緋弾のアリア-X-クロス (350Z)
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ACT.1『始まりの音』
第一話 オールラウンダー





-限りなくベストを目指し 自分もまた機会にあわせてゆく 



ドコかに必ずあるピンポイントをさぐり 



行っては戻っての繰り返し


それを楽しいと思えるのか 


それともキツいと思うのか



ひとそれぞれ 


--その走らせ方しだいだろう






 

 

 

 

-4月中旬 午前7時30分

 

レインボーブリッジ近辺

 

 

 

 

東京湾の海を一望することが出来るエリア。

 

通勤車両や通学バスが行き交うだけの比較的閑静な場所だが、今日は違った。

 

1台の黒いセダンがその列を危ない追い越しの仕方で次々と車両を避け、そのセダンを追おうと後ろから1台のパトカーが接近。

 

 

 

「-警視204から警視庁!

指名手配中の犯人のものと思われる車両を確認、応援要請願う!」

 

 

 

甲高いサイレン音を鳴らすパトカーの中で応援を要請する助手席の警官。が、その間にセダンが赤信号の交差点に入ると共に左右に揺れるような奇妙な動きをしてきた。

そして、そのまま一気に減速すると共に急にUターン。

いきなりのことに距離を詰めていたパトカーはそのまま直進して逃がしてしまう。

 

 

 

「-ちっ……!」

 

 

 

取り逃がしてしまったのではないかと運転手の警官が舌打ちをする……が、その時だ。

警察と同じようなサイレンを鳴らしながらも1台のクーペが後ろからきた。

ブォォォン!!という轟音をあげながら自分達が通った交差点を進入。減速したと思えば、キィィィ!!と煙を上げさせながらもタイヤを滑らせ、鮮やかにドリフトターンを決める。

 

パールホワイトのボディにアルミ製の縦ドアノブ、縦に細長いテールランプ、車体上部には覆面パトカーが付けるようなサイズの小さい回転灯……

回転灯の色は普通のパトカーとは違い、アメリカンな赤と青の二色だ。

 

助手席の警官は見た途端に思わず唖然としてしまう。

 

 

 

「な、なんだ……!?」

 

 

 

一般車をスルスルと回避して逃走するセダンに対し、同じようにかわして行きながらも確実に距離を縮めていくクーペ。そして、横に並ぶと共に運転席の窓から拳銃のようなものが出てきた。

パァン!パァン!という銃声が鳴り響くと共に銃のマズルから火のようなものが音に合わせて飛び散る。それと共にセダンが左右に大きく蛇行し始めた。少しずつ速度を落ちていくが、やがて車体が右に振れた勢いで勢いよくスピン。

そのまま歩道側に立っていた電柱に車体の右後方側をブツけ、ピタッと停車した。

 

一方のクーペの方はそれを気にすることなく、遠方の方へとどんどん遠ざかっていく。

 

時折、ファゥンッ!と咆哮のような音を響かせながら……

 

 

 

「あ、あれって……?」

 

 

 

遠ざかっていくクーペの後ろを眺めるながらも運転席の警官に問いかけると、彼は運転を続けながらも溜め息混じりにこう答えた。

 

 

 

「多分、武偵の奴だ。車は日産のフェアレディZ、型はZ33。

……いい腕してやがる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-1時間後

 

東京武偵高校

 

春という新たな出会いや巡り合わせがある季節にふさわしい活気を見せる生徒達。入学したばかりなのか、赤が基調の制服をビシッと着た初々しい生徒もチラホラと目に入る。そんな中、1台の車がブォンと低音を響かせながらも学校の敷地に入ってきた。

パールホワイトのボディにアルミ製の縦ドアノブ、縦に細長いテール……先程の逃走車両を片付けたZ33だ。

 

ゆっくりと走らせているところを見ると純正形状よりもスパルタンなエアロが取り付けられている。恐らく、インパル製のものだろう。

ボンネットも社外製なのか、熱を逃すダクトのようまものが取り付けられている。スポイラーは純正のまま。

 

ホイールはレイズ製の黒いグラムライツ57……

 

音に気付いた生徒が次々と振り向くも、気にせずに駐車場へと進んで空いているスペースで停車……運転席側のドアから人が降りてきた。

茶髪でどこか緩いベリーショート、やる気が無さそうな感じの目付きで背丈は170cmぐらいと言ったところ。

 

……市ヶ谷博也(イチガヤヒロヤ)

 

武偵高校の3年生。

 

 

強襲科(アサルト)、狙撃科(スナイプ)、車輌科(ロジ)の3つの科にてAランク以上の実力があると認定された男。

 

 

別名、オールラウンダー。

いかにも凄そうな肩書きを持つ彼だが、1つだけ深刻な問題を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

それは……

 

 

 

 

 

貧乏だということだ。

 

 

グギュゥゥゥ……と腹が鳴り響くと共に「うぅ……」と右手で腹を抱えるような動作を取り出した。

 

 

 

「あ、朝飯抜きであれだけ動いたのは流石にまずかったか……」

 

 

 

如何にもめんどくさがりそうな声質で思わず呟く。

 

そんな動けない中、1台のオレンジメタリックのクーペが駐車場に入ってきた。トヨタ・86……

現在、トヨタで新車として購入することが出来る唯一の車だ。後ろに付いてる純正スポイラーを見る限り、最上位グレードのGTリミテッドだろう。

 

そのままZ33の右隣のスペースで静かに停まった。

 

 

運転席から誰かが降りてくる……

角がない丸みを帯びた目にワックスで半ば無理矢理固めた黒髪。

 

背丈は彼とそんなに変わらない。

 

 

 

「だ、大樹か……」

 

 

 

大樹というのは黒髪の男のことである。

原田大樹(ハラダダイキ)、武偵高の3年生。

昔は車輌科(ロジ)でBランク、一年前に転科して現在は探偵科(インケスタ)のCランクと至って普通の人物。

 

そんな彼と博也は昔からの幼なじみだ。

 

降りてきたばかりの彼にヨロヨロとしつつも歩み寄る博也。歩み寄られた彼もこれには苦笑いしながらも人が良さそうな声質で早速何があったか問いかけた。

 

 

 

「ど、どうしたんだー?お前?」

 

 

 

「朝飯抜いたから力が出ないんだよ……

 

昨日の晩飯もわかめと豆腐のスープだけだったし……」

 

 

 

今時珍しい質素な生活……

が、大樹はこの質素な生活の原因を直ぐに見抜いた。

目をキリッとさせながらもサッと素早くあるものに人差し指を差した。……彼が差したのは博也の愛車のZ33だ。

 

 

 

「原因はアレだろ?」

 

 

 

その指摘にギクッと額から冷や汗を流す博也。

どうやら、図星のようだ。

やっぱりなと言わないばかりに「はぁ……」と小さく溜め息をつきながらも更なる原因を追及しようと問いかけた。

 

 

 

 

「今度は何をしたんだ?

前とは音が変わってたから、差し詰め吸排気系のパーツでも変えたのか?」

 

 

 

「正解ー。マフラーと触媒変えたんだー良い音するだろぉー?」

 

 

 

「えへん」と言わないばかりに少し胸を張る博也。

 

マフラー、触媒は車の排気系のパーツ。

 

排気の抜けが悪い純正品のものを排気の抜けが良いものに交換することでパワーアップやアクセルのレスポンスの改善に繋がる。その分、音もよりレーシーになる。

車の改造だと初歩に当たるものだ。

だが、それを聞いた大樹の方は驚くように「はぁ!?」と声をあげてしまう。

 

 

何故こんなに驚いたのか理由は簡単……前に変えたことがあるパーツだからだ。

 

 

 

「おまっ……前の奴はどうしたんだよ?」

 

 

 

「前の奴?あぁ、あれならヤ○オクで流してる。

落札決まるまではこんな生活だ」

 

 

 

「……たく、お前がこんな生活してるなんて誰も思わないだろうな」

 

 

 

「そーだな……つーか……ヤバイ……これはヤバイやつ……うぅぅぅ……」

 

 

 

ヨロヨロとした足取りで大樹から離れて校舎の方面へと歩き出す博也。

 

 

人通りが多い場所では平然を装うように努力してみるが、一歩一歩と進んでいくうちに再びよろめき始める。

 

 

歯を食い縛って態勢を立て直す……

 

 

が、人気がないような場所で力尽きるように倒れてしまった。

 

 

手足に上手く力が入らず、体の至るところをピクピクとさせながらも「うぅ……」と小さな呻き声のようなものを上げる。

 

 

 

 

何とかして立ち上がらなければ……

 

 

 

 

そう思っている時だ。

 

 

 

ザッザッ……と遠くから足音が聞こえてきた。

 

 

どんどん大きくなっていくことから、此方に近付いていることが分かる。

 

 

 

 

 

空腹のあまりの幻聴か……?

 

 

 

 

いや、取り敢えず見てみよう。

 

 

 

 

残り少ない力を使いながらもゆっくりと顔を上げる……

 

 

武偵高の女子制服らしきスカートがスッ……と靡くのが見えた。

 

 

 

 

もう少し顔を上げてみる。

 

 

 

 

すると、全体像が見えてきた。

 

 

白いリボンが2つ着いた茶髪のショートツインテールの髪。

 

右手に青いスクールバック、

 

可愛らしい童顔に高校生にしては低すぎる身長……

 

 

 

もしや、中等部(インターン)の迷子?

 

 

 

 

だが、彼女の様子を見る限りでは自分を心配している感じではない。

 

 

 

 

……此方を心配してるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫……ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

見た目に合った可愛らしい声で問いかけてくる女子生徒。

 

 

ひょっとすれば、助かるかもしれない……

 

 

 

その希望から口角を軽く上げるようにして笑みを浮かべる。

 

 

同時に体の芯に眠っていた少ない力が目覚めた。

 

 

両膝を地面につけるようにしながらも両手を膝の前辺りに置く。

 

 

そして、俯くようにしながらも精一杯の力を込めて強く頼み込んだ……

 

 

 

 

 

 

 

「御飯が……

 

 

食べたいです……」

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの……

 

良かったら、これどうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

苦笑いしつつもバックからコンビニなんかで普通に売ってそうなあんパンを渡してくる女子生徒。

 

 

博也はパッと素早く受け取り、包装をビリッと破るとともにバクバクと無心に食べ進める。

 

 

そして、あっという間に食べ終えてから「ぷはぁぁぁ!」と満足そうな声を出しながらも満面の笑みを浮かべて勢いよく立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、助かった!!

 

いやー、やっぱり朝食はしっかり食べてこないとな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

此方の笑みに対して天使のような笑顔で答えてくる女子生徒。

 

 

 

 

神様、ありがとうございます……!

 

 

 

と思いながらも何か御返しをしようと考えていた時だ。

 

 

彼女が此方の顔を見て「あっ」と何かに気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

「もしかして、市ヶ谷先輩ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「ん?

 

ああ、そうだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

「私、一年強襲科の間宮あかりと言います!」

 

 

 

 

 

 

 

間宮あかり……

 

 

何処かで聞いたことある名前なのか、博也は「ん?」と首を傾げてから「もしかして……」と恐る恐るといった様子で確認するように問いかける。

 

 

 

 

 

 

 

「二年の神崎と戦姉妹(アミカ)契約結んだ奴か?」

 

 

 

 

 

 

 

博也の問いかけに「はい」と小さく頷くあかり。

 

 

 

戦姉妹というのは一人の先輩下で直接特訓を受けるという制度のこと。

 

 

そして、二年の神崎とは神崎・H・アリアという女子生徒だ。

 

最近、東京武偵高校に転校してきたばかりの人物。

 

 

強襲科Sランク、犯罪検挙率99%……

 

双剣双銃(カドラ)のアリアの異名を持つエリートだ。

 

 

あかりはそんなエリートから直接特訓を受けるという契約を結んでいるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……

 

君があの間宮あかりだったのか」

 

 

 

 

 

 

 

「はい。

 

 

あ、見ましたよ!

 

 

今朝の犯人とのカーチェイス!!」

 

 

 

 

 

 

 

「見ましたって、何処から?」

 

 

 

 

 

 

 

「武偵高行きの通学バスからです!」

 

 

 

 

 

 

 

そんなの追い越したっけな……?と首を傾げる博也。

 

実際、通学バスらしきものは何台も追い越しているのでそのうちのどれかがそうだったのだろう。

 

 

調子に乗った博也が「そうか」と格好付けるようにフッと笑みを浮かべると、彼女は目をキラキラと輝かせながらも話し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「凄い格好良かったですよっ!

 

 

まあ、"アリア先輩には敵いません"がね!」

 

 

 

 

 

 

 

……は?

 

 

最後の一言ゼッタイ余分だろ!!

 

 

 

と、思うが先程のあんパンの件もあり「アハハ……」と表情を歪ませながらも苦笑いすることしかできない。

 

 

 

それもそうだ。

 

憧れであり、師でもある先輩にはどうアピールしても敵いませんよ……

 

 

内心思い、自分を宥める博也……

 

 

が、そんな中……

 

 

あかりが彼に「あのー……」と恐る恐るこんなことをお願いしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩の時間が空いていればで良いんですが、

 

放課後に助手席に乗せてくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

「放課後?

 

まあ、空いてると言えば空いてるけど……

 

 

神崎との特訓は良いのか?」

 

 

 

 

 

 

 

「はい、今日はオフなんです。

 

"たまにはガス抜きしなさい"って」

 

 

 

 

 

 

 

スパルタなイメージが強かったが、意外とそんなことも言って来るんだと感心した博也は「へぇー」と意外そうな声を出しながらも腕を組む。

 

あんパンの件もあるし、断る理由もない。

 

 

「良いよ」と笑顔を浮かべて答えると彼女は「本当ですか!?」と両手を合わせるようにしながらも喜びを表現してきた。

 

 

どうやら、結構感情が面に出るタイプのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、放課後ここで」

 

 

 

 

 

 

 

「おう、待ってる」

 

 

 

 

 

 

 

そう受け答えしていると遠くから「あかりー」という高めのアニメ声が聞こえてきた。

 

 

声がした方に目を向ける二人。

 

 

ピンクの髪色に長いツインテール、角のような赤い結び留め、

 

少しキツめのツンデレ系の目にあかりより少し高い背丈……

 

 

 

神崎・H・アリアだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、アリア先輩!」

 

 

 

 

 

 

 

「早くしなさい、遅刻するわよ」

 

 

 

 

 

 

 

憧れの先輩であり、自分の戦姉(アネ)でもある人物の言葉に「はーい!」と嬉しそうに答えるあかり。

 

 

せっせと駆け足で校舎の入り口に回ろうと急ぐ彼女に対し、 アリアはその場にいた博也に鋭い眼差しを向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何か用でも?」

 

 

 

 

 

 

 

視線を感じ取った博也が同じような眼差しで問いかけると共に何か言い残したいような様子ながらもあかりと共に校舎の入り口に行こうと駆け出した。

 

 

……何が言いたかったのだろう?

 

 

 

 

とは言え、

 

 

何もなしに考えていても埒は開かないだろう。

 

 

時間も迫って来てる。

 

 

博也も校舎に入ろうと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー放課後

 

 

約束通り、朝に鉢合わせた校舎裏で待つ博也。

 

夕方と言っても可笑しくないような時間帯、

 

日は沈もうと動き始めてる。

 

 

それを眺めつつも、校舎の壁にもたれるようにしながらも黙って待ち続ける。

 

 

静かな為、校舎の表側から「さよならー!」や「また明日ー!」という声が聞こえる。

 

 

 

朝と変わらないような活気に思わず自然な笑みを浮かべていると、タッタッと走るような足音が左側から聞こえてきた。

 

 

 

やっと来た。

 

 

そう思いつつも壁から背を離し、音がする方に顔を向ける……

 

 

 

間宮あかりだ。

 

 

ここまでずっと走ってきたのか、息を荒くしながらも両手を膝につけて下を向いている。

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

 

 

 

 

 

 

「あ、はい。

 

 

すいません、なんか待たせちゃったみたいで……」

 

 

 

 

 

 

 

「いや、そんな待ってないって。

 

 

早く行こう」

 

 

 

 

 

 

 

そう促しながらもゆっくりと歩いてZが停めてある場所まで案内する。

 

すると、はぐれることなく無事に駐車場に到着した。

 

 

隣には大樹の86……

 

どうやら、まだ帰ってないようだ。

 

 

そう思いつつも「これが俺の車」とZに歩み寄り、左側のヘッドライトに軽く触れるようにすると彼女は「おぉー!!」と声を出しながらも顔を近付けたり、遠ざけたりして眺め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「なんか速そうな車ですね!

 

何て名前ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「フェアレディZ。

 

現行モデルの1つ前のZ33って型だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう教えながらもピッとロックを解除し、助手席の縦ドアノブに手を伸ばしてパッと開けて内装を見せる。

 

 

如何にも後付けと言わないばかりの小さいナビにホールド性が高そうな赤いレカロ製のセミバケットシート。

 

ステアリングは握りやすく如何にも軽そうな黒が基調の社外製……

 

 

運転席側の右上辺りのダッシュボードにDefi製のADVANCE ZDというコンパクトなデジタルメーターがある。

 

そして、その右上……

 

Aピラーと呼ばれる車の柱のような場所にもアナログチックなメーターが1つだけある。

 

デジタルメーターと同じくDefi製のものだ。

 

 

 

それ以外はダッシュボード中央の純正3連メーターが目に入るぐらい。

 

 

かなりスッキリとまとめている。

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、意外とシンプルですね」

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、変にゴチャゴチャしてるよりかこういう感じの方が好きでね」

 

 

 

 

 

 

 

そう答えてから助手席に乗せようと「乗って」と促すと共に乗り込むあかり。

 

 

スポッとハマるようにシートに座ると、身長が低いためか視界のほとんどがダッシュボードという状態。

 

 

内心「プスッ」と笑いつつも博也も運転席側に乗り込む。

 

 

シートベルトをした後にエンジンを始動させるとガガガッ!バォンッ!!とやや派手めな音が鳴り響いた。

 

 

同時に全てのメーターが始動したのを確認。

 

 

 

 

デジタルメーターのピピピッという起動音がした後にサイドブレーキを下ろしてゆっくりと走らせ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処か行きたい場所とかある?」

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、お任せします!」

 

 

 

 

 

 

 

一番困る答え方に内心「はぁ……」と溜め息をつく博也。

 

 

何処か良いルートはないものか……

 

 

と、考えているとふと浮かぶものが出てきた。

 

 

ナビの左下に表示されている時間で現在時刻を確認……

 

 

ちょうど良い時間帯だったのか、思わず表情をニッとさせてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「どうかしました?」

 

 

 

 

 

 

 

「いや、何でもない。

 

とにかく行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで話してもつまらないので、そう誤魔化しつつも運転を続ける。

 

 

武偵高を出た後も排気音を抑えるために高めのギアで低めの回転数を維持……

 

 

ここまでは順調だ、快適なクルージング。

 

 

が、小さな段差につきかかった時だ。

 

 

 

突然、ガツン!と車内で大きな突き上げが起きたのだ。

 

別に故障でも何でもない。

 

足回りの関係を強化すると段差を越える時にどうしてもこのような衝撃が発生してしまうのだ。

 

 

 

気を抜いていたあかりが「うわぁ!?」と驚きの声を上げる。

 

 

慣れている博也が落ち着いた面持ちで「大丈夫?」と問いかけると頷いてくれたものの、まだ動揺してるような様子だ。

 

 

 

 

 

 

 

「悪い!次から気をつける」

 

 

 

 

 

 

 

「い、いえいえ!

 

悪いのは気を抜いていた私の方ですっ!!

 

 

こういう分類の車がこういう乗り心地だって言うのは車輌科の同級生から聞いてますし……」

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、そう。

 

こういう乗り心地だ。

 

 

嫌いになったか、この車のこと?」

 

 

 

 

 

 

 

意地悪半分で問いかけてみる博也。

 

 

話を逸らすか、それとも無理に「そんなことはない」と否定するか……

 

彼女がこの場でどういう答え方をするのか気になる。

 

 

 

……が、答えはそのどちらでもなかった。

 

 

会った時と同じような天使のような汚れのない満面の笑顔を浮かべて彼の方を見ながらもハッキリと答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、私は好きですよ!

 

確かに乗り心地とかは普通の車と比べて悪いけど、

 

 

先輩が大事にしてるなっていうのがよく分かるんです。

 

 

外から見てもピカピカだったし、中もゴミなんて落ちてない……

 

 

好きなんですね、この車のことが!」

 

 

 

 

 

 

 

予想もしてなかった答えに頬を少し赤らめながらもポカーンとしてしまう博也。

 

数秒間の間を開けてからようやく自分がどんな状態なのかとわかったところで「お、おう」と表情を見られないように顔を逸らす。

 

 

 

一方のあかりの方は頭上に?を浮かべるも、追及しても仕方ないと聞かないことにした。

 

 

 

それからしばらくの間、会話はないが車が首都高速のETCゲートを潜り抜けたところでようやく新たな会話が出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

「高速……?

 

どこに向かってるんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「さっきも言っただろ。

 

着いてからのお楽しみ」

 

 

 

 

 

 

 

「えー、ヒントだけでも下さいよ!」

 

 

 

 

 

 

 

手足をブンブンと振ってねだるあかり。

 

 

 

ヒント、ヒント……

 

 

 

到着場所の特徴を頭の中で考える博也。

 

 

簡単過ぎても駄目だし、かなり遠回しなヒントも駄目だ。

 

 

と頭の中を回転させるが、いいヒントが出て来ない。

 

 

仕方なしに到着場所の名前からヒントを出すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、ヒント。

 

 

その場所の名前には"ある生き物"の名前が入る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生き物……?」

 

 

 

 

 

 

可愛らしく斜め上を見るようにしながらも「うーん」と考え込むあかり。

 

少しずつ難しそうに眉間にシワを寄せ始める様子を見ると答えは浮かび上がりそうにない。

 

これには博也も苦笑いの笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、着くまで待ってて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ・

 

 

 

 

 

 

 

 

-しばらくして

 

 

東京湾を跨ぐ首都高の大橋、東京湾アクアライン。

 

既に日が落ち、夜に入った時間帯に二人はとあるPA(パーキングエリア)に到着した。

 

 

 

少し混み気味の駐車場から空いてるスペース探し、空かさず車を停める。

 

 

カタッカタッとドアが空くと共に二人が降りてきた。

 

 

運転の集中から解放されてクイッと体を伸ばす博也に対し、あかりは「あっ」と何か閃いた様子だ。

 

 

 

 

 

 

 

「生き物の名前って、

 

海ほたるのことだったんですね!!」

 

 

 

 

 

 

 

海ほたるPAは普通のPAとは違い、アミューズメントコーナーやレストラン、更には足湯まであるというちょっとした遊び場みたいになっている。

 

 

が、それが目的でここに来たわけではない。

 

 

 

ここに来た目的……それは夜景だ。

 

 

 

 

 

日本の夜景百選にも選ばれるほどの夜景がここでは堪能出来るのだ。

 

 

どんな反応をしてくれるのか、頭の中で想像する博也。

 

そんな彼に対し、あかりは「あのー……」と少し申し訳なさそうに話し掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

「飲み物買いに行きませんか?

 

ちょっと喉渇いちゃいまして……」

 

 

 

 

 

 

 

「エヘヘ」と言わないばかりの彼女の言葉を聞くと自分の喉の渇きに気付く博也。

 

だが、彼の脳裏にあるものが浮かび上がる……

 

 

 

 

それは財布の中にある所持金だ。

 

 

 

……とても高校生の所持金とは思えないようなものだ。

 

 

この勢いで夕飯も外で食べるとなればかなりキツい。

 

 

 

 

金がピンチだ……!!

 

でも、喉は確かに渇いてる……!!!

 

 

ああああああ!!!どうすればあああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、頭の中で葛藤すること1分後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は財布を持って自販機コーナーの前に並んでいた。

 

 

 

 

 

結局、己の誘惑に負けてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

彼が目をつけていたのは100円のミネラルウォーター……

 

500mlと容量もあるため、しばらくの間は持つ。

 

 

 

「よし」と心の中で頷きながらも自販機に硬貨を入れようと財布を取り出した……

 

その時だ。

 

 

彼の視界にある物体が目に入った。

 

 

……炭酸が入ったエナジードリンク。

 

 

容量は半分の250mlの缶。

 

 

 

だが、値段は200円近く……

 

 

 

これで疲れを吹っ飛ばすのもありだが、今の自分にはミネラルウォーター……

 

 

 

と思っている時、心の中の悪魔が急に囁いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「-下手だなー、博也くん。

 

欲望の解放のさせ方が下手。

 

君が本当に欲しいのはエナジードリンク(こっち)。

 

 

これを腰に手を当ててグビッと飲んでさ、疲れを吹っ飛ばしたいんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甘い誘惑ッ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それに対し、博也……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

200円を投入ッ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

惨敗ッ……!!

 

 

 

 

 

 

 

買ったエナジードリンクを手に取り、自販機から離れる博也。

 

あかりの方も既に買い終えたようだ。

 

 

手に缶コーラを持っている。

 

 

350mlの普通のサイズだが、小柄な彼女が持つと何だか大きく見える……

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、それにしたんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ああ……まあな。

 

 

そ、そんなことより夜景観に行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-10分後

 

 

 

夜景を堪能し、夕食を食べようと店内に入る二人。

 

周囲がざわざわと少し騒がしい中、入って中央の席を陣取る。

 

 

先程のエナジードリンクで只でさえ少ない財布の中身を圧迫してしまった博也は最も安価なかけうどんを注文。

 

 

それに対し、隣に座っているあかりの方はエビフライが乗った小さめのカレーライスだ。

 

此方も安価な方ではあったが、かけうどんの値段とはかなり差がある。

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、それだけで大丈夫なんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「ま、まあな……!

 

そんなに腹減ってないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

嘘である。

 

 

 

腹が減りすぎてる、もっと食べたい!

 

 

 

だが、彼の財布の事情からこれしか注文出来なかったのだ。

 

 

 

こんなことなら少し貯金を崩すべきだった……

 

 

 

 

トホホ……と言わないばかりの表情を浮かべてそう思いつつも箸を手に取って「いただきます」と合掌してから近くに置いてあった七味をパッパッと軽く掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、それにしても……

 

先輩ってロマンチストだったんですね!

 

 

ちょっと驚いちゃいました!」

 

 

 

 

スプーンを手に取ったあかりがカレーを食べる前に言った一言。

 

 

 

 

 

……こんなかけうどん食べている奴の何処がロマンチストなのやら。

 

 

 

 

 

そう思いながらも、「ハハハ……」と苦笑いしてからズルズルとうどんを啜る博也。

 

 

何とも質素な食事。

 

 

上にかき揚げでも乗っていれば少しはマシになるだろうに……

 

 

 

そんな思いからあかりに聞こえないぐらいの小さな溜め息をついてしまう。

 

 

そんな中、あかりの方から「はむっ」という美味しそうに食べる音が聞こえてきた。

 

 

無意識のうちにそちらに視線が向かってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「……どうかしました?」

 

 

 

 

 

 

 

あかりが視線を感知し、問いかけてくる。

 

 

 

誤魔化さないと……

 

 

 

 

咄嗟に「い、いや、何でもない!」と答えて対応する博也。

 

それを見て首を可愛らしく傾げる彼女……

 

 

完全に怪しまれてる。

 

 

気にしていないオーラを出そうと再び質素なかけうどんと向かい合う。

 

 

 

そのまま再びズルズルと食べたり、レンゲでスープを飲んだりしているうちに彼女の意識も再びカレーの方へと向かった。

 

 

 

 

 

……何とかやり過ごしたようだ。

 

 

 

 

 

ほっと胸を撫で下ろしつつもかけうどんを食べ続ける。

 

が、もうほとんど残ってない。

 

 

食事を開始から二回目の溜め息をつく。

 

 

 

 

すると、ここで再び天使・間宮あかりが降臨する。

 

 

 

カレーを掬ったスプーンを「どうぞ」と差し出してきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「そんな……いいのか?」

 

 

 

 

 

 

 

「もちろんです!」

 

 

 

 

 

 

 

再びあの笑顔を浮かべながらも頷いてくるあかり。

 

 

 

な、なんていい子なんだよ……!!

 

それに、よく考えて見れば間接キスじゃないか……

 

 

 

 

そんなことを思いながらも頬を赤らめ「あ、ありがとう」と礼を言ってからスプーンに顔を近付けてはむっ!と口にする……

 

 

 

味はいたって普通のカレー。

 

 

だが、この場に置いてはそんなカレーでもあかりの親切さというスパイスが効いて絶品と感じる。

 

 

 

 

犯罪的だッ……美味すぎるッ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

「美味いよ、ありがと」

 

 

 

 

 

 

 

そう言いながらも御返ししようと博也は自分の前にあるかけうどんを見る……

 

 

 

こんな質素なもので良いのだろうか?

 

 

 

等と思っている間にあかりがその質素なかけうどんに目をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、スープだけ頂いても良いですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、どぞどぞ」

 

 

 

 

 

 

 

何の遠慮もなしにスッと素早く差し出すとスプーンでスープを掬ってから「いただきます!」と口にするあかり。

 

 

質素で如何にもインスタントみたいな味のこのスープに対しても「美味しい!」と満面の笑みを浮かべながらも感想をの述べてくれた。

 

 

 

あれ、ひょっとして本当に美味しいのではないか……?

 

 

 

そう思い、「ハハハ」と笑いながらもレンゲを手にしてもう一度スープを飲んでみる……

 

 

 

 

……やはり、インスタントに似た味がした。

 

 

 

心の中で「アハハ……」と苦笑いしつつも残りを食べて全て平らげるとあかりの方も少し遅れてカレーを食べ終えた。

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走さまでした!」

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……行くか」

 

 

 

 

 

 

 

爪楊枝をくわえながらもそう呟き、食器を下げようと立ち上がると隣に座っていたあかりも「はいっ!」と勢いよく立ち上がる。

 

 

そのまま一緒に片付け、自動ドアを潜り抜けた……

 

 

 

心地よい潮風が歓迎するように体を包み込んでくる。

 

 

クイッと体を伸ばすあかりに対し、博也はキーを手にとって遠隔で車のロックを解除。

 

 

 

車に歩み寄り、運転席に乗り込んでシートベルトを締めてからエンジンを掛ける……

 

 

 

ガガガッ!バォンッ!!と鳴り響く音が車内を蔦って聞こえてきた。

 

 

 

余韻に浸るように軽く目を瞑っていると助手席側のドアが開き、あかりが乗り込んできた。

 

シートベルトを締めて礼の言葉を口にする。

 

 

 

 

 

 

「今日はありがとうございました!」

 

 

 

 

 

 

 

「いやいや、礼を言うのはこっちの方だ。

 

楽しかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

そう答えながらもゆっくりと慎重に走らせる……

 

 

Uターンに入り、東京湾アクアラインに合流。

 

 

法定速度より少し速い位のスピードで車を走らせる。

 

 

 

 

 

 

ブォォン……という低い音を響き渡る中、ふと視線を助手席に向けてると今にも寝てしまいそうなあかりの顔が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「……おやすみ」

 

 

 

 

 

 

 

クスッと笑いつつもそう言うと共に再び運転に集中しようと前に視線を向ける。

 

 

そのまましばらくすると首都高エリアに入った。

 

 

このままゆっくりと帰れる……

 

 

と思っていた、その時だ。

 

 

 

ブゥゥブゥゥゥ!!と急になり響くスマートフォン。

 

博也の方だけではない、あかりの方の携帯もピロピロピロ!!と鳴り響く。

 

 

恐らく、武偵高からの周知メールだ。

 

 

 

音で半分眠っていたあかりも「はっ!」と一気に目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、もしかして……!」

 

 

 

 

 

 

 

「多分、その"もしかして"だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

答えている間に携帯を手にとって確認するあかり。

 

その間に携帯を触れない博也はナビをピッピッと操作していく。

 

 

普通のナビの画面が武偵高の周知システムに切り替わり、最新の情報を表示させる。

 

 

……どうやら、犯人を護送していた護送車が何者かに襲撃を受けているようだ。

 

 

場所は次のIC(インターチェンジ)からかなり近い。

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞ、間宮!」

 

 

 

 

 

 

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

返事をしっかりと聞いたところでシフトノブを握り、ガガガッ!!とシフトダウン。

 

 

グォォン!!という轟音と共に2000回転付近を維持していたタコメーターの表示が一気にリミットである7650回転に振れた。



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第二話 マイ・フェアレディ








-考えるコト 








わかろうとするコト 







そして見ようとするコト





いま目に映るそのモノじゃなく 




その向こう側にあるもの











どうしてそうなったのか 










なぜそうでなければならないのか 










いつもその理由を考える









――考えなければ何もわからない












 

 

 

 

 

 

 

-首都高速出口

 

 

 

 

一般道に降り、夜風を切り裂くように疾走する博也のZ33。

 

 

 

朝のカーチェイスのようにサイレン音を鳴らしながらもハンディタイプの赤と青の回転灯を車体上部に取り付けて回している。

 

 

只でさえ速いにも関わらず、更にアクセルを踏み込んでいく博也。

 

 

加速Gにより、体がグイッ!とシートに押し付けられる……

 

 

 

助手席に座っているあかりは恐怖のあまり、「ぴゃぁぁぁっ!!?」と叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「せ、先輩っ!

 

ペース落として下さいーっっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

懸命に頼むあかりだが、運転している博也は無言のままDefi製のデジタルメーターがピィーとアラート音が鳴らすと共にタコメーターをチラッと見てエンジン回転数を確認。

 

左手でシフトノブを握り、カタッとシフトアップ。

 

回転数が落ちてアラート音が鳴り止むと再び加速させていきつつも左手を再びステアリングに戻す。

 

 

 

かなり集中しているようだ。

 

 

 

そんな中、目標(ターゲット)までの道案内をしていたナビに表示が出てくる……

 

 

 

次の交差点で右に曲がるようだ。

 

 

 

博也が足下の付近に取り付けられていた車載拡声器の受話器を左手で手にする。

 

 

 

 

 

 

 

「-緊急車輌通ります!

 

道を空けて下さい!!」

 

 

 

 

 

 

 

そう言ってから受話器を戻すが、減速する気配はない。

 

 

 

 

 

このままでは事故を起こしてしまう……

 

 

 

そう思ったあかりは顔が青ざめてしまう。

 

 

 

 

頭の中で色々な思い出が走馬灯のように頭の中を過り、恐怖のあまり「うぅ……!!」と怯えるように声を出しながらも力強く目を瞑る。

 

 

 

そして、もう少しで交差点に差し掛かる頃に今度は体が勢いよく前に押し出されるようなGが襲い掛かった。

 

 

 

ブレーキングを行ったのだろう。

 

 

それと共にシフトダウンする音が聞こえてきた。

 

合わせるようにファゥンッ!ファゥンッ!という咆哮のような音とデジタルメーターのアラート音が耳に飛び込む。

 

 

 

 

まだスピードが乗っている中、

 

博也は手足に全神経を集中させながらも勢いよくハンドルを切った。

 

 

 

 

 

 

「ひえぇぇぇ!!」と悲鳴あげるあかりの叫びが車内に響き渡る中、

 

 

 

車体がキィィィィ!!というスキール音(タイアが滑る音)を響かせながらもスライドを始める。

 

 

 

いわゆる、ドリフトだ。

 

 

 

強烈な横Gが車内に襲い掛かる中、車体を持っていかれないようにとステアリングを左に切る博也。

 

 

 

が、車体は吸い寄せられるように歩道と車道の間にあるガードレールに接近していく……

 

 

 

あかりがふと目を開けるとガードレールまであと数センチというところまで近付いていた。

 

 

 

 

 

もう、ダメだ……!

 

 

 

 

 

 

……と思っていたが、急に車体の吸い寄せがピタッと止まった。

 

 

そこから再び加速体勢に入る。

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 

 

 

 

 

何事もなかったかのように走っていく現状に驚きながらもゆっくりと顔を上げるあかり。

 

 

何があったのかと混乱しつつも頭の中で色々考えていると博也に何かを渡された。

 

 

 

 

車載拡声器の受話器だ。

 

 

 

 

 

 

 

「これ、頼んだ」

 

 

 

 

 

 

 

頭の中が混乱している中、急に渡されたので受話器を受け取っても何のことだか分からずに頭上に?浮かべるあかり。

 

そんな彼女に理解させようと博也は小さく息をついてから大声でもう一度伝える。

 

 

 

 

 

 

 

「あ"ーアナウンスしろッ!!

 

分かったら返事!!」

 

 

 

 

 

 

 

「は、はいぃっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

ようやく理解したあかりは勢いよく頷きながらも受話器を口の前まで運んでいく。

 

が、何を喋れば良いのか分からず「えーと……!?」と考え込んでしまう。

 

 

その間に次の交差点が近付いてくる。

 

 

 

 

 

 

 

「え、えっと……!

 

あ、危ないですよっー!!」

 

 

 

 

 

 

 

「何が危ないんだよっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

ツッコミを入れながらも交差点に突入する直前にブレーキングを行う博也。

 

 

先程と同じようにカタカタッ!とシフトダウンを行うと共に左に曲がろうとステアリングを切る。

 

 

 

再びドリフトによるスライドが始まると車内にグイッと強烈なGが掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃぁぁぁッ!

 

ごめんなさいぃぃぃッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

襲い掛かるGに再び叫びつつも謝るあかり。

 

 

再びガードレールに近付くも、当たるスレスレで加速していくZ33。

 

 

 

曲がり切った後に襲撃を受けている護送車が目に入ってきた。

 

 

 

何とか今の今まで逃げれてはいるようだが、犯人の車と思われるシルバーのクラウンに右側を張り付かれてるようだ。

 

博也は後部のトランクスペースにある無線機を手にし、此方が味方であることを伝える。

 

 

 

 

 

 

 

「こちら、FZ33(スリースリー)。

 

これよりそちらの支援に入る」

 

 

 

 

 

 

 

「-こちら、CE27(ツーセブン)!

 

助かった、早く来てくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

無線越しに聞こえてくる安心したような声が聞こえてくると共に攻撃体勢に入れるように左右のパワーウィンドウを開ける博也。

 

 

そんな中、クラウンの助手席側から男がAKらしきアサルトライフルを構えた。

 

 

かなりのスピードで二台に接近しているZだが、間違いなく接近するよりも向こうが発砲する方が早い。

 

 

まずい……と思っていたあかりだが、ここで博也が右手をステアリングから離してあるものを手に取る。

 

 

シグ・ザウエル&ゾーン社が開発したP226だ。

 

 

左手でステアリングをグイッとしっかり握り、P226の銃身を外に出し、照準を全く見ずにパンパンッ!と発砲……

 

 

 

なんと、クラウンから身を乗り出していた男がAKを落としたのだ。

 

 

道路上に落ちたAKを鮮やかにかわし、護送車の真後ろについた。

 

 

 

 

 

 

 

「え、今ので当てたんですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

紛れかと思うような神業にはしゃぐあかりだが、まだ終わっていない。

 

 

邪魔な此方を排除しようと思ったのか、クラウンが此方に横についてくる。

 

後部座席のパワーウィンドウが降りると後ろに乗っていた男がM16のようなものを手に取り、此方向けてきた。

 

 

 

が、結果は同じ。

 

再び照準を見ずに撃った弾が命中し、M16を落としてしまう。

 

 

更に追い討ちを掛けるように車の足回りや運転手の腕に向けて向けてパンパンッパンパンッ!と発砲。

 

 

 

車体のバランスが悪化したクラウンは左右に揺れるように動きながらも減速……

 

 

そのままキィィィィ!とスピンし、ドンッ!と勢いよくガードレールに突っ込んで停車した。

 

 

ウィンカーを出して右車線に移った護送車に続くように右車線に移る。

 

 

 

 

 

 

 

「やりましたねっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「まだいるぞー。

 

 

 

ほらほら、後ろ後ろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

博也の言葉を聞いて頭上に?を浮かべながらも後ろを振り向くあかり。

 

……本当にいた。

 

先程と同じシルバーのクラウン、今度は二台仲良く横に並んでる。

 

 

 

 

 

 

 

「今度は私に任せて下さい!!」

 

 

 

 

 

 

 

任せっぱなしではいけないと自分の愛銃であるマイクロUZIを手に自信満々のようすで名乗り出るあかり。

 

「おう」と任せるようにして素早くリロードをする博也に対してZから身を乗り出し、しっかりと照準を覗くようにしながらも構える……

 

 

そして、引き金に指を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バラララララッ!と銃声と共に次々と銃口から放たれる9mmパラベラム弾。

 

が……全くと言っていいほど命中しない。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ……?」と言葉を漏らしながらも弾切れになったマイクロUZIの引き金をチャキッチャキッと引くあかり。

 

 

その間にも二台のクラウンが詰め寄ってくる。

 

助手席にいる男が今にもAKを持った男が反撃してきそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どど、どうしましょう!?」

 

 

 

 

 

 

 

自分のミスで窮地に陥ったとあわあわ……!?と焦るあかり……

 

 

だが、博也の方は全くもって冷静を保っている。

 

 

リロードを終えたP226で先ずは後ろにいるクラウンに向けて発砲。

 

 

パンパンッ!と音が鳴り響くと共にスピン。

 

まずは1台。

 

 

 

が、問題はもう1台だ。

 

 

 

助手席からなら撃てるが、運転しながら身を乗り出して撃つのは不可能。

 

かと言って車線を移すと危ない……

 

 

 

 

そこで彼はとんでもない行動に出る。

 

 

 

 

なんと、ブレーキングを行ったのだ。

 

 

 

 

急激な減速によってクラウンが左に並んだ一瞬……

 

 

その一瞬を逃さずにパンパンッパンパンッ!と発砲、

 

 

 

 

 

全弾命中。

 

 

 

 

 

そのままバランスを崩したクラウンがガードレールに衝突……

 

 

 

 

 

 

だが、これだけでは終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラウンが衝突した反動で此方の車線に飛び込んできたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

言葉にならないような声を出すあかり。

 

 

クラウンが近付いてくるのがスローのように感じられる……

 

 

"これでは衝突する"という恐怖心からだろう。

 

 

 

 

だが、その心配はなかった。

 

 

 

博也の素早い判断によってスッと回避。

 

 

急な操作だったため若干リアタイヤ(後ろのタイヤ)が滑るが、それも切った方向と逆側にステアリングを切って対応。

 

 

 

何事もなかったかのように加速していき、再び護送車の後ろにつくと、他のパトカーらしきサイレン音が聞こえてくると共に護送車の方から無線が入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「-CE27よりFZ33へ。

 

安全圏に入った、これ以上の支援は不要だ。

 

 

報酬の方は多めにしておくように上に頼んでおく」

 

 

 

 

 

 

 

「FZ33、了解。

 

楽しみだ、お財布握り締めて待ってるぞ。

 

 

……状況終わり、オーバー」

 

 

 

 

 

 

 

そう無線交信を交わすとカチッと無線を切る博也。

 

 

ここで「ふぅ……」という安堵の息をつく。

 

 

ペースダウンしてサイレンの電源をオフにし、回していた回転灯をしまう。

 

 

 

次の交差点で護送車が直進するのに対して左折して別れた。

 

 

再びゆっくりと走るZ……

 

 

助手席にいるあかりはキラキラと瞳を輝かせて運転している博也に視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

「かっこよかったですよ、先輩!

 

あの状況下でずっと冷静でしたし、

 

やっぱりスゴいです!!」

 

 

 

 

 

 

 

キャー!と言わないばかりに誉めちぎるあかり。

 

 

だが……

 

そんな中、突如グゥゥゥ……という音が車内に鳴り響く。

 

 

 

……音の主は博也だった。

 

 

 

あかりの方を見て苦笑いの笑みを浮かべながらも力が抜けたような声でこう伝えてくる。

 

 

 

 

 

 

 

「悪い……腹減った」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ・

 

 

 

 

 

 

 

 

-数十分後、

 

 

 

コンビニのATMで貯金を少し崩した博也はあかりと共にファミレスに来ていた。

 

 

駐車場が見える窓際の席に座る二人。

 

 

店内は夕食のラッシュが終わった後なのか、所々の席にポツポツと客がいるぐらいだ。

 

 

 

 

 

ドリンクバーのカルピスのみのあかりに対し、博也は目玉焼きが乗ったハンバーグとガッツリめに注文していた。

 

 

 

鉄板の上に焼かれたアツアツのハンバーグをナイフで切り、冷まそうとフゥーフゥーと息を吹き掛ける。

 

 

ある程度吹き掛けた所でパクッと口に含むが、まだ熱かったのか口の中で少しほふほふとさせながらも味わうように噛んでいく……

 

 

そして、冷めた所でゴクッと飲み込むと共に幸せそうな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

「ぅーっ!美味い。

 

やっぱり、仕事の後の飯っていいなー」

 

 

 

 

 

 

 

「でも……

 

先輩、さっきうどん食べましたよね?」

 

 

 

 

 

 

 

「確かに食べたけど、

 

何て言うか……

 

今更ながら本命の腹減りが来たんだよなー」

 

 

 

 

 

 

あかりの鋭い問いかけに対して「あはは」と作り笑いをしつつも答える博也。

 

 

 

 

嘘である。

 

 

 

 

 

あの時は手持ちがなかったため、やむを得ずに注文したのだ。

 

 

 

あの場でもっと所持金があれば、ここに寄ることもなかっただろう……

 

 

と思いつつもハンバーグと向き合う。

 

 

そんな彼に対し、あかりはジゥルーッとストローでカルピスを飲んだ後に駐車場に停まっているZに目を向ける……

 

 

そして、こんな素朴な疑問を投げ掛けてくる。

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、

 

あの車にどれぐらいお金掛けたんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

問いかけに対して「そうだなぁ……」と考えるように呟きながらもモグモグとハンバーグを食べる博也。

 

そして、頭の中で考えつくと同時にゴクッと口に含んだのを飲み込んで答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、車自体は中古で当時価格200万ぐらい。

 

 

 

でも……

 

 

改造費は新車で安いFスポーツのレクサス買って、

 

"結構なお釣りが返ってくる"ぐらいは掛けたかも」

 

 

 

 

 

 

 

「え……!?

 

そんなに!!?」

 

 

 

 

 

 

 

驚きのあまり両手をテーブルにつけながらも身を乗り出すあかり。

 

 

 

レクサスは言わずも知れたトヨタの高級車ブランド。

 

 

Fスポーツというのはそんなレクサスのスポーツグレードみたいなものだ。

 

 

安いという言葉がついたが、高級車ブランドのスポーツグレードということもあり一番安い車でも新車価格は430万。

 

これは車体のみの価格だ。

 

これに更に別途諸経費も上乗せされる。

 

 

それだけの代金を払っても"御釣りが返ってくる"というのだ。

 

あかりの反応に対してそうなるだろうなと言わないばかりに苦笑いする博也。

 

視線を一度Zに向けた後にあかりに戻し、続けるように語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「車のパーツってやっぱり結構高いんだ。

 

 

Zみたいなスポーツカーは特に高い。

 

 

市販パーツでさえ高いのに納得行くようにわざわざワンオフで作ってもらったパーツもあった。

 

めちゃくちゃ高かったなー。

 

 

でも……なんかイジるのやめれなくてさ。

 

 

おかげでかなり生活圧迫するぐらいになったよ」

 

 

 

 

 

 

 

そう言ってからはむっと再びハンバーグを口にする博也。

 

そんな彼がゴクッと飲み込んだのを不思議そうに見ながらもあかりは次の質問を投げ掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

「悔いはないんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「悔いって?」

 

 

 

 

 

 

 

「だって、

 

お金を掛けなければもっと裕福に過ごすことも出来たんですよね?

 

そんなことを考えて後悔したりってないですか?」

 

 

 

 

 

 

 

あかりの問いかけに対して「………。」と黙り込む博也。

 

ハンバーグを食べ終え、チャキッとフォークとナイフを置くと片隅に置いてある紙布巾を一枚手に取り、口の周りを軽く拭き取る。

 

 

そして、真っ直ぐとした眼差しでZの方を見ながらも語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「後悔なんかしてない。

 

まあ、確かにあの車に金掛けなければそこそこ裕福な暮らしをしていたと思う。

 

 

でもさ、

 

 

 

 

 

 

 

 

その道を選んだ俺よりも今の俺の方が幸せだって言い切れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

……裕福だから幸せ、

 

貧乏だから不幸っていうのはただの固定観念。

 

 

 

 

本当にそれが幸せかどうかは本人しか知らない」

 

 

 

 

 

 

 

「……あの車にそんなにも思い入れがあるんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、人生で"一番最初"に惚れた車だしな」

 

 

 

 

 

 

 

ヘヘッと少し恥ずかしそうに頬を赤らめながらもハッキリと答える博也。

 

その話に興味を持ったのか、若干ワクワクするような様子であかりが掘り下げてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「一番最初って、いつですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「中等部入って間もないぐらいの時だったかな。

 

 

 

まだアレが新車で売っていたぐらいの時代……

 

 

俺が惚れたのは街中をフラフラ歩いてる時に見掛けた奴だ。

 

 

 

純正の形を上手く活かしたようなエアロ付けててさ……

 

 

 

なかなかお目にかかれないような流線基調の車に知らないうちに釘付けになってた。

 

 

 

 

それで、ちょうど信号待ちで停まってたから

 

 

「どんな人が乗ってるか」

 

って覗き込んだら……

 

乗ってたのはスーツを着た40代前半ぐらいのサラリーマンだった」

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー、なんか意外ですね!」

 

 

 

 

 

 

 

「だろ?

 

でも、一番驚いたのはその運転手の表情だった。

 

 

 

 

 

何処か楽しげだったんだ。

 

 

 

 

仕事や私用で良いことがあったって感じじゃなかった。

 

 

 

 

何というか、その場にいることを楽しんでるような……

 

 

そんなものが伝わってきたんだ。

 

 

 

 

それ見て思ったんだ……

 

 

将来、あの車に乗りたいって」

 

 

 

 

 

 

 

そう答えると共にお冷を手にしてゴクッと一口だけ飲む博也。

 

そんな彼の話にあかりは更に興味を持ったのか、少し興奮したような様子で更に掘り下げる。

 

 

 

 

 

 

 

「そこまで惚れ込んでるとしたら……

 

免許とってから一番最初に乗ったのもあの車ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「いや、違う車。

 

 

当時はまだ武偵駆け出しの状態だったからZ買うほどの財力もなかったし、

 

運転技術もヒヨッコだったから……

 

まずは違う車から行こうって」

 

 

 

 

 

 

 

「そうなんですね……

 

それで何に乗られてたんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「R30スカイラインの後期型……

 

 

通称、鉄仮面って呼ばれてる車だ。

 

 

俺らがまだ産まれてない2、30年前に生産されてたスポーツカーで排気量2リッターのターボ車。

 

 

そいつのガンメタに乗ってた」

 

 

 

 

 

 

 

そう説明すると共にスマホを手にして画像フォルダを開く博也。

 

そして、「あった」と呟くと共に画面を反対向きにしてあかりに見せた。

 

 

そこに写っていたのは駐車場に停められているカクカクしたボディのガンメタと黒のツートンカラーのクーペだ。

 

 

 

どうやら、これが鉄仮面のようだ。

 

 

写真で見ると古いわりにかなり綺麗だ。

 

 

 

 

 

 

 

「古いわりに綺麗ですね!」

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、

 

買った時は店の外で雨ざらしにされてて御世辞にも綺麗とは言えなかったけど……

 

 

年式相応の走行距離だったから故障も多かったし」

 

 

 

 

 

 

 

「でも、速かったんですよね?」

 

 

 

 

 

 

 

あかりの問いかけに対してスマホをしまいながらも首を横に振る博也。

 

懐かしそうに目を軽く瞑るようにしながらも天井を仰ぐように見て腕を組み、自分の記憶を辿るようにしつつもゆっくりとした口調で再び語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「速くなかったよ。

 

発売当時は"史上最強のスカイライン"なんて言われてたけど、所詮は旧式だ。

 

 

ターボの特性がエンジンの回転数が高回転域に入る手前で急にドンッって加速し始めるドッカンターボって奴。

 

 

そのドカンが来るまでがスゴいかったるいんだ。

 

 

よーいドンの出だしは友達の軽とドッコイドッコイ……

 

 

本気で走っても同じ2リッターターボのシルビアには普通に千切られた」

 

 

 

 

 

 

 

「え、どうしてそんな車にしたんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

あかりの鋭い問いかけに対して「ハハハ……」と思わず苦笑いしてしまう博也。

 

過去の話とは言え、自分の話であることには変わりない……

 

そんな過去の自分に対して「馬鹿なことしてるな」とでも思っているのだろう。

 

真相については苦笑いを終えた後に呆れるように答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「今ほど車のこと知らなくてさ……

 

 

とにかく他の奴と被らないスポーツカーが良かったんだ。

 

 

さっき言ったシルビアに180SX(ワンエイティ)、ロードスター、AE86(ハチロク)辺りは買える範囲ではあったけど絶対に他の奴と被るなってさ……

 

 

そんなこと思いながらも何にしようか考えながらも下校してたら、鉄仮面を見つけたんだ。

 

 

で、"コイツなら絶対に被らない"って思って買ったわけ」

 

 

 

 

 

 

 

「それで、実際はどうでしたか?」

 

 

 

 

 

 

 

「俺の思惑通り、誰とも被らなかった。

 

 

まあ……

 

チョイスが古すぎて他の奴には驚かれたけど」

 

 

 

 

 

 

 

答えを聞いて「そ、そうですか」と思わず苦笑いのあかり。

 

そんな彼女の反応を見てそうなるよなと内心割り切りつつも博也は話しを続ける。

 

 

 

 

 

 

 

「さっき言った通り、

 

 

鉄仮面はよく壊れたし決して速くなかった……

 

けど……

 

今、振り替えってみると思うことがあるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「というと……?」

 

 

 

 

 

 

 

「生意気な若僧だった俺に色々教えてくれたのかもしれないなって。

 

 

壊れたことで車の詳しい構造とかどういう部分が劣化しやすいか分かるようになったし、

 

 

速くなかったけど"速く走らせよう"って気持ちが強く出て練習に励むようになり、そのおかげでテクが身に付いた。

 

最後の方はシルビア相手でも普通に勝ってたよ」

 

 

 

 

 

 

 

勝った時の光景を思い出したのか、視線をあかりの方に移しつつも苦笑いではなく普通の自然な笑みを浮かべる博也。

 

 

 

 

そんな思い出がある車は今どうなってるのか……?

 

 

 

気になったあかりはカルピスを一口飲んだ後に続けて問いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

「その車はどうしたんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「二台持ちなんて出来る自信なかったし、後輩に売ったよ。

 

 

で、今まで貯めてた資金と売った時に来た資金を頭にしてアイツを買った」

 

 

 

 

 

 

 

そう言いながらも再びZに視線を向ける博也。

 

 

街灯に照らされ、パールホワイトのボディがそれを反射する……

 

それにより、光沢のような輝きを放っているように見えた。

 

 

思わず口元の辺りで軽く笑みを浮かべてしまうと、あかりが再び質問を投げ掛けてくる。

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、

 

乗り換えて思ったこととかありますか?」

 

 

 

 

 

 

 

「思ったこと……か。

 

真っ先に思ったのがノーマルに等しい状態だったのにちょっと弄ってた鉄仮面より速かったってことかな。

 

 

驚いたよ、ホントに。

 

 

 

ドッカンターボの鉄仮面と違ってNA(ターボなし)だったからアクセル踏んだ後のラグみたいなのはない。

 

 

アクセルの踏み込み具合をそのまま捉え、いきなり3.5リッターエンジンのパワーがズトンと来る……

 

 

実質的な最大馬力はZの方が上。

 

それだけ高パワーなのにハンドリングがぶれない。

 

 

 

 

そして、車重の重さを感じさせないしなやかなコーナリング……

 

 

 

時代の差って奴を感じた。

 

 

なんか浦島太郎みたいな気分になったよ」

 

 

 

 

 

 

 

そう語っている間にブゥゥ!ブゥゥ!!という着信音が鳴り響く。

 

博也が「ちょっと待って」と右手を見せるような動作を見せてきたことから彼のスマホの着信なんだろう。

 

 

そのまま一端話を中断しつつも、再びスマホを取り出して通話を始める。

 

 

 

 

 

 

 

「-もしもし?おー、武藤か。

 

……車買い換えたから見て欲しい?

 

 

車種は?なるほど、分かった。

 

じゃあ、また後で折り返す」

 

 

 

 

 

そう答えながらもピッと通話を切る博也。

 

そして、申し訳なさそうに軽く頭を下げながらもあかりにあることを頼み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、後輩がちょっと車見てくれって言われたから……

 

 

今日はこの辺で御開きでいいか?」

 

 

 

 

 

 

 

「はい、今日はありがとうございました!」

 

 

 

 

 

 

 

「いや、礼を言うのはこっちだ。

 

悪かったな、つまんない話ばっかり聞かせて」

 

 

 

 

 

 

 

「いえいえ、とても面白かったです!」

 

 

 

 

 

 

 

再び天使のような無邪気を浮かべるあかりに対し、何処か癒されてしまう博也。

 

 

"心をぴょんぴょん"とさせながらも立ち上がるとこの場くらいは奢ろうと財布と伝票を手に取る。

 

 

それに続けてあかりも立ち上がったのを確認し、会計へ。

 

 

 

目玉焼きハンバーグとドリンクバーのみのため、1000円札一枚で御釣りが返ってくる。

 

 

 

ジャリジャリと鳴らしながらも財布の小銭入れに流し込んでから二人で外に駐車されているZの方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-十分後、武偵高女子寮

 

 

あかりの戦姉であるアリアが住んでる部屋がある寮。

 

 

その前にZを停めた博也はあかりを送ってから再び走らせ、ある場所へと向かう……

 

 

 

男子寮の裏手にある駐車場だ。

 

 

その駐車場の片隅に停めてある車体が大きい1台の青いクーペ……

 

 

日産 BCNR33 スカイライン GTーRだ。

 

 

 

博也のZが空いている左の駐車スペースに停まると共に運転席から誰かが降りてきた。

 

 

がさつな感じの見た目に武偵高の制服を着た長身の青年……

 

 

武藤剛気。

 

 

武偵高2年生で、車輌科Aランク。

 

 

 

博也の後輩……

 

戦弟ではないが弟子のような存在だ。

 

 

 

 

 

博也がZから降りて来ると共にニヒヒと笑みを浮かべながらも「久しぶりっす!」と勢いがいい挨拶を交わしてくる。

 

 

 

 

 

 

 

「おう、久々だな。にしても……

 

 

驚いたよ、お前がR買うなんて」

 

 

 

 

 

 

 

スカイラインという名前から察することが出来るかもしれないが、R33(アールサンサン)は博也が乗っていた鉄仮面と同じ系統の車だ。

 

 

鉄仮面の次の次の次に生まれたのがこのR33だ。

 

 

 

そして、語尾についているGTーRというのはそんなスカイラインの中でも速さに特化したグレードだ。

 

 

通常のスカイラインはFRと呼ばれる車体前部にエンジンが載っていて後輪が駆動する二駆だが、GTーRは四輪全てが駆動する四駆。

 

 

 

更にブレーキや足周り、エンジンも煮詰めている……

 

 

 

武藤はそんな車に乗り換えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「知り合いのコネ使って150万以下で買えました。

 

ま、仕様としてはマフラーとエアクリとスピードリミッターカットのみのライトチューンですが」

 

 

 

 

 

 

 

その言葉聞きながらもR33へと歩み寄る博也……

 

 

スマホのライトを使ってボディをジッと見た後に下廻りを覗き込んだり、砲弾型のマフラーを見た後に小さく頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綺麗だな。

 

エンジンルームはどんな感じだ?」

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を聞いて「はい」と言いながらも運転席に戻り、カチッとレバーを引いてエンジンルームのロックを解除する武藤。

 

 

博也は車体の前にまわりこむと共に先程と同じようにスマホのライトで照らしながらも中身をじっくりと見た。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、消耗品関係もしっかりあるし……

 

 

オイル漏れ、液漏れもない。

 

 

この状態なら、普通は200万は行く。

 

……いいタマ拾ったな」

 

 

 

 

 

博也のそんなコメントに嬉しそうに「ありがとうございます!」と答える武藤。

 

余程うれしかったのか、運転席側のドアをバッと開けて見せてきた。

 

 

 

……乗ってくれということだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

「俺に運転しろってか?」

 

 

 

 

 

 

 

「はい、

 

先輩ならコイツの良さ分かってくれると思います!」

 

 

 

 

 

 

その言葉と共にNISMOのキーホルダーが付いたGTRと装飾された純正キーを渡してきた。

 

ジャリジャリと鳴らしながらも受け取ると共に「わかったよ」と答えつつも運転席に乗り込む博也。

 

 

運転席のドアをバンッと閉めると共に武藤も助手席側に座ってきた。

 

 

 

それを確認するとエンジンを掛ける前にどんな装備があるのか確認……

 

 

後付けのETC以外何も付いてない。

 

 

純正メーターしかない。

 

 

買ったばかりだから仕方がないのかもしれない。

 

 

 

そう思いつつもキーを差し込んでセルモーターを回す……

 

始動音がZとは違い、ウォォンッと耳に飛び込んでくるような感じの音だ。

 

 

 

これはエンジンの違いからだろう。

 

 

ZのエンジンはVQ35HRというV型6気筒エンジン。

 

 

それに対し、R33のエンジンはRB26という直列6気筒エンジンだ。

 

 

 

その違いを感じつつもギアを入れて発車させ、駐車場を出る。

 

 

 

 

 

 

 

「何処行けばいい?」

 

 

 

 

 

 

 

「首都高辺りでも行って踏んじゃって下さい!

