銀魂 真選組の新隊員 (残月)
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プロローグ

 

少女は親を知らない。

 

物心付く前に組織に居たからだ。

 

少女は温もりを知らない。

 

娘ではなく殺戮マシーンとして育てられたからだ。

 

少女にある日常は人を斬る事。

 

それしか知らないからだ。

 

 

そんな少女は薄暗い部屋で鎖に繋がれていた。

少女が逃げ出さない様に、少女が反抗しない様にと手枷と足枷、首には首輪が付けられ鎖は部屋の片隅に繋がっていた。

 

 

仕事が始まるまで少女は部屋で座って待つ。それだけだった。

少女がする事は二つだけ。人を斬るか、部屋で静に座すだけだった。

 

 

 

そして、その少女に転機が訪れる。

普段は静かな部屋に爆音と人の声が聞こえ始めたのだ。

 

 

 

「御用改めである!」

「テメェ等神妙にしやがれ!」

「し、真選組だぁっ!」

「ヤベぇぞ!」    

 

 

片方は聞き慣れぬ声、片方は聞き慣れた声。

どうやら少女の飼い主は何者かに襲われている様だ。しかし少女は動かない。

 

命令を受けてないからだ。少女はずっとそうしてきた。

命令を守る事を、命令を遂行する事を。

 

 

「アイツを連れてこい!アイツなら真選組でも殺せるはずだ!」

「へ、へい!今すぐに!」 

 

 

聞き慣れた声の方が動き始める。少女を入れている部屋の鍵がガチャガチャと開けられる音がしていた。

 

しかしそれは適わなかった。

 

 

「何をする気かは知らねぇが……させるかぁ!」

「ギャァァァァァッ!?」

 

 

聞き慣れぬ声の主は聞き慣れた声の主を殺した様だ。その悲鳴を聞いた少女はそんな事を思っていた。

 

 

「トシ!大丈夫だったか?」

「問題ねぇよ近藤さん。しかし奴等ここになんか隠してるみたいだな。なんか焦ってたぜ」

 

 

聞き慣れない声が増えた。先ほどから聞こえてきた声の主は『トシ』と呼ばれ、増えた聞き慣れない声は『近藤さん』らしい。

 

 

「この部屋か?」

「ああ、余程のお宝でも隠してるみたいだな」

 

 

二人の男は少女が繋がれている部屋の前に居る様だ。ガチャガチャと鍵が掛かっている扉を開けようとしている。

 

 

「んじゃ開けてみやしょうや」

 

 

間の抜けた声が追加されたと思ったと同時に少女が繋がれている部屋の扉は破壊された。激しい爆音と煙をまき散らしながら。

 

 

「総悟テメェ!」

「土方さんがノロノロしてっから開けてやったんたでしょうアバカムで」

「バズーカ撃っただけだろ!こんな物騒なアバカム初めて見たわ!」

 

 

総悟と呼ばれた人物が扉をバズーカで破壊した様だ。本人はアバカムと言い張っているが。

 

 

「まぁ、落ち着けトシ。何はともあれ扉は開いたんだからな」

 

近藤と呼ばれた男がトシを窘めると開いた扉の中を覗く。

 

中を見た近藤は絶句した。

 

中には鎖に繋がれた少女が虚ろな瞳で此方を見ていたのだから



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服無き少女にメイド服を

 

 

真選組局長『近藤勲』は混乱していた。とあるテロリスト組織の殲滅任務を帯びて敵地へ向かった。

そしてその組織を壊滅させたは良いが最後にテロリスト共が解き放とうとしていた兵器と叫んだ物が隠されている部屋を開けたら、そこに居たのは鎖に繋がれた少女だった。

 

 

「お、おいお嬢ちゃん!大丈夫か!?」

「…………ん」

 

 

近藤は少女に駆け寄ると更に絶句した。少女は鎖に繋がれているだけではなく、手枷と足枷まで付けられているのだ。

 

 

「ちくしょう、 あいつ等こんな酷い真似を!」

「いや、近藤さん。このガキが奴らの言っていた、兵器なんじゃねーか?」

 

 

近藤はこの少女を閉じ込めていたテロリスト達に怒りを感じた様だが真選組副長の『土方十四郎』はそうは思わなかった様だ。

 

 

「万事屋の所のガキも戦闘民族の夜兎らしいじゃねーか。コイツも同じなんじゃ無いか?だから鎖に繋がれてたと思うんだが」

「流石、土方さん。真偽はどうであれ鎖に繋がれたガキ見て出る言葉がそれとは非道でさぁ」

「ドSのテメェには言われたかねぇ!」

 

 

自身の推測を近藤に告げるが共に来ていた『沖田総悟』に非道扱いをされていた。

 

 

「トシ、この娘の素性が何であれ助けてやらねばならん。さ、行くぞ嬢ちゃん」 

 

 

近藤は少女を繋いでいた鎖を刀で切り落とす。少女はそれに伴いフラリと倒れそうになるが近藤はそれを支えた。そして少女を横抱きにするとそのまま部屋を出ていく。

 

 

「はぁー、とことんお人好しでさぁ」  

「言うな。アレが近藤さんらしさなんだからよ」

 

 

沖田と土方は底抜けなお人好しの近藤に溜息を落とすが馴れているのか近藤の後を追い部屋を出た。

 

そこで土方や沖田、そして少女を抱き抱えていた近藤も其処で気付いた。

抱き抱えられている少女の長い髪の色が銀髪である事に。

 

 

 

 

◆◇真選組屯所◇◆

 

 

 

真選組屯所に帰った近藤達は少女の手枷と足枷を外すと先ずは汚い状態だったので風呂に行けと命じると少女についての話をしていた。

 

 

「あの娘……どう思う?」

「近藤さん、ストーカーからロリコンに転職ですかい?」 

 

 

真面目な顔付きになった近藤だが沖田からは別の意味での答えが返ってきた。

 

 

「いや、そうじゃなくて!あの娘……テロリスト組織の兵器と言われてたみたいだが俺にはそうは思えなくてな。俺に抱き抱えられてる時も大人しかったし」  

「分からねぇのは俺も同じだ。仮にも兵器ってんなら殺気の一つもあっても良いはずだがあのガキからは何も感じなかった」

「見た目は14~15歳のガキですがね」

 

 

近藤の意見に賛同する様に土方も意見を出す。沖田も同様の意見の様だ。

 

 

「ま、兎に角……あの娘が風呂から出たら事情聴取だな」

 

 

近藤がそう言った時だった。

 

 

「わぁー駄目だよ!そんな格好で外に出ちゃ!?」

 

 

廊下の方から真選組監察の『山崎退』の声が聞こえてきた。しかも声の様子から慌ててる様だ。

 

 

「うるせーな山崎。何を騒いでやがる」

「ふ、副長。連れてきた娘が……って待って!」

 

 

土方は何をしているか聞こうとしたと同時に近藤達が居た部屋に先ほどの少女が戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

裸で

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおぅい!なんで裸!?山崎、何をしたんだテメェ!」

「違いますよ副長!この娘が裸で出て来たんです!」

 

 

山崎の胸ぐらを掴み怒鳴る土方に焦りながらも説明をする山崎。

 

 

「お、お嬢ちゃん!おじさん達の前で裸は駄目だよ!」

「近藤さん、そう言いながらもアンタの視線は目の前の裸に集中してますぜ」

 

 

慌ててる近藤だが何故か沖田は平然としていた。

 

 

「テメェもテメェだ。なんで裸なんだ!?」

「…………服、無かった」

 

 

土方の問いに答える少女。単に服が無かったから裸で来たようである。

 

 

「だからって裸で出てくるな!」

「落ち着けトシ。確かにまたあのボロボロの着物を着せるのも酷だ。そして着替えを用意してなかった俺達にも責がある」

 

 

少女に怒鳴る土方だが近藤は土方を窘めると自身達も迂闊だったと言う。

 

 

「と言うわけだから……お嬢ちゃん、このメイド服に着がえて……」

「って、なんでメイド服!?」

「いや、お妙さんにプレゼントしようと思ったんだが『ゴリラに奉仕するメイドなんかいねーよ』って殴られてから持ち帰ったままだったんだ」

 

 

どうやら他の人物に渡す物を渡せずに終わって持ち帰った服らしい。

 

 

「だからってこんなもん着る奴がいる訳……」

「どうやって着るの?」

「って居たよ!?」

 

 

土方は否定する気だったが少女は既に服を着る気だった。

 

 

「土方さん、兎に角服を着せねー事には話も進みませんぜ。それとも土方さんは寒さに震えるガキを裸のままにさせる趣味ですかい」

「人の趣味を勝手に改竄するな!」

 

 

沖田と土方が言い争いをしている中、近藤と山崎は少女にメイド服を着させていた。

平静を装っているが二人共、顔は赤い。

 

 

「これで良し。可愛いじゃないか」

「似合ってますね」

 

 

メイド服を着させられた少女は喜ぶ訳でも無く嫌がる素振りも見せなかった。

 

 

 

「ああ、そうだ。お嬢ちゃん名前は?まだ聞いてなかったな」

「……………名前?」

 

 

近藤の問いに少女は小首を傾げた。

 

 

「そう、お嬢ちゃんの名前」

「…………無い」

「え?」 

「私に……名前なんてない」

 

 

その言葉に近藤は疎か言い争いをしていた土方や沖田でさえ動きを止めてしまった。

 

 

「な、名前が無いってそんな……」

「なるほどな奴等はコイツを兵器や道具として扱ってたから名前なんざ付けなかったんだろうよ」

 

 

山崎がショックを受ける最中土方が推測を口にする。

 

 

「だとすりゃさっき裸で出て来たのも道具として扱われてたから羞恥心も無かったって事ですかい?道具に恥じらいなんざいらないから」

「ちくしょう……なんてこった……」

 

 

沖田が先ほどの少女の行動に納得をし、近藤はそれにショックを受けていた。

 

 

「……………?」

 

 

対する少女は何故、近藤達が悲しんでいるのか分からずに居た。 

自分は道具で何もしなくてと良いのにと。

 

 

 

「よし、決めた!この娘は真選組で預かる!」

「何言ってんだ近藤さん!」

 

 

意を決したように立ち上がる近藤に土方が待ったを掛けた。

 

 

「こんな可哀想な娘は放っておけん!むしろ俺が育てる!」

「後半の方が本音だろうアンタ!」

 

 

ギャーギャーと騒ぐ近藤と土方。

呆れた様子の沖田と山崎。

 

 

 

そんな中、少女は光の灯らない虚ろな瞳で相変わらずその光景を見ていた。



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名も無き少女に名前を

 

近藤の言い分で少女は真選組預かりとなった。

土方は最後まで反対していたが最後に渋々折れた様だ。

 

 

「さて……じゃあ名前を考えなきゃな」

「…………名前?」

 

 

近藤が少女に向かって柔やかに笑顔で話すが少女は小首を傾げるだけで頭には?マークが浮かんでいた。

 

 

「いつまでも『お嬢ちゃん』なんて呼べんだろう。名前を考えなきゃな」

 

 

少女に名が無い事も問題である。服は近藤が渡したメイド服を着ているから問題ないとしても名が無いのは生きる上で必要不可欠だ。

 

 

「じゃあ『ロドリゲス』とかでどうですかい」

「なんで一発目にロドリゲスをチョイスした?」

 

 

沖田のとんでもネームに土方はツッコミを入れた。

 

 

「うーむ、『涼宮ハ○ヒ』とか」

「そりゃ他の雑誌で使われてる名前だろ」

 

 

次は近藤だが危険な名付けはアウトである。

 

 

「じゃあ、『金色のヤミ』で」

「同じジャンプなら許されると思うなよ。大体コイツは銀髪だろうが」

 

 

最後に山崎。土方のツッコミは容赦なく続く。

 

 

「だったらトシ。お前だったらなんて名を付けるんだ?」

「って俺も考えるのかよ」

 

 

矛先が自分に向き、焦る土方。

 

 

「駄目ですよ近藤さん。土方さんなら『マヨ子』とか付けますぜ」

「流石に『マヨ子』はなぁ」

「勝手に俺の意見にするんじゃねーよ!」

 

 

沖田が土方が付けそうな名前を予想し、近藤がそれに乗り、土方がツッコミを入れた。

 

土方はタバコに火を付けて思案する。暫く悩み続け唸った後にポツリと呟いた。

 

 

「…………………『刹那』でどうだ?」 

「……せ…つな?」

 

 

土方が出した名前を少女は反復する様に口にする。

 

 

「刹那か……確かにこの子に似合った名前ですね」

「なんでい土方さん。マトモな名前考えられるんじゃないですか」

 

 

山崎が名を気に入り、沖田は土方が上手く名付けた事に驚いた様子だった。

 

 

「決まりかな?よし、今日からお前の名は刹那だ!」

「………刹那」

 

 

近藤は少女が唯一、土方の発した『刹那』の名に反応したので、この名が良いのだと判断した。

近藤は刹那を抱き上げると高い高いをする様に持ち上げた。

そして刹那は自身に与えられた名を呟くのだった。

 

 

「でも良いんですか副長。名前まで付けたら刹那はずっと此処に居る事になりますよ。大体許可も取ってないのに」

「今更だろ。それにあの様子じゃ一般常識も知らなそうだ。余所に行かせるにしてもある程度教えなきゃ駄目だろうからな」

 

 

山崎の発言にタバコの火を消しながら言葉を返す土方。

なんやかんやで刹那を思っての行動だった。



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真選組女性版制服

後書きに簡易プロフィール載せます


 

 

 

 

刹那が真選組に来た次の日。

 

 

 

食堂で刹那は山崎と食事をしていた。

因みに部屋を貸し与えられた刹那を起こしたのは山崎で食堂まで連れて来たのも山崎だった。

 

 

「おう、山崎」

「副長。おはようございます」

「………おはよう」

 

 

其処に朝食を持った土方が現れ、山崎と刹那は挨拶をした。

 

 

「刹那、近藤さんが呼んでたから行ってこい」

 

 

土方の言葉に刹那はコクりと頷くと近藤の所へ歩いていく。

 

 

「あのガキの様子はどうだ?」

「……何とも言えなかったですよ。朝、起こしに行ったら布団じゃ無くて部屋の隅で体育座りで寝てましたよ。多分、布団で寝るのに馴れてませんね」

 

 

土方に聞かれて朝の刹那の様子を話す山崎。

 

 

「それに食事も今まで碌な物を食べさせられなかったんでしょうね……出された朝食に戸惑ってる様子でしたよ。食べ始めたら喜んでたみたいですけど」

 

 

朝食時に刹那は戸惑っていた様で食べ方から山崎が教えていた様だ。

しかも一心不乱に食べた様子。

 

 

「美味い物を食った事が無い……か。昼に『土方スペシャル』でも食わせてやるか」

「アレを美味いと言うのは味覚バカの副長だけです。刹那の味覚まで破壊しないで下さいよ」

 

 

土方が言った『土方スペシャル』とは熱々のご飯の上にマヨネーズを大量に掛ける、味覚破壊丼の事である。

 

それを馬鹿にした山崎は土方に殴られたがそこで刹那が近藤と共に帰ってきた。

 

 

「トシ、ザキどうよコレ?」

「わ、どうしたんですか、その服?」

 

 

近藤に促されて刹那を見る山崎。刹那を見て山崎は驚いた。

刹那の服は真選組隊士が着る服の改造版の様な制服を着ていた。

上着は真選組制服と同じだが胸元はネクタイに変更されており、下はズボンではなくスカートになっていた。黒のハイソックスを履いて靴はローファーになっている。

 

 

「可愛いだろう?真選組の女性版制服を倉庫から引っ張り出してきたんだ」

「そんなの有ったんですかい?近藤さんの趣味かと思いましたぜ」

 

 

同じく食堂に居た沖田が会話に加わった。

 

 

「一応、女性隊士が来るかもって事で準備だけはしてたんだよ。結局女性隊士が居なかったから倉庫に入れてたんだけど刹那が来たから役に立った」

 

 

真選組に女性隊士が来た場合を考えて女性版制服を用意していた様だが女性隊士が居なかったから為に無駄になった物を出してきたらしい。

 

 

「可愛いぞ、刹那」

「…………ん」

 

 

刹那の頭を撫でる近藤。刹那はくすぐったそうに目を細めた。

 

 

「なんか既に親子みたいですね」

「ありゃ親バカだな」

 

 

山崎はその光景に苦笑いをして土方はタバコに火を付けた。

 

 

 

 

刹那の制服お披露目が済んだ後、朝礼で土方は隊士達に刹那の紹介をしていた。

 

 

「えーっ……昨日の壊滅させたテロリスト組織に居たガキを保護したが……近藤さんの意向で真選組でそのまま預かる事になった」

 

 

土方の説明に隊士達はざわつく。

 

 

「因みにこの件を決めた張本人は松平のとっつぁんの所に許可を貰いに直談判しに行った」

 

 

土方はこめかみをピクピクと震わせながら現在、姿の見えない近藤の行方を話した。

 

 

「おら、挨拶しろ」

「………刹那」

 

 

土方に促されて名を言うが刹那はそれ以上は何も話さなかった。

 

 

「コイツは口下手だ。オメー等でもフォローしてやれ。以上だ、今日は俺が面倒見るが明日以降はお前達の警邏や仕事にも参加するからな。刹那、この後警邏に行くから出掛ける準備してこい」

 

 

土方は一方的に隊士達に告げる。驚きと歓喜の声が混ざっていたが土方は無視して刹那に準備だけしてこいと告げた。

刹那はコクりと頷くと与えられた部屋に戻るのだった。




刹那(せつな)


年齢:14~15歳
身長:149㎝
一人称:私


とあるテロリスト組織に兵器として育てられていた少女。
何処か儚げな雰囲気を纏った少女で感情に乏しい面が多い。
真選組に助けられ、テロリスト組織から抜け出したが一般常識を知らない為に真選組預かりとなった。

性格は大人しく、無口で無表情。
無垢な為に教えられた事を真に受けてしまう為に近藤が持ってきたメイド服に迷う事無く着てしまうなど危なげな部分も多い。
それに味を占めた近藤がお妙に贈る筈だった服を刹那の所に持って行くことになり刹那の所持するコスプレ服は増える一方となる。

腰まで有る長い銀髪をしており、間違っても天然パーマではない。


キャラクターイメージ:金色のヤミ(銀髪ver)


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買い物騒動

 

 

刹那は土方に付いて回り、警邏の仕事に参加していた。

 

とは言っても土方的には仕事ではなく、刹那の面倒を見る為である。

それと言うのも……

 

 

『トシ、頼む今日は警邏の最中でいいから刹那の日用品とかの買い物に行ってくれ!』

『ああん?なんで俺が近藤さんが行けばいいだろ』

『俺は松平のとっつぁんに刹那を真選組預かりにした事を報告に行かなきゃならないんだよ!俺だって行きたいけど仕方ないんだもん!』

『いい歳したオッサンが語尾に「もん」とか付けるな!』

 

 

 

等と言ったやりとりの後、結局土方が折れて刹那の面倒を見る羽目となる。

 

土方は苛ついた様子だが刹那は無表情のまま土方の後ろを歩いていた。

 

 

「ったく……さっさと終わらせるか」

 

 

土方はそう言うと刹那を連れて服屋に向かう。

 

 

 

「おい、悪いんだがコイツの服やら下着やら揃えてくれ」

「は、はい……あのどう言ったご関係で?」

 

 

服屋に付いた土方と刹那。土方は刹那を指さしながら店員に頼むが店員が土方に引き攣った笑顔で尋ねる。

どうやら刹那を連れてる事を不審がっている様だ。

 

 

「俺は真選組の土方だ。コイツは新入隊士なんだが急な異動で服が無くてな、適当に見繕ってくれや」

「し、真選組の……し、失礼しました!」

 

 

土方が名乗ると店員は慌てて頭を下げる。土方はもう良いから行けと言うと店の外へタバコを吸いに出た。

 

 

「フゥー……俺がガキの子守なんざ柄じゃねーな」

 

 

紫煙を潜らせると土方は空を仰いだ。

何本目か分からなくなる程のタバコを吸い、ボーッと空に消えていく煙をぼんやりと眺めていた土方の服の裾がクイッと引かれる。

 

土方が視線を移せば服の裾を引いたのは刹那だった。

 

 

「なんだ、終わったのか?」

「私はよく分からないから店員が選んだ。店員が土方呼べって言ってたから」

 

 

店の外に土方を呼びに来たらしい。

 

 

「……ったく」

 

 

土方は舌打ちをするとタバコの火を消し店に戻った。

 

 

「お客様、お待たせしました。此方がお品物になります」

「おい、コレ全部か?」

 

 

店員が柔やかに笑顔で品物を出すが明らかに量が多かった。必要最低限かと思えば袋の数は5は下らない。しかも 許容量ギリギリまで詰めたようだ。

 

 

「いやー、まさか真選組にこんな可愛い隊士が入るとは。店員総出で選ばせて頂きました」

「いや必要最低限で良かったんだが」

 

 

店員の話を聞く限りどうやら刹那を着せ替え人形にした挙げ句お勧めの服を全部詰めた様子だ。

 

 

「刹那ちゃん、また来てね!」

「着せ替えの甲斐がある子よねぇ!」

 

 

他の女性店員達は刹那を抱き締めたり頭を撫でたりしている。刹那は刹那でどうしたら良いのか分からず、されるがままだ。

 

 

「んじゃ荷物は真選組の屯所に送ってくれ。領収書は真選組局長、近藤付けだ」

 

 

土方は意思返しにと服の料金を近藤に付けた。

 

 

「おい、刹那行くぞ!」

「……ん」

 

 

土方に促されて刹那は女性店員達を振りきると土方の元へ走る。

 

女性店員達は別れを惜しむようにしていたが「また来てね」と刹那の背中に声を掛けていた。

 

服屋を出てから疲れたと思った土方だがコレで終わりでは無かった。

雑貨屋に行った際も同じ様な事が起きてしまい、散々待たされた挙げ句、買った品物はかなりの量となっていた。

因みに此方も領収書は近藤付けである。

 

 

「ったく……どいつもこいつも変な目で見やがって……」

 

 

土方の苛つきは他にもあった。

回る店、1件1件で微笑ましい目で見られたのだ。

刹那も刹那で土方の服の端をチョコンと掴んで後ろを歩く。端から見れば仲の良い兄妹や親子だ。

 

 

「ったく……飯でも食うか」

 

 

土方は苛ついても仕方ないと時計を見る。時刻は既に昼食時間だ。

 

 

「刹那、昼飯だ。俺の行きつけの店に行くぞ」

「………ん」

 

 

土方の言葉に頷くと刹那は子軽鴨の如く土方の後ろを歩いた。

所変わって土方行き付けの定食屋。カウンターに並んで座る土方と刹那。土方は早速タバコを吸い始めたが刹那はメニューとにらめっこをしていた。

 

 

「何してんだサッサと選べ」

「どれが良いのか分からない」

 

 

土方は刹那を急かすが刹那から帰ってきた返答は『分からない』だった。

そう言えば山崎が刹那が、朝食に驚いてたって言っていたと思い出していた。

メニューを見ても料理が分からなかったのだ。

 

 

「しゃーねーな。土方スペシャル二人前頼むわ」

 

 

土方は助け船を出そうと土方スペシャルを二人前頼んだ。

しかしそれは助け船ではなく駆逐艦である。

土方スペシャルが運ばれて土方は迷わずにソレを食べ始める。

そしてソレに習い、刹那も土方スペシャルを口にした。

口にしたと同時に刹那は口元を抑えてトイレへと駆け込む。

どうやら土方スペシャルは刹那の口には合わなかった様だ。



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ソフトクリームとおんぶ

 

食事を済ませた土方と刹那だったが刹那の顔色は悪かった。

変わらずに土方の後ろを歩いているが足取りは重い。

 

先ほどの土方スペシャルのダメージが後を引いていた。

なんとか土方スペシャルを食べようとした刹那だが半分も食べられず見かねた定食屋の亭主が他の物を刹那に出そうとしたが胃が受け付けない状態になってしまった為に刹那は食事が出来なかったのだ。

 

 

「マヨネーズが嫌いだったとはな」

「違う、土方スペシャルは明らかに許容量オーバーのマヨネー……うぷ」

 

 

土方は刹那がマヨネーズが苦手だったのかと勘違いしたが、そんな事は無く単純に土方スペシャルのマヨネーズの量に参っていただけである。しかも思い出した刹那は再度、口元に手を這わせた。

 

 

「ちっ……これだからガキは大人の味を知らねぇんだ」

「………これが大人の味なら私は大人になりたくない」

 

 

土方の言葉に反論する刹那。これが大人の味なら確かにお断りだろう。

 

 

「ったく……ん?」

 

 

土方はある物を見つける。

 

 

「おい、刹那。そこのベンチに座って待ってろ」

「………ん」

 

 

土方は刹那に指示を出し、刹那は頷くとベンチに座る。

刹那はベンチに座ると疲れが出たのか少し、俯いた状態になっていた。

 

 

「ほらよ、気分が悪くてもコイツなら食えるだろ」

「……土方スペシャルはもういらない」

 

 

土方の声に頭を上げた刹那だが土方の持っていた物を見てげんなりとした。

 

 

「コレは土方スペシャルじゃなくてソフトクリームだ。ったく、アイスも知らなかったのか」

 

 

若干悪態を付きながら刹那にソフトクリームを渡す土方。先ほどソフトクリーム屋を見つけた土方は土方スペシャルの詫びとは言わないが子供ならアイスが好きだろうと買ってきたのだ。

しかし見た目で刹那はソレを別の種類の土方スペシャルと勘違いした様だが単にソフトクリームを知らなかっただけの様だ。

 

 

「冷たい……それに美味しい」

「ま、そりゃアイスだからな」

 

 

ソフトクリームを舌で舐めて美味しさを確かめる刹那に隣に座りタバコを吸い始める土方。

その姿は休日に買い物に来た親子そのものだった。

 

 

ソフトクリームを食べ終えた刹那は土方と共に警邏の仕事を続けた。

とは言っても実際は土方が刹那に道や建物を教えているだけの物だが刹那は無表情のまま、それらを覚えていった。

 

 

そして時刻は夕方となり日が傾き始めていた。

 

 

「今日はこんな所か帰るぞ刹那……刹那?」

 

 

土方は刹那に話し掛けるが刹那からの返事は無く、ポフッと土方の背に刹那の顔が埋められる。

 

土方が振り返れば其処には眠そうに半眼を擦る刹那の姿。

 

 

「ったく、手の掛かるガキだ」

 

 

土方はそう言うとしゃがみ込み、刹那を背負って立ち上がる。

 

 

「……土方?」

「いいから寝てろ、屯所に着いたら叩き起こすからな」

 

 

土方の行動に驚いた様子の刹那。土方はいいから寝てろと刹那に促す。

 

 

「………ん」

 

 

刹那はキョトンとした顔になったが言われた通りに寝る事にした。土方の背に体を預けると直ぐにスースーと寝息を発する。

 

 

「ったく……だからガキのお守りなんざ嫌なんだ」

 

 

土方は刹那をおんぶしながら夕日を背に真選組屯所までの道を歩いた。

その表情は不器用ながらにも笑みを浮かべていたと言う。



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稽古とアフロ

 

土方と刹那が買い物に行った次の日。

朝食の時間となったが刹那は土方と離れた場所で朝食を食べていた。

 

 

「おい、トシ。刹那に何をしたんだ?朝は普通にしてたのに朝食になったら刹那が慌てて離れていったぞ」

 

 

昨日何があったか知らない近藤は土方に尋ねる。

 

 

「昨日、土方さんが刹那に白くてドロッとして熱いもん(土方スペシャル)を刹那に食べさせたらしいですぜ。流石土方さん、ガキにも容赦ねぇでさぁ」

「トシィィィィィィィィィ!なんてけしからん事を!」

「変な言い方をするな!そしてアンタも勘違いすんな!土方スペシャルを食わせただけだ!」

 

 

沖田の言葉に近藤が反応し、土方が反論する。

言葉とはニュアンス一つで変わる物である。

 

そしてそれに耳を傾けていた他の隊士達も納得した様子だ。

刹那が食事になった時に土方から離れたのは土方スペシャルがトラウマになったからである。

 

 

「ったく、食べ物の好き嫌いは関心しねーぞ」

「土方さん、好き嫌い以前の問題でさぁ」

 

 

土方は相変わらず刹那がマヨネーズを嫌ったと思っているが沖田や近藤はそうは思わず、明らかに許容オーバーのマヨネーズが原因だと確信していた。

 

 

「それはそうと近藤さん。今日は刹那の奴に稽古を付けてやったらどうだ?」

「刹那に稽古を?」

 

 

土方の提案に朝食を片付けながら問い返す近藤。

 

 

「昨日で警邏は教えたから後は刹那がどれ程強いか確かめとく必要があるだろ。兵器だなんだと言われてたとしてもガキはガキだ。程度があるだろ」

「ふむ、真選組に居るなら確かに剣は学ぶべきか。よし、今日は刹那の稽古と強さを確かめるとするか」

 

 

本日の予定は刹那の稽古に決定した。

近藤と土方は刹那に朝食後に道場に来る様に告げると他の隊士達にも刹那の稽古を見るようにと告げた。

他の仕事で少々遅れた近藤、土方、沖田。

道場に向かう最中、話は刹那の話題となる。

 

 

「他の隊士達には刹那に世間の厳しさを教える様に言ってありやすぜ」

「お、おい……それじゃ刹那が……」

 

 

沖田の言葉に狼狽える近藤だが土方は何処か納得した顔をする。

 

 

「近藤さんが露骨に刹那を甘やかすからな。ある意味、丁度良い機会になったろ」

「そう言う土方さんも鬼の副長の名とは遠い優しさを見せてたって話ですぜ」

「何もしなかった奴に言われたかないんだがな」

 

 

土方も同意していたが沖田の言葉にイラッとこめかみに青筋を走らせる。

 

 

「まったく……刹那が怪我をしてなければいいんだが……」

 

 

話をしている内に道場に着いていた。

近藤はぼやきながら道場の戸を開く。

 

 

「つ、強い……」

「う、うぅ……」

 

 

道場の真ん中には剣道着を着た刹那が居て、その下にはボコボコにされた隊士達が十数人倒れていた。

刹那は竹刀を肩に担いでいて余裕だった。

 

 

「ってオイィィィィィィ!総悟から刹那に世間の厳しさを教えてやれって言われたんだろ!なんでお前達が世間の厳しさを教わってるんだ!?」

 

 

まさか、刹那に隊士達が十数人負けるとは思っていなかった土方が隊士達に怒鳴る。

 

 

「ち、違うんですよ副長……最初は刹那に稽古してたんですけど実戦式の試合をしたら刹那が強すぎてこんな結果に……」

「どの道情けないわ!見る限り、刹那は一撃も貰ってないだろ!」

 

 

叩きのめされた山崎が土方に説明をするが結果は変わらず。

しかも刹那の容姿を見る限り、一撃も当たらずに隊士達を倒した様だ。

 

 

「んじゃ次は俺が相手を……いや、他に相手をしたい人がいるみたいだぜぃ」

 

 

竹刀を構えようとした沖田だが何かに気付くと沖田は竹刀を道場の外へと投げる。

投げられた竹刀を受け取ったのは口元を覆面で覆っていて特徴的なアフロヘアーの隊士。

真選組三番隊隊長『斉藤終』だった。



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無口VS無口

ランキングに乗ってビックリ。
ありがとうございます!


 

 

沖田から竹刀を受け取った斉藤はヒュンと音を鳴らし、竹刀を刹那に向ける。

竹刀を向けられた刹那は持っていた竹刀を構え、斉藤に対峙する。

周囲がハラハラと見守る中、二人は同時に動いた。

 

 

斉藤が右手に持った竹刀を右からの袈裟懸けに斬ると刹那は竹刀で防ぎ、受け流す。

返す刀で刹那は左側から胴斬りを放つが斉藤はバックステップで下がり、それを避けた。

刹那は追い打ちを掛ける為に斉藤に肉迫し、正面から斬り掛かる。

斉藤は竹刀を横に構えて面打ちを受け止めた。

 

ギリギリと鍔迫り合いをしながら、至近距離で睨み合う刹那と斉藤。

 

 

どちらからかバッと離れると周囲は息を吐いた。

 

 

「すげーよ!今の攻防!」

「流石三番隊隊長!」

「いや、それと対等の刹那が凄くね!?」

 

 

今まで静かだったのが嘘の様に隊士達が騒ぎ始める。

近藤達も刹那の腕前に驚いていた。

 

 

「ま、まさか刹那がこんなに強いとは……」

「確かに予想外でさぁ。終兄さんと打ち合えるなんざ真選組隊士でも隊長クラスのみ。それを刹那は互角に渡り合ってやがる」

「思わぬ力量だな。これが組織の連中が言っていた刹那の兵器としての力か」

 

 

各々が刹那の感想を言う中、土方は何処か納得した口振りだった。

小柄な少女が真選組隊長クラスの力を持っているとなれば、コレはかなりの脅威となる。

そこらの敵対組織など問題にならない程の力を得た事になるからだ。

 

 

「刹那が動いた!」

 

 

土方が自身の思考に深くのめり込んでいたが隊士の言葉でハッとする。

視線を戻せば、斉藤と睨み合いをしていた刹那が竹刀を左手に持ち替えて腰を低く構えて右手を前に突き出していた。

そして引いた弓のように弾け、飛び出すと勢い良く左手の竹刀で突きを放った。

斉藤はコレに驚いた様子だが半身を捻りながら竹刀で受け流した。

突きを避けられた刹那は距離を空けると再度、腰を落とし弓形の様に構えた。

 

 

「ってちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!なんで牙突、使ってんだ!色んな意味で危ない技使ってんじゃねぇ!」

「……違う」

 

 

土方の叫びに刹那は首を横に振った。

 

 

「この技は牙突(きばづき)、他の読み方なんて存在しない」

「いや、どっからどう見ても牙突(がとつ)、だろうが!パチもんはお前の読み方だからな!?なんでソフトクリームも知らなかった奴が牙突は知ってるんだ!」

 

 

刹那の主張をバッサリ切る土方。

 

 

「まあ、いいじゃないですかい土方さん。刹那には真選組らしくこのまま『トシ・即・斬』で行ってもらいやしょう」

「『悪・即・斬』だろうが!俺か?俺を狙わせる気か!?」

 

 

土方と沖田が言い合う中、先に構えを解いたのは斉藤だった。

斉藤は刹那に歩み寄ると頭を撫で、目を細めた後に竹刀を片付けて道場を後にしてしまった。

頭を撫でられた所からキョトンとした顔をした刹那だが近藤が刹那に歩み寄る。

 

 

「終は無口でクールなんだが悪い奴じゃない。今回も刹那が真選組でやっていけるか試したかったんだろう。邪険にせずに終にも接してやってくれ」

「………ん」

 

 

ポンと刹那の肩に手を置いて斉藤のフォローを入れる近藤。

刹那はコクりと頷いた。




次回、斉藤の心境を語ります


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斉藤終の監察日記

 

 

斉藤終監察日記

 

 

○月×日

 

 

局長が見知らぬ女の子を連れて屯所に帰ってきた。

彼女は、とあるテロリスト組織に兵器として育てられていたらしい

 

副長が彼女に風呂に行く様に言ってから局長達は彼女の処遇を決めかねていた。

そんな時、丁度 彼女が戻ってきた。

 

裸で

 

局長達は大騒ぎをする中、沖田君は平然としていた。

僕は前屈みになりながらも監察を続けるZ。

 

なんて思っていたら彼女は何故か局長が所持していたメイド服を着ていた。

とても似合っているが彼女は笑わない。

 

局長が彼女を真選組預かりにすると宣言したが副長は反対。沖田君はあくびをしている辺り、どちらでも良いのだろう。

 

結局、副長が折れて彼女は真選組預かりとなった。

 

その後、彼女に名が与えられた『刹那』と言うらしい。

 

 

明日から、仕事を学ぶらしい。新たな隊士が入るとなれば密偵の私の仕事が増える。

刹那も明日から監察対象となるだろう。

 

 

 

 

 

寝る前に局長の部屋の前を通り掛かったが大量のコスプレ衣装が有った。

 

 

「刹那はどれを着せても似合いそうだな。楽しみだ」

 

 

 

何も見なかった……Z。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月△日

 

 

 

刹那が真選組屯所に着て、2日目。

刹那を起こそうと山崎が彼女の部屋に出向く。

 

刹那は布団には居らず、部屋の隅で体育座りをして寝ていた。

それを見た山崎が何故か慌てている。

なるほど刹那は浴衣を着て、体育座りをしているから下着が見えてしまい山崎が慌てているZ。

 

山崎は咳払いをすると何事も無かったかの様に平然を装い刹那を起こした。

先に刹那が部屋を出たが山崎は顔が真っ赤だ。

 

その後、食堂に行った刹那と山崎は並んで朝食を食べている。

副長も其処に混ざるが山崎は今朝の事を端折って説明していた。ありのままを話せば粛清物だから当然Z。

 

その後、局長が刹那に専用の制服を着せていた。

とても可愛らしく似合うZ。

 

 

その後、副長に付いて警邏に行ったらしいが、どうやら副長の土方スペシャルの餌食になったらしい。

そのまま、トラウマにならなければ良いのだが。

 

 

 

 

○月◆日

 

 

 

刹那が真選組屯所に来てから3日目

 

今日は刹那に剣を教えるらしい。

沖田君は隊士達に『世間の厳しさを教えてやれ』と指示を出したらしい。

心配だから道場に見に行くZ。

 

意外な光景だった。

隊士達は皆倒れ、刹那一人が立っていた。

 

丁度、局長達も来たようだが同じ様なリアクションをしている。

しかしコレは凄いことだ褒めてやらねば。と思い、刹那に何か一言、と思ったけど何を話せば良いか解らないZ。

 

そしたら沖田君が竹刀を投げ渡しに来た。

なるほど、剣で語るなら言葉はいらないZ。

 

そして剣で語ってみたが刹那の腕は予想以上だった。

牙突(がとつ)改め、牙突(きばづき)はかなり強力で流石に焦ったZ。

 

牙突のスレ違い様に刹那の髪が鼻先に擦る。ほのかに良い香りがした……Z。

 

 

一先ず勝負を終えたけど言葉が出ない。何か、刹那を褒めてやりたいが……

あ、そうだ。頭を撫でてやれば良いのか。

 

 

頭を撫でると刹那はキョトンとした顔をしていたが、これで良いはずだ。

 

なんて思ったら緊張からか腹が痛くなる。竹刀を片付けると、そそくさと厠へ急いだ。

後ろからは局長が刹那にフォローを入れていたので後は大丈夫の筈Z。




グダグダな感じになった気も……
次回より銀さんと出会います


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自分探しとソフトクリーム

 

 

刹那が真選組に来てから1週間が経過した。

警邏や攘夷志士の逮捕などの体を使った仕事が性に合う刹那はその持ち前の剣の腕で仕事を見事にこなしていた。

 

 

「おい、刹那。今日お前は休みだ」

「おやすみ?」

 

 

朝食を食べていた刹那に話し掛ける土方。

未だに食事の際は警戒されてるらしく土方の座った席から刹那は離れた場所に座っていた。

 

 

 

「近藤さんとも話したんだが、お前は真選組に来てから非番の日が無かっただろ。と言うわけで今日は休みだ」

「おやすみ……」

 

 

土方の言葉にムゥと悩む仕草を見せる刹那。

 

 

「副長、刹那は休みの日の過ごし方が分からないのでは?」

「何を馬鹿な……いや、ありえるか」

 

 

休みと聞いて喜ばない刹那に疑問を感じた山崎が土方に進言した。

土方も最初は馬鹿な事とそれを一蹴しようと思ったが、刹那なら充分にあり得る話だった事を思い出した。

 

 

「あー、刹那。んじゃ今日は自分探しに行くことだ」

「自分……探し?」

 

 

コホンと咳払いをした土方は刹那に、自分探しを命じた。

 

 

「難しく考えるな。言い換えれば休日の過ごし方や趣味を見付けろって事だ」 

「例えば俺ならミントンやカバディとかね」

 

 

土方の話に山崎が自分の趣味を教える。

 

 

「ま、他の奴にも色々聞いてみろ。休みの日の過ごし方なんざ人それぞれなんだからよ」

 

 

そう言って土方は仕事に行ってしまう。

山崎も密偵の仕事があるとかで行ってしまった。

 

 

「……聞いてみる」

 

 

刹那は土方に言われたことも有り、それぞれの休日の過ごし方を聞きに回る事にした。

 

 

 

 

◇◆沖田総悟の場合◇◆

 

 

「休日の過ごし方?俺はいつも土方さんの命狙ってるぜ」

 

 

 

◇◆斎藤終の場合◇◆

 

 

 

「………………………Zzz」

 

 

 

 

◇◆近藤勲の場合◇◆

 

 

 

「ん、休日か?俺は大抵お妙さんの護衛だな。趣味……キャバクラに飲みに行ってるな。あ、お妙さんの店にだからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

隊士達に話を聞いて回った刹那は屯所を出て町に来ていた。

 

 

「皆、バラバラ……」

 

 

隊士達に休日の過ごし方を聞いたが帰ってくる答えは刹那に合う趣味とは言えなかった。

 

当てもなくフラフラと町を散歩する刹那の目にとある屋台が目に入る。

それは土方に奢って貰ったソフトクリーム屋だった。

 

あの日以降、ソフトクリームが大好きになった刹那は警邏の最中でも買い食いをしたりしていたのだ。

しかも同伴していた隊士達も無邪気にソフトクリームを舐める刹那に萌えて誰も注意しなかったのだ。

 

 

「……いつもの」

「おう、刹那ちゃん。今日は仕事はお休みかい?」

 

 

既にいつもので注文が通じる辺りに刹那が頻繁にこの店に来ることがよく分かる。

店主も真選組の制服では無い私服の刹那を見て驚いたが柔やかにソフトクリームを作ると刹那に渡す。

 

 

「はい、毎度。またヨロシクね」

「………ん」

 

 

 

ソフトクリームを受け取り頷くと刹那はその場から離れようとした。その時だった。

 

 

 

「おい、親父。ソフトクリーム頼むわ」

「…………あ」

 

 

 

店に来た男とぶつかってしまい、刹那の持っていたソフトクリームは刹那の顔と服に飛び散ってしまった。

 

 

ショックにうち震える刹那がぶつかった相手を見上げるとそこには死んだ魚の目をした銀髪の天然パーマが居た



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銀と妙

先に言っておきます。
グダグダです


 

 

顔と服に付いたソフトクリームを指で拭う刹那。

 

 

「……汚された」

「あれ、これ銀さんの責任?」

 

 

刹那にぶつかった男『坂田銀時』は目の前のソフトクリーム塗れの少女に戸惑っていた。

ソフトクリームを買いに来たら店に居た刹那にぶつかってしまい刹那が持っていたソフトクリームが顔やら服に掛かってしまったのだ。

 

 

「……ヤラれた」

「無意味にカタカナ使うんじゃねーよ、顔や服に掛かったソフトクリームがイヤらしさが増してんだよ」

 

 

刹那の言動にツッコミを入れる銀時。

 

 

「服……汚れた」

「服なんか洗えば良いんだよ。銀さんにクリーニング代を請求しようとしても無駄だからな銀さんの頑固さは落ちない汚れレベルだから」

 

 

あくまで自分が悪くないと主張しようとしていたが、次の刹那の行動で銀時は言葉を失う。

 

 

「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!なんで服脱いでんの!?」

「……?汚れたから」

 

 

銀時の言葉通り刹那は着ていた服を脱ごうとしていた。

 

 

「女の子が止めなさいっての!」

「でも洗わないと」 

「だからって此処で脱ぐな!」

 

 

なんの躊躇いも無く服を脱ごうとした刹那を慌てて止めようとする銀時。

その時だった。

 

 

「あら、銀さん。何してんですか?」

「あ、いや……コレは……」

 

 

そこに通り掛かった女性『志村妙』に話し掛けられて固まる銀時。

何か言い訳を言おうとしたが刹那は服が半脱ぎ状態で顔にはソフトクリームが掛かったままだ。

 

 

「……汚された」

「………銀さん?」

「いや、ちょっと待とう!お願いだから銀さんの話を聞いて!?」

 

 

トドメとなる刹那の言葉に妙はポキポキと指を鳴らしながら銀時に歩み寄る。

銀時は妙に落ち着こうと言うが最早、止まる雰囲気では無かった。

 

ボグシャと人を殴ったとは思えない音が江戸の町に響き渡った。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

「あら、そうだったんですか。もう銀さんったらちゃんと言ってくれれば良かったのに……」

「あれ、銀さん言おうとしたよね?説明しようとしたら殴られたよね?」

 

 

場所は所変わって志村宅。

刹那の服は洗濯し、刹那自身は風呂に入っていた。

そして銀時は妙に先程の説明をしていた。

納得した妙は笑っていたが銀時は顔に拳の後が出来ていた。

 

 

「しかし、あの子どうしたのかしら?一人で居たなんて」

「いや、刹那は最近、真選組で預かることになりましてね。今日は休みだから自由にさせてたんですよ」

「毎回どっから出て来てんだテメーは?」

 

 

妙の疑問に答えたのは志村宅の軒下から顔を出した近藤。

刹那の事をサラリと説明しながら近藤は軒下から這い出てくるが妙に踏み付けられていた。

 

 

「なんだよゴリラ、ストーカーからロリコンにジョブチェンジしたのか?」

「んな訳ないだろ、俺はお妙さん専属のストーカーだ」

 

 

銀時が出された煎餅をバリバリと食べながら尋ねる。近藤は鼻で笑いながら否定した。

 

 

「普通はストーカーの段階から否定するがな。んじゃ何か、あの娘は真選組で働くってか」

「ああ……俺としては普通に生活させてやりたいんだがな」

「あら、近藤さんにしてはマトモな思考なんですね」

 

 

妙に踏まれ続けたまま普通に会話を続ける近藤達。

妙は近藤を見直したと言うと近藤の顔から足を退けた。

 

 

「スイマセン。お妙さんに風呂まで借りた上に刹那に着物まで……」

「あら、良いんですよ近藤さん。ストーカーは許しませんけど銀さんが迷惑掛けましたから」

 

 

近藤が頭を下げると妙は笑いながら答える。

先程軒下に潜んでいた際に銀時達の話を聞いていた模様で有る。

 

 

「しかし万事屋。お前が刹那にした事は許せんぞ」

「何言ってんの?銀さんもソフトクリーム買えなかったんだからね?」

「銀さん、年下の女の子にその対応は無いんじゃないですか?」

 

 

 

等と話をしている間に刹那が風呂から上がってきた。

 

 

「サッパリした」

「あら、可愛い」

 

 

サッパリしたと言う刹那に妙は可愛いと言う。

刹那の服装は昔妙が着ていた着物で着なくなった物を貰って着ていたのだ。

 

 

「丈も丁度良いんじゃないか?」

「似合ってるわ。そのまま着て帰っていいからね」

 

 

近藤の言葉通り刹那の身長と妙の昔の身長と丁度サイズが合った為、丈もピッタリだった。

妙も気を良くしたのか、上機嫌で着物を刹那に譲るようだ。

 

 

「ん……胸が少し苦しい」

「あ、やっぱりか」

 

 

刹那のコメントに納得した銀時。

この後、銀時に妙のコークスクリューブローが突き刺さった事は語るまでも無い。




悩んでる内に超グダグダ回に……
次回より原作話になります。
かぶと狩りじゃぁぁぁぁぁぁぁっ!


