大逆転! 大東亜戦争を勝利せよ!! (休日ぐーたら暇人)
しおりを挟む

1 一寸未来(さき)は闇

本日は2話投稿にいたします。
では、マルタ島の発端をどうぞ。


1941(昭和16)年12月7日 深夜 ウェーク島近海

 

 

夜の闇の黒が海をも染める中、白波を蹴り立て複数の船舶が航行していた。

更にその船舶は大小のサイズや数の違いこそあれど、どれも砲を載せている軍艦である。

しかも、隠密航行らしく、艦橋など中から光が漏れそうな場所の照明は消され、僚艦が立てる白波と識別灯で慎重に航行していた。

そんな中、一際巨大で巨砲の連装砲塔を積んだ戦艦の甲板で1人の青年士官が夜の海を眺めていた。

この青年の名は滝崎正郎(たきざきまさろう)、まだ20代ながらも大佐兼艦隊副官として乗り組んでいた。

 

 

「暗い海か…まるで何かに引き摺り込まれそうだな」

暗い海に視線を向ける滝崎に声を掛けたのは上官であり、同期生であり、艦隊司令の松島宮徳正だった。

 

 

「まあな…いよいよ、アメリカと開戦となれば…余計にこの闇に吸い込まれそうで怖いよ」

 

 

「……準備はした。訓練も、作戦も、戦略も、戦術も、外交も、物資も…出来る限り全ての手を尽くした。どれもこれも、お前の提言のお陰だ。そんなお前がそんな不安な事を言うな」

 

 

「歴史は指先程度の事で変わる……僕は転生者だから記憶の形でこれからの歴史を教えれたけれど、その歴史通りにいくかは解らないよ?」

 

 

「まあ、既に少し歴史が違うからな…だがな、お前が教えてくれた『歴史』は変える必要がある…いや、変えねばならん。多くの臣民が南方や沖縄、本土、満州で死ぬ情景を、空襲で焼かれ、核の実験動物にされ、極寒の重労働にさらされる未来など見たくは無い! 例え我が身を犠牲にしてでもだ! その第一歩がお前の存在なんだぞ、滝崎」

 

「……だが、上手くいったとして、間違いなく、歴史は変わる。多分、俺の知識は役に立たなくなるぞ?」

 

 

「大丈夫だ。お前の様に頭の回転が利く。その回転が役に立つさ」

 

 

「おいおい……さて、そろそろ戻るか、徳子(とくこ)」

 

 

「ふん、真の名前で呼ぶな。正義(まさよし)」

 

そう言って滝崎と松島宮は互いの本当の名前を言って艦内に戻っていった。

 

 

 

………後に日本史・世界史の教科書にも書かれる日米の対決と日本の勝利、アメリカ・ソ連の敗北、第二次大戦の終結……これに寄与する事になる若き2人士官、その2人に付いていく事になる2人の外国人士官と2人に関わった偉人達、艦魂(ふなだま)の物語。

そして……転生したがゆえに歴史と未来を変えようとする若者の軌跡を書いた物語である。

 

 

では……その切っ掛けとなる場面から見ていこう。




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2 2011→1935

2011年9月15日 京都市内の一角

 

 

『危険な原子力発電を止めろ〜』

 

 

「「「「止めろ〜」」」」

 

 

自らが通う大学への通学中、京都市内の道路で東日本大震災以来『活発な』活動をしている反原発団体のデモ行進を青年……滝崎正義は白けた目で見ていた。

 

 

(止めるのは構わないが…その後をちゃんと考えてる……訳ないか)

 

電気を含めたエネルギー問題は国の命脈に繋がる一大問題であり、国と国民の運命を左右する話だ。

それを『危ないから』と言う単純な話で止めれる訳がないし、その影響と対策、代替手段を出さなければ始まらない話なのだ。

(歴史は繰り返す、か……アメリカの禁油の様にエネルギーを失えば日本は滅ぶ……歴史をしっかり教えないから、再びあの悲劇を繰り返すとも知らないバカが騒ぐのか)

 

未だにデモ行進を続ける一団に呆れた視線を送りながら滝崎は自らが通う大学への歩みを進める。

滝崎は大学で日本の近現代史を専攻、日米外交を主軸に卒論を書くつもりで色々と調べていた。

 

 

(『日本が中国を侵略をしたからボコボコにされて負けた』か……そんな単純な話じゃあない。そもそも、そこに政治・軍事・地勢学と言った事項も無い。そこを説明しないで軍事行動を全て侵略と説明するなんて…自分の無知を語っている様なものだ)

小学生の頃から『如何にして日本の被害を抑えて戦争を終わらせればよいか?』を考えていた滝崎は大学に入るまで独自に調べ尽くしていた。

故にあの集団に似た主張を掲げる輩を嫌っていた。

 

 

「……未来か…過去か…変えれるなら、どっちも変えたいな」

 

そう呟き、大学に向かう最後の小さな交差点を通った時、さっき滝崎の横を通り過ぎた少女に向かってトラックが向かって来た。

 

 

「危ない!!」

 

慌てて少女を押し退ける……が、次の瞬間、自分自身がそのトラックにぶつかり、飛ばされた。

 

 

(……マジかよ…ここで人生終了……仕方…ないか)

そう思った瞬間、意識が暗転した。

 

 

 

 

????

 

 

 

「………ぅぅぅ……うぅ、ここは……病院…か?」

 

再び意識を取り戻した時、滝崎は見慣れぬ天井を見て呟いた。

 

 

「ん…おぉ、気が付いたか!?」

 

医者と思われる白衣を来た男が滝崎が意識を回復したのに気付いて近付いて来た。

 

 

「は、はい……えっと…ここはどこの病院ですか?」

 

 

「ん、ここは舞鶴の海軍病院だ。いや〜、海に転落して1週間も意識が戻らないのだから、此方はヒヤヒヤしたよ」

 

 

「……………え?」

 

医者からの言葉に滝崎は固まった。

舞鶴、海軍病院、海に転落、1週間……この4つのキーワードが引っ掛かっていた。

 

 

(京都市内に居た筈なのに、京都府の舞鶴だと? しかも、自衛隊ではなく海軍病院? 更に道路でトラックに当たって飛ばされた筈が海に転落? 1週間は…有り得なくはないが…どうなっているんだ?)

 

疑問に対し急速に意識がはっきりし、回転が上がる。

そして、ベッドのネームを見て滝崎は内心で驚いた。

 

 

(滝崎『正郎(まさろう)』!? お爺ちゃんの名前だぞ!?)

 

自分の祖父である名前のベッドに自分が眠っていた……これが示す答えは限られる。

 

 

「………すみません、今は何年ですか?」

 

 

「……大丈夫かね? まさか、転落で記憶を失ったのか?」

 

 

「え、あ、えぇ、なんか、頭の中がボヤーとしてて…」

 

 

「そうか…今は1935年…皇紀2595年4月12日だ」

 

 

「…あぁ、そうか、確かに1週間ですね」

 

そう呟きつつも、滝崎は内心衝撃を受けていた。

何故なら、自らが生きていた筈の70年も前の年代を言われたからだ。

 

 

 

その日の夜……病室

 

 

(1935年なら昭和10年か…1945年、昭和20年の敗戦の10年前だ)

 

そう考えながら滝崎は天井を眺めていた。

 

 

(何がどうなってるかはわからないが、ここが大戦前の日本である事は間違いない……となると、間違いなく、あの敗戦が再びきてしまう)

 

寝返りをうち、寝る体勢に入る滝崎。

 

 

(……まだ情報が少ない。下手な判断はダメだ。だけど……このままでいいのか?)

 

そんな自問自答を繰り返しながら、滝崎は眠りについた。

 

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3 皇族学生

祖父の身体に転生してしまった滝崎。
そして、滝崎は『相棒』と出会う。



1935(昭和10)年4月19日

 

 

舞鶴海軍兵学校校門

 

 

 

「……新鮮だな〜」

 

退院した滝崎はその足で自らが所属する『舞鶴海軍兵学校』の門を潜った。

 

 

(でも、舞鶴の士官学校が開校したのは44年頃。『史実』では35年に開校していない…まあ、これもこの世界の特徴なのかもしれないけど)

 

入院中に情報収集(書籍や新聞を読み漁る・見舞いに来た覚えのない学友からの話を聞く)をした結果、『大筋は一緒だが違う歴史』である事がわかった。

上記の舞鶴士官学校もそうだが、違う点も幾つかある。

一番海軍に関係あるのはワシントン海軍軍縮条約と関東大震災で処分・改装される筈だった赤城、天城、加賀、土佐が現存している事。

天城・赤城は『天城型航空母艦』、加賀・土佐は『加賀型戦艦』として在籍していた。

また、昨年、訓練中に電の衝突により沈没する深雪がダメコンの成功等の幸運で生還していた。

 

 

(空母の『ビック4』は天城、赤城、レキシントン、サラトガ。戦艦は『ビック9』で長門、陸奥、加賀、土佐、ネルソン、ロドネー、コロラド、メリーランド、ウエストバージニアの9隻…アメリカとなら4対3か)

 

それを差し引いても、アメリカと戦うにはキツキツな戦力である。

しかも、日米戦争開始まで6年7ヶ月…それまでに如何に日本を『勝てる』様に持っていくかが…歴史の変わり目なのだ。

 

(問題は……どうやって上層部に食い込むか…だよな)

 

歴史を変えるにはどうしても政府・軍部などの上層部に接触し、有力者の理解と支援が必要だ。

しかし……今の自分はしがない兵学校生であり、そんな物は無い。

 

 

(士官への任官を待つなんて悠長な事をしている暇はない…でも、下手に目立つのは危険だし……だが、一刻も早く接触はしたい…しかし、接点なんて無いしな……どっから手を付け始めればいいんだ?)

 

そんな事をグルグルと頭の中で考えながら滝崎は自分の教室へと向かった。

 

 

 

教室

 

教室に入った瞬間、見舞いに来てくれた同期生を筆頭に皆が暖かく出迎えてくれた……記憶が無い為、愛想笑いしか出来なかったが。

そうした騒ぎが一段落した時、教室の引き戸が開かれた。

 

 

「滝崎正郎! 漸く戻って来たか!」

 

自分(の祖父)の名前を呼ばれ、そちらを向くと1人の生徒が立っていた。

 

 

「…………どちら様?」

 

 

「なに!? 好敵手で有る私を忘れたのか!? まさか、海に落ちた時に記憶が飛んだのか!?」

 

 

(……本当に解らん)

 

困惑しているとその本人がズカズカと教室に入り、滝崎の前までやって来た。

 

 

「松島宮徳正王だ。ま、つ、し、ま、の、み、や、と、く、ま、さ、お、う!」

 

わざとらしい区切りで名前を言う松島宮。

(……『宮』と『王』がつくなら、この方は皇族だよな…でも、松島宮って…いや、この世界ならあっちの世界で無かった物があってもおかしくないよな…パラレルワールド、異世界だし)

 

……迫られているのにそんな事を考えていた。

 

 

「……大丈夫か?」

 

 

「え、あぁ、うんうん、大丈夫、大丈夫」

 

 

「……まあ、大丈夫ならいいが…それより、貸していた本を返してくれ。あの一件で返却期間が延びているんだが」

 

 

「…あぁ、すまない。部屋に置いてあるから、後で届けるよ」

 

 

「そうか…まあ、帰って来たばかりなのに騒いで悪かったな。あっ、本の事は忘れるなよ」

そう言って松島宮は教室から出て行った。

 

 

「……なんだったんだ?」

 

疑問符を浮かべながら呟く滝崎。

ただ、わかった事は……どうやらこの世界の祖父は先程の皇族とは『好敵手』として仲が良い……と言う事だった。

 

 

 

数日後……校内廊下

 

 

 

「うぐ〜〜…さすが天下の海軍兵学校、シゴキはキツいや」

 

廊下で歩きながら背伸びをしつつ、滝崎が呟いた。

 

 

「下手くそ底辺でも剣道やってたからマシだったけど…いや〜、キツい、キツい…だから、主治医が居るのか、松島宮殿下には」

 

あの後、同期生の話を盗み聞きするなど松島宮殿下について解った事は『ちょっと変わってる』と言う事。

これは人の性格的な事では無く、扱いの事であるのだが、確かに変わっていた。

例えば、宿舎での寝起きなどの共同生活が当たり前な兵学校において、外の借家で寝起きしている。

また、校内に掛かり付け医…この場合は主治医や侍従医と言うべきか?…が看護婦と共に一室を借りて待機している、と言う特別扱い振りだった。

ただ、この特別扱いも『皇族だから』と一言で片付いてしまうのは……何かの皮肉かもしれない。

そもそも、なぜ皇族が伝統ある呉の江田島ではなく、舞鶴なのかと疑問も出るが……箔を付けたいと言う理由ならば納得出来てしまう。

 

 

(とりあえず、体育の授業は出てるけど……身体の何処かが弱いか持病で、とりあえず名目でもいいから軍人にしてる…って事なのかな?)

 

皇族・華族の子息は軍人へ、と言う風潮が当たり前の戦前であるため、多少の事があっても軍に入れる。

そして、身分が皇族である以上、身体に何かあって、それをサポートする為に侍従医がいる……と推測するなら、特別扱いの理由として筋は通っている。

 

 

「まあ、何でもいいや…あっ、松島宮殿下」

 

 

前を歩く松島宮殿下に声を掛ける。

 

 

「おっ、おう…滝崎か…うう…」

 

 

「えっ、どうしました、松島宮殿下?」

 

 

「……気持ち悪い……吐きそう…」

 

 

「それは不味い! 不味過ぎる! 医務室行きましょう! あっ、侍従医の方ですからね!」

 

……言われた滝崎が慌て、松島宮に肩を貸し、医務室に連れて行った。

 

 

暫くして……医務室

 

 

 

「やれやれ、食べ過ぎで吐きそうになるとは…まあ、元気なのは良いのですが」

 

 

「あはは……」

 

侍従医の物言いに苦笑いを浮かべる滝崎。

しかし、そう言ってから侍従医は値踏みをするかの様に滝崎を見る。

 

 

「………何か?」

 

 

「うむ、殿下からは何故か君の話をよく聞いていたからね。なるほど、何故かわかった様な気がする」

 

 

「はあ…自分の話をよく…」

 

何とも意外な様な…ライバル故に話したくなるのか…まあ、嫌われてるよりマシだが。

 

 

「いや〜、殿下にもお友達が出来てよかった。このままひとりぼっちとはいかないし」

 

 

「皇族も大変ですね」

 

相槌を打つかの様に言う滝崎。

まあ、皇族とか王族と言うのは昔から大変なものだが。

 

 

「やれやれ、お母上、お父上や弟君の事もあって、気苦労が多い殿下には珍しく、笑っておられるな」

 

 

「えっ??」

 

 

「侍従医、少し喋り過ぎだ」

 

そう言って後ろに看護婦を連れた松島宮が上着を着ながら出てきた。

 

「やあ、松島宮殿下。大丈夫そうなんで、自分は失礼します」

 

そう言って滝崎は3人に一礼してから退室する。

 

 

「……よろしいのですか?」

 

 

「なにがだ?」

 

3人になった医務室で侍従医が松島宮に訊いた。

 

 

「このまま御一人で切り抜ける、と言うのは難しゅうございます。彼なら信用も出来ますし、我々が居なくても殿下を助ける事が出来ると私は思いますが?」

 

 

「……そんな事、既にわかっておる。そもそも、あいつをかっているのは私なのだからな」

 

侍従医の言葉に素っ気なさそうに松島宮は言った。

 

 

 

 

次号へ

 




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4 秘密と進展

ライバル視されている同期生の秘密とは?


翌日午後 舞鶴某所

 

 

 

「……えーと、松島宮殿下。いったいなんですか?」

 

 

授業終了後、何故か松島宮に呼び出された滝崎はそのまま流される形で松島宮が借りている借家へやってきた。

 

 

「そんなに畏まらなくていい。上衣も脱いだらどうだ」

 

そう言って本人はそそくさと上衣を脱いでポンポンと畳んでしまう。

 

 

(……よく見れば、松島宮の身体のラインって細いよな)

 

横目でチラチラ見ながら滝崎は上衣を畳む。

畳終えて隣を見ると、いつの間にか松島宮が座っていた。

 

 

「うおっ!?」

 

「なんだ、びっくりしたのか?」

 

 

「気付かぬ間に隣に居たら驚くって」

 

 

「あぁ、たしかにな…滝崎よ、皇族を含めた上流階級は楽だと思うか?」

 

 

「うーん…まあ、俺個人としては御家事情だから一概には言えないと思うが…やっぱり、それなりの苦労はあると思うけどね」

 

 

「…農家出にしてはえらく現実的な事を言うな」

 

 

「いや、そんなもんでしょう?」

 

 

「まあ、そうだな…で、では…わ、私がお、女だと言ったら…ど、どうする?」

 

 

「……えっ、えー、えぇ!?」

 

思わず松島宮の顔を見る滝崎。

そして、よーく見てみれば……胸部にさらしが巻かれている。

 

 

「……………と、と、とりあえず、事情を話してくれないか?」

 

 

「う、うむ、わかった」

そして、松島宮は少しづつ語り始めた。

 

 

 

松島宮家は皇族家の末席にある。故に跡取りと言うのは重大であった。

ただ、なかなか子宝に恵まれず、漸く産まれたのが徳子…つまり、女子である徳正王であった。

これに父親は落胆、挙げ句の果ては徳子を徳正王にして『男子』として育てる事にした。

そして、松島宮に対する不幸は続いた。徳子を男子として育てる事に対して最大の反対者であった正妻が徳子を生んでから体調を崩していたのだが、徳子2歳の時に亡くなると、これ幸いとばかりに父親はあちこちの女性に手を出しはじめた。

また、徳子も母親を亡くした事により精神的支柱を大きく削られる事になった。

この状況が変わったのは数年前に手を付けていた女性の1人が遂に義弟とも言うべき男の子を出産、家督の継承権がその義弟に移った事だった。

既に『男子』として育てられて10年以上経過しており、男の為りが定着していた。

また、義弟が出来た事により父親との隔絶は明確化し、これを切っ掛けに前々から家を出る事を考えていた松島宮は決断、絶縁とばかりに家を出る事にした。

なお、海軍になったのは父親代わりの『叔父様』が海軍軍人で周りにも薦められたから……と言う事だった。

 

 

「ちなみに、それを言った理由は?」

 

「前々からあの侍従医に言われておったのだ。『信頼出来る者を見付けて、我々が見てない時も助けてくれる様にしておけ』とな」

 

 

「それはまた大変で」

 

 

 

「当たり前だ。皇族と言えども、女が軍務に就くなど聞いた事があるか?」

 

 

「記録を調べれば有るかも知れないけど…あっ、会津藩に居たな」

 

 

「八重殿か…いや、それ以外だ! それ以外!」

 

 

「知る限りではないな」

 

 

「だろう? あーあ、言えたからスッキリした」

 

そう言って松島宮はスッキリした表情で畳の床に寝転がる。

 

余り公言も出来ず、色々と溜め込んでいた物を吐き出したのだから、当然かもしれないが。

 

 

(……これはちょうどいい、この機会に賭けてみよう。多分、これを逃せば次は何時くるかわからない)

 

松島宮の告白に滝崎は賭けてみる事にした。

 

 

「じゃあ、松島宮。もし、10年後に日本が滅びる瀬戸際に陥るとしたら…どうする?」

 

 

「皇国が? アメリカやソ連と戦になれば有り得なくはないが…日本の何処に好き好んで戦争を仕掛けるバカがいる? 特にアメリカに?」

 

 

「そこだ。もし、水面下で日米を戦わせ、互いに疲弊したところをソ連が世界規模に勢力を拡大する企みが少しづつ進んでいるとしたら? しかも、現大統領ルーズベルトが様々な理由で日本を敵視し、密かに叩き潰す機会を伺っているとしたら!?」

 

 

「待て待て待て! 共産党勢力の拡大はわかる! だが、アメリカはモンロー主義にあり、資本主義と対立関係にある共産主義を助ける様な真似を何故する? 更に移民に対する問題などの懸案事項はあるが日米関係は悪くはない。何故、10年後に皇国が滅びる瀬戸際になるんだ? いや、そもそも、滝崎、お前はなんでその話題を出してきた?」

 

「君が自身の秘密を話したのなら、僕も自身の秘密を話す必要がある。しかも、日本の未来、世界の未来に関わる事項だ」

 

 

「ほう、皇族の女子が海軍軍人に紛れこもうとしている以上の秘密か? よかろう、日本や世界の未来に関わるなら聞いてやろう」

 

 

1時間後……自身が更に70年後の未来からやって来て、更に日本と世界の歴史を大筋に語り終えた後、暫く沈黙が場を支配した。

長く感じた沈黙の後、漸く松島宮が声を震わせながら絞り出すかの様に口を開いた。

 

 

「つ、つまり、2年後には支那国民党と戦闘状態になり、それが発端となりアメリカと対立し、開戦…最後は惨敗に終わる…だと?」

 

 

「あぁ、そうだ」

 

 

「それだけでなく、本土の都市は焼け野原になり、広島・長崎は原子爆弾の実験場にされ、沖縄は戦火に焼かれ、特別攻撃と言う体当たり・自爆攻撃を行い、ソ連の条約無視の侵攻による悲劇……結果、臣民300万の尊き命が犠牲になっただと!! 問題大有りだ!!」

 

 

「お、落ち着いて、落ち着いて…深呼吸して」

 

 

「はあ…はあ…はあ……くそ、世界大戦は始まる上に、スターリンの掌に踊らされる事が余計に腹が立つ! 滝崎! その話は本当だな!?」

 

 

「天地神明に誓って本当だ。ただし、これは僕の世界での話だ。でも、多少歴史は違っているが、このままいけば間違いなく、日本は危ない」

 

