【凍結】元一般人の下剋上 (モッピー(国内産))
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第一章 守崎 康介という一般人
第1話 平凡な人生とは?


小説を書くのは初めてで少し緊張します。よろしくです。


貴方が「平凡な人生と言えば?」と聞かれたとき、どんな人生を想像するだろうか?

 

彼、守崎 康介が送ってきた人生は、その問いで誰もが想像するであろう人生そのものだった。

 

サラリーマンの父と専業主婦の母との間に生まれ、地元の小学校、地元の中学校に入り、少し離れた高校を卒業して現役で合格したそれなりの大学を出て、それなりの企業に勤める。

毎日時間通りに出社して、毎日パソコンに向かい、社員食堂にて日替わりランチAを食べ、毎日……とはいかなくても、定時で帰る事が殆どだ。

入社するにあたり借りたワンルームマンションで夕飯を食べ、時間ができれば趣味のアニメやネットサーフィン、偶に読書をして、日が変わる頃に就寝する。

特別な事など無く、かと言ってソレを望んでいる訳でも無く、山も谷もない人生。それが彼の人生だ。

 

今日も夕飯を食べて、なんとなくテレビを見ている。そこに映る『特別』な人達を見ていつものようにボソッと愚痴をこぼした。

 

「俺も……『特別』になりたかったなぁ……」

 

誰でも持っているだろう『特別』への憧れ。

小学生が○○レンジャーや仮面ライダー○○などのヒーローに憧れるように。

劇団所属の人間が俳優に憧れるように。

女の子がアイドルに、高校球児がプロ野球選手に、中学生が闇の力に憧れるように、康介もまた、『特別』に憧れていた。

 

自分だけにしかできない何か、それになりたいと渇望していながら、同時にそうはなれないと心の何処かで思っている。

 

「俺って……何がしたいんだろうなぁ……ハァ……ダメだな。寝よう」

 

漠然とした思いを胸に抱えたまま、ベットに潜り込み目を閉じる。

今日もまた、彼の平凡な今日は終わり、平凡な明日が始まる。

 

 

 

 

 

 

「あ、そう言えば……」

 

会社が終わり帰宅途中、彼は会社の最寄り駅から一番近い本屋に立ち寄った。彼の敬愛する小説家の新作が遂にその日発売されたのだ。

彼にしては珍しく少し浮かれて本屋に入り、新作小説のコーナーに急ぐ。本屋としても大々的に押し出しているのだろう。かなりの数の小説が店内で一番目立つ場所に平積みにされていた。

すぐに一つ手に取りレジへ。受け取ってからは本当に夢の中にいるようにふわふわとした気分だった。

だからなのだろう。

彼は信号を無視して来た車に、全く気がつかなかった。

 

 

 

「うっ……ん……」

 

体が動かない。頭の上から足の指の先まで、1mmたりとも動かせなかった。

視界に入るのは右頬に当たっているコンクリートの地面と、そこに広がる赤い水溜り。それも霞んでしまってよく見えない。

聞こえるのはザワザワとした喧騒。それも耳栓をしているかのようによく聞こえない。

 

「あぁ、俺はもう死ぬのか」

 

体からドンドン力が抜け、熱が無くなっていく事を感じる。直感的にこれが『死』だと理解する。

 

「ヤダなぁ。まだ、したい事も見つかってないのに」

 

自分が死ぬというのに驚く程冷静だった。

恐怖は無い、ただ、後悔が一つ。

 

「こんなに早く死ぬなら……もっと何にでも全力出しておけば良かったなぁ……」

 

今更言っても遅いか、と自嘲気味に呟いた。その呟きも、今までの独白も喧騒に紛れて消える。

ふとさっき買った小説を思い出す。

最後にこの本を読めないのはとても残念だ。タイトルは『下剋上』。

 

「……もし。もし、もう一度生きて行けるなら……」

 

その時は『下剋上』をしてみせるーーー

 

 

享年23歳、守崎 康介の人生が幕を閉じる……

 

『その願い、叶えてやろう』

 

ハズだった。

 




結構書いたつもりでしたがコレで2000いかないんですね。頑張らなくては。


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第2話 新しい命で

モチベーションがある今の内に原作スタートまで持っていかなくては。


とある病院の産婦人科にて、今日も産声が響いた。

 

「おぎゃぁぁああああ!!」

「あらあら。元気いっぱいね。よしよし」

 

新しく生まれた命は自分が此処にいる事を知らしめるかのように大声を上げる。

特に事故も無く、すんなりと生まれた事にそこにいる全員が安堵の表情を浮かべる。

その風景はありふれているが、幸福に満ち溢れていた。

ただ、一つ普通では無い事があるとすれば………

 

(えぇぇぇえええええ?!?!

いや、俺死んだんじゃぁぁぁあ?!)

 

その赤ん坊が一度死んだ記憶がある、という事だろう。

 

 

 

 

(どういう事だ?あの時、俺は確かに……)

 

その時赤ん坊は体が震えるのを感じた。死ぬ時の全てが自分から抜け落ちていくような、自分が消えていくような、あの体験したものにしかわからない感覚を思い出してしまったからだ。

 

(うっ……思い出しただけで尿意が。思い出すのはやめておこう。

でも、ここまで長かったような。短かったような)

 

そう。彼、守崎 康介(もりさき こうすけ)が生まれ直して(・・・)から一ヶ月が経とうとしていた。

 

生まれてから、赤ん坊というモノがどれ程不便か身に染みた。

なにせ文字通り何もできないのだ。出来ることと言えば周囲を見回したり、手足をバタつかせたり、うーうーあーあー言ったりするだけである。

そして転生モノで良くある例の羞恥プレイ(・・・・・・・)も体験した。アレは……康介の名誉の為にも色々と凄かったとだけ言っておこう。

 

(にしても本当にどうなってんだ?まさかネット民大歓喜の転生??でも神様にも会ってないし、ア○エール使ったのかって程真っ白な空間にも行ってないぞ?)

 

気付いたら赤ん坊。気付いたら羞恥プレイ。全くもって訳がわからない。

 

(あ〜考えてたらお腹すいたなぁ。この赤んボディは燃費が悪いよホントに。という訳で……)

「おぎゃぁぁあぁぁあああ!!」

 

そうして泣き声を上げると、近くにいた母親が慌てて声をかける。

 

「はいはい、どーしたのコウちゃん。

さっきオムツ変えたし、ミルクも飲んだでしょー?」

「おぎゃぁぁあぁぁあ!おぎゃあぁああ!(お母さんお母さん、お腹すいたよお腹!)」

「ん〜またミルク飲みたいのかなぁ?

飲む〜?」

 

驚いた事に、なんの因果か生まれ直しても名前は『守崎 康介』だった。

康介自身、まだ『コウちゃん』としか呼ばれていないので、名前は知らないが。

だが康介はそんな事構いもせずにミルクを飲む。

 

「あらあら、本当にコウちゃんは食いしん坊さんね。この分なら早く大きくなりそうだわ」

 

暫くすると康介は満足したのか飲むのやめる。そうしている内に眠くなったようだ。

 

「ふふ。眠たくなったの?なら寝ちゃいなさいな。寝る子は育つのよ?」

(本当に満腹になったら睡魔がくるなぁ。まぁ、母さんもこう言ってるし、寝るとしますか。おやすみママン)

 

数十秒後には寝息を立てて眠ってしまった。

 

「ふふふ。早く大きくなりなさいね」

 

男性なら皆が見惚れる様な笑顔で母親は康介を寝かしつけるのだった。

 

 

 

 

あれから4年。康介は好き勝手に歩き回っていた。

 

「ひゃっほーい!ぼくはじゆーだー!!」

 

長い間じっとしていた反動だろうか。とても元気だ。

……元気という言葉で表していいのかわからない程度には。

 

「ちょっ!コウちゃん待って!」

 

4歳児に追いつけない母親。

なんと哀れな事だろう。それには理由があった。

 

ミオスタチンと言う遺伝子の一種がある。コレは筋肉組織の発達を抑える役目を持つ遺伝子なのだが、康介にはコレが無かった。

ある種の障害だ。おかげで今では母・咲は追いつけなくなってしまった。

 

「パパ!Go!!」

「いや犬みたいに言うなよ……」

 

こういう時は父・亮介の出番だ。

 

ここで少し守崎家に触れておこう。

守崎家は代々続く武芸一家だ。その歴史は古く、戦国時代から國守流という名の独自の武術を受け継いでいる。

そして当代当主・守崎 亮介もまたミオスタチン欠乏症だった。

 

「うわっ!」

「ホラ捕まえた。母さんも困ってるし、体動かしたいなら道場で稽古でもしようか」

「はーい……」

 

こうして康介はほぼ毎日道場にて汗を流している。といっても幼いこともあり、そこまで激しくは無いが。

康介のサイズにあった木刀を型通りにゆっくり、しっかりと振り下ろす。そうして体に覚えこませる。

まだまだ体ができていない今の状態でも、出来ることはたくさんあった。

 

(もう後悔はしたくない。死ぬ時になってあの時もっと全力でやってたら……なんてまっぴらだ!)

 

その思いが今日も彼を突き動かす。

 

 

 

 

そうしていると2年などあっという間だった。気付くと入学式を迎え、小学一年生。ピッカピカのランドセルを背負い、友達100人を目標に、康介は教室に入る。

 

(うわー……結構広いなぁ。いや、俺が小さいからそう思うのかな?)

 

実際、教室の広さはごくごく一般的な広さだ。子供の視線というものを改めて実感する。

ふと周りを見渡してみると、

仲良くお喋りしている子。

教室の隅の方でジッとしている子。

ランドセルを席に置いて走り回っている子など様々だ。

 

「今日からここに毎日来るんだ。

よし!頑張るぞ!!」

 

康介は気合を入れて、その子達に向かって一歩、足を踏み出した。

 

 

 

 

その結果惨敗だったが。

 

「だ、ダメだ……思考年齢が違い過ぎる……それに今までずっと木刀振ってたから話題が無い……」

 

そう、どれだけ幼く振る舞っていても中身はもうそろそろ30になろうかというおっさんである。

精神が肉体に引っ張られているのか、少々地で幼い事はあっても良い大人なのだ。会話が噛み合うわけがない。

 

「はぁ……どーしよっかなぁ」

 

近くの公園でブランコを漕ぎながらブツブツと考える。

このままでは友達100人はおろか、1人だって出来はしない。全力で生きていくと決めた以上、交友関係で妥協するのは嫌だった。

 

(正直友達100人はネタだから良いけど、胸張って親友って言える奴が欲しいよなぁ……)

 

友達と言うものはそれそのものが得難い財産だ。それに誰だって孤立するのは嫌だろう。

そんな事を考えて速度を抑えてブランコを漕いでいると隣のブランコに誰かが座った。

上下黒のスーツを着込んだ、長髪垂れ目の女性だった。

ちらっと見えた美人と言っていい彼女は目に見えて落ち込んでいた。

 

「はぁ…………」

 

まるでこの世の負を全て詰め込んだかのような深いため息。

いくら我が身が小学生とはいえ、康介は放って置けなかった。

 

「おねえさんだいじょうぶ?」

「……え?」

「えっと……おねえさんすごくおちこんでたみたいだったから、だいじょうぶかなって」

「……うん。どーだろ。分かんないや」

「そっか、おねえさんもイヤなことがあったんだね」

「も?」

 

彼女は首を傾げた。

それはそうだろう。も、と言うからにはこの見たところ小学生の彼にも何かしらがあるのだ。馬鹿にする訳では無いが、小学生が悩み事など、似合わないにも程がある。

 

「何かあったの?」

「うん……今日入学式だったんだけど、友達できなくて……」

「ふふ、そっか。それは大問題だね」

「あ〜!わらったなぁ!ホントに気にしてるんだからね!」

「あはは、ゴメンね。バカにした訳じゃないんだよ?」

「ふん!どーだか!

……でもお姉さん元気になったみたいで良かった」

「え??」

「おねえさん、いまにも死んじゃいそーな感じだったから……」

「っ!!!」

 

この子はどこまで見抜いていたんだろう。

確かに彼女は自分の命を絶つ事も視野に入れていたのだ。

自身の能力。それは他者とは比べものにならないモノだと自負しているし、実際そうだった。

自分が作り上げたアレ(・・)は終ぞ誰にも理解されなかった。所詮成人にすらなっていない小娘の戯言だと、見向きもされなかった。

たった一人でも良い。理解者が現れればと思い公表したが、どうもこの世界に彼女と同じ天災(・・)はいないらしかった。

親友も、彼女の思想は理解しても、思考までは理解できていない。

絶望。その2文字程、今の彼女の心境を表すのに相応しい言葉は無かった。

 

「君は……凄いね。本当に」

「そんなことないよ。すごかったら友達だってできてるよ」

 

はにかみながら冗談を言う。そんな彼を彼女は心の底から凄いと思った。

こんな事、こんなに胸が踊った事、親友と初めて会った時以来だ。

 

「それにさ、なにがあったか知らないけれど、全部あきらめて、全部投げ出しちゃうなんてもったいないよ」

「そーかな?君には分からないかも知れないけれど、世界って案外大したこと無いよ?」

「そんなことないよ。自分を信じて、自分をつらぬけば……」

 

康介はブランコから降り、彼女に向かって両手を広げる。

思っていたより長く話していたのか、子供達は帰っていた夕方の公園。

彼の背には夕陽が差し込む。

 

「世界はホラ。こんなにもかがやいてる」

 

そんな彼の笑顔が眩しかったのは、決して夕陽の所為だけではない事を彼女は理解していた。

 

「そっか……そーかもね。そーだよね!ありがとう!もう一回頑張ってみるよ!」

「うん。僕には何もできないけれど、応援してるね?」

「ふっふっふー!その応援答えてみせよう!なんせ私は天災・束さん(・・・)だからね!!」

「……………………え゛??」

 

ちょっと待て。束?え?束って…しかも天災??えぇえ?!?

 

康介、絶賛混乱中。

 

「そーと決まれば早速帰って準備しなくては!待たね少年!!見てろよ世界!!!!とぅ!」

「ちょまっ!」

 

その数週間後、白騎士事件が起きるのだった。




うーむ。原作までが長い。


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第3話 歪み出す世界

作者は原作未所持+未読です。
アニメのみの知識となりますし、そのアニメも朧げな部分があります。白騎士事件のミサイルの本数あたりがそれになります。そう言った箇所はぼかす、もしくは独自解釈で通しますのでよろしくお願いします。


白騎士事件。

 

ある日、世界中が同時にハッキングされて、2000を超えるミサイルが東京に向けて発射された。

その報を受けて日本政府はすぐに避難勧告を発令したが、ミサイルの第一陣の着弾の予測時間はその5分後。

いくら何でもそんな短時間に1335万以上の人間を避難させるのは不可能だった。

ミサイル着弾というタイムリミットが迫り、東京にいる人々の中には諦めている者も少なく無かった。

そんな時どこからともなく一つの人型のナニカが現れる。

 

口元以外を隠すバイザー。

何処と無く西洋の騎士を彷彿とさせる機械染みた白い鎧。

手に持つは大剣。

 

そのナニカは迫り来るミサイルを斬り伏せ、薙ぎ払い、叩き潰した。

時に何処にそんなモノを隠していたのか疑問を覚える程の大砲を取り出し、撃ち落とした。

そうして4時間の激闘の末、見事そのナニカはミサイル全てを撃墜してみせたのだ。なにより恐ろしいのは、この件にて犠牲者が1人もいない事。

 

だがそのナニカの独壇場はそこからも続いた。

日本国内では軍事開発が禁止されている。それを行ったとしてナニカに対して、自衛隊、アメリカ軍が攻撃を仕掛けたのだ。

それに対してもそのナニカは圧倒的な戦力差を見せつけた。またも犠牲者無しで切り抜けたのである。

そして全てを叩き伏せたそのナニカは日が沈むと共に消え失せた。

 

その事件の翌日、ナニカとは篠ノ之 束(しののの たばね)が開発した機動力・火力・防御力全てにおいて現状存在する全ての兵器を凌駕し、量子変換により規格外の装備を携帯でき、その他様々な能力を持つ反面、女性にしか使えないという致命的な弱点を持つスーパーマルチスーツ、I S(インフィニット・ストラトス)だと篠ノ之 束自身が発表。

戯言だ世迷言だと決めつけていた世界を再び震撼させることになる。

 

その後、467個のISコアが国連に譲渡され、篠ノ之束は姿を消した。彼女曰く

 

「疲れちった♪」

 

だそうだ。

以上が世界を「男女平等」から「女尊男卑」に変えた(狂わせた)白騎士事件である。

 

そして此処に1人、それに疑問を覚えている人物がいる。それが彼……

 

「ここがISの世界か……いや何年も前からいるけど」

 

ISというライトノベルの世界に迷い込んだ元一般人の転生者・守崎 康介である。

彼の疑問……それは世界中でまことしやかに言われている『束がISの性能を見せつける為に、世界中をハッキングしミサイルを発射したのではないか』という噂についてだ。

真相は定かではないが、もし仮にこの噂が真実ならば……

 

(俺との会話がミサイルブッパのスイッチになったんじゃ……?)

 

それはまずい。非常にまずい。何がまずいって全部まずい。

アレの所為で世界情勢がどれほど変わったと思ってやがる。

あの事件から3年たった今では女性優先法が制定され、男達の地位はドン底まで落ちた。無能な女性平社員にパシられる有能な男性部長、なんて話もザラに聞く。マジ世界怖い。

だが

 

(あの人()はそんな事するような人に思えないんだけどなぁ)

 

彼女(生きている束)と直接あった康介だからこそ分かる既知の彼女(キャラとしての束)との違和感。

その差は僅かなようで大きい。そもそも彼女(キャラ)なら康介と会話すること自体異常なのだ。

 

だが彼女()彼女(キャラ)と変わっていようがそうでなかろうが、世界は小説通りになってきている。

 

かく言う俺の周りだって変わった。今はまだ小説程ではないが、女性教師は意味の分からない事を言うし、同級生の一部もその色に染まりつつある。

この3年で仲良くなった奴らの中にもそれに被害を被っている奴だっているのだ。

 

もし、もしもだ。仮に、万が一にでもその原因の一端を俺が握っていたとしよう。焼き土下座では済まない。いっそローストしてこんがり美味しくいただかれないと話にならない。いや死にたくないから嫌だけれどさ。

 

と訳の分からない思考に陥る程、疑問に思っていた。

 

「よし、父さんも言っていた。こういう時は木刀を振るに限る、って」

 

こうして今日も木刀を振る。雨の日も風の日も、嵐の日も雷の日も。

無心でただただ降り続ける。

その身は、その思考はますます脳筋に近づいていく。

そして、その剣はどれ程の高みに上っているのか。本人にはまだ分からない。

 

 

 

 

 

 

「おーい!こーちゃん!あそぼーぜー!」

「んー、ちょっと待っててー」

 

クラスの人気者、と言えるほどでは無いがそれなりに仲のいい友人ができ、使っている木刀が一回りも二回りも大きく、それに従い重量も重くなってきた頃、康介は小学6年生になっていた。

 

死ぬ前の知識があるので社会、特に歴史には誤差があったが、それ以外では優秀な成績を収めていた事、それに加え一度『死』を体験してからさらに冷静で穏やかになった性格でクラスを纏めていたらいつの間にかクラス委員になっていた。

おかげで周りから頼られたり、喧嘩などを仲裁したりで交友関係が広がったのは僥倖か。

そんな彼の今のところ唯一苦手なモノはこういう遊びの誘いや、体育であった。

 

「おっしゃー!今日は鬼ごっこな!」

「じゃんけんするぞー!!」

「じゃんけん!じゃんけん!」

「はいはい」

 

康介を含む同級生の仲良し4人組。大抵集まるといつも外で遊ぶ程のワンパクぶりだ。今日は鬼ごっこをするつもりのようである。

 

鬼ごっこ。そう鬼ごっこである。普通にやれば康介が負ける訳がないのだ。

何せ体質に加え日々の鍛錬によりその身体能力は100m14秒を切るほどまで成長している。そのスピードで10分間走り続けられる体力もある。

だがそれで全力を出すのは大人げない。いやまだ小学生だから大人も何もないが。

 

(どこまで手加減すれば良いものやら……未だによく分からんな)

 

とりあえず捕まえられそうでギリギリ捕まらない。その辺りを目指す。

守崎 康介12歳。そこで捕まらない辺り大人げない。

 

 

 

 

 

 

 

「む〜。やっぱこーちゃん速すぎるよ」

「伊達に毎日鍛えてないからね」

「今度やるときは絶対タッチしてやるからな!ガードとかシールドとかナシだかんな!」

「あはは、当然だよ。鬼ごっこでガードありとか訳わかんなくなるじゃんか」

 

17時になろうかといった時間帯。

そろそろ帰らないと怒られる、というのでみんなで仲良く帰宅する。

その道中、何やら怒鳴り声が聞こえてくる。

 

「何よ!アンタ男でしょ!!私が誰だか分かんないの?!?」

「す、すいません……」

 

そう言って怒鳴り散らす30歳前後の女性と、その女性に後ろ頭を掻きながら頭を下げる男性。

 

ISが世に広まるのと同時に、女尊男卑といういき過ぎた風潮も広まった。

ISという超兵器が男に反応しないのは男が女より劣っているから。故に女は選ばれた人種であり、男が女に尽くすのは当然のことだ、というものだ。

 

こういった風景も見慣れてしまった。決して気分の良いものでは無いが、何度も何度も見ているとそうなってくる。

本当に一体何度見ただろう、その問いに答えを出そうとした康介はその思考をやめた。それと同時に答えが浮かぶ。お前は今まで食べたパンの枚数を覚えているのか?という答えが。

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛イラつく!!