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ハニートラップ

 

 

「おぃテメェ等、仕事だぞぅ」

 

 

朝早くから真選組屯所に柄の悪い男が着ていた。

男の名は『松平片栗虎』見た目はヤクザ風だが役職は幕府直轄の警察庁長官である。

 

 

「とっつぁん、朝からアンタが来るなんて何事なんだ?」

 

 

朝食を食べながら問う近藤。

まだ日が上がったばかりで朝食の時間に乱入してきた松平に隊士達は疑問を感じていた。

 

 

「………?」

「ああ、あの人は松平片栗虎。真選組の上司に当たる人で偉いんだよ」

 

 

並んで朝食を食べていた刹那と山崎。

刹那が松平を見ながら小首を傾げていたのを見て山崎が説明をする。

 

 

「とっつぁん、少し待っててくれ。直ぐに食べるから」

「とっととしやがれ。後3秒待ってやる」

 

 

朝食を早く食べようとした近藤に松平は時間を指定した。

しかも銃をコメカミに突きつけて。

 

 

「はぁーい、1」

「2と3はぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

松平はカウント1の段階で発砲した。

近藤は素早く身を躱しながらツッコミを入れる。

 

 

「知らねーな。男は1さえ覚えときゃ生きていけるんだよ」

「単に面倒臭いだけだろアンタ!」

 

 

松平の破綻した理屈に再度ツッコミを入れる近藤。

 

 

「…………」

「うん、言いたいことは分かるけどアレで幕府の重鎮だから」

 

 

刹那は無言で山崎を見ながら松平を指さす。

刹那の言いたいことを察した山崎は松平がテロリストではなく幕府の重鎮だと再度、説明をした。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

場所を食堂から会議室へと移した隊士達は松平が持ってきた仕事の説明を受けていた。

 

 

 

「かぶと狩りだ」

「とっつぁん、なんで俺達がカブトムシを捕まえなきゃならねえんだ?」

 

 

松平の言葉に全員が固まる。

松平の無茶振りを常日頃味わってる近藤は即座に松平に聞き返した。

 

 

「将軍様のペットのカブトムシ『瑠璃丸』が森で居なくなっちまったんだよ。だから捜してこい」

「だからなんでカブトムシ如きで警察動かしてんだよ!ペットショップにでも行って別のカブトムシでも渡せ!」

 

 

ふてぶてしい態度の松平に土方がキレた。

 

 

「そうも行かねーだよコレが。将軍のペットの瑠璃丸は日の当たる所で見れば黄金色に輝く言わば生きた宝石みたいな珍種なんだよ。価値にすれば国宝級の値が付く」

「じゃあなんですかい。その瑠璃丸って奴の価値に気付く奴が居れば……」

「幕府相手に金を請求する輩も現れるだろうよ、なにより将軍が瑠璃丸を気に入ってるからよ。サッサと捜しに行ってこいや」

 

 

 

松平による瑠璃丸の価値の説明がされた後にこれは実は重大任務だと思い知らされた隊士達は気を引き締めて会議室を後にしていく。

刹那も隊士達と瑠璃丸捜しに行こうとしたが松平に呼び止められた。

 

 

「お嬢ちゃんが近藤が引き取ったって言う娘か」

「………ん」

 

 

松平の問いに頷く刹那。

 

 

「まったく……ガキにゃ真選組みてーな荒事任せな場所にゃ置いときたくないんだか……お前は此処に居たいのか?」

「ん……近藤や土方達と居たい」

「そうかい。んじゃ、おじさんは他に言える事はねーわ。頑張ってくれよ」

 

 

松平の問いに頷きながら答えた刹那。

松平は溜息交じりに納得したと言うとタバコに火を付けた後に刹那の頭を一撫でしてから会議室を後にした。

 

 

「松平のとっつぁんも気にしてたみてーだな」

「同じ年頃の娘が居るんだから当然かもな」

 

 

それを物影から隠れてみていた近藤と土方。

今日の突然の松平の来訪は刹那を見に来たのでは?と思い始めていた。

 

松平が帰った後に真選組は瑠璃丸捕獲作戦を実行する事となる。

松平からの情報で将軍と瑠璃丸は山の中の別荘で生き別れたとの話を聞いていたので真選組総出で山へと来ていた。

 

 

 

「えー、では瑠璃丸探索を開始する。先ずは片っ端からこの山のカブトムシを捕獲するんだ。採る方法は各自に任せる」

「ん、おい刹那。総悟はどうした?」

 

 

近藤の号令で隊士達は各自でカブトムシを捕まえる事になった。

そこで沖田が居ないことに気付いた土方は沖田の行方を刹那に聞く。

 

 

「街に行ってカブト相撲してくるって言ってた」

「カブト相撲……ああ、そうやって勝ったカブトムシを奪う気か」

 

 

刹那の返答に近藤が納得する。

 

 

「ったく、半分はサボりだろうが」

 

 

土方は舌打ちをしながらもカブトムシを捕獲する準備を進めていた。

何故か、大量のマヨネーズを抱えながら。

 

 

 

「よし、刹那。俺達もカブト狩りをするぞ!」

「………おー」

 

 

気合いの入った近藤に刹那は片手を上げる。

刹那は近藤の後に付いていきカブトムシを採る準備を始めた。

 

隊士達も各自でカブトムシ捕獲に動いていた。

網で捕まえたり、罠を仕掛けたり、木に登ったりと様々である。

そんな中、土方は

 

 

「副長……流石にマヨネーズじゃカブトムシは寄ってこないと思うんですが」

「バカヤロー、マヨネーズは万能だ」

 

 

木にマヨネーズを塗っていた。

山崎からのツッコミにも土方はブレずにマヨネーズを塗り続けていた。

 

 

 

「トシ、マヨネーズでカブトムシは取れんぞ」

「うわあ、局長!?なんで褌一丁なんですか!?」

 

 

そこに褌姿の近藤が現れ、土方に指摘するが山崎はドン引きだ。

 

 

「聞いて驚くな。これぞ、カブトムシ捕獲の丸秘テクニック、蜂蜜だ」

「いや、蜂蜜はまだ納得できるんですが、褌の方は納得できませんよ」

 

 

近藤はバァーンと効果音と共に出したのは蜂蜜。

カブトムシ捕獲に蜂蜜はまだわかるが褌の方は未だに謎である。

 

 

 

「ああ、それなんだがな」

「近藤、準備できた」

 

 

近藤の言葉を遮る様に刹那が姿を現した。

 

 

 

 

 

スク水で

 

 

 

 

 

周囲に居た隊士達が「オオーッ!」と声を上げる。

因みに刹那の着ているスク水の名前の部分には平仮名で『せつな』と書かれていた。

 

 

「局長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?刹那になんて恰好させてんですか」

「フッフッフッ……蜂蜜にスク水の刹那。コレでハニートラップの完成だ!」

 

 

山崎の叫びに近藤はドヤ顔になる。

スク水姿の刹那見るとグッと拳を握り、作戦が上手く行くと確信した近藤は満足顔だ。

 

 

 

「いや、ハニートラップの意味が微妙に違ってんでしょうがぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

森の中に山崎のツッコミが響き渡った。



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カブト狩りそっちのけ

全部書くと長くなりそうなんで今回は短め。
次の更新は早めを予定してます。


 

真選組が森に来てから2日目。

今日も隊士達はカブトムシ捕獲に勤しんでいた。

 

 

「山崎、カブトムシ居ない」

「うーん、大体捕まえちまったかな?」

 

 

刹那は山崎に付いてカブト狩りをしていた。

来た当初に着ていたスク水は山崎以下隊士達の説得により、いつもの制服に着替えさせられていた。

刹那のスク水に色めき立っていた隊士達だが流石に、その状態の刹那を蜂蜜塗れにするのは理性が働きを掛けたらしい。

近藤や一部の隊士は涙を流したが。

そんなこんなでカブトムシ捕獲に勤しんでいた真選組隊士達だが未だに瑠璃丸の捕獲には至らなかった。

 

 

「本当に居るの?」

「うーん、日の下で見ると黄金色に見えるって情報だけだからね」

 

 

見付からない瑠璃丸に刹那は本当にこの森に居るのかと疑問を感じ始めていた。

山崎も同意気味なのか溜息が零れていた。

 

 

「近藤達の様子見てくる」

「迷わないように気を付けるんだよ」

 

 

気分転換の為に近藤達の様子を見に行こうとする刹那。山崎は心配そうに告げると刹那はコクンと肯き、その場を後にした。

最初に刹那が見に行ったのは近藤だった。

近藤は褌一丁で全身に蜂蜜を塗ったくり森の中に立ち竦んでいた。

 

 

「銀さん、帰りましょうよ。この森恐いです」

「体中に蜂蜜塗ってたネ」

「気にするな妖精だよ妖精。樹液の妖精だ。ああして、森を守ってんだよ」

 

 

蜂蜜塗れの近藤を素通りしていく銀時と刹那の見知らぬ二人。

銀時と共に万事屋で働く眼鏡を掛けた少年『志村新八』と小柄でチャイナ風の少女『神楽』である。

近藤を素通りしていった銀時を追うように刹那も後を追っていった。

次に銀時達が次に見たのは木にマヨネーズを塗っている土方だった。

 

 

「銀さん、帰りましょうよ。やっぱりこの森、恐いです」

「マヨネーズ木に塗ってたネ」

「気にするな妖精『魔妖根衛図』だよ。ああして縄張りにマーキングしてんだよ」

 

 

銀時達は土方も近藤同様に素通りしていく。

 

 

「おい、刹那。どうしたんだ?」

「ん、様子見に来た」

 

 

ソレを眺めていた刹那だったが背後から近藤に話し掛けられる。

当然、近藤は蜂蜜塗れである。

 

 

「ん、近藤さん。刹那も一緒か」

「おお、刹那が様子を見に来たって言うんでな。一度、合流するか」

 

 

 

マヨネーズを木に塗っていた土方も近藤と刹那に気付き、手を止める。

近藤の言葉に従い、土方と刹那も他の隊士達と合流する為に移動した。

近藤達が他の隊士達に合流した頃には何故か沖田が銀時達に袋叩きにされていた。

 

 

「お前、こんな所で何やってるアルかぁぁぁぁぁぁっ!!」

「見たらわかるだろぃ」

「わかんねーよ、お前が馬鹿と言う事以外わかんねーよ」

 

 

神楽が沖田に向かって叫ぶ。

因みに沖田の現在の姿はカブトムシの着ぐるみを纏っていた。

そんな沖田を見て、銀時は冷たい目線の共にツッコミを入れる。

 

 

「ちょ、起こして。一人じゃ起きられないんでさぁ」

「大丈夫?」

 

 

着ぐるみの性で起き上がれない沖田を丁度、合流した刹那が支えて起き上がらせる。

 

 

「フー。仲間の振りをして奴らに接触する作戦が台無しでぇ」

「つーか、刹那。なんでテメェまで居るんだ」

 

 

起き上がりながら鼻血を拭う沖田に銀時は森に刹那が居る事に驚いていた。

 

 

「おい、なんの騒ぎだ」

「あ、お前等!こんな所で何をしてんだ!?」

 

 

更に土方や近藤も合流し始める。

 

 

「何してんだって全身蜂蜜塗れの人に言う資格が有ると思ってんですか?」

「これは立派な職務質問だ。ちゃんと答えなさい」

「職務って全身蜂蜜塗れになるってどんな職務ですかハニー?」

 

 

近藤の職務質問に新八や銀時がツッコミを入れる。

 

 

「つーか、真選組にいつの間に女の子が入ってんですか?」

「むさ苦しい野郎共の中に一輪の花が居るネ」

 

 

新八が刹那を指さしながら叫ぶ。神楽も同意する様に呟いた。

 

 

「既にお妙さんには紹介済みだ」

「俺も知ってるぞ」

「私も姉御から話は聞いてたネ」

「なんで姉上には紹介済み!?なんで僕だけ置き去り!?」

 

 

近藤が自身の腕を組みながら既に妙には刹那のことをしらせたと言うと銀時や神楽も刹那を知っていると言う。

何故か志村家や万事屋で刹那に関する事を除け者になっていた新八は叫びながらツッコミを入れる。

 

 

「近藤や銀時から新八の話は聞いてる」

「え、本当!?」

 

 

刹那の言葉にパッと明るい表情になる新八。

 

 

「近藤からは未来の義弟だって聞いてる。銀時からは人間かけた眼鏡だって」  

「碌な情報伝わってねーだろ!間違った情報しか与えられてねーのかよ!」

 

 

刹那に伝わった情報が碌な物が無い事に新八の叫びは森に響き渡る。カブト狩りそっちのけで話題は刹那の話となっていた。



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カブト……?

今回も少し短め。
上手く纏まらない……


 

 

 

一通り新八弄りが終わった頃、真選組内での会議が始まる。

 

 

「総悟、また無茶なカブト狩りをしたのか。よせと言ったろ」

「マヨネーズでカブトムシ採ろうとするのは無茶じゃねーんですかい?」

「トシ、お前まだマヨネーズで採ろうとしてたのか。無理だと言っただろうハニー大作戦で行こう」

 

 

土方が沖田を注意し、沖田が土方にツッコミを入れて、近藤が作戦の再度提案をする。

 

 

「いや、『マヨネーズ決死行』でいこう」

「いや、『なりきりエピソードⅢ』でいきやしょーや」

「刹那を混ぜた『ハニートラップ、ポロリもあるよ』でいこう」

 

 

土方、沖田、近藤の順に作戦の提案をする。

余談だが近藤の意見の際に隊士の数名が反応を示した。

そんな中、一人の隊士が叫びを上げる。

 

 

「局長、あそこに!」

 

 

その隊士の指さした先には木に張り付いているカブトムシが。

 

 

「「「カブト狩りじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」

 

 

真選組、万事屋の全員がカブトムシの居る木に向かって走り出す。

 

 

「おい、此処のカブトムシには手を出すな!」

「カブトムシは皆の物でーす。いや、むしろ俺の物でーす!」

 

 

土方が銀時を止めようとするが銀時は止まらずに木に向かっていく。   

 

 

「ちぃ、奴等に先を越されるな。なんとしてもっ!?」

「カブト狩りじゃぁぁぁぁっ!」

 

 

土方が隊士達に指示を出そうとする最中、神楽が土方の頭を踏み台に木に跳躍した。

 

 

「カブト割りじゃぁぁぁぁっ!」

「カブト蹴りじゃぁぁぁぁっ!」

 

 

そんな神楽の足を掴み木に叩きつけた沖田だが直後に銀時の蹴りで撃沈させられる。

 

邪魔者が居なくなった木に銀時が上ろうとしたが木にはヌルヌルとした何かが。

それに視線を上げると既に近藤が高い位置まで登っていた。

 

 

「アーハッハッハッ!カーブト……割れたぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

ドヤ顔をしていた近藤だが蜂蜜で滑り、木から落ちて頭から地面に叩きつけられた。

 

 

「カーブト!」

「言わせるかカーブト!」

 

 

近藤が木から落ちた後も銀時と土方が殴り合い、木に登っていくがお互い妨害している為に進まなかった。

 

 

「………カブト狩り」

 

 

その隙に刹那が回り込んで、先にカブトムシを捕獲していた。

 

 

「よし、良くやった刹那!」

「あ、テメ、俺が先に目を付けて……目を……」

 

 

カブト狩りのフレーズに顔を上げた土方と銀時だが、此処でお忘れだから言っておこう。

刹那は真選組の制服を着ている。女性版の制服はミニスカートになっており、刹那は銀時達より高い位置に居て、銀時達は刹那を見上げる形になっている。

 

 

それ即ち。

 

 

「カブト踏み」

「ぶがぶっ!?」

 

 

かなりの落下速度で落下した刹那は不可抗力とは言えどスカートの中を見ようとした銀時を両足で踏み付けるとそのまま地面に着地した。

 

 

「ふ、天罰だな」

「カー」

「ブトー」

 

 

刹那の下着を見る形になった銀時に哀れむ視線を向けた土方だが下から聞こえた声にイヤな予感が走る。

見てみれば、沖田と神楽が気合いと共に刀と拳を構えていた。

 

 

「お、おい、ちょっと待……」

「「折りじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

 

土方の制止を聞かずに大木を斬り倒す沖田と神楽。

それに巻き込まれ、土方も地面に叩きつけられた。

 

 

「捕まえた」

「いや、カブトムシ一匹に対して被害デカすぎない?」

「半分くらいは自業自得だけどね」

 

 

捕まえたカブトムシを新八と山崎に見せに来る刹那に新八が苦笑いでツッコミを入れた。

 

確かにカブトムシ一匹に対して近藤は木から落ちて頭を打ち、銀時は刹那によって顔面を踏み付けられた挙げ句地面に叩きつけられ、神楽は木にあたまをぶつけられ、沖田は後頭部に蹴りを食らい額を木に叩きつけられ、土方はとばっちりで木を折られ地に落ちた。

カブトムシ一匹の代償にしては被害が大きすぎだである。

山崎は自業自得と言いながら刹那が捕まえたカブトムシを虫かごに入れていた。

 

 

 

 

「最低ですよ、銀さん。神楽ちゃんくらいの歳の子のパンツ見るなんて」

「バカヤローギリギリ見えなかったよ。見えたのは靴の底と21.5と靴のサイズが解っただけだ」

「割とハッキリ見えたんじゃないですか」

 

 

冷たい視線を送る新八だが銀時の言い分ではギリギリ刹那の下着は見えなかったらしい。

しかし靴のサイズが解る程度にはしっかり見ていたらしい。



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バーベキューは皆で

 

 

「まったくとんでもない邪魔が入ったものだ」

「奴等よりも早く瑠璃丸を見つけるしかないな」

 

 

真選組の宿営地で褌姿のままの近藤は乱入してきた万事屋への対策を練っていた。土方は万事屋よりも先に瑠璃丸を見つけ出すと指示を出す。

 

 

「最早猶予は無い。一刻も早く瑠璃丸を将軍様にお返しするのだ」

「「了解!」」

 

 

近藤の号令に隊士達は敬礼をしながら返事をする。

晩御飯の用意や明日のカブト狩りの準備に隊士達が慌ただしくしている中、刹那は捕まえたカブトムシを眺め、山崎は刹那のお守りとして側に居た。

 

 

「おい、山崎」

 

 

後ろから声を掛けられ振り返る刹那と山崎。振り向くとそこには此方を見下ろしている土方が居た。

 

 

「今すぐ蚊を用意してこい」

「え、蚊ですか!?そんな無茶な……」

「つべこべ言わず集めて来い。刹那、お前は行かなくていい」

 

 

ブツクサ言いながら茂みの中へと消えていった山崎。後を追おうとした刹那を止めた土方はドカッと腰を下ろすとタバコを吸い始め、刹那は土方の隣にチョコンと座る。

 

 

「土方……蚊、何に使うの?」

「ん、すぐに分かるさ」

 

 

不敵に笑った土方を刹那は頭に?マークを浮かべて小首を傾げる。

 

その後、数十分後に大量の蚊を籠にいれて持ってきた山崎。顔や腕に刺された後があるのを見る限り苦労して集めたようだ。

 

 

「よくやった山崎。これで連中を追い払える」

 

 

そう告げると土方は万事屋の宿営地の近くの茂みに隠れ、集めてきた蚊を銀時達の方へと放していた。

食事中だった銀時達はすぐに仲間割れを始め、唯一の晩御飯は台無しになりギャーギャー騒いでいる銀時達を刹那は哀れんだ目で見た。

更に土方は銀時達を追い込む作戦を考えていた。

 

 

「副長、バーベキューの準備が出来ました!」

「よし。じゃ、作戦開始だ」

 

 

その頃、夕食が無くなった事から早く寝る事にした銀時達は各々寝袋に入り、空腹を紛らわそうとしていた。

 

 

「お腹すいて寝れないんですけど」

「気のせいだ」

「気のせいなんきゃじゃないネ!純然たる事実アル!」

「てめーは一皿たいらげてただろ」

「一杯じゃなくていっぱい食べたかったネ!」

 

 

ゴロゴロと動き回る神楽と前傾姿勢をとる新八。

仲間割れに近い会話をしていると肉を焼いた良い匂いが漂ってきた。それと同時に賑やかな笑い声も聞こえてくる。

 

 

「うめぇ!やっぱキャンプにはバーベキューだよな!」

「カレーなんて家でも食えるしィ!福神漬もってくるのめんどくせーしぃ!」

 

 

隊士達はわざとらしく大声で聞こえる様に話す。

これが作戦その二。楽しそうな所を見せて惨めな思いにさせてしまおうと言う事だ。

 

 

「オイ。マヨネーズはどうした」

「……副長、これは美味しそうに食べてる姿を見せ付ける作戦です。マヨネーズはちょっと……それに副長がマヨネーズと言ったから刹那が離れていきましたよ」

 

 

土方がマヨネーズの言葉を出したと同時に刹那はススッと土方から距離を置く。

真選組のバーベキューの様子を涎を垂らしながら見つめる銀時達。そしてわざとらしく肉をクチャクチャと食べながら銀時達へ近寄る沖田。

 

 

「よォ。旦那方まだいたんですかィ?そんな粗末なテントで寝てたら蚊に刺されますよ。あっ」

 

 

端から見てもわざとらしく銀時達の前に食べていた肉を落とす。

 

 

「いっけね、落としちまった」

「おーい、沖田隊長。そんなのもういいって。こっちにいっぱいあるから戻ってこいよう」

「おーう、じゃっ俺はこれで。あっ、それ別に食べてもいいですぜ」

 

 

隊士達に呼ばれ、踵を返す沖田。銀時達を馬鹿にした態度を取った後に真選組陣地へと戻ってくると悪い笑みを浮かべる沖田。

 

 

「ククッ……見なせぇ、奴らのあの顔。腹減らして森から出てくんのも時間の問題……」

 

 

沖田は真選組陣地に戻ると視線を万事屋へと移した、そして映った光景に目を見張る。

 

 

「やっぱキャンプには酢こんぶだよね」

「え、ダサくない?キャンプでバーベキューって逆にダサくない?」

 

 

なんと銀時達は酢こんぶを火で炙って食べていた。

 

 

「酢こんぶ焼いて食ってるぅぅぅぅぅぅっ!?」

「痛々しい、痛々しいよ!」

 

 

その痛々しい光景に真選組から悲鳴が上がった。

 

 

「追加ネ。奴等のバーベキューでゲロしてきてやるヨ」

「よし、行ってこい神楽。奴等のバーベキューを台無しにしてやれ」

 

 

焼酢こんぶに精神的なダメージを与えたと思った神楽は追い打ちとばかりに立ち上がり、バーベキューにゲロを掛けると意気込む。

銀時もそれに賛同し、神楽を止める所か煽っていた。

そんな時、刹那は銀時達に歩み寄り持っていた、皿を差し出した。

 

 

「これ、私の分で良ければあげる……バーベキュー」

 

 

皿に置かれた6本のバーベキューと刹那の顔を見比べて銀時達はポカンとした表情になる。

銀時達の前にしゃがみ込んで「どうぞ」と皿を前に突き出す。

銀時は反射的に皿を受け取り、真選組陣地に戻る刹那の後ろ姿を見送った。

 

 

「うわぁぁぁん!良い奴アルゥゥゥ!!」

「有難うございます、刹那ちゃぁぁぁぁん!」

「バカッ新八!それを言うんじゃねぇ!真選組のお零れだぞ」 

 

 

神楽は涙を流し、新八は額を地面に付けて感謝を述べ、銀時は文句を言いながらもバーベキューにかぶり付いていた。

 

「自分が恥ずかしいネ、嫌がらせにゲロ吐きに行こうとした自分が情けないネ」

「俺って奴はぁ……俺って奴はぁ……」

 

 

刹那から貰ったバーベキューを口に含むと神楽は涙が流れる目元を拭い、銀時は大人の立場でありながら刹那より子供っぽく嫌がらせをしようとした自分にヘコんでいた。

 

 

「駄目主人公とゲロインに反省させたよ!何、刹那ちゃんって菩薩か何かの生まれ変わり!?」

 

 

ドリル並に根性が捻くれている主人公と声優さんの無駄遣いとされるヒロインを同時に反省させた刹那に新八は驚愕していた。

 

 

「ったく、刹那の奴」

「まあ、いいじゃないですか副長。刹那の優しさですよ」

 

 

刹那の行動に舌打ちをした土方だが本気では無く、仕方ない奴だなと半分呆れの様だ。

山崎もそんな刹那に笑みを溢し、その後ろでは隊士達が上を向いたり、目頭を押さえていた。

 

 

「……そうか、刹那がそんな事を…。こっちも成果無しだ。捕まるのは普通のカブトばかりでな」

「おい、皆。別に局長の言った事でも、嫌な事は嫌と言っていいんだぞ」

 

 

翌日になり、土方から昨日の様子を聞いていた近藤。

昨日と同様に蜂蜜を身体中に塗りたくっている近藤だが、今日は後ろに居る隊士達も同じように蜂蜜を塗りたくっているのを見て土方はツッコミを入れる。

 

 

「いや、でもハニー大作戦なんで」

「いや、だからなんで身体に塗るんだよ」

 

 

何故か全員がノリ気でハニー大作戦を決行している事に土方は再度、ツッコミを入れた。




次回でカブト狩りは終わりになります


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カブト狩りと新技

 

「ん、そう言えば総悟はどうした?」

 

今朝から姿を見てない総悟に近藤はキョロキョロと辺りを見渡す。

土方はタバコを加えると小さく溜息を漏らす。

 

 

「アイツはまた単独行動だ。ありゃ、駄目だ。ガキどもからカブト巻き上げたりやり方が無茶苦茶だ」

「瑠璃丸は日の下で見れば黄金色に輝く生きた宝石だ。パッと見は普通の奴と見分けが付かんからな。総悟の様に手当たり次第にやっていかんと見付からんかもしれん」

 

 

ウームと近藤と土方が悩む仕草を見せていた。

 

 

「早く捜す……メタビー」

「いや、瑠璃丸だからね」

 

「銀ちゃん、アレ見てアレ!」

 

 

近藤が刹那にやんわりとツッコんでいると近くで神楽の叫び声が聞こえた。

まさか、と思い近づき見ているとその木には間違いなく瑠璃丸の姿があった。

 

 

「いかん、瑠璃丸が!」

「ま、待て!」

 

 

近藤が慌てて銀時を止めようとするが土方が止める。

 

 

「ここで騒げば奴等が瑠璃丸の価値に気付く。奴等がいなくなった時に今だ」

「……ん」

 

 

土方の言う通り、銀時は瑠璃丸の前を素通りする。銀時達はカブト虫では無く金蠅と思っているのか捕ろうという気は無いようだ。

 

 

「しめた、行ったぞ。アイツらホントバカだ!」

「今だ、早く瑠璃丸を!」

 

 

土方と近藤が木に近づいた瞬間、瑠璃丸は空高く飛び上がったかと思うと神楽の頭の上に乗っかった。

 

 

「うおっ、汚ねっ!お前、頭に金蠅乗ってんぞ!」

「うわっ!」

「ちょちょちょ、動くな。動くなよ!うおらぁぁぁぁぁぁ!」

「いだっ!」

 

 

瑠璃丸だと知らない銀時は素で殺そうと神楽の頭を叩きまくる。

 

 

「待って……ソレは……」

「待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!それ、将軍のペットォォォォォォォォォッ!」

 

 

刹那が声をかけようと足を踏み出したとき、近藤は勢いあまって木の根に足をひっかけ思いっきり神楽の頭にチョップをかました。

 

 

「ぶごぉっ!」

「えぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 

華麗に決まった一撃は神楽にダメージを与え、その衝撃で地面に叩きつけられる瑠璃丸。

 

 

「ギャァァァァ!るり……瑠璃丸がぁぁぁぁぁぁ!?」

「皆、酷いヨ。金蠅だって生きてるんだヨ!この子、私を慕って飛んできてくれたネ。この子こそ定春28号の跡を継ぐ者ネ」

 

 

神楽は瑠璃丸を籠にしまうと、意気揚々に何処かへと走り去っていってしまった。

勿論それを冷静に見届ける訳が無く思わずポロっと言ってしまった。

 

 

「待て!ソレは将軍の……」

「将軍の……何?」

 

 

その時の銀時は獲物を見つけた時の様な獣の目をしていた。

神楽の後を追って歩いている時に大体の経緯を話した。

金に貪欲な銀時は成功報酬の6割を寄越せと言い出す始末。暫くの家賃安定を確信し、銀時は兎も角としても新八までも高らかに笑っていた。

そんな時だった崖の上で沖田と神楽が対峙しているのだ。

 

 

「総悟!?」

「アレ、何やってんの?嫌な予感がするんですけど……」

 

 

土方が崖の下から沖田の名を叫ぶが沖田と神楽は目の前に居る人物から目を逸らさなかった。そして新八はイヤな予感がすると呟く。

 

 

「いざ、尋常に勝負アル!」

 

 

神楽は先程捕まえた瑠璃丸を取り出すとカブト相撲を沖田に嗾けた。ソレに顔を引き攣らせる近藤達。

 

 

「ト、トシィ!」

「まぁ、待て。総悟が勝てば労せず瑠璃丸が手に入る、奴に任せよう。総悟も全て計算ずくで話しに乗ってるんだろう、手荒なマネはしねーよ。そこまでバカな奴じゃねェ」

 

 

すぐに沖田を止めるべきだと近藤が土方を呼ぶが土方は冷静に対処する。

流石に将軍のペット瑠璃丸を傷つけるマネはしないだろうと考え至った様だ。

そんな中、刹那が土方の袖をクイッと引いた。

 

 

「土方……アレ」

「ん……んなっ!?」

 

 

刹那の指さした先には沖田よりもデカい明らかに凶暴そうなカブトムシが居た。

 

 

「凶悪肉食怪虫カブトーンキング、サド丸22号に勝てるかな?」

「「そこまでバカなんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」」

 

 

真選組と万事屋の全員の叫びが重なる。

このままでは瑠璃丸が確実に粉々になってしまう。このままでは真選組は任務失敗となり、万事屋も成功報酬が全てが水に流れてしまう。

 

 

「止めねば!早く2人を止めねば!」

「無理ぃ!こんな崖登れませんよ!」

 

 

近藤と新八が泡を食って崖に駆け寄るが聳え立つ崖は1人では絶対に登る事は出来ない崖。

近藤は振り返り銀時達にも協力を求めた。

 

 

「力を合わせるんだ!侍が協力すれば超えられぬ壁などない!」

「よし、お前が土台になれ!俺が登ってなんとかする!」

「ふざけるな!お前がなれ!」

「言ってる場合じゃねーだろ!今、為すべき事を考えやがれ!大人になれ!俺は絶対土台なんて嫌だ!」

「お前が大人になれぇぇぇっ!」

 

 

近藤の言葉に協力すると思えば相反する土方と銀時はどっちが土台になるか揉めだし始め新八がそれにツッコミを入れる。

 

 

「じゃあ、私が土台になる」

「何言ってんの!?刹那ちゃぁぁぁん!?」

 

 

率先して土台になろうとした刹那の一言に近藤達は凍りつき、新八が叫ぶ。

スカートを気にせず四つん這いのような格好になろうとする刹那を慌てて近藤と銀時が止める。

 

 

「いやいやいや、落ち着け!刹那が土台になる必要なんて無い!つーか昨日から大人顔負けの対応だよ、この娘!?」

「そうだぞ!もういい、俺が土台するから早くお前ら上がるんだ!」

 

 

銀時が刹那を立たせると近藤が土台になろうとする。

 

 

「上がるってオメー!こんなヌルヌルの土台あがれるかぁ!気持ちワリーんだよ!」

「じゃあ次は私が……」

「待て待て待てぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 

銀時が抗議したと同時に刹那は近藤の背に手を置き登ろうとし始めた刹那を今度は銀時、新八で止める。

 

 

「だからぁ、刹那ちゃんは乗らなくて良いのっ!女の子が乗るのは男の膝の上だけにしときなさい!」

「アンタ、何言ってんですか!兎に角、刹那ちゃん!そんな行動してるとまた水色の縞々パンツが見えちゃうからもうしないで良いから!」

 

「「テメェこそドサクサに何見てんだよ!」」

 

 

銀時にツッコミを入れた新八。

迂闊にも見えた物を言ってしまった新八は銀時と土方からの拳を受けた新八は地面に埋まった。

 

 

「行けぇぇぇぇっ!サド丸ぅぅ!!」

「「ヤベぇ!?」」

 

 

崖の上から聞こえた沖田の声に瑠璃丸の危機感を感じると土方は近藤の上に乗り、銀時は新八を2番目の土台となった土方の上に投げる。

先程ので一撃で再起不能になってしまった新八だが土台の一部とさせられた。

そして土台を踏み台にした銀時は素早く崖を蹴り上がっていく。

 

 

「カーブートー狩りじゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

銀時が怒声と共にサド丸に蹴りを見舞った様でズズンと巨大な何かが倒れる様な音が聞こえてきた。

 

 

「刹那、お前も行ってこい!」

「……ん」

 

 

土台を止めた土方は崖を背にしてバレーのレシーブの様な体勢を取る。

刹那はコクンと肯くと土方に向かって走り出し、土方の手を足場に飛び上がって崖を超えた。

 

猫の様に崖の上に登った刹那だがその時には全て終わっていた。

銀時が神楽と沖田の説教中に瑠璃丸を踏んでしまったのだ。

そこには見るも無残な瑠璃丸の亡骸が残されていた。

 

 

「……みんなみんな死んじゃったけど友達なんだ……だから連帯責任でお願いします」

 

 

引き攣った顔の銀時の言葉が妙に頭に残った。

 

 

「おい、刹那ぁ!万事屋を叩き斬れ!ソイツの首で将軍様から許しを得る!」

 

 

土方の叫びと共に刀が崖の下から刹那に向かって投げ込まれる。

刹那は刀を拾うと腰元に構える。

 

 

「……ん」

「落ち着こう刹那ちゃん!確かに銀さんが悪かったけど暴力では何も解決しないよ!?」

 

 

刹那がジリジリと間合いを詰めて行く最中、復活した新八は崖の下から叫ぶ。

 

 

「つーか、元はテメェ等の仕事だったろうが!文句があるなら力で語れ……」

「くずりゅうせん」

 

 

銀時が叫ぶがその言葉を遮る様に刹那から九つの閃光が走る。

銀時が冷汗と共に言葉を失いながら自身の服を見れば九つの穴が開いていた。

 

 

「何あの娘!?なんで九頭龍閃、使えるの!?」

「違う、『九頭龍閃』じゃなくて『クズ龍閃』」

 

 

冷汗を流した銀時が九頭龍閃にビビるが刹那は首を横に振る。『九頭龍閃』では無く『クズ龍閃』だと訂正した。

 

 

「なんだそりゃぁぁぁぁ!クズか、クズを始末する技なのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

銀時の叫びが森の中に響き渡った。

この後、銀時は刹那に追い回された挙げ句に最終的に報酬は無しとされた。

カブト狩りが上手く行かなかった上に真選組から報酬も出なかった為に踏んだり蹴ったりのオチとなったが事態の失敗を招く要員が万事屋だった為に自業自得とも言えるが。

 

因みに真選組はと言えば警察庁に趣き、松平の前で近藤が自身に蜂蜜を塗り、兜を被って誤魔化そうとしたが当然通用する訳も無く切腹を命じられた。

切腹はその後、無しになったが当面の給料カットが言い渡されたとか。



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刹那と武器

 

 

 

 

カブト狩りから数日後、刹那は土方に呼び出されていた。

 

 

「刹那、鍛冶屋に行って刀を貰ってこい」

「………?」

 

 

土方の言葉に小首を傾げる刹那。

 

 

「お前も屯所内の仕事や警邏の仕事も出来るようになってきたが刀はまだ持たせちゃいなかっただろう。これから攘夷志士共とやり合うかも知れねぇんだ。刀は持って置いた方がいい」

 

 

土方の言葉通り刹那は専用の刀を持っていなかった。今までは一緒に居た隊士達に刀を借りたり、無手で泥棒を捕まえたりとしていたが真選組である以上、刀は必須となる。

 

 

「よーし、俺も一緒に行って刹那の刀を選んでやろう!」

「何言ってんだ近藤さん、アンタは例の連続辻斬り事件の担当だろうが!」

 

 

刹那と共に鍛冶屋に行こうとした近藤だが担当している事件があると土方に首根っこを掴まれた。

 

 

「待て、トシ!こっちも重要なんだ!」

「駄目だっての!刹那、さっさと行って来い!」

 

 

駄々をこねる近藤を引き摺って土方は行ってしまい、刹那は土方に言われた通り、鍛冶屋に向かった。

 

 

「ハハッ……すっかり局長も親バカだ」

 

 

そんな光景を見ていた山崎は近藤の親バカ振りに笑みを溢していた。

一方、鍛冶屋に着いた刹那は様々な武器を眺めていた。

鍛冶屋には話が通っていたらしく、刹那が来た時に店主は柔やかに刹那を受け入れていた。

 

 

 

「ダブルトマホーク有る?」

「いや、ウチにはそんなゲッ○ーロボが使う様な武器は置いてません」

 

 

武器を眺めていた刹那が店主に問うが店主は苦笑いで返した。

 

 

「それで……刹那さんはどんな刀をご所望で?」

「わからない……いつも適当に使ってたから」

 

 

店主の言葉に返答に困る刹那。

そもそも刹那は組織にいた時代に様々な武具を使用していたので得意不得意もなく武器を扱える。

故にどの刀を得れば良いのか分からなかったのだ。

 

 

「では、いくつか手にとって確かめてみては?手に馴染む刀こそ刹那さんの刀になる筈です」

「………ん」

 

 

そう言われていくつかの刀を手に取る。しかし馴染むような感じはしなかったのか、頭に?マークを浮かべながら刹那は小首を傾げていた。

刀以外にも槍や斧、鎖鎌や小刀、小太刀、斬馬刀に至るまで手に取るが刹那にはしっくり来なかったのか悩むばかりである。

 

 

「お嬢さんの手には馴染みませんか……特別な刀でも拵えた方が宜しいかもしれませんな」

「……特別な刀?」

 

 

刹那は店主の言葉に反応する。

 

 

「ええ、今噂の辻斬りが持ってる刀……なんでも妖刀らしくてね……なんでも赤く血のように染まった刀らしいんですよ」

「妖刀……」

 

 

妙な雰囲気で語る店主の言葉に刹那は今朝、近藤達が話していた辻斬り事件では?と思い始めていた。

 

 

「ま、噂は噂ですがね。刹那さん何だったら幾つか武器を持っていきますか?」

「……いいの?」

 

 

店主は先程のは噂だと笑い飛ばすと店の奥から幾つかの武器を持ってきた。

 

 

「試作や試し打ちの物ばかりでしてね。出来たら使い心地を教えて頂けたらと……」

「……ん、わかった」

 

 

店主は刹那を武器のモニターとする気の様だ。

刹那も刹那で馴染む武器が無いのならと引き受けると武器の入った鞄を受け取る。

 

中には刀や槍なども入っておりバリエーションは豊富な様だ。刹那が鞄を背負うと鞄をからハミ出た武具が頭を覗かせる。

少女と武器。ここまでミスマッチな組み合わせだが刹那には妙に似合っていた。

今の刹那を表現するなら『武蔵坊弁慶・刹那版』である。

 

 

「ありがとうございました。武器の使い心地は後ほど教えて頂ければ結構ですので」

「……ん」

 

 

店を出る際に刹那に声を掛ける店主。刹那は振り返ると武器が鞄から落ちない程度に頭を下げ、店を出た。

 

 

「……ん。重い」

 

 

小柄な刹那には鞄に入った武器は少々重かった様だ。フラフラしながら刹那は真選組屯所への道を歩き始める。

店に居た時間が長かったのか外はもう暗くなり始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鍛冶屋から出て来た刹那を何者かが見ていた。

笑みを溢すと男は刀を鞘から抜き、自身の舌で唇を舐めた。

獲物を見つけたと喜ぶ男は刹那の後を追う。

 

 

 

 

 

 

その手に握られた刀は

 

 

 

 

赤く

 

 

 

紅く

 

 

 

 

染まっていた

 

 

 

 

 

淡く鈍い紅色に

 




次回より紅桜編突入予定


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紅桜と似蔵の驚異

 

 

 

真選組屯所までの帰り道、刹那は妙な気配を感じていた。

誰かに見られている。まるで獰猛な獣に狙われているかの様な錯覚に陥っていた。

 

 

「………ん」

 

 

刹那は歩いてきた道を振り返るが誰も居ない。気のせいかと再度、歩みを薦めようとした、その時だった。

 

背後から一閃、光が走ったのだ。

夜の街にザシュリと何かを斬った音と刹那が背負っていた鞄と中身が落ちる音が響いた。

 

 

「んんぅ……妙な手応えだねぇ?」

 

 

光の正体は目を閉じたまま刹那に刃を振るった男。

刀を鞘にしまうと男は空を見上げる。

 

 

「中々に良い反応だ。咄嗟に避けたか」

「………」

 

 

そこには鞄を囮に男の刀を避けた刹那が宙を舞っていた。

瞬間的に殺気を感じた刹那は背負っていた鞄を素早く下ろすと跳躍し刃を避けたのだった。

着地と同時に男から距離を取った刹那は鞄から落ちた刀を拾い上げると男と対峙する。

 

 

「ククッ……気配から少し腕が立つ奴かと思って襲ってみれば……こんなお嬢さんだったとはね」

 

 

男は鼻が詰まらないよう洗浄薬を鼻に刺すと楽しそうに呟いた。

対する刹那は男に警戒を露わにしていた。

刹那の直感が告げていたのだ何かは分からないが『コイツはヤバい』と。

 

 

「さて、お嬢さん。俺と……岡田似蔵と殺りあってくれるかい!」

「………くっ」

 

 

似蔵の刀を拾った刀で受け止める刹那。鍔迫り合いをするが非力な刹那では似蔵の剣戟は受け止めきれず後方に飛ばされてしまう。

 

 

「……っ!?その刀……」

「コイツかい?この刀は妖刀でね、血を欲してるのさ!」

 

 

刹那が似蔵の持つ刀の色に目を奪われた。怪しく紅色に鈍く輝く刀に刹那の興味が行った隙に似蔵は刹那に迫る。

 

 

「ん……だったら辻斬りの容疑で逮捕する」

「やってみな!」

 

 

今は似蔵を辻斬りの容疑で捕まえる事にした刹那は手にした刀を似蔵に振るうが、なんと似蔵の持つ紅桜は刹那の刀をいとも簡単に切り裂いてしまった。

 

 

「……まだ!」

「ククッ……そうそう子供は元気がよくなきゃぁな……」

 

 

刹那は持っていた刀を投げ捨てると先程、鞄から落ちてしまった刀を拾い上げると構える。

似蔵はヒュンと紅桜の刃を口元に這わせると舌で舐め上げた。

 

刹那は受け身になるのでは駄目だと思い、今度は先手を仕掛けた。

袈裟斬りに刀を振るうが似蔵はそれを体を半身に逸らし避ける。 

刹那は避けれた刀を握り返すと下方から上方へと切り上げた。しかし似蔵は紅桜で受け止めると刀を持っていた刹那の手を左手で握り動きを止めた。

 

 

「綺麗な手だねぇ……スベスベでとても刀を握る手じゃねぇや」

「っ!」

 

 

顔を近づけて話す似蔵に刹那は足下に落ちていた小太刀を蹴り上げて左手で掴むと似蔵の脇腹目掛けて小太刀を振るった。

しかし

 

 

「おおっと……危ない危ない」

「なっ!?」

 

 

似蔵は焦った様子もなく落ち着いていた。それもその筈、刹那の左手は何者かに押さえ付けられていた。思わず刹那が視線を移すとそこには電子部品の様なコードが触手の様に動き、刹那の左手に絡み付いていた。

その触手はよく見れば、似蔵の腕から……もっと詳しく言えば似蔵と一体化した紅桜から伸びていた。

 

 

「思った以上に強い嬢ちゃんだねぇ……場慣れしてるのか臆せずによくやったよ。だが……」

「ぐ……ああっ!?」

 

 

似蔵の言葉に呼応するかの様に触手は刹那の手を捻り上げる。刹那は痛みに小太刀を落としてしまい、右手も触手が絡み付いて刀を落としてしまった。

 

 

「相手が悪かったね。俺と紅桜じゃなけりゃ勝てただろうに」

「くぅ……あ……」

 

 

触手は刹那の両手を縛り上げると刹那の腕を上に伸ばす。似蔵との身長差もあり刹那は、つま先立ちの様な状態になり足下が覚束ない状態になってしまう。更に刹那の腰や胸の辺りも締め付けるかの様にギリギリと絡み付いてきた。

 

 

「お嬢さんはその辺の攘夷志士や幕府の役人なんぞより、よっぽど強かったよ。紅桜にも良い経験値になった」

「……ふっ!」

「おやおや、まだ元気一杯だね」

 

 

自慢気に話す似蔵に刹那は唯一自由になっていた足で似蔵の顔面を狙って蹴りを放つが即座に足に触手が絡みつき、邪魔をして空を蹴るだけとなってしまった。

 

 

「そんな恰好で蹴りなんかしたらパンツ見えちゃうよ。おじさんは目が見えないから関係ないけどね!」

「がふっ!?」

 

 

似蔵は無防備になった刹那の腹部に左の拳を叩き込んだ。触手に自由を奪われていた刹那はガードする事も出来ずに腹部を殴られ、うめき声を上げる。

 

 

「さっきも言ったがおじさんは目が見えなくてね。お嬢さんの顔は見えないが!」

「うあっ!」

 

 

似蔵は刹那の髪を乱暴に掴むと楽しそうに引っ張る。

 

 

「さぞ、苦しそうな顔してるんだろうね!」

「あぐっ!」

 

 

追い打ちを掛ける様に刹那の脇腹に蹴りを見舞う。蹴りの衝撃で刹那を縛っていた触手は離れたが、蹴られた反動で刹那は壁に叩きつけられた。

 

 

「かっ……ふっ……ゲホッゴホッ……」

 

 

壁に叩きつけられて肺の空気が全て出てしまった刹那は咳き込みながら呼吸をする。

しかし意識は朦朧とし始めて、目も翳んできていた。

 

 

「楽しかったよ、お嬢さん」

 

 

似蔵は咳き込む刹那の前に立つと触手が無くなった紅桜を振り上げ、一直線に刹那目掛けて振り下ろした。

意識が朦朧としていた刹那は迫る紅色の刃が己に迫っている事しか認識できなかった。

しかし、紅桜と刹那の間に何者かが割って入り、紅桜を受け止める刹那を守った。

 

 

「だ……れ……?」

 

 

真選組の誰かの背中では無かった。思わず声に出して誰かと問うが返事は無い。

刹那の瞳に映ったのは長い長髪。

 

 

「おやおや、意外な人物のご登場か。桂小太郎殿とお見受けするが?」

「最近、巷で辻斬りが横行しているとは聞いていたが、こんな娘まで斬る外道だったとはな」

 

 

似蔵の紅桜を受け止めたのは真選組の最大の敵とも言える人物『桂小太郎』だった。

 

 

「ククッ……まさかこんなに早くアンタに会えるとは。そのお嬢さんは前菜のつもりだったが食い応えがあった。アンタはどうだい?」

「そこのお嬢さんは着ている服からして真選組の関係者か。幕府の犬に噛み付いたのは辻斬りの狂犬だったか」

 

 

桂は刹那に一瞬視線を移した後に目の前の似蔵を睨む。

 

 

「睨むなよ、そこのお嬢さんは紅桜の良い経験値になってくれたよ。今のアンタに負けない位にレベルアップ出来たみたいだ」

「なっ……貴様、その刀は!?」

 

 

似蔵が笑みを溢しながら紅桜を抜くと桂は困惑しながらも刀に手を掛けた。

次の瞬間、桂の体から血が溢れ出る。擦れ違い様に似蔵の居合い斬りで桂を斬り伏せたからだ。

 

 

「おやおや、こんなもんかい?いや、お嬢さんで経験値を積んだ紅桜だから勝てたのかな?」

 

 

血に沈み倒れた桂の髪を掴むと似蔵は桂の後ろ髪を切り落とした。

 

 

「桂を討ち取った記念だな。ククッ……ハーハッハッハッ!」

 

 

似蔵は高笑いをすると、その場を後にした。

桂の死も確認も刹那にトドメも刺さずに高らかに行ってしまった。

似蔵が充分に離れた事を確認した桂は起き上がった。

血に濡れた着物の懐から取り出したのは一冊の本。

 

 

「まさかコレに守られるとは……あ、イカン!」

 

 

桂は何か思いに老けようとしたが刹那の事を思い出し刹那に駆け寄る。

 

 

「おい、しっかりしろ!大丈夫か!?」

「……か、つ…ら…」

 

 

桂が刹那に駆け寄り、体を揺する。すると刹那の目は焦点は定まってはいないが意識はある様だ。

 

 

「一先ずは無事か……なら手当を……」

 

 

桂は本来なら敵である筈の刹那の手当をしようとする。

いくら真選組とは言えど、桂に少女を見捨てる気にはならなかった。

 

 

「おーい、刹那ぁ!」

「どこに居るんでぃ?」

 

 

 

桂と刹那が居る場所から少し離れた場所から山崎と沖田の声が聞こえ始める。

どうやら刹那の帰りが遅いのを心配して探しに来たようだ。

 

 

「真選組が来たか。ならば大丈夫か」

 

 

桂は真選組が来たならば刹那も大丈夫だろうと、その場を後にしようと立ち上がる。

 

 

「……ヅ……ラ」

「ヅラじゃない桂だ。お前も真選組で俺を捕まえたいのなら名前はちゃんと覚えておけ」

 

 

刹那の『ヅラ』発言に桂は振り返り、刹那の前髪を撫でる。小さな笑みを溢した後に桂はその場を後にした。

走り去る桂の後ろ姿を見送りながら刹那は意識を手放した。

 

その後、山崎と沖田に見つけられ保護された刹那。

大急ぎで真選組屯所に運ばれ、命に別条は無いとされたが数日間、刹那は目を覚まさなかった。



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自分の居場所

 

 

 

刹那が似蔵に襲われてから数日間、刹那は目を覚まさなかった。

医者の話では肉体的なダメージより精神的なダメージがデカいとの事。

刹那は真選組の個室で眠り続けていた。その部屋の扉を開け、庭が見える様になっており庭では近藤が木刀で素振りをしていた。

 

 

「やはり高杉の一派か」

「ああ、攘夷志士共の動きが活発になってきてる……刹那をやったのもソイツ等の誰かだろう」

 

 

素振りしていた近藤に報告をしていたのは土方。

 

 

「なるほど、刹那は真選組でも隊長クラスの実力。それをこんなに出来るのは高杉の一派くらいなもんってわけですかい」

 

 

人を小馬鹿にした様なアイマスクを着けながら沖田は刹那と同じ部屋で寝ていた。

今でこそ落ち着いているが刹那が保護された日は大騒ぎだった。

近藤は完全武装で江戸中の攘夷志士を狩りに行こうとした。更に隊士達も近藤に従い同じ様な状態になっていた。

土方は暴走気味の近藤や隊士達を止めたが、土方の目も血走り危ない状態になっていた。

 

沖田はいつも通りを装っていたが攘夷志士達に向けるバズーカの量が増えていた。山崎は攘夷志士達の情報を集め、刹那を襲った犯人捜しに尽力していた。

斉藤は眠る刹那の側に居続けて、看病していた。

 

 

「どーするんですかい?刹那をやった犯人捜しは?」

「高杉の一派が犯人とわかってんなら斬りに行くのが一番だろうがな」

「今、山崎が情報を洗ってる最中だ。それを待つしか無いか……」

「つーか、刹那を襲ったのが誰かはわからないですけどね」

 

 

話し合う近藤達。話が攘夷志士の逮捕から刹那を襲った犯人への報復がメインとなり始めていた。

 

 

「おのれ……よくも刹那を……」

「土方さん、近藤さんが呪いを始めましたぜ」

「究極にアナログな方法をチョイスしたな」

 

 

近藤は頭にハチマキをして蝋燭を刺していた。手にはワラ人形と五寸釘と金槌のセット。

土方と沖田はソレを引いた様子で見ていた。

 

 

「ん……あれ?」

「っ!刹那!?」

 

 

そこで刹那は目を覚ました。まだ意識がハッキリしてないのか寝ぼけた様子で辺りを見回す。

土方は急に目覚めた刹那に驚くとタバコの火を消して刹那に歩み寄る。近藤も蝋燭やワラ人形を投げ捨てると部屋に入り、沖田は部屋で寝てたのでアイマスクを取ると刹那と向かい合う。

 

 

「大丈夫か?意識はハッキリしてるか?」

「刹那、何があったか覚えてるか?」

「俺とザキで運んだんだぜぇ」  

「えっと……話すから待って……」

 

 

近藤達に詰め寄られて言葉を詰まらせる刹那。

その後、刹那は説明をした。

鍛冶屋から刀を貰った事、辻斬りに襲われた事、辻斬りの名は岡田似蔵である事、負けそうになったが桂に助けられた事を。

 

 

「人斬り似蔵の名を持つ岡田か……確かに奴なら刹那にも勝てるか?」

「違う……確かに岡田は強かったけど……」

 

 

土方が納得したかのような表情になるが刹那は首を横に振った。

 

 

「じゃあ、他に何かあったのか?」 

「触手プレイされた」

 

 

近藤が他に何があったのかを問うと刹那は紅桜の触手に痛め付けられた事を話した。

伝え方に難があったが。 

 

 

「許さん、許さんぞ高杉ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 

 

近藤は怒り狂い、先程のワラ人形と五寸釘を拾い上げると木にワラ人形を押さえ付けると五寸釘を打ち据えた。

 

 

「近藤、いつもとテンションがおかしい」

「今はある程度、落ち着いてたんだがな。他の連中も同様だ。テメェの心配してたんだよ」

 

 

土方はタバコを口に咥えると立ち上がる。

 

 

「土方も?」  

「……さぁな」

 

 

刹那の言葉に土方は振り返らずにそのまま部屋を出ていった。

 

 

「アレで心配して、しょっちゅう顔見に来てたんだぜ」

「……沖田も?」

「俺は寝てただけだ。ほら、もう少し寝てな」

「わぷ」

 

 

沖田が土方の事をバラすが土方の行動を知ってると言う事は沖田もこの部屋に居たと言う事になる。

沖田は照れ隠しなのか刹那を再び布団に押し込んだ。

 

少々乱暴に布団に押し込まれた刹那。

しかし、その表情は僅かに緩んでいた。

 

自分の初めての居場所となった場所の暖かさに刹那の心に温かい物に包まれていた。



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刹那の新たな武器

 

 

目を覚ましてから刹那はもう一眠りをしてから真選組の制服に着替えた。

刹那が目を覚ましたと聞いた隊士達は刹那の部屋に押しかけ、刹那の様子を見に来ていた。

もみくちゃにされた刹那だがこれだけの人間が心配する事が刹那が真選組に馴染んだ証拠だろう。一方隊士達も刹那は真選組唯一の華である刹那が居なくなればまたむさ苦しい集団と化す事を恐れていたりする。

 

隊士達との顔合わせを終えた刹那は近藤に呼び出された。

そして告げられたのは今日は近藤達とは別行動を取れとの事だった。

 

近藤達はこれから高杉一派の潜んで居るであろう場所に趣くのだと言う。しかし病み上がりの刹那を連れて行くのは忍びない為に刹那には別命が命じられた。

先日の鍛冶屋に趣き、武器の大半を駄目にしてしまった事への謝罪である。

 

本当なら似蔵へのリベンジをしたい刹那だが心配させたばかりで無理は言えないと肯くしかなかった。

 

 

そして近藤達と別行動を取った刹那は鍛冶屋に趣き武器の件の謝罪をした。すると店主は武器の至らなさで刹那が苦戦したことを謝りに来たのだ。

刹那が寝込んだ間にも武器の製造をしていたらしく刹那に改めて刀と槍と斧が進呈された。

 

刹那はそれぞれの武器を受け取ると真選組屯所への道を歩き始める。

前回と違い、昼間だから人通りも多く、辻斬りの出る雰囲気は無かったが刹那の心は晴れなかった。

 

前回、負けてしまった事もそうだが真選組として犯罪者を止められなかった事が刹那の心に影を落としていた。

 

 

「…………新八?」

 

 

俯いた顔を上げた時、視界に入ったのは何処かへ焦った様子で走って行く新八の姿だった。

 

 

「…………気になる」

 

 

新八の様子が気になった刹那は後を追う事にした。

その行き先が高杉一派の潜む港だとも知らずに。

 

 

そこから刹那は新八の後ろを気配を消して追っていた。

新八は攘夷志士達の後を追い、港まで来ていた。その最中、怪しげなペンギンの様な何かが攘夷志士達に喧嘩を売っていた。新八は何故か焦った顔で怪しげなペンギンを助けようとしたが事態は一変する。