 

「うむ、だが、それは叔父様や叔父様と親しい海軍軍人達も言っていた事だ。よし、わかった! そんな話を聞いたら黙ってられん。筆だ! 紙だ! 叔父様に緊急の手紙だ!!」

 

何処かから紙と筆と机を持って来て、スラスラを内容を書いていく松島宮。

それを不覚にも呆然と見つめる滝崎。

 

 

「あっ、そうだ、滝崎。お前も何か話題を出せ。そうすれば信憑性が出てくる」

 

 

「あぁ、とりあえず、海軍だと悪天候下での演習による第四艦隊事件、陸軍だと人事案件による永田鉄山斬殺と皇道派クーデター未遂の2.26事件だな」

 

 

「……ちょっと待て、海軍関連より、陸軍関連がとてつもななく問題ではないか! しかも、統制派重鎮が殺害されるだと!? それに加え皇道派クーデターだ!? まったく、日本を2つに割るつもりか? これではアメリカに勝てるか!!」

 

 

「落ち着いてくれ! 御近所迷惑! 憲兵が跳んで来る! 深呼吸! 深呼吸!」

 

 

「ふー…ふー…ふー……ならば余計にこの手紙を届けねば。イザとなれば、どっちも潰してやる」

 

 

「いや、それはそれで不味いからね」

 

 

 

手紙を送って2週間後

 

 

 

「えっ…帝都に?」

 

 

「あぁ、最初は叔父様も戯言の様に思っておったのだが、時間が経てば経つ程気になってきたらしい。だが、叔父様は忙しい御方だからな。それに直接会いたいそうだ」

 

 

手紙を出してから2週間、2人が首を長くして待っていた手紙の返事が漸く来たと松島宮から聞き、内容を訊くと帝都に来てほしい、との事だった。

 

 

 

「まあ、それは構わないが…行けるの、帝都に?」

 

 

「問題はない。任せろ」

 

 

「…わかった」

 

 

若干不安になる滝崎だった。

 

 

次号へ

 




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5 叔父様と皇族

自らの秘密と歴史を語った滝崎は松島宮の『叔父様』へと会いに行く。


5月30日 3等客車内

 

 

「……何とも言えないな」

 

舞鶴から福知山を通って大阪に向かう汽車の3等客室に座り、窓から外を見ながら滝崎は呟いた。

『家の用事で帰る事になった。故に連れを連れて帝都に向かう』との松島宮からの言葉により、松島宮は滝崎を連れて堂々と帝都に向かっていた。

なお、肝心の松島宮は隣で爆睡中である。

 

 

「さて……とりあえず切っ掛けは出来たが…次の段階に進めるかね?」

 

『松島宮の叔父様』が海軍に居る事を知り、そこから徐々に上層部へ浸透する方針をとったが……どうも、利用しているようで、滝崎としては苦い感じがして嫌だった。

 

 

「とりあえずは帝都に着いてからだな。でも、松島宮の話を聞いてる限り、御忙しい方のようだし…色々と大丈夫かな?」

 

皇族で軍人なのだから、礼儀や言葉使い等が大丈夫か心配になってきていた。

 

 

「しかも、手紙の内容も単純な文面だったし…秘密保全の観点かな?」

 

なお、返事の手紙の内容は『内容は承知せり。詳細知りたき為、帝都に帰られたし』との簡単な内容だった。

 

 

「とりあえず、駅に着いたら、腹拵えの駅弁だな」

 

 

 

大阪

 

 

 

「むにゃむにゃ……うーん……ここは何処だ?」

 

 

「おはよう。はい、駅弁」

 

眠っていた松島宮が漸く起きたと同時に弁当を買いに行っていた滝崎がちょうど戻ってきた。

 

 

「うん、ありがとう…どうした?」

 

弁当を受け取った松島宮は弁当を見つめる滝崎に訊いた。

 

 

「いや、戦時中なら簡単で質素な弁当になるのにな…と思って」

 

 

「あっ、そうか。戦時中ともなれば配給になって統制されるからな」

 

 

「あぁ…この駅弁も…いや、止めよう。話が辛気臭くなる」

 

 

「うむ…あっ、そうだ、未来の話が聞きたいな。例えば鉄道の事とか」

 

 

「鉄道なら…そうだな、時速300キロの『新幹線』と言う名の高速鉄道があるな」

 

 

「時速300…戦闘機並みの速さだな。技術進歩とは恐ろしいものだが…乗ってみたいな」

 

 

「歴史が変われば、案外早く乗れるかもよ?」

 

 

「さて、その頃、私は何歳だろうかな?」

 

 

「……さて、わかりません」

 

 

 

その後、大阪から東京まで更に6時間、汽車の三等客車の座席に揺られ、東京駅に到着した。

東京駅では松島宮の叔父様が出してくれていた出迎えと合流、出迎えの人間に訊くと、松島宮の叔父様は多忙な為、会えるのは明日にあるとの事だった。

 

翌日 松島宮の叔父様の屋敷

 

 

 

「ふゎ〜、おはよう、滝崎」

 

 

「おはよう、松島宮。よく眠れたみたいだね」

 

兵学校での生活に慣れた為か、何時もの起床時間に起きてしまい、屋敷の外の敷地を数周走ってから朝食をとっていたところに松島宮が起きてきた。

 

 

「そう言えば、叔父様とは何時お会い出来るんだ?」

 

 

「朝食の後にお前を連れていく。焦る気持ちもわかるが心配するな」

 

 

「……そうだな、確かにそうだ」

 

言われて焦っている自分が居る事に気付き、言われた通り落ち着く事にする。

 

暫くして……

 

 

 

「おはようございます、叔父様。彼を連れて来ました」

 

 

「うむ、入ってくれ」

 

 

「失礼します」

 

朝食を終え、松島宮の後ろを着いて行き、叔父様の待つ応接室へと入る。

 

 

「事情は手紙で知っているよ。私は松島宮の叔父、高松宮宣仁親王である」

 

 

「……た、た、た、た、高松宮宣仁親王殿下!? 殿下が松島宮の叔父様!!?」

 

高松宮殿下と松島宮を相互に見やり、驚きで唖然とする。

高松宮宣仁親王(たかまつのみやのぶひとしんおう)…海軍軍人(終戦時中佐)で昭和天皇の弟、『高松宮日記』は近現代史史料にされる程の有名人だ。

そんな超VIPが松島宮の叔父様だったとは…。

 

 

「殿下が叔父様だったなんて……予想してなかった」

 

 

「余り公言するな、と頑なに言われていたからな。こうして会うまでは言えなかったんだ」

 

 

「ふむ…未来の私はそれほどに有名人かね?」

 

 

「殿下の日記は1級の史料ですからね。更に海軍中枢部に居られた皇族であらせられる」

 

 

「ふむ、では答えてほしい。これからの日本の未来を」

 

 

 

 

2時間後……

 

 

 

「……なんと言う事だ…我が国はそんな事に…」

 

 

「はい、アメリカの庇護の下、経済的復興には成功しましたが、精神的復興はアカから浸透した左翼勢力により邪魔を受けていました。長年の左翼による洗脳教育により、愛国心を持つことを否定され、歴史をねじ曲げられてきました」

 

 

「国が滅ぶ瀬戸際であったとは言えな……ところで永田鉄山少将の一件だが」

 

 

「はい。事の発端は教育総監の更迭です。教育総監が皇道派であった為、統制派の永田少将が関わっていると相沢少佐が斬殺を…まあ、誤解のとばっちりであった訳ですが」

 

 

「ふむ、そして、それを発端とした皇道派・統制派の対立激化の結果が2.26事件かね?」

 

 

「はい。他にも昨今の経済低迷による貧困も原因です。東北での貧困層の生活を下士官より聞いた青年士官は人情もあって動いた……もちろん、その行動方法は間違っていましたが」

 

 

「うむ…東北での状況は聞いていたが…なんとも言えんな」

 

 

「他にも…青年士官内部に共産思想が入っています。それらに動かされて……どちらにしろ、我が国は白人優越主義と国内にも入っている共産・社会主義と戦わなければいけません。しかも、敵は裏で手を結んでいる状況です」

 

 

「ふむ……わかった。君の事を信じよう。松島宮、電話を頼む。陸軍は管轄外だ。東久邇宮殿下をお呼びしてくれ」

 

 

「わかりました」

 

 

 

3時間後……

 

 

 

「ふむ…高松宮殿下から火急の呼び出しと聞いて駆け付けたが……これは我が皇国の運命を司る火急な要件だな」

 

高松宮殿下から連絡を受けた東久邇宮稔彦王(ひがしくにのみやなるひこおう)殿下は滝崎の話を聞いて納得した。

 

 

「そこまで詳細に語られては君を信じるしかあるまい。それで、どうすればよいかね?」

 

 

「先ずは永田少将斬殺と2.26事件、国内を片付けましょう。それから、国外の事にあたるべきです。とにかく、西安事件・第二次国共合作を防がねば、盧溝橋事件は防げません。そして、盧溝橋を防げなければ、第二の尼港事件である通州事件、第二次上海事変も防げません。仮にふせげても、時間や場所、方法を変えて軍事衝突へと誘導される事は間違いありません」

 

尼港事件と聞いて高松宮・東久邇宮両殿下に苦い表情が浮かぶ。

シベリア出兵時に発生した惨劇を知る人間としてはその惨劇が再びおきるかもしれないと聞いては当然とも言える反応かもしれないが。

 

 

「とにかく、根本を断たねば余り変わらない、と言いたいのだな?」

 

 

「あぁ、特にルーズベルトが大統領である以上、対米戦は阻止出来ないし、ソ連は影響圏拡大に日本が邪魔だと認識しているからね。それなら、出来る事は主敵を明確化し、それに備える事に傾注しつつ、敵を減らし、味方を増やす。これしかないよ」

 

 

「支那やアメリカ、ソ連だけでなく、イギリス、自由フランス、オランダ、と敵に回り、1対多数で戦い、戦線が拡大した事への反省か?」

 

 

「うん。対米で一対一の短期集中戦なら日本にもチャンスはある。だが、注意しないといけないのはソ連がいる事。つまり、国力は出来る限り温存するしないといけない。これは必須条件だよ」

 

 

「簡単に口で言うが、実現にはそうでは相当苦労する話だな」

 

 

何故だか2人だけで会話が進んでいく。

それを見た東久邇宮は高松宮に言った。

 

 

「あの2人、ウマが合いますな」

 

 

「あぁ、徳子があんな風に話すのを見るのは何年ぶりだろうか、そう思ってしまう程だ」

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6 山本五十六航空本部長

と言うわけでこのお方の出番です。


その後、幾つかの提言を高松宮・東久邇宮寮殿下に行った滝崎は松島宮と共に舞鶴に戻り、勉学に励む日々を送った。

そして、7月後半から夏季休暇期間に入り、一度実家のある田舎へと戻ったのだが、意識が正義である為に顔見知りでない両親や親戚・友人に囲まれる事になった。

それと上手く付き合いつつ、実家で夏季休暇を過ごしていたが、松島宮城より『30日二大阪デ待ツ。早急ニ来ラレタシ』の電報を受け取り、大急ぎで大阪に向かい、松島宮と合流、そのまま帝都の高松宮邸に向かう事になった。

 

 

8月1日 高松宮邸

 

 

「夏季休暇中にすまないね」

 

 

「いえ、自分としましても、田舎に居りますと状況の進み具合がわからないので、ちょうどよかったです。それで、進捗状況はどうでしょうか?」

 

到着直後に会って直ぐに時間も惜しいと言わんばかりに単刀直入に用件へと入る滝崎。

 

 

「予想通り、と聞いて思うかもしれんが、なかなか上手くいかんね。君の事を表だって言うわけにもいかんし、さりとて、下手に皇族が口を出すわけにもいかんからな。東久邇宮閣下のところも似た様な状況だ。君が言っていた戦闘機不要論の一件も話してはいるが、反応は今ひとつだな」

 

 

「そうですか…いえ、自分も理解されるまでに時間がが掛かる事は承知済みです。それよりも、本来なら自分がやるべき事をを高松宮殿下にさせていることに頭を下げたいぐらいです」

 

 

「仕方あるまい。今の君は名も無き一介の海軍兵学校生だ。とてもではないが、相手にされず門前払いされるのが目にみえとる。それに事が事だ、遠回りしている時間も惜しいからね。おぉ、そうだ、先の戦闘機不要論の話だが、1人だけ聴く耳を持った者がいたよ。今日はその者を呼んでいる」

 

その時、ノックと共に松島宮のが入ってきた。

 

 

「叔父様、航空本部長が来ておられます」

 

 

「ちょうど良かった。入ってもらいなさい」

 

それを聞いて滝崎入って1人しか思いつかなかった。

この時、海軍航空本部長だった人間、それは……。

 

 

 

暫くして……

 

 

 

「本日はお招きいただき、ありがとうございます。高松宮殿下」

 

 

「いや、本来ならこちらから出向いた方がよいのだがね。余り表沙汰に出来ないからね」

 

 

「いえいえ、わたしも海軍を勧めた人間として松島宮殿下の御様子も気になっていましたから。ちょうどよい機会でした」

 

松島宮と共に入ってきたイガグリ頭の小柄な人物、山本航空本部長…後の世に日本海軍を語るには決して外す事のできないビック・ネーム山本五十六であった。

 

 

(と、言うか、松島宮って山本元帥からも海軍勧められたんだ…ある意味、羨ましいな)

 

 

「さて、君が未来を知る滝崎正義君…いや、正郎君かな?」

 

 

「あっ、は、はい! えっと、今は正郎でお願いいたします」

 

緊張と興奮で心臓が高鳴り、握手の為に差し出した右手も同じく緊張で汗でぬめりだす。

 

 

「ほう、私に会う事はそれほど緊張するかね? 表情が硬くなっているぞ」

 

 

「…当然です。日本海軍航空戦力育成に努め、世界初の空母機動部隊を創り上げた御方。世界がその手腕を認める、世界の海軍史に大きな一歩を刻んだアドミラルですから」

 

 

「ふむ、私の様な父親からも嫌われた小柄な爺さんがそんな評価を受けるかね? 過大な評価の気もするがね」

 

 

 

「そう言えば御名前の五十六、御父様の年齢で嫌がっていましたね。奥様にも御見合いの際に日進で受けた傷をお見せになりましたし」

 

 

 

「……はっはっは、まるでお見通しと言わんばかりだな。なら、右手の指2本がない事も知ってるな?」

 

 

「あと1本失えば、規定により退役でしたね。いやはや、どう転ぶかはその時次第ですね」

 

 

「ふむふむ、では、君の話を聞こうか?」

 

 

 

1時間を掛けて滝崎は山本航空本部長にこれからの未来を自分が転移する寸前まで話した。

 

 

「ふむ、弱点がわかってしまった防弾も無く、後継機が中々出ない零戦ではF4Fにも負け始めるか。しかも、相変わらずな工業力だな」

 

 

「えぇ、口の上手い人が『隔月刊正規空母、月刊軽空母、週刊護衛空母、日刊駆逐艦、3時刊輸送船』と言ったぐらいですから」

 

 

「な、な、な、なに……1週間で護衛空母、1日で駆逐艦、3時間で輸送船……アメリカは気狂いか…」

 

 

「やれやれ、アメリカの底力は恐ろしい」

 

 

「やはり、長期戦となれば工業力により巻き返されるな」

 

滝崎の言葉にそれぞれ感想を呟く3人。

 

 

「ところで、陸軍のほうはどうかね?」

 

 

「陸軍は1939年のノモンハン事件の経験から防弾にも力を入れ始め、また、1年毎に新型機が開発完了・実戦投入された事もあり、零戦の様にならずにすみました」

 

 

「つまり、新型機の早期開発と実戦投入、更に整備面や生産面にも手を加える必要があるな。それとアメリカの数に対抗するには陸軍との調整も必要だな。何か意見はあるかね?」

 

 

「航空機関連であれば、先ほど申されました整備・生産面に関係しますが部品規格の統一・共通使用化に無線機の改良、大馬力エンジンの開発…外国製生産機材を今から買い占めておく事ですね。また、エンジンもイギリスやドイツから支援を受けた方がいいです。また、生産工程の省略化や生産マニュアルの作成も…挙げたらキリが無くなりますよ」

 

 

「ふむ…そこまで言われたら、君を信じるしかないね」

 

 

「ありがとうございます。それと山本部長、水から石油は出来ませんよ。その類の事を言うヤツがいたら、構わず牢屋にでもぶち込んで下さい。詐欺師なんで、容赦なんか必要ありませんよ」

 

 

「ほう…わかった、詐欺師には気を付けておこう」

 

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7 第一航空戦隊

明けましておめでとうございます。
昨年中は読者の皆様、先生方々にお世話になりました。
新年と言う事で、早速更新いたします。
今回はワシントン軍縮条約の事も書いております。
今年もよろしくお願いいたします。
では、どうぞ。


8月3日 呉軍港沖

 

 

 

「うぉ!! 凄いな!!」

 

桟橋から沖合いの艦艇に行く内火艇で歓声を上げる滝崎。

滝崎の視線の先には改装が完了した全通甲板の空母『赤城』と改装前の三段甲板である空母『天城』の2隻が停泊していた。

そして、内火艇は旗艦である天城へと向かっていた。

 

 

「おいおい、そこまで興奮してどうする?」

 

 

「興奮しない方がおかしい! 全通の赤城と三段の天城だぜ? 写真を撮らないとな!」

 

そう言ってさっそく買ったばかりのカメラを構えて写真を撮る滝崎とその姿に呆れて溜息を吐く松島宮。

さて、2人が何故呉に居るかと言うと、山本本部長からの紹介で現在の第一航空戦隊司令に会いに来たのである。

 

 

 

甲板に上がった2人は士官の案内で司令室までやって来た。

 

 

「司令、お客様です。例の兵学校生です」

 

 

「うむ、入れてくれ」

 

その返答に士官がドアを開ける。

すると、部屋には1人の将官が待っていた。

 

 

「五十六から連絡は受けているよ。しかし、皇族の友達とは、随分いい立ち位置を得たね」

 

そう言ったのは部屋の主であり、現第一航空戦隊司令である、堀悌吉少将だった。

山本五十六の同期であり、親友でもある堀少将は史実であればワシントン軍縮条約時に主流派である艦隊派に喧嘩をうった事にされて退役・予備役に回されたのだが、こちらの世界ではワシントン軍縮条約の内容も変わった為か、堀少将は第一航空戦隊司令として現役であった。

 

 

「たまたまです。それに、 今は居候のタダ飯…痛っ!?」

 

いきなり後頭部に松島宮の拳骨が入ってきた。

 

 

「大馬鹿者め。堀少将、こいつは少し謙遜し過ぎる奴だからな、タダ飯とかの言葉は気にしなくてよいぞ」

 

 

「わかりました、松島宮殿下。では、滝崎君、君の話を聞こうか?