アンタみたいなノロマが私の周りうろちょろしてんじゃないわよ!汚らわしい!!!」

「っ!!……すいません……!」

 

男性は頭を下げる。が、康介は見逃さなかった。彼がキツく、キツく握りこぶしを握っている事を。

周りの人たちも彼らを避けて通っている。誰も、彼を助けようとはしない。

そんな中、4人は目配せをし、ニンマリと嗤いながらその2人の側を通りかかる。

すれ違う瞬間、康介は女性に聞こえるように、こう呟いた。

 

「そんなにツバ撒き散らして奇声あげてると婚期逃すよ。お、ば、さん♪」

「なぁ?!?!」

 

言うが早いか4人は走り出す。

運の悪い事に女性はハイヒールだった。遊び盛りの男子小学生が運動靴で全力疾走なのだ。女性が追いつけるわけも無い。途中までは追いかけるがやがて走るのをやめた。

4人は走っている間も、

「香水クッサ!鼻イカれてんじゃねぇの??」

「化粧ぶあついね!それじゃ作品じゃん作品!」

「そんなぶっとい足してんのにおっそー!ブタの方がまだ早いよー?」

と大声で笑いながら煽る。

曲がり角に着くと、じゃあねぇ〜♪と手を振るのも忘れずに。

 

「ハァ……ハァ……あ……あっのクソガキ共ガァァア!!!!ちょっとアンタ!アイツら捕まえ……って何処行ったぁぁぁあ!!!」

 

男性はその隙に逃げたしたようで、女性が振り返るともういなかった。

その後女性は、騒音が過ぎるとの事で駆けつけた警察官に厳重注意をされた事は全くの余談である。

 

 

 

 

 

 

 

こうしてその幼少期を楽しく過ごしていた守崎 康介も、遂に中学生になるのであった。

 

 

 




原作までが長い…………
おそらく次話で原作前の下準備が終わりますが。
………………終わると良いなぁ。


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第4話 ありふれた悪意と我慢の限界

今回思っていたより長くなりました。申し訳ないです。
しかもその上心理描写がイマイチ上手くできませんでしたので、場合によっては修正するかもしれません。

さらに言えば予告詐欺になりました。
原作前はもうちょっと続くんじゃよ。


中学に入り、康介は若干だが居心地の悪さを感じていた。

そして入学式から一週間。その違和感は明確になってくる。

いるのだ。女尊男卑という身勝手極まりない悪意を振りまくモンスターが。康介がいるこの教室に。

 

女性権利保護団体、通称・女権団と呼ばれる団体がある。組織自体は随分昔からあるようで、発足当初は女性の社会進出や女性の権利を主張する組織だったらしい。

今でも表向きは変わらないが組織の内情はがらっと変わった。女性優先権を手に入れてからはそれに拍車がかかり、今では政権にすら太いパイプを持つと言われている。

過激派の中には篠ノ之束を神として崇めている派閥があるそうだ。

 

そして彼女(モンスター)はその組織の幹部にあたる人物の娘らしい。

自分が世界の中心だと恥ずかし気も無く言い放つような性格で、男の事は家畜だと明言している。

その癖、やれあのアイドルはステキだの、やれあの俳優となら結婚しても良いだの愚かしい事この上無い。

 

まぁ確かに世界(自分の物語)中心(主人公)は自分である、という事は言えるが、彼女のソレはそんな事では無いだろう。

 

康介は彼女に関わる事の無いよう、最大限目立たないように心がけながら、例の4人組と過ごしていた。

のだが。

 

「貴方それなりじゃない。良いわ。私の彼氏にしてあげる。感謝しなさいよね?」

「はぁ……」

 

思わずため息を吐くほど上からの告白(コレをそう言って良いのかはさておき)をされる。

彼女とはこの2ヶ月、会話も殆どした事が無いはずだ。それこそ事務連絡レベルのものだけ。性格を含め内面的な事など何も知りようも無いはずなのに、それで告白……もとい彼氏にしてやろうとは何と愚かしい事か。

結局彼女にとって男というモノはどこまでも自分を引き立たせる道具(アクセサリー)でしか無かった。

そんな彼女に対する康介の返答など、決まりきっていた。

 

「断らせてもらう。すまないけれど君と付き合って幸せになれる気がしない」

「なっ!!!貴方私に口ごたえするつもり?!?何様のつもりよ!男のくせに!!!!!!」

「何様のつもり、か。そっくりそのまま、なんならリボンを付けて返そう。

親しくもない人間に『付き合ってやる』言った挙句逆ギレとは何様だよ」

「私は!!!この世界のヒロインなのよ!!アンタとは格が違うの!!分かる?!?!」

「そうか、格が違うなら釣り合いが取れないな。さよならだ」

「ちょっ……ふん!後悔しても知らないわよ!」

 

確かにこの時、康介はガラにもなく苛立ちを覚えていた。

いくら同級生とは言え、直接的にはほぼ面識のない初対面と言っても差し支えのない人物から罵倒に近い言葉を浴びせられては誰でも良い気分にはならないだろう。性癖がアレならともかくとして、康介はそういうアブノーマルには属さない人物だ。

だから決して褒められた態度ではなかったが、責める事も出来ないだろう。

 

彼女がモンスターである事を忘れていることを除けば。

 

翌日、康介が登校すると何やら変な視線を感じた。粘つくような纏わり付くような視線。明らかにプラス方面の思考によるモノでは無かった。

 

それを無視して教室のドアをくぐった瞬間、それまで会話などで騒がしかった空間がほんの一瞬静かになった。

その間教室にいる人間の視線は全て康介に向けられているように感じる。

そうして誰からともなく視線が外れていくとザワつきが戻る。

が、その中のいくらかは康介をチラチラ見ながら話しているようだった。

 

(なるほど。そうくる(イジメ)か。アレらしい面倒な方法に出たな)

 

大方自分に対する悪評を触れ回ったのだろう。アレは同種と徒党を組んでいるようだし、認めるのは癪だが人脈はそれなりにあるのかもしれない。そう当たりをつけた康介はそう言った嫌がらせに対して一切の無視を決め込む事にした。

自分がどうとも思わないと見せつければその内収まるだろう。何せこの中学の3割程の人間は康介のいた小学校出身なのだ。じきに火は消える。

そう思い、放置したのがいけなかった。

 

それから先、どう焚きつけたのかそういった行為は益々エスカレートしていった。

直接的に嫌がらせをかけてくることは無い。精々が此方を伺ってクスクス笑うなどと言ったものだ。

その程度なら、まぁ少々クルものがあるが、耐えられない程ではない。

そんな事よりショックだったのは、自分の周りにいる友人だと思っていた人間が少しずつ離れていったことだ。

唯一の救いは、例の4人組のメンバーだけは、変わらず笑顔で話しかけてくれる事か。

それ以外の生徒は、自分が話しかけるだけで怯えた表情を浮かべる。

要件を伝えるとそそくさと離れていき、何やらコソコソと話す。更には教師にも目をつけられているらしく、特に何かをした訳でも無いのだが、クラスの中で康介だけが教育的お叱りを受けた。それを見て女子たちがクスクス笑う。

そんな事が何週間も何ヶ月も続いた。

そしてその我慢が欠壊したのは、康介が2年に上がって暫くたった6月の事だった。

 

 

 

その日も避けられ、笑われ、いつも通りな鈍感さを演じ、いっそ本当に鈍感だっならと思ってもそんな事にはならない。ならばせめて人気のないとこらを探して中庭の端の方にやってきた大きな木があり、その裏手には物置とベンチがある。校舎からも見えない死角であるにも関わらず、なぜか人が寄り付かない。康介は最近昼休みになるといつもここに居る。人のいない場所、というとここしかなかった。

康介自体この場所は好きではないのだけれど、まぁ妥協は必要だろう。

この場所が、自分が今ここに居る原因の舞台(アレに告白された場所)だったとしても仕方のない事だ。

 

ベンチに横になり、目を閉じる。

この学校が建てられた時から植えられたと言う大木の葉が風で揺れ、音を奏でる。木陰が心地よい。

ココがアレの舞台(告白された場所)で無ければ、心の底から好きになれただろうに。本当に勿体無い。マジでくたばれクソ女。

と思考が良くない方向に向かっていたので、無理矢理別の事を考える。

 

最近は放課後の殆どの時間を國守流の稽古に費やしている。木刀を握っている時だけは何もかも忘れてスッキリできるし、自分なりのストレス解消法なのだろう。

中学に上がり漸く素振りだけ(・・・・・)でなく体捌きや剣術における駆け引き、戦闘において無駄な筋肉を付けず必要な分の質の良い筋肉を鍛えるを付ける方法など色々な事を教えてくれるようになった父の背中には全く届いていないが、ここ暫くの成長速度は恐ろしいの一言に尽きる。その原動力となっているのが今の現状だと考えると少々悩んでしまうが。

 

そこまで考えていると大木の裏に誰かが来たのが分かった。覗いてみれば、自分を除いた例の4人のメンバーとアレの姿。

嫌な予感がした……

 

「で?アンタ曰く虫ケラな俺たちを呼び出すなんて、どんな要件だ?お嬢様???」

「ふん!まぁ喜ぶ事ね。アンタたちみたいなのがわたしに話しかけて貰えるんだから」

「うわーうれしいわー。で?要件早く言えよ。こっちゃお前と違って暇じゃないんだけど」

「そーそ。言う気ないなら帰ってタケノコの森食べてていいかな?」

 

ヘラヘラ笑いながらまるで相手にしていない。小学生の時に康介と散々やんちゃしてきた影響だろうか。流石のコンビネーションで煽る事を躊躇しないし、容赦しない。

その様子にお嬢様は眉間にシワを寄せる。

 

「クッ……調子にのって……!

まぁ良いわ。私は優しいから許してあげる」

「お前が優しいなら世界中のテロ組織は慈善団体になるな」

「黙りなさい!今日アンタ達を呼んだのは、守崎 康介の事よ」

 

康介の名前を出した瞬間3人の表情が変わる。お嬢様は気付いているのかいないのか。

恐らくは気付いていないのだろう。上機嫌に話し始める。

 

「アイツ私を散々罵倒してフったのよねぇ。酷いと思わない?思うわよね。

こんな事するクズとは縁切っちゃいなさいよ。

あ、断ろうとするのはダメよ?私のママがどんな職についてるか、いくら愚鈍なアンタ達でも知ってるでしょう?アンタ達が断ったりしたら私ショックでアンタ達の親の仕事が無くなる様にママにお願いしちゃ____」

「断る」「だが断る」「右に同じ」

「なっ!!」

 

コレには彼女だけでなく康介も驚いた。

彼女はある種のお願い(脅迫)に出たのだ。康介はそんな彼女に吐き気を催すような外道だと罵ってやりたくなったが、そんな気持ちは遥か彼方に飛び去った。

このお願いは彼らだけに関係する事では無い。なんせ彼らの家族が路頭に迷う可能性だってあるのだ。

彼らはバカではあるが、愚かではない。そんな事目に見えているのに、即座に返した言葉は拒否。

そんな疑問と同時に嬉しさが込み上げる。周りが見捨てても、自分の事を見てくれる人間はいるんだと、再認識していた。

 

「アンタ達バカなの?!コレは脅しじゃないのよ?!私はそれが出来るし、本気でするわ!!」

「お前こそバカかよ。そんな事したら親父にぶん殴られるわ。お袋だって俺よりこーちゃんの事気に入ってるみたいだ……し……うぅ」

「涙拭けよ……ほらハンカチ」

「つーか誰がバカだ。俺らお前より成績良いわ。平均点ギリギリが何言ってんだ」

 

さも当然のように、呼吸するかのように、彼は答えた。

『こーちゃんは友達』それが彼らの共通認識で、揺るぎない真実だ。

 

「ふん!強がっていられるのも今の内よ!!先輩!!」

「おう、任せろや」

 

登場したのはこの中学の番長的な存在である3年生だ。中学ながらその体躯は180cmを超え、ベンチプレスで120kgを持ち上げるという怪物。

喧嘩は未だ無敗で、絡まれた高校生相手に大立ち回りをしたなどなど、様々な伝説を持つ。

逆らってはいけない存在として、この地域に知られていた。

 

「おいおい小物臭ヤバいなお嬢様。そんなセリフで大丈夫か?」

「んー、でも先輩はキツいかなー。先輩もなんでこんなのに従ってるんです?」

「ふふふ。先輩は私の彼氏なのよ!」

「昨日からな」

「あぁ〜……それは、まぁ、ご愁傷様です」

 

彼女は今回の為に彼氏(用心棒)を用意していた。

3対1。それでも彼らに勝ち目は無いだろう。

 

「ていうかさ、お前やっぱバカだろ。俺らが殴られて意見変えるとでも思ってんのか」

「そーそ。確かにボッコボコにされて病院送りになるのは確定かも知んないけどさ。それで鞍替えすんのは無いわー」

「ていうか、こーちゃん見捨てたら誰が俺らの勉強見てくれんだよ。お嬢様見てくれんの?成績中の下のお嬢様が?」

「お前ら、そこまでにしとけよ?一応俺の彼女だからな」

 

3人仲良く「へーい」と声を合わして返事をする。彼女は顔を真っ赤にして怒りを露わにしていた。

 

「お嬢様。最後に聞いて良いかな?みんながこーちゃんから離れていったけど、お前何した?」

「フン!良いわ教えてあげる。単純な事よ。アイツが私の事を襲った(・・・)って言いふらしたのよ。例えアイツを貶める為の嘘だとしても、アイツとシタ事にする、なんて嫌だったけれど、みーんな信じたわ。ホンット馬鹿みたいよね」

「いや馬鹿はお前だろ。それ俺たちに話すってどんだけお前の頭ハッピーセットなんだよ」

 

最後には煽るのを忘れない。

 

「ホントにイラつくわねこのゴミどもが!!先輩!!!早くソイツらボコボコにしてよ!!!!!」

「…………へいよ」

(そろそろマズイな。先輩相手にどれだけやれるかねぇ。まぁ、アイツら逃すくらいなら……)

 

康介がそう思い一歩踏み込んだ時、彼女が勝ち誇った様にある言葉(・・・・)を言い放つ。

彼女がソレを言いさえしなければ、その後の展開は変わっていたのかもしれない。

 

「全くあんなのの何処が良いのよ。

確かに外見はそれなりだけど、武術とか言って野蛮な事(・・・・・・・・・・・)してるし、どんな教育受けてきたんだか。

アンタ達も、アイツも、アイツの周りにいるヤツ全部クズばっかじゃない!!」

 

 

 

 

 

 

プツンッ……とナニカが切れた。

 

 

 

 

 

 

気付くと先輩が血塗れで倒れていた。

体に力が入らないのか、ピクピクと動いては、うっ……あ……と呻いている。

大木も所々傷付いているし、中庭に敷かれていたブロックもヒビ割れていた。

彼女は少し離れたところで座り込み、ガタガタと震えている。

足元には水溜りができていた。

 

「こ、こーちゃん……」

 

例の3人は傷こそ無いが腰が抜けたのだろう。へたり込んでいた。

その目は、康介を見つめるその目には、明らかな恐怖が含まれていた。

 

「みんな……俺、は………」

 

彼女らしきものを放してみんなに向かって右手を伸ばす。ソレを見た3人は息を飲んだ。

今の康介の手には血が付いている……いや、最早肌色の面より、赤黒い液体の面積の方が大きい。それ自覚し、右手を引っ込めた。

 

「……ゴメンッ」

 

康介は走り出す。脇目も振らず、視線は常に足元に、ただただ走り続けた。

全速力で家に帰り、何があったのかと心配する母に大丈夫だからと言い聞かせ、シャワーを浴びた。

その間も3人から受けたあの視線が頭から離れない。

血が流れ、体を拭いて、着替える。それでもその視線のヴィジョンが消えない。消えてくれない。

康介はそれから逃げるように、木刀を振り出した。

 

 

 

 

 

ずっと続いていた風切り音が止まる。

時間を気にせず素振りをしていたら、いつの間にか日が変わっていた。

 

頭の中はスッキリ、とは言えなかったがそれなりにマシになったな、と考えていると康介がいる道場の扉を父・亮介が跨いだ。

 

「入るぞ……

それなりに区切りがついたようだが、何があった」

 

いつも温和な笑顔を浮かべている父の久しぶりに見る真剣な表情。

 

「……学校から連絡は?」

「きたとも。だが、それでもお前から直接聞きたいんだよ」

「そっか」

 

康介は自分が感じた全てを話した。

 

入学して暫くしてから女尊男卑思想の同級生から告白のような事を言われた事。

こちらを見下した様な台詞・表情に神経を逆撫でされ、キツイ物言いでそれを断った事。

それから直接的では無いがイジメられた事。

それが1年以上続いた事。

3人に持ちかけていた話。

3人が食い気味に断った事が嬉しかった事。

女尊男卑思想の彼女が、自分が打ち込んでいたものを、大切な友人を、家族を貶められた事。

気付くと先輩(用心棒)が血塗れで倒れていた事。

3人に怯えられた事。

 

中学に入ってから続いていた、誰にも相談しなかった悩み。それら全てを2時間程かけて父に語った。その間、亮介は胡座でその場から動かず、何も言わず。目を閉じ、頷き、話を聞いていた。

 

「……コレで全部かな。うん。全部だ」

「…………そうか。本当全部なんだな?」

「あぁ」

 

そう言うと父は立ち上がり、康介に近づき____

 

「……こんの馬鹿モンが!!!!!」

「ガッ!!」

 

康介の頬を殴りつけた。

今までの稽古でも出さなかった全力。

康介はその全力を初めてその身に受けた。

 

「お前に初めて木刀を握らせた時!!俺は何と言った!!!忘れたとは言わせんぞ!!!!」

「……それは……」

 

亮介が國守流を通して説き伏せ続けてきた事。それは『力の使い方』だ。

 

この世界は全て善意で構成されているわけではない。残念な事だが、悪意による行為も溢れている。

そんな世界で自分を、大切な人を護り、そうやって悪意をもって接してきた相手も必要最低限の損失だけで切り抜ける為に武術はある。

『自分の大切なモノ』()護る()

それがこの國守流という剣術なのだと。

それを常に考え、意識していなければ國守流では無い。そんなモノはただの暴力だと。

それを言葉で、時に行動で、亮介(師匠)康介(弟子)に伝えていた。

 

「それを!!その掟を!!お前は!!破ったのだ!!