 

なんとペンギンの口から大砲が伸び、船に向けて発砲したのだ。その後、ペンギンは新八に刀を投げ渡す。

 

 

「エ、エリザベス先輩ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 

 

すると新八は涙を流しながら先程、ペンギン改めエリザベスが大砲を直撃させた船へと走っていった。

 

 

「ん……こっちもほっとけないけど……」

 

 

エリザベスを一人残すのも問題だが新八一人であの船に行かせる方が問題だ。

そう思った刹那は既に走り出していた。

 

エリザベスの前に立つ攘夷志士の頭を踏み台に跳躍すると新八に迫る。

 

 

「新八」

「うわぁっ!?って刹那ちゃん!?なんで此処に……」

 

 

刹那が新八の肩に手を置いて名を呼ぶと新八は飛び上がるくらいにビビったが相手が刹那だと分かると安心したのか溜息を吐いた。

 

 

「それはこっちのセリフ。何してるの」

「神楽ちゃんが昨日から帰ってきてないんだ。定春だけが帰ってきたんだけどメモを咥えてて……その場所があの船なんだ。それに桂さんも……って、あ」

 

 

此処に居る説明をしていた新八だが刹那がジーッと見ている事に自分が迂闊な発言をしたと気付く。

桂と真選組とは宿敵同士の関係。それを刹那の前で彼処に獲物が居ると話せばどうなるか……それに気付き気まずい表情になるが刹那はフゥと小さく溜息を溢すと船に視線を移した。

 

 

「神楽が迷子になってるなら一緒に捜してあげる。迷子を家に届けるのも警察の仕事」

 

 

刹那はスッと前に出ると振り返る。

 

 

「私も桂に用事が有る。捕まえるとかじゃ無くて野暮用くらいだから心配しなくて良い」

「……刹那ちゃん」

 

 

刹那の意図を察したのか新八の表情が明るくなり、二人は並んで高杉一派の船へと潜入するのだった。

 

 

 

一方の神楽は船の先端に貼り付けにされていた。

高杉一派の船を他の攘夷志士達が襲撃に来たのだが神楽を仲間と思い込んだ来島また子や武市変平太によっては人質にされていた。

しかし当然の事ながら神楽は攘夷志士などでは無いので全くの無駄。

高杉一派の船は砲弾の雨に見舞われた。

 

 

「話が違うじゃ無いッスか武市先輩!」

「予想が外れましたね。まあ、砲弾も外れたから良しとしましょう」

 

 

等と頭のネジが外れた会話をしていた。

 

 

「ブハハハハッ!あいつ等なんかと私、関係ないもんね!勘違いしてやがんの。プププ、恥ーずかしい」

「何浮かれてんの!?お前が一番危機的状況なんだよ!」

 

 

武市達の目論見が外れた事を笑う神楽だが本人が一番危機的状況に陥っていた。

そして更に降り注ぐ砲弾の雨に武市やまた子は逃げ出すが神楽は置き去りにされ、砲弾の雨に曝された。

 

爆風が舞い、視界が悪くなる。また子は神楽が何の役にも立たなかったと舌打ちをする。

 

そして煙が晴れた時、状況は変わっていた。神楽は新八の手により救出されていたのだ。

 

 

「何者ッスか!お前達、奴等を捕らえ……」

「……もう終わった」

 

 

また子が部下に新八を捕らえよと命令をしようと振り返ると其処には刹那によって倒された部下達の姿が。

 

 

「ふむふむ、その美しい髪、適度によって育った体。素晴らしい」

「………」

 

 

武市は刹那の体を舐め回す様な視線で見ていた。刹那はその視線に手で体を隠すようにする。少し嫌だった様だ。

 

 

「先輩、何時までフェミニストやってんスか!」

「フェミニストじゃありません、ロリコンで…あ、間違った、フェミニストでいいんだ」

 

 

また子は武市の趣味である小さな子を愛でるフェミニストと怒る。否定しようとした武市だが本音がポロッと出ていた。

 

 

「新八、神楽。下がってて、コイツは私が滅する」

 

 

そう言うと刹那は布に巻かれた長物を取り出す。布を取ると中から古めかしい槍が姿を現す。槍の切っ先に備え付けられた赤い飾り布が風に揺らめいていた。

刹那は中腰になりながら、槍を構える。

 

 

「この槍はケダモノを退治する槍『ケダモノの槍』」

「下がって下さい武市変態。先輩があんなのに刺されたら一発昇天させられますよ」

「変態じゃなくて先輩だから。それと違うって言ってるじゃん。ロリコンじゃなくてフェミニストです」

 

 

槍の効果を聞いた、また子は武市に下がる様に告げる。

真偽は兎も角、槍の効果が本物なら武市は一撃で死ぬと思ったからだ。

武市はロリコンを否定するが先程の発言から説得力ゼロである。

 

 

「つーか、それジャンプじゃなくてサンデーだろ!色んな意味で危ない物だすな!」

 

 

場の雰囲気に飲まれ、影が薄くなっていた新八のツッコミが漸く炸裂した。

 

 

「新八、お前の方が先に助けに来たのに刹那と比べてやっぱり地味アル。華が有る奴には勝てないネ、お前は世界一有名な配管工の地味な弟と傷の舐めあいでもしてろヨ」

「んだとコラァァァ!健気に兄を支え続ける頼れるルイージを舐めてんのかァァァ!」

 

 

助けに来た筈なのにあんまりな待遇に新八のツッコミが再度響き渡った。




タイトルで『新たな武器』と記しましたが刀は別に用意してます


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刹那無双

 

ケダモノの槍を構えて睨む刹那と動けずに居る武市とまた子。

 

 

「ふーむ、その服。その刀……やはり……」

「先輩……いい加減にして下さい」

「だから違うって言ってんじゃん。アレですよ、あの娘が着ている服は真選組の服だって言ってんですよ」

 

 

武市が再度、刹那を品定めする様な目で見る中、また子がツッコミを入れるが武市は刹那が真選組である事に気付いた様だ。

 

 

「真選組!?まさか幕府の犬が此処を嗅ぎ付けて……」

「此処に来たのは別件。迷子と行方不明者を探しに来ただけ」

 

 

また子は動揺した様子で刹那を見るが刹那は首を横に振った。

 

 

「だったらさっさと帰れば良いものを……他に何の様が有るって言うんスか!?」

「人斬り似蔵が紅桜で私に触手プレイしたから斬りに来た」 

 

 

刹那の発言にその場の全員の動きが止まった。

 

 

「せ、刹那ちゃん……それって……」

「……新八!」

 

 

新八が顔を赤らめながら刹那に話を聞こうとしたが刹那はケダモノの槍を新八に向けて投げた。

 

 

「いいっ!?」

 

 

刹那の突然の行動に慌てる新八だが槍は新八の背後に居た攘夷志士に刺さった。

新八が振り返るとそこには新八に刀を振り下ろそうとしていた攘夷志士はドサリと倒れる。

 

 

「新八、神楽を連れて逃げて」

「そ、そうは言っても……」

 

 

刹那や新八の周囲は船の中に居た攘夷志士達に囲まれていた。

あまりの数に新八はビビり、どうしたら良いのか立ち竦んでいた。

 

 

「散々、やらかしてくれたけどアンタ等もこれでおしまい……」

「足りない……私を倒したいなら後、百人用意するか紅桜並の力を持った奴を呼ぶべき」

 

 

また子が刹那達にドヤ顔で語ろうとしたが刹那は刀を抜くと周囲を囲っている攘夷志士に斬り込んだ。

一飛びで刀を振るうと攘夷志士達は数人倒れ、走り擦れ違う度に人が倒れていく様に周囲から動揺が走る。

 

 

「な、なんスか、アレ!?」

「ふむ、小さな動きで最大限の効果が得られる様に戦ってる様ですね。振るう刀角度で複数の刀を叩き落とし、突きで纏めて貫いたりと……やるものですね」   

 

 

また子は妖術でも見るかの様な目で刹那を見て、武市は冷静に刹那の戦い方を分析していた。

 

 

「牙突!」

 

 

刹那は刀を横に構えて弓のように撓るとミサイルの様に突進して攘夷志士を纏めて吹き飛ばした。

 

 

「何してるっスか!囲って一斉に……」

「トマホークブーメラン」  

 

 

また子の言葉の最中に刹那は鍛冶屋から貰った斧を右手に持って振りかぶると勢いよく投げつける。

飛来してくる斧は攘夷志士達の頭上スレスレを走り、髷や髪を切り落として行った。

 

 

「危ねぇ!」

「なんつー物騒な戦い方しやがるんだ!」

 

 

まるで落ち武者や河童の様な髪型にされた攘夷志士達は悲鳴を上げるがその隙を刹那は攘夷志士の頭を刀の鞘で叩き、沈めていく。

 

 

「ガキと思って油断してりゃ!」

「斬岩剣」

「ぬぅおわぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

次々に倒されていく仲間を情け無いと想いながらも巨漢の男が刹那に刀を振り下ろしに掛かるが刹那の放つ技に逆に吹き飛ばされ、やられてしまっていた。

 

 

「す、凄い……刹那ちゃんがこんなに強いなんて……」

 

 

その光景を見ていた新八は刹那の強さを目の当たりにして驚愕していた。

その時だった新八の背後にエリザベスが現れたのだった。

手に『あの娘、強いな』と書かれたプラカードが。

 

 

「エリザベス!来てくれたんだね」

『この船に用事が有ってな』

 

 

新八の言葉にプラカードで答えるエリザベス。

しかしその背後には怪しげな目をした男の影が。

 

エリザベスが振り返る前に男の刃はエリザベスを切り裂いた。

 

 

「エリザベス!?」

「おいおい、いつから此処は仮装パーティー会場になったんだ?ガキが来て良い場所じゃねーよ」

 

 

新八が斬られたエリザベスに叫びを上げる。男はそんな新八に一瞥するだけで視線は刹那に移っていた。

 

 

「やるじゃねーか……その銀髪と強さ……あの馬鹿と似てるな」

「見覚えが有る……高杉晋助」

 

 

エリザベスを斬った男『高杉晋助』に刹那は見覚えがあった。過激攘夷浪士として真選組にもリストが載っていたのを刹那も目を通していた。

 

 

「幕府も落ちきったな……ガキの手も借りなきゃならねーとはな」

「ガキじゃない……桂だ!」

 

 

高杉の言葉を遮る様にエリザベスの中から桂が現れ、高杉を斬り付けた。

完全に不意を突き、高杉を斬った桂だが高杉も懐に何かの本を入れていて深手には至らなかった。

 

その後、桂と高杉は因縁が有るのか睨み合いをしていたが、その間にも刹那は周囲の攘夷志士を倒していた。

そして大半を倒してしまった刹那は桂の側に歩み寄る。

刹那は桂に背を見せたまま刀を構えており、互いに顔は見なかった。

 

 

「……無事で何よりだ」

「お互い様。その髪型似合ってる」

 

 

互いに顔も見ずに交わす会話。

まるで長年連れ添った友人の様だった。



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奥の手

 

 

睨み合いを続ける高杉一派と桂達。

しかしその状態も長くは続かなかった。

 

 

「………ん、来たみたい」

「来たって……何がっ!?」

 

 

睨み合いの最中、刹那は視線を別の方向に移し、それに続いて新八も視線を移した。

そこには今、自分達の居る船に突進してくる別の船が。

 

高杉一派側もそれに驚愕するが時既に遅し、高杉の船に後から来た船が横っ腹に突き刺さる。

そして船からエリザベスと桂一派の攘夷志士達が出て来た。

 

涙を流し、桂の無事を喜ぶ彼等だが、今回の一件で高杉と桂の両名の陣営の確執は明らかな物となってしまった。

桂はその事を仕方ないと告げる。

高杉は混乱に乗じて他の幹部と共に船の中へ逃げたようだ。

ソレを、追って桂や新八、神楽も船の中に入って行くが刹那は後は追わず、船の甲板に居る敵を倒し続けていた。

 

 

『真選組が我々の手助けとは何事か?』

「攘夷志士の手助けじゃない。迷子になった神楽を新八が捜してたから手伝いに来ただけ。それに……」

 

 

プラカードで尋ねるエリザベスに刹那は高杉一派の攘夷志士を斬りながら答える。

 

 

「それに桂には借りがある……早めに返したいだけ」

『だったらガキ共を頼む。奴等に何かあっては桂さんにも顔向け出来ん』

「………ん」

 

 

桂に借りを返したいと言う刹那にエリザベスは新八達を頼むとプラカードを翳す。刹那はそれを了承し、肯くと先程、桂達が向かった船内へと走って行く。

 

 

刹那が船内に入り、見たのは異様な光景だった。

紅桜に浸食された似蔵の体が膨れ上がり、敵味方関係なく暴れていたからだ。

 

 

「銀時!」

 

 

刹那は銀時が紅桜の触手の中に銀時が取り込まれている事に気付き、収刀した刀を引き抜くと暴走している似蔵に斬り掛かる。

新八や神楽は銀時を助けようと似蔵の腕に刀を差したり、顔面を殴ったりしているが効果は薄く、却って似蔵が暴れる切っ掛けになっていた。

 

 

「ぐうぅぅぅぅぅぅ……ルアァァァァァァァダァァ!」

「二度の触手プレイは……イヤ」

 

 

暴走した似蔵は機械コードの触手を刹那に放つ。

前回と違い、距離を取っていた刹那は刀で切り落としながら、銀時の助ける隙を伺ったが決め手にはならずジリ貧だった。

 

 

「新八、神楽、そこの人も離れて!」

 

 

刹那は似蔵から新八と神楽、そして見覚えが無かったが銀時を助けようとしている女性を似蔵から離せさせると逆に刹那は似蔵との距離を詰める。

似蔵が紅桜を刹那に振り下ろそうとする前に刹那が素早く動いた。

 

 

「牙突……零式!」 

 

 

刹那は刀を左手に持ち、体を捻ると間合いの無い密着状態から上半身のバネのみで牙突を繰り放った。

その威力は今正に振り下ろそうとした紅桜を弾き返し、銀時を捕らえていた右腕を大きく削り取る程だった。

 

 

「な、なんつー威力だぁぁぁぁぁぁっ!?」

「凄いネ刹那!牙突が使えるなんて!」

 

 

刹那の牙突に驚く新八と凄まじい威力を誇った刹那の牙突に賞賛を送る神楽。

 

 

「ありがとう。でもこの技は『きばづき・れいしき』他の読み方は存在しない」

 

 

新八達に僅かなドヤ顔をする刹那。

そして『がとつ・ぜろしき』ではなく『きばづき・れいしき』と念を押す。

 

 

「ガァァァァァァァァァッ!?」

「今の内に銀時を……あ……」

 

 

似蔵が右腕を再生すると共に叫びを上げる。明確にダメージを与えた事により、似蔵の動きが鈍くなっていた。

その隙に銀時を助けようとした刹那だが動きを止めてしまう。

刹那の持っていた刀は刹那の技の威力に耐えきれずに折れてしまったからだ。



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魂を込めた刀

 

 

刀の折れてしまった刹那は動きを止めてしまう。そしてその隙を似蔵は逃さなかった。

 

 

「ルアァァァァァァァ!!」

「しまっ……くぅぅっ!」

 

 

似蔵の左手から放たれたコードの触手は刹那の体の自由を奪い、ギリギリと体を締め付けた。

 

 

「気に入らねぇ……白夜叉も……テメェの魂の色も!」

 

 

似蔵は叫ぶと右手の紅桜を水平に構え、刹那に狙いを定めた。

 

 

「させない!」

「邪魔を……するなぁぁぁぁぁっ!」

 

 

刹那の危機に刀鍛冶の鉄子は似蔵に斬り掛かるが、逆に紅桜の右腕を振られ斬られそうになる。しかし兄の鉄也が身代わりとなり、鉄子は無事だったが鉄也は重傷を負った。

邪魔は居なくなったと似蔵は鉄子達を無視すると刹那と向き合う。

 

 

「ん……んんぅ!」

「し……ねぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 

刹那はなんとか逃れようと体を捩るがびくともせず紅桜は刹那の体を貫こうと迫っていた。

その時だった。銀時は目を覚まし、似蔵の顔面を横一文字に斬った。

そのお陰で刹那の体を束縛していた触手は解け、刹那は咳き込みながら座り込んでいた。

 

 

「ったく……二度も触手プレイとはお前も運が無いな」

「ケホッ……ケホッ……だから、えっちぃのは嫌い」

 

 

刹那は咳き込みながら銀時の言葉を返した。

 

その後、銀時は似蔵の紅桜を鉄子の打った刀で真っ向から戦いを挑み、勝利した。

その光景を見ていた鉄也は何かを悟った様な雰囲気となっていたが目の前に刹那が現れる。

 

 

「キミが……刹那か。似蔵殿から腕の立つ少女を斬ったと聞いては……いたが……すまない……巻き込んでしまったな……」

「私は真選組。人斬りを捕まえるのが私の仕事だったから巻き込まれたんじゃなくて、私から行ったことだから気にしない」

 

 

鉄也の言葉に刹那は首を横に振る。

 

 

「真選組か……ならば私を捕まえるか?」

「アナタは万事屋に刀を取り返してと依頼を出した。アナタは刀を盗まれて被害者……ただそれだけ」

「…………甘いな。いや、それが私が……余計な物と切り捨てた物だった……のかもな」

 

 

鉄也は自分を捕まえるかと刹那に問うが刹那は首を横に振る。

そんな刹那を鉄也は甘いと言うがそれこそが鉄也が刀鍛冶として人として足りない物なのだと改めて実感していた。

 

 

「私も……最近までわからなかった。でも真選組に……近藤達と一緒に居て……少しわかった気がする。さっき銀時が言ってた『魂』を込める刀と力を」

「そうか……なら鉄子……このお嬢さんに刀を……打ってあげなさい……私では彼女の求める刀は打てん……」

 

 

刹那の言葉に鉄也は顔を上げると力の入らない手で鉄子の手を握り刹那の刀を打つようにと命じた。

鉄子は涙を流しながら肯く。

 

 

「鉄子……良い……鍛冶屋に……な……」

「聞こえない……いつもみたいに大きい声じゃなきゃ………聞こえないよぅ……」

 

 

兄の最期の言葉を聞いた鉄子。泣き崩れ、鉄也を抱きしめ、涙声で叫んだ。

その様子を刹那、銀時、新八、神楽は黙って見ることしか出来なかった。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

一方その頃、近藤達は打ち棄てられた倉庫街へと来ていた。

 

 

「土方さん、見事にもぬけの殻でさぁ」

「既に引き払った後か……ちっ無駄足になったか?」

 

 

高杉一派を捕まえる為に情報のあった倉庫街へ出向いた真選組だが倉庫はもぬけの殻。

土方は舌打ちをするとタバコを取り出し、火を付けた。

 

倉庫の様子から1週間以上は人が居ないと解り、完全に空振りだったとわかると更に怒りは込み上げていた。

 

 

「ふ、副長!」

「なんだ山崎」

 

 

苛ついた様子でタバコを吸っていた土方の所へ山崎が慌てて走ってくる。

 

 

「港で怪しい戦艦の目撃情報が!目撃者の情報では今現在、攘夷志士同士での戦闘が行われているとか」

「港か……そっちが本命らしいな。攘夷志士同士での戦闘って事は桂と高杉がやり合ってる可能性が高いか」

 

 

山崎の情報を元に土方は港での戦闘が高杉一派のものと判断した。

 

 

「此処には最低限の人数を残して、港へ急げ!山崎、近藤さんはどうした?」

「そ、それが……港との事を伝えたんですが……聞いたら刹那もまだ屯所に帰ってないらしいんです…………それを聞いた局長はパトカーに乗り込んで爆走していきました」

 

 

土方が隊士達に指示を出し、近藤の行方を聞くと山崎は気まずそうに話す。

そして土方も悟った。

港の方に刹那が居る可能性が高く、その事に気付いた近藤は真っ先に港へ向かったのだと。

 




次回で紅桜編終了となります。


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居場所を得ても親は恥ずかしい存在

紅桜は今回で終了と言いましたが、アフターを含めるとまだ続きます。


 

 

 

「邪魔だ、邪魔だ!」

「万事屋銀ちゃんのお通りでぃ!」

 

 

炎上する船の中、刹那達は船から脱出する為に走っていた。銀時が重傷の為に速度は遅いが、新八と神楽が先陣を切り開いていた。

 

 

「ってて……元気いーな、オメェ等よ……」

「銀時が重傷なだけ……元から怪我人なのに此処に来るから……」

 

 

傷を押さえながら呟く銀時に側に寄りそう様に歩く刹那がツッコミを入れる。

 

 

「俺だってこんなヤンチャしたかねーよ」

「そんな事してると栽培マンに抱き付かれて自爆される」

「それはヤンチャじゃなくてヤムチャだろ」

 

 

刹那に反論する銀時。刹那からは素でボケられ銀時がツッコミを入れた。

そして船内から船のデッキに上がり、桂達と合流した。

そこには高杉が呼んだ宇宙海賊『春雨』の天人達が桂達を取り囲んでいた。

 

 

「よぉ、ヅラ。どーした、その頭。失恋でもしたか?」

「黙れイメチェンだ」

 

 

銀時と桂は互いに背を預ける形になり、銀時は桂の切られてサッパリとした髪形を問う。軽口を叩きながら銀時達は周囲を警戒した。

 

 

「貴様こそどうしたそのナリは?爆撃でもされたか?」

「黙っとけよイメチェンだ」

「どんなイメチェンだ」

 

 

桂は血塗れの銀時の様子を尋ねるが銀時はイメチェンだと言い張った。

 

 

「桂さん、ご指示を!」

「引くぞ、紅桜は殲滅した。この船にもう用は無い、後方に船が来てる、急げ!」

 

 

桂の仲間がこれからどうするかを問えば桂は逃げると断言した。そして桂の言葉通り、今はまだ遠いが確かに後方から船が迫ってきていた。

 

 

「逃がすかぁぁぁぁぁぁっ!」

「全員刈り取れぇぇぇぇっ!」

 

 

逃げようとする桂達にそうはさせないと天人達が一斉に襲い掛かってきた。

それを見た、銀時と桂は同時に駆け出し襲ってきた天人を斬り伏せる。

 

 

「退路は俺達が守る!」

「サッサと行け!」

 

 

刀を構える桂と銀時。新八や神楽は異を唱えたがエリザベスが二人を抱えて船へと移動していった。

 

 

「ホントに馬鹿……二人じゃ無理がある」

「お前も行くのか!?」

 

 

刹那は落ちていた刀を拾うと刹那も銀時達の下へ行こうとする。鉄子はその事に驚き刹那を止めようと肩を掴んだ。

 

 

「少し手伝ってくるだけ。それよりも約束」

「……え」

 

 

刹那は捕まれた肩に乗る鉄子の手を重ねる。  

 

 

「帰ったら私に刀を打って」

「あ、刹那!?」

 

 

刹那は手を払うと駆け出し、桂の背後に居た天人を斬る。

 

 

「後ろががら空き。後ろ髪切られたから隙が出来た?」

「おい、刹那!」

 

 

敵を斬りながら軽口を叩く刹那を桂は咎めようとする。

 

 

「勘違いしないでよね。アナタを捕まえるのは真選組なんだから、此処で死んで欲しくないだけなんだからね」

「刹那、ツンデレしたいならまずはツン顔とデレ顔を覚えてからにしろ!そんな無表情でやられても萌ねーんだよ!」   

「なんの話をしてるんだ貴様等は!」

 

 

お決まりのツンデレ台詞を吐く刹那に銀時はツンデレの為の指摘をする。桂はそんな二人を纏めてツッコミを入れた。

そんな馬鹿な会話を続けながらも天人を斬っていく三人を春雨の船から見下ろす男が一人。

 

 

「アレが白夜叉と桂小太郎」

 

 

サングラスを掛け、ヘッドホンを付けた男は河上万斉。高杉一派の幹部の男である。

 

 

「強い……一手、死合うてもらいたい物だな」

 

 

そう言って刹那に視線を合わせる万斉。

 

 

「あの娘……もしや……」

 

 

その目は刹那の品定めをしていかの様だった。

万斉の意識が刹那に向く最中、銀時と桂は共闘して天人を倒していた。

 

 

「世の中とは思い通りにはいかないものだな!国を救う所か……友の一人の目を覚まさせる事が出来なんだ!」

「ヅラ、お前に友達なんか居たのか!それは幻だ!」

「斬り殺されたいのか貴様は!?」

 

 

銀時の発言に桂は怒鳴る。

 

 

「銀時!」

「あんだ!?」

 

 

桂と銀時は互いに背を預ける形で構える。

 

 

「お前は変わってくれるなよ。お前を斬るのは骨がいりそうだ……まっぴら御免被る」

「ヅラ……お前が変わった時には真っ先に叩斬ってやらぁ」

 

 

そう言うと銀時と桂は刀を春雨の船に向ける。その先にはキセルを噴かす高杉の姿が。

 

 

「俺達ぁ次合った時は仲間もクソも関係ねぇ!」

「全力で貴様をぶった斬る!」

「精々、町でバッタリ会わねー様に気を付けるこった!」

 

 

そう言うと桂は船の外へと走り出し、銀時は離れた場所に居た刹那を脇に抱えると桂の後を追った。

 

そして船から飛び降りた桂と銀時と刹那。

桂は用意周到にパラシュートを用意しており、落下する最中、銀時は桂にしがみつき、刹那は桂の体をよじ登ると肩車の体制になっていた。

 

 

「用意周到なこってルパンかお前は」

「ルパンじゃないヅラだ……あ、間違えた桂だ。伊達に今まで真選組の追跡をかわしてきた訳じゃ無い」

 

 

桂が脱出の為に様々な用意をしていた事に呆れる銀時。桂は己の逃げ足を自慢するが肩車をされている刹那は脚に力を入れた。

 

 

「じゃあ、このまま連行する。近藤も来たみたいだし」

「おいおい、あのゴリラ一人で来たのかよ」

 

 

刹那の言葉に銀時は港に視線を移す。そこには倉庫街から港までパトカーで爆走してきた近藤が刹那に肩車をしている桂に向かって何かを叫んでいた。

 

 

「ふ……余程、刹那が心配だったらしいな」

「ストーカーゴリラからロリコン親バカゴリラか。救いがねーな」

「………恥ずかしいから叫ばないで」

 

近藤の叫びが聞こえたのか桂と銀時は顔を綻ばせた。

対して刹那は顔を赤くして近藤から顔を背けていた。

そして刹那の頭には近藤が叫んだ言葉がリピートされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『桂ぁぁぁぁぁぁっ!俺の家族は無事なんだろうなぁぁぁぁぁぁぁっ!つーか、肩車なんて俺でもした事がねーんだぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』



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近藤と桂

今回より紅桜編アフターとなります


 

 

 

パラシュートで脱出した刹那、桂、銀時の三名は地上へと着地した。

 

 

「銀時、お前は行け。此処に居ては要らぬ疑いを掛けられるぞ」

「疑いもクソもお前と一緒に居た段階で既に疑われてんだよ。前に大使館の一件で取り調べしつこかったんだからな」

 

 

桂の言葉に銀時はツッコミを入れながらも、その場を後にする。

桂の言う通り、この場に留まれば真選組の追求は免れないからだ。

 

 

「良かったのか?俺も銀時も攘夷志士だぞ」

「借りがあるから返しただけ。それに私は白夜叉なんか知らない……今日、此処に居たのは万事屋の坂田銀時」

 

 

銀時を見送った桂は視線を移し、話し掛ける。其処には壁を背にして立つ刹那が居た。

 

 

「ふ……なるほどな。ならば俺は如何する?」

「捕まえたくても……今は無理」

 

 

静かに笑った桂に刹那は苦々しい表情で答えた。

見てみれば足を引きずる様に刹那は立っていたのだ。

 

 

「お前……」

「最後に少し捻っただけ……それよりも早く離れた方が良い。さっきまでは近藤だけだったけど他の皆も来たみたいだから」

 

 

足を引きずる刹那に桂は手を差し伸べようとしたが刹那はその手を掴まなかった。それどころか桂に逃げろと告げていた。

 

 

「これで貸し借り無し」

「いーや、まだ貸しは増えるな」

「ひゃっ!?」

 

 

貸し借り無しと背中越しに桂に言った刹那だが桂の言葉と共に急に視界が反転した。

ただしく言えば刹那の体勢が桂によって横抱きにされたのだ。所謂、お姫様抱っこに。

 

 

「な、何するの!?下ろして!」

「こら、暴れるな。足を怪我した女子を放っておけるか」

 

 

一瞬、間を置いてカァーと顔を赤くした刹那は桂の腕の中で暴れた。

 

 

「大丈夫だから……下ろして」

「駄目だ。せめて近藤に引き渡すまでは……」

「なんでテロリストなのに無駄に律儀なの?」

 

 

意地でも刹那を下ろそうとしない桂に刹那は溜め息。

そして間の悪い事は続く物である。

 

 

「刹那、刹那ぁ!何処だ!?」

 

 

近藤の叫びが聞こえてきた。刹那を捜しながら移動をしているらしく、声が近づいてきていた。

しかもパトカーのサイレンも聞こえてくる辺り、真選組も現場に到着したらしい。

 

 

「桂、いい加減に下ろして。逃げられなくなる」

「逃げるさ。お前を近藤に渡した後でな」

 

 

刹那の再度の通告にも桂は耳を貸さなかった。そして……

 

 

「刹那、此処に居る…のか……」

 

 

刹那と桂の前に現れた近藤。そして近藤は言葉を失う。

桂にお姫様抱っこをされて顔を赤らめている刹那。

 

 

「待っていたぞ。足を怪我している、早く連れて帰るんだな」

「お、おい!?」

 

 

桂は有無を言わさずに刹那を近藤に渡す。近藤は反射的に刹那を受け取ったものの戸惑った様子で桂を呼び止めた。

 

 

「こ、近藤……かつ……」

「………感謝する」

 

 

近藤にお姫様抱っこされている刹那は何とか言い訳をしようとしたが近藤は刹那の言葉を遮る様に桂に言葉を放つ。

桂はその言葉を背に受けて口端を吊り上げた。

 

 

「真選組が攘夷志士に礼を言うとはな」

「勘違いすんな。俺は攘夷志士の桂小太郎に礼を言ったんじゃない。迷子のこの子を保護してくれた一般市民に感謝したまでよ」

 

 

桂の言葉に近藤は真面目な顔付きで返した。

そして踵を返す。

 

 

「次は捕まえるからな……桂」

「ふん、やってみろ」

 

 

互いに背を向けたまま交わされる言葉。

そんな二人に刹那はポカンとした表情になっていた。

 

 

「あ、あの……」

「お前が此処に居たのも驚いたが、桂が逃げずにいたんだ。きっと桂に助けられたんだろ?今回だけは見逃すさ」

 

 

刹那が事の経緯を説明しようとしたが近藤は刹那の髪を撫でる。

近藤は逃げなかった桂に何かを悟った様だ。

互いに天敵だが天敵だからこそ、芽生える物も有る。

 

 

「ん、じゃあ次は仲良く喧嘩する」

「いや、トムとジェ○ーじゃないんだから」

 

 

真選組と桂の間柄をト○とジェリーと表現した刹那に近藤はツッコミを入れた。

この後、刹那と近藤は真選組に合流。

勝手な行動をしたと土方に怒られはしたが、それは刹那を心配したからこその怒りだった。



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フリーの鍛冶屋

今回よりオリジナルキャラを導入します


 

 

 

「………土方」

「駄目だ」

 

 

刹那が土方の名を呼ぶが土方は刹那に視線も移さずに断る。

 

 

「まだ何も言ってない」

「外に出たいってんだろ?駄目だ、近藤さんからも刹那を外に出すなと言われてんだよ」

 

 

布団の中から顔を出した刹那は土方を恨めしそうに睨む。

先日の紅桜騒ぎから三日が経過した。

しかし刹那が怪我をしていた事も有り、全員が刹那を過保護に扱っていて刹那は既に三日間の寝たきり生活になっていたのだ。

 

 

「でも暇……」

「俺だってこんな事したかねーんだよ」

 

 

土方は刹那の監視を含めて刹那の部屋で仕事をしていた。

しかし流石の土方もこの生活に嫌気が差してきたのか溜め息を零した。

 

 

「副長、例の件ですが……」

「山崎、丁度良いな。刹那を連れてけ」

 

 

其処へ書類を抱えた山崎が現れる。土方はこれ幸いと山崎を引き寄せた。

 

 

「良いんですか副長?それに俺、万事屋の旦那の調査が……」

「それと同時進行でいいから刹那の気晴らしに行ってこい。俺はこれから会議だから面倒見切れねーんだ」

 

 

刹那に聞こえない様にボソボソと内緒話をする土方と山崎。土方も会議が有るために刹那の面倒を見切れない為に 山崎に押し付ける様だ。

 

 

「刹那、山崎と一緒に見回りに行ってこい。ただし、山崎から離れんなよ」

「……うん」 

 

 

土方の言葉を聞いた刹那は布団から出ると直ぐに服を脱ぎ始めた。

 

 

「わわっ!?刹那、着替え……ばっ!?」

「見てねーでサッサと部屋から出ろ。刹那、お前も無防備に着がえるな」

 

 

突然の刹那の着替えに狼狽えた山崎。そんな山崎を土方は拳で沈めると山崎の首根っこを掴み部屋を出ていく。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

先程の騒ぎから一転。刹那と山崎は並んで街を歩いていた。刹那の気分転換に付き合わされた山崎は少々不満顔だった。

 

 

「まったく……副長も勝手なんだから……監察の仕事も有るってのに……」

 

 

実は山崎は銀時の監察を命じられていた。そして銀時が攘夷志士だったら斬れとの命令も。

 

 

「大体、副長だって旦那に負けたくせに……それに刹那の面倒を見れだなんて」

 

 

先程と違い、刹那は山崎の少し前を歩いている。山崎は刹那に聞こえない程度の小さな声で独り言を呟いていた。

 

 

「それに刹那が行きたい所ってこの間の鍛冶屋だなんてなぁ……」

 

 

刹那が山崎に気晴らしに行きたいと言った場所は刹那が様々な武器を貰った鍛冶屋だった。

紅桜の件で貰った武器をまた壊してしまった事を詫びたいのだと言う。

良い子だよなぁと山崎は刹那を眺めた。

前を歩く刹那は真選組の制服を着ているが髪型はいつものストレートではなく、三つ編みにしてある。

三つ編みは犬の尻尾の様に刹那が歩く度に左右に揺れていた。

鍛冶屋に到着した刹那と山崎。

刹那は鍛冶屋に着くなり頭を下げた、店主は多いに慌てた。なんせいきなり頭を下げ謝罪されるなど思わなかったからだ。

 

 

「お渡しの際に言ったとおり全て試作の物なんですよ。お気になさらずとも……」

「でも武器を壊したのは事実」

 

 

店主の言葉に刹那は食い下がる。

 

 

「それに武器を作った者も変わり者でしてね。変わった物を作っては大量に持ってくるので助かってるんですよ」

「持ってくるって……此処で作ってるんじゃないんですか?」

 

 

店主の言葉に山崎が質問する。

 

 

「いえ、フリーの鍛冶屋が居ましてね。自分の工房で作った物を置いて欲しいと頼まれてるんですよ」

「面白いのが沢山有った」

「ああ、刹那はケダモノの槍を気に入ってたね……」

 

 

店主は少し困った様子で話すが刹那はそれらの武器を気に入った様で山崎はそんな刹那を見て、ケダモノの槍を気に入っていたのを思い出して苦笑いだった。

 

 

「そんな訳で……謝られても私共としても……」

「確かに謝る必要はねーな」

 

 

刹那に謝る必要は無いと言う店主の言葉を遮り、一人の男が鍛冶屋に入ってきた。

 

 

「俺の名は銭高安兵衛。フリーの刀鍛冶だ」

 

 

自己紹介をしたのはサングラスを掛け、作務衣を着た男だった。

そして男の尤も特徴的な部分は頭だった。

 

 

「…………天津飯」

「人を見た目で判断するんじゃねーよ」

 

 

安兵衛の頭は向かい合ってると眩しさすら感じる程のハゲ頭だった。

 

 

「ま、俺の頭は兎も角……オメーさんが刹那ちゃんか。店主から聞いてるぜ俺の作った物を使ってくれたらしいな」

「大半、壊しちゃったけど……」

 

 

安兵衛は刹那に詰め寄ると刹那に質問する。

対する刹那は武器を壊した後ろめたさがあった。

 

 

「構わねーんだよ、使われない武器より使われて使命を果たした武器の方が良いに決まってる。お嬢ちゃんも欲しい武器があったら作ってやるよ」

「じゃあ真魔剛竜剣」

「作って欲しいならオリハルコン探す所から始めるんだな」

 

 

安兵衛がリクエストを受け付けると言うが刹那の出した注文は素材捜しが困難な物だった。  

 

 

「リクエストしといてなんだけど……私の専用刀はもう鉄子に頼んである」

「お嬢ちゃん、鉄子を知ってるのか!?」

 

 

刹那の言葉に安兵衛は刹那の肩を掴み、詰め寄る。

 

 

「最近、知り合った……サンプラザ銭高は鉄子と知り合い?」

「誰がサンプラザだ!いや、鉄子とは幼なじみみたいなもんでな……」

 

 

刹那のサンプラザ発言にキレる安兵衛。

意外な事に安兵衛と鉄子は知り合いだったらしい。



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刹那の恋愛教室

 

 

 

 

サンプラザ銭高改め、安兵衛は刹那に詰め寄る。

 

 

「嬢ちゃん、なんで鉄子に刀を頼んだんだ?」

「少し前に知り合ってお願いした。私が求める刀は鉄子に打って欲しかったから……でも少し前から会ってない」

 

 

安兵衛の質問に答える刹那。

 

 

「会ってないって……何があったんだ?」

「私が外に出れなかったのもあるけど、鉄子は身内に不幸があって会いに行きづらい」

 

 

刹那は静かに首を横に振る。その事で安兵衛も悟った様だ。

 

 

「そーか……んじゃ……会いにはいけねーな」

「私が刀を受け取る時に声、掛けようか?」

 

 

安兵衛は諦めた様子で空を仰ぐが刹那の言葉に反応し、肩を掴む。

 

 

「本当か!?本当に一緒に行ってくれるのか!?」

 

 

安兵衛の熱意に言葉を出せない刹那はコクコクと頷く。

 

 

「アブドーラ・ザ・ブッチャーはなんで鉄子に会いに行かないの?」

「ハゲってだけで呼び方をいちいち変えるな!つーか、よく知ってたな!?」

 

 

※アブドーラ・ザ・ブッチャーは昔のプロレスラーの名前

 

 

「なんつーか、昔は良く会いに行ってたんだがなぁ……」

「要は惚れた相手に会いに行くのが恥ずかしいだけだろう」

 

 

安兵衛の言葉を店主が一刀両断した。

 

 

「るせぇ!そんなんじゃ……」

「じゃあ連れて行かない」

「すいませんでした」

 

 

反論しようとした安兵衛だが刹那の一言で土下座をしていた。

 

 

「井上準は鉄子が好き?」

「だからいちいち呼び方を変えるな!大体俺のはハゲじゃなくて剃ってんだよ!」

 

 

呼び方を変える刹那にツッコミを入れる安兵衛。あくまで剃ってるハゲだと主張した。

 

 

「好きなら会いに行けばいいのに……」

「あーいやな?俺は鉄子の兄貴と同じ歳なんだがな……昔っから鉄子は妹みたいに思っててな……んで鉄子も俺の事は兄妹みたいだって言っててよ……年の差を考えちまうとなぁ……」

 

 

刹那の言葉に安兵衛はハァと溜息を吐くと座り込んでしまった。

山崎と店主はなんで年下の刹那に恋愛相談してんのコイツと思っていたが口に出すのは野暮である。

 

 

「……近藤が言ってた……誰かを好きになったら理屈じゃなくなるって。好きになったらロンドンもパリもニューヨークも関係ないって」

「それは『年の差』じゃなくて『都市の差』だね。つーか、刹那に何教えてんの局長?」

 

 

刹那にツッコミを入れる山崎。そして近藤が刹那にズレだ恋愛感情を教えているのでは?と心配になり始めていた。

 

 

「そっか……そーだな。何を弱気になってたんだか」

 

 

安兵衛は自身の頭を手を置きパチンと音を鳴らす。

 

 

「嬢ちゃんが鉄子に会いに行く前に俺は鉄子に会いに行くぜ。アイツの鍛冶の腕も見なきゃだからな」

「………ん、眩しい」

 

 

キラッと歯を輝かせるかの様な笑顔を見せた安兵衛だが刹那が安兵衛を見上げると部屋の明かりに照らされた安兵衛の頭から光が差し込んでいた。

 

 



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刹那とお登勢

 

 

 

安兵衛と別れ、刹那と山崎は万屋事に来ていた。

刹那は銀時の怪我の様子を知っていたし、山崎は土方から銀時の内偵を命じられていた為にこれ幸いとしていた。

しかし、万事屋に銀時はいなかった。インターホンを押しても無反応。声を掛けても返事は無し。

 

 

「………いない?」

「万事屋の旦那は出掛けてるんじゃないかな?」

 

 

刹那はインターホンに指を掛けながら小首を傾げ、山崎は銀時が居ない事に不信感を抱き始めていた。

 

 

「なんだい、アンタ等。銀時に用なのかい?」

 

 

二人して悩んでいると一階から誰かが上がりながら、声を掛けてきた。

万事屋の下のスナック『お登勢』で働いているお登勢だった。

 

 

「水木しげるが描いた様な妖怪って事はアナタがお登勢?」

「おい、何いきなり妖怪呼ばわりしてんだ。テメェを地獄裁判にでも連れてってやろうか?」

 

 

初対面のお登勢にケンカを売る様な態度を取ったのは刹那。お登勢はキレ気味にタバコに火を灯した。

 

 

「銀時からそう聞いてたから。常に金が無い俺に金をせしめる金の亡者だって」

「溜まった家賃を払わないで我が物顔で借りた部屋に住んでる奴に言われたくねえんだよ! 家賃払えねえんなら追い出すぞあの天然パーマ!」

 

 

ろくでもない情報を刹那に教えた銀時にキレたお登勢は空に叫んだ。

 

 

「あ、あの……それで万事屋の旦那は?」

「ああ、アイツなら怪我をしたとかで新八の所で療養だってよ」

 

 

山崎の質問にフゥーと紫煙を吹く。

 

 

「それでアンタは?」

「私は刹那。最近、銀時と知り合った」

「俺は山崎です。刹那が万事屋に用事が有るって言うんで寄ってみたんです」

 

 

お登勢の質問に答える刹那と山崎。

 

 

「ったく……こんな良い子が銀時と知り合うなんてね。アンタは銀時みたいになるんじゃないよ」

「……ん」

 

 

お登勢はタバコを持ってる手とは逆の手で刹那の頭を撫でる。刹那は目を細めてくすぐったそうに、それを受け入れていた。

その光景は祖母と孫である。

 

 

「銀時から聞いてた話と違った。お登勢とても優しい。お登勢はお金は全て吸い取る怪物の類だと思ってた」

「私はカネゴンか!」

 

 

お登勢は撫でていた手をアイアンクローに切り替えてギリギリと刹那のこめかみを痛めつける。

 

 

「痛い痛い痛い!」

「早くも銀時の影響出てるじゃないか!アンタもしっかり見ときな!このぐらいの年頃は悪影響を及ぼす物を覚えやすいんだ!」

「は、はい!」

 

 

痛がる刹那を後目にアイアンクローを緩めずにお登勢は山崎を怒鳴った。

怒鳴られた山崎はビシッと敬礼をする勢いで返事をする。

一頻り怒った後に、お登勢は下のスナックに戻って行った。

そして屯所への帰り道で刹那は頭を押さえていた。

 

 

「………痛かった」

「確かにありゃ痛そうだったなぁ……」

 

 

涙目になっている刹那に山崎は苦笑いで返した。

 

 

「……なんで笑ってるの?」

「いや、ちょっとね」

 

 

そして静かに笑う山崎を見て、刹那は不思議そうに眺める。

山崎は口には出さなかったが刹那が人好きされる事を笑っていたのだ。

鍛冶屋で出会った安兵衛や先程のお登勢も初対面だったにも関わらず刹那と親しくなっていたのだから。

これも刹那の人徳なのだろうか?

 

等と思いながらも山崎は刹那を屯所へ送り届けると志村宅へと行った。

土方から受けた『坂田銀時を監視し、攘夷志士との繋がりがあった場合、斬れ』との命令を果たす為に。




次回で紅桜アフターも終わりになります


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刹那への伝言

今回、刹那の出番はありません。ごめんなさい。


 

 

刹那を屯所へ送り届けた山崎はお登勢から得た情報で志村宅へと来ていた。

忍の様なスタイルで屋敷へと侵入すると銀時が居たが看病と言う名の拷問を受けていた。

動こうとしただけで薙刀を振り回されたり、食事としてダークマターを差し出されたりと散々な目に遭っていた。

 

 

「万事屋の旦那……放っておけば勝手に姐さんに殺されるんじゃ……」

 

 

山崎は思った事がストレートに出ていた。

真選組ではお妙の事は『姐さん』と言う呼び名が定着していた。近藤の思い人でストーカーをしているがいつかは姐さんになると近藤が豪語している為である。

 

 

「冗談じゃねー!こんな生活してられっか!」

「待てコラァァァァァァッ!」

「逃がすか天パァァァァァァッ!」

 

 

等と山崎が思っている間に銀時は看病(拷問)から逃げ出した。それと同時にお妙と神楽が殺気立って後を追う。

山崎もマズいと思い、その場から離れようとしたがなんと屋敷の周りに金網が迫り上がり、誰も外に出れなくなってしまったのだ。

 

 

「見たか!今まで幾多のストーカーを撃退してきた志村家は最早、誰も通さぬ要塞と化したのだぁぁぁぁぁぁっ!!」

「道場の復興は?」

 

 

高笑いをする姉に煎餅を食べながらツッコム新八。諦めてるのか馴れているのか。この状況に無関心である。

 

 

 

「あの馬鹿か?あの馬鹿のせいでこんな事になってんのかぁァァァァァァッ!?」

 

 

閉じ込められた山崎は明らかに原因の元である近藤の悪態を付いていた。

 

 

「フッフッフッ……甘いですよ、お妙さん。誰も入ってこれない……裏を返せば、俺とお妙さんの決して出れない愛の巣が出来たって事じゃ無いですか!」

「この声は……」

 

 

姿は見えないが聞こえてくるドヤ顔声。その発生地点は庭の中にポッカリと空いた穴の中からだった。

 

 

「そうだ、ポジティブに考えろ勲……じゃなきゃ、あのバーゲンダッシュと同じ道を辿るぞ勲」

「やっぱり、居やがったァァァァァァッ!?」

 

 

山崎が穴の中を覗くと其処には落とし穴に落ちて体を竹槍に貫かれる前に四肢を壁に張り踏ん張っている近藤だった。その下には竹槍の餌食となったバーゲンダッシュアイスが落ちていた。

 

 

「その声はザキ!山崎か!?よりにも寄って死の呪文みたいな奴が助けに来やがったぁぁぁぁっ!」

「じゃあ座男陸(ザオリク)さん呼んできますね」

「あ、嘘々!更木君じゃ無くて良かったから!剣八君じゃ無くて良かったから!早く助けて!」

 

 

近藤を引き上げ様とした山崎だったが、その直後に、もう一つの穴からナース服の女性が助けを求めてきた。その名は『猿飛あやめ』。

近藤とは別にストーカーと呼ばれる女性で彼女は銀時の看病をしに来たらしいが罠にハマり、近藤と同じ様に四肢を踏ん張り、ギリギリ耐えていた。

因みに彼女の下にはメガネが落ちていた。

 

 

「なんだ、この穴には馬鹿しか落ちない仕掛けにでもなってるのか!?」

「あ、その声は銀さんね!助けに来てくれたのね銀さん!」

「違ーよ!なんだメガネを失うと耳まで悪くなるのか!?」

 

 

明らかに銀時ではない声に反応する、猿飛にツッコミを入れる山崎。

 

 

「ザキィィィィィッ!早く助けろォォォォォッ!」

「銀さぁぁぁぁぁん!」

「うるせーよ!本当に馬鹿しか落ちない仕組みになってんのか此処!?」

 

 

その後、近藤と猿飛を救出した山崎。

穴から出た近藤と猿飛に此処に来た経緯を話したが二人は監察と言うより、銀時とお妙が一つ屋根の下に居る事に反応していた。

 

 

「局長……あんまりストーカーはしないで下さいよ。刹那にも悪い影響だろうし、保護者がそんな事してるって周囲に知られたら刹那だって嫌がりますよ」

「うっ……そりゃあ……そうなんだが……」

 

 

山崎が刹那の名を出すと近藤は怯む。

刹那に悪影響を及ぼすと言う点に関しては近藤も自覚は有るようだ。

 

 

「銀さんを斬るですってさせるもんですかぁぁぁぁっ!」

「あ、ちょっと!?」

 

 

山崎が先程話した経緯の中で『銀時が攘夷志士ならば斬れ』に過剰反応した猿飛が銀時を探しに走り去っていく。

 

 

「局長……俺はどうすれば……つーか局長も副長にも勝てる相手に俺がどうしろと!?」

「落ち着け山崎。まずは万事屋を探すぞ、話はそれからだ」

 

 

『銀時を斬れ』出来るはずもない任務を言い渡されている山崎は頭を抱えるが先程と違った様子の近藤は山崎を落ち着かせると銀時を、探すと言い始める。

 

 

「奴は確かに怪しいが刹那の件もある。だが、あのちゃらんぽらんが尻尾を出すとは思わん。まずは話を聞いて……」

「あ、局長っ!?」

 

 

近藤が今後の捜査の方針を決めようと話をしていく最中、山崎が叫び前方を指を差す。

其処にはお妙、神楽、猿飛に詰め寄られる銀時の姿が。

 

 

「銀さぁぁぁぁぁん!」

「見つけたぞ天パァァァァァァッ!」

「逃がすかぁぁぁぁぁっ!」

 

 

猿飛が銀時に飛び掛かり、お妙と神楽が獲物と拳を振るう。

それらが銀時に当たるかと思えば銀時の姿が消えた。

先程と同様の落とし穴が銀時の真下に有り、銀時は穴に落ちたのだ。

そして矛先を失った三人の行動に異常が生じる。猿飛の脇腹に神楽の拳がめり込み、猿飛は前のめりになる。前のめりになった事でお妙の頭にヘッドバットを決める事になった。そしてお妙は意識が飛び、振るった薙刀は猿飛には当たらず、そのまま神楽の頭を叩く形となった

三竦み状態で意識を失った三人は重力に引かれ、落下する。そう、先程と同様に穴の下で四肢を使い耐えていた銀時の上に。

 

 

 

『ギャァァァァァァァァァァァァァァッ!!』

 

 

 

 

志村宅に銀時の悲鳴が木霊する。

 

 

「局長……」

「流石に見捨てるには後味が悪いな。お妙さんを救出してから俺達も帰るか」

 

 

山崎が困った様に近藤に視線を送るが近藤はお妙だけを助けに行ってしまう。

 

 

「山崎、トシには適当に話をしておけ。今後の捜査には俺も加わる」

「局長、もっともらしい話をしてますけどストーカーを正当化させたいだけですよね」  

 

 

山崎は気付いていた。ストーカーが刹那に悪影響を及んなら、その行為を正当化する理由が必要な事に。

近藤は万事屋を監察する事を名目にお妙をストーカーする気なのだと。

 

 

「じゃあ俺、帰りますね」

「おう、俺もお妙さんを助けたら帰るさ」

 

 

命綱を木に括り付けてから落とし穴に入っていく近藤を山崎は見送りつつその場を後にした。

 

 

「なんやかんや言っても……旦那が攘夷志士とは思えないんだよなぁ……駄目人間だし、でも不思議と人が集まるんだよなぁ……結果がどうであれ」

 

 

山崎は金網を登り、なんとか要塞と化していた志村宅の壁を通り抜けた。

山崎は銀時を思うと不思議な気持ちになっていた。

 