 

高速代ぐらい俺が持ちますよ!」

 

 

 

 

 

 

 

本日2回目の首都高に思わず苦笑いの笑みを浮かべてしまう博也。

 

 

仕方無しに言われるがまま、首都高へと向かいETCゲートを潜り抜けた。

 

 

 

 

現在、時速60km巡航。

 

 

 

ここから合流時にどれぐらい伸びるか……

 

 

 

そんな事を思いながらも合流地点が見えてきた。

 

 

 

 

ウィンカーを出しつつもアクセルをクッと踏み込む。

 

 

シートにグイッ…!と押し付けられるようなGを感じつつもレッドゾーン手前までエンジンを回し、カタッ!と素早くシフトアップ。

 

 

その加速に助手席に乗ってる持ち主の武藤は「うひょー!」と少し興奮気味の様子だ。

 

 

 

 

そんな彼に対し、合流を終えると共にアクセルを抜いてゆっくりと減速させる。

 

 

 

 

 

 

 

「どうっすか、先輩!」

 

 

 

 

 

 

 

「吸排気系のライトチューンだけでここまでパワーが出るのか……

 

 

流石はRだ。

 

 

同じようにチューンしても普通の車はこんなにもパワーでない」

 

 

 

 

 

 

 

真っ直ぐと前を見据えるようにしながらもそう言って高めのギアにシフトチェンジ。

 

 

そのまま首都環状線C1に合流。

 

 

高速にしてはコーナーが多い道を法定速度よりも少し速いぐらいの速度で軽く流していく。

 

 

 

コーナーに入る度に博也の眉間のシワが少し寄る……

 

まるで何かに気付くように。

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、どうしたっすか?」

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、何でもない」

 

 

 

 

 

 

 

そう答えながらもカタッカタッとシフトチェンジを行う博也。

 

 

武藤の方は彼の様子が気になったものの、今乗ってる車が自分の車だということに感激して「いや~!」と腕組みしながらも声を出した。

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、Z売ってR買いましょうよ!

 

あれぐらい組んでるなら結構高値で……!!」

 

 

 

 

 

 

 

調子に乗った発言……

 

そんな発言に対し、博也は「武藤」と冷やかな声で呼びながらギロッ……と強く睨み付けた。

 

今にも襲い掛かって来そうな形相に流石の武藤も申し訳なさそうに首を引っ込める。

 

 

……が、少しした後に開き直るように再び発言してきた。

 

 

 

 

 

 

 

「で、でも、先輩!

 

Z買ってあれだけ金掛けるぐらいなら、

 

R買って同じ分だけ金を注ぎ込んだ方がいいっすよ!!

 

その方が速いでしょうし……!!」

 

 

 

 

 

 

 

これに対しては何も言わずに「……。」と黙り込む博也。

 

そして、「はぁ……」と小さく息をついてからゆっくりと語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「武藤。

 

誰もRが悪い車とは言ってない。

 

Rの良さは俺も知ってる、その速さもな。

 

今日改めて思い知らされた……

 

 

 

でも……

 

だからと言ってその世界しか見ないのは駄目だ。

 

 

他の世界を見てから自分という存在、車という存在と向き合っていく。

 

 

……AランクになってRに乗り換えたからって浮かれるなよ。

 

 

 

こっからが正念場だ、気を抜くな」

 

 

 

 

 

 

 

ダメ元でそう言って理解させようとしたが、少しムスッとしたような表情で俯いている様子をみる限り、此方の言い分を理解していないようだ。

 

 

そんな聞くだけで理解してくれるほど頭がいい奴じゃないというのは博也も分かっていた。

 

 

だから、それ以上は何も言わなかった。

 

 

C1を1周した後に帰路を走り始めるR33。

 

 

そのまま静かに走って首都高を降りた。

 

 

 

 

 

 

 

          ・

 

 

 

 

 

 

 

-翌日、武偵高

 

正門前

 

 

朝日が昇り、校内のあちこちから「おはよう」という活気のよい挨拶が聞こえてくる中、アリアと会話しつつも登校するあかり。

 

……と言っても、あかりが一方的に話してるような状態だ。

 

 

話題は昨夜の博也のこと。

 

 

手を使ったりして表現している。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、ぶぉぉん!!ってきて……

 

そのままきぃぃぃ!!って……」

 

 

 

 

 

 

 

興奮したような様子で話を繰り広げるあかり。

 

 

 

 

 

 

そんな中、聞き覚えのある低い排気音を響かせながらも1台のクーペがゆっくりとした速度で校内に入ってきた。

 

 

博也のZだ。

 

 

二人の前を横切ろうとしたが、「市ヶ谷先輩ー!」と手をブンブン!!と振るあかりに気付いて静かに停車した。

 

 

運転席のパワーウィンドウを下げ、顔をヒョイッと出して見せる。

 

 

 

 

 

 

 

「よぉー、間宮。

 

調子はどうだ?」

 

 

 

 

 

 

 

「はい、この通り問題ないです!

 

先輩、また昨日みたいに何処か行きませんか!?」

 

 

 

 

 

 

 

「お、いいねー。

 

じゃ、次は横浜辺りでも行こうか。

 

あの辺りも結構いいスポット多いから、行く価値あると思うぞー」

 

 

 

 

 

 

 

あかりと博也がそう話を繰り広げていると、その場にいたアリアが昨日のように博也に向けて睨み付けてきた。

 

その様子を見て首を傾げるあかりだったが、突然手首をグイッと掴まれる。

 

 

 

 

 

 

 

「行くわよ、あかり」

 

 

 

 

 

 

 

「あ、アリア先輩……!?」

 

 

 

 

 

 

そのままあかりの手首を引っ張ってその場から離れるアリア。

 

 

Zに乗る博也にガンつけながら……

 

 

 

昨日から感じるこの視線の原因はなにかは分からない。

 

 

 

 

ただ単にあかりとの関係を持つことに対しての嫌悪感からなのか……

 

またはSランク武偵特有の勘という奴からなのか……

 

 

そのどちらかは分からないが、警戒されてることは間違いない。

 

 

 

ふぅ……と小さく息をつきながらも昨日停めた校内の駐車場まで車を走らせる。

 

 

……誰かの視線を感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「-あかりちゃん………」

 

 

 

 

 

 

 

 












皆さんはじめましてー。



350Zと申します。





20代前半にしてZ33と現行前期型のヴィッツRSの2台持ちをしている奴です←


え?

生活キツくないかって?




キツいですよ!!

目茶苦茶!!



でも、悔いはないです←←

はい←←



元々ヴィッツ1台のみだったんですがねー……



なんか物足りなくなってきたのと、





ボクの周りが




「「ヴィッツワロスwwww」」



的な感じになってきたんで、



新たにZを購入することに……




ヴィッツを下取りに出せばだいぶ楽になったんでしょうが、




"家から職場までの通勤距離が長い"


っていうのと


"ヴィッツにも愛着がわいてきた"



っていうので、2台持ちすることに……





でも、

Zに初めて乗った時の衝撃は忘れられないですね。


それまでボクは1.5リッターNAのコンパクトカーしか乗ったことはなかったので、特に衝撃的でした。



滑り止め切ってアクセルベタ踏みで発進すると……




キィィィ!!!


って勢いよくホイールスピン……


ノーマルでこれって、流石はZだなぁーって。






いや、Zより速い車はいっぱいありますよ?



作中にも出てきたGTーRにトヨタのスープラ、


マツダのRXー7 FD3S……


ここじゃ語り尽くせないほどあります。




でも、ボクはZを買って良かったって言い切れます。




外車のように貴賓がある曲線的なデザイン、



純正でBOSE製のウーハーとスピーカー装備。


ステアリングを握った時に感じる少し重い感じのステア感はドライバーに程よい緊張感を与えてくれますし、


実用性はないですが2シーターっていうのもまた良いです。


そして、地を這うような車体の低さ……


これも良いです。



Z以外に少し安いエイトを選ぶという選択肢もありましたが、妥協しなくて良かったと思います。



エイトも良い車ですがね……


一回だけ試乗したことがあるんですが、


エンジンサウンドは



「うぉ、良い音すんな!」



ってなりました。



オーディオもZと同じで純正BOSEですし、一応四人乗り。





でも、自分はZの方が合ってるなと感じました。



これからも大事に乗っていきます。



P.S

土日に緋弾のイベント行ってきやす!

それと、今後から1話ごとのページ数が大幅に減ります……


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第三話 ブレーキン・ア・スウィート 前編





いいコトもあるし、





悪いコトもある。





そしてお前は




それを自分でわかっていかなきゃならない。





いつもお前がキメるんだ。



そしたら転んでも



自分で立ち上がれる。




いろんな人がいろんなコトを教えてくれる。





いいコトが正しいとは限らないし



悪いコトが全てダメなワケじゃない





お前がキメるんだ







──すべて。









 

 

 

 

 

 

 

ー昼休み、屋上

 

 

雲一つない晴天……

 

 

その下で博也と大樹は胡座を組むように座りながらも一息ついていた。

 

 

博也がスマホを使って何かを確認しているのに対し、大樹は疲れきったような様子でぼぉー……と空を眺めている。

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたー?

 

徹夜明けのサラリーマンみたいな顔して」

 

 

 

 

 

 

 

ピッピッとスマホを操作し続けながらも博也が問いかけると大樹は「はぁ……」と大きな溜め息をつきながらもボソボソとした声で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「昨日、教務科(マスターズ)から依頼を受けたんだが……

 

 

そいつのせいでほとんど寝れなかったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

内容は気になるが、酷くげっそりしている彼の様子を見て問いかける気にはならなかった。

 

 

「そうかー、気を付けろよー」と軽い返事で済ませながらもジーッとした目付きでスマホの操作を続ける博也。

 

 

が、とある画面を見て「よっしゃぁぁ!」と急に大きくガッツポーズして立っては跳び跳ねた。

 

 

これにはげっそりしていた大樹も流石に「うぉ!?」と声を出して驚く。

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どうしたんだ急に……?」

 

 

 

 

 

 

 

「この前オークションに流してたマフラーが結構高値で売れたんだ!

 

ほらほら、見ろよこれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャッハー!」と言わないばかりにはしゃぎながらも再び胡座で座り、スマホの画面を見せてくる……

 

 

確かに予想していた額よりもそこそこの高値で落札されていた。

 

 

 

 

 

 

 

「良かったな、おめでと……

 

で、その金は何に使うんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

眠そうな表情ながらも「仕方ないから聞いてやる」と言わないばかりに問いかける大樹。

 

が、博也の方はそんな彼の状態が見えていないのか「よくぞ聞いてくれた!」と返してから答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「半分は次のパーツ代の貯金とZの維持費、

 

 

もう半分は当分の食費だ」

 

 

 

 

 

 

 

……意外と普通の回答だ。

 

大樹の予想としては9割はパーツで消えると思っていた。

 

 

何だか面白くない答えだ。

 

 

だが……何か裏があるはず。

 

 

 

 

ひょっとして食費の内訳が可笑しいことになっているのでは?

 

 

 

 

そう予想した大樹は「あー」と上を見るようにして考えるような素振りを見せながらも問いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

「食費の内訳を聞いてもいいか?」

 

 

 

 

 

 

 

「内訳?

 

米だけど」

 

 

 

 

 

 

 

「米と……あとは何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

追求すると口をモゴモゴとさせながらも目を逸らす博也。

 

まさか……

 

 

大樹の眠そうな表情が一気に驚きの表情へと変貌。

 

そして、サッと素早く指を差してズバリと当てて見せた。

 

 

 

 

 

 

 

「さては……

 

米しか買わない気だな!」

 

 

 

 

 

 

 

ズバリとした答えが博也の心に鋭く突き刺さる……

 

 

「ぅっ……」と言わないばかりに両手で胸を押さえる彼に対し、大樹は更なる追い討ちを仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

「どうして米だけだ!」

 

 

 

 

 

 

 

「こ、米食ってれば飢え死にすることはないだろ!?

 

炊くだけだから調理も簡単だし、醤油掛けるだけでも美味いし……!!」

 

 

 

 

 

 

 

「その上にもう1品のせようとは思わないのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

「俺、ビンボーだからそんな金ないし!!」

 

 

 

 

 

 

「貧乏だからって、

 

それじゃあそのうちバテるぞ!?」

 

 

 

 

 

 

「こめけぇこったぁいいんだよぉ!!」

 

 

 

 

 

閑静な屋上でギャーギャーと騒ぐ3年生二人……

 

あと一年もしないうちに卒業する彼等だが大丈夫なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻、1年A組教室

 

 

ガヤガヤと騒がしい中、窓際の席で朝と同じように全身を使って昨日の出来事を表現するあかり。

 

 

それを見ているのは金髪ポニーテールで身長160cm以上ある火野ライカと黒髪のロングヘアーで和風のお嬢様というようなオーラ出す佐々木志乃……

 

 

二人共、あかりの友人だ。

 

 

 

 

 

 

「それで、運転しながら銃を見ないでパパパンッ!

 

って撃って当てちゃったんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

「へぇー、スゲーな……

 

市ヶ谷先輩って」

 

 

 

 

 

 

両手を頭の後ろにまわすようにしながら感嘆の言葉を漏らすライカ。

 

 

彼女の反応からあかりは「でしょ!?」と興奮を増させつつも更に話しを続けた。

 

 

 

 

 

 

「しかも、ロマンチストなんだよ!

 

 

昨日、スッゴい綺麗な夜景見せてくれたんだ!!」

 

 

 

 

 

 

ワーワー!と飛び跳ねる様子から聞いていたライカも苦笑いの表情……

 

 

が、ふと志乃の表情の異変に気付く。

 

 

何だか何かを堪えているような彼女の表情に疑問を抱いたライカは「おい……」とそちらに話し掛ける。

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か?

 

 

さっきから何か様子がおかしいような……?」

 

 

 

 

 

 

問いかけで自分がどんな感じだったのか気付いた志乃は「いえいえ!」と首を横に振って笑顔をつくってみせる。

 

 

そして、その勢いに任せるようにしてニパッとした笑顔を浮かべて見せながらもあかりにある誘いを仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

「あかりさん、

 

今度の土曜日、一緒にお出掛けしませんか!?

 

 

ウォルトランドのチケットが二枚ありまして……!!」

 

 

 

 

 

 

誘いに対して一瞬考えるような素振りを見せるも「あ」と何かを思い出すように声を出してから両手を合わせるようにして申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

「ごめん、志乃ちゃんっ!

 

土曜日は市ヶ谷先輩と横浜に行く約束してるんだ!!

 

 

また今度でもいいかな?」

 

 

 

 

 

 

その言葉に頭の中が真っ白になったかのような表情で「………。」と黙り込む志乃。

 

 

あかりが「ちょっとトイレ行ってくるねっ」と言葉を言い残して去るまでずっと呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

「いや~……

 

 

あかりがあんなに興奮して話すのって、

 

アリア先輩の話以来じゃないか?

 

 

 

自分が作ったパラシュートが救出の役に立ったか何かって話」

 

 

 

 

 

 

先程と同じような苦笑いの表情を浮かべたライカが語り始めると志乃に対し、「え、えぇ……」と無理矢理笑顔を作りつつもその場から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー夜、佐々木邸

 

 

 

いかにもセレブが住んでると言うような城のように大きな豪邸。

 

邸内でメイドが次々と頭を下げる中、帰宅した志乃はスクール鞄を右手に持ちながらも怒り心頭と言った様子で力強く歩いていた。

 

 

 

 

 

 

「志乃様、鞄を御持ち致しましょうか?」

 

 

 

 

 

 

「志乃様、ご機嫌が優れないようですが……」

 

 

 

 

 

 

「うるさいっ!!!」

 

 

 

 

 

 

そう怒鳴り散らしながらもバタンッ!と八つ当たりするようにドアを開けて自室に入る。

 

 

部屋の照明をつけると八つ当たりは更にエスカレート……

 

 

ベッドの方へと向かい、スクール鞄をバンバンッ!と叩きつけていく。

 

 

 

 

 

 

「アリアの次は市ヶ谷!!

 

どうしてなのっ!?

 

 

あかりちゃんは私だけのものなの!!

 

絶対に渡さない!!」

 

 

 

 

 

 

そう吐き捨てると共に叩きつけていた鞄を投げ捨てる。

 

 

ゼーハー……と息をあげつつも「落ち着くのよ……」と呟きつつもよろよろと奇妙な歩き方をしてあるものに近付く。

 

 

"あかりちゃんBOX"と書かれたあかりがモチーフのぬいぐるみや何かがぎっしりと詰まった箱だ。

 

 

中から手のひらサイズより少し大きいぬいぐるみを手にとってはギュッと力強く抱き締め、ベッドに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

「あかりちゃん成分……摂取……っ!」

 

 

 

 

 

 

そのまま掛け布団を掛けてゴソゴソと動きながら「ウフフ……」と背筋がゾッとするような声を出す。

 

 

しばらくして動きがピタッと止まったかと思えば、掛け布団をバサッと取っ払って出てきた。

 

 

 

 

 

 

「現実逃避してる場合ではありません!!」

 

 

 

 

 

 

と言いつつも眼鏡を掛け、パソコンへと向かう。

 

起動してからカタカタカタッとキーボードを操作して何かを調べる……

 

 

武偵高の裏掲示板だ。

 

 

ここから更に市ヶ谷博也という人物について調べた。

 

 

 

 

 

 

 

―市ヶ谷博也、武偵高3年生。

 

 

強襲科、車輌科、狙撃科の三つの科目でAランクの評価を持つ男。

 

 

別名、オールラウンダー。

 

 

武偵高きっての死角がない男、融通が利く男。

 

愛車は日産のフェアレディZ……

 

 

 

 

 

 

 

……等と書かれてある。

 

だが、それ以外の情報で一つ気になる情報があった。

 

 

 

それを見ると共に何故?という疑問が浮かび上がると共に何やら危ない匂いがして仕方がなく感じた志乃……

 

だが、自分が太刀打ち出来るような相手ではない。

 

そう察した志乃は携帯を手にとってある人物と連絡をとった。

 

 

 

 

 

 

佐々木家に遣えるエリート武偵集団、

 

 

 

その指揮を勤める女性だ。

 

 

 

 

 

 

「―志乃様、どうなさいましたか?」

 

 

 

 

 

 

「……今週の土曜日にやって頂きたい仕事があります。

 

 

詳細については後ほどメールで御送りします」

 

 

 

 

 

 

「―かしこまりました。

 

何時でも御待ちしております」

 

 

 

 

 

 

短い通話を終えてから再びパソコンと向かい合う志乃。

 

インターネットを閉じ、メールを開いてはカタカタカタッと文章を打ち込む作業に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―土曜日、朝 男子寮

 

 

 

博也の部屋

 

 

必要最低限の物しか置かれてないといった感じの一人部屋。

 

ピィーピィーという目覚ましに起こされた博也。

 

 

起き上がった後に洗面台でバシャバシャと顔を洗って歯を磨いた後に醤油掛け御飯(大盛)なる質素な食事をとる……

 

 

食べ終えた後は流し台でジャバジャバと食器洗い。

 

と言っても、箸一膳と御碗一つだけのため直ぐに終わった。

 

 

 

 

「さて……」と小さく呟きつつも私服に着替え始める。

 

 

 

黒いレザーコートに青のインナーシャツ、下は白いジーンズといったコーディネート……

 

 

鏡で自分の姿を確認し、「よし」と満足げに頷いてから外に出ていく。

 

 

向かったのはZが置いてある駐車場だ。

 

 

乗り込んでエンジンを掛けた後に寮の前にまで移動させる……

 

 

そして、ホースを手にとって水を車体に浴びせていく。

 

 

洗車を始めたのだ。

 

 

表面上の汚れを水で落としてからシャンプーと水を混ぜた泡立った液が入ったバケツにスポンジを突っ込む。

 

 

上から順番に丁寧な手つきでスッスッと洗っていき、全体を洗い終えた後に再びホースの水を浴びせてシャンプーを落とす。

 

 

 

ボディがピカピカになったが、まだ終わりではない。

 

 

ホースを置いてから青いタオルのような物を手に取る博也。

 

 

洗車用のクロスファイバータオルだ。

 

 

ボディを拭いて水がしっかり染み込んだら絞って水を捨ててと繰り返すことで水気を拭き取っていく。

 

 

 

水気がなくなったところで仕上げに先程のスポンジとは違うスポンジでワックスを掛ける。

 

 

 

全体に行き渡ったところでワックス用のクロスファイバータオルで拭き取り、ようやく洗車完了。

 

 

 

このまま寮の前に停めてても迷惑が掛かるため、一旦駐車場に停めて再び部屋に戻った。

 

 

戻ってから部屋の片隅に置かれていた車の雑誌を手に取り、ベッドに飛び込む。

 

前日に買ったばかりの最新号だ。

 

 

少しワクワクするような表情を浮かべつつもサッと開いて内容を確認。

 

 

特集は大樹が乗ってる86とその兄弟車のBRZ。

 

 

新発売パーツや各チューニングメーカーの有名サーキットでのタイムアタック、更にはオフ会の情報まで書かれてる。

 

 

 

 

 

 

「やっぱり人気あるんだなー」

 

 

 

 

 

そう呟きながらもスマホを手に取ってピッピッと操作してはある人物に電話する。

 

……大樹だ。

 

 

 

「―もしもし」と出た声の感じから起きたばかりのようだ。

 

 

 

 

「大樹か?あー、俺だけどさ。

 

例の雑誌読んでんだけど……

 

今月号86特集だぞ」

 

 

 

 

 

 

「―そうかー……」

 

 

 

 

 

 

「ノブレッセってとこのエアロ結構カッコいいぞ。

 

お前の86、エアロ付けてないだろ?」

 

 

 

 

 

 

「―と言われても、エアロ組むような金ないしなぁ。

 

じゃ、切るぞ」

 

 

 

 

 

 

そのままピッと通話切られてしまった博也。

 

再び雑誌と向かい合い、ペラッペラッとページを捲ってあるものに目をつけてからまたスマホに手を伸ばして大樹に掛ける。

 

 

 

 

 

 

「―はい、もしもし」

 

 

 

 

若干嫌そうな声ながらも応じてくれた大樹。

 

そんな彼に対して「おう」と言いつつも雑誌を見ながら語り始める。

 

 

 

 

 

 

「お前の86って、コンピューター変えてたか?

 

 

変えてないなら、このHKSのコンピューターとかいいんじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

「―いや、そんな金ないし。

 

じゃあな」

 

 

 

 

 

再び電話を切られてしまう。

 

が、此方も負けじと言わないばかりに次の目玉商品を探して素早く電話した。

 

 

 

 

 

 

「お、大樹か?

 

なんか良さげなスーパーチャージャーのキットが……」

 

 

 

 

 

 

「ーあぁー!!

 

わかったわかった!!

 

今度詳しく読むから!!

 

じゃあな、もう掛けてくんなよ!!」

 

 

 

 

 

 

負けたと言わないばかりの返事を受けながらも通話を切られてしまった。

 

ちょうどその時、部屋のチャイムが鳴り響いた。

 

 

「はーい」と応じながらも玄関へと向かい、ドアを開ける……

 

 

チャイムを鳴らしたのはあかりだった。

 

 

明るめの黄色のカーディガンに白いシャツ、赤が基調のチェック柄のミニスカートという格好だ。

 

 

 

 

 

 

「先輩、時間通り来ました!」

 

 

 

 

 

 

「お、偉いぞ。

 

じゃ、行こうか」

 

 

 

 

 

 

そう言いつつも財布と鍵類をポケットに入れて外に出ていく博也。

 

 

そのままあかりと共に駐車場へと向かい、Zに乗り込む。

 

 

エンジンが掛かって走り始めて駐車場を出ると共に路肩に止まっていた1台のシルバーのマークXがそれに続くように発車した。

 

 

 

 

 

 

「―此方、1号車。

 

目標が動き始めた……これより尾行を開始する」

 

 

 

 

 

 

「―2号車、了解。

 

幸運を祈る」

 

 

 

 



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第三話 ブレーキン・ア・スウィート 後編

 

 

 

 

―首都高速

 

 

 

 

休日の朝ということもあり少し混み気味の二車線の道の左車線を走っていくZ。

 

 

これからどんな旅が始まるのだろうとワクワクする助手席のあかりに対し、博也はチラチラと右側のサイドミラーを確認して少し眉間にシワを寄せていた。

 

 

 

 

 

 

「……どうしましたか?」

 

 

 

 

 

 

「右車線、トラックの後ろについてるマークX……

 

なんか怪しい」

 

 

 

 

 

 

そう言われて頭上に?を浮かべながらも右後ろに目を向けるあかり……

 

 

確かにトラックの後ろにシルバーのマークXがいるが、パッと見て別に可笑しい点はない。

 

 

単なる思い込みなのではないか?

 

 

そう思い、首を大きく傾げてから苦笑いの笑みを浮かべて答えた。

 

 

 

 

 

 

「先輩の思い込みですよ。

 

 

普通の車……

 

 

それか覆面のパトカーです。

 

 

 

変な運転さえしなければ大丈夫ですよ」

 

 

 

 

 

 

あかりの言う通り、マークXという車は覆面パトカーの中でもかなり定番の車だ。

 

巡回してる最中に此方の車を見たときに"違反しそうな車"としてマークしてついてきたのだろうと彼女は推測していた。

 

 

だが、その推測も博也の次の言葉によって全て崩された。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、一つ聞くが……

 

 

どうして、ただの高速の覆面が一般道……

 

それも"俺達が寮を出る時"からずっとついてる?」

 

 

 

 

 

 

その言葉に全く気付いていなかったのか、「えっ!?」と驚きの声をあげるあかり。

 

 

それが本当だったら自分はどれだけ気を抜いていたことか……

 

 

武偵失格だと思ったのか、少しシュン…とショボくれてしまう。

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、私……

 

休日だからって完全に気を抜いてました」

 

 

 

 

 

 

「たく……

 

まあ、向こうも結構上手い尾行してたから無理もない。

 

 

常に一定の距離を保ち、何かに隠れるようにしながらもつけてくる……

 

 

かなりの手練れだ。

 

仲間もいるかもしれない」

 

 

 

 

 

そう言いながらもサイドミラーでもう一度マークXを確認する博也。

 

 

 

「どうしますか?」と問いかけるあかりに対し、彼は冷静な面持ちで運転に集中するように前に視線を向けて答えた。

 

 

 

 

 

 

「3カウントで撒く。

 

心の準備した方がいいぞ……」

 

 

 

 

 

 

提案に「はい!」とハキハキとした口調で頷くあかり。

 

 

彼女の心構えが出来たところでカウントスタート。

 

 

 

 

 

 

「3、2、1……

 

 

ゴー!!」

 

 

 

 

 

 

カウントを終えると共に前方を走っていたタクシーを追い越すようにして一気に加速。

 

マークXトラックを追い越して加速するが、パワーの違いとアクセルを踏み込むまでの遅れからあっという間に見えなくなるほど離されてしまった。

 

 

 

 

 

 

「―此方、1号車!

 

目標を逃した!

 

プランAは失敗!!

 

繰り返す、プランAは失敗!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―2号車、了解。

 

これよりプランBに移行する。

 

 

骨は拾ってやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

マークXを突き放したZだが、まだ終わってない。

 

Zの先には2号車である白いアウディTTが待ち構えていた。

 

 

型は一つ前のものではあるが、1号車の250Gという排気量が少ないグレードのマークXよりもパワーがある上に軽量のため運動性能にも長けている車だ。

 

 

 

一般車をスラロームするようにして避けていくZの姿を確認すると共に「やってやる!」と意気込みながらもアクセルを踏み込んでいく。

 

ブゥゥゥン!!と加速していくTTだが、Zはかなりの勢いで近付いてくる。

 

 

 

 

 

 

「距離が縮まってる……!?

 

 

くそ、なんて速さだ!!

 

 

こんなの聞いてないぞ!!?」

 

 

 

 

 

 

そのまま勢いよくズワァン!!という風を素早く切るような轟音と共にTTを置き去りにしていくZ。

 

 

一瞬、頭の中が真っ白になったTTのドライバーだが、我に返ると共に無線機を手にして他の仲間に連絡する。

 

 

 

 

 

 

「―此方、2号車!

 

やられた!!

 

目標は未だ逃走中っ!!」

 

 

 

 

 

焦るような2号車のドライバーに対し、無線機から突如「ヘッ」と嘲笑うような男の声が聞こえてきた。

 

声の主は最後の砦を勤める3号車のドライバーだ。

 

 

 

 

 

 

「―型落ちのZごときに何を手こずってるのやら……

 

まあ、いい」

 

 

 

 

 

 

そう言ってZの事を甘く見ている彼の車は黒色のBMWのスポーツセダン、M3……

 

 

型落ちではなく、現行モデルだ。

 

 

現行のZ、Z34のライバル車種でもある。

 

 

彼がそうやって軽視している理由は簡単……

 

 

博也が乗るZが旧式のZ33だからだ。

 

 

 

 

"ライバル車の型落ちなんて相手にならない"

 

 

 

 

そんな思いがあるのだろう……

 

 

 

軽視しているような男のM3をスラローム区間を終えた後に見つける博也。

 

 

アクセルを抜こうとしていたが、M3の加速の仕方から直ぐに先程の連中の仲間だと察する。

 

 

助手席に乗っているあかりの方もそれを感じ取ったようだ。

 

 

 

 

 

 

「先輩、あの車……」

 

 

 

 

 

 

「BMWのM3だ。

 

……良いだろう、やれるモンならやってみな!」

 

 

 

 

 

 

再び加速態勢に入るZとそれに合わせて加速するM3……

 

 

出だしはM3が優勢。

 

 

 

 

 

 

が、それからは立場が一転。

 

 

 

加速力で一気に距離を縮めてきたのだ。

 

 

 

 

 

 

「うそ…だろっ……!?」

 

 

 

 

 

 

型落ち相手にこれほどの劣勢を強いられているということに対して納得が行かない男。

 

 

そのままZに追い越されてしまうが、彼はアクセルを更に踏み込んで追跡をやめない。

 

 

次から次に一般車をスラロームしていくと大きく左に曲がるコーナーが見えてきた。

 

 

ブレーキングを行いつつもシフトダウン……

 

フォンッ!!というエンジン音が共鳴するように鳴り響く中、コーナーを立ち上がって行くZの車影を視認した。

 

 

 

 

 

 

「逃がさねえ……っ!

 

絶体追いつく!!」

 

 

 

 

 

コーナリング時にアクセルの開閉を調整していく……

 

が、その時だ。

 

 

タイヤが突然、キィィィ!!と悲鳴のようなスキール音をあげると共に車体が暴れ始めた。

 

 

 

 

原因は単にスピードが乗りすぎているため。

 

 

 

 

早く追い付きたいという焦りから、アクセル開閉時に無意識のうちにかなり開けていたのだろう。

 

 

 

 

 

 

「クソッ……!!」

 

 

 

 

 

 

ステアリング操作で何とかカバーしようとするが、対応が遅かったのとM3の車重の重さから修正が困難になっていた。

 

 

そのまま外壁に右サイドを勢いよくぶつけると共にその勢いでスピン……

 

 

 

そのまま後続のトラックと衝突した。

 

 

 

 

 

 

「―此方、2号車!

 

 

3号車、応答しろ!!

 

どうした!?応答しろ!!」

 

 

 

 

 

 

応答確認の無線がM3の車内に木霊する中、博也はボロボロになった車体をZのバックミラー越しに睨み付けながらもその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―都内 とある一般道

 

 

 

 

安全確保のためにとりあえず下道に出たZ。

 

助かったと言わないばかりに可愛らしく「ふぅ……」と安堵の息をつくあかりに対し、博也は更に警戒してるようだ。

 

 

 

 

 

 

「先輩……?」

 

 

 

 

 

 

よく分からないと言った様子で首を傾げるあかりを見た博也は信号待ちで停車させてからあるものをパッと手にとって彼女に見せた。

 

 

黒い長方形の箱のような物体……

 

手のひらサイズの大きさで、店面にテレビのリモコンの先のような小さい円形の透明なプラスチックがついていて、怪しげな赤い光がピッピッと点滅している。

 

 

 

 

 

 

「これって……!?」

 

 

 

 

 

 

「発信器だ。

 

今朝、洗車のために車出そうとした時に車体の下廻りに付いてるのを見つけたんだ。

 

恐らくだが、さっき会った奴等は自分達にとって有利な場所に誘導させるように尾行していたんだろう。

 

そうなれば、ミスった時の保険だな……コイツは」

 

 

 

 

 

 

冷静な口調で答える博也だが、あかりの方はアワアワと慌てると共に事前に見付けて何故まだ持っているのか理解不能といった様子だ。

 

 

 

 

 

 

「ど、どど、どうして持ってるんですか!?

 

また追手が来るじゃないですか!!

 

今すぐ捨てた方が……!!」

 

 

 

 

 

 

その言葉に対して小さく首を横に振ると共に信号が青になったのを確認してゆっくりと発車させる博也。

 

そして、運転しながらその理由について答えた。

 

 

 

 

 

 

「向こうからしてみればコイツ以外に宛になるようなものは何もない。

 

だから、それを逆手にとって自分達が有利なフィールドに向こうを誘き出す」

 

 

 

 

 

 

そう言うと共にバス停の近くの路肩にハザードランプをつけ、Zを一旦停車させる博也。

 

「はぁ……」と少し残念そうに息をつきながらも先程の話に続くようにあかりに対してこんなことを言ってきた。

 

 

 

 

 

 

「……悪いが、今日はもう帰ってくれ。

 

ここから先は危ない仕事になる」

 

 

 

 

 

 

その言葉に対して俯くようにしながらも黙り込むあかり。

 

 

 

彼がこう言うのは自分が足を引っ張るからに違いない…

 

 

実際に前の護送車の救援任務の時がそうだった。

 

 

 

だが、一人だけ逃げるわけにはいかない……!

 

 

 

その思いがあかりを大きく動かす。

 

 

首を横に振ってから真っ直ぐとした眼差しで断りをいれた。

 

 

 

 

 

 

「嫌です!

 

私だけ逃げるなんて都合が良さ過ぎます!!

 

 

簡単なことでも良いので手伝わせて下さい!」

 

 

 

 

 

 

「間宮!

 

武偵なら状況を弁えろ!!」

 

 

 

 

 

 

博也の若干声を荒げたような言葉を聞いても眼差しを変えないあかり……

 

 

それだけ本気ということなのだろう。

 

 

これはそう簡単に意思を曲がらない……

 

 

 

こうしている間にも時間は過ぎていく。

 

 

 

仕方ない……

 

 

そう思った博也はハザードランプを消してウィンカーを出してから再びZを走らせた。

 

 

 

 

 

 

「……簡単な仕事以外には絶体手を出すな」

 

 

 

 

 

 

「はいっ!

 

もちろんです!!」

 

 

 

 

 

 

嬉しそうに大きく頷くあかりの表情をちらっと見て若干頬を赤らめてしまう博也。

 

どうやら、彼女の笑顔には弱いようだ……

 

 

そう内心苦笑いしながらもとある場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―2時間後

 

 

とある工場地帯

 

 

2台の黒塗りのハイエースが縦に並ぶような状態で猛スピードで駆け抜ける。

 

 

車内にはジェットヘルタイプのヘルメットに防弾チョッキと特殊部隊のような格好をした男が定員いっぱいになるほど乗っていて、荷物を載せるスペースにはMP5等の銃火器が詰められていた。

 

 

 

 

 

 

「―αリーダーからHQへ。

 

βチームとの合流が完了した。

 

目標反応がある地点に移行する」

 

 

 

 

 

 

「―此方HQ、了解。

 

γチームが既に狙撃地点に到着している。

 

 

連携を行い、目標の制圧を行え。

 

 

オーバー」

 

 

 

 

 

そう無線交信が行われると共にハイエースがある廃工場に到着した。

 

キィィィと音をたてながらも荒れ地状態になった敷地内に駐車すると共に乗っていた隊員が次々と降りていく。

 

 

荷台に積まれていたMP5をカチャッカチャッと手にすると共に横一列に整列。

 

 

全員の整列が揃ったところで隊長らしき男が前に出てジェットヘルのメットガードを静かに下ろすと共に各隊員もメットガードを下ろして準備を整えた。

 

 

 

 

 

 

「―Move(動け)」

 

 

 

 

 

 

手を挙げて動かすようなサインを入れながらもそう指示すると隊員が動き始める。

 

 

工場の入り口にはトラックが出入りする用の大きなシャッターと人が出入りする用の扉があるが、隊員は人が出入りする扉の方へと向かう。

 

 

先頭の隊員が扉を少しだけ開けて何もないか確認……

 

すると、あるものを見付けて後ろの隊員たちに手のひらを見せるようにして待ったのサインを出した。

 

 

 

 

 

 

「―……ワイヤートラップです。

 

今から解除します」

 

 

 

 

 

 

そう言ってワイヤーを引っ張り過ぎないように気をつけながらもニッパーを使って中の情況を確認しつつも解除……

 

 

しようとした時だ。

 

 

 

奥の方にある段ボールの上で赤く点滅する物体が見えた。

 

その横には薄汚れたホワイトボードのようなものがあり、大きな字で乱雑に"バーカ!"と書かれている。

 

 

 

 

赤い点滅する物体……

 

そして、ホワイトボードに書かれていた幼稚な字。

 

 

これを見た時に何なのか理解すると共に隊員の顔が青ざめる。

 

 

 

そして、次の瞬間。

 

 

キュインという音と共に「うぁっ!?」と悲鳴をあげながらも先頭の隊員が手足を押さえて倒れた。

 

 

 

 

 

 

「―っ!?敵襲ーっ!!

 

各自散開!!

 

ブレイク!ブレイク!!」

 

 

 

 

 

 

隊長の指示で散々になろうと動き始める隊員たち。

 

だが、行動が遅れた上に遮蔽物が何もないこの場所では身を隠すことは困難。

 

 

隊員は次々と手足を撃たれて地面に倒れていく。

 

 

 

 

 

 

何とかハイエースのところまで移動して残った隊員は三人足らず……

 

 

隊長も移動最中にやられてしまった。

 

 

 

一人の隊員が頭の中で情況を整理しながらも無線を手にして本部に連絡をいれた。

 

 

 

 

 

「―αチームからHQへ!

 

狙撃による襲撃を受けたっ!

 

残兵数α、β両チーム合わせて三人!!」

 

 

 

 

 

 

「―HQからαへ。

 

推測でもいい。

 

敵の狙撃位置を報告せよ」

 

 

 

 

 

別の隊員がMP5で威嚇射撃を行う中、混乱する頭の整理が完全についた。

 

 

すると、驚きの表情を浮かべながらも無線機を手にして本部に通達する。

 

 

 

 

 

 

「―この工場から南の方角にある旧丸山製作所の跡地……

 

 

γチームの狙撃地点だ」

 

 

 

 

 

 

……隊員の言う通り、

 

 

博也は旧丸山製作所の屋上で狙撃を行っていた。

 

 

狙撃に使用しているのはAR(アサリトライフル)のAUGの重銃身モデル、AUG HBARに倍率が高めのスコープを取り付けたもの。

 

 

長い銃身の先には対物ライフルに付けられていそうな大きなマズルブレーキがある。

 

 

狙撃に特化している武器ではないが、中距離でも使えるため重宝している武器だ。

 

 

そんな武器をバイポッドを立てながら構える彼の後ろには手錠を後ろ手に掛けられて拘束された軽装の隊員たちの姿が……

 

 

 

 

手持ちの手錠が足りなかったため、一人だけあかりがマイクロUZIの銃口を向けて地面に伏せさせている。

 

 

 

 

 

 

「先輩、どうですか?」

 

 

 

 

 

 

「三人だけ車の後ろに隠れたが、もう時間の問題だ。

 

直ぐに片付ける」

 

 

 

 

 

 

 

二人がどのような準備をしてきたか、何故こんなにもスムーズに進められているのか説明しよう。

 

 

まず、廃工場に移動して発信器を設置。

 

 

突入部隊が余程の数でない限りはシャッターを開けるという隙がでるような真似はしないと踏んでいたため、人が出入りするドアにのみワイヤートラップを仕掛ける。

 

 

しかし、このワイヤートラップ……

 

 

実はワイヤーが張られただけのフェイク。

 

 

閃光弾やガスグレネードといったものは一切取り付けられていない。

 

 

何故、こんなものを仕掛けたかという理由は簡単。

 

本当に中にいると錯覚させるためだ。

 

ちなみに、このトラップを仕掛けたのは博也ではなくあかり。

 

やり方を横でレクチャーしつつも仕掛けさせた。

 

 

 

トラップを仕掛けてから裏の窓ガラスを割って外に出てから旧丸山製作所に向けて移動。

 

Zを少し離れた場所に停め、カバーをかけた後に中に入る。

 

この時、既に狙撃部隊がこの場所に来るのも視野にいれていた。

 

 

 

理由としてはここの屋上以外周辺にはまともな狙撃ポイントがないからだ。

 

 

入り口や階段にセンサーを仕掛けてから屋上に向かい、狙撃準備を進める。

 

 

その間、あかりは外の確認を行う。

 

 

彼女も先程の失敗を踏まえて今回は気を引き締めていた。

 

そのお陰で狙撃部隊が乗るハイエースを事前に見つけることが出来た。

 

 

 

狙撃部隊が来ると分かったところで狙撃準備状態を一度解いて屋上に上がる階段裏で待つ。

 

姿を見せたところで格闘戦のみで全員倒し、拘束した後に再び狙撃準備に入る。

 

 

そのまましばらく待ち、突入部隊が来てドアのダミーワイヤートラップを解除しているところに狙撃……

 

 

そして、今に至るというわけだ。

 

 

残りの三人に対しても気は抜かず、隙を見付けては手足に向けて撃っていく。

 

 

次から次に倒れ、本部と通信していた隊員のみになった。

 

 

 

 

 

 

「―HQ!

 

至急応援を求む!!

 

応援をーッ!!」

 

 

 

 

パニック状態になり、必死に救援を請う隊員。

 

だが、本部は返事しない。

 

 

恐らく、見捨てられたのだろう……

 

 

「―クソッ!!」と吐き捨てながらもMP5を手にハイエースから姿を出した。

 

 

 

 

 

 

「―この……

 

畜生がぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 

 

 

 

サブマシンガンの射程距離では届くはずもないのにダダダダッとひたすら撃ち続ける。

 

そして、チャキッと弾が切れると共に足と肩を撃たれた。

 

 

……もう戦えないだろう。

 

 

博也は静かにスコープから顔を離した。

 

 

 

 

 

 

「終わりましたか?」

 

 

 

 

 

 

「ああ……

 

あとは警察に任せる」

 

 

 

 

 

そう言いながらもパイポッドを折り畳んだ時に安心しきったあかりが銃を構えながらも博也に歩み寄る……

 

その時だ。

 

 

地面に伏せていた男が急に振り向きながらも立ち上がってあかりに襲いかかったのだ。

 

 

いきなりのことに体格差から引き金を引く前に「うわっ!?」と押し倒されてしまうあかり。

 

 

マイクロUZIを落としてしまい、ピンチだと焦る。

 

 

手を伸ばして取ろうとするが、届かない。

 

 

体格差がある男が今にも手にしてしまいそうな状況だ。

 

 

 

……が、突然男の手首を何者かが掴んだ。

 

 

銃を片付けた博也だ。

 

 

そこから一撃はあえて加えずにグイッと引き上げるようにして男を立たせた。

 

 

 

立たされると共に数歩下がって距離を取る彼を力強く睨み付けた。

 

 

 

 

 

 

「……往生際の悪いクズが。

 

二度と歯向かえねえようにしてやるよ」

 

 

 

 

 

 

そう言ってから深く息を吸ってから、あかりがマイクロUZIを手にとって後ろについたのを確認する博也。

 

意識を男に向け、右手を前に出して捻っては"来い"と言わないばかりに指をクイクイッと動かす動作を見せる。

 

 

 

「うぉぉー!!」と雄叫びをあげながらも駆け出す男に対し、ゆっくりとした歩調で一、二歩だけ動く。

 

 

男があげた右拳をスッとかわして左手で手首を掴んだ後に腰の当たりに自分の右拳による一撃を与える。

 

 

端から見てそれほど痛そうには見えないが、あれだけの雄叫びをあげていた男が「あぁぁぁ!?」と悲鳴をあげるほど強烈なものだったようだ。

 

 

だが、まだ終わってはいない。

 

 

 

軽く蹴り飛ばして倒すと共に、足で肩を踏みつけながらも左手につかんでいた手首をグイッと勢いよく捻る。

 

 

パキッと嫌な音が響くと共に男の悲鳴が更に酷いものと化した。

 

痛みからかボロボロと涙を溢している。

 

 

 

 

 

「次に来てみろ。

 

逆の腕も使えなくしてやる」

 

 

 

 

 

そう言いながらも通報しようとスマホを手にする博也。

 

 

そんな彼の背中にあかりは尊敬の眼差しを向けていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―しばらくして

 

 

 

 

博也はあかりを助手席に乗せて一般道でZを走らせていた。

 

折角の横浜日帰り旅行のプランが襲撃のせいで大半は台無し……

 

 

 

思わずハァ……と深く溜め息をつく博也。

 

 

そんな彼に対し、あかりは尊敬の眼差しを向け続けていた。

 

 

 

 

 

「どうした、間宮?」

 

 

 

 

 

 

「あの……さっきはありがとうございました。

 

あの時、助けて貰わなかったら私……」

 

 

 

 

 

あかりの言葉に首を傾げる博也。

 

だが、少し考えると最後の悪足掻きをした男のことだと分かり、「あぁー」と口に出した。

 

 

 

 

 

 

「いいよ、気にしなくて。

 

にしても、どうすっかなー……」

 

 

 

 

 

簡単に答えてからスケジュールを頭の中で練り直す……

 

そんな彼の横顔を見て少し頬を赤らめながらもあかりは「あの……!」と勇気を振り絞るように話し掛けた。

 

 

 

 

 

 

「わ、私のことは間宮じゃなくて……

 

 

あかりと呼んでくれませんか?

 

先輩が良ければでいいのですが……」

 

 

 

 

 

 

頭の中のスケジュールを崩壊させながらもその言葉を聞いた博也は突然のことに「えっ…?」と言わないばかりの表情だ。

 

その様子を見ると失敗したと思い込んであわあわ!!と慌てて訂正しようとするあかりだが、博也はクスッと笑ってから彼女のお願いに答えた。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、これからもヨロシクな。

 

"あかり"。

 

 

じゃ、ついでに……

 

俺のことも市ヶ谷じゃなくて博也でいいよ」

 

 

 

 

 

此方だけ名前で呼んでいても釣り合わないと自分のことも名前で呼ぶことを許可する博也。

 

 

あかりはそれに対して嬉しそうに「はい!!」と答えた。

 

 

 

 

 

「これからもよろしくお願いします!

 

"博也先輩"!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻、佐々木邸

 

 

 

自室のベッドに座りながらも作戦が失敗したことを知らされた志乃。

 

携帯越しに指揮を勤める女性の「申し訳ありません」という謝罪の言葉を聞くと共に怒りからか携帯を持っていた手にグイッと力が入った。

 

 

 

 

 

 

「あの男のことを甘く見すぎです……

 

あの男がどれだけの技量のものか調べましたか?」

 

 

 

 

 

「―はい、もちろんです。

 

強襲科、狙撃科、車輌科でAランク評価を得たオールラウン……」

 

 

 

 

 

女性が答えようとしている時に志乃が「違います!」と声を荒くさせながらも空いていた左手でベッドのフレームを力強くバンッ!と叩きつけて黙らせた。

 

そして、自分が調べたことを語り始める。

 

 

 

 

 

 

「あの男は過去に

 

強襲科のSランク昇格試験の招待を5回、

 

車輌科のSランク昇格試験の招待を2回受けて何れも受けずに"拒否"したんですよ!?

 

そんな怪しげな男相手に生半可な戦力は通用しません!!」

 

 

 

 

 

 

そう言うと共にベッドから立ち上がり、ある資料を手に取る志乃……

 

 

その資料はあかりの戦姉であり、自分の敵でもある神崎・H・アリアのことが書かれた資料だ。

 

 

強襲科Sランク、犯罪検挙率99.9%。

 

 

敵に頼むのは嫌ではあるが、こうなったからには仕方がない。

 

 

 

 

 

 

「あの男の始末を神崎・H・アリアに依頼して下さい。

 

そしたら、今日のことは一先ず水に流します」

 

 

 

 

 















皆さん

こんにちは、こんばんわー


350Zです。



先日、愛車のZで片道5時間掛けて東京まで行きましたー



その時に緋弾のアリアとコラボしている昭和通りの某カラオケ店とデックス東京ビーチのイベントと出張購買店に行きました。



まず、カラオケ店の方ですが……



なんと、メニューだけじゃなくて部屋までコラボしてるというね。




入ったら緋弾AA全巻ショーウィンドウ越しに並べられてて、






ドア入って左に緋弾AAのHPのイラストと同じ絵の壁!!





そして、液晶テレビの上の壁も緋弾AAの様々なカットイラストの壁!!





更に更に、部屋の右隅には緋弾AAオリジナルコースター!!

と、緋弾AA一色の部屋でした。






緋弾っ……!!


圧倒的緋弾っ……!!






そんな言葉が頭の中で浮かびつつもとりあえず、

コラボメニューを頼むことに




私が真っ先に気になったのは志乃ちゃんのメニュー。



紅茶の上にハーブが浮かんでるって奴ですが……


このハーブ、作中にも出てきたあの"レモンバーム"です。


志乃ちゃんは
"鎮静・強心作用があり、戦闘前に一枚噛むといい"


なんかねえ、そんな葉っぱ一枚ごときでねー



なんて思いながらも作中と同じように噛んでみることに……











こ、これは……っ!!







刺激っ……!!










圧倒的刺激っ……!!









……いやー、なんか凄かったですわ。


5時間の運転で疲れてた疲労が一気に飛びマシタ。


感触としては超強烈な葉っぱ型のミント味のシゲ⚪ックスを噛んだって感じです。


あれ、シゲ⚪ックスってミント味あったっけ……?



……まあ、いいや。


さて、歌おっと。




まあ、最初はもちろん緋弾アリアから……!


でも、僕の知ってるレパートリー少なすぎて開始10分で終了ー

(チーンッ)



ドウシヨウカナー……



と迷った挙げ句、頭文字Dの曲とAviciiの曲を歌うことに



で、頭文字D4thstageのED曲の


"Blast My Desire"を歌った時でした。




さて、歌お……


と思いながらも液晶テレビを見ると"藤原豆腐店"のステッカーが貼られた86が走り出すVが……



おぉ、アニメ付きじゃん!!




このカラオケ店のカラオケちょっと特殊だからVはないと思ってた私でしたが、J⚪Yと同じVが流れ始めてテンションが上がる私←





おおぉぉ!!




板金王のR32!!



いろは坂の猿のエボⅣ!!



ゴットアームゲロ島のS2000!!




(頭文字D知らない方ごめんなさい←)



ちょっと面白いと思いながらも歌ってる私でしたが、





……冷静に考えてみるとカヲスだよね。


だって、

緋弾のアリアの部屋で360°緋弾のアリアと言っても過言ではない空間なのに


液晶が映し出してるには頭文字Dっていう……



あまりのカヲスさに思わず動画とっちゃいました←



そして、ふと思いました。



組み合わせるともっとカヲスなアニメあるんじゃない?

と。



というわけで、禁断の組み合わせ………











緋弾のアリアAA×ギャグマンガ日和←









いやー、シュール……


というわけで此方も動画に撮る。




今度はどうしよう?なにがいい?



あ、実写行くか


というわけでアニメ×実写PV









緋弾のアリアAA×Party Rock Antham





(Party Rock Antham知らないけど気になった人はPV調べたら出ますよ←)





いやー、これはもう文字通り


シャフゥゥリン!シャフゥゥリン!!でした。


動画とりました。



まあ、こんな感じでとりあえずカラオケ終わりました。


多分、帰るときに店員に



"こいつ、何がしたかったんだ……?"




なんて思われたかもしれませんが、気にしません♪





デックス東京ビーチの方については次話の後書きにて書きたい思いまーす




またねー♪




P.S
期待するような展開とか出してほしい車があったらどんどん書き込んで下さい←


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第四話 クレイジー・リトル・ラブ 前編







気づいた時にはもう遅い





そうゆう生き方はイヤだ……て







あんまり深く考えずなんとなくわからずに見過ごす






でもいつか必ずそれがわかる時が来る










……その時






もう遅いとあきらめる生き方はイヤだ




今はそれに気づかなくてわからなくても 




いつもわかろう





わかろうと生きたい














-少しでも納得できる生き方をしたい









 

 

 

 

 

 

 

-数年前

 

 

 

 

時刻は夜の8時、場所は薄暗い裏路地。

 

 

 

雨が降る中、あるものを背負って必死に何かから逃げるように駆け抜けていく一人の少年。

 

 

背負っていたのは小柄で黒髪ショートポニーテールの少女。

 

 

 

血塗れで意識が朦朧としているのか、少年の耳元で「うぅ……」と小さく唸っている。

 

 

 

 

そんな彼女を救おうと少年はただひたすら走り続けた。

 

 

 

 

 

 

打ち付ける雨に負けないよう-

 

 

 

力強く一歩一歩を踏み締めて……

 

 

 

 

 

やがて息が荒くなっていき、脚がキツくなってきた。

 

 

 

棒のようになった脚を自分の意志という動力で無理矢理動かす。

 

 

 

 

が、小さな段差に行く手を阻まれて前から派手に転んでしまった。

 

 

転んだことで擦り傷を負ってしまうも再び立ち上がろうとする……

 

 

 

その時、後ろからタッタッという足音が聞こえてきた。

 

 

雨によって視界が悪くて見えないが、間違えなく誰かが近付いてくる。

 

 

 

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

 

 

 

少女を背負っているということもあり、棒になった脚がなかなか動いてくれない……

 

 

そんな中、背負われてた少女が少年の肩をグイッと掴み、力を振り絞るような声でこう伝えてきた。

 

 

 

 

 

 

「-お願い……!

 

逃げ…て……お兄ちゃ…ん……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-現在、男子寮

 

 

博也の部屋

 

 

 

 

ピピピッと目覚ましが鳴り響く中、ゆっくりと起きては体を伸ばす博也……

 

 

いつもとは違い、何処か哀しげな表情だ。

 

 

 

 

そのまま窓際に向かい、差し込んでくる日差しを浴びる。

 

 

 

 

何の変わりもない一日の訪れ……

 

 

 

いつも通りの日常の始まり……

 

 

 

 

それを感じながらもスゥーと深々と息を吸い込んでは静かに吐いていく。

 

 

 

吐き終えると共に彼の表情は何時もの表情は少し和らいでいるように見える。

 

 

いつも通りに顔を洗おうと洗面所に向かおうとする……

 

 

が、向かう途中で立ち止まって急に振り向いてあるものに目を向けた。

 

 

 

本棚の片隅に置かれている写真立てに飾られた写真。

 

病院らしきベッドで横になりながらも満面の笑顔でピースサインを見せる小柄の少女。

 

黒髪のショートポニーテールが特徴の彼女の写真に向けて博也はこう呟いた。

 

 

 

 

 

 

「おはよう。

 

今日も頑張ってくるからな……"お兄ちゃん"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-同時刻、女子寮 裏

 

 

 

日陰が多く薄暗い場所

 

 

アリアはここで携帯を手に取ってある人物と連絡をとっていた。

 

 

佐々木家に遣える武偵集団の指揮をしていた女性だ。

 

 

 

 

 

 

「-本日が決行日ですが、

 

準備の方は大丈夫ですか?」

 

 

 

 

 

「ええ、勿論よ。

 

本当なら狙撃科のSランクの子を呼びたかったところだけど、予定が合わなかったからなしよ」

 

 

 

 

 

 

「-では、お一人で……?」

 

 

 

 

 

 

「いや、そうじゃないわ。

 

一人だけ特別に組むことにしたわ」

 

 

 

 

 

 

アリアの言葉と共にウォォンッと耳に飛び込んでくるような排気音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

「……今来たわ。

 

これから作戦についての打ち合わせを行うから、一旦通話を切るわ」

 

 

 

 

 

 

そう言ってピッと通話を切るアリア。

 

 

すると、音の主である車はそのまま女子寮の裏までまわってきて姿を見せる。

 

 

リアサイドにGTRのエンブレムがついている青いクーペ……

 

 

アリアの前に停まると共に運転席から協力者が降りてきた。

 

 

 

がさつな感じの見た目に武偵高の制服を着た長身の青年……

 

 

博也の後輩の武藤だ。

 

 

 

 

 

 

「遅かったじゃない、迷いでもあったの?」

 

 

 

 

 

 

「その逆。

 

しっかりと車のチェックをしてただけだ。

 

 

少し改造して来たからな……それの最終調整だ」

 

 

 

 

 

 

そう言った後にアリアから小さく折り畳んだ紙を受け取る武藤。

 

パッと広げてみるとそこには作戦の詳細内容が……

 

 

 

 

 

 

「作戦開始は20:00、私の発砲が合図よ。

 

それまでに所定の位置について……

 

 

良いわね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-20:00

 

 

女子寮の屋上に上がる階段

 

 

 

スマホをピッピッと片手で操作し、あるメールの文書を読んでいた制服姿の博也。

 

 

メールの差出人はあかり。

 

 

"女子寮の屋上で待ってます"

 

 

とだけ書いてあるものだ。

 

 

 

どうして呼ばれたのかは分からないが、とりあえず言われた通りに屋上に上がってみる……

 

 

 

到着すると共にブワッ…と強い風が吹き荒れる。

 

 

空を見ると薄暗くはあるが、朝とは違って曇り始めていた。

 

 

 

……何やら嫌な予感がする。

 

 

 

そう思っている時に屋上スペースの奥の方から誰かが姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

ピンクの髪色に長いツインテール、角のような赤い結び留め、

 

少しキツめのツンデレ系の目にあかりより少し高い背丈……

 

 

 

 

 

 

神崎・H・アリアだ。

 

 

 

 

 

 

「……何の用だ?」

 

 

 

 

 

 

博也の問い掛けと共にスカートに隠していたホルスターに手を伸ばし、愛銃のコルト・ガバメントを二挺手にするアリア。

 

 

驚きのあまり目を見開く中、彼女はコルトの銃口をゆっくりと此方に向けてきた。

 

 

 

 

 

 

「いきなりで悪いけど……

 

 

 

 

"風穴あけるわよ"」

 

 

 

 

 

 

そのまま銃口を足元に向けて撃ってきた。

 

 

咄嗟の判断で右に跳ぶようにして回避することが出来た。

 

 

が、一回避けただけでは終わらない。

 

 

 

コルトは一挺につき7発装填、二挺で14発装填……

 

 

あと13発あるのだ。

 

 

 

 

必死に走って回避行動をとる博也に対し、次から次に弾を撃っていくアリア。

 

 

命中ギリギリの回避に冷や汗が止まらない博也。

 

 

それだけ彼女の射撃が的確だということだ。

 

 

 

 

そして、残り一発が放たそうになる……

 

 

軌道的にかなり不味い。当たってしまう。

 

 

 

咄嗟の判断で初めて近接武器であるナイフを手に取った。

 

 

 

柄が明るい茶色で刃渡りが長めのナイフ……

 

 

アンカライトナイフと呼ばれるサバイバルに適したナイフだ。

 

 

刃渡りによっては日本の一般的な市場でも出回っているこのナイフを手にし、咄嗟に振る。

 

 

キンッ!という甲高い金属音と共に火花が散り、弾丸が真っ二つになった。

 

 

 

これで終わった……

 

 

と思っていた時だ。

 

 

 

コルトを素早くホルスターにしまったアリアが背中の後ろに両手をまわし、サッと何かを手に取った。

 

 

 

 

二本の小太刀……

 

 

二挺拳銃の次は二刀流。

 

 

双剣双銃(カドラ)のアリアと呼ばれるだけのことはある。

 

 

 

「はぁぁぁ!!」と声をあげながらも向かってきては勢いよく小太刀を振り回してきた。

 

 

 

避けれるものは避け、避けれないものはナイフで弾くと何故か完全に守りに入ってる博也に対して攻撃の手を一切やめない。

 

 

 

このままでは埒があかない……

 

 

 

そう思った博也は大きくバックステップしながらもあるものをアリアの足元に向けて投げつけた。

 

 

スモークグレネードだ。

 

 

 

 

プシュゥゥゥ……という音が鳴り響くと瞬く間に濃い白煙が彼女の周囲を包み込む。

 

 

 

催涙効果もなにもないガスだが目潰しという意味では時間稼ぎになる。

 

 

 

予想通り、アリアは視界が悪くなって動けなくなったようだ。

 

 

 

今のうちに逃げよう……!