言った筈だ!!それは単なる暴力と変わらんと!!

確かに彼女がした事は許される事では無いだろう!だが!!お前がやった事も決して許されるものではない!!!!それでは彼女と変わらないだろう!!!!」

「っ!」

 

武術の覚えがある自分が、死ぬ前とは違い力をつけた自分が、誰かを殴る。

康介自身に覚えはないが、あの状況では康介がやったのだろう。

それでは、忌み嫌っていたあの女のやっていた事と変わらない。方法が直接的か、間接的かの違いだ。

それに気付いた康介は父に殴り飛ばされた場所から動かずに俯くだけ。

何も、言い返す事が出来なかった。

そんな康介に亮介が近づいていく。

 

「……理解したようだな。お前は被害者だが、今回の件で加害者になった。それを理解したなら、明日から鍛え直してやる。

その前に、お前はもう一つ伝えなくちゃならない事がある」

 

その言葉を聞いた康介は顔を上げ父を見つめる。

亮介は康介のすぐ側に立っていた。

よく見ると目が潤んでいる。

康介の頭を、怒りを覚え過ぎて涙腺が刺激されたのだろうか、と場違いな考えがよぎる。

 

「お前がやった行為は大馬鹿も良いところだ。武人としてあるまじき行為だ…………

だがそれ以上に悪いのは!!!」

 

父がこちらに向かって一歩踏み出す。

康介は思わず目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、拳は飛んでこなかった。

代わりにされたのは、父の抱擁。

 

「この俺だ。お前以上の大馬鹿野郎だ。息子がこんなに苦しんでいたのに……気付いてやる事さえ、出来なかった。

ゴメン。ゴメンなぁ。こうすけぇ……」

 

今までの怒りの表情は何処にいったのか。

亮介は大粒の涙を流し、声をかすらせながら、謝罪の言葉を並べ続けた。

ゴメン、ゴメンなぁ。と何度も何度も繰り返した。

その間康介の背中と後頭部に回された手は少しずつ、少しずつ力を増していく。

最初は唖然としていた康介も、その言葉が、その抱擁が、嬉しかった。

 

「と、うさん……あり、が、と……」

 

康介も父の背に手を回し、涙を流す。

 

康介は生まれ直してから、この新しい父と母に対して、若干の距離感を感じていた。

事実血を分けた本当の家族でありながら、心は仮初めのような間柄。なんと表現していいのか分からない微妙な関係だった。

だが、自分の為に本気でぶつかり、本気で怒り、本気で涙する。

そんな父の姿を初めて見た。

そんな父の声を初めて聞いた。

この人は俺の家族なんだと、初めて心の底から思えた。

そう考えると涙が止まらなかった。

 

「ありが、とう……俺も……ごめんなさい…………ごめんなさい……」

 

その『ごめんなさい』が今回の事に対してなのか、今まで本当の意味で家族と思えなかった事なのか。

康介にも分からなかった。

そんな2人の側に、母・咲が近づいて来る。

 

「こーちゃん……私もゴメンね。今度からはちゃんとこーちゃんのこと見てるから、だから、安心してね」

 

優しく微笑んたその瞳から一筋の雫が溢れる。

咲はそのまま亮介と康介を抱きしめた。

 

(あぁ。俺、この2人の息子で良かったなぁ……)

 

こうして守崎家は本当の意味で『家族』になれたのだ。随分と遠回りをしたが、これで良かったのだろう。

 

その夜、道場にはいつまでも3人が泣く声が響き続けた。

 

もうすぐ、朝日が登る。

 

 

 

 

 




7000wwwww
目標6000字とはいずこへwwwww

次回は!次回こそ中学時代、及び第一章が終わります!
まだ何があるんだ、とお思いかもしれませんがまだもう少しあるんです!


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第5話 平凡からの脱却

今回は時間かかりました。
何回やってもご都合主義に。だいぶ直しましたがそれでもご都合主義でしょうね。

また、前話、前々話を以前お読みの方に報告させていただきます。
第3話をISについて少しだけ足しました。原作を知っている方にとっては誤差だと思います。
第4話はタイトル変更に加え、彼女に対して暴力を振るっておりません。先輩が全てインターセプトしましたが、恐怖のあまり水溜りができてしまいました。
彼女殴るとbad endにしかならなかったんですよ本当に。

また今回のセリフは演出のつもりでしたがだいぶ読みづらいです。
という点を踏まえて第5話をご覧ください。申し訳ないです。


「それじゃ……いってきます」

「いってらっしゃい」

 

泣いて泣いて泣き続けた後、スッキリとした表情で康介は家を出た。

 

「こんなに楽な気分は……久しぶりかもな」

 

問題は山積み。現状、解決は愚か、手を出した事で悪化したと言っていい。

それでも今の康介には心の支えがある。それがなんと心強いことか。。なんと安心することか。

あの3人の怯えた視線が恐いが、アイツらならまた笑って話しかけてくれるだろう。そう思えるのだ。

 

だが、そうなる事は無かった。

 

教室に入ると気付いた事が2つ。

1つはあの女がいない事。

2つはいつも通り視線を向けられるが、それから感じる感情が別物である事。

恐れや怯えなどもあったが大抵が敵意や侮蔑などによる視線だったが、今ではその全てが怯えたものになっている。

 

(まぁ、当然といえば当然か……)

 

今回の件であの(・・)先輩を倒したのだ。何か格闘技をやっているらしいという事は知られていたが、今までろくに喧嘩をして来なかった、寧ろ積極的に回避して来た康介がそこまでの実力を持っていたとは誰も想像していなかった。

そこに今まで流れていた悪評である。

実行に移す事ができる力量を示した事で、今まで眉唾モノでしかなかった出鱈目な噂でさえ、信憑性を持たせてしまった。

康介のクラスメイトや同じ学校内にいる彼ら彼女らにとって、それが真実かそうでないかなど、問題では無かった。

 

たった1日で康介に対する周りの評価は『目障りなヤツ』から『触れてはならない人間』に変わっていた。

その評価に変わったのは、何も康介の人柄を知らない人間だけでは無かった。

 

「おはよう」

「お、おはよ……」

 

康介が今までと同じように問いかけた言葉は今までとは違う反応で返ってきた。

 

「……っ」

 

あの時と同じ視線。

あの時と同じ表情。

あの時と同じ感情(怯え)

 

康介はいつもの仲良し4人組が、3人と1人になってしまった事を理解した。

理解してしまった。

それ以上言葉を交わすことなく、康介が席に座る。3人は何処となく安堵しているようにさえ見えた。

 

チャイムが鳴り、授業が始まる。授業の内容など入ってくるはずもなかった。

昼休みになった時、生徒指導の教師に呼ばれ色々と言われたようだがこれも授業内容と同じく、あまり頭に入ってこなかった。

その日の出来事で覚えている事といえば、放課後入院した先輩に謝りに行った事だ。教師達も監視という名目で付いて来たが。

 

九条(くじょう) (まこと)と書かれた病室のドアを開けると、ベットの上でリンゴを丸齧りする先輩とそれを見て苦笑いする先輩の両親がいた。

誠心誠意謝って、土下座だってする覚悟だったのだが、先輩も先輩の両親も笑って許してくれた。

 

「お前が強くて俺が弱かった。そんで喧嘩して俺が負けた。それだけだろ」

 

先輩はどうも実力主義……と言っていいのか分からないが、そういう辺りはドライなようだった。

先輩の母親はこれに懲りて少しは息子が大人しくなってくれればいう事は無い。寧ろ殴ってくれてありがとね。と笑っていた。

 

康介が先輩と少し話をしているとあの女の話になった。先輩は入院してすぐ、別れを切り出されたらしい。

どうも本当に用心棒として使うために先輩に擦り寄ったようだ。

先輩も

 

「喧嘩の腕だけじゃなく、女見る目も養わなきゃな」

 

と笑っていたが。

 

家に帰り、夕食を食べる。いつもの様に鍛錬をし、いつもと同じ布団に入る。翌朝になって登校すると、あの女も学校に来ていた。

が、今まで嘲る様にニヤついていたその顔は今では恐怖に彩られている。

それ以外は昨日と同じ。あの3人も怯えたまま。

 

(なるほど……()なんて、こんなモンか)

 

今日も窓際の一番後ろ。自分の席に座り、授業を無視して空を見上げる。

康介がこんな状態になっていても、空はいつもと同じ様に青かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから1年と少し、康介は中学三年生になり、もうすぐ卒業を迎える。

 

あの日から人が生活していく上で最低限必要な食事・入浴・睡眠・排泄や家族との時間、勉強の時間以外の全てを剣を振る事に費やしてきた。

そのおかげか最近はメキメキと実力を付けている気がする。

最近はもう少し、あと一歩でコツ(・・)が掴めそうなのだが、その一歩が近くて遠い。

 

そんな事より今は目の前の問題に集中しなくては。康介は意識を切り替える。

康介は今は高校入試試験の真っ最中だ。

 

 

 

「ふぅ。まぁそれなりの点数にはなったろ」

 

死ぬ前に誓った『下剋上』を果たす為には、地元で一番の進学校とは言え高校入試で落ちる訳にはいかない。

とはいえ手応えからすると不合格どころか特待生まで狙えるのではないか、と思えるほどだった。

 

(やっぱりちょっと気疲れしたな。息抜きにどっかフラッと行こう)

 

スマートフォンを取り出し、ナビゲーションサービスを利用し近辺で面白そうな事やイベント事がないか調べる。

 

(ISのおかげで技術がだいぶ進歩したよなぁ。便利で結構。アレみたいなのが増えたから差し引き0……どころかマイナスだろうけど)

 

視界の端に映るのは男性試験管に威張り散らす女生徒。

印象が悪くなって落とされる、という事は考えないのだろうか。

それを無視して調べていると一つのイベントが見つかった。

 

「ISの展示会か……複数企業合同の自社製品発表……ふむ」

 

近くの複合施設で行われるISのイベント。

この世界を狂わせてもなお人の心を魅了するそれはどんなものなのか。

 

(行ってみるか)

 

康介にも興味があった。それに

 

(……俺も、動かせるのかもしれない)

 

小説では主人公・織斑 一夏(おりむら いちか)が女性にしか扱えないISを動かした事によって物語が始まる。

そしてその二次創作物において、転生者はもう一人のISを動かせる男(イレギュラー)として物語に巻き込まれていく事が多い。

その転生者、という部類に入る康介が動かせる可能性もあるのだ。

 

(どのみち織村一夏が動かしたら全国で検査されるだろうし、早めにISを見ておくのも悪くないか。

まぁまず動くか分からないけれど)

 

康介は試験会場を後にし、イベントが行われているアリーナにその足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツは……!」

 

あれから一年と少し。あんな事をしたクセに毎日学校で威張っていたあのゴミをこんなところで見つけるなんて。

彼女(・・)が居る場所はISのイベント会場だ。

 

(男のアイツがISを見ようとは……思いがるのもいい加減にしなさいよ!!……ん?)

 

足を止めた彼女(・・)の視線の先には、『関係者以外立ち入り禁止』の文字が。

 

「……そうよねぇ。分をわきまえないゴミに現実を教えてあげるのは、選ばれた人間の役目よねぇ……」

 

ドアの取っ手に手をかけるその顔は、狂気に彩られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10社以上が共同で開催したこのイベント。

様々なブースに分かれているイベントで康介が一番最初に惹かれたのは、IS概論講座だ。

 

(なるほどなぁ。まだこの範囲なら理解できるか。本当に前世様々だな。理系って素敵。

IS概論……女子は必修だったけど、男子はその間自習とか舐めてんだろ全く)

 

ISの基本的な構造、簡単な量子展開の説明、第三世代兵器についてなど様々な事を難解な箇所を噛み砕きながら話している女性を見る。彼女からは女尊男卑思考者特有の侮蔑や嘲りが感じられない。

 

(だからこそこんなに人が集まっているんだろうな……)

 

他と比べても大盛況のこのブース。終始ニコニコと笑みを浮かべながら話していたが、それも終わってしまったようだ。

そのブースで引き続き行われたのは、ISの反応テストだった。

驚いたのはそれが女性対象ではなく、誰でも参加できる事だった。

女性来場者だけでなく、男性も少し困惑しているようだ。

 

(そうか……そろそろ主人公(織斑 一夏)が動かす時間か……)

 

彼が動かしたから、政府から前倒しでこの会場で検査するように伝令が出た。

そう考えれば特におかしな事では無い。よく見ると他のブースでも反応テストと称して検査を行っているようだった。

列に並んで数分。康介の番が回ってくる。康介の前にいた男性は、やはり反応しなかった。

 

「では次の方〜。そこのパネルに手を置くだけで良いですからね〜」

「はい」

 

パネルに触る。たったそれだけの事でこんなにも心臓の鼓動が早くなるとは思わなかった。

ゆっくりと、ゆっくりと手を伸ばす。

 

(これで俺も『特別』に……!)

 

その手がパネルに届いた。

 

 

 

が、何も起こらなかった。

 

「は〜い終了です。次の方と交代して下さいね〜」

「……え?あ……はい……」

 

康介がパネルから手を離すまさにその時、奥のブースから特大の爆発音が聞こえた。

爆発音が聞こえた辺りに振り向いた康介の目に飛び込んで来たのは()()()()I()S()だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャハハハハァハハハハァア!なぁにこれすっっっごぉぉおい!!」

「た、たすけ!助けてぇ!!」

「イダイ゛!!イ゛ダイ゛ヨォオ!」

「うぐぁ!!」

 

爆発音の中悲鳴と共に狂ったような笑い声が響く。いや、事実狂っているのだろう。こんか状況を自分で作り出しておきながら、笑顔を振りまいているのだから。

 

「ちょ!なんだよアレ!」

「逃げてください!!避難経路はこちらです!!!」

 

あり得なかった非日常。それが今、康介の目の前で起きている。

 

「!アイツは!!」

 

ISに乗り暴れているのは康介の知っている人物だった。

暴れているのは中学で康介を孤立させたあの女だった。

 

「あんのやろ何やってやがる!!大混乱じゃねぇか!」

 

パニック状態の中でもこのブースの人間は、避難誘導、政府に通達、自社製品の撤収作業など迅速に動いていた。

 

(N(ナイン)L(ラインズ)C(コーポレーション)……大企業だから、というのは失礼だけど、流石だな)

 

NLC。日本のIS関連企業の中でも倉持重工に次ぐ業績を誇る大企業だ。技術面のみで言えば、日本で一番かもしれない。

康介はこんな非常時だというのに嫌に冷静にそんな事を考えていた。

だからだろうか。

 

「ミィイツゥケタ♡」

 

彼女(悪魔)に見つかってしまった。

背筋が凍るような殺気の中で、康介は近くにあったIS用の剣を手に掴んだ。

 

「アハァ!」

「ぐぅっ!!」

「君!」

 

咄嗟に掴んだその剣を持ち前の怪力で悪魔の攻撃が来る前になんとか自身と彼女の間に入れる。

ISは本当に恐ろしい。非力であるはずの彼女の拳は剣ごと康介を10mほど吹き飛ばす。

 

「ウフフふァハはは!!

どぉおしたノぉ??モウ終わリぃ??ヤッパリオ前みたイな化ケ物でもォ、ISにハ勝てナいカァァハハハハ!!!」

「……クソが。随分笑ってくれんじゃねぇか」

 

康介は力なく笑う。やはりIS相手には厳しい。分かりきっていた事だが、その膂力、そのスピード。康介の他とかけ離れた身体能力を持ってしても全くもって相手にならない。

 

(それなりに強くなったと思ってたんただが……織斑(おりむら) 千冬(ちふゆ)ってどんだけ化け物なんだよクソが)

 

第一回モンドグロッソと名付けられたISの世界大会。その総合部門で他者を全てその手に持った刀の一振りで打ち倒し優勝した織斑 千冬。

世界最強(ブリュンヒルデ)と呼ばれる彼女は小説の中でISの近接攻撃を生身で受け止めるという荒技をやってみせた。

 

(『特別』にはまだ遠いってか!)

「アァレぇ?まだ生キテるんだァ??

まぁソウじゃないト、ツマんナイよねぇえエエ!!」

「チックショウが!!!」

 

近接武器も重火器も使わない、拳の振り方も身体の運びもまるでなっていない、そんな状態でもその一撃はまさに凶器と呼ぶにふさわしい。

彼女の拳をギリギリまで見て、躱す。

相手の目線で攻撃しようとしている位置を読み、そこから身体をズラす。

NLCの職員達の援護もあり、躱し続ける。

 

「ぁあアァァアあ!鬱陶シいなァあ蝿共ガァあアァぁあ!!!!」

(次、一発でも喰らえばアウト!!)

 

しかし康介もそんな状態(初めての実戦)でそこまで集中力がもつはずもなく……

 

(ッ!足場が!!)

「もらっタァぁアぁァァあア!!」

 

回避動作を行う為に踏ん張ると、その足場が崩れる。

彼女が意図した訳では無いだろうが、外してきた彼女の拳が、床の強度を下げていたのだ。

そこに康介の怪力。如何にその床が耐久性に優れた作りになっているとは言え、耐え切れるはずもなかった。

 

「ガァァア!!」

 

剣でガードする事も叶わず、吹き飛ばされる。

再び吹き飛ばされた先にあったは、NLCが展示していた『近接特化型装備』の打鉄(うちがね)

 

「チェっくメいトだよぉ?コウすケくぅン????」

 

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて近づいてくるISを見て、康介は諦めていた。

 

(無理だな……ココで立ち上がったとして、ISから逃げ切るだけの力量も、まして勝利をもぎ取るだけの力なんてもんも持ち合わせちゃいない……ココで終わった方が…………ラクだ……)

 

思い浮かべるのは今までの人生。

なるほど、これが走馬灯ってヤツかと康介は思う。

 

産まれた時の両親の嬉しそうな顔。

小学校に入学して友達ができなかった事。

篠ノ之束と話し、彼女がキャラとしての彼女と違っているように見えた事。

友達ができて初めての夏休み、一緒にやれるなら勉強や宿題でさえ楽しかった事。

いつも一緒に馬鹿な事をして、怒られて、それでも笑っていた事。

中学に上がって、彼らと疎遠になってしまった事。

それがキッカケで両親と本当の意味で『家族(・・)』になれた事。

その原因が、目の前で笑っているのに、殴る事さえ出来ない現状。

 

(ちくしょう……)

 

ふと見渡すと、そこら中で火の手が上がっている。

 

「ちくしょう……」

 

ふと見渡すと、大勢の人が倒れている。

 

「まだ」

 

 

ふと見渡すと、子供が煤にまみれて泣いている。

 

「終われねぇだろうが!」

 

こんな事が、許されて良い訳が無い。

 

「終わってねぇだろうがぁ!!!」

 

終われない。許せない。負けられない。

 

護りたい!

