」

 

清夜は満面の笑みで答えた。

けど、その笑顔とは裏腹に心は冷めていった。

()()()()に答えが出たからだ。

 

(やっぱりな・・・嘘はついてなさそうだけど、さっきからこいつら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。魔法式や起動式ならともかく概要すら話していない。ただでさえ系統外で零家の人間しか扱えないんだ。少し教えたところで再現できる魔法師なんているわけがないのに・・・。よほど隠したい何かがあるってことか。だが達也が参加するほどだ・・・無視はできないか。)

 

「じゃあ協力してくれるのか?」

 

「ああ、期待に応えられる実力が出るとは限らないけどね。」

 

「謙遜だな。でも気に入ったぜ。ありがとう!じゃあ早速、カードを作ろうか。」

 

「カード?」

 

「発音は合っていますが兄様が言ったのはC.A.R.D。正式名称Casting amplify Recapture Deck、日本名称だと術式増幅再現起動式と言います。でも私達、零家の人間はこの起動式をカードとして知覚するのでカードという認識でOKです。兄様が『術師増幅(マギカ・ブースター)』を発動するためには必ずこのC.A.R.Dを生成する必要があります。」

 

「じゃあ使ってた新型CADというのは・・・」

 

「皆のC.A.R.Dを保存するためのCADだ。C.A.R.Dは一般に使われている起動式とは少し種類が違うから他のCADと新型CADで同時発動しても失敗しないんだぜ。」

 

「えっへん!すごいでしょう兄様は?」

 

「なんでまやかが偉そうにするのよ。」

 

「それに俺が自慢するとこ一個もなかったし。いいから、まやか手伝ってくれ。清夜は俺と手を繋いでくれ。」

 

「分かった。」

 

言われて清夜は(れい)の手を握った。

そしてまやかがカード型のCADを右手で持ち、左手で二人の握る手にそっと乗せた。

どうやらカード生成にはまやかが必要らしい。

 

「いっきますよ〜メモリーアクセプト!」

 

魔法師にしか知覚出来ないサイオン光が清夜と(れい)の手を包む。

カード型のCADには特に何も写っていないが兄妹たちの目には見えているのだろう。

その見えたせいか、零乃兄妹が突然固まった。

 

「・・・え・・・何・・・これ?」

 

「何も写ってない・・・」

 

 

 

 

 

 

生成されたのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。




黒のカードが示すのは彼の心か、それとも彼に訪れる運命か・・・
ま、皆さんの予想通り伏線ですよ。
LOST ZEROの主人公のビジュアルとか性格は単なる想像です。
一枚絵ぐらいでいいから見てみたいですね。
誰か描いてもいいんですよ(チラッ)

次回予告!

続々と記憶喪失、サイオン枯渇の被害者が増えていく中、とうとう生徒会、部活連、風紀委員会の3巨頭による本格的な捜査が始まる。しかし、バイヤーはそれを嘲笑うように捜査の網をすり抜けていく。バイヤーは一体?そしてその裏にある思惑とは一体!?

次回もお楽しみに!


「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。


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48話 意欲的

※注意とお詫び

今回の話は前回の次回予告と違った内容になっています。
またこの章は5話で終わらせると言いましたが無理そうです。投稿も遅いのにストーリーも中々進まず申し訳ございません。

前回までのあらすじ!!
清夜とエリカの距離が急接近!?(物理的に)
なんて下手なラブコメはともかく、清夜は零の数字を冠する兄妹に出会った。彼らからカードを使った自身達の魔法の実地試験の話を聞いた清夜は参加の意思を示す。しかし生成された清夜のカードには何も写っていなかった。


2095年 5月15日 Deus Ex Machina Industry 本社 ???

 

夕方になり、清夜は残った事務仕事を早々に終わらせ会社に向かった。

目的はサイモン・サイトウ会うためだ。

 

「やぁ、サイモンさん。お邪魔しますよ。」

 

「おお、珍しいネ式さん。この時間に来るなんて、しかも学校の制服。もしかして新商品発表会の打ち合わせ?」

 

「発表日はもう少し先ですよ。ある程度の準備は部下が初めていますがまだ私が参加するほどの段階ではありません。」

 

ただし税務処理担当会計士の彼に用はない。

用があるのは『七賢人』としての彼だった。

 

「学校に零家の直系が転入してきました。それも二人。名前は零乃零と零乃まやか」

 

「!」

 

「その反応ももっともです。恐らく文官(政府陣営)や武官(国防軍陣営)にも秘密で転入でしょうね。」

 

「学内に公安と軍情報部のスパイいると聞いたけど」

 

「それがタイミングいいことにミズ・ファントムはブランシュ事件後『休暇』という名目で雲隠れ中。軍情報部のスパイについても軍が動いてないのを見るに雲隠れ、少なくとも気付いていないのでしょう。そのスパイが零を知らないという可能性もありますが。」

 

「魔法協会もスパイの存在に薄々気付いているネ。それでその兄妹は式さん襲った女の仲間・・・と見ていいのか」

 

二人の頭に浮かんだのはコミューターで襲いかかった偽エリカ。

彼女は死ぬ直前、確かに零と言っていた。

零乃兄妹がその差し金か、気になるところだ。

 

「微妙ですね。同じ部類ではあるでしょうが少なくとも彼らから私に対する敵意は感じません。()()()はしてるようですが・・・」

 

「そこでPD(パーソナルデータ)を洗えと。」

 

「ええ、それと2つほど調べて欲しいことが」

 

「何を調べル?」

 

「ここ一年で魔法関連機関に入学や転入、加入した人間に零の関係者と思しき人間がいないか。それと魔法大学系列の学校周辺で流れている薬物の密売ルートを調べてください。密売ルートに関しては最近の変化も詳しく。」

 

「入学者とかはともかく、麻薬ルート?一体どうして?」

 

「説明は後で。どれくらいで終わります?」

 

「一時間で終わらせる。退出頼みますネ。」

 

情報は時と場合によっては力と価値が魔法より高い。

ゆえにサイモンは『七賢人』の力を使う姿を誰にも見せない。

例え社長の清夜であってもだ。

清夜もそれを了承して雇っているので文句はない。

清夜は何も言わずに部屋を出た。

 

 

〜1時間後〜

 

 

再び部屋に来た時にはすでに紙媒体で印刷されていた。

 

「資料できてるヨ」

 

「それで結果は?」

 

サイモンは資料を渡しながら説明する。

 

「まずPDだけど一言で言うなら殆どが嘘っぱち。零家について書かれてないし『ただの魔法師』ということになってる。けどPDに書き換えられた痕跡はない。」

 

PDには「家系からは魔法師の因子が見当たらない」と書かれている。

しかし、魔法協会や十師族が『零家』と認識しているとなると彼等の血統に魔法師がいるのは確かだ。

 

「書き換えられた痕跡がないってことは・・・」

 

「少なくとも彼等兄妹は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。魔法協会が秘匿したいのカ、零家が秘匿したいのカは分からないけド。でも疑問。今まではともかく何故、政府陣営は今回の零の転入に気付かなかった?転入する以上、文科省は資料を審査するはず」

 

「それは簡単、転入手続きの資料を見てください。ある単語がないのに気付きませんか?」

 

サイモンは首を傾げながらページを開く。

二分ほど資料とにらめっこするとサイモンは気付いた。

 

「・・・あっ!?教育委員会の言葉がなイ!」

 

「実は魔法大学系列の学校の運営は基本、魔法協会が行なっているんです。通常の教育カリキュラムは文科省の決めたことに従いますが魔法教育のカリキュラムは全て魔法協会が決めています。文科省にある魔法大学系列の生徒資料についても魔法協会にあるものを共有しているだけにすぎないんです。在学中の学校に転入先の学校や引越し先の住所を報告する義務もないですし。だから政府陣営も気づけなかったんでしょう。」

 

「まるで脱法ハーブや官僚の天下りのような抜け道ネ」

 

「ははは、だって皆使われるのは嫌だけど使うのは好きでしょ『裏技』?」

 

清夜は人の悪い笑みを浮かべ資料のページをめくる。

次のページには魔法関連機関の職員、生徒の名簿が書かれてい・・・なかった。

それでも期待はずれの結果ではなかった。

 

「・・・やはり無理でしたか。」

 

「一年だけでなくここ数年で調べてみたけど少なくとも書類上、零の関係者と明かされている人間はいなイ。」

 

「ま、馬鹿正直に零の関係者と名乗る人間はいませんよね。」

 

(だからこそ、あの兄弟が零と名乗って実地試験をする理由が気になるんだけどな。それに何も写らなかった俺のカードも)

 

「零の魔法についても含め今回調べられなかったものは改めて調査しておくヨ。」

 

「お願いします。それで最後は薬物の密売ルートですが・・・」

 

「その前に何故麻薬ルートを調べさせタ?」

 