 

 

 

 

ナイフをしまい、フェンスに腰に付けていた降下用のワイヤーを素早く巻き付けると共に一気に飛び越えて降下開始。

 

 

 

降下が終わった頃に煙幕が消え、アリアが再び行動開始。

 

 

弾切れになったコルトのリロードを行いながらも消えた博也の姿を探そうと周囲を見回していると彼が降下に使ったワイヤーがフェンスに取り付けられていることに気付く。

 

 

駆け足でワイヤーの方へと近付き、下を確認した時……

 

 

 

1台の車がブォォン!!という音をあげながらも勢いよく駐車場から出て行くのが見えた。

 

 

彼の愛車であるフェアレディZだ。

 

 

 

逃がしてはならないとアリアの方もワイヤーを手にし、一気に降下。

 

 

駐車場に停めていた自分の愛車の赤いミニクーパーに乗り込み、発車させながらも協力者である武藤に連絡を入れた。

 

 

 

 

 

 

「……車をつかって女子寮から出たわ。

 

 

アンタは先に学園島から出て待ちなさい。

 

 

それまでは私だけで何とかしてみる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-佐々木邸 大広間

 

 

薄暗い部屋の中、多数のカメラのライブ映像を眺める志乃。

 

 

映像はアリアの制服のポケットについている小型カメラとミニクーパーに取り付けられている車載カメラ、それから武藤のR33の車載カメラだ。

 

 

その横には二人の現在地を印した地図まである。

 

 

彼女はそんなものを眺めて高みの見物をしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

「……順調そうですね」

 

 

 

 

 

 

 

そう呟いた時、アリアのミニクーパーの車載カメラがあるものを捉える。

 

 

白いフェアレディZ……

 

 

博也が乗るZ33だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-学園島

 

 

 

 

ペースを落として走っていたZの後ろについたアリアのミニクーパー。

 

 

このチャンスを逃さないと言わないばかりに片手で運転しながらもコルトのホルスターに手を伸ばす。

 

が、その間にZが再び加速を始める。

 

 

 

 

此方も負けじとアクセルを強く踏み込むが、パワーが違い過ぎてあっという間に姿を消してしまった。

 

 

……が、まだ作戦失敗というわけではない。

 

 

この先には武藤のR33が待っている。

 

 

 

 

 

 

「-そっちに行ったわ。

 

追跡はお願い」

 

 

 

 

 

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

アリアからの無線を聞くと共にR33を走らせる武藤。

 

 

すると、横を白い車がズワァンと走り抜けて行った。

 

 

 

間違いない、博也のZだ。

 

 

 

そのままアクセルを踏み込んで追い掛ける。

 

 

 

 

 

 

「っ、武藤……!

 

 

お前もかよ……!!」

 

 

 

 

 

 

Zの車内でそう呟きながらも首都高の入り口へと向かう。

 

 

後ろについていたR33も同じように入ってきた。

 

 

 

ETCゲートを抜け、本線と合流。

 

 

 

 

 

 

「(先輩、他の世界なんて俺は知りませんよ。

 

 

Rだけみてればいい。

 

そのRが速くて一番良いってこと……

 

 

証明してやりますよ!!)」

 

 

 

 

 

 

ブォォォォン!!ウォォォォン!!と咆哮のようなエンジン音をあげながらも加速していく二台。

 

 

 

まず二台が入ったのは湾岸線エリア。

 

 

 

車線も多く、ストレートが長い……

 

 

 

日本有数の"公道最高速エリア"。

 

 

 

 

"オーバー200マイル(約320km/h)が狙える"というこのエリアで二台は競うように加速していく。

 

 

 

 

加速は互角、後ろのR33もZから離れずにしっかりと食いついている。

 

 

 

 

 

 

「(完璧のコンディション……!

 

良いぞ、勝負出来てる!!)」

 

 

 

 

 

二台が縦に並ぶようにして走ってる中、1台のトラックが此方の車線に出てきた。

 

 

Zが右にスラロームして避けるのに対し、R33は左にスラロームして避ける。

 

 

 

ズワァンッ!ズワァンッ!!と続けざまに追い越してきたことにトラックの運転手が唖然とする中、二台は再び戦闘態勢に入った。

 

 

 

 

 

 

「(やっぱり良い、最高だぜ!

 

 

高速域でのこの安定感と一体感……

 

 

これ以上の車が何処にある……!!)」

 

 

 

 

 

 

シフトノブを握り、シフトアップ。

 

 

パンッ!とマフラーからアフターファイアーをあげながらも再び加速していくR33。

 

 

少しずつではあるがZとの距離が縮まりつつある。

 

 

 

 

 

「(先輩、

 

アンタはZに乗ってて今の俺ほど満足してますか?

 

 

……してるわけがない。

 

 

こっちは"本物"でアンタのは飾っただけの"偽物"だ。

 

そんな偽物に金を注ぎ込んだって本物に勝てるわけがない。

 

 

俺の考えは正しい……

 

 

間違ってるのはアンタのほうだ……!!)」

 

 

 

 

 

 

その思いからステアリングを握っていた手にギュッ……と力を入れる武藤。

 

 

二台はその先でUターンを行い湾岸線エリアを再び走り出す。

 

 

ポジションが変わらないまま次のエリアを選択する分岐が見えてきた。

 

 

 

先行する博也のZが選んだのはC1エリア……

 

 

前に彼がR33に試乗した時に通った周回エリア。

 

 

 

湾岸線エリアとは違い、2車線と車線が少なく狭い上に高速とは思えないえげつないコーナーが並ぶテクニカルエリアだ。

 

 

 

 

 

 

「(環状線……か。

 

言っちゃ悪いっすけど、コイツは何処でも戦えますよ!)」

 

 

 

 

 

 

次々と迫ってくる一般車達に対して右に左にとスラローム回避を行う二台。

 

 

 

最初の右コーナーを2車線分の幅をフルに使って抜けていく博也のZ。

 

 

自分のRならばそれ以上の速度域で抜けられる。

 

 

 

そう思った武藤は博也との距離を縮めるために高めの速度でコーナーに突っ込む。

 

 

 

……が、ステアリングを切った時だ。

 

あることが起きると共に武藤の余裕の色が焦りへと変貌する。

 

 

走行ラインがみるみると外に膨らみ出したのだ。

 

 

 

 

 

「しまったっ……!!」

 

 

 

 

 

 

下手をすれば外壁にぶつけて事故……。

 

この速度域での事故はタダじゃ済まされない。

 

 

そう思った武藤はブレーキを適度に踏んで速度を調整。

 

 

なんとか事故は防げたが、失速が大きい。

 

 

先行していた博也を逃してしまったかもしれない……

 

 

 

そう思いながらもコーナーを抜ける。

 

 

が、抜けた先にはいなくなったと思われていた博也のZがかなりゆったりとしたスピードで走っているのが見えた。

 

 

 

 

 

 

「武藤、上がってきな。

 

一人の先輩としてお前にしっかり教えてやる」

 

 

 

 

 

 

ウィンドウを下ろすと共に右手を出しては"来い"と言わないばかりに指を動かしてみせる博也。

 

それに乗るように武藤がR33を加速させていくと共に博也もウィンドウを戻してZを再び加速させる。

 

 

 

 

二人の闘いが再び始まる……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-女子寮、VIPルーム

 

 

アリアが住んでいるこの部屋のベッドに座りながらも携帯を手にアリアに連絡するあかり。

 

 

 

……だが、留守電が虚しく鳴り響く。

 

 

 

不安そうな表情ながらも博也に構って貰おうと彼に連絡する。

 

 

 

が、此方も留守電。更に不安が募っていく……

 

 

 

 

 

 

「……何かあったのかな?」

 

 

 

 

 

そう思いながらもゆっくりと立ち上がって窓際へと向かう……

 

 

今にも雨が降りだしそうな曇天の夜空。

 

 

 

これを眺めると共に嫌な予感が胸を過る。

 

 

 

 

 

 

 

「私がどうにか出来るような問題じゃないかもしれないけど……」

 

 

 

 

 

 

そう呟きながらも武偵高の連絡簿を手にして広げ、とある人物に連絡した。



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第四話 クレイジー・リトル・ラブ 後編

 

 

 

 

 

-首都高速、C1エリア

 

 

 

 

 

 

 

再び対峙するように加速を始めるR33とZ。

 

 

 

轟音をあげながらも加速する二台の前に今度は左コーナーが現れた。

 

四輪を食い付かせてしなやかにコーナリングを行うZについていこうと再び高めの速度でコーナーに差し掛かる武藤のR33。

 

 

が、やはり走行ラインが外に膨らんでいく……

 

 

「ちっ……!」と車内で舌打ちをしながらも再度ブレーキングによって速度を調整し、難を逃れた。

 

 

が、やはり減速が大きい。

 

 

今度こそは置いてかれた……!

 

 

 

と思っていたが、立ち上がった先にはまたゆったりと走るZの姿が。

 

 

 

 

 

 

「(先輩、アンタ……

 

何がしたいんっすか?

 

 

 

こっちは任務でアンタを追跡してるんすよ。

 

 

 

それなのに……

 

どうしてそうも俺を待つんですか!?)」

 

 

 

 

 

 

 

「(武藤、もう一度だ。

 

分からないなら、もう一度上がってこい)」

 

 

 

 

 

 

武藤が強い気迫でR33を再び走らせていく。

 

それに応えるようにZも再度加速態勢に入る。

 

 

が、コーナーに差し掛かるとまたしてもラインが外に膨らんでしまう。

 

 

そこで大きな減速……

 

 

減速後にコーナーを立ち上がるとまたZの姿が。

 

 

嘗められてるという思いから「クソッ!」と車内で言葉を吐き捨てる武藤に対し、博也は冷静な面持ちでバックミラー越しに彼のR33を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

「(……冷静になれ。

 

視野を広げてR33(そいつ)と向き合え。

 

 

向き合ってから何がいけないのか

 

 

考え、理解し、行動しろ。

 

 

 

それが出来なければ……お前は成長出来ない)」

 

 

 

 

 

 

 

もう一度加速を始める二台。

 

今度はZがわざとR33の横についてからの加速だ。

 

 

 

二人の感情にシンクロするようにブォォォォン!ウォォォォン!!と轟音をあげるエンジン。

 

 

 

R33が名一杯に加速をする中、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……Zが前に出てきた。

 

 

 

 

 

 

「嘘…だろっ……!?」

 

 

 

 

 

 

そのまま前に出てきては前方にいた一般車をサッと避けると共にR33を追い越し、更に差をつけてくる。

 

武藤が車内に新しく取り付けられたオートゲージ製の白いアナログブーストメーターを確認する。

 

 

 

ヘタってる気配はない……

 

 

湾岸線エリアの時と同じように最高のコンディション。

 

 

だが、それでもみるみると差をつけられてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「(ついていけない……!?

 

さっきまで手を抜いてたのか……!!?)」

 

 

 

 

 

 

そのまま差をつけてから右コーナーに差し掛かろうとするZ。

 

 

ブレーキランプがパッと点灯すると共にコーナーに飛び込んでいく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-空間を切り裂くようなコーナリング

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-周囲全てを魅了させるような一体感

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

R33に乗っている武藤の方にもビリビリと電撃のように痛いほど伝わってきた。

 

 

 

 

 

今のR33にあのようなコーナリングが出来るのだろうか?

 

 

 

 

自分とR33の間に……

 

あれだけの一体感が感じられる瞬間があったのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

考えると答えは一瞬にして出た。

 

 

簡単な答えだった……

 

 

 

 

 

 

次のコーナーは深くブレーキングを行い、ゆっくりとコーナリングを行う。

 

 

Zはコーナーの先で待ってくれてはいたが、もう戦う気にはなれない……

 

 

 

 

アクセルペダルを離していき、失速するとアリアの方から無線による連絡が来た。

 

 

 

 

 

 

「-どうしたのよ!?

 

早く追いなさいよっ!!」

 

 

 

 

 

 

「……駄目だ、今の俺では追えない」

 

 

 

 

 

 

そう答えると共に無線機の通信を一方的にブチッと切る武藤。

 

ゆったりと走っているZの後ろ姿を見ると先程までの幼稚な考え方だった自分のことを思い出し、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……先輩、やっぱりアンタはスゲーよ。

 

 

俺なんかより一枚も二枚も上手だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-幾多の言葉を並べるよりも伝わる瞬間がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう実感する武藤に対し、Zの車内で運転していた博也の方も彼が理解してくれたと悟った。

 

 

 

"お前なら分かってくれると思っていた"

 

 

 

そう言わないばかりに笑みを溢す。

 

 

 

 

 

 

……が、その時だ。

 

 

ブゥゥゥ!ブゥゥゥ!!と彼のスマホに武偵高からの周知メールが届いた。

 

それと共にナビをピッピッと操作して内容を確認……

 

 

 

確認後、ハンディタイプの赤と青の回転灯を車体上部に取り付けて回しながらもプォーン!!というサイレン音を流してペースを一気にあげた。

 

 

 

 

 

 

「っ!?

 

先輩、何してるんすかっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

急に動きが変わったZに驚く武藤。

 

そのまま何処かへと姿を消してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-学園島、某所

 

 

 

信号が立ち並ぶ道を走るオレンジメタリックのトヨタ・86。

 

 

運転しているのは大樹……助手席には不安げな様子のあかりがいた。

 

 

 

 

 

 

「博也先輩もアリア先輩も何処に行ったんでしょうか……?」

 

 

 

 

 

 

「さあね。

 

 

博也の方は思い当たる場所は全部まわったし、

 

神崎の方も間宮に言われた通りの場所はまわった……

 

 

 

お手上げだな、ここまで行くと……」

 

 

 

 

 

 

 

そう呟いている間にあかりと大樹の携帯がピロピロピロ!!と鳴り響いた。

 

武偵高の周知メールだ。

 

運転していて確認出来ない大樹に代わるようにあかりは自分の携帯を操作して内容を確認した。

 

 

 

 

 

 

「どういう内容だ?」

 

 

 

 

 

 

「……誘拐事件です。

 

小学生の女の子が連れ去られたってあります」

 

 

 

 

 

 

それを聞いて何かあったのか「ん?」と声を出す大樹。

 

少ししてから「そういうことか」と小声で呟くと共に赤い回転灯を車体の上部に取り付け始める。

 

 

 

 

 

 

「場所はどこだ?」

 

 

 

 

 

 

「汐留の辺りです。

 

 

ここからだと少し距離がありますが……」

 

 

 

 

 

 

「オーケー、わかった。

 

博也は"多分"そこにいる」

 

 

 

 

 

プォーン!!とサイレンを鳴らしながらも回転灯を回して駆け抜けていく86。

 

 

……曇天の夜空は少しずつ顔を変え始め、ポツポツと雨が降り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-数十分後、汐留 5階建ての立体駐車場

 

 

 

 

あっという間に依頼を片付けてしまった博也。

 

二階の駐車場にZを停め、依頼主である母親に小さな女の子を引き渡す。

 

 

「ママー!」と駆け寄る女の子に対し、母親はギュッと力強く抱き締めた後に恩人である博也の方へと顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

「-ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

「いや、俺は仕事をしただけですよ。

 

それじゃ、これで」

 

 

 

 

 

 

そう言いながらも背中を見せて立ち去ろうとする。

 

その時、右前にある階段の方から誰かの視線を感じ取った。

 

 

そちらに目を向けてみると壁に背凭れしながらも腕を組んでいるアリアの姿が……

 

 

 

 

 

 

「自分が追われてるにも関わらず人助けなんて……

 

 

アンタ、相当のお人好しね」

 

 

 

 

 

 

「……どうやってここまで嗅ぎ付けた?」

 

 

 

 

 

 

「情報科(インフォルマ)の連中に力を借りたのよ。

 

カメラの解析とか頼んで」

 

 

 

 

 

 

その言葉を聞いて聞いて納得するように「そうか」と答える博也。

 

スゥー……と深呼吸をして呼吸と気持ちを整えてから覚悟を決めるように真っ直ぐとした目をアリア向けた。

 

 

 

 

 

 

「さっきの続きと行こうか」

 

 

 

 

 

 

その言葉に対して小さく頷くアリア。

 

この場では駄目だと彼女が"上に行く"と手を動かしてジェスチャーで伝えると博也もそれに乗るように頷く。

 

 

 

階段を一段一段上がり、がら空き状態の屋上駐車場に到着。

 

 

……ポツポツと降っていた雨がザァーと強くなってきた。

 

 

雨に濡れながらも対峙するように向き合って立つ二人。

 

アリアがコルトを二挺で構えると共にふと思った疑問を一つだけ投げ掛けた。

 

 

 

 

 

 

「始める前にアンタに聞きたいことがあるわ……

 

 

さっき戦った時、どうして反撃しなかったの?」

 

 

 

 

 

アリアの問いかけに対して雨で濡れた目元を軽く拭いてから何かを考え込むように俯く博也。

 

そして、小さく笑みを溢しながらも顔をあげて答えた。

 

 

 

 

 

 

「……あかりだよ。

 

あの子の笑顔を奪いたくなかった。

 

 

あの子はお前を尊敬し、慕ってる。

 

 

そんなお前が怪我でもしたら……

 

いつも笑顔を浮かべてるあの子はどんな顔するだろうな?

 

きっと哀しい顔するだろうな。

 

 

俺は見たくないんだ……

 

あの子の哀しむような顔なんて」

 

 

 

 

 

 

そう言うと腰のホルスターにあるP226とアンカライトナイフを手に取る博也。

 

 

 

 

が、彼は二つ共コンクリートの地面にポイッと投げ捨てる。

 

 

そして、両手を広げるようにして見せた。

 

 

 

 

 

 

「俺はもう丸腰だ。

 

倒さないといけないなら……さっさとやれよ。

 

 

俺の気が変わらないうちに」

 

 

 

 

 

流石の行動に少々躊躇いの様子を見せながらもカチャッとゆっくりとコルトを構えるアリア。

 

雨で前が見えないことと、躊躇いで手振れが酷い……

 

 

いつもなら外すことのない距離だが、下手に撃ったら外してしまいそうだ。

 

 

 

 

 

 

「アンタは馬鹿よ……!

 

それも相当の大馬鹿……!!」

 

 

 

 

 

 

「分かってる、そんなこと」

 

 

 

 

 

緊迫の時間が過ぎていく中、オレンジメタリックのクーペがブォゥン!とエンジン音をあげながらも屋上の駐車場に入ってきた。

 

 

二人の近くに停まると共に助手席側のドアからパッと誰かが降りてくる……

 

 

あかりだ。

 

 

 

二人の間に割って入ると共に丸腰の博也を守るようにコルトの射線に入ってきた。

 

 

 

 

 

 

「あかり……!?」

 

 

 

 

 

 

「やめてくださいっ!!

 

 

どうしてですか!!?

 

 

 

大好きな二人が争うのなんて……

 

 

私、見たくないですよ……!!」

 

 

 

 

 

 

「任務の邪魔よ、退きなさい!」と冷たい一言を放つアリアに対し涙を溢しそうになりながらも首を横に振るあかり。

 

 

「イヤです!!」とハッキリと答えた後に真っ直ぐした目を向けた。

 

 

 

 

 

 

「もし、こんな形で戦って二人が傷付いたのなら……

 

 

私、この依頼を出した相手を絶対に許しません!

 

 

何があっても絶対に……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-同時刻、佐々木邸

 

 

 

雨によってカメラの視界がボヤけて見えるが、博也の言動とあかりの言葉が胸に突き刺さった志乃。

 

 

このまま作戦が成功してもあかりは自分の方には振り向いてはくれない……

 

 

そう悟った志乃は携帯を手に取ってピッピッと操作し、依頼するように頼んでいたあの女性に連絡した。

 

 

 

 

 

 

「-はい、志乃様」

 

 

 

 

 

 

「作戦中止の指示を出して下さい……今すぐに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-数分後、汐留

 

 

立体駐車場の屋上

 

 

 

 

強まっていく雨の中、ピロピロピロと流れる携帯の着信音に気付くとコルトをしまいながらも「はい」と通話に応じるアリア。

 

少ししてから「分かったわ」と返してピッと通話を切り、二人に対して背中を向けた。

 

 

 

 

 

 

「……依頼主が依頼を取り下げたわ」

 

 

 

 

 

 

その言葉に「え……?」と少し驚くようにした後に安堵するような笑みを浮かべながら溢しそうになっていた涙を流した。

 

 

 

 

 

 

「よかった……!本当に……!!」

 

 

 

 

 

 

自分のことように安堵する彼女を小さく笑みを浮かべながらも見る博也。

 

 

 

落としていた自分の装備を拾いつつもしまっていく……

 

 

そんな中、ウォォン!というエンジン音をあげながら青いクーペが駐車場に入ってきた。

 

 

武藤のR33だ。

 

 

 

 

 

 

「武藤……」

 

 

 

 

 

 

86の近くの駐車スペースに停まったのを確認し、運転席側に歩み寄るとパワーウィンドウを下げて顔を見せてきた。

 

 

 

 

 

 

「先輩、話したいことがあります」

 

 

 

 

 

 

「奇遇だな、俺もだ。

 

下の駐車スペースで話そう」

 

 

 

 

 

二人がそう話す一方、アリアはあかりを連れながらも86の運転席側のドアをコンコンとノックするように叩く。

 

運転手である大樹がパワーウィンドウを下ろして顔を見せてきた。

 

 

 

 

 

 

「なんだ?」

 

 

 

 

 

 

「アンタ、アイツとの付き合い長いのよね?

 

色々と聞きたいことがあるわ……

 

近くのカフェテリアで話しましょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-数分後、立体駐車場5階

 

 

互いに駐車場所を移動させた博也と武藤。

 

雨によってびしょ濡れになった髪を赤いスポーツタオルで拭き取りながらも白いZと青のR33の二台を正面から見ていた博也。

 

その元に二本のホット缶コーヒーを持った武藤が歩み寄り、一本彼に手渡した。

 

 

 

 

 

 

「お、サンキュー」

 

 

 

 

 

 

スポーツタオルを首に掛けてから右手で受けとるとプシュッと音を立てながらも開封し、ゴクゴクと飲んでいく博也に対して自分の分のコーヒーは開封のみで一口も飲まない武藤。

 

 

「……。」と自分のR33を数秒ほど眺めた後に「先輩」と話し掛けた。

 

 

 

 

 

 

「俺……

 

前に言ってたこと理解出来ましたよ。

 

他の世界にも目を向けて車と向き合えって話」

 

 

 

 

 

 

武藤の言葉を聞いた後にふぅ……と小さく息をつきながらも缶コーヒーを口から離していく博也。

 

空いていた左手で額を拭くような動作を向けながらも一言問いかける。

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……

 

それで、何か分かったのか?」

 

 

 

 

 

 

「はい……足回りっすよね、先輩。

 

 

絶大なパワーに興奮するあまり、パワーばかりに目が行き過ぎて足回りまで手が回らなかった……

 

 

それが故にC1(環状線)のようなテクニカルエリアでは攻めれない車になってしまった」

 

 

 

 

 

 

 

その答えに対して「そうだ」と答えながらももう一口コーヒーを口にする博也。

 

缶内の残量を確かめるように軽く横に振るようにしながらも彼の答えに対して付け足しするように語り始めた。

 

 

 

 

 

 

「Rの中でも……

 

R33はホイールベース(前輪と後輪を結ぶ長さ)が一番長いことで知られてる。

 

 

 

その長さから高速時の直進とスラロームの安定性は優れてる。

 

 

が、逆に低速時のコーナリングでは曲がらない。

 

 

高速直進時に感じられた一体感がコーナーに差し掛かると一気に薄くなる。

 

コーナリングが御座なりになったチューニングに仕上がった時は薄くなるどころが崩れるような感じに仕上がるだろう。

 

 

……前乗ってそんなことを思った。

 

 

決して悪い車じゃないけどな」

 

 

 

 

 

 

「にしても、よくわかったっすね……

 

 

俺が足回りにあまり手を回してないってこと」

 

 

 

 

 

 

「なーに、動きを見ればすぐ分かる。

 

 

しっかりとしたチューニングが施されたRはもっと俊敏な動きを見せる。

 

お前が乗ってるR33もな」

 

 

 

 

 

そう言うと共に残りのコーヒーを全て飲み干す博也。

 

彼に続くように武藤もコーヒーをゴクゴク……と飲み始める。

 

少しぬるくなってしまったコーヒーを半分ほど飲んだ所でふぅーと息を吐きながらも缶を口から離すと彼の目線は博也のZの方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「速かったっすね、Z……

 

 

俺、なんかちょっと思い出しちゃいましたよ」

 

 

 

 

 

 

「何をだ?」

 

 

 

 

 

 

「俺と先輩が初めて会った日のことっすよ。

 

夜の峠の上り。

 

俺がRの前に乗っていたターボのアルテッツァで走ってる時に先輩が乗ってる鉄仮面を見ちゃって。

 

 

"旧式相手なら勝てる"と思ってこっちから勝負を挑んだらあっという間に差が出来て……

 

 

負けるもんかって夢中になって走ってたら車をガードレールに当てちゃったってやつっす」

 

 

 

 

 

 

「あー、あったなぁ。

 

お前……

 

確か、事故ったテッツァの傷を見てクシャクシャの顔で泣いてたよな」

 

 

 

 

 

懐かしむようにして過去の話を繰り広げる二人。

 

そんな中、過去に鉄仮面を乗り回していた博也が現在乗るZのスペックが聞きたくなった武藤は「すいませんが……」と話を切り替えながらも問いかけた。

 

 

 

 

 

 

「このZの内容……聞いてもいいっすか?」

 

 

 

 

 

武藤の問いかけに対して「そうだな……」と呟きながらも考え込む博也。

 

ドアのロックを開け、運転席側にあったレバーを引いてボンッとボンネットのロックを外してからエンジンルームを見せた。

 

 

ピカピカに磨かれたエンジンルームに武藤が言葉を失ってしまう中、博也が解説を始めた。

 

 

 

 

 

 

「エンジンは元から積んでいたVQ35HRを3.5リッターから3.8リッターにボアアップさせてターボ化。

 

タービンはRやスープラのチューニングに使われるT88-38GK。

 

マフラーはフェラーリなんかのマフラーも取り扱ってるサクラム製。

 

触媒とエアクリはアペックス製。

 

足にはアラゴスタ製の車高調を入れてるし、勿論コンピューターもセッティングしてある。

 

 

駆動方式は純FR(エンジンが前に積まれて後輪が駆動する二輪駆動)からFR寄りの4WD(四輪駆動)に変更。

 

その他クラッチなんか諸々も改造したり補強してる仕様だ」

 

 

 

 

 

 

「それで……スペックは?」

 

 

 

 

 

 

「ブースト圧1.5以上で最大パワーは800馬力オーバー。

 

同じようなZがレース中にタイヤがバーストして事故ったなんて話もあるから、

 

 

普段は圧を落としてパワー抑えてる」

 

 

 

 

800馬力というパワーが出てきたが、ヴィッツやフィットと言ったコンパクトカーの馬力が一般的に100馬力前後。

 

最大パワーはそれらの8倍もあるのだ。

 

 

 

 

 

 

「スゴいっすね……

 

コイツは正真正銘の本物です」

 

 

 

 

 

 

「いや……まだその域に入ってない。

 

エンジンルーム内の冷却の為に熱気を逃すためのダクトがあるボンネットに替えたが、効果的には満足行くようなものじゃない。

 

それと、俺のZにはウィングがついていない。

 

 

純正のスポイラーだけだ……

 

空力的には抵抗がなくて良いだろうが、高速走行時の安定性がイマイチだ。

 

ウィングを付けるのも考えてる」

 

 

 

 

 

 

「やっぱり……

 

レースなんかで使うようなGTウィングっすか?」

 

 

 

 

 

 

「いや、そこまで大袈裟な奴は付けたくない。

 

どういうのにするかはまだ考えてる段階だ」

 

 

 

 

 

そう答えながらも「よし」と小さく呟いて外に目を向ける博也……

 

 

先程まで降っていた雨もすっかり止んだようだ。

 

 

それを確認すると共に空き缶を置いてクイッと体を伸ばしながらもZの鍵を手に取り、武藤に見せた。

 

 

 

 

 

 

「雨も上がったことだし……

 

 

互いに近場でもゆっくり流そうか」

 

 

 

 

 

 

「お、

 

昔よくやってた"二台だけツーリング"って奴っすか。

 

 

いいっすね、行きましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-同時刻 カフェテリア

 

 

ワイワイと賑やかな外とは違い、閑静で落ち着いた雰囲気の店内。

 

 

会社帰りで一人でゆったりしたりする客が多い中、窓際の席で座るアリア、あかり、大樹の三人。

 

 

アリアとあかりが隣同士で座る中、大樹はそれに向かい合うように座る。

 

 

少しすると店員が飲み物を持ってきた。

 

 

アリアと大樹の前にホットのアメリカンコーヒー、あかりの前にホットのカフェオレが置かれてから話しが始まる。

 

 

 

 

 

 

「単刀直入に聞くわ……

 

 

アイツ、なんであんなに貧相な生活してるのにSランクになろうとしないの?

 

 

Sランクになれば報酬も上がって生活もかなり余裕になるのに……」

 

 

 

 

 

 

アリアの問いかけを聞きながらも小さく息を吹き掛けてコーヒーを冷ます大樹。

 

 

自分のコーヒーを静かに一口だけ口にした後にチャキッとカップを置いてから答えた。

 

 

 

 

 

 

「原因はアイツの過去にある。

 

アイツ、小学生の時に妹を殺されたんだ。

 

 

それも殺される直前までアイツはその妹を連れて犯人から逃げてたらしい」

 

 

 

 

 

 

「え、それって……

 

妹さんを置いて一人だけ逃げたってことですか?」

 

 

 

 

 

 

 

あかりの問いかけに対して首を振らずにコーヒーをもう一口飲む大樹。

 

小さく首を傾げながらも少しだけコーヒーフレッシュを注いだ後に問いかけてきた彼女の方に目を向けた。

 

 

 

 

 

 

「確かにそういうことになる……

 

だが、仕方ない。

 

その妹を背負って逃げ回ってたんだからな」

 

 

 

 

 

 

「え、どうして……ですか?」

 

 

 

 

 

「アイツの妹はアイツとは対照的に生まれつき腎臓が悪く、体力がなかった……

 

 

それに先に犯人と接触(コンタクト)してた妹は一緒に逃げる時にはもう血だらけになっていたそうだ。

 

 

……歩けるわけがない。

 

背負ってる間に生きてただけでも奇跡だ。

 

 

ちなみに、さっきの誘拐事件のような子供絡みの事件にやけに反応するのは自分と同じに哀しい境遇を歩む子供を一人でも減らしたいからだ」

 

 

 

 

 

 

「やけに知ってるわね」

 

 

 

 

 

 

「まあ……

 

小学校に入った以来、クラスもずっと同じの腐れ縁だったからな。

 

俺は本人から聞いた話を話してるだけだ」

 

 

 

 

 

 

そう言いながらもコーヒーフレッシュが入ったコーヒーにスプーンを入れてかき混ぜていく大樹。

 

キンキンッと音が鳴り響く中、再び静かにコーヒーを飲んでいく。

 

 

 

 

 

 

「それで……

 

それがSランクにならないのとどう関係してるのよ?」

 

 

 

 

 

 

アリアが問いかけると共にコーヒーを飲むのやめ、音を立てずに静かにカップを置くと共にその理由を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

「実は……

 

その事件の犯人、未だに逮捕されてないんだ」

 

 

 

 

 

 

「え、ということは……!?」

 

 

 

 

 

 

「アイツはその犯人を捕まえるまでSランクのランク昇格試験は受けないそうだ。

 

たとえ、どれだけ勧誘を受けても。

 

 

……自分の中で決めてるんだ。

 

"その犯人を逮捕するまでは昇格する資格はない"って」

 

 

 

 

 

 

「過去の呪縛に囚われてるんですね……」

 

 

 

 

 

あかりの同情するような呟きを横で見ていたアリアがその様子に少し引っ掛かりそうになる……

 

まるで自分と重ねているかのような同情の仕方だ。

 

 

彼女も何か過去にあったのだろうか?

 

 

などと考えるアリアだが、その呟きに対して大樹は首を横に振った。

 

 

 

 

 

 

「確かにそこだけ見ると縛られてるように見えるが……

 

 

実際はそうでもない。

 

 

アイツ、車の改造とか自分の好きなようにやるだろ?

 

 

あれ、妹の口癖からだ」

 

 

 

 

 

 

「え、その口癖って……?」

 

 

 

 

 

 

「"お兄ちゃんが好きなことをして"……だ。

 

 

俺もガキの頃には結構顔会わせてたが、会う度に言ってたような気がする。

 

 

それが今のアイツのライフスタイルになってる。

 

 

意識してるのか、無意識なのかは分からないがな……」

 

 

 

 

そう答えながらも再びコーヒーを飲み始める大樹。

 

そのまま全て飲み干し、ふぅーと小さく息をついた。

 

 

 

 

 

 

「さーて、

 

他に聞きたいことがないなら俺は先に上がるぞ」

 

 

 

 

 

 

そう言いながらジャリジャリと自分のコーヒー代だけを置いて立ち上がる大樹。

 

背中を見せた時に溜め息混じりにこんなことを呟いた。

 

 

 

 

 

 

「-羨ましいよ、本当に。

 

慕ってくれる後輩がいっぱいいるなんてさ」

 

 

 

 

 

 

そんな一言を言い残して先に店から出ていく大樹。

 

 

アリアとあかりはその背中を見届けながらも互いの飲み物を飲み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-翌日、朝 武偵高

 

 

昨日の夜の曇天が嘘と思えるような青天。

 

 

いつも通り、駐車場にZを停める博也……

 

 

バンッと強めにドアを閉めながらも俯き気味にスクール鞄を片手に校舎へと向かおうとしたとき、誰かの視線を感じて顔を上げてみる。

 

 

 

すると、目の前にはアリアの姿が。

 

右手に何か箱のようなものが入ったビニール袋を持っている。

 

 

 

 

 

 

「……何の用だ?」

 

 

 

 

 

じぃーっと言わないばかりの目を向ける博也に対し、モジモジしながらも袋をバッと渡してきた。

 

 

受けとる前にチラッと中身を確認……松本屋のももまんだ。

 

 

 

 

 

 

「えーと、これは?」

 

 

 

 

 

 

「け、今朝食べてたら余ったのよっ!

 

あんた、どうせ朝まともに食べてないんでしょ!?

 

受け取りなさいっ!!」

 

 

 

 

 

 

急な強要に「お、おう……」と困った様子ながらも受けとる博也。

 

 

ビニールの中に入れられたももまんの箱に目を向けるとアリアが続けて語り始める。

 

 

 

 

 

 

「あ、安心しなさい!

 

毒なんて入ってないわっ!!」

 

 

 

 

 

 

「聞いてもないのにそう言われると、

 

逆に入ってるんじゃないかって思うんだが……」

 

 

 

 

 

 

苦笑いしながら博也が呟くと「先輩ー!」と声をあげながらもあかりが駆け寄ってきた。

 

 

 

 

 

「博也先輩、おはようございますっ!!」

 

 

 

 

 

 

「おう、おはよう」

 

 

 

 

 

小さく笑みを浮かべながらも彼女に対して挨拶を交わすと早速ももまんに目を向ける。

 

そして、何か思い当たるような節があるように「あ!」と指を注す。

 

 

 

 

 

 

「博也先輩、

 

ももまんはアリア先輩の大好物ですよ!!

 

先輩、わざわざ朝のももまんを控えて……!」

 

 

 

 

 

 

 

「ああぁぁぁぁ!!

 

あかり、それ以上言ったら風穴あけるわよ!!」

 

 

 

 

 

「ひえー、ごめんなさい!!」

 

 

 

 

 

和やかな会話が交わされる中、「あかりさん」という静かな面持ちの声が鳴り響く。

 

志乃だ。

 

手にはエステーラのリーフパイが入った袋を持っている。

 

 

 

 

 

 

「エステーラ限定のシュガーリーフパイを買ってきました。

 

減量終わったんですよね?

 

よろしければ、後で御一緒に……!」

 

 

 

 

 

 

「そうだね、"皆で"一緒に食べよう!!」

 

 

 

 

 

 

予想外にも一言余分についた為、笑顔が苦笑いに変貌してしまう志乃。

 

何も言い返せずに「え、ええ……」と答える中、

 

 

「ンハハハッー!!」

 

 

という奇妙な声が鳴り響く……声の主は博也だ。

 

 

 

手にはアリアから貰ったももまんが……美味しさのあまりか泣き出している。

 

 

 

 

 

 

「ゼッドの"維持とパーツを買うだめにィィッ!!

 

俺はネェェ!!

 

 

おゴメと調味料だけデ生きてギたんですゥッ!!」

 

 

 

 

 

 

「ちょ、あんた……!?

 

何泣き出してるのよ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

まるでコントのような雰囲気で会話が繰り広げられる中、1台の青いクーペが通り掛かる。

 

 

武藤のR33だ。

 

近くに停まるとウィンドウを動かしてひょこっと顔を見せてきたが、端から見ていて状況が把握出来ずに頭上に?を浮かべている。

 

 

 

 

 

 

「先輩、ウッス!

 

 

って、何泣いてんすか……!?」

 

 

 

 

 

 

「あ"あ"あ"あ"ーーー!!

 

 

ゴノショッガン…ァゥァゥ……ア゛ー!!!!」

 

 

 

 

 

 

最早、何を言ってるのか理解不能で苦笑いの表情を浮かべる武藤。

 

 

駄目だ、制御出来てない……

 

 

そう思いながらも逃げるようにその場を後にしようとする武藤だが、R33の車体に博也が貼り付いた。

 

 

 

 

 

 

「ちょ、何してんすかっ!?」

 

 

 

 

 

 

「アナタには分からないでしょうネェェ!!」

 

 

 

 

 

ももまんをモグモグと食べながらも涙を流し続ける博也を見たあかりが気になって彼が持つ箱に入っていたももまんを「失礼します」と一つ手に取り、パクッと一口食べてみる。

 

 

美味しいが、普通のももまんだ。

 

 

そして、彼女が食べたももまんを狙おうと後ろから誰かが迫る……。

 

 

先程、誘いに失敗した志乃だ。

 

 

 

 

 

 

「あかりさん、私にも一口……!」

 

 

 

 

 

「え、志乃ちゃん……?」

 

 

 

 

 

 

「お願いします!!

 

 

この先端の部分だけで良いです!!」

 

 

 

 

 

 

「せ、先端……?」

 

 

 

 

周囲がとてもカオスなことになり始めたアリアは小さく息をつく。

 

が、これはこれで悪くないかもしれないと小さく笑みを溢した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな何処か楽しげな様子の五人を

 

 

……大樹は遠くから羨ましそうに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 











皆さん、


こんにちはー!こんばんわー!!


350Zです。


第四章、いかがでしたか?


今回、相当力を入れて書かさせていただきました!!



シリアスから丸く纏められるか心配でしたが……


行けましたね、何とか……




大樹の後半の言動から察することが出来るかもしれませんが、


次話からは"大樹がメイン"の話になります。


キンジ達原作キャラも次々と出していく予定です……




ご期待ください(マグロ風←)








さてさて、

今回は前回の続きでデックス東京ビーチについて書きたいと思います。





到着して駐車場に停めると共にサークルKを探す私。


どうしてサークルKを探したのかと申しますと……



緋弾のアリアAAのお台場回遊ミッションのスタート地点になってるんですよねー


でも、サークルK見つからないや……


どこだーと探すこと10分。


外から見てやっと見つけました。


大丈夫か、俺……?



と思いながらもサークルKの前に立っている等身大アリアの元へ。


ここにキーワードが書かれてるんですが、






人通りが多くてガン見出来ねーよ!!こんな場所!!





というわけで、一般人Aに成り済ましながらも前を通り掛かって確認。


何とか読めたので階段の付近でイヤホンを耳にしながらもキーワード入力……




ミッション開始!!




オペレーション、スタート!!
(何だか違うアニメの気が……まぁ、いいや)





内容は至って簡単。

アリア達の指示に従って暗号を解き、

その暗号が示す場所に進んでそこに書かれてるキーワードを入力するというもの。


ただ、キーワードの場所には一番最初のキャラと同様に等身大のキャラが立っているんですが……






序盤のミッション人通り多すぎ!!



ちょっと某チューニングビデオの人体実験の被検体ラー◯ン山田さんになりそうでした。

(ふざけんなよ!ビ◯オオプションテメーよっ!!)



さて、余談はさておき……


無事に制覇しました!!




いやーね、


ミッション中に聞いたあかりちゃんのボイスが良かったっすわー



思えば、あかりちゃん好きになったのってアニメ観てからだよなー……


それまでAAはライカが好きだったんですが、立場が逆転しました。



佐倉さんのボイス好きですわー……

(あぁ~、心がピョンピョンするんry)






さて、次に向かったのは限定ショップ。


先行販売グッズと限定販売、アニメの原画等も並んでいて……

中には携帯のカメラを手にパシャパシャッとまわる人も
(自分も携帯のカメラで原画とりました!)


それからはとにかくあかりちゃんのグッズを手に取ってはカゴに入れる。
(あれ、志乃ちゃんかな……?)



そして、会計へGO!


合計で3000円以上だったのでガラガラくじ出来ました!
(やったね!)


狙うは等身大パネル!

当たっるかなー♪









……出たのはポストカード。(アリア)



ンハハッー!!

責めてあかりちゃんが良がったぁぁぁぁぁ!!


等と思いながらも渋々離れると財布を手に取り、諭吉を出してはガラガラくじをする男の姿が……


ハズレたのか「クソォォォ!!」と頭をかきながらもまた商品を買い漁ってはガラガラくじ、買い漁ってはガラガラくじと往復する勇姿……







コイツ、ヤバイ……!!!





今後の生活とZの維持、ヴィッツの維持がある俺には到底できない……!!



そんなことを思いながらも次は限定の缶バッチが出るガチャガチャに……







一番最初に出たのは麒麟。

っべ、そう言えば小説で1回も出してねーわ。

っべーな……







なんて思いながらも二回目のガチャガチャ……


出たのは志乃!!


同士ではあるが、お呼びではない!!







そして、三回目……アリア!


ちょ、おま……!








と思いながらも四回目……









ライカ!!



だああぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁ!!!

俺はもうだめだぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁ!!!




ガチャガチャは諦めてその反動で同じく会場限定のプロマイドを3包(1包につき三枚入り)購入。


えーい、今度こそ……!!


すると、なんと1包目からあかりちゃん!!

2包目からも麒麟とあかりちゃんのツーショット!!


3包目はあかりちゃんダブル!!




うひょぉぉぉぉ!!

やったぜええええ!!

天は俺を見捨ててはいなかったあああ!!!



さらにさらに、

一番最初に寄ったサークルKにもう一度戻って店内を見てみると、


サークルKの制服を着たあかりちゃんの缶バッチが……




うひょぉぉぉぉやったおおほぉぉぉ!!



あかりちゃんとアリアの等身大パネルと写真もとれたし、サイコー!!




(ガラガラくじの景品で等身大パネルあったけど、冷静に考えると置き場に困るよね……うん)




さて、満足しながらもZに戻って車内で携帯を確認。


某呟きアプリをみると原作者赤松中学先生が何やら呟いていた。


限定ショップにあったののかキーホルダーをズームした写真に


"ののかグッズまでありましたよ…!w"


という呟き。



この呟きに自体には問題はないが、問題は投稿時間……



あれ、俺……ひょっとしてスレ違ってる?



そう、投稿時間のことも考えるとスレ違ってる可能性もあったのだ。



もしや、あの携帯のカメラで色々とってた人……?



等と思いながらも、


デックス東京ビーチを去る350Zなのでしたー

(ちなみに呟きアプリでその話題についてかなり食いついてる人が居ますが、私ではないので悪しからず……)





さて、次回は番外・首都高編です。

この作品に出した場所もまわってきました……


お楽しみにー←←




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ACT.2『小さな勇気と大きな躍動』
第一話 ヒーロー




いいトコを探そうとするな






いいトコを探そうとする








イコールそのモノをいいモノと決めよう





そうしてるわけだから






いいモノと決めつけたいからひとつ悪いコトが出ただけで












-やっぱりソレは悪いモノと全部ひっくり返してしまう












 

 

 

 

 

-放課後、深夜

 

 

武偵高駐車場

 

 

 

 

すっかり生徒がいなくなった校舎から出てきた大樹。

 

 

眠たそうに欠伸をした後にピッと携帯を手に取ってはSNSアプリを確認……

 

 

博也の書き込みがある。

 

 

 

内容は後輩と夕飯を食べに行ったという普通のもの……

 

 

 

写真には朝に一緒に行動していた四人だけではなく、金髪ポニーテールの女子やゴスロリ系の制服を着た女子もいる。

 

皆で顔を寄せるようにして写真を撮っている。

 

 

 

背景を見る限り、武偵高の近辺にあるファミレスで撮ったものと思われる。

 

 

投稿時間は現在時刻から5時間前……

 

 

これを見て今の今まで部屋で依頼の推理をしていた自分が馬鹿馬鹿しく思えた。

 

 

 

 

 

 

 

「たく、何してんだろうな……俺」

 

 

 

 

 

 

溜め息混じりにそう呟きながらも86に乗り込んでいく。

 

エンジンスタートのプッシュボタンを押し、エンジン始動。

 

 

ブォゥン!という少し変わった太いエンジン音が響き渡る。

 

 

トヨタ・86に搭載されているエンジンはスバル製水平対抗エンジン……

 

 

通称、ボクサーエンジンと呼ばれる特殊なものだ。

 

 

トヨタの車なのにどうしてスバルのエンジンが搭載されているのかというと、この車がスバルと共同で開発されたことにある。

 

 

その証拠にスバル側ではこの車の兄弟車、BRZがある。

 

 

ちなみに見た目は少ししか違いがない。

 

 

セッティングは86がタイヤを滑らせて走らせるドリフト向け……

 

 

BRZはタイムアタック向けに逆にタイヤを滑らせず、食い付かせて走らせるグリップ向けとなっている。

 

 

 

彼が86を買った理由は博也のように購入する熱意があったという訳ではない。

 

 

本当は別の車が欲しかった。

 

 

が、少し古めの型のスポーツカーだった為

 

 

親に"維持費が掛かる"や"絶対に壊れる"と言われて致し方無しにこの車を選んだのだ。

 

 

 

もし……

 

博也が自分の立場ならそんなのお構い無しに買っていただろう。

 

 

 

 

 

 

「……駄目だな、ダサすぎる。

 

今の俺の生き方は」

 

 

 

 

 

 

彼の生き方と自分の生き方を比べて思わず呟いてしまった一言。

 

 

 

思えば、彼が三つの科でAランク評価を受けてオールラウンダーとも呼ばれているのに対し……

 

 

自分は昔いた車輌科でBランク、今いる探偵科ではCランクと普通の評価。

 

 

更には女子との縁もなし……

 

 

その面で比べて見るとさらに情けなく感じてしまい、はぁ……と大きく溜め息をついてしまった。

 

このテンションでは駄目だ。

 

帰る前に気分転換をしようと86を武偵高を抜けては寮とは違う場所に向けて走らせる……首都高・湾岸線だ。

 

 

 

 

 

 

「……軽く流しに行くか」

 

 

 

 

 

 

学園島を抜けた後に首都高に上がろうとETCゲートを抜ける。

 

 

時間帯の関係上から一般車が少なくなった湾岸線エリアに合流するとアクセルを踏み込む。

 

 

 

ブォゥゥゥゥン!!とエンジン音を響かせながらも加速させていく……

 

 

純正の白基調のメーターを見てからシフトノブを握ってカタッ!とシフトアップ。

 

 

更に加速させていく……

 

 

 

が、後ろに何かついた。

 

 

迫力があるような大きいエアロを取り付けた車高が低い白いセダン……

 

 

外灯に照されて何となく車種は何か分かった。

 

 

 

 

 

 

「チェイサーか」

 

 

 

 

 

 

トヨタ・チェイサー。

 

元は高級車路線で販売されていた車だが、パワフルなエンジンを搭載していることからスポーツセダンのような見られ方をされている車だ。

 

 

86よりもずっと前に生産されていた車で中古市場価格では大樹が買ったGTリミテッドの86の半分以下……

 

 

そんな車に後ろをつかれた。

 

 

乗っていたのはガラの悪そうな金髪の男二人組だ。

 

 

後ろからパッパッとライトに強弱をつけてパッシングしてきた。

 

 

 

 

"勝負しろ"という申し出だ。

 

 

 

これに対して

 

ハザードランプを点滅させれば"受けた"、

 

 

ブレーキランプを点ければ"断る"という返事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

アクセルに開度にはまだ余力がある大樹は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブレーキランプを点けて断った。

 

 

 

 

チェイサーが86を追い越してウォォォン!!と音を上げて去っていくのを見てフッと鼻で嘲笑う大樹。

 

 

 

 

 

 

「そこまでいい気になってるとなれば、

 

2.5リッターのツインターボを積んだツアラーVグレードだろ?

 

 

2リッターNAでマフラーと車高調入れただけの86(コイツ)じゃ、直線で勝てるわけがない。

 

 

勝てない勝負をするほど……俺も馬鹿じゃない」

 

 

 

 

 

 

車の性能のせいにしながらも去っていく車影を眺めると何だか虚しさだけが心に残った。

 

 

 

 

 

 

 

本当に……こんな人生で良いのだろうか?

 

 

 

 

そんなことを思いながらもモヤモヤした気持ちをリフレッシュさせようと近場のPA(パーキングエリア)を目指す。

 

 

 

 

大黒PA……

 

 

何年か前までは改造車の溜まり場となっていた場所。

 

未だにオフ会やミーティングの集合場所等として知られている。

 

 

 

 

 

その場所に数分後、到着。

 

ブォゥゥン……と低い音を響かせながらもPAの駐車場に入ると片隅の駐車スペースに先程のチェイサーが停まっていた。

その近くで乗っていたあの二人がタバコを片手に座りながらも何か喋っている。

 

 

 

目を付けられると面倒臭そうだ……

 

 

そう思い、離れた場所に停めてエンジンを切る。

 

財布を手に車から降り、自販機コーナーへと歩いていくと二人組の話し声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

「-先輩、

 

もっとブースト上げたら速くなるんじゃないっすか?」

 

 

 

 

 

 

 

「-バーカ、何も考えずに上げると故障(ブロー)すんだろ。

 

金は掛かるが、次はボアアップだ。ボアアップ」

 

 

 

 

 

 

 

……会話の内容はチェイサーのチューニングについてだった。

 

気になってチラッとそちらに目を向けると……

 

 

二人共、見た目とは裏腹に少年のように目を輝かせながらも会話を繰り広げている。

 

 

 

実に楽しそうだ。

 

 

 

 

 

自分なんかよりも彼らの方がずっとピュアな生き方をしている。

 

 

博也までとは行かないが、あのような生き方をしてみたいものだ……

 

 

 

 

大樹はそう思いながらもコーラを買ってその場から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-翌日、武偵高 昼休み

 

 

天候は快晴。

 

 

外がガヤガヤと騒がしい中、資料のようなものが入ったクリアファイル左手に持ちながらフェンスを右手で掴んでグラウンドの方を眺める大樹。

 

 

遠くを見据えるような目をしているところを見る限り、何やら考え込んでいるようだ。

 

 

そんな中、一人の男が歩み寄ってくる。

 

 

 

……遠山キンジ。

 

元強襲科Sランク、現在は探偵科で最低のEランクだ。

 

 

 

 

 

 

「約束の資料だ。

 

ほら、持ってけ泥棒め」

 

 

 

 

 

 

心の中で考え事を押し込みながらもキンジの方に顔を向けては持っていたクリアファイルを手渡しすると「ども」と受け取ったのを確認するともう一度グラウンドを眺めた。

 

 

 

 

 

「ん、なんかあります?」

 

 

 

 

 

 

「いや、

 

やけに外が騒がしいなってさ」

 

 

 

 

 

 

「4対4戦(カルテット)っすよ。

 

今日、対戦表が公開されるって」

 

 

 

 

 

適当に誤魔化す大樹に気付かないキンジ。

 

そんな彼に対して少し溜め息をつきそうになる……

 

 

が、溜め息の前に出たのはまた別のものだった。

 

 

 

 

 

 

「なあ、遠山……

 

お前から見て今の俺ってどう見える?」

 

 

 

 

 

 

「どう見えるって……?」

 

 

 

 

 

 

突然の問いかけにどう反応すれば良いか分からずに困ったような表情を見せるキンジ。

 

それを見た大樹はそうなるよなと言わないばかりに苦笑いしつつも「ほら」と言いつつも回答の例を出していった。

 

 

 

 

 

 

 

「色々あんだろ。

 

惨めに見えるとか、カッコ悪いとかさ」

 

 

 

 

 

 

無意識のうちに出てしまったマイナス思考の言葉。

 

言ってから気付いて体ごと彼のキンジの方に振り向きながらも「いや……」と撤回しようとしたが、その前に彼に見抜かれてしまう。

 

 

 

 

 

 

「もしかして……

 

自分に自信が持てなくなったとか?」

 

 

 

 

 

 

まさに図星だ……

 

もう仕方ない、ここまで来たら話そう。

 

そう割り切った大樹は溜め息混じりの声で「そうだよ」と答えると共にどうしてなのか詳細を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

「3年に市ヶ谷っていう奴いるだろ?

 

 

アイツ、俺と小学校以来の腐れ縁なんだけどさ……

 

 

この頃、アイツとの差が激しすぎて嫌になってたんだ」

 

 

 

 

 

 

「差というと……?」

 

 

 

 

 

 

「強襲科時代のお前みたいに何でも出来るし、

 

後輩からはよく慕われてる。

 

好きなものに熱心なところとかもなんかも端から見てればカッコイイ生き方に見える。

 

 

 

 

……羨ましいんだよ、性格から何まで。

 

 

まるで、漫画のヒーローみたいで」

 

 

 

 

 

 

その言葉を聞いた時に未だ戸惑いを隠すことが出来ないキンジ。

 

が、「えっと……」と小さく呟いてちょっとした汗を流しつつもそれについての答えを出した。

 

 

 

 

 

 

「よく分からないっすけど……

 

その人はその人で色々抱えてると思いますよ。

 

先輩みたいに」

 

 

 

 

 

 

そう言いながらもクリアファイルから資料を取り出して中身を確認するキンジ。

 

 

その時、「キンちゃん!!」というオクターブが高めの声と共に屋上に上がる扉がバンッと開いて清楚な感じの女子が入ってきた。

 

 

生徒会長の星伽白雪だ。

 

 

 

 

 

 

「キンちゃん、お昼一緒に食べよ!!」

 

 

 

 

 

 

「あ、あぁ……」

 

 

 

 

 

 

その誘いに苦笑いしつつも「ありがとうございました」と言い残して白雪と共に立ち去るキンジ。

 

 

 

その光景を見て"彼も博也に似たような分類だった"と再認識してしまう。

 

 

聞く相手を間違えたかもしれないと思いそうになるが、彼の言葉を振り替えってみるとそうでもないような気もする。

 

 

 

 

 

幼い時に妹を亡くし、好きなものに金を掛けているがその対価として貧乏な生活を強いられている……

 

 

 

こうして見ると彼も彼で苦労人だ。

 

 

 

 

 

 

「俺だけが辛いってわけじゃないんだな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-数日後、夜

 

 

 

すっかり日が沈んでしまった頃

 

 

 

いつもと違うことをして自分自身にいい刺激を与えようと考えた大樹。

 

博也と同じように86に手を加えれば何かしらの変化があるかもしれない……

 

 

その思いからこの前のように推理しようと校舎内にこもらず、車輌科の広い作業スペースに86を停め、ボンネットを開けながらも赤いツナギ姿である作業を進めていく。

 

 

 

エンジンの吸気フィルター……

 

通称、エアクリーナーと呼ばれるこのパーツをボックス形状の純正品からキノコ型の社外品に取り替える作業。

 

取り替えることによってより効率よく吸気を行うことができ、エンジン高回転域の動きが良くなるというチューニングだ。

 

 

 

額から汗を流しながらもエンジンルーム内に手を伸ばし、カチカチッと取り付ける。

 

 

 

取り付けが終わったところで漏れがないかのチェックを行う為にエンジンを掛けた……

 

ブォゥン!とエンジンが始動したところで空吹かしを始める。

 

 

 

よく聞くといつものエンジン音と連動するようにクォーン!!という吸気音が聞こえる。

 

 

 

 

どうやら、成功のようだ。

 

 

 

 

「よし……」と小さく呟きながらもエンジンを切っては助手席側から何かを手に取っては開封する大樹。

 

 

Defi製のデジタルメーター……

 

 

博也がZに取り付けているものと同じもの。

 

 

 

次にこれを取り付けるようだ。

 

 

 

取り付け位置を純正メーターの右上辺りに決めたところでエンジンルーム内の配管類を辿るように取り付け作業に掛かる。

 

 

 

センサー類と電源の接続後に配管を触った時に抜けた分のオイル類や冷却液を補充。

 

 

 

そして、再びエンジンを掛ける……

 

ピピピッという起動音が響き渡ると共にメーターが始動。

 

油温、油圧、水温、タコメーター、車速が表示された。

 

 

 

 

 

 

「終わっったぁーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

両手をクイッと伸ばして心地良さそうに軽くストレッチ。

 

 

携帯の時計で時間を確認……

 

 

 

開始からかなりの時間が過ぎていた。

 

 

 

 

先程までは感じていなくなった空腹感が一気に襲い掛かり、周囲にグゥゥ……という腹が鳴る音が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

「飯でも行くか」

 

 

 

 

 

 

そう小さく呟くと共に更衣室でツナギから制服に着替えて86に乗り込もうとドアノブに手を伸ばした時、補習で残っていたと思われる1年生の女子達がワーワーと騒ぎながらも後ろを通り掛かった。

 

 

 

 

 

 

「-4対4戦(カルテット)どうだった?」

 

 

 

 

 

 

「-勝ったよ、私達のチーム!!」

 

 

 

 

 

 

そんな会話が聞こえてくる。

 

4対4戦(カルテット)が終わったという言葉が気になって携帯を手に取り、SNSアプリで履歴を確認すると博也の書き込みを見付ける。

 

 

 

 

"祝、間宮班勝利!!"