 

その気持ちが、打鉄を目覚めさせる。

 

光に包まれたその先にいるのは、打鉄を身に纏い、彼女を睨む康介の姿だった。

 

「は、はぁ?!なんで、ナンでテメぇがそレヲ動かしテンだよぉ!!」

 

突撃してくるIS。さっきよりも、よく見える。

 

「知るかぁ!!」

「ンがぁァぁあ!」

 

クロスカウンター気味に放たれた康介の右ストレートが彼女の顔目掛けて放たれる。

ISのシールドによって止められたが彼女は衝撃を受け止めきれず、奇声をあげながら吹き飛んだ。

 

「クソがぁアあ!なんでナンでナンデナンデ!!オ前みたいなクズニィ!!」

「……俺に何かするだけならまだ良い」

「はァ?!」

「何で関係ない奴まで巻き込んだ」

「ソンなコト知ルかぁ!!私ハ選ばれタ人間ダ!!その私のスル事のジャマをシタ!そんナ奴らシネバ良いのヨ!!」

「…………そうか」

 

康介は剣を腰に構え、スラスターにエネルギーを貯める。抜刀術の姿勢で、視線は彼女を貫いたままだ。

 

「お前は罪を犯した。俺に裁く権利も、資格もあったもんじゃないが。

その罪……裁かせてもらう」

「お前ガシネェェェエエエ!!!」

 

彼女がスラスターを吹かせ接近してくる。

康介は貯めていたエネルギーを爆発させた。

 

「さよならだ」

 

イグニッション・ブースト。

圧縮させた推力エネルギーを爆発させ移動する、IS機動法の一つ。

誰に教えられるでもなく、自分の気持ちをそのままぶつける事で、康介は発動してみせた。

地面と水平になるよう放たれたその一撃は、NLC社員の尽力により残り少なくなっていたEC(エネルギーシールド)と共にIS操縦者(ランナー)の意識を刈り取った。

 

 

 

 

 

その一時間後、第2の男性IS操縦者、守崎 康介の名が、世界に知れ渡った。

 




ありきたりな感想ですが戦闘描写難しいですね。作者自身が学校の体育で剣道やったのと、小学校の頃喧嘩したくらいですからね。中々言葉が出てこないです。

次回は入学して暴君クロワッサンが現れます。
また、書き溜めをしていないので投稿日時は未定です。
ご了承ください。

追記:脱分箇所の訂正と最後のいらない文の削除を行いました。
追記:誤字報告を頂いた箇所を直しました。報告ありがとうございます。


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守崎 康介に関する報告書

タイトルと同じ名目で行われたこーちゃんの身辺調査書です。
内容は『第一章終了時における主人公の設定』と思って頂ければ幸いです。


守崎(もりさき) 康介(こうすけ)

身長178cm、体重112kg

体型は服の上からでは一見普通。

しかしミオスタチン欠乏症により全身筋肉ダルマと言っても過言ではない。

それが十全に使用された際の膂力は文字通り計り知れない。

中学1年の時の握力測定では測定器のバネが彼の握力に耐え切れず千切れたそうだ。

 

前世はまさに平凡。

文系科目より理系科目科目の方が得意だった。

大学では必要以上には力を入れなかったがそれでも科学関係でそれなりの結果を残した。

しかし一般企業に就職。理由としては『研究職・技術職はなかなか休みが取れないから』。

 

休日は趣味である読書・ネットサーフィン・アニメ・ゲームなどで、滅多に外に出ない現代っ子。

が、生まれ直してからは自身の身体能力や家柄、そしてなにより死ぬ前の『何事にも全力でやっておけば』という後悔から時間を作っては鍛錬に費やした。それでも前世の趣味は捨てていないあたり、効率の良さが見られる。

 

性格は基本的には冷静で年齢に似合わず落ち着いている。かと思えばふざけたりする事もあり、アンバランスさを感じさせられる。

 

小学校では人気もあり頼られる存在だったが、中学校に入ってからは一変、女尊男卑の荒波に揉まれ孤立する。

それでも自分を慕ってくれる友人が居たが中学2年の時ある事件をキッカケに疎遠になる。

その頃から一つ上の学年の九条(くじょう) (まこと)と交友を深め出した。

 

それが理由だと思われるが、

「人を繋ぐのは貸し借りと金と血の繋がり」と言った少々屈折した価値観を持つ。

それだけに一度家族や身内といったある種のボーダラインを超えた者に対して若干の甘さと依存が見られる。

恩や借りを作った場合それを返すように尽力するが、それが終われば離れていくと言った行動を取る辺り、その思考はだいぶ根深いようだ。

 

IS適性:C++

詳細:一般的にはこの適性値だが、一部のISに対し既存の検査機器では計測不可能な程の反応を示す。

 

國守流武道術

守崎 康介が使用する武術。基本的には五尺以上の太刀を使用する極めて稀少な剣術だが使い手によっては無手、槍、斧などの技術もあり、歴史も深く謎が多い。

噂では達人になると「時を超える剣」を振るう事が出来たとされるが、真相は定かではない。

 

ISを起動させた経緯

同級生が起こした事件によりISを起動させる。報告によればそれ以前の適性検査時には反応を示さなかったようだが、ISを起動させた事とこの事件に何か関係があるのだろうか。




設定で1000超えるのキツイですね。

コレは報告書、という体で載せさせていただきましたが、誰から誰に提出された報告書かは不明です。いやー誰だろーなー(棒

次回から第二章、IS学年編です。
モッピー的に暴君クロワッサンとの戦闘がなかなかに鬼門。

ご指摘、ご感想お待ちしております。


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第2章 IS学園とクラス代表
第6話 最悪の第一印象


第一印象って大事ですよね。


ISという超兵器が発表されてから、世界各国の代表達が会合を開いた。

その結果、圧倒的な戦力を持つISが戦争に使われた場合、どれ程の被害をもたらすのか見当もつかない。ならば世界平和の為に(・・・・・・・)ISの軍事利用を世界同時に禁止しよう、という事になった。

それがアラスカ条約だ。

まぁ

ドイツには軍部にIS部隊が設置されているだの、

アメリカとイスラエルが合同で軍用(・・)のISを開発しているだの

噂されており、何処まで効果があるのか分かったモノではないが。

 

では戦闘にISを使わないのであれば何に使用するのか。お蔵入り?それこそあり得ない。これほどまでに強力のモノを余らすのは世界に、人類にとってデメリットでしかない。

そうして提案されたのが篠ノ之束が発表した『宇宙開発の為のマルチスーツ』とはガラッと変わり、『ISをスポーツ競技の為に利用する』事だ。

 

だがそれには育成する為の施設がいる。

限られたISコアがそれぞれの国に分配され、大国でも二桁あれば良いような状態で、各国バラバラに施設を作ったのでは効率が悪い。

ISの成長には操縦者(ランナー)とのシンクロもそうだが、より多くの戦闘経験が求められる。

ならば一箇所に集めてISの事を学べる学校を作ろう、となり日本の東京に『IS学園』が作られる運びになった。

 

そして時は4月。桜舞い散る出会いの季節にIS学園も入学式を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

(………………臭うな)

 

見渡せば女子、女子、女子。

その一人一人が思い思いの香水をつけている為か、男子には少々、いやかなりキツイ教室の中に康介はいた。

 

あの事件でISを動かしてしまった康介はその後政府の人間に連行され自宅へ。

その後すぐに父と母を交えた話し合い、という名の脅迫。

色々と言っていたが要は、実験動物(モルモット)IS学園生(女の園に投獄)、どっちが良い?という事だ。選択の余地など無いだろう。まぁ康介は少し(・・)要望(ワガママ)を押し付けたようだが。

 

(にしても流石は主人公。この場の視線(ヘイト)集めに集めてるな。有難い事だ)

 

この教室の席順は入学式直後らしく出席番号順となっている。が、その並び方は少々変わっている。他の者からすればそうでも無いのかもしれないが、康介にとっては違和感を覚えた。

前に設置されている黒板、IS学園ではそれも電子化されているが便宜上黒板と呼ばれているそれに向かって廊下側、つまり右側の前から出席番号1番が座り、そして左に一つずれると出席番号2番の生徒の席、そのまま窓側の席である出席番号5番の席に行くと、2列目の右へ、といった順番になっている。

 

織斑 一夏は出席番号3番。席は教卓の前という特等席だ。もはや悪意を感じる。

そして康介は出席番号25番。席は後ろから2列目の窓際である。授業を無視していても気付かれにくい位置ではあるが、そんな余裕は康介には無い。

 

(IS概論、IS戦術論、IS整備基礎、基本装備(プリセット)後付装備(イコライザ)。中学の時に手を付けていなかったこれらの分野が評価の時に一番配点が高い……『IS』学園だから仕方無いとはいえ、少々キツイな)

 

絶賛勉強中である。2ヶ月ほど前に渡された『必読!IS学園に入る前に読む本!』という何の捻りもない巫山戯たタイトルの参考書。

康介の実家にあった広辞苑より分厚く、おまけに紙が薄く字も小さい。

本来ならIS学園の入試の為に勉強しているので、殆どの生徒は流し読みする、もしくは読みすらしなくても問題ないそれも、康介は読まなくてはならなかった。

 

「時間が足りない……!ダイオラ○魔法球が欲しい!」

 

そんな事をボソッと呟いてしまうくらい時間が無い。

「第1章 IS基礎理論」「第2章 ISに関する歴史・法律」までは理解したが、「3章 IS武装について」は途中、「第4章 その他あれこれ」というこれまた巫山戯た章は手付かずだ。

 

(一人目(織斑)は何もしていないようだが……アイツ大丈夫なのか?小説にもそれに関係する事があったと思うのだが……)

 

康介はISという小説について殆ど忘れかけていた。元々知識があったのも学園祭があった辺り、要はアニメ二期までの範囲だけという事もあるが大きな要因は別にある。

生まれ直して15年。この5月で16年になるのだ。生まれ直したこの世界にISという小説は無いし、読み返す事も出来ない。その状態で忘れても責める事は出来ないだろう。

 

「はーい皆さんLHR始めますよー。席に座って下さーい」

 

それを合図に教室で騒いでいた生徒も席に座り、廊下に集まっていた生徒も自分たちの教室に帰っていく。

教室の前のドアから入ってきたのは世にも珍しい緑髪の女性。彼女の名は、

 

「皆さんこんにちは。これから1年間貴方達の副担任になる山田(やまだ) 麻耶(まや)です。よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします……え?」

 

その言葉(自己紹介)に反応を返したのは康介だけだった。

周りを見ると、殆どが一夏を、康介の周辺の生徒は康介を見ていた。

 

(いや副担なんだから返事くらいしろよ)

「あ、ありがとうございます!よろしくお願いしますね!」

「は、はい」

 

彼女も少し動揺しているようだ。明らかに康介にのみ話しかける。

 

「それではこの時間は担任、副担任や生徒同士の自己紹介に当てられています。担任の先生は用事が長引いてしまって遅れているので、先に皆さんの自己紹介を済ませてしまいましょう。

出席番号1番の相川さんからお願いします」

「はい!出席番号1番!相川(あいかわ) 清香(きよか)です!中学は……」

 

1番、2番と順当に進み、クラスメイトが注目している3番目、一夏の自己紹介が始まる。

 

始まるはずが、いつまでたっても難しい顔をしたまま黙り込む。

それを見た麻耶も少しずつ焦っていく。焦りすぎて涙目になっている。元来気弱な性格なのだろう。

 

「あ、あの、織斑くん?自己紹介、次、『お』だから織斑くんの番なんだけど……自己紹介、してくれないかな?ダメかな?ゴメンね??」

「あ、いえ、しますします」

「本当?!約束!約束ですからね?!」

 

何がそんなに嬉しいのかピョコピョコ飛び跳ねながら喜ぶ麻耶。自己紹介なのだからするのが普通なのだが。

そんな事より康介は飛び跳ねている麻耶の胸部装甲に目をやっていた。

 

(これが……これが元日本代表候補生の実力か。凄まじいの一言に尽きるな)

 

教室に現れた時からインパクトを放っていたそれは、既に何人かのクラスメイトの戦意を喪失させる程の威力だ。心なしか一夏も見つめているように見える。

 

「えっと……織斑 一夏です!」

(……残念な事にそれだけではこの飢えた獣達は満足しないぞ織斑)

 

周りのもっと何か無いの?!?と言った視線にたじろぐ一夏。深呼吸をして、一言。

 

「以上です!!!」

「自己紹介もまともに出来んのか馬鹿者」

 

右手に持った出席簿(宝具)で一夏の頭を叩いたのは、いつの間にか現れていたスーツ姿の女性。恐らく、今世界で一番有名な人物では無いだろうか。

 

「げぇ!関羽!!」

「誰が三国志の英雄だ」

(そっちじゃなくてアニメの方じゃないか?)

 

もう一発特大の一撃が入る。一夏は沈んだ(K.O.された)

 

「入学式早々HRを任せてすまないな山田くん」

「いえ、副担任ですし……」

「助かったよ。

さて、諸君。私が担任の織斑 千冬だ。諸君をこの1年でそれなりのIS操縦者(ランナー)にするのが仕事だ。

覚えられない者は一から全て叩き込んでやる。いいな?」

 

暴君、もしくは鬼教官のような口振りだ。普通であれば大ブーイングだろう。そう、普通であれば。

 

「キャァァァア!!千冬様!千冬様よ!!!」

「生まれて良かった!!!受験頑張って良かった!!!!」

「私千冬様に会いたくて来ました!!北九州から!!!」

「流石ですお姉様!」

 

これだけで受験が報われるなら良かったなとか、このクラスには海外から来た人間もいるぞとか、はいはいさすおにさすおにとか色々ツッコミたかったがグッと堪えた康介が口にしたのはたった一言。

 

「み、耳がぁ!」

 

痛みに対するものだけだった。

 

「まったく、毎年毎年私のクラスには馬鹿者しか集まらんのか……。いや、集められている……のか?」

「流石ですお姉様!」

「叱って!」

「もっと罵って!」

「そして偶には優しくして!」

 

なぜ煽るのか。そして魔法科高校の劣等生が無いこの世界で何故そんなにもさすおにネタに拘るのか。

 

「静かに!他のクラスもHR中だ!……そして織斑。なんだ今の自己紹介は」

「いや、千冬姉、俺は__」

「織斑先生だ馬鹿者」

 

またも煌めく出席簿による一閃。あの威力を叩き出してなお、その外装は歪みもしていない。煙は出ているが。

 

(え?織斑君って千冬様の弟?とか、じゃあもう一人は?とか周りが言っているが姉弟報道は出ていただろうに。

あと俺については報道された苗字を考えろ。まったく未成年なのになんで報道されてるんだか……)

 

そんな事を康介が考えている間にいつの間にか康介の番が回ってくる。一学生が使うには随分ハイテクな机の立体ホログラムに康介の名前が表示される。

 

「あー……結構報道されているけど一応。守崎 康介だ。字は表示されている通り。

中学は普通の市立中学で、特技は特にない。趣味は……読書、かな?

一般教科にはそれなりに自信があるがIS関連は御察しの通りからきしだ。

 

……あとNLC所属のテストパイロットだ。よろしく」

 

最後の一言で教室が騒がしくなる。当然だろう。NLCと言えば日本どころか世界から見ても有数の大企業だ。偶に変態的な武器を開発する事を除けば、その技術力は倉持技研にも引けを取らない。

 

「……報告は無かったのだがな。守崎、疑うわけでは無いが、事実なのだな?」

「えぇ。気付かぬ内にコネ(・・)が出来てまして。俺自身驚いた事ですし、疑う気持ちも分かりますが」

「すまんが報告させてもらうぞ」

「いえ、お任せします」

 

お気付きの方もいるだろう。

ナイン・ラインズ。()つの()である。

そう。康介が中学のあの事件以来縁ができた九条 誠。彼の両親はNLCのCEOとその秘書だった。

 

(らしくないと言ったら殴られたけど)

 

彼も幼い頃から大企業の御曹司としての期待や重圧に晒され、嫌気がさしてグレたそうだ。その結果自分の出自を誰も知らない普通の市立中学入学を希望し、喧嘩を繰り返していたいつの間にか強くなっていた、との事らしい。

 

「そうか。了解した。では次の生徒」

 

千冬がそう切り出すと騒々しかった教室が一変。静かに次の生徒の自己紹介を聞いていた。これも織斑 千冬のカリスマのなせる技か。それともこのクラスの面々が優秀なのか。あるいはその両方か。

 

(ま、何でも良いけどな)

 

康介はその自己紹介の中参考書を取り出し、隣のクラスメイトの咎める視線を受け流しながら勉強を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

一限目のLHRが終わり、二限目のIS概論の授業に入る。

普通の高校でも学ぶ一般教科に加えISの知識面、技術面、更には操縦による実技と言った事を学ぶIS学園では休める暇などある訳もない。

入学式初日から授業があるのも頷けるだろう。

 

(良かった。まだ参考書の一章までの内容か。だけど、覚え忘れている単語が幾つかあるな。検索検索、と)

 

授業中でも机に内蔵されている機器で用語の検索などが出来るのは有難い。画面は教師に監視されているから、授業とは関係の無い事は出来ないが。

 

「此処まで分からないトコロがある人はいますかー?」

 

二限のIS全般基礎の分野を担当する麻耶が確認をする。と言ってもまだ必読!以下略の一章。その初めの十数ページに載っているものだ。あくまでも確認。そのつもりで麻耶は尋ねたが、1人だけ顔を真っ青にしている生徒(バカ)がいる。

 

(ヤバい……何一つ分かんねぇ……)

 

織斑 一夏である。

 

「特例入学の織斑くんと守崎くんも、この範囲は大丈夫だよね?参考書の最初の10ページくらいだし」

 

麻耶はニコニコしながらそう口にして次に進もうとするが、そうは問屋が卸さない。

 

「あ、分からないトコロがあれば言ってくださいね?教えますから。

なんせ私は先生なんですから!」

「じゃあ……あの……先生……」

「はい!織斑くん!」

 

意気揚々と指名する麻耶の笑顔。教師として頼られた事が嬉しいのだろう。しかしその笑顔も、次の一言で吹き飛んだ。

 

「殆ど全部分かりません!!!」

「ぇええぇ?!全部ですかぁ?!」

 

堂々と胸を張って答える一夏。

流石にジョークだと思ったのか声を殺して笑うクラスメイト。

私の説明がダメなのかなぁ?教師向いて無いのかなぁ?と再び涙目になりながらワタワタ動揺する麻耶。

そして揺れる胸部装甲。

 

(いえ、ご立派です)

 

冷静におかしな思考をする康介。まさにカオスだ。

そんな中頭を抑えながら千冬が切り出した。

 

「はぁ……胸を張る事では無いだろう馬鹿者が。織斑、入学する前に渡した参考書はどうした」

「えっと、あのタウ○ページと間違えそうな程分厚いヤツですか?」

「そうだ。必読、と書かれた黄色いのだ」

「タ○ンページと間違えて捨てまし__」

「巫山戯るな」

 

またも出席簿が活躍した。

 

(いや確かに黄色いのとあの文字(フォント)には悪意を感じたけどな……)

 

そう、本当に○ウンページに瓜二つなのだ。タイトルと言い外見と言い、巫山戯ている事この上ない。

中身はとても良くできているだけにツッコめないのが余計腹立たしい。

 

「いや!本当なんですって!」

「余計タチが悪いわ馬鹿者。後で再発行しておくから、一週間で覚えろ。良いな?」

「いやあの量を一週間はちょっと……」

「良 い な ?」

「……………………はい」

 

まぁ自業自得、とも言えるだろうが一週間で覚え切れれば良いが中途半端に覚えるのも問題だろうに。というのが康介の感想だ。

 

「放課後私が教えるから一緒に頑張って覚えよう?ね?」

「山田センセェ……」

 

見事に飴と鞭が成立している。なるほど、学園側がこの教師二人をペアにしたのは正解なのかもしれない。

 

「ところで環境としては守崎も似たようなものだと思うが、問題はあるか?」

「それは俺が必読と書かれた参考書を捨てる様な奴に見える、という事ですか?」

「そう曲解をするな。勉強出来るはずだった期間という意味でだ」

「それでしたら問題ありません。まだ三章までしか読んでませんが、今のところは」

「本当ですか?!大丈夫ですか?!」

 

千冬と康介の会話に身を乗り出して入り込む麻耶。一夏に精神力的な面で叩きのめされたからだろうが、康介にとっては、そんなに自分は馬鹿に見えるのか、と少し心外だった。

 

「……えぇ。授業的には問題なかったかと。彼が理解出来なかったのは下地が無かったからでしょう」

「うぐっ……」

「ですが一つ……次のページの中に疑問があるのですが、どうせですし今良いですか?」

「はい!どうぞどうぞ!」

「このP(パッシブ)I(・イナーシャル)C(・キャンセラー)のマニュアル制御に関してですが、そもそもどう言った時に必要になるのですか?オート制御出来るのならマニュアルにして意識を割くくらいなら機動に集中した方が良さそうなのですが」

 

PIC。パッシブ・イナーシャル・キャンセラーはISにのみ付けられている慣性を制御する技術だ。

これがあるが故にISは今まで出来なかった立体的な機動や音速に近い速度を出してもGを感じない上での操作が出来る、ISの強みの一つだ。

 

「あぁ、折角ですし少し説明しちゃいますね。PICとは文字通り、慣性制御システムの事です。コレはIS、及びランナーに対するGや風圧などを大幅に軽減してくれますが、オート制御ではそれによる欠点もあるのです。

例えば瞬時加速(イグニッション・ブースト)などで急加速しながら発砲すると、相手に対して真正面に向かって加速した際は問題無いのですが横方向に加速した際、キチンと当たりません。なのでそう言った時はマニュアル制御で機体とは別に銃身と銃弾の慣性を制御し、標準を合わせる必要があります。

ですがまぁ、熟練者、それこそモンドグロッソに出場出来るレベルにならないと大抵は銃身の慣性制御に集中し過ぎて期待の制御がおざなりになったり、その逆で当たらなかったりするので、最初の内はオート操作をオススメします」

「その横方向への瞬時加速の時、射撃補正が高い機体でもダメなのですか?」

「ん〜……どうでしょう。今後の技術発展によっては可能かもしれませんし、もう可能な機体もあるかもしれませんが……私はそれが実現した、という話は聞いた事がありませんねぇ……それにさっきのは、あくまでも一例ですので。PICのマニュアル制御の利点の詳しい内容については2学期になってからの予定なので、それまで楽しみにしてて下さい。

あ!放課後とか休み時間に聞きに来てくれるのは大歓迎ですよ?先生やる気のある生徒は応援したいですし♪」

「そうですか。まだ参考書の4章を理解しきれていないので今は無理そうですが、また聞かせて下さい」

「はい!他に質問のある人はいますか?……いないなら先に進めますね」

 

ウキウキとした表情で教壇に向かった麻耶は、何もないところでコケた。

千冬はまた頭を抑えるのだった。

 

 

 

 

 

二限目が終わって休み時間。康介はやはり参考書を広げて勉強に励んでいた。

 

(ふむ。その他って何かと思えば学者が

提唱しているISコアに関する仮説が主な項目か。こんだけの数の人間が束になっても篠ノ之束1人に敵わないとは……いや意図してダジャレになった訳じゃ、ん?)

