IKUSABA育ちのIKUSABA人 (鎌鼬)
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1話

 

「ーーーんぁ」

 

 

そんな間の抜けた声と共に目を覚ます。寝ていたことで固まっていた身体を伸びをして解すとあちらこちらからコキコキと小気味の良い音が聞こえる。

 

 

「ふぅ……」

 

 

ついでと言わんばかりに首を回して立ち上がり、眠気を完全に排除した目で周囲を見渡し、

 

 

「……なんじゃこりゃ」

 

 

思わず絶句してしまう。それはそうだろう、目を覚ましたと思ったらそこは見慣れた場所ではなく荒れた地面と崩れた建物、そして煌々と燃えさかる炎で照らされている夜空だった。

 

 

そこから立ち込めるのは焼ける匂い、土の匂い、腐る匂い、紛れも無い死の匂い。気を緩めてしまえば一秒後にも死んでしまうような濃密な死を放つ世界。しかし彼はそんなことは気にしていなかった。何故なら彼にとって死の世界というのは自分が産まれた場所であり、自分が育った場所であり、自分が完成した場所でもあるからだ。死から逃れようとする警戒心とこの世界に帰ってきたという安心感の決して交わることの無い二つが彼の中にある。

 

 

「えっと……装備は大丈夫だな」

 

 

警戒しながら彼は自分の着ていたロングコートを弄る。黄土色のロングコートの内ポケットには一行程(ワンアクション)で中級規模の魔術が発動できる宝石が二十、手榴弾が五、閃光手榴弾が五、魔術処理の施された一般でマグナムと呼ばれる種類の拳銃が一丁、同じく魔術処理の施されたマグナムの玉が五十。そして一番確認したかった彼のお気に入りで切り札でもある概念武装のナイフがあった。

 

 

何があるのか分からないこの状況ではこの装備では心許ない気がするが無いよりかはましかと前向きに考えることにする。ひとまず周囲に自分を害するような存在が無いことを確認した後、彼はどうしてここにいるのかを思い出す事にした。起きてからそこそこに時間が経ったからか頭が働いてきている。

 

 

「なにがあったっけな……」

 

 

 

 

『ロマァ!!お前の菓子は俺がいただいたぁ!!』

『キサマァ!!』

 

 

「違う」

 

 

『ブゥッ!?私のコーヒーに墨汁を入れたのは誰だぁ!?』

『わ た し だ ! !』

『キサマァ!!』

 

 

「コレでも無い」

 

 

『所長殿ぉ?マスター適性が無くてさぞ悔しいでしょうねぇ?いえいえ!!別に貴女のことを非難している訳ではないのですよ!!でもカルデアの栄えある所長の貴女がマスター適性もレイシフト適性も無いだなんて……私にはありましたよ?マスター適性もレイシフト適性も。悔しいでしょうね』

『』プルプル

『(あらやだ、可愛い)』

 

 

「あれは楽しかった……でも違うな……あぁ!!そうだ!!思い出した!!確かドッキリ仕掛けようと思ってレイシフトの装置の中に忍び込んだんだっけ」

 

 

彼が思い出したのはレイシフトと呼ばれる装置を使う任務の前のこと。自分を含めた四十八人の魔術師たちがその任務に向かう前にいち早く準備を終えていた彼は暇だったので他の魔術師たちを驚かせようとその装置の中に忍び込んで待っていたのだ。しかし暗くて密室の環境が妙な安堵を与えてしまい、彼はそのまま眠ってしまったのだ。

 

 

「んで、眠ったままでレイシフトさせられたと。気づいてくれたなら起こしてくれても良かったのに、起こさないでレイシフトさせるとかカルデアまじブラック企業。これは起訴不可避ですわ」

 

 

眠ってしまった自分と眠った状態でレイシフトさせてくれたカルデルに呆れるしか無かった。しかしレイシフトさせたとなると何故自分一人しかいないのか?予定では全員を纏めてシフトさせる予定だったというのにここにいるのは自分一人だけ。何かトラブルがあったとしても何も連絡が無いのはおかしい。

 

 

「確か……レイシフトに成功したらサーヴァントを召喚しろとか言ってたような」

 

 

彼がズボンのポケットを漁るとそこには虹色に輝く不思議な石があった。これは聖晶石と名付けられた石でこれを使うことでサーヴァントという過去に偉業を成し遂げた英雄を呼び出すことができる。昔ならば召喚用の陣を書き、詠唱をしなければならなかったが今ではこれ一つでサーヴァントを召喚することが可能になっている。これだけを聞けば進歩があるようだがこの聖晶石を使った召喚方法には一つだけ欠点がある。それは召喚するサーヴァントは完全にランダムだという点だ。昔の陣を用いた召喚方法なら呼び出したいサーヴァントの所縁のある遺物や召喚者と相性の良いサーヴァントが呼び出されたりしていたのだが聖晶石の召喚ではそれらは一切意味をなさない。

 

 

つまりは完全に運任せ。相性の良い激強サーヴァントを引くことがあればソリの合わない激弱サーヴァントを引くこともある。

 

 

ギャンブル要素の強いこの召喚方法なのだが意外なことに彼はこの召喚方法を気に入っていた。別に自分のことを運の良い人間だとも運の悪い人間だとも思っていない。当たるも八卦、当たらぬも八卦、弄ることが出来ない天賦の才である運が試されるという点を気に入っているのだ。

 

 

さてサーヴァントの召喚をと思い立ったところで、彼の警戒に引っかかるものがあった。他の魔術師たちかと思いそちらを見れば……そこにいたのは骸骨だった。人の中にあって人を支えるべきそれが、人からでてそれだけで歩き回っている。しかも一体ではない。そこいらの廃墟から取ったのだろう廃材を手にした三体の骸骨がまるで生者を怨む死者のように彼に敵意を向けている。

 

 

「……まさか骸骨と戦う日が来るとはね。食人屍(グール)なら何十度かやった事はあるけど」

 

 

骸骨が歩いている状況に驚きながらも彼は左手にマグナムを、右手にナイフを持ち意識を戦闘用に切り替えて骸骨に突貫して行った。彼の行動につられるように骸骨たちが動く。ガシャンガシャンと音を立てながら骸骨の一体が彼に向かっていき廃材を振り下ろす。その速度に内心彼は驚いていた。見た目から遅いのだろうと考えていたが骸骨は思いの外速いスピードで動いていたからだ。

 

 

それでも、彼の中で戦ったことのある食人屍(グール)よりも遅い。廃材の振り下ろしを見てからスレスレでの回避に成功させると全身を縦に回転させながらナイフを逆手に持ち替えて柄で骸骨の眉間の辺りを強打する。回転の運動もプラスされてか骸骨は眉間にヒビを入れながら吹っ飛び、別の骸骨に当たって倒れる。巻き込まれた骸骨は下敷きになっているが他の一体はまだ顕在、身を低くしたかと思えば高く飛び上がって上空から攻撃を仕掛けてきた。しかし彼はそれに慌てる事はない。左手に握ったマグナムを冷静に骸骨の頭部に狙いを定めて引き金を引く。マグナムの反動を片手で殺しながら放たれた弾丸は真っ直ぐに骸骨へと向かっていき、眉間に命中して頭蓋骨を粉砕する。骸骨など相手にした事がなかったのでこれで良いのか若干不安だったが頭蓋骨を無くした骸骨は空中でバラバラになり、霧散して消えていった。

 

 

そして一体を相手にしている内に倒れていた二体が起き上がる、がそちらはすでに済んでいる。その理由は骸骨たちの足元に投げられた一つの宝石。

 

 

bomb(ボン)ってね」

 

 

彼の口から出たキーワードと共に宝石に込められていた魔術ーーー爆破魔術が起動して宝石が爆ぜる。ほぼゼロ距離での爆風を骸骨たちに避けられる訳もなく、二体の骸骨たちも一体目のようにバラバラになって霧散して消えた。どうやら頭部を破壊するか全員を砕いてしまえば骸骨を殺す事は出来るらしいと彼は学んだ。

 

 

「やっぱりIKUSABAは偉大だな。いろんな事を学ばせてくれる」

 

 

骸骨三体の撃退に成功し、他にもいないかと確認するが彼の警戒に引っかかるようなものは無い。偵察なのかまたまた来ただけなのかは分からないがどうやらあの三体で打ち止めのようだ。

 

 

「さて、邪魔の入らない内にサーヴァントを呼び出しますかね」

 

 

そう言って彼はマグナムとナイフをしまい、聖晶石を投げる。サーヴァントの召喚にしては適当かと思われるかもしれないがこれが正式な使い方なのだから仕方のないことだ。もしサーヴァントにこの事をしられたらこんな雑な方法で呼び出したのかと殴られるかもしれない。もしかすると暴力を捨てる事を説いたガンジーですら助走をつけたドロップキックを決めてくるかもしれない。

 

 

投げられた聖晶石が地面に落ちて強い光を放つ。閃光手榴弾を使う事もあって強い光には慣れているつもりだったがその光の強さに思わず目が眩みそうになる。

 

 

そして光が止んだ時……そこには一人の女性がいた。その事は別に不思議な事では無い。サーヴァントに選ばれる英雄の中には男性だけではなく女性もいる。

 

 

しかしそれでも彼は目を見開き、張り巡らせていた警戒を解く事になる。それは驚きではなく……現れた女性に見惚れていたからだ。

 

 

現れた女性は黒いドレスの様な鎧に身を包み、絹の様な金髪を低い位置で纏めていわゆるポニーテールにしている。手には赤い葉脈の様なラインの入った黒い剣を持ち、爬虫類を思わせる様な目で自身を呼び出したであろう彼の事を見据えた。

 

 

「ーーー問おう、貴様が私を呼び出したのか?」

 

 

高く凛とした声は現代で生きて王を知らない彼にも彼女が王であることを確信させるほどに威厳に溢れていた。

 

 

「ーーー何度でも言える、やっぱりIKUSABAは偉大だ。俺にこんな素敵な出会いを与えてくれるなんて」

 

 

だが、そんな事は今の彼にとってどうでも良かった。ただ、この死の溢れる世界で呼び出した彼女が言葉に言い表せないほどに美しかった。彼女を一目見た時から煩い心臓の鼓動は彼にある感情を抱かせたと確信させるのには十分すぎるほどだ。

 

 

そして彼は迷う事なく行動する。離れていた距離を詰め、片膝をつき、下から見上げながら手を差し伸ばしーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一目惚れです!!結婚を前提に付き合って下さい!!」

「ーーーふぇ?」

 

 

一秒後に死が訪れてもおかしくない世界で、プロポーズをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは存在しないはずのキャストの運命(fate)

 

いるはずのない一人の魔術師と一騎のサーヴァントによって紡がれる物語。

 

そこにはまだ別の者が現れるのだが……それは今ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それではーーーこの運命(fate)を楽しみたまえ。

 

 

 

 

 

 



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2話

 

 

「ーーーふぇ?」

 

 

今、マスターと思わしきこの男はなんと言ったのだ?

 

 

自身の召喚者らしき男の言った言葉があまりにも予想外すぎて呼び出されたサーヴァントである女性は理解が追いついていなかった。

 

 

「……すまん、今なんと言ったのだ?」

「一目惚れです!!結婚を前提に付き合って下さい!!」

 

 

思わず二度聞きしてしまったが男は気にすることなくさっき言った言葉と同じことを口にした。

 

 

結婚を前提に付き合う?それはつまり愛の告白、プロポーズではないか?

 

 

男の言っていることを理解した彼女は青白い頬を赤く染める。彼女はサーヴァント、生前の記憶は残っているがここまで真っ直ぐなプロポーズを受けたことは無かった……いや、そもそも異性と付き合う機会が無かったのではないか?という考えが浮かんでしまったが自分が死ぬ原因になったものたちに自身の宝具をブッパする光景を思い浮かべることでその考えを消し飛ばす。そしてプロポーズしてきた時から微動だにしない姿勢でいる男に注意を向ける。

 

 

男の髪は黒色、顔付きは東洋人特有の幼い雰囲気を感じさせるものだが異国の血が混じっているのかアメジストを思わせる様な紫の瞳を向けていた。そして全身から漂うのは戦場を経験したものならば誰もが持ち合わせている死と血の匂い。それもかなり濃い匂いを放っていた。総合的に見れば男の容姿は悪いものでは無いのだろう。むしろ彼女の好みの顔付きであって惹かれるほどだ。

 

 

そんな考えに至ってしまった彼女は思わず手にしていた剣を離してしまう。

 

 

「(待て待て待て!!あ、相手はたった今出会ったばかりの男だぞ!?そそそそんな互いのこともよく知らないし……!!そう!!互いのことを知らないんだ!!せめて趣味とか好きな食べ物とかそういうプライベートなことを知りあってから男女交際(そういうの)はするべきであって……何?世の中には政略結婚やお見合いがある?黙れマーリン!!座まで戻ってカリバーブッパするぞ!!)」

 

 

男性に対する免疫が低いのか、彼女は乙女思考全開でいた。その途中でいけ好かない部下の魔術師がいらないことを言ってきた気がしたがカリバーブッパの脅しで逃げる様に消えていった。

 

 

そして再び男を見る。彼は変わらずに同じ姿勢のまま、真剣な表情で彼女からの返事を待っていた。そんな彼に彼女は思わず初恋をした少女のような反応をしてしまう

 

 

「あ…あの…その、だな……私たちはまだ出会ったばかりだ……付き合うとかはお互いのことを知りあってからで……その……考えさせてくれないか?」

「……それはつまり、肯定では無いけど否定でも無いと?」

 

 

口ごもりながらもなんとか言うことができたが望まない答えが返ってきて男が気を悪くするかとおもったが思いの外彼の声色は落ち着いていた。彼女は林檎のように赤く染まった顔を隠すように頷いて肯定の意を示す。

 

 

「ーーーOh yes!!」

「ひゃ!?」

 

 

それを見た彼は叫びながらガッツポーズを取っていた。予想外の行動に驚きながらかれの行動が理解出来ないでいた。

 

 

「お、怒らないのか?」

「え?怒るって……あぁ、煮え切らない返事をしたこと?」

「そう、だ」

「確かに肯定してくれたら嬉しかったけど否定され無かったからな!!それに君が言っていることも理解出来るし。そうだよな、知らないのにいきなり付き合うってもの無理があるよな。でも断られてもいないしつまりはこれからの俺の行動次第ってこと!!まだまだ未来は明るいなぁ!!」

 

 

前向き過ぎるような気がする彼の姿を見て彼女は安堵のため息をついた。そして地面に放り投げてしまっていた剣を拾い上げて、改めて名乗り直すことにした。そんな彼女の雰囲気を察したのか彼も某世紀末覇者のように突き上げていた拳を下ろして彼女と向かい合う。

 

 

「ーーー問おう、貴方が私を呼び出したのか?」

「あぁ、俺が君を呼び出した。俺の名はレインヴェル・イザヨイだ。レインヴェルでもイザヨイでも、呼びにくかったらレインとでも呼んでくれ」

「なるほど。契約はここに完了した。私の名はアルトリア、セイバーのクラスで呼び出された。馴染み深い名で言えばアーサー王の方が知られている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルトリア、アーサー王と言えば知らぬものがいないと言っても過言では無いほどに有名な英雄である。イギリスのある土地にあったブリテン王国の王にして平等な発言を許す円卓の場を設けた王。侵略してきた蛮族を撃退しながら王としての威厳を示していたが円卓の騎士と王妃グネヴィアとの不貞から始まった国の二分化、そしてその隙をついたアーサー王の姉モルガンの策謀によって産まれた息子のモードレットによりブリテンはアーサー王と敵対する。そしてアーサー王の最後の戦いは守ってきたブリテン王国との戦い。カムランの丘でモードレットと刺し違えることでその戦いも幕を閉じ、アーサー王は傷を癒すために妖精の郷のアヴァロンに連れて行かれてイギリスの危機に再び現れると言い伝えられている。

 

 

そんな英雄中の英雄であるアーサー王が目の前に立っている。いや、彼にとって彼女がアーサー王なのかはどうでも良かった。ただ惚れた女がアーサー王であった、その程度の認識でしか無かった。

 

 

「ま、こっちも現状をあまり把握出来てないけどよろしくな」

 

 

そう言ってレインヴェルは右手を差し出した。手には何も持たれていない、アルトリアはこの手が握手のために差し出されたと理解し魔力によって編んでいた籠手を解除して同じ様に右手を差し出した。

 

 

「あぁ、よろしく頼む」

 

 

レインヴェルはアルトリアの手が冷たかったことに驚いていた。呼び出したサーヴァントは確かに死人であると言えるのだがこうして実体化している間は人間と同じだと説明されていたからだ。

 

 

反対にアルトリアはレインヴェルの手の暖かさと硬さに驚いていた。人間の平熱よりも高い体温にゴツゴツとした硬い手のひら。体温は不明だが硬い手は長年剣を振り続けて来た老練の騎士の手を思い出させる。外見から判断できる年齢は二十代だというのにそこまで自分ことを酷使していることに驚いたからだ。

 

 

「えっと、まだ握り続ける?こっちとしては嬉しいけど」

「っ!?あ、あぁ、すまなかった」

 

 

レインヴェルは手の冷たさに驚いただけだったので比較的早く正気に戻ることが出来たがアルトリアはレインヴェルがどれ程の鍛錬を重ねてきたのかを考えてしまい正気に戻るのが遅れてしまった。なんとか謝って手を離すことが出来たが顔はプロポーズの返事をした時の様に赤くなっていた。反対にレインヴェルの方は少し残念そうに笑うだけで然程気にしていなかった様だった。

 

 

「(アルトリアの手……冷たかったし剣を握ってたからタコが出来てたけど柔らかかったな……)」

 

 

訂正、顔には出していないだけで内心では気にしていた様だった。

 

 

「そ、それで!!これからどう動くつもりなのだ?」

「あぁ、俺の同僚が近くにいるはずだからそれを探すつもり。いるのなら生存者の救出もしたいけど……この惨状じゃな、生存は絶望的だろ」

 

 

なんとか落ち着くことに成功したアルトリアが今後の方針を尋ねるとレインヴェルは自身の所属しているカルデアの仲間を探すことを提案した。レイシフトをしたのならば他にもこの時代に来ているはず、それならば合流した方が良いと判断しての提案だった。他にも現状が説明出来そうなこの時代の人間がいるのなら優先的に保護や救出をするつもりなのだがそれは叶わないだろう。辺りはまるで可燃物を撒き散らしたかのような火災が起きている。それだけならまだ望みはあったのだが先程倒した骸骨たちのような存在がまだいるのならば生存者がいるとは思えなかった。

 

 

「そうか、ならば貴方の道は我が聖剣で切り開こう!!」

「どっちかと言えば聖剣ってよりも魔剣だけどな、その剣」

「え……?あ、本当だ。デザインが変わってる」

「気付いてなかったの!?」

 

 

どちらにしても彼らには立ち止まるという選択肢は無い。煉獄の様だと言い表せる世界の中を、レインヴェルとアルトリアは歩き始めた。

 

 






波旬「やぁ!!みんな、波旬お兄さんだよ!!今日は無限大数いる友人の一人に頼まれてこの小説の簡単な説明に来たんだ!!今回はレインヴェル・イザヨイ君とアーサー王ことアルトリアちゃんについてだね!!あまりにも詳しく言っちゃうとネタバレになるから本当に触りの部分だけだけどね!!」


波旬「まずはレインヴェル・イザヨイ君だね!!彼は日本人と北欧の方の人間とのハーフでカルデアにスカウトされて今回の計画に参加した魔術師だよ!!まぁ魔術師だって言っても戦い方は銃器とか爆発物とかバンバン使うから友人の一人の魔術師殺しの様な感じでどちらかと言えば魔術使いに分類されるね!!イザヨイの名前から分かるけど彼の血筋は七夜と同じ様に異形退治を生業としていたんだ!!まぁ七夜とは違う形で異形を退治していたと思ってくれたらいいよ!!」

波旬「次はアルトリアちゃん!!彼女は型月の世界の青セイバーを正史だとすると外史に当たる世界から呼び出されたサーヴァントになるよ!!だから第一話じゃ女性と表現されていたんだね!!青セイバーだったら少女と表現するだろうから!!外見は青セイバーがオルタになって大体二十代後半くらいになってる姿を想像してくれたらいいよ!!つまりは背が伸びて胸とかがきちんと成長している姿だね!!」

波旬「さて!!今回の説明はこんな感じかな!!次の更新が何時になるのか分からないけど見てくれるなら波旬お兄さんは嬉しいな!!」

波旬「それじゃ!!また会う日まで……せぇの!!生きてるだけで最高さ!!」



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3話

 

 

「ーーーハァッ!!」

 

 

アルトリアが剣を一振りする。それは人間の視力では黒い閃光が通って行っただけにしか見えない程の速度で振るわれ、前方にいた骸骨たちを一撃で粉砕する。

 

 

「オラッ!!」

 

 

レインヴェルは徒手空拳で骸骨に殴りかかる。本来彼はナイフとマグナムを持っているのだが骸骨相手にするには斬撃系統のナイフでは効き目が薄い。マグナムはナイフに比べればまだマシな効果を期待出来るのだが弾数制限がある。なので骸骨相手に有効打になる打撃で戦うことにした。硬く握り締められたのでは無く、中指だけを飛び出す様にして握られた拳は一撃で頭蓋骨を粉砕して骸骨を霧散させる。

 

 

「多いな」

「人気者過ぎて笑い止まらんで腹痛いわ」

 

 

レインヴェルとアルトリアが背中合わせになり、周囲を取り囲む骸骨たちに睨みを効かせる。骸骨たちはたった二人しかいないレインヴェルとアルトリアをあざ笑うかの様にカタカタと音を立てながら廃墟とかした建物から得たのであろう廃材やどこから入手したのか分からない剣や弓矢を手に包囲網を狭めてくる。

 

 

そもこうなったのは数十分前、レインヴェルとアルトリアが他のカルデアの魔術師を探そうと歩き始めた時まで遡る。歩き始めて数分で彼らは十体程度の骸骨の群れを見つけた。倒すか避けるかの二択を選ばなければならない状況になり彼らは迷うこと無く倒すことを選択する。そして突貫、レインヴェルが二体の骸骨の頭蓋骨を砕いている間にアルトリアは八体の骸骨を粉砕していた。サーヴァントの戦闘能力が人間よりも遥かに高いと聞かされていたが予想を超えるアルトリアの強さにレインヴェルは惚れ直した。

 

 

骸骨を倒したのならもう用はないのだが……倒した際の騒ぎを聞かれたのか新たな骸骨の群れが現れる。それをノータイムで倒すことを決め倒したら別の群れが現れる……そんなことを繰り返して、気がついたら四方八方を骸骨の群れに取り囲まれていた。

 

 

幸いにも骸骨自身の戦闘能力はかなり低い。武器を振り回すなどの単純な行動しかしない上に風化でもしているのか素でコンクリートの壁に穴を開けることが出来るレインヴェルのパンチ一撃で砕くことが出来る。一体一体を倒すのには然程労力が掛からないがそれでも数の暴力がある。二人は余力は有るもののこの状況が良くないことを分かっていた。

 

 

「どっかのゴキみたいに次から次に……面倒すぎる」

「ならば私のカリバーで一網打尽にしてやろうか?」

「それは止めといた方がいい。まだ先は長いんだからこんなんで魔力消費してたら俺が持たん。っと、あそこにある建物見える?」

 

 

襲いかかってくる骸骨を裏拳で砕きながら、レインヴェルはこの場から離れた場所に建っている建物を指差した。元々はビルなのかデパートなのか判断しづらいコンクリートの建物がある。しかし見た目は火災にやられてなのか真っ黒、さらに風化しているらしくコンクリートはボロボロになって脆くなってる様に見える。

 

 

「あそこで骸骨ホイホイして一網打尽にしてやろう」

「面白い、乗ったぞ!!」

 

 

二人と建物の間にいる骸骨をアルトリアが一振りで粉砕する。骸骨の物量の前では焼け石に水としか思えないこの行動をレインヴェルは見逃さない。ロングコートから手榴弾を取り出して薄くなったそちらに投げる。ピンを外してから数秒で手榴弾は本来の威力の数倍の爆発を起こした。そして骸骨の包囲網が破れ、建物へと続く道ができる。

 

 

その道をレインヴェルとアルトリアは全力で疾走した。骸骨の動きが速くはないとはいえどゆっくりしていればこの道はあっという間に塞がれてしまう。アルトリアが先行し、道を塞ごうと包囲網から溢れ出した骸骨数体を通りすがり様に粉砕する。そして建物の外壁を脚力だけで一気に駆け登り、建物の屋上に降り立つ。

 

 

それに続くのはレインヴェル、しかしある程度骸骨の群れから離れると骸骨の移動に合わせる様に速度を落として建物の入り口から中に入る。その気になればアルトリアと同じ様にとはいかないもののパスクールの要領で外壁を登ることができるのだが今回は目的の為にあえてその方法をとらなかった。レインヴェルが建物入るとそこは広いフロアで奥の方には二階に上がるための階段が見える。すぐさまその階段には向かわずに建物を支える四本の柱と脆くなっている柱二本を見つけ、それの根元に宝石を投げる。ガシャリガシャリという音が聞こえて入り口を見ればそこには我先にと群がっている骸骨の姿があった。狙い通りに行きそうだとほくそ笑みながらレインヴェルは階段を駆け登り、屋上に出る。

 

 

「どうだ?」

「……よし、見える奴らは全部入ったぞ」

「よっしゃぁ!!芸術は爆発だぁ!!」

 

 

アルトリアからの返事を聞き、レインヴェルはキーワードを避ける。するとフロアに置かれていた宝石が爆発して傍にあった柱六本の根元をすべて吹き飛ばした。建物を支えていた柱とダメ押しと言わんばかりの柱を吹き飛ばすとどうなるのか?当然のことながら建物は支えを無くしたことで崩壊する。屋上にいたことで二人は上から下への自由落下を始める。

 

 

サーヴァントであるアルトリアは危なげなく着地、レインヴェルもアルトリアに少し遅れて腕を組み膝を伸ばした状態で地面に着地する。だがそんな姿勢で着地をすればその際の衝撃を逃がせるはずが無く、レインヴェルは痛みに悶えることになる。

 

 

「〜〜〜!!!」

「何をしているのだ……」

「いや、だってあれをしろってアラヤが囁いたから」

「アラヤがそんなことを言うわけないだろう」

 

 

表面的では呆れた様な態度をとっているアルトリアだが内心ではレインヴェルの身体能力と咄嗟の判断力の高さに感心していた。骸骨を倒す際の身体の動きには一切無駄が無い、最短で有効手段を用いて敵を倒している。そして骸骨を一網打尽にしたあの作戦。知性のあるものならば分からなかったが単純な行動しかしない骸骨だからこそ有効な作戦を立案して即座に遂行した。そこにはサーヴァントのような理外の力では無く、完成された人間の強さを感じた。

 

 

騎士には向かないだろうがもしレインヴェルが円卓に居てくれたらブリテンは安泰だっただろうなぁと痛みから立ち直っているレインヴェルを見ながらアルトリアは考える。

 

 

「あ〜痛かった」

「それは痛いだろう……レインヴェルは魔術師なのだろう?ならば何故あんなに戦い慣れているのだ?それも一対一の様なものでは無くあんな複数戦を」

 

 

アルトリアがそんな疑問を抱くのも無理は無い。魔術師というのはRPGで言う所の後衛職に当たる。だというのにレインヴェルは堂々と前に立って戦えていたのだから。

 

 

「そういや言ってなかったっけな?えっと、俺の魔術師としての方の実家は人間を完成させることで根源に向かおうとしていたんだ。で、その過程で日本で異形退治していた十六夜って一族と結婚して出来たのが俺。だから人間が出来ることは当たり前のように出来るように教育されてるんだよ」

「なるほど、よく分からん」

「様は人間規模の人工交配って奴。強い人間同士を交配させることで強い人間を作って、その果てに出来るだろう完成された人間が根源に繋がるんじゃ無いかと狙ってるみたいな?」

 

 

つまりレインヴェルは根源を目指すための途中過程として作られた人間なのだ。人工交配を繰り返されて生み出された彼は現存するどの人類よりの身体機能や知能が高いと自負している。魔術師としての教養はあるし戦えないことは無いのだが、それよりも肉弾戦で戦った方が強いのでそうしているのだ。

 

 

「それは……」

 

 

レインヴェルの話を聞いてアルトリアは王位を奪うために生み出された自身の娘を思い出した。彼女の娘とレインヴェルの境遇がどこか似ているように思えたから。

 

 

「だけどまぁ親父とお袋の中は普通に良いぞ。IKUSABAで出会ったのがキッカケで、俺の子供を産んでくれ!!とか貴方の子供を産ませてください!!とか叫んだらしくそのまま銃声やら爆発音をBGMに合体したらしいし、臨月迎えたらいた場所がIKUSABAになって移動するのが面倒だがらって親父が武力介入している最中にポンっと俺のことを産んだらしいしな」

「すまん、何を言っているのか理解出来ない」

 

 

娘とレインヴェルが似ているだなんて気のせいだった。というよりもレインヴェルの両親が可笑しい。彼らは一体何をしたいのだろうか。

 

 

「とまぁそんな訳だよ。身体機能の高さは人工交配の結果、戦闘能力の高さは親父とお袋がちょくちょく俺を連れてIKUSABAに遊びに行っていたから。魔術師としては一応魔術刻印があるけどそっちを使わないでさっきみたいに宝石爆弾やったり、魔術処理した銃やナイフで戦ったりとか……どっちかっていうと魔術使いの方だな」

「おい待て、IKUSABAに遊びで連れて行かれるとはなんだ」

「生死が隣り合っているIKUSABAには全てが詰まっている!!って親父が言ってたから。初めて参加したのは四歳の時で今が二十五だから二十一年IKUSABAにいるわけだ。ちなみにそれを見ていたお袋はあらあらとか笑いながら作ってた弁当をIKUSABAで広げて食べてたぞ」

「分かった、お前の一族は規格外なのだな」

「解せぬ」

 

 

取り敢えずレインヴェルは色々とぶっ飛んだ家系から生まれた肉弾戦系魔術師だと思うことでアルトリアは精神衛生を保つ事にした。その中に触りとはいえレインヴェルのことを知れて嬉しいと思っているのは秘密だった。

 

 

「さてっと、休憩がてらのお喋りもそろそろにして探索を再開しますかね」

「そうだな」

 

 

警戒を続けているがレインヴェルの警戒網にもアルトリアの警戒網にも後続の敵の気配は引っかからない。どうやらあれで打ち止めのようだ。そうして他のカルデアの魔術師たちの探索を開始した二人の目の前に、

 

 

火災の炎とは違う、魔術的な要因によって発生した炎が上がった。

 

 

 






波旬「やぁみんな!!波旬お兄さんだよ!!今日も元気に滅尽滅相しながら説明していこう!!」


波旬「今日の説明はレインヴェル君のだね!!本編でも上がった彼の実家についての補足をしていくよ!!」


波旬「レインヴェル君の母方の家系が魔術師で人間を完成させることで根源に通じようとした魔術師の家系だね!!ようは超人を作れば根源に行けると思ってそれを実行している魔術師だね!!肉体的な面でも魔術師的な面でも優れている人間を交配させているから普通に人間のジャンルとしては上位に入るような人間をポンポン量産しているキチガイ家系さ!!」


波旬「そしてレインヴェル君の父親の家系は日本で異形退治をしている十六夜の家系さ!!七夜と同じ様なものだと思ってくれれば良いけど違いがあるとすれば十六夜は七夜のような異能を持たずに人間の力だけで異形を退治していたところだね!!つまり異能を使って地位を確立させている七夜の地位に異能無しで確立させちゃってるキチガイ家系さ!!」


波旬「そして父親と母親がIKUSABAで出会い互いに一目惚れでドッキング!!そうして産まれたのがレインヴェル君だね!!そうそう、父親は母親の実家からは両手を挙げて歓迎されていたらしいよ!!そりゃあ人間最強作ろうとしている家系に人間の性能を突き詰めたような家系の血が入るなら断る理由にならないね!!」


波旬「さて!!今回の説明はこんな感じかな!!次の更新が何時になるのか分からないけど見てくれるなら波旬お兄さんは嬉しいな!!」


波旬「それじゃ!!また会う日まで……せぇの!!生きてるだけで最高さ!!」


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4話

 

 

 

「なぁアルトリア、あれどう見る?」

 

 

レインヴェルが炎の上がった先を指差す。炎はさっき上がった物だけではなく不定期に上がっている。

 

 

「ふむ、マーリンには届かないが中々の腕前の魔術師がいるようだな。人間の魔術師ではあのレベルの魔術は難しいだろう。そうなるとあそこにはキャスターのサーヴァントがいるかもしれんな」

「そして炎の上がり方から恐らく戦闘中……つまり誰かいるってことだよな?」

 

 

あの炎を出しているのはサーヴァントであるキャスターの可能性がある、つまりサーヴァントのマスターが近くにいる可能性もあった。レインヴェルの問いにアルトリアは頷いて応え、二人は炎の上がっている場所に向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎の上がった場所では戦闘が行われていた。

 

 

「そぉら焼き尽くせ!!」

 

 

青い髪の男性が杖を振るう。それだけで火球が現れて敵目掛けて飛んでいく。

 

 

「他愛無し」

 

 

それを黒く霞みがかった右腕に拘束具のようなものを着けた人型は跳ねるような移動をすることで避ける。火球の速度が人型の動きに追いつけていないものの、人型が小刀を投擲した瞬間に青い髪の男性は杖を使って小刀を弾きながら飛び退く。互いの攻撃が当たらない千日手のような状況になっている。

 

 

しかし片一方の戦況は違う。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「くぅっ……!!」

 

 

青い髪の男性が対峙している人型とは別の様々な武器を背負い槍を持った偉丈夫のような人型と対峙しているのは身の丈よりも一回り大きいサイズの盾を持った少女。人型の振るう槍を盾を使って防ぐことが出来ているがその膂力の強さから堪えきれずに弾き飛ばされる。

 

 

この場では四騎のサーヴァントが戦っていた。青い髪の男性はキャスター、右手に拘束具のようなものを着けた人型はアサシン、様々な武器を背負い槍を持った人型はランサー、そして身の丈よりも一回り大きい盾を持つのはシールダーのサーヴァント。キャスターとシールダーは手を組みアサシンとランサーと対峙しているが戦況は良いものではない。シールダーはこの場にいるどのサーヴァントよりも戦闘技能の低さが目立っている。今は防御に徹することでなんとか耐えているが何かしらの拍子に天秤がランサーに傾けばどうなるのか想像するもの難しくない。

 

 

そしてその天秤が傾く。アサシンとランサーの他に黒い霞みがかった女性の人型が現れたのだ。その女性も例外なくサーヴァントでクラスはライダー。ライダーはアサシンとランサーと戦っているキャスターとシールダーではなく、その場から離れたところに立っている学生服のような格好をした黒髪の少年とその少年の後ろに隠れている白髪の女性に目をつけた。

 

 

「っ!?先輩!!所長!!」

「余所見をしている暇があるのか!!」

 

 

シールダーが少年たちに注意を向けるもののランサーがそれを許さない。手にした槍をぶつけることでシールダーの注意を自分にへと向けさせる。キャスターも少年たちに注意を向けようとするがそれを見計らって投擲される小刀によって行動に移せずにいた。

 

 

「……」

「ちょちょっと!!こっちに来てるわよ!!」

「分かってますって!!」

 

 

白髪の女性ーーーオルガマリー・アニムスフィアが黒髪の少年ーーー岸波黒野にヒステリック気味に叫ぶが状況は変わらない。幸いなのかライダーはゆっくりと歩いて近づいてくるがそれが余計に二人の恐怖を掻き立てることになる。

 

 

「(あぁもう……!!いつもいつも偉そうなことを言ってるくせにこういう時に来てくれないなんて何やってるのよあいつは……!!)」

 

 

危機がゆっくりと近づいている中でオルガマリーが思い描いたのはいつも自分に絡んでくる男性のことだった。彼は魔術師として超が付くほどに一流の家系に産まれながらも魔術師らしからぬ性格をしていた。そして顔を会わせるたびにそれが当たり前であるかのように煽ってくる。マスター適性とレイシフト適性が無かった時の煽りが特に酷かった。だが自身の気性とカルデアの所長という立場からか彼以外に気兼ねなく話せる人間が数人しかいなかったのも事実。

 

 

だからこそ、理不尽かもしれないがいてほしい時にいない彼を呼ぶ様に彼の名を呼んだ。

 

 

「助けにきなさいよ!!レインヴェル!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、黒い影が空からライダー目掛けて落ちてきた。ライダーは直前に気付けたのか大きく後退することでこれを回避する。落ちてきたのは黒いドレスを見に纏い、赤い葉脈の様なラインの入った黒い剣を持った金髪の女性。

 

 

「ーーーこちらは私がやろう」

 

 

その女性はオルガマリーと黒野を一瞥してそれだけ告げるとライダーに切りかかっていく。そして乱入者は彼女だけでは無かった。

 

 

「おはよう!!こんにちわ!!こんばんは!!挨拶しない奴は死ねぇ!!」

 

 

キャスターと対峙していたアサシンが弾き飛ばされる。現れたのは黄土色のコートを着た黒髪の男性。アサシンを蹴り飛ばしたのに使ったであろう振りあげられた足を下ろして空中で体勢を立て直して着地しているアサシン目掛けて突貫していった。

 

 

「なんだぁ!?」

「あれはもしかして……」

 

 

キャスターは突然の乱入者に驚いている様だったがシールダーはその男性に目覚えがあったらしい様子だった。そして見覚えがあるのはシールダーだけでは無い。

 

 

「来るのが遅いわよ、馬鹿……」

「所長、あの人を知ってるんですか?」

 

 

コートの男性に覚えの無い黒野は安心した表情になっているオルガマリーに尋ねる。作戦の開始直前に来た黒野はその男性とは面識が無かったのだ。

 

 

「心配しなくていいわ、彼は味方よ……人類最強の馬鹿って文句が付くけどね。それより!!彼と彼のサーヴァントらしき女性が相手をしてくれているわ!!今の内に各個撃破するわよ!!」

 

 

待ち望んでいた助けが来たことで余裕を取り戻したのかオルガマリーは指示を出す。ライダーは金髪の女性が、アサシンはコートを着た男性が相手をしているので残るはランサーのみ。キャスターとシールダーはランサーを仕留めるべく動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様は……ライダーのクラスと見たが?」

「ーーーーーー」

 

 

金髪の女性ーーーアルトリアは自身のスキルである直感で目の前にいる存在がサーヴァントでライダーのクラスであることを看破した。それに対してライダーは声を出さずに鎖のついた短剣を構えることで応える。

 

 

「喋れぬのか……まぁいい、仕止めるだけだ」

 

 

アルトリアはそこでライダーに対する興味を一切捨てた。今のアルトリアにとっては目の前に立つのは敵、その事実だけがあればいいからだ。

 

 

「ーーー」

 

 

ライダーが突貫する。ライダーのサーヴァントというのは名前の通りに乗り物に乗って戦うクラスの英雄を指す。つまりは乗り物に乗って戦うことを前提としたサーヴァント、だというのにこのライダーの突貫はサーヴァントの中でも最も速いクラスだとされているランサーのクラスにも匹敵するほどの速度。致命傷を負わないにしてもペースを崩され、この先の主導権はライダーに持って行かれる。