 

 

 

という垂れ幕の前で額にガーゼのようなものをつけながらも右手でピースする間宮あかり写真が掲載されていた。

 

 

 

 

 

 

「(勝ったんだな、アイツら)」

 

 

 

 

 

 

そんなことを思いながらも86に乗り込んでは作業スペースから出ていく。

 

 

 

いつもと違うフィーリングに舞い上がってしまいそうだ。

 

 

 

実際のところ、馬力の向上具合としては全体の3%プラスと言ったところだろう。

 

 

86の馬力はメーカー公表で200馬力だが、実際の馬力は180馬力あれば良いという感じ。

 

 

そう、実際に上がった馬力は5馬力前後ぐらいなのだ。

 

 

 

でも……重要なのは馬力ではない。

 

 

 

 

 

 

エンジン高回転域での鋭いフィーリング

 

 

そして、

 

アクセルを開けると耳に飛び込んでくるサウンド感……

 

 

 

 

今回の改造で重要なのはこの二つだろう。

 

 

 

 

実際には大して速くなったわけではない。

 

 

 

だが、

 

 

 

"アクセルを踏み切る"……

 

 

 

 

その勇気をドライバーに与えてくれるような車に仕上がったことは間違いない。

 

 

 

 

86をゆっくりと走らせて校内から出ていく大樹。

 

 

 

 

 

 

……いつの間にか満たされたような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-同時刻 とあるビルの最上階

 

 

 

最高級のホテルのようなきらびやかな廊下。

 

セレブが歩くのが似合うようなこの廊下を颯爽と歩く一人の女子武偵生。

 

高飛車そうな雰囲気の目付きと貴賓がある金髪のロングヘアー……

 

 

制服も通常のものとは違い、所々に大人びた改造が施されている。

 

 

 

高千穂麗……

 

 

武偵高1年生。

 

父親は武装弁護士で武偵高では志乃と同等の金持ちだ。

 

 

 

コツコツ……と靴の音が静かな廊下に響き渡る中、彼女は奥にある大広間に入った。

 

 

 

東京の夜景が一望出来る大きな窓をバックに社長席のような椅子に座る一人の中年の男。

 

 

麗が入ると共に立ち上がっては「お待ちしておりました」と年下の彼女に対して深々と頭を下げて歓迎した。

 

 

 

 

 

 

「言われた通りに一人で参りましたわ。

 

それで……お話しというのは?」

 

 

 

 

 

 

「私への資金提供をして頂けるよう……

 

お父様に説得することは出来ませんか?」

 

 

 

 

 

 

男の言葉に今にも溜め息をつきそうな表情を浮かべる麗。

 

扇を手にとり、口元を隠すようにしながらも男に対して見下すような目を向ける。

 

 

 

 

 

 

「わたくしには関係ありませんわ。

 

お父様と直接掛け合いなさっては?」

 

 

 

 

 

 

その回答と共に今にも飛び掛かりそうに歯ぎしりする男。

 

 

「まあ、いいでしょう」と答えると共に席に戻ると、近くのエレベーターの音らしきチーンという音が廊下から聞こえてからバタバタ!!という足音が聞こえて来た。

 

 

 

違和感を感じて足のホルスターに納めていたレッドホークをチャキッと手にとって振り向こうとした時、

 

武装した黒服の集団が扉を突き破るようにして入ってきた。

 

 

 

 

 

 

「生け捕りにしろ」

 

 

 

 

 

男の指示と共に一人の黒服が銃口を向けながらも麗に近付こうとスッ……と動き出す。

 

 

が、ある程度近付いたところで扇でバチッと銃口を逸らされた上に格闘戦で逆に捕らえられて盾のようにされてしまった。

 

 

 

 

 

 

「わたくしの実力、

 

甘く見ない方がよろしいですこと」

 

 

 

 

 

 

そう言いながらも黒服の集団に向けてレッドホークの銃口を向ける麗。

 

 

男はフッと嘲笑うようにしながらも席から立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

「4対4戦(カルテット)で格下相手に負けた犬が何を吠えてるのやら……

 

 

いい気になれるのも今のうちだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-数十分後、とある下道

 

 

ファミレスで食事を済ませた後に行く宛てもなく、ゆったりと86を走らせる大樹。

 

 

 

時折、走行中に新しく取り付けたデジタルメーターを確認して調子を確認……

 

 

 

何の不具合もない。

 

 

 

実に静かな時間が過ぎていく。

 

 

そんなゆったりとした時間を味わってる中、携帯が突然ピロピロピロ!と鳴り響いた。

 

 

 

 

 

「なんだよ……」

 

 

 

 

 

 

信号待ちで停まった時に仕方なしに携帯を確認……

 

 

武偵高の周知メールだった。

 

 

1年生からの救援要請で救難信号が発信されている場所と救援後の安全地帯(セーフティーポイント)が表示されている。

 

 

 

……救難信号の位置はここからかなり近い。

 

 

助けれるものなら助けてあげたい。

 

 

 

だが、行動出来るのは原則"強襲科か狙撃科"の2年生以上のみと書かれてある。

 

 

現役で探偵科の自分はここには当てはまらない……

 

 

 

 

けど、だからと言って見捨てるわけにはいかない……!

 

 

 

 

信号が青になると共にキィィィ!!と後輪をホイールスピンさせながらも発車。

 

 

周辺に敵がいる可能性もある為、回転灯は取り付けない。

 

 

 

 

ブォゥゥゥゥン!!とエンジン音を轟かせながらも闇夜を疾走する86。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-その音が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心を奮い起たせる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奮い起たったその心から

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと芽生えた小さな勇気が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな勇気へと変わっていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……最早、大樹の目に迷いはない。

 

 

以前の彼からは想像が出来ないような真っ直ぐとした表情だ。

 

 

 

 

 

 

「(博也……俺、アンタことが羨ましかったよ。

 

 

 

何でも出来る天才的な素質を持ってる上、馬鹿みたいに好きなことに熱心で……

 

 

 

それにかなりの後輩思い。

 

 

それで後輩は……

 

 

アンタのことを"ヒーロー"なんて思ってるだろうな。

 

 

お前は何時だってヒーローみてえなもんだ。

 

 

 

 

でもさーーッ!!)」

 

 

 

 

 

 

 

爆発しそうな感情に合わせるようにシフトノブを握り、シフトアップ。

 

フォン!という音が響き渡ると共に86は更に加速していく。

 

 

 

 

強くアクセルを踏み込みながらも交差点が見えてきた時に勢い良くブレーキング。

 

 

 

フォゥン!フォゥン!!とシフトダウンして行くと共にステアリングを勢い良く左に切る。

 

 

 

 

 

 

 

「(今日ぐらい……

 

 

俺がヒーローになってもいいだろ?)」

 

 

 

 

 

 

キィィィ!!とタイヤがスライドしてドリフト開始。

 

 

 

そのまま交差点を左に曲がって抜けると共にステアリングで微調整してドリフトを中断。

 

 

86は再び加速し、そのまま目的地に向けて駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-とある小さな公園

 

 

普段は閑静な公園だが、今日ばかりは騒がしかった。

 

 

タッタッタッ!と足音をたてながらもあちこちを駆け回る黒服姿の怪しげな集団。

 

 

そんな集団の目を逸らそうと麗は木に背を向けるようにして隠れていた。

 

体力を使い果たしたように小さく口を開けている状態。

 

防弾制服の右腕と左脇腹には拳銃弾の命中跡が残っている。

 

 

 

レッドホークの残弾は僅か3発……

 

 

 

状況からすれば無駄な戦いは避けなければならない。

 

 

 

今は息を押し殺し、立ち去ってくれることを願い続ける……

 

 

 

 

そのまましばらく待ち続けると足音が消えると共に「ふぅ……」と小さく息をつく麗。

 

 

ふと力が抜けたその瞬間に右足に電撃のような傷みが走り、「っ……!」と言葉にならない声を出してしまった。

 

右足の脛が赤く腫れ上がっている……

 

 

逃げている最中に負傷したのだ。

 

 

 

 

 

 

「っ……

 

わたくしっ……

 

ともあろう……ことが……っ!」

 

 

 

 

 

 

あまりの疲労感と体に受けたダメージからか、木にズルズルと背中を擦らせるようにして座り込む……

 

 

 

 

目の前の視界が霞んで見えてくる中、ブォゥン!という車のエンジン音が耳に飛び込んできた。

 

近付くと共に急に音が小さくなる。

 

 

バンッ!と勢い良くドアを閉める音が響いてきた後にタッタッ!!と駆け寄ってくる。

 

 

 

 

駆け寄ってきた人物は武偵高の男子制服を着ていた……

 

 

どんな顔をしているかは視界が霞み過ぎて分からない。

 

 

 

 

 

 

「-おい、大丈夫か!?

 

しっかりしろっ!!」

 

 

 

 

 

 

心配するように呼び掛けながらも体を揺すってくる男子生徒。

 

 

 

 

ああ、助かった……

 

 

 

 

その安堵と共に麗は気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-86車内

 

 

 

気を失ってしまった麗を抱えながらも戻ると助手席に座らせる大樹。

 

 

シートベルトをしっかりと締めさせた後に運転席に回り込んで再び発車。

 

 

 

ブォゥン……!と周囲にエンジン音を轟かせながらも走らせて大通りに出ると共にバックミラーを確認……

 

3台の黒塗りのセダンが横に並ぶようにして追い上げてきたのが分かった。

 

 

 

BMWの320iだ。

 

 

 

 

 

 

「くそっ、追手か……!!」

 

 

 

 

 

 

「-目標の車輌を視認した。

 

全車、行動開始。

 

 

必要なのは高千穂麗の身柄だけだ……

 

 

それ以外は殺しても構わない」

 

 

 

 

 

 

 

代表らしき男の言葉を聞くと共に86に近付こうと更に速度を上げてくる320i群、

 

 

それに負けじとアクセルを踏み込んで86を更に加速させる大樹……

 

 

 

 

 

 

 

 

既に静まり返った夜の東京で

 

 

-再びカーチェイスが始まろうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









どーも、350Zです。



今回から大樹編スタートです!



この小説、実はダブル主人公なんです。はい←



にしても……

こういう平凡なキャラを主人公にするのは初めてなので結構苦戦しました。



どう書けばカッコよくなるんだろう?



という疑問を抱きながらも



夜も寝ずに昼寝して書きました←(寝てるじゃねえか)




で、こんな感じに仕上がったわけです……


いかがでしたか?


正直、メチャクチャ不安です←

(キンジの口調は年上に対してあんな感じで良かったのか?ってのも不安です←)




えと、それから……


大樹編でのヒロインは流れから察することが出来ると思いますが、高千穂です。



何故、高千穂……?


と疑問に思われる方も多いと思います。



ズバリお応えしましょう!


それは……



単純に皆がやっていないから←




自分、

ちょくちょく他の緋弾AA作品も読まさせて頂いているのですが……



ヒロインは大抵、ライカなんですよね。
(あかりがヒロインの作品もちらほらあります)


他のクリエイターがあまりやらないことをしよう……!



その思いから、大樹編のヒロインはまた別のキャラにすることに……





志乃ちゃん。

あの状態からだと恋愛に持ってくの難しそう←

却下!





麒麟。

個人的にちょっと……ねえ。


却下!








そして、高千穂!


……あれ、行けるんでね?

初期の頃はあかりちゃん大好きって感じじゃなかったし。

時々見せるデレ加減とか地味に好きよ、うん←




というわけで、ヒロインは高千穂に決定しました!


めでたしめでたしー














……さて、余談が長くなってしまいましたが


前回の続き、今回は首都高巡りについて語りたいと思います。




まずはC1!

道幅も狭いし、車線規制がナゲェな!おい!!



聞いた話によると深夜になるとこのような車線規制が掛かるんだとか……


ただでさえ狭いところを規制するって……

走らせにくいんすけど!?



まあ、それが目的なんだろうけどね……




さて、次に行くのは湾岸線エリア。



うひゃー、車線多いし広いなァー!!ここ!!



しかも、メチャクチャ長い……


日本有数の公道最高速エリアと私の小説で取り上げただけのことはありますわ←←





では、翌日。

次に回ったのは東京湾アクアライン。


ここも湾岸線エリアの一部見たいな感じかな?

同じように車線も多いし、広いし長い……


本当にずっと直線。



……そう言えば、

ここの開通式で馬鹿やってたチューナーがいたような。



高速道路なのに急に停まってバーンアウト。

バーンアウトは直線の加速を競うドラッグレースでタイヤを温める為に駆動輪をわざと空転させるというもの。

空転と言っても路面とは接触している為、その摩擦によって煙がモクモクあがるわけですよ……

それで、もう後ろから見て前が見えなくなるまで煙を上げてから加速を始めるという。


勿論、バーンアウト時に接触していた路面はタイヤの跡でまっくろクロスケ!!



皆さん、絶対真似しないで下さいね!?



こんなのやっちゃいけませんからね!!?




……と言いつつも、

私も最初にみた時は腹抱えてゲラゲラ笑ってましたが←



だって、やってることが馬鹿すぎるんだもん!!←←





まあ、そんなアクアラインの中間にあるのが……


1話で登場した海ほたるPAです。



いや、ここ……PAじゃないわ。

立派な施設ですわ。


作中にも書いた通りにアミューズメントコーナーあり、レストランあり、更には足湯まであると……



更にレストランの中には寿司屋?っぽいのも……!



おいおい、正気ですか……?



と思いつつも作中の気分を味わおうと夜景をみることに……




いやー、綺麗でしたわ


なんか、あかりちゃんが喜んでたのもわかります←


人工的だけど幻想的……

そんな言葉が似合うと思います。



晩飯を兼ねて博也と同じようにかけうどんを食べようとしましたが、施設内にはありませんでした……



ちょっと離れたところに立ち食い蕎麦の店があったので、そこでかけそばなら食べられるかも……?



と思いながらもアサリの塩ラーメンとアサリご飯のセットを食べました。



飯を食べた後は3時間ほどZ車内で仮眠。


起きてからは再び片道5時間かけて帰りました……



が、帰った後にあ……!?と思い出したことが。



大黒PA行くの忘れた……!!


横羽線、八重洲エリア走ってねえ……!!




チキショー!!




次に行った時は絶対に忘れない……!



そう心に誓う350Zなのでしたー


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第二話 シークレット・ラブ








持って生まれた性格ってやっぱ変わらないと思うし





また変わらなくてもそれでいいんじゃないかって






いいトコはとこなくネガな悪癖とかは





変えていきたいと思う









でも





結局大事なトコも消えていきそうなそんな気がして……





わかっていればそれはもう










-悪癖じゃないだろうって










 

 

 

 

 

 

 

 

 

-夜の東京

 

 

 

 

辺りが既に静まり返っている中、ブォゥゥゥゥン!ウォォォン!!とエンジンの轟音を上げながら疾走する86と320i……

 

 

 

 

直線での加速勝負は86が圧倒していた。

 

 

 

 

車重の軽さからだろう。

 

 

流石はスポーツカーと言ったところだ。

 

 

 

 

 

 

「(頼む、このまま上手く行ってくれよ……!)」

 

 

 

 

 

 

そう強く願いながらも次の交差点に差し掛かった際にブレーキングを行ってからシフトノブを握り、フォゥン!フォゥン!!と叩き込むようにシフトダウン。

 

サイドブレーキをガッ!と上げて車体が安定性が崩れたところでステアリングを勢いよく大きく右に切っては直ぐに整える……

 

 

キィィィ!!とタイヤを滑らせてドリフトによるUターンを決めた。

 

 

 

 

320iの一群もついていこうとUターンを行う……

 

だが、車体大きさや重さ、足周りの関係から86との差は更に広まってしまった。

 

 

それでも……安心する暇はない。

 

 

 

 

助手席に乗っていた仲間らしき黒服の男が拳銃を手に取り、身を乗り出して86に狙いを定める。

 

 

そして、パンッ!パァンッ!と発砲を始めた。

 

 

乾いた発砲音と共に放たれた弾丸を左右に揺れるように回避する。

 

回避を終えた後に一番左の車線に移り、ブレーキングを行って減速してから左折。

 

車1台が通れるぐらいの小路に入った。

 

 

 

 

 

 

「-くそっ!!」

 

 

 

 

 

 

ほぼ横一列に並んでいた320i群は対応が遅れてしまった。

 

 

キィィィ!とタイヤを鳴らしながらもブレーキングを行ってから急いで態勢を整えて縦に並ぶように小路に入る。

 

 

先程までの距離が更に開いたことを確認する大樹……

 

 

が、道幅が狭いため先程のような回避運動は出来ない。

 

 

 

ここで彼は運転席側のウィンドウを開けるとともに右手であるものを手にする……

 

 

閃光弾だ。

 

 

 

ステアリング操作は左手で行いながらも右手に握っていた閃光弾の安全ピンを歯で噛むように抜き取った。

 

 

 

 

 

 

「コイツは眩しいぞ……食らいなッ!!」

 

 

 

 

 

 

ピンが抜けた閃光弾をポイッと外に投げ捨てる。

 

 

カン…カン……と跳ねていき、先頭の320iの目の前でピシャンッ!!と眩い光を放ち始めた。

 

 

光を真っ向に見てしまい「うあっ!?」と驚きの声を上げながらも目を押さえて勢い良くブレーキペダルを踏み込むドライバー。

 

 

突然のブレーキングに後方の車輌も対応出来ず、ドスッ!と先頭車輌の後部(リア)に衝突。

 

最後尾の車輌も同じようにドスッ!と勢い良く衝突し、玉突き事故の状態になった。

 

 

 

先頭の車輌は後続からの追突の衝撃によって車体の前部(フロント)が暴れて斜めになった挙げ句、壁と激突。

 

 

……もう動けない。

 

 

先頭車輌のドライバーは走り去っていく86の姿を見ながらも無線を手にした。

 

 

 

 

 

 

「-B02地点で行動不能になった!

 

目標は現在も逃走中!

 

A02地点、B01地点のどちらかに向かうと思われる……!

 

付近で待機中の車輌は目標の追跡を!!」

 

 

 

 

 

 

 

ドライバーが仲間に呼び掛ける中、引き続き運転を続ける大樹。

 

ふと麗のことが気になり、チラッとそちらに目を向ける……

 

 

まだ気を失ってはいるようだ。

 

 

が、それ以上に気になることが一つある。

 

 

 

 

 

 

「(こうして見ると……かなりの美人だよな。

 

学年が俺の二つ下とは思えない)」

 

 

 

 

 

 

その綺麗で妖艶な容姿にすっかりと見惚れてしまう大樹。

 

ふと、先程までのシチュエーションを振り返るとまるでドラマか映画のようだと思ってしまう……

 

 

端から見れば今の自分は本当にヒーローのように見えるかもしれない。

 

 

 

そういう思いに浸っていたが、携帯がピロピロピロ!!と急に鳴り始めてふと我に返った。

 

 

 

メールではなく電話だった為、カーナビのブルートゥースと連動……ナビを見て相手を確認する。

 

 

 

博也からだ。

 

 

ナビを操作して電話に応じた。

 

 

 

 

 

 

「はいはい」

 

 

 

 

 

 

「-大樹か?

 

お前、結構ヤバい救援依頼受けたらしいな」

 

 

 

 

 

 

「どうして知ってるんだ?」

 

 

 

 

 

 

「-情報科の奴から聞いたんだ。

 

お前の携帯の信号(シグナル)が真っ先に現場に着いたって……

 

で、要請していた一年はどうだ?

 

無事か?」

 

 

 

 

 

 

安否を問われてもう一度麗の方に目を向ける大樹。

 

 

本当に美人だ。

 

 

博也と通話していることを忘れてついつい見入ってしまう……

 

 

 

 

 

 

「-おーい、もしもーし。

 

聞ーこーえーてーるー?」

 

 

 

 

 

 

その確認の声でハッ!と再び我に返る大樹。

 

気を取り直すように「オフンオフン!!」とわざとらしく咳き込んでから「あ、あぁ!」と答えて見せる。

 

 

 

 

 

 

「今のところはな……

 

でも、安心出来ない」

 

 

 

 

 

そう答えながらも小路を抜けて大通りに出る86。

 

その一声を聞いて博也の方も「そうか」と少し安心するように呟いた。

 

 

 

 

 

 

「-無事で何よりだ。

 

前、一緒に飯食った店あるだろ?

 

危なかったらそこの前に来い。援護してやるよ」

 

 

 

 

 

 

何とも頼もしい一言だ。

 

これは絶対に逃げ切れるという核心を得ながらも「ああ」と笑みを溢しながらも答えた。

 

 

 

 

 

 

「サンキュー、ヤバくなったら行っ……!!」

 

 

 

 

 

 

行くと答えようとしたその時だ。

 

ガンッ!!という音が後ろから聞こえると共に車体が大きく揺れ始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

「うぉっ!?」

 

 

 

 

 

 

突然のことに驚きながらもバックミラーで後方を確認する……

 

青塗装の320iがピッタリと張り付いていた。

 

 

どうやら、話している間に後ろから押してきたようだ。

 

 

 

 

 

 

「-おい、どうした!?

 

何があっ……!!」

 

 

 

 

 

 

通話している暇ではないとピッと通話を切り、再び逃走態勢に入る。

 

 

アクセルはベタ踏み。

 

レッドゾーンまでしっかりとエンジンを回してフォン!とシフトアップ。

 

 

……が、先程の320iとは違ってしっかりと食らい付いてきた。

 

 

 

 

 

 

「(っ、コイツ…!

 

320iじゃない……!?6気筒モデルか!!?)」

 

 

 

 

 

 

最初に追跡してきた320iはBMWで総称して3シリーズという括りに入っている。

 

その中には低排気量でエンジンがローパワーの直列4気筒エンジンモデルと高排気量でエンジンがハイパワーの直列6気筒エンジンモデルがある(E90型)。

 

前者は318iや320i。

 

後者は323iや325i、330i、335iだ。

 

どれも3シリーズという括りの車の為、見た目に大きな違いはない。

 

 

今追って来ているのは恐らく、後者の6気筒モデル……

 

加速の仕方からその中でもパワーがある部類に入る330iと思われる。

 

 

 

 

 

 

「ちっ、やられて……たまるかよ!!」

 

 

 

 

 

 

次の交差点に差し掛かる前にブレーキングを行うと共にシフトダウン。

 

フォゥン!フォゥン!!と響かせながらも勢い良く右に曲がる。

 

 

330iも曲がるが、ここでは重い車重が足枷になる。

 

コーナリングで確実に差をつけた。

 

 

 

少し安堵する大樹だったが、その安堵もバックミラーを確認してあっという間に消えた。

 

 

 

330iの立ち上がりの加速だ。

 

ウォォォン!!という轟音を上げながらも先程のコーナリングで開いた差を一気に縮めてきた。

 

 

……BMWの直列6気筒エンジンの恐ろしいところはハイパワーなだけではなく、絹のように滑らかな加速性能の高さにもある。

 

この事から"シルキーシックス"とも呼ばれている。

 

 

 

相手と自分の車の性能を感じる大樹……

 

 

 

 

……逃げたい、出来ることなら。

 

 

 

 

 

 

そう弱気になってアクセルペダルを緩めてしまいそうになる……が、

 

 

 

86の心臓部である水平対抗エンジンの音が鮮明に彼の耳飛び込んできた。

 

 

その高鳴り具合は車の方から自分に語り掛けてるように聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-もっと踏め!

 

 

 

 

もっとだ!死ぬ気で踏み込め!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう語り掛けてるように聞こえる。

 

 

 

 

 

 

……そうだ。

 

 

 

 

自分がここで全てを投げ出せば助手席に乗っている彼女はどうなるか分からない。

 

 

必ず助ける、ヒーローになると誓って来たのにそんなダサい結末はない。

 

 

……彼の目付きが再び変わった。

 

 

 

 

 

 

 

「(性能の差はかなりある……

 

でも、だからと言って逃げていいわけじゃない……!

 

 

最後の最後まで、諦めない……!!

 

 

 

 

 

 

 

待ってろよ……

 

 

 

 

 

 

 

絶対助けてやっからなァーーッ!!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

330iが追い付こうとする中、迷いもなくアクセルを踏み込む大樹。

 

 

右の後ろからガンッ!!と押してきた。

 

 

 

車体の態勢が崩れそうになったが、しっかりとステアリングを握って操作して難を逃れる。

 

 

運転だけでも精一杯の中、少しでも時間を稼ごうと腰のホルスターから自分の愛銃であるPPKSを右手でチャキッと抜き取る。

 

ウィンドウを開けてから応戦。

 

 

当たるかどうかも分からず、右手を外に出すと共に右後ろにいた330iに向けて発砲。

 

 

パァンッ!パァンッ!!と乾いた銃声が鳴り響くと共に330iが車間を開けてきた。

 

 

 

 

 

 

「(よし、行ける……!

 

 

次の交差点は……左だっ!!)」

 

 

 

 

 

 

交差点に入る手前でブレーキング。

 

フォゥン!フォゥン!!とシフトダウンしつつも速めのスピードで飛び込む。

 

 

若干、後輪がキキキッと滑るが上手く左に抜けれた。

 

右手にお台場海浜公園が見えるロングストレートに差し掛かった。

 

 

 

330iとの差は再び開いたが、また立ち上がりの加速で詰めてくる。

 

 

ドライバーは拳銃を手にした手を外に出して此方に向けている……

 

 

 

 

普通なら絶望的だと思うが、大樹は"あるもの"を見て安堵したような表情を浮かべていた。

 

 

……学生に安いことで人気の定食屋の看板だ。

 

前に彼が博也と共に夕食を食べた場所でもある。

 

 

 

 

 

 

「頼んだぞ、真打ちッ!!」

 

 

 

 

 

 

車内でそう叫ぶと、先にある屋外階段の躍り場でAUG HBARをスコープを覗くようにして構えていた博也がカチッと引き金に指を掛けた。

 

 

 

バァンッ!バァンッ!!バァンッ!!というアサルトライフルらしい重い銃声が何回も響き渡り、弾丸が放たれる。

 

 

弾丸は330iの強化されていたフロントガラスを突き破ると共にドライバーの左右の腕に命中。

 

 

痛みからステアリングから手を離してしまった間に更に車体の足周りにも弾丸が撃ち込まれていく。

 

 

 

キィィィ!!と悲鳴のような音を上げながらもスピンしては歩道のガードレールに頭から突っ込むようにしてドンッ!と停車。

 

 

運転しながらもバックミラーでそれを確認してホッと一息つく大樹。

 

再び前に集中しようとした時に屋外階段の躍り場で銃口を下ろす博也の姿が目に入った。

 

 

よく見ると右手の親指を立てて見せている……

 

 

頑張れということだろうか?

 

 

とりあえず、大樹もウィンドウを下げて軽く手を挙げるようにしてそれに応えた。

 

 

 

 

再び86を走らせていくと、何とか安全地帯に辿り着いた。

 

先程までの緊張が解れると共に「ふぅ……」と小さく息をつく。

 

そんな中、再び携帯と連動してカーナビのブルートゥースが反応を見せる。

 

 

 

……見たことない番号だ。

 

 

とりあえず、救援の関連だと思い通話に恐る恐る応じてみる。

 

 

 

 

 

 

「はい、原田です」

 

 

 

 

 

 

「-き、聞こえますか!?

 

高千穂弁護士法人の事務の者ですっ!!

 

 

麗お嬢様は御無事ですか!?」

 

 

 

 

 

 

高千穂弁護士法人……

 

武装弁護士の高千穂一族を中心にして動く弁護士集団。

 

 

 

 

それは分かっていたが、後に出てきた"麗お嬢様"という言葉に誰のことだ?と言わないばかりに首を傾げる大樹。

 

 

「えっと……?」と問い掛けようとした時、痺れを切らした事務が「ーあぁぁああぁぁ!!」と受話器の向こう側で頭をクシャクシャしていそうに叫びながらも先に答えた。

 

 

 

 

 

 

「-お嬢様は貴方が助けた高千穂様の娘……

 

 

つまり、我々弁護士団のボスの娘ですっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

突然の言葉に「へ……?」とポカーンと口を開けて驚く大樹。

 

ここでようやく、麗がお金持ちの家のお嬢様だと理解した。

 

 

信じられないと言わないばかりに信号待ちで車を停車させながらも右手で頭を押さえながらも「無事です……」と小声で答える。

 

すると、事務は「-よかった!!」と受話器の向こうで跳び跳ねるように喜ぶ姿が見えるような声を上げてから次の指示を大樹に出してきた。

 

 

 

 

 

 

「-では、高千穂ビルディングまでお越し下さい!

 

待っております!!」

 

 

 

 

 

 

そう言い残しては通話をブチッと切る事務。

 

通話が切れると共に再び麗の方に目を向ける大樹……

 

 

彼女がもっと普通の子なら友達ぐらいにはなりたいと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

……だが、自分と生きる世界が違い過ぎる。

 

 

 

 

 

 

 

ただの一般人に過ぎない自分とは釣り合うわけがない。

 

 

 

 

 

そして、その思いが最後にある答えを導き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今後、彼女との繋がりは持たないようにしよう』というものだ。

 

 

 

 

 

 

 

哀しくあるが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが互いに幸せに過ごす一番の手段だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

込み上げてくる気持ちを抑えながらも信号が変わったのを確認すると共に再び車を走らせる。

 

 

しばらくすると、予定通りに高千穂ビルディングの前に着いた。

 

 

超が付くほどの高級マンションだ。

 

 

……ここに来るのも最初で最後だろう。

 

 

そう思いながらもハザードランプをつけ、路肩に停車。

 

 

 

 

パタッとドアを開けて車から降りると86の車体後部が傷まみれになっているのが見えた……

 

 

 

 

先程の330iにやられた傷だろう。

 

 

 

傷跡に静かに歩み寄ると共に優しく触れる大樹……

 

 

 

 

 

 

「ごめんな、86……

 

 

痛かったろ……?」

 

 

 

 

 

 

今まで何も感情を抱いていないと思っていた車に対してそんな言葉を投げ掛ける。

 

 

先程の哀しみ上に更に哀しみが重なる……

 

 

 

この時、ようやく気付いた。

 

 

 

 

 

知らないうちに愛着が湧いていたのだと。

 

 

 

 

重なり合う哀しみを抑えながらも傷跡から離れ、助手席側のドアを開けて麗を抱えるようにして下ろす。

 

 

その時、ふと彼女の右足の脛が赤く腫れているのに気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

「(……最後ぐらい、いいよな?)」

 

 

 

 

 

 

 

心の中で自分にそう問い掛けながらも近所のコンビニに向かい、氷った保冷剤を購入。

 

 

助手席で気を失っている麗の下へと戻り、保冷剤を腫れた部分に当てるようにしてから持っていた青いハンカチをビリビリと破って巻き付ける。

 

 

……応急処置が終了。

 

 

後部席に積んでいたベージュの毛布で彼女の体を包むようにする。

 

 

そして、整ったところで抱えるようにして車から下ろす。

 

 

この時、毛布を巻いているということから抱える姿勢がお姫様抱っこのようになってしまったが……

 

仕方がない。

 

 

連れてきたことを伝えようとインターホンを鳴らすと、先程の事務員が応答してきた。

 

顔を見られないように下を向きながらも麗を連れてきたことを知らせると共に自分のことは麗には伏せるようにと伝える。

 

 

そして、対応してくれると分かったところで入り口の壁を背にするように麗をソッと置いて86に戻った。

 

 

少し離れたところで毛布に包まれた彼女を確認……

 

 

最後まで見届ける。

 

 

 

 

しばらくすると、変なヘッドフォンをつけた双子らしき二人と先程の通話相手の事務らしき女性が出てきた。

 

 

 

 

もう、大丈夫だろう……あとは去るだけだ。

 

 

 

再びブォゥン……音を上げながらも走り始める傷だらけの86。

 

 

 

ふと空を見上げると……

 

 

朝が近付いているのか、明るくなり始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-朝 武偵高

 

 

傷だらけの86を速くて仕上がりの良いことで知られてる車輌科と装備科(アルムド)共同の板金屋に出す大樹。

 

 

幸いにも車の骨格とも言えるフレームはやられてなかった。

 

 

とは言え、この板金屋の技術を持ってしても1週間程は戻って来ない。

 

これでも普通の板金屋と比べたら異常な早さである。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、先輩。

 

これが代車のカギです」

 

 

 

 

 

 

 

「おう、悪いな」

 

 

 

 

 

 

車輌科の後輩からカギを受け取り、作業場の横に停まっていた代車の方へと歩み寄る。

 

代車は初代ヴィッツの排気量が1リッターの一番低いグレード……

 

カラーリングはジジクサイ感じのシルバーだ。

 

外装から内装までかなり年季が入っているのを見て、思わずフッと鼻で笑ってしまう。

 

 

 

 

 

 

「(しばらくの間は……このしょっぱい車か)」

 

 

 

 

 

 

カギをカチャッと開けてから乗り込む……

 

 

ホールド性もヘッタクレもないような緊張感のないボロボロのシート、握ると違和感を感じる変に太い純正ステアリング、トランスミッションはマニュアルでもミッションモード付きオートマでもない普通のオートマ。

 

 

……本当に足にしか使えないような装備に溜め息をついてしまいそうだ。

 

 

 

試しにエンジンを掛けてみる。

 

ガガガッとセルモーターを回すとヴェヴェッヴェヴェヴェ……と高揚感も何も感じない古い感じサウンドが耳に飛び込んでくる。

 

 

……1リッター直列3気筒エンジンのサウンドが86の2リッター水平対抗4気筒エンジンのサウンドに勝てるわけがない。

 

 

 

そう思いながらもブレーキを踏み込みながらシフトノブを手にDレンジに入れてゆっくりと走らせる……

 

 

登校時間にはまだ余裕がある為、慣らし運転も兼ねて校外に出てみる。

 

 

アクセルを踏んでも大した加速をしない。

 

 

"ドンガメ"という言葉がお似合いの加速だ。

 

 

 

 

 

 

「(走らないなー……

 

原付の方が速いんじゃないか?)」

 

 

 

 

 

 

そう思いながらも武偵高のまわりを走っていく……

 

 

 

が、その時にあるものを見てしまった。

 

 

 

高飛車そうな雰囲気の目付きと貴賓がある金髪のロングヘアーの女子武偵生……

 

 

通常制服とは違い、所々に大人びた改造が施されている。

 

 

 

早朝に助けた高千穂麗だ。

 

 

左右にヘッドフォンをつけた双子らしき二人をつけて歩いて何か話している。

 

 

 

……気になるところではあるが、目を合わせては行けないと前に視線を向けながらも横を通りすぎた。

 

 

 

その時……

 

麗は通り去っていくヴィッツ姿を見て立ち止まる。

 

 

 

 

 

 

「麗様……?」

 

 

 

 

 

 

「何でもないわ。

 

行くわよ……湯湯、夜夜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 










皆さんこんにちは、こんばんわ


350Zです。



大樹編の第2話、いかがでしたか?






なんか、大樹が予想以上にかっこよくなってしまったのでちょっと驚きです……




こういう主人公って良いですよね。



博也は人として出来すぎてる感じがありますが、

大樹は出来すぎていないというところで逆に味が出てるキャラだと思います。



だから……






カーチェイスで意地張るところとか、




後になって自分の心に気付くところ、




相手を思いやるところ、



自分の感情を抑えるところとかが映えるんですよね……





そういう描写を書く時に比較的に普通に近いキャラだから、"頑張れ"って応援したくなります。




まあ、これがキンジとか博也クラスのキャラになると……





『お前ら、パパッと片付けちゃうんだろ?(笑)』




ってなっちゃいますけどね。



だから、はっきり言うと……



個人的に博也よりも大樹の方が好きな主人公に当たります。



このまま大樹一本で行こうかな?←オイッ



まあ、冗談はさて置き……




今後、麗との関係はどうなるのか?


何もないまま終わってしまうのか、それとも……?



次回もお楽しみに!



P.S
感想、投票どしどし来てください!

御待ちしてまーす!!


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第三話 フィール・ディス・モーメント




あまりにも稚拙なミスだった


たしかにわかっていたんだ…あの時

だけどごまかした。

早く走り出して、自分の心をごまかしたんだ


残ったものはただ






──悔やみきれない後悔だけだ







-翌日、昼休み

 

 

校舎外の中庭

 

 

 

ポカポカの陽射しの下、何かを考え込むように空を仰ぎながらも歩く麗。左右にヘッドフォンを掛けた双子の側近、湯湯と夜夜を引き連れている。

 

 

 

「麗様、体調の方はいかがですか?」

 

 

 

「問題ないわ、撃たれた部分が若干痛む程度よ」

 

 

 

湯湯の問い掛けにそう答えるも空を仰ぐのを止めない。考え事をし過ぎて意識はまた別の方へと飛んでいるようだ。そんないつもと違う彼女の様子を見兼ねた夜夜が「麗様」と呼ぶと共に単刀直入に問い掛けた。

 

 

 

「何かお考えことでも?」

 

 

 

問い掛けを聞くと共にピタッと足を止める麗。オフンッとわざとらしく小さく咳き込んでから頬を少し赤らめて夜夜と目を合わせないようにあるものを手に取って見せてきた。足の応急処置に使われた破れた青いハンカチだ。

 

 

 

「これを……

 

鑑識科(レピア)の指紋鑑定に出して頂ける?」

 

 

 

このハンカチがどういうものか知っていた湯湯・夜夜コンビ。少し眉間にシワが寄りそうになるが、それを堪えながらも念の為にどうして調べなければならないのか夜夜が問い掛けた。

 

 

 

「どうして、これを調べるのですか?」

 

 

 

「へ、兵隊が知る必要はなくってよっ!」

 

 

 

只でさえ赤かった顔が更に赤くなる。答えは聞けなかったが、これには流石の二人も察した。

 

間違いない……恋だ。

 

自分が大好きな麗様の心が奪われてしまったと落胆してしまいそうになる中、更に追い討ちを掛けるように彼女が何か資料のようなものを手に見せてくる。先日の救出ルート周辺の地図だ。自分の中で特にみたいというルートには赤い丸でチェックが打ってある。

 

 

 

「それと、この地図周辺の監視カメラのデータを情報科に調べさせなさい。

 

日時はこの日のこの時間帯……良いわね?」

 

 

 

ハンカチと追加の資料をパンッと渡すと共に何処かへと立ち去ってしまう麗。そんな彼女の背中を追い掛けて行きたいところではある湯湯・夜夜コンビだが、頼まれたことをやらなければ嫌われてしまうと思い、素直にその場を去って仕事に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-放課後 夕方

 

屋上スペース

 

 

もう沈み掛けている陽の下で文字どおり大の字で背中を地面につける大樹……

目を少しだけ開けて壮大な夕焼け色の空を眺めていると自分という人間がどれだけちっぽけな人間か思い知らされる。

それと共に、ふとあの早朝の出来事ことが頭に浮かんだ……

 

駄目だ、忘れないと……!

 

その思いから「あぁぁあぁー!!」と叫びながらも狂ったように両手で頭を掻いて気を紛らそうと試みた。

……少しはマシになったが、代償として心に虚しいと思う気持ちが残ってしまう。

 

 

 

 

自分は何の為に彼女を救ったのか?

 

 

 

何の為に86を傷付けたのか?

 

 

 

自分という存在はこんなにも惨めなものだったのか?

 

 

 

 

心の中にいるもう一人の自分がしつこく問い掛けてくる……

 

もう、いい!!いいんだよ、もう!!

 

そう思いながらも立ち上がった時、一人の生徒が屋上に上がってきた……博也だ。二本の缶コーヒーを両手に持っている。

 

 

 

「よ、どうした?」

 

 

 

彼の問い掛けに対して「……。」と俯きながらも黙り込んでいると、それ以上は何も聞かずに「そらっ」と右手の缶コーヒーを投げ渡すと共に自然な笑みを浮かべて見せる。

 

 

 

「なけなしの金で買ってきたコーヒーだ。

 

ま、話しの一つや二つぐらい聞いてくれよ」

 

 

 

そう言いながら少し歩み寄ってから胡座を組むように座り込む博也。大樹の方も向かい合うような位置で同じように座ってはくれたが、相変わらず黙り込んでいた。これは意地でも話さないだろう……そう思った博也は彼の心を少し和らげる意味も込めて話し始める前にある言葉を投げ掛けた。

 

 

 

「お前は何も話さなくていい、俺が勝手に話すから。

 

聞くのがイヤなら"ただの独り言"だと思って聞き流してもらっても構わない」

 

 

 

そう言いながらも自分の缶コーヒーをプシュッと音を立てるようにして開けると共に一口だけ飲むと「ふぅ」と小さく息をつく。そして、俯いている大樹に向けてこんなことを呟いた。

 

 

 

「俺、お前の性格が"羨ましい"って思う時があるんだ」

 

 

 

……衝撃の発言に驚きの表情を浮かべる大樹。だが、そのすぐ後に"馬鹿にしてるのではないか?"という思いが芽生えて眉間に少しシワを寄せてしまう。そんな彼に対して博也は「まあ、落ち着けよ」と言いつつも話を続けた。

 

 

 

「羨ましいって思うのは他人に優しく出来るところ。

でも、逆にそういう優しさを見ていて時々思うことがあるんだ……

 

コイツ、相手に対する優しさが強すぎて自分のこと苦しめてんじゃないかってさ。自分に対してネガなときはとことんネガになるような奴だったから、余計に際立って目立つんだよ……もっとバランスが成り立つように物事を見た方がいい」

 

 

 

今まで一度もそうと思ったことがない長所と逆に前からずっと思っていた短所を言ってからもう一口コーヒーを飲む博也。

 

バランス……

確かにバランスが成り立っていないだろうが、だからといってそれが何なんだ?

 

そんな言葉を心の中で呟く大樹だったが、それに対するように聞こえもしないはずの博也が自分の缶コーヒーを「ほら」と見せながらも続けて答えた。

 

 

 

「例えば、この缶コーヒー。

コイツは飲みたいって需要と工場生産での供給というバランスが成り立っているから売り上げを伸ばすことが出来る。需要が多くても物を作らなければ意味がない、幾ら作っても買う需要がなければ儲けがない」

 

 

 

そう言ってから缶コーヒーを一旦置いた博也。更にバランスという話題について話を広げていく。

 

 

 

「仕事と休みのバランス。

仕事ばかりしてたら体が持たなくなるし、かといって休んでばかりいたら金が貯まらない。

 

車のチューニングもそうだ。

サーキットでいいタイムを出すには足回り、パワー、ブレーキ、駆動系……全てのバランスが重要になる。どれかが極端に長けていても他がそれについて行けなければいいタイムは叩き出せない。

 

こうして見ると、世の中ってバランスが重要なものばっかだろ?

 

お前も他人への優しさと自分への優しさのバランスを考えた方がいい。……それが互いに幸せになる方法だ」

 

 

 

そう言ってから置いていた缶コーヒーを手にし、再び飲み始める博也。ゴクゴクッと音を立てていると全て飲み干してしまい、「ぷはぁー」と気持ち良さそうに息を吐いてから立ち上がって背中を見せた。

 

 

 

「悪りぃな、つまんねえ話に付き合ってくれて」

 

 

 

空になった缶コーヒーを左手に「じゃあ」と言わないばかりに右手を軽く挙げる。そのまま立ち去ろうと一歩、二歩と歩んで出入口の扉に右手を掛けた時……先程まで頑なに開かなかった大樹の口がようやく開いた。

 

 

 

「……つまんなくねえよ。

 

ありがとな、コーヒー飲ませてもらうぜ」

 

 

 

そう言ってから栓に指を掛けてプシュッと音を立てるように開封していく。そんな大樹に対して博也は敢えて何も言わずにその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-二日後 朝

 

武偵高前の交差点

 

 

一昨日とは違い、曇り空が広がる……その下で大樹はヴィッツで通学していた。

どんよりとした気分の中、アクセルをグイッと踏み込んで走らせる。

ヴェヴェヴェッという汚ないエンジン音が鳴り響く……

相変わらず、全然走らないしつまらない。本当にドンガメだ。車内で「はぁ……」と小さく溜め息を漏らしつつも信号が赤になった為、ブレーキペダルを踏み込んで停車。

 

すると、右折車線に並ぶようにしてある車が停車してきた。86だ……カラーリングは白。パッと見た感じはノーマルだが後ろのスポイラーを見る限り、自分が乗っているグレードと同じGTリミテッドだろう。乗っていたのは20代後半ぐらいのスーツを着たサラリーマンだ。

……思わず釘つけになってしまう。

 

 

 

「(本来なら俺もこんなボロいのじゃなくて、86(アレ)に乗ってたんだよな……)」

 

 

 

そんな事を思っている最中に信号が青に変わった。ドンガメヴィッツのブレーキペダルから足を離し、アクセルをグイッと踏み込んで進む。

 

ここで白い86とはお別れ……そのまま走らせ続けて数分後には武偵高に到着。

 

いつも通りに駐車場に車を停めて降りた時、珍しい人物が近付いてきた。遠山キンジだ。

 

 

 

「誰かと思えば珍しいな……何の用だ?」

 

 

 

何も思い当たるような節もなく笑みを作りながらも問い掛けると彼は何かが書かれた資料のようなものを手渡ししてきた。首を傾げながらも読んでみると、そこには鑑識科宛の依頼と情報科宛の依頼について書かれてある。鑑識科宛の方には見覚えのある青いハンカチの写真、情報科宛の方にはお台場周辺の地図が添付されていた。

 

 

 

「これは……?」

 

 

 

「俺の戦妹の風魔が見つけてきました。

先輩、前にこの辺りで救援依頼受けてましたよね?

あと、この青いハンカチも確か前に先輩が持っていたような……」

 

 

 

キンジからの言葉を聞いて眉間にシワを寄せそうになる。まさか、そんなのあるわけがない……そう思いながらも確かめようと「なぁ」と話し掛けた。

 

 

 

「……この二つの依頼、依頼主は誰だ?」

 

 

 

「鑑識科の方は愛沢湯湯、情報科の方は愛沢夜夜。

二人とも双子の姉妹で1年C組の組長、"高千穂麗"の側近です」

 

 

 

双子の姉妹で高千穂麗の側近……彼女を置いて去る時に出てきたヘッドフォンを掛けた二人組だと真っ先に分かった大樹。無意識のうちに表情が変わっていき、徐々に難しい顔になっていく。

 

 

 

「先輩、高千穂との間に何かあったんすか?」

 

 

 

異変に気付いたキンジの問い掛けで自分がどんな表情をしているのか気付き、半ば無理矢理笑みを作りつつも「んなわけあるか」と嘘をついてはその場から離れようと歩き、背中を見せる。だが、何も頼んでもいないのにワザワザ報せに来た彼に対して何も言わないのはまずい。その思いから一度立ち止まってからゆっくりと振り向いた。

 

 

 

「ワザワザ報せに来てくれてありがとな、遠山」

 

 

 

簡潔に伝えたところで「じゃあな」と伝えて再び校舎に行こうと歩き出す。彼と少し離れたところで再び難しい顔に変わった。

 

捜さないでくれよ、俺みたいな一般庶民を。

 

その思いが頭の中で回っていく中、前日の博也の言葉ふと過ってきた。

 

 

 

『他人への優しさと自分への優しさのバランスを考えた方がいい。……それが互いに幸せになる方法だ』

 

 

 

「幸せになる方法……か」

 

 

 

そうポツリと呟きながらも校舎に入っていき、いつも通りに校舎に入っていく。

ぽっかりと空いてしまっている心の隙間は当分の間は塞がりそうにない。表面上での答えでは"これは駄目だ"と拒否していても、心の何処かでは"それは良い"と肯定しているその差、物事を割り切れないことから生じるこの差から心の隙間が出来てるのだろう。

 

これがある限りはバランスなど保てるハズもない。

 

 

 

 

 

 

どうして割り切れないんだ?

 

 

 

 

 

割り切ればこんな苦しい気持ちにはならないハズだ

 

 

 

 

 

 

割り切れよ、もうガキじゃねえんだ

 

 

 

 

 

 

この時、ようやく理解した。

どっちつかずという心の迷いは自らを苦しめる原因になるのだと。早い内にどちらにしようか決めよう……だが、こう考えても具体的な期日が無ければ結局のところは先伸ばしになってしまうかもしれない。

 

 

 

……1週間だ、今日から1週間。

 

 

それで答えを出そう、全てを決めよう。

 

 

 

そう心の中で決めてから「はぁ……」と小さく息をつきながらも教室に入るとあることに気付いた。

 

博也の姿がない。

教室内の掛け時計で時間を確認するともう少しで朝のチャイムが鳴るところまで時間が迫っていた。

 

 

 

「(アイツ、遅刻か……?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-同時刻

 

とある高貴な雰囲気の喫茶店

 

 

ヘッドフォンを掛けた愛沢姉妹の案内についていき、ここまで来た博也。共に店内に入ると通路の側面に飾られているいかにも高そうな皿やティーカップを見て思わず「ほげー……」と言葉を漏らす。

そんな中、一番奥の個室のドアの前についた。湯湯の方がドアに右手の裏を近付け、コンコンと軽くノックする。

 

 

 

「麗様、連れて参りました」

 

 

 

「-お入れなさい、お前達はもう下がって」

 

 

 

扉の向こうから聞こえてきた言葉に反応して素直に下がる愛沢姉妹。それを見た博也がドアを恐る恐る開けて中を確認……

 

そこには白いテーブルのまえで貴賓溢れる黒いソファーに座り、ゆったりとした様子で紅茶を楽しむ麗の姿が……入ってきたのを確認すると共に開いている対面のソファーに向けて手のひらを見せるようにして彼を誘導する。

 

 

 

「どうぞ、向こうにお座りになって」

 

 

 

麗が年下であることは知っていたが、その優雅な様に「お、おう……」と少し困った様子を見せてしまう。

とりあえず、言われた通りに対面に座ると彼女はとある資料を見せてきた……大樹に関する資料だ。

 

 

 

「原田大樹先輩……御存知ですわよね?」

 

 

 

彼女の言葉と共に資料を手に取って読むと小さく頷く博也。ここで何の為に呼んだかは何となく理解出来たが、確認も兼ねて問い掛けてみた。

 

 

 

「学校を休ませてまで俺を呼んだ理由ってのは……

 

大樹に関しての情報を聞くためか?」

 

 

 

その問い掛けに対して「そうですわ」と答えてから紅茶を一口飲む麗。飲んでからチャキッとテーブルの上にティーカップを置いては紅茶の水面に目を向ける……

静かにゆらゆらと揺らめく水面に映った自分の顔を眺める彼女の表情を見て博也は「……。」と数秒程間を開けた後に単刀直入に問い掛けた。

 

 

 

「好きになったのか?」

 

 

 

その言葉を聞いて顔をゆでダコのように真っ赤にさせながらも「そ、そそ、そんなことないっちゃっ!!」と首を勢い良く横に振る麗。

しばらく経ってから「オフン……!」とわざとらしく咳き込んだ後に何処か寂しげな様子で両手を重ねるように膝の上にのせて答えた。

 

 

 

「ただ、原田先輩と……お友達になりたいだけですわ。

 

あのような素敵な御方と」

 

 

 

「素敵な御方……?」

 

 

 

「ええ……

 

先輩も御存知であるかと思われますが……

先日、わたくしはとある組織に追われて危機的状況に陥りました。携帯で救難信号を出しながらも逃げるも時刻は夜遅く……誰も拾ってくれるような気配はなく、わたくしは途方に暮れて気を失い掛けていました。

 

その時、1台の車がわたくしの近くで止まると共に一人の男子生徒が降りてきました。わたくしはその御方の顔を見ることが出来ずに気を失ってしまいます。

 

……次に目が覚めた時、わたくしは自室のベッドいました。その時は何があったのか理解出来ませんでしたが、鑑識科と情報科に調査依頼を出すとはっきりと分かったのです。

 

"原田大樹"という三年の先輩がわたくしのことを懸命に守って下さったということが……」

 

 

 

どうして関係を築きたいのか話した後に再び紅茶に手を伸ばす麗。その時、コンコンッというノック音と共に誰かが「失礼します」と入ってきた。この店のウェイターのようだ……頼んでもいないのに手に紅茶を持っている。

 

 

 

「あれ、頼んでないよな……?」

 

 

 

「わたくしが事前に用意するように伝えておきましたわ」

 

 

 

麗の言葉と共に紅茶を博也の前に静かに置くウェイター……置いた後に丁寧に「失礼しました」とお辞儀して部屋から出ていく。

 

 

 

「どうぞ、お飲みになって」

 

 

 

そう言われてから紅茶を飲もうとすると彼女が更に資料を出してきた……"麗のお友達ゲット大作戦"と大きい見出しが書かれた薄い資料だ。頭上に?を浮かべながらも紅茶を半分飲み終えたところで静かに手にとって読んでみる。

 

 

 

「わ、わたくしが考案した原田先輩に対するアプローチ作戦ですわ……いかがですか?」

 

 

 

問い掛けてくる麗に対し、全て読み終えた博也は額から冷や汗を流して固まっていた。

あまりの出来の悪さからだ……どうしてこうなるのかが分からずに頭を軽く押さえて「全然駄目だ」と溜め息混じりに答えてから内容についての指摘を行った。

 

 

 

「まず、一番最初の道端にバラ置くっていうやつ……

こんなのされたら、惹かれるどころか"ドン引き"されるぞ」

 

 

 

「そ、そんなはずが……!?」

 

 

 

「……逆の立場になって考えてみろ。考え方によっては"嫌がらせ"と捉えられるぞ。

それから、招待状を送って自分の家に招待するっていうやつ。手段としては悪くないかもしれないが……今のアイツの状態を見る限り、この招待には乗らないだろうな」

 

 

 

作戦の内容を次々と指摘されて眉間にシワを寄せる中、今のアイツの状態という単語に反応した麗。どんな状態なのか分からなかった彼女は先程までの様子と徐々に変わり、恐る恐るその内容について問い掛ける。

 

 

 

「今の状態とは……」

 

 

 

静かに紅茶をもう一口飲み終えた博也に問い掛けると彼は頭の中でとあるものを浮かべて答えた……屋上で一人悩んでいた大樹の姿だ。

 

 

 

「アイツ、自分の表面上ではお前とはもう接点持たないって言ってんだが……

 

実際のところは心の中で葛藤してるんだ。

ただの一般人に過ぎない自分がお前みたいな御嬢様と接点を持っても良いかどうかって……

 

だから、殻さえ破ってやればチャンスはある」

 

 

 

「殻……?

 

わたくしにそんなことが出来るのでしょうか……?」

 

 

 

珍しく弱気な表情を見せる麗。彼に対して相当本気なのだろう……そんな彼女を見兼ねた博也は溜め息混じりの声で「仕方ねえな」と呟きつつもこんなことを答えてきた。

 

 

 

「……手伝ってやるよ」

 

 

 

「ほ、ほほ、ホントですことっ!?」

 

 

 

「ああ、大船に乗ったつもりで任せな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-六日後、とある公園 昼

 

大樹は制服姿で直った86に乗ってここまで来た。

付近に車を停め、ゆっくりと降りては奥の滑り台の方へと向かう……

 

「キャキャ!ワーワー!!」と辺りを走り回る子供達の楽しげな声が聞こえる中、彼は何処か哀しげな表情になっている。……この場所は麗を救出したあの公園だ。

 

本当は来たくなかったが、今日受ける依頼の呼び出しで仕方なく来たのだ。

 

小さく足音を立てながらも公園の奥にある木々の方まで移動し、とある一本の木の前で立ち止まる。

 

 

 

気を失っている麗を見つけたあの木の前だ。

 

無意識のうちに立ち寄ってしまった自分に対して「はぁ……」と小さく息をついていると、後ろから足音が聞こえてきた。

 

 

依頼主か……?

その思いからゆっくりと振り向くと、そこにはいない筈の人物が……

 

 

 

 

高飛車そうな雰囲気の目付きと貴賓がある金髪のロングヘアーの女子武偵生。

 

 

通常の制服とは違い、所々に大人びた改造制服を着ている……高千穂麗だ。

 

 

 

「初めまして……と言った方がよろしいでしょうか?」

 

 

 

「高千穂…麗……!?」

 

 

 

いきなり目の前に現れた姿に状況を把握出来ず、携帯を取り出してメールを開いては依頼内容をもう一度確認する大樹。そんな彼に対して麗の方は少し溜め息混じりの声で自分の携帯を見せながらもタネを明かした。

 

 

 

「依頼主はわたくし……

その依頼メールに書かれている名前は偽名ですわ」

 

 

 

どういうタネだか分かると共に俯くようにしながらも「帰る……」と小声で呟いて彼女の横を通り過ぎようとする大樹。だが、麗はすれ違い際に「あら……」と妖艶な笑みを浮かべてそんな彼を追い込むような鋭い一言を口から放った。

 

 

 

「一度受諾した依頼をお辞めになさるつもり?

 

わたくしの報告次第では成績に響きますわよ」

 

 

 

その一言が耳に突き刺さると共にピタッと足を止める大樹。

冷静になって考えてみれば、確かに彼女の言う通りだ。

 

 

 

ここは一本取られた。仕方ない……

 

 

 

そう割り切った彼は渋々と言った様子で彼女の方に振り向いた。

 

 

 

「分かった……で、どうすればいい?」

 

 

 

「とりあえず、ドライブに行きたいですわ。

 

もちろん、貴方の車の"助手席"に乗って」

 

 

 

上手いこと先手を取って優勢な麗に対して歯向かうことも出来ずに「分かった」と答えては86の助手席まで案内する大樹。

 

 

"麗のお友達ゲット大作戦"が今まさに始まった……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-------------------------

 

 

 

 

 

 

※オマケ

 

とある真っ白な空間

 

 

別名・『ZANGE☆部屋』

 

 

ここは神?によって呼び出された登場人物が神?と読者達に対して懺悔を行う場であるッ!!

 

 

 

 

??

「懺悔、懺悔ー♪

 

本日のガッカリなお人はこの御方ですわ♪」

 

 

 

 

 

博也

「なんか、呼び出されたけど……ここ何処だ?」

 

 

 

 

 

??

「おー、迷える子羊よ。

 

ようこそ、ZANGE☆部屋へ!!

 

ここはこの小説を読んで下さっている読者様ときりn……ゲフンゲフン!!

 

神?に対してZANGE☆を行う場所ですわ!」

 

 

 

 

博也

「あれ、この声……どっかで聞いたことが」

 

 

 

 

??

「余計な推理は無用!神の雷を受けるがいいですの!」

 

 

 

バギャン!!!

 

 

 

 

博也

「うお……!?

 

なんか雷みたいなのが落ちて来たんっすけど!?」

 

 

 

 

??

「早く懺悔なさい!ジリ貧ポエマーヒロ助ッ!!」

 

 

 

 

博也

「勝手に変なアダ名付けんじゃねーよ!!

 

てか、ポエマーって何だよ!!?」

 

 

 

??

「貴方……

 

最近、人生を語るようなポエムばっかり語っていますわね。

 

"高三のガキのクセして、人生論を語るんじゃねーよ!"

 

と言った感じにきっと読者様もお怒りになられていますの」

 

 

 

 

博也

「何がだよ、てか……ポエムって何だよ」

 

 

 

 

??

「あら、自覚無さっていない様子ですわね。

 

貴方の台詞に一言付け加えたり、語尾をカタカナにすると一発で分かりますわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

録音後に編集した音声

『クククッ……車のチューニングもそうダ。

サーキットでいいタイムを出すには足回り、パワー、ブレーキ、駆動系……全てのバランスが重要になる。どれかが極端に長けていても他がそれについて行けなければいいタイムは叩き出せないのヨ。

 

こうして見ると、世の中ってバランスが重要なものばっかだナ』

 

 

 

 

 

 

 

??