「あー、勉強中悪いけど、ちょっと良いか?」

 

そんな康介の元に一夏がやってくる。一限目と二限目の間の休み時間は何処かに行っていたのか教室にいなかった。何かあったような気もするが、康介には思い出せなかった。

 

「あぁ構わない。この範囲はそこまで重要度が高くなさそうだ」

「そっか。悪いな。さっき自己紹介でも言ったけど、織斑一夏だ。2人だけの男子だし、一夏って呼んでくれ」

「守崎康介だ。呼び方は任せる」

 

一夏が右手を差し出す。康介はあまり初対面で握手、というのはしないのだが、流れを壊すのも悪いか、と握手を交わした。

 

「じゃあ康介って呼ばせて貰うよ。

いや、ホントはさっきの休み時間に話したかったんだけど、(ほうき)がな」

「箒?掃除用具がどうした?」

 

知っているが一応惚けておく。

自己紹介をしたのだが、まぁ他のクラスメイトを覚えていないのに、篠ノ之 (しののの) (ほうき)だけ覚えている、と言うのもどうかという理由だ。

 

「悪気ないんだろうけどそれ本人に言ったら殺されるから気を付けろよ?篠ノ之 箒って言って、俺の幼馴染みなんだよ」

「それは……苗字も名前も変わっているな。篠ノ之などIS開発者以外で初めて聞いたぞ」

「そうか?聞き慣れれば大した事な__」

「よろしいですの?」

 

一夏が話している途中に乱入者が現れる。

意図してなのか、そうでないのかはさておき、何とも間が悪いその乱入者は綺麗な金髪に縦ロールという出で立ちだ。如何にもお嬢様然とした彼女から、康介はある匂い(・・・・)を嗅ぎつけていた。

 

(コイツは……)

「よろしいかと聞いているのですが?」

「あ、あぁ。良いけど」

「まぁ!なんですのそのお返事は!エリートであるこの(わたくし)、セシリア=オルコットに話しかけられたのですから、それ相応の対応と言うものがあるのではなくって?」

 

仰々しく天を仰ぎ、呆れたような視線を向けるセシリア=オルコットと名乗る彼女に対して康介が抱いた第一印象(ファースト・インプレッション)は______

 

(小説通りアイツと同じ、女尊男卑思考(腐った人間)か……)

 

最悪だった。

 




長い。ひたすらに長い。
いや今回に関しては原因がハッキリしてるんですよ。途中のPICのマニュアル制御。あそこいらないかな?とか思ったけれど、こーちゃん頑張ってるよ!っていうの入れたかったんですよ。

予定では金髪チョロコルネさんに白手袋投げつけられる辺りまでいきたかったんですが、次回に持ち越しです。
さてその他二次創作の主人公達がその時々によってやらかしてきた最初の山場。それをこーちゃんはどう乗り越えるのでしょうか。その行く先は、モッピーも知らないので今から頑張ります。

誤字脱字報告、いつも通りお待ちしています。
それ以外でも感想お待ちしてます。よろしくです。


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第7話 彼の思惑と白手袋

モッピー知ってるよ!
週一で、と活動報告に書いた癖にルーキーランキングに載ってるのを見たら書いちゃってたバカはココだって。
モッピー知ってるよ!
…………知ってるんだよ……


「エリートであるこの(わたくし)に話しかけられ、更には同じクラスという幸運を、もう少し自覚なさったらどう?」

「は、はぁ……」

 

入学式早々に絡んできた女尊男卑主義者(自称・エリート)。康介が抱いた自身の第一印象など知りもせずに話し続ける。

 

「そうですわ。私はアナタ方とは違い選ばれた人間(エリート)なのですわ!そこの彼がどんな姑息な手段を使ったのか知りませんが、私は実!力!で!国家代表候補生まで上り詰めたのですから!」

「へー。あ、一つ良いか?」

 

と一夏が軽く手を挙げ質問する(爆弾を放り投げる)

 

「えぇ。エリートである私が庶民の質問に答えるのは義務というものですし、構いませんわよ?」

「代表候補生って…………何だ?」

 

セシリアは信じられないモノとを見た、と言った表情でエリートらしからぬ大口を開けているし、周囲で聞き耳を立てていたクラスメイトはズッコケていた。

康介はと言うと

 

(ふむ。こんなのあったなぁ……懐かしい。そして織斑は小説通りの残念さか。幾ら何でも一般常識範囲内だと思うが……ウチの担任様はどれだけISから遠ざけていたんだか)

 

懐かしんでいた。

 

「あ、ありえませんわ……エリートである私の事を知らない上に、代表候補生についてすら知らないなんて……日本にはテレビがありませんの?!」

 

無論テレビくらいある。単に織斑一夏が知らなかった(バカ)というだけである。

 

「選ばれた、という意味では俺たちもその中に入るがな。

寧ろ幸運なのはそっちじゃないか?喜べよ。世界でたった二人の男性ISランナーだぞ。同じクラスで幸運(ラッキー)だったな」

「なっ!!」

 

政府の人間との窮屈な交渉事。その後家族と離され、軟禁状態。できる事もやるべき事も勉強で、やればやるほど別の課題が見えてくる。

教室に来れば嗅ぎ慣れない悪臭に軽い頭痛がして、止めにコイツ(女尊男卑主義者)だ。

ストレスが溜まっていたのだろう。康介は普段だったら決して言わない様な事を口にした。

 

「クッ!バカにして!」

「事実だろう。何か間違っている事があるなら訂正してくれ。謝罪しよう」

「あ、貴方!……ふん!まぁ私は優しいですから許して差し上げますわ。それより勉強の方は大丈夫ですの?泣いて、泣き喚いて焼き土下座しながら頼まれるのであれば、教えてあげない事もなくってよ?

なにせ私は入試試験の際に唯一教官を倒して入学した生徒なのですから!」

 

ここで空気になっていた一夏(ステルス機)余計な一言を言い放つ(爆撃する)

 

「入試って先生と戦うっていうアレか?アレなら俺も倒したぞ?」

「んな゛!?!」

 

その言葉に納得のいかないセシリアは一夏に詰め寄る。

まぁ実際は試験官だった麻耶が実技テスト直前まで相手が男子という事を知らずに本番を迎えた結果、持ち前のあがり症でテンパり、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で壁に突っ込み気絶(リタイア)した、という何とも情けない結果なのだが。

 

ちなみに本来康介の試験官を担当するはずだった麻耶が戦えなくなった事で康介の相手をしたのは____

 

(いや手も足も出なかったな。流石世界最強(ブリュンヒルデ)と言ったところか)

 

織斑 千冬になっていた。更に言えば千冬が相手をしたのは康介のみという超特別待遇だ。思い出しただけでも康介の目頭に涙が滲む。

 

「__なたは!貴方はどうなんですの?!貴方も教官を倒しましたの?!」

 

康介が遠い目をして此処では無い何処かを見ていると、いつの間にか康介が標的にされていた。

 

「いや無茶言うな。倒せるわけ無いだろうあんな化け物」

「そ、そうですわよね!一人目の方がラッキーだっただけで、私は実力で__」

 

ここでチャイム(試合終了のゴング)が鳴る。

忌々しげに此方を睨みつけてくるセシリアと話し足りなそうに此方を見つめてくる一夏を席に促し、一息つく康介。

 

「結局、勉強殆ど出来なかったな……」

 

睡眠時間が削られる事が確定した。

 

 

 

 

「それでは授業を始める。では号令を……あぁ、そうか。まだクラス代表を決めていなかったな。では出席番号1番の相川。号令を頼む」

「は、はい!」

 

日本ではお馴染みの『起立、礼、着席』の3コンボだ。

海外の人間にも通じるのだろうか、と一夏は疑問に思い、先ほど話したセシリアの方を見る。どうもしっかりできているようだ。

 

「お前は何処を見ている」

「んだぁっ!!」

 

本人が一撃もらったが。

その漫才のようなやり取りに教室の空気が緩む。千冬は咳払いを一つして切り替えた。

 

「んん!三限目はISに後付装備(イコライザ)として搭載できる火器類、刀剣類の中で一般的(ポピュラー)なものの特性とその扱い方について説明する。特に火器の扱いは怪我につながる恐れがあるからよく聞いておく事。周りの人間が死んでも構わん奴は別だが」

(脅すな脅すな。アンタが言うと冗談に聞こえないぞ)

 

言い過ぎかもしれないが、事実ではある。

火薬の扱いでミスをしてもISを装備しているランナー自体はISに守られるだろう。だが周りはそうはいかない。生身の人間が近くにいれば死ぬ事だって充分にあり得る。

IS関係者の死因の6割がこの類の事故というデータからも、コレは証明されている。

 

「と言っておいて何だが、先に決める事がある。

先ほど少し言ったがクラス代表というものだ。

やる事と言えば集団行動時の纏め役や、教師側から生徒に連絡事項をする際の中継役。私達から頼み事をする事もあるだろうが、それより1番大きな役目は学期毎に行われるクラス対抗戦の出場だ。

入学した際にこの1年の大まかな予定表が送られているだろう。それにも書いてあるがクラス毎の学習速度、実力の差を明確にし競争意識を持たせる為のものだ。

あぁ、だからってクラス同士で揉め事を起こすなよ?あくまで学習の水準を図る程度のモノだからな。

まぁ要はクラス委員と変わらん。内申にも加点されるしそう悪い物でも無いだろう。

自薦他薦は問わない。誰かいるか?」

 

そういって生徒たちに発言を促す。男子2人を除いた生徒たちはザワザワと騒ぎ出した。

 

「はいはーい!私織斑君を推薦しまーす!!」

「やっぱり織斑君だよね」

「千冬様の弟だし!」

「流石ですお姉様!」

 

未だに使用されるさすおにネタ。いい加減にしろと突っ込みたくなるが、どう突っ込んで良いのかも分からない。

 

(ふむ……要約すれば雑用係に晒し者(ピエロ)を足したようなモノか。周りの奴らも織斑派が多数の様だし、乗らせて貰うとしよう。

すまんな織斑。民主政治は絶対なんだよ)

「え?!あ、俺ぇ?!?ちょっと待て俺はそんなのしな___」

「自薦他薦は問わないと言った。辞退は認めん」

「クッ、それだったら俺は康介を推薦する!!」

「あ、私も私も!」

「私も守崎君!」

「織斑君より勉強できるっぽいし!」

「グハァ!!」

 

漸く事態を理解した一夏が康介を推薦し、それに同調した女生徒が一夏にダメージを与えた時、男子クラス代表論に机を叩いて異議を唱えるモノが現れた。

 

「納得がいきませんわ!!

クラス対抗戦がある以上、このクラスの中で1番ISの操縦に長け、戦闘能力が高い人間がクラス代表になるべきですわ!そしてその人間は私、セシリア=オルコット以外あり得ませんわ!!」

(自薦他薦問わないと言っていたはずだが、それはどうなったんだろうな?

ウチの担任は恐ろしいし、話は聞いておく事をお勧めするよ。まぁ口には出さんが………………あっ)

 

それと同時にコレに思い出す。このままの流れでいくと、恐らくこの喧嘩を買う(白手袋を受け取る)であろう人物の事を。

 

「それを物珍しさからこんな猿のように知識が欠けた男にさせるなんて屈辱以外の何物でもありませんわ!!

私はわざわざこんな極東の島国に来てまでサーカスをするつもりは毛頭ございませんことよ!

大体、こんな文化的に遅れている国で生活する事自体、私にとっては耐え難い苦痛で___」

「そこまでにしろよ。

イギリスだって大したお国自慢無いだろうが。メシマズ大国何年覇者やってんだよ」

「なっ?!?」

 

手遅れだったか、と天井を見る康介。

まぁ内容を予め知っていた康介でさえイラつくモノがあったのだ。仕方ない。のかもしれない。と言えなくもない。

 

「何て事を仰いますの?!美味しいものも沢山ありますわ!!これだから野蛮人は!!!私の祖国を侮辱するなんて!!」

「先に言ったのはどっちだよ!」

 

売り言葉に買い言葉。一夏もセシリアも、怒りで我を忘れている。

 

「決闘ですわ!」

「良いぜ。分かりやすくて最高だ」

 

そしてこの流れになると、巻き込まれる人間が一人。

 

「話は纏まったな。では来週の月曜日の放課後、第1アリーナを使用して模擬戦を行う。許可は私が取っておくから、織斑、オルコット、守崎の3人は各自用意をしておく事」

(やはりこうなるか……)

 

さてこうなると困るのは康介だ。面倒事に巻き込まれるのもゴメンだし、勝っても負けても地獄とはまさにこの事。

周りはハンデがどうの、負けたらどうのと騒がしいが関係ない。

 

「織斑先生」

「なんだ?守崎」

「確認したいのですが、何故俺も戦うのです?あの決闘(ケンカ)は織斑とオルコット2人によるもので、俺は関係ないでしょう?」

「その模擬戦でクラス代表を決めるのだ。織斑が苦し紛れに言ったのが発端だが、数名からお前も推薦されている。出ないというわけにはいかないだろう?」

 

千冬は嫌らしい笑みを浮かべる。

康介はその笑みの意味が分からないし、分かりたくもない。

 

「では辞退を」

「な!康介!お前あそこまで言われて逃げんのかよ!」

「静かにしろ織斑。

さっき織斑にも言ったが、例外はない。辞退は認めん」

「そうですか」

 

思わず破顔してしまう。小説通りの返答過ぎて。自分の思惑通りに事が運び過ぎて。

急に俯いた康介に千冬や騒いでいた2人だけでなく、教室にいる全員が注目する。

康介は教室中にしっかりと響く声で言い放った。

 

 

 

「でしたら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()させていただきます」

 

 

 

一気に騒がしくなる教室。流石に千冬も予想外だったのか少し目を見開いている。

 

「そんな事認められる訳が___」

「認めざるを得ませんよね?

苦し紛れだろうがなんだろうが、推薦されたからには辞退は許さない。そう仰ったのは織斑先生。貴方だ」

 

逃げられない。それを理解した生徒たちは口々に「えっ?じゃあ私達もオルコットさんと戦うの?」「国家代表候補生(セシリア)と戦いたくない、勝てる訳が無い」と嘆き始めた。

 

(自分達が巻き込まれない内は騒ぎに騒いでいたのに、被害を被った瞬間コレか……)

 

そう、康介のやった事はただ一つ。対岸の火事と決めつけていた彼女達のいるその場所が実は火事なのだと教えただけだ。

その中で千冬が取れる道など、たった一つしか無かった。

 

「……分かった。辞退は認めよう。無理強いはしない」

「そうですか。残念です。

だとよ織斑、ソイツと戦わなくて済むぞ」

 

一夏の方に顔を向ける康介。その途中セシリアが視界に入るが、見下すような視線を康介に向けていた。

 

(どうせ逃げたとか腰抜けとか思ってるんだろうなぁ……)

「ふふふ。男なんてそうやって逃げ回っているのがお似合いですわ」

「康介!でもコイツは!」

「そもそもお前が戦わなくてもソイツ自分で墓穴掘っただけだろうに」

「あらあら負け惜しみですの?」

「……お前さ、本当に代表候補生(エリート)?俺にはどう見たってそうは見えないんだが」

「どう言う意味ですの?!」

 

再び机を叩き身を乗り出して康介に噛み付くセシリア。

対する康介は椅子に腰掛けたまま、至って冷静に切り出した。

 

「少しは周りを見てみろよ。お前、どんな目で見られてる?」

 

セシリアが言われた通りにしてみると、その視線は冷たいものだった。

 

「な、なんで……」

「当然だろ。お前は俺ら個人だけでなく、あのブリュンヒルデ、IS開発者、そしてお前以外の此処にいる全員の故郷である日本を貶めたんだ。そんな事すりゃ孤立する事は、小学生でも分かる事だろう?」

 

康介がセシリアに言い聞かせるようにゆっくりと説明をする。その間セシリアの顔色はどんどん悪くなっていく。

 

「ちょうどいいじゃないか。この国にいるのが嫌だったんだろう?ほら、おかえりはあちらだ」

 

そう言って指差したのは教室の前にあるドア。

言い切った瞬間、セシリアがストンと席に座る。

 

「ほら織斑。お前や俺が何もしなくても、彼女は自爆している。国に帰っても理由を聞かれれば居場所はないだろうし、このクラスもご覧のとおりだ。

それでも戦うか?無駄だぞ」

「…………それでも、アイツが決闘を叩きつけてきて、俺がそれに乗った。なら、やらなきゃ男じゃねぇよ」

 

一夏はこうなると頑として動かない。それを小説で知っている康介は溜息を吐く。

 

「はぁ……それで俺だけ逃げたら腰抜けみたいに見られるじゃないか。どうしてくれる」

「ゴメン」

「まったく……分かった。では俺も参加させてもらうぞ。オルコット、この勝負にお前が勝てば、俺はこの件をすっぱりと忘れよう。それで後腐れ無しだ」

 

今までから一転、康介は主張を変えた。先程まではクラス全員を巻き込んでまで戦う事を避けていたのにだ。

それには当然のように理由がある。

 

(勝っても負けても地獄、それが嫌ならどちらかに天国を用意すれば良い)

 

今までの流れは全てこの為。

康介が負けても本当のところ大して気にしていない今回の件を許す(無かった事にする)だけ、デメリットは皆無だ。

そして康介が何より求めていたのは……

 

(これでリスクを負わずに戦闘経験を積める!)

