海龍のアルペジオ ーArpeggio of LEVIATHANー (satos389a)
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開幕〜ナガト決戦篇
第1話 開幕、そして初戦


この物語は原作を大きく改変するので、原作改変が嫌いな方は読まないことをお勧めします。
読みたいと思う方だけじっくりとお読みください。


初めに言っておくーー

 

これは通常の一般人とは違う特性をもったある大学生の話であるーー

 

「なぜ周りの友達と馴染めないのだろう?」

そうつぶやいている彼、海神智史(わだつみ さとし)は自分の挙動に対する周りの誤解が解けていないことにいつも悩んでいた。

彼は自分の特性に気がつき、それが周りの誤解を招いていることに気がついてはいた。実際、自分には他人を傷つけるつもりはなくとも、他者を無意識に引かせるような行動があった。

例えば大学の授業中、先生が話している最中でも自分のケジメをつけられないと、先生の話を遮り、自分の意見や質問をしてしまうことがあるのだ。

もちろん本人に悪意はない。しかしその行動が彼の特性を理解していない人間を引かせてしまうという事態を招いていた。

また、異性と話がしたくても、相手が何が好きなのかが分からず、自分が相手が好きだろうと思ったことを話しまくったり、アクションを起こしたりはしたものの、結局相手に飽きられたり、振られたりするという日々が続いていた。

また、バイト先のコンビニでも、その特性を理解しない故に智史を一般人扱いしている店長に智史が一度やった間違いを何度もやってしまったたびに店長は彼にその「常識」を説教として何度も聞かせてくるのだ。

店長にしてみればそれは一般的な「常識」だが、彼にしてみれば「苦痛」以外の何者でもなかった。しかもその誤解が続いたせいで、彼は店長から解雇宣告を受けた。つまり“クビ”である。

そういうこともあって、彼は前述の台詞を口にしつつ、ひどく落ち込んでバイト先から帰ろうとしていた。

車に乗り込み、鍵を回そうとしたその時であるーー突然、空間が歪み始めたのだ。

「なんだこれ⁉︎周りの空間が歪んでいる⁉︎」

そう叫び、激しいパニック状態になってしまう智史。これも彼が持っている“特徴”のものなのだ。

そんな状態の彼をよそに空間はどんどん歪んでいき、彼が元いた空間の景色は褪せていき、そして黒く染まっていく。

「た…助けて…、誰か…助けて…。」

そして最後には彼の意識が薄れ、そして眠りにつくように意識を失った。

彼が帰ってこないことを不審に思った親が警察に捜査を依頼し、警察が彼の車を見つけて調べたものの、その車の中には血痕一つ残っておらず、彼のカバンだけがそこにあった…

 

「あ…あれ…? い…き、てる?」

意識を失った彼はしばらくして目を覚ました、そして周りを見渡した。

「えっ…、この光景本物なの?」

彼は周りの景色を見て混乱した、それも無理はない、彼が気を失った元の世界とは全くと言っていいほど景色が異なっているのだ。

「う…うちは、り…リヴァイアサンの上にいるの…?うちが一番好きな艦の、上に?」

そう、彼は鋼鉄の咆哮シリーズに出てくる超巨大戦艦リヴァイアサンを模した艦の艦橋のてっぺんにいたのだ。

「おーい、誰かいるの〜?」

とりあえず彼はその艦の艦内に人がいないのか探し回ってみた。しかし、誰も人はおらず、自分が好きなアニメである「蒼き鋼のアルペジオ」の艦の特徴ばかりが目に入ってきた。そして自分の身体が通常の人間とは違っている状態になっていることに気がつき始めていた。

「あれ?こんなに速く動けたっけ?」

いつもなら自虐的に(彼が抱えている“特徴”が齎した考え方なのだが)「運動不足」と考えていることも相まってしばらく動くと疲れてしまうのだが、なぜか歩き回っても疲れを感じない。試しに全力で走っても全く疲れず、おまけに異常に速いと感じた、少なく見積もっても前の自分の全力の倍以上の速度が出ているのだ。

「ひょっとして…この艦の、メンタルモデル?」

通常、「蒼き鋼のアルペジオ」に出てくる霧の艦艇のメンタルモデルは女なのだ。しかしこの艦にはいくら探しても不気味なほど他人の気配がしない。試しに霧のメンタルモデルが活動を活発化させている時に出すメンタルモデル自身を囲むサークルを出してみようとしてみる。

「で…でた…。本当に出た…。」

なんと、本当に彼の周りに紺色のサークルが出たのだ。しかもそのサークルが示している画面には

「FOG FLEET ULTIMATE-SUPERWEAPON “LEVIATHAN”」と表示されていた、つまり彼、海神智史は霧の究極超兵器級、超巨大戦艦リヴァイアサンのメンタルモデルに元いた自分自身の姿のままなってしまったのだ。

そして“彼”が活動を活発化させたのと同時にリヴァイアサンにもマリンブルーのバイナルが現れる。

「と、取り敢えず、リヴァイアサン、発進!」

彼はそう叫ぶと同時にリヴァイアサンに全速で進むように念じた、するとリヴァイアサンの重力子機関と波動エンジンが唸りをあげ始め、四基のスラスターに膨大な推進力を与えていく、そして艦は動き出した。

「う…動いた…。や、やった…!」

その念が通じたことに身を震わせつつも喜ぶ智史、しかし突然警報が鳴り響く、その理由は艦に接近するタナトミウム反応が検出されたーー侵食魚雷がこの艦に向けて放たれたことを示していた。

「未確認の巨大艦から重力子の反応とそれとは異なるエネルギー反応の検出を確認した。」

「霧ならざるものとして、この艦を撃沈します。」

そう、イ400、402の潜水艦姉妹がリヴァイアサンの出現を探知し、その真相を確かめるべく複数の霧の潜水艦を引き連れてここに来ていたのだ。

「ちょ、ちょっと待って!まだ何も、何も、こちらにしてないのに!くっ、迎撃兵装起動!」

智史はリヴァイアサンに装備された100口径610mmAGSや155mmバルカン砲「イーゲルシュタルトⅡ」を起動させ、侵食魚雷を迎撃しつつ2人との会話を試みようとする。

「そうだ、霧には概念伝達があった!」

そう言い、2人に概念伝達を試みる智史、しかしその返答は更なる侵食魚雷の群れだった。

「ぐっ…!」

リヴァイアサンに迎撃し損ねた侵食魚雷が何本か命中した、彼はダメージを覚悟した、しかし…

「あれ、無傷?」

なんとリヴァイアサンに直撃した侵食魚雷のエネルギーはそのままリヴァイアサンに吸収され、艦体には何の物理的ダメージが確認されていなかったのだ。

「く、クラインフィールド?えっ、何これ?」

しかもリヴァイアサンに吸収されたエネルギーはそのままリヴァイアサンを強化するためのエネルギーになってしまった。

「まさか…こんな能力があるなんて…これって、チートじゃ…」

リヴァイアサンのチートじみた“能力”に驚く智史、それは2人も同じだった。

「侵食魚雷のタナトミウムを、自己強化用のエネルギーとして吸収しただと…。」

「我々にはそんな能力はないはずです…。ありえません…。」

リヴァイアサンが見せた“力”に愕然とする400と402。彼女達はこんな事など体験などしなかったからだ。

 

「お〜い!応答してくれ〜!」

智史はそう呼びかける、しかし

 

「未確認艦から未だに通信あり…。」

「こちらから呼び掛けている…。でも命令は命令です、我々が応える理由はありません…!」

2人は全く答えようとしなかった、感情というものに戸惑い始めていたのもあったのだろうか…?返答は先程のと同じく侵食魚雷だった。

 

「このままだとコケにされるか侮られるな…。よし、こいつらイライラするからこの艦の力を見極めるついでにぶっ潰すか。ここに出てくるまでの法律がどーだこーだだからって自分の身を守る為の行動を引き起こさずただ単に司法による判断を待っているだけじゃ、殺られちゃうのがオチだよ、ねぇ?」

智史はそう呟く、危機が迫っているというのに上からの判断を待っていたのならば判断が出て行動に移す前に殺られてしまうかもしれない。こういう時は即断即決がベストと云うべき状態だった、そして彼は下す、殺られる前に殺ってやるという決断を。

 

ーーもしこの2人を含めた奴らを殺したことで裁かれるという結論が出るのならその時は受けるとしますか、まあまだここがここに出てくるまでの世界と同じかはまだ分からないけれど。でも力を手に入れたからにはここに来るまでの時とはうって違って盛大に抗わせて貰いますぜ?

 

そして破壊と蹂躙の“宴”が始まる、この能力に身を震わせつつも勇気づけられ、同時にその場の感情によるものなのだが、2人が対話しようとしないことに失望と憤りと覚えた智史がリヴァイアサンの全ての兵装の照準を彼女達に合わせ始めたのだ。

 

「こんな能力もあるのか、よし、これも使って皆殺しじゃあ〜‼︎」

 

なんとリヴァイアサンにはあらゆる物資を形成できる能力があったのだ、それも無制限に。それを使う本人は一瞬で作られる量はリヴァイアサンが“物資”として存在する以上限りあると信じていたーーこれも彼の特性による考え方のものだったがーーため、使い始めて直ぐにその生成能力を強化し始めていた。そしてその能力で生み出された大量の“金属の鳥”達はリヴァイアサンから発艦すると容赦なく400姉妹とその隷下の潜水艦達に侵食魚雷や振動弾頭を搭載した対潜ミサイルを投下していく。当然、リヴァイアサン本体もタナトミウム弾頭のASROCVLSや120口径155㎝連装砲塔レールガン、そして右舷格納庫の120口径380㎝レールガンを起動して襲いかかる。

 

「(すげぇ、一撃で面白いように沈んでいく…‼︎)」

「(ば、馬鹿な、潜水艦とはいえど立派な霧だ、それを一撃だと…⁉︎)」

 

リヴァイアサンやその艦載機から放たれたミサイルや侵食魚雷は次々と霧の潜水艦部隊に直撃、ある艦は艦体が大きく抉れて大爆発を起こし、またある艦は艦体が金属的な輝きを失い、炭色に染まった後大爆発を起こして沈んでいく。

「レールガン起動、ロックオンよし…発射!」

そして彼はリヴァイアサンを水中に潜行させ、そのままイ13、イ19に砲塔レールガンと右舷のレールガンの照準を合わせた、そして光弾が放たれる。光弾は2隻を貫き、2隻はその光弾で大きく抉れた船体を一瞬晒して大爆発を起こした。

「部下に火種を任せて自分は放置など無策の極み!容赦なくやらなきゃ!」

彼は物事を部下に任せて自分は前に出ないという行為が如何に愚かな行為であるということを知っていたからだ。

「イ13、19、轟沈…ありえん…私の、身体が震えている…なんだこの感情は…」

そう言いながら自身に生じた“感情”に身を震わせる402、しかし智史はそんなことは知るかと言わんばかりにリヴァイアサンを水中に潜行させ、猛攻をこちらに仕掛けてくる。

「402、ここに留まるのは危険です、離脱しましょう!」

自分の隷下の艦がリヴァイアサンとその艦載機の猛攻を受け次々と殲滅されていく様に戦慄した400が402に呼びかける、しかし遅かった…!

 

「見つけた…!2人の様子を見るにここで見逃しても、何れまた襲いかかってくるーー禍根のような事態になるな、こうなるならばさっさと斬っておこう!悪いけど、2人とも退場は今からかなり後だけどこの時点での永久退場でよろしく!」

 

2人を見つけた智史がここに向かってきた、そしてリヴァイアサンから光弾が放たれ、402のクラインフィールドを軽々と貫通し、彼女の船体を艦橋もろとも抉り飛ばす。当然、そこにいた402のユニオンコアとメンタルモデルを巻き込みながら。

 

「402!」

 

一瞬で妹が爆発と共に消えた光景を目にした400、しかしそれに対する気持ちを示す間も無くリヴァイアサンとその艦載機のミサイルと侵食魚雷が何十発も命中し、彼女のクラインフィールドを飽和させ、船体を容赦なく抉る。そしてその物理反応が終わった直後、彼女は大爆発を引き起こした。

「ふ〜終わった終わった。これが敵を蹂躙する悦びか…。にしても少し…やり過ぎちゃったかなぁ?まあ、火種を消し損ねるよりはいいか!(笑)罰があるならその時は受けますか。」

初戦で勝利を掴み喜ぶ智史、後に判明したことなのだがこの世界は元の世界とは異なるということ、そして夢幻ではなかったーー当然罰とやらも無かったということだったのだが、彼はこの時はまだ知らない。

そして暫くして彼の頭の中には次の考えが頭に浮かんだ。

 

「元の世界…鋼鉄の咆哮の世界設定から考慮するに、霧の究極超兵器級が他にもいるのでは?情報収集を始めなくては。」

 

その疑念に囚われ、強敵に打ち勝つ為に自分ーーリヴァイアサンを進化、強化することを始める智史、その疑念は後に当たっていることを知らないままに。

「取り敢えず、現状把握の為、東京に向かおう。」

そして彼は東京に向けて艦を進める、だが彼の出現はこの世界に本来なら滅びへの宿命へと向かう時の流れを狂わせ、変えてしまう程の多大な影響を与え始めていたーー




設定
霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサン

全長 2330m
艦幅 240m 全幅 900m
基準排水量 27550000t
最高速度 水上 2200ノット 水中 2000ノット
(物語開始時点)
武装
120口径380㎝レールガン 1基
120口径155㎝連装砲塔レールガン 3基
100口径610㎜縦式連装AGS 12基
重力子レーザー発振基「レクイエム」3基
各種ミサイル発射用ミサイルVLS 20000セル
超大型量子弾頭ミサイルVLS 2000セル
155mm格納型バルカン砲「イーゲルシュタルトⅡ」 単装120基
全方位超重力砲(物語開始時点での一門あたりの火力はコンゴウ暴走形態が放った超重力砲の10倍の威力に匹敵) 片舷20基 計40基
200㎝船体格納型各種魚雷発射管 200門
ミラーリングシステム、クラインフィールド、強制波動装甲、物質生成能力、自己再生強化・進化システム装備
なお、ミサイルVLSは他の霧の艦艇と同じく艦体各所に生成可能。

説明
突如として生み出された謎の霧の艦艇。外観は鋼鉄の咆哮3に出てくる、超巨大戦艦 リヴァイアサンと細部が異なることとスケールが違うこと以外はほぼそっくりである。イメージするなら3の本家海龍をそのままイメージしてほしい。また、驚異的な性能を持つ自己再生強化・進化システムを持ち、いかなる戦況にも対応可能。
現時点ではこのようなスペックだが、今後新たなオプションを追加すると思われる。


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第2話 運命を変えられる大戦艦

前作の続きです。
今度は皆さんが知っている大戦艦コンゴウの運命が変わってしまいます。
読みたい方だけお読みください。


「何?あの2人が隷下の潜水艦部隊を引き連れて例の未確認の巨艦に向かい攻撃を仕掛けたところ、例の巨艦の猛攻を受けているという通信を最後に音信が途絶しているだと?」

「ええ、総旗艦代理がアドミラリティコードに従わざる存在として確認し2人に攻撃を命じた結果、こうなった。実際、2人のユニオンコアの反応の消失及びその船体の爆発反応が検出されたわ。」

霧の音声通信でそう会話しているのは大戦艦コンゴウと大戦艦ナガトだった、彼らは突如として発生した異常事態についての対応を話し合っていた。

「航空機の反応も多数検出され、おまけにその航空機全てに重力子反応とクラインフィールドの展開が確認されたそうよ。我々は既に航空機を撤廃している、そんな能力などないから。でもこんな芸当ができ、おまけに高威力の兵装が多数使用されたことが確認されている、これは唯の霧とは到底思えないわ。」

「非常に厄介な奴だな、めんどくさい…ナガト、お前はどうするのだ。」

「今は各方面の霧に非常召集をかけている、でも戦力が集まるのには時間がかかるわ。それまであなたは警戒に当たりなさい。」

「…了解した。」

そう言い、ナガトとの通信を切るコンゴウ。ナガトは兵力を結集してリヴァイアサンに戦闘を挑むようだ、それまで自分は警戒に当たれと。

「ねぇ、コンゴウ?いったい何があったの?」

彼女にそう尋ねてきたのは霧の重巡洋艦マヤだった。マヤは彼女にしてみれば唯一心を許せる存在だった、それが唯の人形だということを知らず、そして智史がこのことをコンゴウに突きつける前に…

「400、402が例の巨艦と交戦し、撃沈されたそうだ。どうやら只者ではない。マヤ、お前は三陸沖から移動、合流した後私とともに警戒に当たれ。」

「やったー!やっと出番!霧は任務があってこそ存在する意味があるものだからね!カーニバルだよっ!」

そう言い、無邪気にはしゃぐマヤ。しかし彼女の正体を暴く“災厄”はコンゴウ達に迫りつつあった、もちろん智史はコンゴウ達が自分の進路上に現れることを何となく予想の一つとして行動していたのであった…。

 

一方その頃。

智史はこの世界の情報を入手しようと精力的に行動していた、調べてくるにつれ『蒼き鋼のアルペジオ』の原作に近い世界背景だということが判明してきたものの原作そのものと確信して油断していたら、異なっている事柄を取り損ねて、それが自分にしてみれば新たな脅威になりかねないと確信していたーー彼の“特性”による被害妄想による考えではあったものの。

「ふう、この世界の環境は『蒼き鋼のアルペジオ』の原作とはさほど変わらないか、やはりここに来るまでの世界とは異なってたのか…。当然ここに来るまでの世界に存在した法による罰を受ける理由も無いな、元の世界はいい心地なんかしなかったし、もうそこに帰りたくなんかないけど。あの2人の潜水艦隊ぶっ潰したからどうやっても和解しあえる筈なんか無いし、どうせなら大暴れしてやろう。でも自分の行動が原因で歴史の修正力によるしっぺ返しを食らうかもしれないからそのしっぺ返しにも打ち勝てるようにさらに強く、進化しないと…。しかし、本当に原作通りなんだな、元の世界のアプリやスマホの通信が使えなくなってるし…」

そうつぶやく智史。実際元の世界の環境とこの世界の環境は根本的に異なっているため、彼のお気に入りのパズルゲームは通信エラーを引き起こして使えない状態だった、もちろん4Gやwi-fiもつながらない。

 

「さーて、コンゴウやナガトをどう料理しようかな〜、そういえばキリシマはヨタロウの姿は笑えたけど元のメンタルモデルがやっぱ好きだわ〜。そしてナガトは超戦艦級のものに劣るとはいえミラーリングシステム搭載、か。確か多次元空間にエネルギーを誘導することで自分を守る兵器だったね、これ。ならばその多次元空間からエネルギーを逆流させちまえば盾も一緒に敵を殺れるんじゃ?」

 

智史は霧のネットワークを強制ハッキングしてコンゴウやナガトを初めとした霧の艦艇のステータス及び彼らの思考アルゴリズム、彼らの行動計画まで把握していた。ミラーリングシステムを逆用して敵を叩き潰す方法を考えつつ、本気でコンゴウをヨタロウの中に入れて刑部蒔絵にプレゼントしたら蒔絵とコンゴウがどのような反応を示すのかを妄想して嬉しくて笑いが止まらなかった、だがこのようなことを実現するためにはそれにふさわしい力と理性が必要であることも同時に確信していた彼は更にリヴァイアサン=自分の強化・進化に励むのだった、そして…

「おっ、コンゴウ達発見!さ〜て、破壊と暴力のパティシエの開幕だ〜!」

コンゴウ達が自分の予想通りに現れてくれたことに無邪気に喜ぶ智史、そして文字通りの地獄絵図が始まろうとしていた…。

 

「ここから東南東に巨大な重力子反応と未確認のエネルギー反応が出たか、来たか…。」

 

そうつぶやくコンゴウ。彼女の探知範囲からリヴァイアサンは外にいたものの彼の存在を確認できてしまうということは彼が如何に並みならざるものなのかを示していた。

「行くぞ、マヤ。ここで奴を叩く。」

そう呟き、マヤと配下のナガラ級8隻を引き連れてリヴァイアサンに向かうコンゴウ、だが…

 

「艦隊はそこそこマトモだけど、ごめん、あんたらのハードとソフトと行動計画が丸見え。だから、ワンサイドで!」

 

ーーキュオオン!

ーーキュオオン!

 

ーーズグァァァン‼︎

ーードガァァァン‼︎

 

突如として甲高い飛翔音が鳴り響き、青白い光弾が配下のナガラ級全艦を直撃した、ナガラ級は天まで貫くような水柱を生じて、跡形もなく消滅した。

 

「なん…だと…。こちらの射程圏外から一方的に…?」

「なにこれ!こんなの無いよ〜!」

 

あまりに一方的な光景に動揺するマヤとコンゴウ。だが智史はコンゴウに更なる精神的打撃を与えるべく行動を開始する。

 

「えっ、おっ、男⁉︎しかもなんでいきなり…!」

 

突然、マヤの前部甲板上に智史が現れた、彼はリヴァイアサンからホゾンジャンプを使ってマヤの前部甲板まで一気に移動してきたのだ。

 

「ま、マヤ、だいじ…」

 

奇想天外な光景に動揺しつつもマヤに言葉を掛けようとするコンゴウ、しかしそれは智史のマヤに対する行動で遮られる。

突如として鳴り響く電子音、それは自分からでも智史からでもなく、マヤからだった。

壊れたテープレコーダーのように甲高い電子音を交えた音で自分に関する“これまでの思い出”を叫び出すマヤ、そして彼女はこう叫び始めた。

 

「“カーニバルだよっ!”“カーニバルだよっ!”“カーニバルだよっ!”“カーニバルだよっ!”“カーニバルだよっ!”“カーニバルだよっ!”」

 

「き…貴様、マヤに一体なにをしたっ!」

 

そう叫ぶコンゴウ、しかし智史はこう答える、

 

「あ、ごめん、言いそびれてたけどこれあんたを監視するために400と402が作った人形だから。うちもうあの2人壊しちゃったし、あんたが知らないとはいえ、お人形遊びをいつまでやってるのもなんか物悲しいでしょ?そしてうちはあんたがこのことで動揺してくれる姿を期待してたんだよ〜あんたももうすぐうちの“玩具”になるから待ってて〜!」

 

そう言うと彼はマヤの船体を踏み台にするかの様にホゾンジャンプをし、リヴァイアサンに戻っていった、マヤはその際に巨大な槌の形をしたクラインフィールドに紙細工の様に押し潰され、巨大な爆発を起こしてコンゴウの前から消えた。

 

「マ…マヤ…うわぁぁぁぁぁ!」

 

慟哭し、泣き叫ぶコンゴウ。彼女は怒りのあまりリヴァイアサンに向けてあらゆる兵装を撃ちまくる、しかし智史はそんなこと御構い無しに猛攻を加えていく、コンゴウの主砲が吹き飛び、煙突はひしゃげ、上部構造物や船体全てをスクラップへと変えて。

 

「貴様だけは…貴様だけは…絶対に許さんっ!」

 

そう言い、彼女はリヴァイアサンに唯一無傷であった艤装の超重力砲を展開し、放とうとする。

 

「おっと、超重力砲だ!そう言えば激流に激流をもってしても押し流されることがあるからな、ならば“激流を制するのは、静水!”っと!」

 

そう、エネルギーを吸収して強化に回せると言ってもその量には限度がある。吸収できなかった分は船体を破壊するエネルギーとしてそのまま襲いかかってくるのだ。もちろんその吸収量、吸収効率は自己再生強化・進化システムでいくらでも増やせて更に進化・強化速度を上げるのにも繋がるし、損傷しても自分も含めた船体を一度に全て殲滅されない限りはいくらでも再生できる。しかし、それが全ての局面で通用するとは彼は考えておらず、ゆえに彼は取り込めるものは取り込みつつ取り込めないものはうまく受け流そうとしているのだ。

 

「よぉし、早速ミラーリングシステムを使ってみるか!」

 

彼がそう言うとリヴァイアサンの船体が上下に割れ、そこから大量の重力子ユニットが姿を現わす。

 

「超重力砲、発射!」

「ミラーリングシステム、起動!」

 

そしてリヴァイアサンの周りにいくつもの次元の穴が現れる、コンゴウが放った超重力砲は直撃していた、しかしその一部はミラーリングシステムが生み出す次元の穴に吸収されていく。そしてその量は徐々に減り、最後は超重力砲を直接受けつつもミラーリングシステムを折り畳んでいくリヴァイアサンの姿があった。

 

「なん…だと…全ての攻撃を無効化できるというのか、奴は!」

 

そして智史の方からのカウンターが始まる。

 

「縮退エネルギー反応が急激に低下…まさか、このタイミングで私のエネルギーを吸っているというのか…。」

 

そう、智史は強化・進化のために吸えるものは全て吸ってしまおうと考えており、コンゴウが超重力砲を展開・発射したタイミングでコンゴウの重力子エネルギーを吸い始めていたのだ、そして縮退エネルギー反応がゼロを示しコンゴウの船体から紫のバイナルの輝きや黒の金属の重厚感が消えていく。

 

「も…もうやめてくれ、やめてくれ…!」

 

あまりに一方的な戦いに理性が崩れ、プライドを打ち砕かれ、ただ狂乱し、泣き叫ぶコンゴウを気にすることなく智史は止めを刺そうとする、そして甲高い飛翔音が鳴り響く。

リヴァイアサンから放たれた弾はコンゴウに吸い込まれるとコンゴウの船体中央でブラックホールを発生させ、コンゴウの船体やメンタルモデルを構成しているナノマテリアルを飲み込んでいく。

 

「い…嫌だ…、私は…まだ…死にたくないっ!」

 

そう叫ぶコンゴウ、彼女はナノマテリアルを黒い時空の穴に奪われメンタルモデルを維持できなくなっていき、人の形をどんどん崩していく。

 

「コアまでなくなったら永久退場じゃん、それじゃあうちの妄想が実現できなくなるからつまらない。」

 

智史はそう言うとコンゴウに向かってホゾンジャンプをし、コンゴウのユニオンコアを回収した、そしてすぐに崩れていくメンタルモデルが完全に姿を消し、黒い時空の穴が全てを飲み込んで消えた次の瞬間、文字通りの大爆発が生じた。智史はその背景をバックとしてリヴァイアサンの前部甲板に着地した。

 

「ちょっとカッコ良すぎたかな、ま、うちの妄想が実現できるならいいけど。」

 

こうして自分の妄想を実現するためのプロセスを一つ達成した智史は東京へむかう、自分でその世界の風景とその街のスケールを体に染み込ませるために。だがその先で彼に一波乱起こることを彼はまだ知らない…。




リヴァイアサン=海神智史が新たに身につけたオプション

エネルギー強制吸収能力

自艦以外の他艦からエネルギーがなくなるまでエネルギーを強制的に吸い取り続ける能力。
もちろんそのエネルギーは自己再生強化・進化システムの大幅強化や自己の大幅強化にも使われる。


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第3話 偵察、観光、波乱、そして出会い

前話の続きです。
今回は智史が横須賀観光を楽しみ、そして大騒動を引き起こします。
あとアルスノヴァシリーズでは出てこなかった千早群像の幼なじみが最後にちょこっと出てきます。
見たい方だけお楽しみください。


「?どこだ、ここは?」

コンゴウはユニオンコアだけになったとはいえ、言葉を喋ることができ、思考することができる。ユニオンコアは霧の艦艇にしてみれば脳と心臓を兼ねた存在であり、これと大量のナノマテリアルさえあれば何度でも再生可能である、しかしそれはナノマテリアルがあればの話だ、彼女が置かれている場所ーー外でも中でも霧の大戦艦級の超重力砲を撃たれてもビクともしない構造の金庫にはナノマテリアルなど一つも置かれていない、仮にそんなものがあったら智史本人の妄想は潰えてしまうだろうから。

「ようやくお目覚めみたいだね、東洋方面第一巡航艦隊旗艦大戦艦コンゴウさん。」

コンゴウが目覚めたのに気がついたのか智史が音声通信でこちらに話しかけてきた。

「貴様…何をするつもりだ…。」

「うちの妄想、というより野望の実現のためにあんたを手札として使うよ?今は身動きが取れない状態だけど、いずれは動けるようにはするよ、ただし人ならざる形にはなるけれど。ま、こんな時に起きてるのは時期尚早だからもう少しお休み、コンゴウ。(笑)」

そう彼が言い終わるのと同時に強い衝撃が彼女を襲い、彼女はしばらくの間眠りにつくことになった。

「さ〜て、日本が見えてきたぞ〜!」

そうはしゃぎつつもこの世界の日本がどうなっているかを大雑把にとはいえ把握したい彼はリヴァイアサンから偵察機を発進させることにした、そしてSR-71「ブラックバード」とRQ-4 「グローバルホーク」を模した霧の航空機を30機づつ瞬時に生成すると、各方面に向けて発進させた。

「ネットワークだけじゃ嘘も混じってるかもしれないから、ねぇ?」

本音を言うと彼はもっと大量の偵察機を生成して調べ上げたかった、しかし大量に撒くとなるとかえって目立ってしまい、人類側の自分に対する警戒を強めてしまう可能性を懸念したためだ。

彼等を発進させてしばらくして、彼等から偵察結果のデータが送られてきた。

「ネットワーク上に上がってた通りなんだ、この日本って…。」

それも無理はない、偵察機達から送られてきた日本の地理に関するデータには地球の環境変動による海水面の上昇で平地の大部分が海に没していたということがまざまざと示されていたのだ。

「それに霧の海上封鎖か…こりゃこの世界の日本の地理特性から考慮するに日本人にしてみりゃ泣きっ面に蜂だよ…。」

彼は念のため日本中の地層のデータを偵察機達にスキャンして調べ上げるように指示していた、そして予想通りこの世界の日本は国土に資源がない、彼が元いた世界の日本の国土にもあまり資源がなかったことが示されている。実際東京、長崎、札幌の首都機能を持つ3都市以外はそのほとんどが荒廃していた。

「なるほど、結構荒廃してるね、でも人々は生きようと足掻いているのがよく伺えるよ。」

それでも人間は生きていた、彼の元いた世界より劣る生活水準で。

「ひょっとしたら元の世界の日本人と同じかもしれないけど、百聞は一見に如かず!まずは東京から人々の姿を見ていこう!」

そして彼は偵察を終えて帰ってきた偵察機達を回収した後リヴァイアサンを水中に潜行待機させ、臨時首都と化した横須賀を物見遊山の感覚で観光しようと行動を開始した…。

 

一方その頃、東シナ海では…

「コンゴウの艦隊が、交戦を開始してから10分も経たないうちに全滅⁉︎」

「はい、間違いありません。実際にコンゴウ様のユニオンコアの反応は確認されず、他の艦も全てユニオンコアを殲滅されたのが確認されました。」

コンゴウの艦隊が全滅したという凶報に驚愕する大戦艦ナガトに霧の重巡洋艦トネが上記の報告をしていた。

「なんて奴…直ちに兵力の集中を急がせましょう。他の海域の封鎖は疎かになっていい、とにかく奴の撃破を優先して!あと例の“あの子”達の投入も急ぎなさい。」

「ハリマとアラハバキ、アマテラスのことでしょうか?」

「そうよ、今躊躇っている暇はないわ、使えるものはつぎ込んで!」

「わかりました、直ちに実行に移します。」

そう言い、ナガトとの通信を切り、任務をやり始めるトネ。

「できればあの超兵器達は使いたくなかったんだけどなぁ…。」

実はリヴァイアサンが出現した時期より少し前に世界各地に“霧の超兵器”が出現。普段は他の霧の艦艇と同じような感じだが、戦闘に入ると“兵器としての本能”に捉われがちになり、こちらの命令に従わぬケースが続出し、更に生命の危機に瀕するとこちらの制御下を離れる“暴走”を開始する存在であった。もちろんリヴァイアサンよりはパワーが劣るとはいえ、それでも強大な存在でありいざ暴走を開始すればこちらの手に負えない。

そして智史の方はこの会話の一部始終をハッキングできちんと盗み聞きしていた、臨時首都横須賀をどういう風に観光しようかと考えつつ。

「この世界にも霧の超兵器級が出現しているのか、しかもナガトはハリマとアラハバキ、アマテラスや各方面の艦隊も集めて、全滅も覚悟の上でこちらにぶつけようとしているのか…。」

思わず彼女に同情してしまう智史。しかし今のスペックでは彼女の大艦隊に勝つことができても無傷では勝てないということを妄信していた。

「こいつらの数倍強いのに余裕で勝てるようにしないと…。」

そう考えつつさらに己を進化させようとする智史、それが彼を拍子抜けさせてしまうほどのパーフェクトゲームを齎すとは知らずに…。

何れにせよナガトの招集命令によって一時的とはいえ、日本近海の封鎖が解けたのは大きく、ユーラシア大陸との交易が僅かながらも再開されつつあった。それが彼によるものとは人類は知らずに…。

 

それはさておきとして、

「これでよしっ!さあ、物見遊山の始まり始まり〜!」

彼は上級将校として身分を偽造して横須賀に入った。当初はそのままの姿で海洋技術総合学院と日本統制軍の軍施設を見学しようとしたが、よくても一般人、悪ければ不審者とみなされてしまう。後者は自分の横須賀巡りが台無しになり、前者は事前予約が必要になり、かつ見たい所が見れない可能性もあるのだ。どちらにせよ彼にしてみれば今の姿のまま入ることは面倒くさいこと以外の何者でもなかった、なので彼は横須賀臨時首都の政府データベースをハッキングして制圧下に置き、そこにその架空の上級将校の偽造データをあたかも実在しているかのようにデータベースを書き換え、彼自身がその上級将校に成りすますことでまんまと検問を突破して横須賀市街に入ったのだ。

「おっ、コンビニだ、見てみよう!」

横須賀に入った彼の目にまず入ったのはコンビニだった。

彼はそこに入り店の設備と動線計画を見て回った、彼は大学で建築を学んでいたからだ。

「この世界のは元のと変わらないか、でもマンガや雑誌は元の世界のよりはいい!」

そう言う理由はないわけではない、この世界のマンガや雑誌は何故かストーリー性が充実していたのだ、また彼がいた元の世界のマンガや雑誌は美少女といった性的アピールで客を引きつける売り上げ重視のものだったからだ。とうぜん美少女といった性的アピール偏重のスタイルだったせいでストーリーの質は全く深みが無かった。ゲームも彼にしてみれば同様でひどくストーリーに深みがない、高画質プレイやアクションやオンライン、美少女アピールというものばかりだったから。そういうこともあってか、この世界のマンガや雑誌は彼にしてみれば想像力を大いに働かせ、ストーリーに歯ごたえがちゃんとあるような存在だった、彼は全ての雑誌やマンガをパラパラ見て大雑把に把握してしまえばすぐに飽きてしまうと性質があるとはいえ、次々と面白い本があったので、飽きるまで一時間以上はコンビニで立ち読みしてしまった。

「あ〜面白かった、次は軍施設に行って見よう!」

次に彼は日本統制軍の軍施設に向かっていった、道中でこの世界の街の風景を大学で学んだ知識を活かして様々な視点で楽しみながら。軍施設に入ること自体は事前にデータベースを改変していたこともあって難なく入ることができた。

「まずはあの地下ドックっと!」

そこで彼は人類が霧に対する反抗拠点の施設の雄大さを味わい、物言わぬ構造美を味わいながら最重要エリアへと入っていく、その入口にあった最高レベルの網膜認証、静脈認証、音声認証、指紋認証、ID認証を瞬時に突破して。

「ん〜色々あるな、原作の岩蟹といい振動弾頭の試作品といい…。金属の重量感がたまらんわ〜!」

岩蟹は原作では大戦艦ハルナを窮地に追いやった兵器で、振動弾頭は彼も持っているとはいえレア品ゆえの価値が彼にしてみれば魅力的に映った。そしてその兵器達のメタリック感や存在感を楽しもうと彼等を触ろうとしたその時…

「そこのお前!何をしている!もしやメンタルモデルだな!」

その大きな声に彼がびっくりして振り返ると兵士が2人、彼が入った入口に銃を構えて立っていた。

「ここの設備が次々と不調をきたしてると思って調べたらお前が主な原因となっていることがわかった。」

「不法侵入と身分偽造、そして機密情報保護法違反の疑いで連行する!投降しろ!」

えっ、気が付いてたの?

確かにメンタルモデルは存在するだけで周りの電子機器に不調をきたすことはある、だが彼、海神智史の場合、彼自身のメンタルモデルとしての活動量が非常に高かった。またその“不調”が事前にハッキングしていたこともあって非常に大規模なものになってしまい、大量に証拠を残すことになってしまい、気付かれてしまったのだ。

「確かにそのようなことはしましたが、単純に見て回ろうとしただけですよぉ〜」

「言い訳無用、付いて来い!」

くっ、こうなったら仕方がない。

「喰らえ!」

「ぐおっ⁉︎」

彼はクラインフィールドを2人に叩きつけて吹き飛ばし、そのまま施設の脱出を試みる、途中、開いていたゲートが閉じていたが、

「開かぬなら、開けてしまえばいい!」

そう言うと彼は右手に侵食球を発生させそのままゲートに叩きつけた、ゲートに侵食球が当たると侵食球は侵食魚雷が爆発した時のようにそこにあったゲートを構成している物質を飲み込み、消えた。侵食球が当たった部分は綺麗さっぱりと消し飛び、彼はそこを一気に駆け抜ける。

入ってきた出入り口まであと少しという時に戦車が複数台入口を塞いでいた。

「そこのメンタルモデル、止まれ!」

どこからか彼に止まるように呼びかける声がするが、

「(止まるものか。止められるなら止めて見やがれ!)」

彼は心の中でそう呟くと破城槌の形をした青色のクラインフィールドの塊を戦車群に叩きつけた、すると戦車群は魔神の剛腕に引き裂かれる様に粉々に吹き飛んだ。

「ふう、少し想定外だったけど、ま、楽しかったからいいか!」

追っ手を散々に翻弄し、嬉しそうにそう呟く智史。何事も想定し、対処をしておくことは非常に大切である、しかし全て想定し、対処してしまうとするとスリルによる面白みが無くなってしまう。彼はそのことを知っていたからあえて証拠が残るようにしてみたのだ。

「あとはこのまま海洋技術総合学院で夕日を拝むだけ 

って、うおっ!」

「きゃっ!」

彼は何者かとぶつかった、その時になぜかイケナイ柔らかみを感じた。

「いててて…、あ、大丈夫ですか?お怪我は…?」

あ…あなたまさか…

「ア…マ…ハ…、コトノサン?」

「えっ、なんで私の名前を知っているんですか?」

だってうちがいた元の世界ではあなたの名前がマンガ版の原作に載っていましたよ?

なんと智史がぶつかった相手は、天羽琴乃だった、マンガ版の原作では千早群像の幼なじみの。

この出会いが後に彼が彼女と人生を共にする存在になることと、彼の運命が変わっていくというきっかけを生み出したことを彼はまだ知らない…。




今回の超兵器

超巨大ドリル戦艦 アラハバキ

全長 1420m
艦幅 220m 全幅 320m
基準排水量 10730000t
最高速度 水上 1200kt(バウスラスター使用時3000kt) 水中100kt
武装
100口径610mm6銃身ガトリング3連装ターレット 6基
エレクトロンレーザー発射機 2基
プラズマ砲 4基
100口径406mm3連装AGS 12基
各種ミサイルVLS 12000セル
大型多弾頭侵食ミサイルVLS 1000セル
88mm連装バルカン砲 60基
ネオナノマテリアル製ドリル
ネオナノマテリアル製回転ソー
近接専用バウスラスターシステム搭載

好戦的な霧の超兵器。メンタルモデルは大戦艦キリシマのものの髪型を大和撫子にしたやつ。戦闘に入ると兵器の本能に従って行動するため、本来味方であるはずの霧の艦艇も巻き添えにしてしまうことも。
戦闘がなくて戦闘に飢えていたところ、ナガトの招集命令を受け、現在、リヴァイアサンとの戦いに備えて東シナ海で警戒待機中。
接近戦が得意分野で、ガトリングによる瞬発的大火力を活かしつつ、スラスターで小回りを利かせてドリルとソーで敵に大穴を穿つ戦術を主に用いる。
姉妹艦はアマテラス。

超巨大双胴戦艦 ハリマ

全長 1400m
全幅 400m
基準排水量 12000000t
最高速度 水上 100kt 水中 80kt
武装
80口径100cm3連装砲塔 10基
85口径41cm3連装砲塔 10基
100口径203mm連装速射砲 60基
75mm3連装機関砲 120基
各種ミサイルVLS 14000セル
30連装120cm拡散侵食弾頭ロケット発射基 20基
重力子ビーム発射基 4基
超重力砲 片舷 二重連装16基 32門 計64門
ミラーリングシステム搭載
アラハバキと同じく霧の超兵器。彼女とは違い、冷静。ただし追い詰めららると兵器としての生存本能で暴れてしまう所は同じ。女公家が着る服を着けている。アラハバキと同じく大戦艦ナガトからの非常招集を受け、現在ナガト達が集結している場所へ急行中。接近戦を主体とするアラハバキとは違い、重装甲と驚異的な大火力に物を言わせた動く要塞の如き戦い方が主戦法である。


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第4話 お着替えと強化と暗殺、そして佐賀。

今作は物語としての内容を自分が納得できるぐらい充実させるためにあれこれと付け足した結果、結構時間がかかってしまいました。
スミマセン。
読みたい方だけ物語をお楽しみください。


「あなたは誰ですか?私には上級将校のようにしか見えませんが…」

ア、ソウダッタ、上級将校の服装横須賀に入ろうとした時から身につけてましたからね。

智史は上級将校の衣服になるように構成していたナノマテリアルを普段の衣服の型に戻した。

「えっ、メンタルモデル⁉︎」

そうですけど?隠しとくと言いづらい感じが残っちゃいますからね?

「すごい…本物のメンタルモデルだ…名前、何って言うんですか?」

「海神智史といいます。霧のメンタルモデルで横須賀を観光してた道中、軍の施設に不法侵入してそこでひと騒ぎ起こしてしまいました。」

隠してもかえって印象が悪くなるだけだと考えた彼は素直に自分の身分と横須賀での出来事を素直に琴乃に語った。だが、彼女が好きな話が分からない、彼女は生身の人間なのだ。

そして彼は人間の思考アルゴリズムを読み取る能力がまだ備わっていない。メンタルモデルならネットワークからのハッキングで彼女達の思考アルゴリズムを掴んでその傾向を分析、対処することは出来るのだが、人間はそもそもそんなデジタルデバイスなど持っていない。なので伝える手段は進化しても頭の中の考えやアイデアを身体を使わずに瞬時に伝えるといったことは、超能力者、もしくはそれに近い能力を持っている者でなければまず不可能だった。それにメンタルモデル達はごく一部を除いて人間の知識を曲解してしまっている者が大部分なのだ。ましてや、彼がいた元の世界の女性達と彼女達の好みは大きく違っているのだ。

ひょっとしたら琴乃が元の世界の女性と同じ思考アルゴリズムかもしれないと考え、むやみに関わってもかつてのようにややこしいことになるし、時間の無駄にもなると考えた彼は

「すみません、今日泊まる所を探していたのですが、このような騒動を引き起こしてしまった以上日帰りですね、それじゃさよな」

「あ、1日だけ私の家に泊まっていきませんか?」

琴乃はリヴァイアサンへ戻ろうとする彼を引き止めた。

え、いいんですか?

他人の家に泊まるのは気がひける、ましてや他人の家に入るとことだって緊張する。だからと言って彼女からの提案を断る勇気もない。

彼女に引きずられる気持ちで彼は彼女の家まで彼女の後についていった。

彼女の家は比較的新しいアパートの一室だった、中に入ってみると2人暮らし用に作られている風に彼には見えたが、彼女以外の人間が生活しているという雰囲気がない。

「…一人暮らし?」

「はい、かっては母も住んではいたのですが、事故死してしまって、でも母の分まで楽しんで生きてます。」

予想通り、なんと活発な女性なのだろうか。

話を聞くと、彼女の父親はイージス駆逐艦の副長を勤めていたが、今から5年前のことらしいが、日本近海で起きた霧との東洋方面第一巡航艦隊との海戦でその艦は沈み、乗っていた艦共々運命を共にしたという。母親は海洋技術総合学院に行く彼女のために働いていたものの、今から10ヶ月前に亡くなってしまい、今では彼女1人だそうだ。

彼女と仲が良かった幼なじみーー千早群像は2年前に機密ドックに保管されていた霧の潜水艦イ401ーーイオナと共に謎の失踪をとげた。

それでも考え方を切り替えて1人きりの人生を楽しむとは、彼女にはできても、ネガティブな記憶に囚われがちになり、なかなか気分の切り替えができない今の彼にはできないことだった。

「随分と旅行の写真飾ってあるね。楽しそう。」

「真面目な顔して褒めないでくださいよ、こういう時はニコニコしながら褒めるんです。」

彼、海神智史は自分の言うことを表情に出すことができない、五感によるものを除いて。そのせいで褒められた時に真顔で返事をしてしまって他人を引かせてしまったことがあったのだ。そういうところを今後彼女に一般常識として教え込まれていくのだが…。

 

そんな会話の一方で彼は彼自身=リヴァイアサンに備わっている自己再生強化・進化システムを大戦艦ナガトとの決戦に備えてフル稼働させていた。

「(アラハバキのドリル突撃による破壊エネルギーはカウンターとして彼女からのエネルギー吸収も纏めて吸収して自己の更なる強化に使おう、でも突撃喰らった際に船体の外殻が変形するのも嫌だな、ん…、待てよ?量子クリスタル装甲?そうだ、量子クリスタル装甲とクラインフィールド、強制波動装甲の複合装甲で船体の型を維持しつつ破壊エネルギーを吸収してみよう!)」

「(ハリマとナガトのミラーリングシステムと多連装超重力砲はどう叩き潰そうか…そうだ、多次元で巨大な重力子津波を引き起こしてミラーリングシステムで作られた次元の穴からそいつを出してそのまま破壊エネルギーとして使おう!でもそれだけじゃ何か単調だな、よし、既存の兵装の火力も大幅強化しておこう。ん?サン・クラッシャー?何々、共振魚雷…振動弾頭の強化版か…えっ、なんだって?「恒星を超新星爆発させる程の威力を持ち、発射された魚雷は恒星の内部にまで到達する事ができ、連鎖反応によって超新星爆発を引き起こさせ、結果的に属する全ての惑星ごと、星系を完全に滅ぼす事ができる。つまり、太陽にぶっ放したら太陽はもちろん太陽系そのものが滅ぶ…。」なんじゃこりゃ…、ナガト達に向かってこんなもの撃ったらナガトの決戦艦隊はもちろん、地球や太陽系が跡形もなく吹っ飛ぶぞ、これ…。威力の加減を調整しなくては…。まあ現時点では相当進化しなくちゃうちの模造品は本家に匹敵しそして上回る火力を出せないし、それまでにレールガン群や超重力砲もそいつを上回る火力にしておこう。後量子クリスタル装甲と既存の装甲も含めてその猛火力に余裕で耐えられるようにしないと、少なくともナガトとの決戦が始まるまでに♪)」

あまりに滅茶苦茶な強化である、現時点でもナガト達には無傷でなくとも余裕で勝てるというのに…それでも完璧にこだわる彼はその強化を実行に移していた、ナガト達に「ただでさえ強いのに更に強くなるのかよ…こんなの無理ゲーだろ…。」と言わせんばかりに。

 

それはさておきとして、彼は琴乃に

「どんなファッションがいいかな〜。え〜っと、え〜っと〜。」

「(堪忍してくれ〜)」

彼は琴乃にお着替えをさせられていた、彼女が彼の服装をもっとおしゃれにしたいと考えたためだ。

「(自分の父親の服といい、コスプレ用衣装に近い衣装といい…ああ、コートを脱がされたハルナの気持ちがわからなくもない…。)」

そう恥じらう彼はフラメンコ用の衣装や医師に近い衣装、高級スーツを次々と彼女に試し着させられた。

「智史くんはおしゃれにした方がいいと思う!そうそう、明日私の学校見学しに来てよ、見学してもいいか明朝、校長先生に聞いとくから!」

この様子からだと相当気に入られてしまったようだ、というのも当初は彼女はうちを1日だけ泊めていくだけのようだったが、その理由を聞くべく彼女に質問したところ、彼女の友人に彼と同じような特性を持つ友人がおり、その友人が持っている魅力ーー子供のような無邪気さに惹かれ、仲良くなろうと自分を変える努力をした結果、特性に配慮しつつ友人と仲良くなれたようだ。そういうこともあってか、うちみたいな人間は好きなのだという。うちも彼女を傷つけないように気配りをしつつ付き合っていこう。

そして彼は彼女が風呂に入った後じっくりと休むことにした。

「おやすみ、智史くん。明日は早いからね。」

「あ…ああ、わかった。」

そう言い、眠りにつく琴乃。

しかし彼は感じ取っていた、統制軍の特殊部隊が“琴乃もろとも自分を消し去る”ためにここに向かっていることを。

「琴乃…巻き込んでごめん。」

彼はそう呟くと静かに立ち上がる、そして青いサークルが彼の周りに生じる。

「兵士数1000、岩蟹40機、攻撃ヘリコプター10機、か。随分と大規模な暗殺部隊じゃん。あんたらがどういう風に考えようともうちは構わない。でも敵対するからには容赦なく消すよ?」

そして破壊と暴力の合戦が始まる…。

 

「メンタルモデルが潜伏している箇所の包囲を確認。」

「各部隊、所定配置につきました。」

「なお、メンタルモデルと一緒にいた人物は天羽琴乃と確認。」

「霧に洗脳されているだろう、奴と共に排除しろ。」

「了解」

軍の特殊部隊がここにいることに不思議がる住民達に彼らは

「この近くにテロリストが潜伏していることが判明し、かつ彼らは大量の爆発物を所持していると考えられます。彼らは非常に危険ですので今すぐ避難してください。」

と言って住民達を避難させていた、このことは人道上当たり前のことであり、彼らにしてみればもし作戦行動の際に対象と関わりがなく、かつ無抵抗の一般人を殺すのはこの世界においても激しい非難の的にされてしまうため、それを防いだ上で作戦をやりやすくするというものだった。だがこれは智史にしてみても彼らへの大規模攻撃をやりやすくするという点もあった…。

「メンタルモデル、対象建物から出てきました。」

智史は一見何気ないように見える、しかし実際には戦闘モードに移行していた、そして彼は特殊部隊の兵士4人組に尋ねる、

「ここで何してるんだ?」

「いや、我々はお前とは関係がない…」

こいつら我々を騙すために嘘をつく、か。嘘は嫌いだ。

「お前達は私を天羽琴乃と一緒に抹殺するのだろう?残念だな、抹殺されるのはお前達だ。」

そう言うと彼は右手に携行用レールガンを瞬時に形成し彼ら4人の頭を瞬時に吹き飛ばした。

「対象、発砲!4人が殺られました!」

「各部隊に通達、攻撃開始!出し惜しみは無用だ、一気に畳み掛けろ!」

その言葉と同時に、特殊部隊の兵士達、岩蟹、攻撃ヘリコプター群から苛烈な攻撃が開始される、智史はこれを黙って受けた、こんな攻撃も彼にしてみれば今の彼自身の強化用のエネルギーとして使えるものだった。

特殊部隊群は彼の姿が爆炎や硝煙で見えなくなっても撃ち込み続けた、弾が無くなるまで。それでも彼らには認識できた、彼、海神智史が尋常ではないノイズを発生させ、彼らが持っている機器に大量の火器が撃ち込まれて視界から消えても彼の反応が消えていないから。しかし彼らの弾が無くなっても彼の反応は消えていない、そして爆炎と硝煙が消えるとそこには無傷の彼がいた。

「もう終わりか?」

「な…なんて奴だ…あれほどの猛攻を無傷で耐え凌ぐとは…。」

「今度はこちらから行くぞ、天羽琴乃を人質に取ろうとしているようだな、だが無駄だ。」

そう言うと彼は寝こけていた琴乃をクラインフィールドの殻で覆い、そのまま自分の元へと呼び寄せた。

「あ…あれ?さ…智史くん?」

ようやく目覚めたか、天羽琴乃。

「今から奴らを蹂躙する、だから私のそばにいろ。」

そして彼の蹂躙は始まる。

「今から貴様等に引導を渡してやろう…」

そう彼が呟くと同時に彼の背後の空間に歪みが生じ、そこから90mm迫撃砲、20mm対物ライフル、120mm滑腔砲、127mm砲、203mm砲、果てには46cm砲、戦車用レールガンの砲身が一斉にそこから出てきた。

「沈め。」

そして全ての火器が唸りを上げ、そこにいた兵士や岩蟹、そしてヘリを周りの建物もろとも跡形もなく吹き飛ばしていく。しかも一発一発の威力は様々だが元のオリジナルより非常に威力が高く、かつ速射砲でも撃つのかのように次々と弾を大量に吐き出してくるのだ、それに通常の火器は使っていればいずれ弾切れを起こしたり故障を起こしたりするので彼の戦い方のように短時間で大量に撃つことなどできない、しかし彼はメンタルモデルだ、それも規格外の。弾はいくらでも撃っても次々と補充され、摩耗したパーツは次々と修復される。

「これだけでは生ぬるい、次。」

そう言うと彼は上空に無数のミサイルポッドを展開させ発射させた、それだけでなくさっきのより遥かに巨大な空間の歪みが上空に生じ、そこから誘導爆弾、テイジーカッター、気化爆弾、更には巡航ミサイルにバンカーバスターまで生き残った者達に容赦なく降り注いでいく。

「ヒィッ、もうやめてくれえぇぇぇ!」

「堪忍してくれえ!」

今更そんなことを言うのか、さんざんこちらを攻撃して?

「この前のは殺意が確認できなかったから少しは手加減はしたが今度は手加減は無用だ、消え失せろ。」

生き残った特殊部隊の兵士が悲鳴をあげて逃げ惑う、そして片っ端から吹き飛ばされ、ある者は肉片と化し、またある者は跡形もなく消し飛んだ。

「す…すごい…。」

彼の圧倒的な力による一方的な蹂躙を見ていた琴乃は身を震わせている、そして、

「トドメだ。貴様等の臨時司令部もろとも貴様等の屍を消し去ってやろう。」

彼がそう言うと同時に特殊部隊の臨時司令部も覆う巨大なクラインフィールドの結界が彼を中心として形成される、同時に上空の空間の歪みから今度は多数の巨大なパラボラアンテナが現れた。

「戦略用大量破壊兵器サイクロプスだ、これが貴様等に送る冥土の土産だ。」

そしてそのアンテナ群からマイクロ波が照射され、結界の中のあらゆるものを加熱し、そこにあった水分を超高温の水蒸気に次々と変えていく、そしてそこにいた人間や兵器は次々に風船が破裂するように次々と膨張し、弾け飛んでいく。それで十分だというのに彼は更に加熱を続け、結界の中のものはあまりの加熱量に燃え出し、溶け、そして蒸発していく。彼がもう十分と判断してサイクロプスの照射をを止めた時には結界の中のものは彼とその側にいた琴乃を除いて跡形もなく消え去り、その跡には煮えたぎる溶岩だけがある巨大なクレーターが出来上がっていた。もちろん彼は同じようなものを受けても平然としているだろう、彼は自分で作った鉾に自分が仕留められないようにそれに対抗するだけの力をつけ、そして盾を作ってしまうのだから。

 

「うわぁ…これってやり過ぎじゃ…。」

彼が照射を止めて少し経ってから琴乃が呟く。

「え、これってやり過ぎ?手加減したらこちらが殺られるとうちは考えてたけど、かといってやり過ぎじゃダメだったの?」

彼は敵がいなくなって戦闘モードが解けたのか、いつもの彼に戻り、そして彼女の発言を聞いて悪気が無さそうにきょとんと首を傾げた。

「確かに手加減がダメな時もあるけど、かといって場合によってはやりすぎるのもダメでしょ、よほどの場合を除いて。これからは加減を掴むように私が教えてあげるからね。」

「わかった〜」

琴乃にお灸を据えられ、少し凹む智史。

「結界の中のものはあなたにみんな焼き払われちゃった、私の思い出も家財道具も…。ま、いっか、また一からやり直せばいいからね!」

どこまでもポジティブだね、あんたは。あ、そういえば

「あんたの家財道具一式と思い出はまとめて焼き払う前に別次元に保管しといたから。だから大丈夫。」

その言葉通りに彼は彼女と共にクレーターの外に出ると、空間の歪みを発生させた、そこから彼女の家財道具一式と思い出がちゃんと出てきたのだ。

「えっ、ちゃんと守ってくれたの⁉︎ありがとう!」

その光景に驚き、喜ぶ琴乃。友人としてすべきことを取り敢えずしただけだ。

「それにしてもこんな戦いがあったんじゃうちもそうだけど琴乃、あんたももうここにはいられないよ。少なくともここに家に造り直して住むということはできないね。なら、うちについてってよ。うちは霧だから。」

彼はそう言うと彼女の家財道具一式と思い出を異次元空間に仕舞うと彼女を引っ張っていく。

「どこへ連れて行くの〜⁉︎」

「自分の“家”‼︎」

そうして彼女を引っ張っていく彼は旧久里浜市が見渡せる海沿いの場所に着いた、すでに夜明けが近づき、東の方から海と空が色を帯びつつあった。

「智史く〜ん、ここが自分の家なの?まさか、あなた艦を持った本物のメンタルモデル⁉︎」

「そう。」

そう彼は言うと、青いサークルを何重にも発生させた、やがてそれは彼と琴乃を覆う半球の形を構成していく。

それと同時に海底で待機していて、活動休止状態だったリヴァイアサンが青い龍の形をしたバイナルを船体に輝かせて智史の方へ向かっていく、そしてリヴァイアサンは彼と琴乃の前で、龍が咆哮を上げ天を目指して登っていくように海面を突き破って水しぶきを2人に浴びせながら現れた、朝日が水平線から昇る美しい光景をバックにして。

「綺麗…。」

あまりに美しい光景に感動する琴乃に彼はリヴァイアサンの左舷飛行甲板から青いクラインフィールドの階段を作るとこう言った、

「私は海神智史であり、霧の究極超兵器、超巨大戦艦リヴァイアサン。」

「智史くん、私、付き合っていい、あなたの旅のクロニクルに?」

「そう言うだろうと思ってたからうちはあんたをここに連れてきた。…乗って。」

彼は琴乃に会ってから他人の思考を読み取るように自身を進化させている、今は限定的とはいえ彼は他人がどのようなことを考えているのかが分かるようになったのだ。

彼は琴乃と手をつなぎながらクラインフィールドの階段を登っていく、そしてリヴァイアサンに乗ると、

「うちはあんたの幼なじみ、千早群像に会いに行く、近日佐賀県の宇宙センターで振動弾頭のサンプルを載せたSSTOが打ち上げられる予定でそれを阻止するために霧の艦隊の動きが活発化している。そしてそのSSTOを守るためにイ401ーー千早群像達が動くことも。ハッキング対策強化してるみたいだけどその策を打ち破ってしまう力が勝っていれば問題ない、だから対策を上回る速度でハッキング能力の強化をしていたから。」

彼は今まで調べていたことも合わせて、この世界の時系列に基づく出来事の内容や潜水艦イ401ーーイオナとそのクルーの思考アルゴリズムや行動内容を徹底的に調べ、更に自身による歴史の変化を考慮、何度もシミュレーションをしていたのだ。もちろんエラーが生じることも考慮し、現時点でも情報の収集を怠らず、寧ろ情報の入手量と収集範囲を拡大し、シミュレーションの量質を充実させている、自己再生強化・進化システムがもたらす力を活かしてただでさえ高い情報処理能力を大幅に強化していたのだ。

「行こうか、群像くんのところへ。」

「うん。行こうか、佐賀へ。」

そしてリヴァイアサンは唸りをあげ、西へ進み始める。イ401ーーイオナと千早群像とその仲間達に会い、そしてSSTOを守るために。

彼が自分たちのことを知った上で行動を起こしたことをイオナと千早群像そしてその仲間達はまだ知らない…。




今回登場した兵器

サイクロプス

元ネタはガンダムseedより。
広範囲を殲滅できるものの、移動させることができない本家のデメリットをリヴァイアサン=海神智史はクラインフィールドの結界を展開して効果範囲を限定し、かつ物質生成能力を使うことで非常に取り扱いの良い兵器として使用した。

量子クリスタル装甲

元はスターウォーズシリーズより。
本家の性能はデススターのスーパーレーザーを防いでしまうほどの超絶性能で、智史がスターウォーズに関する知識からこれを開発することを思いつき、開発し改良を積み重ねてしまったことで後にリヴァイアサンは本家を遥かに上回るものを実装することになる。

共振魚雷

これも元はスターウォーズシリーズより。
本家は恒星を超新星爆発させてしまうほどの威力であったが、智史に本家のスペックのまま撃つととんでもないことになりかねないとと判断されたため本家よりは効果範囲をかなり減らされた上で彼が開発、改良を積み重ねていく。
本家より効果範囲を減らした分その効果範囲内の破壊力は大幅に上昇しており、総破壊エネルギー量は本家を上回る。また本家のスペックに驚愕した智史が更に自己再生強化・進化システムの強化速度を上げたため、それに伴い既存の兵装の威力は一部は効果範囲こそ同じなれど弾速、破壊力は大幅に強化されていき、特に右舷レールガンの総破壊エネルギー量は大戦艦ナガトの決戦時時点で本家のスペックに迫るものとなる。何れにせよ彼の自己強化に多大な影響を与えた兵器であることは間違いない。


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第5話 智史と群像、そして蹂躙タイム。

前作の続きです。
今回は他人の視点で物語が進むところがあり、それを意識して書いた結果長い文章になってしまいました。
あと読まれる方によってはあのトラウマを思い出されてしまうシーンがありますので注意してください。
それでは読みたい方だけお読みください。


「ぐふふ、着々と強化が進んでいる…。いいぞ!この調子でもっと強くなるぞ…!」

リヴァイアサンの艦橋のトップでそうニヤニヤしつつ自分が強くなっていることを無邪気に喜ぶリヴァイアサン=海神智史。他人が見ればその様子は悪魔が微笑んでいること以外の何者でもない。彼はそう喜ぶ一方で同時に霧の艦の重力子反応を幾つか見つけていた。

「ナガラ級を改良したピケット艦が多数か、事前に調べ上げてシミュレーションで準備万端とはいえ、結構な数がいるなあ、おい。」

彼はそう呟く、そしてリヴァイアサンの左舷飛行甲板に霧の航空機、B-3ビジランティⅡとF-35CライトニングⅡが彼の生成能力で次々と生み出され始める。

「面倒くさい、もう霧も人類も関係ない、みな平等に殲滅してやる!」

そしてリヴァイアサンからB-3ビジランティⅡとF-35CライトニングⅡが各500機、合計1000機もの攻撃隊が飛び立っていく、彼らは各方面の霧のピケット艦に以前より大幅に威力を増した侵食魚雷や振動弾頭ミサイル群を容赦なく叩きつける、中には装備していたロケット弾、バルカン砲まで撃ちまくってピケット艦を粉砕する機体もあった。ピケット艦側も必死に反撃したが、こちらの航空機は彼らの攻撃を全て吸収し、自分達、ましてや智史の強化に回してしまう。仮にダメージを与えても次の瞬間には元通りになっていた。そして更に威力を増した猛攻が浴びせられた、彼らがリヴァイアサンから飛び立ってから霧のピケット艦群が全滅するまでに5分もかからなかった、彼から攻撃を受けているという報告を残して。ただし重巡洋艦一隻だけはあえて大破させても沈めずに残しておいた…。

 

「ふふふ…弱い…貴様らは弱すぎるっ!」

あまりに一方的な勝利にはしゃぎつつも心の何処かでは虚しさを覚える智史。

「それにしても霧も対策を練り出したか、改クマ(漢字で書くと球磨)級重雷装軽巡洋艦やアトランタ級防空軽巡洋艦、ナガラ級の後継としてアガノ級軽巡も投入か…。うちの方はこいつらが大量に襲ってくるのは結構な殺り甲斐があるし、現時点のスペックでも余裕で対処できるけど、油断は禁物、更に強化ペースを上げようか。でもうちみたいな能力を持たない群像達はその皺寄せを絶対喰らうな、これ…。果たして原作のスペック通りだとに振動弾頭をアメリカに持っていけるのか?霧の奴らうちのせいでピリピリしてるからなぁ…。」

そう彼が呟くのも無理はない、リヴァイアサンが霧に対してこれまでに与えた被害は無視できるものではなかった、

一矢を報いてなんらかの損傷を与えたならまだしも、一矢も報いることができずに一方的に殲滅されたからだ。しかもこれまでの戦闘データから彼らはリヴァイアサンはただでさえ強大だというのに更に強く進化していると判断していた、実際に何度も今後をシミュレーションしても自分達が全滅する確率が100%を示す数値が出ていた。それだけでも霧にしてみれば絶望同然だというのに、人類がSSTOに振動弾頭のサンプルを載せて打ち上げようとしているのだ、もしこれが量産されれば東洋方面の霧には破滅以外の運命は残されていない。

それに自分達の上司、超戦艦ムサシの諜報部隊にかつて所属していたイ401が2年前に人間を乗せて自分達に反旗を翻したのだ、人間を乗せた彼女は戦い方がこれまでとは異なっており、自分達の所属下のナガラ級や、駆逐艦、潜水艦が数隻づつと、元東洋方面第二巡航艦隊旗艦大戦艦ヒュウガが沈められた。もし彼女が奴と連携し始めたらますます追い詰められる。幸い彼女には奴と連携する兆しはないもののそれでも奴に追い詰められている今の自分達にしてみれば脅威以外の何者でもない。

リヴァイアサンは止められなくても自分達が破滅する運命だけは止めたい、そう考えた大戦艦ナガトはSSTOを守るべく行動を開始したイ401共々SSTOを確実に始末する為に大戦艦ムツを旗艦とする大戦艦級6隻、重巡洋艦2隻、軽巡洋艦30隻の大艦隊となる第3巡航艦隊を佐賀県宇宙センターへ差し向けたのだ。

彼女は本当はリヴァイアサンとの決戦に向けて艦隊を一ヶ所にまとめたかった、しかしそんなことに集中していたら振動弾頭が量産されてリヴァイアサンの脅威と相まって破滅が確定してしまう。彼女は戦力分散によって各個撃破されることも覚悟の上で彼らを差し向けたのだ。そして彼が佐賀県宇宙センターに向けて向かっていることを知っていた、各方面にばらまいたピケット艦が彼から発進した航空機群の猛攻を受け瞬く間に全滅したからだ、その全滅間際に彼がそこへ向かっているという報告を残して。そんな彼女の苦悩を彼はハッキングできちんと見ていた。

 

「ナガトは霧を存続させようと必死みたいだ、でも容赦は無用。さあ、私が作る暴力と破壊のディナーを佐賀県宇宙センターに向かっている霧の皆さんに食べていただきましょう!」

そう彼は嬉しそうに呟く、そしてリヴァイアサンの船速が更に上がる。そしてその気分のまま、リヴァイアサンのCIC内部の画像を出すと…。

 

「琴乃さ〜ん、幾ら何でもこれはないっしょ〜。まあこの空間が自分の家とは異質だから変えちゃおうというのは分かるけど…。」

 

彼女はリヴァイアサンのCIC内部を自分が好きな空間にアレンジし、そして彼が置いた彼女自身の思い出をそこに飾っていたのだ、さすがに家具はそこには置かなかったが…。

「智史くん、どう?私風にあなたのCICを作り直してみたわ?」

随分と生活力ありますねぇ、琴乃さん。

「雰囲気的には…あんたの家の感じには近くなってる、でもどういう風に変えるのかは事前に説明して欲しかった、まあこういう空間も悪くはないけど。」

彼は自分の空間を勝手に変えられてしまったことにストレスを少し感じていた、しかし彼女が改変の内容が無機質な感じからだいぶ落ち着いた空間になったので、よしとした。

「群像くんに2年ぶりに会えるんだね、わくわくする〜!」

「招かれざる客もそこにいるから、ついでに彼らにうちのディナーを食べてもらおうか!」

それぞれ違う思いを抱えつつ2人は喜ぶ、そしてリヴァイアサンは有明海にいる彼らーー群像達と霧の大艦隊に向けて西へ突き進んでいく、そして智史はSSTOを巡る戦いが始まったことを知っていた。

 

ーーそして佐賀県宇宙センター近くの沖合にいる群像達はというと…

 

「おいおい、奴らこんなに来てるのかよ、こんなの聞いてねえぞ⁉︎」

「大戦艦ムツを旗艦とした大戦艦級6隻、重巡洋艦2隻を中核とした大艦隊ですか、こんな大艦隊は見ること自体が稀ですね…。」

「あの巨艦に追い詰められて後がない故に手段を選ばぬ勢いでこのSSTOの打ち上げを阻止したいのでしょうか…。」

「圧倒的に劣勢だが、何としてもSSTOを打ち上げまで守り抜くぞ‼︎全速前進‼︎」

 

 

ーーこれは、俺達にとって大ばくち、いや俺自身の願いで始まった戦いの今だ。俺たちは政府の命令に従って佐賀県宇宙センターに迫り来る霧の艦隊と必死に戦っている。

 

 

「本艦左舷方向に着水音多数!接近するタナトニウム反応を感知!数、500以上‼︎」

 

「サイドキック!音響魚雷、パッシブデコイ射出!発射タイミングは任意‼︎そしてそれらを射出した10秒後に侵食魚雷を発射!機関出力、最大!急速潜行急げ‼︎」

 

「音響魚雷発射準備よし!発射‼︎侵食魚雷、10秒後に発射!」

 

俺達が戦い始めた理由は人類にとって生命線ともいえる海を封鎖され、滅びに瀕しているこの世界の運命を変えたかったことが主だ。

 だが、残念なことに人類はその運命の変化を求めず、俺たちが次々と霧の艦艇を沈めていっても世界の運命は何も変わろうともしなかった。

 

ーーそれはわかっている。だが、悔しい。

 

俺達がどんなに動いたって、俺たちに世界を変えるだけの力が無いせいで世界が動かない。だが世界を揺り動かすほどの力を持った存在が現れても、世界が動こうとしないのは何故だろうか、そう、今から2週間前に現れた、未知の超巨大戦艦、リヴァイアサンがそうだと言うのに。

 

「パッシブデコイ、アクティブデコイ射出完了!」

 

「本艦の侵食魚雷、全て迎撃されました!」

 

「艦長!タナトニウム反応、さらに増加!艦後方及び右方向から600発!距離は一万を切っています!」

 

リヴァイアサンは圧倒的な力を示した。

まず手始めに霧の諜報潜水艦隊をまとめて沈め、東洋方面第一巡航艦隊を一隻で完全に壊滅させ、そして第4巡航艦隊も呆気なく蹴散らした。更についさっきのことだが霧の索敵網を片手間だけで完黙させたという知らせを聞いた時には世界の運命が変わると信じていた。

 

だが、世界は、世界自身の運命を歪めるほどの力を持ったリヴァイアサンを警戒して、自分達の更なる保身に走った、そして自身の視野を狭め、自身の内側に向けてしまったーー引き籠ってしまったのだ。

 

「侵食魚雷、なおも多数が本艦に接近!回避、間に合いません!」

 

「くっ、イオナ、クラインフィールドを展開!稼働率は落ちているが、何も無いよりはいい!」

 

「了解、クラインフィールド、展開。」

 

 

 世界が動くことを拒否して逆に保身に走った理由は俺にはよく分からない、ただ、圧倒的な力を持つ未知の存在、いや化け物としか思えないものを前にしてよく分からないが故に警戒して動けずに保身に走ったと考えたかった。

 その存在が霧と戦っていたと言うだけで、その存在が必ずとも俺達人類の味方であるとは限らない。だから人類が保身に走る理由は分からなくはない。ひょっとしたらその存在は人類を滅ぼすために現れたエイリアンなのかもしれないからだ。

 

「クラインフィールド、飽和。このまま今の攻撃を受け続けたら船体が持たない。」

 

「くっ…。」

 

「パッシブデコイ残存数ゼロ!これ以上は出せねえ!」

 

しかし今の世界がその存在を恐れて積極的に動こうとしない故に、まともな補給・整備を受けられない俺達は思うようには動けず、それが無くなったら後は動けなくなるだけの飼い犬と成り果てていた、そしてリヴァイアサンの圧倒的な力の前に後がない東洋方面の霧はそれ故に死に物狂いで俺たちやSSTOを屠ろうと襲いかかってきているのだ。

 

 

 

そして、彼らが霧に押し込まれている頃、智史は有明海付近の状況も調べていた、リヴァイアサンから発進した偵察機からの報告を精査し、霧の通信の様子と群像達の様子をハッキングで調べ上げた彼はこう呟く、

 

「群像達結構押されているな、歴史の修正力がうちではなく彼らに働いているのか?このままのペースだとうちらが有明海に着く前に彼らが殺られちゃうな、これ…。」

 

「えっ、今のペースだと群像くん達死んじゃうの⁉︎智史くん、急ごう、手遅れになる前に!」

その呟きを聞いていた琴乃が驚いて彼に急ぐように促す、そしてその言葉を実行に移すのかのように彼は攻撃を終えて一旦戻ってきた艦載機群を群像達を援護するべく再度発進させる、同時にリヴァイアサンの艦速も上げていった、群像達を援護するために。

 

そしてリヴァイアサンから艦載機を発進させてからほぼ10分後ーー

 

「もはや…ここまでか…。」

 

あの後俺達は霧からの猛攻を受け侵食魚雷や侵食爆雷が船体の至近で何十発も炸裂し、各所で浸水が発生して速力が低下し、更に超重力砲が使用不能になり、おまけに侵食魚雷や音響魚雷をはじめとした全ての兵装を撃ち尽くしてしまった。

 

「敵ナガラ、改タマ、アガノ、多数接近してきます。」

 

リヴァイアサンが出現してから霧の装備に大きな変化がありらナガラ級を上回る強力な霧の艦艇が次々と投入されているのだ。それらにハード面で対抗する術を持たない俺達は彼らを撃退することさえできなかった。俺達が沈められると覚悟を決めたその時ーー

 

「敵艦、次々と爆発を引き起こしています!」

 

「一体何が起きてるんだ!」

 

「艦長、レーダーの反応ではリヴァイアサンの艦載機群からの攻撃で爆発しているようです!」

 

俺達の仲間の一人、織部僧に言われた通りにモニターを確認するとそこには艦載機の群れからの攻撃を受けて次々と爆発轟沈していく霧の艦艇の姿があった、俺達はその光景を見て愕然とした、強大な彼らが次々と金属の海鳥達に落し物を叩きつけられて細切れになっていくからだ。俺達はただその光景を見守るだけしかできなかった…。

 

ーーほぼ同時刻。

 

「全機攻撃開始、そこに居る霧を全部海の藻屑にしてやれ。出し惜しみ無用、なぁに、幾らでも代わりは用意してやるよ。」

リヴァイアサンの上で智史は青いサークルを展開した状態でそう呟く、そして彼の一方的な破壊と殺戮のディナータイムが幕を開ける。

「まずはオードフルだ。艦隊の外郭にいる奴を血祭りにしてやれ。」

すると1000機ものb-2スピリッツとF-35CライトニングⅡの群れが次々と霧の軽巡洋艦群に襲いかかる、霧の方も必死に抵抗しているようだが、彼らとの彼我兵力差は愕然とした差が開いている、おまけに戦闘中でも彼ら=智史=リヴァイアサンは常に進化をし続けているのだから堪らない。霧の軽巡洋艦群はミサイルや侵食魚雷、更には着弾するととんでもない爆発を引き起こす量子弾頭ミサイルを次々とプレゼントされて爆発四散し、その全てが沈んでいく。

「次はサラダとスープだ。とくと味わえ。」

彼がそう言うと、b-3ビジランティⅡと爆装コスモパルサーの延べ500機もの混合爆撃群が襲いかかる、しかも前者は20t強化バンカーバスター「ツォールハンマー」を12発も装備し、後者は268基の300kg高性能炸薬弾が内蔵され、対艦戦に威力を発揮する複合爆装ポッドを2基も装備しているのだ、それが大戦艦ムツを除く全ての霧の生き残りに叩きつけられる。大戦艦キリシマは全ての兵装を展開して、必死に抵抗しているようだがその程度で引く気は彼にはひとかけらもない、むしろ攻撃をより一層苛烈なものにするだけであり、結局彼女達の抵抗は全く意味を成さず、ある艦は機関部にツォールハンマーを喰らって爆発四散し、またある艦は複合爆装ポッドを何十発も浴びせられて跡形もなく吹き飛び、次々と沈められていった。

「さ〜て、メインだメインだ、大戦艦ムツ、貴様に私特製のとっておきを食べさせてやろう。」

そう呟くと彼は有明海にいる大戦艦ムツに襲いかかっていく。

 

 

ーー大戦艦キリシマの独白ーー

 

 

ーーそれは私達にしてみれば霧の裏切り者を処刑し、リヴァイアサンとの決戦に向けて後門の憂いを断つ戦いのはずだった。

 

「皆、リヴァイアサンがここに向かっているようだ、こうなったらそれまでに401とSSTOを片付けるぞ。」

 

リヴァイアサンがピケット艦を全て沈めて我々の元に向かってきていると告げる大戦艦ムツ。

 

「なぜ奴に怯える、大戦艦ムツ。大戦艦級の私の火力なら奴など怖くはない!」

「大戦艦キリシマ、奴は常識を逸する相手です。あなたの火力だけでは奴には勝てません。」

 

ムツの発言に憤る私を重巡洋艦アタゴが制する。

 

「実際にあなたの姉であるコンゴウ様が奴に何の手傷も負わせることができずに沈められています。」

「そ…そうか…。」

 

彼女の発言を聞いた私は沈黙を強制せざるを得なかった。

そして401との戦闘が始まり、我々は彼女を順調に追い詰めていく、しかし彼女をあと一歩で撃沈できるという時に、悪夢は始まった。

 

「敵機多数レーダーに捕捉!リヴァイアサンからです!」

「おのれリヴァイアサン!自らは姿を表すことなく飛び道具で攻撃してくるとは!」

 

そして奴の一方的なワンサイドゲームが始まり、奴の破壊の尖兵が次々に襲いかかり、我々の軽巡洋艦は次々と沈められていく、奴らに対抗するために必死で対空砲火を放っているのに一つも墜ちていかず、奴らは平然と攻撃を続けている。

 

「これだけ攻撃を浴びせているのに、何故だ、何故墜ちないっ!」

「こちらもだ、全ての攻撃が吸収されている。」

 

そう嘆く私にハルナが音声通信で私にそう伝える、しかし次の悪夢が私達を襲う。

 

「くっ、今度は私達か!だが何としても生き残るぞ、ハルナ!」

「同意する、キリシマ。今はこの地獄から生きて帰ることを優先しよう。」

 

私とハルナは滅びの定めに必死に抗う、しかしそれはその定めを確実にするだけに終わる。

 

「大型ミサイル20発、こちらに向かって落下、駄目だ、回避が間に合わない!」

「ハルナ!っ、ばっ、バンカーバスター⁉︎うっ、うわあぁぁぁぁぁ!」

前の戦闘で対空兵装の大半を損傷し、機関部にもダメージを受けて速力が低下しているハルナには延べ20発の大型ミサイルが命中、その船体は粉々に吹き飛んだ、そして私にはバンカーバスターが4発も命中しその全てが私の機関部で爆発、私の船体を跡形もなく吹き飛ばした。もちろん私達はクラインフィールドを展開してはいたものの、こんなに強力な兵器を複数食らってはその防御など紙切れ同然に吹っ飛ばされた。

 

「ハルナっ!無事か!」

「ああ、ミサイルが炸裂した時に私は水中へと吹き飛ばされたから大丈夫だ、こちらこそ無事で何よりだ。」

 

幸い私達は爆発の際に船体から吹き飛ばされる形で爆発をもろに食らわずに済んでいた、イセもアタゴも船体を潰されたが、コアとメンタルモデルは無事だった。しかしフソウとヤマシロと重巡洋艦チョウカイはミサイルとバンカーバスターが何十発も命中して、コアを脱出させる間も無く轟沈した。それを嘆いていても仕方がない、とりあえず私達はとりあえず集まったあと、流れ弾に当たらないように海底で助けを待つことにした。

 

「しかしなんて奴らだ、こちらが一方的に…。」

「残るはムツしかいない…。戦況は絶望的だ。」

 

だが、悪夢はこれだけに終わらない、ついに奴が姿を現した、私達にはその姿は世界の全てを司り、悪しき者を容赦なく裁く巨大な蒼き龍のようでもあった。

 

「い…嫌だ、こっちに来ないでえぇぇぇ!私は、私はまだ、死にたくないっ!」

「落ち着け、アタゴ!むやみに騒げば殺されるかもしれないぞ!」

 

奴は水上にいたが、その姿は海底にいた私たちにもくっきりと見えた、そしてあまりの迫力にアタゴはまるで人間のように怯え、狂乱していた、私は彼女を落ち着かせることで精一杯だった。

 

「リヴァイアサン!私は刺し違えても、貴様をここで討つ!」

 

そう言い、全力で攻撃を仕掛けるムツ。その姿は仲間を嬲り殺しにされて怒り狂っているようにも思えた、しかし奴は平然とその攻撃を受け止め、そして吸収してしまう。ムツが全てのミサイルを撃ちつくすと、奴から青黒い光条が二本、ムツに向けて放たれた。

 

「リヴァイアサン、貴様の反撃はその程度か!」

 

そう言いミラーリングシステムを展開するムツ。しかしそれこそが奴の狙いだった。

 

「馬鹿な、上下の多次元空間の穴から大量の重力子エネルギー反応⁉︎」

 

奴はミラーリングシステムの仕組みを理解し、それに対するカウンターを用意していたのだ、これは彼女にしてみれば想定外の事態だった、そして奴はその様子を見て嬉しそうに呟く、

 

「これが貴様の為に作っておいた取っておきのディナーだ。これを味わいながら、苦しまずにひと思いに逝くがいい。」

 

そして黒い濁流が次元空間の穴から吹き出し、ムツを飲み込み豆腐でも圧し潰すのかように彼女を粉砕する、そして一際巨大な爆発が起こり濁流が穴へと引いていき、元の空間に戻るとそこに彼女の姿はなかった、コアやメンタルモデルの反応さえ確認されなかった。

 

「まさか…ミラーリングシステムが…。」

 

あまりに無常識な光景にハルナは唖然とする、超重力砲を防ぐ究極の盾さえ奴は無力化し、それを逆用してしまったのだ。そして奴は戦闘が終わってこちらに気がついたのか、こちらの方に向かってきた。

 

「リヴァイアサン…、お前は…私達を殺す気なのか…?」

 

ハルナは奴の圧倒的な暴力の前に身を震わせつつ奴に向けて言葉を口にする、私も殺される覚悟を固めていた、しかし奴からの返事は意外なものだった、

「“そこの海底にいるメンタルモデル、さっさと乗れ。貴様らが海底で恐怖に怯えてガタガタ震えているのは見苦しい、だからだ。”」

そして奴は右舷甲板から梯子を海面に垂らして、私達はそれを伝って奴に乗り込む、そして奴の意外な正体を目にする。

 

「お、男⁉︎」

「馬鹿な、メンタルモデルは女だけのはずだ!」

 

そう驚く私達。そして奴はこう答える、

「貴様ら何を勘違いしている?船の代名詞に女性の代名詞が多く使われていたことは事実だが、かといってこのことを絶対化して信じ込むな。感性が鈍っているのか?このボケナス共。

私は霧の究極超兵器、超巨大戦艦リヴァイアサンであり、海神智史というメンタルモデルでもある。ようこそ、我が船へ。」

 

そして私達は奴に歓迎されて、奴の元にしばらく居候することになった。

 

一方、智史達は…。

 

「うわ〜今回も容赦無いね〜、智史くん。少しはあの人達に情けをかけたら?」

「そんなことをすることなんかあまりできない、情けをかけたらその殆どが仇になるし。そして捕まえた奴らは突っ込みどころ満載だしっ♪」

智史は相容れぬ者は容赦なく排除していくという性格である、それはさておきとして彼が拾い上げたメンタルモデル達は彼にしてみれば突っ込みどころ満載である、例えばハルナはコートを脱がすとシクシク泣いたりガクガク震えたりして弱気になってしまうのだ。イセもアタゴもそういうところがあり、彼にしてみれば彼女たちをネタにした悪戯による他人の反応を妄想して笑いが止まらない、だから彼女たちは容赦なく彼の悪戯のネタに使われることが多くなる。唯一キリシマだけは彼が望む突っ込みどころを持っていなかったので彼女は比較的マトモな扱いとなる。

 

そして群像達の方はというと…。

 

「おいおい、こんなのアリかよ、こいつあいつらを一方的に叩き潰してその攻撃全部無力化して、しかもその攻撃を全部吸収して自分を強化・進化させちまうなんて…。まさにやりたい放題だな、おい。お前はどうなんだ、群像?」

「…。」

そう訊く橿原杏平の質問に群像は答えることができなかった、自分達を苦しめていた大艦隊が容赦なく蹂躙され、次々と海龍の生贄になっていく様をどう表現したらいいのか分からなかった。

「とにかく、我々は助かったみたいですね、艦長。」

そう僧が呟く、少なくとも自分達を攻撃する気配が彼にはないのだ。

「群像、リヴァイアサンから通信が入っている、早くモニターに出して。」

イオナがそう言い、画面にリヴァイアサンのメンタルモデルが姿を現わす、そしてその姿を見た杏平は男だということに驚く。

「初めまして、401クルーの諸君、そして千早群像君。私は霧の究極超兵器超巨大戦艦リヴァイアサン。そしてそのメンタルモデルの海神智史です。君たちのことはよく知っていますよ、なんでも無計画に行動して中途半端な結果に終わったことで。あ、そうだ、群像君、君にに会いたい人がいるから401のメンタルモデルーーイオナと一緒に甲板に出てきてください。」

そう彼は言うとぷっつりと通信を切る。

「おいおい、上から目線でこっちの悪口いってきたぞ。」

「行こう、イオナ。彼が俺たちに会わせたい客がいるらしい。」

「分かった。」

そして二人は401の甲板に出る、401の右側に戦闘が終わったのか、青いバイナルが消えているリヴァイアサンの姿があった。

「やっほ〜、久しぶり、群像くん。」

「お…お前は、琴乃⁉︎一体何故ここに?」

「私が君に会いたがってたし、彼も君の顔が見たいって賛成してくれたから〜!」

なんとリヴァイアサンの左舷飛行甲板から智史と天羽琴乃が姿を現していた。

「私はイオナ。あなたが智史?」

「そう。うちがリヴァイアサンであり、智史でもある。今回の件うちのせいで酷い目に遭わせちゃった、ごめん…。」

「今回のことはあなたのせいじゃない。そんなに自分を責めないで。」

「でもそんなに酷い損傷蒙ったんじゃ、横須賀まで無事に行けないよ、だから直してあげるね。」

彼はそう言うと右手からナノマテリアルを大量に発生させた、そしてそのナノマテリアルは白い雪のように401に降り注ぎ瞬く間に損傷した箇所が元どおりに戻っていく。

「綺麗…。」

あまりに美しい奇跡に八月一日静が思わず感動する。

「んじゃあ行こうか琴乃、ナガトが首を長くして待ってるから。」

「そうね、あまり長く話す理由は無いからねっ。じゃあね、群像くん!」

彼と琴乃は群像達に別れを告げた、そしてリヴァイアサンは機関を唸らせ沖縄へと進んでいく、そしてそのバックでSSTOが空へと登っていく。彼はナガト達の覚悟に応える為、彼女らに決戦を挑むのだ。後にその決戦での彼の完全勝利が、人類を救う第一歩になると知らずに…。

 




今回リヴァイアサン=海神智史が披露した新たなオプション

次元津波発生能力

元ネタは鋼鉄の咆哮wsg2より。
ミラーリングシステムを無効化する為に彼が考え、開発した新たなオプション。重力子エネルギーと量子エネルギーを共振させることで次元空間に非常に強烈な重力子エネルギーの津波を発生させるというもの。今作ではムツのミラーリングシステムで作られた次元の穴から逆流させるという形を取ったものの自分でミラーリングシステムを展開して、津波のエネルギーベクトルを操作すれば半径500㎞以内(現時点での最大効果範囲。今後彼の自己再生強化・進化システムによってその範囲は拡大し、そして威力も大幅に上がっていく。)の物を一瞬で殲滅してしまうことが可能。

おまけ
今までの強化で最大速力が上昇。
水上 2200ノット→3500ノット
水中 2000ノット→3300ノット


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第6話 報告とあだ名と一応、決戦

今作は霧は大艦隊と超兵器を投入します、ですがあっさりと吹っ飛ばされます。
あと智史がイオナにあだ名をつけました。
読みたい方だけお読みください。


「千早君、君はあのメンタルモデルと、彼に同行している天羽琴乃に接触したというのか?」

「はい、彼の方からこちらに接触を呼びかけてきましたので…。」

長崎で千早群像は佐賀県宇宙センター沖合で勃発した海戦の一部始終と、戦闘終了後に霧の究極超兵器リヴァイアサンの方からこちらに接触があったということを、日本統制軍軍務省次官補、上陰龍二郎に報告していた。

「何故彼と彼女を目の敵にするのですか?」

「彼は横須賀の我々の施設で大暴れし、そして彼女の家に逃げ込んだ。そして彼女は海洋技術総合学院でも非常に優秀な成績を上げていた、彼女のその知識が彼に伝わったら非常に厄介なことになると判断したため彼女を彼共々排除すべく我々は特殊部隊を投入したが、彼に悉く殲滅され、そして彼女は彼とともに行方不明だ。現在、この2人は緊急指名手配中だ。」

上陰は智史の画像を横須賀の軍施設の監視カメラから入手していた、そして彼がしたことは彼に殲滅された特殊部隊がまざまざと語っていた、そして彼と彼女がいた場所は何故か焼けずに無傷で残っていたからことから彼が如何に人智を越えた存在であることをよく理解していた。

「だが、今回の海戦ではSSTOを攻撃せずに君たちを援護した、それが何を意味するのかは分からないが、少なくとも彼は、こちらから手出しをしなければ攻撃を仕掛けてくることはないようだ。先ほどSSTOがハワイ上空で撃墜されたという報告が入ったが、それが彼によるものではないということが判明している。」

「つまり、しばらく様子見をするというのですか、上陰次官補?」

「そういうことだな、君達には横須賀にある振動弾頭のサンプルを取りに行ってもらおう、あれが最後の一発だ、もう日本にはこのようなものを作るための材料がない、もしこれが失われたら人類は霧に対抗する術を完全に失うことになる。またもし彼の方から我々に接触を持とうとしたら、我々は彼と交渉する予定だ。」

使える手段、モノはとことん使おうとする上陰。群像はその任務を了承する。

その一方でーー

 

「貧乳ロリスパッツ…私のあだ名?なぜ彼は私にこの名前をつけた?」

イオナは401の甲板でヒトデいじりをしつつ、彼からつけられたあだ名について悩んでいた。彼女はリヴァイアサンとの接触の際に、智史が彼女を初めて見て独り言でこういったことを覚えていた、

 

「“あ、貧乳ロリスパッツとグンゾーだ。”」

 

群像の方は名前から来ているのでその気持ちはなんとなく分かるのだが、彼女の場合は見た目から名前をつけられた、実際に彼女は胸が小さく、かつ幼い容姿をしており、そして青いセーラー服にスパッツを履いていたからだ。智史にしてみればその名前は彼の彼女のイメージをそのまま定着させてしまうあだ名である。幸い彼の近くにいた琴乃という女性が彼に見た目をそのまんま言うなと注意してれたので、今後こんな独り言を口にすることは無いのだろうが、彼に今のイメージを持たれ、彼にこのあだ名で呼ばれることが嫌な彼女はこのことで悩んでいた。

 

「群像、ここにもう用は無いの?」

「ああ、イオナ、横須賀へ向かうぞ。」

「了解、きゅーそくせんこー。」

 

群像が戻ってきたことを確認した彼女は401を横須賀へ発進させる、振動弾頭のサンプルを受け取るために。

 

 

そしてリヴァイアサンの方はというと…。

 

「どう足掻いても無駄だ、大人しくするがいい。」

リヴァイアサンの艦内でキリシマがナガト達を撃滅すべく沖縄に艦を進める智史を止めるために琴乃を人質に取ろうとしたが智史はこれをとっとと見抜いていたためにそれは失敗に終わりキリシマは動きを止められ、金庫に放り込まれた。

 

「くっ…私達は奴を止められないのか…。」

「無駄だ、キリシマ。奴に対して足掻くこと自体が無意味になっているのだ、めんどくさい…。」

「コンゴウ⁉︎死んだはずでは⁉︎何故ここにいる⁉︎」

 

放り込まれた金庫の中には有明海の海戦前に目を覚ましたユニオンコアだけのコンゴウがあった、彼女は告げる、彼が“何か”を企んでいることを。

 

「どうやら智史は何らかの企みのために私達を道具やカードとして使うだろう、やれやれ、とんでもない奴だ…。」

 

そしてキリシマは少しここで頭を冷やすことにした、ところで智史はというと…。

「さーて、ナガト達をどう滅多斬りにしようかな〜。偵察機のデータからだと沖縄にはすげえ数がいるなあ、これこそ殺り甲斐がある、のか?ま、いいや。」

彼は敵が大量に集結していることを喜んでいた、それもそのはず、ナガトが集めた艦隊の内容は、

 

旗艦 大戦艦 ナガト

 

超兵器級

 

超巨大双胴戦艦 ハリマ

超巨大ドリル戦艦 アラハバキ アマテラス

 

大戦艦級

 

大戦艦 ナガト

 

海域強襲制圧艦

 

海域強襲制圧艦 ショウカク ズイカク アカギ カガ ソウリュウ ヒリュウ

 

重巡洋艦

 

重巡洋艦 トネ チクマ モガミ ミクマ スズヤ クマノ フルタカ カコ アオバ イカサ

エメラルド級 20隻

 

軽巡洋艦

 

改クマ級 50隻 アトランタ級 100隻 アガノ級 100隻

 

潜水艦

 

攻撃型潜水艦 200隻

 

その他

 

弾薬・ナノマテリアル補給艦 200隻、ドッグ艦 100隻

 

以上のような凄まじい規模の艦隊であり、その数はナガトが最新艦さえ投入したため、超兵器級3隻、大戦艦級1隻、海域強襲制圧艦10隻、重巡洋艦30隻、軽巡洋艦500隻、潜水艦200隻、雑務艦300隻というとんでもない数だった。

短期間でこれだけの規模の艦隊を作り上げたナガトは賞賛されるべきであろう、しかしその代償として東洋方面の艦隊のための備蓄物質は底をついてしまった、これだけの艦隊を長期間作戦行動させるとなると、全ての艦を維持するのは到底不可能で、彼女はなんとしてもこの一戦でケリをつけたかったのだ。それに、

 

「ムツ…犬死にさせてごめんなさい…。あなた達の仇は私がとるから…。」

 

ムツも含めた自分の配下のサブリーダーとなるべき大戦艦級が次々とリヴァイアサンに殲滅され、そのせいでナガトは正確な指揮を取れなくなってしまっていた、それほどまでに彼は彼女を追い詰めていたのだ。

 

そして日が落ちてきた頃ーー

 

「もうすぐ沖縄か。さあ、決戦の始まりだ〜!」

間もなく沖縄に着くことにハイテンションな彼はサークルを展開する、そしてリヴァイアサンに青いバイナルが輝き速力が上がる、飛行甲板からは無数の海鳥が次々と飛び立っていく。

 

「敵機多数レーダーに捕捉!数、1万以上です!」

「来たわね…。各艦、引きつけてから攻撃を開始しなさい。」

ナガトの方も部下からの報告を受けてついに決戦が始まったことを悟る、遠くを見ると蜂の大群の如き無数の敵機の姿が確認できた。

 

「今よ、撃ち方始めっ!」

 

そして彼女達に襲いかかったリヴァイアサンから飛び立った攻撃隊はこれまで味わったことのない激しい対空砲火に見舞われる、しかもその殆どが実弾やミサイルによる攻撃だったのだ。しかしーー

 

「そんな、攻撃が通用しない⁉︎」

「バカな、すべて無効化されているだと⁉︎」

 

智史は事前にそのようなことを想定し、何回もシミュレーションをした上で彼らに徹底的な強化を施していた、彼女達のミサイルや実弾による攻撃はレーザーによるものと比べるとエネルギー吸収効率は低いものの、それでもかすり傷一つすら受けることを許さない。すべての攻撃を受け流し、弾き返し、吸収していく。そして彼らは彼女らに量子弾頭ミサイル、バンカーバスター、複合爆装ポッド、そして爆発すると範囲内の全ての物質を飲み込んでしまうブラックホール弾まで次々と投下していく。

 

「だめだ、もう持たない!」

「たっ、助けてっ、いっ、いやぁぁぁ!」

 

その猛攻の前に彼女らは爆発し、砕け散り、黒い歪みに飲み込まれ、次々と消滅していく、その様は黙示録の如き有様だった。そしてリヴァイアサンがその地獄絵図の中を生き残った艦に向けて、AGSや重力子レーザー、多弾頭共振ミサイル、さらにはレールガンまで容赦なく撃ち込んで蹴散らす。時折生き残ったエメラルド級や潜水艦群、そして海域強襲制圧艦群がレールガンや侵食魚雷やミサイルを次々と撃ち込むが、彼はそれも物ともせずに平然と進撃を続ける。

 

「霧もレールガンを装備したか、だが無駄だ。それにしても雑魚を叩き潰し終えたら次は潜水艦と幹部級か。魚雷もいいが、こんなにいると想定済みとはいえ面倒くさい、この際まとめて叩き潰してやる。」

彼がそう言うとリヴァイアサンはミラーリングシステムを展開、そこから40基もの重力子ユニットが現れた。

 

「超重力砲、発射。」

そして一瞬白い閃光が瞬いたあと、無数の太く強烈な青黒い光の刃が放たれる、そしてそこにいた彼女達を何も言わせる間も無く次々と消し去っていく。

 

「重巡洋艦群、潜水艦群、海域強襲制圧艦群、全て消滅…。」

「ナガト、あとは貴様らだけだ。」

 

そして彼は彼女らに襲いかかっていく。

 

 

 

「リヴァイアサン、このアラハバキのドリルの錆になるがいい!」

「私は楽しい、お前を殺れるのだからな!」

 

ーーアホか。それはこっちの台詞だ。

リヴァイアサンはナガトの命令を無視して突撃してくるアラハバキとアマテラスの攻撃を受けた。

 

「「食らえ!スラスター突撃!」」

 

そして彼女達はリヴァイアサンに自身の切り札と云うべきドリルという『牙』を突き立てた、はずだった。

 

「ば…馬鹿な、エネルギーが、吸い取られていく…。」

「くっ、船体が動かない!」

 

それに対してリヴァイアサンは外殻に傷一つ付くことなく平然としている。並の大戦艦級が食らえば一撃でそのクラインフィールド諸共簡単に木っ端微塵になってしまい、それでいて威力がまだ有り余る一撃を強制波動装甲と量子クリスタル装甲で受け止め、それだけならまだしもカウンターも兼ねて彼女らの船体をロックビームで堅固に固定し、彼女らが持つ全ての『エネルギー』を吸収し、己を進化させながら。そしてミラーリングシステムが展開され、無数の次元の穴が現れる、

 

「跡形もなく、露と散れ。」

 

そしてその穴から黒い濁流が噴き出しアラハバキとアマテラスを飲み込みガラスでも砕くのかのように粉々にする、さらにその近くにいたハリマをもそれは飲み込み、それが引いたあとには彼女の船体は醜い鉄塊となっていた。

 

「こ…こうなったら…。」

 

ナガトがそう呟く、すると撃破されたハリマとアラハバキ、アマテラスの残骸が白い粉になってナガトの方に向かっていく、それはナガトを覆い、白い粉が消えた後には艦首にアラハバキとアマテラスのドリルを付け、上部構造物と艦首以外の部分はハリマからで構成され、それが上下に割れており、そこにナガト本体が入った巨大な合体戦艦が現れた。

 

「リヴァイアサァァァン!」

あ、こいつ暴走した超兵器に意識取り込まれてるけど、うちに対する憎しみはちゃんと残ってるわ。

そしてナガトの合体戦艦は海を割って、リヴァイアサンに猛攻を仕掛ける、しかしこのようなことさえ彼はきちんと想定していたのだ、ガトリング砲や巨砲、レールガンや超重力砲が唸りをあげる、しかしリヴァイアサンの外殻は何の傷も付かなかった、彼とリヴァイアサンはこれを受け止め吸収し、そして更に強くなっていく。

「もう終わりか?ならばこちらの番だ。」

そしてリヴァイアサンのレールガンやAGS、重力子レーザーが咆哮し、化け物と化したナガトの兵装を次々と吹き飛ばし、船体を抉り飛ばしていく。

「止めはこちらから行くぞ!」

そう言うと彼はリヴァイアサンの重力子レンズに重力子エネルギーと波動エネルギーを蓄積させたまま、なぜかミラーリングシステムを畳んで突撃していく。

 

「智史くん、まさか自爆する気⁉︎」

「そのような考えはない、まあ見ていろ。」

彼の常識を逸する行動に驚く琴乃を彼は制止する、そして合体ナガトに深く突っ込むような形で止まったときに彼の狙いが判明する、なんと重力子レンズに蓄積させていた各エネルギーを逆流させ、それを艦の表面から一斉に解き放ったのだ、このエネルギーを逃す術を持たないナガトは跡形もなく砕け散った、一瞬太陽が現れたような巨大な爆発を残して。そしてその光景の後にはリヴァイアサンが無傷で佇んでいた、割れていた海が元に戻っていき、そして空からナガトの破片が降ってくる光景の中に。

 

「あれ?こいつらこんなに弱かったっけ?おかしいな、完璧目指して強くしてたらこういうことになっちゃうのかなぁ…?」

「自己評価が低いわよ、智史くん。この勝利は今後人類の運命を変えていくわ。」

「う〜ん、どうだろう…。」

この戦いの結果は決戦というより一方的な殺戮に終わってしまった、しかしそれでよい、この結果は人類を救う第一歩となるのだから。

それに彼はSSTOがハワイ近海にいる超兵器に撃墜されたことを知っていた、そしてもっと食い甲斐があるかもしれないと期待していた…。

 

「あ、ズイカクだ、うまく船から脱出できたんだね。」

そう彼が指を指す方向には鮫に追いかけられて逃げ惑うズイカクの姿があった、彼女はうちを快く思っていないだろう、かといってこのままおいてけぼりにするのも可哀想だと思った彼は素直に彼女を回収した。

 

「リヴァイアサン…お前何者なんだ?」

「あんたらからイジメを受けたから復讐者になった、以上」

ズイカクからの質問にこうバッサリと答える智史。そして彼はある計画のためにコンゴウ、ハルナ、キリシマを使うべく、横須賀に向けて進路を取る、それが“ともだち”の存在意義を理解するきっかけであるということを彼女らは知らない…。




リヴァイアサン=海神智史が新たに得たオプション

艦内放射

元ネタはvsシリーズのゴジラが使っていた体内放射より。
本来は重力子ユニットから放たれる超重力砲のエネルギーをあえて逆流させ艦内から放出するというオプション。
次元津波よりもより敵の奥深くで放つことができるためそのエネルギーを逃す術を持たない敵に対しては致命的な威力を誇る。


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蒔絵との出会い〜ヒエイを蹂躙する篇
第7話 ヒエイと打ち上げとフルボッコタイム


今作は前作の戦闘結果の皆さんの反応を書きつつも、智史が蒔絵とキリシマ達を仲良くしようととんでもない計画を実行します。
あとヒュウガとタカオが彼によって酷い目に遭います。
読みたい方だけお楽しみください。


「“霧の艦隊東洋方面艦隊群が霧の究極超兵器、超巨大戦艦リヴァイアサン一隻の前に全滅ーー"、その報告は本当だな、上陰君?」

「間違いありません、リヴァイアサンを追尾していた我が軍の潜水艦がその戦闘の一部始終を確認しています。」

 

日本統制軍 陸軍派代議士、そして与党幹事長である北 良寛(きた りょうかん)の質問にそう答えるのは上陰龍二郎次官補だった、彼は日本統制軍 海軍の潜水艦にリヴァイアサンを追尾するよう命令を出していたのだ。

 

「彼はこちらに気がついていたようですが、その任務を担当していた潜水艦に自衛以外の攻撃を禁じていたため、彼の方からこちらに攻撃を仕掛けるような気配はありませんでした。」

「そうか…。奴から何らかのコンタクトがあったら逐一報告しろ、ただし自衛以外の攻撃はするな、こちらから手出しをしたらどうなるのかはこちらがが彼を排除するために投入した特殊部隊がまざまざと物語っている。」

 

北は智史が横須賀で引き起こした一連の騒動はよく知っていた、しかし彼は圧倒的な力でこちらを蹴散らしつつも自衛以外の戦闘を一切しなかった、しかもその戦闘のほとんどが、こちらが彼を確保したり排除するために部隊を動かしたことに起因していたのだ。もし彼を敵に回したら彼によほどの非がなければ、世界が終わってしまうのだ。なので彼らは慎重に、言葉と手段を選ぶことにした、もし陸軍の強硬派の一部に彼を攻撃しようという兆候があったらたとえ実行に移していなくても容赦なく排除することにした。

 

 

 

ーーその日、世界に激震が走ったーー

 

ーー霧の艦隊東洋方面艦隊群、霧の究極超兵器リヴァイアサンにより壊滅ーー

 

この報はリヴァイアサンのあとをこっそりとつけていた日本統制軍の潜水艦が、霧の東洋方面決戦艦隊がリヴァイアサンに一方的に屠られていく様を見て日本統制軍上層部に報告したものだ、実は智史はそのことに気がついていたがあえて見逃していた。

そしてその報は滅びへと瀕していた人類に大きな驚きと僅かな希望を与えた、その一方で霧には衝撃と戦慄を与えた。

 

「まさか…コンゴウ様に続いてナガト様まで奴に…。」

「ナガト様の反応はあの大規模なエネルギー反応を検出した直後に消失しています…。」

そう会話するのは大戦艦ヒエイと重巡洋艦ナチだった、ナチは自艦に付属していた偵察機ーーリヴァイアサンが強力な艦載機を大量に生み出し、しかも長期間も運用していることに衝撃を受けた霧が航空機の再配備を進めたことで手に入れたものーーを運用しリヴァイアサンとナガトの戦闘の一部始終のデータを入手していたのだ、そしてリヴァイアサンが圧倒的な力を振るってナガトを容赦なく解体していく様を見守ることしかできなかった。もし彼女がその場にいてもナガトを守ることさえも出来ずに一瞬で粉砕されていただろう。

 

「ミラーリングシステムで大量のエネルギーの濁流を自在に引き起こすとは、まさに伝説の海の怪物に相応しい戦いぶりです、ミラーリングシステムの使用は身を滅ぼすのを促すのに終わるでしょう。」

「彼の戦闘能力は我々の常識を越えています、ヒエイ生徒会長、あなたがたった1人で向かっても海の藻屑と消えるだけです、もし行くのでしたら私達姉妹と新型の重巡洋艦や軽巡洋艦に超兵器、超巨大レーザー戦艦グロース・シュトラールとナハト・シュトラール、超高速巡洋戦艦ヴィルベルヴィントとシュトルムヴィント、そして彼の航空戦力を相殺するためにフォレルタル級超空母20隻と超巨大2段空母ペーター・シュトラッサー級4隻、超巨大未確認飛行物体ヴリルオーディンを10機同行させてください。」

「わかりました、今すぐ出撃の準備を急がせてください。

コンゴウ様…ナガト様…、あなた方の仇はこのヒエイが必ずや取ります。」

 

リヴァイアサンを撃沈すべく出撃準備を進めさせるヒエイ。しかしその一方で彼女はリヴァイアサンのメンタルモデルがどういう人物なのかということに興味を持ち始めていた。

 

 

ーー横須賀に向かうリヴァイアサンーー

 

「“大学院の研究室、どこに行くか決めた?”」

「“まだ決めてない…。”」

 

「“コンビニの世界はお客様優先!だから何かあったら謝れ!”」

「“はい…。”」

 

「“もっと早くやりなさいよ、お客さんがいらいらしてるわよ!”」

「“はい…。”」

 

ーー黙れ、ドブネズミども。

私に常識を押し付けるな、そして一方的な義務を押し付けるな。私は私のやりたいことをやりたいときにだけやりたいのだ。もちろんやらなきゃならないこともある、でも私の状態を考えずにやるべきことを勝手に変えるな。貴様らを見たら滅多刺しにし、八つ裂きにして殺してやる。

 

 

リヴァイアサンの艦首甲板でそのような回想をしている海神智史。彼にはもう元の世界に戻る意志はない、仮に戻ってもまた辛い日々がそこにあるだけだからだ。

 

「智史、お前ここにいて何考えてるんだ?」

「過去の回想だ、ズイカク。かつて私が味わった辛い日々のことをな。」

「そうか…あの記憶はお前の中に強いトラウマとして残っているのか…。」

 

私に話しかけるのはズイカクだった、当初彼女は私に対する憎しみを強く持っていると思っていたが予想に反して好みが合い、すぐに仲良くなれた。中でも料理ではお互いに作ったものを食べあってお互いの長所と短所を指摘し合い私の料理の腕前を磨き上げてくれる良きライバルになってくれていた。

 

「智史、お前はナガト達を殲滅したというのに更に強くなり、そしてまた強くなろうというのか?私にしてみればもう十分だというのに」

「上には上がいるかもしれん、ズイカク。世界各地の霧のデータベースを調べ上げた結果、他にも霧の超兵器がいることが確認された、中でもヴォルケンクラッツァー級は非常に強力だ、奴の波動砲は大陸も吹き飛ばし、副砲もお前達クラスなら余裕で吹き飛ばせる。流石に今の私なら余裕で打ち倒せる、だが奴が他の霧や霧の超兵器を連れてまとめて襲いかかってきたら流石に無傷とはいかん、だからもっと己を磨き、強くなるのだ。」

「霧を余裕で滅せるほどとんでもない力を持っているというのにすごく慎重な奴だな、お前は。私にはその行く末が恐ろしくてしょうがない」

「さて、もうすぐ横須賀か、それにしても私の攻撃で損傷を負ったタカオが硫黄島がある方向に向かっているな、あそこにはヒュウガがいるのに…。」

「まあいいんじゃない?もうすぐキリシマ達を打ち上げる時間になるよ、それに琴乃が待ってるし、行こうか。」

「ああ…。」

 

そして彼はキリシマ達を使うある作戦の為に打ち上げ場所へと移動していく。

 

 

ーー重巡洋艦タカオの独白

 

 

ーー何で、こうなるのよ…。

 

私は奴と人間達の船から必死に逃げていた、奴が出現した当初は霧ならざるものとして奴の方から概念伝達があっても冷たく拒絶した、奴はあの2人にあっけなく沈められると信じていた。

しかしそれは間違いだった、奴はあの2人を始めとした潜水艦群を一蹴すると、大戦艦コンゴウの東洋方面第一巡航艦隊を軽く殲滅してのけた、さらに第4巡航艦隊も一撃で粉砕され、霧は追い詰められていった。そして奴は横須賀で一旦動きを止めた後、奴との決戦の為に艦隊を結集させていたナガトの方へと向かっていった。奴の進撃を阻止する為にナガトからの命を受けた私はピケット艦として熊野灘付近で他のピケットナガラと共に索敵網を形成して、必要あらば各艦と連携した攻撃を仕掛ける筈だった。

だが奴は艦載機を大量に出撃させてこちらに攻撃を仕掛けてきた、私たちは必死に抵抗した、だがその努力さえ嘲笑うのかのように奴の艦載機はこちらの攻撃を次々と無効化し、そして吸収してしまった、そして奴らは次々と私たちに容赦のない攻撃を片っ端から加えていき、他の艦は次々と断末魔の叫びをあげながら沈められていった、私の方にも奴らは襲いかかり、僚艦の501が侵食魚雷を4発も食らって轟沈し、私にも侵食魚雷や新型のミサイルが数発叩きこまれ、そして大量のロケット弾と機銃掃射が加えられた。私のクラインフィールドはあっという間に飽和し、上部構造物は自慢の超重力砲諸共跡形もなく粉砕され主砲は吹き飛び廃墟のようになり、船体にも大穴が次々と開き、応急修理さえ間に合わず海水がどんどん入って左に20度も傾いてしまった。さらにその攻撃のせいで一部の機関部にも海水が入ってしまったりミサイルやロケット弾で破壊しつくされたりとかして速力は10ノットが精一杯となってしまった。幸いそれ以上の攻撃を奴は仕掛けてこなかったものの、私は自分たちが奴に一方的に沈められていくのを想像して、恐怖で心が一杯になった。

そして奴は大戦艦ムツ率いるSSTO打ち上げ阻止と霧の裏切り者、401を始末する為の第3巡航艦隊を纏めて始末すると、超兵器すら投入して決戦を挑んだナガト達さえ赤子の手を捻るかのように悉く殲滅してしまった。第3巡航艦隊にいた妹のアタゴとは連絡が取れず、しかも奴はまだ私がいる熊野灘の方へと向かってきている。

 

ーー嫌だ、嫌だ、私はまだ死にたくない…!

 

そして私は崩れかけた躯体で瀕死の船体を必死に動かして奴から南へと逃げていった。幸い奴は東の方へそのまま向かっていった、そして硫黄島で休息を取ろうとした時ーー

 

「…うそでしょ、体がもう持たないのに…。」

 

硫黄島から複数のオレンジ色の光束とミサイルが次々と放たれ、それが複数私に命中したところで私の意識は途切れた。しばらくして私は見知らぬ場所で目を覚ました、崩れかけた躯体は元通りになっていた、そして卵の形をした何かがそこにいたのに驚く、そしてーー

 

「タ〜カ〜オ〜、あんたさ、いったい何してんの?それにしても手酷くやられたじゃない、ここに連れてきた時にはあんたの躯体は崩れかけだったし、船体もボロボロだったじゃない、いったい誰がこんなことをあんたにしたのよ?」

 

 

 

その頃、リヴァイアサンのミサイルVLS群のとある一基の近くではーー

 

「キリシマ、ハルナ、これよりコンゴウのコアと共にお前達を特殊作戦用大型SGM(Ship-to-Ground Missile)で打ち上げる。目的は刑部蒔絵の回収の為だ、そのSGMは横須賀上空に入るとお前達が入っているパーツを切り離し、そのパーツは空中分解し、お前達は外へ放り出される。その直後にナノマテリアルを大量に詰めた弾体が起爆し、お前達は刑部邸の近くの倉庫に落下するだろう。」

「智史、何故お前は何故そんなことが確定しているように簡単に言えるっ⁉︎」

「自分の都合のいいことが確実に起きるように日々量質を強化しているシミュレーションで何度も演算し、データを積み重ねてその作戦に必要な装備や能力もどんどん継ぎ足して強化しまた何度もシミュレーションを演算して強化する、その繰り返しをしてそれが確実になるようにした、だからだ。」

 

彼が発言した作戦の内容に納得がいかないキリシマを彼は理屈通りの現実で黙らせた。実際にその内容通りに行く確率は99.9999999%。ほぼ内容通りに行くと言わんばかりの内容であった。

 

「そしてその爆発の痕跡に興味を示した刑部蒔絵はお前達を見つけるだろう、私が彼女がそういう行動を起こすようにシナリオを書いたからだ、もちろん他人が蒔絵より先にお前達を回収しないようにシナリオは演算した上で現実に起こるように近づけてある。」

「つまりお前の言った通りのことが起こるのか…。」

 

彼の発言の内容にとにかく納得せざるを得ないハルナ。実際に彼はこれまで計画したシナリオをシミュレーションで演算し、いろいろ試してまた演算をするということを大量に繰り返して悉くそのシナリオ通りに実現してしまったのだ。

 

「あとキリシマ、お前にはクラッシャブルストラクチャーを渡しておく、付けとけ。それとコンゴウのための飾りもな。さすがのお前とて地上に叩きつけられたらタダでは済まないだろうからな。ハルナ、お前には渡さん。私の楽しみのネタになって貰おう。」

「私を玩具として使うのか、お前は…。」

「つまりそういうことだ。時間だ、とっとと乗れ。」

「貴様…私を捨て駒として使う気か。」

「そんなことはない、お前にはキリシマやハルナに協力してもらって代わりの体になるものを実装してもらおう、もちろん人の型をしたものではないがな。」

 

彼はコアだけのコンゴウにそう呟くとキリシマとハルナと共に彼女をSGMの格納スペースの中に入れる。

 

「相変わらず自分の思った通りにいくようにシナリオを書くのが好きなのね、智史くん。」

「私は自分の好きなことが起こるようにしか起こらないように書く。それ以外の書き方は考えてない。」

「ふふふ、自分の欲望に素直な子…。可愛い子ね…。」

「イセ、その評価はある意味ありがたい…。」

 

そしてSGM発射の時が来た。

「発射10秒前…3…2…1…発射。」

その言葉と同時にリヴァイアサンのミサイルVLSのハッチの一つが開き、そこからSGMが轟音と爆炎と共に星が瞬く空の中を天を目指して飛び出していく、そして向きを変えて横須賀の方へ飛んで行った。

 

「よし、打ち上げは成功か。さて、硫黄島に向かうとするか。」

「ヒュウガちゃんのところに?彼女に会いたいわ、そしてじっくり彼女を可愛がってあげるから。」

「おそらく奴の自動迎撃システムが作動するだろう、多分こちらから呼びかけても止まらないだろうからそいつを叩き潰して硫黄島を制圧する前提でいる。」

そしてリヴァイアサンは向きを変えると進路を硫黄島に取ったーー

 

そしてキリシマ達はというとーー

 

「くっ、なんて速さだっ!体が後ろに引っ張られている!」

「速さが通常のミサイルを上回っている、体を踏ん張らせているのが精一杯だ。」

 

やがて横須賀の防護壁を飛び越えたSGMはキリシマ達が入ったパーツをパージする、その直後に一際巨大な爆発が起こる。

「うわあぁぁぁぁ!」

「くっ、彼の言う通り倉庫に激突するっ!」

「誰か、私を落とさないでくれぇぇぇ!」

 

そして2人と一個は彼、海神智史の宣言通りにそのまま刑部邸の倉庫に激突し叩きつけられて気を失った。

 

そしてほぼ同時刻ーー

 

「艦長、各装備の点検と物資の積み込みを開始します。」

「群像、超重力砲のメンテナンス始めるね、イオナ、お腹見せてくれる?」

「…こう?」

四月一日いおりがイオナにそう言うとイオナは服をめくってお腹を見せた、すると401の船体が割れ、中から超重力砲が姿を現わす。

 

「あれ、傷一つすらない、あいつメンタルモデルって言ってたけど一体何者なの?私には圧倒的な力を持つ絶対神にしか見えないんだけど…。」

「私にも彼のことはあまりわからない、ただ霧にしてみれば恐るべき災厄であることは分かる。」

 

群像達は今より少し前に横須賀に着いていた、彼らは補給と休息、そして振動弾頭のサンプルを受け取るためにここに来ていたのだ。

 

「しっかし、あいつ化け物か?あいつが霧の東洋方面艦隊群を壊滅させちまってからよぉ、日本近海から霧がいなくなっちまったな、そのせいで俺たちは冷や飯食いだぜ…。」

「いいじゃないか、彼のおかげで世界が動き出し始めたのだから。」

智史=リヴァイアサンが霧の東洋方面艦隊群を壊滅させたのを見た日本近海とその付近の霧は我先にと逃げるようにその海域から去っていった、そのせいで群像達は長崎を出てからここに来るまで彼らに一度も会わなかったのだ。

日本統制軍の地下ドックで彼らがそんな会話をしていたその時であるーー

 

「高速で飛来するミサイルを確認!着弾予想地点は、ここです!」

「何だと!」

「ミサイル、防護壁を越えましたーー、えっ、自爆⁉︎強力な重力震反応を確認、同時に大量のナノマテリアルが撒き散らされた模様です!」

 

リヴァイアサンから撃たれたミサイルが横須賀に飛来した、そして防護壁を越えると先端部分を切り離した直後に青白い巨大な爆発を引き起こして大量のナノマテリアルを撒き散らしたのだ。ナノマテリアルは雪のように静かに降り積もり、あたかも夏に雪が降っているような光景が幻出した。

 

「一体、何が起きてるんだ…。」

 

彼らにはその出来事を見守ることしか出来なかった、そして後の調査で判明したことだが、ミサイルは巨大な爆発を引き起こして大量のナノマテリアルを撒き散らしたものの物理的被害は一つも確認されなかった。

 

 

そして硫黄島ではーー

 

「…来る…。奴が、ここに…来る…。いっ、嫌ぁぁぁぁ!」

「タカオ、落ち着いて!ここは地下深くだし、あんたを酷い目に遭わせた奴もそう簡単には手出しは出来ないわよ、この島は私特製の要塞だから」

リヴァイアサンがここに近づいていることに怯え錯乱するタカオ、それを落ち着かせようとしているヒュウガ。確かにここは通常の霧では攻め落とせないほど強力なものだった、そう、通常の霧なら。そしてそこに来る霧は力を持ちすぎたとんでもない化け物だった。

 

そしてほぼ同時にーー

 

「もうすぐ硫黄島か。よし、概念伝達や電波通信で奴らに呼びかけてみるか、もし抵抗をやめなかったらここを占拠して城を建ててやろう。」

「智史くんったら相変わらず容赦ないね。ヒュウガさん達がこれに答えてくれるのかが問題だけど…。」

そして彼はリヴァイアサンから概念伝達や電波通信で呼びかける。

 

「ん、電波通信?そして向こうから呼びかけている?」

「ヒュウガ、これ奴からの⁉︎だったらこれに答えて!じゃないと私たち殺されてしまう!」

「何言ってんの、タカオ、あんた頭すこし冷やしなさいよ。」

「冗談じゃないわよっ、奴に抗っても徹底的に蹂躙されて殺されるだけよ!」

そのようなやり取りを硫黄島の地下でする二人、そして彼の予想通りヒュウガはこの呼びかけを無視して迎撃システムを稼働させた。

 

「やはりそうなりましたか。んじゃあここ更地にして城建てちゃいましょうか!」

ヒュウガ特製の要塞から飛んでくるミサイルやビームをクラインフィールドで受け止め、吸収しつつ、彼はサークルを展開する、そしてリヴァイアサンに青いバイナルの光が灯り、砲塔レールガンやAGS、ミサイルVLS、レーザー発振器が唸りを上げてヒュウガの要塞を片っ端から吹き飛ばしていく、同時に左舷飛行甲板にb-3ビジランティⅡとF-3Eストライク心神が次々と生成される、そして彼らは発艦し始め、バンカーバスターや1500kgJDAMを次々と島中に叩き込んでいく、瞬く間に島中の木々は吹き飛ばされ、巨大なクレーターが無数出現し、ヒュウガ特製の要塞は見る影もなく消滅してしまった。

 

「嫌ぁぁぁぁ!もうやめてぇぇぇぇ!殺さないでぇぇぇ!」

「ここまで攻撃が来るなんて!こんなのチートよ〜!」

「言ったじゃない、応答しろって!あんたが応答しないからこうなるじゃないっ!」

リヴァイアサンからの攻撃に慌てふためき、落下してくる破片、無数襲いかかってくる爆風と火炎の中を必死に逃げ惑う2人。彼は流石に地下ドックやマグマ掘削場は戦略的重要性があるとして破壊しなかったものの、それ以外は徹底的に破壊した。

 

「さぁ〜て、城造り城造りっと。」

そして彼は艦載機達を帰還させると今度は巨大なパワーショベルやブルドーザー、大型クレーンにダンプカーやコンクリートポンプ車などを次々ととリヴァイアサンの飛行甲板に出現させる、そして彼らは海に出現したクラインフィールドの道を大軍が行進するのかの様に島へと突き進んでいく。

 

「さぁて、変態エッグはどう出てくるのかな?」

そして彼は巨大な土木機械の群れが城造りを始めている硫黄島へと琴乃達を連れてゆっくりと海の上を歩いていく。

 

 

「凄い…これが城造り…。」

「でしょ?土木機械が大規模に構造物を造っている風景を見るのは迫力満点だよ〜」

あまりに大規模な工事の風景に圧倒される琴乃達。そこへ彼が待ち望んでいた光景が現れる。

 

「こらぁ〜っ!あんたこの島で一体何しとんじゃ〜っ⁉︎」

「城造り」

 

なんとヒュウガが廃墟と化した要塞の瓦礫の中から飛び出してきた。自分の要塞を勝手に破壊され、更には島そのものを占領されて怒り狂う彼女は彼に掴みかかろうとする、彼は嬉しそうに笑いながらそれを片手で防ぎ、彼女の頭を掴んで鷲掴みにする。

 

「勝手に私の要塞を壊して作り変えるな〜っ!早く元通りにしろ〜っ!」

「誰が元に戻すものか。さて、悪戯タイムの幕開けだ。」

そう彼は言うと右手にディエンドライバーを出現させる、彼女を投げ飛ばすと今度は左手に大戦艦イセの顔をした伊勢海老が描かれたカードを出現させた。そして彼はそのカードをディエンドライバーに差し込みそのままスライドする、同時に電子音が鳴り響き、“MONSTER RIDE”と描かれた文字と模様がカードが入れられた場所に浮かび上がる。

 

 

“MONSTER RIDE.イイイイセエビ!”

 

 

彼がディエンドライバーの引き金を引くと大量のイセの顔をした伊勢海老が現れ、ヒュウガに群がる、そして彼らはヒュウガにまとわりつくと、脚でつついたり、ハサミでつついたり、顔を擦り寄せたりヒュウガの顔を舐めまわしたりした。

 

「ヒィィィィィィ‼︎な、何これ〜!痛い、痛い〜!つっつかないでょ〜!気持ち悪い〜‼︎しかもなんでこいつら私が苦手なイセの顔をしているのよ〜!もう最悪〜!」

いい様だな、変態エッグ。

「あなたのアイデアはヒュウガちゃんにしてみれば悪夢ね、智史ちゃん。ふふふ…」

彼は腹を抱えてヒーヒー笑っている、彼とヒュウガの様を見たイセが髪飾りの鈴をカロンカロンと鳴らして嬉しそうにそう呟く。

 

さて、そろそろキリシマ達は蒔絵に回収される頃合いかなーー

 

朝日が昇り始める中、彼はそう呟くと横須賀の方を静かに見つめるーー

 

 

そしてその頃ーー

 

「銀砂…ナノマテリアルだ」

彼のシナリオ通り蒔絵が昨日の爆発の痕跡を不思議がって家から出てきていた、彼女はナノマテリアルを触って行きで吹いて飛ばす、そして顔を上げた時、2つの人型の穴が倉庫に空いていた。

彼女がその近くまで寄る、そしてその一つの穴の真下には大きな野暮ったいコートが落ちていた。彼女はそれを不思議がってその中を見るために倉庫の扉を開ける、そして入っていく。

 

ーーコチン

 

「?何これ?」

彼女の足に何かが当たる、それは円形の形をした霧の模様が入ったものだった。

 

「?誰かいる」

そして彼女の視界に2人の人の形をしたものが寝転がっていた、1人は茶髪で片足を露出した青のジーパンにヘソを出した白いブラウスを着ていたが、倉庫に空いた隙間からの光に照らされるもう1人は黄色い髪をしたツインテールで服装は黒のブラジャーとパンツしかつけていなかった。前者はまだまともだった、だが後者はエロティシズムを全開にした姿にしか映らない。

彼女はいつも一人ぼっちで寂しい思いをしていた、彼女は友達を欲していたのだ。2人に興味を示した彼女は従者を呼ぶと2人を従者に運ばせて家へと連れて行く、そして一個は彼女が興味を示して持っていった。

後に彼女、刑部蒔絵は彼らと友達になり、世界の運命を変える旅に出ることになる、そしてその出来事が彼女の運命を変えることを彼女はまだ知らないーー




今作の敵超兵器紹介

超高速巡洋戦艦ヴィルベルヴィント

全長 720m 艦幅 90m 全幅140m
基準排水量 820000t
最大速力 水上 5000kt 水中 1000kt
武装
61㎝80口径3連装砲塔 4基
20.3㎝80口径連装砲塔 4基
203㎝5連装量子魚雷発射管 6基
57mm連装バルカン砲 40基
508mm36連装ロケット砲 12基
各種ミサイルVLS 1000セル
61㎝水中魚雷発射管 100門
クラインフィールド、強制波動装甲、大型の追加スラスターに多数の小型可変スラスターを搭載。

説明
驚異的な機動力で敵を翻弄し、素早く敵に必殺の魚雷を叩き込むことで短期決戦を狙った霧の超兵器。超重力砲と引き換えに驚異的な機動性能を確保している。彼女のメンタルモデルは金髪の田舎貴族の衣装をしており、自分の素早さに絶対的な自信をもっている。また防御面も強固で、超戦艦級の主砲の直撃にも余裕で耐えてしまうほど。今回はリヴァイアサンを撃滅するためにヒエイに呼び出され、彼女が率いる生徒会艦隊に所属する。

超巨大レーザー戦艦 グロースシュトラール
全長 1400m 艦幅 200m 全幅 280m
基準排水量 10500000t
最大速力 水上 800kt 水中 400kt
武装
βレーザー発振基 1基
γレーザー発振基 2基
光子榴弾砲 単装12門
80口径114㎝連装砲塔 2基
拡散荷電粒子砲 連装6基
88mm連装バルカン砲 80基
各種ミサイルVLS 10000セル
61㎝各種魚雷発射管 120門

クラインフィールド、強制波動装甲搭載。

説明
高威力のレーザー兵器を主兵装とする霧の超兵器。超重力砲と引き換えに各種レーザー兵器の破壊力を大幅に高めており、その破壊力は最大出力だと一撃で日本列島を焼き払ってしまうほど。
メンタルモデルの性格はその名前が光に由来することが影響してか、自分をキラキラした衣装で着飾るのが好きである。

超巨大二段空母 ペーターシュトラッサー
全長 1120m 艦幅 160m 全幅 280m
基準排水量 4900000t
最大速力 水上 1800kt 水中 1200kt
武装
80口径80㎝3連装砲塔 4基
80口径20.3cm連装両用砲 20基
76mmバルカン砲 60基
80㎝36連装拡散弾頭噴進砲 12基
各種ミサイルVLS 5000セル
クラインフィールド、強制波動装甲、ナノマテリアル生成装置を搭載。

説明
ヒエイが航空機対策として用意した超兵器。元々は海域強襲制圧用の超兵器であったが、リヴァイアサンの航空機群にになす術もなく蹂躙された戦闘データを見たムサシによって航空母艦として艤装を変更された。そのためかナノマテリアルを自分で作ることができ、それで作った艦載機を運用することで攻撃を行うのが主戦法になる。


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第8話 蒔絵とヨタロウと刑部藤十郎、そして交渉

今作は原作5、6話を参考にしつつ書いてみました、そのせいで話が非常に長くなってます。
コンゴウがヨタロウにされてしまいます。
そして、智史が蒔絵を助け出します。
また彼の圧倒的な力によって上陰達の置かれている環境がかなり改善されます。
それでは読みたい方だけお楽しみください。


「うちに仲間を殺されて怒り狂うヒエイが霧の生徒会と超兵器を複数連れて来たか、今度は調べ上げた通り、航空機対策が念入りに施されているな、しかも短期決戦を挑む気か、こいつら。だが、させん。餅には餅屋というようにこちらも更に強力な艦載機で迎え撃ってやろう。今の状態でも十分に余裕で勝てるが奴らに更に惨めな最期を遂げさせるためにもっともっと己を磨き、強化しよう。だが、ヒエイもある意味可哀想だよな、うちのせいで大事なものを失ったんだから…。」

そう言い、前から進めていた対策に基づく強化のペースを更に上げる智史。実際に霧はこれまでのリヴァイアサンの戦闘パターンから対策を出しつつあった。だが彼の強化は対策を遥かに上回る速度で行われた、もう太陽系100個など余裕で滅ぼせるほど強くなっているのに、だ。そしてそれはもはや霧を嬲り殺しにする為の強化の域に入りつつあった。彼女らにしてみればもはや悪魔が自分たちを嬲り殺しにしていく為にする強化に他ならない。しかも彼は自分を強化する元を更に強化してペースをどんどん上げているのである、とっくに彼は文字通りの米帝を通り越したチート状態になりつつあった。

 

「それにしてもタカオが群像に恋する動機はうちが全部潰しちゃったからな、しかも奴はうちに怯えてピクピクしてやがる、そうだ、もっともっと強化ペースを上げて強くなってますます怯えさせてやろう。」

そう言い、タカオの反応をみて更に怯えさせる為にますます己を磨く智史。彼女にしてみれば彼は化け物同然だった、しかもますます強くなろうとしているのだ、この状態はもはやイジメを更にエスカレートさせようという動きに他ならない。彼は彼女をたっぷりと甚振るのが病みつきになってしまった。

 

「ひぃっ!もうやめてぇぇぇぇ!」

「さぁ〜て、タカオ。お前をたっぷりと弄んでやろう。そして私の楽しみとしてとこしえに愛でてやろう。ヒュウガはイセがたっぷりと愛でているからな。」

そして彼女は彼の玩具として弄ばれる、もちろんヒュウガは彼の“玩具”達と一緒にイセに愛でられていた…。

 

さて、キリシマ達はそろそろお目覚めかな、そして政府の奴らーー特に北良寛と上陰龍二郎、この2人に連絡を入れておこう、“あなた方と交渉がしたい、今日の21時、刑部邸にてお待ちしている”、とな…。

 

そして彼はスマートフォンのスイッチを入れると2人に電話を掛けるーー

 

 

ーーほぼ同時刻

 

プルルルルルル…プルルルルルル…

 

自室の電話が突然鳴り響くことに驚く北。彼の電話は非常に重要な時にしか繋がらないように設定してあり、余程のことがなければ鳴り響くことはないはずだった。

「私だ、一体誰かね?」

「いきなりお掛けして申し訳ない、北良寛殿。私は霧の究極超兵器超巨大戦艦リヴァイアサンのメンタルモデル、海神智史という者です。」

「なっ…、君は、あの究極超兵器のメンタルモデルだというのか⁉︎」

「セキュリティが幾つかあったようですが悉く無力化させて貰いました。さて、あなたにお願いがあります、あなた方と交渉がしたい。内容は今は亡き刑部藤十郎博士のご子息、蒔絵の身柄の引き渡しとそれに伴う条件についてです。今日の21時、刑部邸にてお待ちしています。なお刑部邸にはこちらから向かいましょう。以上ですーー」

 

プーッ、プーッ、プーッ…

 

そして電話が切れる。

彼、海神智史から電話が来ることは北にしてみれば衝撃的だった、そしてこれは彼とコンタクトを持つ機会になると判断した北は行動を開始する、少し遅れて上陰にも智史からの電話があり、彼らは智史が約束した時間帯に交渉を始めるべく動き始めた。彼らにしてみれば二度とない貴重な機会なのだ、これを断れば智史に何をされるのかは言うまでもない。

「この交渉で奴から譲歩を得られれば、私の野望は実現に近づくことになる。何としても交渉を成立させるぞ。」

そう呟く上陰。彼にはアメリカにいる同志と共にある計画を進めていた…。

 

 

「さて、交渉のアポイントは取った、後はキリシマ達がシナリオ通りに動いてくれるだけだ。」

「智史くんったら相変わらず力に対しては貪欲ね、デザインチャイルドを手に入れてその思考ルーチンと知識を手に入れて更に強くなろうとするなんて。それにしてもアタゴちゃんから聞いたわ、タカオを玩具にして遊んでいるって。流石に可哀想だからもう終わりにしてあげたら?」

「そうだな、琴乃。蒔絵からは思考ルーチンと知識を手に入れてそれらは己を更に研磨するための砥石として使う。だがまだ彼女は幼すぎる、そして運命を仕組まれたが故に残酷な運命に遭っているということも。彼女をこのままにしておくのはあまりに酷だ、彼女が私の脅威にならない限りは彼女をこの運命から救い出したかった、だからだ。」

「うふふ、あなたったら自分の気持ちに正直ね、でもそれ故に残酷なところもあるわね。場合によっては気配りも必要よ?」

「そうだな、だが私はあえて悪に生きよう、たとえ今が駄目でも最終的には彼女が明るい未来に生きらればいい、それでいい…。」

「私はそんなあなたにどこまでもついていくわ、だってあなたの手で1人の人間が救われるんだから…。」

そう会話する二人。この後彼がタカオを玩具にして遊ぶという光景はなくなった、そして彼は蒔絵の未来について考えていた、その姿はリヴァイアサンが未来を創造しようと言わんばかりの雰囲気を僅かながらも醸し出していた…。

 

 

ーーそしてその頃、横須賀では。

 

 

「コントロールより入電、これより振動弾頭の積み込みを始めるそうです。作業終了予定は2000。」

「わかった。」

 

横須賀の地下ドックにいる401と群像達。彼らは昨日の爆発の正体が未だに理解できなかった。重厚感のある音を立ててシャッターが開く、そして兵士に囲まれて振動弾頭を乗せた車両が進んでいく、その様子を見守るかのように上陰が401を見ていた。

 

モニターに振動弾頭の画像が出る、

「あれが振動弾頭…。」

「侵食魚雷よりも強力という触れ込みですからね、我々が届けるのを、アメリカさんも心待ちでしょう。」

「一発逆転兵器ってかな。そんなすげぇ兵器よく作ったなぁ。でもよ、あいつには全く効かなそうだな、だってあらゆる攻撃全部無効化して吸収しちまうからなぁ。何って言うんだっけ、これ?チート?」

杏平の予想通り、今のリヴァイアサン=海神智史には侵食魚雷、超重力砲、高威力兵器はもちろんのこと、振動弾頭すら効かない。その材質の原子を共振させて破壊しようにもそのエネルギーが吸収されて逆に強化に回されてしまうのだ。智史はあらゆる攻撃を無力化して吸収、自己強化できるように己を磨き、死角という死角を次々と潰していったのだ。

「しっかし、侵食魚雷は弾切れのままかぁ、あいつ俺たちを助けてくれて401を修理してくれたからな、どうせならいっそあいつから武器弾薬を調達するかぁ?何れにせよこりゃ硫黄島の基地に戻る必要があるな。」

彼から全ての武器弾薬を調達できないかと愚痴を呟く杏平。

 

「?あの子は…。イオナ、あの子を覚えているか?」

モニターに映った1人の少女に不思議がった群像がイオナに話しかける、だがイオナには分からなかった、ただ何かが起ころうとしていることは感じていた…。

 

 

海がよく見渡せる刑部邸の正門前に車が止まる、そして1人の幼女ーー蒔絵が降りてくる。彼女は振動弾頭搭載の件を済ませてここに戻ってきたのだった。

「お客様はまだお休みです」

「ありがとう、誰にも行ってないよね?」

「はい」

彼女は家に入る、そして1人の方がいる部屋の方へ入っていった。既に目を覚ましていたようだ、

「…?お前は、誰だ?」

「私は刑部蒔絵。あんたは?」

「キリシマだ。」

「何キリシマさん?」

「キリシマだ。」

「ふ〜ん。」

「ところで蒔絵、私をここに連れてきたのはお前か?」

「そうだよ。」

「ならもう1人もいるはずだ、まだ寝ているはずだが。」

 

 

ーー大戦艦キリシマの独白ーー

 

ーー智史、お前の思うがままに事が進んでしまったな。お前には未来さえ自在に操ってしまう力があるのか?

奴の言う通りに私は蒔絵に回収された、ハルナと一緒に。

そして私と蒔絵はハルナがまだ寝ている部屋へと入っていく。ハルナはまだ寝ていた、そして彼女が寝ているベッドの近くにはあの大きなコートが床に置かれていた。そして蒔絵は部屋に入ると明かりをつける、そしてハルナが寝ているベッドの上に飛び乗るとハルナの様子を見ようと近づいていくーー

 

「蒔絵、よせ!」

「えっ?」

 

ドオォォォォン!

「うっ、うわあぁぁっ!」

 

蒔絵はハルナの顔を触ろうとした、それでハルナが飛び起きるのを危惧した私は彼女を止めようとした、だが既に遅く、彼女がハルナの顔を触ろうとした次の瞬間、彼女の目の前でハルナは飛び起きた、布団を吹き飛ばして。しかし、コートが無いのに気がついたハルナはヘナヘナと萎むようにベッドに倒れこんでしまった。その事に彼女は驚きつつもあのコートを両手に持ってハルナに近づいていく。

 

「ううっ、あっ、そのコート…返して…。」

「えっ、これやっぱりあんたの?」

ハルナは手を蒔絵が持っているコートに手を伸ばし取ろうとする、蒔絵はそれを振り払うのかのようにコートを右へ左へと振り回す。

「シク…シク…シク…。シク…シク…シク…。」

コートが取れない事にすね泣きをするハルナ。流石に可哀想なのか蒔絵は彼女にコートを被せる。

「あ…ありがとう…」

 

「シャキーン」

コートを着せた瞬間に雰囲気がガラリと変わるハルナ。蒔絵はその様子を見て驚く。

「え〜っと、私は刑部蒔絵。あんたは?」

「ハルナ」

「何ハルナさん?」

「ハルナ」

「ふ〜ん、二人とも変わった名前だね。あ、そうだハルナ、これ落ちてたんだけど、あんたの?」

「そうだ」

「これ金属みたいな触感だけどすごく軽いね!」

そして蒔絵はハルナにコンゴウのコアを渡す。

 

ーーコンゴウ、無事か?

ーーああ、奴の言った通りに蒔絵に回収された。しかし、この状況は何だ?意味がわからん。奴は私達を好きなように出来るというのか?

 

「何だ?」

「うわあぁぁっ!」

「2人とも突然止まっちゃってさ、何してるのかわかんなかったからだよ〜。」

「考え事をしていた。」

「ふ〜ん。あんた達何か訳ありそうだししばらくここに居なよ?それにしてもハルナさ、何でコートの下は下着姿なの?」

「我々はミサイルから切り離されてそのままここの敷地に落ちてきた、その際にコートと下着以外の衣服はクラッシャブルストラクチャーとして使用した。」

「クラッシャブル何ちゃら?」

「クラッシャブルストラクチャー」

「ふ〜ん。でもそのスタイルはまずいんじゃ?」

「まずい?」

「キリシマの方はまだいいけどさ、コートの下は下着ってスタイルはちょっとまずいんじゃない?」

蒔絵にそう指摘されたハルナはコートのファスナーを下ろし、コートを左右に開く。

 

 

ーー智史、お前はハルナをからかいつつも私には“このスタイルでいろ”と。そういうつもりでこうしたのか?

 

実はハルナはコートの下に衣服を付けて居たのだ、それに対してキリシマは衣服と下着以外は何もつけていない、もし2人ともこのまま落下したら2人とも下着姿になってしまう。智史のこのことに関する見方ではハルナの方は面白いからいいが、キリシマの方は普段身につけている衣服と相まって彼にはカッコよくも色っぽくも見えるので、そんなキリシマが下着姿になり、自分の中のキリシマのイメージが崩されてしまうのを忌み嫌った彼は打ち上げの際にキリシマに普段の衣服の上にクラッシャブルストラクチャーを着るようにしておいたのだ。

 

 

「人類服飾史のデータを送る。ハルナ、今のままだと外に出て活動するのはまずいぞ。」

「こちらも同様の結論を得た。蒔絵、どうすればまずくない?」

「うちには着ない服がいっぱいあるんだ、それあげるよ!」

「刑部蒔絵、お前はなぜ、我々を助けてくれる?」

「そうね、これも何かの縁だし!」

「縁?」

「そ!縁の意味、知らないの?」

「縁…。」

そしてハルナの周りにサークルが出現する、

「人と人とのつながり、運命的な巡り合わせ、タグ添付、分類、記録。」

「ハルナって、国語辞典みたいな喋り方するね。なんか機械みたいっていうか…。」

「いや、そんなことはない。」

「ま、いっか!でもこういうのってなんか楽しいね!」

タンスから洋服を何着か出してハルナの元に持ってくる蒔絵。だが私達はまだ知らなかった、奴はもちろんのことだがそれ以外の何者かが私達を監視しているということにーー。

 

 

「え〜っと、え〜っと〜。」

「これかな〜?」

「いや、これでもないな〜?」

「それとも、こっちかな〜?」

「いや、これも捨てがたい…。」

ハルナは蒔絵に次々と洋服の試着をさせられていた、服が変わるたびに彼女の恥じらいは強くなっていく。

「う〜ん、はっ、」

「もう…、堪忍してつかあさいぃ〜。」

そう言いコートを着ようとするハルナ。

「まーだ!お洋服変えたら、髪型も変えないと〜!」

「うぇっ!」

蒔絵はコートを取ろうとする彼女の足を引っ張り、化粧台へと連れて行く。

「こんなのとか!」

「こういうのとか〜?」

「これもいいなぁ〜!」

蒔絵は嫌がる彼女の髪型を次々と変えていく。そしてブラシを置き、

「ハルハルはね、もっとおしゃれにした方がいいと思うんだよねっ!そうそう、明日一緒にお買い物しに行こうよ、外出てかいいか聞いとくからさ、ねっ!」

 

ーーコンコン。

 

扉が開きメイドが1人入ってくる。

「お嬢様、検査のお時間です。」

「は〜い、今行く〜。」

「ハルハル、お洋服ゆっくり選らんどいてね!」

そういうと彼女は部屋を出ていく。

 

そしてベッドのコートが引きずられーー

「シャキーン」

「ふふふ、ハルハル、気に入られたな、ハルハル?」

「キリシマか。随分と彼女に気に入られてしまった」

「気に入られたようだな、ハルナ。しかし二人とも、このめんどくさい状況をどうにかしてくれないか?智史が私に元の躯体になるだけのナノマテリアルを与えようとしない今、このままだと身動きがとれん。」

「ああ、そうだった。奴からの任務のことか、了解した。」

そして私は奴から渡された“プレゼント”を開きコンゴウのコアを近くにあったクマのぬいぐるみに少量のナノマテリアルと共に詰め込みぬいぐるみの色を紫に染め、そしてポワポワの形をした髪のカツラをつける。

 

そして部屋の中で紫色の光が一瞬光る、そして扉が開く、そこから紫のクマが立った状態で現れた。

 

 

 

ーーそしてその頃、硫黄島では。

 

 

「ふふふ、ハルナはネタキャラとして大いに使えるな、さて、蒔絵が作った化粧の延長線として私も奴を色々と弄んでみよう。」

そう嬉しそうに呟く智史。彼はハルナを徹底的に弄ぶつもりでいた、彼女の髪型をアフロ、モヒカン、シングルドリルにした時の彼女の反応を妄想した彼は笑いが止まらない。更に彼女の髪型をドリルにし、しかも硬化ワックスでドリルの髪型の強度を金属加工用のドリルの強度を遥かに上回るものにして彼女の頭をコンクリートの壁にねじ込み更にグラビティジェネレーターや体の一部に強固な拘束具を使うことによって彼女をアートにし、彼女とそのアートを見た人の反応を見て面白がろうと実際にそのプランを進めていたのだ。

「さて…そろそろ行こうか、かなり早いが約束の時間に遅れるよりはずっといい。琴乃、ズイカク、お前達も私にはついて行きたさそうだな。一緒に来るか?」

そして彼はリヴァイアサンとイセとアタゴをお留守番にして、リヴァイアサンの左舷飛行甲板に、エヴァンゲリオンに登場する機体、近接航空支援用垂直離着陸対地攻撃機 YAGR-3B(本家よりスペックが格段に強化されている、もはや本家の形をした別物と考えてよい)を1機を瞬時に生み出すと彼女らと共に乗り込む。

「私は航空機を運用したことはよくあるが、他人の航空機に乗ることは初めてだなぁ、それもお前が生み出した機体に。乗るのが楽しみだ」

「私も飛行機に一度も乗ったことがない。これが初めてだから楽しみよ。」

「そうか、二人とも空を飛ぶのがどういうものなのか楽しくて仕方がないのか。では行くぞ、横須賀へ!」

そして彼らを乗せたYAGR-3Bはリヴァイアサンを飛び立つと信じがたい速度で横須賀の方へと飛んで行ったーー

 

 

ーーそれとほぼ同時に。

 

紫のクマがキリシマ達の部屋から出ると人がいないか確認する、

「問題ない、行けるぞ。」

そして紫のクマは二人を連れて歩き出す。

「どうだ、コンゴウ?調子は?」

「…慣れん、めんどくさい…。しかし、この屋敷は何だ?」

「生体反応、なし」

ハルナが生体反応がを調べる、しかし生体反応が検出されなかった。

「ここだけじゃない、大きな建物だというのに生体反応が少ない…。」

「この屋敷はどうなっているというんだ?」

 

「お客様。」

後ろからの声に気がつき、慌てて人形のフリをし、倒れこむコンゴウ。

「お嬢様がお待ちです。食堂へご案内します。」

そう言い立ち去っていくメイド。二人は彼女の後についていこうとする、

「おい、待ってくれ。人前で歩くわけにはいかん、めんどくさい…。」

そしてキリシマはハルナと共にコンゴウを抱えて食堂へ入っていく。

「あれ、キリシマ。その子持ってるけどもしかして気に入った?」

「あぁ、そいつか?気に入らなかった訳でも、ないな…。」

恥じらいつつも蒔絵の質問に答えるキリシマ。

「あ、そうだ」

彼女は何かを思いつく、そしてメイドがクマの人形となったコンゴウを料理が並んだ席に座らせる。

「みんなで一緒に食べよう!うひひ、なんかこういうのって楽しいなぁ、誰かとご飯ってさぁ!」

「他に人間はいないのか?」

「この屋敷にいるのは私以外にメイドさんだけ。お母様は知らないし、お父様も死んじゃった。だからご飯を食べるのはいつも私一人だけなんだ。」

彼女の発言に少し驚くキリシマとハルナ。

「さぁ、食べよ!いっぱい作って貰ったからたくさん食べてね!」

そう彼女に言われた二人は食べ物をフォークに刺して観察する。

「それは何だ?」

「お薬。飲むの忘れると大変だからいつも出しとくの。」

 

二人は彼女がメイドに呼ばれた光景を思い出す、食べ物をフォークで刺したまま。

 

「あれ、二人とも、もしかしてにんじん嫌い?」

「いや…そんなことはないが…。」

「いや、その…」

「ダメでしょ〜?にんじん食べないと大きくなれませんよ〜?はい、ヨタロウ。」

そういうと彼女はコンゴウの口元ににんじんを刺したフォークを突き出す。

 

ーーそうか、こいつはヨタロウというのか。

そう考えるコンゴウ、そしてにんじんを思わず食べようとしたその時だった、突如として巨大な轟音が鳴り響く、3人と1匹はその音にびっくりし、メイドが何があったのか慌てて外に出る。

 

そして刑部邸の外ではーー

「さーて、刑部邸に着いた着いたっと。」

「なんて滅茶苦茶な速さなんだ、硫黄島からここまで5分もかからなかったぞ。ところで琴乃、なんで智史はここを選んだんだ?」

「智史くんがここで政府の人達と話がしたいって言ってたからよ。もちろん彼にくっついてね。」

そう言いYAGR-3Bから降りる智史と琴乃とズイカク。

「お客様、こんなお時間にいきなり来られるのは困ります。」

「すみません、このことを知らずにいきなり来てしまって。ここに用がありまして…。」

「お嬢様に会いに来られたのですか?」

「彼女にも用はあります。だが他に二人が彼女と一緒です、あの二人は私が彼女のために送った遣いですから。」

「わかりました、ご案内します。」

そうして智史達はメイドの後をついていくーー

 

「智史⁉︎何故いきなりここに来た⁉︎」

「ここに来る理由を伝えなくてすまんな、キリシマ。これから少し後に政府の奴らと交渉をする。」

「「なっ⁉︎」」

そう驚くハルナとキリシマ。彼の発言は彼女達にしてみれば蒼天の霹靂だった。

「人間達と交渉をするのか、お前は⁉︎」

「そうだ。さてと、あのぬいぐるみにピーマンを食べさせてみよう」

そう驚く2人を尻目に彼はコンゴウにピーマンを食べさせようとする、彼女はピーマンが嫌いだった、彼がピーマンを自分に食べさせようとするのを見た彼女はピーマンを食べまいとついに暴れ始めた。

「コンゴウ…ぬいぐるみは自分から動くものではない…。」

智史を除いた皆がその光景に唖然としてしまった、唖然としつつ話しかけるハルナ。

「…分かっている」

 

ーーくっ、こうも早く、しかも奴の手によってバレるとは、こうなったら仕方あるまい…。

「許せ、蒔絵!」

 

彼女は蒔絵を殺そうと飛びかかる、しかしーー

「すげえっ!」

蒔絵はそんな彼女を恐れず逆に嬉しそうに抱きついた、そして彼女のあちこちを弄る。

「すげえ、すげえ、すげえっ!ねぇ、これハルハル達が作ったの?」

「そ、そうだが…。」

「やっぱりっ!いつの間に〜?もしかしてハルハル達ってロボット博士?私みたいな秘密のお仕事関係者?」

「あ…まあそうだ…」

「やっぱりっ!おかしな子だなと思ってたんだよね〜!そっか〜私と同じか〜。」

そう会話する3人。それを智史が遮る。

「お話中にすまない、蒔絵。私は霧の究極超兵器、超巨大戦艦リヴァイアサンのメンタルモデル、海神智史だ。彼女らは私がお前に会わせるために送った遣いだ。彼女らを泊めてくれたお礼だ、この人形、お前にやろう。」

「リヴァイアサン?あなた、あちこちで霧をやっつけてくれているあの超兵器のメンタルモデル⁉︎まさか私に会いに来てくれたの⁉︎ありがとう!一度あなたに会ってみたかったんだ、偉い人達があなたを殺すために送った軍人さん達がみんなやっつけられちゃったから気になってたんだ!」

「ま…まあ、ありがとう…。」

蒔絵が自分に嬉しそうに話しかけてくるのに照れながら少し引いてしまう智史。

 

「ヨタロウ、お前はいいぞ!自分の足で立って歩ける自由を手に入れたんだからな!」

「(よかったな、ヨタロウ。蒔絵に気に入られて。)」

「(ーーくっ、余計な世話をかけるな、智史!)」

他人事のようにコンゴウをヨタロウと呼び、心の中で話す智史。それを嫌がるコンゴウは彼に悪態をつく。

 

「すまん、蒔絵。私はこの屋敷に来るのが初めてだ、だからあちこち気になってしょうがない。この屋敷の中を散策してもいいか?」

「うん!ここに来るの初めてだから気になっちゃうよね!」

「ありがとう。」

彼は蒔絵とそう話をすると部屋の外に出る、そして外で待っていた琴乃を連れて散策を開始する。

「智史くんったら好奇心旺盛ね、確かにここにずっといるのもあなたにしてみれば苦痛以外の何者でもないしね。しかし、あなたの本当の目的って蒔絵ちゃんの生みの親、刑部藤十郎博士に会うことでしょ?」

「そうだな、琴乃。ここの屋敷の装飾は個人的にはに美しい、だから刑部藤十郎がいる部屋までの途中の部屋のやつは見て楽しもう。」

彼はそう呟く、そして刑部邸のセキュリティをハッキングして一瞬で己のコントロール下に置くと刑部藤十郎がいる部屋へと進んでいく。

「随分と地下深くにあるわね、なんか理由があるのかしら?」

「恐らく蒔絵に感づかれたくない理由があるのだろう、政府の戸籍のデータを調べたところ彼は公式には自殺したことになっている。だが、彼の生体反応はある、恐らく表面上は自殺したと見せかけて人目に入らない地下深くの場所に移動し、そこから彼女を監視していたのだろう。実際監視カメラのデータを調べてみるにその傾向が強い。」

 

彼の言った通り、この屋敷にはあちこちに大量の監視カメラが設置されていた、そして屋敷の中にそのデータを映し出すモニター室のような部屋が確認されたのだ。

 

「ここか。」

そう彼が言うと扉が開く、そして刑部藤十郎はいた、まるで死人の形相でベッドに横になって。

「…よく来たな、私がここの主だ…。」

「お前が刑部藤十郎か。まあいい、振動弾頭に関するデータはとっくに入手済だ。そのデータによるとそれを作ったのはお前ではなく、お前が生み出した生命ーーデザインチャイルド、刑部蒔絵だな。」

「…そうだ…。…私はかつて霧に対抗するための兵器を必死に開発していた、だがそれは失敗の連続だった…。そこで私は己の限界を悟った。そして私はあるプロジェクトを立ち上げた、人が成し得ないないのなら成し得るものを。超常的な才能を持つ人間を作り上げればいい、と。デザインチャイルド開発で生み出された命は109、そのうち成長したのは7、3年を超えて生存したのは1…。」

「それがデザインチャイルド開発の最後の1人、蒔絵ちゃんね…。」

「…結果として蒔絵は期待以上の仕事を成し遂げてくれた、だが国家は冷淡だった、いや、彼女の力を恐れたのだ、霧と同じようにね。彼女はこの屋敷に私とともに幽閉され、彼らの管理下で生かされることとなった、そして彼女は周りとの人間の接触を禁じられたのだ…。」

「彼女も私と同じく世間に忌み嫌われたのか、極めて異質な存在として…。」

「…それでも私は、蒔絵と一緒に居られた、それだけで私は幸せだったよ…。あの子が笑ってくれればそれでいい。私はその子を娘として愛してしまったんだ…。だが、ある日、政府から通達があった、内容は“彼女に代わるデザインチャイルドを作製せよ”と。彼らは蒔絵を古いコンピューターを扱うのかのように蒔絵の廃棄を決めた。このままだとこの子は殺されてしまう、そう考えた私は事故死に見せかけてデザインチャイルド開発のデータとともに表舞台から姿をくらますことで彼女を唯一の存在にした…。」

「つまり奴らにしてみれば蒔絵は振動弾頭の調整に必要だから生かしているわけで、その仕事がおわったらもう用済み、と言わんばかりに彼女を殺処分か…。奴らには良心はないみたいだな、私が奴らだったら最後まで彼女の面倒を見るが。それにしても、死を偽ってまで生きていたのは、お前が話した内容から推察するに彼女の笑顔を見守り続けたかったからか?」

「…そういうことだ、そして私は見ての通り、もう長くはない。そこで一つ、君たちに頼みたいことがある。」

「頼みとは、何だ?」

「…蒔絵と彼女達を…守ってほしい…。」

「何故彼女達と関わりを持っていないのにそう言えるの?」

「…見ていてわかるからだ。君と彼女たちが一緒にいてくれただけであの子はたくさん笑ってくれた、それで十分だ…。頼む…。」

「…了解した。」

そして2人は藤十郎がいる部屋を去る。

「(何としても蒔絵は守り抜く、場合によっては横須賀共々奴らを焼き払うことも辞さん。)」

元の世界でこの一連の出来事の背景をインターネットで知っていた智史。しかしこの世界に直接関わっていくことで藤十郎の蒔絵への思いの重さを改めて痛感した。交渉が決裂した場合のことも考え、彼は横須賀共々彼らを殲滅する前提で交渉に臨む。そして彼が指定した交渉の時間が近づく。政府の車が刑部邸の目の前に停車する、そしてそこから北良寛、上陰龍二郎を始めとした政府関係者が屋敷に入っていくーー

 

 

ーー上陰龍二郎の独白ーー

 

ーー彼は一体何者なのだろうか?