「ほら、湾○ミッドナイトっぽくなりましたわ。

貴方は地獄のチューナーでもないし、悪魔の車を乗りこなす選ばれしドライバーでもありませんわ!」

 

 

 

 

博也

「確かにそれっぽいけど、編集してるからこれはノーカウントだ!!」

 

 

 

 

??

「お黙り!作者のみっちーに謝罪なさいッ!!」

 

 

 

 

博也

「おい、勝手にアダ名つけんなよ!!

 

お前の方こそ今すぐ楠み○はる先生に謝れっ!!

 

土下座しろ!焼き土下座ッ!!」

 

 

 

 

??

「往生際が悪いですわね~。

 

そんな貴方にはもう一度、神の雷を……キャフンッ!?」

 

 

 

 

バサッ

 

 

 

 

麒麟

「あわわ、カモフラージュ用の布が……!!」

 

 

 

 

博也

「おい」

 

 

 

 

麒麟

「へ?」

 

 

 

 

 

博也

「覚悟……出来てんだろうなァ?」

 

 

 

 

 

麒麟

「あ、あははは………!!

 

 

 

みぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-三日後、教室

 

 

 

ライカ

「最近、麒麟の奴みないな……」

 

 

 

あかり

「何かあったのかな?

 

毎日のようにこの教室に来てたのに……」

 

 

 

 

その後……

 

1週間ほど学校に来なかったという島麒麟。

 

彼女身に何があったのかは分からないが、久々に学校に来た彼女は三年生の男子が通りすがる度に酷く震えていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

-つづく?

 

 

 

 

 

 

 




どうも、350Zです。


今回初めてオマケを書きました。



私の勢いと気分で書いたものです……


湾○ミッドナイト知らない方、ごめんなさい←ZANGE



さて、第三話……


ついに麗様が動き始めました!!


原作の麗様は自分のみで作戦を考案してあかりの心を奪うとしていましたが……

まあ、今回は何せバックに"ジリ貧ポエマー"がいるんで変な展開にはならないでしょ!!←たぶん


これからどのように作戦が展開されるか……?

気になるところかも知れませんが、それは次回までお預けです!!







さて、ここからは私のプライベートの話です。


先週末、私の仲間が車を購入しました!

(パチパチパチ)


購入した車種はスープラ!もう少しで納車とのこと!!

オメデトー!!


だが、しかし……一つだけ心配なことが。




それは……



スープラはスープラでも最終型の80ではなく、30年近く前に作られた70ということ!!

昔ながらのカクカクっぽいデザイン、ヘッドライトはリトラクタブルタイプ(開閉式タイプ)!!



うひょー、パーツあるカイナ!?


同じ年代に作られた車でもAE86は根強い人気があるからいいだろうけど……


70スープラはそこまでって程でもないからなぁ……
(私は実際に走っているところを見たことがない←)




まあ、エンジン系パーツは1JZという長きに渡ってトヨタを支えたエンジンだからあるだろうけど……


問題はそれ以外ですよ、それ以外!!


もう、純正なんて売られてないんじゃない?


本人にも伝えましたが、それも承知とのこと←



ピャー!スゲーわ、コイツ……!!


まあ、近日中に納車するみたいなので納車時には試乗レポートしたいなぁ……なんて思います

(試乗中に壊れるのだけはマジ勘弁な!!)


以上、350Zからでした!!



P.S
感想、投票ドンドン来てください!御待ちしてます←


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第四話 アーモ・ソーロ・テ









-数分後、とある国道

 

 

 

ブォゥゥン……という水平対抗エンジン特有のエンジン音を響かせながらもゆったりと走る86。車内では会話はなかったものの、助手席に座っている麗は何処か楽しげな様子で車外と車内を交互に眺めていた。そんな彼女に対し、運転していた大樹は"何処が楽しいのか"と疑問に思うと共に難しい顔をしながらも否定的な言葉言い放った。

 

 

 

「アンタみたいな御嬢様からして見れば……安っぽい車だろ?」

 

 

 

その言葉に対して否定しないで「確かに」と答える麗。自ら言ったものの実際の答えを聞いて"やっぱりか"と言わないばかりの溜め息をつきそうになるが、その溜め息をつきたくなるような感情も次の一言で全て吹っ飛んだ。

 

 

 

「でも、嫌いじゃありませんわ……この車」

 

 

 

口角を軽く上げるように笑みを浮かべてそう続けて答えると助手席側のウィンドウをジャーと開けて風を浴び始める麗。ふと見たその笑みと言葉が胸に突き刺さり、顔を赤らめながらも思わず「うっ……!」と声を出してしまいそうになる。

 

先程から続いている心を弄んでいるかのような立ち振舞いに困惑しっぱなしだ……

 

 

 

「お、おお、お前ッ!?本当に強襲科の人間かッ!?CVRとかじゃないのかッ!!?」

 

 

 

「正真正銘の強襲科ですわ。

 

まあ、以前……CVRに勧誘されたこともございますが」

 

 

 

貴賓がありながらも何処か艶があるような声で答えられて更に困惑してしまう大樹。

 

駄目だ、落ち着け……!

 

そう心の中で言い聞かせ、気を逸らそうと運転に集中するように前を向いてオフン!とわざとらしく咳払いしてから話題を切り替えた。

 

 

 

「い……行きたい場所とかあるか?」

 

 

 

「行きたい場所……でしたら、此方に行きたいですわ」

 

 

 

そう言いながらもピッピッとナビを操作し、とある住所を入力する麗。運転に集中していた大樹だったが、チラッとナビを見た時に入力された住所を確認すると頭上に?を浮かべていた。

 

 

 

「……どういう所だ?」

 

 

 

「それは行ってからのお楽しみですわ」

 

 

 

クスッと妖艶な笑みを浮かべながらも誤魔化した麗。

 

詳細を聞き出したいところだが、下手なことをすれば教務科に悪い報告をされる……

 

溜め息混じりの声で仕方なしに「分かったよ」と答えてナビの指示通りに86を走らせる。

 

 

 

「ありがとうございますわ」

 

 

 

ウフフと言わないばかりの表情で礼を述べる麗。

 

 

 

「(わったい!かっさまやー!!

(わぁ!すごい上手く行ってる!!))」

 

 

 

心の中でそう興奮していると、彼女の頭の中にあるものが浮かび上がる……それは五日前の出来事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-五日前 夕方

 

高千穂ビルディング 最上階

 

 

 

高千穂家らしい白と金が基調のゴージャスな大広間。

 

そこで博也から指導を受けることになっていたが、白い私服姿の麗に対して彼?は迷彩服にブーニーハット、そしてレンズが大きいデカサングラスという軍隊のような格好をしていた。

 

 

 

「あ、あの…市ヶ谷……先輩?」

 

 

 

「市ヶ谷?そんな奴は知らない!!

俺はイッチー・ミラクル・クラークソン軍曹だ!!分かったら返事をしな、ウジ虫ッ!!」

 

 

 

「は、はい……!!」

 

 

 

「"はい"じゃない!"イエッサー"だウジ虫ッ!!」

 

 

 

「い、イエッサー!!」

 

 

 

設定がどのようなものかイマイチ把握が出来ずに戸惑う麗。そんな彼女に対してイッチー軍曹は一本、二歩と歩み寄ってはジィー……と目を合わせる。

 

 

 

「貴様、名前はなんだ?」

 

 

 

「た、高千穂麗……ですわ」

 

 

 

「そうか!馬鹿にピッタリな名前だなッ!!

これから五日間、六日後の作戦に向けて地獄のトレーニングを行う!!分かったか、ウジ虫ッ!!」

 

 

 

「は、はい!」

 

 

 

「はいじゃない!イエッサーだ!!」

 

 

 

「い、イエッサー!!」

 

 

 

とりあえず必死に合わせる麗……

 

そんな彼女に対してイッチー軍曹は数歩距離を置くように離れてから手を後ろに組むようにして広い部屋を歩き回り始めた。

 

 

 

「ウジ虫、俺は今回のターゲットについては詳しいが……男に対しての恋愛については知らん。俺はそっち系の人間じゃないからな。

というわけで、今日はスペシャルアドバイザーを呼んだ。入れ、伍長!!」

 

 

 

 

その呼び掛けと共にドアの向こう側から「ハッ!」という女性のような高い声の返事と共に誰かが入ってきた。

ゴスロリを連想させるようなフリフリが付いた迷彩服を着る金髪で小柄の女子。

小柄ではあるがスタイルは抜群の彼女を見て真っ先に誰か分かった麗は、驚いた様子で指を差しながらも彼女を指差してその名前を呼んだ。

 

 

 

「み、峰理子先ぱ……!!?」

 

 

 

「ちっがぁぁぁぁぁうっ!!

 

彼女はリッコーリン伍長だッ!!」

 

 

 

「軍曹の仰る通り、私はリッコーリン伍長だぞっ」

 

 

 

お茶目に指を差し返しては指先を左右に動かすリッコーリン伍長。

 

これから作戦決行前日までの五日間、ずっとこの調子なのだろうか……?

 

そんな不安を抱きながらも麗は地獄のトレーニングに挑んだ……!!

 

 

 

 

時には手料理を作り、

 

 

時には男心について学び、

 

 

時には発声練習を行い、

 

 

時には浜辺を走り、

 

 

時には焼きそばパンを買いに行き、

 

 

時にはママチャリでバーゲンに駆け込んだ……!!

 

 

 

そして……五日目のトレーニング最終日。

 

 

彼女は遂に、

 

対原田大樹専用の御嬢様へと進化を遂げたのだ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-現在 86車内

 

 

前日まで受けていた地獄?のトレーニングを思い出して色々あったと脳内回想に浸る麗。そんな彼女に対して大樹はジィー……と見るように目を細めながらも「おい」と話し掛ける。

 

 

 

「ついたぞ」

 

 

 

その一言から「え?」と頭の上に?を浮かべながらもキョロキョロと周囲を見回す……車はすっかり駐車場の空きスペースに停まっていた。目の前には目的地の黒いビルの入り口が見える。

脳内回想に浸り過ぎて全く気付かなかった麗は思わずアワアワ!?と慌ててしまった。

 

 

 

「は、早すぎるっちゃ……!!」

 

 

 

小声でそう呟きながらも降りてからコホン!と軽く咳払い……大樹が降りてきたのを確認してから気を取り直して案内しようと「此方ですわ」と先導するようにように前を歩く。その際に頬を少し赤らめて恥じらうような様子を見せながらも恐る恐る大樹の制服の袖の端へと手を伸ばし、親指と人差し指でつまむようにして軽く引っ張った。

 

リッコーリン伍長からの教えである。

 

 

 

「-あまり喋ったことがない男子へのアプローチはちょっと恥ずかしいがる素振りを見せつつも、可愛らしくこっそりとやると効果的だぞっ」

 

 

 

……とのこと。

 

その教え通り、大樹の方もポカーンとすっかり骨抜きにされている様子だ。そんな彼の様子を見てクスッと小さく笑みを浮かべながらもビルの中へと入る。

 

中は高級感溢れる黒と白が基調のデザインになっていて、二人が入ると黒いスーツ姿の30人ぐらいの従業員らしき男女が「いらっしゃいませ」と一斉に頭を下げて迎え入れてきた。

 

そんな中、見た目からしてカリスマ的なオーラを醸し出しているお洒落な格好をした女性従業員が代表者として前に出てくる。

 

 

 

「高千穂様、

本日はビューティーサロン・カシワギへ御来店頂き、誠にありがとうございます。従業員一同、心より歓迎致します」

 

 

 

「事前に御伝えした通り……この御方のことを頼みますわ」

 

 

 

そう言って辺りをキョロキョロとして困惑している大樹を前に出す。突然、前に出された彼は「えぇ!?」と更に困惑の色を強めた。

 

 

 

「ちょ、俺が受けても意味ないだろっ!!?」

 

 

 

「そんなことは御座いませんわ。美を求めるということは誰もが持つ権利……特に原田先輩のような素敵な方にはもっと美しくなって頂きたいのです」

 

 

 

そう答えた時に従業員が彼を囲むようにし、エレベーターへと運び出す……「ぎゃあぁぁ!!」という声が聞こえてくる中、麗はしたり顔でその様子を見届けていた。

 

どうして彼にこのような場所に連れてきたのか……それは彼に自信を持たせる為である。自信を持たせたほうがいいというのはイッチー軍曹からの教えだ。

 

 

 

「-いいか、ウジ虫ッ!

ターゲットは自分に自信が持てないから距離を置いているものと思われる。そこで、貴様にはターゲットに自信を持たせるように働きかけて貰うッ!手段はどんなものでも構わんッ!!」

 

 

 

……と言われたのを脳内で回想しつつも、麗は上手く行っていると言わないばかりに目を瞑って一人コクコクと頷いていた。

 

 

 

「(美というものは人に自信を与えてくれるもの……

美しくなれば、先輩の心も大きく揺れるに違いないですわ)」

 

 

 

そう思いながらも自分も着替えようと店員の案内に従って大樹とは別の部屋に移動する麗。

黒いセクシーなワンピースの上にベージュのカーディガン、女性向けの小さい四角いシルバーの腕時計を腕に身に付けて赤いハイヒールを履いた所で彼女のコーディネートは終了。もちろん、どれも一流ブランド製のものである。

 

 

 

着替え終えてからロビーに戻り、控えスペースの椅子に座って大樹の帰りを待つ。

 

しばらくすると誰かが来た……大樹だ。

円みを帯びた目等、顔だけをみるとそんなに変わってはいないが、それ以外は見違えてしまいそうになるほどの変貌を遂げていた。

 

ワックスで半ば無理矢理固めていた黒髪は上品な程よい色合いの短めの金髪に変貌。ジェルとワックスを適量に使い、後ろに少し荒々しく流すことでワイルド感を引き出している。更に、有名一流ブランドのサングラスを掛けずに額に乗せるようにすることでワイルド感を増させる。

 

服装は白いジャケットに明るめのグレーのシャツ、ボトムスは白のチノパンと全体的に白が主体。靴はイタリア製の一級品の茶色の革靴だ。

 

今までファッションに気を遣ったことがない大樹は自分の服装に少し戸惑いの様子を見せていたが、麗はそんな彼を迎え入れるように口角を軽く上げるように笑みを浮かべて立ち上がった。

 

 

 

「とてもお似合いですわ」

 

 

 

「そ、そうか?」

 

 

 

その一言で戸惑いの色は少し薄れたが、まだ何処となく無くなってはいない。もう一押し必要だと考えた麗は彼に歩み寄って次の指示を出した。

 

 

 

「では、折角なので外に参りましょう。

 

よろしいですわね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー数十分後 表参道

 

 

都内有数のお洒落な街で知られているこの場所……

 

大樹と麗は近辺の駐車場に86を置いてからこの場所で歩いていた。特にこれと言った宛もなく歩くだけなのだが、いつもと違う何かを感じ取る大樹……周囲の視線が此方に集まっているのだ。

 

 

 

「-うわっ、すげえ綺麗……!!」

 

 

 

「-なにあの人、すごい美人……!」

 

 

 

「-彼女の方も美人だけど、彼氏も格好いい!」

 

 

 

「-うちの彼氏も見習ってほしいなぁ……」

 

 

 

等と色々な言葉が耳に飛び込んでくる。これら全てが自分たちに向けられている言葉ということに対して照れ臭そうに頬を赤らめてしまう大樹。ここで作戦の効き具合を確認しようと麗が問い掛ける。

 

 

 

「いかがですか、原田先輩?」

 

 

 

「なんつーか……自分じゃないみたいだ」

 

 

 

「いえ、これが本来の貴方の姿。もっと胸を張って歩くべきですわ」

 

 

 

そう言ってから再び堂々と前を向く彼女……

 

そうだ、別に整形なんて大掛かりなものはしていない。髪と服装という比較的に変えやすいものを変えただけで、ベースとなるものは何も変わっていない。そう思い始めた大樹の姿は先程よりも堂々として見える。

 

 

また殻を破ることに成功したようだ。

 

 

一緒に歩いている時の表情も自然体。確実に距離が縮まっていると核心を得た麗は更に距離を縮めようとその後、色々な場所に移動して交友を深めていく。

 

 

お洒落なカフェのテラス席でポカポカの陽射しの下で向かい合うように座ってコーヒーを満喫。世間話から仕事の話、他愛もないような話等も交えて楽しくその場を過ごす。

 

何を買うかという宛もなしにショッピング街をブラブラ歩く。時折、麗がどのようなものか分からずに首を傾げる商品等があると大樹がそれについての説明を横から入れたりする。気に入って購入したものは後で湯湯・夜夜に取りに行かせようと連絡を入れた。

 

 

 

……そうこう過ごしている内に空はすっかりと暗くなってしまった。

 

 

 

「早いな、時間が過ぎるのも……」

 

 

 

「そうですわね……わたくし、六本木に行きたいですわ」

 

 

 

「六本木か……分かった、連れてってやるよ」

 

 

 

行きたいと言っただけで自ら"行こう"と述べた大樹。作戦開始前とは大きく違う彼の姿勢に嬉しく思いながらも「はい!」と嬉しそうに答えながらも一緒に駐車場へと戻った。駐車場に戻ると86のロックを解除した大樹が先に乗り込む。続いて麗の方も乗り込もうとしたが、履いていたハイヒールが何かに引っ掛かって足を車内に移すことが出来ない……

 

 

 

「大丈夫か?」

 

 

 

力をグッと入れても抜け出せない様子を見た大樹が気になってシートから身を乗り出すように麗を見ようとした……その時。「キャッ!?」という小さな声と共に彼女の体勢がグワッと崩れた。突然のことに「っ!?」と言葉にならないような言葉を出して驚きながらも此方に飛び込んできた彼女をガッシリと受け止める。衝撃で互いに目を瞑って「イタタ……」と呟きながらも大樹の方がとりあえず怪我してないか確認をしようと試みた。

 

 

 

「だ、大丈……っ!?」

 

 

 

大丈夫?と聞こうとした時に目を開けると目の前には彼女の顔が……その距離、約10センチ。目の前の彼女も想定外の出来事に顔を真っ赤にさせている。

 

 

 

「ち、近いっちゃ……!!」

 

 

 

そう小声で呟いている様子からかなり混乱していると推測される。が、そのまま数秒の時間が流れると互いに混乱はなくなり、自然と見つめ合うような形になった。

 

麗が静かに目を瞑って軽く唇を前に出すようにしてくる。

 

 

ゴクリッ……と唾を飲み込んだ大樹の方も準備は出来た。

 

 

 

 

彼女の背中と頭に腕を回し、目を瞑って唇を近付ける……

 

 

 

 

が、その時だ。

 

二人の空間を裂くようにピロピロピロッ!!と二人の携帯の着信音が鳴り響いた。互いに「ハッ」と目を開けてシートにしっかりと座るようにしてから内容を確認……。武偵高の周知メールだ。近くの銀行で強盗事件が発生。犯人は車で逃走中という内容だった。

 

確認と共に直ぐに携帯をしまってはエンジンのプッシュスタートボタンを押し、エンジンを始動させる大樹。愛銃であるPPKSを確認してから麗の方を見た。

 

 

 

「行くぞ、高千穂!」

 

 

 

「ええ、いつでも行けますわ!!」

 

 

 

同じように愛銃のレッドホークを確認して頷いた彼女を見た後に発車。駐車場の料金ゲートを抜けると共にブォゥゥン!!という水平対抗エンジン特有のエンジン音を周囲に轟かせながらも大通りに出た。

 

回転灯を取り付けた後にサイレンも鳴らして夜道を駆け抜けていく。一般車を次々とかわすようにして走らせて行くと目標の黒いハイエースが前方に見えた。前後に仲間と思われるシルバーのセドリックを引き連れている。

 

 

 

「あの車ですわね!」

 

 

 

「前後にぴったりと付いてるセドリックも仲間だろうな……一気に片付けよう!」

 

 

 

そう言いながらもシフトノブを握ってカタッ!とシフトアップし、86を加速させていく大樹とウィンドウを開けて身を乗り出すようにしてレッドホークを構える麗。

 

 

 

 

――二人による共闘が今、始まる。

 

 

 

 

 






どーも、350Zです。


いかがでしたか、今回?



"リア充爆発しろ"ですよね~←



それから、うららんが可愛すぎて可愛すぎてヤバいです……


うららん位の美女に"あんなこと"や"こんなこと"されたら、世の男なんてみんなイチコロっすよ!←


ちなみに、いつもサブタイトルは英語なのですが……

今回はイタリア語です。

意味が気になった方はお調べ下さい←←



さて、次回は大樹・麗の夫婦共同作業……

じゃなかった。共闘です!←(妄想膨らみすぎィ!


あの二人が組むとどのような戦い方を見せるのか?



ご期待下さい(渡○也)









では、ここから先はプライベートの話になります。


前回紹介した友人の70スープラが遂に納車されました!

前回紹介時に積んでいるエンジンが1JZと申しましたが、正しくはその1JZよりも排気量が少ない1Gエンジンが搭載されているモデルでした!申し訳ありません!!←ZANGE


さてさて、30年近く前のターボ車がどんな走りを見せてくれるのか?


試乗したかったのですが、試乗時に壊れたら怖いので助手席に乗ることになりました←ブルッちまったZE☆


ただ、助手席に隣に乗った感じは悪くなかったです。


博也が昔乗っていた鉄仮面のようにエンジン低回転時のパワーがないような感じで、上まで回すと行きなりパワーが来るのかな?

なんて思ってましたが、比較的にスムーズ。


エンジン音も悪くないです。流石はヤマハ製←


軽くワインディングも流して貰いましたが、足もしっかりしてるみたいで運転していた本人も「楽しい」と称賛してました。


そんな中、この車が幾らなのか値段が気になった私。


恐る恐る聞いてみると……結構安かった。


具体的な数字は言えないのですが、剥げかけていた塗装の上塗りや車検等、全部コミコミで私のZの車体価格よりちょっと安い位でした。


お、良いじゃん!旧車スポーツ!!




そう思っていた私でしたが彼と別れて数時間後、あること連絡が来ました。









"夜間時にメーターのライトがつかない"とのこと。










……はっ?となる私でしたが、更に立て続けに




"フォグランプがつかない"、




"テールランプがつかない"



と言った連絡が……



翌日、買ったきた店で診てもらって無事に直ったようですが……



こえーな、旧車。


旧車行かずにZ33買っておいてよかったー


と改めて思う350Zなのでした。




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第五話 ティ・アドーロ

 

 

 

 

 

―夜、大通り 三車線の国道

 

 

 

大樹と麗が乗る86は一番左の車線からプォーン!!とサイレンを鳴り響かせながらも黒いハイエースに接近しようと加速していた。だが、その行く手を阻もうとシルバーのセドリックが割って入ってきた。

助手席の男が身を乗り出して拳銃を構えるが、ズドォン!という鋭くも重い銃声が鳴り響くと共に持っていた拳銃を落とした。……麗のレッドホークで撃ち抜かれてようだ。

 

 

 

「Aランク武偵を嘗めて貰っては困りますわ」

 

 

 

そう呟きながらもズドォン!ズドォン!!ズドォン!!とセドリックの足周りに向けて発砲……弾は見事命中し、車体が大きく左に傾くと共にガガガッと下回りを擦らせるようにして大きく減速。

 

右側にサッと避けて中央の車線に移ると今度はハイエースの前方についていたセドリックが減速して此方に迫ってきた。先程とは違い、助手席と後部座席の男達が既に拳銃を手にとって構えていた。パァン!パァン!!と乾いた銃声を響かせながらも発砲してきたが、大樹が左右に舞うように回避行動をとった為、命中はない。

 

回避行動が落ち着いたポイントで麗がズドォン!ズドォン!!とレッドホークで反撃。助手席と左後部座席から身を乗り出していた男の銃を撃ち抜いた。

 

 

 

「右について下さいませ!!」

 

 

 

車内に入ってくる風で髪を綺麗に靡かせた麗がチャキッとリロードを行いながらも指示を出すと大樹は「了解」と答え、86を右車線に素早く車線変更させてからアクセルを踏み込んで加速し、素早く横につく。

ついた時には既にリロードを終えて臨戦態勢に入っていた麗。右後部座席にいた男が驚いている間にズドォン!と銃を撃ち抜き、また無力化。

更に足周りや運転席側にもズドォン!ズドォン!!ズドォン!!と次々撃ち込んでいく。

 

全弾撃った所で車体が大きく傾き、減速。

後ろで180度大きくスピンしたのを確認して"余裕"と言わないばかりの笑みを浮かべる彼女だったが、ふと前を見た時にその余裕の表情は消えた。目標であるハイエースがいつの間にか向かい側にいたのだ。

右後部側のスライドドアが開いていて、男がAKを此方に向けて構えているのが見える。此方のレッドホークの残弾はゼロ……

反撃が出来ないと頭の中で浮かび上がると共に"死"という文字がふと頭の中を過った。

 

 

……が、それに気付いた大樹が彼女を助けようとフルブレーキングを行って86を一気に減速させた。ダダダダッ!!と7.62mm弾を放つ銃声が鳴り響いたが、何とか避けることに成功する。

 

 

 

「大丈夫か、高千穂ッ!?」

 

 

 

心配するような様子で問い掛けながらも右手でチャキッとPPKSを抜き取る大樹。左手で運転しながらもウィンドウを開けてPPKSで威嚇射撃を行う彼の姿にポッと顔を赤らめてしまいながらも「え、えぇ……」と答えてレッドホークのリロードを行う。が、何だか先程よりもリロードが遅い。

 

 

 

「た、高千穂……?」

 

 

 

「な、なな、何でもないっちゃッ!!!」

 

 

 

そう勢いよく答えて自分の心を隠そうとする麗。チャキッとリロードを終えて再び応戦しようとした時、ハイエースが交差点を右に曲がった。

 

 

 

「掴まれよっ!!」

 

 

 

そう言いながらもPPKSをしまった大樹はブレーキングを行いながらもフォゥン!フォゥン!!とシフトダウン。

 

その後、ステアリングを両手に持って高めのスピードで交差点に侵入。素早くステアリングを切ってキィィィィ!!と4輪を滑らせるようにドリフトを行う。……綺麗に立ち上がって一気に距離を縮めた所で麗が再びレッドホークを構えた。

 

 

 

「わたくし達が相手だったこと、後悔なさい!!」

 

 

 

その決め台詞のような言葉と共にズドォン!ズドォン!!ズドォン!!とレッドホークで男達の銃を撃ち抜いていく。

戦闘不能になり、86相手にハイエースで逃げるのは不可能と考えた運転手は大きく減速して停車。86も前につくように停車すると、大樹と麗がそれぞれの銃を手に降りた。

 

 

 

「抵抗はやめなさい、みっともないわよ!」

 

 

 

「両手を頭の後ろに回して車から降りて!!」

 

 

 

しっかりと照準を合わせながらも近づくと、男達が言われた通りに降りてきた。それを確認すると共に大樹が携帯で110番通報する。

 

 

 

「武偵の原田です。銀行強盗を行ったグループを拘束しました。場所は-」

 

 

 

そうオペレーターに的確に説明する彼の姿を麗は目をキラキラと輝かせながらも見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-しばらくして 六本木ヒルズ・スカイデッキ

 

 

オープンデッキのビル展望台としては、日本一の高さと敷地面積を誇るこの場所。心地よい夜風を浴びるながらも二人はこの場所で世界有数の大都心の夜景を堪能していた。

 

 

 

「間に合いましたわね……」

 

 

 

その言葉に対して「ああ」と小さく頷く大樹。先程の一件後の警察とのやり取りが思っていた以上に時間が掛かったため、間に合うかどうか少し心配だったのだ。

だが、時間ギリギリではあるがこうして間に合った……安全対策用の手摺に前から掴まるようにして夜景を眺め、改めて「ふぅ……」と小さく安堵の息をつく彼を見た麗は距離を縮めようと一歩、また一歩と恐る恐る歩み寄っていく。そんな彼女が近付いていることには気付いたが、あえて何も言わずに夜景をじっと眺めていた。

 

 

 

「夜景とかそんなに興味なかったが……こうして見ると良いな」

 

 

 

そう呟く彼の姿を頬を少し赤らめながらも見ていた麗。ドクンッドクンッ……と自らの心臓の高鳴りを感じつつもスゥーと大きく深呼吸して落ち着かせようと試みる。徐々に心臓の高鳴りがなだらかになっていく。今なら出来る……!小さな勇気を振り絞って「あ、あの……!」と話し掛けて彼を振り向かせた。

 

 

 

「は、原田先輩……一つだけお願いがございますわ。受けるも拒否するも先輩の自由。答えがどうであれ、教務科への報告もいたしませんわ」

 

 

 

ここまで言ったが、急に込み上げてきた緊張と不安から口が止まってしまう。頭の中が真っ白になり、次に何を言うのかも忘れてしまった中……大樹の方が再び夜景の方に目を向けながらも優しい笑みを浮かべてこんなことを言ってきた。

 

 

 

「言わなくてもいい……痛いほど伝わったから」

 

 

 

そう呟くと共にサッと再び向き合うような形になる。頭上に?を浮かべて固まる麗だったが、次に彼がとった行動で驚きのあまり顔を赤らめてしまう。

 

両肩に手を置いてきたのだ。

 

そのまま数秒間見つめ合うようにしてからギュッ……と力強く抱き寄せてくる。何の抵抗もしないでそのまま抱き寄せられた麗は「な、なななッ……!!?」と更に恥ずかしそうに顔を赤らめていくが、彼は更に話を続けた。

 

 

 

「今まで避けてて……ごめん。

 

それから……ありがとう、大事なことを教えてくれて」

 

 

 

その言葉が耳に飛び込んでくると共に今までに体感したことがない幸福感と温もりに包まれていく麗……

先程までの恥ずかしいという感情は消え、自然な笑みを浮かべながらも自ら抱き付いてから上目遣いで彼を見ると「先輩」ともう一度恐る恐る呼び掛けてから先程言いそびれたこと御願いを伝えた。

 

 

 

 

 

「わたくしと……お付き合いして頂けませんか?」

 

 

 

 

 

「ああ、もちろん。断る理由なんてないよ。

 

ただ……これから付き合うなら、互いに下の名前で呼び合わない?」

 

 

 

 

 

その提案に対して「ええ」と頷く麗は爪先立ちするようにして顔を近付き、少しだけ恥ずかしそうに頬を染めながらも艶があるような声で早速呼んでみた。

 

 

 

 

 

「―大樹先輩」

 

 

 

 

 

「―麗」

 

 

 

確かめ合うように互いに呼び合った後にゆっくりと顔を近付け、先程の空振りを補うかのごとく唇を重ね合わせた。唇から伝わる感触と互いの温もりから更に求め合うように抱き締めていた腕に互いに力を入れて絡め合う。夜風はそれを祝福するように二人の体を優しく包み込んでいく。

 

 

 

 

 

―この時間がいつまでも続けばいい

 

 

 

 

 

そう互いに思いながらも大都心の壮大な夜景を背景に二人は唇を重ね合わせ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻

 

六本木 とある公園

 

 

六本木にしては比較的に閑静なこの公園の手前に停まる白いZと改造ベスパ……公園内には博也と理子がいた。

 

滑り台の先で腰掛けている博也に対して理子は近くのブランコに座ってブラブラと軽く遊んでいる。二人共、右耳にイヤホンなものを取り付けて麗と大樹の会話を聞いているようだ。

 

 

 

「うららんの服に盗聴器を仕込んで正解でしたねー」

 

 

 

「ああ。にしても、思った以上に上手く行ったみたいだな……一つ階段上がることが目標だったが、階段全部上がりやがった」

 

 

 

そう苦笑いしながらも二人の会話に聞き入っていた博也だったが、そんな彼に対して理子は一つだけ気になったことを投げ掛けた。

 

 

 

「にしても、どうして鬼教官スタイルで教育したんですー?」

 

 

 

「特に意味はない、何となくやって見たかっただけ」

 

 

 

その答えに対して「へえー……」と言葉を漏らしながらも公園の中央に立てられていた時計台に目を向ける理子。すると、「よっと」と口にしながらもブランコを止めて降りた。何だろう?と目を向ける博也に対し、彼女は背中を向けるようにして右耳に取り付けていたイヤホンを外しながらもこう答えた。

 

 

 

「センパーイ。理子、待ち合わせがあるからもう行きますねー」

 

 

 

「お、気を付けて行けよ」

 

 

 

彼女の答えに対して気にしないような声質でそう答える博也。……だが、ふとその後ろ姿を見ると何かに勘付くように目付きを鋭くさせた。「じゃあ、またー」と去り際に述べた時の笑み……その笑みが怪しく見えたのだ。悪魔のような不吉な笑みに見える。

 

 

気のせいか……?いや、何かある。

 

 

それが何かは分からないが、何か企んでいるに違いない。そう思いながらも大樹はベスパに乗って走り去っ去っていく彼女の姿を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―数時間後 深夜

 

とあるビルの最上階

 

 

最高級のホテルのようなきらびやかな廊下に血塗れで倒れる無数の黒服達……そんな彼らのことを気にせずに颯爽と歩く一人のスキンヘッドの男がいた。

 

高級品の背広姿に西洋系の顔立ち……

サングラスを掛けていため、どんな目付きなのかは分からないがパッと見た感じだと年齢は40代半ばぐらいだろう。右手に消音器(サプレッサー)付きのMP5Kを持っているのを見る限り、倒れている黒服達は彼にやられたのだろう。

 

コツコツ……という靴の音が静かな廊下に響き渡る中、彼は奥にある大広間のドンッと扉を蹴るようにして入った。

 

東京の夜景が一望出来る大きな窓をバックに社長席のような椅子に座る一人の中年の男……高千穂家から資金を得ようとしていたあの男だ。彼は背広の男を見るや否や、「ひぃぃ……!」と脅えるような声をあげて椅子から滑り落ちるようにして床に尻餅をつき"待て"と言わないばかりに右手の手のひらを見せた。

 

 

 

「は、話し合いをしよう!話せばわか……!!」

 

 

 

次の瞬間、パシュンッ!という素早い銃声と共に彼はMP5Kで素早く頭を撃ち抜かれた。一瞬にして血塗れになって絶命した彼に対して背広の男はペッと勢いよく唾を吹き掛ける。

 

 

 

「金の巻き上げもまともに出来ない野郎に用はない。消え失せろ……」

 

 

 

響くような低い声質で言い残しながらもMP5Kをしまい、エレベーターへと向かう。1階のボタンを押し、ドアが閉まって下り始めたのを確認すると共に携帯を手にとって外部と連絡をとった。

 

 

 

「―ボスG.D、どうでしたか?」

 

 

 

G.Dというのは背広の男のコールネームのようなものである。そして、今通話している相手は彼の部下だ。その部下の問い掛けに対して「ああ」と答えて見せる。

 

 

 

「今終わった。両目を瞑っていても出来るような簡単な仕事だった……そっちはどうだ?」

 

 

 

「―準備出来ました。予定通り、イ・ウーの奴等動きに乗じて行きます」

 

 

 

「わかった。ところで、今何処にいる?」

 

 

 

「―ビルの前にいます。珍しく全員揃って」

 

 

 

その言葉を聞いた後にチーンという到着音が聞こえてドアが開いた。エレベーターから出て警備員の屍を踏むようにして歩いて外に出る。……外には4台のマッドブラックの車両が縦に並ぶようにして停まっていた。

 

先頭から997型GT2、997型ターボS、ケイマンS、987型ボクスター。全てポルシェ製のスポーツカーだ……特に997型はポルシェの中でもスーパーカーのような扱いをされている911系統に部類される。

ポルシェ一色と言っても過言ではないこの状況を見ると共に携帯の通話をピッと切るG.D。

 

すると、ターボSの運転席から誰かが降りてきた。黒髪を左右に分けた眼鏡を掛けた目付きが鋭い30代ぐらいのアジア系の男。先程までG.Dと話していた男だ。コールサインはB.R。

 

 

 

「ボス、お疲れさまです」

 

 

 

「呼んでもいないのに、わざわざ来たんだな」

 

 

 

「ええ、数年前の一件の情報が手に入ったようなので……報告に参りました」

 

 

 

そう言いながらも黒い大きめの封筒を手渡すB.R。G.Dはサッと受け取って中を開けて読む前に背広の内側に封筒をしまう。そして、夜空を仰ぐようにして見ながらもふとこんなことを呟いた。

 

 

 

「―数年前に見掛けたあのガキはまだ生きている。

 

俺への復讐のために武偵高で徐々に力を付けつつある……厄介な存在になる前に狩らないとな」

 

 

 

呟いてから先頭のGT2の運転席に乗り込むG.D。それを見たB.RもターボSの運転席へと戻る。先頭のGT2がヘッドライトをつけてエンジン始動すると共に、後方の車両もパッとヘッドライトで道を照らすようにしながらもエンジン始動。ブォゥゥン!!と轟音を響かせながらも陣形を崩さないように全車発車……

 

 

そして、ある程度離れた時だ。

 

 

先程までG.Dがいたビルからバァァンッ!バァァァンッ!!という音が聞こえてきた……爆発したのだ。倒壊するほどの威力ではないものの、爆風によって各階の窓ガラスを次々と割れていく。やがて、爆発は収まったもののビルは爆発によって黒煙と火柱が上がっているような状態になった。

 

 

誰かが通報したのか、ピーポー!ピーポー!というサイレン音と共に消防車と救急車が数台態勢で来た。隊列を組んでいたポルシェ一群はそれとスレ違うも、何事もなかったかのようにそのまま去っていった。

 

 







どうも、350Zです。



いやー、麗と大樹がついに結ばれましたね!



とても嬉しい展開では御座いますが、私にとってちょっと心残りが……、




それはキスの描写の書き方。




なーんか納得いかないんですよね……


もうちょっと上手く書けたような気がするなぁ



個人的に40点ぐらい。うん……



まあ、こういう恋愛の描写書くことはあまりないので大目に見てやってください←



中盤からはラブラブでハッピーな展開から一変、また何か不穏な動きが見えてきました……


特に終盤に出てきたポルシェ軍団。


彼らは一体、何者なのか……?



次回からACT.3です。



ご期待ください←←渡○也






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ACT.3『黒い狂気』
第一話 ウィスパー・イン・ザ・ダーク


心が愉快なら

終日歩んでも嫌になることはないが、

心に憂いがあればわずか一里でも嫌になる。



人生の行路もこれと一緒だ……


常に明るく愉快な心をもって



―人生の行路を歩まなければならない







―二日後 夕方

 

武偵高 強襲科・射撃レーン

 

 

 

周囲が鉄筋コンクリートに覆われたこの場所でバラララララッ!!というマイクロUZIの連射音を周囲に響かせながらも射撃の練習を行うあかり。その様子を右隣にアリア、後ろのベンチで博也が見守るように見ていた。

 

 

カチッと弾切れを起こした音を聞くと共に立ち上がり、あかりの左隣に立って射撃目標である人型ターゲットを見る博也……全然当たっていない。スコア結果も出てきたが、100点中6点。アリアはスコア結果が書かれた用紙を片手に持ち、あかりに見せるようにしながらもお怒りの様子だ。

 

 

 

「どうしてこうも駄目なのよ!」

 

 

 

「ま、まあ……落ち着けって」

 

 

 

苦笑いしつつもそんな彼女を落ち着かせようと声を掛ける博也。怒られたあかりの方は「ごめんなさい……」と俯きながらも謝るが、アリアは落ち着くどころか更にヒートアップさせながらもマイクロUZIのリロードを終えた彼女に対してこんなことを言った。

 

 

 

「アンタ、元々の悪い撃ち方を矯正しようとしてるからそうなってるんじゃない?一回元々の撃ち方で撃ちなさい。そこから直してあげるわ」

 

 

 

溜め息混じりにそう言いながらあかりに指示を出す。

が、彼女は俯くようにしながらも「嫌です」とそれを拒否した。再度「やりなさい」と指示しても「やりません」と頑なに拒否を続ける。

 

……あれほど慕っているアリアの指示をそこまで拒否するとなれば余程のことがあるかも知れない。そう思った博也は二人の間に割って入るようにして「おい」とヒートアップしている彼女を止めようと試みた。

 

 

 

「それ以上はやめとけって」

 

 

 

「私の戦妹よ、アンタには関係ないでしょ!良いから撃ちなさい!!あかりっ!!」

 

 

 

博也の言葉を拒否しながらも引き続き指示を出すアリア。すると、痺れを切らしたあかりは俯いた状態のまま片手でマイクロUZIの銃口をターゲットに向ける。そして、そのまま引き金を弾いてバラララララッ!!と連射するように発砲。いつも反動によってぶれていた手もピタッと止めての完璧な撃ち方……弾丸はターゲットの額、右目、左目、ノド、心臓といった急所に2発ずつ命中した。

 

 

 

「っ…これは……!?」

 

 

 

全て急所に命中しているということに驚きの表情を見せる博也。隣で見ていたアリアも同じように驚いていた……

それもその筈、彼女の発砲は実戦ならば武偵内での法律でもある武偵法の9条『武偵は如何なる状況下に於いてもその武偵活動中に人を殺害してならない』を破るようなものだからだ。二人が驚きながらもあかりに目を向け続けていると、彼女は今まで俯かせていた顔をゆっくりと上げて見せてくる。その表情は普段の無邪気な笑顔ではなく、悲しげな表情だった。目元には今にも溢れだしそうな程の涙が溜まっている……

 

 

 

「こんなの…武偵の技じゃない……!」

 

 

 

そう言うと共にマイクロUZIを素早くしまってから背中を見せて部屋から出ていくあかり。「……。」と無言になってどうしようか悩む二人だったが、博也の方はパッと真っ先に動き始めた。

 

 

 

「ちょ、ちょっとアンタ……!!」

 

 

 

アリアが止めようと声を掛けるが、彼はその静止を振り切ってバンッ!!と勢いよくドアを開けて部屋を出た。既に彼女の後ろ姿は見えない。左右を何度も見てから「あそこだろう」という予想から右に向けて駆け出す。靴を履き替え、夕焼け色の空が広がる外に飛び出し、中庭へ……すると、木の下のベンチで俯きながらも座っている彼女を見つけた。

 

 

 

「(見付けた……)」

 

 

 

そう思いながらも「ふぅ」と安堵の息をつく。ただ単に話し掛けるのも気まずいと思い、近場の自販機へと足を運ぶ。

 

自販機の前に到着して財布の小銭入れをパカッと開けるが、嫌なことに500円、100円硬貨がない。10円硬貨も数枚しかない。……貧乏人の博也は札を崩すは嫌だったが、"これも可愛い後輩のため"だと割り切って「はぁ……」と溜め息混じりに1000円札を手にする。そして、自販機の紙幣投入口に突っ込んだ。

 

反応してくれたところで自分の分の缶コーヒーとあかりの分の缶コーラを購入。ボトンッボトンッと出てきたところで両手に持つようにしながらもあかりの元へと戻った。

 

目の前まで近付いてもなかなか気付いてくれない彼女。余程、何かを考え込んでいるのだろう……仕方なしに持っていたコーラの缶をピタッと軽く額につけた。

 

「ピャッ!!?」と驚くような声を可愛らしくあげながらもようやく博也の存在に気付いて顔を上げた。

 

 

 

「ひ、博也…先輩……?」

 

 

 

「ほら、飲めよ。俺の奢りだ」

 

 

 

そう言ってコーラを握らせてから「よっと」と隣に座る博也。プッシュッとコーヒーの蓋を開ける彼に対し、あかりの方は蓋に指を掛けるだけでなかなか飲もうとはしない。気になってその手元に目を向けていると彼女が「あの……」と喋りだした。

 

 

 

「さっきの件についてなんですが……」

 

 

 

「聞かねえよ、何も」

 

 

 

想定外の発言に「え…?」と口を開けるあかり。博也は一口だけコーヒーを飲んだ後に先程発言に続くように語り始めた。

 

 

 

「無理に言わなくていい。その代わり、いつか話してくれよ。ずっと先でもいい……待ってるからさ」

 

 

 

そう言うと共に再びコーヒーを飲み始める博也。そんな彼の優しさに心を和らげつつもあかりは「……はい」と小さく頷いてからコーラの蓋をプッシュッと開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻、とある立体駐車場 屋上階

 

 

ガラガラの駐車場の奥に停まるマッドブラック塗装の987型ボクスター。車内でノートパソコンを触る20代前半ぐらい男……肩の辺りまで伸びたゆるい感じの白銀髪にフレームが金色の丸眼鏡、少女漫画の登場人物にいそうなスッと整った目付きをしている。カタカタカタッと作業を進めていると突然、彼の携帯の着信がピロピロピロと鳴り始めた。手にとって相手を確認……ターボSに乗っていたB.Rだ。

 

 

 

「もしもし」

 

 

 

「―B.Rだ。H.E、準備は順調に出来ているか?」

 

 

 

H.Eというのは彼のコールネームだ。だが、彼は若干眉間に寄せながらもこんなことを言ってきた。

 

 

 

「その呼び方やめてくんないっすか?ボスやアンタは正式名が長いから略称でいいにしても、俺に関しては短いっすよ。ちゃんと"ホークアイ"って呼んでください」

 

 

 

そう言いながら空いている右手で作業を進めるホークアイ。そんな彼に「―……。」と黙り込むB.Rだったが、「―すまなかった」と謝罪してから再度問い掛けた。

 

 

 

「―それで、準備はどうなんだ?ホークアイ」

 

 

 

「順調っすよー、決行予定日の明日には余裕で間に合うっしょ」

 

 

 

用件が済んだため「―そうか」と言い残して通話を切ろうとするB.R。だが、「ちょっと待って下さいよー」とホークアイがそれを止めた。

 

 

 

「こっちも話あるんすけど、聞いてもらえないっすか?」

 

 

 

「―なんだ、言ってみろ」

 

 

 

発言の許可を得て嬉しそうにニッと不敵な笑みを浮かべるホークアイ。一旦、右手でのノートパソコンの操作をやめながらも車内のあちこちをゴソゴソと漁り始めた。

 

 

 

「ボスが前にやったビルの監視カメラに俺好みの子が映ってたんっすよー、時間があったらその子に手出していいっすか?」

 

 

 

そう言いながらも「あった」と言わないばかりに一枚の写真を右手で手にして眺める……

 

そこにはある女子武偵生が映っていた。

高飛車そうな雰囲気の目付きと貴賓がある金髪のロングヘアー、通常の制服とは違い、所々に大人びた改造制服を着ている……

 

高千穂麗だ。彼女の写真を見ると共に不敵な笑みを深くした。

 

 

 

「―相手はどんな奴だ?」

 

 

 

「高千穂グループの御令嬢っす、ここまで俺好みのやつはそういないっすよ」

 

 

 

「―別に手を出しても構わないが、任務をこなしてからにしてくれ。俺からは以上だ」

 

 

 

そう言いながら通話をピッと切るB.R。それと共にホークアイはシートに凭れるように背中をつけて写真を眺めながらも舌で唇の上をなめるようにしてこう呟いた。

 

 

 

 

「待ってろよぉ……子猫ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―翌日、朝

 

 

今にも雨が降り出した空の下、Zを走らせる博也。今日は少し寝坊をしてしまったため、遅刻……かなり焦っている様子だ。

 

 

 

「チクショ、やっちまったな……」

 

 

 

そう呟きながらも空を眺めていた時だ。ブゥゥゥ!ブゥゥゥ!!と突然、スマホが鳴り始めた。何事かとナビを武偵高の周知システムとリンクさせてみる……救援要請だったが、その内容を見て驚いた。

 

救援要請者、遠山キンジ。バスジャック事件対応の応援要請。3年生以上の強襲科、車輌科Aランクを求む……

 

 

3年生以上の高ランクのみと限定されるとなれば異常と言ってもいい程の事態になっているだろう。学校どうでもいい……今はこの救援に応えよう。

 

そう思った博也は回転灯をZに取り付けて回すとともに事件現場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―数分前、武偵高行きバス

 

 

バスジャックの対応任務に出ていたキンジ達。

 

 

任務は終了した雰囲気ではあるが、三車線の真ん中を走るバスの上部で防弾装備の彼は雨に打たれながらも同じような格好をしたアリアを抱えていた。彼女の額からは血が出ている……キンジを庇って銃弾を頭に掠めたのだ。その影響から、意識はなくグッタリとしている。狙撃科のSランク・レキがヘリに乗って同行していたが、そのヘリは目の前でガタガタと奇妙な動きをしていた。

 

 

 

「どうした、早くこっちに来い!!」

 

 

 

希望を抱きながらも無線越しで強く救援を請うキンジだったが、パイロットからの通信が来た時にそも希望は打ち砕かれた。

 

 

 

「―機体が安定しない!最寄りのポイントで着陸してから行く!!」

 

 

 

「そんな暇あるかよ!こっちは一刻を争って……!!」

 

 

 

「―馬鹿野郎、無茶言うな!今の機体でこの悪天候の中回収したら墜落して全員死ぬぞ!!」

 

 

 

最後の一言胸に突き刺さり、悔しそうに「くっ」と奥歯に力を入れるキンジ。フラフラながらも去っていくヘリを眺めて力なく膝をつけてしまう。こうなったらこのバスで最寄りの武偵病院に運ぶしかない……そう思っていた時だ。後ろから縦に並ぶようにしてマッドブラックの車が3台近付いてきた。ポルシェだ。987型よりも古い、初期型の986ボクスター……

 

怪しげな車輌に目を向けていると何かに気付いた。……誰も乗っていないのだ。

 

 

 

「っ、まさか……!」

 

 

 

そう驚いている間にブォゥゥン!!と水平対抗エンジンの音を轟かせながらも先頭の一台が急接近してきた。

 

そして……

 

 

ズドンッ!!という音をあげながらも体当たりしてきた。大きく車体が揺れ、車内から「きゃー!!」という悲鳴が聞こえてくる中、車体上部にいたキンジは右腕でアリアを抱えながらも窓のスペースをガシッとつかんで落下を何とか防いだ。態勢を整えようと意識がないアリアを車内の生徒に任せようと移した時、後方二台のボクスターがそれぞれバスの左右に展開した。二台の車体上部には自動照準システムがついたM249、通称ミニミと呼ばれている軽機関銃が……

 

これはまずいと「伏せろ!!」と車内の武偵生に伝えてから照準が此方に向かないように伏せる。すると、左右のボクスターに登載されたミニミが発砲を始めた。

 

ダァッダッダッダッ!!と重い銃声を響かせながらもバスの車体に銃跡を残していく。……防弾仕様のため、何とかもったが攻撃が何度も続いたら耐えれる分けがない。

 

そう思ったキンジは伏せながらも携帯を手にとって救援要請をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―お台場、レインボーブリッジ前

 

 

雨が降っている中、一台のマッドブラックの997型ターボSが路肩の一角に停まっていた。車内にいたB.Rはピロピロピロと着信音を鳴り響かせる携帯を無表情で手に取ると共にピッと着信応じた。相手はボスのG.Dだ。

 

 

 

「B.Rです」

 

 

 

「―予定通り、作戦開始だ」

 

 

 

「了解しました、イ・ウーの連中は?」

 

 

 

「―俺たちと同じように自動運転の車輌を使って先に動いていたみたいだが、全部やられたみたいだ。

 

だが、向こうはもう虫の息らしい……畳み掛けてやれ」

 

 

 

G.Dの言葉に「了解」と答えながらも通話を切ろうとするB.R……だが、通話を切る前に「それと」と止められた。

 

 

 

「―例のガキが動き出してるらしい」

 

 

 

G.Dの言葉を聞くと無表情だった表情から急に怪しげで深い笑みを浮かべ始めるB.R。そのまま彼の言葉に対してこう答えた。

 

 

 

「そうですか……なら、"ちょっと"遊んでやりますか」

 

 

 

そう答えると共に通話をブツッと切るB.R。ハザードランプを切ってからエンジンを掛ける。そして、ブォゥゥン!!という水平対抗エンジンの野獣の咆哮のような音を響かせながらもそのまま走り出した……

 

 

 

 

 

「(ボスがわざわざ手を出すまでもない。待ってろよガキ、俺が仕留めてやる……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どーも、350Zです。

いろいろ省いてしまって申し訳ありません!

原作未読じゃちょっと分からない部分があったと思います!!許してちょんまげ←(ユルサンッ!!



さて、いかがでしたか?

前回とは違ってすごいシリアル……じゃなかった、シリアスだったと思います


イ・ウーの襲撃による混乱に乗じて乗り込んできたポルシェ軍団vs博也……次回はこんな感じになりますね。


どんな展開になるのか?


次回もご期待下さい←(渡○也


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第二話 ウォッチ・イット・バーン




心に直に触れるような


他のやり方じゃ決して得られない


この瞬間


知ってしまった




――追い続けているだけじゃ見えない世界がある







 

 

 

 

 

―三車線の道路

 

 

 

赤と青の回転灯を回しながらもプォーン!!というサイレン音を鳴らして疾走するZ。雨に打たれながらも疾走するその車内で博也はブルートゥースである人物に連絡を入れる……救援要請をしてきた遠山キンジだ。

 

 

 

「市ヶ谷だ、現場の状況を説明してくれ」

 

 

 

「―敵の車輌が3台、車種はポルシェ・ボクスター!