 

 

 

1時間後……

 

 

「ふむ、確かに状況が少し違うとは言え、このまま不味い事には変わり無いな」

 

 

「はい、戦艦は長門、陸奥、加賀、土佐と戦艦に関してはとりあえず対抗出来ます。また、空母も複数同時使用の機動部隊なら練度もあってこちらが有利です。ですが、いずれはアメリカの国力に押されます」

 

 

「五十六も同じ事を言っていたし、私もその考えを支持する。となると、短期決戦しか無いか」

 

 

「それは間違ってはいません。ですが、ただ、アメリカの戦力を潰しても意味はありません。ここはかつての明石元帥並みの事をアメリカに仕掛けないと」

 

 

「驚いたな。日露戦役の再現をアメリカでやろうと言うのか? しかし、アメリカに革命は…」

 

 

「いや、革命まではおこさないよ。ただ、アメリカ国民が対日戦に積極的にならない様にするだけさ」

 

 

「やれやれ、君は容姿に似合わず、案外大胆な事を考えてるね。まあ、あんな国に常識的に打ち勝とうなど不可能に近いが」

 

 

「ですが、これは自分の世界の英霊…国を思い、戦った方々の犠牲があったからこそ、考えついたやり方です。再びあの悲劇を繰り返すなど、私は黙って見ている事など出来ません」

 

 

「なっ、堀少将。こいつはこの類の話しになると目の色を変え、肝を据える。覚悟なら、とうに出来ているぞ」

 

 

「なるほど、高松宮殿下や五十六が気にいる訳だ。わかりました、私も協力しましょう」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

「おいおい、それは戦争に勝ってからだよ。さて、どうするべきかね?」

 

 

「今は…とりあえず、各々が出来る事をしか…第一航空戦隊は航空隊の練度向上に努めて下さい。今のウチに練度をあげておかないと、後進育成もすすみません。それと、機動部隊ならば輪形陣による艦隊行動を磨いて下さい。空母を守るのは自身の戦闘機と艦隊の対空砲火、正確な索敵です」

 

 

「ふむ、輪形陣の件は難しいが、君の言う事は筋が通っているし、事実だ。他の事も君の話を聞くと納得できるな」

 

 

「ありがとうございます。私も堀少将が在籍しているだけでも、少し希望が持てています」

 

 

「そうだな。お前から何度も聞いているからわかるが、歴史は紙一重の事で大きく変わるな」

 

そう言って松島宮が会話に入って来た。

さて、ここで何故、堀少将が史実の様に退役させられず、更に加賀・土佐などの戦艦が健在なのかを説明したい。

史実のワシントン軍縮条約では陸奥が承認され、天城、赤城が空母に改装、加賀、土佐が廃艦になる予定であったところを関東大震災で天城が破損したら為、加賀の空母に改装された。

しかし、こちらの世界では博打とも言える大立ち回りでワシントン軍縮条約の内容を変えてしまっていた。

陸奥の無理矢理な完成にあわせ、日本側は加賀、土佐も無理矢理に8割完成(後は武装載っけるだけの状態)と言い張り、加賀と土佐の保有を主張した。

対し、日露戦争後から日本を敵視し、今回の軍縮・外交条約会議で日本の弱体化を密かに狙っていたアメリカはこれを否定した。

これに対し、交渉団の1人が外交条約会議を絡めて、こう発言した。

「アメリカは軍縮会議で戦艦を破棄しろと言い、外交会議では日英同盟を排し、4カ国、並びに9カ国条約を結べと言う。我が国の国防に関する件であるにも関わらず、どちらも一方的に破棄しろと言うだけで、損ばかりでは無いか! 少しはこちらにも利がある様に妥協すべきだ!」。

この発言に対し、フランス代表の1人が「もし、このまま、その主張で押し通された場合はどうするのか?」と訊くと、「遺憾ながら、世界平和の為と言えども、自国が不利のままでは終われない。我が国は軍縮会議を降りる」と返された。

これを聞いたイギリス代表が慌てて休憩を提案、一時休憩となるとイギリス代表はアメリカ代表に「日本の主張も一理ある為、妥協すべきだ」と迫った。

イギリスとしては国家財政逼迫の事情から軍縮条約を締結させたい為、日本側の決断で流れるのは何としてでも阻止したかった。

故にイギリス代表からアメリカへ迫った。これに対し、アメリカ側も壮絶な内外との論争の挙句、『日英同盟を破棄する代わりに二戦艦保有を『特別信用枠』として認める』事で合意したした。

こうして、加賀・土佐の保有が何とか認められた為、条約反対の艦隊派も何とか納得し、堀少将も山本少将の奮闘で左遷の形で第一航空戦隊へと異動になった。

以上が戦艦加賀・土佐が保有に至った経緯である。

 

 

「しかし、海軍はそれで、納得出来るとして、陸軍はどうするのかね? 陸軍が簡単に信じてくれるとも思えんし、下手をすれば政治工作で君や我々を潰しにかかるよ?」

 

 

「それについては大丈夫だ、堀少将。もし、陸軍統制派の永田鉄山少将の身に何かある、となれば?」

 

 

「それは…あっ、なるほど、そこにも手を回しているのか」

 

 

「松島宮と高松宮殿下のお陰です。東久邇宮殿下にお話ししているので」

 

 

 

その後、滝崎と松島宮は堀少将と幾つか話をした後、帝都東京へと戻っていった。

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8 前田利為侯爵

少しマイナーな方でますが、結構重要な方でした。
(中立派と言う事つま)


8月5日 東久邇宮邸

 

永田鉄山斬殺事件まであと1週間に迫ったこの日、滝崎と松島宮は東久邇宮邸に来ていた。

 

 

「おぉ、君達か。まあ、言わずとも、君が来た用件がわかってしまうのが、皮肉な事だが」

 

 

「すみません。では、単刀直入に…陸軍の具合はどうですか?」

 

 

「うむ、君もわかっているから正直に言うが、中々難しいよ。皇族だからと言って下手に口を出すのは問題があるからね」

 

なお、読者によっては意外に思われる方もいるであろうが、現代の日本国憲法はもとより、大日本帝國憲法時も天皇の直接的政治介入は『認められていない』のである。

これは明治の制定時に元老伊藤博文ら作成陣がドイツ帝國憲法を基本にしながら「天皇の政治介入をどの程度まで許すか?」を激論した挙句に大英帝國憲法の様な『君臨すれども統治せず」に至ったためである。

故に天皇の直接的政治介入については昭和天皇の2度(226事件と終戦決議)以外無く、その他は国事行為に定められた範疇(間接的政治介入)に基づいて行われている。

また、今も昔も『天皇制』たる物は存在していない。あしからず。

 

 

「アメリカ相手は海軍ですが、その前に支那の一件に加えて、ソ連と対峙します。故に陸軍の内部統一は必須事項ですが…支那工作には陸軍の力は絶対に必要ですので」

 

 

「支那には居留民をはじめとした日本人が数多くいる。その安全なを確保する現地政府があの様子では、我々が動かざるおえまいが…どちらにしろ、今の一件を収めねばならぬし、下手に動いて目立つわけにもいかないからね」

 

 

「東久邇宮様、永田少将の方は?」

 

話が前に進んでいない事に業を煮やしたのか、松島宮が話題を永田少将の件に持ってきた。

 

 

「あぁ、そうだったね。そっちは大丈夫だ。秘密裏に手を回して、当日はもちろん、前後数日は厳重に警戒するよ。だが、これでは皇道派・統制派を抑えるどころか、煽る事になって根本的解決にはならんな」

 

 

「そうですね。とりあえず、統制派には混乱が起きないだけですからね」

 

 

「うむ…おぉ、そうだった、これをどうにか出来るかも知れん人物が君の話を聞きたがっていたよ。今から呼んであげよう」

 

 

「自分の話を…誰でしょうか?」

 

 

「華族でも有数な武家派だが、本人は外交官になりたい、と言っておったよ」

 

 

 

3時間後……

 

 

「ふむ、君の話を聞く限り、確かに合点がいく部分は多いな。しかし、まさか、文麿の周辺がアカの巣窟だったとは……やれやれ」

 

近衛文麿の一件を聞いて溜め息を吐いたのは、かの有名な加賀百万石の前田家現当主の前田利為侯爵である。

なお、前田家は近衛家とは親しい関係にあり、前田侯爵も近衛文麿とも知己であった。

 

 

「まあ、未来では近衛文麿さん並みのバ…失礼、理想家がおりましたので、余り偉そうには言えませんが」

 

 

「いや、未来にそんなバカを生み出すきっかけを作ってしまった我々にも責任はある。しかし、君の話を聞く限り、戦車開発と対戦車対策は重要だね。特に刺突地雷など、馬鹿げた話だ。203高地と訳が違うのに、そんな馬鹿げた戦法と武器を使うとはな!」

 

明らかにノモンハン事件以降、進歩していない対戦車戦と刺突地雷を含めた特攻的歩兵攻撃に憤慨していた。

 

「島国である日本だと、どうしても戦車に対する割り当ては少なくなります。また、当分の敵は対戦車能力の劣る支那軍閥ですからね。国力の関係もあり、仕方無いと言えば仕方無いのですが…」

 

 

「うむ…だが、いま、その話を聞いたのだから、対策は立てれる。特にソ連がドイツの力も借りて戦車開発にあたっているのなら、尚更だ。ソ連が戦車を本格的に動かせる様になれば、日本の国防上、大きな脅威になる」

 

 

「だが、この前、ソ連の電撃戦の話をしたが、ヨーロッパの脅威になったのだろう?」

 

 

「松島宮……その話は本当です。実際、1990年代までソ連戦車の開発はアメリカ・ヨーロッパの脅威でしたし、ソ連大機甲軍団侵攻のシナリオは西側軍事関係者にとって頭痛の種でした」

 

 

「ならば、余計に対戦車兵器の開発は重要だ。火炎瓶や刺突地雷、地雷での肉薄戦など、203高地の再現だ。いや、203高地は仕方無いが、それを戦車で再現するなど馬鹿げてる」

 

 

「私も陸軍の人間とし、その話は無視出来んな。歩兵が携帯出来る対戦車兵器は無いのかね?」

 

 

「私も原理はうろ覚えですが、有名になるのはノイマン効果を活用した携帯兵器ですね。アメリカならバズーカ、ドイツならパンツァーファウストやパンツァーシュレックです。無反動砲も2000年代でも歩兵が使っています。ノイマン効果は担当部署に問い合わせるのがよろしいかと思います」

 

 

「ふむ、探りを入れておこう。ほんとうであれば、もっと君の話を聞きたいが、根回しなどで一刻も惜しい。またの機会にじっくり聞かせてもらおう。ありがとう」

 

 

「前田侯爵閣下、それはアメリカとソ連に戦って勝ち、真の意味での日本の生存が確定してから言う事ですよ」

 

 

「…うむ、そうだな。これは早まった事をしてしまったな」

 

 

 

次号へ

 

 

 

 




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9 永田鉄山を守れ!

題名通り。永田鉄山斬殺(相沢)事件です。
さて、どうなるやら…。


8月12日 朝6時頃 高松宮邸 居間

 

 

「なんだ、随分と早いな」

 

 

「日にちが日にちだけにゆっくりと寝れずに、早く目が覚めちゃってね…こうしてるの」

 

この日、自分の行動の全てを問われる日……永田鉄山斬殺を防げるかどうか…….になる滝崎はいつもの起きる時間よりも早く、それこそ朝日が昇る前に起きて、居間で新聞を読んでいた。

ただ、中身の記事より事件の事が気になるらしく、視線はともかく、意識は別の方にいっていた。

 

 

「まあ、わからんではないが、先ずは朝食を食べよう。果報は寝て待て、と言うではないか」

 

 

「……そうだな。とりあえず、朝食にするか」

 

 

 

朝食後 再び居間

 

 

 

「………………」

 

グルグルグルグル……

 

 

「………………」

 

 

「………………」

 

そわそわそわそわ……

 

 

「……お前は落ち着けれんのか!?」

 

 

「落ち着けれないよ!」

 

黙って部屋をグルグルと回り、止まってもそわそわして落ち着かない滝崎に松島宮がついに声をあげた。

 

 

「はあ、やっぱり無理だな……よし、時間は未だ間に合うな。うむ、陸軍省に行くぞ!」

 

 

「行くぞ、って…皇族で海軍軍人だからって、簡単に陸軍省に入れる訳が…」

 

 

「問題無い。イザと言う時の為、東久邇宮様に一筆書いて頂いた」

 

そう言って松島宮が見せたのは東久邇宮殿下直筆の『入門許可書』だった。

 

 

「……準備いいね」

 

 

「先手を取ったまでだ。ほら、行くぞ。何かの拍子に討ち入りが早まったらどうするんだ?」

 

 

「それは冗談でも大いに困るな」

 

そう言って滝崎も動き出した。

 

 

2時間後………陸軍省

 

高松宮殿下に訳を話し、車で陸軍省に向かった松島宮と滝崎。

門では衛兵に(当然だが)止められたが、東久邇宮殿下の『入門許可書』が役に立ち、陸軍士官の案内付きで永田鉄山少将が居る部屋へと案内された。

 

 

「軍務局長、お客様です」

 

 

「すまない、いま、大事な打ち合わせ中からなので、待っていただけるかな?」

 

案内の陸軍士官がノックの後に入り、松島宮、滝崎の来訪を告げると永田鉄山軍務局長は振り向いてそう言うとこちらに背を向ける。

 

(確か、あの憲兵隊の腕章は東京憲兵隊の物だったな。軍内の怪しい動きに関して報告されてたら…って皮肉過ぎだよ)

 

そう内心で呟きながら室内を見渡していると時計が目についた。

時間は……9時45分を指していた。

その時、ドアが開く気配に気付いた滝崎はドアを見た…見た覚えのある顔、相沢少佐が入ってきた瞬間だった。

 

 

「危ない!!」

 

柄に手を伸ばした相沢少佐を見て滝崎は慌て永田少将を押し倒す。

間一髪、相沢少佐の一撃は滝崎の背中で空を切った。

 

 

(あ、危なかった…斬撃の勢いと言い、空を切った時の音時の言い…マジで危なかった)

 

 

「邪魔するな、小僧! そこを…は、離せ!!」

 

滝崎の行動により初撃を空振りさせたれた相沢少佐が怒鳴る。

しかし、待機していた憲兵隊が突入し、たちまち相沢少佐を取り押さえた。

 

 

「大丈夫か、滝崎?」

 

 

「あぁ、なんとか…物凄く危なかったけど。あっ、永田閣下は!?」

 

 

 

「大丈夫だ、たんこぶぐらいは出来たかもしれないが、重傷ではなかろう」

 

そう言って打った箇所を摩る永田鉄山少将を見ながら松島宮が言った。

 

 

「それより、さっさと引き上げるぞ。下手に海軍士官が長居しては、あとあと変な疑いを持たれるからな」

 

 

「あ、あぁ、そうだな」

 

そして、2人はコソコソと帰っていった。

 

 

その日の夕方、夕刊には『永田鉄山少将、皇道派将校に襲われる』の題名と共にデカデカと一面を飾っていた。

 

 

 

2日後 高松宮邸 応接室

 

 

 

「ふむ…なるほど…」

 

 

「私の最終戦争論と似通っているのが怖いがな」

 

事件から2日後、東久邇宮殿下から松島宮の事を聞いた永田少将が石原莞爾大佐を伴って高松宮邸へとやって来た。

事情を聴かれた高松宮殿下が松島宮と滝崎の事を紹介し、これを皮切りに滝崎は永田少将と石原大佐に自分の世界の『未来と歴史』を語った。

 

 

「最終戦争論は未だに有名ですからね。アメリカ軍将校でも読んでいる方はおりますので」

 

 

「しかし、最終兵器…原子爆弾はそれ程までに強力なのかね?」

 

 

「強力なんて話を超克しています。今は戦艦の保有で国家の力と世界的発言力を象徴していますが。未来では原子爆弾をふくめた核兵器の有無がそれにあたります。また、更に高威力化した水爆を下手に使えば1発で日本は死の島に、数発使えば世界が滅びますからね」

 

 

「だが、アメリカもソ連も互いに核兵器を手に入れたが為に『使ったら互いに滅びる最終兵器』と化し、互いが使わない様にした結果、第三次大戦は無く、終始睨み合い…冷戦となった訳だな?」

 

石原大佐の言葉に滝崎は頷いた。

やはり、奇才と呼ばれただけに、冷戦への道筋を理解した様だ。

 

 

「なるほど……だが、その為に支那共産党が第三勢力となり、結果、アメリカ、ロシア、支那共産党が世界の混乱を巻き起こす根源になっているんだね?」

 

 

「はい。無論、ヨーロッパ諸国にも原因はありますが…ですが、このまま、この状況を放置すれば300万人の同胞が死にます。内民間人は約100万人、原爆死者数は約30万になります」

 

 

「………それは大事だ。しかも、シベリア抑留の犠牲を抜いた数字なんだね?」

 

 

「えぇ。また、これに韓国・ロシアによる竹島・北方領土の占拠と漁民銃殺、北朝鮮による拉致被害……未だ日本は困らされていますよ」

 

 

滝崎の言いように腕を組む永田鉄山、顰め面の石原莞爾。

 

 

「君がそこまで言うのなら、何か策があるのだな?」

 

永田鉄山の言葉に滝崎は頷く。

 

 

「まずは陸軍にご協力してもらう事が数多くあります…耳痛い話もありますよ?」

 

 

「私の一件の時点で耳痛いも何も無いよ。さらに226事件はなんとしてでも防がなければならない。いま、内乱の真似事をしても事態は好転するどころか、陛下の信用を失う。それに内部分裂していてはソ連やアメリカの様な大国を相手に戦えない。日露戦役の様に陸海、軍政、官民を越えて協力しなければ君の世界の未来が待っているならね」

 

 

「ありがとうございます。では、国内を片付けたあとは支那方面の安定化です。そして、ソ連への対峙、次にアメリカ対峙です」

 

 

「支那方面なら、私の範疇だ。共産党を抑えたいのだろう?」

 

 

「はい。蒋介石を支那共産党と合作させなければ、こちらが幾分か楽になりますので」

 

 

「よし、決まった。ならば今から動かねばな」

 

そう言って永田鉄山は頷いた。

 

 

次号へ

 

 

 

 

 

 




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10 第四艦隊事件

リメイク版では軽くでしか取り上げていなかった第四艦隊事件を追加します。


9月25日 舞鶴分校

 

 

夏季休暇を終えた2人は元の士官学校生生活を再開していた。

但し、周りの同期生には色々と秘密な関係ではあったが……しかし、周りからすれば相変わらず『ライバルだから仲が良い反面者同士』と言う打倒な評価に落ち着いていた。

そして、課業後、松島宮は滝崎のところに来ていた。

 

 

「で、高松宮殿下や東久邇宮殿下から何か連絡は?」

 

 

「いや、ないな。なにせ、一部の人間と話を付けただけで、アカのスパイが何処にでもいてもおかしくない状況下では派手に動けれないだろう?」

 

 

「まぁ、そうだよな……226からが本番だから、早めに何とかしたいんだけどな…」

 

 

「おいおい、米露相手に歴史を変えるなんて大事、1人で出来る訳なかろう。あの話を聞いて、お前だけでなく、山本本部長や前田閣下や永田閣下も動いておられる。気持ちはわかるが、お前だけ焦っても事態は簡単に動かんぞ」

 

そう言いながら松島宮に背中をバシバシ叩かれ、滝崎は苦笑を浮かべる。

 

 

「それにだ、お前があの話をしてくれたからこそ、動けないお前に代わって、動けるものが動いてくれているんだ。お前はいま出来る事を充分にやっている。後はちゃんと私と共に士官となって表だって動ける様に勉学に励む事だ」

 

 

「……あぁ、そうだな。しかし、なんか、諌められたり励まされたりしてるな」

 

 

「おいおい…あっ、今日はどうする? 邸に来るか?」

 

 

「いや、時間的に無理だから、今日は止めとくよ………あっ、そうか…」

 

 

「ん? どうした?」

 

ふと見たカレンダーを見て滝崎は止まり、気になった松島宮が訊いた。

 

 

「明日は……大事な日だ…日本海軍にとってだけど…」

 

 

「……あっ、そうか、明日は…」

 

この瞬間、2人にあるキーワードが思い浮かんでいた。

『第四艦隊事件』と言う、重大なキーワードが…。

 

 

2日後 27日 舞鶴分校

 

 

26日午後に荒天下演習中の第四艦隊の多数の艦艇が天候被害を受けた、と教官達から教えられた。

そして、27日昼頃には更に詳細が判明していた。

沈没艦艇は無し。但し、船体切断や艦橋損傷と言った重大損傷艦多数……と、ほぼ滝崎の知る史実であった。

ただ、滝崎の知りたい事項は別にあり、それが届いた瞬間、滝崎はショックを隠しきれなかった。

『駆逐艦初雪艦首切断。切断された艦首は重巡那智が発見するも、機密保持の為、砲撃処分』……と。

 

 

 

3日後 舞鶴 松島宮邸

 

 

 

「……それで、最近はあのまま、と?」

 

 

「うむ、初雪の艦首砲撃処分を聞いて、少し気がそっちに向いている様だな」

 

密かに松島宮邸に来ていた山本本部長が居間に居る滝崎を見て聞いたところ、松島宮は呆れた感じで事情を話した。

 

 

「まあ、まだ短い付き合いだが、最近あいつの事が少しづつだが、わかってきたがな」

 

 

「と、言いますと?」

 

 

「滝崎があの話をする時、何時も力が篭る場面がある。それは『人の生死・人生』が関わる場面だ。神風特攻、原爆、シベリア抑留、戦死者数……あいつはそれが必要犠牲であると承知しつつ、全員を助けるつもりだ。例え、自らを犠牲にしても、だ」

 

 

「………なるほど、確かに彼は自分を捨ててでも他人を助けようとしますね。永田少将の一件が正にそれですな」

 

 

「うむ。歴史に名も残らぬとは言え、その者にも人生がある。家族がいる、妻がいる、子がいる、恋人がいる、帰りを待つ人がいる…あいつはそれを知っているから、自らを捨てて1人でも多くの人間を悲しい目に遭わせまいとするのだろう……それが他国人を犠牲にする事を覚悟してな。その為に茨の道へ自ら飛び込む気だ…ふん、敗戦で『個より公』を否定される教育を受けたと言ったが、あいつは自らその教育から抜け出す、骨のある奴だ」

 

 

「故に今回の一件…初雪の件も引き摺っている、と?」

 

 

「さっきも言ったであろう。あいつは今回の一件の最大の犠牲者がこの件だと知っていたから、それを防ぐ為にも話したんだ。それなのに結果は変わらず、自らの無力さを原因にしているのであろう。山本少将、そろそろ種明かしをしないと、後々面倒だぞ」

 

 

「わかりました。しかし、殿下とあの若者はやはり良いペアですな」

 

 

「何を言っている、本部長。あいつは私の好敵手。好敵手を知らねば勝つ事は出来んぞ」

 

 

「なるほど…では、種明かしをしてきます」

 

 

「うむ、頼む」

 

そう言うと松島宮はお茶を入れる為に台所へと足を向ける。

そして、山本本部長は居間に入った。

 

 

「元気…とは言い辛いな」

 

 

「あっ、山本少将。お疲れ様です」

 

 

「うむ、まぁ、言わなくても私がここに来た理由がわかるだろうが…その前に1つ、いいかな?」

 

 

「はぁ、構いませんが…なんでしょうか?」

 

 

「うむ、初雪の艦首処分の件だがね…艦首部乗組員は切断面から後部に退避していて、那智が砲撃処分したのは無人の艦首だ。よって、初雪艦首砲撃処分における殉職者は皆無だよ」

 

 

「……………………本当ですか?」

 

 

「あぁ、君の助言は役に立ったよ」

 

「………あぁ、よかった…本当に良かった!」

 

先ほどまで全力で落ち込んでいたのが一転、安心しきったかの様に顔を綻ばせる。

 

 

「やれやれ、変わり身の早い奴だ。それより、山本少将の要件を聞かねばならんだろう」

 

お盆にお茶の入った湯飲みを3つを載せて松島宮が話に入ってきた。

 

 

「あっと…すみません、山本本部長」

 

 

「いやいや、構わんよ。さて、話の本筋だが、今回の一件について、君の意見を訊きたい」

 

 

「そうですね、先ずは非破壊調査…超音波による検査も行って下さい。更に溶接用鋼板の開発・改良も続けて下さい。今後、戦時体制への移行に伴う護衛・輸送船舶の建造・生産に関わりますので、今からこれらの設計もお願い致します」

 

 

「ふむふむ……他には?」

 

 