「ああ、そうでしたね。実は・・・」

 

清夜は魔法力を高める薬について語った。

サイモンなら何か知っていると思ったが彼は頭を傾げた。

 

「記憶喪失・・・サイオンの枯渇・・・そんな症状聞いたことなイ。それに魔法力を高める薬・・・そんな薬も知らないヨ。」

 

「まだ薬が記憶喪失、サイオンの枯渇とつながっていると決まったわけではないんですけどね。ただ裏でながされてるとなると間違いなく違法薬物、。となるとどうしても気になる・・・というか思い当たるフシがあるんですよ。」

 

「・・・横浜マフィア『万両組』」

 

清夜は首を縦に振り、サイモンの答えを肯定した。

 

「もし、そうだとしたらすぐに動けるように準備しときたいんですよ。攻撃の対応だとしても、隙をついた殲滅だとしても」

 

「規模や力で考えれば式さんの予想当たっていると思う。万両組は神奈川にあるから四校がある静岡の浜松、一高がある東京の八王子にも販売ルートを広げている。他の分校で言っても万両組と同盟の、または傘下の893組織があるから薬を流すことは無理なイ。」

 

「それに大御所の893組織も翠と藍が関東中の893潰しまくってるおかげで疲弊状態。国策機関に薬物流すような大それたことができる893は今の所『万両組』だけとなりました。」

 

「ただ仮にそうだとしたら目的分からなイ。魔法師にだけ売ってるとしたら顧客規模はかなり小さい。だからそこまでの利益はだせないと思う。」

 

「かと言ってDEMに対する攻撃とも思えませんしね。だからこそ麻薬ルートの近況を知りたかったんです。目的、または万両組の仕業と裏付けるものがあればいいんですが」

 

「残念ながら新しい種類の薬が出たなんて話はなかっタ。せいぜいヤンチャが過ぎた暴走族が麻薬を売り始めた程度。」

 

「やはり実物が出てこないと判断できませんか。」

 

読んでいた資料もそこで終わり清夜は残念そうに立ち上がる。

するとサイモンは机に積まれていた紙の束から新しい資料を取り出した。

 

「そうそう、蛇足かもしれないけど面白い情報がある」

 

「面白い情報?」

 

「サハリン(樺太)のマフィアが近々、日本にやってくるらしい。それも末端価格40億円分の薬の用意があるとか。」

 

二度の価格変動により円、物価の価値が2000年代初頭と同じなこの時代で40億と言えば殆どの人間が仰天するほどの額だ。

だが普段から億単位の商売をしている清夜にとっては大した驚きはなかった。

 

「新ソ連のマフィアですか。額から考えてかなりの量の薬があるとは思いますが・・・まさか40億円が面白い情報ですか?」

 

「いいや、面白いのはここかラ。彼ら『ホテル・モスクワ』の人間だって。式さんもこの間会ったでしょう?」

 

清夜の頭によぎったのはロアナプラで会ったバラライカの顔だった。

彼女の所属も『ホテル・モスクワ』だった。

 

「まさかバラライカが?」

 

「いや、今回彼女は関係ない。けど同じ幹部ヴァシリ・ラプチェフの指示で日本に拠点を作りに来たらしい。それも横浜に。」

 

「へぇ〜、それは楽しそうですね。」

 

言葉とは裏腹に清夜は心底嫌そうな顔をしていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2095年 5月15日 横浜 万両不動産

 

横浜の繁華街から少し外れた所

万両不動産と呼ばれるこのビルでも同じ話がされようとしていた。

 

「たくお前ら修練してると思ったら外で青○始めやがって」

 

「待って待って姫。外で犯るから青○だよ!『外で青○』って言い方おかしい!ねぇ蓮華?」

 

「まぁまぁ南天ちゃん。姫も混ぜなかったからイジケちゃって間違ったんだよ。」

 

「そういう話じゃねぇよ!」

 

なんて言いながらも内心は蓮華の言う通りだった姫こと万両苺。

自分もさっさと百合百合しいことを始めたく、早速本題に入った。

 

「ま、だからどうこうって話でもないんだが・・・()()()()()の話だと近々、上陸してくんだとよ。きっかけは知らんが。・・・ファイルb2オープン」

 

苺の音声コマンドにより大型ディスプレイに2枚の写真とデータが表示された。

苺はレーザーポインターを使い説明する。

 

「『ホテル・モスクワ』のサハリン(樺太)マフィア。アレクセイ・ラズコフ、通称『ラズコ』とドミトリ・アバカロフ、通称『筋肉野郎』。この二人が率いる部隊丸々一個。なんでも横浜を狙ってるらしい。てことはアタシと戦争になる。」

 

「「ふ〜ん・・・」」

 

南天も蓮華もリアクションはそれだけだった。

苺もリアクションが薄いことにツッコむ気はない。

 

「まったく嫌だな戦争は。不毛で」

 

そんなことを言いながも苺は・・・

いや三人とも実に楽しそうな表情をしていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月16日 第一高校 生徒会室

 

翌日、事態はさらに悪化の一途を辿っていた。

 

「実は先程連絡が入ったのですが、昨日、とうとう我が校の生徒からも被害者が出てしまったそうです。」

 

真由美がそう言い放ったのは放課後のことだった。

名目としては生徒運営会議をしているのだがこの場合、捜査会議という表現が近い。

部屋には事件と薬の話しを聞くために生徒会メンバー始め、風会員からは摩利と達也が、部活連からは克人、アルテミシア、そして清夜が来ていた。

 

「どうやらブランシュの事件より動きが速いようだな。」

 

驚き、怒り、悔しさで騒つく中、最初に発言したのは十文字克人だった。

悲しんでないわけではないだろうが動じてはいない様子。

 

「悲しいことですがこれで原因不明の怪事件は四校だけの問題じゃないということになりました。」

 

会計の市原鈴音もまた動じていなかった。

ただ克人のように堂々としてるわけでなく凛と佇んでいる感じだ。

そして動じてないと言えばもう1人。

 

「会長、その被害者の症状は四校の生徒と同じものでしょうか?それと被害者に共通点などはあるのでしょうか」

 

(眉一つ動かさないとは、本当に大人だねぇ達也)

 

最初の二人は性格上、表情の変化が見えづらいだけ。

だが達也は明らかに客観的に、そして冷静に物事を見ていた。

 

「被害者23名全員に一部記憶喪失とサイオン枯渇の症状が見られたわ。けど残念ながら被害者は皆、クラス、学年、部活もバラバラ。共通点らしきものはなかったわ。」

 

「よ、四校の時よりも増えてるじゃないですか。」

 

あーちゃんこと中条梓は相変わらず子リスのような怯え方をしている。

そんな梓をアルテミシアが撫でて慰める。

 

「あーちゃん、大丈夫よ私がついてるから。それで真由美さん、噂の薬とやらは被害生徒の所持品から出て来ましたか?」

 

「ううん、でもこの事件、薬とは関係あるみたいなの。これを見て。」

 

スクリーンには英語で表記されたグラフが映されていた。

だがそれが何か理解できなかった。

グラフのタグがアルファベット数文字で略されてるため何の数値か分からからないのだ。

ただ薬物に詳しい摩利だけは真っ先に分かった。

 

「これは・・・麻薬反応。」

 

「ええ、四校の被害者全員から違法薬物の反応が出たそうよ。」

 

「「「!?」」」

 

患者のプライバシーを知っていることも充分に違法だと思うが麻薬反応のショックが大きいせいか誰もそこにつっこもうとはしなかった。

代わりに清夜が質問する。

 

「そこまで分かったならもう警察の仕事では?」

 

「そうですね。もし噂の薬が麻薬だとするなら学校だけで解決する問題ではなくなります。」

 

深雪も頷いて同意する。

この学校は、ついこの間ブランシュ事件があったばかり。

生徒の恐怖、不安が抜けきってない状態で警察が学内に出入りするのは良くないことだが仕方のないことだった。

しかし・・・

 

「私も再三、学校にそう言ったわ。それでも学校は『学内での麻薬の横行も噂の薬についても認めない、よって警察の介入は必要ない』って。」

 

「そんな!?横暴ですよ!隠蔽するつもりですか!?」

 

「落ち着け服部。不服なのは俺も七草も同じだ。今回の件は俺も十師族としても掛け合ってみる。」

 

「し、失礼しました。会長もすいませんでした。」

 

警察の介入はなかったとはいえブランシュ事件に続いた二度目の不祥事。

警察が出入りをマスコミが嗅ぎつければこの事件だけでなくブランシュ事件すら表沙汰になる。

故に学校は麻薬の横行を認めず事態を闇に葬るつもり・・・

 

というのがこの部屋にいる人間の共通認識。

ただし清夜だけは違った。

 