 

3台共、自動運転の模様!なお、2台はミニミ装備!!」

 

 

 

「被害状況は?」

 

 

 

「―戦闘員一人と運転手が撃たれて意識不明!!」

 

 

 

これを聞いて二つ気になることが浮かび上がる博也。意識不明の戦闘員は誰なのか?そして、運転手が撃たれた今、バスは誰が運転しているのか……?引き続き質問を続ける。

 

 

 

「撃たれた戦闘員は?今、運転しているのは誰だ?」

 

 

 

「―撃たれたのは強襲科の神崎・H・アリア!今、バスを運転しているのは車輌科の武藤剛気です!!」

 

 

 

驚きの答えだった……自分の弟子である武藤が運転していることにも驚いたが、それ以上に驚いたのがアリアが撃たれたということだ。Sランク武偵が負傷するほど難航しているのか……そう思った博也は「分かった」と通話を切ってから益々急がなければと更にアクセルを踏み込んでいく。

 

すると、交差点が見えてきた。

 

ブレーキングしながらも左手でシフトノブを握ってカタカタッ!!とシフトダウン。ファゥン!ファゥン!!という音を響かせながらも減速し、交差点に突入すると共に素早くステアリングを右に切る。

雨で路面が濡れているため、安定しない……

若干ながらもズルズルとタイヤが滑っているような感覚がステアリングを通じて伝わってくる。修整するように左にステアリングを切って安定して立ち上がったところで再びアクセルを踏み込んでいく。

 

……ナビの情報によればバスはこの先にいるようだ。

 

視界が悪い中、しっかりと前方を見据えるようにして探す。すると、マッドブラックの車輌に囲まれた一台のバスを発見。囲んでいた車輌の車種は特徴的な後ろを見てすぐにボクスターだと分かった。

 

 

 

「いたっ……!」

 

 

 

ブォォォォォン!!というV型6気筒エンジンの咆哮のようなサウンドを響かせながらも襲撃を受けているバスに急接近。左手にステアリングを任せながらも右手でウィンドウを開けてから愛銃のP226をチャキッと手に取る。最初にバス後方の車輌ではなく、バスの左右に展開していたミニミ登載の車輌に目をつけた。

 

車線を左に移し、角度的に一番狙いづらい左側のミニミ登載車輌に向けて発砲。パンパンッ!!という発砲音が鳴り響く中、放たれた弾丸はミニミの自動照準システムの基盤へ……。キンッ!ピュインッ!!という素早い着弾音と共にシステムがダウン。

キュゥン……という音と共にミニミの銃口が力なく下へと向くと共に足回りに向けてパンパンッパンッ!!と発砲。命中した車輌は安定性を無くし、ガタガタガタッという音を響かせながらも蛇行を始め、ガードレールへと突っ込んでいく。

 

その間にバスの右側の車輌に登載されていたミニミがZの存在に気付き、キュイーンという機械的な駆動音を響かせながらも銃口をZに向けてきた。それに気付いた博也は一度右に車線を移し、ガードレールに突っ込んだ車輌を避けてから左車線に戻り、一気にアクセルを踏み込んでいく。

 

ブォォォン!!!というエンジンの咆哮が鳴り響く中、ダッダダダダダッ!!という発砲音と共にミニミの銃口から次々と弾丸が放たれる……が、Zが急加速したことによってバスの後方についていたボクスターを盾にするような位置に移っていた。放たれた弾丸はそのまま後方にいたボクスターに全弾命中。蜂の巣のように銃痕が開いた車体はキィィィィ!!という音を上げて何回もスピンした後にガードレールに衝突し、ド派手に宙を舞って横転した。

 

……後方の車輌を盾にしていたZの姿は見えない。

 

残り一台になったボクスターは消えたZを探そうと減速し、バスの後方へ。確認するようにキュイーン…キュイーン……という駆動音を上げながらもミニミの銃口を動かす……が、自動照準システムはZの車影を捉えることが出来なかった。

 

"バスの左側に隠れている"と認識し、左に移ろうとした時だ。パンパンッ!!という銃声が突然響き渡ると共に自動照準システムの基盤が撃ち抜かれた。ミニミの自動照準システムが停止してから更に追い討ちを掛けるようにパンパンパンッ!!と銃声が鳴り響くと足回りを撃ち抜かれた。そのまま安定性を無くしてガードレールに衝突して停車……銃声は博也によるものだった。バスの前からまわり込むようにして右につき、ボクスターの前にZをつけるようにしていたのだ。

 

車輌の撃破を確認し、スッとホルスターにP226をしまうと共にバスの方からワァァー!!という歓声がドッとあがるのが聞こえるが、安心している場合ではない。バスの中には二人の負傷者がいるのだ。直ぐにブルートゥースを使ってキンジと連絡を取った。

 

 

 

「遠山か?武藤に停まれるところがあれば停まるように言ってくれ」

 

 

 

Zを減速させ、護衛するようにバスの後方につけさせる。少ししたところでバスが路肩に停車。博也はその前方に回り込むようにしてZを停めてから降り、バス内へと駆け込んだ。駆け込んで真っ先に迎え入れてくれたのは今までバスを運転していた武藤だ。

 

 

 

「せ、先輩!!」

 

 

 

「負傷者は!?」

 

 

 

「バスの奥っす!!」

 

 

 

あっちと言わないばかりに手を向ける武藤の言う通りにバスの奥へと駆け込む……すると、一番後ろの横に長い座席で横になっているアリアと運転手の姿を見付けた。運転手は腕を撃たれただけだが、アリアの方は額から血を流している……

 

2シーターのZは運転をする自分とあと一人しか乗せられない。……となると、頭へのダメージがあるアリアの方を優先するべきだ。

 

 

 

「アリアを運ぶ、運転手の方は任せた!!」

 

 

 

周囲にいた生徒達にそう伝えながらアリアを横向きに抱える博也。そのまま急いで降りようとすると、中央の通路でキンジが負傷したアリアを見て無言で立ち尽くしていた。

 

 

 

「急いでるんだよ、退けッ!!」

 

 

 

肩でバッ!と押すようにして退かせ、再び駆け出す。バスから降り、Zの助手席にアリアを座らせる。カチッとシートベルトを締めた後に自分も運転席に回り込んで乗り込んだ。

 

打ち付けてる雨が強くなっていく中、ブォォォォォン!!!というエンジン音と共に再び走り出すZ……

 

 

目的地は武偵病院だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―とある国道

 

 

ターボSに乗っていたB.Rは周辺を巡回するように車を走らせていた。ブォゥゥン……というエンジンの音が車内で鳴り響く中、携帯の着信がピロピロピロと鳴り始めた。ブルートゥースを使って応じてみる……ホークアイからだ。

 

 

 

「B.Rだ」

 

 

 

「―ホークアイっす、車輌全部やられちゃいましたが大丈夫っすか?」

 

 

 

「なに、想定の範囲内だ。"あれぐらい"は片付けて貰わないとこっちも楽しめない。……ところで、ガキは何処だ?」

 

 

 

B.Rの言葉を聞くと共に「―えーっと……」と呟きながらも受話器越しでカタカタカタッと作業を進めるホークアイ。少ししてから「あっ」と何かを見つけるように小さく声を出した。

 

 

 

「―橋の手前の交差点っす。場所はそこから結構近いみたいっすね」

 

 

 

「了解だ。交差点付近で鉢合わせになるようナビゲートしてくれ」

 

 

 

「―な、なかなか高等な要求するっすね……まあ、いいっすけど」

 

 

 

若干断りたくなるような難しい内容ではあるが、ここは渋々引き受けたホークアイ。カタカタカタッと受話器の向こうから作業音を響かせながらも彼へのナビゲートを開始した。

 

 

 

「―とりあえず、次の交差点を右っす」

 

 

 

「了解」

 

 

 

ナビを聞くと共にアクセルをグイッと踏み込むB.R。ブォォゥゥゥン!!と水平対抗エンジンが高鳴ると共に加速していく。

言われた交差点の手前でブレーキングを行う。ステアリングの裏側についているパドルシフトと呼ばれるボタンをカチッカチッと押してシフトダウン。言われた通りに右に曲がる。

 

 

 

「曲がったぞ、どうすればいい?」

 

 

 

「―そのまま真っ直ぐで……予測だと、そこから三つ先の交差点で右から右折して合流して来るみたいっすよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―三つ先の交差点

 

 

 

フォゥン!フォゥン!!という音を上げながらも減速して交差点にするZ。右に曲がろうとステアリングを切ったところ、突然左側からブォォォゥゥゥゥン!!というエンジン音のようなサウンドと共に猛スピードで何かが接近してくるのに気付く。

 

立ち上がる手前でバックミラーを見て何か確認しようとした……その時だ。ガンッ!!という強い衝撃と共に突然、車体が左に大きく崩れた。接近してきた車輌がZの右後部に引っ掛けるように車体を当てて来たのだ。

 

キィィィィ!!という悲鳴のようなタイヤのスキール音が鳴り響く中、博也は「っ……!?」と言葉にならないような声を出して驚きながらも直ぐに対応しようと右にステアリングを切って修整を掛ける……が、路面が濡れているため崩れた態勢は中々直らない。

 

安定性が戻らないZは路面に溜まっていた雨水を勢いよくバシャッ!!と巻き上げるようにしながらもスピンし始めた。ステアリングを切り続けながらもタイヤのグリップ力(路面を掴む力)を戻そうとブォン!ブォォン!!とアクセルを開けたり、抜いたりと繰り返す……

 

 

 

 

 

「(頼む!戻ってこい…ッ……!!)」

 

 

 

 

そう強く願い続けながらも操作を続けると、思いが通じたのかZは車体の前部を左側のガードレールによって擦るようにしてから何とか態勢を立て直した。ふぅ……と息をつきたいところだが、先程当てて来たと思われる車輌はZの右前についている。911系ポルシェ、997のマッドブラック塗装のターボS……B.Rだ。体当たりをしたにも関わらず、彼の車は無傷である。

 

 

 

「まだ生きてるのか、しぶとい奴だ」

 

 

 

車内でそう呟いたB.RはターボSも減速しながらも態勢を立て直したばかりの車体の後部をZに当てるようにわざと振らせ始めた。ガンッ!ガンッ!!と立て続けに右前部に体当たりを受けたZの車内で必死にステアリングと格闘する博也。が、そんな彼に追い討ちを掛けるようにターボSは驚きの行動にとった。右に並ぶようにしてから車体の側面を使って押し出すように左にサイドプレスを始めたのだ。

 

ターボSの側面とガードレールに挟まれ、身動きが取れずにミシミシッ……!と音を上げながらも車体を歪ませるZ。車内で抜け出す方法を考えていた博也だったが、その間にあることに気付いた……この先の車線減少により、自分が走らせている車線がなくなるということだ。徐々に車線減少表示の黄色い看板が迫ってくる……ブレーキを踏んで抜けるという方法もあるが、路面が濡れている中でそんなことをすれば態勢を大きく崩し、そのまま看板に突っ込む。かと言って、このまま頭から突っ込めば確実に"死ぬ"。

 

 

 

「ここで終わりだ」

 

 

 

ターボSの車内で不気味な笑みを浮かべながらも仕留めたと確信するB.R……だが、ここでZの車内にいた博也は驚きの行動を取る。

 

 

……アクセルを踏み込んだのだ。

それと共にシートの下に取り付けられていたボタンを押す。ナイトロ・オキサイド・システム、通称・NOSと呼ばれている圧縮ガスをエンジン内部に送り込み、一時的に増大なパワーを得るシステムを作動させたのだ。

 

トランクのスペアタイヤスペースを加工して作られた場所に取り付けられた青いガスボンベのバルブがプシュンッ!という音と共に開き、圧縮ガスがV型6気筒エンジンへと勢いよく送り込まれていく。

 

ブウゥォォォォォォン!!という怒りの咆哮ようなエンジン音を上げると共に急激な加速を見せるZ。マフラーから青い火柱のようなアフターファイアを上げながらもターボSを逆に押し退けるようにして右の車線に移った。

 

 

 

「なっ……!?」

 

 

 

突然のZのパワーによる押し退けに驚きの表情を見せるB.R。サイドプレスを行っている時に左にステアリングを切っていたため、車体は左車線に入った。そして、車線減少の黄色い看板に頭から突っ込んだ。バァァン!!というド派手な衝突音を上げながらも宙を舞うターボS。

 

抜け出したZの方も只じゃ済まされない。NOSで抜け出した勢いで車体の安定性がまた崩れ始めたのだ。ステアリングとの格闘を再開し、必死に操作を続ける……すると、車体が無事に安定性を取り戻した。

 

 

再び病院に向けて走り出すZ。

 

 

一方、宙を舞っていたターボSはダンッダンッ!!と音を上げながらも着地。車体は所々へこんでいるようだが、大きな外傷はないようだ。「嘗めやがって……!」と怒りを剥き出しにするB.Rは再びZ追おうとアクセルを踏み込もうとした。が、突然ピロピロピロという着信音が鳴り響く。相手を確認する……ボスのG.Dだ。

 

 

 

「……はい、ボス」

 

 

 

「―作戦は終了だ。それ以上の深追いは俺達の首を締めることになる……引き上げろ」

 

 

 

拒否して追いたい所だが、これは命令だ……仕方ないと受け止めたB.Rは「了解」と答えターボSを別の方へと走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―しばらくして 武偵病院手前

 

 

アリアが入院したと聞き付けたあかりは学校が終わると共にこの場所へと雨の中駆け込んだ。が、中に入る前に駐車場スペースの片隅に停まっていた車を見て驚きのあまりその場で固まってしまった。博也のZ33だ。

 

フロントバンパーは大きなへこみと擦り傷、サイド部分の擦れ具合もかなり酷い……文字通り、ボロボロの状態だったのだ。

 

 

 

「(そ、そんな……!アリア先輩だけじゃなくて博也先輩まで……!!)」

 

 

 

自分の憧れの先輩が二人共、やられてしまった……そう思うと病院に入ることが恐くなってしまったあかり。雨で路面が水浸しになっているにも関わらず、そのまま力をなくすように両膝をつけて茫然と座り込んだ。

 

今まで自分に夢を与えてくれた二人が遠くなっていくようなそんな感じがしてならない。

 

 

……そんな中、後ろから何かの気配を感じた。

ゆっくりと振り向くと、そこには傘を片手に持っている黒い服装の少女が立っていた。

 

 

 

「間宮あかり……おいで」

 

 

 

 

 

 

 











どーも、350Zです。


いかがでしたか、今回?




人が乗ってなかったり、車が頑丈だったりという設定だったので、いつもよりも敵車輌のやられ方をド派手にしてみました。

やっぱり派手にやらかしてくれるのは書いてる方としてもスッキリします。


これこそ、私が求めるスピード&パワーな世界←←


Poweeeeeeeerrrr!!←←(ダレダオマエ



にしても、

アリアの負傷だけではなく、博也のZもボロボロになっちゃいましたね……


B.R、怖いでしょ……(((



そして、あかりの元へと近付く影……

まあ、原作読んでいれば誰かは分かりますね←



ま、そんなこんなで終わった二話です。

続きの三話はどうなるのか……?



ご期待下さい(渡○也)


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第三話 ウィル・ビー・カミング・バック



何かをやろうとした時

「やらなければできない」が大事なんだ 

でも人は知恵がつくと

「できるからやる」となるらしい 

それは結局「できないコトはやらない」だ 

それではその先は引き出せない






 

 

 

 

 

―1時間後

 

とあるお洒落な喫茶店

 

 

 

外が薄暗くなってくる中、この店に入ったあかり。黒い服装の怪しげな少女……夾竹桃も同行していた。奥の席に向かい合うように座る。煙管をくわえながらも足を組むようにしている彼女に対し、あかりは睨むような鋭い目を彼女に向けている。

 

 

 

「あなたがアリア先輩と博也先輩を……?」

 

 

 

「アリアの方は私の友人……男の方は知らないわ」

 

 

 

そう答えると共にふぅ……と煙を吐き捨てる夾竹桃。

嘘だ、何か隠しているはず……!

あかりの眉間にシワが寄り、先程よりも声を荒げさせながらも「嘘だ!」と力強く指摘した。

 

 

 

「何もなしにあの二人が同じ日にやられるなんてそんなの有り得るわけ……!」

 

 

 

「有り得るのよ……それが」

 

 

 

そう答えながらも煙管を右手に持つようにしながら背中に左手をまわし、何か写真のようなものを二枚、左右に並ぶようにテーブルの上に置く。今朝のバスジャック事件の写真だ……

 

 

 

「右が事件開始時の監視カメラの写真。写真に写っているルノーは私の友人が用意したもの。それに対し、左は事件終盤の監視カメラの写真……この三台のポルシェに関しては身に覚えがないわ。男の車はこの三台のポルシェが来た数分後に来ている。……全く関係がない話よ」

 

 

 

「惚けないで!そんなの何処に証拠が……!!」

 

 

 

「証拠はあるにはあるけど、教える気はないわ……私の友人の作戦にも影響するし」

 

 

 

そう答えながらも写真をしまって再び静かに煙管をくわえる夾竹桃。これ以上は聞いても何も出ないと仕方なしに引き下がるあかりだったが、今度は此方からと言わないばかりに夾竹桃が直ぐに話を持ち掛けてきた。

 

 

 

「間宮口伝の秘毒……鷹捲(タカマクリ)、知ってるわよね?」

 

 

 

問い掛けに対して驚くように目を見開くあかり。だが、直ぐに「知らない」と言って外方を向いて誤魔化した。が、そんな誤魔化しが通用するわけがない……夾竹桃がクスッと怪しげに笑ってから「あら」と言って彼女を追いつめるように目を向けると流石に耐えれなくなった。

 

 

 

「鷹捲は危険な技……貴方には絶対に教えない」

 

 

 

「じゃあ、教えたくなるようにしてあげるわ」

 

 

 

断固として言おうとしないあかりに対してそう言うと共に足をわざと動かして太股の辺りまで見せる夾竹桃。……武器は持っていない。勝てる……!そう考えたあかりは立ち上がると共に素早くマイクロUZIを手に取り、「動くな!」を銃口を向けた。

 

 

 

「夾竹桃、あなたを逮捕……!」

 

 

 

逮捕すると言おうとした時だ……急に首筋にチクリという感覚を感じた。何が起きているのかと疑問を抱いている間に夾竹桃が煙管を素早く動かし、先付いていた細いワイヤーのようなものを首を囲うようにする。

 

 

 

「TNK(ツイステッドナノケプラー)ワイヤー……

 

その防弾制服にも織り込まれている極細繊維よ」

 

 

 

そう説明をしながらも首を囲むように張ったTNKワイヤーでゆっくりと締め付けるようにする。

 

 

 

「戦っちゃダメ……あなた"弱いんだから"」

 

 

 

徐々に締めていくとあかりはそれから逃れようと左手でワイヤーをグイッと掴んだ。だが、締めるのが強くなっていくごとに左手の薄皮が切れ、少しずつ苦しくなっていく。

 

 

 

「いっちゃおうか?このままポトリって……交渉決裂気味みたいだし」

 

 

 

そう言いながら更に締め付けていく夾竹桃。その時だ。シュルルル!とブーメランのように回転する何かがあかりを苦しめていたワイヤーを切った。開放されてバタリッと勢いよく倒れるあかりだったが、コツコツッ……と歩み寄って来るような足音が聞こえて来ると体を起こしてそちらに目を向ける。……高千穂麗だ。

 

 

 

「弱いですって……聞き捨てならないわね。それ以上その子を傷付けるならば、傷害罪で逮捕するわよ!!」

 

 

 

ビッと指を差した後にスカートのファスナーを下ろしてホルスターに納めていたレッドホークを右手で手にとって銃口を向ける麗。彼女に続くようにあかりも再びマイクロUZIの銃口を向けると、夾竹桃は「………。」と数秒程動かずに固まった後、徐々に顔を赤らめさせていく。ハンカチを手にとって鼻の辺りを軽く押さえるようにしながらも席から立ち上がって背中を見せた。

 

 

 

「そう。そういう関係なのね……女同士の友情には口を出さないわ」

 

 

 

一枚の折り畳んだ紙をポトッと落としながらもそう言って店から出ていく夾竹桃。あかりと麗が首を傾げながらもその様子を見ていると、ピロピロピロという携帯の着信音が鳴り響いた。あかりではなく、麗の携帯だ……相手は大樹。直ぐに手にとってピッと操作しつつも「はい」と応じてみる。

 

 

 

「もしもし?」

 

 

 

「―大樹だ、大丈夫か!?」

 

 

 

「え、えぇ……特に何事もありませんわ」

 

 

 

「―そうか、良かった……いや、相手が鼻血垂らしながら出ていったの見て戦闘があったんじゃないかって心配したんだ」

 

 

 

発言を聞いてどうしてハンカチで鼻の辺りを押さえたから理解した麗は「そ、そう」と返事をする。その間にあかりは夾竹桃が落とした紙を手にとって広げた……メールアドレスのようなものが書かれている。

 

気が向いたら連絡して……ということだろうか。

 

 

 

「どうしたの?」

 

 

 

「いや……さっきはありがとう。高千穂さん」

 

 

 

紙を折り畳み直して紙をしまうあかりに対し、「フ、フン!」と顔を真っ赤にしながら背中を見せてプイッと外方を向く麗。だが、数歩だけ距離を取った後に背中を見せながらも彼女の方に再び目を向けた。

 

 

 

「病院に行くわよ」

 

 

 

「えっと、アリア先輩の……?」

 

 

 

「それもあるけど……貴女、妹いるわよね?病院付近で倒れて運ばれたわよ」

 

 

 

麗の言葉に「えっ……?」と驚きの言葉を漏らしながらも頭の中を真っ白にさせながらも固まるあかり。そんな彼女の腕を麗は「早く」と言わないばかりに掴んで店の出入口へと歩き出した。支払いをカードで済ませた後に雨が激しくなった外に出ていくと、ブォゥン!という音を鳴り響かせながらも大樹の86が迎えに来てくれた。ウィンドウを開けて二人に早速「乗って!」と呼び掛けてくる。雨の中、駆け込むように86のドアを開けるあかり。助手席側のシートを畳んでスポーツカー特有の狭い後部座席に乗り込んだ後、続くように麗も助手席を戻して乗り込んだ。

 

二人が乗ったのを確認し、大樹は86を走らせる。ブォゥゥン!という水平対抗エンジン特有の音が車内に鳴り響く中、俯いて黙り込むあかり。そんな彼女の姿をバックミラーで確認した大樹は早速、単刀直入に質問を投げ掛けた。

 

 

 

「今日1日で、君の周りにいる人が次々と何らかの被害に遭ってる……流石に何か心当たりの一つか二つ、知ってるんじゃないか?」

 

 

 

単刀直入で鋭い質問に目を大きく開かせるあかり。心当たりはあるが、言うのが怖い……だが、言わなければ被害が拡大するかもしれない。

 

そんな思いが頭の中で複雑に絡んでいると、それを割って入るようにしてある言葉が浮かんだ。前日に聞いた博也の言葉だ。

 

 

 

 

 

「―いつか話してくれよ。ずっと先でもいい……待ってるからさ」

 

 

 

 

 

「(先輩……

 

いつかって、今話さずにいつ話すんですか)」

 

 

 

……あかりの頭の中で答えは決まった。グイッと膝の上に乗せていた手に力を入れながらもゆっくりと顔を上げると、真っ直ぐとした目付きを前に座っている二人に見せた。

 

 

 

「……話します、全て」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―数分後、86車内

 

 

 

後部座席に座っているあかりは二人に向けて心当たりがあることを全て話した。前に座っている二人はそれを聞いて深刻そうにしていると、運転している大樹は「つまり」と簡潔にまとめ始めた。

 

 

 

「君の一族は大昔、命に関わるような重大な仕事をしていてその上で人を殺めるような技術を身につけていた。その技術は平和になった現代でも先祖代々受け継がれていたが、技術を狙った組織が出てきた。その組織の襲撃によって一族は離散、君は妹と二人きりでの生活を余儀無くされた。しばらくの間は平穏な日々を過ごしていた君だが、君が身に付けている技術を奪おうと再び組織が動き出した……簡潔に纏めるとこんな感じか?」

 

 

 

大樹の確認に「はい」と小さく頷いて答えるあかり。それと共に制服に腕に付いていた武偵高の校章ワッペンを剥がそうと手を伸ばした。

 

 

 

「私、武偵高を辞めて夾竹桃の下に行きます。そうすれば、もうみんなに迷惑かけずに……」

 

 

 

あかりの弱気な発言に「ふざけないで!!」と声を荒げる麗。急な言葉にビクッとなりながらもワッペンから手を離すと、続けるように彼女が語り始めた。

 

 

 

「カルテットでわたくしを負かした相手がこのような弱気な発言をするなど、断じて許しませんわ!!」

 

 

 

珍しく怒りの感情を見せる麗に便乗するように運転していた大樹も「そうだ」と答えて続けるように語り始めた。

 

 

 

「君の憧れでもある"あの二人"がそれを聞いたら、黙っちゃいないだろうな……二人共、君と同じような重たい過去を背負い、立ち向かう為に武偵活動をしてるというのに」

 

 

 

「重たい……過去?」

 

 

 

「そ、博也の方は前言ったように殺された妹の敵討ち。

神崎の方は罪の濡れ衣を着せられた母親の無実を証明する為に武偵活動をしてるらしい。詳しくは知らないが」

 

 

 

そう語りながらも武偵病院が近づいていると視認した大樹。赤信号で車を停車させながらも「ふぅ……」と小さく溜め息をついた後にこう語る。

 

 

 

「君の手段は言うなら"逃げ"だ。

逃げの手段は後に後悔と虚しさしか残らない……俺も前までよく逃げていたから分かるんだ。俺の場合は一時的な後悔しか残らなかったが、君の場合は一生残るだろう。相手がどれだけ強くても、君は立ち向かうべきだ。

 

……自分自身と君を支える仲間を信じて」

 

 

 

その発言が心に突き刺さったのか、「………。」と黙り込んで俯くあかり。そして、少しだけ間を開けてから「はい」と小さく頷いて答えた。

 

 

 

「……頑張ります。私、夾竹桃と戦います」

 

 

 

その答えを聞いて「そうか」と答えて口元を緩ませる大樹。青信号になったのを確認してから再び車を走らせていく……少ししてから病院の駐車場に到着したが、後部座席に座っていたあかりはあることに気付く。

 

……前に来た時に停まっていた博也のZがないのだ。

 

 

 

「あれ、博也先輩は……?」

 

 

 

「さっきまで来た時にはいたけど、何処か行ったみたいだ……でも、アイツのことだ。心配することはないと思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻、とある喫茶店

 

照明や天井に取り付けられているシーリングファン……

白と黒で統一されていて趣こそあるが、テーブル席がなく、食器棚や洗い場、コンロが置いてある調理場とカウンター席にレジしかないような狭い店。

 

そんな店の店内で50代後半ぐらいの白髪で切れ長の目付きをした黒い服装のマスターらしき男が閉店しようと調理場で片付けを行っていた。その最中、入り口に取り付けられていたベルがチャリンチャリンッと店内に鳴り響く……誰か入って来たのだ。

 

 

 

「誰だー、表の閉店の札読めなかったのか?」

 

 

 

そう言いながらも片付けの手を止め、ふと出入口の方に目を向ける……

 

茶髪でどこか緩いベリーショート、やる気が無さそうな感じの目付きで背丈は170cmぐらいの男……博也だ。雨で少しだけ服や紙を濡らしながらも右手に小さめの黒いエナメルバックを持っている。

 

相手を確認したマスターは「おぉ」と声を出しながらも歓迎するように笑みを浮かべた。

 

 

 

「誰かと思えばお前だったか。久々だな……何かあったのか」

 

 

 

そう問い掛けてくるマスターに対し、何も言わずにカウンター席に座ってエナメルバックを開けて何かを勢いよく取り出す博也。

 

……札束だ。

 

一束100万はあるような札束を三つ取り出すと共に勢いよく頭を下げる。

 

 

 

「片岡さん……頼みがあります」

 

 

 

頭を下げる博也……片岡というのはマスターの名前だ。

その片岡は真面目な表情に変えつつも札束を手に取った。

 

これほどの大金を費やしてまでして欲しいこととは何なのか?

 

気になった片岡は札束を置いて煙草を口にくわえながらも問い掛けた。

 

 

 

「頼みって……なんだ?」

 

 

 

「片岡さんのガレージに置いてる試作のZ33の超軽量硬化フレーム……あれで俺のZのフレームを組んで貰えませんか?」

 

 

 

博也の頼みに対して「フッ」と再び笑みを浮かべる片岡。

「いいだろう」と答えると共に下げていた頭をゆっくりと上げた博也の方に目を向けると共にくわえていた煙草に火をつけてからこう語り始める。

 

 

 

「俺も昔からずっとZに乗ってきた。

S30、S130、Z31、Z32、Z33……今はS30と現行のZ34の二台持ちだ。だから、Z乗りの気持ちはよく分かるんだ。同じZ乗りとしてその気持ちには答えてやりたい」

 

 

 

そう言いながらも背中を見せてレジの方へと向かう片岡。壁の片隅に隠していたスイッチを押すと、食器棚がゴゴゴ……という音を上げながら左右に開くように動き始めた。バタンッと止まると共に店の広さの倍以上はあるような広いガレージが姿を見せる。

 

 

 

 

 

 

「―車を入れろ。しばらくの間、喫茶店は休業だ」

 

 

 

 

 

 









はい、どうも350Zです。


第三話、いかがでしたか?



特に大したアクションはありませんでしたが……


貧乏博也くんがZに更に金を費やしました←


コイツ、すげえ……

てか、その300万は何処から出てきたんだ?



と思う方いると思いますが、貯めてた金額なんでしょうね……Zの為に。



さて、

超軽量硬化フレームという謎のものが出てきましたが、どのようなものなのか?


そして、夾竹桃と戦うこと決意したあかりは?


今回、出番が無かったポルシェ軍団は再び動くのか?


疑問が残りますが、それはまた次回!


御期待下さい(渡○也)





では、久々にプライベートの話しをしまーす。



先日、久々に仲間とツーリングに行きました。


車種はハコスカ(70年代)、マークII(80年代)、スープラ(80年代)……そして、私のZ(00年代)です。




あれ、Z……若僧じゃね?




というのはさて置いて。


とりあえず、その4台で近場のダムまで流すことに……


ちなみに隊列はスープラ、Z、ハコスカ、マークII。


先頭のスープラは山に入ると共に早速飛ばし始めました。



「お、行ったなー!」



旧式とは言え、流石はスポーツカー。

私もついていくようにアクセルを踏み込みました。


正直、抜こうと思えば抜けましたが対向車来たら危ないのでついていくだけ←

いやー、でもいいっすね←←



なんて思いながらもバックミラーを見ましたが……


あれ、後ろ二台がいないぞ?



何処に行った?という疑問を抱きながらもスープラと共に途中にあった道の駅に入り、駐車。


車から降り、スープラの仲間としゃべりながらも待つこと数分後……



ようやくハコスカとマークIIが姿を見せました。


そして、窓を開けたハコスカの仲間が「やべえ!」と言ってからあることを口にします……



「ボディ、歪んだかも!!」



……え?


歪んだって、どれだけボディ脆いですか!!?


等と突っ込みを入れたくなるような衝動に駆られながらも、苦笑いして二台を迎え入れて350Zでした……


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第四話 タイム・リミット




何を今さら迷っている?


まっすぐ明るい場所に歩いていくんだ

いつも何かと背中合わせの危うい世界に


もうキミは在るべき人じゃあないんだ――――








 

 

 

 

―翌日、昼 雨

 

 

喫茶店の裏のガレージ

 

 

外とは対称的に如何にも暑そうな室内でボロボロになったZのパーツ移植作業が進められていた。前日とは違い、赤いツナギ姿で黙々と作業を進める片岡……

 

チャキチャキッという工具を動かすような音を周囲に響かせていると車搬入用のシャッターがガラガラと開き、五人の男が現れた。見た目30代ぐらいで全員、黄色いツナギを着ている。……片岡の元弟子たちだ。

 

 

 

 

「片岡さん、応援に来ましたよ」

 

 

 

 

「おう、早く手伝え」

 

 

 

 

車体前部の下からひょこっと顔を出しながらも促すと五人は直ぐ様、工具を手に取って作業を始めた。が、ただ単に移植作業をするのではない。痛んでいる部品や怪しい部品を分け、それが何なのかメモを取ると共に廃棄。メモをある程度取ったところで他のショップ等に問い合せ、置いてあるかの確認も手分けして行う。

 

 

が、その間に問題があるパーツが浮かび上がった……

 

 

バンパー等の外装関係のパーツだ。

こういったパーツは在庫保管する場合はスペースを取る……そのため、純正品であろうが社外品であろうが受注生産がほとんど。余程の需要がある車種でもない限りは作り置きしているということは滅多にない。

 

 

 

 

「片岡さん、どうしますか?今から発注となれば塗装なしでも2、3週間は掛かりますよ」

 

 

 

 

元弟子の言葉を聞いて車体の下からクイッと顔を出す片岡。持っていた工具を置いてそのままゆっくりと体を出して立ち上がる。

 

 

 

 

「ネットオークションや中古のショップは?」

 

 

 

 

「調べました。ですが、ジャンク品や色違いも含んで同等の物は……短期で仕上げるなら、バンパーレスも視野に入れた方がいいかもしれません」

 

 

 

 

その言葉に思わず頭を押さえる……仕方ないと割り切った後に伝えてきた元弟子の肩をポンッと軽く叩くようにしてから作業場を離れた。

 

 

 

 

「そっちの方は俺が何とかする。お前は俺の代わりに作業を進めてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻 武偵病院

 

駐車場

 

 

一台の白いクーペがこの場所に停まった。平たいボディの四角ヘッドライトが特徴的なこの車……Z33の一つ前の型であるZ32だ。そんなZ32の運転席から白い花束を二本片手に博也が降りてくる。

 

降りると共にブゥゥ!ブゥゥゥ!!と彼のスマホが着信を伝えてきた。長いこと鳴っている限り、電話だろう。ピッと手にとって応じてみる……電話の相手は片岡だった。

 

 

 

「もしもし?」

 

 

 

「―お、出たか。どうだ、代車は?」

 

 

 

「どうだって……驚きましたよ。32(サンニー)とは言え、代車がZなんて」

 

 

 

「―まあ、NAのオートマで2by2(4人乗り)。走行距離もかなりいってるから、中古市場で50万以下で手に入れられるような奴だ。そんな大層なモンじゃない」

 

 

 

苦笑い混じりの声を聞きながらもドアの鍵穴にキーを差し込んで締め、雨に打たれながらも病院の入り口に向けて歩き出す博也。そんな彼に片岡は本題を切り出した。

 

 

 

「―移植の件だが……ちょっと問題が出てきた」

 

 

 

「問題……というと?」

 

 

 

「―外装系パーツだ。今から新品の発注となれば2、3週間は掛かる……それも塗装なしで。中古やネットオークションでも探したが、同等品はヒットしなかった」

 

 

 

片岡の言葉を聞いて驚くような表情になる博也。移植完了の期日を定めていないにも関わらず、何だか急いでいる様子だ。

 

どうしてなのか……?

 

気になった彼は病院の入り口前でドアに背中を向けるような形で雨宿りしながらもその理由を問い掛けた。

 

 

 

 

「どうしてそんなにも急いでいるんですか?」

 

 

 

 

「―どうしてって…お前、相当急いでいるだろ?昨日の顔見れば分かる。あの急ぎ方は早く車が戻ってきて欲しいっていうのだけじゃない……他にもあるだろ」

 

 

 

 

……正に図星だった。博也は軽く頭を押さえるようにしながらも"流石"と言わないばかりに「はぁ」と短く息を吐き捨てた後に続けてこう続ける。

 

 

 

 

「やっぱり凄いな、片岡さん。俺なんかより一枚も二枚も上手だ」

 

 

 

 

「―アホ、何年前からお前の面倒見てると思ってんだ」

 

 

 

 

「そうでしたね。思えば、俺が免許取る前……教習所通い始めた段階からずっと世話になってましたね」

 

 

 

 

懐かしそうに語る博也に対し、「―そうだな」と合わせるように答える片岡。だが、古い思い出に浸る為に電話を掛けてきたわけではない。再び話を本題に戻した。

 

 

 

 

「―短期間で仕上げるなら、同等品パーツは無理だ。だが、別のパーツなら幾らでも探せる」

 

 

 

 

「短期間……どれぐらいで仕上がりますか?」

 

 

 

 

「―3日あればいける」

 

 

 

 

たった3日で車体を仕上げる…異常な早さだ。彼の解答に半ば驚く博也。仕上がり具合が気になるところだが、相手は自分が信頼を寄せる百戦錬磨のチューナー……博也は「はい」と小さく頷きながらも彼の言葉に答えた。

 

 

 

 

 

「短期間のプランでお願いします」

 

 

 

 

 

その答えに「―わかった」と答えながらも通話を切るような口調で了解する片岡。博也の方も通話をやめるだろうと思いスマホをゆっくりと耳から離そうとするが、「―あ」と何かを思い出すような声が聞こえて再びスマホを耳に近付けた。

 

 

 

 

「―ひとつだけ頼みがある……お前が急いでいる理由を聞かせてくれ」

 

 

 

 

片岡の最後の言葉に「………。」と黙り込む博也。その数秒後、口角を軽く上げるようにして自然な笑みを浮かべながらも答えた。

 

 

 

 

「大切な人たちを守るためです。

 

俺……もう、何も失いたくないんですよ」

 

 

 

 

「―そうか……わかった」

 

 

 

 

答えを聞くと共に通話を切ってきた片岡に対し、スマホを耳から離しながらも液晶の画面を切る博也。ゆっくりと振り向いて早速、病院内に入った時だ。あかりが奥から姿を現した。此方の様子を見るや否や、小走りで駆け寄ってくる。

 

 

 

 

「あ、先輩」

 

 

 

 

「見舞いは済んだのか?」

 

 

 

 

 

「はい、先輩は……?」

 

 

 

 

「お前の妹と神崎の見舞いに来たんだ。花束も持ってきた」

 

 

 

 

「ほら」と言わないばかりに手に持っていた花束を軽く上げるようにして見せると彼女は感激するように満面の笑みを浮かべてから頭を深々と下げた。

 

 

 

「ありがとうございます。あ、あの……

先輩がよろしければ、見舞いの方の付き添いさせてくれませんか?」

 

 

 

 

「え、でも……見舞い済んだんじゃ?」

 

 

 

 

「先輩が来たのなら別ですよ、早く行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―数分後、間宮ののか病室

 

 

アリアの見舞いを軽めに済ませた後に立ち寄る二人。

 

 

何もない広めの個室……

 

 

そんな個室のベッドで目に包帯を巻いた少女……ののかの姿を見た博也は驚きを隠せない様子で突っ立っていた。そんな彼に対してあかりは笑みを浮かべて静かに歩み寄っていく。

 

 

 

 

「ののか、お客さんが来たよ」

 

 

 

 

「お客さん……?」

 

 

 

 

「そう、私にとってのもう一人の憧れの先輩。博也先輩だよ」

 

 

 

 

あかりの紹介の仕方に半ば恥ずかしく思いながらも「ども……」と声を掛けては歩み寄っていく博也。何処にいるのか分からずにキョロキョロとしているののかだったが、足音と声で理解して此方に顔を向けてきた。

 

 

 

 

「貴方が博也先輩ですか?姉から話しは聞いてます。いつもお世話になってるみたいで……」

 

 

 

 

あかりとは全く違い、非常に丁寧でしっかりとした口調の彼女……本当に姉妹なのだろうか?と思わず思いながらも「いやいや」と小さく首を横に振る。そして、「これ……」と言いながらも持っていた花束を手渡す。

 

貰った花束が何か分からず、手で表面を触るようにして何か確かめると共に「あ」と理解するように呟きながらも笑みを浮かべてきた。

 

 

 

 

「花束ですか。ありがとうございます」

 

 

 

 

そう言いながらも花束を膝の上に置く彼女。そんな彼女を見た博也の頭の中にふとある疑問が浮かび上がる。

 

彼女は何故、視覚を失ったか……?

 

疑問に思った彼はあかりに向けて「ちょっといいか?」と声を掛け、互いに一旦部屋から出てからそれを確認することにした。

 

 

 

 

「……どうして目が見えなくなったんだ?」

 

 

 

 

小声で恐る恐る問い掛けると、あかりは神妙な面持ちでゆっくりと語り始めた。

 

 

 

 

「私の技を狙う敵……夾竹桃に毒を打ち込まれたんです」

 

 

 

 

「毒……?解毒剤はないのか?」

 

 

 

 

「はい、何でも構造が特殊みたいで。

解毒剤を作れるのは作った本人……つまり、夾竹桃だけなんです」

 

 

 

 

その言葉に「なるほど」と頷く博也。そんな彼に対してあかりは何処か不安げな様子で続けてこう語った。

 

 

 

 

「私、妹を救う為に仲間と一緒に夾竹桃と戦うことにしました……

 

でも、正直言うとまだ怖いんです」

 

 

 

 

その言葉に放ってはおけない博也は再び病室のドアノブに手を伸ばしながらもこう投げ掛けた。

 

 

 

 

「……見舞いが終わったらまた車の中で話そう」

 

 

 

 

彼女の不安を少しでも和らげるためにゆったりと話せる場で語り合おうと思った彼の口から出た提案……

 

あかりはその提案に小さく頷いて「はい」と答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―1時間後、二車線のとある国道

 

 

 

小雨が降り注ぐ中、ブォォン……というV型エンジンの音を響かせながらも国道を走るZ32。車内で博也が運転する中、助手席には座っているあかりは少しだけ表情を和らげさせていた。

 

 

 

 

「少しは気が楽になったか?」

 

 

 

 

「あ、はい……ありがとうございます」

 

 

 

 

小さく頷いて礼の言葉を述べる彼女だったが、まだ心の内にある闇は消えていないみたいだ……その闇を引き摺り出さない限りはずっとこんな感じだろう。そう思った博也はウィンカーを出しながらも車を左車線に入れてから単刀直入に問い掛けた。

 

 

 

 

「夾竹桃と戦うことの何が怖いんだ?」

 

 

 

 

「何がって……それで仲間が傷付いてしまうことが怖いんです」

 

 

 

 

俯いて自分の膝を眺めるようにしながらも答える彼女に小さく溜め息をつきそうになる博也。次の交差点で左折しようと信号手前でブレーキを踏み込んで減速してから答えた。

 

 

 

 

「武偵憲章、第一条"仲間を信じ、仲間を助けよ"。

 

しっかり信じてやれ、一緒に戦ってくれると誓ってくれた仲間を」

 

 

 

 

「信じてます。でも、やっぱりそれで傷付くのは嫌なんです……!

 

私がこんな酷い運命を背負っていなかったら、皆……!!」

 

 

 

 

博也の言い分に若干声を荒くさせるような強い口調で反論するあかり。そんな彼女の反論に博也は「……。」と何かを考え込むように黙るも、車を左折させてからあることが頭の中で浮かび上がり、アクセルをゆっくりと踏み込みながらから話し始める。

 

 

 

 

「……なあ、あかり。

俺らが今乗ってる車がどんな車か知ってるか?」

 

 

 

 

「いえ……」

 

 

 

 

「日産のフェアレディZ・Z32。俺が乗ってるZ33の前身の車だ。

 

発売したのは1989年。

日本はバブル景気の絶頂期……コイツはその時代に合わせ"スーパースポーツ"という限りなくスーパーカーに近いスポーツカーを目指して造り出された。

 

最初は売れに売れて日産の看板みたいになっていたらしい。だが、その後のバブル景気の崩壊と同メーカーの日産・新型スカイラインGTーRに売上を押され、その影は次第に薄れていった。更に90年代後半、それを後押しするようにメーカーである日産の経営が悪化……そして、2000年に生産終了。

 

人からして見れば"たった11年"と言うかも知れない。が、コイツはその11年の間に絶頂とドン底の両方を体験してるんだ。

 

……お前、高1だから少なくとも15年は生きてるだろ?そこから考えてみれば、色々なことを経験しててもおかしくない」

 

 

 

 

 

説明を終えたところで次の交差点の信号が赤になっているのを確認……ゆっくりとブレーキを踏み込んで停止線の前で車停めた後に神妙な面持ちで続けるようにこう語った。

 

 

 

 

「どんな奴の人生も曲線グラフで表せば、上がったり下がったりする……幸せな時もあれば不幸な時もあるからな。

 

人ってのは何かと幸せなことばかりに目を向け、不幸なことには目を逸らして逃避しようとする。

 

でも……不幸な時こそ目を向けるべきだ。

如何にグラフを上昇させるように修正を掛けるか……その修正を考えてしっかりと行動に移すのが大事なんだ。

 

 

お前は行動しようとはしてるが、まだ迷いがある。そんなやり方……いや、"生き方"じゃダメだ。一緒に戦う仲間のグラフまで狂わせ兼ねない。一度決めたならしっかり前を見ろ、後ろを振り向くな。

 

 

 

 

 

人生は一方通行だ。

 

―そこで生きる上にバックギアは必要ない」

 

 

 

 

 

博也の言葉に対してまだ不安なのか、まだ顔を俯かせているあかり。そんな彼女の頭を……

 

博也は左手でソッと撫でた。

 

 

 

 

「心配すんなって、ピンチになった時は俺が助けてやるから」

 

 

 

 

その言葉を聞くと共に顔を少し赤らめるあかり……自分を撫でてくれた手に"離さないで"と言わないばかりに両手で押さえるようにして博也に目を向けた。

 

 

 

 

「先輩……私、頑張ります。なので、もう少しだけこうさせて下さい」

 

 

 

 

彼女の言葉に口角を軽く上げるようにして笑みを浮かべて「わかった」と小さく頷いて答える博也。

 

信号が青になってもステアリングを右手に任せながらも彼女の頭の上に添えていた左手は離さない。スッ……と優しい手付き撫で続けていると、彼女は小声でこんなことを伝えてきた。

 

 

 

 

「3日後の夜……ホテル・ラストダンス。

 

そこで夾竹桃を逮捕する予定です。作戦コードはAA(ダブルエー)」

 

 

 

 

3日後……ちょうどZが戻ってくる予定日だ。片岡の言う通りに事が進めば、ギリギリ間に合う。信じてはいる……だが、絶対に間に合うという保証はない。

 

……その事を頭の中で考えていると笑みを浮かべていた博也の表情も次第に神妙になっていく。

 

 

 

 

 

「(もし、間に合わなかったら……コイツ(Z32)で行くことになるかも知れない)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻 とある立体駐車場

 

 

片隅のガラガラのスペースにGT2を停め、運転席にもたれる黒いスーツ姿のG.D。片手で携帯を手にしながらもある人物に電話を掛けると、「―はい」と凛とした声質女性らしき声質の人物が応じてきた。

 

 

 

 

「俺だ、G.Dだ」

 

 

 

 

「―あら、ボス。どうしたのかしら?」

 

 

 

 

「色々と厄介な事が起きてな、お前に頼もうかと思って掛けただけだ」

 

 

 

 

「―厄介事?ラブコールじゃないのね」

 

 

 

 

「馬鹿か、寝言は寝てから言いな。」

 

 

 

 

呆れ混じりのその言葉に「―ツマラナイわね」と小声で呟く彼女。聞こえてはいたG.Dだったが、わざと聞こえないフリをしながらも話を続けた。

 

 

 

 

「お前にはある奴の暗殺を頼みたい」

 

 

 

 

「―ある奴……一体、誰?」

 

 

 

 

彼女の問い掛けに対してスーツのポケットからクシャクシャに丸まった二枚の写真を手に取るG.D。そのまま大きく手を振るようにして写真を広げる。すると、そこには黒い服装の怪しげな少女……夾竹桃が写っていた。

 

 

 

 

 

「イ・ウーの夾竹桃だ。奴は色々と知りすぎたようだ……手段はどのようなものでも構わない、早いうちに消せ」

 

 

 

 

 

 







どうも、350Zです


最初に謝罪から……


更新が遅れてしまい申し訳ありません!!


いや、なかなか良い感じに仕上がらなかったので時間が掛かってしまいました……


正直、今の状態でもお見せ出来るような状態じゃないんです←←

でも、更新しないとマズイかなって……

いや、本当に申し訳ありません!!




まあ、この位で許してやって下さい……←



さて、そんな謝罪まみれの今回の話でしたが……

いかがでしたか?


3日で車仕上げるってスゴいっすよね←←

でも、口で言うのはなんだって出来るんですよ!

だから、片岡も……おっと、誰か来たようだ。



さて、次話から話の内容が大幅にオリジナルになります


どんな展開になるのか……


ご期待下さい(渡○也)



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第五話 トリガー・ワーニング

 

 

 

 

―3日目 日が昇り出した早朝、喫茶店

 

 

 

期日である3日目が刻一刻と迫る中、元弟子達がガレージで作業を進め、片岡は未だに入手できないパーツを手に入れようと喫茶店の片隅の席で電話を片手に色々な人物に掛けていた。

 

Zの方はかなり形になってきてはいるが、サイドステップ以外のエアロ系のパーツとその他所々のパーツは付いていないような状態だ。理由は簡単……物がないのだ。

 

急いで入手しようと焦る片岡は右手に電話の受話器を持ち、左手にはボールペンと連絡リストという完全装備で片っ端に連絡していく……その様はまさに期日を迫られた中小企業の営業のようだ。

 

 

 

 

「そうですか……わかりました。こんな時間に掛けてしまい、申し訳ありませんでした」

 

 

 

 

そう謝罪の一言を入れてガシャッと受話器を下ろす。持っていたボールペンで連絡リストにバツをつけたのを見る限りダメだったようだ。溜め息混じりに「はぁ……」と息をつきながらも改めて連絡リストを見てみる……連絡先にギッシリとバツ印がつけられている。

 

 

 

 

「(これでもう何軒目だろうな……)」

 

 

 

 

そう思いながらも次の番号をピッピッと押してから再びガシャッと受話器を上げる……すると、気さくな声で「ーはい」と店主らしき人物が電話に応じてくれた。改めて本腰を入れて話そうと試みる。

 

 

 

 

「もしもし、L'sプロチューンの方ですか?」

 

 

 

 

「―はい、そうですが……って、もしかして片岡さん?」

 

 

 

 

恐る恐る問い掛けてくる店主に対し、思わず驚きの表情を浮かべると共にどうして此方のことがわかったかと疑問を抱く……

 

もしや、知り合いなのでは?

 

そう思い「そうですが」と答えた後に続けて相手が誰か確かめようと問い掛けた。

 

 

 

 

「失礼ですが、御名前をお伺いしても……」

 

 

 

 

「―御名前って、前原ですよ!前原!!15年前に貴方のショップで色々世話になっていた!!」

 

 

 

 

その名前を聞いてようやく思い出した……自分の下で"色々学びたい"と言って働いていた従業員だ。辞めた後は東京を出て独立し、ショップを立ち上げたというのは片岡も聞いていたが、それ以上のことは分からなかった。

 

久々に聞く声と名前に懐かしいと思い「おぉ!!」と声を上げてしまう。

 

 

 

 

「久々だな、元気でやってるか!?」

 

 

 

 

「―ええ、何とか上手くやってます。これも片岡さんの指導の賜物ですよ」

 

 

 

 

懐かしさのあまり思わず、そのままプライベートの話を持ち掛けてしまいそうになる……が、今はそんな暇ではない。Zのパーツの収拾が第一だ。

 

 

 

 

「前原、突然で申し訳ないが……お前んとこのショップの在庫にZ33の後期型のバンパーパーツないか?

 

フロント、リアのセット……いや、一つだけでもいい」

 

 

 

 

「―Zのパーツ……ありますよ。単体ではありませんが」

 

 

 

 

その言葉に「本当か!?」と食い付いてしまう。それに対して前原は「―えぇ」と小さく答えてから続けるように説明を始めた。

 

 

 

 

「―先日、ウチの客から引き取ったタマですよ。エンジンが完全に逝ってるやつ……

 

エンジン関係と駆動系はダメですが、外装系パーツはエアロ含めて新車みたいに綺麗です。しかも、かなり良さそうな奴組んでますよ」

 

 

 

 

「……色は?」

 

 

 

 

「―純正の白……所謂、パールホワイトってやつです」

 

 

 

 

かなりの良い状態で博也のZと同じ色……これを逃してはならない。受話器を握っていた手にグイッと力を入れながら、早速交渉に望んだ。

 

 

 

 

「前原、頼みがある。そのZのバンパー……譲ってくれないか?」

 

 

 

 

力強く頼み込んでみる……断られるのも覚悟していた。

 

が、意外にも前原は「―良いですよ」と心意気なくあっさりと承諾してくれた。これには驚きのあまり勢いよく立ち上がってしまう。

 

 

 

「お前、本当に良いのか……!?」

 

 

 

 

「―ええ。

この33(サンサン)を引き取った理由はウチの新しいデモカー製作の為……製作時にウチのショップの新作エアロを取り付けるので、今付いてるエアロがどうしても邪魔になるんですよ」

 

 

 

 

元弟子の前原に感謝の気持ちで溢れそうになる片岡。「……恩に着る」と素直に礼を述べると、前原は更に話を続ける。

 

 

 

 

「―いつまでにお送りすればよろしいですか?」

 

 

 

 

「早すぎて申し訳ないが、出来れば今日の昼までに届けて欲しい」

 

 

 

 

「―昼まで……じゃあ、今から取り外して朝一番に直接お届けします。所在地はあのショップの場所と同じでいいですか?」

 

 

 

 

「ああ、すまない…頼む……!」

 

 

 

 

「―お安い御用ですよ、それじゃ。また」

 

 

 

 

そのままプツッと通話が切れた。期日に間に合わせるという希望が生まれ、ホッとした様子で力を無くすように椅子に座ってゆっくりと受話器置く片岡……先程とは違う安堵の息を「ふぅ……」とついた後にZの持ち主である博也の顔を頭の中に思い浮かべた。

 

 

 

 

「(運が良いな……お前。ひょっとしたら、神様に愛されてるのかもな)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―翌日、日が沈み始めた夕方

 

 

夕焼け色の空の下、ホテル・ラストダンスの前に集まるあかり、志乃、ライカ、陽菜。それぞれが武装を確認し、今すぐにでも戦えるように準備を進めていた。

 

 

 

「あかりさん、準備はよろしいですか?」

 

 

 

 

志乃の確認に力強く頷くあかり……だが、ふと何かに気付いて「あれ?」と小さく首を傾げて改めて皆の方に目を向けた。

 

 

 

 

「あれ、高千穂さんは……?」

 

 

 

 

「あかり、聞いてなかったのか?

 

アイツなら、もしもの時に備えてって原田先輩の車に乗ってこの辺りを巡回してる」

 

 

 

 

ライカの言葉に「あ、そうだった……」と思い出すあかり。そんな彼女を心配するように志乃が肩にソッと手を置くと一緒にいた陽菜も二人の方へと目を向ける。

 

 

 

 

「あかりさん、緊張されてますか?」

 

 

 

 

「あまり無理はなさらぬ方が良いで御座るよ」

 

 

 

 

「心配してくれてありがとう……皆がいるから大丈夫だよ」

 

 

 

 

その言葉に全員分かったと言わないばかりに小さく頷く。それと共に指揮車輌に乗っていた麒麟の方から無線で連絡が来た。

 

 

 

 

「―皆様、作戦開始の時間が迫ってますの!配置について下さいませ!!」

 

 

 

 

麒麟の言葉に全員で「了解ッ!!」とハキハキとした口調で応答。カチャッとそれぞれの武器を構える。ライカと陽菜が決められた配置に着こうと散り散りになる中、あかりと志乃は力強い歩調でホテルの入り口に向けて歩き出す。

 

 

 

作戦コード『AA』、開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―数十分後 二車線の国道

 

 

 

ブォゥゥン……という水平対抗エンジン特有の音を響かせながらもゆっくりと走っていく86。車内には大樹と麗の姿が……二人共、周囲に警戒するようにしている。

 

 

 

 

「何か見つけたか?」

 

 

 

 

「いえ、それにしても……不気味な位に静か過ぎますわね」

 

 

 

 

麗の言葉に「ああ」と小さく頷く大樹。だが、それから間もなくして信号を右折した時、不審な車輌を発見した……3台の縦に並んだ黒いハイエースだ。

 

86が姿を見せるや否や、急加速して逃げ始めた。

 

 

 

 

「っ、大樹先輩……!」

 

 

 

 

「怪しいな」

 

 

 

 

一般道の法定速度を大幅に破るような速さまで加速しているのを確認……自分の目が間違っていないか確かめる為に少しだけアクセルを踏み込んで加速させるも、なかなか追い付かない。それと共に異変に気付いた麒麟から無線連絡が来た。

 

 

 

 

「―な、何か御座いましたの……!?」

 

 

 

 

「不審車輌を見付けた!

 

FT20(エフティートゥーゼロ)、追跡を開始する!!」

 

 

 

 

グイッとアクセルを踏み込むと、ブォゥゥゥン!!!とエンジンの音を周辺に轟かせながらも加速していく86。

 

……その車影を遠くのビルの屋上から双眼鏡を使って眺める人物がいた。

 

 

ボディラインがくっきりと分かるようなチャイナドレスに似た黒い服を着た長身のアジア系の女性。ショートカットの黒髪に妖艶的な切れ長の目付き……まさに日本の男性が好みそうなアジアンビューティーと言った容姿だ。

 

そんな彼女は86がハイエースを追い始めたのを確認すると舌を出し、「シメた」と言わないばかりに軽く上唇を舐めるような仕草をする。そして、双眼鏡をゆっくりと下ろすと共に腰周りにホルスターのようにしまっていた携帯を手に取り、ピッピッと操作してとある人物と連絡をとった……ポルシェ997型GT2に乗るG.Dだ。

 

 

 

 

「あ、ボス?邪魔者は"餌"で釣ったわ、上手く行きそうよ。あとは目標を畳み掛けるだけ」

 

 

 

 

「―そうか。それで、肝心な目標の方は?」

 

 

 

 

「情報によれば武偵高の連中と交戦中……現在、武偵側がかなり押されてるみたいよ」

 

 

 

 

そう答えながらも下ろしていた双眼鏡を片手に再び構え、探るように辺りを見回す……すると、埠頭の辺りで夾竹桃とあかりが対峙しているのを確認した。あかりが右手を前に出して腰を低くするようにして構えたのを見て思わず「おっ」と小さく声を出す。

 

 

 

 

「―どうかしたのか?」

 

 

 

 

「武偵の子が何かしようと構え出したわ。必殺技でも出す気かしら?ま、結果がどうであれ……デットエンドになるのは変わらないけど」

 

 

 

 

あかりが今にも技を繰り出そうとする中、双眼鏡を下ろしてビル下の道路に目を向ける……すると、4台のハイラックスサーフが通り掛かった。

 

 

 

 

「さあ、行きなさい……私の操り人形(マリオネット)達」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―とある閑静な埠頭

 

 

ライカ、陽菜も倒されて自分と行動していた志乃も目の前で倒されたあかり……皆の想いと自分の意思である技を繰り出した。

 

鷹捲……夾竹桃が欲しがっていた技だ。

 

彼女は鷹捲を毒だと思い込んでいたが、その実態は全く異なるもの。人体のパルスを回転によって増幅・収束させ、打撃と共に振動で対象を破壊する技なのだ。

ビリビリという衝撃と共に持っていた無反動ガトリングが破壊され、服を破けさせながらも倒れる夾竹桃。海に落ちる手前でバタリと倒れている所にあかりは素早く手を掴んだ。

 

 

 

 

「逮捕ッ!!」

 

 

 

 

動きを止めるように両手に手錠を掛けた後、無線で麒麟に連絡を入れようと試みる……すると、「―間宮様っ!」と心配するような声で無線に応じてくれた。

 

 

 

 

「―無事ですの!?」

 

 

 

 

「うん、私のことより…志乃ちゃんが……!!」

 

 

 

 

「―すぐに回収に向かいますの!!」

 

 

 

 

 

麒麟の無線を聞いて「うん、わかった…!」と答えてから手錠を掛けている夾竹桃を引き連れて傷だらけで意識がない志乃の元へと駆け寄るあかり……正しい応急処置の仕方が分からない。とりあえず手持ちのハンカチ等を使って止血等を試みる……

 

 

 

 

「志乃ちゃん、お願いだから戻って!」

 

 

 

 

強い思いからそう呟きながらも必死に治療を続ける……すると、一台のハマーが3人の前で停まった。

麒麟が乗る指揮車輌だ。咄嗟に「大丈夫ですの!?」と心配しながらも降りてきた。

 

 

 

 

「麒麟ちゃん、志乃ちゃんが……!!」

 

 

 

 

「早く乗せますの!間宮さまはお手伝いくださいませ!!」

 

 

 

 

そう言いながらも素早く回収を行う。夾竹桃にやられたライカ、陽菜の二人が乗る後部席に3人を乗せ終えて麒麟がハマーの運転席に座った時だ……

 

大樹から無線連絡がきた。

 

 

 

 

「原田先輩?」

 

 

 

 

「―そこから逃げろッ!早くッ!!」

 

 

 

 

もう任務を終えた頃なのに逃げろというのはどういうことだろうか……?そう疑問に思い「逃げろ……?」と復唱しながらも首を傾げた時だ。何もなかった埠頭でチラッと眩いヘッドライトの光が差し込んできた。

 

 

 

 

「っ、そういうことですの……!!」

 

 

 

 

その呟きに対し、後ろから来る存在に気付かないあかり。「え……?」と逮捕した夾竹桃と負傷した志乃から目を離すと同時に麒麟が急にアクセルをグイッ!と踏み込んでハマーを急加速させた。

 

 

 

 

「わっ!!?」

 

 

 

 

驚きの声をあげながらもシートに背中を打ち付けられるあかり。「イタタ……」と小声で呟きながらも急にアクセルを踏み込んだ麒麟に目を向けるあかり。

「どうしたの!?」と問い掛けると、彼女はステアリングをしっかりと握りながらも切羽詰まったような口調で説明を始めた。

 

 

 

 

「追手が来ましたの!!」

 

 

 

 

「追手!?」

 

 

 

 

信じられない様子で後ろに目を向けた時、眩いヘッドライトの光が目に飛び込んできた。1台だけではない、4台はいる。

そして、目を向けてから間もなくして先頭を走っていた車輌の助手席側からマズルフラッシュのような赤い光が素早く点滅するように見えるとキュインッ!!という素早い音が聞こえてきた。

 

 

……発砲してきたのだ。

 

 

これには流石のあかりも状況を理解し、ホルスターにしまっていたマイクロUZIをチャキッと手に取って臨戦態勢に入った。

 

 

 

 

「間宮さま、掴まるですの!!」

 

 

 

 

そう言いながらもハマーの巨体を速い速度で右に曲がらせる麒麟。

立ち上がり時に目の前にフェンスが設置されているのが見えたが、そんなものは関係ない。ブォン!!と音を響かせながらもハマーの頑丈さを活かしてそのまま突き破っていく。すると、追手の車輌も突き破った部分を通るようにして跡を追ってきた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻 喫茶店、ガレージ側

 

 

徹夜をしてすっかりグッタリしている元弟子達……そんな彼らの横に停まる一台の車。

 

 

流線形のロングノーズショートデッキ、

 

真珠のような白く艶のある美しいボディカラー……

 

 

 

その車の運転席に座り、力強くステアリングを握り締める博也。片岡が静かに歩み寄って来たのに気付き、ウィンドウを開けて彼の方に顔を向けた。

 

 

 

 

「ありがとうございました。片岡さん」

 

 

 

 

「無茶するなよ、前の時とは勝手が違う」

 

 

 

 

「はい……じゃあ、行ってきます」

 

 

 

 

そう言ってからウィンドウを閉めてから顔を前に向け、真っ直ぐとした目でアクセルをスッと軽く踏み込む。

 

ブォォォォォン!!という咆哮を周囲に轟かせながらもガレージから出ていく白い車影……

 

その車影の姿を片岡は遠くを見据えるようにして見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ニューフェアレディZ、始動。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ども、350Zです。


いかがでしたか、今回。


いやー完成しましたね……Z。


え、早すぎるって?


フィクションなんだから、その辺りは気にしちゃダメっすよ!先輩!!



ところで、話が少し変わりますが……ここで書こうと思ったけどボツになった構想をご紹介します。


それは麗と大樹の動き。



今回、二人共一緒に行動してましたが


実はそれとは別に麗が直接行動、大樹が麒麟と同じように回収班というものです。


夾竹桃にやられた麗を大樹が回収という形になるのですが……


麗がのやられ方が原作AAのライカと同じように媚○にやられたという設定で、回収に来た大樹とそのまま


まあ、これ以上は説明しなくても分かりますよね?(笑)


ただ、どこまでがOKどこからがアウトの判定になるのか分からないのでやめました!←


……が、皆さんの御要望によっては18の方で書きますぞよ?←ニヤニヤ



さて、グフフな話はこれぐらいにして……



次回、復活を遂げたZの真価が発揮されます!

お楽しみに!!



P.S
コメント、評価お待ちしています←


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第六話 リバース





40年以上前……一台のスポーツカーが生まれた。



初代フェアレディZ、S30。


ロングノーズショートデッキの華麗なスタイリングと安価ながらも高価格スポーツカーに負けない高いコストパフォーマンス……


その二つを掲げて生まれたこの車は世界中の人々を熱狂させ、"Z-car(ズィーカー)"という愛称で親しまれるようになった。


しかし、モデルチェンジを重ねていく度にその輝きは次第に失われていき……


2000年、四代目Z32型で生産中止。
その背景には厳しくなった排ガス規制、メーカーである日産の経営不振等といった大きな理由が挙げられる。



だが……


それから2年後、Zは蘇生した。



新型フェアレディZ、Z33の誕生だ。


初代S30を意識したロングノーズショートデッキの華麗なスタイリング、新車価格300万程にも関わらず1000万クラスの欧州スポーツカー以上の性能を持つという高いコストパフォーマンス……

初代S30のDNAを受け継ぐような形でこの車は復活を遂げたのだ。



突然のZの復活に人々が驚いている最中、当時日産の役員だった人物はこう述べた。








"Z-carの復活は全ての復活を意味する"









 

 

 

 

―Z 車内

 

 

ブォォォォン!!という轟音と共に夜の三車線の国道を疾走する新しいZ。ステアリングを通して伝わって来る感覚に博也は驚きを隠せないでいた。

 

 

 

 

「(動きが軽い上に素直だ……

 

恐ろしいぐらいドライバーに愚直な車になった)」

 

 

 

 

そう思いながらも前方を走る一般車を右にヒラリとかわしてから車線を戻し、何事も無かったかのように再び加速させていく。

 

すると、ブゥゥ!ブゥゥゥ!!という着信音が車内に鳴り響いた……

 

「はい」とブルートゥースで応じてみる……相手は大樹だ。

 

 

 

 

「―博也!今何してる!?」

 

 

 

 

「Zの運転」

 

 

 

 

その答えに「―なっ……!?」と驚きのあまり言葉を失う大樹。博也がZが帰ってくる日が今日だということを伝えていなかったため、無理もない。

 

半ば疑いたくなるも今はそういう場合ではないと、状況を語り始めた。

 

 

 

 

「―間宮達が大変なことになってる!!」

 

 

 

 

「分かってる、さっき救難信号を拾った。そっちはどうだ?」

 

 

 

 

「―問題ない。ただ、上手いこと離されて合流には時間が掛かる!クソッ……!!」

 

 

 

 

大樹の話を聞きながらも片手でピッピッとナビを操作して現在地と目標であるあかり達が乗る車輌との距離を確認する博也。かなり近くまで来ているようだ……

 

推測では三つ先の交差点を左に曲がった所で鉢合わせる。

 

 

 

 

「悪い、そろそろ鉢合わせるから切る」

 

 

 

 

「―は、鉢合わせるって!?ちょっお前……!!?」

 

 

 

 

ブチッと一方的に通話を切り、集中力の全てを運転に向けると交差点が見えてきた。

 

"ここを左折した先にあかり達がいる"

 

その思いからグイッと力強くステアリングを握る。

 

 

 

 

「(待ってろよ……!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーハマー車内

 

 

追跡してくる4台のハイラックスサーフから逃げるようにして三車線の中央を走らせる麒麟。

アクセルを踏み込んで突き放そうとは試みてはいるが、なかなか離れてくれない。その間にアサルトライフルによる攻撃を受けて車体が被弾していく。

 

 

 

 

「麒麟ちゃん……!!」

 

 

 

 

運転する彼女に心配そうに目を向ける後部座席左側に座るあかり。それに対し、まだ余裕があるのか比較的落ち着いた様子で「大丈夫ですの!」とはっきりと答えた後にその理由について語り始めた。

 

 

 

 

「救援要請は既に済ませてありますの。それに、この車は元々軍用だったハンヴィー(装甲車)を民間用に派生させたもの。装甲の厚さから考えればそんな簡単に……」

 

 

 

 

やられないと言おうとしたが、左側のサイドミラーに映っ物を見るや否や「ぴゃあっ!?」と驚きの声をあげてしまう。

 

どうしたのだろうか……?