銀時はちゃらんぽらんだが筋は通すときは通すし、割と義理高い。そして駄目人間の割には人が集まり、その中心に居る。

自分には推し量れる人間じゃないなと思う山崎だった。

 

 

「あ、あの……」

「あれ、アンタ……」

 

 

そんな時だった。山崎は後ろから呼び止められる。

山崎が振り返れば其処には昼間会った安兵衛と一人の少女が居た。

 

 

「アンタ……確か、山崎だったな」

「安兵衛さん?なんで此処に?」

 

 

顔見知りである二人は互いに何故此処に居るのかを尋ねる。

 

 

「ああ、俺はあの後、鉄子に会いに行ってな……そしたら鉄子が此処に来る用事が有るっつーから道すがら話ながら来たんだ」

「あの後、直ぐに行ったんですか?行動力有りすぎでしょ」

 

 

鉄子に知られたくないのか安兵衛は山崎に肩を回しヒソヒソと話をする。

 

 

「つーか、お前さんはなんで此処に?」

「もしかして、この家の人ですか?」

「いや、違うんだけどね……危ないから入らない方が良いよ」

 

 

山崎から離れた安兵衛と鉄子が山崎に質問をするが山崎はそれを否定して、此処が危険だと告げる。

 

 

「じゃあ、その……銀さんに伝えて下さい『私はもう大丈夫です』って」

「………はい、伝えます」

 

 

鉄子は微笑みながら山崎に伝言を頼む。山崎は鉄子の微笑みに見惚れるが安兵衛がサングラスを光らせていたので諦めた。

 

 

「あっと……鉄子。この山崎は刹那の嬢ちゃんと知り合いなんだとよ」

「え、そうなんですか?」

「え、ええ……確かに刹那とは知り合いですが……」

 

 

安兵衛の言葉に驚く鉄子。そのまま山崎に問うと肯定の言葉が返ってきたので鉄子は一度、俯く。

そして顔を上げると意を決した様に口を開いた。

 

 

「刹那にも伝えて下さい。『必ず最高の刀を打つ』と」

「……わかりました。必ず伝えます」

 

 

先程とは違い鉄子の瞳には炎が宿ったかのような職人の瞳になっていた。それを感じたのか山崎も笑ってその言葉を伝えると言うとその場を後にした。

 

 

 

屯所へ帰った山崎。刹那に鉄子の事を伝えようとしたが既に刹那が就寝中だった為に鉄子の伝言は後日となった。

そして土方への報告書は簡易に纏め上げ、報告すると土方から『作文か!』とツッコまれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談ではあるが近藤はあの後、お妙以外の穴に落ちた者を救出して、後の看病を新八と共にする事となる。

お妙には嫌がられるかと思いきや、刹那の話題で結構盛り上がり中々に良い雰囲気となっていた。

 

シスコンの眼鏡が多少嫉妬していたのも別のお話。




次回、真選組のマスコット登場。


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イメージアップ

すいません、マスコットは次回になります


 

 

 

刹那が鉄子に刀を頼んだ日から数日、真選組には新たな事件が起きていた。

 

 

 

「へーっ『寺門通レコード大賞で新人賞受賞』かースゲーな」

「違う違う、その上の記事」

 

 

真選組屯所では近藤と土方が並んで新聞を読んでいた。

 

 

「『連続婦女誘拐、またも犠牲者』恐えーな、でもお妙さんは絶対に大丈夫だな」

「違う違う、その右の記事」

 

 

近藤は新聞の一面の記事を読み上げるが土方は違う記事だと指摘する。

 

 

「『娘の信用を失う父親。涙の告白』俺も刹那の事は気を付けないとな」

「違う違う、その下の記事」

 

 

あくまで目を反らし続ける近藤に土方は見せたい記事を指差す。

 

 

 

「へ-、総悟がまたやったか……責任はトシが取ってくれよな……」 

「違う違う、アンタのせい」

 

 

近藤と土方は冷汗をダラダラと流しながら新聞から目を離す。

 

 

「………『お手柄、真選組!?犯人逮捕と同時に店破壊。これで通算23件目』」 

「止めてぇ!読まないでぇ!」

 

 

後ろからヒョイと顔を覗かせた刹那が記事を読み上げ、近藤が頭を抱えながら畳に転がる。

 

 

「刹那、お前は総悟のマネをするなよ」

「沖田からは派手にやれって言われた。どうせ、責任はマヨラーが取るって」

「あのクソガキ……」

 

 

タバコに火を灯しながら刹那に注意する土方だが既に沖田の悪魔指導は刹那に及んでいた。

 

 

「しかし……本当にどうするんだ近藤さん。このままじゃ警察としても動きずらいぞ」

「うーん……上からも通達が来てるし……何かイメージアップに繋がる事は……」

 

 

近藤と土方が悩む中、刹那は新聞に目を通す。

そこには寺門通の記事が載っていた。

 

 

「あ、そうだ!良いこと思い付いた!」 

「アンタがそう言うと不安しかねーんだが」

 

 

近藤は刹那が読んでいた新聞を取ると、ある記事を見て名案が浮かんだ様子だが、土方にはイヤな予感しかしなかった。

その後もモメる近藤と土方を置いて、刹那はその部屋を後にした。

そして屯所を出ると刹那はある場所を目指す。

其処は鉄子の鍛冶屋だった。

 

 

「よう、来たか嬢ちゃん」

「………安兵衛、最近ズッと居る」

 

 

鉄子の鍛冶屋に来た刹那を出迎える安兵衛に刹那は溜め息を溢した。

 

 

「溜め息なんかするなよな。俺だって此処で働く事にしたんだぜ」

「此処で?」

 

 

安兵衛の言葉に小首を傾げる刹那。

 

 

「安兵衛さんが私、一人じゃ大変だろうって手伝ってくれる事になったんだ」

「ま、俺の優しさだな」

 

 

お茶を運びながら説明する鉄子。ドヤ顔をする安兵衛に刹那はお茶を受け取ると安兵衛に向かい合う。

 

 

「じゃあ刀を用意して斑目一角」

「誰が十一番隊第三席だ」

「まあまあ、落ち着いて」

 

 

刹那の言葉にピキリと青筋を浮かべる安兵衛だが鉄子に止められる。

 

 

「安兵衛さんの意見も入れて刹那の刀を打つつもりだから待ってね」

「うん……待ってる」

 

 

鉄子の言葉に目を細めて返事をする刹那。

 

 

「それよか聞いたけど真選組も大変みたいだな」

「ん……近藤が何か考えてたみたい」

 

 

安兵衛が新聞片手に刹那に話を振る。

刹那は少し困った風だったが近藤が対策を考えてると告げた。

 

 

 

そしてこれより数日後。近藤の考えた対策が発表された。

真選組屯所にアイドルの寺門通が来ていた。

屯所には『寺門通一日局長』のテロップが貼ってあった。

 

 

「これが対策?」

「ああ……これでイメージアップするんだとよ」

 

 

隊士達に囲まれて騒がれているお通を後目に刹那は土方を見上げながら問い、土方は無表情のままタバコを吹かしていた。



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プロレス技と誠ちゃん

 

 

寺門通を一日局長としてイメージアップを図ると言う、近藤の発案により真選組の車を宣伝カーに改造して街中へと出ていた。

 

近藤が道行く市民に「戸締まり用心、テロ用心!」と叫ぶが反応無し。

そして間髪を入れず、近藤の隣に立ったお通がマイクを通して「戸締まり用心、火の用じん臓売ったりゃんかぁぁぁぁっ!」と叫ぶと先程とは打って変わって市民からの反響が凄かった。

 

 

その後、寺門通のライブが始まると市民は熱狂的に人が集まり始めた。

 

 

「トシ、やっぱり呼んで良かったナポリタン」

「そんな訳、ねーだろッキーⅢ炎の友情」

 

 

市民の食いつきを見た近藤は土方に賛同を求めるが土方はタバコを吸いながら、否定した。

 

因みに彼等が話しているのは『お通語』

語尾にシリトリ風に言葉を付ける、知能指数低めな会話術である。

 

 

「近藤、土方。ライブが終わったら局長訓示に移行する?インダストリー」

「なんで、お前は即座に馴染んでんの?」

 

 

書類を抱えた刹那が今後の予定を話すが既に馴染んでる刹那に土方がツッコミを入れた。

 

 

その後、刹那の言葉通り寺門通を一日局長としてイメージアップを図る事となり、局長訓示となった

その際に舞い上がった隊士達がお通にサインを求めるが近藤の拳が叩き込まれた。

近藤は隊士達に「これから市民に浮かれんなって言うのに……テメー等が浮かれてどうすんだ」と凄む。

凄むが近藤の制服の背中にはお通のサインが入っていた。

当然の如く、近藤と隊士達の喧嘩に発展したが安兵衛の新作『ベアークロー』を装着した刹那が超人レスラー顔負けの技で全員を叩きのめし鎮圧した。

 

 

「なんで、そんな殺傷性の高いのをチョイスした?」

「死んでない。残虐超人時代なら兎も角、正義超人になってからはむしろパロスペシャルの出番が増えた」

 

 

刹那はベアークローを装着しながらもプロレス技で隊士達を沈めていった。時折見えたスカートの中を気にしてやられた隊士も多かったが。

 

 

「率先して喧嘩しないで」

「ギャァァァァァ!痛たたたたっ!?」

 

 

刹那は近藤を咎めると同時にインディアン・デスロックを決めていた。

 

 

「喧嘩を止めてくれたのは良いんだけど、喧嘩は駄目だよ!今日は喧嘩禁止!」

「……ん」

 

 

お通は喧嘩を止めてくれたのは感謝するが刹那に喧嘩禁止と命令する。

 

 

「小娘が、御山の大将気取りか?コイツ等はそんな事で止まる奴等じゃないんだ。口の利き方には気を付けな」

「そうだぞ、口の利き方には気をつけた方が良い……まだインディアンが決まってるから……」

 

 

フゥーとタバコの紫煙を吐く土方。因みに近藤は刹那のインディアンから抜け出せず這い蹲った状態だったりする。

 

その後、お通から武装解除を申し付けられたり、お通語を常に話せと言われたりと最早真選組らしさは微塵も残らない状態となってしまう。

切腹は侍らしさと言う事で残されたが一番物騒な物が丸々残る形となってしまった。

そして、お通は更に親しみやすさを出す為に真選組のマスコットキャラを考えてきたのだと言う。

そしてその真選組マスコットキャラが姿を現した時、お通を除く全員が絶句した。

現れたのは白髭白髪で上半身裸の老人。下半身は馬の物で背中には少女の死体を背負っていた。

一言で言えば矢が刺さった死体を背負ったケンタウロス。

しかもその瞳は何があったのか、とても悲しげな瞳をしていた。

 

 

「これが真選組マスコットキャラ?」

「そうだよ、名前は『誠ちゃん』」

 

 

誠ちゃんを見上げる刹那の両肩に手を乗せ、嬉しそうに語るお通。

無表情で誠ちゃんを見る刹那と悲しげな瞳で刹那を見詰め返す誠ちゃん。実にシュールな絵図だった。



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飲んだくれと誘拐

 

 

悲しげな瞳をしたマスコットキャラ『誠ちゃん』を加えた真選組パレードは人気を博していた。

 

お通ライブをしながらテロ用心のチラシを配ったり、握手会と共に注意を促したり、見回りをしながら市民に注意を呼び掛けたりと警察のイメージとして正しいかは兎も角、注目は集めていた。

因みに刹那はお通の手伝い役兼護衛として常に側に居る状態になっていた。

お通もお通で刹那の可愛さに惹かれ、刹那を妹の様に扱ったりと傍目から見れば仲の良い姉妹となっていた。

 

一通りパレードを終え、一先ず休憩となった。

近藤はお通と刹那にジュースを手渡すとお通の隣に座った。

すると自然と刹那も近藤の隣に座る。近藤は右手にお通、左に刹那の両手に花状態となった。

 

その後、お通と真選組イメージアップの話をし続けるか近藤はお通に鼻を伸ばし、お通も意図せずに近藤とイチャつく様な会話をしていたりする。その光景に土方と沖田はイライラし、ぶっ飛ばしたいと思っていた。その時だった。

 

 

「テメェ……何、お通ちゃんとイチャついてんだ!」

「ギャァァァァァァァァァッ!?誠ちゃんがぁ!誠ちゃんの中にもう一人の誠ちゃんが!?」

 

 

なんと誠ちゃんの下半身の馬の中から手が伸び、近藤の顔面を捕らえたのだ。地獄の底から恨みを持った様な声に近藤は座っていた椅子から転げ落ちる。

 

 

「あり、さっきまでの上半身は?」

「刹那ちゃんも居なくなってる?」

 

 

沖田は先程までの誠ちゃん上半身を探すが姿は無く、お通もいつの間にか居なくなっていた刹那を探してキョロキョロと辺りを見回した。

すると土方の目に止まったのは一軒の飲み屋。

 

 

「あー……やっちゃったなぁ……完全にやっちゃったよぉ……完全に猪かと思ったからなぁ……」

「旦那、何があったか知らねーが、やっちゃったもんはしょうがねーよ。飲んで忘れちまいな」

 

 

居酒屋のカウンターで頭を抱えながら酒を飲むマスコット誠ちゃん。

店の店主も酒を振る舞いながら誠ちゃんを慰めた。

 

 

「俺もさぁ……つい反射的に矢を射っちまったからなぁ……やっちゃったなぁ……解る、お嬢ちゃん?」

「やっちゃったなら仕方ない……飲んで……」

 

 

誠ちゃんは何時の間にか刹那を隣に座らせており、肩に手を回して絡んでいた。刹那も刹那で同情するかの様に誠ちゃんのグラスに酒を注いだ。

 

 

「やっちゃったじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 

激しい叫びと共に誠ちゃんの頭に土方の踵落としが決まる。

 

 

「お前、マスコットだろ!なんでマスコットがこんな所で飲んだくれてセクハラしてんだよ!?」

 

 

土方は誠ちゃんから刹那を引き離すと説教をする。誠ちゃんはノロノロと起きあがりながらも土方と刹那に向かい合う。

 

 

「やっちゃったなぁ……まさか、あんな森の中で人間が出て来るなんて思わないものなぁ……」

「おい、なんか恐ろしげな事件の全貌が露わに!?」

「だから誠ちゃん、悲しい目をしてる」

 

 

誠ちゃんが吐露した言葉に何やら事件性が見え隠れし初め、土方と刹那は若干、驚く。

 

 

「誠ちゃん、こっちこっち!早く早く!」

 

 

すると店の外からお通が誠ちゃんを呼んでいた。視線の先には子供達の集団下校。

これならば子供達に良い印象を与えると共に親の耳に伝われば噂も広まると考えた様だ。

 

 

「子供と言えば可愛い物が大好き……誠ちゃんの出番よ!」

「待て!お前、ソイツがどれだけ重たい過去を背負ってるのか解ってるのか!?」

 

 

お通の呼びかけに誠ちゃんは素早く店の外に出るが土方とは誠ちゃんの過去に触れた為に誠ちゃんを止めようとする。

 

その後は酷い有様となった。

誠ちゃんが下半身と上下逆さまでドッキングをして、見た目は只の化け物と化し、背中に乗っていた死体は独りでに動き、誠ちゃんと共に子供達に恐怖を与える存在となってしまっていた。

 

更に誠ちゃんをしていたのは万事屋メンバーであった。それに気付いた真選組一同は万事屋に袋叩きを決行する。

途中で新八は「お通ちゃんに頼まれたから」と弁護するが誰一人として聞く者は居らず、袋叩きは続けられた。

 

 

一方、真選組が万事屋を袋叩きにしている最中、近くの路地では別の事件も起きていた。

攘夷志士がお通を誘拐しようとしていたのだ。

それに直ぐに気付いた刹那は攘夷志士を叩きのめそうとしたがお通を人質にされ、刹那は無抵抗で攘夷志士に捕らえられてしまった。



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捕まる意味と理由

活動報告にも書きましたがスマホのトラブルで更新が遅れました。


 

 

攘夷志士にお通が捕まってしまった為に刹那は抵抗する訳にもいかず、静かに攘夷志士達に従うことにした。

この攘夷志士達の名は『天狗党』と言うらしく、先日真選組に大量検挙された攘夷志士グループだったのを刹那は思い出していた。

 

天狗党も刹那を覚えていたのか刹那を警戒し、槍を突き付けながら歩かせていた。

 

 

「何処に行くの?」

「異菩寺だ」

 

 

刹那は少しでも情報を聞き出そうと歩きながら行き先を問う。そして行き先を聞いてから首を傾げる。

 

 

「…………痛いの?」

「それはイボ痔だろ。異菩寺だ」

 

 

刹那は変換を間違えたが異菩寺(いぼじ)と言う名の寺に行くらしい。

そしてどうやら其処に連れて行き、何かをする様なのだがそれ以上の情報は引き出せなかった。

 

異菩寺に連れて来られた刹那とお通。

其処にはここ最近で騒ぎとなっていた連続婦女誘拐事件の被害者の女性が複数居た。

どうやら連続婦女誘拐事件も天狗党が引き起こしていたらしく、刹那は天狗党を睨むが天狗党は勝ち誇った顔をするだけだ。

 

 

「ふん、いくら睨もうが手は出せまい。おい、一日局長を縛っておけ」

「い、痛いっ!」

 

 

リーダー格の男に命じられ他の男がお通の腕を乱暴に掴むとお通を縄で縛り始める。

 

 

「お通!」

「動くな!」

 

 

刹那は咄嗟に天狗党に飛び掛かろうとするがお通に槍の先を向けられ立ち止まる。

 

 

「妙な動きをするなよ。おっとそうだ、お嬢ちゃんの服を預からせて貰おうか?」

「刹那ちゃんに何をする気なの!?」

 

 

刹那に服を脱げと要求した天狗党にお通が叫ぶ。

 

 

「ストリップも見てみたいが、このお嬢ちゃんは危険なんでね。携帯や武器を預かるだけだ」

「…………ん」

 

 

刹那はお通に被害を及ばせない為に上着を脱ぐと天狗党に渡す。

刹那の上着には携帯や安兵衛作のメリケンやナイフが数点出て来た。

 

 

「ククッ……やはり武器を隠していたか。おい、他の所にも隠してないか調べろ」

「おうよ、任せな。クックックッ……」

 

 

下卑た笑い方をしながら男が刹那の体に触れる。

 

 

「……く……ん……」

「動くなよ。ボディチェックなんだからな」

 

 

刹那の体を弄る男はボディチェックと言いながらも関係の無い刹那の太股や胸、お尻を一頻り撫でる。

周囲の天狗党達もニヤニヤとその光景を見て笑い、人質となった女性やお通は見るのもツラいと顔を背けた。

 

 

「他に危険物は無さそうだな。だが念の為に縛らせて貰うぜ」

「………んぅ」

 

 

散々体を触られた刹那は不快感を露わにしていた。

刹那は上着は取り上げられていたのでワイシャツにスカートとソックスのみの状態で縄で縛られる。

因みに縛られたのは上半身だけだが腕事グルグル巻きにされた為に手は使えない状態だ。

 

 

「クックックッ……攘夷志士を捕まえる真選組が人質が居るだけでこの様とはな」

「…………」

 

 

刹那の顔に触れる天狗党の男に刹那は睨むだけで何もしなかった。

 

 

「おい、マスコミに電話だ。真選組を潰すチャンスの上に世直し改革の一歩になる」

「おうよ」

 

 

刹那が動けないことを良いことに次々に行動を起こす。

刹那は今後、どうするかを考え始めた、その時だった。

 

 

「幕府にもマスコミにも我々が本気である事を示さねばな。おい、人質を数人殺せ!一人や二人減った所で問題ない!」

「そりゃいいな、さぁて……どの娘にしようかな……」

 

 

リーダー格の男に命じられ天狗党の一味は刀を出すと人質に歩み寄る。

人質の女性達は恐怖に顔を引き攣らせ、ブルブルと震え始める。

 

 

「これでマスコミが来れば……我等の悲願も叶う……」

「ブキャアっ!?」

 

 

リーダー格の男が窓から空を眺め悦に入ろうとした瞬間、背後から情けない悲鳴が聞こえた。

振り返れば先ほど、人質を斬ろうと近づいた男が鼻から血を流し倒れていた。

 

 

「………」

「な……な……何しやがんだテメェ!」

 

 

人質を斬ろうとした男を倒したのは刹那だった。

刹那は腕を縛られているので近づいた男が油断している隙を突いてハイキックで沈めたのだ。

しかもハイキックで倒れた男に対してハイキックの勢いを殺さないまま浴びせ蹴りを叩き込んだ。

そして男は受け身も取れないまま顔面から床にダイブする形になり鼻から血を流すに至ったのだ。

 

刹那の突然の反撃に天狗党は槍の先を刹那に向けるが刹那は動じなかった。

 

 

「勘違いしないで……私が大人しく捕まったのは槍を突き付けられて恐がった訳じゃない」

 

 

縛られた状態の刹那だが刹那からは凄まじい殺気が溢れていた。

 

 

「人質の人達やお通に何かあったら……私が此処で大人しくしている理由なんて……ない」

「っ!……くっ……」

 

 

刹那の言葉が偽りでは無いと悟ったリーダー格の男は焦り出す。

人質が居て縄で縛っているのだから抵抗も出来ないだろうと踏んでいた考えが浅はかだったと思ったからだ。

しかし目の前の少女はどうだ?

自分が迂闊な行為をすれば間違いなく此方をかみ殺しに来るだろうとヒシヒシと感じていた。

 

 

「チッ……人質を斬るのは止めだ!だが、そのお嬢ちゃんは足も縛っておけ手には手錠だ!」

 

 

リーダー格の男は人質に手を出すのを止めると手下に刹那に対する指示を出す。

 

 

「動くなよ……動いたら今度こそ人質は……」

「…………ん」

 

 

先ほどと違って慎重に縄を縛りに来る一同。

刹那に沈められた男の二の足を踏むのは勘弁と思ったのか、若干丁寧な縛り方になっていた。

 

 

刹那はコレで腕事、体を縛られた上に足も膝の辺りを縛られた。更に手を後ろに回した状態で手錠もされる。

刹那は完全に身動きが出来ない状態になっていた。

 

 

「これで……よし」

「リーダー……あのお嬢ちゃんは殺した方が後々の面倒も無いんじゃ」

「駄目だ、真選組への交渉カードになる。それに下手な動きをしてみろ……却って我々の首を狙いに来るぞ」

 

 

下っ端がリーダー格の男に耳打ちするがリーダー格の男はソレを却下した。

事実、刹那が行動を起こせば天狗党は即座に壊滅だが人質が居る為に刹那は動かない。

刹那は真選組に対する最大の交渉カードだが裏を返せば人質が居なくなったりしてしまえば交渉カードはジョーカーと化してしまう。

 

リーダー格の男はソレを非常に恐れた。

 

 

そしてそうこうしている内に事態を把握した真選組が漸く、異菩寺に到着したのだった。



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勝手な言い分の除霊

 

 

 

 

 

「やっちゃたなぁ……やっちゃたよぉ……まさか逮捕されちゃうとは思わないもんなぁ……」

「話をややこしくするんじゃねぇ!いい加減にしろよ、そもそもお前が居なけりゃ刹那も一日局長も捕まらなかったんだよ!」

 

 

真選組が到着した後に誠ちゃんと土方の喧嘩が始まっていた。

 

 

「バカばっか」

 

 

刹那はそんな二人を見て無表情のまま呟いた。

 

 

 

「みんなぁ!」

「ふ、来たか真選組。解散の手続きは済ませてきたんだろうな?」

「え、今なんて言ったの?スイマセーンもう1度、大きな声でお願いしまーす!」

 

 

寺の壁際に立ち、槍をお通に向けるリーダー格の男は気取った声で真選組に話し掛ける。

しかし声が遠くて聞こえなかった様だ。

 

 

「TAKE Two」

「みんなぁ!」

「ふ、来たか真選組。解散の手続きは……って二回も言わせんな!なんか恥ずかしいだろうが!つーか、なんでお前が仕切ってんだ!?」

 

 

刹那の言葉で再び先程のやり取りが再開されたがリーダー格の男やり直しを拒んだ。

そして何気に仕切っていた刹那にツッコム。

 

近藤はフリップに文字を書き込むと攘夷志士にそれを見せる。今後のやり取りは筆記で行われる事に決まった様だ。

 

攘夷志士達の目的は真選組に逮捕された仲間達の開放と真選組の組織解散だった。

しかし、そんな要求は直ぐには通る訳も無く時間は掛かると真選組が返答する。

 

攘夷志士達は真選組に無茶な要求を突きつけ始めた。

 

最初は『腹が減ったのでカレーを作れ』との事だった。

これを見た沖田はこれ幸いと土方に『三回まわってワンと言え』と嘘を伝える。

屈辱に塗れながらも土方は実行した。

 

しかし、ちょっと格好良くしようとした為に周囲からは大爆笑が起こる。

刹那は顔を赤らめる顔を背けながらプルプルと震えながら笑いを堪えていた。

 

その後、カレー作りを始めた真選組に攘夷志士は更に難題を突きつける

食事の余興代わりにロボットダンスやモノマネをさせようとしてきたのだ。

 

 

「世直しを語る割りにはやり口が汚い……私には世直しとはとても思えない」

「ふん、子供には解るまいよ。我々のしている事は革命だ」

 

 

真選組を言いなりにさせる事に躍起になっているリーダー格の男とは別の男に話し掛ける刹那。

攘夷志士は刹那に視線を合わせながら得意気に語る。

 

 

「アナタ達はただ涙を流す人を増やしてるだけ」

「違うな我々の行動は天人に屈した幕府の犬……いや、悪霊共に犯された国を救う行為、謂わば除霊の様な物だ」

 

 

益々自分勝手な事を言い始める男に刹那は小首を傾げた。

 

 

「ジョ……レイ?……ヤクルトに居た?」

「それはジョニー・レイだろ。彼はもう国に帰った」

 

 

除霊をジョニー・レイと間違えた刹那。

何故、刹那がヤクルトスワローズに在籍していたジョニー・レイを知っていたかは誰もツッコまなかった。



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イメージマスコットと覚醒

 

 

攘夷志士にカレー作りを命じられた真選組は窮地に陥っていた。

テロリストの言いなりになり、カレーを作り、モノマネやロボットダンスをしなければならない屈辱。

 

更に土方と沖田が殴り合いの喧嘩にまで発展していた。マスコミからは「落ちた真選組!最早、見る影無し」とさえ言われている。

 

 

「局長、なんかイメージどんどん悪くなってるんですけどって、きょくちょぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

「局長がカレーの国に逃げたぁぁぁぁぁっ!」

 

 

隊士達は近藤に意見を仰ごうとしたが近藤は現実逃避する様にカレーを食べていた。

 

 

「おかわりはどうだい誠ちゃん?」

 

 

近藤は隣に座る誠ちゃんに話し掛ける。

 

 

「やっちゃったなぁ……アイツ等……やっちゃったなぁ……」

「やっちゃったもんは、しょうが無いよ誠ちゃん」

 

 

近藤は半分諦めた様な口調だが、何処か焦りも見えた。言うまでも無く刹那の事が気になっているのだ。

 

 

「誠ちゃん、もう帰って良いよ。後は俺等で何とかするから」

「そーもいかねぇ、俺は真選組のイメージマスコットだからな。お通ちゃんからは前払いで金貰ってるし、刹那にも借りを返したいからなキッチリやらねーと」

 

 

近藤は後は自分達が何とかすると言うが誠ちゃんはそれを拒んだ。

 

 

「イメージマスコットって何?俺等ってそんなイメージなの?」

「こんな感じだろ」

「どんな感じだ?」

 

近藤の問いに誠ちゃんは全身を気怠げに見せる。

 

 

「バカで物騒で江戸の平和を守る感じ」

「いや、バカな感じしか出てないんだけど」

 

 

誠ちゃんの答えに納得がいかなかった近藤。誠ちゃんには確かにバカな感じしか出ていない。

 

 

「さて、行くか……おい、カレー用意しろ」

「おい、何処に行く誠ちゃん」

 

 

誠ちゃんはカレーをトレーに乗せると寺の方に向かって歩き出す。近藤はそんな誠ちゃんを呼び止めた。

 

 

「言ったろ、誠ちゃんはお前等のイメージマスコットだ。バカで物騒で江戸の平和を守る」

 

 

そう言い残した誠ちゃんの背を近藤は見送った。

 

 

 

 

その頃、一方。

 

 

 

「ん……」

 

 

刹那は体を捩り攘夷志士にバレない様に縄を解く、足の拘束も同様だ。

流石に手錠は外せなかったがそれ以外は大丈夫だ。

今なら隙を見て、攘夷志士達を壊滅させられるかもしれないが隙を伺う事にした為に暫くは動けない。

 

 

「おい、次はどうする?」

「ならば近藤を斬らせるか」

 

 

暫く様子を見ると考えていたが攘夷志士達の会話を聞いて刹那の頭は真っ白になった。

 

 

今、コイツ等は何を言った?

 

 

近藤を斬る?

 

 

 

そんな事、絶対にさせない!

 

 

そう思った時、刹那の中で何かが弾けた。



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刹那の悲しい顔

 

 

それから起こった事を説明しよう。

 

結果的に言えば人質になっていた者達は無事に救出された。

真選組が異菩寺に突入した訳でもない。

誠ちゃんが人質をこっそり助けた訳でもない。

人質達が異菩寺から出て来たのだ。人質にされていた者達は一様に脅えており何があったのか何も語らなかった。

 

これを不振に思った真選組は異菩寺に突入した。

攘夷志士達は殲滅されていた。

 

刹那一人の手によって。

 

刹那を縛っていた縄は切られ、手錠は力任せに引き千切った様に鎖が垂れ下がっていた。

地面は血の海になっていた。攘夷志士達は死んではいない様だが半殺し状態。

手足が折られたり、肋を砕かれたりと蹲っていた。

 

 

刹那は虚ろな瞳で攘夷志士達を殲滅していたのだ。

今も片手で攘夷志士の首を絞めながら壁に押しつけている。

 

 

「が……ご……」

「…………………」

 

 

体格差をものともさせず首を締め付ける様はまるで悪魔を連想させた。

 

 

「おい、刹那!」

「………………」

 

 

土方が慌てた様子で刹那の肩を掴むが刹那は振り返っただけで首を絞めるのを止めていない。

 

 

「刹那!もういい、気絶してるぞ!」

「…………?」

 

 

近藤も刹那の腕を掴み、攘夷志士を離させるが刹那は何が起きたか判らない様子だ。

 

 

「刹那、何があったんだ?急に静かになったと思えばこんな有様だから……刹那?」

 

 

近藤が腕を放すと刹那はトテトテと歩き離れてしまう。

その先には脅えた様子のお通が居た。

 

 

「ひっ!?」

「……………ごめんなさい。恐い思いをさせた」

 

 

脅えるお通にペコリと頭を下げると刹那はそのまま異菩寺の窓から外へ飛び降りる。

 

 

「お、おい!?刹那!」

「待つんだ!」

 

 

土方や近藤が刹那を呼び止めるが刹那は華麗に地面に着地するとそのまま止まらずに走り去ってしまう。

 

 

「なんだってんだ……」

「様子がおかしい……何があったんだ……」

 

 

そのまま呆然とする土方と近藤。

 

 

「どうにも刹那が攘夷志士を半殺しにしちまったみたいですぜ。比較的に無事だった奴の話じゃ急に豹変したかの様に暴れ出したとの事でさぁ」

 

 

簡易的な事情聴取をしていた沖田が近藤達に報告する。

 

 

「なるほどな一日局長が脅えてるのはそれが理由か」

「一日局長さん、大丈夫ですかい?」

「え、あ、はい。私は……大丈夫……です」

 

 

土方と沖田が脅えたままのお通に話し掛けるがお通はまだ脅えたままだった。

 

 

「何があったか……まだ話せないか」

「話します!でも先に刹那ちゃんを追って下さい!」

 

 

何にしても事情を聞かねばならないがまだ、お通に聞くのは酷かと思う近藤。

しかし意外な事にお通は刹那を追えと言い出す。

 

 

「おい、無茶すんな。刹那なら心配しなくても他の隊士が追って……」

「駄目です!近藤さん達が追わないと……刹那ちゃん、きっと泣いてますから!」

 

 

土方がお通を落ち着かせようとしたが、お通は止まらない。

 

 

「早く行ってあげて下さい!それに近藤さんも刹那ちゃんを追い掛けたいんでしょ!一日局長命令です!」

「………了解しました、局長!」

 

 

捲したてるお通に近藤は敬礼をすると刹那の後を追い行ってしまう。

 

 

「おい、近藤さん!」

「大丈夫です。それよりも刹那ちゃんが心配だったから」

 

 

現場放棄をして行ってしまう近藤を土方は呼び止めようとしたが近藤はそのまま行ってしまう。

お通は脅えながらにもフラフラと立ち上がる。

 

 

「無茶はしない方がいいですよ。あんな光景を目の前で起こされちゃ堪らんでしょう」

「山崎、居たのか?」

 

 

するといつの間にか現れた山崎が会話に加わる。何故か、女装姿で。

 

 

「婦女誘拐事件を担当してたの俺ですよ。人質の中に居て、隙を伺ってたんです」

「んで隙を伺ってたら刹那が全部片付けちまった訳だ」

 

 

山崎は誇らしげに語るが沖田がツッコミを入れる。

 

 

「うぐっ、否定できない。兎に角、俺が説明しますよ」

 

 

痛いところを突かれた山崎。そして山崎は一部始終を語り始める。

 

 

攘夷志士達は言いなりになる真選組に、調子に乗ったのか『近藤を斬れ』と指示を出そうとしたらしい。

それを聞いた刹那がキレた。

突如、俯いたかと思えば急に髪がザワザワと揺れ始める。

そして……

 

 

「スゥ……ハァァァァァァァァァ……」

 

 

刹那は一度、息を吸うと気合いを入れて手錠を引き千切った。いとも簡単に。

その事態に「近藤を斬れ」と命令しようと興奮気味だった攘夷志士達は気付いていない。

そして刹那はおもむろに落ちていた木片を拾い上げると無慈悲に攘夷志士の一人に振り下ろす。

それが皮切りだった。

 

刹那が自由になった事に気付いた攘夷志士達だったが時既に遅し、刹那は攘夷志士から槍を取り上げると巧みに槍を振るい次々に攘夷志士達を倒していく。

その戦い振りは冷酷に相手の急所を貫き、腕を折り、足を折る。

その光景に人質になっていた女性達は恐怖を覚える。

 

 

「な、何をしている!人質を使え!」

「お、おう!」

 

 

攘夷志士の一人がそう叫ぶと他の攘夷志士はお通に槍を突き刺そうとする。

 

迫る槍にお通は思わず目を閉じた。しかし痛みは来ず、顔に生暖かい液体が掛かった。

反射的に目を開けたお通の視界に飛び込んで来たのは槍を素手で掴む刹那の姿。

しかも槍先を掴んでいるので刹那の手は血塗れ。先ほど、お通の顔に掛かったのも刹那の手から流れた血だったのだ。

そして事態は冒頭のシーンへと戻る事になる。

 

 

「そんな事になってたとはな」

「私……助けて貰ったのに……刹那ちゃんに……あんな態度……」

 

 

土方は事態の全容が解り、納得した様だがお通は自己嫌悪に陥っていた様だ。

 

 

「なんで一日局長は刹那が泣いてるって思ったんですかい?」

「…………さっき刹那ちゃんが私に謝った時に……あの子泣きそうになってたんです。苦しくて……ツラい……そんな顔をしてましたから」

 

 

先程の刹那を思い出したのか、お通は悲痛な表情になる。

そう言えば近藤さんは刹那に追い着いたかなぁと思う山崎だった。



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本当の家族になる為に・前編

区分が難しく前編後編に分けます。
今回は刹那パート。
オリキャラも出ます。


 

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

刹那は走っていた。何処かを目指している訳では無い、だけど居なくなりたかった。自分を消したかった。

 

 

「私……何も……」

 

 

走っていた足を緩め、歩くと自身の体を見る。

体は返り血を浴び、掌は斬られていた。

 

 

「……………変わって……無かった」

 

 

刹那は歩みを止めて、その場にペタンと座り込んでしまう。震えながらギュッと自身の体を抱き締めた。

 

その行為は自分を止める為。刹那は自分自身を恐れたのだ。真選組として戦うようになったが、いざ戦うと昔の自分が出て来る。人の命を何とも思わずに刃を振るい続けた昔に。

真選組に身を置いてから本当に楽しい日々だった。感情が無く、口数も少なかった頃に比べれば遥かに話すようになっただろう。

 

 

「私は……私は……」

 

 

しかし、真選組に籍を置き、手に入れた感情は刹那を苦しめた。感情無く、戦う為だけの存在ならこんなに苦しい思いはしなかっただろう。

別れ際のお通や人質達が刹那に向けた視線。

言葉には出ていなかったが脅える瞳が語っていた。

 

 

『化け物』……と。

 

 

 

ジワリと涙が刹那の瞳の端に溜まる。

そんな時だった。

 

 

「そんな所で何をしているんですか、お嬢さん」

「っ!?」

 

 

背後から声を掛けられ、刹那は飛び上がって距離を取る。いくら泣きそうになったからとは言っても背後を取られたのは初めてだったからだ。

 

 

「そんなに警戒しなくても良いですよ。そんな事よりも怪我をしている見たいですね。診せて下さい」

「あ………」

 

 

刹那の背後を取ったのは少し長めの黒髪を後ろで一纏めにしている青年だった。眼鏡を掛け、体は細く貧弱と思う程に。

そして青年は有無を言わさずに刹那の手を取ると傷の様子を見る。

 

 

「ふむ……刃物を握ったかのような切り口だね」

「っ……痛っ!?」

 

 

青年は刹那の診断をすると同時進行で傷の手当てに入る。

突然の痛みに刹那は呻き声を上げるが、その間にも治療は進んでいく。

 

 

「体に付着している血はキミのではないようだから大丈夫みたいだね。でも血は拭った方が良いね可愛いんだから」

「な、なにを……」

 

 

戸惑う刹那を後目に青年は刹那の顔に付いていた血を拭う。

 

 

「よし、綺麗になった。後はその血塗れの服だけど……」

「………なんで?」

 

 

次々に刹那の世話を焼く青年に刹那は絞り出したかの様な細い声で呟く。

 

 

「なんで私に構うの?私は……私は……」

「僕は医者でね。怪我人や困ってる人は放っておけないんですよ。それにこんな風に泣きそうな子を見て見ぬ振りは出来ない性分なんですよ」

 

 

そう言って青年は再び、溜まり始めた刹那の涙を指で拭う。

 

 

「医者は体の傷は治せても心の傷は治せない。治せるとしたらキミに近しい人物だろうね」

「私に……近しい人なんて……」

 

 

青年の言葉に刹那は顔を俯かせてしまう。

 

 

「そんな事、無いですよほら」

 

 

すると青年は指を唇に当てて、シーッと刹那を黙らせた。

すると声が聞こえてくる。今はまだ遠いが聞こえてきたのは近藤の声。

 

 

「せ……な……何処だ!迎えに……一緒に帰る……」

 

 

その声に刹那は瞳を見開く。

 

 

「お迎えが来たみたいですね。では、私はこれで」

「待って……名前を……」

 

 

刹那が青年の名を聞こうと振り返ると青年の姿はもう無かった。

 

 

「刹那!」

「こん……どう……」

 

 

そしてそれと同じくして刹那の前に近藤が姿を見せたのだった。

 




次回もシリアス8割でお送りします。


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本当の家族になる為に・後編

 

 

 

刹那にとって会いたかった。でも会いたくない人物が迎えに来た。

 

 

「刹那、心配したぞ!」

「こ、近藤……」

 

 

近藤は息切れしながらも走ってくる。どうやら刹那を探して走り回っていたらしい。

 

 

「さ、帰ろう」

「………」

 

 

近藤は刹那の手を引こうとするが刹那はスッと手を避ける。そして俯いてしまう。

 

 

「刹那?」

「駄目」

 

 

刹那の態度を不振に思った近藤だが刹那は首を横に振る。

 

 

「私は……行けない」

「おいおい、急に何を……」

 

 

俯いたままの刹那に近藤は覗き込むようにしゃがむが刹那の顔色は伺えない。

 

 

「…………私は兵器だから」

「おい、刹那……」

 

 

顔を上げた刹那の表情は出会った頃の様に目が虚ろになっていた。

 

 

「変わったと……変われたと思ってた……でも、違ってた。私は前と同じように戦った。ただ……淡々と斬った」

「刹那」

 

 

虚ろに。そして感情を押し殺すように話す刹那に近藤は一歩、歩み寄る。

 

 

 

「結局、私は変われてなんかいなかった。ただの感情の無い生体兵器」

「刹那」

 

 

話を続ける刹那にまた一歩近付く近藤。

 

 

「私は……私は……」

「刹那」

 

 

近藤はもう刹那の目の前に立っていた。

 

 

「私なんか……居なければよかった!」

「っ!」

 

 

刹那の叫びにパァン!と渇いた音が響く。それは近藤が刹那の頬を平手で叩いた音だった。

刹那は驚いた様子で頬を押さえ、近藤は今まで刹那が見た事が無いほどに怒っていた。

 

 

「居なければよかったなんて言うな!」

「こ、近藤……」

 

 

近藤は叫んだ後に刹那を抱き締める。

 

 

「俺は刹那に会えて本当に良かったと思ってる。刹那が感情の無い生体兵器?馬鹿を言うな感情が無けりゃ人を斬って悲しそうな顔するもんか」

「く……う……」

 

 

近藤から感じる温もりや近藤の言葉に刹那の力は抜けていく。

 

 

「さっきもな、お通ちゃんも謝りたいって言ってたんだぞ。今日一日で随分好かれたな」

「私は……」

 

 

抱き締めながら頭を撫でる近藤に刹那の声は震える。

 

 

「俺達だけじゃない。鍛冶屋や万事屋だって刹那の事を兵器だなんて思ってない」

「こんど……」  

 

 

刹那を抱き締める力が強くなる。

 

 

「俺達は家族だ。家族を見捨てるなんて俺の中にはあり得ない答えだ。刹那、帰ってこい」

「う……あ………うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

刹那は我慢しきれずに泣き出してしまう。近藤は何も言わずにただ刹那を抱き締めていた。

 

 

「あれも家族の形なんですかね?」

「美女と野獣ネ」

「やっちゃたなぁ……まさかあのゴリラが父親に見えるんだもんなぁ……」

 

 

誠ちゃん扮する万事屋メンバーはバッチリその光景を見ていたりする。

 

その後、泣き止んだ刹那を連れて近藤は真選組が待つ異菩寺へと向かう。因みに誠ちゃんとも合流し、一緒に帰った。

 

異菩寺に到着するとお通や人質になっていた者達が刹那に駆け寄り礼を言う。気が動転して、刹那に酷いことをしたと皆が泣いていたのだ。

人質達の和から開放されたと思えば次は真選組がこぞって刹那を構う。頭を乱暴に撫でたり、抱っこされたりと振り回されてばかりだ。

そんな中、土方が刹那の頬の赤みに気付く。

 

 

「おい、刹那。その頬はどうした?」

「やっちゃたなぁ……まさか局長が刹那を傷物にするなんて思わないものなぁ……」

 

 

土方が刹那の頬に手を添えると誠ちゃんが先程の事を話す。かなり屈折した伝え方だったが。

 

 

「局長!どう言う事ですか!?」

「近藤さん、刹那ちゃんに何したんですか!?」

 

 

真選組隊士やお通に詰め寄られる近藤。

 

 

「ちょ、ちょっと待って……あ、刹那!説明を……」

「…………べー」

 

 

刹那に助けを求めた近藤だが刹那は片目を閉じて近藤に舌を出す。

今まで刹那のそんな仕草を見た事が無かった真選組面々は呆気に取られる。

 

その時の刹那の笑顔は今までで一番、可愛いものだった。

 



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刹那と遊びに行こう

今回はネタをかなり仕込んでます。全部解る人は凄い


 

 

異菩寺の立てこもり事件から数日が過ぎた。

あの日の事件は真選組の良いアピールになり、真選組の事がデカデカと新聞に掲載される程である。

『お手柄、誠ちゃん。犯人逮捕に尽力』と誠ちゃんの写真が映ってる物と『最年少の侍!一人でテロリスト撃破』と書かれた見出しにクールに刀を構えた刹那の写真が載っていた。

その事もあり真選組のPRは良い方向へと向かったのだろう。

 

そして、その日から刹那の様子は変わっていくのだった。

 

「おい、山崎。刹那は何処に行った?」

「あ、副長。刹那なら食堂で料理作ってましたよ」

 

 

ある日、土方は刹那を探していたのだが姿が見付からず、たまたま見かけた山崎に聞くと刹那は食堂で料理をしている事が判明した。

 

 

「はぁ、料理?何してんだアイツは」

「食堂のおばちゃんに料理習ってましたよ。歌を歌いながら」

 

 

 

◇◆数分前◇◆

 

 

刹那は食堂のおばちゃんと共に料理をしていた。髪をポニーテールに纏め、上着を脱いでエプロンを纏う姿は可愛さ抜群である。

 

 

 

「~♪」

「お、刹那が料理してるな……楽しそうに鼻歌なんかしちゃって」

 

 

調理場で食堂のおばちゃんと料理を作る刹那を見て山崎は笑みを溢す。刹那は楽しそうに鼻歌を歌いながら料理をしていた。

そして、その歌は誰もが知っている『コロッケの調理の歌』である。

そして調理も終盤に差し掛かり、歌も終わりを迎えた。

 

 

「ニンジャ、ハァトッリィ♪」

「なにぃー!?」

 

 

何故か『コロッケの調理の歌』から突如、『渦巻きホッペの忍者』に歌が切り替わり、山崎は叫びを上げた。

 

 

「山崎、うるさい」

「いや、ハットリくんはコロッケじゃねーよ!」

 

 

山崎の声をうるさいと言った刹那だが山崎はそれどころではなくツッコミを入れる。

その後、邪魔だからと山崎を調理場から追い出した刹那。

 

そして時間は土方が山崎を呼び止めた場所まで戻る事になる。

 

 

「って事がありまして」

「何してんだアイツは……」

 

 

山崎の説明に頭が痛くなる土方。

 

 

「最近、刹那の気が緩んでるな……今日なんか寝ぼけて俺の布団で寝てやがった」

「ええっ!?」

 

 

土方の発言に驚く山崎。それは昨晩の事だった。夜中にふと目が覚めた土方は右腕に違和感を感じたのだ。それを不振に思った土方は布団を捲る。そしてそこに居たのは寝間着姿で猫の様に丸まり土方の腕を枕にしている刹那だった。

その後、刹那を叩き起こした土方。事情を聞けば夜にトイレに行き、寝ぼけて土方の布団に入って眠ったらしい。刹那は未だに眠いのか目を擦っていた。

 

 

「ったく……最近の刹那は気が緩みすぎだ」

「副長、厳しすぎますよ。でも確かに最近、妙にポワーンとしてますね」

 

 

最近の刹那の気の緩みに厳しい評価の土方と刹那の態度を不思議に思う山崎。

 

 

「トシ、山崎。そう言うな、刹那も漸く年頃の娘みたいになったんだ」  

「近藤さん」

「局長」

 

 

土方と山崎の会話に加わったのは近藤だった。

 

 

「刹那も異菩寺の一件があってから今まで張り詰めていた緊張の糸が切れちまったんだよ。だから今は見守るべきなんだ」

「局長……」

 

 

近藤の父親らしく、そして立派な言葉に感動する山崎。

 

 

「それにこの間、刹那を連れて遊びに行った時なんか凄かったぞ……例えば……」

 

 

◇◆刹那と遊びに行こう・ゲームセンター編◇◆

 

「一撃でクリアー」

「ゲェー!?ゲームのシステム無視して一撃でクリアしたー!?」

 

◇◆刹那と遊びに行こう・ビリヤード編◇◆

 

「ダグラスショット」

「なにぃー!アレは伝説のミラクルショット!別名サイドワインダー!」

 

◇◆刹那と遊びに行こう・映画編◇◆

 

「あの映画の主人公って既に死んでるんだよね」

「おぉーい!それ言っちゃイケない部分!映画の冒頭でも秘密にしろって書いてあっただろ!?」

 

◇◆刹那と遊びに行こう・公園のボート編◇◆

 

「モンキーターン」

「ウオオッ!?アヒルのボートで前傾姿勢で立ち上がり、舟の外側を蹴るように回り、外側に荷重がかかって通常のターンより高速旋回するとは!?」

 

◇◆刹那と遊びに行こう・バッティングセンター編◇◆

 

「予告ホームラン……と見せかけてバント」

「ア、アレは、かの有名な映画のラストシーン!」

 

 

楽しげに刹那と遊びに行った事を語る近藤。

 

 

「いや、局長は殆どリアクションばっかりじゃないですか」

「と言うか近藤さん。アンタ、この間、有給使ったの刹那と遊びに行く為か」

 

 

有給を使ってでまで刹那と遊びに行った近藤を怒るべきか、刹那のハチャメチャ且つハイスペックな行動に驚くべきか悩む土方だった。

 



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恋とは……

 

 

刹那は鉄子の鍛冶屋に顔を出していた。

安兵衛も来ており、話は刹那の専用刀の事になっていた。

 

 

「どんな刀を打つかは決まってるんだ。後は形に仕上げるだけだよ」

「ん、待ってる」

 

 

鉄子の話では刹那の刀の構成は決めているらしく、後は打って仕上げるだけとの事だった。

刹那はそれを楽しみに待つと告げると鉄子と安兵衛を見る。

二人の距離は近く、鉄子の煎れたお茶を安兵衛が美味そうに飲んでいた。

 

 

「安兵衛と鉄子は結婚するの?」

「ブブッー!?」

「せ、刹那!?急に何を!?」

 

 

刹那の発言に安兵衛は茶を吹き、鉄子は顔を赤くして狼狽する。

 

 

 

「二人を見てたら……そんな風に感じた」

「あ、いや……俺達はそんな……まだ……なあ?」

「そ、そうだよ……そんなんじゃ……」

 

 

刹那の言葉に顔を赤くしたまま口篭もる二人。刹那はコレを見て時間の問題かな?と思うのだった。

 

 

「しかし、刹那からこんな話題とは珍しい。何かあったのか?」

「あ、私も聞きたい」

 

 

分かり易い話題転換をする安兵衛に鉄子も載る。

 

 

「……………近藤が松平からの紹介でお見合いだって」

「あん、あの局長さんがか?」

 

 

刹那の言葉に安兵衛は眉を顰める。それと同時に安兵衛は刹那の気持ちにも感づいた。

 

 

「ははぁん、さては局長さんを取られると思ってんのか?」

「違う。近藤はお妙が好きだって言ってたから他の誰かとのお見合いなんて嫌だって言ってたから。それに……」

 

 

安兵衛のニヤニヤした顔に一発拳を叩き込もうかと思った刹那だがギリギリ踏みとどまる。そして言葉を区切ると一枚の写真を取り出す。

 

 

「これ、近藤のお見合い相手」

「ふぅん、どれど……れっ!?」

 

 

刹那から写真を受け取った安兵衛は言葉を失う。そこに写っていたのは、まごう事なきゴリラ。

 

 

「え、冗談だよな?」

「何処かの星のお姫様。バブルス王女だって」

 

 

安兵衛は恐る恐る刹那に尋ねるがどうやらマジらしい。

 

 

「局長さん、コイツと見合うのかよ」

「流石に嫌がってた。今日これから土方達が近藤の命令で、お妙に止めてくれるように頼みに行くって」

 

 

安兵衛は既に苦笑い。刹那はお茶をズズッと啜りながら説明を続けた。

 

 

「刹那は行かないの?」

「お妙のお店は未成年が入れないから土方に止められた。それに大人の話だから子供は関わるなって」

 

 

鉄子の疑問に答えた刹那は少々頬が膨らんでいる。

 

 

「なるほどな。つまり、自分だけ置いてけぼりが寂しかったわけだ」

 

 

安兵衛はニヤニヤと刹那を見ていた。

 

 

「うるさい、アドバーグ・エルドル」

「誰がキタキタ親父だ!つーか1度もキタキタ踊りなんか踊った事ねーよ!」

 