「それと…現場の艦長、並びに造船技官の自決は防いで下さい。幾ら軍縮の影響があったとは言え、無茶な要求をしたのは用兵側ですから。それより、これを機にダメージコントロールの研究・強化を」

 

「君に言われると、耳の痛い話だ…だが、数年後の大戦を考えれば良薬と思って服用しよう。他に何かあるかな? なんなら、損傷艦の一部を弄る事も可能だが?」

 

 

「………では、鳳翔、龍驤、扶桑、山城の4隻の改装をお願いします」

 

 

「なに!? 扶桑と山城もか!?」

 

 

「ほう…大きく出たね」

 

滝崎の言葉に松島宮は驚き、山本本部長はニヤリと笑いながら呟いた。

 

 

「山本本部長はご存知の筈です。鳳翔は現在のままだと小型・低速で新型艦載機を運用出来ません。龍驤もあのトップヘビーな構造を治す必要がある。扶桑、山城は日本戦艦の中でも低速過ぎます。まぁ、いずれは伊勢型・長門型も改装は必要ですが」

 

 

「先行的に2戦艦の改装か…よかろう。進言してみよう」

 

 

 

次号へ

 

 




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11 狸親父

今回は本当の意味でのオリジナル版です。
なにせ相手は……


10月のとある日 舞鶴 松島宮邸

 

 

「ふぁ〜〜〜ぁ……あぁ〜、解放感あるな〜」

 

松島宮邸の居間でゴロゴロと転がりながらそんな事を呟く滝崎。

そんな滝崎の近くには世界地図と幾つかの将棋の駒が転がっていた。

 

 

「まったく、ゴロゴロするのは構わんが、世界地図と将棋の駒を広げて何をしてるんだ?」

 

呆れた様子で滝崎に問い掛ける松島宮。

 

 

「ちょっとした作戦会議…かな?」

 

 

「地図と将棋の駒でか?」

 

 

「まあまあ、ちょっとやってみせるから」

 

そう言うと滝崎は世界地図に幾つかの駒を並べる。

 

 

「まず、支那は幾つかある軍閥勢力の中の二大勢力たる国民党と共産党が対立してて、内戦状態」

 

そう言って2つの『歩』の駒を突き合わせる。

 

 

「ヨーロッパ方面はナチス・ドイツの勢力拡大にイギリスとフランスが警戒を強め始めてる」

 

今度はイギリス、フランス、ドイツに置いていた『桂馬』の駒を突き合わせる。

 

 

「そして、ソ連は五ヶ年計画の『成功』を背景に世界革命を目指して暗躍してる」

 

そう言ってソ連に『金将』の駒を置いた。

 

 

「で、アメリカは経済を立て直しつつ、支那を狙って暗躍し、日本を敵視している、だろう?」

 

 

「その通り」

 

松島宮の言い分に滝崎は頷く。

 

 

「で、このままだと、ソ連とアメリカに挟まれて滅亡…これがお前が話してくれた『未来』だな」

 

そう言って松島宮は駒の中から『銀将』2つを取り出し、日本に置いてある『王将』をソ連側とアメリカ側から『銀将』を使って挟み込んだ。

 

 

「まあ、他にもイギリスとかからの駒もあるが、それはいいでしょう」

 

 

「で、この駒から今後、お前が考える外交戦略を聞こうか?」

 

 

「うん、とりあえず、これかな」

 

そう言って滝崎は日本の『王将』を取ると、そのままヨーロッパに持っていき、まるで将棋をするかの様に一手をさした。

 

 

「……待て待て、なんでイギリスとドイツを取れるんだ!?」

 

ヨーロッパに打ち込まれた王将がイギリスとドイツの『桂馬』を取った事に松島宮は問い質す。

 

 

「うーむ、ドイツを取ったのは不味かったかな?」

 

 

「いや、違う。なんでそうなるか、だ」

 

 

「わかってるよ、まず、国共合作を防ぎ、国民党を味方につける。これはいいよね?」

 

 

「あぁ、それはよい。それで?」

 

 

「うん、そこから外交工作によりイギリスを味方につける。最低限、イギリスの非参戦・不介入を確約させる。そして、国民党へ武器売買と軍事顧問団を含めた軍事支援を行うドイツと接触し、ドイツ技術を売買する。日本の技術だけでアメリカには対抗は難しいからね」

 

 

「ふむふむ……いやいや、待て。状況が違うとは言え、お前の歴史はドイツと接触した為にイギリスに警戒されたんだぞ? なんでドイツと接触していてイギリスを味方につけれる? いや、下手をしたら、非参戦・不介入を取り付けるのも難しいぞ!?」

 

 

「そこがミソなの。イギリスはアジアに膨大な利権があり、それを保障さえすれば幾らでも乗ってくれる。それにこちらとしてはイギリスの技術も必要だ。よって、資源と技術だけで大人しく利権保障してくれるなら、イギリスは安心してアジアから部隊を引き抜いてドイツに対抗出来る。それに商取引きはイギリスもドイツも嫌な顔はしないし、イザとなったら仲介役になってやれるしね」

 

 

「つまり、英独の対立をいい事に漁夫の利を狙う、と言うのだな?」

 

 

「あぁ、出来ればイギリスとは日英同盟復活まで持っていきたい。ドイツとは技術協力協定か商取引き協定で抑えつつ、状況如何によっては工作するが…それは向こうの出方次第だから、柔軟に対応する」

 

 

「やれやれ…外交官を味方に付けないといかんな。しかし、あのイギリスが乗るかどうか……ん? 来客か、珍しいな?」

 

玄関から声が聞こえた為、松島宮はそう呟きつつ立ち上がり、滝崎は世界地図と将棋の駒を片付ける。

しばらくして、松島宮は訪問者と話しながら戻ってきた。

 

 

「滝崎、珍しい客人だ。吉田茂外交官がイギリス貴族を連れて来訪だ。えーと、名前は…」

 

松島宮が1番前に居る吉田茂外交官の背後の人物を見ながら滝崎に言った。

そして、その『イギリス貴族』を見た瞬間、滝崎はその人物の名前をやきもちまな松島宮が言う前に口走った。

 

 

「マールバラ公…チャーチル卿!」

 

 

 

暫くして……居間は外交交渉の場であるかの様な緊迫した空気か流れていた。

理由は簡単、チャーチル卿とテーブルを挟んで対峙する滝崎がいるからだ。

 

 

「ふむ…日本に対して変な事はやってないつもりだが…にしても、どうも、変わった感じの…不思議な若者だね」

 

たどたどしい日本語で滝崎を見ながら呟くチャーチル卿。

やはり、その破天荒な人生と政治家・軍人・記者・作家を兼ねる御仁だけあって人の見る目は違った。

そして、油断のならない御仁であるのだが……

 

 

「よくぞ気付いた、マールバラ公。こいつは私の好敵手で日本の切り札だ。 何故なら、歴史が見える奴だからな!」

 

そして、この緊張感をバラして飛ばす好敵手に滝崎はひっくり返る。

 

 

「はっはっは、殿下、御冗談が上手いですな。こんな年寄りを…」

 

 

「おや、貴公の噂は度々聞くぞ、マールバラ公。日本風に貴公を評価するなら…現役古狸親父と言うべきかな」

 

 

「殿下も口が達者ですな」

 

互いに談笑しながら話す松島宮とチャーチル卿。

その時、滝崎が松島宮の肩に手を置いた。

 

 

「おい、なに警戒される事をバラしてんだよ!?」

 

 

「滝崎、お前もマールバラ公を知ってるなら、下手に隠すのは不味いとわかっているだろう?」

 

 

「わかっとるわ。だがな、故に慎重になるべきであって…」

 

 

「では、殿下。少し私と賭けをしませんか?」

 

滝崎と松島宮の話に割って入るかの様に言うチャーチル卿。

それに松島宮はニヤリと笑う。

 

 

「内容は?」

 

 

「日本国内の混乱を収め、支那の情勢安定に協力する…期限は来年末で」

 

 

「支那の情勢安定と言う事は、国民党を助けろ、と言う事かな?」

 

 

「それはお任せします…出来ましたら、上級のコイーバ葉巻を1ダース」

 

 

「ふむ、煙草は吸わぬが、戦利品としては中々だな。立会人は吉田外交官でよいな」

 

 

「結構です」

 

……何故か外に追いやられている滝崎と吉田外交官は互いに顔を見合わせるしかなかった。

 

 

 

 

「まったく……あんな事を…」

 

 

「紹介の事なら、仕方無かろう。既に半分バレている様なものだったではないか」

 

チャーチル卿と吉田外交官が帰った後、そう言ってテーブルに突っ伏す滝崎に松島宮は言った。

なお、吉田外交官が舞鶴に来たのは山本本部長に滝崎の事を聞いたから。チャーチル卿が来たのは偶然に日本に来ていたから、舞鶴行きを誘ったところ付いて来た……との事だった。

 

 

「それもあるが、問題は賭けの一件だよ! 幾らやる予定があるとは言え、まだ青写真状態なんだよ!?」

 

 

「だが、 イギリスもそれを望んでいる、と言う事であろう? それに、お前の話だとチャーチル卿はイギリス上級貴族で最もアジアを知る人間。ならば、知己になっておいて損は無かろう。例え狸親父でもな」

 

 

「確かにそうだが…しかし…」

 

 

「それに、後々お前の存在がバレて、警戒・闇討ちされるのも面倒だ。逆にああ言った狸親父が知っているなら、向こうもお前を利用しようとするなり何なり考えるであろう? なら、それに乗れば良い話だ。ルーズベルト、スターリンに対抗するなら、チャーチル卿を味方に付けておかねば、どちらにしろ、対抗出来んのだからな」

 

 

「…君もけっこう、曲者になったね」

 

 

「お前と日常茶飯事でこんな会話を交わしていたら、少しは知恵が付いてくる。それに、チャーチル卿を驚かしておくのも一興だろう?」

 

松島宮の言いように滝崎は苦笑いを浮かべた。

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12 226始末と昭和天皇

一言……滝崎の語りは熱くて長い!


2月26日 帝都 宮城(皇居)内

 

 

 

「…………………ねぇ、これ、どう言う訳??」

 

 

「阿呆! 私もわからんわ!」

 

昭和最大の武力事件である226事件がある今日………なにもおきなかった。

それもそのはず、滝崎の告発を受けた東久邇宮殿下、前田侯爵、石原大佐が憲兵隊を使って捜査した結果、中心人物となる陸軍青年将校と民間協力者を事前に拘束した。

こうして、226事件は防がれた……のだが、高松宮殿下から呼び出しを受けた2人はこうして皇居に来ていた。

 

 

「呼ばれて来てみれば、いきなり皇居に連れて来られて……うん、わからん」

 

 

「まさか、陛下の身に何かあったか?」

 

「松島宮、それは冗談でもヤバい」

 

そんな会話を交わすうちに高松宮殿下が東久邇宮殿下と共に部屋に入ってきた…後ろから昭和天皇を連れて。

2人は慌てて立ち上がり、直立不動になる。

 

 

「よいよい、今回の一件で1番の功労者だからね。さあさあ、座りたまえ」

 

 

「「は、はい」」

 

今上天皇に勧められては応じる訳にはいかず、2人は座る。

 

 

「さて、松島宮徳正王…いや、徳子だね。様々な事情がありながらも若い身で軍務に就くこと、朕としてはとても誇りに思う」

 

 

「え、あ、い、いえ、皇籍の末席の末席の更に末席とは言え、皇国の為に軍籍に入るは慣わしですので」

 

 

「その事に関しても色々とあったであろう。だが、それにもめげず、皇家の役目を果たさんとする貴殿は誉れである」

 

ガチガチに固まりながら話す松島宮に昭和天皇は微笑みながら言うと滝崎の方をみた。

 

 

「そして、滝崎正郎君。君の事は先日、東久邇宮から今回の一件の報告で聞いた。君のお陰で永田少将をはじめ、多くの臣民、重臣達を救ってくれた事に礼を言いたい。ありがとう」

 

この時、滝崎は自らが日本人である事を再認識した。

あの昭和天皇に礼を述べられる…これ程、身を震わせる事はない。

しかし、故に言わねばならなかった。これがまだ小さな一歩でしかない事を…。

 

 

「陛下、感謝の御言葉、大変ありがたく感じております。しかし、これはまだ序の口です。ようやく、陸軍部内の内部闘争を収束させたにすぎません。ですが、これから、この日本に降り掛かる災いは一歩間違えれば取り返しのつかない破滅の道へ向かうものです」

 

 

「それは重々承知している。だからこそ、私にも聞かせてくれないかね? これからの日本が歩む道のりを」

 

昭和天皇の言葉に滝崎は頷くと語り始めた。

 

 

 

何度も著名な偉人に話した内容とは言え、流石の昭和天皇に話すとなると緊張の他にも混ざって、若干困った。

しかし、滝崎も予想していた通りの反応だった。

盧溝橋事件・第2次上海事変で始まった支那事変、それに伴うアメリカ・イギリスとの関係悪化、開戦からソロモン消耗戦までは静かに聞いていた。

だが、通州事件や末期戦の話になり、神風特攻やサイパン・沖縄での悲劇、本土空襲、原爆投下、敗戦と引き揚げの中での悲劇……これらの話では明らかに憤慨していた。

戦後になり、焼け野原からの復興とそこからの発展には素直に喜んでいた。しかし、話が冷戦とこれに絡んだ数度の安保闘争、そして、歴史・政治・外交問題になると再び憤慨、特に取り戻せぬ領土よりも国の骨幹とも言える奪還出来ぬ拉致被害者や東日本大震災の対応には怒りを抑えていたらしく握っていた拳が震えてさえいた。

全てを語り終わった時、滝崎が見た昭和天皇は明らかに憔悴しきっていた。

 

 

「……確かに我々の行動によって民には犠牲と破壊をもたらし、未来の子孫達には多大な迷惑を掛けた。無論、言い訳を言うつもりはない…だが、我々の行動は民族生存と子孫達の良き未来への歩みを守る為のものでもあったが……我々の行動は間違っていたかな…」

 

忠臣を殺され、自ら近衛師団を率いて鎮圧に乗り出そうとし、終戦では自らの身さえ捨てる覚悟で御聖断を下した昭和天皇とは思えない落胆ぶりに滝崎は思わず声を張り上げた。

 

 

「何をおっしゃいますか、陛下! この時代を生き、戦い、未来の為に自らを犠牲にする決断を下した貴方方に責任はありません! いえ、それどころか、民族の矜持を捨てず、奴隷の平和に甘んじず、真の自由と幸福、未来への戦いを果敢に挑んだ日本は70年経って尚も世界が賞賛しています。もし、責任があるのならば未来の子孫たる私を含めた自分達です!! 我々が貴方方の戦いを、決断を、犠牲を誇りに思わず、正当・冷静な評価を下さずに悪者の行為とその結果だと見捨て伝承を怠った結果が70年後の未来です!!」

 

……本人も気付かぬ内に立ち上がり、周りも忘れて熱弁を振るっていた。

 

 

「世界は日本の行動の正当性を知っていますし、そして、その結果、白人相手に人種戦争を挑み、世界情勢をひっくり返した日本の行動は世界が賞賛しています。アジア・アフリカ諸国は果敢に挑んで負けながらも有色人種の力を見せ付け、独立と地位向上に寄与した日本に感謝しています! 対して、自分達はどうか? 未だ『侵略戦争』の呪縛から逃れずに普通の国家の行動が取れない! 国民すら救えない! 先人である貴方方の犠牲を再び繰り返す事態が迫っているのに軍隊は使えない! 話し合いで解決出来ると無知蒙昧な事をほざき、自国民より他国民を優遇せよと馬鹿な事を言う! 政治家やマスコミが他国の手先になり、政権を取った挙句に国民を見捨てる! 貴方方の苦悩を、犠牲を忘れ、連合国から与えられたと勘違いした繁栄を享受しながら日本を嫌い、貴方方に文句を言う奴らを殴りたいと何度も思いました! そんな様相になっても未だ自分が日本を好きで誇りに思うのは貴方方がいたからです!! だからこそ、悲劇を防ぎたい! 歴史を変えたいんです!!」

 

そこまで言い切り、漸く気付いた……自分達のヒート振りに。

 

 

「も、も、も、申し訳ありませんでした!! 平にご容赦を!!」

 

素早く頭を床に付けて土下座する滝崎。

 

 

「わかった、わかった。お前の熱い想いはよーーーーーく理解出来たから少し黙ってろ…陛下、末席の私が言うのもなんですが、滝崎の言葉は本当です。身近にいるからこそ、この者の想いと行動は理解出来ます」

 

 

「いや、私も滝崎君の話を聞いて弱気になってしまった……問題はこれからだな。高松宮、東久邇宮、滝崎君をサポートし、この先の戦いに勝ってくれ。必要なら、私も出よう。先ずは支那での悲劇を防ぐ事だ!」

 

 

「「「「わかりました」」」」

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13 足掛かり(+おまけ)

お待たせして申し訳ありませんでした。

今回はリメイク版オリジナルのおまけを入れています。


5月18日、『史実通り』現役武官制度が承認・可決された。

しかし、それだけではなかった。これに加えさらに『統帥権政府委任案』と『陸海軍統合戦略会議案』が同時に可決,承認された。

もちろん、これは滝崎からの助言があったからだが、纏めたのは陸軍は永田少将や前田侯爵、海軍は山本航空本部長や堀少将滝崎が連日に渡って様々な角度から調整した物だ。

当初は現役武官制度を認める交換条件として承認してもらう方針であったが、予想通りと言うべきかどちらも陸海軍双方から激しい抵抗があった。特に統帥権問題に関しては当時の『不磨の大典』大日本帝國憲法に触れる問題であった為に議論を呼んだ。

しかし、これを聞いた昭和天皇は異例にも自ら陸海軍省に乗り込み、「前回の軍縮条約時の騒動や天皇機関説騒動、更に515事件や今回の223未遂事件(*)において常に統帥権が纏わりつき、結果は皇道派・統制派の闘争と流血事件であった。これは朕を含めた皆の問題である! 臣民を守るべき軍が統帥権問題で武力を臣民に向けるなどもっての他である!!」と一喝、更に「これを解決する為には『不磨の大典』と言えども時代によって変えねばならぬ時がある。もし、それに不満があるのであれば、朕自ら近衛師団を率いて応じる覚悟がある! 不満がある者は直ぐに退席せよ!」と言われ、反対派はなりを潜め、更に後の『昭和改憲』に繋がる事になった。

そして、『陸海軍統合戦略会議案』については双方の心情的嫌悪感からの問題であったのだが、これも「過去の日露戦役の辛勝は形は違うが、陸海軍の情報共有と意識統一の結果である。いま欧州の雲行きが怪しく、再び戦乱が巻き起こり、それが何らかの形でアジアへ飛び火し、その火を消し去る事が今の状態で可能なのか? 言っておくが、今度は血も涙も無い傍若無人なソ連が相手になるやもしれんのだぞ! 尼港の悲劇を再び繰り返すのか!?」と、これまた語気を激しく昭和天皇が問うた為、自然的に承認される事になった。

 

(*)……223未遂事件とは、226決起(史実の226事件)に向けた部隊配置、並びに決起文の作成などの最終会合が2月23日の夜に行われており、その会合に憲兵隊が突入し、軍民関係者を逮捕した事件。

決起が未遂に終わった為、未遂事件と命名された。

 

 

 

その頃 舞鶴 松島宮邸

 

 

「山下奉文少将の陸軍残留を東久邇宮殿下は決めかねている様だな」

 

東久邇宮殿下からの手紙を読んだ松島宮が滝崎の方を見て話題をふった。

 

 

「なら、返事はイエスだ。確かに山下少将は皇道派だが、その話は終わってるし、彼は有能な人間だ。それより、彼をイギリス・ドイツに派遣して色々と学ばせた方がいい」

 

 

「わかった、返事にそう書いておこう。あっ、叔父様から、溶接工法製作に最適な船舶の問い合わせがきているが?」

 

 

「うむ…そうだな、いきなり大型艦は不味いだろうし…」

 

 

「特型駆逐艦のどれか…ともいかんか?」

 

 

「それはそれで設計図を1から書き直す事になるからな。単純な構造で練習になる、大量生産品は……」

 

そう呟きながら、滝崎は持っていた鉛筆を回す。

そして、ふとその鉛筆が止まった。

 

 

「大型発動機艇…大発、上陸用舟艇なら条件に見合うな。次に二等輸送艦、その次に駆逐艦の設計を流用している一等輸送艦、そして、各種艦艇へ、と移行させたらいいな」

 

 

「わかった。それも返事に書いておくぞ」

 

そう言って松島宮はサラサラと返事を書いていく。

最近気付いたが、さすが皇族家の人間と言うべきか、松島宮は文才豊かである。よって返事は松島宮に任せている。

 

 

 

(おまけ)その頃………………

 

 

一機のスーパーマーリンS4レース用水上機が全速力で垂直上昇していた。

そして、高度3000で上昇を止め、水平飛行に切り替えた。

 

 

「…………狭いわね」

 

ゴーグルを掛けたまま、不満あり気に呟くパイロット。

 

 

「飛び飽きて狭くなったわ。もっと広い海と空はないの?」

 

なんとも贅沢な願いを呟くパイロットである。

 

 

「あっちは地上を走る物だからいいけど、私はもっと広い所を飛んでみたいわ」

 

 

 

これまたその頃…………………

 

 

 

「クシュッ! ん、誰か噂でもしたか?」

 

軍手にドライバーを持ってバイクを弄っていた人物が小さくくしゃみをして顔を上げた。

 

 

「……まさか、また、あのバカな親戚か? まったく、また暢気に空でも飛んでいるのか…」

 

そう呟くと此方もブツブツと呟きながらバイクを再び弄り始めた。

 

