憑依(?)転生セイバーさんの第5次聖杯戦争 (紗雨)
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プロローグ

 月明かりの綺麗な運命の夜。扉が乱雑に蹴り破られた土蔵、呼び出された俺が初めてみるものは眼前に迫り来る呪いの槍。常人ならば反応出来ずに死ぬだろうその一撃を頭に浮かんだ感覚のもとに直ぐさま打ち払う。

 

 咄嗟に後方へと飛び退いていく全身青タイツ。おそらく先ほどの刺突が防がれるとは思っていなかったのだろう。戦場に訪れた束の間の休息、待っていたとばかりに事前に決めていた言葉を投げかける。

 

 「問おう、貴方が私のマスターか。」

 

 俺は言いたかったセリフをようやく言えたことに感動していた。しかしながら、こうも思うのだ。

 

───どうしてこうなったのだろうか、と。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 突然だが俺は転生者である。生憎と前世の記憶とやらは曖昧だがそんな俺にも二つだけ明確に覚えていることがある。

 

 一つ目は白髪のジジイ...いや、神様と出会ったことだ。もっとも当時は完全に夢だと思っていた。だから神様から「何か望みはないのか」と聞かれたとき、欠伸混じりで適当にこう答えた。

 

 「じゃあ、俺を王にしてくれ。」

 

 この一言が全てを決定付けたのだろう。今になって思う、確かにあれは神様だったのだと。

 

 二つ目は"Fate"という創作物についてだ。

 

───聖杯戦争

 

 その内容は万能の願望器とされる聖杯を求めて、かつての英雄である使い魔"サーヴァント"を召喚して殺しあう魔術師たちの話というものだ。基本的にサーヴァントはそれぞれの得意分野に合わせて七つのクラスに振り分けられていて、真名がバレることのリスクをクラス名で呼び合うことで減らすらしい。この他にも様々な知識があるが、いわゆる原作知識というやつを俺は持っている。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 神様との問答を終えると何故か丘の上に突っ立っていた。目の前には岩に突き刺さったやけに装飾が綺麗で魅力的な剣。その輝きは俺の目を捉えて離さず、まるで引き込まれるかのように見えた。隣には古臭いローブを深く被り、目元を隠した怪しげな男。怪しい男は俺に語りかけてくる。

 

「それを手にする前に、きちんと考えたほうがいい。それを手にしたが最後、君は人間ではなくなるよ。」

 

───そういう大事なことはもっと早く言って欲しい。

 

 男が忠告をしたときには既に、装飾の綺麗な剣、"勝利すべき黄金の剣(カリバーン)"は金床から解き放たれ、俺の手の内で光り輝いていた。先ほどの言葉をマトモに受け取るならば、どうやら俺は人間を辞めてしまったらしい。

 

「ああ、辛い道を選んだんだね。でも奇跡には代償が必要だ。アーサー王よ。君は一番大切なものを引き換えにすることになる。」

 

 男は一瞬だけ呆けた顔をすると、実に楽しそうな顔でそう告げる。その顔からは新しい玩具を見つけた子供のような、残酷な無邪気さが感じ取れた。

 

 背筋に走る悪寒に身を震わせながらも、手元にある剣を確認すると、ふと気付いた。綺麗に磨かれた刀身に今世の俺の姿が映っていたのだ。白い肌に金色の瞳、手触りの良さそうなプラチナプロンドの髪。その姿は絶世の美女と言っても差し支えない。しかしながら何か物足りないと思えば、何よりも特徴的なものがない。そう、彼女のトレードマークともいうべきアホ毛(モノ)がないのだ。

 

 選定の剣、怪しげな男───おそらくはマーリン、アーサー王、そして女性であること。ここまでくれば嫌でも分かる。俺はどうやら"Fate"の世界のアルトリア・ペンドラゴンに憑依(?)転生したらしい。

 

 確かに王にしてくれとは言った。だから百歩譲ってアルトリアになるのはいいだろう。

 