 

 

「遅い!!」

 

 

だが、それをアルトリアは真っ向から叩き伏せた。ライダーが突貫すると直感で察するのと同時にアルトリアは爆ぜる様にしてライダー目掛けて突貫していった。これはアルトリアの持つ魔力放出のスキル。魔力をジェット噴射の様に放出することで爆発的な移動や一撃の威力や速度の上昇を可能とするスキル。魔力放出によってアルトリアの速度はライダーの速度を上回っていた。

 

 

「ーーー!?」

 

 

正面から、それもスピードで負けると思ってもみなかったのかライダーは動揺を露わにしながら弾き飛ばされる。幸い短剣でアルトリアの剣を防ぐことが出来たので傷は負っていないが受け過ぎると短剣が砕けてしまう程の威力だった。

 

 

そう判断したライダーは戦法を変える。初手で出した直線的な動きでは無くアルトリアの周囲を回る様にしてのヒットアンドアウェイ。瓦礫や地面、廃墟の壁などを使った三次元的な動きでアルトリアを翻弄するつもりなのだ。

 

 

それでも、アルトリアに剣が届くことは無い。ライダーの動きは全て読めていて、余裕を持って剣で受け止めることが出来ているからだ。もしもライダーが正規のサーヴァントとしてアルトリアと対峙していたのならあるいは一撃アルトリアに届いていたかもしれない。だがそれは所詮IFの話でしかない。

 

 

アルトリアの斬り上げ、それはライダー……ではなく持っていた短剣にぶつかる。ガギィンと耳障りな金属音が響いて限界に来ていた短剣は砕け散る。

 

 

「フンッ!!」

 

 

そして返す刀の一撃。アルトリアの剣はライダーの右肩から入って左脇腹から抜け出る。身体を二つに分けられたライダーは現界していられるはずがなく粒子となって消滅した。

 

 

「脆い、脆すぎる」

 

 

一言だけの感慨のない言葉。それがアルトリアがライダーと戦って抱いた感想だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー何故だ」

 

 

一方で黄土色のコートを着た男性ーーーレインヴェルと対峙しているアサシン。ライダーとは違い己の意識を持っていたアサシンは目の前の光景が信じられず驚愕していた。

 

 

アサシンは短刀を投擲する戦法をとっているがそれはあくまで奥の手を決めるための作業でしかない。無論その一投一投が必殺級の物なのだがサーヴァント同士の対決では上手く決まる方が稀である。しかし相手はサーヴァントではなく人間、ならばこの投擲だけで十分だと判断していたのだが、

 

 

「何故!?」

 

 

不意打ちで蹴り飛ばされてすぐにアサシンは体制を立て直して短刀を投擲した。弾丸のような速度で心臓にへと一直線に向かうそれをレインヴェルは横に転がる事で回避した。人間がサーヴァントの攻撃を回避したことは賞賛に値するのだろう。しかしここからが異常だった。

 

 

続く投擲は急所二点(喉 心臓)、一投目よりも二投目の方が僅かに速いという仕掛けまでも施していたそれをレインヴェルはアッサリとナイフで弾いて見せた。

 

 

更に投擲の本数を増やして急所三点(眉間 心臓 膵臓)、アサシンの全力を持って投げられたそれをーーーレインヴェルはいとも容易く掴んでみせた。

 

 

そして今、アサシンが形振り構わず持てる技術を全て振るい投擲を続けているのにレインヴェルは避ける素振りすら見せない。だというのに短刀はレインヴェルに当たることなく彼の横を通り過ぎていく。

 

 

アサシンの内心にあるのは驚愕と恐怖。サーヴァントではないただの人間であるはずの存在がサーヴァントである自分を脅かしている。そんなアサシンの内心を読み取ったのかレインヴェルはナイフとマグナムを持った手を大きく広げて見下す様な笑みを浮かべる。

 

 

「どうした暗殺者、当てられないのか?サーヴァントにまで至ったというのにただの人間一人も殺せないというのか?そんなんでサーヴァントになれるだなんて程度が知れるぞ。足掻いてみせろ、そして俺にお前を学ばせろ」

 

 

驕りとも思えるような言葉だがレインヴェルは心の底からそう思って口にしていた。魔術師としてのレインヴェルの目的は“完成された人間になること”。人間よりも上位の存在であるアサシンとの戦闘経験はこの目的に大きく近づくことになる。そしてレインヴェルは学んだ。アサシンの動き、投擲技術を。アサシンが生前に磨き続けてきた技術をこの数分で学び取った。

 

 

アサシンはここに来てようやく目の前に立つのがサーヴァントに迫るほどの化け物であることを悟った。拘束具の付けられた右腕に手を伸ばしレインヴェルを確実に殺そうとする。しかしそれは戦闘中に見せてはいけない隙だった。平時のアサシンならばこんな愚行は犯さないだろうがレインヴェルの異常さに動揺していたアサシンはその隙を見せてしまう。

 

 

そしてそれを見逃すレインヴェルではない。マグナムを上へと投げ、空になった手でアサシンから奪い取った短刀を投擲する。狙いは急所三点(眉間 心臓 膵臓)、まるで自分が投げたのではないかと錯覚してしまう程の模倣にアサシンは驚くがそのままでいられるはずがない。

 

 

「舐め、るなぁ!!」

 

 

拘束具に伸ばしていた手を止めて短刀を握り投擲された短刀を弾く。しかしそれはレインヴェルの目論見通りだった。

 

 

「ギィッ!?」

 

 

弾いた短剣の影から別の短刀が現れてアサシンの両肩の付け根に突き刺さる。アサシンならば自身の投擲する短刀を弾くと信じていた、だからレインヴェルは最初の回避の時に密かに回収していた短刀二本を急所三点(眉間 心臓 膵臓)目掛けて投擲した短刀の陰に隠して投擲していたのだ。

 

 

「武芸百般“七夜の項”より抜粋ーーー」

 

 

肩に短刀が刺さった痛みと驚愕で動きを止めてしまったアサシンの元にレインヴェルが近づく。その歩行術は人間が到達出来る極みまで研鑽されていて対峙していたアサシンでさえ目の前に突然レインヴェルが現れたようにしか思えなかった。

 

 

「“十七分割、斬刑に処す”」

 

 

レインヴェルのナイフが高速で振るわれる。視認が許されるのはナイフが煌めいて残される影だけ。アサシンが斬られたのだと理解したのは十六の肉片となった身体が崩れ落ちるのを斬り落とされたことで落下していた頭部が見た時だった。

 

 

そしてアサシンはライダー同様に粒子となって消える。

 

 

「礼を言うよ、これで俺はさらに完成に近づいた。それに新しいことを学ぶことが出来たからな」

 

 

レインヴェルの口から出たのは魔術師としての目的に一歩近づけたことに対する感謝、そして新しいことを学ばせてくれたことに対する感謝だった。

 

 

 






波旬「やぁみんな!!波旬お兄さんだよ!!今回はレインヴェル君とは別のカルデアの魔術師たちとの邂逅と初めてのサーヴァント戦だったね!!原作とは違う形になってるかもしれないけどこの小説ではこうなるから納得してね!!」


波旬「今回はレインヴェル君の武芸百般について説明するよ!!」


波旬「魔術師として完成された人間を目指しているレインヴェル君の家系は人間が出来ることはなんでも出来るキチガイ家系!!その中でも戦いに関する技能を纏めたのが武芸百般なんだ!!これは現当主から当主候補に肉体言語で教えるから書物とかに残されていないよ!!」


波旬「そして今回使ったのは七夜の項、つまりはレインヴェル君の父親と同じ家業の七夜の家系の技だね!!これはレインヴェル君が各地を放浪していた殺人貴こと絶倫メガネと戦った時にレインヴェル君が勝手に覚えた技術技巧が纏められているよ!!何気に殺人貴相手に戦って生き残ってるね!!」


波旬「カルデアの魔術師たちの説明は次回に回して今回はここで終わりだよ!!次の更新がいつになるかわからないけど見てくれるなら波旬お兄さんは嬉しいな!!」


波旬「それじゃ!!また会う日まで……せぇの!!生きてるだけで最高さ!!」



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5話

 

 

「ーーー焼き尽くせ、樹々の巨人……!!灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!!!」

 

 

キャスターとシールダーのコンビによる戦いも佳境に迎えていた。ランサーの猛攻をシールダーが受け止めている内にキャスターが真名解放を行う。キャスターの背後から現れたのは無数の細木で構成された藁人形のような見た目の巨人。木製の身体は炎に包まれており、胸の部位に伽藍堂になっている檻に納める供物を求めて暴れまわる。

 

 

「やった!?」

「嬢ちゃん!!気ぃ抜くんじゃねぇ!!」

 

 

巨人の炎に巻き込まれて燃えているランサーを見てシールダーは勝利を確信するがそこにキャスターからの叱咤が飛ぶ。戦いとは相手の死を確認してようやく終わりを迎えるのだ。確かにランサーは灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)の炎に包まれた。しかし死んだことを確認した訳ではない。神話の中には内臓が飛び出るような重傷を負いながらもそれを川の水で洗って腹の中に戻し戦い続けた戦士もいるのだ。炎に包まれて生きているサーヴァントがいてもおかしくない。

 

 

「おぉーーーおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

ランサーは自身の身体が炎に焼かれ、死に近づいているというのにまだ健在だった。ランサーの真名は源平合戦において多大な戦果を納めた源氏の将源義経、かの者に仕えた武蔵坊弁慶である。まだ牛若丸と名乗っていた頃の義経と戦った話は有名だろうがそれに勝るとも劣らない逸話は弁慶の仁王立ちだろう。彼は義経と血を分けた兄弟である源頼朝の裏切りによって窮地に立たされた義経を守るために全身に矢を受けても膝を折ることなく戦い続けた。そして死しても倒れることなく仁王立ちのままに逝ったのだ。だとするなら、身を焼かれる炎に包まれた程度では、かの弁慶は止まらない。

 

 

未だに身を灼き続ける炎を纏わせたまま、気を緩ませてしまったシールダーに斬りかかっていった。

 

 

「なっ!?」

 

 

シールダーはサーヴァントという存在を甘く見ていた。その偉業に程度の差はあれどサーヴァントというのは歴史に名を残し世界に認められる程の功績を成し遂げた英雄なのだ。全身を炎で焼かれた程度で膝を折っていては英雄など名乗らない。

 

 

油断していたシールダーに弁慶の薙刀を回避する余裕など無い。盾を持ち上げるよりも薙刀がシールダーの胴体を切り裂く方が圧倒的に速い。

 

 

「マシュ!!」

 

 

シールダー−−−マシュの名を黒野は叫ぶ。そして薙刀の刃がマシュに届こうとした時−−−一陣の黒い風が割って入ってきた。

 

 

「な−−−」

 

 

それに驚愕の声をあげたのは弁慶。死力を搾って放った一撃を防がれれば誰だって驚くだろう。それを割って入ってきた黒い風−−−アルトリアは鼻で笑い、弁慶の後ろにいたマスターに言い放つ。

 

 

「良いぞ、殺れ」

「アイサー−−−武芸百般『中国拳法八極拳』より抜粋−−−『六大開・頂肘』」

 

 

爆発物が爆ぜたかと間違えてしまう程の爆音と共にマスター−−−レインヴェルの縦の回転をしながら放たれた肘が弁慶の背中にぶつけられる。本来ならば神秘を介さない攻撃は霊体であるサーヴァントに効かないのだが神秘である魔力を纏っていたので弁慶の体内を破壊することが出来た。

 

 

「−−−き、さま……」

「後ろから攻撃するのは卑怯とかいう口かい?バッカだなぁ!!バックアタックを気にしないとIKUSABAじゃ生きていけないぞ!!」

「同感だ」

 

 

そしてアルトリアが弁慶の首を跳ねる。頭部を失えば如何にサーヴァントとは言え一部の例外を除いては現存し得ない。弁慶もその例に漏れず、消滅していった。

 

 

「ふん、サーヴァントと聞いて楽しみにしていたがこの程度か」

「まぁアルトリアには物足りなかったかもしれないね、俺からすれば大満足だけどな!!」

「……もしかして、レインヴェルですか?」

 

 

不満げな表情のアルトリアと満足した表情のレインヴェルにマシュが恐る恐ると言った具合で話しかける。

 

 

「んん〜……もしかしてマシュ?え、何、何でそんなピッチピチのボディースーツに着替えてるの?もしかして目覚めた?それともロマの趣味に付き合わされたの?」

「殴りますよ?」

「オーケーオーケー冷静になろう、流石にそれで殴られたら痛いから」

 

 

レインヴェルの物言いに額に青筋を浮かべながら盾を持ち上げるマシュは親しげな様子だった。レインヴェルに見覚えの無い黒野はオルガマリーに彼の事を知っているか聞こうとしたがさっきまで隣にいたはずの彼女の姿が無い事に気づく。

 

 

「この−−−お馬鹿がぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「グフゥ!!」

 

 

そして黒野がオルガマリーの姿を見つけた時、彼女はレインヴェルの顔面にドロップキックを決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったぁ……一部の人間なら我々の業界ではご褒美です!!とか、ありがとうございます!!とか言うらしいが俺は違うからな?ロマとは違うからな?」

「何でそこでドクターの名前を出してるんですか……」

「……でも納得できるのが悔しいところね」

『所長ぉ!?』

「むっ!?ドMの声が聞こえる!!」

『良い加減名誉毀損で訴えれると思うんだレインヴェル……!!』

 

 

オルガマリーのドロップキックから、カルデアで元々面識があったレインヴェルたちは普通に話し合っていたがレインヴェルのことを知らない黒野はついていけてなかった。

 

 

「あの……出来れば紹介してもらえるとありがたいのですが……」

「え?……あぁ、彼と貴方は初対面だったわね。彼の名前はレインヴェル・イザヨイ、キチガイよ」

「ども!!キチガイ紹介されたレインヴェル・イザヨイでぇす!!特技は人間が出来ることなら大抵の事は出来る事!!趣味はIKUSABA巡り!!休日には良く紛争地帯に遊びに行ってまぁす!!」

「……キチガイだね」

「えぇ……キチガイなんです……」

『キチガイだけど……今回集められたマスター候補の中で一番優秀だったの彼なんだよな……』

「止めろよ、褒めるな」

「「『ねーよ』」」

 

 

三人から同時に否定されたことでレインヴェルはorz状態になったが即座に身体を起こして黒野の方を見る。

 

 

「で、そっちの少年は?」

「彼は一般公募で暫定的にマシュのマスターをしている岸波黒野よ」

「初めまして、岸波です」

「あ?マシュのマスター?マシュが無駄にエロいピッチピチのボディースーツを着てるのと関係あるの?」

「……」

「マシュ、ストップだ。流石に盾のフルスイングは命に関わる」

「……そうね、一旦情報を交換しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーマシュがデミ・サーヴァントになって、特異点Fは冬木、そしてここでは聖杯戦争が行われていた。で、気がついたらサーヴァントたちが黒いのに汚染されて暴走、唯一無事なのはそこのキャスターだけ……ね。何だか軽く世紀末っぽくなってるな〜」

「まぁ纏めればそういうことね。そして私たちはこの地の聖杯がある場所に向かっていたのそしたら」

「あのサーヴァントたちに襲われたと。どうやら敵認定されたみたいだな」

 

 

オルガマリーから話を聞いたレインヴェルは脳内で情報を纏めていた。一番気になるのはサーヴァントの汚染と暴走、サーヴァントはマスターからの魔力供給がなければ現存出来ないはずなのにこの冬木で聖杯戦争をしていたサーヴァントたちは普通に現存している。貯蔵魔力に余裕があるだろうキャスターのクラスなら話は分かるが魔力の消費が最も激しいとされているバーサーカーまで存命となると話は別だ。まるで意志のないはずの聖杯がサーヴァントを生かしているようにしか思えない。

 

 

「そういえばレインヴェルはどうしてレイシフトに成功してるのよ?他のマスター候補たちは全員瀕死だったのに」

「知らねぇよ、ドッキリしようと思って装置の中に潜り込んだら眠くなって、気がついたらここにいたんだよ。あ、ロマお前訴えるから」

『どうして!?……ねぇレイン、もしかして君正面にあった装置に入った?』

「そだけど?」

『それでだ、実は正面にあった装置は故障してて起動には問題なかったけどブレイカーが壊れてたんだ。コフィンはレイシフトの成功確率が95%を下回ると電源が落ちるようにしてあった。でもレインのコフィンはそれが無かったから』

「何というか……悪運が強いわね」

「それが俺だから!!」

 

 

レインヴェルがレイシフトに成功した原因が解明され、思っていたよりもこの場が世紀末っていることが判明した。どちらにしても戦闘は避けられないと考えるとレインヴェルは呼び出したサーヴァントであるアルトリアの事を紹介しようとする。

 

 

そんな時、キャスターがアルトリアの事を観察していることに気づいた。顔を見て、胸を見て、手を見て、足を見て、最後に胸を見る。

 

 

「……違うよなぁ」

「貴様、何処を見て違うと言っているのだ!?」

「ワレェ……アルトリアにいやらしい目を向けおって、どこのどいつじゃオォン?」

「あぁ?ケルトのクー・フーリンだが?」

「クー・フーリン?犬食わすぞ?」

「勘弁してください……!!」

「キャスターが言い負けた!?」

「名前を聞いただけで弱点を見つけるとは……無駄にハイスペックですね」

 

 

だがまぁ、どのような経緯があってもレインヴェルはカルデアのメンバーと合流することが出来た。

 

 

この特異点が攻略されることは時間の問題となる。

 

 

 





(∴)「やぁみんな!!波旬お兄さんだよ!!作者が無駄に小説を投稿しすぎたせいで遅れちゃってゴメンね!!今日はぐだ男こと岸波黒野君の紹介だよ!!」

(∴)「彼は名前からわかる通りにextraの主人公である岸波白野の家系の人間だ!!子孫なのか祖先なのかはご想像にお任せするよ!!」

(∴)「魔力は人よりもあるけど魔術師としての訓練をしていなかったので彼の役目はもっぱら魔力タンクだね!!現在はシールダーことマシュちゃんと槍を持たない槍ニキことクー・フーリン君と二重契約してるね!!だけどメインはマシュちゃん、クー・フーリン君は最低限だけ供給してもらってあとは自前で補ってるよ!!」

(∴)「っと、こんなところかな?次の更新はいつになるかわからないけど見てくれるなら波旬お兄さんは嬉しいな!!」

(∴)「それじゃ!!また会う日まで……せぇの!!滅尽滅相ォォォォォォォォォォォォ!!!!」



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6話

 

 

再会し、探索を続けるレインヴェルたち。目的はこの聖杯戦争の目的である聖杯のある場所である。キャスターがその位置を知っているとの事なので彼を先頭にして戦闘能力皆無な黒野とオルガマリーを守るようにして歩き始めた。

 

 

元々敵対していたサーヴァントはキャスターを除いた六騎。内ランサー、ライダー、アサシンはすでに撃破済み。残るはセイバー、アーチャー、バーサーカーの三騎で、セイバーとアーチャーは聖杯の守護をしておりバーサーカーはこちらから手を出さなければ問題無いらしい。

 

 

「おら、さっさとサーヴァントの真名と戦闘スタイルバラせや。でねぇと犬食わせるぞ」

「なんでいきなり脅しから入るんですか……」

「それがレインヴェルですよ……」

「彼のことを理解しようとしたら疲れるわよ、そんな生物なんだと思っておいた方が身の為ね」

「む、レインヴェル、ここに良い具合に焼けた犬の死体があるぞ」

「でかしたアルトリア!!」

『やめたげてよぉ!!』

「マジ勘弁してください……!!」

 

 

犬の死体を抱えながらスキップしてくるレインヴェルに危機感を抱いたのかキャスターは半泣きになりながら土下座をする。人間よりも上位の存在であるはずのサーヴァントだったがこの場では完全に上下関係が逆転していた。流石に可哀想になってきたので黒野が身を挺して止める。

 

 

「はぁ……悪いがアーチャーの真名は分からねえ。多分あいつは過去の英霊じゃなくて未来の英霊だ。戦い方が新しすぎる。魔術かなんかで剣を出してそれを射出して戦ってたな。バーサーカーはヘラクレスだ、流石にヒュドラを殺した弓矢は無いが代わりに12回殺さないと死なない宝具を持ってやがる」

「ヘラクレス……12回……あぁ、十二の試練を乗り越えたことから派生した宝具ね」

「名前と効果聞いただけで宝具の起源が分かるなんて……キチガイなのが残念ですね」

「えぇ……本当にそうですよ……」

「一々残念がってたらこの先持たないわよ……」

 

 

ヘラクレスと言えばギリシャ神話に登場する知名度の高い英雄だ。彼の功績として有名なのは己が罪を償うために与えられた十二の試練だろう。元は十だったのだが王が内二つを認めなかったために追加で二つ加えられて十二の試練となった。キャスターが危惧していたのはその試練の中で倒した強力な毒と数多くの頭を持った蛇ヒュドラを討伐した際に使った弓矢。もしヘラクレスがアーチャーとして召喚されていたら先の宝具に加えて、九つの追尾式のレーザーを放つぶっ壊れ性能の弓矢が宝具として加えられていた。それでもステータスを強化するために理性を無くしているバーサーカーのクラスで召喚されたヘラクレスが強敵であることには変わりは無い。

 

 

「んで、セイバーは?まぁキャスターの反応から薄々は察しがついてるけど」

「え、マジですか?」

「一体どこで……」

「それなら私も分かるわよ。少し半信半疑なところはあるけど」

『所長も毒されてきたかな……あ、僕は分からないから』

「ホントお前何なんだよ……セイバーのクラスで召喚されたのはエクスカリバーの担い手、アーサー王だ。そこにいる姉ちゃんと同じな」

 

 

キャスターの言葉に黒野とマシュとオルガマリー、そしてロマンは言葉を失う。レインヴェルの召喚したサーヴァントとセイバーが同じだという事もだが何よりアーサー王であることに驚いている。

 

 

「え、レインヴェル、貴方召喚したのアーサー王だったの?」

「ん?言ってなかったか?」

「言ってないわよぉ!!ずっとアルトリアって呼んでたからどこの英霊か分からなかったわよぉ!!」

「驚きです……まさかアーサー王が女性だったとは……」

『あ〜当時の背景とか考えたら性別を偽るのは珍しいことじゃ無いね。女性の王様よりも男性の王様の方が民衆が従いやすいし』

「そんなことよりも所長止めなくて良いの!?なんかレインヴェルさんの頭が残像が残る勢いでシェイクされてますよ!!」

 

 

どこぞのロックバンドの様に激しく頭を振られているレインヴェルだったが口からは笑い声が出ているので平気そうだった。きっと驚かせたくて黙っていたと言うのもあるのかもしれない。

 

 

「さってと、相手の真名が分かったところでブリーフィング、ミーティング、作戦会議だ」

「おっと、意外と真面目な話になった」

「てっきり作戦無しで特攻するものだと思ってました」

「失礼な、一人だけだったらするかもしれないけど流石にチーム組んでるんだったら作戦立てるくらいはするわい」

『てか一人だったら特攻するんだ……』

「そこら辺に関しては普通に真面目よ、レインヴェルは。一人だったら無鉄砲な事するけどチーム組ませるとやり過ぎじゃ無いかっていうくらいに慎重になるわ」

「やね、俺一人だったらハッチャケますよ。でも誰かと一緒にいてそいつに被害が行ったらやりきれ無いじゃない?」

「その優しさを俺にも分けてくれよ」

 

 

キャスターが何かを訴える目で見てきたがそこはスルーする。それに文句でも言おうとしたキャスターだったがレインヴェルの後ろで犬の死体を持っていたアルトリアを見て黙ることにした。

 

 

「まぁ作戦と言っても大したことじゃ無い。誰がどのサーヴァントと戦うかって話だ。俺としては俺がアーチャーとバトってアルトリアを控えに、マシュとキャスターでセイバーとバトって欲しいね」

「さらりとサーヴァントと戦うと言ったぞコイツ」

「レインヴェルがアーチャーと戦うのならアルトリアはセイバー戦に回してくれない?そうした方が勝率が上がるわ」

「バーサーカーを警戒してだよ。ここの聖杯はサーヴァントを使って自分を守ってるんだ、下手に追い込んだらヘラクレスを呼ぶかもしれない。だからアルトリアにヘラクレスの相手をしてもらうつもりなんだよ……出来るよな?」

「無論だ。ヘラクレスだろうがヘラクレスオオカブトだろうがこの魔剣擬きに誓って倒してやろう」

「待って、その二つは大分違う」

「さっすが、宝具は幾らでもブッパして良いからな。多分その戦いでこの特異点が終わるだろうから出し惜しみ無しだ」

「心得た」

 

 

こうしてレインヴェルがアーチャーを、マシュとキャスターがセイバー、そしてもしもヘラクレスがやって来た時にはアルトリアが相手をすることに決まった。

 

 

レインヴェルはアサシンを倒したと言う実績はあるものの、流石にヘラクレスやアーサー王クラスの大英雄となると倒せる自身は無くなる。それなのに三大騎士の一角であるアーチャーを相手にすると言ったのには一つ理由があった。キャスターが言ったアーチャーの戦い方、レインヴェルにはその戦い方に心当たりがあったからだ。もしアーチャーがレインヴェルの考えている通りの英霊ならば、レインヴェルにも勝機はある。

 

 

「んで、気になるのはマシュの宝具だな」

 

 

宝具とは英霊のシンボルとも言えるもの。例えばアーサー王ならばエクスカリバーといったもので、分かりやすく言ってしまえば超必殺技。状況を一気に変えてしまうことが出来る。

 

 

「私は伝説通りにカリバーなわけだがキャスター、貴様はどうなのだ?」

「俺か?灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)って炎の巨人突っ込ませるんだよ」

灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)……あぁ、あの藁人形」

「藁人形言うなよぉ……!!俺だって気にしてんだから……!!」

「マシュの宝具は?」

「……すいません、それが分からないんです」

 

 

マシュが言うには確かにサーヴァントと融合したがサーヴァントの記憶の大半が喪失しているらしく、宝具の使い方が分かっていないとの事らしい。

 

 

それを聞いたレインヴェルは悩んだ表情になり、項垂れているキャスターの尻を蹴って立ち上がらせた。

 

 

「ケツがぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「おいキャスター、お前ちょっとマシュとバトれ」

「は?」

「え……ちょ……どういうこと?」

「……あぁ、そういうことね」

 

 

レインヴェルの目的はキャスターと戦わせることで宝具を無意識下でも良いから無理矢理に発動させること。偶然でも良いから宝具として発動してしまえば後はマシュの意思で発動できるようになるからだ。

 

 

建前としてはそれだがレインヴェルにはもう一つ狙いがある。それはマシュに戦闘経験を積んで欲しいことだ。先の戦いを見た限りではマシュには一応サーヴァント並みの身体能力はある、だがそれに身体がついていけていないのだ。ここまでではそれでどうにかなったかもしれないがアーサー王であるセイバーとの戦いではそれは間違いなく致命的な欠点になる。故に今の内にその欠点を埋めてしまおうとしているのだ。

 

 

「……なるほどねぇ、確かにそいつは悪くない話だな。よし、構えろや。稽古つけてやるついでにあいつから与えられたストレス発散してやるからよぉ!!」

「完全な八つ当たりじゃないですか……!!」

 

 

マシュが言い終わるや否やにキャスターがルーン文字を空中に刻み、火球をマシュに向かって放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大の大人が少女を虐めてストレス発散しようとしているらしい……事案です」

「元はといえばレインヴェルが原因だからね!!」

 

 

 

「」






(∴)「やぁみんな!!久しぶりだね、波旬お兄さんだよ!!今回はレインヴェル君の危惧についてだね!!」

(∴)「レインヴェルはバックアタック……つまり戦闘中にヘラクレスが乱入することを恐れてたんだ!!誰だって筋肉ムキムキのマッチョマンが飛び込んできたら嫌だよね!!」

(∴)「だからそれをさせないためにアルトリアちゃんをフリーにしてるんだ!!セイバーとアーチャーに守らせているんだから聖杯には意志があるに違いないと考えてるわけだね!!」

(∴)「っと、こんなところかな?次の更新はいつになるかわからないけど見てくれるなら波旬お兄さんは嬉しいな!!」

(∴)「それじゃ!!また会う日まで……せぇの!!ディスケ リィィィベェェンス!!!!」



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7話

 

 

「さーてマシュたんが無事に宝具を使える様になった所で『ドキッ☆聖杯カチコミ大作戦〜(首がと言う意味で)ポロリもあるよ〜』作戦を伝えたいと思いまーす」

「おい、誰かこのキチガイどうにかしろよ」

「どうにか出来るのならとうの昔にどうにかしてるわよ……」

「というか丸々私の活躍を無かったことにされた様な……」

 

 

キャスターとの戦いでマシュは目的である宝具の発動に成功した。その宝具はシールダーというイレギュラークラスだからか攻撃性のないものであったが、この先の聖杯攻略において必要な一手にやったことは明らかである。

 

 

「んじゃ、前もって伝えた通りに俺がアーチャー転がして、アルトリアはバーサーカーがやって来た場合に相手して、残りはセイバーをボコる。それでいこうと思う」

「待ってくださいレインヴェル、どうして貴方はそこまでアーチャーのサーヴァントに執着するのですか?」

「……確かに。何時もの貴方なら『皆〜サッカーしようぜ〜!!ボールアーチャーな!!』くらい言う筈なのに」

『うわ…想像できる』

「どうしてだろう……イメージに違和感が感じられない」

 

 

だがマシュの指摘も確かである。確実に倒そうとするのなら分散せずに集中して戦った方が勝率は高い。そのことをレインヴェルは理解している筈なのに彼は違う作戦を立てた。

 

 

そのことを指摘されてレインヴェルは気まずそうに頬を掻く。

 

 

「あ〜……言わなきゃダメ?」

「言いなさい」

「言ってください」

『……良し!!録音の準備は万端だよ!!』

「ドクタぇ……」

「魔術師が逞しいな……」

「これが付き合いの差と言うものか……」

 

 

ロマンの行動に黒野が呆れ、キャスターが達観している中で話さなくてはいけないと悟ったレインヴェルは溜息を吐く。

 

 

「……多分だけど聖杯を守護しているアーチャーと戦った事がある。その時はまだガキで負けたからリベンジがしたいんだよ」

「嘘……レインヴェルが負けた……?」

「まだ子どもの頃とは言えこのキチガイに勝てる存在がいるだなんて……!!」

「イヤイヤ、子どもの頃ならおかしくないでしょ……」

『いよっし!!録音成功!!これをネタにして遊ぶぞぉ!!』

「皆ぁ!!帰ったら祝勝会しようぜぇ!!食料はロマの菓子だ!!」

「私、凄い食べるぞ?」

「おうおう好きなだけ食え。むしろ食べ尽くす勢いで」

『破棄するんでそれだけは勘弁してください……!!』

 

 

画面の向こうでロマンが土下座しているのが伝わっている。本当ならここでレインヴェルは許すつもりだったが目をキラキラさせているアルトリアと天秤にかけた結果……ロマンには泣いてもらうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー」

 

 

ここは聖杯戦争の根幹となっている大聖杯が存在する洞窟。最奥にある大聖杯にはセイバーが、そして最奥に続く道にはアーチャーがそれぞれ守護をしていた。

 

 

「ーーーむ?」

 

 

洞窟の入り口から魔力の流れを感知したアーチャーが顔を上げる。この冬木で召喚されたサーヴァントはキャスターを除きすべてが黒く汚染されている。つまり、この魔力の流れはキャスターの物ということになる。

 

 

戦いに来たのかとアーチャーは千里眼のスキルで洞窟の入り口の光景を見る。

 

 

するとそこにはーーー黒く燃え滾る閃光を、振り翳している大人びたセイバーの姿があった。

 

 

「なーーー」

 

 

大聖杯を守護しているはずのセイバーが何故そこに?なんか成長してない?てかあれ本当にセイバー?などとアーチャーの頭の中で色んな疑問が飛び交う中ーーー閃光が振り下ろされた。

 

 

「ーーー熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!!!」

 

 

洞窟を削りながら迫る閃光を前にしてアーチャーは反射的に七つの花弁を模した盾を前に敷いた。そして閃光と盾がぶつかる。

 

 

大聖杯とリンクが繋がっているアーチャーは大聖杯から無限とも言える魔力を供給されている。あの閃光を防ぐならばアーチャーは全魔力を消費してようやく止めれるレベルの攻撃であったが、アーチャーは何とか閃光を防ぎきった。

 

 

何とか防げたことに安堵するアーチャー……そしてその隙を突くように、アーチャーの脇を二つの影が通り過ぎていく。

 

 

「先輩ごめんなさい……!!」

「帰ったらあの人シバいても許されると思うんだ……」

「止めた方がいいわよ……そうしたら間違い無く返り討ちにあった挙句、弱みを握られるだろうから」

ケルトの戦士(おれら)よりもぶっ飛んだ奴がいるとはな……師匠が気に入りそうだぜ……」

「何っ!?」

 

 

その影の正体はマシュとキャスター。マシュが黒野を、キャスターがオルガマリーを抱えて洞窟の最奥に向かって全力で走っている。マシュとキャスターは共に筋力は高いサーヴァントではないのだが人一人を抱えて走るくらいはどうってことは無い。

 

 

「クッ……!!」

 

 

理性では行かせてやれと思うのだが大聖杯からの命令により身体がアーチャーの意思に反して動き出す。手元に現れたのは黒塗りの弓と捻じれ曲った一本の剣。それを最奥に向かうマシュとキャスターに向ける。

 

 

「ーーーエッミッヤッくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!!あぁぁぁぁぁぁぁそぉぉぉぉぉぉぉぼぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「今度は何だぁ!?」

 

 

だが、それを防ぐかのように上から影が落ちてきてアーチャーの持っていた弓をナイフで切り裂いた。予想外の事が起こり過ぎているためにアーチャーは悪態を付きながら後ろに飛び退いて新たな侵入者との距離を取る。

 

 

そこにいたのはレインヴェル。まるで子どものような無邪気な笑顔で右手にはナイフを、左手にはマグナムを持っていた。

 

 

「おっひさエミヤん!!覚えてる?覚えてるよね?……ん?覚えてない?そっか……だったら悲しいから死んで詫びろやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ーーーその狂人の様な言動……もしかしてレインヴェル・イザヨイか!?」

「大正解ぁぁぁぁぁぁぁい!!賞品は座への片道切符でございます!!おめでとう!!」

「それは遠回しに死ねと言っている様なものではないか!!」

 

 

レインヴェルのことを認識したアーチャーが黒と白の双剣を虚空から出現させ、それを持ってレインヴェルへと切り掛かる。それに対しレインヴェルは笑顔を崩さぬままにマグナムをアーチャーに向けて引き金を引いた。常人ならば何が起きたか分からずに弾けていただろうがここにいるのはサーヴァント、頭心臓膵臓を狙って向かってくる弾丸を容易く弾いて見せた。

 

 

迫り来るアーチャーに向かってレインヴェルは縮地で予備動作を一切感じさせずに詰め寄る。だがそれを読んでいたのかアーチャーはタイミングを合わせて双剣を振るってきた。レインヴェルのナイフとアーチャーの双剣がぶつかりーーーナイフが双剣をバターを切る様に切り裂いた。

 

 

「くっ!!」

「グェッ!!」

 

 

そのナイフを危険と判断したのかアーチャーがレインヴェルの腹を蹴り飛ばす。レインヴェルの口からは苦しそうな声が溢れた。後ろに飛んだものの、アーチャーに見切られて完全には威力を殺せなかったからだろう。アーチャーが切られた双剣を捨て、新たな双剣を出現させた隙にマグナムに新しい弾を込める。

 

 

「それにしても……お前みたいな正義の味方が何やってるんだよ。外の様子知ってるんだろ?」

「……分かっているさ。だが、聖杯に呼び出されたこの身は聖杯の支配から逃れられん。唯一自由に動けるのは染められていないキャスターだけだ」

「ふーん……まぁ良いけど。俺としてはお前にリベンジしたいんだよ。覚えてる?あの日のこと。俺が初めて負けた日さ」

「覚えているとも……戦場にいきなり銃を両手に持った子供が現れたかと思えば正規部隊を瞬く間に壊滅させ、それを鎮圧したかと思えばガトリングガンを両手に持った男が乱入してきて……なんだアレは、リアルランボーか?」

「アレ?マイファザー」

「あぁ……血か」

「なーんか凄く不本意な納得の仕方をされた気がする」

 

 

レインヴェルとアーチャーが脳裏に思い浮かべるのは彼らが初めて会った日のこと。紛争地帯にて数多くの人を救うために奮闘していたアーチャーの前にまだ幼かったレインヴェルが現れてアーチャーが身を寄せていた正規部隊を壊滅させたのだ。その後アーチャーはレインヴェルと戦い何とか鎮圧することは出来たのだか直ぐに両手にガトリングガンを持ったレインヴェルの父が乱入、即座に撤退したのだ。

 

 

それから彼らは会っていないがレインヴェルはその日のことを忘れず、アーチャーもまた乱入してきた男のことを調べる過程で少年がレインヴェルであったことを知った。

 

 

「さぁ……学ばせてくれよエミヤシロウ、俺が高みへと至る為の踏み台となってくれ」

「邪悪すぎる……!!投影開始(トレース・オン)!!」

 

 

アーチャーの背後に複数の刀剣が現れる。これは宝具などでは無く、アーチャーが生前に使っていた魔術である投影魔術。本来ならそれは儀礼用に用いられる魔術で戦闘に使える物などでは無かったが、アーチャーのとある体質が儀礼用に過ぎない投影魔術を戦闘で使えるラインまで持ち上げていた。

 

 

「ーーー人の一生とは、既知を無くす作業である

 

未知を知れ、既知を無くせ、歩み続けることこそが人の証」

 

 

それを見てもレインヴェルは笑みを崩さない。それどころか臆すること無く言葉を紡ぐ。それは他人からすればただの言葉であるが、レインヴェルからすれば先祖から受け継いだ魔術を行使する為の言霊。

 

 

「さぁーーーこの今をーーー喜んで学べ!!!!」

 

 

完成された人類を目指す魔術師が、霊長類の守護者にへと挑んだ。

 

 

 





(∴)「やぁ!!みんな!!波旬お兄さんだよ!!今日は僕の弟を連れて来たんだ!!」

(♂)「は、はじめまして……さ、坂上覇吐です……兄さん、本当に僕がこんなところに来て大丈夫なの?」

(∴)「大丈夫大丈夫!!きっとみんな受け入れてくれるさ!!今回はレインヴェル君とアーチャーことエミヤ君の関係についてだね!!」

(♂)「え、えっと……レインヴェルさんが子どもの頃にIKUSABAに行ってたらエミヤさんに出逢ったんだよね?」

(∴)「そうだね!!その時レインヴェル君はエミヤ君を見て迷わず特攻し、エミヤ君もレインヴェル君が危険だと判断してガチで殺りに来てたよ!!」

(♂)「……成人してる大人と子どもが殺し合ってるとかおかしくないかな?」

(∴)「おかしくないおかしくない!!IKUSABAじゃそれが普通!!その時の戦いは経験の差や身体能力の差でエミヤ君が勝ったんだ!!でもレインヴェル君の父親が乱入したことで仕留め損ねたらしいよ!!」