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14 陸軍三羽烏

皆さん、お待たせして申し訳ありませんでした。
今回は感想から出たリメイク版オリジナルです。
まあ、オリジナルでは作中の期間が随分空いていましたからね。
では、どうぞ。


6月18日 舞鶴 松島宮邸

 

 

舞鶴の松島宮邸に珍しく東久邇宮殿下が来訪した。

 

 

「やあ、元気そうだね。本当なら手紙でもよかったのかもしれないが、事が事なんで私が様子見を兼ねて来てしまったよ」

 

 

「わざわざすみません。それで要件とは?」

 

居間に通され、東久邇宮殿下の話を松島宮と共に聞く滝崎。

 

 

「うむ、君は小畑敏四郎中将を知ってるかな?」

 

 

「永田中将を筆頭とした『陸軍三羽烏』と『バーデン=バーデンの密約』の1人ですね。確か皇道派で永田中将とは対露・対支那路線の対立もあって疎遠になっていた筈ですが?」

 

 

「うむ、その小畑中将を中央に戻そうと思う。永田中将も三羽烏の1人、岡村寧次中将もこれには賛成している。どうやら、永田中将はこの機会に関係を修復したいと考えている様だしな」

 

 

「なるほど、対露路線への切り替えなら、小畑中将は是非とも必要ですね。ちなみに岡村中将はどちらに?」

 

 

「今は第2師団師団長だが、何れ支那方面に異動してもらうよ。それで、この案件について意見を聞きたいのだが?」

 

 

「殿下、幾度も申し上げていますが、確かに表向きは統制派主導で内部闘争を収めた形ですが、実態は統制派・皇道派の分解・再統一です。確かに過去の確執などで色々とありましたが、これから来る策略と陰謀、米ソ二大大国との戦いを勝ち抜くには過去の派閥を越えた各個の能力とそれを引き出す柔軟な組織運用が不可欠。皇道派などの過去はこれから来る災厄の前には取るに足らない事ですよ」

 

 

「…ふむ、やはり、君はそう言うか。いや、すまない。わかってはいたが、事が事だけにな」

 

 

「それは仕方無いでしょう。ですが、これは良い機会かも知れません。永田中将と小畑中将の関係修復が上手くいけば、元皇道派の不安感払拭にもなりますし、改めて陸軍内部統一統制のキッカケにもなりますから」

 

 

「うむ。そこでだ、君に小畑中将に会ってもらえないかな?」

 

 

「……えっ、自分がですか?」

 

 

「ふむ、未来を知るお主なら、小畑中将も納得させる事も出来よう。私も賛成だ。あっ、私も同行するからな」

 

東久邇宮殿下の言葉に滝崎が唖然とする中、今まで話に入れなかった松島宮が入ってきた。

 

 

「もちろん、松島宮殿下もご同行してもらいます。なにせ、名目上は貴女と小畑中将が会う事にしていますので」

 

 

「ふむふむ、それなら私も行かなければな。そうだろ、滝崎?」

 

 

「えっ、あっ、あぁ、そうだな……うん、そうだな……(あれ? なんで知らない内に話が進んでいるんだ?)」

 

勝手に話が進んでいる事に滝崎は心中で微妙なツッコミを入れていた。

 

 

7月6日 高知県 小畑中将の実家

 

 

 

「ふむ……君の未来の話は対ソ路線支持した者からすれば悪夢な結果だな」

 

松島宮・滝崎の来訪に快く応じた小畑敏四郎中将は滝崎の『未来』の話を聞いて頷きながら言った。

 

 

「しかし…まさか、支那国民党を使った支那共産党とソ連の絡め技と言うのは皮肉だな」

 

 

「国力の無い日本がリソース選択においてどれかに集中すると言うのは仕方の無い事です。しかし、後から見てみればどちらの主張も間違っていなかった、と言うのはザラにある事でしょう。まあ、未来から来た人間が言えば後知恵で語る傲慢と受け取れるでしょうけど」

 

 

「だが、事実は事実だ。しかも、その第一段階が迫りつつある。だから、君は伝を使って陸軍部内統一を図っているのだろう?」

 

 

「言い出しっぺが何も動いていませんがね。そして、何時までも派閥闘争の事を引き摺っていては、二大大国相手に裏表で互角に戦う事など不可能。しかも、負ければ取り返しもつかない一回勝負ですから」

 

自虐を挟みながら事情を語る滝崎。

そこへ唐突に松島宮が小畑中将に向かって口を開いた。

 

 

「小畑中将閣下、中将閣下が永田中将らと共に『バーデン=バーデンの密約』を交わしたのはそれが未来の為に陸軍を変えようとして行動したのならば、この者の言葉や行動は解る筈です。確かに此奴は言い出しっぺで動いていない。だが、動ける時には命を掛けるし、そもそも、未来の悲劇を知ってるからこそ動いている。先も言いましたが、このまま別個で対応したのでは最終的に日本は焦土化、臣民300万人、内100万人を超える民間人が空襲と実験の様な原爆投下などで屍の山を築く事になる。既にこの事は陛下もご存知の事です。もし、不満とあればこの松島宮徳正王が陛下に直接お聴き出来る様に取り計いますが…如何ですか?」

 

滝崎も唖然とする中、松島宮は小畑中将に対して挑戦とも取れる眼光で見る。

それに対して小畑中将は……

 

 

「……はっはっは、あの事を出されては私も何も言えません。しかし、国の未来が掛かるとなれば軍人である以上、協力しましょう。まずは永田と仲直りしなければなりませんな」

 

 

 

………暫く経ち、小畑中将はかつての盟友永田中将・岡村中将と会合を行い、此処に皇道派・統制派の正式な和解と『陸軍三羽烏』の再結成となった。

そして、陸軍内の統制が図られ、密かに対支那共産党・対ソ連を主眼とした方針が固められるのであった。

 

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15 西安事件 前編

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
今回は三作品を更新します。

本当は一話で纏めるつもりでしたが、やっぱり、前後編になりました。


5月19日……自動車製造事業法が否決される。

史実では国内製造啓発と国防の観点から国外資本を排除する形になった法律だが、『現代の日本の技術では信頼性と量産性が確保出来ない』との事で否決された。

代わりに後日『自動車製造提携法』が制定され、外国資本との積極的な取り込み・提携により、自動車製造・信頼性向上を目指す事となった。

 

 

11月25日……日独『技術提供』協定締結。

史実で『日独防共協定』が締結される筈であったが、態勢を立て直した陸軍、海軍、政府内で滝崎の主張を支持し『ドイツとは技術・通商関係に留める』との方針を取り、技術提供協定に限定した。

なお、これ以後はドイツとは通商関係の協議を続けたものの、滝崎の助言の通りに主眼はイギリスとの連携強化を水面下で進め、更に密かにフィンランド・トルコと接触を図っていった。

 

 

 

12月13日 夕刻 舞鶴 松島宮邸

 

 

「やっぱり、張学良はやりやがったか」

 

新聞紙面の『西安にて蒋介石が張学良に拘束される』との内容がデカデカと書かれた夕刊を見ながら呟いた。

史実同様、12日に発生した『西安事件』は上海に居た共同通信社の緊急電によって発覚、13日の夕刊には詳細な内容で記事にされ、日本でも報道されていた。

 

 

「これがそのまま進めば第二次国共合作、盧溝橋事件・通州事件・第二次上海事変、支那事変に発展する訳だな?」

 

 

「そして、日米開戦と敗戦、共産主義の台頭と冷戦、混迷の世界へ…だよ」

 

そう言いながら滝崎は歯痒い思いで奥歯を噛み締める。

言い出しっぺである自分が直接なにも出来ない事が歯痒いのである。

故に復活した『陸軍三羽烏』に全てを託すしかない。

ただ言える事はここで対応を誤れば史実同様に支那事変に嵌まり込む。

そして、支那の戦場で泥沼な戦いを強要された挙句、膨大な戦費と無駄な時間を消耗し、大東亜戦争に転がるのがオチだと言う事だ。

その歴史だけはなんとしても回避しなければならない……支那のデブ男とソ連の髭男、更にアメリカの異常者の思惑の為に日本人を犠牲にされては堪らない。

その上、自分達の悪行を日本に押し付ける様な奴らの為に戦争をやるなんぞ、水素爆弾を叩き込まれるぐらい嫌だ………反対なら喜んでやるが。

 

 

「上海での中山水兵射殺事件をもとより、出来る限りを尽くして邦人襲撃事件は寸前に防いだ。確かに心配にはなるが、今回も大丈夫だ」

 

 

「あぁ、わかってる……陸軍三羽烏なら大丈夫……だが、やっぱり、心配なんだよ……歴史を弄った後の反動とか…色々とさ」

 

その場にいないこその不安に滝崎は呟いた。

だが、これだけははっきりしていた。

 

 

「蒋介石は2週間後に妻の宋美齢の説得もあって、国共合作を受け入れて解放される。共産党幹部が来るのが17日……この機会を逃せば今までの邦人襲撃を防いだ意味がある無くなる。そして、そうなれば将来的に支那は共産党の天下だ」

 

真剣な表情で断言した。

 

 

 

12月17日 夕刻 陸軍参謀本部

 

 

 

「現地の機関員から報告です。『TM情報』通り、周恩来以下の支那共産党幹部の面々が到着したそうです」

 

 

石原莞爾大佐は現地に潜入させた特務機関員からの情報を報告した。

 

 

「やはり、滝崎君の話は間違ってなかったな」

 

 

「改めて言うまでもないが…彼は嘘を言う人間ではないよ。根は生真面目だ。ただ、敵には大嘘を吐くかもしれないがね」

 

大まかではあるがTM情報……滝崎君の未来情報……通りの動きに永田

中将と前田侯爵は素直な感想を述べる。

 

 

「皮肉で馬鹿な話だな」

 

 

「何がだ?」

 

小畑中将の呟きにに岡村中将が訊き返した。

 

 

「対支那か、対ソ連かで争っていた事がだ。考えてみれば支那共産党が出来た時点でソ連が裏工作をしていた事は当然だった。そこに支那かソ連かで方針対立をする必要は無かった。支那共産党を含めたソ連に対処する、と言う方針でいけば良かったのに馬鹿な遠回りをしてしまったものだ」

 

小畑中将の言葉に前田侯爵を含めた3人は苦い顔を浮かべる。

無論、それに至るまでに様々な経緯があったのは承知している。

しかし、反省してみれば『争う必要すらあったのか?』と思ってしまう。

 

 

「だからこそ、滝崎君の存在は天佑なのではないでしょうか?」

 

石原大佐が鋭く言った。

 

 

「彼はその話をする時『後知恵の傲慢』と言います。確かに詳細を後で知れば何とでも言えます。しかし、それは『彼の世界の話』です。彼の世界で流された多くの同胞の血を彼はこの世界でも流さん為に我々に話してくれた。ならば我々が出来るのはその犠牲と彼の信念と無念さを汲み取って報いる事です。更にこれは終わりではありません、始まりです。米ソの二大大国を相手に堂々と喧嘩を売り、更に歴史に喧嘩を売るのです。それは我々より彼の方が解っているでしょう。ですが、彼が未来の為に戦うと言うのですから、陛下も覚悟を決めた。ならば、次は我々が覚悟を決める番です。既に海軍さんは覚悟を決めています。なら、陸軍も覚悟を決めましょう。何故なら、我々には時間がないのですからな」

 

 

「石原大佐の言う通りだ……皆、覚悟を決めて作戦を始めよう」

 

前田侯爵の言葉に三羽烏も頷いた。

 

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16 西安事件 後編

長らく更新致さなかった事、すみませんでした!

リメイクなんで色々と変わってます。

そして、滝崎……。


支那 西安

 

日付が間も無く17日から18日に変わろうとする時、事は既におきていた。

稲作が終わり、野晒しの水田…もちろん、水など入れていない…に屈強な男達が落下傘降下した。

そして、手慣れた手付きで一緒に投下された物量筒を回収し、装備を整えると隊列を組んで歩き始めた。

そして、暫く行くと……目的の蒋介石が監禁されている屋敷が現れた。

寝ずの門番役である兵士達3人が隊列が見えた瞬間、誰何しようとしたが背後から忍びよっていた潜入工作員に口を塞がれ、喉を切られて始末された。

そして、潜入工作員3人は隊列の先頭にいた隊長に現状を二、三言告げ、隊長は隊列の部隊を屋敷に雪崩込ませた。

この不意を突かれた奇襲攻撃に張学良配下の部隊の対応は後手後手に回った。数日経過していた為に襲撃なんて有る筈ない、と思っていた兵士達は寝るか阿片を吸っており、大半の者が急な対応が出来なかった為に容易に崩れた。

ベルクマン系短機関銃と柄付き手榴弾で抵抗を排除、忽ち監禁されていた蒋介石を確保し、就寝中を襲撃されても激しく手足をばたつかせて抵抗する張学良には麻酔薬をタップリ注射し、身柄を拘束した。

そんな中、ある隊員がとある一室から人の気配を感じベルクマン短機関銃を一連射、更に駆け付けつてきた仲間と共に互いに手榴弾を部屋の中に投げ込んだ。

そして、ドアを蹴破り突入してみると、扉の近くに短機関銃の一連射を浴びて死んでいる死体、その奥のソファの後ろに手榴弾が原因で気絶している男を発見した。

この気絶している男、扉の近くで死んだ部下と共に休んでいた周恩来だった。

部下は爆発音に扉の隙間から様子を伺った為に銃撃を浴び、周恩来はソファの陰に隠れたが、投げ込まれた手榴弾により気絶してしまったのだ。

隊員は脈を確かめ、気絶しているのを確認すると周恩来の身柄を外に出した。

そして、暫くすると救出された蒋介石は確保された張学良の自動車に乗って一路近くの飛行場に向かっていた。

 

 

「君達は…日本軍かね?」

 

流暢な日本語で蒋介石は隣に座る機関員に訊いた。

 

 

「はい、今回の一件を不審に思った陛下の意により調査し、陛下に申し上げましたら、『同じ亜細亜の民として助けよ』との命が下りましたので、東久邇宮殿下から前田少将、陸軍三羽烏、石原大佐らの指示により、閣下を救出致しました。ですが、表向きは閣下のドイツ軍事顧問団とその育成兵による救出になっております」

 

機関員はニヤリと笑いながら答えた。

 

 

「なるほど、日本陸軍のトップ達に加え、今上陛下が居られのなら、安心だ」

 

蒋介石も安心した様に微笑んだ。

 

 

「閣下はこのまま戻って頂きます。後の片付けは我々がやりますので」

 

 

「うむ、わかった」

 

その後、蒋介石と張学良、ついでの周恩来に機関員を含めた襲撃部隊は蒋介石傘下のドイツ軍事顧問団ひきいる部隊が確保した飛行場に向かい、直ぐに全員が輸送機に乗り込むと空の人となった。

その10分後、海軍基地航空隊の96式陸攻隊が飛来、飛行場を爆撃し、証拠を綺麗に始末した。

 

 

 

南京に戻った蒋介石は直ぐに国民党臨時幹部会議を開き、自らの無事と共匪(支那共産党)討伐の続行を宣言し、混乱の収拾と方針の再統一を行なった。

また、張学良については背信と自らの拘束、更に共匪と繋がっていた事から地位の剥奪と身柄拘束・監禁の処分を下したのであった。

こうして、西安事件は蒋介石の帰還により幕を閉じた。

そして………支那共産党とコミンテルンの思惑は潰され、支那事変も阻止される事になる。

 

 

 

 

暫くして 京都市内

 

 

京都市内にあるとある料亭に滝崎、松島宮、更に前田公爵、石原莞爾、山本五十六、そして、拘束後、秘密裏に日本へ連行された周恩来がいた。

 

 

「まったく……まさか、日本が陸海軍合同でこの件に介入してくるとは予想外だった」

 

 

居並ぶ面々を前に日本へ留学経験のある周恩来は流暢な日本語で言った。

 

 

「なに、手を回したのは我々陸軍、最後の片付けを海軍がやっただけだ」

 

 

「だが、まさか国民党にまで話を通していたとはな」

 

 

「要らぬ疑いを掛けられない為にな」

 

 

「それに話の体裁上は国民党が自力で奪還した事になっている。我々は伝を使って手伝ったまでだ」

 

確かにそうだった。

陸軍は支那通の岡村中将他、汪兆銘ら支那国民党要人への伝を使い(軍・政共に日本への留学者が多かった為である)今回の作戦を実施したのである。

 

 

「それで、蒋介石に引き渡さずにこうして日本へ私を連れて来たのは何故かな?」

 

 

「蒋介石奪還が目的で、貴方に関してはついでみたいなものだったからね……どうする、滝崎君?」

 

そう言って石原大佐は滝崎に視線を向ける。

 

 

「さて…軍事素人の毛沢東にとって貴方は朱徳らと並ぶ共産軍の重鎮。既に死んだと思われていても不思議はありませんが…」

 

さすがの滝崎も偶々手に落ちた周恩来をどうするかは考えていなかった。

 

 

「日本陸軍がこんな若者に意見を求めるとは意外だが…言っておくが、私を利用しようと考えるだけ無駄だ。共産党にはソ連の助力があるのだぞ?」

 

 

「……それもそうですね」

 

そう言って滝崎は懐から14年式拳銃を取り出すと何の躊躇いも無く周恩来へと向けた。

 

 

「「「「「な!?」」」」

 

 

「た、滝崎!!」

 

驚く周恩来や前田公爵ら、更に止めるべく声を上げる松島宮。

 

 

「確かに貴方は要らない。それどころか支那共産党同様、害しかない。貴方によって幾人の洗脳者やシベリア抑留犠牲者が出たか、また、毛沢東がどれほどの民を殺したか、幾人の周辺国の民が苦しんだか、そんなのは『理想の実現』と言うものの前にはどうでもいい事でしょう。なら、既に死んでる事になってる貴方がここで死んだところで何も変わらない訳だ」

冷静に、しかし、何処か冷徹に淡々と言葉を述べる滝崎に周りは兎も角、こう言った場を何度もくぐり抜けた筈の周恩来は何故か言い表せない恐怖を感じていた。

 

 

「まあ、どれだけ言葉を積んでも意味は無いでしょう。実の弟、愛する義理の娘、かつての仲間や部下達の逮捕指令書に毛沢東の権力を示す為にサインする事になる事実を知る前に死ねば代わりの者が…」

 

 

「ちょっと待て! 娘が…孫維世(ソンイセイ)の逮捕命令にサインするとはどう言うことだ!?」

 

 

「貴方が国民党との内戦に勝って暫くしたのちの1960年代後半から70年代後半までの約10年の間、支那では『文化大革命』と言われる『破壊・殺戮』活動が行われました。そんな中、女優である貴方の養女孫維世は『反乱の疑い有り』として、『貴方のサインした』逮捕指令書によって逮捕・監禁・拷問死した。その背景には毛沢東の女癖の悪さ、更に妻で元女優の江青(コウセイ)の嫉妬となってますが…まあ、旦那も妻も死体の山を築きますから、屑には変わりないですな」

 

 

「…………まて、なんでそんな事を…しかも、未来の事を…」

 

 

「それはね、彼がさっき語った事の更に30年も後の世から来た『未来の人間』だからだよ。彼のお陰で西安や君らが計画している事はお見通しだったのさ」

 

周恩来の質問に答える山本五十六。

それに唖然とする周恩来だった。

 

 

 

暫く後の松島宮・滝崎の会話

 

 

「冷や冷やさせるな。まあ、確かに殺す気満々の目をしていたがな……まさか、本当に撃つ気だったのか?」

 

 

「初弾の装填はしてあったから、後は安全装置外して撃つだけだった」

 

 

「………恐ろしい奴め」

 

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。長らく更


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17 昭和12年の年初め

おはようございます。
本日、終戦記念日です。先ずは英霊に黙祷。



さて、年初めなのに10日経ってます。
また、作中の意見交換会で艦政(開発・設計)側からの出席者を(出来れば実在の方で)募集しています。
現場側は思い付くのですが、艦政の方がなかなか…。


なお、本日、新作を投稿予定。


昭和12(1937)年1月10日 舞鶴 松島宮邸

 

 

 

「あけましておめでとうございます、山本次官」

 

 

「あっはっはっは、正月三ヶ日どころか、10日も経過しているぞ」

 

 

「それは御容赦を」

 

 

「まったく、せっかく山本次官が来てくれたのにつまらん話をするな」

 

この日、山本次官が松島宮邸にやって来た。

新年の挨拶に来た…と言うのが理由である。

 

 

「やれやれ、幸か不幸か、新年の初めは何事も無く迎えられたよ」

 

 

「まあ、今年も今年で色々とありますからね、本来なら。ところで、国民党との交渉の方はどうですか?」

 

 

「うむ、イギリスが仲介を申し出た為かスムーズに進んでいるよ。どうやら、モーバラル公が負けを認めたようだな」

 

 

「滝崎から幾度も聞いたが、あの古大狸(ふるおおだぬき)公は読みと空気を掴むのは上手い。そうで無ければあの状態の英国を戦勝国に持っていくのはどだい無理な話だ」

 

西安事件後の国民党・日本との交渉について滝崎が訊くと山本次官が答え、松島宮が同調する。

 

 

「まったくだ。君の言う通り、日露戦役同様にイギリスがバックに就ているならヨーロッパからの圧力は減るし、心強い」

 

 

「現在のヨーロッパでアジアを含めた世界規模の情勢を拾えるのはイギリスだけです。そして、イギリス内でその情勢を冷静に分析出来る知識のある人物はモーバラル公のみ…と自分は考えます」

 

 

「うむ…おぉ、そうだ、話は変わるが、前に話してくれたミッドウェーの一件だが、堀と話して私なりに色々と考えてみたんだが、聞いてくれるかね?」

 

 

「小官でよければ」

 

そう言って滝崎は姿勢を正し、松島宮も正す。

 