 

因みにアドバーグ・エルドルとはキタキタ親父の本名である。

 

 

「本当に二人は仲が良いなぁ」

 

 

言い争う刹那と安兵衛を見て、鉄子は少し羨ましそうに呟いた。

 

 

「しっかし、刹那が恋愛事を気にするなんてなぁ……気になる相手でも出来たか?」

「……………んー」

 

 

安兵衛の言葉に刹那は指を頬に当てて考える仕草をする。

 

 

真選組→家族として見てるので恋愛には至らない

銀時→どちらかと言えば悪友

新八→アイドルオタク。少し頼り無い

安兵衛→ハゲ

桂→どちらかと言えば捕まえなければならない相手

高杉→桂と以下同様

武市→論外

 

 

「禄なのがいない」

「なんで俺のコメント『ハゲ』だけにした?」

 

 

悩んで今まで会った男の事を思い出したが刹那の眼鏡には適わなかった様子。安兵衛は自分のコメントに不満を持っていた。

 

 

「と言うか、刹那の今まで会った相手が凄いよね」

「幕府と攘夷志士のトップばかりだしな。万事屋の旦那達は兎も角よ」

 

 

刹那の出会った男のラインナップがさり気に豪華メンバーな事に改めて驚く安兵衛と鉄子。

 

 

「……………」

 

 

そんな中、刹那はもう一人出会った男の事を思い出していた。

先日、自分の手の治療をしてくれた医者の事だ。

彼に巻いて貰った包帯は未だに左手に巻いてある。

刹那は目を細めて左手をジッと見つめていた。

 

 

「お、その反応は他にも男の知り合いが居るな?しかも気になる男とみた」

「………そんな事無い。少し思い出しただけ」

 

 

安兵衛の言葉に刹那はサッと左手を後ろに回すと否定する。

 

 

「そんな態度で違うって言われてもなぁ~」

「……違う………ん」

 

 

否定する刹那だが治療中に彼が見せた笑みを思い出して、動きが止まる。

 

 

「お、脈有りか?」

「…………っ!」

 

 

安兵衛の言葉に刹那は無言のまま首をブンブンと勢いよく横に振る。

だがそれは、ある意味肯定の仕草となってしまう。

 

 

この後、刹那は安兵衛と鉄子に質問攻めにあった上に夕飯までご馳走になってしまう羽目となった。



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刹那、柳生家へ

 

 

 

刹那が屯所に帰って最初に見たのはボコボコにされた真選組の面々だった。

 

 

「………やっぱり、お妙にボコボコにされた?」

「うん、まあ……確かに姐さんにボコボコにされたんだけどね……」

 

 

ボコボコにされた隊士達を代表して山崎が答える。

 

 

「土方も?」

「俺は違ぇーよ。乱入者が居たんでな」

 

 

一緒に行った筈の土方は無事だったのを刹那は不思議に思うが、どうやら土方も何かあったらしい。

 

 

「乱入者?」

「俺達が姐さんに局長の事を頼みに行ったら背の低いガキが現れてね……」

 

 

山崎の話を纏めるとこうである。

お妙に近藤の見合いを止める様にお願いしに行った隊士達だが、当然了承される筈も無くボコボコにされた。

そのボコボコにされた最中に一人の少年が現れ、お妙を庇ったのだと言う。

本来なら、お妙を庇うので無く、お妙を止めるべきなのだがそこは割愛。

これ以上は無駄と悟った土方は隊士達に帰ることを伝え、少年が未成年である事に土方は警察としての仕事で少年を連れ出そうとしたが少年は反抗し、土方や隊士達に襲い掛かった。なんとか刀を受け止めた土方だが自身の刀はヒビが入ってしまった。

更にその少年は、お妙の知り合いらしい。

 

 

「土方も負けた?」

「負けてねーよ。喧嘩は刀は折られても心が折れなきゃ負けじゃねぇ」

 

 

刹那の発言に土方はギロリと睨むと行ってしまう。 

 

 

「…………波乱?」

「まぁ、波乱だね。局長も下手すれば猿の惑星行きだし」

 

 

刹那の言葉に何処か納得の山崎。

 

 

「そう言えば近藤は?」

「局長なら松平のとっつぁんが連れて行っちゃたよ。明日、見合いなんだから打ち合わせするんだって」

 

 

近藤の不在を不振に思った刹那だが近藤は見合いの為に松平に連れて行かれたらしい。

 

そして刹那の言葉通り、波乱の幕開けとなったのだった。

お見合い行った近藤はバブルス王女となんと上手く行ってしまう。

しかし、バイトで料亭に来ていた万事屋一同がバブルス王女を怒らせて見合いはめちゃくちゃに。

更に近藤のお見合い場所にお妙と例の少年が居たらしく、しかも少年はお妙に無理矢理キスをしていた。

そしてお妙は、その場に居た近藤や銀時、新八、神楽に「さよなら」と告げて去ってしまった。その目に涙を溜めて。

 

その数日後、お妙はその少年と結婚する事になったらしい。

少年は名家の柳生の跡取りで名を『柳生九兵衛』。

お妙はそのまま柳生家へ行ったらしく家には帰っていないのだとか。   

 

 

「………………」

 

 

その話を聞いた刹那は安兵衛から貰った新しい武具を持つと屯所から出る。

 

 

「せ、刹那!?何処に行く気だ!?」

「お妙の所、少し聞きたい事がある」

 

 

武具を持って出掛けようとする刹那を止めようとする山崎だが刹那はこれから柳生家に行くと宣言した。



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医者として、警察として

 

 

 

真選組の屯所から柳生家の道場へと来た刹那。本日の服装は長袖のシャツにホットパンツにニーソックスと動きやすい服装で髪は三つ編みにしていた。刀は鞄に入れて肩から下げている。

道場の門を叩くと中から柳生の門下が現れる。

 

 

「なんだ嬢ちゃん?」

「此処は柳生家の道場だよ、お嬢ちゃんみたいな娘が来る場所じゃ無いんだかな」

 

 

柳生の門下は刹那を道場への入門希望者と勘違いしている様だ。

 

 

「違う、私は此処に用があってきた」

「お嬢ちゃんみたいな娘が柳生の道場に何の用なんだい?」

 

 

刹那の言葉に小馬鹿にした様な態度の門下に刹那は少しイラッと来て刀に手を掛けようとするが門下の後ろから声が掛かる。

 

 

「おや、お嬢さん。怪我の具合はどうですか?」

「あ………」

 

 

門下の後ろから現れたのは以前、刹那の手を治療した医者だった。

 

 

「この娘は僕の患者なんですよ。通して大丈夫ですよ」

「せ、先生がそう言うなら……」

 

 

青年が柔やかにそう告げると門下は行ってしまう。

 

 

「あ、アナタ……」

「さ、まずは怪我を看ましょうか」

 

 

青年はそう言うと刹那の手を引いて、中に招き入れる。

 

 

「待って、私は……」

「キミの用事も窺いますよ。でも先に手を診せて下さいね」

 

 

青年は刹那を部屋に案内すると手の診察に入る。

 

 

「ふむ、もう治ってきてるね。でもまだ激しい運動や重い物を持つと傷が開いてしまうかもしれないよ」

「気にしない」

 

 

刹那はプイッと顔を逸らす。

 

 

「やれやれ、それでキミは何をしに柳生家に?」

「その『キミ』も止めて。私の名前は刹那」

 

 

何をしに来たかを問う青年に刹那は少し不満げに話す。

 

 

「それは失礼。でも僕は刹那の名前を知らなかったから。じゃあ僕も名乗るよ。僕の名は『柳生十夜』柳生家の者だよ」

「柳生家の?」

 

 

青年、十夜は刹那の左手の包帯をテキパキと変えながら答える。

 

 

「うん、と言っても僕は分家なんだけどね。それに生まれつき身体が弱くてね。とても侍には成れないんだ」

「だから医者?」

 

 

十夜の言葉に疑問を重ねる刹那。十夜はコクリと頷くと包帯を綺麗に巻き終える。

 

 

「うん、それに医者なら柳生家当主も支えてあげられるからね」

「私はその柳生家次期当主に用があってきた」

 

 

刹那の疑問に答えた十夜だが刹那の要件は柳生家次期当主、つまり九兵衛にあったらしい。

 

 

「九兵衛に用事?どんな?」

「………コレ」

 

 

十夜の問いに刹那は1枚の紙を渡す。それを見た十夜は固まった。

 

 

「ああ……この話は聞いてるよ。参ったな……」

「私が柳生家に来た用は二つ。一つはソレ、もう一つはお妙に会いに来た」

 

 

片手で顔を隠し、あちゃーと言う仕草を見せる十夜に刹那は畳み掛ける様に告げる。

 

 

「お妙ちゃんにも……か。複雑な事情みたいだね」

「それ程複雑でもない。ただ聞きたいだけ。好きでも無い相手と結婚する気持ちを」

 

  

お妙の事を知っている風な十夜に刹那は首を横に振って否定する。

 

 

「どうして……そう思ったんだい?」

「周りの人から話を聞いて、そんな気がした。それに……お妙は泣いてたって。どんな事情があるにしても悲しい涙を流して嫁ぐなんて良くないって聞いた。だから聞きたい、悲しい涙を流して結婚する気持ちを」

 

 

十夜の質問に刹那は思っていることを口にする。刹那は直接、お妙の涙を見た訳では無いが近藤から話を聞いた様だ。

 

 

「刹那は人を見ている様だね……」

「何か、知ってるの?」

 

 

何処か納得のした様な表情になった十夜に刹那は疑問を感じた。

 

 

「ああ、僕は九兵衛とは従兄妹に当たるし、お妙ちゃんとも幼馴染みだからね。僕が知ってる成りの事情を話すよ。実はね……」

「せ、せんせー!大変だーっ!」

 

 

十夜が刹那に何かを話そうとした際に先程の門下が走ってきた。

 

 

「どうしたんだい?」

「今、道場破りが来て怪我人が続出してるんだ!先生も来てくれ!」

 

 

門下から話を聞いた十夜は手早く医療道具を掴むと走り出す。その後ろを刹那が付いてきていた。

 

 

「刹那?キミは待っていてくれても」

「手伝う」

 

 

刹那は十夜を手伝うと告げる。

 

 

「刹那、キミは……」

「勘違いしないで。早く話を聞きたいだけ」

 

 

刹那は先程、十夜に渡した紙を素早く畳むと懐にしまう。

そして現場に到着した十夜と刹那は唖然とする。柳生道場の門下が大量に倒れていたのだ。

 

 

「これは酷いね」

「なんか私怨を感じる怪我の仕方」

 

 

十夜は素早く治療に取り掛かり、刹那はそれを手伝う。

そして粗方の怪我人を治療した後に下手人を見つけた。それはよく知った顔だった。

 

 

「皆、何してるの?」

「いっ!?刹那、お前こそこんな所で何を!?」

 

 

刹那が声を掛けると全員が驚いていた。なんと道場破りは近藤、土方、沖田、銀時、新八、神楽だったのだ。

 

 

「私はお妙と柳生家次期当主に用事があったから来た」

「ほう、僕に用事か」

 

 

近藤達の前に立つ、集団の中から眼帯をした少年が前に出る。彼が柳生九兵衛らしい。

 

 

「待つんだ九兵衛」

「兄様、何故ソイツ等と一緒に?」

 

 

刹那の隣に立っていた十夜は九兵衛に待ったを掛けた。

 

 

「僕が彼等と居るのは成り行き。それよりも九兵衛、大変な事をしてくれたね」

「大変な事?それは彼等でしょう、柳生家の道場に道場破りとは」

 

 

十夜の言葉にフッと笑う九兵衛。そんな九兵衛に刹那は先程、十夜に見せた紙を九兵衛に突き出す。

 

 

其処には『未成年者立ち入り禁止の店に入った事並びに警察関係者への暴行罪』と書かれた逮捕状があった。

 

 

「こ、これは……」

「怪我をした真選組の隊士から事情は聞いたし、店の防犯カメラで犯行シーンも録画してある。真選組の隊士がお妙に迷惑掛けたのは事実だけど、その後に九兵衛が土方に刀を向けて隊士達を怪我させたのは完全に犯罪。柳生家次期当主でも逃れられない」

 

 

罪人状を突きつけられ九兵衛は顔が青ざめていた。

 

 

「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!あの娘、ちゃんと仕事してるよ!道場破りしか選択肢を出さなかった他の役人共とは違うよ!」

「うるせぇっ!俺は俺の我を通しただけだってんだろ!」

 

 

銀時の叫びに土方はツッコミを入れる。

刹那はキッチリと警察としての仕事をしていた。



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罪の逃れ方

 

 

あまりにも突然の事態に柳生家の方々は固まっていた。

 

 

「す、少し宜しいでしょうか?」

「アナタは?」

 

 

罪人状を見た後に柳生家の長髪が前に出る。

 

 

「紹介が遅れました。私、柳生家の守護を司る『東城歩』と申します」

「私は真選組隊士、刹那」

 

 

深々と頭を下げる東城に刹那も頭を下げる。

 

 

「若が犯した罪は私が償います。いくらですか?」

「真っ先に金で買収しに掛かったよ!本当に碌なセレブじゃねーな!?」

 

 

東城が小切手を用意し、刹那に歩み寄る。それを見た銀時がツッコミを入れた。

 

 

「暴行罪に加えて警察を買収。合わせ技一本で打ち首」

「全然、交渉になってねーよ!?凄い冷静に罪を加算したよ!」

 

 

しかし刹那に買収は通用せず却って事態を悪化させた。

 

 

「待って待って!本当にこの娘は警察なんですか!?」

「本当だ。真選組の特別隊士に登録されている。因みに局長の近藤さんが保護者で、警察長官の松平が後見人だ」

「ついでを言えば万事屋とも知り合いだし、お妙は妹みたいに扱ってたな」

 

 

東城は慌てて刹那の言ってることが真実なのか問うが土方が刹那の説明をする。銀時も追加で情報を出す。

 

 

「な、なんて密度の濃い娘だ……」

「つーか、マジでヤバいのか?」

 

 

情報を聞いて焦りだしたのは同じく柳生家の守護を司る四天王の西野摑と南戸粋。

 

 

「兎に角、罪状は決まってる。お酒の事に関しては原作の話でも未成年がお酒飲んでるシーンがあるから良いとしても、暴行罪は決まり」

「だったら、そちらの道場破りはどうなんだ!暴行罪に当たるのではないか!」   

 

 

メタ発言を交えた刹那の説明に柳生四天王の北大路斎が反論する。

 

 

「そもそも、お妙も納得して此処に来てるの?新八の話じゃ……」

「待て、罪状の件も妙ちゃんの事も全てに決着を付けよう」

 

 

刹那の言葉を遮って九兵衛が前に出る。

 

 

「暴行罪は確かかも知れないが、それは真選組の隊士が情け無いからじゃないのかい?」

「何が言いたいの?」

 

 

九兵衛は試すかの様な視線を刹那に向ける。

 

 

「僕達と勝負をしないか?僕達が勝ったら暴行罪は帳消しにして、妙ちゃんの事は諦めて貰う。もしもキミ達が勝ったら、その後は好きにすればいいさ。逃げも隠れもしないよ」

「……………随分と都合の良い話」

 

 

九兵衛の出した条件は明らかに柳生家寄りの発想だ。しかも見れば九兵衛の目は少し泳いでいる。

自分でも無理があると思っているのだろう。

 

 

「それに人数が足りない。私、近藤、土方、沖田、銀時、新八、神楽で七人。十夜は戦えないから、そっちは五人しかいない」

「心配するな、僕達の方が強いし僕等の大将は此処に居ないだけだ。人数も僕のパパ上を入れれば七人になるから数のハンデは無くなるだろう?」

 

 

刹那の疑問に矢継ぎ早に答える九兵衛。己の罪状が掛かっているとなっているから必死である。

 

 

「わかった。柳生家の人達を叩きのめしてから処刑場の手配しとくから」

「フッ……もう勝ったつもりか。では勝負の形式は柳生流に従って貰おう。なんせキミ達は道場破りなんだからな」

 

 

バチバチと火花を散らしながら試合形式を決めていく刹那と九兵衛。

銀時達は完全に置いてけぼりになっていた。

 

 

「おい、もう刹那を局長にした方がいいんじゃね?ゴリラより仕事してるよ」

「出来るわけねーだろ!まだ14才くらいなんだぞ!」

 

 

銀時の言葉に土方は否定をするが、強ち否定しきれない事も事実である。



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柳生流の試合形式

 

 

 

 

柳生流の試合形式が説明された。

 

1.各陣営に分かれて、身体に皿を付ける。

2.皿を割られたら失格。

3.大将を倒したら、その時点で勝敗が決まる。

4.試合が行われるのは柳生の敷地内全て

5.獲物は木刀

6.1対1でも1対多数でも勝ちは勝ち

 

 

との事である。

しかも柳生流はルール説明の後に刹那達を挑発し、去って行った。

 

 

「ちくしょー!ムカつくぜアイツ等!こっちも対抗して大将丸出しで行こうぜ。いつ襲ってきてもOK的な感じで!」

「OKな訳ないでしょ!一発K.O.されるわ!ってか僕が大将なの!?」

 

 

柳生流の態度に怒り狂う近藤は新八の股間に皿を設置した。当然、新八からはツッコミが入る。

 

 

「仕方ねーだろ。俺達は不本意だが恒道館道場の門下って事になってるんだ」

「ま、そー言うこったな。気張れよ新八」

 

 

土方がタバコを吸いながら新八の疑問に答え、銀時が新八の背を叩く。

 

 

その後も銀時は土方に皿で眼帯を作らせたり、沖田がそれを煽ったりと収拾が付かなくなり始めていた。

そんな中、刹那は話に参加せず、ずっと悩んだままだった。

先程、柳生流の者達が離れた際に十夜も一緒に別れたのだが「九兵衛を頼みます」と耳打ちされたのだ。

十夜は柳生側なのに相手チームを応援するとは何事なんだろうか?

等と考えていたら新八と近藤を残して他は居なくなっていた。

近藤から話を聞くと神楽が自分の皿を割ってしまったらしい。更に銀時と沖田が勝手に行動し、土方と神楽は代わりの皿を貰いに行ったらしい。

 

 

「みんな、バラバラ」

「アイツ等に団体行動をさせようと思った段階で間違いだったかもな」

「と、兎に角捜しましょう。バラバラのままじゃ個別に撃破されかねないですし」

 

 

溜息を吐く刹那と近藤を励ますように新八が声を出す。

 

 

「わかった、私は土方と神楽を捜すから、そっちは銀時と沖田を探して」

「あ、おい!刹那!?」

 

 

刹那は一方的に話を打ち切ると土方達が皿を借りるために向かった方へと走り出す。近藤も止めようとしたが刹那の足は速く、あっという間に居なくなってしまった。

 

 

「どうしましょう、近藤さん?」

「ここで俺達が別行動するのも不味いからな。刹那を捜しつつ、万事屋と総悟と合流しよう」

 

 

置き去りになった新八と近藤は今後の流れも踏まえて行動にもする事となった。

 

一方、近藤達から離れた刹那だが神楽と沖田を発見したのだが、二人は柳生四天王の西野と南戸と戦っていた。戦っていたのだが沖田が南戸と戦って圧勝していた最中、神楽は西野に劣勢だった。

神楽は西野の不意打ちに腕を折られたらしく、苦戦をしていたのだ。それを治療と称して沖田が折れた腕を更にねじり上げる。

痛みに叫ぶ神楽は沖田の右脚をへし折った。汚い仲間同士の揉め事兼同士討ちで劣勢になってしまう神楽と沖田。

トドメを刺そうと西野が二人を追い詰め、神楽と沖田は屋敷の中へと這って逃げて行った。

 

 

「なんて言うか……自業自得だけど哀れ」

「くくっ……まったくだな」

 

 

二人の手助けに行こうと思った刹那だが背後の笑い声に振り返る。其処には先程、沖田と戦っていた南戸が木刀を肩に担ぎ笑っていた。

 

 

「相手が居なくなったんで東城さんや若の元へ戻るつもりだったが相手が出来て嬉しいぜ」

「……さっさと終わらせる」

 

 

南戸の言葉を聞き流しながら刹那は木刀を地面に突き刺した。

 

 

「ほぅ……言ってくれるじゃねーか。だが俺は柳生四天王の一人、簡単に……」

「フッ!」

 

 

南戸の口上を遮る様に刹那は走り出す。そして素早く跳躍すると刹那は南戸の顔を自身のフトモモで挟む。

 

 

「っ!?」

「追加」

 

 

突然の事態と挟まれたフトモモの柔らかさに南戸の動きは止まる。そしてそれを見逃さない刹那は南戸の腕を摑んで逆方向に捻り上げると体勢を勢い良く下に向けた。

慣性の法則と関節技で南戸の身体は前のめりになるが、それにとどまらなかった。

南戸の頭はそのまま地面へと激突。凄まじい破壊力に南戸の意識は飛びかける。

ヘッドシザースからのフランケンシュタイナーを見事に決めた刹那は技のクラッチを解くと南戸との距離を取る。

 

 

「こ、このガキ……」

 

 

油断してたのもあるが技を完璧に食らった南戸はフラフラと立ち上がりながら刹那を睨んだ。

刹那は掌を仰向けにしながら南戸に手を差し出し、手招きをして挑発する。

 

 

「打撃系など花拳繍腿、サブミッションこそ王者の………」

「待て待て!それは剣術をやる者が1番言っちゃいけない言葉だろ!?」

 

 

 

危険な発言をしそうになった刹那に南戸のツッコミが入る。

刹那は不満そうに構えを解くと先程、地面に刺した木刀を引き抜く。

 

 

「じゃあ、次はコッチで」

「………最初からそうしてくれや」

 

 

木刀を構えた刹那に南戸は先程の刹那の技で流した血を拭うとそう呟いた。



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やってはいけない事ほど、やりたくなるのが心情

 

 

 

 

木刀を構え、南戸と対峙する刹那。対する南戸はニヤニヤと笑みを浮かべながら余裕の態度を取っていた。

 

 

「くくっ……お嬢ちゃん中々やるようだが俺は柳生四天王の南とっ!?」

 

 

南戸の言葉は最後まで語られる事は無かった。口上を述べている最中、刹那は南戸の首筋に一閃。

南戸の首筋に隠していた皿を割った。

 

 

「て、てめ……バトル物の鉄則だろうが……口上言ってる最中に襲うんじゃねー……」

「生憎、私は相手が後二回の変身を残していても変身する前に倒すタイプ」

 

 

南戸は地面に伏しながらも刹那に抗議する。刹那はしれっと答えると先程、西野に追われて行った沖田と神楽に合流する事にした。

 

 

「あれ?原作同様に……かませ犬?」

 

 

南戸は最後にその言葉だけを残して気を失った。

 

 

「沖田、神楽、どこ?」

 

 

刹那は沖田達を捜して屋敷の中を歩く。屋敷の中は沖田達が暴れ回った後が残っており、激しい戦いだったと語っているかの様だった。

 

 

「あ、居た神楽……」

 

 

そして屋敷を彷徨ってる最中、刹那は神楽を見付けて声を掛けようとしたが言葉が途中で止まる。

なんと神楽は倒した西野を床に寝かせるとその上に気絶している沖田を乗せて、更に自身の足で踏み付け、それを写真に納めていた。

 

 

「ブハハハッ!これが銀魂ヒロインの力ネ!」

「そんな事してるから『ジャンプ史上最大の暴挙のヒロイン』とか『声優さんの無駄遣いゲロイン』って呼ばれるんだと思う」

 

 

高笑いをしている神楽の背後から話し掛ける刹那。ゲスな笑みを浮かべていた神楽だが少しずつ血の気が引いていくのが感じ取れた。

刹那の声を聞いて、神楽はゆっくりと振り返った。

 

 

「………見てたアルか?」

「写真に納めてドヤ顔してた辺りから……後、その手の行動は控えないと人気投票の時にマイナスイメージを……」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっん!ワタシだって綺麗なヒロインって呼ばれたいアル!でも銀魂だからこうするしかないネ!」

 

 

振り返った神楽は刹那の言葉を聞いて泣き出して行ってしまう。しかしアンケートとは時に残酷な結果を残すものである。

 

 

「神楽、離れ離れになっちゃ……」

「いいもん!私一人で姉御助けてヒロインの人気の座を勝ち取るネ!」

 

 

刹那の言葉を背中に受けながら神楽はそのまま泣きながら行ってしまう。

因みに刹那の後ろでは丁度、近藤と新八が合流し、沖田の惨状を見てしまう。

柳生家の者の仕業と勘違いしてキレる近藤に近くにあった携帯で先程の写真を見てしまった新八は汗をダラダラと流していた。

 

 

 



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食事の作法も大事だが、お茶も重要

 

 

新八は決定的な証拠が納められた携帯電話を床に叩きつけて破壊する。

 

 

「ち、ちくしょー!沖田さん、やったの誰だー!」

「し、新八君!?なんかテンションが変だけど!?」

 

 

新八は冷や汗を流しながら目が泳いでいた。その光景に違和感を感じる近藤だが新八は逃げるように犯人捜しを始める。

 

 

「…………言いづらい」

 

 

そんな新八を見て刹那は先程の神楽の犯行現場を見ているだけに告げるべきかを悩みながら新八と近藤の後を追っていた。

どんどん屋敷の中を探索していく一同だが、ある部屋の襖を開けて凍り付いた。

そこで見た物とは土方と敵である柳生四天王の北大路斎がテーブルを向かい合わせに食事をしている光景だった。

 

 

「何してんだテメー等!何、仲良く食事してんだ!?」

「……………」

 

 

そんな光景に新八はツッコミを入れると刹那はスッとその場を離れた。

近藤は木刀に手を掛けようとしたが土方が制止する。

 

 

「お前等、手を出すな……これは俺のチャーハンだ」

「って、チャーハンかい!」

 

 

ズレた土方の発言をツッコむ新八。

 

 

「ふん、貴様等凡人には解るまい。達人戦では食事の作法でも違いが分かる。箸の持ち方、食の進み方、様々な要素を取り込んで戦いとは成立する物だ」

 

 

北大路はそう言うとオムライスに大量のケチャップを掛け始めた。

 

 

「俺は周囲から生粋のケチャラーと思われているがそれは違う。俺はトマトの類が大嫌いだ。だが俺はトマト類を自ら食すと決めた。その理由は自分のトマト嫌いを逆手に取り、何にでもトマトケチャップをかけて食べる一種のメンタルトレーニングの結果、今ではトマトにケチャップをかけて食べる程の大のトマト好きになった」

 

 

ドヤ顔でケチャップを掛ける理由を話す北大路。だが客観的に見ればそれはただの不摂生である。

そしてそれに対抗するかの様に土方はチャーハンにマヨネーズを掛け始めていた。

 

 

「な……チャーハンにマヨネーズだとっ!?」

「俺は周囲から生粋のマヨラーと思われているがそれは違う。俺はマヨネーズの赤いキャップを見るだけで吐き気がする。マヨネーズを大量に掛ける事で食事の時に刹那に避けられ気味だがそれは俺の精神を鍛える為だ」

 

 

マヨネーズをチャーハンに掛ける事に驚く北大路を後目に土方はドヤ顔で説明を始めた。負けたくない一心での嘘だと近藤と新八は見抜いていたが。

更に食事の際に刹那に避けられている事も己を鍛える為だと見栄を張る。

 

 

「それは互いにただの不摂生」

 

 

その場を少し離れていた刹那は土方と北大路の所にお茶を置いた。

 

 

「お、悪い」

「ん、ああ……すまない」

 

 

お茶を出された二人は食後のお茶を堪能する。

 

 

「刹那ちゃん……居なくなったと思ったらお茶を煎れに行ってたの?

「ご飯の時はお茶が居ると思って」

 

 

新八は先程、刹那が離れた理由がお茶を煎れに行ったのだと解ると少し唖然とした。刹那は前掛けのエプロンを身に纏い、お盆にお茶を乗せて戻ってきたのだ。そして土方と北大路に振る舞った。

 

 

「はい、近藤と新八も」

「おお、すまないな」

「え、あ、ありがとう」

 

 

お盆の上に残された湯飲みを近藤と新八にも渡す刹那。

 

 

「ほう……上手い煎れ方だ」

「お茶の葉っぱが良かった」

 

 

北大路はお茶を一飲みすると上手く煎れた刹那を誉めた。対する刹那はお茶の葉っぱが良かったと言うが土方は首を横に振った。

 

 

「いーや、刹那の煎れ方が良かったんだ」

「うん……嬉しい」

 

 

グリグリと頭を撫でる土方に嬉しそうにする刹那。

先程までの殺伐とした雰囲気は薄れていた。



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上司が駄目だと部下が恐ろしく成長するもの

 

 

 

 

北大路は刹那の煎れた茶を飲み終えると手を合わせた。

 

 

「美味い茶を煎れて貰った後に戦うのは気が引けるがこれも若の為なのでな」

「タバコ吸いてぇな、灰皿ないか?」

 

 

北大路に対して土方はタバコを吸おうとしたが灰皿ないのか、周囲を見回す。

そして二人は同時に立ち上がり、木刀を振りかぶった。

 

 

「灰皿の前にごちそうさまは……なっ!?」

「お、お前……」

 

 

しかし、北大路と土方の木刀は振り抜かれる事は無かった。何故なら刹那が間に入り、土方に木刀を北大路にお盆を突き出して動きを止めたのだから。

 

 

「おい、なんのつもり……」

「食べ物粗末にしちゃ駄目」

 

 

北大路が刹那を咎めようとしたが刹那は首を横に振ると思った事を口にする。

土方と北大路が勢いを付けようとテーブルを踏もうとしたが、そうすれば残った料理は駄目になってしまう。

 

 

「何を生ぬるい事をこれは戦なんだぞ!」

「さっき北大路は達人は食事の作法でも違いが解るって言った。料理を粗末にするのが柳生家の作法?」

 

 

北大路は刹那を怒鳴ろうとしたが逆に刹那は北大路に問い掛ける。

 

 

「じー……」

「いや、だからな……」

 

 

刹那は北大路を見詰める。北大路は何かを話そうとするが上手く言葉が出ない。

 

 

「じー……」

「………戦とはな」

 

 

刹那の真っ直ぐな瞳に北大路は遂に目線を逸らした。

 

 

「わかった……俺が悪かった。ちゃんと外で戦うからそんな目で見ないでくれ」

「根負けしたよ!子供の純粋な目に耐えきれなくなったよ、あの侍!?」

 

 

北大路は刹那の視線に負け、料理を台無しにしない為に庭へ移動を開始した。そんな北大路に新八は驚く。

 

 

「へっ、柳生家も大した事ねーな」

「土方も同じ。それと携帯灰皿を持ち歩くようにして」

「………はい」

 

 

北大路を鼻で笑う土方だが刹那に言われて不満げにだが返事をした。

 

 

「正論で大人二人論破したよ、あの子!?」

「まあ、アレだ。家庭内でお母さんに勝てないのと同じだ」

 

 

驚く新八を後目に近藤はポツリと呟いた。

 

 

「最近、刹那は屯所内の家事を取り仕切ってる状態になっててな。料理も始めたし……」

「刹那ちゃんに任せきりなんですか?」

 

 

うーむ、と悩む仕草を見せる近藤に新八は尋ねる。

 

 

「いやな、昔は屯所内は隊士が清掃してたんだけど刹那が指揮し始めてから厳しくなってな。洗濯も業者に頼んでたんだけど刹那が真選組予算で洗濯機買ったし……それに料理も食堂のオバちゃん達に混ざって作ってるな」

「僕はどっちかと言えば、そこまで刹那ちゃん任せなのにショックなんですが……」

 

 

真選組が刹那の面倒を見ると言うよりも刹那が真選組の面倒を見ていた事実に新八は少なからずショックを受けていた。

 

 

 



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知らないとは罪だが、知りすぎるは罠

 

 

刹那に叱られ庭で戦う事になった土方と北大路。

二人は木刀を構えて対峙する。

 

 

「並外れた身体能力、反射神経。数多の死線をくぐり抜け培った勘と度胸。見事な者だがそんな戦いが通じるのは三流までだ。達人同士の戦いにおいては通用せん」

「テメーが達人だって?ホラ吹きだな」

 

 

土方と北大路は互いに木刀を振るいながら会話をする。激しい剣戟の中で会話をする辺り十分に達人とも言えるが。

しかし互角と思われた戦いも土方が劣勢になり始める。

 

 

「いかんな……あの男、トシの癖を見抜いている」

「土方さんの……癖?」

 

 

戦いを見ていた近藤が土方の劣勢を解説し始めて新八がそれに驚く。

 

 

「トシは実戦で鍛えられた直感力。謂わば危機察知能力で相手の気配を察知し、敵の攻めを制す。昔から最前戦で戦ってきたトシは誰よりもそれに長けている」

 

 

近藤は言葉を句切ると北大路に視線を移す。

 

 

「対して奴は敵を斬るよりも敵の意表を突き、1本取る術に長けたもの。道場剣術は攻防自在に転じている、攻めると見せて引き、引いたと見せて攻める……紛うことなき達人だ」

 

 

近藤の概説に新八は聞き入り、刹那は土方の戦いを終始無言で見詰めていた。

 

 

「確かにそうかも知れない」

「刹那ちゃん!?……刹那ちゃんは土方さんが負けると……?」

 

 

刹那の言葉に驚愕した新八は刹那に詰め寄る。

 

 

「違う。北大路は強いのは確かだけど、それはあくまで道場剣術での話」

「ふ、言ってくれるな小娘が」

 

 

刹那の会話が聞こえていたのか北大路がドヤ顔をする。

 

 

「そう言えば貴様も真選組だったな……喧嘩だ実戦だと声高に叫び道場剣術を軽んずる輩を沢山見てきた。嘆かわしいことだな貴様も柳生の道場に来ていればかなりの剣士になっただろうに」

「そんな事はない。それに私達が道場剣術を軽んじてるならアナタは実戦剣術を軽んじてる」

「何?……がはっ!?」

 

 

刹那に話し掛ける北大路だが刹那の会話に気を取られた北大路は土方に殴り飛ばされる。

 

 

「へっ……真選組から刹那を引き抜こうなんざ趣味が見えるぞ、この野郎。そんな事してみろ真選組隊士が挙って柳生道場潰しに来るぜ」

「くっ……貴様、水中から飛び出してくるとは」

 

 

土方は剣筋を読めない水中から木刀を振り抜き、北大路を庭の池に叩き落とした。

 

 

「俺が実戦剣術を軽んじてるか……そうかもな。喧嘩だ実戦だ。試合では負けたが我が流派は実戦向きだ。真剣勝負な我が流派は負けません。全てただの言い訳だ」

 

 

北大路は水の中から出ると眼鏡を外して語り出す。

 

 

「そんな戯れ言は聞き飽きた。そんな物は稽古をしない根性無しの言い草だ。どれだけ才能があり、どれだけ実戦を踏もうが努力した者には勝てない。俺はそう思っている。古い考え方と笑う者がいるがな」

「……言いてぇ事はそれだけか?」

 

 

そんな事を語る北大路に土方は先程よりも鋭い一撃を北大路に浴びせた。

 

 

「なっ……貴様……なんだ力が急に増して……」

「口だけは達者だな……道場剣術!」

 

 

困惑する北大路は土方の激しい斬戟を捌ききれずに北大路は少しずつ傷を増やしていた。

 

 

「………決まったな」

「…………うん。でも私は大丈夫」

 

 

その戦い振りを見ていた近藤は刹那の肩を抱き寄せた。刹那の肩は震えていた。

 

土方が激怒したのは北大路が語った事だ。北大路は実戦の生きるか死ぬかの世界を軽んじて笑ったがソレは刹那の生き様全てを否定した言葉だった。

勿論、北大路はその事を知らないが刹那を悲しませ、土方を激怒させるには十分すぎる理由だった。

 

 

「実戦を知らないボンボンが……語ってるんじゃね-!!」

「グフォアっ!?」

 

 

土方の強力な一撃は北大路を吹き飛ばした。それは北大路の皿を破壊し、北大路の意識を刈り取るには十分な一撃だった。

 

 

「っち……つまらない喧嘩しちまったな」

「……土方」

 

 

土方は舌打ちをすると刹那を一瞥した。

 

 

「つまらなくなんてない。土方が怒ってくれて嬉しかった。私はやっぱり真選組に拾われて良かった」

「そうかい」

 

 

 

刹那の言葉に土方は口端を上げると刹那の頭を一撫でした。



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人は弱気になってから励まされて更にヘコむ時がある

 

 

 

 

北大路を倒した土方を連れて刹那達は庭と言うか森の中に身を隠していた。

そして土方は新八や刹那から現在の状況を聞いていた。

 

 

「そうか……総悟が……くくっざまぁねぇな」

「土方も似たような状態」

 

 

頭から血を流す土方に刹那は包帯を巻いていた。因みに近藤はトイレに入って別行動になっている。

土方は懐からタバコを取り出すと火を付ける。

 

 

「しかし、奴等は俺達を見くびっていたが俺達も奴等を見くびっていたらしい。三下であの強さとはな」

 

 

土方は柳生四天王の強さを実感していた。西野や南戸は弱い部類だったが北大路の強さは本物だった。

土方は至って真面目に話をしているのだが土方が火を灯したのはタバコではなく花火だった。土方が口に咥えた状態で綺麗な火花を散らす様はギャグにしか見えない。

 

 

「でも土方さんでさえ、この有様なら僕なんかじゃ……」

「新八、弱気になるのは厳禁」

 

 

柳生家の強さを目の当たりにした新八は弱気になっていたが刹那が励まそうとする。

 

 

「新八ならきっと風のヒューイやブロッケンJr.みたいに強くなれる」

「なんで補欠感漂う微妙なラインナップをチョイスしたのっ!?」

 

 

実力は有るが恵まれない達人を引き合いに出されて新八は更にヘコんだ。

 

 

「お前等、静かにしろ!」

「っ……来た」

 

 

土方の言葉に身を屈めて草むらから様子を窺う刹那。視線の先には九兵衛と東城が此方に向かって歩いてきていた。

 

 

「遂にお出ましか……なんで奴等は俺達の居場所が……」

「テメーが口に咥えてる物見てから言いやがれ!」

 

 

土方は自分達の居場所が知られた事に驚いたが新八のツッコミの通り、土方が口に咥えて現在も派手に火花を散らしている花火が原因なのは間違いない。

 

 

「ちっ……退くぞ!近藤さんは!?」

「それがさっきからトイレに呼び掛けても返事が無くて……」

 

 

今の状態では不利と感じた土方は一時撤退を考えた。先程トイレに入った近藤の様子を聞く土方だったが新八からの答えは近藤がトイレから戻らず行方不明との事だった。

 

 

「ちっ!仕方ねぇ……行くぞ!」

「土方……近藤は?」

 

 

土方は刹那の手を取り、撤退を開始する。刹那は土方に近藤を捜さなくて良いのかと視線を投げ掛けた。

 

 

「声を掛けて返事が無いなら既に移動したんだろ。それに近藤さんなら敵と遭遇してもなんとかするだろ!」

「……ん」

 

 

土方の言葉に刹那は納得したのか土方と並んで走り始め、新八はその後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、先程トイレに入った近藤は

 

 

 

 

「紙が……神が俺を見放したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

入ったトイレに紙が無く、ケツも拭けずに苦しんでいた。

 

 

「トシ、新八君!刹那ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!ヘルプミー!」

 

 

 

近藤の叫びは虚しくトイレに響き渡った。



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極限の戦いと当たる勘

 

 

九兵衛から逃げる土方達だが土地勘の無い場所である事と土方の体力が低下している事も有り、追い着かれそうになっていた。

 

 

「ちっ……仕方ねぇ…眼鏡!先に行って姉貴に会ってこい!」

「土方さん!?」

 

 

足を止めて追ってくる九兵衛と対峙する土方。

 

 

「わかってんだろ……いくら喧嘩に勝ってもお前の姉貴の心が動かなきゃ意味は無いって事が……」

「……土方さん」

「土方、なんか嫌な感じがする」

 

 

土方の叱咤に新八は迷った様子だった。そんな中、刹那が口を開く。

 

 

「ちっ……雲行きが怪しくなってきたか……刹那の勘は当たる。さっさと行け眼鏡!刹那、お前は眼鏡の護衛だ!」

「………マヨネーズ、奢ります」

「……ん」

 

 

土方の叱咤に新八は頭を下げると柳生家の屋敷へと走り、刹那もその後を追った。

 

 

「仲間を置いて逃げたか……大した大将だな」

「ボンボンには分からねぇーだろうな……何処に居ようが何処で戦おうが俺達は同じ戦場に立っている……」

 

 

土方に追いついた九兵衛は離れていく新八と刹那を見て呟くが土方はそんな九兵衛を鼻で笑う。

 

 

「あの娘も娘だ……大きな口を叩いておきながら逃げるとは」

「勘違いすんな。刹那にゃお前と戦うよりも重要な役目を与えたんだ」

 

 

九兵衛の言葉に土方は咥えていたタバコを吐き捨てる。

 

 

「さぁ……やり合おうや。極限の戦いをしてきた俺達の戦を見せてやる」

「ふっ……面白い」

 

 

土方はタバコを踏んで火を消すと木刀を肩に担いで九兵衛を挑発し、九兵衛はその挑発に乗って木刀を構えた。

 

 

 

 

 

◆◇その頃、近藤◆◇

 

 

 

「「「極限だぁ……」」」

 

 

トイレで大の男が四人同時に呟いた。

最初にトイレに入っていた銀時、その次に入っていた柳生敏木斎、更にその後に入ってきた近藤、そして銀時や近藤が動けないと知って優位に立っていた筈の東城だった。

 

 

「ちょっと東城さん!?アンタ、今の今まで凄い優位に立ってたじゃん!何してんの!?」

「お腹を壊してしまいまして……あ、やっぱまだキツい……」

 

 

近藤は先ほどトイレに入ってきた東城に叫ぶ。そう先ほどまで優位に立ってはいたのだが腹を下してトイレに駆け込んだ東城は程なくして銀時達と同じ立場に立たされていた。

 

 

「どーすんだよコレ!つーかケツが拭けなくて負けただなんて刹那に知られたくない!」

「ご安心を私も若に腹を下して負けたと報告する気はありませんから」

「全然、安心できねーよ!」

 

 

近藤の叫びに東城が意見を出すがそれは意味の無い意見だった。

 

 

「つーか、ゴリラが親になった段階で刹那は後ろ指を差されるのは決まったんだ。今更だよ」

「そうじゃぞ解説キャラが良いか、下っぱキャラに抱き付かれて死亡するか選ぶが良い」

「どっちもマトモな意見じゃねーだろ!後、俺は解説キャラじゃねーよ!つーか結局ヤムチャかよ!」

 

 

銀時と敏木斎の発言にキレる近藤。先程も銀時にヤムチャレベルの解説と言われたばかりだった。

 

 

「それに解説キャラなら富樫辺りがいい!」

「お前はキャラ的に田沢だよ」

 

 

近藤は他の解説キャラを例えに出すが銀時はそれを否定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇その頃、刹那&新八◆◇

 

 

 

「刹那ちゃんの勘ってそんなに当たるの?」

「………ん」

 

新八は先ほど土方が言っていた刹那の勘に付いて尋ねた。刹那は少し悩んでから口を開く。

 

 

「そんなでも無い。テリーマンの靴紐くらいの確率」

「ほぼ百発百中じゃねーか!」

 

 

刹那の発言に新八は敵地である事を忘れて大声でツッコミを入れた。



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柳生家のセレブ

 

 

 

刹那や真選組、万事屋が柳生家に戦いを挑んだ頃、お妙にも動きがあった。

嫁入りとして花嫁修業をしていたお妙だが其処に柳生家当主『柳生輿矩』の発言から新八達が自分の為に柳生家にケンカを売りに来た事を知った故、花嫁修業から脱走して新八達を捜すべく走り出していた。その際にお妙は輿矩の顔面を足蹴にしてK.O.した。

 

 

そして一方で刹那と新八は柳生家の屋敷内を走り回っていた。時折、柳生家の門弟が襲い掛かってきていたが刹那が秒殺で片を付けていた。

 

 

「姉上が居ない……何処に居るんだ?」

「これだけの騒ぎになってるからお妙にも話は伝わってる筈。兎に角、走り回るしか無いと思う」

 

 

お妙が中々、見付けられない事に心配を露わにする新八だが刹那が静かに諭した。その時だった。

 

 

「新ちゃん、刹那ちゃん!?」

「姉上!?」

「あ、居た」

 

 

柳生家の廊下からお妙が女中に追い掛けられながら走ってきたのだ。それを見た新八と刹那は即座にお妙に合流した。

 

 

「姉上!」

「二人とも……なんで……」

「話は後、来た」

 

 

合流すると新八はお妙の手を引いて走り、お妙は何故此処に来たのかと問おうかとしたが刹那に止められる。三人の走る進行上に先程、お妙がK.O.した筈の輿矩が部下を引き連れて現れたのだ。

 

 

「逃がさんぞ、お妙ちゃん!小僧共、柳生家にケンカを売りに来るとは覚悟は出来てるんだろうな!」

 

 

輿矩は怒りを露わにして叫ぶ。背が小さく、威厳の無さそうな風貌だがこうして怒る姿は柳生家の当主としての貫禄を出していた。しかも輿矩だけではなく、柳生家の門弟もセットで木刀を構えているだけに絶体絶命な状況である。

 

 

「新八、お妙。回り道をして」

「え、刹那ちゃん!?」

 

 

その状況を見た刹那は木刀を振りかぶると勢い良く、輿矩の一団に投げつけた。凄まじい勢いで飛来する木刀の直撃を受けた先頭の門弟が倒れたと同時に刹那は既に間合いを詰めており、走る勢いをそのままに浴びせ蹴りの良いに飛び上がると両足で踵落としを放った。これにより門弟二人を沈めると素早く立ち上がり先程投げた木刀を拾い上げて一閃し、更に二人を倒してしまった。

 

 

「こ、こいつ強いぞ!」

「一瞬で五人も倒しやがった!?」

 

 

残った門弟が叫ぶ。それはそうだろう年端もいかぬ少女が瞬く間に柳生家の門弟を五人も倒したのだから。

 

 

「新八、お妙を連れて先に行って。片付けたら私も後を追う」

「………刹那ちゃん」

 

 

刹那は振り返らずに新八にそう語る。新八には刹那の背が早く行けと急かしている様に見えた。

 

 

「行きますよ姉上!」

「あ、ちょっと、新ちゃん!?」

 

 

新八は意を決するとお妙の手を握り、柳生家の屋敷の中へと逃げていった。

 

 

「逃がすか、追え!」

「「はい!」」

 

 

 

新八とお妙が逃げたことに輿矩は慌てて門弟に後を追う様に叫び、門弟は輿矩の命を受けて屋敷の中へ入っていった。

 

 

「残念だったな。キミは此処で終わりだ」

「皿……じゃあアナタが柳生家の当主?」

 

 

輿矩は皿をハチマキで頭に巻く。その仕草に刹那は輿矩が先程、九兵衛の言っていた柳生家の当主だと分かった。

 

 

「まったく天下の柳生家を滅茶苦茶にしてくれたね。柳生家は将軍家お抱えだよ?」

「その辺りは関係ない。私は私で仕事の為にも来ている」

 

 

輿矩は柳生家の格式を自慢するが刹那には意味が無かった。刹那の言葉通り、刹那は真選組として来ているので実際、柳生家かどうかは二の次である。

対して輿矩は道場破りに来ていた者に門下を倒された上に真選組を倒さない事には九兵衛の逮捕状も取り消せないと言う事から柳生家の威信を賭けた闘いにもなっていた。

刹那は会話を打ち切ると木刀を水平に振るい、輿矩の胴を狙うが輿矩は刹那の木刀を自身の木刀で受け止めると鍔迫り合いに持ち込む。更に鍔迫り合いを力業ではね除けると刹那に対して鋭い突きを放つ。

刹那はそれをバク転で回避すると輿矩との距離を取った。

距離を空けた刹那と輿矩だが輿矩は木刀の先を刹那に伸ばす。

 

 

「セレブな柳生家は私が守る!」

「セレブ……ウルトラマンに化けて悪い事してた人?」

 

 

輿矩の言葉に刹那は小首を傾げた。

 

 

「それはセレブじゃなくてザラブだろうが!」

 

 

刹那のボケに輿矩は律儀にツッコミを入れた後に刹那に襲い掛かった。



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愛とエゴ

時間かけた上に短めです。
上手く纏められず悩み中。


 

 

トイレで極限の戦いをしていた近藤達にも動きがあった。柳生敏木斎が紙ヤスリを持っていた。しかも両目使用で粗めのを。

これでは拭けないと悩んでいた大人が四人だったが近藤と東城が紙を持っていたのだ。

近藤はお妙と刹那の写真を。東城は九兵衛の写真を。

近藤と東城は悩んだ末に所持していた紙でケツを拭いた。近藤は紙ヤスリで、東城は写真で。

 

 

「お妙さん……アナタの笑顔が見たくてここまで来ましたが俺はここまでの様です。刹那……後は頼むぞ」

 

 

結果として近藤が勝ったが紙ヤスリでケツを拭いた代償に尻が血だらけになり、ここでリタイヤとなった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

刹那と輿矩は木刀を構えて、睨み会う。

 

 

「柳生家も九兵衛も私が守るのだ!それは誰にも邪魔はさせん!」

「親が子を庇うのは解る。でも今の九兵衛は許されない事をしてる」

 

 

輿矩は木刀を振り、刹那に襲いかかるが刹那は木刀を横に構えて斬撃を受け止める。

 

 

「警察関係者に暴行したり、お妙を連れ去ったり……女同士で変な話」

「………気付いていたのか、九兵衛が女である事に」

 

 

木刀を振っていた輿矩は腕を止めてしまう。刹那は今までの疑問をぶつけた。

 

 

「最初に会った時から気付いた。近藤達は気付いてなかったみたいだけど時間の問題」

「私とて正しいとは思わん……だが我が子の為だ!」

 

 

輿矩はやけくその様に木刀を上段に振りかぶりながら刹那に迫った。

 

 

「親が子を守るのは親の愛だけど度が過ぎれば、それはエゴ」

 

 

刹那は木刀を顔の前で横に構えると瞳を閉じた。輿矩は木刀を振り下ろした。

 

 

「目を閉じるとは……観念したか!?」

「………みずち」

 

 

刹那は輿矩の目に見えぬ早さで木刀を振り抜き、輿矩と交差して背を見せた。

パサリと刹那の髪を止めていたヘアゴムが斬れて三つ編みにしていた刹那の髪がサラッと風に揺れた。

 

 

「今のは手加減して髪止めだけを狙った。次は怪我をするぞ」

「………」

 

 

輿矩は振り返り、刹那にドヤ顔をしながら語り、刹那は無言だった。

 

 

「私の剣に対してキミはどうだ?私の体に一撃も入らなかった。ただ涼しいそよ風が来ただけだ」

「………」

 

 

刹那は輿矩の言葉を無視するかの様に髪を揺らしながら先程、新八達が向かった方角へ歩き始めた。

 

 

「どこへ行く?勝負はまだ……」

「勝負は既に着いてる」

 

 

輿矩の言葉にようやく反応した刹那。そして刹那の口が開いたと同時に輿矩の皿にヒビが入る。

 

 

「な、いつの間に!?」

「アナタも聞いたでしょ……神風の清響を」

 

 

驚愕する輿矩を尻目に刹那が笑みを浮かべる。それと同時に

輿矩の皿は音を立てて割れてしまった。

 

 




『みずち』

『SAMURAI DEEPER KYO』の主人公『狂』が使用した技で地面を進む衝撃波が敵を斬り刻む。しかし作品前半の強敵には効かなかったり、防がれたり、避けられたりする悲しい技。
修行後の狂のみずちは、凄まじい剣速で相手を斬り刻む技。 斬られた者は痛みも感じず、絶命の瞬間には心地よささえ覚えるという。
壬生京四郎の場合、一陣の風が通り過ぎたと感じた時、相手はすでに息絶えている。
力でねじ伏せるような狂の「みずち」に対して、京四郎の技は華麗その物。


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シンプルな罠ほど掛かりやすい

 