(♂)「エミヤさんからリアルランボー扱いされてたけど……両手にガトリングガンとか、どちらかと言ったらターミネーターじゃないかな?」

(∴)「今回はこの辺で良いかな?」

(♂)「ふ、不定期になりそうですが次回も楽しみにしてくれると嬉しいです!!」

(∴)「それじゃあ!!また会う日まで……せぇの!!」

「「生きてるだけで最高さ!!!!」」



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8話

 

 

大空洞の中で響き渡るのは硬いものがぶつかり合う甲高い音。両の手に両刃の長剣を振るうのは黒に染まりながらも自我を残したアーチャーーーーかつて正義の味方を志し、その理想を叶えようとした成れの果て、英霊エミヤ。サーヴァントとして呼ばれたエミヤと対峙するのは黄土色のコートを身に纏い、マグナムとナイフを持った青年レインヴェル。

 

 

互いの距離はほとんど無く、一歩踏み出せばナイフを持つレインヴェルの、一歩離れれば長剣を持つエミヤの距離になるのだが二人ともそれを理解しているからか互いに牽制し合い、付かず離れずの膠着状態になっている。

 

 

その時、エミヤの持つ長剣がナイフに切り裂かれた。一合ぶつかり合うだけで剣身が欠けるあのナイフを相手によく持ってくれたと感謝をしながらエミヤは二本の長剣をレインヴェルに向かって投げ捨てる。そしてその剣はレインヴェルの目の前で爆発した。火薬などによる科学的な爆発では無く長剣に込められていた魔力を暴走させての魔術的な爆発。だがそれをレインヴェルは読んでいたのか爆発する直前で後方に向けて跳躍、結果爆風と同速度でエミヤから距離を取ることとなる。

 

 

現段階では互いに無傷、レインヴェルは撃ち尽くしたマグナムのマガジンを捨てて新たな弾丸を装填し、エミヤは最初に切り裂かれた夫婦剣を手に握っていた。

 

 

無から剣を作っているのでは無い。これこそがエミヤが生前から使っていた魔術。その魔術は投影、本来なら儀礼用に使用されて戦闘用になど使えないはずのそれはエミヤのとある特性により本物と変わらぬ姿で編み出される。

 

 

それをレインヴェルは知っていたので特に驚きもせす、嬉しそうに笑いながらエミヤに問うた。

 

 

「良い顔してるじゃないかエミヤ、前にやった時には苦悩に満ち溢れて親とはぐれた子供みたいな顔してたのによぉ」

「完全な人間を目指している一族の出身なだけはある、人間観察は得意の様だな」

 

 

レインヴェルの笑いに応える様に、エミヤも頬を緩めた。

 

 

以前レインヴェルがエミヤと戦った時、エミヤの顔は苦悩に満ち溢れていたものだった。これで良いのか?本当に良かったのか?間違っていなかったか?……そんな答えの無い自問自答を繰り返していた。

 

 

レインヴェルと出逢った頃、エミヤは自分の生き方が正しいのか疑問に思っていたのだ。幼い頃に養父に聞かされた彼の夢、その時の姿があまりに綺麗だったから、彼に救われた自分は誰かを助けなければならないという脅迫概念に襲われていたから、他の選択肢があったかもしれないのに養父と同じ手段で“正義の味方”になることを選んでしまった。

 

 

“正義の味方”は全てを救えるなどというのはただの妄想に過ぎない。誰かを救うという行為は、誰かを切り捨てるという行為に他ならないから。救う為には、犠牲という名の対価を支払わなければならないのだ。

 

 

それに気がついたエミヤは、養父と同じ“正義の味方”となった。それは多数を生かす為に少数を殺し尽くすという行為。故に、エミヤは誰かを救えば救うほどに人を殺す術に長けていった。

 

 

十を救う為に一を切り捨てる。

 

百を救う為に十を切り捨てる。

 

千を救う為に百を切り捨てる。

 

万を救う為に千を切り捨てる。

 

 

紛争地帯に赴き、敵の指揮官を狙撃した。都市に被害を出さない為にハイジャックされた飛行機を撃墜した。たった一人の危険人物を殺す為に一般市民を巻き添いにして殺した。ただ多くの人を救いたいが為に少数を犠牲にし続けた。

 

 

手段を問わず、目的の是非を問わず、ただ無謬の天秤であれとーーーエミヤは分け隔てなく人々を救い、分け隔てなく殺していった。

 

 

そんな中、どうしようも無い事態に見舞われて、エミヤは阿頼耶と契約を結ぶ。己の死後を預ける代わりに、この場を貰い受けたいと。それこそがエミヤが霊長類の守護者となる切っ掛け、己を犠牲にして千に満たない人の命を救った。これでより多くの人間を救えるのならと願って、これで犠牲無く人々を救えると信じて。

 

 

そしてエミヤは死後、守護者として使われる。その手段はーーー生前と同じ、少数を切り捨てることだった。

 

 

「確かに、私は後悔していた。本当にこれで良かったのかと、守護者と成り果ててもこんな手段しか取れないのかと、私は正義の味方などならなければ良かったと後悔していたんだ」

 

 

エミヤが感情を持たない機械の様な人間だったのなら良かったのだろう。若い心を凍らせて壊死させ、血も涙も無い救済装置として自身を完成させていたのならそんな苦悩も無かっただろう。だが、エミヤは感情を持っていた。誰かが救われて歓喜する笑顔は彼の心を満たし、誰かが切り捨てられて慟哭する声は彼の心を震わせた。“正義の味方”という名の救済装置となるには、エミヤはあまりにも人間らし過ぎたのだ。

 

 

こんなことならば正義の味方になんてならなければ良かったという後悔と自責の念。そんな中、エミヤはサーヴァントとして現在から見て過去の聖杯戦争に召喚される事になった。

 

 

その聖杯戦争では、エミヤはまだ正義の味方を志しているだけの少年でしか無かった。その自分の姿を見た時にエミヤはとある手段を思いつく。

 

 

それは過去の自分の殺害。自分の手で自分を殺すというパラドックスを起こす事で英霊エミヤの存在を無くそうとしていた。

 

 

「ーーー無理だな」

 

 

エミヤの計画をレインヴェルは無理だと断じた。例えその時点のエミヤを殺したとしてもすでに英霊エミヤは存在し、世界からは別人だと認識されている。故に、エミヤを殺したとしても英霊エミヤの存在は無かった事にはならない。

 

 

「あぁ、今考えればそうなんだがな。それだけ私が追い詰められていたと思ってくれ」

 

 

過去にその聖杯戦争を経験していたというアドバンテージを生かし、英霊エミヤは自分を殺すための計画を進めた。そして、過去の自分と戦いーーー敗れた。

 

 

「その中で、私は教えられたんだ」

 

 

私は、間違っていなかったと。柔らかな顔でエミヤは言った。その聖杯戦争で何があったのかを知ることはレインヴェルには出来ない。だがエミヤのその顔で、彼が後悔を無くし、答えを得たことを知って彼も柔らかな笑みを浮かべた。

 

 

「そっか……それは良かったな」

「あぁ……そして私からお前に聞きたい事がある」

「なんだい?」

「レインヴェル・イザヨイ……お前は、後悔していないか?完成な人間になろうというのはお前では無く魔術師としての悲願だ。お前が求めた願いでも無いそれを追いかけ続けて、お前は後悔をしていないか?」

 

 

きっと他の誰かがそう言ったとしてもレインヴェルは生返事をするだけで終わらせてしまうだろうがエミヤの心は不思議と心に響いた。それは“正義の味方”を目指して磨耗したエミヤだから重みのある言葉だった。

 

 

エミヤは養父の夢を、レインヴェルは魔術師の悲願をという相違点はあるものの、似通っていたからエミヤは問うたのだろう。

 

 

ーーーお前は、私の様に後悔していないのかと。

 

 

「後悔はしていないさ、この生き方を俺は楽しんでる。例えしたとしても、後悔を抱いて前に進む。何故かって?それが俺の目指している人間だからさ」

 

 

エミヤの問いにレインヴェルは不敵に笑いながら答えた。強がりや固められた固定概念などでは無く、レインヴェルとしての言葉で。

 

 

「人間ってのは生きているとどうしても儘ならない現実って奴に見舞われちまう。だけどよ、それでも胸張って歩いていけるのが人間ってやつだろうが。不幸に見舞われて、やって来たことに後悔して……それでも前向いて歩いていく。それが人間だと思ってるし、そんな生き様を心掛けているつもりさ。だからエミヤ、俺からも言わせてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は正しいよ。その生き方も、その後悔も、全部纏めて間違っちゃいないさ」

「ーーー」

 

 

その言葉にエミヤは胸を打たれた。レインヴェルの持論は正直言って矛盾している。マトモな感性の持ち主ならおかしいと彼のことを糾弾するだろう。それでもーーー真っ直ぐに自分のことを見つめているレインヴェルの姿にーーーエミヤはーーーあの日の■■■■の姿を幻視してーーー

 

 

「そう、か……」

 

 

目頭に集まってくる熱を夫婦剣を握る力を強めることで誤魔化す。そうしなければ彼に情けない姿を見せてしまいそうになったから。

 

 

「ーーーI am the bone of my sword.」

 

 

エミヤは静かに、それでいてはっきりと己の心象を詠唱として謳った。エミヤを中心として炎が走る。それは瞬く間に広がり、世界を侵食して書き換える。

 

 

そしてーーー数秒後には、そこは剣の丘となっていた。空は黄昏時、錆び付いた歯車が軋みを上げながら回転し、大地にはまるで墓標の様に古今東西の様々な剣が乱立している。

 

 

これこそがエミヤの特徴、魔術師にとって大禁呪とされている固有結界。そしてーーー彼が“正義の味方”として生きて来たその果てに得た世界。

 

 

「ならば加減はせん。レインヴェル・イザヨイ、貴様が真に完成された人間を目指すというのならばーーー俺の剣戟を超えて行けぇ!!!!」

「ーーー上等だ、一本残らず叩き斬ってやるよぉ!!!!」

 

 

そして答えを得た守護者と完成された人間を目指す魔術師は剣の丘でぶつかり合った。

 

 

 



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9話


特異点F、オルレアンが終わるまではこちらをメインで書きます。




 

 

エミヤの固有結界が展開された頃、アルトリアは大聖杯がある大洞窟の入り口の前で目を閉じて一人で立っていた。アルトリアが黒野達に着いていけば勝率が上がっていたかもしれないがレインヴェルから一つの可能性を提示された為にこうしている。それはアルトリアも考えていたことで、火力不足が心配されていた黒野達だがそれにはすでに手を打っているので問題無いだろう。

 

 

「ーーー来たか」

 

 

アルトリアが目を開き、地面に刺していた剣を抜く。視界に入っているのは大災害で燃え盛る街並み、たがアルトリアのスキル【直感】はしかと敵の存在を捉えていた。

 

 

「■■■■■■■■■ーーー!!!!」

 

 

もはや声でも無い轟音を上げながら現れたのは黒く染まった2メートルを超える巨大と石でできた巨大な斧を片手で持ったサーヴァント、バーサーカー。キャスターの話が本当ならあのバーサーカーの正体はギリシャ神話に登場する大英雄ヘラクレス。

 

 

己の犯した罪を償う為に与えられた十二の試練を乗り越え、死後にその功績から神々の末席に座ることを許された半神半人の武人。ヘラクレスの存在こそがレインヴェルがアルトリアをここに残らせた理由だった。

 

 

アーチャーと戦っているレインヴェル、大聖杯を守護しているセイバーと戦っているであろう黒野達。どちらも死闘となっていることは間違い無く、そんな中でヘラクレスに乱入されては堪ったものではないとレインヴェルは考えていたのだ。そしてそれを防ぐ為にアルトリアをここに残した。

 

 

現れたヘラクレスが自身を認識するまでにアルトリアが踏み込む。レインヴェルから出し惜しみするなと言われているが供給される魔力は有限、その上にレインヴェルは現在進行形でアーチャーと戦っている。魔力の使いどころを考えなければ二人とも共倒れになることは目に見えて分かっている。

 

 

間合いに入り込んだ瞬間にヘラクレスがアルトリアを見つけ、同時に敵だと認識する。その一瞬の隙を突き、アルトリアは迷うこと無くヘラクレスの首に剣を滑らせる。ヘラクレスの耐久はAに対してアルトリアの筋力もA、堅い肉の感触があったものの斬れないほどのものではない。

 

 

地面に落ちるヘラクレスの頭部。ヘラクレスの身体は頭を無くしたことで力を無くし、地面に崩れ落ちるーーーことは無かった。傷口から蒸気が上がり、剥き出しになった新しい頭が再生されつつある。

 

 

「成る程、それが十二の試練を乗り越えた証という訳か」

 

 

半信半疑であったがキャスターの言っていた通りにヘラクレスは十二回殺さねば死なないらしい。ヘラクレスが頭部を無くしても死なないカラクリをすでにレインヴェルは解き明かしてアルトリアに教えてある。

 

 

ヘラクレスは己の犯した罪を償う為に十二の試練を乗り越えた。そしてその功績を神々から認められて不死性を得ている。サーヴァントとして召喚されたならヘラクレスは不死では無くなっている。だがヘラクレスの代名詞とも言える十二の試練が宝具に絡んでいない訳がない。そうして導き出された答えは十一の命のストックによる擬似的な不死性。十二度殺さねば死なないという宝具【十二の試練(ゴッド・ハンド)】これが雑多なサーヴァントならば大した脅威にはならなかっただろうが相手はギリシャの大英雄ヘラクレス、バーサーカーのクラスで召喚されたことで付与されたクラススキル【狂化】の影響で理性こそ無くしているもののステータスの殆どがAということも兼ねあって正しく化け物としか呼べない存在になっている。

 

 

余談ではあるが、もしヘラクレスがアーチャーのクラスで召喚されていたのならステータスは下がるものの十二の試練の最中で得てヒュドラを殺した弓矢【射殺す百頭(ナインライブズ)】を宝具として持っていた。自動追尾の幻想種殺しの射撃を放つという性能の【射殺す百頭(ナインライブズ)】を殺されても即座に蘇生する【十二の試練(ゴッド・ハンド)】で蘇りながら放つという悪夢じみた事態になっていた。

 

 

だがここのヘラクレスはバーサーカー、【射殺す百頭(ナインライブズ)】こそは持っていないものの【十二の試練(ゴッド・ハンド)】による擬似的な不死性は健在。助けなどあるはずも無く絶望的な状況だというのにーーーアルトリアは笑っていた。

 

 

「成る程成る程、これだけの相手なら私に任せる訳だ……フフッ」

 

 

アルトリアは狂って笑っているのではない、()()()()()()()()()()()

 

 

身体が震えている。だがそれはヘラクレスと一人で対峙している恐怖からでは無く、レインヴェルに()()()()()()という歓喜から来る震え。

 

 

アルトリアーーーアーサー・ペンドラゴンはブリテンを治めていた王である。選定の剣を抜いたその日からアルトリアは王としての道を歩んできた。その最中で頼られたことは当然ある。だがそれは王である【アーサー・ペンドラゴン】を頼っているのであって小娘であった【アルトリア】を頼っている訳ではない。その事に関しては理解はあったつもりだ。あの時のブリテンは疲弊していて、導いてくれる王を求めていたのだから必要なのは【アルトリア】ではなく【アーサー・ペンドラゴン】なのだと。まぁ途中で溜まりに溜まったストレスが爆発して一時国が機能しなくなったことがあったのだがそのお陰で王も人の子であったと円卓の騎士たちから理解されたので良しとしよう。

 

 

話を戻す。アルトリアは【アーサー・ペンドラゴン】として頼られる事はあったが【アルトリア】として頼られた事は生前に一度も無かった。誰もが【アルトリア】では無く【アーサー・ペンドラゴン】としてしか見ていない。だが、レインヴェルは【アーサー・ペンドラゴン】では無く【アルトリア】として頼ってくれたのだ。

 

 

レインヴェルはただ目の前にいるアルトリアをアルトリアとして扱っていただけだったが、たったそれだけの事がアルトリアにとっては何よりも嬉しかった。

 

 

故に、アルトリアは喜んでギリシャの大英雄ヘラクレスと戦う。ブリテンを治めた騎士王の【アーサー・ペンドラゴン】では無く、ただの女である【アルトリア】として。王では無く、一個人として自分を見てくれたレインヴェルの為に。

 

 

「■■■■■■■■■■!!!!」

 

 

頭部の再生を終えたはヘラクレスが吠え、石斧を振るった。爆音に近い咆哮で鼓膜が強く叩かれて痺れ、ヘラクレスの一歩で大地が震える。シールダーであるマシュだとしても盾ごと叩き潰されるだろうヘラクレスの一撃をアルトリアは半歩下がり、石斧に剣を当ててヘラクレスの力で軌道を逸らせることで容易く受け流す。

 

 

そして目の前にあるガラ空きになっているヘラクレスの脇腹目掛けて一閃。これでヘラクレスに浅くは無い傷を負わせて動きを鈍らせるつもりだったーーーが、剣から肉を切った手応えが無かった。アルトリアの剣はヘラクレスの脇腹に痕を付けるだけ、薄皮一枚すら斬れていない。

 

 

「ただの蘇生では無い?……死因となった攻撃に耐性を付けたのか?」

 

 

すぐ様に魔力を放出させてその場を離脱、その直後にいた場所に落ちてきた石斧の一撃をかわす。

 

 

ヘラクレスの宝具である【十二の試練(ゴッド・ハンド)】はただ十一の命のストックを与えるだけでは無い。ランクB以下の攻撃を無効化し、更に死因となった攻撃に対する耐性をヘラクレスに付与させる。例え世界を滅ぼす方法であってもランクB以下であるならヘラクレスには効かず、更に完全に殺し切るには十二通りの手段で殺さねばならない。

 

 

絶望的、そうとしか思えない状況をアルトリアはーーー

 

 

 

「ーーーハッ、笑わせるなよヘラクレス」

 

 

鼻で笑った。横薙ぎで放たれた石斧の一撃を魔力放出を絡めた一撃で弾き返す。そして弾かれた事で体制を崩したヘラクレスの頭を魔力を放出させる事で加速させた剣で()()()()()

 

 

刀身が分厚く、敵を鎧ごと押して斬る事を目的として作られている西洋剣だからこそ出来る兜割り。斬撃では無く打撃に近い一撃を受けてヘラクレスは二つ目の命を失う。

 

 

「十二の命?死因となった攻撃に対する耐性?あぁ凄いな、だからどうした?そんなもの私がブリテンを治めていた頃の敵であるピクト人に比べれば可愛い方だ」

 

 

アルトリアの脳裏に浮かんだのはブリテンを襲っていた蛮族であるピクト人。円卓の騎士たちと共に聖剣で薙ぎ払っても数日後には何事も無かったかのように襲ってくる連中に比べれば十二回殺せば死ぬヘラクレスなどまだ可愛い方だった。

 

 

「■■■■■■■■■■!!!!」

 

 

狂化しているので伝わるはずが無いのだが自分が二度も殺された事に対する怒りからか、ヘラクレスは石斧を地面にへと叩きつけた。そこから生まれた衝撃波が指向性を持ってアルトリアにへと向かう。

 

 

「温い!!!!」

 

 

それをアルトリアは容易く斬り払う。そして眼前にまで接近していたヘラクレスの石斧の一撃を受けた。隙を作るために衝撃波を出した訳ではなく、ただ本能に従ったから出来た隙。理性を無くしてもヘラクレスの武勇は健在だった。

 

 

受けごと叩き潰すつもりで放たれた一撃だったがヘラクレスは違和感を感じた。もしもヘラクレスが理性を持っていたらその違和感の正体に気づいていただろう。

 

 

ヘラクレスの感じた違和感の正体はーーー石斧に感じた手応えが軽過ぎたこと。

 

 

そして離れた場所から感じられる魔力の昂りによってヘラクレスは無傷のアルトリアの存在を知ることになる。

 

 

先の一撃、アルトリアなら躱そうと思えば躱せていた物だった。だがヘラクレスを殺し切る為にワザとその一撃を受けたのだ。当たる直前に剣を盾にし、石斧の振られる方向に合わせて飛んでいたのでダメージらしいダメージなど受けていない。アルトリアが求めていたのはヘラクレスとの距離だった。

 

 

距離にして30メートル。ヘラクレスの敏捷を持ってしても一瞬では詰めることが出来ない間。それこそが、ヘラクレスを殺す為に求めていた距離。

 

 

アルトリアの剣が灼熱する。人造では無く星によって鍛えられた神造の剣は本来なら目も眩むほどの光を放つ物。だがその剣から放たれるのは光を飲み込む闇だった。

 

 

「ーーー卑王鉄槌、極光は反転する」

「■■■■■■■■!!!!」

 

 

その剣の闇を見てヘラクレスは全力でアルトリアに向かって行った。まともなサーヴァントならあれを見て逃げようと考えるだろうが理性の無いヘラクレスには逃げるという考えは存在しない。

 

 

「光を飲めーーー」

 

 

そしてその判断が、ヘラクレスの命を奪う。

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガ)ァァァァァァァァァァン!!!!」

 

 

アルトリアの宝具の真名が解放され、振り下ろされるのと同時に剣から黒い極光が放たれた。黒い極光はヘラクレスを飲み込み、【十二の試練(ゴッド・ハンド)】の護りを貫いてヘラクレスの命を奪った。

 

 

黒い極光が通り過ぎた後に残っているのはヘラクレスの下半身のみ。上半身は消え去っている。そして蒸気が上がりヘラクレスの再生が始まったが今の一撃でヘラクレスの命は()()()()()()

 

 

宝具の真名解放とはいえどたった一度で八度殺された。ヘラクレスはそのことを理解していない。蘇生が終わり、アルトリアを殺そうと動き出した時に見たのはーーー眼前で黒い極光の剣を振りかざしているアルトリアの姿だった。

 

 

「ーーー耐えられるか?耐えれぬだろう?その宝具はあくまで耐性を付けるだけなのだからな」

 

 

直感のスキルでアルトリアは【十二の試練(ゴッド・ハンド)】の弱点ともいえる物を見抜いていた。【十二の試練(ゴッド・ハンド)】は死因となった攻撃に対する耐性を付与する。だがそれはあくまで耐性だけであって無効化では無いのだ。流石に何度も繰り返して同じ死因を続けさせればいずれは無効化とも呼べるレベルの耐性を得ることはできるだろう。だがアルトリアの宝具は対城宝具、複数回死んである程度の耐性を得ることば出来たが完全に無効化出来る程の耐性では無い。

 

 

「ーーー約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガ)ァァァァァァァァァァン!!!!」

 

 

続け様に放たれた二度目の真名解放の一撃を受けて、ヘラクレスは三度死にすべての命のストックを使い果たした。

 

 

 





波旬お兄さんは弟さんを連れて歴代覇道神たちと食事に行ったのでしばらくお休みです。

アルトリアVSバサクレス、決まり手は連続真名解放によるゴリ押し。

Wikiを見たところ【十二の試練】で得られるのは死因に対する耐性だけで無効化で無いのでこんな感じの決着になりました。



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10話

 

 

アルトリアがヘラクレスと戦っている頃、レインヴェルとエミヤの死闘は佳境を迎えていた。エミヤの見た武器を解析し、保有する固有結界【無限の剣製(UNLIMITED BLADE WORKS)】の中はエミヤの体内だと言っても過言では無い。エミヤの内包した世界だからエミヤの意思が優先される。剣を作る才能しか無かったが為に辿り着いたエミヤだけの世界。究極の一を持つサーヴァントなら問題無いだろうが人間に過ぎないレインヴェルはこの剣製をこれられるはずが無いーーーはずが無い、のに未だにレインヴェルは五体満足で生きていた。

 

 

エミヤが振るう夫婦剣干将・莫耶を()()()()()()()()。ランクは低いとは言えど宝具相当の剣を容易く切り裂くナイフがレインヴェルの魔術礼装。

 

 

ナイフは間違いなく武器のカテゴリーである。ならばエミヤの解析からは逃れられぬ筈だが、どういう訳か幾ら凝視してもあのナイフの構造も、材料も解析することが出来ない。ならば壊せばいいとエミヤは干将・莫耶を投擲し、近くに刺さっていた剣ーーーデュランダルの複製を引き抜き、レインヴェルに斬りかかる。

 

 

左右から弧を描きながら飛翔する干将・莫耶をマグナムの弾を同箇所に二発ずつ、計四発を当てることで()()()()()()。始めの頃は干将・莫耶の片方で受け止めることができたというのにだ。そして斬りかかったエミヤのデュランダルはーーーナイフとぶつかり、抵抗を感じること無く()()()()()()

 

 

「どういうことだ……っ!!」

 

 

悪態を突きながら近づき過ぎた距離を開けるために上から剣を降らせて盾にする。無論その剣もナイフに切り裂かれたが目的である距離を取ることは出来た。

 

 

手数という面では固有結界を展開したエミヤが勝っている物のレインヴェルの武装が不明すぎる。複製の剣を容易く切り裂くナイフに威力を増しているマグナム、後者の方はまだしも前者が厄介だった。

 

 

「ねぇねぇどんな気持ち!?固有結界展開してドヤってたけど悉く切り裂かれるってどんな気持ち!?ねぇねぇ!!」

「息をする様に煽ってるんじゃない!!」

 

 

エミヤが地面に刺さっていた剣を浮かせて射出、それをレインヴェルはマグナムで迎撃する。感情を逆立てる様に煽っているレインヴェルだったご内面では追い詰められていた。

 

 

その原因はエミヤと対峙すると同時に起動させた魔術刻印による物。レインヴェルが先代から引き継いだ魔術刻印の効果は【学習】、文字通りに習って学ぶ。完全な人間の完成を目指している為に人の行える事をすべて出来るようにと編み出された魔術刻印。これを引き継いだ者は起動させている間は有らゆる事を学ぶことが出来、起動させていなくても学んだ出来事を継承者の経験として引き出すことが出来る。レインヴェルが歳の割に戦い慣れし過ぎているのは幼い頃から戦場に連れて行かれていたこととこの魔術刻印が原因だった。

 

 

無論メリットだけでは無くデメリットも存在する。まず経験を引き出すことが出来ると言っても継承者の身体能力的に出来ないことは出来ない。例えば過去の継承者が100メートルを9秒台で走った経験をしたとしても、その時の継承者よりも身体能力が劣っていれば100メートルを9秒台で走ることは出来ない。そして何より、魔術刻印を起動させることで、使用者に大きな負担が掛かる。エミヤの一挙一動を見逃さぬ様にとレインヴェルの脳は限界ギリギリで働き、エミヤの一挙一動を学んだ魔術刻印がそれを記憶する為にレインヴェルの魔術回路を酷使させる。外でヘラクレスと戦っているアルトリアにも魔力を回さなければならないのでレインヴェルの魔力は異常なペースで消費されている。

 

 

それは黒野が消費する魔力量が一般自動車並ならばレインヴェルの場合は戦車並の消費量。それを解決する手段は簡単だ、アルトリアへの魔力の供給を減らすか魔術刻印を停止させれば良い。だがそうした瞬間に終わるのは目に見えて分かっている。アルトリアなら魔力を減らされても戦えるだろうが無事に勝てるかどうかは不明、レインヴェルに至っては魔術刻印の【学習】のおかげでエミヤの攻撃を捌けているので停めた瞬間に剣で斬られるか射抜かれる。

 

 

死を回避する為に死に急ぐという矛盾した現状が今のレインヴェルだった。

 

 

マグナムへのリロードを終え、エミヤに迫ろうと一歩目を踏み出した瞬間ーーーレインヴェルの魔力が急激に持って行かれた。

 

 

「なーーー」

 

 

尽きた訳では無いが急激に持って行かれた事でレインヴェルの身体から力が抜ける。こうなった原因は一つしか考えられない、アルトリアが宝具を使った。使う事は予想していたが加減無しで使った場合ここまで魔力が失われるとは予想外。何とか踏み止まる事が出来たものの今のレインヴェルは隙だらけーーーその隙を逃すエミヤでは無い。

 

 

「貰ったぞーーー!!!!」

 

 

近くに刺さっていた剣を引き抜いて隙だらけのレインヴェルへと斬りかかる。崩れないことに全力を注いでいたレインヴェルにその一撃を回避する余裕は無くーーー肩口から脇腹まで、バッサリと斬られた。

 

 

「あーーー」

 

 

斬られた傷口から感じる燃えるような痛み、そして再び魔力が持って行かれた。アルトリアの二度目の宝具の解放、これでレインヴェルの魔力は底尽きた。

 

 

身体から飛び散った鮮血が一つ一つ鮮明に見える。死に間際の走馬灯なのか、剣を振り切ったエミヤの動きがゆっくりに見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ーーーあぁ、そうか)」

 

 

その時にレインヴェルが感じたのは悔しさでも後悔でも無い。

 

 

「(ーーー()()()()()())」

 

 

《喜びだった》。

 

 

死にかけている自分よりも、宝具を二度も解放して魔力の供給が減った結果からアルトリアの勝利を確信して喜んでいた。

 

 

「(だったらーーー俺も勝たないとな)」

 

 

ならば勝たないといけない。それがアルトリアのマスターとなった義務でもありーーー男としての矜持でもあった。

 

 

「ーーー過剰回復(オーバーヒール)開始(スタート)

 

 

魔力が底尽きて休眠状態に移行していた魔術回路を強引に稼働させる。それは間違い無くやってはいけない事、無理矢理魔術回路を動かして魔力を発生させた事で斬られた痛みを塗り潰す程の激痛が発生する。

 

 

「グギィーーーッ!!」

 

 

その激痛を歯を食いしばって堪えて回復魔術を行使する。それは正式な手順で行われる魔術では無く咄嗟に使った滅茶苦茶な物、強引に肉を増やして傷口を縫合させる。その代償として血管や魔術師にとって何よりも代えがたい魔術回路の一部がデタラメに繋がってしまったーーーそれでも、生き長らえることは出来るし、動くことは出来る。それで十分だった。

 

 

勝利を確信していた表情から驚愕に顔を変えたエミヤの胸にナイフを突き立て、強引に持ち上げる。鍛えられた肉を切り裂く感触と共にエミヤの肩からナイフが出て行った。

 

 

普通の人間なら間違いなく致命傷だが相手はサーヴァント、この程度では死なない。サーヴァントを殺すならば霊核を壊すしか無い。その霊核があるのは心臓の部分と頭部。

 

 

切り裂かれた肩を押さえながらエミヤは後退した。無論ただ逃げるだけでは無く投影された剣群を射出しながら。この機会を逃せば勝機は無いと、レインヴェルは限界をとうに超えている身体を更に酷使する。

 

 

「武芸百般『武芸の極み』より抜粋ーーー『八艘跳』」

 

 

全身から力を抜いた状態で跳躍、そして()()()()()()()()()()()()()()()()。それは源平の世に生まれた義経公が編み出したとされている技術にして奥義。この技は言ってしまえば驚異的なバランス感覚、乱戦混戦の最中に敵将の元に向かう為に不安定な船を足場として迫る為には並外れたバランス感覚が不可欠だった。

 

 

故に、支えも無く向かってくる剣群を足場にするなど容易い。まるで地面と変わらぬ踏み心地を靴裏から感じながら驚愕で動きを止めているエミヤに迫る。

 

 

そしてエミヤの前に辿り着いた。すでに傷口から手を退かして莫耶刀を握っている。

 

 

それを確認して一歩踏み出しーーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。距離的に躱すという選択肢など無く、できる事は弾く事のみ。ナイフを弾かれた物の、エミヤの莫耶刀は砕けて無防備な状態であった。

 

 

それに対してレインヴェルもまた無手、絶好のチャンスでありながらエミヤを倒す為の武器を失っている。だが、武器など必要では無い。サーヴァントを殺す手段ならすでに講じてある。

 

 

「硬化ーーー強化ーーー」

 

 

人一人を殺すのに大袈裟な攻撃方法など必要無い。それは人型であればサーヴァントですら同じ事だ。

 

 

ただ速く、ただ深く、確実に、ただーーー心臓(れいかく)のみを貫く。

 

 

「加速ーーー相乗ーーー!!!!」

 

 

複数の魔術が施されたレインヴェルの貫手が放たれるーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー俺の、勝ち、だな」

「ーーーあぁ、私の、負けだ」

 

 

崩れるエミヤの世界、元の大洞窟に戻ってきた時にレインヴェルの貫手がエミヤの心臓(れいかく)を正確に貫いていた。ヘラクレスの様な例外を除いて霊核を壊されたサーヴァントは消滅する。それはエミヤとて変わらない。だが、だというのにエミヤの顔はとても穏やかな物だった。

 

 

「全く、何だあの武装は。一体どんな礼装を用意していたんだ?」

「手の内教えてたまるかよ……お前がカルデアに召喚されたら教えてやるよ」

「そうか……なら、別れの言葉を言うのは正しくは無いな」

 

 

自分の胸を貫いているレインヴェルの手を優しく労わるように抜く。エミヤの身体から光の粒が立ち上がっていて消滅が目前だと報せていた。

 

 

()()()、レインヴェル。今度は貴様と共に戦いたいものだ」

()()()、エミヤ。俺もお前と一緒に戦いたいよ」

 

 

別離では無く再会を誓っての言葉。エミヤは柔らかく、少年の様な笑みを浮かべて消滅して行った。

 

 

 

 






レインヴェルVSエミヤ、結果はレインヴェルの辛勝。アルトリアへの魔力供給が無ければもう少し楽には戦えていた。

レインヴェルの魔術刻印の効果は【学習】、起動させてるとどんな事でも記録して、そこから引き出して使う事ができる。今回のVSエミヤではレインヴェルはこれを使う事でエミヤの攻撃をすべて記録する事で、知らなかったエミヤの攻撃を知る事でサーヴァント相手にも立ち回る事ができた。

これはエミヤクラスのサーヴァントだから出来たことで、もしアルトリアクラスのサーヴァントが相手だった場合は記録したところでそれがどうしたと叩き斬られて終わる。




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11話


正月の確定鯖のガチャ以外で星5鯖が来てくれた。

ありがとう孔明様、後は金髪巨乳のジャンヌが来てくれればアーツパーティが完成します。

あと、エリザベートがひょっこりと召喚されました。計3体目です。アイドル(爆笑)はいいから乳上来いよ(ガチギレ)

何度も出てきて恥ずかしく無いんですか〜?