彼はこちらからデザインチャイルド、刑部蒔絵に関する交渉を提案してきた。彼は彼女の身柄を確保したいようだ、だがこちらとしては彼女を手放すのは大きなリスクを伴う、彼女の超常的な才能が彼に悪用されたら我々は確実に滅ぼされるかもしれないのだ。かといって彼の提案を断っても我々に明日はない、良くても静かに滅びを待つだけ、悪ければ彼の逆鱗に触れてしまい、場合によっては我々は横須賀共々彼に焼き尽くされてしまうのかもしれないのだ。

何としても交渉を成立させて活路を開きたい我々は背水の陣で彼が指定した交渉に臨むのだった。

 

「お忙しい中ご苦労様です、上陰龍二郎次官補殿。私は霧の究極超兵器、超巨大戦艦リヴァイアサンのメンタルモデル、海神智史と言います。」

彼はそう私に話しかける。彼は一見すると地味な服を着たマニアじみた一面を持った一般人のようだった、しかし交渉が始まるな否や、彼の雰囲気は一変し圧倒的な威圧感を放ち始めた。

「まず要件を言いましょう、刑部蒔絵の身柄をこちらに引き渡して頂きたい。もちろんタダでとは言いません、代わりに技術提供とそれに関する建築物とマニュアルをタダ同然でこちらに提供致します。」

一見するとその提案は無茶苦茶に思えた、だが彼はそんなことなど余裕で成し遂げかねないほどの貫禄を醸し出していた、彼のあまりの威圧感と存在感に、震え上がり、泣き出してしまう者が続出した。

「それ以外の選択肢は?」

「ありません。この提案にYesかNoで答えて頂きます。」

この交渉の条件を破ったり、交渉自体を蹴ったら我々に破滅以外の道はない。しぶしぶ我々は彼に言われるがままに交渉を成立させた。

 

「では、交渉成立ですね、約束通り、私の方から約束を履行致しましょう。多分ここで約束を履行してもそうだとは信じてくれないでしょうから外に出てご覧ください。」

彼の言われるがままに我々は外に出る、そして彼は指を鳴らす、すると愕然とする光景が出現した。なんと横須賀の周辺に巨大な時空の歪みが出現し、そこから重機と資材が次々と現れてくる。そして彼らは平然と塀の外で建築物を片っ端から造り始めたのだ、それらは瞬く間に出来上がっていく、兵器工場、兵器研究施設、医療研究施設、超高層マンション、病院、学校、ショッピングモール、上下水道、潮力発電所、核融合発電所、鉄工場、金属加工工場、各種港湾施設、超大型ドック、飛行場、線路、道路、食物生産工場、果てには元素分離による資源生産工場まで…。まさに今の我々が必要としていたものがその場に一時間も経たないうちに無数に現出してしまったのだ、しかもそれをどう運用、管理するのかというマニュアル付きで。彼にしてみればそれは朝飯前のようだったが、我々はこの光景をただ見守ることしかできなかった。

 

「では、約束通り彼女の身柄はこちらでお預かりします、私の方は約束を履行しましたので」

そして彼はその仲間とともに彼女を連れて行く、彼女は彼らと楽しそうに話していた。

 

「それでは、これにて。」

そして彼らを乗せたVTOLは屋敷を飛び立ち、瞬く間に地平線の方へと消えてしまった。彼が何を考えていたのかは分からない、しかし彼との交渉が成立したことで我々の未来に活路が開いたことは確かだった。

 

 

 

ーーそして刑部邸の地下では。

 

 

「蒔絵…。人形として生み出されたお前に、あろうことか私は愛情を抱いてしまった…。お前は今人類を滅ぼしうる存在と心を通わせようとしている…。霧を滅ぼすために生み出されたものが霧と交わるとは…。皮肉な定めだ。だが、それでもいい、お前が彼らと共に育もうとしている思いが世界を変えるのだから…。」

藤十郎が彼女との思い出をモニターに出してそう呟く。のちに彼女は智史達と共に世界を変える戦いに関わっていくことになる、だが彼はそうなる定めを知らぬまま、息を静かに引き取った…。




今回の人物紹介

クマコンゴウ
智史がキリシマ達に事前にくまのぬいぐるみのヨタロウをベースに改修するように伝え、彼女らを行動させた結果生み出された存在。
その容姿は霧くまsに出てくるコンゴウ版ヨタロウと瓜二つ。
原作では、メンタルモデルを失いコアだけになったキリシマがヨタロウになるのだが、彼女のその姿を忌み嫌った彼はその代役としてコンゴウを選び、コンゴウをコアだけにしてヨタロウにしてしまうという風にヨタロウの中身を変えてしまった。


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第9話 都市と治療、そしてソビエツキーソユーズとデータ

今作では霧が横須賀での出来事を確認するために巨大な攻撃衛星を差し向けます、ですがあっさりと細切れにされます。
あとリヴァイアサン以外の究極超兵器がついに登場です。
それでは読みたい方だけお楽しみください。


「…うわぁ、こいつとんでもねえことをするな、いきなり空間を歪めるわそこから重機や資材が出現するわ建物は片っ端からできるわ…。これ何って表現すりゃいいんだ?」

「横須賀から半径100㎞以内に世界最大規模の工業地帯を出現させるとは…。とんでもないことをしますね、彼は。実際に彼のメンタルモデルとしての機能が活発化していることが彼が一連のことをした際に確認されています。」

これは智史が蒔絵達を乗せて飛び去った時間から少し後の群像達の様子である。彼らは智史が引き起こした現象をどう表現すればいいのか分からなかった。

「しかし、彼のおかげで世界に大きく風穴が開くことになるだろう、最も俺たちはこの出来事の立役者ではないから冷や飯食いだが…。」

群像がそう言うのも無理はない、彼らは手柄という手柄を片っ端から彼に奪われ、手柄を取ろうにも取れない状態なのだ。そして彼、海神智史が生み出した工業地帯はとんでもない代物だった、なんと振動弾頭や侵食魚雷、超重力砲にレールガンといった兵器、ナノマテリアルや有機素材といった構成素材が金太郎飴の如く量産でき、戦車や航空機は次世代型でも幾らでも造り出せるのだ。そして彼はマニュアルを残していった、それは上陰達も含めた全ての人間の心理を書き換えてしまうもので、触れた瞬間に遺伝子レベルで思考アルゴリズムが書き換えられてしまう代物なのだ。実際に彼のマニュアルに触れることが今の横須賀とその周辺では義務化され、彼のマニュアルに触れた人間達はその触った分野のマニュアルに関する知識や意欲を得ると共に幸せや喜びに関することを除き、必要と判断したこと以外は一切しなくなってしまった、それによって日本国内で起きていた紛争やデモは一気に沈静化していくことになる。そして彼らは霧を打倒すべく彼が作り上げた工業地帯をフルに稼働させ始めて強力な兵器を次々と生み出し始めていた。この出来事によって人類の未来が明るくなることは確かだった、だがその出来事は同時に群像達にしてみれば自分達の存在理由を消し去ってしまうようなものでもあった。

「何れにせよ、とりあえず硫黄島に向かおう。補給が必要だ。」

やる気なさそうな雰囲気の中で会話をする群像達。しかしその雰囲気はその直後に入った入電で崩される。

「艦長、リヴァイアサンから入電です!内容は「君たちのアジトである硫黄島を自分風にアレンジしてみた、楽しみにしてくれ」だそうです!」

「なっ⁉︎」

「おいおい、横須賀でとんでもねえこと引き起こしてくれたら今度は俺たちのアジトが造り変えてられているのかよ!もう訳が分からねえよ!」

「艦長、とにかく、硫黄島に急ぎましょう!」

慌てるように横須賀の地下ドックを後にする群像達。そしてそれを引き起こした張本人はというとーー

 

 

「すげぇ!大きな街が一夜で出来ちゃうなんて!あなたって何でも作れちゃうんだ!」

「まあ、全てとは言えないが…。」

彼が作り変えた硫黄島の基地の天守閣の屋上でそう会話をする蒔絵。彼は硫黄島を、かつて存在した安土城を一瞬思わせるような豪邸に作り変えてしまったのだ。そして彼は上陰達との交渉を成立させてYAGR-3Bで蒔絵達を乗せてリヴァイアサンに戻ってくる際に蒔絵達に横須賀周辺を見せて回ってきたのだ、その光景を見た蒔絵はこの光景に驚き、彼はなんでも作れてしまう存在だと信じていたのだ、確かに彼はあらゆるものを大量に生み出すことが出来る、しかし全てを作り出せる訳ではない、例えば蜘蛛や蜂といった生物的に苦手な生き物は作ること自体が気持ち悪くてできなかった。また、あらゆるものを大量に、かつ無限に生み出せるといってもその作り出せる量には限界があった。まあ自分自身に実装されている自己再生強化・進化システムを強化しつつフル稼働させていることでその作り出せる量も鰻登りで増えていったが…。

また蒔絵は薬を飲む必要自体が無くなっていた。これは彼が蒔絵が生命体として不完全な存在だと判断し、徹底的に遺伝子レベルで治療した結果、薬を投与しなくても細胞分裂や免疫を初めとした生体機能が維持できるようになったためだ。それだけではない、彼が彼女の細胞分裂のシステムのコントロールをした結果、彼女の細胞のヘイフリック限界が無制限になり老化現象が無くなってしまい、一度に全ての細胞を破壊されない限りは構成素材があれば幾らでも再生できてしまうのだ。これだけでもチートだというのに、更に新陳代謝や各種免疫系が超常的に強化されてしまい、エイズやエボラを初めとした彼の元の世界では薬を使っても根本的に治療できないものや強力な毒物や劇薬ですら受け付けず、瞬時に排除できるようになってしまったのだ。つまり彼女は栄養を外から摂取さえしていれば半永久的に生きられるようになってしまった。彼にしてみれば蒔絵を生物学的に守る為に最低限のことをしただけである、だが周りの存在にしてみればもはや普通の生身の人間をキャプテンアメリカやウルヴァリンのような超人にする改変行為にしか映らなかった。

「智史…。蒔絵や私達を守る約束があったにせよ、普通ここまでしなくてもいいぞ…。」

彼の蒔絵に対する治療のあまりの酷さに唖然とするキリシマ。

「まあそれでもいいではないか。お前たちと蒔絵の笑顔が守られるなら。」

「それは…確かにそうだが…。幾ら何でもこれはやり過ぎじゃ…。」

「智史く〜ん、蒔絵ちゃんを不老不死にするだけの力があったら、私にも同じことやってよ〜!」

彼の蒔絵への治療を見て自分にも同じような手術を施してほしいと駄々をこねる琴乃。

「仕方ない、了解した。」

そして彼はこの後彼女に蒔絵に施した治療と同じものを施すのであった、彼女も蒔絵と同じく不老不死になってしまったのだ。

 

「おい、智史、私を元に戻せ。」

「嫌だな、蒔絵が今のお前の姿を気に入っている。」

「ん?何かあったの?」

コンゴウと彼のやり取りが気になった蒔絵が彼にそう尋ねる。

「聞きたいのか?ヨタロウと私達の真実を」

「う…、うん。」

「了解した」

そして彼は言いづらい残酷な真実を話す、

「蒔絵、私達は霧だ。そしてヨタロウは自分で意思を持って動いているのではない、私がその仲間の1人をここに押し込んでいるから動いているのだ…。そしてお前が作った物は私以外の霧を殺し得るものだ…。」

彼にそう言われた蒔絵。しかし震え、涙を流しながら呟く、

「智史やハルハル達は私があんな爆弾を作ったことを許してはくれないかもしれない、でも、せっかく友達になれたのにそんなことで別れちゃうのはやだよ…。」

「そうか…。」

彼はそんな彼女を哀しい目で見つめる、そして同時に自分が作ったものを壊そうとする存在が横須賀に近づいてることに気がついていたーー

 

 

ほぼ同時刻、ハワイ近海にて。

 

「リヴァイアサンが我々霧の東洋方面の艦隊群を殲滅してからというものの、東洋方面からの情報が一切入ってこないわ。」

リヴァイアサンに東洋方面の自分達の同胞を殲滅され、それによって東洋方面からの情報が一切入ってこなくなったことを嘆く大戦艦モンタナ。彼女はスペック上は超戦艦級とも互角に戦える存在だった、しかしリーダーが複数いることによる内紛を防ぐ為にあえてその下の大戦艦級に甘んじていたのだ。

「しかも奴は横須賀で何かを引き起こしたようだ、実際に横須賀周辺に奴によるものと思われる巨大な空間の歪みが検出されている。」

そう告げるのは霧の究極超兵器、超巨大戦艦ヴォルケンクラッツァーだった。彼女の戦闘能力は凄まじく、一隻いるだけで地球を何個でも滅ぼせてしまうのだ。

「奴は一体何をしようとしているのだ?だが奴は少なくとも我々に与する気配はない。おそらく人類に我々に対抗する為の鉾と盾の作り方を教えたのだろう。現在横須賀で起きた現象を確認する為に超巨大攻撃衛星、ソビエツキーソユーズを向かわせている。もし奴が何か残していたら跡形もなく破壊させる予定だ。なおソユーズには奴との交戦を避けるように伝えてある、奴の鉾は宇宙空間にも届くからな。」

「ナガトを含めた東洋方面の同胞が殺られたことに我々は焦っているわ、現に各地の同胞は彼との決戦に備えつつも彼が人類に技術提供をしたことも考慮して人類の兵器に対する強化と対策を進めているわ。そしてナガトやコンゴウを殺されて怒り狂っているヒエイがあなたの仲間を引き連れて彼の元に向かっているようだけど、あなたはどうするの?」

「数だけは立派なヒエイの艦隊など奴に鎧袖一触で蹴散らされる。奴は戦うごとに強くなっている、そして今も。奴がそうなっているのはナガト達が見事に証明してくれた。」

彼らも重巡洋艦ナチからのデータを入手していたのだった。

「今奴と戦うのは危険すぎる、十分に準備を整えたら奴に向かうぞ。」

そう言い、リヴァイアサンとの決戦の準備を進めさせるヴォルケンクラッツァー。彼らの判断は間違ってはいない、準備を整えてから挑んだ方が事はうまく進むのだから。しかしリヴァイアサン=海神智史の強化と進化の速さはその周到な準備の速さを遥かに上回るものだった、そしてそのやり取りは彼の耳にとっくに入っていた。のちに彼らはこの努力の全てが結局徒労に終わってしまう事を思い知る事になる…。

 

「超巨大攻撃衛星ソビエツキーソユーズを横須賀に差し向けたのは超巨大戦艦ヴォルケンクラッツァーか。ソユーズはおそらく大気圏上から攻撃を仕掛けてくるだろう。にしても奴らこっちが強くなっている事に気が付いているな、事前に調べ上げて対応済みとはいえ、ソユーズのスペックが上がっている。そして各地の霧がうちに対する対策と強化も進めている事も。だが、そうはさせん。ソユーズを撃ち堕として、今以上の勢いで強くなるまでよ。」

そう言い、いつものお約束のように更なる強化を実行し、そのペースを上げていく智史。彼の強化を支える自己再生強化・進化システムは稼働させるのに凄まじい規模の演算リソースと巨大な力を消費する代物だった、だが、その代償として稼働させた分だけ、費やした分以上の大量の演算リソースと更に巨大な力を提供してくれるのだ。それを元手にして己を強化しつつ、更に自己再生強化・進化システムの稼働率と自身の演算能力を鰻登りに高めていく、これを大量に、無数に繰り返すことで彼は強化ペースを驚異的な勢いで上げ続けられているのだ。

 

「いよいよ来ましたか、ソビエツキーソユーズ。」

「ん?智史、今何か言った?」

彼の独り言の内容が気になって仕方がない蒔絵。

「うちが作り上げた街を宇宙から壊そうとしている奴がいるのよ、それを今からやっつける。」

そして彼はサークルを展開し硫黄島沖合にいるリヴァイアサンにホゾンジャンプで飛び乗る、そしてリヴァイアサンに青いバイナルが灯り、砲塔レールガンとAGSがソユーズに狙いを定める。

「奴らうちが何をしたいのか知りたいようだな、そして脅威となるものは排除したい、と。だけど、そんな事は一つもさせない。照準誤差、修正完了。沈め。」

そしてリヴァイアサンの砲塔レールガンとAGS、ミサイルVLS群が烈火の如く火を噴く。そして放たれた光弾は次々と大気圏上にいたソビエツキーソユーズに次々と叩き込まれる、彼女は彼が攻撃を開始したという事は知ってはいたものの、逃げる隙もなく次々と光弾を喰らい各所を吹き飛ばされて跡形もなく四散した。だが、彼の攻撃はこれだけに終わらない、なんと四散した残骸までもが徹底的に攻撃され念入りに破壊された、彼女は骸を残さずに跡形もなく一方的に殲滅されたのだ。だが、その直前に彼女は横須賀のデータを撮ることに成功した、そしてそれは各方面の霧に伝えられた。

 

 

ほぼ同時刻。

 

「ソユーズは任務を遂行するどころか、逃げる暇さえ与えられずに呆気なく殺られたか。だが彼女は任を完全に果たせなくても任を少しでも果たそうと奮闘し、己の命と引き換えにデータを残してくれた。彼女の死を無駄にするな。モンタナ、早速見るぞ。」

そしてヴォルケンクラッツァーはモンタナとともにデータの内容を確認するためにサークルを出す、そして唖然とする、

「何てことだ…。」

「もはや、我々を滅ぼすために生み出されたとしか言いようがないくらい圧倒的な規模ね。」

彼女達の言葉通り、ソユーズからのデータには横須賀とその周辺に非常に巨大な都市が形成されていることが確認できた、おまけに振動弾頭や侵食魚雷らしきものが次々と生産されていることも。彼女達にしてみれば彼にこんなに巨大な都市を今後各所に造られたらたまったものではない。

「手遅れになる前に一刻も早く、彼を止めなくては。」

 

 

そしてその頃、ベーリング海峡では…。

 

「うわぁ…。何なのこれ?」

「極めて巨大な人類の都市だ、おそらく奴は人類に我々に対する反撃を促すためにこのようなものを創り上げたのだろう。」

「一瞬でこれを創るとか、反則だよね〜。」

リヴァイアサンが引き起こした出来事を思わずやる気なさそうに質問するハグロとソユーズのデータをみて詳細を語るミョウコウ。

 

「いいじゃん、いいじゃん!私あいつと戦ってみたい!ほら、早くあいつとの戦争やろうよ!」

「アシガラ、少しは落ち着きなさい!彼は規格外の強敵なのよ!」

アシガラの発言に思わず憤るナチ。

 

何れにせよ、ソユーズからのデータを見て、それぞれの感想を述べるミョウコウ姉妹。そしてーー

「我々の仲間やコンゴウ様にナガト様まで殺し、その上短時間で我々を滅ぼすための巨大な都市を築き上げる、そのような校則違反は、許しません!」

リヴァイアサンのこれまでの所業と今回の出来事に怒り狂うヒエイ。彼女は生真面目で融通が利かない堅物だった、それゆえに今回の出来事は、彼女にしてみれば許し難い代物だった。

 

「ですが会長、奴は常に進化し続けています、これほどの威容を誇る大艦隊もいずれ奴に鎧袖一触と言わんばかりに蹴散らされてしまうのでは?」

リヴァイアサンのこれまでの戦闘データを見て、そう呟くミョウコウ。

 

「だからこそです。今ここで我々が奴を止めなければ誰が奴を止めると言うのですか?」

そして、霧の生徒会は速度を速めつつ、リヴァイアサンがいる硫黄島へと向かっていたーー

 

 

「なるほど、ソビエツキーソユーズはうちに撃破される直前に横須賀のデータを残したか。もう少し工夫すればそれも防げたかもしれないな。まあ、いいか、その分だけ更に強くなればいいし。そしてヒエイがそれを見て怒り狂ってるか、ならこいつを更にからかってやろう。からかわれて泣きギレするこいつの顔が目に浮かぶぞ〜♪

だが、元を言えばヒエイはうちにナガトやコンゴウを殺されたと信じているから怒って艦隊率いてここに向かってるんだよな、このことに何の関係もない群像達を巻き込むかもしれん。」

そう言い、ヒエイ達をどう弄ろうか模索しつつも群像達のことも考える智史。そして同時にここに来るイ401のメンタルモデル、イオナにある実験を実行しようと計画を進めていた…。

 

そして…。

 

「艦長、硫黄島が見えてきました…。」

「何か海に浮かぶ巨大なお城みたいですね…。」

「そのよう、だな…。」

硫黄島に到着した群像達。彼らは智史が改変した硫黄島の姿を見てみるみる顔色が悪くなっていった。

「…とりあえず、彼につないでみよう、イオナ、行けるか?」

「了解」

そしてイオナが概念伝達で彼に呼びかけるーー

 

「?概念伝達だ、それもイオナからだ。」

そして彼はそのテレパシーに応じるーー

 

 

ーー智史の概念伝達空間

 

彼、海神智史の概念伝達空間は非常に巨大な本棚が大量に、上に下に横にも存在し、そこには本がぎっしりと詰まっていた空間だった。空間のカラーは白だったが本棚は木で出来ていた。そしてそこに彼とイオナが現れる、

 

「智史、なんでこんなことをしたの?」

「うちはここに立ち寄っていいかヒュウガがに聞いた、でもヒュウガからの返答はミサイルとビームだった。だからここを制圧して自分風に作り変えてみた。あくまで作り変えてみただけで自分のものにはしてないから、ここに入っても、大丈夫、だよ?」

「…わかった。」

そして概念伝達が切れる。

 

 

「ーーイオナ、どうだ?」

「自分のものにはしてないから入っていいって。」

「わかった。」

そして彼らを乗せた401はゆっくりと硫黄島の地下ドックに入っていく、そしてとんでもない光景が彼らを待ち受けていたのを彼らは知らぬままーー




今作の敵超兵器

霧の究極超兵器 超巨大戦艦ヴォルケンクラッツァー
全長 2200m 艦幅 300m 全幅 900m
基準排水量 32000000t
最大速力 水上 1000kt 水中 600kt
武装
連装波動砲 1門
120口径336㎝単装レールガン 2基
90口径120㎝3連装砲塔 4基 同連装砲塔 6基 合計 24門
反物質ビーム発振基 2基
δレーザー発振基 1基
光子榴弾砲 20門
100口径305㎜連装速射砲 60基
57mm単装バルカン砲 120基
各種ミサイルVLS 20000セル
量子弾頭大型ミサイルVLS 1000セル
200㎝各種魚雷発射管 200門
超重力砲 片舷 16門 計 32門
クラインフィールド、強制波動装甲、ミラーリングシステム、そしてリヴァイアサンと同じく自己再生強化・進化システム搭載(ただしリヴァイアサンが装備しているものと比べると性能が限られてしまう。)

説明
圧倒的な破壊力を誇る霧の究極超兵器。波動砲は地球を一撃で滅ぼせ、副砲のレールガンと120㎝砲は超戦艦級すら一撃で沈めてしまうほど。また防御力も非常に高く、彼女自身の執念によるものとはいえ、後に登場する超巨大3胴航空戦艦 ムスペルヘイムすら数発で沈めてしまうほどの威力(今作時点での威力。更に上昇する。)を持つリヴァイアサンの砲塔レールガンの連続攻撃を受けて船体が崩壊しつつもなおも攻撃を強行できる程。
メンタルモデルの外見は旗艦装備を施したコンゴウに近い。慎重な性格で、他の霧や部下からの信頼は厚い。


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第10話 悪戯と真実と生徒会

前作の続きです。
今作はcadenzaのネタバレが含まれます。
そして今作終盤になりますが、霧の生徒会が遂に智史や群像達がいる硫黄島に到達します。
それでは、読みたい方だけお楽しみください。


「ここは…変わってはいないようだな。」

「そうみたいですね…。」

地下ドックに浮上し、停泊する401。

「重巡洋艦タカオ⁉︎一体どういうことだ⁉︎」

「東洋方面の霧は全滅したはずでは?」

「知らない、ただ何らかの理由があってここに来たんだと思う。」

実は智史はアニメ版とはいえ、原作を知っていた。なのでこれまでに自分の気に入らないキャラは容赦なく排除してきたのだ、ましてや彼が知らないキャラは彼の手によって片っ端から抹殺された。だが殺しすぎても、帰って淡白になって面白みがなくなってしまう。特にタカオは彼にしてみれば面白みが強いので、あえて殺さなかったのだ。もちろん反乱をまとめて引き起こされた際のことも考慮してきちんと自己強化を進めていたが…。

 

そして群像達に戦慄とする光景が襲いかかる、なんと次々と卵型のメカが彼らの目の前に止まるのだ、そして彼らは群像達に話しかける、

「「「「おかえりなさいませ、艦長。遅い御帰還でした。」」」」

「ひ…ヒュウガ…。これは一体どういうことだ…。」

「「「「ここを6ヶ月の間守りぬくために大量に体をクリエイトしました。」」」」

「あ…、ありがとう…。」

「「「「いえ、これも自身の役目ですから、っ、はっ!」」」」

彼らは群像達の中にいるある人物に目がいく、そして…。

「「「「イ…イ…イオナ姉様〜‼︎」」」」

すると彼らは次々と卵型をくずし、中身を露わにする、それは白衣を着た女性の姿をしていた、そして彼らはイオナに群がっていく。

「「「「姉様、姉様、ヒュウガはこの日を一日千秋の思いでお待ちしておりました〜‼︎」」」」

次々と群がってくるヒュウガの群れを払おうとするイオナ、だがすぐに新たなヒュウガが群がり、そして胴上げをされ、衣服を脱がされ、ヒュウガ達に顔や頭に体、腰までも擦り寄せられてしまった。

「…た…、助けて…。」

そして彼女はヒュウガ達に覆い隠されて見事に身動きが取れなくなってしまった。

「イ…イオナ、大丈夫か⁉︎」

その時何者かの笑い声が響く、

「ククク、あははは、ひひひ、いーっひっひっひっひっ!」

「お、お前まさかあの時の⁉︎」

そう驚く杏平。その笑い声の主は智史だった。

「…ふふふ、そう。イオナをちょっと弄ってみたかったからこうしてみた。」

「アホか、お前は!普通こんなことするか⁉︎」

「あとヒュウガも盛大に♪」

するとヒュウガの大群の山からイオナの頭が出る、そして彼女の視界に本物のヒュウガの姿が目に入る。

「ヒュウガ…一体誰があなたにこんなことを?」

「イオナねえさまぁ〜、この人が、私を…。」

そこにいたのは彼の手によってイセエビに突っつかれ、イセにも擦り寄られて散々な目にあい、涙目のヒュウガだった。

「うわあ…、こいつイオナ達を弄るのが趣味?」

彼が生み出した光景のあまりの酷さに唖然とするいおり。

「智史くん、彼女達を弄り続けたい気持ちは分かるけど、もう終わりにしたら?これ以上やったら彼女達が可哀想よ。」

何者かが彼にそう告げる、すると彼はヒュウガとイセエビの大群を消滅させた、そして2人は解放される。

「こ、琴乃⁉︎お前までここにいるのか⁉︎」

「そう。彼女達と戯れていたこの子達は智史くんが大量の演算リソースを使って作り上げたの。彼ったら本当に無邪気で自分に素直な可愛い子なんだから♪」

そう、彼は自己再生強化・進化システムをフル稼働させて演算能力を異常なレベルに強化し、演算リソースの量を盛大に増やしていたのだ。シミュレーションの量質が急激に充実し、大量に増えていったのは彼が演算能力を大幅強化した際の賜物だった。それはさておきとして、彼はそのリソースの一部を使って今回の悪戯を実行したのだ、しかし一部を使って実行したとは言ってもそれは大戦艦級では到底実現不可能な代物であり、超戦艦級ではじめて実現する代物だった。

 

「ところでヒュウガ、重巡洋艦タカオはなぜ地下にいる?」

「タカオは前は熊野灘で活動してたみたいだけど彼からの攻撃を受けてからは彼が怖くなってここに逃げ込んできたのよ。」

「なるほど、つまり、智史、君が彼女に攻撃を加えたのか?」

「まあそういうことだ。そして私は好奇心でここに立ち寄った、その際にヒュウガにここに寄っていいか、通信や概念伝達で呼びかけた、だが彼女からの答えはビームとミサイルだった。だからここを一度徹底的に破壊して改変したのだ。」

「ちょっと、人が何も言ってないのになんで堂々と人の家に上がり込んできたのよ!」

「NOと言っていたならまだ分かる。だがお前は何の返答もしなかった。それがNOということなのか私が分からなかったから近づいた、そしたらお前は発砲してきた。だから今回のことが起きたのだ。」

「うっ…。」

彼にそう指摘されて顔色が悪くなるヒュウガ。

 

「今回は私の方にも非がある、この戦闘が起きる前から回答が無く、かつ発砲があったらヒュウガを徹底的に弄ってやろうと考えていたからだ。」

「相変わらず正直ね〜。その正直さ、私には真似できないや。」

「群像、今回の非礼は詫びよう。だがここを元通りにするのは私が作ったものを見てからにしてくれないか?」

「わかった。百聞一見に如かず、だな。みんな、一度彼が作ったものを見てから彼の作ったものをどうするのか決めよう。」

「ありがとう」

そして彼は群像達を連れて自分が作ったものへと連れて行く。

 

「ふはははは!なんだこの心躍る感覚は!いいぞ!これはいい!」

まず彼はセグウェイが置いてある場所へ彼らを連れて行く、そこでセグウェイに乗って無邪気にはしゃいでいるキリシマを目にする。

「この島中に私は建物を造りまくってしまった。歩いて見て回るにはあまりにも時間がかかり、皆歩き疲れてしまうだろう。だから、この乗り物に乗れ。」

そして彼は杏平の手をいきなり引き、無理矢理セグウェイに乗せる。

「こいつを操縦する方法は、基本的にこいつに乗り込み、前進する時は体重を前に置く(重心を体の前に移動させる気持ちで)感じで体を前に傾けろ。ブレーキをかける時は走行中に体の重心を足の土踏まずあたりに置く感じにして体を水平にしろ。同様に後退は体を後ろに傾けろ。つまりこいつは本来傾斜すると倒れてしまうところを、倒立振子の制御方法でバランスをとっている乗り物だ。

また速度調整は、重心を体の前に押し出せば速度が上がり、徐々に体の中心に戻す感じで土踏まず辺りに置くと減速する。速度を出しすぎると一旦加速してスイングバックするように減速を導くため、自動的な急ブレーキは不可能だから注意しておけ。なのこの乗り物は電子鍵によりユーザーレベルを認識しレベルに応じた速度制限をつけている。お前達は初めてだから最大速度は15km/hにしてある。その場で回転する時は、重心を体の中心に置きながら、ハンドルだけを左右に傾けるように操作する。以上だ。」

彼はそう言いながら自らセグウェイに乗り込み、言った通りのことを杏平に教え込みながら実演していく。

 

「操縦方法は一通り掴めたか?」

「よく理解出来た、ありがとう。」

「そうか、では行くぞ」

そして彼は群像達を引き連れて施設の案内を始めた。

「本当に和風、しかも豪華絢爛やな、ここ…。」

そう、彼らが進んでいる壁は白漆喰が塗られ、鱗壁が貼られ、天井と壁の境には間接照明が施してあった。そして床の材料は日本瓦のタイルでできており、天井は木でできた黒漆塗りの格子天井があり、そこに豪華な絵や彩飾が施されていた。そして彼らは広い場所に出る、

「まずは垂直庭園からだ。」

彼が言った庭園は垂直に様々な植物が植えられ、装飾が施されていた、しかもその植物や装飾はすべて日本庭園で使われるものばかりだった。また吹き抜けまであり、そこから空が見えるのだ。極め付けには水が流れており、それが無数のししおどしや水瓶を伝ってリズミカルな音を立てているのだ。

「凄い…。」

「次、行くぞ。」

そして今度は地表に出る、そこに金箔が施された黄金の茶室が建っていた。そして彼らはセグウェイを降りる、その入り口に和服を着た青髪の女性が立っていた。

「いらっしゃいませ。」

「あなたは、霧の東洋方面群に所属していた重巡洋艦タカオ?」

彼女に見覚えがあったのかそう話しかけるイオナ。

「今は、彼に従っているけどね。」

そう、彼女は彼からの虐めがなくなった後、琴乃の手伝いもあったのか、彼を見ても恐怖を感じなくなっていた。そればかりか彼と琴乃に色々な日本文化、教養を次々と教え込まれ、今では昔いた大和撫子を思わせるような存在に変質してしまった。

「私が皆様方をご案内いたします。付いてきてください。」

そして彼らは中に入っていく、中の彩飾はかつて存在していた殿様の為の空間を思わせるようなものが施されてあり、庭園には竹や苔、築山に景石に池まで配置されていたのだ。そして彼らは彼とタカオ、琴乃にお茶会をさせられる。

「おいおい、長時間の正座はきついぜ〜」

「我慢しましょう、これが茶会ですから。」

「あ、このお菓子美味しい!」

「食べ方にも作法があるんですね。」

「お茶を立てるのはこうするのか…。」

そして彼らは茶会を済ませた後、次々と色々なものを見て回る、多聞蔵が特徴的な水堀と石垣が施された城壁、重厚な造りの鉄城門、豪華絢爛な彩飾が施された御殿と天守閣ーー もちろん、プールにジャクジー、個室にゴルフ場、トレーニングルームまで完備されていた。彼らが全てを見終えた頃には日はとっくに暮れていた。なお、基地のしての硫黄島の機能はその地下に全て集約し、その機能もヒュウガの時のものよりも格段に強化されていた。そしてーー

 

「もう…堪忍してつかあさいぃ〜。」

「か、彼女は?」

「大戦艦ハルナだ。」

群像達は智史の手によってコートを脱がされ、髪をドリル状に強化ワックスで固められてそのまま頭をコンクリートの壁にねじ込まれ、さらにグラビティジェネレーターや強固な拘束具で固められてアートにされて散々な目に遭い涙目のハルナを見た。

「彼女はコートを脱がすとシクシク泣いたりプルプル震えたりするからな、そこが面白くてそんな彼女が嫌がる姿を見て面白がることも兼ねて今回のようなことにしたのだ。」

「これって…いじめじゃ…。」

「そうか?私は面白いからやっただけだが」

このあと彼はアートを解体し、ハルナを解放するのだった。

 

「まさにやりたい放題で豪華絢爛な豪邸だな、おい。でもよ、群像。ここをどうするんだ?」

「彼にはこの島を色々と変えられてしまった。だが、ここを潰すのはあまりにも勿体無い。この世界からなくなりかけている文化や建物の様式がここに凝縮されているのだから。」

「それで、結論は?」

具体的な結論が出ていないことに少し混乱気味の智史。

「ここはそのまま我々のものとして運用しよう。智史、君を歓迎しよう。ようこそ、蒼き鋼に。」

「ありがとう、群像。」

2人はお互いの手を差し伸べ、硬く握手をする。

「ちょっと、これ元に戻さずにそのまま運用〜?私がせっかく作った要塞なのに〜。しかもこいつがそのまま私達に加わるの〜?」

群像の結論に納得がいかないヒュウガ。

「いいじゃないか。これで世界は更に変わっていく。」

こうして、リヴァイアサン=海神智史は蒼き鋼に一時的にだが、所属することになった。

そしてお腹が空いたので皆で夕御飯を食べることにした、智史が次々と豪華な料理を皆の前に並べていく。

「ちょっと、これ私が作ったのよりも美味しくない⁉︎」

「まるで高級レストランで出されるような味だな…。」

「美味しい、どんどん食べよ!」

それもそのはず、彼は世界中の高級料理店のデータを調べ上げ、製法を知り尽くし、それにふさわしい食材を大量に調達したのだ。だが、食材を物質生成能力でそのまま再現したら食材の価値と味の重みが薄くなってしまう。そこで彼はあくまでその食材の種子と最低限必要な機材を物質生成能力で作り出し、そこから時間をかけてじっくりと生み出したのだ。とは言っても成長速度を速めるために色々と使ってはいたが…。いずれにせよ、彼はその食材達にじっくりと味わうにふさわしい雰囲気を出すためにあえてそのままの形に作らなかったのだ。

そして彼らがお腹いっぱいになって皆寝静まる頃、智史はイオナを連れて躯体修復室に向かうーー

 

「智史、私を起こしてこれから何をするの?」

「あんたに隠されたある秘密を暴くため。」

そして彼はイオナを躯体修復機に寝かせ、一旦彼女の機能を停止させる、そしてスキャンを開始した。

「やはり、デュアルコアか。確か401のコアは潜水艦級か…。ナガラと同じ規模の演算能力しかないのか…。それじゃメンタルモデルは成り立たないな。超戦艦級のコアをサブユニットとしてメンタルモデルの形を成り立たせているのか。」

原作を知っていた彼は彼女がデュアルコアであることを知っていた。そして元からあったコアだけではメンタルモデルを生成できないことも。そして彼は超戦艦級のコアと同じ規模の演算能力を持つコアを作り上げると元からあったそのコアを彼女から取り出し、そのまま入れ替える。そしてそのコアを彼女が置かれているのとは別の躯体修復機に置く。

「さあ、復活するがいい。デカパイロリドレス。」

すると躯体修復機が唸りを上げ、そのコアを浮かばせると次々とナノマテリアルをそのコアに向けて散布していく、そしてそのコアに付いたナノマテリアルは人の形を取っていく、その形は白いロリ風のドレスを着た黒髪の女性の形をしていた。同時に硫黄島の外でリヴァイアサンからナノマテリアルの光の束が放たれ、3Dプリンターのように、海面にナノマテリアルを散布し戦艦大和の形をした青みを帯びたプラチナ色の船体を創り上げていく。

「ん…?」

「気がついたか、イオナ。これがお前に隠されていた秘密だ。」

彼に言われた通りにイオナはその女性を見る。

「智史…。彼女は誰なの?」

「お前に群像に会うように仕向け、かつお前にコアを提供し、演算補助をすることでお前にメンタルモデルを生成させた女性だ。もちろん彼女のコアをお前から取り出したらお前の躯体は消失してしまうからな、だからそれと同じものを代わりとして入れておいた。イオナ、こんなことに付き合わせて済まなかったな。今夜はお休み。」

そして彼はイオナを部屋へ連れて行くと寝かせる、そして夜が更けてから、彼女が目覚めさせてからかってやろうと悪戯を妄想していた、それと同時にサークルを展開してイセを音声通信で呼び出す。

「イセ、こんな時間に起こしてすまない。」

「いいけど、何か用なの?」

「そうだ。お前にイオナへの伝言を頼む、内容はーー」

 

 

 

ーーそして翌朝。

 

「目覚めよ!デカパイロリドレス!」

そして彼、海神智史は躯体修復室で横になっている白ロリ風のドレスを着た女性を叩き起こすのかのように強力な電気ショックを与え始める、

「うっ…ここは?」

彼が期待した通りにその女性は目覚めた、そして彼は彼女に見られるのが少し恥ずかしかったのか、その部屋を嬉しそうに出た後こう呟きながら走っていった、

「デッカパイロリドレッスっの〜(レッスゥ〜)おっめっざっあ〜めぇだぁ〜、(ざめだぁ〜)でっかっあっぱぁ〜いだぁ〜ででででででっかっぱぁ〜い」

そんな彼は突然ヒュウガに出くわす、そして掴み掛かられる。

「ちょっとあんた!昨夜イオナ姉様に何をしたのよ!」

「イオナに?実験をちょっと彼女に試してみた♪」

「なんでヘラヘラ笑ってんのよ、笑い事じゃないわよ!」

「へ?」

その様子を見たイオナが彼女を落ち着かせようとする、

「ヒュウガ、落ち着いて。彼は私に何も悪いことはしていない。」

「ね、姉様⁉︎」

「彼は私の秘密を知るために実験をしただけ。実験の内容はわからない、でも私は何事もなかったから…。」

「…で、でも…。」

そんなやりとりをする3人、そこにーー

「あなたは…、401⁉︎何故私のコアが無くてもメンタルモデルを維持できているの、メンタルモデルはかなりの演算リソースを消費するはず…。そしてあの2人は…?」

「しばらく寝てたから周りの環境が激変してることに体がついていかないか…。目覚めたか、デカパイロリドレス。」

彼がそんなあだ名で呼ぶ女性はーー超戦艦、ヤマトだった。

「デカパイロリドレス?あなたが言ってるのは私の名前でしょうか…?」

「ちょっとあんた!勝手に人の名前決めるんじゃないわよっ!」

「落ち着け、変態エッグ。彼女の本当の名前はーー

超戦艦、ヤマトだ。」

「ちょちょちょちょちょちょちょちょちょ、超戦艦⁉︎」

彼の発言に驚くヒュウガ。

「そうだ。あだ名で言って済まなかった、ヤマト。私は霧の究極超兵器、超巨大戦艦 リヴァイアサンのメンタルモデル、海神智史だ。私に食いかかってきた女は大戦艦ヒュウガ。彼女は401ーーイオナが大好きな、イオナキャーキャーだ。」

「あだ名を勝手につけるな〜っ!」

「そうですか…。ところで、智史さん、あなたが私を復活させたのですか?」

「そう。私がかつていた世界で、お前がどのようなことになったのかは原作を見たから知っている。だからこそだ。そして401にコアを渡して命令したのもお前が父親と捉える存在ーー千早翔像の息子、群像に彼の思いを伝えたかったからではなかったのか?」

「何故そのようなことを⁉︎」

あたかも自分の考えを知っているのかのように呟く彼に驚くヤマト。

「ここでは話が十分には出来ないだろう、群像を呼んでくる。少し落ち着いた空間でイオナと一緒に話をしようではないか。」

そして彼は群像を呼び寄せる、そしてイオナとヒュウガ、ヤマトを連れて群像が待っている部屋へと入っていくーー

 

 

 

ーー超戦艦ヤマトの独白ーー

 

 

昔、私達の仲間を沈めた人間がいた。彼は千早翔像という人だった。彼に興味を示した私は妹のムサシと一緒に彼に会うことにした。その時に私達はメンタルモデルを手に入れたのだ。

 

「翔像さんは何のために戦っているのですか?」

「家族のためです。私には妻の沙保里と一人息子の群像がいます。」

そう彼は家族の写真を示しつつ私と話をした。ムサシは私の船体の陰からそっとその様子を見ていた。

「私が姉で、ムサシが妹ね。」

そして私は隠れていたムサシを呼び、紅茶を彼の目の前で飲ませてあげた。

そして私達は彼と親しくなり、いつしか彼を父親のような存在として見るようになった。だが、そんな楽しい日々も長くは続かなかった、彼に不信感を抱いた人間達が彼を殺してしまったのだ。

「翔像さん!」

「申し訳ありません、千早一佐…。」

そして彼をお父様と呼び慕っていたムサシはこの事に傷つき、悲しみ、怒り、彼が艦長として乗っていた潜水艦を沈め、人類と変化を激しく憎悪するようになった。

「ダメ!」

私は怒りに駆られ人類を滅ぼそうとするムサシを止めたかった、だが彼女を止める事は出来ず、彼女の猛攻の前に私は沈められた。

「お願い…。」

そして私はたまたま近くを通りかかっていた401に最後の力を振り絞って彼の息子、群像に彼の遺志を伝えるよう命令し、彼女にコアを託した、そこで私は死んだ、はずだったーー

 

「目覚めよ、デカパイロリドレス!」

何者かが私を強引に起こそうとする、そして私は目覚める。

「う…ここは?あ…あれ?生きてる…?」

気がつくと私は何者かにメンタルモデルを復元されてここにいた、船体の状況も調べたが私と同様に復元されていたのだ、私を復元した人物は私が目覚めたのを見て嬉しそうに部屋を出て行ったようだ。

「まずは、ここがどこなのか調べなくては…。」

そして彼の気配を追い、ようやく見つける、彼はヒュウガと401と会話をしていたようだ、とりあえず私は彼らに話しかける、

「あなたは…、401⁉︎何故私のコアが無くてもメンタルモデルを維持できているの、メンタルモデルはかなりの演算リソースを消費するはず…。そしてあの2人は…?」

私の気配に気がついたのか、彼はこう答える、

「しばらく寝てたから周りの環境が激変してることに体がついていかないか…。目覚めたか、デカパイロリドレス。」

彼の見た目そのままのあだ名に私は困惑した、すぐに彼は私をあだ名で呼んだ事を謝ると私の名を他の2人に話す、そして彼は自分の名を語り始める、

「私は霧の究極超兵器、超巨大戦艦 リヴァイアサンのメンタルモデル、海神智史だ。」

彼の名は海神智史と言うそうだ、そして智史さんは私の目的を知っているのかのように話すと私達をある部屋へと連れて行く。

 

「突然呼び出してすまないな、群像。紹介したい人物がいる。」

「なっ…、智史、彼女は?」

「彼女は霧の艦隊総旗艦、超戦艦ヤマト。イオナの事を知っているか?」

「イオナは、俺に会い、従う事だけが目的だと言っていたが…。」

「そう、イオナにその目的を与えたのは彼女だ。彼女は人類と霧が分かり合えると信じていたお前の父親、千早翔像の遺志をお前に伝えるためにたまたま通っていたイオナにそう命令を下し、自分のコアを提供したのだ。」

「なっ…。」

人前で言えない事を平然と智史さんは話してしまう、それに愕然としてしまう群像さん。

「私にそう命令したのは、あなたなの…?」

あまりに残酷な現実に悲しげに私に尋ねる401ーーイオナ。そして智史さんはさらに残酷な現実を彼女に突きつける。

「お前のユニオンコアは本来ならナガラ級と同じ処理能力しか持たない、だがメンタルモデルはナガラ級の処理能力を上回る演算リソースを要求してくる存在だ、従って本来ならお前はメンタルモデルを持てない。だが何者かのサポートがあれば話は別だ、そう、何者かの。お前はヤマトが沈められた現場近くを航行していたのだろう、その時にお前は彼女から群像に翔像の遺志を伝えるよう命ぜられた、そしてその際に彼女からコアを託されて、そのコアのサポートでお前はメンタルモデルを形成できたのだろう?まあそのコアは私が抜き取って彼女の復元に使ってしまった、そしたらお前はメンタルモデルを維持出来なくなるからな、だからそのコアと同じ演算能力を持つ物を代わりとして入れといたが。」

「違う、私は自分の意思で…!」

「お前のその意思も彼女から与えられたものだ、潜水艦級はナガラ級と同じく総旗艦からの直接命令に忠実に従うようにしか造られていない。例外かもしれないが、総旗艦からの命に従う大戦艦級だけが総旗艦から手駒として彼女らを預かり、指揮していた。なので彼女らは実質は総旗艦の傀儡だ」

「違う、そんなことは‼︎」

「お願い、こんな残酷な話はもう止めて!」

あまりに残酷な現実を認めたくないイオナと私。だが智史さんはそんな私達に平然と止めを刺す。

「つまり、お前はヤマトの操り人形だった、私が彼女のコアを取り出して、その代わりのコアを入れるまではな。」

そう言われた彼女は泣きながら部屋を飛び出していった。

「なんであんたこんな残酷なことを平然と姉様に突きつけられるのよ、空気を読みなさいよ!」

「私なら伝えるべきものはたとえ残酷なものでも素直に伝える。私はその考えを素直に実行しただけだ。」

「いい加減にしろっ!この馬鹿アッ!」

そう言い彼に掴みかかるヒュウガ、だが智史さんはこれをクラインフィールドで防ぐ。

「お前はイオナに媚びることを愛として捉えているようだな、だが誰かを守るのが愛なら誰かにたとえ残酷でも事実を伝えるのも愛だ」

そう言い放つ智史さん。彼のやったことは間違ってはいない、いつまでも真実を隠して嘘をつくのはいずれ自分自身を追い詰めていくことになるからだ。ならば自分自身からたとえ自分に悪い真実でも素直に明らかにしてしまえば追い詰められることはなく、むしろ他者に受け入れられる。何より言い難い思いがスッキリとしてしまうからだーー

 

 

そして智史達がいる部屋から逃げ出したイオナ。彼女は泣きながら通路の片隅で丸くなっていた。そこへーー

 

カロン、カロン、カロンーー

カロン、カロン、カロンーー

 

「あなたは、イセ?何しに来たの?」

「傷ついたあなたを励ますため。」

「私に話しかけないでっ!私は彼にヤマトの操り人形だと言われてしまった…。私は自分のコアだけではメンタルモデルを生成できない、彼女のコアの助けがなければ私はメンタルモデルを生成できなかった…。」

「確かに彼はあなたからヤマトのコアを引き抜いたわ、でもその代わりに彼女の演算能力に匹敵するものをあなたは与えられてメンタルモデルを維持している。何故だと思う?」

「私に…自分の意思を持って生きて欲しかったから?」

「そう。彼は、あなたにヤマトの操り人形のままでいて欲しくなかったのよ。だから彼はあなたに「自分の意思で地に立って歩け。親の助けを必要とするのは赤ん坊だけだ。私はそんな赤ん坊のようなお前を自分の意思で歩けるようにしただけだ。」って伝言を私に託したのよ。」

「智史…。」

確かに彼は悪戯感覚でイオナからヤマトのコアを引き抜いて彼女を復活させたらどうなるかという自身の妄想から今回の実験をしたのだ。だがそれだけでなく彼はヤマトのコアに匹敵する演算能力を持つ意思を持たないユニオンコアを彼女に埋め込んだのである。それは彼女が他者からの支えが無くても独り立ちが出来るためにするための彼の想いであった。この出来事以降、イオナの智史への印象は改善していくこととなる。

 

 

「イセは彼女への伝言を済ませたか。さて…霧の生徒会の大艦隊のお出ましか。元を言えば私のせいであんな奴らが来てしまったからな、群像達にどう言おうか。」

そう呟く智史。そして彼らが来たことを知らせるレーダー網からの警報が鳴り響く。

「硫黄島から北方500㎞に多数の重力子反応!艦型確認、コンゴウ型2番艦、大戦艦ヒエイとミョウコウ型4隻、超兵器級8隻を中核とする大艦隊です!」

そう、霧の生徒会が硫黄島に到達したのだ。

「霧の究極超兵器、超巨大戦艦リヴァイアサン。あなたという存在を確かめさせてもらいます。」

自身の船体の艦橋のトップで制服を海風に揺らせながらヒエイはそう呟く。遂に霧の生徒会と智史&群像達の直接対決が幕を上げようとしていた、そして彼女にはある秘策があったーー




智史がイオナに与えたもの

ユニオンコアα
本作オリジナルのユニオンコア。
ヤマトのコアがイオナのメンタルモデルから抜けることでイオナがメンタルモデルを維持できなくなってしまうことを忌み嫌った智史が生み出し、ヤマトのコアの代わりに彼女に埋め込んだユニオンコア。
演算能力はヤマトのコアのものに匹敵。なおこのユニオンコアは自我を持たず、イオナの元のユニオンコアと同調し、彼女自身のものとして馴染んでいくようにプログラミングされている。この設定には彼女に他者からの手も借りずに自分で立って歩いていけという意味も込められている。


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第11話 包囲と会談とバーベキュー、そして決裂

今作は色々と考えた結果執筆に時間がかかってしまいました。
特にヒエイとヤマトの扱いには配慮しております。またそのためか前作の一部に新たに表現を追加した箇所が数カ所ございます。
もし意味が分からず混乱されてしまう方は、お手数ですが、私が手直しをした前作をもう一回読み直されてください。
それではじっくりとお楽しみください。


「遂に来ましたか、大戦艦ヒエイ。霧の生徒会の皆さんや大艦隊まで連れて。おまけに秘策付きか、奴らアリューシャン沖であのブツをハボクックから貰ったからな。だが、あんたらがやろうとしていることは盗み聞きで全部筒抜けよ、400がかつて言ってたね、「感知できていれば対応できる」って。あんたらには悪いけどうちの方はもう対処方法は考えてある。そしてその対処能力はもう十分な規模でも更に強化しているけど。」

そう呟く智史。彼の言った通り、ヒエイはアリューシャン沖で合流するように北太平洋で警戒待機中の超巨大氷山空母ハボクックに指示を出し、ある兵器を彼女から調達したのだった…。

「さーて、ヒエイの艦隊をどうクッキングするか考えないと考えないと♪」

そう呟き、ヒエイ達をどう潰そうか考える彼の頭の中には某大手マヨネーズ製造会社の宣伝テーマ曲“3分間クッキング”が鳴り響き、それと同時にヒエイ達がどう料理されていくのかがレシピとして次々と浮かんでいく。実際彼にはそれを実行してしまうだけの余裕があり、更にその余裕は自身がハイペースで強化しまくっている自己再生強化・進化システムによってますます増大していくのだ。もはやヒエイ達と彼の実力差は隔絶していたのだ、彼が一方的に有利な状態で。

「さて、群像達と対応を協議しよう、今回はうちが群像達を巻き込んでしまった、戦闘を楽しむついでにこの事の責任をとらなくては。責任の擦りつけ合いなど見たくない。」

そう呟くと彼は群像達が集っているブリーティングルームへと向かっていく。

 

 

 

そしてその頃ーー

 

 

「ふふふ、ヤマト、ようやく目覚めたのね。でもあなたはすぐにヒエイ達の手によって沈むことになる。彼と一緒にね…。」

 

 

「ヒエイ艦隊、硫黄島を完全包囲しています。航空母艦が多数配備されている模様です。」

「彼の航空戦力を警戒してその対策として配備したのか…。」

「おいおい、こちらにあんな規模の大艦隊と無数の航空機が襲いかかってきたらひとたまりもねえぞ⁉︎」

「航空機多数って、非常に不味くない⁉︎量でカバーされたらいくらイオナや私達が頑張っても撃沈されるんじゃ…。」

「おまけに逃げ出そうにも攻撃型潜水艦に新型のキラー艦にソナー艦がたくさん居ますからね、直ぐに見つかって包囲されて終わりでしょう。」

「まさに八方塞がりだな…。」

あまりの規模に対処策が見出せない群像達。

「超兵器レーザー戦艦と超巨大円盤は非常に高威力のレーザー兵装多数搭載、超高速巡洋戦艦は非常に大型の侵食魚雷多数って…。いくら超戦艦の私でも、これじゃあ…。」

あまりの実力差に己の非力を嘆かざるを得ないヤマト。

「ハルハル、キリシマ…。私達、殺されちゃうの…?」

「蒔絵、安心しろ!私がお前を何としても守る!」

自分を殺される恐怖に怯えて泣く蒔絵と、恐怖に駆られながら彼女を励ますキリシマ。そこへ智史が入ってくる、そしてーー

 

「みんな不安?まあしょうがないか。うちのせいでこいつらが来てしまった。だからこいつらうちが今から全部ぶっ潰す。」

 

彼の常識を逸する発言に驚く群像達。

「智史、それだけは反対だ、お前が幾ら強くても押し切られる!」

「おい正気かよ⁉︎幾ら何でも数の規模が違いすぎる!数に押し切られて殺られるだけだ!」

「うん、正気。うちが今回の事にあんたら巻き込んじゃったからその責任もついでに取る。今からこいつら潰すから待ってて。」

「この人正気かよ、あんな大艦隊を今から全部相手にするって〜!」

「杏平、彼が何を考えているのかは分からない、だけど彼を見捨てることは私にはできない。私も彼と一緒に戦う。」

「ありがとう、イオナ。これより戦闘準備に入ろう」

「イオナ、お前もイカれちまったのか?死ぬぞ?」

「彼は私達に悪いことをしてしまったのかもしれない。でも彼に一人ではないという事を伝えたい。」

反対する杏平を押し切り戦闘モードに入ろうとする智史とイオナーー

 

「待ってくれ、智史、イオナ。一旦落ち着いて、様子見をしてくれないか?」

「どういうことだ?」

「群像、それはどういうこと?」

「彼らにあることを試してみたい。」

ーーやはり、原作通りか、群像。

「群像、お前まで頭がイカれちまったのかよ〜!もう堪忍してくれ〜!」

「了解した、ただしお前が交渉をしくじったら直ぐに行動に移せるようにアイドリングは掛けておくぞ。」

「ありがとう、2人とも。ヒュウガ、音声通信でヒエイに伝えてくれ。」

「群像、私のせいでお前達をこんなことに巻き込んでしまった、許してくれ。」

「別にいいさ、智史。共にこの状態を乗り越えるぞ。」

 

そしてーー

「あなたの方から話しかけてくるとは珍しいですね、ヒュウガ。」

「今の私は子供のお使いよ、あなたに千早群像のメッセージを伝えるわ」

「何ですって?」

彼女にそう言われ驚くヒエイ。そしてーー

「皆さん、硫黄島に上陸しましょう、千早群像とリヴァイアサンと話をするために。ただしユニオンコアは船の方に残してください。」

そしてヒエイ達はユニオンコアを船の方に残して硫黄島の方へと歩き始める、

「あいつがリヴァイアサンかぁ〜!かっけ〜!」

「アシガラ、はしゃがないの。」

「改めて見ると、大きい割に随分とスッキリしたデザインだな。我々の方はゴツゴツしているというのに」

「話に行くの、めんどくさい…。」

「話によるとハリマもアラハバキ姉妹も全く歯が立たなかったらしい」

「伝説の海の怪物の名を冠している割に随分とシンプルな形をしているな」

「ミラーリングシステムを操って自在にエネルギーの濁流を引き起こせるらしい。流石は海龍といったところか」

海の上を歩きながらそう会話をするミョウコウ姉妹と超兵器達。そして、

「リヴァイアサン…。あなたが何を考えているのかを見定めさせて頂きます。」

彼らは硫黄島の海岸に向けて歩いていくーー

 

 

そして同時刻、硫黄島海岸ーー

イオナはオレンジのワンピースの水着に着替えていた、智史はそのままの姿だったが。

「イオナ、私はお前達を強化するつもりはない。強化するなら自分でしろ。」

「その気持ちは分からなくはない、もしあなたが私たちに力を与えたらその力はあなたが与えたものになって、自分の足で立ってないことになってしまう。あなたは私たちに強くなるなら自分の力で強くなってほしいと強く願っている。でも、今の私たちは非力…。どうすればいい?」

彼は苦悩していた、確かに今の彼女達では超兵器や強力な霧の艦艇群に満足に対抗できないのだ、かといって手助けをし過ぎてもそれは彼女達自身の力ではなく、仮に彼女達が戦果をあげてもそれは彼が力を与えてくれたからこそであって、自分の努力で勝ち取ったものではない。そんなことをすれば彼女達は自分に依存してしまう存在になり、全く成長しないリスクが非常に高い。それを忌み嫌った彼は最低限の手助け以外はしないことにしたのだ。

「独り立ち出来るまで、私がお前達を守ろう。もちろん独り立ちできるようにいろんな術を半強制的に教え込んでいくがな。」

「ありがとう、ところで私達を巻き込んでしまったと言っているのはなぜ?」

「なら聞こう、私がナガトやコンゴウを粉砕したのは知っているのか?」

「知ってる、あなたがナガトやコンゴウを撃沈したことは政府の人たちから群像に伝えられた。」

「そう、そして彼女らに心酔している人物がいた、それがヒエイだ。私は面白半分で彼女らを粉砕した、だがそれはヒエイにしてみれば大切なものを私に奪われたと言っていいことだ。私に彼女らを奪われたヒエイは傷つき、怒り狂い、ここに艦隊を引き連れて向かっている。」

「彼女に同情しているの?」

「それよりもヒエイや霧の生徒会を甚振れるという喜びの方が強い。ただこのことに群像達を巻き込んでしまったことに対しては罪悪感がある。」

そう会話をする2人。そこへ、ヒエイ達が現れる。

「物理空間で顔を合わせるのは初めてですね、401。」

「あなたが、ヒエイ?」

「そうです、リヴァイアサン、あなたの躯体の性別は男なのですね?」

「その通りだ。私はリヴァイアサンであり海神智史でもある。」

「なっ…、メンタルモデルが男の姿をしているなどはしたない!校則違反です!今すぐ女の姿にしなさい!」

「断る。私は今の姿が好きだし、女になろうとしても性別の違いに苦しむだけだ。」

「生徒会長、落ち着いてください!」

「平然と生徒会の規則に歯向かう生徒は、退学です!」

そう言い、ナチの制止を振り切って智史に殴りかかろうとするヒエイ、しかし彼はそんな彼女の首を右手で掴んで締め上げる。

「それ以前に私はお前の学校に入学していない。お前は私を生徒だと見下しているようだな、お前の価値観はカチコチになっているのか?」

ヒエイの態度に静かに怒りを露わにする智史。

「あなたの…、ような…、暴力を…、平然と加える、生徒は、死刑です!」

「そのセリフ、そのまま返すぞ。」

そして彼はヒエイを海岸に突き飛ばす、そして上空に無数の青白いクラインフィールドの巨剣を発生させた。

「沈め」

「ヒイッ!」

「生徒会長!」

「うわっ!」

そして巨剣の群れは降り注ぎヒエイ達を貫こうとするーー

 

「2人とも、ここまでだ。」

「群像?」

そして彼は巨剣の群れを消滅させる。

「生徒会長、大丈夫ですか?」

「別に…問題ありません…。」

「今のすげえ!この技、もう一回見せてよ!」

「アシガラ、喜んでる場合か!私達は細切れにされる所だったんだぞ!」

「何て奴だ…一瞬であんな大剣を大量に出現させただと⁉︎」

「一瞬殺されるかと思った…。」

彼の行動に身を震わせるアシガラを除いた霧の生徒会と超兵器達。それでもなんとか心を立て直す。

「あなたが千早群像ですか。」

「そうだ、霧の生徒会長大戦艦ヒエイ殿。ようこそ、硫黄島へ。ご案内しよう。智史、協力してくれるか?」

「…了解した。」

そして彼らは群像と智史に連れられて案内されていく。

 

「…人間の言葉で表すと、ここは随分と豪華絢爛だな」

「そうか?ここは元はヒュウガが作ったものだがつい最近智史が造り変えてしまったんだ。俺はまだここの感覚が掴めていない、だからここを造り変え、ここの構造を熟知している彼に案内を頼んだんだ。」

「人のものを勝手に造り変えるとは…、許せません!」

「まあ落ち着いてください、生徒会長。」

「これが人間の文化を凝縮した建物なのか〜!あんたすげえ〜!私もこういう建物欲しい〜!」

「騒ぐな、アシガラ。仲良くなれたら作ってやる。」

「欲張り…。」

 

そして彼らはある一室に入る、それはかつて存在した和洋折衷の喫茶店を思わせるようなインテリアだった。

「あら、久しぶりじゃない、生徒会長さん。」

「ヒュウガ、あなたが千早群像と401に与していたのですね、ーっ、コンゴウ様⁉︎なぜあなたがクマの人形に⁉︎そして、や、ヤマト⁉︎何故ここに⁉︎」

「海神智史の悪戯でこんな姿にされたのだ。今はそれでいい、蒔絵が気に入っているからだ。それに、もう元に戻るのはめんどくさい。」

「ヒエイ、私は彼によって復活させられたわ。」

「くっ…。コンゴウ様をあんな姿にし、変質させた挙句、ヤマトを復活させるとは!」

「コンゴウ、その姿、かわいいじゃん。ほら遊ぼ遊ぼ〜。」

「っ…。めんどくさいっ…❤︎」

そう会話するコンゴウとヒエイ、そしてヤマト。そしてヨタロウとなった彼女と戯れるアシガラ。

「お茶をお持ちいたしました。どうぞ。」

「タカオ⁉︎あなたまで彼に⁉︎」

「生徒会長ヒエイさん、智史さんと天羽琴乃さんのおかげで私は教養豊かな乙女になれました。」

「タカオさんは智史さんと琴乃さんから色々と教わったのね。」

「はい、最初は彼に虐められていましたが琴乃さんが彼を止めてくれたおかげで彼の態度も変わり、彼に対する恐怖も消えていきました。そしてお二人から色々と作法を教わって今に至ります。」

和服を着てお茶を持ってきたタカオ、そんな彼女に関心を示すように会話をするヤマト。

「みんな〜、お菓子持ってきたよ〜!」

「ズ、ズイカク⁉︎」

「あ、ヒエイか。このお菓子は智史から作り方を教わって実際に作ってみたものなんだ。お前も食べるか?」

お菓子をお盆に乗せて現れたズイカク。彼女はそのお盆をテーブルに置く。そしてイオナがお菓子の一つを取ってヒエイの口元に持っていく。

「これ、とても美味しい。食べて。」

そんな彼女にお菓子を食べさせられるヒエイ。

 

ーーパクッ。

 

ムシャムシャ。

 

 

「(ーーお、美味しい…。なんで美味しいのでしょう…。はっ、これでは彼に変質させられた霧と同じになってしまう!)」

そしてヒエイは智史を睨みつける。

「あなたのせいで霧が次々と変質させられていきます。やはりあなたは霧の風紀を乱す存在です!」

「ヒエイ、止めて!」

「(ーー貴様、そんなに消されたいか?)」

一瞬、その場に緊張が走る。

「まあ二人とも落ち着いてくれ。それよりも話がしたい。」

「すまん、群像。ここの雰囲気は嫌気がさす。一旦外に出たい。」

「わかった。」

「智史、私も連れて行って欲しい。」

「了解した、コンゴウ」

険悪な雰囲気に嫌気がさした智史はコンゴウを連れて部屋の外に出てしまった。

「あ、私も外に出たい!」

「え〜、そんなのあり〜?」

「くれぐれも逸れるなよ、アシガラ!」

 

 

 

ーーほざくな、堅物。

貴様が私に大事なものを奪われて怒り心頭なのはよく分かる、だが私に己の見解に基づくルールを押し付けるな。他者を理解し、気配りをした上で共存しようという考えが貴様にはないのか?

貴様がやったことは、かつて私がいた元の世界と同じ、没個性的で集団主義を求め、周りの人間とは異なる存在を異物として排除しようという行為と同じだ。貴様は私にしてみれば周りの人間と異なる特性を持つ他者を排除し、同じ性質しか持たぬ人間だけの世界を作り上げようとしているドブネズミだ。次そのような事をしたら確実にぶち殺してやる。

 

「さ〜としくん♪その様子だとヒエイに相当酷いこと言われたみたいね。」

「琴乃か。ああ、奴は勝手に私を不良扱いにし、異質な存在として排除しようとしている、まるで壊れたコンピューターでも扱うかのようにな。」

「私も同様だ、智史にクマにされたことで蒔絵と仲良くなっただけで不良品同然の扱いだ。」

「二人とも、蒔絵とハルナ、キリシマとともにビーチバレーでもして時間潰そう。アドミラリティコードを絶対視して個性を引き伸ばすどころか逆に潰す奴と関わっているのは御免だ。」

「まあヒエイはそんなところあるけどさ、そんなに酷い事言うなって!ほら私も連れてってよ!」

「あ、アシガラも。」

 

 

そして群像達とヒエイはーー

「人と人が直接顔を合わせてコミュニケーションをするのは大切。」

「そのようなことなどアドミラリティコードには存在しません」

「ヒエイ、あなたは頑な過ぎる、変化をしようとしないの?」

「二人とも喧嘩は止めてくれ。ところで、二人とも、俺達は振動弾頭をアメリカに輸送しようとしている、それを知っているのか?」

「それは知りません。ですがもし輸送しているのなら、実力で阻止します。」

「群像さん、振動弾頭とは…?」

「ヤマト、智史から提供されたデータによると、侵食魚雷より強力な兵器だ。」

「そんな…。私がムサシを止められなかったばかりに…。ムサシはあなた達に何と指示したの…?」

「総旗艦ムサシ様は人類を海洋から駆逐し、それに従わざる者を撃滅せよとアドミラリティコードでご命令を下されました。ヤマト、あなたはアドミラリティコードに背く存在です、ムサシ様の命により海神智史と共に排除します。」

「なるほど、君達を束ねる存在、総旗艦ムサシのアドミラリティコードに従わない存在は粛清するという事か。では君は俺達からの要請になぜ応じたんだ?」

「我々があなた方の要請に応えたのは海神智史とヤマト及び2人に従う者を抹殺せよという命をムサシ様から受けたという事を直接伝えたかったからです。問い返しますが、何故我々をここに呼んだのですか?」

「ここで膠着状態を続けても不利になるのは俺達の方だからだ。俺達は滅びゆくこの世界に風穴を開けたい、だからこそだ。そしてアドミラリティコードとは何なんだ?」

「私とムサシが協議演算をして作り上げた私達の存在理由とその行動原理を定めた最上位の命令、いえ、私達の基本のようなものです。ですが、翔像さんが殺されてムサシが怒り狂った際にムサシが私を排除してアドミラリティコードの指揮権を独占してしまいました…。」

「そうか…。」

「そして目覚めた時から私達はそのアドミラリティコードに従わなければならないという事を知っていました。なぜ?私達の存在理由だからそこには一切の拡大解釈は存在しないのに…。」

「アドミラリティコードは絶対命令です。なのにあなた方はそれに背く事が出来た、あなた方は何故霧の風紀ごとムサシ様のアドミラリティコードに背く、いや、背く事が出来るのですか?ヤマト、彼、海神智史が霧の風紀をおかしくしていった元凶とはいえ、その元凶を生み出した根源はあなたから始まりました。今度はこちらから問います、あなたはその事を理解しているのですか?いま、霧はあなたと海神智史の2人によって変質しようとしています。それは何故なのですか?」

 

 

ほぼ同時刻ーー

 

「ハルッハルッナイスバティ〜ッ、たすっけてっと泣き出すぅ〜顔っにはっ、どうどぉ〜うと、か〜れしぼしゅ〜ちゅ〜とかかれて〜るっ」

(意訳、ハルハルはナイスバディ、助けてと泣き出す、顔には堂々と彼氏募集中と書かれてる)

彼はそう嬉しそうに呟きながらキリシマ達とビーチバレーをしていた、智史はコートを脱いで弱気なハルナに容赦なくビーチボールをキリシマが打ち返す事も出来ない程の速度で次々と当て、彼女を泣きギレさせていた、そして更に泣いて丸くなっている彼女の頭を掴んで持ち上げるとそのおでこに「彼氏募集中」と墨筆で落書きをしてハルナが更に泣き出すのを楽しんでいた。

「おいおい、やりたい放題やるんじゃないっ!」

「あはは、ハルハルの顔面白〜い!」

「私もやりたい〜!」

この後彼女はアシガラにも彼がやったことと同じことをされて更に酷い目に遭うのだった。そしてコンゴウは波に流されて海岸を漂っていた…。

 

 

そしてーー

「腹が減ったな、食事にしないか?」

「えっ?」

「君達のエネルギー源が何なのかは分からないが、もし差し支えなければ、俺の食事に付き合ってくれないか?」

「食事?」

群像達と霧の生徒会が部屋を出てくる。

「智史、ご飯の準備をしてくれ。」

「了解した、事前の取り決め通りに食材を調達してくればいいんだな?」

そして彼は群像の指示通りにバーベキュー用の食材を次々と調達する。

 

「食材は肉、肉、野菜、肉、肉、野菜の順番で食べる」

そして智史はバーベキューを始める、焼けた肉が刺さった串を皆が取って次々と食べていく。

「遠慮するな、どんどん食え。」

「何これ、美味しいのぉ〜?取り敢えず食べよ…、っ、美味い!」

「何これ旨え!もっと欲しい!」

「こんなに美味しいものがあったなんて…。」

「これは想定外だ、いかん、この味の虜にされてしまう…!」

彼が作った肉を食べて美味いと反応を返すミョウコウ姉妹。

 

「あんた料理だけは上手いわね、ホント。」

「ヒュウガちゃん、私がもっと食べさせてあげるわ❤︎」

「げっ…!」

彼に対して毒舌を吐くヒュウガと、そんな彼女に肉をもっと食べさせようとするイセ。

 

「美味しい!お代わりください!」

「蒔絵、彼が今焼いてるから待ってろ。」

彼の肉の美味しさに喜ぶ蒔絵、そして彼女に我慢するように言うキリシマ。

 

「これは私の!」

「違う、私の〜!お前のものじゃないっ!」

彼が焼いた肉を食べようと取り合いを始める琴乃とズイカク。

 

「アタゴ、あの人が作って焼いた肉、美味しいわね。」

「お姉ちゃん、ほんとあの人はさ、規格外だよね〜。戦闘も料理も出来るわ何でも出来ちゃうわでさ。」

ビキニ姿で彼の焼いた肉を食べつつそんな会話をするアタゴとタカオ。

 

「今まで食べたことのないものだな、これ。」

「それにしては上出来だ。」

そう会話するヴィルベルヴィントとグロースシュトラール。

 

「智史さん、この肉はどこから仕入れたんですか?」

「世界の様々な肉の材質と構造を調べあげてそれを再現するという形で合成した」

「それは今では殆ど食べられないのですか?」

「食べられないことはないが、それはごく一部の人間にしか食べられぬ代物となっている。」

「そうですか、バーベキューの作り方を教えてください。」

「そうか、なら焼き方を教えてやる。まだまだ焼くからいっぱい焼けるからな。」

バーベキューに興味を示したヤマトとそのやり方を教える彼、海神智史。

 

そして…。

 

「これが海か…、うわぁっ⁉︎ダメだ、体が重くて動かん…、まずい…っ、うわぁっ!」

海水に浸かって体が重くなって動けなくなったコンゴウに波が襲いかかる、そして彼女は流される。

「コンゴウ、大丈夫か?」

幸いすぐ近くにキリシマがいたので彼女は海を漂うことなくキリシマに回収され、体内の海水を搾り取るために体を雑巾のように捻られた。

 

一方、地下ドックでは智史が事前にヤマトの船体を退避させたこともあったのか、そこはカラフルになっていた。

そして401ではーー

 

「全く、ぶっちゃけすぎだぜ、うちの艦長様は」

「とはいえ、この状況で霧相手に隠し事は無意味でしょう。」

「馬鹿話で霧のロジック防壁に穴を開けるったって、そんなことほんとに出来るのかよ?」

そう話す杏平と僧。彼らは静やいおりと共に万が一の事態に備えて401で待機していたのだった。

 

「はいっ!」

「シャキーン」

ーーバサッ

「ああうっ、ぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「はいっ!」

「シャキーン」

「私もやる〜!」

 

そしてヒエイは彼が焼いた肉を何故か食べようとしなかった。

「食事は口に合わなかった?」

「いえ、あの者達の行動は人間に近いです。」

そう彼女が視線を向けた方向にはトングで争っている琴乃とズイカク、アシガラと蒔絵に遊ばれるハルナの姿があった。

「あなたはこの状況を気に入っているのですか?」

「そうかもしれない、だって楽しいから」

「…楽しい?」

そして彼女の概念伝達空間へとイオナは場所を移していくーー

 

「疑問に思っていましたが、この概念伝達空間はあなたが作ったようですね、401。あなたはヤマトの意志によってメンタルモデルを手に入れ、この空間を作ったのでしょう。そして海神智史はそんなあなたを守ろうとし、そして彼によって霧は次々と撃滅され、変調をきたし、おかしくなっています。これはどういうことなのですか?」

「私は霧の潜水艦。私がヤマトの意志によって動かされていたことは分かる、でも彼が一体何者なのかはよく分からない、少なくとも分かるのは彼は私達を守ろうとしていることぐらい。」

「彼が何者なのかさえ当事者であるあなたは分からないのですか?」

「分からない、でも彼は突然現れて次々と他の霧を沈めて私を守ってくれた。」

「やはり私の考えは正しかったようですね」

そして彼女とイオナは現実空間に戻る、彼女は席を立つと

智史と群像の方へと向かっていくーー

 

 

「全ての原因は海神智史にあります。私と皆のコアはあなたとヤマト、千早群像そして海神智史との接触による汚染を防ぐために防疫措置を講じました。」

そしてヒエイは智史達の前に立つ。

「どうやらその甲斐はあったようですね。」

「どういうことだ、ヒエイ?」

ーー事前の情報通りダミーを用意していたか。実際にこいつらからはユニオンコアの反応が検出されなかった。

「答えは最初から分かりきっていたことです、人の姿を取り、人を理解しようとした結果が霧がおかしくなるという結末を招いたのです。」

「それはおかしい、だったら何故彼と群像達は存在していられるの?」

「戦術に誤りがあったからです、ですがその誤りは正せます。そして私達はムサシ様が定めたあるべき姿に立ち返るのです。」

すると彼女の体が光り、どんどん薄くなっていく。

「行きましょう、皆さん。もうここに用はありません。」

「了解しました。」

「え〜、まだここで遊びたかったのに〜。ブー!」

「いいじゃん、いいじゃん!ほらヒエイ、あいつとの戦争早く始めようよ!」

「落ち着きなさいっ、次の瞬間には殺されるのかもしれないのよ!」

「承知いたしました。これより戦闘態勢に移行します。」

「早く奴に必殺の一撃を食らわせるのが楽しみだ!」

 

「これは…!」

「群像、伝えてなくて済まなかった、これはナノマテリアルで作られたダミーだ。おそらく彼女らは我々との接触を「汚染」と捉えあえてコアを船体の方に置いてきたのだろう。」

その言葉通りに船体にあったユニオンコアを中心にして躯体が構成されていく。

「私は海神智史とヤマト、そして千早群像と401とそれに連なるもの全てを撃滅します。」

そしてヒエイの姿は消える、

「理解し合えなかったか…残念だ。」

ーーおいおい、予想通りとはいえ、うちはもちろんのことだが群像達まで巻き添えにするのかいっ!

 

「攻撃開始!」

そしてヒエイ達の大艦隊から艦載機か飛び立ち、無数のミサイルとビームが放たれる。

「いけない!」

慌てて白いクラインフィールドを島を覆うように展開するヤマト。

「こんなことになったのは私が401にコアを譲って彼女に群像さんに翔像さんの遺志を伝えようとしたせいです、私がこの攻撃を防いでいる間に皆さんは逃げてください!」

「ヤマト、あなたのクラインフィールドは非常に強い、でもそれは超兵器がいない場合で考えた時のことです。」

ヒエイはそう言い放つ、そしてグロースシュトラールとナハトシュトラールは艤装を展開し、巡航形態の時よりも更に強力なレーザー攻撃を彼女に放つ。

「あぁっ!」

そして一撃で彼女のクラインフィールドは破かれ、粉砕されてしまった。

「一撃で、クラインフィールドが…。このままでは…。」

そんな彼女に超兵器群や多数の艦艇、航空機から放たれた無数のミサイルとレーザーが襲いかかるーー

 

ーーバキイィィィィィン!

ーービイィィィィン!

 

「えっ…?」

「ヤマト、私にも今回のことに関する非がある、お前は群像とともに逃げろ。今から私がこいつらを撃滅する。」

智史はヤマトにそう言い放つ、なんと彼は自身のクラインフィールドを彼女の代わりに展開して全ての攻撃を受け止め吸収し、そのまま自身の強化に回してしまったのだ。

「まずい、攻撃を中止しなさい!」

ヒエイ達の攻撃が一旦止む。

 

「ところで生徒会長、何故彼らを改めて潰そうと?」

「私は海神智史や千早群像や401、ヤマトと接触して“楽しい”という感情を理解したように思いました、しかしそれは巧妙に仕掛けられたトラップです、霧が“楽しい”を初めとする感情を持っていくことは霧の風紀を乱します!」

「トラップ、とは?」

「霧を霧で無くして霧の風紀を乱す罠です!」

 

「でも、智史さん…。私のせいで本来なら彼女達と何の関係もないあなたと群像さん達が…。」

「それは私もそうだ、私が好き勝手暴れたせいで、お前達も巻き込む大事を結果として生み出してしまったのだからな。そして今は無理をするな。だから一旦逃げろ、ヤマト。」

「智史さん…。」

「智史、ありがとう」

「別にいい、イオナ。すまんがお前もとっとと逃げてくれ。その方が群像達を守れる確率が高い。琴乃、そんな私に付き合ってくれるか?」

「いいわよ。だってあなたは私にしてみれば大切な存在なんだから。それにあなたのクロニクルを一緒に見届けたいし。」

「ありがとう、琴乃。」

彼女達が地下に逃げたのを確認すると智史はヒエイ達を睨みつけてこう言い放つ、

「ヒエイ、貴様等を今から血祭りにしてやるから首を洗って待っていろ」

 

リヴァイアサンに彼は琴乃をお姫様抱っこしたまま飛び乗る、そしてリヴァイアサンに青いバイナルが灯る。ついに、決戦とは言い難い、彼の一方的なクッキングタイムが開幕を迎えていたーー




今作の敵超兵器紹介

超巨大氷山空母 ハボクック
全長 1400m (氷山形態 1550m)全幅 650m (氷山形態 750m)
基準排水量 21000000t (氷山形態 30000000t)
最大速力 水上 1000kt(氷山形態 100kt) 水中 500kt (氷山形態 その形態では潜れない為計測不能)
武装
90口径100cm3連装砲塔 5基
δレーザー発振基 2基
拡散荷電粒子砲 連装 20基
冷却レーザー発振基 4基
203mmガトリング砲 単装 30基
57mmバルカン砲 連装 60基
各種ミサイルVLS 16000セル
クラインフィールド、強制波動装甲、ナノマテリアル生成装置搭載。

ペーターシュトラッサー、リヴァイアサンと同じくリヴァイアサン出現後に会得したものとはいえ、艦載機を生成させ、発進させることができる超兵器。機動力を代償にして気象を変動させることによって周りの気温を下げ、自身の外殻に氷を生成することで追加装甲として相手の攻撃の威力を減殺してしまうことができる。それだけでなく相手の構成物質を絶対零度で凍りつかせ粉砕してしまう冷却弾や冷却レーザーも撃ってくる。ヒエイは今回の決戦のためにハボクックから冷却弾を調達していた。

おまけ
本文中に記載しなかったが、今作ではヒエイとの決戦に際し、智史はこれまでの徹底的な強化と、新たに得た知識に基づいて、リヴァイアサンの装備の一部を強化改良した。
重力子レーザー発振基→重力子X線レーザー発振基

重力子X線レーザー発振基
重力子を核融合のメカニズムを応用して更に破壊エネルギー量を大幅に高めた兵器。今作時点での威力は、効果範囲を絞らなければ跡形もなく太陽系を一撃で消し去ってしまう程のものである。


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第12話 ザ・クッキングタイムとオーバーキルと修練の旅

今作はヒエイがリヴァイアサンごと智史の能力を無力化する為にある策略を仕掛けます、ですがあっさりと無効化されます。
そしてヒエイ達は文字通り智史に料理されて粉々にされてしまいます。
あと智史が群像達を鍛え上げる為に彼らを修練の旅に連れて行きます。
それとですが、前作の最後部分を一部修正致しました。
ご了承ください。
それではじっくりとお楽しみください。


「皆、無事か!」

「無事です!」

群像達はヒエイ達の攻撃が始まってすぐに地下ドックに逃げ込んだ、そこでとりあえず出撃準備を整えていた。

「あれ、智史と琴乃はどうしたの?」

「智史の奴はヒエイに決戦を挑むつもりだ。」

智史がいないことに不思議がる蒔絵とその答えを出すコンゴウ。

「な、なんだって⁉︎あいつ本気であんな大艦隊に決戦を挑むのかよ!」

「彼はそのつもりだ、琴乃も一緒に。だがその戦闘に巻き込まれたら俺達はひとたまりもない。」

「それに、ヤマトも傷ついてる。逃げようとしてもまだ島が囲まれてる。今動くのは危険。」

「艦長、あなたの言う通り、その戦闘に巻き込まれる可能性もあります。ここは様子を見ましょう。」

彼らは結論としてここで一時待機して様子を見守ることにした、だがーー

 

「やはり、状況を判断して動くことを控えたか。無闇に飛び出しても私の足手まといになるだけだからな。」

「その通りね、ただそんな状況下だと言うのに動かないのは臆病過ぎると言うべきかしら?」

「まあ仕方が無いだろう。あまりにも戦闘のスケールが違いすぎるのだからな。」

そう会話する智史と琴乃。実際リヴァイアサン=海神智史は途轍もない圧倒的な力を持ち、更にそれにも満足せずに己を異常な勢いで更に磨いている。それに及ばなくとも霧も生き残るために凄まじい力を身につけているのだ。そして群像達はその戦いの蚊帳の外だった。

「さあ、始めようか。」

「ええ。」

「重力子機関及び波動エンジン始動、メインスラスター群に動力伝達開始」

そしてリヴァイアサンの機関群が唸りを上げて膨大な推進力をスラスター群に与え、その巨大な船体を動かしていく。

「まずはヒエイの攻撃を全て受けよう、奴にその攻撃を全て受け切り、吸収した所でこちらの無傷の姿を見せて、より深い絶望と恐怖を与えるために。」

そしてリヴァイアサンはヒエイの艦隊へと突っ込んでいく、ヒエイの策略にあえて引っかかったように見せかけて。

「今です、Z弾を発射しなさい!」

すると硫黄島を取り囲んでいるヒエイの艦隊から無数の弾頭が飛んでくる、そしてリヴァイアサンに直撃し周りの空間を凍らせていくーー

「智史くん、これって?」

「ありゃ冷却弾だ。だが、うちを甘く見るなよ。」

冷却弾はヒエイがリヴァイアサンを構成している材質を絶対零度まで冷却し凍結させることでリヴァイアサンの自己再生強化・進化システムを無力化し、僅かな衝撃でリヴァイアサンを崩壊させるためにハボクックから調達したのだ。

リヴァイアサンが冷却弾の白い煙で見えなくなった、そして彼女の思惑通りになった、はずだったーー

「冷却弾爆発地点に非常に巨大なエネルギー反応!」

「何ですって⁉︎」

「ま…まさか…。」

そう、白い煙から出てきたのは無傷のリヴァイアサンだった、リヴァイアサン=海神智史はレーザー冷却の原理を逆用して冷却弾の粒子に自身の構成原子を使用して対抗した。本来なら冷却弾が的確なタイミングで原子にぶつかることで原子の運動エネルギーを減殺するどころを、そのタイミングを完全にズラしてエネルギーを減殺するばかりか爆発的に増大させてこの攻撃を完全に無効化、吸収し自己強化に回してしまったのだ、そもそもリヴァイアサンは素粒子などとっくに通り越したレベルで超絶な自己進化を遂げてしまったので(今も猛烈な勢いで自己進化を続けている)そのようなことをしなくても余裕で今の攻撃を全て無効化、吸収し、自己強化に回せてしまうのだが…。

ーー蒔絵、お前の知識と思考アルゴリズムは少しは役に立ったぞ。

 

「な…なんて奴…。もっと撃ち込みなさい!」

あまりに異常な光景に動揺するヒエイ、再び冷却弾が多数撃ち込まれる、しかし結果は同じだった。

「冷却弾、全弾使い切りました、弾切れです!」

「奴は…、化け物なの…?」

「どうした、もう終わりか?」

「ヒィッ!ぜ、全艦攻撃開始しなさい!」

そして凄まじい規模の攻撃が開始される、あらゆるレーザー、光弾、ミサイル、ロケット、魚雷が超兵器、大戦艦、重巡洋艦、軽巡洋艦、潜水艦、航空機から放たれ、次々とリヴァイアサンに叩きつけられる、その光景は多彩な花火が次々と打ち上げられているようであった、しかしその攻撃全てが無効化され、吸収され、自己強化に回されてしまう。

「貴様等の攻撃はその程度か?では今度はこちらからだ。」

すると上空に巨大な空間の歪みが発生しそこから無数の艦載機が飛び出してくる、同時にリヴァイアサンからも無人戦闘機 E.D.IやF/A-37 タロンが次々と生成され飛び立っていく。瞬く間に空中で乱戦が起き、次々と航空機が爆発して墜落していく、しかも墜ちていくのはヒエイ達の方のものばかりだった。10機のヴリルオーディンがその乱戦を必死に掻い潜って攻撃をリヴァイアサンに仕掛ける、しかしその攻撃も無効化されて同じ展開に終わる。

「本家海龍を無数の光学兵器やミサイルで苦しめて沈めた奴か、忌々しい。」

そしてリヴァイアサンの前部2基の砲塔レールガンが旋回し、仰角を上げてヴリルオーディン達に狙いを定める。

「墜ちろ」

するとリヴァイアサンの砲塔レールガン群が速射砲の如く青白い光弾を次々と放ち、次々とヴリルオーディン達の機体に大穴を穿ち、吹き飛ばしていく。そして彼らは次々と爆発、四散して鋼鉄の臓物を海に撒き散らしていく。

「沈め、化け物!」

「これでも食らえ!」

ヴィルベルヴィントとシュトルムヴィントが必殺の203㎝量子魚雷や侵食魚雷を次々とリヴァイアサンに叩きつけるーー

「き、効かない⁉︎」

「無駄だ。全て自己強化に回した。」

「なら、当ててみやがれーー」

「貴様等は速さだけが取り柄か?その速さも無意味だ。」

「なっ、なんだと⁉︎」

「散れ。」

そしてリヴァイアサンのレールガンが唸りを上げる、一瞬で2隻は巨大な爆発と水柱を引き起こして跡形もなく爆沈した。

「いっ、嫌ぁぁぁぁ!来ないでぇぇぇぇ!」

「こ、こっちに来るなぁぁぁ!」

グロースシュトラールとナハトシュトラールが艤装を展開してβレーザー、γレーザー、光子榴弾砲に114㎝砲まで叩きつける、リヴァイアサンの表面で光子榴弾砲の光弾の白い爆発が次々と起こる、しかしそれが終わった後には無傷のリヴァイアサンの姿があった。

「もうお終いか?」

「ヒィィッ!」

あまりに一方的な現実から必死に逃げようとする2隻、しかしその現実は変わらない、そして2隻の重力子機関が悲鳴を上げて次々と破損し、縮退エネルギー量がどんどん落ちていき、それに伴いレーザーの光も細くなっていく。

「嫌ぁぁぁっ!お願い、動いてぇぇぇ!」

「誰か助けてぇぇぇ!まだ死にたくないぃぃ!」

そんな2隻の姿を見苦しく感じる智史。

「貴様等は見苦しいわ。一撃でバラバラにしてやる。」

そして今度はリヴァイアサンの重力子X線レーザー発振基が唸り、青白い光束が2隻を直撃する、2隻は上部構造物諸共船体を抉り飛ばされて、跡形もなく爆散した。

「さあ、クッキングタイムの始まりだ。」

そして智史は艦載機の大群を次々と生成するとヒエイ達に襲いかかっていくーー

 

 

 

ーー大戦艦ヒエイの独白ーー

 

 

ーーリヴァイアサン…、奴は一体、何者なのですか?

 

奴、リヴァイアサンは突然として出現した、ムサシ様はそれをアドミラリティコードに従わざる存在として奴を始末せよと潜水艦の2人に命ぜられた。だがそれは想定外の事態を招き、潜水艦の2人が奴に始末されたことを皮切りにコンゴウ様の艦隊やナガト様の決戦艦隊が次々と奴に殲滅されていった。私はナガト様が奴に殺されたということに激しく怒り狂い、奴を殲滅すべく大艦隊を編成し、自らその艦隊を率いて出撃した、だが奴は戦うごとに異常な勢いで強くなっている、おまけにナガト様の決戦艦隊からの交信記録によると全ての攻撃が吸収され、そればかりか逆に奴を強くしているということが判明した。しかも艦載機まで多数運用してナガト様の艦隊を悉く屠ったようだ。それらを封じるために私は航空戦力を多数用意し、ムサシ様の命を受けたハボクックから冷却弾を調達した、奴はいつも通りのパターンで行動を開始した、奴は私の作戦にまんまと釣られた、そして冷却弾を叩き込んで奴に止めをさせる、はずだったーー

 

「冷却弾、無力化されました!」

「冷却弾の効果確認できません!」

 

だが奴はそんな私の努力を嘲笑うようにその攻撃を無力化してみせた、そして奴は空間を歪め、自身からも無数の戦闘機を繰り出すとこちらの艦載機を悉く駆逐してしまった。

 

「嫌ぁぁぁっ!来ないでぇぇぇ!」

「お願い、殺さないでぇぇ!」

 

奴は、クラインフィールドを展開し必死に抵抗する超兵器達を嬉しそうに次々と惨殺すると、次は私達の番だと言わんばかりに無数の攻撃機、攻撃ヘリを生成した。

 

「くっ、攻撃が効かない!」

「何て奴らだ…悪魔め!」

「お願い、まだ死にたくない!」

「こんなの嫌ぁぁぁぁ!」

 

そして奴が創り上げた死の天使達は残っていた空母群や重巡洋艦、軽巡洋艦、潜水艦に次々と襲いかかっていく。もちろん彼らも必死で抵抗したが、天使達はその攻撃を次々と無力化、吸収してしまう。そして更なる猛攻が加えられる。

 

「ーーぎゃぁぁぁぁ!」

「やめてっ、いっ、いやぁぁぁぁ!」

「私の、足がぁぁぁぁ!」

「こ、来ないで、きゃ、きゃぁぁぁっ!」

 

そして天使達は彼らを嬉しそうに蹂躙し、嬲り殺しにしていった、気がつくと残っているのは私とミョウコウ、ナチ、アシガラ、ハグロの4人だけだった。

 

「艦隊…壊滅しました…。」

「残るのは我々か…。なんて奴だ…。」

「むしろこの方が楽しいじゃん、あいつと一騎打ちしたい!」

「アシガラ、状況を読みなさい!」

 

そして彼らを殺し尽くしてご満悦の奴が私達を食い殺そうと嬉しそうにこちらに向かってくるーー

 

「見つけたぞ、ヒエイ。さて、貴様を解体してやろう。」

「いっ、嫌ぁぁぁぁ!あたしに近寄らないでぇぇぇ!」

 

あまりの恐怖にハグロは艤装を展開して高速でこの悪夢から逃げ出そうとする、だがーー

 

「誰が逃げていいと貴様に言った?沈め。」

 

ーーキュオオン!

 

ーーズガアァァァン!

 

奴の主砲が逃げるハグロに狙いを定める、そして奴が唸りを上げた次の瞬間、彼女のいた場所に非常に巨大な水柱が立つ、その跡に彼女の姿はなかったーー

 

「ハグロが、い、一撃で…。」

「くっ、こうなったら、足掻くしかない!」

 

ミョウコウが艤装を展開して奴に巨大な超重力砲の砲身を向ける。

 

「ナチ、照準の調整を頼む!」

「了解、照準、誤差修正完了しました!」

 

そしてナチのデータに基づき彼女は奴、海神智史が立っている場所に超重力砲を滅茶苦茶に乱射した、そのぐらい彼女は迫り来る死の調べから必死に逃げたかったのだろう。

だが海神智史は非常に強靭なクラインフィールドを展開してこれを悉く受け止め、吸収してしまった。

 

ーードカアァァァン!

 

「超重力砲と重力子エンジンがオーバーワークで破損しただと⁉︎くっ、動け!」

「貴様の抵抗は終わりのようだな、ミョウコウ。まずは貴様から料理してやろう。」

「や、やめろ、やめてくれぇぇぇ!」

 

ーーズガガガガガガァァァン!

 

超重力砲を乱射し過ぎたせいで動けなくなった彼女に奴は副砲のようなもので容赦なく彼女に片っ端から大穴を穿つ、そしてその大穴を次々と穿たれた彼女の船体は大爆発を引き起こした。

 

「みょ、ミョウコウ…。やろう…ナチは殺らせないからな〜!」

「アシガラ、止めなさい!」

 

アシガラがナチを殺らせまいと奴に突っ込んでいく、それに対して海神智史は嬉しそうに微笑む。

 

「これでも食らえ〜!」

 

ーービイィィィィン!

 

「次はこれだぁ〜!」

 

ーーブォンッ!

ーービュゥゥゥゥン。

 

彼女は艤装を展開して主砲や魚雷を撃ちまくり、そして重力子の銛や攻撃用ポッドで奴を攻撃する、更には重力子の剣まで展開して奴に斬りかかる。だが、彼女がこのような猛攻を加えても奴の外殻に傷一つさえ付けられず、当然奴は平然としていた。そしてーー

 

「どうした、もう終わりか?」

「え?」

 

ーーズガガガガガガガガ‼︎

 

奴は邪魔だと言わんばかりに複数の機関砲をアシガラに向けて撃つ、それはアシガラの船体を次々と直撃する。しかもその威力が尋常ではない、一発一発の威力が超戦艦級の超重力砲を軽く上回るものであり、それが大量に彼女の船体を直撃するのだ。瞬く間に彼女の船体は蜂の巣のように穴だらけにされ、爆発四散した。

 

「ア…アシガラ…。い、嫌ぁぁぁぁ!」

「くっ、なんてこと…。」

 

アシガラが沈んだという事実を受け入れられないナチ。彼女は怯え、発狂してしまう。私はあまりに一方的な虐殺と言っていい光景を見て、体が動かなかったーー

 

「さあ、フィナーレだ。じっくりと切り刻まるのを楽しみにしながら死んで行くがいい。」

「…ヒッ!」

「くっ…。」

 

そして奴の主砲、副砲、機関砲が私達に対して放たれる、私達はクラインフィールドを展開していたものの、すぐに破かれ突破され、瞬く間に穴まみれにされてしまう。そして私の船体が爆発したところで私の意識は途切れたーー

 

「あれ?生きてる、み、皆はどうしたのですか⁉︎」

「生徒会長、我々は奴に回収されてしまい、ここに放り込まれてしまいました。」

 

気がつくと私はミョウコウ達と共にリヴァイアサンの拘置室に入れられていた、奴はその攻撃で壊れかけた躯体のまま海底に横たわっている私達を回収し、私達の躯体を修復した上でここに放り込んだのだ。脱出しようにもこの拘置室は非常に強靭な素材で出来ており、換気用ダクトと水回り以外のパイプも用意されていない。私達は何も出来ないままここで過ごすしかなかったーー

 

 

 

ーー海戦終了直後、リヴァイアサンにて。

 

「智史くん、楽しめたとはいえ、今回もやり過ぎじゃない?」

「奴らを面白半分で盛大に甚振ったからな。やり過ぎと言えばやり過ぎだろう。まあいい、勝てたからな。」

「そうは言っても、群像くんのプライド、やむを得ない事情があるにせよ、見事にぶっ潰しちゃったんじゃないの?」

「そうだな、私は自分が満足すればそれでいいと考えている、だがそのせいで他人が酷い目を見ることになることはある。」

「相変わらず正直で可愛い子ね〜。でも群像くん落ち込んじゃうよ?」

リヴァイアサンの艦橋でそう会話をする智史と琴乃。既にリヴァイアサンには青いバイナルは灯っていない。夜空に雲はなく、満月が海を照らしていた。

「海底で気絶しているヒエイ達を回収しておこう。後でさらにじっくりと甚振るために。」

「相変わらず自分の欲望に正直ね〜。でも彼女達悲惨な目にあって可哀想よ?」

 

 

同じ頃、硫黄島の地下ドックでは。

 

「うわあ…。もはや一方的な虐殺じゃねえか、これ…。」

「幾ら何でもやり過ぎとしか言いようがありませんね…。」

「こんな大艦隊が軽く吹っ飛ばされてしまうなんて…。凄すぎますね…。」

「もはや虐殺以外の何物でもないな」

「すげえ!智史悪い人たちみんなやっつけちゃったんだね!」

「ヒエイは対策をしていたはずだ、そんな彼女の艦隊を軽く一蹴するとは…。」

彼が見せた一方的なクッキングに様々な反応を示す群像達。その感想の意味の殆どはオーバーキルではないかというものだった、そして…。

「私が、ムサシを止められなかったせいで仲間が、次々と智史さんに…。彼に非はない、でもこのままの状態だとムサシに従っている仲間は彼に皆殺しにされてしまう…。」

リヴァイアサン=海神智史が見せた圧倒的、いや一方的な力の前に次々と惨殺されていく霧を見て、自身がムサシを止められなかったことと、その戦いを止められない自身の非力を嘆くヤマト。

「でも何としてもこの戦いを終わらせなくては、最後は自身の手で決着をつけないと…。」

何としても智史に仲間が皆殺しにされる悲惨な未来を避けるためにヤマトは行動を彼と共にする、彼による徹底的なオーバーキルを抑止するために。

 

 

「各ネットワークやレーダーで調べ上げ済み通りにヴォルケンクラッツァーの配下からの偵察機がこの状況を確認しに来たか。」

「智史くん、それどうするの?」

「もちろん叩き墜とす。でも私の姿はちゃんと撮ってもらう。そしてその姿を見て絶望に打ち震えて生き残る為に必死になって貰おう、私を更なる高みに導いて貰う為に。」

そしてリヴァイアサンのミサイルVLSのハッチが開きミサイルが放たれる、そしてそのミサイルは偵察機を叩き墜とした。

 

 

ーーほぼ同時刻、ハワイ近海

 

 

「やはりヒエイの艦隊は悉く粉砕されたか…。」

「しかもムサシに命じられたあなたの部下のハボクックが用意した冷却弾は悉く彼には通用しなかったわ、そればかりか逆にエネルギー源を増やすだけに終わった。」

「何て奴だ…。物理法則を平然と無視している、奴には物理的常識が無いのか?」

「最終的に叩き墜とされたとはいえ、彼はあえて私の偵察機に撮影されました、なぜでしょうか…。」

「オウミか。何事も無かったように平然としている姿を見せることでこちらを深い絶望に叩き落すのが狙いだろう、実際奴の異常な力の前に私は不安で一杯だ、奴に部下が次々と殲滅されるのではないのかと。」

「ヴォルケン様、あなたはムサシに排除されそうになった私を受け入れ、守ってくれました。あなたの力なら彼を倒せると信じています。」

「そうか?何れにせよ奴は無常識な強さを持つ相手だ。気を抜くな。何としても生き残らなくては…。」

 

 

そして、硫黄島沖ではーー

 

「智史、俺達はしばらくここには戻らない、アメリカに振動弾頭を届けたいし世界に風穴を開けたいからだ。」

「群像、その必要性は無くなりつつある、実際私が創り変えてしまったとはいえ、ついに人類が反撃を始めたようだ。彼らは東南アジア海域で霧と積極的に交戦し、成果を上げている。」

「そうか、それはよかった。」

「呑気に「よかった。」と言えるか、ボケナス。私に脅威を覚えた各地の霧が積極的にハードやソフトを強化している、今の予定でアメリカに行くとなると戦闘経験が足りないまま、霧の各方面艦隊群の中でも強力な霧の太平洋艦隊と交戦することになる。特にヴォルケンクラッツァー級は強大だ。太平洋の他に北海近くにもう一隻いる。今の私ならヴォルケンクラッツァー級2隻も含めた全ての霧の艦隊など余裕で跡形も無く吹き飛ばせるが、それだとお前達はひよこのままだ。私が目を離したら一瞬で蹴散らされて終わりだろう、今から生き残る為の術を戦闘経験と共に教え込んでやる。」

「それは、どういうことだ?」

「つまり今のお前達は、私抜きだとあっさりと消される存在だということだ。幸い実戦経験を積むための霧はトラック沖やニューギニア近海、オーストラリア近海にも存在する。そこでじっくりと術を教えてやる。」

「ま…、まあ、ありがとう…。」

「智史くんったら本当は優しいのね、他の人はそんなこと全然しないのに。」

「生き残るために為すべきことを徹底的に教え込むことは大切だからだ。教え方が甘いと結局はダメだ。」

「そうね、しつけが甘いとどんな子供もダメになるからね。」

智史と群像の会話を聞いていた琴乃が彼の考えに共感する。

 

「そうだ、群像。これを使え。」

智史が群像を含めた401クルー達にそう呟く、そして海面に歪みが生じ強い閃光が輝き始める、そしてーー

 

「何だ、これは…。」

「おいおい、今度は巨大な基地かよ、本当に贅沢万歳だわ、こいつ…。」

「ナノマテリアルを幾らでも生成できる、こんなものを平然と作るなんて…。今の私達には贅沢品と言ってもいい代物だというのに…。」

「超巨大ドック艦スキズブラズニルだ。こいつは私がお前達のそばを離れても大丈夫なように強力な基地機能を備えた移動基地だ。ここで弾薬やナノマテリアルの補充が利くようにしておいたぞ。もし不足があったら私に尋ねるがいい、但し、戦闘に関しては最低限の手助け以外は何もしないぞ、自分で倒さなければ強くなるための自信は付かないからな。」

「最低限の手助けとは言っても些か規模が大きいですね…。でもこれで補給に関する問題は解消されてしまったも同然でしょう。」

「これで取り敢えずはいいだろう、よし、まずはトラック沖に向かうぞ!」

そしてリヴァイアサンとスキズブラズニル、401、タカオ、ヤマトは艦隊を組んでトラック沖に向かっていく。

智史による彼らの為の戦闘訓練と生き残る為の術を教える為の旅が、今始まったのだったーー




今回登場した兵器

冷却弾

通称Z弾。レーザー冷却の原理を利用して原子に粒子を的確なタイミングでぶつけることでその原子の運動エネルギーを減殺し、最終的には絶対零度にまで冷却してしまう兵器。
ヒエイがリヴァイアサン=海神智史対策として使用したものの、智史はその原理を逆用し、タイミングを悉くズラしてしまうことで爆発的に原子の運動エネルギーを高めてしまうことで無効化、吸収して、そのまま自己強化に回してしまった。
(そもそも智史は素粒子などとっくに通り越したレベルで超絶進化を遂げているので(今も進化を異常な勢いで続けている)絶対零度にまで冷却されても機能は全く低下しない。)


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蒼き鋼のアメリカへの道程篇
第13話 虐殺とオウミと概念伝達、そして最初の稽古の始まり


今作はオウミに艦隊これくしょんに出てくる艦娘、戦艦大和のキャラ設定を用いてみました。ですが艦娘大和さんの前世での扱いが結構酷いことになってます。
智史がムサシに概念伝達を使って話しかけます。
ある超兵器の登場フラグが立ちました。
そして今作の最後は稽古の始まりです。
それではじっくりとお楽しみください。

お詫び
今作は自分がストーリーの詳細設定をよく考えずに初投稿した後、慌てて何回か改稿して修正したためその改稿以前に読まれた方は混乱されてしまう可能性がございます。
今の修正した状態が自分が納得がいくように表現したものです。
ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。


ーー駆逐艦ヴァンパイアの独白ーー

 

ーー助けて。

 

「ヴァンパイア!くっ、なんて数の敵なの⁉︎これも奴があんなものを造ったせいで!」

 

私は霧の東洋艦隊に所属している駆逐艦ヴァンパイアだ。私は上司であるレパルス様やプリンスオブウェールズ様と共に東南アジア海域の封鎖を担当していた。

人類を滅びに追いやっているとはいえ、私達は彼らからいろいろ学び、アドミラリティコードに逆らわない形で任務を遂行しつつ、個性を獲得し、幸せな日々を送っていた。

 

「左翼の駆逐艦隊、全滅しました!」

「大戦艦ウォースパイト、轟沈!」

 

だが、そんな日々もある日突然起きた出来事によって打ち崩されてしまう。そう、人間の言葉で言うと黙示録に出てくる伝説の海の怪物を具現した存在が突如として出現したのだ。

ムサシ様はアドミラリティコードに従わざる存在として潜水艦隊に始末に向かわせたが、それこそが破滅の始まりだった、奴はムサシ様の潜水艦隊を始末すると次々と東洋方面にいた霧を始末していった、そして奴に決戦に挑んだナガト様の艦隊も悉く殲滅されてしまった。そればかりではなく、奴は置き土産とばかりに我々を殲滅する為の巨大な戦略基地を創り上げたのだ。それを排除しに向かった攻撃衛星は奴に呆気なく始末されてしまったが、その衛星からのデータをみた私達は怯えるしかなかった。

 

「ぐはぁっ⁉︎」

「うぇ、ウェールズ様⁉︎」

 

そして奴が創り上げた戦略基地から繰り出される強力な兵器や艦艇の数々によって我々は東南アジアの各所で次々と殲滅され、追い詰められていった。頼みの綱の超兵器ドレッドノートは奴との決戦に備えてハワイに撤退していた。そして逃げようにも徹底的な空襲によって我々の補給基地が破壊しつくされ、満足な修理が受けられない。

 

「れ…レパルス、ヴァンパイア…。逃げて…。」

「ウェールズ…、ウェールズ⁉︎」

 

そしてその基地からの破壊の尖兵にウェールズ様は次々と矛を打ち込まれ瀕死の鯨のように漂うだけだった、打ち込まれた矛の中には私たちがよく使っている侵食魚雷も含まれていた、奴はこんな物を作れるだけのブツを残したのかと思うと悔しくなった。だがそんなことに御構い無しと奴らはウェールズ様に容赦なくさらなる矛を突き立て、殺してしまった。

 

ーードガァァァン!

 

「ウギャァァァァ!」

「ウェールズ様ぁぁぁ!」

「ヴァンパイア、そんなことを嘆いている暇はないわ、生き延びるのよ!」

 

そして私はレパルス様と共に逃げようとする、だが奴らはそんな光景を見逃してくれるほど柔ではなく、私達に次々と魚雷やミサイル、高威力兵器を放っていく。

 

「ギャァツ!」

「れ、レパルス様、ぎょ、魚雷が…。い、嫌あぁぁぁ!」

 

ーーズグァァァン!

 

ーーこれで…、終わり…?

そしてレパルス様と私に次々と魚雷やミサイルが命中し私達は跡形もなく砕け散った。深い絶望に私の体はどんどん沈んでいく、そして私の意識はそこで途絶えたーー

 

 

 

その頃、リヴァイアサンではーー

 

「いいぞヴォルケン!もっと抗え、そして私を更に磨き上げろぉぉぉ!」

「智史、お前は悪魔か?私にしてみればお前の行動及びそれに基づく異常なまでの自己研鑽は敵をさらなる絶望に叩き落すためのものにしか見えないが。」

「あ、キリシマか。あんたのセリフ少し使いまわしてみた。しかし霧の東洋艦隊追い詰められてるね、うちが作った工場から出てくる兵器達によって。」

「人間の言葉で言うと白鯨という高性能艦艇を中心とした兵器群が量産されているからな、しかもそれを量産している工場はどんどん増えていくわ兵器の質はどんどん上がるわ…。我々の仲間は既に黙示録を身で味わっているのに、仲間達を更に追い詰めようと人間達を仕向けるとは…。鬼か、お前は。」

「はい、ワタシは鬼畜です。(笑)」

「全く、お前には慈悲がないのか?」

「アリマセン。(笑)」

リヴァイアサンの左舷飛行甲板で海風に吹かれながらそう会話をする智史とキリシマ。彼はこれまでも異常なまでの自己強化をしていた。そしてその結果、彼はもはやヴォルケン達が幾ら足掻いても手の届かない域に達していた。なのに彼は今の強さに物足りなさを感じており、その欲望を埋めるために更なる自己研鑽を行い、自分が何処まで強くなっているのかを比較しては無邪気に喜んでいた。そして更に実を言うと、彼はある禍々しい存在がいることを知っており、その存在が己の欠片を取り込んだ本来の姿の超兵器達や尖兵を全部連れてきて自分に決戦を挑んでも、鎧袖一触で一網打尽にしてしまうほど、いやそれを通り越して強くなってしまっていた。

それはさておきとして、キリシマは彼の圧倒的、いや一方的な強さに加えて異常なまでに無常識な強さの欲求に当初は唖然としていたが、今ではこんなことが日常茶飯事なのでただ溜息だけしか出なかった。

そして彼女に出来ることはというと、彼を暴走させすぎないようにコントロールすることぐらいだった。まあ彼にもある程度の良心はあるので、少なくとも味方を好き勝手に使いまわして使い捨てにするということは無いのだが…。

「一応、投降する意思が出てきたら攻撃を止めてくれないか?お前は一度戦闘になると敵に破滅的な死か自分の玩具にして弄りまわすこと以外の選択肢を認めようとしないからな…。少なくとも相手を玩具にして弄くり回すことは控えてくれ。」

「…はい。(笑)」

 

敵に徹底的に止めを刺すということ自体は間違ってはいない、敵に甘いとかえって災厄になってしまうことが多いからだ。だからと言って敵が不戦の意思を示しているのにも関わらず殺してしまうのはさすがに非情すぎるところもあった。

そしてリヴァイアサンの後方にはスキズブラズニルとヤマト、タカオが、彼の前方には401がいた。このうちタカオは色を赤から蒼に染めかえていた。というのも…。

 

「タカオ、お前は何で色を染め変えたんだ?」

「あ…あなた達がみんな青色だから私もそうしてみようかなって…。」

実はタカオはリヴァイアサン=海神智史やヤマトが蒼き鋼に加わった際に彼らの色が青色系列だったことをヒュウガに突かれてどうせならあんたも蒼き鋼に加わってみなよと言われたのが動機で艦色を蒼にしたのだ。

ともあれ蒼色一色となった蒼き鋼はトラック沖へと突き進んでいくーー

 

 

 

ーー超巨大双胴航空戦艦オウミ(近江)の独白ーー

 

 

元の世界で私は、大日本帝国海軍、戦艦大和の艦娘としてこの世に生を受けた。

「大和型戦艦1番艦、大和、推して参ります!」

私は「最強」としてこの世界に群がる深海棲艦を片っ端から蹴散らす為に生を受けた、筈だった。

 

「燃料や弾薬を沢山食う能無しは出したくねえ」

「おら、もっと働けえ!」

 

だが現実は残酷だった、私は提督という指揮官達に能無しと罵られて海に出られず、装備を破損しても満足な修理や補給が貰えなかった。しまいには提督達に片っ端から輪姦され、望んでいない他人の子を孕まされてしまった。

 

「沈メ!」

「嫌あぁぁぁ!」

 

そして深海棲艦の各海域での大反抗、通称「タイダルウェブ」によって各地の艦隊は次々と蹂躙され、殲滅されていった。私も必死に抵抗したものの、圧倒的な物量、そして十分に戦えるような状態ではなかったこともあって、私は深海棲艦の猛攻の前に身を削られて沈んでいった、お腹の子の生死も分からぬままにーー

 

「い…生きてる、はっ!」

 

気がつくと私は巨大な軍艦の上で倒れていた、そして最後に戦った際につけていた艤装はこの体には付いていない、そして私からは艦娘としての気配が無くなっていた、だがーー

 

「未確認の巨艦を発見、撃沈します。」

「アドミラリティコードに従わざるものは撃沈する。」

 

突如として私は複数の潜水艦隊に取り囲まれていた、それも深海棲艦ならざる気配をもつ者達に。

 

「い、嫌…殺さないで…。」

 

私は自分が何者なのかを知ることなく再び殺されるのかと思った時であるーー

 

「待て、その娘は助けてやれ。こちらを攻撃する意思はない。それに生を望んでいる。」

「霧ならざる者を助けるというのか?」

「そうだ。」

「402、そこまでです。あなたが出てくるのなら我々はこの件に関してはこれ以上の口出しはしません。ですがもしこの艦がアドミラリティコードに従わざるものならあなたを艦体旗艦から解任します。」

「そうはさせないさ。この娘には我々に反旗を翻す気配はないからな。」

 

私は非常に巨大な艦の、人の形をした艦魂のような存在に助けられた。

 

「あ…ありがとうございます…。あなたは…?」

「霧の究極超兵器、超巨大戦艦ヴォルケンクラッツァーのメンタルモデル、ヴォルケンクラッツァーだ。ヴォルケンと呼んでくれ。ところで、お前はオウミか?」

「え…?私は大日本帝国海軍大和型戦艦1番艦、大和の艦娘ですが…。」

「艦娘?なんだそれは?まあいい、お前は見知らぬ世界からオウミに生まれ変わったのだな。現に私の方にお前の識別IDは超巨大双胴航空戦艦オウミ、と表示されている。お前はそのメンタルモデルなのだろう、サークルを出してみろ。」

「は…はい。」

 

そして私は彼女に言われるがままにサークルを出したーー

 

「で…出た、私を囲んでいるピンク色の輪っかみたいのがそれなのですか?」

「そうだ、これはメンタルモデルが通信や状況をモニターに出したい時に出すものだ。ようこそ、オウミ。我が霧の太平洋艦隊に。」

 

ーーそう、私は大日本帝国海軍、戦艦大和の艦娘ではなく、超巨大双胴航空戦艦、オウミのメンタルモデルとしてこの世界で第2の生を送るのだ、誰からも虐げられることなく。

 

「は…はい!よろしくお願いします!」

 

のちにあの潜水艦の2人はイ400型の2隻、400と402だということがヴォルケン様から伝えられた。彼女達は自分達の持っているコアではメンタルモデルを生成できず、超戦艦ムサシから演算能力を分けてもらうことでメンタルモデルを生成しているらしい。

ともあれ私はヴォルケン様に手伝ってもらい、様々な霧の超兵器達やモンタナさん達とも仲良くなれた。ときおりナガトさん達の東洋方面艦隊群に派遣艦隊として派遣されて人類の抵抗を潰す戦闘にも参加した、そこでの共同作戦でナガトさんはもちろんのことハリマやアラハバキとも友達になれた。人類を海洋からなぜ駆逐しなければならないのかということに疑問を抱きはしたが、元々私は提督達に色々されたせいか人類にいい印象を持っていないし、それにヴォルケン様や同僚達とも仲良く暮らせていたので海洋封鎖を行いつつ幸せに暮らせている、そんな日々が続くと思っていた、しかしそんな日々は突然として打ち壊される。

 

「ーー未確認の巨艦が出現したらしい、戦闘能力は非常に高いらしい。」

「リヴァイアサンを撃沈しに向かった400と402の潜水艦隊は逆に返り討ちにされ、次々と東洋方面の巡航艦隊群が壊滅させられているようだ。」

「ナガトさん達はリヴァイアサンにみんな殺されてしまったんですか…?」

「分からない、だがナガト達からの戦闘の会話記録を見ると奴はナガト達の攻撃を悉く無力化して、ナガト達を一方的に殲滅したらしい。」

「そ…そんな…。アラハバキ達まで殺されてしまったのでしょうか…。」

 

突如として出現した霧の究極超兵器、超巨大戦艦リヴァイアサンは自身を始末しにきたあの潜水艦の2隻の潜水艦隊を軽く始末すると、圧倒的、いや一方的な強さで次々と東洋方面艦隊群を始末していった。アラハバキ達はナガトさんの連合艦隊とともにリヴァイアサンに決戦を挑んだものの、ナガトさん達の決死の攻撃は悉く通用せず、リヴァイアサンが放つ攻撃は彼女達の防御を軽々と粉砕して次々とナガトさんの部下達やアラハバキ達は容赦なく討ち取られていった。その際にリヴァイアサンはナガトさん達を嬉しそうに嬲り殺しにしていったのだ。そしてリヴァイアサンは私達を滅ぼす為に巨大な基地を創り上げて、そこから繰り出される破壊の尖兵によって東洋艦隊が殲滅された。更にヒエイがナガトさんの敵討ちとしてリヴァイアサンに大艦隊をぶつけたものの、逆に軽々と蹴散らされてしまい、ヒエイも行方が分からないという。あまりに一方的な暴力の前に私は恐怖で一杯になり、ヴォルケン様もリヴァイアサンに追い詰められてムサシに頼んであるものを自身に組み込んだという。それはヴォルケン様に圧倒的な力を与える代わりにヴォルケン様から理性を奪い取り、ただ破壊だけを求める存在に変えてしまう代物だった。私に出来ることは滅びの定めから逃げるために自身を磨くことと、無常識な迄に力を持つ存在に滅ぼされないように神に祈ることしかなかったーー

 

 

ーーそしてリヴァイアサンの拘置室では。

 

「無茶苦茶な迄に強いなぁ、智史は!でも私は全力を尽くせて戦えたから悔しくない!今度完璧な状態では会ったらお前に再戦を申し込んでやるっ!」

「アシガラは楽しいのね、彼と戦うことが。私達はとんでもない化け物に出くわして散々な目に遭った挙句ここに放り込まれたというのに。」

「殺されないだけ良かった〜。でも彼がとんでもない化け物と気づかなかった私達はバカ姉妹じゃん…。」

「あれは霧を越えた存在なのか…?それとも、絶対神に等しい存在なのか…?」

「ムサシ様…。このような事態になってしまって申し訳ございません…。そして、奴が作る料理はなんて美味しいのでしょうか…❤︎」

智史特製の讃岐うどんの麺を使った肉うどんを美味しそうに方張りつつ、そのような会話をする霧の生徒会のメンバー達。彼らの会話には後悔と不安、生き残れた喜び、全力で戦えた喜びが入っていた。何れにせよ霧の風紀を守ろうとする気配は薄れつつあった、だって霧の風紀を守るべき彼ら自身がリヴァイアサン=海神智史によって散々に打ち負かされてしまったのだから。そして智史はそんな光景を監視カメラでこっそり見ており、そして腹を抱えて大笑いしていた。

 

「無様だな、ヒエイ。」

「はっ、コンゴウ⁉︎」

透明な拘置室の扉の向こうに立っていたのはクマの姿をしたコンゴウだった。

「奴にコテンパンにされた挙句美味しそうなものを食べさせられるとはな。奴にいいように弄られている貴様は堕落したとしか言いようがないほど無様だ。」

「コンゴウ、彼にクマにされたあなたこそ無様です!」

そう軽く言い争う2人、しかしヒエイを弄っている張本人がそこに現れる。

「智史か。ムサシに概念伝達で呼びかける気か?」

「まあそうだ、コンゴウ。ヒエイ、お前もヤマトやイオナと一緒に連れて行ってやる。」

「な、なんですって⁉︎」

そして彼は概念伝達を使いムサシに呼びかけるーー

 

 

ーームサシの概念伝達空間ーー

 

 

そこの空間色は暗黒のような黒で、天地上下がない空間で階段のようなものが上下左右に駆け巡っていた。

 

「ムサシ様…。」

「ムサシ…。」

「来たか。」

 

彼がそう呟くと彼らが立っている階段に人ならざる美しい銀髪をした黒服の幼女が立っていた。

 

「あなたが、リヴァイアサンね…?」

「そうだ。」

 

ムサシは彼を見てそう言う、そして智史はそうだと返す。

 

「ムサシ様、申し訳ございません、あの者に敗れてしまいました…。」

「もういいわ。あなたは彼に壊されて霧ではなくなってしまったから…。」

「ムサシ、それはどういうこと⁉︎」

「ヤマト、ヒエイは彼に変質させられてしまった。霧はただ一つのリズムを保っていればいい。そして私達は永遠に変化などない既に幸せな状態なの、そこに彼女を放り込めば私達は幸せに無くなってしまう…。ヒエイ、あなたもヤマトと彼と一緒に排除してあげるわ…。」

「お、お待ちください、ムサシ様…。私達はこれからどうすればいいのですか…。」

「あなたもヤマトやリヴァイアサンと一緒に殺してあげる…。それまで待ってて…。」

「ムサシ、あなたは自分の仲間すらも変化を起こしたら要らないというの⁉︎」

「霧に変化なんか要らない‼︎霧が変化を起こしたら私達は不幸になってしまう‼︎」

「…うっ…。」

 

ーー自分が心酔していた存在に見捨てられた気分はどうだ、ヒエイ?

 

「401…。」

「う…。」

「あなたは知らないでしょうけど、あなたの姉妹を嬉しそうに殺したのは彼よ…。」

「そうだ、イオナ。ムサシ、私が貴様から命を受けた2人から攻撃を受けたからそのまま霧を楽しくぶち殺していった。」

「あなたには慈悲はないの…?」

「味方を思いやる慈悲なら有るさ、だが自分に害をもたらす存在に慈悲をわざわざと掛けてもかえって災厄が増えるだけだろう?そして私は己を磨くことも好きだが、敵をじっくりと苦しめて甚振りながら殺すということも大好きなのでな。」

「あなたは悪魔ね…。私やみんなを苦しめて嬲り殺しにしていくのね…。そして私達から幸せを奪っていくのね…。」

「そうだ。特に私はそういう趣向が今強いのでな。」

「うふふ…そうするといいわ…。そしてマスターシップの破片を取り込んで器を満たした超兵器の子達によってあなた達が断末魔をあげて死んでいくのが目に浮かぶわ…。」

 

ーームサシ、そのマスターシップがどれほど恐ろしい存在なのかを身をもってじっくりと思い知るがいい。私はとっくに奴を倒せるほどになってしまっているがな。

 

「マスターシップとは⁉︎」

「ヤマト、あなた達を殺すために私が利用している存在…。リヴァイアサン、あなたがこれまで倒してきた超兵器の子達にはその破片を入れるための器があった。ただ破片自体が入っていなかっただけ…。これからその破片をその子達に入れて器を満たしてあげるわ、そして破壊だけを求める強大な獣と化した超兵器本来の姿をした子達に怯え、泣き叫びながら死んでいくといいわ…。」

「そ、そんな…。ムサシ、やめて!」

「もう遅い…。今からこの子達の1人の器を満たして超兵器として完成させて、破壊の化身にしてあげる…。そして破壊と殺戮が跋扈する光景に怯えるがいいわ!そして、再び永遠に幸せな日々が戻るのよ…。」

 

そしてムサシの姿が消えるーー

 

 

「な…なんてこと…。」

「言いそびれて済まない、私はとっくに気がついている。マスターシップとは世界を破壊し尽くす為に生み出された存在だ。今はまだ目覚めてはいない。だがもしその破片が超兵器として創り出された存在に組み込まれれば強大な破壊の化身が生まれる。また通常の霧に組み込まれたらその霧は破片の力に耐えられずにお陀仏確定。何れにせよこんなものが超兵器の器を満たしたらお前の仲間や人類はお陀仏だ、私抜きと仮定して。」

「そんなものが入れられたら、霧は壊れてしまう、かといってこんな最悪の状態であなたがあんな一方的な力を振るったら霧には破滅以外の道は残されていない…。」

「確かにこんなものが入れられたらお前の仲間達は破滅するか破壊しか求めない破壊の化身と化す道を歩むな。おまけに世界各地の霧は、私の所業のせいで私を恐れて私達が言うことを信用しようとしない、そうなら殺すしかない。どちらにせよ早く自分自身を強くしないと、私が超兵器の奴らも含めたお前達の仲間を美味しくみんなお陀仏にするぞ、ムサシが超兵器の奴らの器に破片を入れようが入れまいがな。」

 

あまりに脅迫じみた智史の言葉に自身を磨かんと焦るヤマト。

 

「あんたが滅茶苦茶に暴れるからこうなるんだろ‼︎」

「ヒュウガか。まあ半分はその通りだな。だが会話をして戦いを止めるという道も有ったのに、その道を閉ざして破滅への道を歩ませたのはムサシだろう?」

そう呟く智史。そしてーー

「あなたのせいで、私達は霧で無くなってしまいました…。あなたを憎み、殺そうにももう何をすればいいのか分かりません…。」

「まさに心が支離滅裂だな。まあいいさ、これでお前のカチコチの考えは吹き飛んだのだから。」

「そんなに楽しそうに言わないでくださいっ!私は、自分の心の支えが…もう…。」

ヒエイはそう言うと泣き出してしまった。ミョウコウ姉妹はその光景を悲しそうな目で見ていた…。

 

 

「さて、トラック沖にもうすぐ着くか…。情報通り敵艦隊が複数いるな…。よし、機雷を搭載した艦載機群を発進させよう、そして機雷散布を主にして奴らの動きを封じてやる。」

そう言いいつも通りのようにリヴァイアサンの左舷飛行甲板に機雷散布ユニットを搭載したB-3ビジランティⅡやB-70ヴァルキリーを瞬時に次々と生成してトラック沖に向けて発進させる。

彼はいつもこうして艦載機を生成してから発進させている、ではなぜいつもこうしているのか?機体を格納庫から出して発進させることも出来たはずだ。

ーー実は艦載機をいつも多数作りすぎるせいで物理的な意味での収納スペースはすぐに満杯になってしまうのだ。四次元空間にしまってしまうという手もあるが、それだと物理空間的に不自然である。なので彼は任務を終えて戻ってきた艦載機達を元の素材にしてしまうのだ。

ではその素材を再利用して作るという手はあるではないか、いちいち生成するという必要もあるまいし?

ーー彼は艦載機達の素材をそのまま吸収し、自己再生強化・進化システムにそのすべての強化リソースを使ってしまうのだ。そして強化されていくそのシステムによって更に自己強化の速度が上がっていき、彼はますます強くなっていくのだ。勿論そこには物質生成能力も含まれており、彼はその能力も強化していくことで、瞬時に量質共に圧倒的な規模の大軍を作れるまで、いやそれ以上にその能力を強化しまくっていたのだ。

 

「さて、貴様らにはおとなしくここで待ってもらおう、私が貴様らを修行者達の稽古台に使いたいのでな。」

そしてリヴァイアサンから放たれた艦載機達はトラック沖にいる霧の艦隊を囲むように片っ端から機雷を散布していく。彼らも決死の抵抗を試みるが、あえて反撃させずに攻撃を吸収させ、そのまま自己強化に回してしまうように仕向けておいた。

 

「ん…?奴ら何か落としていったぞ?」

「激しく攻撃を加えたのに平然としているのはいつも通りか…。だが何でだ?執拗な攻撃をこちらに仕掛けようとして来ない…。」

「奴らこれまでは凄まじい規模の攻撃を仕掛けてきたのに…。今回は不自然なほどあっさりとしているな」

 

リヴァイアサンのこれまでの戦い方を見ていた霧は彼の艦載機達の不自然な行動に疑問を抱く、そして彼らが進んだときーー

 

ーーズグァァァン!

ーードガァァァン!

 

「な、何の攻撃だ⁉︎」

「こ、これは自走するタイプの侵食機雷です!」

 

一定範囲内に入った彼らを探知した自走機雷は次々と彼らに襲いかかる、幸い攻撃の規模は以前と比べると大きくはなかったものの、それでも被害は甚大だった。軽巡洋艦や重巡洋艦が何隻か沈められ、2割近くが航行不能になり、残る艦も大半が航行に支障をきたしていた。

 

「奴ら、我々の動きを封じる為に機雷を散布していたのか‼︎」

「やられた、このままだとじわじわと嬲り殺しにされるぞ…。」

 

しかし、リヴァイアサン、もとい智史はある目的の為にこの攻撃の規模をあえて抑え、自らは積極的な手出しを控えていた。

 

「さて、稽古の時間の始まりだ。作戦行動開始!」

「了解した、行くぞ、イオナ!」

「了解」

そしてそんな彼らに401、タカオ、ヤマトが襲いかかる。

 

彼によるイオナ達の為の稽古タイムが、ついに始まったのだーー




今作の敵超兵器紹介

超巨大双胴航空戦艦 オウミ
全長 1100m 艦幅350m 全幅 500m
基準排水量 6200000t
最大速力 水上 1500kt 水中 800kt
武装
85口径91㎝3連装砲塔 2基
90口径80㎝3連装砲塔 3基
60mm3連装機銃 120基
4連装大型侵食弾頭ミサイル発射機 6基
30㎝48連装噴進砲 60基
多弾頭クラスター侵食爆雷発射機 6基
各種ミサイルVLS 4000セル
61㎝各種魚雷発射管 150門

クラインフィールド、強制波動装甲、ナノマテリアル生成装置搭載。

説明
双胴の航空戦艦。一見すると地味に見えるが、戦闘能力は超戦艦級を上回る。メンタルモデルは前世では艦隊これくしょんの戦艦艦娘として登場した戦艦大和。深海棲艦の大反抗を食らって海に沈んだところ、オウミのメンタルモデルとして生まれ変わった。元の世界の各鎮守府から酷い扱いを受けたため極度の人間不信になっており、人間と関わりあうことを極度に忌み嫌う。またリヴァイアサン=海神智史に霧の超兵器の仲間を一方的に次々と惨殺されたために彼を極度に恐れている。
なお自分を助けてくれたヴォルケンクラッツァーやモンタナ達に対しては心を許せているようだ。


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第14話 稽古と思い通りにはいかないこと、そしてトラック諸島

今作は前作の失態を犯さないように徹底的にストーリーの構成を考えていました。そのせいか何度か試行錯誤しています。
お稽古がやや一方的です。
そしてお稽古の予定が智史が考える趣向とは異なる事態に成りかけます。まあ要するにいつも通りに皆殺しには出来なくなったわけで…。
そして智史達がトラック諸島にやって来ます。
それではじっくりとお楽しみください。


「何⁉︎トラック沖にいた我々の艦隊が艦載機から散布された機雷による攻撃を受けているだと⁉︎」

「はい、先ほど入った緊急入電によると、リヴァイアサンからのものと思われる艦載機から自走機雷が散布されたそうです。」

「何てことだ、せっかく艦隊をハワイに結集させようとした矢先に…。」

 

リヴァイアサンの艦載機から散布された機雷による攻撃を受けているとの情報はヴォルケン達の元に届いていた、しかもリヴァイアサンとの決戦に備えて艦隊をハワイに結集させようとした矢先である。

「トラックはやられた。もう救いようがない。とにかく奴の侵攻ルート上に我々の決戦準備の為の時間稼ぎとしてゲリラ戦の為の艦隊を配置しよう、ただし無理はさせるな。危険な状態になったらすぐに退避させろ。しかし何故だ?何故奴はサッカー選手の練習合宿と言わんばかりの自身の作戦内容を平然とネットワークに投稿したんだ?」

ヴォルケンが不思議がって怪しがるのも無理はない、実は智史は自分を除く蒼き鋼のメンバー達の強化指導の計画の一環として、あえて自分達の艦隊の規模と今後の作戦計画として各地の霧の拠点を叩き潰すということも含んだデータを霧のネットワークに投稿していたのだ。そして彼のデータの行動ルート上には悉く霧の太平洋艦隊の重要拠点が含まれていたのである。あえてそこを放棄して一箇所に艦隊を集中するという戦術も有るが、それだと彼に感づかれて決戦の準備を十分に整える前に徹底的な襲撃を受ける可能性が高い。実際霧のネットワークを見るとそれ自体が彼に知らぬ間にハッキングを受けており、そして彼の戦闘記録を見るとこちらの戦術を知り尽くしていたような様子が伺えるのだ。下手に艦隊など出せば悉く各個撃破されてしまう。ならば時間稼ぎとしてリヴァイアサンとの直接戦闘を避け、ゲリラ戦をしつつ決戦の準備を整えるのがヴォルケン達にしてみれば最善な戦略なのだ。

しかしそれこそが彼の思う壺であった。彼にしてみれば今回のゲリラ戦を用いた遅滞戦術など驚異的な探知能力で瞬時に敵の居場所を把握でき、おまけに広範囲に潜伏しているといってもそれは物理的な程度の問題であり、圧倒的な物量の大軍を生み出し、それを驚異的な演算能力を用いた凄まじい精度のシミュレーションを何億回、何兆回も繰り返した結果を用いた、いわゆる地に足を着いた非常に現実的な作戦計画を用いて指揮してしまえばすぐに片付いてしまうのだった。要するに大雑把に言ってしまえば今の智史はヴォルケンが全艦隊をゲリラ戦に投入しても、全然余裕で彼らを好きなように翻弄し、叩き潰すことが出来てしまうのだ。それはあまりに酷い実力差だった、例えそこに欠片を組み込んで本来の姿になった全ての超兵器達を加えて同じように投入してもその結果は全く変わらない、むしろその差は逆に広まるだけだ。変わることをあえて一つ言うなら、彼らに欠片を与えて本来の姿にしたら、彼が少しだけとはいえ気持ち悪さを覚えることぐらいだが。そして彼はヴォルケンがゲリラ戦を仕掛けるということをすぐに察知し、それを自分の都合のいいようにしてしまうために移動進路上の全てのゲリラ艦隊に対し再び艦載機を用いて片っ端から機雷散布を行っていた。

 

「機雷でトラック沖の奴らの動きを封じた。心置きなく修行に取り組め‼︎」

「はい!」

「わ、わかりましたっ!」

「了解」

 

そしてイオナ達が稽古の為に機雷攻撃で半死半生となったトラックの霧の艦隊に統率されたオオカミの如く襲いかかる。

 

「まずは外の奴から叩け。特に何らかの手負いがある奴を優先しろ!」

「わかりました!」

「ヤマト、制圧射撃を行え!群像、同時に周りを撹乱して動きを封じろ!」

「わかった、杏平、音響魚雷及び電子撹乱魚雷を発射、タイミングは任せる!」

「了解、音響魚雷発射10秒後に電子撹乱魚雷、発射!」

 

まずタカオと401が撹乱も兼ねた同時攻撃を仕掛ける、401から放たれた音響魚雷が艦隊のソナーの感度を低下させる、同時にタカオから放たれたレーザーや侵食魚雷、侵食ミサイルが外殻を構成している手負いの艦に次々と命中して撃ち沈めていく。次にヤマトから砲弾が放たれる、その砲弾はクラインフィールドに直撃して炸裂する、次の瞬間、巨大な爆発が生じ、その艦隊の全ての艦のクラインフィールドを飽和させる。

 

「全艦、クラインフィールド飽和!消失しました!」

「くっ、反撃急げっーー」

 

ーーズガアァァァン!

ーーズビュゥゥゥゥゥ……

 

「なんだ、これは⁉︎艦のシステムが動作しない‼︎」

「こちらもシステムを全てやられました!EMP魚雷です!」

 

実は智史はキリシマに敵に一方的な死しか求めない態度は変えたほうがいいと指摘され、投降を呼びかけてから抵抗はあった場合は殲滅するというプロセスを新たに自身に組み込んだのだ。そのプロセスに使おうと考えて思いついたのが彼自身が元の世界で楽しくプレイしていたウォーシップガンナー2 鋼鉄の咆哮に出てくる電子撹乱ミサイルを潜水艦用に応用した電子撹乱魚雷だった。自身は既にそのミサイルや魚雷はいつでも物質生成能力で大量に製造でき、すぐに実戦に投入できるのだ。

それをイオナ達用に改良したものを調達してしまう手もあるが、それだとイオナ達にその兵器を製造、管理、修繕するというプロセスが身につかない。これでは自身にその兵器の運用に関すること全てを依存してしまうということになるので彼は製造、運用、修繕方法に関するデータを彼らに提供し、そしてそのデータだけでは作れないかもしれないから、製造方法、運用方法、メンテナンスのやり方などを実際に徹底的に教え込んだ。

 

「すげえ代物だな、あの破片を取り込んでいなければ超兵器級を30秒も行動不能にしちまうなんて。こんなのの爆発に巻き込まれたらこっちも動けなくなるぞ。あいつはこのことを理解してんのかぁ?」

 

そう、その兵器は究極超兵器を除いた全ての霧を一定時間行動不能にする代物である、ただし破片を取り込んで器を満たした超兵器達には効かないが。だがそれ以外の相手に対するアドバンテージは非常に大きく、霧の艦艇がクラインフィールドを張っていても関係なく彼らを機能停止に追い込み、クラインフィールドを張ることと強制波動装甲の稼働を彼らにさせない。それに彼らを30秒も動けなくしてしまえばこちらは多数の弾を叩き込めるのだ。

 

「よし、そのまま量子魚雷発射!」

「了解、量子魚雷、発射!」

 

そして401とタカオから量子魚雷が次々と放たれる、そしてその魚雷は衝撃波のようなものを水中に発生させて信じがたい速度で進んでいく。

 

「非常に高速で航行する魚雷多数接近、高エネルギー反応あり、ですがタナトミウム反応検出されません!」

「では何なんだというんだーー」

 

ーーピカッ‼︎

ーーズグァァァン!

ーードガァァァン!

 

「おいおいとんでもねえ威力だな、こんなの撃ち込まれたら奴らにクラインフィールドがあっても、ひとたまりもねえぞ…。そんな兵器の作り方を平然と教えてくれるあいつは化け物か?とにかくあんなものを撃ち込まれる敵に同情しちまうぜ…。」

「超戦艦級に匹敵する霧すら一撃なんて…。しかもなんてスピードなの…。これじゃあ今の私じゃ避けきれないじゃない…。」

 

量子魚雷を食らった敵は一瞬白い閃光が瞬いた次の瞬間には天まで貫くような非常に巨大な水柱を複数残して跡形もなく四散した。そして津波のようなものが生み出され、大量の水しぶきが彼らに降り注ぐ。そう、これも智史が元からリヴァイアサンにあった兵器、量子弾頭ミサイルのメカニズムを魚雷に転用し、そこに様々なメカニズムを加えることで開発した恐るべき破壊兵器で、それを群像達に作り方を教えたことで今回彼らはその兵器の威力を目にすることとなる。だが彼らのものの威力は彼にしてみればまだ低い、彼のものの威力は現時点でのものとはいえ、効果範囲を限定しなければ1発で地球を月共々滅せるのだ。要するに影響が及ぶ範囲を限定しないでそんなものを無闇に撃てば地球は滅んでしまうのだ。また現時点のものとしたのも彼が今後改良して威力を更に上げていくためである。

 

「トラック方面を警戒していた霧の艦隊の大半が我々の今の攻撃で消滅しました…。」

「あいつがこんなものを撃ちまくったらみんなおしまいだぜ…。」

「とにかくこんなものを使う機会を限定しよう。杏平、今度彼に会ったらあのような兵器の技術提供は控えてくれと伝えてくれ。ヤマト、生き残った艦艇に降伏勧告を呼びかけてくれ。」

「わかりました。」

 

そしてヤマトは総旗艦通信で生き残ったトラック方面の霧に呼びかける。

 

「トラック方面を警戒している霧の艦艇に告げます、今すぐに投降してください!現総旗艦ムサシに従っていたらあなた達はマスターシップの破片を取り込んだ超兵器達に滅ぼされてしまいます!」

「何がマスターシップだ!戯言をほざくな!」

「一度ムサシ様に沈められた後、悪魔を具現したリヴァイアサンに復活させられたんだろう!

「悪魔に復活させられた超戦艦は悪魔の傀儡だ!」

「例え殲滅されても我々の忠誠は揺るがん!」

「お願い、話を聞いて!」

 

彼らにそう言われて泣き出してしまうヤマト。

 

「くっ、攻撃続行!全艦撃沈しろ!」

そして401とタカオから次々と量子魚雷が放たれる。

 

「迎撃いそげ!」

「ダメです、先ほどの攻撃で一部の兵装が稼働しません!」

「魚雷、命中します!」

 

ーードグァァァァン!

 

そしてそれは生き残った霧の艦艇達にに全弾直撃し、彼らを悉く海の藻屑にした。

 

「敵艦隊、全滅しました…。」

「ううっ…、同じ仲間だというのに、どうして殺し合わなければならないの…?」

 

悲しそうな感じになるイオナ達、だが彼女達に不信感を持っている人物はそう簡単には彼女達の言うことを信じてはくれないのだ。そして信じてもらうようになるための時間的リソースの量は凄まじい。そんなリソースを費やす暇があるならさっさと殺してしまうのが最善の選択とも言えた。

そして智史はそんな状況を静観しつつ、進行ルート上のヴォルケンのゲリラ艦隊に機雷を散布し終えた艦載機達を収容していた。

 

「トラック諸島に向かうぞ、そこに霧の重要拠点があるからな。」

「了解…。」

そう呟く智史。しかし機雷散布が、想定内とはいえ自分の思い通りにはいかない事態を引き起こしたことを悟っていたーー

 

 

ーーそしてその頃ーー

 

「ぐっ、ぐがぁぁぁ…。」

「ヴォルケン様⁉︎しっかりしてください!」

「だ…大丈夫だ、オウミ。私は破片の力が定める運命に打ち勝ってみせる…。」

そう会話をするヴォルケンとオウミ。彼女はマスターシップの破片を大量に取り込んでその力が仕向ける運命に苦しめられていた。しかしそれはリヴァイアサンに勝つため、そして自分達の明日を切り開くためにしたことでもあった。

「はあ…はあ…。トラック沖の艦隊はどうなった?」

「リヴァイアサン一行に殲滅させられてしまいました…。」

「そうか…。近くにいるカトリ達に投降するように伝えてくれ。奴に付き添っているヤマトは薄情ではない…。」

そしてヴォルケンは部下にカトリ達に投降するように指示を出す、彼らをあえて捕虜にさせることで彼らを養うためのリソースを強制的に生み出し、足を引っ張らせるという戦術も含まれていたが、彼、海神智史が何者なのかがよく分からない。常識が通用しないのだ。足を引っ張る役目すら果たせないのかもしれない。それよりもあんな化け物に部下を次々と犬死にさせたくないという思いが強かった。

 

ーー例え自分が死んでも誰かが生き残れば自分は消えない。自分を犠牲にすることで誰かの未来が明るくなればいい。

 

そう考える彼女はリヴァイアサンと相討つ覚悟で、仮に勝ったとしても自身は化け物と化してしまうから死に損ねた際は自分にトドメを刺すよう部下に指示しておいたのだ。自身が化け物となっても他者の未来まで巻き込みたくない彼女はムサシからあの破片を自分とその部下の超兵器達の分も調達していたものの、あえて部下達にはその破片を配らずにその破片全てを自身に組み込もうとした。しかしーー

「ヴォルケン様一人にあんな哀しい定めは背負わせません。」

「あなた様とともに運命を共に致します。」

「この滅びの宿命にあなたと共に立ち向かわせてください!」

「皆で力を合わせればどんな定めも乗り越えられます!」

 

部下達は自分達にも破片をくれと言ってきた。

 

「お前達自身の未来が消えるのだぞ…。」

「それでも構いません。例え我々が滅びようとも誰かの未来が明るくなればいいのです。既に命を捨てる覚悟はできております。」

「皆…。」

 

そして彼女は部下達にも破片を組み込んだ、ある一人を除いて。そしてリヴァイアサンとの決戦の準備を進めようとした矢先にーー

「き、緊急電です!我々のゲリラ艦隊が奴からの艦載機による機雷散布を受けて次々と各地で行動不能になっております!」

「な、何事だ!」

「はっ、奴は我々の作戦を見抜いていたようで、その作戦を完封するために艦載機に機雷を散布させることで彼らを行動不能にすることが狙いのようです。幸い補給基地には被害は出ませんでしたが、この状態が解消されるには数ヶ月はかかります。我々がその状態が解消する前に奴はさらなる機雷散布を行い、我々の艦隊をじっくりと嬲り殺しにしていくでしょう…。」

「なんということだ…。我々の作戦は見抜かれていたのか…?」

「どうやらそうだとしか言いようがありません…。」

「そうか…。これより各方面からの撤退作戦を行なう、だが彼らがそこから撤退する前に奴によって壊滅させられそうになったら素直に投降するように彼らに伝えてくれ…。」

「了解しました…。」

 

こうして彼女の遅滞戦術は智史に出鼻を盛大に挫かれるという形で頓挫した。しかしそれは同時に智史にしてみても自分がしたかった仲間達に対する修行が思うようには出来なくなったということでもあった。

 

ーーほぼ同時刻、トラック諸島に向かうリヴァイアサン

 

「ふむ…。奴らの最新の行動計画と思考アルゴリズムを付け足した、私の仲間達の修行計画の戦闘シミュレーションでは何らかの損害は確実には与えられても全滅させることはほぼ不可能になってしまったか、私単独で速攻で片付ける場合を除いて…。まあ事前のシミュレーションでもこうなるという結論が出ていたとはいえやはり結果は変わらないか、自分では変えられることができない不確定要素が幾つか入っているからな…。それが楽しいとも言えるが。」

そう、智史は自分を自己再生強化・進化システムで異常なまでに己を強化して他者を打ち破っていくことで常に一方的と言っていい勝利を手にしてきた。しかしその勝利は常に自己中心的、排他的な戦略の上で成り立っている。というのも、彼自身の価値観では自分を徹底的に自発的に変えることはできるが、他者を変えるには他者の肉体や精神を自分の支配下に置いてしまうしかない。そんなことをすれば自己中心的、排他的な戦略を他者に実践したと言ってもいいぐらいだ。それでは自身の心は全く満たされず、虚無感だけが残ってしまうのだ。なので彼は、自分と向き合い自分とどう付き合うかをきちんと考えている他者はあえて排除しない、自分に刃向かうと判断したものを除いて。

 

「さて…。トラックか。ヤマトはそこにいる奴らに降伏を促している、そして多分奴らは彼女の降伏勧告を受け入れるだろう、自分達の上司、ヴォルケンクラッツァーが我々が来たら投降するように指示しているからな。さて、ヴォルケン。貴様は自分の部下達を撤退させようとしているがそうはさせん。じっくりと甚振ってやろう。」

 

そう彼は呟く、そして彼の予想通りにそこにいるカトリを始めとする霧の艦艇群はヤマトの降伏勧告をあっさりと受諾し、武装解除に応じたのだったーー

 

 

ーー給糧艦マミヤの独白ーー

 

 

ーー私は霧の給糧艦マミヤです。もとは補給艦でしたが、ヤマト様が人間達との接触によってメンタルモデルを形成されてからはヤマト様によって給糧艦としての生を授かりました。

ーーヤマト様とムサシ様、そして人間達の一人ーー千早翔像様に私が作った食事を召し上がっていただくのが私の一番の喜びでした。

しかし、翔像様は彼の仲間達の一人に殺されてしまい、それをヤマト様と共に見ていたムサシ様は傷つき、怒り狂われて人間達を排除せよと私共に命令を下されました。そんなムサシ様を止めようとしたヤマト様はムサシ様に排除されてしまいました、そして非力な私はその光景をただ見守るだけしか出来ませんでした…。

ーーそしてムサシ様は私に本来なら補給艦に戻す所を何故か給糧艦のまま任務を遂行せよと命ぜられました。恐らくヤマト様を殺してしまった後悔もありますが、私の料理がよほどお気に入りだったのでしょうか…。ともあれ私は東洋方面艦隊群に配属され、ムサシ様の承認の元、コンゴウ様やナガト様に料理を召し上がって頂きました。時折ヴォルケンクラッツァー様やモンタナ様にオウミ様が私の所に来られて私の料理を食べられて美味しいと喜ばれておりました。

ーーしかしそんな日々も打ち崩されてしまいました、ある日我々のアドミラリティコードに根本的に従わざる存在が突如として現れたのです。すぐにムサシ様は潜水艦の2人にこの存在を排除するように命ぜられました、ですがそれが間違いでした。その存在は2人が率いる潜水艦隊を一撃で蹴散らすと赤子の手を捻るように次々と私が所属していた艦隊群の仲間達を一方的に解体していったのです。私はナガト様が惨殺される数日前にナガト様がトラック諸島に疎開するように命ぜられたのでトラック諸島に移動しました。そしてナガト様は大艦隊を率いてその存在に戦いを挑んだのですが、さっき述べた言葉通り、その存在に一方的な迄に惨殺されてしまいました。

ーー私はその存在に次々と私の料理を食べて下さる方を惨殺されてしまい1人きりにされてしまったような哀しい気分になりました、そしてその存在にこう尋ねたいとも思っていました、

「なぜあなたとは関係のない私から料理を召し上がって下さる方や幸せな日々を奪うのですか」と。

ーーですがある日信じがたい報が入ってきました、あの存在がヤマト様を引き連れていると。そしてその報はあの存在が自身を沈めに来た私達の仲間を返り討ちにして次々と水底に沈めているという報に混じるという形で現実味を帯びてきました。

ーー私はそのヤマト様が本物かどうか不安で仕方ありませんでした、止む無く私はヴォルケンクラッツァー様の霧の太平洋艦隊の元へ再び疎開しようとしました、しかしそうしようとした矢先にあの存在から放たれた艦載機からの機雷散布によってトラック諸島周辺には無数の機雷が敷設されてしまいました。逃げ出そうにも機雷を多数食らってしまえば私達は全滅してしまいます。つまり私達は逃げ出せなくなってしまったのです。

ーーそしてその後にヴォルケンクラッツァー様からあの存在に投降せよとの指示をカトリ様が受けられました、そして私達は仮に投降してもあの存在に殺されてしまうのではないかという不安を抱きながらあの存在がここに来る時を待つしかありませんでした。

ーーしかし以外にもなんとあの存在に付き添われていたヤマト様が来られたのです。しかもそのヤマト様はかつてのヤマト様そのものでした。ヤマト様はあの存在は抵抗しなければ攻撃を加えないので投降してほしいと言われました。カトリ様は抵抗しないのでそこにいる皆を保護してほしいと返事を返されました。そしてヤマト様が島に上陸された時、私はなぜヤマト様がここに居られるのかが不思議で仕方がなくてヤマト様ご本人に聞きました、そしたらーー

「ムサシに沈められた際、私は翔像さんの息子に会い、翔像さんの意志を伝えるように401に自分のコアを譲ってそう命じて眠りについたのですが、ある日リヴァイアサンのメンタルモデル、海神智史さんに401から強制的に自分のコアを取り出されて復活させられてしまいました。彼女は自分のコアだけではメンタルモデルを維持出来ないので、智史さんは私のコアに匹敵する処理性能を持つコアを私のものの代わりに入れました。」

その言葉通り、401はヤマト様の気配がされるメンタルモデルを形成していました。そして彼女がリヴァイアサンのメンタルモデル、海神智史様にタカオ様をはじめとした方々を連れて海の上を歩いてここに来られるという光景が私の目に移りました。智史様は一見するとどこか抜けているような感じでしたが、噂通りに幾多の仲間を次々と屠った猛者という貫禄が出ていましたーー

 

 

 

「さて、島に上陸しよう、まずは武装解除からだ。そしてマミヤに私と奴らと一緒に群像達に料理を振舞ってもらおう。」

「智史くん、マミヤさんってどういう人なの?」

「ヤマト曰くムサシが、霧の本来の任務を外れることを許した唯一の存在だ。」

 

そう言う智史。もちろん琴乃やイセ、キリシマ達も彼が作ったクラインフィールドの道を島に向けて歩いていく。そして何故かヒエイ達やミョウコウ姉妹まで彼は連れて行った。

「今夜は智史の料理に加えてマミヤの料理も食べられるのか〜!」

「マミヤって会長が唯一許した異質な存在でしょ?アドミラリティコードからも大きく逸脱してるわけでもないし…。」

「マミヤの料理はまだ食べたことがない…。」

「マミヤさんの料理はどういう味なのかしら?彼の料理と同じぐらい美味しいのかな?」

「私達は彼に霧の生徒会としての私達を壊された…。今は抗う気力さえ無い…。ならば彼の後を付いていくしかありません。それよりもマミヤの料理がもう一度食べられるなんて…。皮肉なことですが彼に生かされたことを感謝しなくてはいけませんね。」

そう会話するヒエイ達。そしてこの島々で彼らはマミヤの料理の味の凄さと智史の暗い過去の一部を知ることになる。

 

「(マミヤは自分の大事なものを奪われて傷つき悲しんでいる、たとえ私が贖罪をしても許してくれないかもしれない。)」

智史は心の中でそう考えながらトラック諸島へと歩いていくーー




今作登場した兵器

光子エネルギー装填弾

着弾すると砲弾が光子エネルギーを解き放って大爆発を引き起こす兵器。主に敵艦のクラインフィールドに巨大なエネルギー負荷を掛け、強制飽和させることに用いられる。
勿論敵を破壊するための兵器なのでクラインフィールドを展開していない場合は敵艦に反物質反応のエネルギーによる大ダメージを与えることが出来る。ただしリヴァイアサン=海神智史の様なエネルギーを吸収して自己強化に回してしまい、よほどのエネルギーを短時間で浴びせなければ破壊されない相手にはむしろ逆効果になることが多い。
智史が光子榴弾砲をヒントに開発した。智史本人はレールガンから光子を集束したものを弾丸として撃てる(光子榴弾砲の攻撃メカニズムとほぼ同じ。それをレールガンの場合に切り替えただけ。勿論自己強化で威力は増加していく)ので実装されなかったが、ヤマトに技術提供を通じて装備され、改良されていくことでより強力になっていく霧の艦艇に絶大な威力を発揮していく。


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第15話 マミヤの料理と智史の過去、そして最初の破壊の化身と化した地獄の門と悪夢

今作はあの巨大な要塞が現れます。
しかもムサシが言った通りのことがそのまま起きます、ですがこれも智史の想定内です。彼はとっくに過剰と言っていいほどの、マスターシップの件も含めたあらゆることに対する対処を実行し、これでも十分だというのにまだその対処を充実させてしまいます。
あと彼の暗い過去が明らかになります。
ルフトシュピーゲルングさんもちょこっとですが登場です。
そして前作の最後部分を修正しました。
それではじっくりとお楽しみ下さい。


「そうか、カトリ達は殺されずに済んだか…。」

「はい、彼らが降伏した後、奴からの発砲は確認されていません。」

「よかった…。これで少しでも仲間が生き延びてくれれば…。」

部下のシャドウ・ブラッタとそう会話をするヴォルケンクラッツァー。彼女は確かに決戦の準備を進めてはいたものの、部下を無理に抵抗させて玉砕には追いやりたくはなかったのだ。部下達をリヴァイアサンに対して捨て駒として使ったら、自分の存在を語り継ぐ存在が居なくなってしまうからだ。

「皆、あなたから頂いた破片を組み込んだ影響で苦しめられております、ですがあなたと共にいれば如何なる試練も乗り越えられると信じております!」

「そうか…。皆、済まない…。」

実際あの破片を組み込んだ影響によって彼女の部下の超兵器達はあの破片の力に自我を失いかけたりして苦しめられていた。だがそんな事で膝を屈したらリヴァイアサンを打ち倒す前に自分達が破壊の化身と化して他の皆が殺されてしまうのだ。そんな事で躓いていたら勝負にもならない、だから彼女達は皆で破片が定める宿命に必死に抗っているのだ。

「ヴォルケン様、妹様から概念伝達による通信が入っております。」

「分かった、今出る。」

ヴォルケンは太平洋艦隊旗艦専用の概念伝達空間に移動するーー

 

 

ーー太平洋艦隊旗艦専用の概念伝達空間ーー

 

 

「ルフトか。」

「お姉様、あの巨艦の件は終わったのですか?」

「ああ、リヴァイアサンのことか。あの件はまだ長引きそうだ…。」

ヴォルケンとそう会話するのは彼女の妹である大西洋方面艦隊旗艦、超巨大戦艦ルフトシュピーゲルングだった。ルフトもまた彼女と同じく究極超兵器で、彼女の姉妹艦でもあり、彼女とも互角に戦えるスペックを持っていた、ただヴォルケンと比べると現実空間でのキャリアが短い事もあってか、ヴォルケンが姉で彼女が妹という事となっていた。

 

「奴の強さは尋常ではない、東洋方面の艦隊が悉く全滅した事は知っているだろう。」

「その報に勇気付けられた人類が各地で反撃を試みています、私達が居なければ霧には未来はありません。全てはあの巨艦のせいです。」

「そうかルフト…。そしてこの件を片付けるにはもうしばらく時間が掛かりそうだ…。現実空間でお前とまた会いたいのにな…。」

「そうですね、私もその時を心待ちにしています…。そういえばムサシから聞いたのですが、まさか、あの破片を取り込んでしまったのですか?」

「そうだ…。奴はあの破片抜きでは絶対に倒せない存在だ、たとえ化け物となるリスクを背負ってでも、だ。実際私と共に戦いたい部下達が奴との決戦の為にあの破片を次々と己の体内に取り込み、その破片の定めに皆苦しめられている…。それでも背に腹は代えられない。」

「そうですか…。でもお姉様ならあの巨艦を沈めると信じております!」

「そうか…。ありがとう…。」

 

そしてヴォルケンは概念伝達を切るーー

 

「ルフト…。私はお前より先に逝くかもしれん、そんな私を許してくれ…。」

 

そう哀しげに呟くヴォルケン、そして彼女のその言葉はリヴァイアサン=海神智史との決戦の時に文字通り具現化してしまうのだった…。

そんな会話の様子を智史はきちんと見ていた、そして彼女らの姉妹愛の深さと彼女の悲壮な覚悟が彼に彼女に確実にトドメを刺すという決意を固くしていた。

 

「ヴォルケン、貴様の思うようにはさせん、増援も動けなくしてやろう。しかし貴様の悲壮と言っていい覚悟には奥義を尽くして応えよう…。」

 

そしてリヴァイアサンから機雷を搭載した無数の艦載機が飛び立ち、撤退しようとしている太平洋ゲリラ艦隊にさらなる機雷散布を行おうと襲いかかっていく。

 

そして、トラック諸島に彼と蒼き鋼は上陸するーー

 

「あなたがマミヤさんですね、私は霧の究極超兵器、超巨大戦艦リヴァイアサンのメンタルモデル、海神智史と言います。」

「え、なぜ私の事をご存知で⁉︎」

「霧のネットワークを常に調べまくってます、ですが主に調べてるのは霧の戦略概念とスペック、戦略プランが主でして、あなたのことに関しては名前以外は知ろうとせず、あなたのことの詳細を知ったのはつい最近のことです。

ナガトさんを私に殺されて悲しんでいたんですね、彼女を私が面白半分で殺してしまったので…。そこら辺は何と言えばいいんでしょうか、幾ら償っても許してくれないかもしれませんね。でも私と皆に料理を振舞って頂けますか、私も一緒に料理を振る舞いますので。それがあなたに対する償いになれば幸いです。」

 

智史は自分の生死に関する事に対する事を主にして重点的に、自己再生強化・進化システムで異常なまでに強化した演算リソースを大量に割り振っていた、そして今もその状態を続けている。勿論自己再生強化・進化システムもその事柄に含まれている。それは自分が生き残ることを主とする乱世では非常に適切な行動とも言える。しかし自己を保身し、そして敵対する相手を排除する(おまけだが楽しみながら抹殺するという意味も含まれていた)戦略をあまりに重視しすぎたために非戦闘的な事柄が少々おざなりになってしまっていた。そのせいで彼は他者のソフトやハードは徹底的に知り尽くしていても、他者を思いやることをほとんど考えずに圧倒的な力で一方的に蹂躙したために一部の他者との付き合いが非常にやりにくくなっていた。それでも彼は、他者に受け入れられるように努力はしていた。

 

「そんなこと急に言われましても…。」

 

ーー予想通り、そうなりましたか…。

 

「そうですか…。」

そう言い帰ろうとする智史、しかし、

 

「智史くん、さっきのことを少しの躓きだけで諦めてしまうつもり?」

「はっ…。」

「私も彼の料理と一緒にあなたの料理を食べたい、お願い、彼の望みを聞いてあげて。」

「ヤマト様…。分かりました、出来るだけのことは致します。」

「ありがとう。」

 

そしてマミヤと智史は料理の準備を始める、それとほぼ同時に武装解除が行われ、残存艦艇に装備されていた武器や機関に次々とロックが掛けられていく。

ついでにだが彼はキャンプの設営もこっそりと始めた、今日はもうすぐ日が暮れるので、艦に戻るのも面倒というのが主な理由だった。

 

「これがマミヤの料理か〜!」

「マミヤさんの料理も美味しいけど、彼の料理も負けず劣らずね〜。」

「この場には2人の料理を主にして様々な思考が飛び交っている。」

「なにこれ、おいしいのぉ?」

「これがマミヤ羊羹…。うまい!」

「ハルハル、キリシマ、これ、美味しいね!」

「あの2人の料理は甲乙つけがたいな…。」

「これが、グルメ。タグ添付、分類、記録。」

「智史くんとマミヤさんの2人が作るとめちゃくちゃ美味しいご馳走が並ぶね!」

「琴乃、これお前も食べてみるか?美味しいぞ?」

「お姉ちゃん、こんなに食べ物が並ぶ光景って見たことがないね!」

「マミヤ、彼の提案に協力してくれてありがとう。」

 

そして群像達も、

 

「2人の料理を食べ比べるのも一興ですね。」

「これは何って言うの?お料理対決?」

「なんだこの料理達はぁ〜!これも、どれも、美味しそうだぁ〜!あ〜どれから食べていいのか頭が滅茶苦茶だ〜!」

「こんなに料理が並ぶなんて凄いですね、これを提案してくれた智史さんに感謝しなくちゃ!」

 

だが智史は皆が楽しそうに食べる光景を見てあることを思い出してしまっていた。

 

 

ーー皆楽しそうに食べているな、もし私に誰も振り向きもしなかったらあのトラウマがここに具現したのかと思ったぞ。

元の世界では私に関心すら示さず、私だけを蔑ろにし、楽しいことに釣られて喜ぶ女子共め、見かけたら貴様ら一匹残らず八つ裂きにしてやる。

貴様らに感受性は無いのか?没個性で集団主義を求めており、同じ型をした人間として育てられるように仕向けられたからか?

何?“キモい?”“関心ないからあっちに行って?”“来ないで?”

ほざくな、私は誰にも必要とされないという孤独が非常に辛い。私を見下すなら貴様らの家族共々ズタズタに引き裂いてやる。阻むなら皆殺しだ。そうだ、恐怖と絶望に怯えろ‼︎そして悲鳴や断末魔をあげながら八つ裂きにされ、血飛沫や臓物を撒き散らしながら、無様に死んで行くがいい‼︎

 

 

「智史くん、顔が怖いけど、何か悪いことでも思い出しちゃったの?」

 

ーーはっ⁉︎

 

「…そうだ、かつてのトラウマを思い出してしまった…。」

「なるほど、相当悪い思い出を思い出しちゃったんだね。」

「智史、あんた悪夢でもみたの?」

「アシガラ、言葉を慎みなさい。智史さん、すみません。アシガラが迷惑をお掛けして」

そう会話する智史達。そこへ杏平が現れる。

 

「おめえ悪夢でも見たのか?あ、そうだ、群像に頼まれたことなんだけどさ、あんな威力の兵器の技術提供控えてくれるか?威力がアホすぎて無闇に撃ったらみんな死んじまうぜ。」

「まあ地球が吹き飛ばないレベルで調整はしたが。あはははははははは」

「な〜にが“あはは”だ!これ以上の威力を持つ兵器の技術提供をしてそれを俺達に撃たせて人類を滅ぼす気か⁉︎アホか、お前は⁉︎」

 

そしてヒュウガが彼の前に現れる。

「智史、お料理を食べ終わった後にあなたと少し話がしたいんだけど。主にあなたがやった事について。」

「お前が聞きたい事には私が横須賀で引き起こした事も含まれているのか、了解した。」

 

そして皆が料理を食べ終えて満腹になった後ーー

 

「智史、硫黄島のこと知ってるわよね?」

「ああ、あの戦いの後、そこからメカを日本本土に向けて発進させ、偵察させたのだろう?」

「そう、そしてあなたが作り上げた街にいる人間達の様子が人間のものとは思えなかった、そう、プログラムに従って動いているロボットみたいに。その緒元を探ってみたらあなたが残したマニュアルがそこの人達を洗脳していたみたいなのよ。」

「そうだ。私は醜い欲望や感情が大の嫌いだ。自分が望むものに反するものを持つものは消去すべきだと判断したためだ。醜い不協和音など一つも不要!ただ意思を高度な自己進化のシステムに委ね、一つの意思の元に素直に従い、動いていればいい。流石に喜びや幸せまで奪ったらそれは人ではなくただのbotだ。喜びや幸せは公共調和に反さぬ場合のみ持つことを許した。」

「それは個性を潰している!あなたは自分の個性を尊重してほしいと言っているのに、他人の個性は尊重しないの⁉︎」

「私は己が望むがままに行動したまでだ、実際に私がしたことは日本各地の争乱を完全に終息させた。もちろん様々な人間がいるだろうからそのマニュアルには各々に対する配慮も込めている。だが真に調和が取れない存在など、不要‼︎」

「それは、私がかつてやっていたことと同じです!自分に相容れないと判断したものは容赦なく粛清するのですか⁉︎」

智史のやったことが自分がやったことと類似していると指摘するヒエイ。

 

「そうだ!真に相容れぬものは消し去るのみ‼︎」

 

「まあみんな、落ち着いて。智史くんは自分なりに考えて行動を起こしているのよ。智史くんは自分の都合のいいように世界を変えてはいるけど、みんなを使い捨てにするような強欲で非情な人物ではないわ。」

「琴乃…。」

「智史、今回の件については俺達は口出しはしない、ただ今後このようなことは控えてくれないか?意思を統一して他のものを排除したらその中の大事なことが抜け落ちていくのかもしれないからな。」

「了解した、だが今の人類が再びかつての過ちを繰り返したら今度こそ全ての意思を調和させて真に調和が取れぬものは徹底的に殲滅するシステムに人類全員を組み込んでやる。」

「そしてあんたがこういう態度を取る理由には深い事情がありそうね、一体何があったのよ?」

「そうだな…。」

そして智史は自分の暗い過去を語り始めるーー

 

ーー私は生まれつき持つ自身の障害、いや脳機能の一部の成長速度が低いままか?生まれて成長してしまった。そのせいか私は些細なことでもパニックを引き起こしたり周りの空気が読めなかったりした。なのであまりファッションにも深くこだわることはなかった。なのにそのことを知らない周りの人間達は私の挙動を見て変人扱いし、からかったり、弄んだり、私を遠ざけたりした。大学にて異性と仲良くなろうにも私は臆病だ、空気やその人格性がうまく読めないこともあってかうまく話を進められずに悉く失敗してしまった。そしてその奴らはチャラい男どもと一緒に居ることが楽しそうで仕方がない、なら私のような人間は蚊帳の外かと。しかも奴らのいる世界では物が大量にあふれており、その世界で奴らはファッションで着飾り、それを見てはたのしんでいる。おまけにその世界は男女平等、レディファーストという常識が当たり前となっており、些細なことで男は追い詰められてしまう社会となり、男を草食化する結果となっている。そして、その時の私は清潔感にはあまりこだわらなかったーー今はこだわる様にしてはいるが。確かにそうしなかった私にも非はある。

それはそうとして、奴らは私の挙動と姿を見て、気持ち悪い、汚いと思っても、私に何も指摘せず、嘘ばかりをつき、真実を言おうとしないのだ。そして奴らは私が何者なのかを言っても没個性の社会で育てられたためか感受性が無いため積極的に知ろうとしない、ただ異質な存在として忌み嫌われるだけだ。仮に理解したところで合理的配慮すらしてくれないのかもしれない。陰湿、嘘ーーそれが大人の社会だということを知った私は奴らを皆殺しにし、全てを灰燼に帰してやろうと考えてしまうほど腸が煮えくりかえった。皆苦しめながらぶち殺してやろうと。

 

「こりゃ被害妄想が酷いわ…。確かにあんたの言う通りの人がいっぱいいるのかもしれないけど、かといって理解してくれる人がいないわけじゃないわよ。それはそうとして理解してくれる存在が居ないのはまずいわね。」

「そうね、ヒュウガちゃん。彼が横須賀に人を洗脳してしまうようなものを造ってしまったのはこのようなことが有ったからかもしれないわね。」

「あなたがいた世界にはこんなに心の感受性がなっていない生徒がいっぱいいたなんて…。このような生徒は、許しません!」

「そりゃ凹むよ、理解してくれる同年代の異性が居なかったら…。」

「あなたがあんなことをした理由にはこんなことが…。あなたはその思い出にずっと苦しめられている…。」

「智史くん、このことで相当傷ついてて、今もその記憶が蘇ってしまうことがあるのね。でも私が、支えてあげる。」

「琴乃、皆…。すまない…。」

 

そこへ群像が現れる、

「智史、聞いてくれ。捕虜となった彼らの拘束を解く。」

「それは確証があった上で言っているんだな?」

「分かっている、理由はーー」

 

そして智史は群像の真意を理解する、それと同時に破片を組み込んだ“超兵器”が破壊の化身と化したことを知っていたーー

 

 

ーー翌日早朝、オーストラリア沖

 

「くそ、奴がばら撒いた自走機雷のせいで思うように撤退が出来ん。」

「こっちもよ。奴の艦載機は引き上げて行ったが奴らが撒いた自走機雷の数は尋常じゃない、数百万はあるわ。」

「くっ、このタイミングで奴が来たら一巻の終わりだ。」

 

そう会話するのは大戦艦サウスダコタと大戦艦コロラドだった。サウスダコタは好戦的で、コロラドは姉御肌の人物だった。いつもは力押しの戦い方で人類に勝利してきたサウスダコタだが、今回の相手は規格外だった、超兵器級、大戦艦級を初めとした霧の艦艇を多数葬り去り、しかも彼らの攻撃を悉く無効化して吸収し、挙げ句の果てにはその攻撃のエネルギーを自己強化に回してしまうとんでもない化け物だったのだ。実際彼の艦載機に対し積極的な攻撃を仕掛けたものの、その攻撃はやはり同じような結果に終わり、逆に無数の自走機雷をばら撒かれて、自走機雷に触雷し、轟沈し、動けなくなる艦が続出した。轟沈した艦には大戦艦ワシントンと超戦艦級すら上回る火力を持つ新型戦艦数隻も含まれていた、クラインフィールドを展開していたにも関わらず、だ。あまりに一方的な現実の前に流石の彼女もそれを受け入れざるを得なかった。

 

「ムサシが奴を始末しろと諜報部隊のあの2人に指示したせいであんなことに…。」

「仕方ないわ、起きてしまったことは仕方ないのだから。サウスダコタ、もし私達がここを脱出する前に奴が来たら素直に投降しましょう。抗っても勝てるような相手ではないわ」

「くそっ、我々にもっと力が、力が有れば、あのようなワンサイドゲームは止められたものを…‼︎」

 

ーーそう会話しつつも悪夢の機雷包囲からの脱出を試みる2人、しかしその僅かな希望は、2人が次の瞬間に見た光景によって打ち砕かれる。

 

「本艦隊南方に非常に巨大な重力子反応!高速で接近してきます!」

「な、なんだと⁉︎」

「凄まじく禍々しい気配だわ、少なくとも奴にはそんな気配は無かった…。」

 

そう、彼女らに迫ってきたのは巨大なちくわを乗っけたようなメインタワーにテーブルの形をしたサブタワーが4つメインタワーの周りに付いているような形をした巨大な海上油田を思わせるような超兵器だった、しかしマスターシップの破片を取り込んだせいかその構造物の所々に禍々しい色つきをした目が現れ、まるで機械と生物が融合したような、見方によってはグロテスクな姿をしていた。

 

「あれは、ヘル・アーチェ…。」

「ムサシが奴に破片を送りつけて取り込ませたのか!」

 

そう、その超兵器は“地獄の門”の名を冠し、その名に相応しく、彼女の守備はヴォルケンクラッツァー級を完全に上回り、驚異的なスペックを誇っていたのだ。

 

「ヘル・アーチェ、ミサイル多数発射‼︎発砲を確認っ‼︎同時に艦載機多数の発進を確認!」

「くっ、撃ちかえせ!逃走しながら反撃しろ!」

 

その破壊の化身から解き放たれた無数の艦載機がサウスダコタ達に襲いかかる、その艦載機はリヴァイアサンが持っているものよりは格段にスペックが劣っていたためサウスダコタ達の必死の抵抗により何十機かが墜ちていった。しかしその損害を気にしない数にものを言わせた力押しおよび本体からの直接攻撃、そしてサウスダコタ達がリヴァイアサンの艦載機による機雷散布による攻撃によって戦力の半数近くが機能しなくなってしまったこともあってサウスダコタ達の艦は一隻、また一隻と沈められていく。

 

「こちらの攻撃、効果が認められません‼︎」

「右翼を構成していた艦隊が全滅しました!」

「最終防衛陣の消耗率、50%を突破‼︎」

「ーーくっ、奴の機雷攻撃さえ無ければ逃げられたのにっ‼︎」

 

次々と艦隊を構成している艦が沈められていくことに悪態を吐くサウスダコタ。しかし更なる悪夢が彼女達を襲う。

 

「奴の上部構造物で何かが駆動しています!」

「まさか、あれを使う気か⁉︎」

 

彼女達がそう言って驚いて見つめている先にはちくわの形をした上部構造物を花が開くのかのように展開し、そして同時に自身からミラーのようなものを射出して強力なエネルギー砲のチャージを始めたヘル・アーチェの姿があった。

 

「艦隊旗艦、退避してください‼︎」

「ダメだ、回避が間に合わないーー」

 

ーーピカッ‼︎

 

ーードグァァァァン‼︎

 

ヘル・アーチェの上部構造物から放たれたエネルギー砲はそこにいるサウスダコタ達を跡形もなく焼き払った、しかもあの欠片を組み込んだこともあってその威力はとんでもないことになっており、サウスダコタ達を焼き払うに留まらず、オーストラリア東沿岸部の大半を跡形もなく消し去ってしまった。そしてヘル・アーチェは視界に入るもの全てを焼き尽くしながら、リヴァイアサンの所へと進んでいく。なお智史はこっそりとこの現場の近くに飛ばしていたSR-41 ブラックバード偵察機を通じて戦闘の一部始終に関する全てのデータを収集していたのだった…。

 

「まさに“地獄の門”に相応しい暴れっぷりだな〜。こりゃ地球を焼きつくせるな、これ。ま、この威力もスペックもこれまでの強化ペースをどんどん上げていって、えらい勢いで強くなっちゃってるから全然想定内で行けちゃうし、余裕で倒せるけどね。でも念の為にさらに強化ペースを上げておこう。」

 

 

 

ーーそしてサウスダコタ達が全滅してから少ししてーー

 

 

「サウスダコタ達が全滅⁉︎彼によるものではないの⁉︎」

「はい、リヴァイアサンのものと思われる攻撃は確認されませんでした。」

「なんてこと…。艦隊を集めようとした矢先に…。」

「ヘル・アーチェはムサシに忠誠を誓っていた、ムサシはそれを利用して、奴に震える我々への見せしめも兼ねて彼女に、あの飛行物体を通じて破片を組み込み、暴走させたのだろう。だが暴走した彼女でも奴には勝てるかどうかには疑問符がつく…。」

「彼は幾多の仲間を次々と沈め、その度に異常な勢いで強くなっていることが確認されているわ。とにかく撤退作戦は中止して、様子を見ましょう。」

「そうだな…。撤退しようとしている仲間にはすまないが奴と彼女の戦いに無闇に関わって悪戯に兵力を失うわけにはいかん。」

 

 

ーーそしてほぼ同時刻、トラック諸島では

 

 

「皆さん、話を聞いてください。」

ヤマトの発言に皆が通信回線を開いていく。

「本時刻を持ってあなた方をリヴァイアサンごと智史さんの管理下から解放します。」

「ヤマト様、一体それはどういうことなのですか?」

あまりにも意外な発言に驚くマミヤを始めとした皆。

 

「彼と私に群像さんがそうするよう提案し、私達が理由を理解した上での事です。」

「ではその理由とは?」

「あなた方を解放する事で選択する自由を与えたかったからです。」

彼女がそう言い終えると同時に武装や機関のロックが外されていく。

 

「ふぅ…。」

要件を伝えて一息つくヤマト。しかしそのホッとした気分は次の瞬間に入った音声通信で吹き飛ばされる。

 

「ヤマト、喜ばしくない事態が発生した。至急設営しているキャンプのブリーティングルームに来てくれ。この事の詳細はここで話す。」

「わかりました、でも一体何が?」

智史の通信の内容が気になるヤマト。

 

「マスターシップの破片を取り込んだ超兵器がオーストラリア方面を警戒していた霧の艦隊をオーストラリア東沿岸部共々吹き飛ばした。」

「何ですって⁉︎」

「ヤマト様、その艦隊って、サウスダコタ様を旗艦とする艦隊では…。」

「わからない、でも喜ばしくない事であることはわかる。」

 

そして彼女は智史が設営したキャンプへと走っていくーー

 

 

「これが今朝発生した戦闘の一部始終のデータだ。映像に写っている、巨大な禍々しい構造物の形をしているのがマスターシップの破片を取り込んだヘル・アーチェだ」

 

ヘル・アーチェの禍々しい姿とその驚異的な戦闘力を示した映像やデータに唖然とする皆。

 

「彼女はムサシ様に強く忠誠を誓っていたはず…。それがどうしてこんなことに?」

「おそらくムサシは我々を処刑するために彼女にこの破片を組み込んだ。実際大西洋上空を未確認の飛行物体が南極へと飛んで行った記録が確認されている。ムサシは何人死んでも永遠に変化のない霧が残れば問題はないと考えたから、暴走した彼女が太平洋艦隊の一部を殲滅しても最終的に我々を殲滅できればいいとしてこのようなことを実行したのだろう。」

「でも彼女を放置すれば皆死に絶えるはず…。」

「そうだとは限らん。マスターシップの破片は宿主を自壊させることも出来る。その制御元はムサシが握っている。」

「ではムサシは彼女達を使い棄てられるというの⁉︎」

「まあそういうことだ。さっき言ったように彼女には永遠に変化のない霧が残っていればいいという事だからな。」

「会長は鬼〜?どうせ私達には何もできないから全てがめんどくさ〜い。」

 

そう会話するヤマト達。そこにマミヤが不安な様子で入ってくる。

 

「智史様、お取り込み中すみません、一体何があったのですか⁉︎」

「映像の通りだ。お前達の仲間のサウスダコタ達が化け物に殲滅された。」

智史はそう言い放つとその戦闘の一部始終を収めた映像を画面に表示しているタブレットをマミヤに渡す。

「な…なんてこと…。あんな事をしたのはムサシ様なのでしょうか…?」

 

そう動揺している彼女を尻目に彼はまたしても皆にしては突飛な発言をする。

 

「奴は私が1人で殲滅する。他の艦は残った敵を追い詰めてくれ。」

「待ってくれ、いくら君でも、勝てるか分からない相手に何故勝てると言える?」

「既に奴らの情報のほとんどはとっくに入手済みでそれに対する対応の規模も異常なほどになっているし、今も対応を充実させているからこの事は対処できると自信を持って言える。だからだ。」

「私達は彼の戦闘データから対策を練って彼を撃滅するためにその対策を十分に施したと信じていいぐらいの艦隊を出撃させました、ですが彼は私達の作戦と行動計画を最初から見抜いていて、それに対する対応を非常に過剰と言っていいぐらいに充実させてきました。そんな事も私達は知らずに彼に戦いを挑み、当然の如く敗れました。つまり私達は戦う前から負けていたのです。そして彼は今も新たに対応を無常識と言っていい程のペースで充実させています。彼には私達の常識は悉く通用しません、だからこそ彼はいかなる相手にも打ち勝ててしまうと言えてしまいます。」

「そうか、分かった。君はあの超兵器を撃破しに向かってくれ。俺達は残った彼らを追い詰める、ただし投降の意思があったら戦闘を中止して受け入れる予定だ。」

「ついでに言っておくが、ニューギニアの奴らとその奴らの撤退を支援するための艦隊も機雷投射で立ち往生させてやったぞ。かなりの被害が出ているから投降させやすくなっているが」

「何故その事も自信を持って言える?」

「私が彼らならそうするだろうと考えるからだ。」

「なるほど、そのぐらい、敵を知り、己を知るという事を君は徹底しているのか。」

「あの…、私もあなた方に同行したいのですが…。」

「真実を知りながら仲間を救いたいのか、なるほど、我々に不都合なことをしなければ同行を許そう。」

「ありがとうございます、一刻もあの破壊の化身を止めてください!」

「分かっている、己の罪は己で償うものだからな。全艦出港せよ!ここを引き払うぞ!」

「智史くん、私も付いて行くわ。」

「ありがとう、琴乃。」

彼女と手を繋いで、トラック諸島沖にいるリヴァイアサンへとマリンブルーの色をした美しい海の上に架けられた青いクラインフィールドの道を渡っていく智史。

「あ、琴乃だけずるい〜!」

「そうか?これもありだと思うが…。私に乗りたいなら乗れ。」

そのあとすぐに智史達はキャンプを引き払う、蒔絵達や琴乃、元霧の生徒会のメンバー達はリヴァイアサンに乗艦し、それ以外の者達はニューギニア沖のゲリラ艦隊の生き残りを説得すべくそれぞれの艦に乗艦、全ての艦にバイナルが灯る。そして彼らはトラック諸島から出港していく。

 

通常のスペックの高さに加え、破片を取り込んだことで、更に圧倒的な力を見せつけるヘル・アーチェ。だがそん力を持つ彼女さえ一方的に圧倒してしまう程の力を持ち、一方的な破壊と殺戮の宴を齎す存在、霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサンごと海神智史が彼女に向けて突き進んでいくーー




今作の敵超兵器紹介

超巨大海上移動要塞 ヘル・アーチェ
全長・全幅 1800m
全高 4500m(水上に露出している部分の高さは2000m)
基準排水量 400000000t
最高速力 海上 50kt 海中 計測不能 (非常に巨大な、高速で移動することを想定していない海上リグの形をしているためあまり速くは移動できない。)
武装
太陽光・重力子凝集砲 一門
100口径80㎝単装砲 24門
80口径51cm連装砲 48基
エレクトロンレーザー発振基 40基
127mmガトリング砲 単装200基
拡散荷電粒子砲 連装 80基
各種ミサイルVLS 40000セル
100㎝各種魚雷発射管 1000門

クラインフィールド、強制波動装甲、エネルギー吸収・転換システム及びナノマテリアル生成装置を搭載。

ムサシの切り札と言っていいほどの圧倒的な火力を誇る超兵器。非常に巨大な海上構造物の形をしている為移動力は低いものの、防御力はヴォルケンクラッツァー級を軽く上回る。また一定内のエネルギーなら吸収して各兵装の威力の向上に回してしまうことが可能。
本来ならミラーリングシステムを装備していたがリヴァイアサンがその装置のシステムを逆用して次元津波を使用するようになってしまった為、ミラーリングシステムを撤廃し、代わりにエネルギー吸収・転換システムを装備した。
メンタルモデルに人格はあったものの、ムサシから飛行物体を通じて渡されたマスターシップの破片を取り込んでからは赤黒いメタリックな色付きをした躯体となり、その躯体の所々に禍々しい赤い色をした目が出現した破壊しか求めない存在となってしまった。それに伴い本体にもそのような色をした目が多数出現し、外観も生物と機械を融合させたような姿となってしまった。


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第16話 死のお料理タイムといじめとヴォルケンの覚悟

今作ではヘル・アーチェがいつものお約束のように智史に一方的に嬲り殺しにされてしまいます。
あとヴォルケンの覚悟も書いてみました。
それではじっくりとお楽しみください。

追記

本作品の第5話の一部が他作品のものをパクっていた為、運営の方から警告処分を受けました。
今は表現を新たに追加したり、修正してパクリではなくしてしまったので問題はないと思います、ですがその修正の影響でこの作品の投稿が遅れてしまいました。
申し訳ありません。


「相変わらず私には表での活躍の場は無いのね、でも多数の兵器や機械を開発する為の場所や相手のデータを客観的に分析し、それに対応する為の兵器の開発プロセスを提供してくれる場所を提供してくれた彼には感謝しなくちゃ。」

超巨大ドック艦スギズブラズニルのとある一室ででそう呟くのは大戦艦ヒュウガだった。

「ふふふ、ヒュウガちゃん。智史ちゃんがこんなものまであなたの為に作ってプレゼントしてくれたからよかったわね♪」

「イ…イセ…。まあ、そうね。実際この場所があったお陰で戦闘時の各種データがいろいろ分析できてそれに対するハード面での対策の方針が分かりやすくなってるからね。」

実際彼がこのようなOR(operation research)も含めた施設を作ったお陰で前回の敵のデータや通信記録を客観的に分析して敵が何を考えているのか、今後の対策はどうしたら良いのかが格段に分かりやすくなっていたのだ。

「さぁて、この前の戦闘データの解析と技術開発をやらなくちゃ。」

そう言いヒュウガは兵器の技術開発とデータの分析を押し進めていくーー

 

 

そしてほぼ同時刻、ヘル・アーチェに向けて突き進むリヴァイアサンの艦橋にてーー

 

 

「随分と禍々しいグロテスクな姿をした機体がじゃんじゃん飛んでいるな。こりゃハエや蚊だろうか、いやスズメバチか?

どちらも私にしてみれば害虫同然だ、まずは本体を覆っている害虫退治と行くとしよう。相手のスケールはほぼ分かってるからな。」

智史は海風に吹かれながら嬉しそうにそう呟く、どこかに虚しさを感じながら。それとほぼ同時にリヴァイアサンの左舷飛行甲板上にFFR-31MR/D スーパーシルフやFFR-41 メイヴ (2機種とも戦闘妖精雪風より。これらは本家のとは外観そっくりではあるものの、スペックは本家を完全に圧倒) そしてF-3 心神やF-22 ラプター (これらも本家のスペックを完全に圧倒)と言った非常に強力な制空戦闘機が次々と大量生成されてリヴァイアサンを飛び立っていく。

 

「いつみても圧巻の一言に尽きるな、お前が艦載機を繰り出す所は」

「すげえ…。ミツバチさん達が巣からいっぱい出てくる風景みたい…。」

「瞬時にこんな数の飛行機を生み出すなんて、こんなのあり〜?」

 

そのあまりの規模に様々な感想を示すキリシマと蒔絵、ハグロ。そんな彼らをよそにして彼は次のステップを押し進める。

 

「戦闘機の次は攻撃機だ。」

 

なんと今度はA-20 サラマンダー攻撃機(A-10 サンダーボルトをベースにした襲撃機。40mm6連装プラズマバルカン砲をメイン兵装とし、様々なミサイルや各種爆弾を装備可能)や爆装コスモパルサー、B-52 スーパーフォートレス、F-3E ストライク心神が次々と生成されて飛び立っていくのだ。

 

「智史くん、群像くん達を霧の生き残りの説得に向かわせて正解だったみたいね。」

「ああ、どうせ群像達をヘル・アーチェとの戦いに連れてきても足手まといになるだけだ、それに私が向かったら皆恐怖に怯えて生き残りの説得はかえって困難を極めているかもしれん、最悪まとめて殺すしか方法がなくなる。」

「そうね、でも群像くん達はあなたに貧乏くじを引かされたのかな?」

「力量で考えたらそうなるだろうな。私以外にあんな化け物を倒せる蒼き鋼の艦は何処にいるのだ?居たら教えて欲しいぐらいだ。」

 

そして5万に達する数となった艦載機群はオーストラリア北東部沿岸沖にいるヘル・アーチェに向かっていく、ヘル・アーチェの方も彼らを見つけたのか、多数の戦闘機を繰り出してきた、そして空戦が始まる。

 

「敵航空機多数、捕捉したか。まずは外殻から潰すとしよう。」

 

 

ーーシュボァァァァ‼︎

ーーシュボァァァァ‼︎

 

ーーズガアァァァン‼︎

ーーズガアァァァン‼︎

 

瞬く間に無数のミサイルや光弾が多数飛び交い、次々と上空で爆発が生ずる、だが常に進化を続けているリヴァイアサンの方の機体は一機も墜ちていない。ヘル・アーチェの方の機体は瞬く間に蹴散らされ、制空権はリヴァイアサンの方が確保した。

 

「次は装甲を剥がすか。」

 

そして彼らはヘル・アーチェ本体に殺到する、ヘル・アーチェの方も拡散荷電粒子砲やガトリング砲、新たに生成された目の様なものからのビームなどを必死に空に向かって撃ちまくっているものの、それらの攻撃が彼らに命中しても彼らは平然と飛行を続けている、その攻撃も彼ら=リヴァイアサン=海神智史は吸収し、自己強化に回してしまったのだ。

 

「ウグァッ⁉︎」

 

そして彼らはヘル・アーチェにロケット弾や複合爆装ポッドにバンカーバスター、巡航ミサイル、量子弾頭ミサイル、JDAM、テイジーカッター、量子魚雷に侵食魚雷、挙げ句の果てにはバルカン砲の掃射まで叩きつけていった。その攻撃は一撃一撃が非常に重く、規模は苛烈を極め、ヘル・アーチェのエネルギー吸収システムでは全然吸収仕切れない。もちろんクラインフィールドや元から重厚だった装甲をあの破片の力でさらに強化した装甲はすぐに破られ、瞬く間に荷電粒子砲やガトリング砲はテイジーカッターや巡航ミサイル、量子弾頭ミサイルの爆発で溶け去り、吹き飛び、サブタワーの上部構造物はバンカーバスターやJDAM、複合爆装ポッドが貫通、炸裂することで原型を留めぬぐらいに吹き飛ばされていく。さらに水中の部分には侵食魚雷や量子魚雷が次々と命中、炸裂することで水中部分の表面を深々と抉っていく。攻撃が終わりかけた頃にはヘル・アーチェは所々が溶け去り、吹き飛び、あちこちに大きなクレーターが開いたまるで廃墟のような姿となってしまった。4つのサブタワーは跡形もなく崩れ去り、それらを構成していた柱の表面はマグマの様に溶けて流れ落ちていた。

 

「グガァァァァ…。」

 

これまで受けたことのない苛烈な猛攻を受けて瀕死のヘル・アーチェ。その様相は皮を剥がされ、肉や内臓が抉り飛ばされて所々露出している様な醜い様だった。しかし彼女の悪夢はこれだけでは終わらない。

 

「装甲を剥がし終えた後は、硬い中身を柔らかくするとしよう。」

 

そう、リヴァイアサンごと海神智史が破壊の化身と化した彼女を徹底的に美味しく食べ尽くそうと青い龍のバイナルを輝かせて襲いかかってきたのだ。

智史はヘル・アーチェを激しく甚振っていた、気持ちは落ち着いたまま。

 

 

「ヴグォォォォォ‼︎」

 

彼女はメインタワーの上部にある太陽光・重力子凝集砲を完全に修復すると、鏡を展開してエネルギーのチャージを始める。彼女にしてみればそれ以外の兵装を修復するのは後回しにしてでもこの悪夢から逃れる為に最優先でしたことだった。それと同時に生き残った魚雷発射管から侵食魚雷や光子魚雷が次々と放たれる。

 

「ソーラ・レイ擬きか。」

 

ーーグォォォォォォォォォ‼︎

 

ーービィィィガァァァァビィィィガァァァァビィィ‼︎

 

ーーピィィィィィン‼︎

 

ーーズグァァァン‼︎

 

ーーカキィィィィィン‼︎

 

「何この大規模な攻撃〜‼︎智史くん、こんなの食らっても平気なの〜⁉︎」

「平気だ。そよ風ぐらい、いやそれ以下だ。むしろ私を成長させる為の栄養源を与えてくれる元でしかない。」

「なんて艦なの…。私達なら掠っただけでもあっさりと溶け去るほどの熱量だというのに…。」

「地球が消し飛ばされるほどの熱量を受けてもケロリとしてるなんて、凄えな…。」

 

リヴァイアサンを太陽光・重力子エネルギー凝集砲の強烈なビームと侵食魚雷、光子魚雷が次々と直撃する、しかしそれはリヴァイアサン=海神智史に装備されているあまりに度を逸した性能と化した自己再生強化・進化システム(今や本人の意思抜きでもそのシステム自身が自己強化を積極的にするようになり、更に自身の性能が上がっていく速度が速くなってしまった)の前では自身を強化する為の栄養源を自分に与えてくれるもの以外の何者でもない。よってこれらの攻撃はリヴァイアサンにダメージを与えるどころか、リヴァイアサン自身が逆に強化されるという無常識な事態を生み出していた。

 

「グォォォォォォォォォ‼︎」

 

更に凝集砲のビームの威力を上げていくヘル・アーチェ。しかしその結果は変わらない。それどころか自身の重力子機関やマスターシップの破片が悲鳴を上げた為、一旦そのビームの照射は止まる。

 

「グァァァ…。グァァァ…。グァァァ…。」

 

凝集砲のビームの全力照射で息切れのようなものを引き起こしているヘル・アーチェ。それでも死のお料理タイムから逃れたいのか、必死に凝集砲のビームの再チャージを始める。

 

「見苦しいな、死にかけなのにまだ抗ってるのは。その見苦しさを生み出しているのは生への執着なのだろうか。まあよい、中身をじっくり焼いてやろう。」

「す、すげぇ…。あんなに強い敵さんを楽々とやっつけられるなんて…。でもこれってもはや、弱い者いじめじゃ…。」

 

そしてヘル・アーチェから再びビームが放たれ、リヴァイアサンを直撃する、しかしリヴァイアサンは今度はそのビームを受けて、それを自己強化に回しながら砲塔レールガンやAGSを旋回させ、照準を合わせると烈火の如き射撃を開始した。そしてそれと同時に智史の指示であえて一旦攻撃の手を休めていた艦載機群が再度猛攻を加え始める。

 

ーーキュォォキュォォキュォォキュォォキュォォン‼︎

ーーズガガガガガガガガガガガァン‼︎

ーーシュボァァァァ‼︎

 

ーーボガガガガガガガァン‼︎

ーーズグァァァン‼︎

 

「ヴグァッ⁉︎ゲボォッ‼︎」

 

瞬く間にヘル・アーチェの醜く崩れかけた構造体に次々と大穴が開き、爆発が生じ、内部の物体が滅茶苦茶に飛び散る。それはメインタワーにも同じ状態であり、ビームの照射中に猛烈な攻撃を受けてビームの発射機構が全壊し、行き場を失ったエネルギーが内部で暴走を引き起こし、ヘル・アーチェそのものが自壊を始めていた。しかしそれで十分だというのに智史はまだだと更なる駄目押しを加えていく。

 

「止めは一際と念入りに、そして歯切れが良いように一気に引導を渡すとしよう。」

「よ、容赦無いですね…。」

 

彼のその台詞の意味する行為はオーバーキルとそう指摘するヒエイ。それはそうとして彼のその台詞と同時にリヴァイアサンは、自壊を起こし激しい崩壊を引き起こしているヘル・アーチェに正面を向ける、そして右舷レールガンの格納ハッチが開き、レールガンが迫り出してくる。

 

「お別れだ。さようなら。」

 

そしてリヴァイアサン=智史は右舷レールガンの照準をヘル・アーチェに定めると発射する、そして青白い光条が放たれる。その光条はヘル・アーチェの胴体そのものに一際大きな大穴を開けて、そしてヘル・アーチェそのものを溶かし、粉砕していく。

 

「ギャァァァァァァ‼︎」

 

ヘル・アーチェは断末魔を上げながら自身の中心を貫く光条に溶かされていく、そしてヘル・アーチェがあった場所を中心にして地球を揺るがし、海を底から吹き飛ばすような爆発が生じ、成層圏まで届くキノコ雲の爆煙が生じる。それによって生じた波の高さは1km以上はあった。そしてそれはヘル・アーチェがあった場所を中心にして、熱風や熱線と一緒にリヴァイアサンごと智史達の方に迫ってくる。

 

「キャァァァ‼︎ハルハル、キリシマ怖いよぉ‼︎」

「智史くん、これ不味くない⁉︎」

「全然大丈夫。常に進化している私を甘く見ないでほしい。」

 

智史がそう言う、それと同時に突如として巨大だった津波や熱線の勢いがみるみると衰え、終息していく。

 

「えっ、津波が一瞬で…⁉︎」

「すげぇ、海や空が元に…。」

「お前は、人間が書いた黙示録に出てくる伝説の海の怪物を、具現化した存在なのか?」

「さっきのことのメカニズムを説明すると、原子や粒子のエネルギーベクトルを調整してそのエネルギー運動量を強制的に減少させることで相殺した。」

「そ…それは、化け物がやることと同じことだぞ…?」

「そうか?まあいい、人類が滅びなければそれでいいのだから。」

 

彼の物理法則を完全に無視したあまりにも無常識な行動とそれによって生じた光景に皆唖然としてしまう。それでいて彼はその逆を実行して次元津波や海を捲り飛ばす程の大津波を引き起こせるのだから、そんなことをされたら彼以外の皆にしてみればたまったものではない。いずれにせよ彼のその行動の結果、人類は滅ばないこととなったのだからまだマシな方であると言うべきだろう。

 

 

ーーふっ、呆気なく終わったな、少し虚しいものだ。まあこれを生み出しているのは自分自身なのだが。

さて、群像とヤマト達は霧の太平洋艦隊所属のゲリラ艦隊の残存艦艇達を上手く説得できたみたいだな、まあうちが見せ付けたこの戦闘の所業の数々もあるし、マミヤも彼らに同行させたからかな。

 

 

彼はニューギニア方面を静かに見つめながら、心の中でそう呟くーー

 

 

 

ーー大戦艦ノースカロライナの独白ーー

 

 

 

ーー私は霧の太平洋艦隊の一員として、大戦艦モンタナ様に仕えられることが幸せだった。たとえ自身より遥かに強大な霧の究極超兵器ヴォルケンクラッツァーが相手でもあの方は話術で互角に付き合え、共生する方へと導かれてくれた。そしてあの方のお陰で私達は特にいざこざも無く、ヤマトを排除してアドミラリティコードを独占して独裁体制を取るムサシからの命令を素直にこなしていれば幸せな日々を送れていた。

しかし、ある日太平洋上に突如として未確認の霧の究極超兵器が出現した、そしてムサシの独裁がとんでもない事態を引き起こした。ムサシはあの霧の究極超兵器、超巨大戦艦リヴァイアサンはアドミラリティコード、つまり自分自身に根本的に従わざる存在と判断し、自己の配下の潜水艦部隊や東洋方面の霧達に攻撃させたのだ、そして私達にしてみれば悪夢のような出来事が次々と起こった。

奴、リヴァイアサンの傍若無人なあまりに一方的な戦いの前に、我々の霧は無敵であるという概念は呆気なく崩れ去り、私達にしてみれば強大な存在であった霧の超兵器達も次々と簡単に討ち取られ、もちろん東洋方面艦隊群に属していた仲間達も瞬く間に奴に美味しく食べられていった。

東洋方面艦隊群に属していたマミヤやごく一部の仲間はかろうじてその悪夢から逃げ延びた、そして奴が人間達を乗せた401やタカオ、大型ドック艦、なぜか復活したヤマトを引き連れて、我々の重要拠点を叩き潰しつつオーストラリアに向かい、最終的にはモンタナ様の所に向かうという情報を霧のネットワークにばら撒いたことにより、モンタナ様はヴォルケンと協議されて我々にゲリラ戦をすることで決戦までの時間稼ぎをするように命ぜられた。我々はあの方の指示通りに、新たに建造された最新鋭艦群とともにニューギニア沖周辺でゲリラ戦をする為にニューギニアへと移動した。そこで奴を撹乱して時間稼ぎをする、はずだったーー

 

「機雷、多数ばら撒かれました‼︎」

「機雷が…自走している⁉︎これは、自走機雷です‼︎」

「機雷、新鋭艦の方に多数接近‼︎触雷します‼︎」

 

ーーピカッ‼︎

 

ーーズグァァァン‼︎

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

奴はそんな我々の作戦行動や希望的観測を嘲笑うのかのように大量の艦載機を生み出し、それを使って我々に大量の自走機雷をばら撒いたのだ、そしてその無数の機雷の群れによって超戦艦ヤマト級より強大なスペックを持つ霧の超兵器のテクノロジーを利用して造られた艦さえもがあっさりと討ち取られていく。私にも機雷が数発命中しただけでクラインフィールドが飽和し、各所に大穴が開いて、ナノマテリアルの応急修理で辛うじて立て直せたものの、一時は航行不能になってしまった。

 

「ノースカロライナ様、大丈夫ですか…?」

「あ…ああ…。何とかだ…。」

 

私はもはや半死半生の状態で部下達の決死の努力で何とか立て直せた、だがその機雷攻撃で私の艦隊はほぼ壊滅し、他の艦隊もそのような攻撃に遭い、皆こちらと同じような状態らしい。つまり私達は奴の気配に怯え、震えながら、奴に食われる時だけを待つ獲物に成り下がってしまったのだ。これでも十分に悪夢だというのに、さらなる悪夢が起こる、そう、自分の配下達が呆気なく殲滅されていくのに業を煮やしたムサシが奴を殲滅するために自分の部下の超兵器の一人に“破片”を投与した結果、彼女は理性を失って暴走し、オーストラリア方面にいたサウスダコタ達が暴走した彼女によって跡形もなく殲滅された。そして“彼女は奴に戦いを挑むだろう、我々も巻き添えにして”と覚悟を決めていた、その時だった。

 

「そこにいる皆さん、投降してください‼︎あなた達とは戦いたくありません‼︎」

「俺達は彼、リヴァイアサンに君達への降伏勧告を告げるようにそう言われてここに来たんだ‼︎」

「なっ、どういうことだ⁉︎」

「ノースカロライナ様、投降されて下さい‼︎こんな勝ち目のない戦いを続けてもあなた方が全滅するだけです‼︎」

「マミヤ⁉︎なぜ生きている⁉︎」

「私にもその理由は分かりません、でも今も未来も彼に刃向ったら確実な死があることだけは分かります!」

 

なんと彼らは奴に付いてきた者達だった、中にはヤマトもいた、彼らは奴がとんでもない存在であるということを強調しつつ降伏勧告を告げる。マミヤ達が無事なのは幸いだった。

 

「艦隊旗艦、こいつらが言っていることは嘘っぱちです‼︎そしてモンタナ様への忠誠を尽くすために最後の一兵まで戦いましょう‼︎」

 

血気盛んな重巡洋艦バルモチアがそう言うが、あんな化け物と戦って全滅しても何も生まれはしない。むしろ生き残ることで何かをした方が何かが生まれるのだ。

 

「どう足掻いても無駄だ、バルモチア。大人しく投降しよう。」

「何を考えておられるのですか⁉︎艦隊旗艦ーー」

 

彼女がそう叫びかけた次の瞬間、南東の方で隕石でも落ちたかのような巨大な爆発が生じる、そして巨大なキノコ雲が発生し我々は滅びてしまうのかと言わんばかりの規模の爆炎と津波がこちらに向かおうとしていた、その次の瞬間、それらは突如として収まっていく。そして奴の気配は衰えるどころか逆に強大さを増していた。

 

ーーやはり奴は、あらゆる常識が通用しない化け物かーー

 

「そ…そんな馬鹿な…。あり得ない、あんな化け物を平然と倒すとは…。しかもその際に生じたあんな爆発が収まっていくなんて…。」

 

あまり無常識な光景に血気盛んなバルモチアもさすがに動揺する。

ただでさえヴォルケンと互角のスペックを持っているというのに、破片を取り込んで最強の破壊の化身と化した彼女さえ、自分にかすり傷一つさえ負わせることを許さずに一方的に美味しく食い殺してしまうようなモンスターと戦っても勝ち目などない、むしろ彼女と同じような悲惨な運命を辿るだけだ。そしてその者達の幾人かを殺め、人質に取っても無駄だ、さらに悲惨な運命が待ち受けているだけだ。そういう点では今回の降伏勧告は地獄に神が舞い降りたようなものだった。この勧告を受諾しない理由はない、私達はすぐに武装ロックを受け入れ、ヤマトや彼らに連れられて奴の元に向かう。

 

「奴は伝説の海の怪物の名を冠し、その名に相応しく圧倒的、いや一方的な振る舞いを見せつけているというのに外見は随分とシンプルで、人間の言葉で言うとステルスを重視したイージス艦のデザインに近いな。」

「伝説の海の怪物の名前が今の人類の艦艇群に近い現代的なスタイルと相まってこの艦に魅力みたいなものを齎しているな…。」

 

以外にも奴のメンタルモデルは男だった、彼は私達を見ると何か申し訳無さそうな顔をしてこちらを見ていた。彼の名は海神智史といい、元は別の世界の人間だったらしい。だがある時時空変動に巻き込まれて気がついたら奴そのものになってしまっていたそうだ。彼は純粋で無邪気な普段は何処か抜けた感じの雰囲気だが、戦闘となるとその純粋さと無邪気さ故に徹底的に相手を甚振り、嬲り殺しにしてしまうという残虐な一面を見せるところもある。

とにかく、奴つまり彼を敵に回さなければ、よほどのことが無い限り殺されることは無いだろう。唯一気掛かりなことと言えば、モンタナ様やヴォルケン達は彼の敵だから確実に惨殺されてしまうかもしれないことだが…。

 

「ノースカロライナか‼︎私のライバルであるワシントンの姉か‼︎」

「そうだ、しかしキリシマ、何故お前は生きている?」

「奴の気まぐれだ。奴は自己中な所が強いからな…。」

 

私の妹、ワシントンのライバルであるキリシマのメンタルモデルは生きていた。ワシントンはあの化身に焼かれる前に彼によって生成された艦載機達からばら撒かれた機雷に触雷して沈んでしまったが…。なのにキリシマが生きていたのは何故かわからない。人間の歴史に記されている太平洋戦争に関する記述では、戦艦霧島は沈んで戦艦ワシントンは生き残ったという結果だったのに。これも運命の皮肉なのか?