 

 

 

輿矩を倒した刹那は銀時達と合流する為に移動していたがその途中で柳生家の門下生達を見かける。

刹那は咄嗟に茂みに身を隠した。

 

 

「若様を助けに行くぞ!」

「しかし輿矩様の指示も無しにか!?」

「そうだぞ!四天王でさえ負けてるのに!」

「つべこべ言うな!若様を守る為だ!」

 

 

柳生家の門下生は刹那に気づかずにそのまま対決が行われている場へと行ってしまう。

それを確認した刹那は溜め息を吐きながら身を乗り出す。

 

 

「真選組も柳生家も……過保護は変わらない」

 

 

刹那はフゥと一息つくと何処から取り出したのかスコップを肩に担ぐと歩き始めた。

 

 

その頃、一方で対決の方も動きがあった。

土方は九兵衛が女であると気づくと剣に迷いが出てしまい、敗北してしまう。

そしてそこに鉢合わせてしまう新八とお妙。

九兵衛の口から語られたのは九兵衛とお妙の過去。

それは幼少期に泣いていた九兵衛を助けたお妙。

そのお妙に女の子でありながら男として育てられた九兵衛は惹かれてしまう。

それから少ししてお妙の道場の借金取りがお妙と新八を連れ去ろうとしているのを見た九兵衛は借金取り数人に戦いを挑み、その最中で片目を失ってしまう。

そして九兵衛とお妙はある約束をする。それはお妙が九兵衛の左目の代わりをするという事だった。

 

そして時は流れて今に至るとの事だった。

その話を聞いた新八と銀時はぶちギレる。

新八は九兵衛に銀時は敏木斎に斬りかかった。

 

「勝手な事を!」

「ゴチャゴチャ語ってんじゃねェェェェェェッ!」

 

 

新八と銀時がシンクロしたかの様に台詞を叫ぶ。

 

 

「惚れた相手を泣かせる奴は!」

「男だろうが女だろうが」

「「カス野郎じゃボケェェェェェェッ!!」」

 

 

いきなり力が増した新八と銀時に驚愕する九兵衛と敏木斎。先程まで優勢に立っていた九兵衛と敏木斎は銀時達に押されぎみとなってしまう。

 

銀時達と九兵衛達が決着を着けようと対峙すると柳生家の門下生達が一斉に姿を表した。

 

 

「若を守れェェェェェェッ!」

「道場破りどもを殲滅しろォォォォォォッ!」

「ひっ捕らえろォォォォォォッ!」

 

それぞれが口々に叫びながら銀時達に襲いかかろうとする。

しかし突如現れた近藤や土方、沖田に阻まれてしまう。

 

 

「邪魔すんじゃねェェッ!男と男…いや、男と女……違うな侍の決闘を邪魔する奴はこの俺が許さん!」

「旦那方、早いとこ決着つけてくだせぇ!片足じゃ五分が限界でさぁ!」

「なんで俺に乗ってんだテメーは!」

「姉御、男共が情けないから私が助けに来たヨ!」

 

 

近藤、土方、沖田、神楽は次々に柳生家の門下生を倒していく。それを見たお妙は感極まって泣いてしまう。

 

その時だった。柳生家の門下生がさらに増えたのだ。流石にこれは多勢に無勢かと思われたが突如、門下生達は落とし穴に落ちてしまう。

 

 

「ええェェェェェェッ!?なんで落とし穴が!?」

 

 

柳生家の敷地内に何故か巨大な落とし穴があるのか驚いているとスコップを肩に担いだ刹那が姿を表した。

 

 

「………平安京エイリアンの術」

「止めろ!上から土を掛けるな!」

 

 

刹那は落とし穴に落ちた門下生達に担いでいたスコップで土を被せて埋めようとする。

 

 

「つーか、いつの間に掘ったこんな穴!?」

「バレない様に私自ら掘った。落ちた事を誇りに思うと良い」

「ロンドンハーツのスタッフかテメーは!」

 

 

門下生の疑問を刹那はドヤ顔で答え、門下生は更にツッコミを重ねた。




『平安京エイリアン』
碁盤目状の迷路で穴を掘り、落ちたエイリアンを埋めることによって退治していくゲーム。
GS美神でも横島が同様の罠を仕掛けた。


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見たかった笑顔

 

 

平安京エイリアンの術で大半の敵を沈めた刹那。そこから銀時達の加勢をしようとしたが既に決着は付いていた。

銀時が九兵衛の皿を割り、敏木斎が銀時の隙をつき皿を割った。更にその直後、新八が敏木斎の皿を割ったのだ。

あまりにも早い決着に刹那が加勢をする前に戦いは終わってしまったのだ。

 

その後、刹那に敗れた輿矩が残りの門下生を引き連れて現れたが敏木斎に止められる。

九兵衛はお妙に膝枕をされながら今までの人生が辛かった事を吐露した。守られていた事も知っていた愛されている事も理解していた。だが女の子でありながら男として育てられた事を恨んでいた事も。

九兵衛の流す涙に柳生家の者達は何も言えずただ話を聞くしかできなかった。

 

 

「刹那……ちゃんだったね。すまなかった」

 

 

九兵衛は立ち上がると両手を前に出した。容疑者が手錠を付けられる様な仕草をしている辺り覚悟を決めた様だ。

 

 

「………必要ない」

「あ、おい!?」

 

 

その様子を見た刹那は先程の罪人状を土方が吸っていたタバコに押し付けて燃やし始める。それを見た九兵衛は驚愕した。

 

 

「九兵衛の言う通り、真選組も少し情けなかったのかもしれない。けど怪我をさせた隊士達には謝って」

「だが……しかし……」

「逮捕状を持ってきた刹那がそう言ってんだ。従っとけ」

 

 

逮捕状が灰となり、そのままその場を後にしようとする刹那に九兵衛は戸惑ったままだが土方が後押しをした為に九兵衛の罪は一時的に帳消しとされた。

 

 

「いやぁ、ありがとうございます。この東城歩、感謝の言葉しか……」

「逮捕状は帳消しにするけど貸しはいつか返して貰うから」

 

 

九兵衛の罪が帳消しになった事を感謝しようとした東城だが刹那は東城を見上げながら告げる。

後に東城はこう語る「あの背中はいぶし銀だった」と。

刹那は帰り際に十夜から「また怪我を診るからいつでも柳生家においで」と言われた。その事に頷いた刹那だったが親バカが炸裂した近藤が十夜を睨み、刹那のアッパーが近藤の顎に的確にヒットするのだった。

 

 

その後の話をすると本来、行われる筈だった近藤とバブルス王女との結婚式は中止となった。

それと言うのも刹那が今回の一件を松平に話したからである。近藤には惚れた人がいると話し、今回の見合い話を無しにしてもらったのだ。更に話をややこしくさせた件も含めて柳生家からの口添えもあり、近藤とバブルス王女との結婚式は中止となり、柳生家は真選組に貸しを一つ返した事となる。

 

二つ目に真選組と柳生家、そして万事屋とお妙を交えて親睦会が開かれた。これは迷惑をかけた代償として柳生家主催で開かれた物であり、九兵衛が真選組隊士に頭を下げる場として設けられた場でもある。

謝罪後に本格的な親睦会となったのだが刹那の腕前に惚れ込んだ柳生四天王が刹那を柳生家に率いれようと話を始める。

これには九兵衛も乗り気になってしまっていた。

何故ならば九兵衛からしてみれば、お妙との繋がりを更に求められる上に妹みたいな存在が出来るのだから旨味ばかりの話である。

当然の事ながらそれを黙って見過ごす真選組ではなかった。

初めは真選組と柳生家の口論だったが酒が進んでいた事もあり、速攻で事態は喧嘩へと向かう。

親睦会の名目は何処へやら今や『真選組と柳生家の親睦会』から『真選組と柳生家の刹那争奪戦』へと変わっていた。

 

遂には乱闘までに発展したのだが、お妙はその光景を見て笑っていた。その笑顔を見た九兵衛はその笑顔こそがずっと自分が見たかった『お妙の笑顔』だったと思い静かに笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

因みに余談だが『真選組と柳生家の刹那争奪戦』は当の本人が乱入し喧嘩両成敗をしてノーゲームとなったとだけ記された。




かなり足早に書き上げましたが今回で柳生編終了です。次回はオリジナル回です。


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新たな刀とへたれ

 

 

 

柳生家騒動から暫くした後、刹那は鉄子の鍛冶屋に顔を出していた。

安兵衛も来ており、二人は並んで正座をして刹那を出迎える。

 

 

「刹那、待ってたよ」

「今日は重大な話がある」

 

 

鉄子と安兵衛は真面目な顔つきで刹那に話しかける。空気を察したのか刹那は二人と向かい合う様に座った。

 

 

「わかった……式はいつ?」

「ぶふぅ!?」

 

 

刹那の言葉に安兵衛は盛大に吹き出した。

 

 

「ちょっと刹那、何を!?」

「?……重大な話って言って二人並んでたから」

 

 

慌てる鉄子に刹那は小首を傾げる。

 

 

「ち、違う……違うから!」

「松平もこの間の一件で見合いがダメになったからたぶん乗り気で……」

「その話は後にしろ!その話も重要な話だが、今日の重要な話はこっちだ!」

 

 

顔を赤くする鉄子に刹那は話を捲り立てるが安兵衛が何かを取り出して話を中断した。

 

 

「これ……刀?」

「そうだよ。刹那に頼まれてた……魂の刀」

 

 

刹那が安兵衛の持ってきた刀を指差すと鉄子が刹那の肩に手を置いて説明する。

 

 

「ほら、持ってみな」

「ん」

 

 

カチャリと音を立て刹那に刀を手渡す安兵衛。刀を受け取った刹那は刀を引き抜いた。

 

 

「………凄い……綺麗。それに手に馴染む感じがする」

 

 

刹那の手に納められた刀は銀色に輝いていた。

 

 

「その刀にも名を付けたんだ。名は『止水』」

「……止水?」

「明鏡止水とか……犯罪と言う水を止めるって意味で『止水』だ」

 

 

刀に付けた名の由来を話す鉄子と安兵衛。

 

 

「大事にする……あ、そうだお金」

「おっとお代は結構だ」

 

 

財布を取り出そうとする刹那を安兵衛が止めた。

 

 

「お金よりもね、刹那に止水を打ってあげる事が出来たのが私達は嬉しかったの。だからお代は受け取れない」

「…………わかった。じゃあ鉄子と安兵衛の結婚式を盛大な形でする事で借りは返す」

「まだ言うかテメェ……」

 

 

刹那に微笑む鉄子。刹那は止水の代金は二人の結婚式で返すと言うが話をぶり返した刹那に安兵衛はグリグリと頭を撫でた。

 

 

「ともあれ、その刀を有意義に使ってくれや。それが何よりもの代金にならぁ」

「ん、わかった」

「またいつでもおいで」

 

 

鉄子と安兵衛に見送られて刹那は鍛冶屋を後にした。小柄な刹那に長刀の止水は大きく、ミスマッチな取り合わせに二人は笑みを溢した。

 

 

「良かったな……刹那に止水を渡す事ができてよ」

「うん……兄者との約束もこれで果たせた」

 

 

安兵衛は鉄子の肩を抱き、鉄子は安兵衛に抱かれた心地好さに微笑んだ。

 

 

「ねぇ……安兵衛さん」

「ん、どうした?」

 

 

鉄子は安兵衛を見上げ、安兵衛は鉄子の仕草にドキッとする。

 

 

「さっき刹那が結婚式の話を出した時に安兵衛さんは『その話は後にしろ』って言ってたけど……」

「あ、いや……それはだな……」

 

 

安兵衛は鉄子の肩から手を離して狼狽する。

 

 

「……冗談ですよ」

「お、おう……」

 

 

鉄子は少し残念そうな顔をした後に鍛冶屋に先に戻ってしまう。それを見送った後に安兵衛は自信のへたれ具合を呪うのだった。

 




いざと言うときにへたれる。それが安兵衛。


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バカな保護者にはツープラトン

今回もオリジナル回です。


 

 

 

 

 

「お妙さ~ん!」

「飲み過ぎですよ近藤さん」

 

 

お妙が働くスナックに近藤は飲みに来ていた。

近藤は既にベロベロに酔っており、お妙に猛烈なアプローチを掛けようとするが、お妙は笑顔で右ストレートを近藤の顔面に叩き込んでいた。

 

 

「もう近藤さんったら……刹那ちゃんの事もあるんですからあまり、屯所を空けるのは良くないんじゃないですか?」

「お妙さん……ありがとうございます刹那の心配をしてくれて。でもね刹那に言われたんですよ『私は大丈夫だから近藤も好きな様にして』とね。情けないんですが真撰組の中じゃ刹那に気を使う所か我々が刹那に気を使われてまして……」

 

 

親代わりの近藤が居ないことを心配するお妙だが近藤の発言からむしろ刹那の方が大人だと感じるお妙だった。

 

 

「それに俺とお妙さんが夫婦になれば刹那も義理姉が出来る……皆で幸せになれますよ!」

「刹那ちゃんが妹になるのは歓迎しますけどゴリラと夫婦はお断りします」

「グオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォッ!?」

 

 

近藤の発言にお妙は近藤の腕を捻り上げて間接を極める。更に前屈みの体勢になった近藤の両足に自身の足をねじ込み、近藤の腕を鳥が羽ばたく様な姿勢に固めた。

これぞウォーズマンの必殺技『パロ・スペシャル』である。

 

 

「そのまま顔を地面に叩き付ければパロ・スペシャル、ジ・エンドになる」

「あら刹那ちゃん、いらっしゃい。近藤さんのお迎え?」

 

 

そんな中、突如現れた刹那が技の解説をする。

お妙は近藤にパロスペシャルを極めたまま、にこやかに刹那を迎え入れる。

本来ならお妙の店は未成年立ち入り禁止のスナックだが刹那は酔った近藤や松平を迎えに来る機会が多く、既に顔パスくらいの状態になっていた。

本日は夜のパトロールの途中で寄ったのか真選組の制服のままだった。

 

 

「いつもお疲れ様ね。昨日は松平様のお迎えだったでしょう?」

「ぐふぉ!?」

「もう慣れた」

 

笑顔のまま会話を続けるお妙に床に顔面を押し付けられた近藤が悲鳴を上げる。刹那はこの手の状況に慣れてきたのか普通に会話を続けた。

 

 

「痛たたっ……お妙さんの愛が痛いぜ」

「それは物理的に痛いだけ」

 

 

床に顔面を強打した近藤は鼻血を出しながら刹那を見上げた。そんな近藤に刹那は鋭いツッコミを入れる。

 

 

「ん?……なっ、刹那!」

「えっ!……な、何?」

「近藤さん、どうしたんですか!?」

 

 

近藤は立ち上がると刹那の肩に手を置いて刹那に詰め寄った。突然の事態に刹那もお妙も泡を食う。

 

 

「刹那……刹那にはまだ黒は早すぎる!」

「黒?……あ……」

 

 

近藤の叫びに刹那は当初、首を傾げるが意味を理解して顔を赤らめてスカートをサッと押さえた。その仕草にお妙も近藤の発言の意味を理解する。

そう近藤が刹那を見上げた際に刹那のスカートの中身が見えたのだ。そして近藤は近藤なりの理論で刹那を諭そうと立ち上がったのだ。

 

 

「いいか刹那。黒ってのはだな大人の女性が身に付ける言わば黄金聖衣だ。刹那にはまだ早い。そりゃ背伸びしたい年頃ってのは理解するが……」

「近藤さん?」

 

 

熱く語る近藤。刹那は耳まで真っ赤になっているが近藤は気付かずに語り続けるが、お妙が背後から近藤の肩を掴んで振り向かせる。

 

 

「まあ、近藤さんは刹那ちゃんの保護者ですもの。心配して色々と言いたいのは分かります。分かります……けど」

「……手伝う」

「え、お妙さん?え、刹那も!?」

 

 

お妙は掴んでいた肩を近藤の腰と膝に切り替える。刹那もお妙と同じ動きで左右に別れて近藤の腰と膝を掴んだ。

 

 

「年頃の乙女に注意するなら場所と言葉を選べやコラァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

「グギャァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

 

 

お妙と刹那のダブルバックドロップボムを食らった近藤は床にめり込む程の衝撃を受けた。

 

 

「まったく……でも近藤さんもデリカシーの欠片も無かったけど確かに刹那ちゃんに黒は早いわよ?」

「………私が買った訳じゃない。前に服屋の店員さんが選んでくれた奴。買って貰ったのに履かないのは……勿体ないと……思って……」

 

 

お妙に説明する途中でプシュ~と顔が赤くなっていく刹那。刹那の服は以前、土方と買い物に行った際に店員がチョイスしたのだが、下着も店員が選んでいた。基本的には年頃の娘が使用するに相応しい物ばかりだったのだが中には黒などのセクシーチョイスも混じっていた。

刹那は買って貰ったのに履かないのは勿体無いと思い着用したのだが運悪く、その下着を着用した時に近藤に見られてしまったのだ。

 

 

因みにお妙と刹那のツープラトンによるバックドロップボムで完全にKOされた近藤は動けなくなり、結局刹那が真選組屯所に連絡をしてパトカーで迎えに来てもらい近藤を運ぶ事になった。

土方が運転をして刹那は助手席に座り、近藤は後部座席で横になっていたのだが刹那は時おり、後ろを振り向き近藤を見るがすぐに視線をそらして頬を膨らませながらツンと近藤から視線を外した。

そんな刹那の仕草に今回の事情を知らない土方は怪訝な表情でタバコを吸っていた。




『パロ・スペシャル』『パロ・スペシャル、ジ・エンド』

キン肉マンの登場人物ウォーズマンの必殺技。
ウォーズマンがキン肉マンとの戦いで披露した際は技を外そうとするキン肉マンのパワーを吸収し、自分のパワーに変えて更なるダメージに反映させていた。
『パロ・スペシャル、ジ・エンド』 は『パロ・スペシャル』を極めたまま相手の顔面をマットに叩きつける派生技


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社会見学とキャバ嬢

 

 

 

 

「社会……見学?」

「そうよ、刹那ちゃんも剣ばかりじゃなくて他の事にも目を向けなきゃ」

 

 

とある日、刹那は九兵衛と共にお妙が働いているキャバクラに来たのだが急にお妙に手を取られるとそんな事を力説された。

話を聞くと今夜、キャバクラに上客が来店するらしいのだが働いていたキャバ嬢達は尽く夏風邪でダウンしてしまった。そこで急遽、人集めとなった際に丁度、差し入れを持ってきた九兵衛と東城。更に付き添いで偶々一緒に来た刹那。これ幸いと手伝ってほしいとお妙は九兵衛と刹那に目を付けたのだ。

 

 

「おい、剣道場の娘が『剣以外の事に興味を持て』とか言ってんぞ」

「姉上……道場復興の為に金貯めてんのに剣を捨てろは無いよ……」

 

 

銀時のツッコミも新八の嘆きも妥当である。

 

 

「さあさあ、そうと決まったら二人共着替えましょう!」

「え、あ、ちょっと……」

「私はまだ、うんとは……」

 

 

お妙は九兵衛と刹那の返事も待たずに店の奥へと二人を連れていってしまう。

 

 

「大丈夫なんでしょうか……特に刹那ちゃんは真撰組で近藤さんが保護者なんですよ。バレたら何を言われるか……」

「大丈夫だって。あのゴリラも着飾った刹那の写真でも撮っておけばコロッと許すだろうよ」

 

 

刹那の立場を考えるとキャバ嬢をやらせるのは不安と思う新八だが銀時は楽観的だった。

 

 

 

そして着替えを終えた九兵衛が姿を表した。

九兵衛は男装の服からミニスカートの着物にニーソックス。更に髪型をポニーテールからツインテールに変更され、眼帯は可愛らしい花柄の物に変更された。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!九ちゃん可愛い!」

「いいよコレ!いけるよコレ!」

 

 

九兵衛の姿にお妙は歓喜の声を上げて抱きつき、キャバクラ店長も大絶賛だった。

案の定、東城は『若になんて真似をさせてんだ』とキレたが九兵衛のツッコミにより撃沈された。

恥ずかしいが以前、迷惑をかけた詫びとして九兵衛はキャバ嬢をすると言ったが九兵衛は男に触れられると反射的に殴る、投げる等の行動に出る事を東城から明かされる。少々の不安も残るがなんとかしようと話は纏まった。

 

 

「んで、刹那は?」

「あら、衣装は渡したから直ぐに……」

 

 

そこで銀時達は刹那が居ない事に気づき、辺りを見回す。お妙もあの衣装なら直ぐに着替えられると言ったのだが刹那の姿は見えなかった。

 

 

「あ、あの……」

「あら、刹那ちゃんそこに居たの?」

 

 

着替えるための衣装部屋の入り口からはピョコンとウサギの耳が生えていた。お妙がそれを確認すると刹那の手を取り、衣装部屋から刹那を引っ張り出した。

 

 

 

「…………」

「刹那ちゃんも可愛い!やっぱり超似合うわっ!」

「うん、凄く良い!」

 

 

お妙と九兵衛は刹那を抱き締めた。

刹那の現在の姿は黒のレオタードの様な服に網タイツにハイヒール。衣装のお尻の部分には白くて小さな尻尾。髪は纏める事無くストレートにしており頭部にはウサギの耳がピョコンと生えていた。

 

 

「いや、なんでバニーガール!?」

 

 

銀時は刹那の衣装にツッコミを入れた。まさかキャバ嬢の衣装を渡されてバニーガールで出てくるとは思いもしなかったのだ。

 

 

「やぁね銀さんったら。需要はいつの時代にも求められてるのよ」

「いや、銀さんもそこは解るよ!俺はどっちかと言えばナースの方がいい!」

「いや、アンタの反論も間違ってるよ」

 

 

銀時のツッコミにお妙は答え、銀時は更に言葉を重ねるが論点がズレていると新八がツッコむ。

 

 

「でもどうするんですか?いくらなんでも、この姿じゃ近藤さんも了承しませんよ?」

「あら、大丈夫よ。近藤さんには後で私が説得(脅し)するから」

「いや、変な副音声が聞こえたんですけど……」

 

 

いくらなんでもバニーガールでは近藤も許可を出さないと思った新八だがお妙が説得すると豪語した。本当に説得なのかは怪しいが。

 

 

「お妙……いくらなんでも……」

「大丈夫よ、刹那ちゃん。今のアナタならその格好だけでもお金を支払う人は絶対にいるわ」

 

 

恥ずかしがりながらお妙に話しかける刹那だがお妙からは求めてない答えが返ってきた。

 

 

「東城、やはり刹那ちゃんは柳生家に迎え入れたい。何か策を考えておいてくれ。後、その撮影しているのは後で僕が没収するからな」

「わ、若!そんな殺生な!?」

 

 

九兵衛は刹那のバニーガールに息を荒立てて見詰めており、更に柳生への引き抜きを真面目に考えていた。更に東城がハンディカメラで録画している映像の没収も決定された。

 

 

その後、東城もキャバ嬢になると言い出し、女装をする。更にスナックお登勢で働いているキャサリンや銀時の知り合いである猿飛あやめ、通称『さっちゃん』も加わり、最後には酷いメイクを施した神楽も加わってなんとか人数確保となった。

しかし東城とキャサリンは何故かバスタオルを巻いて、ぬるぬるのマットを持ち、さっちゃんはSM嬢の姿となっていた。

全員を整列させるとバラバラな衣装だった。

 

 

 

「ま、これで人数は揃ったな」

「いや、ただただ不安しかないんですけど」

「うん、つーか何の集団コレ?」

 

 

その光景に銀時、新八、店長は不安げな意見しか出なかった。

 

 

「お客様、来店されました!」

「行くわよ皆」

「「はい!」」

 

 

副店長が本日の上客が来店した事を伝えると、お妙の一括に皆が返事をして出迎えに上がる。

しかしここでトラブルが発生した。東城とキャサリンがぬるぬるのマットを持っていた為に階段を登れず、足を滑らして階段から落ちて頭を強打したのだ。

 

 

「おおおおおおぃっ!何してんの!」

「何なんだよコイツら!邪魔しかしてねーよ!」

「完全に気絶してる」

 

 

その光景を見た新八や店長は心の奥から叫びを上げた。刹那はすぐに東城とキャサリンの容態を診て完全に気絶した事を確認した。

 

 

 

「取り敢えず片付けるぞ。こんなんあったら不自然だ」

「気を付けてね。コイツらぬるぬるだか……らっ!?」

「店長っ!?」

 

 

銀時が東城とキャサリンを片付けようとしたと同時に店長も足を滑らせて頭を強打した。

 

 

「み、店を……店を頼……む」

「てんちょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ……よし、片付けるぞ店長も」

「わかった」

「切り替え早っ!了解早っ!」

 

 

末期の言葉のように一言発した後に店長は気絶した。

銀時は映画のワンシーンの様に叫ぶが即座に切り替えて店長を片付ける。刹那もそれに続いて店長や東城、キャサリンをさっさと片付けた。

そんな二人の切り替えの早さに新八はただただ戸惑うばかりだった。

 

 

 

「今日は女の子少ねーな。盛り上がらねーぞ、コレじゃ」

「大丈夫ですよ。あっちにまだ沢山いますから」

 

 

店の入り口側から声が聞こえる。どうやらお妙が上客の案内をしている様だ。

 

 

「マズいですよ銀さん。沢山いるって言っちゃってます!」

「ちっ……だが明らかに二人はリタイアだし、刹那一人で沢山と言うには無理がある……」

 

 

新八の言葉に焦る銀時。そしてこの状況に銀時はある決断を下した。

お妙が上客と共に店のホールに到着すると挨拶を始める。

 

 

「ど、どうもパー子でーす」

「パチ恵でーす」

「……せ、刹那です」

 

 

異様な光景だった。

銀時と新八は裸でタオルを体に巻いて、ぬるぬるのマットを持っていた。更にウィッグでツインテールと三編みを演出していた。

刹那はそこから一歩引いた位置から挨拶をする。

 

 

(だから……なんでタオル巻いてんの!)

((着替える時間が無かったんじゃぁぁぁぁぁぁっ!))

 

 

お妙がアイコンタクトで叫ぶと銀時と新八はシンクロした様にアイコンタクトで叫んだ。

そしてお妙の後に続く様に上客が姿を現した。

 

 

「あれ、今日は見覚えのない娘が多いな。新人さん……って刹那!?」

「刹那、おま……何してんだオメーは!?」

「近藤、土方!?」

 

 

お妙の後に続いて入ってきたのは近藤や土方、沖田等の真撰組の面々だった。

近藤や土方は刹那のバニーガール姿に驚き、刹那はまさかの事態にその姿を腕で隠す事しか出来なかった。




今回の刹那は『金色の闇 バニーガールver』を想像してください。


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初めての将軍様

 

 

 

入り口へ客を迎えに行こうとすると、店内に松平とその後ろに、何故か真選組の面々がついてきていた。

そして刹那の姿を確認した近藤と土方は真っ先に刹那に駆け寄る。

 

 

「刹那、何でこんな所に……ってかその格好……」

「……見ないで」

 

 

刹那は近藤と土方を若干睨みつつも胸元を隠して一歩下がる。その間を察してか、お妙が間に入った。

 

 

「近藤さん、土方さん。申し訳無いんですが刹那ちゃんにお店の手伝いをお願いしてるんです」

「あ、いや……しかし……」

 

 

サッと頭を下げたお妙に近藤は言葉を失ってしまう。事情は知らないが、それでも刹那にキャバ嬢をさせるのには抵抗があると思った近藤は否定をしようと思ったがそこで邪魔が入った。

 

 

「オイオイ、刹那。随分とセクシーじゃあないの。オジさん年甲斐もなくドキドキしちゃうじゃあないの」

「ひゃう!」

 

 

いつの間にか刹那の背後に回った松平が刹那の背中を指でススッとなぞった。突然の事に刹那は顔を赤らめて背筋を伸ばしてしまう。

 

 

「んんぅ……それに良い尻だぁ……ってアタタタタタッ!?」

「もう松平様ったら刹那ちゃんにもセクハラですか?」

 

 

ワキワキと指を動かしながら刹那のお尻に手を触れようとした松平だが、お妙がそれを阻止した。しかもお妙はニコニコと笑ってはいるが松平の掴んだ腕を万力の如く締め上げている。その握力に松平は悲鳴を上げる事しか出来なかった。

 

 

「近藤さん、刹那ちゃんは私が見てますし、こんなセクハラ二度とさせませんから、お願いします」

「あ、ああ……わかりました。刹那を頼みます」

 

 

有無を言わせぬオーラを纏ったお妙に近藤は何も言えなくなった。

その間も沖田がさっちゃんと何やらSM談義をしていた様だがそこは割愛。

 

 

「ま、俺達は飲みに来たんじゃねーからよ。刹那は頼むわ」

「……ん」

 

 

土方は松平な魔手から逃れた刹那を庇っていたが刹那をお妙に任せて店の外へ出ようとする。それに続いて他の真選組隊士も店の外へゾロゾロと出ていく

 

 

「オイなんだよ、遠慮すんなって。お前らも飲んでけ」

「いや、そーもいかねぇ」

 

 

お妙の怪力から解放された松平が出ていこうとする近藤達を引き留めようとしたが土方が断った。

出て行く真選組の面々とは対照的に、中へ進んで者が居た。豪華な着物にキリッとしながらも気品溢れる顔立ち。真選組の面々はすれ違い様にその人物に敬礼をしていく。そして最後に店を出ていこうとした沖田がその人物に頭を下げて口を開いた。

 

 

「それじゃー俺達は外の警備をしてますんで、ゆっくり飲んでいってくだせぇ上様」

 

 

その人物は『上様』と呼ばれ、真選組が敬意を払う人物。それ即ち……銀時は嫌な予感がしつつも、お妙達に話しかける

 

 

「な、なあ今、上様って」

「何バカな事、言ってんですか。なんで将軍様がこんなスナックに来ると思うんですか」

 

とお妙

 

「いや、でも」

「領収書なんて大抵が上様ネ」

 

と神楽

 

「いや……」

「上杉さんとかと聞き間違えたんじゃないか?」

 

と九兵衛

 

「でも……」

「ふごふご……」

 

とさっちゃん

 

「刹那……」

「本物かどうかはわからない……でも近藤達は今日、大変な仕事があるって言ってた」

 

 

今、彼処にいるのは本物の将軍なのだろうか。そんな思いと共に銀時達はテーブル席に向かう松平達の方に視線を移した。

 

 

「おーい将ちゃん、こっちこっち!」

「ほ、ほら……将ちゃんとか呼ばれてるからやっぱり違うんですよ」

 

 

松平に『将ちゃん』と呼ばれているからやはり、将軍様ではないと新八が冷や汗を流しながら言う。

将ちゃんの隣にお妙が座り酒を酌しながら、お妙はにこやかに話しかけた。

 

 

「カワイイあだ名ですわ、将ちゃんて。でも本名の方も教えて下さいな」

「征夷大将軍徳川茂茂。将軍だから、将ちゃんでいい」

「ヤダ〜もう、ご冗談がお上手な方ですね。お仕事は何をなさっているんですか?」

「だから征夷大将軍だ」

「もォ〜てんどんですか。ホント面白いお方ですね」

 

 

談笑するお妙を遠目から見ていた銀時と新八が、完全に固まっていた。刹那は同じく遠目で見ているだけだが、その人物が国の最重要人物だという事にピンときていないようである。

 

 

「いやいやいや、まさかでしょ?ほら外のゴリラ達にも聞いてみよう?」

 

 

銀時は先程の会話を聞かなかった事にして外に居る近藤達の下へ向かう。そして店の入り口を少し開けて様子を伺うと近藤と土方の声が聞こえてきた。

 

 

「まさか刹那が居るとはな……将軍様のお出掛けの日に居るとは予想外だった」

「この店に居るなら最初から刹那を警備に混ぜてもよかったんじゃないか?いずれは真選組として刹那も将軍様に会わせなければならなかったんだがファーストコンタクトがバニーガールってどうよ?」

 

 

予想外の出来事に頭を悩ませる近藤とフゥーとタバコの煙を吐く土方。

 

 

「ま、バニーガールでの初対面は兎も角、警護と言う意味では刹那が中に居るのはありがたい。奴が居れば大概の奴は撃退できんだろ」

「しかし刹那も女の子だ。中にはお妙さんも居るし……俺も中の警護に回る!」

「アンタは刹那やお妙さんと酒飲みたいだけだろ。行かせるか!」

 

 

土方が刹那が店の中に居る事は却って警護になると言った土方。それに対して近藤は不安だと店の中に入ろうとして居るが酒を飲みたいだけなのは明らかだ。土方はツッコミを入れつつも近藤を止める。

 

 

その会話を聞いていた銀時達は静かに扉を閉めると頭を抱えた。

 

 

 

「本物だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!本物の征夷大将軍様ですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

「落ち着け新八!落ち着いて……そうだサイン貰おう。このマットでいいかな!?」

「アンタが落ち着け!将軍の前にこんなマットを持っていこうとするな!」

 

 

頭を抱えて絶叫した新八。銀時はパニックのあまりに先程、東城が持っていたヌルヌルのマットを持っていこうとするが新八に止められた。

 

 

「……どうするんだろ」

 

 

本物の将軍だと全く気づく様子がない、お妙達に本物の将軍だと気付いてパニックになる銀時達。

この状態ではマトモなおもてなしは無理なのではと思う刹那は他人事の様にオツマミ用の野菜スティックの人参をポリポリと食べていた。



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将軍様ゲームはぶっちゃけ王様ゲーム

 

 

 

銀時、新八は女性陣が将軍に粗相をしでかさない様に緊張していた。刹那は銀時からフォローを入れるのは無理と判断されて、なるべく普段通りに振る舞う様にと言われていた。

それからしばらく酒を飲んだりしながら談笑していたが松平が割り箸を取り出して皆の前に差し出した。

 

 

「酔いも回ってきたし……そんじゃそろそろ、将軍様ゲームを始めるよぃ!」

「……将軍様ゲーム?」

 

 

松平の提案した『将軍様ゲーム』を知らない刹那は小首を傾げた。

①『将軍』と書いたクジを用意する。割り箸等でも可。

②クジを皆で引く

③将軍様を引き当てた人は将軍になり、番号を指定して様々命令を下すことが出来る。

④命令拒否は原則として出来ない。

 

このルール説明を聞いた刹那は『将軍様既にいるんだけど?』と若干意味を理解していなかった。その後、刹那にルールを理解してもらう様に説明した後にゲームは開始された。

 

普段なら率先して楽しむ松平だが今回は進行役を勤めると言い出したので松平抜きでやる事となった。

 

 

「さぁ、皆クジを引……ぶるぁっ!」

 

 

松平がクジを引くよう促すと、お妙、神楽、九兵衛、あやめが一斉にクジに飛びつき、松平を蹴り飛ばした。

客を楽しませるどころか、自分達が一番楽しむ事態となり、場はめちゃくちゃとなってしまった。

 

 

「あ、私……将軍」

 

 

ぶっ飛ばされた松平を真っ先に介抱しに向かった刹那だがその手には『将軍様』と書かれたクジが握られていた。

一斉に視線を向けられてオロオロとする刹那に、お妙が助け船を出した。

 

 

「刹那ちゃん、なんでも良いのよ?例えば……肩揉みとか」

「じゃあ……三番が一番に肩揉み」

 

 

お妙の助け船に刹那が将軍として皆に命令を下した。最初は軽めの命令だから安心した。と思ったのも束の間だった。茂茂は神楽に肩揉みを始めたのだ。

その光景を見た銀時と新八は劇画タッチの表情で『将軍かよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』と心の中で叫んだ。

依りにもよって将軍が肩揉みさせられる光景を見る事となった銀時と新八は冷や汗が止まらなかった。

 

 

「弱いアル。もっと力入れろヨ」

「……ああ、すまない」

 

 

茂茂の肩揉みの力が弱い事に神楽は不満を口にして、『将軍にダメ出ししてんじゃねーよ!』と銀時は心の中で叫ぶが神楽には当然伝わらない。

 

これ以上の粗相は不味いと新八はクジを持って、当たりである『将軍様』を引かせようとするが、その前にお妙達は一瞬の内にクジを引いてしまう。あまりにも素早い動きからバトル漫画の様になってしまったが、これはあくまでもゲームである。

新八は自身の策が失敗したと嘆いたがそこにフォローを入れたのは銀時だった。その手には『将軍様』のクジが握られていた。銀時は女性陣よりも早く新八からクジを引いていたのだ。

 

 

「えーとじゃあ……四番引いた人下着姿になってもらえます?」

 

 

銀時が下した命令は被害が出るのは四番のクジを引いた者のみで残りの人は下着姿の人を笑う事が出来る。つまり視覚的に茂茂を楽しませようと言う気なのだろう。しかしそれも不発に終わった。下着姿になったのは茂茂だったのだ。

 

 

「なに、なんで当たり引いちゃうの将軍様?」

「しかもブリーフの日だよ。間が悪いにも程があるよ、もっさりしてるよ」

「将軍家は毎日もっさりブリーフ派だ」

 

 

新八と銀時のヒソヒソ話も聞こえる何気に耳も良い茂茂は律儀にも自身の……と言うか将軍家の秘密を暴露した。

これ以上の展開は打ち首になりかねないと銀時は冷々していたのだがゲームは続く。そんな中、『将軍様』を引いたのは、お妙だった。新八が心配そうにお妙に視線を送るがお妙は任せなさいとウインクを銀時達に向ける。

 

 

「んーと、どうしよっかな。じゃあ私は三番の人がこの場で一番寒そうな人に服を貸してあげる」

 

 

そうキャバ嬢と言う仕事をしてる以上、人の気持ちに少なからず敏感なお妙は冷々している銀時達の気持ちを読んで、茂茂に服を着さそうとしたのだ。感激した新八だがその目論みは即座に潰えた。

茂茂は履いていたブリーフをさっちゃんの頭に被せたのだ。それを見た銀時と新八は『将軍かよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』と本日三度の叫びを上げた。

 

 

「なんで律儀に当たりを引き続けてるの将軍様?しかもアッチの方は将軍じゃねーよ、足軽だよ」

「将軍家はアッチの方は代々足軽だ」

 

 

銀時の聞こえない位の呟きにも反応して答えた茂茂。状況は最悪の一途を辿っていた。

 

 

「パチ恵、刹那。裸なのは最早、諦めよう。見た通り失うもんはもう何もねぇ、これ以下はねーんだ、後は上がっていくだけだ」

 

 

今の状況なら、もうこれ以上の悪い事は起きないだろうと指摘した銀時だが、さっちゃんの次の行動で脆くも崩れ落ちた。

 

 

「ちょっと、これ臭いから脱いでいいかしら?」

「下あったよ!」

「ちょっと、涙目になってきてますよ将軍様!?」

「後で近藤達に怒られそう……」

 

 

さっちゃん、銀時、新八、刹那の順でコメントを溢す。喧嘩を売ると言うか、最早ただのイジメになってきていた。そんな中、刹那はこの状況を後程、近藤や土方にどう話せば良いのかと思い始めていた。

しかし、こんな状況でもゲームは続いていた。そして当たりを引いたさっちゃんはガッツポーズの後に目を血走らせて叫ぶ。

 

 

「ついに私の時代が来たわ、私の願いは一つ!銀さんと……」

「せめて番号で言え!」

 

 

ルールを丸ごと無視しようとした、さっちゃんの頭にお妙だったの踵落としを決めた。その見事な踵落としに刹那はパチパチと小さな拍手を送った。

 

 

「わかってるわよ……ゴホン、五番の人は、トランクスを買ってきなさい」

 

 

お妙の過激なツッコミを食らった、さっちゃんだったが咳払いをすると命令を下す。それは裸一貫となった茂茂の為を思っての行動だったが、それは最早前フリでしかない。誰が当たったかを問う前に席を立ったのは、茂茂だった。

『やっぱり将軍かよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』

銀時と新八はこの流れは止まらないと思っていたのか本日四度の叫びとなった。周囲が止めようと声を掛けようとしたが茂茂はそのまま店を出てしまう。

 

 

「ヤベェ、エライ事になってきた!つかバカじゃねーの、あの将軍!なんで律儀にゲームのルール守ってんだよ。社会のルール破ってでまでゲームのルール守るなよ!」

「言ってる場合ですか止めないと!」

 

 

銀時と新八は即座に行動を起こして茂茂を引き止めに行くが間に合わず茂茂は外に出てしまう。当然の事ながら外は真選組が警護をしている為に見つかり騒然となる。その隙を縫って茂茂は走り去ってしまい、それに続くように刹那や銀時達も後を追う。

 

 

「貴様等、上様に何をした!?総員に告ぐ、上様を追えぇぇぇっ!」

 

 

事態を見た近藤の叫びのもと、真選組が戦車やパトカーで茂茂の追跡を開始。端から見れば裸の将軍がキャバやパトカーに追われているなど明日の朝刊の一面を飾る様な出来事である。

そんな中、走り続けながら神楽が将軍にくじを引くよう促す。新八はそれどころじゃないだろうとツッコミを入れるが茂茂はクジを引いた。そのクジを茂茂が見つめると『将軍様』と書いてあった。

 

 

「将軍様、我等になんなりとご命令を」

 

 

神楽がニカッと笑い、共に走る銀時達も笑っていた。神楽野手の中には『将軍様』と書かれたクジが数本。その意味を察した茂茂はニヒルに笑うと命令を下した。

 

 

「余の代わりに誰かトランクスを買ってきてくれぬか?この姿ではコンビニには入れん。そして刹那、お主は近藤か松平に事の顛末を話してきてくれ『只の戯れ』だったとな。それ以外は、アレを止めてくれ」

「仰せのままに!」

 

 

茂茂の命令により、九兵衛は茂茂と共に走り、銀時達は進行方向から逆走を始め、ノリノリで真選組に襲いかかる。刹那は茂茂の命令もあるので一目散に近藤の元へと向かった。

 

 

「将軍様のご命令により、今からアンタ等を食い止めまーす!覚悟しろやコラァ!!」

 

 

銀時達は真選組を相手に乱闘をおっぱじめた。不意を突かれたのとキャバ嬢に襲われる等想像もしていなかった真選組は一方的に攻撃され、夜のかぶき町に悲鳴と破壊音が鳴り響いた。

 

 

そして刹那は近藤に今回の事の経緯を話していた。話を聞く内に近藤は青ざめたり驚愕したりと忙しく表情を変えていた。茂茂は『只の戯れ』と言ったが近藤からしてみれば戯れでは済まないレベルの話である。

 

 

「ま……まあ、なんだ。刹那は社会勉強になったか?」

「うん……知らなかっ……くちゅん!」

 

 

近藤が現実逃避しかけた質問に答えようとした刹那だが、可愛いクシャミが出てしまう。いくら夏場とは言っても刹那の今の姿はバニーガールなので少し冷えてしまった様だ。

 

 

「まったく………そんな格好で外に出るからだ」

「………あ」

 

 

近藤は溜め息と共に着ていた上着を脱いで刹那に着させた。先ほどまで近藤が着ていた事もあり今の刹那には、ありがたい暖かさだった。

対して近藤はK.O.寸前だった。善意で刹那に上着を着せたが今の刹那はバニーガールの姿をしていた。それに近藤の上着を着せれば『裸ワイシャツ+ストッキング』の様に見える。しかも刹那では近藤の上着は当然大きい為に裾が余って『萌え袖』状態となっていたのだ。しかも刹那は気付かずに近藤を見上げる様な状態となっている。

このトリプルパンチに近藤は精神的にフラフラになっていたのだ。

 

 

「ん、んんぅ。さて、上様が心配だ。行くぞ刹那」

「……うん」

 

 

差し出された近藤の手を迷いなく繋ぐ刹那。少々不格好ではあるものの、それは親子の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに茂茂の様子を見に来た近藤と刹那だったが、其処で目撃したのは九兵衛によって堀に投げ飛ばされてしまう茂茂の姿だった。話を聞けばトランクスを買った九兵衛だが受けとる際に茂茂の手が九兵衛の手と触れてしまった為に反射的に投げ飛ばしてしまったらしい。



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キャバクラ騒動のその後。

風邪を引いてダウンしてました。季節の変わり目は注意しないといけませんね。


 

 

将軍のキャバクラ騒動から数日。刹那は柳生家に来ていた。部屋の中には九兵衛、輿矩、敏木斎、十夜。そして柳生四天王の東城、南戸、北大路、西野。

因みに柳生家に来たのは刹那だけだった。近藤以下、隊士達が一緒に行くと言ったのだがトラブルが目に見えたので刹那が断り、一人で来ていた。

 

 

「では……今回はおとがめは無しと?」

「将軍様も今回は楽しかったって言ってた。今回の事は無礼講にするって」

 

 

刹那は将軍から松平へ伝えられた事を話す。事の起こりは前回のキャバクラで最後の最後で九兵衛が将軍を川に叩き落とした事だ。

将軍に乱暴したとして柳生家はオトリ潰しの危機に瀕したのである。いくら将軍家のお抱えとは言っても無礼が過ぎた事に当主の輿矩は超慌てた。

そして事の次第を聞き後程、同伴していた松平から柳生家に処分を下すとなったのだ。そして下された処分を聞いて柳生家一同が胸を撫で下ろした。

 

 

「ほ、本当に良かった……流石に焦ったぞ」

「すいませんパパ上」

 

 

深い溜め息と共にその場に座り込む輿矩。九兵衛も今回の一件……と言うか九兵衛が柳生家に帰ってきてから問題ばかり起きている事に自覚があるのか素直に頭を下げた九兵衛。

 

 

「ありがとうございます刹那さん!この東城歩、感謝の気持ちで一杯です!」

「私は仕事をしてるだけ」

 

 

刹那の手を握る東城は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで刹那は若干引いている。

 

 

「でも本当に良かったよ、ありがとう刹那」

「………うん」

 

 

同じく話を聞いていた十夜が刹那に話しかけ、刹那はそっぽを向いて返事をする。それを見てニヤリと笑ったのは南戸だった。

 

 

「おいおい、刹那の嬢ちゃん。十夜様に対して何……をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

「オシオキ、地獄卍固め」

 

 

脱出不可能な間接技で苦しむ南戸。刹那は南戸が余計な事を口走らない様にキツめに技を掛けていた。

 

 

「耐えろ南戸。その技でお前の顔面も治るかもしれんぞ」

「そうだな。矯正してもらえ」

「いや、病気扱いと怪我扱いのどっち!?」

 

 

北大路と西野のコメントにツッコミを入れた南戸。技を極められながらツッコミを入れる南戸は案外余裕なのかも知れない。

 

 

「兎に角……今回は柳生家はおとがめ無しだから」

「うん……ありがとう刹那ちゃん」

 

 

最後に南戸の首をキュッと絞めた刹那は何事もなかった様に話を締めた。南戸は鶏の首を絞めた様な呻き声を上げた後に沈み、それを無視して九兵衛も礼をした。

その後、帰ることにした刹那だが、近藤が柳生家の塀に張り付いて中の様子を見ているのを見つけて、石を投げつけ近藤を叩き落とすのだった。

 




『地獄卍固め』
あまりの難技のために使い手がいなくなったと言われる卍固めの原型。相手の背後にのしかかるようにした状態で両腕で片腕を極める。


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姉弟は案外似てないようで似ている

 

 

とある日。少々、朝寝坊した刹那は目を擦りながらフラフラと屯所内を歩いていた。着崩れしたパジャマと寝惚けた顔が妙にマッチして可愛らしさを演出していた。

 

 

「おい、刹那。その格好で屯所内を歩くな」

「あ……土方、おはよう」

 

 

寝惚けた刹那を呼び止めたのは土方だった。土方は着崩れたパジャマを直すと頭を一撫で。

 

 

「ったく……普段はシャンとしてるのに朝だけは弱いな」

「うん……まだ眠い」

 

 

刹那は身嗜みを整えた後にさっさっと歩く土方の後ろをついて歩いていた。

屯所内を歩いていたが土方が立ち止まり、障子を開けた。そこには部屋の真ん中に布団を敷いて、人を小馬鹿にした様なアイマスクをつけて眠っている沖田がいた。沖田は何かをブツブツ言っている。寝言でも言っているのかと思った刹那と土方は部屋に入って耳を澄ませた。

 

 

「……土方の死体が4016体……土方のバカの死体が4017体……土方のアンチキショーの死体が4018体……」

「眠れない時に数えるのは羊じゃないの?」

 

 

ブツブツと羊の代わりに危なげな物を数える沖田を、刹那は土方を見上げながら指差した。土方は黙ったまま刀を鞘から引き抜く。

 

 

「土方のクソったれの……」

「羊を数えろォォォォォォォ!」

 

 

土方の怒号で目を覚ました沖田が、体を少し起こす。刹那は土方が刀を抜いた段階で後ろに下がっていた。

 

 

「あり……もう朝か……全然眠れなかったぜチキショー」

「眠れるわけねーだろ!んなグロテスクなモン数えて!刹那は絶対に真似をするなよ!」

 

 

眠たげに頭を掻く沖田に土方のツッコミが入る。ここで刹那に注意する辺り、土方も子育てがある程度身に付いてきていた。

 

 

「すいやせん、わざわざ起こしに来てくれたんですかィ4019号、刹那」

「誰が4019号だ!」

 

 

沖田は気だるげに起き上がるとアイマスクを外す。辺りを見回して刹那を見つけると『よう』と軽く挨拶をして、刹那も声に出さないが静かに頷く。

 

 

「さっさとツラ洗って着替えろ。客だ。刹那、お前も着替えてこい」

「うーい」

「……ん」

 

 

土方は刀を鞘に納めると早々と仕事に出ていった。沖田と共に返事を返すと刹那は着替える為に自室へと戻った。

部屋に戻ってから真撰組の制服に着替えた刹那は髪を縛り上げてポニーテールにすると今日の仕事を聞く為に近藤の下へと向かう。

その道中、客間として使っている部屋を覗く数人の隊士達を見つけて足を止めた。

 

 

「何してるの?」

「わ!?って刹那か……ほら、あれだよ」

 

 

突然、背後から声を掛けられてビビった山崎だが、刹那だとわかってホッとする。そして刹那を部屋の前に座らせると襖の隙間から中を覗かせた。

中では近藤と対面して、一人の女性が座っていた。儚げな雰囲気を纏うこの女性は、とても綺麗な女性という印象を受けた。しかも近藤と話をしながら微笑む姿はとても絵になっていた。

 

 

「……あの人は?」

「あの人は沖田隊長の姉上のミツバさんだよ」

 

 

刹那の疑問に一緒に覗き見をしていた隊士が説明をする。刹那は沖田と部屋の中に居る女性を比べて『似てるかも』と思っていた。

 

 

「しかし、似ても似つかねぇよな。あんなお淑やかで物静かな人が、沖田隊長の姉上様だろ?」

「だからよく言うだろ。兄弟のどっちかがちゃらんぽらんだと、もう片方はしっかりした子になるんだよ。バランスが取れるようになってんの世の中は」

「みんな……言い過……っ!」

 

 

沖田とミツバが似ていない事を話す隊士達に言い過ぎだと言おうとした刹那は突如、床に素早くしゃがんだ。その際にミニスカートだった為、スカートの中からピンクの下着が見えて隊士達はそれに目を奪われ、動きを止めてしまう。そして次の瞬間、隊士達は突如爆発に巻き込まれた。

 

爆発を起こしたのは沖田で、その手にはバズーカが握られていた。沖田は先程の隊士達の会話を聞いており、気配を絶ったまま背後からバズーカを撃ったのだが刹那は直前に察知して、被害を最小限に抑えた。逆に隊士達は刹那の下着に目を奪われた事もあり、そのままバズーカの餌食となっていた。

 

 

「まあ、相変わらず賑やかですね」

「おう、総悟。やっと来たか」

「すいやせん、コイツ片付けたら行きやすんで」

「……駄目」

 

 

先程の爆発を『賑やか』で片付けるミツバもミツバだが近藤は慣れた様子で会話を続ける。隊士達を吹っ飛ばした沖田は、山崎の胸ぐらを掴んで、刀を首筋に突き付ける。それを刹那が止めていた。

 

 

「そーちゃん、ダメよ。お友達に乱暴しちゃ」

「ごめんなさい、ねーちゃん!」

 