(違う・・・そうじゃない。そう言った面もあるが一番の理由は零乃兄妹だ。学校、いや日本魔法協会は意地でも零のことを軍や政府陣営に知られたくないんだろう。十文字克人と七草真由美から思惑を探りたいが反応見る限り知らないと見るべきか。)

 

そんな考えをよそに会議は進んでいく。

 

「いいのよハンゾー君。私もそう思っているのだから。だからね、もう調査だけとは言わず私達で本格的に摘発して学校に証拠を叩きつけてやろうと思うの。」

 

「本気か真由美?」

 

「本気も本気よ摩利。私は生徒会長として麻薬の横行も学校の横暴も見過ごすことは出来ない。だからお願い皆、学校の仲間を守るためにも手を貸してください。」

 

「「「!!」」」

 

克人を除く全員が目を疑った。

それもそのはず、あの十師族の、それも序列第2位の七草家の長女が頭を下げたのだ。

人格的に偉ぶる人ではないが、驚かずにはいられない。

3年間を共にした摩利と鈴音が驚いているのがその証拠だ。

少しの沈黙の後、達也が口を開いた。

 

「・・・頭を上げてください会長。自分も手伝いますよ」

 

「達也君・・・」

 

「お兄様ほど力になれるか分かりませんが僭越ながら私もお手伝いします」

 

「私もだ。頭下げるなんて水臭いぞ真由美。なぁ市原?」

 

「ええ、ですが珍しいものが観れたので良しとしましょう。」

 

「俺も最初から手伝う気でいたぞ。」

 

「私達2年生も手伝うよね?」

 

「は、はい!書記ですけどきっと役に立ちますよ真由美さん!」

 

「私もです会長!」

 

達也の言葉に連鎖するように次々と参加の手が上がる。

最後に残ったのはまたしても清夜だった。

 

「お願い、前回保留した件より深く食い込んだ話なってしまったんだけど清夜君にも協力して欲しいの。」

 

(「どうぞ勝手にやってください」と言いたい。けどこれを解決しない限りは政府や軍に零を探らさせるのも無理か。薬を流している組織も知らなければならないし。)

 

「分かりました。自分の身に危険が感じない限りで手伝います。」

 

最後の一言はどう聞いても保身の言葉だった。

だがそれを責める者はおらず、『仕方なし』という視線が部屋の中で行き交った。

 

「ありがとう清夜君。それじゃ具体的な捜査方針、方法を考えましょうか。」

 

まず最初に達也が挙手した

 

「その前に確認ですが会長、監視カメラには取引や薬物摂取らしき映像はありませんでしたか?」

 

「まだ全部確認したわけじゃないから断言は出来ないけど、もしそんなのがあればとっくの昔に守衛もしくは監視カメラを置いた警備会社から連絡があるはずよ。」

 

「なら、まずはカメラの死角を中心に見回ってみるのはどうでしょう?もちろん放課後、休み時間も見回ります。各学年の階層、エリアぐらいなら可能ですよね渡辺先輩?」

 

「ああ、風紀委員総動員でやれば可能だろうね。学校には『規則引き締め週間』とでも言えばごまかせる。その件について達也君、今度打ち合わせしよう。」

 

「風紀委員だけでやるのか?それでは体育館などカバーできない所が出るはずだ。部活連からも一人人員をよこそう。」

 

「では桐原君に頼みましょう。彼ならそつなくこなしてくれます。」

 

克人の助言にアルテミシアの素早い人員選出。

流石は一年以上こういった業務を経験している上級生だった。

 

「それなら生徒会からも一人出しましょう。あーちゃん、誰がいいかしら?」

 

「は、はい!ええと、ええとですね・・・」

 

「服部君が適任でしょう。お願いできますか?」

 

「はい、了解しました。」

 

前言撤回、あーちゃんは慣れてないようだ。

すぐに鈴音がフォローに入り服部が了承した。

 

「真由美も十文字も助かる。でも見回り強化だけでは少し心もとないな。私としては何かもう一つくらい手は打っておきたいんだが。」

 

「なら手荷物検査はどうだ?バイヤーは持ってなくとも顧客ぐらいなら薬物を所持しているかもしれない。そうすればそこからバイヤーを探しだせるだろう。」

 

「人手は足りるのか十文字?」

 

「人員としては俺達部活連と応援として自治委員会に人員を頼もうと思う。事情は伏せるつもりだから説得できるか微妙だが。」

 

克人の言う自治委員会とは主に魔法使用以外の校則違反を取り締まる組織。

魔法使用、喧嘩を取り締まる風紀委員会とは別組織だ。

 

「会長、私達生徒会も増援で参加してはどうでしょう?男子が女子の手荷物を調べたらセクハラとも言われかれませんし。手荷物検査や見回り強化をやるとなると学校の手続きも必要ですので申請書類を作成する必要があります。」

 

「深雪さんの言う通りね。じゃあ生徒会もそれに加わりましょう。自治委員会については必ず私が説得してみせるわ。」

 

話が三巨頭を中心にとんとん拍子で決まっていく。

単に皆見ているビジョンが同じだからか

それとも案が妥当すぎるからか

少なくとも消極的な理由で話が進んでるわけではなさそうだ。

 

「なら決まりだ。私たち風紀委員は見回りの強化。」

 

「俺達、部活連は自治委員会、生徒会と連携して手荷物検査を実施。」

 

「そして私達、生徒会は手荷物検査とこれらを行うためのバックアップね。絶対にバイヤーをひっ捕らえて学校の隠蔽も薬を売ってる奴らの陰謀も覆してやりましょう。以上、解散!!」

 

摩利、克人、真由美。

会議の最後もやはりこの三巨頭の言葉で締めくくられた。

 

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2095年 5月16日 第一高校 生徒会室前廊下

 

会議後、部屋を出ると日は半分沈んでいた。

部活動もそれに合わせてか片付けを始めている。

清夜は帰る準備しながら考える。

 

(今回の件、エレンやアルテミシアより翠と藍の方に動いてもらう必要があるかもな・・・)

 

「清夜」

 

帰ろうとする清夜に声がかかった。

清夜は後ろを振り返った。

 

「達也・・・それに司波さん。どうかしたかい?」

 

「少し時間いいか?」

 

「ああ、構わないよ。それで・・・」

 

達也の視線に清夜は言葉を止めた。

視線の先には閉められた空き教室。

深雪はさりげなく清夜に教室のキーコードを見せつけている。

 

(こっちにこい・・・てことか。よほど聞かれたくないのか。警戒は・・・しておくべきだな)

 

達也も深雪も表情こそいつも通りだが目には何かしらの強い意思が見えた。

清夜は服に隠したナイフをいつでも取り出せるようにし二人についていった。

 

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2095年 5月16日 第一高校 空き教室

 

「清夜は零乃零と会ったか?」

 

その言葉に清夜は警戒レベルを下げた。

だが予想してないことではなかった。

 

「今日は会ってないけど、この間会ったよ。達也たちは?」

 

「私達は清夜さんがいなかったゴールデンウィークに会いました。それで・・・どうでしたか?」

 

「どうでしたか・・・って言われてもね。爽やかとは違うけど話やすい好青年じゃないのかな?妹のまやかも司波さんと同じブラコン美少女って感じだし。」

 

零乃零は深雪と同じAクラス、零乃まやかは清夜達と同じEクラスに振り分けらた。

二人とも美形であったため、どちらのクラスでも好意の視線は絶えなかったというが

まやかがブラコンであることが分かるとすぐに好意の視線は生温かい目に変わっていったという。

それでもこうして誰にも拒絶されることなく迎えられているのだから美形は得なのだろう。

 

「そうではなく!」

 

「ん?あぁ、もちろん司波さんが美少女として負けてるわけじゃないよ。」

 

「!!」

 

はぐらかされたとでも思ったのか普段の深雪から想像できないようなキッとした表情を清夜に向けた。

 

「待った深雪。これは俺達の聞き方が悪い。その聞き方じゃ賢い清夜は俺達が情報を与えて清夜を利用しようとしていると深読みしてしまう。清夜も誤解しないで欲しい。俺達は単純に意見交換したいんだ。」

 

「ごめん、本当に分からないんだけど・・・」

 

それでも清夜はしらばっくれる。

そこで達也は意図を隠さずシンプルに質問した。

 

()()()()()()()()()()()()?」

 

「・・・おかしいとは思うよ。まだ入学して1ヶ月とちょっと。普通ならもっと後に転入か、俺達と一緒に入学すると思う。でも彼らは自身の魔法の有用性を示すために転入してきたって言ってたよ。」

 

政府も軍も気づいてないこと、そのせいで学校が警察の介入を嫌がっていることは言わなかった。

予測にすぎないし、国の内情に詳しい人間と思われたくなかったからだ。

 

「俺達もそう聞いた。けど俺はそこに何らかの裏を感じた。本人か、それともその後ろにいる何者かかは分からないけどな。」

 