 

「まずは君の言った通り慢心はあった。これは私も堀も認めるしかない事実だ。次に情報戦だ。アメリカの『飲料水が欠乏した』との電文でミッドウェーが見破られた。いや、そもそもそんな軍事機密事項が安易に入手出来た事を疑うべきだったし、更に言うなら珊瑚海で敵空母が2隻も出て来た時点で暗号が読まれている事に気付くべきだった…或いはその可能性を考えて対策すべきだった……いや、ドーリットル空襲の時点で何か気付くべきだったか」

 

 

「確かに…また、『後世・後知恵の高慢』と言われるかもしれませんが、ドーリットル空襲からミッドウェーまで負の一連の流れは不利な状況下のアメリカが僅かな優位を活かして自らの掌に日本を誘い出す為の方法だったと言っていいです」

 

 

「あぁ…そして、次は人事だ。確かに南雲君は人は悪くない…が、色んな背景があったにしろ、ジザや角田君を使うべきだった……その為に多聞丸を……」

 

 

「……山口少将の奥様、確か山本次官の御紹介でしたね」

 

山口多聞少将は同期・同輩・上司・部下の誰もが認める将官で、後に山本長官襲撃時にアメリカ側が『タモン・ヤマグチが戦死しているから、ヤマモトの後任に恐ろしい奴は出てこない』と言ったとの話が出てくる程だ。

 

 

「……皮肉な話ですが、人間は失敗しないと学べない生き物ですから」

 

 

「確かにな…ですが、未来からとは言え、我が方はその失敗の仕方と敵のやり口か解っているのは優位ではないのか?」

 

滝崎の言葉に松島宮が問うが、山本次官が首を横に振りながら否定した。

 

 

「殿下、それでもアメリカとは長期戦は戦えません。生産力や国力は向こうが遥かに上です。以前、正義君が話してくれましたが比喩とは言え、月一で軽空母、1日で駆逐艦、3時間で輸送船を作る国ですよ」

 

 

「よくネタに上がるけど、現代…こっちでは未来兵器になるけど、それらを持ってきて逆転する、って話を設定しても結局は補給や数の話で戻される、がオチになるんだよ」

 

 

「う、うぅ〜〜む……」

 

山本次官と滝崎の言葉に唸り声をあげる松島宮。

 

 

「兎にも角にも、人事を含めた問題は今から変えていくしかありません。開戦まで残り5年を切りましたからね」

 

 

「そうだな…おぉ、そうだ、今度、空母について艦政と艦隊…つまり、開発と現場で意見交換会をやろうと思う。ミッドウェーの件だけではないが、現場と開発の生の声を互いに聞いて活かして貰おうと思ってね」

 

 

「それはいいですね……で、実際ところは別の意図があるんでしょう?」

 

 

「まったく、君も読みが鋭いね。うむ、意見交換会は隠れ蓑で実際は君の話を現場と開発、双方に聞いてもらう。まあ、意見交換会である事には変わりない。君の話を聞いて、現場と開発がどう思い、どのような意見を持ち、ぶつけてくるか…私も堀も楽しみにしているよ」

 

 

「なるほど、双方が高塚の話を知っていてもいいし、更にその場で生の意見をぶつけるのは悪くないな。下手に時間差が出来るとややこしくなってしまう可能性もあるしな」

 

 

「……松島宮、山本次官、なんか、私の事を無視して、上でヤイヤイやってませんか?」

 

 

「そうかね? だが、君としても現場・開発、共に言いたい事もあるだろうし、互いの現状を知るのは君にとっても有難いだろう? まあ、いつか、航空機やその他分野でも『意見交換会』をやるがね」

 

 

「……まあ、別に構いませんが…」

 

 

「…なあ、いま思ったがそれを陸軍でもやって、更に陸海軍の意見交換会になって、更に省庁の話に引っ張られるんでないのか?」

 

 

「………………あっ……」

 

 

「……あっはっは、頑張りたまえ。あ、あと、これは先の話だが、卒業直後の遠洋航海の司令と艦長の1人は古賀峯一少将と宇垣纏大佐だった。どうかね、偶然とは言え面白いだろう?」

 

 

「……確かに面白いですね」

 

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18 討論会

お久し振り……なんて言えないぐらいの久しぶりの更新です。
終戦記念日ですので、此方を更新致します。

英霊の皆様、ありがとうございます。安らかに。



主力作品のここ数ヶ月の更新出来なかった理由はコロナを含む生活リズムの激変とスランプが原因です。

今回の話はオリジナルです。


2月6日 上大崎 海軍大学校兵棋演習室

 

この日、空母航空隊を中心とした海軍航空隊(基地・教育隊を含む)の各指揮官・参謀ら現場側、艦政本部を含む軍政機関側、オブザーバーとして中島知久平社長や堀越二郎をはじめとした航空技師・関係者が参加した意見交換会が行われていた。

そして、意見交換会は開始1時間もしない内に白熱したモノになっていた。

 

 

(…まあ、仕方ないと言えば仕方ないけどさ)

 

上座に座る松島宮の隣に控える形で椅子に座っており、ある意味第三者視点で意見交換…と言う名の議論を見る滝崎は内心で苦笑いを浮かべ、呟いた。

実際、主に空母航空隊関係者が『これからは全金属機が主力になるから、大型空母の量産だ!』と言えば艦政側は『大型空母は金と時間と物が掛かる! 良くて中型空母の量産が理想だ!』と返し、それを起点に互いの論争へと発展していた。

無論、これに関しては互いに正しい。

現場派の航空隊からすれば大型正規空母に多数の艦載機を搭載し、大兵力で攻撃すればいいのは子供でもわかる話だ。

対して、軍政派の艦政側からすれば、数が有れば強力なのは承知しているが、その数を揃えようとすれば大型正規空母は建造期間も消費する資材や金も膨大な為、小回りが利いて消費が抑えられる中型正規空母や適合する既存船舶の改造空母にしたいのも計算が得意な子供なら分かる話だ。

しかし、悲しかな、資源と国力が少ない日本においてはリソース選択が必要であって、『どっちかに決めないと成り立たない』のである。

 

 

(にしても、軍政代表の山本次官も、現場代表の堀司令も互いに言わせるだけで介入しないのは…まあ、先ずはガス抜きなんだろうな)

 

開始早々の激論も流れに任せる盟友な山本次官と堀司令。

そして、互いに言いたい事を吐き出し尽くした両者が一息吐いた時に山本次官が動いた。

 

 

「諸君らの貴重な意見は全て聞かせてもらった。無論、どちらの主張も一考の余地があるものばかりだ。しかし、少し視点が違う者の意見も聞いてみようじゃないか」

 

手を叩いてそう言うと山本次官はワザワザ滝崎の所までやって来てから、松島宮に一礼した。

 

 

「少しよろしいでしょうか?」

 

 

「構いません。お好きにお使い下さい」

 

ニヤリと笑う山本次官、ニコニコと笑う松島宮。

このやり取りに滝崎は内心苦笑いを浮かべる…なんだよ、裏で段取りしてました的なこの茶番劇の様なやり取りは。

 

 

「さて、ここに居る全員が初見であろうが、彼、滝崎正郎君は高松宮殿下の代理人である松島宮殿下の付き人となったいるが、それは事実でもあるが建前だ。彼が今から語るのは諸君らの意見に答え、更に諸君らに新たな悩みを生み出す事になるが拝聴してくれ」

 

最後にウィンクする山本次官とヤレヤレと言いたげな堀司令を見ながら滝崎は死刑台に立たされた感覚を覚えた。

 

 

「…ご紹介に上がりました、滝崎正郎です。これからお話する事は日本の運命を左右する事になりますので、冷静にお聞き下さい」

 

 

 

時間を掛けて全てを滝崎が語り…時々、感情的になった人間が居たが全てを知る山本次官や堀司令が制してくれた…終わった時、室内はまるで葬式の式場の様な重い沈黙の場になっていた。

そして、山本次官や堀司令、松島宮以外の人間の顔はある者は絶望感、ある者は魂が抜けた様に、またある者は顔を真っ青に、そして、またある者は反対に怒りで真っ赤にしていた。

 

 

(……これ、後で俺、殺されるんじゃあね? いや、予想は出来てたけどさ…)

 

長い沈黙と場の空気が空気だけに「やっちゃったか?」と滝崎が思わずにいられなかった時、隣に控える主人が立ち上がる。

 

 

「何を絶望しておるか! いま、ここに居る皆が次の大戦では現場や組織の中心になる者ばかり! 滝崎がこの場で話す事を我が許したのは皆に絶望を与える為では無い! 迫る悲劇と絶望を跳ね除け、問題点を解決し、日本が生き残る手段を考える為であるのだぞ!」

 

そう松島宮が一喝すると、オブザーバー陣の中から手が挙がった。

 

 

「松島宮殿下、発言してもよろしいでしょうか?」

 

 

「中島社長か。我に構わずともよいぞ」

 

手を挙げたのは中島知久平社長だった。

 

 

「では…滝崎君、軍艦にしろ、軍用機にしろ、そのアメリカの生産数を我々が超える事は可能と思うかな?」

 

 

「正直に申しますと無理です。航空機だけを取れば中島社長はご存知の通り、御社はアメリカ式のベルトコンベア式組み立てライン方式。例え他の航空会社の生産ラインを中島式に変えても、航空機の部品や組み立て、その手法確立に時間を取ります…そもそも、人も物資も工場の数も圧倒的過ぎますね」

 

 

「…ですな」

 

政治家でもあり、元海軍(機関科)士官だけあって中島社長は直ぐにそこが計算出来た様だ。

 

 

「ならば、次期海軍艦上戦闘機の一件はどうしますか? 海軍さんからの要求はある意味無茶が多過ぎます」

 

色々と溜め込んでいたであろう堀越技師が吐き出すかの様に言った。

 

 

「だが、長距離戦闘機は必要だ。どう転ぶにしろ、護衛も無しに陸攻を突っ込ませるなんて出来んぞ。話にも出たが、頑丈が売りのアメリカ重爆でさえ、護衛無しでの空襲は被害が多かった訳だしな」

 

 

「うむ、陸攻の搭乗員も数多の金と長い時間を使って育てた者ばかりだ。陸攻の防御力にも限界がある以上、長距離戦闘機は必須だ」

 

ここで現場である大西瀧治郎と教育隊の市丸利ノ助が発言した。

 

 

「だが、先の話によると、空母をどう守るんだ? 次期艦上戦闘機…零戦の初期型は急降下性能で四空母を守れなかった事になるぞ? 無論、空母にも各種装備は施すが…それも限界がある」

 

艦政側からも声が上がった。

 

 

「それに関しては面倒かもしれませんが、護衛機と迎撃機の二本立てにするしかないでしょう。しかも、早急に…滝崎君の話が本当ならば、5年後に本土空襲の練習、7年後には本番が控えています」

 

堀越技師が苦い顔で言った。

そこから先は現場・軍政、軍官・民間の垣根を踏み越えての本格的な論争の場になった。

 

 

「……やっぱり、ヤバい事になっちゃったな」

 

 

「何を他人行儀な事を言っておる。お前もあの渦中に行って知恵を貸してこい」

 

そう言って松島宮は無防備な滝崎の背中を押し、三者論争の渦中へと放り込む。

そして、放り込まれた滝崎は瞬く間にその論争の渦中に飲み込まれた。

 

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19 香港条約

長ーーーーく、お待たせして申し訳ありませんでした。
なお、今回も原作からのオリジナルです。


2月20日 香港

 

 

この日、イギリス領香港にて日本、並びに支那国民党政府をイギリスが仲介する形で『日支安全保障条約(別称 香港条約)』が締結された。

ただ『安全保障』と書いてはいるが、実質は『防共・対共』であるが、事情通は知った上での事とそこは露骨にしない。

無論、ここに至るまでの交渉は簡単ではなく、特に支那国民党側がごねる事もあったが、大英帝国特任大使のチャーチル卿の提言(脅し)により、以下の条件で締結された。

 

1 支那国民党政府は支配地域の治安維持に尽力する。

 

2 対峙した脅威対象が日本他諸外国の租界等を侵害する場合、日本政府は支那国民党政府を支援する。

 

3 満州帝国との安全保障条約の締結(支那国民党政府)と仲介(日本)を行う。

 

4 今回の条約において、片方が正当な理由なく不履行等を行った場合、仲介者たるイギリス政府は経済制裁を含めた制裁を行う。

 

 

5 本条約は基本1年毎の自動更新とするも、状況による追加・削除とそれに伴う両国間の交渉は常時行えるものとする。

 

以上

 

これらの事項に固まった条約は日本側が『義足の外交官』重光葵特認大使、中華国民党側が汪兆銘が特認大使として調印を行った。

 

 

 

調印後 香港総督府内一室

 

 

調印式の後、総督府の一室にて重光大使と前田侯爵、汪大使と蒋介石、チャーチル卿、そして、松島宮と滝崎がいた。

 

 

「いやいや、私の敗北だよ。約束通り、最高級コイーバ葉巻1ダースを贈りますよ」

 

何処か楽しそうにニコニコと微笑みながらチャーチル卿は松島宮に言った。

 

 

「うふふ、ありがとうございます」

 

そして、松島宮もニコニコと微笑みながら受けた。

 

 

「さて、重光大使を通じて、こうして会談の場を設けた理由をお聞かせ願いますかな? あぁ、もちろん、ご要望通り、盗聴機等は我が方を含めて一切ありませんよ」

 

賑やかに微笑みながらチャーチル卿は松島宮に訊いた。

 

 

「今回の件を含めて、チャーチル卿には大変お世話になりました。ですので、チャーチル卿や蒋介石閣下、汪大使、そして、関係者の皆様に大切なお話をする為にこの場をお借り致しました」

 

そう言って松島宮は隣に立つ滝崎の方に視線を向ける。

 

 

「チャーチル卿は御存知ですが、この滝崎正郎は私の侍従…と言うのは表の顔。これからお話する事があり、私の侍従として行動しています」

 

先程とは変わらないニコニコ笑顔の松島宮に対し、話を振られた滝崎は苦笑い顔。

 

 

「えー、チャーチル卿は御存知ではありますが、改めてご紹介に与りました、滝崎正郎です。先程言われました通り、松島宮殿下の侍従としてお側におります…痛い、痛いって、松島宮」

 

滝崎の挨拶は松島宮が滝崎の尻を数回軽く叩いた為に止まる。

 

 

「緊張もあるとは言え、そんな気長くなる挨拶は要らん。要件を始めろ」

 

松島宮の言葉に、やり取りを聞いていたチャーチル卿らはクスクスと笑い始める。

どうやら、場を和ませる為に松島宮はわざとやったようだ。

これに滝崎は苦笑をうかべながら話を始めた。

 

 

 

1時間後

 

 

「「「…………」」」

 

滝崎が出来る限りに纏めた『自分の世界』でのこの後の大戦と戦後の世界の説明が終わった後、チャーチル卿、蒋介石、汪兆銘の3人は黙ったままだった。

但し、反応は違う。蒋介石・汪兆銘は重く苦々しい表情ではあるが、チャーチル卿は納得しながらも思案する顔をしている。

 

 

「なるほど、この前会った時の君の表情はそう言う事か……しかし、そこまでの歴史や政治・技術等々の知識とその対策を生み出す思考能力があるなら、この大戦を利用し、日本が世界を征する様に動かす事も出来るのではないかね?」

 

思案が纏まったらしいチャーチル卿がニヤリと笑いながら滝崎に顔を向けて言った。

 

 

「まあ、不可能ではありませんね…ただ、私は戦争が終わって50年も後に生まれた人間です。世界征服を成した後のゴタゴタと戦後の趨勢を知れば日本に領土的植民地支配など継続する事は面倒としか…貴国のインド独立運動問題は御勘弁願いたい」

 

 

「なるほど、これは手厳しい返しだね」

 

滝崎の返答に自国の問題を指摘されたチャーチル卿は葉巻を吹かしながら苦笑いを浮かべる。

 

 

「ふむ、では、似た質問をするが、何故、我々に話したのかね? 無論、我々が後々の当事者である事が大きいとは解るが」

 

 

「そもそも、君の話ならば、私と閣下は袂を分かつ可能性もあるのだろう?」

 

チャーチル卿の質問に漸く話の糸口を見つけた蒋介石と汪兆銘が訊いてきた。

 

 

「まず、貴殿方が反共産主義者である事。そして、場合によっては妥協や次善策を取れる方である事です。また、汪兆銘大使にはこれからも日本側との接触も多くなり、イザとなれば蒋介石閣下の代理人となる可能性もありますから」

 

確かに西安事件は防げた。

しかし、第2、第3の西安事件が発生する可能性は否定出来ない。

支那共産党の後ろにソ連、また、アメリカの影があのだから、可能性は決して皆無…いや、反対に高い。

 

 

「更に言えば、この滝崎君は少し理想主義的なところがありましてな。日本の生存は勿論の事、犠牲者が減ってくれればいい、と考えているのですよ」

 

今まで黙っていたニコニコと笑いながら前田侯爵が言った。

 

 

 

 

その後、更に3時間も会談し、その長さから『何か密約があるのでは?』と報道陣から質問された面々だか、『松島宮殿下、前田侯爵との会話が盛り上がり、長引いてしまった』と答えるのみだった。

 

 

 

少し後

 

 

「蒋介石閣下、少しよろしいかな?」

 

 

「なんでしょう、チャーチル卿?」

 

会談後の報道陣の質問攻めを抜けた後、チャーチル卿は汪兆銘大使と共に帰ろうとする蒋介石に声を掛けた。

 

 

「要らぬ忠告と申しますか…決して、日本を、何より、あの滝崎君を敵に回さない様に」

 

 

「何を言われるのですか、チャーチル卿? 彼は我々にとっても有益な存在だ。害しようとする気は…」

 

とんでもない、と言わんばかり否定する蒋介石。

 

 

「それなら良いのですよ。ただ…これは私の見立てだが、彼の瞳の奥には制御された狂気がある様に見えたのでね」

 

 

「制御された…狂気、ですか?」

 

 

「まあ、彼も余り自覚は無いでしょうな。ただ、先程本人が言っていた通り、彼は愛国者で、この後の悲劇を防ぎたいと言う想いがある。故に敵になるぐらいなら、彼も収容はするでしょう……虐殺をやろうものなら、彼は理性と知識で制御していた狂気をその国家指導者に向けてもおかしくはありませんよ」

 

チャーチル卿の言葉に蒋介石は頷いた。

何故なら、『東京空襲』や『原爆投下』で彼の言葉と表情に『黒い物』を感じたからだ。

 

 

 

 

……後の『チャーチル卿回顧録』などでチャーチル卿は滝崎の事をこう書いている。

『聡明な好青年である彼を決して敵に回していけないと感じた。何故なら、彼の瞳には『制御された狂気』があったからだ。但し、勘違いしてはならない。彼の狂気は破壊衝動などではなく、『人間の尊厳を踏みにじった輩はそれ相応の報いを受けさせる』と言う、ある種の制裁罰的な狂気である』と。

 

 

 

次号へ

 

 




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20 遠洋航海

近日と言っておきながら、1ヶ月近くお待たせして申し訳ありませんでした。


6月10日 洋上 海防艦八雲 甲板

 

 

「う~~~ん……海だ~~」

 

 

「なんだ、その感想は?」

 

潮風を感じる滝崎の感想に松島宮はツッコミを入れる。

滝崎・松島宮は兵学校卒業に伴う訓練航海に参加し、海防艦八雲と磐手の2隻により、スエズ運河経由で地中海に行く予定であった。

 

 

「いやー、長期航海、しかも外国に行くなんて、前世でも体験してないからさ」

 

 

「ふむ、70年も未来、しかも、航空機技術が驚く程に発展していても、外国に行くと言うのは簡単な事ではないのか?」

 

 

「まあ、書類審査とかパスポートとか…後はお金とか、色々とあるしね」

 

 

「あぁ、確かにな……それなら、こうして機会を利用しようと?」

 

 

「うん。時代は違えど、他国を観れる機会だからね。興味もあるし」

 

 

「どう言う方向の『興味』かは置いておくとして、未来が変わる可能性があるなか、長く本土に居ないのは不味くないか?」

 

 

「確かに…だけど、居ないからと言って何も出来ない人達じゃあないよ。それに逆に僕の言葉に意識を向けすぎて、何か見落としをする可能性があるしね」

 

 

「ふーむ……それを言われると難しいものがあるな」

 

 

「あぁ…まあ、大丈夫だよ。それに一応、『置き手紙』も置いてあるしね」

 

 

「『置き手紙』な」

 

 

「そう、『置き手紙』をね」

 

 

 

 

その頃 海軍省 次官室

 

 

「やれやれ、彼も心配性だな」

 

執務室で滝崎の『置き手紙』を読んだ山本五十六次官は苦笑いを浮かべながら呟いた。

 

 

「大半が前々から言っていた事だから、ある意味念押しと言ったところかな? まあ、早めに取り掛かる方がいいのは解るが……ん?」

 

『置き手紙』の続き、『お願いリスト』と言っていい念押しの箇条書きとは別に様相が違う、長々しい文章が書かれた複数枚の用紙がある事に気付く。

 

 

「なになに…『対潜水艦哨戒、並びに同攻撃に対する一考』か。ふむ、なんだろうかな?」

 

滝崎から散々に『次の大戦』の様相の一つとして、アメリカ潜水艦による補給航路破壊とその影響を聞いていた山本次官としてもタイトルだけで興味を持ち、続けて読んでみる。

 

 

「……未来では『ヘリ(回転翼機)』による対潜水艦哨戒と攻撃を行うか…攻撃は無理かもしれないが、哨戒だけでも出来れば今の潜水艦の性能を考えれば、それだけでも随分と行動を制限できる…そして、今ならこの回転翼機はオートジャイロの事だな。ならば古巣に声を掛けねばならないし、早い方がいいか」