 

 

大洞窟の奥、そこにこの特異点で感知された聖杯が存在していた。

 

 

「ーーーなによ、これ……超抜級の魔術炉心じゃない!!」

 

 

その聖杯の異質さを一目見て感知したのはオルガマリー。魔術師からすれば極東などという僻地でこれだけの聖杯が存在するのが予想外なのだろう。

 

 

この聖杯はホムンクルスの一族アインツベルン家が作り出したもの。そして作り出した聖杯を納める土地を遠坂家が提供し、聖杯を満たす為の儀式である聖杯戦争の基盤をマキリ家が築いた。これによってかの家は御三家と呼ばれて優先的に聖杯戦争に参加することが出来るようになったのだが今では意味の無い事だろう。

 

 

「ーーー来たか」

 

 

その聖杯の前にサーヴァントがいた。黒い甲冑に身を包み、病的な白い肌をした少女。キャスターの言っていたことが本当ならば彼女がセイバー、レインヴェルが召喚したサーヴァントであるアルトリアと同じアーサー王なのだろう。

 

 

佇む姿は威風堂々、王者としての風格を惜しむ事無く晒している。一見すれば華奢な身体付きだが聖杯から供給される魔力とセイバーの保有する【魔力放出】のスキルによる推進力で見た目以上の怪力を誇る。見た目通りと侮れば、その瞬間に上半身が吹き飛ばされるという事になりかねない。

 

 

「……小さい、ですね」(全体的に)

「小さいわね」(全体的に)

「小さいね」(胸が)

「ちっせぇよな」(胸が)

『小さい』(胸が)

 

 

それがセイバーを見た全員の第一声だった。セイバーの見た目は少女としか呼べず、彼女よりも成熟した姿であるアルトリアを見てからではそう思ってしまうのも無理は無いだろう。まぁ、男性陣は別のところを見てそう思っているようだが。

 

 

「ーーー約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガ)ァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!」

 

 

そんな身体的なコンプレックスを揶揄されれば大抵の人間はキレる。セイバーもその例外に漏れなかったようで、額に青筋を浮かべながら即座に宝具の真名を解放した。属性が反転した事で黒い極光が放たれる。

 

 

「ーーー宝具、展開します……!!!!」

 

 

セイバーの射線上に躍り出たのはマシュ。武装でもある盾を地面に突き立てて宝具の解放を行う。

 

 

マシュがデミ・サーヴァントとして本能的に解放した宝具の真名は不明、だが宝具としては発動したので仮想宝具として新たな名前を与えられている。

 

 

仮想宝具【擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)】、前方に強固な守護障壁を展開するという攻撃性の無い守護に特化したもの。だがその守りは堅牢。

 

 

「あーーーあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

黒い極光に飲み込まれて削られる感覚を味わいながら、マシュは盾を手放さない。ここで自分が砕ければ全員死んでしまうから。

 

 

結論、マシュは黒野の魔力の大半を消費してしまったが生き残った。反転した聖剣の一撃を無傷で乗り越えたのだ。それを見たセイバーは興味深そうに目を細めーーー

 

 

「ーーー焼き尽くせ、樹々の巨人……!!!!灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!!!!」

 

 

虚空から現れた燃える樹の巨人に押し潰された。

 

 

今回の戦闘での前提条件として短期決戦では無くてはならないというのが挙げられる。相手は誰もが知る英雄の中の英雄であるアーサー王、最優と称されたクラスで召喚されてクラススキルとして【対魔力】を兼ね備えた最強の一角。対してこちらはドルイドとして召喚されて本来の戦い方が出来ないでいるキャスター–––クー・フーリンにデミ・サーヴァントになれたは良いがその英雄の真名すら不明な上に決定打を持たないマシュの二騎。援軍や時間の経過によるメリットがあるなら長期戦を取る事も出来ただろうがそんなものを期待出来ない現状では短期決戦以外を選ぶ余地はなかった。

 

 

「ーーー舐めるな……!!!!」

 

 

魔力放出によるブーストで樹の巨人が持ち上げられ、聖剣の一撃にて粉砕される。押し潰されたはずのセイバーには目立った外傷どころか服に火傷の跡一つ付いていない。セイバーの持つ対魔力のスキルはA、西洋魔術であるという前提が付くものの魔法クラスでなければセイバーに傷をつける事は叶わない。キャスターの使うのはケルトで学んだルーン魔術。魔術師のクラスで召喚されたとは言え、ルーン魔術ではセイバーを傷つける事は出来ない。

 

 

「ーーー行きます!!」

 

 

魔力が放出されたことで出来た一瞬の隙にマシュが飛び込んだ。手にしている盾を掲げての体当たり。セイバーなら余裕を持って躱す事が出来るだろうが侮りからなのか、その場で迎え撃った。

 

 

ぶつかる盾と聖剣、拮抗したのは一瞬だけで徐々にマシュが押される。

 

 

「ーーーANZUS!!!!」

 

 

ルーン魔術による火球が()()()()()セイバー目掛けて降り注ぐ。これに疑問を持ったセイバーだったがその疑問はすぐに氷解する事になる。火球がマシュを傷付けていないからだ。その答えは至極簡単なことで、セイバーが持っていた対魔力のスキルをマシュも所持していたから。だがそれだけだ、キャスターのルーンではセイバーもマシュも傷つけられない。全く無駄な行為だとセイバーは判断した。

 

 

しかし火球が地面に着弾し、マシュが引いた事で無駄ではなかったと悟る。セイバーの視界に広がるのは砂埃、どうやらキャスターの目的はこれによってセイバーの視界を封じる事にあったらしい。

 

 

セイバーは聖剣を低く構え、全神経を集中させる。キャスターは脅威では無いが、マシュの持つ盾なら狙いによっては霊核を壊される可能性がある。セイバーはマシュへの奇襲に備えーーー直感のスキルが警鐘を鳴らしている事に気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー令呪を持って命ずる」

 

 

砂埃に包まれたマシュとセイバーの姿を見て黒野はマスターに与えられた三度の絶対命令権である令呪に意識を集中させる。事前に令呪の使い方についてはオルガマリーとロマン、それにレインヴェルからレクチャーを受けていて、限定的であるなら奇跡(まほう)の紛いごとも出来ると知っていた。

 

 

だからこそ思い付いた作戦。この事を話せばオルガマリーは目を見開き、ロマンはその手があったかと驚き、レインヴェルはよく気が付いたと絶賛した。

 

 

令呪の使う対象はマシュでも、キャスターでも無い。事前にレインヴェルから渡された聖晶石で呼び出した新たなサーヴァント。ここに居ない理由は一度しか無い絶好の機会で確実にセイバーを倒す為。連れて来ていたらセイバーはそのサーヴァントの事を警戒してこの作戦は破綻していたかもしれない。

 

 

だが、幸運にもセイバーは自分のサーヴァントはマシュとキャスターの二騎だけだと思っている。故に、一度限りではあるがこの作戦は成功するーーー否、成功させなければならない。

 

 

「ーーー空間を飛び、セイバーの元に現れろ!!()()()()()()!!!!」

『心得た、マスターよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

令呪による空間転移で現れたのは紫の着物の上から陣羽織を着た男性のサーヴァント。だが直感のスキルで察知していた事もあり、セイバーの反応は素早かった。即座に目の前に現れたサーヴァントを敵だと認識し、斬りかかる。奇襲までは良かったがサーヴァントを転移させた位置が悪かった。この程度の距離であればセイバーなら一息で斬り伏せることができる。

 

 

だが、それでも直感の警鐘は鳴り止まない。それはそうだ、黒野は何の考えも無しにこの位置にサーヴァントを転移させたわけでは無い。この位置こそが、このサーヴァントにとっての必殺の位置になるのだ。そしてもう一つ、このサーヴァントは空間転移した瞬間から何時でも攻撃が出来るように気構えていた。空間転移してから反応したセイバーよりも一瞬だけ早く、サーヴァントは自身が秘剣と呼ぶ魔剣を放った。

 

 

「ーーー秘剣・燕返し」

 

 

セイバーが認識出来たのは三つの太刀筋。それだけならば珍しい事では無い、セイバーもやろうと思えば出来る事である。だが、異質であるのはその三つの太刀筋が()()()()()()()()()()事だ。如何に素早く振るおうとも同時に放つ事は出来ず、僅かながらのズレが生じてしまう。だが、この剣は全くの同時に放たれている。

 

 

それは多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)と呼ばれる平行世界に干渉する魔法。驚く事にこのサーヴァントは剣技だけで魔法と同じ現象を起こしているのだ。

 

 

もしセイバーがこのサーヴァントが空間転移をしてきた瞬間に全力で逃げ出していれば結果は違っただろうがそれは所詮はifの話でしか無い。セイバーはこの三つの太刀筋からなる剣の檻を防ぐ事も、逃れる事も叶わない。

 

 

「ーーー貴様、名は?」

 

 

剣の檻が迫る中で、セイバーはサーヴァントに名を訪ねた。

 

 

「ーーーアサシンのサーヴァント、佐々木小次郎」

「ハッ、貴様のようなアサシンがいてたまるか」

 

 

答えが返ってくるなど期待していなかった。だが目の前のサーヴァントーーー佐々木小次郎は律義に返してきた。そしてアサシンとして召喚された佐々木小次郎に悪態を突きながらーーーセイバーは剣の檻に斬り刻まれた。

 

 





決まり手、ドラゴンスレイヤーの秘剣。

そもそとマシュとキャスニキだけだとどうしてもセイバーを倒せない件に付いて。だってキャスニキ対魔力の前では無力だし、マシュは白兵戦でセイバーに敵わないし……そうした結果が真のドラゴンスレイヤーである佐々木小次郎の登場。



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12話

 

 

「ーーーフッ、どこか私も慢心していたらしい。この様な稚拙な策で討たれるとはな……」

 

 

佐々木小次郎の燕返しによって霊核を砕かれたセイバーが膝を着きながら残念そうに言った。大聖杯という無限に等しい魔力を保有する魔術炉心を持っていたとしても霊核を砕かれたのであるなら意味は無い。幾ら魔力を注いだところで入れ物に穴が空いていたら溢れるのは当たり前の事だ。

 

 

「聖杯を守り通すつもりでいたが、己が執着に傾いた挙句に敗北してしまった。結局、運命がどう変わろうと、私一人では同じ結末を迎えるという事か……」

 

 

そう自虐気味に語るセイバーの脳裏に思い浮かんだのは聖杯の泥に飲まれながらも自我を失わずに聖杯のーーー嫌、セイバーの守護をしてくれていた弓兵の背中。もし、彼と共に戦っていたら。そんなifを考えてーーー即座に否定した。幾ら考えようとも所詮ifは可能性の話でしか無いから。己の敗北は既に決まっていて、覆す事は出来ない。

 

 

「あ?そりゃあどういう意味だ?テメェ、何を知ってやがる」

「いずれ貴様も知る、アイルランドの光の神子よ。【グランドオーダー】ーーー聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだという事をな」

「オイ待て、それはどういうーーー」

 

 

そうして意味ありげな言葉を遺して、セイバーは消滅した。霊核を砕かれてなお、言葉を残せるだけの間現界を続けられていたのは偏にセイバーの意思が強かったからだろう。

 

 

そしてセイバーのいた場所に謎の水晶体が現れーーーキャスターが光に包まれた。

 

 

セイバーが倒された事でこの特異点で行われていた聖杯戦争はキャスターが生き残ったという結末を迎えた。なら、キャスターも後を追う様に消滅する事は定められた事だ。

 

 

「ーーーおぉお!?やべぇ、ここで強制送還かよ!!チッ、納得いかねぇが坊主、後は任せたぜ!!次があるなら、そん時はランサーとして喚んでくれやーーーあ、後あのキチガイ抑えてくれよ!!」

「ごめん、それは無理」

「チクショォォォォォォォォォォォォ!!!!」

 

 

レインヴェル(キチガイ)が抑えられない事に絶望しながら、キャスターは消滅した。もしもクー・フーリンを喚ぶ事が出来たのなら、その時は絶対にランサーとして召喚しようと黒野は固く誓った。

 

 

「ーーーセイバー、キャスターの消滅を共に確認しました……私たちの勝利なのですか?」

『あぁ、よくやってくれたマシュ、黒野!!所長もさぞ喜んでくれ……あれ、所長は?』

「ーーー冠位指定(グランドオーダー)……あのサーヴァントがどうしてその名称を知っているの……?」

 

 

初めての特異点の攻略に成功した事を喜んでいたロマンだったがオルガマリーが静かだった事に疑問を抱く。そのオルガマリーはセイバーが遺していた【冠位指定(グランドオーダー)】の名称に付いて何やら考えていた。

 

 

「所長、どうかしましたか?」

「ーーーえ?そ、そうね。良くやったわ、黒野、マシュ。不明な点は多いですがここでミッションを終了とします。まずはあの水晶体を回収しましょう。セイバーがおかしくなったーーーいえ、この冬木の地が特異点になっていた原因はどう見てもアレの様だし」

「ーーーあっ!!そうだ、レインヴェルさんは!?」

 

 

黒野が思い出したのはアーチャーと戦っていたはずのレインヴェルのこと。人間の身でありながらサーヴァントと戦っているはずの彼の事を今頃になって思い出した。数分前までセイバーと一瞬たりとも気を抜けない死闘を繰り広げていたからその事を責めるのは酷だろう。

 

 

『えっと……大丈夫、生体反応はあるから生きてるよ。だけど少し弱いな……サーヴァントと戦ったから当たり前といったら当たり前何だけど』

「……そうだったわね。それじゃあ水晶体を回収してからレインヴェルと合流してカルデアにーーー」

 

 

これからの方針を支持しているオルガマリーの言葉を遮る様にして乾いた音が響く。それは手と手を叩く音ーーー拍手だった。黒野たちの話し声以外の音がしてこの場にいる全員が拍手の音源ーーー冬木の大聖杯のある方向を見る。

 

 

「ーーーいや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。48人目のマスター適正者、まったく見込みの無い子供だからと見逃してあげた私の失態だよ」

 

 

拍手を送っているのは黒く染まった大聖杯の前に立つ人物。質の良いスーツとシルクハットを被った姿は一見すれば紳士と見間違う。そしてその人物は、ここにいる全員が知っている人物だった。

 

 

「ーーーレフ教授!?」

『レフ!?レフ教授だって!?彼が彼がそこに居るのかい!?』

 

 

そこに居たのはレフ・ライノール・フラウロス。カルデアの爆発事故に巻き込まれて死んだと思われていた人物だったがオルガマリーと同じ様に生身でレイシフトに成功してここに来たのだろうと黒野とマシュとロマンは喜んでいた。だが、黒野とマシュの前に佐々木小次郎が立ち、険しい顔をしたオルガマリーがその横に並んだ事で喜びは曇る事になる。

 

 

「所長?小次郎?」

「ーーー下がれマスター、あの者は人に非ず。魔性の類だ」

「レインヴェルから言われていて半信半疑だったけど本当だったとはね……」

「レインヴェル……あのキチガイか!!あいつがいたせいで私の!!私たちの計画に狂いが生じかけた!!ロマ二も私の指示に従わずに管制室には来ていない様だしーーーまったく、どいつもこいつも統制のとれていないクズばかりで吐き気が止まらないなぁ!!」

 

 

レフの人の良さそうな笑みが崩れ、邪悪な顔になる。そんなレフを見て凍ったのは黒野とマシュとロマンの三人。彼らが知るレフはこんな顔を、そんな乱暴な言葉遣いをする人物では無かった。

 

 

そしてレフの事を知らない佐々木小次郎と、レフの事をよく知っているはずのオルガマリーだけが冷静でいた。ただ、オルガマリーは苦虫を噛み潰した様な顔になっていたが。

 

 

「おやオルガ、然程動揺しないのだね?そこのサーヴァントは私の事を知らないから別として、君の事だから彼らの様に取り乱すか私が生きていたと喜ぶかと思っていたのだが」

「……前々からレインヴェルに言われていたのよ。『レフには気をつけろ、あいつは必ず裏切る』ってね」

「またしてもレインヴェルか……!!」

 

 

レインヴェルの名が出た事でレフの顔が歪む。

 

 

レインヴェルは初めて会った時からレフは味方のフリをしていて、どこかで裏切るだろうと予想していた。だがその事を広げてカルデアを混乱させる訳にもいかず、苦肉の策としてオルガマリーにレフが裏切る可能性がある事を告げていたのだ。

 

 

「あぁクソッ!!予想外の事ばかりで本当に頭に来るーーーその中でも最も予想外なのは君だよ、オルガ」

「……私?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ーーーえ?」

 

 

レフの言葉に耳を疑う。あの事故の犯人がレフだというのはまだ予想できる範囲だ。だが、問題はその爆弾の設置場所。レフの言葉が本当なら、爆弾はオルガマリーの足元で爆発した事になる。数多くの死傷者を出したあの爆発、ならその中心にいたオルガマリーは()()()()()()()()()()()

 

 

「いや、生きている、というのは違うな。君はもう死んでいる、肉体はあの爆発によって粉々になった。トリスメギストスはご丁寧にも残留思念になった君をこの地に転移させてしまったんだ」

「……う、そ……嘘、嘘嘘嘘嘘ッ!!そんなはずはーーー」

「嘘では無いさ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……分かるかな?君は死んだ事で初めて、あれほど切望していた適性を手に入れたんだ」

「あ……ああ……」

「っ!?所長!!」

 

 

崩れ落ちるオルガマリー。計画していた彼女だから分かる、レフの言葉は嘘では無いと。オルガマリーにはレイシフトの適性は存在しなかった。肉体と魂を転移するレイシフトには。

 

 

なら、肉体が存在しなかったら?魂だけのレイシフトなら?

 

 

可能性があったかもしれないがそんな馬鹿な事を考える事を彼女はしなかった。何故ならーーー肉体が無ければ、それは死んでいるのと同じだから。

 

 

「だから、君はカルデアには戻れない。カルデアに戻った時点で君の意識は消滅する」

 

 

魂だけのオルガマリーが存在していられるのは特異点にいるからだ。現実であるカルデアに戻った瞬間、肉体を失っている残留思念に過ぎない彼女は消滅する事になる。

 

 

オルガマリーもその事に気付いているのだろう。レフはそんな彼女の姿を見て嬉しそうにニヤニヤと笑っていた

 

 

「い、や……嫌……!!私、こんなところで死にたくなんか無い!!」

「ーーーそうだ、最後に私からの贈り物だ。現在のカルデアがどうなっているか見せてあげよう」

 

 

レフの手の中にセイバーが持っていた物と同じ水晶体が現れて、輝く。すると空間に穴が開き、()()()()()()()()()()()が現れた。

 

 

「なーーーカルデアスが真っ赤に……?」

「よく見たまえアニムスフィアの末裔!!人類の生存を示す青色など一片も無い、あるのは燃え盛る赤色だけだ!!あれが今回のミッションが引き起こした結果だ!!よく見るが良い!!今回も君の至らなさが悲劇を引き起こしたワケだ!!」

 

 

オルガマリーの顔は絶望一色になっていた。元よりこのミッションは人類を救う為に始めたもの。だというのに、レフが言っているのが本当なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「さて、君をこのまま殺すのは簡単だが……それでは芸が無い、最後に君の望みを叶えてあげようじゃないか」

「なっ!?身体が宙に!?」

 

 

オルガマリーの身体が浮かび、徐々にカルデアスに引き寄せられていく。

 

 

「最後にカルデアスに触れると良い。なに、私からの慈悲だと思ってくれたまえ」

「ーーー」

 

 

レフはカルデアスに触れろと言った。そんな事が出来るはずが無い。カルデアスとは超密度の情報体、次元が異なる領域。ブラックホールや太陽と変わりの無い存在。そんなものに人間が触れてしまえば分子レベルで分解される地獄の具現に等しい。レフは慈悲だと言いながら地獄を味わえと言ってのけたのだ。

 

 

このままではマズイと思ったマシュと佐々木小次郎がオルガマリーの元に向かおうとするが近づく事が出来ない。彼らとの間に障壁が張られているのだ。それはマシュの盾や佐々木小次郎の剣技を持ってしても揺るがない。

 

 

「いや……いや……!!誰か、誰か助けて!!私、こんなところで死にたく無い!!」

 

 

浮いている身体を無理矢理に下に向けて地面にしがみつく。浮かぶ力が強くなっているのか掴んでいる地面に爪痕を残しながらもオルガマリーは必死に抗っていた。

 

 

「だってまだ褒められていない!!まだ誰も私の事を認めてくれてないじゃない!!」

 

 

オルガマリーはオルガマリーとして見られた事が無かった。他の魔術師から見られるとしてもそれはアニムスフィアの魔術師ーーー先代である父という色眼鏡を通して。誰も自分の事を見てくれなかった。だからこの計画を遂行する事で、父の七光りなどではなくオルガマリーとして認められたかった、褒められたかった。

 

 

「誰も私を評価してくれなかった!!皆、私を嫌っていた!!やだ、止めて、いやいやいやいやいや……!!だってまだ何もしていない!!生まれてからずっと、ただの一度も、誰にも認めてもらえなかったのにーーー」

 

 

まだ何も成していない。このまま死んでも、それは先代の娘が死んだとしか見られずに、当代のオルガマリーが死んだと捉えられない。だから、死にたくない。爪が剥がれて、指先が削れて血が噴き出して、みっともないと見られようともオルガマリーは死にたく無かった。

 

 

「あーーー」

 

 

だが、彼女の努力は報われない。しがみついていた地面が崩れてオルガマリーの身体が宙に浮き上がる。慌てて手を伸ばしても、地面には届かない。

 

 

「所長ーーー!!」

 

 

黒野が手を伸ばしても届くはずがない。このままでは彼女は真っ赤に燃え盛るカルデアスに飛び込む事になる。

 

 

「ーーー助けて、レインヴェル」

 

 

彼女が最後に救いを求めたのは狂人の様な言動をよくする知人の名前。だがその彼の姿はここには無かった。助けに来るはずがないと聡明な彼女は分かっていたが、それでも助けを求めずにいられなかった。

 

 

そしてオルガマリーの身体がカルデアスに飛び込むーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーその直前、マシュと佐々木小次郎の攻撃を防いでいた障壁に一本のナイフが突き刺さった。そして()()()()()()()()()()()()()

 

 

「何だとーーー」

「ーーーマリィィィィィィィイ!!!!」

 

 

サーヴァント二騎の攻撃を防いでいた障壁が崩れたのを見てレフが驚愕する。だがその下手人はそんな事に構っていられないと、英霊との戦いで限界を超え、ボロボロになった身体を酷使して縮地で移動し、カルデアスに触れる寸前だったオルガマリーを救出した。

 

 

「ーーーおい、三下。誰に手ぇ出してるんだ」

 

 

限界を超えた身体の酷使によって口や目から血を流しながら、下手人はレフを睨む。

 

 

「何人の友達(ダチ)に手ぇ出してるんだ、殺すぞ?」

 

 

下手人の正体はレインヴェル。彼はボロボロになりながらもオルガマリーの事を殺そうとしていたレフの事を誰も見た事もない様な憤怒の表情で睨み付けていた。

 

 

「(あぁーーーやっぱり、助けに来てくれた……)」

 

 

自分が困った時には必ずレインヴェルは助けに来てくれた。今回もそうだったと、オルガマリーは安堵して、レインヴェルの腕の中で意識を失った。

 

 

 






┏(┏≖‿ゝ○)┓「マリーと聞いて、来てやったぞ」

(∴)「お呼びじゃないのでお帰りください」



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13話

 

 

「ーーー」

 

 

意識が浮上する。覚醒して一番初めに認識出来たのは鼻に付く強いアルコールーーー消毒液の匂い。そして視界に広がる白い天井。

 

 

寝起き特有の心地良さを堪能してーーーオルガマリーの意識は一気に覚醒した。何故ならここはカルデア、レフの企みによる爆発で死んだはずのオルガマリーが二度と帰ることが出来ないはずの空間だった。

 

 

なのに、彼女はこうしてカルデアの医療室にいるし、服装は病人が着る様な服に変わっているがしっかりと身体を持っている。

 

 

「これは……どういう事なの……?」

 

 

オルガマリーの呟きに応える者はない。彼女の耳に届くのは一定のリズムで反応を見せている心電図の音だけ。

 

 

事態を把握するために誰かに会おうと彼女は決め、近くに置いてあったカーディガンを羽織ってベッドから降りた。その時に少しだが身体が動かし難かった気がしたが、気にならない程度のものだったので無視する事にした。

 

 

そして外と遮るためのカーテンを開けて彼女の目に入ってきたのはーーー医療室に備え付けられていたソファーの上で横になって眠っているレインヴェルの姿だった。寝息は静かで、僅かに動いている胸に気がつかなければ死んでいると間違えていたかもしれない。

 

 

自分を助けてくれた時のレインヴェルの姿を思い出して簡単にだがレインヴェルを診てみる。オルガマリーの触診に気が付かない程にレインヴェルは熟睡していたがどうやら治療済みである様だ。その事にオルガマリーは安堵し、テーブルの上にあった置き手紙に気がつく。そこにはレインヴェルの文字で、

 

 

『疲れたからしばらく寝る、起こさないでくれ。詳しい話はロマンに聞いてくれ』

 

 

とだけ書かれてあった。

 

 

あまりにも簡潔だが現状の説明が出来そうなのはレインヴェルとロマンだけ、その片方がこうして寝ているのであれば残る片方に聞くしかない。

 

 

サーヴァントと戦い、ボロボロになりながらも自分を助けてくれたレインヴェルの顔に掛かる髪をそっと掻き分けて、

 

 

「ーーーありがとう、レインヴェル」

 

 

それだけを告げてオルガマリーは医療室から出て行った。その時彼女の耳が赤く染まっていた事は彼女以外誰も知る事はないだろう。

 

 

そしてオルガマリーは一人、静かなカルデアの中を歩く。爆発があった割には綺麗に見える廊下だが嗅覚に集中すれば僅かに焦げ臭く、視覚に集中すれば壁に綻びが見える。どうやら綺麗なのは表面上だけで、なんとか応急処置をすませた程度のものなのだろう。

 

 

そうして歩いていると、静かだった廊下に響く声が聞こえた。耳をすませばその声は複数人のもので、何やら賑わっている様に思える。

 

 

オルガマリーは誘われる様にその声の元に向かう。着いた先はカルデアの食堂。そして聞こえてくるのは悲鳴と笑い声と何かを食べている咀嚼音。この先に何があるのか気圧されるが、気合を入れて食堂の扉を開ける。

 

 

するとそこにはーーー

 

 

「ハグハグハグハグハグハグハグハグハグハグ……!!!!」

「止めてよぉ!!僕のお菓子が無くなるから!!」

「美味しいねマシュ、ドクターの悲鳴を聞きながら食べるお菓子って」

「先輩、ドクターの悲鳴とお菓子が美味しいのとは何か関係があるのでしょうか?」

 

 

一心不乱にお菓子を食べ続けるアルトリアの姿と泣きながらアルトリアを止めようとしているロマンの姿、そしてそれを見ながらお菓子を頬張っている黒野とマシュの姿だった。

 

 

「……どうなっているのかしら?」

 

 

オルガマリーがやって来た事に彼らが気づいたのはそれから数分後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、落ち着いたかしら?ロマニ?」

「は、はひ……お手数おかけしました……」

 

 

顔をパンパンに腫れさせて正座をしているロマンの姿とそれを見下しながら椅子に座っているオルガマリーの姿がそこにはあった。それに関わりたくないのか黒野とマシュは静観し、アルトリアはお菓子を貪り続け、姿の見えないアサシンのサーヴァントの佐々木小次郎の所在を聞くと訓練室で剣を振るっているとの事だ。

 

 

「……とりあえず現在のカルデアの状況を教えてくれるかしら?」

「は、はい!!現在のカルデアはーーー」

 

 

ロマニからの話を纏めると現在のカルデアは世界から孤立した存在らしい。

 

 

カルデアスによると人類史はすでに焼却済みで、カルデアスの磁場によって守られているものの外は冬木の特異点と同じ様に滅んでいる。数人のスタッフで外の調査を命じたらしいが、そのスタッフはカルデアから外に出た瞬間に()()()()()()()()()。その事に関してはロマンは外部との連絡が取れなかった時点で何となくは予想していたらしい。通信の故障も考えられたがそもそも受け取る相手が消滅していたら、連絡など取れるはずもないのだから。

 

 

カルデアの現状は通常の時間軸に無い状態、崩壊直前の歴史に踏み止まっているというのがロマンの見解だった。それはコレまでの話を聞く限りは間違っていないとオルガマリーも考えている。

 

 

その原因を探すべく、ロマンはシバを使い過去の地球をスキャンした。これまでカルデアスが赤く染まる原因だと考えられていた冬木の特異点は解決した。だというのに人類が滅んだ事という結果は不変のまま。なら、その原因は過去にあるのではないかと仮定したのだ。

 

 

その結果は当たりだった。狂った世界地図に冬木とは比べ物にならない時空の乱れが観測されたのだ。それも一つや二つでは無く七つも。たった七つで人類が滅びる様な事になるのかと思うだろう。実際、歴史には修正力というものが存在して、たった一人二人を救った程度ではその時代が迎える決定的な結末は変わる事は無い。だが発生した特異点はどれもが歴史上におけるターニングポイントなのだ。

 

 

ーーーこの戦争が終わらなかったら?

ーーーこの航海が成功していなかったら?

ーーーこの発明が間違っていたら?

ーーーこの国が独立出来ていなかったら?

 

 

そういった現在の人類を決定付けた究極の選択点。それが崩されるという事は人類史の土台を崩されることと同じだ。今回のスキャンで発見された特異点はどれもがそのターニングポイントに発生したもので、特異点が発生したことで未来が決定してしまったーーー人類に2016年はやって来ない。

 

 

だが、手段がなくなった訳ではない。人類が滅んだ中でもここにある事を許されているカルデアだけが崩された特異点を修復するチャンスがある。冬木の特異点でやった時と同じ様に各特異点へレイシフトし、歴史を正しい形に戻す。それだけが滅びが決定された人類を救う手段なのだから。

 

 

現時点で発見出来ているのはオルレアンとローマの特異点だけだが、時間をかければ直ぐに新しい特異点が見つかるだろう。まずは挙がった二つの特異点を解決し、それと並行して新たな特異点を捜索するというのがロマンの考えている計画らしい。

 

 

「ーーー新たに出現した七つの特異点、なるほどね……よくやってくれましたロマニ。私が決定したとしても貴方と同じ判断をしていたでしょう。それと、もう一つ、()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

その質問はおかしいと思うかもしれないが間違っていない。冬木の特異点でレフからオルガマリーは死んだ事を告げられていたのだった。レフの言っていたことが嘘だったとも考えられるがそれなら爆発があった管制室にいたというのに火傷一つ無く無傷なのはおかしい。

 

 

「えっと、レインヴェルは?」

「彼なら医療室のソファーで寝ているわ。相当疲れていた様子で私が動いた事にも気付かなかったわ」

「それはそうだろうね。実はーーー」

 

 

ロマニの話は信じられない物だった。冬木の特異点が崩壊する直前で何とかレイシフトで帰還に成功したレインヴェルたち。そこには当然の如くオルガマリーの姿は無かった。その事にオルガマリーは本当に死んだと思い、気落ちするロマニだったが、レインヴェルはサーヴァントと戦ってボロボロな身体のままにカルデアの倉庫に足を運んだ。

 

 

 

カルデアの倉庫には食料品や衣料品などに始まり、マスター候補生達の持ち込んだ魔術的な品物まで管理されている。レインヴェルは事前に送り込んでいた自分の荷物を漁り、そこから一体の人形を取り出した。説明を求めるロマニを無視して、レインヴェルは工房を兼ねている自室に人形と一緒に引き篭もり、一時間後には人形の代わりにオルガマリーと共に部屋から出てきた。

 

 

死んだはずのオルガマリーが現れてロマニは混乱し、再度レインヴェルに説明を求めた。ペットボトルに詰められたミネラルウォーターをガブ飲みしながら、今度はレインヴェルは質問に応じた。

 

 

特異点が崩壊する直前でレインヴェルは手持ちにあった宝石を全て使ぅてオルガマリーの魂を保存し、カルデアへと帰還した。これでオルガマリーはカルデアに戻っても消滅する事は無くなったが宝石によって保存されているのでは瀕死の状態で冷凍保存されたマスター候補生たちと変わりが無い。そこで使ったのが倉庫から取り出した人形だ。何でも縁のあった封印指定を受けた魔術師から譲り受けた素体だったらしい。特別な機能を持たないプレーンな素体。だからこそ、何を入れたとしても容れ物として機能する万能な素体。それにオルガマリーの魂を入れる事で動ける身体を与えたとのことだった。

 

 

そしてレインヴェルはオルガマリーを蘇生させたその足で冷凍保存されているマスター候補生の元に向かい、現在の備品で治療可能なマスター候補生一人を治療した。流石にこれは無茶をし過ぎていると思いロマンも止めようとしたのだが制止も聞かずに執刀するレインヴェルの姿を見て黙らざるを得なかった。

 

 

完成された人間を目指している魔術師の出なだけあって、レインヴェルの実家には人類の最先端の技術が集まっている。それは医療方面に関しても例外では無い。その医療技術を余すこと無く使い、限られた備品でレインヴェルはマスター候補生一人を完治させた。オルガマリーは気付かなかったが彼女の隣で眠っていて、時期に目を覚ますだろうとの事だった。そしてマスター候補生一人を治療して、レインヴェルは力尽きて眠ったーーー本当だったら、彼の治療を優先しなければならないのに。

 

 

レインヴェルは言うまでも無く過去現在のカルデアの中で最優秀な魔術師である。どちらかと言えば魔術使いによっている物の、それでも尚、単騎でサーヴァント相手に戦って勝利できる程に優秀だった。だが、今回のレイシフトで無茶をした。限度を超えた強引な治療魔術のせいで魔術回路の一割が焼き付き、一割が滅茶苦茶に繋がれてしまった。焼き付いた魔術回路はまだどうにかなりそうだが滅茶苦茶に繋がった魔術回路は手の施しようが無い程に酷い事になっていた。ロマンの見立てではその魔術回路は使えなくは無いが使うと常人なら発狂する程の痛みが走るそうだ。レインヴェルの魔術回路はメインサブを合わせて460本、その一割が実質使えず一割が焼き付いていて現在使用が出来なくなっている為に368本。それでも並みの魔術師に比べれば圧倒的に多いのだがレインヴェルの戦力が落ちた事には違い無い。

 

 

ロマンからの説明を受けてオルガマリーは無意識に溜息を吐いた。

 

 

「全く……あいつは本当に馬鹿なんだから……」

「所長、それだけで済ませて良いんですか?事が終わってから彼の実家から抗議とか来るんじゃ……」

「多分大丈夫よ。彼の実家は基本的には放任主義で何かやっても自己責任ってスタンスを取ってるから。魔術回路が減ったって聞かされてもまた増やせばいいとでも考えるんじゃないかしら?」

「それでいいのか魔術師……!!」

 

 

色々とレインヴェルがやらかしてくれたせいでオルガマリーの頭痛が心なしか酷くなった気がした。だがレインヴェルがやらかしてくれたおかげでマスター候補生の一人が復帰可能な状態になり、そして自分はまたカルデアに帰ることができた。

 

 

状況はかなり悪い。ギリギリのところまで追い詰められて一歩間違った判断をすれば人類の救済だなんて出来なくなってしまうーーーだが、()()()()()()()()()()

 

 

レフの爆発によってカルデアに大きなダメージは受けたもののまだ機能は生きている。人類が滅びてしまったが、こうして生きている者たちがいる。

 

 

限りなく悪い状況ではあるが最悪ではない。なら、まだ望みはある。

 

 

故に止まらない。希望があるのなら、足を進めることが出来るから。

 

 

 





マリー所長生存+新マスターの追加。ただしレインヴェルの魔術回路の減少というペナルティーあり。それでも絶望しない。きっとこのカルデアにいる人間たちはステータスに不屈とか持っているに違い無い。

現在で発見されている特異点は|ジャンヌゥゥゥゥゥ!!とローマであるっ!!これは作者がFGOを開始した時点で配信されていたというしょうもない理由から。新しい特異点はローマであるっ!!をクリアしたら発見されます。

特異点Fはこれで終了。新戦力の導入などで二、三話使ってからオルレアンに突入します。


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14話

 

 

ーーー目が覚めた。頭が痛い、まるで耳元で大音量の音楽を鳴らされている様な程にガンガンと痛む。頭を押さえながら起き上がればそこは白く、清潔なベッドの上だった。こんなところで寝た覚えは……無い。最後に覚えているのはレイシフトをしようとコフィンに向かった所までだ。そこから先の記憶がまるで抜け落ちてしまったかの様に無くなっている。

 

 

そして自分の服が病人が着る様な緩い物になっている事に気付いた。どれだけ気が緩んでいるのかと軽く自分を叱咤してベッドから出て、外界と区切られているカーテンを開ける。

 

 

するとそこにはーーー

 

 

「ーーーお、起きたのか?」

 

 

ーーー備え付けられていたテーブルの上に大量の食料と瓶を用意して、凄まじい勢いで口の中に詰め込んでいる着流しの男性がいた。よく見れば食料は保存の利くレトルトだが瓶はアルコールーーーお酒だった。それも度数が高いものばかりを揃えてある。そしてその男性の顔には見覚えがあった。

 

 

「……イザヨイ、さん?」

「そうだよ。みんな大好きキッチーのレインヴェル・イザヨイだよ」

 

 

レインヴェル・イザヨイ、今回の計画で集められた魔術師の中で最も優秀でありながら一番の問題児であるキチガイ。ロマンやオルガマリーがまた彼のせいかと呆れていたのに対してレフだけが額に青筋を浮かべて激怒しているのはもはやカルデアの恒例行事だと言ってもいい。

 

 

「ちょい待ち、今片付けるから」

 

 

そう言ってレインヴェルは残っていたレトルトを全て口に詰め込んで酒で流し込んだ。普通なら急性アルコール中毒の心配でもするのだろうが彼なら大丈夫だろうと考えている辺り自分も毒されているらしい。

 

 

「色々と聞きたいことがあるだろうがそれは道すがら話そう。今は時間が惜しいからな。それに顔合わせも済ませないと」

 

 

それだけ言ってレインヴェルはタバコの様な物を口に咥えて部屋から出て行った。それに習い彼について行きーーーカルデアの現状について教えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーはい、というわけで彼女が蘇生させたマスター候補生です。クラスで三番目位の顔だけど普通に考えれば美少女だからな〜虐めるなよ〜特にロマ」

「貴様ぁ!!」

 

 

カルデアにある会議室、そこに人間五人ーーーレインヴェル、黒野、オルガマリー、ロマン、そしてマスター候補生の少女ーーーと、サーヴァントらーーーマシュ、アルトリア、佐々木小次郎ーーーが集まっていた。

 

 

「えっとフランシスコザビ……いえ、十六夜美冬です。十六夜って名字ですけどそこにいるキチガイとは血縁関係は無いので」

「おう、いきなりのジャブかよ。これも全部ロマの責任だな、よし!!訴えよう!!」

「僕のせいじゃ無いから!!それとまるでちょっとそこまで見たいな感じで訴訟に走るのは辞めてくれないかな!?」

 

 

のっけからキチガイ扱いされたというのにレインヴェルは平常運行、流れでロマンが被害を受けるといういつも通りの光景が広げられていた。オルガマリーはそんな光景から目をそらして美冬に話しかける。

 

 

「知っていると思うけど改めて言わせてもらうわ。所長のオルガマリー・アニムスフィアよ。貴女はカルデアの現状について知っているかしら?」

「……はい、キチ……イザヨイさんから話は聞きました。初めはいつもの冗談だと思ってましたけど……」

「残念ながら事実よ。現在カルデアはスタッフとマスター候補生の大半を失っていて残っているスタッフは二十人も居ない、そして候補生も動ける状態なのは貴女だけよ」

「え?じゃあそこの二人は?」

「俺?俺はもうマスターになってるから。これ令呪ね」

「初めまして、岸波黒野です。俺もマスターなんで候補生じゃないですね」

 

 

美冬の疑問に答える様にレインヴェルと自己紹介をしながら黒野が自分の令呪を見せつけた。

 

 

「彼らのおかげで冬木の特異点は解決しました……そのせいで現状になったとも言えるのだけどね」

「気にするなよ。誰だって危険物が目の前になったら退けたくなるさ。退けた結果で大きな被害が出るなんて分からねぇよ」

「……あ、ありがと」

 

 

自虐気味に言ったことに対して即座にレインヴェルがフォローに入った。そして恥ずかしいのか顔を僅かに赤くしながらオルガマリーは礼を言う。その時、アルトリアの眼光が微かに鋭くなったが誰も気付かなかった。

 

 

「と、兎に角!!現状、私たちの中でレイシフトに適性があるのはレインヴェルと黒野、そして美冬の三人だけです。そうなれぼ必然的に貴方たち三人にレイシフトをしてもらい、観測されている特異点に向かってもらう事になります……でも、強制はしないわ。予定よりも人数が減ったせいで危険は大幅に増している。断っても誰も責めはしない。断るならバックアップに回ってもらうけと……どうする?」

 

 

本当なら強引にでも作戦に組み込みたかったのだが美冬の心境を考えた上でこう提案した。元々レイシフトの為に集めた人材ではあるが今回の件で彼女は死にかけた。なら多少なりとも精神的に負担が掛かっているはずだ。遊ばせる余裕が無いからバックアップに回る道も提示したのだが本来ならメンタルカウンセリングを受けさせて休養させなければならない。

 

 

だが、美冬は大きく深呼吸をして真っ直ぐにオルガマリーを見返した。

 

 

「……私は、そういった危険性を理解した上でこの作戦に参加しました。命の危険なんて百も承知です。なので、私の考えは変わりません。私も、マスターとして戦います」

 

 

そう言った美冬の目には隠しきれない恐怖があった。それは人間なら誰もが持っているもので、あったとしても恥じる様なことでは無い。その恐怖を見せながらもーーー美冬は戦うことを選んだ。

 

 

「ーーーわかりました。十六夜美冬、貴女をオルガマリー・アニムスフィアの名において三人目のマスターと認めます」

「おう、人が増えたな!!よろしく、肉盾(みふゆ)ちゃん!!」

「ちょっと待てそこのキチガイ。今なんていう字に振仮名つけた?」

「肉盾」

 

 

その言葉が言い終わるや否やに右手を銃の形にして迷う事なく言い切ったレインヴェルに銃口に当たる人差し指を向けてガントの魔術を行使する。発動したガントは真っ直ぐにレインヴェルに向かって飛んで、額に命中した。

 

 

ガントは軽度の風邪程度の呪いを相手にかける簡単な魔術なのだがグオォっと床に転がっていて余裕そうなレインヴェルを見る限りでは抵抗(レジスト)されたらしい。美冬もそうなる事は予想していたのか舌打ちをして終わらせた。

 

 

そして数秒程、床に転がっていたレインヴェルは何事もなかったかの様に立ち上がる。

 

 

「ーーーよし、さっさとサーヴァント召喚して戦力増強するか」

「ええ、そうね」

「僕もそれには賛成だね」

 

 

当たり前の様に言われた言葉に黒野と美冬はついていけなかった。オルガマリーとロマンが反論していない事を見ると事前に二人には知らされていたか、二人も似た様な事を考えていたかに違い無い。

 

 

「すいません、話についていけないです」

「こっちもです、説明プリーズ」

「簡単な話だよ。美冬ちゃんはマスターになったとはいえまだサーヴァントを持っていないマスター(笑)状態、黒野んの方はシールダーのマシュとアサシンの小次郎が居るけど盾役と正面切って戦える暗殺者で正直言って遠距離ができそうな奴が欲しいところ。こっちもアルトリアがセイバーで、俺はその気になればなんでも出来るけど負担を減らす為にセイバー以外のクラスのサーヴァントが欲しかった。ならガチャる(召喚)するしかないでしょ!!」

「あ、魔力に関してはカルデアの方で回すから心配しないでね」

 

 

レインヴェルの説明は一応筋が通っていた。サーヴァントを持っていない美冬は勿論、黒野は盾役(マシュ)前衛(佐々木小次郎)が居るが後衛が居ない。そして前回のレイシフトで魔術回路を僅かだが失ったレインヴェルの事を考えればサーヴァントの召喚を考えるのは当たり前の事だった。