「言いたいことは分かるけど・・・それで何が言いたいの?」

 

「清夜さんは零乃の魔法を覚えていますか?」

 

「魔法師の能力引き上げだったよね・・・まさか・・・魔法力を高める薬は彼らが流していると言いたいのかい?」

 

深雪と達也は黙って頷いた。

 

「それは流石に飛躍しすぎじゃないかな?確かに話を聞いた時その可能性も考えたし、転入手続きの時期で言えばそうかもしれない。けど販売規模は全国だよ。それに転入手続きで出入りした人間が薬を売れるほどここの生徒も馬鹿じゃない。」

 

「でも彼らは『零()』。つまりは家、一族だ。それに関連する組織や企業があるかもしれない。」

 

「零家がどこまでの規模があるか俺には知らないけど、裏社会にだって流儀はあるはずだ。もし組織ぐるみで売っていればこの辺で売ってる893達の目につくんじゃないかな?」

 

「なら、最初から893とグルだったとしたらどう考えます清夜さん?」

 

「司波さん。それはもう憶測の域だよ。そこまで言ったら可能性はつきない。それに魔法力を高める薬が出回っている今、『私達の魔法は他者の魔法力を高めますよ』なんて出てくるのは自分から容疑者と名乗るようなものだ。この件どこまでいっても後ろにいるのは893か薬物販売組織だよ。」

 

「・・・そうだな。少し考えすぎたかもしれない。参考になった清夜。ただ()()()()()()()()()ことに損はない思うぞ。」

 

警告ともとれる言い方。

少しの間の後、達也は普段通りの声でそう答えた。

ただ、()()()()()()()()()のは深雪の様子を見ればあきらかだった。

 

「ねぇ、たつ・・・」

 

「お兄様、私はそろそろ・・・」

 

清夜の声を遮って深雪が達也に時計を見せた。

様子を見るにわざと遮って質問を終わらせようとしているわけではなさそうだ。

達也は思い出したかのように言う。

 

「もう、こんな時間か。鍵は俺が返しておくから先にお帰り深雪。」

 

「はい、ではお先に失礼しますお兄様。清夜さんもまた明日。」

 

「え、あぁ、うん。また明日。」

 

毒気が抜かれた感じで清夜も思わずつっこめず普通にさよならをしてしまった。

深雪が淑女らしい仕草で部屋を出た後、清夜はつっこもうとしたことを聞いた。

 

「一緒に帰らないのかい?」

 

「深雪は用事があるからな。」

 

「それこそ達也お兄様はついていくんじゃないのかい?」

 

「清夜は俺をなんだと思っている?」

 

「超絶シスコン兄貴?」

 

「おま・・・まぁいい。鍵返しに行ってくるから先に校門前でレオ達と待っててくれ。」

 

達也はさっさと荷物をまとめて部屋を出る。

その後ろ姿を見た後、清夜は校門に向かって歩き出す。

 

(達也は何を知っているんだ?九重八雲に教えてもらった?いや、それよりも薬の件は893がらみの犯行じゃないのか?そういえば・・・)

 

清夜は今日のことを振り返る。

 

(七草真由美の要請にも達也が一番最初に応えてたな。それに積極的な発言に、意見交換・・・やけに今回は()()()だ。)

 

人としては正しいことをしている

しかし、達也のそんな行動に違和感を覚えた清夜であった。

 




というわけでここまで!!
何か達也めっちゃやる気ですねー。
そういうキャラじゃないと俺は思うんですけど。

次回予告!!
薬の横行、零の存在に疑問がある清夜は調査のために殺し屋女子高生の翠と藍を召集する。が彼女達は何故か負傷しており、清夜はとある闇医者の元へ連れて行くことになる。だがそこでも新たな戦いが待ち受けていた。

次回もお楽しみに!

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49話 医者と殺し屋と

49話です!

映画始まりましたね(遅すぎ)
グッズはあらかた買えたんですが一番欲しいCADキーホルダーが手に入らない・・・あれってまた入荷とかするんですかね?

映画の感想としましては
深雪とエリカが帽子がかぶった時にものすごくキュンときました。
あと巌の戦闘シーンは笑えましたねw

前回までのあらすじ!!
とうとう第一高校からも原因不明のサイオン枯渇と記憶喪失の被害者が出てきてしまった。この事態に三巨頭を中心とした捜査チームが本格始動する。その中でも達也は事件解決に意欲を見せており、積極的に意見したり清夜に遠回しの警告していた。人としては正しい善意ある行動なのに清夜どうしても違和感を感じるのだった。


2095年 5月16日 東京 某所

 

「今日は仕事を頼もうかと思ったんだが・・・まさか君達が負傷するとはね」

 

仕事を頼もうと召集した翠と藍を見た清夜の最初の感想だった。

 

「申し訳ございません。」

 

「お見苦しい姿で失礼します」

 

ペコリと頭を下げた翠。

そんな彼女の右足の裏にはナイフが突き刺さっている。

もちろんそんな状態で立つことが出来るわけなく、藍にお姫様抱っこをしてもらっていた。

 

「それは別に構わないがこのナイフ・・・的場伊万里か。」

 

「はい。式と特に親しいと思われる軍人は表社会から見当たらないので裏社会の接点から探ろうとしました。」

 

「そこでこの国の裏社会に詳しい的場伊万里に聞いた次第です。」

 

「で、ついでにちょっかいを出したと。」

 

「ちょっかいとはいえ敗北は敗北です。御主人様の部下に負け犬は不要。直ちに消え去ります。」

 

翠は藍の懐から拳銃を取り出し、自身のこめかみに銃口をむけた。

今まで一緒だった藍もそれを止めようとはしない。

彼女達が育った施設では能無しは即刻処分される。

寝食を共にした同期が朝起きていたら撃たれて死んでいたなんてザラだ。

これが彼女達の当たり前だった。

翠は一瞬のためらいもなく引き金を引く。

 

パンッ!

 

乾いた音が一発響いた。

 

「「!?」」

 

しかし、そこに鮮血はなかった。

弾丸は翠のこめかみ手前で止まっていた。

清夜がBS魔法『電気使い』を使い磁力で止めたのだ。

 

「誰が勝手に死んでいいと言ったんだい?」

 

清夜は、いやアイザック・ウェストコットは笑顔で、冷たい眼差しで見つめた。

 

「つ!」

 

殺し屋の二人でさえ堪らず一歩引いてしまう。

 

()()だ」

 

「・・・はい?」

 

「分からないかい?君達と契約する時、手付金として毎月給料を出すと言った。二億というのは翠に対する今日までの給料の合計だ。君達の生活や学費を抜いてもこの額だ。警備部門の人間の比じゃない。装備まで言ったら五億はくだらない。それを今、君は一瞬でパァにしようとした。」

 

ゴンッ!

 

清夜は冷たい目のまま、翠に頭をぶつける。

 

「金に糸目をつける気はない。秘密を守る限りこの仕事を降りたっていい。だが結果も出せず勝手に利用価値がなくなるのは断じて許さない。死ぬなら俺が有効的に利用して死なせてやる。いいかい、この仕事を続ける限り君達の命の使い方は俺が決める。いいね?」

 

「は、はい・・・」

 

「かしこまり・・・ました。」

 

その場で固まる翠と藍。

動かないというより動けないのだ。

恐怖という感情は施設で慣れたはずなのに

そんな二人の状態を知って知らずか、清夜は翠から頭を離し笑顔をむけた。

 

「でも君達のその覚悟はとてもよかった。裏社会との接点を探す着眼点もいい。より気に入ったよ。確認しておくけど的場伊万里は今どこにいる?」

 

すると突然、今度は二人の頭撫でた清夜。

あまりの差に二人はとまどいを隠せない。

 

「え、あの、その的場伊万里は静岡と愛知の境の高速道でトラックに飛び移ったので少なくとも愛知で帰る足を探してる最中かと。それよりも・・・」

 

「その、良かったのですか?負けてしまったのに」

 

「ふむ・・・藍、いや翠も俺の事を少し勘違いしているようだね。」

 

「勘違いですか?」

 

「俺は結果至上主義者だ。復讐が成し遂げられるなら、君達が何千何万回負けようと構わない。俺が切り捨てるのはね、その()()()()()()()()()()()()()()()だ。」

 

「その結果すら出せないというのは・・・」

 

「フフーフン♪どんな連中かは自分で考えたまえ。さて仕事は情報部の方に任せるとして・・・まずは翠の足を治療しに行こう。藍、車を出してくれ。翠は俺が預ろう。」

 

清夜は藍の代わりに翠を抱きかかえた。

今度は別の意味で戸惑う翠。

 

「え、あ、その・・・メイドが主の世話になってしまっては」

 

「ヒョヒョッ、怪我人は黙ってご主人様にしたがってなって翠。それで御主人様、一体どちらまで向かいましょう?」

 