───でもなんでオルタなんだ。




真名:アルトリア・ペンドラゴン(?)
クラス:セイバー
マスター:衛宮 士郎
属性:混沌・善
筋力:B
耐久:C
敏捷:C
魔力:B
幸運:E
宝具:A+

クラス別能力
対魔力:A
騎乗:C
直感:A
魔力放出:A
カリスマ:EX

宝具

風王結界(インビジブル・エア)
ランク:C
種別:対人宝具
レンジ:1〜2
最大捕捉:1人
彼女の剣を覆う、風で出来た第二の鞘。厳密には宝具というより魔術に該当する。
幾重にも重なる空気の層が屈折率を変えることで覆った物を透明化させ、不可視の剣へと変える。敵は間合いを把握できないため、白兵戦では非常に有効。
ただし、あくまで視覚にうったえる効果であるため、幻覚耐性や「心眼(偽)」などのスキルを持つ相手には効果が薄い。
透明化は副次的な役割であり、その本質は彼女の余りにも有名すぎる剣を隠すためのもの。
風で覆う対象は剣に限らず、オートバイに纏わせて速力をアップさせたり、ビルをも覆う風の防御壁にしたりもしている(必要がなかったためか、透明化までは行われなかった)。
また、纏わせた風を解放することで破壊力を伴った暴風として撃ち出す「風王鉄槌(ストライク・エア)」という技ともなる。ただし、一度解放すると再び風を集束させるのに多少時間を要するため、連発はできない。

勝利すべき黄金の剣(カリバーン)
ランク:A+
種別:対人宝具
由来:少女だったアーサーが石から抜いた選定の剣。
彼女が引き抜き、王となった選定の剣。これを引き抜いた時点で彼女は老化と成長が止まっている。
対人宝具の「対人」とは敵ではなく剣の所有者、つまり選定対象に向けられたもの。所持者である彼女が最初から王として完成された存在であったため、その威力は聖剣に相応しいものである。
権力の象徴であり、華美な装飾が施された式典用の剣で、武器としての精度は「約束された勝利の剣」と比べ劣る。真名を解放すれば「約束された勝利の剣」と同規模の火力を発揮できるが、刀身はセイバーの魔力に耐えられず崩壊してしまう。


備考:王として完成された存在として生み出されたために"勝利すべき黄金の剣"を失うフラグが立たなかった。そのため"約束された勝利の剣"と"全て遠き理想郷"を手に入れるイベントが起きず参戦する羽目に。


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光の御子

 気持ちを取り直して目の前を見やる。視線があったのは日本人にしては珍しい赤髪の青年。惚けた顔をして時が止まったかのように固まっている。

 

 彼、衛宮士郎がそんな反応をしてしまうのは無理もない。生前に何度も練習した召喚時のこのセリフは完璧だ。本物のアルトリアでさえも凌駕する出来の良さに感動して言葉も出ないのだろう。それでこそ練習した甲斐があったというものだ。練習を見る度に苦虫を噛み潰した様な顔をしていたランスロットとガヴェインも報われたことだろう。俺はシロウの反応に満足しつつ次の言葉を紡ぐ。

 

 「これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。ここに契約は完了した。」

 

 困惑の色が強くなったシロウの顔を見やる。魔術士として未だにへっぽこな彼では理解が追いつかないのだろう。今は説明している時間もない、俺が味方であることだけを知って貰えれば良いのだ。

 

 いい加減に我慢の限界が来たのだろう、中庭から感じられる殺気が強まってきている。転生前では未経験の、転生後では当たり前となってしまった空気を感じる。肌で感じる殺気が自分が戦場に立っていることを実感させる。

 

 さあ、始めよう───俺だけの聖杯戦争を。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 土蔵を出た俺をランサーが槍を構えて迎える。その表情からは少しの俺の動きすら見逃すまいという気概が見える。一触即発の空気、あと一歩踏み出せば戦闘が再開されるだろう。