 

滝崎の言いたい事を理解した山本次官はウムウムと頷きながら、この件の答えを纏め、続きを読む。

 

 

「……耳が痛い話だが、これは重要だな。『彼の世界』で我々海軍の至らなさで陸軍が自衛する事になってしまった…だが、故に『迫撃砲による対潜水艦攻撃』を行った、と」

 

その文言に山本次官は椅子に背を預け、思考を纏める。

 

 

(今のところ、潜航中の潜水艦に対しては駆逐艦の艦尾の爆雷投下だけだ。後々には爆雷投射機も開発されるが……だが、曲がりなりにも『前方への対潜水艦攻撃手段』があるのは敵潜水艦に対して色んな意味で大きい。さっきのオートジャイロによる対潜哨戒と組み合わせれば面白いしな。例の『ヘッジホッグ』がまだまだ先の状態を考えると…そもそも、『ヘッジホッグ』も『対潜迫撃砲』と言われている様だしな)

 

脳内で呟きながら、思考を纏めると山本次官は電話へと手を伸ばす。

航空本部、更には迫撃砲の調達の為に陸軍に話を通さなければならないからだ。

 

 

 

 

同じ頃 陸軍省 軍務局長室

 

 

「ふむふむ、なるほど…オートジャイロと迫撃砲の事で山本次官あたりから連絡がきそうだな…….それと、戦車は当分チハを基礎に開発・設計か…なるほど」

 

此方も『置き手紙』を読んでいた永田軍務局長はウンウンと頷く。

 

 

「更にドイツを手本にして、『駆逐戦車』『対戦車自走砲』を開発し、強力な戦車に対抗する事か……対戦車に戦車と拘らず、2手3手と手札を揃えておくべきか……確かにな」

 

ノモンハンと独ソ戦を中心とした戦車開発の加速・発展ぶりを聞いている永田局長としても、『最善策』だけでなく『次善策』も提言している事に満足していた。

 

 

「今から新型を作っても間に合わん。ならば、今は既存の改良に務め、その経験を次の新型開発に活かすか……我々は海軍と違い、来年と再来年に事がおきる。急な現状変更は混乱を招く可能性がある。ならば、比較的混乱の少ない状況を選択し、新型開発などの目処が付くところで大規模に弄るか……なるほど」

 

そう言いながらウンウンと頷く。

 

 

(…日本で本格的な対戦車戦になるノモンハン。現場の奮戦を司令部や我々が無にしては意味はない。更に『無意味な現場幹部の処分』は人材を無駄にする行為だ。これからの我々には現場を経験した人間はどんな資源よりも重要過ぎる…やる事は多いな)

は人材を無駄にする行為だ。これからの我々には現場を経験した人間はどんな資源よりも重要過ぎる…やる事は多いな)

 

そんな事を考えている時、山本次官からの電話が鳴った。

 

 

 

暫くして  八雲艦内

 

 

「お呼び立てして申し訳ありません。ですが、殿下の付き人でありますので、こう言う形を取る他、ありませんでしたので…」

 

 

「気にしなくてもよろしいです、古賀中将。こうでもしないと、周りに怪しまれるのは承知の上です」

 

遠洋航海訓練艦隊司令の古賀峯一中将の詫びに対し、松島宮は答える。

呼び出しを受けた2人が入室すると、古賀中将の他に『黄金仮面』の渾名で有名な現八雲艦長の宇垣纒大佐も居た。

 

 

「君の事は山本次官や高松宮殿下から聞いているよ。もちろん、君の世界での『未来』も触り程度だが、聞いている。さあ、我々にも詳しい『未来』を話してくれないかね?」

 

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21 戦車開発

オリジナルより内容が濃い…気がする。


10月21日  陸軍省

 

 

卒業に伴う遠洋訓練航海から帰ってきた滝崎と松島宮。

帰国直後、滝崎は山本次官から『永田局長からの要請があった』と言う事で陸軍省へ向かった。

そして、いま、永田局長が集めた面々に対して『未来』の話をしているのだが……

 

 

(……いつも事だけど、これ、大丈夫かな…)

 

永田局長の召集で集まった戦車開発陣と運用陣は滝崎の話を聞いて苦い顔、真っ赤な顔、頭を抱える者が大半で静かに腕を組んでいる者は2人しかいない。

 

 

「…チハの生産を取り止め、新型の開発に尽力すべきではないか?」

 

 

「何を言う? 既に上層部からはチハの量産許可が降りているんだぞ?」

 

 

「ではなにか? 米軍の『軽戦車』とも戦えない中戦車に乗せて、人員を損耗させろと? ふざけるな! 熟練者こそ、これから様々な場面で必要と彼も言ったではないか!」

 

 

「そうは言っていない! だが、今から新型を作って、何時に現場に引き渡せる? 米軍との戦闘には時間があるが、あと1年や2年で新型を配備するなんて期間的に無茶があるぞ!」

 

 

「いっそのこと、ドイツ戦車を購入するか、生産…」

 

 

「交換部品や燃料はどうする!? 規格違いで補給と生産が混乱するぞ!」

 

 

「待て待て。そのドイツが大戦を始めるんだぞ? しかも、彼の話では戦車不足で後のフランス戦でも戦車を鹵獲する事に熱心だったドイツが完成品を引き渡すか怪しいぞ!」

 

 

「じゃあ、アメリカから軽戦車を購入するか? また、『日本最強の戦車はアメリカの軽戦車だ』と言われるか?」

 

 

「敵対するアメリカが売る訳ないだろう!」

 

お通夜状態から一変し、白熱な議論モードに突入した開発陣と運用陣に滝崎は苦笑いをうかべながら困惑する。

すると、腕を組んでいた佐官の1人がわざとらしくゴホンと咳をする。

 

 

「落ち着きたまえ。確かに先程の話を聞いて検討すべき事や問題があるのはわかる。だが、解決を急いても、中身をしっかり検証しなければ、解決するものもしないぞ」

 

開発陣の長にして、戦後創立された陸上自衛隊の戦車開発にも関わった原乙未生(はらとみお)中佐の言葉に白熱した議論が止んだ。

 

 

「それにだ、彼の話を分析すれば、こちらより高性能な米軍戦車を相手に戦術や運用で対抗し、互角に戦っている。敗戦を聞いて自虐になるのは仕方ないが、その中でも汲み取れる部分を探すのも我々の務めだ」

 

そう言ったのはもう1人の静かに腕を組んで聞いていた運用陣の重見伊三雄(しげみいさお)中佐。

 

 

「まずはだ…滝崎君、ここまで解っていて、更に永田局長にすら所属を越えて頼りにされてる君がなぜ、『チハの量産に口を出さなかった』のかね?」

 

原中佐の問いに開発・運用双方の人間がハッとなりながら、視線を滝崎に向ける。

 

 

「私見と言う事で言いますと、名実共に現段階の日本の実情にあった戦車だからです。下手に手を加えなくても生産・補給体制が構築され、発展性も申し分ない。逆に手を加えて段取りを乱す方が問題になります」

 

 

「ふむ、なるほど。では、君が先ほど言った発展性はどうかね? 今までの話なら、チハは軽戦車に負けているが?」

 

 

「確かにそうです。ですが、フィリピン戦では42年に入って47㎜速射砲に装換した『チハ改』を実地試験の名目で投入しています。実際、研究開発では欧米諸国に劣らないどころか、勝る物を作ってはいます。問題はそれを現場運用・量産に持っていくまでに時間が掛かってしまう事、そして、戦車開発のみならず、戦争に関わる技術全ての進化速度が予想以上に早くなる事、です」

 

 

「なるほど。その黒板に描いた戦車も、進化速度の影響だと?」

 

なお、黒板には滝崎が描いたタイガーⅡ、シャーマン、T-34/85が描かれている。(上手くはないが)

 

 

「はい。タイガーⅡに関して言えば、41年のドイツのソ連侵攻後に設計しておりますが、当時のドイツが持ちうる技術を集めて作られいます。まあ、最大の難点は重量であり、運用には苦労していますし、ドイツ敗戦で短命でした。逆にシャーマンやT-34はその発展性もあり、戦後長く使われています。特にT-34は21世紀になってもアフリカやアジアで稼働している、と言われております」

 

世紀を越えて使用されている事に別の意味でざわめきがおきる。

 

 

「そして、それらの事情を踏まえて、チハが戦えると言うのだね?」

 

 

「『それしかなかった』と言え、チハとその系列は75㎜戦車砲を搭載できる発展余地があります。また、我が国の生産設備の能力上、多種類の車体を作る余裕はありません。後付けでもありますが、砲塔口径と付属装備、設計目的で三号と四号の二本立てにするのは日本ではあいません」

 

滝崎の話を聞いて、原中佐と重見中佐はウンウンと頷く。

 

 

「理屈、理論の証明はともかく、筋としては解る。そうなると、新型開発や既存の改良での問題はエンジンと重量や寸法の制限だが…」

 

 

「重量と寸法に関しては緩和出来る。海軍が滝崎君の助言を聞いて『車輌揚陸艦』を設計・建造している。自走での積載・揚陸が可能となるだろう」

 

原中佐の発見に静観していた永田局長が言った。

 

 

「なるほど…滝崎君なりにお膳立てをしてくれたのならば、我々もやるしかありませんな」

 

重見中佐がニヤリとしながら言った。

 

 

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22 次官付き士官

お久し振りのこちらの更新になります。
りっく・じあーすの方はウクライナ情勢の兼ね合いもありますので、暫くは更新を控えさせていただきます。

なお、次号から作品のタグに艦これが追加されます。

では、どうぞ。


11月2日 海軍省 海軍次官室

 

 

この日、滝崎と松島宮は前日1日に『海軍次官付き士官』の辞令を受け取り、翌日こうして海軍次官室に来ていた。

 

 

 

「これで君達も動き易いだろう?」

 

 

「『皇族付き侍従』よりかは……痛い、痛い、痛いからやめて」

 

ニコニコと言う山本次官にそう返答し、松島宮に脚を軽く蹴られる滝崎。

 

 

「ふん、動き難いからそうしたのに、そう言われたら、こうしても罰は当たるまい」

 

 

「あっはっは、ペアが板についたな。そうそう、先日の戦車開発の件で永田局長が礼を言っていたよ。それと『小型汎用装軌輸送車』購入の陸海軍共同購入の打診があったから、話を進めておくよ」

 

 

「あっ、はい。わかりました」

 

 

「まーた、私が知らないところで悪さをしていたのか?」

 

 

「悪さは…いや、だから、痛いから。地味に痛いからやめて」

 

自分が知らないところで事を動かしていたことに松島宮はぺちぺちと地味に痛い足蹴を再び滝崎にやる。

 

 

「いやいや、微笑ましいかぎりだ。さて、早速だが、君達には呉の戦艦『加賀』に行ってもらう。ジザ…小澤治三郎に機動艦隊を率いてもらう予定なんでな。いま、彼には編成やら艦隊行動やら…作戦行動の計画をさせているんだ」

 

 

「その計画立案の助言をしてこい、と? 山本次官、自分は…」

 

 

「『後知恵語りの素人』と言いたいのだろう? 確かにベテラン古参や玄人には『経験』では勝てんだろう。だが、『発想』に素人と玄人、新参と古参、新人とベテラン、なんてのは関係ない。要は多様な視点からの意見だ。まさか、急場の戦場でそんな議論をさせる事がどれだけ愚かしいか…君は戦場の怖さを素人なりに知ってると思うが?」

 

 

「…………」

 

山本五十六の言い様に滝崎は参る。

その言い様こそが『ベテラン』であるが故だと。

 

 

「まあ、戦場で急に出来るかどうか議論するより、平常時に議論していた方が大事にはならんだろう。平常時なら『失敗』の一言で済むが……まあ、これ以上は滝崎も知ってるから、言わんでおくが」

 

 

「松島宮、君、僕の退路を断ってないか?」

 

 

「ほお、退却も考えていたとは、さすが滝崎だ。なら、助言を出す事など容易いよな?」

 

 

最近、組んで自分の事を玩具に遊んでいるのないかと密かに思う滝崎。

 

 

「ジザには事前に話してある。と言っても、防諜の観点から、大雑把にしか話してないがね。と言う事で、こいつを持って行ってくれ」

 

 

そう言って山本次官は日本酒の一升瓶と手紙を取り出す。

 

 

「酒は彼奴への気付け薬だ。まあ、君には言わんでも解るだろう?」

 

 

 

「あはは……まあ、はい」

 

そう、小澤治三郎はアル中で、またヘビースモーカーなのである。

 

 

 

 

11月4日 1630 呉軍港 加賀艦内

 

鉄道移動により、呉へとやって来た2人。

移動と休息に1日置いた後、昼食を挟んで協議を行っていた。

 

 

 

「つまり、終戦間際のアメリカ機動艦隊も決して無敵ではなかった、と?」

 

 

「珊瑚海から南太平洋まで、血で血を洗う空母対決を繰り広げ、その集大成なマリアナで完勝したかにみたアメリカ機動艦隊でしたが、難攻であれど、隙を突かれては決して不落ではありませんでした。確かに特攻は戦術としては愚劣です。しかし、その中でも汲み取った戦訓を活かし、成功率を上げた。決して、無謀無策で突っ込ませた訳ではない……そこは評価すべきです」

 

質問に対して答える滝崎。

しかし、後半には苦渋に充ちた表情で、硬く握った右手拳を震わせながら答えた。

 

 

「……ふむ、アメリカの付け入る隙か…君は何処だと見る?」

 

 

「そうですね……これは誰しも言える事ですが、ハイテクを過信するあまり、アナログを疎かにする傾向がもっともかと」

 

 

「……ハイテク…アナログ…う、うむ、なんとなく解る」

 

 

「滝崎、お前の世界の横文字を出しても解らん。えーと、この場合は温故知新の故事が適切かと…最新技術を盲信し、既存技術を疎かにしている事が多い、との事かと」

 

小澤少将の言葉と表情と言葉に松島宮がフォローを入れる。

 

 

「なるほどな。まあ、我々も暗号の件で人の事は言えんが…うむ、やはり君は、山本さんが言った通り、優秀だな」

 

 

「小澤ちょ…じゃなかった、小澤少将、自分は…」

 

 

「はっはっは、誉め言葉に過剰反応し過ぎだよ。さて、昼を挟んで随分議論したな。夕食まで一息入れよう」

 

そう言って小澤少将はヤカンのお茶を注いで2人に渡す。

 

 

「にしても、君の話を聞けば聞く程、アメリカと言う国家にも十分付け入る隙があると思えてくるね。無論、山本さんの言う国力は強大だが…特に大戦後の戦争や紛争で見せるアメリカの失態ぶりは少し考える物があるがね」

 

 

「あくまでも私見ですが…第二次大戦で我々日本やドイツを倒すのに総力を傾注したが為の燃え尽き症候群…つまり、腑抜けたり、見下す様になり、更に技術的、国力的に自国が圧倒的な為、そう言った傲りから生まれる心理的な隙な積み重ねが、『無敵国家アメリカ』を無敵にならない要因になっているかと……すみません、この類いの話はなかなか言葉では説明しにくい事なので…」

 

 

「いやいや、武道をやっている人間が聞けば、君の言いたい事は解るよ。だが、ふむ……そこを上手く突けば、やれん事はないな」

 

 

「滝崎、そう言った事を助言するのはよいが、私への助言もしてくれるんだろうな? んー??」

 

 

「あはは、だから、つねらないで、地味…以上に痛いから」

 

ニコニコと微笑みながら、陰で滝崎をつねる松島宮。

 

 

「ところで、君の世界とこの世界の海軍戦力を見て、君はどう思っているのかね? 忌憚のない意見を聞かせてくれ」

 

 

「そう、ですね……空母の数は同じですが、40センチ搭載艦の加賀、土佐があるのは大きいですね。長門、陸奥と合わせて4隻、対して、41年12月時点でアメリカ側のロクに動ける40センチ艦はコロラド型の3隻、しかも、ネームシップのコロラドは西海岸。このまま艦隊決戦に持ち込めば、へまをしなければ空母、戦艦の主要戦力を無傷で撃滅する事が可能でしょう。まあ、夢物語にも等しい話ですがね」

 

 

「そう言うものか? お前の知ってる向こうの弱点を組み合わせて、その夢物語をやれそうだが?」

 

 

「『机上の空論』と言う言葉があるんだよ? いくら此方側の人間が上手くやったって、向こうは漫画の悪役でもなければ、芝居の斬られ役でもない。『窮鼠猫を噛む』の諺通り、生き残る為、或いは守る為に……神風特別攻撃隊員の様な気で来られたら、色んな事が事前の計画通りに行く訳ないし、下手をすれば、勝敗すらひっくり返される可能性だってあるんだからさ」

 

 

「そうだな。先程のアメリカが無敵に等しいにも関わらず、ゲリラ相手に苦戦するのも、結局は人が動く所以であるからな……現在建造中のノースカロライナ型、サウスダコタ型が動けるのはもう少し先になるかね?」

 

 

「ノースカロライナ・サウスダコタ型の完成が41年以降です。ですが、慣熟訓練がありますので、直ぐに投入とはいかないでしょう。サウスダコタ型3番艦マサチューセッツが42年後半に未完成のフランス戦艦と撃ち合いをしていますが…それ以外の戦艦は作戦参加はあっても、実戦経験無しに太平洋戦線へ参加する事になります。41年12月前後の開戦であれば、出せる新型はノースカロライナ型のみとなりますが……動けて射てれば合格、と言ったどころかと思います」

 

 

「君の予想は『出来たばかりで乗組員が慣れていない新鋭艦より、使い慣れた古参艦が有利』と言ったところかね?」

 

 

「『どんな良い物でも、扱う人間がダメならガラクタになる』。昔からある事は億の時間が経っても変わりません」

 

それを聞いて小澤少将はニヤリと笑う。

大戦後期、特に航空戦で被害が増大した理由はベテランパイロットが不足し、若手パイロットが彼らのフォローを受けれなかった事。

機体の古い・新しいは関係なく、その性能や特性、状況を把握・活用しなければ、どんな最強機体に乗せても、格下の機体に撃墜されるのだ。本来ならば。

 

 

「じゃあ、少し話は変わるが、君は物の怪の類いを信じるかね?」

 

 

「『物の怪の類い』ですか? 見たことはありませんが…ですが、『名匠の造りし物には命が宿る』は日本人には普通では? まあ、擬人化は何処の世界にもある様ですけども」

 

 

 

「ん? ギジンカ? 擬人化?」

 

 

「なるほど、なるほど……なら、今夜、また来たまえ。君や、殿下の為になるだろう。さて、飯の時間だ」

 

そう言って小澤少将は切り上げた。

 

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23 船の乙女

と言う訳です。
あくまでも私見ですが、『船霊・艦魂=艦娘』ではないかと思っています。
故に好き嫌いの話とは言え、『艦これ』や『アズレン』等を邪見にする気は毛頭ありません。(実際、両方で提督してるし)

なお、次号はとある有名人が出ます。


夜 戦艦加賀艦内 小澤少将私室

 

 

小澤少将の誘いに応じ、滝崎と松島宮は小澤少将の私室前に来ていた。

 

「小澤少将、松島宮と滝崎、参りました」

 

 

「おぉ、構わん、構わん。入れ入れ」

 

滝崎の声掛けに中の小澤少将から入る様に促される。

ただ……

 

 

「なあ、滝崎。明らかに私達以外に呼ばれた者が複数いる様子だが?」

 

 

「うん、話し声がするしね。しかも、ほぼ全員、女性の声ぽいね」

 

促されても入りにくい理由。

それは他に人がいる事よりも、『居ない筈の女性の方々』がいる事。

 

 

「……艦外から芸者を呼んだ…訳ないよな?」

 

 

「乗艦させた時点で一騒動だよ。まあ、いつまでも入らない、は失礼だし、入るとしよう……不安だけど」

 

流石に『入らない』と言う選択肢は無いため、滝崎と松島宮はドアを開ける。

すると………

 

 

「どうだ、霧島。今度の演習の下地だが…」

 

 

「えーと…長門さん、基本はこれでよいと思います。ですが…」

 

 

「長門、こっちの案件の事だけど…」

 

見知らぬ3人の『女性』が滝崎達の事などそ知らん顔で目の前の『案件』に掛かりきっていた。

 

 

「その様子だと、ハッキリ見えても聞こえている様だな」

 

前回持って来た日本酒を片手に小澤少将が言った。

 

 

「え、あ、はい。バッチリ、ハッキリくっきりと」

 

 

「その様子ですと、殿下も見えているご様子…いやいや、すまんすまん。試すような事をしたな」

 

 

「いえ、今更な気もしますし…ところで、彼女達はいったい…?」

 

こちらの事など気にもせず、先程と同様、何かの案件を議論している『彼女達』を横目に見ながら滝崎は気になっている事を訊いた。

 

 

「うむ、まあ、君ぐらいなら話は聞いた事はあるだろう? 船霊(船魂・ふなだま)と言う存在は?」

 

その言葉に全てを察した滝崎は慌てる。

 

 

「あ、いえ、確かに話ぐらいは…しかし、前世でも、今までも見えては……」

 

 

「さあ、私もそこまでは解らんよ。多分、神職や坊さんが扱う領分だろう……だが、君の場合は日本を思う心が、何かしらを引き寄せたのではないかな?」

 

 

「なるほど……松島宮が見えるのは…なんか解る」

 

 

「えっ、なんで?」

 

 

「女性で皇族だから」

 

 

「ふむ、なるほど。納得だ」

 

 

「……なぜ、微妙な気持ちになるんだ?」

 

自分だけ見えた理由が簡単な事に微妙な表情を浮かべる松島宮。

そんな中、小澤少将の隣に道着姿の『女性』が現れた。

 

 