「荻窪だ。そこにいい闇医者がいる。」

 

結局、翠は車に乗るまで清夜に抱きかかえられていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月16日 東京 荻窪 マンション

 

「急患って聞いてたけどアンタやったか。」

 

「といっても怪我人はこの子だけど。よろしく()()()()先生」

 

清夜達が訪れたのは美濃芳野の部屋だった。

もちろん同姓同名ではなく伊万里がなついている闇医者の美濃芳野だ。

 

「足裏を刺されたんか、おー綺麗に止血しておる。」

 

「一応、全部屋チェックさせてね先生。」

 

拳銃片手で部屋の奥にズカズカとあがる藍。

しかし芳野はそれを止めることはしない。

頭に「闇」とつく職業上、こんなのは「おはよう」にすらならないからだ。

 

「こんぐらいなら清夜でも処置出来るんちゃうか?」

 

「念のためですよ。助手はいります?」

 

「いらん、ちゃちゃっと終わらせる。手術台に乗せて、始めるよ」

 

〜数十分後〜

 

手術は本人の言う通り、ちゃちゃっと終わってしまった。

翠の足からはナイフが取り除かれ、代わりに包帯が巻かれていた。

翠は営業スマイル全開で感謝する。

 

「ありがとうございます先生!」

 

「ヤンチャなくせして、愛想だけはいい連中やな。」

 

対し、芳野はタバコに火をつけ吸い始めた。

 

「で、この子ら清夜の何?まさか友達とかぬかすんちゃうやろうな?」

 

「フレンドはフレンドでもセフレだったりして?」

 

「あほ、拳銃持ってる輩がただのセフレで済むわけないやろ。大方、飼い犬といったところか」

 

「ひどいな。彼女達は俺の大事な部下、護衛、そして可愛い可愛いメイドさん。だから彼女の治療費も俺持ちさ。」

 

「お代はええよ。けどその刺し傷・・・足を刺したのに躊躇い傷で終わらせる意思フラフラな殺し屋のことは放っといてくれへんかな。」

 

「あはは、それを決めるのは俺ではないね。」

 

清夜はその当人達に目を向けた。

その視線に藍は楽しそうに、翠は若干、神妙そうに頷いた。

 

「ひょっひょっ!!さすが的場伊万里。冴えた医者を連れてやがる」

 

「分かりました。考えておきます。その代わりと言ってはなんですが御主人様と先生はどういう関係なのでしょう?」

 

清夜と芳野は目配せ合う。

その結果、清夜が語り出すことになった。

 

「先代の式海運社長と先生は交流があってね。その関係で知り合ったんだ。けど先生は一応、伊万里の雇い主『仙崎時光』に雇われてるってことで仙崎との協議の結果、ここは一種の中立地帯になったんだ。だからここでの戦闘、並びに先生を巻き込んだ戦闘は禁止になってる。だから君達もここでは極力戦っちゃダメだよ。」

 

「「かしこまりました。」」

 

翠と藍は綺麗にペコリとお辞儀した。

 

「やっぱ愛想だけはいいな、この子ら。そういえば清夜」

 

「はい?」

 

「この間、精神科医を紹介したくれた件。ありがとうな、おかげでアレについても大分確信に近づけた。」

 

「あぁ、()()ですか。」

 

清夜は遠くを見るような目をして頷いた。

『アレ』というのは的場伊万里の肉体の限界を超えた異常なまでの『強さ』もとい『速さ』のことだ。

人間の力には限度がある。

これは細胞的な限界ではなく脳が無意識にセーブしているリミッターのことだ。

諸説あるが人間が普段出せる最大の力は全開時の30%程度。

『火事場の馬鹿力』なんて言葉があるように余程の危機になって(彼らにとっては慣れすぎて戦闘は危機といえるものではない。)ようやく残りの70%が解放される。

だが伊万里には洗脳によって初めからこのリミッターが外されているのだ。

無論、そんなものが何の犠牲もなしに外せるわけがない。

医者である芳野の見立てだと伊万里の脳はそう遠くないうちに焼き切れる。

文字通り、負荷をかけ過ぎたPCのように焼き切れる。

同じ洗脳でも司一のものより100倍タチが悪い。

 

(そもそも人間の力にリミッターがかけられてるのは肉体の自壊防止のためとも言われとる。それを無理矢理外せば脳だけやない。伊万里の体組織までもが崩壊してまう。だから私は大切な伊万里のために脳外科医、精神科医を清夜に紹介してもらってる)

 

清夜が紹介してあげるのは何も善意によるものではない。

単純に的場伊万里という殺し屋の無力化を狙っているのだ。

ただの殺し屋ならこんなことはしない。

ねじ伏せるだけでいいからだ。

つまり医者を使った無力化を企むということは少なくとも的場伊万里という殺し屋に対して直接戦闘は避けているということ。

もっと言えば的場伊万里を規格外の存在として認めているということだった。

 

(ま、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。才能の限界はとうに超えてる。伊万里と同じ洗脳か、もしくはそれに近い自己暗示か、強迫観念か・・・なんにせよ、この子には悪いけど伊万里を治療するための症例になってもらう。)

 

「そういえば飯食い損ねて腹ペコなんやけどアンタらは?」

 

「「「ゴチになります!」」」

 

ちょうどそんな話を始めた時だった。

 

ピンポーン

 

部屋にインターホンのベルが鳴り響く。

その音と同時にインターホンの映像が部屋のPCに届く。

そこに映る客人は・・・

 

「伊万里や。」

 

西東京総合学園の制服にリュックサック。

何よりもそのリュックサックがランドセルに見えてしまうくらいの小さい背と可愛い顔は的場伊万里その人だった。

 

「ちょうどええ、このまま・・・」

 

「皆で食べに行こう」、そう言おうとマイクのスイッチに手を伸ばした瞬間。

清夜はその手を掴み止め、藍は芳野の口を塞いだ。

 

「しー、し・ず・か・に」

 

「!?」

 

気付くと藍の手には拳銃のグロック、清夜の手にはサブマシンガンのH&K MP7カスタムが握られており、終いには翠がバックからアサルトライフルのH&K G36を取り出していた。

状況が理解出来ていない芳乃に藍が耳打ちする。

 

「『すまん、伊万里風呂入ってた。ちょっと待って』」

 

物言いから察すると、伊万里とは戦わないという先ほどの言葉を早速裏切りだまし討ちする気か。

だが彼らの表情はそういったものではない。

とりあえず芳野はマイクのスイッチを入れ、話を合わせる。

 

「すまーん伊万里、風呂入っとった。少し待ってー」

 

そう言って目配せする芳野。

藍は頷いて答えた。

 

「先生、あれは()()()()()()()()。本物は今、帰る足を探している最中だ。」

 

「それに()()()2()c()m()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

本当に細かい違いだった。

長い付き合いである芳野も『言われてみれば』という状態だ。

物理的にこの時間に帰ってくるのはありえないと知ってるとはいえ、この一瞬で見抜く殺し屋のスキルは芳乃も眼を見張るものであった。

 

藍は翠の手信号を確認すると足音を立てぬよう玄関に移動し・・・

 

バンバンバンバンバンバンバンバンバンッ!!

 

問答無用、先手必勝でドアごとブチ抜き、全弾撃ち尽くした。

ドガッやギュィーンという音を立てドアに無数の穴を開ける銃弾。

藍は弾を使い切ったマガジンを捨てリロードした。

 

キッシシシシ・・・

 

(?)

 

すると今度はドアの向こうから不気味な音が聞こえた。

何かが揺れたり、軋んだりしたような音ではない。

そう、これは音ではない。

笑い声だ。

 

スチャッ・・・

 

(さっきの声にこの音・・・不味い!?)

 

それに気付いた藍はまるで道を開けるかのようにドアの横に飛び込んだ。

その直後、微かなサイオン光とともにドアの向こうからドデカい音が響いた。

 

ダァンッダァンッダァンッダァンッ!!

 

今度は伊万里(?)のお返しの銃弾がドア越しに帰って来た。

それも先ほどの藍の銃より銃声がデカイし、ドアに穿たれる穴も大きい。

 

バンッ!ガシッ!

 

「っ!」

 

全弾撃ち尽くされると一呼吸の間も無く、ドアが開き小さな腕が藍の襟を掴んだ。

このまま部屋の外に引きずり出して倒すつもりらしい。

 

ガッ!

 

藍は銃を持った右腕をドア横の壁にひっかけることでそれを防ぐと今度は左手を伸ばし伊万里(?)の頭を掴む。

 

ゴゴッ!!

 

「グォッ!」

 

すると、そのまま彼女の顔に膝蹴りをかけた。

たまらず仰け反る伊万里(?)を藍は部屋に引き込み後ろにある壁に投げて叩きつける。

 

ブゥンッ!ビターンッ!!