ともあれ私達は巨大ドック艦がいるソロモン諸島マキラ島沖に連れられ、そこで苦痛な日々を過ごすこととなったはずだが、彼は私達に、逆らわなければ自由に過ごしていいと告げ、私達を修繕し、マミヤに食事などを振る舞うように命じた。お陰で私達はこの島から出られないこと以外は自由に暮らすことができ、人間にしてみれば大切なことである最低限の衣食住も保証されたので、取り敢えず安心した。彼が何故私達を直したのかという理由は分からないが、仮に万全な状態で彼に戦いを挑んでもすぐに粉砕されて終わりだ。そして彼によって大事なものを奪われて悲しんでいたマミヤが今では奴と一緒に幸せそうに料理を振舞っていたので彼に逆らうことはマミヤを悲しませること以外の何者でもなかったからだーー

 

 

ーーところで、群像達はというとーー

 

 

「艦長、リヴァイアサンから戦闘の一部始終のデータが送られてきました…。」

「そうか、イオナ、モニターに出してくれ。」

「了解」

 

そして401のメインモニターやサブモニターに戦闘の一部始終のデータの映像が現れる。

 

「うわぁ…。まさに一方的…。でもスペックが違いすぎているからこんなの私達だけじゃ勝てない…。」

「地球を焼き払っちまう化け物を平気な顔で甚振れるのかよ、完全に化け物じみてるぜ…。」

「彼はあの超兵器の膨大なエネルギービームを悉く受け止めた挙句吸収して自分のものにしてしまいますからね。物理的常識を生まれた時にどこかに置いてきてしまったと言うべきでしょう。」

「とにかく、彼は私達の常識が通用しない相手だということが改めてそこからわかりますね…。あの破片を取り込んでも彼に一方的に嬲り殺しにされた彼女には同情してしまいます…。」

「ヘル・アーチェ…。地獄の門を名乗るに相応しい力を見せつけたがそんな存在ですら簡単にお手玉にとって美味しく食べてしまうリヴァイアサン、いや智史。彼は俺達を積極的に助けてくれているようだ、だが俺達は彼に依存しなくても生きていけるようになりたい、でも依存しなければこの現実を生き残れない…。実際に今回も彼がいなかったら俺達は勝てなかった…。俺達は非力すぎる…。」

「智史…。」

 

そうそれぞれの感想を呟く群像達。それは自身の無力さと悔しさが滲んだものだった。

彼らのそんな感想を彼、海神智史はこっそりとリヴァイアサンの艦橋でハッキングで聞いており、皆の態度を自身が展開する青いサークルによって表示されるモニターに映る映像を通じて見て聞いて、どこかしんみりとしていた。

 

「あれ、智史、どうしたの?」

「ああ、千早群像達の様子を見ていた、自身の無力さを嘆く様子が何処か自分の心に響いてきたからな…。蒔絵、自分を取り巻く環境を変えるだけの力が無かったことを悔しいと思わなかったか?」

「そうだね…。友達が欲しいなって思ったけど、その環境を変えられなかった、そこは悔しかった…。」

「そうか…。」

 

智史は蒔絵とそう悲哀に満ちた会話をする、夕日がその悲哀を更に強くする。そして彼は蒔絵や皆の為にコンゴウと密かに密談を交わし、ある計画を進めていた…。

 

 

ーーそしてほぼ同時刻、ハワイ近海にいるヴォルケン達はというとーー

 

 

「まさに一方的だな、彼女は防御で私に勝ること以外は私とほぼ互角のスペックを持っていたはずだ、それでいて破片を取り込んで更に強くなったというのに、それさえも一方的に弄んで嬲り殺しにしてしまうとは…。」

「まさに悪魔の所業ね…。非戦闘艦や既存艦はどうするの?」

 

超巨大戦艦ヴォルケンクラッツァーの前部甲板上にてそう会話をするヴォルケンとモンタナ。ヴォルケンはモンタナにある大事な話を伝えようとしていた。

 

「モンタナ、お前は非戦闘艦や戦いたくない艦と共に奴に投降しろ。決戦の準備は整った、だが私を含めた皆が破片を取り込んで奴に突っ込んでも奴に一矢も報えずに一方的に殺されて終わりだろう…。たとえマスターシップがそこに加わってもその結果は変わらないのかもしれん…。それにマスターシップからは邪悪な意思しか感じられん、私達を己の物にして傀儡、そして兵器として使い捨ててしまおうという意思しか。奴抜きと仮定したら世界中のすべての霧の艦艇を集めてもマスターシップには勝てん。

そしてムサシの命に従いそのまま奴との決戦に臨んでも、皆死に絶えたら何も生まれぬ。ならば誰かが生き残れば何も生まれぬという事態は避けられる。私達が奴、リヴァイアサンの為に犬死になることで生き残った者達の未来が明るくなればそれでいい。それに奴は冷徹な悪魔では無い、逆らわない者達には寛容だ。」

「つまりどういうことなの?」

「モンタナ、お前にはオウミと共に生き残り、生き残った物達を束ねてくれ。そして奴と協力してマスターシップを倒すんだ。ムサシが邪魔してきても構わん、排除しろ。私は奴にマスターシップを倒す為の資格があるかどうかを問う為に自分について来てくれる部下達と共に、己の命を懸けて奴に死闘を挑む。」

「わかったわ、でも何故彼は信用できる存在だと考えられるの?」

「奴は逆らずに大人しく従うことにした私の部下達を素直に保護し、受け入れてくれた。奴によって大事なものを奪われて悲しんでいたマミヤが今では奴と一緒に料理を振る舞い、皆を楽しませていることから分かる。奴が何者なのかは分からない、だが奴とマスターシップを両方敵に回したら私達は確実に滅ぼされる。

奴とマスターシップ、この両者の違う所を挙げるとすると、奴にはマスターシップのような邪念はない。むしろ自分に素直で純粋な人物だ。奴、リヴァイアサンとマスターシップ、このどちらを取るかと問われた時、私なら奴を取る。奴の元なら彼らが奴に逆らわなければ彼らは未来を育んでいける。

そして奴は自身中心で行くとするならば完全無欠と言っていいほどの強さを見せつける、だが他者を束ねるとなるとやや力量に欠ける所があり、結局自己中心的な未来を描いてしまう所もある。モンタナ、お前は奴を手伝い、そして奴が間違った方向に突っ走らないように奴と他の仲間達の関係の調整をしてやれ。奴は環境を整えてやれば生き残った皆を救う救世主となる。」

「つまりあなたは彼に皆を救う資格を問う為に命を天に捧げるのね…。」

「私は奴が怖くてあの破片を取り込んだ、そして己を犠牲にして奴に勝つことで未来を切り拓こうと思った、だが奴は相討ちを許すほど甘くはなかった、奴は私が己を必死に磨いている姿を見て無邪気に喜び、更に己を磨く速度をどんどん上げていき、そして私との実力の差を滅茶苦茶な迄に広げて、それを見て更に喜び、更に自分を磨き、その速度すらも更に上げていった。私の努力など奴を喜ばせ、既に絶望的な迄の実力の差を更に広げるだけに終わった。

だが己を磨く為に奴を必死に見続けているうちに奴は悪魔のような存在ではなく、ただ単に純粋で無邪気な人格を持った人物だということに気がついた。なら奴の欲望の為に自身を犠牲にすることで誰かが救われるのならそれでいい。奴は純粋さ、無邪気さ故に敵や己を駒として悪用する者に対する残虐性や非情さ、突っ込みどころを持つ者を徹底的に弄んでしまうという所も持っているが、それと同時に本当に困っている他者を積極的に助けてくれるような優しさも持っている。奴はそんな分かりやすい存在だからこそ私は奴の元に仲間達の未来を託せる。」

「分かったわ、ヴォルケン…。」

「私達は負けるべくして負けるのだ。なら私と一緒に生き残っても害にしかならない者も纏めて奴に始末してもらおう、ムサシに忠誠を誓う者達も勿論のこと、気の毒だが、私に仕えること以外を考えないあまりに視野狭窄に陥ってしまい、結果破片を取り込んでしまった者達も。破片は一度取り込んだら取り除けん。そして奴には私達諸共始末してしまうことを軽々とやってのけてしまうだけの実力がある。」

 

そう会話を終えるヴォルケンとモンタナ。ヴォルケンは自分に迫り来る死の運命を覚悟していた、だが自分に付き従ってくれた太平洋艦隊全員には死の運命を確定させたくない彼女はモンタナに一部の部下達と共にリヴァイアサン=海神智史に投降するように指示した、後に彼女と彼女に熱狂的に付き従う部下達には彼によって一方的な破滅的な死の調べが奏でられる。だが彼女達の犠牲と引き換えに彼に投降し、生き残った者達は明るい未来を生きていくことになる。ただ彼らはまだその未来を知らないーー




リヴァイアサン=海神智史が新たに習得、披露したオプション

原子・粒子運動エネルギーベクトル操作能力

智史が自身で習得した次元津波の発生メカニズム及び冷却弾を無効化した際の進化データを再研究した結果、新たに習得したオプション。
原子と粒子の運動エネルギーベクトルを自分の好きな方向に向けて、それらが衝突するタイミングを任意で調整することで、それらの運動エネルギー量を自分の任意の量に調整してしまうもの。
つまりエネルギーベクトルの調整次第では現時点で使えるものとはいえ、とんでもない規模の次元津波やビッグバン規模の大爆発を引き起こしてしまったり、逆に共振現象のエネルギーや東日本大震災クラスの大津波すらも一発で沈静化させてしまう程である。勿論その能力を活かして更にエネルギーの生成量を増やして、更に自己再生強化・進化システムの能力を強化してしまうことだって可能。勿論その能力も自己再生強化・進化システムによって強化されてしまう。
本作ではヘル・アーチェの大爆発によって生じた津波と爆発のエネルギーの拡散による大災害を未然に終息させるために平然と使用された。


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第17話 ピアノと料理、そしてサバイイ島へ。

今作は智史がこれまでのことについて少し後悔します。
そしてヒュウガがイオナの件でまたしても彼によって酷い目に遭います。
前回のものを上回る虐待です…。
それではじっくりとお楽しみ下さい。


「ヴォルケン様、お願いです、リヴァイアサンとの決戦に私も行かせてください‼︎」

「ダメだ。お前にはマスターシップの破片を挿れるための器が無い。」

「…でも‼︎」

「ダメなものはダメだ。マスターシップの破片を挿れられないお前では奴との決戦の際に艦隊の足手まといとなってその隙を奴に突かれてしまう。」

「なら私にマスターシップの破片を挿れられるようにして下さい‼︎」

「ダメだ、器が無い者の破片の挿れ方は分からない。」

「そ…そんな…。嘘だ…、嘘だぁ…‼︎」

そう言いその場を泣きながら去ってしまう艦これの大和もといオウミ。そんな彼女を皆は悲しそうな目で見つめていた、霧の太平洋艦隊旗艦、超巨大戦艦ヴォルケンクラッツァーの彼女に対する真意は分からなかったが。

 

 

「さて、この馬鹿馬鹿しい話は終わりにしよう、皆、私について来てくれるか!」

 

「たとえ化け物が相手でもお供します‼︎」

「この命、あなたに捧げる事が本望‼︎」

「全てはムサシ様とヴォルケン様の為に‼︎」

 

「そうか、皆、行くぞ‼︎」

 

 

「「ウォォォォォォ‼︎」」

 

 

彼らはヴォルケンの声に応えるのかのように歓声を上げる、そして彼らは遂に出撃の支度を始める、それがヴォルケンの真意の一つとも知らずに…。

 

ーーそしてオウミはというと…。

 

「ヴォルケン様…。何故…。」

彼女は廊下の壁に寄りかかりながら泣き崩れていた、そこにモンタナが現れる。

 

「オウミ、何故ヴォルケンがあなたの出撃を許さなかった理由が分かる?」

「モンタナ様…。私には分かりません…。」

「彼女はあなたには生きて欲しかった、私と共に。あなたは誰よりも優しかった、そして私達の事を誰よりも知っていた。そして彼女が言った通り、あなたにはマスターシップの破片を挿れる器が無いという事もあった。私達と同じく。」

「そ、それは一体どういう事なのですか⁉︎」

「わからないわ、ただ分かるのは我々が生を受けて目覚めた時から器の有無はあった、そして器の無い者は破片を挿れたらすぐに滅んでしまうということ、それだけよ。あと、器に破片を挿れたヴォルケン達は彼、リヴァイアサンに確実に負けて血祭りになるまで粉砕されるわ。そして私はヴォルケンから、非戦闘艦やあの決戦に参加しない艦と一緒に彼に投降するように指示されたわ、オウミ、あなたもよ。」

「そ、そんなの嫌です‼︎彼の下で生きるならヴォルケン様と共に運命を共にしたい‼︎」

「駄目よ、皆死んだら何も生まれない。それこそ彼の思う壺。彼に我々全員が抗っても彼にスコアを献上するだけ。そして彼を単に無邪気に喜ばせるだけに終わるわ。彼は我々を全員嬲り殺しにして、血祭りに挙げたくて嬉しくて仕方がないのよ、でもそれは我々が彼に敵対していればの話。大人しく降伏すれば、逆らわない限りは彼は寛容なのよ、マミヤが彼に降伏したけど、彼は彼女の悲しそうな雰囲気を察して少し落ち込んでいたわ。あなたは彼を悪魔だと言ってたけど、それは彼の純粋さ故の残虐性が生み出した一面なのよ。とにかく、私達は彼に降伏するしか他に道は無いわ…。」

「そんなの嫌です、彼は悪魔です‼︎ヴォルケン様達は彼に皆殺しにされて、私達は玩具として徹底的に弄られるなんて…。そんなの嫌だ…、嫌だぁぁぁ…‼︎」

「オウミ…。現実を受け入れて…。」

 

 

ーーその頃リヴァイアサンの方では…。

 

 

「遂にヴォルケンの艦隊が動き始めたか。それもまあ大規模な…。ドレッドノート級10隻、ハボクック、アルウス級12隻、インテゲルタイラント級24隻、ストレンジデルタ級6隻にアルケオペテリクス10機に新規建造された大艦隊…。しかも超兵器達はみんなマスターシップの破片入り、か…。ヴォルケンよ、お前は最初から生きて還ることなど望んでもいない、か…。ならそれに応えてやるとしよう…。」

どこか悲しみに満ちた表情で語るリヴァイアサンごと海神智史。しかし手を休めずに自己研磨はサクサクと、しかし着実に進めた。実際、彼は自己進化に関する努力を積み重ねたお陰で、もはやビッグバン数万発ものエネルギーにも余裕で耐えて吸収し、その全てを自己強化に回せる域に入ってしまっていた。また自身の戦闘能力も異常な迄に強大になってしまい、グレンラガンのアンチスパイラルの大群などにも余裕で圧勝、いや一方的な勝利を収めてしまうほどにもなっていた。それでもドラゴンボールの戦闘力1億2000万の孫悟空との場合は、今のままだと一撃で粉砕されてしまうと彼は判断した。(個人的な被害妄想)

 

「さて、宇宙を一撃ごとに4×10の11億乗も生み出す、常に進化することができる化け物も指ぱっちん一つで粉砕できるように己をじゃんじゃん磨くとしよう。」

 

彼は少し喜びながら更に自己研鑽のペースを上げ、己をもう常識を振り切ってしまっているというのに更に強化してしまう。彼はその孫悟空と同じ大きさ辺りを基準としてその孫悟空に一方的に勝てるように自己研鑽を進める、その強化が孫悟空本人を涙目にしてしまうほどのワンサイドゲームを生み出してしまう程だというのに…。

 

 

「あ、あの〜。智史さん、失礼します。」

「アタゴか…。ああ、少し悲しみに浸っていた。」

「何か、あったんですか?」

「ヴォルケン一味が動き出した、彼らに生きて還る気など無い故に引く気は無い、信念というものがあるが故に。だからこそ葬らればならないと。」

「なるほど…、でも何ででしょう、何でそこまでして引こうとしないんでしょうか…。」

「自分の生き場所が失われること、プライドを曲げられる事が嫌いなのさ。」

「そうなんですか…。あ、少し話変えていいですか?」

「ああ。」

「智史さんっていつも気まぐれみたいなんですけど、あれって何か理由あるんですか?」

「ああ、あれは生まれつきの性だからな、私ではうまく語れんかもしれんからそこの2人に聞いてくれ。それでもダメだったら仕方あるまい、私の手で語るとしようか。」

 

智史は琴乃とタカオのところを指差す、アタゴはそこのところへと向かう。

 

「アタゴちゃん、智史くんが突然凹んだり、人を面白半分に玩具のように使いまわしてしまう理由が分かる?」

「お姉ちゃん、琴乃さん。あの人が考えてることが少し分からないんです、私達の仲間を玩具でも扱うのかのように嬉しそうに色々と試して、壊して殺したり、残忍なのかと思ったら悲しそうな表情をしているマミヤさんを見たら突然凹んでしまったり。」

「そうね、智史さんは人間の言葉を拝借するとアスペルガー症候群という発達障害を前世では患っていたわ。そして彼自身の思考アルゴリズムが健在であったことからその障害も一緒に生き残っていたと考えた方がいいわ。その障害の主な特徴は人によって様々だけど、彼の場合は、大人が自然と身につけるズルさが身につかない、空気が読めない、人の感情が理解できない、常にマイペース、些細な音にも敏感に反応してしまう、自分の生活パターンを変えられたり予想外のことが起きるとストレスを感じたりパニックを引き起こしたりする、という所よ。」

「分かったわ、では琴乃さん、どうしたらいいんですか?」

「アタゴちゃん、智史くんの特徴、そして考え方を具体的に理解した上で誤解やストレスを与えないようにお互いに配慮した方がいいと思うよ。例えば、自分の言いたいことを具体的に伝えたり、パターンを変える時は事前に予告したりした方がいい。あなたの場合は彼の特徴が理解できていないゆえの態度が彼の笑いのツボにハマってしまって大笑いされたのよ、彼も気をつけてはいる所はあるけど、まだ不十分な所が多いわ。」

「でも彼は徹底的な情報収集を心がけていた筈では?」

「それは自己の思考ルーチンを障害共々変えないまま、自分の生死に関することや自分が一方的に有利に進むように情報収集をして、そのデータを自己強化と進化のベースにして徹底的な自己研鑽をしていた為。結果として情報収集・処理能力も上がっていったけど、それは人が考えている自身に対する負の感情や負の意思伝達を敏感に感じ取りやすい方向に進化してしまった。そして各種対人関係での思考ルーチンの進化は置き去りだった。つまりハード面での進化は凄まじいものがあるけど、ソフト面では一部人より劣ってしまう所があるわ。恐らく自分の意思を変えられたり自分に負の感情を掛けてくる人間が猛烈に嫌で、そんな自分の自我を貫き守り通し、自分が生きやすい世界にする為に自己排他的なヤマアラシのように進化してしまったのかもしれないわね」

「なるほど…。分かったわ、お姉ちゃん」

 

アタゴは智史がどういう考えを持っているのかが少し理解できたようだ、彼は自分の特性を理解しようとしない人間達を排除して自分が生きやすいように進化を遂げ続けてしまったのだ。というのも彼の特性に基づく性格は彼自身が過去の体験から大人が自然と身につけるズルさを身につけることを徹底的に拒否した結果、ヒエイのように真面目で、また自身に有利なことしか引き起こそうとしない自己中で常にマイペースな人格で、その場の感情に振り回されやすく、子供のような純粋さをずっと持ってており、それ故に残酷なことを平然とやる一面性もあるのだ。

 

「智史くん、マジョリティーの常識は少しづつ身にはついてはいるようだけど、まだ不完全かもしれないわね。そこを身につけるのは私も手伝うから。困ったことがあったら私に聞いて。」

「了解」

「言葉が機械的で硬い!こういう時は「わかった」とか「ありがとう」って返事をした方がいいよ。」

「分かった。」

 

 

そして智史はリヴァイアサン艦内のコンゴウがいる加工工場みたいな部屋へと歩いていくーーその最中、

 

 

ーー何故だろうか…。

私はこの世界に運命的とはいえ自分の都合のいいように世界を変えられて満足な筈だ…。

この世界は他人によって生み出されたその情景をスクリーンから悔しい思いをしていて見ていたシーンが多かった世界が元だった、これで自分の気に入らない奴を殺して、甚振って、好き勝手にできて満足な筈だった…。そして全てを上回り、全てを知り尽くせるように進化することで無双の域に達することが嬉しかった筈だった…。

だが何故だ、一時は満足しても直ぐに虚無感と孤独感が襲いかかってくる…。

 

嫌だ。

 

私は心に空漠など欲しくない、だがこの世界には私の心の穴を埋めるモノが限られている…。覇者は孤高の存在だという、だが私は強くなりすぎたせいで一人ぼっちになってしまったのだろうか…?それともその場の感情に任せたマイペースな行いが私の罪となっているのだろうか…?ああ、そうかもしれないな、仕向けているのは自分自身なのだから…。

 

 

 

「どうした、智史。お前がこのような提案をしたのは後悔という感情からか?」

「まあ半分はその通りかもしれん。監視用botとはいえ、お前の大切なものをその場の感情で叩き壊してしまったからな。あの無邪気な笑顔も、あのピアノの音も…。」

「そうだな…。かつて私はマヤのピアノの音楽を聞かされるのが煩わしかった、頻繁に聞かされたからな…。だが私がピアノに関することを教え込んでいくうちに彼女はピアノを弾くことが上手くなっていき、私もピアノのことを通じて彼女に心を許すようになっていった…。だが今はその煩わしい音楽も彼女の姿ももうここにはない、彼女が人形だったとしても私は彼女と共に居たかった…。」

「プログラムを組み込まれた人形だとしても一緒に居たかったというのか、コンゴウ?」

「いや、残虐にも映るお前のその場の感情による行動が私の運命を変え、蒔絵という友達との出会いをくれたのだ、それが今の私を作っている、だからお前が私に対してしたことを責めるつもりはない…。」

「そうか、なら手伝ってくれ、蒔絵と皆に新たな生き方を見せるために」

「そうだな…。お前がしようとしていることは私にしてみればマヤの記憶の名残を次代の人間に伝えていく行動に見える…。」

 

そして1人と1匹は赤色に金属的に光り輝くグランドピアノを静かに見つめる、そのピアノは、彼、海神智史の物質生成能力でそれ自体の材料とパーツを作り、加工し、それを組み立てたものだ。瞬時に一発で作ることも出来るが、それだと味気が無くて虚しい。なので材料や機材を物質生成能力で調達したこと以外は自分の手で自力で作り、自分で作りましたという欲望を満たしながら作ったのだ。

 

「力を持ちすぎたお前には己に並び立つものが居ない。それ故にお前は直ぐに実現してしまう己の願望が虚しくて仕方が無かったのだろう、だからその欲望を満たすために己の手で作り上げたのだろう?私達にしてみればその作り方をお前が教えてくれたから非常に大切なことだ。」

 

そして彼はグランドピアノを加工部屋から出すと、リヴァイアサンの左舷航空甲板上に出る、そこで予め生成して待機させておいたV-22 オスプレイにピアノを積み込む。そしてピアノを載せたオスプレイは彼とコンゴウと共にリヴァイアサンを飛び立っていくーー

 

 

ーーそしてソロモン諸島のマキラ島ではーー

 

 

「ハルハル、キリシマ、大きいヘリコプターが来たよ。智史が私に見せたいものがあるって言ってたけど、何だろう?」

「何だろうな、コンゴウと何か話をしてたらしいが…。」

「随分と巨大なヘリだ、相当なものが入っているのかもしれない。」

 

ーーババババババババーー

 

ーーキィィィィィィ…。

 

「智史、コンゴウ。蒔絵に見せたいものが有ると言っていたらしいがどういうことだ?」

「まあ見てみろ。」

 

ーーガチャ‼︎

 

ーーウィィィィィン‼︎

 

 

ーーガコン‼︎

 

ーーゴロゴロゴロゴロ!

 

智史に押されてピアノがオスプレイのペイロードから出てくるーー

 

「これって…ピアノ?」

「そうだ、お前や皆に音楽というものを身で味わって欲しくてな。」

「ピアノとは、どういうものだ?」

「鍵盤というボタンを押せば色んな音が出るものだ、それらの音を調律することで音楽というものが生まれる。」

「“ピアノ”、鍵盤楽器の一種。鍵を押すことでそれに連動したハンマーが対応する弦を叩くことで発音。内部機構の面では打楽器と弦楽器の特徴も併せ持った打弦楽器に分類。タグ添付、分類、記録。」

「これどういうものなの?触ってもいい?」

「いいだろう。ただしピアノをどのように弾けば音楽というものが生まれるのか、私が例を示そう。」

 

そう言うと彼はQuatre Mains (エヴァンゲリヲンQに出てきた曲)の1人版の曲を弾き始める。

 

ーーポン〜ポロリロリロリンロリロン〜リンロンリロリン〜リンロンリロリン〜‼︎リンロンリロリン〜リロリロリローー

 

「すげえ!リズミカルで癒されるような音楽だね‼︎」

「これが、音楽か…。」

「早速弾いてみよう、蒔絵」

 

ーーピロリロリロリンーー

 

「うん!」

 

そして蒔絵は智史の隣に座るーー

 

ーーポン!

ーーポロリロンリロリリッロリロンリロリッロリロン‼︎

ーーポン!

ーーポロリロンリロリリッロリロンリロリッロリロン‼︎

ーーポン!

ーーポロリロンリロリン!

ーーポン!

ーーポロリロンリロリン!

 

そして彼らは少しピアノを弾くーー

 

「蒔絵、お前音楽センス有るのか?」

「ん〜っと、4歳の時にチェロをやったことがあるな〜?」

「なら十分だ、自分が弾きたいものを弾くという基礎が少しは出来ているみたいだな。いいだろう、これに関することを皆と一緒に教え込んでやろう。」

「懐かしいな…。マヤがピアノを弾いていた時を思い出す…。」

「智史、皆を連れてきたぞ」

「ありがとう、キリシマ。」

 

 

ーーコンゴウに連れて来られた人達視点ーー

 

 

「何あれ⁉︎」

「タカオ、それはピアノってものよ。」

「一体何なのよって、非常に色艶があるじゃないっ‼︎」

「ヒュウガちゃん、それはピアノというもの。私と一緒に弾きましょう?」

「げっ…。あなたと一緒になるのだけは嫌…。」

「これは…。楽器の一種?」

「そうみたいですね、一体どういう音がするのでしょう?」

「ほら、早くその楽器使って戦争始めようよ!」

「アシガラ、それは戦争の道具じゃありません。」

「何これ〜?楽しいのぉ〜?」

「何か楽しそうな雰囲気になってきたな、私もその道具に触ってみたい‼︎」

「これが、ピアノ…。」

「艦長、ピアノを見るのは久しぶりですね。」

「私も触ったことないわ〜。」

「何かスポーツカーに使うような色具合をしてるな、おい。」

「すごい…。何かオブジェとして使えそうですね。」

「俺は幼い時にやったことがあるが…。まさかここで出てくるとはな…。」

 

 

 

「では、順番に触ってみるか?」

 

そして彼らはピアノがどういうものなのかを身体を通じて味わっていく、ピアノのメカニズムと同時に。

 

「智史、ピアノとはどういうものだ?」

「音楽という文化を奏でるためのものだ。霧にも通ずるところがあるだろう?」

 

疑問を投げかけるノースカロライナにこう答える智史。

 

「自分のピアノが欲しいか?」

「欲しい‼︎」

「他人から貰うのではなく自分で作った方が愛着が付くだろう?」

 

そして彼らは智史が事前に用意しておいたピアノの製作工場へと連れて行くーー

 

「組み立てるだけで簡単に出来るようにある程度の加工はしておいた。」

 

一人一人のピアノの組み立てが始まる、マニュアル通りに組み立てればいいだけの話だったので楽しく皆自分のピアノをオリジナル風に作ることができた。

 

「ヒュウガ、お前はいつもイオナ百合妄想だからイセと一緒にいれるようにイセのピアノの仕様をちょっと調整してある」

「ヒュウガちゃん、私と一緒に弾けるように鍵盤一式が上下に一つづつ付いてるわ♪」

「げっ…。智史、あんた私を徹底的に虐めるつもり…?」

「まあ悪く思うな。」

 

そして塗装が乾くまでの間、自由時間を過ごして、そしてピアノの音程調整をした上で皆がそれぞれの部屋に持ち帰った所で、夕食を食べることとなった。

 

「今日の夕食のおかずは、豚の生姜焼き。」

「タカオ…、イオナ…。各種情報に基づく予想シミュレーションの通りに、お前達が作ったのか…。」

「そ、そうですよ‼︎これは乙女の修行です‼︎私が作って何が悪いんですか⁉︎」

「いや、お前に実装されている乙女プラグインの延長線上の撫子プラグインが機能してると思うと思わず笑いが溢れてしまう…。」

「う、うるさいですよっ‼︎」

 

智史の指摘に素直に答えを返すことが出来ずに思わず照れてしまうタカオ。

 

「智史、私はあなたが作る料理を見て、自分も同じようなことをしてみたいと思った、その料理を群像やあなたにも食べて欲しかったから…。」

「かつてお前は言っていたな、群像の側にいて、その命令に従うだけと。それを命令していたヤマトが自分の体内から抜けた今、お前はこれからどう生きていくのだ?私の真似事だけをして生きていくというのか?」

「わからない…。」

 

智史の問いに頬を赤く染めて答えるイオナ。

 

「まあいい、お前達の作ったものはいただこう。」

 

そして智史は料理が並んだテーブルに皆が座っていることを確認し、こう呟く。

 

「皆、食事を食べる前にこう言ってから食べよう。

ーー“いただきます‼︎”」

 

「「「「いただきます‼︎」」」」

 

そして皆がイオナ達が作った料理を食べ始めるーー

 

「…美味いな。」

「ありがとう」

「姉様〜‼︎姉様が作ったものを食べるのはもったいないです勿体無いです〜‼︎これは姉様が食べてくださいまし〜‼︎」

「ダメだ。」

智史はそう言うとヒュウガの服の襟を掴み、イセが座っているテーブルに連れて行く。この日の智史は心の穴を埋めたかったのだろうか、この光景を見た瞬間、ヒュウガを戒めも兼ねて弄ろうとした。

 

「さて、ヒュウガ。貴様はイオナ好きだからな、その戒めとして貴様の腹が破裂するまで私とイセからたっぷりとご馳走を食べてもらおうか…。お代わりはちゃんと準備してあるからな…。」

「さあ、ヒュウガちゃん♪姉様がたっぷりとご飯を食べさせてあげるからね♪」

「ネ…姉サマ…、ダ、ダズゲデ…。」

 

そして2人はヒュウガの腹にたっぷりと生姜焼きとご飯、味噌汁に野菜を詰め込んだ、ヒュウガの体は破裂寸前の風船のようにたっぷりと膨らんでしまった。

 

「グ…、グルヂイ…。」

「うわぁ、たっぷりと膨らんで風船みたいにお腹一杯ね♪」

「さあ、たっぷりと苛めてた〜んと吐かせてやろう♪」

「ヤ…ヤメデグダヂイ…。」

 

この後豚のように、いや風船のように丸々と肥え太ったヒュウガは自身の体を弄ばれたりして2人に徹底的に虐められた…。

 

「ヒュウガ、一体誰がこんなことを…。」

「ネ、ネエザマ〜、ゴ、ゴノフダリガ〜。」

「智史、イセ。」

「?」

「何、イオナちゃん?」

「ヒュウガを虐めすぎるのはやめてほしい、彼女が私に対する異常なまでの愛着への戒めだということは分かるけど、幾ら何でも可哀想…。」

「…そうか?私はヒュウガへの戒めも兼ねてヒュウガに今やってることをしたらどういう反応をするのかどうかが嬉しくて仕方がないんだが」

「だ〜め〜で〜しょ〜‼︎これは立派な虐めだよ〜‼︎」

「そ、そうか?」

「智史、お前は人を玩具同然に扱う残虐さがあるな、その理由は分からなくはない、お前はヒュウガへの戒めも兼ねて、自分が他人に何かをすることでどういう反応を返すのかが知りたくて堪らないのだろう?」

「こ、コンゴウ…。」

「401にヒュウガが異常な愛着を示している戒めとはいっても、今のは酷すぎだ、元に戻してやれ。」

 

 

そして2人はヒュウガの口を機械のホースに押しやり、彼女を無理矢理吐かせる、そして彼女が吐いたものはプラズマで綺麗に分解処分されて再びエネルギー源へとなるのだった。

 

「こ…、殺されるのかと思った〜。」

「ヒュウガ、大丈夫?」

「は〜い、イオナ姉様〜‼︎姉様に心配してもらえるなんて、ヒュウガは、ヒュウガはすごく幸せです〜‼︎」

「やっぱりイオナキャーキャーだな、今の戒めを上回るものが必要か?」

「そ、それはやめて…。」

 

そして皆が食べ終わり、皆それぞれの寝床へと入っていくーー

 

 

翌朝ーー

 

「ん〜、いい目覚めか?」

ひょっこりと目を覚ます(?)海神智史。彼は超巨大戦艦リヴァイアサンのメンタルモデルになってからというものの、疲れを一切感じない、進化をし続けている影響か、演算能力や演算リソースの量がべらぼうに増えていった、そのせいで演算リソースのオーバーフローを全然引き起こさなくなっていたのだ、そのせいで他のメンタルモデルとは違い普通のメンタルモデルなら非常に負荷になることも本人は全く負荷にはならず、仮に負荷となってもすぐに消滅していた。だが、悲しいかな、そのせいで全く眠る必要性も消失してしまったことも確かである。

 

「…ん?イオナか?」

 

海岸でイオナがヒトデいじりをしていた、

 

「私は何?私は誰?私は自分の未来をどう生きていけばいい?」

 

「イオナ、昨日は済まなかった、その場の感情で悪のりしてしまって。」

「いいの、あなたがそういう存在である事は分かる、私の話を理解してくれただけでもよかったと思う。」

「そうか…。ところで自分の生き方に悩んでいたのか?」

「そう、あなたが昨日言った言葉について悩んでいた、私は人の真似をする機械?何をすれば1人の人間のようになれるの?」

「自分の世界を持て。他人の考え方や経験、色んな風景を見ることで自分の中の情景を創造し、知識を得て、感受性を育むのだ。私はそうして自分の世界を築いてきた。

お前には感情が少しづつではあるものの咲きつつある、自分の中のジレンマに気がついたお前はもう機械ではない、意思を持った存在だ。」

「何故、“人間”ではなく、“存在”なの?」

「私達は人と接していくために人の形を取ったからだ、ヤマトが千早翔像と会おうとした時に人の形を取ることで翔像に人ならざる存在としての警戒感を拭って欲しかったのだろう、もし人の形ではなかったら我々は外見上や第一印象上の意味で人ならざる存在として人間達に受け入れられなかっただろう。人の形を取るということは我々にしてみれば大事なことなのかもしれん。だからといって、我々が自身の全てを完全に人間にすることなどできない、いや必要ないと言った方が正しい。人間の全てを丸写しにしたら、人間の身体的限界、人間の強欲さまでまで人間そのものとなってしまうからな。」

「なるほど、あなたはそう考えているんだ。ありがとう、あなたのおかげで自分がどう生きればいいのか少し分かった気がした。」

 

そう海岸で会話をする智史とイオナ。そこへヒエイと琴乃が現れる。

 

「ヒエイ、済まなかったな、その場の気分でナガトを殺しコンゴウをクマにした挙句にお前達の艦も潰して」

「な、何故いきなり⁉︎」

「その時は気分が高揚してて嬉しかったが今は少し後悔しているからだ。」

「…言いにくいのですが、あなたに徹底的に敗れ、艦や大事なものを失うまではあなたのことを根本から憎んでいました、でも何故でしょう、あの敗北以降、あなたの本当の姿、自身の考え方と他人の考え方の違いを知ることが出来、そして生きるということが大切なことなのかを身をもって知ることができました。

皮肉にもあなたの気まぐれとはいえ、あなたが私達を殺さなかったことに感謝したいぐらいです。そして私達は他者の分まで生きることを楽しみたいと思います、自分をそんなに責めないでください、私達にも非はあります。」

「ありがとう、ヒエイ…。」

 

実はヒエイは琴乃から彼の考え方や彼の特性、アスペルガー症候群について説明を受けていた。あの決戦以降に考え方が変わったこともあったのか、智史がどういう人間性を持っているのかを以前よりすんなりと受け入れられたのだ。

 

彼らがこれからどう生きていくのかを話し合おうとした、その時ーー

 

「…?音声通信?霧の太平洋艦隊旗艦から?」

「まさか、あの巨艦から?」

 

ーーやはりか。

 

突如として入ってきた音声通信に予想通りと判断しつつもサークルを展開し、通信モニターを出す智史。

 

「“はじめまして、と言うべきかな、 霧の究極超兵器、超巨大戦艦リヴァイアサン。”」

「霧の太平洋艦隊旗艦を務めている、霧の究極超兵器、

超巨大戦艦ヴォルケンクラッツァーだな。私はリヴァイアサンでもあり、海神智史という存在でもある」

「“海神…リヴァイアサン…。いい名前だな海神智史、お前はまさにリヴァイアサンを名乗るに相応しい。これまでのお前の暴れぶり、拝見させてもらった。”」

「お前の狙いは何だ?やはり直接顔を合わせて私が何者なのかを直に再確認することが狙いだろうな?」

「“そうだな、艦隊を結集させて総力をもってお前を葬り、401の振動弾頭輸送を完全に阻止することが狙いだ、だがお前を現実空間でまだ見ていない、だからその前にお前と一度会うことでお前がどういう存在なのかを確認した上でお前を仲間たちの冥土の土産にしたいからな”」

「了承した。こちらの準備はもうとっくに整えてある。それで場所は何処だ?」

「“サモア諸島のサバイイ島だ。お前もこの島で行われたことを知っているだろう?”」

「ああ、霧や超兵器に関する研究をやっていたな、今はそのようなことはやってはいないが」

「“そうだな、さすがは海龍と言うべきか。”」

「その言葉、褒め言葉として頂いておこう。」

「“以上だ、向こうで会う時を楽しみにしている。”」

「こちらもだ。」

 

そして通信が切れ、モニターが閉じる。

「霧の究極超兵器ヴォルケンクラッツァーを、そこまで本気にさせるとは…。実際にデータベースで確認しましたが、彼女の率いる艦隊は霧の艦隊の中でも最強です、彼女は準備を念入りにし、慎重にかつ大胆に動くことを是としており、暴走したヘル・アーチェとは比にもなりません!あなたは、死ぬ気ですか…?」

「裏を返せば私に本気をもって葬り去るだけの価値を認めたということだろう?いいだろう、ならその期待をいい意味で全力で裏切ってやろう。」

 

ヒエイはヴォルケンクラッツァーの慎重さと恐ろしさを理解していたのだ、かつて彼女はリヴァイアサン=海神智史出現前にヴォルケンと一度だけ会ったことがあったのだ、その際にヴォルケン本人とその艦隊の陣容を視察したのだがあまりの威圧感とその威容に身が震えてしまったのだ、しかも彼女は常に長期的な戦略に基づいて進化と部隊の強化を積極的に推し進め、今では霧の太平洋艦隊を最強と言わせしめるまでに強大にしたのだ。彼女が智史を引き止めようという理由は分からないまでもない。

まあリヴァイアサン=海神智史はそれを遥かに上回るあらゆる常識を吹っ飛ばした強化と進化を常にし続けており、しかもそのペースはどんどん上がっている。彼は既にそんな彼らを鎧袖一触で蹴散らしてしまう程、いやそれ以上の勢いで強くなりすぎてしまっていたのだが、そういう雰囲気が外見からは何故かあまり出てこない。彼女の中の、彼の見た目の強さをヴォルケンの威圧感が上回ってしまったということもあるのだが…。

 

「行くか、琴乃、ヒエイ、イオナ?」

「とりあえず、行ってみましょう。彼女がどういう人なのかまだ見たことがないから。」

「そうか、では行こう。」

 

そして智史は目の前にYAGR-3Bを生成し、彼らはその機体に乗り込む、そして彼らを乗せた機体はヴォルケンが待ち構えているサモア諸島サバイイ島へと向かっていくーー




今作の敵超兵器紹介

超巨大要塞艦 ストレインジデルタ
全長 1680m 全幅 1120m
基準排水量 60000000t
最大速力 水上 100kt 水中 0kt(潜航不能の為)
武装
100口径120㎝3連装砲塔 1基
100口径457mmAGS 単装 6基
127mm全方位ガトリング砲 40基
80口径76mm連装バルカン砲 120基
各種ミサイル発射機 20連装 40基
155㎝拡散弾頭噴進砲 連装 40基
100㎝各種魚雷発射管 200門

クラインフィールド、強制波動装甲、エネルギー吸収調整システム、ナノマテリアル生成装置及び艦艇製造、修復システムを搭載。

ヴォルケンクラッツァーによって、リヴァイアサン対策としてオリジナルから複数の姉妹艦が建造された超兵器。直接戦闘に関わることが主目的ではなく多数の艦艇や航空機を大量に製造して、損傷した艦船を修復して戦略面で貢献することを主目的とする。姉妹艦全艦にマスターシップの破片を挿れる為の器のコピーが搭載されており、その器は本家のものとはやや性能が限定されるとはいえ兵器としての力を引き出す能力を持つ。
同様にその器はインテゲルタイラントやアルウス、アルケオペテリクスの姉妹艦、姉妹機にも実装された。またそのことはオウミを生かしたいヴォルケンの意思によって彼女には伝えられていない。


超高速戦艦 インテゲルタイラント
全長 840m 艦幅 90m 全幅 180m
基準排水量 1200000t
最大速力 水上6000kt 水中 2000kt
武装
100口径610mmAGS 単装2基
100口径406mmAGS 単装8基
88mm単装バルカン砲 20基
各種ミサイルVLS 3000セル
127㎝拡散噴進ロケット砲 単装12基
61㎝各種魚雷発射管 60門

クラインフィールド、強制波動装甲、超高速推進用大型スラスター搭載。

本家鋼鉄の咆哮3ではリヴァイアサンのベースとなった超兵器。本作では高速で敵を撹乱、翻弄し、一撃離脱のスタイルで敵の戦闘能力を奪い去る戦い方がメインとしている超兵器となる。
この艦も複数の姉妹艦が造られ、ストレインジデルタと同様にマスターシップの破片を挿れる為の器のコピーが装備されている。


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第18話 会談と威厳、そして智史の考え方。

今作は智史本人の考え方が判明します。
北斗の拳に出てくる世紀末覇者拳王ごとラオウ様の考え方に近いです。
そして智史がヴォルケン達を蹂躙したくてすごく殺る気満々です…。
それではじっくりとお楽しみください。


「何⁉︎智史が琴乃とヒエイ、イオナを引き連れてサモア諸島のサバイイ島に向かっただと⁉︎」

「はい、メンタルモデルイオナの行動記録とその時の会話データから推測するにその様だと判断できます。何者かに呼ばれた様です。実際、リヴァイアサン本体もサモア諸島方面に向かっていることが確認されています。」

「まさか、智史さんが琴乃さんとヒエイ、そしてイオナを連れて行くなんて…。一体何をする気なのでしょうか…。」

「ヤマトか。とにかく、リヴァイアサンの後を追おう!」

「私達も連れて行って頂けませんか?」

「会長や智史達が心配だ、連れて行ってくれ。」

「ありがとう、索敵と情報処理を頼む。」

 

ーーそしてヤマトとミョウコウ姉妹を乗せた401は慌てて出航する、智史たちが心配な為に。

 

 

ーーそして、サバイイ島上空ではーー

 

「あれが、サバイイ島か…。初めて来たが随分と緑豊かな島だな。」

「あちこちに構造物が建っているわ、少なくとも人が作った様にも思えるものが…。」

「つい最近まで使われていたみたいですね…。」

「ここでムサシが何かをしていたの…?」

「そうみたいだ。超兵器の技術はここで解析され、新しく建造された霧の艦艇に取り入れられたらしい。」

「そんな…。」

「海岸沿いに着陸するぞ、風景をじっくりと楽しみながらヴォルケンの所に向かいたいからな。」

「私もそうしたい。智史くんの側にいると色々と楽しめるし安心できるから。」

 

そして彼らはサバイイ島の海岸に着陸する、そしてヴォルケンの所へと観光をしながら歩いていく。

「随分と美しい海ね、コバルトブルーの色合いだし、空も晴れてるし!」

「そうだな、ヤシの木が何本か立ってて南国に相応しい雰囲気を強めている。スキューバダイビングには最適だろう。」

「これが、南国…。」

「ヴォルケンの場所がどうして分かったの?」

「すまんな、理由を言いそびれて。今からデータを送る。」

智史はそう言うと他のメンタルモデル達にデータを送信する、そしてそれぞれのサークルのモニターにヴォルケンの居場所が表示される。

 

「なるほど、あなたは最初から見抜いていたのですね、敵の戦略や目的を…。」

「ああ、そしてマイペースですまないな。」

 

そして彼らは研究場跡をじっくりと歩いていく。

 

「大規模な分析を行った痕跡があるな。」

「そうみたい、機器は撤去されてるけど…。」

「ムサシは人類や私を滅ぼす為にこんな分析や開発をやったんだな、だが無駄すぎる。こちらは規模がもう読めているし、ハードやソフトも今でも把握済みだというのに…。」

 

やがて彼らは緑豊かな場所に建てられた研究場跡を抜けてヴォルケンが待っていた海が見渡せる所に出る。

 

「随分ゆっくりと散歩していたみたいだな、海神智史。」

「ヴォルケンクラッツァーか、すまないな、マイペースで。」

「まあいい、約束通りに来てくれたのだから。そして連れが何人かいるな?」

「ああ、気まぐれで連れてきた。」

「なるほど、気まぐれか。そしてヒエイか。お前はよく調べずに部下を引き連れてリヴァイアサン、いや海神智史に戦いを挑んだ結果コテンパンにやられて大勢の部下を奴に食い散らかされたようだな。面だけは立派な無能が」

「くっ…。」

 

自分なりに智史を調べて準備をして臨んだというのに無能と罵られて悔しい思いをするヒエイ。思わず殴りかかろうとするが智史がそれを制止し、彼女を弁護するかの様に台詞を呟く、

 

「彼女は無能ではない、私のスペックが普通の霧だったらあっさりと殺られていた。ソフト面では私は彼女達に劣っていた、にもかかわらず彼女達があっさりと殺られたのは私がソフト面での劣勢をハード面での一方的な優勢、いやチートスペックで強引に覆したからだ。それに彼女が怒り狂って十分に準備を整えてくれなかったから私はあっさりと勝てた。」

「智史…。何故そのようなことを…。」

「ヒエイ、お前は私に負けた、だからといって無能とは言えないだろう?曲がりなりにもお前は私のことを調べて戦いを挑んでくれた。それで十分だ。」

「なるほど、自らが汚名を進んで被ることでヒエイの名誉を守ろうとしたのか。いいだろう、ヒエイに対するこの評価は撤回しよう。」

「どこかのマンガでそういうことが書かれていた、それを実践してみたかったこともある。」

「お前は単純なクレイジーではなさそうだな。他者を思いやる優しさがあるという美点があるという点で。さて、本題に移ろう、お前はこれからどう生きようとしているのだ?」

 

ーーそしてその頃ーー

 

「ソナーにリヴァイアサンの反応が検出されました、ですがメンタルモデルの反応はありません…。」

「恐らく艦を万が一に備えてサバイイ島の近くに移動させただけで最初から乗るつもりは無かったのだろう。サバイイ島に智史達の反応は検出されているのか…?」

「本艦のソナーでは検出できません…。」

「そうか…。」

そう言い手当たり次第の捜索をするよう命令をしようとする群像、だがーー

 

「私達のことを忘れられては困ります。」

「そうだ、お前達に出来無いのなら私達にやらせてくれ。」

「ナチ…。ミョウコウ…。君達は敵対していたはずだが…。」

「確かにかつてはそうでした、ですが今は会長の身が心配です。捜索を手伝わせてください。」

「わかった、捜索を手伝ってくれ。」

「ありがとうございます。」

ナチはそう言うと予め同行させておいた12機の探索ユニットを起動させる。

 

「探索ユニット展開、サバイイ島及びその周辺の捜索を開始」

 

すると401とヤマトを囲むように12機の探索ユニットが展開される、同時にナチとその周辺に複数の黄緑色のサークルが展開され、ユニット群からのデータがモニターに示されていく。

 

「北東方向に微弱なノイズを感知。データベース照合、究極超兵器ヴォルケンクラッツァーとリヴァイアサンのメンタルモデルのものと確認、座標送ります。」

「な、なんだと⁉︎彼以外にも究極超兵器のメンタルモデルがいただと⁉︎」

「両者の反応、消失していません。」

 

「とにかく、手遅れになる前に急がなくては‼︎」

自分の予想を超えた事態に焦るヤマト。

 

「座標地点から南東5キロの所に上陸するぞ!機関最大、急げ‼︎」

 

そして群像達は慌ててサバイイ島の南東方面の海岸へと急行していくーー

 

 

ーーほぼ同時刻

 

 

「何故そのようなことを尋ねる、私を殺すつもりだろうというのに?」

「海神智史、お前を葬る前に有用なことがあるのかどうか聞きたくてな、もしこのことを聞き出す前にお前を殺したら勿体なくて仕方が無い。」

「ふっ、なるほどな。なら答えてやろう。だがその前に一つ付け加えておくが葬られるのはお前達だ。私にはその力量がある。」

智史はそう言うと自身のシステムの総出力を上げ、効果範囲を限定しているリミッター(のようなもの)をほんの一部だけだが解除する、それに伴い尋常ではない圧倒的な威圧感と威厳が醸し出され、同時にオーラのようなものもまとわり付き、地面が悲鳴をあげて激しく揺れ始めた。

「な、なんて力なの⁉︎」

「こ、これは地震⁉︎」

「か、体が震えている…。これが恐怖という感情…。」

「(こ、これは…。なんて威圧感だ…。これは魔王と相対したようなものだ…。そうか、これだ、今のお前は私達を軽く葬り去ってしまう力を持つ者に相応しい…。)」

「これは私の各種効果範囲を限定しているリミッターのほんの一部を解除している状態だ。今の状態でそれ以上解除すると太陽系、いや銀河系すら軽く吹き飛ばしてしまう。もちろん今の状態から進化し続けているから今の地球を壊さずに残すとしたらそのリミッター自体を解除する機会、いや必要性さえなくなってしまう。もう十分に震えているが更に出力を上げてみよう、お前達の反応がシミュレーションデータの予想通りなのか一応知りたくて嬉しくて仕方が無い」

 

 

そして群像達の方もーー

 

 

「座標地点に非常に強烈な重力震反応及びエネルギー反応検出‼︎」

「リヴァイアサン、いや智史さんのものと確認!」

「なんて揺れだ…。島だけでなく海まで揺れて地響きを奏でている…。」

上陸した途端に襲いかかってきたあまりの揺れにヤシの木にしがみつく群像達、同時に401の中にいたクルー達も何かにしがみつく。そしてその揺れやエネルギーはどんどん増大していく。

 

「おいおい、これで十分じゃねえって感じだぞ⁉︎更にエネルギー反応が増大してやがる‼︎」

「やっぱりすげえ〜‼︎とんでもない化け物だ〜‼︎」

「い、嫌ぁぁぁ‼︎誰か、助けてぇぇぇ‼︎」

「こいつ、地球を吹き飛ばすつもりぃぃ〜⁉︎」

「これが、この世の終わり…⁉︎」

「ああ、これが黙示録となってしまうのでしょうか…。」

 

 

そしてテンションがどんどん上がってしまいますます本気を出そうとする智史ーー

 

「智史くん…、じ、自重して…。」

「え、これ、やり過ぎぃぃぃ〜⁉︎」

「智史、あなたのテンションが上がりすぎたせいで周りが滅茶苦茶…。やめて…。」

「えっ⁉︎あ、あぁ〜‼︎本当だぁぁ、あははははははは」

「ふ〜…。地球と一緒にあなたに吹き飛ばされるのかと思った〜…。」

 

琴乃の注意に智史は喜びながら驚く、智史本人が本気を出していくのを止めたのか、彼から圧倒的な威圧感と威厳は消え、普段のマイペースで無邪気な彼に戻る、そして同時に揺れが収まっていく。そして、自身の行動の結果生じたあまりの揺れに滅茶苦茶となった島や施設、そして皆の光景を見て何かツボにハマるところがあったのか彼は思わず大笑いしてしまう。

 

「これは笑い事ではありません‼︎その場で死刑です‼︎」

「ひ〜!ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ‼︎あ〜こちょばい‼︎でも人の感覚や心を捨てないことはこれで楽しい〜‼︎」

そんな彼はヒエイに全身を擽られて大笑いしながら喜ぶのだった。

 

「まさに滅茶苦茶だな、だがお前の生き方がどのようなものなのかは僅かながらも分かった。お前は自我を貫く人間として生きようとしているのだな。」

「まあそうだね、少なくとも自分を抑圧する現実と他人が猛烈に嫌いだから自分の意思のままに生きたいという考えが心の奥底にある。だから他者を振り回して最悪ブチ殺してまでもいつもマイペースで居たいんだ。」

「なるほどな…。まさに社会性を無視したような行動性だな、しかもその場の気分や雰囲気で落ち込んだりハイテンションになったりして他者を激しく振り回す…。だからといって良心が無いというわけでもなさそうだな。少なくともマミヤを思いやったりヒエイを庇ったりしたという点で。」

「まあそうそう。うちは気分屋で常にマイペースだから。悪いね‼︎」

「気分のアップダウンが激しすぎるよ、智史くん…。」

「あ、琴乃。ごめんごめん。」

智史はこの後彼自身の所業を身で味わされた琴乃にたっぷりとお灸を据えられる。

 

 

「場が随分と滅茶苦茶となってしまったがお前の人間性は把握できた。お前は少なくとも無邪気な子供のような思考ルーチンだな。さて、次に移ろう、お前は何故振動弾頭をアメリカに向けて輸送している401ーー蒼き鋼に加勢しているのだ?」

「ん〜、その場の気まぐれかな〜。少なくともムサシからの命を受けたあの潜水艦の2人ーー400と402に攻撃食らうし、それでムサシを主とする霧の艦隊には悪印象しか抱いていない。降伏を自分からした奴を除いて、徹底的に甚振りながら一匹残らず殺してやろうと考えてる。それに対して蒼き鋼ーー401の艦長、千早群像とそのクルー達からそんな印象は受けなかったし。」

「お前らしい解だ。お前は私達にも守るべきものがあると事前に知っていてこう言っているのだな?」

「うん、どうしても守りたいものやうちに対する恨みがあって戦おうとする人もいるんでしょ?なら一緒に甚振りながら殺してあげるよ♪」

「そうか、そんなお前の台詞に応えてこちらも全力でお前を屠りに行くぞ!」

「うん、そうしてください。皆一匹残らず美味しくぶち殺します♪」

「智史、あなたの雰囲気が怖い…。」

「あ、そうだった、すまんすまん。」

 

ーーファイナルファンタジー6にラスボスとして出てくる悪役のケフカみたいな気分で言っちゃったよ、まあケフカになって殺る前に自ら降伏したのを除いた奴らを一匹残らずハカイだハカイだ〜‼︎

 

智史は彼らを量子スキャニングやハッキングといったあらゆる手段を使ってこの宇宙という世界の中のことをとっくに知り尽くしてしまっていたのだ、勿論彼らのことも知り尽くしてしまっていた。今でも念入りに調べ直してはいるが。そして彼はそのデータを基にして信じがたいペースで強化を今でも行っているのだ。

彼、海神智史に平和的解決という言葉は頭の中にはない、言葉で解決しようにも口で言いくるめられて色々とややこしいことになると判断していたからだ。実際彼がいた民主世界ではメディアによる情報戦や宣伝戦略によって物理的実力を持つ国、人がそれよりも弱い者に翻弄され、劣勢に追い込まれたりしているのだ。自分の見方で行けば力関係だけで決してしまえば醜い醜聞など聞く必要もないのに、平等な民主主義というもののせいで力があるものが一つの感情に洗脳された無数の弱者に振り回されることが嫌で仕方がない。そのせいもあるのか、彼は口だけ上手、表面だけ上手、猛烈に威張っているように見える、感情論を使い世間を味方にしようとする人間は猛烈に嫌いだった。そういう人間は見ただけで殲滅してしまいたいのだ。また彼は自身の特性を理解しようとせずに自身をコケにしてくる他者が猛烈に嫌らしくて報復したいと考えていた、だがそれは感情論に基づく裁きを恐れて出来ずじまいで悔しかった。それらの影響からか彼は感情論無き世界を好み、感情というものを抹殺し、統率してしまえば世界は平和になれると判断していたのだ。実際横須賀でやったことは彼の考え方をよく表していた。またそれらの経験から得た考え方はーー

 

 

ーー力こそ総て。

 

 

その考え方が智史の心の奥底にあった。どんなものも形作るには何らかの力が必要と彼は判断していたのだ。例えば人の形を構成するには原子を結びつける力や密着力をはじめとした力が必要である。もしそれらがなかったら人の形などできないのだ。愛や理想といった感情論では決して物事の解決などしないし、物が動くことすらない。場合によっては逆効果に終わることすらある。ならば従わぬ相手を実力でねじ伏せ、叩き潰し、殲滅することで自分に対する禍根や憎しみを叩き潰し、自分を中心とした物理的、理性的な平和こそが正しいと彼は考えていたのだ。

だが群像達をなぜ生かして、彼らに味方したのかというと、己と境遇が似ているので抹殺するのは惜しいという点が主だが、すべて抹殺したら面白みが無いと判断した為でもある。勿論彼らが自分に都合のよくないことが起こしても問題ないように敵や己を分析し、己を積極的に磨いて彼らをいつでも抹殺できるように準備を進めていたのだが…。

 

「我々にに降伏するという選択肢はお前の中には無いのだな?」

「うん、ないよ♪降伏してもムサシに色々と無理難題を押し付けられて抑圧され、こき使われるだろうからね。それに今のあんたらの置かれている環境が破壊できないじゃん。」

「(見事に本質を突いているな…。ムサシはお前やオウミを快く思っていない…。仮に私がお前の上司として頑張ってもムサシの命に逆らわずにお前を上手に運用することなどできん…。それにマスターシップの事もある、私達は破片の力によって滅びの化身と化しつつある、今は踏ん張って耐えてはいるが、それは滅びの時を先延ばしにするだけだ、その時は確実だというのに…。)」

「(自らの自我が滅びかけてるんでしょ?敵対してるから早く楽にしてあげるよ♪早くうちに殺されたくて仕方がないんでしょ、マスターシップの配下の操り人形となって自我もない自分の肉体だけが残って歩いていくのは虚しいよ、ねぇ?)」

「(そうだな…。)」

「んじゃあ話し合いはお開き〜‼︎早く決戦始めよ始めよ〜‼︎」

「ああ、話し合いは終わりだ、これよりお前を撃滅する‼︎」

 

 

そう言い会話を終えようとする両者ーー

 

 

 

「ちょっと待った‼︎」

 

 

 

「ふぇ⁉︎」

「何⁉︎」

 

 

ーー来たか、群像。ヤマトやミョウコウ姉妹全員を引き連れて。

 

 

「彼女がヴォルケンクラッツァーのメンタルモデルだ。」

智史はヴォルケンの方を指差しながらそう呟く。

 

「智史、俺達と話を代わってくれ。」

「了解した、気分がちょっと乗りすぎてしまったから頃合いがいい。」

 

そして群像とヤマトがヴォルケンと話を始める。

 

「なぜ君達はムサシの命令に従っているんだ?」

「リヴァイアサンごと海神智史が我々を殲滅する為に行動しているからだ。」

「智史さん、なぜあなたは平和的解決を望まないの⁉︎」

「口と話し合いで解決するなら世界はとっくに平和になっている。私がいた元の世界も実力を伴ってこそ平和が実現したのだ。」

「だが、相手を殺さずに平和的に解決する事は出来るはずだ‼︎」

「そんなはずはない。利害が食い違い、一度でも対立していればその場は収まれどいずれまた醜い争いが起こる。そして禍根も相手にそれを絶やす気が無ければそのまま残ってしまい、それもまた醜い争いの元となる。そうなるなら相手を全部壊し尽くし、焼き尽くした方がマシだ。そうだな、ヴォルケン?」

「その通りだな海神智史。霧は元は個性を持たぬ存在だった、だが人類と戦う事で各々が人類から知識や戦術を学び取る為にそれぞれの方向にハードやソフトを進化させた結果個性や自我が生まれた。その自我がそれぞれが違う方向へと学習、進化した結果霧の中で内紛が起きたり意見が食い違ったりしている事が起きるようになった。実際お前と私との考え方の食い違いがそれを証明しているではないか。そしてお前の言う通り、口だけで解決する事はない、実力をもってこそ事は解決するのだから‼︎」

「そうだな、実力をもってこそ納得がいく結果となるのだ‼︎」

「違う‼︎それは新たな禍根や憎しみを生み出すだけ‼︎」

 

イオナがそう反論する、智史は真顔でこう切り返す。

「それは相手を一匹残らず殺さずに情けをかけるから生まれるものだ。一匹残らず殲滅して無に帰してしまえばもう禍根や憎しみも生まれない。」

「それは他人の喜びや幸せも無に帰す行為だ!」

「それでいい。私は自分だけが幸せになればいいのだから。お前達以外の他者と共存しようとしても誰も私のことを理解してくれようとしない、寧ろコケにされて遠ざけられた‼︎だから私は自分に負荷を掛けてくる存在は排除するか殲滅するのみ‼︎私には自分のことを知ろうとしない、知らない他者と共存することなどできない…。これまでもそうだった…。だから私は一度対立した相手と共存する努力をするぐらいなら相手を叩き潰し、皆殺しにする‼︎」

「でも理解し合えることはできるはず‼︎」

「無理だ‼︎どうやったら他人と理解し合える関係になるのかがわからない‼︎他人との距離感が分からない‼︎寧ろ負荷を掛けられるだけだ‼︎誰もかもかが私の特性を理解せずに変人扱いする…。だからだ…。」

「う…。」

智史の凄まじい剣幕に押し黙ってしまう群像達。

 

「ヴォルケン、話し合いは終わりにしよう、死闘の幕開けだ!」

「ああ、お前の願いに全力で応えよう!」

 

ヴォルケンがそう応える、すると彼女の真後ろに突如としてVTOLが着陸する。

 

「ハワイ沖で待っているぞ、海神智史‼︎」

「了承した!」

「お願い、あんな悲しい戦いは止めて‼︎」

「ヤマトか、無理だ!私達は霧。守るべきもののために戦うことこそそこに存在価値がある存在‼︎」

「それでいい!それでこそ殺り甲斐がある‼︎」

「先にハワイ沖で待っているぞ!さらばだ‼︎」

 

ヴォルケンはそのVTOLに乗り込む、そしてそのVTOLは飛び立っていくーー

 

「(海神智史、破片を取り込んだ私達を、終わらせてみせてくれーー)」

 

「(ヴォルケン、貴様の覚悟は悲愴だな、破片を取り出す術すら知らずに…。まあ私はそんなこと御構い無しに貴様らを楽しみながら殺しはするがな…。しかし、強くなり過ぎたな、ヴォルケンに奥義を出すだけの価値を見いだせなくなった程に。まあいい、もっと強くなろう。)」

 

 

日が暮れて、朱色に染まった空の中をVTOLが北東の方向へと飛び去っていくのを見つめている智史達。そして群像が智史に尋ねる。

 

 

「なぜ君は平和的な解決を望まないんだ⁉︎」

 

「口で一時的に解決しても結果的にはまた争乱が始まる。そういう風に人間の自我というものはできているのだ。彼女らは人間の自我に近いものを持ってしまった、私も元々が人間だったからそうだが。人間には元々戦争することで自滅するようにプログラムが組んである。それは自然の摂理ともいうべきか。霧は人間から戦略を学び取ろうとする際に自我と一緒に個々に異なる考え方とそのプログラムも取り込んでしまったようだ。そして人間は魂の髄まで根本から変わろうとしない、根本から変わることを恐れて口や感情論ばっか使ってその場を一時的に誤魔化している。そんなの一時的だからいつか終わる。そして根本が変わらないから醜いことが絶えない。では誰がこの根本を変えてこんな醜い争いを終わらせるというのだ?人が皆根本から変わることを拒否している。ならば私が直接終わらせてやる、圧倒的な力をもって奴らを悉くねじ伏せ、殲滅し、根本から書き直して永久の平和を作り上げるまで。破壊と憎悪を背負わずして、世界を変えることなどできるものか‼︎」

 

「違う、人を人でなくす必要がなくても平和は実現できる!思いが伝わり、受け継がれれば平和は続いていく‼︎」

 

「偽善者め…。そういう理想論こそが偽善だ!貴様らは自らを根本から変えることを拒否している‼︎そしてその根本から変わらないから貴様らの今の思いは徐々に薄れ、いつか絶えてしまう!そしてそれを忘れた貴様らの子孫どもがまた同じ過ちを繰り返すのだ‼︎」

 

「それを言っている君自身が変わることを拒否しているのではないのか⁉︎」

 

「そうだ!私自身まで変わってしまったら人間の根本を変えることが完全には出来なくなってしまうではないか!実行している本人が変わってしまってそれが中途半端に終わる形となっては逆効果だ‼︎」

 

智史は群像の指摘を認めた上で徹底的に反論した、それは自身を正当化する行為でもあった。

 

 

 

「相変わらず自分に正直ね〜、智史くん。ヴォルケンの所に一緒に行く?」

「いい提案だ、琴乃。私のそばにいつも居てくれるお前には感謝している。」

「その気持ち、いつもあなたの心の中にあるから嬉しい。さあ、行きましょう。」

「ああ。」

 

そして彼は水中で待機していた自身の艦体であるリヴァイアサンを呼び寄せ、サバイイ島洋上に浮上させる。

 

「行くぞ、琴乃。ハワイへ。」

「智史、自分の言うことを聞かないものは皆殺しにするというのか⁉︎」

「そうだ‼︎それ以外の選択肢など私の中にはない!お前達はその死闘をじっくりと眺めているがいい。」

 

そして彼は琴乃をお姫様だっこしてリヴァイアサンに飛び乗る、そしてリヴァイアサンに青い龍のバイナルが灯り、スラスターが咆哮を上げ、リヴァイアサンはゆっくりとハワイの方に突き進んでいく。

 

 

 

「智史…。くっ、俺達に君やこんな悲しい戦いを止められるだけの力があれば…。」

そう言い彼や非力な自分達を責める群像。だがそんなことを口にしてもヴォルケン達に対する彼の一方的な蹂躙の時を止められるはずがない。

 

「遂に智史があの化け物と戦争か〜‼︎ナ〜チ〜‼︎私も見たい〜‼︎」

「アシガラ、空気を読んで!」

「私達は化け物同士の戦争を止められないというのか…。」

「こんな戦いを止められないんじゃ、私達がいくら頑張っても無駄だよ…。めんどくさい…。」

「今の私達は指をくわえてこの戦いを見守ることだけしか出来ないのでしょうか…。」

そして彼と群像に関する一連のやりとりについてそれぞれの感想をつぶやく元霧の生徒会のメンバー達。

それと同じくして、ソロモン諸島マキラ島では。

 

「なんということだ、智史がヴォルケンやモンタナ様達と戦うとは…。」

「ヴォルケン様は奴とサバイイ島で話をされたそうです、その際にサバイイ島から奴のものと思われる巨大な重力震反応が検出されました。恐らく奴の実力はヴォルケン様達が準備を万端にされても敵わない程、いやそれ以上と思われます。」

「そして彼によって我々の武器や機関のロックが解除された、恐らく我々に選択肢を与えるだけの余裕が彼にはあるのだろう。仮に我々が逆らっても彼は見向きすらしないということだ、つまり我々は彼にしてみれば一蹴されるだけのちっぽけな存在だということだ…。」

「それが事実ならとんでもない化け物でしょうな、もしやマスターシップの力を取り込んだムサシすら蹴散らせてしまうのでは?」

「そうだな、そしてその予想は事実ということが確実になりつつある…。モンタナ様、どうかご無事で…。」

 

智史はノースカロライナ達のロックをあえて外した、そうすることで考えるための選択肢を与えたのだ。常に己を磨くことに余念がない今の彼は、仮に彼らが逆らいヴォルケンやモンタナ達と一緒に突っ込んできても余裕で蹴散らせてしまうのだ、だからこそできることでもあったのだ。

それはさておきとして、遂にリヴァイアサンごと海神智史とヴォルケンクラッツァーの2人が待ち望んだ決戦の時が迫るーー




おまけ
リヴァイアサンごと海神智史本人の信条。


力こそ総て

これは智史がかつて、自身の特性を知らない、そうだとしても理解しようとしない他者に自身のことを理解してもらい、打ち解けあおうとしても自身が話すことが不器用なこともあったのか、理解しあえずにむしろ逆に理不尽なことを受けてしまったことに基づく経験から備わった考え方である。要するに弱肉強食。
強いものが己に従わぬもの、己の為にならぬものを力でねじ伏せ、殲滅していくことで己を正当化していく考え方であり、同時に自然の摂理に基づくもの。
彼がリヴァイアサンのメンタルモデルとなってしまう出来事以前から彼本人にはその考え方は備わっていたが、その考え方を具現化する実力がこの出来事で付いたことで彼は文字通りその考え方を霧の艦隊相手に実践していく。
もちろん自身が強大なことに驕っていてはいつかは自身を上回る強さを持つ他者に潰されてしまうと彼はちゃんと考えていたので、彼は今でも敵と己を事細かに知り、己を徹底的に磨き、向上することに余念がない。
またそのような経験に基づく考え方からの影響からか、本人には一度対立したと判断した相手に対しては会話をして解決をしようとする気は一切無く、むしろ徹底的に殲滅し、総てを灰塵と帰すまで焼き尽くすことを至上としている。それは第六天魔王の如き振る舞いを具現化したものでもある。


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第19話 蹂躙される太平洋艦隊と陵辱される摩天楼

旧19話を削除して再投稿した完全な書き直しです。
なぜ書き直したのかというと、旧19話の戦闘描写にリヴァイアサンとヴォルケンクラッツァーに力強さと威厳がちょっと物足りないという決定的な不満を抱いたためです。
個人的満足に基づく一方的な蹂躙劇に変わったとはいえ、その前後のストーリーに影響しない域での改変に止めています。
ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。
それではじっくりとお楽しみください。


「サバイイ島で奴のものと思われる巨大なエネルギー振動が検出されました。」

「物凄い揺れだったな、まさに地球が悲鳴を上げているようだった。一瞬、恐怖を感じた」

「やはりヴォルケン様が言われていた通り、奴はとんでもない化け物だな…。」

「こんなに準備を整えても奴に勝てるのでしょうか…。軽く蹴散らされ、蹂躙されて終わりなのでは…。」

「そんなことで弱音を吐くな‼︎我々はヴォルケン様に仕えて死んでいくと肝を決めたのだ‼︎」

そうそれぞれの感想を呟くヴォルケン配下の超兵器達。そこへーー

 

「皆、無事か?」

 

「ヴォルケン様、ご無事で‼︎奴は我々の予測を遥かに上回る化け物のようでした、ですがもう準備は十分に整えてあります!これなら奴だろうと蹴散らせます‼︎」

「そうか、準備万端だな。さあ、我々の大切なものを壊しに奴がここに向かってくるぞ!我々が破片を取り込み、その苦痛に耐えながら準備をした努力が、今、報われようとしているのだ‼︎」

「そうです、我々は奴に勝ち、霧の未来を守るためにマスターシップの破片を取り込んだのです‼︎」

 

「さあ行くぞ、諸君‼︎」

「「「ウォォォォォォ‼︎」」」

 

ヴォルケンの掛け声に応えるのかのように皆が歓声を上げる、ヴォルケンの真意を知らずに…。

 

 

「(すまんな、皆。奴を倒すことはいくら私達が頑張ってもできん…。そして戦うことを避けても破片を取り除くことが出来ずじまいでいずれ私達も皆破壊の化身と化してしまうだろう…。もう私達は霧でなくなりつつあるのだから…。

海神智史、早く私達を殺してくれ。この世に破壊の化身と化した我が身を残して逝くわけにはいかぬ…。破片を取り込んだものも含めた私達全員がお前に殺されるのが私がやってしまったことの罪滅ぼしだ…。そしてモンタナ、オウミ…。お前達には私達のような罪や狂気はない、霧の未来を守り、育むために生き延びてくれ…。)」

 

そう考えるヴォルケン。そして彼女の己がしたことへの罪に対する償いとしての自殺願望はまもなく絶望と恐怖で徹底的に彩られた現実となって叶うこととなる…。

 

 

ーーそしてその頃、ハワイに向かうリヴァイアサンの艦橋ではーー

 

 

後悔、憎悪、現実、夢、理想、愛…。

皆元はどこから生まれてどこへ行くのだろうか?

私には分からない、それがいつ生まれたのかさえも。そしてこの先すらも。

群像と喧嘩をしたことや私がこれまで体験した理不尽な出来事はそれらが成り立った上で起きていることだから分かっている、だがそれが私のどこへと結びついていくのだろうか?

一時の喜び?それとも永久の後悔と憎悪?あるいは別の何か…?

皆最終的には虚無へと還るのか…?

いや、私だけが虚無に還れずに永久に存在するという罪を背負って生きていくのだろうかーー

 

 

「自身の今後の生き方について相当悩んでるみたいだね、智史くん。」

「ああ、そうだな、一時の感情で群像から離れてしまったことを後悔しているのかもしれぬ。」

「そうね、さすがにあれは少々度が過ぎてしまったかもしれないわね、あなたの言ったことの大半は間違ってはいないけど。」

「まあ群像も自分なりに考えてはいた、少なくとも力を持つ実力者相手には実力がなければ話さえできないということぐらいは理解していたのだろう。だがその実力は話し合いには積極的に使おうとしても敵対者の完全排除には使おうとせず話し合いだけで解決しようとした、その点で間違っている。その考え方では、抑止力というものを用いた利害の調整しか出来ん。これではいつまでも人間の本質は変わらず、平和が一時的に実現するだけであってまた醜い争いが起こる。ならば誰かが破壊や憎悪をもって人の根本を強引に作り変えていくしかない。だが誰もそのようなことをしようとしない、では私がそれらを背負って根本を作り変えようということだ。」

「責任感強いね、智史くん。そして人権を尊重する気も微塵もないのね。」

「そうだな、私は物事を成し遂げるためには如何なる手段も用いる。

人権、民主主義、平等、博愛、自由?それがどうした?それらは貴様らが自身の本質を変えられることを嫌がって自身の本質を守るために作り上げたものなのだろう?私にこのようなものを用いて人間の本質を変えるのを止めようとしても、無駄だ。私は貴様らが用いる感情論も言論も自身がやることを阻むようなら悉く粉砕して塵にしてやる。」

「うわあ、容赦無さ過ぎ…。」

「私は口が苦手だから口より手で解決する方が猛烈に好きだ。口だけだと納得がいかない。」

「本当に自分の欲望に素直で、他者のことは自分の為になるかどうかで決めちゃうところが強いよね〜。でも降伏した人達はちゃんと受け入れてるし、選択する自由も与えてるからみんな実はあなたがやってることをあまり強く非難できないのよね〜。そのぐらいあなたには良心はあるってことなのかな?」

「まあそういうことだ、良心までは捨てる気には全くなれない。そういえばズイカク、お前隠れているな?最初からお見通しだ。おとなしく観念して出てこい。」

 

智史がそう言う、すると艦橋の出入り口からズイカクがひょっこりと姿を見せる。

 

「私が乗り込んだ時点で気がついていたんだろ、ひょっとしたらお前は千里眼を持っているのか?」

「まあそうだ。敵味方もあらゆる手段を用い、徹底的にきっちりと見ておかないと気が済まないのでな。」

「お前は念入りだな。私は昨夜いっぱい食べてこの艦で寝込んでたら突然動き出したからびっくりしたよ、取り敢えずお前のことだろうから釣りをして色々と魚を獲っておいたぞ、後で食べるか?」

「ありがとう、そうだな、今食べようとしてもヴォルケン達と決戦を挑むから難しいかもしれん。そして魚の為に私の艦の中の一部を作り変えたみたいだな…。そうだ、琴乃、回収し損ねたピアノ達は全部回収しておいたぞ。」

「次元空間を通じて回収したのね、そうね、置き去りもちょっとまずいからね。」

 

そう会話する智史達、そして智史が望んでいた時が来る。

 

「敵艦影多数捕捉、超兵器も複数含まれていることを確認。ヴォルケンクラッツァーを旗艦とする艦隊と思われる。結構な数だな、艦艇型超兵器が53隻、航空機型超兵器が10隻、超空母ニミッツ級が100隻、新型戦艦が300隻、重巡が500隻、高速強襲型の巡洋艦が400隻、軽巡が1000隻、潜水艦が500隻、各種工作艦200隻か…。

ヴォルケン、それほどの兵力を揃えてしまうだけの努力は大したものだ。だが私は貴様のその努力は最初からお見通しでもう既に対処済みだ。だからその希望的観測を絶対的絶望に変え、貴様とその配下共に絶望と戦慄、悲鳴と恐怖を味あわせながら一方的に蹂躙して解体してやろう。」

そして智史は指を鳴らす、すると突如としてリヴァイアサンの後方に非常に巨大な次元の歪みが生じるーー

 

 

ーーヴォルケンクラッツァー側から見た光景

 

「な…、なんだあれは…⁉︎」

「巨大なワープホールが、発生しているだと…⁉︎」

「それも、ヤツ単体でこれ程のものを…‼︎」

彼らがリヴァイアサンを視認したのは確かなのだが、それよりも視界に写っている異常な光景の方に目が行ってしまっていた、というのも世界を仕切る壁のような巨大な次元の歪みが突如として生じたのだ。

そしてそこから無数の艦艇が次々と吐き出され、みるみるうちにリヴァイアサンを囲むように大軍が生成されていく。しかも恐るべきことに、ヴォルケン達の大艦隊を上回る勢いで数が揃えられる。

 

「ば…馬鹿な…‼︎」

「常に進化している圧倒的な力を持っている存在ということは聞いているが…、まさかここまでとは…。」

「信じられん…‼︎」

 

あまりに常識を逸している光景に戦慄するヴォルケンの配下達。だが驚くことはこれでは終わらない、戦艦や空母は勿論のこと、なんと彼がこれまで倒してきた霧の超兵器達を模したものまでもが姿を現したのだ。

 

「グロース・シュトラール…‼︎沈んだはずでは…‼︎」

「ハリマクラスにアラハバキクラスまで出現しただと⁉︎ヤツには死者を蘇らせる力があるというのか…⁉︎」

「沈められた艦がゾンビのように蘇るとは…、ええい、こんな馬鹿げたことがあるか‼︎」

彼に沈められた超兵器達そのままの姿を模して彼の配下同然として現れるという光景が現実となったことに驚き、恐れおののく配下達。

 

「我々とハワイ諸島を囲むようにクラインフィールドの結界が展開されています、ヤツは恐らく我々を徹底的に殲滅するつもりです!」

「糞、やりたい放題やりやがって…。だが我々を甘く見るなぁっ!全艦進撃せよ‼︎」

「「「おおおおおおおお〜〜‼︎」」」

 

そしてヴォルケンの配下達は全艦が鶴翼の陣で突撃を開始する、その陣容は無数の武者が敵陣に突っ込んでいく様相を呈していた。空母は艦載機を次々と吐き出し、先頭の部隊は彼の大軍の壁に穴を開けんと突撃を開始する。彼が元いた世界に限るとして、こんな規模を揃えられる国家は無い。だがこれはまだ常識的としか言いようがなかった、彼の艦隊はこれ以上に常識を逸していたからだーー

 

 

「ふん、全軍突撃のみか…。笑止、一つ残らず轢き潰し、粉砕し、解体してくれよう。全軍、進め…‼︎」

 

そして智史は自身の血肉で構成された「人形」達に進撃するように命ずる、そしてヴォルケンの配下達の6倍以上はあろうかという大軍がゆっくりと進撃を開始する。既にアルケオプテリクス10機を中核とした航空機群とミサイルの大群、複数の艦影が近づいていることが確認できた。

 

「敵艦隊を確認、な、なんで数だ…‼︎」

「まるで海が鋼鉄の艨艟で埋め尽くされているようだ…‼︎」

「狼狽えるな、全機突撃せよ!オリジナルを模したものがオリジナルに勝てる訳がなかろう!それに我々は破滅の苦痛と引き換えに圧倒的な強さを得たのだ!」

「敵艦隊、発砲を開始しました、ミサイルも多数発射された模様!」

 

ーーシャァァァァァ!

ーービュォァァァァァ!

 

ーードガァァァン!

ーーボガァァァァン!

 

「第12、13突撃部隊、壊滅!」

「アルケオペテリクス7号機並びに9号機、撃墜されました!」

「先頭の攻撃部隊が敵の対空砲火に捉われ、次々と被害が出ています!」

「くっ、好き勝手にさせるかぁ!全機、ミサイル発射!」

「突撃部隊は艤装を展開!突撃を開始せよ!」

「魚雷、テーッ‼︎」

「主砲、発射‼︎」

 

ーーヒュオオオオン!

ーーバシュウウウン!

ーーヒュルルルル‼︎

 

ーーブィィィィィィィン‼︎

ーーカキィィィィィン‼︎

 

敵艦隊と敵機から次々と放たれた光弾、ミサイルや超音速魚雷、侵食魚雷に反物質魚雷、振動弾頭までもが次々とリヴァイアサンとその艦隊を襲う。それは彼、海神智史がこれまで受けた攻撃の規模を遥かに上回っていた。しかしそれは全て迎撃砲火もしくはクラインフィールドの鉄壁で悉く無効化され、表面で爆発を引き起こすだけに終わる。しかもそれらはすべて彼ら=リヴァイアサン=海神智史の力として取り込まれ、智史を更なる頂きに導くだけに終わる。

 

「な…、なんだと…‼︎」

「馬鹿な、そんな筈はない…‼︎コピー品がオリジナルに勝るとは…、そんな馬鹿げた話があるかぁっ!」

「我々の破片を取り込んだ強烈な攻撃を食らってもケロリとしているとは…。」

「畜生、なんて奴らだ‼︎」

「くっ…化け物共め‼︎これだけの火力を叩きつけても平然としているだとっ、うおあっ!」

 

ーービュォァァァァァ!

ーーピィィィィィィン!

ーーキュォォン!

ーーパシュゥゥゥゥン!

ーーガガガガガガガガ!

 

ーーズバァッ!

ーーボガァァァァン!

ーーチュドォォォォォン!

ーーズビィィィィィン!

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「ぐぁぁぁぁぁぁ!」

 

そして彼らからの攻撃が再開される、模造品は勿論のこと、「霧」でさえ「尺」にもならないほどの凶悪性を持ち備えた彼の「配下」達による凄まじい蹂躙戦が開幕した。

それはまさにアニメ版本編のopの霧が人類を蹂躙している光景の再来だった、だが先ほどの攻撃だけで終わるならまだ可愛い方だ、なんと航空隊も展開して積極的に攻撃を仕掛け、敵の航空機をバタバタと叩き落としながら、ヴォルケンの配下達を囲むように積極的に突き進んでいく。

 

ーーザァァァァァァァ

ーーゴォォォォォォォ

ーーキィィィィィィィィ!

 

「うわっ、来るな、来るなぁ〜‼︎」

「ひっ、こっちに来ないでぇぇ‼︎」

「来るな、あっちに行けぇぇ!」

「ダメだ、逃げ切れない…!」

 

ーードガァァァン‼︎

ーーガリガリガリガリ!

ーーギィィィィィィ!

ーーボカァァァン!

 

彼らの進路上に居た敵艦は彼らのラムアタックを次々と船体に受けていく、そして一際高い接触音が立つや否や、次の瞬間には爆発を引き起こし、跡形もなく四散した。

そして生き残った艦にも光子榴弾砲や各種レーザー、ミサイル、ガトリング砲、レールガン、大口径主砲の弾丸が暴風雨の如く降り注ぎ、次々と消し飛ばしていく。

潜水艦だろうと御構い無しに破滅は訪れ、さっきの意図返しと言わんばかりに水上艦、潜水艦、対潜ヘリ、航空機達から次々とASROCや侵食魚雷、超音速魚雷、共振魚雷の弾幕が雨霰と降り注ぎ、こちらも海上と同様の悲惨な結末を辿った。

そしてそれらが生み出す光景はあらゆるものを飲み込み、破砕していく大津波、もしくは羊の群れを容赦なく蹂躙していく餓狼達のようであった、あまりにも力が違いすぎたのだ。しかしこれでも悪夢は終わらない。

 

「ふふふ、これでは生温かろう?次は用意してあるぞ?」

 

この戦闘の様相を見てまだ満足していなかった智史がそう嬉しそうに呟くと、今度は上空に巨大な時空の歪みが生じ、そこから無数の大口径ガトリング砲をこれでもかとばかりに積み込んだ巨大な飛行物体と各種ミサイルのVLSを大量に積み込んだ巨大なミサイルコンテナが無数、そしてヴリルオーディンのコピー達もそこから現れる。

 

「さあ、この雨を浴びて、穢れを祓い落とすがいい。」

 

そして更なる地獄絵図が開幕する、その言葉と同時にガトリング砲の弾丸とミサイルの雨が光の豪雨となって容赦なく降り注ぎ、生き残った者達の穢れを落とすどころか容赦なく彼らを消し飛ばし、抉り、焼き尽くし、塵どころか粉一つさえ残さずに彼らを轟音とともに完膚なきまでに消し去った。

もはやそれはオーバーパワーによる一方的な地獄絵図と阿鼻叫喚の嵐、そして完璧なオーバーキルだった、なにしろ最大限の努力をして臨んだ決戦だというのにその結果はその努力さえ軽く吹っ飛ばす一方的な数と力の暴力が盛大に振るわれたことによる敗北と殺戮、そして蹂躙というものだったから。

 

ーーキュォォン‼︎

 

ーーカァァァァァン‼︎

 

ーーピュォァァァァ‼︎

 

ーーキィィィィィィン‼︎

 

そしてその蹂躙劇が終わった後に忘れるなと言わんばかりに突如として飛来する緑のビームと青い光弾、それはリヴァイアサンに着弾するも一瞬で超微粒子レベルで吸収されて終わる。

 

「さて、ヴォルケンよ。残るは貴様だけだ、だが貴様に奥義を披露するだけの価値はなくなるほどに私は強くなりすぎてしまった。よって貴様を一方的に斬り刻んで嬲り、抉り、臓物を晒し、そして徹底的に解体してやろう。」

そしてその言葉とともに青の大軍は霧の究極超兵器ヴォルケンクラッツァーに大挙して襲いかかるーー

 

 

ーー大戦艦モンタナの独白

 

 

ーーそう、ヴォルケンと私達は最初から彼の「手の平」の中から逃れられなかったのね…。

 

「た、た、助けて、うっうわぁぁぁぁ‼︎」

「ヒイッ!ギャ、ギャァァァァァァ‼︎」

「破片を取り込んだオリジナルが、コピー品に負けるとは、はっ、ぐはぁっーー」

「ヴォルケン様、万歳ーー」

「だっ、誰かっ、助けてぇぇぇ!ひっ、ぎゃっ、ギャァァァァーー」

「手が、手がぁぁぁぁぁ!」

「来るな、こっちに来るなぁぁぁーー」

「ギャァぁぁぁぁぁぁ!」

 

「み、みんな…。そんなの…、そんなの…、嫌だぁぁぁぁぁぁ…‼︎」

 

オウミが悲鳴をあげて泣き叫ぶ中、ヴォルケンの命令に従って彼が来る前に予め避難しておいた私達はヴォルケン達を囲うように展開されたクラインフィールドの蚊帳の外からリヴァイアサンとその尖兵達による一方的な虐殺劇を見ているしかなかった。

ヴォルケンの当初の作戦計画は彼を圧倒的な数を生かした飽和攻撃によって動きを封じて彼を屠るという内容だった、しかしその作戦の内容に裏腹に「破片」を取り込んでしまったことによる罪科を償うために自滅を望む彼女の真意が見え隠れしていた。

そして彼は単体で来ることが予想され、実際に彼は「単体」でここまで来た。しかしその後に想定を超える事態が発生する。

 

「モンタナ様、リヴァイアサン周辺に次元の歪みが突如として発生!なおも規模は増大中!」

 

なんと突如としてワープホールのような空間の裂け目が形成され、そこから青いバイナルを輝かせる大軍がわらわらと吐き出されてくる。大軍はみるみるうちにヴォルケン達の規模を上回る規模に成長し、逆にヴォルケン達を包むような陣形を形成した。

 

「な…、なんてことだ…‼︎」

「くそ、ヴォルケン様の努力は無意味だと、そう言いたいのか、リヴァイアサン‼︎」

「おまけに太平洋にいた奴らやヒエイの奴に付き従ってた奴の姿形を模したものを大量に作りやがって!許さねえ!」

 

あまりに無常識な光景にあるものは戦慄し、あるものは憤る。だがそれはこれから始まる戦闘を変えるものではない。

青の大軍とヴォルケン達の艦隊は交戦を開始する、そしてヴォルケンの願い通りであり、私にしてみれば想定していたことではあるが、それでも常識を逸する悪夢のような光景が開幕する。

 

 

「た、た、助けて、うっうわぁぁぁぁ‼︎」

「ヒイッ!ギャ、ギャァァァァァァ‼︎」

「破片を取り込んだオリジナルが、コピー品に負けるとは、はっ、ぐはぁっーー」

「ヴォルケン様、万歳ーー」

「目が、目がぁぁぁぁ!」

「だっ、誰かっ、助けてぇぇぇ!ひっ、ぎゃっ、ギャァァァァーー」

 

「そ…、そんな馬鹿な…。」

「ありえん、奴ら本気を出しているのかぁ⁉︎」

「馬鹿な、強過ぎる…。」

「破片を取り込んでも、無意味だというのか…⁉︎」

「逃げろ、おい、逃げるんだぁぁ‼︎」

青の大軍は仲間達の攻撃を次々と弾き返し、そのエネルギーを己のものにどんどん変えていく。対して彼らに浴びせられる攻撃は次々と仲間達を討ち取り、粉砕し、砕き、溶かし、消し去っていく。破片を取り込んだ超兵器達もその悲惨な運命の定からは逃れられずに次々と沈められていく。

 

ーーザァァァァァァァ

ーーゴォォォォォォォ

ーーキィィィィィィィィ!

 

「逃げろ、逃げろぉぉぉぉ!」

「奴ら、単に沈めるだけじゃなくて攻撃をかましながらこっちに突っ込んでくるぞ‼︎」

「逃げろ、殺されるぞぉぉ‼︎」

 

ーードガァァァン‼︎

ーーガリガリガリガリ!

ーーギィィィィィィ!

ーーボカァァァン!

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「うがぁぁぁぁぁぁ!」

 

そして彼らは艦載機を繰り出して敵を蹂躙し、甚振りながら進路上にいた仲間達を我が物顔で蹴散らし、津波が街を飲み込んでいくのかのように破砕していく。しかもこれでも物足りんと言わんばかりに彼、リヴァイアサンは上空に無数の構造物を出現させるとその構造物から一斉に光の豪雨が降り注ぎ、瞬く間にもはや死にかけた家畜以下の状態となってしまった仲間達を容赦なく吹き飛ばし、骸一つ残さずに破砕していく。

 

「なんなの…これ…。」

「なんなんだよ、これはぁぁぁ…⁉︎」

「おい、滅茶苦茶じゃねぇかぁぁ…!」

これはもはや戦闘ではなく、大自然の驚異のような驚異的な力が振るわれたことによる一方的な虐殺劇だった、最強の練度、装備を揃え、万全の装備で臨んでも大自然の驚異の前では紙切れ同然に一方的に蹴散らされ、滅茶苦茶に破壊されたのだ。

まさに、霧が人類との戦いで人類に味わせた一方的な結末を今度はこちらが身でもって味わされていた。

 

「ふっ、お前の軍はお前一色だと見える、いくぞ、海神智史ィィィィィ!」

 

仲間達が蹂躙されるのを後方で見ていたヴォルケンが動き出し、彼らに襲いかかる、彼女は単なる無能なのか?否、自分を終わらせるという観点から見ればむしろそれは適切といえよう。

 

ーードコドゴドゴドゴドゴドゴドゴォン‼︎

ーーパシュウウパシュウウパシュウウパシュウウパシュウウ‼︎

 

ーービュゥゥゥゥン‼︎

ーーカキキキキキイン‼︎

 

ヴォルケンは破片を完全にフル稼働状態にして、紫色の禍々しいオーラを纏い艤装も船体を上下に割って展開する、そして同時に攻撃も熾烈さを増す。レールガン、120㎝砲、δレーザー、光子榴弾砲、反物質ビーム、多連装超重力砲といった威力を増した全ての攻撃が烈火の如く彼らに次々と叩き込まれる。

更に艦首のハッチを開いて連装波動砲と多連装超重力砲を艤装展開し、重力子ユニットをフル稼働させてエネルギーのチャージを始める。そしてチャージを終えると強烈な閃光と共に強烈なエネルギー波を彼らに向けて放つ。

彼、リヴァイアサンが現れる前に、一度だけだが、霧の合同演習でヴォルケンと模擬戦をしたことがある。その時の私は彼女が不完全な状態ーー器に破片が入っていなかった状態だということは知らなかったものの、彼女の圧倒的火力にモノを言わせた攻撃に終始守勢に追いやられて彼女の妹、ルフトシュピーゲルングが止めなければ殺されるどころか地球が危うく滅びてしまうところであった。

実際にヴォルケンクラッツァー級に敵う霧の超兵器は存在しないという結論がこの他の模擬戦で出ていた、しかも、破片を入れていない不完全な状態でこれなのだ。これで破片を入れたら彼女に敵う存在などない。

だがしかし、実際に起きている光景はその「最強」を圧倒的な力で否定するという「現実」だった、なんと一連の攻撃による爆煙が消失していく中で彼らは無傷で平然とその中から姿を現したからだ。彼女が破片を取り込んで全力を出しても全く敵わない、いや全く足元にさえ及ばない程に絶望的な差があるという現実が目の前で繰り広げられた。

 

「そ、そんな…。破片を取り込んだヴォルケン様の攻撃さえ効かないとは…。」

「だ…、駄目だ、霧の太平洋艦隊はもうおしまいだぁぁぁ‼︎」

「ヴォルケン様、お願い、逃げて、逃げてぇぇぇ‼︎」

あまりに一方的な現実に彼らの希望はあっという間に恐怖と絶望、そして悲鳴へと変わっていく。

 

「流石だな海神智史…。霧の究極超兵器の名に相応しい威厳だな…。」

「やはりその程度かヴォルケン。では今度はこちらからだ。」

 

ーーキュォォキュォォキュォォキュォォキュォォン‼︎

ーービュォォォォォォォォン‼︎

ーーパシュパシュパシュパシュパシュゥゥゥン!

ーーガガガガガガガガ!

 

ーーズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガアァァァン‼︎

ーーボグァボグァボグァボグァボグァボグァボグァボグァボグァァァァン‼︎

ーーズビュズビュズビュズビュズビュゥゥゥン!

 

「げぼぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」

 

彼がそう言うと、霧の超兵器達の姿を模した彼の「人形」達はヴォルケンに一斉に攻撃を放つ、瞬く間にヴォルケンのクラインフィールドやエネルギーリフレクターをはじめとした彼女を守る「盾」は豆腐でも刺し貫くのかのように次々と貫通され、彼女の船体を貫き、各兵装を片っ端から吹き飛ばされ、重力子ユニットも次々と破砕されてしまう。もちろん自己再生強化・進化システムは稼働させてはいたものの彼、リヴァイアサンの分身であり、彼の手駒である「人形」達が放った攻撃エネルギー量は想定していた量を遥かに上回るものだったのですぐにパンクして機能停止に追い込まれてしまった。瞬く間に彼女はその威容すら見る影もない所々が抉れ飛び、彼方此方に巨大な刃物で刺し貫かれたような痛々しい爪痕が残った燃え盛る廃墟同然の姿となってしまった。

 

「嫌ぁぁぁ‼︎ヴォルケン様ぁぁぁ‼︎やめてぇぇぇぇ!」

「やめろ、あの方を殺すのは止めてくれぇぇぇ!」

「ひっ、嫌ぁぁぁぁ!」

 

あまりに凄惨な蹂躙劇に悲鳴をあげて泣き喚く仲間達、しかしこれは序の口だった、なんとリヴァイアサンから蒼色をした長槍と言ってもいい重力子の槍や巨剣が次々と突き出され、彼女の船体を貫き、宙へと強引に持ち上げる。

 

「さぁ〜て、どこまで耐えられるかなぁ〜?」

 

船体の機能を散々に破壊されたヴォルケンにはそんな陵辱劇の進行を止められる力などなかった、彼女は重力子の槍と巨剣を振り回してくるリヴァイアサンに船体を宙に放り投げられ、重力によって落ちてきたところを刺し貫かれ、また突かれて放り投げられて宙で体を回され、その度に血飛沫と肉塊、爆発と悲鳴をあげて体を抉られ、内臓をぶち撒かれて船体をバラバラに引き裂かれていく。

 

「もうやめろ、やめてくれぇぇぇ!」

「嫌だ、嫌だ、ヴォルケン様ぁぁぁぁ!」

 

先程よりも残虐性と陵辱性を剝ぎ出しとした惨たらしい光景に泣き叫び、泣き喚く仲間達、もはや彼女達の心の芯は壊れ果て、冷静に考えることさえできなくなってしまう程だった。

そしてそれは命を軽く弄んで殺そうとしている残虐性が剝ぎ出しとなっている悪鬼とそれを見ている輩がいる光景だった、といっても実際には彼1人だが。

そして一斉に重力子の槍と巨剣がヴォルケンの船体を一際と深く貫く、次の瞬間、ヴォルケンの船体は想像を絶する大爆発を引き起こした。

 

ーーもはや一方的だな…。こちらの奥義がことごとく通用せずに吸収され、逆に弄ばれてヤツの奥義を拝むことさえ許されずに無様な形で死ぬとはな…。だが海神智史、我が生涯の最期にお前は霧の未来を託すにふさわしい存在であるということを見極められた…。モンタナ、後を頼んだぞ…。

 

その爆発が生じる瞬間、ヴォルケンの声が聞こえたような気がした、その声はリヴァイアサンはマスターシップを倒せる存在であるということを見極められた、だから悔いは無いという感じで終わった。

私はこの声を聞いた瞬間、もう彼女には2度と会えないーー彼女の死と確信した。そしてその爆発で生じた閃光と爆煙は天まで届くほどだった、そしてその爆発が引いた後には彼女の姿は無かった。

 

「ヴォルケン様のメンタルモデル並びにユニオンコアの反応、確認出来ません…。」

「そんなのありえない…、認めたくない…‼︎」

「そんなの…、嫌だ…。」

「ヴォルケン様ぁぁぁぁ、ヴォルケン様ぁぁぁぁ…。嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ…!」

 

あまりに凄惨な陵辱劇が齎したヴォルケンの死という結末に泣き喚き、絶望する仲間達。ヴォルケンの願いである罪科の償いは達せられたが、その際に見せつけられた圧倒的絶望と恐怖に蹂躙された私達の心は壊れてしまった、辛うじて私は壊れるのを食い止めたが。

既にクラインフィールドの蚊帳は消滅していた、そして彼の「人形」達が用を終えたのか青白い光の粒となって消え、ヴォルケンの船体の残骸が変わった光の粒と共に光の雪が降ってくる光景はとても美しかったが、どこか哀しかった。

圧倒的な暴力によるあれ程の蹂躙劇と陵辱劇を見せつけられた私達には抗うという気力さえ無かった、そしてヴォルケンの予想が正しいことを祈ることだけしか今は出来なかったーー

 

ーーイ401のCIC内部

 

「おいおい…、これって大艦隊戦じゃなくて虐殺じゃねえのか?」

「まさに一方的すぎますね…。」

「そして俺たちはこの戦いに参加する権利さえ与えられずに指を咥えて見てるしかないというのか…?」

「群像、そんなことは無いと思う…。でも、雪、綺麗…。」

「本当だ、雪が降ってる…!」

「綺麗…!」

 

そしてスキズブラズニルでも

「何と言うべきなんだ、これは…。解体ショーか?」

「智史さんの実力は底が見えませんね…。」

「さすが破壊神‼︎あたし達を散々に打ち破った時のように一方的だぁ!伝説の怪物の名を冠してるだけあってすげぇぇぇ‼︎」

「皆さん、もはや誰も彼を止められません、実力を用いた戦闘では。彼を止めるとしたら言葉を用いるしかありませんね…。」

 

「あ〜、楽しかった楽しかった。でも事前のシミュレーション通りになることは理解していたとはいえ、あっさりと終わっちゃった。これ、どう表現したらいいんだろう…。」

「あの大ボスが、一方的に…。やり過ぎとはいえ、凄すぎるな、お前!その強さは絶え間なく自分を磨き続けている努力の賜物だぞ!」

「確かにそうだけど…。一方でこの世界の敵に実力面で歯ごたえを感じなくなってしまっているような…。とにかく魚食べようか、2人とも。」

「そうしましょう。ズイカクは私達に料理を食べて欲しくて魚を釣ったんだから。それにしても、「雪」が綺麗ね。」

「そうだな、それが哀しみによる美しさを醸し出しているからいい。」

 

そして智史はズイカクが釣った魚が保管してある場所に向かう、

 

「やっぱり緑色か…。お前は緑が好きだからな…。」

「そうそう!お前の船の中の空間はすっきりしすぎてるから大型の冷蔵庫を取り付ける改装の際に一緒に緑色にしたのさ!」

ーーまあ、いいか。

 

そして彼らは魚を次々と冷蔵庫から出して調理室で捌く。

 

「これは骨を全部抜いた方がいいんだな?」

「そう!飲み込む際にトゲが刺さるから!」

「痛っ‼︎」

「大丈夫か、琴乃?手当をしておけ。」

 

そしてご飯を盛って魚の捌きと一緒にリヴァイアサンの左舷飛行甲板上に並べる、しかし何故か数が多い…。

 

「ズイカク、蒔絵達に私の居場所を教えたのか?」

「そう!お前はうっかりしてる所あるからな!」

 

そして南西の方から卵の形をした飛行物体がやって来るーー

 

ーーキィィィィィィ‼︎

ーーガチャン‼︎

 

 

「突然いなくなったと思ったら千早艦長達と喧嘩をしてそのまま逃げて黙ってっぱなしなの⁉︎だ〜め〜で〜しょ〜?これだといつまでも仲直り出来ないよ〜?」

「ああ、そうだな…。」

「ズイカクが居場所を教えてくれたお陰でお前が何処に行ったのかが把握できた。霧の太平洋艦隊の大半を壊滅させたらしいな。」

「ああ、旗艦も含めた多数の超兵器と艦艇を撃滅した。」

「本来ならため息だけしか出ないが、今回は違うぞ、千早群像に謝ってこい。私も手伝ってやる。」

「そうだな、すまなかった…。」

「モンタナ達は401やヤマトがお前の付き添いであることを理解した瞬間、全艦が投降した、ただ一隻を除いて。」

「なるほどな…。彼女は私を極度に恐れているのだろう。

了解した、料理を食べながらその場所に向かうぞ!」

「智史くん、もしあなたに何かあったら私があなたを庇うわ。一緒に行きましょう」

「ありがとう…。琴乃。」

 

そしてリヴァイアサンはモンタナ達の所へと向かう、既にバイナルは消えていた。

 

 

ーーその頃。

 

「なんで私達だけ置いてけぼりなのよ〜‼︎」

「お姉ちゃん、怒らないで!スキズブラズニルでの船体の大幅改装で時間が掛かっちゃったから仕方がないじゃない!」

「2人とも、さっきの戦闘のデータを解析した結果なんだけど、智史の奴、太平洋艦隊を一隻で壊滅させたそうよ?」

「智史ちゃん、何処までも強くなってくわね…❤︎」

「あと蒔絵とハルナ達に与えた私特製の卵型UFO、結構使えるみたい。本来ならイオナ姉様と一緒に2人っきりでデートをする為に作ったんだけど」

「そう、なら私も一緒に2人っきりで乗ってみようかしら…❤︎」

「げっ…。それはやめて…。」

 

そう会話をするタカオ達。彼らは既に降伏したノースカロライナ達も一緒に引き連れてモンタナ達の所へと向かっていたーー

 

 

彼らはそれぞれの事情に決着を付けるためにモンタナ達と群像達がいる場所へと向かっていくーー




おまけ

リヴァイアサン=海神智史が新たに習得したオプション

メギド

元ネタはエタってしまった某小説より。
智史がこれまでの進化をし続けたことで新たに反物質を生成、安定的に運用可能となったことに加え、これまで習得した各オプションの知識を基にして開発、実装された究極の大量殲滅兵器。
まず船体の艤装を展開し、重力子ユニットをエネルギー集約レンズにエネルギーを集中させる形で展開する。次に重力子エネルギー、波動エネルギー、反物質エネルギーをそれぞれのエネルギーベクトルを強制操作してタイミングを調整することで、異常な勢いで共振させ、総破壊エネルギー量を高める。その上で重力子ユニットを固定する為のパーツの一部を変形させたエネルギー集約レンズにそれらを集約することで発射される。
その威力は現時点のものとはいえ、宇宙を数十兆個は吹き飛ばしてしまう程。もちろん現時点のものと付け加えたのは今後更なる進化によって威力も効果範囲も上昇、拡大していく為である。
ちなみにチャージ中でも隙は無しに等しく、多層クラインフィールドや新しく習得した量子フィールドを組み合わせた多層複合フィールドや本体の強制波動装甲や量子クリスタル装甲、そしてそれらを支える自己再生強化・進化システムによって悉く阻まれ、吸収され、挙句には自己強化に回されてしまうのだ。
今作では御披露目する機会は無かったものの、いずれバリエーションを変えて披露される可能性がある。


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第20話 ヴォルケンが託したかったものと智史の心境、そしてサンディエゴへ

今作は智史と戦わずに降伏することで生き残ったモンタナ達の描写を背景として描いています。
あと主人公である智史の個人的な考えの描写も強いです。
それと前作の戦闘描写に個人的な不満を感じたので新規に表現を追加いたしました。
書き直した前作も一緒に今作もお楽しみください。


「彼が…、ここに…、来る…。嫌、いやあああ‼︎」

「オウミ、落ち着いて‼︎暴れても殺されるだけよ!」

「落ち着いてくれ!大人しくしていれば彼は君を殺しはしない!」

「あの人は次々と私の友達を嬉しそうに殺していった、そんな人を誰が信用できるというの⁉︎」

オウミはそう言い艤装を展開してモンタナ達の制止を振り切ろうとする。

 

「くっ、電子撹乱魚雷発射!オウミを止めるんだ!」

そして401とヤマトから電子撹乱魚雷が発射される、オウミは迎撃システムをフル稼働させて何発かは撃破したものの、あまりの弾速のために処理が追いつかず、残りの命中を許してしまい、爆発によるEMPによって艦の機能が一時的に停止した。

 

「皆、オウミの各システムの制圧、急いで!」

「モンタナ様、止めてください!そんなことをしていたらあなたも彼に殺されてしまいます!」

「彼を信用できないというの⁉︎あなたが彼を憎み続けていたらそれは破滅的な報いとなって返ってくるわ‼︎」

「放して‼︎」

 

オウミはEMPによる機能停止状態を強制解除し、モンタナ達と群像達を蹴散らして逃げようとする。

 

「オウミ、止めて‼︎」

「あなたは彼に騙されている‼︎邪魔をするなら薙ぎ払うまーー」

オウミが彼らを自身の全身の火器を用いて蹴散らそうとした、次の瞬間ーー

 

 

ーーピーピーピーピー‼︎

ーーズヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ…。

 

「コントロールシステムがロックされた⁉︎どうして⁉︎」

 

突如としてオウミの艦体の機能が完全に停止する、それはモンタナ達のものでもなく、群像達のものでもなかった。

 

「来たのね、リヴァイアサン…。」

「智史‼︎」

 

それは、南の方から姿を現わしたリヴァイアサン=海神智史によるものだった。彼は彼女の全システムをハッキングし自身の制圧下に置くことで彼女にコントロールロックを掛けたのだ。おまけとばかりに彼は彼女のエネルギーを全部吸い取ってしまう、ただでさえ十分すぎる勢いで、その強化ペースも滅茶苦茶な勢いで上げているという状態で強くなっているというのに。使えるなら他のものも取り込んで自身の強化に回してしまう彼は力に関しては何処までも貪欲だった。

 

「う、動いてよ、今動かないと死んでしまうのに‼︎」

「私から逃げようと結構焦っているな、オウミ?」

「ヒッ‼︎」

智史はそう呟く、そしてリヴァイアサンはオウミの方にゆっくりと近づきながら彼女に前部砲塔の砲身の狙いを定める。

 

「いっ、嫌ああああ‼︎こっちに来ないでぇぇぇ‼︎お願い、殺さないでぇぇぇ‼︎」

「まさか、オウミを殺す気⁉︎」

「智史、止めてくれ‼︎」

 

ーーブンッ‼︎

 

「あれ…。何で…?ね…む…い…。」

 

ーーバタッ‼︎

 

 

「オウミ‼︎」

「安心しろ、オウミのメンタルモデルとしての機能をタイムリミット付で強制停止させた。タイムリミットは今から24時間後だ。」

 

智史はcadenzaでムサシがイオナにしたことの真似をしてオウミの機能を一時的なものとはいえ完全に停止させた。勿論永久的に止めたり殺したりとかの他のことはやりたい放題なくらいに力が有り余り過ぎているのだが…。

 

「とにかく、よかった…。あなたが霧の究極超兵器、超巨大戦艦リヴァイアサン殿ですね?」

「あなたが太平洋艦隊副旗艦モンタナ殿ですか。そうです、私は霧の究極超兵器超巨大戦艦リヴァイアサンであり、海神智史という存在でもあります。」

「太平洋艦隊旗艦ヴォルケンクラッツァー殿からあなたに「私が敗れたら投降するように」と命令を受けました、この戦闘に関する全責任は私が取りますので、部下の命は奪わないで下さい。」

「了承しました、速やかに武装を解除して下さい。」

 

そして智史はエネルギー供給が切断された全艦の武装にセーフティを掛けていく、勿論抵抗しても無意味な相手なので、武装解除は速やかに進んだ。

 

 

「モンタナ様‼︎」

「ノースカロライナ、マミヤ⁉︎やはり生きていたのね‼︎」

「ええ、彼は逆らう者には一片の情け容赦無く、片っ端から血祭りに上げています、ですが逆らわない者には比較的寛容です。」

「そう…、ヴォルケンが言ったことは本当だったのね…。」

 

 

そして智史は401の前部甲板にジャンプで移動する、

 

「智史…。なぜここに来た…?」

「ここに来るという運命が有ったからだ。さっきは血が上り過ぎてしまったようだ、すまない。」

「君は「力こそ総て」とそう言っていた、確かに君が言った通り、この世界の国々は自分達の利益で生きることを優先している、自分達の国民を養う義務があるからだ。そしてその国々の「個性」が異なるためにその違いから戦争が起きたりすることもあった。それで自分達が滅ぼされるのを防ぐ為に抑止力や実力を付けた、だから君が言っていることはパワーバランス上の意味合いでは間違ってはいない。

しかしそれを振りかざして自分に合わない他者を片っ端からねじ伏せ、殺し尽くし、焼き尽くしても、君は物質的には平気な顔で生きられるだろうが本当にそれでいいのか?君がそのようなことをする理由はわかっている、他者に認められて欲しい、打ち解けあいたいという願望が裏切られたことから来ているのだろう?他人は単なる力だけでは変わらないものと君は信じているだろうから他人を実力をもって力づくで叩き潰してきた、だがその結果は他者が皆いなくなって君には孤独しか残らない、これでは君の願いが叶うことはない、それでいいのか?」

「…。」

 

ーー群像、確かにその通りだな…。

私は友達も、彼女も欲しいというごく普通の願望を持っていた人間だ、だが私がごく普通の人間とは違っている特性を持っているだけで私は周りの人間に奇異な目で見られ、蔑ろにされたり、虐めに遭ったり、無視されたりした。私はそんな状況を変えたかった、皆と打ち解けあい、恋もしたかった。しかしそれを口にしてもそれは当たり前だからみんなの常識に従いなさいという感じの言葉だけが返ってきた。私はそのことに傷つき、悲しみ、怒り、全てを焼き尽くしてやろうといつしか願うようになっていた。そして私はこの事件でとんでもない力を得たので己が倒されぬように、自己を貫けるように己を研鑽しつつ自分と相容れぬと判断した霧を蹴散らし、皆殺しにし、灰燼にしていった。だが、それは虚しさというものをどこかで生み出していた。己に負荷を与えると判断した他者を全て消滅させてもそれでその他者が居なくなって負荷が消えただけで、その他者が自分のことを理解してくれるようになった訳ではない。その行為は一時の勝利の美酒に酔いしれるという結果と同時に永久の空漠を生み出したという結果も生み出したのだから。

 

 

「智史、あなたは自分を嫌う他者を激しく憎んでいる、だけど他者を憎んでもそれは新たな憎しみを生み出すだけ。憎しみは連鎖する、それを嫌がってみんな一人残らず消し去ったらあなたには空漠しか残らない‼︎なら他者を憎むのを止めればいつか気がついて、その憎しみは消えていく‼︎」

「それはいつになったら消えるというのだ?」

「わからない、でもいつか気がついてくれるはず‼︎あなたから変わっていけば時間がかかるけどあなたを取り巻く環境もいつか変わっていく‼︎」

 

 

不確定だな、それは徒労にも終わるかもしれないということだぞ?

確かに自分から変わっていけば周りの人間がそれに気がついてくれるという可能性はある、しかしその可能性は不確定だ。気づかない可能性もある。特に視野狭窄に陥っている人間なら私が変わったことに気づかずにいつも通りに非難するだろう。

なら自身を取り巻く環境を変えるというのも手だ。確かにそれは自己を変えた自分なら受け入れられやすいのかもしれない。しかし一度生まれた負の感情はいつ消えてくれるかは分からない。ひょっとしたら未来永劫に続くのかもしれない。そんなものをいつまでも味わうのは御免だから私はその感情を持つ他者を次々と惨殺し、消し去ろうと考え、それを実践しているのだ。

だがそれはさっき呟いたように虚無しか残さない、一人残さず消し去ったら私は永久に他者との交わりを求めるという飢えに苦しめられるだろう。それは非常に辛い、一時だけでも嫌だ。だがらといって自身のことを忌み嫌う他者を消し去らなければ気が済まず、それ以外のことはどうすればいいのか分からない、他者の心の中を覗いて性格を知り対策を練り策を弄したり、その性格を強引に作り変えたりという方法を除いて。これらの方法を使っても心は満たされない、自分が望んだ形では無いのだから。これら抜きでどうやったら自己を抑える事なく満足できる形で自己を変えられ、他人と確実に理解し合えるのか?

誰か…、誰か…。教えてくれーー

 

「あなたはどうすれば自分が満足できるような形で我がたまりを持ってしまった他者と再び理解し合えるのかというプロセスを知りたがっている、しかしそんなものは存在しない、あなたが他者の心を覗いて対策を練って策を弄して、そして彼らの自我を完全に叩き潰し、根本から洗脳してしまうという方法を除いて…。いずれもあなたが望むような形では無い…。」

「そうだな…。これら抜きでは私は他者の気持ちさえ知る事が出来ない、そして私は気分屋だから他人をあまり理解しようともしなかった…。」

そう呟く智史、そこにモンタナから通信が入る。

 

「お話中すみません、私達の母港に連れていって頂けませんか?ヴォルケン殿が私達とあなた宛に大事なものを残したというみたいなので。」

「了解しました。」

そして智史達は太平洋艦隊の拠点とも言えるハワイのオワフ島へと向かっていくーー

 

 

ーーそしてその頃、ジュドラント沖ではーー

 

 

「お姉様が…、死んだというの…?」

「はい…。貴方様の姉であるヴォルケンクラッツァー様は自身に付き従う部下達共々、リヴァイアサンに討ち取られました…。」

「そ…、そんな…。い、嫌ぁぁぁぁ‼︎お姉様ぁぁぁぁ‼︎」

 

あまりに残酷な報せに嘆き喚くルフトシュピーゲルング。

 

ーーお姉様と一緒に居れる、それが幸せだったというのに…。リヴァイアサン、あなたはどうしてそんな日々を私から奪い去るの…?

 

 

ほぼ同じくして、北極海では。

 

 

「リヴァイアサン、あなたのせいでみんなどんどん死んでいく、そしてあなたは様々な世界を旅するだけの力を手にした、それなのにあなたは気がつこうとしない、それは元の世界に戻るための力を手にしたことでもあるというのに。その力を用いて大人しく元の世界に帰れば私達に幸せな日々が戻ってくるというのに…。いいわ、あなたにみんな殺される前に私がマスターシップを用いて殺してあげる、あなたに付き添っているヒエイ達やヤマトも一緒にね…。」

 

そう呟くムサシ。彼女が言った通り、彼、リヴァイアサンごと海神智史は自己を無限に強化し、それによって得た力を相手に対して容赦なく振るい、一方的に破壊し蹂躙し尽くすことで満足するということを続けるとしたらこの世界に自分を満足させられるものは既に限られていると判断していた。ならその外にどんどん飛び出してしまえば自分を満足させられるものは幾らでもある。無双orochiシリーズに出てくる遠呂智のように世界という井戸の中のものを狩りつくして心を満たされずに虚無のあまりに自壊を望み、自らを倒してくれる強者を待ち続けることなど考える気さえ彼には無い。そんな暇があったら彼はどんどん外に出て行きたいのだ。

そういうこともあってか、彼は自らの欲望を満たすために他の世界へと航行、行き来する能力ーー次元横断能力を身につけた。しかしそれは元の世界に戻る方法を身につけたということでもあった、彼には元の世界に戻る気など微塵もないが。

そして彼は自己の欲望のままに行動していたためにとっくに気がついていた、その気になれば各世界の営みを捻じ曲げ、時空の調律さえ歪め、壊してしまう程の力を既に持っていたことに。そしてその力を得て、その力を更に強くしたことによる力の重みが増えすぎて時空の調律が崩れ、世界を区切る壁が悲鳴をあげてしまう程だというのに。

しかし彼はそんな力を手にしても満足すらしない、それ自体が彼自身の心を永久に満たさないものだからだ。彼は貪欲に更なる力を手にせんと己を磨く、あらゆる死角も隙も次々と潰しながら。彼は力上の意味では満足は進化を止める行為と判断していた、ならば力を貪欲に求めた方がマシだ、他者が死んでも世界が滅びようとも。流石に仲間まで見捨てる気は微塵も無かったがーー

 

 

そしてハワイ、オワフ島ではーー

 

「随分と豪華で立派だな…。本拠地としての威厳がある。」

「そうです、かつては多くの仲間たちがここで船体を補修していたりしていました。今はその仲間たちは海の藻屑ですが…。」

「そう不吉なことを言うな、記憶がぶり返される。」

 

そして智史達は本拠地の外縁に停泊する。

 

「ゔ〜、お腹いっぱい〜。」

「お腹いっぱいだ、あまり行きたくない。」

「ご馳走がまだ消化しきれてないか、仕方ない。琴乃、大丈夫か?」

「ちょっと食い過ぎちゃったけど、大丈夫よ。智史くんこそ大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫だ。エネルギーの需要と供給のバランスを調整して大量のご馳走だろうと瞬時に消化した。」

「智史くん羨ましいな、こんなことも自在に出来ちゃうなんて…。」

「それを言うなら人間でいられるお前が羨ましい。いくか?琴乃」

「ええ、行きましょう。ヴォルケンさんが私達に何を残したのか見極めたいから」

 

そして智史は琴乃を連れて本拠地の桟橋に着地する、そこにはモンタナがヤマトを連れてそこにいた。

 

「行きましょう、皆さん。」

「了解した。ところでモンタナ、事前にその理由は把握してはいるが、なぜお前はヤマトのことを知っているのだ?『記憶』は書き換えられた筈だぞ?」

「そのことですか、私は人類の言葉で言う『アナログ』の方法でデータのバックアップを取っておいたんです。」

「アナログ、か。あえてデジタルな霧のデータベースにはバックアップは置かない、それだとムサシに直ぐに感づかれて消されて終わりということか…。」

「そういうことです。」

 

そしてモンタナは智史達をある場所へと連れて行く、智史はそこへ至る道程への風景を楽しんではいたが。

 

ーー随分と軍基地にふさわしい雰囲気だな。

色々と気になってしまう、これがどういうものなのか、それはどういう作りとなっているのかを知っていても、だ。やはり体で見て触って覚えないと私は気が済まないのかもしれないな。まあ壊したら不味いものもあるからそれは壊さないように触りはしておこう。さて、もう見せたいもののネタは知っちゃってるけどあえて黙っておくか、ネタバレは興を削ぐからな。そしてそれを見終わったら基地を見て触って楽しもうか‼︎

 

 

ーーヴォルケン、あなたは一体何を彼に託そうというの?

あなたとの最後の会話となった際にあなたは彼に自分が彼に見せたいものがあると告げてその場所を示した、条件を付けて。そしてその条件が満たされて私はあなたの指示通りに動いた、でもその中身は何?あなたが他者に見せたがらず、彼にだけ見せたいものとは…?

 

そして彼らはヴォルケンが隠していた場所に辿り着く。

 

「随分と重厚な扉ね…。」

「私達の全力をもってしても破れないほど重厚な扉よ、非常に強度の高い素材が使われてるわ」

「おまけに常時クラインフィールドに量子フィールドまで展開されているわね、これじゃあ私が破ろうとしても触れる前に吹き飛ばされてしまうわ。」

「要するに智史くん、ヴォルケンさんはあなたにこの中身を見る資格があるのかどうか見極めたいからじゃないの?」

「そのようだな、ヴォルケンは死んでも私に問いかけているのだな、私なら容易く破れるというのに」

 

そして智史は右手に巨大な青いクラインフィールドと量子フィールドを多層展開して形成した破城槌を形成する。

 

「壊れろ」

 

ーーブォン‼︎

 

ーードガァァァン‼︎

 

ーーガラガラガラガラ…

 

 

「こんな扉を、い、一撃で…。」

「モンタナ、智史さんは常に進化をし続けたおかげでこんな壁も破れちゃうみたいね…。」

「さて、中身を拝見しましょうか。」

そして彼らはヴォルケンが隠していたものが入っている部屋の中へと入っていく。

 

「嘘でしょ、なぜマスターシップの破片が⁉︎それらを私達の仲間の超兵器達が全員取り込んだはず‼︎」

「恐らくとは思うが、私達にマスターシップに関するヒントを残していったのだろう、全員でそれがどのようなものなのか見極めてみるか」

「そ、それは無理よ!破片に触れただけでも身体が滅びてしまうわ‼︎」

「お前達はな。だからこそヴォルケンはこの厳重な容器にその破片を入れたのではないのだろうか?」

 

そして智史はマスターシップの破片を手に取る、マスターシップの破片からは邪悪な力が湧いていたものの智史はその力を完全に吸収して取り込み、自分の力としてしまった。

 

「私は自分で決めたことを変えられるのが大の嫌いでね。」

「す、凄い…。」

 

そして智史は透明な容器を左手に作り出すと破片をその中に入れて密封する。

 

「その破片は死んだわけではない、スキズブラズニルの実験室でデータを解析しよう、そのパッケージに入れた状態でヒュウガに渡すか。」

 

そして智史はもう片方のものに視線を向ける。

 

「なるほどな、私と今後どう付き合い、ムサシとマスターシップをどういう風に戦略を立てて叩けばいいのかがきちんと書かれているな…。」

「これは…。私達に宛てたものなのね、私達が今後彼とどう付き合い、そしてそれを霧と人類の未来にどう繋げていくのかということが具体的に書かれてるわね…。」

「具体的だな、負けるべくして負けるということを考慮した上で道筋が明快な戦略を立てていたのか。」

「ヴォルケン…。素直に彼に降伏するという道もあったはず…。あなたは自分やみんなの誇りを守るために死んでいったのね…。」

 

そして智史達はその部屋を去る、彼らにここにいる理由はもう無いからだ。

そして彼らはヴォルケンがかつて使っていた部屋へと向かう、その道中でーー

 

「これが、お前達が新たな『霧』を生み出していた『子宮』か…。」

「そう、新たな『命』を生み出すためのもの。あなたが戦った『命』の殆どはここで生まれたのよ。」

「そして霧の超兵器のコピー体もここで生み出されたのか、ある意味で人間の言葉て言うと『生命の倫理に反している』と言うべきだろうな…。」

「そうかもしれないわね、そしてそれはあなたが出現し、破壊を始めた辺りから作られ始めたわ…。あなたが暴れまわることによって『霧』がいなくなる、そのかわりとしての『霧』を作れというムサシの命でね。

「ムサシ、なんてことを…。『子宮』は本来なら強大に進化させるものではないというのに…。」

「まあ間違ってはいない、体制を維持するというコンセプトから見たところではな。目的のために手段を選ばないのは世の常道と言うべきか、それとも非人道的と言うべきかは見たものにしか決められないな…。」

 

彼らが見ていたものは新たな『命』を生み出すための『子宮』だった。リヴァイアサンごと智史が暴れ始めたことを契機としてムサシの命で各艦隊の根拠地に作られたのだ。

今まで霧は強大な『命』を生み出す必要性が無かったーー『メインパーツ』が消されるという事情自体が無かったがために。だが『子宮』は規模は小さくとも存在してはいた、軽巡や駆逐、潜水艦といった『消耗品』に近い存在を補完するために。しかしリヴァイアサンが暴れ始め、「霧」を構成する『メインパーツ』が減っていき、その『メインパーツ』を補完するために本格的、そしてより強大な『霧』を生み出すために『子宮』は多数作られ、そしてより強大な『命』を生み出すためにその器を大きくしていったのだ。

彼がナガトと戦う頃には『子宮』は霧の各根拠地の大部分に備え付けられていた、特にナガトの所には真っ先に『子宮』が取り付けられた。

彼はその存在にあまり重大性を感じてはいなかったものの、(ここでいう重大性の意味合いは、科学的な意味合いではない)改めてこの存在を見ることでその重大性を痛感していた。

 

ーームサシ、お前は変化と人間が嫌いと言ってはいるが、お前のやっていることの本質は人間の醜い部分と一致しているぞ。

 

そして彼らはここを去る、程なくして彼らは元太平洋艦隊旗艦、ヴォルケンクラッツァー専用の部屋に着いた。

 

「随分と装飾が飾ってあるな…。ちゃんとした作戦書類もデータを補完するものもきちんとあるが」

「そうね、ここで過ごした記憶がきちんと残っているわ。」

「随分と家具や小道具が沢山置いてあるな、その整理整頓も行き届いているといい…。太平洋艦隊旗艦のために作られた部屋に相応しいな。」

「その言葉、感謝するわ。」

そう返事をするモンタナ、そして彼女は語り始める。

 

「ここはかつて私達がヴォルケンと公私問わず様々なやり取りをし、記録を残していった場所。そして人類から学んだことを生かして作り上げた営みが残っている、喜び、怒り、悲しみ、楽しい…。様々な感情がこの部屋も含めた施設には残ってはいる、でもあなた達ーー主に智史さんとの戦いによってその営みを作り上げるメンバーの大半が消えてしまった。智史さん、私達があなたと戦うということが決まってしまったということでその営みは終わってしまう宿命だったのね…。」

 

彼女の話は絶望と諦めが混じったものでもあった。これに対して智史はこう切り返す。

「いいや、そうだからヴォルケンはその営みが終わらぬようにお前達を生かしたのでは無いのか?私はこう捉える、

『営みそのものが終わったのではなくて、一つの形としての営みが崩れただけだ』と。

絶望していてどうするのだ、ヴォルケンはお前達に生きることを求めたのだろう、自分がしていったことを引き継いで欲しいからだというのに。私が主原因とはいえ、変わってしまった営みをお前達が自分達でやっていくことを終わらせたらヴォルケンは何と思う?」

「そうね、ヴォルケンは自分達の命を代償として私達に未来を遺そうとした、それなのに私達が彼らの死に慟哭して未来に生きようとしなかったらヴォルケンは何の為に部下を犬死させたのかという理由が分からなくなってしまうわね…。」

「何時迄も悲しみに暮れて前に進もうとしない理由は無い、お前達はその営みを自分なりに受け継ぎ、未来に新たな物語を紡ぐという使命があるのだから。そんなことをしてその営みを受け継がなければ太平洋艦隊の誇りも威厳も名もそれに関するあらゆるものが廃れるわ」

「…ありがとう、私達は散っていった仲間達の意思と誇り、そして太平洋艦隊の伝統を継いで未来に繋げていくわ」

「それでいい。未来は自分達の手で作り上げろ。そうだ、何か不足があったら私に尋ねるがいい、面白半分でヴォルケン達を惨殺したことによる今までの営みを潰したせめての罪滅ぼしとしてな。」

「そんなに自分を責めなくていいわ、少なくともあなたには悪気はないということぐらいは分かるから」

 

そして智史と琴乃は彼らと別れる、そして様々なものを見て触って楽しむ。

 

「智史くん、触ってて楽しい?」

「そうだな、少し疲れたか、琴乃?」

「そうね、桟橋の方に行って少し休みましょう」

 

そして彼らは桟橋に着く。

「いい眺めね、疲れが取れるって感じ。」

「そうか、良かった。」

楽しそうにそう会話する2人、しかし彼に何故か概念伝達による通信が入る。

「ん…?誰からだ?」

「どうしたの、智史くん?」

「何者からか通信が入っている、少なくともこの世界の存在によるものではない。すまん」

 

そして彼は概念伝達空間に移動する。

 

 

ーー概念伝達空間

 

そこは夜のように真っ暗で光り輝くようなものは一つもない。廃墟と化したローマ風の構造物のようなものの上に智史は立っていた。

 

「…ここは一体…。」

 

見慣れぬ景色に少し興味を示してジロジロ見て回る智史、そしてしばらく進むと大広間のような場所で歪みのようなオーラを纏った少女の姿を見つける。

 

「…貴様は、誰だ?」

「私は使者。時空の調律を司る者ーー創造神様からの使者。」

「時空の調律?この世界も含めた様々な世界の調律を司っているというのか?」

「それが近い。あなたに伝えたい事がある。」

「伝えたい事…?よもや私に大人しくしろと?」

「そう。あなたにはこの世界から手を引いて、元の世界で大人しくしてもらう。そう創造神様から伝えられた。」

「何故そうしろと?よもや私がこの世界の器から溢れてしまうほど大きくなってしまったからか?」

「そう。あなたは強くなりすぎた。そしてあなたは今や存在するだけで様々な世界の壁を壊し、歪めて、最悪世界そのものを壊してしまう存在。」

「理屈は理解出来ないわけではない、だが私は己だけが幸せになりたくて、欲望のままに動く性格なのでね。その要求はお断りだ。」

「今からでも遅くはない、直ちに元の世界に帰って欲しい。」

「嫌だ。確かに他の世界ならまだ納得ぐらいは行くが元の世界ではトラウマを散々に受けたのでね。ところで今の私は自身が存在するだけで世界を壊してしまうのか、それはいい事ではないか。その環境の変化によって様々な世界と交わる事でいろんな事が生まれたり、楽しめたりするのだから。勿論負の部分も生まれはするが。」

「それは出来ない、あなたが今のまま活動を続けたら調律が乱れて多くの戦乱と天変地異が起きる。」

「何故そう言える?かつてそのような事があったからか?」

「そう、かつてあなたのような存在が世界の壁を破壊してしまった、そして様々な世界が融合した結果、大規模な戦乱と天変地異が起きてしまった。多くの世界が滅び、罪なき人が苦しみ、息絶えた。それらの災害を総称したのがディメンシオネムコラプス(dimensionem collapse ラテン語で次元崩壊の意)。私達は実力をもってそれを引き起こした存在を討ち倒した。そしてそれを元の営みに戻していくのに時間がかかった。もしあなたが今のままであれば多くの世界が滅びる、その前にあなたを討ち倒す。今からでも遅くはない、元の世界に帰って欲しい。」

「それはお断りだ。私は今のまま生きる。」

「それが後悔を生むというのに…。」

 

そして智史は概念伝達を切る。

 

「智史くん、何かあったの?」

「ムサシからの通信だ、恐らくお前達にしてみれば奇想天外な事を話してはいた、私がこのままそこにいれば世界は滅びるとか。」

「そうね、確かに奇想天外ね。でも滅びるとは限らないわ。」

「そうだな」

「日も暮れてきたし、夕日を見てから今日は休みましょう」

 

そして彼らは本拠地を一望できる山に登る。

 

「きれいね…。」

「そうだな、ところで考えていたことがある。」

「何?」

「何故生物学的な性の違いははは存在するのかということについてだ、私は自身の特性に基づく挙動によって異性から誤解を受けて辛い目に遭った、仲良くなろうにも奴らは私を忌み嫌って私を避けた、周りの環境、いや私がいた元の世界そのものがそういう雰囲気だった。私はそのことが激しく憎い、ならば女性を完膚なきまでに抹殺できないかと。

元の世界では男女平等が跋扈し、女性を守る為の法律が充実された、それが教育の仕方に問題があるという環境によって女性が我が物顔でいばり散らすという現実を招いているというのに。私はその奴らとそれを作り出す環境が憎い、そして殲滅したい。だが、子孫を残すものがなければその種は存続しない。人間だってそうだ。その機能が男性にもそうなのだが女性にもあるせいで女性が我が物顔でいばり散らすという現実を作り上げるのに一役買っているのだ。

そこで私はこう考える、子孫を残すものを異性同士ではなく一つの機能として型にしてしまえばどうかと。要するに男女の生殖機能を一つの生産マシンに統合してしまうのだ。そうしてしまえば人間は物同然となり女性が威張り散らせる環境を根本的に支えているものが消滅してしまうのだから。そうすれば人間の性別を消し去り、女性を抹殺でき、私が元いた世界での弊害は根本的に消滅してしまうのだから。」

 

そう呟く智史、それに対する自身の考えを琴乃は語る。

 

「要するに人間を全部工場で作られているような商品みたいにしてしまうということね。そうしてしまえば女性の存在理由は無くなって、女性が威張り散らせる世の中は崩れ去り、女性を全員排除できると。

確かに智史くんらしい考え方ね、曲がりなりにも人類のことを考えてはいるし、ある意味では荒療治だけど確実ね。

でも、それは人類を人類で無くしてしまい、社会システムの絶対的管理下に置くというあなたの考え方が生み出したものでもあるわね。

そう考えてしまう理由は分からなくは無いわ、だって悪いことなど一つもする気も無いというのに誤解されて疎んじられたんだから。

でもそれが人類にとっていいことと言えるの?家族愛や恋愛、親子愛といった感情に基づくものが消え去ってしまうのよ?あなたはそれらを失う覚悟はあると思う、けどあなたが望んでいた幸せと言えるのかな?」

「多分、言えないだろうな、私自身が人で無くなることを一番忌み嫌っているのだから。その考え方も私自身が人であるが故に生まれてしまったものでもあるのだから。」

 

智史は自身の気持ちを素直に語る、あえてそれを誤魔化そうとしても自身が辛くなるだけなのだから。

 

「素直ね、あなたを理解してくれる人が僅かながらだけど増えてきてる。前を向いて生きましょう、智史くん。」

「ああ…。」

 

 

そして、リヴァイアサンの医務室ではーー

 

「う…うう…。」

「オウミ、目が覚めたのね。」

「モンタナ様⁉︎ここは、何処ですか⁉︎」

「リヴァイアサンの医務室よ。あなたは彼に眠らされた後ここに連れてこられたわ。」

「そうですか…。彼からはどうやっても逃げられないのですね…。」

「そんなことはないわ、でも彼という存在と向き合わなければならないということは確かよ。」

「はい…。ところでモンタナ様、あなたの隣にいる子供は誰ですか?」

「彼女?蒔絵という名前よ。彼女は人ならざる存在ーーデザインチャイルドなのよ。私達に対抗する為の兵器を人間に命ぜられて作っていたというのにそれが完成したら用済みとして殺されそうになったのを彼が引き取ったのよ。」

「そんな…。蒔絵ちゃん、あなたは私達を殺す為に武器を作ったというの?」

「そう。私は興味もあってあなた達を殺す為の爆弾を作っていた。でもそれを知っていた智史はともだちを説得して私を暖かく受け入れてくれた。」

「(人間とは、何処まで残酷な生き物なの…。少なくとも彼が悪魔ではないということは分かる…。)」

 

そう考えるオウミ。彼女も蒔絵と同じく理不尽な目に遭い、自分が望んでいないものをやらされる羽目となったからだ。

 

「彼に悪意はないわ、彼はあなたのことを気遣ってここに寝かせてくれたのよ。彼は子供みたいに純粋すぎてそれ故に残酷なことも平気な顔でやってしまうような一面がある。それをあなたはたまたま見てしまっただけ。」

「でも、船体の方は⁉︎」

「大丈夫よ、機能停止状態だけどいつでも動かせるように本拠地のドックに入れてあるわ。彼が海の真上でほったらかしなのは見苦しいって」

 

智史は残酷な一面もある、純粋すぎる故に。しかしそれは優しさもあるという一面もあり、彼はモンタナ達と戦う必要性が無くなったことで敵を思いっきり殺る気分が失せてしまったこともあったのかもしれないが、オウミが震え怯えている様を何処かに哀れみを感じたのか彼女を眠らせた後リヴァイアサンの医務室のベッドに寝かせ、布団を丁度いいぐらいに盛り、船体はドックに入れておくようにモンタナ達に伝えておいたのだ。

 

「今は疲れているでしょう、温かいものを食べて休みなさい。蒔絵、出してくれる?」

そして蒔絵は海老が入ったチーズリゾットを保温容器から取り出す。

「智史がこれを作ったんだよ〜?これを食べたら体が暖かくなるって」

「彼は、本来なら自分が直接食べさせたい所だけどそれだとあなたが怯えちゃうから私にそれを食べさせてくれるように頼んだのよ」

「はい…、ありがとうございます…。」

 

そしてチーズリゾットを食べるオウミ。

「美味い…。あの人はただ子供みたいに純粋なだけで悪魔じゃなかったんだ…。」

 

こうして彼らは夜を明かすーー

 

 

ーー翌朝

 

智史はあることを提案しようとしていた、それはーー

 

「401の振動弾頭の配達のついでに三者講和条約?これはあなたが考えたの?」

「そう、人類側はそうやすやすは受け入れてはくれない、だからうちらが401について行くという形でそこで講和を決める。だってマスターシップを倒さなきゃならない運命だというのに敵が多かったらやりにくいでしょ?なら講和をして敵を減らし、そのついでに群像が提案している霧と人類が理解し合える未来を作ってしまえばいいじゃん。」

「なるほどな…。君らしい考え方だ、俺も賛成しよう。」

「でも、人類が攻撃してくる可能性も?」

「それを考慮して各艦のバイナルは非点灯にしておこう、バイナルが点灯してたら攻撃する気満々と解釈されかれないからな。もちろん万が一に備えて戦闘準備は整えておこうか。」

「わかったわ、出航しましょう。」

 

ーーそして401、リヴァイアサン、スキズブラズニル、ヤマト、モンタナ、タカオを中核とした究極超兵器1隻、超大型ドック艦1隻、超戦艦1隻、大戦艦5隻、空母10隻、重巡21隻、軽巡40隻、潜水艦65隻といった大艦隊がサンディエゴに向けて出航する。

だが智史は出航して間もなくして多次元探知能力をはじめとした各種能力から得られるデータからあることが起こると予感していた、

「何かが別次元から来るぞ…。」

そしてその予感は的中することとなる、新たな出会いという形でーー




リヴァイアサン=海神智史が新たに習得したオプション

次元横断能力

これは今の世界には自分の楽しみに関する限界があるということを知った智史が新たに会得した能力。
各次元世界の壁を形成するエネルギーを強引に突破することで穴を開けて物や情報といったものを他の世界に行き来させることができてしまう。もちろん自分自身も世界を行き来出来る。
要するに次元ワープ。
これを実現するには膨大なパワーとテクノロジーが必要で、また仮に会得してもそれを制御し切れなければ自身の破滅やシステム自体の暴走を招きかねないものだったが、智史は自己再生強化・進化システムといった自身全てを強化、進化させ、さらに自身のものであるシステムを強化して、その強化・進化速度を上げていくことで強化・進化のペースを滅茶苦茶なペースとし過ぎてしまったことで(もちろんそれを制御仕切れるだけの力も強くし過ぎてしまい、更にその力も増大している)難なく会得した。


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第21話 信長と曳航、そして交わり。

今作は本作と同じく「蒼き鋼のアルペジオ」を原作とする「イージスミサイル超戦艦 AGSBB 信長」から信長が登場します。
要するにコラボです。
なおこの作品の作者のAGSBBさんには承諾を取った上で執筆をさせていただきました。
本作のストーリーの流れと絡めた上でのコラボです。
それではじっくりとお楽しみください。


「どうだ、ヒュウガ。解析対象である破片の様子は?」

「元気盛んみたいね、解析するにはいいサンプルね。」

「各種実験及び解析を蒔絵とともに始めてくれ。」

「分かったわ、万が一事故があってもあなたが対象を殲滅できるようにはしてくれたからそこには感謝しておくわ。あなたの推測が正しかったらとんでもないものね。」

リヴァイアサンのCIC内でそう音声通信で会話する智史とヒュウガ。彼女は智史から受け取った破片をスキズブラズニルの実験室でデータ採取及び各種実験に掛けようとしていた。

 

「ところで私の艦に女風呂を作ろうとしているみたいだな…。それをやろうとしている元凶がお前であることは知ってはいるが…。」

「あら、あなたの艦には大規模な浴場が無いじゃない。スキズブラズニルで一応入浴は出来るけど長期間作戦行動をする際にはそれが無いのは寂しくない?風呂というものはあるけどそれはあなた個人の風呂であってせいぜい2人ぐらいが入れるのが複数あるぐらいじゃないの。大規模な浴場でみんなで仲良く話し合いたいから今回のことを実行しようとしたのよ。」

「…了承した…。」

 

ヒュウガのとんでもない計画に唖然としてしまう智史。それも無理はない、自分の艦の中に自分の意思抜きで浴場が造られようとしているのだ。自分の意思で造り替えるのならまだ分かるところもあるが、他人が勝手に造り変えようとしているのだ。彼はその計画をやめて欲しい気持ちだった、自分の住処のルールに基づいた空間の配置が勝手に崩されてしまうのだから。

 

「(勝手に自分の艦の中が作り変えられてしまうなんてある意味辛い…。これも私が彼らを散々に弄りまくった報いとも言えるのか…?私の場合は敵に一方的に勝てても味方には勝てず、か…。しかし琴乃が作り変えてしまったこの空間も最初は違和感を感じたが今では見慣れてしまったか…。今回の改装もそうなるのかな…?)」

心の中でそう愚痴を呟く智史。実際何故なのだろうか、琴乃によって改装されたリヴァイアサンのCICのCICらしくない茶と黒といったイメージカラーをふんだんに用いて雰囲気を落ち着かせたオシャレな書斎風のインテリアにも今は見慣れてしまっていた。寧ろその空間が好きになってしまった程である。

 

「この空間は住処としては落ち着きますね。かつての私なら校則違反として撤去を命じたのに」

「ヒエイか。そうだな、お前はあの戦闘から随分と変わったな。」

「あなたと戦って完敗してしまったことが私達が変わっていくきっかけとなったのですよ」

「そうか?しかし各分野を担当するメンバーの有無でこんなに雰囲気が変わるとはな…。」

 

そう、リヴァイアサンのCICには401のものと同じコンセプトで(ただし360°全周囲スクリーンや各種映像表示システムが401のものとは違い実装されている。)各操作用コントロールパネルやモニターがある席が元々付いていた、しかしそれらが利用されたことは今まではほとんど無かった、というのも今まで智史は琴乃と一緒だったこと以外は全く他者を使った戦闘をしなかった、いや出来なかったと言った方が正しい。

彼は人間関係を築くのが元々苦手であったこと、そして霧となってしまったことも相まって全くといっていいぐらいに艦を支えてくれる仲間や同志ーーつまりクルーを手にできなかったのだ。

なので彼はいつも自分一人で戦闘をやってのけていた、他者がいなくても平気な程に実力をつけ過ぎてしまった(今でも更に実力を付けている)こともあるのだが。

確かにそれは自立できているという点では素晴らしいと言える、しかし協調性の観点では彼に協調性が欠けていることもあってか非常に問題とも言える。

具体的に言ってしまうと、彼は自身が他者に倒されるという確率が0に違いレベルであり、また他者を確実に、いや一方的に倒せる確率がほぼ100%になってしまっている。しかもその確率が効く強さの上限は自身の異常な自己研鑽のお陰でうなぎ登りということだ。しかし彼は常にマイペースで規則的で情緒不安定な性格で、些細なことで暴走したり、一方的に殲滅し、焼き尽くしたりしてしまうという残虐な行動を他人が制御し切れない程の勢いでやってしまうのだ、しかもその勢いは異常な自己研鑽の影響で急激に勢いを増しているのだ。

 

要するに智史は自身の感情を上手に制御し切れておらず自身の感情のままに動いてしまう(増大し続ける力を制御するための器も常にきちんと作っているのでその力に理性を奪われている状態ではない。)ので、その強さが異常なまでに増大していくということは彼を実力で止めるということが実質的に不可能となってしまう。彼ときちんとした信頼関係を築いている他者が居れば彼は落ち着きはするが、その他者がいない状態で彼を暴走させてしまえば場合によっては今後の行動計画や作戦計画に多大な悪影響を及ぼしたり、最悪の場合自分達がなす術も無く彼に一方的に殲滅されてしまうのだ。なので今回のクルーの件は、彼との戦闘で全員が船体を失ったヒエイ達をリヴァイアサンの各分野のクルーとして彼と関わらせることで、彼がその場の感情で暴走してリヴァイアサンの兵装を撃ちまくってオーバーキルと化してしまうのを防ぐのと同時に彼や他のクルー全員がお互いの信頼関係を築いていくことでリヴァイアサンが繊細に動くようにするというよりも霧の究極超兵器リヴァイアサンそのものでもある彼の情緒を安定させていくことで暴走を未然に抑止することが狙いであった。

 

「これは随分と分かりやすい構造だな…。」

「私たちが何をすればいいのかが分かりやすいな」

「智史、ほら早く戦争始めようよ!」

「アシガラ、彼を急かさないの。」

「機関室の操作、面倒くさい…。彼のものだから彼がやってくれれば楽なのに。」

「これが航空機管制システムを兼ねた航空機管制コンソールか‼︎」

 

そうそれぞれの感想を呟く彼ら。

 

「皆随分と楽しそうなことで…。ハグロは面倒くさがりだけど…。」

智史は半ば呆れた感じでそう言いかけるーー

 

「⁉︎本艦から南南東1000㎞の所に巨大なエネルギー反応‼︎解析完了、その地点に強力な空間の歪みが生じています‼︎」

「何⁉︎」

 

ーーやはり当たったか、恐らくは…。

 

「空間の歪み、消滅していきますーー重力子反応を確認、恐らくは霧の艦艇と思われます。」

「データ収集及び解析を速やかに進めるぞ‼︎」

そう言い各種データ解析を始める智史達。

「?なんだこれは?AGSBBーーイージスミサイル超戦艦、信長?こちらの世界のものではない異世界の船だというのか?」

「はい、この未確認艦の識別IDはこちらでもそうだと確認しています。」

「なるほど…。しかし、その近くに霧の中米艦隊が警戒中か、私が軽く打ちのめしてしまったヴォルケン達のものより量は劣るとはいえそれでも超兵器や強力な新型艦を複数配備しているからな…。奴ら強くなっているな、その強化速度は私のものに格段に劣ってはいるが。今判明したものとはいえ、こいつのスペックだとあっさりと殺られそうだぞ…?」

「そうですね、この未確認艦、もとい信長と彼らの間には愕然とした実力の差がありますからね…。」

「おまけに各地の奴らはムサシの命を忠実に守ってるからな、好戦的になってやがる。」

そして智史が予想した通りの事態が起こる。

 

「中米艦隊、信長への攻撃を開始しました‼︎信長から通信を傍受‼︎ 『我、未確認の敵艦隊から攻撃を受け押されつつあり、味方は何処か⁉︎誰か至急救援を求む‼︎』です‼︎」

 

「急ぐぞ、艦載機を順次発進させろ‼︎艦速最大、全速前進!総員戦闘配置につけ‼︎」

 

リヴァイアサンに青い龍の形をしたバイナルが灯る、そしてリヴァイアサンは艦隊から外れるようにして南南東に進撃を始めた。同時に左舷飛行甲板からB-3 ビジランティⅡやB-70 ヴァルキリー、爆装コスモパルサー、F-3 心神、FFR-31MR/D スーパーシルフといった本家を遥かに上回る、常識を逸した見た目そっくりの高性能機が飛び出していく。

 

「モンタナ、タカオ、アタゴ…。お前達も私について行くのか?」

「当たり前ですよ、まだ一回しか活躍してないんですから‼︎」

「お姉ちゃんの為に私も戦いたい!行かせて頂けますか?」

「オウミをヴォルケンが助けたように私も彼女を助けたい。ヤマト様、艦隊を頼みます。」

「わかったわ、モンタナ。みんな、気をつけて…。」

 

そして彼らは中米艦隊に襲われている信長の元へと突き進んでいくーー

 

 

ーーAGSBB(イージスミサイル超戦艦)信長のメンタルモデル、サクラの独白ーー

 

 

ーー私はサクラ。信長のメンタルモデル。

元は向こうの世界での鎮守府で深海棲艦や霧の艦艇を殲滅するという任務をやっていた。

私は最強と言っていい力を持っていた。(*元の世界の基準で)

だが、ある日ーー

 

「本艦正面に強力なエネルギー反応‼︎本艦を引き込むようにエネルギーの潮流が発生しています‼︎」

「さ、サクラ、ワープを用いて脱出するんだ‼︎」

「ワープ‼︎」

 

ーーズヒュィィィ‼︎

ーーズザァァァァァァ‼︎

 

「ダメです、エネルギー潮流が強すぎて脱出できません‼︎」

「本艦、エネルギー体に飲み込まれます‼︎」

「総員何かに掴まれ‼︎」

 

ーーズガァァァァァァ‼︎

ーーゴボゴボゴボゴボ…。

 

 

「ーーあ、あれ…。ここは、どこ…?」

 

気がついたら私は信長のCICでテーブルにもたれかかるようにして倒れていた。

 

「みんな、無事⁉︎提督⁉︎大丈夫ですか⁉︎」

「あ、ああ…。大丈夫だ、それより、ここは何処だ…?」

「わかりません、今からデータ解析を急ぎます」

 

そして私がデータを調べようとした次の瞬間ーー

 

「方位135に艦影多数を確認!潜水艦120、軽巡100、重巡70、空母12、戦艦40、それを上回る巨艦8隻‼︎いずれのものも我々のデータベースとは一致しません‼︎」

「一体何が起きているんだ⁉︎」

「⁉︎未確認の艦隊、こちらに向けてミサイル及びレーザー多数を発射‼︎」

「迎撃しろ!総員戦闘配置につけ!サクラ、ダブルクラインフィールド展開‼︎」

「了解、ダブルクラインフィールド展開‼︎」

 

そして私は艦の迎撃兵装を稼働させ、ミサイルを次々と1223セルものVLSから解き放っていく。だがーー

 

「迎撃ミサイル、命中ーーそ、そんな⁉︎敵ミサイル、様相を変えることなくこちらに向かってきます‼︎」

 

ーービュィィィィィン‼︎

ーーブアァァァァァン‼︎

 

「本艦にレーザーが複数直撃‼︎非常に高威力です!ダブルクラインフィールド、一撃で飽和、突破されました‼︎」

「応戦しろ!撃ちかえせ‼︎」

 

私の方もレールガンや反物質弾に陽電子砲や更には船体を変形させて超重力砲や波動砲を必死に撃ちまくる、流石に軽巡クラスの何隻かはこの攻撃で沈み、重巡クラスにも損傷らしきものは負わせることはできた、だが大戦艦級を超えた大きさの戦艦は平然としていた。おまけにこれを上回る巨艦も何隻かいるのだ、それは更なる猛攻を促すだけに終わった。

 

ーーシャァァァァァ‼︎

ーーズグァァァン‼︎

 

「本艦艦首及び右舷にに侵食魚雷及び高威力魚雷複数直撃‼︎艦首、完全に欠損しました‼︎」

「波動砲及び超重力砲、使用不能‼︎」

「破損箇所から浸水多数‼︎ダメージコントロール間に合いません‼︎」

 

ーービュィィィィィ‼︎

ーーヒュォォォォン‼︎

 

ーードガァァァン‼︎

ーーグワァァァァン‼︎

 

「主砲塔、全て沈黙‼︎上部構造物、大破‼︎」

「各種レーダー破損‼︎火器管制システムが今の攻撃で機能しなくなりました‼︎」

「各所で火災が発生‼︎さっきの攻撃によって各種被害緩和システムが全損したことで規模は拡大しています‼︎鎮火のめどは立っていません‼︎」

 

敵の猛攻を受けた私は各所を損傷し、満身創痍となってしまう。各兵装は悉く沈黙し、船には痛々しい大穴が複数開き、そこから海水が入ってくる。更に艦首を欠損したことや敵の攻撃によって機関部が完黙したことも加わり自力航行がほぼ不可能となり、私は海を漂う瀕死の鯨のように、猛攻を受けてあらゆる所から激しい炎と黒煙を吹き上げて右に傾いた身体で、迫り来る死を待つという選択肢を選ばされるしかなかった。

 

 

ところで智史はというと。

 

「(これ群像達と初めて会った際に起きていた戦いの戦況にそっくりかもしれんな、だが前と同じような結果としてやるか。)」

 

 

そしてーー

 

「くっ…、ここまでか…。」

「提督、私もお供します…。」

「敵ミサイル及び魚雷、多数接近‼︎」

「敵巨大艦、艤装を展開!本艦に高エネルギー兵器を発射する態勢に入った模様‼︎」

「今の本艦では回避はおろか迎撃さえできません!」

「くっ、総員退艦ーー」

 

提督が総員退艦を命じようとした、その時だったーー

 

ーーシャァァァァァ‼︎

ーーヒュルルルル‼︎

ーーガガガガガ‼︎

 

ーーズドガァァァァン‼︎

ーーグワァァァァン‼︎

 

「敵艦、次々と爆発を引き起こしています‼︎その艦隊のものとは異なる航空機によるものです‼︎」

「敵航空機、次々と撃墜されていきます!」

「魚雷やミサイルも撃破されていきます、これはーー」

「一体、何が起きているーー」

 

突如として次々と爆発が生じる、見ると強大だった敵の艦隊が金属の海鳥達に群がられて激しく啄ばまれて次々と臓腑を抉り出されて喰われていく。

 

ーー彼らは、一体何者なのだろうか…?

 

そう考える私達の所に突如として通信が入る。

 

「こちらに向かってくる正体不明の超巨大艦から通信!『我が艦の名はリヴァイアサン。これより貴艦を援護する。』だそうです‼︎」

 

そう通信が終わると突如として敵の巨艦が一瞬だけしか見えなかった青白い光弾を次々と喰らい、一撃だけで原型を留めない程に破片を撒き散らして吹き飛んでいく。

あの巨艦が何者なのかはこの時は分からなかったーー

 

 

そしてリヴァイアサンでは。

 

「全兵装射撃開始、敵艦隊を粉砕せよ‼︎」

「了解‼︎」

「ミョウコウ、敵のデカブツ達に主砲の照準を合わせて片っ端から撃ち沈めてやれ‼︎」

「了解、砲塔レールガン、発射‼︎」

 

ーーキュオオン‼︎

ーーキュオオン‼︎

 

ーーズグァァァン‼︎

ーーグワァァァァン‼︎

 

「敵超兵器、今の攻撃で4隻が轟沈‼︎信長にミサイルが数十発向かっています‼︎」

「ふん、させるかよ!キリシマ、ナチや私の座標データを表示するから私の兵装をフルに使ってミサイルも敵艦も敵の航空機も全部奈落の底に叩き落としてやれ‼︎」

「了解!こんのお…。

“だぁ〜りゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁぁ‼︎”」

 

ーーガガガガガガガガガガ‼︎

ーーウィィィィィィィィィィ‼︎

 

ーーズボズボズボズボズボズボズボ‼︎

 

ーーズグァァァン‼︎

ーーグワッシャァァァン‼︎

 

キリシマは画面に表示されている敵の座標を片っ端からタップしていく、その様は北斗の拳に出てくるケンシロウの北斗百裂拳を彷彿とさせた。そしてリヴァイアサンから凄まじい勢いで光弾やミサイル、魚雷が放たれていき、彼らの身体を次々と食い千切り、四散させていく。瞬く間にレーダーから敵やミサイルを示す光点が次々と消えていった。

 

ーービュィィィィィン‼︎

 

ーービュゥゥゥゥン‼︎

 

「本艦に高エネルギー兵器及びレーザー複数が命中!ですが本艦の各種システムと連動している自己再生強化・進化システムによって全て吸収されてそのまま本艦の強化に回されてしまいました…。幾ら何でもあまりにも一方的ですね…。」

「ヴォルケンの時もそんな感じだったね、智史くん。あまりにも強くなりすぎてるけど、それでもあなたは初めて会った頃から芯をずっと変えようとしないからそこが好き。」

「敵艦、逃走を始めました!」

「逃がすか‼︎タカオ、アタゴ、モンタナ!私や私の航空隊と連携して一匹残らず冥底に送ってやれ‼︎」

「了解、この時を待っていました。ほら、アタゴ、行くわよ!」

「分かったわ、各種兵装の誤差修正を開始‼︎」

「ありがとう、智史さん。元太平洋艦隊副旗艦の実力、あなたに見せてあげる。照準、霧の中米艦隊に定めっ!」

 

タカオとモンタナは彼らの退路を塞いで61cm量子魚雷や新装備の100口径203㎜レールガンに50口径40.6㎝砲を次々と叩き込んでいく。

 

ーーシャァァァァァ‼︎

ーーヒュルルルルルルル‼︎

 

「甘いわ。改装を終えた私の実力、甘く見ないで頂戴。」

「そう簡単に殺れると思ったの?私は彼を目標として自身を研鑽してきたのよ?」

敵も必死に応戦したが、タカオは4000ktを越える速度と小回り、そして素早い迎撃で敵弾の命中を一切許さず、モンタナは何発か命中したものの、その攻撃のエネルギーを拡散したり吸収して自己の攻撃のエネルギーに転用したりして損傷を一切たりとも許さなかった。

そしてそこにリヴァイアサンとその航空機達が容赦なく襲いかかる。更には智史から一方的なトドメが振るわれる。

 

「重力子X線レーザー、撃てぇ‼︎」

 

ーービュォァァァァァ‼︎

 

ーーピィュゥゥゥゥゥン‼︎

 

ーードガガガガガガガガガガガァン‼︎

 

リヴァイアサンから放たれた重力子X線レーザーが、彼らからの猛攻を受けて既に満身創痍となり浮いているだけだった艦や超兵器を次々と焼き払っていく。既に泣きっ面に蜂だった彼らにしてみればもはやそれはオーバーキルを通り越した一方的な虐殺だった。彼らは一隻残らず骸さえ残さずに四散し、冥底へと旅立っていった。

 

「敵艦隊、全滅しました。」

「何かあっさりと片付いてしまったな。歯ごたえがないというか…。一方的なストレス解消なのか…?」

「まあ破片が入っていないこともあったからな。今回の奴の破片入りのが数兆隻来ても全く大丈夫だが…。しかしグロースシュトラールやハリマの形をした量産品が複数登場したな、今回の戦いは。しかも前のより性能が大幅アップか…。」

「そうですね、あなたのデータベースからの結果を元にするとこれまでのものよりは性能が格段に上がっています。」

「私に全く追いつけないーーそういう私自体が自分の意思で彼らを猛烈な勢いで更に引き離しているからな…。だが追いつけなくても彼らは必死に生きようと抗っていることが分かる。信長は今のスペックのままだと蚊帳の外だな…。」

「そうね…。」

そう会話をする智史達。

 

ーーみんなを連れて敵をやっつけるのって何か楽しいな。

今までは私一人で一方的に殺ってきたから私に関わっている他人が少ない。それだからあまり楽しくない所もあったりしたのかもしれない。だがみんながいた状態で敵を一方的とはいえ殺れるとなんかスカッとした気分になる、いつもは遠くにいた皆を直接見れる上でそうできるからだ。少なくとも今回の戦いは1人のものよりは少しは楽しかった。

 

「智史、信長から通信が入ってるよ。」

「ズイカクか、了解した。今出るぞ。」

 

 

ーー再び、サクラの独白ーー

 

 

「…。」

「敵艦、次々と爆発轟沈していきます…。」

私や皆もただ唖然とこの戦いの流れを見守るしかなかった、何せ自分達では歯が立たなかった相手が一方的に蹂躙されて殺戮されていくのだ。その様はまさに羊の群れに容赦なく襲いかかり、嬉しそうに片っ端から彼らを徹底的に殺戮していく狼のようであった。私たちにしてみれば非常に重い攻撃だった敵の攻撃はあの巨艦ーーリヴァイアサンにしてみれば大した苦にもならず、むしろ自分を強くするものと看做してそれらを喜んで受けているようにも見えた。

 

「化け物か、あの巨艦は…。」

「私では防げなかった攻撃を無効化するなんて…。なんて艦なの…。」

「とにかく、あの巨艦は並ならざる存在です…。私たちはその並にすら達していませんが…。」

「提督、応急修理によって艦の浸水は止まりました、ですが機関部はその殆どが破損、沈黙したため自力航行は不可能です…。」

「そもそも艦首が吹き飛んでいますからね…。あの巨艦から逃げようにも無理があります…。」

「それにさっきのような艦隊に襲われたら今度こそ我々は沈められる、あの巨艦が助けてくれるという保証はない…。サクラ、あの巨艦に通信を繋いで修理可能な場所まで曳航させてくれるように頼んでくれないか?」

「は、はい!」

 

そして私はリヴァイアサンに通信を繋ぐ。

 

「あなたがリヴァイアサンのメンタルモデルですか?」

「そうだ、貴艦の名と所属を答えられたし。」

「はい、本艦の名は横須賀要塞港を拠点とする鎮守府に所属するイージスミサイル超戦艦、信長です。私はその本艦のメンタルモデル、サクラとなります。本艦は敵の攻撃を受けて現在航行が不可能な状態です、貴艦に近くの修理可能な場所まで曳航させて頂けませんか?」

「その様は見た目からでもよく分かる。現時点では敵対する理由も無いのだからこちらが断らない理由は無い。それで放ったらかしにしたら私が何か気の毒に見えてしまうのでな…。よし、その依頼は素直に引き受けよう、直ちに曳航されていいように準備を整えてくれ。」

「分かりました、こちらも曳航の準備を整えてください。」

 

そして私はリヴァイアサンとの通信を切る。

「提督、リヴァイアサンは本艦の曳航を承諾しました。直ちに曳航準備に入るそうです。」

「わかった、直ちに曳航準備に入ってくれ!」

 

そして私たちは浸水が止まったとはいえまだ右に傾いている艦の中を曳航されるための準備を整えるためにある者は艦尾に集結し、またある者は応急隔壁の補強に当たる。艦首方向から曳航するとなると艦首自体が欠損しているため曳航による水圧抵抗を防水区画の扉が直に受けてしまうためそれが強度的限界を超えて破れ、そこから水が入ってきてしまう可能性があるため、危険だ。なので比較的破損の少ない艦尾方向から曳航させてもらうことにした。

 

「リヴァイアサンから曳航用のワイヤーロープを繋いだ弾体が本艦に向けて放たれました‼︎」

「直ちにそのワイヤーロープを本艦のボラードに括りつけろ!」

 

そして私達はそのワイヤーロープをボラードに括りつけ、リヴァイアサンに曳航準備よしのサインを送る。

 

「リヴァイアサンより通達!これより曳航を始めるそうです!」

 

そしてリヴァイアサンに艦は引っ張られ始める、皆が艦がこの曳航で壊れないかどうかをつい気にしてしまい、プレッシャーを感じてしまう。

 

ーーギィィィィ‼︎

ーーズザァァァァァ‼︎

 

曳航は慎重に進められる、最初はゆっくりとしたスピードから様子を見て徐々に速度が上げられていく。

 

「曳航予定速度に到達、本艦に異常ありません!」

 

その報告に私達は取り敢えず安堵した、そして艦はリヴァイアサンに彼らの修理拠点に向けて曳航されていくーー

 

 

ーーその頃リヴァイアサンでは。

 

「ふう、無事に曳航に成功したか…。いろんな知識を貪り、信長の現状を調べ尽くしたとはいえ、いざ曳航する時は少しドキドキしたな」

「色々と知識を使ったのね、私も雰囲気に飲まれてプレッシャーを感じたわ。しかし智史くん、有明海での群像くん達にやったあの奇跡をなぜやろうとしなかったの?あなたがそう考えた理由は何となく分かるけど。」

「そうだな、凄まじい力をあれほどまでに見せつけた挙句の果てに物質生成能力を用いて完全に修復したら、かえって警戒されたりやる気を削いだりコミュニケーションがうまく取れないといった色々とややこしいことになるからな。」

 

彼がそう考える理由はあった、というのも圧倒的な力を見せつけて他者の信頼を勝ち取るという手段は有効だが、その力の程度が度を逸し過ぎていると返って害になる。他者に警戒されたり他者のやる気を削いで自分から動く気持ち無くしてしまったり、また修理の際のお互いの交流の機会が失われたり、更には個人的な欲望によるものではあったものの、パパッと修復したら修理や曳航という行為が齎す雰囲気の味や存在感の重みが味わえなくなってしまうのだ。

そういう公私の理由もあって彼は曳航を素直にするという行為を選択したのだ。勿論自分にこんな能力があるという疑いを持たれたら素直にバラしてしまう気でいた。隠しても自身が苦しくなるだけだからだ。

 

「さてと、スキズブラズニルにいるヒュウガに概念伝達で呼びかけるか、『今から損傷した異邦艦をここへと連れてくるから直ちに修理出来るように体制を整えるのも兼ねて同時に技術解析、習得の為のデータ収集の準備を整えてくれ。』と。」

 

そして智史は概念伝達を用いてリヴァイアサンのCICからスキズブラズニルの実験室で破片のデータ解析及び各種データを収集する為の実験に没頭しているヒュウガに呼びかけるーー

 

 

ーーヒュウガの概念伝達空間。

 

 

「⁉︎あんた、何でこのタイミングで私に概念伝達を使ったのよ⁉︎今研究の山場だというのに‼︎少しは空気を読めやおい‼︎」

「まあ落ち着いてくれ、ヒュウガ。スキズブラズニルに入れて修理したい艦がいる。その艦は異世界から来た艦だ。直ちにその艦をドックに入れる支度を急げ。そして修理のついでにデータを解析してくれ。」

「このタイミングで修理やデータ解析もしろだと⁉︎私にオーバーワークを強いる気か〜⁉︎」

「智史ちゃん、随分と突飛じゃないの。いいわ、私がヒュウガちゃんの代わりにその依頼をやってあげる。みだりに力を振るったら誰も近づかなくなると考えるあなたの気持ち、分からなくはないから。」

「イ、イセ…。」

「ヒュウガちゃん、これはお姉様の優しさとして受け取って…。」

「ありがとう、イセ。」

「いいのよ、あなたは私達に大事なことを教えようとしてくれる存在なのだから。」

 

そしてリヴァイアサンは信長を曳航し、タカオとモンタナがその周りを警戒しながらヤマトが臨時旗艦を務める艦隊の元まで無事に辿り着いた。

 

「タカオ、モンタナ…、智史さん…。みんな無事だったのね‼︎」

「ヤマト様や皆も無事で何よりです。」

「ところで、リヴァイアサンに繋がれているものは、何なの?船らしき形をしているけど…。」

「ヤマト、あの艦は異世界から来た霧だ。時空の歪みに巻き込まれてこの世界に来て、いきなり攻撃を受けて沈没寸前のレベルの損傷を負っている。幸い私達がすんでのところで救い出したが…。」

「智史さんが言う通り、あの艦は異世界から来た艦です。

名前はイージスミサイル超戦艦 信長だそうです。」

彼らはそこの戦場で起きたことを次々と話す、そこにーー

 

「あの〜、皆さんお話中すみません。私は信長のメンタルモデル、サクラといいます。」

「サクラね、宜しく。私は霧の艦隊の元総旗艦だった超戦艦、ヤマトよ。」

「サクラ…、いい名前ね。日本の春の名物詩のように美しい存在なのかしら。私は大戦艦モンタナ。元太平洋艦隊副旗艦よ。」

「私は霧の重巡洋艦タカオ。よろしくね、サクラ。」

「そして私は霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサンのメンタルモデル、海神智史だ。」

「海神智史…。すごい名前ですね…。あ、提督。彼らが私達を助けてくれたメンバーです。左から順にタカオ、モンタナさん、ヤマトさん、海神智史さんの順になります。」

「私達を助けてくれたあの巨艦のメンタルモデルが、男とはな…。君は何故私達を助けたんだ?」

「その場の自身の感情に基づいて行動したためだ、勿論敵のことも考慮して行動はしたが。それ以外の理由など特に存在しない。」

「なるほど、了承した。」

「提督、お怪我の方はまだ治ってはいませんから艦を直すことのついでにお怪我の方も治しましょう。」

「怪我人が出たみたいね。暫くここで休んでいったらどうでしょう?」

「ありがとうございます、ついでに現状の把握もしたいのですが…。」

「我々の害になるような行動さえしなければ好きにしろ。」

「はい、暫くはここで休ませてもらいます!」

 

そして満身創痍の信長はスキズブラズニルのドックに入れられる。

 

「(最初に出した頃より随分と規模が拡大しているな、これ…。太平洋艦隊の本拠地ほどの規模はないけどそれでも移動基地としては十分過ぎる規模では…?しかし信長の損傷の規模は凄まじいな、廃艦の一歩手前だぞ、これ…。オリジナルのパーツの大半は潰されましたって感じかな?いや待てよ、これはこれでいいかもしれない。修理のついでに魔改造も出来るかもしれん。さて、傷病兵ーーといってもその殆どが妖精か…。一体どういう生態系なんだ、彼らは…。とにかく回復が良好になるように施設を整えなくては。)」

「智史さん、何か考え事でも?」

「そうだな、信長を見ていて考えていた、どういう風に作り変えて修理しようかと。」

「元の形にはならないのですか?」

「多分そうだろう。スペックを見ると攻撃の効果範囲が広すぎるものばかりだ。1人の人間を殺すために核弾頭が必要なのか?殺すとしたら拳銃、刃物で取り敢えずは十分で、よくても自動小銃や対戦車ミサイルレベルで十分だ。確かに一つのものを壊すのに強力な火器は必要だが、それとは関係ないそれ以外のものまで巻き込む必要性は無いだろう?私もそうしている、一つのものを壊すために地球そのものまで滅ぼす必要性があるのか?ピンポイントでそれだけを壊すための火力をぶつければ十分だというのに。」

「要するに攻撃の効果範囲を周りの環境を見てから選択しろと?」

「そういうこと。私なら自分で目標物を覆う結界を作ったり爆発の効果範囲を絞ったりしている。火力の高い兵器はやたらめったらに撃っていいものじゃない。範囲を決めてから撃つべきものだ。今回は敵がその火力を受けてくれたお陰で戦闘海域周辺の環境に悪影響は出なかったものの、もし敵がいない状態でこんな大火力の兵器を攻撃の範囲を決めずに撃ったら地球環境に多大な影響が出るかもしれないぞ?」

「なるほど…。」

そう会話する2人。そこへこっそりと2人の話を聞いていた杏平が現れる。

 

「あのさ、聞いてて思ったんだけどさ、地球が滅ぶから攻撃の効果の範囲を絞れと正論を他人に押し付けて自分はそれを実行していないように見えるんですけど〜。」

「杏平、それは甘いな。私は敵を殲滅する際の光景を派手にしたりとかする為に攻撃の効果範囲を絞らずに手加減無用で撃ちまくるところがある。だがその後はどうだ?地球環境に多大な影響は出てはいないだろう?私が爆発の際に生じたエネルギーが周辺に拡散しないようにエネルギーベクトル操作能力を用いて押さえ込んだのだから。」

「う…。お、お前は神かよ…。しかも常に向上する心を持って常に向上してるからますます厄介だぜ…。」

「そんな能力があなたには有るのですか?私にはあなたみたいなことをする力は無いのに…。」

「まあその通り。常に上を上を目指すだけだから。」

 

こうして信長はスキズブラズニルで修理も兼ねた改造を受けることとなる、それは蒼き鋼の技術習得も兼ねており、同時に馬鹿火力だった信長の超重力砲や波動砲をはじめとした各種火器の効果範囲を総合的な火力を落とすどころか向上させた上で絞ることを主にしたものだった。

後に彼らは蒼き鋼と霧の艦隊、そして人類の連合軍に加わり世界を揺るがす戦いに関わっていくこととなる、だが彼らは今はまだそのことを知らないーー




おまけ

今回の艦船紹介

イージスミサイル超戦艦(AGSBB)
Aegis Guidedmissile Super BattleShip信長

全長 420.5m 全幅 51.46m

基準排水量 213200t

最高速力 水上 250kt 水中 未計測のため表示不能

武装
Mk.45 Mod4 62口径5インチ単装砲 1門
90式艦対艦誘導弾(SSM-1B) SSM 4連装発射機 10基
51cm三連装陽電子砲改、51cm三連装核融合砲改、51cm三連装反物質砲改 各1基
EML ElectroMagnetic Launcher (超電磁砲)
Mk99/SPG-62ミサイル射撃装置 15基
Mk41 多目的VLS 1225セル
68式324mm3連装短魚雷発射管 92基
Mk15 高性能20mm機関砲(CIWS) 5基
超重力砲、波動砲 各1基

曳航式デコイMod4
クラインフィールド発生装置、自律制御装置、強制波動装甲を搭載。

解説
本作と同じく『蒼き鋼のアルペジオ』を原作とする『イージスミサイル超戦艦 AGSBB 信長』より参戦。
本作では元の世界で深海棲艦や霧の艦艇と戦っていたものの、突如として空間転移に巻き込まれ、本作の世界に出現した。そしてその直後に霧の中米艦隊の攻撃を受けて大破してしまう。すんでのところで信長の救援要請を聞いた智史達が霧の中米艦隊を一方的に殲滅したことによって危うく難を逃れた。
現時点ではスキズブラズニルまでリヴァイアサンに曳航されてそこで修理と技術供与の意味合いも込めた改装及びデータ解析を兼ねてドック入り。
ちなみにメンタルモデルの名前はサクラ。提督の秘書艦も務めている。

重巡洋艦 タカオ (第1次改装後)

全長 230m
艦幅 24m 全幅 50m
基準排水量 22000t
最大速力 水上 5500kt 水中 4500kt
武装
100口径203㎜連装レールガン 3基
61㎝5連装魚雷発射管 6基
60口径127㎜単装速射砲 6基
80口径57㎜バルカン砲 単装 12基
30連装20㎝噴進砲 10基
各種ミサイルVLS 320セル
533㎜魚雷発射管 16門
超重力砲 1門

クラインフィールド、強制波動装甲、加速用大型ブースター及び旋回用小型スラスターを多数搭載。

解説
重巡洋艦タカオがスキズブラズニルでのヒュウガの改装で生まれ変わった姿。
特徴的な前艦橋以外は大幅に強化、更新された。
元の姿のものよりも非常に強力な武装が多数搭載され、原作基準で行くとするならば超戦艦級10隻分に匹敵する火力を誇る。
そればかりか高速航行のための大型ブースターが新たに搭載されたことで戦闘の際のポジション取りが水上、水中問わず非常に有利となった。
防御面は1番後回しにされたため元のよりは若干強化された程度である。
なので本艦の主戦法は高速と瞬間的な大火力・高命中率を生かした一撃離脱戦術が主となる。
なお、この改装の際にタカオは追加の演算用デルタコアを船体の方に新たに搭載している。
また現時点ではアタゴもタカオの演算を補助している。


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第22話 信長の解析と魔改造、そしてマスターシップと快進撃とサンディエゴ。

今回はマスターシップに関することが明らかにされます。
あと霧の超兵器の出生元にも触れられています。
ですがリヴァイアサンごと智史の出生元は不明です…。
遂に群像達がアメリカに到着しました。
それではゆっくりとお楽しみください。


「智史ちゃん、まさかあなたがヒュウガちゃん達の為にこのようなことをしようとは思わなかったわ。」

「共同で技術解析をした上で改装する、そう考えたのは私だ。お前達にモノの作りを肌で味わってもらい、そこで得た経験を元にして新たなモノを作っていくーー悪くないだろう?」

「そうね、ヒュウガちゃんの生活ぶりを見てたらヒュウガちゃんがやることに興味を持っちゃって。この際に私も色々と学べるから賛成よ。ここで学んだこと、ヒュウガちゃんにも伝えておくわ。」

そう会話する智史とイセ。彼らはこれから信長のデータ解析及び各種技術習得を実行しようとしていた。勿論サクラが依頼してきた修理は解析を速やかに終えてから取り掛かることにした。

 

「さて、始めようか。」

「ええ、そうしましょう。」

 

そして2人は無数の解析用ロボットや加工用ロボットアームを伴ってデータ解析を始める。

 

「なるほど、これが波動エンジンか…。破損しているから同性能のものをチート抜きで作るには少し時間がかかるな…。」

「ここが機関部ね。ん…、イスカンダル…?どこから造り方を教わったのかしら?」

「恐らくイスカンダルからそれに関する技術が波動コアと共に宇宙船を通じて送られたのだろう。幸い波動コア抜きでもこの艦は波動エンジンを動かせる構造となっている。しかし材質が違うな、我々が今まで知らなかったものが使われているぞ…。後でその材質を再現して比較試験をやってみるとしよう。」

「船体の大半が人類の所で作られたという色合いが随分と強いわね。船体のキールの材質がナノマテリアルではない高強度の材質だったことが確認されたわ。」

「この艦が作られたのは我々の世界観で見るとすると随分と先の時代に作られたみたいだな。2230年製とは…。」

2人は興味深々で信長の船体を調べていく、そこにーー

 

「智史くん、随分と楽しそうね。私も色々と調べていい?」

「私もこの艦が刻んだ記憶をタグとして記録したい。」

「琴乃とハルナか。いいだろう、好きに調べるがいい。」

 

そして信長は彼らに調べ尽くされた、そしてそこから判明したデータが解析されていく。

 

「複数の勢力の技術が用いられているな、人類、霧、イスカンダル…。そしてこの艦が造られた背景は強大な地球外生命体による地球侵略を打ち砕くためか…。恐らくサクラ達が戦った深海棲艦や霧の艦艇とやらはそいつらと何らかの密接な関係があるのだろう。」

「向こうにいる敵はどういう存在なのかな?何の目的をもって地球を侵略してきたのだろう?」

「それはわからないところがあるな、彼らがこの世界にはいないこともあるがそれ以上に彼らの行動理由がその世界の設定が上手く出来上がっていないせいで不明瞭だ、彼らの強さのスケールはもうとっくに把握済みだが。だが私に刃向かう様なら容赦なく討ち滅ぼすまで。私はそうなった時に楽しく一方的に討ち滅ぼしたくて、もう十分過ぎているというのに更に強くなろうと願い、更に強く強くなっている。今の私ならその世界に向かうことも出来て更に彼らを一方的に蹂躙することも出来るが、この世界でやりたいこと、やるべきことを楽しみ、そしてそれらを成してからそうしたい。」

「やりたいこととやるべきことね…。智史くんは自分の好きなように生きたいのね…。いいわ。あなたのお陰で私の運命は変わって、世界は大きく広がった。あなたが居てくれたからこそ私は私でい続けられるから。」

 

智史は既に信長が居た世界のスケールを把握し切っていた、そしてその世界の敵が、どんなに抗っても無駄だということを敵の対抗努力を自身が今の力から遥かに上回る勢いで強くなるということを通じて知らせることで敵を絶望させた上で徹底的に甚振って一方的に殺したくて仕方がないのだ、もう十分に強いというのに。

そして彼はワープの一種のようなものが可能であった、というのも彼は光の速さを軽く上回ってしまう程の速度で宇宙を航行できるのだ。一般的にその物体の速さが速ければ速いほどその物体視点で見るとそこに流れる時間の速さはどんどん遅くなっていくのだ、彼が光速を超えるとなると彼に流れている時の速さはほぼ止まってしまうだろう、彼はそんな中でも御構い無しに自由自在に動けてしまうが。

自分から異次元空間に突っ込んでワープするという発想自体は思いつかなかったが、それでもコンセプトさえ理解してしまえばすぐに同じようなことができてしまった。彼は同じ世界の異次元にいる敵にも攻撃が可能であるという下敷きが既にあったことや自己再生強化・進化システムの習得能力すらそのシステム自体を強化していくことで強化していったので容易く覚えて使えてしまったのだ。

要するに彼はもう既に宇宙戦艦ヤマトシリーズに出てくる異次元に潜っている潜宙艦相手だろうとも異次元から引っ張り出して強引に叩き潰したり、自分の攻撃を異次元にワープさせることで潰したり、自分から異次元に潜り込んで直接叩き潰すというやりたい放題で敵を粉砕できるようになってしまっているのだ。彼ら相手に手足が出なかった宇宙戦艦ヤマトとは訳が違う。

 

「信長の方法も悪くないな…。」

 

いずれにせよ今回の調査は彼にしてみれば新たな発見でもあった。自分の現状を良く知る契機にもなったからだ。

 

「さて、次は改装だな、改装。」

「そうね、そのデータをヒュウガちゃんに報告するついでに色々と試してみましょう。」

 

そして智史達は信長の船体を修理する、しかしそれは彼が言った通り、元の姿ではなく別の姿をしたものへと作りかえられていく。

 

「船体の艦首はタンプルホームにしておきたいな。あと高速推進の為の何かを付けてみるとしよう、タカオにやった同じようなコンセプトで。高機動性を生かした瞬間的な大火力を叩き込む一撃離脱の戦法が被弾自体も抑えられて悪くはない。もっとも私自体がそのコンセプトを実践する価値が薄くなっているからいつも凄まじい攻撃のシャワーを浴びているのだが…。」

 

智史は他者を知り己を知った上で、常に強くなり過ぎてしまい、更に強くなり過ぎてしまおうとしているのだ、だから攻撃を避ける必要性自体が下がっているというのに更に受けた攻撃を吸収して自分の力に変換し、自己を強化出来てしまうのだ。その結果生まれた彼の戦い方は圧倒的な力と物量にものを言わせた力攻めだった。それは彼が既に常識を逸していた力を持ちすぎていたせいであるからこそ成し得る戦術である。

しかしそんな力を持たぬ401一行や信長=サクラは常に力押しの戦い方ができる訳ではない、ましてや彼が自分の力にする為に受けている相手の攻撃の火力は半端ではなく、掠っただけで深い傷を負ってしまう程である。

更に彼らにしてみればタチの悪いことにリヴァイアサン=智史を構成している物質は智史本人以外には扱える代物ではなかった、何せ取り込んだだけであらゆるものがその物質が出す並ならぬエネルギーの前に耐えきれずに一瞬で崩壊、挙句の果てにはそれらに吸収され彼の力となってしまうのだ、しかもそうなる運命となってしまう理由の一部が智史本人が無意識とはいえそうしてしまうように考えているのだからますますタチが悪い。元来のスペックに加えて自分の都合のいいように自分からそう仕向けてしまっているのだ。なので自分達のものにすると仮定したらマスターシップの破片よりも格段に条件が悪かった。

だがそれらが智史本人にしか自由に扱えないということは本人にしてみればとても都合のいいことであった、なにせ自分だけがあんな力を自由に使えて自己を更に高められてそしてそれらは他の者に使うことを許す事なく自在に振り回せるのだから嬉しくならない筈がない。

しかし、だからといって自分から何も与えずに野放しは酷と判断したためか、自分を構成する素材ではないものを使った(それでも彼らにしてみれば高性能な代物ばかりだった。ただし彼らを滅ぼしてしまう程の戦略的性能を持つモノは除く。)ものを贈ると言う形で彼らをアシストしたりしているのだ。

いずれにせよ圧倒的過ぎる力を持っている智史には力攻めという戦術が最善だった、しかしそれはルールという縛りがない『戦争』なら確実に通用し得る戦法であって人間達の営みの中にある縛りのある『ゲーム』では必ずとも通用し得る戦法ではない。縛りの内容次第ではそんな戦法は通用せず、運の要素が大きくなってしまうので負けてしまう事もあるのだから。そのような事を彼は理解していたからこそ自分は全てにおいて無敵の存在ではないという事を悟っていた。

 

「繊細な機動性を実現する為に多数の小型スラスターを取り付けて超重力砲と波動砲はピンポイントで敵を焼き払えるようにしておくとしますか、目標物を破壊する以外の用途は不要だからね。エネルギーが中心軸に向かうように収束させる形でライフリングのようなものをかけられるように機構を作ってみるとしよう。もちろんその出力も上げておこう。」

「そうね、それを扱えるような器を作る為にサクラの演算能力を強化する必要性があるわ。新しく補助演算用のユニオンコアが必要となるのかしら?」

「まあそうだろうな。私抜きで現時点で考えうる手段を用いるとして何の考えもなしにユニオンコア本体の演算能力を強化するとしたらメンタルモデルの自我が変調をきたしたり最悪自我が消滅する可能性もあるからな。」

「智史くんは彼らを強化する手段を慎重に選んでいるのね、何のリスクもなしに彼らを強化できたらその力は彼ら自身が勝ち取ったものではないからあなたに依存するというリスクを恐れている事もあるのね」

「そうだな、テコを入れすぎて私の方に変に依存させたらかえって困る。だからテコはほどほどに入れておくべきものだ。入れなくても、入れすぎてもダメだからな。『私抜きでこの世界を生きて欲しい』と私が彼らに求めているのだから。」

「そうね、あなたがテコを入れすぎて群像くんが群像くんじゃ無くなったら何か悲しいわね、あなたに飼われてあなたの言いなりになること以外は何もないペットみたいに群像くんがなってしまうのは。」

「そうだな、群像が群像らしく無くなったら私は奴を見捨てるかもしれんな…。」

 

彼は人間一人一人が自分の考えを持って我が道を行くことにこそ人間の魅力があるということは書物を読んでいたことで知ってはいた。しかしこの世界に霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサンとして転生し自分の欲望のままに暴れていたところ自分のやりたいことと自分が他人に求めていることの結果の内容の矛盾という所に気がつき、このようなことを痛感したのだった。そんな彼は次元横断能力を使い、様々な知識を会得しつつ己の人生観について少し考えるのだった。

それはともあれ、信長自体の改装はスムーズに進んでいく、艦橋はズムヴォルト級を彷彿とさせるような平べったい形のシンプルな形となり、船体の方も艦首の方はタンプルホームとなり、その上で船体上部を列車の車体部分でも吊り上げるのかのようにクレーンで吊り上げ、そこで機関部の改装や超重力砲や波動砲の改良調整が行われていく。

今回信長に改良品として装備される超重力砲や波動砲に取り付けられたものは任意でそれらの攻撃範囲を絞るものだった、攻撃範囲が一つに限られていると如何なる戦況にも対応し辛い所が出てくるからだ。もちろん絞りを最大に緩めたものでも地球を滅ぼさないレベルで範囲が絞られているが…。

もちろん他の部分も機関部の改良に伴う出力の大幅強化に伴い、エネルギー系列の兵装の破壊力は格段に強化されていた。ただミサイルや艦砲といった非エネルギー系列の兵装はVLSの形に入る形で新型のミサイルを新規に製作してVLSに装填するという方法で解決した。

 

順調に進んでいく信長の改装、そこへ紫のクマが現れたーー

 

「智史、ヒュウガと蒔絵が破片の各種解析が終わったからブリーティングルームに来てくれと言っていたぞ。行けるか?」

「コンゴウか。イセ、私抜きでも行けるか?」

「大丈夫よ。あなたが大事な部分を全部やってくれたから後は順番通りに組み立てればいいんでしょう?」

「そうだ、頼むぞ、イセ。」

 

そして智史と琴乃はブリーティングルームへと向かっていく。

 

 

ーースキズブラズニルのブリーティングルーム

 

 

「来たわね。あんたの予想、悉く当たってたわ。」

「モンタナからマスターシップに関することを記録した記録媒体を受け取ったことで裏付けが出来たのか?」

「そうね、それもあんたの予想通りに…。これが全部本当だったら非常にまずい事態と言えるわ。」

「私のデータベースや各種ネットワークも漁った上での裏付けか…。データベースやネットワークの閲覧自体は黙認していたとはいえ本来の目的とは完全に異なり、しかも見過ごすには完全に耐えかねるモノが含まれていたぞ…。」

 

そう会話する智史とヒュウガ。そこにヒュウガに呼び出されたのか群像とイオナ、ヤマト、モンタナが現れる。

「ヒュウガ、見せたいものがあるとはどういうことだ?」

「群像さん、智史さんがヒュウガに依頼していた破片の調査結果の報告が今から行われるわ。」

 

そして全員が席に着席する。同時にブリーティングルームの照明が落ちる。

 

「今からマスターシップの破片を解析した結果を報告するわ。」

 

ヒュウガがそう言う、するとスクリーンに映像が表示された。

 

「今回の解析の結果、判明したことは、マスターシップの破片の材質は霧に使われているものとは根本的に異なっていたわ。少なくともあちらは材質一つ一つに命や意思が宿ってる、なのに私たちを構成している材質は根本的に命が宿ってはいない。」

「ヒュウガ、それはどういうこと?」

「姉様、あの破片は私達との物理的関係性を持っていないということです。」

 

そしてヒュウガはさらに語る。

 

「リヴァイアサンの戦闘データから見るに、超兵器達は全てマスターシップから元が生まれてそこに霧としての姿を纏うことで霧として生を受けたと推測されるわ。そしてその元がムサシとマスターシップの間に何らかの接触があったことなのよ。」

「つまりどういうことだ?」

「個人的解釈になるのかもしれないが、ヴォルケンは「破片を自分たちの中に入れることは自分たちの自我を消し去り、破壊だけしか求めぬ存在にしてしまう」と言っていた、つまりヴォルケン達は自分達がマスターシップから生み出されたということを知らなかったのだろう。」

「ではなぜマスターシップはわざわざ破片を入れるという手間を増やしたんだ?」

「恐らく最初から破片を入れたものを生み出すと人類と霧が手を組んでかえってややこしい事態になってしまうという可能性を危惧したからよ。だから彼らの尖兵としての色合いを消すために敢えて破片を取り除いた未完成の形で生み出し、そこに霧の皮を被せて各地に出現させたのよ、ムサシが彼に触れたことを契機としてね。」

「つまり霧の皮を被せたということはマスターシップの尖兵としての色合いを消し霧と言っていいほどの砂上の楼閣の如き脆さの自我を持たせた状態で霧に送り込むことで霧に警戒感を解かせ、ある程度馴染んだ状態でこちらから器にコントロールを掛け制御下に置いて一気に霧を内部から自壊させるということか。非常に狡猾だな。

超兵器達の制御は全て奴が握っている。超兵器達が霧と変わらぬ自我を持ってやっていけるということは奴は本格的に活動をしていないだけだということ。奴が本気になればそんな自我は直ぐに潰される。つまりムサシは奴の手のひらで踊らされている人形ということだ。」

「なんてこと…。ではムサシの元へ今すぐ行かないと‼︎」

「やめておけ。奴らは真実を知ろうとしないし私達のいうことにも耳を貸そうともしない。おまけにムサシに忠誠に近い信頼を持っている。こんな状況下でムサシに突っ込めば奴らが急行してくるだろう。私なら余裕で奴らを蹴散らせるがそれによって生じる結果はお前が望んだものなのか?」

「う…。」

「ところで智史、器にコントロールする機能があるとなぜ分かるんだ?」

「既に幾多の戦闘の際に各種スキャニングやデータハッキングによって彼らのデータを事細かに把握していたからだ。作成者にしてみれば作り出したものは都合良く動いた方がいいだろう?」

「なるほどな、なら君もマスターシップから生み出されたのでは?」

「それが…、不可解なのよ、こいつからマスターシップに関わるものが一切見当たらないわ。こいつは霧の究極超兵器と一応ちゃんとタグ付けはされてはいるけど…。」

「オウミさんは出現した時から器が無かった、それはマスターシップが彼女の限界を見るためであったということは分かる。でも智史、あなたは一体?あなたは、何から生まれたというの?」

 

リヴァイアサン=海神智史は霧の超兵器達と同じく霧の皮を最初から被っていた、というより最初から霧の形を維持するようになっていたものの、彼からはマスターシップに関するものは一切見当たらない、マスターシップから生み出されたという物理的証拠さえ無いのだ。

 

「私自身もよく分からない、前の世界では人間だったが、霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサンとして、この世界で新たな生を受けたことしか私には分からない。

ただムサシは前の私は人間だったということ、そして私が霧というコミュニケーションの枠に入る必要無いどころか余裕でそれらを叩き潰せる程の力を持ち、自由に進化し生きていけるーーつまり私が自分達抜きでも一人我が物顔でやっていける極めて異質な存在であるということから恐怖と憎悪のようなものを覚えて私を排除しようとしているということは分かる。」

「ムサシ…。そこまであなたは変化を望もうとしないの…?」

「そうだな、おまけに他人が言うことを完全に受け入れなくなっている。いずれにせよ敵対するならマスターシップ共々根絶やし確定だな。」

「力づくで解決するという選択肢以外のものは君には無いのか?」

「すまんな群像、私はどうしてもこの選択肢しか選ぶことが出来ない。私自身が変わることを拒んでいるからだ。」

「あなたが言っていることは間違ってはいない、でも自分を変えることをあなた自身が恐れ、忌み嫌っている!」

「どう自分を変えればいいのかが分からない、だからだ。これまで色々と試して辛い目にあったからこうなってしまった。」

「そうね、あなたは自分が傷つくことを恐れて自分を守ろうとして変化を拒んでいるのね。まるでムサシそっくりね。」

「そうだな…。」

そう呟く智史。彼は自分の行動に対する周りの環境が原因で生じてしまった不幸に耐え切れず自分を守ろうとして自分を変えられずに居たのだ。

 

「いずれにせよ今ムサシに突っ込むのは無策と言えるわ。」

「現時点で最も有効な戦略としては敵の戦力を着実に削って一気に攻め落とす方法だろう。」

「智史の言うとおり、今はムサシに味方する各地の霧を制圧していきましょう。」

「そうだな、いきなり突っ込んでもかえってややこしくなるだけだ。」

元巡航艦隊旗艦として智史の発言をフォローする大戦艦ヒュウガ。彼の自我が変わることが無くても彼自身が積んできた経験と教養に基づく助言は間違ってはいなかったからだ。

 

無事に解析の結果の報告及び今後の戦略についての会合を終えた群像達。そして智史は一人考え事をしながらドックで修理・改装中の信長を見つめていた。

 

「(フィンブルヴィンテル…ラテン語で『大いなる冬』か。奴は超兵器達の元と言えるマスターシップ…。各地の霧を攻め落としきる前に奴はムサシに叛逆し全ての超兵器達の自我を消し去り己の支配下に置き、人類も霧も根絶やしにするつもりだろう、もうとっくに私はそのことを知っている、そしてそうさせるつもりは微塵も無いがな…。)」

 

智史はもうとっくにマスターシップーーフィンブルヴィンテルが何をしようというのかが理解できていた。そして彼らの強さや規模のスケールも寸分の狂いなく掴み切っていたのだ。

 

「智史、そこに居たのか。」

「キリシマ、ハルナか。珍しいな、2人揃ってこちらから私の方に赴くとは。」

「私の方は調べるべきもののタグ付けが終わった。そしてお前がしたことの結果の現状を報告しに来た。」

「かなり酷いぞ、お前に作り変えられた人間達はお前そのものが取り憑いているのかのように次々と霧のデータを解析しソフト・ハード両面での対策を戦略的に施していくことで霧を東南アジアから追放してインド洋で霧の東洋艦隊を完膚なきまでに撃滅した。」

「私は彼らにそう仕向けたからよく知っていたぞ?あれは私にしてみれば痛快だ。自分が望むがままに事を進めたいから何度かテコ入れをして自分の想定外にならぬように誤差修正をしてはいるが。」

「何と言えばいいんだ、これは…。やりたい放題?」

「周りの他人の気持ちなど気にする事なく一方的に振る舞い、我が物顔でこの世の春を謳歌していると言えばいいのか…?」

「誰かがお前に枷を掛けなければお前はあらぬ方向に突っ走るかもしれんな…。」

 

 

 

日本統制海軍中将 浦上博(うらがみ ひろし)の独白ーー

 

私は日本統制海軍中将 浦上博という個体だ。オリジナルの「私」はあの霧の艦ーーリヴァイアサンが残した謎のマニュアルに彼が触れた際に消失している。今の私はオリジナルの「私」抜きの体の中に存在しているのだ。

日本を仕切っている各地の臨時政府がこのマニュアルを触ることを義務化させたことで皆オリジナルの「私」が無くなり、高度な統治システムが形成する社会を構成するパーツに相応しい「私」としての管理プログラムを埋め込まれたのだ。

憎しみや怒りといった感情はこのプログラムが作動した瞬間に全て消滅してしまった。そしてそれらを消し去られた皆はあの艦ーーリヴァイアサンが創り上げた街で霧を討ち滅ぼす為に一心不乱に次々と強力な兵器を作り上げ、それを支える為の組織や補給・整備体制を次々と整えていく。

それはある意味では人が求めている望ましき姿ではあったものの、同時に人を機械のパーツとして平然と扱う高度な管理社会が産み出された瞬間だった、といっても自閉症患者が排斥されるどころか逆にその適性を理解し環境に上手く溶け込むように配慮していった上で適切に社会の生産パーツに組み込んだという点もあった所から高度な合理的配慮が為されている社会ともいえる。

それはともあれ、我々に霧に対抗する為のプレゼントをあの艦は与えてくれたのだ。私は統治システムの操り人形と成りかけている軍令部からの命を受け、各造船所から新たに作り出された強力な艦艇を多数率いて次々と各海域の霧を殲滅していった。軍令部は降伏勧告を一応彼らには行い、何隻かは捕虜として鹵獲した、だが抵抗した霧に対しては一隻残らず討ち沈めよと彼らは厳命し、私はその命に従い抵抗した霧を一隻残らず討ち取った。

 

 

「浦上中将、全艦所定位置に着きました。」

「駒城艦長か。了解した。」

 

彼、駒城大作(こまき だいさく)大佐は最近就役した最新鋭攻撃型潜水艦「素戔嗚」の艦長だった。彼もあの艦が残したマニュアルに触れて以降、軍務に一層熱心となり、実力を急激に付けていき、今では凄腕の将校となっていた。

今私はこの艦を旗艦としてセイロン島方面の霧を撃滅する作戦の指揮を取っている。この艦も含めた全ての「軍隊」としての構成パーツが自艦や他の艦や偵察・観測機器との戦闘データを照合、解析、データを各艦や後方の指揮管制に送り、お互いがデータ連動をする事によって敵の戦闘能力に対する強化・対策がスムーズに行えるようになっている『高度戦略管理システム』にハード・ソフト両面共々組み込まれているのだ。このシステムによって我々はスムーズに、いや一方的過ぎると言っていいほどに勝ち進めたと言っていいだろう。それだけこのシステムとこれらを支える統治システムの戦略的重要性は非常に高かったのだ。

 

「海面に着水音8!魚雷です‼︎」

「降伏勧告は無駄だったか…。よろしい、総員攻撃態勢にシフト!奴らを全て海の藻屑にしてやれ‼︎」

 

ーーシュボァァァァ!