 

疑問に思ったあかりがふと左後方の車輌に目を向ける……すると、後部座席に座っていた男がガサゴソと何かを手に取っているのが見えた。

 

 

RPG-7、ロケットランチャーだ。

 

 

 

 

「あ、あれは流石にマズイですのッ!!」

 

 

 

 

このハマーでもロケットランチャーの一撃には耐えられない。そんなことはあかりでも理解出来る。

 

阻止しなければマズイ……!

 

その思いが芽生えつつもふと改めて周囲を見回してみる……この車に乗っているのは逮捕した夾竹桃と彼女にやられた仲間、それから運転している麒麟のみ。

 

まともに動けるのは自分だけだ。仕方ないとマイクロUZIを手にして扉を開けようとする……が、手を伸ばそうとした時に脳裏にある光景が浮かんでしまった。

 

自分が撃った弾が相手の頭に命中し、射殺してしまうという光景だ……

自分の元々の手癖から考えれば有り得る話だ。

 

 

その影響でなかなか窓を開けることが出来ない……

が、自分がやらなければこの車に乗っている皆が全滅する可能性もある。

 

そう頭の中で迷っている時にある人物の背中が頭の中で浮かび上がる……自分が目指していた博也とアリアの背中だ。

 

 

 

 

「ごめんなさい…先輩方……

 

私、お二人のような立派な武偵になれそうにないです……」

 

 

 

 

気持ちをグイッと押し殺しながらも覚悟を決めたあかり。

そのままパワーウィンドウのボタンに手を伸ばそうとした……その時だ。

 

 

キィィィィィィィ!!!!というタイヤのスキール音が耳に飛び込んできた。

 

 

後ろから聞こえてきた音に驚いて手をピタッと止めるあかり。その間にキュインッ!キュインッ!!という跳弾の音が聞こえ、RPGを構えようとしていた男の左右の手が素早く撃ち抜かれた。車外にRPGを落としてしまい、戦闘不能に陥る男……

 

何が起きたのか把握出来ないながらも音がしてきた後方に確認するあかりと麒麟。

 

苦しそうにしていたライカや陽菜、先程まで気を失っていた志乃までそちらに意識を向ける……

 

 

 

 

 

 

 

その先には白いクーペボディのスポーツカーがいた。

 

 

 

 

 

フェアレディZ、Z33。

 

 

 

インパル製だったバンパー類はアミューズ製のエアロキットに、純正のリアスポイラーはニスモ製の大型ウィングに変貌を遂げていた。

 

 

 

完全に蘇ったその車影に皆が言葉を無くしている中、ある一本の無線通知が車内に響き渡った。

 

 

 

 

「―遅くなって悪いな。

 

FZ33(スリースリー)、交戦する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―遠くのビルの屋上

 

 

博也のZが来たことに対し、双眼鏡で高見の見物をしていた女は驚きを隠せずにいた。

 

 

 

 

「―どうした、何かあったのか?」

 

 

 

 

「ガキのZが来た……!」

 

 

 

 

女の言葉に流石のG.Dも「―っ……!?」と言葉にならない声を出して驚く。彼の車は仲間であるB.Rが大破まで追い込んだ……そのことから「―冗談だろ……」と答えてから続けて語り始めた。

 

 

 

 

「―B.Rの報告で奴のZのボディはほぼ瀕死状態だと聞いている。俺もホークアイから送って貰った監視カメラの映像データでそれを確認してる」

 

 

 

 

「ええ、それは私も確認した。だけど、今まさに走っているわ……ナンバーからして間違いない」

 

 

 

 

「―じゃあ、"たった3日"でボディを仕上げたとでも?」

 

 

 

 

「……そうとしか言えないわ」

 

 

 

 

溜め息混じりに答える女に対し、「―……。」と無言になってしまうG.D。その間に博也のZが本格的な交戦を始めた。

 

 

先程と変わらずにハマーに張り付いている4台に対し、まずは隊列後方の中央の車線と左の車線2台に目をつける。後部座席から体を乗り出してAKを構えていた男達の手に向けてP226を構えてパンパンッ!!と素早く発砲……見事命中した。

 

道路上に落ちたAKを踏まないように避けてから運転中にも関わらず、中央の車線についていた車輌の運転手の両肩を"跳弾"で当たるようにパンパンッ!!と発砲。

 

放たれた二発の弾はアスファルトの上を跳ねて狙い通り運転手の左右の肩に命中。さらに追い討ちを掛けるように左側の後輪に向けて発砲すると、車体は安定性を無くし、キィィィィ!!という悲鳴のようなスキール音をあげながらも左の車線についていた車輌を巻き込むようにスピンした。

 

 

ガシャンッ!!という衝突するような激しい音が響き渡る中、右側の車線に移動して事故を起こした2台を回避するZ。

 

 

すると、隊列前方で左右の車線に展開していた2台がZを危険と見なしてそちらに目をつけてきた。

Zが中央の車線に戻った時に右側車輌の後部座席でAKを構えていた男が武装を切り替える……RPGだ。

 

 

 

 

「先輩!危ない……っ!!」

 

 

 

 

ハマーの車内であかりが心配している間にRPGの弾がZに向けて放たれる。

……が、Zはフォンッ!!という短い音をあげながらも左側の車線に移ってロケット弾を回避。

 

中央の車線でロケット弾が炸裂する中、博也は車体が爆風に流されないように左手でステアリングを操作しながらも右手でP226を手に右車線についていた車輌のタイヤを撃ち抜いた。

 

コンクリートで固められた分離帯に衝突している間に前を走る最後の車輌のタイヤをパンッ!パンパンッ!!と撃ち抜く。

 

後部座席にいた男がAKを構えようと動いていたが、車体が暴れ始めたことでダダダダッ!!と全く別の方向に向けて発砲してしまう。暴れ始めた車体がガードレールに当たって減速を始める中、博也はそれを追い越して素早くハマーの左にZをつけた。

 

 

 

……ビルの屋上にいた女は双眼鏡でそれを確認すると、苦虫を噛んだような表情を浮かべてしまう。とりあえず報告しなければならないとG.Dに状況を説明を始めた。

 

 

 

 

「用意した車輌は全てやられたわ……どうする?」

 

 

 

 

「―どうしようもないだろ。作戦は失敗だ……その場から撤退しろ」

 

 

 

 

あまりにも潔い言葉に「ちょっと……!?」と驚きを隠せない様子の女。このままでは自分としても後味が悪いと思い続けて進言しようとしたが、その前にG.Dが溜め息混じりにその理由についての説明を始める。

 

 

 

 

「―無策で突っ込んだら開いた墓穴を更に広げることになる。計画をプランAからプランBに変更、次は期間をあけてからの仕事になる。

 

今度は頼むぞ、"マスカレード"」

 

 

 

 

「……了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―数時間後、とある青空駐車場

 

 

日も上って朝を迎えた時間帯。

奥のスペースに停まる新しいZと86、銃痕だらけのハマーの3台……一年生グループと麒麟がハマーの車内で休んでいる中、博也と大樹は新しいZの前に立っていた。

 

 

 

 

「本当に3日で仕上がったんだな……」

 

 

 

 

「すっかり見た目も変わっちまったけどな。

 

にしても、ヤバイ…今月ピンチだぁー……」

 

 

 

 

自分の金銭面での状態を思い出してその場で「はぁ……」と大きく溜め息をつく博也。それに対して横に立っていた大樹は苦笑いの表情を浮かべながらもこんな意外なことを呟いた。

 

 

 

 

「俺も同じような感じだ」

 

 

 

 

いつもは"またか"と言わないばかりに馬鹿にするが、今回はなんと同情してきたのだ。「フォアッ!?」と驚きの声を出しながらも大袈裟に下がって半歩程距離をとる博也に対し、彼は口元の辺りを軽く上げるようにしてその理由について答えた。

 

 

 

 

「俺も自分の86をもっといじることにした。まずはコンピューターから……最終的にはお前のZみたいにターボ化する予定だ」

 

 

 

 

「でも、お前……高千穂いるだろ。金には困らないんじゃ?」

 

 

 

 

「バーカ、そんなヒモになったら人間終わりだ。ならないように出来るだけ自分の力だけでやってみるよ」

 

 

 

 

そうこう話している間に一台の赤いミニクーパーが駐車場に入ってきた。Zの横に停まると助手席と運転席から誰かが降りてくる……アリアとののかだ。ののかの方は目に巻いていた包帯を外してすっかり元気になった様子だ。確認したあかりがハマーのドアを開けて飛び出すように降りていく。

 

 

 

 

「ののか!!」

 

 

 

 

「お姉ちゃん!!」

 

 

 

 

ギュッと抱き締め合う間宮姉妹。そんな二人の様子を微笑ましそうに博也と大樹が見ている中、アリアは姉妹が離れたのを確認すると歩み寄りながらも語り始めた。

 

 

 

 

「尋問科(ダキュラ)が夾竹桃から解毒方法を聞き出したのよ……それから、私の方の作戦だけど犯人を取り逃がしたわ。戦姉妹の関係が逆転した結果になったわね」

 

 

 

 

アリアの言葉にふと疑問を抱く博也。彼女も一緒に行動していたのだろうか……?

「ちょっと」と声を掛けながらも三人の方へと歩み寄って行く。

 

 

 

 

「神崎、お前も何処かで行動してたのか?」

 

 

 

 

「ええ、私も自分の額に傷をつけた相手である武偵殺しを追っていたわ。飛行機の中で追い詰めたけど、最後の最後で逃げられたの」

 

 

 

 

へぇ……と言わないばかりの表情を浮かべる博也に対し、アリアは急にあかりに目を向けてこんな鋭い指摘をしてきた。

 

 

 

 

「アンタは確かによくやったわ。でも、死ぬ気で戦ったわね?その顔を見れば分かる……

何度も言ってるけど、もう一度だけ言うわ。死んでもいい実戦なんて無いのよ」

 

 

 

 

その言葉を聞いて「はい……」と俯くあかり。だが、そんな中、先程まで唯一離れた位置に立っていた大樹が歩み寄りながらもアリアの言葉に付け足すように呟き始めた。

 

 

 

 

「神崎の言う通り、死んでもいい実戦なんてない。

 

だけど……

 

死ぬ気で戦うかどうかは状況によるんじゃないか?

死ぬ気で戦わなければ生き残れない状況だってあるんだ」

 

 

 

 

その言葉に博也も腕を組んで首を小さく縦に振るようにしながらも「確かに」と頷いてから更に続けるように語り始める。

 

 

 

 

「死ぬ気で戦わなければならない状況ってのは基本、危ない状況に陥った時だ。本当に死ぬかどうかは本人の思いの強さと力量次第」

 

 

 

 

そう語りながらも三人から離れてZの運転席側に回り込む博也。カチャッとキーロックを解除しながらもドアノブに手を掛けた時、顔をゆっくりと上げてもう一度三人の方に向けた。

 

 

 

 

「最後に死ぬって話題関連してだが……

死んではいけないとは言ってはいるも俺達は職業柄、いつ死んでもおかしくない。

 

明日になるかもしれないし、明後日になるかもしれない……いや、今日の可能性も否定出来ない。

 

誰もそのタイミングいつになるかは分からない。

 

だからこそ、今を強く生きよう。悔いがないように」

 

 

 

 

そう言い残してから運転席に乗り込み、エンジンを始動させる博也。ガガガッ!バオンッ!!と咆哮のような始動音を響かせてからゆっくりと駐車場から出ていく華麗なスタイリングの車影……

三人がそれを見届ける中、博也は車内で珍しく不安げな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

「(なあ、Z……俺、恐いよ。

 

この先、新しくなったお前を……しっかりと乗りこなせる気がしないんだ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―武偵高 尋問科取調室

 

 

尋問科の顧問、綴梅子は夾竹桃への取り調べを行っていた。対峙するよう座りながらも煙草を吸う梅子に対し、夾竹桃は無表情で彼女のことを見ている。

 

 

 

 

「とりあえず、ある程度は聞けたから最後の質問……

 

最後に追ってきた車に乗っていたのはお友達か?

 

うちの生徒が色々と聞きだそうとしてるが、"知らない"とか、"分からない"の一点張りなんだ」

 

 

 

 

如何にもかったるそうな問い掛けに対して無言ながらも小さく首を横に振る夾竹桃。一体、何者なのか問い掛ける前に彼女が説明を始めた。

 

 

 

 

「違うわ、彼らは"多分"何の繋がりもない一般人。

 

操られてたのよ……ある人物によって」

 

 

 

 

「……ある人物?」

 

 

 

 

吸っていた煙草を一旦口から離して灰皿の上に置きながらも確認するように問い掛ける梅子。それに対し、夾竹桃は一切隠す素振りを見せずにその人物について語り始めた。

 

 

 

 

「コールネーム、マスカレード……

イ・ウーと敵対関係になっている組織、"フェンリル"の幹部の女よ」

 

 

 

 

「フェンリル……?聞いたことないな」

 

 

 

 

「世界中で暗躍し、政治経済を動かしていると言われてる組織よ。主なメンバー構成としてはハッキング等の工作を行うホークアイ、戦闘要員兼サブリーダーのB.R、そして……」

 

 

 

 

少しだけ間をあけるように口を動かすのを止める夾竹桃。梅子が置いていた煙草のカスがポトッと静かに落ちると共にゆっくりと口を動かし始めた。

 

 

 

 

「かつて最強の武偵と呼ばれながらも地に堕ちた……リーダーのG.D」

 

 

 

 

 









どーも、350Zです。


ACT3、これにて終了です。

アニメで言ったら1クール目終了……と言ったところでしょうか。


いかがでしたか?


夾竹桃の証言によって敵の実態が明らかになりましたね。

しばらく期間を開けると言ってましたが、その間に何をするのか……気になりますね。


そして、新しいZがどんなエアロ付けてるのか分かりましたね!


正直、直前までもう1つ候補があったのですが……

空力が良さそうなスタイリングからアミューズに決めました!


にしても、あれだけ乗りこなしていた博也君が最後に不安そうな言葉を呟いていました。


それに関しては次章にて分かるようにしたいと思います。


ちなみに次章で新キャラを追加します!!

どんなキャラなのか、どんな車に乗るのか?


ある程度は決まってますが、それは次章までのお楽しみです♪



さて、アニメの方がもう終わりかけですね。

まあ、最後の辺りとかいい展開にはなってるとは思うのですが……

1つだけ不満を言わせて下さい。












乾桜ちゃん出せやゴルァァァァァァァッ!!!!












実は350Zは桜ちゃんが好きだったりします。
(あんな後輩欲しいなぁー……


もう出ないなら、こっちで出そうかな?


というわけで……読者の皆様に問い掛けます。


桜ちゃん、出してもいいですか……?


感想で良いので解答よろしくお願いします……




あ、ちなみに次回の投稿は年末ということで本編とは関係がない完全なギャグ回になります。

次の話だけキャラ崩壊があると思うので、御注意下さい……


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ACT.4『一匹狼』
第一話 ロータリー





キミが踏み出したその一歩は

キミ自身の軌跡になるだけではなく、

誰かの軌跡にも影響するかもしれない。






 

―1か月前

 

首都高速都心環状線、通称"C1"

 

 

二車線の狭い間隔の中、ズワンッ!ズワンッ!!と素早い音で一般車を次々とオーバーテイクしていく2台のクーペ…

1台は青塗装のZ33、ハイマウントのGTウィングに派手なエアロ組んでいて、過吸機がついてるのかボンネットはエンジンルーム内の熱を放出するダクトが付いたものが取り替えられている。

 

そして、もう1台……

 

ガンメタ塗装で刀のように研ぎ澄まされたボディ、旧車ならではのリトラクタブルと呼ばれる開閉式ヘッドライトでサイドミラーはドアミラータイプ。

 

初代RX-7、SA22C。

 

ギュウィィィン!!というロータリーエンジンと呼ばれる特殊なエンジンのサウンドが周囲に響き渡る中、先行する青いZ33を追っていた。

 

トンネル手前の左コーナーで減速。

 

ウォン!ウォンッ!と短い音を響かせてシフトダウンすると共にイン側を捉えるSA22C。先行する青Zのラインが少し乱れているのを見たドライバーの武偵生は嘲笑うように「フッ」と一瞬笑っていた。

 

切れ長の目にマッシュショートの赤茶色の髪、色白の肌。

 

四角いフレームの黒縁メガネを掛けている青年……

 

 

 

立ち上がりと共にグイッとアクセルを踏み込み、再び加速させていくと右車線に移動。左車線にいる青Zとの距離をジリジリと詰めていく。

 

 

 

「速そうだからやり合ってみたが、ビシッと決まってるのは雰囲気だけで中身はそうでもないな……」

 

 

 

そう小さく呟いている間に青Zが一般車を避けようと右車線に移ってきた。左車線の一般車が抜かされたと共にSA22Cの方はブレーキランプを一瞬だけ点灯させてから左車線に移り、抜きに掛かった。

 

 

トンネル内にギュウィィィン!!という特有のサウンドを響かせていくと遂に横に並んだ。

 

そして、トンネルを抜けてすぐの左コーナー。

 

ブレーキランプを早めに点灯させる青Zに対し、SA22Cはブレーキングを遅らせる。ブレーキングの差でSA22Cが車体半分ほど前に出るも、全く乱れはない。そのことはステアリングを通じて青年も感じ取っていた。

そのまま立ち上がっていくと青Zとの差は車体1台分以上にまで広がっていた。

 

そこからの加速で更に突き放していく……

 

ふとバックミラーを見ると青Zがみるみると離れていくのが見えた。恐らく、諦めてアクセルを抜いたのだろう。

 

 

 

「……少しは歯応えあるんじゃないかって、期待した俺が馬鹿だった」

 

 

 

溜め息混じりにそう呟きながらも運転席から見て左上に取り付けられていた水温、油温、油圧の3連続メーターを確認する。

 

 

 

「(水温、油温、油圧はまだ安定。

エキゾーストノートも良好、いい吹け上がり具合。ガスもまだあるみたいだし、もう1周ぐらい流す。

そのあとに降るか……)」

 

 

 

アクセルを少しだけ緩めて夜の首都高を再び流していく。

一般車を右に左に素早く避けていくようにSA22Cを操る青年。真っ直ぐとした目を前方に向けながらも再び「はぁ…」と小さく息をついた。

 

 

 

「(一人で東京に上京してから早1ヶ月…色んな奴と走ったけど、誰一人として俺を驚かせるような奴は居なかった。かつては雑誌なんかで騒がれていた首都高もレベルが落ちたな…残酷だな、時の流れって奴は)」

 

 

 

落胆したような様子で流し続ける……が、汐留JCTの看板を潜った時。ふとバックミラーを確認すると驚きの光景が目に飛び込んできた。ゆらりゆらりと揺れる2台のヘッドライト……先頭の1台は縦の楕円形、後ろのもう1台は横長で角が丸い感じの四角形と言ったところだ。

 

 

 

「ん?なんだ、あの2台…」

 

 

 

まだ距離があるため車種ははっきりとは分からない。分かることは楕円形ヘッドライトの方のカラーリングは白、四角形の方のカラーリングが青ということ…

 

そして、自分のSA22Cとの距離を確実に縮めて来てるということだ。

 

 

 

「(このペースで追い上げてくる…か。

おもしれえ、どんな物かお手並み拝見と行くか…!)」

 

 

 

緩めていたアクセルをグイッと踏み込み、戦闘態勢に入る。再びギュウィィィンッ!!というロータリー特有のサウンドを周囲に響かせながらも加速するSA22C…車内の青年も得意気な様子でニッと口元の辺りを軽く上げるようにして不敵な笑みを浮かべていたが、その笑みもバックミラーを見ると共に消えた。2台がすぐ近くにまで距離を縮めていたのだ。

 

ここで車種が何かようやく分かった。

 

青い車がR33スカイラインGT-R…そして、白い車は先程の青Zと同じZ33だ。それも、Zの方は先程の青Zよりもスッキリとした外装になっている。恐らく、インパル製のエアロだろう。

見た目からは先程のZよりも早いとは到底考えられなかった。

 

 

 

「(1台はR、もう1台は…Z!?

どうなってやがる、Rは分かるがZなんかがどうして追い付いてくる!?)」

 

 

 

明らかに自分でも慌ててると感じた。この感情はドライビングにとってはデメリットでしかない。スゥー…と息を深く吸い込むようにしてからステアリングを握る力を強くする。

 

 

 

「(落ち着け…パワーは圧倒的に向こうが有利だ。

なら、コーナリングで差をつければいい話。

ここはC1エリア、サーキットに似たようなエリアだ。パワーだけじゃ速く走れない)」

 

 

 

長いストレートから右コーナー。速度を誤れば死にかねないような場所。

ゴンゴンと車内の突き上げが激しくなる中、素早く右車線についてブレーキング。最短距離を稼ごうとする…が、Zが外についてきた。

 

 

 

「ジョーダンだろッ…!?」

 

 

 

そう言葉を漏らしている間にSA22CをあっさりとパスするZ。追い抜き時のズワンッ!という風切り音に続くようにR33も同じようにパスしていく。負けじと追おうと立ち上がりでアクセルを踏み込むが、全く追い付かない。それどころか少しずつ離されている気もする。

 

 

 

「(っ、あそこまで綺麗にパスされるとは…!)」

 

 

 

今の状態では到底勝てない…アクセルを少しずつ緩めて減速。2台は止まる気配もなく更に加速していき、そのままあっという間に闇夜へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

―現在、武偵高 放課後

 

 

 

夕焼け色の空の下、ゆっくりとした足取りで校舎から出ていく博也。

 

翌日が休みということもあっていつも以上にガヤガヤと騒ぐ周囲を気にすることなく駐車場へと向かう…すると、アミューズ製のエアロが組まれた新しいZの前に一人の小柄な女子生徒がスクールバックを両手に持つような形で待っていることに気付いた。間宮あかりだ。

 

 

 

「ん…?」

 

 

 

小さく首を傾げながらゆっくりと歩み寄っていくと「あっ」と小さく声を出しながらも満面の笑みを浮かべるようにして出迎えてくれた。

 

 

 

「博也先輩!」

 

 

 

「何かあったのか?」

 

 

 

事前の連絡が無かったということもあって単刀直入に用件を問い掛けてみる。すると、彼女はカバンの中をガサゴソ…と漁って携帯を手に取ってあるものを見せてきた。

戦姉であるアリアとの特訓スケジュールだ。

今日の予定を辿るように見ると"オフ!"と大きな字で記入されているのが分かる。

 

 

 

「ご覧の通り、今日はオフなんです!」

 

 

 

「そんな見せなくても、口で言った方が早いような…」

 

 

 

然り気無くツッコミを入れる博也に対し、「あ、そうでした」と苦笑いするあかり。

カバンの中に携帯を詰め込んだ後に小さな手を合わせるようにしながらも頭を軽く下げ、こんなことを頼み込んできた。

 

 

 

「すいません、先輩!この後、お時間とかって空いてますか?

わたし、今日一日何するとかって計画立ててなくて…」

 

 

 

そんなことだろうと小さく溜め息をつきそうになる博也。今日はこの後、とある用事がある。

…が、そう断ったら断ったで彼女が可哀想だ。

 

仕方ない…

 

そう思った博也は「あー…」と少し考えてから提案してみた。

 

 

 

「俺もこの後用事あるんだけど、良かったら一緒に行くか?」

 

 

 

「え、いいんですか!?それで、その用事というのは…?」

 

 

 

あかりの問い掛けを聞きながらもキーロックを外し、運転席側の縦型ドアノブに手を伸ばす博也。

 

 

ドアを開ける前にゆっくりと振り向きながらもこう答えた。

 

 

 

「Zのミーティングだよ。俺が乗ってるZ33だけじゃない、初代S30から現行Z34まで集まってくる。…興味ないか?」

 

 

 

「いえいえ!同行しますっ!!」

 

 

 

首を横に振りながらもサッと助手席側に回り込んでドアを開けるあかり。そのまま乗り込んだのを確認すると共に博也も運転席に乗り込む。

バケットシートに背中を任せながらもシートベルトを締めてセルを回し、エンジン始動。

ガガガッバオンッ!!と咆哮のような始動音を響かせた後、ギアを入れてゆっくりと走らせていくとあかりが何かを思い出すように「あっ」と小さく声を上げて運転する博也の方に目を向けた。

 

 

 

「そういえば…場所ってどこですか?」

 

 

 

「大黒PA(パーキングエリア)ってところだ」

 

 

 

「あ、よく改造車が集まるところですよね」

 

 

 

「そそ…って、知ってるのか」

 

 

 

「はい!最近、先輩の影響で車の雑誌とかよく読むようになったんですが…大黒PAの特集とかよく載ってるので」

 

 

 

あかりの意外な一面を知り、「へぇ~…」と答えながらも運転を続ける博也。そのまま徐行で走っていき、校内を抜ける手前で一旦停止。

左右を確認後に法定速度で公道に出た…その後も続けて車の話を続ける。

 

 

 

「乗りたい車とか、好きな車とかあるのか?」

 

 

 

「えっと、周りからはセンスがないなんて声もありますが…MR-Sみたいなライトウェイトスポーツです」

 

 

 

「お、なかなかいい車だ」

 

 

 

「えぇっ?何か批判するものだと思ってました…」

 

 

 

あかりの呟きを聞きながらも赤になった信号機の前で停車させる博也。彼女の方に目を向けてから語り始めた。

 

 

 

「確かに…批判しようものなら批判出来る。

MR-Sならまず、デザインの好みが別れる。

そして、何よりもミッドシップ。車体中央付近、まあ…運転席の直ぐ後ろにエンジンがあるタイプの車なんだけど、このタイプの車はコーナーでの限界値は高いけど、限界であるスピンが来るのが唐突。それも来てからのカバーも難しい」

 

 

 

「どうしてカバーが難しいんですか?」

 

 

 

「エンジンが車体の中央にあるってことは、中央に重心が集まってるってこと。コマと同じ原理で回り始めるとなかなか止まらないんだ。

安価だが、初心者向きの車ではない。…だけど、良い点もある。

最初に言ったが、限界値が高いってことは限界ギリギリを狙って走れば速いってことだ。現にサーキットのタイムは同等のクラスの中でもかなり速い部類に入る。その上、MR-Sは燃費もいいから維持しやすい。

 

どんなものにも良い点、悪い点がある。

 

ようは"どちらに目を向けるか"…それによって変わるんだよ、人の意見なんて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―1時間後、大黒PA

 

日も沈み、暗闇が支配する時間帯になった頃。

ふんわりとした優しい夜風が吹く中、歴代Zがズラリと並んだ広い駐車場を歩く博也とあかり。あかりの方は「うわぁ~…!」と予想以上に楽しげな様子だ。

 

 

 

「初代から見ていくとこんなにも違うんですね!」

 

 

 

「まあな。初代ZであるS30の初期型が生産されたのが1969年…

そこから何十年もの時間が流れてるんだ。スタイリングが変わるのもおかしくない」

 

 

 

そう語りながらも歩いてるとある車の前で足を止めるあかり。頭上にハテナを浮かべながらも釣られるように足を止め、その車の方に顔を向ける…青のZ33だ。派手なハイマウントGTウィングやゴツいエアロが組まれ、見るからに本気で走っているような雰囲気を醸し出している。

 

 

 

「な、なんか凄いですね…これ……!!」

 

 

 

「スーパーチャージャーをぶちこんで、スペックとしては350馬力オーバー。ちなみにオーナーは俺の知り合いだ」

 

 

 

と言った時に車の後ろからオーナーが姿を現した。

赤い帽子に黒いTシャツ、ジーンズと言った格好…見た目から年齢は20代前半と言ったところだ。早速話し掛ける。

 

 

 

「どうも、2ヶ月前の前々回のミーティング以来ですね」

 

 

 

「ああ、その横の子は?」

 

 

 

「俺の後輩です」

 

 

 

小さく「へぇ~…」と言葉を漏らしながらも辺りをキョロキョロと見回すオーナー。何か探してるようだ。

 

 

 

「何か探し物でも?」

 

 

 

「いや、お前のZだよ。インパルかどっかのエアロ組んでたろ?」

 

 

 

「俺のZなら…アレです」

 

 

 

と言ってZが集まる地帯の片隅に停めてある自分の白いZを指差す博也。外観がずば抜けて目立っているというわけでもない為、立ち止まって見る者も少ない。…が、オーナーは「マジか…!?」と驚きの様子だ。

 

 

 

「アミューズのフルエアロにニスモのウィング…!?

イメチェンにもほどがあるだろ!何かあったのか!?」

 

 

 

「仕事でちょっと事故って…それがキッカケで色々と新調したんです」

 

 

 

「なるほどな…2ヶ月の間にそんなことがあったのか」

 

 

 

「そちらも何かありましたか?」

 

 

 

博也の問い掛けに「うーん…」と思い出そうと記憶を辿っていくオーナー。すると、「あっ!」と声を上げては勢いよく語り始めた。

 

 

 

「1か月ぐらい前にメチャクチャ速いSAセブンと鉢合わせたんだ。俺のZじゃ歯が立たなかったよ」

 

 

 

SAセブンという言葉に「えっ?」と言わないばかりの表情を浮かべる博也。それに気付いたあかりが軽く顔を除き込むようにしながらも恐る恐る問い掛けた。

 

 

 

「先輩、SAセブンって?」

 

 

 

「…RX-7って知ってるか?ロータリーエンジンっていう特殊なエンジンを積んだ車なんだけど」

 

 

 

「あ、はい」

 

 

 

「SAセブンはそのRX-7の元祖、正式名称はSA22C。最終型の生産は1985年とかなり大昔…俺の記憶が正しければターボモデルでもノーマルの馬力は170馬力無かったはず」

 

 

 

ここで博也が驚いていた意味をようやく理解し、「えぇ!?」と声を出すあかり。そんな非力で古いスポーツカーが現行に近いZ33のチューニングカーに勝てるのだろうか…?普通に考えたら勝てるわけがない。

 

 

 

「それ見間違え…とかじゃないですよね?」

 

 

 

恐る恐る問い掛けるあかりに対し、「いや」と首を横に振るオーナー。真剣な表情を見たところ、冗談抜きの本気らしい。博也が更に情報を聞き出そうとオーナーに問い掛けた。

 

 

 

「そのSAセブン、特徴とかありますか?」

 

 

 

「特徴か。俺、旧車には疎いからよくわからないが…確かガンメタ系の色だったな」

 

 

 

 

二人がそれを聞いて不思議そうにしていると一台の車が大黒PAの入口から入ってきた。

 

ガンメタ塗装で刀のように研ぎ澄まされたボディ、旧車ならではのリトラクタブルと呼ばれる開閉式ヘッドライトでサイドミラーはドアミラータイプ。…SA22Cだ。

 

駐車スペースを探そうとする時にミーティングのエリアの片隅に停められていた博也のZを見てフッと笑みを溢した。

 

 

 

「―ようやく見つけた。

外見は色々と変わってるが、ナンバーは同じ…間違えない、あの時のZだ」

 

 

 

ゆっくりと空いている駐車スペースに停車するSAセブン……

 

 

その時、優しかった夜風が一瞬だけ強く吹き荒れた。

 

 

 









どうも、350Zです。

更新遅れて申し訳ありません。

精神的に続けるかどうかの瀬戸際ぐらいまで来てたので……

とは言え、楽しみに読んでいた読者様方には本当にご迷惑を掛けてしまいました。

本当に申し訳ありません、今後とも駄文ではありますが続けさせて頂きます。よろしくお願い致します。






…さて、

最後の投稿から本日に掛けて色々なことがありました。



ピックアップしたいものがいくつかありますが、その中でも今回はZでの二回目の東京遠征について綴りたいと思います。


遠征の目的としては二つ。


緋弾のアリアとコラボしていたメイドカフェとアニメガカフェでのグッズの入手とコラボメニューを堪能すること。

それから…

今回の話にも出てきた、走りの聖地・大黒PAへの訪問。


まあ…こんな感じですね。


まず、メイドカフェの方なんですが…

意外や意外。

結構落ち着いた感じの場所で僕が想像していた"萌え萌えキュン!"なところではなかったです。

(そのお陰もあって入りやすかった……)


注文したメニューはもちろんコラボメニュー。


自分は円盤の予約券を持っていたので特別メニューを頼むことが出来ました!

アリアのキャラドリンクです。

キャラドリンクの中でもコレだけは円盤の予約券or円盤自体を見せないと頼めないんです。



そんなわけで注文したドリンクが来ました!
爽やかな感じのピンキーなドリンクです!

では、飲んでみましょう。






……


………


こんなピンキーなドリンクを普段はあまり飲まない私ですが、普通に美味しかったです。

味としてはくどいような甘さではなく、フルーティーさ程よく残した感じの甘さで後味もさっぱりしていて飲みやすかったです。


これ、コンビニかなんかで売ってくれないかな?←


なんてことを思いながらも、飲み終えた私。

コラボメニューを頼むと限定ポストカードが貰えるらしいですが……

あかりちゃんではなく麒麟とライカのペアでした。



き、気を取り直して……



次はアニメガカフェの方へレッツゴー!



ヴィーナ○フォートの中に入ってアニメガカフェ店内へ!


……なんかオッチャン立ってる。

あ、あのオッチャンは店員か。

よし、グッズゲッチュだ!

ここではこの店でしか手に入らないキャラのメイドコスキーホルダーが手に入るとのこと。

早速頼んでみた。


350Z
「オッチャン、キーホルダー3つと志乃ちゃんのコーヒー!」



オッチャン
「はい、喜んでっ!」



…まあ、実際はこんな軽々しく頼んではないですが。



というわけで、志乃ちゃんのコーヒーとキーホルダーを頼みました。

コーヒーは…

まあ、オマケ目当てだから味は言わない←


てなわけで、お楽しみのキーホルダー……!



一個目、アリア!おっ、いいな。


二個目、理子!うんうん。


三個目、レキ(シークレット)!



………あれ、1年生一人も出てなくね!?


てか、あかりちゃん!あかりちゃんは……!!



ということでオッチャンの元へと再び駆け込む350Z。



350Z
「オッチャン、さっきのキーホルダー5つ!」



オッチャン
「はい、喜んでっ!!」



てなわけで、5つ追加で購入…しかし。


レキと理子が被り。

新しく出てきたのは志乃ちゃんとライカと麗。



……

………

…………



あのオッチャン、悪魔の手の持ち主か?


どうしても俺にあかりちゃんを引かせたくないんだな……


というわけで、キーホルダーは諦めてプロマイドの方を何枚か購入。


こっちの方はあかりちゃん出ましたが、何枚か被りが……




……

………

…………



その結果に「はぁ……」と深いため息をつく350Zであった。


※大黒PAのことやその他のことは次話の後書きで書かせて頂きます。お楽しみに?


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第二話 オーバー・イット

 

―大黒PA

 

 

盛り上がりを見せていたミーティングも終わりが近付いてきた。チラホラと駐車場から去っていく歴代Z達の後ろを見た博也はスマホを手に時間を確認する…

 

到着してからかなりの時間が過ぎていた。

 

 

 

「あかり、かなり時間が経ってるけど大丈夫か?明日休みと言っても、あまりにも遅いと妹さん心配するんじゃないか?」

 

 

 

「そ、そうですね…そろそろ帰ります」

 

 

 

「わかった。じゃ、乗ってくれ」

 

 

 

キーを手にとって遠距離からカチャッとドアロックを解除する。それを見て小走りで駆け出してZの方へと向かうあかりだったが、それに対して博也の方が誰かがZの方へと歩み寄って来るのに気付いた。

 

切れ長の目にマッシュショートの赤茶色の髪、色白の肌。四角いフレームの黒縁メガネを掛けている青年。

 

武偵高の制服は着ているが、見たことがない……

 

 

少し警戒するようにしながらもZに近付いていくと青年が足を止めた。

ドアノブに手を伸ばして乗り込もうととしていたあかりも、カッというアスファルトを踏み締めるような足音で彼の存在に気付いて動きを止める。

 

 

 

「え…?」

 

 

 

「…少し待ってろ」

 

 

 

そう言いながらも警戒するように目を向けながらも青年の方へと歩み寄る博也。あかりの前まで来たところで「アンタ、誰だ?」と問い掛けると、彼は苦笑いするようにしながらも敵意はないと伝えないばかりに両手を軽く挙げて見せてきた。

 

 

 

「怪しいものじゃないですよ。見ての通り武偵高の生徒です」

 

 

 

「名前は?」

 

 

 

「早川晃之(ハヤカワテルユキ)、二年生です」

 

 

 

聞いたことがない名前…思わず首を傾げる博也だったが、その後ろであかりの方が「あっ」と小さく声を出した。何か知ってるのだろうか…?

 

 

 

「どうした?」

 

 

 

「噂ですが聞いたことがあります…確か、福岡武偵高から転校してきたとか」

 

 

 

「福岡から?にしても、どうして学校で見ないんだ?」

 

 

 

「進級出来るだけの単位を取っているから学校に来る必要がないんですよ。ランクは車輌科Aランク、強襲科Aランク、衛生科(メディカ)Bランク。先輩と同じく向こうで"オールラウンダー"の異名を持っていたそうです」

 

 

 

あかりの説明を聞いてその出来すぎなスペックに驚きながらも「なるほど…」と小さく頷く博也。改めて用件を聞こうと早川の方に目を向けると、何を言おうとしているのか察したのか先に用件を切り出してきた。

 

 

 

「市ヶ谷先輩…ですよね?貴方にお願いしたいことがあって来ました」

 

 

 

「お願いしたいこと?」

 

 

 

「ええ、車のことで…」

 

 

 

そう言って後ろの駐車スペースに停まっている一台の車に目を向ける早川…

ガンメタ塗装で刀のように研ぎ澄まされたボディ、旧車ならではのリトラクタブルと呼ばれる開閉式ヘッドライトでサイドミラーはドアミラータイプ。SA22Cだ。

 

 

 

「SAセブン…!?」

 

 

 

博也の言葉に反応するように「えっ!?」と声を出すあかり…先程の青Zのオーナーの話に出ていた車と車種も塗装も一致する。

もしや、青Zのオーナーが言っていた車と同じなのでは…?

そう考えていると博也の方が「そういうことか…」と小さく呟いてから答えを出した。

 

 

 

「俺の方もアンタと話したいことがある。でも、後輩を家まで送らないといけなくてな…その後でもいいか?」

 

 

 

「はい、構いませんよ」

 

 

 

「じゃあ、10時に落ち合おう。場所は…」

 

 

 

「武偵高の前でお願いします」

 

 

 

早川の言葉に「わかった」と小さく頷いてからZの運転席に乗り込んでシートベルトを締める博也。彼に続くようにあかりも助手席に乗り込んでシートベルトを締める。が、ゆっくりと発車しようとした時…彼女はどこか心配そうな目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―午後10時頃、武偵高前

 

 

先程の大黒PAの雰囲気とは一転、閑静で静まりきった正門前。Zを待つ早川は路肩にSA22Cを停め、エンジンルーム内をチェックしていた。街灯によって車が照らされてはいたが、夜間の作業に充分と言えるようなものではない。口に小型の懐中電灯をくわえ、中を照らしながらも配管やパッキン類の状態を確認していく…異常はないようだ。

安堵の笑みを浮かべながらもボンッとボンネットを下ろした時、ブォンッ!という咆哮のようなサウンドが聞こえてきた。

 

 

 

「(来たか…)」

 

 

 

くわえていた懐中電灯を右手に持ち、スッ…と顔を上げた時にヘッドライトの明かりがパッと彼を照らしてきた…白のZ33だ。SA22Cの後ろにつくように車を停めると、運転していた博也がゆっくりと降りてきた。

 

 

 

「待たせたな」

 

 

 

「いや、気にしてないですよ」

 

 

 

そう言いながらも懐中電灯をポケットにしまう早川。カチャカチャ…という音が響き渡る中、博也は街灯に照らされたSA22Cに目を向けた。ボディには傷ひとつ付いてない。それどころか、新車を感じさせるような艶のようなものを放っている。

 

 

 

「綺麗だな…これ、何年式だ?」

 

 

 

「84年式、SAの中でも後期型です」

 

 

 

「84年式…か」

 

 

 

84年式…博也がZの前に乗っていた鉄仮面と変わらないぐらいの年式だ。

SA22Cと鉄仮面…この二車種は当時1、2位を争っていた屈指のスポーツカーだった。しかし…時が流れ、技術が発展した。その分、今と昔じゃ大きく違う。昔の車ではチューニングするにも限界がある…そのことはかつて鉄仮面に乗っていた博也も痛いほど分かっていた。

 

 

 

「(スーパーチャージャー仕様のZに勝つ旧車…か。

一体、どんな組み方してるんだ?エンジンルームの中を見せてもらうか)」

 

 

 

等と思っている時に早川が突然、運転席側のドアを開けて「どうぞ」と言ってきた。突然のことに博也が「は?」と言わないばかりの表情を浮かべているとフッと彼は自然な笑みを浮かべながらもこんなことを言ってきた。

 

 

 

「この車のことが知りたいんですよね?なら、運転してみて下さい。エンジンルーム見るよりも分かることがありますよ、絶対」

 

 

 

 

 

 

 

 

―数十分後、C1エリア

 

ギュウィィィンッ!というロータリーエンジン特有のサウンドを轟かせ、湾岸線エリアから合流してきたSA22C。

二車線という少ない車線で右に左にヒラリヒラリと舞うように一般車をかわしていく…その感覚に運転していた博也も驚きを隠せないでいた。

 

 

 

「(動きが軽いな…足回りも古いものとは思えないぐらいに働く、動きもスムーズだ)」

 

 

 

驚いていたのは運転している彼だけではない、助手席に座っていた早川もだ…が、驚きの対象は車ではなく博也の対応力と腕に対してだ。

 

 

 

「(初めて乗る車をここまで上手く走らせるとは…)」

 

 

 

低速コーナーでブレーキングを行い、フォンッフォンッ!とシフトダウン。一般車がいないため、アウト・イン・アウトの基本的なライン取りでコーナーを抜けていく…安定したところで再びアクセルを踏み込んで加速。

加速Gが車内に伝わりギュウィィィン!!というサウンドが響き渡る中、メーターの斜め上に取り付けられた緑色のブーストメーターで圧を確認した博也は小声で「なるほど…」と小さく呟いてから助手席に座る早川に向けて話し始める。

 

 

 

「12A(元々のエンジン)からエンジン載せ換えてるだろ?コイツ。」

 

 

 

「と言うと…?」

 

 

 

「恐らく、同じロータリーエンジンでもSAセブンの二つ後のFD3Sに載っていた13B-REWが載っている。パワー的なチューニングとしてはタービン交換と軽いブーストアップ、最大馬力は400馬力弱…ブースト圧と馬力を照らし合わせるとタービンはT04あたりか。でも」

 

 

 

淡々と話しながらも軽くブレーキペダルを踏みんで姿勢を整えてからズワンッ!と左車線に移り、一般車をかわしていく。再びアクセルを踏み込んで加速を始めた時に"やっぱり"と言わないばかりの表情を浮かべてから話を続けた。

 

 

 

 

「コイツの最大の武器はパワーじゃない、車重の軽さだ。感覚的には1000kg切るか切らないかってところ。そうなると、パワーウェイトレシオは2.5キロ前後ってところか」

 

 

 

パワーウェイトレシオとは、車重とパワーの比のことで、値が少なければ少ないほど加速力が優れているとされている。

この値がどれだけ少ないのかという例題を出すと、軽量化なしのZの車重が1450kg。このSA22Cと同じだけのパワーウェイトレシオにするには580馬力は必要になる…350馬力のZが負けるわけだ。

詳細を口にしてそも速さを強く感じていた博也に対し、早川はフッと笑みを浮かべた後に「流石ですね」と呟いて語り始めた。

 

 

 

「正解です。エンジンは後期型のFDからの流用、タービンはT04。車重は1000kgぐらい…もっと言うと足回りもFD用の社外のものをベースに改造して取り付けたものです」

 

 

 

「そうか…どおりで抜けがなく仕事するわけだ」

 

 

 

そのままC1をぐるりと一周後、120km/hまでペースダウンしていき湾岸線エリアに戻る…武偵高へと戻ろうと走らせていると、早川の方が突然、切り出してきた。

 

 

 

「次、Zに乗っていいですか」

 

 

 

「乗るって…運転するってことか?」

 

 

 

「いえ、横がいいです。先輩が運転して下さい」

 

 

 

早川の言葉に再び意外と言わないばかりの表情を浮かべる博也。この流れなら運転するのは彼だろう…だが、目を見る限りでは遠慮をしてるわけではなさそうだ。

彼には彼なりの考えがあったからだ…

 

 

 

「(初めて乗る車をこれだけ上手く走らせたんだ…自分の車ならもっと上手く走らせるに違いない)」

 

 

 

 

 

 

 

 

―十分後、Z車内

 

ゆったりとした速度で湾岸線エリアへと入る博也のZ。助手席に座る早川はステアリングを握る博也の方に目を向ける…すると、一ヶ月前に意図も簡単にオーバーテイクされた光景が頭の中に浮かび上がった。

あれだけ速い車の助手席に乗れるとは自分はツイている…これだけの貴重な体験は二度とないかもしれない。

 

 

 

「(しっかりと体験させてもらう…この車のスペックとアンタの腕を)」

 

 

 

80km/hで走っていたZが4車線の最高速ポイントに差し掛かった。すると、「踏むぞ」と告げると共に博也がアクセルを踏み込んでいく。ブォォォォン!!というV型エンジンのサウンドを響かせると共に加速を始めるZ。先程のSA22C以上の加速Gが車内に襲い掛かってきた。

グンッ!とシートに押し付けられるような感覚に早川は驚きのあまり「っ!?」と言葉にならない声を出す。

 

 

 

「(凄い…!Gで体が押さえ込まれる!

ジェット戦闘機にでも乗ってる気分だ…!!)」

 

 

 

Defi製のデジタル追加メーターがピィィ!というアラート音を鳴り響かせる中、シフトノブを握って2速から3速にシフトアップ。それから間もなくして再びピィィ!というアラート音が鳴り響き、再びシフトノブを握って3速から4速にシフトアップ。…ターボ特有のラグはない、追従するようにブーストが掛かっていく。

そんな中、一般車が前から迫ってきた。

軽いブレーキングで姿勢を整えてから左車線に移ってかわし、再び加速……終わる気配を見せない加速に早川は言葉を失ってしまう。

 

 

 

「(今までZは車重が重い見せかけだけの車だと思ってた…でも、コイツは違う。間違えなく"モンスターマシン"の部類に入る…!!)」

 

 

 

最高速区間が終わるとブレーキング行い、スローダウン。80km/hというC1エリアに入っていくのを見て運転している博也の方に目を向ける早川…すると、彼はどこか不安げな表情を浮かべていた。

 

 

 

「(……?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

―翌日

 

屋根がある屋外駐車場 朝

 

 

チュンチュン…という小鳥のさえずりが聞こえる中、赤いツナギ姿でSA22Cのチェックを行う早川。ボンネットを開け、エンジンルーム内に手を入れてチャキチャキッと工具を動かしているとふと前日の博也の表情が頭の中に浮かび上がった。C1に入った途端のあの不安げな表情だ。

 

 

 

「(あの時、何があったんだ?マシントラブル…いや,計器類に異常はなかったし、異音という異音も聞こえなかった…完璧かどうかは知らないが、Zの調子は悪くはなかった)」

 

 

 

そう思いながらもチャキッと増し締めを終えたところで工具を地面に置いていた箱にしまい、バンッとボンネットを下ろす。箱を手に運転席に乗り込み、助手席に置いてからステアリングを握りながらもキーを差し込んでセルを回し、エンジンを始動させた。ギュウィンッ!!というロータリーエンジンの咆哮がガレージ内で響き渡る中、「ふぅ…」と小さく息をついた後にサイドブレーキを下ろし、ギアを入れてゆっくりと走らせていく。

 

 

 

「(まあ、いい。そんなことより、今はあのZよりも速く走れるようにコイツ(SA22C)を仕上げることの方が重要だ。少なくとも今のままではダメだ…もっとパワーがいる)」

 

 

 

首都高経由で東名高速に合流。東京のお隣、神奈川に入る…

更に十分後、高速を降りて下道を少し走らせて行くとある大きなチューニングショップに到着した。

車が10台は入りそうな広いガレージ…従業員が薄汚れた紺色のツナギ姿で黙々と作業を進めているのをチラッと見ながらも横長の駐車場にSA22Cを停め、ゆっくりと降りていく。

アスファルトの路面に足を付けた時、ガレージ入り口の上に表示された看板に書かれたショップ名が目に入ってきた。

 

ショップの名前は…"L'sプロチューン"。

 

 

 

 

 

 

「…ここか」

 

 

 

 

 




どーも、350Zです。

SA22Cの速さの秘訣はエンジンなんかの中身がFDだったという落ちでした…


「だったら、FD出せよ!!」


と言いたくなる読者様もいられるかと思いますが、自分としてはどうしてもSAを出したかったのです。


こういう走り系の作品(特に頭○字D)で何かと前に出されるのはSAの後継のFCやFDばかり……
そのせいからか、このSA22Cが初代RX-7だということを知らない人も多いかと思われます。歴代RX-7の中でSA22Cが一番好きな作者としては少しでもそれを無くしたいと思い…SA22Cをチョイスしたというわけです。


でも、SAって何か良いところあるの?と思われる方もいるかと思いますが…

ズバリ答えます。

それは、今回の話にも出てきた"軽さです"

SA22Cは軽量化なしでも車重が1000㎏ちょっとと恐ろしいぐらい軽いのです。(まあ、古いぶん色々と物が省かれてるとかってのはありますが…)

ちなみにSAの後のFCは車重が1250㎏ぐらい、その後のFDの車重は1280㎏ぐらいだった気がします。


これを見るとどれだけ軽いのか分かりますよね?


でも、エンジンとかがFDだったら重くなるんじゃ…?
という方もいるかと思います。

確かにそのままにしてれば重くなります…が、ロータリーエンジン特有の軽さを考えると、軽量化を加えてやればノーマルとの差は±0ぐらいにはなります。

なので、早川のSA22Cはノーマルとは変わらないぐらいの軽さになったのです。

((なんか思いきったことを書いたからツッコミが来そうで恐いなぁ……))


まあ、SA22Cの話はこの辺にしておいて…


最後に出てきた"L'sプロチューン"。

覚えてらっしゃる方いますか?

覚えていない方はACT.3『黒い狂気』の第五話を読んで見て下さい…

きっと「あっ!!」っとなります。

というか、なって頂きたいです……


まあ、今回はここまでにします。

東京遠征の話の続きは次回の後書きで書きたいと思います…

では、また次回お会いしましょう!

さよなら!!


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第三話 ザ・ナイツ

 

―L'sプロチューン

 

 

 

SA22Cから降り、外から作業風景を眺める早川…

手際よく作業をこなしている姿に目を奪われていると、突然何処かから「おう」と気さくな声が聞こえてくる。

ふと声がした方向に目を向けると、そこにはボウズ頭で白いツナギを着た社長らしき中年の男がタバコをくわえて立っていた。

 

 

 

「ウチのショップに何か用か?」

 

 

 

「ええ、車のチューニングを頼もうかと思いまして…」

 

 

 

小さく頷いてから自分の愛車のSA22Cへと目を向ける早川。中年の方は彼の目線を辿るようにして目を向け、SA22Cを眺める…旧車とは思えないぐらいの艶のある綺麗なボディ。刀を思わせるようなそのボディラインに中年は感心するように「ほぅ…」と小さく言葉を漏らした。

 

 

 

「SAセブンか、懐かしい車だな。免許取って一番最初に乗った車だよ」

 

 

 

「そうなんですか?」

 

 

 

「ああ。当時、既に後継のFCが出ていたが…高くてなかなか手が出せなくてな。後のチューニングなんかのことも考えるとSAが妥当だろうと思って中古のSAを買ったんだ。ちょっとエンジン見せてもらっていいか?」

 

 

 

その言葉に「はい」と頷いて運転席に回り込む早川。カッチンとレバーを引き、ボンッとロックが解除されると共に中年がサッとボンネットを開けていく。

旧車らしい古びた内面の中にポッカリと納まるピカピカの13B-REW。彼はそれを見るなり「なるほどな」と小さく呟いてから続けて語り始める。

 

 

 

「12Aから13Bにエンジンスワップ(載せ替え)、タービンはT04か…中身はサーキット仕様のFDだな。スペックはどんなモンだ?」

 

 

 

「ブースト圧1.0オーバーで400馬力、車重は1000kg前後です」

 

 

 

「パワーウェイトレシオ2.5㎏台ってところか…見掛けに寄らずスゲぇ車だな。で、チューニングするなら何か目的でもあるのか?」

 

 

 

中年に聞かれて「……。」と考えるように間を開ける早川。神妙な面持ちで考えている間にふと、ガレージの片隅に置かれていたバンパーがないZ33が目に入る…すると、頭の中に前日のあの記憶がフラッシュバックしてきた。

まるでジェット戦闘機のような加速をしたあのZの隣に乗った記憶だ……

 

 

 

「目的は…とあるZ33とやりあうことです」

 

 

 

「とあるZ33…?」

 

 

 

「ええ。最近、首都高に現れる白いZです」

 

 

 

「ほぅ…相手はZか。で、そのZのスペックはどんなもんだ?」

 

 

 

スペック…そんなものはっきりと分かるような次元ではなかった。が、スペックが分からなければチューニングする方としても作りづらいものがある。あの時に感じ取ったもの…それらを全て思い出そうと頭の中をフル回転させる。そして、考えながらも「そうですね…」と小さく呟いてからゆっくりとした口調で答えた。

 

 

 

「車重はどんなものかは分かりませんが、本来のZの車重から考えれば900…いや、"1000馬力クラス"の加速はしてたかもしれません」

 

 

 

正直、自分でも言い過ぎではないかと後になって思う早川。が…あの時、それぐらいの強い衝撃を受けたのだ。

彼の言葉に驚きのあまりくわえていたタバコをポロッと落としてしまう中年。Z33で1000馬力…エンジン載せ替えでもしてない限りは無理な領域である。

 

 

 

「1000馬力…!?エンジンは!?」

 

 

 

「恐らく、GT-Rに載っているRB26やスープラに載っている2JZではなく、元から載ってるVQ35をツインターボ化したものです。タービンは何かはわかりません」

 

 

 

信じられない話…例え本当だったとしても、'80年代前半に生産されたスポーツカーがそんなモンスターマシンに勝てるわけがない。この話は聞き流そう。

そう思い、背中を見せてその場を去ろうとした時…「待って下さい!」という制止させるような声が響き渡った。

 

 

 

「貴方の気持ちはわかりますよ、そんな相手に勝ち目はないって…でも、持ち主である俺としてはコイツ(ロータリー)の限界がどんなものかって見たいんです。

…正直、勝ち負けはどうでもいいんですよ。

ただ、何処まで張り合えるか。それが見たいんです」

 

 

 

「何処までって…相手にすらならないだろ、コイツじゃ」

 

 

 

「いえ…前原さん、貴方のチューニングの腕があれば行けますよ。貴方の腕さえあれば…!」

 

 

 

前原…この中年の名前だ。

「……。」と数秒程黙り込んだ後、もう一度振り向いてSA22Cの方へと目を向ける…艶を放つ綺麗なガンメタカラーのボディ。もう何十年も経つ旧車にも関わらず、ここまで綺麗な状態というのは異常だ。如何にこの男がこの車を大事にしてるのかが分かる。

恐らく、「もっと速いGT-Rやスープラに乗り換えてから来い」と言っても、聞く耳は持たないだろう。

前原は「はぁ…」と小さく息をついてから仕方ないと言わないばかりにこう答えた。

 

 

 

「俺の方で見てやるよ…20:00にもう一度来い。詳しい話はそこからだ」

 

 

 

そう言いながら、もう一度背中を見せて事務所の方へと歩いていく前原。その背中に向け「ありがとうございます!」と頭を下げると、彼は続けてこんなことを呟いた。

 

 

 

「なに、迷惑な客が他のショップに行ってまた迷惑掛けるのを防いだだけだ…。そこんとこ勘違いするなよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

―昼、とあるショッピングモールの屋上駐車場

 

その駐車場の片隅に停まる白いZ33…博也のものだ。

人気もほとんどなく、静まり返ったこの場所…

白いパーカーに黒いジーンズというラフな格好で彼は何か考え込むようにしてZを見つめていた。

 

 

 

「(昨日走ってハッキリと分かった…

全体的な総重量は軽くなり、基本的な動きが軽くなった…が、前後の重量比がかなりフロント寄りになっている。こんな状態で限界域で走ろうとしたら間違えなく足元を掬われる…)」

 

 

 

…重量比。

コーナリングや加速時のトラクション(路面と駆動輪の間に掛かる駆動力)にも影響する重要な要素の一つである。理想的な重量比は50:50や52:48など様々な意見が上げられているが、そんな中でモータースポーツの世界で一般的に嫌われているのがフロントの重量比が重いフロントヘビーという状態…これが今の博也のZの状態だ。

フロントヘビーが嫌われる理由は色々あるが、アンダーステアと呼ばれる現象の誘発性が高くなるということが一番言われている。このアンダーステアという現象はコーナー進入時に車体が遠心力に負けてラインが外に膨らむこと…簡単に言えばオーバースピードで曲がりきれないことを指す。

つまり、今のZは限界まで攻めると"曲がらない車"と化すのだ。

 

 

 

「(動きが軽くなったが、とてもじゃないが攻めきれない…それこそ、Z(コイツ)がいつ裏切るか分からない)」

 

 

 

深刻そうに色々と考えていると後ろから明るい声で「センパイ!」と声を掛けられた…あかりだ。

明るい黄色のワンピースのような服を着ていて、肩に小さなオレンジ色のショルダーバッグを掛けている。どうやら、二人でこのショッピングモールに来たようだ。一歩、二歩と歩み寄ってくると下から顔を覗き込むようにして博也の方に目を向ける。

 

 

 

「早く行きませんか?他事を考えるのもいいですが、今は二人でお出掛けしてるんですよ?」

 

 

 

「そ、そうだったな…いやー、悪い悪い。なんか最近、ボーッとすることが多くて」

 

 

 

そう答えてからアハハ…と頭の後ろを軽くかくようにして誤魔化す博也。心配を掛けられたくないがために取った行動だ。更に深く掘り下げられないように「よし、行こ!行こ!」と促して早足で屋上駐車場からの入り口へと向かう…その時、一台の高級車が駐車場に静かに入ってきた。

白塗装で古いフロントデザインながらもピカピカで見るからに貴賓溢れているような縦長のセダン…二人の近くで静かに止まると、博也の方は思わずピタッと固まって目を見開いてしまう。

 

 

 

「べ、ベントレー…!?一体、誰が…!?」

 

 

 

思わず呟いていると、運転席から運転役の女性が降りて後部席のドアをゆっくりと開ける…すると、見覚えのある黒髪の女子が降りてきた…佐々木志乃だ。

黒のブラウスに紺の少し長めのスカートという私服姿で車から降りると一瞬だけ苦虫を噛むような表情を浮かべて博也を見てきた。

 

 

 

「(チッ…!!)」

 

 

 

博也が「は?」と言わないばかりの表情を見せる中、彼女を見て疑問を抱いたあかりが「志乃ちゃん?」と声を掛けるとすぐに「はいっ」と答えて笑みを二人に見せてきた。

 

 

 

「あ、あの…お二人とも、お出掛けですか?」

 

 

 

「うん、そうだよ」

 

 

 

「ま、まあ、そうだけど…」

 

 

 

突然の問いかけに少し戸惑いながらも答えると志乃は「奇遇ですねっ!」と更に満面の笑みを浮かべて両手を軽く合わせるようにして前のめりになりながらもこんな事を言ってきた。

 

 

 

「私もお出掛けでここに来たのです。よろしければ一緒に参りませんか?」

 

 

 

「うん、良いよっ♪人数が多い方が楽しそうだし…そうですよね?先輩」

 

 

 

「あ、あぁ…確かに」

 

 

 

二人の答えに内心「(よしっ)」とガッツポーズしながらもベントレーの運転手に「お行きなさい」と伝える志乃。運転手が「かしこまりました」と答えて運転席に乗って去っていくと、遠くから「オーイ!」という声が聞こえてきた。ふと三人がそちらに目を向けると二人組の女子が駆け寄ってくるのが見えた…麒麟とライカだ。

麒麟は白のゴスロリ系のTシャツと短めのスカートという服装、ライカは黒いチェックのシャツに茶色のジャケット、茶色のチノパンという格好だ。

 

 

 

「あ、麒麟ちゃんにライカまで!」

 

 

 

「こんにちはですの、間宮様♪」

 

 

「よ、あかり!なんだ、市ヶ谷先輩や志乃まで…三人でお出掛けか?」

 

 

 

「うん、志乃ちゃんとはここで偶然会ったんだ。良かったら一緒に行く?」

 

 

 

楽しそうに会話する三人に対し、ぐぬぬ…!と言わないばかりの表情を浮かべる志乃。そんな彼女と裏腹に博也の方は「ほげー…」と小さく声を漏らしながらもあかりの方に目を向けていた。

 

 

 

「(凄いよな…コイツ。前から薄々と感じてたが、仲間をつくるというか…引き付ける何かを持ってる)」

 

 

 

 

そう思っている間に一台のオレンジメタリックのクーペがブォゥン…!という独特のサウンドを響かせながらも駐車場に入ってきた…大樹の86GTだ。以前とは見た目が違い純正と比べてスパイタンな顔付きが特徴のイングス製のエアロパーツをフロント、サイド、リアの三点に取り付けている。

そんな86GTの助手席には麗らしき女性の姿もある。二人とも白と黒で統一された服装でサングラスを掛けていた。

 

 

 

「(おいおい、どうしてこうも知り合いが集まって来るんだ…!?)」

 

 

 

アハハ…と思わず苦笑いしている間に大樹も気付いたのか、86GTを此方に近くで停車。ブィィィン…とパワーウィンドウ開けてから静かにサングラスを手に取って顔を出してきた。

 

 

 

「奇遇だな、休日に会うなんて」

 

 

 

「あぁ、まあな…」

 

 

 

そう小さく返す博也に対してすぐに他のメンバーを見る大樹。彼以外は女性しかいない…それが分かると共に呆れるように「はぁ…」と小さく溜め息を溢してからこんな事を言ってきた。

 

 

 

「お前、車遊びだけじゃ飽きたらずに女遊びにまで手を出し始めたか…人のやることにはあまり強く口出しをしたくはないが、程々にしてろよ」

 

 

 

「い、いや!そういうのじゃないって!!たまたま偶然、ここで…!!」

 

 

 

「言い訳は見苦しいぞ…」

 

 

 

先程よりも深い溜め息をつきそうな表情でそう答える大樹。その時、助手席に乗っていた麗が掛けていたサングラスをチャキッとかけ直しながらも博也話をする彼の方に目を向けた。

 

 

 

「大樹先輩、はやく行きますわよ?」

 

 

 

「あぁ、悪い。じゃ、そういうことで俺はもう行く…じゃあな」

 

 

 

そう告げると共にブィィィンとパワーウィンドウを上げて、締まり切ったところで再び加速を始める86GT。どうやら、駐車場の空きスペースを探しに行ったようだ。思わぬ誤解に軽く頭を押さえるような素振りを見せる博也。そんな彼にあかりの方が「先輩」と話し掛けてきた。

 

 

 

「思ったのですが、先輩は良い友人関係の方が多いですよね。先程の原田先輩といい、武藤先輩といい…」

 

 

 

「良い友人関係…?なんだ、それ?」

 

 

 

何のことだかサッパリ分からず、思わず頭上にハテナを浮かべながらも首を傾げるようにして問いかける博也。様子を見る限り、全くと言って良いほど自覚がないのであろう…あかりもそうだと察して具体的な説明をしようと「うーん…」と目を軽く瞑るようにしながらも小さく首を傾げながら考え始める。そして…どんなものなのか具体的には出なかったのか、「その…」と小声で切り出してからこんな答え方をしてきた。

 

 

 

「言い出した私自身、何と言えばいいのかよく分からないのですが…"目には見えない強い絆で結ばれている"とでも言えばいいのでしょうか…?」

 

 

 

「目には見えない強い絆?別に普通に仲良くしてるだけのような気がするけどな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―夜 L'sプロチューン

 

 

 

しっかりと清掃された事務所で社長席に座る前原。閉店したのか、彼以外の従業員は誰もいない…そんな中、机に置いている電話の受話器を手に取りながらもある人物と話していた。博也のZ33を組んだ片岡だ。

話題はSA22Cに乗っている早川のことで持ちきりになっていた。

 

 

 

「片岡さん。今日、うちに面白い奴が来ましたよ」

 

 

 

「―面白いやつ?なんだ、それ?」

 

 

 

「SAセブンに乗ってる奴ですよ。詳しいことは分かりませんが、見た感じ年齢としてはかなり若い…恐らく、まだ二十歳いってないです」

 

 

 

「―そんな若僧がSAセブンに?ほぉー、変わってるな。」

 

 

 

「ええ、それと変わってるのはそれだけじゃないです。なんでも、そのSAで首都高を走っているとあるZ33を狙ってるだとか…」

 

 

 

「―SAセブンでZ33に…か。相手のZがどんな奴かは知らないが、行けるんじゃないか?