 

 ほんの僅かな違和感、ここでのランサーはマスターの令呪もあって乗り気では無かった筈だ。しかし実際に目の前にいるのは本気で警戒し、一切の油断もない戦士の姿。開幕直後の原作との齟齬、だがこの変化は俺にとって望ましいものだ。

 

 「一応聞くがよ、この勝負次に預けるつもりはねぇか?」

 「断る。サーヴァント同士が顔を合わせた以上二度目は必要あるまい。」

 

 カーニバル・ファンタズムでは毎回死に、ネタキャラ化が進んでいるランサーこと、クーフーリンだが俺との相性が頗る悪い。

 

 原作では心臓必中(必ず当たるとはいっていない)と言われながらも戦果が芳しくない宝具、刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルグ)だが先程確認したところ俺の幸運はEである。幸運と直感の判定によっての因果律の操作を回避できるとされているが、直感がAとはいえ幸運がEとなると本物のアルトリアのように致命傷を避けれるかどうか怪しくなる。縦しんば因果の逆転を回避したとしても、回復阻害の呪いによって負った傷は手痛いハンデとなってしまうだろう。

 

 よってランサーは令呪によって全力を出せないこの戦闘で、ゲイボルグを使う前に討つことが望ましいのだ。

 

 「ハッ!よく言った!!」

 

 俺の返事を聞くや否やランサーは猛攻を開始する。常人の目では捉えられない神速の突き。その速さは音すらも置き去りにし突かれたことにすら気づけないだろう。最速のサーヴァントの名に恥じない刺突の壁に思わず頬が緩む───いや、笑うしかないだろう。

 

 正直に言えばランサーのことを少し嘗めていたようだ。俺に本物程の技量はない。アルトリアの身体を持ちながら円卓の騎士の中でも下から数えたほうが早いだけの技術しか持ち得ない。

 

 そんな俺が戦場を生き延びれたのは神スキル、直感様のおかげだった。今も直感様に全てを託しギリギリの回避でやり過ごすことしか出来ず、一方的な攻防になってしまっている。構えることすらせずにひたすら回避を続ける俺を見てランサーの顔が訝しむものとなる。

 

 「解せねぇな。何故武器を構えねぇ。そのナリでキャスターって訳でもねぇだろう。」

 

 すまない、ランサー。武器を構える余裕すらないんだ。本当にすまない...。俺のそんな心情は理解されるわけもなく、ランサーは勝手に熱くなっていく。

 

 「俺を相手に武器は必要ねぇってか!?嘗めやがって!...ならばこの槍にかけて───貴様を討つッ!!!」

 

 その言葉と共にランサーは槍先を下に構え、体勢を低くする。それと呼応するように解放される途轍もない魔力。それはまるで周囲の熱を根こそぎ奪っていくかのようだった。禍々しい殺気がランサーの持つ槍先に集中していくのが見える。

 

 これどう見ても刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルグ)使う気ですよね。ちょっとランサーさん、沸点が低過ぎませんかねぇ。冷静に状況を解説しているがマズい、ブリテンで絶望した食文化くらいマズい。アレを使わせたら最期、俺はなす術もなく敗れるだろう。

 取れる手段は2つ、魔力放出を併用して全力で槍の射程外から逃れるか、発動自体を妨害するのみ。前者は最速のサーヴァントであるランサーから逃れ切れるかの保証がない、ならば───。

 

 宝具を放つ為の溜めの時間、そこにしか勝機はない。俺は即座に獲物を取り出す。真名がバレることを恐れている場合ではないので不可視の鞘を解除する。間に合うかどうかは五分五分だが、幸運E同士ならばいい勝負になるだろう。

 

 「刺し穿つ(ゲイ)───」

 「風王鉄槌(ストライクエア)ッ!!」

 「死棘の槍(ボルグ)ッ!!!」

 