 

ミツバに叱られた沖田が、ミツバに土下座していた。

その光景に近藤を除く隊士達全員が目を疑った。ドSの化身の沖田が土下座をするなど、あり得ない光景に他ならなかったからだ。近藤はそれを見て、豪快に笑う。

 

 

「ワハハハハハ!相変わらずミツバ殿には頭が上がらんようだな、総悟」

「お久しぶりでござんす、姉上。遠路遥々、江戸までご足労ご苦労様でした」

「ありがとう、そーちゃん。あら、そちらの娘はどなた?」

 

 

豪快に笑う近藤の隣に座った刹那は普段とは違う沖田に少なからず驚いていた。そしてミツバは近藤の隣に座る刹那を見て驚いた様子だ。

 

 

「ああ、この子は刹那。ちょっと訳有りで俺が保護者になってな。ほら、刹那もミツバ殿に挨拶を」

「………刹那」

「あらあら、まあ。可愛いわ」

 

 

近藤が簡単に刹那の事を紹介すると挨拶を促した。ミツバはペコリと頭を下げる刹那の事を気に入った様だ。

 

 

「総悟、お前今日は休んでいいぞ。せっかく来たんだ。ミツバ殿に江戸の街でも案内してやれ」

「ありがとうございます!行きましょう姉上!」

「あらあら、皆さん。失礼させていただきます」

 

 

沖田は近藤に頭を下げてから、ミツバの手を引く沖田。その表情は普段見る事は出来ないくらいに明るかった。

沖田姉弟が部屋から出ていくのを見送り、隊士達は近藤の方へと振り返る。

 

 

「きょ、局長……なんなんですか……沖田隊長の変わり様は……」

「アイツは幼い頃に両親を亡くして、それからずっとあのミツバ殿が親代わりだったんだ。アイツにとってはお袋みたいなもんなんだよ」

 

 

長い付き合いで沖田姉弟の良き理解者の近藤は刹那の頭を撫でながら沖田姉弟が向かった先を眺めていた。

 

 



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雑用は新人の仕事だが、時には実力者が動く。

 

 

刹那は近藤に言いつけられて柳生家に来ていた。先日の騒動以来、刹那は柳生と真選組の橋渡し的な存在となっていたのだ。

 

 

「ほう、あの一番隊の隊長に姉上様が居たとは」

「性格は似てなかった。善の沖田と悪の沖田」

「いや、魔人ブウ?」

 

 

その話をお茶請けに九兵衛に話した刹那だが説明の仕方が端的で即座にツッコミが入る。

善の沖田(姉)と悪の沖田(弟)と言った所だろうか。

 

 

「今は姉弟水入らずで江戸散策か。その姉上様に楽しんで頂けると嬉しいね」

「うん、そうだといい」

 

 

十夜はにこやかに告げると刹那もそうであって欲しいと頷いた。

お茶を飲み終えると刹那は席を立つ。近藤から頼まれた事は多く、これからまだ数件行かねばならない所があるのだ。

 

 

「刹那、次は安兵衛殿の所だろう?ならば刀磨を頼みたいと伝えておいてくれ」

「……ん」

 

 

刹那は九兵衛からの言伝を頼まれ、安兵衛の居る鉄子の鍛冶屋へと向かった。

 

 

「久しぶり。鉄子、ダッチ」

「なんで、テメーは毎回ハゲをチョイスして呼びやがるんだ?そして俺は黒人じゃねーからな」

「あはは……いらっしゃい刹那ちゃん」

 

 

鉄子の鍛冶屋に来た刹那は安兵衛と挨拶を交わす。安兵衛のツッコミが入るのも最早、一連の流れと化している。

刹那は九兵衛からの言伝を伝えると、先程の柳生家の時と同様に次に向かう場所がある為、鉄子の鍛冶屋を後にした。

 

次に刹那が向かったのはスナックすまいるだった。刹那が此処に来た目的は、松平や近藤が酒を飲んだ後に時折、支払いをツケにしているので、その度に代金を払いに来ているのだ。

 

 

「はい、確かに頂きました。大変ね、刹那ちゃんも。あのゴリラと破壊神の尻拭いだなんて」

「そうでもない。私に出来る仕事は少ないから雑用でも掃除でもなんでもする」

 

 

お妙が刹那に同情するが、刹那は首を横に振って否定した。出来る仕事が少ないと刹那は言うが、実はそれこそが間違いであり、刹那は真選組の仕事をほぼ完璧にこなしている。書類仕事が不馴れなだけで、刹那一人で隊士十人分の仕事をしているのだ。今回の雑用も本来は新人などにやらせるのだが、柳生や鉄子と繋がりの深い刹那が最適と近藤が指名したのだ。

最も、ツケを払いに行かせたのは松平の指示であったが。

そして、スナックを後にした刹那は他の雑用仕事も着実に終わらせる。その全てが終わる頃には、辺りは暗くなっていた。

 

 

「これで全部終わった。帰ろ」

 

 

ペラペラと仕事を纏めた帳簿を確認して、今日の仕事が終わったと一息吐いた刹那が真選組の屯所に帰ろうとしたその時だった。

 

 

「刹那!」

「……十夜?」

 

 

柳生家御用達の車に乗っていた十夜が叫んで刹那を呼び止めたのだ。

 

 

「どうしたの?」

「キミが話してくれた沖田殿の姉上様が倒れたと聞いたんだ。腕利きの医者が必要だと僕が呼ばれたんだけど、刹那はミツバ殿の事は聞いてないのかい!?」

 

 

今朝会ったばかりで優しそうだったミツバが倒れたことを聞き、刹那は驚いた。

 

 

「私も行く」

「……わかった、乗って。出してください」

 

 

刹那が柳生家御用達の車に乗り込むと同時に十夜が指示を出して車を発進させる。

刹那は焦りながらもミツバの無事を祈りつつ、車からの景色を流し見ていた。

 

 

 

 



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普段と違うと妙に癪に触わる

活動報告にも書きましたが漸く復帰です。


 

 

倒れたミツバの家へと向かい、十夜はミツバが眠る部屋へ。刹那は客間へと通された。

客間へと通された刹那はそこで意外な人物達と出会った。

 

 

「それより旦那。アンタ、何でミツバさんと?」

「………成り行き」

 

 

客間には何故か、土方、山崎、銀時が揃っていた。土方は縁側でタバコを吸っており、煎餅を食べていた銀時が山崎の問いに答える。

 

 

「そーゆうお前は、どうしてアフロ?」

「成り行きです」

「どんな成り行き?」

 

 

何故かアフロ頭の山崎に刹那も首を傾げたが、山崎の成り行きとの発言に口を閉じた。

 

 

「そういや、刹那は何で此処に?」

「………成り行き」

 

 

山崎から疑問を投げかけられた刹那は、全てを話すには長くなりそうと思って、成り行きと答えた。

 

 

「……そちらさんは、成り行きって感じじゃ、なさそーだな。ツラ見ただけで倒れちまうたぁ、よっぽどの事あったんじゃねーの、おたくら?」

「てめーにゃ関係ねェ」

 

 

銀時の言葉から、ミツバが倒れた原因は土方にありそうだと刹那は思った。素っ気なく返した土方だったが、銀時と山崎はニヤニヤと笑みを浮かべた。

 

 

「ああ、スイマセーン。男と女の関係に他人が首突っ込むなんざ野暮でしたー」

「ダメですよ旦那。ああ見えて副長、純情なんすから~」

 

 

銀時と山崎の態度に土方が抜刀し二人に斬りかかる。流石に慌てた山崎が止めに入った。

 

 

「関係ねーっつってんだろーがぁぁぁっ!大体何でテメェ等此処にいるんだコルァ!」

「副長、落ち着いて下さい!隣に病人が居るし、刹那も見てるんですよ!」

「うるせぇぇ!大体、オメェは何でアフロなんだよ!」

 

 

土方は弄られた事もそうだが、山崎の頭がアフロなのも妙に癇に障った様だ。

 

 

「土方……何があったの?」

「……子供にゃ関係無ぇ」

 

 

土方が刀を持って騒ぐ中、刹那が土方の服の端をチョコンと引っ張り、話しかける。刹那は自分の知らない土方を知ろうとしたのだが、土方は刹那の頭をクシャリと撫でた。そして、その時だった。客間の襖が開き、角刈りの男が正座し頭を下げていた。

 

 

「皆さん、何のお構いもなく申し訳ございません。ミツバを屋敷まで運んで下さったようで、お礼申し上げます。私、貿易業を営んでおります。『転海屋』蔵場当馬と申します」

 

 

スッと頭を上げた蔵場に刹那も頭を下げた。その際に山崎が土方に、ミツバの旦那になる人だと耳打ちする。

 

 

「身体に障る故、あまりあちこち出歩くなと申していたのですが……今回はウチのミツバがご迷惑をおかけしました」

 

 

顔を上げた蔵場は、真選組の制服を着た土方達を見る。

 

 

「もしかして皆さん、その制服は……真選組の方ですか。ならば、ミツバの弟さんのご友人……」

「友達なんかじゃねーですよ」

 

 

そう言って、沖田が部屋に入ってきた。沖田は蔵場も銀時も山崎も刹那も無視して、土方と睨み合う。

 

 

「土方さんじゃありやせんか。こんな所でお会いするたァ奇遇だなぁ。どのツラさげて姉上に会いに来れたんでぃ」

 

 

沖田はいつもの調子にも見えるが、明らかに不穏な雰囲気を醸し出していた。

確かに普段から、沖田は土方は喧嘩ばかりだが、今は空気がいつもよりもピリピリしている。

その空気を終わらせるかの様に後ろから声が掛かった。

 

 

「こらこら、病人の近くで騒がないで下さい。彼女もアナタ方が喧嘩をするのは望まないでしょう」

「あ……十夜」

 

 

沖田の後ろに立っていたのは治療の為に呼ばれた十夜だった。

 

 

「先生、ミツバの容態は?」

「今は落ち着きましたが……明日にでも病院に搬送した方が良いでしょう。発作が出た時にこの屋敷からでは病院まで距離がありすぎます」

 

 

十夜は蔵場の問いに答えて今後の事の話を始める。先程までのピリピリとした空気は多少マシになったが、土方と沖田は未だに睨み合っている。その空気を察したのか山崎が口を開こうとした。

 

 

「違うんです、沖田隊長!俺達はここに……ぶっ!」

「邪魔したな。帰るぞ刹那」

「あ……うん」

 

 

何かを言おうとした山崎をK.O.した後に一言詫びてから、山崎の襟をズルズル引き摺って土方は退室した。刹那は十夜と共に此処に来たのでどうしようかと悩んだが、十夜から今夜はミツバの看病も含めて居なければならないから、土方達と一緒に帰った方が良いと言われて刹那は従う事にした。

 

そして次の日から刹那はミツバの見舞いに行く事となり……土方と十夜から悲しい運命を聞く事となる。



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物を食べさせるにしても、やり方は選ばなければヤバい。

 

 

 

 

 

ミツバが倒れた次の日、刹那は病院へと向かっていた。正直、今の真選組屯所の空気は居心地が悪いからだ。

屯所内で土方と沖田が直接の争うことは無いものの、不穏な空気を出し、近藤に訳を聞いても誤魔化されていた。

そんな訳で気晴らしも兼ねて刹那はミツバの見舞いに来ていたのだ。

ミツバの病室へ顔を出すと、そこには銀時が居た。手にはコンビニで買い物でもしたのかビニール袋がある。

 

 

「スゴイ、ホントに依頼すれば何でもやってくれるのね」

「万事屋だからな。オラ、食いすぎんなよ。痔に障るぞ」

「貴方、私が痔で昏倒したと思ってるんですか」

 

 

驚くミツバを尻目に銀時はミツバに激辛煎餅を渡す。銀時の言葉にデリカシーの欠片も感じれなかった。しかしミツバは怒るわけでもなくニコニコと笑みを浮かべながら返答する。お妙とは違った意味で大物だと刹那は感じた。

 

 

「オイ、おめーもどうだ?バナナとかもあるぞ。ほら刹那、食いな」

「もご」

 

 

銀時はバナナの皮を剥くと刹那の口にバナナをねじ込んだ。突然の事態に刹那はされるがままになっている。

大人にバナナを口に突っ込まれる少女。文字にすると、これ程ヤバい事が他にあるだろうか。

 

 

「ちょっ、旦那!刹那にそんな事したら俺が局長と副長に殺されます!」

 

 

その時、ミツバのベッドの下から慌てた様子で山崎が這い出てきた。その姿は忍者の様な格好だが頭は未だにアフロのままだった。

 

 

「あれ、山崎さん?何でこんな所に」

「し、しまったァァァァァァッ!」

 

 

ミツバもまさか自身が寝ていたベッドの下から人が出てくるとは思わず、驚いた様子だ。

 

 

「因みに山崎君……今日の刹那の色は?」

「え……あ……」

 

 

ベッドの下に這いつくばっている山崎が見上げれば銀時にバナナを口に咥えさせられている刹那。更に位置的にはスカートの中身さえも見える位置。

 

 

「青のボーダーです……はぶッ!?」

「そうか、良い事を聞け……そげぶッ!?」

「……咲桜拳」

 

 

銀時に聞かれて思わず、見たままを告げた山崎と見るように指示した銀時に刹那は山崎を踏んづけて、その勢いを乗せたまま華麗に銀時にアッパーを放った。

その後、銀時が山崎を連れて部屋から出ていった。恐らくは山崎から事情を聞くのと、刹那に更にボコられる事を恐れての事だろう。

 

 

「何だったのかしら?」

「駄目人間と監察に向かない駄目忍者」

 

 

ミツバの疑問に刹那は本質を捉えた鋭い意見を口にしながらベッドの近くの椅子に腰かけた。

 

 

「お見舞い、ありがとうね刹那ちゃん。それにしても驚いたわ。真選組に女の子が居て、近藤さんの娘だなんて」

「私は……拾われただけ」

 

 

ミツバが微笑みながら刹那に話しかけるが刹那は自分は拾われただけだと返す。するとミツバはベッドから起き上がって刹那を抱き締めた。

 

 

「ミツバ……?」

「本当に……そっくりなのね。近藤さんみたいに優しくて……十四郎さんみたいに素っ気なくて……そーちゃんみたいに意地っ張り……まるで皆の妹か子供だわ。私にも妹が出来たみたい」

 

 

ミツバは優しく……それでいて力強く刹那を抱き締めていた。

 

 

「皆と……仲良くしてあげてね。私は……私はその先を見れないから……」

「……………ん」

 

 

ミツバは愛しそうに刹那の髪を撫でた。サラサラと刹那の銀髪がミツバの手に流される。

対する刹那もミツバの言葉に頷いているが心中は複雑なものとなっていた。

刹那は十夜からミツバの症状を聞いていた。既に……ミツバの命が長くない事も。刹那はミツバを見舞いに行く前に柳生の屋敷に行っており、昨日のミツバの診察の礼をしに行ったのだが、その際、十夜からミツバの体の事を聞かされた。本来なら部外者の刹那に知らせるべきではないのだが、この事は既に縁者に知らされて時間の問題だからと十夜の口から刹那にその事を告げられたのだ。

 

しかも悲劇は続くもので、刹那は土方の仕事を手伝う傍ら、ミツバの婚約者の転海屋、蔵場の事を知ったのだ。

蔵場の裏の顔は、不逞浪士に武器を売りさばく死の商人という事まで裏付けは済んでいる。

更にその取引が明日の晩だと調べが出ている。それは即ちミツバの婚約者を明日、逮捕する。最悪、斬らねばならないと言う事に他ならない。

その事があって刹那は思い悩まされているのだ。実は土方と沖田のピリピリした空気もそれなのではと刹那は直感的に感じているのだが、それを口にする程、刹那は口が上手くない。

 

 

「ねぇ……刹那ちゃん、少し……お願いしてもいい?」

「…………?」

 

 

ミツバの言葉に顔を上げてミツバを見る刹那。その顔は悩みや苦しみの物ではなく……少し困った事を手助けして欲しいと言う優しげな笑みだった。




『咲桜拳』
ストリートファイターシリーズで、『春日野さくら』が使用する『昇龍拳』に相当する技で、大きく前進した後ジャンプアッパーを放つ。本家のように無敵時間や対空迎撃能力はないが、相手に向かって突進し、多段ヒットしてから上昇するため、連続技用として優れる


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時にはアクション映画の様に。

 

 

ミツバから頼まれた事を……と言うよりも一度帰らねばならなくなった刹那は、ミツバの事を銀時と山崎に任せて屯所へと帰ってきていた。

 

 

「おう、お帰り刹那」

「ただいま。土方は?」

 

 

屯所へ戻るなり平隊員に土方の行方を聞く刹那。

 

 

「それが……朝から仕事だって出ていったまま戻らないんだ。定時報告も無いらしいし」

「…………ありがとう」

 

 

平隊員からの話を聞いた刹那は悩む仕草を見せた後に礼をしてから、屯所を出た。

嫌な予感がする。刹那の胸にモヤモヤと嫌な感覚が広がっていた。そこで刹那は土方の行き先に思い当たった。

 

 

「転海屋……蔵場!」

 

 

土方が朝から仕事で居ないと言う事は、大仕事があると言う事だ。そして土方はミツバ、そして沖田を不器用ながらにも気遣っている。一つの答えに辿り着いた刹那は真選組の屯所に置いてあるバイクに火を入れると取引が行われている港へと走って行った。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

大勢の攘夷浪士達がたった一人を取り囲んでいた。普段は静かな港町に銃声や爆音、刀で斬り合う音が鳴り響く。

そこでは、土方が一人で戦っていた。土方は味方を誰一人と連れずに大立回りをしていたのだ。

しかし、土方がいくら強かろうと大量に押し寄せる攘夷浪士に押され気味になってしまい、次第に周囲を囲まれ始め、コンテナの上からも、背後からも完全に囲まれてしまう。

土方は傷ついた足を引きずって、その中心に立つ。コンテナの上から、蔵場が土方を見下ろしていた。

 

 

「残念です、ミツバも悲しむでしょう、古い友人を亡くす事になるとは。アナタ達とは仲良くやっていきたかったのですよ。あの真選組の後ろ盾を得られれば、自由に商いが出来るというもの。その為に縁者に近付き、縁談まで設けたというのに。まさか、あのような病持ちとは。姉を握れば総悟君は御し易しと踏んでおりましたが、医者の話ではもう長くないとの事。非常に残念な話だ」

「残念だ?よく言うぜ商人さんよ。ハナっから真選組抱き込むために、ミツバを利用したクセによ」

 

 

土方が蔵場を睨み上げる。その視線には、確かな怒りが込もっていた。

 

 

「愛していましたよ。商人は利を生むものを愛でるものです。ただし……道具としてですが。あのような欠陥品に人並みの幸せを与えてやったんです、感謝してほしい位ですよ」

「外道とは言わねえよ。俺も……似たようなもんだ……ヒデー事も腐る程やってきた。挙句、死にかけてる時にその旦那叩き斬ろうってんだ。本当にヒデー話だ」

 

 

土方はフラフラと立ち上がりながらタバコに火を灯しながら自嘲気味に笑う。それを聞いた蔵場はピクリとも笑わずに、土方に対して感心した風に口を開いた。

 

 

「同じ穴のムジナという奴ですかな。鬼の副長とはよく言ったものです。アナタとは気が合いそうだ」

「…………そんな大層なもんじゃねーよ。俺はただ……惚れた女にゃ、幸せになってほしいだけだ」

 

 

刀を構えた土方はタバコを口に咥えたまま何かを思い出すかのように呟く。

 

 

「こんな所で刀振り回してる俺にゃ無理な話だが……どっかで普通の野郎と所帯持って、普通にガキ産んで、普通に生きてってほしいだけだ。ただ、そんだけだ」

「なるほど。やはりお侍様の考えることは、私達下郎には図りかねますな」

 

 

そう言った蔵場の言葉が合図だった様に、攘夷浪士達はライフルやバズーカを土方に向けて構えた。

それに対して土方も迎え撃つ様に刀を構えるが、その瞬間。ライフルやバズーカを持った攘夷浪士目掛けて一台のバイクが突っ込んできたのだ。バイクに乗っていた人物はハンドルを固定したまま飛び降り、ハンドルが固定されたバイクはそのまま攘夷浪士の群れに突撃する。当然バイクは横転するが、横転した勢いをそのままにバイクは攘夷浪士を巻き込んで壁に激突し、そのお陰で一部の攘夷浪士に打撃を与えていた。

アクション映画の主人公の様な事を仕出かした人物は長い銀髪を揺らしながら土方の前に立った。

 

 

「私は真選組隊士、刹那。転海屋、蔵場……アナタを逮捕する」

「ほぅ……あの時の……」

 

 

蔵場は、以前に屋敷で会った少女だといち早く気づいた。蔵場が刹那の事を甘く見ているのは態度に出ており、それを感じ取った刹那は腰元の止水に手を掛ける。

 

 

「抵抗するなら……月とかそこら辺に代わってお仕置き」

 

 

刹那はゆっくりと腰元から止水を引き抜く。満月に照らされて、刹那の髪と止水の刀身は銀色に輝いていた。



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交わした約束

「おまっ……なんで此処に!?」

「屯所に戻ってから土方が居ないのを聞いた。病院には行かないだろうから仕事となれば此処しかないと思ったから……」

 

 

突然現れた刹那に驚く土方を尻目に、刹那は止水を構えながら答えた。

 

 

「そうじゃねぇ!お前に何かあったら……」

「土方は……不器用。一人できたのは沖田の為。何も言わなかったのは近藤の為。ミツバを突き放したのは……ミツバの幸せの為」

 

 

土方の問いに刹那は襲い掛かる攘夷浪士達を斬り払いながら淡々と答えた。

 

 

「私は真選組に拾われてから皆をズッと見てた。だからわかる」

「そうじゃない!俺は……」

 

 

土方が何かを言いかけた、その時だった。山崎から事情を聞いた真選組が、ようやく加勢に来て、攘夷浪士達と斬り合いを始めたのだ。

特に先頭を走る近藤は『刹那に何しやがんだテメーっ!』と親バカ全快で攘夷浪士に斬りかかっていた。

 

 

「私は一人じゃない……土方も一人じゃない」

「お前……」

 

 

刹那も不器用ながら土方にたどたどしく言葉を繋いだ。

土方は回りを巻き込まない様にと周囲を突き放したが、刹那はそんな土方の意思を見た上で山崎や近藤に話を付けてから此処へと来ていたのだから。

 

 

「……蔵場が逃げる」

「ちっ……あの野郎!」

 

 

刹那で指を示した先には、形勢不利と見て車で逃げようとする蔵場が居た。それを見た刹那と土方は同時に走り出した。

刹那は乗ってきたバイクを立たせて走らせると土方は即座に刹那の後ろに座り刀を構えた。

 

 

「刹那……蔵場の車に接触したらお前は離れろ。後は俺が奴を仕留める」

「………ん」

 

 

土方の指示に刹那は頷くと、バイクを加速させて蔵場の乗る車と並走した。その直後、土方は車の屋根に飛び乗り足元に刀を突き刺した。

蛇行する車の先にはコンテナがあり、刹那は危険を感じてバイクを道から逸らせる。

道から逸れたバイクを急いで元の道に戻そうとすると同時に、倉庫街に爆音が鳴り響いた。音が鳴ったのは先程、土方が蔵場の車を追い詰めた方角。

そちらへ振り返ると、蔵場が乗っていた車が真っ二つに斬られていて、そこには土方の他にも、沖田と銀時がいた。

 

 

「沖田……銀時……」

「……おら、オメーにも土産だ」

 

 

ミツバに寄り添って来ないだろうと思っていた人物達が土方を助けに来た事に驚いていた刹那に、銀時はポンとミツバの好きな激辛煎餅を渡した。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

真選組隊士に事後処理を任せて病院に戻った刹那、近藤、土方、沖田、銀時。

しかしミツバは既に臨終の間際だった。彼女の側には沖田がつき、手当てを受けた土方が激辛煎餅を食べてながら街を見下ろしている。

 

 

「辛ぇ……辛ぇよ、チキショー。辛すぎて涙出てきやがった」

 

 

ボリボリと月を見上げながら煎餅を食べる土方。近藤はそんな土方や沖田の事を心配に思いながらベンチに座っており、その隣で刹那も激辛煎餅を食べながらミツバとの会話を思い出していた。

 

 

『ねぇ……刹那ちゃん、少し……お願いしてもいい?』

『…………?』

『刹那ちゃんは皆と一緒に居てあげて。皆、口には出さないかもしれないけど、刹那ちゃんの事を大事にしてるから……私の代わりなんて思わないで。貴女は貴女としてね』

『ん……約束する』

 

 

刹那はこの時に交わした約束を守ったのだ。その“皆”の中にミツバを入れる為に。ミツバの所へ土方、沖田、近藤を向かわせる為に。

 

 

 

「やっぱり……辛い」

「ああ……辛いな」

 

 

 

ポリっと煎餅を噛る音が鳴ると同時に刹那の瞳から涙が頬を伝って流れ、近藤は刹那の頭を撫で続けた。

 

 



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○の爪

 

 

ミツバの死から幾日かが経ち、屯所内はいつもの静けさが戻っていた。

 

そんな中、刹那は食堂のおばちゃん達に混ざって料理を作っていた。髪を後ろで一つに纏めて縛り、新撰組の制服の上着だけを脱いで腕捲りをしつつエプロンを着る姿に、食堂のおばちゃんのみならず、それを目撃した隊士達も頬を緩ませていた。

因みに刹那がおばちゃん達に習っていたのはペペロンチーノだった。普段は食堂のランチにパスタなんて出ないのだが、普段食べないものなら近藤達も喜ぶと聞いて刹那はやる気を出していた。

 

しかし、作ってみたは良いものの、味見しても刹那は首を傾げるばかり。

それもその筈。刹那はペペロンチーノの味を知らないのだ。本来なら作り方を教えた食堂のおばちゃんが味見をするべきなのだが、彼女達も別の仕事をしなければならなかった為に、刹那は習った調理順で一先ずペペロンチーノを作り上げた。だが、ペペロンチーノの味を知らないので、作ったものが正解なのか解らなのだ。

 

刹那がどうしようかと悩んでいた時だった。刹那の背後からスッと男の腕が延び、その手に握られた菜箸が刹那の作ったペペロンチーノに伸ばされる。そして菜箸でペペロンチーノを小皿に取り分けると男は一口食す。

 

刹那は色々な意味で驚かされた。まずは背後に立たれた事。勘の鋭い刹那は背後を取られる事は滅多に無い。にも関わらず、見知らぬ男は刹那の背後を取ったのだ。

そして次に、食べる許可すら出していないのに、男が刹那の作った料理を勝手に食べてしまった事だ。

最後に、刹那は目の前の男を知らないと言う事である。なんやかんやで様々な所に交流がある刹那だが、少なくとも屯所内でこの男を見た事がない。つまりは部外者の筈だが、男は悠々と屯所に居るのだから驚きもする。

 

 

「ふむ……味を整えた方が良いな。鷹の爪はあるかい?」

 

 

男はペペロンチーノを食べ終えると小皿をテーブルに置き、刹那の作った料理にアドバイスを始めた。それを聞いた刹那は少し悩む素振りを見せた。

 

 

「………フリッツ・フォン・エリックは真選組には居ない」

「それは鷹の爪じゃなくてそれは鉄の爪だね」

 

 

見知らぬ男の問いに刹那は小首を傾げながら答えた。それを聞いた男は一瞬呆けたがコホンと咳払いを一つ。

 

 

「まったく……噂には聞いていたけど面白い娘だね」

「……私はアナタを知らない」

 

 

少し笑みを浮かべながら刹那を眺める男に、刹那は疑いの視線を送っていた。それを聞いた男は苦笑いを浮かべた後に口を開いた。

 

 

「自己紹介がまだだったね、僕の名は伊東鴨太郎。キミの事は近藤局長から聞いているよ」

 

 

自己紹介を済ませると伊東はニコリと笑みを浮かべながら刹那に手を差し出した。

 

 

「近藤局長の言い付けで屯所を離れていたけど、仕事が終わってね、戻ってきたんだ。これからヨロシク、刹那ちゃん」

「…………ヨロシク」

 

 

差し出された伊東の手を握る刹那。握った手に刹那は何故か冷たさを感じた。



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不真面目な奴が真面目だと好評価だけど真面目な奴が不真面目だと評価はめっちゃ下がる

 

 

 

ある日の事だった。刹那は街のパトロールをしていたのだが、今日は珍しく沖田が一緒だった。

 

 

「どーしたんでい刹那?」

「いつもパトカーでドライブしてる沖田が珍しく私と歩いてるのが変」

 

 

 

刹那はそんな沖田を珍しい者を見る目で見ていた。

 

 

「おいおい、俺だって仕事してるだろ。刹那は普段から土方さんと一緒だからそう見えるだけだ」

「………そう」

 

 

沖田の言葉に刹那は素直に頷けなかった。それと言うのも、伊東が真選組に来てから刹那は妙な居心地の悪さを感じていたからだ。

そして真選組屯所に戻った刹那はあり得ないものを見てしまう。土方の様子が明らかにおかしいのだ。

近藤と喧嘩をしたり、部屋で大音量でアニメ鑑賞、そしてバリバリのマ○ジン派にも拘らず、ジャンプを読み更に部屋の本棚には『To L〇VEる』が収められていた。

そこには土方が普段絶対にしないような奇行ばかり。そして極めつけと言わんばかりに……捕らえた犯罪人の浪士から何を企んでいたかを吐かせる為に拷問をしていた真選組隊士。業を煮やした土方が、俺がやると言い始めて他の隊士達を追い出し拷問を始めた。何をしているのか気になった隊士がソッと扉を開いて中を覗いてみると………土方と浪士が布団を並べて、二人揃って横になっていた。

 

 

「何、好きな人とかいるの?」

「いや……別に……いないけど」

 

 

何故か修学旅行で好きな子を教え合うような状況にその場の全員が首を傾げた。

 

 

「なんだよ〜、俺も言ったんだからお前も言えよな〜。ズリー、ズリーよ!ハメたな!ハメたろ!お前も吐けよ〜!」

「わかった!わかったって、吐くよ」

 

 

口調も拷問の方法も最早別人と言える状態の土方に隊士達は困惑を隠せなかった。

そして……

 

 

「うーむ……どうしたんだトシは……」

 

 

近藤は腕を組み、悩む仕草を見せている。それと言うのも、会議の時間だと言うのに土方が姿を表さないためだ。普段なら会議の始まる一時間前から居る筈なのに今回は姿が見えない。そして最近の土方の奇行は真選組内部でも噂になっており、近藤も以前、土方と口論になってからあまり話をしていないので不安が募っていた。

 

 

「……刹那ちゃん。その服装は?真選組の制服はどうしたんだい?」

「土方が似合うからこれ着なさいって持ってきた」

 

 

そんな微妙な空気の中、伊東が刹那に話し掛ける。刹那の現在の姿はボロボロのダークドレスの様な服を身に纏い、髪もツーサイドアップに結ってある。ぶっちゃけ金色の闇である。

 

 

「可愛いねぇ刹那ちゃん。写真撮るよ」

「あ、ズルいぞ!」

「俺も俺も!」

「ほら、刹那!ポーズ決めて!」

「え、えっと……こう?」

 

 

刹那の姿を写真に納めようとその場に居た者が挙って写真を撮り始める。刹那は戸惑いながらも隊士達のリクエストに応えながらポーズをしていた。

 

 

「貴様等、これから会議だと言うのに騒ぐな!」

「近藤さん、一眼レフカメラを持ちながらだと説得力皆無です」

 

 

近藤は隊士達を叱咤するべく叫ぶが、当の本人が刹那の目の前でシャッターを押しているから説得力はまるでなかった。

そして伊東は土方が最近、局中法度を破っている事を理由に土方を処罰するべきだと近藤に進言し始めたのだ。

その事に反論しようとした近藤と刹那が口を開きかけた、その瞬間。遅れてきた土方が会議室に現れた。沖田のパシリとして。

その光景に誰もが唖然とし……その中で伊東と沖田だけが悪どい笑みを浮かべていた。

 



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隔離された姫は飛び出し、真相を探しに行く

お待たせして、すいません。しかも短め。


 

 

 

土方は真選組から姿を消した。局中法度を犯したとして無期限の謹慎処分となったのだ。伊東は切腹を主張したが近藤や他の隊士達が拒んだ為に謹慎で済んだのだ。

そんな中、刹那も真選組の屯所から姿を消していた。

 

 

「刹那ちゃん、そんなにむくれないでくれ。キミを預かってる身としては心苦しいんだが」

「……むくれてない」

 

 

刹那は柳生家に預けられていた。真選組内の重苦しい雰囲気に刹那を味わわせたくないのと、土方を追放した事から刹那の機嫌が悪くなっているのを察した近藤が交流の深い柳生家に預けると決め、刹那は既に数日を柳生家で過ごしていた。しかし刹那の不機嫌な姿に九兵衛や柳生家関係者は頭を悩ませていた。

 

 

「あー……刹那殿?少しよろしいですか?」

「どうした東城?」

 

 

そんな中、東城が話し掛けずらそうに刹那に歩み寄る。何事なのかと九兵衛は眉を潜めた。

 

 

「テレビに土方殿らしき人物が映っているのですが……」

「土方が?」

 

 

東城の発言に刹那は顔を上げた。そしてテレビに視線を写すと確かに土方らしき人物が映っていた。

オタクの様な格好をして、お通親衛隊の隊長の新八と喧嘩をしている土方らしき人物が。

 

 

「あれ……本当に土方か?」

「うーん、前にお会いした時と随分雰囲気が変わったね」

 

 

テレビを見ながらタラリと汗を流す九兵衛と十夜。刹那はテレビに食い入る様に見ていた。

 

 

「せ、刹那殿……動揺する気持ちは分かりますが……」

「やっぱり……なんか変。土方らしくない」

 

 

東城が明らかに妙な様子の土方を見て動揺している刹那に話し掛けたが刹那は確信を持っていた。

 

 

「変って……確かに土方らしくないけど……」

「土方は少し前に刀を変えてから様子がおかしくなった。今もあの刀を持ってる」

 

 

テレビに映っていた土方は刀を所持していた。それは土方の様子がおかしくなった頃から持ちはじめた刀だと刹那は覚えていた。

 

 

「ふむ……だとすれば土方殿が奇っ怪な行動をしているのは、あの刀が原因と?」

「分からない……でも、あの刀を持ち始めた頃から土方はおかしくなった」

 

 

東城の言葉に刹那は意を決した様に立ち上がると着ている服を脱ぎ始めた。

 

 

「せ、刹那ちゃん!?」

「何をしてるんだい!?」

 

 

刹那の急な行動に九兵衛も十夜も慌て始める。因みに東城は普段から持ち歩いているハンディカメラを構えたが、即座に九兵衛に沈められた。

そんな事をしてる間に刹那は真選組の制服に着替えていた。

 

 

「刹那ちゃん、制服に着替えて何をする気なんだい?」

「土方を探しに行く」

 

 

九兵衛の言葉を背に、着替え終えた刹那は腰に刀を差して出ていこうとしていた。

 

 

「近藤さんからキミを頼むと言われてるんだけど?」

「土方、見付けてから近藤の所に行ってくる」

 

 

十夜が溜め息混じりに刹那に話し掛けると、刹那は銀髪を揺らして柳生家の屋敷を飛び出して行った。

 



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普段、大人しい奴ほどキレた時が恐い。

 

 

柳生家の屋敷を飛び出した刹那は、真選組屯所を目指して走っていた。

 

 

「刹那ちゃん、待って!」

「九兵衛は帰って。真選組の面倒な問題に巻き込まれる」

 

 

柳生の屋敷を飛び出した後、刹那を心配した九兵衛が後を追ってきたが、刹那は真選組の問題に巻き込みたくないと拒んだ。

 

 

「確かに真選組のゴタゴタに巻き込まれるかもしれないけど、僕はキミに恩を返したいんだ」

「水曜どうでしょうのマスコット?」

「それは恩じゃなくてonだね。後、あのキャラは水曜どうでしょうのマスコットじゃなくて、北海道テレビのマスコットだからね」

 

 

刹那の天然にツッコミを入れた九兵衛。その時だった。半壊したパトカーが街中を走り、暴走していた。

 

 

「なんだ……暴走か?」

「……銀時達と土方が乗ってる」

 

 

自分達の方に迫ってくる半壊したパトカーに銀時、新八、神楽や土方が乗っているのを見た刹那は走行するパトカーの屋根に飛び移った。

 

 

「おわ、刹那!?」

「どこから来たの刹那ちゃん!?」

 

 

突如、屋根に飛び乗ってきた刹那に驚く銀時と新八。

 

 

「だから待つんだ刹那ちゃん!」

「九兵衛も来たネ」

 

 

同じくパトカーに飛び乗った九兵衛に神楽が反応する。

 

 

「おお、神楽氏に加えて、刹那氏に九兵衛氏も……これはまた激萌え少女が増えましたな!」

「………萌え?」

「………本当に人が変わったな土方」

 

 

パトカーに飛び乗った刹那と九兵衛を見て、歓喜の声を上げた土方。その姿に刹那は小首を傾げて、九兵衛は本当に人が変わった様だと冷や汗を流した。

 

 

「刹那ちゃん、その事なんだけど土方さんの人が変わった理由が分かったんだ!」

「それにマヨラーとゴリラが狙われてるネ」

 

 

新八と神楽から聞かされた話は刹那と九兵衛を驚かせるには充分すぎるものだった。

土方の奇っ怪な行動は妖刀『村麻紗』の呪いなのだという。切れ味は抜群なのだが、人の魂を食らう妖刀。村麻紗には、この刀で母親に斬られた引きこもりの息子の怨念が宿っており、村麻紗を一度腰に帯びた者は怨念に引き込まれ、アニメや二次元メディアに対する興味が増幅し、それと反比例して働く意欲や戦う意思が激減される。

その呪いを受けた土方は正にヘタレたオタクと化したのだという。

 

そして、もう一方の話はなんと伊東がクーデターを起こし、近藤と土方を暗殺しようと画策していたとの事だった。

土方がヘタレたオタクとなった事を利用した伊東と沖田は手を組み、土方を真選組から追放した上で近藤を孤立させて暗殺する事を計画し、しかもその過程で山崎が殺害されたらしい。そして土方も始末する予定だったらしく、伊東派となった隊士に狙われた所を銀時達が救い、パトカーで逃げた所で刹那と九兵衛が合流したとの事だった。

 

 

「思っていた以上の事態だな。刹那ちゃん、僕も……ひっ!?」

 

 

刹那に話し掛けた九兵衛だが、刹那の様子に小さく悲鳴を上げた。刹那の瞳はハイライトが消え、体からは殺気が溢れ出ていた。

 

 

「おぃぃぃぃぃぃっ!殺し屋モードになってるよ!金色の闇になってるよ!?」

「どうするんですか、銀さん!?近藤さんと土方さんの暗殺計画を聞いてから刹那ちゃんの戦闘力がハネ上がってるんですけど!?」

 

 

明らかにヤバい様子の刹那に焦る銀時と新八。なんとか宥めようとした、その時だった。

 

 

「刹那ちゃん、キミが猛るのも良く分かるよ。僕も妙ちゃんの暗殺計画とか聞いたら冷静じゃいられないだろう。手を貸すよ」

「任せるネ、刹那。でも全部終わったらトッシーと一緒になんか奢れヨ」

「うん……お願い……」

 

 

宥めるのかと思えば、がっつり手を貸すつもりの九兵衛と神楽。そんな二人を見て更に焦る銀時と新八。

 

 

「おい、ヤベーよ。なんか俺達も一緒に行く雰囲気になってるけど一緒に行くだけで死にに行くよーなもんだよ、コレ。マグマの近くをドライブしろとか言われた方がまだマシに思えるよ」

「ヤバイですよ、ヤバイですよ!殺し屋と侍と戦闘民族が手を組みましたよ!?」

 

 

ハンドルを握りながら冷や汗をダラダラと流す銀時に、本気でキレている刹那にマジビビりをしている新八。

因みにトッシー状態の土方は刹那の殺気に充てられて気絶していた。

 



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危険を知らせる無線と切欠

 

 

気絶から復活した土方だが、未だに妖刀に魂を食われたままの状態でガクガクと怯えていた。

 

 

「おい、土方!」

「僕は知らない……僕は知らない……」

 

 

九兵衛が話し掛けても目をそらしてガクガクと震えるだけだ。

 

 

「しっかりしてください土方さん!このままじゃアナタの大切な人が……大切なものが全部なくなっちゃうかもしれないんですよ!」

「……知らない、僕知らない」

「いい加減にしろ土方!刹那ちゃんの兄貴分のお前がそんな調子でどうする!?」

 

 

新八と九兵衛の説得も虚しく、怯えた表情で『知らない』と言い続ける土方。

 

 

「銀ちゃん、どうするアルか?」

「……神楽。無線を全車両から本部まで繋げろ」

 

 

神楽が無線機を破壊しつつも無線を本部に繋げた。それを確認した銀時が無線機を持つ。

 

 

 

「あー、もしも~し。聞こえますかーこちら税金泥棒。マヨネーズ派だか伊東派だか知ねーが、全ての税金泥棒に告げる。今すぐ今の持ち場を離れ、近藤の乗っている列車を追え。もたもたしてたらテメー等の大将首取られちゃうよ~。こいつは命令だ。背いた奴には、士道不覚悟で切腹してもらいまーす」

 

 

間の抜けた声で無線に話す銀時。その無線は他の車両をはじめ、本部にまで届いている。突拍子もない無線に他の車両の誰かが叫び始めた。

 

 

『イタズラかァ!? てめェ誰だ!』

「テメェこそ誰に口きいてんだ。誰だと?」

 

 

銀時はそこで一際、大きく息を吸い込む。そして叫んだ。

 

 

「真選組副長、土方十四郎だコノヤロー!」

 

 

銀時がキレ気味に叫び、叩きつけるように無線機を戻そうとしたが何かを思い付いた銀時は再び口を開いた。

 

 

「それと刹那ちゃんも現場に向かってるから急がないと乱暴されちゃうよ。薄い本みたいになっちゃうぞォォォォォォッ!」

『『『野郎共、カチコミじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』』』

 

 

 

最後に付け加えた一言に到底警察とは思えぬ叫びが聞こえてきた。

 

 

「薄い本って何?」

「……刹那ちゃんにはまだ早いかな」

 

 

子首を傾げた刹那に答えをはぐらかした新八。しかし、心中は『刹那ちゃんに何を説明させてんだぁぁぁぁぁぁっ!』と銀時に叫んでいた。

そんな新八を無視しながら銀時は土方に話しかける。

 

 

「ふぬけたツラは見飽きたぜ。いい機会だ、真選組が消えるならテメーも一緒に消えればいい。墓場までは送ってやらァ」

「冗談じゃない! 僕は行かな……っ」

「テメーに言ってねーんだよ。そもそも、テメーが人にもの頼むタマか」

 

 

反論しようとする土方の胸倉をガッと掴む銀時。

運転を離れた影響でグラリと車内が揺れる。慌てて神楽が頑張ってハンドルを握るが、免許を持っていない者がハンドルを握っても車体はフラついてしまう為、道路の端に車体が当たってしまう。

 

 

「くたばるなら大事なもんの傍らで、剣振り回してくたばりやがれ!それが土方十四郎テメーだろーが!ゴリラがいねー時に刹那の面倒見るのがテメーだろうが育児放棄かこの野郎!」

 

 

そう叫び散らすと、明確な変化がそこで起きた。俯き気味だった土方が銀時の腕を掴んだのだ。

 

 

「……ってーな」

「あ?」

 

 

すると一つの変化が起きた。今までヘタレだった土方から、いつもの土方の雰囲気が垣間見えたのだ。

 

 

「痛ェって、言ってんだろーがアアァァァ!!!!」

 

 

その直後、土方が銀時の頭を鷲掴みにして、そのまま無線機などが設置されている所へと、勢いよく叩きつけた。

 

 

「……土方」

 

 

先程までのヘタレからは想像も出来ない行動に刹那も目を丸くしていた。



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傍若無人と暴虐は紙一重

 

 

銀時達はパトカーの中にあった真撰組の制服に着替え、列車を追いかける。

パトカーの中には他にもマシンガンやバズーカなどの武器も入っていて、突入には申し分なかった。

刹那は元々、制服を着ていたのでそのままである。

 

 

「御用改めである!」

「テメー等、神妙にお縄につきやがれ!」

「真撰組、推参だ!」

 

 

新八がハンドルを握り、銀時と神楽、九兵衛がバズーカやマシンガンを撃ち、パトカーの上で土方と刹那が並んで乗っていた。

その姿は真撰組、副長らしい風格を漂わせていた。

 

しかし、バズーカを撃った事で列車の一部や周辺の木々を破壊してしまい、それぞれの破片がパトカーに迫る。車内にいた銀時達は無事だが、外に居た刹那と土方には雨のように破片が降り注いだ。飛んできた木の破片を刹那は避けたが、土方の顔面に破片がクリティカルヒットし、土方はそのまま転がり落ちそうになる。

 

 

「痛ったぁぁぁぁぁぁ!痛あぁぁいぃぃぃぃっ!!」

「てんめぇぇぇ!少しの間くれぇカッコつけてらんねーのか!仲間の士気を高めるためには、副長健在の姿を見せねーとダメだっつっただろうがっ!」

 

 

銀時の檄が飛ぶも、ヘタれた土方はパトカーに必死にへばりついていた。しかし、その視線は一緒に屋根に乗っていた刹那のスカートに注がれている。

 

 

「無理、やっぱ僕には無理だよ!」

「ふざけんな!人を殴る時だけ復活してスグ元に戻りやがって!しかも、刹那の揺れるスカートの中身を気にしてんじゃねーよ、クソオタク!」

「……えっち」

 

 

土方の弱々しい叫びに銀時は怒鳴り付け、スカートの中を覗かれていた刹那は、落ちそうになっている土方の頭を踏んだ。

 

 

「で、あのゴリラ局長はどこにいる」

「アレアル!離れた位置を走るあの車両!敵がみーんな、彼処へ向かっていくネ!」

 

 

銀時は土方を蹴りながら近藤を探す。そして神楽が怪しげな列車の一団を見付け、彼処に近藤が居ると確信を持った。

 

 

「……だそうだ土方氏。あとは自分で何とかしろ」

 

 

銀時がパトカーのドアを開け、土方を突き飛ばす。

突然外に投げ出された土方は、ドアにしがみついて引き摺られる形でついてきた。

 

 

「ちょっと待ってよ、坂田氏ィィ!!こんなところに拙者一人を置いていくつもりかァァァ!!それはヤムチャをナメック星に送り込んで宇宙の命運を託すが如き、行為だよ」

「大丈夫、お前はベジータだ。やれば出来る!」

 

 

ドアを必死に掴んで抗議する土方に、銀時は追い打ちとばかりに蹴りを放つ。

 

 

「だったら銀時も行って」

「危ねぇぇぇぇっ!?何してくれてんだテメェ!!」

 

 

そんな銀時を刹那が突き飛ばし、銀時も土方同様にドアにしがみついた。

 

 

「大丈夫、銀時なら王下七武海になれるから」

「ふざけんなクソガキ!……ってスイマセン!俺が悪かったから背中に乗らないでください!!」

 

 

刹那の行動に異を唱えようとした銀時だが、刹那が背中に乗ってきた為に途端に卑屈になる。

 

 

「た、助かったよ刹那氏ぃぃ!」

「土方はさっきスカート覗いた事を反省して」

 

 

そう言って土方と銀時の背中に片足を乗せて仁王立ちの刹那。先程の件も相当に腹に据えかねていたらしい。

 

 

「刹那ちゃん!?流石にそれは傍若すぎるよ!?」

「私、ボージャックよりもクウラが好き」

「いや、なんの話をしてんだテメーは!?それと劇場版ならブロリーだろ!」

 

 

新八のツッコミに対して、明後日の答えを出す刹那。銀時もツッコミを入れるが状況が状況なだけにパニックになっているらしい。

 

その時、ようやく真選組のパトカーが銀時達に追いついた。原田の乗ったパトカーが、銀時達と並走する。

 

 

「ったく……ようやく来やがったか。もうコイツ等のお守りはたくさんだ。さっさとコイツ等引き取ってくんな。ギャラの方は幕府からこの口座に入れとけや……」

「伊藤の野郎ついに本性を表しやがったか!だが副長と刹那が戻ってきたからには、もう大丈夫だぜみんな!!」

 

 

ドアにしがみついていた銀時と土方はどうにか車内に戻る。そして銀時は、やれやれと溜め息を吐きながら口座番号の入ったメモを原田に渡そうとするが、原田はテンションが高いのか銀時の発言を無視してるのか、そのまま話を進める。

 

 

「副長、敵は俺達が相手します!副長はその隙に局長を救い出してください!」

「オイ、待てェェェェ!テメー等の副長おかしな事になってんだよ!オタクになってんだよ!オイ、聞けやハゲェェ!!」

 

 

銀時の発言をシカトしたまま離れていく原田達。取り残された銀時はただただ悲痛な叫びを上げるしかなかった。



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鈍色から銀色へ

 

 

 

 

走る列車から土方の姿を見た近藤は涙を流していた。

 

 

「馬鹿野郎……なんで、なんで此処に居るんだよ……」

 

 

自らが謹慎を命じ、隊から追い出した筈の土方の姿に近藤は涙が止まらなかった。

 

 

「俺からあんな仕打ちを受けた、お前が……なんで俺の為にこんな処に来てやがるんだよぉぉぉぉぉぉぉっ!トシィィィィィィィィッ!!」

 

 

涙のみならず鼻水まで流しながら近藤は叫んだ。それと同時に迫るバズーカの弾。

直後、近藤の乗っていた車両は一部が破壊され、中が露になっていた。

 

 

「近藤さん無事ですかぁ!?」

「ダメネ、いないアル。ゴリラの死体が一体転がってるだけネ」

「銀時、迂闊に撃たないで」

「落ち着こう刹那ちゃん。俺が悪かったからウォーズマンのエルボースタンプの態勢を解こう?な?」

 

 

新八が近藤の身を案じるが神楽は近藤が倒れていると遠回しに伝える。それは銀時が放ったバズーカの弾に巻き込まれたのを知っていた刹那は、銀時の首に後ろからスルリと足を絡めると四の字に極め、エルボーを頭に叩き込む態勢になっていた。洒落にならんと思った銀時は、先程同様に少々卑屈になりつつ刹那を落ち着かせようと話しかける。 

その中で倒れていた近藤が起き上がり、銀時達に抗議する。

 

 

「何すんだァァァ!てめーらァァァァ!」

「あっ、いた。無事かオイ、なんかお前暗殺されそうになってるらしいな、一丁前に」

 

 

抗議した近藤に対して舐めた返答を返す銀時は、刹那の脚を外そうと刹那の脚に手を触れていた。

 

 

「されそうになったよ、たった今!それと万事屋、刹那の脚に挟まれて幸せそうにしてんじゃねーよ!」

「おい、もういっそ暗殺されてしまえクソゴリラ」

 

 

こんな状況でも親バカを炸裂させる近藤に九兵衛の冷たい視線とツッコミが入る。

 

 

「お前等まさか、トシをここまで……ありえなくね!?刹那は兎も角、お前等が俺達の肩を……」

「遺言でな、コイツの」

「遺言!?」

 

 

近藤は刹那ならまだしも、万事屋メンバーや九兵衛が加勢に来た事を信じられなかった。しかし、銀時の一言でその表情は驚愕に染まる。

 

 

「妖刀に魂食われちっまった。今のコイツはただのヘタレたオタク。さっきからビクつきながらも、その視線は刹那のスカートに注がれている若干ロリコンの入った見事なオタクだ。コイツの魂が戻ってくる事はもうねーだろうよ」

「妖刀だと!?そんな……だが最近トシの様子がおかしかったのも全て妖刀の仕業だとすれば………」

 

 

 

愕然とする近藤。しかし銀時の言う通り、ここ最近の土方の様子や不可解な行動を思い出した。アレ等が全てが妖刀のせいだとするならば……。

 

 