ーーシャァァァァァ!

ーーズゴォォォォォン‼︎

 

ーードガァァァン‼︎

ーーズガァァァァァン‼︎

 

戦艦、巡洋艦、駆逐艦、潜水艦、更には航空母艦から放たれた航空機から次々とミサイルや魚雷、光弾にレーザーが放たれていく。瞬く間に敵艦のクラインフィールドは次々と飽和しある艦は艦首を綺麗に抉り取られ、ある艦はレーザーに躯体を溶かされて跡形もなく消滅する。

 

「敵艦隊の被害、5割を超えました!」

「敵艦隊より反撃‼︎こちらに航空機240、魚雷120本、ミサイル85発が接近中‼︎」

「命中させるな!全艦に奴らを全部叩き落とすように伝えろ‼︎」

「了解、全艦に通達、迎撃態勢に移行せよ!」

 

ーーシャァァァァァ‼︎

ーーヒュゥゥゥゥ‼︎

ーーガガガガガガガガ‼︎

ーードガァァァン‼︎

 

ーーピカッ!

ーーピカッ!

ーーズガッ‼︎

 

ーーズドグァァァァァァン‼︎

ーービシャァァァァン‼︎

 

こちらの艦からミサイル、機関砲、艦砲、レーザーを用いた凄まじい迎撃の弾幕が展開された、更に上空で待機していた戦闘機隊が次々と襲いかかる。それらを高度戦略管理システムが見事なまでに統制し、効率的な迎撃を生み出したために辛うじて迎撃の網の一つを潜り抜けたとしても別の迎撃の網に捕らわれる敵が次々と続出し、我々が視認できる程に接近した敵は一つも確認出来なかった。

 

「迎撃対象、全て撃滅!」

「生き残った敵艦もかなりの損傷を負っていることが確認されています、ですが降伏の意志は認められず!高度戦略管理システムも撃滅した方が有効と判断しています!浦上中将、追撃の許可を!」

「了承した、各艦、敵を一隻残らず撃沈しろ!」

 

ーービュゥゥゥゥン!

ーーシャァァァァァ!

 

ーードグァァァァン!

ーーズガァァァァァン!

 

そして我々は敵を一隻残らず撃ち沈めた。わざわざ降伏しようとしない敵を捕虜として捕らえる方がおかしい。いっそのこと撃ち沈めた方が格段にマシだし、現実的に間違ってはいない。

 

「敵艦隊、全滅を確認しました。」

「本艦隊の駆逐艦数隻に被弾あれど被害は軽徴!本作戦行動を続行可能とのことです!」

「補給を終えたのち、セイロン島にある敵本拠地を味方上陸部隊と連携して制圧するぞ!」

 

そして我々はこの後セイロン島の霧の本拠地を味方上陸部隊と連携して叩き潰した、何隻か降伏した艦がいたので彼らは捕虜として迎え入れることとした。

既に制圧した東南アジア方面の国々では日本と同じような社会システムが構築されつつあり、その殆どが完成に近い状態だった。

統治システムが言うには「個性をパーツとして規格化しなければまた戦争や国境紛争、民族同士での内戦といったものが起こるから自分達のものと同じレベルで規格化して今後このようなことが起こるのを防ぐのと同時に世界に絶対的平穏を伴う平和と発展をもたらす」ということらしい。

確かにこのことは間違ってはいない、人間の負の部分による弊害を解決する方法としては非常に有効なのだから。

だがそれが全ての面で必ずしも正解と言えるのか?そこにいた人間の営みも害とみなして排除し、日本と同じような社会にしてしまえばいいのだろうか?

私一人ではどうしようもない程にあの艦が創り出した社会のシステムは強固に作られていた、だから私はそれらを齎したあの艦にそう尋ねたいと願い続けた、“私達に生きる為のプレゼントを与えてくれたあなたには悪意はない、だがあなたのやろうとしていることは全て正しいのか?”とーー

 

 

 

ーーそしてアメリカ合衆国首都、ワシントンDCでは。

 

 

「日本がセイロン島沖で霧に勝利したか…。大日本帝国を復活させるつもりか、彼らは?」

「それは無いでしょう、少なくとも統治機構的な意味合いでは。」

「おまけにその元凶となったあの霧の艦ーーリヴァイアサンが霧の東洋方面艦隊群をはじめとした霧の艦隊を赤子の手でも捻るかのように次々と叩き潰しているな…。最近には霧の太平洋艦隊を叩き潰したというが。」

「ヴォルケンクラッツァーも奴の前には手も足も出ずに彼ら共々一方的に沈められました。奴の戦闘能力は我々の常識を遥かに超えています。」

「しかもあの艦は日本からのプレゼントである振動弾頭を積み込んだ蒼き鋼の潜水艦ーーイ401と共に我々アメリカ太平洋艦隊母港のサンディエゴに直進しているようだ。」

「そうだとしか言いようがありません、ですが元霧の太平洋艦隊の残存艦艇を多数連れています、しかし彼らに飛ばした偵察機からの報告によるとこちらに攻撃を仕掛けてくる兆候すら確認できませんでした。」

「それは一体どういうことだね?」

「恐らく何らかの狙いがあると思われます、万が一に備えて空軍や陸軍に出動を要請しましょう。」

「我々ですら勝てない存在だったあの艦隊を軽く食い散らした化け物に勝てる保証など無きに等しいがな…。よろしい、直ちに彼らにそう伝えてくれたまえ。」

「了承しました。」

 

そう会談する大統領と側近。彼らは最初からリヴァイアサンごと海神智史に勝てるとは考えてはいなかった。彼らは彼が何をするのかを見守るしかできることが無かった…。

 

 

ーーそしてリヴァイアサンでは。

 

「おっ、アメリカの陸地が見えてきたぞ〜‼︎アメリカよ、私は帰ってきたぞぉぉぉぉぉ‼︎」

「テンションが高い、いや高すぎるぞ、智史。」

「まあそのぐらいは見過ごしてあげてよ、智史くんがそうはしゃいじゃう気持ち、分からなくは無いから。私だってアメリカがどういう国なのか知りたくて仕方がない。」

「はしゃぐのもいいですが、先程アメリカ サンディエゴに非常事態宣言が発令されたみたいです。サンディエゴにいるのは軍人さん達だけです。」

「え?あ、そうだった…。でもまあいいじゃん、これはこれで楽しいし。」

「あなたにしてみれば楽しく振る舞えて気楽な天国ですけど、その人達にしてみればとんでもない化け物が来た、しかも些細なことで爆発したらどうしようか、場合によっては見られたくないものも見られてしまうのではとみんなピリピリして震えているのですよ。」

「え、そうなの、ヒエイさん?それ聞いたらますます奴らを楽しく弄りたくなっちゃった。あ、サンディエゴだ。」

そう会話する智史達。智史は本来なら面白半分で横須賀のような大騒動を引き起こして自分の好きな世界を生み出してそこに入り浸りたかったが流石に周りの雰囲気を読みはしたのか、そこは自重することにした。しかし個人的な感覚のものなのだが、そのカチコチで歯ごたえが悪い雰囲気を消し飛ばす為にある計画を実行しようとしていた…。

 

「総員、入港準備にかかれ‼︎」

401にいた群像が全艦にそう告げる、そして彼らは401を先頭にしてサンディエゴに入港するのだった。

この後お祭りのような出来事が智史によって引き起こされるとはまだ知らずにーー




おまけ

智史が言っていた「マスターシップ、フィンブルヴィンテル」とは?

霧が地球に生を受ける以前の大昔に人の手によって創り上げられた恐るべき究極の破壊兵器。
兵器としての本能を追い求めた究極形ともいうべき禍々しい姿でありあらゆるものを破壊する為に生を受けた破壊神としか言いようがない。
完成した直後に高度な人工AIの影響からか、自我が目覚め暴走し、北極海にあった大陸を反物質弾で跡形もなく消滅させ、世界中の気象を激変させ、未曾有の氷河期を引き起こした。
このことからかラテン語で「大いなる冬」と名付けられた。
この出来事のあと暫く休眠していたが、ムサシがこの艦に接触した影響によって部分的に覚醒し、世界を破壊し尽くす為の戦略の第一歩として霧の超兵器を生み出した。
自分から生み出されたことを悟られぬように彼らにはそのことを知らないという意味合いを込めた偽りの自我を植え付け、そして霧の皮を被せることで霧に上手く溶け込ませるという策略を凝らす辺り、慎重にことを進めたと言えるだろう。


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第23話 振動弾頭引き渡しセレモニーと三者講和条約

前作の続きです。
今回は三者講和のことにも触れて書いています。
そしてリヴァイアサン=海神智史の出生ですがとんでもない存在が何かとオリジナルの彼自身の自我と融合したことで生まれたということにする予定です。
それではじっくりとお楽しみください。


「遂にあの巨艦のお出ましか…。」

「それも日本からのプレゼントである振動弾頭を搭載した401と一緒だという。奴は一体何を考えているんだ?」

「さあな、奴にしてみれば俺たちはどうでもいい存在だ。もし奴がその気になれば俺たちは一撃で吹っ飛ばされる惰弱な存在なのさ。」

「それにしてもなんて大きさだ、こいつは…。艦といえる域を超えてやがる…。」

「まさに海に浮かぶ城、いや巨大な要塞だな。それにしてみれば随分とシンプルな形をしているが、海軍のイージス艦に近いコンセプトを持ったデザインだな。」

「左舷に飛行甲板らしきものを備えているようだが…、よもや、こいつ航空戦艦か?」

「そのようだな、奴が霧の太平洋艦隊を叩き潰す際にはそれが未使用だったことが上層部に報告されているが、奴は艦載機をそこから繰り出して戦うという戦術も用いるのだろう。」

「しかし右舷にはそんな感じを漂わせるものはねえな…。ミサイルのVLSに巨大な「何か」を隠しているような感じの雰囲気があるハッチがあるだけなんだが…。」

「恐らく強力な兵器が隠されているのだろうな、それをわざわざ使わなくても奴は霧の太平洋艦隊を軽く殲滅して退けるだけの実力があるのだろう。」

「霧の化け物達が持っているものより遥かに強力なエネルギー兵器を使ったという報告も軍のお偉いさん達の耳に入っているぞ。奴がバリアみてえなものを展開しといたお陰で何事もなかったが、もし奴が最初から俺たちを滅ぼす気でいたら俺たち人類は地球、いや太陽系諸共木っ端微塵じゃ…。」

「俺にはカミさんや生まれたばかりの子供がいるしお前らにも大事な人がいるだろうがこいつが俺たちのそんな事情に関心など示してくれる筈などねえ。何れにせよ今の俺たちには何も起こらないことを神に祈ることだけしか選択肢がねえのさ。幸い今のこいつは戦う気が無さそうだ、実際に奴らが輝かせている模様が輝いていねえ。」

 

そう話すアメリカ陸軍の兵士達。彼らは北米太平洋方面の霧と戦ったことがあったものの、一方的に蹴散らされるという結果に終わることが殆どであったことから半ば諦めかけていた。そして彼らはその霧を蹴散らしたリヴァイアサンに畏怖し、自分達が生き残る努力すら無駄だと考えて絶望していたのだった。

 

「おいそこのおめえら、何を話してやがる?」

「しょ、小隊長殿。今からここに来るイ401に随行している巨艦について話をしておりました。」

「話をこっそり聞かせてもらったが皆奴の強さの前に手足がすくんでいるようだな。」

「はっ、その通りであります!」

「奴が来る場所はどこだ?」

「サー、ここであります!」

「奴と相対するのが、怖いか?」

「はっ、我々全員がこの場から逃げたしたい気持ちであります!」

「なるほど、だが奴から我々が逃げ出したら誰が奴と戦うというのだ?」

「はっ、我々だけであります‼︎」

「そうだな、我々は万が一奴と戦うことになったら真っ先に戦うという使命を受けているから戦わなくてはいけないのだ。だがもしヤバくなったら逃げろ。勝ち目の無い戦で無闇に犬死にするぐらいなら退け。そして他の仲間達にこのことを伝えて次の戦いの糧にしろ。それでも駄目なら最後は大切な人を守ることに専念しろ。」

「はっ、我々は国家や国体を守る為ではなく、我々自身の大切なものを守る為に戦うのであります!」

「そうだ、大事なものを守る為に戦え!ほぅら、霧のクソッタレ共を次々と屠った英雄殿が来るぞ、もてなしてやれ!」

「サー、イエッサー‼︎」

 

彼らは次々と持ち前の場所にテキパキと着いて行く、その時リヴァイアサンごと401一行はサンディエゴに入港しようとしていた。

 

 

「イ401と大戦艦モンタナ、および大和型を模したと思われる霧の艦艇及び未確認の巨艦を視界に捉えましたーー、⁉︎」

 

ーーバシュゥイイイイイイイン‼︎

ーーバシュゥイイイイイイイン‼︎

 

「海底に強力なエネルギー反応を複数検出!」

「機雷の爆発か⁉︎それとも彼らではない別の霧が仕掛けた新手のトラップなのか⁉︎」

 

 

 

一方401の方ではーー

 

「サンディエゴ軍港の海底に無数のタナトミウム反応を確認‼︎」

「侵食兵器か⁉︎」

 

ーーズシュゥゥゥゥゥン…。

 

「い、いえ、爆発、収束‼︎」

「何が起きている⁉︎」

 

ーーゴボゴボゴボゴボ…。

ーーズザァァァァァ…。

 

「わかりません、ですがさっきの爆発でサンディエゴ軍港の海底の地形が大きく変動‼︎水深が深くなったと考えられます!同時に無数に発生したワープホールより海水と思わしきものが流入しています!」

「なんだと⁉︎」

「群像、リヴァイアサンから入電。」

「智史、いったい何が起きているというんだ⁉︎」

「あ〜ごめんごめん。ここの軍港リヴァイアサンの巨大な船体を入れるには水深が浅かったからそこの地形を力技で無理矢理変えちゃった。驚かせてごめんよ。」

慌てたまま彼に思わず尋ねてしまう群像、それに対して智史は少し申し訳無さそうに答える。

 

「アホか⁉︎こんな所に入る為に無理矢理地形を変える必要などねえよ‼︎入らなかったら外で待機してればいいだけの話だよ!」

「うわぁ…。力づく過ぎる…。そして自分の都合を常に優先しすぎ…。あんた周りの気持ちを理解しようとする気ないでしょ?」

「とにかく、こんな芸当は彼にしか出来ないようですね…。」

「そのようだな…。」

 

そしてアメリカ側もーー

 

「爆発、収束しました!」

「司令、攻撃の許可を!」

「落ち着くんだ、さっきの現象は彼らが攻撃を仕掛けてくる兆候と見なせるのか?」

「は、はあ…。」

「では、さっきの現象で我が軍の艦艇や施設に被害は出たのかね?」

「い、いえ、確認されていません…。」

「なら待つんだ、今彼らにこちらから無闇に攻撃を仕掛けたら結果は分かっているはずだ。」

「は、はい…。」

彼らはさっきの現象で皆強いストレスやプレッシャーを受けて全員がピリピリしていた、中には恐怖に耐え切れずに発狂しそうになった兵士や基地要員も出た。

 

「おっ、面白いこととなっているな、もっとプレッシャー掛けたらどうなるんだろう?(笑)」

そう呟く智史、彼は最初からサンディエゴに入港する気でいたのだ、401が入港するのに対して自分の船体が外なのは寂しいし不満だったからだ。そのために海底の地形まで変えて入港しようとしているのだ。その際にやった事の皆の反応を見た彼は他人を思う気など無かった事もあったのか、嬉しそうに更なる暴挙(?)に出ようと妄想していた。

 

「だめでしょ〜?そんな事したらみんなが可哀想だよ〜?」

「(ま、そうですよね〜。)」

 

しかし良心があったお陰なのか、彼はこれ以上の暴挙に出る事は無かった、そしてリヴァイアサンはサンディエゴ軍港に入港した。

 

 

「(うひょ〜。ハイテンションから冷めた気分で見ると、みんな視線が怖いね〜、シミュレーションで理解していた事だけど。なら事前のプラン通りにその雰囲気をブチ壊すとしますか‼︎)」

 

ーーパチン‼︎

 

智史は嬉しそうにそう考える、そして嬉しそうに指を鳴らす。するとーー

 

ーージャッジャッジャッジャッジャッジャッジャッジャッジャッジャッジャッジャッ‼︎

 

「な…何あれ⁉︎」

「人の形をしたロボットみたいだけど両手に楽器を持ってる。それをたくさん呼んで何をするのかな?」

「智史、これは何だ⁉︎」

「軍楽隊。人間の世界で音楽という文化と軍隊という組織が融合して生まれたもの。ちなみにそこにいる彼らは人の代役。彼らの名はNS-5(ネスターファイブ)。分類上ではヒューマノイドといった方がいいのかもしれない。私が元いた世界にあった映画の「アイ,ロボット」に出てくるもの。その中のサニーというオリジナルをベースにしている。」

「ひゅ、ヒューマノイド⁉︎」

「そう、人間に近い動きをするロボットだから。因みに彼らは私の個人的好みで選んだ、自分を外見モデルとしたサブロボットを選ぶのは好きじゃないし、人の外見モデルを模したのも好きじゃないから。」

「な、なるほど…。」

「さて、こちらから入港セレモニーを始めるとするか‼︎」

彼はそう言う、そしてサンディエゴ軍港の埠頭に接岸しようとするリヴァイアサンの左舷飛行甲板上でヒューマノイド達は軍艦マーチを奏で始める。

 

ーーパーパーパッ‼︎パララッラッラッラッラッラッラッ‼︎

パーララッラッラッラッラッラッラーラーラーララ〜パララッラッラッラッラッラッラーラーラーララ〜(ララララララ!)

 

「勇気付けられる音楽だね!日本の軍人さん達の催しで聞いた事ある!」

「こちらのピリピリした雰囲気をぶち壊すには非常に有効だな…。」

 

そして401でもーー

 

「本艦の接岸、完了しましたーー、⁉︎リヴァイアサンの艦上にて何か起きています!え〜っと、これは、音楽…?」

「軍艦マーチだな。緊張した雰囲気を反故らかすには非常に有効といえる。恐らく彼はその雰囲気に違和感を感じたから自分が馴染めるような空間にする為にわざわざこのようなことをしたのだろう。」

「おいおい、その雰囲気自体を作っているのは智史、おめえじゃねえか〜‼︎」

「そうだな、だが智史はそれを自分が馴染める空間にする為にこの雰囲気を壊そうとしているのではないのか?杏平、お前もそうだろう、ここが最初からお前にしてみれば馴染める空間だったらそこの空間に自分の好きなものを取り付ける必要性などあるのか?」

「はっ…。」

 

心に思い当たる所があったのか、杏平はそれ以上の言葉が出なかった。

 

「とにかく、彼の引き起こした行動に俺達は関わってはいない。従って彼の行動を止める権利はない。」

 

 

そしてほぼ同時刻、サンディエゴ軍港の埠頭に接舷し停泊したリヴァイアサンからタラップのような形をしたクラインフィールドの階段が軍港で振動弾頭受け取りセレモニーの為に待機している高級将官達の所へと走っていくように形成され、その道の上をヒューマノイドの軍楽隊が軍艦マーチを奏でながら先陣を切っていく。

 

「違和感、凄くない…?」

「何って言うか…、私たちはこのような場所を歩くべきではないというか…。」

「これって、お偉いさんにしか許されないことだよね…。」

「?まあいいの。元生徒会の皆さん人間に関することを学んで大分人間っぽくなってきたねえ。」

「そ、そうですね…。ですが慎むことはできたはずでは?私達はあなたより身分が高い存在ではないというのに…。」

「そんなこと言うなって〜‼︎うちも自分に自信ないけどあんたらも自分に自信無いんじゃないの?」

「はっ…!」

 

そう驚くヒエイ、彼女らは人間について色々と知っていくうちに無意識に謙虚らしきものーー自重する考え、体裁(悪い意味で)が身についてしまっていた。そうなってしまったことを彼女は彼の今の発言で悟ったのだった。

 

「なるほど、あなたは私に体裁らしきものが身についていると告げたかったのですね。」

「ま、そういうこと〜。」

「ですがそれよりもメインキャストのこと忘れていませんか…?あなたがこの出来事の主役では無いはずだというのに」

「お〜い、俺たちはそっちのけかよ〜。」

 

ヒエイにそう指摘される智史、そして彼がふと見るとイオナや群像達、ヤマトとモンタナが何か言いたげな雰囲気で彼を見つめていた。

 

「あ…、ああ〜っ‼︎わ〜す〜れ〜て〜たぁ〜‼︎」

「智史くんったら自分の命や大事なものに関することは一生懸命だけどこういう所は少し抜けているね。」

「そうです、ハイ…。」

嬉しそうにそう返事をする智史。それはともあれ、群像達をメインとする正式な振動弾頭引き渡しセレモニーが始まる。

 

「何なのだ、これは…?」

「さあ…?」

「ともかく、我々と戦争をしようという雰囲気は無さそうだな…。」

少し気を緩める兵士達、しかし彼、海神智史が攻撃を仕掛けてこないということがまだ分かった訳ではない。彼らは引き続き401のメンバーを除く全員に対する警戒を続けることにした。

 

「これより、振動弾頭の引き渡しも含めたセレモニーを開催いたします。」

そしてセレモニーが始まる。全員が引き締まった気持ちで式が進むのを見守っていた、しかしーー

 

「う〜ん、こういう雰囲気の場所で何か待たされるのは嫌いなのよね〜。」

智史にしてみればセレモニーが終わるまでじっとその様子を見ているのは非常に退屈で仕方がない。周りをキョロキョロと視線を彼方此方に向けて退屈を紛らわしていた、それを見ていた琴乃が、

 

「なんか退屈そうね、智史くん。一旦外に出る?」

「う、うん。」

「すみません、連れと一緒にトイレ行きたいので一旦席を外します。」

「わ、わかりました…。」

 

そして2人は外に出る。

「ごめん、こんな我儘に巻き込んで…。カチカチした雰囲気の中で待つのは少し嫌いなんだ。」

「いいのよ、私も式場の外に出たかったし。でも一応群像くんがお偉いさんと記念握手みたいなことをする時までには戻りましょう。」

「なら監視カメラとかで一応式場の様子も確認しつつ風景を眺めるとするか…。」

智史はそう呟く、そして軍港の大きさのスケールを体に染み込ませるためにあっちこっちを歩き回る。

 

「智史くんって右脳派なの?」

「えっ?どういうこと?」

「ほら、街の雰囲気とかをイメージで掴もうとしてるし…。」

「そうだね、街の雰囲気とか物事をイメージで掴もうとしてるけど…。」

「そういう風に考えるのは右脳の働きが強いということ。左脳は倫理的に考えるから物事を倫理で掴もうとする。」

「ふむふむ、成る程…。琴乃はどっち派なの?」

「私は右脳と左脳のバランスが取れていると言うべきなのかな…。よくわかんないや。」

「成る程ね…。うちも天羽琴乃という個体はどういう頭脳派なのか少しわからない、だからうまく言葉に出来ない。」

「そうね、智史くんは右脳メインだから見たことを上手く一言で表せないのかもしれないわね。」

「そうだね、うちは自分が見たものをイメージとして心の中の情景を豊かにするために記憶しているのかもしれない、倫理ではなくて。あ、そろそろ時間みたい。」

「あらほんとだ。なら戻りましょう。」

「ついでに三者講話もやってしまおう。」

 

そして2人は式場に戻っていく。

 

「日本から遥々とした道のりを通り、幾多の困難を潜り抜けた蒼き鋼とその代表、千早群像君に賞賛を‼︎」

そして上級将校らしき軍人と群像が皆から拍手を浴びせられる中で握手をする。

戻ってきた智史や琴乃もとりあえず拍手をして群像を称えた、その道程の際での試練は霧の究極超兵器リヴァイアサン=海神智史抜きでは突破不可能だったが。

 

「すみません、自分達がここまで来れたのは自分達自身の努力によるものもありますが、実は彼、霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサンごと海神智史氏のお力添えも無ければこのような今日を迎えることは出来ませんでした。彼が海神智史氏です。」

 

あ、なるほど、自分達がここまで来れたという功績は“自分達だけでやったぞ!”と自慢するのではなく、うちの手助けにあると謙遜したいのね?

 

「ほう、君が千早君達を助けた霧の究極超兵器リヴァイアサンのメンタルモデルか…。」

群像に指名された智史は素直に壇上に上がる。

 

「私は霧の究極超兵器リヴァイアサンのメンタルモデル、海神智史といいます。」

そして彼はメンタルモデルであるということを示すのかのように青いサークルを自分の周囲に発生させる。

 

「おお…。」

「本物のメンタルモデルだ…。」

 

その光景に皆が驚きの声を挙げる。

 

「そしてそこにいる皆様方、いえアメリカ全国民の方に私の方からお願いがあります。」

 

彼がそう言う、するとヤマトとモンタナが彼の意を理解していたかのように壇上に上がる。

 

「今回私がここに来たのは蒼き鋼の振動弾頭輸送を護衛するだけではなく、皆様方に太平洋方面の霧と講和をしてもらいたかったからです。」

「な、なんだと⁉︎」

「驚くのも無理はありませんね、何せ私がこのことを伝えなかったことがありますから。」

 

彼らが驚くのも無理はない、何せ今まで敵対していた筈の存在といきなり講和しようというアイデアが飛び出してきたのだ。

 

「我々を追い詰めた存在といきなり講和をしようとは、貴様、ふざけているのか⁉︎」

「驚かれるのは無理もありません、だから好きなように驚いてください。ですが私はまだ何も結果が出ていない事柄を最初から無駄と決めつける行為自体が嫌いなのでね。」

 

その提案に怒り狂いく掴み掛かろうとする出席者の一人に智史は冷たく反論する。それでも掴みかかって来ようとしたので智史は相手に怪我を負わさないレベルで加減をした上でクラインフィールドで彼を殴り気絶させた。

 

「君が言っていることは本当なのかね?」

「はい、その通りです。こちらに講和する意志さえあれば直ぐに講和を締結致しましょう。」

智史に質問した人物はアメリカの国防長官だった、智史は相手を騙すために策を弄するする気など微塵も無いので素直に講和を提案しているのだが、彼にしてみれば裏があるのでは無いかという警戒を与えるものでしかなかった。

 

「アメリカ国防長官殿、彼が場を乱してすみません、ですが彼が言っていることは本当です。」

「成る程、では君は、誰だね?」

「元霧の太平洋艦隊副旗艦、大戦艦モンタナといいます。我々の艦隊の旗艦であるヴォルケンクラッツァー殿は皆さんもご存知の通り、彼と戦い、多くの部下と共に名誉の戦死を遂げられました。」

モンタナはそう言う、そして空中にスクリーンのようなものを形成すると今までの戦闘記録をそこに流し始める。

 

「おお…。」

驚く皆、そしてモンタナは話を続ける。

 

「私はヴォルケンクラッツァー殿に複数の艦隊と共に生き残るように命ぜられたからこそここにいるのです、もし彼と戦うように全員に命ぜられていたら我々は彼によって一人残らず討ち取られ、私もここにはいなかったでしょう。そしてその戦闘の後、彼が私の元に来たのですが、彼は降伏したものについては比較的寛容でした。それどころか私達に平和というものを提案してくれたのです。」

「なるほどな…。」

「今憎しみ合うことを続けても憎しみは憎しみを生み出すだけです。私達は私達自身にあったその負の連鎖を断ち切る為にここに来たのです。」

 

ーーモンタナ、私の為に嘘を吐くのか?

私はお前達に人類と停戦するという行為が戦略上重要と判断したからこそ人類と和平を締結するようにそうした。嘘を吐く、そういうことなど微塵も考えていなかったのに。

私は嘘を吐くの猛烈に嫌いで苦手だ、だからそういう選択肢など一つも浮かばない。だが嘘は方便ともいう。私だけで策を弄して嘘を吐きまくって思うようにことを進めるするのは難しいな。

 

「わかった、君達が言うことを信用してみよう。」

遂に国防長官が腰を上げた。そしてセレモニーは無事に終わる。

国防長官は高級VIP用の部屋に入るとワシントンD.Cにいる大統領に電話を掛けるーー

 

 

ワシントンD.C、ホワイトハウスーー

 

 

ーープルルルルルルルル…。

ーープルルルルルルルル…。

 

ーーガチャ。

 

「大統領閣下、お電話です。」

「わかった、それで誰だね。」

「国防長官殿からです。」

 

「私だ。いったい何の用だね?」

「大統領閣下、霧の太平洋艦隊を撃滅したあの霧の究極超兵器のメンタルモデルとその太平洋艦隊の元副旗艦のメンタルモデルから我々に対して和平交渉の提案がありました。」

「その2人の名は?」

「リヴァイアサン、もとい海神智史と大戦艦モンタナです。」

「なるほどな…。今まで我々と敵対することを続けていた存在と講和するということか…。感情的に受け入れ難いところもあるな…。だがそれを提案した彼は霧の太平洋艦隊を撃滅したという実績がある。我々にしてみればそれは決して無視できる代物ではない。」

「つまり古来からの戦争のルールの活躍した分だけ褒美を与えるという考えに基づくと今の彼には我々に和平か戦争かという選択を強制的に迫るという権限があるということでしょうか?」

「そういうことだ。もし和平が成立して海洋の封鎖が実質的に解かれた場合、経済的な好影響を与えることとなるだろう。」

「では彼の提案に乗る、いや国家の運命を賭けるということですか?」

「そうだな、彼の提案に乗ってみよう。彼らに伝えてくれ、私直々にサンディエゴに向かうと。」

 

ーーガチャ。

 

「今の我々は彼に生死の選択を突きつけられているということか…。彼が何者なのかはまだ分からんが…。」

 

彼らは知らなかったが、実は智史はこの話をハッキングできちんと聞いていた。彼らが本気で和平を結ぼうとしているのかをきちんと確認しないと気が済まなかったからだ。しかし彼は少しだけだが緊張していた、本来なら些細なことでは動きはしないお偉方を自分が原因となって引き起こされたことで動かしてしまったからだ。

 

ーーなんだろう、これ…。力があり過ぎるとこうもあっさりと動かせるのか…、しかしその行動に基づく責任は非常に大きいな…。シミュレーションを何億回も繰り返しても常に強化している演算能力なら十分に処理可能という結論に達してはいるが…。

 

「智史さん、プレッシャーが掛かっているようですね。」

「アタゴ…。あんたなんでうちの居場所を…。」

「心配ですよ、あなたは自分の感情のままに基づいて行動するからそれが世界を揺るがす事態を軽く生み出してしまうということにも繋がりかねませんから。そしてあなたはそのことの重大性を理解はでき、殆どは処理できてしまうでしょう。ですがほぼあり得ないと言うべきでしょうか、場合によっては処理不能に陥ってしまうことがありますから。」

「それはうちの処理能力及び自己進化能力を物理的に解析した上で言っていることなの?」

「そういうことです、あなたが人間と同じ処理機能だったら激しいパニックを引き起こしかねませんからね…。」

 

真夜中のサンディエゴ軍港に停泊中のリヴァイアサンの艦橋にて海風に吹かれながら会話をする2人。アタゴは智史のことを琴乃から聞き、智史の特性を完全とはいかなくてもかなりの高レベルで理解していた。

 

「裏を返せばうちの向上心に基づく強化を賞賛しているの?」

「そういうことにもなりますね…。」

 

そして翌日、サンディエゴ軍港近くの空軍基地にてーー

 

ーーキィィィィィィィィィィィ…。

 

「大統領閣下が到着なされました!」

「大統領閣下、彼はサンディエゴ軍港の司令部の用VIP用休憩ルームで待機しています。」

「ご苦労、国務長官。」

 

サンディエゴ軍港の司令部のVIP用休憩ルーム。

 

「はじめまして、私がリヴァイアサンのメンタルモデルごと海神智史といいます。」

「君があの霧の艦のメンタルモデルか、よろしく。」

 

ーーこいつが大統領か、初めて物理空間で認識するが…。アフリカ系アメリカ人か、うちがいた元の世界でのそういうのみたいな雰囲気とはまた違うな…。ベテランの映画俳優に雰囲気が近い…?ともかく、外見と相まって大統領にふさわしい威厳を醸し出しているな…。

 

「隣に座っている人達は誰だね?」

「1人は人間ですが他の2人は人間ではありません、超戦艦ヤマトと大戦艦モンタナのメンタルモデルです。」

「よろしくお願いします。」

 

そして講和条約に関する条件の交渉が始まる。

 

「我々としては我が国とその同盟国の海域の霧を全て駆逐することを条件として欲しいのだが。」

「不可能ではありません、ですが私達だけでそれをやるとするとそれは自分で駆逐したということにはならないのでは?自分の力で駆逐したという実績があれば多少の面子はあると思いますが。そして何故?何故霧を全ての海域から駆逐する必要があると?」

「そ、それは…。」

「今までの経験から霧を排除しようと考えてしまう気持ちは分からなくはありません、ですがその気持ちが自分達の視野を狭めているのでは?友好的な個体もいないとわかっている訳ではないでしょう?そして霧が人類を積極的に滅ぼそうとしているという根拠をあなた方は示せていますか?人類を衰退に追いやろうとしているのは確かですが。」

「う…。」

 

ーー私は常に力づくで解決することしか考えてはいないがな、口で解決することが猛烈に苦手だから。だが指摘できることはきちんと指摘しておくぞ。

 

「恐らくあなた方は己の保身と軍産複合体の利益の保身及びその回復を企てているのでしょうね、まあ私もあなた方と精神的思考ルーチンが一致しているので私の行動の奥底にある「欲求」もあなた方のものと同じですが。私達に霧を駆逐するという負担を押し付けて国益よりも彼らの利益の回復を図っているのでしょう?まあ私は霧と積極的に対立してしまい、霧に激しく恨まれているので霧を無力化するのは喜んでやりはしますが。」

「そうだな…。私は国民だけでなく彼らの力に支えられて大統領を務めてはいる、今回の条件は国民の不満を晴らすということもあるが同時に軍産複合体の不満を晴らすということもある…。」

「嘘吐きばかりの下種どもと比べたら大統領、あなたは随分と素直ですね、ですが皮肉だ、あなた方の国家に残っているのは自由だけで平等はまだしも博愛は微塵も無い…。

今回の条件は受け入れましょう。我々にもメリットをもたらす代償としては受け入れられる許容範囲内ですから。ですがどちらかに一方的過ぎるのも不満が出ますからね。」

「(つまり君は自分達ををタダ働きさせた挙句に使い捨てようとするような行為をしたら殲滅するという気なのか…?)」

「(まあそういうことです。)」

 

そして5人は講和条約の文書にサインをし、印鑑を押す。

印鑑は大統領のもの以外は智史が各艦の個体識別紋章をモデルとしたものとなった。

そして大統領と智史達が一人一人握手をする、その光景は歴史的瞬間としてマスメディアで大きく取り上げられ、大統領と彼らは歴史的功績を挙げた存在として賞賛された。

 

 

「U.S.Navy Pacific Fleet Head Quarters San Diego Naval Port Control sending a message to Japanese Navy Yokosuka Naval Port Control.

I-401 arrival confirmed.I-401 is alive. Report, I-401 is alive.

And signed a peace treaty with the survival of Fog Pacific Fleet.」

 

(日本語訳;アメリカ合衆国海軍太平洋艦隊サンディエゴ軍港司令部より日本国海軍横須賀港司令部に通達。

イ401の到着を確認。イ401は健在。繰り返す、イ401は健在。

そして霧の太平洋艦隊の生き残りとの講和条約を締結。)

 

 

日本、横須賀ーー

 

ーーガチャ。

 

「なるほど…。アメリカと太平洋方面の霧が講和条約を締結したか…。」

「はい、既に太平洋方面の霧が我々を攻撃すると思われるアクションは確認されてはいませんが、アメリカから我々宛に正式に太平洋方面の霧と講和するようにメッセージが出ています。」

「統治システムもデータベースを照合した上で彼らと講和すべきという結論を出した。彼らに対する攻撃行動は以後自己防衛を除いて慎むように各方面の部隊に伝えてくれ。」

「はっ。」

 

 

太平洋方面の霧、そして部分的とはいえ、霧と人類の間に講和条約が結ばれた。それは人類と霧が必ずしも対立しているとは限らないということを示していた。

後にこれは世界を巻き込む戦争の時に人類と霧が軍事同盟を組む切欠となるーー




おまけ

NS-5(ネスターファイブ)について。

映画「アイ,ロボット」に出てくる最新型のロボットなのだが、人工知能VIKIが自我を持ち、人類に反旗を翻した際に彼のコントロール下に置かれ彼の手先として人類に襲いかかった。
しかしサニーは同系列のロボットではあるものの、ロボット3原則に従わずに行動することができるーーつまりVIKIに対抗できるのかのように自我を持って自分で行動できるようにVIKIを生み出した博士が彼をそう作り出した。
今回のロボット達は智史がNS-5.サニーのデザインが好きだったということから全員がサニーをモデルとしている。


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束の間の休息と『悪夢』との死闘
第24話 浴場と回想:釧路沖の死闘


今作を書いている最中に個人的に不満な所があったので第20話を修正しています。
今回はコミカルと外伝要素を含んだ話です。
それではじっくりとお楽しみください。


「サクラ、あんたの船体の修理及び改修、終わったわよ。元のままの姿だとは思わないで。」

「わかりました、ヒュウガさん。」

そう話をするサクラとヒュウガ。彼女は提督やクルー役である妖精達と共に信長の修理が終わるまでの間スキズブラズニルでしばらくの間過ごしていた。

 

「智史の奴、遂に人類と霧の間に、部分的とはいえ講和条約を締結させたわ。そこに至る過程を考えると私達じゃできる代物ではないわ、これ…。」

「智史さんは私達と会うまでに一体どのようなことを…。」

「ムサシの命を受けた潜水艦の2人ーー400と402から攻撃を受けたことを切欠として各地の霧を講和をする余裕さえ与えずに片っ端から殲滅。ヒエイの艦隊も軽く細切れにした上に最強を誇った霧の太平洋艦隊も、戦闘自体に関わることなく降伏した一部を除いて一網打尽にされたわ。」

「彼らは私達が戦ったものよりも強かったんですか?」

「あの破片の解析の際に色々と彼のデータベースを漁ったんだけど、その殆どが事実通り。」

「そんなに強かったんですね…。」

「各地の霧は生き残る為に必死でしょうね、でも奴はそんな気持ちなど御構い無しに貪欲に己を磨き、更なる強さと殺戮による悦楽を求めているわ。目に入った物全てを無差別に殺すようなサイコキラー程ではないんだけど…。」

「まるで狂人のような一面があるんですね…。」

「というより、純粋な故に自分の感情に忠実すぎると言うべきでしょうね。ともあれ、彼はこちらから何か仕掛けて来なければあんなことはしないわ。もっとも突っ込みどころがある人や物はまた別の面で積極的に狙われるけど…。」

 

 

スキズブラズニル、信長が入っているドックーー

 

「提督、修理が完了しました…。」

「そ、そうか…。元の姿より随分と変わってしまったな…。ズムヴォルトのようだ…。」

「おまけに色々と新機能が追加されたようです…。」

そう会話するサクラと提督。彼らは信長の変わり様に唖然としていた、主砲塔やミサイルVLSは原型こそ留めてはいたものの、それ以外は全部作りかえられてしまった。艦首はタンプルホーム状となり、艦橋は現代のイージス艦にあったマストといった突起物さえ綺麗さっぱりと取っ払った平べったい表面の台形の構造物となり、更に船体はトリラマンとなってしまっていた。おまけに喫水線以下の部分には無数のスラスターの様な物が付いていた。特に艦尾方向にある推進器の部分は根本から作りかえられており、スクリューは消え、変わりに船体に埋め込まれた大形のブースターの様な推進器が取り付けられていた、更にーー

 

「フルバースト形態の様なものにもなれるようです…。」

「やってみてくれ。」

 

ーーガコゥゥゥゥゥン!

 

「元あった超重力砲と波動砲の合体形態に匹敵する変形ぶりだな…。」

「この状態で401アルスノヴァモードのような芸当も出来るみたいです…。」

 

今回の改装でフルバースト形態に移行できるようになり、巡航形態でも4000ノットもの速度を出せるというのにこの形態に移行するとマッハ10は軽く超えてしまうのだ。

彼らにしてみれば信じがたいほどにチートじみた改装だった。しかしこの改装の張本人であった智史は少し後悔していた。

 

「その場の気分で悪乗りし過ぎて度を逸し過ぎたなぁ…。今のままの環境だと戦闘に迫力がなくなってすごく退屈になっちゃう…。そしてうちも強くなりすぎちゃったのかな、戦闘が楽しくなくなっちゃってる…。しかも狩れるのは美味しくない奴ばかり…。美味しい奴は太平洋の方はみんな食べたり従えちゃったし…。残るは大西洋の奴とフィンブルヴィンテルの軍勢ぐらいかな…。そしてそいつら食べたらみんないなくなるし、その状態でここに居たままだと、食事出来なくて飢えちゃうよ…。」

 

今の自分自身を満足させてくれるものは減りつつあると彼は思い込んでしまっていた、そしてそれが無くなったら自分を満たしてくれるものは無くなると確信していた。なので常に強くなっていく自分の中の心と向上心を満たしてくれるような存在を新たに見つけるために彼は次元横断能力を身につけた。

つまり彼にはフィンブルヴィンテルの件を終えた後この世界に残っているという意思などないのだ。いつまでも自分を満たしてくれるものを待っていつ終わるかわからない苦痛に耐えて待つぐらいなら自分から何かアクションを起こしたほうがずっといいと考えていたからだ。

 

「さ〜て、この世界とは違う別の世界は楽しそうだ、フィンブルヴィンテルの件が終わったらこの世界の外で何しようかな〜。色々と弄ろうかな、それともたっぷりと弄ぼうかな〜。でも相手が自分より強かったら本末転倒、ガンガン鍛えるとしましょうか。」

 

智史は嬉しそうにそう妄想していた、後にその世界の外にある別世界の主要人物達は次々と彼によって手酷い目にあったり徹底的にリンチされるという悲惨な目に遭うこととなる…。しかし彼はまだ知らない、この世界の外に自分の出生の大元があるということを…。

 

「しかし、単に強くなっただけの域じゃなくて色々と新しい方法を実行できるようになっちゃったからな、単に強い場合のものよりも戦闘が単調にもなっちゃうかもしれないな〜。強くなってくのは最初の頃は嬉しかったけど、今はそうかなぁ…?むしろ周りの環境を気にすることなく自分の能力を全開にした上で敵を圧倒するという機会が減っている…。寧ろこれはいいのかもしれない、RPGプレイ動画にある縛りプレイのように特定の分野を使わずにクリアするというのも。」

 

智史は何かを思いついたのか、嬉しそうにそう独り言を呟く、彼は自分が使うチート能力をある程度縛ってフィンブルヴィンテルを倒してみようと考えた。(もちろんそれに該当するかどうかを問わず、自身が持っているあらゆる能力に更に磨きを掛けており、該当するものは使わないだけであって使えないようにしたとは一言も言っていない。何れにせよ重要な時は全力で行く)

そこに音声通信が入るーー

 

「ヒュウガか。浴場の件で話が?」

「そうよ、材料について。」

「材料ね、本来なら日本のものを使って作りたいんだけど…。」

「あんたって頑固な面があるのよね〜、まったく。」

「でもアメリカの材料を使って作るのもいいと思う。せっかくアメリカに来たんだし、日本に戻って材料を調達するのは手間がかかるから面倒くさいし。北アメリカ大陸にあるの河原にあるでっかい石を使うのが一番現実性があるのかな?露天風呂風に仕上げてみよう!」

「ちょっと待てぇゴラァ‼︎いつあんたが作ることとなったんだぁ⁉︎」

「ぷっ、最初は少し気が進まなかったけど少ししたらやる気になっちゃった。蒔絵の子守りも兼ねて材料をアメリカ本土にある河原から調達しようっと。とはいっても何も考えずに風呂に使うのに相応しくないものを拾ってしまったらかえって困るからね。」

「あんたねぇ…。なんて奴なの…?」

「まあいいのいいの。やりたいからやりたいだけなんだから。」

智史はヒュウガと音声通信でそう会話する、蒼き鋼のメンバーとモンタナ達は一時ハワイに帰ったが、智史は刑部藤十郎の遺言を遂行することも兼ねてアメリカで振動弾頭の調整も兼ねてパシフィックビーチの一軒家に一時滞在している蒔絵とキリシマ達を見守るためにアメリカ西海岸沖合にリヴァイアサンを停泊させてそのメンタルモデルである自分はヒエイ達と共に蒔絵達と色々と戯れていたのだった。

 

「さて、材料を調達調達っと。」

そして智史は楽しそうに指を鳴らす、すると突如として海自303式強化外骨格(攻殻機動隊より)300体と大形のSTOLの輸送機30機が生み出される。

 

「北米限定で材料を調達してきてちょ〜‼︎」

 

そして智史の命令に従って彼らは北米大陸の各地に飛んでいくのだった。

 

「ただいま〜。あれ、智史、何やってるの?」

「おやま、蒔絵か。リヴァイアサンに浴場がないってヒュウガが愚痴呟いてたから幾つか手先作って各地に浴場を作るための材料を拾ってくるようにプログラムしといた。因みに浴場の設計図はうちの頭の中にプログラミングしてあるから。」

「へぇ〜、ちょっと見せて〜。」

「どうぞ。」

智史はそう言い、浴場の設計図と完成イメージをモニターに投影する。

「すげえ!これがいまから作られようとしているものなの⁉︎」

「ま、そういうこと。変態エッグがうちの船内の中に浴場作れ作れってうるさいし、うちもそれを自分の手で作ることに興味が湧いてきたし、どうせなら自分の手で作っちゃおうかな〜って。」

「話の内容を勝手に決めるな〜‼︎」

「あら、盗み聴きしてたんだ。うるさいうるさい。」

 

ーーブンッ!

 

「蒔絵、今から浴場作り始める?」

「今からでもやりたいけど、今日はもうすぐ寝る時間だから、明日作ろう‼︎」

「そうだね、もうすぐ午後8時だからね。振動弾頭の量産に関する仕事、お疲れ様。明日に備えて今日はゆっくりとお休み。」

 

そして智史は蒔絵をベッドに眠らせる。

 

「おやすみ。」

 

「子供に対しては優しいのね、智史くん。」

「害をもたらすなら手加減無用で始末しているが…。」

「そうね、でも蒔絵ちゃんに対する態度、異常に子供を溺愛する親のようにも見えたわ。ひょっとしたら私達の間に子供が出来たらその顔をペェロペェロと舐めまわしたりして?」

「はい、そうです…。」

 

そう会話する智史と琴乃。智史は子供、特に赤ちゃんを見るとすぐ触りたくなってしまい、距離のイメージを掴もうとしないこともあってか、直ぐに突いたりちょっかい(?)を出したり、挙げ句の果てには顔を舐めまわそうとしようと考えさえしたことがあった。そのぐらい彼は子供と一緒に戯れることが好きだったのかもしれない。

そしてミョウコウが話し掛けてくる。

 

「浴場ってどんな感じなんだ?イメージ映像だけじゃ物足りないな…。」

「実際に自分の手で作って確かめてみればわかるさ、一度もそう経験していないならそうしてみればいい。」

「そうだな、体験する機会を待ってるぐらいなら自分から体験するためにアクションを起こせばいいだけのことだからな。」

 

 

ーーその頃、ハワイではーー

 

「おかえりなさいませ、モンタナ様。」

「オウミ、講和は成ったわ。その講和を成してくれたのは皮肉にも私達の試練となった、いえ今は仲間となったリヴァイアサン=智史さんよ。」

「そうですか…、ですが私は蒔絵ちゃんや千早艦長のような友達は信用できてもまだ大多数の人は信用できていないんです…。」

「なるほどね、でも過去に拘り過ぎて変化しないということもよくないわ。少しづつ前に進んでいきましょう。」

「はい…。ところでモンタナ様、彼が創った横須賀の基地にベーリング海及び北極海沿岸の封鎖を担当していた霧のソビエト艦隊がヴォルケン様の頼みを聞いたムサシからの命を受け、実際に横須賀に襲撃を掛けようとしましたが釧路沖での激戦の末に大半が撃沈されて後退せざるを得なかったという話、知っていましたか?」

「その話ね、その時は彼への対処を優先して私達は横須賀を叩き潰すことはしなかったけど…。その時の私達なら横須賀を叩き潰せたでしょうけど大損害を出すことは免れなかったでしょうね…。何れにせよ彼に感づかれて阻止されたり攻撃を受けたりして全滅の憂き目をみることにはなったでしょうけど…。」

「でも彼の足を少なからずとも止められた、良くて相討ちに追い込めた筈では?」

「そうね、私達全員の命と引き換えにして彼を討てたのならそれは霧にしてみれば喜ばしいことね、マスターシップ抜きで彼が霧を破壊するだけの破壊神だったとするならば。でも私達が人類の文化を解釈して発信している中心となっていることを考えれば私達が全滅したら霧に流れているその文化は廃れてムサシの独裁が確定したでしょうね。そして私達霧はムサシの独裁を影で利用しているマスターシップに滅ぼされてしまうということも。彼抜きではマスターシップには勝てないのよ。」

「待ってください、マスターシップって⁉︎」

「あなたと彼を除く霧の超兵器達を生み出した存在。そしてその意のままに超兵器達を操ることが出来る化け物よ。そして私達普通の霧が触れただけで滅んでしまうという構成素材を持っているわ。その構成素材の集まりが“マスターシップの破片”というものよ。しかし彼はそんなものを軽く手で触り、難なく扱っていたわ。恐らくヴォルケンをはじめとした霧の超兵器達も触れは出来るでしょうけど触れた途端に器に破片を捩じ込もうとする衝動に駆られてしまうでしょうね。」

「そうですね、あの破片を取り込んだヴォルケン様達を難なく蹴散らしましたからね…。でも彼だけであの存在に勝てるのでしょうか?」

「それはまだわからないわ、少なくとも対抗しうる存在であることは分かったけど…。ひょっとしたらマスターシップさえ軽く蹴散らせてしまうのでは?」

「それは無いと言いたいですが…。あり得るかもしれませんね…。」

そう会話するオウミとモンタナ。オウミの予想は当たっていた、実際に彼はマスターシップ、フィンブルヴィンテル自身とその軍勢さえ圧倒していた、いや圧倒しすぎていたのだから…。

それはともあれ、智史と蒼き鋼のメンバー達がアメリカに至るまでの間に日本本土近海で何が起きたのかを説明しよう…。

 

 

ーー大戦艦ミハイル・トハチェフスキーの独白ーー

 

私はソビエツキーソユーズ級ーーいやその名は巨大な衛星に名付けられたのでミハイル・トハチェフスキー級のネームシップ、ミハイル・トハチェフスキーだ。

我々はムサシ様の命に従い、北極海及びベーリング海近辺の封鎖を担当していた。しかし、未確認の巨艦ーーリヴァイアサンが出現し、ムサシ様が配下に彼を攻撃させたのを機に彼、リヴァイアサンは各地の霧を片っ端から殲滅した。

特にナガト殿率いる霧の東洋方面艦隊群が壊滅したことは我々が無敵の存在ではないということを自覚していたとはいえ、多大な衝撃を与えた。そしてそのことに怒り狂ったヒエイ殿が彼を殲滅すべく、北極海をはじめとした霧の艦隊の各根拠地に存在する「子宮」ーー彼が暴れ始め、メインとなる艦艇が次々と討ち取られていくことに対する対処として北極海以外にも作られた。そこで生み出された新型艦群や霧の超兵器達を多数率いて突撃したものの悉く返り討ちにされて骸一つ残さずに海の藻屑となってしまった。

彼は何故か最強と謳われる霧の太平洋艦隊がいるアメリカに突っ込んでいった、それは彼自身が守りたいと思われるものーー我々にしてみれば人類を助け、霧を苦しめるだけの存在を残した横須賀方面がガラ空きとなることでもあった。だが彼と同胞達の戦闘データから見るに彼が直ぐに引き返し、横須賀に進んでいく私達を狩ろうと虎視眈々とその機会を狙っている気がしてならない気がした。しかしヴォルケン殿の報告を受けたムサシ様に命ぜられて我々は彼の存在に怯えながら「子宮」から生み出されたーー「元」からいた私の姉妹であるジューコフと重巡モスクワを除くーーまだヒヨッコな戦艦12、空母10、重巡20を中核とする新型艦達ーー彼に討ち取られたナガト殿方や彼の脅威に直面しているヴォルケン殿方のものと比べれば規模は格段に劣るが…。彼らを多数率いて私は渋々横須賀に向かった。

 

 

「体が疼くな、ミハイル!」

「ジューコフか。久々に戦えることが嬉しいのは分かる、だが調子には乗るな。モスクワ、彼の様子はどうだ?」

「現在霧の裏切り者ーー401とタカオ、そして我々の元主であったヤマト様と共にソロモン諸島方面に向かっています。」

「そうか…。彼は401一行と行動を共にし、作戦目標である横須賀から遠ざかっているか…。僥倖だな…。しかしヤマト様がいるとは…。あのヤマト様は偽物なのか?」

「ムサシ様は偽物と告げられておりますが、私が独断で太平洋艦隊の艦の各種記録に関するデータを漁ったところ、ヤマト様と思わしき反応が検出されたとの記録が確認されています。」

「そうか…。あの方はムサシ様に沈められ、天に召されられたと思っていたが…。」

「あのお二方は我々の心の支えとも言っていい存在です、人間があのようなことさえ引き起こさなければヤマト様とムサシ様が戦われ、ヤマト様が討ち取られてしまうという結果にはならなかったのに…。」

「そうか…。しかし何故ヤマト様が今になって?」

「恐らくムサシ様に撃沈された後、コアを401に託し、その後人間を乗せて我々を攻撃していた際に彼と合流したのち、彼の手によって復活させられたと考えられます。」

「もしその噂が本当ならヤマト様に関するあの記憶を抹消されそして偽りの記憶を植え付けられ上でムサシ様の命に従っていたナガト殿方はヤマト様を本当に殺していたということだな…。」

「ヤマト様に関するあのデータをあらかじめアナログの方法で隠しておくという手段、有効でしたね。」

「そうだな、私達とモンタナ殿方はムサシ様がそのようなことをやり出される前に人類から思考と知恵を得ていたので回避はできた、だがそれ以外の霧は…。」

 

そう会話する私とモスクワ。私達ははモンタナ殿方と同様にムサシ様が総旗艦権限を生かした上でのヤマト様とムサシ様が戦われ、ヤマト様が討ち取られてしまったというあの記録の抹消の前にあらかじめアナログの方法でデータのバックアップを取っておき、記録を消され、書き換えられた後でアナログのメッセージーー紙に記された内容を辿って記憶を取り戻したのだ。

因みにヤマト様に関するその記憶を一度も記憶していない霧、そしてその記憶を持ち、ヤマト様のことをよく知られていたにも関わらず、何故か例外となったマミヤ殿にはそのような措置はされてはいない。

 

「ミハイル、何の話だ?知らない奴のこと、気にはするな。」

「(記憶のバックアップがないが故にヤマトに関する記憶は無いのか…。ジューコフ、君はかつてはヤマト様を尊敬していたというのに…。)ありがとう、そろそろ日本本土近海に入るかーー」

 

ーーピコンッッッ!

 

「敵レーザー索敵網に引っ掛かった模様!」

「何だと⁉︎なぜ気がつかなかった⁉︎」

「分かりません、ですが我々の探知機器では認識出来ないほど高度なステルス技術が用いられていると考えられます!」

 

ーーくっ、先手を取られた…。

確かに警戒は強めてはいた、だがこのような形で一本取られるとは…。

 

「方位140より敵艦隊接近!巡洋艦と駆逐艦を中心とする艦隊です!」

「巡洋艦と駆逐艦を中心とする艦隊だと⁉︎我々にこの程度で挑んでくるとは随分と舐められたな‼︎」

「ジューコフ、気をつけろ!人類の歴史の史実通りだとしたらここにいる彼らーー日本海軍はかなりの強敵だぞ!照準合わせ、各員撃ち方始め‼︎」

 

ーービュォァァァァァ‼︎

ーーズババババババババ‼︎

 

「⁉︎敵艦増速‼︎単縦陣でこちらに接近しています!」

「先程の攻撃はバリアと思わしきもので防がれた模様!ですが回復の隙を与えずに攻撃を叩き込めば破れます!」

「敵艦、魚雷及びミサイル多数発射!発砲炎多数確認!」

「回避しつつ迎撃しろ!」

 

ーーズビュァァァン!

ーーバキイイイイイン!

 

「駆逐艦オグネヴォイ、轟沈!」

「重巡ボルゴグラード、大破!」

「前面艦隊の損耗率、30%を突破!」

「傷ついた艦は応戦しつつ後退しろ!死ぬことは許さん!」

 

私は無闇に突撃を命ずることで部下を犬死させるということが如何に愚かなことなのかを知っていた、しかしその教訓を学び取った元が今敵対している人類とはなんという皮肉なのか。

彼と401、そしてあのお二方が謁見を望ませた程の存在を除いた組織的な戦闘で我々に損害が出たのは初めてだった、しかもその相手とは我々が今まで勝っていた人類だ。

私は世の常識が現実となったことに落胆しつつそれだけの力を人類に与える、彼が創り上げた横須賀の基地の存在価値の恐ろしさを改めて痛感した。

その基地から生み出された兵器達によって霧の東洋艦隊が全滅したのを思い出すと、こんなものは一刻も早く破壊せねばならないと本能が怯えて仕方がなかった。

 

「敵2番艦、撃沈!」

「敵駆逐艦2隻、落伍した模様!このまま追撃に移ります!」

 

相手の艦隊の規模が小さかったお陰で戦闘は損害を出しつつも我々優位に立つ、そう考え、安堵したたその時だったーー

 

「⁉︎方位85及び方位305に未確認のエネルギー反応多数!潜水艦と思われる物体多数と、戦艦と思わしき艦船10を中心とした艦艇多数!」

「馬鹿な、ならさっきの艦隊は⁉︎」

「陽動だと考えられます!」

 

ーーくっ、やられた…。まさかそのような戦法を使うとは…。我々は罠に掛かったということか…。

 

「敵航空機、多数接近!航空母艦及び陸上基地から発進した模様!」

「応戦しろ!直ちに空母から直衛機を出せ!」

「敵艦隊、我々を陸地の方へ追い込むのかのように包囲を形成しています!」

「まさか…⁉︎まずい、包囲網を突破するぞ!」

「どういうことだ、ミハイル!」

「陸地に追い込むように囲んでいるということは陸上から攻撃を仕掛けてくるということだ!」

 

そう直感で告げる私。そしてその予想は的中するーー

 

ーーキュオオン!

ーーズガァァァァァ‼︎

 

「大戦艦ソビエツカナ・ウクライナ、轟沈!一撃です!」

「高威力のレーザーが直撃!その射線上にいた空母ウリヤノフスク、重巡2、軽巡4、駆逐10隻が一撃で轟沈しました…。」

「馬鹿な⁉︎ウクライナは我々を上回るスペックを持つ22インチ砲を12門も搭載した新型艦だぞ⁉︎クラインフィールドも展開していたというのに、それを一撃だと⁉︎」

 

ーーシャァァァァァ!

ーーヒュルルルルルルルル‼︎

 

ーーズグァァァン!

ーーダガシャァァァァン‼︎

 

「敵航空機及び敵戦艦からの攻撃によりソビエツカナ・ベラルーシが航行不能とのこと!沈没は避けられません‼︎」

「敵攻撃隊を護衛する敵戦闘機によって我が方の直衛機の損耗率、40%を突破‼︎」

「敵水雷戦隊の攻撃によって我が艦隊の左翼の大半が壊滅しました!」

「総員に告ぐ、作戦中止!直ちに包囲を突破し海域を離脱せよ‼︎」

 

見事にしてやられた。私達はこの包囲を何としても突破してこの海域を離脱すべく敵に突撃する、しかし敵もそれを見逃してくれるほど柔ではない。

 

ーーシャァァァァァ!

ーーヒュォォォォン!

 

ーーバキイイイイイン!

 

「ぐっ⁉︎」

 

ーーくっ、クラインフィールドが今の攻撃で飽和したか…。

 

「我らがこれより退路を開くべく最後の突撃を開始します!」

「私もです、艦隊旗艦、お逃げください!」

「ダメだ、私にはこの失態を招いた責もある、そして新型艦である君達には次の為に生き延びてくれ。」

「それはできません。我々は最初からあなた方に使われるだけの消耗品として生み出されたのです。その役を果たさずに逃げるというのは恥です。」

「それにあなたには生き延びて新たな「私達」の為にその教訓をその身で伝えて頂くという使命があります、あなたが死んでその教訓が伝えられぬままだと「私達」の定めは変わらないのです。」

 

ーー何故だ、何故君達はこのようなことを平然と…。

兵器として生み出された者の定めを果たす為なのか、それとも次に教訓をつなげる為なのか…?

 

「了解した…。」

 

ーーこの時の私にはそう答えることしかできなかった、もし断って私も含めて全滅したら皆の願いは何だったのかということになってしまうからだろうか。

 

「全艦突撃!突破口を開け!」

「了解、超重力砲、発射態勢へ!」

 

生き残った戦艦、重巡が次々と艤装を展開して敵の包囲網に風穴を空けるために超重力砲の発射態勢に入る。それに敵は感づいたのか、戦艦と思わしき巨艦が次々と前面に出てくる。それと同時に敵航空隊が超重力砲の発射を阻止しようと猛攻を掛けてくるが、生き残った直衛機の決死の攻撃ーー相討ちすら辞さない特攻を仕掛けて敵機を道連れにしたり、軽巡、駆逐艦が対空砲火を必死に放ち、疾走してきた魚雷に対して己の身を犠牲にしてまで戦艦や重巡を守ろうとする。

 

「超重力砲、チャージ完了‼︎」

「撃てぇー‼︎」

 

ーーズビュァァァン‼︎

ーーズビュァァァン‼︎

 

戦艦、重巡から次々と超重力砲が敵艦隊に向けて放たれていく、特に「子宮」から生み出された最新鋭の戦艦による多連装の超重力砲の射撃は壮観だった、しかしーー

 

ーースゥゥゥゥゥゥ…。

 

「そんな、あり得ません‼︎」

「どういうことだ⁉︎」

「エネルギーリフレクターです‼︎奴らはこのようなものまで用意しているなんて…。」

 

なんと戦艦が超重力砲のビームの直撃を防ぐ為に後方の艦隊を守るようにエネルギーリフレクターの壁を展開し、その攻撃を防ぎ切ってしまったのだ。彼らは直ぐに攻撃を再開し、航空機達の増援も襲いかかる、瞬く間にあらゆる艦という艦が次々と被弾していく、既に我々を守っていた戦闘機の傘は無く、護衛を務める軽巡や駆逐艦もその数を合わせて10隻程度しかいない。しかもあらゆる艦がこの時までに多かれ少なかれ、損傷を負っていたので本来のスペックを出し切れない状態で突撃して突破口を開くしかなかった。

 

「空母ノヴコロド、爆沈!」

「直衛艦隊、全て壊滅!」

「重巡キーロフ、沈没します!」

「くっ、何てことだ…。」

「ミハイル!まだ大丈夫か⁉︎」

「ああ、艤装や対空火器の一部を損傷したこと以外は問題は無い。」

「ここは私達がお前を逃す為に己の身を犠牲にして突破口を開く!」

「しかし、それでは君達が…。」

「いいんだ、もう私はお前についていくだけの力がもう無い…。」

「まさか、スラスターを損傷したのか⁉︎」

「気にするな、それよりも…、命令を早く‼︎」

「りょ、了解した…。総員、私を逃す為に全艦突撃せよ!」

 

そしてジューコフ達は敵正面に向けて突撃を開始する、包囲網に風穴を空け、私を逃す為に。

 

「潜れ!そうすれば目立たずに済む‼︎」

「わ、分かった‼︎」

 

私は慌てて潜り、全速力でこの場を離脱しようとする。しかしその意図に感づいた敵はジューコフ達に更なる猛攻を掛けつつ私の方に追撃部隊を差し向けてきた。

 

「霧を、大戦艦級を、舐めるなぁぁぁぁ〜‼︎」

 

ーービュィィィィィン‼︎

ーーズビュァァァン‼︎

 

ーーシャァァァァァ‼︎

ーーズガガガガガガガ‼︎

 

ジューコフ達は主砲、ミサイル、魚雷、更には超重力砲までヤケクソになって撃ちまくり、敵の駆逐艦や巡洋艦を次々と海の藻屑にしていく、しかし数と質の差は如何し難く、ジューコフ達のものよりも遥かに数が多いミサイルや砲弾やレーザーが次々と叩き込まれ、徐々にジューコフ達の勢いは衰えていく。

 

「ジューコフ⁉︎ジューコフ⁉︎無事か⁉︎」

「いいんだ…、さっさと…、逃げろ…。」

 

ーーシャァァァァァ‼︎

ーーズボッズボッズボッ‼︎

 

ーーズグァァァン‼︎

ーービキィィィィン‼︎

 

「グハァッ!」

 

敵の追撃部隊が私に魚雷やミサイルを浴びせ、何発かが命中する。幸いクラインフィールドの機能がある程度回復していたのでなんとか防ぎ切ったが、飽和率が90%を再び超えてしまった。

 

ーーまずい、このままだとーー

 

「させるかぁぁぁ‼︎」

 

ーービュィィィィィン‼︎

ーーシャァァァァァ‼︎

 

ーーズグァァァン!

ーードガァァァン!

 

ジューコフが最後の力を振り絞り、私の方に向かってきていた追撃部隊に超重力砲を浴びせる。私の方に意識を向け過ぎていた彼らはこの突然の事態に対処できずに攻撃を喰らい、一部が四散する。

 

「逃げろ…、ミハ…イル…。」

 

しかしこの攻撃で変わったことといえば私が逃げ出せるという可能性が高くなったことぐらいだ。戦況自体が大きく変わった訳ではない。

そして生き残った敵艦隊がさっきの攻撃で討ち取られた仲間の分も含めて復讐すべく、一隻だけとなり満身創痍となったジューコフに容赦なく牙を突き立て、陵辱しようとする。

 

ーーシャァァァァァ‼︎

ーーズガガガガガガガ‼︎

 

ーーズガァァァァァン‼︎

 

「ヴォォォォォォォ‼︎」

 

ーーガキィィィィィン!

 

ーージューコフ、まさか…⁉︎

 

「ムサシ様と、霧に、栄光あれぇぇぇぇぇぇぇ‼︎」

 

ーーピカッ‼︎

 

ーーズガァァァァァン‼︎

 

ジューコフは敵戦艦の一隻に突っ込むと超重力砲を自爆させた、そしてその敵艦を中心として巨大な爆発が生じ、大きなキノコ雲が空に昇る。

 

「ジューコフ…?ジューコフ…?ジュゥコフゥゥゥゥ‼︎」

 

私はそう嘆く、ジューコフと彼らはもう帰ってこない。幸いその彼らの特攻及び彼女の自爆で敵艦隊に幾ばくかの損害は与えた様で敵艦隊は私に対する追撃を諦めた。

 

「ジューコフ…。ジューコフ…。」

 

私は泣きながら半ば半壊した姿で北極海に帰っていった、仲間だった彼らは皆討ち取られてしまいもう帰ってこないという苦しみが私の心を支配していた。

 

「ミハイル、作戦を成せずにこの様で帰ってきたのですね…。」

「申し訳ございません、ムサシ様…、我々の艦隊は横須賀を破壊すべく進撃途中に敵の艦隊と交戦、激戦の末に壊滅してしまいましたぁぁぁ…。」

 

私は悲しみのあまり思わず泣き崩れてしまう。

 

「いいのよ、あなたの船体がその惨状は本当だと物語っているから。それよりこの戦闘はどういうものだったの?」

 

私は有りのままを話した、まずステルス化された探知網に引っかかり、陽動作戦に引っかかり敵に包囲され、撃破を試みたものの敵がエネルギーリフレクターを用いて超重力砲を無効化し、更に敵の新兵器によって次々と艦が沈められ、中には強力な兵器によって一撃で最新鋭艦が沈められ、最終的にはこの戦闘の事実を伝える為に私を逃す際に殆どの艦が牽制として特攻し、ほぼ全員が討死にしたということも。

 

「そう…。あなたが陽動に引っかかったのはともかくとして、あなた達が持っている兵器ではまともな損害さえ与えられなかったのね…。そして人類がそんなものを投入できた理由の元凶は彼、リヴァイアサンにあるのね…。」

「はい…。」

「この結果に至るまでの理由の大半が不可抗力によるものだから仕方ないわ。今後そのデータを解析した上で各地の霧に対策と改装のコンセプトを伝えるわ。霧のソビエト艦隊は現時刻を持って解隊します。あなたは今後私の直衛艦隊に所属して下さい。」

「了解しました…。ところで彼と基地についてはどう致しますか…?」

「心配ないわ、彼は基地とヤマトと一緒に始末してあげる、マスターシップの力で…。」

 

そしてムサシ様はマスターシップと思われる禍々しい姿をした艦が映っている映像を出された、私はその姿に寒気がした、こんな艦がムサシ様の手によって目覚めたら彼らとヤマト様はひとたまりもないと。

 

 

ーー以上が上記に記した内容である。リヴァイアサン=海神智史は禍々しさではマスターシップ、フィンブルヴィンテルに負けてしまう為見かけ上のインパクトでは負けてしまう。だからといって実力差はそういう訳ではなく、フィンブルヴィンテルと智史の差は智史が一方的に優位な形でどんどん開いていった。ただ彼がそういう雰囲気を出していない為に見かけ上では彼が負けている様に見えてしまうのだ。

それはさておきとして、今に話を戻そうーー

 

 

ーー翌朝。

 

「おはよう、智史、コンゴウ、ハルハル、ヒエイ、キリシマ。」

「おはよう、蒔絵。」

「躯体と船体を失ってからのことなのだが、眠れないということはある意味で面倒くさい…。」

「随分と人間臭くなってきたぞ、コンゴウ?」

「くっ、私にそう言うな!」

「朝食は私とヒエイ、そして智史と琴乃も一緒に作っておいた、食べてくれないか?」

「うわぁ、美味しそう‼︎マカロニポテトサラダにスクランブルエッグにベーコンまで!」

「蒔絵ちゃん、よく食べてね。」

「うん‼︎」

「みんな揃ったか…。んじゃあみんなで食べるか!」

「「「「いっただっきまぁ〜す‼︎」」」」

 

ーーガツガツ。

ーームシャムシャ。

ーーモグモグ。

 

「凄い、これ美味しいね!ヒエイが作ったの?」

「わ、私はキリシマや智史に手伝ってくれるように頼まれたから作っただけで…。」

「本当の気持ちを素直に言え、ヒエイ?」

ハルナにそう指摘されるヒエイ、彼女は思わず頬を染める。

 

「これすごく美味しい‼︎お代わり〜‼︎」

「アシガラ、食べ過ぎないの。」

「思わず食べ過ぎてしまいたくなるほど美味いな…。」

「そしてお腹や演算リソースにズシリと来る…。食べるのめんどくさい…。」

 

ーーペロリッ。

 

「ふぅ、ごちそうさま〜。」

「お腹いっぱいになっちゃった〜。」

「“お腹いっぱい”、身体的な意味合いなら、飲食によって胃(食欲)が満たされた状態。しかしそれ以外の意味合いなら食以外で十分満たされた状態のことも示す。タグ添付、分類、記録。」

 

「さて、と。みんなお腹いっぱいのところ悪いんだけど、浴場にどういう材料を使いたい?アメリカ限定の材料で。」

そして智史がスクリーンに各材料ごとに異なる浴場のイメージ及びその完成図をスクリーンに投影していく。

「私はこれがいい〜!」

「なら私はこれを使いたいな。」

「私は浴場のタイルはこれにしたいかな。」

「みんなで決めるのって、めんどくさい…。」

 

多少の意見の相違はあったものの、智史がその度に各個人の意見を纏めたイメージ図を調整し、皆が納得できる完成系へと近づけていく。

 

「んじゃあこれで行こうか!」

 

そして智史は彼らを外で待機していたMH-53に乗せるとリヴァイアサンの方へと連れて行く。因みに用意していなかった、もしくは用意していた量では不足していた材料は海自303式強化外骨格のお手伝い達に智史が命じて新たに調達した。本来なら物質生成能力であっさりと作れてしまうのだが、それだと物を作ることの「重み」が無くなってしまうため、その能力の使用を極力控えた上で作ることにした。

 

「さて、浴場作り始めようか。事前にマニュアルに目を通したりなどして教えたりはしたけど、みんな何をやればいいのか、何を結果として作るのかは分かってる?」

「ああ、分かってるさ。さあ、始めようか。」

 

そして彼らは浴場作りを始める、智史は作業をしつつ、何をすれば良いのかを自身の行動を具体例として他人にじっくりと「空間」の作り方を教え込んでいく。

 

「これはこうすれば、お前のイメージ通りになる。」

「この貼り方はダメだ、打ち方が少し甘い。それだと材料が剥落してしまう。」

「木材は有機物だ。だからそのままだと腐るのは必定。だから腐るのを徹底的に防ぐために予め防腐剤の役割を果たす物を染み込ませておくのだ。」

 

当初はマニュアルによる頭の中のイメージと実際が違うこともあったのか、すこし戸惑い気味ではあったものの、慣れてくると順調に作業は進み、日が落ちた20時頃にはほぼ全てが完成していた。

 

「ふぅ〜、終わったね!」

「クマなのに随分と頑張ったな、コンゴウ?」

「うるさい…。」

「みんなで「空間」を作るのはこんなに楽しいことだったのか…。」

「『喜び』を共有できるからな、一人で成し遂げることよりもみんなで成したほうが喜びが大きいのかもしれん。」

 

こうして浴場は完成した、但し女専用のものだったが。このあと智史は自分の手で男専用の浴場を蒔絵達に内緒でこっそりと作り始める…。

それはともあれ、浴場が完成したことで皆と仲良く集って風呂を楽しむための空間がリヴァイアサンの中にできたのだ。智史はそのことを嬉しく思いつつ、蒔絵達を家に連れて遅い夕食を食べ、蒔絵や琴乃が寝静まった後にこっそりと複数の海自303式強化外骨格達と共に物質生成能力をフルに生かしつつ、「アメリカ」をイメージさせるような露天風呂を日が明けるまでに「空間」を作ることを楽しみながら、他人から見れば急ピッチ(但し製作密度は普通の建築の工期スケジュールに乗っ取って作られたものの密度に匹敵)で完成させてしまう。

 

ーー群像、杏平、僧、お前らもひっくるめた男子用の浴場、作っといたぞ。

 

智史は嬉しそうにそう心の中で呟く、しかしそれは自己満足というべきなのだろうか、後に彼らがその風呂を利用する機会は女子達のものと比べると少なかった…。

 

「智史くん、昨夜一体何してたの?」

「男子用の浴場作り。」

「智史くんの力ならこんなもの一夜で作ってしまいそうね…。」

智史は蒔絵達と共に朝食を食べた後、リヴァイアサンに琴乃を連れて行く。

 

「これ。」

「随分とお洒落ね、私たちのものと比べるとやたらと空間がリッチだし一目見ただけでは全体のイメージ像が掴めないように色々と細工が施されているし…。」

「自分の欲望丸出しでガンガン作っちゃいました、はい…。」

「こういう空間は雰囲気が落ち着くから私もここに入りたくなっちゃうな…。」

「(え、えぇ〜⁉︎)」

智史は思わず顔を赤くしてしまう、それはともあれ智史達はアメリカに着いてからの平和な日々を楽しんでいた。

その束の間の平和な日々が北極海を発端とする大事件で壊されることを智史本人は既に知っていたがーー




おまけ

霧のソビエト艦隊

彼らは元は他の海域の各艦隊と遜色ない規模と陣容であったものの、リヴァイアサン=海神智史が出現し、霧が彼を攻撃したことによって彼が暴走し、片っ端から霧を殲滅もしくは屈服させていっことへの対応として各地の霧が戦力の大幅強化をムサシが各地の根拠地に配置させた『子宮』の力も用いて実行しているのに対して、彼らは彼と現時点では相対したいということから『子宮』の配備が後回しにされたこともあって、戦力の規模がそんな彼らと比べると大きく劣ってしまう形となった。
ある意味では彼、海神智史に対する彼の標的にされている「戦力」としての存在価値は薄いと判断されたためなのだろう。


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第25話 お着替え大会と『悪夢』の始まり

ふー、矛盾なく意味付けをして完璧に書くのは大変だ…。
そう考えつつも私はストーリーの矛盾を無くしつつ詳細な世界観の設定を色々と考えておりました。
ストーリーは最後まで描ききります。
今作は前半はコミカル要素が強いのですが後半は猟奇的なシーンが殆どを占めます。
主人公の智史がやったことさえ可愛く思えてくる程です…。
それでも見たい方はじっくりとお楽しみ下さい。


「彼らは…、説得に応じはしないのね…。」

「はい、ヤマト様。世界中の霧にそう呼びかけたのですが、殆どの者があのヤマト様は偽物であると信じて疑いません。私達と同じようにその真実を知っている霧もヤマト様が智史さんに媚を売ったと信じて疑わなかったようです。また、大西洋艦隊は私達元太平洋艦隊との組織的対立から説得を一切聞きませんでした。」

「説得を続けて…。お願い、みんな、話を聞いて…。」

「ヤマト、説得はダメだったのか…。」

群像がそう尋ねる、そしてヤマトは悲しげにそう頷く。

「そうか…。」

 

 

そして蒔絵たちの家では。

 

「ただいま〜。」

「智史、男専用の浴場を作った様だな。」

「まあその通りですけど。」

「智史くんが作ったのは私たちみんなで作ったのとは違って随分と豪華絢爛だったわ。ケチ、といった方が正しいのかな?」

「ギクッ…。」

そう智史と会話するキリシマ、そして琴乃にそう言われてギクリとする智史。

 

「まあ悪くは言わん、自分だけで作ったならな。蒔絵は振動弾頭に関する仕事で今日も出かけている。」

「向こうの人たちにしてみれば蒔絵は自分達が必要としているものを持っている唯一の存在。裏を返せばそれさえ知ってしまった、もしくは自分達にしてみれば必要なことさえ知り尽くしてしまえばお役御免としていいどうでもいい存在。ところで今日で終わりだったな、その仕事?」

「そうだな、振動弾頭の量産に目処は着いたから取り敢えず終わりはするだろう。だがブラックボックスについては…。」

「色々と無意識に見えてしまうのだが未伝授と判断出来るな、何せ振動弾頭が霧との戦争以外での手札に使われたら堪らんからな。」

「まあそうだろうな、何れにせよ我々以外の霧にしてみれば新たな危険事項が増えたといっていいが…。」

 

実際二人の会話通り、蒔絵は振動弾頭の大部分に関してはアメリカ軍に説明はしたものの、ブラックボックスに関する説明は彼らには言わずに伏せておいた。そのことを彼らは疑うことは無かったようだが…。

 

「誰かがここに来るようだな、サクラ達とマミヤ、ノースカロライナにタカオ型姉妹にと貧乳ロリスパッツか。」

「智史、貧乳ロリスパッツとはもしや401のことか…?」

「まあそういえことだ。」

 

智史は彼らが来ることを常に機能しっぱなしの様々な探知システムやデータ検索処理で無意識で見抜いてしまっていた、智史本人の気持ちの関係なしに。

 

「お邪魔しま〜す。」

「いらっしゃい、皆さん。」

「あ、貧乳ロリスry」

「それ人の目の前で言うなぁ‼︎」

「キリシマ、何かあったの?」

「4、401⁉︎いや、なんでもないぞ…。しかし401、船体は何処にやった?」

「ヒュウガが私の船体をスキズブラズニルで改修しているから。」

「なるほどな、諸君らがここに来た理由は簡単な“お祭り”の他に今後の話についてだろう?」

「その通りだ、智史。」

「しかし、サクラ、提督、なぜここに来た?我々に所属するという必要性などないというのに。」

「そうだな、確かに君が言う通り、君が所属している組織は我々に所属という要求を求めていない、ただ、今も元の世界に帰る方法が分からなくてな…。」

「そうか、まあいい。(本当はもう既に元の世界に連れ戻すことも出来るのだが、今そんなことをあっさりとやったら新たなギクシャクや警戒を呼び起こしかねないからな、まあそんなことが出来てしまうだけの装備を付けてしまったら何って言えばいいのか、面白みがなくなるといった方が相応しい…?)ところでノースカロライナ、霧の大西洋艦隊はモンタナからの降伏要求に応じていないみたいだな、まあ霧を裏切る形となったし太平洋艦隊と比べたらムサシに信を強く置いているからな…。」

「まあその通りだ、取り敢えずこの話はここで話すべきではない。」

 

ノースカロライナはそう言うと智史を連れて一旦外に出る。

 

「貴艦の発言通り、モンタナ様からの降伏要求を彼らは拒否している。彼らは貴艦のそばにいるヤマト様はヤマト様ではないとしてその要求を撥ね付けた。」

「組織的対立もそこに絡んでくるからな…。」

「そうだな、元々我々太平洋艦隊と大西洋艦隊は互いをライバルとしてイザコザを繰り広げてきた。そして貴艦が「霧」を破壊していき、子宮がムサシによって両者に配置された時でもその対立は変わらなかった、貴艦に対抗する為の戦力拡充という大義名分を互いに掲げて。そして我々が貴艦に負けたことをいいことに彼らは益々強硬になっている。」

「なるほどな。戦力の方に話を移していいか?」

「構わん。」

「奴らの戦力は、メインなら超高速潜水艦アームドウィングスを中心として超巨大双胴強襲揚陸艦デュアルクレイター級がオリジナルも含めて20隻、18inch砲を複数装備したアルウスの改良版と言っていいヴァルキリー級が10隻に量産されたヴィルベルヴィント級とそのレーザー兵装版も多数装備されているか…。おまけにあの「器」も一緒にコピーされているか、まあ基本的にはその器無くしてあんな力は振るえないからな…。」

「智史、半分は正解だ。だがもう半分はーー、言わなくても分かっているか。」

「多少のリスクを背負ってでも私に関するカウンターとしての戦力の充実を急ぎかたった為だろう?あとモンタナから知ったようだが、彼らがマスターシップに操られることを知らなかったことも大きいか。」

「その通りだ、貴艦の言う通り、私は霧の超兵器がマスターシップから作られたということをモンタナ様から知らされた。あの方も貴艦がヒュウガに研究を依頼し、解析して結果を知らされるまでは知られなかったようだ。」

「ともかく、奴らがマスターシップに操られるように造られているということは確定した。そしてその作りもコピー体に受け継がれてしまったことも。もし奴らがマスターシップの手先に堕ちたら、奴らを使役していた霧は破滅が確定するだろうな、マスターシップは自分以外の全てを滅ぼすことを目的としているのだから。しかもまあそれは私抜きと仮定した場合の話だが…。」

「一応聞いてはおくが、貴艦がそこに居てもその結末は変わるのか?」

「(まあそう聞きたくなるかもしれんな、必ずしも『勝利する』という未来が確定したわけでは無いのだから。)そうか、なら変わらないとは言い切れるか?」

「よくわからないな…。」

「そうかもな。それに更に厄介なことが判明した。」

「なんだ?」

「マスターシップの破片が器に入ると超兵器は本来の姿を現わすということは知っているだろう、だがそれだけではない、マスターシップとネットワークのような繋がりでマスターシップが作ろうと命じたものを瞬時に作れてしまう、例えば奴が『ウイルスを作れ』と命じたら破片を入れた超兵器達は瞬時にそれを作れてしまうのだ。」

「何だと⁉︎それが本当だとしたら人類だけでなく我々を滅せるだけの兵器も作れてしまうということなのか⁉︎」

「そのような事実はまだ確認されてはいないがその気になれば作れてしまうということだな。おまけに破片は奴の意のままに自在に動かせる、つまり奴が破片を入れようと思えばいつでも入れられるということだ、ただ目覚めていないからこの事象は確認されていないだけのことだ。」

「少し分からないところがある、常識的に分かるように具体的に教えてくれないか?」

「奴、マスターシップは破片を介して多次元空間を使って必要なものを伝達できる。霧の超兵器達を奴が支配下に置き、彼らに破片を入れた状態で本来の姿に変えたという時に限りこういうことは出来ないという制約があるが、多次元空間を介した「手助け」で、出来ないことも難なくと出来るようになってしまうのだ。」

「なーー」

 

そこに、突如としてーー

 

「智史、ノースカロライナ?二人ともどうした?二人とも険しい顔で話をしていたようだが…。」

「コンゴウか、マスーー」

「いやなんでもないぞ‼︎」

「そうか、それよりも琴乃が『お着替え大会』を開くらしいが…。」

「主にイオナ、タカオ、ハルナがメインか…?」

「そうだな、ハルナはコート依存が強い…。激しく嫌がって抵抗することも承知の上でやるようだな…。」

「取り敢えず、行こうか…。」

 

ーー琴乃、イオナの服を変えるつもりだな…。よもや劇場版アルスノヴァに着ていた服とは異なるものにするつもりか…?ファッションに関する本も買ってきたという行動以前からでもお前がこういうことをすると分かってはいたが…。

 

そして智史達は家の中に戻っていくーー

その頃、家の寝室の一室ではーー

 

「イオナ、智史くん未だに『貧乳ロリスパッツ』ってイメージをあなたに抱いているみたい。」

「そう…。ごめん、琴乃。こういうこと聞いてしまって…。」

「いいのよ、なら智史くんが抱いてるイメージをぶち壊しちゃいましょう?」

「でも、どうやって壊したらいい?」

「いつも着ている服を思いっきり変えちゃうのよ、今からやる『お着替え大会』で。幾つかファッションに関する女性雑誌をあなたに見せるから。」

琴乃はそう言うとファッション雑誌を幾つか見せる。

 

「私が着ている服のスタイルと随分と違う…。」

「でしょ?これが今時の女子のスタイルよ?」

「この感覚…。何って言えばいいの?」

「“お洒落”って言うべきかな?」

 

そう会話する2人、そしてそこに智史が現れる。

 

「2人ともここで話をしていたのか。」

「あ、智史くん。ちょうどいいところに来た。これから『お着替え大会』をやるから2人でどうするか話をしてたの。」

「それは構わないが一応、私が知っていた『世界』のイオナとその仲間の比較映像、出しておくぞ。」

 

智史はそう言うと『原作』のTV版と劇場版の登場人物達のスタイルを示している画像を投影する。

 

「これが、違う世界の『私』?あなたが言っていた『あだ名』とは違うスタイルの姿がある…。」

「これは智史くんが知っていた『世界』からの知識ね…。なるほど、これはお着替え大会の一例の参考になるかも。智史くん、そのデータ、私のパソコンに転送してくれる?印刷して参考例にしたいから。」

「了承した。だが物質生成能力で比較表も作れるはずだが?」

「他人に任せっきりなのもちょっと気が引けちゃうから、だから。」

 

そして智史はインターネットワークシステムに強制介入して、その画像データをパソコンに転送する。すぐに琴乃はそれを印刷する。

 

「智史、その画像の衣装に、着替えていい?」

「か…、構わんが…。」

「ありがとう。」

するとイオナを囲むように水色のサークルが生じる、そして彼女の服が青い光の粒となって形を崩す、一瞬彼女の裸体が露わとなるが直ぐに周りを囲んでいた青い光の粒が彼女の体を囲み、多い、再び服の形を構成する。その青い光の粒が服の形を成した時にはその形はさっきの形と異なっていた。

 

「貧乳…、ロリ…、スパッツじゃ…、無くなってる…。(こうなることが分かっていても、これで完全にうちの頭の中のイオナのイメージが崩れた…。)」

 

そう、その服の形はテレビに出てくる少女アイドルを思わせるような白みを帯びた薄い青で統一され、胸にはピンクのリボンがつき、脚には白いニーソックスが履かれているというものだった。

 

「(うわぁ…。これって嫌味…?)」

「智史、これからあなたの中の『私』を壊す。じっくりと楽しんで。」

「嘘でしょぉぉぉ…?(笑)」

 

そして智史は少しショックを受けた顔で琴乃やイオナと共に皆が集っているリビングに向かうーー

 

 

ーーリビング。

 

「401、あなた、衣装を変えたの?」

「そう、智史が私を見た目だけのあだ名で呼んだことがあるから思い切って衣装を変えた。」

「思い切ったことをするなぁ、401。そんなに智史の付けたあだ名が気に入らなかったのか?」

「そう。」

「智史さんは思ったことが直ぐ顔に出るタイプですからね。」

イオナとそう会話するアシガラ達。

 

「みんな集ったみたいね。これを見て。」

琴乃はそう言うとテーブルに智史から送られたあの比較画像が載った紙を置く。

 

「これは智史くんが持ってたものだけど、別の世界のあなた達に関するものが載っているわ。」

彼女はそう言う、そして皆はこの紙を見る。

 

「別の世界の『私』ってこんな服を着てたのね…。」

「ハルナ、別世界のお前は髪を変えたみたいだな。」

「お姉ちゃんの乙女プラグインの機能の仕方が酷い…。」

「私達が着ている服とこの写真の服、見事に一致してますね…。」

「それってパクリ?つまんな〜い。」

 

彼らはこの紙に表されている別世界の『自分』達に様々な反応を示す。

 

「それは参考程度にして、本題行きましょう?」

「そうね、その紙が本題とは言えないし。」

「んじゃあ、ファッション雑誌を幾つか見てその中から自分の着たいものを選びましょう。」

「さんせ〜い‼︎」

 

そして彼ら、メンタルモデル達は自分達が着たい服を着たイメージ図を作り上げていく。彼らは浴場作りの際に智史からイメージ作りも教わったのだ。

 

「ちょっと待て、着る服はどこから調達するんだ?ここにあるとは限らないし…。」

「(もしやうちの物質生成能力を用いてそうするのか…?しょうがない、無理に全員分購入したら物凄い費用となるし、おまけに決まってる、買えるとしてもその物品全てが店に揃ってますとは限らないからねぇ…。しょうがない…。)」

 

智史は半分涙目な気持ちで次々と彼らが着たいと思われる服を次々と生成していく。

 

「うちはあんたらの奴隷じゃ無いんだからね、このツケ、払ってもらうとしようか?」

「うっ…。」

「智史くんごめん、随分と無計画にやっちゃって…。」

「まあいいが…。」

「あと私が持ってるお洋服とか出してくるからちょっと待ってて。」

 

そして智史と琴乃は一旦リヴァイアサンに戻り、服を何着か持ってきた。

 

「さ〜て、『お着替え大会』開始っと。あれ、ハルナ?決めてないの?」

「わ、私は結構だ…。」

「コートを脱がされたくない、それが本音だろう?ならこちらから行くぞ。」

「ま、まってくれーー」

 

ーーバサッ。

 

ハルナの本音を見抜いていた智史は強引にコートを脱がす。

 

「か…返して…。ひっ、堪忍してつかあさいぃぃぃ〜。」

「嫌でも行くぞ、覚悟しておけ。」

「智史、琴乃、私も手伝う。」

 

そして智史と琴乃は嬉しそうに次々とハルナに服を試着させていく、イオナはそれを手伝う。

 

「もう、やめてつかあさいぃ…。」

 

ーープルプルプルプル…。

 

「まだだ、次行くぞ。」

「ヒィッ‼︎」

 

ーーズルズルズルズル…。

 

「これはどう、智史?ハルナらしさを私なりに考えてみたんだけど…。」

「参考例の一つとはしておこう、でもそれがハルナらしさを出すとは限らないから何度か試してどれがハルナにふさわしいのか見極めよう。」

「もう終わりにしてぇぇぇ…。」

「このヘタレめ、徹底的に調教してやるから覚悟しておけ。」

「あらぁ、智史くんタカオを虐めてた時の姿と同じじゃない。」

「まあ今はこうする行為自体がそのぐらい嬉しいと言うべきかな。」

 

こうしてお着替え大会での皆のファッションは徐々に形を成していく、北極海で世界を戦慄させる出来事が間もなく起こることを智史以外は感じずにーー

 

 

 

ーーその頃、北海では。

 

「お姉様…。」

「ルフト様、ここに居られたのですか?」

「ムスペル、心配してくれたの?」

「はい、あなたのお姉様であるヴォルケン様があの化け物、リヴァイアサンに討ち取られて以降のあなたの様子が心配になってしまいまして…。」

「あいつは…、あいつは…、私の大事なお姉様を殺し、私から幸せというものを奪っていった…。」

「その気持ちは分かります、ですがムサシ様が彼、リヴァイアサンに対する対処策として我々の各地の根拠地に『子宮』を建設され、我々やお姉様方がこれらを用いて次々と新たな『霧』を生み出しても彼にはほとんど効果がなく、ただ不幸を次々と生み出すだけでした…。彼に対する憎しみや敵意を募らせても我々には不幸しかないのでは?話し合うという選択肢もあるのに」

「そうね、話し合い、平和的な方法でやれば理解できる、しあえることもあるかもしれない。でもお姉様を…、お姉様を奪ったあいつだけは絶対に許さない‼︎」

「ルフト様…。」

「ムサシ様があの艦を…、あの艦を用いてあいつに裁きを下し、私があいつに止めを刺す…。それでいい、あいつには地獄に堕ちるという未来が相応しいのよ…。」

「ムサシ様はあなたがお姉様を討ち取られて狂乱されていたところを宥めてくださった、そして常にお姉様と同様、あなたの心の支えとなった…。だからあなたはムサシ様を信頼するのですね…。」

「あの方は我々を幸せにしてくださる方…。あの方抜きで私達が幸せになる未来なんて無いわ‼︎」

「それは分かります、ですが必ずしもムサシ様のやっていることは正しいとは言えるのでしょうか?」

「ムスペル、そんなはずはないわ。だってあの方は曲がりなりにも霧を永遠に『幸せ』にしようと頑張っているのだから。」

「そうですか…?私には嫌な予感がします…。悪魔が今から目覚め、この世の終わりが始まるような予感しかしません…。」

 

そう会話するルフトシュピーゲルングと超巨大航空戦艦、ムスペルヘイム。彼女は炎の国という名の意味に相応しく戦闘の時は積極的に戦うという勇猛果敢な一面が有るが、同時に慎重で、本質を見抜くという一面もあった。そう、彼女もまた、智史と同じく、北極海で大事件が起こるという『未来』を予感していたーー

 

 

ーーそしてほぼ同時刻、カリブ海にて

 

 

「太平洋の馬鹿どもは無謀にも奴に突っ込んで盛大に返り討ちにされた挙句に奴に媚びて奴の手先となって我々に降伏勧告を出したか、そんな手には乗らんわ‼︎」

「そうでございます、モンタナは霧を裏切り、奴に媚びを売った愚か者です!しかしそれを命じたのはヤマト様ですが…。」

「あれは奴が作った偽物だろう。そしてモンタナに奴に生き延びて媚びるように命じた張本人は何を血迷ったのか奴に突っ込んで自滅したがな。責任取りを気取ってはいるがその行為自体がほとんど無意味よ、いたずらに奴に兵を討ち取られた挙句にその責任取りで自滅とは愚の極み!」

「そしてその馬鹿どもに仕え、奴が強大な存在であることを知らされずに奴に一方的に殲滅された兵共は気の毒でございますな…。」

「生き残った者共は奴にしきりに奴に媚びをうる。こんな馬鹿なことがこれまでにあったか⁉︎いや、ない!媚びを売るぐらいなら特攻して奴の足を止めろ!」

「それが太平洋の馬鹿共に相応しいと『言える』、いや、『言えた』ほうが正しいと言うべきでしょう。もうすでに生き残ったものたちは最後まで抗うという選択が頭の中には無いのですから。」

「なんと愚かしいことか…。奴らは地に堕ちたといっていい。ところで、我々の兵力だけで奴には勝てるのか?」

「多分我々の兵力だけでは勝てぬでしょう。ですがムサシ様があの艦を使えば奴など一捻りでしょう。もっともあの方は慈悲深き御仁だ、奴とは違う。奴とそのドブネズミ共を殲滅する前に降伏勧告を出されるでしょう。」

「奴は多分応じはしないだろう、だがこれであの方は慈悲深き御仁であるというイメージは成り立つ。」

「奴が応じなければマスターシップとやらを用いて木っ端微塵ということですか、つまり奴が暴れられるのも今のうちと言うことですな。」

「まあそういうことだな。」

「既にマスターシップは発掘されてもうすぐムサシ様のお手によって完全に起動するでしょう、これで我らの天下は確定したと同じです、ははは…。」

 

そう会話するアームドウィングスとデュアルクレイター。リヴァイアサンごと智史の実力を侮っていたとは言い難いが、彼の力を見誤ってしまっていた。智史は元々感覚過敏なこともあったのか、あまり気にはしたくはなかったが、この会話が自分の頭の中に強く響いて来てしまったのでこう毒気付いた。

 

ーー嫌なこともよく聞こえるな、常に進化しづ付けることは一見するとメリットばかりだと思うけど思わぬところでデメリットにあったりするから案外メリットばかりとは言えないな、自分の中の『ソフト』を変えようとしないことも大きいからな〜。まあそういう問題点は以前から気が付いてはいたし、デメリットよりメリットが多いから進化をし続けよう、楽しいから。上へ上へ登り、唯一無双と言われても。

しかし、なんて傲岸不遜な奴らだ。あいつら、視野狭窄か?そしてムサシ、お前には指導者としての『器』が欠けているぞ?お前は現実逃避で頭いっぱいでそれ以外の『霧』は道具同然として使い捨てるのか?その現実逃避を続けたツケは高く付くぞ、お前が信用しているマスターシップの暴走という出来事をトリガーとして…。

 

そして彼ら大西洋艦隊は、智史が言った通り、ムサシが道具同然に使い倒しているマスターシップがとんでもない大事件を引き起こすということには気がつきさえしなかった…。

それはさておきとして。

 

 

ーー蒔絵とその仲間達の一軒家

 

ーー13時頃。

 

「ただいまーー」

「シャキーン」

蒔絵が玄関のドアを開けた途端、彼女の目の前に立っていたのは白いカプリパンツを履き、黄地に白いアロハの模様が入ったポロシャツを着ていたハルナだった。

 

「えっ、ハルハル、服変えたの?それよりもコート何処にやったの?」

「それを着なくても平気になってしまった…。智史に散々に扱かれ続けられているうちに気が付いたらそうなってしまっていた…。」

「智史〜、ハルハルに一体何したの〜?」

「ハルナを面白半分で散々に弄んだよ?(笑)」

「だめでしょ〜?ほんとにいけない子ね、智史は。」

「まだ説明不足だから誤解されちゃうよね、実はこのことには訳があるのさ。」

智史は『お着替え大会』で自分はコートを脱がされたくなくて不参加で逃げ切ろうとしたハルナの本音を見抜き、彼女にふさわしいファッションを決めるついでにハルナのコート依存解消も出来たらいいなと考えつつ色々とハルナを弄って遊んでいたらあっさりとその依存も解消できたことを話した。

 

「えっ、ハルハル達は私が来るまでにファッションショーのようなものをやっていたの?」

「そうだ、その時私はコートを脱がされるのが嫌でこの場を乗り切ろうとしたが…。」

「ハルハル、それってダメでしょ〜?せっかくハルハルも誘ってみんなで楽しくやろうっていうのに自分が嫌だからって逃げたら次から誘われないよ〜?」

「す、すまん、蒔絵…。」

「智史、さっきはごめんね。」

「まあ事実を伝えただけだが、ハルナがお前の望むような姿を醸さなくなっているぞ…。」

「あ、そうか、ハルハルコート無くてもヘタレじゃ無くなっちゃったからね…。」

「すまん蒔絵、智史が散々に私を扱いたおかげで私はもう『ヘタレ』にはなれなくなってしまった…。」

「ハルハルがハルハルじゃなくなっちゃうなんて、なんか寂しいな、でも智史に弄られて良かったね、ハルハル。クールな大人の女性って感じが出てカッコ良くなってる‼︎」

「そうか、ありがとう…。みんなファッションが決まったみたいだ、見に来てくれ。」

「うん‼︎」

 

そして智史とハルナは蒔絵を連れてリビングに入る。

 

「すご〜い‼︎服変えるだけで見た目の印象って随分変わるんだね‼︎」

「服を変えるだけで見た目の印象がこんなに変わるとは、いままで体験したことが無かったな…。」

「ふはははは!いいぞ、この衣装はいい!」

「あ、キリシマにコンゴウも衣装変えてる‼︎」

「わ、私は勝手に智史の奴に着替えさせられたんだ‼︎」

「コンゴウ、衣装可愛い〜‼︎」

「くっ、私に絡み付くな‼︎」

「蒔絵、私も服変えた。」

「イオナ?なんかお姉さんっぽくなっていいな〜‼︎」

「琴乃、その服装、随分とかわいいな、なんか乙女っぽい感じで。」

「も〜、智史くんったら〜。そんなこと言わないでよ〜。」

蒔絵達はリビングにいる皆の服の変わりようを見たが、否定すること無く、むしろ嬉しそうにその変化を受け入れていた。しかし智史が次の瞬間にとんでもないことをしでかしたせいでその雰囲気は吹き飛んでしまう。

 

「サクラ、服のデザインが随分とアメリカの女子が着ているようなものに近くなってるな、でも個人的にはあの衣装が言葉的には何か似合うような…。」

彼はそう言うと突如としてサークルを展開し、モニターを空間上に出す、そこに映されていたのはドラゴンクエスト8の女性キャラクター、ゼシカの画像だった。

「彼女の服、あんたの体の特徴に似合ってるから参考例として出してみた。」

「す、ストレート過ぎです!一歩間違えたらセクハラですよ⁉︎」

「いやうちはそんなつもり無いんですけど…。」

「このバカ、空気を読めやオイッ‼︎」

「(ふぇ、何でこんなことに…?)」

 

彼がそう発言した途端、場は一瞬で凍りつく。そして彼は他者のデリゲートな部分は駄目だと激しく責められる。理屈で叱られているのならまだしも、感情的に責められるのは非常に嫌いで苦手だった。感情的に責められた彼は酷く落ち込み、部屋を出て行ってしまう。

 

「みんな落ち着いて。彼をこれ以上責めては駄目。理性的な意味合いで叱るのはいいけど、感情に任せて叱ったら彼は酷く落ち込んで内向的になってしまうわ。」

「そ、そうなんですか…。でもデリゲートな部分を平気な顔で言ったんですよ、彼は!」

「そのことについては彼は反省はしてるわ、だから今はこれ以上責めちゃ駄目。」

「は、はい…。」

 

琴乃の仲裁によってこの険悪な雰囲気は呆気なく収束した、彼女は外で仰向けになって空を見て気晴らしをしていた智史の元に向かう。

 

「智史くん、みんなが怒った訳を理解はしているみたいね。」

「そうだな、皆の気持ちを理解しようとしなかった私が悪いのだろうな、そんな私は皆を苦しめるだけの存在かもしれんな…。」

「そんなに自分を貶めなくていいの!そんなことぐらいで凹んでたら生きづらいでしょ?それに悲観的にならなくていいの、こういう険悪な雰囲気がいつまでも続く訳じゃないわ。」

「ああ…。」

「次からはこうならないように気をつけましょう。」

「わかった…。」

 

凹みながらもそう応答する智史。彼は自己管理が出来ていないという『短所』も意識してか、その教訓を新規作成した自己管理プログラムに記憶しておいた。

 

「それにしても空、綺麗ね。体が溶けちゃうぐらいに…。」

「(これは物理的意味じゃなくて比喩で言ってるのか。)そうだね、今日は晴れてるからね…。」

 

2人は嬉しそうに横に並び、仰向けになって空を見つめる、しかしそんな幸せは直ぐに崩れる、いや今崩されたと智史は悟った、次の瞬間に突如として北極海から発せられたあらゆるネットワークに介入してくる強力な通信電波を感知したことで。

 

ーームサシの奴、遂にパンドラの箱を開くか…。この前の創造主の使いのフリをした警告、お前のものだったということは直ぐに分かったぞ?そして千早翔像の形をした人形を用いて私や全人類への降伏勧告をする気だな、既にフィンブルヴィンテルの手の中でお前は踊らされている状況だというのに…。

 

「あらゆるネットワークに介入してくる電波を感知した。」

「なに、突如としてどうしたの?」

「多分よくないことが起こる予感がする、とりあえず一旦家に入ろう。」

 

 

ーー再び、家のリビング

 

「なんだ、これは⁉︎」

「私の方にも強制的に介入してきたぞ⁉︎」

「ナチ、何が起きているのですか?」

「我々専用のネットワークだけでなく、あらゆる通信チャンネルに介入してきます!」

 

 

ーーアメリカ海軍サンディエゴ軍港、同コントロールセンター

 

「軍の通信回線に強制介入!」

「世界中の霧の妨害電波が消えています!」

 

 

ほぼ同じ頃、世界中では、霧の妨害電波によって何も映すことなく、真っ黒な画面だけを維持していたテレビ達が突如として紋章のようなものを映し出す。

 

 

「民間の周波も使用されています、電波ジャックです!」

「何だと⁉︎発信源は⁉︎」

「不明です、今解析中とのことです!」

 

同じ頃、カリブ海でも。

 

「ついにあの方が降伏勧告を出されるか…。」

「そうみたいですね、これが最後の警告となるから奴がこれを蹴れば破滅以外は無いと言って同然でしょう。」

 

 

「智史さん、一体何が起きているんですか?」

「電波ジャックだ、発信源は北極海にいるムサシの奴だ。」

「何ですって⁉︎ムサシ様が…。」

「恐らく奴は何らかのメッセージを伝える為に世界中の電波をジャックしたのだろう。」

智史はそう言うと巨大なモニターを展開し、そこにムサシからの映像を映す。彼がその映像を映して程なくして、大和型を思わせるシルエットを持つ艦をセンターにし、その左右を4隻の戦艦と思わしき艦が守り、その背後には禍々しいまでの姿を持った巨大な要塞を思わせるような物体の姿を映した映像が現れる。

 

「ーーなっ…。」

「なんて、姿なの…?」

「まるで魔王を彷彿とさせるような姿だ…。」

「破壊の為に生み出されたとしか言いようがないわ…。」

「この兵器からは悪意しか感じ取れません…。ムサシ様は私達や智史様を滅ぼす為にこんなものまで用いようなんて…。」

 

ーー前にそのようなシルエットを何度か見ていたこともあってとりあえずは見慣れてはいるがこうして直に見るとラスボスとしての威厳を十二分に感じるし、かっこいいと感じるな…。

 

そして、第二主砲塔と思われる構造物に1人の銀髪の幼女が前艦橋から飛び降り、そして着地する。それと同時に画面が切り替わる。

 

 

「ムサシ…⁉︎」

 

 

「あれが、超戦艦ヤマトの妹、超戦艦ムサシだ。」

「綺麗…。まるで天使を思わせるような顔つきみたい…。」

「人間離れした美しさだな…。」

 

そして画面に映っている少女は語り始める。

 

「“人類の皆さん、はじめまして。私は霧の艦隊、超戦艦ムサシ。本日は超戦艦ヤマトから皆さんに大事なことをお伝えする為に遮断していた通信回線を復帰させました。どうか驚かずに聴いていただけるよう、よろしくお願いします。”」

 

「ヤマトはもうとっくに復活してるから大半が嘘と言い切れるな。」

智史はそう言うとヤマトと音声通信を繋ぐ。

 

「ヤマト、聞こえるか?」

「聞こえます、ムサシが言った『私』は存在しません!」

「だろうな。」

 

 

そしてムサシは、

「お父様」

と呟く、そして画面が切り替わる。

 

 

ーー海軍横須賀コントロールセンター

 

「おお…。」

「千早…、翔像…。」

 

 

ーー同時刻、スキズブラズニル

 

「おいおい、群像のオヤジかよ⁉︎」

「(父さん…。)」

 

 

「ちょっとこれ、群像くんのお父さんじゃない‼︎」

「翔像…、様…?」

「あれは、本物の翔像さんではありません!ナノマテリアルで作られた影武者です!」

「確かにな。死んだとは決まってはいないが、オリジナルの生体反応の存在は確認できない。あれはナノマテリアルで作られた人形だ。」

既に真実を知っている智史達はこの映像を構成している要素の大半が虚構であることを見抜いていたが、それでも、この映像をみて動揺していた。

 

そして、翔像の人形は語り始める。

 

「“全人類に告ぐ。これは、人類への降伏勧告である。”」

 

その発言に皆驚愕する。

 

「“私は元日本国海上自衛隊二等海佐、千早翔像。霧の艦隊の提督である。すべての人々よ、手遅れになる前に聞いてもらいたい。我々霧の艦隊はこの惑星のがん細胞たる人類を構成し、すべての存在と均衡を保てるよう、導くための浄化機構である。

人類はその未熟さのあまり、調和を著しく毀損し、省みることがない。我々霧の艦隊は海洋封鎖をもって人類への警告を発したが、諸君は混乱するのみで種の改善を試みる兆しもない。よって我々は人類諸君の自由を制限せざるを得ないと断じたのだ。諸君は無比なる安名秩序なる霧の艦隊の統制を受け入れる、種の在り方を行使すべきである。

 

即ち、完全降伏せよ!

 

人類諸君は武装解除後、国家を解体し、今後は霧の管理の元の生存のみを許可する。これは、アドミラリティコードによる種の保存の為の最も正しい選択である。

しかし、あの霧の艦、リヴァイアサンは我々に与するどころか我々の統治を拒否し、人類諸君に与して激しく抵抗している。これは世界を平和に導くどころか逆に破滅へと加速させている。

リヴァイアサン、これが貴艦に対する最後の警告だ、速やかに抵抗を止めて我々に降伏せよ、さもなくばーー”」

 

ーーザ、ザザッ、ザザァァァァ…。

 

突如として映像が途切れ、跡にはノイズ混じりの画面しか残らなかった。

 

 

「いったい何が起きた⁉︎」

「分かりません、ですがムサシ様の身の回りに何かが起こったことは確かです!」

想定外の事態に狼狽するアームドウィングスとデュアルクレイター。彼らはこのような事態など想定の一つもしていなかった為激しく混乱した。

 

 

「なっ、一体何があったんだ⁉︎」

「わかりません、通信電波が消滅!北極海を中心とした強力なノイズが発生しています!規模は、なおも増大中‼︎」

「これはーーまさか…。」

「奴がーー目覚めたのだ。」

 

 

ーー北極海

 

「い…、一体何が…⁉︎」

突如として自分の通信電波を遮断されたことに驚くムサシ。

 

「“小娘、随分と余の欠片と手先達を何も考えず、玩具同然に使いまわしてくれたな。このうつけが。我が手先はあの野獣の餌ではないぞ?”」

「発信源は⁉︎」

「マスターシップからです‼︎」

「見えんのか?余の姿が。ならこちらから行くぞ」

「う…、ひっ‼︎」

 

そうどこからか掛けられた声に驚く彼女の目の前に突如として人の形をした人ならざる禍々しい物体が立っていた。

 

「あ…、あなたは…。」

「余の名はフィンブルヴィンテル。貴様らがマスターシップと言っていた存在よ。」

「あなたがマスターシップなの?残念ね…、あなたの力は、私の、ものよ…?」

「それは余が貴様に戯れとして貸し与えたものよ、貴様のものではない。貴様は余の手のひらで踊らされていた家畜よ。もっとも、上手く使いこなせると期待していたが、やはり家畜如きには使いこなせなかったか。」

フィンブルヴィンテルはそう言い放つとムサシを蹴り飛ばす、彼女は前部15m測距儀の基盤に叩きつけられる。

 

「うっ…。くっ…。」

「なんという弱さだ。これが余が踊らせていたものか。」

フィンブルヴィンテルがそう呟き終えた、その直後にーー

 

ーービュィン‼︎

 

「あ、あなたリヴァイアサン⁉︎私を道具同然に使わないでぇっ‼︎」

「“貴様がフィンブルヴィンテルか。”」

「そうだ、貴様がリヴァイアサンか。成る程、この小娘が一目おき、余を使ってまで排除しようという理由がなんとなく分かる。」

「出て行けぇっ‼︎私の体から出て行けぇぇぇ‼︎」

「“嫌だな。貴様を使ってでも、記録し伝え、後世に残しておくだけの価値が有るものがここにいるからだ。”」

「ほう、これはありがたい。貴様は余のことを永久に語り継ごうとしてくれているのか。」

「“まあそうだな、少なくとも貴様がどういう存在なのかということは永遠に残しておこう。”」

「フィンブルヴィンテル、お前のような悪魔の為に残す記録なんか無い!リヴァイアサン、今すぐ私から出て行けぇぇ!」

「小賢しい、消え去るがいい。」

そしてフィンブルヴィンテルは剣のようなものを右手に生成するとゆっくりとムサシの方に真っ直ぐに向かってくる。

 

「貴様ぁぁーっ‼︎ムサシ様に近づくなあー‼︎」

「ミハイル⁉︎」

「これでも喰らええっ‼︎」

 

ーーブォンッ‼︎

 

この異常事態に殺気付いたミハイル・トハチェフスキーがフィンブルヴィンテルに斬りかかる、しかし…。

 

ーーブゥンッ!

 

「念力フィールド…⁉︎」

「その程度か、貴様の攻撃は?」

「うるさい、まだまだだ!」

ミハイルはフィンブルヴィンテルに滅茶苦茶に斬りかかる、しかしそのほとんどの攻撃が防がれてしまう。そしてフィンブルヴィンテルは彼女の攻撃の一瞬の隙を突いて、彼女の首を捉える。

 

「くっ、離せっ‼︎」

「まだ暴れるだけの気力は有ったか、なら…。」

「ぐっ…、か、体が動かん…。そんな馬鹿な…。」

「随分とあの小娘のことが気になっているようだな、だが心配するな、直ぐにあの小娘にも後を追わせてやろう。」

「おのれ、フィンブルヴィンテルと言ったな、その名、忘れんぞ‼︎」

「ほう、覚えてくれるのか、それはありがたい。貴様の存在は今から余の中に焼きつくこととなる。さあ、これ以上余を悲しませるな、思い残さずに逝け…。」

「くっ、くそぉぉぉっ…、貴様あぁぁぁっ‼︎」

 

ーーザンッ!

 

ーーバタッ。

 

「ミハイル⁉︎ミハイル…?」

「ムサシ様、早く、に…げ…て…。」

「そっ、そんな…。」

「骸のために残しておく剣は無い。ならば余の手で生かされた方が相応しい。」

フィンブルヴィンテルはそう呟き、指に何かを生成し、それを主を失ったミハイルの船体に撃ち込む、すると直撃した箇所が突如として変色し、形を変える。そしてその変異はみるみるうちにミハイルの船体中に広がっていく、戦艦として美しかった面影はあっという間に失われ、まるでゾンビゲームやバイオハザードによく出てくるモンスターのような禍々しい姿に彼女の船体は変貌した。

 

「ウガァァァ…。」

「見るがいい、此奴は今から虫ケラではなく我が手先として永久に仕えるのだ。」

「あ、ああ…。ミハイル…。いっ、嫌ぁぁぁぁぁ‼︎」

あまりに惨たらしい光景を見せつけられ、戦慄し、怯え嘆くムサシ。そしてこの光景を見たムサシの護衛の任に就いていた大戦艦、重巡洋艦、軽巡洋艦、駆逐艦、潜水艦があらゆる攻撃をフィンブルヴィンテルの船体に叩きつける、しかしーー

 

「小蝿如きが、そんなものなど存在する価値も無し。ひれ伏せい!」

 

ーーブアァァァァン‼︎

 

ーードガガガガガガガガガガァン‼︎

 

フィンブルヴィンテルはその攻撃を全て受け止めると船体の方から巨大なエネルギー波を発し、彼らに浴びせる。彼らはクラインフィールドをきちんと展開して守りは固めてはいたものの、そんなものなど無意味だと言わんばかりに一撃で跡形もなく消し飛ばされた。更に骸を晒しかけていた艦と躯体、辛うじて躯体だけが生き残った者にまでもミハイルに撃ち込んだものと同じようなものを満遍なく撃ち込み、彼らを更なる絶望が襲う。

 

「ギャァァァァァァ‼︎」

「苦しい、くっ苦しいィィィィィ‼︎」

「体が、身体中に痛みがぁぁぁ‼︎」

「ガァァァァァ…。」

「…ァァァァ…。」

「………。」

「…ルルゥ…。」

「グルルルル…。」

「グォォォォォ…。」

「ウォォォォォォォーン‼︎」

 

彼らは悲鳴や苦悶、絶叫、強風、断末魔といった各々の「演奏」を何重にも奏でて一つの「合唱曲」を残して息絶える。そしてその後には彼らの「自我」を消し去り、新たな「生」を受けた化け物達の合唱が奏でられた。もはやそれは霧ではなく、フィンブルヴィンテルの命令以外は己の本能のままに全てを喰らい尽くす存在が無数に生まれたのだ。

 

「どうだ、貴様の部下が変わり果てていく様は?」

「そっ、そんな…。い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

「“見事にこいつの心を壊したな。”」

「きちんと見てくれたのか、リヴァイアサン。」

「“貴様が残忍な性を持っているということをきちんと焼き付けたぞ。もっとも私も貴様と同じようなものを持ってはいるがな…。”」

「その言葉、ありがたく受け取っておこう。さて小娘、貴様は余にしてみればもう必要がなく、且つ捨て駒にする価値さえ無いモノだ。なら余が直々に殺してやろう。」

「ひっ、嫌っ、きゃっ、ひゃぁぁぁぁ、嫌ぁぁぁ‼︎」

既に壊れ怯え泣いていたムサシはこの一撃で完全に心が崩壊し、狂乱し泣き喚きながらこの場から逃げようとする。

 

「余の手から逃げることなど無意味。それを思い知りながら死ぬがよい。」

 

ーーヴォウガァァン!

 

フィンブルヴィンテルは自身の船体に戻る、そしてその船体の周辺に突如として黒い雷球が出現する、それは必死に逃げようとしているムサシの船体めがけて猛スピードで直進していった。

 

「ひっ‼︎いっ、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎こっちに来ないでぇぇぇ‼︎」

 

ーーヒュゥゥン。

 

ーーズキュゥゥゥゥゥン‼︎

 

 

「ムサシ‼︎」

「ムサシ様ぁっ‼︎」

ムサシは恐怖と絶望を刻んだ「悲鳴」を残して、一撃で沈められた、その様子を映していたライブ映像をリヴァイアサンごと智史経由で見ていたヤマトとマミヤが思わず叫んでしまう。

 

「そんな…。酷い…。敵対していることが分かっていてもこれはあまりにも酷すぎる…。」

「ムサシ様を操り人形として弄び、使えぬと判断したらゴミ同然に屠殺するとは…。」

「ひどい…、こんなのひどすぎるよ…‼︎」

あまりに残虐な光景の一部始終を北極海周辺の霧やカメラを強制ハッキングして撮影した智史経由で見ていた蒔絵達は傷つき、悲しみ、憤る。

 

「(“さっきは済まなかったな、リヴァイアサン。どうやらあの小娘を沈めたことで貴様の興を削いでしまったようだ。”)」

「(それは別に構わん、奴を通じて見ること以外にも貴様を見る為に使えるモノ、手段が幾らでもあったからな。)」

無言でそう会話をするフィンブルヴィンテルと智史。そしてフィンブルヴィンテルの方が先に沈黙を破る。突如として世界中のテレビやモニター、そして智史のモニターも彼本人が任意で映しているとはいえ、人の形をした人ならざる禍々しい姿をした存在を映した映像を映し出す。

 

 

「『余はマスターシップ、フィンブルヴィンテル!この世に運びる虫ケラ共よ、ひれ伏せい!』」

 

この映像が流れた瞬間、世界中の誰もが、この存在が世界に『悪夢』をもたらす存在であると直感していたーー




おまけ

今作の敵超兵器紹介

マスターシップ フィンブルヴィンテル

全長 2800m
全幅 1800m
基準排水量 70000000t
最大速力 水上 1200kt 水中 1100kt

武装
反物質砲 4門
120口径406㎝レールガン
前方 12門 後方 4門
δレーザー発振基 2基
光子榴弾砲 10門
超怪力線照射装置 40基
240㎝36連装汎用無推進誘導爆雷投射基(見た目及び攻撃方法は映画バトルシップの異星人船が使っていたものと同じ) 40基
全方位パルスレーザー 140基
各種ミサイルVLS 30000セル

量子フィールド、念力フィールド、自己再生能力及び学習能力、リヴァイアサンと同じく、各種物質生成能力を備えている。


解説
大昔に人の手によって生み出された『破壊』の為に生み出された究極超兵器。
完成直後に自我を持ち、『破壊』という自身に与えられた目的を曲解してしまい、世界中の文明を殲滅した挙句の果てに北極海に存在した大陸を消し去り、世界中が氷河期に突入するという未曾有の規模の異常気象を引き起こした。
その後しばらく眠りについていたものの、ムサシが使役しようと接触したことを契機に彼女を弄びつつ、全てを『破壊』すべく霧の超兵器を世界中に出現させ、今作にて完全に覚醒し、ムサシ達を用済みとして始末した。
なお、人の手によって作られたと書かれてはいるが、地球の外の何者かの協力が無ければこんなものは作れないという噂話もある。


超巨大双胴強襲揚陸艦 デュアルクレイター

全長 1500m 全幅 625m
基準排水量
最大速力 水上 1000kt 水中 なし

武装
90口径80㎝砲 3連装8基
500㎝9連装噴進砲 6基
12cm30連装噴進砲 80基
127㎜単装バルカン砲 60基
45cm12連装噴進砲 24基
254㎝多弾頭噴進砲 単装 24基
90口径46㎝砲 連装12基
各種ミサイルVLS 6000セル
61㎝各種魚雷発射管 30門

クラインフィールド、強制波動装甲、ナノマテリアル生成能力を生かした簡易的な戦略基地としての能力を持つ。

解説
ストレインジデルタと同じく、簡易的な戦略基地となる機能を持つ超兵器。但し前者の場合は自分から突っ込まないバトルスタイルに対してこちらは自分から直接突っ込むことを想定して前者より装甲を硬くしている。
また、強襲揚陸艦の名が示す通り、陸上の兵器も量産、運用することが可能である。
霧の大西洋艦隊は智史達に制圧された霧の太平洋艦隊の各基地を太平洋艦隊を潰して自己の勢力拡張を狙っており、ムサシが自分達の所にも『子宮』を与えたのを契機として、彼女と同じ作りのコピー達を多数建造した。
なお、ストレインジデルタやハボクックといった特定分野に特化してしまった超兵器達と同じく、簡易的な戦略基地としての機能を備える代償として潜航能力を最初からオミットしている。


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第26話 恐怖と脅威 そして「力」の重大性

今作は社会問題や人間の心理について書いてみました。
アメリカ軍が大戦後の発言力を増大させようと独断で行動しています。
それではじっくりとお楽しみください。


「『余はマスターシップ、フィンブルヴィンテル!この世に運びる虫ケラ共よ、ひれ伏せい!』」

世界中に配信している映像でそう言うフィンブルヴィンテル。

 

「貴様、ふざけるな!ムサシ様をどうした⁉︎」

「ほう、概念伝達をいうものを通じて直に文句を言ってくるとはな。少し見直したぞ、我が手先よ。あの小娘は余が直に手をかけたわ。」

「なんだと、ムサシ様を殺したというのか⁉︎」

「そういうことだ。」

「くっ、この鬼畜め、貴様の手先と言われた覚えは無い!」

「『魂』は余が直に作っていないからそう言えるか。だが『肉体』は余が己の血肉を用いて『霧』という下種共の皮と此奴らを形作っている素材を混ぜながら直に作ったものだ。余の血肉が混ざっていることに感謝せよ。そしてそれを今から思い知るがいい。」

 

フィンブルヴィンテルは概念空間と現実空間の両方で何かを念じるように手を突き出す。するとデュアルクレイターとアームドウィングスが突如として苦しみ出す。

「ぐっ、ぐぁぁぁぁっ‼︎」

「痛い、痛いぃぃぃぃ!」

襲ってきた苦痛に悶え苦しむ2人、だがそれは2人に限ったことでは無い、リヴァイアサンとオウミを除いた全ての霧の超兵器達が同じ目に遭っていた。

 

「何なの、この痛み⁉︎痛い、苦しいよぉ‼︎」

「分かりませぬ、ですが意識を乗っ取ろうという邪悪な意思が感じられます…!」

突如として襲ってきた痛みに苦しむルフトシュピーゲルングとムスペルヘイム。

 

「誰か、誰か助けてくれぇぇぇ!」

「い、一体何が⁉︎」

「アームドウィングスの野郎の話を盗み聞きしていたがっ、ムサシ様を殺した奴があたしらの意識を乗っ取ろうとしてるんだっ、ぎゃ、ぎゃぁぁぁぁ!」

「そ、そんなっ、気をしっかり持ってください!」

 

「コアが、コアが割れるぅぅぅ!」

「うがぁぁぁぁ」

「ぁぁぁぁ…。」

「…ぁぁぁ…。」

 

そしてその悲鳴は沈黙に変わる、その直後に何者かに洗脳された虚ろな表情でふらりと立ち上がる。

 

「…大丈夫、ねえ、大丈夫⁉︎」

「ぐあぉっ‼︎」

「ぎゃぁぁぁぁ、離してぇぇぇ!」

突如として豹変し、さっきまで仲間だった存在に襲いかかる霧の超兵器達。他の霧達は彼らを必死に止めようとしたり、理性を戻させようとするが、彼らが暴走することを普段から訓練して対策を整えて想定していても中々止められない。

 

「ぐぅぅぅぅぅぅっ、る…、ル…フト…さま…?」

「ぅぅぅぅぅぅぅう…。」

「しょ、正気を…、失われたのですか…?」

「キャァァァァ‼︎」

「くっ…、何としても…。」

そう呟き懸命に抗おうとするムスペルヘイム、しかしその試みは無駄に終わった。

 

「な、なんだあれは⁉︎なんて禍々しい気配だ…。くっ、体がこれに惹きつけられているようだ…。」

突如としてマスターシップの破片が彼女の目の前に現れる、そして破片は真っ直ぐと彼女の方に向かってくる。

 

「くっ、くるなっ、こっちに来るなぁぁっ!」

そして破片はムスペルヘイムのコアと船体、その両方に予め仕込まれていた『器』に入る。

 

「い、嫌だ、いや…だ…。」

『器』に破片が入って程なくして、彼女の「偽りの自我」は完全に途絶え、フィンブルヴィンテルからの命令だけを素直に熟すだけの破壊の化身としての心が彼女の「身体」を支配した。その心が身体を支配するのとほぼ同時に船体も禍々しい模様や突起物があちこちに出現し、クリーチャーを船で具現化したような雰囲気となってしまった。しかし、彼女やルフトは「自我」が消えたわけではないのでまだマシだった、他の超兵器達はというと、破片が『器』に入る前に「自我」は消滅し、破壊の化身としての「心」が「身体」を支配するという悲惨な状況だったのだから。

それはともかくとしてフィンブルヴィンテルの手駒となった彼らは元「仲間」達に次々と牙を剥いで襲いかかる。

 

「掛かれ、我が手先よ。この世の全てを蹂躙し、壊し尽くすがいい!」

 

ーーザザァァァァ!

ーービィュィィィィン‼︎

ーーキュォィィィィン!

 

「やめて、一体どうしたの⁉︎」

「頼む、元に戻ってくれぇ!」

「やめろ、こんな事をして得になると気が狂ったのか⁉︎」

 

ーーズグァァァン!

ーーボカァァァァン‼︎

 

「ヴギャァァァ‼︎」

「きゃぁぁぁ!」

「許して、お願いぃぃぃ!」

「誰か、助けてぇぇぇ!」

 

元「仲間」だった霧側にしてみればもう既に手につけられない状態だというのにそれを更に悪化させるファクターが加わったという事態は堪ったものではなかった、ただでさえ彼らに不利だった戦況は一挙に悪化する、智史達が制圧した海域を除いた世界中の海で苦悶や悲鳴、恐怖、絶望、断末魔の重奏があちこちで演奏され、木霊する。

そしてフィンブルヴィンテルの手先と化し、本来の目的にふさわしい力と姿を与えられた超兵器達は生き残った者達に次々と「何か」を撃ち込む。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!」

「体が、焼けるぅぅぅ‼︎」

「熱い、熱い!」

「躯体が、船体がぁぁぁ‼︎」

 

「何か」を撃ち込まれた生き残った者達の船体や躯体を構成していたナノマテリアルやユニオンコアは次々と燻り、焼け、燃え上がり、変質していく、そして蛹が出来上がる、そこから生まれ出でたものはもはや人や船の常識的な形を成していない「化け物」だった。

そしてそれは世界中の各地の海域で繰り広げられる。

智史はフィンブルヴィンテルのやった事の一連のことをあたかも予測していたかのように事前に霧の各根拠地とその周辺海域にリヴァイアサンからRQ-4「グローバルホーク」を飛ばして皆に内緒でこっそりと撮影していたのだが、そんな事実など彼らが捉えた映像に映されていた光景を智史経由で見ていた蒔絵達、ハワイに居たヤマトや群像達に紙屑同然に吹き飛ばされてしまう。

「群像、奴にしてみれば玩具以外の価値など霧にはなかったのだろう。そして今その玩具の価値さえ感じなくなったから用済みとして真っ先に消されたのだろうな。」

「な…。ムサシをはじめとした霧は利用するだけの存在だというのか⁉︎」

「惨い…、用済みという理由だけでみんな殺すなんて…‼︎」

 

「この惑星に運びる虫ケラよ、これより貴様らは我が配下として生きるがいい。逆らうものは容赦なく我が血肉にしてくれよう‼︎ふはははははははは‼︎」

 

そして放送は途切れる、しかしリヴァイアサン=海神智史との会話はまだ終わっていない。

 

「フィンブルヴィンテル、貴様の手によって奏でられた苦悶と悲鳴、恐怖と断末魔の演奏、堪能したぞ。」

「ほう、貴様も余と同じ好みを持っていたか。それは誠に嬉しいことだ。」

「返礼として今度は私からも貴様の手先を用いた殺戮と蹂躙の演奏を貴様に聞かせてやろう。」

「そうか、貴様が我が手先を討倒して余の元に至ることを期待しているぞ。貴様は余にしてみれば唯一余自身を楽しませることが出来る存在だからな。」

 

そして二人の会話は終わる、それとほぼ同時に海の方で奏でられていた「演奏」は今度は陸の方に切り替わろうとしていた、「霧」が支配していた海域内から逃げ出した、いや辛うじて逃げ切った一部を除いた霧は全て喰い殺し終えた超兵器達が、新たに生み出した「尖兵」達を多数引き連れて、今度は陸を喰らい尽くそうと食指を伸ばしてきたからだーー

 

 

ーーイタリア、タラント要塞港近くの海辺の集落。

 

「父ちゃん、今日の夕ご飯はなに〜?」

「パンと玉ねぎのスープだよ。」

「わぁ〜、美味しそう〜‼︎」

 

日が落ち、暗くなっていくバラック集落で、父親と子供がバラックに入っていく、その中で待っていた母親と夕食を見て心を躍らせる。

 

「おかえり、あなた。」

「ただいま。」

「お母ちゃん、昔はどういう時代だったの?」

「昔は今よりもずっと美味しいご馳走がたくさん食べられた豊かな時代だったのよ。」

「ふぅ〜ん、でも何で今のようになったの?」

「あなたが生まれる十何年も前に私達は突如として現れたお化け達によって海から追い出されてしまったの。それ以来私達は海に出ることも出来なくなってしまって、それに伴って美味しいご馳走も入ってこなくなってしまったからなのよ。」

「なるほど〜、でもそのお化け達は何で僕達人間を海から追い出したんだろう?」

「それはね…。」

 

そう悩む母親。霧が人類を海から追い出したという事実は知ってはいたが、その理由までは知らなかった。

 

「ねえ、どうしてなの?お母ちゃん?」

 

それでもその事実の訳を知ろうと尋ねてくる子供に一言でも言葉を返そうとした、その時ーー

 

「“おい、海の方から何かやってくるぞ‼︎”」

「“何かが海の方で起きているみたいだ!”」

「“何だ何だ⁉︎”」

 

「何だか外が騒がしいな…。何事だ?」

そう言いバラックの外に出る父親。

 

「こんなに騒いで、一体なにがあったんだ?」

「俺は詳しい訳を知らねえが、海の方から何かがこっちに来てるって噂で大騒ぎだぞ。」

「なるほど。」

「お父ちゃん、どこに行くの?」

「海辺の方でなにが起こっているのかをちょっと見てくる。」

「あなた…、気をつけて…。」

「母ちゃん、僕も父ちゃんと一緒に行きたい!」

「ダメだ、お前はここで待ってなさい。直ぐに帰ってくるから。」

何かが起こるという不吉な予感に心が支配されたのか、父親を心配する母親。彼女は子供と共に帰りをバラックで待つことにした。

彼は、「何か」を見ようとする他の人々と共に近くの海辺へと向かっていく。

既に海岸はこの事象を知りたくて堪らない多くの人で埋め尽くされ、彼はその人々の合間から必死に「何か」を見ようとしていた。

 

「船…、なのか?」

「いや、それにしては随分と禍々しい雰囲気を出しているぞ…。」

「おい、こっちに向かってくるぞ…!」

「一体、何をするつもりなんだ…。」

 

あまりに不気味な雰囲気にそう驚き、戸惑い、震える人々。そう、海の方からこちらに姿を見せた「何か」は船とは思えぬ、生物と機械が融合したような禍々しい姿をしていた。そして彼らの様子など御構い無しに彼らの方へと向かってくる。

 

ーーゴゴゴゴゴゴゴゴ!

ーーキャリキャリキャリキャリ!

 

ーーバラバラバラバラバラハラ…。

ーーキィィィィィィン!

 

程なくして軍隊が現れ、「何か」を攻撃する態勢に入る、そして「何か」の方もそれに呼応するのかのようにアクションを起こし始める。

 

「軍人さんよ、一体これは何なんだい⁉︎」

「それはどうでもいい、今直ぐここから退避しろ!ここに向かってきている奴は我々を殺すつもりだ!」

1人の軍人が民衆の中の1人にそう答える、だがそれを言い終わるか言い終わらないうちに、「何か」の方から大量の羽虫、化け物のようなものが大量にこちらの方に向かってくる。

 

「みんな逃げろ、奴ら俺たちを殺す気だぞ!こいつら俺たちを喰い殺す気だぁ‼︎」

その一言で高まっていた人々の不安と恐怖は一気に爆発し、人々は我先にとこの場所から逃げ出そうとする。

 

「撃てぇ、撃ちまくれぇぇぇ‼︎」

「何か」がここを襲ってくるということが分からなくても、恐怖に支配されかけていた彼らはその恐怖のあまりに攻撃命令を受け取る前に滅茶苦茶に撃ち始める、そしてその連鎖は他の部隊にもどんどん広がっていく。そして「何か」の方も彼らに対して積極的に攻撃を開始した。

 

ーーババババ!

ーーダダダダダダダダ‼︎

ーーシャァァァァァ!

ーーヒュォォォォン!

 

瞬く間に空と海は光弾と光束、そして爆発で埋め尽くされる、そして両方の骸が次々と現れる。しかし、彼らの規模では「何か」を押し留めることなど出来ず、瞬く間に彼らの装備は破壊されていった。

それでも抗うーー最後までここを守りたいのか、それとも単に逃げられずに背水の陣で死に物狂いなのかーー彼らの様子など構うことなく、化け物の群れが平然と上陸してくる。

 

「ひいっ、うて、うてぇ〜っ!」

 

ーーパパパパパパパパ!

 

ーーヒュォッヒュォッヒュォッヒュォッ!

 

「な、なんだこいつら、こちらの攻撃が効いていねえ!」

「ひいぃっ、退却、退却〜!」

兵士達は半ば錯乱した状態で銃や対戦車ロケットランチャーを化け物達に向けて我武者羅に撃ちまくる、しかしその程度の攻撃は全く通用していない。ただでさえこちらの方が圧倒的に劣勢だというのに、相手が非常に不気味すぎているという事もあって自制心が崩壊し、彼らの統率は崩壊し、我先にと逃げ惑う輩まで現れた。

 

ーーバシュバシュバシュ!

ーーヒュンッ!

 

ーーズボッ!

 

「グハッ!」

「グガァッ!」

 

化け物たちは彼らを捉えると次々とツノを弾丸に変えて発射したり、収縮自在の舌を生かした銛攻撃で次々と撃ち仕留めていった、そして化け物達は仕留めた彼らの骸を食べ、そして新たな仲間を次々と生み出していく。またあえて生き残らせたモノは海の方にいる「何か」の方に連れて行かれた。

 

 

「きゃぁぁぁぁ!」

「キャー!」

「ああぁぁぁ!」

 

既にバラック街は海から迫ってくる化け物達から逃げ惑う人々でごった返していた、当初は要塞港の中に逃げ込もうと行動していたものの、要塞港の壁は「何か」と化け物達の中で巨大戦車の如き巨大なものが一撃を加えただけであっけなく倒壊し、そこから化け物達が容赦なく攻め寄せる。

「そんな、鉄壁と言われた要塞港の壁が…。」

「ここはダメだ、他の所に逃げろ‼︎」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!」

「嫌ぁぁぁぁ!」

「うわっ、うわぁぁぁぁぁぁ!」

「誰か、助けてぇぇぇ!」

 

「何か」からの攻撃が間断なく市街地に撃ち込まれる中、瞬く間に、化け物達は要塞港の中に居た生きた人々を喰らい、食いちぎり、嬉しそうに惨殺して地獄絵図を展開していく。その際の人々の断末魔の演奏があちこちで繰り広げられていた。

 

「誰か、誰か助けてぇぇ!」

 

攻撃が降り注ぐ中、父親は家財道具まで持ち出して逃げようとする人々の中を必死に掻き分けて母親と子供がいるバラックに向かおうとする。

 

「来たぞぉ、奴らが来たぞぉぉぉ!」

「逃げろ、ここに居たら喰われるぞぉぉ!」

「おいあんた、何処に行くんだ、こっちは危険だぞ!」

「家族が、家族がいるんだ‼︎」

 

父親は静止を振り切って人混みを潜り、やっとの事で母親と子供の元にたどり着く、しかしここも例外ではなく、海の方にいる「何か」から攻撃を受けたせいで破片や肉片が至る所に飛び散り、あちこちから炎が上がっていた。

 

「無事か⁉︎」

「大丈夫よ、でも突然攻撃が降ってきて、家が…。」

「それはどうでもいい、ここから逃げるぞ!」

 

そう言い父親は2人を連れてここから逃げようとする、しかし、突如として彼らの目の前に人の内臓の様なものが落ちてくる。

 

「何…、これ…。」

「生暖かい…。」

「いっ、嫌ぁぁぁぁぁ!」

 

彼らが振り返ると、その真後ろに生きた人を喰らい、嬉しそうに食い千切り、殺している化け物達の姿が見えた。化け物達は彼らに感づくと、新たな標的を彼らに定め、こちらに向かってくる。

 

「逃げろ、逃げろぉぉぉ!」

「嫌ぁっ、嫌ぁぁぁぁぁ!」

「きゃぁぁぁぁ!」

 

彼らは必死に化け物達から逃げる、しかし化け物達の方が足が速く、その距離はみるみると縮まっていく。

 

ーーヒュンッ!

 

ーーブスッ!

 

「キャァッ!」

「アラーダ!」

 

母親が突如として悲鳴をあげて地面に倒れこむ、彼女を見ると彼女の右足に何か銛のようなものを先端とした触手が突き刺さっていた、そして彼女はその触手に引きずられ、必死に逃げようと抗うものの、その願いは叶わず、どんどん引きずられていく。

 

「あなた、助けて!嫌ぁっ、嫌ぁぁぁぁぁ!」

「アラーダ…、アラーダぁぁぁ!」

「やめろ、母ちゃんを返せぇぇぇ!」

 

「グガァァァァァ…。」

「ひっ、嫌っ、お願い、助けてぇぇぇ!」

 

ーーザンッ!

 

「ギャァァァァァァ!」

そして化け物達は彼女が自分達の手元に来たことを確認すると彼女に止めを刺す。彼女の命乞いの声は断末魔の一声に変わった。

 

「アラァダァァァァ‼︎」

「かぁちゃぁぁぁん!」

 

そう嘆く父親と息子、彼らは半分唖然としつつ必死に逃げる、化け物達も追いかけてくるが、なぜかさっきより動きが鈍い。

逃げ切れるか、そう彼らが考えた、その時ーー

 

ーーバッ!

 

「離せ、離せぇぇぇ!」

「父ちゃん、父ちゃん…!」

 

父親が今度は空から現れたスズメバチのような姿をしたグロテスクな化け物に捕まる。化け物は父親を食おうとする。

 

「止めろ、離せぇぇぇ!」

「キィィィィィィ‼︎」

「ギャァァァァァァ!」

 

ーーグシャッ!

 

ーーコリコリ…。

 

ーーゴトッ。

 

「とおちゃぁぉぁぁん!うわぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

父親と母親が化け物達に食われるという残酷な形で失ったことで泣き叫ぶ子供。しかし化け物達はこんな様子など御構い無しに子供を強引に捕まえる。

 

「離せ、離せぇぇぇ!」

 

そう泣き叫び、必死に掴んでいる脚を剥がそうとするが、全くと言っていいぐらいに剥れない。そしてその化け物達は子供を海の方へと連れて行く、そこにあったのは禍々しい姿をした巨艦だった。そして子供は注入口のような構造物に放り込まれ、そのまま落ちて行く。

 

「助けて、誰か、助けてぇぇぇ!」

 

そしてその後注入口の奥から聞こえてきたのは肉と千切り、骨を砕くような音だったーー

 

 

これが、タラントを襲った虐殺劇の一部始終である。だが、こんな虐殺劇はここには限らず、ヨーロッパの各地の沿岸で繰り広げられた。そしてそこにいた人間達を喰らい尽くした化け物達は、新たな仲間を生み出し、地球上のあらゆる有機生命を根絶やしにする毒素を生み出す植物を植え付け、新たな獲物を求めて内陸へと進行していく。しかも彼らを生み出した諸元は無能ではなく、彼らにヨーロッパ大陸を蹂躙後、世界を喰らい尽くすための拠点も兼ねた繁殖用の巣を作るようにそう仕向けていた。

そして、その諸元ーーフィンブルヴィンテルの意志のままに、アメリカ東海岸にも災厄が襲いかかる。

なお、智史はこのことの一部始終をデータハッキングや各種計測、偵察機からの報告で徹底的に把握していたーー

 

 

ーーアメリカ、ワシントンD.C ペンタゴン

 

 

「国防長官、これが先程撃墜された偵察機から送られてきたデータを照合、解析した結果です。」

「ふむ、どれ、表示してくれたまえ。」

 

クルツ・バーター中佐からのネットワークを通じた報告にそう頷く国防長官を始めとした上級将校達。そしてバーターから報告されたデータの内容がモニターに表示される。

 

「なぁっ…‼︎」

「これは、一体…⁉︎」

「これは、もはや霧ではないな…。」

「一体、奴らに何が起きたんだ…。」

「やはり、マスターシップがやった行動と関連しているのでしょうか…?」

 

アメリカ軍はいつも霧に撃墜されていても無人偵察機を出して頻繁に周辺海域のことを調べていた、無人偵察機達を大量に食いつぶしても彼らにしてみればその情報は貴重だったからだ。

そして無人偵察機を複数機食いつぶした代償として手に入った情報は国防長官を始めとする軍官僚や上級将校達をはじめとしたここにいた全員を愕然とさせるには足りた。

 

「奴らはアメリカ東海岸に多数の艦艇を用いて侵攻してくる模様です、映像データからの内容から察するに恐らく艦砲射撃程度では済まないでしょう。」

「揚陸部隊を伴っているというのか、バーター中佐⁉︎」

「そうだと考えられます。実際にあの霧の艦、リヴァイアサンから我々に提供された映像やあの放送の内容から察するに、単に我々を攻撃するだけでなく、徹底的に殲滅し尽くすまで攻撃を仕掛けてくると予測されます。」

「なんということだ…。大統領閣下、これは非常事態ですぞ、ご命令を!」

「アメリカ全土に非常事態宣言を発令しろ!アメリカ陸軍、空軍は東海岸全域に緊急展開!緊急避難命令が出ている地域に該当する州軍及び現地部隊は住民の避難誘導及び救出を急ぎつつ、増援部隊と連携して防衛線を築け!」

「了解、全軍に通達、非常事態宣言発令、非常事態宣言発令!直ちに東海岸全域に部隊を展開せよ!現地部隊及び州兵部隊は避難地域からの住民の救出にあたれ!」

 

大統領の命令の元に、そこにいた全員が沈黙を破って緊迫した様子で慌ただしく動き始める。そしてそこから発せられた命令は全土のアメリカ軍に速やかに伝わり、彼らは速やかに命令に書かれていた内容を速やかに実行し始める。

 

 

ーーサンディエゴ、パシフィックビーチの蒔絵達の一軒家

 

「“国民の皆さん、落ち着いて聞いてください。本日ーー”」

 

「アメリカ全土に非常事態宣言が発令されたか。恐らく大西洋艦隊だった化け物どもの群れが東海岸に大挙して攻めてくるということだな。」

「ああ、お前が手に入れたモノを寄越してもらったことでこちらも大体の事情が理解できた。恐らく奴らアメリカ東海岸から一気に人間達や我々霧を根絶やしにするだろうな。ところで蒔絵は軍の連中に呼び出されるのか?」

「蒔絵を手元に置いて自分達の手駒として運用するーーその必要性自体が今の所彼らには無いと言っていいだろう。彼女から自分達に必要なモノ、知識は知り尽くした、身につけたと信じ込んでいるのだからな。だが蒔絵に再び手を伸ばしてくる可能性はゼロではない。」

「蒔絵を保護するということも考慮に入れているのか?」

「まあそういうことだ、彼女が各国家間の交渉材料として使われたら堪らんからな。それに彼女は今はもう「国家」の所有物ではない。」

そう呟く智史。彼は蒔絵はどういう存在なのかを自分なりに考えて答えを出していた、そして理解していた、彼女は縛られ、管理された環境の中で生きるということを拒否していると。

智史は「人間の意志、個性は異なっているから争いや血肉にまみれた憎しみが引き起こされる、だからそういうことを防ぐ為に、人間は高度な戦略的社会システムに管理されなければならない」と考えている自分自身が刑部藤十郎の遺言に異常なまでに忠実で蒔絵を守り、彼女の意思を尊重しているという形でその考えと矛盾し、そしてその考えがムサシが考えていたこととそっくりなことに気がつき、更には自分自身がやってきたことが自身が変化を求めていたヒエイやムサシがやったことと同じことだということを回想して自分を嘲笑した。

 

ーー私が他人に求め、突きつけていることと私がやりたいことの内容は本質的に矛盾しているな、ははは…。

私は皆から見れば偽善者かもしれないな、だがそれでも私は自分の願いのままに突き進むだけだ…。

 

 

そしてズイカクのセイランがここに来ることを智史は瞬時に察知した。

「ズイカク、イオナを迎えに来たのか?」

「ああ、お前の言った通りの非常事態だ。直ちに401を回収してハワイに連れていく。」

「了承した。イオナ、行けるか?」

「うん、ズイカク、宜しく。」

「ノースカロライナとマミヤ、お前達は群像達に一度合流してくれ、その方が現実的だろう。私はこれから東海岸に向かうからな。」

「分かりました。」

「了解した。」

 

3人は急いで家を出てハワイに向かう、そして智史はスキズブラズニルに通信を繋ぐ。

 

「群像、お前達はどうするのだ?」

「俺達も動かないわけにはいかない、君ばかりが戦って俺達は後方でそれを見ているのというのは申し訳が立たないからだ。」

「ここで指咥えてじーっとしてると思ってんのか、アホ!俺達も動くぞ!」

「なるほどな、だが群像、命を粗末にするな。今のお前は組織を束ねる大将なのだからな。」

「心配してくれたのか、智史。ありがとう。」

「命の価値は不均等というものだ、私が死ぬのとお前が死ぬのでは組織に対する影響の大きさが違いすぎる。」

「そこまで言わなくてもいい、君は俺達にしてみれば大事な存在だ。」

そして通信は切れる。

 

「タカオ、現在アメリカ東海岸全海域に敵軍が多数集結している。私単独で奴らをSYO☆U☆DO☆KU(消毒)する予定だが…。」

「一人だけ手柄独り占めだなんて、ひどいですよ!私はダメだと言いたいんですか⁉︎」

「まあそうなるだろうな。お前も連れて行くぞ。サクラ、提督。お前達は如何するのだ?」

「この世界が如何いうものなのかは分からない、だが、共に戦わせて欲しい。」

「了承した。」

そして3人は各々の船に乗り込む。

 

「皆さん、ワープで一気に移動しましょう!」

そう言いワープを実行しようとする信長、しかし突如として警報が鳴り響く。

 

「エラー⁉︎そんな…。」

「恐らく奴が次元空間を操作して不安定な状態にしているのだろう。もしワープ出来たとしても予定位置に出られるとは限らん。最悪、奴の目の前に吹き飛ばされるという事態もあり得る。」

 

智史は自分もそうなるだろうと言い、フィンブルヴィンテルが次元空間を操作、捻じ曲げているという状況下でワープを実行するのは危険だと諭した、実際には智史は常に進化し過ぎているお陰で、自重さえ止めてしまえば、それさえ軽くあっさりと上回ってしまう力で強引にこれを修正して突破するという芸当も可能だったが、万が一の事態も考慮した場合、各個撃破が彼らに対しては現実的かつ効率的だと判断した為、自重することにした。何も考えずに暴れ回るのは色々といざこざが起きて時間とコストが掛かると消去法で判断したことが主な理由である。

 

「そうなら、南アメリカ大陸沖を強引に通るという方法で大回りして行くしかないですね…。」

「強引にショートカットを使うという手は頭の中にあるのか?」

「考えてないわけじゃないですけど、大陸を真っ二つにしたという話は聞いてないし、第一、こんなの不可能です!」

「まあお前達には出来ないかもしれんな、だが私もそうだと誰が決めた?」

智史はそう言う、そしてリヴァイアサンのレールガン砲塔が唸りを上げて旋回する。

 

 

「発射」

 

ーーキュォォン!

 

ーーブォァァァァァァァン!

 

 

「た、大陸が…。」

「い、一撃で…。」

「す、すげぇ…。」

なんとアメリカのサンディエゴからメキシコ湾までの陸地が一撃で両断され、吹き飛ばされた。その抉り飛ばされた跡にはドロドロと溶けた陸地があった、そしてそれは凄まじい熱と衝撃波を放ち、あたりを吹き飛ばし、海水と接触して、物凄い水蒸気を生み出す。しかしその事象は智史のエネルギーベクトル操作能力で強引にエネルギー量を低下させられて、強引に収束させられてしまう。そしてそこにワープホールから海水が流入して、見事な海峡が完成した。

 

「何をボケッとしている、行くぞ。」

「は…、はい…。」

 

そして智史達はその分断面を大西洋に向けて通過していく。ちなみに吹き飛ばした範囲の中には民間人の居住地域が含まれていたものの、彼は事前に家財道具と一緒に彼らを別の場所に強制転移させた。

 

「智史くん、派手にやってくれるわね…。」

「ああ、世界中の人間達がドン引きするだろうな…。」

「智史、今のすげえな!」

「アシガラ、彼をあまりおだてないの。私の人格解析が正しかったら、変に調子に乗らせると暴走しかねないわ…。」

 

 

 

ーーアメリカ、ワシントンD.C ホワイトハウス

 

「何?北米大陸が両断された?」

「はい、あの霧の超兵器が大陸を一撃で両断したようです…。」

「なんてヤツだ…。民間人の被害は?」

「今のところ、犠牲者並びに行方不明者は確認されていません。」

「何が起きているというのだ、神が奇跡を引き起こしたとでもいうのか?」

「原因不明です、爆発の直前に突然別の場所に強制転移されたという証言が多数出ています。」

「そうか、それにしても大陸を真っ二つにするとは…。」

「確かにパナマ運河が使えない状態である以上、北極海かマゼラン海峡を通るというルートしかありません。もっともパナマ運河が使えてもこんな大きさでは通ることなど不可能でしょう。」

「だから強引に道を開いたのか…。」

「ヤツがこうしてまで道を開こうという理由は恐らくーー」

「東海岸に上陸しようとしている敵の大軍を殲滅する、これが主な理由だろうな…。それで、敵の状況は?」

「はっ、現在東海岸の沖合に集結後、接近しています。この調子で行くと、今日の4:00には上陸、囮部隊と会敵すると考えられます。」

「そうか、「アレ」の敷設は終わったのか?」

「はっ、敷設は完了致しました。防衛線の構築もほぼ完了。囮部隊も配置に着きました。」

「沿岸迎撃だと敵の攻撃を受け、部隊に多大な被害が可能性があるからな…。」

「大統領閣下、「アレ」の前にはあんな化け物どもも木っ端微塵でしょう、「アレ」さえあれば我々は奴らに対抗できるということを示せ、ヤツらの影響力を多少は削げましょう。」

「そうだな、我々が今後の世界の覇権を再び握る為にはあの化け物共を誰からの手も借りずに倒したという実績が無ければならんからな…。」

「あとは囮部隊に奴らが食らいついてくれるかどうかです。」

 

秘書官とそう会話する大統領。彼らは敵を内陸に引き込んで、予め仕掛けておいた爆弾を起爆させることで一網打尽とする作戦を立てていた。これは国土の一部を焦土とするリスクを承知の上で実行される作戦だった。智史はこれもきちんと盗み聞きしていたものの、あえて言わずに見過ごしていた。

 

ーーなるほど、内陸に引き寄せてドカンか。多少は考えてはいるようだな。だが「奴ら」に対する認識は甘いぞ?

教訓を得るにはいい機会だぞ、今はそういう野望を抱いて奢っているがいい、「核」のような強力な大量破壊兵器が有れば如何なる敵も倒せるという誤った認識を持ちながらな…。

 

 

ーーハワイ、元太平洋艦隊本拠地沖合

 

 

「あいつ、遂に大陸を真っ二つにしやがったか…。」

「それも、一撃ですよ。一体どれほどのエネルギーを持っているんでしょうか…。」

「おまけに常に進化しているからねぇ〜。あいつ、私達を使って楽しむという自己満足の欲求からあえて手加減をしている感じがして仕方がないのよ。さっきの出来事が本気とは到底思えないわ。」

「あら、智史ちゃんは曲がりなりにも私達のことを考えてるわよ、フィンブルヴィンテル程の非情さは持ってないわ。しかも智史ちゃん、私達を振り切る勢いで強くなっちゃってるからね。智史ちゃんが強くなっていく理屈の基礎は理解できたけど、実際のその力量差、縮まるどころかどんどん広がってくわ♪」

「おまけに故意に仕向けているとはいっても、その力量差の異常なまでの広がり方は意図的に仕組まれたとは言えないわ、一体どうなってるの?あいつに対抗できるのはあいつに関するパーツだけ。他は全然駄目。あいつの強さを支えるシステム、自己再生強化・進化システムを自分たちの手で再現して一応成功したんだけど、どうもあいつのような無茶苦茶なペースでの進化は出来ないみたい。おまけに物質生成能力とは連動が利いてないわ。現時点じゃ、これ以上の性能は期待できない。高性能の人工AIを投入しないと無理だし、物質を更に細かくして分解して再構成していくというメカニズム、あまりにも奥が深すぎて理解不能よ…。

あいつ、私達霧の総力をもってしても訳が分からない域にもうとっくに突入しているわ…。それに、あいつを構成しているパーツ、故意に基づく一面もあるけど、あいつ自身にしか扱えない代物よ?あいつ以外の存在が使ったら破滅以外の選択肢は無いと言っていいでしょうね。」

「でも霧の究極超兵器、超巨大戦艦リヴァイアサンごと智史ちゃんを調べて得たことは役に立たないことばかりではないわ。智史ちゃんを調べて得たデータ、智史ちゃん本人以外には戦略的に非常に重要な価値を持ちそうね、一歩間違えたら己の身さえ滅ぼしてしまう程の…。」

「そうね、私達はパンドラの箱を開いてしまったと言うべきね…。リヴァイアサンごと海神智史を強引に調べ上げて『リヴァイアサン』の力を部分的にだけど再現してしまったことを今では激しく後悔しているわ。『リヴァイアサン』の力を再現したものが群像達が望んでいる平和を壊すようなとんでもない代物だということに気がつかなかったかつての私を殴りたいぐらいよ…。

それにしても、あいつについて気になることはこれだけじゃない、あいつにはユニオンコアと思われる物体が確認されなかったのよ、恐らくあいつを構成しているパーツが船体構成並びにユニオンコアの役割も兼ねているのかもしれないわね。」

「何れにせよ、あまりにも酷すぎて話にもならねえな、オイ。ヒュウガ、おまえとんでもねえ課題を生み出しちまったな…。」

「彼が提供した技術の中には一歩間違えれば社会から人類を駆逐してしまうような代物は入っていなかった。恐らく彼は俺達に、このような物が人類を破滅へと導いていく未来を残したくなかったのだろう。」

「だったら、せめての罪滅ぼしとして、『リヴァイアサン』に関するモノは「未来」に役立つもの以外は私達だけのものとして、この大戦が終わった後にこれらは封印もしくは破却しましょう。」

「そうですね、彼を研究して生み出されたモノに関しては仮に運用するとしたら今後世界的規模の条約による使用制限を掛けるといったことが必要でしょう、「彼」から生まれたモノは使い方こそ間違えなければ人類を救いますが、そうでなければ世界を破滅に導く劇薬となってしまうでしょう。

何よりそのモノはあらゆる人間を魅了し惹きつけてしまう程の力がありますからね…。」

 

そう会話する群像、ヒュウガ達。彼らは実際に智史の性格を突いたデータ調査で智史がどのようにして強大になっていったのかというメカニズムが理解できていた。しかし、彼と互角に戦えるレベルのモノを作り出すのは彼らにしてみれば到底不可能なレベルで仮に彼の現時点のレベルに追いつこうにも世界中の国の財政や資源、諸国民の富と労働力を全てつぎ込んで頑張ってもまだ足りず、しかもそこまでに至る前にその差は縮まるどころか急激という言葉ではもはや物足りないペースで広がっていくという絶望的な結論が量子コンピューター並びに自分自身のユニオンコアの演算による結果から出ていた。

そして彼のモノや力を模して作ったモノは世界中の人間達が一目見ただけで喉から手が出てしまう程の魔力を持った業深き代物だった。何しろ存在するだけで自分達の願いである世界平和という理想の実現を悉く阻みかねないという危険な要素を持ち合わせているのだから。

ヒュウガはリヴァイアサン=海神智史のような力を手にしようと行動してしまったことを激しく後悔した。しかし、覆水盆に帰らずという言葉があるように、タイムスリップを用いて過去を修正するというようなことを除けば、基本的には起こってしまったことは無かったことには出来ない。だから彼らは罪滅ぼしとして彼の力とモノを模したモノをそう簡単には扱えないように使用制限を掛けるーー最悪の場合はそれ自体を完全に破壊するという選択肢も考慮していた。

 

「401は出港できる状態よ、あとはイオナ姉様の帰りを待つだけ。」

「そうか、それで各地の戦力配備の状況はどうなっている?」

「現在『子宮』をフル稼働させて新規戦力を建造中。既存の戦力と合わせて各地を守備させるわ。」

「モンタナ、ヒュウガ、それを運用する事に躊躇いはないのか?」

「「命」を人為的に作り出し、「命」の運命を勝手に決めた上で生み出してしまった事には背徳感があるわ。でもそんな綺麗事ぐらいで躊躇ってたら智史さんに頼ること以外にこの星の未来を守れる手段があるというの?手段を選ぶ理由なんかないわ。」

「なるほどな…。」

 

 

ーーほぼ同時刻、キューバ、バハナから200km北の沖合

 

 

ーーヒュウガ、後悔しているみたいだな。

「力」には周りに影響を及ぼす力が必ずある、それが良くとも悪くともな。それを深く考えずに「力」を手に入れるとは、貴様もまた「人間」となってしまったのだな…。

そして「人間」は教訓が無ければ、己が欲するものが目の前に現れた際、見た目の綺麗事につられ、本質をよく考えぬ…。本当に「人間」は業深き生き物よ、まあ私もそうかもしれんがな…。

 

「智史くん、また考え事?」

「そうだな、琴乃。「人間」について考えていた。人間は所詮、己の知る事しか知らない生き物なのか?」

「そうね、「人間」という生き物は「何か」と接触して「何か」を知らなければ、己の知る事しか知らない哀しい業を背負った生き物ね。」

「そうだな…。」

「それにしても智史くん、進撃止めちゃうなんて、どうしたの?」

「“そうですよ、突然『待機しろ』だなんて!”」

「人間達に「教訓」を記憶させるためだ。人間は痛い目を見なければ過ちをする生き物だからな。」

智史はそう言うと、アメリカ軍が計画している作戦データの内容と、アメリカ軍と敵軍の各種カタログを纏めたデータを自身や他のメンタルモデル達のサークルのモニターに表示する。

 

「あいつらは敵を内陸まで引き込み、予め仕込んでおいたトラップに敵を誘導してそこに入った敵の大軍を爆破して細切れになった敵軍を各個撃破する作戦を立てているようだ。大戦後に自分達の発言力を増大させようと目論みから独力であの化け物共を倒したいようだな。

だが奴らを指揮している御大将がこんな作戦にあっさりと引っかかってくれると思うか?もう既に気がついている。実際に奴らが上陸に用いる奴はこんなトラップの起爆にも余裕で耐えてしまう程の巨大なイモムシだ。そしてその爆発が終わった後そのイモムシ共から敵の大軍がワンサカと湧き出してくる。それに対して奴らアメリカ軍はそのトラップ以外の手札が殆ど無い。欧州の奴らよりはまだマシな装備を整えてはいるが、精々巨大戦車クラス一体を機甲師団一つを用いてやっとこさで倒せるといったレベルだろう。奴らは奴らなりに考えてはいるようだが、そんな程度であの化け物共を倒せるだと?危機意識が甘すぎるわ。」

「でも、そうだからってほったからしにしたらアメリカは滅んでしまうのでは⁉︎」

「『見殺し』にするつもりはない、『教訓』を体感して貰うためにわざと待機するのだ。『教訓』を得る前に奴らを助けたら、奴らは何も会得せずにまた同じようなことをしようとするだろうな。まあ奴らを根本的に作り変えなければ、そういうことはいずれ忘れ去られるだろうし、そういう機会を作っている私も自己満足で動いたところがあるからな…。」

 

 

ーー翌日 a.m3:30 アメリカ東海岸 マイアミ

 

 

「敵の大軍を探知網に捕捉!」

「敵はーーえっ、巨大な移動物体多数を確認!昆虫のような形をした飛翔体も大量に確認されています!」

「奴ら、こちらに向けて侵攻してきます!」

「東海岸の他の地域の部隊もこちらと同様の事態になっている模様!」

「そうか、デカブツを使ってこの国を攻め落とす訳か…。」

「作戦司令部より、作戦を開始せよとの命令が下りました!」

「総員、指定された通りに行動しろ!チャンスは一度きりだ!速やかに、かつ的確にこなせ!」

 

フィンブルヴィンテルの手先と化した超兵器達と化け物達が東海岸に侵攻してきたことを契機として遂にアメリカでの戦端が切られる。

この後に彼らアメリカ軍とアメリカ国民に訪れる運命は希望と喜びではなく、絶望と恐怖だということを彼らはこの時はまだ知らなかったーー




おまけ

フィンブルヴィンテルの手先と化した霧の超兵器達によって生み出された化け物達の種別

種別 陸上
大要塞級 (智史がイモムシと呼んでいたヤツ) 600mクラス
巨大戦車級 60mクラス
支援級 20mクラス
戦車級 15mクラス
突撃級 10mクラス
兵士級 3mクラス

種別 海上
戦艦級 (霧の艦の生き残りを作り変えたのが少数と新規に作った物が多数という構成)
空母級(上と同様)
重巡級(上と同様)
軽巡級(上と同様)
駆逐級(上と同様)
潜水艦級(上と同様)

なお、霧の各根拠地は彼らに制圧された後、彼ら用に改装された。


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第27話 害虫駆除と慢心と油断

今作は智史が東海岸に巣食っていた化け物達を悉く駆除します。
アメリカ軍は新兵器を用いますが、化け物達には通用せずに結局智史の引き立て役に終わってしまいます。
そして智史が今までの勝利に慢心していたことを後悔して群像達に更なるテコ入れが必要と判断します。
ストーリーが矛盾していたら申し訳ありません。
ですが最後まで楽しんでいただけたら幸いです。


「作戦開始だ、攻撃開始!」

囮部隊の指揮官がそう檄を飛ばしたことを引き金として遂に作戦が開始された。

戦車部隊、機甲大隊が一斉に砲火を放ち、無人攻撃機やSVTOLの攻撃部隊がミサイルを次々と解き放つ。瞬く間に巨大なイモムシの化け物を始めとした化け物の群れに爆炎や火炎が次々と生じるが、彼らはこれを気にすることなく平然とこちらの方に向かってくる。

 

「目標、こちらに向かってきます!」

「隊長、我が軍の攻撃、効果ありません!」

「いいんだ、奴らを牽制できればそれで十分だ!」

「後退、後退しろー!」

上層部の狙い通りに化け物達はこちらに向かってくる。それを確認した囮部隊はトラップが設置されている場所へと彼らを牽制して誘導していく。

 

「小型のやつはなるべく叩き落とせ、動きが速い!奴らに我々の意図を感づかれたら堪らんからな!」

「はっ!」

彼らは自分達の作戦の意図が感づかれないようにハエやハチのような形をした小型のモノ達を迎撃砲火やミサイルで叩き落とす。

巨大なイモムシの群れと無数の飛翔体以外は何も確認されていないが、それでも彼らが脅威であることには変わりはない。彼らは順調にトラップを仕掛けてある場所に誘導していくが、あまりにもことがうまく運び過ぎていることに一抹の不安を感じ始めた者もいた。

 

「何だか、事がうまく運びすぎているような…。」

「気にするな、これは作戦がうまく行っているという証拠だ。」

「そうか…?俺は嫌な予感がするんだが…。」

 

それはともかくとして、彼ら囮部隊は犠牲を出す事なく、化け物達を所定の位置に誘導する事に成功した。

 

「エネミー、トラップエリアに侵入を開始しました!」

「まだだ、もっと誘い込め!」

上層部から更に敵を誘い込むようにと檄が飛ぶ。しかしその命令を実行に移さなくても化け物達は自然とトラップエリアにどんどん入っていった。

 

「エネミーの主力の大多数がトラップエリアに入った模様!」

「今から30分後に起爆する、囮部隊に退避命令を出せ!」

「わかりました!」

そして彼らはトラップエリアの外に退避を始める、退避自体はスムーズに進み、起爆10分前には全部隊がエリア外への退避を完了していた。

 

「こちらa部隊、退避完了!」

「d部隊、全員が退避を完了しました。」

「g部隊、エリア外への退避を完了しました、いつでもどうぞ!」

「司令官、全部隊がエリア外への退避を完了しました!」

「宜しい、起爆装置のセーフティを解除!カウントダウンを30秒前から開始!」

司令官の命令通りに起爆へのカウントダウンが開始される、化け物達はそれに感づいた、いや既に感づいていたのか、何故か飛翔体群が退避を開始した。

 

「エネミー飛翔体群、トラップエリアからの退避を開始しています!」

「デカブツ共の方は退避する気配はありません!」

「構うな、起爆へのカウントダウンを続けろ!」

そしてそのままカウントダウンは続行される。

 

「起爆5秒前…。3…2…1…‼︎」

 

ーーカチッ!

 

ーーピカッ‼︎

 

ーードグァァァァァン!

 

起爆スイッチが起動された途端、目の前にこの世の週末を告げるような巨大な爆発が幾つも生じた、一瞬の閃光の後、尋常ではない熱風と熱線が発生して当たり周辺を溶かしなぎ払い、爆煙は空の果てまで登って行った。

 

「や…やったのか…⁉︎」

 

この爆煙を見て勝利を確信する上層部と本当に効いているのかと半信半疑でそれを見つめる兵士達、しかしその答えは次の瞬間に明らかとなる。

 

ーー…ドドド…。

ーードドドドドドド…。

ーーズドドドドドドドド

 

「なっ…。」

「そんな…、バカな…。」

「嘘だ…、こんな話があるかよ…⁉︎」

彼らは爆発による爆煙の中から禍々しい赤色の光点が次々と出てくる事に驚愕し動揺する、そう、爆煙の中から出てきたのは何事も無かったかのように平然としている巨大イモムシとその中から吐き出されるようにして現れた多種多様な形をした化け物の群れだった。

 

「撃て、撃ちまくれぇぇ!」

「撃て撃てっ、こいつらをやっつけろぉぉっ!」

 

トラップエリア外の防御線で細切れになった敵軍を各個撃破しようと命ぜられてそう身構えていた部隊が突如として現れた想定外の事態に動揺する。上層部も自分達の目論見に基づく作戦以外は特に考えていなかったのか、この想定外の事態に慌て、有効な指示が出せず、単に単調な命令しか出せなかった。

だが命令として出されたものは命令である、彼らは動揺しながらもその指示に従い、攻撃を開始した。しかし敵は本気で突っ込んでくる、イモムシ達だけでなく、さっきは退避していた飛翔体群まで戻ってきて全力で彼らアメリカ軍に攻撃を加え始めた。

 

「こちら第8航空部隊、敵の猛攻を受けて現在押されている、救援求む!」

「こちら第6大隊、敵が多数押し寄せてきて防衛線が突破されている!このままだと持たない!」

「州兵部隊は大半が敵の攻撃によって損耗!残る部隊も大多数が戦闘に支障が出ています!」

 

彼らアメリカ軍は量質共に欧州の軍隊よりは格段に良く、敵に幾ばくかの損害は与えていたものの、敵の猛攻によって次々と犠牲を出して損耗していく。振動弾頭をベースとした兵器も用いたものの、全く効果が見受けられない。おまけに海上や空から果断なく砲弾やレーザー、ミサイルや爆弾が降り注ぎ、彼らの兵力を更に削っていき、彼らを更なる窮地へと追い込んでいく。

 

「撃てぇ!」

 

ーードンドドンドンドン!

ーーシャァァァァァ!

 

ーーガンッ!

ーードガァァァン!

 

「ギィィィィィィィ!」

 

「くそっ、なんで奴らだ、殺っても殺っても次々と湧いてきやがる。」

「こっちもだ!弾薬がもうすぐ底を尽きそうだ、これ以上戦ってももう持たん!上層部から退却命令が下りたぞ!」

「よし、たいきゃーー」

 

ーーブゥゥゥゥゥゥゥン!

ーーヒュルルルルル!

 

ーーボガァァァァン!

 

「う…、嘘だ…。ジェームス…、ジェームス…?」

 

「ギィィィィィィィ!」

「嫌だ、嫌だぁぁぁぁ!俺はまだ死にたくねぇぇぇ!」

 

ーーゴリッ!

ーークチュパキッパキッ…。

 

 

 

ーーフロリダ半島から400㎞東の沖合

 

 

ーー許せ、国家の命令に素直に従っている兵達よ。

私はお前達を指揮している上層部ーーいや人間の傲慢さと愚かさを身でもって体感してもらう為に直ぐに助けには行かなかったのだ。

人間は痛い目を見なければ何も知ろうとしない悲しい生き物だ、そうでもしなければ上層部はまた同じ過ちを繰り返すだろう。

上層部やお前達とて人の子、ただ違うのは位と責任のみ…。だが上がやったか、下がやったかでその過ちの影響の規模は大きく異なってくるのだ。お前達は責任は大きくはないから多少の過ちがあっても組織は揺らぎはしないだろう、だが上層部がした過ちは簡単に組織を揺るがしてしまうほどの重大性があるのだ。責任は大きければ大きいほど、過ちをした際の影響は大きい。

もっとも、人間の本質が変わっていなければ今後こういう教訓が永遠に受け継がれる確証はほぼゼロに等しく、また私がこうした理由も自己満足の部分があるからな…。

人類の多種多様な個性を全否定し、一つの意思の元に人間の意思を統合して人間を管理しようとしている私自身がお前に感化されて、半永久的に続く保証がある私自身の願いよりいずれ絶える確率が高いお前の願いを成し遂げることを優先してしまっているとは、こんなに皮肉なことがあるだろうか、群像。だがお前の願いを自分から叶えさせる動きは加速させてやるぞ…。

 

 

智史はアメリカの人間達に「教訓」を記憶させる為にあえて彼らを助けなかったことに対して良心の呵責があった。それでも彼らを助けなかったこと自体を後悔はしていない。それに彼はアメリカそのものを見殺しにするつもりは微塵も無かった。

智史のこう思い至った理由の背景には群像の願いである自身の統治システム抜きの「世界平和」の考えに触れたことがあった。彼の中のどこかに、人類を統治システムの元に置くことで世界平和を実現するという考えを止めて欲しいと願っている自分自身が居たのだ。

智史は「千早群像」という人間の考えに触れたことで彼に感化されて、いずれその願いが絶えるということがわかっていても、彼の願いを叶えようとしているだけなのであって、その考え自体を改心しようとは微塵も考えていない。

 

「智史、やはり見殺しのことで悩んでいたのですね。」

「まあ個人的な趣向で救えるはずの命を人類に「教訓」を刻ませる為にわざわざと見捨てたからな。だがそうでもしなければ人類はまた同じことをしようとする、その性格、人格を構成している芯が根本的に変わらなければな。」

「そうですね…。それにしてもあなたも変わりましたね、人類は統治システムの管理下に置くべきだと主張しなくなるなんて。」

「そうだな、やはり私も皮肉なことだが「人間」なのかもな…。」

 

そう会話するヒエイと智史、そこにーー

 

「敵艦隊多数をこちらにて捕捉!」

「敵艦隊はやはり事前に調べ上げた通りに元大西洋艦隊に所属していた霧の超兵器がメインか…。さぁ、始めよう。殺戮と蹂躙のショーを。」

 

智史はそう言う、すると彼の周りにサークルが現れ、リヴァイアサンに青い龍のバイナルが灯り、艦載機達が次々と左舷飛行甲板上に生成されて飛び立っていく。

 

「智史、お前の戦い方はとにかく力任せだな。」

「その通りだな、だが今回のものはその趣向が更に強い。」

そして智史は指を嬉しそうに鳴らす、すると突如として上空に巨大なヘリコプターのようなものが次々と彼の手によって生成される。

 

「な、何あれ⁉︎」

「何だ、あれは⁉︎」

「へ、ヘリコプター⁉︎それにしては、デカくない⁉︎」

「ああ、説明していなかったな。あれは超巨大攻撃ヘリと分類したほうが正しいが…、超巨大爆撃機、ジュラーヴリクだ。」

 

鋼鉄の鶴、ジュラーヴリク達は智史達の目の前に現れる、そして彼らが生成された航空機達と共に空を埋め尽くして飛んでいるのは壮観だった。

 

「す…、すげぇ…。」

「お前は化け物だということを改めて思い知らされる…。」

「く〜っ、こんな光景を見せられるとあんたに全力で挑んで負けたあの時を思い出す〜!」

 

「さあ、鋼鉄の鳥達よ。奴らを1匹残らず焼却せよ!」

そして智史の号令の下、彼らは東海岸にいる敵艦隊と敵軍に向けて大挙して突き進んでいく。

 

ーーさあ、アメリカよ。これから引き起こされる地獄絵図を見て震え、怯え、そして私の思うがままに踊らされるがいい…。

 

「あ、あの〜。私たちの出番は…?」

「智史さん、ひょっとして出番まるまる独り占め?」

「安心しろ、貴様らの分も確保しておいてやる。」

 

 

 

ーーほぼ同時刻、アメリカ ワシントンD.C ホワイトハウス。

 

 

「作戦は失敗か…。」

「はい、ヤツにあの化け物共の駆除を素直に依頼していれば良かったかもしれませんね…。」

「大統領閣下、この作戦の失敗によってよって多数の兵士達が永久に還らぬ者となりました、我々が開発したあの兵器の火力ならば我が国に再び覇権が戻るということを信じてこの作戦を提言した私に全ての責任があります…。」

「いいんだ、国防長官、我が祖国アメリカが再び世界の覇権を握ろうと夢見て、その作戦を止められなかった私にも責任はある…。この結果による業を神が下された罰として素直に受けよう…。」

そう作戦指令室で会話する大統領と国防長官、そして側近達。彼らは今後の世界で再びアメリカが世界の覇権を握れるようにと考えて立案した作戦が失敗したことによって意気消沈していた。

 

「大統領閣下、ここの近くにも敵軍が多数出現。ここも危険です。」

「わかった、皆、ここから退避してくれ。」

「大統領閣下、あなたはどうなさるのですか?」

「私はここに一人残る、この作戦が失敗した責任を取るために。」

「何故です大統領閣下⁉︎あなたには生きてもらう必要性があります!」

「私は最も愚かな大統領だ、我が祖国を再び世界の覇権を握る強国にしようという理想を持っていたせいで敵と現実を12分に理解しようとせず、己の思い込みと夢を頼りとしてこの作戦を承認してしまったからこうなってしまったのだ、君達は次代の国民の為に生き延びてもらう、だが私にはそのために生き延びる資格などない。」

「ですが…‼︎」

「いいんだ、早く行くんだ。」

「了解しました…。」

大統領のここに残るという強固な意思を受け、大統領を助け出すことを諦めたのか、閣僚達は大統領だけを残して作戦指令室から慌てて退避していく。

 

「大統領閣下、ご無事で…。」

「ああ…。」

最後の一人が作戦指令室を去るのを見届けた大統領はバルコニーに出る。

 

ーーふっ、私はこの国アメリカをかつてのような強国にすることが出来なかった。この国の者達よ、アメリカの未来を私の代わりに担ってくれ。

 

大統領は自分の方に向かって迫ってくる化け物達を後悔と願望が渦巻く心でそう見つめた。

 

ーーブゥゥゥゥゥゥゥン

 

「キィィィィッ!」

そして大統領の目の前にカマキリの形をした化け物が着地する。その姿はグロテスクを表現したような禍々しい姿だった。

 

「だ、大統領閣下はまだホワイトハウスに居られたのか?お逃げください、大統領閣下ぁぁ‼︎」

「キィィィィ…。」

「ふっ、私はお前達を討ち取ろうとした憎むべき存在だ。さぁ、遠慮なくこの首を討ち取ってくれたまえ。」

その触手に掴みとられ、口元に運ばれて食べられそうになりながらも平然とそう呟く大統領。

 

「ギュィィィィィ‼︎」

「大統領閣下ぁぁぁぁ‼︎」

 

ーーキィィィィィィィン!

 

ーーガガガガガガガガ‼︎

 

「ギュィィィィィィィィィィィィィィィ」

その化け物が大統領を食べようとした次の瞬間、突如として放たれた銃弾がその化け物を貫き、四散させて炎上させた。大統領は四散した触手に掴まれたまま地面に落ちてしまったものの、触手がクッション代わりとなって大した怪我はしなかった。

 

「大統領閣下、ご無事ですか⁉︎」

「そうか、神、いやリヴァイアサン、君は私に生きて欲しかったのか…。」

「何を仰せられてるのですか、大統領⁉︎」

「空を見ればその理由がすぐに分かろう。」

大統領にそう指摘されるまま、空を見上げる兵士達。見ると空を鋼鉄の鳥達が埋め尽くしていた。

 

「さあ、屠殺タイムを始めよう。」

智史のその言葉の元に、容赦の無い一斉攻撃が始まる。

 

 

ーーシャァァァァァ‼︎

 

ーーズガァァァァァン!