 俺の運命を決定付けた剣勝利すべき黄金の剣(カリバーン)を包んでいた風の鞘が解放される。幾層にも重なった風の結界の解放は暴風の一撃へと変わる。

 

 ランサーが槍を放ち切る前に間に合ったその一撃は、彼を大きく吹き飛ばしていく。何とか間に合ったと安堵したその瞬間、頭の中に警鐘が鳴り響く。直感様に従い見ることもせずに剣を振るうと、手に伝わってくる確かな衝撃。視界の隅には鞭のような軌道を描いて心臓に向かってくる槍。俺の剣で受け止めても尚、心臓を穿とうと進み続ける。拮抗する力と力がぶつかり合い、周囲には衝撃波が起きる。魔力放出も併用して全力で着弾点をズラす。そこまでしてやっと呪いの槍は左胸と左腕の間を通り抜けていく。

 

 危なかった、原作知識と風王鉄槌(ストライクエア)、魔力放出の3つを使い凌ぐことがやっとだった。内心ではヒヤヒヤしながらもそれを表に出さないように構える。

 

 「凌いだというのか...我が必殺の槍、刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルグ)をッ!」

 「見事な一撃でした。アイルランドの光の御子。」

 

 本当に見事過ぎて勘弁して欲しい。もう二度と見たくない。使用者を吹っ飛ばしても槍だけが襲ってくるなんて聞いてないぞ。一歩間違えていれば死んでいたという事実に心臓の動悸が止まらない。

 

 ランサーがこちらを睨んでくるが戦闘を続行するつもりはないようだ。戦闘の意思がないことを確認すると露わになってしまった勝利すべき黄金の剣(カリバーン)をまた不可視の鞘に納める。ランサーは一度舌打ちするとこちらに背を向ける。

 

 「まずったぜ。こんな早々に正体がバレちまうとはな...。そのツラ覚えておくぜ、セイバー。」

 

 そう言い残すとランサーは屋根を飛び越えて去っていく。出来ればここで仕留めたいところだったが、Cランクとはいえ戦闘から離脱するのに補正のかかる仕切り直しのスキルを持っているランサーを追うことは出来ないだろう。一先ずの戦闘の終了に気づかぬうちに息をつく。知識として知ってはいたものの、実際に体験するのとでは違うようだ。生き残れたことへの安堵と強敵と戦えたことへの興奮が程よく混じり合う。その余韻に浸りながら今後のことを考える。

 

 あと残った仕事は二人の客人、あかいあくまこと遠坂凛とそのサーヴァントであるアーチャーを迎えることだけだ。不確定要素はただ一つ。

 

───アーチャーは原作セイバーと違う俺の姿を見て止まってくれるのだろうか。




直感
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。Aランクの第六感はもはや未来予知に等しい。また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。本編セイバーの場合は開き直って全てをこのスキルに丸投げしている為、感じ取ってからの反応速度が高い。


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運命の夜

士郎君空気過ぎて士郎視点入れることに。カリスマEXを考慮して他視点から本作セイバー見るとどうなるのかなど。


───その光景は今でも覚えている。

 

 風に揺れる金砂の髪、月明かりに照らされる白い肌。闇を纏った漆黒の衣、心を見透かす金色の瞳。そして彼女が現れた時から収まることのない覇気の奔流。

 

───それが彼女との出会いであり、聖杯戦争の始まりだった。

 

 「問おう、貴方が私のマスターか。」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 彼女の言葉で目の前の幻想的な光景がようやく現実のものだと思い出す。それと同時に様々な疑問が湧いてくる。マスターとはなんだ?彼女は何を言ってるんだ?そもそも彼女は何処から現れたんだ?他にも多くの疑問が湧いたがその全てを飲み込んで言葉を紡ごうとする。そして気づいた、声が出ない。情けない事に彼女の覇気と幻想的な雰囲気に呑まれてしまったようだ。腰も抜けてしまったようで立つことすら儘ならない。

 