「小澤少将、酒の肴の件ですが…失礼しました。後で…」

 

 

「おう、加賀か。別に気にするな。それより、何度か話した2人だ。しっかりとお前達が見えてるぞ」

 

小澤少将の言葉に『加賀』と呼ばれた女性は此方が『見えてる』事に気付いたらしく、そのクールな表情は崩さないながらも、素早く敬礼をする。

 

 

「失礼しました。加賀型戦艦一番艦、兼ねて第一艦隊旗艦『加賀』の加賀です」

 

 

「はっはっは、まあ、少し硬い奴ではあるが、優秀だ。互いに肩を並べて戦う事になるだろうからな。喧嘩なんてせんでくれ」

 

小澤少将の言葉に苦笑いを浮かべて頷く2人に対し、加賀は『戦う事になる』と言う言葉に反応する。

 

 

 

「やっぱり…最近、戦闘を意識した演習が多いと思ったら」

 

 

「おいおい、言葉の綾だ。そう過剰に捉えんでくれ」

 

 

「本当ですか? どうも、そうは思えませんが…第一航空戦隊との合同演習はともかく、年末に配備される新型空母が所属する予定の第二航空戦隊との演習も予定していると聞きましたけど?」

 

 

「そりゃあ、そうじゃあないか。本格的な正規空母だから、天城達と違う事もある訳で…」

 

いつの間にか加賀に対する小澤少将の釈明になりつつある状況に何とも言えない2人。

そして、そんな状況にも関わらず、例の3人は此方をフル無視で案件の検討にご熱心だった。

 

 

 

 

「御二人に関しては小澤少将から予々…天城さんの所にいらっしゃったとか」

 

小澤少将の釈明が終わったと同時に例の3人との打ち合わせに入ってしまった為、2人の相手を加賀がしていた。

 

 

「山本次官の紹介で堀司令へ会いにです」

 

 

「そうですか……先日、次官付きを拝命したそうですが、その割には、特に最近、御二人のお名前をよく聞く気がするわね」

 

 

「「あはは、なんでだろうね~?」」

 

苦笑いタップリなハモり発言しか出ない。

 

 

「それに、扶桑さん達の改装も第四艦隊の一件からだけど…その頃から、御二人のお名前を聞く様になった気が…でも、御二人はまだ兵学校生ですから…」

 

 

「「さぁ~~??」」

 

思いっきり介入している(滝崎がだが)のだが、誤魔化しになっているかも怪しい誤魔化しで話を流す2人。

 

 

「じゃあ、これで頼む。ふう…加賀、待たせてすまんな。肴の件だが、頼む」

 

 

「わかりました。一旦、失礼します」

 

打ち合わせが終わった小澤少将の頼みを聞いた加賀がそう言って消えた。

 

 

「すまんな。旗艦ともなれば、自然に耳が良くなるからな」

 

 

「いえいえ、大丈夫です。それにしても、小澤少将が見えたと言う事は…」

 

 

「まあ、察しの通りだ。それに、今回は山本さんに会わせてやってくれと言われたからな……さあ、そんな話は無しだ。加賀が戻って来たら、肴を摘まもうじゃないか」

 

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24 忠臣者

今回はリメイク版オリジナルです。
(まあ、人物自体は旧作でも一回ですが、出たんですよね)
そろそろ、人物の再評価が必要かと。



11月15日 1800 東京 とある料亭

 

 

 

「君の噂はよく聞いてるよ。あちこちで随分と動き回っている様だね」

 

開口一番に非友好気味な言葉を発言しつつ、ジロリと眼鏡越しにその眼光で睨むその人物を散々『写真』で見て、更にその人物の一端を知る滝崎でさえも内心びびらざるおえない。

 

 

「陸軍には御迷惑をお掛けしない様に努めておりますが…私も人ですので、配慮が足りない部分があるのは謝罪します。東條閣下」

 

そう言って、今回山本次官を通じて会談を申し出てきた本人、対峙する東條英機中将(現関東軍参謀長)に謝罪する。

 

 

「あぁ、ハッキリ言って迷惑しとるよ。海軍軍人の癖に陸軍の事にまで口を出しているからな。更に言うなら、末席とは言え、皇族である松島宮殿下を誑かしている様に見えてる事もな」

 

『カミソリ東條』の渾名通りにスッパリと言い切る東條中将。

色々と刺々しい言葉に滝崎は苦笑いを浮かべ、隣に居る松島宮は怒っていいのか解らず微妙な表情を浮かべる。

 

 

「…だが、永田閣下を救い、更に陸軍のゴタゴタを鎮めてくれたのは事実だ。当事者の1人として礼を述べたい」

 

そう言って頭を下げる東條中将。

 

 

「東條閣下、自分は『歴史改変』の為に行動したまでで、それも完成した訳ではありません。頭を下げて頂く段階では…」

 

 

「そう、今回、こうして会ったのはその真意を問うためだ」

 

下げていた頭を上げる、メモ帳を開きながら言った。

 

 

「君の世界でのこれからは永田閣下から聞いている。もちろん、内容から見ても由々しき事態だ……先に断っておくが、私は戦犯として裁かれる事に関してはどうこう言うつもりはない。アメリカやソ連の暗躍があったとは言え、陛下のご意志に添えず、日米開戦に至った時点で、その謗りを受け、後ろ指を指されるのは覚悟の上だ」

 

そう力強く言った直後、少し目を伏せ、物悲しげな表情になる。

 

 

「だが、だ…陛下を御守りする為に被った汚名が数十年先の未来で足枷になるのは容認できん」

 

その言葉の後、暫く沈黙の間が流れる。

それを変えたのは滝崎だった。

 

 

「閣下にはご息女が居られましたよね?」

 

 

「あぁ…それが?」

 

 

「戦犯だ、敗戦国だの前提は無しとして話ます。もし、年端のいかないご息女が外国に拉致された場合…それを閣下は容認出来ますか?」

 

明らかに地雷的な発言に松島宮は戸惑いの表情を浮かべながら、ぎこちなく東條中将の方に視線を向ける。

もちろん、先程とは比較にならない眼光でギロリと睨み、額の皺が怒りの為かピクピクしている。

 

 

「更にその拉致が当時国政府容認な上、目的も潜入工作員育成の為。しかし、その理由を『過去の侵略の賠償』と面の皮が厚い事を言ってきましたら…」

 

 

「あー、滝崎、もう、その下りはいいと思うぞ」

 

いつの間にか腕組みまでしていた東條中将の様子を見ていた松島宮がヤバいと思い、声を震わせながら止めに入る。

 

 

「……それが、君の世界の日本の現状だと?」

 

 

「国家の義務は国民を守る事です。無論、時にはそう出来ない時はあるでしょう。ですが、明らかな国民への侵害行為に対して対処出来ない。拉致被害自体の認定が遅かったと言え、発生から半世紀近く経過しつつある中、全員を取り返せていない上に、『死亡した』と言われて渡された遺骨を鑑定してみれば別人だった……これは国家国民に対する侮辱もいいところではないでしょうか?」

 

暫く沈黙が流れる。

そして、口を開いたのは東條中将からだった。

 

 

「君の言いたい事はわかった。この話はここまでにしよう。次に戦車開発の件だ。君の事だから、言いたい事は解るな?」

 

 

「本来、統制派は航空戦力の整備・強化が主眼。であるのも関わらず、戦車開発にも力を入れる様に進言した事ですね?」

 

 

「そうだ。お陰で各部署の調整でてんやわんやだ。しかも、陸海軍共同採用の『小型汎用装軌輸送車』、これはイギリスのガーデンロイド系列のユニバーサル・キャリアーの事だそうだな?」

 

メモ帳に目を配りながら、明らかな不満顔の東條中将。

 

 

「はい。それが何か?」

 

 

「イギリスとの関係改善もあるが、何故採用するのかね? 君はチハの量産を勧めていたのなら、チハを汎用化すればよいのではないか?」

 

 

「確かにそうです。ですが、これまた様々な状況的を考えた結果です。まず、小型で小回りも取り回しもよく、日本でも量産出来るのはユニバーサル・キャリアーがほぼ唯一と言っていいでしょう。何より、その姿形から見て解る通り、単純な構造ですから」

 

 

「チハを転用する事への空白期間への対処と稼働率向上か…歩兵、工兵、砲兵、輜重兵等、戦車以外に幅広く採用するのは、機械化による機動力の増強だな。だが、君の事だ、もう一考していそうだが?」

 

 

「戦後の事を考えて、です。戦争が終われば、軍備は縮小され、代わりに日本の国土整備、各種生活必需設備整備の公共工事が増えるでしょうし、農業の機械化も始まります。そうなった場合、企業や工場は生産・整備経験を小型土木・農業機材の開発に活かせる。更に人に関しては兵役中に運転や整備をした経験を活かせる…ほら、御互いに利益がありますよ?」

 

ニコリと笑顔で答えた滝崎にメモを取りながら東條中将は頷くだけだった。

 

 

 

暫くして

 

 

2人が帰り、東條中将のみが残っていた。

しかし、襖が開き、隣の部屋にいた人物が入ってきた。

 

 

「やれやれ、一瞬ヒヤリとしたよ。まさか、あんな事を言うとはね」

 

 

「君が是非に会ってほしい、と言う程はあったな。わざわざ此方を怒らす様に絡めて話題にする胆力もあるとは…にしても、君が慌てるとはな、石原」

 

隣にいたのは石原少将だった。

彼は東條中将が滝崎に対して理不尽な事をした場合のストッパーとして来ていた。

 

 

「で、どうですかな?」

 

 

「ふん、永田閣下が信じるなら、私も信じるしかないさ」

 

そう言って、松島宮の前であった事もあって我慢していた煙草に火をつける東條中将。

しかし、大きく吸い、同じだけ空気と煙を吐くと呟いた。

 

 

「いかんな……まったくもって、いかんな」

 

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25 張鼓峰

戦闘…後描写になった……。


昭和13(1938)年7月30日 帝都 陸軍参謀本部

 

 

年度代わり4月をもって、陸軍参謀本部次長になっていた永田中将の元に7月11日に発生したソ連・満州国境にある張鼓峰占拠からの武力衝突(『張鼓峰事件』)に、滝崎と松島宮は『海軍次官との連絡役』として来ていた。

 

 

「戦況の方ですが、どうですか?」

 

 

「滝崎君のお陰で我が方優位に進んでいるよ。明日には朝鮮軍からの増援をはじめ、各部隊が動き出す。海軍さんの方は?」

 

 

「『演習の為』、釜山近海にいた第二航空戦隊、並びに同じ理由で舞鶴に待機中の第一航空戦隊、96式陸上攻撃機隊など、向けれる戦力は全て支援に回します」

 

互いにニヤリと笑う永田次長と滝崎。

それを横で見ている松島宮は溜め息を吐く。

 

 

「永田次長、滝崎同様に悪人が笑っている風にしか見えないのですが…」

 

 

「はっはっは、すまないね。だが、半年以上も準備時間があったからね。担当する部隊と増援に充分な装備を配備する事も出来た」

 

 

「『ノモンハン』の事前練習ですからね。ここで躓くと不味いですし」

 

 

「あぁ、そうだね。だが、君の早く正確で的確な助言によるものが大きい。ホントに随分と助けられた。しかし、『最も必要な物が無いのなら、持ってるところから買えばいい』と言ったのは、ある意味、目から鱗だったがね」

 

 

「あはは……永田次長、その辺で…」

 

永田次長の言葉に滝崎は苦笑いを浮かべながら言った。

何故なら、『最も…』の下りを聞いて松島宮が笑みになってない笑みを浮かべていたからだ。これは『また、私が知らないところで悪さをしたのか? ん?』と言いたいのだ。

 

 

「それと、対戦車兵器に関してだが、無反動砲の開発が完了した。37㎜ではあるが、現段階においては歩兵個人が携帯出来る有効な兵器だ。今は正式採用に向けての最終試験中だ。なお、物品とその内容特定を避ける為、『軽砲』の名称を使用する」

 

 

「なるほど、確かに有効ですね。出来ればノモンハンあたりまで隠し通したいところですが」

 

 

「それについては大丈夫だろう。なお、引き続き口径の拡大等の改良、並びに他の対戦車兵器の開発は続ける。日米戦開戦時には目処はつける。そちらは安心してくれ」

 

自信有りげに永田次長は言った。

 

 

 

 

史実であれば4個大隊の兵力で防衛戦を行っていたが、この世界ではそうならなかった。

事案発生と同時に朝鮮軍から史実部隊を含んだ第19師団を派遣、8月1日時点で朝鮮軍、更に関東軍からも増援を派遣。

また、空母航空隊を含んだ陸海軍航空戦力を投入。圧倒的な数と練度を惜しみもなく投入し、制空権の確保に努めた。

 

 

 

8月8日 朝鮮・ソ連国境 張鼓峰

 

 

ソ連軍の攻勢を撃退した防衛線の付近に撃破された戦車や装甲車、更にソ連兵の死体や負傷者が転がる。

戦闘を終えた第75連隊の一部の兵士達は後方の重砲兵隊からのダメ出し阻止射撃、更に空爆が行われている間に工兵隊の安全確認の下、衛生兵と共にソ連兵の負傷者を収容したり、撃破したソ連軍車輌をユニバーサルキャリアーを使い、出来る限り牽引回収している。

また、工兵隊によって補強された防衛線である塹壕では次の戦闘に備え、据えられた機関銃や山砲、速射(対戦車)砲、迫撃砲の整備点検が行われている。

 

 

「ソ連軍侵入と聞いて、一時はどうなるやらと考えたが…ここまで楽になるとは思わなかったな」

 

被害報告を受けた連隊長佐藤幸徳大佐は言った。

実際、人海戦術と多数の火砲による大砲撃を得意とするソ連軍の攻勢に苦戦必至と考えられた。

だが、人海戦術はともかく、重砲による砲撃戦は当初こそソ連軍は撃ち返していだが、度重なる陸海軍航空隊の空爆により鳴りを潜め、日本側の独壇場になっていた。

また、前述した通り、制空権を確保した事により、ソ連軍側は空爆もロクに行う事も出来ず、何の援護射撃のない中を人海戦術のみで防衛線攻撃に向ける事態となった。

だが、この人海戦術も被害の割には効果はなく、武器弾薬等の消耗に対する補給も朝鮮・満州と後方連絡線が確保されている日本側に対し、ソ連側は前線後方への輸送すら一苦労であった。

そして、この後方連絡線の確保は負傷者救護に絶大な格差を生んだ。

日本側は負傷しても前線後方の野戦病院で初期処置を施し、朝鮮・満州の病院へ搬送する事が出来、緊急であれば野戦飛行場から輸送機を飛ばして搬送する事が出来た。(これは収容したソ連兵にも実施された)

対し、ソ連側は重傷者を見捨てる事もさる事ながら、軽傷者の処置すら最低限であり、その軽傷者を次の攻勢に平気で投入する為、消耗率はうなぎ登りであった。

よって、前線では『日本側が負傷した味方を収容している』情景を見て、一か八かに賭け、『負傷・戦死したフリをして日本側に投降する』ソ連兵が続出したのは皮肉と言うべきであった。

 

 

「それにしても、4月から新装備配備や装備転換、慣熟訓練に防御演習、とドタバタさせた理由は、実はこれだったのか?」

 

 

佐藤連隊長の言葉に周りの幹部達も苦笑いを浮かべる。

4月の新年度になってから新装備(ユニバーサルキャリアー)配備と速射(対戦車)砲の装備転換(ラインメタル3.7cm PaK 36『ラ式三七粍対戦車砲』)があり、これらの慣熟訓練にあわせて防御演習が頻繁に行われていた。

このドタバタなスケジュールに佐藤連隊長他、連隊長レベルの人間が困惑していたのだが……その答えがこの事態と言う事らしい。

 

 

「とにもかくにも、だ。現状を維持すればいい話だ」

 

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26 布石

滝崎が言った事。
東條さんがやった事。


8月10日 帝都 陸軍参謀本部 次長室

 

 

「なるほど……防御戦ではあるが、ユニバーサルキャリアーやラ式対戦車砲の配備・実戦投入は成功、効果があったか」

 

報告書を見ながら原大佐、重見中佐に言った。

 

 

「はい。ユニバーサルキャリアーを与えられた対戦車砲中隊、山砲連隊はその機動力、並びに展開力を大幅に高めました。また、歩兵・工兵に配備された物は現地で撃破した戦車、装甲車の牽引回収に使用されております」

 

 

「『歩兵・工兵隊等の機動力・輸送力・作業効率の向上』の名目で配備しましたから、その一端と考えれば大成功ですな」

 

原大佐、重見中佐はウンウンと頷きながら言った。

それを見て、永田次長も笑みを浮かべる。

 

 

「しかし、彼のお陰で上手く立ち回りましたな。特に対戦車砲の件に関しては、例の『説明会』(第21話の事)での砲部門の者達の顔が忘れられませんので」

 

 

「『説明会』で『ノモンハンで94式37㎜対戦車砲の砲弾に欠陥が…』と彼が言った瞬間、葬式の真っ青顔から、死刑宣告を受けた罪人の白に近い青い顔になっていたからな……滝崎君は色々と諌めてくれていたが」

 

 

「故にチハの耐弾性の確認を含め、外国製対戦車砲を…となった彼が言いましたからね。『ある所から買えばよいのです。ついでに大量に買って、戦力にしてしまいましょう』、と」

 

そこからは簡単で、滝崎の話を聞いた永田次長は国民党(政府&軍)に問い合わせをかけると、アッサリに『売買は持ち掛けられた。しかし、それほど必要もないので、数門しか買ってない』と返答された。

この為、国民党の仲介で上海のドイツ商会からラインメタル3.7cm PaK36対戦車砲の購入を打診した。(もちろん、ドイツ本国にも打診)

当初、各種試験向けに4門の購入を提示した時点でドイツ側は疑心暗鬼であっが、続けて『後継開発完了までの繋ぎとして二桁後半、出来れば100門程購入したい』と言うと、一転歓喜し、トントン拍子で話が進んだ。

何故かと言うと、ドイツ側としては国民党への武器売買が不調(売り手と買い手の商品違い)であり、日本からの大量購入は魅力的であったからだ。

(なお、国民党はこの仲介により、欲しかった物(野砲)を入手)

 

 

「そう言えば、関東軍からの報告書がえらく詳細なのですが…永田次長は何かご存じで?」

 

原大佐の問いに永田次長は言った。

 

 

「適任者が最終確認をしているからな」

 

 

 

 

同じ頃 満州帝国首都 新京 関東軍本部 参謀長室

 

 

「ふむ……うむ、これで参謀本部に提出しよう。私の一筆書きを沿えて送付してくれ」

 

 

「はっ、わかりました」

 

提出する報告書を確認した東條参謀長がそう言うと持って来た士官が返事をした。

 

 

「それにしましても…今回は衛生の部門まで事細かいですが…」

 

 

「国境紛争とは言え、ソ連が動いた。国内での粛清、欧州での領土問題、更にはスペインでの内戦が代理戦争化してる中での動きだ。今回、様々な新たな試みをやった以上、次のソ連との戦いに備え、問題点を確認し、改善する。これは必要な事ではないか?」

 

参謀長の言い分に士官はそれ以上言わない。

しかし、何かを思い出したかの様に口を開く。

 

 

「そう言えば、投降兵の件で特務機関長が一考あるそうです」

 

 

「樋口季一郎少将がかね? ふむ……具体的な提案書を書いて、直接持って来るように言ってくれ。実利的ならば、一筆書いて上申する、と言うのも伝えてくれたまえ」

 

 

「はっ、わかりました。失礼します」

 

そう言って士官が出て行く。

そして、東條参謀長は後ろの窓から新京の街を眺める。

 

 

「前線では最近攻勢はなく、にらみ合いの状況。逆にモスクワでの停戦交渉も佳境に入っている。もうじき終わるだろう。だが……」

 

参謀長の立場であるため、前線だけでなく、外交交渉の過程も伝わっている。

しかし、これがまだ始まりだと知っている東條参謀長の顔は真剣だった。

 

 

「……約1年でどれだけ準備出来るかが勝負を分ける。今回、ソ連軍は本気ではなかった上に、矢面に立ったのは朝鮮軍だ。しかも、比較的地形的に有利、かつ事前的な準備も容易だった…だが、ノモンハンはそう簡単にはいかんだろう」

 

そう呟き、メモ帳を取り出し、ノモンハンの簡易図、そして、今回の一連の戦闘報告で気になった点を描いたページを開く。

 

 

「…この関東軍も備えなければならん。私が矢面に立つかは解らんが、誰が就いても問題なく対処出来る様にせんとな」

 

そう呟き、メモ帳に黙々とメモを書き始めた。

 

 

 

 

翌8月11日、モスクワで行われていた停戦協定が締結され、『事件』は終結した。

終始日本優位のままに戦闘が進んだ結果、外交交渉も有利に進み、日本の主張をソ連側が受け入れる形で落ち着いた。

だが、ほぼ一方的な展開で戦闘が推移した為、ソ連側の被害は甚大であり、当然な事ではあった…が、交渉後半でのソ連側のすんなりと条件を受け入れる様に、日本側は『やはり』今後も警戒が必要と判断し、既に進めていたトルコ、フィンランド等への外交接触・諜報能力の強化を一層進めていく事になる。

 

 

 

なお、この時、援軍として参加した関東軍側から出た意見を収集・編集し、東條参謀長自身が一筆添えて提出した物は後に『東條(関東軍参謀長)上申書』と呼ばれ、各方面に活かされる事になるのは別の話である。

また、この件について、東條参謀長自身は『私はこれを纏めたに過ぎない。真に評価すべきは、現場で事にあたった者達、そして、その者達の意見を聴取した者達である』と自らへの賛辞を終生断り続けていた。

 

 

 

 

次号へ

 




ご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。