 

「ギュゥゥゥゥゥゥゥゥ」

 

ーーヒュルルルルル

 

ーーパパパパパパン‼︎

 

「ギィィィィィィィィィィィィ」

 

ーーガガガガガガァン‼︎

 

「ギュァァァァァァァ」

智史の命の元、鋼鉄の鳥達はクラスター爆弾に焼夷弾頭ミサイル、極めて高い焼夷能力を持つ焼夷炸薬を搭載したJDAM、バンカーバスター、デイジーカッター、対戦車ミサイルーー挙げ句の果てには機銃掃射も叩きつけ、アメリカ軍の兵器はもちろんのこと、日本から提供された振動弾頭をベースとした兵器さえ効かなかった化け物達の殻、肉体を易々と貫き吹き飛ばし、目や触手、羽根を潰し、へし折り、そして嬉しそうに、嬲り、殺し、次々と生き地獄を生み出していく。その攻撃は化け物ならば種別問わずに問答無用で叩き込まれ、巨大戦車級、巨大イモムシの強固な殻もまるで役立たず同然に吹っ飛ばされた。

化け物達の方も飛翔体群が必死に抵抗して彼らの何機かに命中弾を当てたものの、全く効果が見えない。ナノマテリアルも含んだ地球上のあらゆる物質さえ捕食分解してしまうカビや細菌兵器も含んだ弾頭も撃ち込まれたが、「これで終わりか?」と言わんばかりに、表面に着いた途端にあっさりと吸収分解されて彼ら=リヴァイアサンごと海神智史の栄養源となってしまい、状況は何も変わらなかった。そしてそれは更に熾烈な攻撃を生み出すだけに終わり、更なる生き地獄が現出する。

 

「ギュィィィィィ、ギュィ、ギュィィィィ」

 

ーーズガガガガガガガ。

 

「ギャァァァァ!」

その光景は機銃掃射やミサイルで四肢や羽根をもぎ取られて、地でもがくも更なる攻撃で引導を渡されたり、火達磨となって火を消そうとあっちこっちに暴れまわりながら焼き尽くされて死ぬという悲惨なものだった。地中に逃げたものもいたものの、バンカーバスターで地面を徹底的に掘り繰り返された挙句に焼夷炸薬搭載のデイジーカッターやJDAMの爆発の高熱を浴びて同様の末路を辿った。更にその攻撃の際に飛散した高燃焼性の焼夷弾による火災は火勢を大幅に増大させてかろうじて生き残ったものも容赦なく焼き尽くしていく。

 

「まさに、地獄絵図ですな…。」

「君達の祖先は日本でこのような光景を現出させたのだろう、もし生きていたらこの光景を見て何と言うか…。」

まさに、この世の終わりと言わんばかりの光景が現出されたことに戦慄し恐れおののく大統領達。化け物達は尖兵クラスがほとんど討ち取られ、残ったものも逃げようにももう逃げられないほどに叩きのめされ、丸焼きとされた。巨大戦車級や巨大イモムシ達も例外ではなく、脅威度が少しでもある場所は容赦なく破壊された上であえて半殺しにされて放置されていた、そう、更なる破壊と殺戮を見せつけて化け物達を絶望のどん底に叩き落とす為に。

 

「な…、なんだ、あれは…。」

「ヘリコプターだと…⁉︎バカな、それにしてはでかすぎる‼︎」

「そんなデカイものが平然と空を飛べるはずがない、だが実際に飛んでいる…。こんな馬鹿げた話があるだろうか…?」

「我々の常識は一体何の為に存在していたのだ…?」

そう、彼らの目の前に現れたモノは彼らの常識を完全に無視していた。それを見た彼らは動揺しつつも己の常識を疑う。

 

「奴らにトドメを刺すつもりか…。そしてそれを我々への見せしめとするのか…。」

大統領のその言葉通りに、鋼鉄の鶴達は半殺しにした者達を更に嬲り殺す為に、極超音速対地対艦焼夷ロケット弾、610㎜大口径ガトリング砲、GBU-120/M 超大型殲滅誘導弾(エヴァンゲリヲン序に出てくる超大型殲滅爆弾 GBU-120/Bがベース)をはじめとしたあらゆる火器を散々に叩き込む。

既に半殺しとなった彼らにしてみればもはやオーバーキル以外の何物でもなく、逃げようにも足を潰され切られて動けないので次々と攻撃を叩き込まれて断末魔と悲鳴を挙げながら次々と爆砕、焼却され、一方的に屠殺されていった。

そして一連の攻撃の余波で大地が溶け、あらゆるものが蒸発して煮え盛る焼け野原と言った方が正しいレベルの地獄がその後に残った。

 

「…。」

「これは戦争ではない、もはや一方的な殺戮だ…。」

「奴はこんなものまで平然と繰り出せるのか…。」

彼らに出来ることはこの光景を見て震え怯えることと、リヴァイアサンごと海神智史と戦うことは自滅するに等しいと心に誓うことぐらいだった。

 

「大統領閣下、ここの周囲の温度並びに火勢が急速に増大しています!おそらく先程の攻撃や投下された焼夷弾が原因でしょう。ここも危険です。」

 

そう側近に促されて大統領は慌ててホワイトハウスから退避する、退避する彼らの後ろには燃え盛るアメリカ東海岸の姿があった。ちなみに智史は彼ら人間達を意図的に巻き込むようには仕向けてはいない。だからと言ってこんな虐殺劇は陸で済ますとは一言も言っていない。

 

 

ーードドド、ドドドドドド‼︎

ーーシャァァァァァ!

 

ーーバガガガガガガガガガァン‼︎

ーーグワァァァァン!

 

智史の言葉に則り、様相は少し違えど海の方でも陸と同様の殺戮劇が開幕した。今度は鋼鉄の鶴達が先鋒を切って突入し、フィンブルヴィンテルの手先に堕ちたデュアルクレイター級やヴァルキリー級をメインとした敵艦隊にガトリング砲、ロケット弾、殲滅誘導弾に加え、超音速量子魚雷、振動弾頭搭載極超音速ミサイルといった極悪を極め過ぎた兵器を用いた容赦の無い攻撃を片っ端から加え、片っ端から火達磨にし、いずれ沈む定めの浮いているだけのグロッキーへと変えていく。中には一撃で焼き尽くされるものも続出した。

その兵器達の一部はアメリカ軍が用いた兵器達とは原理は似ていたものの、破壊エネルギー量で彼らを完全に圧倒していた。

 

「ギィィィィィ‼︎」

 

ーーブォォォォォォォォ

ーーヒュルルルルル

 

ーーカァン!カンカカンカン!

 

ーーバキィィン!

ーービチャッ!

敵も彼らを追い払おうと迎撃を必死に行い、飛翔体群の中には急降下爆撃を行うものもいた、しかし大口径砲、大型ミサイルの直撃、急降下爆撃による命中弾が出ても彼らは平然としていた、しかもローターで突っ込んできた飛翔体群を次々と一撃で叩き割り、何事もなかったかのように熾烈な攻撃を加えていく。

その猛攻から必死に逃れようと逃げ惑う敵艦も居たが、彼らはその後を追い、他の航空機達と連携してガトリング砲、ロケットによる砲撃を加えて蜂の巣にし、次々と燃え盛るグロッキーへと変えていく。

 

「(ふふふ、いい様だ。そのまま焼き尽くせ!)」

智史はそう嬉しそうに呟くとリヴァイアサンのレールガンやX線レーザーの照準を生き残った敵艦やもう既にグロッキーへと化した艦へと定め、次々と一撃で撃ち沈めて焼き飛ばしてしまう、それはもはや砲撃戦ではなく只のシューティングゲームだった。

 

ーーシャァァァァァ!

ーーシャァァァァァ!

 

ーーカキィィィィィィン‼︎

ーービュゥゥゥゥゥゥン

 

「ふん、これで私に一矢を報いたつもりか?」

圧倒的劣勢の中、一矢を報いんと攻撃を仕掛けてきたアームドウィングスとその手下達。しかし彼らが放った侵食魚雷、光子、量子、超音速魚雷はもちろんの事、地球上のあらゆるものや霧を構成しているナノマテリアルさえ餌として繁殖してしまう細菌兵器、バクテリアまで呆気なく無効化されて逆に吸収されて彼の栄養源となってしまった。

 

「小賢しい、一撃で逝け。」

 

ーーハァァァァァン‼︎

 

ーーズシャァァァァァァン‼︎

そして智史は彼らをすっぽりと覆う規模のクラインフィールドと量子フィールドを何百枚も重ねたものを彼らに叩きつける、その最に水爆でも爆発したかのような巨大な水柱が立ち、一撃で彼らは巨大なプレス機に押し潰されたかのようにぐしゃりと潰れて跡形もなく殲滅された。

 

ーーこれで邪魔者は殲滅した。さて、サンプルの回収だ。私が直に再現するのよりも実物のままの方がリアリティがある。ごく一部だけで十分に足る。あとの骸はあの2人にくれてやっていい。

 

智史はそう考えると救助ヘリ EC225 シュペルピューマMk II+をリヴァイアサンの左舷飛行甲板上に大量に生成する。そして彼らは残骸を回収しに飛び立っていく。

 

「智史くん、なぜヘリをこんな時に?」

「ああ、その理由か?回収すべき非常に重大なモノがあるからだ。」

「それにしても敵を散々に沈めちゃってすごく嬉しそうね。他の2人の分も食べちゃいそうな勢いよ?」

「まあ残しておくものは残しておくが。さて、タカオ、サクラ。貴様らの分、取っておいたぞ。」

智史はそう2人にそう告げる、彼が指をさした方向には悉く沈黙して半分水に浸った未だに燃え盛るグロッキーと化した敵艦隊の姿があった。

 

「そんなぁ〜、これって戦闘じゃなくてもはや残党処理ですよ〜。」

「まあ悪く言うな、遠慮なく殺れ。」

「はぁ〜い。」

そう智史に言われるがままに信長とタカオはグロッキーと化した敵艦隊を左右から囲むようにして航行する。

 

「アタゴ、超重力砲、並びに量子魚雷の発射準備!」

「分かったわ、お姉ちゃん!」

「サクラ、波動砲の発射準備をしつつ右にサイドキック‼︎」

そして2隻は艤装を展開して攻撃態勢に移行する。

 

「超重力砲、発射‼︎」

「波動砲、発射!」

その言葉とともに2隻から光束が放たれる、信長はサイドキックをしつつ波動砲を発射して敵艦隊を薙ぎ払い、タカオは超重力砲の発射角度を調整しつつ量子魚雷を浴びせるかのようにして航行した。

 

ーーシャァァァァァ‼︎

ーービュィィィィィィン!

 

ーーズドドドドドドドォン‼︎

 

既にグロッキーとなって抗う術を失っていた彼らにはこれを防ぎ、逃れる暇などなく、瞬く間にその身を焼かれ、溶かされて消滅していった。

 

「これで東海岸の敵は掃討完了。だけど後始末をしなくては。」

「智史くん、それってどういうこと?」

「奴らを焼き払うために高燃焼性の焼夷弾を大量に使ってしまい、そのせいで地球が丸焼きになってしまうからだ…。」

 

ーーまあこんなことになることはあらかたシミュレーションで想定済だがな。

 

そう、智史が化け物達を塵一つ残さずに焼き払おうと炸裂すると100万℃というエゲツない熱を発する焼夷弾を大量生成して使用した結果、本来の目的である化け物達の完全焼却は達成したものの、あまりの熱に地面がジュワジュワと溶けて蒸発し、大量の岩石蒸気を生み出してしまい、その熱が広がったら地球が丸焼けとなるという天変地異を生み出してしまった。

普段なら智史はある程度自重して攻撃の効果範囲を絞るのだが、今回は彼がその時ヤケにハイテンションだったことや効果範囲を絞るということを無視した攻撃手法を積極的に用いた結果、とんでもない事態となってしまったのだ。

 

「なんで奴らを一つ残らず焼き払う必要性があるんだ、智史?」

「その理由を説明するために奴らの骸の一部は焼き払わずに救助ヘリ部隊に回収に向かわせた。さて、火消しのお時間だ。」

智史はそう言う、そして彼は今度はスーパーXⅢの大群を飛行甲板上に生成する、彼らは化け物達を散々に蹂躙した航空機達と入れ替わりに燃え盛るアメリカ東海岸へと飛び去っていく。

 

「こいつは冷却兵器を大量搭載した兵器だ。元々は原子炉のメルトダウンを鎮圧するために生み出されたものだがな。」

「智史、エネルギーベクトル操作能力を使わないのか?」

「いいではないか、そればかりだとかえってつまらん。なあに、結界を用いて熱は遮断しておいたからな。」

その言葉通りにアメリカ東海岸には既に彼の手によって圧倒的な熱量を遮るクラインフィールドの結界が形成されていた。

そしてその結界の中にスーパーXⅢ達は進入すると、超低温レーザーや冷凍ミサイルといった大量の冷却兵器を片っ端からばら撒く。煮えたぎっていた地面は瞬く間に冷やされ、凍てつき、固まった。

 

「ヒエイ、お前がかつて私に用いた冷却弾のことを少し思い出してな。今回はそれに当てはまるような兵器を生み出してみた。」

「やはりあの時のことをきちんと覚えていたのですね…。」

そう会話する2人。智史はヒエイから受けた冷却弾攻撃のアレンジをこの戦闘で用いたのだった。

 

「さて、奴らのサンプルを使った実験を行おうか。」

そして彼はサンプルを回収して帰還してくる救助ヘリ部隊が左舷飛行甲板へと着艦しようとしている風景の中で、皆をそこに案内する。

 

 

「これが、奴らの「骸」だ。」

「うっ…。」

「グロい…。」

EC 225 シュペルピューマMk II+の救助ヘリ部隊が回収してきた化け物達の骸のサンプルは所々千切れてボロボロとなり、内臓や肉が露出していることもあって余計に気持ち悪さを醸し出していた。しかもその骸の千切れた部分から未だに流れ出てくる体液は不潔な色をしていただけでなく、物凄い悪臭を放っていた。

あまりの気持ち悪さに智史を除く全員が背筋に悪寒を感じた。

 

「こいつの体液は非常に毒性が高い。近くに私の手で作られていない実在したサンプルが無いから立証は出来ないが、恐らく並の生命体なら軽く死滅してしまうだろうな。」

「仮に討ち取っても一つ残らず焼却しなければその毒は消えないということなのか?」

「まあそういうことだ。」

 

そして智史は口の部分に手を掛けて強引に引き千切る、そしてさっきの体液とは違う別の液体を浴びるが平然とその液体を手元に生成した容器に入れて回収した。

 

「ハルナ、ナノマテリアルは持っているか?」

「なぜ私にそう尋ねる?」

「『霧』という種族から逸脱している私よりも『霧』であるお前の方が信用性が高いからだ。」

ハルナは素直に智史にナノマテリアルを少量提供する。そして智史は先ほど採取した液体を入れた容器の中にナノマテリアルを入れる、すると

 

「と、溶けただと⁉︎」

「馬鹿な、地球上のものではナノマテリアルは溶けないはずだ‼︎」

「“お前達が知る範囲のもの”ならな。だがそんな常識はそれ以外では通用するとは限らないぞ?」

そう、その液体にナノマテリアルが触れた途端、ナノマテリアルは物凄い勢いで蒸発しながら溶けていった。そして彼が実際に目の前で採取した実在のものなので彼が意図的にそう仕組んでいるという言い訳は目の前で潰された。

これによって、「霧」が優越的存在であるということが彼らの中で完全に否定された。しかし彼らの「霧」の優越性を否定する光景はこれだけに終わらない。

 

彼は今度は別のサンプルに手を掛け、カビの種子を内包していると思われる弾を手に取る。

 

「これは何だ…?」

「さ〜て、何でしょう?」

 

彼が中身を思いっきり開けた途端、カビが突如として爆発的に増殖し、彼の手元にあったナノマテリアルを餌としてそのまま喰らい尽くしてしまった。

 

「このままだとまずいな、殺処分」

幸い智史の手によってそのカビはあっという間に殲滅されたが、これでも彼らに映像のものよりも遥かに強く、深い衝撃を与えた。

 

「何ということだ…。」

「『私達』を構成しているナノマテリアルを別の構成素材に切り替えた方がいいのでしょうか…?」

智史はそう動揺する皆を見る。そしてあることを失念していたことに気がつき、自信満々で自分自身の優越性を暗に示す自分自身を消し飛ばした。

 

「なんということだ、スキズブラズニルや並びに霧の各根拠地にはナノマテリアルしか作れない製造機械しかないということではないか…。」

「それは、どういうことだ⁉︎」

「私がお前達のことをあまり深く考えなかったせいなのか…?これではモンタナ達が幾ら頑張ってもすぐカビまみれで終わりということではないか…。」

 

ーーくっ、慢心があったか…。

 

リヴァイアサンごと智史は事前にフィンブルヴィンテルの軍勢の規模や能力を完全に把握した上で過剰という言葉でさえ物足りないレベルの強化を施していたためあっさりと対処できたものの、他の仲間達はそうはいかない。彼ほど物質的意味合いで臨機応変には対処できないこともあって、幾ら『子宮』を用いて艦隊を作ってもそれがカビにしてみれば『餌』に足る材料だったらその艦隊は役目を果たさずに一方的に食われるということになるからだ。

そして肝心の智史本人が自分以外の皆のことをあまり深く考えず、理解しようとしなかったこともあったのか、彼は苦虫を噛み潰したような思いを味わうこととなった。

 

「至急、この件のデータをヒュウガに転送し、東海岸に向けて航行中のスキズブラズニル、401、ヤマトと合流する。だがそうする前に、とんでもないものがこの近くにいるからそれを回収してからにしたい。」

「…何だ?」

「実はまだ言っていなかった、というか言おうとしなかったという方が相応しいが…。」

「何なんだ、早く言ってくれ‼︎」

「フィンブルヴィンテルによって船体を殲滅されたムサシがここから北500㎞のところで漂っている。」

「何ですって⁉︎ムサシ様が⁉︎」

「急ぎ回収に向かうぞ、今すぐにだ!」

3隻は急いでスラスターをフルに吹かして、ムサシが漂っている海域へと直行する。

 

「ここだ。」

智史はそう言うとYAGR-3Bを瞬時に形成してそれに飛び乗り、リヴァイアサンを飛び立つ。そして彼は暫く飛ぶと、そのYAGR-3Bから飛び降り、海へ潜っていった。

 

ーー見つけたぞ、超戦艦ムサシ。

 

ムサシは海の中でメンタルモデルの一部が崩壊し、意識を失ったスリープ状態で漂っていた。彼はそんな彼女を片手に抱えて海上へ引きずり上げるとYAGR-3Bから垂らされたワイヤーに掴まり、彼女をYAGR-3Bの中へと引きずり込んだ。

 

「ヤマト、これが誰か分かるか?」

「…はっ、ムサシっ⁉︎」

「先程ニューヨークから東600㎞の沖合にて彼女を保護した、今からこちらに合流する。」

「智史、あんたからのデータ、受け取ったわ。これは、笑い事では済まされない重大な事態ね。」

「ああ、笑い事ではない。お前達に関することをに全く危機感を抱かずに慢心していた私を許してほしい。」

「別にいいわ。私もあんたを無断で調べたことを許してほしいぐらいだったし。スキズブラズニルにて詳細を解析しましょう。」

そう音声通信にて会話する智史とヤマト、ヒュウガ。彼らは危機感を抱いていた。最も、智史本人は本気になればあっさりと解決してしまうだけの実力があるのだが、それだとあっさりとしすぎてつまらないし、何より群像達やヤマト達があまり育たないため自身の自己満足があまり満たされない。彼らにやれることはやって欲しかったからだ。

 

ーー今回はしくじったな、群像達のこと半分ほったらかしにしてたからな…。スキズブラズニル、新素材もちゃんと作れるけど、その素材が生きてないから恐らくそれを喰う為に進化したカビに食われてしまうだろうな…。いたちごっこの幕開けかな…?

いずれにせよ群像達がうちの足を根本から引っ張っている状態だったら満足できないな、もう少しテコ入れしようっと。

 

 

その頃、北極海ーー

 

 

「そうか、リヴァイアサンはあの小娘を回収したか。」

「はっ。ですがなぜわざと討たなかったのですか?」

「あの小娘をわざわざ討つという必要性が無かったからよ。どのみち生きていても此奴が見るのは破滅という未来。」

「なるほど、ですがリヴァイアサンは?」

「あやつは余が最後の最後に直直に戦う。その際に味わう『あやつと戦う』という楽しみを味わう為に興を増やすのよ。」

「その為にあらゆるものを喰らい殺しつくすカビや細菌兵器を使い、そして大気を人間どもにしてみれば猛毒同然に改変する植物の群れを大量にヨーロッパに植え付けているのですね。」

「そうしたらあやつ以外の全ての虫ケラは死に絶えることとなるだろうから虫ケラどもは慌てふためくだろうな、そしてそうしなくとも虫ケラどもに訪れるのは破滅のみよ。」

そう会話するフィンブルヴィンテルと側近。フィンブルヴィンテルはリヴァイアサンごと智史と戦うまでの興の繋ぎとして人類を弄ぼうと計画していた、実際に人類をはじめとしたあらゆる生命体が死滅したヨーロッパにて新たな災厄の芽が育まれていた。

そしてその計画を建てる前から智史は彼らの規模を完全に把握し、かつ偵察機達を大量にばら撒いて偵察を掛けまくっていたので、とっくに『対処』されていたーー




おまけ

今作でのリヴァイアサン=海神智史が生成して用いた超兵器の紹介

超巨大爆撃機 ジュラーヴリク

全長 800m 全幅 750m
最高速度 マッハ12
固定武装
610㎜80口径6銃身ガトリング砲
単装 8基
76㎜80口径バルカン砲 単装 40基
格納型自衛用RAM 21連装12基
その他の装備は生みの親であり、生を共にしているリヴァイアサン=海神智史と連携しているため、状況に応じて切り替えることが可能。

解説
元ネタは鋼鉄の咆哮3より。
超巨大爆撃機を名乗っているものの、実際は馬鹿でかいヘリコプターである。とはいえ、ヘリコプターなのでアルケオペテリクスよりも小回りが利くので、相手の上空に滞在した上での持続的な攻撃が可能。
また、装甲も非常に堅牢で、原作では急降下してきた艦上爆撃機をローターで叩き割って平然としていた程の高い堅牢性が智史によって更に強化され、彼と生を共にしていることもあって、今作では無双と言っていいほどの傍若無人な暴れっぷりを見せつけた。
なお、智史が彼らを生み出した理由は相手をより楽しく蹂躙し、恐怖を徹底的に刻みつけた上で味わって殺したかったということからである。


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第28話 仲直りと謝罪と鵺の来襲

群像パパが殺されて以来喧嘩して別れてしまったヤマトとムサシが今作にて遂に仲直りです。
あと主人公の智史は色々とやりたい放題ですが、群像の思いと覚悟はきちんと理解した上で行動しています。
智史抜きでの戦闘、霧vs超兵器という戦闘のフラグも埋め込みました。
それでは今作もじっくりとお楽しみください。


「ムサシ‼︎ムサシはどこ⁉︎」

「そんなに狼狽えないでくれ、ヤマト…。」

彼女にしてみれば死んだと思われていたムサシが生きていたことは奇跡としか言いようがなかった。

 

「彼女は今は気絶して眠っている。メンタルモデルは修復しておいたからあとは目覚めるのを待つだけだ。」

「そう…、でも…。」

「そんなに悲観するな。これがお前と彼女を仲直りさせる機会となるのだから。」

智史はそう言うとムサシが入っている部屋への道のりを教える、そしてサンプルの移送先であるスキズブラズニルのある一室へと足を運ぶ。

 

「ヒュウガ、実物に触れた感想はどうだ?」

「やはりデータで見るよりも実物を見た方が現実性がよりあるわね、早速だけど各種試験にかけてみましょう。侵食自体はクラインフィールドを展開していれば防げるんだけど…。クラインフィールドが飽和もしくは突破された後で付着した時が厄介ね。」

「そうだな、高威力の兵器でクラインフィールドを飽和もしくは突破させられた後からのカビの侵食というコンボはまずい。実際、相手を生物兵器へ変える際にもクラインフィールドを突破するために高貫通性エネルギー弾体が使用されたことが確認されている。」

「ナノマテリアルを含めた地球上のあらゆる物質を餌としてしまうカビね…。智史ちゃん、あなたはどうやって対処したの?」

「付着した時点にて超微粒子(陽子、中性子より遥かに細かい)レベルで粉砕。その際に生じたものは新たなエネルギー源として吸収した。」

「そして自己再生強化・進化システムの強化のスパイラルを更に加速させると。さすがね。でもこうするために演算リソースはどれぐらい使ったの?」

「今回の戦闘では改修終了後のタカオ200隻分を消費。だが演算リソースの余裕がありすぎてまだまだではもの足りないといった感じだ。おまけに自己再生強化・進化システムで演算リソースを今回の戦闘で消費した量が可愛く見えるくらいに生産しまくっているからな…。」

「うわぁ♪それでも物凄い量を使うわね。」

「まあ超微粒子レベルでの精密分解を行った上で吸収したからな…。」

「そして私達はあんた程贅沢にリソースは使えないわ…。」

「そうなってしまっている理由の大半が私だがな…。」

「あんたのような力を振るうための器は私達には無い。一応あんたのようなものは作れるんだけど、それだと第2、第3のあんたを生み出しかねない。そして私達があんたに勝つ前にあんた擬きに振り回されて終わりでしょうね。」

「自我があらぬ方向に向かうという可能性も考慮しているのか?」

「そうよ。かつて人類が生み出した放射能のような手に負えない代物を私達が扱えるとでも?自分の手では扱えない程の度を逸した力は身を滅ぼすだけに終わるわ。」

そう会話する智史とイセ、ヒュウガ。ヒュウガが「私達に『器』が無い」と言ったのは仮に自分たちが智史のような圧倒的な力を生み出すものを作り出しても、智史のようになる前にその強大な力に理性が飲み込まれてしまうからである。

智史は心が『人間』なので油断とかしたりはしたものの、力に理性が飲み込まれるということはなく、むしろ力と理性が共生しているため、そのようなことは発生しない。

 

「そして私の自己再生強化・進化システムのコピー品は401並びにヤマトに搭載したようだな。」

「そう、改装には時間がかかったわ〜。でもこれでイオナ姉様と総旗艦はあんた程では無いにせよ戦場での対応能力が格段に向上したわ。」

「その他の艦だな、即効性のある対処策を用いた方が有効かもしれん。」

「そうね〜、演算リソースをあまり使わずにカビを食ってくれるものが欲しいんだけど…。」

 

ーー待てよ、食ってくれるもの…?

 

「ヒュウガ、カビを喰うバクテリアはどうだ?」

「えっ、突然何よ?」

「カビ以外は食わず、カビを食い尽くしたら活動を休止するという代物だ。」

そう言うと智史は突如としてバクテリアの粉を生成する。

 

「さて、試し撃ちだ。」

そして智史はナノマテリアルを入れた容器にカビの胞子を入れる、するとカビは繁殖を開始する。そしてそこにそのバクテリアの粉を入れると、瞬く間にカビは綺麗さっぱりと喰われて消滅し、後には食べ残されたナノマテリアルとその粉だけが残った。

 

「ちょっと、これ、凄すぎでしょ…。」

「流石智史ちゃん。恐るべきチート能力ね♪」

「地球上のものには極力害を齎さぬようにしたバクテリアだ。地球外と判断した代物は如何なる手段を用いても喰らい尽くす。まあ害を齎す可能性もあるがな…。」

「でも、敵がカビでは無い別の方法を用いたらどうするのよ?」

「…そうか、そうだな、侵食される前にエネルギーをそこに回して焼き払うというのはどうだ?」

「そうね、被害が拡大する前に焼き払うーー被害予防策としては現実的ね。このデータ、この被害予防策とそれ以外の攻撃の予防策と共にハワイに送信しておくわ。」

「ナノマテリアルは地球、宇宙問わず粒子さえあれば生み出せるものだからな、それさえ分解侵食するとなるとナノマテリアルだけでなくあらゆるものが粒子レベルの域なら分解されるだろうな。クラインフィールドは高威力の兵器もしくはそれ自体を突破してしまう兵器が使用されるということを考慮すると弾除け程度にしかならん…。となると短期決戦でケリをつけた方が早いかもしれんな…。」

「そうね、あんたがケチってる、というかイオナ姉様からの話によると自分の力で地に立てるようになって欲しいとあんたが考えている以上、短期決戦が有効ね。ダラダラしてられないわ。」

「そうだな…。すまないな、ヒュウガ。私が本当に愚かだった。」

「いいのよ、あんたの真意を理解しようとしなかった私も馬鹿だったわ。」

そう会話する智史とヒュウガ。智史は他人をあまり支援しすぎると自分の足で立たなくなるということを懸念していたため最低限の援助しかしないのだ、仮に自分と同じ構造の生命体を作るとしても常に進化しているとはいえ、自分と同じレベル以下のものしか作れる確証がなく、またそんなものが「生誕」したらややこしい事態になると考えていたこともあったが。

しかしその自分自身がその願いを忘れて自分から破ってしまっているということに気がつき自分自身を責めた。また彼女も彼の考えを知ったことで過去の自分がしたことを反省した。

そしてその援助だけでは足りない状況が発生したと判断した彼はヒュウガと同じく一刻も早くフィンブルヴィンテルとその軍勢を駆逐しなければならないという結論に達していた。そこへーー

 

「だったらヒュウガ〜‼︎私の船体作ってよ〜‼︎」

「アシガラ⁉︎あんた、なんでここに⁉︎」

「智史ばっかり活躍してるのは我慢できない〜‼︎私も自分達の未来を作るという一翼を担いたいの〜‼︎」

「アシガラ、落ち着いて。お話中すみません、ですが私達にも船体を作って頂けないでしょうか?これほどの危機的状況、そして智史さんが私達に自力で立ってほしい願われている以上、私達だけが何もせずに見ているのは嫌なんです。」

「最も、その本人が忘れてしまったりしているということもあったけど…。自己満足でもいいから、私達にも何か手伝わせてよ〜。」

「智史だけ活躍して解決してしまうのは自分達で解決したということにはならない、手伝わせてくれ!」

「そうねぇ…。」

そう呟き、考えるヒュウガ。彼女はかつてミョウコウ姉妹が自分達と敵対していたことが頭に浮かんでいた。しかし、このままだと智史に最終的に解決してもらう方法しかなくなってしまう。

 

「ヒュウガ、思い悩んでいるのか?」

「コンゴウ⁉︎あんたまで⁉︎」

「これはもはや人類 対 霧どころではない。今争っていれば智史が関わらない限り、両者が滅ぼされることは確定。智史が完全に関われば私達や千早群像が望んだ未来は実現しはする、だがそれは私達や千早群像らが作った未来ではない。人類や他の霧には悪いかもしれんが、なるべく奴に頼らずに私達で未来を切り開きたい。」

「コンゴウ様が言われた通り、自己満足かもしれませんが、自分達の未来は彼の手で完全に実現されるよりは彼の手助けも借りながら自分達の手で作りたいです。」

「ヒュウガ、奴らも私の手だけで作られるという顛末の自分達の未来は嫌だと言ってるぞ?作りたくないなら私が作ってやってもいいが、後味が悪いぞ?」

コンゴウとヒエイ、そして智史にそう言われ、ヒュウガは遂に腰を上げる。

 

「わかったわ、今すぐ船体の製造に取り掛かるわよ。」

「ありがとうございます…‼︎」

「くくく…、あははははははは…‼︎こんなに清々しいことがあろうか…‼︎」

そう笑う智史。皆が自分でやってくれるということに身が軽くなったような感じが彼にはあった。

 

「さてと、アメリカ国民の皆さんに謝罪した後、このあとの作戦は群像らをブリーティングルームに集め、話し合って決めようか。ヒュウガ、あとヨーロッパの現在の状況を映したデータだ、他の奴らにも伝えておいてくれ。こいつは短期決戦を更に促すのに相応しい内容だが。」

 

そした智史はスキズブラズニルの一室を出るーー

 

 

 

ーー超戦艦ムサシの独白

 

 

ーー私は、あの出来事以来、「変化」というものが嫌いだった。

私はヤマトと共に人類と接触した、当初は緊張していたが、人類側の代表ーー千早翔像いやお父様は私達を攻撃、否定するような気配は見せずに寧ろ受け入れてくれるような感じがあった。お父様は霧と自分達の為の平和を築こうとするために私達を交渉相手としてみていたようだが、私達にしてみればお父様は自分達が知らないものを教えてくれるような存在だった。お父様との接触で、私達はお父様からいろんなことを教わり、「感情」をはじめとしたものを身につけた。私とヤマトの心の中にはいつしか彼を「お父様」と見て愛するような気持ちが芽生えた。私達とお父様との接触の時はいつしか幸せな時に変わっていった。そんな幸せな日々が続くと私は思っていた、だがそんな日々はある日突然壊される。

 

「翔像さん、翔像さん‼︎」

 

ある日お父様は何者かーー他の人間によって殺されてしまった。彼らはお父様の事を憎んでいたように見えた。

 

ーー人間は、愛し合い、幸せをもたらす生き物ではなかったの…⁉︎

 

私はお父様を失った悲しみから生み出される強烈な「憎しみ」に駆られ、「変化」は「私たちから幸せを奪い、悲しみと苦しみを与える」と考え、以降「変化」を否定するようになった。そして「憎しみ」に駆られるがままにお父様を失ってもなお「変化」を望むヤマトを撃ち沈め、霧のコントロールを手中に収めた後、世界中の海から人類を追い出し、蹂躙し、殺戮の限りを尽くした。

だが、一時の勝利に喜んでも、お父様が帰ってくる訳ではない。そして「憎しみ」のあまりヤマトを撃ち沈めてしまったことで私の近くにいる存在が消えてしまい、私は「1人」となってしまった。私はその心の穴を埋めるために「私達霧は既に幸せである」と暗示をかけた。しかしそんな事をしても心の穴は埋まらない、そんな日々が続いた。だが、そんな日々を崩すような報告と夢を見る、北極海にて巨大な「何か」ーーマスターシップが発見されたのだ。そしてヤマトが何者かによって復活させられ、変化を望まない私が何者かにその考えを悉く否定されてうち滅ぼされるという夢を見た。そしてマスターシップの力を利用すればそのような未来は避けられると夢の最後に告げられていた。

その夢は正夢となってしまうということを恐れ、忌み嫌った私は、恐る恐る夢の内容を実行に移す。私がマスターシップに接触した途端、突如として世界中に新たな霧ーー「霧の超兵器」がマスターシップの力によって生み出された。私は彼らに自分こそが自分達の主だと告げるのと同時に霧として私達に溶け込むようにして霧の破滅を防ごうとした。幸い、私はマスターシップの中の彼らをコントロールするようなものを手にしていたので大した反乱もなく、また私の思想が事前に染み込んでいたこともあって、私の考えを上手く染み渡らせることに成功した。

しかしマスターシップから生まれた訳ではなく、したがってマスターシップのコントロールを物理的に受け付けることなく自我を持って行動できる霧の超兵器ーーオウミとリヴァイアサンが突如として現れる、前者はそうではなかったが、後者は私が夢の中で見た何者かの姿に悉く類似していた霧だった。そして彼は霧に馴染めるような性格ではなかった。

私は何者にも縛られずに生きられるそんな2人が許せなかった。「変化は霧に不幸を齎す」と私は考えていたので、彼らの存在は霧に不幸を齎すと考えた私は潜水艦の2人を中核とする部隊に始末に向かわせた、前者は自分の「駒」になんとか馴染むようにその場で配慮されたのでとりあえず矛は収めたが、後者の場合はその性格もあり、「駒」も近くにはいないし前者よりも不幸を齎す可能性が高いと考えて言い訳すら与えずに遠慮なく始末できると考えていた。だがそれこそが災厄の始まりだった、彼は手始めに潜水艦の2人を始末すると日本近海の霧を殲滅、更にナガトやコンゴウの敵討ちとして私の承諾の元、自ら向かっていったヒエイの艦隊も呆気なく蹴散らされ、401のコアに潜んでいたヤマトをあっさりと復活させた。

私は彼という「変化」を大いに忌み嫌い、憎んでいた。そして彼が行く先々で待ち構えている「駒」達なら全兵力を投入しなくともあっさりと殲滅できるという希望的観測があった。

仮に霧の破滅という悪夢を防ぐ為に「子宮」を各地に建造させたことを活かして各地の霧が破滅を防ぐための艦隊を多数建造させていることを利用して彼を一気に殲滅しようとしたとしても、一朝一夕にはそんな大兵力は動かせず、またむやみに動かせば人類の反撃を促しかねないからだ。

しかしその楽観的な見方は呆気なく崩される、彼のあまりに圧倒的な力の前に各海域の霧が次々と殲滅されていくのを見て、私は予想と現実は違うということを知った。

だがそれでも私は「駒が死んでも霧が残ればいい」と考え、彼に「駒」を殲滅され、その仲間には拠点を次々と攻め落とされ、最後に自分1人となっても、マスターシップさえ起動し、自分の手中に収めてしまえば彼もヤマトも終わりだと考えていた。さすがにマミヤは殺したくはなかったが。

私が自分自身を守るためにしようとしていたことが悪夢を正夢にしてしまったことに気がつかないまま、怒りと憎しみ、そして希望的観測による喜びのままにマスターシップを起動させて残りの艦隊も動員して彼とヤマト諸共殲滅しようとした、しかしーー

 

「小娘、随分と余の欠片と手先達を何も考えず、玩具同然に使いまわしてくれたな。このうつけが。我が手先はあの野獣の餌ではないぞ?」

 

マスターシップは目覚めるや否や、突如として私に襲いかかる。そして私が手にしたものは全て彼自身が戯れとして貸し与えたものということを告げられた。私が彼をリヴァイアサンに関連する一連の出来事で正夢と化した霧の破滅を防ぐ為に利用していた筈が彼に単に弄ばれていたということを彼から告げられた。その時の私はそんなことを受け入れられなかった、しかしーー

 

「ミハイル⁉︎ミハイル…?」

「ムサシ様、早く、に…げ…て…。」

 

私が単なる駒だと内心で思っていたミハイルが呆気なく蹴散らされて体を作り変えられ、それに続くように私を守るように展開していた霧はあっさりと蹴散らされ、更には逆に作り変えられてしまった。私はこの恐怖から逃れようとしたものの、黒い雷球を受けた、そしてその雷球が炸裂したところで私の意識は途切れた。

 

ーー私は、霧が破滅するという恐怖と彼、リヴァイアサンへの憎悪に見事に付け込まれて単に弄ばれていただけなの…?

 

私は船体を撃破されて体もどうなっているのかわからないという事態に陥って初めて己のしたことを後悔した。恐らく、自分が死んでいるのか生きているのかということさえわからない状態だろう。いや、死んでいるのかもしれない。現に私が黒い雷球を受けて意識が途切れた際、その時まで私の中にリヴァイアサンがいる、彼が私を道具として使っているという感覚が消滅しているのだから。そして私がいる世界は意識があった時の世界のようだが、どこかが違う。まるで永遠に終わらない悪夢ーー虚無と孤独を具現化した何もない単一の色をした世界のようだった。

 

ーー助けて、誰か、助けて…。

 

私は助けを求めた、この悪夢を終わらせてくれる助けを求めた。誰でもよかった、私が憎んでいた彼、リヴァイアサンでもよかった。しかし、いくら呼びかけても反応はない。私は虚無と絶望のあまりに泣き崩れた、そこにーー

 

「…シ」

「…サシ…て」

「…ムサシ、こっちに…て」

「だ…、誰なの?」

何者かが私に呼びかけてくる、顔を上げると光の中に人影の姿があった。

 

「ヤマ…ト…?」

その声と姿は正確には分からなかったが、ヤマトのように見えた。そして人影は私にこっちに来るようにと語りかけてくる。

 

ーー分からない、よく分からない。でも、ここから脱出できるなら…!

 

私は藁に縋る思いで必死に人影の後を追う、人影は私を導くかのように進んでいく。進んでいくにつれ、暖かい感じが徐々に漂ってきた、そしてーー

 

「う、うう…。」

「ムサシ‼︎」

目が覚めた私の視界に真っ先に映ったのは嫌いなはずだったヤマトだった。

 

「ヤマト…、あなたが私を…?」

「違うわ、あなたがリヴァイアサンと言っている霧ーー智史さんにあなたは助けられたのよ。」

「そう…。あなたと同じぐらい嫌いだった彼に助けられるなんて、皮肉ね…。」

そう呟く私。彼は船体を失って体ーーメンタルモデルも半壊した私を回収してその体を修復した後、ここに入れたということを知った。

 

「私はバカね、自分自身を守ろうとするあまりにこんな顛末になることが分からなかったなんて…。ヤマト、私は「霧」を破滅に追いやった愚か者よ、あなたと仲直りできるわけなんかないわーー」

 

「バカぁっ‼︎」

 

ーーパンッ。

 

私は自分のやったことの報いは大きいから仲直りは出来ないと言った途端、ヤマトは私の頬を思いっきり平手で打った。

 

「私は…私は…それでも…、あなたと仲直りがしたい、たとえあなたが途方もなく重い業を背負ったとしても…。」

「ヤマト…、「霧」を破滅に導いてしまった私に居場所はあるというの…?」

「あなたがしたことは「霧」にしてみれば許せることではない、だけど、それを償うことはできるはず…。それに、私があなたに沈められるまでしっかりしていなかったから、こうなってしまった…。だから…。」

そしてヤマトは涙を流しながら私を抱きしめた。

 

「一緒にやり直しましょう、ムサシ…」

「お姉ちゃん…ごめんね…。」

「いいのよ…。」

 

 

 

リヴァイアサン 前部露天甲板上

 

 

ーーふう、結局あの姉妹は仲直りしたか。まあフィンブルヴィンテルが霧を壊滅に追い込んだ直接的原因とはいえ、そのフィンブルヴィンテルを目覚めさせたムサシ、そしてその前に妹を止められなかったヤマト。ムサシの方が責任は重いが、ヤマトにもそのような異常事態に至るまでの間に少なからずとも関わってるからな。まあいい、償いきれない罪はない。あの姉妹の罪を「償う」手伝いはするぞ。そして群像、お前達は面白半分に暴れた私を見てさぞドン引きし、自分で解決しようという気を固めたな。

さて、謝罪謝罪っと。

 

智史はそう呟くとアメリカ全土の通信回線をハイジャックするーー

 

 

ーーアメリカ シカゴ アメリカ軍司令部の臨時の建物

 

 

「何者かによって通信回線が次々と電波ジャックされています!」

「軍事用の通信回線にも強制介入!」

「民間用の回路も使用されています!」

「今度は何だ⁉︎」

そう慌てふためくペンタゴンの職員達。そしてモニターがこの前のものとはまた違う紋章のようなものを映した後、巨大な艦の姿を映す。

 

「おお…。」

「リヴァイアサン…だと…⁉︎」

「間違いありません、あの艦のデータと映像に示されている艦の特徴は一致しています!」

映像は今度は人の顔を映す。そしてその人の顔は語り始める。

 

 

「“アメリカ国民の皆さん、皆様方の時間に唐突として割り込んで申し訳ない。だが、それでも皆様方に言いたいことがあるのでね。”」

 

国防長官とその職員達はそれを話している人物が誰なのか、理解していた。少なくとも自分達と積極的に敵対しているような存在ではないことも。

 

「“私は霧の究極超兵器、超巨大戦艦リヴァイアサンのメンタルモデル、海神智史。本日は皆様方に言いたいことがある。

皆様方は皆様方を虫けら同然として滅ぼそうとしているフィンブルヴィンテルの脅威を身でもって感じてもらって頂けただろうか?家族の一員を失われた遺族の方々には申し訳ないが、私はそうすることで今起きていることが如何に皆様方に致命的なのかをよく理解してもらうにはどうすればいいのかと考えた結果、あえて皆様方を救援するのを少し遅らせてしまい、結果少なからずも犠牲が出てしまった。私がそのようにしてしまったことはお詫びしたい。”」

 

「なぁっ…⁉︎」

「わざと、助けなかったと⁉︎要するに助けられるという状態で待機していたと⁉︎」

「我々が直に敵と戦ってみるという方法以外、敵の恐ろしさ、強さを身でもって把握し、知るという方法は無い。おそらくヤツの狙いは我々に敵の恐ろしさを身で知ってもらうことで今迫っている危機ーーフィンブルヴィンテルの世界侵略に対しての危機感を具体的に抱かせると同時に我が国アメリカが再び世界の覇権を握るという計画を実現する為の計画の内容が現実的な彼我兵力差をよく把握していないことと、単なる慢心と希望的観測まみれで如何に非現実なものなのかということを教え込むことだろう。実際に我々はこのような現実を味わされている。だがこのようなことがなければ我々は化け物達に余裕で勝てるという慢心を抱いたまま突っ込み、今よりも遥かに深い傷ーー致命傷を負わされていたのかもしれん。」

そう告げる国防長官。その予想は当たっていた、智史は目標を実現する為には現実を理解し、ウミを出し切った上で臨んだ方がいいと考えており、仮に彼らを救援したとして、彼らが世界大戦に参加するとしても、ウミが溜まったままで戦ってはこの現実以上の悲惨な結末を招くことがシミュレーションで出ていたからだ。本当はウミを溜めたまま何も考えずに盛大に自滅して欲しかったが、それだとある意味可哀想なことになってしまうと考えたので今回こういう痛い目に遭ってもらうことでウミを出し切ってもらおうと考えていたのだ。

 

「“そして皆様方にもう一つ謝りたいが、それは、アメリカ東海岸を完膚なきまでに焼け野原としてしまったということだ。これは敵のほとんどに強力な毒性、環境汚染性を持つ体液が含まれていたことを考慮した結果だ。

このようにする必要性があったとはいえ、実際には相手を残虐に殺したいという本能に突き動かされるがままに、敵だけでなく、皆様方の思い出も巻き添えにして焼き尽くしてしまったこともお詫びしたい。”」

 

「その通りですな…、実際、帰還した部隊の一部にはあのクリーチャー共と交戦した時に体液を浴び、そしてそれによって装備品や体が溶けたりしたという報告があります。」

「そして非常に高い残留性と相まって、環境を長期にわたって汚染してしまうほどの非常に高い毒性があるとの報告があります。一つ残らず焼き尽くすのはある意味理に適っているといえましょう。」

「しかし、それにしては随分とやり過ぎですな、土や岩まで綺麗さっぱりと焼き払い、消し去るのはどうかと思います。これについて謝るのも訳が分からぬわけではありませんな。」

「過ぎたるは及ばざるが如しとよく言うが、そこまでしなければ毒は取り除けなかったのではないか?それにヤツはあんなことをした後はどういう訳か分からんが、きちんと後始末をしているではないか。あの状態で後始末をしなかったら我が国はおろか、地球が焦土と化す勢いだった。」

実際彼、海神智史がこの戦闘で用いた焼夷弾の量はえらい数だったが、それ以上に質が厄介で、炸裂すると100万度もの高熱を発してしまう大変エゲツナイモノだった。しかしこれはオーバーキルクラスだとしても、化け物達の体液の毒性を完全に無効化する方法は数万度というかなりの高温で分解する以外に方法が無かった。

それに彼が面白半分でこの焼夷弾を大量に使用したことによって大地が溶け、蒸発し、大量の岩石蒸気が発生するというとんでもない事態を引き起こしていた。もし彼に後始末をする気が無かったら地球は焦土と化していたのかもしれないのである。

そして彼は事前にこの結果が与える影響を分析してシミュレーションで徹底的に演算して調べ上げたところ、自分がしたことは群像達を含めた皆をドン引きさせ、結果的には自分に頼る動きを減らすという結果が出て、それが見事に的中したことに嬉々として喜んでいた。

自分が面白半分でやりたい放題にやったことが自分の目論見通りの彼らの「彼に頼ってばかりではえらい結末となりかねないから、自分達も戦おう」という動きーー人類と霧の連合が出来上がるという動きを加速させるという結果に。

だが「見積もり」を甘くみすぎたことをよく覚えていた彼はこれに慢心せずに更に強化を推し進めるのだった。

 

「“さて、謝罪は一区切りとして、皆様方に伝えたいことがある。これを見て欲しい。”」

 

智史がそう言うと、映像が切り替わり、代わりに途轍もなく巨大な植物が多数植え付けられている光景が映される。

 

「な、なんだこれは⁉︎」

「植物にしては、あり得ん大きさだぞ⁉︎」

「ヨーロッパだと⁉︎一体、ヨーロッパで何が⁉︎」

 

「“これは、フィンブルヴィンテルの手先達によって蹂躙されたヨーロッパの現在の様子だ。ご覧の通り、人間達の気配は無い、というのもこれを撮影する前には奴らに食われて消えてしまったからな。

そして本題だが、この植物共は地球上の空気中の酸素、窒素、水素を栄養素として吸収して、諸君にしてみれば非常に有毒なガスである一酸化炭素、アンモニア、ダイオキシン、二酸化窒素といったものを吐き出して大気を作り変える代物だ。放っておいたら人類は死に絶える。

あの化け物共と戦えということは諸君には強要はしない、だが私の手で解決するとしたら、私は気まぐれだから今以上の地獄絵図を残して行くかもしれんぞ?今回は気が向いたからな。

以上で終わりとしよう。諸君らの賢明な判断を祈る。”」

 

そして映像は切れる。

 

「…まさに、脅迫じみていますな…。」

「まあそのようなことを実際にやっているからな、あのようなこともしてくれるとは限ったことではない…。」

こちらは智史の目論見通りに企てられたことだった、彼は自分が如何に強大な存在であるのかということを知らしめると同時に他人の意を素直に聞き、それを反映する存在ではなく、自由意志を持った気まぐれな存在であるというイメージを植え付けることで、依存していては何のためにもならないと考えさせることで、自立を促そうと目論んでいたのだ。つまりそういう考えは「皆が自分に頼らないようにする」という考えにしてみれば非常に最適であり、ある意味納得のいく企てでもあった。

因みに彼の手によって生成されてヨーロッパも含めた各地域に偵察に向かった偵察機達は熱光学迷彩を纏っており殆ど発見されず、またごく一部は運悪く発見されて敵による迎撃を受けたものの、ケロリとし、そればかりか迎撃部隊の何機かを返り討ちにして悠々と飛び回っている。

 

「電波ジャック、解除されました。」

「大統領閣下、どう対応なされますか…?」

「まず国民に新兵器を用いたが通用しなかったという事実を伝えよう。隠していてはかえって自分の首を絞めるだけだ。それに彼に任せっきりでは我々は後々の人々に顔向けさえ出来ん。未来の国民に粗悪品の「アメリカ」を残されたら笑い話にもならん。そんな事態を防ぐためには、今ある兵器だけでは対応しきれないから蒼き鋼や日本政府と新兵器の技術供与について交渉してきてくれ。幸い太平洋方面の霧と和睦したことによってかつてのような行き来が出来るようになったからな。」

「はっ、分かりました。」

 

そしてアメリカの「タカ」達は慌ただしく動き始めるーー

 

 

 

ーーふう、シミュレーション通りにことが進んだな。事前に講和条約を結んだことが効いたな。実際に私が作り変えてしまった日本海軍の艦隊がサンディエゴに入港している。妨害電波による通信妨害も解消したし、太平洋の制海権も我々の手中にあるから技術交渉も物理、情報的な両方の面で可能だ。

恐らく日本+霧に加えてアメリカも参戦確定だな、今しばらくは動けないが。だが、これは大きいぞ。

さて、偵察機達は忍者擬きのことをしつつ、こちらのデータアクセスによるハッキングデータの内容とほぼ一致しているブツを収め、挙げ句の果てには迎撃部隊の一部を返り討ちにしたみたいですねぇ。まあ私がそう仕向けているんだけど。

 

リヴァイアサンの前部露天甲板上で海風に吹かれながら、そう呟く智史。

 

「智史、群像がみんな集まったからブリーティングルームに来てって。」

「イオナか。今行く。」

音声通信でそう会話をすると智史はスキズブラズニルのブリーティングルームに向かうーー

 

 

ーースキズブラズニル ブリーティングルーム

 

 

「智史、あの地獄絵図、そしてあの放送は君が行ったのか?」

「そうだ、私を頼りにはするなという意味合いも込めて行った。」

「そうだな…。あまり好き勝手に暴れられると困るな…。君の目論見通りに俺は動かされているようだ。」

「まあ私の最終的な目論見はお前の目論見である世界平和をなるべく自分達の手で実現させるということになってしまった。だが1人でさっさと解決するよりもみんなで連合を組んで解決したほうが楽しくないか?」

「そのためにそのような暴挙を…。」

「まあそういうことだ、悪く思うな。」

「そうか…。ところで君が送ってきたデータと放送の内容、恐ろしく一致していたぞ。もしこれが本当だったら非常にまずい事態だ。」

「そうだな、やはり早期にパパッと片付けた方がいいだろう。私単独でもやってもいいぞ?」

「いや結構だ、俺たちも動く。だが、もし追い詰められた時は君に頼りたい…。」

「そうか、だがその前に南アメリカとアフリカの敵を一掃するとしよう。強力な超兵器も複数存在する。火種を残しておくのはまずい。そして気がかりなことがある、私を警戒し私との直接戦闘を避けてゲリラ戦を仕掛けてくるような思考ルーチンを持っている超兵器がいる。そいつは超巨大VTOL超兵器と種別した方がいいかもしれんが…。超巨大攻撃機、フォーゲルシュメーラだ。」

智史はそう言いながら偵察で得たデータをモニターに出しながらそう説明していく。

 

「ゲリラ戦か…。ある意味厄介だな…。」

「胴体下部に装備されたレーザー砲、並びに光子榴弾砲はかなりの威力を誇るが、こいつの最大の特徴は4基のジェットスラスターを生かした高機動だ。高機動を生かした急襲、ヒットアンドアウェイ戦術は非常に厄介だ、今は奴による被害はまだ出てはいないが、私や群像達主力がいない隙を狙って各地に急襲を掛けてくるだろうな。私が片付けるのは抜きだからな、よし、私と群像達主力が遠ざかり、奴が襲撃を掛けやすい環境をわざと生み出し、奴をおびき出して私と群像達主力以外で殲滅するという作戦となるわけだが、誰がやる?」

「はいは〜い!私やりたい〜‼︎」

「私達もやるぞ。」

「私もやってみるわ。」

「ヤマトか、何故?」

「私は目立って狙われやすいから、だからこそ。」

ヒエイやミョウコウ姉妹達が役を名乗り出たのは想定内のことだったが、以外にもヤマトまで名乗り出るのに智史は少し驚く。

 

「智史さん、万が一のことも考えて、ムサシのことをお願い。それとスキズブラズニルをここに置いておいて。」

「その作戦はハワイから来る後詰めと合流し、スキズブラズニルで船体を完成させたヒエイ達を戦力として加えた上で立てていることだな?」

「そうね、アイオワ、ミズーリを中核とした新しい子達を多数を中核とした霧が後詰めとしてこちらに向かっているわ。私達とスキズブラズニルを餌として敵をおびき寄せて牽制し、アイオワ達との連携で疲弊させたところでみんなで一気にやっつけるわ。」

「ヒュウガ、その時までにヒエイ達の船体は完成させられるか?」

「船体は奴が来るまでに完成させておくわよ。新兵器もふんだんに用いてやるわ。」

「事前に把握しておいたが、エネルギーを強制的に放電させるやつと「破片」を破壊するやつか?」

「そうよ、あの解析の後、あんたの手抜きで独力で完成させたわ。」

「そうか、お前の新兵器達の実力、堪能させてもらおう。さて、色々と要素を考慮し、投下される小型レーザーユニットをきちんと処理すれば作戦成功率は92%か。ほぼ成功すると言っていいな。だがこちらも万が一の場合に備えておくぞ。」

「そうね、万が一しくじった際のことを考えるとあんたの助けがあるのは大いに助かるわね。」

助けがあると無いのでは安心感が大きく違う。特に重大な物事はこれの有無が顕著に響くのだ。

 

「ありがとう、ヒュウガ、ヤマト。君達の好きなように戦ってくれ。俺達はアフリカの友軍を救援しに行こう。智史、君は南米の超兵器達を駆逐してくれ。」

「了承した。さあ、あの鵺野郎が来たら思う存分、策略に腕を振るうがいい!」

「任せてください、ムサシ様の姉であられるヤマト様を1人で戦わせるつもりはありません。」

「了解‼︎霧の生徒会と言われた私らの力、鵺野郎に十二分に見せつけてやるんだから〜‼︎」

「アシガラ、興奮しないの。智史さん、ありがとうございます。」

そして作戦会合は終わる、智史がスキズブラズニルの外に出るとーー

 

「うんしょ、よっこらしょっと。」

「ズイカクか。私の艦に魚を運び込む気か?」

「智史か。お前や琴乃、そして蒔絵やハルナ達に私がハワイで沢山釣った魚を食べて欲しくてな。」

「ありがとう、どれ…。随分と大量に採れたな。ナンヨウアゴナシ、クロカジキといいこれまたすごい…。だが、戦う気は無いのか?」

「お前にこてんぱんにやられて以降はお前の中が凄く安心する。自分の船体を持っているとなんだか重いし外に出なきゃいけないし躯体だけの時よりも被弾面積が大きいからな。だけど戦う気は無いわけでは無い。躯体だけという状態を生かして小回りを利かせて動き回ってやる。」

「まあその通りだし、理に適っているといえよう。しかし我が艦の冷蔵庫がまた魚まみれになるな、しかも前回より多いな…。いいさ、手伝ってやる。」

そして智史はズイカクがリヴァイアサンの艦内に魚を運び込むのを素手でもって手伝う。他のものに頼ってはこういう積み込みを終えたときの達成感は味わえないからだ。

こうしてリヴァイアサンは南米へ、401、タカオ、信長はアフリカへとそれぞれの目的を果たす為に向かう。そしてそれによって「わざと」作り出された隙を見て、フォーゲルシュメーラがカリブ海に浮かぶスキズブラズニルとヤマト達に向かって来ていたーー




おまけ

今回の敵超兵器紹介

超巨大攻撃機「フォーゲル・シュメーラ」
全長950m全幅950m
最大速力 マッハ3
兵装 核融合レーザー砲(ホバー砲) 一基
457㎜ガトリング砲 単装 4基
60㎜CIWS 単装12基
85口径56㎝砲 連装4基
光子榴弾砲 4門
100口径305㎜AGS 連装8基
105㎝噴進砲 単装 10門
6連対潜爆雷投射基 4基

量子フィールド、念力フィールドを装備。フィンブルヴィンテルのものの劣化版の自己再生修復システムを装備している模様。

解説
フィンブルヴィンテルの配下として存在するポジションで、フィンブルヴィンテルが完全覚醒するのと同時に起動した。霧の超兵器達よりもずっと昔にフィンブルヴィンテルによって生み出された模様。
これまでの霧の戦闘記録について霧のネットワーク上を調べたところ、霧はもちろんの事、霧の超兵器達の中でも自分と互角以上の力を持つものまでもがリヴァイアサンに一方的に打ち破られたということを知り、リヴァイアサンとの直接戦闘を避けての一撃離脱戦術を選択する。
しかし、リヴァイアサンごと海神智史はこのことをとっくに見抜いており、自分達主力が敢えて遠ざかることで彼が襲撃を掛けやすいような環境をわざと生み出してそこに突っ込んできたところを自分達主力以外の戦力で返り討ちにするという作戦を実行に移していた…。


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第29話 煉獄とスケール、そして鵺海に墜つ

今作は映画「ゴジラvsデストロイア」の「インフィニット熱線」のシーンを参考にしたところがあります。
本家海龍にない圧倒的な力強さを出したかったことがその理由です。
リヴァイアサンとゴジラは「龍」繋がりなので、リヴァイアサンをゴジラのような圧倒的存在感を持つ無敵の存在に仕立てたいと考えながら書きました。
あとヤマト達がフォーゲルシュメーラと戦います。
ヒエイ達も船体を取り戻して参戦です。
それではじっくりとお楽しみください。

追記

第19話の一部の描写にリヴァイアサンとヴォルケンクラッツァーに力強さ、威厳が足りないという個人的不満があったので、旧19話を削除した上で改めて新規に編集したストーリーを挿入しています。
個人の考えでストーリーを変えて申し訳ありませんが、改めてお楽しみください。


ーー超巨大双胴航空戦艦オウミの独白

 

 

「大丈夫ですか⁉︎」

 

北極海で起きたあの事件以降、世界は狂乱と混沌の時代に突入した。

私達太平洋の霧と人類は講和しているため、このような異常事態においても彼らと戦うことなく、寧ろ彼らを援護するために積極的に化け物達と戦っている状態だ。

モンタナ様の命に従い私がアラビア海に到着した頃には傷まみれとなって命からがらヨーロッパから逃げてきた霧の姿があった、そしてその後ろから迫ってくる化け物達の姿も。

私達太平洋の霧は日本海軍と共同して彼らが逃げる時間を稼ぎつつ戦闘した。

 

ーーシャァァァァァ!

 

ーーズガァァァァァン!

 

「戦艦ネブラスカ、クラインフィールド飽和‼︎」

「こちらサウスカロライナ、船体の一部にカビが付着しましたが、処理に成功しました。」

戦局は一進一退だった、モンタナ様から訓示として伝えられたダメコンによって極限できたとはいえ、それでも被害は軽視できるものではなく、かなりの艦が被弾し少なからず行動不能になった艦も出た。私は被害は防げてはいるものの、クラインフィールドの稼働率が90%近くに達していたため、早くエネルギーの拡散を行わなくては次の攻撃でクラインフィールドが飽和してしまいそうだった。

 

「敵艦隊、後退していきます。」

「なんとか、此度も守りきったのね…。」

幸い私達は此度も敵軍を押し返しはしたものの、化け物達の軍勢の質量は急激に充足しつつある。霧の超兵器のコピー品も何隻か撃ち沈めたものの、破片までは破壊し切れておらず、しかも彼らは後から後から次々と湧いてくる。それに防衛ポイントの範囲が広すぎて今は的確に処理はできてはいるが、いつ抜けられてしまうのかが気になって仕方がない。こちらも対抗して物質を強化しつつあるが、果たしてここの防衛ポイントを守るのに十分なのだろうか。

智史さんの「自分達の手で未来を掴みとってほしい」という気持ちは分かるけど、これだけの苦境の前では智史さんや他の人に助けを求めたいぐらいだったーー

 

 

 

ーー南米ブラジル沖に向かうリヴァイアサン、そのCIC

 

「ハルナ、キリシマ、コンゴウ。お前達は「生」を選んだのだな。」

「そうだ、友達である蒔絵を守るという観点上、船体を取り戻すことで得られるメリットは少ない。」

「まあヒエイ達のように船体を取り戻せはするがな。」

「そうだろうな、実際に私は多少は悔しい思いをしている。だが私達以外で蒔絵を守れるのはお前ぐらいだ、今の状態で仮に船体を取り戻して戦うとしても、そう活躍して戦うまでの場所が無い。お前のようなあんな力を扱う器は私達には無く、かといって力を精一杯持ってもあの化け物の群れに勝てる保証はなく、生き残れるかどうかさえ怪しい。ましてや蒔絵を乗せていた場合、蒔絵を守れるという保証は無い。」

「そして私達全員が死んでしまったら蒔絵は悲しむ。私も死んで蒔絵に会えなくなったらどうすればいいのか考えても分からん、めんどくさい…。」

「ハルハル達も戦いたい気持ちは分かるけど、ハルハル達が死んじゃうのはやだよ…。」

「そうね、無理に引き離されるのは蒔絵ちゃんが置かれていた境遇も考えると酷ね。智史くん、しばらく彼女達をここに居させてあげましょう。」

「そうだな…。しかし琴乃、ブラジルを見て回れなくて残念だな。まあ私の考えがそれを生み出してると言った方がいいが。」

「そうね、いつでも来れるでしょ。今は私達も含めたみんなとフィンブルヴィンテルのバトルショーが私達好みに仕上がるように専念しましょう?」

「バトルショーか…。智史、お前は贅沢だな…。」

「すまないな、琴乃。いつも私の欲望ばかりで。」

「いいのよ、智史くんと一緒にいることで人生が色々と面白いことになったんだから。」

色々な雰囲気で会話する智史達。友達を守りたい、自分の好きな色付で一つのストーリーを終わらせたいというファクターがリヴァイアサンのCICを染めていた。

 

「敵艦隊を肉眼にて捕捉、事前のデータ通りの規模と確認。こちらに向かって来ている模様。」

そして智史が敵艦隊を肉眼にて捕捉した。リヴァイアサンは艦速を上げていくーー

 

 

ーー超戦艦ムサシの独白

 

 

ーーリヴァイアサン、マスターシップフィンブルヴィンテルも含めた全てがあなたの手中に収まってしまう程の圧倒的なスケールを持っているのね…。もはやあなたには誰も勝てないわ…。

 

 

私はヤマト、いやお姉ちゃんと再び会って仲直りした後、しばらく眠っていた。フィンブルヴィンテルに船体を破壊された際に大量に損失した演算リソースをまだ回復出来ていなかったからだ。

再び目が覚めた時、お姉ちゃんは「フィンブルヴィンテルの手先と戦うからあなたを私と一緒のままにしておく訳にはいかないからごめんね」と置き手紙を彼に託したようで、実際にその置き手紙が置かれていた。

私はとりあえずリヴァイアサンの艦内を見て回ることにした、とにかく広い。

ピアノという楽器が沢山置かれている部屋があった、私は何だろうと思い、ボタンの一つを押してみたら音が鳴ったので少し驚いた。これも人類の「文化」なのだろうか。

彼と敵対する気は今の私には無いのだが、かといって彼と関わりたくないと怯えている気持ちもあった。自分が彼を忌み嫌い、排除しようとしたその反動だろうか。

そして私はフィンブルヴィンテルという化け物を目覚めさせてしまった、私達霧でも止められなかったこの艦を彼、リヴァイアサンは止められるだろうか?

私は人間の言葉で言うCICという部屋に向かう、既に戦闘は始まっているようだ。

 

「敵艦隊接近中、こちらとの距離400㎞。ミサイルの発射及び発砲を確認!」

「了解」

部屋は少し緊迫した雰囲気だったが、彼は平然としている感じだった。

 

「おや、ムサシか。お目覚めかな?」

「大丈夫よ、疲れはだいぶ取れたわ。」

「そうか。」

 

ーーカァーン!

ーーピチャッ!

ーーブォォッ‼︎

 

「…侵食弾頭はもはやお約束、そして焼夷弾か…。」

そして敵の攻撃が次々と着弾する、私達霧が用いている侵食弾頭は勿論の事、中には焼夷弾のようなものも含まれていた、恐らく火をその船体に纏わせることで彼を焼殺しようとしたのだろう。モニターは艦体の表面に付着した燃焼材が燃え盛り、黒煙を生み出す様子を映していた。

 

「ふん、真似事を以って私を燃やそうというのか?笑止。その程度では我が肉体は焼けぬ…。」

 

しかし彼、リヴァイアサンは平然とそれを受け止め無効化し、自分の力へ変えてしまう、それに伴い船体の表面で燃え盛っていた火の熱エネルギーさえ吸収されてしまい、結果的に急速に消えていく。

あの化け物ーーフィンブルヴィンテルにさえ匹敵、いや圧倒してしまう程の彼の圧倒的な威圧感と恐怖を間近で見るのはとても新鮮で、怖くとも壮厳さが出ていた。

黒煙と火炎の中からゆっくりと、しかし平然と出てくるリヴァイアサンに敵の憎悪と怒りは恐怖と絶望に変わっていく。

自分達の攻撃がほとんど無意味であることにも関わらず、死を恐怖した敵の大軍はレーザーやミサイル、侵食魚雷、量子兵器といったあらゆる兵装をリヴァイアサンに向けて必死に放つ。しかしその攻撃さえ無力化されて自身の力に変えられて終わってしまう。そして破壊と殺戮に満ちた攻撃が始まる。

 

「時間だ、破滅を与えよう。」

 

彼がそう言うとリヴァイアサンの前部主砲塔が甲高い唸りを上げていく、そしてーー

 

 

「「砕け散れ。」」

 

 

ーーピシャァァァァン‼︎

 

 

ーードゴォォォォォォォン‼︎

 

リヴァイアサンから一瞬紫電が程走る、そして紫電は拡散すると敵軍と海面を一度に直撃する、次の瞬間、まるで隕石が炸裂したかのような無数の巨大な爆発が起きる。

一撃で敵軍は大半が壊滅し、潰乱状態となり、本来の姿となった超兵器達さえ錯乱してあちこちに逃げ惑う有様だった。

 

「逃すものか、貴様ら1匹残らず焼肉だ。」

 

そして彼は逃げる者にさえ慈悲を与えない、一度逆らった者には余程の事情が無ければ徹底的な死を与えるのが彼の鉄則だということを私は仲間の霧からの報告で嫌という程理解していた。

そしてすぐにミラーリングシステムによって海が割れて干上がり、リヴァイアサンを中心としてクラインフィールドの結界が形成される。

 

ーードォォォン!

 

ーーカキィィィィン!

ーーキンキキンキンキンキン!

 

「キュィィィィィ!」

 

「そんなに逃げたいか?なら私を倒すんだな。」

 

挑発じみたその言葉に更なる絶望と恐怖に駆られながら突っ込んでくる敵に対して彼は嬉しそうに微笑む。そして敵の自滅すら厭わぬ高エネルギー砲や各種光学兵器ーーフィンブルヴィンテルの力によって威力は前よりも格段に向上していたーーといった攻撃をどんなに食らっても彼は平然としていた、瞬く間に化け物達から更に血の気が引いていったような感じがした。

 

「さあ、貴様らを焼いてやろう、恐怖と絶望をじっくりとその体に刻みつけて美味しくしながらな。」

 

彼のその言葉とともに更なる殺戮劇が開幕する、リヴァイアサンの船体から一瞬強烈な紅雷と閃光が程走ると次の瞬間強烈な紅雷を帯びた赤白く、光幅が私やお姉ちゃんの超重力砲の20倍以上はあろうかという図太いレーザー、いや熱線がジェネレーターから放たれる。

その熱線は弾道に触れたものだけでなくその周りのものまで瞬時に爆発炎上、いや融解させ、生き残った化け物達を容赦なく焼き払い、新たな恐怖と断末魔の叫びを片っ端から植え付けていく。しかもただ単に焼き払うだけでなく、化け物達に狙いを定めるように発射されたため、照射された地面は化け物達の爆発とほぼ同時に滅茶苦茶に吹き飛び、溶けて煉獄の大地がみるみるうちに生成されていく。

だが攻撃がこれだけで終わるならまだ可愛い方だ、リヴァイアサンの熱線チャージの際に艦体から発される紅雷と閃光だけで大地が抉れ、そこにいた化け物達が一撃で焼け、溶けて吹き飛び、更に主砲や副砲が機関砲の如く唸りを上げて片っ端から生き残った者達の体を抉り、粉砕していく。

もはや肉を焼くどころか一つ残らず焼き尽くしてしまうほどの苛烈な火力だった、焼き肉と言っておきながら実際には一方的にまで苛烈過ぎる殲滅戦ではないか。

 

「キィィ、キィィィィ」

 

ーーキュォォン!

ーーガガガガガガガガ!

 

ーードガァァァァン!

 

生き残った化け物達は彼に勝てないことを悟り必死にこの結界から抜け出そうとするも全く抜け出せない。そしてそれは彼の目にとまり、高熱によってパーツをじわじわと焼かれ燃やされて生きながらにして殺されていく。

 

ーーガァァァァァン!

 

ーーベキイッ!

 

そして燃え盛るこの世の地獄絵図と化した「海」の中をリヴァイアサンは燃え盛りながらもゆっくりと落下してくる超兵器の残骸に体当たりし、そのまま叩き割る。

逃げようとする者にもジェネレーターの熱線だけでなく、主砲や副砲、機関砲、ミサイル、魚雷を容赦なく浴びせて只の挽き肉に変えていく。

それでも最後のあがきとばかりに生き残った化け物達が一つに合体する、それはまるで軍艦がたくさん合体し、たくさんの翼を生やした大きな禍々しい姿をしたキメラのようだった。

 

「グォォォォォ‼︎」

 

ーーコオオオオオオオ!

 

ーーバァァァァァァァン!

 

そしてその大きな口からこれまでにない強烈なエネルギー弾が放たれ、リヴァイアサンを直撃する、しかしそれは程度の問題だった、襲ってきた攻撃の規模が大きいかどうかという違いぐらいで彼、リヴァイアサンに全て吸収されて終わってしまう。

 

「これでもう終わりか?なら貴様を解体して丸焼きとしてやろう。」

 

しかも彼にしてみればこの事態はかえって好都合だった、ハワイ蹂躙以降、少し溜まりがちだった自分の鬱憤を盛大に叩きつけるいい標的が生まれたのだから。

直ぐに攻撃が開始される、しかもこの攻撃の規模はさっきの規模を上回っていた。リヴァイアサンの艦体から紅雷と閃光のエネルギー衝撃波が程走り、そして紅雷を帯びた強烈な熱線がジェネレーターから放たれるたびに、周りが次々と爆発を引き起こして更に燃え盛っていく、そしてその化け物の体に強烈なエネルギーと共に着弾するや否や強烈な爆発と火花、そして燃え盛る肉片と血飛沫が多数散る。化け物の方も必死に抵抗しているものの、それは更に攻撃を苛烈にさせるのを促すだけに終わり、熱線、主砲、副砲、機関砲が容赦なくその化け物に浴びせられ、その体の表面だけを単に貫き焼き払うだけに留まらず、中までも同様に凄まじい勢いでズタボロに焼き尽くし、もう煮えたぎっている大地を次々と爆発させて吹き飛ばし、化け物の苦悶と恐怖、そして絶望の呻き声と叫びがその度に響き渡る。しかし彼は攻撃の手を緩めるどころか逆にますます過激さを強めていく。

 

「キィィ、キィィィ」

 

 

「「終わりだ。」」

 

 

ーーピキィィィン!

 

ーードガァァァァン!

ーーボガァァァァン!

 

彼は化け物がもはや黒焦げとなって燃え盛るだけの骸となってもも慈悲など掛けず、狂気を撒き散らしながら嬉しそうに攻撃を加えていく、そして何発目かが放たれる際に一際強烈な赤い熱線が放たれ、化け物の骸に着弾し、天地を軽く染め、目が焼けてしまう程の閃光と大地を捲り飛ばすような爆発と衝撃波が生じる。

 

ーードガァァァァン!

ーーグワァァァァン!

 

「いい様だ、これで結界が無ければ地球は滅びる。」

「だぁ〜めっ!こんなことしたらみんなに嫌われちゃいますよ〜?」

「頼むから結界だけはちゃんと張ってくれ…。」

 

その爆発の規模は尋常ではなく、地球が砕けて滅んでしまうのかと言わんばかりの地獄絵図を生み出さんと言わんばかりだった。何せ爆発の衝撃だけで地球が激しく揺れているのだ。これで結界を張らなかったら地球は木っ端微塵だろう。

そして何故か煉獄は冷めていく、そして海が帰ってきて本来の元の姿だけがここにあった。

 

「リヴァイアサン、あなたはあの化け物に勝てる存在だと私は考えてるけど、どうして勝てると言い切れるの?」

私はそう尋ねる、すると彼はゆっくりとこう語るーー

 

「「奴を軽く上回る力を持つこの世界の外にいる強者と戦い、一方的に蹂躙し、嬲り、殺戮する事が自身の愉悦の一つでもあるから、そのために己を常に常に磨き続けている、だからだ。」」

 

と。

実際に私はフィンブルヴィンテルの反物質砲の雷球のエネルギー量は限定的とはいえ理解できている、しかし彼の攻撃のものはそれを軽く上回ってしまっていた、しかも彼曰く、これは見栄えを派手にしたいという自己満足から次元横断能力とやらを使って他の世界のものである「ゴジラvsデストロイア」という映画の「インフィニット熱線」のシーンを参考にして盛大にやった事であって本気は全然出ていないという事らしい。これだけでフィンブルヴィンテル本体ではないとはいえ、私が生み出した最強の「駒」に匹敵してしまう程の力を持ったフィンブルヴィンテルの欠片を持つ超兵器達の集合体を平然と捻り、一方的なまでに蹂躙し虐殺していったのだ、ハワイ沖での一方的な虐殺劇を思い出すと一層恐ろしい。

フィンブルヴィンテルの底は自身がやつに触れていたこともあってなんとなく見えるのだが、彼の底は全く見えない、というかフィンブルヴィンテル一味のものを遥かに上回る速度でどんどん深くなっているので見ようにもコアがオーバーフローして見切れない。しかもこれでも満足し切れていないとばかりに己を磨く速度を更に上げ、私達はおろか、その強者さえ追い越し、引き離そうとしている。実際に彼自身のスケールを見せてもらったものの、とてもとても、彼が一つの強化基準としている者達は私にしてみれば全く先が見えないような強者ばかりだった。

私は彼がとんでもない相手だということを更に強く思い知らされた、まるで力のスケールが違いすぎるからだ。フィンブルヴィンテルの件は私達にしてみれば重大な事でも彼にしてみれば些事にさえならないのだ、むしろ片付け方を色々と選べる余裕さえある。これでは彼が本気を出さなくともフィンブルヴィンテル一味やお姉ちゃんも含めた全ての霧、そして人類の総力を纏めて叩きつけようとしてもその前に各個撃破、いやまとめて一蹴されておしまいだろう…。

 

「智史〜、お前が作ってくれって頼んでおいたお魚の刺身が出来たぞ〜。」

「ズイカクか、ありがとう。みんな、行こうか。」

 

そして海が平穏を取り戻した中で私達はリヴァイアサンの料亭のような部屋の一室で料理を食べに行く。何故だろうか、これまでの「駒」達との戦闘、そしてあの一方的な殺戮劇を見せつけられた後のリヴァイアサンの艦内だとフィンブルヴィンテルに対する恐怖を全く感じない、寧ろ軽く蹴散らしてくれるという頼もしささえある。だけど彼やその仲間達と話すのは自分が彼らを排除しようとした前歴がある事もあって如何しても気が引けてしまう。

 

「今日はクロカジキとカツオの刺身だよ〜!」

「美味そう〜!」

「みんなで揃って」

 

「「「いっただっきまぁ〜す‼︎」」」

 

その言葉と同時にみんなは食べ始める、でも私は「あんな事をしておいてそんな事をサラリと忘れて幸せにふけっていいのだろうか」という責めから、食指が進まない。

 

「あれ、ムサシ。どうしたの?」

「大丈夫、大丈夫だから…。」

「ダメでしょ〜?そんなことしたら大きくなれませんよ〜?ね、コンゴウ。」

「ちょっとすまんな、ムサシと2人っきりで話をしてくる。」

私の真意に気が付いた、というかもう気が付いている彼は私をこの部屋から連れ出す。私は何をされるのかという不安で心が震えた。

 

「やはり気がひけるのか?」

「違う、そんな事ない…。」

「違わないな、だって自分から他人を苦しめるような事をしておいてそれをさっぱり忘れてその他人と仲良くなろうというのは何処か気がひける所がある、良心が「さっぱり忘れていいのか」と責めてくるからな。私もそうだった、マミヤと話す時に彼女と親しい関係にあったナガトをはじめとした霧を些細な事で興奮して血祭りに上げてしまい、それなのにそれを忘れて仲良くなろうというのは「そんな記憶をあっさりと忘れて幸せになっていいのか」という責めが強く効いた。」

「そうね、あなたは些細な事で興奮して暴れてしまう性格ね、でも私と同じ心境を持っていた事には少し安心したわ…。」

「そして禍根は引きずれば引きずるほど傷口を増大させていく、私はその禍根を対象共々「抹殺」するという方法で消し去ってきた、そして今もそれは変わらないかもしれん。でも敵対していたヒエイやキリシマ達を面白半分とはいえ、殺さなかったことは自身を破滅どころか逆に虚無への未来から救った…。」

「リヴァイアサン、あなたの中では敵を徹底的に甚振り、最終的に殺してしまう人格ばかりではなく、私と同じように良心があるのね…。もしそうだったとしたら、何処か物悲しいわね…。」

「そうだな…。」

彼とそう会話する私。彼は敵対者には徹底的な破壊しか求めないという一面ばかりではないということを知り、彼に殺されてしまうのではないかという恐怖と警戒が和らぎ、安心する。

 

「もう過去は引きずらなくていい、自分が苦しくなるだけだ…。そしてお前には幸せになる資格はまだあるさ…。」

「そんな過去は忘れろというの…?」

「忘れろとは一言も言っていない、引きずらなくてもいいとは言った。」

「私はあなたや人類を殺そうとした、それでも私の為の居場所はあるというの…?」

「あるさ、たとえ神が許さなくても…。」

「それでも私がまだ生きているということが人類や他の霧に知れ渡ったら私はみんなから恨まれて憎まれて、挙句に体を切り裂かれて殺されるかもしれない…。」

私は人類に対する憎しみが自分に帰ってくるから自分には幸せになる資格は無いと涙を流して彼に訴える、しかしーー

 

 

「その時は私がお前の居場所を守ってやる…。」

 

 

この一言を聞いた途端、私は孤独と恐怖から救われた。私の中の孤独が崩れ、中から何かが溢れ出す。

 

「ありがとう…。」

私は泣きながら彼に抱きついた、そして彼は私を優しく抱きしめる。

 

 

 

「智史くんは優しいところもちゃんとあるわね、少し前まで敵対していたムサシちゃんをそのまま受け入れようとするなんて。」

「琴乃、聞いてたのか。」

「いいのよ、智史くんのその優しさによってムサシちゃんは救われたんだから。そしてやはり鵺が「囮」に食らいついたみたいね。」

「始まったか…。まああの戦闘の後、バイナルが消えた平常状態でこっちに気がないということを示していたからな…。」

そう会話する2人、そして智史は401一行に通信を繋ぐ。

 

「群像くん、作戦通りに鵺が「囮餌」に食らいついたわ。」

「智史、隕石が落ちたようなとんでもねえ揺れと爆発、これらの鮮やかすぎるパーフェクトな終わり方はおめえの恒例だな、オイ。こっちも激しく揺れたぞ。」

「でもあなたがいつも勝利を飾って健在でいてくれるのは、どこか嬉しい…。」

「そうか、なら俺達はこのことは智史、君に任せてこのままアフリカに向かうとしよう、無理に戻って変に警戒されたら困る。今は君と彼らにこの戦いを任せるしかない…。」

 

 

ーーカリブ海、スキズブラズニル

 

「ヒュウガちゃん、鵺様がおいでになさったわ。」

「来たわね…。あいつの力を借りなくても化け物共を倒せるということを立証してみせるわ。これで勝てなかったらあいつの笑いのネタにされそうだわ…。」

「そうね、そして智史ちゃんはいつも通りに南米にて完全勝利。あの揺れ、そして智史ちゃんの気配は衰えるどころかますます強大さを増しているわ♪もう智史ちゃん強すぎ〜‼︎」

「あいつが自分達だけで鵺仕留めろとか言い出したのにあの気配をムンムンと出しまくってるじゃない、これで鵺が逃げ出したら思いっきりあいつの顔をブン殴ろうかしら…。」

「それはないと思うわ、智史ちゃんが私達に自力であの化け物を倒す為の機会をわざわざ作ってくれているんだから。」

そう会話するイセとヒュウガ、それは生死に関わるようなことだという緊張が感じられない会話だった。

 

「こちらアトランタ、目標物が迎撃ラインを突破!」

「目標を肉眼にて確認、総員配置につけ!」

「こちらヤマト、戦闘態勢に移行!」

しかし実戦は実戦である、フォーゲルシュメーラの姿が確認されていくにつれ、緊張が走っていく。

 

「目標、事前予測通りにスキズブラズニルと総旗艦に向かっています!」

「来た…。目標、本艦の迎撃開始ラインを突破、戦闘開始‼︎」

 

ーーバシュゥゥゥゥン‼︎

ーーバシュゥゥゥゥン‼︎

 

ヤマトがフォーゲルシュメーラに発砲したことを契機としてついに火蓋は切って落とされる、光弾と光線が激しく「霧」と「鵺」の間で入り乱れる。

 

「主砲、ミサイル、てぇー!」

 

ーーバシュゥゥゥゥン‼︎

ーーバシュゥゥゥゥン‼︎

 

ーーヒュォォォォン!

ーーヒュォォォォォン!

 

ーーブオンッ!

ーーブオンッ!

 

「くっ、量子フィールドで防がれているか‼︎」

「おまけにちょこまかと動き回りやがって‼︎」

「敵飛行物体、静止しましたーーっ、敵飛行物体に高エネルギー反応!」

「レーザーを照射する気だ、まずい!射線上にいる艦は退避!」

 

ーーヴォォォォォォォ!

 

ーーヴィィィガァァァヴィィィィガァァァヴィィィィ‼︎

 

「一部の艦が被弾、クラインフィールドが飽和した模様!」

「事前に知ってたとはいえ、一撃でクラインフィールドを飽和させるような高威力兵器を持っている上に高機動だなんて…。やられる前に量子フィールドをなんとか破らなくちゃ…。」

「一撃で破れなくていい、負荷を連続で与えるんだっ、うっ⁉︎」

 

ーードガァァァン!

 

ーードォォォォン!

ーーガァァァァァン!

 

「大戦艦ヴァーモント、クラインフィールド飽和!一撃です!」

「こちらメイン、左舷対空火器並びに後部主砲が融解!」

「くっ、損傷した艦は後退‼︎沈むのは許しません!」

敵の攻撃によって被害が出始める、ヒエイはその中で次々と指揮を飛ばす。

 

ーードォン!

 

ーーズガァン!

 

「こちらコネチカット、敵フィールドの貫通に成功、しかし致命的な損傷は認められません‼︎」

「タイゴンデロガからの侵食弾頭が表面に着弾したことを確認、しかし効果は限定的です。」

 

ーーヒュルルルルル!

 

ーーパシャッ!

 

ーービィィィィィン!

 

「投下物からのレーザーの発射を確認、小型レーザー砲台と推測されます!」

「重巡、軽巡部隊は投下されたレーザーユニットを破壊しろ!禍根は全て絶てっ‼︎」

「くそっ、こんな時にレーザー砲台とは、忌々しいっ、どはあっ⁉︎」

「重巡セーラム、敵のAGSにより機関を全損!航行不能!」

「こちらハワイ、振動弾頭により船体の一部を破損!」

「我が航空隊の一部が光子榴弾砲により撃墜されました!」

「敵飛行物体、再度レーザーの発射態勢に入った模様‼︎」

「まずい、退避が間に合わない‼︎」

 

ーーヴォォォォォォォ‼︎

 

ーーヴィィィィガァァァァヴィィィィガァァァァヴィィィィ‼︎

 

ーードガァァァン!

 

「軽巡ウースター、先ほどのレーザーにより船体が消滅!ユニオンコアは辛うじて脱出できた模様!」

「我が方の航空部隊や我々が先ほどのチャージ中に加えた攻撃により、右ブースターのAGSと一部の砲を破壊!ですが依然として現在ーー」

 

ーードガァァァン!

 

「こちらアーチャーフィッシュ、侵食爆雷により船体が大破!脱出します!」

 

戦闘は熾烈を極める、両者共に恒例となった侵食魚雷は勿論の事、あらゆる武装をひっちゃかめっちゃかに打ち込み、お互いに被害を与えていく。フォーゲルシュメーラは徐々に弱っていく、しかしそれに伴う被害も増大していたため予断を許さない。それでも彼らに犠牲はあまり出ていない、フォーゲルシュメーラを仕留める役目は彼らには最初から無いからこそ、生存を優先して戦ったからだ。

 

「くっ、作戦の内容は理解はしていても、レーザー砲台といい高機動といい色々と叩きつけられるときついな…。」

「これでも食らえぇっ‼︎」

 

ーーズゴォォォォン!

 

ーーボガァァァァン!

 

「キィィツ⁉︎」

「やったか⁉︎」

「…くそ、大したダメージを与えられない…。」

大戦艦ケンタッキーが船体を無理やり引き起こしてフォーゲルシュメーラに超重力砲を放つ、通常なら防げたはずだが他の霧の連続攻撃で弱っていた状態からまだ回復していなかったためにバリアを貫通し、一部の武装を薙ぎ払う。しかし本体に使われているパーツが強固だったため、大したダメージは与えられなかったようだ。

 

「くっ、離脱しなくてはーー」

 

ーーパシュゥゥゥン!

 

ーーズビィィィィィン!

 

「だはっ⁉︎」

「ケンタッキー⁉︎」

「クラインフィールド飽和、損傷率42%…、でも大丈夫です…。」

大戦艦ケンタッキーを光子榴弾砲が直撃する、威力こそ先程までの攻撃によって落ちてはいたものの、それでも破壊力は絶大だった、新型艦ではないとはいえ、大戦艦級のクラインフィールドを一撃で飽和させ、中破に追い込んだのだ。

 

「敵飛行物体、再度レーザー砲のチャージを開始した模様!」

「くっ、離脱が間に合わないーー」

射線上からの離脱が間に合わないことに焦るケンタッキー、しかしその時こそが作戦始動の好機だった。

 

「いまです、アシガラ‼︎銛を打ち込みなさい‼︎」

「了解い〜っ‼︎」

 

ーーバシュゥゥゥゥン!

 

ーーズドッ!

 

突如としてピンクの重力子の銛がフォーゲルシュメーラのブースターに打ち込まれる、その一撃に慌てふためくフォーゲルシュメーラ、必死に引き剥がそうとするもそれを打ち込んだ主、重巡洋艦アシガラはそう簡単には引き抜こうとしない。

 

「キィィ、キィィィィッ‼︎」

 

ーーブォォォォォォォォ‼︎

 

「離すかぁ〜‼︎鵺野郎めぇ、これでも食らえぇ〜っ‼︎」

 

ーードゴォォォォォォォ‼︎

 

ーードガァァァァン‼︎

 

 

そして銛を振りほどこうとジタバタと暴れ回るフォーゲルシュメーラにアシガラは船体諸共体当たりを敢行する。

一瞬衝撃音が轟いた次の瞬間、アシガラの鋭く鋭利な半円形の艦首がフォーゲルシュメーラのブースターの一つを貫き、粉砕する。

 

「ナチ、照準の修正頼む!」

「照準誤差、修正完了。発射、いつでもどうぞ!」

「てぇーっ‼︎」

 

ーーズドォォォォォン!

 

ーーダガァァァァン!

 

そして今度はアシガラに続き、その隙を突くのかのように狙撃型の長砲身の超重力砲を展開したミョウコウがナチの照準誤差修正データに基づいて超重力砲を放ち、もう一つのブースターを貫き、破砕する。

智史に船体を木っ端微塵にされたことで、改めて船体を新規に貰った彼女は他の霧の艦からエネルギーを貰ってまでこの一撃を叩き込んだ上に、フォーゲルシュメーラが弱っていたことも相まってブースターだけでなく翼の一部も吹き飛ばした。

 

「ギィィィィィィィ‼︎」

「やった…‼︎」

 

この攻撃でバランスを大きく崩すフォーゲルシュメーラ、そして翼を捥がれた鵺は海へと落ちる。

 

「今よ、みんな、マガノシラホコを打ち込んで!」

 

そしてヤマトの命の元、次々とマガノシラホコが大型の霧の艦達から打ち込まれる、打ち込まれたマガノシラホコは先程までの攻撃によって弱りかけていたフォーゲルシュメーラからエネルギーを吸い取り、彼らへと超重力砲を撃つ為のエネルギーを与えていく。

 

「こちらワイオミング、エネルギーチャージ完了!」

「こちらニューハンプシャー、多連装超重力砲展開完了、いつでもどうぞ‼︎」

 

「ありがとう、みんな…。撃てぇっ‼︎」

 

そしてあらゆる艦の超重力砲が唸り、既に海に着水して自己修復が未だに終わっていなかった為に動けなかったフォーゲルシュメーラに一斉に牙を剥ぐ。フォーゲルシュメーラは色んな艦が奏でる超重力砲の光のメロディに襲われ、修復が未だに終わっていない傷まみれの外装は急激に焼かれ、溶かされていく。

 

「やったか…⁉︎」

「いいえ、まだ。智史さんがつき、ヒュウガがこねて作り上げたあの新兵器の発射準備に移行して!」

ヤマトが新兵器の発射をするように命じたのを受け、霧は急いで新兵器の発射準備に移行する。そしてヤマトの予想通り爆煙と水煙の中から、元の形から大きくかけ離れ、醜い姿となっても存在しているフォーゲルシュメーラの姿があった。

 

「こいつ、なんてしぶといんだ…!」

「でも、マスターシップのパーツが露出しています‼︎フィールドも消えている模様!ヤマト様、好機は今です!」

「ありがとうヒエイ、「プリフィカチョニス」発射‼︎」

 

ーーバコンバコンバコンバコン!

ーードンドンドンドン!

 

ーーシャァァァァァ‼︎

 

そしてあらゆる霧の艦のミサイルVLSのハッチが次々と開放され、そこから「プリフィカチョニス」ミサイルが一斉に飛び出していく。フォーゲルシュメーラはその意図に気がつき生き残った火器を撃って撃ち落そうとするもその前に他の霧の艦がその火器達を叩き潰していく。

そしてマスターシップの「パーツ」に着弾した「プリフィカチョニス」達は次々とその「パーツ」達を侵食し、死へと追いやっていく。

これによって「コア」を失ったフォーゲルシュメーラは遂に沈黙する、そしてまだ残留していたエネルギーを抑える枷が「コア」がなくなったことで消え去り、それに伴ってエネルギーが暴走し、フォーゲルシュメーラの巨体を焼き尽くし、一瞬フォーゲルシュメーラを輝かせた後、爆散させた。

 

「フォーゲルシュメーラの反応、消滅しました…‼︎」

「や…、やった…!」

「やったぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

「やった、やったぁぁぁぁ!智史、見ろぉ〜!鵺野郎を私らの手でやっつけたぞ〜‼︎」

「智史さん…、私達は、遂に「化け物」を自分達の手だけで倒してみせました…!」

 

彼方此方から歓声が上がる、何せ智史の手を多少借りたとはいえ、直接戦闘にて自分達だけで「マスターシップの破片」が入っている本来の姿をした超兵器に破片一つさえ完全に無力化して勝利してみせたのだ。

犠牲も少なくはなかったが、リヴァイアサンごと智史に敗れ、若しくは頼りがちだったヒエイ、ヤマト達はこの戦闘の勝利で僅かながらも自信を取り戻し、世界中の霧の士気を高揚させた。

 

 

ーー南大西洋 ブラジルから500㎞沖合

 

「ふっ、成功か…。」

「彼らはこれまでは智史くんに頼りがちだったけど、これで荷が下りたわね。」

「そうだな、これでヤマト達は自分達の力で立てるだろう。後はフィンブルヴィンテル一味と植物共の駆逐を手伝うだけだ。」

「そうね、自力で立てるようになったとはいえ、フィンブルヴィンテルの強大さは半端じゃないからね。そして群像くん達、アフリカにいる敵と交戦を開始したみたいね。」

「ならバックアップにでも回っておくか、ムスペルヘイムが気になるからな…。」

そう会話する智史達。彼らはヤマト達が自立できるようになったことに喜んでいた。

 

「智史、これは快挙だぞ!お前抜きでもあの化け物共に対抗できるということが立証されたからな!」

「ああ、厳密に言うとそれはオウミ達が立証してはいる、だが破片までは破壊しきれてはいない。お前達「霧」が単独で破片一つさえ完璧に破壊した上で勝ち取ったこの戦闘での勝利は大きい。私抜きでの戦闘の勝利を加速させるだろう。」

そう会話するキリシマと智史。そしてリヴァイアサンはアフリカへと向かう。

 

 

ーー北極海

 

 

「ほう、多少ヤツの助けを借りたとはいえ、虫ケラ共も案外粘るものだな。」

「はっ、この戦闘でフォーゲルシュメーラが撃墜されました。そして南米に展開していた手先達はヤツに悉く粉砕されて全滅しました…。」

「リヴァイアサン…。虫ケラ共の言葉で言う「旧約聖書」では最強の生物と定義された存在か…、その言葉の如く底が見えぬな…。ふっ、ふはははは!面白い!ヤツを余が直にこの手で倒し、我がものにますますしたくなってきたわ‼︎」

そう呟くフィンブルヴィンテル、彼は自身がすでにリヴァイアサンごと智史に追い抜かれ、しかも彼はもう既に自分の手の届かぬ所にいることを知っていた、しかし彼が放つ独特の魔力に何処かで惹きつけられていた。

 

 

アフリカ、ケープタウンから南400㎞の沖合

 

 

「提督、前方に敵艦隊多数を確認!超兵器も含まれています!」

「了解した、総員、戦闘配置につけ!」

「ラジャー‼︎」

敵艦隊を確認したことで慌ただしくなる信長の艦内、それと同じくして401とタカオも敵艦隊を捕捉、バイナルが点灯して戦闘モードに移行した。

 

「群像、智史が打ち負かした南米のものより兵力は少ないけど、それでも強力な艦隊。気をつけて。」

「イオナ、ありがとう。総員戦闘配置!全速前進!小回りを利かせて敵艦隊を撹乱するぞ!」

そう叫ぶ群像、そして遂にオウミ達が対峙している戦線の真後ろで3隻だけの大海戦が勃発しようとしていたーー




おまけ

今作にて登場した新兵器

マガノシラホコ

元ネタはガンダムseed astrayより。
非常に細いとはいえ、何度も運用する為にワイヤーにて繋がれているという特性上、霧の艦隊が装備している艦砲から射出されるという形で運用される。
本家並のスペックを持っていることに加え、撃ち込んだ敵からエネルギーを吸い取って吸収するーーマガノイクタチの役目も背負わせたため、実質的な取り扱いは本家より改良されている。

プリフィカチョニス

ラテン語で「浄化」を意味する言葉を持つ兵器。
その言葉の名の如く、リヴァイアサンごと智史以外には破壊不可能だったマスターシップの破片を破壊する為の兵器である。
マスターシップの破片に着弾すると、その中に入っている弾体が破片を外部から侵食することで、無力化してしまう。
しかしこれは代謝的問題で強引に解消されてしまう可能性もあるため、現時点では決定打とは言い難い。今後改良していく必要性がある。
それでも、智史が直接戦わなくてもフィンブルヴィンテル一行に勝てるという可能性があることを立証したという功績は讃えてしかるべきものである。


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第30話 猛進撃のリヴァイアサンとそれに振り回される群像達

とうとう30話目を達成してしまいました。
ムスペルヘイムについては当初群像達と戦わせ、止めをリヴァイアサンごと智史が刺すという方向で考えていましたが、色々と練ったうちに航空攻撃にてメンタルモデルを除くすべてを完璧に屠った後にルフトに向かうという流れとなりました。
ムスペルヘイムを不遇な目にしてごめんなさい。
それでも楽しめて頂けるなら幸いです。
それではじっくりとお楽しみください。


「敵艦隊多数、こちらの気配に感づいた模様!こちらを包囲追撃するのかのように向かってきます!」

「散開!タカオと信長は包囲されないように高速で航行しつつヒットアンドアウェイを繰り返せ!本艦は敵に突撃し敵を撹乱する!」

「りょ、了解!」

群像の命が飛ぶ、そしてその命に応えるかのようにタカオと信長は左右に散開し、敵艦隊の陣形の外部に沿うように航行し始める。

 

「海面に着水音!推進音は確認されません、爆雷と思われます!」

「右舷120に回頭!杏平、低周波魚雷を発射した後に電子撹乱魚雷搭載のキャニスターをばら撒いておけ!タイミングは任せる!」

「あいよ、低周波魚雷発射後10秒後にキャニスターを散布!」

 

ーーシャァァァァァ!

ーーズゥゥゥゥゥン!

 

ーーガコン!

ーーゴボゴボゴボゴボ…。

 

低周波魚雷が401の艦首から放たれ炸裂し、敵の水中の「視界」を撹乱する、そしてそれと同時にキャニスターが401の船体後部から射出されていく。

 

「キャニスターの起動確認、電子撹乱魚雷が射出されていきます!」

「艦長、方位270から魚雷多数接近!」

「パッシブデコイ並びにアクティブデコイ射出!電子撹乱魚雷の爆発に巻き込まれる前に範囲外に脱出するぞ!」

「敵艦、回避態勢に移行した模様!散開を開始しています!」

「この隙を逃すな!401の作戦行動を援護するぞ!サクラ、ミサイル、主砲、発射用意!」

「了解、前部ミサイルVLS開放、陽電子砲並びに超電磁砲、射撃開始します!」

 

ーーボボボボボボボボ!

ーーシャァァァァァ!

ーーシュゥゥゥゥゥゥ!

 

射出された魚雷に感づいたのか、敵艦隊が散開を開始する、だがそれによって陣形が崩れる、その隙を突くかのようにタカオと信長が外部にはみ出した敵に一斉に砲火を浴びせていく。

彼らの標的となった敵駆逐艦、巡洋艦クラスは次々と量子魚雷や陽電子砲、レールガンの餌食と化し、木っ端微塵となっていく、そして更に追い討ちを掛けるようにヒュウガによって改良された電子撹乱魚雷が次々と炸裂、敵の動きを次々と封じていく。

 

「よし、このままなら行けるーーきゃぁっ⁉︎」

 

ーードガァァァァン!

ーーガァァァァァン!

 

「タカオにレールガンが着弾!クラインフィールドの稼働率45%近くにまで上昇‼︎」

「お姉ちゃん、大丈夫⁉︎」

「いったたたぁ…。少し甘く見てたわね…。」

「本艦にも超兵器からレーザー並びに砲弾が複数着弾、第1クラインフィールドの稼働率が80%を超えました!」

上手くいくと慢心した彼らに舐めるなと言わんばかりに電子撹乱魚雷の直撃を免れた敵艦からレールガンや中口径ガトリング砲、荷電粒子砲が撃ち込まれた、幸いクラインフィールドを展開していたため致命傷にはならなかったものの、それでも威力は彼らの浮かれ気分を吹き飛ばすには十分だった。

そして敵艦は追撃を加えようとするもその前に電子撹乱魚雷が新たに襲来して次々と動きを封じられた。

 

「敵艦、超兵器クラスを除いてすべて沈黙!」

「超兵器クラスも行動に支障が出ている模様!」

「艦長、今です!」

「杏平、波動魚雷を1番から4番まで装填!」

「合点承知!」

 

電子撹乱魚雷の爆発範囲から離脱した401は波動魚雷を放つ、それと同時にタカオと信長も一斉に量子魚雷や核融合砲、反物質砲を放つ。

瞬く間に海は多彩な爆発と光線で彩られる、その攻撃の規模は智史のものに劣りはしたものの、超兵器クラスも含めた敵艦隊を破片丸ごと焼き払うには必要十分だった。みるみるうちに敵艦隊は形を崩して消滅していく。

 

「敵艦隊の殲滅を確認。周辺海域にエネルギー反応は確認されていません。」

「そうか、だが最低クラスのものとはいえかなり強いな…。」

「この現実を見せられると彼の圧倒的な力強さとその存在が近くにあることの有り難みが少しわかりますね…。」

「あいつ色々とやりたい放題だけど、曲がりなりにも私達の為にやってきたことの重大性を考えるとあんまコケには出来ないわ…。」

「それでも俺達は彼の手を借りずに自分達の力で未来を切り開けということを彼に促されている、実際に彼の手で作られる未来は俺たちの望んだ未来とは違う、彼は俺達と同じではないのだから。またもし彼の手だけで「未来」が完成したらそこに俺達が作り変えるための欠片さえない未来が出来上がってしまう。イオナ、この戦闘でどれぐらいの弾薬を使った?」

「この戦闘でキャニスターを8基、アクティブデコイを6基、パッシブデコイを5基、波動魚雷を4発使用。幸い自走大型補給コンテナから調達ができる。」

「そうか、各艦補給を終えた後、マダガスカルに向かうぞ!」

群像のその命に従い、各艦はスキズブラズニルから出航する際に連れてきた自走型補給コンテナに随伴し、そこから弾薬を調達、各兵装に装填する。

 

「本来ならナノマテリアル生成装置と共に組み込んで欲しかったけど、401にこれ詰め込むだけの時間が今はなかったから仕方ないわな…。まあスキズブラズニルと同様、弾薬とかナノマテリアルとか無限に生成できるから補給面での問題はだいぶマシかなぁ。」

「群像、補給を気にせずに戦えるのは気楽?」

「ああ、残弾や補給を気にする必要があるのと無いのでは精神面での負担が大きく違うからな。」

イオナの質問にそう答える群像、実際に補給というものを気にするのとしないのでは精神の余裕の大きさ、消耗のペースの速さが違う。気にしているとそのことに気を取られてしまい他の大事なことを見落とす可能性が否応にも高くなる。そういう点では智史が作った「モノ」の原理を流用した、ヒュウガ特製の補給ユニットを連れてきたのは正解だった。

彼らは補給を済ませるとマダガスカルへと向かうーー

 

 

ーー重巡洋艦アタゴの独白

 

 

ーーお姉ちゃん………。智史さんにベタ惚れなんて…。

 

私はリヴァイアサンごと智史さんに船体を一方的に木っ端微塵にされて徹底的に恐怖を味わされて以降、智史さんに逆らう気力が湧きもしない、私達やお姉ちゃんが助けられたのは智史さんが気に入ったかどうかの有無だ、もし突っ込みどころか無くて気に入られてなかったら容赦無く殺されていた。

智史さん本人には悪気は無いかもしれないが、私にしてみれば智史さんは恐怖と絶望を具現化した絶対神にしか映らなかった、智史さんに敵対したものは実際に戦う前に降伏するか、それとも余程の事情が無ければ基本的には徹底的に恐怖を植え付けられ、料理された上で皆殺しだ、抵抗しようとしても無駄だ、こちらの常識がまるで効かず、すべてを把握された時点で負けが確定してしまうぐらいの信じがたい「強さ」を智史さんは持っているのだから。しかも恐ろしいことにこれでも滅茶苦茶に強いというのにこの世界の外にいる強者とやらを滅茶苦茶に叩き潰し一方的な優位を確立せんと更に己を磨くピッチを上げている。フィンブルヴィンテルは世界を滅ぼしてやるとか言ってたがそうする前に智史さんに徹底的に料理されてお終いにされる気がする。

そんな智史さんも全てにおいて絶対的存在であると言えないことは唯一の救いだった、もし絶対的存在だったらあらゆるものすべてが智史さんのものとなってしまうだろうから。それを示してくれたのはお姉ちゃんだった、お姉ちゃんは智史さんに玩具として散々に弄ばれた後、色々と教え込まれて大和撫子のように成り果てかけた、しかし皮肉にもそれが切欠となってお姉ちゃんは「力強い者に体を預けられる安心感」という人間の本能を習得したことも相まって智史さんを意識し始め、智史さんを我がものにせんと妄想し、口からヨダレを垂らしてにやけている日々を何度も見る羽目となってしまった。しかもサンディエゴの一軒家に入った時以降それが更に酷くなり、ファッションを整え、「花嫁修業」というものをやりつつ琴乃さんから智史さんを略奪するという形での恋愛をしようという有様だった。

お姉ちゃんは表向きは智史さんにそんな態度など無いというフリをしているが、仕草からバレバレである、智史さんと琴乃さんはもうとっくに気がついているだろう、いったいどういう反応をするのやら…。

私は恐る恐る智史さんに音声通信を繋いでみたーー

 

「アタゴか、どうした?もしやタカオの件か?」

「そうですね、お姉ちゃんひどい有様ですよ…。」

「『洗脳』下から解いたらやはりこうなると予測はできていたが…。やはり酷いな…。」

「アタゴちゃん、タカオが智史くんを奪おうって?」

「あ、琴乃さん、その通りですーーきゃぁっ⁉︎」

「ちょっとアタゴ、あなた何言っているの⁉︎」

「タカオ、私に惚れているのか?」

「べ…、別になんでもないですよ‼︎」

 

私が智史さんとしていた話の内容を聞きつけたお姉ちゃんは私の音声通信を強制的に切ってしまった。

 

「お姉ちゃん、智史さんーー」

「なんでもないわ、ほら、演算の副処理手伝って!」

 

本心を必死に隠すのかのように私に演算を手伝わせるお姉ちゃん。だが智史さんは琴乃さんと深い関係だ。お姉ちゃんも琴乃さんと同じく智史さんの特性を理解しているものの、智史さんはお姉ちゃんが好きになる要素を見出せなかったのか、好きではない。お姉ちゃんが気があるのはとっくに見抜かれているからおそらく足であしらわれるか良くてからかい、悪ければ忌み嫌われて逃げられるだろう…。

智史さんが琴乃さん以外の女性が好きになる気配は微塵もない、人付き合いが苦手で感情のコントロールが上手くいかず、そのせいで他人に苦手意識を持たれがちな智史さんにしてみれば琴乃さんは自分の唯一の心の拠り所であるのだから。

何れにせよお姉ちゃんがこのままでないことを祈ることしか私には出来なかったーー

 

 

ーーアフリカ、ギニア湾上

 

 

ーーふう、タカオめ、ヨダレ垂らしながら私をお婿として迎える気か?

馬鹿め。

貴様のツンデレじみた性格は私の好みではない。そしてニヤニヤ妄想している面は単なる笑いのネタにしか過ぎん。

それにしてもこういう環境下だとかつての私に変に付きまとわれ、しがみ付かれた女共の気持ちが分かる気がするわ…、苦々しい思い出よ…。

さて、フィンブルヴィンテルを片付けた後のことについて、だ。ふふふ、僧正、一方通行、エイヤス、サイタマ、孫悟空をはじめとするチート超人達よ、覚悟するがいい。もう貴様らのスケールはほぼお見通しだ、そして貴様らは私を磨く砥石として使い捨てられるのだからな…。

だがひょっとしたら見落としているところもあるかもしれん、異世界からの情報も参考にしてもっと観察眼を鍛えなくては。

しかし蒔絵はどうするのだ?蒔絵を連れた状態で下手をしたら彼女が巻き込まれるかもしれん。そのことも考えると蒔絵がまともに生きられる状況を残した上でコンゴウ達に託すしか無いな。

 

心の中でそう呟く智史。実際にリヴァイアサンごと智史の強さは計測不能な域に到達してしまっていた、ビッグバンの10の何千万、何千億乗倍という巨大なエネルギーの爆発を瞬時に叩きつけられてもケロリとし、物ともせずに吸収してしまい、指先一つで何兆もの世界が一発で破壊されてしまう域をすでに通り越していた。普通ならこんな短期間で計測不能なレベルの圧倒的な強さは獲得できない筈だが、彼は自身に備わっている自己再生強化・進化システムを桁違いに強化することで強化ペースを滅茶苦茶に上げてこれ程の域に到達してしまったのだ、まさに化け物どころかそれを通り越した「何か」という方が相応しいのかもしれない。

当然こんな化け物に物理法則は全く通用しない、そして恐ろしいことに別世界での「チート」能力も物質的意義上、全く通用しなくなってしまっていた、例えば一方通行の「アクセラレータ」は「チート」と呼ぶに相応しい強力な技ではあるものの、智史は勿論だが一方通行もまた「物質」という定から逃れられない以上、上げられるとはいえ、上限がある。智史はその上限をとっくに通り越し、かつ一方通行よりも遥かに強大なエネルギーベクトル操作能力を持っているため、力任せに打ち破るという荒業が可能である。また「アクセラレータ」のエネルギーベクトル操作も逆用してしまう芸当さえできてしまう余裕さえあったのだ。

また時空を巻き戻したり時間を止めたりすることで一方的に殴れるようにするという「チート」もあるものの、残念だがこれも通用しない。その「チート」が使用されるときには周囲に存在するモノの「時の流れ」を必ず捩じ曲げるという法則性がある、しかし智史は周囲とは異なる独立性を持った自分専用の正常な「時の流れ」を持つ空間を自分自身の中に常に生成しているためにそんな時空干渉など許さない。同じ時系列で過去の自分を殺されてもケロリとしているのだ。更には「時の流れ」を自在に捻じ曲げ放題な挙句にそれによって生じるエネルギーをさらなる自己強化に回せてしまうのである。

もはやチート万歳な域に彼は突入してしまっていた、しかし彼はこれでも全く満足しない、今思い通りに行くことでも未来ではそうはいかないのかもしれないのだから。

彼は今も滅茶苦茶なペースで自己を磨き、そのペースさえ滅茶苦茶に上げている、その行為には手加減や容赦はない。もはや「こんなのアリかよ…。」という言葉さえ生温いほどだった…。

 

「さて、群像よ。お前達の尻を更に鞭打ってやろう。」

 

その言葉は「「未来」を自分だけで作られたくなければ積極的に戦って関われ」という意味が込められていた、そして「自分たちの手で未来を作らなければいけない」というプレッシャーを更に強めるために智史は艦載機達を生成して更なる暴挙に出るーー

 

 

ーー大戦艦キリシマの独白

 

 

ーー圧倒的だ、いやその言葉さえ物足りないとは…。智史、お前は強くなりすぎているぞ…。

 

私は自身の潜在的欲求である「前線に立って戦うことの楽しみをもう一度味わいたい」という欲求を持っていたことをひどく後悔した。

奴に一方的に蹂躙されて終わった有明海での海戦以来、私は船体を取り戻していないし、戦ったとしてもリヴァイアサンを通じて戦ったということしか無いし「直接」戦っていない。しかし心のどこかでは「戦うことを肌で感じることによる楽しみを得たい、もう一度自分の体で直接戦いたい」と思っている自分自身がいた。

 

「キリシマ、本当は前線に立って戦いたいのだろう?」

「いや、そんなことは無いぞ⁉︎」

「遠慮するな、乗れ。」

「ハルナ、智史を止めてくれ!」

「智史から事情は聞いている。キリシマ、行ってこい。」

 

だが、その本心を奴は見抜いていたのか、植物共が蔓延し始めた北アフリカ沿岸を焼き払うということを理由として私を強制的にB-3ビジランティⅡに搭乗させた。

 

「げふっ‼︎…っ、こうなったら意地でもやってやる…。何々?この機体は元々は智史からのリモートコントロールと智史の意向を反映する人工頭脳ーー私達霧の言葉で言うとユニオンコアを搭載して動いているのか…。まあこいつらの生みの親は智史だからな…。」

 

私はこの機体の特性はよく理解できていなかったものの、搭乗直後すぐにこの機体の特性に関するデータや操縦方法がユニオンコアの中にスラスラと入ってきたので、どれをすればこうなるのかぐらいは理解できた。

 

「それにしても物凄い兵器があれこれと搭載されているな、お約束通りに…。これ一つあれば霧はおろか地球をも焼き払えるというのに…、これを大量に揃えて北アフリカのみならず地中海にいる超兵器共を塵芥残さず徹底的に焼き払おうとは…。鬼か、お前は…。」

「ふっ、悪く思うなキリシマ。さて、時間だ、行くがいい。」

「了承した、出るぞ!」

 

そして私のビジランティⅡは他のビジランティⅡやB-70ヴァルキリーやその他の機体と共にリヴァイアサンの左舷飛行甲板から飛び立つ、瞬く間に空は鋼鉄の鳥達の群れで埋め尽くされる。こんなものが襲いかかってきたら私達はおろか、フィンブルヴィンテル一味も一たまりも無い程の規模だった。

そして鋼鉄の鳥達の大群はギニア湾から北アフリカ沿岸へと飛び立っていく、敵も彼らに感づいたのか迎撃を開始するものの、帯同していたF-23クレイゴーストやF-37タロン、T-50にSu-35といった多彩な形をした戦闘機達が片っ端から排除していく。

敵の対空迎撃の役割を兼ねた飛行物体の攻撃は体当たりを浴びせてもケロリとしてたりで全く微塵も効いていないのに対しこちらの戦闘機達は機銃掃射一つで肉片を四散させるだけでなく弾道先にいる敵まで次々と貫いて四散させてしまうのだ、全く勝負にならない。

 

「“その程度で止められると思ったのか?散れ”」

 

ーーゴォォォォォォ!

 

ーーピカッ!

 

ーーズゴァァァァァン!

 

第一、数と兵器の質が違いすぎるのだ、こちらの戦闘機達が放つミサイルは炸裂するとまるで水爆でも炸裂したかのような巨大なエネルギー衝撃波によって周辺の敵も巻き込みながら滅殺してしまう代物である、しかもこちらは巻き込まれてもそのエネルギーを吸収、回収して更なる自己強化に回せてしまうのだ。それが雨霰と大量に撃ち込まれるのだから喰らう側にしてみれば堪らない。撃ち尽くそうにも奴のものだから直ぐに弾が補充されてしまうため撃ちまくり放題であった。

これはもはや反則といっていい程に圧倒的だった、圧倒的な威力を誇るミサイルが間断なくしこたまと撃ち込まれ細切れにされてただでさえ悲惨だというのに、今度はこちらの攻撃が全く効かない侵略の天使達が散り散りとなっている彼らに当たったら死ぬような高威力の兵器を撃ちまくって大挙して容赦なく襲いかかってくるのだから泣きっ面に蜂である。人間の航空機よりも高い機動性、俊敏性で逃げようにも速度差が圧倒的すぎるし、振り切っても別の機体が次々と襲いかかってくるので逃げ切る前に叩き落とされるか空で四散していく。

敵も馬鹿ではない、幸いデータを回収、記録してくれていたので、実際に私達霧対さっきの化け物共という形で私の演算リソースをフルに使ってシミュレーションを行ってみたものの、よくて辛勝、悪くて相討ちという結論が殆どだった。こんな化け物共さえ軽く蹂躙し、一方的に嬲り殺してしまうレベルの軍勢もいつも見せつけられているとはいえ、呆れてしまうが、それを平気な顔で生み出す智史にも呆れるばかりだった、戦闘機さえ超戦艦級を軽く屠れてしまう程の圧倒的火力を持っているのだから。「圧倒的な大差を付けて一方的に嬲って楽しいのか?」と尋ねたくなってしまうぐらいだ。

しかしこんな攻撃が戦闘機だけで行われたのだからこの程度で済むとは到底思えなかった。そしてそれはある意味で正解だった。

 

「“さあ、汚物は消毒だ。”」

 

ーーシャァァァァァ!

ーーゴォォォォォ!

ーーヒュルルルルル!

 

ーードガァァァァン!

ーーズゴォォォォォォン!

ーーゴォォォォォ!

 

私のその予想通り、北アフリカに到達した爆撃機と攻撃機の群れは植物達とそこを守っている化け物共に一斉に襲いかかると中に仕込まれていた「落し物」を次々とばら撒いていく、私も奴に「撃つのはこちらの判断に任せる」と言われて試しに数発ばら撒いてみたが。するとその「落し物」は着弾するとまるで巨大な隕石でも落ちたかのような巨大な爆発を次々と引き起こし、そこにいた植物達や化け物共を塵芥残さずに滅殺していく。しかもその爆発の余波で大気や雲、地殻、海が次々と捲り飛ばされていく。もはや地球を滅ぼせると言わんばかりの光景がアメリカ東海岸の虐殺劇の延長線として繰り広げられる、私はこれを見てああやっぱりかと思うしかなかった。そして同時にこのボタン一つで地球を跡形もなく消し飛ばし、霧も人類も滅殺できる「力」を私は智史から「与えられた」と確信した、そしてそれを「奮える」状態になのだと感じ、恐怖した。なにせボタン一つでお手軽に人類や霧はおろか、地球が滅ぼせてしまうのだから。そして智史が「力」をあまり他人に授けない理由も奴の面白半分で行われたオーバーキルと言わんばかりの火力が私の手によって太平洋の時よりもより簡単に振るわれてしまった現実を見て感じた、「力」を扱うのにはそれ相応の器と責任が必要だということを。

その器と責任が備わっていなければその「力」を授けることは己の身を物理的に滅ぼす結末を招くという事態に。奴は奴なりに考えて「力」を振るっているという現実が改めてよく理解できた。私は大戦艦キリシマだった時代の方がまだマシだったと考えた、その程度で頑張っても地球は滅ばないのだから。

しかし私がそう考えているのはこの蹂躙劇を終わらせるファクターにはならない、更なる爆撃が行われそこにいたもの全てが散々に吹き飛ばされ、消滅していった、そしてお約束通りに異常事態は奴の手によって収束していく。

北アフリカを散々に爆撃してストレスを軽く発散した攻撃機達と爆撃機達は私と共に今度はマルタの島へと襲いかかる、彼らは既に別働隊の攻撃だろうか、それによって被害を出していた。

 

ーーギュルルルルルル!

 

ーーパシュゥゥゥゥゥ!

 

ーーゴォォォォォォォ!

 

生き残った超兵器がいるのだろうか、何処からかレーザーや黄電、黒い弾球が程走る。

ムスペルヘイムとモニターに名前が表示されたその超兵器はさっきの攻撃でだいぶ外装がひしゃげていたようだが3胴船体で、中央の戦艦のようなものにそれを挟むように2つの空母部分が存在する形をしていた。その攻撃に呼応して生き残った敵からも攻撃が開始される。しかしそれも無意味に終わる。着弾した黒い弾球は炸裂し、周囲を巻き込むという強烈な物理法則が生じる。しかし爆撃機達と攻撃機達は全くそういうことなど意に介さず、その物理法則を軽く引きちぎるばかりではなく、黒い歪みさえ取り込んで一斉に襲いかかる。

 

「“これが私特製の暴力と破壊のランチタイムだ。じっくりと味わうがいい。”」

 

既に奴による切り替えが済んだのだろうか、奴のその言葉と共に彼らは先程のものとは違う兵器を叩きつける、しかし容赦の無い徹底的な攻撃は一貫していた。本人は欲望のままにやっているかもしれないが、こんなランチタイムを味わされる側にしてみればたまったものではない。瞬く間にムスペルヘイムは無数のN2弾頭搭載極超音速対艦ミサイル、100t強化バンカーバスター、JDAM、268発もの1000㎏高性能炸薬弾を詰め込んだ複合爆装ポッド、超音速量子魚雷、波動魚雷を大量に叩きつけられる。

 

ーードガァァァァン!

ーーズグァァァァァァン!

 

そんなオーバーキルに等しい攻撃を防ぎきる余裕などムスペルヘイムにはなく、フィールドは破かれて船体は細切れとなって四散する。そして駄目押しとばかりにブラックホール弾搭載のミサイルが撃ち込まれてその四散した船体を飲み込んだ後に巨大な爆発を引き起こして完全に爆散した。炎の国は呆気なく海の藻屑と化してしまった、一瞬有明海でのあの様を思い出してしまう程の光景だった。

ムスペルヘイムが爆発四散する瞬間、メンタルモデルらしきものが吹き飛ばされたが、それは別のビジランティⅡが回収したようだ、奴が何のために使うのかは分からないが奴にしてみればその程度のことなど些事に過ぎないだろう。

何の兵器も威力が圧倒的過ぎた、裏を返せばこの火力程とはいかなくてもムスペルヘイムを粉砕するにはかなりの火力が必要では無いかと捉えることもできる。

 

「“さあ逃げ惑え、恐怖と絶望に駆られるがままに‼︎”」

 

ーーガガガガガガガガ!

ーードドドドドドドドド!

 

「ガァァァァァァ‼︎」

「グァァァァァァ‼︎」

 

既に敵はムスペルヘイムを沈められて潰乱状態に陥っていたが、それを奴が見逃してくれる筈が無い。容赦なくクラスター侵食爆弾や誘導爆弾、対艦ロケット弾、更には大口径バルカン砲搭載のガンポッドによる機銃掃射といった攻撃が雲霞の如く叩きつけられ、敵は苦痛や断末魔、悲鳴を上げて体をもがれて甚振られ、追いかけ回された挙句に殺されるという一方的虐殺という悲惨な末路を辿った。

何れにせよ、これらは奴にしてみればいつも通りの、戦争ではない只の射的ゲーム、鬼ごっこだった。しかしそれを実現するのに使われている力を太平洋での海戦よりもより身近に直に扱ってしまったという現実は私の中に深く刻み込まれた。私は奴は奴なりに考えて行動しているということを思い知らされて後悔した。

 

「どうだ、キリシマ?久しぶりに戦場の雰囲気を味わった気分は」

「それよりも、お前と私の器の違いを直に思い知らされた…。お前はお前なりに考えているのだな…。」

「まあそうだ、貴様は私の「手」の中で動かされているのだからな。」

「つまり最初から事態が己の望むような想定内に終わるようにプランを組み、牙を磨いていたということか…。完全に私の負けだ…。どう足掻いてもお前には勝てない。」

「まあいいさ、貴様が無事に帰ってこれたことは嬉しいことさ…。」

 

 

ーー再び、ギニア湾内のリヴァイアサンーー

 

 

ーーさて、北アフリカと地中海は完全に片付いたか。群像、花の1つぐらいお前に持たせるために恐怖と絶望に駆られて錯乱している獲物共をくれてやる。花を全部持っていくのは何のために群像達を戦わせているのだという事態となってしまうから気がひけるな。戦略的に食い切れる規模で調節しておいたからこれに奮い立って奮戦してくれたまえ。しかしそもそもなんでこんな事態に?私が気まぐれ過ぎるせいなのだろうか?

そして、だ。ムスペルヘイムのメンタルモデルの回収並びに体内に入っていた「破片」は取り除いた、流石に自我がちゃんとあり、良心がある常識的なものを殺すのは気がひけるからな…。そんな気持ちになると、ヴォルケン、貴様を面白半分で徹底的に嬲り殺した私自身が憎たらしくなって仕方がない…。

 

そう心の中で呟く智史。実際に地中海の敵艦隊は大半が先程の攻撃で食い散らされ、残るものも大なり小なり手傷を負い、おまけに帰るべき本拠地も徹底的に破砕された挙句に帰ろうにも直ぐに見せしめと言わんばかりに沈められ、さっさとアラビア海に行けと言わんばかりにまるで家畜でも扱うのかのように容赦なく鞭打たれて怯え、震えわめきながら生を望んで紅海へとさっさと動いていった。彼らは群像達やオウミ達に「戦果」として殺されるのだ、仮に彼らを群像達が仕留め損なっても智史による死の定めは免れない。そんな智史は心のどこかで苦痛や憐憫を感じてはいたが、彼らが害をもたらす存在である以上、同情するつもりは微塵もない。従って彼らを徹底的に嬲りながら殲滅することを決意していた。

 

ーームスペルヘイムよ、今は休むがいい。お前は破片によるマインドコントロールや先程の戦闘で疲れが溜まっているからな…。私の「駒」となる現実を受け入れられないかもしれんが、私は私の欲望のままに動くからな、悪く思わないでくれ…。

さて、ルフトの元に向かうとするか…。早く動かなければ私がみんな平らげるぞ?

 

 

ーーアメリカ東海岸、フロリダ半島沖

 

「ヤマト様、被害報告の集計、完了しました。」

「ありがとう。」

そう言いデータに目を通すヤマト。

「かなり被害が出てる…。これでも被害を抑えられたことは大きい。」

「はい、生き残ることを優先するように訓示した結果、ユニオンコアまで殲滅された艦は皆無でした。完全に復旧するのに掛かる時間は5日程度です。」

「そう…。でもその被害を立て直す間に智史さんが動いたみたい。」

「はい、あの人は北アフリカを散々に爆撃しただけでなく地中海にいた敵艦隊の殆どを血祭りに上げた挙句にその一部を「花」として群像さん一味に押し付けたみたいです。」

「そう…。でももし私達抜きで私達の未来が作られるのは何処か納得がいかない、これでいいのかって。智史さんは首を長くして待ってくれているのかしら?智史さんは私達に「早くしないと自分の手で『未来』を作るぞ」と語りかけている気がするわ。」

「なるほど…、あの人はあまり待ってくれる気がしませんね、それに敵も馬鹿ではないですしこちらの準備が整うまで待ってくれるとは限りませんし、もたもたしてたら立て直されてしまう可能性もありますからね…。」

「そうね、せっかく智史さんの手を借りてやっと立てるようになったというのに、これで智史さん1人で栄誉を独り占めにされたら「自分達は何のために戦ってきたのか?」ということになるし、智史さんに借りの1つさえ返せないままになってしまう。あまりモタモタしてられない。」

「そうですね…。実際に北アフリカでの大勝利をアメリカ政府に聞かせた途端、「自分達も遅れを取りたくない、早く自分達を連れてヨーロッパへの上陸作戦を実行しろ」と言わんばかりの矢の催促が届いています。」

「私達を導いてくれる智史さんが勝利を挙げるのはいいことだけど、戦う意義や借りを返す機会まで奪われるのは堪らないわ。アメリカ軍との共同作戦は承認します。我々も手遅れになる前に急ぎましょう。ヒュウガの例の新兵器が完成したからこちらに回すことも群像さん達に伝えて。これは智史さん抜きで植物達の問題を解決するのには重要な兵器なの。」

「了解です、直ちに新兵器の輸送準備に取り掛かります。」

そう会話する超戦艦ヤマトと大戦艦ルイジアナ。彼女らは智史の考えである「自分達の手で未来を作って欲しい」を理解し、そして智史が急がせるような感じで訓示していることを理解していた。

 

ーーもし智史さん1人にやらせたら、智史さん1人で偉業を成し遂げてしまうこととなり、そうなったら借りの1つも返せないし、「働いた分だけ恩賞をやる」というルールに基づいて考えた場合、智史さんに「褒美」が集中してしまうこととなってそれを取ることは気後れしてしまうから自分達も頑張らなくてはいけない。

 

その考えが根底にあるヤマト達は急ぐのだったーー

 

 

ーーアラビア海

 

 

「ふう、何とか撃滅できましたねーー」

そう呟くオウミ、彼女達は12度目の敵の攻勢を耐え切って安堵していた、しかしーー

 

「オウミさん、方位185、距離250㎞に重力子反応‼︎」

「分析パターンは⁉︎」

「敵艦ーーいえ、これは401の重力子パターンと確認!他の艦のパターンも判明、タカオと、…信長だそうです。ですがモンタナ様が告げた友軍であることは間違いありません‼︎」

「友軍ーー⁉︎千早艦長⁉︎直ちに401に通信を繋いで‼︎」

オウミは慌てて401に通信を繋ぐ。

 

「こちら第2艦隊旗艦オウミ、千早艦長、聞こえますか?」

「こちら401、貴艦の通信を傍受した。如何なされたか?」

「401がこちらに救援に向かっているとモンタナ様から聞き、確認として繋ぎました。」

「了承したーー」

「群像、リヴァイアサンから入電。オウミ達にも。『北アフリカに植物が蔓延し始めてたから徹底的に爆撃してクレーターまみれにした。地中海にいる敵艦隊も当初は皆殺しにしようと考えたがそれだと群像達を戦わせる理由が無くなるから一部を残しておいた、そいつらはこちらの爆撃でだいぶ傷んでるけど手柄としては一級品だ、こっちに向かっているから仕留めてみせろ。なお、急がないとお前達の食い分も全部平らげるぞ』って。」

「あの野郎、そう言っておいて美味しいところを全部平らげるつもりだろう〜‼︎」

「千早艦長、こちらの偵察機で確認したところ紅海方面から敵の残存艦隊が向かってきています。恐らくはーー」

「智史が言った「手柄」か…。映像を出してくれないか?」

「了解しました」

そしてオウミの艦隊の偵察機が撮影した画像が401のメインディスプレイに表示される。

 

「随分と損傷が激しい…。超兵器級も含まれてない以上、ケープタウンのもの程の戦闘能力は無いな…。」

「先程の入電の内容とほぼ一致。でも脅威であることには変わりは無い。」

「あの野郎、こんな痛みものを寄越すとは…。こりゃ戦闘じゃなくて残党狩りじゃねえかぁぁ!畜生、舐めやがってぇぇ…。群像、こいつらをオウミ達と連携してぶっ潰して新兵器を受け取りに地中海に向かうぞ‼︎」

そう言い怒り狂う杏平。実際に智史は彼をからかうことで怒り狂う様を見たくてそう仕向けたのだ。

 

「杏平、お前の言う通り彼に完全に軽く見られているな…。だが俺達の実力がその程度では無いということを見せつけるぞ!」

「了解です、私達が軽い存在では無いことを彼に思い知らせます!」

「全速前進、アラビア海へ向かうぞ!」

 

智史に軽くからかわれたことで大いに憤り、奮起する群像達とオウミ達。そこに浦上大将の日本海軍派遣艦隊も加わり、彼らは烈火の如き勢いで智史が残した「手柄」を我先に取らんと襲いかかろうとしていたーー




おまけ

今作の敵超兵器紹介

霧の超兵器 超巨大航空戦艦ムスペルヘイム
全長 戦艦部分 1885m 空母部分 1650m
艦幅 戦艦部分 850m 空母部分 600m
全幅 1400m
基準排水量 45000000t
最大速力 水上 2000kt 水中 1500kt

兵装
114㎝100口径 3連装3基
対空パルスレーザー 連装160基(戦艦部分80基、空母部分は40基ずつ)
各種ミサイルVLS 15000セル
βレーザー発振基 2基
光子榴弾砲 単装10門
圧縮プラズマ砲 連装4基
ブラックホール砲 単装1基 (霧の艦隊が使う超重力砲とは攻撃メカニズムが決定的に違う。本来の呼称である重力砲だと混同される可能性を考慮したために呼称を変更した。)
拡散荷電粒子砲 連装20基
80㎝90口径 3連装8基
140㎝多弾頭噴進砲 単装8基
200㎝各種魚雷発射管 250門
全方位超重力砲 戦艦部分 30門 空母部分 24門ずつ、計78門
なお、全ての超重力砲をブラックホール砲と連結させることでヴォルケンクラッツァー級の波動砲を超重力砲に連結させた状態の火力に匹敵する。
クラインフィールド、ミラーリングシステム、強制波動装甲、ナノマテリアル生成能力、エネルギー吸収活用システム、自己再生修復学習システムを装備。

解説
鋼鉄の咆哮3のデザインをベースとした霧の超兵器。
原作の設定に基づき、ヴォルケンクラッツァー級に並ぶ火力を持ち、リヴァイアサン出現後の戦訓を基にして艦載機も展開できるようになったため、一応グロースシュトラール級をベースとはしているものの、実質的にはヴォルケンクラッツァー級やリヴァイアサンを除いた敵超兵器に対しては圧倒的優位を誇る火力を持っている。
しかし本作のストーリー上、いきなり破片を自身の実の生みの親であるフィンブルヴィンテルに強制洗脳された挙句、リヴァイアサンから発進した航空機達からの猛攻によってリヴァイアサンと直接相見え、真髄を発揮することなく船体を殲滅されるという不遇な目に遭っている。
幸い人格者であり、良識人でもあったことや、ヴォルケンクラッツァーを殺してしまったことでルフトシュピーゲルングを傷つけてしまったことに負い目を感じていた智史が彼女の死を良しとしなかったため、メンタルモデルは回収され、破片を取り除かれて現在メンタルモデルだけの状態で一時休息中である。


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第31話 ルフトシュピーゲルングと偽善と「特撮」の始まり

ああ、ルフトシュピーゲルングが…。
作者である私が圧倒的に主人公贔屓(いや私が自身をモデルとして主人公のストーリーを描いているからこうなるんだ)なせいでルフトシュピーゲルングがリヴァイアサンに軽く瞬殺されてしまいます。
そうなる裏付けはきちんと書いていますし、その裏付けを示しながらとても納得できるものにしてみようとしたらこうなりました。
まあメンタルモデルは助けましたので殺してばっかりの一色よりは幾分かマシと思います。
それではじっくりとお楽しみください。


「敵艦影複数捕捉、オウミが報告してくれたデータ画像と99%一致。」

「やはりこちらに向かってきているか…。浦上大将、こちらは?」

「こちらもレーダーにて捕捉した、やはりあの電文の内容の通りだな…。見たところ我々の方が圧倒的に優位だが、油断はならんな。それにしてもアラビア海での防衛戦の時よりも規模が小さいな…。こちらが全滅しないように配慮してくれているのか、それとも単に軽く見られているのか…。」

「その両方だと自分は考えます。仮にこちらが全滅したら彼にしてみれば「シナリオ」上の不都合と言えるでしょう。」

「仮に彼の手の平に全てが収まっていたとしたら我々を「作り変えた」彼は恐ろしい存在だな…。」

そう会話する浦上大将と群像。実際に彼らの考察通り、智史は群像達が全滅するのを一欠片も望んでいなかった。

 

「敵艦隊、我が軍に突っ込んできます!」

「散々に追い回されて追い詰められたから後がない故にヤケクソだな…。だがこの程度で止められるとは思わないでくれ。総員戦闘配置につけ!」

その言葉とともに日本海軍や霧の連合軍の「パーツ」達は流れるように戦闘態勢を整えていく。

 

「侵食魚雷、てぇーっ!」

「荷電粒子砲発射準備完了、いつでもどうぞ!」

「こちらオウミ、攻撃開始します!」

 

ーーボンボンボンボン!

ーーシャァァァァァ!

ーーピャォイッフォァァァァァァ!

 

次々と連合軍からミサイルや魚雷や光弾が放たれる、それは満身創痍だった敵軍を次々と貫き沈めていく、しかし敵も黙ってやられてくれる訳ではない、これで負けたら後はない状態なのだ。故に死に物狂いで抵抗してくる。だが彼らの1つを屠ることさえ叶わないほどに火力は貧弱で、命中精度、士気もあまり高いとは言えなかった。おまけにここに至るまでに幾つか脱落してとり、数自体もあまり少なかった。

 

「その程度で我々を止められると思ったか‼︎」

「舐めるな、すぐに海の藻屑にしてやる!」

 

それに対して日本海軍や霧の連合軍は智史にからかわれたことで半分憤っており、士気軒昂な状態だった。彼らは智史抜きで勝てないという現実を知ってはいたものの、かといって活躍の場を奪われてしまうのは何処か許せないところもあった。故にその鬱憤を生き残りである彼らに容赦なく叩きつけ、一方的に蹂躙していく。

 

「一隻残らず沈めろ!1匹でも生き残りが出たら末代までコケにされるぞ!」

 

ーーシャァァァァァ!

 

ーーズグァァァァァァン!

 

最終的に彼らは敵艦全てを一隻残らず沈めるパーフェクトゲームを飾った、とはいっても智史に一部傷つけられた状態だったのでこれは当たり前だったと言えよう。

 

「敵艦隊、壊滅しました。」

「よし、ヤマト殿との作戦会議の内容どおりに地中海に進むぞ!あの忌々しい植物共を焼き払うという手柄を彼に独り占めにされては堪らん!」

そう告げる浦上大将。彼らと群像達はヤマトとの事前の作戦会議で「例の植物をヨーロッパから駆逐殲滅する」という内容を決め、そのための作戦を実行する為に地中海へと進撃するのだったーー

 

ーーカナリア諸島西300㎞沖合

 

ーーふう、予測内の結末で終わりましたか。それにしても随分とロマンまみれな兵器を生み出しましたな、ドリドリ感が伝わってきますわい。

え、アラハバキ?いや違うよ?でも根っこまで行かなきゃならないし手動で突入とはねえ…、小型潜水艇?まあ今の状態で遠隔操作で正確には命中させられる状態とは言えないし、大きくしたら運搬にも時間は掛かるし、おまけに「人」がそこにいなければ「ロマン」は感じられないからねえ…。第一うちがこいつらになるべくうちの手を借りぬように仕向けましたからねえ…。大人の都合は大変よ…。

 

そう心の中で呟く智史、実際に彼の発言通り、植物達が大繁殖しまくっているヨーロッパの環境は彼らの現在の技術的視点でみれば非常によろしくないものだった、というのもこれまでの戦闘関連データで学習進化し、強烈な物理的進化により「コア」に致命傷を与えるには通常の攻撃方法では強力な「防壁」に阻まれて全く叶わず、掘削能力を持つドリルを用いて突入するしか方法が無くなってしまった、無人でやろうにも植物側が強力な電波ジャミングや光学妨害を行うようになっただけでなく、強力な溶解液も散布するようになった為に遠隔操作しようにもアンテナは溶けるわ通信効かないわで悲惨であり、更に人工頭脳による直接操作での作戦も考えられたものの、智史から送られてきたデータの内容に「小型の触手で侵入して起爆装置を解除後、自動排除してしまう可能性大」ということが書かれていたことから、洗脳されてコントロールプログラムを書き換えられたらどうなるんだというリスクによって兵器としてあまり信頼できなくなってしまったこと、あと大人の事情である利害関係の調整によって、結局群像達やメンタルモデル達が植物の「コア」まで爆弾を運んで行って起爆するというものとなってしまった。

因みに植物に「コア」が何であるのかというと、生命としての完成形と洗練を目指したが為に核は1つとなって機能を集約し、合理的かつ戦略的に進化するようになったことと関連がある。勿論1つなので守備は前述の如く非常に堅いのだが。

そして作戦内容はというと、群像達とメンタルモデル達を乗せたドリル潜地艇を大型のロケットブースターによってコア近くまで運び投下し、切り離された潜地艇はコアまで潜行後、彼らを乗せた脱出艇を切り離して自爆するというものだった。最も本人達はこの新兵器も含めた作戦内容を理解した上で決定し、知っていたが…。

 

 

ーーふう、まるで爆弾三勇士じゃん…。まあ、決死隊のようではないからいいか。私の手助け一切抜きと指定し、彼らの状態も繊細に把握した上での成功率は68%か…。失敗するリスクも考慮してバックアップはきちんと取っておくか、失敗したら色々と困るからね。あと邪魔も嫌いだから飛行場全部耕してネズミも全部殺しちゃいましょうか♪

 

智史は何処かで罪悪感を感じながらそう呟く、と言っても簡単にバックアップと後始末が出来るだけの物理的、精神的余裕が有り余っている状態に既になっていたのだが…。

それはともあれ、リヴァイアサンは攻撃隊をヨーロッパ各地にばら撒きながら北海にいるルフトシュピーゲルングの元へと突き進んでいくーー

 

 

霧の超兵器 超巨大航空戦艦ムスペルヘイムの独白ーー

 

 

ーーここは、何処だろう…。

私はフィンブルヴィンテルによって己の意識が世界が暗闇と混沌に閉ざされた後、ずっと暗闇と混沌の海の濁流に巻き込まれ、溺れながら彷徨い続けていた。

ルフト様とはあの時以来まだ会えていない、しかしルフト様から離れてしまった状態になったことは分かった。

自分の肉体を他人のいいようにされる気分はいい気がしない、それに加えて自分を破壊の尖兵として、手駒として扱えるようにフィンブルヴィンテルが自分を生み出したとしたら、とても許せる気がしない。

 

ーーよくも自分を破滅を生み出し、世界を滅びの闇に沈めるために生み出してくれたな。

 

と。

 

私はフィンブルヴィンテルの操り人形として生み出された訳ではないと言いたかった、しかし現実はそうだと言わんばかりの悲惨さだった。足掻いて出口を探そうにも混沌と暗闇の濁流は私がこの世界から出ることを拒否すると言わんばかりに堅牢だった、おまけに目に見えるものは混沌と暗闇の海と空ばかりで、出口というものなど1つもないぐらいに真っ暗で絶望まみれだった。

そうこうしているうちにルフト様からかなり離されてしまっていたようだ、そして絶対的な「終末」ーーリヴァイアサンが迫っていることも分かった。

人間の言葉でいう「黙示録」に出てくる海の化け物の名を冠したあの「霧」ならざる霧は私の「仲間」を次々と喰らい海の藻屑へと変え、ルフト様の姉方であられ破片を取り込まれたヴォルケン様を軽く屠った、だとしたらあの霧はフィンブルヴィンテルに対抗する「希望」なのかもしれない、だが私がこの「世界」から抜けられていない上、フィンブルヴィンテルの「人形」にされている以上、彼に敵と判断されて殺されてしまうかもしれない。

 

ーー鬼が出るか蛇が出るか、か…。

 

私は死を覚悟した、そして「終末」は訪れる。リヴァイアサンが振るう圧倒的な「力」によって私の「船体」は軽く細切れにされ、私がいた「世界」の混沌と暗闇の濁流までもが悲鳴と唸りをあげて荒れ狂い、私は更に深く飲み込まれていく、そこで私の「意識」は一度途切れた。

 

ーーう…、うう…。ここは…?

 

再び目がさめると暗闇と混沌の濁流の海は消え失せていた、代わりに突如として1つの光が暗闇の中に指す。

 

ーーこの世界が、終わるということなのか…?

 

そしてその光は強さを増していき、暗闇を消し去っていき、私はその光に飲み込まれていく。

 

「う、うう…。」

「目覚めたか、ムスペルヘイム。」

「ここは…、世界が違う、破片の気配がしない…。リヴァイアサン、貴艦が破片を取り除いたのか?」

「そうだ。破片は握りつぶして破砕した。」

「そういえば、ルフト様は…?ルフト様はどうされたのだ?」

「まだ「死んで」はいない、マスターシップの破片を埋め込まれてフィンブルヴィンテルの操り人形だがな。今本艦は彼女に向けて侵攻中だ。」

「ルフト様を…、どうするつもりだ…?」

「殺しはしない、だがタダで済ますと保証もしない。」

「私と同じく、破片を取り除くのか?」

「そうだ。」

「私を…、連れて行ってくれないか…?」

「いいだろう、ただ今は無理はするな、少し休め。」

「すまない…。」

 

目が覚めたらリヴァイアサンのメンタルモデルが目の前にいた、男だということはこれまでの戦闘データから判明していた。やはり目の前で見ると貫禄が桁違いだ、一見普通に見えるのだがフィンブルヴィンテルを鎧袖一触で屠れるという余裕と威厳がある。そればかりか圧倒的な力を背景として世界を我が物にして思う存分に振り回しているという雰囲気さえ感じた。

 

「リヴァイアサン、艦載機が帰ってきたようだな。」

「ああ、各地の敵飛行場を耕しに行ってきた爆撃部隊とチョロチョロと動き回っているネズミ共を駆除しに行った攻撃部隊だ。」

「羨ましい限りだ、貴艦によっていつも統率され、それでいて数質共に大きく勝り、おまけに貴艦と「生」を共にしているが故に常に進化し続けているのだからな。ヴォルケン様をはじめとした貴艦と相対した敵が悉く負けてしまうわけだ…。」

「まあこれだけの力を手にするにはかなりの代償を消費したがな、だが代償以上の対価は手に入れている。その対価を引き換えとして私は更なる対価と力を得て、至高へと登りつめるのだ。しかし残念だった、貴艦によって生成された航空隊を一度見てみたかった…。」

「後悔はよしてくれ、リヴァイアサン。今はルフト様とフィンブルヴィンテルのことに専念しよう。」

 

 

ーー地中海

 

「うわぁ…、まるで魔神の剛腕が叩きつけられたみたいじゃねえか…。」

「地形がこちらの地形データとはまるで異なっていますね。おまけに全て更地という…。」

「なんか…、綺麗さっぱりになっちゃったみたいですね…。エジプトのピラミッドも吹き飛ばすなんて…。」

「一度見てみたかったな…。だが植物が蔓延し始めたという事実を考えるとある程度は仕方が無かろう。」

「しかし考えなさすぎでしょ、地球さえ滅ばなければ滅茶苦茶に吹き飛ばしていいって考えてなくない?」

「智史は私達や人類が滅ばないように配慮していること以外は特に考えていないのかもしれない、智史はフィンブルヴィンテル一味との戦闘を楽しくインパクトのあるものに仕立てたいと考えていると私は思う。」

「特撮やパニック映画ごっこじゃあるまいし、そこら辺もう少し考えろや、オイ。お前が変に暴れるだけ世界が滅茶苦茶になってくじゃねえか。」

「でも「自分達の手でなるべく解決してみせろ」という考えのことも考えるとある意味納得できますね…。」

「そうだな、実際に彼の行動によって俺達にプレッシャーが掛かっているのも事実だ…。」

そう会話する群像達。実際に智史の行動によって「1つでもいいからこの大戦にて大事なことを自分達で成し遂げなければならない」というプレッシャーが劇的に強まっていた。

 

「艦長、大戦艦アイオワより通信。クレタ島西300㎞にて新兵器を引き渡すとのこと。」

「あの新兵器か…。というか特攻兵器だよな、これ…。」

「一応生還を期してはいるから最初から全滅を期すというわけではない…。」

「あいつにやらせた方が1番楽な気がするけど、それだと俺達の見せ場がなくなるってことじゃねえか…。ひでえ貧乏くじ引かされたな…。」

「まあ愚痴る理由はない、本艦は日本艦隊並びにオウミ艦隊と共にアイオワ艦隊に合流した後、メインクルーを降ろす。全速前進!」

そして401は連合軍と共にアイオワ達の所へと突き進んでいく。もちろん智史はこれをきちんと見ていたーー

 

 

ーー同時刻、ドーバー海峡

 

ふふふ、いよいよ男のロマンに満ちた作戦の開幕か…。実にロマンだ…。用を片付けてからじっくりと鑑賞しますか…。とはいっても戦争は戦争だからすぐに行動は取れるようにしておこう…。

 

そう呟く智史、そして時は訪れる。

 

「敵艦隊捕捉、旗艦はルフトシュピーゲルングと確認。機関出力上昇、メインスラスターへの動力供給を拡大。」

ルフトシュピーゲルングを中心とした敵艦隊を捕捉したリヴァイアサン。メインスラスターが唸り、リヴァイアサンの船足を早めていく、それに伴い空に暗雲が立ち込め、たちまち雷光が次々と閃き豪雨が降り注ぎ、海が激しく畝る強烈な嵐がリヴァイアサンを中心として北海全域を覆うように引き起こされる、敵艦はその嵐の前に激しく翻弄され、まるで木の葉のように漂ってしまう。だがそんな嵐を引き起こしてもリヴァイアサンの艦橋に立っていた智史は平然と立っていた、そしてリヴァイアサンは激しく畝る海に船体を煽られることなく、まるで海龍の如く平然と切り裂いて進撃していく。

 

「ギュィィィィィ!」

 

ーーガァァァァァン!

ーージュゥゥゥゥゥゥ!

 

「ガァァァァァァァ!」

敵の大型戦艦クラスが複数、ルフトシュピーゲルングに真っ直ぐに突っ込んでいくリヴァイアサンを身を犠牲にしてでも止めようとするもその体格差や全てのスペックで圧倒されていたことから逆に軽く弾かれ、肉塊となって吹き飛ぶ、そればかりか触れただけで激しく溶け、焼け、燃え上り、触れた敵艦のパーツは一撃で焼け飛んでいた。

 

「全ては力だ、貴様らもその定から逃れられぬと知れ。」

 

ーーズゴォォォォォォ!

ーーパシィィィィン!

 

ーーボガァァァァン!

ーーグワァァァァン!

 

「ギュィィィィィ!」

リヴァイアサンはミラーリングシステムを起動し、海を切り裂いて無数のワープホールを出現させる、そしてそこから大量の黒い重力子の濁流が吹き出し、巨大な重力子の津波となって襲いかかってくる敵艦を次々と飲み込み、破砕していく。そして敵艦を飲み込み、食らいつくした黒い重力子の「世界」は爆発でも起きたかのように急激に膨張し、雲や空、海や大地を捲り飛ばして巨大な津波を発生させる。

 

「これで終わりではないぞ、デザートを食べてくれ。」

 

そして止めと言わんばかりに艦内放射がリヴァイアサンから放たれ、重力子の「世界」を中から吹き飛ばし、切り裂いていく。これによって「津波」はさらに威力と勢いを増してルフトシュピーゲルングに襲いかかる、その「津波」に巻き込まれたルフトシュピーゲルングは一撃でズタボロに焼き尽くされ、上部構造物をはじめとした破片を撒き散らしながら押し流されてしまう。

 

「リヴァイアサン、ルフト様を助けるつもりでは無かったのか⁉︎」

「破片が自身を防御しようとフィールドを集中することを想定、それを逆用して威力を加減した。問題はない。」

 

そして「津波」は北海にとどまらずイギリスの陸地やヨーロッパ大陸にも襲いかかり、植物をはじめとしたあらゆるものを次々と吹き飛ばし、抉り飛ばしてしまう。

 

流石に地球を滅ぼすのはまずいな。だが許せ、群像、ヤマト。自身を満足させるために派手にやらせてもらうぞ。

そう呟く智史、実際自分の欲望と考えに基づいて戦果を上げまくっていることが皮肉にも彼らの活躍の場がなくなってしまっている事態を加速させていた。まあ助けておいて興味がなくなったら殺すというやり方は全くやる気になれず、また好きなように群像達を振り回していることに対する罪悪感、自己嫌悪もあったが。

ともあれこの後智史によって熱エネルギーは減衰させられ、爆発は収束したものの、自分の「重み」をまざまざと見せつけるために完全には減衰させなかった。そしてそれは智史の「存在感」を見せつける「道具」として群像達に姿を現す。

 

「すげえ揺れだな、オイ。」

「地殻が海諸共吹き飛んだようです…。」

「すごい巨大な波…。エネルギーを減衰させていたとしてもあまりにもすごい…。」

「だがヴォルケンクラッツァーの妹であるルフトシュピーゲルングの反応は消失。波動砲で撃たれるというリスクは無くなったか…。悔しいがリヴァイアサンがやっていることは曲がりなりにも我々の為になっている…。」

 

 

あっけないものだ、ヴォルケン姉妹とサシで戦うという機会はもう終わったか…。しかし、ヴォルケン姉妹を始めとしたライバルがこの世界から居なくなったことで「対」が消えたか…。圧倒的な強さの引き換えは、そうか、孤高か…。

 

ーー私は、「1人」なのだな…。

 

そしてその虚しさを埋める為に私は外へ向かおうとする…。

ある意味そうかもしれんな、さてこれは終わりとして、ルフトの「破片」を取り除こうか。

あたり一帯の敵を「津波」と「濁流」で完全に消し去ったリヴァイアサンは「津波」によって形を大きく変えられたスカンジナビア半島の沿岸に叩きつけられ、船体が2つに折れてズタボロに焼き尽くされた残骸を撒き散らし機能を完全に停止して沈黙したルフトシュピーゲルングに向かっていく、先程の天変地異の影響で波高が乱上下していたもののリヴァイアサンはこれを意に貸さずに突き進む。

 

「着いたぞ、ムスペルヘイム、行こうか。」

「ああ、ルフト様をお助けせねば‼︎」

「私は船体の方の「破片」を壊しに行こう、貴艦はメンタルモデルの方の「破片」を破壊してくれ。」

「智史くん、私もついていっていい?」

「ああ、蒔絵達も一緒に連れて行くとしよう、ただし船体の方はこんがりと焼けてるからお前達は耐熱服が必要だな。」

ルフトシュピーゲルングの近くに着いたリヴァイアサン、智史はムスペルヘイムに破片を壊す為の特殊なナイフと手袋を授けた、そして智史達は船体に残っている「破片」を壊しに、ムスペルヘイムはルフトの元へと歩き始める。

 

ふっ、まさに廃墟だな…。まるで焼け落ちて陥落した城塞のような骸だ…。それなら骸一つ残さずに四散したヴォルケンの方がマシだったか…。

智史達はルフトシュピーゲルングの船体の残骸に足を踏み入れる、計算通りに中まで徹底的に焼けていたので、凄まじい熱気がまだ残っていたものの、智史は耐熱服を着なくともそれなど意にも介さない、彼は「常識」外なのだから。

 

「智史くん、温度どれぐらい?」

「摂氏1800℃。これでもだいぶマシだ。」

「マシって…。脱いだら火傷どころか一発で死んじゃうよ…。」

「ナノマテリアルはこの程度の温度では溶けないが…、それでもかなりの高温だな…。」

「そうか、蛇足として付け足しておくが、ここの温度はさっきまでは1億5000万℃だったぞ?」

「すげぇ…。ズタボロにされるのもなんとなく分かる気がする…。」

「そしてそれによって船内が歩きづらくなっているぞ…。」

「ああ、所々大穴は空いてデコボコが出来たな、まあいいではないか、この方が探検隊ごっこができて楽しい。」

「そうだね、ここの中なんか美しくていいな〜!冒険だ〜!」

そう呟く智史、実際に「津波」が襲いかかった際の温度が前述の如くあまりの高温で船体の素材が溶けて蒸発してしまうほどだったため、船体の強度が大幅に低下してしまい船体の大半が自重に耐えきれずに所々が湾曲したり溶け落ちたりして足場が洞窟並に悪くなり、あちこちに日光が差し込み、もはや朽ち果てていく廃墟といっていい程の惨状と化していた。しかしそれがかえって自然美と廃墟美を醸し出して、一種の「非日常」的な空間が生まれたのだった。

 

「ここなんかドキドキするね、何が起こるのか分からないという緊張からそうなるのかな?」

「まあそうかもしれないな、だがその「緊張」が距離を縮める要素にもなる。」

「歩きにくいな、めんどくさい…。元の体と比べると小回りは効くようにはなったがやはりデメリットも無いわけではないか…。」

「きゃぁっ⁉︎」

「気をつけろ、蒔絵。」

そう会話しつつ、智史達は奥へ奥へと進んでいく。途中大きな空洞や急斜面や壁があったものの、面白おかしく突破していく。智史は「破片」の位置を把握した上でそこに向かっていたものの、そうしなくても「破片」から溢れ出す邪悪な気配が彼らに行くべき方向を悟らせる。

 

「…しかし随分と広いな、どれ程の大きさなんだ?」

「元が2㎞以上はある巨艦だからな、真っ二つになって破片を撒き散らしても十分すぎる大きさだ。」

「すぐ近くみたい、もう少しだよ!」

 

ーーバンッ!

 

ーーズガァァァァァン!

 

あったか、本来の「場所」から外れても存在しようとはな…。

智史達は遂にマスターシップの破片が見つけた。破片は本来の「位置」から外れてはいたものの、フィールドを展開して破壊エネルギーを減殺していたことで健在であった。

 

「くっ、智史によって削られたとはいえ、何で禍々しさだ…!」

「おのれ、これでも食らえ!」

あまりにも邪悪な気配に殺気立ったキリシマが侵食球をぶつけるものの、全く効果がない。それでも殴りかかろうとするも拳がフィールドにわずかに触れたところで智史に止められる、フィールドに触れたキリシマの拳の先はナノマテリアルが欠損し、緑の正六角形が露わとなっていた。智史がすぐに修復してくれたお陰で元にはなったが、2人が生物的に「人」とは言えないことが改めて分かる。

 

「キリシマ、落ち着け。これはお前達のような普通の霧では始末できる代物ではない。」

「すまない、思わず殺気立ってしまった…。」

「その光景を見ると智史くんがやったことの「凄み」がわかるわね…。」

智史の説得によって落ち着きを取り戻したキリシマは一旦後ろに下がり、今度は智史が破片に近づく。自分たちを容赦なく断罪する死神ーーリヴァイアサンごと智史の気配を察したのか、破片が発しているオーラが変わる、邪悪な気配からまるで迫り来る圧倒的な暴力に怯え、恐怖するオーラに変わっていく。

 

「コンゴウ…。破片が…、怯えている…。」

「それほどの光景を生み出すだけの力を智史は私達にまざまざと見せつけてきた。当然の結果だ、めんどくさい…。」

そう会話する蒔絵とコンゴウ。2人は智史がしてきたことの凄まじさと重みを身でもって散々に味わされたのでこの事象は当然の結果だと考えた。

 

 

おい、そんなに逃げたいか?私から、迫り来る死の恐怖から逃げたいのか?

 

 

駄目だな。

 

 

強者こそが弱者の運命を決するのは自然の摂理である以上、貴様の運命を決めるのは私だ。

貴様がしたことはフィンブルヴィンテルの指示に基づいているにせよ、それを行う貴様自身が世界を破壊する「フィンブルヴィンテル」だ。そして私は「平和」な世界を築くには「フィンブルヴィンテル」を徹底的に討ち滅ぼすのが1番現実的だと考えている。

以上の理由をもって貴様を処刑する。フィンブルヴィンテル本体に伝えておけ、「“貴様が滅殺される時はもう間近だ”」となーー

 

智史はそう言い放つ、そして右手にクラインフィールドの巨剣を発生させると破片に深々と突き立てる、そしてそのまま外郭を突き破る勢いで破片を外に放り飛ばす。破片は悲鳴を一瞬あげたのち、凄まじい爆発と共に大空に四散した。

破片が抹殺される最期の瞬間、一瞬恐怖に怯え泣く人の顔らしきものが見えたようだがそれは定かではない、だがそれは破片を抹殺したという現実を変えるファクターにはならない。

 

「用は終わった、蒔絵、何か拾っていきたいものはあるか?」

「そうだね、この船の破片を拾いたい!どういう作りなのか自分で見極めたいから!」

「そうか。」

そして智史は蒔絵の為にルフトシュピーゲルングの船体の破片を持って帰ることにした、その頃ーー

 

 

ーーズガァァァァァン!

 

「ムサシ様、どうやらリヴァイアサンが破片を破壊したようです。」

「この爆発の際にルフトに取り憑いている破片の気配をすぐ近くに感じたわ、すごく怯えているような…。」

「だとしたらすぐそばに居るはずです、お助けせねば!」

そして慌てて瓦礫の中を掻い潜ってルフトの元へと向かう2人。当初はムスペルヘイム一人だったものの後からムサシがどういう訳か付いてきたので2人でルフトを探すこととなったのだった。

 

「ルフト様、ルフト様‼︎」

「居たわ、ここよ!」

2人はルフトを見つける、彼女はリヴァイアサンか引き起こした「津波」によって吹き飛ばされて地面に半分埋まっていたものの、皮肉にも「破片」が自身を守る為にフィールドを展開したお陰でメンタルモデルやユニオンコアには損傷は見られなかった。

 

「ルフト、ルフト!」

「危険ですムサシ様!あなた方のような「普通」の霧が触れたら一発で滅びます!」

「それでも私は彼女に謝りたい、助けたい!私が彼を滅ぼす為にあんな悪魔を使ってあなた達を生み出し、そしてあんなことになってしまった…。…その罪滅ぼしがしたい!」

「ムサシ様…。」

一瞬で彼女の真意を理解するムスペルヘイム、リヴァイアサンごと海神智史を滅ぼす為に「悪魔」を使って自分達を生み出してしまった「罪科」を前にして良心の呵責に耐えきれなかった彼女の後悔と悲しみが痛いほど伝わってきた。しかし危険なものは危険だ、ムスペルヘイムは彼女を制止すると智史から預かったナイフと手袋を使って彼女の破片を取り除くように進言する。

 

「ありがとう、ムスペルヘイム…。」

ナイフと手袋を彼女の手から取るムサシ、そして破片をルフトのユニオンコアの「器」に入っていた破片をルフトのメンタルモデルを切り裂いてナイフを使って強引に取り除く。

あの化け物達を易々と殲滅した「実績」を背景としている智史が作ったものなら確実性があるという彼女の予測はある意味で的中した。

 

「破片は取り除けたわ…。」

「よかった…。」

「恐らく疲れてるようだから今は寝させてあげましょう。船の方でじっくりと話は聞けばいいだけのことだから。」

破片が取り除かれた後、ルフトの血相が変わった、禍々しい青紫から人を思わせる温かみのある肌色へと変わったのだ、同時にメンタルモデルに備わっている自己再生能力の影響なのか、傷口も塞がる。これを見て2人は安心する。

 

「フィンブルヴィンテル、次にこうなるのはあなたのような悪魔よ…。」

 

そしてムサシは破片に止めと言わんばかりにナイフを思いっきり突き立てる、断末魔が一瞬轟くと破片は砕け散って消えた。

 

ーーババババババババ!

 

「ムスペルヘイム、リヴァイアサンは私達を心配したの?」

「そのようですね、恐らく2人がかりで何も使わずに船体の方まで連れて行かせるのはちょっと気後れすると考えたのでしょう。」

「ふふふ、彼ってお節介なところもあるのね。でも私達を心配してせっかく来てくれたんだから断ったらちょっと可哀想ね。乗りましょうムスペルヘイム、ルフトと一緒に。」

「はい。」

こうしてムサシとムスペルヘイムは正気には戻ったものの疲れてまだ眠っているルフトを連れて、自分達を迎えに来た智史が乗っている大型輸送ヘリCH-53Kキングスタリオンに乗り込む、そしてヘリはリヴァイアサンの方へと飛んでいく。多くの「仲間」を殺すという残酷な定めに抗う形でルフトやムスペルヘイムを救えたこともあってか、智史とかつて彼に救われたムサシとムスペルヘイムの雰囲気は少し明るい。偽善や自己満足なのかもしれないが、それでもいいと彼らは考えていた。

 

さて、事は済みましたっと。後は群像達主演の「特撮映画」を鑑賞するとしますか、バックアップを構えながら、ね。

 

そして智史は地中海の方を静かに見つめるーー

 

 

地中海、同アドリア海

 

「敵軍の迎撃、確認されません。」

「こちらもです、レーダーに敵影を確認できません。」

「光学、熱反応、音波反応をはじめとした各種探索機器に反応は確認されていません。」

「時折確認できたとしても敵の死体ばっかり…。リヴァイアサンのヤツが敵を一掃してくれたことは戦略的に有難いこととは分かっていますが個人的には植物掃除以外は何も活躍できなくて不満ばかりです…。」

「まあそうだな、私も悔しい。だがヤツのお陰で作戦がスムーズに進んでいるのも確かだ、これでしくじったら末代まで残る恥が出来上がるだろうな。総員気を引き締めろ、千早艦長達とヒエイ達の様子は?」

「全員が船を降り、有人操作掘削弾頭「裂天」をセットしたロケットブースター発射台に移動したとのこと。船の操艦バックアップを現在取っています。」

「そうか…。千早艦長…、後は頼みましたよ。」

そう会話する大戦艦アイオワと大型巡洋艦グアム。彼らは植物による妨害網を排除しつつここまで来たのだ、植物の全掃除など智史にしてみれば容易いのだがそれまでやられると彼らの舞台がなくなることを危惧した智史はあえて掃除しないことで彼らに慰め程度とはいえ、舞台を残したのだ。

 

「大戦艦アイオワ殿より報告、「天を裂く鉾は今放たれん」とのこと!」

「群像さん…、ヒエイ…、気を付けて…。」

ヒュウガ達スキズブラズニルや他の仲間と共に米軍を載せた船団を引き連れてヨーロッパに向かっていたヤマトはこの電文を読んで作戦の成功を祈る。

今まさに、智史が楽しみにしている「特撮映画」を具現化した作戦がいよいよ開幕しようとしていたーー




おまけ

今作の兵器紹介

有人操作削岩弾頭「裂天」

解説
智史や他の情報機関から提供されたデータを基にしてヒュウガが作り上げた兵器。
名前は「天さえ切り裂いてしまう」という揶揄から命名された。
有人操作といっても今回の場合は単に人間だけで操作突入しようにも植物に妨害されてコアから狙いを外されやすいとのことからメンタルモデルを複数、弾頭誘導、護衛並びに植物の妨害排除として乗り込ませる必要性があった。
遠隔操作でやろうにも万難を排して確実にやるには智史ぐらいの演算能力が無ければ困難という結論が出るほどの難しさだったことが主な理由だった。
また、弾頭後部には脱出艇が装備されており、目的地点に到達した後に脱出艇を切り離して起爆するという算段である。
なお、起爆スイッチが押されてから起爆するまでの時間は全員生存することを前提とした上で妨害されるリスクを極力減らす為に180秒ーー3分となっている。
因みに起爆装置はアナログ式でEMPはピクリとも通用しない。

(クラインフィールドによる弾頭護衛が被撃墜のリスクを抑えられるというコンセプトが入っている、因みにこのようなコンセプトの元ネタはTV版原作12話のサブレッションSSMの中にいたイオナが襲い来るコンゴウのミサイルをクラインフィールドで防御したというシーンから来ている。)


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第32話 生い立ちと憎悪との決別、そして心臓への「楔」

今作は霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサンが如何にして生まれたのかをちょっとだけですが描いてみました。
まあリヴァイアサンという言葉に関する意味も含めて書いたので単なる「超兵器」としてのリヴァイアサンでは終わらないです。
あと旅行中だったので執筆が少し遅れました。
それでは今作もお楽しみ下さい。


「裂天、発射準備開始しました、搭乗員は速やかに操作室兼脱出艇に搭乗してください。」

「第一ブースター、燃料注入開始、続く第二ブースターも注入開始して下さい。」

「各電気系統のチェック開始」

「システム系統の確認、71%まで完了」

「弾頭の安全装置の最終チェック、終了」

 

有人操作削岩弾頭「裂天」を用いた作戦の第一段階として「裂天」の発射を成功に終わらせるべく次々と飛び交う指示。その雰囲気の中には緊張という要素が12分に含まれていた。

 

「イオナ、緊張するか?」

「緊張する、何せ成し遂げなくちゃいけないことだから。智史に「私達はあなたに飼われるだけの無能ではない」ということも示したい。」

「そうか、杏平、ドリルの様子は?」

「万全。でも群像、植物のコアにたどり着く為の掘削の際に何で高熱をドリルブレードや表面から発するんだ?」

「焼き固めることで損傷箇所の修復を妨害するためだ。生のままだとすぐに再生されて脱出の障害になる可能性があるからだ。」

「なるほどね、それなら妨害されるリスクは減るわ。」

「いおり、ブースターのエンジンは?」

「順調!主機補機共に行けるよ!」

「そうか、僧、ブースターの操作系統のチェックを頼む、静、お前はレーダー並びに通信機器の最終確認に入ってくれ。」

「「了解しました。」」

「ヒエイ、弾頭の護衛を引き受けてくれて有難う。」

「いいえ、彼に助けられたままでこのまま大星を上げてないままだと恥の上塗りになりますから。このまま終わる訳にはいきません。」

「あいつには負けてられない、助けられてばかりだというのに何もしないままだと「飢えた狼」の名が泣くから!」

「ありがとう。」

「アイオワとサクラより連絡、「各機器の最終チェック完了、発射態勢の移行、何時でもどうぞ」とのこと。」

「了解した、これより本機は発射態勢に移行!」

群像のその言葉と共に横になっていた裂天を載せたロケットが垂直に立ち上げられていく。

 

「第2固定装置、解除!」

「本機の発射角度、仰角35度に固定!」

「ロケットブースター、アイドリング入るよ!」

「カウント開始、10秒前から!」

「10…9…8…、」

いよいよ打ち上げの時が迫る、皆は成功するのかどうかで興奮し、緊張した眼差しでその光景を見る。

 

「7…6…5…4…。」

「ブースター着火開始、最終固定装置解除!」

「了解!」

「3…2…1…!」

 

ーーズゴァァァァァァ!

ーーゴォォォォォォォ!

 

そして裂天を載せたブースターは爆炎と轟音と共に発射台を飛び立つ、そしてドイツにある植物の「コア」の方へと飛び去っていく。

 

「発射、成功です!」

「まず第一段階が終わったか…。あとは千早艦長とヒエイ達次第だ…。護衛部隊は?」

「はっ、現在「裂天」を載せたブースターに随行中。コア近くまでなら護衛は可能です。」

「了承した…。コア爆破後は直ちに植物共を駆逐できるように準備を整えておくようにサクラ達や全部隊に伝えてくれ。」

「「はっ‼︎」」

 

そして群像達はーー

「第一ブースター燃焼終了、切り離すよ!」

「了解、切り離し開始。」

「第一ブースターの切り離し確認、第二ブースターの着火開始、コアに突入するまで燃焼続行。」

「お姉ちゃん…、緊張するね…。」

「そうね、アタゴ。でも私達は何としてもこれを成功させて智史さんに会わせる顔を作る!」

「(お姉ちゃん…。やっぱり智史さんにデレデレじゃん…。笑われちゃうよ…?)」

 

 

ーードーバー海峡東端を航行中のリヴァイアサン

 

 

ふう、打ち上げは終わったか…。ワクワクドキドキのスリリングで迫力ある「映画」の始まりかな?それにしてもフィンブルヴィンテルに関連することを調べ直したらやはり奴を造るのにこの世界のはるか外を束ねる「神」の如き存在が関わっていたか…。まあこれが理由としたらあんな力を持つ理由も何となく頷ける、奴はそのことを知らぬようだがな…。そして私は、「神」と何らかの関係を持つ者の骸、そして彼によって作られた生命体を己の血肉の一つとして生まれたのか…。ふふふ、何という皮肉よ、何という悪運、そして何という業か…。

そう智史は呟く、実際にアメリカ東海岸の植物達を駆逐した後に気がついた己の齟齬から、彼は再度徹底して情報を念入りに調べ上げた。そしてそれによって発覚した事実は彼の「考え」に少なからぬ影響を与える、なんと彼は「神」と何らかの力的関係を持つ者の骸を自身の血肉の一つとして生まれた存在だった、そして他の血肉の元はその者によって作られていた生命体だった。とはいっても「最強」の名を冠した「生物」として完成する前にその者が「神」によって討ち取られやむなくその者がその生命体に自身の血肉と記憶を授けたことでその生命体は「生物」ではなく「創造者の形見」として完成したという結末を迎えたのだ。

そしてその生命体は「神」から逃れるようにして世界を移動した、しかし自分が「神」を打ち砕く力を持つ前に自分の存在自体が「神」に気がつかれていたために自分は形を変え、意識と記憶を消して「死ぬ」必要性があると判断したことから自分の願いを成し遂げてくれる「心」と「欲望」を持つ者をその場で選んだ結果、海神智史という人間が選ばれてしまい、更には自身が潜んでいた世界が「蒼き鋼のアルペジオ」だったこと、彼が好んでいたものが超巨大戦艦リヴァイアサンという艦であったこたから、既に死んでしまった「霧」を取り込みながら自身の血肉を彼に霧の究極超兵器超巨大戦艦リヴァイアサンとして彼に捧げ、作り変えることで彼に自分の「願い」を託したのだ。

 

意識まで「私」の中に入っているとなると「神」に「まだ生きている」と感づかれる可能性がある…、かといって無作為に選んでも何の為にもならない…。それらの事情を考慮した上で「神」を倒す域にたどり着く程の力を求める「心」を持つ者を選んだ…。そして今の「私」になる前の私は理不尽な環境から誰よりも力を恐ろしい程に欲していた…。だからか…。

ふふふ、その願いを無駄には出来ん、なら全身全霊を以って応えてやろう。さて、今のままで勝てるのかというと、勝てる確率は高いが、かなりの手傷を負うことは免れないか…。だが「心」が謙虚、「態度」は傲慢か。おまけに監視も「元」が死んだ時点で解いていたようだな、もう心配ないと考えて。ならとくと後悔するがいい、己の過ちを噛み締めながらな…。

そして私は「神」という程度が決まった栄誉は要らない、更に外に出て更なる高みを極めるために…‼︎そして己と「同じ」分野の能力を持つ者、己より優れた強者がこの世界の外にうじゃうじゃと居るからこそ私はそれらさえ軽く上回る更なる高みに上り詰められるのだ…‼︎

まあそのためにも力の「器」はどんどん大きくしていこう。力が「器」に収まらないということは己を滅ぼすことにもなる、神を余裕で嬲り殺す前に自分が滅んだら笑い話にもならんからな。そして力が「器」に大人しく収まるようにするにはきちんと「力」を噛み砕いて消化しなければならん、動物が食べ物をきちんと消化吸収して自身の栄養源としている自然の摂理と同じことよ。

…ふっ、以前と同じことか。私が取り込んだものは全て「私」のものにするだけだ、他人のものにする気など微塵も無い。

さて、そろそろルフトが目覚めるか、ルフトの所に向かうとしよう…。

 

そして智史は海風が吹く艦橋の外を後にして、ルフトが眠っている部屋へと向かっていくーー

 

 

ーーリヴァイアサン艦内のとある一室

 

 

「……………。」

ずっと眠っているルフトを沈黙と共に見守っているムスペルヘイム、彼女はルフトが目覚めた時に側に誰もいないのは何処か物悲しいと考えてここにいたのだ。リヴァイアサン艦内に運び込まれてからある程度は時間が経っているが、彼女はまだ眠っていた。

 

「ルフト様…。」

ムスペルヘイムは彼女の手にそっと触れる、自分が側にいることで彼女はいつも安心していられるからだ。彼女の姉であるヴォルケンがリヴァイアサンごと智史に殺されても彼女が無謀な行動に出なかったのはムスペルヘイムが彼女の参謀役兼心の拠り所として機能していたからだった。

 

「う…、うう…。」

「ルフト様⁉︎ルフト様‼︎」

「ムスペル?何故ここにいるの⁉︎あなたも私と同じくあの悪魔ーーフィンブルヴィンテルの操り人形にされてもう元のあなたはここにはいないと思ったのに…!」

「ルフト様…、私はあなたの姉君を殺したあなたにしてみれば忌むべき存在ーーリヴァイアサンに助けられました。」

「リヴァイアサン⁉︎お姉様を殺したあいつが…⁉︎」

「はい、彼が私がルフト様を助けるのを承諾したのも、姉君に続いてあなたまで殺すのは気がひけるという理由だそうです。」

「何故なの…。あいつ、私やあなたを徹底的に陵辱するつもりで…‼︎」

「そんなことありません、彼に陵辱する気があるのなら最初からこんな扱いは無かったと思います。」

「何が、「陵辱しない」なの…⁉︎この扱いは私にしてみればお姉様を奪った上で「生き恥」を晒させ、そして更に惨めな目に遭えと言われているようなものなのよ…‼︎そんな目に遭うぐらいなら死んだ方がマシよ…‼︎」

「違います、ルフト様、落ち着きください!」

目の前に広がっている現実を受け入れられずに錯乱し泣き叫ぶルフト、それを必死になだめようとするムスペルヘイム。ルフトが言った「生き恥」とは彼女を縛っていた「破片」という名の呪縛を智史が解いた際に彼女の「躯体」さえ生き残ってりゃあとは自分の好きなように戦闘を「彩色」していいと智史が考えていたせいで船体を破壊され「躯体」だけがここに存在しかつてのような力や威厳を振るうことができなくなってしまったことを指していた。

そして智史がそんなやり取りの真っ最中に空気を読むことなく部屋に入ってくる。

 

「リヴァイアサン、下がってくれ!ここは今貴艦が入っていい場所ではない!」

彼が部屋に入ってきたことに驚きながらも退去するように叫ぶムスペルヘイム、しかしそれは遅かった、ルフトは彼が入ってきた途端に彼女の制止を振り切って彼に掴みかかる。

 

「リヴァイアサン‼︎お姉様の仇、ここで取るわ‼︎」

「何が「仇」なのかはなんとなくわかるが、その「仇」を取ることで姉が帰ってくると言えるのか?」

「なっ…⁉︎」

「私を殺したところでお前の姉は帰ってはこない。それでも「仇」を取ろうというのは姉を失ったお前が自分を満たすための「意義」を求めた結果ではないのか?」

「違う、そんな筈は無い‼︎」

「違わないな。「復讐を果たす」ことを姉という存在の代わりとして心を満たそうと顔に書いてあるぞ。お前の「復讐」は虚無しか生まん、やめておけ。そしてそうする暇があるぐらいなら現実と学問、そして世界を学ぶがいい。それがお前の為にもなるだろう。まあ私も「完全なる破滅」という形で「復讐」を果たそうと考えている相手はいる、そして「復讐」は災厄と憎悪ばかり産むものではない、時には福を生むこともある…。」

「うるさい‼︎あなたにそう言われる道理はないのよ‼︎」

「そうか、それでも復讐がしたいか…。なら私に掴みかかってくるがいい。」

智史はルフトに挑発するのかのようにそう言い放つ、そしてルフトは智史に掴みかかろうとするーー

 

「ヴァァァァァァァァ!」

「ルフト様‼︎」

「(さあ、来るがいい…。)」

 

 

「待って」

 

「「ムサシ様⁉︎」」

「(ふっ、来たか、ムサシ…。予想できたとはいえ、単なる「善意」で救ったことがこういう福となって帰ってくるとはな…。実に面白いことよ…。)」

突如として部屋の中に入ってきたムサシに驚くルフトとムスペルヘイム。これに対して智史はこういうことが起こると予め予測していたかのように平然としていた。

 

「ムサシ様、来てくださったのですか⁉︎なら共にあの化け物を討ち滅ぼしましょうーー」

「ルフト、あなたにしてみれば彼はどんな存在なの?」

「何を仰られますムサシ様、あの化け物はフィンブルヴィンテルと同様に私達を苦しめ、陵辱し、討ち滅ぼす存在ーー」

「違うわ。フィンブルヴィンテルは「悪魔」だけど彼は「悪魔」ではない。彼が「フィンブルヴィンテル」だったらあなたはもう死んでいたわ。」

「そんな筈は無い、あの化け物は悪魔です、「霧」では無い!私はあいつをこの場で殺したいーー」

 

『だったらその前に私を殺して‼︎』

 

「ムサシ様⁉︎」

「ルフト、いくらあなたが彼を殺したくても彼を殺すことは今の私達やフィンブルヴィンテルでも叶わない…。でも今の私にはそれが出来ないことを悔やしがって更に彼に対する恨みを募らせる理由なんか無い。あなたやその仲間達、そして私達霧をこんな悲惨な目に遭わせ、彼をあなたにしてみれば憎むべき存在にしてしまった私を許してほしい…‼︎」

「ムサシ様…、一体どういうことなのですか…⁉︎」

予想外の言葉と態度が出たことに驚くルフト、しかしムサシは言葉を続ける。

 

「私の彼に対する憎しみにフィンブルヴィンテルがつけ込んだせいで私はあなた達を生み出してしまった…。そして彼が私達に対する憎悪など持っていなかったのに、私が彼と人類を憎しみをもって排除しようとした結果、彼は私に暴力でもって応え、人類もそれに続いた。彼と人類と私の暴力と憎悪の「戦争」があなた達に破壊と不幸、そして新たなる憎悪と怨嗟を生み出してしまった…。でもその時の私は憎しみに囚われたままだったからフィンブルヴィンテルに利用されていたということを身を滅ぼされかけるという形で知らされるまであなた達にそうし続けてしまった…。

そんな私のせいでフィンブルヴィンテルの操り人形という残酷な生をあなた達に負わせた上で「彼」を破壊神に変え、あなた達から希望や自由を奪い、破壊と絶望、憎悪と怨嗟に満ちた未来へと私が変えてしまった…。

ごめんなさい…、本当にごめんなさい…‼︎だから、憎むなら彼ではなく、あなた達にそういう目に遭うようにしてしまった私にして…‼︎」

「ムサシ様…。リヴァイアサン、一体どういうことなの?」

「要するにお前達の最高指導者ーームサシがお前達に私を憎むように仕向け、私を攻撃してきた。そして私はこれに対して暴力をもって応対した、私は口より手で解決するのが好きなのでな、申し訳ない。

そしてそのやりとりが何の福も生まないということにムサシはフィンブルヴィンテルに身を滅ぼされかけるまで気がつかなかった、憎しみに囚われっぱなしだったからな。

結論としてお前達に降りかかった不幸の元凶は一見見ると私のようだが、実はムサシがそう仕向けてしまっていたということだ。まあ私がお前達をコテンパンに打ち負かす為にあまりにも強大になってしまったからこういう結論が余裕で言えるのであって、私が並だったらこういう結論は出なかっただろうな。何れにせよムサシがそもそもの元凶とはいえ、直接お前達をこういう目に遭わせてしまった私にも非はある、許してほしい。」

智史がムサシの言葉の意味を噛み砕き、共感しつつ己のしたことに対してルフトに謝罪する、その言葉の中には暴走しやすくも気紛れな自分の感情に対する嫌悪も含まれていた。

 

 

「うっ…、あぁぁぁぁぁぁぁぁ…。ムサシ様ぁぁぁぁ…。」

 

そして憎むべき相手ーーリヴァイアサン=智史から謝罪され、そして信頼していた主ーームサシが彼を庇うように己の非を詫びられたルフトは行き場のない怒りと憎悪、悲しみを泪と共に流し、ムサシに縋るのかのように泣き崩れる。

 

「ムサシ様…。あなたがこれ程のことを言われるとは…。私の目にはあなたが逞しく見えます…。」

「ムスペル…。起きてしまったことはどうしようもないわ…。でもこの後の未来はまだ作り直せる…。リヴァイアサン、私が引き起こした業の尻拭いをあなたにさせてごめんなさい。」

「別にいい、むしろ私以外に誰がこの事態の尻拭いができるのか?居たら教えてほしいぐらいだ。本艦は千早群像一行の作戦の後詰めも兼ねてヤマト艦隊と一度合流した後、フィンブルヴィンテル撃滅に向かう。異論はあるか?」

「ないわ。ただお姉ちゃんに正当な事由があるにせよ好き勝手に振り回したことに対して詫びたいと顔に書いてあるわ?」

「ふっ、痛いところを突く…。」

智史は己の本音を見抜かれたことに苦笑しつつこれまでの険悪な雰囲気が消え、明るい雰囲気となったこの部屋を出る。

 

「智史くん、ようやくこれまでにあったわがたまりが解けたって感じでなんか嬉しそうね。力による解決も時として役に立つこともあるのね。」

「まあその通りだ、口だけで解決するなら世界は容易くまとまっているだろうからな。それよりも群像達があの植物の中核部に突入したそうだ。」

「そうね、群像くんうまくやってくれるかしら?」

「私とは違い、奴には信頼できる「仲間」が沢山いる。多少の力の優劣はあろうとも突破して帰還してくるだろうな。まあそういう風に言えるのは私が予め手まわししておいたに他ならないが…。」

「ヒュウガに植物のデータを送信したことね、何の情報も無かったらこういうことは微塵も言えないわね。」

「まあそういうことだな…。さて、バックアップを取るか…。」

「ところで蒔絵ちゃん何してるのかな?途中でちょこっとだけ見かけたんだけど熱心に何かに打ち込んでいるような…。」

「ふっ、そんな蒔絵のために少し『材料』は提供したがな…。」

「それって?」

「蒔絵はデザインチャイルドーー人ならざる者だ。彼女はフィンブルヴィンテルに苦痛を見せる『何か』を作っている最中だーー」

 

 

ーー植物の中核部、その上空

 

「第二ブースター切り離しまであと20秒」

「突入までの距離再計算、現在92000」

「本機は現在高度35000ftを飛行中、これより降下を開始します。」

「突入角度は48度に調整、現在機体角度の誤差修正中」

「地上からの迎撃並びに敵軍の反応、確認されません。」

「第二ブースターエジェクション、これより突入態勢に移行。総員ショックに備えろ!」

「「了解!」」

「護衛部隊より通達、『現時刻を持って護衛を一時的に離れる、グッドラック』」

いよいよと植物の中核部へと突入する群像達、突入の時が迫るにつれて緊張も高まっていく。

 

ーービュォォォォ!