 

パンパンパンッ!

 

トドメの拳銃は惜しくも避けられ、距離を取られた。

だが、おかげで伊万里(?)のカツラが取れ地毛であろう本物の髪の毛が藍には見えた。

 

(白い髪!?そうか・・・)

 

()()だ!紅雪が出たぞ!」

 

「キシシシ・・・そうですよ〜みんな大好き紅雪様ですよ〜」

 

ガシャッ

 

紅雪はリロードするためにマガジンを落とす。

 

「たくフジャッケンナ、フジャッケンナ。あのビッチ。第一高校の時と同じで話が全く違うじゃねぇか。何が『的場伊万里がいないから簡単だ』だ。代わりに別の殺し屋がいるじゃねーか。」

 

藍は近くの部屋へ駆け込む。

紅雪は顔を蹴られて出た鼻血を拭うとそれを追いかけた。

 

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2095年 5月16日 東京 荻窪 美濃芳野の手術室

 

残った翠と芳野は手術室で息を潜めていた。

 

「べ・・・紅雪?なんやソイツ、有名なん?」

 

「はい、CIAの殺し屋です。業界ではちょっとしたアイドルなんですよ。」

 

2095年現代、アイドルは美少女をモデルとした『CGドール』が主流になっているため最早死語なのだが、アイドルの通り色々な意味でファンがいるようだ。

 

「先生、何か地雷を踏んじゃいました?」

 

「・・・そういや、帰ってくる前、()()の話を聞くために脳外科医の権威である(ヤン)教授に会おうとしたらビッチぽい米人に警告されたわ。」

 

「それですね間違いなく。」

 

とは言ってもそれは約3時間ほど前の話だ。

それを早速、刺客を送ってくるあたり、よほど大きな地雷を踏んでしまったらしい。

 

(だけど、これは同時に()()()()()()()()()()()ということか)

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月16日 東京 荻窪 マンション 美濃芳野の部屋

 

紅雪は藍が入った部屋に駆け寄った。

 

ガンッ!バキィ!

 

蹴ってドアノブごとドアをぶち壊す。

このまま突入かと思われたが紅雪は入らず代わりにドアの横の壁をデザートイーグルでブチ抜いた。

 

バァンッバァンッバァンッ!!

 

先ほどのように避けられるのを警戒してのことだろう。

しかし、ブチ抜いた先には誰もいない。

紅雪はそのまま部屋に入り、手当たり次第に銃撃する。

 

バァンッ!バァンッバァンッ!バァンッバァンッ!!

 

テーブルが、パソコンが、本棚が銃声とともに壊れていく。

蛍光灯に当たり、部屋が暗くなった。

 

「お前知ってるぞ!南米マフィアの犬だな!てーことはもう一匹いるだろう!?」

 

「お喋りなやつだな!」

 

パァンパァンパァンッ!!

 

部屋の隅に隠れていた藍が立ち上がり迎撃した。

だが紅雪は下がらない。

滑り込むように間合いをつめ、一気に格闘圏内に入ってくるようだ。

藍はその挙動から次を予測し腕輪型CADとナイフを構える。

 

(回し蹴り。『グラビティ・ブレード』で足を切り落とす!)

 

シュパッ!

 

タイミングをあわせナイフを振る藍。

しかし藍のナイフは虚しくも空を切った。

紅雪が飛びかかる途中で、()()()()()()()()()のだ。

 

「なっ、停止まh」

 

ドゴォッ!

 

「かはっ!」

 

かと思いきや、今度はそのまま加速し藍の胸にライダーキックをきめた。

停止と加速の魔法を上手く組み合わせた攻撃だ。

そのまま後ろにくるんと一回転した紅雪は尻餅をついてしまった藍に銃を向けた。

 

「こいつでくたばりな!」

 

CIAの殺し屋による死の宣告。

ただ、藍もここで終わるような殺し屋ではなかった。

 

「誰が蹴り一発ぐらいで!」

 

ブゥンッ!

 

パァンッ!

 

長さを伸ばした斥力の刃で紅雪の足を払い斬る。

紅雪はそれをジャンプでよけ、藍の頭に弾を撃ちこんだ。

が藍は頭を上げることでこれを紙一重でよけ、紅雪の腹に蹴りをいれる。

 

「くたばるかっての!」

 

ドフッ・・・

 

思いきった割りには音が弱い。

案の定、紅雪は身体を引いて威力を和らげいた。

 

「へっへー、へなちょこキック!・・・!!」

 

何かに気付いたのか、急に右を向いた紅雪は障壁魔法を展開した。

だが・・・

 

パリン!

 

「障壁が」

 

「破られた!?」と言いたかったのだろう。

確かに障壁はすぐに藍の術式解体で破られた。

そしてその直後、紅雪に隣から5.56mm弾の横殴りの雨が降りかかった。

 

ドドドドドドドドドドドドッ!!

 

手術室にいた翠のアサルトライフルによる攻撃だ。

しかも魔法で威力を高めている。

動けない翠を固定銃座にし、藍が誘い込み殺す。

動けないが故、逆に気配がギリギリまで悟られない。

翠の負傷を利用した二人の作戦だった。

間違いなく軍のスペシャルフォースでも初見では必ず殺されるだろう。

 

(・・・当たった手応えがない・・・)

 

ただ、相手が『紅雪のように常人離れしてなければ』だが

始めに気付いたのは藍だった。

 

(あの状態から伏せて避けた!?やばい!!)

 

「翠!!そっち行った!!」

 

時すでに遅し。

そう言った頃にはすでに紅雪は隣部屋に移動し、芳野の首を掴み、翠の背後をとっていた。

 

「この速さ、伊万里と同じ・・・がっ!!・・・い、息が・・・」

 

「ハッ、ダメだ。ダメダメだなオマエら。ノロすぎる!」

 

「・・・」

 

翠は静かに後ろを睨みつけた。

 

「ま、仕方のないことだ。なんせこの紅雪様の本当の名前は白頭鷲、イーグルだからな!この髪を言われてるようで好きではないが、イーグルの飛ぶ速さに犬のオマエらが敵うわけないのだ!」

 

 

 

 

 

「でも白頭鷲は生態系の頂点にはいないだろう?」

 

 

 

 

 

ガッ!ドンッ!

 

「グォッ!?」

 

突然、後ろから組み敷かれる紅雪。

 

「何故か。それは人間の知恵の前ではイーグルの飛ぶ速さなど敵わないからだ。」

 

 

「「「!?」」」

 

()()()()()()()()()()はずの3人も思わず驚いてしまった。

そう、翠と藍の主人である清夜の出現に・・・

 

(待った待った待った!いつの間に清夜は・・・違う、()()()()()()()()()()()()()()()()()!?確か、私の手を掴んだ時まではいたけど、そこから先、私・・・いや二人も清夜を見ていない!!)

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・これは一体!?)

 

(魔法?・・・技術?・・・どちらにせよありえるのか!?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・)

 

紅雪も清夜の声に、突然現れるやり口に気づいた。

 

「くっ・・・お前、まさか亡霊野郎!!」

 

「結局、君は白頭鷲。人間様には遠く及ばない。ほら、こうして翼と足を封じてしまえば何もできない。」

 

清夜は銃を持ってる紅雪の右手と首を絞める力を強くした。

 

ギギィ・・・

 

「ぐっ・・・かはっ・・・く・・・そ」

 

耐えられなくなった紅雪は銃を手放してしまう。

 

「魔法を使おうとしても無駄だよ。CADは俺の魔法で使えなくなっている。」

 

「く・・・うご・・け・・な・・・ぃ」

 

紅雪の強さの根底は全てスピードだ。

威力が足りなければより加速の力で補う。

相手に組み敷かれず、捕まらず、狙いをつけられないのが彼女の殺しの前提だ。

だがその前提が崩れた今、組み敷かれた彼女には加速で力を補うことも、スピードで逃げることもできない。

つまり完全な詰みだった。

 

「慈悲も・・・クソも・・・」

 

「あるわけないだろう。君は道端に落ちてる紙屑にも慈悲を与えるのかい?」

 

キギギギギィ・・・

 

絞める力はさらに強くなる。

もう呼吸することすら困難だ。

 

「ッ・・・ぁ・・・」

 

「嗚呼、冬華。またお兄ちゃん悪をつぶs」

 

ミシィという首の骨が折れかける音が聞こえた時だった。

 

 

 

 

 

 

()()()()調()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

清夜の体が不意に持ち上がる。

誰かが投げ上げたのではない。

 

(魔法だと!?)

 

(CADなしで!?)

 

「研究の副産物とはいえ、『イーグル』・・・紅雪も立派な儂の作品。そう簡単に壊されてしまうのは困るのぉ。」

 

「ご主人様!!」

 

ヒュッ!

 

パシッ!バンッ!