 何一つ分からない現状で、理解できたことが一つだけある、彼女は絶対者だ。容姿こそ美しい女の子であるが、身に纏う覇気が、僅かな所作の端々が、そう訴えかけてくる。彼女の機嫌を損なうのはマズい、その気になれば俺の命なんて数秒で奪われるだろう。必死になって返事をしようとするが、俺に出来たことは鯉のように口を動かすことだけだった。

 

 喋れなくとも必死に努力した甲斐があったのだろうか。彼女の顔に僅かにだが満足気な表情が見て取れた気がする。どうやら俺の取った行動は間違っていなかったらしい。彼女は一度頷いてみせるとこう続けた。

 

 「これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。ここに契約は完了した。」

 

 契約?何のことだろうか。また分からない単語が出てきた。状況から考えると俺は知らないうちに彼女と契約を交わしていたらしい。目の前にいる絶対者との契約...魂でも要求されるのだろうか。そこまで思案して俺は考えることをやめた。例え代償が何であろうと彼女の要求を拒んだあとに待っているのは死だけなのだから。

 

 不意に外からの殺気が強くなる。そうだ、外には二度もの襲撃者がいたのだった。目の前の絶対者の存在が強過ぎて忘れていた。彼女は殺気を受けて楽し気な顔をすると土蔵の外へと歩んでいく。一瞬だけ彼女を止めようと思ったがすぐに止めた。俺には彼女が敗北する姿など想像できないのだから。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 彼女が出てから数分が経った。ようやく立つことが出来るほど回復し、覚束ない足取りで土蔵の外に出る。俺の目に映ったのは神話の再現であった。辛うじて目に見える程度の赤い軌跡、それは神速の域にある槍の一撃であった。俺だったなら刺されたとしても気づくことが出来ないだろうその一撃を、彼女は紙一重の位置で躱していく。驚くことにその手には何一つ武器といっていいものが握られていない。

 

 一見すると槍使いの男が一方的に攻めているように見えるがそれは違う。紙一重での回避が何十、何百と続くことが偶然であるはずがないだろう。彼女は槍使いの放つ目にも留まらぬ神速の刺突を完全に見切っているのだ。彼女が躱す度に戦場にはためく黒い衣。加えて刺突の合間に混ぜられる足払いや横薙ぎの一撃も難なく回避していくその様は、月の光をスポットライトとした幻想的な舞踊を彷彿させる。

 

 何故あそこまで見切っておきながら攻勢に出ないのか、不思議に思ったがすぐに思い当たる。彼女はあの恐ろしい槍使いを前にして挑発しているのだろう。私に武器を抜かせてみろ、と。その証拠に度重なる回避の中でも微笑を浮かべ続けている。

 

 最初は訝しむ顔だった槍使いの男も彼女の挑発に気づいたのだろう、段々と険しい顔つきになっている。それと比例して回数を重ねるごとに刺突の速度も上がっていく。もはや刺突の壁と言ってもいいその連続突きも、彼女は最小限の動きで回避している。その動きは完全に自然体であり危うさを微塵も感じない。

 

 徐々に速くなっていく刺突の中で遂に槍使いは動きを止めた。あのままでは勝負にならないと判断したのだろう、その顔は何かを決意したようだった。槍を下に構え、体勢を低くする。それと呼応するように彼が持つ槍から発せられる死の気配が濃くなっていく。

 

 アレは、あの構えは、校庭で赤い外套を着た男に見せていた構えだ。今から放とうとしている一撃は間違いなく彼の切り札なのだろう。あの神速の槍術をみせた彼の切り札、それはもはや俺では想像することすらできない。だがあの構えを見てなお、俺には彼女が敗北する未来を思い浮かべることができない。根拠のない話だが、彼女ならばどんな切り札にだろうと対処するだろうと漠然とした考えがあった。

 