 

原作通りに進むならばこの先康介は様々な厄介ごとに巻き込まれるだろう。そしてその殆どが戦わなければ生き残れない(・・・・・・・・・・・・)

今まで武術という鍛錬を積んできてはいるものの、彼はISについては素人だ。短期的な目標ができれば努力もしやすいし、模擬戦自体が鍛錬になる。康介は最初からこうなるように動いていた。

とどのつまり、

 

「クラス代表の決定権をかけて勝負だ!」

 

このセリフを言う為に。

 

 




今回は他所の作品と被っちゃってるかもですね。
ありがちな展開です。

さて次回はドリルって素敵♪な髪型をしてらっしゃる彼女との模擬戦に向けてこーちゃんが邁進します。上手く描写できると良いけれど。

追記:感想にて指摘された箇所の内、モッピーが同意した部分の訂正を行いました。ですが大筋に影響は御座いません。


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第8話 彼の努力と襲撃者

予定がすっ飛び時間ができたので書いてたらできちゃいました。


その後、何事もなかったかのように始まった授業も終わり、放課後になった。

 

授業中、政府から一夏に専用機が渡される事を千冬が伝えてまたも騒然とする、といった出来事もあったが、康介にとっては分かりきっていた事だ。

そしてこれもどうでもいい事だが、政府から康介に専用機が渡される事は無かった。

まぁ康介は仮に政府から専用機が渡されても信用ならないし、ISに対する理解度向上の為にコア以外を解体しようと大真面目に考えていたのでそれで良かったのだろう。

 

(というかそんな個人情報を人前でポンポン言って良いのか?篠ノ之の時もそうだったし)

 

篠ノ之 箒。一夏と幼馴染みの彼女はISの開発者、篠ノ之 束の妹である。

中々珍しい苗字だからある程度察しがつくとはいえ、我らが担任様は大々的にクラスに発表したのだ。

その結果、篠ノ之山は

 

「あの人は関係ない!!!」

 

と大噴火したのだが。

 

まぁそんな事もどうでも良くて、問題は放課後である。しっかりと要求(ワガママ)は通っているか。それだけが康介の気がかりだ。

 

「あ、良かった。織斑くんも守崎くんもまだ教室にいましたか」

 

そういって教室に入って来たのは小動物のような笑顔を振りまく麻耶。

手には何かの鍵が2つ握られている。

 

(要求は通ったようだな)

 

康介は少し安心して麻耶に近づいていく。先に麻耶の側にいた一夏が話を切り出す。

 

「山田先生?どうしたんです?」

「はい。お二人に寮の部屋の鍵を渡しにきました」

「早くないですか?俺1週間くらいは自宅から通ってくれって言われてたんですけど……康介は?」

「俺の家、もうないから。今日からここで寮暮らしの予定」

「え?あー……悪い事聞いたか?ゴメン」

「いや、篠ノ之と同じだよ。重要人物保護プログラム、だったか?アレだ」

 

重要人物保護プログラムというものは名前の通り、ある程度名の知れた政府にとって()のある人物の親族などを政府が警備するシステムの事だ。

都合上、様々な地域を転々とするが、康介の両親である亮介と咲は

 

「つまり税金で色んなトコに旅行できるって事?最高じゃないか」

 

と喜んでいた。唯一残念なのは康介と中々会えなくなるということだが、仕方がないと割り切ってくれた。

 

「あー、アレかぁ。俺も箒がいなくなった時はショックだったなぁ……」

 

染み染み語る一夏。後ろで長めのポニーテールがピクピクと揺れている。

 

「それは後で聞いてやる。

すみません山田先生。続きを」

「あ、いえ。気にしないでください。では、こちらが2人の部屋の鍵になります」

 

そう言って麻耶は一夏に1025と書かれた鍵を、康介には1030と書かれた鍵を手渡した。

 

「ん?何で番号が違うんです?」

「あ、それは……」

「2人が別部屋だからだ」

 

麻耶の後ろから現れたのはその手にボストンバッグを持った千冬だった。

 

「そら、織斑の荷物だ。着替えと携帯の充電器があれば充分だろう」

「ど、どうも……」

 

お前(アルコール大好き人間)は本当にそれだけで良いんだな?と言いかけた康介だったが、自分には関係ないのでやめた。

 

「守崎がIS学園に入学するにあたり幾つか要求してきた事があってな。それの1つに一人部屋というモノがあったのだ。

その流れでどうせならお前も早い段階で寮に入れた方が安全だという事になってな。週末までは家に帰れないから、その荷物で我慢しろ」

「は、はい」

 

その後麻耶が寮生活での注意事項を説明し、一夏が何故大浴場に入れないのかと騒いだりもしたが割愛させてもらう。

 

 

 

 

(ほぅ。なるほど、随分と綺麗な部屋だな。もう少し粗末な部屋になると思っていたが)

 

鍵を受け取り学園の施設を一通り見て周り、与えられた自分の部屋に入った康介は少々驚いていた。

康介がISを動かしてから軟禁状態にされていたホテルよりも綺麗なのでは無いだろうか。

 

(さて、まずは……)

 

取り出したのは掌程度の大きさの円盤状の機械だ。康介はヘッドホンのようなモノを付け、その円盤の真ん中にあるボタンを押した。

キィィン……と耳障りな音を鳴らしたその機械。半径10m以内の盗聴器を壁も障害物も通り抜けて破壊するためのものでNLCから支給されたものだ。メーカー希望価格95,800円。

 

「……おかしい。もしかして盗聴器をセットしてないのか?」

 

破壊する原理として超音波を出して盗聴器の集音装置をオーバーヒートさせる。その熱で破壊するため、盗聴器があった場所からは煙が上がるのだ。

 

「いや無いなら無い方が良いんだが、なんというか、まぁ、平和だな」

 

IS学園の制服からいつもの鍛錬着である胴着に着替える。

康介にとって胴着は他の服とは違う特別なモノだ。別にこの胴着が超が付く程重いとか、これを着れば垂直跳びで10m跳べるようになるスーパースーツだとか、そんな事ではない。

ただ気が引き締まる。それだけだが重要な事だ。

コレを着る度自分は何故力を付けたいのか、どう言った事に力を使うのかを自問自答する。

その答えは2年前(この世界での家族ができて)から変わらない。

 

「俺は俺の意思(スジ)を通す!もう後悔はしない!」

 

ただそれだけの為に。

 

 

 

いつものように力のあり方を考えて、いつものように鍛錬を始める。

先程位置を確認し、剣道部の部長に直談判して道場の一角を使用させてもらえる事になった。そこに愛用の木刀、薄めた温めのスポーツドリンク、タオル数枚などの荷物を置いた。

 

柔軟をして体を整えてから1番最初にやるのは筋トレ。

腕の開き具合を変えての腕立て伏せ。

上体を捻りながらや足を宙にあげた状態での腹筋。

腹筋と同回数の背筋。

ヒンズースクワット。などなど様々なトレーニングをこなしていく。

 

その間道場にいる生徒たちは竹刀を振りながらチラチラと康介を見ている。

これからは筋トレだけは自室でやった方が良さそうだ。

 

水分補給をして汗を拭き、床に溢れた汗もそれ用に用意したタオルで拭いてから、走り込みに移る。

 

走る前に四肢と腰にそれぞれ重りを付ける。

中学に上がってから鍛錬の時には欠かさず付け、焦らず少しずつ重量を増してきたその重り。合計重量は今や康介自身の体重の3/4を占めていた。

一般的な人間であるならばそれを付けて動くだけで汗だくになるであろう状態で道場の周辺を走る。

 

「スゥスゥ、ハァハァ……」

 

20分ほど一定の呼吸、一定のリズムで走った後、全力ダッシュと歩くより少し早い程度の速度でのジョギングを繰り返す。 所謂インターバル走だ。それを更に20分。

徐々に速度を落とし、歩きながら息を整える。2分とかからず鼓動が元に戻り、道場に戻って汗を拭く。

この時点で鍛錬開始から1時間が経過している。

剣道部の面々はもう乱取りを始めているようだ。

 

それを視界の端に捉えながら康介は重りを外す。

次に行うのは型の確認。

 

ゆっくりと、一振りずつ丁寧に振り下ろす。虫が止まりそうな程の速度で振り下されるその軌道は、ブレる事は無く真っ直ぐだ。

 

上段からの袈裟斬り。逆袈裟。水平斬り。下段への払い。突き。

 

その確認作業の間に剣道部の乱取りは終わり休憩に入っているが、康介の型はまだ終わらない。

その美しさから感動を覚える程の剣筋に魅入ってしまう生徒もいる。

 

漸く型が終わり、素振りを始める。

先程の美しさに速度が加わった事で鋭さまで兼ね備えた康介の剣。

一太刀一太刀で己の中の悪を斬る。そのイメージを持ち続ける。

その思想も相まっているのか、またも魅力を増した康介の剣。一部を除き休憩が長引いている剣道部員もいる程の剣技。

しかし康介は満足できていない。

 

(あと、あと一歩!足りない(・・・・)!!)

 

もう少し、近くて遠い一歩を踏み出せばナニカ(・・・)が掴める。

その気配を感じて早半年。

道場の閉館時間により幕を閉じた今日の鍛錬では結局、そのナニカ(・・・)は掴む事は出来なかった。

 

 

 

自室に戻りシャワーを浴びる。汗を流し、胴着を部屋にあった洗濯機に放り込み、夕食を食べに食堂へ。

 

何事もなく食べ終えた康介は自室の椅子に座り、机には教材を並べる。

IS関係の科目の勉強だ。

 

(なるほど、この法律はこういうタイミングで活きてくるのか。これ作った奴どんな頭してるんだか。にしても参考書と比べると一つ踏み込んだ内容だな。他にはどんなものが……ん?)

 

『ISに関する法律』といういかにもな名前の教科の勉強中、一つ気になる記述を見つける。

それは康介自身も体験した『重要人物保護プログラムに関するものだ。

 

「草案提唱者……篠ノ之束?」

 

このプログラムを作成、政府に提出した人物が束だという一文。

最初に提案した時は各地を転々とさせる旨は無く、ただ狙われる恐れのある重要人物を保護する事でその親族に恩を売る、という内容だったの後に続くが、そこは問題ではない。

 

「他人に興味のない、あの篠ノ之束(天災)が?」

 

小説との違和感。それをまた一つ見つけた康介だった。

 

 

 

 

 

 

ピピピピッ。ピピピピッ。と鳴るデジタル式の目覚まし時計。

そのボタンを押して康介が上体を起こす。時計が示す時刻は午前5:00。

 

「ふ……わぁぁぁ……」

 

特大の欠伸をしながら洗面台に向かう。

蛇口をCOLDと表示された方に倒して顔を洗い、眠気を覚ます。

備え付けの歯ブラシに備え付けのの歯磨き粉を乗せて歯を磨くと、いつものモノと違う感覚に戸惑う。

そのおかげで完璧に目が覚めたのは僥倖か。

 

胴着を洗濯機から取り出して着替える。初めて使ったけど乾燥機付きというのは中々べんりだな、という感想が浮かんだがすぐ消えた。

 

「よし、今日も意思(スジ)を通すか!」

 

康介はIS学園の一般体育で使用するグラウンドに足を運び、鍛錬を始める。

昨日と同じ走り込みと筋トレに、無手による國守流(けん)術の鍛錬だ。

他にも國守流には、槍術、弓術、居合術など幅広くあり、それを総称して國守流武道術と呼ばれるのだが、康介はこの内、弓術と槍術を父・亮介から教わらなかった。

亮介曰く、國守流を収めるだけの才がその2つには無い、との事だった。

それでも鍛錬すれば人並みにはなるだろうが、それより剣の才(・・・)を伸ばした方が良い、という方針になった。

なにより康介もあれもこれもできる程自分は器用でないと思っていた事が大きいだろうが。

 

「ハッ!ヤァ!ダァアッ!」

 

誰もいないIS学園のグラウンドに、康介の気合の篭った発生が響き渡り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

アレから汗だくになった康介はシャワーを浴び、今日の予習を軽くしてから食堂へ向かう。

ミオスタチン欠乏症である康介の食事の量は凄まじい。一般的な男性の朝食の3倍は軽く食べる。

筋肉量が常人の比ではない為、それに見合ったエネルギーが必要なのだ。

食券式の食堂の為、券売機に並ぶ。朝食セットB、ご飯と鯖の塩焼き、味噌汁に漬物と少量の野菜炒めのセットのボタンを3回押して調理人のところへ。

 

「昨日もそうだったけど、その身体でホント良く食うねぇ」

「体質なんですよ。生まれつきです」

 

笑いかけながら食券を渡す。3分もしない内に熱々の朝食を乗せたトレーが3つ康介に渡される。

 

「持てないでしょ?席まで持ってってあげようか?」

「大丈夫ですよ。慣れてますし、お忙しいでしょう?」

 

そう言って康介はトレーを右手左手に一つずつ。そして右の腕に乗せた。

 

(こんなところで前世の経験が役に立つとは……バイトしといて良かったなぁ。当時はキツかったけど。ん?)

 

席を探して食堂内を彷徨いていると何やらある席が騒がしい。

 

「なぁ箒。いい加減機嫌なおしてくれよ」

「ふん」

「箒だって木刀で襲ってきたんだし、おあいこだろ?」

「ふん!」

 

そこにいたのは一夏と箒。どうやら揉めているらしい。

その原因というのは昨日の放課後、一夏が寮の自室に入った時に帰着する。

康介が一人部屋を希望し、本来なら一週間先だった一夏の入寮もついでという事で早まった。

その関係で一夏の一人部屋を確保できなかったのだ。ならば誰と同居させるかという話し合いがなせれた結果、知らぬ仲では無い箒が選ばれた。

 

そうとも知らず、鍵を開け無遠慮に部屋に入ってしまった一夏はばったり風呂上がりの箒と鉢合わせてしまったのだ。

羞恥心と怒りが混ざりに混ざった箒はあろう事か自分の荷物から木刀を取り出し襲いかかったのだ。篠ノ之流剣道の担い手である箒の斬撃や突きの威力は、今もなお2人の部屋のドアに生じる穴と言う形で物語っていた。

それから2人の仲は険悪に、というより箒が一方的に怒っている。

 

「おはよう。他に席空いてないみたいだから、ココいいか?」

「あ、康介。おはよ。良いぞ」

「ありがとう。悪いな。そっちの彼女は、直接話したのは初めてだな。守崎だ。呼び方は好きにしてくれ」

「ほら箒、自己紹介くらいしろよ」

「……篠ノ之 箒だ。よろしく頼む」

「あぁ、よろしく。それと、盗み聞きのつもりは無かったんだが、襲うと聞こえたぞ。随分と物騒だがどうした?」

「いやさ、実は昨日__」

 

事のあらましを聞いた康介が下した判断(ジャッジ)は___

 

「どっちもどっちだな。両方悪い点がある」

「なっ!」

 

引き分け(ドロー)だった。

 

「悪いのは一夏だろう!私は悪くない!」

「いくらその前に織斑がやらかしていても、武芸者が一方的に襲うのはどうかと思うが?」

「っ!そ、それは……」

 

自覚のある箒は俯く。同じ過ちを犯した康介だからこそ、注意せずにはいられなかった。

 

「感情をコントロールできない時があるのは分かる。だが俺たち武芸者の身体はそうでない人間からすれば凶器となんら変わらない。剣道をやっていると聞いたが、道を外れた剣はただの暴力だ。

それに、最初の肌を晒した事だって、例え相手が同性であったとしても、同居人(そこ)には引くべき一線(ライン)があるだろう。脱衣所に着替え持って入っておいて、顔だけ出して後で挨拶するにとどめておくべきだったな」

「……でもまさか相手が一夏だとは」

「それは納得できるがな。教師陣も報告くらいはするべきだろうに……」

 

頭を抑える康介。この学園に来てからこのポーズを良くする様になった気がする。

 

「一夏は何処が悪かったか、言わなくても分かるな?」

「……おう」

「篠ノ之には初対面なのに色々踏み込んだ事言って悪かったな。ゴメン」

「いや、良いんだ。そうだな。私が目指すのは剣道だからな」

 

そう言って上げた箒の顔は笑顔だった。

 

「一夏、その、すまなかった…」

「いや俺こそゴメンな」

「それで手打ちにしとけ……それと篠ノ之。そういう時は手を出さずに『責任取って?』の方が好感度高いぞ?愛しの一夏君を取られたく無いだろう?」

「なん゛?!?!?」

 

顔を真っ赤に染め上げる箒。もちろん彼女を呼んだ後からは彼女の耳元で、彼女にしか聞こえないような小声で伝えている。

一夏は気付いていない様だが、ハタから見れば箒の恋心はそれはそれは分かりやすかった。

 

「なん!きさ!守崎!!」

「ハハッ、食べ終えたから俺は教室に行くよ。急がないと時間無いぞ?」

「なに?!」「あ!!」

 

トレーの上にある食事を掻き込むように口にする2人を尻目に食器を返し食堂の出口に向かう康介。

その後ろで、1年学生寮・寮長の千冬が生徒たちを急かす声が聞こえた。

結局一夏は遅刻して出席簿を喰らったが。

 

 

 

それから騒がしいながらも平穏な日々が続いた。

康介は鍛錬に、勉強に、一切の妥協をせず、リフレッシュする為の休憩の時には趣味をこなして充実した……し過ぎた日々を過ごした。

そのおかげで『2人目の男性IS操縦者は神童』という噂も流れたりもした。

康介にとっては気に入らなかったが。

 

(神童?違う。俺は前世の経験もそうだけど、それとは比べ物にならない程、他の誰より努力をしてきただけだ)

 

どれだけ努力して強くなっても、賢くなっても、周りの人間はそれを康介の『才能』としか捉えない。

その努力を見てくれたのは、九条先輩とその家族。そして、両親だけだ。

 

もちろん才能(それ)もあるだろう。剣術に至っては才能の塊と言っていい程だ。

だが康介にはそれ以上に努力を積み重ねて来たという自負がある。

実力では勝てない者もいるが、その努力の量では誰にも負けないという自信があった。

 

それを『才能』だけで片付けられ、僻まれる。

今までもあった事だ。慣れている。だが。

 

(やっぱり、人間なんてそんなもんだよな)

 

こんな事を思ってしまうのは悪い事なのだろうか。

 

(いや、今はそんな事考えるのはよそう。今日(土曜日)は待ちに待ったご対面なんだし)

 

康介の専用機はNLCが制作し、康介に譲渡する運びとなっている。

専用機と言ってもあの時動かしたあの機体をアップグレードしただけらしいが。

 

(そういえばあのIS……俺にしか反応しなくなったとか言ってたな。なんか、申し訳ない)

 

康介があの事件で動かしたIS。近接戦闘特化型武装の打鉄は、康介以外の操縦者(ランナー)に対して一切の反応を示さなくなってしまった。

 

その代わり、と言ってはなんだが、康介とあのISとのIS適性値が既存の検査機器を振り切る程高くなっている。

 

IS適性値というのは簡単に言えばISとどれだけ相性が良いか、というものを数値化した物だ。

1番下はE-。殆ど動かず、飛行するのに苦労する程度なのがコレに値する。

そして千冬などの一部の超人クラスがS+。

 

相性、というだけで操縦者の力量という訳では無いので訓練次第でA+がC-に劣る、といった事もあるそうだが。

 

そして康介のIS適性値はC+。決して高くない値なのに、あのISとだけ異様な数値を叩き出す。

千冬(世界最強)ですら出した事の無いこの数値は便宜上、『O(Over) S(S)』や『EX(エクストラ)』と呼ばれる事になった。

まぁ文字に起こす際にはOSだとO(オペレーティング)S(システム)と被るのでEXと書かれる事が多いが。

 

そこまで思い出した康介は同時に、その検査に使った機材類がオーバーヒートして壊れた事を思い出して申し訳なさが加速する。

 

(社長に謝らなきゃな……

にしても外泊許可の申請、結構あっさり通ったな。護衛がつくとか言われたけど、まぁそれは仕方ないか。問題はその護衛が誰か知らされて無い事なんだよなぁ)

 

護衛者が来るので此処(IS学園総合受付)で待っておけと言われて早15分。未だに護衛者の影は見えない。

コレが千冬などであれば襲撃などを受けた際の安全性という意味では安心だ。向こうでの生活という意味では絶望的だが。

 

そうノンビリ考えていた康介の司会の端に、ブレた手刀のようなモノが映った。

 

「っ!!ハッ!」

 

反射的にその手を避けるように前転の様な姿勢でしゃがみ、後ろにいるであろう襲撃者(・・・)の腹部を狙って地面に手をついて渾身の蹴りを放つ。服に蹴り足の爪先が掠るが、襲撃者は辛うじてバックステップで躱した。

 

(!!デキるな!)