 

 

「筋は通ってますけど……キチガイの癖に」

「キチガイだけどレインヴェルさんは凄いからね、キチガイだけど」

「おう、キチガイ連発するの止めえや。照れるだろうが」

「褒めてません!!」

「褒めてないからぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところ変わってカルデアに設置されているサーヴァント召喚システムのある部屋、そこにレインヴェルと黒野、美冬は三人で集まっていた。オルガマリーとロマンは召喚のサポートをする為に、アルトリアとマシュと小次郎は召喚されたばかりのサーヴァントを刺激しない為に別室にいてもらっている。

 

 

「召喚の仕方は分かってるよな?」

「頭の中には入れてあります」

 

 

初めに召喚するのは美冬。二人と違ってサーヴァントを持っていない事から優先的にさせる様にとオルガマリーから言われていたのだ。レインヴェルは言われなくてもそのつもりだったし、黒野も文句を言わずに美冬に譲った。

 

 

「そもそもチームで動くからサーヴァントのクラスは重複しても問題無い様に思いますけど」

「何があるか分からないから最低でも各マスターで行動出来る程度の戦力にしといた方が良いだろ。考えてみろよ、後方支援に特化したサーヴァント集めて孤立して敵に囲まれたら悲惨な事にしかならねぇよ。それならある程度は分散させた方がいい」

「……確かに、そうですね」

「だったら俺が狙うのはアーチャーかキャスターが良いですかね?」

「そうだな、聖晶石の関係で俺と黒野んは一度ずつ、美冬ちゃんは二度しか召喚出来ないけどそうなったら良いよな」

 

 

本来ならマスター候補生48人全員にサーヴァントを召喚させてなお有り余る程の聖晶石がカルデアには集められていたがレフのせいでその大半が損壊してしまい使い物にならなくなってしまった。今回の召喚に使われる聖晶石はなんとか無事だった物と、冬木の特異点でレインヴェルと黒野が見つけた物とでなんとか成り立っている。

 

 

「さっきから気になってたんですけど黒野んってなんですか?」

「あだ名」

「恥ずかしいからやめて下さい……」

 

 

レインヴェルに弄られて恥ずかしそうにしている黒野を放置して美冬は聖晶石を投げる。すると聖晶石から光球が発生して、三本のラインに変わった。これがサーヴァント召喚の証、これご一本のラインの場合は概念武装が召喚される事があるのだ。とは言ってもサポートに回っているオルガマリーとロマンのお陰でよっぽどのことが無い限りはサーヴァントしか召喚されない事になっているはずだ。

 

 

そして三本のラインが中央に集まり召喚されたのはーーー赤い外套を着込んで白髪を逆立てた、浅黒い肌の男性だった。

 

 

男性は無言で辺りを見渡してレインヴェルの顔を確認するとーーー無言で部屋の隅に行って手で顔を隠して蹲ってしまった。レインヴェルも彼の隣で同じ様な事をしている。

 

 

「……え?」

「何かあったんですか?」

「……いやね、俺、冬木の特異点でこいつとバトってきたばかりだから」

「……それで臭いセリフと共に別れたというのに直様召喚されてしまった訳だ」

「「恥ずかしい……!!」」

 

 

確かにそれは恥ずかしい。だがそのまま恥ずかしがられても召喚されたサーヴァントのクラスも分からないのでそれだけでも聞き出す事にした。

 

 

「とりあえずクラスだけでも教えてもらえませんか?」

「アーチャーだ……」

 

 

大の大人二人であるレインヴェルとアーチャーとして召喚されたエミヤが部屋の隅で恥ずかしがるというのは中々シュールな光景だが進まないので放置する事にする。

 

 

そして二度目の召喚。聖晶石を投げて現れたのは三本のライン。そしてラインが集まってーーー召喚されたのは青いタイツに身を包んだ男性。

 

 

「ーーーよう。サーヴァントランサー、召喚に応じ参上した。ま、気楽にーーー」

 

 

召喚の口上を口にしていたランサーだったがランサーの声を聞いて部屋の隅で蹲っていたレインヴェルが立ち上がったのを見て固まる。

 

 

「ーーーよう、ランサー!!俺だよ!!」

「ーーーノォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 

ダブルピースを決めながら反復横跳びを決めるキチガイを見てランサーが絶叫する。美冬はそれを見て困惑、黒野は事情が分かっているので落ち着いてランサーとして召喚されたクー・フーリンに向かって合掌した。

 

 

そして合掌した後に聖晶石を投げる。現れたのは三本のライン。ラインが収束された召喚されたのはーーー紫のローブを着込んだいかにも魔女という言葉が似合いそうなサーヴァントだった。

 

 

「ーーーサーヴァントキャスター、召喚に応じ参上したわ……あら、随分と可愛らしいマスターなのね」

「あ、初めまして、岸波黒野です」

 

 

召喚されたのは狙っていたクラスのキャスターのサーヴァントだった。その事に安堵しつつ、自分の名を告げて簡易的な自己紹介をすませる。

 

 

そして次に召喚するのはクー・フーリンをイジれて上機嫌になったレインヴェル。イジられたクー・フーリンは部屋の隅で真っ白に燃え尽きていて、立ち直ったエミヤに同情的な視線を向けられている。

 

 

「さぁて、何が来るかなっと。俺としては偵察様にアサシン辺りが欲しいところだけど」

 

 

意気揚々とレインヴェルが聖晶石を投げる。そうして現れたラインの数は−−−一本。

 

 

「ーーーへ?」

 

 

ラインが収束されて召喚されたのはーーー鞘に納められた一本の日本刀だった。

 

 

その後、レインヴェルの絶叫がカルデアに木霊したのは言うまでも無いだろう。

 

 

 





マスター候補生復活〜マスター認定〜鯖召喚の流れでした。

新しいマスターの十六夜美冬の見た目ははレインヴェルの紹介で気づくかもしれませんがエクストラのザビ子です。でも中身は別物で、それなりの教育を受けた魔術師です。

鯖召喚に関してはバランスを考えました。遠近両方できる様にしつつ、なおかつストーリーでの影響を考えて……疲れた。

↓一覧表
黒野;マシュ、アサ次郎、キャス子

美冬;エミヤ、槍ニキ

レインヴェル;アルトリア

レインヴェルだけが礼装なのには理由があります。それは特異点終了後に鯖召喚をさせる為です。

べ、別にキチガイ虐めて愉悦ってる訳じゃ無いんだからね!!



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15話

 

 

「ちくしょう……チクショォ……」

 

 

カルデアの食堂で酒瓶に直接口を付けて呑んだくれているレインヴェルが居た。今は召喚されたサーヴァントたちとの交流を深めることと冬木の特異点を解決した慰労という名目で軽いパーティーを開いていた。

 

 

パーティーとは言っても参加しているのはマスターの三人とサーヴァントたち、それとオルガマリーとロマンだけ。他のカルデアのスタッフたちはカルデアの復旧作業に勤しんでいて、その作業が終わってから別で慰労会をするという話になっている。

 

 

そしてレインヴェルが呑んだくれている理由は一つだけ、サーヴァントを召喚する予定だったのに概念礼装を召喚してしまったことだった。オルガマリーとロマンのサポートでサーヴァントの召喚の確率が極力まで引き上げられていて概念礼装の召喚の確率は数値にすれば5%以下だった。その確率で概念礼装を引いてしまったレインヴェルは運が良いのか悪いのか、レインヴェルは後者だと考えている様だ。

 

 

そもそもレインヴェルはすでに礼装を幾つか用意していて、召喚でサーヴァントを喚んで戦力を強化することを目的としていた。なのに来たのは概念礼装。真偽は分からない物の、予想出来るその日本刀の銘は兼定、〝兵闘ニ臨ム者ハ皆陣列前ニ在リ〟という九字が刻まれている五百年クラスの古刀。魔術的な加工こそされていないが古刀とは平安の中期から慶長以前に鍛えられた刀を差す。そして歴史を積み重ねた武器はそれだけで魔術に対抗できる神秘になる。つまりはこの重要文化財クラスの歴史を持つ日本刀は神秘に対抗する手段となり得る。

 

 

だが日本刀というのは武器としては優れているとは言い難い。確かにその切れ味に関しては刀剣類の中でも群を抜いている。しかしその分脆くあるのだ。名人が使ったとしても五人も斬れば刃毀れを起こし、毀れなかったとしても血糊で使い物にならなくなる。敵の数が判明しているのなら有用な手段として使えるのだが、不特定多数の敵を相手にするには使い難いとしか言えない。その事からレインヴェルはサーヴァントには通じるが使い物にならないと判断して落ち込んでいるのだ。

 

 

レインヴェルは気落ちして暗い雰囲気を出しているが周りを気遣ってか極力まで気配を押し殺して落ち込んでいるのでパーティーの空気を阻害する事は無い。エミヤはいつの間にか厨房に引き篭もり、クー・フーリンは黒野とロマンに愚痴を吐き出し、美冬はキャスターとマシュと会話に花を咲かせている。

 

 

そんなレインヴェルの姿に気がついた人物がいたーーーオルガマリーである。()()()()()()()()知り合っているからこそ、彼女は無駄に鮮麗された無駄の無い無駄な技術を披露しているレインヴェルの存在に気がつく事ができた。

 

 

「(うぅ……あいつがあんなに落ち込んでるのって私のせいよね?慰めた方が良いのかしら……)」

 

 

オルガマリーはレインヴェルが落ち込んでいるのは自分のせいだと考えていた。だが、彼女に非があるのかと聞かれると素直には頷けない。

 

 

理論上ではサーヴァントと概念礼装を召喚出来るカルデアの召喚システムだが確率としては後者の方が高いのだ。それをロマンと共にサポートしたからと言えども5%以下まで概念礼装が召喚される確率を引き下げたのは彼女の功績である。前もって極力まで抑えるが礼装が召喚される可能性はゼロにはならないと通達してあり、レインヴェルもそれを了解して召喚に臨んだのだ。オルガマリーには非はない、だがレインヴェルにも非はない。客観的に見ればどちらも悪くない状況だがら、彼女は自分が悪いのではないかと考えてしまっていた。

 

 

答えの出ない自問自答を長々と続け、オルガマリーはレインヴェルを励ます事を決意した。自分の口調がキツイことは分かっているがそれでも愚痴を聞くぐらきなら出来るだろうと考えていた。

 

 

意を決して立ち上がり、レインヴェルの所に向かおうとしてーーー

 

 

「ーーーおい貴様、ちょっと来い」

「えっ!?ちょ」

 

 

ーーー背後からやって来たアルトリアに掴まれて、食堂から連れ出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルトリアに連れられてやって来たのは空き部屋。空き部屋とは言ってもここへマスター候補生に与えられた部屋の一つで、その候補生が現在冷凍保存されているから空いているというだけなのだが。

 

 

近くに誰もいない事を確認してからアルトリアはオルガマリーを解放して、部屋の入り口の壁に身体を預ける。

 

 

「ーーーもう、いきなりなんなのよ!!」

「すまなかったな、貴様に聞きたい事があったから強引に連れ出させてもらった」

「……聞きたい事?」

 

 

アルトリアに掴まれていた手を摩りながらオルガマリーは聞き返す。生憎だがオルガマリーにはアルトリアに何か聞かれるような事がある心当たりは無かった。二人の出会いは冬木の特異点、短い付き合いで人気の無いところに連れ出されてまで聞かれるような事があるとは考えられなかった。

 

 

「貴様ーーーいや、オルガマリー・アニムスフィア」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、レインヴェルに惚れているな?」

「ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?!?」

 

 

予想外の言葉にオルガマリーは吹き出す。幾つかの質問を予想していたがこの質問は流石に予想外だったらしい。

 

 

「な、なななな何言ってるのよ貴女は!?」

 

 

動揺でどもりながら、そして顔をこれまでに無い程に赤面させながらオルガマリーは何とか言葉を出した。

 

 

「……その反応、やはりか」

 

 

その反応かろオルガマリーがレインヴェルに気がある事が知れた。そもそも何かしらの感情を抱いて居なければ過剰な反応を見せるはずが無い。マシュに聞いたとしても「は?何言ってるんですか?」の冷たい一言で終わるだろう。

 

 

えっと、やその、などと取り繕うとオルガマリーは努力する物の、アルトリアの眼光に耐えられなくなったのか溜息を付いて、これから先使われる事は無いであろうベッドに腰を下ろした。

 

 

「はぁ……誰にも言わないで貰えるかしら?」

「あぁ、私の闇落ちした聖剣に誓おう」

「それって魔剣じゃないかしら?……その、た、確かに私はレインヴェルの事を異性として見ているわ」

 

 

若干薄れたものの、赤い顔のままでオルガマリーはレインヴェルの事を男として見ていると告発した。だがアルトリアの眼光は鋭いまま、どうやら理由を言えと訴えているようだった。

 

 

「……知っていると思うけどレインヴェルってキチガイの癖して案外周りの空気を読む奴なのよね」

「それは冬木で理解している」

 

 

冬木の特異点でもレインヴェルのキチガイっぷりは変わらなかった。主にキャスターだったクー・フーリンが被害にあっていた。それはランサーとして召喚された今でも変わらなかったりするがここでは放置しておこう。

 

 

空気を読まずにキチガイ発言をしているようにしか見えなかったが付き合いの長いオルガマリーと王としてブリテンを治めていたアルトリアはそれが空気を改善するためだと理解していた。

 

 

黒野とマシュ、本来なら時間をかけて育成していくはずの二人が緊急事態だとはいえ前線に立たされた事で知らず知らずの内にストレスを溜め込んでいた。レインヴェルはそれを察知して、わざとキチガイ発言をする事でストレスを発散させたのだった。あのまま戦いを続けさせていたらいつか何処かで破裂するだろうと考えての行動だったと二人は考えている。

 

 

レインヴェルはキチガイである。それは自他共に認める事だが決して空気の読めない人間では無いのだ。

 

 

「私は幼い頃からアニムスフィア家の当主となるべくして育てられたわ。来る日も来る日も魔術に勤しんで……それだけでは足りないと考えて科学にも手を出して……そんな時にレインヴェルと出会ったわ。私が行き詰まった時にあいつったら馬鹿して私の事を怒らせて……でもそのお陰で分からなかったはずの事が簡単に理解出来たり、新しい考えを思い付いたりして……そんな事を続けられている内にやっと彼が気分転換の為に私の事を怒らせているってわかったの」

 

 

オルガマリーは存外に行き詰まってしまうと混乱して、足を止めてしまうタイプの人間だ。レインヴェルはその事を理解していたからわざと彼女を怒らせるような発言や行動を行なうことでオルガマリーの注意を自分に向けさせて、彼女の目を一旦その問題から目を逸らさせていた。その結果、オルガマリーは行き詰まってしまった問題を解決する事ができた。簡単に言ってしまえば袋小路だと混乱していたオルガマリーの注意を引くことで落ち着かせて、袋小路では無いと気が付かせていたのだ。

 

 

レインヴェルがそうしたのは一度や二度では無い。オルガマリーが行き詰まり、混乱しているとどこからともなく現れて、その場をかき乱して去っていった。そんなことが何度もあれば、どんな人間だって気がつく。

 

 

再びレインヴェルがやって来た時にオルガマリーはその事について追求したーーーどうして自分を助けてくれるのかと。始めはのらりくらりとはぐらかそうとしていたレインヴェルだったがオルガマリーの追求のしつこさに諦めたようで、照れ臭そうに頬を掻きながら、

 

 

『そりゃああれだよ……好きな奴が困ってたら助けたいと思うだろうが』

 

 

と、告げた。レインヴェルの言う好きというのは友人としてという意味で、そのことをオルガマリーも理解していたつもりだった。だが、歳の近い上に色眼鏡無しで自分を見てくれる人間ということもあってこの日からオルガマリーはレインヴェルの事を友人としてでは無く異性として意識するようになった。

 

 

その後、オルガマリーは時計塔へと進学し、レインヴェルは見聞を広める為に旅行に出た事もあって互いに疎遠になった。再会したのはカルデアで、 周りからの目を気にして自分のことを所長と地位で呼ばせるようになったがオルガマリーのレインヴェルに対する気持ちは薄れてはいなかった。冬木の特異点でカルデアスに吸い込まれそうになって助けてもらった時には昔のようにマリーと呼んでもらえて密かに嬉しかったりする。

 

 

「ーーーとまぁ、こんなところよ。今日では珍しくも無い話だわ」

 

 

羞恥心で熱くなった顔を冷ますために手で扇ぐ。オルガマリーの言葉を聞き、そしてよく吟味して、アルトリアは口を開いた。

 

 

「ーーー私は、召喚されてすぐにレインヴェルからプロポーズされた」

 

 

オルガマリーの動きが止まる。片思いしている相手が別の相手にプロポーズしたと聞かされればそうなるのは仕方ないだろう。

 

 

「その時は互いのことをよく知らないからという理由で断ったが……短かい付き合いでも分かる、あれは良い男だ。強く、優しく、そして曲げない信念を持っている。言動こそあれだが円卓連中に比べればまだ許容出来る」

「ちょっと待って、円卓連中って円卓の騎士達のこと?」

「大半が戦闘狂、ロリコンが一人、NTRが一人、常識人二人、あとマザ(ファザ)コンが一人だな」

「まともな奴が居ないじゃない……!!」

 

 

アーサー王の円卓が混沌としていた事に頭を抱える。戦闘狂は時代背景からすれば仕方がないかもしれないがそのあとの二つがアウトだ。現代でも許されない。

 

 

「もう一度プロポーズされれば私は受け入れるだろうな」

「ーーーそ、う……」

「あぁ……だからお前は第二婦人で我慢しろ」

「ーーーは?」

 

 

レインヴェルがアルトリアと結ばれている姿を思い描いて心を痛めていたオルガマリーだったが、アルトリアの第二婦人という言葉に現実に戻される。

 

 

「む?おかしなことを言ったか?」

「言ったわよ!!何第二婦人って!?え、二人?二人なの?」

「おかしくは無いだろう。世継ぎの残すためには何人か側室を迎えるものでは無いのか?」

「現代じゃ一夫一妻制が普通だから!!」

 

 

アルトリアの言いたいことは分かる。ブリテンに限らず戦乱の世では血筋を絶やさぬように複数の妻を持っているのが普通だったりする。だが現代ではそれは適応されていない。現代知識が与えられているはずなのにそれをまったく無視した発言だった。

 

 

「まぁ、知りたかったのはお前がレインヴェルに惚れているかで、言いたかったのは私は別に気にしないということだ。私は愛してくれるなら順番など気にしないがな。お前はどうだ?」

「ムグゥ……何人も相手がいるってのはあれだけど……私も愛し、愛されたい。レインヴェルに、友人としてでは無く一人の異性としてみてもらいたい」

 

 

それはレインヴェルという男性を想っている二人の嘘偽りの無い本音だった。共通点はレインヴェルのことを想っている事、相違点は複数を許すかどうかという事だ。

 

 

「ーーー第一婦人は私がもらう」

「ーーーそうはさせないわ。私がレインヴェルとくっ付けばそんな制度は破棄してやるわ」

 

 

ーーーここに、正妻戦争の幕が上がる。

 

 

 






あっちでもこっちでも正妻戦争。ただし、男は蚊帳の外の模様。


次からオルレアン突入予定。



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16話


オルタ様降臨のために諭吉を触媒にしたというのに出てこなかった。起訴不可避。

精神が荒れておりますので短めとなっている上に、あるキャラが暴走しております。




 

 

「ーーーはい、あ〜ん♪」

「……あー」

 

 

差し出されたスプーンに乗せられた料理を口の中に入れる。見た目は黒焦げでどこからどう見ても失敗作にしか見えないのだが、味はしっかりとしている。見た目を除けば普通に美味しいと感じる程だ。

 

 

じゃりじゃりと口の中で音を立てる料理を咀嚼しながら、レインヴェルは辺りを見渡す。

 

 

血涙を流しながら歯ぎしりをしているギョロ目、我関せずと壁に寄り掛かっている黒い貴人服の男、レイプ目で無表情な男装美少女とケモミミ美少女、SMプレイで使いそうな仮面を付けた女、あとここには居ないが杖を持った聖人の女性もいる。

 

 

「あ〜ん♪」

 

 

辺りを見渡してから、再び料理を差し出している薄い金髪の女性に目を向ける。彼女の顔はーーーまるで最愛の人と一緒に居るかのように幸せに満ちていた。

 

 

「(どうしてこうなった……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーあ、俺今回の聖杯探索じゃ緊急時以外では動くつもり無いから」

「「ーーーはぁ!?」」

 

 

フランスへのレイシフト直前で、突然そんな事を言い出したレインヴェルに黒野と美冬が驚きの声を上げた。周知の事実であるが、レインヴェルは現在のカルデアでマスターとしては最高戦力なのだ。そんな人物が突然ニート宣言をすれば驚くのも無理は無い。だが、そんな二人とは裏腹に周りは落ち着いた様子だった。

 

 

「いい?現在のカルデアでレインヴェルはマスターとして最高戦力なのは知っているわよね?」

「はい、キチガイですけど強いのは分かっています」

「キチガイなのは悔しいですけど戦闘じゃ負けますね」

「だからだよ。もし、万が一俺が動けない事態になった時に俺を頼らなくてもお前らだけで聖杯探索が出来るようにしないといけないからな。今回はその練習だと思ってくれれば良い」

 

 

なるほど、レインヴェルの言いたい事は理解出来る。もしレインヴェルに任せた状態で聖杯探索を続けてレインヴェルが瀕死になったりした場合、聖杯探索が行えなくなってしまう。それを恐れたから今回は二人に任せる事にしたのだろう。

 

 

「だったらそうと言ってくださいよ」

「このキチガイめ」

「悪い悪い、経験は積める時に積んどかないとな。あと美冬ちゃん、キチガイ連呼しすぎ」

 

 

突然の発言で驚いたものの、その理由は至極真っ当なものだったので納得し、レイシフトを行う。

 

 

着いた先に広がるのは草原、現代社会では味わえない様な排気ガスに汚染されていない新鮮な空気が黒野と美冬、サーヴァント達の頬を撫でる。

 

 

今回のレイシフトはフランスのオルレアン。時代としては1431年、ジャンヌダルクが神の啓示を聞き立ち上がって行った百年戦争の真っ只中である。百年戦争と呼ばれているものの百年間継続して戦争をしていた訳ではない。この時代の戦争は現代に比べれば比較的穏やかなもので、季節や国の事情で休止されることが良くあった。史実通りならば今は休止時期になるはずだ。

 

 

「ーーーよし、レイシフト成功。前回みたいな感じじゃ無くて本当良かったよ」

「ーーー理論は理解していたつもりでしたけど本当に転移するんですね……」

「ーーーあれ?レインヴェルは?」

 

 

最初に気が付いたのはマシュだった。そして二人も辺りを見渡すがレインヴェルの姿が見えない。あのキチガイの事だからどこかに隠れているのではないかと探すが、それでも見つからない。

 

 

そうしてーーー彼らはレインヴェルの事を探すのを止めて、カルデアとの連絡を取るために霊脈を探す事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、レインヴェルはというとーーー

 

 

「ーーー」

「ーーー」

 

 

湯気が立ち篭る密室で、一人の女性と対峙していた。水に濡れた陶器の様な白い肌に色素が薄いものの綺麗な金髪の女性が()()()レインヴェルの前にいる。

 

 

「(やべぇ……ロマ殺す)」

 

 

レインヴェルがレイシフトした先はどこかの浴室だったらしい。目の前にいる全裸の女性がその証拠だ。黒野や美冬の気配が感じられないことからレインヴェルだけがここに転移されたようだ。ロマンへの殺意を募らせながらレインヴェルは女性を視界に入れないように振り返る。

 

 

「ごめん!!ほんっとごめん!!すぐに出ていきますかぶらぁ!?」

 

 

謝りの言葉を言ってすぐに浴室から出て行こうとするレインヴェルだったが後ろからタックルを食らって床に顔を打ちつける。誰がタックルして来たかなど分かりきっている。全裸の女性だ。視界に入れていたら避けれていたのだが流石に死角からのタックルは避けられなかったようだ。

 

 

「いっつ……」

「ーーーねぇ貴方、名前はなんて言うの?」

 

 

鼻を摩りながら顔を上げたレインヴェルに女性が問うた。初対面で、しかも裸を見てしまったというのにどこか熱っぽい声色なのは気のせいだろうか。

 

 

「ーーーレインヴェル・イザヨイ」

「レインヴェル・イザヨイ……ならレインね。ねぇレイン……」

 

 

倒れたレインヴェルの上を這うように登る。そのせいで女性の豊満な胸がレインヴェルの背中に当たってしまっているが気にした様子を見せないからわざとなのだろう。

 

 

そして女性はレインヴェルの耳元に顔を近づけ、

 

 

「一目惚れってやつなのかしら?貴方が好き、愛しているわ」

「ーーーなんでや!!」

 

 

愛を囁き、レインヴェルが突っ込んだ。

 

 

 





五章は素晴らしかった。発明キチ(エジソン)発電キチ(ニコラ)の共演とか胸熱すぎる。

これにレインヴェルも入れてトリプルキチィを実現させなければ(使命感)



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17話


ジャンヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!(挨拶)

今回の邪ンヌは諦めます。その代わり復刻したなら何があっても呼び出します。




 

 

「ーーーシット」

 

 

朝、起きて一番に口から出たのは悪態。窓から差し込む朝日に柔らかな大きなサイズのベッド、そして心地良い温もりと普通ならば充実したそれだったが目元に薄っすらと隈を作っているレインヴェルからすればどれもが不快でしかなかった。

 

 

レインヴェルはどこでも寝れる。その気になれば銃撃戦が行われているIKUSABAのど真ん中でも敵意が近くに来れば目を覚ますものの熟睡出来る。そんなレインヴェルが隈を作るーーー眠れなかった理由は彼の隣で幸せそうに眠っている女性。

 

 

レインヴェルは幼い頃に母と眠って以来、異性と同衾した経験が無い。同性なら遠慮なしで眠った事があったがさすがに女性が隣で眠っていて寝られる程にレインヴェルは図太く無かった。しかもまだ幾らかの警戒を見せてくれるならまだしも、彼女は完全に無防備だった。レインヴェルが隣にいるというのに薄い上着を羽織った状態で眠っていることからそれが分かる。女性が朝日が眩しいのか身じろいだ事で白い脚が動き、上着の裾が捲れ上がって下着が見えそうになる。目に毒だと思いながらレインヴェルはそれから目を逸らした。

 

 

そして女性が目を覚ます。間抜けな表情で目を擦りながら身体を起こし、レインヴェルの事を視界に入れると破顔させて微笑んだ。

 

 

「ーーーおはよう、レイン」

「ーーーおはよ、オルタ」

 

 

無防備過ぎるだろうとレインヴェルは考えながら、女性ーーージャンヌダルク・オルタに挨拶を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レインヴェルが転移した先には野良サーヴァントーーーいや、冬木の特異点で大聖杯によって汚染されたようなサーヴァントと似たようなサーヴァントが複数存在していた。黒い靄の様なものは纏っていないものの、彼らはこの特異点の聖杯によって召喚されたサーヴァントだと簡単に予想出来る。そして召喚されたサーヴァントの真名も、オルタが自慢気に語ってくれたお陰で簡単に知る事ができた。

 

 

セイバーのサーヴァント、シュヴァリエ・デオン

 

アーチャーのサーヴァント、アタランテ

 

ランサーのサーヴァント、ヴラド三世

 

ライダーのサーヴァント、マルタ

 

アサシンのサーヴァント、カーミラ

 

キャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェ

 

そしてバーサーカーのクラスに挿げ替わったエクストラクラスルーラーのサーヴァントのジャンヌダルク・オルタ

 

 

少し歴史や宗教に興味を持っていれば名前が出てくるビッグネーム達の集まりである。しかもそれだけでは無く、呼び出したジャンヌダルク・オルタによって全員にバーサーカーのクラススキルである【狂化】が付与されている。黒野と美冬の二人に任せるには荷が重すぎたかと考えるがそれをすぐに捨てる。どちらにしても、いずれは強敵と戦う事になるのだ。それが早いか遅いかの違いでしかないのなら、早い内に経験させておいた方が良いと結論づける。

 

 

昨日と同じ様に血涙を流すジル・ド・レェを視界に入れながら黒焦げのジャンヌダルク・オルタお手製の料理を食べさせてもらう。見た目こそ悪い物のジャンヌダルク・オルタの料理の味は美味だ。どう料理すればこうなるのだろうと考察しながらジャリジャリと料理を咀嚼する。

 

 

レインヴェルの現在の立ち位置は恐ろしく微妙である。ジャンヌダルク・オルタがレインヴェルの事を気に入ったからここに居られるのであって、彼女が機嫌を損ねたら忽ち四面楚歌に陥る。幸いな事にジル・ド・レェを除いたサーヴァントたちはレインヴェルに無関心な様子で干渉はしてこない。ジル・ド・レェだけはジャンヌダルク・オルタに好かれているレインヴェルの事を血涙を流しながら睨んでいるがそれでも彼女に嫌われたく無いのか睨まれるだけで終わっている。

 

 

言葉にしてみればそれだけだと思うかもしれないがそれが案外怖かったりする。何せジャンヌダルク・オルタの視界に入らずにレインヴェルの視界に入って血涙を流しているのだ。お前本当にキャスターかと突っ込みを入れたくなる。

 

 

「どうしたのかしら?レイン」

「ん?……ああ、なんでも無い」

 

 

食後の運動ということでジャンヌダルク・オルタに連れられてレインヴェルは彼女たちが拠点にしている城の中を歩き回っていた。ジャンヌダルク・オルタはレインヴェルの右側に立ち、彼の指に自分の指を絡めて握っている。それだけ、たったそれだけのことで、ジャンヌダルク・オルタは実に幸せそうに笑っている。だが、それもジャンヌダルクという英雄の人生を考えれば当たり前だと感じられる。

 

 

ジャンヌダルクは特別な人間ではなかった。フランスの農家に生まれた村娘で、家族と共に農業に従事しながら暮らしていた。このまま穏やかに成長していき、そして村の男と結ばれて家庭を持つと誰もが思っていた。だが、彼女は神のお告げを聞き、オルレアンを奪還するために立ち上がった。そしてオルレアンをイングランド軍から奪還する事に成功した。それだけならば良くある英雄譚で終わるのだろうが彼女の悲劇はここからであるーーー教会から、魔女だと糾弾されて異端者認定されたのだ。敬虔な信者であった彼女が魔女であるはずが無いと民は思っていたが当時の教会の権力は強大であった。そして最悪なのはーーー魔女だと糾弾した教会ですら、彼女のことを魔女では無いと理解していた事である。彼女はただフランスという国にとって不要になったから処刑されたのだ。それもただ殺すだけでは兵の士気に関わるからと、異端者という烙印を押し付けて。

 

 

初めて彼女と出会った時に目的はフランスに対する復讐だと聞いているが、レインヴェルと過ごすようになってからどうにもそれが薄れているように感じられる。レインヴェルからすればどちらを選んだとしてもジャンヌダルク・オルタの意思を尊重するだけだ。彼女の復讐は正当なものであり、それをするのもしないのも彼女が決めるべき事だからだ。

 

 

「オルタさんオルタさん、これ外してくれませんかねぇ……」

 

 

幸せそうに微笑むジャンヌダルク・オルタに不満げな顔をしながらレインヴェルが指差したのは自身の首に付けられている首輪だった。その首輪から伸びる鎖はしっかりとジャンヌダルク・オルタの空いた手に握られている。

 

 

「あら?苦しかったかしら?」

「そういうわけじゃ無いけど首輪なんてつけた事ないから違和感が凄い」

「そうですジャンヌ!!そんな男に首輪を付けるなんて私が許しません!!付けるのならば私めに!!さぁさぁさぁ!!」

 

 

音も無く天井から落ちてきてレインヴェルから首輪を奪い取ろうとする血走ったギョロ目を見てしまい、思わず唾をギョロ目目掛けて吐き付ける。唾と侮る事なかれ、レインヴェルの吐いた唾は弾丸の様な速度でギョロ目に突き刺さり、目玉をやられたギョロ目がギョロ目を押さえながらのたうちまわる。ジャンヌダルク・オルタは何処からか取り出した旗が付いた槍をバットの様にフルスイング。結果ギョロ目は城の窓から飛び出してたまたま通り掛かったワイバーンに咥えられて何処かに行ってしまった。

 

 

「まったくジルったら、人の恋路を邪魔するとドラゴンに踏み潰されるって知らないのかしら」

「ソーデスネ……」

 

 

本来なら敵であるサーヴァントに囲まれるという状況に加えてジャンヌダルク・オルタに擦り寄られているという現状で疲れているレインヴェルは本当だったら否定しなければいけない事を肯定してしまった。そんな彼を批判することは酷としか言えないだろう。

 

 

レインヴェルは楽しそうに笑いながら鎖を引っ張るジャンヌダルク・オルタについて行くしかなかった。

 

 

 

 





邪ンヌといちゃいちゃ、ただしレインヴェルの精神はガリガリと削られている模様。

黒野んと美冬ちゃんはジャンヌと合流してる辺りです。



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18話


ジャンヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!(挨拶)

遊戯王式錬金術により樋口を錬成することに成功したので魔法のカードを購入して二十連ガチャりました。


爆死しました。


アッケナイモノヨ……




 

 

「すぅ……すぅ……」

「無防備に寝ちゃって……俺じゃなかったら絶対に薄い本展開待った無しだぞ」

 

 

ベッドの上で無防備に寝ているジャンヌダルク・オルタの顔にかかっている前髪を退かしながらレインヴェルは呆れた様に呟いた。どうも彼女は初対面な上に出会って間もないレインヴェルの事を心底信用している様だった。

 

 

ジャンヌダルク・オルタはレインヴェルの事を愛していると言いながらも性的な要求をしてこなかった。隣にいて、手を繋ぎ、料理を作って食べさせて、過剰な所までいくと一緒に入浴しようとしたりしていたが、それだけで十分だという様にそれから先を求めない。レインヴェルにも三大欲求の一つである性欲はある。ここまでしながら求めてこないのは生殺しの様に感じていたがそれでも無理矢理する様な趣味は無いので必死になって性欲を抑えていた。

 

 

そして気になる事が一つある。ジャンヌダルク・オルタと会話をしたのだが話すのは戦争の出来事ばかり、好奇心で彼女の生まれ故郷について聞いたりしたのだがキョトンとされてそんな事よりもと話を戦争の出来事に戻される事があった。

 

 

それを見てレインヴェルの中である考えが浮かび上がってくる。だがそれを検証することは出来ない。だからあくまで考えの一つとして頭の中に留めておく。

 

 

「ーーーッチ、治ったと思ってたのによ」

 

 

身体に感じる鈍痛を舌打ちをすることで誤魔化す。実はレインヴェルはエミヤとの戦いでの怪我がまだ完全には癒えていなかった。エミヤから受けた傷は跡こそ残るが殆ど癒えている。治っていないのはエミヤと戦うために限界を超えた酷使をした全身だった。限界を超えた酷使によりレインヴェルはボロボロ、回復には努めたものの全快したとまではいかない。時折走る鈍痛がその証拠だった。レインヴェルが今回のレイシフトは極力黒野と美冬に任せると言ったのは経験を積ませる為というのもあるがこれが原因だったりする。

 

 

ジャンヌダルク・オルタが熟睡している事を確認し、物音を立てずにベッドから降りて部屋を抜け出す。向かった先はジャンヌダルク・オルタの寝室の向かいにある部屋、そこには大きなベランダがあり、レインヴェルはそこに出てコートからタバコの様な物を取り出して火をつけた。

 

 

「すぅーーーふぁぁぁぁ……あぁ効くなぁ」

 

 

生じる煙を深く吸い込む度に身体から痛みが抜けていくのを感じる。実はレインヴェルが吸っているのはタバコでは無い。これの正体は俗に言う違法薬物、レインヴェルはこれの事を阿片擬きと呼んでいる。これはレインヴェルが独自に調合した薬物をタバコの形にしたもので、彼は主に痛み止めとして服用している。阿片擬きと呼んでいるがこれ自体には中毒性が無く、阿片程に強い幸福感を得られるわけでは無い。五感の一つである痛覚を鈍らせる程度の効果だ。ただ咥えているだけでも効果はあるがこうして火をつけて煙を吸引した方が一番効く。問題があるとするならこれはレインヴェルが自分の為だけに作ったものでレインヴェルには中毒性が無いが他の人物にはどんな影響があるのか分からないということ。だからレインヴェルはこうして一人になれる場所で阿片擬きを吸引していた。

 

 

一吸い、二吸いと煙を吸うたびに痛みが和らぐ。そして全体の五分の一程が灰になる頃にはレインヴェルの身体から痛みは感じられなくなってきた。無論本当に痛みが無くなった訳ではなくただ誤魔化しているだけだ。しばらくすれば効果は薄れるだろうがその頃には痛みが治まっているだろう。

 

 

その間にレインヴェルは思考を巡らす。ジャンヌダルク・オルタが率いる戦力はバーサーカーのクラススキルである【狂化】が付与されたサーヴァント全七騎、それと大量のワイバーンと戦場から調達してきたであろうゾンビ兵。サーヴァントは各個撃破すれば黒野と美冬の二人にも勝機がある。ゾンビ兵は論外で、ワイバーンは幻想種だが下級なのでこれも問題無いだろうーーー問題があるとするなら、ジャンヌダルク・オルタがポチと呼んだ巨大な龍だった。

 

 

邪竜ファヴニール。ニーベルンゲンの歌に謳われる万夫不当の英雄であるジークフリートによって打倒されたとされている邪竜、まさしく怪物としか呼べない存在がここにいたのだ。ジャンヌダルク・オルタはポチという可愛らしい名称で呼んでいたがあれはそんなに可愛い存在では無い。一目見て驚き、ジャンヌダルク・オルタに乗るかどうか誘われて迷わずに乗ってフライトを楽しんだが冷静に考えれば不味いのだ。

 

 

ファヴニールはジークフリートに倒されるまで数多くの英雄を打ち倒してきた。そしてジークフリートによって倒され、ファヴニールの血を浴びたジークフリートは不死身の存在になったとされている。だが、気にするのはそこでは無い。ジークフリートによって倒されたということが問題なのだ。ファヴニールが倒してきた英雄の中にはジークフリートよりも強い英雄がいただろう。それなのにジークフリートが倒した。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という伝承による概念が付与されている可能性がある。

 

 

密かにジャンヌダルク・オルタの目を盗んで魔術礼装であるナイフでファヴニールの鱗を斬ろうとしたのだが傷一つ付かなかった。エミヤの贋作を容易く切り裂いたナイフで、だ。

 

 

最悪である。カルデアのサーヴァントは決して弱い訳では無い。アルトリアを始めとした強者たちだと信じているがそれではファヴニールを倒すことは出来ない。ファヴニールを倒す為にはジークフリートを呼ぶしか無い。だがそれを知っているのは自分だけ、カルデアと連絡を取らなければならないのだがそうしたら間違いなく敵だとバレ、ここにいるサーヴァント全員から襲われることは確実である。

 

 

それにーーー今のレインヴェルにはここを離れるつもりは無かった。その理由は言うまでもなくジャンヌダルク・オルタである。オルレアン救済の聖処女などと言われているが彼女を見ているとそんな物はあてにはならなかった。彼女はただ求めているだけなのだ。自分を愛してくれる存在を、そばに居てくれる存在を。

 

 

聖処女などではなく、普通の少女としての側面を知ってしまったが故にレインヴェルの決心は鈍っていた。そして吸っていた阿片擬きが全て灰になった時にーーー

 

 

「ーーー失礼、御時間よろしいですかな?」

 

 

暗がりから、ワイバーンに咥えられて何処かに連れられて行ったはずのジル・ド・レェが現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー少女は夢を見ていた。

 

 

それは彼女であって彼女では無い存在が見た夢。されども彼女は彼女である、故に彼女もまたその夢を見ることができた。

 

 

上に広がるのは疎らなサイズの雲と優しく輝く太陽。下に広がるのは黄金色の穂先を垂らしている小麦の畑。

 

 

畑には三人の人影があった。二人はまだ十にもなっていないであろう幼い子供。兄弟なのかよく似た顔付きで、()()()の髪を揺らしながら一生懸命に刈られた小麦を集めている。そして一人は茶髪の髪の男性、鎌を片手に無駄に鮮麗された無駄の無いダイナミックな動きでダイナミックに小麦を刈っている。

 

 

「カットカットカットォォォォ!!!!」

「うんしょ、うんしょ」

「よいしょ、よいしょ」

 

 

そして、そんな三人に近寄る人物が一人いた。質素な麻の服に身を包み、金髪を三つ編みで纏めた女性ーーーそれは夢を見ている彼女(じぶん)だった。彼女(じぶん)は鼻歌を歌いながら道を歩き、小麦畑で働いている三人を見つけると顔を明るくして、手を振りながら三人を呼ぶ。

 

 

「みんなー御飯持ってきたしたよー」

「ん?もうそんな時間か……じゃあ休憩だな」

「「はーい!!」」

 

 

そして合流した四人は近くにあった木陰に入り、彼女(じぶん)が持ってきた昼食を食べる。子供達はお腹ぎ膨れたからか、眠ってしまった。茶髪の子は彼女(じぶん)の膝に、金髪の子は男性の膝に横になって眠っている。

 

 

「今年もよく稔ったな」

「えぇ、これなら少し余裕が持てそうですね……ところで、■■■」

 

 

そう言って彼女(じぶん)は少し顔を羞恥で赤くしながら男性に寄り添う。

 

 

「そろそろ……新しい家族が欲しいんです」

「クハハッ、俺は構わないよ。家族は幾らいても困らないしな」

 

 

男性は彼女(じぶん)の言葉の影に隠してある真意に気が付いたのか笑いながら了解してくれた。そして彼女(じぶん)の肩を抱き寄せて顔を近づける。その行動で何を求めているのか分かった彼女(じぶん)は高鳴る心臓の鼓動を感じながら目を閉じ、同じ様に顔を近づけーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーハッ!?」

 

 

そこで目を覚ました。視界に入るのは弱々しく燃える薪、その周りにはカルデアという組織からやって来た少年少女達が眠っている。彼らを見て自分が火の番していたことを思い出しーーー

 

 

「〜〜〜ッ!!」

 

 

先程まで見ていた夢の内容に赤面する。夢に出てきたのは間違いなく自分だった。そして夢の中の自分は見た事の無い男性と幸せそうな家庭を築いていた。

 

 

少なくとも記憶の中では、あの男性を見たことは無いはずだ。だというのにーーー

 

 

「……」

 

 

触れるか触れないかの瀬戸際で目を覚まし、もし起きなかったら触れ合っていたであろう唇をなぞり、また赤面する。相手は見たことも無い相手、知らない相手。だというのにーーー彼の顔を思い出すと、心臓の鼓動がいつもよりも早くなるのが感じられた。

 

 

 





ファヴニール超強化。なんとすまないさん以外には傷を付けられないという概念が付与されています。で無いとドラゴンスレイヤーの小次郎が無双するから是非も無いね!!