 流石の彼女も彼の雰囲気の変わりようを見て構えた。不可視の武器なのだろうか、俺の目には両手に構えられているであろう彼女の武器が見ることができない。しかし構えてからは発せられる覇気が桁違いなので何かを持っていることだけは理解できる。

 

 放たれるであろうはお互いの本気の一撃、次の一手でこの勝負は決まるのだろう。時間の流れがやけに遅く感じ、肌に粘つくような汗をかく。自分の呼吸音がやけに大きく聞こえる、まるで周囲の音が全て消えてしまったようだ。高まる緊張感の中、最初に動いたのは槍使いの方だった。低い体勢から一気に前に詰め、必殺の一撃であろう技の名前を叫ぶ。

 

 「刺し穿つ(ゲイ)───」

 「風王鉄槌(ストライクエア)ッ!!」

 「死棘の槍(ボルグ)ッ!!!」

 

 それは一瞬の攻防であった。槍使いは渾身の一撃を放ちきる前に、彼女が放った暴風の一撃で吹き飛ばされたはずだった。しかし、本来ならば持ち主ごと吹き飛ばされるはずの槍は、まるで生きているかのようにあり得ない軌道で彼女の心臓へと向かっていった。視界外から不可解な軌道を描いて迫る槍、本来ならば防ぎようがないはずの一撃。それを彼女は初めから分かっていたように見もしないで受け止めた。

 

 周囲に響く甲高い金属音、武器と武器がぶつかり合うその不協和音は鳴り止むことなく奏で続けられる。受け止められたはずの槍はそれでもなお勢いを失わず、周囲に余波を撒き散らし続ける。永遠に続くと思われた力の均衡は唐突に傾いた。気合いの一声と共に彼女の発する魔力が一段と大きくなり、槍は本来の軌道から逸れて彼女の脇を抜けていく。

 

 静まり返る戦闘音。起き上がった槍使いは忌々しげな目を向けている。連続して行われた、針に糸を通すような緻密な行動の選択。そのどれもが一歩間違えれば確実に死んでいたことだろう。それを危なげもなくやり切った彼女の実力には感嘆するしかない。

 

 「凌いだというのか...我が必殺の槍、刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルグ)をッ!」

 「見事な一撃でした。アイルランドの光の御子。」

 

 アイルランドの光の御子ーーークランの猛犬(クー・フーリン)と呼ばれたケルトの大英雄だ。あの槍兵の正体がそうだと言うのだろうか。信じられない言葉だが不思議とすんなりと頭に入ってくる。

 

───だとすると彼女も何処かの英雄なのだろうか。

 

 ふと思い立って彼女を見つめればさっきまではなかったはずの剣を握っているのが見て取れた。先ほどの攻防の影響なのだろうか、不可視だったはずの彼女の武器が露わになっている。それはとても美しい剣だった。綺麗な装飾が施されていることもあるが、それよりも剣から感じられる雄々しさと気高さに深く心を打たれた。あの剣は彼女の在り方を示しているのだろう。自然と脳裏に浮かびあがったのはひとつの姿。

 

 

───理想を求め、その先にあるものを信じて戦い続けた気高き覇王の姿だった。




カリスマ
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。カリスマには性質があり、ガウェインの場合は彼の裏表のない性格の表れ、ジャンヌや四郎の場合は根拠のない啓示の内容を他者に信じさせることができる。他にもモードレッドのカリスマは体制に反抗する時に真価を発揮し、信長のカリスマは特定人物には変な効き方をしていた。秀吉のカリスマは日本史上稀にみる問答無用のコミュ力。備考として型月世界では機能することが稀である。



カリスマEX
王として完成された存在である彼女の、もはや指揮力・統率力という言葉では言い表せないカリスマ性。地球の空が青く見えるのと同じように、世界的に定められたひとつのシステム。性質としては支配に特化したもので、友好的な感情を生み出すものではない。敵味方関係なく自動で威圧を行う。敵対者には警戒を促すことと、実力の把握を妨害し、本気を出すことを躊躇わせる。敵味方関係なく能力値に差があり過ぎる者には恐怖を与える。