 

躱されるとは思っていなかった康介は驚きながらも体制を立て直し、服の袖に隠しておいた小太刀型の木刀を2本取り出し構える。

その時に漸くIS学園の制服を着た(・・・・・・・・・・)その襲撃者(彼女)の顔を目にする。

 

「っ!!アンタは!!」

「あはは。お姉さん、ビックリさせるつもりがビックリさせられちゃったなぁ。失敗、失敗。

じゃあ早速だけど自己紹介させてもらうわね?

私は更識(さらしき) 楯無(たてなし)。この2日間貴方の護衛をする、IS学園の生徒会長で〜す♪」

 

彼女(襲撃者)IS学園生徒最強(護衛者)だった。




前話を読み返して思ったのですがセシリーの扱いに関して少し。
別にセシリアは嫌いじゃないです。だからオルコッ党の方達石投げないで?
感想の返信の中にクソ長いのの中に、なぜセシリアが序盤あんなにはっちゃけていたのかのモッピー(国内産)なりの考察(笑)がありますのでそちらをご覧ください。
まぁ内容を超要約すると「高校デビューミスったんじゃね?」って事です。
そしてウチのこーちゃんはソレを使うのが場の制圧するのに1番楽だと考えた次第です。
ですのでこーちゃんセシリーの事別に嫌ってません。

タグに「アンチ・ヘイト」がありますが、あくまで「一時的に見ればそう見える」程度のモノに収めようと思っています。そう出来ないモノはどうするかって?
そこ(タグ)に「独自解釈・独自設定」があるじゃろ?

感想、誤字脱字報告、文章や物語的指摘。お待ちしています。


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第9話 相棒との再会

彼の専用機についてです。

また、感想にて指摘された箇所を訂正しました。
大筋は変わっておりませんが、若干変化しております。ご了承下さい。


「申し訳ございませんでした」

 

防弾加工が施された車の中で誠心誠意謝っている康介。

謝っている相手は先程康介が襲撃してきた(・・・・・・)と思っていた楯無だ。

 

「怪我も無かったし、気にしなーい気にしなーい。ふふ、でもまさか、手刀と勘違いしたとはね」

 

そう、勘違いである。楯無が言った驚かせようとしたとは、恋人がよくやる後ろから目を隠して「だーれだ♪」というアレをやろうとしただけだった。

 

それを彼女は自身の全力をもって気配を消し、常人では知覚できない速度で行おうとした結果、康介が手刀と判断しただけであった。

技術の無駄遣いである。

 

「こっちこそゴメンねー。まさかあの速度に反応出来ると思って無かったからさ。無駄に警戒させちゃったかな?」

「いえ、まぁ、驚きましたが。その後の蹴りを躱された事も含めて」

 

剣術がメインとはいえ無手にも手を伸ばしている康介の蹴り。体制が悪かったとは言え武術家の渾身の蹴りだ。

 

「んっふふー。お姉さんも色々とやってるからねー。年下には負けられないわよ?」

 

いつの間にかもっていた扇子で口元を隠しながら嫌らしい笑みを浮かべる楯無。その後開かれた扇子には『学園最強』と書かれていた。

 

「さっきも言ったけどお姉さんはIS学園の生徒会長よ。ここの生徒会長は選挙で決めるんじゃないの。決めるのはその実力をもってして。

つまり、私はIS学園最強って事になるわね」

「…………織斑先生より?」

「うん、生徒最強よゴメンなさい」

 

一度扇子を閉じ、また開くと書かれていた文字は『生徒最強』に変わっていた。

 

「色々とツッコミたいトコロがあるんですが……それどうなってるんです?」

「いやん♪乙女のヒミツを詮索する男は嫌われちゃうぞっ♪」

「アッハイ」

 

扇子の仕組みは機密事項の様だ。康介にとっては残念極まりないが。

 

「にしても生徒会長=(イコール)生徒最強ですか。学ぶものもそうですが、随分物騒ですよねホント」

「そうね。でも世の中物騒じゃない所なんて無いわよ。日本が比較的安全なだけで」

 

康介がISを動かすキッカケになったあの事件の様な事が起こっている限り日本も安全とは言い難いだろうが、という言葉は飲み込んだ。

 

「それもそうですね。今日のこの車も、そして貴方も。そういうのから俺を守る為にいるんでしょうし。本当にすいません」

「ふふ、それも気にしないで。今回の事に関しては、寧ろ私から言い出した事だもの。

それにお姉さんとしては、そこはありがとうって言って欲しいなぁ?」

 

康介に近寄り上目遣いで挑発する。

口元はまた『謝罪不要』と書かれた扇子で覆われているが、恐らく弧を描いているのだろう。

 

「……ありがとうございます。実際感謝してますよ」

「ん♪よろしい♪」

 

んふふ、と笑いながら満足気に元の姿勢になる楯無。飄々とした彼女の態度に康介はやりにくさを感じる。

 

「ところで康介くん。お姉さん質問があるんだけど良い?」

「えぇ、なんなりと」

「ありがと。今日の機体の受け取りだけど、それなら1日で済むじゃない?受け取り場所のNLCの研究所だってIS学園からそう遠くないんだし。なんで外泊届けを?」

「あぁ、それですか」

 

その理由は至ってシンプルだった。

 

「IS学園のアリーナが予約出来なかったんですよ。土日はいっぱいだって言われまして。

だから向こうで受け取った後アリーナを使わせてもらう事になったんです。

開発チームもその方が調整だとか楽みたいで。一番の理由は自分達が作った機体が飛んでるところを生でみたいって理由らしいですが」

 

ぶっつけ本番で飛行する、なんて事が出来るとは思えない。小説の中では一夏は搭乗機会もなくセシリアと戦っていたが、それだって事前にある程度別のランナーが飛行状態のチェック等を行っているだろう。

 

だが、康介の場合それが出来なかった。

何しろ康介の専用機は康介にしか反応を示さなくなってしまった。他のランナーが搭乗しようとすると、拒絶するかのようにPICを使って弾き飛ばす。

何よりデータが足りない。

完成したとは言っても、あくまで一応なのだ。

 

「なるほど。データ取りと訓練の両方でって事ね。納得したわ」

 

とは言いつつ楯無は事前に知っているのだが。

 

彼女が聞きたかったのは、どれだけ康介が事態を把握しているか。受動的に、流されているかいないか。それを知りたかった。一応、合格といったところか。

 

「そっかそっか。じゃあお姉さんがその訓練のお手伝いしてあげようか?」

「よろしいので?」

「えぇ。こう見えて私ロシアの国家代表選手なのよ?実力は申し分無いと思うけど?」

 

扇子には『流石先輩!』の文字。

選手としての実力とコーチとしての手腕は別物だろうが、彼女はその両方が優れている事を康介は小説から知っている。

彼女が小説と違うという事は、彼女のこの世界での立場と先程の意図せずして見せつけられた実力が否定している。

康介にとって優秀なコーチはまさに渡りに船だった。

 

「是非お願いします。ご存知でしょうが、来週までにある程度形にしなければなりませんので」

「ふふ、お姉さんに任せなさい♪

でも動かして数ヶ月の君が国家代表候補生にケンカ売るなんてホントは無茶なのよ?」

「ケンカじゃありませんよ。ただの模擬戦です」

 

つい先日康介の耳に届いたのは自身の噂。どうもこの対決の事と千冬の意見に逆らった事が学年を超え学園中に広がっているらしい。

中には康介に対し生意気だと良からぬ感情を持っている人間もいるらしい。

 

(それに対しても対策をしなくちゃな……)

「結果は一緒でしょう?それに、そう捉えてくれない子もいるわ」

「知ってますよ。だから余計力をつけなきゃならないんです」

 

この先IS学園中外共に敵対者が現れる事は容易に考えられる。

IS学園で生活する為、生き残る為に強くならなくてはならない。

 

「それもそうね。じゃあ、向こうに着いたら覚悟しなさいね?」

「了解です先生」

 

そう言葉を交わしてから、車の中は沈黙に包まれた。

康介が視線を窓の外に向ける。景色はどんどん後ろへと流れていった。

 

 

 

 

車に乗る事2時間。康介達は漸くNLCの研究所に到着した。

その施設は研究所、というより一つの島だ。

NLCが研究している事は多岐にわたる。食品関係、医療、宇宙工学、そしてIS。他にも様々な事がココで行われている。

故にこの広さ。IS学園と同じように土地を埋め立てて島を作り、それを丸々NLCの施設として運用している。

 

「……予想以上だな。流石世界有数の大企業」

 

康介が思わずこう呟いてしまう程、凄まじい広さを誇っている。

敷地に入ってから車で移動し数分、目的地であるIS・兵器開発部門の研究所に辿り着く。

 

(アラスカ条約があるのにその2つを纏めるのは、豪胆というかなんと言うか……流石です大企業)

 

そして研究所に入る前に、入念なボディチェックが始まる。

本来ISの専用機を持っている人間はココで専用機を預けないと中に入れないのだが、今回は護衛の際にISが手元にないと役目を果たせないだろうとの事で社長直々のお許しが出たそうだ。

 

中に入ると少し広めのスペースと長く広い廊下が見える。何処も研究者と思わしき人物達が右に左に大忙し、といった様子だ。

 

「お、やっと来たか。待ちくたびれたぞ康介くん」

 

近づいてきたのは九条(くじょう) 輝《あきら》。彼は九条家の長男、つまりは康介の中学の先輩である誠の兄だ。

康介が聞くところによると成績も優秀で大学もかなりのトコロを卒業し、ポスト・CEOの最有力候補だったそうだが、本人の希望とその能力の高さからIS関係の開発職に就いている。

 

「お久しぶりです輝さん。お待たせして申し訳ありません」

「あはは、さっき言ったのは形式として、冗談だよ冗談。気にしなくて良いよ」

「そうですか、安心しました。調子はどうです?」

「絶好調だよ。君の専用機の調子も含めてね」

「それは良かった。輝さんがそう言うなら大丈夫ですね」

 

康介の専用機、改修型・打鉄は彼のチームが担当した。康介が信頼できる彼のチームに任せたいと言った事もあるが、1番の理由はその手腕だ。

 

「でもまだ実験段階だからね。データが足りないんだよ。

だか今日はテストパイロットとしてしっかり働いてもらうつもりだから、そのつもりでいてよ?」

「当然です。こき使って下さい」

 

和やかに握手をして笑いあう2人。その2人の顔が今度は楯無に向けられる。

 

「康介くんの護衛の方だよね?紹介してもらっても?」

「あぁ、すみません。こちらは今回の俺の護衛をしてもらう事になったIS学園生徒会長、更識 楯無さんです。

会長。こちらは自分と前々から親しくさせてもらっている九条 輝さん。自分の専用機の開発チームの主任です」

「ご紹介に預かりました更識です。2日間よろしくお願いしますね」

「へぇ……更識の……」

 

輝は目を細める。少し警戒している様にも見えるその様子に楯無は余裕を見せているが、康介は少し戸惑いながら話題を変えた。

 

「あ、輝さん!早速で悪いですが機体を見せてもらっても良いですか?楽しみにしていたので」

「そうかい?それは製作者冥利につきるね。じゃあ行こうか。護衛の方もどうぞ」

 

3人は長い廊下に歩き出す。

その周囲では康介から見ると何に使うか分からない様なモノまである。

 

(なんだあのケースに入ったデカイダニ?ノミ?みたいなの……)

 

輝に聞くと、世の中には知らない方が良い事もあるんだよ、とはぐらかされた。

 

廊下の突き当たり。その扉の横にあるキーボードを叩き、輝が首から下げている社員証を認証させる。

ピコンッと音が鳴って扉が横にスライドしていくが、康介はそれよりその扉にハザードマークが付いている事の方が気になった。

 

「あの、輝さん。ハザードマーク……」

「あぁ、アレかい?まぁココにある物に対してじゃないから気にしないで」

「じゃあ何であの扉に?」

「あぁ……中にある物じゃなくて、中にいる()に対してなんだよ」

「え?」

「どういう事です?」

 

その言葉を聞いた楯無は護衛の任の為だろうか、康介に少し近寄る。

 

「いや、中にいるのが……ちょっとね。優秀なんだけど、うん。何ていうか……特殊、そう!特殊なんだようん」

 

ここで輝が担当しているチーム、通称・チーム『厄介者』について紹介しよう。

輝のチームの人員採用方式は基本的に輝本人がスカウトして引き抜く形になっている。

だがそれで優秀な人間ばかりを集めれば、他のチームから反感を買うだろう。仕事によっては複数チーム合同で行うものもある為それは頂けない。

だからといってそれなりの人間を集めただけでは実績が出せない。輝だけのワンマンチームではいずれ限界が来る。

ではどうするか。輝の考え出した結論は『優秀だがそのチームに溶け込めていない者』を選抜していったのだ。

故に『厄介者』の集まりだと呼ばれるのだが。

 

「まぁみんな凄い仕事()出来る人達ばかりだし、趣味はアレだけど良い人達だから、安心して」

 

そう言ってニッコリ笑う輝だが、康介が安心出来るわけも無く。

 

「………………………………はい」

 

濁った返事しか返せなかった。

 

「よしよし。それじゃあ安心してもらったところで君の相棒とご対面だ。

第二世代型IS、打鉄。それを改修、改造、改良した我がチーム渾身の一機。その名も……黒鉄(くろがね)だ!!」

 

康介が見たのは今のIS業界には珍しい全身装甲(フル・スキン)タイプのIS。だがその随所には打鉄を思わせる鎧のような装飾が見て取れる。

そして何より1番目に付くのは___

 

非固定浮遊部位(アンロックユニット)が無い?」

 

アンロックユニットとは、PICによってIS本体との相対位置を固定した部位(ユニット)の事だ。主に盾やブースターなどが多い。

 

そして黒鉄にはそれが一切無いのだ。ブースターは機体の背面、側面、肩部など様々な箇所に直接付いているし、盾に至っては無い。

 

「そうなんだ。アレを付けるどうしてもPICの出力が下がっちゃうから、それならいっそのこと外して、その分の出力を機体制御に回そうって話になってね。はい、コレがカタログスペックね」

 

そう言って康介にデータを渡す輝。

笑顔でISの基本装備の1つを平気で外す。なるほど、彼も厄介者(ハザード)なのだろう。

 

「そうですか。えっと、盾は?」

「あぁ、腕に籠手(こて)が付いているだろう?」

「……小さくないですか?」

「安心してくれ。それは特殊な力場を発生させる装置を組み込んであるんだ。そこまで小型化、強度増加させるのは大変だったんだよ?」

「力場?」

「うん力場。簡単に言うとエネルギー消費型のシールドかな。あ、消費型って言ってもちゃんと防御出来ればエネルギーは使わないよ?シールドに何かがぶつかった時に発生する熱を吸収して、それをエネルギーに変換するっていう効果があるから」

 

逆を返せば無闇に展開し続けている限りエネルギーが減り続けるシールドなのだ。諸刃の剣、どころか持ち主にのみ刃を向けている盾という事になる。

 

「随所ピーキーですね。大変そうだ」

「そうかもね。でも、その分使いこなせた時の性能は保証させてもらうよ。

それじゃあ、データを取って行こうか!」

 

楽しそうな子供の様な笑顔で輝が言い放ったこの一言を合図に、チーム全体が動き出した。

 

 

 

 

 

 

データ収集、それが終わり楯無との訓練。必要な休憩を最低限挟んでいるとは言え、中々ハードな週末が終わった。

確かにチーム・厄介者の面々は良い人達だった。偶にホントに厄介だけど。といった感想を胸に行きと同じ車、別のルートで帰路に着く康介。その意識は少しずつ、少しずつ、睡魔に侵されていった。

 

康介が寝付いた頃、その寝顔を見ながら楯無は考える。

 

(黒鉄……今のIS界の常識とはかけ離れた機体ね)

 

アンロックユニットが無い事、全身装甲である事以外にも、様々な点においてIS界という水面に投じられる一石のような機体だ。

その最たるモノは性能だろう。

機動法から戦闘法まで、まさに康介という武人の為に作られたような機体。だが黒鉄の製作開始時期は半年以上前だと言う。

 

(運命?それで片付けるには重なり過ぎているわね……まさか、NLCは康介君がISを動かせる事を知って……?

いや考えすぎね)

 

車に備え付けられている小さ目の冷蔵庫からドリンクを取り出し、口に含む。よく冷えた炭酸が喉を弾くかの様なその感覚で思考を冷やす。

 

(彼もこの2日間、よく喰らいついてくれたわ。嬉しくなっちゃったじゃない)

「罪な人ね……」

 

再び康介の寝顔を見る。

この2日間楯無に見せていた決意のある青年の顔付きとは違う、年相応、それ以上に幼い少年のような寝顔。

思わず笑顔になった。

 

「あ!いい事思い付いちゃった♪」

 

彼女はケータイを取り出し、彼にカメラを向けた。

 

 

 

 

 

 

 

月曜日。遂にセシリア、一夏、康介の対決の日だ。

いつものように鍛錬をした康介はその噂の広がり具合を肌で感じる。

 

(随分と人が多いな。変に視線も感じるし、話し声からすると今日の模擬戦。結構人が集まるかもな)

 

走りながら先週とは違う視線に違和感を覚えるが、戸惑いはしない。この程度ならハザードチームの面々に厄介な絡まれ方をされた方がよっぽどキツイ。

康介が走り出して20分。そろそろインターバル走に移る頃合いだ。

今日は速度の緩急をいつも以上につけようかと思案しているところに、またいつもと違う視線が向けられる。

 

「話に聞いていたがなるほど。よく鍛えているな。コレを毎朝か?」

 

視線の主は白地に黒のラインが入ったジャージを着た千冬だった。彼女は康介に近寄ってくる。

 

「その鍛錬、弟にも見習わせたいものだ」

「織斑は織斑のペースがありますし、自分は幼少から積み重ねたモノがあります。

織斑から聞きましたが彼は中学の時は家計を支える為にバイトをしていたのでしょう?それも一つの鍛錬(自分磨き)ですよ」

「それもそう……だな」

「それより今日はどうされたのです?自分はこれから続けますが」

「いやそれを聞いて、少し見せてもらおうかと思ってな。良いか?」

「えぇ。見ても面白いものではありませんが。まだウォームアップですし」

「ふむ。では私も付き合わせてもらうとしよう」

 

そう言って鍛錬を始める2人。自分の速度にも平然とついてくる千冬に戦慄を覚える康介は、思わずそれを口にしていた。

 

「……本当に女性ですか?身体能力では父親以外に負けた事が無かったんですが……」

「失礼な奴だな。まぁ伊達に世界最強(ブリュンヒルデ)と言われてはおらんよ。私はあまりこの呼ばれ方は好きでは無いがな」

「すいません。ですがそれ程凄まじいと思ってしまったもので」

「ふん。今日の授業覚悟しておけ」

 

軽口を叩きながらも康介は型の確認に入る。それを見ていた千冬は感心していた。

 

「なるほど、よくそこまで鍛え上げたものだな」

「ありがとうございます。ですがまだまだですよ」

「そうだな……右下からの払い上げ。アレをもう一度やってみろ」

「?はい」

 

康介は上段からの振り下ろしをやめ、払い上げの型へ移る。その途中で千冬にストップをかけられる。

 

「そこだ。振り出す前にほんの少し身体が開いてしまっている。そうなると刀に上手く力が入らない。もう少し脇を締め、斬る直前まで相手を見つめ続けろ」

「はい」

 

気を付けていたが、クセが付いていたようだ。

何度か振り、言われた箇所を訂正する。先程の事を意識しただけでも剣閃が変わったのが分かった。

 

「なるほど。ありがとうございます」

「気にするな。私はお前の担任なのだ。教育をするのは当然だろう?」

「それでもです。こっちに来てからこうして自分の剣を見てくれる人間がいなかったもので」

 