彼女のまた夢……そして最後に赤面していたのは一体何ダルクなんだ……



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19話


ジャンヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!(挨拶)

ケータイが速度制限に引っかかってしまった……イベント明日までなのに……


 

 

「ジル・ド・レェか……今まで何してたんだ?ワイバーンに咥えられてから姿見えなかったけど」

「彼らの巣まで連れて行かれて子ワイバーンの餌にされかけました。我が盟友プレラーティから与えられたこの魔書が無ければ今頃私は彼らの餌になっていたでしょう」

 

 

そう言って表紙が人の皮で出来た一冊の本を取り出す。確かによく見ればジル・ド・レェの服はボロボロで、何かの液体が滴り落ちていた。

 

 

「で、何用かな?俺のことが嫌いなお前が俺に話しかけるだなんて珍しい」

「おや、流石に嫌っていることは分かっていましたか?」

「あれだけ憎悪の目で見られていて気付かないとか周囲に対して無関心か行き過ぎた鈍感野郎くらいだ」

 

 

ヘラヘラと笑い軽口を叩きながら、レインヴェルは魔術回路を密かに起動させる。

 

 

ジル・ド・レェの表情は一見すれば笑顔で、とても交友的に見える。だがレインヴェルはその目の奥にある隠されもしていない敵意に気づいていた。

 

 

「で、何用かでしたね。簡単なことですーーー貴方には、ここで消えていただきたい」

「ーーー強化(strong)

 

 

上から落ちてきた何かを強化した脚で蹴り砕く。手応えとしてはゴムの塊を蹴った様なものを味わい、砕いたそれを認識する。

 

 

それは冒涜的としか言えない存在だった。見た目はヒトデに似通った姿であるがサイズが小柄な人間程はある。蹴り砕かれたそれはビチャビチャと自分の血溜まりの中でもがきーーーそれの血肉から、新たなそれが生まれた。

 

 

「うへっ、気色悪い。何だよこれ、俺クトゥルフTRPGなんて参加した覚えは無いぞ」

「ふふふ、いかがですかな?この魔書により私は悪魔の軍勢を従える術を得たのです」

 

 

ビチャリビチャリと精神を汚す様な音を立て、上から下から新しい怪魔が現れる。ここでレインヴェルはどうしてジル・ド・レェがキャスターのクラスで召喚されたのか理解できた。

 

 

キャスターのクラスで召喚されるサーヴァントはそのクラス名の通りに魔術師である。ジル・ド・レェ本人は魔術師ではなかったものの悪魔召喚を目論んだ人物としての逸話が残されている。その逸話からジル・ド・レェは召喚魔術師としてキャスターのクラスで呼び出されたのだろう。もっとも、これを見る限りはキャスターではなくサモナーのクラスの方が相応しそうだが。

 

 

更にさっきの光景からこの怪魔たちは例え殺したとしてもその血肉を媒体にして増殖・再生を繰り返す様だ。そうなら定石としては狙うのは魔力切れなのだがさっきも言った通りにジル・ド・レェは魔術師では無い、つまり魔術回路を持たないはずだ。なのに召喚魔術が使えるということはーーージル・ド・レェが持っているあの魔導書、あれがジル・ド・レェの代わりに魔術を使っていると見て間違い無いだろう。おそらくあの魔導書そのものが大容量の魔力炉を備えてそれ単体で術を行使できる。そしてジル・ド・レェは呼び出した怪魔を使役しているだけ。それならば魔術師でも無いジル・ド・レェが大量の怪魔を呼び出して平然としている説明がつく。

 

 

四方は怪魔に囲まれ、上に目を向ければ矢を番えているアタランテの姿が見える。その鏃は真っ直ぐに此方を向いている。この状況を打破しようと思えば怪魔を使役しているジル・ド・レェ。彼を討つ、もしくはあの魔導書を破壊することが出来れば怪魔は消滅するはずだ。しかしジル・ド・レェとの間には怪魔によって肉の壁が作られている。それに妙な動きをすれば上にいるアタランテが矢を放つだろう。

 

 

ギリシャ神話に登場する女狩人のアタランテ。カリュドンの猪狩りやアルゴナイタイに参加するなどの数多くの冒険を成し遂げた彼女の一射は間違いなく無く自分を貫くとレインヴェルは確信していた。

 

 

そして何よりも致命的なのはーーーコートをジャンヌダルク・オルタが眠っている部屋に置き忘れたことだ。一応礼装であるナイフと爆発物の幾らかはズボンの方に入れてある。だが銃は対物理・魔術処理を行っているあのコートの方にある。これによって防御力はガタ落ち、その上に遠距離を攻撃する手段も無い……いや、無いわけでは無いがそれをしようと思えば時間がかかり過ぎる。今ここでそんなことをすれば怪魔に押し潰されるかアタランテの矢の餌食になるだろう。

 

 

思考を高速化させて幾つもの手段を考え、脳内で試行し、唯一成功率の高そうな方法が思い付いた。腹筋に力を入れ、予め飲み込んでいたある物を胃袋から押し上げる。

 

 

「俺が邪魔な理由は……オルタしか無いか」

「その通りです!!彼女は信じていた神に裏切られて正当な復讐に燃えていた!!しかし貴方が現れてから、彼女の中から復讐心が消えかけている!!ジャンヌダルクはフランスに対して復讐しなければならない!!故にレインヴェル・イザヨイ、貴方はこの怪魔に埋もれて生き絶えるがいいーーー!!」

 

 

ジル・ド・レェの合図に従って怪魔がレインヴェルに飛びかかる。数の暴力とはよく言ったものか、ジル・ド・レェが呼び出した怪魔は優に百を超えている。怪魔の飛びかかりは躱せる自信はあるが一、二度避けた瞬間にアタランテの矢が放たれ、動きが鈍った隙に怪魔に押し潰される。故に、レインヴェルは隠し札を切る。

 

 

ジル・ド・レェが長話をしている間に胃袋から押し上げた物を口から吐き出す。吐き出したのは五百円硬貨程のサイズの宝石。

 

 

告げる(set)ーーー」

 

 

詠唱を行うのと平行してレインヴェルは目を瞑った。それは諦めたからでは無く、宝石の被害から逃れる為に。詠唱が紡がれると宝石から太陽の様に強い光が放たれる。今の時刻は夜でこの場にあるのは僅かな月明かりのみ、そんなところで強い光を放てばどうなるか?

 

 

「目がッ!!目がァァァァァ!!!!」

 

 

当然の如く目がくらむ事になる。怪魔の肉壁があったとはいえどこちらを観察していたジル・ド・レェは光を直視してギョロ目を押さえながらのたうち回っている。これと同時にアタランテも腕を使って光を直視しない様に目を庇っている。ジル・ド・レェが行動不能になり、アタランテの目も外れた。この隙に行うのはーーー逃走だ。迷うこと無くベランダの手摺に足を置いて飛び降りる。今の隙でジル・ド・レェを討つことは出来なくは無いが、そうした場合には間違いなく無く光が止んで視界の回復したアタランテに射抜かれる事になる。

 

 

ベランダから飛び降りたところで下にいるのは犇めき合う大量の怪魔。その中目掛けてベランダから飛び降りるのと同時に安全レバーを外していた手榴弾と宝石を二つずつ残して全て投げ込み、顔を腕で庇う。怪魔の中に落ちるのと同時に手榴弾と宝石が爆発する、が爆発音は一切しない。予め消音の魔術の宝石を一つ投げ込んでいたからだ。こうしなければ爆発音に気づいた新手のサーヴァントがやってくる。

 

 

そして落下しながら手榴弾と宝石の爆風を一身に浴びる。熱いと感じる物の痛みは感じない。どうやら阿片擬きの効果は続いていたらしい。そして爆風で落下速度を緩めて着地するのと同時にベランダの光が止む。これでアタランテの目は復活したが構う事と無く爆風によって怪魔のいなくなった地面を蹴る。

 

 

目指す先は目の前に広がっている森。アタランテがいる中で森を選ぶのは悪手にしか思えないのだがそれは理性のあるアタランテの場合の話。狂化が付与された事で理性がほとんど無いアタランテならどうにか巻けるだろうと考えていたレインヴェルだったがーーー背中に走る寒気を感じて反射的に身をよじらせる。そして放たれた矢によって脇腹の一部をごっそりと持って行かれた。

 

 

阿片擬きのお陰で痛みこそは無いが致命傷なのは変わりは無い。肉を締めて止血を行いながら、残して置いた宝石の一つを飲み込んで回復魔術を施行する。本当なら静止した状態でしたかったが今そんなことをすればアタランテの矢の餌食になってしまう。

 

 

幸いだったのはアタランテの武器が弓矢だったことだ。弓矢というのは銃に比べれば音を立てない武器であるが矢を番える、引く、放つの動作をしなければ使えない。達人級なら瞬く間に連射することが出来るがそれでも銃の連射速度に比べれば圧倒的に遅いとしか言えない。

 

 

レインヴェルが受けた矢は初めの一度だけ、その後の矢はアタランテの呼吸を読み切る事で躱す。それでも皮一枚で当てるのは流石はアタランテというべきか。頬を、腕を、足を擦りながら過ぎ去っていく矢を見る度にレインヴェルの肝が冷えた。

 

 

それでも、何とかレインヴェルは森にへと入る事が出来た。そして気配を森の中に溶け込ませる。消すのでは無く、元々森の中にいた生物の気配に混じらせる。二流の追跡者なら気配を消すことで対処出来るが一流にもなると消した違和感を感じとって追跡されるのだ。アタランテは狩人、獲物を追うことのプロフェッショナル。故に気配を溶け込ませ、レインヴェルは森の奥にへと姿を消した。

 

 

 





ギョロ目がレインヴェルのことを危険視したせいでレインヴェルは城から逃走しました。これにより邪ンヌがエライことになります。

そして今回の逃走劇でしたがアタランテが正気なら最初の一射でレインヴェルは絶命していました。やっぱりバーサークしていない方が強いね!!



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20話


ジャンヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!(挨拶)

アルトリアとギル様のモーションがカッコよかった(小並感)

あと気がついたお気に入りが923件も……コレは1000超えたら番外編を書くしか無いな!!

番外編はレインヴェルin Apocrypha……それとR18で書こうかな?




 

 

森の奥に逃げ込み、開けた場所にあった岩に背中を預ける。アタランテが追跡していることは分かりきっている。極力足跡が残らぬ様にここまで逃げたものの、脇腹から止血したとはいえ血が流れている。それを目印に着けられるだろう。そうなると森の中にいては視界が悪いのでこちらが不利なのは明白。故に一見休むには向かなさそうなここで手当てを行う事にした。

 

 

シャツを脱いで細く破り、簡易の包帯として脇腹に巻き付けて治癒の魔術を使う。脇腹の怪我は肉こそ持って行かれているが内臓には損傷は無い、この程度ならしばらく休んでいれば動ける様になるだろう。

 

 

『ーーーあーもしもし!!レインヴェル聞こえるかい!?』

 

 

阿片擬きを吸い痛みを誤魔化しながらこれからアタランテをどうするか考えていたレインヴェルの目の前にモニターが現れる。映ったのは焦った表情を浮かべているロマンだった。

 

 

「おうロマ、お前帰ったら殺すから」

『のっけから殺人宣告!?って、ちょ、所ちょーーー』

『ーーーレインヴェル!!大丈夫!?』

「生きてるよ〜現在脇腹吹っ飛んでリアルで片腹痛い事になってるけど」

『黒野と美冬たちからレインヴェルの姿が見えないって連絡があってサーチかけたら周りにサーヴァントの反応だらけだったから心配したわよ!!』

「それって俺悪く無いよね?転移ミスったロマが悪いよね?」

『兎も角無事で良かったわ……現状を教えて貰えるかしら?』

 

 

モニターに映るロマンを押しのけて現れたのはオルガマリー。彼女はレインヴェルの周囲にカルデアで召喚されたサーヴァント以外の反応があったから心配していた様だ。それを見てレインヴェルは思わず笑ってしまう。それは一種の安堵からくる笑いだった。

 

 

「えっとだな……フランスを滅ぼそうとしているジャンヌダルクに気に入られて軟禁されてた」

『ーーーはぁ?』

「あと敵方のサーヴァントはセイバーがデオン・シュヴァリエ、アーチャーがアタランテ、ランサーがヴラド三世、ライダーがマルタ、アサシンがカーミラ、キャスターがジル・ド・レェ。バーサーカーの代わりにルーラーってクラスでジャンヌダルクが召喚されてる。しかも全員が狂化のスキルが付与されてて擬似的にバーサークしてる」

『ちよーーー』

「それでジル・ド・レェにジャンヌダルクに気に入られたことが気にくわないって襲われて逃げ出したは良いけどアタランテに追われてるってのが現状だな」

『ーーーごめん、理解が追いつかない』

「クハッ、この窮地を切り抜けられたらまた説明してやるよ」

 

 

モニターの向こうで頭を抱えているオルガマリーの姿を見て笑いながらレインヴェルは立ち上がった。脇腹の傷は表面を塞いだので出血死の心配は無くなった。残っているのは追ってきているであろうアタランテのことだ。

 

 

アタランテは狩人、獲物を探し出して仕留める事に特化している。狂化が付与されているので多少の判断は甘くはなっているだろうが狩人として身体に染み込んだ事は忘れてはいないだろう。望ましいのはここでアタランテを倒して追ってを無くすことだ。そうすれば新たにサーヴァントが召喚されない限りは追っ手の心配をしなくて済む。

 

 

「そうだ、ターミナルの設置は完了しているか?」

『ーーーえぇ、夕方にマシュがしたわ。その時にジャンヌダルクと行動していると言っていたけど……』

「ジャンヌダルクと?」

 

 

夕方の時間帯だとジャンヌダルクはレインヴェルに引っ付いていた。だとするなら黒野たちと行動しているのは聖人としての側面で召喚されたジャンヌダルクの方だろう。

 

 

そこまで考えてレインヴェルはその思考を切って捨てた。ここで優先するのはジャンヌダルクの事ではなく、ターミナルが既に設置されているということ。ターミナルが設置されているのならカルデアとの通信に物資の転移、そして()()()()()()()()()()()が可能になっているはずだ。

 

 

「アルトリアは?」

『レインヴェルがサーヴァントに囲まれているって知って飛び出しそうになってたけど何とか堪えていたわ……その代わりにロマンのお菓子が被害を被ったけど』

「コラテラルダメージだな!!うん!!これは必要なことだ!!あ、アルトリアにロマの部屋の上から二段目の棚の奥にお菓子が隠してあるって言っといて!!」

 

 

 

モニターからロマンの悲鳴が聞こえてきた。ざまぁみろと笑いながらこの状況を打破するための作戦をオルガマリーに伝える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月夜に照らされた森を駈ける一人の少女の姿があった。初めて見るはずの森で夜の暗がりで視界が悪いはずなのにまるで自分の庭にいるかの如く駈ける彼女の頭と腰には人のものでは無い獣の耳と尻尾が生えている。

 

 

アタランテ、ギリシャ神話に名を残す女狩人。与えられたスキルである【アルカディア越え】はどの様なフィールドだろうが彼女の歩を妨げさせない。視界が悪い森だというのに平時と変わらぬ速度で駈けることを許しているのはこのスキルの恩恵があったからだ。

 

 

彼女は今ジル・ド・レェの名によりレインヴェルを追いかけている。追うこと自体には然程苦労はしない。足跡を残さぬ様に逃げているが折れた小枝が、地面に僅かに残されているレインヴェルの血が、レインヴェルの逃げた方向をアタランテに教えていた。

 

 

そしてアタランテはレインヴェルを見つける。開けた場所にある岩に背中を預けて、レインヴェルは息を荒くしながら目を閉じていた。上半身が裸で、腹に包帯のようなものを巻き付けていることから治療をして体力を回復されているのだと予想が出来る。

 

 

アタランテは狩人だ、狩人は手負いの獣が恐ろしいことを知っている。サーヴァントだからと油断して目の前に姿を現せばどの様な抵抗をされるのか分からない。それがジル・ド・レェと自分というサーヴァント二騎から脇腹の怪我だけで逃げ出したレインヴェルに対するアタランテの評価だった。

 

 

アタランテは弓に矢を番える。今アタランテがいる場所からレインヴェルがいる場所まで距離にして1kmは離れている。そしてアタランテは弓を引き絞りーーー矢を放った。樹々の間を縫う様にして矢は一直線に飛んでいく。狙いはレインヴェルの頭部、そして避けられた場合に備えアタランテは二本目の矢を番える。

 

 

だが、アタランテが矢を放った瞬間、矢の風切羽が風を切る僅かな音をレインヴェルは逃さなかった。そして迷う事なく手に刻まれている三画の令呪に意識を集中させる。

 

 

「令呪を持って命ずるーーーあそこだ、飛べ、アルトリア」

 

 

レインヴェルとアタランテの視線がぶつかり、レインヴェルの手から一画令呪が消滅する。異常な魔力の動きを感知してアタランテは顔を上げた。

 

 

そこにはーーー月を背後に黒い剣を振り上げている黒のドレスと鎧を纏った女性の姿があった。

 

 

「ーーー消え失せろ」

 

 

それがアタランテが消滅する前に聞いた最後の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーやれやれ、何とか上手くいったみたいだな」

 

 

作戦が上手くいった事と顔の横に刺さっている矢が外れた事にレインヴェルは安堵のため息を吐く。

 

 

作戦の内容は単純、レインヴェルは自身を囮にしてアタランテの居場所を割り出し、そこにアルトリアを令呪を使って転移させるというものだった。目を閉じていたのは聴覚に全神経を集中させていたから。もしアタランテが後10m離れたところにいたら正確な居場所を見つけるのは難しかっただろう。矢を避ける事自体はそう難しい事では無い。矢も銃と同じで放ってしまえば真っ直ぐにしか飛ばない。エミヤ辺りなら自動追尾する矢を投影しそうなのだが。

 

 

「生きているか、レインヴェル」

 

 

一先ずの脅威を切り抜けられて全身を弛緩させているレインヴェルの前にアルトリアが現れる。

 

 

「生きてる生きてる。血が足りんけどな」

「そうか、生きているのなら良い。血に関してはそこら辺の獣を取ってくれば良い」

 

 

杜撰な対応をしている様に見えるアルトリアだがそれでもレインヴェルが生きている事を心から喜んでいた。

 

 

黒野たちと転移したはずなのにそこには居らず、見つけた時にはサーヴァントに囲まれていると分かったときには頭の中が真っ白になって真っ先にレインヴェルの元に向かおうとした。だがそれでも周囲のサーヴァントを刺激し、レインヴェルを危険に晒すのでは無いかと考えて何とか思い止まったのだ。幸いな事にサーヴァントたちはレインヴェルに危害を加える事は無かったがアルトリアとオルガマリーは気が気でなかった。それこそアルトリアはロマンのお菓子の大半を食べ尽くし、オルガマリーは心配でまともに眠られない程に。

 

 

「いらん心配かけて悪かったな」

 

 

そう言って立ち上がろうとするレインヴェルにアルトリアは肩を貸す。本当ならレインヴェルの容体が安定するまで休憩させたいのだがここのすぐそばに敵の本拠地がある。アタランテが消滅した事は既に伝わっているだろう。その事を考えると一刻も早くこの場から離れたかった。

 

 

「黒野たちと合流する、それまで我慢しろ」

「あいあい」

 

 

アルトリアの提案に短く返して、二人は森から脱出した。

 

 

 





アタランテ脱落。狂化が無かったらもう少し粘れていただろうけど接近されたら弓持ちアーチャーは弱いから……これだから弓を使う弓兵は!!



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21話


ジャンヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!(挨拶)

コメントでのアタランテへの風評被害に大草原不可避。

ゴメンねアタランテ!!でもアーチャーなのに弓矢しか使っていない君が悪いんだよ!!

あ、後その獣耳を噛ませてください(迫真)



 

 

レインヴェルがジャンヌダルク・オルタの居城から脱出した翌日、黒野たちは竜の魔女として蘇ったジャンヌダルクではなくルーラーとしてこの時代に召喚されたジャンヌダルクと共に近くにあった街にやって来ていた。その目的は情報収集をする為である。

 

 

だが、それは叶う事は無かった。

 

 

「これは……」

「酷いな……」

「ウゥッ……」

 

 

街は既に壊滅していた。火に焼かれたのか煤だらけで崩壊している廃墟と化した街並み。瓦礫の下にはまだ死体が残っているのか強い腐臭が感じられる。黒野とマシュは冬木の特異点でこれ以上の光景を目の当たりにしていてある程度の耐性はあった。しかし魔術師として育てられたとはいえこれ程までに濃密な死に触れた事の無かった美冬は顔を青くして口を押さえる。

 

 

「おぅマスター、無理せず吐いちまいな。下手に堪えると折れちまうぞ」

「ごめ……うぇ……」

 

 

霊体化を解いたクー・フーリンが美冬の背中をさすると美冬は堪えられなくなったのか膝をついて胃液と少し前に食べた朝食を吐き出した。黒野はそんな美冬の姿を見て内心羨ましく思った。黒野がこれ以上の死の光景に立ち会った時には直ぐに敵が現れて対処に追われた為に彼女の様に吐く暇すら与えられなかった。そしてそのまま慣れてしまった事に少しの劣等感を感じる。

 

 

「ーーー来るぞマスター、備えよ」

 

 

小次郎が霊体化を解き、武器である物干し竿を構えるのと同時に瓦礫の下にいたはずの死体が動き出した。特異点という異常な場所で死体となった為か、キチンと処理の行われていない死体がこうしてゾンビとなって生者を襲うのだ。

 

 

ただの人間からすれば脅威としか言えないゾンビたちだがここにいるのは英雄たち。小次郎に続く様に霊体化を解き、戦闘態勢に入ったマシュ、ジャンヌ、小次郎、エミヤの敵では無い。マシュが盾を、ジャンヌが旗の付けられた槍を、小次郎が物干し竿を、エミヤが白と黒の夫婦剣を振るいゾンビたちを瞬く間に元の死体に還していく。数十秒後には腐った死体が広場に転がっているという猟奇的な光景が広がっていた。

 

 

「……これ以上この場に留まる意味は無いな。別の街にへと移動する事を提案するが」

 

 

エミヤが夫婦剣を消してこれからの行動を提案する。確かにこれ以上この場に留まっていても意味は無い。彼の言う通りに別の街に移動した方が良い事は明白だったが意外な事にそれに待ったをかけたのはジャンヌだった。

 

 

「お待ちください。私の【啓示】のスキルがこの場に留まる様に告げているのですが……」

 

 

ジャンヌダルクはルーラーとして召喚されたものの、他のサーヴァントの真名を即座に看破する【真名看破】やルーラーの権限で他のサーヴァントの行動を制限する【神明裁決】などのルーラーとして使えるスキルが使えないという事態に陥っていた。その中でも唯一ジャンヌが使えるのが彼女の生前の信仰の強さから派生した【啓示】のスキル。戦闘のみに作用する【直感】のスキルの上位互換である天啓としか思えぬ啓示を聞く事であらゆる事象に対して最善を選ぶジャンヌのスキルがこの廃墟に留まるように告げているのだ。

 

 

「本当…ですか…?」

 

 

吐くものを吐いて多少楽になったのか、美冬がクー・フーリンに支えられながらジャンヌに尋ねた。美冬本人としては早くこの街から離れたいのだが啓示のスキルが留まれというならそれに従うべきだ。事実、ジャンヌは啓示に従い行動した事で黒野たちと出会う事が出来たから。

 

 

だが、それでもジャンヌの反応はよくは無い。まるで初めての経験でもしたかの様に戸惑いながら、啓示の続きを口にした。

 

 

「確かに啓示のスキルはこの街に留まる様に告げています。ですけどそれと同じくらいにこの街から離れる様にも告げているのです」

「何?」

「ふむ、それはなんとも珍妙な」

 

 

啓示のスキルがこの街に留まれと指示しながらこの街から離れる様に告げている。確かにそれは戸惑うだろう、右に行けという指示と左に行けという指示を同時にされているのと同じ事だから。だからジャンヌは戸惑っていたのだ。この街に留まるべきか、否か。

 

 

そしてどうするかを考えていると後者の啓示ーーーこの街から離れろという意味を知る事になる。

 

 

不意に暗くなる。天気は快晴で、雲は殆ど無かったはずなのにだ。不審に思い、上を見上げればーーーそこには絶望があった。

 

 

空を飛び交っているのは数え切れぬ程の大量のワイバーンの群れ。その程度ならサーヴァントならば乗り切れる困難でしか無いがその中央に絶望は鎮座していた。太陽を覆い隠す程の巨体、鈍く輝く漆黒の鱗、一息一息の生物としての当たり前の呼吸で尋常ならぬ量の魔力が精製される。

 

 

邪竜ファヴニール。最上位の幻想種がここに降臨した。

 

 

その邪竜の背中には五つの人影が見える。目に光を宿していない男装美少女、喪服を思わせる黒い貴人服の男、杖を持った女、仮面で顔を隠した女、ーーーそして、この場にいるジャンヌダルクと同じ格好、同じ顔をした女がいた。唯一違う点を挙げるとするなら、ジャンヌダルクは優しい目をしていたがその女は全てを蔑む様な目をして、黄土色のコートを着ている事。

 

 

ジャンヌダルク・オルタ、この特異点の聖杯に召喚された竜の魔女が現れた。

 

 

「ーーー何て、事、まさかこんな事が起こるだなんて。ねぇ、お願い、誰か私の頭に水をかけて頂戴。まずいの、やばいの、本気で可笑しくなりそうなの」

 

 

誰もが信じられない顔をしている。ジャンヌダルクがここに二人いる。それも聖処女としての側面に反する存在として。

 

 

「ーーー貴女は、貴女は誰ですか!?」

「あははは!!そこまで頭が回らないだなんて本当に滑稽ね!!ーーー見ていて哀れになるくらいに」

 

 

まるで鏡に話し掛けているかの光景。ジャンヌダルクが問いかけ、ジャンヌダルク・オルタがそれを嘲笑う。

 

 

「私はジャンヌダルク・オルタ。蘇った救国の聖女にして、この国を滅ぼす復讐の魔女よ、ジャンヌダルク(わたし)

 

 

属性の変転、それは珍しいことではない。黒野たちはその前例を目にしている。冬木の特異点で大聖杯を守護していたアルトリアーーーブリテンの騎士王アーサー王。彼女もまた、属性を変転させて召喚されていたのだから。

 

 

しかし、この属性の変転は認められなかった。救国の為に立ち上がったジャンヌダルクが、救ったこの国に復讐しようとしているなどーーー

 

 

「だけど、今は復讐は一旦お休みしているの」

「ーーーへ?」

「ねぇ、ここにいる誰でもいいわ。レインーーーレインヴェル・イザヨイっていう人間を知らないかしら?」

「ーーーはぁ?」

「何やってるのよあのキチガイ……」

 

 

疑問の声を挙げたのは黒野だった。レイシフトの転移で姿が見えないかと思えば変転したジャンヌダルクが探している。黒野は内心で考えていた事を美冬は口にしていた。

 

 

「へぇ、そこのネズミ達は彼の事を知っているみたいね?教えてくれないかしら?そうしたらーーー見逃してあげても良いわよ?」

 

 

ジャンヌダルク・オルタが二人を睨みつけーーーその視線にメディアが割って入った。手を掲げて展開した魔法陣でジャンヌダルク・オルタの視線で発生した呪いを抵抗(レジスト)する。もしもメディアが割って入っていなかったら二人はジャンヌダルク・オルタの邪視により呪い殺されていただろう。

 

 

「あら、なかなか物騒なことをしてくれるわね。睨んだだけでこれだけの呪いを発言させるだなんて」

「私としては普通に見ただけなのですけど……まぁ良いわ、さっさと教えなさい。彼がどこに居るのかを」

「……彼の事は知っているけど、今どこにいるのかは分からない」

 

 

魔法陣越しに感じられるジャンヌダルク・オルタの威圧に耐えながら黒野は正直に言った。この特異点に来た時からレインヴェルの行動を把握出来ていないのだ。その言葉に嘘偽りは無い。

 

 

それを聞いたジャンヌダルク・オルタは二人から興味を無くす。感じられていた威圧が薄れて身体を弛緩させる黒野と美冬だがーーー

 

 

「バーサーク・ランサー、バーサーク・アサシン、ここにいる奴らを始末しなさい」

 

 

ーーーまるで後片付けを頼む様な気軽さで出された殺害命令に再び身体を硬直させた。ジャンヌダルク・オルタの指示を受けたランサーとアサシンーーーヴラド三世とカーミラがファヴニールから飛び降り、着地する。二騎から放たれる殺意と濃密な血の匂いを感じ取り、サーヴァントたちが臨戦態勢に入る。

 

 

そして一触即発、どちらが火蓋を落とすかの緊張が高まったところでーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーヒャッハァァァァァァ!!!!最近キチれて無かったから盛大にキチるぜぇ……!!!!取り敢えず根暗領主様とSMババア!!!!てめぇら松永弾正ってどうぞ!!!!」

「ーーー私としてもレインヴェルが殺されかけた事で気が立っているから加減無しでカリバーさせてもらうぞ」

 

 

白煙の尾を引きながらヴラド三世とカーミラに向かうのは複数の鉄の塊。それらは二騎の目の前の地面に落ちるとーーー盛大に爆発した。その爆発と同時に、上空にいたファヴニールが黒い閃光に飲み込まれる。

 

 

何事かと爆弾と閃光が放たれた方向を見ると今にも崩れ落ちそうな廃墟の上にその下手人はいた。上半身が裸で脇腹に包帯の様なものを巻き付けたレインヴェルは黒い筒ーーーRPGの銃身を肩で担ぎながら高笑いし、アルトリアは未だに息吹を放っている闇落ちした聖剣を振り切った状態で上空にいたファヴニールに向かって中指を立てている。

 

 

そしてこの場にいるカルデアのメンバーたちは前者の啓示ーーーこの街に留まれという意味を知った。

 

 

 





キチガイダイナミックエントリー。最近キチれて無かった感があるから取り敢えず開幕で松永弾正させることでキチガイレベルを誇示しました。

邪ンヌ様はフランスへの復讐よりもレインヴェルにご執着な模様。ジルはただいま居城にてレインヴェルに手を出した事が邪ンヌにバレてSMババアの拷問フルコースを受けて死んでいます。



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22話

ジャンヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!(挨拶)

お気に入りが985件か……すごい(小並感)




 

「キチガイさん!!」

「何やってたんですかこのキチガイ。半裸で登場するとか変態ですか?」

「おう、キチガイは兎も角変態はやめーや。治療の為に上着は犠牲になったんだよ」

「それよりも……レインヴェル」

「あぁ、分かってるよ」

 

 

黒野と美冬の声に応えながらもレインヴェルはヴラド三世とカーミラがいた場所から、アルトリアはファヴニールがいた場所から目を離さない。そして爆煙が晴れーーーヴラド三世とカーミラがいた場所には黒い杭が乱立して壁となっていて、ファヴニールは無傷のまま悠然と空を飛んでいた。

 

 

あの杭はおそらくはヴラド三世の宝具だろう。ヴラド三世はかつてワラキア公国の君主であり、オスマン軍と対立していた。彼の所業として有名なのは串刺し公と呼ばれる所以になった串刺しの刑。オスマン軍であろうが貴族であろうが農民であろうが、罪を犯したならば容赦なく全てを串刺しの刑に処してきた。だからヴラド三世の宝具が相手を串刺しにする杭だとしてもなんらおかしいことでは無い。

 

 

杭が退かされてその奥から現れたヴラド三世とカーミラは無傷だった。ヴラド三世は自分を攻撃してきたレインヴェルを目視すると鋭い眼光を向ける。

 

 

「……貴様が余に歯向かうものか?」

「まぁそうなるわな。伯爵様が俺の前に障害として、敵として立つというのなら」

 

 

ヴラド三世の眼光に怯むことなく、レインヴェルは平然として言ってのけた。そんなレインヴェルの姿を見てヴラド三世は獰猛な笑みを浮かべる。

 

 

自分に歯向かうものがいるとするなら、それは彼にとって自分の領地を侵そうとする侵略者に他ならない。侵略者は串刺しの刑に処す。あの顔が恐怖と苦痛で歪み、それを肴に飲むワインは極上に他ならないだろう。そう、血の様に紅いワインをーーーレインヴェルの生き血をーーー吸血鬼(ドラキュラ)の様に啜ろう。

 

 

その考えに至った瞬間に、ヴラド三世の心がギチリと悲鳴をあげた。心の乱れは治ることなく大きくなり、身体を硬直させる。

 

 

「ーーー今、余は何を考えた?ーーー血を啜る?ーーーあの吸血鬼(かいぶつ)の様にーーー?」

 

 

ヴラド三世の動きが止まる。レインヴェルは不審に思いながらも警戒を緩めることなくヴラド三世から目を逸らし、上空にいるファヴニールーーー正確にはその背中で、嬉しそうに頬を緩めているジャンヌダルク・オルタに顔を向けた。

 

 

「あぁーーーあぁあぁあぁ!!レイン!!レインヴェル!!私の愛しい人!!また会えて嬉しいわ!!」

「うん、俺も会えて嬉しいよオルタ……だからその手に持ってる首輪は捨ててくださいお願いします」

 

 

ジャンヌダルク・オルタの微笑みは聖母の様に暖かで、先程黒野と美冬に向けた邪視はどこに行ったのかと問い質したくなるくらいに別人にしか見えなかった。レインヴェルも再会出来たことは素直に嬉しいらしいーーーだがジャンヌダルク・オルタの手にしている首輪だけはどうしても認められないらしく、彼らしからぬ敬語で手放す様に懇願していた。

 

 

「ーーーおいレインヴェル、あいつとはどんな関係だ?」

 

 

その時、レインヴェルの肩をアルトリアが叩いた。軽く乗せられただけの筈なのにその手は重たく、レインヴェルは後ろにファヴニール以上の威圧感の龍がいるかの様に感じる。

 

 

ギギギと錆び付いた様な音を立てながらレインヴェルが振り返ればそこにはとてもいい笑顔になっているアルトリアがいたーーーだが、レインヴェルは気付いていた。アルトリアの目が笑っていないことに。

 

 

「えっと……その……」

「ーーーねぇレイン、その女は誰?」

「Oh……」

 

 

アルトリアに説明しようかと思えばジャンヌダルク・オルタが反応を見せる。背中に感じる視線は物理的な熱を伴ってレインヴェルに突き刺さる。

 

 

まさしく前門の魔女(ジャンヌダルク・オルタ)、後門の(アルトリア)である。

 

 

「修羅場か?」

「修羅場ね」

「修羅場か!!良いぞ良いぞ!!」

「煽るなよランサー。修羅場は本当に辛いんだからな……!!」

「お、おう」

 

 

クー・フーリンがレインヴェルの修羅場を目の当たりにして生き生きしているとエミヤが目から光を無くしながらレインヴェルのフォローに入った。どうやら彼も修羅場を経験した事があるらしい。その言葉の重みは本当だった。

 

 

「ーーーランサー、そこの雌を殺しなさい……ランサー?」

「余はーーー余はーーー」

 

 

ジャンヌダルク・オルタがヴラド三世にアルトリアを殺す様に指示を出したが反応が返ってこない。不審に思いヴラド三世を見ればそこには何やら葛藤しているヴラド三世の姿があった。

 

 