本作セイバーの簡単な設定
基本的な見た目はFGOの再臨3回目のオルタ。あれに加えて戦闘時には通常のセイバーのように鎧が追加される。
原作と同じようにスキルには書かれてないが湖の精霊の加護を持ち、水上に立つことができる。
原作と同じく幻想種として最高位の竜の心臓を持ち、圧倒的なカリスマと合わさって常時凄まじい覇気を纏っている───中身がどれだけ残念でも。
彼女の本質を理解することができたのはマーリンだけであり、彼も自分だけの楽しみとしてそれを吹聴することはなかった。
割と自信家で根拠のない自信をいつも持っている。


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錬鉄の魔術師

4凸したいのにアイリ礼装がまったくと言っていいほど落ちません。すでにリンゴは全消費、QP以外は全回収済みなんですけどね...。


───英霊エミヤ。

 

 それが第五次聖杯戦争におけるアーチャーの真名だ。全てを救うという理想を追い求め続けて限界にぶつかり、それでも英霊になったならばきっと全てを救えるはずだと、死後に守護者となる契約を世界と交わして人々を救った。その後は世界の危機をも救い、遂には英雄とすら呼ばれたが、見返りを求めない彼の行為は人々の恐怖の象徴だった。裏切られ続ける日々の中で最後には争い事の張本人と押し付けられ、自分が助けたはずの人物に罪を被せられ処刑された。理想を追い続けたその生涯は最後まで報われることなく多くのものに裏切られてきたが、それでもなお誰一人恨むことはなかった。

 

───そこで終われたならば彼も幸せだったのだろう。

 

 しかし、その後に待ち受けていたのは守護者という残酷な現実であった。死後は英霊の力で更に多くの人を救うことを望んだが、守護者は彼の願った、人を救うなどという役割ではなく、人類の滅亡を回避する為にその原因となった加害者と被害者の全てを皆殺しにして、なかった事にする掃除屋に過ぎなかった。

 

 つまるところ彼の正体は、信じ続けた唯一の理想にすら裏切られ磨耗した者。正義の味方になる為に修練を続け、とある未来の世界で世界と契約した───衛宮士郎のなれの果て。

 

 

 

◇◇◇

 

 ランサーの気配が遠のくと同時に感じられる新たなサーヴァントの気配。この段階での新たなサーヴァント、十中八九アーチャーの気配だろう。早々に向かいたいところだが未だに固まっているシロウが目に入る。仮にも俺のマスターだ、さすがに何も告げずに放置するのはないだろう。

 

 「シr...ゴホンゴホン。───マスター。新手がやって来ましたので私が向かいます。マスターは待機していてください。」

 

 あ、危なかった...。脳内ではシロウと呼んでいるから名前を聞いてもいないのに名前で呼びかけるところだった。問い詰められたとしたら言い訳のしようがないぞ。何を隠そう俺は、ブリテンでは友達Zeroのぼっちだったのだ。いいのだ、王とは孤高であるべきなのだ、寂しくなんてない───はずだ。其れも此れもこの身体が悪いのだ。

 

 俺は仲良くしたいのに王という身分が悪いのだろうか、皆が委縮してしまう。おかげでブリテンでまともに喋ることが出来たのは円卓の騎士達とマーリンだけだ。民達に話しかければ命乞いを伴って平伏し、子供達に話しかければ蜘蛛の子を散らすように逃げていく。俺は怪物か何かだというのだろうか。何よりも一番腹が立ったのが、そんな俺を見るたびに笑いを堪えようともしないマーリンだ。とにかくこの身体になってから色々とハイスペックになったが、コミュ二ケーション能力だけは確実に劣化していることだろう。

 

 幸いにもシロウは先ほどの発言を疑問に思わなかったようで流してくれた。もっとも彼にとって今日はとても濃い一日であっただろう。もしかしたら気にしている余裕なんて無かっただけなのかもしれない。