「そ、そんな状態で……トシがお前らに何を頼んだってんだ……」

「真選組護ってくれってよ。」

 

 

答えた銀時が、肩を竦めて続ける。その様子に刹那も瞳を閉じて辛そうにしていた。土方の元の性格を考えればそんな事を銀時達に頼むのは苦渋の選択だっただろう。

 

 

「面倒だからてめーでやれって、ここまで連れてきた次第さ。俺達の仕事はここまでだ。ギャラはテメーに振り込んでもらうぜ」

「……振り込むさ、俺の貯金全部」

 

 

銀時の話を聞き終えた近藤は俯いた顔を上げ、銀時にギャラの話をし始める。

 

 

「だが万事屋……俺もお前達に依頼がある。これも遺言だと思ってくれていい。トシと刹那を連れてこのまま逃げてくれ。こんな事になったのは俺の責任だ。戦いを拒む今のトシを……そして大人の責任に刹那を巻き込みたくねェ」

 

 

近藤は、後部座席に座る土方を見つめる。その声音からも、表情からも彼が自責の念に駆られていることは、ハッキリと感じとれた。

 

 

 

「以前から、伊東に注意しろとトシに言われていた。しかしそれを拒み、挙句には失態を犯したトシを、伊東の言うがままに処断した。トシが、妖刀に蝕まれているとは知らずに。そんな身体で必死に真選組を護ろうとしていたことも、そのためにプライドを捨てて、お前達に真選組を託したことも知らずに。すまなかった、トシ。すまなかった、みんな……俺ぁ…俺ぁ…大馬鹿野郎だ。全車両に告げてくれ。今すぐ戦線を離脱しろと。近藤勲は戦死した。これ以上仲間同士で殺り合うのはたくさんだ」

「近藤……それは違う」

 

 

近藤の懺悔の様な謝罪を否定した刹那。パトカーの屋根に乗り、長い銀髪を揺らした刹那は真っ直ぐに近藤を見据えていた。

 

 

 

「私は真選組が好きだから此処にきた。近藤を犠牲にして成り立つ真選組に私は居たくない。原田達もそうだと思う。みんな近藤が好きだから集まってる」

「……刹那」

 

 

その時、後部座席から手が伸びてきてマイクを取った。

 

 

「あーあー、ヤマトの諸君。我等が局長、近藤勲は無事救出した。勝機は我等の手にあり。局長の顔に泥を塗り、受けた恩を仇で返す不逞の輩。敢えて言おう、カスであると!今こそ奴らを、月に代わってお仕置きするのだ!」

『オイ、誰だ!気の抜けた演説してる奴は!?』

 

 

マイクを取った土方は締まらない演説をし始め無線からは妙な演説をした土方を叱責する声が上がる。

 

 

「誰だと?真選組副長、土方十四郎ナリ!」

 

 

 

ガシャンと乱暴にマイクを戻し、土方は列車の近藤を見つめた。

 

 

 

「近藤氏、僕らは君に命を預ける。その代わりに、君に課せられた義務がある。それは死なねー事だ。何が何でも生き残る。どんなに恥辱に塗れようが、目の前でどれだけ隊士が死んでいこうが、君は生きにゃならねェ。君がいる限り、真選組は終わらないからだ。僕達はアンタに惚れて、真選組に入ったからだ。バカのくせに難しい事考えてんじゃねーよ。テメーはテメーらしく生きてりゃいいんだ」

 

 

土方は胸ポケットからタバコを取り出すと火を点す。その瞳は先程までのヘタレたオタクの物ではなかった。

 

 

「俺達は、何者からもソイツを護るだけだ。近藤さん、あんたは真選組の魂だ。俺達はそれを護る剣なんだよ。それに……アンタが刹那の保護者を止めれるとは到底思えないんでな」

「……!」

 

 

近藤を護る剣と刹那の兄貴分としての顔を取り戻した土方。その光景に刹那の頬が緩みそうになったと同時に、後方からバイクに乗って車両とパトカーを追いかけてくる二人の男が。一人は伊東。もう一人は、サングラスとヘッドホンをした男だった。

 

 

 

「一度折れたキミに、何が護れるというのだ。土方君、君とはどうあっても決着をつけねばならぬらしい。刹那ちゃんも残念だよ。キミは良い手駒になりそうだったのに」

「剣ならここにあるぜ。よく斬れる奴がな」

「私は……駒なんかじゃない」

 

 

伊東の挑発に土方は村麻紗を手に取り、刹那は止水に手を掛けた。

しかし土方の方は剣を抜こうとしても、呪いのせいか全く抜けない。

 

 

「何モタクサしてやがる。さっさと抜きやがれ」

「黙りやがれ。俺はやる、俺は抜く、為せば成る。燃えろォォ俺のコス……イカンイカンイカンイカン!」

 

 

歯を食い縛って刀相手に悪戦苦闘するが、呪いの影響が少なからず出ていた。気合いが別の方向に向きそうになった土方だったがパトカーの後方のガラスを割り、そこからトランクの上に立つ。

 

 

「万事屋ァァァァァァ!」

「何だ?」

 

 

土方は剣を抜こうとするが一向に抜ける気配はない。だが剣と鞘からはミシミシと何かが軋む音が聞こえていた。

 

 

「聞こえたぜ、テメーの腐れ説教!偉そうにベラベラ喋りやがって!テメーに一言、言っておく!」

「銀時、私も」

 

 

剣を抜こうとする土方の隣に立つ刹那。土方と違い刹那は止水を鞘からは解き放ち始める。

 

 

「ありがとよォォォォ!!」

「ありがとう」

 

 

土方の絶叫の感謝と刹那の感謝を背中で聞き、銀時はありえないとばかりに返した。

 

 

 

「オイオイ、刹那は兎も角、副長はまた妖刀に呑まれちまったらしい。トッシーか、トッシーなのか」

「俺は、真選組副長、土方十四郎だァァァァァ!!」

 

 

土方の村麻紗と刹那の止水が解き放たれ、白刃が露になる。淡い鈍色が日差しを浴びて見事な銀色へと変わっていった。



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それぞれの音

 

 

鞘から村麻紗の刀身が抜かれ、その姿が露わになる。それは即ち、土方が妖刀の呪いをねじ伏せたことを意味した。同じ様に止水を引き抜いた刹那。

銀時も口元に笑みを浮かべ、近藤を見る。

 

 

「ワリーなゴリラ、そういうこった。残念ながら、テメーの依頼は受けられねェ。なんぼ金積まれてもな。あっちが先客だ」

 

 

近藤は呆れた様に溜め息を吐いた。

 

 

「万事屋、仕事はここまでじゃなかったのか」

「なぁに、延滞料金はしっかり頂くぜ。刹那のお守りも含めてな」

 

 

銀時がパトカーのボンネットに片足を乗せ、近藤の手を引き寄せる。

ずっと後方から走ってきたバイクがパトカーに迫る。そのバイクに乗っているのは裏切り者の伊東と攘夷浪士の河上万斉である。

 

 

「奴の魂の曲調が変わった。幼稚なアニソンから骨太のロックンロールに……お主もか伊東。格調高きクラシックから……狂暴なメタルでござる」

 

 

妖刀をねじ伏せた土方を見た万斉は土方が魂を取り戻した事を感じる。同様に、それを見た伊東が魂を昂らせているのを感じた。

 

 

「ふむ……どちらも良い曲だ。思う存分奏でるが良い!美しい協奏曲を!」

「伊東ォォォォォッ!」

「土方ァァァァァッ!」

 

 

万斉の叫びに呼応する様に土方と伊東の刀が激突する。

土方の斬撃は伊東の肩を斬ったものの、伊東の斬撃はパトカーのタイヤを一つ切り落とした。バランスを崩したパトカーはコントロールを失い、更に後方から追い付いた列車にぶつかりかける。

咄嗟に土方が扉に足を、トランクに手をついて、衝突を防いだ。

 

 

「何してんだァァァッ!早くなんとかしやがれェェッ!」

「ちっ!神楽、手伝ってやれ!新八は車両を安定させろ!」

「ハ、ハンドルが動かない!」

 

 

しかもこのタイミングで、敵の車がやってくる。土方は今、全く身動きの取れない無防備な状態だ。銀時が神楽と新八に指示を飛ばす。

 

 

「トッシー、後は私に任せるネ。何も心配いらないネ!刹那も手伝うアル!」

「わかった」

「おかしいィィ何かおかしィィッ!刹那もそこで脚を広げるな!」

 

 

神楽が助太刀に入る。何故か土方の腹の上に乗り、刹那は土方の胸の上に乗って脚を開いていた。

神楽に向かって、浪士が斬りかかる。しかしその瞬間、列車の扉が片方吹っ飛ばされ、車ごと浪士を巻き込んで転がっていった。

 

 

「近藤さん、さっさとこっちへ移ってくだせェ。ちぃと働き過ぎちまった。残業代出ますよね、コレ」

「総悟!」

 

 

車輌の中は、沖田が粛清した隊士達があちらこちらに転がり、血が所々に飛び散っていた。沖田自身も頭から血が流れ、腕を怪我している。

 

 

「俺が、是が非でも勘定方にかけ合ってやる」

「そいつぁいいや。ついでに伊東のやつの始末も頼みまさァ。俺ァちょいと疲れちまったもんで。土方さん、少しでも遅れをとったら俺がアンタを殺しますぜ。今度弱み見せたらァ、次こそ副長の座ァ俺が頂きますよ」

 

 

何やらカッコイイ雰囲気を醸し出しているが、彼はその土方の上に乗ってそのセリフを言っていた。

 

 

「いや、土方ここォォォォォッ!」

 

 

今でも落ちるか否かのヤバい状況なのに、刹那が再度、土方の胸の上に乗る。

 

 

「そもそも沖田が伊東に手を貸したから面倒くさい事になった」

「おいおい、俺は伊東が尻尾出しやすい様に動いただけだぜェ」

「つーかテメーら何で当たり前のように人を橋のように扱ってんだ!?そんでスカートのまま上に乗るなって言ってんだろうが!」

 

 

土方の腹の上で言い争う刹那と沖田にツッコミを入れる土方。

 

 

「待ってくれ、トシや刹那を置いて俺だけ逃げろというのか!?」

「そこで揉めんなァァァァァッ!」

 

 

追い討ちとばかりに近藤までもが土方の腹の上に乗る。

 

 

「おいおい、さっさとしろ……どわぁぁぁぁぁぁっ!?」

「銀さぁぁぁぁぁん!?」

「離れてた先頭車輌が!」

 

 

茶番を演じる土方達を銀時が急かそうと声を掛けると、後方から先程のバイクが迫ってきて銀時を轢いた。その光景に新八は悲鳴を上げ、神楽は離れていた先頭車輌に追い付いてしまった為に先頭車輌と後方車輌に挟まれそうになるパトカーに焦り始める。

 

 

「ぬがぁぁぁぁ!潰されるぅぅぅ!」

 

 

二つの車輌に挟まれたパトカーと土方はミシミシと悲鳴を上げながら潰されていく。その最中、伊東のつまらなそうな表情が見えた。

 

 

「土方君、キミは僕の唯一の理解者だった。惜しむらくは僕の器を知り、恐れて敵に回ってしまった事か。キミがもし局長だったなら僕は反乱など企みはしなかったかもしれないよ。ふふ、あくまで仮説だがね。たがキミも一つだけ僕を勘違いしている。キミが僕の器を知るように、僕もまたキミの器を知ると言うことを」

 

 

伊東はそう言いながら伊東は腰の刀に手を掛けた。

 

 

「土方十四郎、来い!最後の決着の時だ!」

 

 

崩壊したパトカーから飛び出した土方が刀を振るい、伊東に迫る。土方と伊東の因縁の戦いの火蓋が切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白い……実に面白い。面白い音が奏でられている」

 

 

その光景を見ていた万斉は楽しそうに喉を鳴らした。

 

 

「出鱈目に無作法。気ままでとらえどこらのない音はジャズに通ずるか……しかし、それにしては品がない。喩えるなら酔っ払いの鼻歌でござる」

 

 

万斉は目の前で対峙する銀時を見据えながら呟くが、すぐに視線を列車の方に向けた。

 

 

「あの娘も面白い音を奏でる。以前は何もない……音すら奏でない存在であったが……今は海のさざ波の様な癒しの音を奏でておる」

 

 



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策士策に溺れるが、握り返された手

気が付けば一年近く放置……申し訳ありません!


 

 

 

 

「背信行為を平然とやってのける者を仲間にするほど、拙者達は寛容にござらん。また、信義に背く者の下に人は集まらぬ事も拙者達は知っている」

「おい、まさか!?」

 

 

銀時と対峙する万斉は列車に向けていた視線を外さず告げた。

銀時は嫌な予感がして、瞬間的に振り返る。その瞬間、列車が向かった先で爆発が起こった。

 

 

 

「哀れな男でござる。己の器量を知った時にはもう遅い。それを悟るのは全てくだけ散った時だけだ」

 

 

呆然と振り返っていた銀時に事もなげに続ける万斉。

 

 

「晋助は伊東を看破していたでござる。自尊心だけ人一倍強い、己の器も知らぬ自己顕示欲の塊。それを刺激し、利用するのは容易なことでござる。思惑通り、真選組同士争い、戦力を削ってくれたわ」

「テメー等……ハナから真選組潰すつもりで伊東を利用してたってのか」

 

 

会話の最中、崩壊し、橋から落ちそうになっている列車に視線を移しながら銀時は万斉に問う。更にトドメを刺そうと何処からか飛んできたヘリコプターが列車に対して機関銃を撃ち始める。

 

 

「伊東の反乱を手引きし、協力をする体を装い、仲間割れで消耗した真選組を壊滅するつもりだってのか?」

「あの男らしい死に様でござろう。裏切り者は裏切りによって……死ぬ」

 

 

銀時の問いに万斉は伊東の処刑方法を告げるが、銀時はいつものイヤらしい笑みを浮かべていた。

 

 

「お前等の企み……いい線、行ってたけどよ……アイツへの見通しが甘かったな」

「なんだと……なっ!?」

 

 

銀時の言葉と同時にヘリコプターは突如爆発し、万斉の方へと落下し始めたのだ。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

時間を少し巻き戻し、列車が崩壊した直後。

 

 

「こ、此処は……」

 

 

気を失っていた伊東は目を覚ました直後、状況確認の為に周囲を見渡す。崩壊した列車の中で伊東は血塗れになった何者かの左腕を見付けた。

 

 

「そ、そうか……やった!僕は遂に土方に勝ったんだ!ハハハッ……は?」

 

 

土方に勝った事を確信し、伊東は高笑いを上げるがそこで自身の異常に気付く。左腕に燃えるように熱い痛みが走ったのだ。咄嗟に視線を自身の左腕に移して……絶望する。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

伊東の左腕は二の腕から先が失われていた。血塗れになった左腕は伊東自身の物であった。自覚した事で左腕だけではなく全身の痛みが伊東を襲う。

痛みに悶絶していた伊東は痛みと混乱でのたうち回る事しか出来なかった。その姿は先程や講釈垂れていた時の物とは違い、哀れな姿であった。

そんな伊東に更なる悲劇が襲う。万斉が手配した攘夷志士のヘリコプターが舞い降り、伊東を機関銃で狙い撃ちし始めたのだ。

 

 

「や、止めろ!やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 

身を捩り、機関銃の弾から逃げようとする伊東だが、その程度では機関銃から逃れる事は叶わない。遂に列車から落ち、その体は谷へと落下していく。

 

 

 

 

 

伊東は心の中で叫び続けた。

 

 

 

やだ……やめてくれ!

 

僕はこんな所で死ぬ男じゃない!

 

僕はまだ出来るんだ!

 

 

もっと……もっと……

 

 

なんで、誰も僕を見てくれない……こんなに頑張っているのに……僕は何も悪くないのに……

 

僕を一人にしないでくれ……隣にいてくれ……

 

 

 

 

この手を……握ってくれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう願い、伸ばした伊東の手を小さく柔らかな手が握り返す。

 

 

「なっ!?」

「捕まえた……近藤!」

「任せろ!」

 

 

振り返った伊東は手を握ってくれた人物を見て更に驚いた。

刹那が伊東の手を握り、刹那の手を近藤が握り、更にその後ろでは沖田、新八、神楽が近藤を掴んで支えていた。

刹那は伊東の右手を引き上げ、近藤に託すと自身は跳躍し、止水を構えてヘリコプターへと迫る。

 

 

 

「………天使?」

「ああ……刹那は天使みたいに可愛いんだよ、伊東先生」

 

 

伊東は刹那の背中を見送った。刹那の銀髪が風に揺られ、まるで刹那の背中に天使の羽が生えているかの様だった。

刹那から伊東を託された近藤はニッと笑みを浮かべて、伊東の手を力強く握りしめた。

 

 

 



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繋がれていた絆

 

 

 

 

止水を構えて、ヘリコプターに跳躍した刹那はマシンガンから放たれる銃弾の雨を避けながらヘリコプターのローターを叩き斬った。

 

 

「刹那、早く飛び移れ!」

「んっ!」

 

 

近藤の叫びに落下していくヘリコプターから跳躍し、崩壊しかけている列車に飛び移ろうとする刹那。しかし、僅かに距離が足らずにそのまま落ちそうになってしまう。

このままでは谷底へ落下してしまうと思われた時だった。刹那の手を力強く握られる。

 

 

「刹那、大丈夫か!?」

「見た目によらず……無茶をするんだなキミは……」

「土方……伊東……」

 

 

刹那の手を土方がギリギリで掴み、土方の反対の手を伊東が掴み、落下を防いでいた。

 

 

「悪いな、列車の中の攘夷浪士を片付けて遅れた」

「間に合ったなら、それでいい。ありがとう」

 

 

グッと力を込めて刹那を引き上げる土方。土方が遅れたのは列車に残っていた攘夷浪士を倒していたかららしい。

 

 

「間に合ったならそれでいい……か。キミらしいな……」

「伊東も……ありがとう」

 

 

刹那を引き上げた後、座り込み壁に体を預けていた伊東が口を開く。片腕を失くし、息切れもしている体で伊東は刹那を見据えていた。そんな伊東に刹那は礼を言い、伊東はそんな刹那に呆れた様な溜め息を吐いた。

 

 

「キミは……いや、キミ達は親子だな」

 

 

近藤も先程、似たような事を伊東にしていた。どちらも意識してやった事では無いが自然と同じ行動をしていたのだ。

 

 

「やりたい事をしただけ」

「そう……か」

 

 

伊東の言葉に首を横に振ると、伊東の脇を通り抜け窓から外へと飛び出す。列車の中の攘夷浪士は土方の手により既に倒されていたが、列車の外に増援として現れた攘夷浪士はまだまだ居る。それを見た刹那は真っ先に行動を起こしたのだ。

 

 

「近藤だけじゃない……刹那はキミにも似ているよ土方君……」

「そうかい……アイツも真撰組に染まってるって事だな」

 

 

伊東は目の前の土方に告げると、土方は煙草に火を灯しながらも何処か嬉しそうだった。

 

 

「土方君……僕はキミに言いたい事がある」

「奇遇だな、俺もだ」

「「俺(僕)はお前(キミ)が嫌いだ。いずれ殺してやる。だから……こんな所で死ぬな」」

 

 

土方と伊東は互いに睨みながら告げる。伊東が欲しがった繋がりは既に繋がれていたのだ。

 

列車の外に出た刹那は迫り来る攘夷浪士達を次々に切り伏せていた。刹那一人なら苦戦していたし、列車の中に入っていく残った攘夷浪士達に焦っていたかも知れないが刹那の隣で九兵衛が戦っていた。九兵衛が隣で戦う事で刹那の負担が軽減され、列車に入っていく攘夷浪士が減る事で刹那の焦りも和らいでいた。

 

 

「やるな、刹那ちゃん。以前よりも剣筋が鋭いぞ」

「九兵衛は肩の力が抜けたかも」

 

 

攘夷浪士を切り伏せながら、以前戦った時とは印象が変わったのだと互いに感じていた。

その時だった。先程落としたヘリコプターとは別のヘリコプターが飛来し、マシンガンで列車を狙い撃ち始めたのだ。

 

 

「九兵衛!」

「任せろ!」

 

 

刹那の叫びに九兵衛は刀の背が上になる様に振りかぶる。その刀の背に飛び移った刹那。それと同時に九兵衛は刀を振り下ろし、その勢いで刹那は宙を舞い、ヘリコプターへと飛び移った。

 

 

「なっ!貴様、何処から!?」

「これ以上はさせない!」

 

 

マシンガンを撃っていた攘夷浪士は突如現れた刹那に驚愕すると同時に刹那に斬られてマシンガンを撃つ手が止まる。マシンガンが止まった事で硝煙が収まり、列車の様子が見えてくる。

 

其処には土方達を、銃弾の雨からその身で庇う伊東の姿があった。

 

 

 



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仲間として

本当にスミマセン。お待たせしました。


 

 

 

刹那はマシンガンを撃っていた乗組員を切った後、ヘリコプターから列車へと再び飛び移った。さりげにテールローターを斬って行ったのでコントロールを失ったヘリコプターは銀時の居た地点へと落下して行ったが刹那はそれどころじゃなかった。

 

 

「伊東!」

「ぐ……ううっ……」

 

 

刹那は伊東に駆け寄り、その身を案じた。伊東は近藤達をその身を挺して守った事でマシンガンの弾を複数箇所に浴びて重傷となっていたのだ。

 

 

「おい、先生!」

「伊東!」

「何をしている……局長、副長……指揮を取るんだ……まだ敵は居る……君達の健在を示せ……隊士達の士気を……高めるんだ……」

 

 

伊東は喋るのも辛い様な状態でありながら近藤と土方に発破を掛ける。その言葉に頷いた近藤と土方は列車の外へと走って行き、刹那は自身の体で伊東が少しでも楽な状態になれる様にと膝を貸していた。

マシンガンの銃弾から庇われた新八、神楽、久兵衛は伊東に歩み寄る。

 

 

「何で……あんな事を……裏切りなんてした貴方が何で、僕らを庇ったりなんかしたんですか」

「……君達は……真選組ではないな。だが、真選組と言葉で言い難い絆で繋がっているようだ。友情とも違う、敵とも違う」

「ただの腐れ縁です」

「刹那の家族だから手助けしたまでネ」

「お妙ちゃんを巡る恋敵だ。が、敵ではない」

 

 

伊東の疑問に新八、神楽、九兵衛が答えた。

 

 

「……ふっくく……そんな形の絆もあるのだな……知らなかった。いや、知ろうとしなかっただけか……人と繋がりたいと願いながら、自ら人との絆を断ち切ってきた。自らのちっぽけな自尊心を守るために、本当に欲しかったものすら見失ってしまった。真選組という漸く見つけた絆でさえ、僕は自ら断ち切ってしまった……」

「……伊東」

 

 

伊東の独白に刹那は伊東の残された手を握る。僅かに力が込められた様には感じたが弱々しい握り返しだった。

 

 

「何故……何故いつだって、気付いた時には遅いんだ。何故、共に戦いたいのに……立ち上がれない。何故、剣を握りたいのに、腕がない。何故、漸く気付いたのに……僕は、死んでいく」

 

 

伊東の言葉に新八、神楽、九兵衛は苦々しい表情になる。なんと声を掛ければ良いのか……慰めの言葉すら今の伊東には酷なものだろう。

 

 

「死にたくない……死ねば一人だ。孤独で……どんな絆でさえ……届かない……この手の温もりですら感じられなくなる……もう……一人は……」

「ソイツを、こちらに渡してもらえるか」

 

 

伊東の懺悔とも後悔ともとれる言葉を聞いていた新八、神楽、九兵衛の背後から、原田が歩み寄ってくる。それに気付いて、伊東の口が止まり原田は伊東の引渡しを要求した。

 

 

「……お願いです。この人はもう……」

「万事屋、それに柳生のお嬢さん……今回はお前等には世話になった。だが、その頼みだけは聞けない。ソイツのために何人が犠牲になったと思っている。裏切り者は俺達で処分しなきゃならねぇ」

 

 

新八の切なる言葉にも原田はピシャリと断ち切った。どちらの言葉が重いのかは明白だ。

 

 

「助けてもらったんです。それにこの人は……近藤さん!?」

「連れて行け」

 

 

新八が伊東の引き渡しを拒み、神楽と九兵衛が咄嗟に庇おうとしたと同時に近藤が命令を下した。近藤は手で新八、神谷、九兵衛を下げさせると原田や残された隊士達が伊東を連行しようとする。刹那は伊東を膝枕をしていたが特に反対する様な動きはなかった。

 

 

「……局長。やはり僕は重罪人の様だ。子供を泣かせ、その背に人の死という重圧を背負わせてしまった。その涙こそが僕の罪の証だ」

 

 

隊士達に連行されながら振り返った伊東。振り返った先には先程まで自身を庇う様に膝枕をしてくれていた少女が涙を流している姿だった。何かに耐える様に自身を震わせながら我慢する姿には痛々しさすら感じられる。

大人達の醜い争いに巻き込んだ挙句、親しい者の死を味合わせた。伊東はここに来て更に自身の罪を自覚してしまったのだ。

 

 

列車の外へと連行された伊東は残された隊士達に囲まれ、土方と相対していた。伊東を薄汚い裏切り者としてではなく仲間として斬る為に。

 

 

「伊東ォォォォォォッ!」

「土方ァァァァァァッ!」

 

 

土方と伊東の姿が交差し……伊東は敗れた。膝から崩れ落ち瞬間、伊東の目には真選組隊士達との絆が見えた。

 

 

「あり……がと……ありがとう……」

 

 

伊東は涙を流しながら仲間達へ感謝の言葉を浮かべた。

伊東が倒れた視線の先で刹那は大粒の涙を流していた。涙と流した血が混じり合い、透明な血の涙を流している様で……銀髪の髪に血で化粧をした様な姿に妖艶な魅力を伊東は刹那に感じてしまった。

 

 

「綺麗だな……刹那ちゃ……ん……」

 

 

不謹慎かも知れないが仲間に囲まれ、最後に笑って逝ける僕は幸せなんだな……伊東は最後にそう思いながら満足そうに瞳を閉じた。

 



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葬式は厳かに行うべし

 

 

 

あの騒動から数日。

真選組屯所では松平の飼っていた犬と山崎の葬式が行われていた。我が子の様に思っていた飼い犬のプー助の死に涙する松平と物のついでレベルで開かれている山崎の葬式に当の本人は怒りに震えていた。

 

 

『オィィィィィッ!なんで俺の葬式が犬の葬式とセットなんだよ!セットというか、俺の葬式の方がオマケ扱いじゃないかぁぁぁぁぁっ!?』

 

 

死んだと思われていた山崎は実は生きていた。河上万斉の手にかかり殺されたかと思われたが、万斉が山崎の決意を目にした事で彼の生き様の行末を知りたいと思い、トドメを躊躇った為に生かされたのだ。そして本来なら早々に連絡を取って無事である事を告げるべきだったのだが怪我をして入院していた為に連絡が取れず今日に至り、自身の葬式が執り行われている事に憤りを感じていた。声を出せば自身の所在が知れてしまう為に心の中で大声でツッコミを入れていた。

 

 

「あ、もしもし?ああ、松平のとっつぁんの犬の葬式」

「あー、足痺れてきた」

「……ズズッ」

『俺の葬式と言えや!ジャンプを読むな!なんで俺の遺影にミロが供えられてるんだよ!ミロ好きじゃないから別に!ちゅーか坊主、それ俺のミロだろ!飲むな!』

 

 

隊士達は山崎の葬式など興味がない様に電話したり、ジャンプを読んだりしていた。更に坊主に至ってはお経を読みながらお供えのミロをチビチビと飲んでいた。あんまりな状況に山崎のツッコミは止まらない。

 

 

「………ぐすっ」

「刹那ちゃん……悲しいのはわかるよ。ちゃんと弔ってあげようね」

『なんで刹那は未亡人風な衣装なんだよ!?あれ用意したの局長か!?それとも松平のとっつぁんか!?明らかに趣味丸出しじゃねーか!それに九兵衛が居るって事は柳生家にも知られてる!?幕府のお抱え一家が葬式に参列してるってヤバいだろ!』

 

 

刹那は隊服ではなく未亡人風の喪服を身に纏っていた。髪も纏めて本当に若い未亡人にも見えてしまう。しかも刹那は涙を浮かべているので雰囲気が凄まじい。付き添う様に近藤と九兵衛も居る事で柳生家から花輪が届いているのも見えた。本格的にこのまま出て行くと袋叩きにされた上で切腹を命じられてしまうのは確実だろう。

 

 

『あー、ヤベェ。どうしよう?俺の葬式を軽んじてる奴等に天誅を下したいけど、マジな雰囲気を出してる刹那を泣かせたくないし……ああ、どうしたら……』

 

 

山崎はおざなりな葬式をしている真選組の隊士達に恨みを晴らしたいという気持ちと刹那を悲しませてる罪悪感に板挟みになっていた。

そんな山崎の心中を無視するかの様に背後からバズーカが放たれた。その爆風で山崎は葬式会場へ放り出される羽目になり、隊士達は「山崎の亡霊だァァァァァァァァッ!?」と騒ぎ始める。

 

 

「局中法度……局内でマガジン以外の雑誌を読む事なかれ。重要な会議並びに式典の最中は携帯を切るべし。死して尚、化けて出る事なかれ。刹那を悲しませる事なかれ……テメー等全員、士道不覚悟で切腹だァァァァァァァァッ!」

「「「ふ、副長ォォォォォォォォォォォォッ!」」」

「……土方っ!」

 

 

バズーカを持って現れた土方に隊士達は浮き足立ち、刹那は土方に抱き付いた。

 

 

「テメー等、切腹だっつてんだろーが!刹那も嫁入り前の娘が男に抱きつくな!」

「ああ、いくらでも腹掻っ捌いてやるよ!」

「お帰りなさい、副長!」

「土方が帰ってくるなら嫁には行かない」

「そうだ!刹那は嫁に出さん!」

「どうかな?刹那ちゃんは僕の親類になるかも知れないぞ?」

 

 

抱き付いた刹那を引っぺがそうとする土方に隊士達は土方が復帰するなら、いくらでも切腹すると告げる。近藤も刹那を嫁に出す気はないと叫ぶが九兵衛は意味深な事を口にする。

 

 

「土方のタバコの匂い……落ち着く」

「副流煙は本当は体に悪いんだが……だが今日だけは許してやる」

「けしからんぞトシっ!」

「刹那ちゃん、タバコの臭いが移るのは看過出来ないぞ!離れるんだ!」

 

 

 

ぎゅーっと土方を抱きしめる刹那。そんな刹那を近藤や九兵衛は嫉妬からか引き剥がそうとする。二人に引き剥がされそうになっている刹那は山崎と目が合う。刹那は土方と再会できた時と同様に嬉しそうに笑みを浮かべた。

有耶無耶となっていた山崎生存に山崎自身は不満を露わにしていたが、刹那一人だけでも自分の生存を喜んでくれるなら、それで良いと苦笑いを浮かべるのだった。

 



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一度取った皿は戻さないが、そもそも手が出ない

 

 

 

真選組の動乱事件から数週間。隊士達の見直しや再訓練等の揉め事があったが屯所はある程度の落ち着きを見せていた。

そんな中で変化があったとすれば刹那への対応だろう。刹那は幼いながらにも真選組を守る為に奔走し、戦い続けた。その事を不甲斐なく思った近藤以下隊士達は刹那に対して更に過保護になったといえよう。

 

更に変化と言えば柳生家……と言うよりは刹那と九兵衛との仲だろう。

 

 

 

「ほら、刹那ちゃん。これが柳生家に伝わる伝統の……」

「ふむふむ……」

 

 

九兵衛は刹那に柳生家の歴史や剣術を教えに真選組の屯所に出向いたり、刹那を柳生家に招く事が多くなったのだ。当初は「あんな事件に巻き込まれたんだ。メンタルケアをキミ達だけで出来るのか?」と九兵衛が申し出たのだ。当然ながら隊士達は反発したのだが、意外にも近藤が許可を出した。

 

その事は九兵衛自身も驚いたが近藤は刹那が同年代の同性の友達がいない事を危惧していた。万事屋の神楽とも仲は良いが真選組と万事屋は衝突が多い。主に土方と銀時、沖田と神楽で。

それ故に遊ぶ機会も少ないとなれば同年代・同性・侍と条件の揃った九兵衛の申し出を有難いと近藤は頷いたのだ。そして九兵衛も同性の友としてはお妙くらいだと言う事も知っていた。

 

そんな近藤の予想通り九兵衛は刹那を友でありながら妹の様に可愛がっている。侍としても女性としても二人の成長を喜ぶ様は正に父親の目線だったりする。

対する九兵衛も近藤に対する認識が変わりつつあった。出会いもさる事ながらお妙を巡る恋敵として敵視していたが、動乱の際の戦いや思い。そして刹那に対する献身等を見ている内に敵視する様な思いが自然と氷解していた。無論、触れたりすれば反射的に手を出してしまうだろうがそれ以外では特に衝突する様な事もなく普通に会話が成り立つ程度に親しくなっていた。

 

 

「そろそろ夕食の時間だが……九兵衛君と東城さんも一緒にどうだい?隊士達の話じゃ美味い回転寿司があるそうなんだ」

「え、寿司って回るのかい?」

「近藤殿。若は寿司と言えば職人が柳生家に来て握ぎるのが当然と思っています。庶民が食する様な回転寿司なんて知らんのですよ。それに女体に刺身を乗せて食べるなぞ言語道断、許しませんぞ!」

「前半は兎も角、後半は明らかに違うだろ」

「土方、聞こえない」

 

 

近藤が刹那に会いに来ていた九兵衛と付き添いの東城を夕食に回転寿司でも食べに行かないか?と誘うが九兵衛は回転寿司にピンと来ていないし、東城に至っては寿司ではなく女体盛りの話をしていた。土方は刹那の耳を両手で塞ぎながら東城にツッコミを入れた。

東城への教育的指導を済ませた後、近藤、土方、刹那、九兵衛、東城は隊士達の間でも話題となっている回転寿司の店へと赴いた。

 

話題の回転寿司に来たは良いものの店内は不思議な状態になっていた。回転寿司なのに何故か回っているのはかっぱ巻きとドロドロに溶けたパフェだけで他の寿司が回ってこない。しかも店員が接客もせずにタバコを吸うなど態度が悪かった。

 

 

「お登勢?」

「アレは万事屋の一階のスナックのママさんじゃないか?なんで寿司屋に?バイトでもしてるのか?」

「回転寿司とはカッパ巻きしか回さないのか?」

「んな訳あるか。つうかなんでパフェをレーンに乗せてんだよ。溶けてんじゃねーか。冷蔵庫に入れとけや」

 

 

刹那と近藤がカウンターから顔を出すと知り合いである、お登勢がカウンターの中でタバコを吸っていた。何故、ここに居るのだろうと首を傾げる刹那と近藤。その隣では回転寿司が珍しくキョロキョロしている九兵衛に土方がツッコミを入れた。

しかし、カッパ巻きしか食べないわけにもいかず各々が注文して寿司を待つ事に。

 

 

「おい、なんかカレーが回ってきたぞ」

「俺が頼んだのはカレイの縁側だ。縁側のカレーじゃねーよ」

 

 

回ってきたカレーに近藤が気付いて土方がツッコミを入れ

 

 

「海老蔵が回ってる」

「なんで歌舞伎役者がレーンに乗ってくるんだ。俺はエビを頼んだんだぞ」

 

 

刹那の言葉に近藤が違うと告げ

 

 

「若、何やら巨人の星のコミックスが来ましたが」

「僕が頼んだのはサーモンだ。間違っても左門豊作なんて頼んでいない」

 

 

東城の発言に九兵衛が否定をして

 

 

「刹那ちゃん、ダークマターが回ってきたんだが……」

「私が頼んだのはタマゴのお寿司。あれは焼けて炭となった可哀想なタマゴの成れの果て」

 

 

九兵衛の言葉を刹那が拒んだ。

 

 

「おい、なんなんだよ。この寿司屋……」

「なんか気持ち悪いな。もう帰ろうか」

「………あれ」

「どうしたんだい刹那ちゃん、あ」

「銀時殿達ですね。店の制服を着ているようですが逃げていきますな」

 

 

土方と近藤がもう帰ろうかと提案した直後、刹那は窓から店の外を見て、逃げて行く複数の人物を捉え、九兵衛と東城も同様に銀時達を見つけた。

 

 

「もしかして……」

「おおいっ!なんなんだよ、この惨状は!?ちょっと銀さん!店番頼んだよね!?」

 

 

刹那がカウンター奥の調理場に入ると食材を適当に切って捨ててあり、生ゴミの巣窟と化していた。しかも気が付けばカウンターに居た筈のお登勢達の姿も無い。

慌てた様子で食材を抱えたサングラスの男がバタバタと入ってきたが銀時の不在に驚いている様だ。

 

 

「あ、お嬢ちゃん。銀さん見なかった!?俺が食材の調達に行ってる間に店番お願いしてたんだけど!」

「さっき仕事放棄して逃げてた。回ってきたお寿司も……お寿司とは呼べない代物」

「なんだ、また万事屋絡みか?」

「アイツ等……本当にその内、しょっぴいてやろうか……」

「まったく……刹那ちゃんの教育にも悪い事を……」

「若やお妙殿のご友人という事で多めに見ていた部分はありますが……もう庇いきれなくなってきましたな」

 

 

サングラスの男、長谷川から話を聞くと銀時達に手伝ってもらった回転寿司は確かに好評だったのだが寿司ネタが尽きた為に長谷川が食材の調達に外出をして銀時達に店番を頼んだ。しかし、途切れる事の無い客の行列に銀時達は接客は愚か、出した寿司も全てが適当かつ悪意の籠った品を出し続けていたとの事だ。

そして先程、逃げる姿が見えたのは責任は取らんとばかりに脱走したのが容易に想像できた。

 

 

「取り敢えず、記帳しとく」

「そうだな。先日の一件には感謝してるが、それとこれは別の問題だ」

「ったく、こち亀の両さんか」

 

 

刹那は万事屋が過去にしてきた事も含めて閻魔帳に事細かに罪を残している。今回の件も万事屋の罪と借金が加算された事だろう。

 

因みに長谷川は店がめちゃくちゃになった事と評判を落とした事で店長からクビを言い渡された。

近藤や刹那は長谷川に真選組の仕事を紹介しようかと思ったのだが、長谷川は土方の顔を見るなり逃げていき、刹那は首を傾げるのだった。

 



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便器を磨く時は心も磨くべし 前編

本当は一話完結にするつもりでしたが長くなったので前後編にしました。


 

 

 

 

真選組屯所内である意味重大な発表が行われていた。本来なら些末的な話であり、社会人であるならば一度は経験するであろう当然の業務。

 

 

「えー、それでは……今週の掃除当番を決める。三番隊、道場。二番隊、台所。五番隊、パトカー。一番隊、厠」

 

 

土方から告げられた掃除当番。交代制で行われる掃除当番にラッキーと思う者も居れば、厠担当で露骨に嫌な顔をする者に分かれた。

 

何故、公務員たる真選組屯所内で隊士達が掃除を交代制でしているかと言われれば屯所を管理したり、掃除する為の作業員が集まらなかったからである。普段から素行が悪く、チンピラ警察と呼ばれる彼等は検挙率は高いものの市井の評価は著しく低い。アイドルの寺門通にイメージアップを頼んだのもこれに起因するのだが今は置いておこう。

食堂で料理をする料理人や補佐のおばちゃん方はなんとか確保してはいたが彼等の本業は料理であり、掃除や屯所の管理は含まれない。

 

故に真選組隊士達は自ら屯所を掃除しなければならないのだ。要は自業自得である。

 

 

「おえ、最悪だぜ。一週間、便器と顔を会わせなきゃならないのかよ」

「適当に切り上げて、パトロールにでも行こうぜ」

「刹那にでも任せたらどうだ?あの子、掃除好きだろ?」

「馬鹿、局長と副長に殺されるぞ。それにただでさえ俺達はあの子に頼り切りなんだ。これ以上、頼み事をしてどうする」

 

 

トイレ掃除をしながら愚痴る隊士達。隊士の一人が掃除好きな刹那に任せたいと愚痴を溢すが他の隊士が待ったを掛けた。

実は刹那は屯所内の清掃を割としてくれている。本人が女の子で綺麗好きなのもあるが、刹那は腕利とは言えど隊士では一番歳下で歴も浅い。

その事から刹那は率先して雑務をしているのだが、それに隊士達が頼り切りなのもマズいだろと近藤や土方が止めた。

 

 

「馬鹿者!自身で汚した厠を年下の少女に洗わせるとは何事だ!刹那には専用の個室厠を用意させる予定だが、この厠はお前達で清掃しろ!刹那に下の世話を頼むな!」

「その専用の個室厠の件は初耳だが、近藤さんの言う通りだ。自分で汚したなら自分で綺麗にしろ。それと近藤さん、言い方を間違えれば刹那が恥を描くからな」

 

 

若干興奮気味の近藤を土方が諌めながらツッコミを入れた。そんな事もあり、屯所内の清掃は隊士達が自ら執り行う事が本格的に可決された。

お手伝いさんは早めに見繕うと近藤や松平から話はあったが、それまでは隊士達の仕事なのだ。だが、当然ながら嫌なものは嫌なものである。

 

 

「清掃を如何に心得てお思いですか?……こんな話を聞いた事がありますか?治安の悪い犯罪都市でラクガキで汚れた地下鉄を綺麗に清掃した所、以降はラクガキをする者は居なくなり犯罪も減少したのです。わかりますか?不浄な空間は人の魂までも汚すのです。健全な魂は健全なる空間において生まれるのです。身の回りを清潔に保つ、これも真選組の仕事なのですぞ」

「誰だ、アイツ?」

「隈無清蔵さんだよ。この間の隊の再編成で一番隊に入った人だ。えらく綺麗好きで有名なんだぞ」

「いいですか、皆さん。便器を綺麗にする事で心が洗われていくのを実感してください。清掃とは己の心を磨く行為と心得てください」

 

 

厠を清掃する隊士達に指示を出しながら隈無清蔵は周囲を見渡しながら頷いていた。

 

 

「おー、本当だ。心が洗われていくようだぜ。掃除ってのも面白いな清蔵さん」

「隊長、何処を掃除してるんですか?」

 

 

沖田も面白そうに掃除をしているが手に持つブラシは隈無清蔵の額を掃除していた。

 

 

「いや、ハナクソが付いてたから。ほら、取れたぜ」

「それ、ホクロですよ!なに、速攻で厠に流してるんですか!?私のホクロォォォォォォッ!」

 

 

隈無清蔵の額のホクロをブラシでもぎ取った沖田は流れるような作業で隈無清蔵のホクロを水に流してしまった。隈無清蔵が流されていくホクロを何とか回収しようとしたが時すでに遅し。

 

 

「今だ、逃げようぜ!」

「サボりだ、サボり!」

「あ、まだ掃除は終わってませんよ!戻ってください!」

「あーあ。皆、逃げちまったな。どうする清蔵さん?俺達も引き上げるかい?」

 

 

逃げ出した一番隊士達を引き留めようとした隈無清蔵だが全員が逃げてしまい残されたのは沖田と隈無清蔵だけになってしまった。

 

 

「隊長……この厠だけでも見て分かるように真選組屯所内の汚れは酷すぎます。刹那さんが担当して清掃している箇所は見事なまでに綺麗ですが、それ以外の場所は汚れの吹き溜まりと化しています。汚れの吹き溜まりたる厠。その底辺を変えねば真選組屯所は汚れの巣窟のままです。これを打破するにはそう……厠革命です」

 

 

 

◆◇

 

 

 

「ああ?厠の設備を一新して欲しいだぁ?」

「へい。一番隊の隈無清蔵からの提言でして。せめて厠の蛇口をセンサー式にして欲しいとの事でして」

 

 

自室で刀の手入れをしていた土方の所へ赴いた沖田と隈無清蔵は厠の設備の更新を嘆願していた。

 

 

「厠なんぞに予算回すくらいなら新しい武器の導入進めるっての。掃除してーんなら市中の攘夷志士を掃除してこいや」

 

 

くだらないとバッサリと提言を切り捨てる土方。だが隈無清蔵も黙ってはいなかった。

 

 

「そんな考え方では更に刹那さんに嫌われますよ副長!ただでさえ重度のマヨラーで避けられ気味なのに不潔で更に避けられたいんですか!」

「マヨラーとヤニと不潔でトリプルコンボでさぁ。こりゃ土方さんが嫌われんのも無理ねぇや」

「うるせぇ!つーか、なんで刹那に嫌われる事が確定してんだよ!」

 

 

散々な言われようである。この後、隈無清蔵から男性の股間から生まれる菌『タマ菌』が屯所の各所に蔓延している事や捻り式蛇口や扉に付着しているタマ菌の排除の為にもセンサー式の蛇口の導入を進めるべきだと隈無清蔵は叫んだ。

 

 

「大袈裟なんだよ。菌なんざ気にしてたら生活なんか出来るかよ。ったく……くだらね……」

「あ、副長。向こうで焼き芋やとうもろこしを焼いてるんですよ。一緒にどうですか」

 

 

土方がくだらないと吐き捨てながら部屋を出ると焼き芋を片手に山崎が土方の肩に手を置いた。土方の肩に置かれた山崎の手には悍ましい菌の塊が目に映る。

 

 

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「おぼしっ!?」

 

 

あまりの光景にゾワっと背筋に寒気が走りながら土方は山崎を蹴り飛ばす。

 

 

「な、なんだありゃ……」

「副長にも見えましたか……タマ菌が」

 

 

冷や汗を流しながら動揺をしていると隈無清蔵は悟ったかのように呟いた。

 

 

「タマ菌、アレが!?って……おい、屯所の至る所にタマ菌が……なっ!?」

「おーい、トシ。なにやってんだ?早く一緒に食おうぜ。刹那がとうもろこしを色んな味付けで焼いてくれてんだぜ。お、総悟に清蔵さんもどうだい?」

 

 

辺りを見回して屯所内各所に蔓延しているタマ菌に言葉を失い欠けて……本当に言葉を失った。声を掛けられて振り返った先に近藤が居たのだが近藤の全身はタマ菌まみれになっていたのだから。

 

 

「オイィィィィィィィィィィィィッ!?こ、近藤さんのタマ菌の量が半端ねーぞ!?」

「メチャクチャ、ナニを触っていたからでしょう。卵が孵化してタマ菌の感染源となっています。あれはもう近藤さんじゃありません。ただのタマ菌です」

「土方、沖田、隈無。追加のとうもろこし焼けた」

 

 

土方達が近藤のタマ菌の量が桁違いである事に驚いていると近藤の後ろから焼いたとうもろこしを皿に乗せて持ってきたエプロン姿の刹那が歩いてくる。近藤と違いタマ菌が一切付着していない刹那の体からは神々しい光が立ち込めていた。

 

 

「逆に刹那の眩さはなんだ!?なんで後光が差してんだよ!?」

「清潔にしているからでしょう。刹那さんの心の清らかさが外にも出ています。神の如き清らかな波動と神殿並みの高潔さが溢れていますね」

 

 

土方と隈無清蔵の発言にコテンと小首を傾げる刹那。あまりにも対照的な刹那と近藤の姿を見た土方は改めてタマ菌対策をせねばと決意を新たにするのだった。

 



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便器を磨く時は心も磨くべし 後編

 

 

 

 

 

 

「では、これより厠革命を行う!」

「おー」

「土方さん、やる気漲ってまさぁ」

「先程の局長と刹那さんの落差を見たからでしょう。それに危機感を待つのも良い事かと」

 

 

土方の叫びに刹那は静かに同意し、沖田と清蔵はその様を見て呟いた。

土方は局内の汚れに改めて危機感を抱き、刹那は元々の綺麗好きという事もあり今回の件には乗り気だった。

 

 

「近藤は呼ばないの?」

「これから局内を綺麗にしようって時に汚れの塊を召喚してどうすんだ」

「近藤さんには市中見回りに出てもらってる。汚さの化身が居ない隙に片付けちまおぜ」

「ええ、また汚される前に綺麗にしてしまいましょう。刹那さんも局長が帰って来ても手を繋いでは駄目ですよ」

 

 

組織のトップに散々な言いようである。だが事実、先程見たタマ菌の量は近藤がトップクラスであり、タマ菌の塊であったのだから仕方ないと言えば仕方ない。

 

やる気が漲り、局内を綺麗にしようと動いた土方達だったが早くも難航していた。

男子トイレには入らなかった刹那は外から様子を見ていたのだが連れション禁止令を局中法度に加えたり、便器から的を外さない様に工夫を凝らしたのだが……

 

 

「はぁはぁ……やるじゃないか……まさか俺が喧嘩に負けるたぁなぁ……」

「ふ……そう言うお前も中々やるじゃなか……」

 

 

沖田と清蔵は男子高校生の学ランを着て殴り合った後の様な状態でトイレに倒れていた。

 

 

「こんなに空を見上げるなんて……いつぶりだろうなぁ……ぐあっ!?」

「お天道さんが……眩しい……ぜふっ!?」

「小便できるかっ!!」

 

 

ミニコントを見届けた土方は寝転んでる沖田と清蔵の腹に飛び降りる形で踏み付けた。

 

 

「これなら用を足しても的を外さないでしょう」

「男同士の喧嘩に水を差す奴はいないでしょうぜ」

「上手くねぇんだよ!それよか、お前達は厠に人が来る度にその完成度の低いコントを繰り広げるつもりか!?刹那も乗ろうとするな!」

「しょんぼり」

 

 

清蔵と沖田はナイスアイデアとばかりにドヤ顔だったが土方は腹が立つだけだとツッコミを入れ、何故か乗り気で学ランに着替えていた刹那にもツッコミを入れた。

 

 

「でしたら、どうでしょう。このベニヤ板に穴を開けて中にナニを入れて用を足すってのは」

「私の穴はもっと大きめにお願いします」

「そんなもん不衛生極まりねぇだろうが!テメェも見栄を張るな!」

 

 

沖田はナイスアイデアな案を却下されたので次の案を出したが速攻で土方に却下され、見栄を張った清蔵もツッコミ食らっていた。

 

 

「なんだ何だ?皆で厠に集まって何してるんだ?」

「厠革命」

 

 

厠に集まっていた刹那、土方、沖田、清蔵に首を傾げたのは市中見回りから戻って来た近藤だった。

 

 

「なんだ、厠の清掃を見直そうってか?そりゃいい事だ。身綺麗にしないと駄目だからな」

 

 

「うんうん、良い事だ」と近藤は笑みを浮かべたが刹那を除く土方、沖田、清蔵は「お前が言うな」と口には出さなかったものの、その表情は雄弁に語っていた。

 

 

「よし、俺も掃除に参加するかな」

「ま、待ってくれ近藤さん…アンタが……」

「近藤、九兵衛が面白いゲームがあるって言ってた。見てみたい」

 

 

意気揚々と清掃に参加しようとした近藤に土方は焦った。タマ菌を排除しようとしているのにタマ菌の塊が清掃に参加しては元の木阿弥と化してしまう。

そこで即座に動いたのは刹那だった。刹那は近藤の手を握り出掛けようと提案したのだ。

 

 

「お、なんだ刹那がそんな事を言うなんて珍しいな。刹那にはいつも頑張って貰ってるし買ってやるか。トシ、俺は刹那と出掛けるから後は頼んだ」

「あ、ああ……」

 

 

刹那と近藤が手を繋ぎながら屯所から出て行くのを土方達は見送った。刹那のファインプレーで更なる被害は抑えられ土方達は本格的に屯所内の改革に勤しむのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

それから数日後。刹那は九兵衛に勧められ、近藤に買って貰った大人気オンラインゲームのモンキーハンターをプレイしていた。

そして近藤も刹那との共通の話題になるからとモンキーハンターをプレイしていた。

 

そんな、ある日の事だった。市中見回りから戻った刹那はモンキーハンターをやろうと自室に戻ろうとして言葉を失った。

 

 

「くそっ……ドライバーにされちまったみたいだ」

「……なんで?」

 

 

自室に行く道中局長室で何故か巨大なドライバーに体を改造された近藤の姿を見た刹那は何がどうなってドライバーに改造されたのか疑問しか浮かばなかった。



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