「どうしたのかしらバーサーク・ランサー?目の前に極上の獲物が居るわよ」

「余はーーー」

「王様、彼女の肉と血、そして臓物は私の物よ。私より美しいものは許さない。私よりも美しいあれの血を浴びたなら私はより美しくーーー」

「ーーー余はっ!!」

 

 

ヴラド三世の杭がカーミラを襲う。まだ精神が不安定だからなのか杭の狙いは正確さに欠けていてカーミラの肌に傷を付ける程度で外れてしまう。ヴラド三世の杭は周囲から彼を遮断するように生え続ける。

 

 

「ーーーふん、興醒めね。引きましょう、これ以上ここにいてもつまらないわ」

「ま、待ちなさーーー」

「じゃあねレイン、次に会う時はそこの雌を縊り殺してあげる。そうしたら一緒にこの国の終焉を見届けましょう」

 

 

そう言ってジャンヌダルク・オルタはジャンヌダルクを無視してカーミラを回収し、暴れているヴラド三世を残して去っていった。

 

 

ジャンヌダルク・オルタとファヴニールという脅威が去ったものの、この場に平穏が訪れた訳ではない。際限無く生え続けるヴラド三世の杭が徐々に黒野たちに迫って来る。

 

 

「一体何があったというのだ!?」

「気づいちゃったんだろうよ……自分が忌み嫌っていた化け物に成り下がっちゃったことに」

 

 

杭から距離をとるエミヤにレインヴェルは哀れむ様に言った。ヴラド三世は吸血鬼のモデルとされているが吸血行為に準ずる行いをしたという記録は無い。彼が吸血鬼とされているのはドラキュラと呼ばれていたから。今の時代ではドラキュラ=吸血鬼という認識をされているがそれは間違っていてドラキュラ=(ドラクル)の子という意味なのだ。新約聖書において悪魔サタンは蛇や竜として描かれる事が多々あり、竜=悪魔であると同一視され、ドラクルは竜公ではなく悪魔公などという不名誉な見方をされるに至った。

 

 

余談ではあるが、ヴラド三世の串刺し公の所業からヴラド三世は悪魔の子、であるならその父は悪魔であるに違い無いという飛び火なのだが……

 

 

ともかくヴラド三世は不名誉なはずの吸血鬼の呼び名を甘んじて受け、そしてその通りの行動をしてしまった。もし狂化のスキルが正常ならその事に気付かなかった筈なのだがどういうわけか今の一瞬だけ狂化が働かなかったらしい。そのせいでヴラド三世は暴走しているのだが。

 

 

「ーーーエミヤ、契約破りの宝具って投影できる?」

「……出来なくは無いが、やるのか?」

「見ていて哀れだ。なら、名誉を挽回させる機会をくれてやらないとな」

 

 

レインヴェルの横顔を見て何を言っても無駄だと判断したのか、エミヤは溜息をついて稲妻のような刀身の短剣を手渡した。

 

 

レインヴェルが一歩、ヴラド三世に近づく。それに反応するように無規則に生えていた杭が一斉にレインヴェルに向かっていく。そしてーーーレインヴェルはその杭を跳躍して躱し、すでに生えていた杭の穂先を足場にしてヴラド三世に向かっていった。

 

 

「余はーーー吸血鬼などでは無いーーー!!」

「ーーーあぁ、知ってるよ」

 

 

ヴラド三世は吸血鬼などでは無い。串刺し公のイメージから吸血鬼などと連想されているがそれはもっとも卑しい刑である串刺しの刑罰を課すことで君主としての絶対性を示すため、オスマン帝国の脅威から民を護るために他ならなかった。

 

 

彼にとって吸血鬼という呼び名は侮蔑の呼び名に過ぎない。それなのに自ら吸血鬼などと名乗りを上げ、吸血行為に及んだなど彼にとっては屈辱でしか無いのだろう。そんな彼の姿を見ていられないと思ったレインヴェルは串刺しの杭で出来た城壁を乗り越えてヴラド三世の前にたちにーーー

 

 

「ーーー俺はあんたの事を尊敬しているよ、領主様」

 

 

ーーー契約破りの宝具を、ヴラド三世の霊核に突き立てた。

 

 

 




正妻戦争第二回戦の開幕の予感、今回は顔合わせで終わった模様。所長も参加したかったけど諦めました。


そしてエミヤの言葉には謎の重みがあるな……



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23話


IKUSABA投稿。

ただし長い間書いてなかったのでキャラ崩壊と、親指が蜂に刺されてしまってスマホがいじりにくいので誤字脱字が心配。


 

 

「ふぅ……」

 

 

ヴラド三世に契約破りの短剣を突き刺したことでジャンヌダルク・オルタとの契約を断ち切る。これでヴラド三世はジャンヌダルク・オルタの支配から逃れ、狂化のスキルの影響も無くなるはずだ。それは契約破りの影響で気絶しているヴラド三世が目覚めるまでは判断がつかないが、少なくとも敵対することは無いだろう。

 

 

契約破りの短剣が砕け、ヴラド三世の宝具の杭が消滅する。ようやくこれでひと段落ついたと安堵したレインヴェルだったが……

 

 

「ーーおいレインヴェル、詳しく聞かせてもらうぞ」

 

『ーーねぇ、私にも聞かせてくれないかしら?』

 

「神は死んだ……」

 

 

肩を叩きながらいい笑顔を浮かべているアルトリアとモニターに映るオルガマリーの姿を見て絶望した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーぬぅ……」

 

「あぁ、目が覚めたか」

 

 

ヴラド三世が目を覚ました時に側にいたのは瓦礫に腰を下ろしていたエミヤだった。手に夫婦剣を持って警戒しているが敵意を抱いているようには見えない。それはヴラド三世が敵意を抱いていないから。もし欠片でも敵意を抱いているのなら即座に首を跳ねるつもりだった。

 

 

だがヴラド三世は意識をハッキリさせるためになのか顔を振るっているだけで武器である槍を取り出そうともしない。それを見てエミヤも警戒を緩めた。

 

 

「余は……」

 

「貴方が結んでいた龍の魔女との契約はレインヴェルの手によって破棄された。狂化のスキルはどうなっている?」

 

「……消滅しているようだな」

 

「それは良かった。これで貴方は吸血鬼では無くなったのだからな」

 

 

狂化のスキルの消滅を聞いて、エミヤは警戒を完全に辞めた。狂化のスキルがあれば言動や思考が狂ってマトモに会話をする事も出来なくなるが、無くなったのならその心配は無い。仮にも領主であった彼の事だ、いきなり襲いかかってくるという事も無いだろうとエミヤは考えている。

 

 

「吸血鬼か……狂化のスキルがあったからとはいえど、あれ程までに嫌悪していた怪物のように振る舞うとはな……」

 

「悪いが、懺悔なら他所でやってくれ。私は神父では無いのでね」

 

 

エミヤは立ち上がり、ある一角に目を向けた。それに釣られるようにヴラド三世も目を向ける。

 

 

そこにはーー

 

 

「そら、キリキリ吐け」

 

「やめてやめてやめてやめて!!それ以上積まれたらマジで足がヤバイから……!!」

 

『アルトリア、もっと積みましょう』

 

「そうだな。おら犬、さっさと積め。もしくは犬を食え」

 

「誰が食うか!!」

 

 

地面に正座をして2メートル程膝の上に瓦礫を積まれたレインヴェルと、その前で仁王立ちをしているアルトリアと、アルトリアの指示でレインヴェルの膝に瓦礫を積んでいるクー・フーリンの姿だった。

 

 

「なんだあれは……」

 

「あれか?あれはレインヴェルがやらかしてそれにアルトリアと所長が嫉妬している場面だ。言っておくがあれでもマシになっている方だぞ?さっきまでアルトリアが闇堕ちした聖剣を真名解放しようとしていたからな」

 

 

自身が知っている常識とはかけ離れた光景を目にして、ヴラド三世は気絶したくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー酷い目にあった……ロマ、一言ぐらいフォローあっても良かったんじゃないか?」

 

『お馬さんに蹴られたく無いから。それに今ネットアイドルの掲示板に実況書くのに忙しい』

 

「殺」

 

『謝』

 

 

レインヴェルの殺意をモニター越しに感じたのか、ロマンはキーボードの〝W〟を連打していた指を離して頭を下げた。それを見て溜飲が下がったのか、レインヴェルは美冬の足元に唾を吐き捨てる。

 

 

「よし、現状の再確認といこうか」

 

「ちょっと待てそこのキチガイ、どうして私に向かって唾を吐いた?答えろよ」

 

「オルタ側のサーヴァントは領主様が抜けたのとアーチャーだったアタランテをアルトリアが倒したんで残りは五騎になったわけだ。これは暫定で、向こうが聖杯使って新しくサーヴァントを召喚するかもしれないから増えると思って欲しい」

 

「クー・フーリン、ちょっとこいつに向かってゲイボルク使って」

 

「待って十六夜さん、ちょっとそこまで見たいなノリで三人しかいないマスター殺そうとしないで」

 

 

ガン無視された事にキレた美冬がクー・フーリンにレインヴェル抹殺を頼むが黒野の活躍によってそれは阻止される。マスターからの免罪符という事で槍を構えていたクー・フーリンはどこから調達してきたのか知らないが犬の死体を持っていたアルトリアに引き摺られて廃墟の裏に連れて行かれた。

 

 

『確か残っているのはジャンヌダルク、ジル・ド・レェ、カーミラ、マルタ、デオン・シュヴァリエだったわよね?』

 

「救国の聖女に青髭、吸血魔嬢に龍を手懐けた聖女、それに白百合の騎士か……」

 

『見事にフランスと龍に関わりのある英霊が揃っているわね』

 

「まぁ、それだけならどうにかなる。最悪各個撃破していけば良かったんだが……最悪なのは向こうがファブニールを呼んでいることだ」

 

「ファヴニール……あのジークフリートに倒された邪竜のことか!?」

 

「そうそう、しかも概念的にジークフリートじゃないと傷をつけられないようになってる。オルタに連れられてファヴニールに乗せてもらった時にコッソリと礼装で鱗を引っ掻いたけど傷一つつかなかった」

 

『何やってるのよ……』

 

「ドラゴンライダーは男の浪漫」

 

 

レインヴェルによってもたらされた情報でジャンヌダルク・オルタの戦力はすべて明かされた。だが、それによって新しい絶望が生まれることになる。サーヴァントだけならレインヴェルが言った通りに各個撃破すればどうにかなるだろうがファヴニールが厄介だった。

 

 

ジークフリートによって倒されたファヴニール、その逸話からなのかレインヴェルはファヴニールはジークフリートにしか倒されないという概念が付与されていると読んでいる。それはほぼ正解だろう。何故なら、エミヤの投影された剣を容易く切り裂いた礼装のナイフで傷一つつかなかったのだから。

 

 

例え各個撃破に成功したとしても、聖杯を持っているだろうと思われるジャンヌダルク・オルタがファヴニールに護られていればこちらに勝機は無い。そうなった場合に狙うのはファヴニールを掻い潜ってジャンヌダルク・オルタを討つことだがそれを許すほどにジャンヌダルク・オルタは弱く無いし、ファヴニールも甘くは無いだろう。

 

 

将棋で言えば、王手をかけることが許されても王将を取れないという状況。勝てないという現状を前にして、レインヴェルたちはーーー

 

 

「兎にも角にも、今必要なのはジークフリートだ。ファヴニールがこの特異点にいるのなら関わりのあるジークフリートが召喚されている可能性もあり得る」

 

『最悪こちらでジークフリートを召喚すればどうにかなるわね……英霊ガチャの準備してくるわ』

 

「私がバルムンクを投影すれば……」

 

 

折れていなかった。それどころかファヴニールを打倒する方法を探している。

 

 

絶望がなんだ。人生生きていれば膝を折るような絶望などいつか現れるものだ。そんな絶望を前にして膝を折るような心の弱い者はこの場にはいない。倒せないと分かっているのなら、倒せる手段を探せば良いと前を向いて進むのだ。

 

 

彼らの目的は人類史の存続。それを果たす為なら、ファヴニールなどという絶望になど負けていられない。

 

 

「さて、俺たちの方針は決まったけど領主様はどうする?」

 

 

大まかにこれからの方針を定めたレインヴェルは項垂れていたヴラド三世に声をかけた。契約をしていないので魔力が不足しているということもあるが、自身が嫌っていた吸血行為をしていたことに心を痛めていたヴラド三世は憔悴していた。レインヴェルの声に反応して上げた顔には覇気が宿っていない。

 

 

「余は……」

 

「吸血鬼だと思われたままで良いのかい?血を啜る下賤だと見縊られたままで良いのかい?」

 

「ーーー違う!!余は…余は……吸血鬼などでは無い!!」

 

「ーーーあぁ、うん。それでこそ俺が尊敬している領主様だよ。オスマンに侵略されていたルーマニアを守り続けた、誇り高い領主様だ」

 

 

ヴラド三世の悲痛な叫びを聞いたレインヴェルは満足気に頷き、手を差し伸べた。

 

 

「汚名を雪たいのなら、手を取れよ。こびり付いたイメージを払拭するのはすっごい難しい事だ。それでも、そうだとしても、俺は貴方ならきっと手を取ってくれると信じている。何故なら、貴方は俺が尊敬している英雄なんだから」

 

 

そう言うレインヴェルの目に映っているのは吸血鬼などではなく、自国を守る為に奮起した誇り高き武人だった。ヴラド三世は武器である槍を取り出し、膝をついて礼を取った。

 

 

「ーーー告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝が槍に」

 

「ーーー誓おう。我が名はヴラド三世、ルーマニアの王にして護国の将。我が槍を、我を人だと信ずる者の為に振るう事を」

 

 

ここに、レインヴェルとヴラド三世の間に契約は結ばれた。

 

 

レインヴェルは、尊敬するヴラド三世がその汚名を雪ぐ為に

 

ヴラド三世は、自分の事を英雄(にんげん)だと信じているレインヴェルの為に

 

 

護国の将は完成された人間を目指す魔術師の手を取った。

 

 





レインヴェル折檻→クー・フーリン折檻→現状把握→領主様追加の流れ。

アポの領主様はカッコよくて好き、エクストラのぶっ飛び具合も好きだけど。



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24話


福袋ガチャで星5が3枚も当たったでぇ!!近い内に死ぬと思うわ!!

なお結果は青ペンとオリオン×2

弓の星5はいなかったから良かったにしても青ペンはなぁ……モーさんの方が欲しかった。




 

 

「ーーーお待ちになって!!」

 

「むっ?」

 

「何奴!?」

 

「なんでそんなにノリノリなんですか……」

 

 

ヴラド三世との再契約を果たし、一先ずの方針を決めたレインヴェルたちが町から出ようとした時、彼らを引き止める声がした。澄んだ声色が辺りに響き、レインヴェルたちは警戒する。

 

 

「貴方方が、竜の魔女を退けて下さったのね?」

 

「……誰だ?」

 

 

声の主を見つけたのはアルトリア。赤い装飾の服と帽子を身に纏い、白髪を靡かせた美少女が廃墟の上に立っていた。一目で彼女がサーヴァントだと分かり、黒野と美冬はジャンヌダルク・オルタが差し向けた新たなサーヴァントかと警戒していたが彼女からは敵意が感じられない事を二人以外は察知していた。

 

 

少なくとも、今敵ではないと分かればそれで良い。

 

 

「あら、これは失礼しました。私はマリー・アントワネットと申します」

 

『マリー・アントワネット王妃ですって!?』

 

 

マリー・アントワネット王妃、ハプスブルグ家の系譜にあたるフランス王妃。十八世紀にルイ十六世の妃であった。時代こそは違うがフランスの危機に駆けつけたとしてもおかしくは無い英雄である。

 

 

「あー……どうしてここに居るのか、なんて聞かないぜ?そんな暇は無いからな」

 

「風情が無いですね。心にゆとりを持たせる事は大切ですわよ?」

 

「場所と時間と状況さえ違ってなければ言葉遊びでも隠し芸でも、俺の経歴発表会でもなんでもしてやるさ。だけど今はそんな暇は無い、だから単刀直入に聞かせてもらう。お前は俺たちの敵か?」

 

 

そう言ってレインヴェルはマリー・アントワネットに向けて鋭い殺意を放った。現状、レインヴェルたちはジャンヌダルク・オルタたちの陣営と対立するだけで手一杯な状態だ。例え今は敵で無いとしてもこれから先に敵になる可能性があるのなら、レインヴェルは顰蹙を買ってカルデアの面子と軋轢が生まれようともマリー・アントワネットの首を撥ねるつもりでいた。

 

 

「……ふふっ、まるで獣の様なお方ね。心配なさらずとも、私は貴方方の敵ではありません。今も、そしてこれからも」

 

「……あっそ、それが分かればいいや」

 

 

それを聞いて、レインヴェルは殺意を霧散させる。そもそもこれは一応聞いただけで、彼女がフランスに害を為すとは考えていなかった。

 

 

マリー・アントワネットは革命で処刑された王妃である。それが彼女の結末で、それだけを聞けば圧政者に聞こえるのだが事実は違う。マリー・アントワネットは誰よりもフランスという国を、そこに住まう人々の事を愛していた。革命期にこそ処刑され、多くの人々の対象になったものの現代のフランスでは名誉回復が行われている。

 

 

飢餓にあっては宮廷費を削り寄付金と為し、

 

自ら貴族たちに人々の援助を求める等、

 

 

誰よりもフランスという国を愛していたから、彼女は国の為に、そこに住まう人々の為にフランスに尽くしていた。微笑みで衆生を癒し、眼差しで心酔を得る。愛される為に生まれた偶像(アイドル)である事を喜び、望まれるままに振舞おうと決めていた。その精神性は最早人のそれではなく、人よりも上位の存在である女神にこそ近い。

 

 

それを知っていたレインヴェルは無駄だとは分かりきっていたものの、黒野や美冬の事を考えて一応敵対する意思の有無を聞いたのだ。

 

 

「んじゃ、次の質問ね。何をしに来たの?」

 

「あら、貴方なら分かっていると思いますけど……えっと」

 

「予想はしているし察しもついてる、だけど確信があるわけじゃ無いからな……あぁそうそう、俺はレインヴェル・イザヨイだ。好きに呼んでくれ」

 

「それではレインヴェルさんと……私たちは貴方方に協力する為に参りました」

 

 

マリー・アントワネットの口から出たのは協力の要請だった。それを聞いて黒野と美冬、そしてマシュは驚いた様に喜んでいる。レインヴェルも喜びたいのは一緒である。戦いに勝つのに必要なのは数と質である。質が劣っていようとも数で勝れば、数で劣っていようとも質で勝れば、戦いに勝つ事が出来る。今の戦力ではカルデア勢はジャンヌダルク・オルタの陣営に()()()()()。それをひっくり返すには数で勝るしかない。

 

 

その事を鑑みればマリー・アントワネットの申し出はありがたいものなのだが、レインヴェルには一つ気になる事があった。

 

 

「ちょっと待った……私〝たち〟?」

 

 

そう、マリー・アントワネットは私では無く私たちという複数系を使った。それが示すのはマリー・アントワネットだけでは無いという事。

 

 

「えぇそうよ……アマデウス!!アーマーデーウースー?」

 

「ーーーゼェゼェ……ウェッ」

 

 

マリー・アントワネットの足場となっている廃墟の影から現れたのは息を切らせながら青い顔をしている痩躯の男性だった。見るからに現界ギリギリ、若干身体から粒子が出ている気もしない事が無い。

 

 

マリー・アントワネットが親しげに呼ぶアマデウスという名の男性、それだけでレインヴェルは彼の正体に察しがついた。

 

 

「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトか?」

 

「えぇっ!?モーツァルトって、あの音楽家のモーツァルトですか!?あんなヒョロヒョロで今にも死にそうなのが!?」

 

「彼もキチ発言するなんて……キチガイ汚染が始まっている!?」

 

 

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは音楽に興味が無い様な人間でも名前と職業だけは知っている程に有名な人物である。知名度という点ではそれこそマリー・アントワネット並みにあるだろう……そして、戦闘力も彼女並みに無いと思われる。

 

 

だがサーヴァントの真価は宝具にある。彼らが戦力になるかどうかはそこに期待するしか無いだろう。

 

 

「で、なんでモーツァルトは死にそうな訳?」

 

「ゼェゼェ……マ、マリーが急に走り出すから……」

 

「アマデウス、引きこもっているから体力が無いのですわよ?もっと外に出ないと」

 

「ぼ、僕は音楽家なんだ……それなのに宝具に乗って先に行くとか本当にやめて欲しい……ウェッ」

 

 

モーツァルトが死にかけている理由が分かった。要はここの戦いに気がついたマリー・アントワネットが先走って、それに追いつこうとして走った結果なのだ。それでも、流石に走っただけで消滅寸前なのはどうかと思うが。

 

 

「長話は嫌いじゃ無いがしている暇が無い。近くに森があったよな?そこまで行くぞ」

 

「別にこの場でも良いのでは無いか?環境こそあれだが身体を休める場所は残っている」

 

「現状は所長から聞いてるから把握してる。フランス軍と接触しない方が良いんだろ?それなら人目につかないとこに行った方が良い」

 

 

カルデアには〝竜の魔女〟のジャンヌダルク・オルタでは無く、〝オルレアンの聖処女〟のジャンヌダルクがいる。ジャンヌダルクが二人いると知らない人間から見れば、ジャンヌダルクの方が〝竜の魔女〟と思われてもおかしく無い。余計な問題を起こさない為にも、レインヴェルは人目につかない場所にへの移動を提案したのだ。

 

 

それに異論を出す者は居らず、死にかけているモーツァルトをレインヴェルが運んで彼らは森にへと向かった。

 

 



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25話

 

 

森の中にへと逃げ込み、日も暮れてきたのでそこで一夜を明かす事にした。森の中には特異点となった影響なのか魔獣が存在していたが問題にはならない。魔獣とは神秘を宿した獣でしか無い。なら極限に飢えた状態にならなければ強者であるサーヴァントを連れているカルデアのマスターたちを襲わないから。

 

 

そんな中、レインヴェルは一人キャンプ地から離れた場所にいた。日中は人を馬鹿にしたような笑みを浮かべてへらへらとしていたレインヴェルだが今の彼の顔色は青を超えて真っ白、息も絶え絶えで滝の様な汗をかいている。

 

 

「うぐっ……オェェェ……」

 

 

込み上げてきた猛烈な吐き気を抑えようと口を手で塞ぐが間に合わずにレインヴェルは嘔吐した。夕食として口にしたスープと胃液、それに血液がビチャビチャと吐き出される。一度吐き出し、少しは楽になったと油断すればまた吐き出す。それを何度も繰り返していた。

 

 

「オェェェ……」

 

「ーーーっ!?だ、大丈夫ですか!?」

 

 

そんなレインヴェルを心配してやって来たのはジャンヌダルクだった。夕食後、寝るまでの間に話していた時にレインヴェルの姿が見えなくなった事に気付いた。カルデアのマスターはレインヴェルなら心配無いと、サーヴァントたちからは行く必要が無いと言われていたが何も言わずに姿を消したレインヴェルを心配して探しに来たのだ。その結果、この光景を目撃する事になる。

 

 

止まらない嘔吐に戸惑いながらも背中を摩る事で落ち着かせようとする。そんな時間が数分続き、胃の中身が空っぽになってようやくレインヴェルの容体は落ち着いた。息絶え絶えで汗を滝の様にかいているが顔色は白から青に変わっている。

 

 

「水を飲んで下さい」

 

「あぁ……どうも」

 

 

震える手でジャンヌから水筒を受け取り、口を濯いでから水を飲む。その時に水筒の縁に口を付けないようにする事を忘れない。水を飲んで落ち着いたのか、レインヴェルの呼吸は少しずつ安定していった。

 

 

「あぁ〜落ち着いてきた〜」

 

「病気ですか?それとも毒が……」

 

 

レインヴェルの状態は普通ではなかった。なら疑うのはその二つだ。フランスで病に罹ったか、それとも敵の武器に毒があってそれに犯されているのかと尋ねたジャンヌだが、レインヴェルは首を横に振ってそれを否定した。

 

 

「これはツケだよ、頑張り過ぎたツケが回ってきたんだ」

 

 

阿片擬きを取り出して吸おうとしたが考え直し、ジャンヌに原因を告げる事にした。

 

 

特異点Fでエミヤ相手に限界を超える力を行使した、それが治りきらぬままにオルレアンにやって来て阿片擬きで誤魔化しながら何とかここまで来た。その代償として身体が衰弱した。それだけならレインヴェルはどうってことは無いがその上に魔術刻印が暴走し始めているのだ。レインヴェルが引き継いだ魔術刻印の能力は【学習】、それは人の技術だけでなく人の感情や考えまで学習する。

 

 

人の技術や感情、考えまでも学習し続けた結果……この魔術刻印は()()()()()()()()()()()。それが発覚したのはレインヴェルから数えて十数代前の事。当時の当主が突如として変貌し、分家総出で取り押さえて解析して発覚したことだった。魔術刻印による保持者の乗っ取りという未知の出来事を前にして、レインヴェルの一族は驚愕しながらも冷静に推察し、一つの結果を導き出した。

 

 

それはごく単純、魔術刻印の人格に身体を乗っ取られぬように、()()()()()()()()()()()()()()()との事。結局のところ精神論という不安定な答えしか出せなかったが実際に次の当主から魔術刻印に乗っ取られることは無くなったのだ。

 

 

魔術刻印を保持しているレインヴェルも、例外では無い。常時は人並み外れた精神力で魔術刻印の人格を抑えていたが、身体が弱っている隙を突かれて不安定になっていたのだ。

 

 

身体と精神力の衰弱が先ほどの嘔吐と吐血の原因だとレインヴェルはまるで世間話でもするかの様に気軽に語った。それを聞いてジャンヌは唖然とするしか無い。乗っ取られぬ様に心を強く持ちながら、人間の身でサーヴァントに立ち向かい死にかけながら、人理の制定を行おうとしているレインヴェルの姿は……控え目に言って狂っている様にしか見えないのだから。

 

 

「……他の皆さんは知っているのですか?」

 

「所長には教えてある、ロマは教えてないけど察している、サーヴァントたちは気が付いてるだろうな……知らないのはマスターの二人だけだよ」

 

「……っ!!何故!?」

 

「教えられて、察して、気がついているのに何も言わないのか?簡単だよ……()()()()()()()()。2015年まで積み重ねてきた人類史を守る為なら、ただの魔術師一人の命なんて軽すぎる。比べるまでも無いだろ?」

 

「なら……!!」

 

 

ジャンヌはキャンプ地に戻ろうとする。例えカルデアの二人が、サーヴァントたちが何も言わないとしてもマスターの二人が真実を知ればきっとレインヴェルを止めてくれるだろうと信じて。

 

 

「ーーーそれはさせんよ」

 

 

だがそれは他ならぬレインヴェルの手によって防がれる。景色が回り、気がつけばレインヴェルにうつ伏せの体勢で組み敷かれた状態になっていた。抜け出そうとするが首にナイフが突きつけられていて動くことが出来ない。

 

 

「確かにあの二人に報告すれば止めようとするだろうな……だけど、それは駄目だ。あの二人はまだ幼い。魔術師としても、人としても。そんな二人だけに任せればいつか折れてしまう。だからバラしてくれるな。衰弱して魔術刻印に飲み込まれそうになっていたレインヴェルでなく、いつもヘラヘラとしてキチガイのレインヴェルでいさせてくれ」

 

「でも、それでは貴方が……!!」

 

「あぁ、ジャンヌダルクならきっとそう言うと思ったよ……だから、告げ口出来ない様に犯してしまおう」

 

 

そう言ってレインヴェルの空いている手がジャンヌの身体を弄った。太腿を、尻を、胸をジャンヌが嫌悪感を抱く様に撫でまわす。

 

 

「俺の一族は戦闘や魔術方面だけじゃなくて房中の方も取り入れていてな、まぁ女一人を色に狂わせる程度なら簡単だ。サーヴァント相手ってのは初めてだが……どうにかなるだろう」

 

 

レインヴェルの声色から感情が抜け落ちていく。レインヴェルがどういう一族の出身なのかを知らされているジャンヌはレインヴェルの言葉が嘘では無いと判断してしまう。男性経験の無いジャンヌなどレインヴェルは簡単に狂わせてしまうだろう。そうなればレインヴェルの思惑通りにマスター二人に告げ口する事は叶わなくなる。

 

 

そんな貞操の危機にある中でジャンヌはーーー

 

 

「嘘、ですね」

 

 

ーーー迷う事なくレインヴェルの言葉を嘘だと断じた。一切の迷いを感じられないジャンヌの啖呵にレインヴェルの手が止まる。

 

 

「何故、そう言う?」

 

「ーーー勘です」

 

 

証拠を一切告げずに、ジャンヌは自らの勘を信じていると口にした。確かにレインヴェルは簡単に自分を色に狂わせる事が出来るだろう……だが、その大前提である自分を犯す事をレインヴェルはしないのだと直感で理解したのだ。【啓示】でも無く、スキルにすらなっていない自分の直感で。

 

 

「……ハハッ、なんだそりゃ」

 

 

ジャンヌの啖呵に毒気が抜かれたのかレインヴェルは呆れた様に笑い、ジャンヌの上から退いた。すでに体調は回復したのだろう、顔色は元通りになって汗は引いている。

 

 

「はぁ……なんか馬鹿馬鹿しくなってくるなぁおい。これが聖女様の力か?」

 

「……私は、聖女などではありません」

 

「ジャンヌがそう思うんだったらそうなんだろうよ、お前の中ではな。俺の中ではジャンヌダルクは聖女なんだ。例え自分の行いが聖女と呼べるものではないと思っていたとしても、俺の中では聖女(そう)あらせてくれ」

 

 

そう言いながらレインヴェルはジャンヌを立ち上がらせる。投げた時に手加減をしたのかジャンヌの身体には傷一つ無く、汚れを払う程度ですぐに綺麗になった。

 

 

「それにお前は俺が死に急いでいる様に思ってるかもしれないが違うからな?俺は死ぬつもりは無い」

 

「なら、何故」

 

「さっきも言った通りにマスター二人の為だ。黒野んと美冬ちゃんはまだまだ未熟だ、誰かが支えてやらないと簡単に折れてしまう。だから俺が支えてやるんだよ。それにまだまだやりたい事は沢山あるしな」

 

 

そう言いながらヘラヘラと笑うレインヴェルにはさっきまで弱っていた面影は全く無かった。そしてジャンヌはふと思った……マスター二人をレインヴェルが支えるというのなら、レインヴェルは誰に支えられているのだろうかと。短い付き合いとはいえレインヴェルの事はなんと無く理解出来てしまった。きっと彼はそんなものは必要無いと煽りながら追い払ってしまうだろう。その光景を想像して、違和感の無さに思わず噴き出してしまう。

 

 

なら、自分が彼を支えよう。なんでも出来る不器用な彼を私が支えよう。

 

 

「そうですか……分かりました。私からは彼らには言いません」

 

「分かってくれたならそれで良いよ」

 

「それでは戻りましょう。あまり時間をかけ過ぎると心配はされなくても怪しまれますよ」

 

「分かってるよ……って、なんで俺の手握ってるの?なんで引っ張ってるの?」

 

「暗いですからね、サーヴァントである私なら暗がりでも視界が利きますから」

 

「夜目が利くから問題無いけどな……」

 

 

そう文句を言いながらもレインヴェルは抵抗する事無くジャンヌに引かれていく。表面上では元に戻っている様に見えるが中はまだ本調子では無いらしい。

 

 

この特異点だけの時間とはいえ、不器用で意地っ張りで優しい彼の支えになろうとジャンヌは固く誓った。

 






経験を積む魔術刻印にデメリットが無いと思ったか!!

精神力が低過ぎると魔術刻印に乗っ取られるというデメリット。なお初めて乗っ取られた当主の次からは乗っ取られた当主はいない。完成人間を目指すのなら精神も強靭でなくてはならない。

そしてひっそりとコミュニケーションを重ねるジャンヌ。これはあざとい(確信)


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26話

 

 

「ーーーふと思ったんだけどさ、デオン・シュヴァリエって男なの?それとも女なの?どっちよ」

 

「唐突に何を宣っているのだ貴様は」

 

 

ガタンガタンと揺れながら前に進む荷車に乗りながらこれからと全く関係無いことを言い出したのはレインヴェル。ヴラド三世が困惑気味に反論してもおかしく無い。

 

 

「嫌だってさ、デオン・シュヴァリエって言ったら現代じゃ性別不明のスパイなんだぜ?男の格好?してるみたいだけど中身は女でしたってことは有り得ない話じゃ無いだろ?無駄に中性的な顔のせいか判断しづらかったし、どっちなんだと思ってさ」

 

「そんなに気になるのなら剥けば良いでは無いか。敗者から身包み剥がすのは勝者の特権だ」

 

「成る程、その手があったか!!」

 

『その手があったか、じゃないわよ!!この変態!!』

 

「あぁ、ワインが欲しい……」

 

 

いつも通りにぶっ飛んでいる発言をするレインヴェルは昨夜の不調を残していないように思えた。ジャンヌがこの場にいたら安心したかもしれないが、()()()()()()()()()

 

 

カルデアのマスターたちは、邪竜ファブニールに対抗出来る唯一の英雄であるジークフリートを探す為に二手に分かれて居た。黒野、美冬、マシュ、ジャンヌとレインヴェルの二手に分かれて。マリーアントワネットとモーツァルトは黒野と美冬の方に組み込まれている。

 

 

二手に分かれた理由は2つ。1つはフランスが広い為。人が居る、もしくは廃墟になったところを探す様に決めたがそれでも移動だけで時間がかかる。なので少しでも時間を短縮する為に二手に分かれ、それぞれ逆方向から探すことにした。

 

 

もう1つは竜の魔女であるジャンヌオルタに狙いを絞らせない為。彼女の目的は妨害してくるジャンヌと、執着して居るレインヴェル。だから敢えて別々にする事にした。

 

 

黒野と美冬の方は魔術師としての実力が心配だが日本の剣豪の代表である佐々木小次郎、神代のギリシャでヘカテーに魔術を師事していたメディア、ケルト版ヘラクレスのクー・フーリン、剣の投影に特化したエミヤがいる。特に佐々木小次郎はワイバーンを三枚に下ろして、(TSUBAME)の方が手強かったと笑っていたので安心だろう。

 

 

レインヴェルの方は彼自身が戦闘に特化した魔術師である上に騎士王であるアルトリアに護国の将のヴラド三世がいる。仮に戦闘になったとしても問題無かった。

 

 

「にしてもメディアは凄いな。提案したのは俺だけどまさか本当にしてくれるとか」

 

『流石は神秘が濃い時代のサーヴァントね……まさか魔獣を洗脳出来るなんて思いもしなかったわ』

 

 

レインヴェルの方のモニターを務めるオルガマリーの目線の先には荷車を引いている獅子と山羊と蛇の混ざった様な獣ーーー一般に合成獣(キメラ)と呼ばれる魔獣がいた。

 

 

フランスを巡るという方針をとったがレインヴェルはともかく黒野と美冬は身体がそこまで鍛えられていない。なので徒歩は効率が悪いと判断したレインヴェルが森に生えていた木を切り倒して突貫で荷車を作った。だが完成させてから引く馬がいない事に気付く。それに落ち込んでいると調子に乗ったクー・フーリンが煽って来たので極辛麻婆豆腐を朝食として差し出した。クー・フーリンは自分が誓ったゲッシュにより、目下の者から食事に誘われたら断れないのだ。極辛麻婆豆腐を食べて白目を向いて気絶したクー・フーリンにダブルピースさせ、それをロマンに撮影させながらどうするか悩んでいると麻婆豆腐の匂いにつられたのか、合成獣(キメラ)が数体現れた。

 

 

そしてレインヴェルは思いつく。合成獣(キメラ)を使えば良いんじゃ無いかと。

 

 

合成獣(キメラ)をボコった後でレインヴェル式調教術で躾をしようとしたが時間が勿体無いとメディアが口を挟み、無行動(ノーアクション)で洗脳魔術を行使して容易く合成獣(キメラ)を洗脳したのだ。

 

 

こうしてカルデアのメンバーは足を手に入れる事に成功した。

 

 

「この特異点が終わったらメディアから魔術教えてもらいたいな……」

 

『そう言えば、レインヴェルの弟も参加していたわよね?』

 

 

オルガマリーが思い出したのはレインヴェルと共にカルデアに参加していた彼の弟の事。レインヴェルが戦闘特化なら弟の方は学問特化ーーーつまり魔術師らしい魔術師だった。

 

 

「……あれ?そう言えばコールドスリープさせたマスター候補の中で姿を見てなかった様な……」

 

『爆発で死体が残らなかったって可能性があるけど……気になるわね。少し探してみるわ』

 

「頼んだ」

 

 

オルガマリーとの交信が切れるとアルトリアが弟に興味を持ったらしく、レインヴェルに近づく。

 

 

「弟が居たのか?」

 

「あぁ、いつも眉間にシワ寄せてるけど良い奴だぜ?そういやあいつの婚約者と弟も参加してたはずだけど姿見てない……可能性があるな」

 

 

その可能性がなんの可能性なのかはレインヴェルにしか分からないし、所詮は可能性の話でしか無い。この特異点では全く関係の無い事でしか無いのでレインヴェルはその考えを頭の片隅に置いておく事にした。

 

 

「ところで、本当にジークフリートは召喚されているのか?」

 

「可能性はある。マリーアントワネットとモーツァルトとかが召喚されてるからマスターの居ないサーヴァントとして召喚されてるかもしれないし、ファブニールの召喚に引っ張られる形で召喚かもしれない。そもそも召喚されて無かったとしてもカルデアで召喚すれば良いだけの話だし」

 

 

冬木の特異点でもキャスターとして召喚されたクー・フーリンがマスター不在の状態で活動して居た。抑止力が仕事をしたのか分からないが人類史の焼却を防ぐ為に喚ばれたと見て間違いないだろう。

 

 

まぁ人類からしてみれば焼却が確定されてからでは無くてその前に防いで欲しかったのが本音だろうが。

 

 

「にしてもファブニールの召喚とか本当に面倒な事してくれるよな……呼吸するだけで魔力精製する上に下級とはいえ竜のワイバーンを生産するし……特異点に1つファブニールってか?」

 

「……そう言われるとこちらとしては何も言えないな」

 

「あぁ、領主様責めてるわけじゃないからな。ただ今後の特異点でもファブニールみたいなやつが呼び出されてたらって考えると面倒だな〜って考えてただけだから」

 

 

特定の方法しか倒せない敵の出現は出来ることなら遠慮したい。それは逆説的に言えばそれ以外の方法では倒せないと言っているのとおなじだから。仮に世界を滅ぼせる規模の攻撃であろうとも、その方法に沿ったやり方でなければ倒すことは出来ない。つまり、ゴリ押しが出来ないのだ。

 

 

「それで、我々が向かう場所はどこだ?」

 

「えっと確か地図によると……」

 

 

レインヴェルが開く地図に描かれているのはカルデアから観測したこの特異点の航空画像。魔術的な干渉を受けているためか多少粗いが、それでも都市の様な物の場所を判断することが出来る。

 

 

「ここ、だな。ジャンヌから聞いた町の名前は『リヨン』だってよ」

 

 

 





新しいIKUSABA目標

1特異点につき、最低でも1キチガイを出す。尚、カルデアメンバーは含まない。



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27話


出オチ注意


 