 

翠が投げ上げたナイフをキャッチし、腰に下げといたmp7カスタムを取り出したと同時、

紅雪がデザートイーグルで撃ち放つ。

清夜はこれを『磁力返し』で弾き返した。

 

「効かんのぉ」

 

だがその反射すら紅雪は避けた。

時間にして1秒にすら満たない攻防。

撃って反射された弾を避ける。

遠距離ならまだしも天井と地面というこの近距離でだ。

紅雪が最上級の殺し屋ということを考えても何かがおかしいのは一目瞭然だった。

 

「くそっ!!」

 

ダンッ!

 

ババババババッ!

 

シュパッ!!

 

天井に飛ばされていた清夜はそのまま天井を蹴り返し、紅雪にmp7で銃撃しながらさらにナイフで斬りかかる。

対し紅雪は動くことなく不敵な笑みを浮かべた。

 

キキキキキンッ!ガキンッ!!

 

弾は紅雪の手前で弾かれ、ナイフも彼女には届かない。

まるで透明な壁が間に敷かれているようだった。

 

(障壁・・・じゃない!!領域干渉!?この短時間で!?)

 

「ほれ、止まってしまったぞ」

 

「しまっt」

 

ドォゴンッ!!

 

直後、爆発のようなでかい音が響く。

デザートイーグルの銃撃が魔法によって対物ライフル並みの威力になったのだ。

魔法で周りに拡散された反動は衝撃となり部屋の床、電灯、ガラス、あらゆる物にヒビを入れ、破壊する。

ただ、そこには足りないものがあった。

 

「・・・」

 

「よく防いだのぉ。」

 

それは血だ。

清夜、翠、芳野の三人がいて誰一人として血が飛び散ってない。

代わりに清夜の背中から翼が生え、無数の白く、薄く輝く羽が飛び散り部屋を幻想的な空間に彩っていた。

 

「何やこれ・・・羽か?」

 

(これは・・・ご主人様の『未元物質』。ご主人様にもう一つのBS魔法を使わせた。それほどの強さってことですか。)

 

「愉快愉快、まさか翼が生えるとは。実にメルヘンチックじゃ。しかも翼で防御した瞬間に無数の羽に変換し衝撃を拡散させたな?それにこの羽もただの羽とは思えんしのぉ。」

 

紅雪はまた不敵な笑みを浮かべた。

 

「いや、そんなことよりも注目すべきは『その翼を構成している物質をどうやって取り出したか?』じゃの。お主、()()()()()()()()()()()?」

 

「・・・お前、()()()()()()()。何者だロリババァ」

 

「バ・・・ふむ、ま、まぁよい。そんなことよりも質問に答えt」

 

「ババァ」と言いかけて言葉を飲んだ紅雪(?)。

器の大きさを示そうとしていたのだろうか。

しかし

 

「ロリババァですね。」

 

翠が追い打ちをかけ

 

「ふ、ふん!そんな言葉じゃ儂を傷つけることなぞ・・・」

 

「ロリババァやん。」

 

芳野が見事に紅雪(?)のプライドにトドメをさした。

 

「ロリでもなければ、ババァでもないもん!儂はまだまだ"ないすばでぃ"だもん!!当主様も綺麗で美しいて褒めてくれたもん!!」

 

その時間約10秒。

茹でたタコよりも真っ赤に、そして早く彼女の顔は真っ赤に茹で上がった。

 

「キョフフフ・・・今さら口調変えても無駄ですよ。おばあさん」

 

「こ、この小童どもめぇ・・・礼儀がなっとらん。まぁ、良い。躾けて、動けなくして、ゆっくり研究させてもらうだけじゃ。」

 

パンッパンッパンッ!

 

互いの殺気で部屋が満たされる中、

一番最初に動いたのは()だった。

隣の部屋から入り込み銃弾を叩き込む。

このタイミングで仕掛けるように清夜が指示していたのだ。

だが紅雪(?)は横から来る弾丸をバックステップで避けてしまう。

 

ダッ!

 

そのワンテンポ遅れて今度は翠が新たにナイフを取り出し斬りかかった。

対し紅雪(?)は移動系の『ランチャー』で藍を翠にぶつける。

 

「グォ!?」

 

「藍ちゃ・・・グッ!!」

 

「カッカッカッ、甘いわ!!」

 

ドグォッ!!

 

加重系魔法で威力を高めた回し蹴りに蹴り飛ばされる翠と藍。

その蹴りが当たった直後だった。

先ほどまで5mほど離れていた清夜が紅雪(?)の目の前にまで来ていた。

 

「・・・」

 

(こいつ、羽を隠しながら黒髪の女(翠)の後ろをピッタリ付いて来て姿を隠していたのか!?)

 

バサッ!

 

清夜の背に再び翼が生える。

それも今度は6枚。

その動きは『羽ばたき』というより『鈍器のよる打撃』。

ナイフと同時に仕掛けるようだ。

 

「面白い!!」

 

紅雪(?)は蹴り直後の硬直状態のまま体を無理やり移動系魔法で動かしナイフをぶつけ合う。

 

ガガガキンッ!!

 

ぶつかり合う重なった音が一瞬の攻防の激しさと二人の()()()使()()()()()()()()()()()()を物語っていた。

 

ドタッ・・・

 

「っ・・・」

 

羽が弱い閃光とともに消えた。

膝をつき右腕をかばう清夜。

見ると二の腕から血が出ていて服を赤く滲ませていた。

 

スタッ、タッタッタッ・・・

 

紅雪(?)はそのまま着地するとそのまま芳野のもとまで歩み寄ろうとする。

 

(清夜が膝をついた!?このままじゃ・・・伊万里ッ!!)

 

芳野は思わず目を瞑る。

しかし紅雪(?)は芳野の一歩手前で歩みを止めた。

 

「・・・・・・?」

 

「・・・ちと認識が甘かったようじゃの。」

 

ツー・・・

 

紅雪(?)の頰から血が垂れ流れた。

他にも深くはないが体のいたるところにも切り傷が出来ており血が出ていた。

 

「ワイヤーが張り巡らされているとは思わんかったぞい。ツイストナノケブラーワイヤー(ピアノ線のこと)・・・ではないな。黒色の”何か”を張り巡らせて、この部屋の暗闇を保護色に隠しておったか。」

 

”何か”の正体はそこまで大層なものではない。

砂鉄だ。

清夜は普段から少量の砂鉄と水銀を隠し持っているのだが

それを先ほどの会話の間にこぼし、BS魔法の応用である『Iron sand blade(砂鉄剣)』を糸状に細めて発動、ワイヤーとして利用したのだ。

いわばチェーンソーが至る所から生え伸びてるようなもの。

何も知らずに突っ込めば細切れになるはずだった。

 

「いつまで深傷のフリをしておる3人とも。手応えがないのは攻撃した儂が一番分かっておる。」

 

(速いだけじゃない・・・ワイヤーに気づきギリギリで躱す反射神経も相当なものだ。翠と藍でもここまでの力はないぞ)

 

「さてさて、黒色の”何か”の正体。見極めさせてもらおうかのぉ。」

 

紅雪(?)は光波振動系の魔法で光球を作り部屋を照らす。

しかし清夜もいつまでも手品を晒すような間抜けではない。

すでに『Iron sand blade(砂鉄剣)』を解除しており砂鉄は磁力で操作し物陰に隠してある。

故に紅雪(?)が期待するものは何もない・・・

はずだった。

 

「・・・ん?先ほどまで暗くて顔までは見えなかったがお主・・・もしや『式の出来損ない』か?」

 

「!!」

 

清夜の眉が微かに動いた。

 

「ああ、ああ、やはりそうじゃ。間違うない!あは、あはははははははははははは!!」

 

清夜の反応に確信を得たのか紅雪(?)は今日一番の高笑いをした。

その笑い声に翠も藍も芳野も戸惑う。

 

「なんじゃなんじゃ、あの()()!!なぁにが失敗じゃ!こんなに強うなっとる、魔法を使いこなせておる!これだけで見ても()()が充分に機能しておるではないか!!」

 

「・・・何のことだ?」

 

「あはははは、こちらの話じゃ。それよりもさっきの質問に答えてしんぜよう。確かに儂は()()()()()()。じゃが、()()()()()()()()()()』じゃ。」

 

ナゾナゾだろうか。

意味の分からない回答だが清夜はそこにある可能性を見出す。

 

「解離性同一障害・・・精神の負荷から耐えるために新たな人格を作り出す精神障害・・・精神・・・まさか・・・四葉か?」

 

「解離性同一障害、俗に言う多重人格のことじゃな。奴らの精神干渉系魔法なら出来るだろうし、脳のリミッターも精神から外すことが出来るかもしれんのぉ。中々に聡い。が、しかし儂は多重人格ではないし、儂と紅雪()四葉の関係者ではない。」

 

「じゃあ何者だ?」

 

「さすがにそこまでは教えんよ。」

 

「まだ質問は終わってない。お前、俺の、式清夜の財界での通り名を知っているようだが・・・アレとは何だ?俺の何を知っている?」

 

その質問に紅雪(?)は本日3度目の不敵な笑みを浮かべた。

 

「お主の()()()()()()()じゃ。」

 

「ハァ・・・OK、答えてくれないなら吐かせるまでだ。」

 

ダダダダダダダダダダッ!!