丁寧に腰を折り、頭を下げる康介に千冬は背を向けた。

 

「私もこの後予定があるのでな。今日はこれまでだ。また時間があれば見てやろう。

だが遅刻は許さんぞ?」

「はい、ありがとうございました」

 

千冬が去ってからも遅刻しない時間いっぱいまで鍛錬を続け、シャワーを浴びて朝食を摂る。その最中で一夏と箒がまた揉めながら食堂に入ってくるのに笑い、教室に向かう。

授業を終わり、遂に放課後。

 

「さぁ、『下剋上』の始まりだ」

 

運命の勝負(原作での初戦)が幕を上げる。




はい。セッシー戦はまだなんじゃよ。
中々長引いて予定通りに進んでくれません。セッシー戦入れたら確実に1万字超えちゃうんですよね。今回。
もう少し字数を調整できる様にならねば。

感想、誤字脱字報告、ご指摘、お待ちしております。


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第10話 締まらない結末

色々と申し訳ありません。
許して下さい何でもしますから。


セシリア、一夏、そして康介。

1組クラス代表決定戦と名付けられた今回の模擬戦の噂は、この一週間で学園中に広まっていた。

だからだろう。舞台である第三アリーナは満員とはいかないまでも、それなりに多くの人が集まっている。

康介たちが所属している1組の生徒がいるのは勿論、1年生の他のクラスの生徒も見受けられるばかりか、2年生、3年生、教師もいる。

1組のクラス代表になるであろう人物の偵察という目的から、単なる野次馬根性が働いた者まで様々だ。

 

その中心人物の1人、織斑一夏は控え室にて幼馴染の篠ノ之箒に詰め寄っていた。

 

「なぁ箒。俺はお前にISの事教えてくれって頼んだよな?」

「あぁ」

「箒はそれに了承してくれたよな?」

「そうだな」

「俺この一週間剣道しかやって無いんだけど?」

「…………」

「こっち向けって」

「し、仕方ないだろう!お前の専用機は届いて無いし、訓練機も借りられなかったんだから!」

「いや、でも勉強とかさ……」

「それは!その……」

 

そう、一夏はこの模擬戦が決まったあの日から一週間、ISについて全くもって触れていない。

これは物理的な事だけではなく、知識面でも授業の事以外はやっていないのだ。

 

毎日道場が使用できる時間ギリギリまで箒と試合をして、帰って体を洗い夕食を摂ると泥のように眠る。

それを繰り返していた。

勿論康介が鍛錬している姿も見ているし、一緒にしようとも思ったのだが、近づき辛さを感じたし、何より箒が頑として認めなかったので2人のみの稽古となった。

 

「はぁ。俺大丈夫かなぁ……ISもまだきてないし……」

「そ、そうだな!いつになったらくるのやら。全く!」

 

一夏の専用機は運搬が遅れているらしい。

開始時間まであと数分といった時間になっても、来る気配すらない。

 

今回のクラス代表決定戦は、

一夏vsセシリア

セシリアvs康介

一夏vs康介

の順に総当たり戦形式で行う。

これで勝ち星の数を競い、万が一同数だった場合は試合終了後に残っていたS(シールド)E(エネルギー)の数値を合算し、その合計が多い順に順位を決定するとの事だ。

 

一夏たちがまだかまだかと待っていると、控え室のドアが開いた。

 

「やっと来たか!」

「ん?やっと?予定時刻はまだのはずなんだが」

「あ、康介」

 

入ってきたのは康介だ。康介の試合開始はまだ先のだったので、整備室にて機体の最終チェックを行っていたのだ。

 

「織斑、お前いい加減ハッチ行って準備しないとマズイ時間だろ。そろそろ行け」

「一夏で良いぞ。いや、まだIS来てないんだよ」

「はぁ?まだって、じゃあ間に合わないだろ。どうすんだ。あと名前呼びは考えとくよ」

「どうするも何も……なぁ?

そっか。気が向いたら呼んでくれ」

 

なんともごちゃ混ぜな会話をして2人に近づいていく康介。

そこにまた1人入ってくる。

 

「入るぞ。守崎はいるか?」

「あ、千冬姉」

「織斑先生だ」

「いますよ。どうしました?」

 

またも出席簿で頭を叩かれ悶絶する一夏。IS学園に入学してから彼の脳細胞はどれだけ死滅しただろうか。

 

「……守崎、一夏は放っておいて良いのか?」

「ダメだと思うなら篠ノ之が構ってやってくれ。好感度上がるぞ」

「おい大丈夫か一夏」

「……お前は妙に篠ノ之を手名付けているな。

まぁ良い。織斑のISの到着が遅れている。その為お前とオルコットの試合を先に行う事になった。オルコットにはもう連絡を入れているから、お前の準備が終わり次第試合を始めたいのだが」

「聞いています。準備も問題無いですよ」

「そうか。すまんな。ではハッチに急いでくれ」

「了解です。じゃあな、織斑、篠ノ之」

「おう!負けんなよ!」

「応援している」

「ありがとよ」

 

それきり言葉を発さず歩き出す康介。

その口は弧を描いていた。

 

(勝ち目は充分、とはいかないが、ある事にはある。あとは、自分を信じるだけ)

 

一歩進む毎に緊張と、試合に対する興奮が高まるのを感じる。カタパルトの目の前まで来た時には、その心臓は激しく鼓動を刻んでいた。

 

『それでは守崎くん。ISを展開してカタパルトに接続して下さい』

 

スピーカーから今日の試合進行を行う我らが副担任・麻耶の声が聞こえる。それを合図に康介は自身のIS・黒鉄をイメージする。その動作に移ってから周りを粒子のようなものが舞い始めた。

 

ISには待機状態というものがある。

圧倒的戦力を持ったISを装備した状態では大手を振って生活出来ない。

そこでISの能力の一つ、本来なら拡張領域(バス・スロット)と呼ばれる亜空間に武装を収納しランナーが呼び出(コール)した時に手元に展開する量子変換を応用して、ISをアクセサリーに変換するという技術が開発された。

この開発者は篠ノ之束では無い誰か(・・・・・・・・・・)とされており、康介も軽く調べたが結局誰なのかは分からなかった。

 

展開されていくIS。

さながらアニメのように、瞬く間に康介の全身を装甲が覆い、粒子が消える。

その様子を管制室からモニターで見ていた千冬はこう思う。

 

(ほぅ……全身装甲型(フルスキンタイプ)に加えて、この時期。素人(初心者)にしては中々だな。イメージ力は良い方か)

 

一般的に展開するISの情報量が多ければ多いほど展開に時間がかかると言われている。フルスキンタイプのISが主流ではない理由の一つがコレだ。

康介が展開に費やした時間は約1秒。

熟練のISランナー達はこの1/3程で展開するという。

 

展開した黒鉄の脚部をハッチのど真ん中に陣取っているカタパルトに接続する。

ガゴンッと重厚のある音が鳴り接続が完了すると、再びスピーカーきら麻耶の声が響く。

 

『カウント3から数えます。それが0になったらカタパルトから射出します。

相手は国家代表候補生ですが、気負わずに全力を出して下さいね』

 

最後の一言だけ先程までとは違う優しい、いつもの麻耶らしい声だった。

またほにゃっとした笑顔を浮かべているのだろう。

 

『それではカウントを始めます。

3』

 

黒鉄がカタパルトに注がれる電力が高まっていくのを感知し、伝えてくる。

 

『2』

 

カタパルトからモーターが回るような音が聞こえ出した。生憎と康介には聞こえていなかったが。

 

『1』

 

康介の意識はもうハッチの中には無い。

飛び出した先に待っているであろう今日の相手(セシリア)に視線を飛ばす。

 

『0!カタパルト射出します!』

「いくぞ黒鉄!」

 

ドンッという音と共に、康介の身体は押し出された。

圧力(G)は感じない。PICがそれを打ち消している。

不安は感じない。高揚感がそれ打ち消している。

感じるのは、セシリアから送られる視線。自分の心臓の音。機体の、身体の状態。

何も問題は無い(オールグリーン)

全力をぶつけよう。

そう思って身構えている康介に、自身の専用機・ブルーティアーズをその身に纏いレーザーライフルを手に持つセシリアが話しかける。

 

「……レディを待たせるなんて、紳士の風上にも置けませんわね」

「それは織斑の専用機を運んでる奴らに言ってくれ。

それに、生憎俺は紳士じゃないんでね」

「そうですか。それもそうですわね。ところで、最後のチャンスを差し上げますわ」

 

セシリアは胸に手を当て、高らかに宣言する。

 

「私が勝つのは自明の理。もし貴方が泣いて許しを請うと言うのなら、まぁ、痛めつける手をほんの少し緩めてあげない事も無くってよ?」

 

見下すような笑み。その笑みに康介は返答を叩きつけた。

 

「結構だ。寧ろ本気を出して貰わなくては困る。そうでなければ意味がない。

分不相応かもしれんが、頼むよ」

「っ!!バカにして!」

「別にバカにした訳では無いんだけどな。

俺は紳士じゃあ無いが、武人であるつもりなんでな。試合で手を抜かれるのは好きじゃない」

 

セシリアはどちらも同じだと叫ぶが康介が譲る事は無かった。

 

『織斑くんの専用機の到着が遅れている為、繰り上げて試合を行います。

1年1組クラス代表決定戦第1試合。セシリア=オルコットさん対 守崎 康介くん。ブザーがなりましたら試合開始となります。指定の位置まで移動してください』

「ふん!ならばお望み通り叩きのめして差し上げますわ!自身の愚かさを恨みなさい!」

 

スタート位置であるアリーナ中央、地上20mの所に2人は待機する。

セシリアはブルーティアーズの初期装備の一つであるレーザーライフル、『スターライトMk.Ⅲ』を、

康介は黒鉄の同じく初期装備である大太刀型近接ブレード、『村雨』を、それぞれ構える。

お互いISの背丈ほどある武器を持っているが、その射程距離(リーチ)は歴然だ。

 

(あの男が動き出す前に一発当てる。そうすれば動けないでしょうし、『ブルーティアーズ』を使うまでもない、誰でも出来る簡単なお仕事ですわ)

 

一般人であるなら自身に銃撃が当たれば大抵怯む。その隙にライフルを当て続ける。それだけで自分の流れ(ワンサイドゲーム)になる。戦略も何も必要ない。単なる一般人にはそれで十分。それがセシリアの考えだった。

確かにそれは正解なのだろう。

だがそれは一般人に対しての話。

 

彼女がこれから相手取るのは()一般人だ。

 

騒ついていたアリーナが段々静かになっていく。

中心にいる2人は、もう何も語らない。ただただその時(ブザー)を待っている。

 

ビーーーッ!

 

ブザーが鳴ったと同時に動き出した2人。先に仕掛けたのはセシリアだ。

 

「お別れですわ!」

 

スターライトを構え、スコープを覗く。

そこからは康介が直進してくる姿が見える。狙うはその顔面。

引き金を引き、放たれたレーザーは康介の顔へ吸い込まれる様に命中した。

それでも康介が止まらないのはセシリアにとって誤算だったが。

 

「む、無茶苦茶しますわね!」

「シッ!!」

 

斬り払いながらセシリアの横を通り抜ける。

嘲り、見下していたところに加え予想外の事態への動揺。

それらが全て後押しをして、康介の一撃を届かせたのだ。

 

「きゃぁあ!や、やりましたわね!」

 

ブルーティアーズのスカート部分の装甲が砕ける。

 

(なんとか開幕の一発(インパクト)は取れた!)

 

康介は、先日の楯無との訓練を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最初の立会いは譲るな?」

「そうよ」

 

データも取り終わり、訓練に移った康介と楯無。

楯無の最初の教えは初撃の重要性だった。

 

「まぁどんな武術においても大事な事だし、知ってるかもしれないけれど。

けれど今回、セシリアちゃんとの対戦ではその重要性は更に上がるはずよ」

 

自身より下だと見下している相手に、先手を取られる。機体へのダメージ以上に与えられる影響は大きいだろう。

 

「セシリアちゃんのISは遠距離を得意とする射撃型。康介くんの黒鉄は近距離メインな上に、現在初期装備(プリセット)以外の武装が無い。

だから流石に1発2発は当てられるでしょうけれど、それを無視してでも自分の一撃を当てに行きなさい」

 

だからこその捨て身。無謀に見える特攻こそ、楯無が提案した『策』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

(なるほど、確かに有用ですよ先輩。目に見えてオルコットの動きが雑になった)

「あぁ!なんで当たりませんの!」

 

最初は当たっていたレーザーも、康介は徐々に躱しつつある。

その理由としては、康介の経験だ。

 

(一々スコープを見てくれるおかげでタイミングは分かりやすい。

要は刺突の延長だ。放たれる瞬間にその場にいなければいい。

それに……織斑先生の突きの方が早い気がする)

 

レーザーよりも早い一撃を放つ化け物染みた自分の担任相手によく生き残れたものだと思いながら、レーザーを躱していく。

だがその実、躱せるだけだ。近づけない。

 

「くそ!」

 

村雨しか表示され無い武装一覧。たった()つをご()あれ、な状態の愛機に愚痴をこぼす。

 

(遠距離武装無しって本当に近距離特化過ぎるだろうに!)

 

躱し、時に籠手で弾き、ダメージを受けないように立ち回る。

最初の一刀からお互いにダメージを受けていない場面が続いた。今の所、僅差ではあるが、康介がリードしているその様に観客(ギャラリー)は驚いているようだ。

 

「守崎君思ったよりやるねー」

「セシリア相手にここまでリードしてるなんて予想外だよ!」

 

その歓声がセシリアの神経を逆撫でした。

 

「私とブルーティアーズを前にしてここまでもった人は貴方が初めてです……ってちょ!」

「ゼァア!」

 

セシリアが口上を述べようとして出来た隙を康介は見逃さずに斬り込んだ。

結果は彼女の前髪を数本斬り落としただけだったが。

 

「ほ、本当にバカにして!手加減は無しですわ!いきなさい!『ブルーティアーズ』!!」

 

セシリアのISのアンロックユニットから分離した4機のナニカ(・・・)が康介目掛けて飛んでいく。

その先端からレーザーが放たれた。

 

「クッ!ファ○ネルか!」

「ビットですわ!」

 

4機のビット。黒鉄から康介に送られたデータでは『ブルーティアーズ』というらしい。

 

(機体名と武装名を同じにするなややこしい!)

 

今までと違い四方八方から飛んでくるレーザーに押され気味になる。

今までと同じ要領で躱していたが、それでも数発貰ってしまった。

いつのまにか、またも僅差でセシリアのSEの方が多い。

 

「ふふ。踊りなさい。セシリア=オルコットと、ブルーティアーズが奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

セシリアの調子が戻ってくる。康介はそれでも諦めていなかった。

 

(このブルーティアーズ……ビットの方は俺の反応が遅い箇所を狙ってくる。大抵は背面の左側から。

あとその間オルコット本人が動いていない。いや、動けない。

それに時々、全弾外した時や反撃をもらいそうになれば全てのビットをアンロックユニットに戻すな。エネルギー補給か、それともオルコットなりの仕切り直しか。それでも擬似的な5対1のようなもの……

先輩。あなたの言う通り、中々厄介ですよ)

 

楯無の示唆したセシリアの長所と短所。射撃に秀でている、狙いが正確が故に、射線を読みやすい事。そしてBT兵器(ビット)という遠隔武装を装備しており、遠距離戦が多い故に、近距離戦が苦手な事。

このレーザーの網を切り抜け、懐に潜り込めれば勝機はある。

しかし近づけない。ならばまず周りを崩せばいい。

 

(前面に3、背面左側に1。ココだ!)

 

前に意識が向いている瞬間に後ろの1機のレーザーを当てる。セシリアがそう狙いをつけた時に康介はワザと前面の3機を無視し、背面の1機に近づいた。

 

「シッ!」

 

斬っ!と一閃。見事に命中したその一撃で、ビットは爆発した。

その代償に康介はまた2発貰ってしまったが。

 

「そんな!今のはただのマグレですわ!!」

 

スターライトを放ちつつ残された3機のビットを戻す。康介が待っていた瞬間が訪れる。

 

「隙だらけだ!」

 

スラスターに光が集まる。一度放出したそれを再度取り込み、圧縮する。限界まで圧縮した後、空中を踏み締める様に屈み跳躍すると同時にそれを放つ。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)?!そんな高等機動を!」

 

康介が初めてISを動かしたあの事件の幕を閉じさせた瞬時加速(イグニッション・ブースト)。あの時は操縦技術を何も持たないが故に感情に任せ、尚且つ一度タメ(・・)を作りそれを反動に斬りつける國守流独自の居合術の感覚が発動させたそれを、この2日かけて康介は習得していた。

そして現状恐らく黒鉄にしか出来ない、特殊な瞬時加速(イグニッション・ブースト)が日の目を見る。

 

「い、幾ら速くても直線しか動けないのなら!」

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)には幾つか欠点がある。

放出、吸収、圧縮、再放出と段階を踏む為、通常のブースト移動よりも時間がかかるという事もその一つだ。

そしてその最大の欠点は発動後の方向転換が出来ない事だ。

それこそ圧倒的な速度を叩き出す瞬時加速(イグニッション・ブースト)だが、その速さ故にPICを使用しても尚消しきれないGは発動中の方向転換は操縦者(ランナー)に襲いかかる。

圧縮したエネルギーを複数回に分けて放出する事で、トップスピードは落ちるがその分曲がれる様になる技術も存在するが、超が3つ程付く高等機動だ。

IS大会の最高峰、モンドグロッソの機動部門で見られるか見られないか、と言った程に。

 

少々脱線したが、要は直線移動しか出来ない。不意をつかなければ移動先が簡単に読めるのだ。

発動中、無理に曲がったり体勢を変えれば体にダメージがいくか、最悪骨を折る。

 

「貰いましたわ!ブルーティアーズは4機だけじゃありませんことよ!」

 

外付け(プロペラント)タンクのような白い筒が2本、折りたたまれて康介の方へ向けられる。

その先端から誘導型のミサイルが1発ずつ発射された。

 

加速度的に縮まっていく康介とミサイルの距離。

それが0になる一歩手前。康介は動いた。

 

「ザラ゛ァ゛ア゛!」

 

康介が自身の真横に蹴りを繰り出す。

ダンッ!という音と共に『瞬時加速(イグニッション・ブースト)の軌道が少し曲がり』、2発のミサイルを躱した。

 

「んな?!あ、ありえ__」

 

セシリアのセリフが言い終わる前に、2人の距離が0になる。

 

「コレで終わりだ!」

 

あと事件の時と同じ抜刀の構え。其処から繰り出されるのは國守流居合術の絶技の1つ。

居合(いあい)二蓮華(にれんげ)

その技を端的に言うならば2度居合を放つ。それだけだ。

だが康介のそれは父・亮介に敵いこそしないが、並みの人間では構えてから急に振り抜いた様に見える程、速かった。

 

あの事件ではISのSEと操縦者(ランナー)の意識両方をたった一撃で刈り取った居合が2度、ほぼ同じ場所に当たる。だが専用機の防御力もあの時とは比べ物にならない。

ISにあるエネルギーを大幅に使用し、最低限操縦者(ランナー)の命を守る絶対防御が発動したが、SEを0にするには至らなかった。

 

(浅い!)

 

好機はココしかない。康介が畳み掛けるつもりで構えた時。

 

「キャァァアアア!!」

「あ」

 

康介を追っていたミサイルが、射線上にいたセシリアに命中し、爆煙を広げた。

 

ブーーーッ!

 

なんとも締まらないこの瞬間、康介の模擬戦初白星が決まった。

 




週一投稿早速破ってしまいました。申し訳ない。
それと内容に関しても納得がいってないし、皆さんも納得いかないと思います。セシリアの噛ませ感ェ……。
本当はもっとセシリーつおいんですよ。今回良いようにされた理由は次話にて説明させてもらいます。

まぁ序盤のセシリーはこんなモn((((((


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