 

「ーーークリスティィィィィィィィィイヌ!!!」

 

「領主様、宝具」

 

「承知した」

 

 

リオンの町に到着したレインヴェルたちを待ち受けていたのは半面の仮面を着け、片手を異形のそれに変えた痩躯の男性だった。

 

 

開幕から早々にクリスティーヌという女性の名前を叫んだことからレインヴェルはキチガイ判定を下し、ヴラド三世に宝具の使用を命じる。もちろんマリーアントワネットやモーツアルトのようにマスターのいないサーヴァントだった可能性はあったのだか狂化してるだろうというレインヴェルの偏見でジャンヌダルク・オルタが召喚したバーサークサーヴァントだと判断したので躊躇いは無かった。

 

 

その結果、男性は四方八方から槍に串刺しにされて消滅した。登場から僅か十数秒である。

 

 

「着いて早々にキチガイに出会うか……幸先が良いな」

 

「あれがジークフリートでない事を祈るばかりだな」

 

「いや、キチガイに出会うのが幸運なのか?あれがジークフリートならば余は自害するぞ」

 

 

元々持っていたのか、それとも男性がそれに変わったのか分からないが消滅した場に残っていた聖晶石を拾い上げてレインヴェルは生き生きと、アルトリアはしみじみと、ヴラド三世は心底疲れた顔をしながらそう呟いた。自分の同類と出会えてレインヴェルは嬉しいのだろうがヴラド三世からしてみればこれ以上増えて欲しく無いのだろう。

 

 

「んじゃ探索するか。もしかしたら隠れてるかもしれないから散開して調べよう。後、生存者がいたら積極的に助ける方向で。マリーは周囲の索敵を頼む」

 

『任せて頂戴』

 

「分かった」

 

「承知した……ワインは無いか……」

 

 

オルガマリーとアルトリアは素直に承知したがヴラド三世は承知しながらもアルコールに逃げようとしているらしい。流石に生前の配下にレインヴェルのようなキチガイは存在しなかったらしく耐性ゼロのようだ。

 

 

「黒野んと美冬ちゃんたちはどうだ?」

 

『さっきバーサークライダーになったマルタとの戦闘を終えたわ……クー・フーリンが死んだけど』

 

「クー・フーリンが死んだ!?」

 

 

探索しながらオルガマリーに黒野たちの現状を聞いたレインヴェルだったがその一言で驚かされる事になる。何せクー・フーリンといえばケルト最強の戦士の一角に挙げられてもおかしく無い大英雄。冬木で出会ったキャスターのクラスではなく、ゲイボルクを持ったランサーのクラスとして召喚されたのなら制限など無いはずなのにだ。

 

 

「確か時間置いたら復活するんだっけか?」

 

『そうよ。大体半日あれば霊基を復元出来るわ』

 

 

まずはじめに心配するのは戦力の補充についてだ。非情だと思われるかもしれないがこればかりは仕方の無い。何せカルデアは追い詰められている。人類焼却を免れたが外からの人材、物資の補給が出来ない。物資ならばレイシフトした特異点から幾らか調達出来るが人材を補給する事は出来ない。

 

 

それにサーヴァントを召喚するのもタダでは無い。聖晶石、或いはその代わりとなる呼符と呼ばれる物が無ければ召喚出来ないのだ。なので呼び出したサーヴァントが死んでも補給が効くようにカルデアでは召喚したサーヴァントの霊基を保存し、死んだらそれを元に復元するという手段を取っている。非人道的行いだと非難されるかもしれないがサーヴァントたちはこれに文句を言う事なく了解してくれた。

 

 

何せ人類の存続が掛かった作戦なのだ。人類焼却を防ぐ為に召喚に応じたと言うのに死んだからといってそこで終わりというのは納得がいかないのだろう。

 

 

それに、実を言ったらクー・フーリンが死ぬのは初めてでは無い。オルレアンへのレイシフトの準備期間中にエミヤとの模擬戦で数回死に、小次郎との模擬戦で数回死に、アルトリアが独占していた酒と食料に手を出して数回死に、アルトリアの暇潰しのカリバーで数十回死んでいる。死にすぎである。ちなみにまだ死んでいないのはメディアとアルトリアだけで、エミヤと小次郎も数回死んでいる。クー・フーリンの死亡回数はもうじき3桁になるとカウントしていた女性スタッフは楽しそうに語っていた。

 

 

だからレインヴェルが驚いたのはクー・フーリンが死んだ事ではなく、クー・フーリンが殺された事だった。

 

 

『戦闘を始めた頃は押していたのだけどクー・フーリンがマルタの使っていた杖を壊した瞬間……ワンパンで殴り殺されたわ。正直訳がわからないわよ……なんで武器が無くなった方が強いのよ……』

 

「倒せたのか?」

 

『小次郎が頑張ってくれたわ。マルタが鎮めたというタラスクが呼び出されたけど燕に比べたら容易いとか言って燕返しで三枚下ろし。でもマルタもやられてばかりじゃなくて拳で燕返しを迎撃してたわね。最後には燕の舞とか言って3人に増えてからの三方向燕返しで倒したけど』

 

「何それめちゃくちゃ見たい」

 

『録画してあるからいつでも見れるわよ……それよりレインヴェル、サーヴァントを召喚したらどうかしら?』

 

 

今レインヴェルの手持ちにはリオンキチガイとバーサークアーチャーだったアタランテを倒した事で得た聖晶石が3つある。それは丁度召喚の為に必要な個数で、一度だけ召喚をする事は出来た。

 

 

『セイバーのアルトリアと元バーサークランサーだったヴラド三世がいるけど哨戒役が出来るサーヴァントが居ないじゃない。レインヴェルならそれも出来ると思うけど、負担が大きくなってしまうから……』

 

 

レインヴェル1人で哨戒役をこなそうと思えば出来るがそれではレインヴェルの負担が大きくなってしまう。レインヴェルのサポートをしていて、付き合いの長いオルガマリーだから純粋にレインヴェルの事を心配して召喚を促していた。

 

 

「……確かに、アーチャーかアサシンは欲しいな。よし、召喚(ガチャ)するか」

 

 

断る理由は無いとレインヴェルは拓けた場所を見つけ、ポケットにしまっていた聖晶石を取り出す。手のひらで虹色に光り輝く3つの聖晶石を見て、レインヴェルは思わず握り締めてしまう。

 

 

「頼むぞ当たれよ……課金はもう嫌なんだ……!!」

 

『ソシャゲと一緒にするんじゃ無いわよ……いや、確かにソシャゲのガチャみたいなものだけど……』

 

 

課金兵の業は深い。ガチャは悪い文明。どちらも古事記に書いてある事だ。

 

 

何に対してか分からない祈りの踊りを終えたレインヴェルは手にした聖晶石を地面に投げる。

 

 

投げられた聖晶石が地面に落ちて強い光を放った。それと同時に吹き荒れる魔力の本流。浮かび上がる3つのライン。この時点でサーヴァントの召喚は決定された。後はなんのクラスが召喚されるかだ。

 

 

そして3つのラインが収束しーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーある時、気づいた時から不快だった」

 

 

それは召喚された。

 

 





ファントムさん登場と同時に退場。よし、クリスティーヌキチが脱落したぞ!!後はマリーキチとアーサーキチとジャンヌキチだけだ!!

槍ニキひっそりと敗北。スデゴロ最強のマルタネキが相手だからしゃーないね。なお、小次郎は勝てた模様。

最後に召喚されたサーヴァントを予想してみよう!!一体誰が召喚されたんだ……?



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28話


間奏での波旬予想に作者の腹筋は人理崩壊しました。


(∴)俺だと思ったのか?この糞どもが!!




 

 

「ーーーある時、気がついたら不快だった……」

 

 

召喚時の閃光が強過ぎてサーヴァントの姿を確認する事は出来ない。だが聞こえてくる声の幼さと高さから少女だと予想が出来る。

 

 

「どういうわけだかセイバーとアルトリア顔が増えている。減るどころか際限なく増え続けて居なくならない」

 

 

声から判断出来る感情は傲慢と憤怒。自分こそが唯一無二、自分こそが究極至高。それなのに自分と同等だと名乗る雑多が増えることが許さない。

 

 

「なんだこれは、気持ちが悪い、目障りだぞ消えてなくなれ」

 

 

気持ちが悪い。お前たちは己を汚す化外に過ぎないのだという唯我が隠すことなく撒き散らされている。

 

 

「黒こそが最高にして最強だと分からんのか。白はギリ認めよう。だが青と赤と桜は許さん。槍トリアと聖処女は死に絶えろ。なんだその胸部装甲は。羨ましいぞ私に寄越せ」

 

 

どうやらこのサーヴァント、胸にただならぬ執着があるらしく、後ろのセリフは声のトーンが低くなった。

 

 

そして召喚時の閃光が弱まり、ようやくサーヴァントの姿を視認することが出来た。

 

 

召喚されたのは小柄な少女。黒い野球帽を被り、金髪の髪をポニーテールで纏め、黒いマフラーを首に巻いて、黒のジャージと黒のホットパンツという黒一色の装い。そしてその肌はアルトリアと同じくらい白く、目もアルトリアと同様に爬虫類を思わせる金色だった。

 

 

「ーーーセイバー死すべし慈悲は無い(滅尽滅相)

 

「うわぁ……なんか濃いの来たな……」

 

 

最後にそう締めくくり、サーヴァントは魔力を放出した。召喚時よりも強い魔力放出により、周囲の廃墟が崩れ落ちて瓦礫の山に変わる。サーヴァントのセイバーへの並々ならぬ憎悪にレインヴェルでもドン引きである。

 

 

そして召喚者であるレインヴェルをここで初めて視界に入れーーー目を見開いた。

 

 

「ーーーあぁ、ここに居たのか……」

 

 

そしてそのサーヴァントは召喚された位置からゆっくりとレインヴェルに近づきーーー直前で膝をついた。

 

 

「貴方に恋をした……貴方に跪かせていただきたい、我が鞘よ」

 

「oh……」

 

『ーーーえ?』

 

 

召喚されたから数秒で愛の告白というどこかで見た光景にレインヴェルは思わず顔を隠して崩れ落ち、オルガマリーは事態の把握が出来ずに呆気にとられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、サーヴァントの気配がしたが大丈夫か?」

 

「サーヴァントを見つけたので連れて来たぞ」

 

「む?セイバークラスが2人、うち1人巨乳……殺」

 

「ステイ、アンドシッダウン」

 

「わんわん」

 

 

レインヴェルが召喚したサーヴァントの気配を感じて戻ってきたアルトリア、全身がボロボロになっているサーヴァントを背負って戻ってきたヴラド三世がこの場にやって来た。アルトリアと背負われているサーヴァントがセイバーだと判断したサーヴァントが動こうとするがその前にレインヴェルの命令により素早く正座する。

 

 

召喚されて間もないというのにもう調教されているのはどうなのだろうか。

 

 

「偵察用が欲しくてアーチャーかアサシンのサーヴァント狙いで新しく召喚したからな……自己紹介よろしく。あ、俺はレインヴェル・イザヨイ。好きに呼んでくれ」

 

「私はヒロインX・オルタ。増え過ぎたセイバーを駆逐する為に宇宙を旅していたヒロインXが超宇宙怪獣アンリ・マユに負けてくっ殺して闇落ちしてから隙を伺ってぶっ殺した次世代のニューヒロインだ。クラスはセイバーとアサシンのダブルクラス。目標は黒と白以外のセイバーの完全抹殺、それとマスターのお嫁さんだ」

 

「増えた……」

 

 

ヒロインX・オルタの自己紹介を聞いて、またぶっ飛んだのが来たとヴラド三世は崩れ落ちた。その時に背負っているサーヴァントを落とさないようにしていた辺り気遣いが出来る余裕はあるらしい。

 

 

「ヒロインX・オルタね……アルトリアに似てるな。アルトリアが幼くなったらこんな感じ?」

 

 

そんなヴラド三世を放置して、ショックから立ち直ったレインヴェルはヒロインX・オルタを見てある事に気がつく。それはヒロインX・オルタの容姿だ。野球帽とマフラーで隠しているがレインヴェルが言った通りにアルトリアが十代だったらこんな感じでは無いのだろうかという顔付きをしているのだ。

 

 

「アルトリア?そんな超ブリテン系アイドルの超絶パーフェクト美少女なんて知らんなぁ?」

 

「こいつ絶対アルトリアだろ」

 

「恐らくカリバーとカリバーンを主武装にしていたからこうなったのだろう。あれには不老の呪いがかけられているからな。私は片手にカリバー片手にミニアドで蛮族相手にブリテン無双していたから呪いは弾いていたが……マーリンぶっ殺」

 

「なるほど……ちょっと時空遡って超ブリテン系アイドルの超絶パーフェクト美少女からミニアドパクって来る。あとマーリンぶっ殺」

 

 

マーリンへの殺意の高さから通じ合うものがあったのか、アルトリアとヒロインX・オルタはがっちりと握手を交わした。仲良くなったのかと思えばそうでは無いらしく、左手で握手をしている。その上、互いに魔力放出で互いの手を握り潰そうとしている。

 

 

「なんでそんなに巨乳なんだよ……!!」

 

「ミニアド振り回さなかった己を恨め……!!」

 

「ストップ、ストップだ。そこら辺にしといてくれ。それと、ヒロインX・オルタには悪いが多少はこっちのいう事聞いてもらうぞ?流石に仲間のセイバー殺されたらたまったもんじゃ無い。その代わりに敵のセイバーは最優先でお前に回すから」

 

 

流石に放置すると互いの左手を握り潰しかねないのでレインヴェルが止めに入った。その時にさりげなく要望を出す事を忘れない。ヒロインX・オルタのセイバーへの殺意の高さはあのぶっ飛んだ自己紹介から嫌でもわかる。かと言って抑え付けて重要なところで爆発されても困る。だからこその妥協案を提示した。

 

 

「いつかその巨乳剥ぎ取ってやろう……あぁ、流石にその辺りは理解している。人類史が崩壊してしまえば私という究極至高のセイバーまで消滅してしまうからな。終わったらセイバー&アルトリア顔ハントを始めてやる……!!」

 

「あぁ、うん、まぁそれで良いよ」

 

 

人類史の救済の事情を理解しているのか、味方のセイバーへは危害を加えないとヒロインX・オルタは公言した。それでも終わってからセイバー&アルトリア顔ハントを始めると言っている辺り、本人も相当妥協してくれたのだろう。レインヴェルは理解を放棄してこんなサーヴァントなんだと無理やり納得する事にした。

 

 

「で、ヒロインX・オルタと言ったな?お前、レインヴェルに惚れたのか?」

 

「あぁ、そうだ。一目惚れの初恋だった……」

 

「そうか……ならちょっとこっちに来い」

 

「ちょ待て!!尻尾掴むな!!」

 

 

ポニーテールを鷲掴みにして、アルトリアはヒロインX・オルタを引きずって廃墟の陰に隠れていった。そしてその数秒後……

 

 

「ーーー姉上!!」

 

「ーーー妹よ!!」

 

 

がっちりと右手で握手を交わして2人は登場した。ヒロインX・オルタのアルトリアへの殺意が完全に消えている上に、アルトリアを見る目が完全に変わってしまっている。

 

 

何があったのか知りたいが知りたくないとレインヴェルは思ってしまった。

 

 

「……ま、アルトリアとヒロインX・オルタが仲良くなったから良しとしますか。ところで領主様、そちらのサーヴァントの真名は分かってる?」

 

「あぁ……この者はーーー」

 

 

姉上ぇ!!妹ぉ!!と叫んでいる2人から目を逸らし、レインヴェルはヴラド三世が担いで来たサーヴァントの素性を尋ねる。ヒロインX・オルタの判断が確かならこのサーヴァントはセイバーらしい。セイバーならばレインヴェルたちが探しているジークフリートの可能性があるのだ。

 

 

そしてヴラド三世がサーヴァントの名を告げようとした瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーーー全員警戒して!!そこにサーヴァントとファヴニールご向かっているわ!!』

 

 

オルガマリーの焦燥に満ちた叫びが響いた。

 

 

 





というわけでニュー鯖はヒロインXの闇落ちバージョンのヒロインX・オルタ。セイバーオルタがヒロインXの格好してると思えばオッケー。

なんか仲良くなってるアルトリアとヒロインX・オルタ……一体何があったんだ……



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29話

 

 

オルガマリーからの連絡を受けた時点でレインヴェルたちに逃げられる可能性は無かった。何せ相手は幻想種の頂点である竜種、フランスなどその気になれば数分で横断する事ができるだろう。故にレインヴェルが選んだのは迎撃だった。どうせファヴニールからは逃げられない。であるなら迎え撃つ。ファヴニールは概念により守られている為に倒すことは出来ないがサーヴァントは別だ。最悪、アルトリアがカリバーすれば倒せる可能性がある。旗色が悪くなったと見れば相手も引くだろう。

 

 

ヴラド三世が見つけて来たサーヴァントを廃墟に隠し、レインヴェルたちは朽ちかけた城壁の上に立って待ち構える。アルトリアとヴラド三世はそれぞれの武器を構えて威風堂々と立っているが、ヒロインX・オルタは、

 

 

「セイバー殺すアルトリア顔殺すセイバー殺すアルトリア顔殺すセイバー殺すアルトリア顔殺すセイバー殺すアルトリア顔殺すセイバー殺すアルトリア顔殺すセイバー殺す……」

 

 

アルトリアと同じ、黒く染まったカリバーを片手にセイバーとアルトリア顔への殺意を昂ぶらせていた。凄い殺意である。ヴラド三世なんて、ヒロインX・オルタのことを視界に入らないようにしている。

 

 

そして数分後ーーー無数のワイバーンを引き連れて、ファヴニールは姿を現した。その背中にはジャンヌダルク・オルタとデオン・シュヴァリエ、ジル・ド・レェ、そして海魔に拘束されている黒い鎧のサーヴァントの姿があった。

 

 

「あぁ、ようやく見つけたわ。私のレイン。新しい首輪を見繕ったの、似合うと思うから着けてくれないかしら?」

 

「遠慮しておくわ。俺、首輪は着けるよりも着けさせたいタイプだし」

 

「レインが飼い主で私が飼い犬?……ありね」

 

「お前天才か」

 

「わんわん、マスターわんわん」

 

「……」

 

「おのれぇ……おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!レインヴェル・イザヨイぃ!!よくも、よくも純粋無垢なジャンヌを汚してくれたな!?私は許しませんよ!?首輪なんてそんなマニアックなプレイは!!着けると言うのならこの私に着けなさい!!」

 

「Arrrrrrrrrthurrrrrrrrr!!」

 

「誰かどうにかしてくれないものか……」

 

 

ジャンヌダルク・オルタが黒い首輪を差し出せばレインヴェルが衝撃のカミングアウト。それも悪くないとレインヴェルに好意を向ける3人は思い、デオン・シュヴァリエはより一層目から光を無くし、ジル・ド・レェはジャンヌダルク・オルタから首輪を取ろうとしてファヴニールから蹴り落とされてワイバーンに加えられて何処かに連れ去られ、黒い鎧のサーヴァントはアーサー王の名前を叫びながら海魔から逃れようと踠いていた。

 

 

ヴラド三世の目から光が失われつつあるのもしょうがない事だ。

 

 

「ねぇレイン、私言ったわよね?次に会う時には雌を縊り殺すって。だから、殺すわ。貴方のそばにいる二匹の雌も、裏切り者の領主も。そうして貴方を私だけの物にしてあげる」

 

「そいなら俺は抗うよ。そもそも俺はオルタと敵対する為にここに来たんだ。初めから敵対することは確定事項、だったらもう戦う以外には無い。俺は人類史を存続させる為にオルタを倒す。オルタはフランスを滅ぼす為に俺たちを倒す。それだけの話だ」

 

 

そう言いながら、レインヴェルは鞘に納めていた二本の武器を抜いた。1つは冬木の特異点でもエミヤとの戦いの際に使った礼装であるナイフ。もう1つはカルデアでの召喚の時に抽出された概念礼装である日本刀。

 

 

レインヴェルたちと、ジャンヌダルク・オルタとの間に緊張が高まる。レインヴェルは人類史を継続させたい、ジャンヌダルク・オルタはレインヴェルを捕らえてフランスを滅ぼしたい。どちらにもそれを成す理由があり、それを成そうと決めているのならばあとは争う以外に道はない。

 

 

「ーーー串刺し城塞(カズィクル・ベイ)!!」

 

「ーーー約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガァァァン)!!」

 

 

先手を打ったのはヴラド三世とアルトリア。魔力のチャージ無しで放たれたエクスカリバーの闇の極光が放たれ、地面からはトルコ軍を串刺しにした槍が生える。

 

 

「ーーー蹴散らしなさい、ポチ」

 

「ーーーGaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 

先手としては悪くないのだろうがそんな小手先だけの物は幻想種の頂点たるファヴニールには通用しない。たった一度の咆哮、それだけでエクスカリバーの闇の極光が掻き消され、ヴラド三世の槍の大半が砕けた。

 

 

だがレインヴェルたちからしてみればこれは計算通り、予想の範疇を出ない。そもそもチャージ無しで放たれたエクスカリバーの威力などたかが知れている。ファヴニールに容易く防がれることなど分かっている。

 

 

それでもした理由は、()()()()()()

 

 

「セイバーとアルトリア顔は死ねぇ!!」

 

「ッ!?バーサーク・セイバー!!」

 

 

カリバーの刀身から魔力を放出しながらヒロインX・オルタは空を駆けてファヴニールの背中に到達し、背後からジャンヌダルク・オルタとデオン・シュヴァリエを襲う。咄嗟の指示でデオン・シュヴァリエに防がせたので奇襲は防げた……ヒロインX・オルタの奇襲は。

 

 

「ーーーよぉ」

 

「ッ!?そんな!?」

 

 

まるで挨拶するような気軽い声をかけながらレインヴェルがジャンヌダルク・オルタに斬りかかった。分類上はただの人間であるレインヴェルがファヴニールの背中に現れたことに驚愕しながらも、竜の紋章を掲げた旗でそれを防ぐ。

 

 

レインヴェルがどうしてファヴニールの背中にいるのか?それは()()()()()()()()()()()()()()。ヴラド三世に宝具を使わせたのはファヴニールへの攻撃ではなく足場を確保する為だったのだ。

 

 

ファヴニールは強い、まともに戦えばアーサー王であるアルトリアでも太刀打ち出来ないほどに。()()()()()()()()()()()。レインヴェルがファヴニールの背中に来てしまえば彼に執着しているジャンヌダルク・オルタはファヴニールを動かしてしまえばレインヴェルを落とすのではないかと戸惑う。

 

 

実際、ジャンヌダルク・オルタの指示なのかファヴニールは飛んでいるものの大きく動くことは無かった。明らかにレインヴェルを落とさぬように気を遣っている。その代わりにワイバーンがレインヴェルを捕らえようとファヴニールの背中に群がるが、

 

 

「落ちろワイバーン!!」

 

「フハハハッ!!ストレスの解消に付き合ってもらうぞ!!」

 

 

アルトリアのエクスカリバーとヴラド三世が槍から槍を生やして串刺しにすることでワイバーンを次々に駆逐していく。ヴラド三世が良い笑顔なのはそれほどストレスが溜まっていたからなのだろう。

 

 

「セイバー死ねぇ!!」

 

「……」

 

 

ヒロインX・オルタが怒涛の猛攻を仕掛ける。その剣筋は元が同じであるが故にアルトリアの剣筋と同じ物。だが並々ならぬセイバーとアルトリア顔への殺意がそれを一層激しい物へと昇華させている。

 

 

それをデオン・シュヴァリエは狂化の影響からか無表情で、狂化の影響を感じさせない剣術で受け流していた。攻勢には出ない防戦一方、だがその守りは異常に硬い。すでに百を超えて二百は打ち合っているというのにデオン・シュヴァリエの身体にはかすり傷1つ付いていない。

 

 

それは当然、何せデオン・シュヴァリエは騎士なのだから。騎士は守るために存在している。一対一の状況なら攻勢に出ることを放棄して防戦に望めば何時間経とうとも全ての攻撃を防ぐことが出来る。

 

 

たとえ狂化したとしても白百合の騎士の剣技は衰えない。

 

 

「シィッ!!」

 

「くぅッ!?」

 

 

レインヴェルの攻勢を、ジャンヌダルク・オルタは旗で防いでいた。超近距離用のナイフと近距離用の日本刀というリーチの異なる武器を巧みに操るのは研鑽され尽くされた上に研鑽された人間の技術。俗にいう達人の境地に達している剣技。それをジャンヌダルク・オルタはファヴニールの背中という不安定な足場で攻められながらも完全に防ぎきっていた。

 

 

生前のジャンヌダルクの役割は兵士たちの指揮を執り、士気を高めることにあった。その為に戦争になれば前に立ち、旗を掲げて敵兵へと突入する。それ故にジャンヌダルクに求められたのは倒す技術では無く生き残る技術。たとえ敵兵に囲まれたとしても、無事にそこから脱出出来るような技術を実戦で身につけているのだ。

 

 

たとえフランスを憎悪し、反転したとしてもジャンヌダルクの身につけた技量は衰えない。

 

 

だがファヴニールは動けない。ワイバーンはアルトリアとヴラド三世によって生み出されたそばから駆逐され、デオン・シュヴァリエはヒロインX・オルタの相手、ジャンヌダルク・オルタはレインヴェルに攻められるという形だけではあるが拮抗している状況に持ち込むことが出来た。

 

 

ちなみにジル・ド・レェはワイバーンに連れ去られて行方不明で、黒い鎧のサーヴァントは未だに海魔に拘束されている。

 

 

レインヴェルたちの目的はこの場で勝つことではない。何とかしてジャンヌダルク・オルタを諦めさせて退かせる事なのだ。その過程でサーヴァントの一騎でも討てたのなら御の字程度にしか思っていない。ヒロインX・オルタは本気でデオン・シュヴァリエ(セイバー)を殺しに掛かっているが……

 

 

そしてその拮抗した状況が動き出す。それもレインヴェルたちに取って悪い方向に。

 

 

気持ちよくカリバーをブッパしていたアルトリアに目掛けて無数の魔弾と拷問器具が襲いかかってきた。

 

 

「アサシンか!?」

 

 

余計なダメージを負うわけにはいかないとアルトリアが選んだのは回避と迎撃。拷問器具を魔力放出にて薙ぎ払い、死角から襲いかかってくる魔弾を直感にて回避する。攻撃されるまで知覚されなかった隠密性から気配遮断のスキルを持っているアサシンだと判断。実際、この下手人は万が一に備えてジャンヌダルク・オルタが配置していたバーサーク・アサシンことカーミラだった。

 

 

そしてその回避と迎撃を行動した時間、ヴラド三世と2人で駆逐していたワイバーンの中から生き残りが出てファヴニールの背中にいるレインヴェルとヒロインX・オルタに襲いかかる。

 

 

「邪魔をするなよトカゲ!!」

 

 

ワイバーンを鬱陶しく思いながらも右手にカリバーを持ってデオン・シュヴァリエに切り掛かり、左手に煌びやかな装飾の施された黄金の剣を持ってワイバーンを視界に収めずに切り捨てる。それでいてデオン・シュヴァリエへの攻めを一切緩めないのは流石はアルトリアと言う他あるまい。

 

 

だが、ヒロインX・オルタは平気だとしてもレインヴェルはそうはいかなかった。

 

 

「面倒だなぁおい!!」

 

 

ジャンヌダルク・オルタへの攻め手を緩めて背後頭上から襲いかかってくるワイバーンの牙と爪を受け流し、躱しながらやり過ごす。サーヴァントと戦えている時点で人間かどうか怪しくなってくるがそれでもレインヴェルは人間なのだ。ワイバーンの牙で一噛みされれば、ワイバーンの爪で一撫でされればそれだけで重傷を負う。この状況でそんな負傷をしてしまえば先にあるのは敗北でしかない。だから攻め手を緩めてでもワイバーンに気を裂かねばならなかった。

 

 

そしてそれはジャンヌダルク・オルタが自由になることを意味する。

 

 

「あら?さっきまでの威勢はどうしたのかしら?」

 

 

ジャンヌダルク・オルタの旗が守りだけでは無く攻めにも使われるようになる。流石にその攻撃には研鑽は見られず、力任せに振り回す様な物だったが、レインヴェルからしてみれば逆にそれが怖い。

 

 

研鑽が見られないと言うことは誰かに師事して習った訳ではないと言うこと、つまり我流になる。何かしらの武を修めているのならば次の行動は予想出来るのだが我流であるが故に次に何をするかが読めない。

 

 

「甘く見過ぎたな……」

 

 

旗色が悪くなったと判断してレインヴェルは素直に自分の見通しの悪さを認めた。この作戦を考えたのはレインヴェルで、これで行けると思ったのもレインヴェルなのだ。流石は英霊、反転しようが狂化されていようが人よりも上位の存在であることには変わりなかった。そう、この結果はレインヴェルが齎した物なのだ。

 

 

だから、

 

 

「退くぞ!!」

 

「次会ったら必ず殺す……!!」

 

 

躊躇うことなく撤退を選択。突き出された旗を弾き、()()()()()()()()()()()()()

 

 

「うそっ!?」

 

 

ファヴニールがいるのは上空数十m。サーヴァントならば兎も角、人間であるレインヴェルが落ちれば転落死以外の未来はありえない。レインヴェルの身を案じて下を見たジャンヌダルク・オルタ。そこには……

 

 

「これが次世代のニューヒロインの力だ……!!」

 

 

カリバーの刀身から魔力を放出する事で飛行しているヒロインX・オルタに捕まっているレインヴェルの姿があった。そしてレインヴェルは覗き込んでいるジャンヌダルク・オルタに向かい、親指を下に向ける。

 

 

そしてジャンヌダルク・オルタは、ファヴニールが()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確かにレインヴェルの見通しの甘さによりこの結果は訪れた。だがそのことを考えていなかった訳ではない。そうなることも予想して、対策を立ててある。

 

 

アルトリアとヴラド三世がいる城壁に人影が現れた。それはヴラド三世が見つけてきたサーヴァント。ボロボロだった身体はそのまま、レインヴェルが治療魔術をかけたが呪われているらしく、まともな効果は望めなかった。だが、それでも一度だけなら宝具の発動も出来る程度には回復していた。

 

 

「ーーー再び斃してやろうファヴニール!!幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

 

ボロボロの身体に鞭を打ち、サーヴァントは黄昏色の閃光をファヴニールに向けて放った。

 

 






VS邪ンヌ&バーサークサーヴァント。すまないさんの介入により痛み分け。

ジャンヌダルクは強いというよりも上手い部類の英雄だと思う。一騎当千とかイメージに合わないけど、兎に角生き残る感じで。だから邪ンヌもそれを意識した戦闘スタイル。アヴェンジャーならステータスにゴリ押されて相手になりませんでした。

それにしてもヒロインX・オルタの殺意が高いなぁ……



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30話


マスターの名前を打ち込んだらどんなサーヴァントで聖杯戦争に参加するのかってのをレインヴェルでやってみた。


レインヴェルは【アーチャー】のマスターとして聖杯戦争に参加しました
剣:ランスロット
弓:ギルガメッシュ
槍:アルトリア〔オルタ〕
騎:エドワード・ティーチ
術:諸葛孔明
暗:ステンノ
狂:ヴラド三世
裁:天草四郎
https://shindanmaker.com/619195


とりあえずアルトリアを口説いて仲間にしてからランスロットを去勢するまで見えた。




 

 

「ーーー逃げられましたか」

 

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)の一撃を高度を上げることで躱したファヴニールの背中でジャンヌダルク・オルタは淡々と、だがどこか残念そうに地上を見下ろしながらそう告げた。ファヴニールが怯えているので回避に気を取られている隙にレインヴェルと彼が連れていたサーヴァントたちはこの場から引いたらしく姿は見えない。

 

 

ルーラーに与えられた特権にてサーヴァントの所在を探せばここから逃げているサーヴァントの存在が感じられた。脇目もふらぬ逃走とはこの事を言うのだろう。一層清々しく思える程に迷いの無い逃げの一手だった。

 

 

「ーーー追うのかしら、竜の魔女様?」

 

 

そんなジャンヌダルク・オルタの背後に現れたのはバーサーク・アサシンであるカーミラ。血が見たい血が見たいと、血と狂気に酔いながら自身を伸び出した主人であるジャンヌダルク・オルタにこれからの指示を尋ねる。

 

 

「…… いいえ、ここは一旦引きましょう」

 

 

そしてジャンヌダルク・オルタの判断はまさかの撤退。だがこれは幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)が放たれた事を判断してだった。

 

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)とはファヴニールを殺した英雄であるジークフリートの剣の名である。つまり、レインヴェルたちはジークフリートを連れているのだ。ジャンヌダルク・オルタたちの主力であるファヴニールを倒せる唯一の英雄であるジークフリートをだ。

 

 

先の一撃はファヴニールに届かなかった。それは前にジャンヌダルク・オルタたちがジークフリートを襲撃し、呪いを掛けたから弱体化していた為だろう。恐らく、さっきの一撃がジークフリートの限界のはず。

 

 

だが、もしジークフリートが自身の消滅を省みずに幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)を放ったら?もしその幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)がファヴニールに当たったら?

 

 

ジャンヌダルク・オルタたちが絶対的優位に立てているのは聖杯とファヴニールの存在があるからである。そのどちらかでも欠けてしまえばジャンヌダルク・オルタたちは地力の差でアルトリアを始めとしたカルデアのサーヴァントたちに敵わない。

 

 

最悪を避けるためにジャンヌダルク・オルタはここでファヴニールを進ませるわけにはいかなかった。

 

 

「その代わり、ワイバーンを向かわせます。バーサーク・アサシン、貴女はワイバーンを連れてお行きなさい。嫌がらせ程度で十分ですが、もし兵士や町民を見つけた場合、見逃す事なく丹念に殺しなさい」

 

 

ジャンヌダルク・オルタのレインヴェルへの執着は薄れていない。だがだからといってフランスへの復讐を忘れたわけでも無い。ただそれらを並行して行う事にしたのだ。

 

 

「了解したわ」

 

「あぁ、あとそこのサーヴァントも連れて行きなさい。きっと役に立つでしようから」

 

 

ジャンヌダルク・オルタの指差した先にあるのは未だに海魔に拘束された状態でもがいている黒い鎧のサーヴァント。ジャンヌダルク・オルタが召喚した新たなバーサークサーヴァントの一騎。

 

 

「ーーーAaaaarthurrrrrrrrr!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーウェッヒッヒッヒッヒ!!一発かましてやったぜ!!あぁ気持いいなぁおい!!」

 

「その小物臭い笑い方、似合わないぞ」

 

「分かってるよ!!」

 

「すまない……荷物になってすまない……」

 

「気にするな、あれらよりはマシだ」

 

 

ジャンヌダルク・オルタとファヴニール目掛けてジークフリートに宝具を開帳させて、レインヴェルたちは脇目もふらずに逃走していた。レインヴェルはアルトリアに抱えられ、ジークフリートはヴラド三世に抱えられて。ここにいないヒロインX・オルタは偵察目的で先行させている。

 

 

ジャンヌダルク・オルタはジークフリートを警戒しているが、それ以上にレインヴェルたちはジークフリートを重要視していた。何せファヴニールを倒せる唯一の英雄だからだ。本当なら宝具の開帳さえさせたくなかったのだが状況を考えればそんなことは言ってられなかった。ジークフリートは霊基を変換してでもファヴニールを倒すために宝具を開帳しようとしたのだがレインヴェルの説得により一度だけの開帳に妥協したのだ。

 

 

「まぁともあれこれでオルタとデオン、それにカーミラの実力は大体把握出来た。欲を言えば宝具が知りたかったが威力偵察としちゃ上々だ」

 

 

そもそも、今回の目的はファヴニールの打倒ではなくてジャンヌダルク・オルタたちの力がどれ程のものかを見極めるための威力偵察に過ぎない。無理をすれば倒せるからと言っても必ずここで倒さなければならないわけでは無いのだ。勿論、その必要があるのならレインヴェルは躊躇うことなく命を賭けるのだが今はその時では無い。

 

 

ジャンヌダルク・オルタは守りこそ上手かったが、エミヤよりも弱い。少なくとも一対一ならばレインヴェルでも正面から倒せる。デオン・シュヴァリエはヒロインX・オルタの攻めを全て捌いていたが、それはレインヴェルが威力偵察だと指示していたからだ。もう一度戦えば問題なく倒せるだろう。

 

 

『ーーーあーあー、やっと通じたわね!!聞こえるかしら!?』

 

 

と、ここで途絶えていたカルデアとの通信が回復する。流石にファヴニールの産み出す魔力に直接当てられれば現代の魔術は阻害されてしまう。ファヴニールから離れたことで発したオルガマリーの第一声は焦燥に満ちたものだった。

 

 

「聞こえてる聞こえてる。状況は欠員無し、ファヴニールから逃走中、ヒロインX・オルタを先行させて安全を確保してる」

 

『そう……だったら朗報と悪報よ。朗報はファヴニールはレインヴェルたちを追わずに撤退している事。悪報は無数のワイバーンとサーヴァント二騎が追跡している事ね』

 

「サーヴァント二騎……オルタが来るとは考え難い、デオンが攻めに来るもの同じ……カーミラとあの鎧のサーヴァントか?」

 

「カーミラと言ったらアサシンだったか?なら問題無い。あのサーヴァントは反英雄で、しかも戦う者ではなかった。問題なく殺れる」

 

「そりゃあ武功で英雄になった英霊じゃないからな」

 

 

カーミラと言えば吸血鬼のモデルとなった貴族である。その行いから善性の英雄としてではなく悪性の英雄として英霊になったサーヴァント。アサシンとしての隠密性こそ驚異的だがアーサー王であるアルトリアからすれば障害にならない存在でしか無い。

 

 

「経歴を考えれば女性メタの宝具なりスキルなり持ってそうだが……これは男をぶつければ問題無いな。それよりマリー、追っ手の速度は?」

 

『……速いわね。そのままのスピードならあと5分もあれば追いつかれるわ』

 

「俺とジークフリートがいるからだな……良し、迎え撃つぞ」

 

 

レインヴェルの決断は速かった。いずれ追いつかれて、後ろから襲われるくらいならば正面から迎え撃った方が被害は少ない。

 

 

「ーーーヒロインX・オルタァァァァァァ!!」

 

「ーーーわんわん」

 

 

アルトリアの足を止めさせて名前を叫べばヒロインX・オルタが正座の姿勢でレインヴェルの前に現れる。それを見てレインヴェルとアルトリアはニッコリ、ヴラド三世はこれがアーサー王なのかと膝から崩れ落ち、ジークフリートはすまないを連呼する。

 

 

「カーミラは領主様が、鎧のサーヴァントはアルトリアとヒロインX・オルタが相手をしてくれ。目的は迎撃だ、倒す事じゃない。そのことを忘れないように」

 

「任せろ、この闇落ち聖剣の鯖にしてくれる」

 

「セイバーならば文句無し、セイバー適正を持ったバーサーカーならまぁよし。どちらにしてもセイバーは殺す……!!」

 

「マスターを見間違ったか……」

 

「すまない……俺のせいでこんなことになってしまってすまない……」

 

 

 





鎧のサーヴァント……いったい何スロットなんだ?



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