 

 閑話休題(それはそれとして)、今から出迎えるのはあかいあくまこと遠坂凛と、そのサーヴァントのアーチャーだ。ここは割と重要な場面だろう。何しろここでの出方によって彼女達と協力関係が結べるかが決まるのだから。

 

 まず始めに彼女達を敗退まで追い込むのは論外だ。理由としてはアーチャーがいなければ今後詰む可能性があること。また、凛にはシロウへの説明を担当して貰いたいからだ。どう考えても突如やってきた謎の女騎士よりも、同じ学校に通う表面(・・)だけは優等生のほうが信用がおけるだろう───決して説明が面倒だからではない。そもそもこの案の実行はシロウの令呪によって妨害される可能性が大きい、よって不可能に近いのだ。

 

 しかしながらまったく手傷を与えないのも良くないだろう。根本のところで甘いとはいえ凛は魔術師だ。こちらもそれなりの実力を見せなければ協力しようなどと考えてもくれないだろう。

 

 以上のことを踏まえるならば深手を与えないように、適度にアーチャーと戦いつつ、シロウが令呪を無駄撃ちしないように気をつけるのが最善ではないだろうか。方針が決まったならば早速行動だ。

 

 ◇◇◇

 

 衛宮邸の塀の上に立ってサーヴァントの気配を探る。月明かりが少し眩しいが問題はないだろう。気配の方向を見やるとすぐに目に入る赤と赤の主従コンビ。彼女達は自己主張の激しい服装なので探すことが容易なのは有難い。一人は黒髪ツインテールのスレンダーな体型の赤い服装の女、遠坂凛。もう一人は赤い外套に身を包んだ白髪に色黒の男、アーチャーだろう。両者とも急いでシロウを助けに来た割には警戒心が強いようだ。幾度となく辺りを見回しているのが見て取れる。ふむ、ここは仕掛けるべきだろうか。僅かに思案しながらも彼らに声を掛ける。身体が女となってしまった今でも、紳士の心を忘れていないのだ。原作アルトリアのように問答無用で襲いかかるなんてことはしないのだ。

 

 「止まれ。ここより先h───」

 

 俺の言葉を遮るように凛から放たれた弾丸、ガンドだろうか。先制攻撃を仕掛けてくるとは中々に血が滾っているらしい。真っ直ぐに俺の顔に向かってくるソレを余裕を持って回避する。問答無用の不意打ち。むぅ、ここまでのことをされてしまった以上戦わないのも不自然だろう。本音としてはシロウが追いつくための時間を稼いでおきたかったのだが。仕方なく塀から飛び降りて彼女達の前に立つ。そして飛び降りた勢いを殺さぬようにアーチャーに向かって斬り掛かる。今の俺は原作アルトリアとは姿が違う、アーチャーはおそらく多少は動揺するが反応できないってことはないだろう。きっと心眼のスキル持ちのアーチャーならいい感じの剣戟を繰り広げることができるに違いない。あとはシロウがやって来れば剣を収めて話し合いに移行すればいい。そうなればお互いの技量が把握でき、かつ友好的な協力関係を築くことが容易になることだろう。完璧な作戦だ。自分の出来の良さに惚れ惚れする。

 

───俺のそんな予想とは裏腹に

 

 「君はッ!?」

 

 俺の顔を見たアーチャーは愛用の双剣を取り出しもせず、驚愕の表情のまま完全に動きを止め、そのまま何も出来ないで俺に斬り伏せられた。

 

 「アーチャーッ!?」

 

一瞬にして崩壊した作戦。静まり返るその場。俺の手に握られているのは血のベッタリとついた不可視の剣。目線を横にズラすと目に入るのは、倒れ伏したアーチャーとその顔を恐怖に固めた凛の姿。俺はその光景を見て心の中で叫んだ。

 

───どうしてこうなった!!



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