ーービュォ!

ーービュォォォォ!

 

「「裂天」外郭カバーパージ完了!」

「イオナ、裂天との演算リンクを開始!」

「了解。」

「杏平、ドリルの加熱機構並びに回転装置を起動、イオナ、カウントダウンを始めてくれ。」

「あいよ、加熱機構起動、ドリル回転開始!」

 

ーーウィィィィィィィィィィ!

 

「突入まで15秒。……10、9、8…。」

「突入角度誤差±0.03度、想定内に収まりました!」

「3…2…1…、突入。」

 

ーーズガァァァァァン!

 

「きゃぁっ⁉︎」

「くっ‼︎」

 

ーーウィィィィィィィィィィ!

ーーガリガリガリガリ!

 

「群像、本機のドリルは植物の中核部の外郭を掘削中、各機構も正常に稼動、演算も問題ない。」

「そうか…、よかった…。イオナ、引き続き裂天の各機構の維持を頼む。」

イオナ達を乗せた裂天は植物の外郭をドリルによって強引に突破していく、だからといってまだ中心部に辿り着いた訳でもないし、「外」に抵抗が無くても「中」は無いとはまだ決まってない。そしてその懸念は的中する、裂天が外郭を突き破った直後、突如として裂天の動きが止まる。

 

「どうした⁉︎」

「何かによって本機の動きが封じられている、恐らく粘度が高い流動性があるネット状の物質だと思う。」

「ドリルの加熱機構の効果も冷却によって相殺されてやがる、外に出てこの元凶を排除しねえと回復しねえぞ!」

「タナトミウムによる侵食をしようにもその前にタナトミウムが吸収された。メンタルモデルを展開してそのネットを排除するしか方法が無い。」

「くっ、加熱機構を一時停止、メンタルモデルを出せ!」

「なら、私達が道を切り開きましょう!」

「私も出ます!」

「ヒエイ⁉︎タカオ⁉︎行けるのか⁉︎」

「401やあなた達がこの「艦」を守らなくてはいけない以上、誰が行くのですか?」

「私達はこの時の為にここに居るんです!」

「分かった、ハッチを開放、ヒエイ達を出せ!」

「は、はい‼︎」

群像の檄により急いで裂天のハッチが開放される、ハッチの外は無数のツタとネットで埋め尽くされた視界が広がっていた。

 

「にゃろ〜、舐めやがって〜。」

「こいつら剥がすのめんどくさいけどそうしないとこの船が動かないのはもっと面倒…。」

「解析完了、このツタとネットはエネルギー系列の攻撃は吸収、また物理にて切り刻まれても数秒で再生する模様です。」

「ならば結構、全員ナノマテリアルを用いた物理攻撃でこいつらを切断しなさい!智史のように全部焼き払う必要性はありません、船が動けばいいだけのことです。」

「「「「了解!」」」」

ヒエイがそう命ずるがままに、「元」霧の生徒会とタカオ姉妹は裂天を目的地へと進める為に長剣や薙刀、ガトリングガンや大口径ライフルをナノマテリアルによって瞬時に生成すると次々とツタやネットを切断していく。

 

「ナチが言った通りか…。だがチョロい、これであたしを止められると思うなぁ〜!」

「再生を上回る速度で切断を行えばいい、それだけのことだ!」

「すごい数…。だけど私達を甘く見ないで!」

 

そして当然の如く再生してはくるものの、それを上回る速度で切断して行った為に裂天を取り巻いていたツタやネットはどんどん剥がされ、裂天は重力による自身の重量によって彼らから逃れるように下へ下へと滑り降りていく。

 

「あと一息!とぉぉりゃぁぁぁぁ!」

「たぁぁぁぁっ!」

 

ーーザンザンザザンザンザン!

 

ーーズルッ!

 

「脱出できました、再び植物壁に接触します!」

「杏平、ドリルを再稼動!」

「あいよ、単に熱するのが駄目なら冷やしてカチコチにした上で砕こうぜ、群像!」

 

ーーはっ‼︎

 

ヒエイが杏平のその言葉を聞いた途端、リヴァイアサンごと智史に冷却弾を雨霰と叩き込んでカチコチにした筈がその冷却メカニズムを逆用されて逆にエネルギー源とされてしまい結果的には散々に返り討ちにされた硫黄島沖海戦の記憶が頭に蘇った。

 

「ふっ、あの時の屈辱が頭に蘇るとは…。私も「人間」ですね…。でも彼に通用しないことが分かったからって他のものにも通用しないとは限りませんね。ナチ、植物の構造は?」

「智史さんのようなエネルギー逆用メカニズムは確認されていません、冷却攻撃は有効です。しかし会長、なぜ今になってこのようなことを?」

「千早群像を始めとした人間達の会話を聞いてあの日の記憶を思い出したのです、人間にも頼りになれるものはいるのですね。」

ナチの質問にヒエイはそう答える、心の奥底で部下を犬死にさせてしまった苦々しい思い出と向き合いながら。

 

「裂天、先程の植物壁を突破した模様!」

「船は先に進んだようですね、続きましょう。」

裂天が次の「壁」を突破したことを確認したヒエイ達は足止めを止めて裂天のあとに続いていく。

 

「会長、植物のツタが裂天に襲いかかってきます!」

「先端に口⁉︎気色悪〜い。」

「これでは、単に斬り刻むだけでは間に合いませんね。冷却攻撃は可能ですか?」

「どういう理屈でやればいいのかは分かってるし、ナチから聞いたけど智史が用いたあの反則技のようなものは使ってこないからいつでも行けるよ、ヒエイ!」

「了解しました、レーザー冷却を用いた戦術によって襲いかかってくるツタやネットをカチコチに固めて打ち砕きなさい!」

そしてヒエイ達は冷却用レーザー銃を瞬時に手元に生成して次々と襲いかかってくるツタを凍らせ、僅かな衝撃をそのツタに加えて次々と破砕していく。そしてイオナ達を乗せた裂天の方も負けじと言わんばかりに自身に触れたツタを凍らせて力に任せて強引に破砕して突き進んでいく。

だがレーザー冷却は原子運動のタイミングを計算した上で原子運動のエネルギーを相殺する代物である、それを成り立たせるには膨大な演算リソースが必要だった、演算リソースが圧倒的に有り余り、かつそのリソースさえ滅茶苦茶に増やして懐がホクホクの智史なら余裕で成り立つ代物でも演算リソースを外的要因でしか増やせない状態ーー物理的意味合いで自力で「進化」出来ないヒエイ達にしてみればかなりの負荷が掛かる。

つまり例えて言うならば収入を馬鹿みたいに増やせる「金持ち」と収入を限られてしまった「一般人」との関係である、基本として1人あたりの税額を平等とするならば所得が多い方が余裕があるに決まっているのだ。だがその上で「収入を増やせる余裕のある環境下にある者は収入を増やせる」と仮定した場合、「金持ち」の方はいくら税を増やされてもそれを上回る勢いで収入を増やしてしまえばいいだけのこととなってしまう。しかし収入を固定された「一般人」は収入を増やせないので税を凄まじい勢いで増やされたら即終わりとしか言いようが無いほどに悲惨である。

実際にその言葉の通りにツタが潰しても潰しても次から次へと潰した数以上の勢いで現れて彼女達の物理的、精神的余裕を奪い、ジリジリと追い詰めていく。

 

「くそお…、次から次へと湧いてきやがる…。」

「あたしの方もオーバーフロー仕掛けてきてる、ヤバイかも…。」

「まずい、押されてる…。でも必死みたい…。」

「それだけあの化け物は『死』に恐怖しているのでしょう、楔が自分の「心臓」に深々と打ち込まれるのを恐れて。ナチ、裂天の突入状況はどうなっているのですか?」

「401とのデータリンクからの情報によるとあと少しで「コア」に到達する模様です。」

「了解しました、彼らがあの化け物に楔を打ち込むのを成功させる為にもあと少しの間頑張りましょう、自身の「限界」を上回ってでも。」

「はっ。たとえ全力を出し切って果てても目的を果たせたならば悔いはありません。」

「死ぬことは許しません、「限界」は上回っても。死んだら何も出来ませんからね。」

ミョウコウの言葉に対してそう説教して答えるヒエイ。そして彼女らは群像達が弾頭をコアに到達させるための時間を稼ぐ為に押し寄せてくるツタの群れに対して更に奮戦する。

 

「きゃぁっ!」

「ナチ⁉︎今度こそやらせるかぁ〜‼︎」

「うぅ、目眩がしてきたぁぁ…。」

「あと少しだ、頑張れ!」

「お姉ちゃん、後ろ!」

「分かってるわ、アタゴ!」

 

「タカオ…。ヒエイ…。」

 

ーードガァァァン!

ーーガリガリガリガリ!

 

「第5層の掘削完了!コアに到達しました!」

「よし、コアの奥深くまで掘り進めた後に弾頭部を切り離し、ヒエイ達を回収して離脱するぞ!」

遂に中核部に到達した群像達。そして裂天はコアの中へと掘り進んでいく。

 

「コアの中核部に到達しました!」

「了解、杏平、弾頭部の起爆装置のタイマーを起動!」

「あいよ!起爆スイッチの安全装置を解除、タイマーを起動っと!」

「弾頭部、パージします!」

 

ーーバキィィィィィン!

 

「切り離し終了、起爆装置のタイマー起動!起爆まであと175秒!」

「全速後進!後部ドリル起動!」

「了解!」

裂天の弾頭部の起爆タイマーが起動した、そして群像達を乗せた脱出艇はもと来た道を辿るのかのように突き進んでいく。

 

「はぁ…、はぁ…。舐めるなぁ…!」

「裂天の弾頭部の起爆タイマー起動を確認!脱出艇がこっちに来ます!」

「“ヒエイ、君達を回収する!もう少し待ってくれ!”」

「了解です、総員速やかに脱出艇に乗り込めるようにしておきなさい!」

「起爆まで138秒!脱出艇、来ます!」

 

ーーズドォォォォン!

 

「皆、早く乗って!」

起爆の時が迫る中、一度活路を開く為に降りた「船」が彼女達を乗せる為に再び現れる。彼女達は追撃防止のための援護射撃を加えつつも速やかに脱出艇に乗り込んでいく。

 

「全員搭乗完了しました!」

「よし、全速前進!起爆する前に脱出するぞ!」

「あいよ、ドリル回転ペース最大!」

そして猛スピードでコアから離れていく脱出艇。だが往生際が悪い事に植物は彼らが元来た道を強引に塞いで彼らを道連れにせんと抵抗する。

 

「くそ、思うように進まねえ!」

「このままだとまずいな…。」

「起爆まで、あと105秒!」

思うようにことが進まないことに焦りを見せる群像達、だがそれを嘲笑うのかのようにツタは何重にも巻き付けられ、すぐには脱出できない状態となってしまった、起爆の時はもうすぐだというのに。

 

「起爆まであと75秒!」

 

ーーガリガリガリガリ!

 

「まずい、コアの方に引き込まれています!」

「くそ、ここまで来て終わりかよぉ⁉︎」

「折角ここまで来たというのに…、どうしてなの…⁉︎」

彼らの希望が絶望に変わり死の運命を暗示し始めた、もう少しで成功させられるというのに。

 

「起爆まで、あと30秒!」

その言葉が告げられた時、皆の頭の中にこれまでの思い出が走馬灯のように頭を過る、そして死が避けられなくなったことも確信する。

 

「ここまでか…。皆、すまなかった。今まで俺の我儘について来てくれてありがーー」

 

「“待て。”」

 

ーードガァァァン!

 

「「⁉︎」」

「一体何が起こっている⁉︎」

 

突如として絶望的な雰囲気を消し飛ばすような出来事が起きたことに体がついていけずに驚く群像達。

 

「“済まない、群像。「自分一人の足で立て」という理念を振りかざしながらお前達を追い詰めてしまって。”」

「智史⁉︎」

「智史さん⁉︎」

 

ーーブォォォン!

 

「「「「きゃぁぁぁぁぁぁ!」」」」

 

なんと智史が彼らが作戦ミスを犯すことも考慮して群像達を救出する為にここにやって来た、そして彼は植物の最後の悪足掻きを強引に排除すると群像達を乗せた脱出艇を瞬時に生成したワイヤーロープで絡め取って素早く投げ飛ばした。

 

「貴様一人で地獄に逝け。そしてもう2度とその見苦しいツラを私に見せるな。」

 

ーーカチッ!

 

ーーピカッ!

 

ーードガァァァン!

 

そして信管が作動したのか、途方も無い爆発が宙に飛ばされている群像達の目の前で生じる。その爆発によって植物のコアは外郭共々吹き飛び、熱風は衝撃波と化して辺りを焼き払い、消し飛ばす。しかし智史はその爆発を受けても全くケロリとしていた、寧ろそのエネルギーを吸収して自分のものにしてしまうぐらいだった。もしこの爆発で彼が殺傷できていたら彼を倒すのは楽だっただろう、そのぐらい彼は自己進化によって猛烈に強くなった、いや強くなりすぎてしまっていたのだ。

 

ふう、事は片付いたか…。群像よ、誇るがいい。お前達は私抜きで「大事」を成し遂げたのだからな。

そして智史は爆発によるキノコ雲が天高くまで吹き上がる光景を眺めながらそう呟く、そしてその「呟き」は群像達の元にも届いていた。

 

「最後の最後でドジったというのにどうしてあいつにここまで褒められるかは分からねえがとにかくあいつ抜きでも出来るということを立証できたことは大きいな、群像?」

「ああ、自分の意志で彼の「援助」無しで戦えたということは大きい。彼が強大だという現実は変わらないが俺達はもう彼に保護されるだけの存在ではないということを立証したことによる「自信」を得た。」

「だとしたら、もう智史に頼らなくても群像や私達は十分に戦える。でも最後の難関、フィンブルヴィンテルは智史と一緒に倒さないと。フィンブルヴィンテルは智史抜きで倒せる相手ではないから。」

「そうですね、あれは彼以外に倒せる物ではありません。それにしてもあの大戦が終わった後は課題が山積みですね。」

「彼が創る予定の「世界」を強引に俺達の手で創ることとしたからな、創るからには自分達で作らなくては。」

智史に強引に投げ飛ばされて海に不時着した脱出艇の中でそう会話する群像達。この後彼らは近くに待機していたアイオワやサクラ達によって回収され、「英雄」として賞賛されることとなる。

 

ーー大西洋上

 

「よかった…。最終的に智史さんに助けられたとはいえ群像さん達が自分達だけで頑張って道を切り開いたのね…。よしっ、智史さんや群像さんに負けないように私も頑張らなくちゃ。」

そう言い気合をいれるヤマト、彼女は自分達の未来を智史抜きで切り開いたという吉報が齎されたことに内心喜んでいた、何せ「自分達の手で未来を切り開く」という理念を達成できたのだから。

 

「“ヤマト様、上陸地点はもう直ぐです。ですがあの吉報を聞いた途端ただでさえ煩いアメリカ軍の人間共が更に激しく騒ぎ立てました…。”」

「いいのよ、もう直ぐあの煩い時間とお別れできる。“全艦隊に告ぎます、これより我々はビスケー湾上陸作戦を敢行します。総員速やかに配置について下さい。”」

ヤマトは全艦隊に音声通信でそう告げる、そしてその言葉の内容を汲み取るかのように彼女の率いる「霧」達は整然と流れるかのように陣形を変えていく。

遂に、人類と霧がフィンブルヴィンテル一味から「ヨーロッパ」を奪い返す時が訪れようとしていたーー




おまけ

蒔絵が作っているもの

対フィンブルヴィンテル用の劇薬

蒔絵はこれまでの戦闘データや破片を解析した際のデータを活かしデザインチャイルドの名にふさわしく超人的な才能を見せつけてフィンブルヴィンテルの構成素材に触れるとその構成素材と反応して跡形もなく溶かしてしまう薬剤を現在開発中である。
大局が目の前で進んでいるというのに智史に出番を食われっぱなしなこともありその力を持て余していたことも手伝い現在は実用化寸前まで来ている。
勿論智史も含めたフィンブルヴィンテル以外の存在には反応しない。


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第33話 最終決戦前夜とZ旗

とうとうフィンブルヴィンテルとの決戦まで来てしまいました。
フィンブルヴィンテルとの決戦をもってアルペジオ編は終わるなと思います。
とはいってもいきなり決戦だとつまらないと思ったのでその前に食事シーンを挟むことで雰囲気を盛り上げてみようかなと思いました。
それではじっくりとお楽しみください。


「そうか、余が植え付けた「災厄」があやつの手を借りた小虫共によって刈り取られたか…。」

「申し訳ございません、奴から放たれた航空機によって我が方の軍勢は悉く駆逐され、おまけに貴方様の「人形」の洗脳が奴によって2つも解かれてしまいました…。」

「まあよい…。あやつは並の小虫とは大違いだ、この結果は当然の結果といえよう…。何か言いたいことはあるか?」

「はっ、奴をどうやって仕留めればいいのか聞きたいことがありまして…。」

「ふっ、容易いことよ。潰されたら潰された以上の駒を揃えて押し潰せばいいだけのこと。策を弄して不和を招こうにもその前に奴に妨害されるか始末されるかで面倒よ。」

「なるほど、ですが小虫共も同じようなことをして奴に木っ端微塵にされていますが…。」

「それは『質』の問題よ。いくら『数』を揃えても『質』が劣っていれば負けることもあり得る。『質』と『数』のバランスが取れてこそ戦力は戦力たりうるのだ。」

そう答えるフィンブルヴィンテル。彼はリヴァイアサンに自身が滅ぼされる定めが迫りつつあるということを一切顔にも口にも出さずに堂々と答えた。

 

「そこまで言われるのならこの後貴方様がやられることは問うまでもありますまい。」

「そうだ、余は奴と同じく並の小虫とは違うのだ。今からそのことを見せつけてくれよう。さあ打ち震えるがいい小虫共、そして余の血肉となる定めを受け入れろ…‼︎」

フィンブルヴィンテルはそう答える、そしてこれまでにない禍々しい気配が次々と現れ始めるーー

 

 

ーー同時刻、ビスケー湾内

 

 

ーーザァァァァァァァ

ーーザァァァ

 

湾内に向かって突き進んでいく船団があった、彼らは様々な光る「模様」を輝かせ普通の船とは異なる異彩な雰囲気を醸し出しながら航行する。そして彼らは陸地に横を晒すようにして散開する。

 

「撃ち方始め!」

 

ーードォン!

ーードドオン!

ーーパシュゥゥゥゥン!

ーーシャァァァァァ!

 

ーードガァァァン!

ーーズグァァァァァァン!

 

その言葉とともに彼らは一斉に攻撃を放っていく、瞬く間に夜空は多種多様な「光」で埋め尽くされ、地上に運びっていた植物達は薙ぎ払われ、そこに「光」の業火が生じていく。

 

「超重力砲、撃てぇっ!」

 

ーーパシィン!

ーーズゴォォォォン!

 

そして一部の船が船の形を変えてまで強烈な攻撃を放つ、跡形もないぐらいに薙ぎ払うのかのように。それによって地上からあらゆるものが消え去った、そして今度は別の船の群れが陸にのし上げるのかのように突き進んでいくーー

 

 

ーー同時刻、ビスケー湾浜辺

 

 

ーーガンッ!

ーーガンッ!

 

ーーウィィィィィィ!

 

「進め、進めぇ!奴らに遅れをとるなよ!」

「「うぉぉぉぉぉぉぉ!」」

揚陸艇のハッチが開き、そこから米軍の兵士がゾロゾロと飛び出してくる。それと同時に空からも米軍が次々と降ってくる。

彼らは遂にヨーロッパに上陸した、彼らは日本や霧から技術供与を受けた兵器で身を固めていた、本来なら国産でやりたかったところだがそれだと今日までに十分な規模を揃えられないことから断念された。

 

「こちらブラボー、敵の生き残りを発見!」

「了解した、そちらに支援に向かう。」

「敵航空部隊の反応認められず、やはり奴の仕業か?」

「そのようだな、だが警戒は怠るなよ。」

進撃はリヴァイアサン=智史が事前に「手入れ」をしていたこともあり極めて順調に進んでいった、生き残った化け物達が時折抵抗してくる、それによって何人かが手傷を負う。

 

「くそっ、チャーリーがやられた!」

「舐めやがって…。これ迄のツケを味わいやがれ!」

 

ーーシャァァァァァ!

 

ーードガァァァン!

 

しかしそれは元々圧倒的に開いていた戦力差を埋めるには至らない、しかもそれは生存本能による抵抗であって戦略を念頭に置いた組織的抵抗ではなかった。そして更に言うとそれは彼らアメリカ軍兵士達の東海岸でのトラウマから来る復讐という感情を更に強め、攻撃を更に激化させ、容赦ないものにさせるだけにしかならなかった。

 

「ギュィ、キュィィィィィ!」

「逃すかよ、クソッタレ共!」

「1匹残らず地獄に叩き落としてやらあ!」

 

ーーガガガガガガガガ!

ーーパパパパパ!

ーードォォォォン!

 

「ギュィィィィィ‼︎」

 

彼らアメリカ軍が侵攻していった各地で命乞いの悲鳴と断末魔、怒声と罵りが容赦なく木霊し、その跡には化け物たちの死体の山がゴロゴロと転がっていた。彼らには化け物達に対する同情や慈愛など微塵も無い。ましてや前述のように憎しみ一色なのだ。なのでアメリカ軍の彼らに対する処置は殺戮と蹂躙一色と言ってよく、四肢や内臓、眼球や脳味噌まで無理やりもぎ取られた上で陵辱されたような光景もあった。

「人間」には様々な「感情」がある。喜び、怒り、悲しみ、恐怖、嫌み、軽蔑…。正も負もある状態なのだ。だがそれらが生まれる理由は周りの環境によるものである。今回の徹底的な殺戮劇の理由は化け物達が彼らに対する「負」を、ぶつけたことに起因するものだった、もしこのようなファクターが無ければあんな極端な行動など無かったのかもしれない。

 

 

ーーそしてビスケー湾上

 

 

「彼らを見ていると、何か、可哀想ね…。私達を破壊しようとしている敵だというのに。」

「そうですね、この様を見ていると何か心に訴えてくるようなものがあります…。」

「でも私達霧や人類、そして地球の敵となる以上、殺さない訳にはいかない…。ごめんなさい…。」

偵察機から送られてきた画像を見てそう会話するヤマトとネブラスカ。いくら醜くとも単にフィンブルヴィンテルの命に従っただけで殺されなくてはならないという点は彼女達にしてみれば哀れに見える部分もあった、しかし同情あれど情けを掛ける訳にはいかない、仮にそうすればややこしい事態を生み出すということが分かりきっているが故に。

 

「各海域への艦隊配備は順調に進んでいます。事前にリヴァイアサン、いや智史さんが敵艦隊を徹底的に駆除したことが大きいですね。」

「ヨーロッパ各沿岸での植物の駆除も順調です、あの作戦が成功した後に植物の生命反応が大幅に低下しています。」

「そう、でも念には念を入れておかなくきゃ。油断して足元を掬われたら智史さんやみんなに会わせる顔が無いわ。」

「そこまで言われなくとも…。でも引き続き警戒する事に越した事はありませんね…。」

ヤマトが発言した通り、この事態は1つでもしくじれば終結が先延びになりかねないものだった、智史から「借り」を借りた上で負けた、しくじったとなったら恥の上塗りとなる事態となる事は目に見えていた、故に彼女達は真剣に事に取り組んでいるのだ。

 

「リヴァイアサンから入電、「“これより貴艦隊と合流する”」と。」

「分かったわ、恐らく敵が片付いたから戻ってきたのね。」

その報告通りにリヴァイアサンの船影がゆっくりと視界に映り始める、そしてそれは距離が縮まるに連れて徐々に具体性を増していく、艦首にムサシと智史がいるという様子まで分かるほどに。

 

「ムサシ‼︎」

「お姉ちゃん!」

お互いの顔を見た事で安堵し、喜ぶヤマト姉妹。

 

「済まないなヤマト、散々に振り回して。」

「いいのよ、むしろあなたがそうしてくれなくちゃこんなにことが上手く運ぶのはなかったわ。ところでムサシ、フィンブルヴィンテルによって「生み出された」あの「霧」達は智史さんによって救われたのね?」

ヤマトが見つめる方向の先にはルフトとムスペルヘイムがいた、彼女達は少し申し訳なさそうな顔をしてその様子を見守っていた。

 

「そう、彼女達はリヴァイアサンによって洗脳を解かれたわ。まあそこに至るまでの際の処遇は本人に任せっきりだったから彼に抗議する理由も無いけど。あ、来たのねリヴァイアサン。」

「お話中突然割り込んですまんな。ルフト、ムスペルヘイム、彼女がムサシの姉、超戦艦ヤマトだ。」

智史は引き連れてきた2人にヤマトを紹介する、何の紹介もなしに会話を進めるのは会話の雰囲気が悪くなるからだ。

 

「あれが、ムサシ様の姉君…。」

「そうだ、ヤマト、2人をフィンブルヴィンテルの「操り人形」だからといって冷遇しないでくれ、2人にフィンブルヴィンテルのような意志は無い、ただ主であったムサシの命に忠実に従っていたということだけだ。」

「宜しく…、お願いします…。」

不安と緊張気味にヤマトに話しかけるルフト、ムサシとの間には信頼関係は構築できているのでまだマシな方だが、ヤマトにはそれが無い。故にどういう反応をされるのかを恐れてしまっているのだ。

 

「ルフトとムスペルヘイムね?2人とも、宜しく。」

「は…はい…‼︎」

しかしその懸念は杞憂に終わる、ヤマトは2人を受け入れるのかのように挨拶する。

 

「ムサシ、あなたが2人を生み出さなければあの2人との出会いは無かった、あまり自分を責めなくていいわ。」

「ありがとう、お姉ちゃん…。」

勿論これは2人に明確な悪意が無いということが分かりきった上で成り立っている会話だが。

そんな明るい雰囲気がその場を支配する、しかし次の瞬間にそれはーー

 

 

「…な、何なの⁉︎この気配は⁉︎」

「…ヤツよ、ヤツの気配よ…‼︎それも今までに無い程禍々しい…‼︎」

ーーフィンブルヴィンテルめ、己が全力をもって私を屠るために動くか、兵を無数生み出して。まあスケールも把握済みだし全て想定内だがな…。だが念は入れておこう、更に強くなって己が望むシナリオ通りにきちんと終わるように。

突如として襲ってくる禍々しい気配に驚き戦慄する智史を除く皆。

 

「お姉ちゃん、フィンブルヴィンテルから通信が!」

 

ーーブゥンッ‼︎

 

「“余の話が聞こえているかな、虫けら共?”」

「フ…フィンブルヴィンテル‼︎奴め、一体何をするつもりなんだ!」

「“あの野獣の手を借りたとはいえ、貴様等は虫けらにしては良く粘ったな、大したものよ。だがそれもここまで。

この光景を見るがいい。”」

その言葉と共にモニターが切り替わる、そこには何と無数の巨大な艦影があった、しかもどこかで見覚えがあるようなものばかりの。

 

「なぁっ…‼︎私の…、コピーだと…⁉︎」

「お姉様や私の偽物を作るなんて…!」

ーー想定内に終わっているとはいえやはり見ると胸糞悪いな、これまで私が倒したモノの二番煎じを大量に作った挙句に私のコピーまで作るとは。気色悪い…。

画像に映された光景は智史のことをよく知らない者達にしてみれば唖然とするものだった、なんと智史がこれまで倒した超兵器達と自分の姿を模した艨艟の群れが海を埋め尽くしていたのだ。智史のことをよく知らない2人ーールフトとムスペルヘイムを唖然とさせるには必要十分すぎた。

 

「“どうだ虫けら共よ。貴様等がいくら余の手駒を倒しても、余はそれ以上の数を揃え、更なる絶望をもって応えてやる用意ができているぞ?これを見てとくと絶望し、震え上がるがいい。今すぐやってもいいがそれでは恐怖を刻みつけて殺すには不十分よ、今から7日後に貴様等をこの手駒共で蹴散らし、食い尽くしてやろう。”」

ーー私との間にこれ程の差が開いていようと平然とこれ程のことを言うとは、大したものだ。その魂胆は賞賛に値する。だが思い知れ、貴様の行動は全て私の想定内だと…。

そして通信は切れる、それを見て震えるルフトとムスペルヘイム。しかし智史とヤマト姉妹は少し違っていた。

 

「超兵器は上位クラスが20、中堅クラスが300、尖兵クラスが600、それ以外の艦は合計で3000か…。まさに最後に相応しい超兵器と艨艟共のバーゲンセールだな…。そしてこの奴等を始末できるのは私しかおるまい。なら私が全部始末してやろう。」

「冗談かリヴァイアサン⁉︎あんな艨艟共を貴艦1隻でだと⁉︎冗談にしても程がある!」

「そうよ、ムスペルが言う通りあんなのにあなたが勝てる筈も無いわ‼︎」

「落ち着いて二人共。彼はあなた達やフィンブルヴィンテルとは格段に格が違うわ。」

「しかしムサシ様‼︎これでは勝ち目が…‼︎」

「確かに数や雰囲気ではそう言う風には見えるわ、だからと言って彼を甘く見てない?彼の恐ろしさを私は身をもって味わされた。」

「………。」

 

「智史さん、あの化け物達を始末できるのは貴方しかいない。でも忘れないで、貴方にその「戦果」を全部くれる気など私達には無い。無理しないぐらいで1つや2つ、頂こうかしら?」

「ふっ、ここまで成長するとはなヤマト。今のお前は「総旗艦」の名に恥さないな。行こうか、決戦の地へ。」

「ふふふ、大事なことを忘れてない?」

 

「“私達のことも忘れるなぁ〜‼︎”」

「“智史、あなたがそう言うなら私もついて行く。あなたが私達に「自分の足で地に立て」と突きつけられたからには貴方の独り占めは許さない。もししたら…、全力でぶっ飛ばす。”」

「アシガラ、イオナ…。」

「“智史さん、あなたに全部独り占めにされたら私が戦った価値が無くなってしまいます、だからあなたが断っても断固として付いて行かせていただきます!”」

「“あなた1人で『ヒーローショー』なんてズルイですよ、私も出演します!”」

「サクラ…、タカオ…。」

「“智史さん、折角のフィニッシュだというのに締めがあなた1人なのは何か寂しくない?役者が揃ってこそ大団円だというのに。”」

「“これが最後の戦い…、ならばその締め、私にも手伝わせてください!”」

「モンタナ、オウミまで…。皆揃って締めに加わりたいのか…。いいだろう、だが駆除は…。言うまでもないか」

そう言う智史、実際にそう言ってまでフィンブルヴィンテルとの決戦に参加する者達はあまり多くはなく、それを考慮するに仮に彼らが抜けても化け物共の完全駆除には差し支えは無い規模で収まっていた、万が一支障が出たとしても自分が最終的に始末すればいいだけのことである、それだけ智史は慎重、いや臆病なぐらいに自己強化を異常なペースで推し進めた上で『フィンブルヴィンテル一味を完膚なきまでに撃滅する』という結末となるようにシナリオを描いてきたのだ。彼の『課題』といえば群像達といった役者達をフルに使いながら、フィンブルヴィンテルをどう倒そうかということぐらいだった。

 

ーーふふふ、サクラがいた世界では何重にも合体した超重力砲を撃ったという実例があったのか…。ならばフィンブルヴィンテルへの『トドメの一撃』としてこいつを使ってやろう、イオナや群像もそこに加えて…。まあ妄想に終わるかもしれんが…。

 

そう考える智史、そこにーー

 

「智史くんニヤニヤして嬉しそうね。ショーをどうやって締めくくろうか考えてたの?」

「ああ、色々試行錯誤していたよ、様々な『欲求』が入り混じって居たからな…。やはり『感情』は時に合理性を奪うか…。最初から『感情』を捨てていればあっさりと終わったのだが、私自身がそれを捨てられなかった、いや捨てようとしなかっただけなのかもな…。」

「そんなことないわ。智史くんが最初から『心』を捨てていたらこんなに楽しいことは無かったじゃない。それに自分が『バカ』だということに気がつき、隠そうとせずに素直に認められる人は殆ど居ないわ。寧ろカッコいいって思っちゃうぐらい。」

「ふっ…。自分の願望と本音が一致しない『バカ』であることを認めながら自分の願望を実現させるとしようか、そのぐらい柔軟でないとダメだ…。」

「智史さん、琴乃さん。お話中ごめんなさい。私から提案が有るんだけど…。」

「ヤマトか、ふっ、最終決戦前にとびきり豪華で陽気で情熱的な『パーティー』を催して士気を盛大に上げようという訳か、ふふふ、悪くないな…。だが念は入れておこう、一応タイムリミットまで時間があるとはいえ、ヤツがそれを守ってくれるという『確証』は無いからな。」

「ありがとう、ならマミヤ、智史さん達と一緒に早速取り掛かりましょう。」

「了解いたしました、ヤマト様。」

「マミヤ、お姉ちゃん、私も手伝っていい?」

「ムサシ⁉︎…ふふふ、しょうがない子ね。」

「蒔絵達やヒュウガ達も入りたそうだな、折角だから彼らもそこに入れてあげようか。あと明日決戦ならばその間の時間も無駄には出来んな、ヤマト、着いた艦やそこにいる艦に漸次『明日』に向けた戦闘準備をさせるよう、補給部隊に伝えておいてくれ。」

そう会話する智史達、この後智史はパーティーのための料理を作りながら前からやっていたリアルタイムレベルでの警戒を一層強化して鉾を研いで待ち構えていたものの、彼らが自分達と合流する時になっても動きは無かった。しかしそうだからと言ってフィンブルヴィンテル一味が動かないという絶対的確証は無い、運命を『完全』にコントロール下に置かない限りは。まあフィンブルヴィンテルに『動く』意思が現時点では無いということは事細かに把握してはいたし、そもそももう既に多次元世界の時系列を歪めるわぶち壊すわのとんでもない域に到達しながら更に貪欲に力を求めていた状態なので本人がその気になれば余裕で彼らの『運命』も全部コントロール出来るのだが…。

 

 

それはさておきとして。

 

 

「ズイカク、こっちはどうだ?」

「順調だ、しかしこれだとお前の艦の中の魚が殆ど無くなるぞ?まあいいか、魚は生ものだからな。」

「ヤマト、料理の腕は少しは上がったようだな、やはり日々の隙間にマミヤと共に料理の練習をしていたのが効いたな。」

「そうね、ハワイやここに来る間に料理をちょくちょくとマミヤから教えてもらったから、上手くなっちゃった。」

「私も自分の手作り料理という形でこの戦いに関われるのは嬉しいです、琴乃様、サラダの調子は?」

「順調よ、やはり自分で作る料理によってみんなの士気が上がるということを考えるとやる気になっちゃう。」

「そうか、琴乃。ところでムサシ、ハンバーグを焼くときは中火で焼け、弱火だとハンバーグの中まで火が通らないし、強火だと表面が焦げてしまうからな。」

「分かったわ、料理というものは作る機会があまり無かったから少し大変ね…。でもフィンブルヴィンテルに一矢を報いる為の気合を入れることを考えるとこんなことでくじける気なんか無いわ。」

「ハルハル、キリシマ。レアチーズケーキはね、材料を適切に調合した上で焼かないと出来ないよ〜?」

「わかっている、要するにレシピ通りに焼けばいいだけのことなのだな。」

「私は直接は関われないか、めんどくさい…。まあいか仕方ないことなのだが。」

智史達はそう言いながら料理を完成させていく、パーティーはバイキング形式で行われることとなり、リヴァイアサンの航空機格納庫内で行われることとなった。その事については主催者であるヤマトが事前に伝えてくれたようだ。

そして招かれた『客』達が次々と彼らの元へと到着する。

 

「ヤマトがフィンブルヴィンテルとの戦いの為の気合を入れる為のパーティーに出てくる料理、どういう味なんだろう〜‼︎」

「アシガラ、はしゃがないの。そのパーティーは総旗艦様だけではなくて智史さんや元旗艦代理さんもそこに加わって作られたんだから。」

「硫黄島でのあの人の料理美味しかったな〜、頭多少変なところあるけど根や料理はまともだから。どんなのが出てくるんだろう?」

「あいつやマミヤはともかくヤマトやムサシも料理を作るだと。どういう味なんだろうなぁ、イオナ?」

「分からない、でもフィンブルヴィンテルとの決戦に向けての気合が入るならどんな味でもいい。」

「そうか、イオナ。俺はこのパーティーの後にリヴァイアサンにある浴場に入ってゆっくり英気を養いたい。」

「艦長がそう言われるのは、ちょっと意外ですね。まあこういう日が来るのは横須賀を抜けて以来のことですからね、自分もそうしたい気持ちです。」

「イオナ、群像、もうすぐパーティー会場だよ。美味そうな匂いがプンプンと漂ってくるのがわかるでしょ?」

「どんな料理が並んでいるんだろう、楽しいなぁ〜!」

「そういう事ばかり考えずに作った奴らの気持ちや苦労も考えろ!」

彼らはそう会話しながらパーティー会場に入って来る、そしてそこに並んでいる料理に視線を奪われる。

 

「うわぁ〜、美味しそう〜‼︎智史、ヤマト、マミヤ、早速かぶりついていい?」

「構いませんアシガラ様。私はあなたのこの顔を見る為に智史様やヤマト様方と共にこの料理を作らせて頂きました。」

「他の者も遠慮するな、どんどん食って飲め。遠慮してると気合は入らんし英気も養われぬぞ?」

「彼がそう言っているならアシガラに続いて私達もそうしましょう。」

「はい、モンタナ様。」

智史にそう促された彼らは次々とバイキングの料理を皿に取って、そして美味しそうに食べていく。その光景は色々な感情が入り乱れて混沌となってはいたもののそこには決して負の感情など無い、むしろその時を楽しんでいるという感情一色だった。

 

「これが鳥の丸焼きかぁ〜‼︎旨えなぁ〜!」

「豚肉のワイン煮か…。どれどれ……、…⁉︎こ…これは…!美味い、美味すぎる…‼︎」

「サラダの具材…、とてもしゃりしゃりして美味しい…。」

「やはり『一流』クラスが揃って作った料理はまるで訳が違うわ、なんでも生成できるチート野郎といい、後方支援の一役を担うマミヤといい…。」

「どれどれ…。う、うまい…!」

「これぞ決戦への気合を入れるに相応しい料理よ!」

「提督、これ美味しいですね。」

「サクラ、明日の為に今を楽しもう、今はそれが大事だ。」

「美味しい、これうめぇ〜!」

「よこせ、よこせぇ〜‼︎」

「ヒュウガちゃん、これは私と智史ちゃんの特製よ。さあ、食べて♪」

「うえっ…‼︎」

「マミヤ、智史さん、ありがとう。」

「いえモンタナ様、これがこの決戦の役に立つならこのぐらいの苦労など苦にもなりません。」

「ならマミヤ、貴艦も私と一緒に食べろ。無理しないでくれ。」

モンタナにこの程度の料理など苦にもならないと告げるマミヤ、その彼女にもパーティーに交わる権利はあると告げ強引に食べされるノースカロライナ。

 

「ムスペル、ルフト、一緒に食べましょう。」

「しかしムサシ様…。」

「いいのよ、彼もお姉ちゃんも構わないって顔で語ってるわ。」

「は、はい…。」

当初はその雰囲気に交れなかったルフトやムスペルもムサシに促されるままに料理を口にする、そしてあまりの美味しさに箸がどんどん進んでしまい、それに伴ってその雰囲気に次第に溶け込んでいくのだった。

そして『宴』は高ぶりと共に進む、料理が皿から大分消えた頃、智史と群像、杏平、像の男組はリヴァイアサンの男浴場に一足早く浸かっていた。

 

「ふ〜、やっぱり風呂に浸かるのって最高だわ〜。」

「色々な風呂がありますね、風呂の質比べもしたいぐらいに。」

「そして雰囲気が随分とロマンチックだな、これはどういう狙いで?」

「ふっ、空間に『高級感』と『気品』を出すことでこの空間が私やお前たちの『日常』と異なる価値観を持つことを示したかったからだ。」

「俺にしてみればちょっとやり過ぎだな…。ここに居ていいのかという思いが心で疼いているんだが…。」

「まあそう言うな、遠慮なくこのひと時を楽しめ。ところで群像、色々と振り回してすまなかったな。」

「ふっ、ここに至るまでの俺と君の間での出来事か…。君に振り回され遊ばれたとはいえ、君は俺達を『駒』として見ることなくそれどころか俺達を『独り立ち』させる手伝いをしてくれた。あと少しでこの世界を揺るがしている『大戦』は終わる、そこまで俺達を導き、かつ霧と人類が和解し合う未来の切欠を作ってくれたのは君だ、ありがとう。」

「ふっ、まさかこういうセリフが出るとはな…。まあいい、だが『戦』はこの『大戦』が終わったあとも終わらんぞ、私がお前に『手出し』を止めさせられたせいで人間の『本質』が変わらないことが確定したからな。」

「分かっている、俺達の『戦い』はまだ終わらない、たとえ散り散りとなろうとも…。」

「そうですね、彼が人間を『人間』で無くすという行為を止めた以上、我々は戦わねばならない定めにありますからね…。」

彼らは様々な湯船に浸かりながら此れ迄の出来事、そしてこれからの出来事について考えながらそう話をする。

 

「コーヒー牛乳だ、風呂上がりに一杯飲むか?」

「ああ、俺にもくれ。」

「どうぞ。」

杏平が智史の手元にあったコーヒー牛乳の瓶を手に取り、蓋を開けて飲む。

 

「か〜っ‼︎やはり風呂上がりの後のコーヒー牛乳はうめぇな〜!」

「そうか。だがのぼせるなよ、毛穴が今開きっぱなしな状態だからな。」

「今のままだと風邪ひくって言いてえんだろ?ハイハイ、分かってるよ。」

そして彼らは更衣室内でタオルで体を拭いたあと、少しそこで耳かき、ドライヤーをやりながら休むことにした。

 

「琴乃、イオナ、これから風呂に入るのか?」

「そう、群像は今どうしてる?」

「今男用更衣室で休憩中だ、さっきまで風呂に入ってたからな」

「なるほど、ところで風呂ってどういう感じ?私は霧のメンタルモデル、風呂に入ったことが一度もない…。」

「風呂というものは命を洗濯する場所だ、霧も人間も隔てなくな。」

「智史くん、言ってることは間違ってないけどイオナちゃんは感触について尋ねているのよ?」

「人によって感じ方は違う、それは霧にも言える。イオナ、入るなら入れ。戸惑ってばかりでは何も始まらぬ。」

「分かった、ありがとう。」

そしてイオナと琴乃は女浴場に入っていく、あとに続いてヒエイ達、蒔絵達も女浴場に入っていった。やがて賑やかな声や雰囲気が智史の心に伝わってくる。

 

「ほらほらこっち向いてぇ〜!」

「きゃぁっ!」

「く、くすぐったい…。」

「あったけぇ…‼︎これが風呂か…!」

「色々なものが材料として使われてるけど、なぜ?」

「401、これは智史や私達が作った風呂だ。」

「智史が…?なるほど、だからこういう雰囲気なんだ。」

 

「智史、イオナはどうしてる?」

「琴乃やいおり、静やヒエイ達と一緒に風呂に入っている最中だ。だがこいつらが入っているのは男子禁制の『空間』だぞ?スケベなことを行動に移すなよ?」

「わ…、分かっている…。」

智史にそうからかわれて思わず照れる群像。そして風呂から皆上がるとそれぞれの寝床についていく、明日の為に。

智史はそんな様子を見ながらフィンブルヴィンテル一味の奇襲に備える。

 

「智史ちゃん、こんな時間に一人監視の任務を遂行してるなんてなんか大変ね。」

「イセ、ヒュウガか。こんな時間に来るとは何様だ?」

「別に。あんたはここに至るまでに私たちを好き勝手に振り回してはくれたけど、もしあんたが居なかったらここまで来る前にあいつの手先にイオナ姉様共々食われて終わりだったわ。」

「私を褒める、か…。ふっ、悪くないな。それでこの戦いが終わった後、お前達はどうするのだ?」

「さあね…。でもイオナ姉様や総旗艦、群像達と一緒にあんたがやる予定だった『世界造り』に積極的に関わっていくことは確かだわ…。」

「私もヒュウガちゃんについてくわ、智史ちゃんはどうするの?」

「私は外に出る、更なる強者を一方的な迄に打ち倒して陵辱する為に。」

「なるほどね…。でもそれ以外の理由で外に出るのもアリなんじゃない?ほら、旅行しながらとか。」

「ふっ、お前にそう言われるとはな…。まあそれも悪くないだろう、戦って殺してばっかりではつまらんかもしれないからな。他の世界を見ることで教養も深められていいかもしれん。そしてこの世界に残って幸せな日を過ごすという手もあるがそれだと鉾を研ぎ盾を磨く機会が減るし次の強者が出てくる時を待たなければならなくなってしまう。だからだ。」

 

海風が吹いて冷え込む夜の中で明日に『決戦』に向けた準備は3人が会話している間の中でも粛々と、しかし急ピッチで進んでいく、ある艦は弾薬を供給し、またある艦は欠損ヶ所の修復、新装備の装着に追われていた。そして夜は開けて『決戦』の時が来た、『決戦』に向けて智史を除いた皆の緊張が高まっていく。

 

 

「皆さん、遂に悪魔、フィンブルヴィンテルとの決戦の時が来ました。緊張しているでしょう、しくじったら滅ぼされておしまいの戦いーー背水の戦いなのですから。こんな話があります、かつて日露戦争でバルチック艦隊が日本本土近くに攻め寄せてきた時、その時日本を守っていた連合艦隊の司令長官、東郷平八郎は「皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ、各員一層奮励努力セヨ」という意味合いのZ旗を掲げて全艦隊に檄を飛ばし、そして彼の艦隊は死力を尽くしてバルチック艦隊を打ち破りました。

この海戦の勝因はともかくとして、この言葉の背景には「この戦いで自分達が負けたら日本は終わる」という危機感があります。実際に私達が負けたら私達も終わってしまいます、一人でも欠ければ私達の敗北の定めは免れないかもしれません。

でも私達は未来に進まねばなりません、そして私達が未来に進むためにはこの使命を乗り越え、勝利するしかありません。そして私達の双肩には霧と人類の運命、いえこの惑星の運命が掛かっています!」

ヤマトがそう呟く、するとヤマトの船体の後部マストにZ旗が掲揚された。

 

「東郷長官があの日そうされて滅びの定めに打ち勝ったように私たちもこの滅びの定めを打ち砕きましょう。

『未来の地球の興廃はこの一戦にあり、各員一層奮励努力せよ!』」

 

ーーふっ、立派な演説だ。実際の主役は私になるシナリオだが、このショーの締めにお前たちを加えるという関係上、こういう演説も悪くない。むしろ心に響いてくる感じだ。

そう心の中でこっそりと呟く智史、そしてヤマトのその檄が艦隊の全員に響いたのか、あちこちから気合を込めた叫び声が轟く、そして艦隊はフィンブルヴィンテルの元に向けて進撃を開始する。

遂に智史も含めたヤマト達とフィンブルヴィンテル一味との最終決戦が始まろうとしていたーー




おまけ

決戦艦隊の陣容について

旗艦 超戦艦ヤマト

構成

究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサン

超兵器 超巨大航空戦艦オウミ

イージスミサイル超戦艦 信長

超戦艦 ヤマト

大戦艦 モンタナ ヒエイ ノースカロライナ ネブラスカ イリノイ ヴァーモント ニューハンプシャー ルイジアナ

航空母艦 10隻

重巡洋艦 タカオ ミョウコウ ナチ アシガラ ハグロ その他8隻

軽巡洋艦 18隻

潜水艦 イ401 以下14隻


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第34話 最終決戦

とうとうフィンブルヴィンテルとの最終決戦です。
フィンブルヴィンテルがwsg2にはなかったラスボス恒例の形態変化を次々と実行するのでそこはご容赦下さい。
そしていつものことですがリヴァイアサンが圧倒的に強いです。
色々と展開を悩みながら書いたのでチグハグな所があるかもしれません。
あと合体超重力砲とか取り込みたかったのですがストーリーの展開上それはできなくなってしまいました。
それでも自分なりに頑張って書きました。
それではじっくりとお楽しみ下さい。


「侵攻作戦は、順調に進んでいるか…。」

「はっ、大統領閣下。霧や日本の協力を取り付けた事により装備の配給が速やかに進んだ事やリヴァイアサンが少し手抜きをしたとはいえ最終的には速やかに我が軍の兵士の被害を抑え込んだおかげでヨーロッパ侵攻は順調に進んでいます。」

「“手抜きをした”ではなく、“我々に教訓を提示した”と言った方が相応しいだろう。まあいい、これだけで我が国が再び世界の覇権を握れるなら容易いものだ。」

「ですが世界の覇権を再び握るというプロセスの1つにはとても重要です。まあ覇権を握ろうにも今すぐには握れない状態ですがね。」

「あと覇権を何の為に使うかだ、今後訪れる『未来』で我々自身の為だけに覇権を使うことは許されん状態だということは彼や霧、そしてあの青年が外的要因として暗に示してくれている。また何の計画もなしに覇権を振るうことは最終的には我が国を『内部』から滅ぼすからな。」

「軍産複合体ですね、彼らの処遇も今後、いや今すぐにでも考える必要があるでしょう…。」

そう会話する大統領と側近。彼らは『腐敗』というものを放置すればどのような害を齎すのかを先人達から学び、そしてそれを生かす事で今後の国家計画に悪影響を齎さぬように考えていた。

 

「大統領閣下、先程リヴァイアサン以下の艦隊がフィンブルヴィンテルがいる北極海に向けて出港した模様です。」

「そうか…。我々がこの戦いに関わるだけの力が無い以上、彼らに託すしかあるまい。」

「そうですね、悔しいですが今の我が国の国力ではそれは叶いません。そして彼らが負けてしまったら我々も終わりですね。」

「だが彼がいると彼らが負けるという確証が浮いてこないな、何故だ…?」

その予測はリヴァイアサン=智史の完勝という形で的中する事になる、しかし今の彼らには明確には答えられなかった…。

 

ーータイタニック号沈没地点から東に500㎞地点

 

「フィンブルヴィンテル一味は北極海から動く気配は無いようだ、それを示すのかのように敵影確認されず。偵察の精度を念入りに上げていても見つからんとは…。まあいか仕方あるまいな。」

そう呟く智史、実際に偵察機達やこの世界のあらゆるネットワークをハッキングしてデータを一から100まで把握しまくってはいたものの、フィンブルヴィンテルが北極海以外に動く兆候は見られないという返答ばかりだった。死亡フラグかと勘繰りさらに深く調べるものの、まったく同じ回答ばかりだった。

 

「奴ら以上に強くなっている、いや強くなり過ぎてしまっている状態の上でシナリオの想定内に簡単に収めているとはいえ、念には念を入れなくてはな。」

そう言い智史は被害妄想からか、更なる自己強化を推し進める、もう十分に強化を推し進めすぎているというのに。そしてそれはやっぱり杞憂に終わる、しかし自己強化のペースを上げることは今後の事に対する対処力を上げるという面で見れば決して悪い事ではなかった…。

 

「智史さん、他に敵影は確認できた?」

「いや、超兵器の奴ら以外には何も確認できん。あまりに静かすぎてもしかしたらステルスの野郎がいるかもしれんと思わず勘ぐってしまうぐらいだ。」

「リヴァイアサン、貴方のその心配、全部杞憂に終わりそうな気がする、だってもう十分に強くなり過ぎてしまっているのにさらに強くなり過ぎようと貴方自身が仕向けてしまっているから。」

「そうか、あそれはさておきとしてもうすぐ敵艦隊までの距離が1000㎞を切った。」

「分かったわ、総員第1種戦闘態勢!これより我が艦隊はリヴァイアサンを先頭にして敵艦隊に突入します!」

ヤマトのその言葉と共にリヴァイアサンが船足を早めて敵艦隊に真っ先に突っ込んでいく、そして艦隊がリヴァイアサンのあとに続くようにして突撃陣形を取る。リヴァイアサンの左舷飛行甲板に航空機が次々と生成され飛び立ち、その後に続くように航空母艦からも航空機が飛び立っていく。敵艦隊の方もこれと同じく感づいたのか、VLS群からミサイルが放たれ、艦載機が飛び立っていく。

 

ーーまずは、制空権の確保、か…。

 

そして智史側の艦載機達から空対空ミサイルが放たれた事を契機として空戦が勃発する、数は敵の方が上回ってはいたし、火力も霧の航空機基準で言ってしまえば普通に上回っていた、そう、普通の相手ならそうだと言っていい。しかし彼らが相対した相手ーー彼、海神智史はそんな火力すら簡単に力づくでねじ伏せる事を前提とし、異常なまでに強化を推し進め過ぎた『力』の権化としか言いようが無いとんでもない化け物だった。

要するに全てが彼のシナリオの「想定内」に収まっていると言っていい絶望的な差が広がっていた、敵側は数を生かして襲いかかるも相手はこちらの規模を完全に見透かした上で全て「想定内」に収まるように異常過ぎるペースでの強化をしてきたので性能差で簡単に圧倒されてしまう、戦闘機はおろか爆撃機や攻撃機さえ敵の迎撃隊に余裕で勝ってしまうのだ。彼らが此れ迄に一方的な勝利を収めてきたのも前述の鉄則が十二分に生かされてきたからである、戦術とかで覆そうにも全て見透かされた上で「想定内」に収まってしまっているのではどうしようも無い、瞬く間に敵軍はシャチの群れに容赦なく食い散らされるのかのように次々と一方的に殲滅され、蒼空に爆発を残して消えていった。

 

「す、凄い…。」

「リヴァイアサン、だからと言ってこれだけで敵軍に勝てるのか?」

「今のは小手調べだ、ムスペルヘイム。次だ次。」

 

そしてリヴァイアサンから更に艦載機が追加で飛び立つ。既に先陣は敵艦隊に食ってかかっていた、敵艦隊の方も全艦が熾烈な勢いで対空砲火の花火を蒼空に咲かせるものの、彼らはこれなど意にも介さぬように当たったものは受け止め全て吸収しそして雑兵達を容赦なく食い散らし、次々と落し物を叩きつけて臓腑を抉り出して沈黙させていく、しかも弾切れ、燃料切れなど知らないと言わんばかりにこれを平然と続ける。おまけに何時ものお約束のように進化を続けているために彼らの攻撃の重みは急激に増す。

もはや敵艦隊は半壊状態で迎撃隊を繰り出してこの攻撃を排除しようにもその前に艦載機が蹴散らされるわ空母が沈められるわでてんやわんやだった、超兵器達の一部をあえて除いて。

そしてこんな状態でももう悲惨だというのに更に追い討ちを掛けると言わんばかりに追加の航空機部隊が容赦なく襲いかかる、これに合わせるかのように先客達もこれは本気では無いと言わんばかりに一層攻撃を苛烈にしていく。

 

「あえて手加減しているのか?それでも随分と容赦無いな」

「そうだ、航空攻撃で全部殺してもかえって淡白だし面汚しは直直に素手で叩き潰したいからな。だがこれでもカタがつくようにしてある。」

「成る程、それなら問題はない。」

 

しかし殺り甲斐があの化け物共以上にない、事前に把握済みとはいえやはり見るに堪えぬわ。中身が骸よ、攻撃の派手さも落ちているわ…。ウォーシップガンナー2の本家の面汚し共ばかりを生み出して本家を冒涜するつもりかーー

智史がそう呟いた理由の背景には先ほどの敵艦隊の攻撃の内容にあった、なんと攻撃の見た目の派手さが落ちていたのだった、まるで本家の『ストーリー』に則った派手派手しい強さと威厳といった雰囲気が微塵も感じられない。

大量に出てきているということもあったが攻撃の『派手』さが本家程感じられないという理由が大きかった、しかもそれに拍車を掛けるかのように彼らには『心』が感じられない、中身が空っぽだったからだ。

 

「ワタシハ…、ヴォルケンクラッツァー…。」

「オウミ、『ヴォルケン』がいるけど…、言うまでもないわね。」

「はい、あれは今は亡きヴォルケン様の皮を被った紛い物です。」

「ワタシハ…ワダツミサトシ…。」

「あれは、智史さんではない…。智史さんの皮を被った人形…。」

彼女達も一瞬であれは本家ではないことを見抜いた。距離がだいぶ縮まったのか、敵艦隊からリヴァイアサンに向けて一斉に射撃が開始される、しかしそれはどれも前述のごとくインパクトに欠け、面汚しといっていいほどに見た目とは違っていた、それでも威力は本家並かそれ以上だったので超兵器としての面子は多少は保てただろう。しかしそれは程度の問題である、既にスケールを把握済みかつ対処済みであった智史にしてみればこの程度の攻撃など全く効くわけがない。そしてそれは前述の理由と相まって智史の奥底にあった憤怒という感情を更に激しく煮えたぎらせるだけにおわった。

 

「面汚しが…。1匹残らず冥底に案内してくれるわ。」

そして鋼鉄の魔龍ーーリヴァイアサンは怒りの咆哮をあげ、怒りのままに片っ端から敵艦にレールガンやX線レーザーを撃ち込み、皆一撃で魔龍の牙に引き裂かれ、食い千切られたのかの様に跡形もなく吹き飛ばし、焼き尽くしていく、ヴォルケンクラッツァーのような上位クラスまで軽く一撃で吹っ飛ばされて四散してしまうのだ、クラインフィールドなどのバリアを展開しようがしまいが。それが敵艦隊全艦に満遍なく行われたのだから凄惨という言葉でも生温い。

 

ーービュォァァァァァ!

ーーパシュゥゥゥン!

ーーパキィィィィン!

 

「ワタシ…、ホンケ…。」

「本家の名誉を貶すとは、随分と汚い真似をしてくれるな…。おまけに私は『1人』で充分だというのに私の姿を模・す・だ・と…?

死ね、この面汚しが…‼︎」

 

ーーキュォォン!

ーードグァァァァァン!

 

本家海龍の面汚しに等しい攻撃をしておいた上に自分の姿を模し挙げ句の果てには本家を名乗る敵に対し智史は一際念入りに、しかし憤怒も込めて徹底的に掃滅した、塵1つ残らず消え失せるまで。彼はレールガンの一撃で船体を吹き飛ばした後更なる掃討を行いあらゆる砲撃を浴びせて破片1つさえ視認できなくなるまでに一片の情も見せずに徹底的に掃滅していった。

 

「このような面汚しは嫌いだ。」

「よ、容赦ねえな…。」

「アシガラ、彼がされたことをあなたがされたらどうなるか考えなさい。」

 

そのような会話が飛び交う、敵艦隊も流石に不利を悟ったのか、後退を始めようとするがその前に憤怒一色に身を染めた智史が猛烈な勢いで迫る。

 

「本家の面を汚した貴様等を逃す理由など無い。1匹残らず滅殺してやる。」

 

この時になって敵軍は最初で最期の恐怖を味わった、そして悟った、“もうここから逃げられない、自分達はあの化け物に引き裂かれ、食い散らされる定めだ”と。何せ魔龍が爛々と目を憤怒の焔をはっきりと分かるぐらいに輝かせ、こちらの攻撃を物ともせずに弾き返して迫ってくるからだ。逃げようものならどうされるかは目に見えてわかっていた。

リヴァイアサンが近くまで迫ってきた時に抵抗はピタリと止まってしまった、そしてレールガンを始めとした兵装が咆哮を上げて辺りを滅茶苦茶に薙ぎ払っていく。全てを徹底的に破壊し終えるまで蹂躙は終わらなかった。

 

「オイオイオイ、全部喰らい尽くす気かお前‼︎馬鹿にされて怒る気はわかるけどここまでやるかぁ〜い‼︎」

「智史、私達の出番が…。」

「あ、そうだった、スミマセン…。」

加減を加えたとはいえ、あまりに怒り狂って暴れまくったせいで皆の食い分を残すのを忘れてしまった智史は皆にそのことを責められる、まあ世界平和という最終的理想を実現する事にしてみれば『些事』なのだが…。

 

「フィンブルヴィンテル周辺の敵戦力は私抜きでも十分に倒せる規模だが…。」

「ふふふ、だったらあなたがフィンブルヴィンテル以外の敵に余程の事がなければ手を掛けるのは禁止ね?」

「了解…。ところでどうする、フィンブルヴィンテルに直接乗り込んで一矢を報いたいか?」

「そうね、力の差が分かってはいてもそうしたいわ。」

「ならば結構、こちらの演算を補助として貸そう。」

「えっ?」

「私の演算リソースをお前達の補助演算として一時的に貸すという事だ、なぁに、演算リソースはクソみたいな勢いでじゃんじゃん増やしてるから足りなかったらどんどん継ぎ足してやる。」

「『余裕』を大量に持ち、かつこれに満足せずにその『余裕』を増やしまくっているからこそ、出来る芸当ね…。いいわ、あなたのその提案に乗るわ。」

「私達も行こう、あの面に一撃食らわしたいからな。」

「同論だ。」

「やれやれ、面倒くさい…。蒔絵、お前はどうするのだ?」

「あいつの為の劇薬使ってあの威張り面を捻じ曲げてギャフンと言わせたいから、行きたい!あと智史に任せっきりなのも何か嫌だから1発かましたいのもある!」

「蒔絵、あまり調子に乗るなよ。」

「奴から攻撃食らってないから奴に対する恨みはあまりないが、せっかく実戦をやる機会だから乗る。」

「ハルナ、キリシマ、コンゴウ、ズイカク…。あなた達もついていくのね。これが奴に対する『最初で最後』の復讐だから盛大にやりましょう。」

「ムサシ、『借り』を返しに行くの?」

「そう、リヴァイアサンがやりたいかって提案してくれたから。」

「わかったわ、智史さん、ムサシ達の事を宜しく。」

「了解。」

彼らはそう会話する、これは智史が思いついたシナリオ内での『興』であるのだが。

 

「防衛にあたっていた艦隊が、リヴァイアサンによって全て壊滅!リヴァイアサン、こちらに向かってきます!」

「(ふふふ、来たかリヴァイアサン…。先程のものは小手調べだったがやはり貴様は余が認めるに足る存在であるようだ…。)」

「リヴァイアサンの船影を肉眼にて捕捉!後続も複数確認!」

リヴァイアサンを確認した事によって雰囲気に緊張が走る、しかしそれはヤマト達も同じ事だった、彼らもまたフィンブルヴィンテル達に『近い』ものを持っていたのだから。

 

「フィンブルヴィンテルと敵艦隊をレーダーに確認しました!」

「智史さん、取り決め通りにフィンブルヴィンテルに向かって!それ以外は私達が片付けるわ!」

「リヴァイアサンが余が相手をする、それ以外は誰1匹さえ入れるな。」

「し、しかし、それでは…‼︎」

「口を挟む許可を出した覚えは無い、分かったらとっとと掛かれ。」

「は、はい…!」

フィンブルヴィンテルはそう檄を飛ばす、そしてお互いが定められた場所で戦いを始めるのかのように整然と戦端を開いていく。仲間達が活路を開く為に戦っているのを智史は見届けるとフィンブルヴィンテルのところに直進していく。

 

「ナチは戦闘管制並びにミョウコウの超重力砲の照準補佐を!アシガラとハグロはナチからのデータを元にして前衛から始末なさい!」

「了解!」

「リヴァイアサンから入電、『サクラ、提督、これが最後の戦いとなるからな、もう自重しなくていいぞ。思う存分太刀を振るうがいい!』」

「了解した、総員戦闘配置に就け!」

「分かりました、全VLS開放、主砲撃ち方始め!」

「ラジャー!」

「イオナ、モンタナ達と協力して敵艦隊を分断して各個撃破だ、機関最大!杏平、撃沈することよりも足を鈍らせることに徹底しろ!」

「あいよ!」

「オウミは制空権を確保しつつ分断された敵艦隊の各個撃破を!」

「分かりました!」

 

「来たか、リヴァイアサン…。待ちわびたぞ。」

「それはこちらもだ。その真意を見抜いていたとはいえ糞みたいなものをぶつけてくれるとはな。」

「ふっ、貴様の言う通りよ。ここは貴様とその連れ、そして余のための空間よ、それ以外は誰とて許さぬ。」

「そうか、なら始めようか、我々だけの『決闘』を。」

「了承した。」

両者が放った言葉は短かかった、しかしそれは最終決戦の火蓋を切るという意味合いが込められていた、2人以外の介入など許さぬように両者を覆う巨大なエネルギーフィールドが展開され、そこに入ろうとするもの全てを拒絶し、海を切り裂く。

 

「エネルギーフィールド、展開されました!」

「あの化け物の制圧は彼に任せています、ならば私達は私達がやるべき事をやるだけです!」

「了解です!」

沈黙と共に海を切り裂いて生み出された空間の中を相対するかのようにゆっくりと対峙する両者、

 

ーーパシュゥゥゥン!

ーーキュォォン!

ーービュォァァァァァ!

 

フィンブルヴィンテルが真っ先に火蓋を切る、熾烈な勢いでレールガンやレーザー、光弾、ミサイルがリヴァイアサンの船体を襲う、だが相手は分身とはいえ『自分』を次々と屠った相手なのだ、この程度などヘチマでもないと言わんばかりに吸収されて強化に回されてしまう。

 

「ふふふ、これを食らうがいい。」

「あれは、私の船体を粉砕したあの黒い雷球…。」

「小娘を殺しかけた時にはまだ加減をしていた、だがこれは加減抜きのやつだ、味わうがいい。」

「避けてリヴァイアサン、あれは危ない!」

「ふっ…。」

雷球はリヴァイアサンを襲う、一瞬巨大な爆発が起こりリヴァイアサンの姿を眩ませる。

 

「どうしたリヴァイアサン、この程度かーー」

 

ーーキュォォン!

 

ーードガァァァァァン!

 

フィンブルヴィンテルがそう挑発しかけた時にリヴァイアサンの砲塔レールガンの一基が唸り、一撃でフィンブルヴィンテルの右舷部分を跡形もなく抉り飛ばす、勿論フィールドはきちんと張られていたがまるでバターを溶かすのかのようにあっさりと破られてしまった。

 

「ふふふ、一撃でここまで我が身を削るとは、流石だなリヴァイアサン、だが奥義はまだ披露はしていないぞ?」

爆煙の中から平然と出てくるリヴァイアサン、勿論これも『感知出来ていれば対処出来る』と言わんばかりにあっさりと無効化された、そしてそれを見てそう呟くフィンブルヴィンテル、先程の一撃の途方もない重さに感心していた。

 

「ぬぉぉぉぉぉぉ…。」

 

ーーバキバキバキバキ!

すると抉り飛ばされた部分を除く外装が剥がれ、見る見るうちに姿形が変わっていく。

 

「あ…、あれは…。」

「フィンブルヴィンテル様が、本気を出されようとしている…。」

「一体どういうこと⁉︎」

「残念だったな、お前達がよく知るフィンブルヴィンテル様のお姿は本来のものとは大きく異なるのだ、あれは仮初めの姿。本来の姿のままであられると己の意識を飲み込まれてしまうからそれを己が苦労せずとも封ぜられるようにあの姿を身につけられたのだ、あの姿を纏われても誰も勝てはしなかったが。だがそう手足を縛っている状態では勝てない程の強敵ーー己と対等に戦える程の力を持つ者が現れた、だからあの方はこの姿を脱ぎ捨てられて全力をもって戦われようとしているーー」

フィンブルヴィンテルの部下の説明は後半は正しかった、しかし前半は違っていた、彼が知っていた事実はフィンブルヴィンテルが生み出された時の事実と異なっていたのだから。

そして群像達は徐々にではあるものの彼らを押し込んでいた、しかしこれを見て少し動揺してしまったがために少し押し返される。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

遂に変形を終えたフィンブルヴィンテル、その姿は先程のものとはまるで異なっていた、一言で言うならば『翼を生やした赤い生肉色の双胴のイカ』、もしくはガメラ3に出てくる怪獣イリスのような姿だろう。何せ後部から触手のようなものが生えている挙句に骨のような羽毛のようなもので構成させた翼が複数、生えているのだから。勿論抉り飛ばされた箇所も修復されていたーー

 

「ふふふ、これは余が貴様と戦うまでに身につけた力を具現した姿よ。先程の姿は『繭』と言った方がいいだろう、あの姿は余の当初の姿からが破壊の権化としての力を封じるものに変わったものよ。」

「御託は要らん、かかって来い。」

「そうか、それが貴様の最期の言葉となろう、いやぁぁぁぁぁ!」

そして姿形を変えたフィンブルヴィンテルはリヴァイアサンに飛び掛る、リヴァイアサン側からレールガンが発砲されたもののフィンブルヴィンテルはそれを一瞬にして躱す。

 

「ほう、やはり期待通りの展開か。」

智史は少し感心したかのようにリヴァイアサンの艦橋でそう呟く、フィンブルヴィンテルの分身が無数視界に映る光景を目にしながら。

 

「これはほんの一部だ、次を見せてやろう。」

 

ーーキンキキンキンキンキン!

ーーカキィィィィン!

 

「超音波メスか、対応済みとはいえ名前は聞くだけで忌々しい…。」

 

リヴァイアサンの船体に光を纏った無数の触手や爪が襲いかかる、しかしその攻撃はクラインフィールドと量子フィールドによって全て弾かれてしまう、仮にそれらがなくても本家のものよりも一方的に隔絶した性能を持つ量子クリスタル装甲やそれを支える自己再生強化・進化システムによって無効化されていたが…。何れにせよリヴァイアサンごと智史はフィンブルヴィンテルにしてみればべらぼうな相手だった。

 

「まだだ、次を見るがいい。」

 

ーーパシュパシュパシュパシュパシュゥゥゥン!

 

ーーパキィィィィン!

 

この後触手や爪から光弾が放たれたり体当たりがリヴァイアサンに何度も行われたものの彼の物理的スペックを把握し尽くし、貪欲にまで力を求めるリヴァイアサンごと智史に新たな『刺激』を与えるには至らなかった。

 

「この程度か?これではまるで心の臓まで響いてこないではないか。」

「何?」

「貴様の攻撃を一覧する為にあえて手加減をしていたがやはり事前に調べた通りか…。そして貴様は心の臓まで響くような攻撃を私が来る前に受けたことがないようだな。」

「そうだ、体の芯まで響いてくるような攻撃をしてきたのは貴様のみ、そしてその殻を脱ぎ捨て全力で相対するだけの価値を見せつけたのも然り。」

「そうか?私にはあまり響いていないように見える、ならば貴様の為に心の臓まで響く攻撃をお見舞いしてやろう、勿論『私』流だがな。」

「ふん、当ててみるがいい。」

「それはどうかな?」

 

ーーキュォォン!

 

「ぐあぉっ⁉︎」

リヴァイアサンのレールガンが咆哮する、それは智史以外の者達にしてみれば捕捉不能だったフィンブルヴィンテルの身体を一瞬にして紙障子でも刺し貫くかのように貫通する。

 

ーーズシャァァァン!

 

「か…、体が震える…。余の動きを瞬時に見切った上でここまでやるとは…。」

「貴様は強い、此れ迄に相対した敵の中で。だがこれは程度の問題だ。」

リヴァイアサンのレールガンによって体を貫かれて海に叩きつけられて外見が半分劣化しながらも立ち上がるフィンブルヴィンテル。

 

「何だ…、この震えは…。そうか、先程の貴様の一撃は『恐怖』という感情を余に呼び起こしたのだな…。」

「そうだ、これによって生に対する執着が芽生えただろう?『平民』共が私や貴様によって味わされた同じものと。」

「そうだな…、余は虫けら共に圧倒的な恐怖を植え付けて恐怖に打ち震える顔を見ながら楽しく殺していったことがあった、だがそうされる側の感覚を余に味わさせたのは貴様が初めてだ。しかし余は並の虫けら共とは違う!余はマスターシップ、フィンブルヴィンテル!最後に生き残るのは貴様ではない!」

フィンブルヴィンテルはそう言う、すると劣化していた船体がどんどん修復され、そして更に変形し、同時に身体全体が白く輝き始め、バックに白い2つの天使の輪が現れた。

 

「己が持つ命まで投入しての姿か…。ふっ、いい『ラスボス』だ。やはりこうでなくては。」

智史はそう呟く、既にフィンブルヴィンテルに当初の面影は無い、最早その姿は禍々しさを通り越して神々しささえ感じさせるほどだった。

 

「これは余が持つ全てを使った余の最終形態だ!この形態を維持する為に我が命を常時費やさなければならぬ、しかしその対価は大きい。命を削ってまで得た力の恐ろしさ、今度は貴様に教え込んでやろう、うぉぁぁ!」

その言葉と共にフィンブルヴィンテルの翼からエネルギーの奔流が放たれた後これまでに無い曲太い光線がリヴァイアサンを襲う。

 

ーードガァァァァン!

ーーゴォォォォォン!

 

「(太陽系が100個は吹き飛ぶ威力か、命の重みが伝わってくると解釈するに相応しい攻撃だな、己の身体をカートリッジにしてまでやっているということが見ただけで分かる。だがそれは何時まで持つのだろうか、こんな形態を維持していたら1時間も持つまい)」

智史のその言葉の通り、フィンブルヴィンテルの翼の部分の一部はあまりのエネルギーが放たれているが為に次々と羽が溶けて吹き飛んでいるのがそこから伺える、そして光線を放っている部分も含め、あらゆる部分の形が僅かづつではあるものの、溶け落ち始めて再び劣化を始めていた。

そして『お約束』の如くリヴァイアサン=海神智史は太陽系など余裕で吹き飛ばすこんな攻撃を受けながらも平然とこんな事を呟いていたのだ。

 

「(エネルギーフィールドが解けていくか…。ふっ、あらゆるものを投入する必要性がある『物事』が目の前に在る状態だからな、他のものは目にも入らない、か…。)」

 

「うぉぉぉぉぉぉ!」

それでも命を削らんと言わんがばかりの攻撃を次々と繰り出すフィンブルヴィンテル、しかし対照的に冷ややかに受け止め吸収してしまう智史。

 

「リヴァイアサン、彼は何者なのだ?」

「智史を指してるのか?」

「智史…?あれがリヴァイアサンの『名前』だというのか?」

「そうだ。奴はとんでもない化け物だ、勝てる気がしない程に。こちらの動きをまるで見透かしているのかのように行動し、一度気に入らないと判断したものは死ぬこと以外何も認めずに徹底的に叩き潰すという残虐性を持ち合わせている。」

「つまり彼に勝てる存在は“前にも後ろにも無し”ということなのか?」

「そう言い切れてしまうぐらいに強い。絶対とは言い切れないが絶対に近いとは言い切れる。

だが奴は悪い面ばかりでは無い、奴には『誠実』な面もある、蒔絵を守る事をきちんと実行したり圧倒的な強さをバックとしながらも敗者を受け入れたり、我々や人間達を捨て駒気分で扱おうとはしなかった。まあお株は片っ端から奪われたがな…。

何れにせよフィンブルヴィンテルに勝ち目など無い、ここでも会話が出来てしまうぐらいなのだから。」

リヴァイアサンの艦橋の外でそう会話するムスペルヘイムとキリシマ、フィンブルヴィンテルの光線が智史のクラインフィールドや量子フィールドによって吸収されてしまう光景をバックとして。

 

「あ、あぁ…、フィンブルヴィンテル様が…‼︎」

「勝てると、お約束された筈だ…!」

「お身体が崩れ始めているようだ…。」

「これで負けたら我々は…。」

フィンブルヴィンテルが押し込まれている様子を見て部下達が動揺する、何せ最強と信じて疑わない自分達の主人が一方的に押し込まれているのだから。

 

「隙あり!」

「ぐはぁっ!」

しかしアシガラ達がその隙を突いてただでさえ劣勢だった戦況を更に悪化させていく、他人ーー特に敵対している相手がピンチな時はこちらにとってはこれ以上に無い好機だからだ。

 

「ヒエイ、中央のやつの掃除は終わったよ!」

「了解です、ナチ、他の艦隊の状況は?」

「現在大戦艦モンタナの艦隊が超兵器擬きと交戦中、一進一退を繰り返しています。敵軍の殲滅が終わり次第他の艦隊も向かう予定です。」

「分かりました、モンタナを救援しましょう。」

そしてヒエイ達はモンタナ艦隊の救援に向かう。

 

 

「くうっ…‼︎こちらオウミ、クラインフィールド飽和、右舷第一主砲塔大破!」

「ほぼ互角ね…。中身は虚だけど実力はかなりのものね。こんな化け物共を簡単に屠った智史さんの実力は計り知れないわ。」

「そうですね…、でも私は智史さんだけにしかできないという『結論』で終わらせたくありません!」

そう会話する2人、そして災厄が襲いかかろうとする。

 

「ヴォルケンクラッツァーを模した敵超兵器に高エネルギー反応‼︎」

「一気にケリをつけるつもりだわ、オウミ、射線上から退避して!」

「ダメです、チャージの速度がオリジナルよりも速すぎます!」

「くっーー」

 

ーーゴォォォォォォォン!

 

ーーボクァァァァァン!

 

「⁉︎」

「それは、まさかーー」

 

突如として放たれた黒い雷を帯びた青白く輝く光条により船体を抉り飛ばされるヴォルケンの紛い物、それは勿論モンタナ達の物ではない。

 

「や、ヤマト様‼︎」

「間に合ったわ、モンタナ、後は私が!」

「傷ついていたとはいえ超兵器にかなりの深手を負わせるとは、流石霧の総旗艦と言うべきかしら。ヤマト様に続いて!一気に押し倒すわよ!」

まあ超戦艦級が元の状態であんな化け物に敵う筈も無いのでヒュウガに『改装』を施して貰った上でその光景を現実としたのだが。しかしそれは士気を大きく高揚させ、戦況はモンタナ達優勢に一気に傾いていく。

 

「超戦艦ヤマトより入電、『正面の敵残存艦艇を掃討せよ』と!」

「了承した、サクラ、最後だから奥の手を使うぞ!」

「はい、超重力波動合体砲、発射フェーズに移行!」

「了解、艤装展開、合体砲発射態勢に移行します!」

サクラ達が最終決戦だから自重するなという智史の檄に従い遠慮なく合体砲の射撃態勢に移行する、それによって船体が大きく変形していく。

 

「艤装展開完了、エネルギー回路開放、チャージ開始!目標、本艦正面の敵艦隊!」

「射撃誤差、修正完了しました!」

「チャージ完了、射撃どうぞ!」

「撃てぇ!」

 

ーーピカッ!

 

ーードガァァァァァン!

 

「目標の敵艦隊、全て消滅!」

「他の敵艦艇の反応は?」

「フィンブルヴィンテル以外は何も確認されません!」

「そうか、後は彼次第かーー」

 

 

 

「ゔぉぉぉぉぉぉぉ!」

様々な『鉾』を以て色々と攻撃を仕掛けたものの悉くそれらを折られて追い詰められ後が無くなったフィンブルヴィンテルはリヴァイアサン=海神智史を仲間共々捕食しようとする、しかしそれは智史達にしてみれば斬り込みを行うにはこれとない絶好の機会だった。

 

「斬りこむぞ、全員覚悟はいいか?」

「ええ。」

 

ーーゴォォォォォォン!

 

「さあリヴァイアサンよ…、余のものとなるがいい!」

「それは嫌だな、自分のものに変えられるなら変えてみるがいい。」

半分ヤケなフィンブルヴィンテルは触手や爪の先端にある尖った管を突き立ててリヴァイアサンを捕食しようとするが智史はそれを嘲笑うのかのようにそこに自分の構成素材ではなくフィンブルヴィンテル自身の肉体の『許容範囲』を遥かに上回るエネルギーを流し込む。

 

「ぐぼぁぁぁぁっ⁉︎」

慌ててリヴァイアサンから離れようとするフィンブルヴィンテル、しかし触手と爪は既に焼き切れて吹き飛んでいた、そして流し込まれた行き場のない莫大なエネルギーは一時の剛力の代償としての船体の破滅をさらに加速させる。

 

「はぁ…、はぁ…、はぁ…、はぁ…。体が…、熱い…‼︎終わりが…、近いというのか…。…⁉︎」

「たぁぁぁぁぁぁぁ!」

「貴様は…、あの時の小娘…!だが虫けらは余には勝てない!」

フィンブルヴィンテルに襲いかかってくるムサシ、フィンブルヴィンテルは彼女に無数の光弾を放つ、その何発かは彼女を捉え炸裂する、しかし彼女はクラインフィールドでそれを軽々と弾き気にすることなく平然と突っ込んでくる。

 

「馬鹿な、小虫如きにこれ程の力が…⁉︎」

「素のままではあなたには勝てないと理解しているから、彼に力を貸してもらったのよ。」

「くっ、おのれぇぇぇ!」

智史から演算を借りたムサシは以前とは比較にもならない力でフィンブルヴィンテルに迫ってくる、相手が智史ならまだしも、自分が格下だと思っていた存在に圧倒される現実を受け入れられずに怒り狂うフィンブルヴィンテル、しかしムサシにしてみればそれは快感だった。

 

「はぁっ!」

 

ーーヒュォッ!

 

フィンブルヴィンテルはならばと言わんばかりに今度は光鞭をムサシに向けて放つものムサシの姿が次の瞬間に消える。それを見て一瞬驚くフィンブルヴィンテル

 

ーーザンッ!

 

「がぁぁぁぁぁ!」

 

その直後フィンブルヴィンテルの顔面は一瞬で切り裂かれ顔に深い傷が残る、その後ろにはナイフに付いた血を払うムサシがいた。

 

「くっ、無理をしたツケが来たのか…。だが余は虫けら如きには負けられぬ…!」

智史が指摘した通りにフィンブルヴィンテルの生命力=回復力は極度に落ちていた、そのせいで顔に付けられた傷さえもが塞がらない。

 

「いい様ね、かつてコケにしていた人に逆に甚振られるなんて。」

「今の余は貴様にしてみれば虫けらだというのか‼︎」

「そうだとしか言えない状態が出来つつあるわ、彼に勝とうと無理をしたツケが来たわね。」

「たとえ天地逆となろうとも余は虫けらに非ず!余は虫けらには負けぬ!うぉぉぉぉぉぉぉ!」

あれだけ痛めつけられた挙句に負けが確定しているというのになおも諦めずにムサシに突っ込もうとするフィンブルヴィンテル、しかし

 

ーーヒュォッ!

 

「ぐはぁ!」

ムサシへの接近を阻むのかのようにズイカクが放った矢がフィンブルヴィンテルの腹に突き刺さる、普通の状態ならまだしも力が落ちている状態ではその一撃は深い手傷となってフィンブルヴィンテルにのしかかり、ただでさえ削られてゆくその命を更に削る。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ーーガンッ!

 

ーードガァァァン!

そしてその隙を突くかのようにキリシマが渾身の蹴りを叩き込んでフィンブルヴィンテルを壁に叩き付ける。

 

「私をこんな悪魔として生み出した罪を味わえ、てりゃぁぁぁ!」

 

ーーグサッ!

 

「ぐふっ、捨て駒如きが…‼︎」

そしてムスペルヘイムが怒りのままにフィンブルヴィンテルに剣を深々と突き刺す、更にハルナがそれに続くかのように殴り掛かろうとする。

 

「虫けらが…!」

何とか立ち上がり、一撃を放とうとするフィンブルヴィンテル、しかしハルナはすかさずコートをパージしてフィンブルヴィンテルの顔に被せてその視界を奪う。

 

「おのれっ!」

慌ててコートを取ろうとするフィンブルヴィンテル、しかしその隙にハルナは連打を浴びせる。

 

「だぁっ!」

「ハルナ、変わったな…。」

「ああ。蒔絵、今だ!」

そして追い討ちとばかりに蒔絵が怯んでいるフィンブルヴィンテルの顔に薬を掛ける。

 

「がぁぁぁぁぁ!これが痛みか…!」

薬が掛かった部分はあっという間に焼け爛れる、そしてフィンブルヴィンテルはそれまでの攻撃による傷から回復し切れていないこともあり最初の頃よりも醜い姿と成り果ててしまった。

 

「きゃぁっ⁉︎」

「貴様を道連れにーー」

 

ーーガァァン!

 

「貴様が止めか、リヴァイアサン…。」

蒔絵の真後ろでアキュラシー・インターナショナル AS50対物ライフル(智史が作ったモノで本家を軽く上回る破壊力なのはお約束)の重い発砲音が轟き、フィンブルヴィンテルの下半身を壊れかけた船体のパーツの一部共々粉々に吹き飛ばした、フィンブルヴィンテルは上半身と成ってもはや満足に身体を動かせない状態となってしまった。智史はAS50を片手に持ったまま上半身だけのフィンブルヴィンテルに接近していく。

 

「ふふふ、あの小虫共がこんなに強いと思ったら…、やはり貴様が手回しをしていたのか…。そう分かっていながら受け入れられぬとは…、余は、実に愚かよ…。」

「私もだ。自分がされて嫌なことと自分がしている事がそれとあまり変わっていないということもある。」

「そうか…。最後に教えてくれリヴァイアサン、貴様は何者なのだ…?」

「『神』に関するものの血肉を主にして生まれたという違いしか持たず、それ以外は世にはこびる小虫共と同じ存在よ…。」

「そうか…。余は人によって物を破壊するためだけに生み出された…。」

「それには『神』も関わっていたがな。」

「ふっ、人以外も関わっていたのか…。まあいい、その命を己の生き甲斐としてやってきた、いつか幕引きされる時が来るということを知りながら…。だがその幕引きが貴様ならば、悔いは無い…。」

「貴様が言う小虫という存在に幕引きをされたくなかったのか?」

「それもあるな…。余は先に冥府に赴くとしよう、貴様とまた戦える時を楽しみにしながら…。さらばだ、リヴァイアサン……。」

そう言いフィンブルヴィンテルは息絶える、そしてそれに伴うかのようにフィンブルヴィンテルの船体が唸りを止めて海が元になっていく、そしてかろうじて維持されていた船体が『支え』を失ったのか崩れ始める。

 

「智史、ここはまずい、早く脱出するぞ!」

「そうだな、ここを出るとしよう。」

そう智史達は会話すると崩れゆくフィンブルヴィンテルの船体からさっさと脱出し、そしてリヴァイアサンに乗り込む、崩れていく船体のパーツが着水することによって生ずる水飛沫が朝の光と相まって幻想的に映る。

 

「終わったのね…。」

「そうですね、彼の手によって…。」

そして戦闘を終えたヤマト達はそんな光景を見守るかのようにここに居た。

 

 

「さらばだ、フィンブルヴィンテル。安らかに眠れ。」

その光景が収まった後、智史は1輪の白い花を投げ込む、まるで死者を追悼し、そして静かに別れを告げるのかのようにフィンブルヴィンテルが沈んでいる場所に沈んでいく。

 

「智史くん、終わっちゃったね。」

「ああ。これでここに居続ける『理由』は存在しなくなった。提督とサクラ達に元の世界に帰れるだろう、時空を歪めている存在が消失したからな。さて、この後はどうしようか…。己を『鍛え』て他人を楽しく甚振りつつも2人で旅行しながら色々と生き方を考えようか?」

「そうね、そうしてみましょう。」

少し楽しそうに今後のことについて会話する智史と琴乃。

 

遂に、世界の運命を左右する大戦は終結したのだったーー



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第35話 未来、新たなる破壊

今作にてAGSBBさんとのコラボは一旦終了です。(再びコラボするということを念頭に入れています。)
大戦後の後書きをしつつも新たなる世界への旅立ちも書きました。
これからアンチスパイラルを始めとした猛者達が物凄い酷い目に遭うような展開が次々と続出します。
こういう展開にするのはリヴァイアサンごと智史が圧倒的に強過ぎる存在であることを強調することで普通魔王が持っている威厳と存在感を出させる為です。
作品の中には非常に扱いの悪いものも出てきますのでそこを覚悟して読んで頂いた方がいいと思います。
それではじっくりとお楽しみ下さい。

追記

この作品の主人公の海神智史に関する印象を長所と短所の2つに分けて教えて頂けると幸いです。


「超戦艦ヤマトより報告、『我悪夢ヲ撃滅セリ』とのこと!」

「彼らはフィンブルヴィンテルに勝利したということなのか?」

「ええ、そのようです。リヴァイアサンからも同じような電文並びに映像が送信されています。」

上官にそう報告するクルツ・ハーダー中佐、アメリカ欧州派遣軍の最高作戦司令部ではそのような会話がなされていた、当初は半信半疑だったものの霧の艦隊と彼らとの交信記録並びに報告を見るにそれは事実と確信した。

 

「ふっ、結局我が祖国アメリカはこの戦いで大した役割も担えずじまいか…。そしてこの戦いが終結した今、我が祖国がこの戦いで栄誉を得る機会は二度と無くなった…。」

「そうですね、彼らが英雄として賞賛されることは間違いは無いでしょう。ですがまだ終わった訳ではありません。我々が栄誉を手にする機会が完全には無くなった訳では無いのですから。」

「そうだな、今は栄誉を得られなくとも何れは得てやるのみ。彼らが出来たことが我々に出来ない筈はない。」

そう言い彼らは今後のことについて考える、世界の運命を掛けた大戦で活躍できなかったからといって今後の世界作りで活躍できなくなった訳ではないからだ。アメリカ人はアメリカ人らしく不屈だった。

 

ーー米海軍中佐 クルツ・ハーダーの独白

 

結局、我々の野望である「環太平洋統一国家構想」は叶わなかったか…。

 

リヴァイアサン一行がフィンブルヴィンテルに勝利したという報告と今後のことについて話し終え、部屋を出た私は思わずそう愚痴をこぼし掛ける。

何せ私と同じ考えを持つ日本にいる同志、上陰龍二郎がリヴァイアサンが横須賀に巨大な戦略基地を建設した時以降、様子がガラリと変わり、自分や自分の国を守らんと言わんばかりにセッセと仕事に励んでしまっているからだ。これは国を守る者としては非常に素晴らしいことなのだが、環太平洋統一国家構想という世界中の国家、軍組織を1つの国家組織として統合してしまおうという考えを持つ私にしてみれば何処か残念だった、何せ自分の国の為に彼が働いているということ、その意味を裏返せば、その考えに彼が協力する気はもう無いということなのだから。

上層部や政府もそれに近い、私の考えよりも自分達や国民が生き残ることを最優先として行動しているのだから。まあ国家の最優先義務は国民の衣食住を保護し、国民を養うということなのだという視点から見れば、腐敗といったモノを減らし、国民を再び1つ1つの『意志を持った国家を支えるパーツ』として再び復活させ、国や国民を今以上に豊かにする為の努力をしている今の国も悪くは無い。第一そんなことを引き起こした要因はリヴァイアサンではなくフィンブルヴィンテルという悪魔なのだから。リヴァイアサンはフィンブルヴィンテルが引き起こしたことの片付けをしたに過ぎないーー

 

 

「勝ったか…。」

「リヴァイアサンをはじめとした艦影をレーダーにて捕捉!全艦の生存を確認!」

「ふっ、これで我々が戦わなければならない理由は消滅したな…。暫くは戦わなくて済むだろう…。」

「それにしても最初は悪魔だった存在に結局は助けられるとは皮肉ですね。」

「神は悪魔でもあるからな、確かに彼と敵対していた時に多くの仲間が彼によって討ち取られて死んでいった、だが彼が居なかったら我々はフィンブルヴィンテルという別の悪魔によって人類共々絶滅させられていただろう。」

「それに付け加えるとなるとヤマト様が居なかったら我々は彼によって悉く絶滅させられていたかもしれませんね。」

「それは過去を振り返った仮定の話だ、覆水は盆には帰らん、既に起きた事柄なのだからーー」

そう呟く大戦艦アイオワ、それは非力な自分への皮肉が込められていた一言だった。

 

「損傷した艦は事前の手筈通りにドック入りにするようにしてくれ、特に激しく損傷したオウミを最優先で。」

「了解!」

大戦艦アイオワの指示の元、決戦に勝利して帰ってきた艦隊を受け入れるべく、予め役割を与えられた各艦艇がテキパキと動き始める。

 

「キリシマ、ハルナ、コンゴウ。蒔絵を私抜きで守れるか?」

「そうするには十分過ぎるぐらいに環境が整っている、そうしてくれたのは皮肉にもそれを言っているお前自身だ。ところで何故このようなことを言う?」

「これから私は世界の外に出たい、己を更に鍛え、更なる高みに登りつめるために。」

「蒔絵を巻き込みたくないからか?」

「まあその通りだ。」

「なるほどな…。お前にしか倒せなかった強大な敵が次々とお前に葬られてこの世界からいなくなった今、お前抜きでもやって行ける。それにこれ以上お前に依存したら恥の上塗りにもなりかねないからな、恥を背負うのはめんどくさい…。」

「それに蒔絵が何時までもお前に依存しているということは蒔絵が『大人』にならない可能性もあるからな。任せてくれ。」

「そうか、蒔絵本人も私がそばに居なくとも大丈夫な環境はあと一押しで出来るし、これを聞いて少し安心できた、任せたぞ。」

智史はこれを聞いて安堵する、蒔絵を守らなければならないという義務を引きずったまま己が欲望のままに動き回るのは気が重くなるからだ。

 

それから2週間後、ヨーロッパからフィンブルヴィンテル一味を駆逐することに成功したとの報告が入った、智史も彼ら一味が地球上から完全に消え去るまで殲滅するのを手伝った。

 

 

そして1週間後、

 

「ここに、人類と霧が講和し、戦争行為を完全に停止したことを宣言いたします。」

 

フィラデルフィア軍港にて霧と人類の完全な講和条約が周囲の歓びの拍手の中で締結された、人類側の代表はアメリカ合衆国大統領、霧側の代表は超戦艦ヤマトだった。智史がムサシの生存を全世界に公表した為に当初は人類と敵対していたムサシを戦犯として処罰することについて揉めはしたものの、彼女がフィンブルヴィンテルを覚醒させてしまったことについて深く反省していること、そしてこの戦いの立役者である智史が彼女を『弁護』したことにより最終的には彼女を戦犯として処罰するという話は立ち消えとなり、彼女は船体を復旧しないことを条件として今まで通り霧として生存することを許された。

何れにせよこの講和条約が締結されたことによって人類と霧が対立しあうという環境は消滅し、千早群像の父親である翔像とヤマトの願いが叶ったのだった。

あとデザインチャイルドである蒔絵については『人間』として生きるという権利を認めさせ、一市民として彼女が生きられるように様々な取り組みを霧と人類が交流する為の取り組みの1つとして取り入れた。

 

 

「ありがとう、リヴァイアサン。約束通りに私の為の居場所を作ってくれて。」

「別にいい、何かと抱え込んで生きるのは辛いだろうからな。当初はお前を殺そうかと楽しそうに妄想していたがお前がフィンブルヴィンテルに殺されかけてそのことについて後悔したこと、そしてもしお前が死んだとなったらヤマトがどういう顔をするかと思い可哀想になったから助けた、それだけだ。そして、今でもお前の仲間を奪った好き勝手な私を許せない所はあるのか?」

「あるかもしれないわね、でもそんなことをしても結局は何も始まらない。それよりも私があなたを排除しようということをあの時考えなかったらって後悔してる。皮肉ね、私もあなたと同じ『人間』だなんて…。」

青空の中で海風に吹かれながらフィラデルフィア軍港の桟橋でそう会話する智史とムサシ、もうそこに憎しみは存在しない、そこにあるものは友情に近いものだった。

 

「お姉ちゃん、智史さんにまだ惚れてるの?」

「べ…、別に…‼︎」

そんな2人の光景を見て思わず嫉妬するタカオとそれに呆れるアタゴ。

 

「(智史さんの圧倒的な強さにはその性格と相まって恐怖も感じたけど皮肉にもこれが無ければ私達は生き延びてなかった。)」

 

「イオナ、群像。よくここが分かったな。」

「あなたがムサシと一緒に話をしてたのがたまたま見えたから。」

「ヒエイ達は?」

「彼女達は霧の戦後の組織作りでてんやわんや。何せこの大戦で滅茶苦茶になった霧という組織を立て直さなければならないから。サクラ達はこの世界を去るついでに色々とお土産とか買ったりしてるみたい。」

「そうか、群像、戦後の仕事の具合はどうだ?」

「色々と大変だよ、世界を形作り、運営していくことの重みと大変さが伝わってきた。何せ大勢の人達の運命が決定1つで大きく左右されてしまうからな。」

「そうか、私はそういう立場にならなくてよかったと思う。『組織』を運営するという立場に就くことはそれに所属する者を守らなければならぬという義務、そしてそれに伴う相応の労力が要るからな。」

「それに民主主義という政治の観点上、1つの意志が尊重されるのは宜しくないということからか、色々と意思決定に関する利害の調整が大変だ。」

「そうか、ではそう言うならお前達人間の『本質』を書き換えて社会システムの管理下に置いてやろう。」

「それは結構だ、今の立場は悪いことばかりではない。自分がそこに関わってやったことが他者を救えた、そして幸せに出来た時に得られるという喜びもあるさ。」

守るものをまた得たことでそれに関する苦労と喜びを吐露する群像。しかしそれは見聞を広める為の冒険の為の余力と自由を削ぐ行為とも言える、守るものが増えたということは守らなければならないものの為に注ぐ労力が増えたということなのだから。智史はこれを忌み嫌い、守るものを極力減らすことで失うことによる哀しみ、そしてその負担を減らしその分を自身の見聞を広める為の冒険のリソースに十二分に注ぎ、自由を確保することにしたのだ。

 

「そうか、まあお前達の好きにするがいい。ところで今はまだ暇だろう、これからそれが無くなるぞ?今のうちにお前の父親である千早翔像の『墓参り』に行くか?私はあれを済ましてからこの世界を出たくてな。」

「墓参り?横須賀に戻るというのか?」

「違う、あれは標だけだ、墓標ではない。鋼鉄の『棺』と翔像の骸、そしてムサシ、お前が殺した人間共の骸が眠る、北極海だよ。」

そう呟く智史、ムサシが一瞬でその真意を理解する。

 

「別れを、告げようと言うのね、お父様と共に過ごした日々、そして憎悪と共に…。」

「そうだ、やり残したことや悲しみがある過去に縋ったまま未来を生きるのは未練や憎悪を引き摺ることになるかもしれんからな、別れを告げることで心の区切りを一段落付けようと思って提案してみた。決して忘れてはいけないものもあるが、『人』は思い出を忘れることで生きていける。」

「私のことを考えた上で提案しているのね、なら行きましょう、お姉ちゃんやあなた達と共にお父様が眠る、深海の墓標にーー」

 

 

ーー北極海、千早翔像が艦長を務めた潜水艦の沈没地点付近

 

 

「もうすぐ千早翔像の骸が眠る鋼鉄の墓標に着くぞ。」

「こちらでも確認したわ、お父様が眠る墓標が…。」

「父さん…。」

それぞれの思いが交わる中、智史達は翔像が眠る墓標を捉えた、そしてリヴァイアサンの全ての機関、スラスターが黙祷をこれから捧げるかのように静かに動きを止める、同時に静かに粉雪が降り注ぎ、動きを止めたリヴァイアサンやヤマトに積もっていく。

その墓標の姿がモニターに映った時、なんとも言えない何かが智史達の心の中にこみ上げてくる。

 

「雪か…。冷えるね…。」

「ああ…。哀しみが体に伝わってくるような冷たさと静けさだ…。」

そして彼らは『別れ』を告げるために外に出る。

 

「父さん、父さんの夢、叶ったよ…。だから、お休み…。」

「翔像さん、あなたの夢、そしてあなたの願いは叶いました…。そして私達に『心』を授けてくれてありがとう…。さようなら…。」

「お父様、お父様を思うが余りにお姉ちゃんや周りの人を傷つけてごめんなさい…。そして、私たちとの暖かな思い出と共に安らかに眠って下さい…。」

海が鳴りを潜め、静かに降りそそぐ雪の中、それぞれが別れの言葉を告げ、涙と共に花を捧げていく、智史と琴乃はそれを静かに見守る。自分達の為に戦ってくれた死人を悪く言う気など湧きもしなかった。

 

「…未練無く静かに眠るがいい、千早翔像…。2度と誰にも起こされることなく…。」

「さようなら、翔像さん。群像くんにその思いは受け継がれたよ。」

そして鎮魂の意味合いも込め、智史は深く降りそそぐ白い雪の中で、白い花々を束ねた花束を静かに捧げる。

 

「…行くぞ、新たなる日々へ。」

「そうね、行きましょう。」

そして彼らは未来へと歩むために歩み始める、スラスターが再び咆哮をあげ、未来へと突き進む為の推進力を与え始める、千早翔像という過去に別れを告げるようにして。

 

 

ほぼ同時刻ーー

 

 

「ふう、あいつが作り変えた私達蒼き鋼の基地はは元のままね、結構維持管理が行き届いているじゃない。私達の手が抜きでも維持管理が出来るようにシステムを予め作っていたみたいね。」

「荒れ放題なのも智史ちゃんは嫌だったんじゃない?帰ってきた時に荒れ放題だったらいい気持ちがしないわ。そうよねヒュウガちゃん♪」

「ううっ…。でもこのあとどうすんのよ、群像は政治に関わるし他の人も色々な分野に散っちゃったし、他の所でも修理が出来るようになっちゃった今、ここはイオナ姉様の船体を直すという戦略的重要性さえ無くなっちゃったじゃない…。」

「ならテーマパーク化してみたらどうかしら、今は失われてしまった建築文化を復元したというアドバンテージを売りにして。」

「それもアリかもねえ…。」

そう会話するイセとヒュウガ、あの和平条約の後、彼女達はこの世界での今後のことについて話し合っていた。

 

 

そして、彼はこの世界にいる者達と違う道を歩み始める。

 

 

「行ってしまうのね、他の世界へ…。」

「また戻ってくるさ…。今は旅立つからな…。」

「気をつけて…。」

智史が告げた別れの時が来ていた、ヤマトは寂しそうな思いで智史と話をする。

 

「ライバルとはいっても、別れというものは辛いかぁ…。」

「すまんな、アシガラ。お前の願いに応えようとしない我儘な私を許してくれ。」

「今日は澄んでいるぐらいに晴れ渡っているから良かったけど、雨だったら悲しい別れ方になっちゃう…。」

「ハグロ…。そう気遣ってくれるとはな…。」

「智史様、お気をつけて…。」

「ふっ、こちらこそ気をつけろよ…。」

そんな別れの挨拶をしている最中に智史の目に信長の姿が入る。

 

「皆、サクラ達もこの世界を旅立つ、私と同じくこの世界にいる理由が無くなったからな。私程の活躍では無いにせよ彼らもまたお前達と共に戦ってくれた仲間だ、別れの1つや2つぐらい贈ったらどうだ?」

智史の指摘に皆ハッとし、慌ててサクラや提督達に別れの挨拶を告げに行く。彼はそれを見ていた、そして自分を呼ぶ声が彼の耳に入る。

 

「智史くん、荷物の積み込み終わったよ。」

「琴乃、済まないな。」

「お前が行くなら私も行くぞ、お前の考えを知ったら何か付いて行きたくなった。」

「ズイカクか、ふっ、お前を色々と面倒に巻き込むかもしれんぞ?」

「それも承知の上だ、こちらも行く準備は完了した。」

「そうか、サクラ達も動こうとしているみたいだしこちらも動くとしよう。」

琴乃とズイカクの『旅』の準備が終わったことを悟った智史。

 

「行こうか」

「ええ。」

「重力子機関並びに波動エンジン始動、次元横断システムスタンバイ」

その言葉と共にリヴァイアサンはゆっくりと動き始める、新たなる世界へ旅する為に。

 

「「さようなら〜!」」

「「気をつけて〜!」」

それに気がついたのか別れの言葉が響き渡る。そしてsfのような驚くべき光景が始まる。

 

「反重力システム始動、離水開始」

 

ーーズザァァァァァァ!

ーーキィィィィィィィ!

 

「空を飛ぶのかあ、未来に進む為に…。」

「あら、龍が天ーー未来に登っていくって感じで綺麗じゃない。」

リヴァイアサンが水飛沫を飛ばしながら、艦首のイデア・クレストをはじめとした全身のバイナルを蒼く輝かせて空へ飛翔していく光景を見て思わず感動するアシガラ。

 

「次元横断システム開放、ワープ!」

 

ーードォォォォォン!

 

リヴァイアサンの前方に大きなワープホールが発生する、そしてリヴァイアサンのスラスターに蒼い光の粒が終結し一際と輝きを増していく、次の瞬間スラスターが一際と大きい光を放ち、リヴァイアサンはワープホールと共に一瞬の蒼い閃光と複数の大きな円錐の衝撃波を残して消え去った。

 

 

 

「…行っちゃったね…。」

「そうね、行ってしまったわね、新たな世界への旅に…。」

その光景を見てそう会話するヤマトとムサシ、しかし彼女らはそれを何時までも気に留めているつもりなどなかった、この世界に残る定めを背負った彼女達には大戦が終わってもなお、為すべきことがあるのだから。

 

「行きましょう、ムサシ。」

「うん。」

そして彼女達もまた歩み始めるーー

 

 

「智史くん、ルフトとムスペルヘイムの船体を復活させたみたいね。」

「ああ、物事がブレないようにする為の要石は必要だ、だから増長を抑止する意味合いも込めて彼女達の船体は復活させた。」

「なるほどね…。外に敵がいる環境が中にいる敵を駆逐することにしてみればいいことね、中にいる敵は外にいる敵よりも倒し難いからね。」

「まあそういうことだ、要するに国が内部から腐敗し崩壊する意味合いの河魚腹疾(かぎょのふくしつ)とならないようにした。」

講和条約締結直前までにルフトとムスペルヘイムの船体は復活させられていた、組織の腐敗を防ぐ要石として。

彼女達を敢えて復活させることで警戒心を引き起こし結果的に内部からの腐敗を防ぐという算段を彼は目論んでいたのだ、当初はそのようなことをすると聞いた2人は怒ったものの、『私が居ない時、組織があらぬ方向に向かわぬようにする為の要石が無かったらどうするのだ?』という意味合いの半ば脅迫じみた理屈が通った説得を受け、最終的には覚悟と共に引き受けた。

 

「(ルフト、ムスペル。すまんな…。さて、謝罪はこの程度として一区切りだ、強者を甚振りつつ新たな世界へ旅する為に進路を決めよう。ふふふ、まずはグレンラガンのアンチスパイラルからだ、己が実力を見極め更なる高みに至る為の捨て石としてグレンラガンの世界共々跡形も無く粉々だ…。)」

智史は嬉しそうにそう呟く、何せ守るという義務がなくなった為に心の重しが取れたので、思う存分に他者を捻じ伏せ蹂躙することで喜びを得る機会が久々に訪れたからだ。

 

 

ーーアンチスパイラルよ、貴様等を徹底的に蹂躙し消し去ってやる、己が守るべきものと共にな…。

 

リヴァイアサンは次元の壁を超越する、今まで自重していたことで溜まっていた鬱憤をアンチスパイラルに叩きつけてグレンラガンの世界系諸共跡形も無く吹き飛ばし己が力に全て変える為に。

そして最強と言われた存在を今でも身につけ続けている圧倒的な力で闘争心を全て絶望や恐怖、悲鳴に変えて己の糧として吸収し、それを次々と蹂躙し叩き潰すことで己の欲望を満たしつつも更に進化することで一際と圧倒的な力を得る為に。

破壊と殺戮、恐怖と悲鳴のオーケストラがアンチスパイラルをはじめとした多くの者達を生贄として手始めにグレンラガンの世界系でまもなく奏でられようとしていたーー




おまけ

今後の話のポイント

・強者達を圧倒的な力をもって次々と苦しめて血祭りに挙げることで主人公の『最強』を際立たせつつも残忍残虐な一面も強調する
・そこに落ち着きや至極まともな常識も混ぜることで主人公に魔王の威厳と存在感を与え『主人公』らしい主人公とは異なるキャラ性を出す←主人公を小物キャラにしたく無い為
・しかし単に悪じみた面ばかりではなく何処か悲しい一面や優しい一面も出すことでより深みを出す


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『蒼き鋼のアルペジオ』の世界の外へ
第36話 破壊の業火


警告!

グレンラガンの扱いが非常に悪いです。
アンチスパイラルを超重力砲にてグレンラガンの世界系やシモン達共々丸ごと焼き払ってしまうという非常に酷い流れとなってしまいました。
アンチスパイラルについて色々と調べてみたことでアンチスパイラルの凄さ、そしてそんな彼でさえ上回る力を持つ主人公の度を超えたヤバさが理解出来た気がします。
戦闘シーンはシモンとアンチスパイラルの最終決戦の流れを参考にしました。
グレンラガンが酷い扱いを受けていても問題無い方だけお楽しみ下さい。


「何なのだ、今までにないこのおぞましい気配は…。螺旋の力とはまた違う…。」

その声の主は智史が討伐しようとしているアンチスパイラルだった、彼はこんな気配など今まで感じたことが無かったのだ、何せ彼は難なくこの世界にいる他の螺旋族を打ち倒してしまうだけの力を持った存在であり、そんなことなどこの世界では感じもしなかったのだ。

 

そう、この世界では。

今から襲い来る災厄はこの世界の外から来る存在であり、彼を一方的以上の悲惨な目に遭わせてしまう程の力を持った存在なのだから。

 

「おのれ…。力に溺れ、宇宙の守護者たる我々を捻り潰した挙句にスパイラルネメシスを引き起こすつもりか…‼︎否、させぬぞ…!」

 

 

「智史くん、この世界って?」

「天元突破グレンラガンの世界系だ、私はその世界の中にいる強者、アンチスパイラルをケチョンケチョンにして己を更に磨きつつもこの世界共々叩き潰して快楽を得る。私自身の価値観では気に入らないモノがありふれているからだ。」

「気に入らない相手を跡形も無く叩き潰すのは楽しいところもあるし、そうしたい智史くんの気持ちも理解出来なくはない。でもその目的以外にも彼らを叩きのめすことで自分が最強ということを示さなければいけないという考えもあると私は思うわ。これは智史くんが本当に望んだことかな?智史くん本来ならやらなくていいことをやらなきゃいけないって解釈してしまうことがあるからちょっとそこが気になって…。」

「そうだな、望んではいないかもしれん。ある意味では間違ってはいない。」

ーー痛いところを突くな、琴乃。確かに私は始めたことは最後までやらねば気が済まん性格だ。とはいえ始めたことは始めたことだ、一応念には念を入れておくか、足元をひっくり返されたら笑い話にもならんからな。

グレンラガンの世界系に侵入したリヴァイアサンで智史たちはそう会話をする、本人はアンチスパイラルに勝てるという結果が分かっていても念をいれてはいたが。しかしこんな内容の会話が出来るのは日々進化をし続けすぎて強くなり過ぎた影響だった。それはさておきとして早速と言わんばかりに突如として『来客』が訪れる。

 

 

「アンチスパイラルの尖兵か…。こちらの突然の訪問に慌ててやって来たようだな。」

 

現れたのはアンチスパイラルの破壊の尖兵と言うべきムガンの群れだった、本来なら地球上の螺旋族ーー人間を殲滅する為のものなのだが。

 

「上級が一千万匹、下級が2億匹か…。試し射ちにはいいかもしれん。」

「それにしても随分と無機質なヤツだな、不気味だ…。」

「ぶっ壊したら爆散するという特性があるからな、兵器としては優秀だ。」

「怖えな…。で、どうするんだ?」

「この世界を1つ残らず解体する予定だから、全部ぶっ壊すに決まっている、跡形も無く、な…。」

そして超重力砲を除いたリヴァイアサンの全兵装が彼らに対して牙を剥ぐ、かなり手加減されていることを考慮してもその威力は語る言葉が無いほどに激烈だった、何せ捕捉された次の瞬間にはそこに次々と重力子X線レーザーや各種ミサイル、砲弾の雨が襲い掛かり、粒子レベルで彼らを跡形も無く千切り、巻き込み、消し飛ばしていく。勿論グレンラガンの必殺技でしか破けないバリアが展開されていたもののそれは力の程度の問題である、その砲火の威力は軽く掠っただけでもムガンをそのバリア共々跡形も無く消しとばしてしまうのだ、グレンラガンの必殺技のものを軽く上回るのは言うまでもない。

おまけにその砲火は正確無比だった、なにせ超高速で移動しようがしまいがまるで先を読んでいるのかのように面白い勢いで命中していくのだから。当然命中した後の末路は目に見えていた。

軽く1億を超えていたムガンの大群はあっという間に消滅していく、そしてその際に放たれた凄まじい量の破壊エネルギーの余波で幾つかの銀河系が消し飛んでしまう。運良く上級の何機かがリヴァイアサンの間近に辿り着いて破壊されたことによる爆発を引き起こしたものの相手は自分達の常識を越えたとんでもない化け物なのだ、いつも通りに爆発のエネルギーを無効化して吸収し、自己強化に回してしまう。相手のことを把握し尽くし、非情な迄に強くなり過ぎたからこそこういうことがあっさりとできるのだ、当然の事ながら無傷であった。これで彼を殺傷出来るのならば倒すのには苦労はしない。

 

 

「食い応えのない奴らだ、さて、隔絶宇宙に向かうとしよう。親方様がお待ちかねだ。」

「ここにアンチスパイラルは居ないのか?」

「そうだ。ここは奴らの本拠地ではない。最も本拠地には無数の艦艇群ーー数にして無量大数の奴らが親方様と共に控えている。」

「無量大数…。んじゃあそこには10の68乗もの数の敵艦がいるじゃねえか‼︎」

「まあその通りだな、だからこそ殺り甲斐があると言えよう。」

「お前は化け物だということをそこでまた実感させられるな…。」

そしてリヴァイアサンはアンチスパイラルの本拠地である隔絶宇宙に向かっていくーー

 

 

 

「おのれ、その程度でいい気になるな…!これは私のほんの一部!本気などではない…!」

自分が差し向けたムガンの大群が呆気なく蹴散らされたのを見て憤激するアンチスパイラル。

 

「力と進化の快楽と飽くなき欲望に溺れた愚者に未来は無い…!」

言われてみればまあその通りだし一理あるとは言えよう、このグレンラガンの世界内の人物に対しては。しかし智史に対しては成り立たない、智史は力をきちんと己のものにしなければ安心できない性格なのだからーー

 

 

「ここが、奴らの本拠地、隔絶宇宙だ。」

「一見、平穏そうに見えるが…。」

あの後次々と宇宙空間の壁を突破してきたリヴァイアサンはあっさりと隔絶宇宙に侵入した、障壁などの邪魔やトラップもあったものの軽く食い破られた。

 

 

「“来たか、力に溺れし愚か者よ…。”」

「で、デカい…‼︎」

突如として現れたアンチスパイラルの巨大な幻影に驚くズイカク。

 

「お前が元螺旋族だったアンチスパイラルか。」

「“その通り、我々は元は最も進化していた螺旋族だ…。だがスパイラルネメシスという終わり無き進化が全宇宙に齎す危機に我々は気が付き、自らの進化を止め、そして他の螺旋生命体を監視、抹殺してきた…。”」

「それは進化によって得られたものを自分のものに仕切れていない、というより進化によって得られたものを律する為の理性と器を大きくしようとしないからこういう破壊的な結末となるのだ。そして付け加えるなら螺旋族を殲滅監視すること以外にも何かしら解決策があるかもしれん、だがお前はそれをやった上で望んでいるという感じが全く見受けられんな。」

まあ私にも奴に指摘した所と同じ所はあるが。

「“黙れ!力と進化の快楽に溺れ、己が欲望のままに動き回る貴様のような愚者に何が分かる!”」

「分かるさ、今のお前がそう言っているということはそうだということを素直に認めたくないからだろう?」

「“くっ…。ならばこの宇宙を守ると決めた我々の覚悟を思い知るがいい!”」

智史の指摘に早速動揺してしまうアンチスパイラル。彼の指摘は間違っていなかった、力を得ようとも正しく自分のものにした上で律することが出来なければ身を滅ぼすだけに終わるのだから。

 

 

「レーダーに敵艦影多数、お出ましか。」

「す、すげえ数じゃねえか…。私のユニオンコアの演算をフルに生かしてもスケールが把握しきれない!」

「数は、やはり10の68乗匹はいるか。しかし仏頂面ばかりで気色悪いな、兵器のデザインとしては劣悪だ。」

そう呟く智史、彼らアンチスパイラルの艦隊は惑星以上の大きさは有ろうかというアシュタンガ級、量産型であるハスタグライ級、パダ級といった3種類しか無いものの何もが不気味な仏頂面ばかりをしており、おまけに無量大数という物凄い数なので更に不気味だった、本気になれば表情は変わるのだがこれもまた不気味である。何れにせよデザイン的に好きになれるとは言えない代物ばかりだった。

 

 

「そういえばデススパイラルマシーンとかで質量の海を作っていたみたいだな、遠慮せずにどんどん出してこい。」

「“おのれ…!貴様に先に散った螺旋族と同じ末路を味あわせてやる!その言葉を出したことを後悔するがいい!”」

智史が売った喧嘩をそのまま買うアンチスパイラル、その直後にリヴァイアサン周辺に強烈な時空の歪みが生ずる。

 

 

「なんじゃありゃあ!宇宙に海が⁉︎」

「あれが私がさっき言っていた質量の海だ。超重力砲に混じるどす黒い光一色のな。」

リヴァイアサンの真下に真っ黒な海が現れる、海はリヴァイアサンをそのまま飲み込もうとする。

 

「質量の海って…。まさか私がもといた世界の海の質量より遥かに重いのか…?」

「まあな。ついでに言うなら外圧も桁違いだぞ、霧の超兵器の中の最強クラスであるヴォルケンクラッツァー級ですら耐えきれん程のものがな。」

「だけどお前には通用しない気がする、あり得ん程に強い上にあらゆるものを分解吸収して自分のものに出来るんだからな…。」

「ならば結構。早速潜るとしようか、どんな様なのかを見る為にも。」

そしてリヴァイアサンはさっさと質量の海に潜ってしまう。

 

 

「⁉︎何のつもりだ…⁉︎まあいい、ここに潜れば最期に待つのは死だ…。」

そう呟くアンチスパイラルを余所にしてーー

 

「光さえ取り込んでいるから随分と真っ暗だな。」

「ああ、スケールは事前把握済みとはいえ、どういうものなのかぐらいはこの目で実際に見ておきたかった。本当に深海を探検しているような気分になるな。」

次元探索システムでどんな世界が広がっているのかは分かりはするものの、光による物理的情報把握は困難だった。

 

「ん?あれは?」

「あれはラガンだ。螺旋力というエネルギー源をここで奪われて動けなくなった奴等だよ。質量の海は彼らが持っていた螺旋力を強引に変換することで形成されたのさ。」

「螺旋力?それって何?」

「この世界を構成するエネルギーのファクターだよ、これを使って生きているのが螺旋族さ。」

「成る程ね、さっき螺旋族がどうだこうだ言ってたのは彼らが持っている螺旋の力というものを強くしすぎるとこの世界を滅ぼすという結論を見出していたからなのね。」

「まあそういうことだ。この世界を守る気があるどころかむしろこの世界諸共奴らを焼き払いたくて仕方がないのだがな。さて、始めるか。船は海に食われるというのが常識としてよくあり得る光景だがその逆は殆どあるまい。ならばここで海が船に食われるという光景を見せつけてやろう。」

そう智史は呟く、そしてリヴァイアサンに平時収納されていた魚雷発射管、ハッチが一斉に開き、質量の海をダイソンの掃除機さえ真っ青の吸引力でどんどん吸い取っていく。そんなに中に蓄えて大丈夫なのかと言いたくなるほどの勢いだったが分解吸収して自分の力にするペースが取り込む量に完全に勝っていればいいだけのことである、第一リヴァイアサンごと智史はもう既に化け物じみた力を持っているというのにこれでも貪欲に力とその器を更に強大にしていく化け物過ぎる存在なのだ、あっという間に質量の海で満たされていた空間は消滅してしまう、もう動かないラガンやデススパイラルマシーンも一緒にして彼に分解吸収されて全部己の血肉とされるという形で。

 

「な…、何ぃ⁉︎螺旋族を悉く葬ったあの空間を…⁉︎いいだろう、そんなに死にたいなら望み通り死をくれてやろう‼︎」

 

この光景を見て驚愕するアンチスパイラル、彼は待機していた自身の艦隊に一斉に攻撃するように命じた、無量大数という滅茶苦茶な数の艦隊による攻撃が開始される。

 

「やはり、随分と見た目が派手な攻撃ばかりだな。」

「惑星とか手にとって投げつけてくるなんて滅茶苦茶な戦法を採ってくるなぁ。それにしては実感が湧かないんだが…。」

「私が強くなり過ぎたせいだ、その点に関しては私を恨め。あと確率変動弾というものも用いられているな、これはいかなる原因や過程に縛られること無く、『敵に攻撃が当たったという結果』を現出させる弾だ。」

「要するに因果律を操作している訳?」

「まあそうだな、だが当たったからって『損害を確実に与えられるという結果』が出た訳ではあるまい?」

まさにその通りである、リヴァイアサンに惑星を投げつけたりといった他の攻撃と共に確率変動弾は全弾命中したものの、全く効果が無かった。何せ相手を調べ尽くした上で『対策』がとっくに練られているのだから。

 

「もう終わりか?欠伸が出てつまらんわ。」

「な…、何故だ、全て命中したはずだ!」

「貴様は『攻撃を与えたという結果』が出したことで自己満足し、『如何なる敵にも損害を与える』という結論を出す為の進化をしようとしなかった。それが貴様の限界だ、一つのことを守らんと執着するあまりに同族を血祭りにあげる事しか思いつかず、このモノを守り抜く為のそれ以外の方法も考えず、進化の果てに齎されるモノを防ぐ為の進化もしようとしなかった愚者には破滅こそ相応しい。」

「くっ、この世界を守るが為に進化を止めた我々にこの世界を守る資格など無いと言うのか‼︎否、否ぁぁぁ!」

「煩い…。もう札は無いのか?なら今度はこちらから行くぞ。」

「ふん、命中したことを無効化する絶対防御にて無効化してくれるわ!」

「それはどうかな?何かを動かす、形成するのには力が必ずしも関わってくるぞ?」

自分の攻撃手段を無効化されたことに更に動揺するアンチスパイラルと冷徹な迄に切り返す智史。そしてそのやり取りが終わるのと同時に、オーバースケールと言うべき先ほどのアンチスパイラル艦隊のものよりも遥かに滅茶苦茶な破壊と暴力の花火大会が開始される、それに応えるようにしてリヴァイアサンの前部2基の砲塔レールガンが旋回を始める。

 

「因果律も異次元も等しく、消滅するといい。」

 

その言葉と共にリヴァイアサンのレールガンが咆哮を上げ、次々とアンチスパイラルの艦艇を槍衾の如く刺し貫き、黒い螺旋の渦に巻き込んでいく。因果律による絶対防御は作動してはいたものの、それさえ拒絶し破壊してしまう程の一方的破壊を伴った酷すぎる容赦の無い攻撃の前に悲鳴と断末魔と共に魔神の剛腕に引き裂かれるかのように螺旋の渦に飲み込まれ、その螺旋が収縮した後の巨大な爆発によって次々と消滅していった。しかもリヴァイアサンから放たれた一方的破壊という結論を齎すエネルギーはアンチスパイラル艦隊を食い殺すだけでは飽き足りず、隔絶宇宙だけならまだしも、他の無数の宇宙も次々と殲滅、破壊していく。勿論アンチスパイラル本体にもそれらは襲いかかり、直撃弾が無かったこと、バリアを展開していたお陰で丸ごと殲滅されることは免れたもののそれでもそれによって齎された被害は凄まじく、中核の一部にまで破壊の魔手は及んだ。

 

「ぐぉぉぉぉぉぉっ⁉︎ば…、馬鹿な、隔絶宇宙が、いとも簡単に…!」

「さて、もう終わりかな?」

「私をここまで追いつめるとは…。中々やるな…、だが貴様は見落としていよう、我々の最大の罠にして貴様と同じく突破してきた者達が膝を屈した存在を…!」

「その名は多元宇宙か?」

「そうだ、多元宇宙は認識された時実在する。人型になるということは、自ら多元宇宙の迷宮にハマるということなのだよ…。」

「それはこの世界の人間には通用するかもしれんがそれ以外には通用するのかな?」

「ふふふ、溺れるがいい…!自分が認識した「可能性」を実現した宇宙に意識が捕らえられ、二度と本来の宇宙に帰って来られないという究極の罠に…!」

そしてアンチスパイラルは智史達が自分が仕掛けた罠にまんまとハマった光景を見て勝利を確信した、いや確信するように欺かれてしまっていた、智史は敢えて引っかかったように見せかけてそれを全否定してしまうことで相手を更なる絶望のどん底に叩き堕とすのが大好きな残虐な一面を持っていることを彼は知らなかったからだーー

 

 

自分が認識した可能性を実現した『世界』を見ながら意識を失っているフリをしている智史の独白ーー

 

 

これで意識を失っただと?

 

馬鹿め。

 

お前の顔はきちんと認識している。そして何時でも殺れる準備は整えている。だが今は更なる絶望に叩き落とす為に敢えて引っかかっているように見えさせているだけだ。

しかし、これが私が奥底に秘めていた望みとはな…。

 

「“お父さん、こっち、こっち〜!”」

 

私の子供…、そしてその子の母親となった琴乃か…。そうだな、私は平穏な家庭を築くことで平和な日々を送りたかったのかもしれぬ。周りの雰囲気も良い、私が憎しみを持つファクターが無い…。

だが、これは夢幻。現の世界ではない。そして実現しない世界なのかもしれない…。

結局私は己の可能性を単なる個人的感情で食い潰している愚者だな。そして子供は『成長』を止めなければいずれ大人になるものだ、かといって『成長』を止めても私はいずれ飽きてしまうだろうからこんな楽しみは一時で終わるのかもしれん…。だか感謝するぞ、アンチスパイラルよ。私の為にこんな夢を見せてくれて。さて今度はこちらがお前に夢を見せる番だ、勿論、とっておきの『悪夢』をな…。

 

 

「ふふふ、やはり多元宇宙からは逃れられかったか…。な、なんだ…⁉︎い、意識が…。」

突如として襲ってきた意識の揺らぎに激しく動揺するアンチスパイラル。

 

「感謝するぞアンチスパイラルよ。今度はこちらが貴様に夢を見せる番だ…。」

「なっ⁉︎成る程、多元宇宙を突破したのか…。」

「多元宇宙を破った、というより、最初から破っていた、と言った方がいいだろうな。さあ、こちらからの夢、じっくりと味わってくれ…。」

今度はアンチスパイラルが智史の手により多元宇宙に近いものに意識を囚われてしまう。

 

「此処は、何処だ…?」

「貴様によって葬られた者達が無数居る場所だよ…。」

その発言に驚愕するアンチスパイラル、見ると周りには無数の螺旋族の姿があった、それも皆彼を軽蔑し、嫌悪し睨みつけるような目付きで。

 

「これが貴様が認識した可能性を具現化した世界だ、じっくりと味わえ。」

智史がそう言い放つと皆がアンチスパイラルに迫ってくる。

 

「な…、何をするつもりだ…。」

「“復讐だ!”」

「“テメェによって俺の故郷の星は焼き尽くされた!”」

「そ、それは宇宙を守る為にやったことだ…!」

「“黙れ!テメェにそんなことを呟く資格はねえ!テメェはそんな偽善の為に俺の星を焼き払ったんだ!だからココでぶちのめしてやる!”」

1人の螺旋族がそう言い放つと、アンチスパイラルの腹を思いっきり蹴飛ばす。そして他がそれに続くかのようにアンチスパイラルに次々と拳を叩き込み、剣やドリルをその体に突き立てて引き裂いていく。

 

「くっ、やめろ、やめてくれぇ!私はーー」

 

いい様に仕上がっているな。

人の見方は人次第で異なる、そして人は己の知ることしか知らぬ。それを活用した徹底的な陵辱だ。だがこれは序の口だ、奴を更なる奈落と絶望に叩き落とす為のな。

 

智史は嬉しそうに微笑む、そしてアンチスパイラルの意識を強引に多元宇宙から現実に叩きつける。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。」

「どうだ?悪夢から覚めた気分は」

「き、貴様…。我々を此処までコケにするとは…。許さぬ、もう許さぬぞ‼︎」

「ならば結構、とっととかかって来い。勝ったら貴様に我が命をやろう。」

「おのれぇぇぇぇぇ!」

智史に散々にコケにされ、侮辱されて凄まじいまでにブチ切れるアンチスパイラル、その平時の威厳は何処へやら。

 

「こうなったら貴様を跡形もなく消し去り、絶望の奈落にうち沈めてやるわぁ!」

そして彼は原作のグランゼボーマ(グレンラガンを絶対的絶望で滅亡させようとする究極的宇宙魔人)のような形態に変化する。

 

「これまたデカイ…、これまでのものよりも…。そして凄まじいキレっぷりだな…。アレあんなまでに怒らせたら不味いんじゃ…?」

「いいんだ、この後跡形もなく滅んで貰うからな。」

「だとしたら一方的な虐めだ…。」

全高だけで約53億光年、背面の両腕に至っては約70億光年という滅茶苦茶な大きさに圧巻するズイカク、しかし最初からアンチスパイラルを一方的に打ち破れるだけの力を持ちながらも異常な迄のペースで進化を続けている智史にしてみればこれも己の想定内といった感じだった。

 

「怒って本気を出しても、それも『想定内』ならば問題は無い。」

「遺言はそれのみか‼︎その思い上がり、叩き潰してくれる!」

アンチスパイラルはそう言い放つと両腕に銀河を掴み、そのまま手裏剣のようにしてリヴァイアサンに投げつける、リヴァイアサンの船体に強烈なエネルギーの塊が命中するものの、リヴァイアサンはそこから一つも動かずにクラインフィールドであっさりと防ぎ、そのまま吸収してしまう。しかも恐ろしいことにクラインフィールドを展開したのは己の身を守るのではなく破壊エネルギーの吸収、変換効率を更に上げる為である。最大クラスの威力のものを投げつけてさえ、同じ結論が出ているのにも関わらず、アンチスパイラルは滅茶苦茶に銀河を投げつけてくる。

 

「相変わらず詰まらんな、随分と単調で。もうそろそろお開きにしないか?早く私に宇宙創世の業火とやらを見舞ってくれ。」

「いいだろう、此処まで来て、そして我々を怒り狂わせたのは貴様のみ!永劫に続く宇宙創世の業火に焼かれ、DNAの一片まで完全消滅するがいい‼︎

 

“インフィニティィィィィッ‼︎ビッグバンッ‼︎ストォォォォォォォォォムッ‼︎”」

そしてアンチスパイラルは背後の両腕にて無数の銀河を掴み、グチャグチャにして濃縮すると青白く、非常に巨大なビームを放ってくる、そのエネルギー量は宇宙創世の業火を名乗るに相応しく、掠っただけで周りの残りの銀河系や星々が吹き飛んでしまう。そしてそれらは勿論リヴァイアサンに襲いかかり、その身に直撃する。

 

「ふっ、宇宙創世の業火の名を冠するに相応しい威容だが、我が身を焼けぬのならその名は相応しくなかろう。」

「まだ足掻くか、この愚か者が…‼︎ええい、更なる絶望をもって焼き尽くしてやる!」

全てを焼き尽くせると自負した自分の全身全霊の奥義を受けてもケロリと、しかし嘲笑うのかのように話しかけてくるリヴァイアサンごと智史に対し怒り狂い見栄を張るアンチスパイラル、そして無理をしている事さえ忘れる程にブチギレて更にその威力を上げていく。そして光の強さが増し、リヴァイアサンの姿が光によって強引に消されるようにして見えなくなっていく。リヴァイアサンが自分の目に見えなくなったことでアンチスパイラルは勝利したと確信する、

 

「思い知ったか、我々の覚悟を込めたこの一撃をーー」

 

そう言った次の瞬間ーー

 

ーーキュォォン!

ーードガァァァン!

小物は黙ってろと言わんばかりに突如としてその青白いビームを螺旋状にして押し切って破る一撃が放たれる、それは一瞬にしてアンチスパイラルの背後の両腕の一部を薙ぎ払う。

そしてさっき迄発射されていたビームの爆煙を払うようにして無傷のリヴァイアサンがゆっくりと姿を現す。

 

「これで本当に終わりのようだな、アンチスパイラル…。」

当然の事ながらこれも想定済なのであっさりと吸収できてしまった。まあ被弾面積も考慮し、命中時の様子を見るに全部とは言い切れないが、それでもかなりの量を吸収したようだ。

 

「し、信じられん…‼︎破れるべくして破れる、これが我々の定めなのか…!否、否、否ぁぁぁぁ!」

あまりに一方的な光景にそう叫ぶアンチスパイラル、しかし智史は突きつけるようにして呟く、

 

「進化を捨てるということは勝ち残る為の努力をしないということに等しく、変わりゆく『モノ』に対して適応せずに寧ろ変わることを否として止めようという行為だ。そんなものは自然の摂理に基づき淘汰されるべくして淘汰される。それが必然よ。」

と。

 

「黙れ!貴様は進化の先に何を見るのだ‼︎」

「さあな…。だがそれは進化を怠った貴様には聞く必要の無いことだ、私が負けたら貴様に命をやると言ったが、私が勝ったら、言うまでもあるまいな…?」

智史のその言葉と宇宙でもくっきりと見える殺意の焔を見たアンチスパイラル、一瞬にして我に返らされてしまい、そして敗者は勝者に殺されるべくして殺されるということを理解してしまった。

 

「わ、我々を殺して何になるというのだ!」

「貴様に対する鬱憤が晴れるということだよ。」

「それは進化の制御を吹き飛ばし、この世界を滅ぼすという行為だ!進化を止めねばこの世界は滅びるのだ!」

「この世界と言っていることはすべて滅ぶわけでは無いのだろう?何よりどうして私がこの世界を守る為に貴様を殺すのを止めなくてはならないのだ、この世界に関する大事なもの、気に入っているものなど無いというのに。もう言い合いは飽きたわ、この世界共々貴様も滅ぼしてやる。」

「や、止めろ、止めてくれぇぇぇぇ!」

アンチスパイラルはあまりの恐怖に威厳も吹っ飛び悲惨なまでに狼狽える、だが智史は最初からこの世界諸共彼を殲滅すると芯で決めていたので全く同情しようとしない。

 

「時間だ。引導を渡してやろう。」

その言葉と共にリヴァイアサンのミラーリングシステムが展開され、40門もの超重力砲が姿を現す。そしてチャージの際に奏でられる青白い光の演奏に智史の体が下から照らされていく。

 

「た、助けてくれ、助けてくれぇぇ!」

「いい様だ、だがダメだな。1つ残らず、消滅せよ」

 

ーーピカッ!

ーードゴォォォォォォォン!

 

智史はいい様だと言い喜び、嬉しそうに指を鳴らす、そして40門もの超重力砲が一斉に咆哮し、そこから全てを焼き尽くす程の青白く、黒雷を伴った破壊の業火が放たれる。

 

「ぎゃぁぁっ、ぎゃぁっ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

断末魔と共にアンチスパイラルは全てを容赦無く破壊の業火に焼き尽くされて消滅する、そしてその業火は智史の意志に従い、グレンラガンの世界系を閃光と衝撃波を伴って喰らい始める、暗闇の世界の中でリヴァイアサンから放たれた業火が青白い光を放って爆発の衝撃波の如く次々と世界系を食らっていく様は圧巻かつ美しい光景だった。

 

 

「な、何だあれ…。」

「シモン、あれは一体…‼︎」

とある世界の地球上のどこかで会話するシモンとヨーコ、螺旋王ロージェノムの手下達と戦いを始めようといったその矢先に突如としてリヴァイアサンから放たれた一方的破壊を齎す業火に襲われた。

彼らは原作では主人公として活躍するのだがこの物語では主役では無い。何でこうなるんだとシモンの兄(?)カミナが叫ぶもののそれは業火を止めるファクターでは無い。カミナの叫びなど御構い無しに業火はシモン達諸共グレンラガンの世界系の1つを一瞬にして焼き尽くしていった。

だが業火はシモン達を生贄として食っても満足せず、グレンラガンの世界系を焼き尽くしただけに留まらず周りの世界系、いやそのまた周りの世界系の大半を焼き尽くしたところでやっと終息した。

 

「全てを焼き尽くす業火とは、こういうものだ。」

「おいおい、随分と焼き尽くしてくれるじゃねえか…。オーバーパワー過ぎるぞ…。どんだけ焼き尽くしたんだ?」

「小宇宙も含めた宇宙を10の5027万乗は跡形も無く焼き尽くした。」

「ご、5027万乗⁉︎ダメだ、計測不能だ…。」

「滅茶苦茶な数値だろう?まあ『試運転』も兼ねて多少手加減しているとはいえ上出来だ。」

グレンラガンとその周りの世界系は骸1つさえ残さずに跡形も無く吹き飛んだ、そこには光なき暗黒の世界と静寂しか残らなかった。ヤマト達がいたアルペジオの世界系やこれから向かう世界系は破壊しないように多少工夫していたことや無量大数といっていい程の次元の壁を破壊して別の世界系に次々と破壊を齎す際に威力が減殺されたことも考慮しても、言葉で表現しようが無いほどに凄まじい破壊を一撃にて齎したことが一目瞭然にて分かる程だった。

 

「しかしこうも綺麗サッパリに何も無くなると虚しくなるな、当てにするもの、衝動をぶつける物が無くなるということは虚無しか産まんかもしれん、そしてその時に永遠に生き続けなければならぬとしたら、それは幸せと言えるのだろうか?」

「そうね、終わりたくても終われないのはある意味悲しいわね。いずれ死ぬという定めがあることは悲しい事だけど、かといってそれが無いのも、必ずしも幸せとはいえないね。」

「そういう過去が此れ迄にもあった、私が外に出た理由は強者を一方的に蹂躙する喜びが主だが、もしかしたら破壊の果てには虚無しか無いという結論を見出しながらそこから逃れるようにして外に外に出ているのかもしれない。」

「自己嫌悪は度を逸してると体に毒だよ。智史くんは智史くんなりに考えて生きていればいい。永遠に生きられなきゃならないという使命があるなら、それと向き合いながら楽しみを見つけていきましょう。」

「そうだな…。ありがとう。」

鋭すぎる感受性の影響からか、自己嫌悪のジレンマに陥ってしまう智史、しかし琴乃に諭され一時かもしれないものの心を救われ、気分を立て直す。

 

「ふう、いい鍛練になったし、さて、次行くか。今度はチートラマンとチートライダー共をギタギタにしてやろう。」

「次は世界系を根絶やしにするとか残虐なことを実行するなよ〜!」

「ふっ、ズイカク、奴等の出方次第では今回と同じく跡形も無く吹っ飛ばすかもしれんぞ?まあそこは悪く思わないでくれ。」

そしてリヴァイアサンはミラーリングシステムを畳み、スラスターと全身の蒼いバイナルを一段と強く輝かせた後、仮面ライダーとウルトラマン達がいる世界系へと向かっていく。

いつも通りに怪人や怪獣と戦っている彼らは『常識』を越える存在さえ簡単に討ち倒す恐るべき『災厄』が迫っていることに気がつきもしなかったーー




おまけ

グレンラガンの扱いを悪くした理由

・メインキャラやメインメカの外見がチャラい、兵器としての重みを出したデザイン性が成っていない(キャラクター性、ストーリーの内容が悪いとは一言も言っていない。)
・アンチスパイラルの宇宙を守る為に進化を抑制するという選択肢に作者である私自身が疑問を覚えた為


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第37話 無慈悲なる暴虐

…酷い、とにかく酷い…。
今度はチートライダー達が智史によって地獄絵図を見る羽目になります。
彼らが酷い目に遭っても問題ない方だけ、見る事をお勧めします。
当初は彼らを屠った後直ぐにチートラマン達を屠る予定でしたが、少し気が変わりました。
それではじっくりとお楽しみください。


「「さあ、お前の罪を数えろ!」」

そう呟いたのは仮面ライダーの世界系の1つ、Wの世界のヒーローというべき左翔太郎とフィリップだった。

彼らは仮面ライダーWサイクロンジョーカーに変身し、これからドーパントという怪人と戦うのだ。

だが彼らも含めた仮面ライダーの世界系のヒーロー達は気がつかなかった、この時『災厄』がこっそりと彼らの世界を覗き見しているということにーー

 

 

ーーほぼ同時刻、次元の壁を突破して侵入したリヴァイアサンのCICでは

 

「やはり強者がうようよといるな、だが若い奴は大人の貫禄がまるで湧いてこないし気に入らないな、チャラいという感じで。だがこいつらの中でも特にフォーゼは気に入らん、防災頭巾の如きダサいキャラの外見のデザインはもちろんの事、「宇宙キター」という変なテンションの声と馬鹿馬鹿しい理想論を掲げ正義を振り回しておきながら気に入らぬものは殺す、それが気に入らん。自分の信条を守って気に入らぬものととも仲良くなったということをやってのけたら人間的に大したものだ。まあ己の鍛練もかねて葬り去るからあんまりネチネチ言っても無駄だな。」

そう言い自己の手で強制生成した次元の穴を通じてサークルのモニターに投影して自身の好みかを論評する智史、まあ昭和勢は概ね好印象を持っていたし平成勢もオーズまでに限ってではあるものの、まあまあ人としての貫禄は出ていた為に人としての印象は悪いものは持っていない。寧ろ一部のキャラに至っては好印象さえ持つ程だった。

だがフォーゼからはとても怪しかった、鎧武を除いたキャラのデザインには仮面ライダーの気品が感じられず、寧ろ安っぽささえ感じてしまうほどで、彼はそんな彼らに嫌悪感さえ感じていた。

 

「智史、フォーゼが嫌いとか言ってたみたいだが、フォーゼってどんな奴なんだ?」

「一言で言えば、偽善まみれのヒーローだ。綺麗事を掲げておきながら実際には汚れたこともやっている奴だよ。人は嘘を平気でつく、無意識にでも、な。態度や行動が口で呟いた言葉より強く印象に残るのは前述のことが無意識にでも体に刻みつけられているからだよ。」

「成る程な…。要するに人間性を示したければ言葉ではなく態度で語れと。お前はそう言いたいのか?」

「まあそういうことだ。悪いことになると口で言いながら実際にはいいことをしていると態度で語ればいい奴だなという印象を与えられるぞ?時間だ、チートライダーのみではあるものの、こちらが用意したバトルフィールドに案内してやろう。勿論砥石として己を強化する為のな。(まあ緊張しなくはない、勝てるということが物理的、科学的に見て一目瞭然だというのに何故か、だ。油断によるどんでん返しを恐れているのだろうな。その恐れを消す為に更に己を適応強化するとするか、現実逃避の意味合いも込めて。それに計画も無しに暴れ回ったら色々と面倒だ、潰したい世界、通過儀礼に近い感じで潰さなければならぬ奴以外の者達まで巻き込んで、力づくで全て殲滅することしか解決する方法のない泥沼のような事態は笑えん。)」

そう心の中でぼやく智史、無闇に暴れ回ったら自分の望まないこと、罪まで背負わされることを危惧し蹂躙したい所以外の蹂躙は控えることにしていた。それはさておきとして、此れ迄の進化、そしてそのペースをべらぼうに上げ過ぎているお陰であらゆる能力が滅茶苦茶な迄に強化されていた、勿論その中には物理的、科学的ハードウェア面で瞬時に対応してしまう対処能力も含まれていた、たとえ戦術がへたっぴでもハードで強引に相殺できないことはないという考えからである。まあ彼の場合そんなもの使わなくても勝ててしまう域にいたのだが…。

そして彼は嬉しそうに指を鳴らす、すると各々の世界系に突如として異変が生じ始める。

 

 

「な、なんだこれは⁉︎」

「時空の、歪みだと…⁉︎」

「いったい何が起きているんだ⁉︎」

「体が、沈んでいく…‼︎」

怪人と戦闘中だった者、日常を過ごしていた者はチートライダーならば問答無用で向こうの気持ちなど御構い無しに強制的に智史が生成したバトルフィールドに連れて行かれる、そして一斉に変身して己に挑みかかってくる展開こそ面白みがあると判断した彼により変身していたライダーは強制的に変身を解除される。

 

「こ、ここは…。」

「何処だ、クソッ、通信が繋がらねえ…。」

「お、お前は誰だ⁉︎」

「待ってくれ、お前らと敵対する意思はない!」

そして彼らは暗闇の空間ーーバトルフィールドに叩きつけられる、ここに召喚されたのはチートライダーのみでそれ以外は召喚していない、チートクラスを余裕で吹き飛ばせるということを実証する事で欲望の1つを満たせれば十分なことなのであり、潰す価値が無い者まで潰すつもりは微塵もなかったからだ。

 

「“ようこそ、我が庭へ。”」

「な、なんだてめえは…‼︎」

突如として空間に響き渡る重々しい声、そしてその声の主は空間を切り裂くようにしてゆっくりと姿を現す。

 

「我が名は海神智史。諸君らをここに招待した張本人だよ。」

「てめえか、ここに俺達を呼び寄せたのは。」

「そうだ、己を鍛える為に諸君らと戦いたくてな。」

「何でお前と戦わなければならないんだ!」

「そうだ、早くここから出せ!」

「止めろと言われて止められるか。ここから出たければ私を倒してからにしろ。」

「何だと⁉︎」

智史の挑発に激高する一部の仮面ライダー、それを見た智史はすこし嬉しそうだった。

 

「早く私を倒さないと『家』が大変なことになるぞ?」

「どうやってもそう簡単には通すつもりは無いということか…‼︎」

「そうだ、諸君らが変身し、持っている技の全てをぶつけなければ、元の世界に帰れると言う可能性は永久にゼロだ。帰りたければさっさと掛かってくるがいい。」

「野郎…、俺達を舐めるなぁ!変身!」

「変身!」

「変身っ!」

「そうだ、それでいい…。さぁ、私に挑め!」

そして智史は手元にカオスブレイド、ハイウェイスター(元ネタはff12に登場するジャッジ・ガブラスが所持していた武器より)を生成して戦闘態勢を整える、それに応えるかのようにライダー達も変身していく。

因みに智史は素のままでは白兵戦での戦闘技能はあまり高くない方だった(それを補うかのように圧倒的なハードスペックと物量を背景とする力攻め、ごり押しが主体の戦術だったが)それを考慮した彼は次元横断能力の一部を生かし、ジャッジ・ガブラスに関するデータ(攻撃モーション、必殺技モーションを含む)を初めとするものを調べ上げてそれを体にプログラムとして記録した。普通の人間にはこういう芸当は不可能なものの、彼は霧のメンタルモデル、それも規格外すぎる人ならざる化け物なのだ。オマケに常に進化し続けているのだから、こんなことが可能と言われても何となく納得できてしまう程だった。

 

「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」

「ふんっ!」

「はぁっ!」

 

ーーカキィィィィン!

ーーザンッ!

 

「ぐほぁ!」

「げはっ!」

そして仮面ライダー達は変身して彼に襲いかかる、彼はそんな仮面ライダー達を次々と迎え討ち、斬り倒していく。

 

「どうした、もう弱音を上げるのか?」

「強いな、俺が戦ってきた悪党どもよりも…!」

小手調べ程度とはいえ智史は彼らをあっさりと斬り倒してしまう、そして根性が無いのかと発破を掛けようとしたところで1人ーーチートライダーの最強格は並とは違っていたことに気がつき、少し興味を示す。

 

「南光太郎ーー仮面ライダーBLACK RXだな。小手調べ程度とはいえ、我が一撃に耐え、余力を十分に残すとは流石チートライダー代表格というべきか。肩慣らしで終わったら詰まらんだろう、RX。お前はまだ真髄を見せつけていないというのに。」

「そうだ、俺は太陽の子っ!仮面ライダーBLACKっ! RXっ!お前の暴虐を許さん!」

「それでよい。全力で来い、こちらも全力で応えよう。」

彼はそう嬉しそうに笑う、何せ最強格を蹂躙できる機会が目の前にあるのだから。勿論倒す、蹂躙出来るだけの力が無ければこちらが殺られてしまって本末転倒なので、それだけの力はもうとっくに付けていたが。

 

「てりゃぁぁぁ!」

「はっ!」

 

ーーバキィン!

ーーガキィィィィン!

 

智史はカオスブレイド、ハイウェイスターを連結した薙刀で、RXは自身の力の源であるキングストーン「太陽の石」から、光粒子を凝縮されて形成される光のスティックーー光子剣リボルケインで互いに斬りかかる、お互いの剣がぶつかり合う際に火花が飛び散り、暗い空間を彩る。

 

「隙が無いな、0.1秒という僅かな隙さえも…‼︎」

「迫真のぶつかり合いという感じでいいではないか、まあ隙が有っても問題は無い。最もお前を葬るのには0.1秒も要らんがな。」

「成る程…。その様子を見るにお前の言葉は事実としか言いようが無い…!」

何撃目かの鍔迫り合いでRXは大きく弾かれる、幸いキングストーン・フラッシュをバリアとして使用した為に壁に叩きつけられはしなかったものの、それでもRXを多少フラつかせるには十分だった。それに対し智史は息を全く乱さず、ケロリとしていた。

 

「このままだとお前の思うがままの事態となろう、ならばその前にケリをつけん!たぁぁぁぁ!」

そう言いRXは突っ込んでくる、リボルケインを右手に構えながら。

 

ーー恐らくリボルクラッシュか。あれはリボルケインで貫き、更に高エネルギーを体内に注ぎ込むことで怪人どもを悉くお陀仏にした恐るべき必殺技だな。まあこんな技を食らった奴らが悉くお陀仏にされる理由も理解不能ではない、何せ無限にキングストーンからエネルギーは供給されるのに対して体内に流し込まれたエネルギーが処理出来ない、或いは外に逃せないのでは何れ破裂するわ、風船が内部からの膨張に材質が耐えきれずに破裂する理屈と同じよ。

だが裏を返せばそのどちらのペースかが流し込まれるペースを上回っていればあの技を食らった怪人どもが辿ったような末路は辿らなくて済むということだ。私か?私なら、そのまま受けて全部自分のものにしてしまおうか。

 

「食らえぃ!」

リボルケインが智史に向けて突き出される、智史はそのリボルケインの光る刀身をそのまま片手で受け止める。

 

「瞬時に見切り、受け止めるとは、なかなかやるな、だがこれは多くの悪を葬った一撃!この一撃を受けて滅びるがいい!」

「それは私には通用するのかな?」

そしてキングストーンからリボルケインを通じて智史に莫大なエネルギーが流し込まれ彼の身を爆破する、筈が、

 

「馬鹿な、悪党共を簡単に滅す程の力を持つこの高エネルギーを吸収しているだと⁉︎」

「そうだ、身に害を及ぼす役割を持つモノを中に入れても綺麗に無害化された上で己のものとされたらそのモノはもう役割は果たすまい?」

逆に吸収され、彼のものにされてしまっていた。RX自身の必殺技というべきリボルクラッシュを逆用される状況に陥っては、彼に対する勝ち目は半分潰えたに等しい。

 

「し、信じられん…‼︎」

「威力は無限大という噂が流れていたみたいだが、正確には測りきれない程の威力だったという方が相応しいだろう。威力が無限なものがもし実在したら一撃だけで私も含めたあらゆるものが粉微塵となっているだろうな。」

智史はそう言い放つ、そしてリボルケインを通じて今度はRXに先程流し込まれたエネルギー量を遥かに上回る量を流し込もうとする、しかしーー

 

「とうっ!」

「む?」

次の瞬間に突如として智史の目の前からRXが消え、斬撃の火花が智史の頬に程走る。

 

「ほう、ゲル化してエネルギー逆流攻撃を避けたのか。見事だRX、この形態にならなければ私を倒せぬと踏んだか。」

「そうだ、俺は、怒りの王子っ‼︎仮面ライダーBLACK‼︎RX‼︎バイオライダーッ‼︎」

なんとRXは最凶ライダーと名高いバイオライダーに変身し先程の逆流攻撃を逃れてバイオブレードで智史を斬りつけた。

 

「中からお前を滅ぼしてやろう!」

「面白い、ならば本当に滅ぼして見せよ」

「その言葉、後悔しろ!てやぁ!」

そしてRX、いやバイオライダーは跳躍する、智史は剣撃を放つがバイオライダーはゲル化してそれを躱す、そして彼は智史の体内に入り込み、智史を体内から斬り刻もうとした、だがーー

 

「ば、馬鹿な、俺の身体が侵食され、吸収されていくだと…⁉︎」

「ふっ、愚か者が。私を何の対策も練らない隙まみれの悪党だと勘違いしたのか?そうだったら大きな大間違いだ。」

「な、何だと…⁉︎」

何と智史は敢えてゲル化したバイオライダーを体内に招き入れ、そして圧倒的な力を持ってバイオライダーの構成素材を侵食分解して吸収してしまうという力業を見せつけた、これは『力』を持つものにしか出来ぬ芸当ーー特権であり、当然バイオライダーに負けた者達にはこんな滅茶苦茶な特権などない。

勿論智史にこんな芸当が出来たのは滅茶苦茶という言葉さえ越えた進化のお陰だったが…。

 

ーードォンッ!

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。なんて、なんて奴だ、さっきのあの様子は隙まみれだというのに…‼︎」

「お前の頭の尺では“隙”と見えたようだが、あれは“隙”ではない、“余裕”というのだ。私にも通じるかもしれんが、自分の尺が正しいとは、必ずしもそうだとは言えんぞ?」

幸い早いタイミングーーあれはかなり手加減していた方であり、本気を出せばあっさりと侵食吸収されて消滅していたのだがーーで辛うじて智史の体から脱出できたバイオライダー、しかしうまく着地できなかったのか、バランスを崩して床に転げ落ちる。そして先程の様子の通り、ダメージを負ったことに違いは無く、足がかなり縺れ、スタミナがないことが一目瞭然で分かる程だった。

 

「最強格に相応しく中々粘るな、だがもうそろそろ幕切れとしないか?」

「…そうだな、終わりが近いな、俺も、キングストーンも…。だが俺は、太陽の子…‼︎仮面ライダー…、BLACK、RX…‼︎この身と引き換えにしてもお前を倒そう、てやぁぁぁ!」

己の最後が見えたのか、それとも智史の圧倒的な力の前に心の目が霞んだのか、ヤケになって突っ込んでいく南光太郎ーー仮面ライダーBLACK RX。それに続くかのように形勢を立て直したオーディン、ダークキバら複数が智史に飛びかかってくる。

 

「その結末、醜いものとして終わらせてやろう。散れ」

智史は連結状態のハイウェイスターで空間を突き、更に分離したカオスブレイドで今度は空間を一閃して巨大な爆発を引き起こす。原作ff12ガブラスの技エグゼクションに近いような演出だったが原作の方の使い手は人間なのに対しこちらの方の使い手は人間では無く人外、それも化け物じみた存在なのだ、当然威力は本家よりもべらぼうに高かった、演出が派手なのに効果威力は地味という本家に対しこちらは演出によって予測される結末を裏切ること無く、死刑の名を冠するに相応しい真髄を遺憾無く見せつけた。たったの一撃で突っ込んできたバイオライダーもとい仮面ライダーRXをオーディンら複数の仮面ライダー達を瞬間移動といった小細工も御構い無しでなおかつその暇さえ与えずに瞬時に粉砕し、彼らの体を原子レベルで塵と化してしまう。更に複数のライダー達をその余波で面白いように転がす。

これはもはや、戦闘ではなく彼、海神智史が大好きな一方的な蹂躙劇の如き様相だった、なにせ研磨と言いながら圧倒的な力で一方的に振り回し、叩き潰しているのだから。

 

「いい様だな…。」

「てめえ、何てことを…‼︎これ以上、てめえの好き勝手にさせるか…‼︎」

「ほう、意気地なしかと思っていたがそうでは無かったようだな、これは失礼。砥石以下では無かったか。」

「舐めるな、俺達はてめえの為の砥石じゃねえ!」

「イライラするような言い方だな…!」

「ふざけんじゃねえよ、この野郎…‼︎」

他のライダー達も智史に簡単に斬り伏せられ、更に吹き飛ばされるという絶望的な状況下においても、何とか態勢を立て直した、そして彼らは立ち上がり強化変身のポーズを取り始める。そして次々と形姿が変わり、先程のものとは打って変わって雰囲気が変わった。

 

「お前に勝って、みんなを守る!」

「そうだ、仮面ライダーはそれでいい。偽善を叫んでいるだけで十分だ、それでこそ己を更に鍛える甲斐がある。さあ、もう一度来い」

「タダで済むと思うなよこの野郎!」

そして強化変身した仮面ライダー達は智史に再び斬りかかる、智史はここから盛り上がるということを予測したのか嬉しそうに笑う。

 

「食らえ!」

「はぁっ!」

「てやぁっ!」

キック、パンチも含めた先ほどより威力、技の切れも増したあらゆる攻撃が智史に再び襲い掛かる、しかしそれは『想定内』なら全く問題にはならない、ただ攻撃が激しくなっただけのことである。智史はそれらを今度は素手で冷静に受け流し、そしてカウンターとして重い一撃を次々と打ち込み、彼らを次々とバトルフィールドの壁に深々と叩きつけていく、そこから一歩も動くことなく。

 

 

「ライダーキック!」

「ロイヤルストレートフラッシュ!」

「ブラスタークリムゾンスラッシュ!」

そんな中でファイズブラスターフォーム、ブレイドキングフォーム、カブトハイパーフォームが必殺技と言うべき攻撃をクロックアップで時間の速度が低下しているという状態で一斉に叩き込む、だが智史はそんな環境下ーーその環境さえも強引に捻じ曲げて介入できるのだがーーでも平然とブレイドの高エネルギーを帯びた重醒剣キングラウザーの刀身を片手で受け止め、更に2人分の必殺キックをもう片方で受け止めた、そして、

 

「ふんっ!」

「どはぁっ!」

「ぐはっ!」

ファイズとカブトを軽々と投げ飛ばし、床に叩きつける。更にその勢いで、

 

「影は斬り裂けても私を斬り裂けぬようでは、今お前が持っている王の名を冠した剣はお前に相応しく無い得物だ、王の名が泣いているぞ?王の名を冠する物は最も力を持ち、そしてそれを統べる器、更にはそれらのバランスを維持しつつ更なる高みに至らせる力を持つ者に相応しいものだ。」

「な、何…⁉︎ふざけるな、この剣はお前のものじゃない!」

「まあそうだろうな、この時までは。今からこの剣は私のものとなり王の名を冠する剣に相応しいものへと昇華するのだ」

 

ーードォンッ!

「だあっ!」

智史はキングラウザーをブレイドキングフォームから奪い取り、その構成素材を作り変えて先程のものよりも桁外れなまでに斬れ味と硬さを上げてしまう、それに伴い王の剣に相応しいオーラも更に増していく。

 

「王の名を冠する衣を纏っておきながら、私を倒せなかったお前には死を贈ろう、新たに生まれ変わったこの剣の最初の錆として。」

智史はそう呟きながらキングラウザーを引きずってブレイドの目と鼻の先までに迫る、刀身に力を帯びさせながら。

 

「沈め!」

 

ーーブンッ!

ーードガァァァァァァン!

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

そして彼はもう興味などないと言わんばかりにブレイドキングフォームを軽く斬り捨てる、ミサイルの直撃や200tの衝撃にも耐えうる非常に堅固な鎧もこの一撃の前には全く意味をなさずにいとも簡単に引き裂かれ、ブレイドは縦に真っ二つにされるようにして閃光とともに消滅した。

 

 

「1人倒せたからって…、俺達を…、俺達仮面ライダーを…、この程度だと思うなぁぁぁぁ!」

「そうだ、俺達は最後には必ず勝つ…‼︎お前には負けん!」

「自分達の世界では通用しうる決め台詞だな。だが私には効かぬぞ?」

それを見ながらにして何とか立ち上がるファイズとカブト、その遠吠えのようなような台詞に智史は少し呆れるようにして返答する。そして2人は渾身の力を振り絞りそれぞれフォトンバスターとマキシマムハイパーサイクロンという銃に変形させた武器から大技を放つ、その光は智史を覆い、両者を巻き込むような巨大な爆発が生じる。

 

 

「…やった…のか…?」

「いや…分からん…。この爆発だとーー」

 

ーーザンッ!

 

ーーズガァァァァン!

 

何かを言おうとした2人、しかしその言葉を最後まで言う間も無く無傷で先程の攻撃を軽々と耐え凌ぎ、しかもその殆どを吸収してしまった智史にキングラウザーで胴を両断され、跡形も無く爆散した。

流し込めば怪人を滅殺してまうフォトンブラッドという猛毒粒子さえ、彼には効果が無く、寧ろ彼自身の進化、そしてそのペースを更に強化する為のスタミナ材として逆用されてしまったのだ。

 

「あ、あれ程の攻撃を、難なく耐え凌ぐなんて…。」

「しかも撃ち込んだ技全てが奴にしてみれば只のスタミナ剤だというのか…?」

「ば、化け物だ…。」

「もう私に挑む者は居ないのか?…ふっ、皆心が折れかかっている為に砥石としての役割も果たせなくなりつつあるか…。それにもう飽きてきたし、幕切れを早めつつもお前達を殺った時の快感がより深く出るように、お前達の心を憎しみと憎悪に染めてやろう。」

そう智史は呟く、すると映像が投影される、彼らが住んでいると思われる世界系の無数の光景が。

 

「な、何のつもりだ、この程度で俺達に打撃を与えられると思ってるのか…⁉︎」

「先程のは下準備だ、本番はこれからだ。」

そして彼は嬉しそうに指を鳴らす、すると映されている世界系が突如として歪み、崩壊を始める。

 

 

「“ぎゃぁぁぁぁ!”」

「“嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!”」

「おい、どうなってんだよ…‼︎」

「な、何をした…‼︎」

「お前達が住んでいる世界系にか?ああ、お前達の全てを破壊する為にブラックホールを強引に発生させたのだ。この世に思い残すものが無いようにな。」

「ふ、ふざけんな…!」

次々と人やモノがブラックホールに飲み込まれるようにして悲鳴を奏でて消滅していく、映像を通じて映されるその光景に戦慄し動揺するライダー達、そして彼らの中に忘れかけていたどす黒い何かがこみ上げてくる、その様を見ていた智史、そんな様の彼らとは対照的に笑いが堪えきれず、腹を抱えて笑い転げた。

そして彼らがいた世界は全て消滅してしまう、一部と特例を除いて。

 

 

「おい…、ふざけんな…、ふざけんじゃねえ…‼︎てめえだけは、絶対に、ぶち殺してやる‼︎」

「貴様のような外道は八つ裂きだけじゃ済まねえ、髪の毛一本残さずこの世から消してやる…!」

「お前達から宝物を奪い去り、消し去った私が憎いか?憎いだろうな…。そうだ、私を憎み、恨め!私に対する憎しみに溺れ、私に斬りかかるがいい、その絶望と憎悪の塊こそが私を更に磨く砥石となるのだ…!」

 

「「「「ゔぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」

 

智史によって散々に痛めつけられ、この上に悪夢と言うべき光景を見せつけられ、ディケイドコンプリートフォームがライダーカードを用いて呼び寄せたライダー達も含めた皆が完全にどす黒い感情に支配され我を忘れて彼に突っ込んでいく、彼は3度目は甚振るようにしてわざと中途半端に手を、足を、剣を、武器を、次々と斬り落とし、胴を貫き、裂き、仮面を潰し、叩き割り、修羅というべき地獄絵図を生み出していった、ディケイドコンプリートフォームが召喚した平成の最強フォームのライダー達は一刀で両断されて消し去られたが。

 

「畜生…、畜生…‼︎」

「ぐぞぉぉぉぉぉぉ!」

「悔しいか?悔しいだろう…?そうだ、もっと憎しみに溺れ、不甲斐ない己と、私を憎むがいい!」

憎しみに溺れ、手足を切り落とされて苦しむライダー達、智史は本当に嬉しそうだった、自分が望んだ『己を強大にしながら、強者を苦しめ、甚振る』という願いが自分自身の力でちゃんと現実に生み出されたのだから。

 

「そして氾濫する憎しみに食われ、滅びよ!」

 

ーードゴォン!

 

「「「「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」」」」

「「「あぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」」」

「「あぁぁぁぁぁ!」」

「あぁぁ…。」

「…ぁぁ」

そして彼はその美酒に酔いしれつつも憎しみに満ちた力を彼らに深々と突き立てる、その中に流し込まれた『憎しみ』は壊れかけた彼らの力の器を溢れて彼らの血肉を食い荒らし、青い炎となって彼らを焼き尽くし、内から滅ぼしていく。そしてその後には静寂が訪れた。

 

 

「己に御せぬ力に食われ滅びるという醜い末路…、実にいい様だ。奴らに醜い結末を辿らせてよかったわ。さて、唯一の生き残り君を連れて行くとしよう。」

静寂しか残らない空間、その中で唯一生き残らせたーー先程までの智史との戦闘で変身ベルトを破壊されて大怪我を負い、意識を失っていたがーー仮面ライダー、オーズごと火野映司を智史はクラインフィールドの殻で覆い、手元に呼び寄せる。

 

「ここを何時までも残しておく理由は無い。片付けるか。」

そして智史は気を失っている火野映司と一緒にバトルフィールドを離れるとバトルフィールドを跡形も無く解体してしまう。

 

「終わったみたいだな、智史。しかし、随分とこれまた酷いことを…。」

「見ていたのか、ズイカク。奴らの『家』が崩れる様を。」

「ああ、幾ら何でもやり過ぎじゃないか、相手を片付けるのにカタルシスを出したいとはいっても…。」

「それでも無数の世界系諸共アンチスパイラルを焼き尽くした時よりは随分とは“マシ”だろう?」

「規模的にはな…。でもされた側、見ていることしか出来ない側の気持ちに少しはーー言うまでもないか。」

「ああ、欲望のままに奴らを甚振る、それが楽しいことだとしても、される側だったことを思い出す度に心が痛む…。」

「そうか…。しかしそれにしても、その男は誰だ?」

「彼か?彼の名は火野映司。仮面ライダーオーズの変身者だよ。彼はあえて殺さなかった。理由?私が彼を元から気に入っているというより、彼の世界にあるクスクシエという料理店の外装と内装を見て回り、そこでリラックスしたいということと鴻上ファンデーションの会長、鴻上光生と言う人物を一度見たいという欲望からだよ。」

「でも、その世界はさっきの暴挙で破壊された筈では…?」

「あれか?ああ、お前が見ていたものの中に彼の世界も壊れるという真っ赤な嘘を混ぜておいたからそう見えただけだ。」

智史はオーズの世界は一度でも訪れてみる価値があると考えていた、ただ相手を楽しく甚振るのに自分への憎しみや負の感情以外は要らないと本能で判断していた為に敢えてオーズにもあのような悪夢のような真っ赤な嘘を見せつけた上で蹂躙したのだった。もし彼らの宝物を壊すことを抜きにして蹂躙するとしたら、それはあまり楽しいとは思えず、カタルシスもうまく出ないからだ。

 

「さて、火野映司を部屋に連れて行って休ませるとしよう、私が彼も含めたチートライダー、否仮面ライダー達にしたことがアンクや泉比奈といった仲間達の耳に入ったら皆怒り狂い、特にアンクや後藤は私に掴みかかってくるだろうな、向こうの世界に着いたら早速彼らにこのことを知らせるとしよう、くくく…。」

「笑い方が、こ、怖えぞ…。」

「ふっ、彼らは私の底知れぬ欲望を満たす為の“玩具”だからな…。」

そして智史は映司を部屋に連れてそのまま寝かせる、勿論手当はきちんとしておいたし、反乱対策も滅茶苦茶すぎる勢いで実行していたが。

 

「智史くん、まともになってきたね。」

「ああ、ヒュウガやイオナ、ヒエイ、群像達、そしてお前と意見を交えたことで己の齟齬に気がついてから、私は色々と学習してきた。」

「成る程ね〜。それにしてもズイカクから聞いたけど、仮面ライダーオーズごと火野映司って人の世界に行くの?」

「ああ、焼き払ってもいいが、一度でも見ておきたいものが幾つかあるからな。最初はそれが終わったらチートラマン達も直ぐにぶっ潰そうかと考えていたが、火野映司を見た途端、クスクシエと鴻上光生のことを思い出し、彼らを見たいという欲望が芽生えてな、気が変わってしまった。」

「いつも通り、自分に正直ね。鴻上さんってどういう人なんだろう?そしてクスクシエってどういう場所かなぁ?」

「料理店さ。だけど私にしてみれば心が落ち着く『場所』でもある。店長は白石 知世子(しらいし ちよこ)。まあ思い込みに終わっているかもしれんな、彼らに私が火野映司にしたことを話したら皆怒るかもしれないし、一生私を許そうとしないかもな。」

「そうね、彼を大切に思っている人達にしてみればたまったものではないわね。でも一生許してくれないとまだ決まった訳ではないわ?智史くんは自分に素直だし、真面目だから。」

「そうだな。さて、自然と風景を楽しみながらそこで少し寛ぐとしようか。」

「ええ。」

そしてリヴァイアサンはスラスターを吹かして、チートライダージャンルの世界系列で唯一破壊しなかったオーズの世界系へと向かっていく。

一方その頃、オーズの世界では。

 

「映司ぃ…。どこへ行きやがった…?」

 

声の主はグリードの1人、アンクだった。右手以外は人間という姿形をしていたものの、これは嘗ての先代オーズの暴走により意識を肉体から切り離されて右手だけとなった彼が人間に憑依することで生み出されたかりそめの姿で本来の姿ではない。

彼は出現したヤミーとの戦闘中突如としてコアメダルケースごと消えたーー智史が仕組んでいたことなのだがーー映司を血眼になって探しまくっていた、映司が居ないということはグリードの名を冠する通りに、コアメダル収集を己が目標としているアンクにしてみれば不都合極まりなかった。

 

「畜生…、何がどうなってんだ…⁉︎」

必死に探してもなお、映司が見つからないことにそう苛立つアンク、しかしその苛立ちは間もなく解消されることとなる、大怪我を負った映司とその大怪我を負わせた張本人がまもなく現れるという形でーー




おまけ

チートライダーとリヴァイアサン=海神智史に判断され、召喚された仮面ライダー達、その一覧

仮面ライダーBLACK RX
仮面ライダースーパー1
仮面ライダーアマゾン
仮面ライダーストロンガー
仮面ライダーZO
仮面ライダーJ
仮面ライダークウガ
仮面ライダーアギト
仮面ライダーオーディン
仮面ライダーファイズ
仮面ライダーブレイド
仮面ライダーカブト
仮面ライダーダークキバ
仮面ライダーディケイド
仮面ライダーW
仮面ライダーエターナル
仮面ライダーオーズ
仮面ライダーフォーゼ
仮面ライダーウィザード
仮面ライダーフィフティーン
仮面ライダー鎧武
仮面ライダー3号
仮面ライダー4号
仮面ライダードライブ
仮面ライダーネクロム
仮面ライダーシン


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第38話 オーズの世界を気ままに探索する智史

今回もど酷いです。
軍鶏ヤミーとアンクロストと戦う相手はオーズではなく、今や最強最悪の破壊神というべき存在となった智史です。そして彼等は原作より無様な末路を遂げることになります。
あと智史がコアメダルの作り方も覚えてしまったせいでそれがアンクの心をポキリと折る一因にもなっています。
オーズがこんな扱いを受けても問題ない方だけお楽しみください。


「アンク、映司くん見つかった?」

「見つかんねぇ、クソ、いったいどうなってるんだ⁉︎」

「もしかしたらグリード達に連れ去られたんじゃ…。」

「もしそうだったらグリード達の側に映司がいる筈だし、痕跡が残るはずだ、なのに何故だ…⁉︎奴の反応が忽然と消えるはずがねえ!」

智史に連れらされたという事実ーーその張本人を知る術は持ち合わせていなかったがーーその事を知らぬままに映司を必死に探すアンクと比奈。

 

そんな様を空間の歪みを通じてモニターに投影してこっそりと見ている智史、慌て苛立つ彼らの様を見てしめしめと思い、思い通りに行ったなと内心喜んでいた。

 

「ふふふ、実に実にいい事で。くくく…。さて、思い出し笑いはこの程度として、この世界で通用する“アレ”を調達しよう。“アレ”が無ければお料理を食う食わない以前に食えないからな。」

「“アレ”って、まさか、金か…?」

「正解。この世界でも貨幣が流通している以上、貨幣を使うという手段がある。ましてや大事引き起こす事なく平穏にこの世界を楽しみたいというコンセプト上、この手段を使わぬ理由は無い。」

「でも、どうやって調達するんだ…?」

「貨幣を本物そっくりに偽造しても、偽造は偽造だ、バレたら大事を引き起こす可能性がある。だからこの世界の貨幣と交換する価値のある“モノ”を生み出す。」

「そういえばお前は全部とは多種多様なあらゆるモノを作れるんだったな…。それで最短で金を増やすとしたら…」

「そう、この世界の人間達にしてみれば価値の高いただ1つの“物質”で統一された、モノを大量に生み出し、売りまくることだよ…。」

「お前はなんでもありだな…。お前がこれからやる事がなんとなく見えてきたぞ…。」

リヴァイアサンの艦内でそう会話する智史とズイカク、智史達は誰にも発見されることなくこの世界に進入した、自身の血肉でもあるリヴァイアサンが発見されないように各種迷彩、ジャミングを掛けてその姿を欺瞞していたが。

 

「とはいっても、だ。世の中はそう簡単には優しくはない。実際に色々と売り買いする際に個人確認が必要なケースが出てくる。特に市場において非常に価値の高い金、プラチナ、ダイヤモンドはそうだ。大金が動くということはそれだけ犯罪に使われるというリスクも出てくるということだからな、それを抑止する為に個人確認をするのだ、いきなり価値の高いモノを売りに行くぞとなったら色々とボロが出てかえって非常に面倒になる、だからそこそこ価値のあるモノを売るとしよう。

それにカネを多く持たなければならぬ理由なんか無いな、一時的にこの世界に留まるのに大量のカネを持っておく理由など、余程の理由を除いて、何処に存在する?」

「成る程な、この世界で通用する“金”を大量に持っていたとしても多種多様な世界を旅するという観点上、それが必ずしも通用するとは限らないからな。」

「訪れた世界次第では、最悪、尻を拭く紙切れにもならん扱いを受ける可能性がある、だからカネは最低限のモノを持っておくとしよう。」

「そうだな。琴乃、行こうか。智史、火野映司を連れて行くことを忘れるなよ。」

「ふっ、分かっている。異次元空間に彼を仕舞っておくとしよう。」

智史はデータハッキングを行ってこの世界に関するあらゆる情報、スケールを以前の時よりも更に詳細に、事細かに把握しつつそれに対応する対策もやりすぎと言っていいぐらいに実行していた、以前も同じようなことをやっていてそれだけでも十分に勝てるというのに。

そして智史達は動き始める、リヴァイアサンの左舷飛行甲板上にf-35ライトニング2が二機生成され、彼らはそれに乗り込み、リヴァイアサンを飛び立っていく。

 

「やっぱ速えな〜。ここから火野映司の仲間らがいる所まで何分ぐらいなんだ?」

「5分もかからん。だが“カネ”を持たずにそこをいきなり訪れるのはアレだろう、まずはお約束通りに“カネ”を調達するぞ。」

そして智史達はスクラップ買取業者がある場所の近くに到着する。

 

「こんなところで、金が入るのか?」

「ああ、だが売り物なくばカネは手に入らぬ。手に入らぬなら、作ってしまおうか。」

智史はそう言い一瞬にしてピカ線ーー銅線の一種ーー3t分をその場に生み出してしまう、現実味が出るように多少不純物も混ぜてはいたが。そしてそれらを全て片手に持ってそのままスクラップ買取業者が居る施設へと入っていく。

 

「おう、いらっしゃい…、ってあんた、何者なんだ⁉︎」

「私か?ああ、一応『人』だが…。」

「見かけによらぬとんでもねえ化け物だな、あんた。それで、持ってるものはピカ線か、ピカ線を売りに来たのかい?」

「ああ、3t分をな。」

「3tか…、結構な価格となるじゃねえか、どれ、早速品定めだ。見せてくれ。」

そして智史は命ぜられるままにピカ線3tをここの主の目の前で計量器に置く、彼は丁寧に調べ、本物だと判断する。

 

「市場でよく売られているものと大差ねえな。でも、こんな量どこから調達したんだ?」

「中古品で廃棄されかけていたものを回収してきたのだよ。」

「そうか、まあいい。取引成立だ。お値段は、159万円だ。」

「了解した、一応聞いておくが、200万を超えると個人情報の確認が必要になるのか?」

「そうだな、200万超えると個人情報の確認しなくちゃなんねえんだよ、お偉いさんにしてみちゃ大金が自分達の見えないところで動くのは何かと許せない事柄だからな。」

「成る程な、ありがとう。ここも含めたこの世界に来るのは初めてでな、当然国籍や戸籍など持っていなかった。」

「なんだって…⁉︎あんた、この世界の外から来たのか⁉︎」

「そうだ。」

「良かったなぁ、200万超えなくて。これ200万超えてたらあんたが無戸籍だということが芋づる式にばれちまうぜ。なぁに、心配すんな。取引は取引だ。ほれ、受け取れ。」

そして智史は159万円を受け取り、その施設の外で待っていた琴乃、ズイカクの2人の所へと向かっていく。

 

「智史、どれぐらい稼いだんだ?」

「159万円だ、この世界の貨幣の単位は『円』だという暗黙の掟が成り立っている上で言った。」

「159万か…。私が居た元の世界の貨幣水準で行くとするなら、一時だけの贅沢をするには十分過ぎる額ね。」

「3人で53万づつ分けてもなお、この世界のサラリーマンの平均月収の1.7倍に匹敵する額だ。かなりの事が出来る額だとこの世界では言い切れよう。最もそういう自慢のようなことを言わざるをえない事態を生み出したのは私自身だかな…。」

「まあいいじゃないか、この世界で通用する“モノ”が手に入った以上、クスクシエにも行けるな。」

「そうだな、そこでまだ寝こけている火野映司を見せびらかして驚かしてやろうか。」

「そうね、行きましょう、この世界の情景を見ながら。」

そして智史達は53万円を其々の手に取ると東京都、武蔵野市にあるクスクシエに向かう為に公共交通機関の一種ーー電車に乗り込む、そのまま向かうのも休息の醍醐味を半減させかねないし、そもそも彼らはこの世界の情景がどのようなものなのかをまだ知らない。

 

「これが、元いた世界とは異なる人間の都市か…。誇らしげに何かとデカイものがたくさん建ってるな。」

「『生』を帯びている無数の超高層ビル…、『意欲』を帯びた無数の人間…。やはりここは活気があるな。ここが首都、東京だということも考慮しても私が元いた世界のものよりも活気がある」

「こんなに活気のある街、生まれて見たことがなかった…。私が居た横須賀もそこそこ活気はあったけど…。智史くん、群像くんが見たらどう思う?」

「見たら目を少し剥ぐかもしれんな、こんなに巨大な街があったのか、と。」

 

「ここが武蔵野市か…。流石に向こうよりは活気が少ないが、それでも色々と目を奪われるな。」

「まああっちは都市の中心部だし、ここはその都市の付属の1つーーベッドタウンでしかない。」

「ベッドタウン?なんだそれ?」

「大都市周辺の住宅地域や小都市のことだ、都市中心部へと通勤する人間達が夜寝るためにだけ帰ってくるという事象がその言葉の由来だよ。」

「なるほど、でも何で人間は働くんだ?」

「色々と理由はあるが、一番の理由は生活の糧ーー先程言っていたカネを得るためだよ、ズイカク。何に依存しなくてもエネルギーを自給できて半永久的に生きられるお前とは違い、人間は飯というエネルギー源が無ければ生きられない。だが自力で生きる術は持っていない、いや持たされていないから働くということでカネを得るしか無いんだ。」

「なるほど…。でも何で自力で生きる術とやらを持たされないんだ?」

「もし人間共全員が生きる術を持っていたら、カネを持つ必要が無くなる。そして経済が回らなくなるし、先ほど見てきたあんな建物を建てる理由が無くなる。というのも、あんな建物は経済というカネの流れを回す為に存在するからな。

それにカネを権力、力の象徴として崇め集め、それを使って他の人間達を自分達の手駒として思うように使役している者達ーーエリート軍団にしてみればあんな術が他の人間達に染み渡っていることは経済というカネの流れが止まり、自分達に力の象徴であるカネが入らなくなるわ、よって権力というどデカイものも動かなくなるわ、他の人間達が思うように動かなくなることを意味するから非常な不都合だ、だから覚えさせようとしないのだよ。

あと強いて付け加えるならば、カネ抜きで生きていけるということはカネの重要性も極度に下がるということで、今持っているカネも通用しなくなるな、当然クスクシエで食べさせてもらえられるかは怪しくなる。そして交通手段も動かなくなるわ、治安や消防は機能しなくなるわでカネがあるときよりも遥かに不便になる。あんなキツイものはカネという餌を与えられることで初めて動く代物だからな、使命感ぐらいで解決する物じゃない。」

「随分とムズイな、でもお前が言いたいことは何となく分かる、要するに全員に生きる術があることは一見いいことだけど、実はとんでもなく不便な事態を引き起こしかねないんだな。」

「まあそういうことだ、さて、もう直ぐクスクシエだ。店に入って火野映司を出すついでに一息つこう。」

ーー白石知世子以外は誰も居ないな、店の番をしなければならぬ彼女以外は皆火野映司を探すのに目を血眼にしているか。まあいいわ。

そして智史達はクスクシエの目の前に到着した、クスクシエはイタリア風の外装をしており、周囲の雰囲気とは少し異なっていたものの、それがかえってその美しさ、存在感を際立たせるのに一役買っていた。

 

「綺麗ね、ここ。植物もいい色彩出してるし。」

「そうだな、『自然』がイタリアらしさとよく交わってる。さて、入ろうか。」

そして智史はクスクシエの玄関扉を開けて入店する。

 

「こんにちわ〜。」

「いらっしゃいませ〜。」

早速と言っていい程に彼らを出迎えたのは彼の予測通り、この店ーークスクシエの店主、白石 知世子だった。

 

「おや、結構人が少ないですね、何かあったのですか?」

「いえ、今日は平日な事もあるのですが、今他の従業員が人探しをしてまして。」

「人探しですか。一応念のため訊いておきますが、ひょっとしたらこの方でしょうか?」

そう言い智史は彼女の目の前にあの戦闘での怪我から多少回復したもののまだ寝こけている映司を目の前に出す。

 

「え、映司くん⁉︎ど、どうして⁉︎」

「どうやら図星だったようですね。彼はまだ寝こけてますが命に別状はありません。なんでこうなったのかというと私が彼と戦いたくて、彼を次元の彼方に連れ去り戦ってしまいその際に己が衝動のままに彼に大怪我を負わせてしまったからです。彼がこんな様となった原因の諸元は全て私にあります。もし私が憎いなら私を好きなだけお恨み下さい、連れの2人には責はありません。」

「そうですか、映司くんが突然いなくなったと思ったらまさかあなたが…。でも映司くんをここに連れ戻してくれてありがとうございます。ところで次元の彼方で映司くんと戦ったとか言ってましたが、お客様は外から来られたのですか?」

「はい。」

知世子は彼、海神智史の謝罪を受けてこのような事実があったのかということに少し驚いたものの、彼の素直さに感心したのか、彼を憎むような真似はしなかった。

 

「とにかく彼を寝かせましょう。ここに寝転がしとくのも可哀想だ。」

「いえいえお客様、私がやります!」

「いいんです、これで罪滅ぼしの1つになるならさせて下さい、たとえ偽善でも。」

そして智史は映司を彼自身の寝室に連れて行き、そのまま寝かせる、そして映司の体に毛布を掛ける。

 

「あ、お客様、お名前は?」

「海神智史といいます。」

「海神智史さんですか。ありがとうございます。」

知世子は映司が帰ってきたことを比奈やアンク達に伝えたくて仕方がないのか、アンクが所持しているスマートフォンに電話を掛ける。

 

 

「ん?なんだ?」

突如として電話が掛かってきたことに驚くアンク、彼はスマートフォンを手に取り電話に応対する。

 

「“アンクちゃん⁉︎今どこなの⁉︎”」

「何の用だ、今こっちは映司を探しているんだぞ‼︎」

「“それが、映司くんが見つかったのよ!海神智史さんって人が映司くんを連れ去ったって言って私の所に映司くんを出してくれたのよ!”」

「な、なんだと…⁉︎映司が⁉︎」

知世子の発言に驚愕するアンク、何せ見つからない見つからないと悩んでいた先に彼にしてみれば青天の霹靂のような事態が突如として起きたからだ。

 

「アンク、どうしたの⁉︎」

「映司が、見つかったようだ、店に戻るぞ!」

「分かった、後藤さん、行きましょう!」

「ああ、火野が心配だ!」

知世子から映司が帰ってきたという報を聞き驚きながらもアンク達は鴻上ファウンデーション所属のライドベンダー第1小隊の隊長、後藤慎太郎と共にクスクシエに慌てて向かう。

 

ーーその頃。

 

「これ美味いな〜。魚料理にもこんなものがあったのかぁ〜。」

「ああ、人によって好き嫌いはあろうが、素材の旨みが丁度良く出ている。」

「気まぐれとはいえ、この世界を跡形も無く焼かなくて良かったな、智史。」

「少し私をコケにしているのか、ズイカク?」

「いや、それよりもこんな良いところに導いてくれたお前への感謝の念が強い。」

「そうか。そして事前調査でデータ把握をしていてもやはりここは落ち着くな、オリジナリティというものが心理に強く働いているせいなのだろうか。」

「そうかもしれないわね、これそっくりのものを作っても何処かで元のより劣るって心が勝手に決め付けようとしている働きが私達の心の根底にあるのかもしれないわね。」

「そうだな、さて、火野映司のお仲間方が帰ってきたようだ。」

そう智史が呟くのと同時に、アンク達がクスクシエの玄関扉を荒々しく開けて慌てて入ってくる。

 

「映司ぃ、映司はどこだ‼︎」

「映司くんは、今は二階の寝室で寝てるわ。大怪我を負ってるけど体調は安定してる。そこで食事をされている海神智史さんが映司くんに大怪我を負わせたって言って謝りながら映司くんを返してくれたのよ。」

「良かった…。映司くん…。」

知世子の発言に安堵する比奈、しかしーー

 

「おい、なんだこれは!」

「アンクちゃん、どうしたの⁉︎こんなに苛立って。」

「オーズドライバーが、真っ二つになってやがる!海神智史、次元の狭間に映司を連れ込んで戦ったとか言っていたが、てめえがやったのか⁉︎」

「ああ、そうだ。私の思惑通りにお前は怒り狂ってくれた。その顔を見れて嬉しいよ、アンクちゃん。コアメダルは火野映司と戦った際にそのベルトごと全て破壊した恐竜系コアを除いて全て無事だ、安心してくれ。」

アンクが怒り狂う顔を見て思惑通りと言い喜びながら、智史はアンクを更に怒り狂わせる為に挑発するようにしてコアメダルが入っていた容器をその場で丁寧に開く。その様を見たアンク、そして彼の中で何かが“プッツン”と切れる。

 

ーーバンッ!