"師匠である俺以上に上手くロータリーが組める"お前が組んだらの話だがな」

 

 

 

片岡からの背中を押すような発言にフッと小さく笑みを浮かべながらも「ありがとうございます」と返す前原。その時、外からギュウィィンッ…!という特有のエンジンサウンドが聞こえてきた…どうやら、早川のSA22Cのようだ。

それと共に事務所に掛けられていた時計で時間を確認する…19:55だ。

 

 

 

「(約束の時間、5分前に到着…いい心がけだ)」

 

 

 

そう思いながらもゆっくりと席から立ち上がりながらも「すいません」と謝ってからこう切り出した。

 

 

 

「客が来ました」

 

 

 

「―客って…お前んとこ、営業時間はもう過ぎてんだろ?」

 

 

 

「ええ、確かに過ぎてます…ですが、この客はちょっと特別なんですよ」

 

 

 

「―…そうか、しっかり見てやれよ。じゃあな」

 

 

 

「はい、失礼します」

 

 

 

カチャッと受話器を下ろしてから席から離れ、そのまま事務所を出ていく。外の駐車場にはSA22Cの姿が…リトラクタブル式のヘッドライトは開いたままで、エンジンは掛かりっぱなしの状態。持ち主である早川がカタッというドアの音と共に静かに降りてくると、前原の方がニッ…と不敵な笑みを浮かべながらもこう述べた。

 

 

 

「よし、始めるぞ…とりあえず、様子見ということで横に乗せてもらう。C1辺りでも軽く流してくれ」

 

 

 

「わかりました、どうぞ乗って下さい」

 

 

 

 

 

 

 

―数十分後

 

 

首都高速都心環状線(C1エリア)

 

浜崎橋JCTから合流するSA22C。

二車線の狭いエリアの中、右に左にと一般車をかわしていく…運転している早川はまだ余裕があるような様子なのに対し、前原の方は「ほぅー…」と感心するような声を出していた。

 

 

 

「なかなか上手いな」

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

そう返しながらも左右に流れる高速コーナーを次々と抜けていくように運転する早川。そんな中、彼はふと今朝のことを思い出す…そこからふと疑問を抱き、アクセルを緩めてペースダウンしてから「ちょっといいですか?」と切り出してから単刀直入に問いかけた。

 

 

 

「最初、どうしてチューニングを断ろうとしたんですか?」

 

 

 

「…昔、色々あってな。それがあってチューニングを断ろうとしたんだ」

 

 

 

「色々…?」

 

 

 

復唱するようにそう問い掛けると前原は「あぁ」と小さく頷いてから遠くを見つめるように目の前の流れる光景を見ながらも溜め息混じりに語り始めた。

 

 

 

「数年前。とある有名車雑誌の企画で色んなショップが集まって好きな車を特定のレギュレーション(規定)内で好きな車を組み、タイムアタックでタイムを競うってのがあった。場所は筑波…俺もロータリーで出ようと思ってFDで参加したんだ」

 

 

 

「FD…L'sチューンの昔のデモカーですか?」

 

 

 

「いや、違う。だが、エアロ系パーツとマフラーなんかの吸排気系パーツは全く同じ奴がついていた。組み上がった時に今まで組んだ中でもかなりいい仕上がりだと自分でも感じたよ。で、タイムアタック前のインタビューで"確実にトップ3には入ると思うぐらいには仕上がった"ってデカい口叩いたんだ。

…だが、結果は10組中6位。それも、その6位っていう微妙な結果でもRE(ロータリーエンジン)搭載車の中ではトップだったんだ」

 

 

 

「全体のトップは何だったんですか?」

 

 

 

「当時、まだ出たばかりだったエボⅨだ。俺が組んだFDでは到底叩き出すことが出来ないようなかなり速いタイムだった。そこで気付いたんだ…"ロータリーが速いっていう時代は終わったんだ"ってな。

そこからだ、ロータリーで本当の速さを追究しようとする客から仕事を断るようになったのは…」

 

 

 

言われてみれば…確かに、彼は早川の目的を聞いてからいきなり否定的な意見になって仕事を断ろうとしていた。だが、その後に頼み込んで引き受けてくれたのは何故だろう…?今度はそんな疑問が浮かび上がってくる。

 

 

 

「では…なぜ、その後に引き受けようと?」

 

 

 

もう一度単刀直入に問いかけて見ると、前原は「ふぅ…」と聞こえるか聞こえないか分からないぐらいに小さく息を吐き捨ててから車内を見上げるように目線を移して答えた。

 

 

 

「さあな。お前の押しで、心の何処かで僅かながら残ってたいた感情が動いたんだろうな。"ロータリーは速いんだ"っていう確証も何もない感情が…

筑波でのタイムアタックはレギュレーションがあったが、今回は公道。レギュレーションも何もない。チューナーの端くれとしては、組み方も自分が好きなように組めるってのも魅力的だと感じたんだ。にしても、俺もとうとうおかしくなっちまったか。違法である公道レースを魅力的と思い始めるとは…」

 

 

 

自嘲するように「フッ…」と笑いながらも目の前の光景に再び目を向けた時だ。C1を一周して浜崎橋JCTの看板をもう一度潜り抜けたSA22Cの前に一台の車が現れた。オレンジメタリックに煌めくボディ、86GTだ。イングス製と思われるスパイタンなエアロを取り付けている。

 

 

 

「86か」

 

 

 

「それらしい見た目はしてますが…どうします?」

 

 

 

「俺としてはやって欲しいが、やるかどうかはお前に任せる」

 

 

 

 

 

 

 

―86GT車内

 

二車線の道の右側に車をつけて夜の首都高をゆったりとクルージングするようにこの車を走らせていたのは大樹だった。ステアリングを緩めに握り、完全にリラックスモード…麗とのデートは終わったが、彼女とはブルートゥースを使って会話をしている真っ最中だ。

 

 

 

「次はどこ行こうか?」

 

 

 

「―そうですわね…わたくし、箱根に行きたいですわ」

 

 

 

「箱根か、距離的にも遠すぎないからいいな。いつ頃がいい?」

 

 

 

「―ら、来週辺りはいかがでしょうか…?」

 

 

 

「来週か。確か、予定は空いて…!?」

 

 

 

空いていると答えようとした時だ。後ろについていた車が車間距離を縮めては急にパッシングを始めてきた。バトルの誘いだ。バックミラーに映る強弱するヘッドライトの明かりに反応し、思わず会話を中断してしまう大樹。車種が何か判別しようとバックミラーに意識を集中させる。

 

 

 

「(リトラクタブルのヘッドライト…180SX(ワンエイティ)?いや、あの形からしてもっと古い。まさか、SAセブンか?)」

 

 

 

色々と考えている間に「―大樹先輩?」という麗の心配するような声が耳に飛び込んできて、自分が彼女と通話していたことを思い出す。…が、後ろについているSA22Cが気になって仕方がない。

どうして、こんな旧車がバトルに誘ってきたのか…?

色々と疑問が浮かび上がってくる。が、走ればその疑問も少しは分かるかもしれない。そう思った大樹は申し訳なさそうに「悪い…」と告げてからこう言った。

 

 

 

「ちょっと用事が出来た。また後で掛け直す」

 

 

 

ピッと通話を切ってハザードランプのスイッチに素早く手を伸ばし、カチッと押す。カッチャカッチャとハザードランプを点けることで後方についているSA22Cにバトルの承諾サインを送った。バトル前の緊張からか、先ほどまでステアリングを緩く握っていた手に力が入る。汗のようなものもかき始めていた。その間に汐留JCTの看板が見えてくる。すると、後ろについていたSA22Cが静かに左車線に移った。このタイミングで車線を変えたということは、看板を潜り抜けた辺りから始める気なのだろう…

 

 

 

「(準備は出来た、いつでも行ける…!)」

 

 

 

バクバクと高鳴る心臓も鼓動を感じながらもゆっくりと並んでくるSA22Cの車影を確認…そして、汐留JCTの看板を潜り抜けた時。ゴーサインでもあるプゥゥッ!というクラクションが鳴り響くと共にバトル開始。

 

カタパルトから打ち出された戦闘機のようにギュウィィィィンッ!ブォォォゥゥンッ!!とエンジンの咆哮を辺りに轟かせながらも加速を始める2台。

 

 

 

 

―ドッグファイトの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 




どうも、350Zです。

早川SA22Cvs大樹86GTという展開になりましたね。

86GTの中身がノーマルのままならあっさり負けると思いますが、今回の話からなんか見た目が変わっているのでもしや…中身も?

まあ、次回までお楽しみにという感じでお願いします。



さて、今回の後書きは東京遠征番外編です。


緋弾のアリアのグッズを漁ろうとヴィーナ○ポートに来た私ですが、このヴィーナ○ポートには面白い店がありました…


屋内サバゲーのお店です。


私、前からサバゲーには興味があったのですが実際にはやったことないんですよね…

というわけで、やって来ました。


最初はサバゲーの基礎が学べる初心者コースで。

15分間のこのコース…
銃の構え方からルール、簡易的な実戦まで店の人に教えて貰えるんです。

で、店の人にG36Cのエアガンを持たされた私。

"構えて"と言われてバッと構えた時、「完璧すぎ」と驚かれました←


えっと、


実は…

サバゲー経験はありませんが、海外にて実銃の発砲経験があったりします。

有名なデザートイーグルやコルト、ドラグノフまで撃って来ました。

店の人にそのことを言ったら「逆に教えて下さい」と言われました…
いや、実銃は撃ったことあるけど、サバゲーはやったことないからしっかり教えて()


なんて思いながらも初心者コースを無事に終えた私。

次は一般ピーポーを交えた実戦。


私と一緒に実戦を行ったのは如何にも初心者という感じの男女の若いカップルと、店の人曰く「サバゲーガチ勢」という外国人の男性。


誰が来ようと負けねえ!さあ、勝負だ…!!


なんて思ってやってましたが…

外国人TUEEEEEEEEEEEEEEE!!!!


チーム戦でラウンド毎にチーム変えてやっていましたが、彼が敵に回った時は結構押されてた気がします…


あの外国人、アリアより強い。うん、間違いない……


なんて思いながらも実戦終了。
疲れたー、足痛いしヘトヘトだよ…


等と思いながらも皆仲良く喋っていると、帰りについての話題が出てきました。


「え、帰り?車で片道350km以上あります()」


それを言った途端に「えぇぇ!!?」と驚くカップル、外国人、店の人。

まあ、そりゃそうなるわな……


という感じで屋内サバゲーのお店を抜けた私。

次回は走りの聖地、大黒PAについてお話します。

お楽しみに……


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第四話 ブリーズロック



―3時間前、ショッピングモール



あかり達が楽しげにショッピングをする中、博也は彼女たちとは離れた人気がないエスカレーターの付近で壁に凭れるようにしてスマホを手にある人物と連絡をとっていた…


「はい…そうです、以上でお願いします」



「―以上…か。また金がかかるな、大丈夫か?」



「大丈夫じゃないですよ。
でも、やっておかないと自分の中でなかなか納得できないもので…俺からすれば金銭面よりもそっちの方が重要なんですよ」



「―なるほど…な。分かった、注文がきた以上は俺の方も進めさせて貰う。じゃあな」



最後にそう告げてプツッと通話を切られてしまう博也。静かにスマホをポケットにしまおうと後ろから人の気配を感じた。
ゆっくりと振り向くと、そこにはあかりの姿が…



「先輩、依頼か何かですか?」



「いや、大したことじゃないって。さて、買い物に戻ろうかな」






 

 

 

―現在、首都高速都心環状線 C1エリア

 

 

 

汐留JCTの看板を抜けると共に加速を始めるSA22Cと86GT。このエリアでまず前に出たのは86GTだ。

徐々に徐々に右車線につくSA22Cを突き放していきながらも前から迫ってくる一般車をパイロンのようにかわしながらも右車線に移り、キキキィッとリアタイヤを鳴らすようにしながらも先頭を取っていく。

…が、SA22Cの助手席に乗っていた前原は86GTが先頭を取ったこと以外に何かに気付き、少し驚くような表情を浮かべていた。

 

 

 

「譲ったのか?」

 

 

 

「ええ、作戦とかそういう大層なのじゃありません。

どういう走り方をするか…それが見たかっただけです」

 

 

 

 

長いストレートを走っていると左コーナーが見えてきた。その直ぐ後にはトンネルがある。このトンネル内は左右に揺れるような高中速コーナーが次々と迫るようになっている…。アウト・イン・アウトの基本的なライン取りで左コーナーを抜け、トンネル内に勢いよく入っていく2台。

オレンジ色のライトに照らされながらも続けて右高速コーナーに飛び込み、ズワンッ!ズワンッ!!と抜けていく。

 

抜けた後の少しの間はストレート…SA22Cはまだ86GTの後ろにピタリと付いていた。

 

 

 

「まだ行かないのか?」

 

 

 

「ええ、もう少し見ていたいんです。この車がどんな動きをするのか」

 

 

 

そう答えながらも路面の小さな凹凸にも足を取られず、真っ直ぐと走る86GTを眺める早川。今までの自分なら、既に追い抜いていたであろう…が、今の自分は違う。こうして他人の走りに興味をもつように後ろについている…

 

あのZと会ったことで自分の中で何かしらの変化が起きている。

 

そう自分の中で改めて感じている間に2台の前からトラックが迫ってきた。86GTのブレーキランプがピカッと一瞬点灯したのを見て、同じようなタイミングでブレーキペダルをチョンッと踏み込む早川。2台共、姿勢を整えた後にザッと左車線に移ってトラックを回避。回避してから真っ先に86GTが加速態勢に入り、SA22Cを車一台分ほど突き放して先に高速コーナーに飛び込んだ。

 

 

 

「なかなか上手いですね、向こうのドライバー…結構な手練れですよ」

 

 

 

「みたいだな。ボクサーエンジンの利点である低重心による安定性…これをしっかり理解して上手く走らせてる。油断するな」

 

 

 

「分かってます」

 

 

 

左右に振れるコーナーを抜けていくとネオンの明かりが途切れているような光景が見えてきた…トンネルの出口だ。その直ぐ後には低速コーナーがある。

トンネルを抜けると共にブレーキングを行う2台。それと共にSA22Cが右車線に移った…どうやら、抜きに掛かるようだ。

 

 

 

「そろそろ前に出ますか」

 

 

 

86GTとSA22Cが左右に並ぶ…所謂、サイド・バイ・サイドと呼ばれる状態だ。ラインが膨らみやすい外側にいる状態のSA22Cだが、乗っている早川には絶対的な自信があった。その自信の源はSA22Cの武器でもある軽さから来ている。

軽い車は加速が速いという利点に重ね、コーナーで曲がった際の慣性力が働きにくい。

さらに、ブレーキもよく効く…このような低速コーナーは得意中の得意なのだ。

 

仕留めたと言わないばかりに口元で不敵な笑みを浮かべながらも飛び込ませていく。2台はそのまま飛び込んでいき、そのままコーナーに入る…

 

 

が、その時。

 

予期しない出来事が起きた。

 

 

SA22Cが突然ボンッ!と勢いよく跳ねて姿勢が崩れたのだ。突然のことに「っ…!?」と言葉にならないような声を出しながらもステアリングを切って態勢を整えていく。タイヤをキキキィッ!と鳴らすようにスライドさせながらもなんとか態勢は整えれた。86GTに放されてしまうものの、最悪のケースでもある事故は免れた。

この速度域での事故はタダじゃ済まされない…下手すれば死に直結する。

焦った心を落ち着かせるように深く息を吸う早川。

そんな彼に対して前原は「なるほど…」と少し間を開けてから神妙な面持ちで語り始める。

 

 

 

「ちょっとした段差でここまで跳ねるとは…さっきまでの慣らしの時は気付かなかったが、足回りがヘタりはじめてるな…コイツ。FDの奴を加工して使ってるそうだが、だいぶ長いこと換えずに使ってるって感じか?」

 

 

 

「半分アタリですね…恥ずかしい話ですが、コイツに付いてる足のベースは程度がいい中古品なんです。組んだ当時は金がなかったのでケチったんですよ」

 

 

 

自嘲染みた笑みを浮かべながらもそう語っている間に再び前を走る86GTに目を向け、タンッ!と勢いよくシフトアップしていく早川。

先程までの時とは違い、アクセルペダルをかなり踏み込んでSA22Cを加速させていた。パワーウェイトレシオ2.5kg台の強烈な加速で先行する86GTとの距離を詰めていく。

 

 

 

「(コーナー勝負でケリを付けるつもりだった…が、今の状態ではそれは無理な話だ。不本意だが、ストレートで抜かせてもらう)」

 

 

 

SA22Cが距離を詰め始めてる一方、86GTに乗っている大樹はアクセルを踏み込みながらもタコメーターの左斜め上に取り付けられた赤色の追加メーターを確認していた…ブーストメーターだ。

どうやら、86GTに過吸器を取り付けたようだ。

車内にキィィィンッ!という甲高い機械音が鳴り響いていることから過吸器でも排気圧を利用してパワーを得るターボではなく、エンジンの力を一部利用してパワーを得るスーパーチャージャーであろう。

スーパーチャージャーの利点としては構造上、ターボよりも低い回転数から働くことにある。つまり、アクセルを開けてからの応答性(レスポンス)が良いことだ。

ターボはターボラグという言葉があるほどレスポンスが悪い一方、スーパーチャージャーのレスポンスはNAとフィーリングが大して変わらないという声も多い。

 

 

 

「(後付けのボルトオンスーパーチャージャー、かなり高い金を払って取り付けた。

レスポンスなんかに不満はなし、パワーも前と比べると飛躍的に向上してる。

…けど、サウンド感はNAの時の方が好きだ。前の方が踏ませてくれるようなフィーリングにさせてくれた。

得たものはパワー、失ったものは金と俺自身のフィーリング…得るものもあったが、間違えなく失うものもあった)」

 

 

 

そう思っている間にバックミラーを見てSA22Cとの距離を確認…確実に迫ってきてる。

「くっ…」と小さく声を出しながらも迫ってきた一般車をブレーキングして避け、再びイン側を突くように左コーナーを抜けていく。

後を追うSA22Cは攻め込まず車線を変えないまま慎重に進入した後に立ち上がりで一気に加速してきた。

コーナーで放したが、再び距離がジリジリと詰められている…

 

 

 

「(加速が速い…!あれ、本当に旧車か…!?)」

 

 

 

やがて、ギュウィィィィン!ブォゥゥゥン!!という咆哮のようなサウンドを周囲に轟かせながら横一列に並んだ二台。横に並んできたSA22Cに意識を向けてから前を向いた大樹…その時だ。

 

前からトラックが迫ってきたのだ。このままでは確実に追突する…

 

「っ!?」と言葉にならないような声を出しながらもブレーキングを行い、一気に減速を始める。ハンドルやブレーキペダルを通じてグググッ!という感覚が伝わってくる中、VSCランプがピカッと点灯。

ブレーキ関係にも手を入れていたおかげか、なんとか法定速度まで減速出来た。が、その間に隣の車線にいたSA22Cは前に出てしまった…

トラックを追い越し、再び追おうとアクセルを力強く踏み込む……が、時すでに遅し。

SA22Cとの距離は豆粒ぐらいのサイズに見えるぐらいまで広げられてしまった。距離の差は更に広まるばかり…もう追い付けないであろう。

 

 

 

「(悔しいが、こうも差がついては追い付けない…)」

 

 

 

アクセルペダルをゆっくりと緩め、減速していく…

減速していく86GTに対し、伸び伸びと更に加速を続けるSA22C。やがて、次のコーナーが見えてくると共にブレーキランプが点灯させてからイン側を突くようにしてコーナーを曲がっていく…そして、その姿は見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―数分後、SA22C 車内

 

 

もう1周してから首都高抜けて出て東名に出たSA22C。

運転席で早川は神妙な面持ちのままハンドルを握っていた。先程の86GTとの一走を振り返っているにだろうか?助手席に座っている前原は気になって仕方がなかったのか、「どうした?」と早速声を掛ける。

 

 

 

「さっきから難しい顔して…?あの86のことか?」

 

 

 

「ええ…」

 

 

 

「そう気にするなよ、勝ったんだから」

 

 

 

前原の言葉に小さく首を横に振る早川。そして、今にも溜め息をついてしまいそうな顔に表情を変えながらも自分がどうしてこうなっているのかという事について答え始めた。

 

 

 

「絶対的な自信を持っていたコーナリングで負けたのが悔しくてしょうがないんです。しかも、負けた理由は自分が足回りの状態に気付かずに手を加えなかったから…情けない話ですよ。

"試合に勝って勝負に負けた"…そんな感じです」

 

 

 

「なるほどな」

 

 

 

理解するように小さく頷いてその言葉を受け止める前原。そして、それに続くようにある重要なことを口にしていく。…SA22Cのチューニングについてだ。

 

 

 

「まず、ショックの取り換えを行う。こんな足じゃ攻めように攻めれないからな…それで、タービンはT04のままでブーストアップ。ブースト1.0から1.7か1.8まで上げる。サイドポートの研磨もし、吸排気系統をもう一度見直す」

 

 

 

「それで…スペックとしては?」

 

 

 

「そうだな、目標パワーは500馬力から530馬力の間ぐらい。それからドアやボンネット、トランクをカーボンにしたり、ウィンドウをアクリル製にしたりして軽量化。これで1000kgより少し重いぐらいだった車重が900kg台後半ぐらいになる」

 

 

 

「2.5kgだったパワーウェイトレシオが1kg台になるというわけですか…」

 

 

 

「そう言うことだ。軽い上にパワーもある…上手く行けば間違えなく化け物になる。とは言え、組み上がるまでかなりの時間が掛かる。

チューニングの間は代車を手配してやる…他の客には乗せないような特別な奴だ、好きなように乗るといい。

それから…出来る限り安くはするつもりだが、金も準備してくれ。こっちも商売なんでね」

 

 

 

 

 

 

 

 

―休日明けの月曜日 武偵高前の一般道

 

 

快晴の空の下、早川は代車に乗って珍しく武偵高に向かっていた。武偵高で教務科から呼び出しを受けたからだ。そして、気になる彼の代車であるが軽でもコンパクトカーでもない驚きの車であった。

流線型が特徴のグレーメタリックのクーペ…RX-8。

現状で最後のロータリー搭載車だ。

最初期型ですら早川が乗っている'84年式SA22Cの19年も後に生産されたこの車の"後期型"に乗っている。

 

 

 

「(流石に驚いたな…下取り金額が出るかどうかも分からないSA22Cの代車が高値で取引されているRX-8の後期とは)」

 

 

 

そう思いながらも運転を続け、ちょうど正門が見えてきた頃だ。

対向車線から見覚えのある車がゆっくりと走ってきた…パールホワイトのボディに縦の楕円形のヘッドライト、博也のZだ。運転席でハンドルを握っている彼は早川の存在に気付いていないようだ。

車種も変わっているため無理もない…そんな彼に対し、早川は意識を集中させていた。

 

ウィンカーを出して校内に入ったのを確認してからゆっくりと続くように校内に入る…彼が停めた場所とは少し離れた場所にRX-8を停め、エンジンを切って降りる。

Zのことが気になって仕方がない早川はキーロックを済ませた後に早速、その駐車場所へと向かった。

 

怪しまれないように然り気無く、その場を通るように装いながらもZの方に目を向ける…すると、その左右にはまたしても見覚えのある車が停まっていた。

オレンジメタリックの86GTと青塗装のR33。いずれもSA22Cに乗っている時に見たことがある。

 

 

 

「(二台とも武偵生の車だったのか…)」

 

 

 

そう思いながら見ているとその後ろに立つ、3人の武偵生の姿が目に入ってきた。一人は博也、あとの二人は分からないがR33、86GTのオーナーであろう。仲良くしているような様子から三人共、仲間同士に似たようなものだろう。

…それが分かると共に早川の中で自然と何かが込み上げてきた。苦虫を噛んだような表情を浮かべてから「チッ」と小さく舌打ちをし、早足でその場を立ち去っていく。

 

 

 

「(三人とも走りを追求する孤高のドライバーだと思っていた。が、実際はあんな仲良しこよしの紛い物だったとは…見ていて腹が立つ。ああいうのが一番嫌いだ…)」

 

 

 

両手で握り拳をつくり、グイッ…と力を入れながらもそのまま校舎に入り、中等部の職員室へと向かった。到着すると「失礼します」と一礼してから入室し、眼鏡を掛けた小柄の女性教師が座る席へと近付く…彼女はとある学級のクラス担任だ。そして、早川を呼び出したのも彼女である。

 

 

 

「早川君ね、待ってたわ」

 

 

 

「わざわざ携帯で呼び出して…何の用ですか?」

 

 

 

少し不思議そうにしながらも問い掛ける早川。実は来いとは言われていたが、肝心な用件に関しては一切聞いていないという状態だ。こうなるのも無理はない。

彼を落ち着かせようと言わないばかりに「まぁまぁ…」と言いつつももガァーと自分の机の引き出しを開け漁り始める女性教師。

そして、ある物を手にして「あった」と小声で呟いて片手で持つようにして早川に差し出した。

クリアファイルだ…生徒の情報が書かれた書類が挟まれている。パッと見た感じでは履歴書に似ている。

 

 

 

「これは…?」

 

 

 

小さく首をかしげながらも手にとって中身を見る。

そこにはツインテールで婦人警官のような格好をした童顔の少女の顔写真が…その右隣に"乾桜"と書かれている。恐らく、この少女の名前であろう。

 

 

 

「乾桜…?」

 

 

 

「ええ…うちのクラスの子よ、所属は強襲科。

父親は麻布警察署の署長、うちのクラスの中でAランクに最も近い人材と言われてるわ」

 

 

 

「そうですか…で、この子がどうしたんですか?」

 

 

 

「今度、この子が初めてランク考察試験を受けるのよ。それで試験までの期間は鍛えて欲しいってね」

 

 

 

女性教師の言葉に力が抜けるように「はぁ…」と小さく溜め息をつく早川。今はSA22Cのチューニング費を稼がなければならない…後輩の指導等という悠長なボランティアなんて出来ない。今はとにかく金が欲しい…

 

 

 

「生憎ですが、コチラも依頼が立て込んでいるのでボランティアしてる暇じゃですよ。他の暇そうな生徒に頼んで下さい、それじゃあ」

 

 

 

素っ気ないようにそう言って背中を見せて立ち去ろうとした時だ。女性教師が「待ちなさい」と静止させるように彼の背中に声を掛けた。

まだ何かあるのだろうか…?

ゆっくりと振り向くと、彼女はとある封筒を投げ渡してきた。

急なことに驚きながらもパシッと受け取り、投げられた封筒の表裏を確認する早川…分厚い上に重みもある。

何か入ってるようだ、中身が何かと考えている間に女性教師の説明を始める。

 

 

 

「一つ言うけど、ボランティアではないわ。

麻布警察署の署長…彼女の父親直々の依頼よ。その封筒には依頼書が入ってるわ。ま、報酬の方も期待していいんじゃないかしら?」

 

 

 

報酬に期待してもいい…多額の金が手に入るかもしれない。その言葉に心が揺らいだのか、「……。」と数秒ほど黙って封筒を再び眺めるように見る。まるで、飢えたハイエナが獲物を見つけた時の目…

そんな目付きの彼に対し、女性教師は服装を整えながらも立ち上がり、最後に一言だけ言い残した。

 

 

 

「もし、依頼を受けるというなら…放課後、16時半に屋上に来なさい。あの子には事前に伝えておくわ」

 

 

 

そう告げた後に名簿を手に職員室から出ていく女性教師…早川はそんな彼女の背中を目で追った後に封筒の封をビリッと破り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―放課後、屋上

 

 

夕焼け色の空が広がる中、予定よりも5分早く到着する早川…自分が一番と思っていたが、そうでもなかった。

 

武偵高の女子制服を着た小柄の少女…服装こそは違うが、ツインテールの髪と童顔の顔で直ぐに誰か分かった。ゆっくり歩み寄るようにコツコツ…と足を踏み出していきながらも早速声を掛ける。

 

 

 

「乾桜…だな?」

 

 

 

ある程度近付いたところで足を止めると、彼女はこちらに顔を向けて「はい!」と答えながらもビシッと敬礼を見せてきた。

マニュアルに書いてあるような乱れもないしっかりとした敬礼。父親仕込みか、それとも警察・自衛隊関係へのインターンシップで勝手に身に付いたものなのか…色々と考えてしまうが、今はそれどころではない。

軽い自己紹介ぐらいはしておこうと早川が続けて話し始める。

 

 

 

「キミの指導をすることになったの早川だ」

 

 

 

「乾桜です、よろしくお願いします」

 

 

 

「じゃ、まずは射撃場に行こう。お手並みを拝見させて貰おうか」

 

 

 

そう言って出口のドアの方へと歩いて向かう早川…が、桜の方は敬礼を直してから「……。」と黙って動こうとはしない。端から見ると、何処と無く彼の背中を睨んでいるような気もする。そんな彼女に対して思わず、不機嫌そうに眉間にシワを寄せてしまった。

 

 

 

「どうした、乾?行くぞ」

 

 

 

「あ、すいません…!」

 

 

 

その一声でようやく我に返り、ペコリと軽く頭を下げつつも小走りで駆け寄る桜。

彼女が何を思って自分の背中を睨んでいたのか…?

疑問に思う早川であったが、深く掘り下げるのは止めようとそのまま射撃場へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻、喫茶店

 

 

シーリングファンが回る静かな店内でグラスをキュッキュッと拭く片岡。難しそうに悩んでいる彼の視線はテーブルの上に置かれているZ33の構造図へと向けられていた。

 

 

 

「(軽量化の次は前後の重量バランス取りか。

元々、53:47とフロントに重量が寄っていたコイツだが…今はそれ以上にフロントに重量が寄っている。

如何にフロントを軽くし、元々の重量配分に近付けるか…軽量化の恩恵を犠牲にせず、元に戻すことは不可能に等しい。…が、それに近付けることなら出来る。

奴の頼みだ、やるしかない)」

 

 

 

そう思いながらも拭き終わったグラスをゆっくりと置き、電話の方へと歩み寄る。

そして、受話器をカチャンッとあげてからピッピッと電話番号を入れ始めた。

 

 

 







どうも、350Zです。

ごめんなさい、乾桜を出してしまいました。

今回出てきた乾桜って誰だよ?と思う読者の方々に説明しますと…

AAに出てくるあかりの後輩で、"何でも持っている桜さん"の異名を持つ真面目っ子です。

あかりの後輩ではあるものの、あかりよりも背が高い上にスタイルもry


まあ、簡潔に答えるとそんな感じですね。

そんな後輩の面倒を見ることになった早川ですが…幸先はあまりよろしくない感じ。

この二人、この先どうなるのか?

次回のお楽しみです。




さて、今回は前回の後書きの続きで大黒PAについての話をします。



大きく湾曲した長い入り口を抜けていく自分のZ33。

抜けた先にはショッピングモールの駐車場を思わせるような超~広い駐車スペースが!!


その広いスペースもあちこちで小規模のミーティングが開催されてました。

R34のミーティングだったり、シビックのミーティングだったり、アクアのミーティングだったり……

一つの駐車場でこうもあちこちで色んなミーティングやってるなんて…凄いな、流石は走りの聖地…


なんて思いながらもひょっとしたらZのミーティングがあるのではないか…?と思った私。

車を停め、あちこちをうろちょろして探すことに!


ところが…やってませんでした。


ちくしょーめぃ!!!


まあ、いいや…とりあえず休憩しよう。


写真をパシャパシャと撮った後、自販機でブラックコーヒーを買い、車内で飲んで一服。

一服を終えて出ようと出口に向けて走らせた時…

何処かで見たことがあるようなテールの車が自分の前に出てきました。


Z33に似たボディスタイルに鋭いテールランプ…

Z34、色は赤色!



おお、34か…どんなものか一緒に走ってみるか。

なんて思いながらもついていくことに……

出口を出たら直ぐに湾岸線!


グイッとペダルを踏み込んでアクセル全開ッ!!

……ところが、34の方は出だしでピューン!と加速していき、一気に自分の34との距離を突き放していきます。


はやっ…!


排気量的には33の排気量は3.5L、34の排気量は3.7L


0.2Lの排気量の違いってデカイって改めて思い知らされました。

(というか、博也のZってこれよりも排気量が大きい3.8L(3.5L改)のターボだよな…本当に化け物じゃないか)



等と思いながらも34のテールを見ていると、一定の速度で加速を止めていきました…

C1に合流する自分の33に対し、34はそのまま直進して千葉方面へ消えていきました。



と言った感じで二度目の東京遠征は終わりです。

次回は夏ごろにまた東京に向けて遠征する予定ですが、どこを回ろうかは決まってません…


どこかオススメの場所などありましたら、感想の方までお願いします。


さて、今回の後書きはここまでとさせて頂きます。

また次回、お会いしましょう!




※次回からしばらくの間、後書きは作品の感想のみとさせて頂きます。

僕の下らない日常話を楽しみにしていた方々、申し訳ございません…




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第五話 グラインディング

 

 

 

―夜

 

 

L'sプロチューン ガレージ

 

 

 

シャッターを開け、夜風が心地よく外から入ってくる中、作業を進める前原。

SA22Cに積まれていた13B-REWを取りだし、「ふぅ」と小さく息をつきながらも向き合っていると1台の車が駐車場に来て停まった。

グレーメタリックの曲線的なボディのクーペ…代車のRX-8だ。

 

 

 

「来たか…」

 

 

 

目線を外のRX-8に向けていると、運転席から早川が降りてきた。早速、此方に歩み寄ってくる。

 

 

 

「こんばんはです、前原さん」

 

 

 

「ああ、こんばんは…まあ、あがってくれ」

 

 

 

そう一声掛けてから再びエンジンに目を向けると、彼の方も隣まで来てエンジンを眺め始めた。…が、ふと横顔を見るとどこか疲れてる様子だ。

 

 

 

「どうした?そんな顔して」

 

 

 

「いや、仕事が上手いこと行かないもので…

報酬に期待出来そうだったから、飛び付いてみたんですが…」

 

 

 

「仕事か…どんな内容だ?」

 

 

 

「…後輩の育成です」

 

 

 

溜め息混じりの答えに「フッ」と思わず笑ってしまう前原。孤独を貫くような彼に最も似合わないような仕事だ…無理もない。

 

 

 

「そうか、それは気の毒だったな…

で、育成の何に困ってるんだ?後輩が何も覚えないことか?」

 

 

 

「その逆ですよ、基礎的なことは何でも出来ることに困ってるんです。あと、なんと言うか…

俺自身、向こうから嫌われてるような気もします。会って真っ先に睨まれたりとかしましたし…どうしたら良いですかね?」

 

 

 

「どうしたらいいか…か。ハハハ…」

 

 

 

意外な解答に高笑いしながらエンジンにスッと手を伸ばす。そして、"コレ"と言わないばかりに表面を軽くトントンと叩きながらこんなことを述べた。

 

 

 

「どうしたらいいって、そんなのコイツ(エンジン)と一緒さ」

 

 

 

「一緒…?」

 

 

 

「ああ…そうだ。

コイツのエンジンも見方によっては既に出来上がってる…が、今からポート研磨やブーストアップと言ったチューニングで更に磨きを掛けるだろ?

結果、出来上がった筈のエンジンがより良い物になる。

本来100%だったものが120%に、120%だったものが140%に…そう、何かに磨きを掛けることに終わりなんてないんだ」

 

 

 

そう言っては工具を取りに行こうと、ガレージの奥の方へと歩き始める前原。そして、数々の場を潜り抜けた背中を見せながらもこんなことを言ってきた。

 

 

 

「俺はお前のエンジンに磨きを掛けて仕上げる。

それと同様に、お前はその後輩に磨きを掛けて仕上げてやれ。お前なりのやり方で…な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―訓練場

 

 

 

ドラム缶や木箱等といった遮蔽物があちこちに置かれた本格的なレイアウトの訓練場。

高所の観覧席に座る早川は愛銃であるチーフスペシャルを構えて準備を進める桜を見守りつつも、メガホン片手に用件を伝える。

 

 

 

「いいか、1対1の実戦形式訓練だ。

お前なら楽勝だろうが"何が起きるか分からない"、油断するな」

 

 

 

「はい、わかってます」

 

 

 

同じようにグロックを準備する相手の男子生徒に目を向けながら答えると、準備が出来た。間もなくして、男子生徒の準備も完了…互いに準備が出来た。

 

 

 

「準備出来たみたいだな…

持ち場に着いてから、3セコンドで開始。急げ」

 

 

 

「はい!」と頷いた二人が互いの持ち場に移動。

その間に早川の脳裏に前原の浮かび上がってくる…後輩に磨きを掛けてやれという言葉だ。

 

 

 

「(磨きを掛けてやれ…か。

一応やってはみますが、俺みたいな凡人で出来ますかね?そんなこと…)」

 

 

そう考えていると、二人が小さく手を挙げて準備完了を伝えてきた。それと共に早川がカウントを始まる。

 

 

 

「カウント、3、2、1…ゴー!」

 

 

ゴーサインが出ると共に行動を開始する二人。

木箱の裏に隠れて静かに息を潜める桜に対し、アクティブに行動する男子生徒。

そのまま数秒程経過してから、木箱から少し顔を出して様子を見る桜…彼女の視界に男子生徒が入ってきた。チーフスペシャルを手にして目を付ける。とは言え、まだ距離がある…外した時のリスクを考えるとこの場での発砲はやめた方がよさそうだ。

 

 

 

「(ここは向こうが顔を出すまで隠れていた方が良さそう…)」

 

 

 

木箱に背中を委ねるようにして息を潜める。

しばらくすると、左後からコツコツ…という足音が聞こえてきた。男子生徒が近付いてるのであろう。

 

だが、まだだ。もっと待って充分に引き付けよう…!

 

すぅー…と息を深く吸い込んで気持ちを落ち着かせる。

 

目を瞑り、トクトクという心臓の鼓動が次第にゆったりとなっていくのを感じつつも、チーフスペシャルを握っていた手に力を入れる。

 

そして、

 

今だ…!と言わないばかりにカッと目を開け、シュタッと木箱から離れて素早くチーフスペシャルを構えた。アイアンサイトの照準は既に男子生徒を捉えている。彼は驚きながらも持っていたグロックを咄嗟に構えるも、時既に遅し。

パンッ!という短い銃声と共にピンク色のペイント弾が肩に命中。それによって肩がピンク色に染められた。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

それを見て安堵と共に小さく声を漏らし、チーフスペシャルを握っていた手の力を緩めた…その時だ。

先ほどの銃声よりも鈍いドォンッ!というような音が鳴り響くと共に、桜の肩で何かが炸裂した。

炸裂したのは青色のペイント弾…

「えっ…?」と固まりながらも肩にこびりついたペイントを見てから辺りを見回す…すると、男子生徒が行動を開始した地点に一人の女子生徒が何かを持って構えていることに気付いた。

M1カービン…第二次大戦時に使用されたセミオートライフル。それに低い倍率のスコープを取り付けた物だ。

 

 

 

「(え、これは…!?)」

 

 

 

突然の出来事に状況把握が出来ずにキョトンと固まっていると、観覧席の方で静かに見守っていた早川が「はぁ…」と彼女に聞こえないぐらいの溜め息をつきながらも立ち上がる。

 

 

 

「ブロークン、勝負あり…お前の負けだ、乾。罰としてグラウンド10周走ってこい。いいな?」

 

 

 

そう言い残して背中を見せて去ろうとするが桜は眉間にシワを寄せながらも「待って下さい!」と彼を呼び止めた。

何故1人しかいないはずなのに敵が二人もいたのか…そして、そんな言い渡されてもいない状況下で撃たれて負けと言われるのも彼女としては気に食わないところだ。

 

 

 

「どうして二人いるんですか!?私は一人としか聞いて…!?」

 

 

 

「ああ、確かに俺は相手は一人と言った。が、その後に何が起きるか分からないと言ったはずだ…これが実戦だったら、死んでるぞ。お前」

 

 

 

「え…?」

 

 

 

「実戦でのイレギュラーは付き物だ…何の問題もなく進んでいくほうが案外少ない。今の訓練はそのイレギュラーを想定しての訓練だ、分かるか?」

 

 

 

彼の言葉を聞いて静かに俯く桜…確かに、その通りだ。

実戦にイレギュラーは付き物…これが実戦なら、自分は死んでいた。

理不尽ではあるが、正論。何も言い返せない…

俯いたまま「分かりました…」と言い、チーフスペシャルをホルスターに戻す。そんな彼女の動作を見た早川は黙って観覧席側の出入り口から出ていく。

 

 

廊下に出た彼の頭に真っ先に浮かんだのは自分の桜に対する態度だ。

少し言い過ぎではないか?

出会った時の彼女からか、思わず自分も彼女に冷たく接してしまっているのでは?

…と色々あがってくる。

 

 

 

「(これだから、誰かに教えたりするのは苦手なんだ…

こういうのは成績が優秀かどうかよりも人間性で見たほうがいい。

俺みたいな奴の性に合わないな…でも、引き受けたからにはやらないと)」

 

 

 

そう思いながらも窓の桟に両手をつくようにし、グラウンドの方に目を向ける。そのまま「はぁ…」と深く溜め息をついてからしばらくの間、遠く見据えるように目を向けた。…すると、夕焼け色の空の下、誰かが駆け足でグラウンドに入ってきた…桜だ。格好としてはジャージに着替えている。

 

 

 

「…早いな、もう着替えたのか」

 

 

 

そう小さく呟きながらも走る彼女の姿に目を向ける早川。此方の存在に気付いてないはずだが、一切手を抜こうとしない。

1歩1歩、力強く足を踏み入れて真っ直ぐと駆け抜けていく…

 

 

 

「アイツ…」

 

 

 

これを見て何となくだが、分かった。自分の彼女に磨きを掛けたいという思いと同じように、彼女自身も自分を磨きたいと強く思ってるのだと。…が、思いが同じでも今の状態では擦れ違いも良いところだ。

そんな中、前原の言葉が脳裏に浮かび上がってきた。

 

 

 

『―お前はその後輩に磨きを掛けて仕上げてやれ。"お前なりのやり方で…な"』

 

 

 

「(俺なりのやり方で…ですか)」

 

 

 

この時、早川の中である決心がついた。

グッ…と両手で力強く握り拳を作り、ある場所に向けて駆け出す。そのある場所は…男子更衣室だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―グラウンド

 

 

皆が帰り始めてる中、ただ一人ジャージ姿で走っていく桜。小さく息をあげながらも腕を振って走っていると、後ろから何かが聞こえてきた。

 

タッタッと地面を蹴るような軽快な足音…勿論、自分の足音ではない。

一体、誰が…?

そう疑問に思いながらもペースを少し落とし、足音がしてきた方に目を向ける…音の主は自分の指導者である早川だった。既にジャージに着替えていた彼は横につき、合わせるように走ってきた。

 

 

 

「え、せ…センパ…?」

 

 

 

「どうした、ペースが落ちてるぞ。上げていけ」

 

 

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

―二時間後

 

 

一緒に走ってきた早川に対して、驚いていた桜であったが驚きはコレだけに止まらない。近場のファミレスではあるが、食事に誘われたのだ…

 

制服に着替え、窓際の席で向かい合うようにして座る。セットディナーを頼んで互いに「……。」と待つ中、戸惑っている様子の桜が「あ、あの…」と声を掛けてきた。

 

 

 

「コレも特訓…なのでしょうか」

 

 

 

「特訓…まあ、そうだな。"息抜き"という特訓だ」

 

 

 

「い、息抜きが特訓…?」

 

 

 

よく分からない言わないばかりの様子の彼女に対し、「そうだ」と小さく頷く早川。すると、近くに置いていたお冷やのグラスに手を近付けてこんなことを言ってきた。

 

 

 

「例えばだ…このグラスが精神的な器で、中に入っている水が精神的なダメージとしよう。そして、今から第三の別のダメージを加える」

 

 

 

そう言ってから近付けていた手の人差し指を使い、軽くツンと押して見せる。グラスに入っていた水面はゆらりと揺れるが溢れない…

 

 

 

「見ての通り…水(精神的なダメージ)が少ないと揺れはするが、溢れることはない。だが…

もし、この水(精神的なダメージ)が多いとどうなるか」

 

 

 

そう言ってお冷やが入った容器を手にし、グラスに更に水を追加。表面張力が働く手前まで注いだところで、静かに容器を置く。

そして、先程と同じように人差し指で軽くツンと押してみる。すると、水は勢いよく溢れ、テーブルにじわぁ…と広がっていった。

 

 

 

「この通り、溢れて他の物にも悪影響を及ぼす」

 

 

 

お手拭きでサッサッと溢れた水を拭きあげてから、未だ水が溢れそうなグラスを静かに手に取る。そして、「では…」と先程の話に繋げるように再び語り始めた。

 

 

 

「水(精神的なダメージ)が溢れないためにはどうすればいいか?答えは簡単、こうやって…」

 

 

 

持っていたグラスの淵を口に近付け、ゴクゴクッ…と飲んでいく早川。全て空になったところでトンッ!とテーブルに置いて「ふぅ…」と息をついてから、桜に目を剥けた。

 

 

 

「減らせばいい」

 

 

 

「つまり、減らすことが…息抜きということですか?」

 

 

 

「そうだ、その通り。

息抜きという言葉の響きはサボってるようなイメージがあるが、このように案外重要だったりする。

だから、息抜きということを楽観視しては駄目だ。忘れるな」

 

 

 

早川の教えに「はいっ」と頷いて答える桜。…が、この場の息抜きと言っても何をすればいいか分からない。

「……。」と黙る彼女に対し、早川が珍しく苦笑いしつつも「まあまあ…」と切り出してきた。

 

 

 

「そう堅く考えなくていい。話の一つ、二つすれば自然と息抜きになる…乾、お前好きなものとかあるか?」

 

 

 

「好きなもの…ですか?」

 

 

 

「そう、堅苦しいのはNGで答えてくれ」

 

 

 

早川の言葉に対して「うーん…」と言わないばかりに考えていると、何かあったのか顔を赤く染め始めた桜。答えるのが恥ずかしいのであろうか?

そう疑問に思っていると、彼女がモジモジとしながらも答え始めた。

 

 

 

「あ、あの…ピーポーニャンって御存知ですか?」

 

 

 

「ピーポーニャン…?あー、あの戦隊物の」

 

 

 

ピーポーニャンとは休日の朝に放送されているような、戦隊ヒーロー物のこと。戦隊ヒーロー物いうこともあり、その内容は一般的に幼児向けである。

…桜のような優等生がそんなものに興味を持つとは驚きの話だ。が、ここで笑うのは御法度。「そうか」と小さく答えて更に話を掘り下げていく。

 

 

 

「どういうところが好きなんだ?」

 

 

 

「どういうところ…ピーポーレッドが直向きに努力して、悪に立ち向かうところですかね。

だから、私…ピーポーレッドが大好きなんです。

ピーポーレッドのように努力を惜しまない正義の武偵になりたいです」

 

 

 

「なるほど…だから、グラウンドでも手を抜かずに走ってたわけか」

 

 

 

「へぇ…」と言わないばかりに小さく頷いていると、桜が「えっと」と顔を上げて早川の方を見てきた。何か言いたいことがあるようだ。

 

 

 

「なんだ、言いたいことがあるのか?」

 

 

 

「はい、あの…先輩が好きなものも伺いたいのですが」

 

 

 

確かに、相手が答えて自分が答えないのは釣り合いの悪い話だ。だが、答えたところで彼女はどう思うのだろうか?

 

 

 

「言ってもいいが…女子につまらないかもしれないが」

 

 

 

「構いません、それでも」

 

 

 

小さく頷いて答える桜を見て、正直に答えようと思った早川は外の駐車場に停めてある代車のRX-8に目を向けてハッキリと答えた。

 

 

 

「俺が好きなものは…車だ。

その中でも、アイツみたいなロータリーエンジンというエンジンを搭載した車が好きだ」

 

 

 

「ロータリー…エンジン?」

 

 

 

「そう…通常のエンジンであるレシプロエンジンはシリンダー内でピストンを往復運動させることによって出力を発揮するという構造だが、それに対してロータリーエンジンはローターと呼ばれる三角形のものをハウジング内で回転させて出力を発揮するという構造。

まあ、普通とは違うエンジンという解釈で結構だ」

 

 

 

早川の答えに「そうなんですか」と答えながらも駐車場のRX-8に目を向ける桜。そして、それだけこだわりを持っているということは…という素人らしい考えでこんなことを聞いてきた。

 

 

 

「その、ロータリーエンジンを積んだ車は速いんですか…?」

 

 

 

桜にとっては素朴な疑問ではあるが、この疑問は早川の心に深く突き刺さった。

真実を伝えるべきか、ウソをつくべきか…

そう悩む彼であったが、数秒程間を空けてからどう答えるか決心した。「いや…」と首を小さく横に振ったのだ。

 

 

 

「速くない、今は…」

 

 

 

「今は…?」

 

 

 

「ああ。このエンジンが出た当初は"効率が良い未来のエンジン"として一躍脚光を浴びていた。現に80年代辺りまではロータリーに敵う車は無かった。

が、90年代に入ってからは日産のGT-Rやトヨタのスープラなんていうバカっ速い車が出てきてそれは一気に崩れた。

以来、ロータリーはそこまで速くないみたいな位置付けをされてる」

 

 

 

早川の言葉に「そうなんですか…」と申し訳無さそうに俯く桜。そんな彼女に「気にしなくていい」と告げてから続けて語り始めた。

 

 

 

「俺がロータリーを好む理由は単純に速さじゃない…フィーリングなんだ」

 

 

 

「フィーリング?」

 

 

 

「そう…ロータリーは車のエンジンの中でも屈指の高回転型エンジン。その上、軽くてコンパクトだから、ロータリーを積んだ車は前後の重量バランスもいい。

レッドゾーンまで回した時の爽快感、ステアリングを切った時の一体感、そして…耳に飛び込んで来る特有のサウンド。

間違いなく、五感を魅了するエンジンだ。

一度魅了されたら…コレしかないと思う込んでしまう。

たとえ、他のエンジンがどれだけよかったとしても…

あのフィーリングだけは忘れられない」

 

 

 

グラスに水を注ぎ、ゆらゆらと揺れ動く水面を眺めるように見つめる早川…そんな彼に対し、桜はクスッと笑いながらも何処か嬉しそうに笑みを浮かべてくる。

 

何を考えているのだろうか…?

 

それに気付くと、早川は恥ずかしさ半分、不機嫌半分に眉間にシワを寄せながらも頬を少し赤らめ「何がおかしい?」と問い掛ける。すると、彼女の口からこんな発言が出てきた…

 

 

 

「いや、なんだか堅苦しいイメージがあったので意外だったんです。先輩にもそれだけ夢中になれることがあるんだって…」

 

 

 

不機嫌な感情が暖かい感情へと変貌していく…そして、今まで離れていた距離が確実に縮まったという手応えを感じる。その暖かい感情はやがて、不思議と安心感のようなものへと変わっていった。

そんな中、桜が店員が二人の食事を手にして近付いてくることに気付く。

 

 

 

「先輩、料理きましたよ」

 

 

 

「ああ、食べようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

-同時刻、喫茶店 裏のガレージ

 

 

ブォォン…と低い音を響かせながらも近付いてくる白いZ33。すぐ側にまで近付いてエンジンが切れるとドライバーの博也が降りてきた。それと共にガレージから片岡が姿を現す。

 

 

 

「…来たか、覚悟は出来てるな?」

 

 

 

「はい…よろしくお願いします」

 

 

 

歩み寄ってはチャリチャリン…とZのキーを手渡しする博也。渡された片岡の方は「フッ」と小さな笑みを浮かべてそれを預かると交換と言わないばかりに代車のキーを渡してきた…何処かで見たことがあるようなキーだ。

 

 

 

「これって…」

 

 

 

「前の代車と同じZ32のキーだ…車は表に用意している」

 

 

 

そう答えてはZ33の方へと歩み寄っていく片岡。しばらくの間、無言で見つめていると、トランクの方に回ってはカチャッと開けて上げてはその中を「……。」と無言で眺め始めた。

 

 

 

「(入りきるか…?このスペースに)」

 

 

 

 

 








どうも、350Zです。

突然ではありますが、最近この作品を書き直そうかと考えています。

理由は色々ありますが、一番の理由は走りのパートとアクションのパートがゴチャゴチャになってて、読み始めたばかりの読者さんには読みづらいかな…と思った次第です。

最近の評価の傾向からしてそんな気がしてきました…

彼等は感想等に何も書き込まずに評価をつけるので、根本的な理由は何とも言えませんが、自分としては先程のパートのゴチャゴチャと文章力のなさからかなと考えています。

どちらも書き直せば少しは改善されるのではないかと思います。

まだ書き直すとはハッキリと決めていませんが、350Z自身そのように考えていると頭の片隅に置いて頂ければ幸いです。

最終的な判断はACT.4終了時までには決めたいと思います。

駄作ではありますが、それまではどうか暖かい目で見守って頂けると嬉しい限りです。


以上、350Zからでした。



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