 

バババババババババッ!!

 

パァンッパァンッパァンッパァンッパァンッ!!

 

バリバリバリッ!!

 

ブバァッ!!

 

清夜と翠と藍の一斉攻撃が紅雪(?)に降り注ぐ。

今までとは違い量に物言わせた面制圧射撃。

銃撃だけでない、魔法による雷撃と真空の刃、トドメには『未元物質』の翼を羽ばたかせ烈風を叩きつけた。

しかし、すでに紅雪はおらず、代わりにどこからか声が聞こえた。

 

 

 

『紅雪を倒し、儂を傷つけた強さに免じて特別に今回は見逃してやる。美濃芳野、お主もじゃ。紅雪と同じ儂の作品の一つ『オウル』・・・的場伊万里を手懐け、(ヤン)教授に目をつけた優秀さに免じて見逃してやろう。CIAにもしばらくは手出しできないようにしておいてやる。せいぜい研鑽し続けるがよい。我が野望のためにな。』

 

 

 

「まだ具体的な回答はもらってないぞ!!アレとはなんだ!?」

 

 

「アンタか!?伊万里に洗脳を施したのは!!何者や!一体、なんていう組織や!!」

 

 

 

『たく、最近の小童はすぐに答えを聞く。じゃが式清夜、お主には褒美ぐらいはくれてやろうと考えておる。お主が強くなるためのな。』

 

 

 

「褒美だと?」

 

 

 

『何、すぐにもらえるじゃろうて、楽しみにしておれ。あは、あははははははははははははははははははははははははははははははははははははハハハハハははははははははは』

 

 

 

その笑い声は不気味で姿がない今でも警戒を解くことができない・・・

 

 

 

 

 

『あとババァじゃないからの!!まだまだピチピチの美少女じゃからな!ピチピチじゃからな!』

 

 

 

 

 

・・・が最後はラスボス感を台無しにしていた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月16日 東京 荻窪 マンション 屋上

 

「家がものの十数分で全壊してもうたわ。なんちゅー破壊力やあの四人。」

 

戦いから少し経ち、美濃芳野はタバコをふかしながら黄昏ていた。

 

「命があったのが奇跡だわ芳野姉さん。」

 

その傍らには本物の伊万里がいた。

話を聞いて飛んで帰ってきたらしい。

部屋は現在、屈強な男達が修理中のため、邪魔しないよう屋上に出ていた。

ついでに警察、消防ともに来てはいない。

このマンションは例えドンパチが起きようと通報しないし、住民も駆けつけようとすらしない、ここはそういう所だった。

 

「そりゃ紅雪っちゅーのが本当、すばしっこくて怖かったー。結果的にあの3人に救われたわ。」

 

芳野はロリババァこと豹変した紅雪のことについては語らなかった。

言ってしまえば、それを引き金に色んな意味で遠くに行ってしまいそうだから

 

「清夜の気分でそうなっただけ仙崎との協定だって口約束程度にしか思ってないわ。あの3人とは絶対に分かり合えない。」

 

彼らは殺し屋。

他の殺し屋達と比べても頭一つ抜き出ているし

また他の殺し屋とはイかれているベクトルも違う。

一般人とも普通の殺し屋とも根本から相容れない。

 

「ウチはそうは思わんけど」

 

しかし芳野の考えは違った。

 

「現にウチは伊万里とも分かり合っているし、ウチかて危険な女やも〜ん。」

 

「キャハハハッ、全然怖くない。」

 

芳野のジョークに伊万里は笑顔を見せたがすぐに神妙な表情になる。

 

「でも・・・私のせいで姉さんを巻き込んでしまった。すごく危ない状態・・・だから」

 

伊万里は少し照れ臭かったのか間をあけてこう続けた。

 

「私が守る。芳野姉さんの命を脅かすもの全てから。ここに住まわせて」

 

「もちろん、ええよ。ウチからもよろしく頼むわ。」

 

物語としていい感じに終われそう

 

ブブブ・・・

 

・・・だった所に無粋な着信が響いた。

相手は仙崎の秘書で伊万里の連絡役の洲央からだ。

芳野はチッと舌打ちするとスマホを取り出し電話にでた。

 

『終わったぞ美濃芳野。死体処理部隊の”火車”を修理大工に使うとはいい度胸だ。』

 

「洲央、お仕事乙。帰ってええよ。てか帰れ。」

 

芳野の悪態に洲央は特に何も反応しない。

洲央は淡々と忠告する。

 

『あまり仙崎をからかうといくらお前でも首を切られるぞ。伊万里さんに代われ。』

 

芳野は電話に向かって「イ〜だ」と言って伊万里に代わる。

電話の相手が伊万里に代わると洲央の態度もガラリと変わった。

 

『お疲れ様です伊万里さん。紅雪は先ほど日本を離れました。座間基地から輸送機で。『スクリーム』と呼ばれるCIA職員が同行しています。恐らく飼い主かと。』

 

「なんで日本の軍事基地から堂々と出ていけるのよ。」

 

『あそこと厚木基地は日米共同利用の基地ですからね。適当に理由つければファーストクラス並みの待遇で帰れますよ。』

 

そんなので日本の防衛は大丈夫なのだろうか。

なんて殺し屋の伊万里もつい考えてしまいたくなる。

 

『彼女らが日本に戻り次第、連絡します。』

 

「翠、藍との戦闘で破損した私のベレッタは?」

 

『すでに破棄、新しいベレッタは部屋のソファにあります。』

 

「頼んでおいたのは出来てるの?」

 

『要望通り、ベレッタにCAD機能をつけときました。米軍と同じ仕様で握るだけで単一の術式が発動できるようになっています。それから他の連絡事項になりますが透野翠、透野藍はアイザック・ウェストコットが呼び寄せた殺し屋のようです。警備会社のDSSどころか本社のDEMにすら所属してないところを見るにDEMの余程深い闇の仕事を任されてるかと。』

 

「・・・」

 

伊万里は何も語らない。

だが洲央は知ったような口で続ける。

 

『ああ、そういえばもうお知り合いでしたね。伊万里さんもお人が悪い、仙崎に報告しておきますね。』

 

「あっそ、それでまだ何か?」

 

『その仙崎からの指示なのですがもうここに住んじゃってください伊万里さん。あっ、もしかしてもうその気でした?』

 

「・・・」

 

『ああ、最後に一つ。魔法大学付属の()()()()()()()で近々面白い動きがありそうです。また連絡しますね。』

 

ピッ・・・

 

洲央は不穏なことを言い残し電話を切った。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

2095年 5月16日 東京 某所

 

時刻は11時近く。

清夜たちが紅雪と戦闘を始めた頃、

ここに一人、出歩いてはいけない時間に出歩いている男子高校生がいた。

いや清夜たち同様、屋内にいるから出歩いているとは言えないかもしれない。

ただ一つ付け加えとくと、ここは彼の部屋ではない

 

「葉山さん、自分です。いただいた情報通りの部屋に到着しました。」

 

『して対象は?』

 

周りには彼以外誰もいない。

部屋は各最新式の家電が置かれており、まるで富裕層の独身暮らしを思わせる雰囲気だ。

 

「いません。けどつい最近まで生活していた跡があります。」

 

『さすがに我らのやり口は熟知しているようですな。』

 

「知っているだけで逃れられるとは思えません。こうして何回も潜伏する場所を変えてここまでの生活が出来るのですから恐らく・・・』

 

()()がバックにいるのでしょうな。下手したら名前も変えてるかもしれません。』

 

「急ぎましょう。学校の状況から察するに研究が悪用されてるのは間違いないですから。」

 

彼の右手にはトーラス・シルバー作のCAD『シルバー・ホーン』が握られていた。




という訳で今回はここまで!
今回はドンデン返しからのドンデン返しをコンセプトに構成しました。
清夜のことを知り、紅雪や伊万里を作品と呼ぶロリババァは一体何者なのか!?
ま、オリキャラじゃないので想像できないわけじゃないので安心してください。

次回予告!

続々と記憶喪失、サイオン枯渇の被害者が増えていく中、とうとう生徒会、部活連、風紀委員会の3巨頭による本格的な捜査が始まる。しかし、バイヤーはそれを嘲笑うように捜査の網をすり抜けていく。バイヤーは一体?そしてその裏にある思惑とは一体!?

多分予告通りになる・・・はず!!
次回もお楽しみに!


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