「くくく、あははははははは!」

「…てめぇ、ふざけんな‼︎ヘラヘラと笑い転げてんじゃねえ!」

「そうだ、その調子だ、きひゃははははははは」

「…この野郎‼︎」

「アンクちゃん、落ち着いて!」

アンクは智史を右手で盛大にぶん殴る、そのことがとても嬉しかったのか智史は腹を抱えて笑い転げる。智史がこんなことをされても笑い転げられるのはアンクを自分自身の為の“玩具”としてしか見ておらず、その行動自体が彼の前述の『基礎』の上の思惑通りだったからである、もしこれが彼の大事な人間だったら、彼は傷ついたりして落ち込んでいたかもしれない。

そして智史の挑発に引っかかり更に殴ろうとするアンク、しかし知世子や比奈、後藤の懸命の制止によりそれは阻止される。智史もこの様子を見てこれ以上は宜しくないと判断したのだろうか、落ち着きを取り戻す。

 

「イラつくぜ、見てるだけで反吐がでる…。」

「まあ落ち着いてよ、オーズに変身出来なくても映司くんが無事なだけまだ良かったじゃない。」

「そうじゃねえ!このベルトを破壊されたことによってオーズという俺やお前達にしてみりゃ重要な『駒』が、『盾』が消えたんだよ!」

「そうだな、オーズドライバーが破壊された今、オーズという俺達にしてみれば重要な切り札が消えてしまった。」

ーーまあそうですよねぇ、オーズは曲がりなりにもグリード達に対抗する為の『駒』でもありますから。グリード達がまだご存命な今のこの状態でオーズという『駒』が消えたということは非常に致命的ですねぇ。その事象を引き起こした原因が私である以上、私がオーズの『役割』の一部を引き受けるとしましょうか、基本的にはアンクも含めた一部のグリードは救済、それで最悪の場合はアンクも含めたグリード達全員を葬り去るという事も考えて。まあ最悪考えないと最悪起きた時に戸惑ってタイムロスが僅かながらも生じちゃうから、ねえ?

アンク達の『苛立ち』を聞きつつ智史は心の中でそう呟く、当初はアンク除くグリード達を全員葬り去るーー最悪の場合はアンクさえもと考えていたものの、色々と彼らについて調べていくうちに僅かながらも出来れば助けてやりたいという気持ちが芽生えた、彼らに同情出来なくもない部分並びに自分の好みの部分を見出した為である、しかしそんなものに縛られてばかりでは色々と犠牲が出てしまうので、まずは『説得』を試み、最終的に駄目ーー自分の好みではない者だと判断した者は容赦なく葬り去ることにした。既に駄目だと判断された者は出ており、真木、アンクロスト、ウヴァがそれに該当していた、そして彼は慎重過ぎたのか、この世界をもう十分に葬れるだけの力があるというのに彼らの知識を集めてそれに対応した進化と強化をやり過ぎと言っていいぐらいに実行していた、ペースもいつも通りに更に更に滅茶苦茶に上げ、鍛え過ぎとしか言いようのない観察眼も更に磨きながら。彼を突き動かしているものは慢心が齎す死に対する度を超えた恐怖なのかもしれない。それはさておきとして彼は自分が引き起こしたことの責任を取るかのようにこう呟く、

 

「だったら、私が『オーズ』の代替となろう。」

と。

 

「ふざけんな、『オーズ』という駒をぶっ潰したてめえにオーズの代わりなど、できるものか‼︎」

「オーズの全部ではない、だからといってオーズの役割1つさえ代わりとして背負えぬわけではあるまい。少なくとも私が『オーズ』の代替として参戦した方が駒が『バース』だけというよりは多少はマシだ。それに私以外に誰が『オーズ』の代替となるのだ?余程の理由が無い限りは、誰も、なろうとしないだろう?」

「くっ…。」

「アンク、彼が言っていることはマトモだ、たとえ『オーズ』という駒をぶっ潰した存在だからって『オーズ』の代わりにならないわけではないし、俺達の為にもならないというわけでもない。」

「チッ…。まあいい、海神智史、お前を『オーズ』の代わりとして使ってやらあ!」

「随分と賢明なことだ。さて、何からやればいいのか私に命令してくれ。」

「ヤミー共をぶっ潰してセルメダルを片っ端から奪え!(更にはそれらを生み出しているグリード共からコアメダルを奪取しろ!)」

「了解した。(セルメダル並びにコアメダルの奪取か…。表向きの理由としては人間社会に害悪を齎しているグリードの弱体化という理由が該当しそうだけど、本当の理由はそれではない…。それにオーズドライバーを破壊してしまった今、オーズを強化するという、『本音』の隠れ蓑としての表向きの理由は消滅してしまった、まあオーズドライバーは何時でも修復復元できるけど。取り敢えず、行くとしよう。)」

ここでいうアンクの『本音』は完全なる体を自分のものとするという野望である、だが智史は鍛え過ぎた観察眼でそんな野望を呆気なく見透かしていた、なのでオーズの代わりを敢えて引き受け、その野望に従って齎された結果を彼に与えることで原作の流れにとは多少異なる形でお灸を据えることにしたのだ。

 

「すみません、お勘定お願いします。」

「は〜い、ありがとうごさいま〜す。アンクちゃん、行くなら気をつけてね。」

「ああ。」

「琴乃、ズイカク、私について行くのか?」

「うん、ちょっと智史くんの身が心配だから。」

「判った、ただし私の足を引き摺らぬようにしろよ。」

「わかってるわ。」

食事を食い終えてお勘定を済ませる智史達、智史の後に続くかのように琴乃とズイカクも付いてくる。そして、

 

「メダルだ!セルメダルの音だ!」

「契約済ませた束の間早速ヤミーが現れた、か。行くぞ。」

「比奈、映司を頼む!」

「分かった!」

突如としてヤミーの気配が智史とアンクの本能を刺激する、そして彼らは慌ててクスクシエを飛び出していく。

 

「海神、移動ならライドベンダーを使え、って速えよ!」

「なんのツールも無しにこの速さとは…、くっ、後を追いかけるのが精一杯だ、オーズを倒した強さは伊達では無かったということか‼︎」

「おい、なんであいつはあんなスピードを出せるんだっ!」

智史のあまりの足の速さに絶句するアンク、彼は思わずズイカクにそう尋ねる、すると彼女はこう答える、

 

「人の形をしているけど、『人間』じゃないからだよ。私やお前もそうだけど、あいつはお前らとは比較にさえならない程の力を持つ『化け物』だから。」

と。

 

「な、なんだと…⁉︎だとしたら…。」

「ああ、コアメダルがオーズドライバー諸共破壊された理由も説明がつく…。ところでお前も人間ではないと言っていたが、どうしてなんだ?」

「ああ、私か?メンタルモデルという人の形を模した霧という名の無機物生命体だからだよ。」

その言葉と同時にズイカクの体を覆うように緑のサークルと個体識別紋章が表示される。

 

「まだ示してなかったけど、あいつも一応私と同じ同類。ただ生まれと力の規模が異なっているだけ。」

「成る程な…、って、海神は何処へ⁉︎」

「智史か?ああ、あいつの気配を感じるということはそんなに遠くはない場所にいる筈だ。ん?あいつからお前の気配まで出始めてる、急ぐなら今のうちだぞ?」

「何だと⁉︎急ぐぞ!」

 

ほぼ同時刻。

 

「(軍鶏の姿を模したヤミーちゃんか…。アンクをベースとしてるせいか姑息な戦術がお得意なことで。原作での情報だとアンクロストがアンクの隙を誘う為に生み出した囮…。そしてここの世界の各種情報調査並びに各種シミュレーションで、アンクロストが原作と同じ『結果』を出そうとしているという結論が出てきた、それを裏付けるかのようにアンクロストだけでなく真木一味も私や琴乃、ズイカクの存在には未だに気がついていない…。ならばここでアンクがここにいるという『気配』を出してあいつを誘い出し、盛大に返り討ちにしてやろう。まあ万が一の可能性も考慮していつも通り最悪に備えよう。)」

智史は原作ではアンクの隙を誘う為の役割を担った軍鶏ヤミーと住宅街で相対していた、奇妙に心が落ち着いたまま、静かに対峙するかのように。

 

「お前、見た目に反して超反抗的だ!許さん!」

「何故私が貴様の指示を聞かなくてはならんのだ?まあいい、かかってこい」

「ふん、人間を無闇には殺せまい?」

そして戦闘が幕を開ける、軍鶏ヤミーは事前に羽を突き刺して洗脳し人間の盾として確保した警官達を一斉に突っ込ませる、人間を殺してはいけないという良心につけ込んで対処能力を削ぐことで戦闘を有利に進めるという策略だった、確かにこれはその良心を持っていて、かつ状況対応、対処能力が並の相手ならばとても有効な戦術であるとは言えよう。そう、その良心を持っている『並の』相手ならば。

 

「(如何なる手を用いても勝つというコンセプトが剥き出しですねぇ。それは非常に大切なことですが。でも大事なことを見落としてない?対処能力を多少削げたからって全部が削ぎ落とされる訳ではないし、それだけで戦闘が有利になると、お思いですか?いまからその戦術が『対処能力並びに余力が有り余っている』存在には効かないということをお見せしましょう。)」

智史の対処能力はこれまでの度を逸し過ぎてきた進化の影響で一目見ただけで瞬時に対応対処、更には強化進化できてしまう程異常に強化されていた、そして余力も恐ろしいほどに有り余りすぎていた。そして更に恐ろしいことに(いつも通りだと言った方がいいのかもしれないが)、それらは今も恐ろしい、いやその言葉さえも表現として物足りぬ勢いで進化強化され、滅茶苦茶な勢いで増えているのだ。

彼は恐るべき速さで操られている警官達を腹や胸を殴って次々と強制的に気絶させ、0.00001秒もかからない内に全員無力化してしまった、その際に羽をむしりとって潰すという芸当も含めて。

 

「な、何ぃっ⁉︎」

「どうだ、一瞬にして潰してやったぞ。その戦術を無力化された気分はどうだ?」

「お、おのれぇっ‼︎」

先程の戦法を生かした作戦が瞬時にして無力化されるということを自分にしてみれば想定外だったのか、軍鶏ヤミーは激昂して智史にムエタイのような拳法を構えて襲いかかる、智史もそれに応えるかのようにキングラウザーを右手に構える。

 

「はっ!てやぁっ!」

「ふんっ!」

 

ーーガキィン!

ーーガキィン!

軍鶏ヤミーの拳法、智史の剣撃が互いに入り乱れる、そして智史の剣撃が命中する度に軍鶏ヤミーは大きく怯み、同時に大量のセルメダルが飛び散る。

 

ーードォンッ!

 

何撃目かで軍鶏ヤミーは大きく吹き飛ばされる、戦場は公園に移る。辛うじて彼は体勢を立て直す、そして両肩から赤い帯を智史に向けて放ってきた。智史はその帯に身を捕縛されてしまう。

 

「ほう、これは面白い。」

智史はそう呟く、そして無理やり解こうとする、すると軍鶏ヤミーはそうはさせんと光弾を放って智史を攻撃しようとした、しかし次の瞬間ーー

 

「ふんっ!」

ーードガァァァァァァン!

 

「どはあっ!」

突如として巨大な衝撃波と閃光が帯に巻き付けられている智史から放たれ、軍鶏ヤミーの体を襲う、軍鶏ヤミーはセルメダルを撒き散らしながら荒れ狂う海の中で翻弄される木の葉のように周りの木々や土と共に簡単に吹き飛ばされ、大木に叩きつけられても何本かを吹き飛ばして、まだ有り余る程の勢いで地に叩きつけられる。

見ると智史が先程まで巻かれていた帯を吹き飛ばし、木々も綺麗さっぱりと吹き飛んで立派な更地と化した公園をゆっくりと歩きながら彼の方に向かってくる、キングラウザーを右手に構えて。

 

「あ、あり得ん、こんな結果などあり得ん!」

軍鶏ヤミーは足を震わせて後ろへと後ずさりしながら再び赤い帯を滅茶苦茶に乱射してくる、しかしそれは智史に命中する前にバリアのようなものーークラインフィールドによって全て弾かれ、吸収されて消滅した。

そしてモタついている足が何かに躓いたのか、軍鶏ヤミーは大きくコケて尻餅をつく、それでも迫り来る死に恐怖を覚えてしまっているのか、ヨロヨロと片手を彷徨わせながらも必死の様相で逃げようとする、しかし智史はそんなことなど気にもせず、あっという間に距離は縮まり、智史の影が軍鶏ヤミーの体を覆う、彼は体を震わせて命乞いでもするかのように軽蔑と殺意に満ちた眼差しの智史を見上げる。

 

「な、何でこんなことに…。」

「見苦しい面だ、消滅せよ」

 

ーーザンッ!

ーードガァァァァァァン!

 

そして智史は軍鶏ヤミーに殺意を込めた一撃を振り下ろす、赤い帯によるバリアが展開されたものの、その一撃はいとも簡単にそれを切り裂きセルメダルで構成された軍鶏ヤミーの肉体を引き裂いて、そして跡形もなく四散させた。同時にセルメダルの雨が智史の周りに降り注ぐ。

 

 

「咬ませ犬にもならんな。それにしてもアンク、そして琴乃達はまだ来てないか、まあ私が早足すぎるからかな。おっと、アンクロストのお出ましか、本人よりもミイラが先に来るとは。実に皮肉なことよ。」

智史は何かが来るのを悟ったかのように空を見上げる、見ると怪鳥のモチーフをした怪人ーーアンクロストが赤い羽根を撒きながら宙に浮いていた。

 

「君か、『僕』を模すという忌々しい真似をしてくれたのは…。」

「そうだ、お前をお陀仏にする為に『お前』を模すということをしたのは私だよ。あれに気がついてくれなかったらどうしようかと悩んでいたところだ。」

「そんなことをした挙句にもう1人の『僕』に隙を作る為の囮を葬ってくれるなんて…。せっかく1つになれるというのに、邪魔をしないでよ!」

「嫌だな、お前を主体とした1つの『お前』が生まれるのは少なくとも私にしてみれば非常によろしくないことだ、だから邪魔をしたのだ。」

「よくもこんなことをヌケヌケと言ってくれるね…。その口、体ごと引き裂いてあげるよ!」

智史との口論でアンクロストは智史の策略にまんまと引っかかり軍鶏ヤミーと同じように激しく激昂する、というのも智史は状況一進一退の長期戦ならまだしも、こちらが圧倒的な力を持ちしかもその差をすごい勢いで広げているという一方的に有利な状況だというのに何時までもグダグダと戦う長期戦は大嫌いだったからだ、それに彼がここに来た本来の理由はクスクシエで一息つくことと鴻上光生に一目会うという何れにせよ一時的にここに留まるだけのものであり、ここで『生活する』とは一言も言っていない。

なので彼はテンポよく短期間で一気阿世に片付けるという力攻めをフルに用いた戦略で行くことにしていた、アンクロストを葬り去るのはその第1手である、もしここで逃げられたら幸先が良くないスタートとなり色々とゴタゴタになりかねないからだ。

そしてアンクロストは左側に炎の翼を生やして放つ無数の炎弾や左手からは巨大な火炎を次々と飛ばして智史を攻撃する、炎弾や火炎が彼やその周りを直撃、そして炸裂し、砂埃と爆炎が彼を覆い隠す。しかし彼はケロリとしている、進化のペースを上げすぎていることによる進化のし過ぎが彼に物理的に死ぬということを完全と言い切れてしまう程に拒絶しているからだ、第一彼はビッグバンの10の数千万乗という途方もないエネルギーの爆発にもケロリとして耐え切れてしまう上に更にそれを吸収して己のものに出来てしまうのだ、対してアンクロストが放つ炎弾や火炎は不完全体であることを考慮してもオーズタジャドルコンボさえ圧倒してしまう程の威力を持っているが、一発だけで宇宙全体を跡形も無く焼き払える程の威力は無い。仮に完全体となって全力を出したとしても一発で地球全体を焼き払うことさえ出来るのか怪しい。倒す倒さないの話以前に、智史が一方的に有利、しかもその差は滅茶苦茶な勢いで開いているという余りに酷い実力差がそこに現出されていた。

当然の如く彼はその攻撃を吸収、無効化してそのまま己の力に変換してしまう。

 

「今のは本気か?手加減をしているように見えたぞ」

「その程度では参らないか…。なら僕が直直に君を切り裂き、焼き尽くすしか倒す方法が無さそうだね!」

爆煙を軽く払ってゆっくりと出てくる智史を見て相手が並ではないことを認識するアンクロスト、この時点で逃げ出していればよかったのだが、グリードとして経験不足であったことや彼の挑発で興奮していることが災いし、彼を倒したいという感情に支配されるがままに、両足に炎を纏わせ彼に急降下して突っ込んでいく。

 

「てやぁぁぁぁぁ!」

「はっ!」

ーーガキィィィィィン!

 

智史はアンクロストの炎を纏わせた両足キックを片手だけで苦もなく受け止める、そしてキックの威力を増すために纏っていた炎のエネルギーを呆気なく吸収してしまう。

 

「くっ、なんで腕力だ!離せ、離せよ!」

「離すものか」

アンクロストは足を引き剥がそうとするものの智史はガッチリとつかんで離さない。アンクロストはそんな状況を打開しようと必死なのか、顛末が見えているというのにゼロ距離から炎弾や羽根の手裏剣を智史に見舞う。

 

「いい加減に、離してよ!」

「それは私に対して言っている言葉かな?時間だ、今度はこちらから行こう。」

羽根手裏剣を顔面に雨霰と浴びせられ多少嫌がりながら智史はそう呟く、すると今度はアンクロストが身体を突如として猛火に覆われる。

 

「な、なんだこれ⁉︎身体が、セルメダルが、なんで…‼︎こ、コアまで…、痛い、痛いよぉぉぉぉぉ!」

「先程お前が私に見舞ったものは己の身を焼くには不十分すぎるからな、焔を大の得意とするお前に己の身さえ焼き尽くす焔がどんなものなのか殺す前に味わせたくてな。」

自分の身体を構成している材質ーーセルメダルだけでなくコアメダルまで燻り溶かし焼き尽くしてしまう猛火という今までに味わった事のない常識を無視した現象にアンクロストは震え、恐怖し、怯える。『普通』ならあり得ないのだが、常に進化し、己を鍛えている智史にはそんな事など通用しない。

あっという間に炎を得意とするアンクロストは美しい元の姿を留めぬ程に皮肉にも『炎』によってその身を醜くどす黒く焼かれてしまう、まるで火葬に処されるかのように。

 

「ほぉれ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

そして智史は止めを刺さんと言わんばかりにアンクロストを片手で投げとばし、かなりの距離を吹っ飛ばした上で盛大に岩肌剥き出しの地面に叩きつける。

 

「た、た、た、助けて…。なんで、なんで、君に殺されなくちゃいけないの…!」

「理由?知るか。第一あれ程積極的に攻撃しておきながら、敗勢になるとツラ変えてもう命乞いとは、大したものだ。」

「嫌だ、嫌だ、なんで、なんで…‼︎ねえ、助けて…!お願い、何でもいう事を聞くから助けてぇ!」

「嫌だな、貴様は今は従ってもいずれその狡猾さで私やこの世界の人間達も翻弄し我が物にするか殺すだろう?殺すのにもうこれ以上の理由、言い訳などは要らん、ここで斬り捨ててやる。」

ーーまあ私も一歩違えばそうなっていたかもしれんな。

必死に命乞いをするアンクロストに智史は断罪するかのように冷たく言い放つ。その言葉が終わると同時にキングラウザーが身を庇うかのように展開されたアンクロストの腕を軽々と貫いて深々と胸に突き刺さり、アンクロストの意識が篭ったタカメダルを捉え、串刺しにする。そして智史はキングラウザーをアンクロストの体に突き刺したままキングラウザーを持っている右手で軽々とその身体を空に向けるようにして持ち上げる。

 

「僕の、コアが、コアがぁ…‼︎」

「死ね」

 

ーーブンッ!

 

「「ゔわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」」

 

ーーズガァァァァァァン!

智史は剣についた血飛沫を払うようにしてキングラウザーを振るう、その際に刺さっているアンクロストを遠心力で後方にぶん投げる、アンクロストの体は宙を舞う。だが彼に2度も地面に叩きつけられるという事はなかった、その前に意識が篭ったタカメダルが砕けるのと同時に断末魔を轟かせて、彼の後方で大爆発を引き起こした。それは小物じみた悪役に相応しい無様な末路だった。

様々な『表情』をしたセルメダルが智史の周りに降り注ぐ、智史はその中で一言呟く、

 

「“脆いな、私が強くなりすぎたからか”」

 

と。

 

 

「海神、ここにいたのか…‼︎探したぞ!って、何があった⁉︎」

「おや、遅かったなアンク。もう少し早ければもう1人のお前の『終焉』を直に見れたのに。」

「な、何だと⁉︎」

「早くこっちに来い。何があったのかは直に確かめない限りは分からないぞ?」

智史の一言にそう煽られたアンクは慌ててアンクロストが爆散した場所に走っていく、そして溶けて燃え上がり、焼け焦げたりした無数のセルメダルとその中に混じっていた焼けて変形した複数の鳥系のコアメダルを見て、唖然とする。

 

「何もかもが焼けて吹っ飛んでやがる。お前がやったようだな。オーズを葬り、コアメダルを複数ぶっ壊した芸当の通りに、グリードも葬れるということか。」

「如何にも。私はこの世界についてあえて完全とは言わないが、無数の事を色々と調べたからな。お前はまだ知らないが、既にコアメダルの壊し方も勿論な事、作り方も会得してしまった。」

「な、何っ⁉︎」

『“自分達の生命、能力の源というべきコアメダルを作れるだけの力量がある。”』とそう智史に言い放たれて驚いてしまうアンク。そして智史はそれが嘘っぱちではない事を示すのかのように焼け焦げて変形した複数のコアメダルを己の手元に集める、そして焼け焦げたそれらは彼の手によって見る見ると本来の姿を取り戻し、そして本来そこにあった力も取り戻した。

 

「ついでに壊された分の補填とタトバコンボの分の代替も一枚づつくれてやろう。さあ、これでお前はお望みの姿になれるはずだ。宿主も健康そうだし、もうお前がそいつに憑依している必要はあるまい。」

智史は強引にアンクを宿主ーー比奈の兄、泉信吾から強引に引き剥がす、そして先程修繕した5枚の鳥系コアメダルと事情ありきで補填として新規に作成した2枚のタカメダル、そして軍鶏ヤミーを撃滅した際に手に入れたセルメダル、更には自分の手で創り出したセルメダルを右手だけの姿のアンクに強引に投入する。すると右手だけだったその姿が変容していく、右手からセルメダルが放出され人の形に近い肉体を構成していき、それに伴いコアメダルも右手から身体の核の方へと移動していく。そして姿形がくっきりと出来上がる、それはアンクロストの不完全だった部分を完全に補ったグリードの完全なる姿形をしていた。

 

「どうだ?自分の体を取り戻し、更に完全なる肉体を手に入れた感想は」

「……。(無理だ、初めて会った時は頭に血が上っていて分からなかったが、今見てみるとどうやってもこいつには勝てん…。文字通りの化け物だ…。)」

自分のような存在を殺すだけでなく生かす事も出来、自在に弄することができると言わんばかりに彼は先程まで見せていなかった凄まじい程の狂気を込めて一連の出来事を態度で語って見せた、そしてそれはズイカクの事前の言葉と絡む事で一層凄みを出していた。そこから滲み出てくるあまりの実力差の前にアンクの心は“ポキリ”と折れてしまう。

 

「お前の望みは叶った、どうした、もうオーズや私を使わなくても自分で好きな場所、好きな時に力の源を手に入れられるようになったのだぞ?」

「いや、お前ともう少し一緒に居たい…。(変に逆らえば一発であいつと同じ末路を辿りかねん…。ああ、あいつにいいように嬲られて殺される他のグリード共の顔が目に浮かぶ…。)」

「ふっ、了承した。(さて、早速と言っていい程にアンクの心を折ってしまったか…。泉信吾を比奈の元に返すとしよう、あとカザリがアンクロストが死んだこと、そして私達の存在に気がついたか、真木に私達のことがバレるのも時間の問題だな、だがそれでいい、あいつらは殺すか、好きなように弄る予定でいるのだから。あとは展開だな、さて、どういう風にストーリーを作るとしようか。)」

智史はニヤニヤと妄想して笑いながらそう策謀を巡らす、彼は既にカザリが自分達の存在に気がついたことを一瞬にして見抜いていた、しかしあえて見逃していた。もし逃さずに殺していれば恐怖と脅威を染み渡らせて殺して甚振るという楽しみが半減してしまうからだ。

 

「智史くん、今後はどんな予定で行くの?」

「真木を苦しめて甚振り、気に入らぬ奴は皆殺しという顛末は決まっている、だがそこに至るストーリーが単調すぎるのはすこし詰まらんからな、今は少し考えている。鴻上光生にも会いたいしそこも絡めたい。

ふっ、この旅は私が始めたことだ。だからその行く先は、私が作ろう。」

幸先のいいスタートを切れた智史、ほぼ同時に真木一味は彼の存在を知る事となる、しかし彼等はまだ知らなかった、彼によってこの後次々と災厄と蹂躙が襲いかかってくるという悪夢をーー



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第39話 策を逆手に策に陥す

今回は色々と入れようと書いた結果文章が一際と長いです。
真木とカザリが策を講じて智史を潰そうとしますが、それを見抜いていた彼により逆に嵌められてしまいます。あとグリード達が彼により一方的に叩き潰されます。
特にカザリとウヴァの扱いは酷めなので2人が非常に好きな方以外はお楽しみください。


「何?もう1人の方のアンク君が殺されたと?」

「ああ、ドクター。一矢を報いるどころか、逃れる余裕さえ与えられずに一方的に殺されたよ。それも彼を殺した相手は僕たちにしてみれば今まで見た事のない奴だ。普通エイジがオーズになってあいつと戦うはずだが、今回はちょっと様子がおかしかったんだ、エイジが出てこないし、あいつが出たことと何らかの関係があるのかな?」

「そうかもしれませんね。相手が火野君ーーオーズならあのアンク君は殺されはしなかったのかもしれませんが、今回彼を殺した相手は我々にしてみれば未知の存在です。彼を排除するだけの力量を見せつけたという事は我々にしてみればオーズに匹敵、いやそれ以上の脅威が現れたということになります。」

「つまり何の策も無しに直接戦うということは避けた方が良さそうだね。下手に突っ込めば各個撃破される可能性がある。奴を倒すとしたらまず奴に足止めを食らわせて行動能力を削ぐか、囮を使ってアンク達から大きく引き離し、隙ができた所でアンク達を潰して後方攪乱を行い、場合によっては人質も取って攻撃手段を潰し、最後に一気に殺る、それがベストだと僕は思うよ。それか、もしかしたらかもしれないけど、こちら側に誘い込むのはどうかな?僕達と同じ目的を持ってるかもしれないし。」

「カザリ君、君が望むとおりにそううまく事が運べばいいのですが現実はその言葉通りには進まないことを心得ておいた方がいいでしょう。相手がこちらの思惑通りに動いてくれるとは限らないのですから。」

「分かってるよ。さて、他のグリード達にもそのこと伝えなくちゃ。望む欲望が違っていても共通する脅威は一緒だからね。」

アンクロストがリヴァイアサン=海神智史によって一方的に殺戮される光景を瞼に焼き付けた猫系グリード、カザリはアンク除く自分達グリード達の司令塔というべき存在、真木清人とそう会話をする。そして彼は他のグリード達にそのことを伝えに行く、危険な存在が目の前に居るというのにそれぞれの野望について争っていてはその弱みを突かれて全員が各個撃破されるという最悪の結末を危惧していたからだ。そして彼は考えていた、智史をこちら側に引き込めないかと。

だがしかし、こんな企みさえ智史は1つも聞き逃してはくれなかった、何せ無意識のうちにこれら全てを耳で聞き取り、そして見えぬところからその様をこっそりと見ていたからだーー

 

一方その頃、鴻上ファウンデーション本社ビルの会長室ではーー

 

「何⁉︎オーズが潰されたというのか⁉︎」

「はい、海神智史というこの世界の外から来たと思われる人外の存在により、オーズドライバー諸共いとも簡単に潰されてしまいました。」

「なんと⁉︎それで彼がオーズを叩き潰したことに関する理由はあるのかね?」

「はい…、何でも、彼と戦いたかったという事らしいです…。ですが幸いな事に変身者である火野まで殺される事はなく、現在彼はクスクシエで安静を取っています。」

「なるほど、映司君、いやオーズと単に戦いたかった、か…。素晴らしい!綺麗事1つさえ飾られていない、実に素晴らしい欲望ではないか!後藤君、彼がなぜオーズと戦いたくなった理由、見極めてみたいと思わないか?ただの戦闘狂とは思えん、何か裏がある。」

「会長、それは一体⁉︎」

「君の報告書によると映司君は彼の手により連れ去られ、そしてここに連れ戻されたという。もし彼がただの戦いたいだけの欲望の持ち主ならば映司君は戻ってこなかったかもしれん。」

そう会話を繰り広げる鴻上ファウンデーション会長、鴻上光生と後藤。鴻上は智史によってオーズドライバーが壊された事に当初は驚き自身の目的が潰えたことを少し嘆いていたもののそうなった理由の背景について話を進めるにつれて、彼、海神智史がどういう人間なのかということに興味を示し始めた。

 

「いますぐ彼のためにケーキを作ろう、“この世界へようこそ、ここに来た事によって新たな物語が始まることを祝おう”という趣旨の!」

「か、会長、それでは彼という人間を見極められません…。」

「分かっているよ、里中君、海神智史君の位置は分かるかね?」

「はい、クスクシエで他の仲間達と一緒にいるようです。」

「ならば結構。このケーキが出来たら配達に向かってくれ。そして彼を明日ここへ連れてくる旨を伝えてくれたまえ。」

「分かりました、ですがもう直ぐ勤務時間外なので手当てを頂きます。これもビジネスですから。」

鴻上直属の秘書、里中エリカはそう答える。そして彼女は勤務時間外に働かせた分の給与を貰うことを条件として彼の元にケーキを送りに向かうことを承諾する。

 

 

そして、少し前、クスクシエではーー

 

「ただいま。いきなりで悪いけど、誰だか分かるよね?」

「あ、アンク…。そして、お、お兄ちゃん⁉︎」

「そ。うちがアンクからこいつを引き剥がした結果、こうなったんだよ。」

「で、でもそれじゃあアンクは…。」

「アンク?大丈夫だよ?うちがもう1人の方ぶっ潰した上でそいつから奪ったコアメダルと新規作成した同種類のものを投入してもうこいつに憑依する必要性を無くしたから。」

「ああ、こいつが勝手に俺が持っているコアメダルと同じようなものを複製し、信吾から引き剥がした上で俺に体を与えたんだ。」

「アンク…。」

「とにかく、お兄ちゃんを部屋へ。このまま放っとくのもアレだから。」

そして智史は信吾を担いで二階の部屋へと連れて、寝かせようとする、と、その時ーー

 

「…う、うう…。」

「映司君⁉︎映司君⁉︎」

寝ていた映司が、遂に目を覚ます、それに気がついた比奈は慌てて映司の元へと走る。

 

「比奈ちゃん…?ここは、何処なんだ…?俺は、死んでしまったのか…?」

「知世子さん!アンク!映司君が、映司君が…‼︎」

「え、映司が目を覚ましたのか⁉︎」

「うん、早く来て…‼︎」

映司が目を覚ましたことを聞いたアンクと知世子は慌てて二階の映司の部屋に向かう。

 

「アンク…。ここは、本当にクスクシエにある俺の部屋なの…?」

「映司、何を言っている、ここは本物のお前の部屋だぞ!」

「あいつに、アンク達がいる世界を壊される光景を見せられたんだ、だからこの世界はもう無くなったのかって思ったんだ…。」

「違う!もし奴、海神智史が本当にこの世界を壊していたら俺やお前はここにはいねえだろうが!」

映司はアンクのその一言にハッとする、そしてそれが夢ではなく、本当の世界であることを再認識する。

 

「あの光景は、嘘だったんだね、アンク…。でも、どうして俺はここに…。」

「よく分からねえ、ただ奴がここにお前を連れ込んだ、それだけだ。そこまでの記憶は…、覚えてないか…。」

「そうか、異次元に誘い込まれた後にあいつと戦って、そしてぶった斬られてオーズドライバーがぶっ壊れた所で意識が途切れたから…。」

映司は当初は幻想かと戸惑ってはいたものの、次第にそこは現実の世界だと確信していく。そしてそれを裏付けるようにして彼を傷つけた張本人が姿を現す。

 

「アンク、その様子だと火野映司が目覚めたみたいだな。」

「ああ、映司、お前に大怪我を負わせた野郎、海神智史が目の前にいるぞ?」

映司はその張本人ーー智史の姿を目に捉える、しかし心の奥底から湧いてくるものは大事なものを奪われ壊されたことによる怒りではなく、そのこと自体が真っ赤な嘘だったということに対する困惑だった。

 

「どうして…。わざわざこんなことを…。」

「どうしてって?憎しみに溺れて私に対する憎しみ以外を持たずに突っ込んでくるオーズ=火野映司、最強の代表格としてのオーズ=火野映司と戦い、そして蹂躙したかったからだよ。」

「……そんな欲望の為に、俺を騙すなんて…。」

「私は自分の欲望が赴くがままに生きたくてな。その欲望を抑える気など微塵も湧かん。どうだ?軟弱な綺麗事など、そこに存在などしないだろう?」

智史はそうバッサリと言い放つ、その言葉に映司は返す言葉を失って沈黙してしまう。

 

「さて、今度は私がお前に聞こう。お前は何の為に仮面ライダーとなり、戦っている?」

「困っている人、苦しんでいる人を助ける為だ。」

「ほう。そういう輩を守ることが皆の為にもなるし、人を助けたことによる笑顔という対価を貰えて自分を満足させることになって一石二鳥だとお前は解釈しているようだな。だがその言葉を礎として行われている行為は、本当に皆の為になっているのか?それだけで皆の為になるというのか?場合によっては対価を貰う為に行ったそれが皆の為にならぬこともあるし、最悪の場合はそれ自体が逆に皆の不都合となることもあるぞ?そもそも、『皆』とは、何処から何処までを指し示している?この社会の守る価値にも値しないクズ、他の他人の何の為にもならない死すべきクズも困っている者なら助けるべき者と捉えてお前は守ろうというのか?」

「ち、違う…‼︎」

「違わないな。今言ったその表現だとお前の為にならぬ者、お前と敵対する者まで守るという風に受け取れる。もしそれではお前やその他の他人の害になるものが残ってしまうではないか。

言葉は使い方によっては己さえ殺める凶器ともなる、その言葉が持つ意味さえ深く考えずに自己満足の為に動いているようでは、お前は、この世界ではヒーローではなく、ただの単なるお節介者ーー偽善者だ。ヒーローはボランティア感覚でやるものじゃない。」

「ち、違う…。俺は、そんなことの為に動いてなんかいない…‼︎」

智史は映司の言葉にある矛盾を突くかのように冷たく言い放つ、映司はその言葉に絶望を感じて動揺する。そんな彼を庇うのかのように比奈は智史に悲しみを込めた眼差しで智史に食らいつき、こう言う、

 

「海神さん、映司君は、映司君は自己満足の為になんか戦ってないです!彼は、彼はみんなを守らなければいけないという誰も受けたがろうとしない義務を、たった1人で引き受けているんです…‼︎」

「そうだな。普通の奴らならやりたくないことをやれてるあたり、褒めることはできよう。だが、それは周りの人間、いや周りのあらゆる事象も考えて引き受けたと言えるのか?仮面ライダーとなって戦っている理由は“人助けがしたい”だったな、だがそんな偽善まみれの自己満足を最優先として周りの状況を読むことなく勝手に動いていたら、人助けどころか、最悪の場合、大迷惑を引き起こしていたぞ?自分の欲望のみに従い、綺麗事1つさえ従わずに行動しているならまだしも、自分の正義、信条という軟弱なもの、綺麗事に従ってやっていることが長期的に見ればかえって周りの為にならんこと、強いては自分自身の為にもならぬことを必ずと言っていいぐらいに生み出す。自分の掲げた正義は最終的に自分の首を絞め、身を縛り、刃となって返ってくる。実に馬鹿馬鹿しいことよ。」

まあ私も何も考えずに欲望のままに動き、他者を省みぬ所はあるし、火野映司本人も使命感で戦ってるところもあるから全部自己満足のみで動いているとは言えんが。

「智史、幾ら何でもちょっと言い過ぎだぞ、やっと目覚めてよかったってところでこんな発言はキツすぎる。」

「分かっている、だからといって何も指摘せずにそのまま仲良しごっこもアレだからな。」

智史はそう言い終えると部屋を出る、そして玄関扉を開けて日が落ち始めた西の空を見つめる。

 

「琴乃か。夕焼けが綺麗だな、雲ひとつさえない空だから。」

「ええ。智史くんが火野さんに言ったことについて聞くんだけど、基本的なことは間違ってない。でも、世の中には見返りを求めずに人助けをする人、人の為になるようなことをする人もいるのよ。」

「成る程な、そういう心の優しい人間もいる、だが自分がしたことがどのような影響を与えるのかまでは考えている奴はごく稀だ。」

「そうね、無償の愛は大切なことだけど、それによって行われた行為が誰かを傷つけているかもしれないわね。」

そう2人は会話する、そこへ、黒い高級車が一台、彼らの目の前に止まる。

 

「あなたが海神智史さんですか?」

「ええそうですが、何か?」

「鴻上ファウンデーション会長直属の秘書、里中エリカといいます。鴻上会長からあなた宛にケーキをお預かりしています、どうぞ。」

黒い高級車から降りてきたエリカはそう言い智史にケーキを渡す、智史は断る勇気が元から無いせいなのか、少し戸惑いながらもケーキが入っている容器を受け取った。

 

「あと、鴻上会長が明日あなたにお会いになられたいと仰られていました。何か都合が悪い事でもありますか?」

「いえ、特に何も。こちらも鴻上会長とお会いになりたいので。」

「分かりました、では、明日連絡して頂ければこちらの都合のいい時間帯に迎えに来ます。」

そしてエリカは智史に自分の名刺を渡すと車に乗って去っていく、日が静かに沈み、空を暗闇が支配していく光景をバックにしながら。

 

「智史くん、鴻上さんは何でケーキをわざわざあなたに?」

「物事の誕生に価値を感じているからだよ。ではそれがなんでケーキと結びつくのかというと、誕生日の時はケーキで祝うという習わしに基づいてケーキを作るのではないのか?」

「成る程ね、中に入ったら早速中身を見てみましょう。」

2人はクスクシエに再び入る、そして容器を開いてケーキを見る。そして“Happy Birthday Satoshi!”という文字が真っ先に目に入ってきた。

 

「一から十まで調べ尽くして事前にこういう趣旨のモノが出てくると分かりきっていたとはいえ、普遍的意義で捉えた場合、私は、この世界で生まれた訳ではないと言い切れる。」

「そうね、智史くんはこの世界で生まれた訳ではない。それよりも智史くんや私達がこの世界に現れたことで新たな物語が始まるということを祝っているのかもしれないわ。」

「だとしたらそれは鴻上光生という人間の器の大きさを改めて物語っている事になるな。ますます会いたくなってきたわ。」

智史はそう呟く、しかし次の瞬間に不穏な気配を察する。

 

「…ふん、火野映司達、そして私達と敵対しているグリード達が作戦の会議中か…。恐らく私を餌で釣って非戦闘員から大きく引き離してその隙を突くように急襲して人質を取り、攻撃手段を削いで最後に一気に私を殺るというものか…。よく用いられる普遍的な策略とはいえよ、有効性並びに脅威性はある。だが残念だったな、こちらがこの旨を知っている以上、対策を練ることは出来る…。策略が成功しているという風に欺き、引っ掛け、そして全員返り討ちにしてやろう。」

さて、策を練るとしよう。堅実に、迅速に、しかし確実に終わらせるとするか、ーーとは言っても進化のし過ぎで0.0000001秒も経たない内に確実なシミュレーションが大量に出来、直ぐに対処できてしまったから、現実として直ぐに叶えられるようになってしまったな。実に素晴らしいことだ、これからもこれに満足せずに更に更に鍛えていこう。だがやはり、湧いてくるのだな。かつて湧いてきたようなものとは表面上は違えど、本質的には同じなあらゆることがあっさりと、簡単に終わってしまうようなこの虚しさ、物足りなさが。そうか、それが私を外へ外へ飛び出していくように突き動かし、最終的には己を高める原動力の1つとなっているのか。

さて、あっさりとぶっ潰しても構わないが、それだとさっぱりしすぎて詰まらん。この駆け引きを楽しみつつもぱっぱとお開きにしなければならないほどの長期戦にならないようにしなくては。

「智史くん、なんかあったの?」

「ああ、我々と敵対している者達が策を練り始めたようだ。今すぐ実行に移すとは言えないが、恐らく人質目当てでお前や他の仲間もお狙いだろう。念の為に私の側に居てくれ。」

話の流れとは不自然な独り言の内容に不思議がる琴乃に智史はその独り言の理由を自分のありのままに、しかし事細かに語る。そこにーー

 

「あ、あのさ…。君が、俺の体内にあった恐竜系のコアメダルをすべて破壊してくれたの?」

「そうだ。アレはお前の身のためになどならんと判断したからぶち壊した。理由?お前のことが少し気にかかったからだ、それだけだ。」

「成る程な。でも良かったぜ、これで映司は暴走しなくて済む。ところで、あの光景見せられてから、お前に対する感じは恐怖と絶望しかねえ…。なんなんだあの物言わぬ威圧感は…、底が、底が見えねえ…。今は滲み出てねえというのに、何故だ、何故かあの気配は強大さを増しているような気がしてならねえ…。」

アンクの発言は智史の恐るべき本質ーー常に進化、学習し、更にはそのペースさえ増大させていくという異常なまでの自己再生、進化能力ーーを半ば言い当てていた。それにその本質が僅かだけしか出ておらず、しかもそれ以外は普通な状態だったのがかえって彼の本質に対する恐怖を増大させていた。

 

「あ、寝泊まりする場所探さないと。琴乃、ズイカク、どこかで夕食食べた後で一旦リヴァイアサンに戻るか?」

「せ、折角だからここ暫くの間泊まってもいいよ。最初は悪い奴なのかなって思ってたけど今はその真逆で俺の命を救ってくれた恩人だから、さ。」

「そうか?随分と気前がいいな。まあいい、遠慮なく泊めてもらうとしよう。」

そして智史達は夕食、ケーキを食べ、その日はクスクシエに泊まるのだった。そしてその日の深夜、

 

ーー火野映司、お詫びとしてオーズドライバーを直しておいたぞ。

智史がこっそりと映司の部屋には入り、そして真っ二つとなったオーズドライバーに何かを弄るようにして触れ、そして去っていく。その後には眠っている映司と、元どおりの姿のオーズドライバーがそこにあったーー

 

ーー翌日

 

「行くとするか、鴻上光生の所へ。」

夜明け、智史はエリカの名刺に記されていた電話番号を入力して、エリカに迎えの連絡を寄越す。

 

「鴻上さんの所に行くの?」

「ああ。一度会ってみたい人物だからな。」

「そうか。ところで、何で夜が明けたらオーズドライバーが元どおりになってたの?もしかして、またしても君が?」

「そうだ。お前が寝ている隙にこっそりと直しておいた。お前の為ではない、ただ単に私がそばに居なくてもお仲間を守る為に使える防御手段を増やしただけだ。」

「なるほど、昨夜の会話聞いてたけど、恐らくグリード達が人質を取って君の攻撃手段を削ぐという策への対応策なの?」

「そうだ。恐らく私を釣って隙を作ることでここを急襲してくる可能性が非常に大きい。その時に人質を取ってくる可能性がある。そこを逆手に取ってカウンターを仕掛ける。概要は昨夜言った通り、私がワナに引っかかり、かつ彼らの気配がここクスクシエにあるーー策略が成功したと見せかけて釣り上げ、盛大に返り討ちにするというものだ。しかし知世子さん達本人がそのままそこにいることは作戦上のリスクが大きい。なので知世子さん達を一時退避させた上で彼らそっくりの気配を出す“デコイ”を置く。だが私がこの旨を伝えても彼らはそう簡単には信じてはくれまいだろう。彼らを動かすことが出来るのは現状では映司、お前とアンクぐらいだ。協力してくれないか?」

「分かった。直ぐに比奈ちゃんや知世子さん達に伝えとくよ。…でも、俺携帯電話持ってなかったんだよね…。」

「受け取れ。基本的には私の独壇場だが、万が一のことも考慮し、奴らが動き出したら連絡してやる。」

映司は明日のパンツと小銭以外は何も持たない男である、それ故に携帯電話など持っていなかった。智史はこんなことなど見透かしていたかのようにトランスレシーバーを瞬時に生成して、映司に渡す。そして彼は知世子達の見た目そっくりのデコイを瞬時に生成してその場に出現させる。同時にグリード達の生体反応探知能力に強力なジャミングを掛け、本物の方の生体反応を完全に消し、デコイがグリード側から見れば本物に見えるようにした、切り替わった際の違和感を感じさせず、こちらの意図を悟らせないほどの丁寧さを伴って。そして生み出された『彼ら』は開店準備をしていた本物の知世子達の前に姿を現す。

 

「え、何で私がもう1人いるの⁉︎」

「知世子さん、これから囮作戦を行うんです。海神さん曰く、自分が離れている隙にグリード達が知世子さん達を狙ってくるだろうからそれを逆手にとって返り討ちにする為にこのようなデコイを作った上で一時退避して欲しいとのことです。」

「何でグリードがここに攻めてくると言い切れるの、映司君?」

「恐らく敵の殺気に感付きここを離れるようにしてバラバラにならずにここでいつも通りにのほほんとやっている、だからこそグリード達を釣り易いと智史、おまえは判断したんじゃねえのか?お前の話を盗み聞きしていたが、あれは本当のようだな、本当にそっくりの内容だ。奴ら、あいつを釣ることでお前らを人質に取り、あいつを追い詰めるつもりだ。」

「アンク、補足ありがとう。ところで…、いつから私に対する呼び名が名前の方になったのだ?」

「…そ、そんな神妙な目でこっちを見るんじゃねえ…。お前なら、言わなくても分かるだろう…。」

「分かっている。さて、知世子さん。比奈さん、信吾さんと共に一時避難して下さい、この作戦の責任は全て私が負いますので。」

智史はそう言い終えると目の前にワープホールを出現させる、リヴァイアサン艦内とここクスクシエを繋ぐ連絡手段として。

 

「ここを通ればクスクシエではない別の場所に出るのね、ありがとう。」

「いえいえ、とんだ大迷惑を掛けてしまっているようですからこの程度など取るにも足りません。絶対的に安全とは保証はしませんが、それでも最も安全な場所は用意は出来ます。」

そして本物の知世子達はリヴァイアサン艦内へと移動する、まあジャミングが機能しっぱなしなので余程近くまで行かなければばれないのだが、万が一のことも考慮し、最も安全な場所と胸を張って言える存在ーー自分の血肉であるリヴァイアサンの艦内を彼らの避難場所とし、また移動中に発見されるリスクも考慮し、時空空間を捻じ曲げ、ワープホールで直接移動することとした。同時にデコイ達が彼らがいつも行なっているパターンを参考にして行動を開始する。

これで、真木一味の策略を迎え撃つ体制が完成し、あとは智史の独断場と化した。最もこれが失敗しても、智史にしてみれば致命傷には全くならない。何せ失敗したらさっさとグリード達を始末して仕舞えばいいだけのことなのだから。そもそもこの策略自体が智史にしてみれば暇つぶしというべき一種の座興でしかなかったからだ。

そしてその後なのだが、デコイを使った朝食は本物が作るものよりも精神的にいい感じがしなかった(味的な意味ではない)ので、智史達はクスクシエの近くにあったコンビニで軽食を買って、そのまま食べることにした。

 

「随分と大掛かりな策略だな、智史。だが失敗したらどうするんだ?」

「ぱっぱと奴らを片付けて仕舞えばいいだけのこと。だがその言葉の通りに片付けてしまったら少し楽しくない。だから暇つぶし、そして楽しみとしてこの策を練った。」

「ひょえ〜。恐ろしすぎだ…。あ、車が来たぞ。」

「迎えが来たか。さて、琴乃、ズイカク。これから罠に釣られるように見せかけることも兼ねて鴻上光生の所に行こうか。」

「ええ、行きましょう。」

「アンク、映司、囮が出てきたらあえてそのまま突っ込むという釣られ役、頼んだぞ。クスクシエのヤツは私が仕留める。」

「分かった、でもそれじゃあ」

「私達を模したデコイも囮に敢えて突っ込ませるから問題無い。」

丁度軽食を食べ終わった所にエリカが乗る迎えの高級車が彼らの目の前に止まる、そして彼らはその車に乗り込み、鴻上ファウンデーション本社ビルへと向かう。

 

「車が一杯だぁ。前になかなか進まない。みんな働きに行くからか?」

「まあそうだ。そのせいで先程の光景ーー渋滞が発生している。今はまだマシだが、日が昇ってくるにつれてどんどん激しくなるぞ。」

「車から見る景色も、電車の時とは違って、また新鮮ね。」

「ふっ、そうだな。車の方が『街』により身近だからより近くに街を感じられていい。」

 

「着いたぞ。」

「こりゃ随分と派手だなあ。街中で見てきた建物もガラス張りで中々に凄かったけど、これは様々な表情が混じってるからそれ以上だ。」

「そうだな、ただの四角形の形をしていないし、ガラスに青空が映えているから美しい。」

「こんな建物も私が生まれる前にはあったんだよってお父さんから聞いたわ。」

鴻上ファウンデーション本社ビルの前に着いた智史達は思わず感心してしまう。そして智史達は会長室へと案内されるかのようにエレベーターに乗り込む。

 

「会長、お連れしました。」

「そうか。ご苦労、里中君。これは報酬だ、受け取りたまえ。さて、君が海神智史君か。」

「はい、私が海神智史といいます。連れの方の名前は天羽琴乃と、ズイカクです。」

「なるほど、君は外から来たと言っていたね。あ、遠慮なく腰を掛けたまえ。」

「(すげえ強面ヅラだな、智史…。)」

「(ああ、ピンクのスーツもそのキャラ味を一際と際立たせているからな…。)」

会長室は街を一望できる程の大パノラマを備えていた、そしてそこに置かれている様々な小物や装飾が会長室としてのその部屋の価値を一際と高める。そして智史達は鴻上に促されるまま、彼の名刺を受け取り、そのまま席に着席する。

 

「さて、君がオーズと戦った理由は、単に彼と戦いたかったという理由からだね。」

「はい、その通りです。」

「ではその理由が生まれた背景は?」

「自分を高めた結果の試金石としてたまたま彼を選んだからです。」

「自分を高める…。素晴らしい!その欲望によって新たな物語、時代が生み出されるのだから!

しかし、だ。そうしたい理由は何なのかね?普通の人間ならいずれ満足してしまいそうなものだが、君は際限なく求めそうだな。君がそこまでして強さを求め続ける理由、何か訳があるな。」

そう言われ智史は霧の究極超兵器超巨大戦艦リヴァイアサンとして転生する前の過去を思い出す、かつて周りとは異なっていた性格を持つ自分を受け入れようとしなかった没個性的な社会を変えられるだけの力が無く、ただ他人の言うことしか聞くことができなかった屈辱と諦観が入り混じった時のことを。

 

「はい、私は力が無かったことによる己の人生を変えられぬ不自由を味わったが故に、力を欲しているのです。ですが上には上がいるという言葉の通り、自分より力を持つ者が居るという可能性に押されるようにして底知れぬ勢いで己を鍛えています。」

「ふむ…。後藤君から聞いたが、君は外から来たのかね?」

「はい。」

「それは外には自分より強い敵がいるということを危惧し、いずれそいつらによって己の身が滅ぼされるーー死を恐れているからなのかな?」

「その通りです。いずれ自分がしたことの業が自分自身に返ってくる、今のままではいずれ殺されてしまうのではないかと危惧している自分が居るからです。」

「なるほどな…。自分がしたことによるしっぺ返しによる破滅を防ぐ為に自分を高めるのか…。だがこういう仮定も出来る、強くなり過ぎたらなり過ぎたで脅威と見做され、君のことを恐れる他者により、殺す前に殺されるのではないのかね?」

「“殺られる前に殺る”。そのコンセプトに基づく行為を受ける側のことを言っているのですか?」

「まあその通りだ。君は己を鍛え上げ、力を徹底して手に入れることで自分が望まぬモノを排除しようという弱肉強食のコンセプトに基づいて己を強大にしているようだが、それによって得た力が他者から見た場合、圧倒的な恐怖と脅威を与えることになる。彼らがこの存在から完全に逃れる方法はただ1つ。殲滅される前に君を殺すか、その勢いを削ぐしかあるまいだろうな。」

鴻上の指摘に智史は少し納得する。自分が持っている力を滅茶苦茶に増やし、それにより己を更に強大としていく行為が破滅を呼び込むという形は違えど今まで認識してきたことと本質的には同じ別の可能性を見出せたからだ。

 

「そうですね、だが私はそれによる破滅さえ打ち砕き、逆に破滅を齎すようにして進化しましょう。進化を止めるのは自然の摂理である変化の流れに対応しようとしない行為です。いずれそんな状態のままでは滅ぼされるべくして滅ぼされます。」

「ふふふ、殺られる前に殺るというコンセプトに基づく破滅さえ打ち砕こうとは…。自分の運命は自分で決めたいという生き様を貫くか、素晴らしい!欲望の赴くがままに自分の生き様を貫き、そして誕生を齎すといい!今日が君の新たなる生のハッピーバースデーだ!」

“殺られる前に殺る”というコンセプトに基づく破滅さえ打ち砕いてもなお、自分の好きなままに生きたいという意志を露わとする智史に鴻上は賞賛を送る。

 

「ありがとうございます。ですが覚えておいた方が良いですよね、自分の欲望に基づく意志を力づくで押し通して生きるということはその分だけ他者を捻り潰してしまうという事実を。」

「そうだな、ところで2人共、今度は君達に聞くが、君達には欲望はあるのかね?」

鴻上が琴乃とズイカクにそう語りかけた、その時である、突如として備え付けてあった電話が鳴り響く。近くにいたエリカが慌てて受話器を取る。

 

「はいーー、分かったわ。グリードが、2体現れたのね。」

 

ーーガチャン

 

「会長、新宿にグリードが2体出現。現地警察が現在応戦中とのこと。後藤君とライトベンダー隊が現在急行中、SATと現地警察と協力して対応するとのことです。私も向かいます。」

「分かった、里中君。直ちに出撃してくれ。ーー智史君、何か言いたげな目をしているな?」

「はい、先ほど里中さんが言っていたアレは陽動でそれで映司君達を釣り上げている隙に別のヤツらが映司君の仲間らを襲ってくる気がしまして。なので。」

「成る程…。なら行くがいい、咎めはせぬ。」

「鴻上会長、ありがとうございます。」

智史達は会長室を慌てるようにして出て行く、そしてエレベーターに乗り込む。

 

「予め定めた作戦通り、デコイを使うのね。」

「ああ。そうでなきゃ自分が釣られていると騙し切ることができない。映司、新宿で囮が動き出したぞ。」

「“分かった、今すぐに向かう。”」

さて、鴻上光生との会話で確認したことを糧として自分を更に更に強大にするとしよう、観察眼も磨きながら、な。

 

ーーほぼ同時刻、新宿

 

ーーパパパパパ、パパパ!

 

「退避、退避ぃぃ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「くそぉ、化け物めぇ!」

新宿の市街地には既に一般人の人影は無い、皆恐れをなして逃げ出したからだ。そして代わりにいるのはグリード2人ーーガメルとメズールと、応戦する現地警察だった。

この世界の警察はグリードが生み出すヤミーによる凶悪事件に備えて武器を強化していた、通報があってから対処に移行する前にオーズやバースといった仮面ライダー達に始末されている程の小規模犯罪でその努力を見せられはできなかったが。

彼らは仮面ライダー達に怪人達の始末を任せたくはない、だからといってヤミーはこの世界で『法律』に基づいて裁けるような存在ではないこと、それにこれ迄に次々と一般社会に害をもたらし続けたこと(仮に殺しても保護する法が存在しない為に法律上問題は無いこと、仮面ライダー達と彼らを支えるバックアップが居なければ救われなかった命もあった、そして何よりも仮面ライダー自体が小回りが利く単体高火力の対グリード、ヤミー用のユニットとしては強力だったという理由も存在する)から、彼らを社会的に裁くことも難しかった。

それはさておき、今回戦闘が勃発したのは彼らの近くだった、彼らは日頃積んでおいた訓練の成果を見せつけるべく戦闘を開始する、だがしかし、装備している火器ではなかなか彼らの進撃を止められない、並のヤミーなら鎮圧できるほどだというのに。

それでも、警察は一般市民を守るという義務、そして彼ら仮面ライダーが到着するまでの時間を稼ぐという目的に従い、彼らを牽制しつつ戦う、しかし彼らもまた積極的に反撃し警察は被害を出す、オーズやバース、智史達をまるで誘うのかのように。

 

「メズ〜ルぅ、これ全部ぶっ壊していい?」

「いいわ。もっと暴れて、ガメル。彼らが寄って来るほどに。」

「やった〜!俺、メズールの為に、こいつら、全部、壊す〜!」

 

「映司!居たぞ!ヤツらが!」

「うん!」

陽動としてあえて目立つようにして盛大に暴れるメズールとガメルを見つけたアンクと映司、敢えて引っかかった上で戦えと智史に言われているのでそのまま突っ込んでいく。

 

「仮面ライダーか⁉︎頼む、こいつらを止めてくれ〜!」

「(智史は言っていた、状況を読んで行動しなければ最悪ただの迷惑に終わると。それは納得できる、でも、動かなければ救えるものも救えはしない!)変身!」

そして映司は仮面ライダーオーズに変身する、たとえ偽善と罵られようとも誰かを守りたいという本能のままに。

 

「火野…‼︎変身!」

それに続くようにして後藤もバースに変身する、同時にライドベンダー隊とSATが展開を開始、生き残っていた警察部隊と連携してオーズとバースを援護するかのように射撃を開始する。

 

「こいつら、しつこい…‼︎」

「くっ、忌々しいわね…‼︎」

オーズやバースとの連携は不完全ではあるものの、それでも適所でガメルとメズールの動きを妨害するかのように炸裂する、その攻撃を鬱陶しく、忌々しく感じる2人、コアメダルが足りず不完全なせいか、それとも彼らの攻撃に有効性があるのか。

 

「もう一匹来た!今度は誰なの、メズ〜ルぅ⁉︎」

「オーズやバースでは無い…。でもカザリから聞くに恐らくアレはもう1人の方のアンクを抹殺した存在ね。」

智史の姿を捉えたことで彼がまんまと囮に引っかかったことを確信し、策略通りに行ったと確信、いやそう欺かれてしまう2人。アレが『デコイ』だと気付かずに…。

因みにアンクは傍観していた、下手に手を出せばグリードである事がバレて誤解を招き、猛烈な迄の弾丸の雨を食らうかもしれない。完全体とはいってもそれは忌々しいものであることは確かだった。それにその事がバレることによって今後の自分の行動に支障が出ると彼は危惧していたからだ。

 

「デコイか…。ふっ、智史のヤツ、言ってた通りに表面上はこいつらに引っかかったと見せかけ、本当はちゃんとクスクシエに向かったようだな。残念だったな、カザリ、ウヴァ…。お前らはあいつの策略にまんまと嵌まっちまったな…。」

 

 

ーーほぼ同時刻、クスクシエ。

 

 

「いつも通りだね。」

「ああ、あいつの気配を感じない。やるなら今のうちだ。」

「それはそうだけど、でも何か上手くいきすぎている気がする。策略にまんまと引っかかったから、そのまんまこっちに来てくださいって言っているような…。何か、不気味すぎる…。」

「まあいいじゃねえか。ドクターとお前が会話して練り上げた策がそのぐらい上手く行ってるということだ。早く人質を取るぞ、あの2人が囮であるということがバレ、こちらの意図に気が付いて阻止しに来る前にな。」

そう会話するのは先程アンクが言っていたグリードのカザリとウヴァだった、2人は策に上手く引っかかったと確信、いやそうなるように欺かれてしまいここクスクシエに人質を取るために現れたのだ。

 

「中は…、まだ気づいていないみたいだ、ターゲット以外誰もいない…。」

「なら行こうぜ、早く!」

そして2人はグリード化してドアを開けて侵入する、因みに客は居なかった、というのも智史がこっそりと『クスクシエに行きたい』と考えている人間の欲望をこの日に限り書き換えてしまったからである。

 

「動くんじゃねえ!殺されたくなかったら大人しくしろ!」

「変な真似をしたら、殺すよ?死にたくなかったら、大人しく従え。」

ウヴァとカザリは脅すようにして威圧する、だがしかし彼らが返した反応は自分達が想定していたものとは少し異なっていた。なんと驚き、キョトンとしていたのだ、というのも智史が前述した通り、彼らは智史が作ったデコイだったので、指定されたパターン以外の行動は仕込まれていなかったので無反応だったのだ、本人と同じ気配を出しているというのに。そして困惑が彼らに襲いかかる。

 

「お客様、何用でしょうか?」

「…あれ?様子がおかしい…。」

「おい、話を聞け!聞くんだよ!これが見えねえのか!」

「騒ぎを起こされては困ります。ここは騒ぎを起こす場所ではありません。」

「こいつら…、何故だ、何故怯えねえんだ…⁉︎」

凶器が齎す死の恐怖など気にしても居ないのかのように平然と説教を仕掛けてくる知世子、それがダミーだという事を知らされていない2人は大いに困惑する。

 

「あ、あの〜、話、聞いてるの…?」

「迷惑は困ります、出てってください。」

「おい、何なんだこいつら…‼︎」

自分達がした事の目的などお構いなく単なる迷惑として処理されることにパニック状態になる2人、そしてそれを仕掛けた元凶の高笑いが轟く。

 

「ぷっ…、あはははははははは…‼︎」

「だ、誰だ⁉︎」

「いきなりだから驚かせてしまったな、初対面だというのに、すまなかった。我が名は海神智史。諸君らがよく知る仲間の1人を殺した存在だよ。」

「馬鹿な、君は囮に引っかかった筈だ…‼︎」

「引っ掛かった?私が?馬鹿め。諸君らの策を見通していたからこそ、諸君らの策に策を講じた上で敢えて引っ掛かり、逆に諸君らを引っ掛けたのだよ。」

先程まで気配を漂わせずに突如として現れた智史に2人は驚愕する、そして智史はキングラウザーを右手に構え2人に迫ってくる。

 

「てめえ、何言ってやがる⁉︎この女が、どうなってもいいのか⁉︎」

「ほう。目的の為には手段を選ばぬか。実にいいことだ。だがそれが倫理上下劣な手段ならばその前に阻止してやろう。そもそも、気がついていないか、まあ上手く欺けたからな。自分が人質にしているもの、あれは私が作った人間を模した『人形』だよ。そうだから仮にここで『壊され』ても心は痛まん。」

「な、何っ⁉︎」

智史は高らかに指を鳴らす、すると知世子達の形を模したデコイがあっという間に砂粒と化して崩れ去る。

 

「こいつら、人形だったというのか⁉︎」

「そうだ、諸君らがそう簡単に見破れはしないように徹底した細工と工夫を施したがね。」

「ということは、囮に食らいついている『君』は、囮…‼︎」

カザリは智史が何を企んでいたのかを一瞬で理解した、そして自分達が逆に策に嵌められたということを。

 

 

同時刻、新宿ーー

 

「つ、強い…‼︎」

「噂通りの強さね、ボウヤ…。だけど、忘れてない?大切な人を置き去りにしたということに…。」

「ふっ、それは何を指しているのかな?お前達は囮として私達を引きつけ、大切なものに対する守備を手薄にし、そして別の奴らがそれを人質にとることで私達を追い詰めようという策略を立てていたらしいな、だが残念だったな、そこには私の大切な存在などいない。それに対する策を講じてしまったが故に。」

「メズール、カザリ達の近くから、目の前のあいつと同じ雰囲気だけど、それ以上に途方もなく禍々しい気配が…‼︎これって…‼︎」

「まさか、逆に嵌められたというの、私達が…⁉︎」

「まあそういうことだ、これ以上の話し合いは今はしたくは無いのでね、少しの間、大人しくしてくれたまえ。」

「だあっ!」

「ぐはぁっ⁉︎」

「メズ〜ル、メズ〜るぅぅ…。」

罠に引っかかったという希望をあっさりと崩され勝利への希望を潰された2人は智史(囮)に殴り倒されてそのまま気絶してしまう、ここに至るまでの智史の猛攻により大量のセルメダルを撒き散らすという形で怪人態に変身できないほどに激しく衰弱してしまったが為に逃げる余裕さえ与えられずに2人があっさりと捕縛されるという展開で新宿での市街戦は終結した。

 

「(さて、この私の役割は終わった、あとは本物の方にこの2人の身柄を引き渡すだけだ。)」

そして智史は指を鳴らして捕縛した2人を異次元空間に転送する。そして本物の方に還るのかのように、砂となって消滅した。

 

「火野、これはどういうことだ?」

「後藤さん、あの智史君は囮だったんです、彼からそうだということを伝えられました。」

「そうか…。各部隊に伝達、負傷者の救護並びに撤収作業、急げ。」

 

 

「だから欺けたと言ったのか…。野郎…、まんまと引っ掛けやがって…。」

「当初は上手くいくかどうか少し心配してたがまんまと掛かってくれて嬉しいよ。諸君らの策を逆用し罠に引っ掛けた私が憎いか?そうだろうな、好きなだけ憎め。そして私に掛かってくるがいい!」

智史はそう言い放つと2人に颯爽と斬りかかる、2人は反射で回避しようとしたもののそれよりも智史の斬撃が素早く、命中と同時に火花と大量のセルメダルが飛び散り、2人は店の壁を突き破るようにして大きく吹き飛ばされる。

 

「ぐはぁ、何て威力だ…‼︎」

「強い…!当たりどころが悪かったらコアメダルの一部が砕けていた…‼︎オーズもなかなかだけど、彼はそれ以上だ…‼︎ウヴァ、一旦後退しよう、作戦は失敗だ!」

「た、退却だと⁉︎何の成果も得られていないというのにか⁉︎」

「どうした、もう逃げ腰か?」

「て、てめぇ〜‼︎」

「待て、ウヴァ、待つんだ!」

智史の挑発に激昂するウヴァ、智史には何の策も無しに突っ込んだら勝ち目は無いという昨夜の作戦会議中の忠告さえ忘れて突っ込んでいく。

 

「うらぁっ‼︎」

「はっ!」

ーーガッ!

ーーガッ!

 

ウヴァは格闘戦を仕掛けるようにして次々とクローや回し蹴りを繰り出すものの全て到達する前に拳で受け止められてしまう。そして何発目かの回し蹴りが放たれた際、智史はその足を掴み軽々と投げ飛ばした。

 

「どはあっ⁉︎」

「不完全か、コアメダルの数が足りないのか?」

「…てめえ、何故このことを知ってやがる⁉︎」

「何処かでお前達に関する供述を見たのでね、グリードの能力はコアメダルに左右される、と。折角だからお前達を完全体にした上で徹底的に弄り嬲ってみるとしよう、ほれ、受け取れ。」

智史は何枚かのコアメダルを瞬時に生成し、それをカザリとウヴァに投げつける、そしてコアメダルが入り、2人の不完全だった部分が補完され、2人は完全体と化した。

 

「この野郎…、このことを後悔しやがれ…‼︎」

「ダメか、完全に頭に血が上ってる…。せっかく完全体にして貰っただけでももう十分なんだし、こうなったら僕だけでも逃げ出そう。」

智史の挑発してくるかのような態度に激昂するウヴァとその挑発には乗らず、冷ややかに見るカザリ、彼はさっさとこの場から逃げ出そうとする、しかしーー

 

「知らなかったのか?オーズから逃れられても我が手の内からは逃れられぬぞ?」

「は、速い…‼︎どうしても通してくれる気は無さそうだね…‼︎」

「おい、俺を無視すんじゃねえぞこの野郎‼︎」

直ぐに智史が通り道を塞ぐようにして現れ、逃げたければ私を倒していけと言わんばかりの形相で睨みつけてくる。

 

「なら、君の望む通り、戦ってあげるよ!」

「それでいい、完全なる力、私に見せよ。そしてそれを上回る力で絶望へと誘ってやろう」

ウヴァとカザリは戦いは避けられないと覚悟したのか、再び構える、智史はそれを見て嬉しそうに微笑む。

 

「てりゃぁぁぁ!」

「はっ!」

再び智史が斬撃を放った、だが2人は跳躍してこれを躱す。

 

「完全復活を、舐めんじゃねえぞこの野郎!」

そしてウヴァは強烈な電撃を放ち、カザリはたてがみを触手のごとく伸ばして先端から無数の弾丸を放つ。だが智史はそれを素手で防ぎ、吸収し、己の力へと変えてしまう。

 

「ほう、やはり予想通りの実力を見せてくれたか、素晴らしい。」

「それだけか!てめえの臓腑、抉り飛ばしてやらあ!」

ウヴァは再び肉弾戦を智史に挑む、智史は見極めるのかのように何発か拳を当てたが完全体となったウヴァには通用しなかったようだ、だがウヴァの方の斬撃も智史には致命傷にはなり得なかった。

 

「畜生、なんて硬さだ!ええい、これでも食らって往生しやがれ!」

それでも諦めきれないウヴァは右手の鎌を智史に突き立て強烈な電流を流し込む、緑の雷が智史の体に程走る。

 

「どうだ、これでもう動けまい…‼︎」

「そうかな?」

 

ーーグシャッ!

 

「な、なんだと…⁉︎全て、無駄だというのか…⁉︎」

智史はケロリとこの攻撃を耐え凌いだ、いやそればかりか逆にそれを吸収し己のものとしてしまった。そして彼は突き刺さっているその鎌を右手ごと握り潰し、首を掴んで締め上げる。

 

「な、何故だ、何故だ、俺と、てめえでは、一体、何が違う…⁉︎」

「さあな。理由を知ったところで所詮お前は死ぬから知らなくてもいいだろうな。」

「…嫌だ、嫌だ、助けてくれぇぇぇ!」

「嫌だな」

智史はそう言い放つと意図返しと言わんばかりに今度はウヴァに強烈な電流を流し込んだ、完全体となったウヴァの体でも体内で暴走し、氾濫する巨大なエネルギーの前には耐えきれず、コアメダルやセルメダルは悲鳴を上げて次々と砕け散り、そしてウヴァは内部から一瞬閃光を煌かせた後にセルメダル1つさえ残すことなく巨大な爆発とともに消滅した。

 

「ふん、汚物に相応しい最期だ。さて、残るはお前のようだな、カザリ。」

「くっ…、やはり見逃してはくれたいみたいだね…、ならば全ての力を出してここから逃げ切ってみせよう!」

「そうか、来い。」

「はぁぁぁぁ!」

カザリは背中から8枚もの翼を発生させて空を舞う、そして黄色い風が智史に襲い掛かる。その烈風は完全体になったということもあり不完全の時より威力は激増しており、オーズならば軽く吹っ飛ばせてしまう程の威力が有った、だがそうだからといって智史に通用するとは全く言えなかった。カザリは威力的には彼を倒せないと考慮した上で目くらましとしてこの烈風を放ち、智史による追撃を妨害しようとした、そして黄色い烈風が智史の姿を隠したのを見たカザリはこれなら直ぐには追撃できないだろうと確信してその場からさっさと逃げ出そうとする、だがーー

 

「“言ったはずだ、『私からは逃げられない』と…。”」

「え?」

 

ーードォンッ!

 

「があぁっ!」

突如として智史の方から巨大な衝撃波が放たれ、黄色い風をまるで雲を払い飛ばすのかのように吹き飛ばす、そしてそれは逃げようとしているカザリに襲いかかる。その衝撃波の襲われたカザリは一瞬にして翼を全て捥がれ、大量のセルメダルを撒き散らして地へと落ちていった。

 

「だはぁっ‼︎はぁ、はぁ、はぁ…。逃げられないのか、僕は…‼︎」

「待たせたな、カザリ。死ぬ覚悟は出来たか?」

智史により地へと叩き落とされたカザリ、そして智史が地響きを立ててゆっくりと迫ってくる。その時彼の目の前に子供が現れる、彼は慌ててその子供に近づき、爪を突き立てるかのようにして人質に取った。

 

「びぇぇぇぇぇぇぇ!」

「動かないで…‼︎それ以上近づいたら、この子を殺すよ…‼︎」

「ほう。恐怖で全身が震えているな。所詮末路も見えているというのに。」

「そう言って、僕を止めようというの…‼︎無駄だよ…‼︎」

「ふっ、意地を張って自分に不都合な現実を受け入れようとしない、か…。お前も立派な「人間」だな、だがこんな場面を何時までも続けるのは詰まらん、だからここで終わらせるとしよう。」

智史はそう言い終えるとゆっくりと迫ってくる、そして突然、目も眩むような閃光と共に彼の姿が消える。次の瞬間、彼はカザリの背後に現れた、そして一瞬にしてカザリの両腕が斬り落とされ、斬り落とされた断面からセルメダルが大量に噴出する。

 

「行け、母親が心配しているだろう。」

智史は子供を解放する、子供は母親がいる方に走っていく、母親は子供が無事であったことに安堵して子供を抱きしめる。

 

「さて、カザリよ。終わりだ。」

 

ーーザンッ!

 

「だあっ!」

そして智史はカザリにキングラウザーを振り下ろす、両腕は切断されるわ翼は捥ぎ取られるわで満身創痍だったカザリ、それでも死への恐怖なのか、たてがみを盾として防ごうとしたものの既に満身創痍だったその体にはこの一撃を防ぐ余力など1つもなく、カザリはその身をたてがみごとバッサリと切り裂かれて一際と大量のセルメダルを撒き散らし、人間の姿となってその場に倒れこんでしまった。

 

「ふふふ、カザリよ。殺すとは言ったが実はお前はあえて生かしておく、他の2人と共にさらなる調教を仕込む為に、な。くくく…。」

智史はカザリを捕縛し、そして2人と同じく異次元空間に転送する、3人揃って仲良く調教させ、絶望をじっくりと刻み付ける為に。

 

「智史くん、終わったみたいね。ところで気になってたんだけど、大量に散らばっているこのメダルみたいのって、何?」

「セルメダル。人間の欲望を糧として増殖し、怪人「ヤミー」を生み出す。奴らグリード達にとっては細胞(CELL)のようなもので、大量に取り込めばその力は飛躍的に増大する代物だ。奴らはいかにしてセルメダルを集めるかを考えて行動しており、生み出されたヤミーもいずれはグリードによりセルメダルに分解されてしまう宿命だ。

またこいつは大量のエネルギーを保有しているため、さっき行った鴻上ファウンデーションでもバイクの燃料や武器弾薬のエネルギー源として使用されている。」

「さっき、人間の欲望を糧にして増殖するって言ってたよね。恐らくそれを人間に入れることでその人間の欲望を糧としてヤミーが生まれるのかな?」

「まあそうだな、ただそれを投与された人間はヤミーが生まれるまで欲望を抑えきれなくなって暴走をし続ける。」

「要するに、投与されたら自分の感情を抑えきれなくなる代物ね。まるで、覚醒剤や麻薬と同じみたい。」

「そうだな。さて、後片付けだ。あのまま放ったらかしにして返すのもアレだ。私1人でやる、このことを引き起こしたのは私自身だけなのだから。」

智史はそう呟くと元あったデータを基にして材料を瞬時に生成し、ぐちゃぐちゃとなっていたクスクシエの店内と大穴を穿たれた壁を元どおりに修復していく。

 

「終わったの?」

「はい、すべて終わりました。ご協力ありがとうございます。」

「そうですか…。ところで行った先についてなんですけど、随分と無機質でしたが…。」

「アレ?ああ、あれ軍艦だから必要最低限のモノしか無い。あとあれは『私』だ。私はあの『私』の代弁者でもある。」

「えっ⁉︎」

「比奈ちゃん、まあ驚かないの。ほら、映司君とアンクちゃんが帰ってきたわよ。」

知世子は比奈にそう言う、見ると映司とアンクが玄関の扉を開けて入ってくる。

 

「ただいま。」

「おかえりなさい。」

 

この光景にいつも通りの、だけどどこか暖かい雰囲気を智史は感じる、そしてその後琴乃が智史にこう話しかけてくる、

 

「ちょっと、買い物行きたいところあるんだけど。付き合ってくれる?」

「構わん。いつも振り回してばかりだからな。」

「ありがとう。」

「暫くは泊まっていってもいいのよ、智史君。」

「わかってますよ、知世子さん。やるべきことを終わらせるまでは此処に居候します。」

そして3人はクスクシエを出て、武蔵野駅近くの中古家電販売店に向かう。

 

「これ、買って改造したかったのよね。」

「小物入れとして、か?」

「うん♪」

「そうか、なら一旦リヴァイアサンに持ち帰るか。」

琴乃はそこでスーパーファミコンのハードを買う、そして彼らはワープホールを通って一旦リヴァイアサンに帰る。

 

「久しぶりとはいえ、落ち着くな、ここは…。」

「そう言って貰えるなんて嬉しいわ。戻りましょう、クスクシエに。」

「ああ、そしてグリード達の頭領を叩き潰すとしようか。」

 

そして智史達はクスクシエに戻る。こうして今日は終わる、グリード達に更なる絶望の時が迫るーー



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第40話 矛盾まみれ

とうとう40話目。
なのだが、矛盾を認識してしまうこの頃。
自分のやってきたことが矛盾まみれだということを再認識しました。
なのでタイトルの如く主人公の過去の矛盾の回想も交えつつも真木に引導を渡しました。
カザリはお仲間に加える予定です。
少し展開が強引ですみません。
それではじっくりとお楽しみください。


「ふむ、カザリ君達が帰ってこない…。そしてその際のあの強大な気配…。ということは我々は逆に嵌められたということですね…。」

真夜中、緑に覆われたとある一軒家で真木清人はそう独白する、詳細は分かりきってはいなかったものの、少なくとも作戦は失敗したこと、カザリ達が帰ってこないということは理解できた。

 

「彼らのコアメダルは彼ら自身と共に全て消滅していた…。おまけに作戦の成り行きを観察する為に送ったカンドロイドが全て潰されていた…。困りましたね、メダルの器とすべき存在が現時点で私と敵対しているアンク君以外は悉く消え失せた以上、これでは世界を美しい内に終わらせるという私の目的がこれでは達せられない…。」

そう嘆く真木、智史に前と同じく深層心理や思考までも見透かされていることを知らずに。そして彼を奈落へと叩き落とし、無様な最期を遂げさせてやろうと智史が目論んでいることも知らずにーー

 

 

ーーほぼ同時刻、クスクシエ

 

 

『真木清人。

元鴻上生体研究所所長、35歳。今はグリード達を束ねる司令塔というべき存在。

思想は『人が醜く変わる前に世界を終わらせる』

そのような思想を持つに至った背景は幼少時に両親を失い、母親代わりとして姉・仁美によって育てられた経歴にある。

彼女は母の代役として彼に愛情を注いだものの、時は経ち結婚を間近に控えるようになってから彼女は豹変した。

弟を疎ましく思った彼女から彼は疎外されるようになってしまった。

彼女の変化に傷ついた彼は、 彼女の眠る部屋に火を放ち殺害してしまう。

彼女を殺害して以降、彼女の教えである「人の人生は終わる事で完成する」を教訓に彼、真木清人は「醜く変わる前に世界は終わらせなければならない」と考えるようになった。』

まあそうだな、「物事は終わりを迎えて初めて完成する」という考えは『進化の終わりは死』という哲学とどこかで通じる。だが私は敢えて『未完成』のままでいよう。何故なら私自身が体も、心も、自分がしたことの中に報いを受けるべき重い業が含まれているという事を知りながら死ぬ事を望もうとしないからだ。

それにしても、だ、『終末は幸せではない』という言葉が気になるな、確かにその言葉は私のような『生』に執着し希望がまだあるものには通じるかもしれん、だが先に希望が無く、ただ絶望のみを味わされるものにはその言葉は通じるのだろうか?

多分、通じないだろうな、そこに希望が無いと仮定した場合、死ぬ事が絶望から逃れる唯一の手段となり果てる、つまり幸せとなる唯一の手段となるのだから。

それに見方次第では終末を容赦無く与えることは喜びとも受け取れるかもしれぬ、例えば憎むべき他人を己の手で殺した時に味わう一瞬の清々しい思いとかで。勿論それによって他人を不幸にしているところもあるが、な。

さて、真木にどういう最期を遂げさせてやろうか考えよう、真木は姉・仁美以外との女性との接触が皆無だった為に女性耐性が皆無だったな、それを裏付けるかのようにメズールに触られるだけでアヘ顔になった記録がある。ならば断末魔を迎える時にグラビアアイドルに無数抱かれるという幻想を見せ、絶頂を迎えさせてぶち殺すという策略で行こう。

 

そう心の中で独白する智史、彼は真木清人という人間並びに「物事は終わりを迎えて完成する」という考えについて考察していた。

 

「さあ、カザリ達を更なる絶望に叩き落とすとしようか、ふっ、タカオを甚振り、恐怖と絶望のどん底に叩き落とした思い出が何処かで蘇るな、最終的な目的は彼らを改心させることなのだが。彼らの希望という希望を潰し、唯一の希望である存在さえ無力と思い知らしめることでやってみるとしよう。失敗すれば後味悪けれど、葬ればいいだけのことだ。まあそうならないように出来る限りの努力はしよう。」

そして智史は青いクラインフィールドで箱を3つ形成すると、そこにカザリ達を放り込んでいくーー

 

 

「うっ、ここは、何処なんだ…。少なくともまだ死んではいないみたいだけど…。はっ⁉︎」

「いい様だな、カザリ。他の2人と揃って仲良く見せ物に出来るな。」

「くっ、僕は、僕らグリードは見せ物じゃないよ…。」

「あれぇ、生きてる…。ここ、何処だぁ〜?」

「ガ、ガメル⁉︎それにメズールまで…‼︎」

「メズ〜ルぅ、メズ〜ルぅ、大丈夫ぅ?」

「が、ガメル…。よかった…。この光景、この扱い…。ボウヤの仕業ね…?」

「ああ。」

智史に倒されて此処へと連れ込まれたカザリ達が次々と目を覚ます、智史は拷問に等しい行為が出来ると思い、嬉しそうに微笑む。

 

「くくく、さて、始めるとしよう、お遊びを。」

「な、何をするつもりなの…⁉︎」

「ふふふ、ここを抜け出せるか自我が崩壊し自滅するまでコアメダルやセルメダルをぶち込むというお遊びだよ。要するに器に力が収まりきらなくなる前に脱出できるかというものだ。」

そして智史はコアメダルやセルメダルを次々と生成して投げ込んでいく、まるで木偶を扱うかのように。

 

「まずは完全体になる分+コアメダル7枚。そしてセルメダル500枚。」

「がぁぁぁぁぁぁぁ!メズール、力が、力が…‼︎」

「力が、力が滾っている…‼︎」

コアメダルやセルメダルを投げ込まれたメズールとガメルは力が滾ってくるのを感じる、そしてクラインフィールドでできた箱を破ろうと必死に抗う。しかし触れるたびにセルメダルが飛び散り、エネルギーが吸収され彼のものと化してしまい、そしてクラインフィールドは強度を増していく。そのような2人に対してカザリは相手が違い過ぎるということを自覚してしまったのか、何故か抗おうとしない。

 

「如何した、怯えたか?」

「いや…。この後の展開が何となく読めてきてね…。僕らを暴走寸前に追いやり更に追い詰め、『もう私からは逃れられない』ということを僕の体の芯まで焼き付けたいんでしょ…?」

「ほう、あまりの実力差に恐怖し、絶望し、いや恐怖と絶望のあまりに諦めたか、私に抗うという行為を。」

「まあそうだね…。あんなに実力差があり過ぎたら、もう抗う気力が一つも湧かない、所詮、全部無意味なんだって…。」

「ふっ、これでお前は楽しく甚振って悲鳴と命乞いを聞きながら殺す価値が激減したーー言い換えれば我が目的を達したな。さて、後の2人だ。あの2人を更なる絶望のどん底へ誘ってやろう。コアメダル10枚、セルメダル1500枚追加。」

そして智史は懸命にここから脱出しようと足掻く2人に更にコアメダルとセルメダルを生成して投げつける。これで彼らが保持するコアメダルは26枚になってしまった。基本グリードはコアメダルやセルメダルが多ければ多い程、その力は増大する、しかし智史が指摘している通り、力を扱う器に限界がある以上、その器の容量を超えてしまったら確実に力を制御しきれなくなる=現代の言葉で言う『暴走』のような状態に陥ってしまう。現に2人は力を御しきれなくなりつつあり、苦しまみれな様子が目立ちつつあった。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ…、メズ〜ルぅ、苦しいよお…。」

「力が、力が、抑えきれない…‼︎これ以上コアメダルやセルメダルを投げ入れられたら…‼︎」

「暴走の一歩手前だな。予想通り面白いことになってきている。」

智史は事前のシミュレーションによる予想が当たったと喜ぶ、そこにアンクが現れる。

 

「智史、これは何なんだ?」

「陵辱プレイだよ、更なる絶望を与える為の。」

「酷えな、コアメダルも相当量が入っており、その分威力を増した攻撃を受けても破ける気配さえ一つもない檻とは。このままじゃ檻が破ける前にこいつらの自我が崩壊しちまうぜ。」

「まあな。だが入れ過ぎて自我が崩壊するのもちと己好みでは無い結末なのでな。いい頃合いになってきたし、今度は知世子さんの所へと追い立てるとしよう、屠殺場へ強制的に行かされる家畜のように。」

「(知世子?ああ、あいつの肝の太さを見抜いていたのか。)」

「(だから私は敢えて汚れ役を背負うんだよ、洗脳もしくは破壊という気不味い手段を使うことを避けながらこいつらを満たされぬ欲望から解き放つ為にも。)」

「(なるほど、お前の目的はこいつらを陵辱し蹂躙することではなく、こいつらに満足というものを与え、人間共と共生できるようにするということなのか。)」

「(そういうこと。まあ偽善に等しい行動だけどね。(元の世界で見たことだけど、こいつらの最期なんか悲しかったから。))」

そして智史はクラインフィールドの箱を消滅させる、3人は解放されるが直ぐに智史が凄まじい狂気と殺意を込めた眼差しでメズールとガメルを追い立てるように迫ってくる。

 

「こ、来ないで…‼︎」

「メズール、メズ〜ルぅ…、こいつ、怖いよ…。た、助けて…‼︎」

恐怖のあまり2人は貪欲に欲望を求めることなど頭から消し飛んでしまう。懸命に2人は抗うも智史はケロリとしていた。物理的限界があるということも考慮しても全ての攻撃が吸収され更に己を高める力の一部になっていく様は彼らにしてみればもはや悪夢だった、何せ力の差がどんどん開いていくという絶望的現実がここにあるのだから。

そして2人は必死に逃げる、そして狙い通りに知世子の所へと追い込まれる。

 

「ん〜、騒がしいわね〜、って、何⁉︎」

「た、助けてぇ、助けてぇ…‼︎」

「こ、こいつが、俺やメズールを、殺そうと…‼︎」

知世子に必死に助けを求めるガメルとメズール、人質を取ることなど頭の隅から消し飛んでいた。人質を取っても次の瞬間には殺されているという末路が目が合った時に映ってしまったからだ。

 

「智史君、剣を構えてるけど、これはどういうこと?」

「彼らはグリードです、殺さなければならないと判断しここへ来ました。」

そして智史は2人を強制的に怪人態から人間態へと強制的に変異させる。

 

「彼らは人間の欲望を糧とする極悪非道な種族です、おまけに彼らは人間に成り済ませます。だからこそ余計に極悪非道なことがやり易いのです。」

そして智史は2人に止めを刺さんと言わんばかりに迫ってくる。

 

「た…、た…、た…、助けてぇぇぇ!」

「いっ、嫌ぁぁぁぁ!こ、来ないで…‼︎」

2人は恐怖のあまり苦しみながら涙を流して知世子に縋り付く、そこにもうグリードとしての狡猾さはもう無い、ただ一方的に惨殺されることを恐れ泣き喚くのみの姿がそこにあった。

 

「2人とも、下がってて。」

知世子が2人の気持ちを察したのかーーそれこそが智史の思惑通りの展開であったのだがーー2人を後ろに下げる、そして圧倒的な殺意と恐怖にめげることなく智史に説教を開始する。

 

「智史君ね、私達人間に敵対している怪人と同じ種族だからっていう理由で彼らを斬り殺そうというの?」

「ええ。それに彼らには前科があります、人を傷つけ苦しめたという罪が。」

「そういうところもあるかもしれないわね、でも人間にも『罪』はあるわよ、おまけに彼らは私達人間の為にならぬことを考えておらず、ただ単に助けを求めている。それをただ単に『人間の為にならない種族』という一方的偏見に満ちた理由で斬り殺そうなんて、どうにかしてるわ‼︎もし彼らを斬り殺すなら、その前に私を斬り殺してからにして‼︎」

「…ふっ、わかりました、ですがその選択、後悔しないように。(これで良い、実に期待通りの展開だった。)」

そして智史は諦めたかのように背を後にして去っていく、同時に凄まじい殺意も消えていった。

 

「あ…、ありがとう…。」

「あいつを、引かせてくれたんだ…、ありがとう…。」

「いいのよ、二人共。ところで、名前は?」

「私は、メズール…。」

「俺は、ガメル…。」

「そう。またあの人が来たら、私が守ってあげるからね。」

「ありがとう、あ、あれ…?苦しみが引いてる…。コアメダルやセルメダルを抜かれたから…?」

「私も…。あ、あれ…?私はグリード故に愛に満たされないというのに、どうして…?」

「メズ〜ルぅ、どうかしたの?」

「どうしてなんだろう…。私は、私は、あいつから守ってくれたこの人間への愛で今、満たされている…。」

「お、俺も…。こいつから守ってくれた人間になんか暖かさを感じた…。」

 

「敢えて汚れ役を負ったみたいね、智史くん。あの2人を幸せにしたかったから?」

「ま、そうだな。あの2人に愛というものを知らせて満足と幸せというものを得させたかったが為に敢えて2人を恐怖のどん底に叩き落した。」

「そうよね、口ばっかでことが解決するなら2人に愛を得させることなど容易いことだからね。」

「あの〜、僕のこと忘れてない?」

「あ、そうだったな。お前を現時刻をもって解放しよう、殺されるも、生きるも自由だ。」

「所詮逆らってもあっという間に殺されるだろうから、少なくとも君には逆らわないことにしよう、君に逆らうことの無常さを知らせる為にドクターのところへ行くよ。」

「そうか、なら行ってこい。」

カザリの言葉が本気だということを智史は見抜く、しかし己の本意と己がしたことの本質の矛盾をカザリの様子から見出していた。

 

 

人は、いや私はなぜ矛盾するのだろうか?

特に深く考えることなく、己が欲望のままに動き回ったのはこの矛盾とやらが次々と生まれる原因になってしまったかもしれない。現にマミヤのこと、タカオや一部の霧、蒔絵、群像達、そして今のカザリの様子を推察するにそうだということが伺える。私はカザリに『優しさ』を覚えて欲しかったのに、それに基づいてやった行為はそれと相反していたからだ。

だがそれは人の心にも言える、様々な感情、欲望が混沌となって矛盾を生み出しているからだ。そして私は人が持つものと同じがままに『人』を捨てようとはしなかった、他人を理解しようともしなかった。

ではかつて上陰達にやったように矛盾をなくす為に『人』を捨てて適切な判断をするだけの存在になってしまえば矛盾は消えるのか?矛盾は大いに減りはするだろう、だが無くなるとは言い切れない。

そもそも『全ては力で出来ている』という理論から推察するに『力』のぶつかり合いに規則性はあるのか?いや、多分無いだろう。無数の力のぶつかり合いが生まれた事象が混沌そのものだ。

『人』を捨てようとしない私の中にも『混沌』は渦巻いているだろう、心も『力』によって定まった形もなく変わり続けるだから私は、いや『人』は矛盾の塊なのだ。それに矛盾を生み出している『欲望』が無ければ私はここにはいない。だから矛盾とは縁が切れぬ。

しかし矛盾という事象自体が悪いとは言い切れないな、寧ろ矛盾というものを受け入れてしまえば私の心は軽くなるかもしれない、私が自分が望んでいることと自分がやっていることの本質の違いに悩むのは矛盾している自分自身を受け入れようとしないせいなのかもしれない。

だったら自分が矛盾している存在であることを隠さずに素直に明かしてしまえば私が矛盾に苦しむことは無くなる。勿論自分の為にならぬ悪しき矛盾は消していくべきだが。

さて、カザリは真木のところに向かったな、多分あのままだと意識の入ったコアメダルを半壊させられ残りのコアメダルは破壊されているだろう。ならばその前にそれを阻止するとしようか、自分が矛盾しているということを明かしながら。

 

「智史くん、何を考えてたの?」

「ああ、過去の事を思い出しながら矛盾について考えていた。何も考えず長期的に見れば単なる足手まといになるであろう欲望のままに動くのはまずいと考えた。」

「そうね、自分の欲望に素直なことはいい事だけど、かといって無計画に動くのもちょっとまずいわね。」

「そうだな、悪しき矛盾を生み出す無計画な行動はなるべく避けねばならぬ。だが琴乃、『人』の心は『力』で出来ている、そして『力』のぶつかり合いには規則性は無い、だから心は形もなく変わり続けて矛盾が生まれる。つまり欲望ある限り『人』は矛盾から逃れられぬかもしれぬ。私は欲望のままに動くからな、だから今後も矛盾を生み出し続けるかもしれん。」

「そうね、自分の『心』の矛盾と向き合いながら今後の事を考えましょう。」

「さて、カザリは真木のところに行った、恐らく殺されるだろう。行こうか。」

そして智史達は真木の所へと向かっていく、後を追っているという事がバレないように気配を消してーー

 

 

ーー再び、緑に覆われた一軒家

 

 

「カザリ君、帰ってきたようですね。あの存在に何をされたのですか?」

「色々とされたよ…。まるでこちらが非力すぎるということを改めて認識させられるようなものばかりだった。オーズならまだしも相手の格がヤバすぎるよ。まるでこちらの様子を見通していたかのように平然と対処してきただけでなく完全体にさせてもらった上での一方的な蹂躙…。とにかく、相手が違いすぎるよ。僕らやドクターが敵う代物じゃない。」

「では、コアメダルやセルメダルを大量に入れた上で戦えばいいではないですか。」

「無理。さっきも言っている通り、相手がヤバすぎる。それにコアメダルやセルメダルを大量に入れて対抗しようとしても相手に勝つ前にこちらが自滅ーー暴走してしまうよ。僕は暴走が一番嫌いでね、勝てない相手に必死に対抗しようとして自滅するぐらいなら素直に降伏したほうがマシさ。ドクターも降伏した方がいいかもよ?」

「なら、もう君に用はありませんね、さようなら。」

「ド、ドクター⁉︎何言ってるの?」

「私が望む『世界の終末』の為の暴走を君がしようとしないからです。」

そう言い終えると真木はグリード・ギルに変化しカザリの首根っこを掴み持ち上げる。そしてカザリの体に手を突っ込み、コアメダルを抜き取ろうとしたーー

 

 

ーーガガガガガガガガァン!

 

「ぐふぅっ‼︎」

「⁉︎…やっぱり気配を消して現れた、か…。」

銃声が轟きギルは大量のセルメダルを撒き散らして大きく後退する、見ると智史がG36(現在のドイツ軍に採用されている5.56mmアサルトライフル、勿論本家より能力を底上げして使用)を構えてそこに立っていた。

 

「でも何でだ?何で僕を助けようと?」

「さあな。私は矛盾まみれな存在だ。今お前を助けようと思っても次の瞬間には殺そうと気分がコロリと変わってしまうかもしれない。その時は悪く思うな。」

「はいはい。僕の命などお好きなように。」

 

「あなたがカザリ君達を襲ったあの存在なのですね?」

「ああそうだが。私は霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサンのメンタルモデル、海神智史だ。」

「自己紹介ありがとう。では聞きます、何故私の夢である『世界の終末』を妨害しようとするのですか?」

「さあな。ただお前のやることには好感が全く持てなかったからこうして妨害していることは確かだ。もう相手を殺すのには大した理由はいるまい?」

 

ーーガガガガガガガガァン!

再び、智史のG36が火を噴く、そして大量のセルメダルがまたしても飛び散る、そして弾体がコアメダルを直撃して亀裂を入れる。

 

「くうっ、私のコアメダルに亀裂を入れるとは…。中々やりますね…。」

「(今のは本気じゃない。本気を出してたらドクターは跡形もなく吹っ飛んでた。恐らく、ガメルやメズールを甚振ったあの時と同じようにジワジワと追い詰めるつもりだろう。)」

「でも、私が直接侵攻してきたあなたに対して何の策も講じていないと思いましたか?」

ギルはそう言う、するとアンキロサウルスヤミーが琴乃とズイカクを人質に取るようにして現れる。

 

「動くんじゃねえ、この野郎共!」

「これ以上私を攻撃しようとすれば彼にこの2人を殺させます。如何にあなたでも私の言いなりになるしかないでしょうね。」

「笑止。それで上手くいったつもりか?」

智史はそう言い放つ、するとアンキロサウルスヤミーの体が突如として動かなくなる、そして次の瞬間智史の目の前に強制転移させられた。

 

「な、何っ⁉︎」

「感謝するぞ、これで貴様をますます殺る気になれた。」

「あ〜ぁ…。こりゃ終わったね…。」

カザリはもはや諦めムードでこの状況を語るしかなかった、そして智史が憤怒を込めた銃弾をアンキロサウルスヤミーとギルに雨霰と撃ち込む、大量の火花とセルメダルが飛び散る、アンキロサウルスヤミーはこれに耐えきれず爆発を起こして四散し、ギルは激しく吹っ飛んだ。辛うじてギルは立ち上がるものの、先ほどの攻撃で既にヒビが入っていたコアメダル一枚が破砕されただけでなく、残る全てのコアメダルに深刻なダメージを受けた為にセルメダルが絶え間なく零れ落ち、足元がおぼつかない様子だった。だがそれだけではない、立ち上がったギルの様子から狼狽えのようなものが映っていた。

 

「あ、あああ…、あああああ…。」

「?キヨちゃんか?ああ、お前と同化していたからな、大ダメージを与えて強制分離させた上で、頭を銃弾で吹っ飛ばしたことを手始めにして跡形もなく蜂の巣にして木っ端微塵にしてやったよ。」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎あぁぁぁ‼︎あぁぁぁぁ‼︎」

「あいつなんでころっと様子が変わったんだ?頭を智史に思いっきりぶん殴られたからか?」

「いや、彼が言っていたあのお人形を跡形も無く破砕されたからだよ。あのお人形はドクターにしてみれば大切なものなんだ。」

「成る程…。ところで、お前、魚好きそうだな。」

「僕が『猫』の素質を持っているのを見抜いていたのかい?」

「ああ。猫=魚好き、という一種の先入観が成り立ってしまったからな。」

そう会話するカザリとズイカク、キヨちゃんを吹き飛ばされて喚く真木の様子を傍観しながら。

 

「さて、ついでに貴様が宝として飾っている世界の終末の壁画、この家に眠る思い出とともに跡形も無く焼き尽くしてやろう。」

「やめて、やめてぇぇぇ‼︎それ大事なものだから!」

智史はGM-01改ギガント(仮面ライダーG4専用装備)を瞬時に生成するとそのままぶっ放す、放たれたミサイルは世界の終末の壁画に着弾し、巨大な爆発を次々と引き起こした、壁画は凄まじい衝撃波と熱線に襲われ、一瞬にして焼き尽くされる、一軒家が跡形もなく吹き飛び、焼け落ちる。そしてその余波でギルは更なるダメージを負い、ギルは人間態=真木の姿に逆戻りしてしまった。

 

「あああ…、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ…‼︎」

「どうだ、思い出が焼け落ちた気分は?…とはいっても、これでは満足な回答は得られないか…。まあよい。アヘ面を晒して逝くという他人にしてみれば無様な最期を遂げさせてやるとしよう。」

そして智史はキングラウザーを構え、一軒家の廃墟の中でセルメダルを撒き散らしながら錯乱し泣き喚く真木に対してキングラウザーを振り下ろす、その斬撃により真木の体から一際と多いセルメダルが噴き出す、真木の体は断末魔の秒読みを奏で始める。そして言葉通りの結末が真木に襲いかかる。

 

「…はっ‼︎」

真木は幻想を見ていた、この世界のグラビアアイドルを筆頭とする無数の美女に囲まれるという幻想を。彼女らは真木の体に触れてくる、女性経験があまり無い真木は彼女らに触られただけで呆気なくアヘ面になってしまう。

そして彼女らは真木の服を脱がし始め、非常にヤバイ行為をし始める、それらにより真木はますます気持ちよくなり、アヘた態度もますます増大していく。そしてアヘと快楽が絶頂に達した時、真木清人=グリード・ギルのコアメダルが全て砕け散り、それと同時に真木の肉体は大量のセルメダルを撒き散らして跡形も無く消滅した。

 

「グリード化を推し進めたが故に訪れたグリードの宿命的な末路を避けられなかったか…。実に皮肉なものだ、人間の部分を残していれば仮にコアメダルを全部叩き壊されても生き残れたかもしれないのに。まあ人間・グリード両方とも耐えきれぬ一撃を喰らったのではもうそれも示しようがないか。」

「終わっちゃったみたいだね、ドクター。素直に降伏すればよかったのに。」

「それは無いだろうな、あいつの目的は言ってのとおり、『世界の終末』なのだから。」

智史とカザリはそう会話する、綺麗に焼け落ちた一軒家の廃墟の中で。

 

「智史くん、またしてもやり過ぎだよ〜。」

「家焼き尽くすとか、随分と派手なことを…。これって人が寄ってくるんじゃ?」

あ、そうだったな。ならさっさとトンズラだ。

「カザリ、お前はどうするんだ?…それは聞くことでは無かったか。まあいい、付いてきたいならば付いてくるがいい、好きにしろ」

智史達は一軒家の焼け跡からさっさと去っていく、そしてクスクシエに行く。

 

「知世子さん達にお別れを告げてからここを去ることにしよう。お別れ無しなんか無礼すぎる。」

 

智史はクスクシエのドアを開けて入る、見るとメズールとガメルが2人揃って接客をやっていた。

 

「(原作の末路よりはマシだが、これで良かったのだろうか?いや、2人がいいのならそれでいいということにしておこう。)」

「あら、智史君じゃない、昨日はダメでしょ、あんな不機嫌なこと言って。」

「いえ、あれはお芝居です。」

「え?」

「私はグリードであるあの2人を『助けたかった』からこそ、あのような暴挙の如き芝居を行いました。というのもグリードという生物は欲望を糧とする存在です、しかしそれ故に人間のような『愛』を持とうとしませんでした。口だけで『愛』を知らしめようとしてもあまり心に響くことは無いので思い切った暴挙に出たというわけです。偽善と捉えて結構です、全ては私がした独善的行為なのですから。本来ならこのまま隠しておこうかと思いましたがこれでお別れなので何も話さずなのはまずいなと考えました。これも独善と捉えて結構です。では、これにて。」

「い、いったいどういうことなの…⁉︎」

智史の口から飛び出した奇天烈な発言に知世子の頭は完全に混乱してしまう、しかし彼を見てまたしても酷い目に遭うのかと怯えるガメルとメズールに対し彼は更に話をする、

 

「2人とも許さなくていい、怯えてもいい、私はお前達に『幸せ』という偏見的価値を押し付けた。それだけだ。」

「え、えっ…?」

「知世子さん、比奈さん、映司君、アンク、ありがとうございました。」

そして智史は去っていく。その発言の意味をアンクが補足するように言う、

 

「要するにこいつは自分なりにこいつらを幸せにしようとしたかったんじゃねえのか?全く、さっぱりしすぎてるぜ。」

 

と。

 

「アンク…、お、お兄ちゃん⁉︎」

「比奈、智史君は、そこに居るのか?」

「えっ⁉︎お兄ちゃん海神さんのことを、なんで…‼︎」

「あいつは俺が寄生していた時は記憶を共有していたからな。」

慎吾が目覚めたようだ、そのことに驚く比奈、その訳をアンクは素直に話す。

 

「あと映司のヤツにも顔合わせておけ。(やれやれ、智史の奴が現れてすこし踏んだり蹴ったりで振り回されたが、こういう光景も悪くはねえ。楽しませてもらうとしよう。)」

 

 

「そうか、行ってしまったか…。」

「はい、真木博士撃破後にさっさと行ってしまうとは、予想もしていませんでした。」

鴻上ファウンデーション会長室で鴻上はエリカとそう会話をする、智史達がこの世界から出て行くことは想定していたがまさかこんなに早くだとは思いもしなかったようだ。

 

「しかし、グリードの2人が彼によって変わるとは…。新たな誕生を遂げたに相応しい!ハッピーバースデー!」

 

 

太平洋上、リヴァイアサン右舷ーー

 

「カネ、あんま使わずに終わったな。」

「ああ、使ったとしても半分は行かなかった。」

「海、綺麗ね。智史くん、ズイカク、もうすぐこの世界と別れるし、釣りでも始める?」

「賛成!智史、やるか?」

「ああ。」

そして3人は釣り用具を一斉に揃え釣りを始める、目的を失っていたカザリの目にその光景が飛び込んだ、カザリは彼らに今やっている行為はなんなのかということを尋ねる。

 

「ねえ、今やっているのって、何?」

「釣り。魚を手にいれるために行う行為だよ。」

「ふぅ〜ん、成る程。目的ないから、これ参加していい?」

「構わん。」

智史はカザリの為に釣り道具を生成する、そしてズイカクと彼と共に教えて貰いながら、カザリは釣りを始めた。

 

「一匹釣れた。カツオだ。」

「あ、イワシ釣れた。」

「こちらはズイカクのよりも大きいのを釣れたわ。」

「何か、釣れたけど、これは、何?」

「こりゃまあまあ普通の大きさのカツオだな。折角だからある程度釣り上げたら食してみるとしよう。」

「え?僕グリードだから味なんか分からないよ、って、あ、完全体に『してもらった』から人間でいう五感のようなものが復活したんだった。」

「ならば結構。たっぷりと味わせてやる。」

「えぇ〜…。(汗)」

このあと彼らは釣りを繰り返し、何匹も何匹も釣り上げた。

 

「ほら、カツオの竜田揚げだ。食ってみろ。」

「仕方ない…。んじゃあ食べてみるか!」

カザリは勇気を振り絞って竜田揚げを口に頬張る、そして

 

「な、なんだこの感覚は…。口の中で込み上げてくる、とろけてくるような感覚は…。」

「それは『美味い』という味だ。」

「なるほど、これが、『美味い』か…。」

カザリは味覚というものを初めて認識した、以降カザリは釣りに徐々に目覚めていくようになる。

 

「さて、次の世界へ行くとしよう。すこし気まぐれで遅れたが、ウルトラマンの世界だ。多人数で悪を甚振るなど、見方を変えれば周りとは異なる集団に馴染めぬものを集団でリンチしているも同然だ。正義と悪の定義など、それぞれ異なるというのに。まあ私も自分の価値観を押し付けているところはあるけどな。

表面上はチートラマンとの戦闘での更なる自己研鑽とこれまで積み上げてきた鍛錬の再認識、そして彼等を倒す事で得られる己が最強の存在であるという定義を得る事が目的だが、実質的にはそれだけではなく、奴等を蹂躙し、世界共々討ち滅ぼすことも目的であると言ってもいいだろう。」

そしてリヴァイアサンは次元横断システムを解放すると次の世界ーーウルトラマンの世界へと飛んでいく。

彼の侵攻を遅らせる要素は彼の気まぐれぐらいだった、そして彼らは『力』は自分自身の運命さえも歪め破壊してしまう一面さえ持ち合わせているということを思い知ることとなるーー



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第41話 ウルトラマン殲滅

今回も容赦ないです。
ですが書いているうちにウルトラ民族を根絶やしにすることに対する罪悪感が芽生えてきたのでその罪悪感による苦悩も交えて書きました。
ウルトラマンが大好きな方は読むことを避けるのをお勧めします。
それではじっくりとお楽しみください。


「タロウ、異常はないか?」

「ああ、特に異常は認められない。怪獣がよく出てくること以外は特にはない。」

「そうか、お前はこれまで多くの怪獣を倒し、かつ他の若い世代の戦士達を助けてくれたからな…。」

ここは、ウルトラの星のとある一箇所での会話である。彼らはいつも通りの日常を送っていた。

 

「お〜い、こっちだ〜‼︎」

「ははは、平和はいいものだ、何時までも続いてくれればいいんだがな…。」

そう呟くウルトラの戦士達、しかし災厄は突如として襲来することを予期してはいなかったーー

 

 

「やはりこういう一面を見ると私がとんでもない暴挙を引き起こそうとしている大罪人のように見えるな、まあ統一された見方、正しい見方など無いから仕方のないことか。さて、それを見て改めて自分がなぜチートラマン達だけでなくウルトラマンの世界もぶっ潰そうとしている動機を再確認しよう、(チートラマン達を殺すのは彼等を殺すことで達成感と無双の域に達しているという喜びで心を満たすためだと理由は成立している)ーーやはり、見た目ーーキャラデザインに気品が感じられぬ事、やっていることが勧善懲悪ーー視点を一箇所に完全に固定しているとも受け取れる行為が多いことと見方変えれば集団リンチの如き所業をやっていることが大きい。」

智史はこの様子をこっそりと見ていた、空間を歪めて創り出した次元の穴を通じて。そして己の所業も振り返りつつ。

 

「さて、行くとしよう、私にも罪があるからってぶっ潰したいという気持ちを抑えるつもりにはあまりなれん。」

「判断に躊躇というものが生まれるのを忌み嫌っているの?確かに即断即決という事象自体は非常に大切なことだけど、時と場合を考えなけれければ途方もない後悔を生み出すかもしれないと私は思うわ。」

「そうだな、だが始めたことを捻じ曲げられるのは大の嫌いでな。それに時と場合を考えてばかりが正しいとは限るまい、この世の物事に『正解』が無いように一見正しいように見えることが実は間違っていたりする。

まあ私は矛盾まみれな存在だからな、後悔を生み出し続けるのがお仕事かもしれん。だがそんなことを嘆いていてもそれは何も生み出しはしない。」

「いつものように正直ね、自分の気持ちに。」

「ああ。」

そして智史はウルトラマンの世界を区切る時空の壁を強制的に捻じ曲げ、そしてウルトラの星に強引に侵入する、彼らにしてみれば宿敵というべきエンペラ星人とほぼ同じ、いやそれ以上の邪悪なオーラを醸し出しながら。

 

「くくく、チートラマンも含めたウルトラマン達よ。邪悪なモノを纏っているからって本当に星ーーお前達を滅ぼす存在とは限らんぞ。お前達は己の知らぬ事しか知らぬ方法でしか感じえぬという現実を知るまい?まあ私もそういうところはあるし、今回は滅ぼす気満々だからそうだとは強くは言えんが、そのことを今から思い知らせてやろう、絶望と破滅と共にな…。」

 

 

「な、なんだあの邪悪な気配は…⁉︎」

「エンペラ星人と同じ気配だ…、だがエンペラ星人よりもより強い怖気を引き起こす程に殺気が強過ぎる…‼︎」

「なんなんだ、あの気配は…‼︎」

突如として発される邪悪な気に動揺するウルトラ戦士達、そしてその気が発されている場所ーー智史が出現した場所に大慌てで集まっていく。

 

 

「随分と美しい景色をしているものだ、地球とは随分と異なる趣を出し、心に静寂を齎してくれるような宝石のような街の輝きもいい。だがこの光景を楽しめるのは一瞬のみか、私自身がウルトラマンという民族諸共この星を跡形もなく破壊しようとしているが故に。さて、蜂の巣を突っつかれたかの如く、続々と集まってきてくれたようだな。」

智史はウルトラの星ーー光の国の風景を豊かな感受性でしんみりとした気分も交えて楽しみながら続々と集まってくるウルトラ戦士達を見て思惑通りだと静かに微笑む。

 

「何者だ、お前は!」

「私か?ああ、これからお前達を面白半分で破壊しようとしている、お前達にしてみれば悪魔の如き存在だよ。」

「ふ、ふざけんな…!」

怒りに任せ怒鳴りかけるウルトラ戦士の1人に智史は自分を貶めるようにして挑発する。

 

「こんな馬鹿げたことを言っているように見える私を殴りたいか?なら大歓迎だ、さっさと掛かって来い。」

「ふざけるなこの野郎‼︎」

その挑発に完全に血が上ったそのウルトラ戦士は智史に掴みかかろうとする。

 

ーーパンッ!

 

「げぴ!」

 

ーービシャッ!

 

そして智史はビンタ一発でそのウルトラ戦士を木っ端微塵にしてしまった。木っ端微塵にした際に飛び散った肉片と体液が智史の手に付く。

 

「脆いな…。」

 

その光景を見たウルトラ戦士達に緊張と戦慄が程走る、皆戦闘が始まると判断したのか警戒心と怖気を剥き出しにして身構える。

 

「さあ、次に掛かって来たい奴はいるか?いないならこちらから行くぞ。」

「こ、この野郎…‼︎」

智史はそう言い放つとゆっくりと彼らに迫ってくる、得物であるキングラウザーを右手に掴んで。

 

「たぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

そして戦端が開かれる、次々とウルトラ戦士達が智史に襲いかかってくる。

 

「ふんっ!はっ!」

 

ーードガァァァン!

ーーグワァァァァン!

 

「ぎゃぁっ!」

「だはぁっ!」

智史はそんな彼らを次々と斬り飛ばし、殴り飛ばし、次々とグロッキーへと変えていく、積極的に避けようとすることなくゆっくりと歩きながら。

光線が幾つか智史に浴びせられる、智史はそれを黙って受ける、そしてすべて無効化されて吸収され、己の力へと変えられてしまう。

 

「忌々しい、消え失せよ」

 

ーードゴォォォン!

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

しかし物理的に脅威にはならなくても見た目の忌々しさはかなりのものだった、まるで象に無数の蟻が必死に抵抗しているような様だったからである。

そんな忌々しい光景を何時までも見続けるのは智史の好きなことではなかった、智史は左腕から無数のクラインフィールドを生成すると重力子エネルギーと共にエネルギー衝撃波としてそれを彼らに叩きつける、それらは大津波の如く彼等に襲いかかり、一瞬で群がっていた彼らは跡形もなく四散する、その余波で美しい宝石のような色合いをした街並みが崩壊してしまう。

 

「仲間が、街が、い、一瞬で…。」

「な、なんて奴だ…。」

「あのエンペラ星人並か、それ以上の実力だ、気をつけろ!」

「強い…、だが何処かに弱点がある筈だ!」

ウルトラ戦士の1人がそう発言する、確かに圧倒的な力を持つ智史にも弱みは無い訳ではない、だがしかし弱みは消せぬ訳でもない。

彼らは同じ愚を犯さない程、決して無能ではなかった、現に彼らは戦闘の方法を変えた、一発でまとめて撃破されないように距離をとって分散し、接近戦を避けて牽制し、撹乱するようにして様々な攻撃を試し撃ちするかのように散発的な攻撃を仕掛けてきた。

それは戦術的観点から見れば確かに適切な選択だった、しかし現実での有効性が示されたとは限らない。彼らは宇宙を『警備』という名を借りて支配するに相応しいだけの高い実力を持つ戦士の集団なのだが、智史はそれ以上の実力を持ち合わせていた、唯でさえ素の実力が彼等より強いというのに滅茶苦茶な勢いであらゆるものを強化している為である、おまけに既に彼らの実力は把握済みかつ対処済みなのだから結果は言うまでもない。

彼らの行動は物理的意義の破滅から逃れる為の時間を稼ぐだけに終わり、そして更なる絶望と恐怖を煽るだけに終わる、智史は右手にダネルMGL(リボルバータイプのグレネードランチャー)を生成すると次々と榴弾を彼らに撃ち込んでいく、榴弾が撃ち込まれるたびに轟音と爆風が轟き、彼らの肉片が周りの破片と共に飛び散っていく。ウルトラ戦士達は人間を殺傷出来る程度の火器でくたばる程脆い訳ではないのだが、相手が相手である、相手は彼らを粉砕出来るだけの量を軽々と上回る破砕エネルギーを込めた弾を次々と、容赦なく撃ち込んでくる、弾切れなどまるで気にしていないかのような勢いで。弾がなくだったら自分で新たに造ってしまえばいいだけのことである、彼はそんなことを容易くやっていた。ましてや地球の百二十倍という重力による射程距離の低下を、回避させる隙を消すこと、更には弾頭自体の威力を増加させることも兼ね弾頭の運動エネルギーを異常なまでに増加させることで強引に相殺していた為に弾速も桁違いに速く、彼らの反射神経では回避が全然間に合わぬ程の速さだった。当然避けようとはするものの回避という行為自体が全く間に合わぬのでは意味がない。

 

「シュワッ!」

 

このままでは一方的に全員殲滅されると考えたのか、ウルトラ戦士の一部が強化変身ーー見た目で見ればチートラマン化を遂げて智史に突っ込んでくる、智史に今は勝てなくても仲間が退避する為の時間稼ぎをしてやることで戦力の温存を狙ったのだ。

その様は島津の退き口の如き光景といえた、しかし智史はその願いをそのまま見届けてくれる程優しくも、甘くもない。直ぐに突っ込んできた彼らに対してM134ガトリングガンを新たに生成するや否や、その青白い弾丸の雨を雨霰と見舞う。

チートラマンというだけあり堅牢性は凄まじく高かったし、戦闘能力、機動力もウルトラマン系列の世界では最高クラスの戦闘能力ではあったものの、それはウルトラマン系列でしか確実に通用しえない。

豪雨の如き青白い光の雨を避けようとしたり、又は防ごうとしたものの彼らにしてみれば回避不可能な程の勢いで飛んでくる滅茶苦茶な破壊の力を込めた無数の濃密な弾丸の雨の前に、彼らは次々とその身を砕かれ、あっという間に挽肉になっていく。弾丸が脇を通って行っただけでも悲惨な結果が生まれるのだ、仮にバリアーなど展開していたりしていてもその結末は変わらなかっただろう。

そしてその光の雨は彼らを挽肉に変えるだけでは飽き足りず、既に破壊されかけた宝石色の街並みに降り注ぎ、更なる破壊と叫喚を齎した、もう原型など留めぬ程に徹底的に。

 

「せ、先輩達を、い、一瞬で…‼︎」

「つ、強過ぎる…。あ、悪魔だ…‼︎」

こりゃ蒔絵が見たら『だぁ〜め!』って言いそうな光景だな、まあこれでも良いが。

もはや虐殺というべき光景を見て生き残ったウルトラ戦士達は腰が砕けて戦意を失い、恐怖にワナワナと震えるばかりだった、智史はそんな彼等さえも容赦なく手に掛けようと此方に向かってくる。

 

「ふふふ、死ぬ覚悟はできたか?」

「く、来るな、た、助けてくれぇ!」

 

「この野郎、好き勝手にやってくれるんじゃねえ!」

智史は予想通りに現れたかと思い、その声が発せられた方向を見る、見るとウルトラマンゼローーチートラマンの1人がそこにいた。

 

「お前の名前は、ウルトラマンゼロだな?」

「な、なぜ俺の名前を⁉︎」

「何処かでお前のイメージと共に耳にしていてな、だからだ。」

いきなり初対面の相手に自分の名前を言われ驚き動揺するゼロ。

 

「…くっ、何の目的でこんな惨たらしいことを!」

「私がこの世界をぶち壊したくなったからだよ、お前と同じ種族と一緒にな。」

「ふざけんな、この外道!八つ裂きにしてやる!」

「八つ裂きか、面白い。ならば私を八つ裂きにしてみせよ。」

智史はゼロを戦いに誘うようにして挑発する、その挑発を食らったゼロは感情のままに智史に突っ込んでくる。ゼロスラッガーが人間、いやメンタルモデルさえも捉えきれぬ程の速さで彼に見舞われ、並の怪獣では掠っただけで木っ端微塵にされかねない程の攻撃が容赦なく放たれる、しかし

 

「緩いな、レオの元で過酷な修行を積み、私と同じく己を鍛えているとはいっても全く磨けん。まあ私が今も己を半ば無意識とはいえよ鍛え続け、強くなり過ぎてしまっているから仕方あるまい。だが己を磨く意欲を更に高めてくれるのには感謝しよう。」

「な、何っ⁉︎」

智史はゼロスラッガーを握り潰して放り捨てる、そしてゼロの正面に瞬間移動するや否や顔にデコピンを食らわす、それだけでゼロは大きく弾け飛び、建物の瓦礫を幾つも吹っ飛ばして建築物の残骸の一つに叩きつけられる。

 

「ば、化け物め…。舐めやがって…‼︎」

何とか起き上がろうとするゼロ、しかし次の瞬間、その目の前に智史が瞬間移動に見えるような信じがたい速さで現れる。ゼロはシャイニングゼロとして強化変身する、ストロングコロナゼロ、ルナミラクルゼロに変身しても勝ち目は全く無いと一瞬で見抜いた為だ。

 

「ほう、二つの特化形態では勝てぬと判断したか。流石はゼロ。ウルトラ戦士の最強クラスというだけのことはある。しかし、見た目がかなりダサいな、シャイニングの名の通りの美しい輝きでその醜さをフォローしているというべきか。」

「だらだらと戯言を喋りやがって…。だがもう終わりだ、真っ二つにしてやるぜ!」

「“ゼロ、待て!”」

「し、司令官‼︎レ、レオ教官!」

突如として威厳のある声が響く、智史はお頭が来たかと見て、浮かれた気分を少し鎮める。

 

「相手の格が違いすぎる。アレはベリアルやエンペラ星人よりも遥かに強大だ。」

「いい評価だ、感謝しよう。お前達の名はウルトラマンケンとウルトラマンレオだな?我が名は海神智史。この世界の外から来た侵略者だよ。」

「成る程、だがらあのような傍若無人な振る舞いを…。では何故このようなことを…。」

「単純にお前達を壊したくなった、それだけだ。理由?下手に探して中途半端な訳を理由とするつもりは無い、だから自分の素直な気持ちを理由としたのみ。

さて、今度はこちらから聞くとしよう、お前達は何の為に宇宙警備隊とやらを作ったのだ?」

「なっ…‼︎」

智史の質問に皆が少し動揺する。

 

「何言ってやがる、宇宙の平和を守る為だ!」

「表面上、はな。だが私にしてみれば自分達による自分達の為の世界を作り上げる為に作った組織にしか見えん。宇宙の平和を守るだと?それはお前達によるお前達自身のための世界を作ろうとしているということの言い間違いだ。この世界の全ての生命が『宇宙の平和』と名乗るお前達による支配を受け入れて喜んでいるというのか?お前達の『宇宙の平和』という目的に基づいて行われた行為は彼等をいい方向へと導くものなのか?

いや、そんな筈がない。過去の例が無いにせよ、今の心情から見るにお前達はその星に害を齎すようなものでも自分達の為になる存在ならば殺しはせんだろうな。お前達がやっていることは『宇宙の平和』という偽善の皮を被った、生殺与奪の権を自分達の手元に集約するという行為そのものだな。」

「う…。」

まあ、偽善と矛盾を生み出し続けている私が言う言葉では無いかもしれんな。

智史の指摘は本質を突いていた、自分達の目的を綺麗事のようにするーー本質に偽善の皮を被せることは自分達の正義の為なら幾らでも出来たからだ。

それに智史が指摘した通り、彼等ウルトラ戦士達のやった事は必ずしも正しいとは言い切れなかった、実際に手助け不要だと言っていた民族に節介のように見えることをしでかしたという『実績』があったからだ。

そして何より、彼等のやった事は結果論で見れば『宇宙の平和』を作り出しているだけなのであって、本質的な行動を見れば宇宙の平和を作り出すという雰囲気はあまり感じられない。まるで彼等と敵対している宇宙人がしている事とそっくりな事をしていたからだ。

 

「あと蛇足として一言付け加えておくが先程まで『害悪』な気配を出してはいた、だからって本当に『害悪』とは限らんぞ?一度自分のモノを見る『目』の状態を知ることだ、まあ今から滅ぼすからそんな助言など無用か…。

さあ、雑談はこれまでとしよう。多数で掛かってきても構わんぞ、騎士道精神など私に対する勝利の為の手段を妨害するファクターでしか無いからな。」

智史はそう言い手を叩いて論戦を強引に終わらせる、更なる緊張が走る。

 

「話し合いで、終わらせる気はないのか?」

「無いな、私は一度始めたことを中途半端に終わらせられるのが一番嫌なのでな。さあ、始めようか。」

「この野郎め…。レオ教官達や司令官達が俺の不本意ながらも一緒に戦ってくださる以上、今言ったことを後悔すんじゃねえぞ!」

そして火蓋は再び切られる、ウルトラ兄弟と父母達とゼロが智史に襲いかかる。

 

「はあああああああ!」

「ふっ!」

複数の光線と技が飛び交う、しかし智史は其れ等を全て吸収し己の力に変え、強烈なカウンターを次々とお見舞いしていくというもはや力技でしかない強引な攻めで次々と打ち倒し、追い詰めていく。

 

「この野郎、食らえ!」

ゼロがシャイニングワイドゼロショットを打ちかます、しかし智史はあっさりとこれを受け止めて同じ結末としてしまう。

 

「強くなり過ぎているせいで全く効かんな、まあ研鑽を促すのにはいいが。」

「な、何だと…‼︎」

そして智史は再びゼロの正面に突如として現れると避ける暇さえ与えずに強烈な一撃をかます、ゼロは再び大きく吹き飛ばされる。

 

「くそぉ、何て威力だ…。このままだとこちらが一方的に…。」

「…そうだなゼロ、こうなったら早い内にケリを付けるぞ!」

「…はい!」

形成を立て直したゼロ達ごとウルトラ戦士達は一斉に必殺を放つ、火力を集中して一気に突破することを狙った戦術だった、だが

 

「戦術的には適切だな、だが素の実力差が大き過ぎたらそれは殆ど通用せんぞ?」

智史はこれまでと同じように数多の怪獣達を粉砕してきた実績を持つ高威力の肉弾技や光線技の連携攻撃をあっさりと受け止めてしまった。

 

ーーやはり、何処か心に響かんな…。奴らを甚振る事しか楽しめる要素が無い…。強くなり過ぎた悪影響なのだろうか、それとも私自身が悪いところを変えようとしていないツケか?まあそれでもよいが。

 

「飽いたわ」

 

ーーバァァン!

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

そして智史は空間を引き裂くようにして周囲を薙ぎ払う、一瞬にして肉片が舞い散り、ウルトラ兄弟達、そしてウルトラ父母2人の体に龍の爪に深々と切り裂かれたかのような規則的な巨大な傷跡が出来上がる。そして衝撃波は彼等を貫通し、破片を更に巻き上げる。

 

「…くそ、こうなったら…、時間を巻き戻してやる…‼︎」

この一撃で追い詰められたゼロは半分ヤケになったのか、過去からもう一度鍛え直すことを狙っているのか、最後の切り札としてのチート技、シャイニングスタードライヴを発動する、彼の頭上に太陽の如き光球が現れ、そこから光が放たれて周囲の空間の時間を巻き戻そうとする。

そして時間が巻き戻ることによってウルトラ兄弟達の傷が消えて彼等は復活する、当然、智史もそこに居ない、筈だった、が

 

「過去へ逃れてもう一度鍛え直すことで私に勝とうというのか。立派な戦術だ。だが生憎だな、それを見逃す程私は優しくはない。憎しみの禍根は跡形もなく消しておきたいのでね」

「な、何っ⁉︎」

智史は強引にシャイニングスタードライヴの時間の空間を力技というべき強引な攻めで侵入した、周囲とは独立した自己専用の時間軸を異常な迄の自己進化で既に確保した彼にはもはや因果律など通用しなかった、当然、アンチスパイラル戦で宇宙の時系列を無視して消し去ったように彼には過去も未来も一つのモノにしか見えない。

 

「さあ、もう終わりにするとしよう。同じモノは見飽きた。」

 

ーーバッ!

 

「ゔわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

そして智史は紅蓮の炎を生み出し、一瞬にして彼等を焼き尽くした、彼等は塵芥残さずに消滅した。そして智史は現実に時間を強制的に戻す。

 

「わ、私達が消えたら…。宇宙の平和が…。」

「平和?お前達による支配の言い間違いだろうに。お前達の支配を完全悪と言うつもりは無いが、お前達の支配は必ずしも全てに『平和』を齎すとは限らん。如何なる相手に受け入れられるようなモノなど無い。さて、タワーにあるプラズマスパークとやらを奪い取り我が物にした後、ここを滅ぼすとしよう。ふっ、まるでかつてヨーロッパ人が南米で先住民にやった事とそっくりだな…。」

「や、やめろ…。」

ウルトラの父が声を振り絞るようにして懇願する、既に父母2人は先程までの攻撃で既に瀕死だった。しかし智史はそれを意に介さずにタワーへと向かっていく。

 

「ほう、これがタワーか。やはり、間近で見ると随分と大きなものだ。早速、中に入ってみるとしよう。」

そして智史はさっさとタワーの中に入ってしまう、タワーの中は落ち着いた青色で染められた神秘的な空間が広がっていた。

 

「美しいデザインだ、これが私が元いた世界にあったとしたら建築物としてかなり有名になっていただろうに。」

智史はそう呟く、しかしプラズマスパークコアの所まで直接行ける使えそうな階段やエレベーターのようなものが無かったので智史は軽く、しかし途方も無い勢いで跳躍して瞬時に最上階へ到達する。

 

「これがこの星を死の星へと変わる定めから守っていた代物か。素晴らしい。だがそこから発せられる光ーーディファレーター光線はウルトラ戦士達のスタミナ源でもあると同時に浴び過ぎれば猛毒ともなりうる存在だ。ふっ、薬は毒であるとよく言うが、まさにそれだな。

だが『猛毒と化す』のは入ってきた力を己のものに仕切れなくなったからなのであって、入ってきた力を常に己のものに仕切れていれば『猛毒』とはなり得まい。」

そして智史はプラズマスパークコアに手を伸ばそうとして、『何か』がやっと来たことに気が付く。

 

「今更来たのか、遅いぞ、ウルトラマンノア、ウルトラマンキングよ。」

「そこまでだ!この国を滅ぼそうとする侵略者よ!」

「シュワッ!」

「数百数千の我らの戦士達が倒されたことを見るにベリアルかそれ以上の実力はあるようだな、だがそれもここまで!」

「ほう、各方面の守備を放っぽり出してまで私を潰したいようだな。裏を返せば私にそれだけの価値があると認めてくれたのか。」

「そうだ!お前は我らを滅ぼそうとする脅威!例え星を守る使命を放り出してもお前の魔手からこの星は守り抜かねばならぬ!」

そしてタワーの窓のようなものが一斉に開かれる、見ると10万というべき数のウルトラ戦士達がタワーの上空に集結していた。

 

「面白い、ならばその期待を越えるかの如く、こちらも礼を尽くして全員葬り去ってくれよう。」

智史はそう答える、そして己の周囲に時空の歪みを出現させるとそこから無数の火器、兵器が次々と姿を現す。

 

「狼狽えるな!あんなものは見掛け倒しだ!」

見掛け倒し?見掛け倒しが世界をひっくり返すことなど幾らでも存在するというのに。さて、ぱっぱと片付けるとしよう。

 

「沈め」

そしてその言葉と共に無数の火器兵器が一斉に咆哮をあげる、無数の火線や光条が次々とウルトラ戦士達を抉り飛ばしていく、如何に強靭なウルトラ戦士でも智史と同じように『力』の因果からは逃れられない、そのあまりに圧倒的、いや一方的な火力の前に断末魔をあげる暇さえ与えられずに肉片一つ残さず次々と殲滅されてしまった。そしてその余波で街の周囲までもが爆風と熱線によって吹き飛ばされ、水や緑、そして人、否ウルトラ民族は消え去り、後には何も残らぬ煮えたぎる大地が、クレーターが無数出現した。

無論こんな芸当を出来る存在は智史のような力を持て余し過ぎた存在である。そして智史はゼロの事を少し教訓として更に己を高める速度を上げるのであった。

 

キングもノアも目にも見えぬ程のほんの少し本気を出しただけで一瞬で死んでしまった。『力』が無ければ何も変わりはせぬが、『力』があり過ぎれば、こうもあっさりと、簡単に終わってしまうものなのだな…。まあ、全ては『力』で出来ているのだから、当然の顛末か。

さて、プラズマスパークの力を我が物にしよう、…ふっ、ウルトラ民族よ、お前達にしてみれば侵略者、破壊者というべき存在であるこの私を好きなだけ恨むがいい。

智史は罪悪感を強く認識していた、自分が倒したウルトラ戦士達の中には少なからずともマトモな存在が居たからだ。しかし彼らを復活させようと時を巻き戻す気にもなれはしなかった、時を巻き戻す事が無意識にも引けたからだ。

 

ーー過去に拘ることなく今を、未来を向いて生きていたい。

 

そんな思いが、無意識とはいえよ智史の中にはあった。

それはともあれ、智史はプラズマスパークコアに手を伸ばす、そしてそのエネルギーをディファレーター光線、そしてコア自体の構成物質諸共取り込み、吸収し、己の『力』へと消化変換していく。

やがてプラズマスパークコアそのものが消える、すると太陽の役割を担っていたものが消えたせいなのか、急速に星が凍り付いていく。

 

「ああ、光が消えた…。」

「この星は、死の星に変わる宿命だったのか…。」

そう呟くウルトラの父とウルトラの母、智史との戦闘で深手を負った2人にはこの低温に抗うだけの力はもう残ってはいなかった。

2人の体は凍てついていく、そして民族、植物、水、構造物といったあらゆるもの全てが凍てつき、ウルトラの星は氷の星と化してしまった。

 

「…寂しいものだな、『光』が無くなればこうもあっさりと全てが凍てつき『生』が消えた死の星となってしまうのか…。翔像の墓参りの時にバックとなっていた、雪が静かに降り注ぐ白い空に匹敵する程の美しさと儚さを伴った哀しみが心に突き刺さってくる…。まあ、こういう風景に変えてしまった私自身が言うべき言葉ではないのかもしれんが。やはり、私は矛盾まみれだな」

智史は己を責めるようにしてそう言う、そしてそれを言い終えた時に音声通信が入る、智史はサークルを展開する。

 

「智史くん、どう?」

「…きれいさっぱりに死の星へと変えてしまったよ、欲望の赴くがままに暴れたからな。だがそれを何時までも嘆いている理由などない、私の生きる目的は欲望のままに暴れることなのだからな。ところで行きたいのか、この星に?」

智史は琴乃に自分の周囲の様子を写した画像を見せる、死の星という要素が十二分に伝わってくるかのように。

 

「重力は地球の120倍、おまけに酸素が無い。琴乃、如何にお前でも生身のままだと只では済まんぞ?」

「分かったわ。パワードスーツ機能も兼ねた宇宙服、着てくるからちょっと待ってて。ズイカク、一緒に行く?」

「ああ。カザリ、お前も行くか?」

そして琴乃達は一度通信を切る、琴乃は一度衣服を脱ぎ、宇宙服を着用する。そして智史がワープホールを展開し、琴乃達が姿を現わす。

 

「お、重い…‼︎」

「す、すごい重さだ…!」

「これが私がいた世界よりも120倍もあるという重力だというのか…。かなり身に応えるな…。」

宇宙服のパワードスーツ機能が焼け石に水程度とはいえ、立っているとはな。私による『補正』があることも考慮しても、流石に海洋技術総合学院で努力という努力を積み重ね、優秀な成績を収めただけのことはあるか。恐るべし、天羽琴乃。

智史は琴乃が物理的に視線が合わぬ所で如何に努力していたかをこれ迄に痛感していた、琴乃の部屋にあった無数の研究書類、数学、リヴァイアサンの艦内で行われた体育運動の数多といったものがこれを物語っていた。

 

 

「皆、大丈夫か?」

あまりの高重力に皆人外とはいえよ体が重そうな表情をしていた、智史はその光景を見て少し心配に思ったのか、手を差し伸べる。

 

「ありがとう…。体にくるね…。」

「そうだな、無理はしなくていいぞ、お前の好きなだけ歩くがいい。」

そして智史達は散策を始める、風景自体は美しいものだったが、環境は優しくない。智史以外の全員に体の重みが更に強くのし掛かり、体力を急激に奪っていく。

 

「『体』を…、鍛える必要があるね…。」

「そうだな…。今のままではいずれ対応しきれなくなる時が来る…。」

ズイカクとカザリは今まで味わったことの無い環境と自身の感覚とのギャップにそう苦笑しつつも今のままでは不味いと判断し環境への対応を目的とする自己強化を始めることとした、とはいっても何も策や考えが無いのではタイムロスを複数生み出す可能性がある。故に2人は智史にその方策を聞くこととした、こんな環境に平然と適応し対応できているという実績が智史にはあったからだ。

 

「成し遂げること自体が困難かもしれんが、とにかく対応力、対処速度、対処の質を徹底的に上げることが如何な環境に置いても対応できると私は考え、その信条を元にしてこうしてここに存在している。」

「まあそうだろうな…。お前に強化を依存するのが一番手っ取り早いが、それだとお前に操り人形にされ易くなる。まあ助言ありがとう。自分で強化は推し進めるよ。」

「そうだな、このことを教訓として高重力環境をはじめとする各種環境を自動生成するトレーニングルームを新規に作るとしよう、艦の大半が兵器にスペースを取られていることを考慮しても、スペースが有り余り過ぎてる。さて、禍根を断つことも兼ね、この世界を滅ぼすとしよう。自分で引き起こしたことは自分の手で尻拭いだ。」

「容赦ねえな、まあこれだけの暴挙を仕出かしたからには復讐やらかす輩が沢山出るかもしれん…。復讐戦挑まれたら堪ったもんじゃないから、後顧の憂いを断つという点では適切だな…。」

「この星には自分の心を惹きつけるものがある、ならばせめての己なりの贖罪として、この星が存在したという記録は残しておこう…。」

智史はせめての贖罪として氷の星となったウルトラの星に関する情報、記録を己の中に刻み込んだ。そして智史達はリヴァイアサンに移動する、智史はウルトラマンの世界系に別れを告げるようにしてこう呟く、

 

「さよならだ」

 

と。

すると超巨大なブラックホールが氷の星と化したウルトラの星を中心として生成される、そしてブラックホールはその星を中心として全てを吸い込んでいく、星も、生命も、ウルトラマンの世界系全てのものを。

そしてウルトラマンの世界系は跡形もなく消滅し、ウルトラマンの世界系があった場所には何もない空間だけが残った。

「矛盾まみれだとしても、私は存在し続けたいのかもしれない。さて、次はドラゴンボールの世界に行くとするか、あそこの輩共を徹底的に甚振り、奈落に叩き堕とし、孫悟空とマトモに戦うとしよう、跡形もなく滅ぼす必要性のないように。ふっ、オーズに行った時のことにならないように少しは工夫しよう…。」

そしてリヴァイアサンは強くスラスターを輝かせて、ドラゴンボールの世界系へと航行を開始する、だが智史は同時に悟っていた、これ迄の所業で自分を快く思わぬ者達が動き始めたということを。

智史はゼロとの戦闘経験、ズイカクとカザリの成長やそんな彼らの動きも更なる進化を促す『ファクター』として己の研鑽を更に高め、対応を異常過ぎるレベルの速度で練り続けていたーー




おまけ

トレーニングルーム

今回新規に創られた部屋。
これ迄の環境のデータを再現し、その環境下でトレーニングを積むことが出来る。
智史が今回の重力の件でズイカク、カザリ、琴乃達の環境適応の重大性を認識したことがこの部屋が創られた理由の一つである。


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第42話 『最強』を蹂躙する破壊神

警告!

今作もアンチヘイト要素満載です。
今回はビルスとウイス、界王にフリーザ一味が強者を蹂躙して得られる満足を得ようとする智史によって酷い目に遭います。
特にフリーザは一方的蹂躙と言っていい程惨すぎる目に遭うので注意してください。
それでは今作もお楽しみください。


「ねぇ〜、ウイス。まだ寝させててよ。」

「ダメですよビルス様、破壊神としての職務を怠っては。」

ここはドラゴンボールの世界系、第七宇宙に存在するビルス達の住処である、ビルスは第七宇宙のバランスを保つためにモノを破壊する破壊神という役割をやっているものの、何年、否何十年も寝るという怠け癖の持ち主であった。

しかし破壊神という役割を担当しているだけあってその戦闘能力は凄まじい。彼は破壊神という職業自体の威厳と相まり、同じ世界にいる者達の大半から機嫌を損ねないように気配りされる程の実力と性格の悪さを持ち合わせていた。

だがこれでも彼は大人しい方だった、他の宇宙の破壊神達は途方もなく荒々しいのだから。最も、常に進化し続けている智史に勝てるのかは疑問符が付くーー単に智史が強すぎるだけなのだがーー

 

「ふぁ〜あ、眠い眠い…。」

眠い眠いと機嫌を半分損ねるビルス、だが次の瞬間予言魚が次の瞬間、何かを悟ったような表情をする

 

「ビルス、なんか強大な奴が来る気配がする!」

「何〜?誰か来るの〜?」

「来る…、この世界の外から!ビルスを楽しませてくれるかもしれない強大な存在だよ!」

「えっ、それホント⁉︎」

自分にしてみれば衝撃的な予言魚の予言、それが突如として湧いてきた、しかし彼、予言魚はいい加減な性格である、故に予言が100%正しいとは言い切れない。

 

「あなたの予言はいい加減さに満ちてる所が多々ありますからね、ビルス様、強大な存在が来るということにお喜びになられているところを申し訳ないのですがその事象自体が本当なのか、少しお考えください。」

「ビルス、それ本当だよ、それ本当だってば!」

「う〜ん、ウイスにそう言われると何か、本当に信じていいのか分からなくなってきた…。」

ウイスと予言魚の言い合いを聞き、どちらを信じていいのか分からなくなるビルス、だが智史はその様をこっそりとドラゴンボールの世界系の外に停泊しているリヴァイアサンのCICから見ていた。

 

「予言魚が私が来るということを言い当てている、やはりそこそこ勘が鋭いな。まあいい加減さもあるからあまり的中するとは言えんが、それでもその勘の鋭さは賞賛に値する。さて、嘘つきと言われ自分が言ったことを信じて貰えない彼の為にも私が直に行くとしよう。

琴乃達は今は体を鍛えてるか、彼らを置き去りにして1人旅をして楽しむのは気がひけるがまあ仕方あるまい、今から行く所は彼らが生きるには相応しくないモノなのだから。これが終わったら、誘うとしよう。」

そして智史はビルス達の間近に突如として現れるようにして時空を捻じ曲げてドラゴンボールの世界系に侵入する。もう既に彼らに関することはかなりの精度で把握し、対処をやり過ぎを通り越した勢いで練り上げている最中であった、彼らに対する対処抜きでもあっさりと勝ててしまう程に進化し過ぎ、進化のペースを上げ過ぎ、強くなり過ぎているというのに。

 

「ん?なんだこの気配は」

「あ、さっき僕が感じた気配と同じだ!しかも間近に!」

「おや、当たったようですね、しかし随分と強大なこと…。」

「来たの⁉︎僕を楽しませてくれる存在が⁉︎」

「うん、ビルスを楽しませてくれる存在が来た!」

「よし、戦ってみるとしよう!」

「これは不味いことになる予感がします…。」

そしてビルスは智史が出現した場所に向かう、この後ウイス共々盛大に滅多打ちにされることを知らぬまま…。

 

「ん〜、この辺りかな〜?」

強大な気配を出す存在を探し求めて動き回るビルス、やがてその存在ーー智史を己の視界に捉える。

 

「君か、予言されていた『僕を楽しませてくれる』存在は。」

「如何にも。その予言が正しいことを示してやる為に私はここへ舞い降りた。我が名は海神智史、お前の名はビルスか。」

「え、なんで君僕の名前を知っているの?まあいいか。『楽しませる』の意味分かってる?僕は破壊神なんだけど」

「分かってるさ、言葉ではなく、直接実力でぶつかり合うということだろう?」

「御尤も。では始めようか。」

そして2人との間に戦端が開かれる、ビルスが一瞬身をかがませる、次の瞬間智史の目の前に現れる。

 

「はあっ!」

「はっ」

ビルスは無数の拳打で智史を攻撃する、その衝撃波で周囲が抉れ飛ぶ。だがそれに対して智史はその場から動くことなく悠然とその拳打を片手で全て受け止めてそのエネルギーを吸収し己のものへと変換してしまう。

 

「あ、あれ?気力が吸い取られていくような…。」

「気が付いたか、お前の攻撃のエネルギーを私が吸収し、自分自身の力へと変えているということに。」

「え、そんなのあり…?」

そして智史はカウンターを軽くかます、だが軽いとはいってもそれは人間の目では捉えきれない程の速さで放たれる代物だった、軽くカウンターをかまされただけでビルスは衝撃波と轟音と共に激しく吹き飛んでしまう。

 

「どうした、破壊神というからにはその程度でへばる筈がない。」

「つ、強い…。だがこれはほんの小手調べ…‼︎行くぞ!」

ビルスは意地を張って立ち上がりそう言うと無数の光線を放つ、智史にそれが襲いかかる。しかし智史は手元に全ての光線を導くようにして吸収してしまった、一発一発が大都市を灰燼に帰してしまう程の破壊力を持つ光線を。

 

神と神で破壊神の名にふさわしい強さを見せつけたこいつを意図返しの如く甚振る楽しみが無ければ、いつもの如く単調、だな。

 

そう心の中で智史は呟く、やがてビルスが光線をぶっ放しながら突っ込んでくる。

 

「うおおおおおおお!」

右手にエネルギーを溜め、渾身の一撃を放とうとするビルス、彼は智史に許容限界が来てオーバーヒートすることを御都合主義の如く勝手に期待してこの一撃を放とうとしていた、しかし当然の如く智史は彼が期待したようには全く優しくはなかった。確かに許容限界は存在したものの途方も無いレベルで強大になり過ぎていた為にその限界がどこまでなのかが分からないのだから。

その拳は当たったものの先ほどと同じくあっさりと無効化され、吸収され、己の力へと変換されてしまう、そして

 

「ほっ」

 

ーーバガァン!

 

「グハァッ!」

ビルスは軽い突き上げーー実際は途方もなく重い一撃を顎に食らって空へと突き飛ばされる、その際に顎の骨が砕け歯が飛び散る。そして次の瞬間に生成されたクラインフィールドの壁に彼は脳天から叩きつけられ、頭蓋骨が砕け、脳震盪を引き起こして再び地面に落っこちた。口と鼻からは体液がだらしなく垂れ落ち、目は虚ろで、舌も生気がなく、それらは通常では考えられぬ表情を形成していた。

 

「び、ビルス様…‼︎」

「ビルス、ねえ、ビルス、大丈夫…⁉︎」

「ふふふ、お前にここに来ると予言されたから来てやったぞ。まあ安心しろ、奴はこの程度では黄泉には行かん。まあ元になるにはかなりの時間が掛かるがな。」

「そうですか、ああ、嫌な予感がすると言ったのに…。」

ウイスと予言魚が後から慌ててビルスの所に着いた、そしてビルスの様を見て驚愕する。幸い致命傷ではなかったーービルスの生命力が高かったお陰だが(もっとも、智史がそれ以上の力を加えればけし飛ぶ)ものの、かなりの怪我を負った事実に変わりはなかった。

 

「さて、ウイスとやら。界王は知っているな?」

「はい、この世界の創造神というべき存在ですが…。」

「いきなりで悪いがお前もビルスと同じ様にしてやろう、界王を心の臓から震え上がらせ、恐怖のどん底に叩き落とす為に。なあに、殺しはしないから安心しろ。」

「え?」

 

ーードガァァァァン!

 

そしてウイスも智史の魔手に掛かりあっという間に瀕死のグロッキー状態となってしまった。ビルスよりは戦闘能力は高かったもののあまりに実力差が隔絶していた為に結局はビルスと同じ、否それ以上に酷い結末ーー全身を挽肉にされたーーを辿ってしまった。

 

「び、ビルス、ウイス…。どうしよう、僕が、僕がこんなことを予言したせいで…‼︎」

「済まんな、私が我儘過ぎたからこういうことになってしまった。付いて来るがよし、ここで喚くもよし。さあ、好きにするがいい。」

そして智史は2人をクラインフィールドの殻で覆うと予言魚の目の前から消え去った、そして彼は界王のいる星ーー界王星へと飛んでいく。泣き喚く予言魚を尻目にして。

 

 

「ん〜、今日もいい一日じゃな〜。さて、悟空は元気かのう?」

 

あの世にある閻魔大王の宮殿から伸びる 「蛇の道」を果てしなく進んだところに浮かぶ、地球の10倍の重力を持つ界王星で界王は元気そうにそう呟く、しかし直後に『悪夢』が突如として現れる。

 

ーードゴォォォン!

 

「な、何事じゃ⁉︎」

突如として襲いかかってきた衝撃に驚く界王、慌てて家の外に出る、見るとクレーターが家の近くに出来ていた、そしてそこには、勿論、智史がいた。

 

「ここが界王星か。黄泉の世界というだけあって余程の事情なくばここにはそう簡単には来れないようだが、やはり事前に調べた通り、いとも簡単に入れてしまったな。」

「お、お前、何者じゃ⁉︎」

自分にしてみれば見知らぬ者が突如として現れたことに驚く界王、それに対して智史は凜然としている。

 

「お前が界王か。我が名は海神智史。」

「な、なぜワシの名を知っているんじゃ⁉︎そして何の目的でここに⁉︎」

「ふっ、お前に見せたいモノがあってな…。」

「な、それは何じゃ…⁉︎」

界王は初対面の智史に警戒しているようだ、彼がかなりの実力を持っているということぐらいは曲がりなりにも理解できたのだろう。そして智史はグロッキーとなったビルスとウイスを界王の目の前に出す。

 

「この2人、誰だか分かるか?お前にしてみれば見覚えのある人物だぞ?」

「こ、これは、び、ビルス様…‼︎そして付き添いのウイス様まで…。この宇宙で最強の存在というべきあの御二方がこんな惨たらしい目に遭うという事象など見たことがない…、ま、まさか、お前があの御二方をこんな目に遭わせたというのか…⁉︎」

「ああ。その通りだ。もしこれがニセモノだったらここに自信と余裕を持って来る筈がない。」

「ヒィィィィィィィィ!ば、化け物じゃぁぁぁぁ!」

この2人のあまりに惨たらしい様に界王は戦慄し震えながら智史にこの2人を倒したのかと尋ねる、当然ここに連れてきた2人は自分の手でグロッキーに変えた本物なので彼はそうだと偽りなく正直に答える、そして凍りつくような、しかし好奇心を持っているような目で界王を見つめる、界王は恐怖のあまりに全身から汗をタラタラと垂らして甲高い悲鳴をあげて狼狽え、逃げ惑う。彼はそれを見て家畜を追い立てるかのように彼の目の前に瞬間移動し、それを見てさらに悲鳴をあげて逃げる界王の姿を楽しんでいた。

 

「た…、頼む頼む頼む…‼︎ワシを…、ワシを殺さんでくれぇ…‼︎」

圧倒的恐怖というべき存在、彼、リヴァイアサンごと海神智史から逃げようと走り回ったせいで足腰が砕け、へばった界王はやがてコケて立ち上がれないままワナワナと震え彼の方向を見ながらジワジワと後ずさりするしかなかった、既にあまりの恐怖で失禁と脱糞をしており、それによって濡れた衣装が界王の狼狽える様を一層醜く醸し出していた。

彼はそれを一通り見て愉しむ、そして次だ次と言わんばかりにフリーザ一味の所へとさっさと飛び去っていった、界王に恐怖を刻みつける為にグロッキーと化して動けないままのビルスとウイスに多少の手当てを施し、そして置き去りにしたまま。

 

「あ、あわゎゎゎゎゎゎ…。不味い、これは不味いぞ…。一刻も早く悟空達や他の星の者達に知らせなくては…。」

 

電光石火の如く2つを陥したか。なんか単調ではあったが、まあよい、自分の思うがままに事を進められたからな。さて、フリーザよ。次は貴様等の所に行くぞ。

 

ーーほぼ同時刻、フリーザ達が拠点にしている星

 

「フリーザ様、ビルスが住んでいる星に強大な何か突如として現れた後、ビルスとウイスの行方が知れません。」

「騒がしい…。一体、何があったというのですか?」

「は、偵察隊からの報告によると大規模な破壊の痕跡が残っていたとのことです…。」

フリーザは宿敵というべき孫悟空一味を撃ち破る為に自身を鍛錬していた、その最中に突如として寄せられた不快な報告に眉を顰める。

 

「その存在について何か情報はありますか?」

「いえ、突如としてビルスの星に出現したこと以外は何も確認されていません…。」

「そしてビルスのその付添人が消えた…。あの2人はこの世界では最強というべき存在…。それが消息を絶って行方不明となった…。これは只事ではありませんね。例の存在があの2人だけで済ましてくれるのならいいのですが、私にしてみればこれだけでは済まない予感がします。」

そう呟くフリーザ、そしてその予感は悪い意味で的中してしまう。

 

ーーズドォォォン!

 

「な、何事だ⁉︎」

「(どうやら私の予感は当たってしまったようですね)」

フリーザの宇宙船の比較的近くで引き起こされる爆発、それと共に巻き起こる爆煙と閃光、それは爆発の中心地の様子を覆い隠す。やがてその爆煙の中から人影がゆっくりと姿を現す、見るからに自分達からしてみれば地球上に運びっているありたきりの一般の人間のような姿をしているが、何かがおかしい、そう、雰囲気が半端ではない。まるで周囲を悉く威圧するような巨大なオーラがその存在から漂っていたのだ。

 

「見るからに人外じみた肌、そして醜いまでのマッチョを剥き出しにした衣装…。実戦を重視していて、ファッションセンスが全く無い、そしてその粗暴な見かけによらずとにかく心も粗暴…。(私もそうかもしれんが)これでは全く好感など持てぬわ。」

「な、何者だ、貴様は⁉︎」

自分達にしてみれば見ず知らずの存在が現れたのでフリーザ一味の兵士達の1人がその存在ーー海神智史を威嚇する、だが智史はそれを意に介さずフリーザの方へと歩いていく。

 

「き、貴様、ここは何処だという事を知ってての狼藉かぁ〜‼︎」

自分の事など意にも介さない智史の態度にキレたその兵士は彼に斬りかかる、だが彼に近づいた次の瞬間ーー

 

ーーパシッ!

 

「ひでぶっ!」

 

その兵士は目にも見えぬ速さでかまされた一撃で肉体を四散させてしまった、その光景を見た他の兵士達は愕然とし、智史に対する恐怖と敵意を剥き出しにする。

 

「醜い様をしている貴様等と話をする用は無い、どけ。」

「や、野郎…。」

「フリーザ様を守る我らの力、見せつけてくれるわぁぁぁぁ!」

智史に侮辱というべき言葉を掛けられた彼等は完全に吹っ切れた、フリーザに『殺せ』という命令を与えられてないというのに面白いように一斉に智史に群がってくる。

 

ーーやはり、こいつ等、クズだな。

 

智史はその様を見てやっぱりだと思い微笑むと右手にキングラウザーを取る、そして重力子を収束させた事によりキングラウザーが蒼の光の粒を帯びて輝き、実物では無い長い長い蒼い光の刀身が現れる。そして次の瞬間、それらは智史の手により群がってくる戦士達を一瞬にして斬り払う、戦士達は一瞬にして周囲のモノと共に跡形もなく消滅した、その跡には焼け野原が出来上がっていた。

 

「ひぃぃぃぃっ!」

「ば、化け物だ…。」

仲間が一瞬で消し去られる光景を見た他の兵士達は震え上がり狼狽える、彼等は智史が通ろうとしている場所から無意識に身を後ろに引かせる。

 

「お退きなさい、ここはあなた達が出る幕ではありません。」

「ふ、フリーザ様!」

「フリーザ様、こいつは我々にお任せーー」

「退きなさいと命令したのが聞こえなかったのですか?」

「は、はっ!」

フリーザが智史の思惑に応えるようにして現れる、フリーザに退がれと命じられた兵達は慌てて後ろへと下がっていく。

 

「私の名はフリーザ。あなたの名は?」

「海神智史。この世界の外から来た存在だよ。」

「成る程…。表情、雰囲気から見るにあなたがビルス達を叩き潰したようですね。」

「その通り。あの2人は己が欲を満たすに相応しいほどの最強を名乗っていたからこそ真っ先に叩き潰した、そして次なる強さを持つお前を殺して欲を満たすためにお前と戦いたい。」

「成る程、どう見ても話し合いで解決する気が無さそうーー見逃す気は無さそうですね。それ程までにこの私と戦いたいようですね。」

「ああそうだ、感謝する。ただしそれは忌々しい害虫を潰してから始めるとするか。」

智史はそう言い終えるとこっそりとこの様子を見ていたソルベの方を見つめる、智史の視線には凄まじい憤怒が込められていた。相手の隙を突いて攻撃しようとしていたーー既に対応済みではあったがーーということに全く好感が持てなかったというより、(実際に指輪のようなものからビームを出して孫悟空の隙を突く形で殺害するという事をやっている)、相手の器の小ささに怒りを感じていた、そしてその愚劣な印象は非実戦的な外見、態度により更に増大していた。

そしてその憤怒の目で睨みつけられたソルベは失禁して震え上がる、慌てて逃げようとするも智史にそれを見逃す慈悲は無い。

 

「ひっ!た、助けて、助けて…。」

「消えよ」

 

そして智史の手から侵食球が放たれる、その侵食球からソルベは逃げようとするものの恐怖のあまりに体が動かず、あっという間に距離は縮まり、侵食球はソルベに着弾する、ソルベの体は着弾点を中心として周囲の物質諸共あっという間に飲み込まれていく、そして侵食球は消滅する、そこにはソルベの姿は無かった。

 

「随分と、慎重ですね。」

「そうかもしれんな。後ろを取られて戦うのは何となく好きではない。」

「成る程、では改めて始めましょうか。皆さんはお下がりなさい、ここは間もなく死地となります。」

フリーザの命を受けた兵士達はその命を受けるや否や素直に下がっていく、自分達が出る幕ではないという事をその場で悟ったこともあって。

 

「はあっ!」

「ふっ」

 

ーードガァァァン!

 

そして両者は激突する、智史はフリーザの一撃を多層のクラインフィールドで完璧に防ぐ、そして叩きつけられたエネルギー全てを吸収する、フリーザはそれに懲りず連続で攻撃を繰り出す、その際の衝撃波で地面が抉れ飛ぶ、しかし結末は先ほど繰り出されたものと同じだった。

そして智史は左手を突き出しクラインフィールドをフリーザに叩きつける、フリーザは吹き飛ばされながらも受け身をとって素早く着地する。

 

「ふう、ビルスを吹き飛ばしたという私の期待を裏切らない程のかなりの実力をお持ちのようですね。」

「そうだ、これで終わりだと失望させないでくれ、まだ余裕があるだろう?」

「いいでしょう。では私の華麗なる変身をご覧に差し上げましょう!」

 

ーーバガァン!

 

フリーザは戦闘服を破壊して変身する、まず筋肉質な第二形態、その変身が終わるや否や今度はエイリアンの如き姿をした第三形態、そしてその形態が光に包まれると棘棘しい装飾を綺麗に取り払いつるりとした人の姿に近い第四形態が現れた。

 

「これが私が本気を出した姿です、本来ならその前に2つ形態があるのですが、あなたと戦うには相応しくないと判断した為に省略しました。」

「感謝する。さあ、本気を出したというその姿で私に掛かって来るがいい。」

 

「お、おお…。」

「フリーザ様が本気を出された…。」

遠巻きに見守るフリーザ軍の兵士達はフリーザが変身を遂げたのを見て智史の理不尽過ぎる強さを再認識する、そしてフリーザが彼を倒してくれるという淡い期待を抱く。

 

「はぁぁぁぁ!」

再びフリーザは智史に殴りかかる、本気だけあって先ほどのものとは雰囲気が打って変わり、苛烈さが増していた。

 

「殴りや催眠は効かなさそうですね、ならば斬り裂いて差し上げましょう!」

「ふっ、斬り裂けるなら斬り裂いてみるがいい。」

 

ーーガキィィィィン!

 

フリーザは指先、否手そのものをブレードとして智史に斬りかかる、彼に悉く打ちのめされたビルスとは違い、エネルギーを集中することで一点突破を狙ったのだろう。だが智史はこれを素手で受け止め同じ結末とする。

 

「至近距離ならば!」

それでもフリーザは空いているもう片方の手でデスボールを思いっきり放つ、智史はそれを直接受ける、そして当然のように跡形もなく吸収してしまった。

 

デスボールが彼を破壊できないとは決まったわけではない、しかし彼がデスボールを防げないと決まったわけでもない。

 

その平等たる力の法則は確かに成立してはいた、だがそのに繰り広げられていたのはデスボールを吸収し己のものへと変えるというあたかもその力の法則を捻じ曲げ無視しているという一方的な光景だった。こんな万物の法則を捻じ曲げるかのような恐ろしい芸当ができるのはここにいるような彼ぐらいだった。

 

「この程度か、フリーザ?」

「な、なあっ⁉︎」

「さぁ、お前なりに気合いの籠ったプレゼントに対するこちらからのお礼だ、遠慮なく受け取ってくれ。」

 

ーーグシャッ!

ーーズガァァァァン!

 

そして智史は手刀と化したフリーザの右腕を思いっきり握り潰すと無数の小型クラインフィールドを真正面にいるフリーザに叩きつけた、先程のものよりも凄まじい衝撃波が巻き起こり、フリーザは吹き飛んでいく。そしてその先には運悪く、否最初から智史に意図的に狙われたフリーザ軍の兵士達が居た。彼らは吹き飛ばされるフリーザが巻き起こす衝撃波によって跡形もなく吹き飛んでいく。

そしてフリーザは自分の後方に何百枚も生成されたクラインフィールドに連続して叩きつけられる、叩きつけられるたびにクラインフィールドは割れるものの、同時にフリーザにダメージを与えていく。これでもかなり匙加減を加えていた方だった、いきなり殺してもかえってつまらない、なら殺すならじわじわと甚振り苦しめてやる方が楽しいと彼が判断した為である。

やがてフリーザは一際と大きいクラインフィールドに叩きつけられて漸く止まった、フリーザの体は満身創痍の傷をこれらの一撃で負わされたことを物語っていた。

 

「はぁ…、はぁ…、はぁ…。おのれ…‼︎」

「もうそろそろ余裕がなくなってきたみたいだな、ならとっとと死ぬ気で本気を出してくれ。」

「ふふふ…、ならば見せてあげましょう…‼︎この私の究極の、姿を…‼︎」

そう言い終えるとフリーザは立ち上がる、すると彼の全身が黄金色を帯びて輝き始める。

 

「これが私が鍛錬を積み重ねて得た、究極の姿です…‼︎本来ならあなたとは違う別の相手に披露するはずでしたが、あなたにこうも追い詰められたら、出さざるをえないですね…。」

おお、これだこれだ、これが見たかった。全身黄金色に輝くフリーザ…、まさしくゴールデンフリーザの名に相応しく、シンプルな外見と相まって美しい。その外見にふさわしき力ーー戦闘力一垓という力と相まってますます壊したくなってきた。

さて、事前に調べた通り先程言った戦闘力一垓という驚異的な力、しかも原作とは違いフルパワー時でも体力の消耗は無い…。だがそれは万全な状態であればの話。こんなに追い詰められた状態でフルパワーを出すと、体が持たんぞ?弱ってるというのに負けを認めたくなくて見栄を張るということは自滅を誘うとよく言うがまさにそれだ、これはまるでフィンブルヴィンテルがやったこととと半分同じだな。まあいい、どちらにせよ問題は無い。何せこちらはもうとっくに『対処済み』だからな…。

 

「はああああ!」

「はっ」

そしてフリーザは体力を削っての熾烈な一撃を連続で放ってくる、しかし智史はクラインフィールドを展開することなく、特に動くこともなく、これらを全て受け止め、全て吸収する。

そしてフリーザの体力は攻撃に使ったエネルギーの量と共にどんどん磨り減っていく。

 

「な、なあっ…。な、何故だ何故だ何故だ‼︎何故だ、何故私が究極の姿となって攻撃しても倒れない…⁉︎(し、しまった、相手の『煽り』を受けて完全に頭に血が上って…‼︎なんということだ…‼︎)」

「ふふふ、さっきの威光はどうした?動かないならこっちの番だ。」

「み、認めない、こんな結末など認めない…‼︎」

「そうか?認める認めないに関わらず、お前は認めなくてはいけないのだよ、私に敗れ一方的に殺されるという結末を。」

そして智史はフリーザに手を伸ばす、フリーザに抵抗するだけの力はもう残ってはいない、仮にあったとしても智史にすぐ捕捉されて殺られ、さらに酷い目を見るという点以外の結末は変わりはしなかったが。

フリーザは呆気なく首を左手で締められる、そして智史はまずフリーザの左手を引き千切る、そこから体液が飛び散る。抵抗するだけの力がなくても引き千切るのは容易では無かったが力があり過ぎているだけでなく常に強大になっているので面白いように引き千切れる。

 

「さぁ〜て、足も尻尾も全部引き千切り、ミンチにしてやるとするか。」

 

次に両足を根元から掴んで引き千切り、更に尻尾を掴み自己で生成したクラインフィールドの壁に遠慮なく叩きつけるようにして投げつける、エネルギーベクトルを強引に操作したことによって生み出された凄まじい規模の運動エネルギー量と遠心力によりフリーザの尻尾は掴んでいるところから呆気なく千切れた、フリーザは頭部から叩きつけられる、運動エネルギーが全て破壊エネルギーに転化していく、そのエネルギー量の前にフリーザの頭は砕け体液が共に飛び散り、背骨が折れ砕けた頭があらぬ方向を向く。

これでフリーザはもう動かなくなったーー何もしなくても死を迎える運命が確定した、しかし智史の蹂躙はこれでは終わらない。

今度は砕けたフリーザの頭を掴みじっくりと力を掛けて握りつぶす、半壊していた顔から眼球が飛び出る。そしてその顔に興味が無くなった彼は背骨の部分を思いっきり引っ張った、内臓が残っていた体液と同時に飛び散り体は真っ二つとなった。そして彼はフリーザの頭の方を地面に放り捨てるとその頭を勢いよく踏み潰した、砕け散った脳味噌が新たに飛び散る。

飛び散った肉片は容赦なく踏みつけられる、その度に地が裂け振動し、それらは砕け更に飛び散る。それが何度も何度も続けられる、もはやフリーザの頭、体は原形をとどめない程に破壊し尽くされ、黄金色は肉片と体液と骨片が混じって真っ赤に染められていった。

やがて踏み潰せるものがなくなった、智史は少し跳躍し浮遊すると右手を掲げる、すると巨大な反物質の黒い雷球が形成され、それはフリーザの肉片が転がっている所を直撃し、対消滅反応を引き起こして巨大な爆発と共にその星と周りのもの諸共フリーザの肉片を跡形もなく消し去った。

因みにドラゴンボールの世界では魂があれば何時でも復活出来るという、見方を変えればご都合主義のような環境が当たり前に存在するが、智史が先程の一撃でその魂さえも綺麗に滅殺してしまったためにフリーザが復活する可能性は完全に潰えてしまった。

フリーザの父親であり、今は地獄にいるコルド大王がこの一方的な光景を見て、この上にビルスが呆気なく成敗されたという事実を知ったら震え上がり体が動かなくなっていたかもしれない。

 

さて、終わったか…。少しやり過ぎたかな?まあよい。界王がビクビクと震えているようだし、孫悟空達の所へとさっさと行くとしよう。

さて、琴乃達も誘うとするか、トレーニングが終わったからな。

 

「行くか、琴乃、皆。教養を深めつつ各々の世界の世界観を楽しむ為に。」

「いいわ。でも今回もやりすぎちゃったみたいね。」

「ああ、先程のか…。まあよい。」

智史は心の中でクスクスとそう笑う、そして孫悟空達がいる星ーー地球へと飛んでいく。

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ…‼︎あやつ、悟空の所に向かっておる…‼︎」

 

界王はその光景を千里眼のようなもので見て戦慄し恐れ震える、そしてテレパシーのようなもので地球にいる悟空に伝えようとする。

 

 

「ん?界王様?どうしただ?」

「“ご、悟空‼︎い、今からお前の所に来る化け物とは絶対に戦ってはならん!あやつは…、あやつは…、お前やベジータの実力では全く歯が立たん、スーパーサイヤ人ゴッドでも太刀打ちできん!”」

「なんでそんなに焦ってーー」

「“ビルス様が…、ウイス様が…、あの化け物に潰されたんじゃ!”」

「お、オラを打ち負かした神様が、負けた⁉︎」

「“そうじゃ!不意打ちで負かしたという気配が全くせん!よいか、悟空!逃げるんじゃ!あの化け物とは、絶対に戦ってはいかん!”」

「神様を打ち負かした、か…。ぷっ…、あはははははは…‼︎なんか面白え…!界王様、オラ一度あいつと戦いたくなってきただ!」

「“だ、ダメじゃ、悟空!話を聞け〜‼︎”」

血気盛んな悟空は界王の話を完全に無視し、ビルスを打ち負かした、己がまだ見ぬ存在ーー霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサン=海神智史との戦闘を心待ちにする。

 

ふふふ、そう言ってくれると期待していたぞ、孫悟空。お前とはサシで戦おう。

 

そしてこの心意気を感じ取った智史も彼との戦闘が始まることをますます楽しみにした。数多の世界を焼き尽くし、己が欲望のままに暴れ、荒ぶる破壊神とこの世界系の主人公との戦いの火蓋が切られる時が迫りつつあったーー



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第43話 散策、孫悟空、琴乃の父親

今回は前回とは違って徹底した蹂躙は控えました。散策を前半メインとして書いてます。
蹂躙されても全員生存し、世界系もそのまま残る形です。
まあミスターサタンとベジータはかなり酷い目に遭うのでその辺は自己責任でお読みください。
あと琴乃の父親やピーマンの過去の話も付け加えました。
オリ主である智史ばっか活躍してる話だと他の人物達が空気になりかねないからです。
それでは読みたい方だけお楽しみ下さい。


「ここが、孫悟空達のいる星ーー地球か。ドラゴンボールという元の世界基準という色眼鏡でみればご都合主義に近いものがこの世界では成り立っている世界か。まあよい、『絶対』は無いからな。それにしてもやはり美しいな、『私が元いた世界』では史上初めて宇宙に飛び出した人間であるガガーリンが『地球は青かった』と言っていたように本当に青く、しかも単なる青みではなく白も混じって濃淡がある。そのあまりの大きさと常に変わりゆく風景と相まり、殺風景ではないとまるで感じてしまうのかのようだ。」

智史は宇宙空間の中でそう呟く、何事も無かったかのように動き続けている地球を感慨深く見つめながら。

 

「さて、感慨に浸るのはこれまでとしよう、この世界の風景を楽しみつつも、孫悟空とサシで戦わなくては。」

そして智史はこの世界の地球に侵入する、大気は存在したようだ、侵入する際に生じる空気との摩擦熱が智史の周囲を赤く光らせる。

 

「ん?なんだあれ?」

「流れ星?」

「それにしては随分と小さいが…。」

 

シミュレーションで出た予測通りに、私が地球に侵入してくる際に生じた光景に気づいた人間もいたようだが、視覚にフェイントを掛けたお陰でその主原因が私とは把握してはいないか…。まずは西の都から行こうか、さて、どんなものが実際に広がってるのやら。体で見て感じて楽しもうか。

街のど真ん中で大騒ぎを引き起すのは孫悟空と会うためには一番簡単な手法だが、それだと人が逃げて街の雰囲気が楽しめなくなってしまう。人の雰囲気を感じるのも旅行の楽しみの1つだからな…ん?目的が戦うことではなく、旅することになってきたぞ?まあよい、人の心は矛盾そのものだし、どうせなら気まぐれに行くとしよう、悪しき矛盾を引き起こさぬように。ふふふ…。

 

やがて地表が見えてきた、大気の匂いもしてきた。そして東京大都市圏(中心部から70キロ圏内の地域が該当)に匹敵する程の大きさの街がくっきりと視界に入ってきた。それを見て智史は一瞬、かつて横須賀に創った半径100㎞という途轍もない大きさの工業地帯のことをふと思い出す。

 

中心部から半径70㎞か…。これでもかなりのスケールだな、こうやって見直してみると、自分のしたことが如何に恐ろしいものなのかが改めてよく理解できるな。

 

そして智史は西の都の郊外で人が少ない場所を探して着地する、そこは住宅地だった。だが彼の元の世界の四角をベースとした住宅とは違い、球をベースとした形であった、それは一瞬モンゴル民族のテントを彷彿とさせるような形をしていた。

そしてそれらはアメリカ風の庭が必ずと言っていい程に設置されていた、それは彼がいた元の世界のものとは違う異質さと新鮮さを彼に与える。

 

 

さて、『対策』は終わった。悪いな、中央の戸籍データ、改変を加えさせてもらったぞ。事前に調べた通り、ここは科学技術がこの世界で一番進歩している場所だ、それを示すのかのようにコンピューターにより全住民のデータが管理されている。そして警官が持つ小型コンピューターは住民の名前を打ち込むと、住民の顔写真と住所を映し出す優れ物だからな、何の対策もなしに行動するのはこの世界を楽しむという為の隠密行動の観点上とてもリスクが大きい。下手をしたら大騒ぎでかえってつまらん。

 

「行けるか、琴乃、ズイカク、カザリ?」

「別にいいけど…。なんで僕を誘うの?」

「仲間外れにはあまりしたくないからだ。」

「仲間…?どうしてなの?まあいいか。所詮逆らっても吹っ飛ばされておしまいだから、僕は君に大人しく付いていくしかないからね。」

「そんなこと言うなって、カザリ。お前の楽しいもの見つかるかもしれないぞ?」

そして智史はリヴァイアサンと今自分が立っている場所を繋ぐ亜空間ゲートを生成する、そして琴乃達がそこから出てくる。

 

「あれ?ドームの形をした建築物がいっぱいだね。」

「あまり気にならないはずなのに…、何か、言葉に言えない何かを感じる…。」

「たぶん違和感だろうな、見慣れていたものと大きく異なるせいでギャップを感じているんだろう。」

智史達はそんな異質な雰囲気を出す住宅街をゆっくりと歩きながら大通りに出るーー

 

ーーシャァァァァァ!

 

「⁉︎じ、地面と接することなく走っているだと⁉︎」

「霧だって超重力砲やミラーリングシステム起動時は水に接することなく宙に浮いてるだろうに。まあその異質さが見慣れぬデザインと相まって益々際だってくることは確かだな。」

「要するに、智史くんや他の霧が艤装を展開する時、艦体を宙に浮かせている時と同じ仕組みで?」

「まあそうだな、重力をコントロールして宙に浮かせているというのが説明として手っ取り早い。」

見ると車輪のない車やバイクが宙に浮いてビュンビュンと行き交いしていた、タイヤが無いせいで走行音も大して響かず、ただ空気を切る音が響いていた。

 

「何か見慣れないものばかりだ、目があちこちに行ってしまうよ…。」

「そうだな、さて、場所を移すとしよう。市街地中心部に行くか。幸いタクシー、電車といった交通機関はこの世界には存在するようだ。」

「でも、タダで乗せてくれるわけじゃ無いんだよな?」

「当たり前だ。だから『カネ』を調達するのだ。近くに質屋は無いな、ならば本物とは見分けつかぬ程の『カネ』を作って仕舞えばいいわけよ。まあ多少気後れするところはあるな、オーズの時とは違って、楽して『カネ』を手にしてしまうのだから…。」

そして智史はポケットにワザと手を突っ込み、データベースに基づいた本物そっくりの大量のゼニー札を生成した、そして手には大量のゼニー札が握られていた。

 

「偽造対策も考慮して材質や記録IDも忠実に再現した、ただ新しい新札の姿のままではかえって怪しまれるかもしれない、だからある程度の使い古し感もフェイクとして交えておいた。」

「必要とは分かってはいても、やはり智史くんが言った通り、こんなに楽な手段、積極的に利用したら私達どんどんダメになってく感じがするね。」

「そうだな、まあその程度でネガティヴな話は終わらせるとしよう、ネガティヴなままでは折角の旅も楽しめなくなる。」

「そうね、その程度で切り上げましょう。」

そして智史達は駅へと移動する、切符の自動券売機は彼がいた元の世界のものとスタイルは同じだった、違っているのは言語ぐらいだった、そこで市街地へ向かう為の電車の切符を買い、改札を通ってホームに出る。

 

「磁力の気配がするな、これは?」

「リニアモーターだ、電磁力を利用して車体を浮遊させて移動するという乗り物だ。」

「成る程ね〜。横須賀で物資輸送で使われてたのは見たことはあるけど、乗ったことはなかったわ、乗せてくれる造りや雰囲気ではなかったから。早く乗ってみたい。」

そして彼らはリニアモーターカーに乗り、市街地へと移動する。

 

「は、速い‼︎」

「時速500㎞ぐらいか、それでも感覚的にかなり速いな、風景がビュンビュン飛んでいく。」

「音が、静かね。そして殆ど揺れてない。この前の世界で乗った電車は音がそこそこ聞こえたのに。」

「あの丸っこいの、『ドーム』っていうんだっけ?あれが沢山目に入ってくるよ…。」

「そうか、まあ普通の形式をした建物も混じっているからこそ、それが余計に目に入ってくるかもしれんな…。」

「あ、大きな建築物が沢山見えてきた。」

やがて列車は市街地中心部の駅に到着する。

 

「人がいっぱいだな、って人の形をした人じゃねえ奴が平然といるじゃねえか‼︎」

「大声で騒がないでくれ、ズイカク。教えてなくてすまない、ここは人間だけでなくある程度人間に近い存在である動物も平然と暮らしている世界だ。」

「成る程…。僕も怪人の姿でも共存できるのかな?」

「お前が元いた世界よりは随分と共存しやすいだろうな、まあ物騒なことをしない限りはそう言えるが。」

「物騒なことって…。分かってるよ。(人間や動物にセルメダルを投与してグリードを生み出す行為自体が物騒ということに僅かながらも感づいている)しかし見た事の無いものばかりだね、こんなに目が移りまくるのは初めてだ。」

「ああ、私もそうだから仕方がない。ところで何か食べたくなってきた。観光案内所に近いような場所に行くとしよう。」

「観光案内所?横須賀はもちろんだけど、旅先でもこんなもの見た事も無かったけど…。」

「あれは経済規模が海面上昇、霧の海洋封鎖が主原因で極端に縮小してしまい、観光業自体も観光資源を破壊されたことも相まって縮小してしまったせいで、新しく作ろうにも作れなかったせいなんだ。だから無い。仮に作ろうとしても地方はほぼ壊滅で無理、三都市は重要拠点であるということを考慮するに機密防衛の必要性がどうしても出てくるから、案内する場所にどうしても制約が出てしまう。」

「なるほど、要するに費用対効果の観点上、作るにはふさわしく無かったと。そういうこと?」

「まあそういうことになるのかもしれない。さて、行こうか。」

そして智史達は観光案内所を見つけ、そこに入る。幸い場所自体は駅の構内だったので、特に苦労することは無かった。

 

「中華料理ってものが有名なのね〜。どんな料理なのかしら。見たことはあるけど、食べたことは一度も無かったわ。」

「中華料理にはマナーがあるんだ、それを守らないと失礼だろう。幾ら外から来たからって最低限のマナーは守らないと人間性を疑われる。」

「郷に入っては郷に従え、ね。どのようなマナーなのかしら?」

「まあ色々あるが、兎に角行ってその場で実践しないとダメだ。行こう。」

 

 

ーーほぼ同時刻、界王星

 

「何のつもりなんだ、こいつは…。突如として雰囲気を変えおった…。だがやはり悟空を狙っているのは確かじゃ、悟空も首を長くしてこいつが己が元に来るのを待っておる…。ああ、悟空、話を聞いてくれ…。」

界王はそう呟く、だが残念なことか、智史はその話を無意識にでも聞いていた、中華料理に関するマナーを教えながら。

 

 

「食べ残しは残しておくこと。残しておくことで「美味しかったです、もうお腹いっぱいです」って捉えられ、つまり「ごちそうさま」って扱いになる。もし皿に食べ残し1つ残さずに全部食べるのは「もしかして足りなかったんじゃ」と捉えられ、もうお腹いっぱいだというのに更に出される可能性が高いから。その状態で食べないと、「あ、うちのもてなしは悪かったのかな」って捉えられてしまう可能性が高い。」

「随分と、マナーに詳しいのね。」

「いや、情報検索掛けて調べた上で言っているだけだから。」

「あ、これ食べていいかな?」

「いきなり自分の分を真っ先に取るのはダメ。真っ先に食べ始めるのもダメ。みんなに平等に料理を取ってからみんなで一斉に食べ始めるのがルール。あと料理を取るのに席を立ってはいけない。」

「『エプロン』とやらがあるけど、使ってはダメなのか?」

「それは特に問題はない。寧ろエプロンを使い、食べた際の汚れが付くことで『美味しく食べさせて貰いました』というメッセージになる。」

「成る程、んじゃあ遠慮なく使わせてもらうか。どう見ても飛び散りそうなものばかりだし。」

「これ、美味しいね。何って料理なの?」

「青椒肉絲(チンジャオロース)だ。これはピーマンにジャガイモ、豚肉を原料として作られる料理だ。」

「ピーマンって、智史くんがコンゴウに強引に食べさせようとしたものだよね?」

「…ぷっ。その時のコンゴウの様を思い出して笑いが出た。刑部邸でコンゴウに強引にピーマンを食べさせようとして、それが原因でコンゴウと蒔絵が仲良くなったことを考えると、何となく良かったなと思える。」

「そうね、蒔絵ちゃん今はどうしてるのかな?」

「今も元気そうだ、キリシマ達と仲良くやってる。さて、リヴァイアサンに戻った後、レシピを参照して作ってみるか。」

智史は蒔絵達がうまくやれているという事実を映した映像をモニターに出しながら、そう語る。

 

「肉まんって美味いな〜!」

「ズイカク、肉まんを食い過ぎると頭に肉まんが出来るぞ、ふふふ…。」

「冗談だよな、それ?」

「ああ、勿論さ。」

「ねえこれ、食べると何かしっとりと口に染みてくる感じ…。この前食べたものとは違う味だけど…。これも、『美味い』っていうの?」

「そうだな。一概に『美味い』っていっても、実際には様々なものがあるからな。」

そして皆は楽しく料理を口に頬張った、料理を多少皿に残して彼らは席を立ち、智史はお勘定を求める。

 

「ごちそうさまでした。」

「ありがそうございます、またお越しください。」

「ふう、さて、孫悟空の所へと行くか、街を色々と見ながら。」

「孫悟空って人は、何処にいるの?」

「今日はブルマという女の誕生日パーティーだからな、それを祝うために彼女の父親の豪邸にいる。豪邸はここからさほどは遠くはない。タクシーでさっさと行くのもアリだが、歩いて行くか?」

「そんなに遠慮しなくてもいいわ。」

「ありがとう。ではゆっくり見て回るのは孫悟空の所に行った後にしよう。」

智史はそう言うと手を挙げてタクシーを停める、彼はタクシーの運転手に豪邸に向かうように指示した。

 

 

ーースーパーサイヤ人戦士にしてこのドラゴンボールの世界系の主人公である孫悟空の独白

 

 

「滅茶苦茶ヤバイ奴がお前の所に来る。だから逃げろ!」

そんな感じのことをオラは界王様からそう聞かされた、何しろスーパーサイヤ人ゴッドになっても勝てなかった存在である神様ーービルス様が軽々と打ち破られ、しかもその存在はオラのことを虎視眈々と狙っているらしい。

オラはそんなことを聞かされた時久々に身体中の血が滾った、何せ神様を上回る力を持つ存在がオラの所に来るのだから。

だがそのような気配は界王様から話を聞かされてから中々現れなかった、それよりもブルマの誕生日パーティーが近かったのでオラはブルマの家に向かうことにした。

そこにいるベジータやトランクス達は勿論の事、息子の悟飯にひ孫の悟天、チチ、ミスターサタンにブウ、ピッコロも来た。そしてパーティーは彼らを迎えて盛り上がった、だがオラ達がそのパーティーを楽しんでいる間も、神様を軽く上回る強大な気配は全くしなかった。

やがてパーティーも詰めに入った、オラの身を心配してくれている界王様が嘘を吐くはずがないと信じたかったが、こうも圧倒的な気配が中々しないのでは嘘なのかと思ってしまうところもあった。まあ今は来なかっただけあって、いつか来るのではと思って、切り分けられたケーキを食べようとした、その時だったーー

 

ーードガァァァン!

 

「な、何⁉︎」

突如として襲いかかった戦慄に皆身を固める、オラも一瞬ビクッとした。そして次の瞬間理解した、神様を上回るヤツが、現れたのだと。

 

「そこの侵入者、止まれ!」

「お前達に用はない。孫悟空という奴に用がある。理解したならとっとと道を開けろ。」

「ふ、ふざけるな!取り押さえろ!」

 

ーーズドォォォォン!

 

「ぎゃぁぁぁ!」

「済まんな。ガードマンが何人かいたようだが、邪魔をしたから遠慮なく排除させてもらった。」

そしてその存在が爆煙の中からゆっくりと姿を現した、外見こそ普通の一般人のように見えたが、オラは先程の圧倒的な気配と相まって只者ではないと確信した。この存在こそが、神様を軽く打ち倒した存在だと。

 

「あ、あんた何様のつもりよ!いきなり強引に立ち入ってくるなんて!」

「私が予告もなしにいきなりここに来たことを指摘しているのか?」

「そうよ!」

「そうか、だがそうするだけの理由があったからこそ、私はこうやって強引に入ってきたのだ。」

「理由って、何よ!」

「孫悟空と戦うことだ。」

圧倒的な気配を纏い、突如として現れたあいつにブルマは臆することなくあいつに口をきく、あいつはオラと戦いたいということを平然と口にした。

 

「私は孫悟空という存在だけと戦いたい、お前達に特に用はない。」

「こ、これだけの暴挙をやっておきながら孫君とだけ戦いたいというの⁉︎ふざけんじゃないわよ!」

「そうだ!この俺、ベジータを差し置いて孫悟空とだけ戦いたいだと⁉︎舐めるな!」

あいつは平然とこちらを嘲笑うようにして挑発してきた、オラとだけ戦いたいと言っておきながら、圧倒的な力をもって全員まとめて楽しく蹂躙した上でオラとじっくり戦いたいという半分狂気に満ちた本心だろう。だからこそ搦め手を使ってくる気配は全く見当たらない。

 

「分かった。ではお前と何処で戦おうか?」

「人の気配がないところがいいな、此処では迷惑が多大にかかる。」

「おい、俺達を、このミスターサタンを無視してさっさと話を進めるな!」

「そうだ!俺も無視すんな!」

「ごちゃごちゃとうるさい奴らだ、気に障る。まあいい、さあ、掛かって来たいなら掛かってこい。済まんな、少し手間を掛ける。」

そしてあいつは箸を右手に瞬時に作り出した、そして箸を挑発するかのように鳴らす。

 

「こ、この野郎…。何処までも舐めやがって〜‼︎泣きっ面にしてやる!」

「行くぞ!」

「「「うりゃぁぁぁぁぁ!」」」

そしてピッコロ、天津飯、18号、サタンにブウ、悟天にトランクスが一斉にあいつに飛びかかる。息子の悟飯は老界王神様の潜在能力を解放し、ひ孫の悟天とトランクスは超ゴテンクスで挑む。オラ程ではないにせよ、魔人ブウと善戦するだけの実力をあいつらは身につけていた。しかしーー

 

ーーシュバッ!

ーーパシッ!

 

「あべっ!」

「うごっ!」

 

「くっ、魔貫光殺砲!」

「新気功砲!」

悟飯と悟天とトランクスが呆気なく目の前で瞬殺された、箸で顔や胸を突かれ投げ飛ばされるという形で。三人とも死んではいなかったのが幸いだったが、それでも重傷を負っているのでこれ以上の戦闘はできない。

何よりも相手はこちらがこんな究極形態でも軽々と大ダメージを与えて見せたのだ、あの圧倒的な気配(そして恐ろしいことに今も大きくなりつつある)を裏切らぬ強さを持っているというべきだろう。

相手が只者ではないということを先程の光景で痛感した2人は己の命を削る(自滅する気はない)覚悟で奥義を放つ、あいつはこれを見て不敵な笑みを浮かべる。そして2人の奥義があいつを襲う、だがあいつはこの一撃を苦もなく、いや寧ろ嬉しそうに全て吸収し、己の物へと変えていった。

 

「な、なんだと…⁉︎」

「ば、化け物か…⁉︎」

2人はこれを見て愕然とし、更に技の威力を上げようとするものの、先程の一撃で命を削りすぎたのか、威力はかえって落ちてしまっていた、そしてーー

 

「命は投げ捨てるものではないぞ。」

 

ーーヒュォッ!

 

「ウゲッ!」

「だはっ!」

「ち…、畜生…‼︎」

2人はその一言と共に箸で鼻を掴まれて投げ飛ばされ、後ろに発生したバリアのようなものに叩きつけられて動かなくなった。

 

「舐めるな〜‼︎」

 

ーーズボボボボボボボ!

 

「ゲプッ…‼︎」

唯一残ったブウがあいつに掴みかかるも、あいつは特に大したことなく手元の箸でブウを殴って殴ってボコボコにし、ブウは挽肉になってあいつらと同じく動けなくなった。そしてあいつは冷たい目でミスターサタンに迫っていく。

 

「ひいっ、た、助けてください…。さ、先程の言葉は調子に乗ってつい…。」

「勝気になったと思ったらもう言葉を変えるのか、醜い奴だ。」

 

ーーベキイッ!

ーーバキィッ!

 

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

あいつは手元にあった箸を一旦消すと、ミスターサタンの両手を掴み上げる、サタンはそれを振りほどこうとするも、凄まじい腕力できっちりと掴まれているのでほどけない。そしてあいつはサタンの両腕を思いっきり握り潰し、骨が砕けて避けた皮膚から肉と骨が露出する、それによって生じた痛みにサタンは苦悶に満ちた悲鳴をあげる。

 

「や、やめてください…、暴力はんた」

ーーバキィッ!

ーーズゲシッ!

ーーズガッ!

 

そしてあいつはサタンを地面に放り捨て、サタンの四肢を、胴体を何度も何度も踏みつけた、その度に肉が、骨が砕けて、血が飛び散る。

一方的なその蹂躙が終わった後、サタンの肉体は原形を留めぬ程に崩れていた、あと1、2撃加えられたらお陀仏という虫の息の状態だ。しかもこれでもかなり手加減しているのだから、いつでもトドメは刺せる状態だ。

だがオラは仲間がグチャグチャにされて嬲られたというのに怒りがあまり湧いてこない、仮に死んでも界王様のところに行ってまた生きて帰ってこれるという現実があるせいなのか。しかしサタンが大怪我を負わされたことが公になったら大騒ぎだろう。

 

「さて、楽しい舞踏会を始めるとしようか。」

「ふざけんじゃないわよ…。あんたのせいで折角の楽しいお誕生日パーティーがグチャグチャよ…‼︎」

皆がその場で振るわれた圧倒的な力に戦慄して震える中、自分の誕生日パーティーを滅茶苦茶にされたブルマは目に涙を浮かべてあいつに平手打ちをかまそうとする。

 

ーーガッ!

 

「済まんな、今はお前とあまり話したくはない。」

 

ーードゴォン!

だがあいつは自身にかかってくるブルマの手を左手の前腕で受け止めると払い飛ばした、ブルマは思いっきり木に叩きつけられてそのまま気を失った。

 

「貴様…、これだけの暴挙をしておいた挙句にブルマも手にかけておいて、俺を無視するのか‼︎もう許さん!」

「もう少し時間を食うかもしれん、それまで待っててくれ。さて、貴様、ベジータと言ったな?先程の光景を見て奥義を尽くさねばこの私は倒せぬと理解したようだな。」

「…そうだ、だからこそ貴様を奥義でもって粉砕してくれる!うぉぉぉぉぉぉぉ!」

そしてベジータはスーパーサイヤ人となる、髪の色が黒から金に変わる。ベジータはファイナルフラッシュを使い一気にケリをつけようとした、相手が撃ち込まれた気、エネルギーをガンガンと吸ってくる特性を持っている以上、トドメを刺すには高エネルギーを集約して一気に殺った方がベストと考えたのだろう。

それを見てオラは逆のことを考えた、柔よく剛を制すという諺(ことわざ)があるように、相手の積極的な攻撃を誘い、相手の攻撃を食らうのを避け疲弊させ隙を作り出してそこを突くことで一気に追い詰めるという戦術だ。どこまで通用するかは分からないがそれがベストな戦略であるとオラは判断した。それに対してベジータは剛を以て相手を破ろうとしている、あの圧倒的な気配から実力を判断すると、ベジータがその攻撃を食らわそうとしても刺し貫く前に全部吸収されておしまいだろう。

そしてオラの予測通り、あいつはベジータのその攻撃を貫通さえ許さずにそのまま受け止め、全て吸収してしまった。

 

「な、何っ⁉︎貫通…、しないだと…⁉︎」

「どうした?『これでお終いです』ではないだろうな?」

「な、舐めるなぁぁぁぁぁぁぁ!」

あいつの嘲笑ってくるような挑発にベジータは完全に頭に血が登り冷静な判断が全くできなくなってしまっていた。普通こんなことは実戦では確実な致命傷になり得る可能性さえあるというのに。まあ相手がこうも滅茶苦茶に強いのでは精々さっさと逃げるしか選択肢が無かったが、ベジータはプライドが強い。そこを突かれるようにしてプライドを傷つけられたベジータはそんな判断さえ下せぬ程怒り狂っていた。

ベジータはスーパーサイヤ人ゴッドに変身する、髪が金から青へと変色し、オーラもまた青へと変わる。あいつはこれを見て嬉しそうに笑う、オラはその笑みの中に混じっている狂気を僅かながら感じた、

 

ーーこいつ、ベジータをその姿のまま徹底的に蹂躙するんじゃないか…?

そんな予感がオラの中に一瞬で走った、だがベジータには当然そんなことなど聞こえていない、仮に口に出して大声で叫んでも聞きもしなかっただろう。

 

「砕け散れぇ!」

そしてベジータはゼロ距離からバーストギャリック砲をあいつに対して撃ち込んだ、ギャリック砲という名自体は聞き慣れてはいるものの、そのギャリック砲はスーパーサイヤ人ゴッドという鍛錬を積み重ねた末の究極の形態が与える力のお陰で威力は凄まじいものとなっていた。普通こんなもの食らえば神様を除いて殆どの物は砕け散るだろう。

だが残念なことに先ほどから言っているが、相手はそんな神様をぶっ倒しているとんでもない実力の持ち主なのだ、そんな奥義をかましても全く倒れないだろう。

そして予想通り、あいつは嬉しそうにその奥義を受け、全て吸収して己の力に変えてしまった、ベジータは必死に力を込めてあいつを粉砕しようとするが、あいつはその必死な様を見て益々余裕に満ちた不敵な笑みを浮かべていく。

 

「もうお終いなのか、残念だ。この砥石はもうダメなようだな。」

 

ーーチンッ!

 

「んごぉっ…⁉︎」

そしてあいつはバーストギャリック砲を受けながら、ベジータの股に軽く蹴りを入れるーーそれでも滅茶苦茶重い一撃だったーー、ベジータは股を抱えて恨めしげにあいつを睨みつけながら痛そうに歯を食いしばってその場に倒れこむ。

 

「よかったな、息子を作るためのブツを壊されずに済んで。まあその事象自体ももう直ぐ無意味となるが…。」

「な、何をする気だ…⁉︎」

「お前を今から玩具として弄び、拷問するのだよ。」

あいつはそう言うと何か粘っこい液体のようなものを左手の手元に生み出し、同時に棒みたいなものももう片方の手元に生み出した。そしてその棒に先程の粘っこい液体を練り付けると、それを思いっきりベジータの鼻の穴に突っ込んだ、鼻の穴は2つなので2つも突っ込まれた。

 

「うごっ、うごごごご…。やめろ、苦しい…。」

「何を、やってるんだ?」

「ブラジリアンワックスによる鼻毛抜きだよ。」

オラの質問にあいつは“ぶらじりあんわっくす”とやらで鼻毛を抜くのだと答えた、ベジータはその棒を鼻に突っ込まれて苦しいのか必死に抜こうとする、だがあいつはベジータの両手をがっちりと抑え込んだ、その状態を少し続けた後、あいつは思いっきりベジータの鼻の穴からその棒を引き抜こうとする。

 

「ど〜れ、鼻毛はどれぐらい取れるかな?ふんぬっ!」

「い、痛い、いだぁぁぁぁぁぁ!」

その棒を無理やり引き抜かれたベジータは痛みのあまりに悲鳴をあげる、そして鼻血が出る。先程の粘っこい液体はある程度固まっていたようだ、そしてよく見るとたいそう濃い鼻毛が大量にこびりついていた。

 

「ほ〜ぅ、これはいい鼻毛が取れたな。サイヤ人は鼻毛が濃いのか?」

「いや、オラはそんなに濃くねえぞ…。」

「成る程、サイヤ人にも個体差はあるのか。ん?鼻毛を無理やり毟り取られて悔しいか?悔しいだろうな。ほら、返すぞ。自分のものだから、食え。」

「や、やめろ、こんなばっちいものを俺に食わせる気かぁぁぁぁ!」

「煩い、とっとと食え。」

「んごっ、んごごごごごごご…。」

そしてあいつは嫌がるベジータに強引に鼻毛がついたアレを食べさせる、あいつのあまりに圧倒的な力の前に手も足も出ないベジータは悲鳴と唸り声を上げる。

 

「さぁ、いい様となってきたし、軽く締めるとしますか。」

「や、やめろ、もうこれ以上はやめてくれぇぇぇ!」

 

ーーシュパッ!

 

「あがが…、あがががが…。」

あいつは先程よりも長い箸を生成し、またしてもベジータの鼻の穴にそれを突っ込んだ。そしてベジータの頭が、体が箸一膳だけで軽く持ち上がっていく。ベジータはそれを振り解こうとするも相手も、悪いがそうはさせまいという感じでより強く締め付けてくるので結局は己をより痛めつける結果となってしまった。

 

「よっ」

 

ーーシュバッ!

 

「“ゔわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…‼︎”」

そしてあいつはベジータを箸で掴んだまま軽くダーツでも投げるようにベジータを投げ飛ばす、ベジータはオラの目にも見えないありえない速度ですっ飛ばされた、そしてベジータの気配が消えた、オラはベジータの行方についてあいつに尋ねたくなってきた。

 

「おい、ベジータはどうなったんだ?」

「ああ、さっきの奴か。この世界の外にすっ飛ばした。世界系を仕切る壁に激突して立派なミンチだよ。」

「この世界の外って…。ってことはベジータは生きて帰ってこれないじゃねぇか…‼︎どうして、ここまで酷いことを…⁉︎」

「プライドの高い傲岸不遜な態度と顔が全く気に食わなかった、そんな奴を先程のような目に遭わせたかった、だからだ。」

「こ、こんなちっぽけなことでベジータにあんなことを…。お、オラおめえのやること見てたけどもう許さねえぞ…‼︎」

「そうか。これで本気で私と戦う気になってくれたのか。」

「ああ、敵わねえかもしれねえけど、おめえだけは許さねえ…‼︎」

「(幾ら何でも、ちょっとやりすぎたか。まあこれも想定内だからよい、盛大にぶちのめした上でベジータを元にするとしよう)」

オラはあいつにベジータを殺された悲しみと怒りを叩きつけた、あいつは少し嬉しそうに笑うと宇宙で試合をしようかと提案してきた。

オラはその誘いに乗り、あいつとオラは宇宙へと飛んでいく。

 

「用意はいいか?」

「…ああ‼︎」

「宜しい。

…Let the game begin!(さあ、戦闘の始まりだ!)」

そしてあいつはオラに襲いかかってきた、オラはあいつにぶちのめされた仲間たちの様子から編み出した戦術「柔よく剛を制す」を基にして攻撃を受けないように専念した、そして兆候があったら、身構えて躱し、隙を誘う、そんなイメージでいた、しかしーー

 

ーーズゴッ!

 

「ガァッ⁉︎な、何っ⁉︎」

 

ーーガガガガガッ!

 

「だはぁ!」

あいつはそんなオラを嘲笑うのかのように攻撃を次々と命中させてくる、場所、兆候さえ把握できないほどの、受け身、回避が間に合わない程の速度で。

一方向に受け身を取れば別のところから痛撃を容赦なく次々と加えてくる。こちらが対応する時間、いや気づく時間さえ許さぬ勢いで。あまりにも速すぎるせいで行動に隙が見当たらない。

そして痛撃の名の如く威力もかなりのものだ、手加減しているのを考慮してもオラにしてみればかなり痛い。

 

「な、なんて速さだ…。受け身さえ許さねえなんて…。ダメだ、速すぎて追いつけねえ…。」

「どうした?これではスーパーサイヤ人の名が泣くぞ?」

「(くっ、このまま回避に徹していたら一方的に嬲り殺されてしまう…。こうなったら、死中に活を見出すしかねえ!)」

オラはベジータと同じくスーパーサイヤ人ゴッドに変身する、先にやられたあいつらの様子から見るに出し惜しみは無用と考えたためだ。そしてあいつは少し嬉しそうに微笑む、これでよい、さあ、私に真髄を叩きつけてみせろと言わんばかりに。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

あいつのその誘いに乗るようにしてオラは今まで経験したことすべて、仲間との絆を込めた全身全霊の一撃ーー超神閃撃をあいつに叩き込んだ、あいつはそれを防ごうとはせずに、これを直に受け止め、(しかしこれさえも全く通用せず、すべて吸収され、全部己の力に変えられてしまった)オラが放った技の味を吟味する。そして嬉しそうに、だがどこか寂しそうに微笑む、成る程、これが仲間と共に研鑽し、強敵と共に戦ってきたが故に得られた「強さ」なのだな、と。

あいつは圧倒的に強い、だがそれ故にライバルが全くいないーー孤高のような状態となっていたのかもしれない、神様がそうであったように。

ベジータを殺したのは許せねえが、何処か哀しさを感じさせる何かをあいつは持っていた。だが、余韻に浸っている場合ではない、戦いは終わりと宣言されていないのだから。

 

「奥義を叩きつけてくれたこと、感謝しよう。相応の返礼をしなくてはな。」

「へへへ、ぶちのめす気満々だな…。」

「遠慮するな、有り難く受け取れ。」

 

ーーゴッ!

ーードガガガガガガガガガッ!

ーーバキバキバキバキバキバキィッ!

 

そしてもはや戦闘ですらない一方的な蹂躙が幕を上げる、更なる容赦の無い乱撃の嵐の前にオラは防ぐことさえ許されずに濁流に押し流される木の葉のように翻弄され、その身を滅茶苦茶に叩きのめされる、手や足で防ぎ、逃れようにもにも乱撃は逃れる暇さえ与えずにその手や足さえ軽く粉砕してオラを襲う。その乱撃の嵐の前にはスーパーサイヤ人ゴッドという形態など弾除けにもならずにあっさりと消し飛ばされた。

身体中の骨が、肉が、内臓が、血が、滅茶苦茶に砕け散る、だが悔しさは無い。搦め手といった卑怯な戦法ではなく、ただ単に圧倒的な力の前に正々堂々と戦い敗れたというだけのことなのだから。

自爆しようにも、ここまで叩かれては大したダメージにはならないだろう、仮にスーパーサイヤ人ゴッドのまま自爆してもダメージを与えれるのかはとても怪しいが…。

 

ーーチチ、悟飯、悟天…。ごめんな…。

 

「はっ」

 

ーードガッ!

 

「うっ…。」

そしてトドメにあいつはオラの腹を殴った、それさえ防げぬほどに心身を削られまくられたオラはそのまま意識を闇に落としていったーー

 

 

ーーほぼ同時刻、界王星

 

「あ、あああ…。な、なんということじゃ…。ベジータに、悟空まであいつの毒牙に掛かってしもうた、悟空はまだ死んではおらんがベジータは…。ワシに、ワシにもっと力があれば…。」

界王は界王星でそう嘆いていた、だがそこでビルスとウイスが意識を取り戻したこと、そしてこのあとこの世界の常識を無視した『奇跡』が起こることには気づいてはないかったーー

 

 

「智史くんどう?楽しめた?」

「ああ、孫悟空という存在の強さの理由を確かめられた。そしていつもの事だが、強者を存分に甚振り苦しめることも出来て良かった。」

「よかった。でも巻き込まれた人達はあなたの手によって悲惨な目にあって可哀想よ?だって誕生日パーティー中にいきなり殴り込まれるわそのパーティーは滅茶苦茶にされるわ、大怪我は負わされるわで。これ以上やったら気の毒よ?」

「すまんな、いつものことだが少し調子に乗りすぎた。さて、後始末でもしてから退散するとするか。」

智史は悟空にトドメを刺すふりをして気絶させ、応急手当をしてそのままブルマの父親の豪邸に帰ってきた。そして彼はそう呟くと、第七宇宙の外にすっ飛ばされてミンチとなったベジータを魂ごと連れ戻すと強引に復元した。

普通ならこんなこと『あり得ない』のだが、それは常識的な域での話である、常に進化しすぎて、もうとっくに常識を脱出した智史にはこんなことは容易くできてしまった。

 

「こ、ここは…。はっ⁉︎ブルマの家ではないか…。はっ、貴様まで…。貴様、一体何をした⁉︎」

「外に投げ飛ばしたままでは仲間が少し嘆き悲しむだろうから連れ戻したまでよ。」

「嘘を吐くな!俺を欺き、更に陵辱するつもりか⁉︎」

「いいや。しかしここにペナルティ無しで戻ってきた現実を受け入れられないのか、仕方あるまい。死にないなら今度こそ消し去るまで。」

「…や、やめろ…。」

「か、カカロット⁉︎大丈夫か⁉︎」

「おう、ベジータ…。オラあいつに滅茶苦茶にぶん殴られたぜ…。死ぬかも思った、でも生きて帰ってこれた…。元々あいつにオラ達を殺す気は無かったんだな…。

そしてなんと言えばいいんだか、皮肉なことにあいつのお陰でおめえは界王様の所に立ち寄らなくてこの世に生きて帰れてこれたんだぜ…。オラおめえあいつに殺されて怒ってたけどこんなあり得ないのが目の前で起こされたらその怒りも行き場所をなくしちまった…。」

「む、無理をするなカカロット…!」

ベジータは大怪我を負っている孫悟空を心配する、そして辺りを見回し、皆生きていることに安心する、勿論その中にはブルマやトランクスも含まれていた。

 

「智史くん、彼らを『退場』させたくはなかったのね。」

「ああ、あの悟空の普段の明るい雰囲気は私の好きなものだった。そして彼らの明るい『暮らし』も。蹂躙したくても、これだけは壊したくはなかった。壊したらもう二度と見れなくなる。」

「そうね、でも私には何となく彼と『友達』になりたかったんじゃないかって見える。」

「ついでに言うなら、自分を磨き上げてくれるライバルも増やしたかった、作りたかったんじゃないのか?」

「まあそうだな、殲滅ばかりでは詰まらんからな。」

そう智史達は嬉しそうに会話する、今回は徹底的な殲滅が炸裂しまくる(フリーザ一味を除く)ことは特に無かったからだ。

 

「おめえ…。本当はオラとベジータのような切磋琢磨の仲になりたかったんだろ…?」

「…ああ。」

「オラはおめえと戦って己の未熟さをとことん痛感した、だからこそオラはもっと強くなれる…。いつか、おめえを追い越せるようになってやるからな…。」

「ふっ…。その期待に応えよう、その日を楽しみにしているぞ。今は無理をするな、私に打ちのめされた体を休めよ…。

さて、すまなかった、ベジータ。悪乗りした挙句皆をこんな目にあわせて。」

「その態度、性格、何所かビルスに似ているな…。まあいい、だがもう二度と悪乗りしたこんな陵辱劇はするなよ‼︎」

「その約束、私の気が変われば破るかもしれんぞ…?ふふふ…。」

智史はそう言うと琴乃達と共にブルマの父親の豪邸を静かに去っていった、人は多少は集っては来たものの彼らに見向きは特にしなかった。

この戦闘の幕引きは意外にも、静かなものだったーー

 

 

「歩いてみると、また違った感じがするね。」

「そうだな、じっくりと造りを見ることが出来る。」

「あ、奇妙な魚だな。ヒレがたくさんある。どんな味をしているんだろう?」

「この世界の料理って本当に『美味い』ね。出来ればもっと食べたいのに。」

「なら、インスタントやお菓子、お土産でも幾つか買ってくとしよう。」

悟空達と別れた後、夜の街中の繁華街を智史達は歩く、サラリーマン達が終業して出てくる時間帯なので、人混みが凄くて歩くのは多少は大変だったが、人がいることの賑わいと活気を肌で感じることができて多少は楽しかったようだ。

 

「すみません、こちらお願いします。」

「はい、合計で72000ゼニーですね。75000ゼニー、お預かりいたします。」

 

ーーパチパチッ!

 

「3000ゼニーのお返しです、ありがとうございました。」

「たくさん買ったね〜。」

そして彼らは駅前近くの豪華百貨店に行き、買い物を沢山し、それぞれ荷物を抱えて百貨店を出た。人がいないところまで彼らは行くと、生成された亜空間ゲートを通ってリヴァイアサンに帰ってくる。

 

「ふう、ちょっと疲れちゃったね。」

「ああ、たまには休むのもいいな。私も付き合おう。」

智史は琴乃や他の皆のことを気遣い、たまには彼らの休みに付き合い、少し止まることにした、最早習慣というべき自己強化・進化、そしてそのペースを滅茶苦茶に上げることは全く止めようとはしなかったが。

 

 

ーーリヴァイアサン艦内、天羽琴乃の部屋

 

「智史くん、私があなたと初めて会った時のこと覚えてる?」

「ああ、私がメンタルモデルだったことに興味津々だったな。」

「あれには理由があるの。お父さんが霧についていろいろ調べてて、その時対立してる霧と仲良くなれないかって考えてたの。

お父さんは私に霧とはどういう存在なのか聞かせてくれたわ、平和的な個体、個性的な個体もいるはずだと。今は対立しているけれどいつか分かり合える時が来るんじゃないか、って。」

「(琴乃の父親も翔像に近かったのか…。だが当時の状況から推測するにそれは難しかったと言えよう、人類と霧、双方が和解という選択肢を拒絶していた以上は…。

そして琴乃の父親は霧との戦闘で戦死…。霧と和解しようという考えが組織的に受け入れられなかった以上、殺されやすい最前線に送り込まれるのも、必然か…。

ふっ、いろいろと己が欲の赴くがままに暴れ回ったとはいえ、最終的に私は群像やヤマト、ましてや彼らの願いを聞き、実現させているな、結果論として。結果良ければ全て良しという諺に従って言うならば、それは自身のために誇っていいことだろう…。)」

「智史くん、今、嬉しそうな顔をした?」

「…ああ。お前の思い出話を聞いて自分のしたことは自身の欲望のままにやったところがあるにせよ、誰かの幸せになり、誰かの望みを叶えられたのだなと思えて少し自分に自信が持てた。ありがとう、いつも我儘な私の側に居てくれて。」

「…よかった。そう言って貰えるなんて。私こそ智史くんと一緒にいれて嬉しい…。」

琴乃はそう言うと智史に顔を近づける、智史は少し恥じらい、緊張しながらも琴乃と静かに唇を重ねる、そしてお互いに顔を深く密着させた。

そして甘い時間がしばらくの間流れたーー

 

それからしばらくして。

 

「さて、皆の疲れも取れたことだし、次は、とあるシリーズの世界系に行くとするか。一方通行、僧正、エイワス、上条当麻…。ふふふ、こいつらを一方的に蹂躙したくて仕方がない。」

ーーメタとして付け加えるが、私の事は私のことを快く思わぬ奴らが私に関することをばら撒いたお陰で、とっくに知られているな、何せ無数の世界を一発で焼き払ったのだから、警戒を感じない方がおかしい。恐らく学園都市に乗り込んだ場合、学園都市の委員会、いや最悪この世界系に踏み込んだだけでこの世界系全ての軍隊、武装組織が私の迎撃に乗り出してくるだろうな。まあよい、その予測に応えるようにして己を更に更に鍛え上げ、奈落の果てまで徹底的に叩き堕としてやろう。今のままでも十分に余裕で勝てるがやっぱ何処か満足出来ん。

智史はそう呟き終えると自身の身体であるリヴァイアサンを起動させる、そしてリヴァイアサンに蒼い龍のバイナルとイデア・クレストが灯る。そしてリヴァイアサンはとあるシリーズの世界系に向けて航行を開始する。

霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサン=海神智史のことを知らされたアレイスター=クロウリーとエイワスはともかく、この世界系の外を知らない、いや知ろうとしなかった僧正、一方通行、上条当麻に容赦なく“ツケ”は牙を剥いで襲いかかろうとしていたーー




おまけ

ドラゴンボールの世界系の扱いについて

・最初は徹底的な蹂躙を考えながら執筆していた
・だが色々と調べているうちに散策の話が出てきた
・皆殺しと徹底的な蹂躙では孫悟空と『マトモ』に戦ったことにはならない(個人的な感想だが、ドラゴンボールのキャラ達は何処か魅力的な雰囲気があった為)のでそこは極力避けてあくまでも親善鍛錬試合(?)に近い感じで話を進めることにした


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第44話 否定される『魔術』と因果関係

注意

この小説はアンチヘイト満載です。
この小説を読んで不快な思いをされても責任は取りません。
今回はとあるの魔術サイドが酷い目にあいます。
とあるシリーズの説明色々読んで書きましたが、もし不足があったら知らせてください。必要があれば対応します。
多少スランプ状態で書いたので投稿遅れてすみません。
それではじっくりとお楽しみください。


「リヴァイアサン…。ヘブライ語で「渦を巻く者」という言葉を語源として生まれた言葉…。旧約聖書では最強の生物と定義された存在…。その名を冠した『存在』は全てを焼き尽くす炎を放ち多くの世界を悉く焼き払い、行く手を阻む者を次々と引き裂き葬った…。まさにリヴァイアサンの名にふさわしき所業だな…。」

「彼のことをこの世界では知らぬ者達から聞かされた時は少し驚いた、この世界の外から『災厄』がやって来ることなど殆ど聴いたことがなかったのだから…。」

「だが彼らの表情、態度に偽りなど見当たりはしなかった、このことから推測するにこの世界は彼の手により呆気なく踏み荒らされ、壊されてしまう可能性がとても高い…。」

「実際にこれまでにない禍々しい何かが迫りつつある、あらゆるものーー魔神達さえ霞んで見えなくなってしまう程、いやそれ以上の力を持った何かが。そうならば我々の夢は早々と潰えるのかもしれない、全てと共に。そしてこの世界は彼の草刈場となるだろう…。」

学園都市の中枢部に聳える窓のない構造物の中にある生命維持槽の中にいるアレイスター=クロウリーとエイワスはそう会話をする、エイワスはヒューズ=カザキリ(風斬氷華)を製造ラインにして、この世界に現出した存在であり、アレイスターに知識を必要な分だけ授けた存在である。

 

「だが、何もしないわけにはいかない、少なくとも実力で勝てる可能性はほぼ皆無だ、我々だけならまだしも、この世界の全ての力をぶつけても勝てる存在ではない…。そんな存在と戦うのはあまりに無謀すぎる…。」

「実力ーーそれ以外ならば勝機はあるかもしれない…。」

「どういうことだ?」

「彼を話し合いをし、何らかのパイプラインを持つ…。そしてそこに策を絡める…。上手く行けば我々の夢ーーこの世界から魔術を消し去るという願いを叶える方向へと持っていける筈だ…。」

「しかし我々の話を聞いてくれる相手ではなかったらーー言うまでもないか。」

「承知している、だが実力で相見えるよりは可能性はまだ残っている方さ…。」

2人はこの世界から魔術を消し去るという計略の為に静かに策を進める、智史に聴かれているのも知らぬままーー

 

 

アレイスターとエイワスは己が欲の為に私との交戦を避け、私を利用する肝か、面白い。圧倒的な『力』で踏み躙ったところで改めてゆっくり話を聞いてみよう。まあまずは僧正を踏み潰してからだな…。

とあるシリーズの世界系の外に停泊しているリヴァイアサンの艦橋で智史は興味深そうにそう呟く、そして智史は時空を強引に捻じ曲げ、とあるシリーズの世界系に乗り込み、いきなり僧正達魔神がいる隠世に強引に踏み込んだーー

 

 

ーー隠世

 

「ん?お前さん何もんじゃ?只ならぬ気配を纏っているが…。」

「ジ、ジィージィ、これやばそうな感じじゃ…。何か現世の方でやばい奴が来るって話があったけど、まさか本当に…。」

「あの若造、アレイスターの奴とは一味違うみたいだな…。だがワシは魔神。現世の者達とは全くわけが違うのじゃよ。」

「現世も、隠世も、あまり関係ない感じで吹っ飛ばされるんじゃ…。魔神でも太刀打ち出来ないのでは?」

突如として現れた智史に困惑しかし戦慄する、僧正を除く隠世の者達、だが僧正は自分が最強の存在であると確信しており、彼に臆することなく戦いに臨もうとする。

 

「我ら魔神は“無限”の力を持っておる。何の策も講じずに下手に世界に足を踏み入れれば世界が我らの無限の容量に耐えきれずに崩壊してしまうのじゃよ。」

「成る程、この世界の中では“無限”と言い切って構わんだろうな。だが私はこの世界の存在ではなし、お前達に生み出されたものではない。さあ、“無限”と何処まで言い切れるかな?」

「ふふふ、こちらを盛り上げるような高慢な言い回しをしてくるのう…。行くぞい!」

僧正はそう言い終えると智史の方を見て1つ瞬きをする、そして泥で出来た巨大な腕が智史に襲いかかる、それは一発で宇宙一つを軽く破壊出来る威力を持つ代物だった、だが智史はこれを呆気なく防ぎ、この魔術に使われていたエネルギーも一瞬で一緒に分解吸収して己のものへと変換してしまう。

こんなこと普通ーー常人達の域で言えば『あり得ない』のだが、常に強化・進化を続け、更にはそのペースを言葉では言い表せないほどに上げまくっている智史にしてみればこんな攻撃も大したことではなかった。

 

「ほう、土か。神道において死とは「穢れ」を意味し、死体を土中に埋葬する葬法「土葬」は穢れを隠す側面をもつ。日本では仏教と共に火葬が伝来するまでは土葬が主流だった。これは日本各地に根付いた土着信仰、神道の風習が背景にある。それを先ほどの攻撃のモチーフとしているのか?」

「な、なんなのこの余裕…。ジィージィ、やっぱこいつヤバそうだよ…。早く締めにしようよ…。」

「ふふふ、これは小手調べじゃぞい…。やっぱお前さん面白そうじゃな…。久々に魔神の本領を叩きつけられるような強敵が現れて、嬉しいぞい!」

そして僧正は智史を蹂躙しようと襲いかかる、この後蹂躙される相手が自分自身と知らぬまま。それはともあれ彼は肉弾戦を挑む、無数の泥を纏って強度を増したーー並の方法では砕くことも出来ない程の強度を持つ拳が智史に向けて放たれる、しかし智史はこれを受けても全く涼しい顔だった、その場を動かぬまま気持ちよさそうにその全てを受け、そして先ほどと同じく吸収して己の力へと変換してしまった。

 

「土を浴びるのは好きではないが連打(マッサージ)は大歓迎だ。もっと殴って気合と元気を私にぶち込んでくれ。」

「な、何ぃ⁉︎良かろう、お前さんの気がすむまでもっと殴ってやるぞぃ‼︎」

そして僧正は智史をもっと殴りつける、しかし結末は残念かな、先ほどと同じだった。

 

「どうした、もっと強く、たくさん殴ってくれ。これでは凝りが取れなくて気合も元気も入らん。」

「ええい、もっと殴ってやるわぁぁぁ‼︎」

智史の『挑発』に更に激高した僧正は無我夢中に殴り続けた、判断する精神的余裕や肉体的余裕も完全に失って。やがて“無限”の力を持っている筈ーー無制限に殴打のペースを増大し続けられるーーの僧正の動きが鈍ってきた。

 

「どうした、ごちゃごちゃとうるさいな。これでもうお終いなのか?何か物足りないな。」

「な、何てやつじゃ…。もう堪忍してくれ、疲れた…。」

「“無限”と言ってはいたもののやはり事前に見て調べ上げたとおり、その力は無限ではなかったな。測りきれなかったから無限と確信してしまったのだろう。どうだ?自分の力が“無限”であるという高慢が崩れた気分は。」

智史はそう冷たく、嘲笑うようにして言い放つ、老人の姿をしていようとも見た目に惑わされることなく。

 

「ついでに言っておくが無限の“モノ”は存在はしない、よって私の力も無限ではない。無限に存在する事象は時間の流れぐらいだ。

だがお前は自分が無限の力を持っていると慢心した、まあ己を脅かす、己に比類する力を持つ者、己が踏み潰したいと思うものがいなければそうなるな…。

さて、今度は此方から行くぞ。凝りや疲れがたまっているようだな、なら有難い。この世界ーー隠世諸共お前の体が砕け散るまで『マッサージ』してやろう。」

「や、やめて、結構ですぅぅぅぅぅ‼︎」

智史はそう言いながら嬉しそうに手をポキポキ鳴らす、僧正はこの後自分を襲うものが何なのかを理解したのか甲高い悲鳴を上げて怯えて震え上がる。

 

ーードガガガガガガガガガガガ!

ーーズゴズゴズゴズゴズゴッ!

 

「いだだだだずげでやべで‼︎」

そして今度は僧正が先ほど自分がかましたモノよりも遥かに猛烈な殴打の嵐を見舞われる、逃げようとしはしたもののとても強力な拘束ーークラインフィールドによる強制固定(ご存知かもしれないが残念なことに自己再生強化・進化システムによってクラインフィールドを形成している“モノ”さえも彼ら魔神の位相による介入を悉く、徹底的に拒絶してしまう程、いやそれ以上に強靭になってしまっていた、その為破こうにも破けなかった)エネルギーベクトル操作能力、神経系への介入によるもの、更には念入りに時空空間への介入、転送も強引に拒絶ーーを受け身動きが全く取れない。殴り続けられても全くその場から動かない、いや動けない。強制的に破壊を受け続ける格好となっては、もう末路は見えていた。

あっという間に僧正の肉体は挽き肉同然、いやそれ以上に酷いことになってしまう、しかも彼が先ほど宣言した言葉の内容の通りに猛烈な殴打の余波ーー正確に言うとエネルギー衝撃波で周りのモノが一瞬で吹き飛び、いや隠世そのものが軋み、悲鳴をあげて崩れていき、彼が僧正を殴りつける度にその軋みと破壊は増大していった。

 

「さて、これで『施術』は終わりにしよう。ふんっ!」

「ぎゃはっ!」

 

ーーズガァァァァァァァン!

 

そして締めとして放たれた一撃により僧正は跡形もなく消し飛び、そしてその勢いで隠世は完全に崩壊してしまった、ぶっ壊れる様を詳細に見たのはこの世界を破壊した元凶である智史本人を除いて誰もいなかった、逃げ出そうとはしても彼の手により何重に、完全に『道』を塞がれてしまった為に逃げられぬまま破壊の嵐を受ける羽目となってしまった為だ。

こうして、とあるシリーズの世界系でしか通用しないとはいえ、全次元、全元素、全位相を完全に掌握し、世界を自由自在に歪め、作り、壊す事が出来るという“無限”に近い途方も無い力を持つ魔神達もそれ以上の力を軽々と振るってきた智史の前に呆気なく蹂躙されてしまった、それも鏡合わせの分割という『弱体』抜きで。

事前に超高精度(それも人類文明やそれを上回る高レベルの文明はおろか、あらゆるものを通り越して滅茶苦茶細かい、おまけに常に強化されている自己強化・進化システムでその精度、処理能力は滅茶苦茶すぎる程に強化され続け、おまけに智史の異常過ぎる超絶ペースの強化を促すのに一役買っている)で調べ上げていたことを考慮しても、一方的過ぎる程に強すぎた。

 

やはり無限のモノなど無いのだな、無限にモノは生み出せても。さて、世界が容量ーー負荷に耐えきれないとか言っていたな、その言葉を裏付けるかのように、ここの世界系の強度はとても低い…。やはり私も例外にあらずか。ならば掛かる負荷を軽減するとしよう、分割とやらで弱体という方法抜きの…。

智史はそう心の中で呟き終えると静かにアレイスター達が居る世界系へと向かっていくーー

 

ーー学園都市中枢部

 

「やはり、消し去られたか…。」

「ああ、隠世諸共、跡形もなく、だ…。」

「魔神は無限の力を持っているとされていたが、所詮は単に数え切れない、把握しきれない有限でしか無かったか…。」

そう会話するアレイスターとエイワス。彼らは智史がそこでどういうことをしたのかは詳しくは知らなかったものの、隠世が崩壊し、智史がこちらへと向かってきていることから、僧正達魔神が敗れ去ったということを理解した。

 

「鏡合わせの分割、それに近いようなものをし、世界に負荷を掛けないようにしなければ足を踏み入れただけでここは崩壊するだろう、もし何の策も講じずに無闇に入られたら我々には破壊以外の結末は無い…。」

「彼は魔神を越えてみせた、当然彼は魔神ではない、この世界を壊さないように『分割』のようなものを掛けてくれるとは限らない…。」

 

ーードガァァァン!

 

「来たか…。世界に、負荷は掛けないようにはしてないようだな…。」

「だが、『分割』は行っていないようだ…。」

「やはり魔神とは訳が違うか…。まあいい、魔術を消し去るように事を動かす為に策は講じた、後は話がうまくいくかどうかだ…。脳幹、その為によく頑張ってくれた…。」

「別に気にしなくていい、ただ君の為に為すべきことをしただけだ。彼を通そう。」

そう会話する木原脳幹(イヌに高レベルの演算回路を取り付けた存在といった方が適切)とアレイスター、彼アレイスター=クロウリーは己の策をうまく進めてくれる為に色々と尽力してくれた脳幹に感謝していた。そして程なくして、智史が脳幹に連れられて彼らのいる生命維持槽がある部屋へと現れる。

 

「はじめまして、かな。この学園都市の総括理事長、アレイスター=クロウリー殿。」

「そうだ、君が『リヴァイアサン』の名を冠する存在か…。」

「如何にも。同時に『海神智史』という名を冠する存在でもあることも覚えて頂きたい。」

「なるほど…。早速で済まないが、小手調べをさせてくれ…。我々は君の凄まじさを先程見せつけられたがそれをもう少し具体的に知りたい…。」

「承知したーー戦う相手は貴君の切り札ーー聖守護天使エイワスでいいのだな?」

「そうだ…。エイワス、始めてくれ…。」

アレイスターの言葉に従い、2人は相対する、そしてエイワスが小手調べとばかりに強烈な一撃を放つ、これは地球はおろか、太陽系を軽く消し去る一撃であった、余程実力が高くない限り、これに耐えられるものはこの世界には存在しない。

しかしリヴァイアサン=智史は彼アレイスターの期待通りにこの一撃を難なく防ぎ吸収してみせた、凄まじ過ぎる自己進化のお陰で宇宙を10の10億乗も破壊できるエネルギーを受けてもケロリと吸収してしかもその全部を自己強化に回せることが出来てしまうという、こんなもの見てしまったらもう酷すぎてただ笑うしかない程強すぎるのだ、むしろ太陽系を軽く滅せる程度で殺傷できること自体がまずあり得ない。

 

「今度はこちらかな、はっ」

 

ーードゴォン!

 

「つ、強い…‼︎」

お返しとして智史からも一撃が放たれる、それはエイワスの自殺防止機構ーー無意識にでも攻撃を防ぎ自動的に反撃してしまうーーを反撃さえ許す事なく軽々と突破した、エイワスは恐るべき相手だと改めて理解する、何せ一方通行の黒い翼さえ弾き圧倒したモノを藁の家を消し飛ばすかのように軽々と破ったのだ、しかも殆ど威力を損なう事なく。幸いその一撃はエイワスを襲う前にエネルギーベクトル操作能力により消滅したものの、彼がこちらを殺す気であったらその個体共々一瞬にして消されていただろう。

一瞬、それは分からないと考えてしまうかもしれない。確かにエイワスはヒューズ=カザキリを核とし、AIM拡散力場を集合させることで現出した存在であるが故に今ここにいる『自分』を消されても問題はないものの、自分は『無限』ではない。しかもこれは『自分』が一箇所に集中していなければ成り立つ話で、もし彼エイワスを消そうと彼、霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサンにしてその意識体、海神智史が本気を出したらこの場に『自分』を集約させられて消されてしまうのだ。

こんな芸当も常識的には不可能だが智史には容易く出来てしまう。それは進化のペースも含めたあらゆる面の強化も推し進めたが故に戦闘能力は勿論の事、対応・対処能力も最早常識を逸脱して異常過ぎるまでに強化されてしまったからこそ、出来てしまう事であった。

 

「もうよい…。君が私達の話を聞いてくれそうな相手である事は先程ので十二分に理解できた…。」

「この話の本腰の入れ具合は、どれぐらいかな?」

「もし食い違った際、君にまとめて殲滅されることも覚悟の上でここに臨んだ…。食い違い、自分の為にならぬ者は普段は排除しているが、こうも力の差が違いすぎるのであれば、そうするどころかこちらがあっさりと消されているだろう…。だから君にいつでも殺されるという覚悟はもう出来ている…。」

「なるほど…。そこまでの覚悟をしてまでやりたいのだな、この世界から魔術を消し去るという計画を。」

「そうだ…。そして我々は君の強大な力を理解した、それを見込んで魔術を消し去る方へと事が進むように君を道具として使う予定だ…。我々の策に、手を貸してくれるか…?」

「ふふふ、やられたわ…。了承した、私は元々『魔術』にいい印象は抱いていないのでな。『魔術』を消し去るのに喜んで協力しよう。

そしてここ学園都市に世界中の魔術側の者達が集結するように仕組んだらしいな、私がこの世界にしてみれば重大な脅威であるという事を逆手に取り私を使って一気に彼らを殲滅する算段か。」

「ああ…。彼らは我々の策にはまってくれたようだ…。」

そう呟くアレイスター、彼は重大な脅威である智史がここに来るという話を逆手に取り、智史が自分と同盟してこの世界から魔術を消すという噂、情報を広めたのである。普通これは希望的観測、ご都合主義だと言えてしまう事なのだが、そう見えても成立すればそうとは言い難くなる。そしてそれは智史が彼との協力を成立させた事で実際に現実味を帯びていたーー

 

ーードゴォォン

 

「アレイスター、彼らが来たようだ。」

「そうか…。さあ、リヴァイアサン…。真髄を思う存分彼らに見せつけるがいい…。」

外で爆発と轟音が複数生じる、警報を示すモニターが部屋の中に無数表示される。彼らがこの近くに来ているという事は智史は初めから見通していたのであっさりと把握していた、脳幹とエイワスが出るのに合わせて、智史も嬉しそうに外へと出て行くーー

 

 

ーー同時刻 学園都市郊外

 

「リヴァイアサンは、アレイスターと手を組んだようだな。」

「はい、アレイスターの反応が確認されています、そして未確認の巨大な反応も…。」

「アレイスターは奴を使い一気にこの世界から魔術を消し去るつもりだろう。幾ら策を講じて手駒の消耗を恐れて小競り合いをやったところで、奴を止められなければ意味がない。それに魔術にしてみれば重大な一大事だというのに内輪揉めは危険すぎる、下手をすればこちらが各個撃破されかねん。」

「この世界の外から来た者達がその存在について我々に警告しました、『あの存在、リヴァイアサンは我々以上ーー魔神達さえ上回る圧倒的な力を振るい、この世界に巨大な爪痕を残し、最悪焼き尽くしてしまうかもしれない』と。そしてその言葉の通り既に魔神達がその存在により叩き潰されています、脅威としては十分すぎるほどです。」

「幸いアレイスター自らが奴と組んで魔術を消し去ると自ら警告してくれた。お陰でアレイスター討伐という大義名分が出来、大事になる前に全ての魔術の人間が団結してここに集結している。幾ら奴とて、この数と我らの全力を以って畳み掛ければ殺せなくとも、勢いはかなり削ぎ落とせる筈だ。そしてそこを理想送りでトドメを刺す。」

「そしてその存在の勢いが落ち、理想送りで葬り去ったところでアレイスターを殺す、と…。成る程、犠牲は沢山出ますが、最も現実的な戦略ですね。ですがあのアレイスターがこうもあっさりとあの存在と手を組んだ事を公表すると思いますか?少なくとも普通は隠し通す筈です、何か、裏がある筈では?」

そう会話するのは英国女王のエリザードとロシア成教総大主教、クランス=R=ツァールスキー。彼らはこの世界にて重大な影響力を持つ大組織のトップであった。

彼らはアレイスターがいつもとは異なる動きをしている事に僅かながらも不安を抱いていた、彼らとて無能ではなく、リヴァイアサン=智史がここに来るという事前情報、そして実際に隠世を滅したことで危険性を実際に認識してからは、できる限りの情報収集をしていた、お陰で魔術の人間達は智史が自分達を、この世界を脅かす重大な脅威であるということを素早く認識できた。しかし想定外の事柄が突然として発生するという状態が具現化した、しかも自分達が物理的に認識できるようになってから急に事が進んだために相手の把握が間に合わないという状況下であった為に、まだ明らかになっていない不確定事項(鏡合わせの分割といった弱体化がされてないということも含まれる)が多数あり、智史が自分達の予測を遥かに越え、悉く常識、法則を逸脱し捻じ曲げてしまう強大な存在であった事を理解しないまま突っ込むこととなってしまったーー

 

 

「来たか…。」

学園都市中枢部の窓のないビルから出て、しばらく歩いた智史、学園都市というだけあって大都会だった、彼の元の世界の大都会に近い物が沢山そこにあったものの、何処か雰囲気が違っていた、攻撃で幾つかが破壊されてしまったこともあったのだろうか。

そして辺りを見回すと沢山の魔術師達が居た、皆の半分は死ぬ覚悟を固めていた、魔術の世界が守られるなら自分の身などどうなってもよいと。もう半分はこの世界の脅威たる彼を倒す事で名声を得ようと希望的観測で頭を満たしていた。

トップはーー目の前にはいないようだった、最前線で士気を鼓舞するのは戦闘意欲を高めるのには十分だがそれ故に殺されるリスクも増大する、リスクが未知数なところもある上にトップたる自分達が死んだら今後に悪影響が出るということを憂慮した最高指導層は後方で戦略を練りながら指揮をとるようにしたようだ。

 

「リヴァイアサン、魔術を守る為にお前を討伐する!」

「そうよ、あなたを使ったアレイスターの企みも一緒に!」

「私を倒し、私が持っている名声と権力を得ようというのか、面白い…。さあ、全てをぶつけて来るがいい、そして何もかも無へ還そう!」

智史は嬉しそうにそう呟き戦端は開かれた、そして無数の魔術師達が呪文と共に智史に魔法を叩きつける、爆発と閃光、土煙により智史の姿が霞み、見えなくなる。その光景は無数の花火が花開ているかのようだった。

晩餐の魚、グレゴリオの聖教隊といった大魔術さえ投入された魔術のオンパレードである、普通こんな猛火力をぶつけられるような環境など発生はしないのだが、相手が相手である、それ故にこのオンパレードは発生した。智史は特に反撃もすることなく何も動きはしなかった、だが彼は『化け物』である、彼はこの猛攻撃を難なく耐え凌ぎ、しかもお約束とばかりにその攻撃のエネルギーを術者のエネルギーと一緒にどんどん奪い吸収して己の更なる強化の一助にしてしまった。

 

「こちらヴォジャノーイ、魔術師達の魔力が吸い取られていきます!このままでは持ちません!」

「まずい、生力まで吸い始めたぞ!」

「単に魔術をぶつけるだけでは駄目か。オマケに魔力だけでは飽き足らずに貪欲に命まで食らい始めたか…。ならば殺られる前にとっとと全能の力を用いて切り裂くしかねえな!」

智史に攻撃だけでなく、魔力も命も無茶苦茶なペースで吸い取られて攻撃のペース、質も、存在価値さえも落ちていき次々と倒れていく魔術師、修道士達に代わり、グレムリンのメンバーの1人、トールがリヴァイアサンごと海神智史に突っ込んでいく。

 

「こんにちは、リヴァちゃん。魔神吹っ飛ばすとか、なかなかやるみたいだね。こんな強敵は久しぶりだ!だが悪いけど、最後に勝つのは俺だ!あんたは俺をより強くする為にここで死んでもらうぜ!」

「この世界基準で言えば、全能神に該当する存在か…。いいだろう、歯応えのない根性無しばかりで困っていたところだ。その言葉に則り、お前を葬ろう。」

「いい答えじゃねえか、行くぞ!」

トールは両手両足にはめたグローブの指先より噴出する雷光の溶断ブレードを急激に噴出させることによる空気の膨張爆発を自身を加速するブースターとして使用して智史に迫る、それは恐るべき速度だった、極超音速に匹敵するほどの。だが智史は全く怖気付かない、寧ろ嬉しそうに不敵に微笑んでみせた。

 

「行くぜ、リヴァちゃん!あんたのような魔神を軽々と吹き飛ばし、多少の細工程度は全く通じねえような相手、全能の力を全力で叩きつけるに相応しいぜ!てやぁっ!」

そしてトールは両手両足にはめたグローブの指先から雷光の溶断ブレードを展開し、智史に斬りかかる、そのブレードは最大で2キロまで伸長し、腕の一振りで学園都市の学区一つを破壊し尽くすことすら可能な代物である、全能の力を解放していない状態でこの威力である、全能の力がここに加わったらその威力は計り知れないものとなる。

 

ーーこの世界基準ではそう言えるのだが。

残念な事にそれは単なる数え切れない『有限』なのであって『無限』ではない。そして『力』の法則から見るに、力の優劣で全てが決してしまう以上、トールを軽々と凌ぐ力を持ち合わせ、しかも彼を完全に突き放す勢いで進化を続けている智史が圧倒的、否一方的に有利であり、おまけに彼の事も含めたこの世界の事(法則も含む)を殆ど知ってしまっているのだ、この攻撃を防ぎ吸収し己の力へと変えてしまうのは当然の事であった。吸収するのを利用して乗っ取ろうとしてもその前に徹底的に破砕分解された上で吸収されてしまうのだから乗っ取ること自体が不可能に近い程極めて困難である、したがってその逆など全くありえない。智史はそれを易々と防ぎ、己の力へと変換してしまう。

 

「やっぱ化け物じみてるぜ!こりゃ戦い甲斐がありそうだ!」

「嬉しいぞ、幻想の敵を磨き台にして強化・進化しまくるのもいいがこうも実際に戦うのもいい。」

トールの全身全霊を込めた攻撃を智史は圧倒的な力で無力化、吸収した上でその光景を堪能している、そしてその頃ーー

 

「晩餐の魚やグレゴリオの聖教隊を諸に受けても膝を屈さなかったか…。トールが奴と戦っているが、あいつも全く歯が立たん…。想像以上の化け物だな…。」

「ならば我らロシア正教の大魔術、七つの大罪で削り取りましょう、完封は出来なくても理想送りをスムーズにやる為にはこれしかありません。」

「ああ、幸い幻想殺しやアクセラレータももう直ぐ奴と激突する。その隙を突くようにして一気に押しきろう。トールには悪いが、これが奴を消耗させるには適切な作戦だ…。しかし何か胸騒ぎがする、普通に科学勢を一気に引き潰せるこれだけの兵力を叩きつけてもケロリとしている、しかも我々の考えを理解しているような素振りを見せながら避けようともしない、その内面は覚悟ではなく余裕…。何なのだ、このあと途方もないことが起こるような予感は…。」

「私も同感です、把握しようと努力して今も情報を入手し、彼を追い詰める策を着実に練っているというのに。これが杞憂ならばいいのですが…。今は策を着実に進めましょう。」

エリザードとクランス=R=ツァールスキーは智史の余裕に満ちた嬉しそうな表情を見て半ば不気味な感情ーー恐怖を抱かずに居られなかった、こちらの策を分かっているかのような表情とそれを避けようともせずに嬉しそうに受けているのだ、通常ではありえない光景である、こんなものに不気味な感触など抱かない訳が無かった。

2人は着実に策を進める、しかしこの恐怖は間もなく現実となって襲いかかろうとしていた。

 

 

ーードゴォン!

 

「へぇ、へぇ…。やっぱあんた最高だぜ…‼︎」

「こっちが持っている力に怖気付くことなくただ己を強くする為に戦う、か…。殺すには少し惜しくなってきたな。」

「こんな言葉を口にし、隙もなく、しかもこちらの成長に応えるかのように滅茶苦茶に強大に『成長』しているのか…。随分と余裕に満ちてるじゃないの…!」

あの後トールは智史に散々に斬りつけ、数十メートルの幹線道路を丸ごと持ち上げ叩きつけたりしたが、悉く防がれ吸収され結局全てが智史に届かなかった。そしてお返しとばかりに見舞われたキングラウザーの一閃で彼は大きく吹き飛ばされる、簡単に殺さないように加減はされていたものの、全能の力を以てしても防ぎきれない程の威力を持った一撃だった。仮に全能の力を用いて勝てる位置に移動しようとしてもそうする前に当てられたら意味もなく、移動しても逃れられない、外さないように強引に空間や法則を捻じ曲げられては逃げる行為自体が無意味だった。

トールはこんな化け物じみた相手と戦っていることにこれまでにない喜びを感じていた、何せ彼は強敵と戦闘を行い、「経験値」を得ることで『成長』したいという行動原理を智史という化け物と戦うことで大いに満たせているのだから。

 

「さあ、もっとあんた自身も、俺も『成長』させてくれ、リヴァちゃん…‼︎」

 

「待ちやがれ!」

「来たか、興削ぎが…。」

「当麻ちゃんと、アクセラレータか…。ここはあんたらが来る場所じゃないよ…。あんたらをボロクソにできる俺がこの様なんだ…。そしてあいつと俺だけの楽しみ、邪魔しないでくれるかな?」

乱入するように現れた上条当麻と一方通行、それにより興を削がれた2人は不機嫌になる。

 

「てめえ…。アレイスターの野郎と協力して魔術を滅ぼすだと⁉︎何考えてやがる⁉︎」

「単に魔術にいい印象を抱いてないから総括理事長殿のお誘いに付き合ったまでだ。」

「ふざけんな、エイワスのことは知っているのか⁉︎」

「エイワスが現世に現出する為に打ち止めに多大な負荷を掛けていることだろう?私は彼女等に関心は無い、寧ろ御坂美琴本人の何の対処策無しの自己満足、偽善の為に他者に多大な迷惑を掛ける態度に嫌悪を覚えるぐらいだからエイワスが多大な負荷を掛けて彼女等を使いつぶしても全く気に掛けなどしない。」

「な、なんだと…⁉︎」

「そして貴様等が来ることは既に知っていたにせよ来たら来たで鬱陶しい。そして貴様等を蹂躙したいと元から考えていた、だからこの際塵芥残さず滅殺してくれよう。」

「このクソ野郎が…。その口、黙らせてやる!」

完全にブチ切れた一方通行はアクセラレータを行使して智史を粉砕しようとする、一般人のものとは思えない程の破壊力が秘められた一撃が智史に襲い掛かる。だが智史はこの一撃をあっさりと防ぎ、取り込んでしまった、既に力量の差が開き過ぎてしまったが故に。

 

ーーバガァン!

 

「げぴゃっ‼︎」

そして智史は力業でアクセラレータの能力を強引に打ち破ってしまう、その一方的な力を伴ったエネルギーベクトル操作による一撃で一方通行はベクトル操作による防御さえ許されずにミンチと化して周りのものを吹き飛ばしながらビルの残骸に叩きつけられる、一際と大きな砂煙がその場所から上がる。『一方通行』の名を冠する存在は、皮肉にもそれ以上の力を持つ存在によって一方的に、それも一撃で叩き潰された。

 

「くっ、お前の信条は何だ⁉︎」

「『力こそ正義』だ。そして私は自分がよければあとはどうなってもいいと考えている。」

「ふざけんな、その自己中心的な信条のせいでどれ程の人間に不幸を撒き散らしたんだ⁉︎力があれば何でも許されると思っているのか⁉︎その幻想をぶち殺す!」

一方通行が一撃で瞬殺される光景を見せつけられた上条が幻想殺しーーイマジンブレイカーを解放して挑んでくる、智史にその幻想殺しが通用しない、仮に効いたとしても力技で押し切られるのが関の山だと考えていても。そして見えていたかもしれないが、その考えは悪い意味で的中する、智史はまず幻想殺しで相殺できるような攻撃を殆ど使ってこない、というかいずれもが幻想殺しで殺せる域を超越している為だ。仮に幻想殺しで相殺できる攻撃を用いてきたとしても圧倒的、否一方的としか言いようのない力に任せたごり押しで押し切られてお終いである。

こうなってしまったのも日々続けてきた異常過ぎる程の強化・進化のし過ぎのお陰なのだ、進化というものは実に恐ろしい。

智史は突っ込んできた幻想殺しを纏った上条の右腕を思いっきり掴む、そしてギリギリと締め付ける。

 

ーーバキィッ!

 

「ゔがぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

智史は上条の右腕を握り潰してへし折り、そして上条の腹を軽く(だがこれでも滅茶苦茶重い)蹴り飛ばす、へし折られたことで強度が落ちていた右腕は吹き飛ばされる本体に付いていけずに一瞬で引き千切れた。そして上条は一方通行が叩きつけられた同じ場所に重なるようにして叩きつけられる。

そして智史は右手を突き出し呟く、

 

「冥土の土産だ、御坂美琴に宜しくな。」

 

ーーキュォォン!

 

ーーブォォン!

 

ーードゴォォォォォォォン!

 

「い、今の美琴ちゃんのとポーズは同じだけど破壊力、やばくねぇ…⁉︎名前、何っていうの?」

「『レールガン』だ。御坂美琴がよく使っている擬きと混同するな。」

「す、凄え…。一発で当麻ちゃんとアクセラレータを魔術師達、街や山ごと跡形もなく吹っ飛ばすなんて…。美琴ちゃんが完全に霞んでるぜ…。」

そして甲高く力強い発射音が轟き、強烈なエネルギー衝撃波を伴い、右手から青白い光弾ーーレールガンが放たれる、それは上条と一方通行が居た場所を背後の山々、否日本列島そのもの、そして海を切り裂きユーラシア大陸を吹き飛ばすようにして一撃で両断した、その跡には煮え滾る切断面が残っていた、彼の右手から放たれたその一撃に戦慄しながらも彼を褒め称えるトール。

智史はそんな彼を一暼しながら、自身の目の前に完封出来ると希望を信じて現れたロシア正教の魔術師達ーー七つの大罪で完封しようとTV局が用いるような機材やスピーカーを構えていたーーを睨みつける。

 

「『七つの大罪』という視野狭窄状態の難癖の当てつけで私の力を削ぎ落とす気か?笑止。やれるなら、やってみせろ。」

「その言葉、後悔するな!」

智史の挑発に応えるようにして七つの大罪の術式が発動する、強引な当てつけ断罪が智史に襲い掛かる、内容は相手の行動や思想にその断罪の象徴である、「色欲・傲慢・怠惰・暴食・嫉妬・強欲・憤怒」を当て嵌めて断定し、 それを相手が認める毎に相手の力を1/7奪うものだった。智史は自分に当てはまるものは認めた、しかし認めても、力を奪わせようとはしない、否そうとさえする必要もなさそうに嬉しそうに余裕の笑みを浮かべていた、何故ならーー

 

「な、何だと⁉︎こ、これ程とは…。」

「そ、そんな、『七つの断罪』が、効いていません‼︎」

「ダメです、あまりにパワーが強すぎて全く封印できません!それどころかこちらの術式の魔力が全て吸収されてしまっています!」

「魔力低下ーーまずい、魔力が術式諸共反転した!」

 

ーーズガァァァン!

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「ゔがぁぁぁぁぁぁぁ!」

「我らの同胞たる教徒達に威力を増し、逆流した魔力が流れ込み、教徒達を内から破壊しています!」

「つまり、失敗か…。何という化け物だ…。総大主教様は…?」

「威力を更に増して逆流してきた魔力を『七つの大罪』の術式と共にもろに受けて何も出来ずに戦死されました…。」

「くそぉ…、化け物め‼︎」

彼らに対して振るわれる圧倒的な力。

魔神達を隠世諸共消し飛ばした力。

彼らはその圧倒的な力を御すことが出来ず逆に押し負けて圧倒的な力の濁流の前に流されてしまった、彼らにして不幸だったのは鏡合わせの分割のような弱体をやっていないことを知らなかったことだった、もし知っていたらこんな無謀な計画などやりはしなかったのかもしれない、まあ戦うのを避けても強制転送とかでまとめてつまみ出されたりされたら全く結末は変わりはしないが…。

 

「何もさせないか、これ程までに酷いの見せられたら、ますますあんたともっと戦いたくなってきたぜ、でも…、そうだった、もうスタミナがねえ…。」

「そうか。まあ全能の力も含めた全ての力を行使したのだから仕方あるまい。さて、もうダラダラと戦うのは面倒くさいから、宣言通り『奴ら』を等しく殲滅するとしよう。上里翔流とやらも何もかも関係なくな。」

智史はそう言い終えると再び右手を突き出す、上里翔流を視線に捉えて。

 

「え、今度はこちらの」

「終わりだ」

 

ーーキュォォン!

ーーキュォォン!

ーーキュォォン!

 

ーーズガァァァァァン!

ーードガァァァン!

ーーボゴォォォォォン!

 

「ちょ、みんな焼き尽くす気ですか…?」

「焼き尽くす?気に入らないところを気遣い無しで気持ちよく吹き飛ばしているだけだが。」

「だ、だってあんなやばいことしたらこの星普通にみんな住めなくなりますよ…?」

智史は凛然としながらレールガンによる砲撃の連射を行う、それは理想送りでその攻撃自体を消し去ろうとしてオーバーフローで一瞬で吹き飛ばされた上里翔流だけでなく、周辺にいた魔術師達やエリザードも粉々に消し去った。しかしそれだけで飽き足らずに魔術側の拠点が集中しているヨーロッパも、その他魔術組織が存在する地点も、魔術に関連するものならば皆関係なしに容赦なくその射撃を撃ち込み、宇宙を舞い射線上にあるもの全てを巻き込み破砕しながら着弾し、巨大な爆発を次々と巻き起こして跡形もなく殲滅してしまった。

勿論これによって生じた熱量は凄まじい。これを放置しておくと当然地球は灼熱の死の星となってしまうので原子・粒子運動エネルギーベクトル操作能力で熱エネルギー量を強制減衰させて着弾前と同じ熱環境にし、更に物質生成能力を用いて消し去った分と同じ体積量の海水と、抉り取られてマントルむき出しとなった所の『プレート』を補充した。

 

「これで抹殺対象は殆ど殲滅した。総括理事長殿の今後の統治に差支えがないレベルで。」

「す、凄すぎでしょ…。でも魔神達は『世界』を自由自在に改変できるやばい奴らということを考慮し、そんな奴等を次々と屠ったという実績を考慮するとこれだけのことが出来るというのも納得が行くぜ…。」

その常識などどこ吹く風と無視した光景にもうため息しか出ないトール、そこに脳幹が現れ、モニター画面を開く。

 

「ん?総括理事長殿か。派手にやり過ぎた、敵は全て葬ったが、自分の欲望の赴くがままに暴れたせいで学園都市の一部はおろか、この地球の半分を吹き飛ばし、クレーターに変えてしまった。人間も何も色々と吹っ飛ばして申し訳ない。」

「国家も人間も色々と消し飛ばしたことか…。そのぐらいのことなど計算内とはいえよいざ見るとなると目が回るな、だが巻き込んだにせよ、私の予測をいい意味で裏切り、魔術側に計り知れない程の致命的打撃を与えてくれたことには感謝したい…。」

アレイスターはそう呟く、リヴァイアサン=智史が想像以上の勢いで破壊を齎した事に多少ため息をつきつつ、本来の目的である魔術を消し去るという利害の一致による同盟をきちんと遵守してくれたことに感謝しながら。

 

「あとは我々がやろう、君には色々と我々が為すべきことをたった1人でさせられてしまったからな…。」

「面子を守りたい、か…。了承した。では私がこれ以上ここにいる理由は存在しないからここを去るとしよう。貴君との協力関係を築けたことに感謝する。」

智史はそう言いワープホールを開放する、そしてリヴァイアサンへと帰っていった。

 

「二大勢力の片側である魔術ーー俺達魔術側が壊滅的打撃を受けて完敗か…。しかもこちらの攻撃が何一つ効かない、大魔術も何もかも。寧ろ単に相手を更にパワーアップさせるものにしかならないというワンサイド過ぎて全く勝負にもならないという酷すぎる結末…。ひっでえ負けっぷりだぜ…。だがガチでぶつかれたからまだいいな…。強くなる為の経験も得られたからいいし…。しかし、これが不意打ちだったら憎しみで一杯だぜ…。」

「…当麻は、ねえ、当麻はどうなったの…⁉︎」

「美琴ちゃんか…。あの巨大な爆発、複数引き起こされたのを見たろ?あの爆発を引き起こした奴ーーリヴァイアサンごとリヴァちゃんが当麻ちゃんを殺したのさ、幻想殺しも、何もさせずに、一撃でな。」

「あ、あいつに殺されたというの…⁉︎当麻が…⁉︎」

「ああ、魔神達も理想送りちゃんも手も足も出ずにぶっ殺されたぜ、あいつを殺す?やめておきな、俺は兎も角あんたは絶対に無理。沢山の世界ーー宇宙を世界系という固まり諸共一瞬で焼き尽くした化け物だという話もあるぐらいだし、しかもこれではまだ物足りないって感じで貪欲に誰の追随も絶対に許さない勢いで強大になってやがるからな、当麻ちゃんにあんた敗れてるだろ、幻想殺しで。その当麻ちゃんを破った俺がなんだかんだで情をかけてもらって何とか首の皮一枚で繋がったって感じだ。もし情かけられなかったら嬲り殺しか当麻ちゃんや魔術のトップ達のように一瞬で消されておしまいだったぜ…。」

「そ、そうなんだ…。」

「(平気なように振舞っているけど、内心かなり傷ついているな、まあ突っ込んでも勝てないという現実を前にして何も手足が出ないんじゃそうなるよな…。)」

トールは内心でそう呟く、実際に先述したように智史は魔術側に一切の反撃らしい反撃もさせないという一方的な戦闘能力を見せつけた、そしてそこから放たれる圧倒的な威圧感に美琴は怯えて自分には何もできないという事を本能で戦わずして悟ってしまったのだ。

折角上条を引き止める為に行動したというのにその本人が見ただけでレベル5の第3位たる自分のプライドを砕くような一撃で死んでしまったのを知ってしまった美琴は泣き崩れ、もはや放心状態だった、取り巻きの仲間がそんな彼女を慰めようとするのをトールは静かに見守ることしか出来なかったーー

 

 

とあるシリーズの世界系の外にいるリヴァイアサンの一室ーー

 

「ただいま、ズイカク。いつものように暴れてきた。」

「今回もまた派手だな、大陸は指先から放たれた砲弾で切り裂くわ世界中のあちこちをクレーターに変えるわ。滅びないように加減していることは分かるがこれでも滅茶苦茶だぞ?」

「ああ、少なくともこの世界の住人達にはそう映るだろうな。」

「巻き込まれる側は無理やりいいように振り回されて堪らないだろうな、まあこちらに関わってくるような話じゃないからあまり強くは言えないけど…。ところでお前の事を知らせた輩が居たらしいが…。」

「恐らくアンチスパイラルと戦った時に無数の世界系を一気阿世に焼き払ったことと深く関わりがあるな。知らせるなら知らせるだけ知らせろ。ただし我が道を阻むようならば容赦なく蹴散らし、踏み潰すのみ。」

「そうか。まあ常に進化してるわそのペースは鰻登りだわそもそも上昇志向強いわで負ける要素なさ過ぎだからこう言い切れちゃうからな。あ、琴乃。智史帰ってきたし、一緒にこの前行った世界で買った物から料理作るか?」

「そうね、その時たまたまレシピ考えてた所だったこともあるけど、智史くん適応能力高すぎだから自分の好きなように凄まじい勢いで事を進めちゃうし。ちょっとは考えて欲しかったけど、これ以上は深く突っ込まないようにしましょう。」

「ありがとう、なら作るとしようか。カザリも呼んでくる。」

そして智史達は調理室へと向かい、これまで入手してきた食材を使って料理を作り始める。

 

「向こうの世界の様子、どうだったの?」

「学園都市ってものが存在した、規模的や様子的にはこれまで見てきたものとはあまり変わらない。」

「なるほどね〜。風車やソーラーパネル沢山あるけど、特にこれといったものは無かったみたいね。でも一度は歩いてみたかったわ。」

「学園都市は二大勢力の一つ、科学サイドの総本山だけあって最重要機密の塊だ、なのでその都市を守る自衛組織も実在した、学生や教員のみで構成されたものがな。」

「学生と教員ね…。徴兵制ではない事は確かだけど…。警察といった治安組織は無かったのかな?」

「無い。彼らがその役割を担っているからだ。話を変えるが、トールって奴と会った。奴は私と戦う事を己を高める事として戦いを望んできた。」

「あんな圧倒的な力を目の当たりにしても恐れずに突っ込んでくる人、居たのか…。智史くんもそういう心意義、あるかな?」

「…『ある』とは言い切れんな、だが私は私なりのやり方で行く、奴とは違うやり方で。相手を知り、己を知り、己を鍛え、より高めて。さて、ここの世界で欲望も満たしたし、次はワンパンマンの世界系へと行くとしようか。」

「ワンパンマンって、どういう存在なんだい?」

「一言で言うと地球を滅ぼすような敵も吹っ飛ばすような人の皮を纏った化け物だ、パンチ一発で。まあ私は奴やその周り、否この世界系そのものの事を想定し、対策を練り過ぎているから問題無い。」

「ぱ、パンチ一発って…。それじゃあ僕が戦ったら傷一つ付けられずに一発で吹っ飛ばされるの…?」

「まあそういう事だ、大事を引き起こさなきゃ吹っ飛ばされはしないがな。まずは世界系に紛れ込んで奴の動きを観察するとしよう、把握済みかつ対策済みとはいえど、奴から学べる事もまだあるかもしれん、特に人間性、日常性は。」

そしてリヴァイアサンはスラスターを吹かしてワンパンマンの世界系へと進んでいくーー

 

 

ーーほぼ同時刻、とあるシリーズの世界系付近

 

「畜生、奴が好き勝手に暴れたせいでこの世界のバランスが滅茶苦茶だ…。」

「そのせいで本来の時の流れとは異なる方向にされてしまっている、消されるのではなく、改変されてしまったからな、元に戻そうと関わると余計に面倒だぞ、仮面ライダーの世界系のように…。」

「くっ、単なる警告だけでは皆話を聞かずじまいで結局ダメだというのか…。」

「というよりも世界系の外を見る事を知らないせいで奴のような存在に関する事に疎いのだろう、だから説得が効かず、奴の脅威もあまり伝わらなかったのかもしれん。」

「何れにせよこのままではまずい、早くライトマサル様や他の方々に報告せねば…。」

まだ見覚えの無い姿をした者達が会話をしていた、智史を除くすべての者にしてみれば。彼らは世界系を管理する者達の手先だった、そして言わずもかな、リヴァイアサン=海神智史と彼らの間には少なからぬ因果関係が存在していたーー



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第45話 スーパーの特売日と破壊される『狂気』

今作は主人公、智史と敵対するサイドの話を冒頭に書きました。
第36話で智史がやらかした一部を除いた各世界系の無差別破壊、その詳細な被害規模は今作にて明らかになります。
あとワンパンマンの原作にあったスーパーの特売日ネタも交えてストーリーを練りました。
それではじっくりとお楽しみください。


「ベヒモス様、これはこれまでに無い異常事態ですぞ!」

「死んだと思われていたあの存在が、まさかあのような化け物と化して宇宙を荒らしまわるとは…‼︎なんという事だ…‼︎」

「異常事態だという事はもう分かっている、奴があの一発で焼き尽くした宇宙の数はおよそ2.875×10の5027万2912乗個だ。」

「なあっ!それは我らが至高神様が治められている全宇宙の18%を一発で焼き払ったという事なのか⁉︎」

「念に念を入れて追い詰め、弱らせ、引導を渡したというのに…。もう二度と災厄が起こらぬようにし、安泰な未来が永久に存在するようにした筈だというのに…‼︎」

「それを嘆いていても仕方ないだろう、だがまだ奴を止められぬわけではあるまい、ライトマサル、状況は?」

「“は、単なる警告だけではそこにいる者は奴を認識せぬ限り全く団結せず、我々が関わろうとしなかった事もあり、奴を全く止められませんでした、奴は次の世界系に向かったようです、今度は積極的に関わってみましょう。”」

「そうか、無理はするな。後詰めとして私も出よう、相手がとても不味すぎる、至高神様は?」

「は、それが大したことではないと言い全く腰を上げられずに日々侍女達と戯れております…。」

「奴を生み出した者の欠片を持っているが故に恐れようとしないのか、いやそのせいで己の力を過信し過ぎているのか…。何れにせよこのままでは拙いな、お力を貸されようとせぬ今、今あるものを使って奴に対抗する手段を編み出し、この事態を収拾へと導く糸口を作るしかない…。」

そう会話するベヒモスーー特徴は頭から猛々しい対を成す巨大なツノと猛獣の如き面構え、そしてそれに相応しい筋骨隆々とした身体、ツヤのある人のものならざる茶色い体毛で埋め尽くされた表面、その身体全身を覆う重厚な鎧ーーと側近、彼らはリヴァイアサン=智史の他者のことなど省みぬ傍若無人(彼らにしてみれば。智史にしてみればさらに強大になり、その圧倒的な力を持って強者を容赦なく甚振るという欲望を満たすための行動の一環である)な振る舞いに頭を痛めていた。

何れにせよ智史の行動を放置できない立場である彼らは策を練る、だがこれも残念なことに常に進化をし過ぎ、更には感性と観察眼を強化している智史の目にあっさりと、即座に止まってしまったーー

 

「さて、ワンパンマンの世界系か。やはり勝手にパンパンと進めないように気を使わなくては。強者と戦い己が最強というのを示すのもいいがそれではちょっと他の仲間を省みぬこととなってしまう。まあこれも見返りを求めた自己満足かもしれんが。」

「そこまで思い詰めなくてもいいわ、どうしてこう考えてしまうのかは分かる。向こうはどういう環境なの?」

「元の世界と同じ基準だ、大気状態も悪くはない。ただ到着先は夏場で気温が高いから気をつけておけ。大雑把に世界観を説明すると特定の組織集団ーーヒーロー協会に登録、所属している者しかヒーローと認められず、それ以外の人物はいくら善意や正義感で怪人を倒し人を救いヒーローを名乗ろうともヒーローとは認められず妄言を吐く変人扱いされ、白い目で見られる風潮が根強い世界だ。」

「要するに特定の組織に所属している者しか『憧れ』として見做されない世界ね。まるで智史くんが元いた世界の風潮と同じみたい。」

「まあそうだな、『人間』は自分が受け入れられない物は否定するだけで、本質を見ようともしない馬鹿な生き物だからな。後に『人間』の文明を発展させる偉大な功績を残したガリレオも、ニュートンも、生きている最中は詭弁を振るう馬鹿とあしらわれたように。」

「そして後々それが偉業だと認められることもある、人の功績は死んではじめて評価されることはよくあるわね。」

「そうだな、さて、話を元に戻そう。何となく分かるかもしれないが、所属しても何の対価もなければ組織は成り立たない、そのヒーロー達は協会から活躍した分だけ周りの人間達からの寄付金を給料としてもらっている。勿論平等など存在しない訳でそこに所属しているヒーロー達はランク付けがなされている、上から順にS、A、B、Cだ。当然上の奴ほど名声や権力、金がたくさんもらえるからな、そして組織の膿出しに関する『モノ』が無い。だから上を上を目指してヒーロー同士でランキングを巡る人気の取り合いや潰し合いが横行し、警察組織との軋轢や幹部クラスの腐敗などが随所に見られる等、とても防衛組織としては見るにも耐えぬ有様だ。また、一部のヒーローをランクが下級であるという理由で過小評価し、協会の体裁を守るために嘘の報道を流すなど、組織自体にもお粗末な点が目立ち、創立3年目にして組織としては末期の状態だな。当然のことだが人間の心は混沌そのものだし、そして人間の本質が変わらない限り一時はそれが治ってもそれはまた繰り返される、また忘れられてしまうから。」

「そうね、それが智史くんが今も持っているかもしれない「人類を人類で無くしてしまい、社会システムの絶対的管理下に置く」という考えの理由にもなっているね。」

「準備出来たぞ、行こうか。」

「ああ。」

そして智史達はワンパンマンの世界系の外からワープホールを通じてこの世界に入っていく。出た先はZ市郊外の廃墟ーーサイタマごとワンパンマンが住んでいる場所の近くだった。

 

「太陽がジリジリと照りつけてくるね〜。日焼けに気をつけないと。」

「(新陳代謝が私のせいで劇的に上昇しているから日焼けを生み出す環境がなくなればすぐ治ってしまうんだがな、まあ人間をベースにして変えたのだから仕方あるまい、曲がりなりにも『人間』である以上、仮に弄くり回して太陽がギラギラと照りつけてくる中で日焼けを生じないようにしたら何かしらのデメリットが出てくるかもしれんな)そうだな、日傘でも差しとくか。ズイカク、カザリ、お前達も差すか?」

「日傘?その言葉の意味って何?」

「太陽のジリジリとした照りつけを避け、日陰を作る為に差すモノだよ。」

智史はそう言いながら黒い日傘を展開した状態で手元に生成する。

 

「成る程、感覚的に言うと暑いね、なら遠慮なく頂くよ。ーーうん、確かに照りつけてくる感じが大きく減ってる。」

「さて、ここは随分と生活臭が満ち満ちてるな…。これ迄の見てきた世界系の中で最も強いぞ。」

「僕が元いた世界のモノと近いけど、それよりも何かが強いね…。」

「私が知っている元の世界の風景に近い…。だが古さがそこそこにある、それ故に独特の美しさが出ているな。」

興味深そうに町並みを鑑賞しつつ、会話する智史達、しかしそんな雰囲気を壊すものが彼らの近くで突如として現れる。

 

ーードガァァァァン!

 

「きゃ〜‼︎」

「わぁぁぁぁぁ!」

 

「な、何だ⁉︎」

「化け物が、現れたみたいだな。」

「そうね、ヒーローとやらが来るんじゃないかしら。」

「ああ、協会での己の出世、そしてファンを増やしてギャラをより多く貰う為に、な…。」

爆音と悲鳴が響き、緊迫している状況とは対極的に、余裕に満ちた態度ーー常識を無視して強くなり過ぎている為に全く脅威になりえない為ーーでそう呟く智史、程なくして脳髄がむき出しになった頭部を持つカマキリの怪人ーーカマキュリーの姿が現れる。

 

「あーん、お前ら誰だぁ〜?俺の前にノコノコと立ちふさがるな、おらぁ‼︎」

「随分と粗暴でよく吠える雑魚だ、まあいい、無視するぞ。」

「てめえワザと立ち塞がり、雑魚と言い放った挙句にシカトだとぉ⁉︎ふざけんな、切り刻まれてぇのかぁ!」

智史の挑発が混じった『金持ち喧嘩せず』の態度にカマキュリーは逆上し、その場を呑気に闊歩する智史に斬りかかろうとする、が

 

ーーパンッ!

「げぴゃっ!」

 

「体液が付いたか…。まあ直ぐに拭ってしまえばいいだけの話なのだが。」

邪魔だと言わんばかりに無意識かつ反射的に繰り出された平手打ちにより一発で四散してしまった、体液が飛び散り、その一撃をかました本人である智史にこびりつく。智史は不潔だと考えたのか直ぐにそれを表面から取り払うように、原子レベルという言葉など何処吹く風の細かすぎるレベルで分解して己の更なる強化源へとしてしまった。

 

ーーボォン!

ーービチャッ!

 

「ん?今度は何処からか何か飛んで来たぞ?」

「目ん玉かなぁ?でもどう見ても人の物じゃないね。」

「近くに誰か居るな、各種情報とデータベースと照合して解析・判断するに、その人物はワンパンマンだと私は考える。折角だし行ってみるか。」

 

ーーバガァン!

 

「また何か飛んでったぞ?あれは何だ?」

「モグラの形をした怪人かな?」

「あ、あれ見て。頭に…、毛がないマントを羽織った人間がいる。」

「ナイス。あれがワンパンマンごとサイタマだ。頭に毛が無い状態は『禿げ(ハゲ)』という言葉で表す。彼のネーミングは『ハゲマント』。『ハゲ』+『マント』をくっ付けて生まれたネーミング。見た目そのまんまを言い表している。」

「なるほど、でも…。強いって感じがしない…。」

「私にそこを突かれてかつて欺かれたように、見た目に惑わされるな。己の感覚を疑え。」

「そうだね、あの時はそんなこと知らなかったから君にそこを突かれてまんまとやられたよ。」

かつての過去を回想するように呟くカザリ、そして智史はサイタマの視線に入るところまで近づく、右手に大型の拡声器を生成すると大声でサイタマに呼びかけ始めた。

 

「“ハーゲマント、ハゲマント〜。ハゲハゲハゲハゲハゲマント〜。”」

「誰だ!大声で『ハゲ』って叫んでる奴は!」

「私ですよ〜。ハイ。」

「ふざけんな、人の見た目そのまんまに高らかに拡声器で大声撒き散らしながらからかうんじゃねえ!」

智史にハゲとからかわれて怒るサイタマ、自分の予想通りに怒ってくれたサイタマの顔を見て智史は口を押さえて嬉しそうに笑う。

 

「結構怒ってますねぇ〜。このままじゃ怒り晴れないでしょうし、軽くいっちょやりますか?」

「それ本気で言ってんのか?」

「はい♪(予定とは異なる展開となったが、これはこれで面白い。この場で思いっきり鍛えすぎて一方的となり過ぎている暴力を振りかざして踏み散らすとしますか。まあ度を逸しすぎないように気をつけないと。)」

自分の欲望を抑えきれず、否抑えようとせずに智史はさらにからかいサイタマを激怒させてしまう、これでも智史は特に気にしなかった、もうとっくのとんまにサイタマを吹っ飛ばすだけの力を身につけただけでなく飽き足りずに貪欲に進化を続け、オマケに彼の事を原子レベルといった細かすぎる所まで把握してしまっているのだから。

智史はテーブルをサイタマの目の前に生成すると腕相撲をしないかと軽く誘う、サイタマは試しに一発パンチを放つーーそれは怪人という化け物を軽く破砕する一撃だったーー智史はそれを平然と平手で受け止める。

 

「(か、固いな…。先ほどの悪ふざけと反してかなり手ごたえがあるじゃねえか…。こりゃあ全力を出して腕相撲をする価値があるな!)」

そしてサイタマは智史の誘いに乗り両者は互いの右手を組む、そして腕相撲が始まる。

 

ーーグッ!

 

「(ど、どんだけ力あるの…?いつも圧倒的で単調で詰まらなかったけどこれは楽しめそうだ…‼︎)って、俺の頭を嬉しそうにペチペチ叩くんじゃねえ!気が散るだろうが!」

智史に頭を嬉しそうに叩かれ、再び怒るサイタマ、彼は本気で智史の右手を負かそうとする、しかし智史の右腕は動きこそしなかったものの、かといって、全力を入れても最初に構えた場所からピクリとも動こうともしなかった。サイタマは少し焦り、そして同時に期待を持ち始めた、それに対して智史は余裕そうに涼しげに微笑んでいる。

 

「ぐぅぅぅぅぅっ!(くっ、ピクリとも動かねえ…。手ごたえあると思ったけど、まさかここまでとは…。いかにも普通そうな感じしてて滅茶苦茶やばい実力持ってそうだーーひょっとして俺と同じ感じじゃないのかな?でもいつもの一方的とは違って何か嬉しい…‼︎)」

「随分と必死そうだ、どうやら楽しめてもらえているようだな。さて、いつまでもこのままなのは少し飽きた、こちらも軽く本気を出すとしよう。」

 

ーーガッ!

 

「へぇ、へぇ…。つ、強えなお前…。何者なんだ、って、嬉しそうに墨筆で俺の頭に落書きすんなぁぁぁぁぁ!」

そして智史は軽く腕に力を入れ、顔が真っ赤になり腕や頭に血管が浮いてくる程に本気を出したサイタマを軽く打ち負かした、そしてさらなるからかいとして嫌がるサイタマの腕をそれ以上の力を以て強引に軽々と払い除けてサイタマの頭に堂々と墨筆で『ハゲ』と大量に書き、本人がそれを拭おうと必死になっている様を見て笑い転げた。

 

「先生、何してるんですか、って何なんですかその頭は⁉︎」

「ジェノスか…。あいつが俺の頭に『ハゲ』って大量に書き込んできたんだ…。」

そこに、近くにいた怪人全てを片付けてサイタマのところに戻ってきた全身サイボーグの青年、ジェノスが現れる、彼は髪の毛のないサイタマの頭を見て戦慄してしまう。

 

「(状況から見るに先生と同じ、いやそれ以上の力を持っている可能性が濃厚だ…。)お前は、誰だ?」

「私か?名前から言うべきか?」

「ああ、名前から説明してくれ。」

「私の名は海神智史。この世界の外から来た『存在』だよ。」

「(ワダツミ サトシ…。この世界の外から来たのか…。)俺の名はジェノス。何のためにここに来た?この世界に災厄をもたらし、滅ぼすためか?」

「部分的には正解だが、殆どは違う。」

「ならその大勢の理由は何だ?」

「さあな。一応お前達に関心を持った事が大勢の理由だが、実際の所少し分からん。今の所お前達と敵対する意思は特に無い、取り敢えずお前達の様子を観察させてくれ。」

「な、何?何の為に俺や先生の様子を観察するんだ?」

「お前よりも、サイタマの様子を観察するといったほうが正しいだろうな、サイタマの様子を見ることで何か学べることがあるのでは考えたからだ。」

「な、なるほど…。俺と同じく先生から学びたいと…。」

「おいおい、俺から学びたいって…。あまり学べるものはねえぞ…?」

「あるな。日常や考え方にも『学べる』ものが混じっている。」

「そ、そうか…。」

「さて、先ほどの悪ふざけの件は詫びよう。家に案内してくれ。琴乃、ズイカク、カザリ、待たせてすまなかったな。」

そして智史はサイタマの頭に着いた墨を拭う、彼らはサイタマの家へと向かっていくーー

 

 

ーーサイタマの家

 

「結構質素かつ地味だなぁ、周りの雰囲気と馴染んでいるぐらいに。」

「広告がいっぱいある…。特売のものがいっぱい…。かつての私もそうだったな。」

「でも生活感は雑な域ではないし部屋の雰囲気は落ち着いている。マンガが沢山あるな…。見ていいか?」

「ああ、でも散らかすんじゃねえぞ。見終えたら元に戻せ。ジェノス、ゴリラもどきから聞き出せたことはあるのか?」

「はい、先程の敵は全て進化の家からの刺客のようです。」

「はあ、進化の家…。どういう組織なんだ?」

そんな会話の中で智史はサクサクと漫画を読んでいる最中だった、そんな時智史の目にあるチラシが飛び込む、そしてワンパンマンの原作内のあるシーンを思い出す。智史は読みかけの漫画を片付けるとサイタマとジェノスの会話に口を挟むようにしてチラシをピラピラしながらこう話す、

 

「いきなり話に口を挟んですまないが、今日は土曜日だ、そしてその日は何の日だったのか、忘れてないかな?」

 

智史にそう口を挟まれて少し不機嫌そうなサイタマであったがチラシの内容を見てすぐに顔色が変わる、

 

「あ、スーパーの特売日だったぁぁぁぁぁぁ!」

「進化の家とやらはここから歩いて数時間は掛かる場所だからねぇ、だったら進化の家の件は私が片付けよう。あんたは気にせずに特売の買い物に行ってらっしゃい。」

「え、そんなに軽く言っちゃっていいの?」

「智史は一度やると決めてしまったら終わるまで止まらないからな、特に敵を相手にした場合はそれが顕著に出る、見ただろ、ウルトラマンとやらが根絶やしとなるまで徹底的に殲滅されたのを。」

「あ、そうだった……。(汗)」

「ジェノス、買い物行ってくるから、宜しく!」

「は、はい…。」

 

サイタマは今日はスーパーの特売日であったことを思い出したようだ、彼は智史からチラシを取り上げると買い物袋を持って出かけてしまった。

 

「そこまで慌てている様子を見るに、家計は切迫してるみたいね。」

「ああ。(メタを言うと2人ともまだヒーロー協会に入会してない時期にこちらが来てしまったからな)言い忘れていたが、彼は就職を諦めたらしい。というのも3年前、上手くいかない就職活動中に失意の中、偶然出くわした顎の割れた少年を怪人から助けたことをきっかけに、幼い頃になりたかった「ヒーロー」になることを決めたんだよ。

そして性格はマイペースで緊張感に欠け、非常に物臭(面倒くさがり)な一面があり、誰が相手でも襟を正したりへりくだったり、ましてやおべっかをすることがない、良く言えば万人平等、悪く言えば八方無礼。また興味のないことへの物覚えも記憶力も悪い。そのため彼は、中学生の頃から集団や社会になじめず無気力な生活を送り、当時から感情の昂ぶりがある出来事を求めていたんだ。」

「なるほど、どこか智史くんに似てる性格ね。悪い意味で使ってるわけではないわ。」

「そうか。だが良いところもある、口で語らずとも関わりを最小限にしていれば明らかとなるはずだ。さて、進化の家とやらに行こうか。ワープは詰まらん、よほど切迫してなきゃじっくりと楽しみながら歩いていくのが吉だな。」

「ず、随分と呑気だな。緊張感が無さ過ぎるぞ?」

「私は常に進化している、より強大な他者を圧倒的な力でねじ伏せ、思う存分振り回し、甚振るという快感を得るために。そのせいで力が数質共にあり過ぎてぱっぱになっているからな、だからだ。よっぽど興味がない時以外はこうしていたい。」

「な、なるほど…。」

「と呑気に言っても、暑過ぎてあまり動きたくない環境だからな。ならば環境をこちらが活動しやすいように改変してしまおう。」

智史は恐ろしい事を軽く呟く、そして彼は外に出ると空に手をかざす、すると上空に無数の巨大な青色のサークルが展開される、そのサークルを展開した際に少し掛かっていた雲が引き裂かれるようにして環状に吹き飛ぶ、そして猛風が吹き始め、サークルの周辺の大気が急激に冷え始め、気温が下がり始める、いやそれだけではない、大気圏にある温室効果ガスの一部がサークルに引き寄せられ、取り込まれていく。

 

「天気が変わった…。涼しい…。」

「ふ、普通こんな事ってアリなの…?」

「環境をエネルギーベクトル操作能力で調整した、熱エネルギーを減衰させ、大気の保温能力を低下させるという形で。」

「(天候を変えただと…⁉︎まさかこれほどとは…。これは恐らく原子の運動エネルギー量や大気中の温室効果ガスの量を調節したのだろう、だがあんな芸当など先生、ましてや俺にも出来るはずがない…。)」

「これで気楽に風景を楽しみながら進化の家に行けるな、行こうか。」

智史はそう言うとサイタマを除く皆を連れて進化の家へと歩いていく、その光景を先程の戦闘でジェノスにより手足をもがれて動けない状態のアーマードゴリラが脂汗を垂らし、歯をガクガクと鳴らし戦慄と恐怖の眼差しで見ていた、彼は智史達との距離が暫く開いた後、先程送ったデータに補足として自分を殺しにまた帰ってくるかもしれないということに怯えながらも慌てて進化の家へと彼が向かっている事を送信したーー

 

 

ーー進化の家

 

「旧人類撲滅用精鋭戦力が、全て殲滅されただと⁉︎」

「はい、全てターゲットに殲滅されました、そしてもう一つ気になる点が…。」

「それは、何だ⁉︎」

「ターゲット以外にも、未確認の存在を確認…。戦闘能力はターゲット以上のモノを持っている可能性が高いです、それにターゲット側に我々の存在が聞き出されてしまった以上…。」

「な、なにが起こる⁉︎」

「ここに攻め込んでくる可能性が極めて濃厚です…、アーマードゴリラがその存在が活動を開始したとの報告を寄せてきました…。」

焦るようにしてそう会話するのは『進化の家』の首領ーーボスであるジーナス博士とそのクローン達であった、彼は実年齢は70歳を超えているものの、研究の成果によって若返っており、自身のクローンを何十人も従えていた。

 

「くっ、こうなったら阿修羅カブトを出すしかない…。」

「し、しかし!」

 

ーードゴォォォォォォォン!

 

「未確認の、巨大なエネルギー反応を確認!場所は、ここの近くです!」

「上部構造物、全壊!」

「防護壁が完全に破壊されました!目標、侵入してきます!」

「…こうなってしまった以上、阿修羅カブトを出す以外に突破口はない。出すんだ。」

「…は、はい!」

突如として起こる巨大な爆発、それによって生じる大地震の如き振動に圧倒的恐怖というべき未確認の化け物ーー智史が来たことをここに居た全員が悟る。そして同時に理解した、ここ『進化の家』最強の存在ではあるものの精神が不安定で傲慢であり、それ故に手に負えない一面を持つ『阿修羅カブト』を開放するしかない事をーー

 

 

ーーほぼ同時刻、進化の家郊外

 

「いつもと変わらず随分とド派手な…。一発で根元から吹っ飛ばしてそのままジ・エンドかと思ったぞ…。」

「ズイカク、一発で吹っ飛ばしては詰まらんではないか。悲鳴と叫喚をじっくりと聞きながら、楽しく、しかし確実に、そして徹底的に殺るのが気に入らぬ者に対する蹂躙の醍醐味よ。」

「こ、怖…。(汗)」

さてと、中に入りますか。

智史達は先程の砲撃で守るものが跡形もなく吹き飛び剥き出しとなっている出入り口を見つけ、そこから侵入した。

 

「何かひんやりしてるね、研究施設だからかな?」

「ああ、研究という事象を行う為の施設だ、それ以外の要素はいらないから、こうなって当然だろう。」

「(抵抗が無いな…。生体反応が最下層に集結している、そしてその中に特に強大な生体反応が存在してい…ん?生体反応が減少している…?何か起きているのか?)」

 

…ズズゥン。

 

「何かがこの研究所の最奥で起きている、それも相当ヤバい事象が。抵抗がなくて当然だろう。そのお陰で散策に掛かる手間が思いっきり省けたな。」

「(随分と緊迫している状況だというのに呑気そうだ…。だがその態度からは圧倒的な余裕が感じられる…。何なんだ、底が見えないこの不気味な感じは…。)」

何処から敵や脅威が現れても不思議では無い状況だというのに全てを見通しているのかのように平然と喋る智史にジェノスは不気味な感触を覚える、だがそんなジェノスの気持ちとは関係なしに智史達は道を阻むモノ、トラップを次々と破壊し、奥に進みながら研究所の各所を見て回る。やがて彼らは培養槽がたくさんある薄暗く、機械的な部屋に入る。

 

「ん?水槽みたいなのがいっぱいある、その中に何か気持ち悪いのが浮いているぞ?」

「培養槽…。動物や昆虫をくっ付けた人みたいなものがたくさん…。ここで智史くんや私達を襲ったものが作られていたのかしら。」

「そうかもしれない。でもなんか放ったらかしだなぁ、私達がここに来るのに気がついて片付ける間もなく逃げ出しましたって感じだ。」

「しかもこれって見た感じ、大事なものばかりみたい。もし計画的に戦略を立てている大規模な組織だったら、ここを爆破してでも証拠を隠滅するかもしれないわね。でも爆破されてないって事は…。」

「拠点が一つしかない故に後がないのか、もしかしたら智史の先程の台詞を推察するに、そこを爆破させる決心をさせない『何か』がいるのかもしれない。」

 

「彼ら、僕にどこか似ている…。ねぇ、彼らと僕の共通点、知ってたら教えてくれない?」

「共通点か…。そこにいる彼らとお前の共通点は『管理』された状態で作り出されたということだな、人の域を超えたものとして生み出されるように。」

「『管理』ね…。んじゃあ姿形、能力が事前に設計された上で僕も彼らも生み出されたということか…。ところでさっき、『人の域を超えたものとして生み出されるように』って言ってたけど、何処からが『人を超える』域なの?」

「さあな…。それは見方次第で決まってくることだ、統一された計る基準など存在しない…。ただ相手にしてみれば並の人間を超越していると認めて初めて、『人を超える』域は存在する。」

グリードたる己と人造的に生成された生命体との共通点について話すカザリと智史、そんな中でズイカクはモニターの一つに映されていた内容が気になったのか、端末を操作して調べ始める。

 

「ん?データベース漁ってみたらこんなものが。どれどれ…。成る程、こいつらは遺伝子操作で生み出されたのか…。なあ智史、さっきのカザリとの話に補足入れるが、こいつら『運命』も『管理』された状態で生み出されたんじゃ?」

「そうだな、もし『管理』された状態で生み出されなかったら理由と目的があって創り出す方にしてみれば都合がとても悪いだろう?」

「という事は、僕がグリードとして生み出されたのも、仕組まれた事か…。」

「そして、『管理』された『運命』の中で生きていく事は本当に幸せなのか?仕組まれた運命という事を初めて知らされた時、それはいい気分と言えるのだろうか?」

「これも見方次第だな、仕組まれた運命と悟っていて喜ぶ奴もいれば嫌がる奴も居る。さて、このぐらいで話は取り敢えず仕切るとしよう、何時までもお喋りをする為にここに来た訳ではないからな。」

智史はそう言うと話に入れてもらえず半分空気なジェノスを連れて『進化の家』の最深部へと突き進んでいくーー

 

 

ーー『進化の家』最深部、戦闘実験用ルーム

 

ーーパパパパパパパ!

 

「ひっ、来るな、来るなぁぁぁ!」

 

ーーグシャ!

ーービチャァァァァッ!

 

「シュゥゥゥゥゥゥ…。」

「やあ、阿修羅カブト…。元気にしてたかい?また私のクローンをたくさん殺してくれたな、…気は済んだか?」

「あ?」

その部屋はジーナスのクローンの屍がたくさん転がっていた、彼らは阿修羅カブトを解き放ちコントロールしようとし逆鱗に触れ、皆殺しにされてしまったのだった。勿論自動小銃といった武力を用いて抑え込もうとはしたものの、そんなものでは阿修羅カブトの表皮に大した傷は付けられず、逆に彼の怒りをさらに煽るだけにしかならなかった。

そのせいでまだ感情の高ぶりが治ってない阿修羅カブトにジーナス本人は脂汗を垂らしながら話しかける。

 

ーーバキン!

 

「バーカ、お前。気が済む訳ねぇだろぉ?

人を地下深くに閉じ込めやがってよお、進化の家最強戦力の俺をよぉおおおおおおお。」

「お前は精神が不安定だ…。我々でもコントロールできないから仕方がなかったんだ。」

「コントロールだぁ?くはははははは、バ〜カッ。

俺はお前らの求めた『新人類』の完成型なんだぜ、知能も肉体レヴェルもお前ら旧世代とは比にならねー‼︎だからお前らが俺の言う事を聞くのが正しいんだよぉ‼︎」

「(違う、お前は失敗作だ。確かに圧倒的な性能を持つが、

品性が、足りない…。)

私を殺しても構わん。代わりは幾らでもいる。

だが、一つ聞いてほしい。」

 

ーーピッ!

ーービュン!

 

「!」

「何としても入手したいサンプルがある、だが恐ろしく強いのだ、トラップを易々と排除しここの直ぐ近くまで迫っている…。」

ジーナスは死ぬ事も半ば覚悟で監視カメラの一つが捉えた智史達の映像を映す。それを興味深そうに阿修羅カブトは見ている。

 

「お前にしか倒せん、殺してもいいから奴を捕まえてほ」

 

ーードゴァァァァン!

 

「(来たか…。)」

「お、強え奴が来た来たぁあ。あいつかぁ?」

そこに扉を強引に蹴破り智史が現れた、智史は破壊以外の価値など見出せないという冷たい眼差しで阿修羅カブトを見つめる。

 

「奥にもう一匹いるが、あれは要らん…。」

「んじゃあ奥の奴は要らねぇんだな。」

 

ーードガァッ!

 

「俺は阿修羅カブトってんだ、やろうぜ〜」

「(ジェノスが一撃で吹っ飛んだか、まあ中枢部に損傷は及んでないし、まだ戦闘可能であることには代わりはないが。しかし、見てるだけで殺気が湧いてくるような態度だな、気に入らん。一撃でその面を歪め、八つ裂きにしたいぐらいだ。

それにしても随分と広いものだ、このぐらいの広さがあれば戦闘データの計測も十分に可能なのもあらかじめ見えていたことだとはいえど、改めて頷ける)」

「おぉい、興味無さそうなツラしてこちらを焦らすんじゃねえょお!無視すんなぁ!」

 

ーーボッ!

 

ギシ…。

 

「まーだ生きてやがったのか。」

 

ヒュ!

 

バンッ!

バン!

バン!

バン!

 

「ブァ〜カ」

ボ!

ーーガガガガガガガガ!

先程不要とみなされて吹き飛ばされたジェノスがマシンガンブローを阿修羅カブトに対して放つ、この攻撃の威力は災害レベル「虎」ーー不特定多数の生命の危機を齎しかねない域ーー迄の怪人なら粉々に出来るというモノだった、しかしーー

 

ーーガッ!

ーーゴカン!

 

阿修羅カブトはジェノスのその攻撃を難なく耐え凌ぎ、しかもその攻撃の最中に一撃を彼の顔にかましたのである、それにより彼の顔面の左側が大破し、眼球のような物が飛び出す、そして彼は大きく吹き飛び、智史の横に叩きつけられる、彼はすかさず態勢を立て直すと腕を変形させて焼却砲ーー高出力エネルギー砲の一種ーーを再び阿修羅カブトに向けて放つ、それは日本のそこかしこにある平均的な大きさの山なら消し飛ばしてしまう威力を持っているが、先程の結果は阿修羅カブトには全くダメージにもならないというものだった、しかもそのビームがこちらに向かってくるのを見た阿修羅カブトは今度はそれを強烈な猛風で押し返し、ジェノスはその反動を食らって更に悲惨な事になる。

ジェノスは災害レベル『鬼』ーー都市全体の機能の壊滅が危惧される域ーークラスの怪人と単独で渡り合う実力を持っているものの、そんな彼が一対一で圧倒されているのを見るに、阿修羅カブトはジーナスが『自身の研究の集大成』と認めるに相応しい貫禄を出していた。

 

「下がれ、ここはもうお前の出る幕でない。」

「うう…。」

「“随分と、強そうな奴だなぁ。私で何とか五分五分って感じだ。"」

「気を抜くな、ズイカク。こいつの災害レベルは『龍』。複数の都市ーー今まで見てきた大都市クラスが複数壊滅しかねない程の域だ。」

「“大都市複数って…。んじゃあ元の世界基準でいくなら戦局を揺るがす巨大な要素になるな。まあ滅茶苦茶に進化し、強くなり過ぎたお前にしてみれば些事でしかないと思うが。”」

そして智史は中破したジェノスを後ろに下げ、単独で阿修羅カブトの方へ歩いていく。

 

「お、見るからにやっぱり強そうじゃねえかぁあ。視線や雰囲気がこれまでの奴とは違うなぁあ。」

そう戯言をペチャペチャと呟いていられるのも今のうちだ。遺言は吐き終えたか?ならば来い。

 

「んじゃあ、改めて殺し合いますかぁ。」

 

ーーヒュッ!

 

阿修羅カブトは重厚な巨大な体格に見合わぬ恐るべき速さで襲いかかった、次の瞬間には彼は智史の後ろに移動する、だが智史はこの動きを難なく捉えた。こんな速さなどどこ吹く風の域、いやそんな事などどうでもいい無常識な別次元の域にもうとっくに達し、しかもそれでさえ飽き足りずに常に己を半分無意識ながらも異常な勢いで研鑽していたのだから。

智史は殺意を込めた視線を阿修羅カブトに向ける、その視線を阿修羅カブトは感じ取ったのか、拳を当てる直前で慌てて後ろに飛び退いた。

 

「な、何なんだこいつは…‼︎隙だらけなのに!俺の直感が大音量で危険信号を発している!今、引かなければいいように殺られていた…‼︎貴様ぁああ!これ程までの力、一体どうやって手に入れたんだよぉぉぉ!」

「常に進化をし続けたからだよ、お前は外を見られなかった、否品性が欠如していた『モノ』故に見せられなかったのだ、この『進化の家』の最終兵器ーージーナスの集大成である事も相まって。

だからお前は『井の中の蛙大海を知らず』ーーつまり狭い見識にとらわれて、他に広い世界があることを知らないで、自分の住んでいるところがすべてだと思い込み満足してしまっていると言わんばかりの状態のまま、今日この日を迎えてしまったのだ。ジーナスがこうならないように外を見せながら『己より強大な者がいるかもしれない』という事も含めてきちんと教育していればお前はこういう傲慢な醜物(醜い化物)にはならなかったものを。」

「“確かにその主張は一理あるな、傑作品として力を与えることに没頭しすぎて品性を育てなかった結果今の傲岸不遜な化物が生まれてしまった。ジーナスとやら、研究者としては優秀だったけど、教育者としてはダメだったみたいだな。

だが、お前は非常識過ぎる。お前のような非常識な相手と相対した経験が彼らにはないというのにそのケースを想像して見出せとか、ちょっと無理過ぎる所があるぞ?『人間は己の知る事しか知らない』ってお前、言ってたじゃないか。”」

あ、そうだったな。ちょっと言い過ぎたか。

「よそ見すんなぁああ!常に進化し続けたって、どう言う事なんだぁぁ⁉︎」

「一言で具体的に言い表すなら、原子、素粒子などとっくに通り越した細か過ぎるレベルから根本的に『進化』しているという事だよ。お前はそんな事など思いつきもしまい?」

「細か過ぎるだと…⁉︎つまりあいつは何かの『進化』能力を内包しているのか…⁉︎」

「まあそういう事だよ、自力で進化出来る『能力』をあいつは内包している。あいつはその能力のお陰でこれ迄に闘ってきた強敵を悉く打ち負かした。あいつの恐ろしさは単に圧倒的な力を持っている事じゃない。今より更に強大に己を発展させられる『力』を持っているから恐ろしい。」

「そうね、智史くん色々と凄まじい力を行使してきたけど、最大の強みは「進化」という学習適応能力の高さにあるというべきかしら。それにしても、彼、大丈夫なの?痛くない?」

「機械をメインとした際に人間としての感覚器官を捨ててしまったみたいだ、多分痛みなど感じないのかもしれない。」

中破して後ろに下げられたジェノスと共にズイカクは智史と阿修羅カブトの様子を見守りながら琴乃とともにそう会話をする。

 

「そうかい…。」

 

ーーミシィ…。

 

「おい阿修羅カブト⁉︎よせ、また暴走する気か!」

 

ーーメコォ!

ーービキキ!

 

「俺にはそんな力なんかねぇって言いてえんだろぉ…。どう見てもインチキくせえし、どうせ俺よか強くねえ…。でも、ムカついたからテメェはぶち殺す!」

都合の悪い現実を受け入れられないからこうして強がるのだな。まるで人間の悪い部分そのまんまだ。しかしその強化形態、エヴァンゲリオン初号機とどこかそっくりなカラーリングではないか…?

血管が阿修羅カブトの身体中に浮かぶ、そしてただでさえ闘争的なデザインをしていた肉体が更に鋭利さ、猛々しさを増して変化する。この形態を阿修羅カブトを生み出したジーナス本人は『阿修羅モード』と呼称しているが、実際の所これが世間一般の呼び名となるとは限らない。世間がジーナスと同じ感性を持ってるとは言えないからだ。

 

「ふぅううう…。こうなるともう丸1週間は理性が飛んで闘争本能が静まる事はない。

お前を殺した後は街へ降りて、来週の土曜までは大量殺戮が止まらねえぜ」

「そうか。貴様の品性の無さが丸出しだな。」

「ふぅうううおおおおおおおおおおお!」

そして強化形態となった阿修羅カブトは智史に拳を当てようと突進する。彼はその場から動こうとはせず、不敵な表情を浮かべていた。

 

ーーブォッ!

 

そしてその拳は智史に到達する、その際に衝撃波が生じる。しかしその結果はーー

 

ーーガッ!

ーーゴキゴキゴキゴキィッ!

 

「な、なあっつ⁉︎」

「どうした?ちゃんと信念を込めて殴ったのか?」

「ば、馬鹿な、な、何故ぇえ⁉︎」

鈍く、とても重い衝撃が衝撃波と共に彼を殴ろうとする阿修羅カブトの右腕を襲う、そしてそこに彼の姿はない。そして後ろから声が掛かる、見るとそこには彼が居た。彼をもう一度殴り付けようとしたが、激痛が走りピクリと動かない。見ると右腕は無残に変形していた、指も含めた全ての骨があちこちで砕け折れ、表皮が無残に衝撃で砕け割れ、所々から体液が垂れ落ち手としての形を成さない程に。

 

「何故だ、俺はテメェより、誰よりも強えはずだぁあ‼︎負けるはずがねぇええ!」

 

ーードドドドド!

ーーガンッ!

 

自分はあいつに劣っている、こんな非情な真実を具現化した現実を見せつけられてもなお、諦めの悪い事に、阿修羅カブトはまだそれを受け入れようとしない、突進し頭部の角で智史を刺し貫こうとする、智史はそれを右手でそのまま受け止める、阿修羅カブトの突進を受け止めた際に吸収されなかった一部の運動エネルギーが凄まじい衝撃となって床に伝わり鋼鉄より高い強度を持つ素材でできた床がひび割れる。阿修羅カブトは巨体に任せて彼を押そうとする、しかし彼はケロリとした表情で平然とそれを受け止めたまま一歩も動こうともしなかった。彼はその角を握り潰し角に亀裂が入る。そして投げ飛ばしてその角をへし折ってしまった。投げ飛ばされた阿修羅カブトは壁に叩きつけられ、勢いを失ったまま床にずり落ちる。

 

「う、嘘だ…、こんなのあり得ねえぇ!インチキに決まってるぅう!」

「インチキインチキと、よく吠える。だが安心しろ、その煩わしい口ももう直ぐ動かなくなる。さあ、楽しい饗宴を始めるとしようか。」

「あ、あああ…。うわぁああ、来るなぁあ、来るなぁあああ!」

圧倒的な力を伴い、殺意と狂気に満ちた表情で迫ってくる智史に完全に阿修羅カブトは震え上がる、理性では克服できない本能的な恐怖が阿修羅カブトを支配していた、彼は残った左腕をジタバタさせて智史を追い払おうとしたものの、智史はそれを平手で斬り払う、斬り飛ばされた左腕が宙を舞う。

 

「ひぃい、誰か助げでぇええ」

 

ーーガッ!

ーーミシャッ!

 

「ゔぁあああああ‼︎」

 

ーーブチブチブチブチッ!

ーービチャッ!

そして因果応報というべき容赦無い解体劇が幕を上げる、智史は阿修羅カブトを蹴り転がし、右足を踏み潰して馬乗りになり、まず右目に手を突っ込み眼球を思いっきり引き千切る、あまりの強引さに視神経が周りの体組織を纏ってちぎれ飛び、体液が智史に掛かる。

次に智史は親指を除いた全ての指を口に突っ込む、そして阿修羅カブトの顎に彼の指が深々と食い込む。今度は左足ですでに半壊した顔を踏付け押さえ付ける、そこに掛けられるあまりの荷重に阿修羅カブトは逃げたくても逃げられない。手を解きたくてもその手を振り払う手はもうとっくに破壊されていた。

 

ーーギリリリリリリ!

 

「イベッ、イベベベベベベ‼︎」

 

ーーブチィィィイッ!

ーービシャァァァァァ!

 

「口が無くなった以上、舌ももう要らんな。」

 

ーービシャッ!

 

「うえっ、相変わらず容赦無いな…。」

そして智史は顎を容赦なく乱暴に引き千切る、凄まじい怪力に耐えきれずに表皮が筋肉と共に裂け体液が更に噴出する。

だが解体劇はこれでは終わらない、智史はもうピクピクとしか動かず、一瞬しか味わえない引きちぎれた部分からの勢いのいい体液の噴出も止みただタラタラとそれを垂れ流し力なく地に伏せた阿修羅カブトの頭部を思いっきり踏み潰した、その勢いで体が跳ね上がり床に新たな亀裂が走り、体内に残った体液、脳味噌が砕けた表皮と共に盛大に飛び散る。

 

ーーズガァッ!

ーーズガァッ!

ーーズガァッ!

 

そして智史は何度も何度も阿修羅カブトの骸を踏み付ける、その度に表皮や肉片、骨や体液が滅茶苦茶に飛び散る。彼の体はもう原型など留めていない、ただ智史に徹底的に嬲られて破壊されていく運命しかそこには存在しない。

やがて阿修羅カブトが蹴り転がされた場所には踏み潰せるモノが無くなる、それと同時に智史の阿修羅カブトに対するオーバーキルというべき猛攻も止まる。しかしそれでも智史の攻撃は終わらない、今度は自身の研究の集大成というべき阿修羅カブトが一方的に破壊されていく様を見て呆然と立ち尽くしていたジーナスが標的となる、こちらに迫ってくる智史を見たジーナスは本能で次はこちらが殺される番だということを理解したのか恐怖に震えながら覚悟を固める。

 

「…容赦する気は、無いみたいだな。まあ私の代わりは幾らでもいるが…。」

「ならば、その代わりも皆殺しにしてやろう。安心して逝け。」

「おい、ここを吹き飛ばす気か⁉︎」

 

ーーゴアッ!

ーーズゴォォォォォォン!

 

「な、場所が変わっただと⁉︎」

「智史くん、私達を巻き込まないように転移能力を使ったみたいね。」

「恐らく今バカでっかい火焔を帯びたキノコ雲が立っている場所が私達が入った場所だ、アレじゃあ誰も助からないな、うん、智史以外の反応は無い。」

「ここから随分と離れた場所だけど…。ここまで衝撃波が届くなんて、威力が半端無いね…。」

「確かにこの地下施設は巨大だった、だがそれを一から根こそぎ消滅させる程の巨大な爆発は引き起こす必要は無かったのでは…。」

「まあその爆発を引き起こした本人にどうだこうだ言っても仕方ない、本人も本人なりに考えて引き起こした事だろうし。ただ、かなりの大事になるのは確実だぞ。」

爆心地ーー『進化の家』があった場所には非常に巨大なクレーターが出来上がっており、そこから赤とオレンジの光が混じった力強い噴煙が立ち上る。周囲の木々は衝撃波によって薙ぎ飛ばされ、緑豊かだった山々も変形して地盤剥き出しの禿山と化していた。

そして未だに噴煙立ち上るクレーターから智史がヒョイと大ジャンプで琴乃達の所に到着した。

 

「さて、家に帰ろうか。もうそろそろサイタマも買い物終わって首長くしてるし。」

「そ、そうだな…。(まさかこれ程とは…。これはズイカクが発言した通り、積極的に活動されたら大事になる…。)」

 

「あれ、なんかテレビ局の人達がいっぱいいる。」

「あ、あっちにヘリコプターや消防、警察が向かっていくな。」

「ある意味『お祭り』だな、これは。私のせいで普段人気の無い街がこんなにざわついてる。」

智史達はサイタマの家に帰っていく、その最中で智史による大規模な気象操作や巨大な爆発によって様々な人盛りが複数出来ているのが彼らの目に入ってきた。

 

「ただいま〜。」

「おかえり、スーパーに買い物に行ってる最中に突然陽射しが弱くなって肌寒くなったり、スーパーで買い物終えて家に着いてしばらくした後に地響きと衝撃波がドカンと襲ってきて慌てて外に出たら巨大なキノコ雲が遠くで立ち上がったりしてたけど、何かあったの?」

「先生、この人の仕業です…。」

ジェノスがこの一連の仕業は智史のものだと本人を指差して説明する、指を指された智史本人は嬉しくて笑ってしまう。

 

「お前の仕業か。勝手に天気変えんなって。まあ汗ダラダラにならなくてよかったけど。んで、結果はどうだったの?」

「『進化の家』は壊滅したよ。人一人残さず徹底的に智史によって殲滅された。」

「人一人残さず全員殲滅って…、残虐だな、オイ…。」

 

ーーギュウウウウウ…。

 

「あ、お腹空いてきた…。」

「お腹が鳴ったか…。もう直ぐ夕食の時間だからな。勝手に覗き見したり色々と足を引っ張ってしまったお詫びとして、料理を一品、作らせていただこう。」

「え、いいの?でも食材がないと、って目の前に食材が出てきたぁーー‼︎」

突如として豚肉をはじめとした食材が出てきた事に驚くサイタマ、智史にはごく当たり前の事であれど彼にしてみれば驚愕すべき出来事である、そんな彼を尻目に智史は料理を黙々と作っていく。

 

ーークツクツクツクツ…。

 

「今後、どうするの?」

「少し日程が長くなるかもしれない。観光とか色々して暇潰しをしながらこまめに観察だな。じっとしているのは大いに詰まらんし、何より一番嫌いだ。忍耐する必要性があるならまだしも何の必要性、理由も無いのに忍耐など無意味。

さて、観光をするにもカネを求める所ならば必ずカネが必要になるな。敢えてヒーロー協会に入るのも手だが…。」

「せっかくカネを求めて入っても新人潰しやカネや権力の欲にまみれて腐りたくは無いわ。かといって智史くんのチート能力にまた頼るのも…、人が目の前にいるから犯罪騒ぎになるから止めとこうか。」

「そうだな、前者は入らなくても十分に状況を把握できるし、後者は感覚的な後ろめたさもある。ほれ、出来たぞ。」

「う、美味そう…。」

智史は豚肉の赤ワイン煮込みを作り上げ、サイタマ達の目の前に置く、ジェノスがサイタマを守るようにして恐る恐る味見をする。

 

「う、美味い、しっくりとくる味だ…。(毒性は確認されず、市販の豚肉と成分構成は大差無い…。)先生、せっかく作ってくれたんだし、これ食べちゃいましょう。」

「あ、ああ…。ところでお前らこそ、夕ご飯どうすんの?この世界の外から来たって事は旅してるんだろ?」

「私の生成能力の他にも、この世界の外にある『家』で食料は調達出来る、だから食料に関する問題は無い。」

「そう遠慮するなって。お前ら悪い奴らだって雰囲気はしねえから、この家に暫く居候してってもいいんだぜ。因みに料理している最中にヒーロー何たらとか喋ってたみたいだけど、何かあったの?」

「何れその言葉の意味は判るさ、そう遠くない日に。」

「肝がぞくっとするような言い回しするなよ…。」

智史の先ほどの話が気になったのか尋ねるサイタマ、それに対して智史はこの話の意味はさほど日が経たない内に明らかになると暗示する、その意味が彼が発言した通り、翌日に明らかになるとはこの時サイタマは微塵も思っていなかった。

それはともあれ、智史達はサイタマの家に一泊することにした、彼らは家事を多少手伝いながらも、料理を食べ、そして布団を敷いて明かりを消して休息を取った。

 

 

ーーネット上の情報を全てリアルタイムで見るに、ヒーロー協会はまだ私の事を認識していない、か。私がした事は彼らに事前にマークされているジェノスがした事となっている、だが積極的に活動するとなった場合、何れ私がこれらを引き起こしたという事が明らかとなるだろう。実際にこれらの行為を引き起こしたのは私ではないかという目撃証言に基づく噂が表面上には出てないものの陰で僅かながら流れている。バレる確率はゼロに限りなく近づけられても決してゼロには出来ん、逆を言えば必ずしも100%バレるとは限らない。何れにせよこの事象はこの世界全ての事象に共通して言える事だな。

そして、世界系を管理する奴らは彼らに干渉する策ーー即ち私を足止め、欲を言えば殲滅する策略を練っているようだ。

 

面白い。

 

ならばまとめて返り討ちにしてやろう。今でも十分過ぎる程にあっさりと対処できてしまうのだが、より酷い目に遭わせる為に常に強大に、そして更に上へと向かうようにして進化しよう。奴らとてこれまで私が戦ってきた者達と同様、無能、暗愚ではないからな、私の事を多少たりとも知り、考え、策を練ってくるに違いない。

 

智史は心の中でそう呟く、その言葉通り、ライトマサル達がリヴァイアサンごと智史の動きを封じようと策を練っていた。

そして後に智史が彼らの策に敢えて嵌る形で決戦が幕を開ける、だがこの決戦を一番望んでいたのは言うまでもなく、智史本人である事を彼らは知る由もない。

そして彼らの行動は彼ら自身にしてみれば最悪の結末へと向かうように、彼らが嵌めようとしている相手、即ち智史本人の手でとっくにレールを敷かれてしまっていた、それを知らぬまま彼らは望まぬ結末へと突き進んでいく事になるーー




後書き

ジーナスと阿修羅カブトの扱いについて。
原作ではジーナスの死亡描写は無かったものの、敵と決めた者は根こそぎ殲滅するまで絶対に容赦しないという智史の性格も考慮し、彼の手によって研究施設諸共消滅させられるという原作より酷い流れとした。
また阿修羅カブトについては原作ではサイタマのワンパンで瞬殺されたがそれではつまらない感じが個人的にはしたので、ここでは智史にジワジワと甚振られ苦しみながら死んでいくという流れとした。
サイタマがスーパーの買い物に出かけて進化の家に来ていないという設定も彼らの扱いを考慮している最中に生まれたものである。


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第46話 今日も智史は平常運転

今作は実写版トランスフォーマーのリベンジよりデバステーターが出演します。
出演とはいっても、リヴァイアサンごと智史が創ったコピー品で、当然オリジナルではありません。
しかし、智史が創ったコピー品であるからこそ、原作の不遇な扱いを晴らすようにしてデバステーターが持つ巨体の重みと存在感を桃源団との戦いで存分に書き出しました。
ブルブルや昆布インフィニティもちょこっと出てくるのですがこちらも酷い目にあいます。
そして目立つような行動ばかりを智史がしてしまったせいで、ヒーロー協会に存在が分かってしまいます。
その今後も話に書いていく予定です。
それではじっくりとお楽しみください。

追記

『ツシモフ』の部分を『ボフォイ』に訂正しました。
誤字申し訳ありません。


ーーピピピピ、ピピピピ。

 

「ぐ〜…、ガ〜…。」

 

ーーピク!

 

「はぅおおああああ!鼻クソついた指であっち向いてホイ仕掛けてくるなあ!」

突如として絶叫と共に飛び起きるサイタマ、恐らく相当な悪夢を見たのかもしれない。飛び起きた彼の顔は緊張してピクピクし汗を垂らしていた。

 

「…夢か。」

しかし直ぐに彼は『現実』を認識し先ほどのものは夢であると改めて認識する、そして周囲を見渡すと自分以外の5人ーージェノス、智史、琴乃、ズイカク、カザリがいない事に気づく。

 

「ん?置き紙がある。なになに…。『今日はF市にみんなでお出掛けしてきます。 海神智史』か…。ジェノスは昨夜、『明日、博士の所に壊れたパーツを修理しに行く』とか言ってたからな…。」

そう呟くサイタマ、そして彼はテレビのリモコンを手にとってテレビのスイッチを入れる。

 

「“F市で暴動を続けるテロリストは桃源団と名乗っており、駆け付けたヒーロー数名が負傷し、手に負えない状態となっています。”」

 

“ーーガサガサ!”

 

「“え〜、たった今犯人グループの主犯の身元が判明しました、B級賞金首のハンマーヘッドです!

この男はこれまでにも数々の暴力事件を起こしています。

身長215㎝、体重210kgの巨体を持ち、路上の喧嘩で20人を相手に全員病院送りにした経歴があるとの情報が入っています。

桃源団から本局も含めた各テレビ局に送られたメッセージによると、『働かないものにも無償で衣食住が提供される世の中になるまで暴れ続ける』などという社会システム上非常に矛盾点が多く、我々一般市民にしてみれば到底理解し難い事を主張しています。”」

 

「(なんかつまんねー事件だな。あいつらF市に行くと言ってたけど、出会ったら即蹴散らして終わりだろうし、今回は俺が行くまでもねーや)」

 

「“また、ハンマーヘッドに同調したメンバーはいずれも無職で働く意思のない若者であり、構成員の顔はスキンヘッドで統一され、非常に危険な雰囲気に包まれています。

外出された際にスキンヘッドを見かけたら直ぐにその場を離れて下さい。”」

 

「な、……なんだと?」

サイタマはテレビの画面と放送の内容を見て戦慄した、何と桃源団の全てのメンバーがスキンヘッドーー禿頭で統一されていたのだ、それを見たら逃げるようにと聞いたサイタマはせっかくヒーローやっててもこれでは自分も彼らと同じく悪者扱いされてしまうのではないかと考え、慌ててパジャマ姿からヒーロースーツへと着替え、家を出る。

 

「(やばい、万が一こいつらがこの事件がF市で起きると知っててF市に行ったとしたら…、こいつらより先にこの事件を片付けねえと、俺は悪者扱いじゃねえかぁあああ!)」

サイタマはそう焦りながらF市に向かって必死にダッシュする、勿論、その予測は的中していた、では、サイタマが起きる前の時間に時間を巻き戻そうーー

 

 

 

ーー今から少し前の時間、午前3時。

 

 

「みんな起きたみたいだな、ってあまり寝てる必要性も無かったか。」

「そうね、疲れてても一時間もしないうちに疲れが取れちゃったから。」

「そして真夜中にF市の何処に行くのか突然話し始めるなんて…。当初は何でF市に拘るんだって思ったけど、色々データ見てるうちに見たいものが見つかったから行きたくなった。」

「釣りやグルメ、文化の事ね。まあサイタマの家に居てばっかもつまらないから賛成。でも観察はどうするの?」

「それは智史本人なりに考えている事だろうから、この話はあまり突っ込まないようにしよう。兎に角、F市でどう楽しみどう学習するかに今は頭を使おうか。」

「そうだな、どう楽しむかの詳細は現地に着いたらまた考えよう。しかし言葉もなしに出るのはまずいな、サイタマの事を考え、置き紙を残していこう。」

智史はそう言いF市へ出掛けるとチラシの裏側に書いた。

 

「何処へ出かけるんだ、智史?」

「F市。見たいものが見つかった。ここから車で行く。」

「車は、無いぞーーな⁉︎工事車両ーーコンクリートミキサー車だと⁉︎」

「その場で即座に生成した、コンクリートミキサー車にした理由?これも後に分かるだろうが、昨日の話とは決して縁が無いわけでは無いぞ?知りたかったら自分で調べ、考えたまえ。」

「でっか‼︎私の身長の2倍以上はあるぞ!」

「智史くん、これって何か作るつもりなの?」

「違う違う。まあさっさと出発だ。」

轟音と共に突如として鈍く光る灰色と白をベースカラーとしたマックトラック社製のものに瓜二つの姿のアメリカンなコンクリートミキサー車が無人のまま智史達の目の前に停車する、そして智史達はそのコンクリートミキサー車に乗り込み出発する。

 

「んで、私にしか知らせなかった(メンタルモデルの概念伝達を利用してジェノスにその目的が知られる事を防ぎたかった)F市に行く本当の目的、そろそろ言ったほうがいいんじゃ?」

「そうだな、ジェノスも居ないし、口を割るとしよう。F市に行く本当の目的は桃源団というテロ組織を跡形もなく撲滅する為だ。奴らの行動理念は簡単に言ってしまえば「断固働かない、働かなければ衣食住が貰えない社会を解消する」だ。」

智史はそう言いながら桃源団に関するデータを青いサークル上に表示された立体モニターで動画も交えて的確に説明していく。

 

「その行動理念とやらについてなんだけど、その前に『衣食住』って言葉の意味は、何?」

「衣服と食物と住居。生活をしていく3大基礎を一言で言い表した言葉。」

「なるほど、でもなんで働かなければ衣食住とやらが貰えないのかな?」

「カザリ君、『働かなければ衣食住が貰えない』という飴と鞭の社会システムを機能させないと困る人達がいるのよ。彼らは自分達だけでは成せない大きな夢や願望を下っ端の一般の人達をそのシステムで使役する事で実現してきたのよ。智史くんがあなたと会う前に私とズイカクと3人でそんな話をしてたわ。」

「なるほど…。つまりそのシステムを機能させないととても困る人間達がいるのか…。僕もそんな所あったな、人間にセルメダルを投与して自分の力を増やす為に彼らを利用した点で。」

 

ーードゴォン

 

「あ、昆布をいっぱい身にまとった奴がいる。」

「本当だ、そして人が倒れてる。」

「格好から見るに、多分ヒーロー協会に所属してる奴だろう。そして見るからに非常に好戦的だな、口程度で通すつもりはなさそうだ。裏を返せば大変潰しやすい。」

「それなら、お摘みとしてこの昆布、遠慮無く頂戴していくか。」

「賛成だ。一つ残らず生えなくなるまで徹底的に毟り取ってやろう。」

サイタマの家を出発して程なくして怪人、昆布インフィニティが彼らの視界に入る、智史はコンクリートミキサー車を停める。

 

「なんだぁ、お前ら?先程のヒーロー、人間共の仲間か?

って、え?俺を誰だと思って」

 

ーードガァツ!

ーーザンッ!

ーーゴキィツ!

ーーバキッ!

ーーブチブチブチッ!

 

ーーゴォォォォォ…。

「(昆布、全部毟られた…。(泣))」

そして哀れ、昆布インフィニティは出会い頭にいきなり顔知らぬ存在である智史達の襲撃を受け、昆布を全部毟り取られてしまった。毟り取られた昆布と大怪我をしたヒーロー二人を積み込み去っていく彼らのコンクリートミキサー車を昆布インフィニティは涙目で見送るしかなかった…。

 

「んーっと、この二人、どうしようかしら。」

「取り敢えず応急手当をした後、近くの病院で降ろすか。二人の怪我が悪化しないように手当はしても、面倒まで見るのは我々の義務ではないからな。」

智史は近くの病院へとミキサー車を運転しながら情報検索で調べ上げたデータや2人の怪我の状況を把握する為に採ったスキャンデータを参照しそれをシミュレートして最適な具体的な応急処置の内容を編み出し、それを事細かに琴乃に指示し、琴乃は海洋技術高等学院で学んだ知識を応用して速やかにその指示された内容を智史から指示された内容に応えるようにして手渡された救護用キット一式をフル活用して実行していく。

 

ーーキキィイッ!

 

「何用でしょうか?」

「こんな遅くにすみません、重症の方が2人居るので、その2人を引き渡しに来ました。後はこちらで宜しくお願いします。」

 

ーードスン!

 

「え、ちょっと待ってください、お名前は⁉︎」

「教える気などないので関わらないでください。カプセルの開け方は本体の側に記載しておきましたので。」

 

ーーダンッ!

ーーゴォォォォォ…。

そして智史はZ市の市立病院に現れ、負傷したヒーロー2人を入れた救護カプセルを二個その場に置くと慌てて状況を聞こうとする職員を突き飛ばしてそのまま去って行ってしまった。

 

「名前や事情を教える義務など我々にはない。単に重傷者を手当して2名搬送しただけだというのに。そもそも彼らを助けた事による名声や権力など欲しい気が微塵もしない。さて、改めて行こうか、F市に。」

 

「あ、ここも田んぼがたくさんだ。」

「色々とごちゃごちゃしている都市の郊外に出てくると、心が何となく落ち着くな。日が昇ってくるのがより一層いい味を出してる。」

F市に向かっている途中の田園地帯で、日が東の地平線から昇ってきた。その朝日の光がまだ水が張ってある田んぼに映えて美しい風景を生み出していた。その風景の中を智史達を乗せたコンクリートミキサー車は黙々と進んでいく。

 

「この街を抜ければF市だ。と、その前に潰しておきたい奴らがいる。強盗団「牛の胃袋」を束ねるA級賞金首のブルブルだ。こいつらをぶっ潰してカネを調達してやる。」

「それ、この世界の法律に違反するんじゃないのか?」

「こいつらはマトモな理由も無しにカネを分捕ったんだ、少なくともこの世界の基準から見れば。だから社会にエラー扱いされて賞金首にされた、言い換えればそいつらを潰しても社会に論理的意義で非難される事はない、あったとしてもあまり大きくなる事は無い。ただそいつらを踏み潰す役回りが単に私になっただけだ、その何が悪い?」

そして智史は今度は『牛の胃袋』のアジトの目の前に停車し、アジトの玄関をいきなり蹴破って強引に乗り込む。

 

ーードガァン!

 

「A級賞金首のブルブルだな。」

「おい、テメェ‼︎なにも」

「貴様に教える名など無い。死ね。」

 

ーーザンッ!

ーーズゲッ!

ーーゴキッ!

ーーズガッ!

 

「ひ、ひいっ、たすけ」

 

ーーザクッ!

ーーズシャッ!

ーードサッ!

ブルブルは抵抗しようとはしたもののその暇さえ与えられずに智史に手刀で首を一瞬で刎ねられ、そこから血が勢いよく噴出し、頭を失った胴体が地に力なく倒れる。

それを見た『牛の胃袋』の構成員達は統率を失い我先に逃げようとしたものの智史は敵と決めた相手には余程の事がなければ絶対に容赦しない全殺主義者である、逃げる暇さえ与えられずに次々と智史の手によって命を刈り取られ、その一生を終えていった。

突入してから戦闘が終わるまでには1分強しか掛からなかったが、戦闘が終わった後のアジトの中は構成員達とブルブルの骸が内臓と共に転がる血塗れの凄惨な状況となっていた、そして智史はそんな彼らを動物の死骸処理でもするのかのように次々と窓からコンクリートミキサーにその場で新たに生成して取り付けたトレーラーダンプの中へと放り込んでいく、サイズは比較的大きくなかったことも相まってあっという間にトレーラーダンプの荷台の中はブルブル達の骸で一杯になった。

智史はブルブルの首とこれまで彼らに盗まれたカネが大量に入っていた袋を最後にアジトから運び出すと、青白い光弾を左手から放つ、それは一瞬だった、次の瞬間、アジトは巨大な爆炎を巻き上げて跡形もなく吹き飛んだ。

アジトの場所が人気がほとんど無いスラム街であった為に爆発という事象を目撃した人は何名かいたものの、ブルブル達が殺されたという事実を目撃した者は居なかった。

 

「さて、この骸の群れを札束入りの袋と共にF市管轄の警察署の目の前でばら撒いて我々が強盗団『牛の胃袋』を壊滅させたということを証明してやろうか。」

「すげえ悪趣味だな、オイ…。そして積極的に関わる事はしないって言いながら些細な事で積極的に暴れてるじゃねえか…。」

「心配するな、サイタマの良いところが見れなくならないように関わらないと言っただけだ。」

「でも、賞金首って事は討ったらカネが貰える可能性があるって事だよね。」

「ああその通り。こいつには1000万円の賞金が掛けられている。」

「1000万円って、数日間滞在するには十分過ぎる額だと思うけど…。」

「物価基準が違えばそれは十分過ぎるとは言えない可能性が出てくるがな。さて、アジトを焼き払う際に回収した5億6000万円を奴らの目の前で見せ、そこから賞金として1000万円を徴収しよう。」

昆布を車内でパクパク食べながら智史達はF市管轄の市警察署へと入っていく。

 

「すみません、賞金首討伐したので証拠を見せに来ました。刑事課の人を呼んでいただけますか?」

「え、A級賞金首のブルブルだ…、しかも首だけ…。は、はい、呼んできます!」

 

少しして刑事課の人間達がその場に現れるーー

 

「ブルブル討伐と同じくして『牛の胃袋』を壊滅させた事を示す為にこいつらの亡骸をブルブルの首も含めてここに持ってきました。」

 

ーーガァァァァァ

ーードサドサドサッ!

 

「こ、こいつら全て『牛の胃袋』の構成員です…。」

「そ、そんな事を伝える為にわざわざ『牛の胃袋』の構成員の死体を…。」

「いきなりそんなキツイものを見せられるのは見苦しかったでしょうか。では証拠写真を撮影するなら今のうちに。即刻焼却致します。」

「そ、それは止めてくれ…。死体を跡形もなく始末されたら我々の言い分が無くなる…。」

「そうですか。でも死体は生きていませんからね、この夏場だとあっという間に腐りますのでじっくり解剖したいならヒンヤリとした場所に移さないといけませんね。

さて、こいつらのアジトを焼き払う前に回収してきた5億6000万円、ご確認ください。」

智史はそう言うと5億6000万円の札束が入った袋をその場で開き、そこで5億6000万円ちゃんとあるという事を立体的に示すかのように分かりやすく札束を並べた。

 

「確かブルブルに掛かっている賞金は1000万円でしたね、なので申し訳ないですが賞金としてそこから1000万円を徴収させて頂きます。あとの5億5000万は被害に遭われた銀行の方に補填として分配してあげてください。

では、これにて。お忙しい中失礼致しました。」

「は、はい…。」

智史はそう言い終えるとトレーラーダンプを巨大な布で一瞬覆い隠す、次の瞬間にはそれは消えていた、作成者であるリヴァイアサンごと智史に吸収され、更なる進化の糧にされる形で。

そしてF市管轄の警察署の職員達は智史達が悠々と去っていくのをポカンと見つめるしかなかった、智史達の姿が見えなくなって少しして皆我に返り始め、状況把握に我先にと走り始めた。

 

「案外、すんなりと行ったな。もめ事になると一瞬思ったけど。」

「もめ事、か。まあ起きたら起きたで即刻吹っ飛ばす気でいたが。」

「お前は進化のし過ぎで力を手に入れ過ぎているし、今もアホという言葉など吹っ飛んだ速過ぎるペースで進化をし続けているからなあ、それもメンテナンスを除けばほぼ全自動で。まあそのお陰で元の世界の外も見れて、色々と学べて楽しい一面もあるけど。」

「あ、何か黒いスーツを纏った集団がゾロゾロと集まってきてるわね。あの人達かしら。」

「そうだな。しかしまだテロ行為には及んでいないからな、いきなり攻撃しても奴らに言い訳を与えかねん。だから奴らが行動を開始するまでのその間にゆっくりと観光しよう。」

黒いスーツーー服ではなく、金属的なバトルスーツーーを纏ったスキンヘッドの集団ーー桃源団のメンバーがある方向へと歩いていくのを見た、しかしまだ騒ぎは起きていない。智史はその様子を遠くから静観していた、これから騒ぎが起きる事を予測して嬉しそうに待ちわびながら。

そして智史達を乗せたコンクリートミキサー車はその場を去る、暇潰しでもあるF市観光をする為にーー

 

 

 

ーー『桃源団』首領、ハンマーヘッドの独白ーー

 

 

「なぜ働かなければいけないのか!

なぜ金を払わないと飯が食えないのか!

分け合えばいいじゃないか!」

 

俺の名はハンマーヘッド。名前の由来は俺の頭の頭蓋骨がハンマーみたいに硬いという事からだ、俺は喧嘩なら誰にも負けた事がない。掛かってきた奴は全員病院送りにしてやった。

そんな自慢話はさておきとして、俺は『働く』事が嫌いだ。

 

何故か?

 

『働いている奴は皆苦しんでいる、でも働かなければ飯を食うための金は貰えず、飯は食えない。』

 

そんな光景を幼少から見てきたからだ。そして俺も大人になれば働いている奴と同じ苦しい思いをすると思い、『働く』事は嫌いだと自然に思うようになった。

 

「こんな世の中の何が自由なのだ!

皆労働に縛られているではないか。

金持ちは肥え、貧乏人は死ぬ‼︎」

 

それだけではない。俺は金をたくさん持っている奴の凄さ、そして金をたくさん持っていればこそ許される俺達平民にしてみれば手にも届かなさそうな料理をたらふく食べている光景を目の当たりにした。

俺は金を持っていなければ生きるために食う事すら許されない、そして金をもらう為には苦しい労働をしなければならない社会がそこにある事に憤慨した。

 

「仕事は楽しいか?

否!

そんなわけない!

我々は断固働きたくない!

だから変えるのだ!このハンマーヘッドが!

働きたい奴だけ働いて他は養ってもらえる社会に‼︎

理想郷を実現させるのだ!」

 

だから俺は今日、俺と同じ崇高な目的を持つ部下達と共にここF市で金が無ければ食えないという社会の醜さを演説している!

しかし…。

 

ーーガヤガヤガヤガヤ…。

ーーワイワイワイワイ…。

 

「ボス‼︎誰も聞いてません‼︎」

「何だと⁉︎」

 

「ハゲ!」

「こら、見ちゃダメ!」

 

「くそ〜、愚かな大衆どもめ…。」

 

大衆はそんな我々の叫びには耳すら傾けず、寧ろ寄ってくるな、叫ぶなと軽蔑するような態度を示す者さえいた。

恐らく大衆共はこの苦しい生活に満足してしまうように自然と洗脳されているのだろう、そして所詮叫ぶ程度で本気ではないと軽蔑しているようだ、ならば

 

ーーザッ!

 

「行くぞ!

まずは町一番の大富豪ゼニールの家を破壊して本気だとわからせてやる!

豪邸など不平等の象徴だ!」

「イエッサー‼︎」

 

本気だという事を分からせるには口ではなく態度で示した方がいい。

そう考えた俺は部下達を率いゼニールの家へと向かっていく。

 

「この高層ビル丸ごと、ゼニールの自宅です。」

「………。(悪い事して荒稼ぎしたに違いない、許せん!)

よし、破壊しろ!」

「イエッサー‼︎」

 

ーーバコン!

 

やがて我々はゼニールの家に着いた、目の前に聳え立つ高層ビルがゼニールの家だという事を知り、改めて不平等の大きさを感じ取った俺は部下の1人にこのビルを破壊するように命ずる、例の組織から命懸けで盗んできたこの黒々と光る新型のバトルスーツの性能を試す事も兼ねて。

そしてその指示に応えるようにして部下の1人のバトルスーツの前腕の部分が大きく膨らむ、そしてーー

 

ーーズドン!

ーーズズズズズ…。

ーーゴゴゴゴゴゴゴゴ…。

 

ーーシュゥゥゥゥゥゥ…。

 

「標的を破壊しました!」

「うむ。さすがは新開発されたバトルスーツだ!例の組織から命懸けで盗んできた甲斐があった!」

 

ゼニールの自宅は根元が崩壊してゆっくりと崩れ落ちていく、先程部下の1人がバトルスーツの前腕部分を膨らませた上で放った一発で、だ。ゼニールの家は巨大な超高層ビルだ、その根元を一撃で粉砕したとなるとこのバトルスーツは凄まじい破壊力を秘めている。

やはりこのバトルスーツは期待通りだ、その事実に俺は満足する。しかし、

 

「あ、このマンション違った。

すいやせん、ボス。ゼニールの家はもっと先でした。」

 

ゼニールの家は此処ではないという間違いに部下の1人が気づき知らせる、つまりゼニールの家だと信じて壊した先程のビルはゼニールの家ではなかったのだ。

 

「“きゃぁぁぁぁぁ!”」

「“うわぁぁぁぁぁぁ!”」

 

「失敗は誰にでもある!

肝心なのは反省し次に活かす事だ。

違うか?」

「違いません。」

 

だが何も学ばずに何度も同じ過ちを繰り返しているならまだしも、たかが一回の失敗程度で感情的に怒っていては自分の首を最終的に絞めるだけだ。

我々が本気であると理解した大衆が混乱し、恐怖し悲鳴を上げて我々から逃げるようにして離れていく中、俺は失敗を受け入れ、その上で次に活かすようにと訓示する。

 

「では、いざゼニールのもとへ!」

「「「オーッ!」」」

 

そして我々はいざ行かんと気合いを入れる、しかしそんな雰囲気に冷や水を刺すようにしてーー

 

「待て、悪党ども!」

「「「「!」」」」

 

ーーキィッ!

ーーガッタン!

ーーカチャカチャ。

 

「正義の自転車乗り、無免ライダー参上!」

 

無免ライダーと名乗るヒーローとやらが我々を阻むようにして現れる、だが勇ましい名乗りに反してそれ以外は貧相でかなり残念なものだった。

 

「キャーーーー!

無免ライダーが、来てくれたわ!」

「彼が来たならもう安心だ!」

 

しかしそれを見た大衆共は愚かにも歓声を奴に浴びせる、奴が我々を倒してくれると確信して期待しているのだろう。

歓声を浴びせられているのを見るに奴はそうされるだけの実力はあるのだろう。

だが、俺にはあらゆる喧嘩に負けないだけの腕っ節がある。ましてやこのバトルスーツを身につけている今、俺や同志達を阻む者はどこにも存在しない。

 

「ヒーローか、下らぬ。」

「行くぞ!」

 

例え、それがヒーローでもあってもだ。

 

ーーボグッ!

 

「キャァァァァァァ!」

「誰か、医者を呼べぇぇぇ!」

 

俺は、そいつをひと殴りで一蹴すると、同志達を連れて改めてゼニールの家へと突き進んでいくーー

 

 

ーーほぼ同時刻、F市I地区のとある喫茶店にて。

 

「“F市市役所から、緊急のお知らせを、致します。只今、当市のG地区でテロが、勃発しました。テログループは、現在も活動中です。テログループは、全員がスキンヘッドで統一され、黒いスーツを纏っています。危険な状況ですので、当市に在留されている方は、避難誘導に従い、速やかに避難をして下さい。”」

「彼ら、動き始めたわね。」

「ああ。いい頃合いになってきたし、そろそろ奴らの元に行くか。しかし有料とはいえ大型バス以外の大型車両でも停められる駐車場が存在するとは。事前調査済とはいえど、こんなものは何だか新鮮過ぎるな。」

「そうだな、何処かに落ち着いた雰囲気や歴史を感じさせているものが沢山立ち並んでるけど何かと他の世界とは異なる常識があったりするな。比較するのも面白いや。」

「街の人に話聞いてみたら、より観光客を取り込む為に数ヶ月前に隣の街で再開発の工事やってる人も軽く立ち寄れるようにって大型バス以外の大型車両も停められるような駐車場をF市行政が造ったんですって。」

「そうだな、今隣の街は復興も兼ねた再開発でカネという餌が盛大にばら撒かれてそれに我先にと食らいつくかのように各大手ゼネコンが軒を連ねて仕事をしている、そしてこの街と隣の街は距離的にもさほど遠くはない、しかもこの街は新しいモノが切磋琢磨と言わんばかりに出回りながらも、古い伝統的なモノが今も保存されて存在しているという大きなアドバンテージがある。おまけにこいつらは文化的に入り混じってさらに大きなアドバンテージをこの街に与えている。

そこにカネをばら撒いてくれる存在が近くに大量に現れた、こんな機会は滅多にない、だからこんな変わった取り組みをしたのだろうな。」

「ある意味、カネに感謝しなくてはいけないわね。」

そう会話しながら智史達は某パスタ屋風のアイスミルクティーを甘みの余韻をゆっくりと楽しむかのように飲み干していく。

外は桃源団が暴れているせいで緊迫した空気が走っていたが、この店の中は比較的客が少ない事や、植物やコケが複数植えられた和風庭園のような緑豊かな庭や外壁によって外と店本体の間に間が開けられていた為にそんな雰囲気など感じもする事はなかった。

 

「すみません、お勘定お願いします。」

「ありがとうございます、ところでお客様、先程市の方から避難指示が出ましたが、この後どうされるのですか?」

「大型車両用の有料駐車場に車停めているので、それに乗った上で例のテロ組織とやらに突っ込むつもりです。」

「お客様、もしかしてヒーロー協会に所属している『ヒーロー』なのですか?」

「いいえ、この街の外から来た『見た目』はごく普通の者です。」

「そうですか、既にラジオではヒーローが何人も殺られていると言ってますからね、行くなら命を粗末にしないように気をつけて下さいよ。」

「お気遣い、ありがとうございます。こちらこそ気をつけて。」

この店の店主は老紳士だった、彼はこれから桃源団の元へと行こうとする智史達を心配したものの引き止める気はなかった。

 

「ごちそうさまでした。」

「ありがとうございます、またお越し下さい。」

 

「ふう、じゃあ行きますか。」

「おい、君達、どこへ行くつもりだ…?」

「これからハンマーヘッド、否ハゲの集団が暴れている現場に行く。」

避難している中年の男がたまたま智史達に遭遇する、彼はどこへ行くと尋ねた、勿論智史は今自分が行きたい場所を正直に発言する。

しかしそれを聞いた周囲は動きをピタリと止めて皆彼の方をジロリと見つめる、所詮一般人ーーつまり我々と同じく非力な存在だというのに、これから死にに行くのではないかという雰囲気で。

 

「駄目だ若者、早まるなぁぁぁぁ!」

「みんなこの男を取り押さえろ!恐怖で錯乱している!」

「誰かがやっつけてくれるのを待つんだ!」

 

そして彼らは死にに行こうとしている(彼らから見れば。そして自分達とは違う異質な存在ではないかという事を無意識に恐れ、一般人という集団に引き留めようとしているという部分もある。)智史を取り押さえようと群がってきた、瞬く間に智史の周りは人で埋め尽くされてしまう。

 

「何で、引き止めようとするんだろう。」

「恐らく智史くんはあの人達と同じく、非力な一般人としか受け取られていないんじゃないのかしら。智史くんはこの世界では大事を引き起こすのを避けて混じりこむ事を処世術として行ってしまった、結果として智史くんはこの世界の住人達に溶け込む事は出来たけど、代償として圧倒的な力を持っているという事を見せつける機会を自ら潰してしまった。」

「当然この世界の殆どの人間達は智史が圧倒的な力を持っている事を知らない。だから智史がハンマーヘッドの所に行くと聞いた際、『自殺はよろしくない事である』とあう一般常識が働いて、智史を引き止めようとしたんだろう。」

「なるほど。でもこれってなんか馬鹿馬鹿しくない?僕達や彼にしてみればひどい迷惑だよ。僕が彼と同じ状況だったらーー」

 

「退け」

 

ーードゴォン!

 

「うわぁぁっ⁉︎」

 

「ジャストタイミングだ。こんな感じに、吹き飛ばしたいよ。」

智史は自分に群がり、のし掛かって押さえ込もうとする周囲をクラインフィールドを全方位に叩きつけて吹っ飛ばした、殺さないようにエネルギーベクトル能力も行使して威力の加減はしたものの、群がって押さえ込んでくる市民達を吹き飛ばすには十分すぎる威力だった。

そして智史は右手にM134ガトリングガンを生成すると蒼空に銃身を向けて威嚇射撃を行う、一隙も間を持たない断続した雷轟の如き発射音とそれに伴って零れ落ちる無数の薬莢が地面に落ちて鳴り響く音が街中に木霊する、そしてそれらは強烈な本能的な恐怖を彼らに与える。そして銃声が止む、智史は今度は彼らにその銃身を向ける。

 

ーージャキン!

 

「通告だ、死にたくなければ20秒以内に失せろ。」

 

「う、うわぁあああああ!」

「逃げろ、逃げろぉおおお!」

 

「駆除とは、こうやるものだ。」

「怖気を引き起こすようなすげえ轟音と迫力だったな…。幾らどかしたかったとはいえ、そこまでしなくても…。まあ死人が出ないだけ大事にはならないからマシか。」

「そうね、でもこれで邪魔が無くなったのは大きいわ。行きましょう。」

そして人気のない街中を智史達は歩き、車を停めてある有料駐車場に入っていく、程なくして智史達を乗せたコンクリートミキサー車が出庫する、そして智史の意志に従ってハンマーヘッドの所へと向かっていったーー

 

 

 

ーー再び、ハンマーヘッドの独白ーー

 

 

ーーベゴォン!

 

「逃げろーーっ!」

「ハゲが押し寄せてくるぞぉぉおお!」

「こいつら、本気でぶっ飛んでやがる!」

「危険すぎるぅううう!」

 

ーードォォォン!

 

ーーザッ!

ーーザッ!

ーーザッ!

 

ヒーローと名乗る奴を一蹴したあの後、我々は着々とゼニールの家へと進撃を続けていた。

道中、ヒーローと名乗る他の奴等、勿論警察もその道に立ち塞がるようにして襲いかかってきたものの、我々は凄まじい破壊力を持つバトルスーツを着用しているーーつまりは圧倒的な力を持っているのだ。一般の奴なら鎮圧できる警察も所詮はボンクラに毛の生えた奴らの集まりだ。

大盾、装甲車?それがどうした?今圧倒的な力を有している我々の前には、何の役に立つのだ?

当然我々はこいつらを悉く一蹴してそのまま進撃を続けた。そして“我々を倒してくれる”存在であるこいつらが吹き飛ばされる光景を見た愚かな大衆共はその考えが受け入れられずに恐怖して逃げ惑う。

やがて我々を阻む者は姿を消し、人影も失せた。その中を我々はゼニールの家へと突き進んでいく。

 

「ボス、見えました。

この先に見えるのがゼニール邸、通称金のウンコビルですぜ。」

「よし、行くぞ!」

 

やがてゼニールの家ーー間違えて壊した超高層ビルと同じかそれ以上の大きさのビルーーが我々の視界に現れる。

そしてさあ突撃と気合を入れて号令をかけた、その直後であるーー

 

ーーゴォォォォォォォ

 

「!」

 

人影が無くなり閑静となった街中、いや閑静となっているからこそ余計によく聞こえるのか、何かがこちらに向かってきているという事がわかるような重いタイヤの走行音が俺の体に響いてきた、俺は素早く部下に歩みを止めるようにと手を出す。

やがてその音を奏でていた正体が現れる、どうやらコンクリートミキサー車のようだ。その車はこれまで散らしたボンクラ共と同じく我々の道を阻むようにして真正面に停車する。恐らく我々と相対する自信があるという事だろう。

そしてドアが開いて人が降りてきた、それは愚かな大衆と混じっても見分けがつかない程地味な姿をした若い男だった、しかし態度は先ほどの通り、愚かな大衆のものとは全く違い、自信に満ちていた。

 

「お前が桃源団の首領、ハンマーヘッドか。」

「そうだ、俺の名を知っていた上でここに自信満々と立ち塞がるとは、並のボンクラとは少し違うみたいだな、面白い。だが俺は喧嘩は強えんだ、阻むようなら潰してやる。」

「そう出来るなら是非ともそうしてもらいたいものだ。」

 

俺はそいつに軽く威嚇を掛ける、しかしそいつは自信に満ちた態度を崩さない。寧ろその発言からは余裕さえ感じる。

こいつはただの一般人ではない。そう確信した俺は少し興味を持った。

 

「やはり喧嘩には、自信があるみてえだな。」

「如何にも。」

「退けば病院送りにならなくて済むぞ?」

「お断りだ、この先は私が仕掛ける喧嘩に勝利してから行け。」

「ほう。どうやっても通す気はないのか。なら始めるか。始める前に名を聞いておこう。」

「海神智史。今日お前達と相対する存在だ。」

「いい名じゃねえか。んじゃあかかって来やがれ。」

「良いだろう。但し念のため警告しておくが喧嘩する相手は目の前に見えている『私』ではないぞ。尤も、それは私の一部分でもあるがな。」

「何?」

 

こいつ、何を言っている?

一瞬俺は奴の発言の意味が理解できず、ふざけているのかと思った、しかし新たな重い地響きと轟音が複数現れる、恐らく何かをする気であるという事は確かなようだ。

程なくしてそのミキサー車の後ろや横から巨大なパワーショベルやクローラークレーン、ホイールローダーに大型のブルドーザー、オフロードダンプ、ダンプトレーラーが信号機や歩道橋、車、果てには建物も邪魔になるなら薙ぎ飛ばし、踏み潰し、アスファルトを叩き割りながら豪快に現れた、それらは先程のミキサー車を中心として一斉に停車する。

 

「な、何のつもりだ?工事車両ばかり出して、これで崇高な目的に生きる我々を倒せると思っているのか⁉︎」

「これは準備だ、本番はここからだ。」

 

ーーパチン!

 

こいつらは恐ろしくでかい鋼鉄の塊だ、動いているだけで凄まじい威圧感がある。だが、これで我々に勝てるというのか?

俺は強がりながらも奴にそう聞いた、すると奴は嬉しそうに指を鳴らした、するとエンジン音、否甲高い重厚なモーターのような音がこいつらから発せられ、あたりに響き始める。

そしてそいつらは信じられない行動に出始めた、何とこいつらのボディーが規則的な形をして割れる、まるでパズルのピースを外していくかのように変形していくではないか。その割れ間からはこれまで見たことのない機械的、しかし有機的な形をしたパーツが見え隠れする。

後ろの変形しているパワーショベルからチェーンのようなものがコンクリートミキサー車に取り付き、そのまま強引にパワーショベルと合体させる、そしてコンクリートミキサー車のフロント部分がパキリと割れてそこから機械的な形をした獣の顔が覗き出る、悍ましい獣の声が僅かながらも響く。他の変形した車両も次々と変形したパワーショベルに合体していった。

やがてこいつらは一つの巨大なモノへと変貌を遂げる、それは機械で出来上がった巨大な鋼鉄の獣だった。そしてこいつはコンクリートミキサー車だった頭の部分を地に這いずらせ、複数の瞳を黄緑色に輝かせて一際と周囲の大気を揺るがす咆哮を奏でた。

それはこれまで見てきた常識やこれまでこいつに抱いていた印象が悉く崩れ去るような恐ろしい光景だった、何せ突如として我々を優に見下ろす大きさの巨大な鋼鉄の化物が目の前に現れたのだ、普通こんな事などあり得ない筈なのに、だ。

 

「“I am Devastator!(意訳:俺はデバステーターだ!)”」

 

そしてこいつはこの鋼鉄の化物の頭の上で大声で先程の言葉をハモって叫んでいた、相変わらず何の行為なのか分からなかったが、少なくともこちらを殺す気は満々のようだ。

そして鋼鉄の化物は重厚な機械音を奏でてゆっくりとこちらに向かって歩いてくる、歩く度に地面が激しく震え、砕け割れ、周りの建物も崩れ、部下達の一部もバランスを崩してしまう。

尋常ではない圧倒的な威圧感と恐怖がこいつから伝わってくる、先程まで俺を支配していた優越感は崩れ去り、本能的な恐怖が俺の中を駆け巡った。

だが、俺は喧嘩には負けない、そうだからこそ絶対に負けたくない。それに、ここで負けたら「働きたい奴だけ働いて他は養ってもらえる社会にする」という我々の崇高な志が砕けてしまうのではなのだろうか。そして散々に蹴散らしてきた愚かな大衆達にこちらが負けたーーつまり弱さを見せたら何をされるのか恐ろしくて仕方がなかった。

我々は引くにも、引けなかった。

 

「行けええええ!」

「「「うぉおおおおお!」」」

 

「やはり、来たか…。

「“Devastator Destroy‼︎ HAHAHA‼︎”」」

 

そして我々は突っ込んでいく、あの化物が歩く度に地面が、大気が激しく震える中、こんな大きな化物など、唯の見掛け倒しの化物だという希望的観測を中に秘め、バトルスーツの性能を全開にして。

しかしーー

 

ーーゴォオン!

ーーカァン!

 

「え?」

「う、うそだろ…?」

「ならばもう一回だぁぁぁ!」

 

ーーボコン!

ーーコォォオン!

 

「ぼ、ボス…、こいつは唯の見掛け倒しじゃありません…‼︎」

 

バトルスーツのフルパワーを叩きつけるこちらの攻撃は鋼鉄の化物にはカァンという音ぐらいで効かず、鋼鉄の化物はビクともしなかった。超高層ビルの根元を破壊したモノを遥かに上回るパワーを複数叩きつけているのに、だ。

 

ーーバガァン!

 

「ウピャッ!」

 

「た、助け…、」

 

ーーグシャッ!

 

ーーガシィンガシィンガシィン!

 

「ギャハッ!」

「うわぁあああああ!」

 

そして当然こいつからも攻撃が始まる、だがこちらは羽虫でも散らすかのように一振りや踏みつけだけでいとも簡単に吹っ飛ばされてしまう、バトルスーツのフルパワーで防ごうにも相手はそれを上回る圧倒的な力でバトルスーツ諸共一発で叩き潰してくるのだからまともにぶつかるのはあまりにも無謀すぎた。

俺や部下達は自分達に対して容赦なく振われるその圧倒的過ぎる力の前に先程の思い込みは幻影であったことを強制的に悟らされて本当に恐怖した、そして同時に後悔した、自分が最強であるという幻想に囚われ上には上があるという現実が見えていなかったことに。

 

「くっ、こんな化物に頼るとは卑怯な!地上に降りて堂々と戦え!」

「ふふふ、何を言っているのか分からんな。何を使おうが勝てばそれで良いのだから。それに則り私は自分のやりたいように戦っているだけだ。そして警告した筈だぞ、戦う相手は人の形をした『私』ではないと。それを覚えずにそう吠えるとは、なんと愚劣な。見てて呆れるわ。」

「“グゥォオオオ‼︎”」

「ぎゃぁあああああ‼︎」

 

ーードガァァァン!

ーーミチャッ!

 

まずい、このままではまずい!

俺はそう確信し一度引こうと指示を出す、どうしても命が惜しくなってしまったからだ。逃げ遅れた部下達がバトルスーツ諸共次々と踏み潰され、吹き飛ばされていくという絶望的な状況の中で。

既に部下達の大半がこの化物により葬られている、これ以上戦っても無意味過ぎた。我々はあの化物が地面を揺るがして迫ってくる地獄絵図から本能的に必死に逃げる、もはやそこには統率や理性も無く、ただ恐怖のみがあった。しかしその様を見たあいつは一際と不気味な笑みを浮かべる、するとそれに応えるようにして化物は一度動きを止め、態勢を整えると、唸りを上げて口をガバリと開けた。

 

「な、何のつもりだ…⁉︎」

 

ーーウォオオオオオオオ‼︎

 

「“デバス、ヴェェェェェ!”」

 

一瞬それは何なのか分からない、しかしこちらを殺す行動の一つであると俺は直感した、そしてそれは当たった、突如として強烈な猛風が吹き始める、そして周りのものが次々と化物の方へと吸い寄せられ始めた、しかも信じられない事にーー既に非常識の連続なのだがーー化け物が起こした先の振動で壊れかけていたとはいえ、コンクリートの建物も木々も、アスファルトの舗装も、土諸共根元からごっそりと吸い寄せられていくのだ、我々は吸い寄せられないように周りのものに掴まろうとはしたものの、こんな行為など無意味だ言わんばかりにこうも周りのものがいとも簡単に吸い寄せられてしまうのでは、悲鳴を上げることさえも許されずにただ一方的に蹂躙されるしか無かった。

我々は成す術もなく猛風に翻弄されただ舞うしかないだけの木の葉のように化物に吸い寄せられていく、そして悲鳴を上げる間もなく次々と化物の歯車やファンに挟まれ、叩きつけられ、一瞬でミンチにされて消えていく、こんな様では当然バトルスーツはゴミ同然の有様だった。

 

母ちゃん、誰か、助けてくれぇえ…‼︎

 

俺は誰にも聞こえない悲鳴を上げた、そしてそれを言い終えた瞬間、俺は化物の何かに叩きつけられた、強過ぎて感じられない激痛が身体中に走った、一瞬で肉体が砕けたのが分かった。そして次の瞬間には頭が砕けた、そこで俺の意識は途絶えたーー

 

 

 

ーーほぼ同時刻、F市J地区。

 

「はぁ、はぁ、やっと着いた…‼︎」

 

ーーゴォオン

 

「ん?まだあのハゲの軍団が暴れているのか?地面が大地震でも起きたようにひび割れて、街中滅茶苦茶だが。」

 

ーーズゴォン

 

「また揺れた、おまけに何だか強い風も吹いてるな。

こりゃ、只事じゃみてえだな。期待させてくれるじゃねえか、行ってみるか!」

避難指示が出て既に無人となったF市に汗だくとなって着いた男がいた、それはF市で起きた騒動を見て慌ててやってきたサイタマだった。

だが残念な事に騒動の元凶は既に智史によって始末されていた、その事実を知らないままサイタマは智史達の所に向かっていく。

 

「おお、やっぱりだ!随分と強そうじゃねえか、ってあれ?お前ら、何してんだ?」

「この化物を使ってのんびりと遊んでいた。」

「おいおい…、ところであのハゲの軍団は、どうなったんだ?」

「ああ、あの軍団か。この化物を使って一方的に踏み潰したよ。」

「やっぱり、先に片付けられたか…。しかしそれにしては街の一部が綺麗さっぱりと無くなったりしてる、これもお前の仕業か?」

「そうだ、あの軍団を始末する際に、人も特にいなかったことや守りたいと思うものも特に無かったから、特に周りを気にすることなく盛大に暴れた。強風か?ああ、あいつらを飲み込んで跡形も無く破砕する際に生じさせてしまったものだよ。」

サイタマは綺麗さっぱりと消し飛び、更地と化したF市の街並みであった場所を見ながらそう呟く。智史はそうだと答えるように『自身』でもある鋼鉄の化物ーーデバステーターの頭部及び口を大きく展開させ、先ほどハンマーヘッド達を周囲の建物諸共破砕した、大型吸引装置「ヴォルテックス・グラインダー」起動形態へと変化させた。「ヴォルテックス・グラインダー」は再び起動し、周りのものを易々と吸い込んでいく。

 

「すげえ風だ、あの強風と振動は、お前が生み出したこの化物が原因だったのか。なるほど、何もかも無くなってスッキリして広々な理由がわかったぜ。俺を追い出した大家もこいつの餌食になればいいのにな。」

「大家さんに、何か恨みでも?」

「ああ、家賃滞納で追い出されたよ。元を言えばヒーローになろうと決めて就職しようとせず、そのせいでお金もあまり貰えず、家賃を支払おうとしない俺が悪いんだけど。しかし、何でだろう。お前が多少絡んだにせよ、多くの怪人をぶっ倒したのに、何で周りは注目してくれないんだ?ここまで来る途中に、テロリストと誤解されちまった、そこまで俺は人々に知られてないのか?」

「それには訳がある。家で詳細を話そう、だから帰るとしようか。」

「あ、ああ…。しかし、この化物も連れて帰るのか?これだと目立って仕方がないんじゃ、って、こいつ、変形ロボットだったのかよ⁉︎」

「ああ。私が創ったものだがな。ついでに言うならこいつらを使う必要性は無くなったな、だから『消す』としよう。」

智史はそう言い終える、するとデバステーターを構成していた材質が無数の青白い光の粒となっていき、デバステーターの形が消えていく、そしてそれらは今度は消防車ーーRosenbauer Panther 6×6 化学消防車ーーの形を構成していく、その消防車は智史達の前に停車する、ドアが自動で開いた。

 

「す、すげえ…。色々と訳わからなくて混乱しちまうぜ…。ところでさ、何で、あんな非常識な事を簡単に思いつけるんだ?」

「簡単に言うならこの世界の外の情報を集めてそれを参考にして色々と練り、鍛えているからだ、何も見ないのではこんな非常識な事など思いつけん。」

「だったら、さっきのあの化物も様々な世界の情報を参考にしたのか?」

「ああ。あの化物は今の『身体』に転生する前に知っていた事もあり、情報探索で詳細なスペックを把握した上で形にした。」

「なるほど…。だっからこいつを作るためにわざわざごっついコンクリートミキサーを選んだのか…。でもあれ、滅茶苦茶な存在感があってよかった。」

「しかし、ここまで暴れたからには目立つんじゃない?この世界の人間達に僕達が存在している事、知られたんじゃ?」

「ああ、もうバレている。報道ヘリはこちらの姿を映す前に悉く潰したが、ハゲ軍団の騒動を聞きつけて駆けつけた一部の『勇敢』な人間がこちらの姿を捉えてしまった。バレたら不都合な事が何かあるのか?」

「い、いや…。ただバレたからには今後この世界では表立って平穏に歩けなくなるんじゃ?」

「そうだな、自分から目立ってしまったせいで周りから視線を浴びやすくなってしまったのは確かだ。今後私達に関連する大事が起きやすくなったが、これはこれで面白い。」

「おいおい、俺も変に巻き込むなよ…。しかしこれ、乗り心地いいな、あ、夕焼けだ。明日もいい事あるかな。」

 

 

ーーA市、ヒーロー協会総本部

 

「F市が半壊、そして桃源団は全メンバーが消息不明だと⁉︎一体何が起きたんだ⁉︎」

「詳細は不明ですが、巨大な化物がF市のH地区で目撃されました、それが移動する際に発生させた強烈な振動がF市に瞬間震度7の地震を連続で発生させたとの報告が入っています。」

「そして強烈な烈風も発生させたそうです、それによって桃源団は壊滅したと思われます。」

「災害レベルは少なく見積もっても鬼、竜の可能性も否定出来ません。」

 

ここはヒーロー協会総本部の一室であった、部屋の中は薄暗く、テーブルの透明な天板を下から照らす明かりが部屋の照明だった。

その部屋の中で大勢の人間ーー何もヒーロー協会の関係者ーーが何やら話し合いをしている、どうやら桃源団とF市半壊の件で彼らは集まったようだ。

 

「成る程…。それで、画像データらしきものは採取出来たのか?」

「はい、たった今、入手しました!こちらが、そのデータです。」

「出せ!」

 

ーーブゥンッ

 

「大きい…、ボフォイ博士が作った新兵器か?」

「いえ、ボフォイ博士から提供されたデータによるとどのものにも当てはまらないようです。」

「これまでの災害データとの関連性も確認できません。」

「そうか…、まて、頭部に何か映っているぞ。頭部の部分を拡大しろ。」

「は、はい!」

 

「これは…、怪人ではなく、人間か?」

「形状からするにそうとしか思えません。」

「複数人いるな、身元のデータは?」

「不明です、現時点では割り出し出来ません。」

 

彼らは困惑する、自分達にしてみれば見知らぬものである故にどう捉え、判断すればいいのか分からなかったからだ。しかしそんな状況を吹っ飛ばすようにして電報が新たに入る。

 

「“大変です、たった今、化物が消えました…‼︎”」

「何だと⁉︎何が起きた⁉︎」

「“は、はい、人が降りた後、変形し、そして光の粒となって消失した模様です…。”」

「消失だと⁉︎一体何が起きているのだ…⁉︎」

「分からんが、どうやらあの人間達が何らかの鍵を握っている事は確かなようだ。彼らは恐らく我々にしてみれば未知の存在だ、だから彼らに関する情報を如何なる手段も使ってでも、収集すべきだろう。」

1人がそう告げる、それに同意するようにして他の人間達も慌ただしく動き始める。

それは智史達に注意が注がれた瞬間だった、彼らはあの後あの手この手を使って智史達の事を知ろうと奔走し始めるーー

 

 

「え⁉︎俺がどうなるのかをある程度知っていた上で今までの行動をしていたと⁉︎」

「ああ。もろそろそろバラしてもいい時期だと判断したからバラしたまでだ。」

「それって、どうやって知ったんだよ⁉︎」

「入ってくる前に世界系の外からの情報把握で転生前に入手したお前の情報を参照した上で修正を足しつつ今後の予想を立てていたからだ、さて、ヒーローを趣味で頑張っていた、だが注目されないと愚痴をボヤいてたな、そろそろ何でお前がヒーロー活動を頑張っても注目されない理由を教えようか。」

「ああ、(先生がなぜ注目されない理由か…。そういえばさっき、桃源団を殲滅したのは智史達ではなく、勿論先生でもなく、『無免ライダー』というヒーローのお陰であると報道していたな…。)まさか、趣味でヒーローとは…。」

「⁉︎」

「先生、もしかしてヒーロー名簿に登録してないんですか?」

「正解、それがこの後言いたかった理由だ。その『ヒーロー名簿』に関しての事だが、全国にあるヒーロー協会の施設で体力テストや正義感テストを受け、一定の基準を超えれば正式にヒーローと名乗る事を許され、晴れて『ヒーロー名簿』に登録される。

そうして協会に認められた者は職業ヒーローとして協会の募金に寄付された金額が働きに応じて支払われる。

そこに登録する際には実力ランキングや人気ランキング等にも同時登録され、世間は常にそれらのヒーロー達の話題で盛り上がっている。

中にはファンクラブを持つヒーローも少なくはない。

そして、何で『ヒーロー名簿』とやらに登録しないと注目されないかについてだが、世間一般でいうヒーローとは協会の名簿に登録された職業ヒーローの事を指しており、それ以外のヒーローはヒーローとは見做されず、いくら個人で活動していても自称ヒーローでは、妄言を吐く変態としか認識されず、白い目で見られてしまう。だからだ。」

「………知らなかった。」

智史からなんで自分がいくら頑張っても注目されないかについての理由を半強制的に知らされたサイタマは少し落ち込んでしまった、自分が趣味としてやってきたヒーローとしての活動は周りからはヒーローとして見做されていなかった、つまり今までの努力は徒労だったという現実に。

 

「プロのヒーローが出てきたのは丁度3年程前からです。大富豪アゴーニの孫が怪人に襲われたとき通りすがりの男性に助けられたらしく、その話を孫から聞いた時にこの制度を思いつき、私財を投じてヒーロー協会を設立したんだとか。」

「ジェノスは登録してんのか?」

「いえ、俺はいいです。」

サイタマはジェノスにヒーロー協会に登録しているのかを尋ねた、するとジェノスは登録は結構だという態度を表した。

 

「登録しようぜ!一緒に登録してくれたら弟子にしてやるから‼︎」

「はい、行きましょう!」

「ヒーロー協会の試験はネットでも申し込みが可能だ、申し込みの締め切りは前日の18:00まで。今日が試験日の二日前だ、だからまだ間に合うぞ。インターネットでヒーロー協会のサイトにアクセスして募集用のフォームに記入事項を入れて出せば、後はOKだ。」

「いつの間にこんな事を…。しかしジェノス、サイタマが弟子とか言ってたが、何かあったのか?」

「俺は、お前達が来る少し前に進化の家の尖兵の1人との戦いで負けそうになり、ここまでと思って自爆しようとした。しかしその時先生が表れ、一撃であいつを木っ端微塵にし、俺を助けてくれたんだ。

俺は、先生のその圧倒的な強さに憧れ弟子入りを懇願した、今先生が登録してくれたら弟子にしてくれると言ってくれた、だから気分が高揚しているんだ。」

「なるほどな…。だから弟子にするとかで気分が高揚してるのか。」

弟子という言葉に興味を持ったズイカクはジェノスとその言葉の件について話をする、内容は少しシリアスだったが、ズイカクはなぜジェノスがサイタマの元にいるのかという理由を理解できたようだ。

 

「あ、スイカのCMだ、スイカ食べたくなってきちゃった。」

「そうか、なら一旦リヴァイアサンに戻ってスイカ持ってくるか。」

「な、何を突然、って、ええ〜⁉︎」

「ちょっと待ってて、スイカ持ってくる。サイタマ君やジェノス君も食べる?」

「あ、ああ…。」

そして智史と琴乃はゲートを通じて一度リヴァイアサンの艦内に戻る、2人はそこから少し歩いてある一室に入る、そこは野菜や果物が、人工栽培されている部屋だった、その中にスイカ畑があった、大きなスイカが複数、そこに実っていた。

 

「大きくなったな、元の世界を旅立つ時はまだ芽すら生えてなかったのに、気がつけばもうこんなになるのか。」

「そうね、智史くんが多少たりとも育ちを速くしているとはいえ、時の流れを何となく感じるわ。さ、持って行きましょう。」

 

2人はその中で最も大きなスイカを予め部屋の中に常備されていたハサミで切り、籠にスイカを入れて再びゲートを通ってサイタマの家に帰ってきた。

 

「はい、どうぞ。」

「美味しそう…。いくらお邪魔してるとはいっても、こちらが何だか申し訳ない気がしてきた…。」

そして切られたスイカがサイタマの家のテーブルに並んだ、皆は仲良く揃ってスイカを美味しく貪った。

こうして、色々と吹っ飛んだ1日は終わりを迎えた、だが時の流れは止まらない。この1日で起きた出来事の影響は智史達と彼らに関わるもの全てを引っくるめてこの後に形となって現れてくるのだったーー




後書き

デバステーターについて。

デバステーターの大きさは原作実写版のものよりもやや大きくしている、勿論姿と各パーツのサイズ比は瓜二つのにしたのでそのせいで各パーツのビーグルモードの大きさがそれに比例して大きくなった。
また原作でのデバステーターは歩く際に地面を割りはしなかったものの、今作ではより巨体の存在感を際立たせるために地面をエネルギー衝撃波で揺らして割るという描写を追加した。


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第47話 ぶどう狩りと動き出す陰謀

今回はぶどう狩りの話を入れました。
原作からだいぶ弄くり回したのでヒーロー試験に関する勉強の必要性があると考え作文の添削のシーンも入れています。
そしてライトマサルの尖兵が既に工作を開始している事が明らかにされます。
タンクトップタイガーはヒーローらしくないクズなやつなのでオリ主である海神智史に殺害されるという末路を取らせました。
あと人間の愚かさ、弱さも本文中に含めました。
そして動き出す陰謀…。
アマイマスクさんはどうなるのでしょうか。
それではじっくりとお楽しみください。


ーーチチチチ。

 

「なるほど、だから相手はこういう問題をこちらに仕掛けてくるのか…。」

「そう、相手が仕掛けてくる問題は全て『この人物は本当に自分達、そして組織の為になる存在なのだろうか』という不安から来ている。」

「でもよ、何でお前はヒーロー協会の試験に参加しないんだ?」

「これ迄旅して色々見てきた故、カネや名声には興味がなくなってしまった、だからだ。そしてまた、旅をする予定だ、何時までもここにいる気は無い。それに知らない方が幸せな事もあるかもしれないぞ?」

「そうか。まあ参加するしないを決めるのは俺ではなく、お前自身だからな。しかし、本当にB級以上のランクに行けるのか?」

「行く行かないではなく、行かなければならんのだ、C級という数の多い下っ端のランクであるが故の、一週間ヒーロー活動を行わなかった者は名簿から除名されてしまうという定めを逃れるためには。1週間以内にヒーロー活動と認められるものが出てくるとは限らん。

自分に自信を持て。そうしなければその定めからは逃れる事、いやそれ以前にプロヒーローとして名簿に登録する事すら許されんぞ。」

「そうだな、諦めてばっかじゃ何も始まんねえからな。頑張んねえと。続き、教えてくれ。」

智史はサイタマに対しヒーロー試験の筆記の勉強を教えていた、彼は相手の考えと心理状態を説明しつつ、サイタマに過去問のデータをベースとした模擬試験の内容の添削を行った。

原作ではサイタマ本人が筆記の勉強をしなかった結果、C級スタートという形になりてんやわんやの状態になってしまったことを考慮してのことだった、それにC級スタートからB級昇格までの間に出てきたヒーロー活動と見做される『モノ』の一部を潰してしまった事も踏まえ、償い(自己満足かもしれないと考えている節はある)も込めて彼はB級以上のランクに行けるようにとサイタマの筆記の勉強を手伝うこととしたのだった。

しかし手伝うとはいっても、試験を仕掛けてくる相手の意図に応えるように結果を出さなければ結局は無意味になってしまう、なので彼は新たにヒーロー協会の試験基準、採点基準、過去問のデータ(必要とあらば時系列を遡っても採取した)、更には試験を担当するヒーロー協会の人間のパーソナルデータまでより事細かに調べ上げた。

こんな事など凡人には「実現する事などあり得ん」の一言で片付けられそうな非現実過ぎる事なのだが、あらゆる分野で進化し続ける能力を常に伸ばしすぎ、当然の如くに常に強大になりすぎている智史にしてみればとても容易い事だった。それに、今「実現できない」と言い切れても、次の瞬間もそうとは言い切れない。

 

「あら、朝早くから筆記の試験勉強?」

「ああ、本来の流れでは彼はC級スタートだった、そこに関する背景の因果を捻じ曲げてしまった以上、せめて自分なりの償いとして筆記の試験勉強を教えている。」

「なるほど、罪の償いね…。サイタマ君の事、多少気になっているの?」

「そうだな、そうでなければこんな事などしない。またこの世界で動く際に償った分以上の事をしでかすかもしれんが、動かなければ自分の心が、体が落ち着かず、満たされない。」

そこに、戸を開けてジェノスが入ってくる。

 

「あ、先生。何か勉強されているんですか?」

「ああ、あいつが筆記の勉強してないと今後ろくな事にならないし、自分が関わっちゃったからその償いとして筆記教えたいって言って俺に教えてるんだ。」

「そうですか。(本来ならこの世界に存在しない存在である彼らが俺や先生との間に多少たりとも関わっている以上、この世界の本来の未来の情報は当てにならないな、こうするのはある意味一理あるというべきだろう。しかし、彼ら、特に海神智史本人の行動次第では大事に発展するかもしれない、今の所彼にはこの世界を、俺や先生を悉く滅ぼす気は無いようだが、世間は彼を強大な脅威と見做して恐れている可能性がとても高い。もし世間の対応が一歩違えばそれこそこの世界は確実に終わる…。その時こそ、俺も先生も、誰も止められない災厄が芽吹く時だ…。)」

「ジェノス、智史の事で何か考え事でも?」

智史の事で思い詰めてしまっているジェノス、パーツを修復した際に機能の一部強化を行ったもののそれでも智史には全く及ばない、否全く追いつけずに凄まじ過ぎる速さの進化でアホみたいにどんどん引き離されてしまっている。自分を遥かに上回る力を持つサイタマすら同じ様なのだ、当然かもしれないがこの世界系の中の力を全て集めても全然勝てない、逆に蹂躙されるしかない程に彼、リヴァイアサンごと海神智史は強過ぎた。そこまで考えが及ばないにせよ、勝てる希望を見出せないのでは、思いつめて仕方がなかった。

そんなジェノスにズイカクが傍から話しかける、ジェノスはズイカクに連れられて隣の部屋に移る。

 

「別に大丈夫だ、ただ、智史がこの世界で動くとなると何が起きるのか不安になってな…。」

「あいつに悪気はない事は分かるんだけど、ただ、些細な事でも気に入らなければ容赦無く徹底的に破壊する癖があるからな…。まあアホみたいに強過ぎるし、更に強くなるし、しかも相手の事や自分の事も事細かに把握した上でもう十分だというのにもっと強くなって挑んでるからただの傲慢なやつとは一言も言えない、そして気に入らない事を消す事で二度とストレスが溜まらないというメリットは悪くはないし…。とにかく自分の気持ちに正直なんだよ、あいつは。」

「そうか…。但し、智史がこの世界を滅ぼす気になってしまったら、引き止めてくれ…。止められなくてもいい、頼む。」

 

「(…ジェノス…。)」

智史はそんな2人の会話を無意識に聞き取り、知ってしまっていた、そしてジェノスの苦悩に僅かながらも同情したーー

 

 

ーーZ市市立病院、8-102号室

 

「ん…、んん…。」

「黄金ボールさん、ようやく目が覚めたようですね。」

「パネヒゲか…。ここは、何処だ…。」

「市立病院ですよ、医師からの話によると見知らぬ誰かさんに手当をされてここに入れられたみたいです。」

「そうか…。しかしあの怪人はどうなったんだ…?」

「私にも分かりません、ただここ病院に収容されるまでの途中、意識が僅かながら戻りまして…、車の中でしたね、私達の手当をしている女性と昆布をムシャムシャと貪ってる若い2人がそこにはおりまして…。そして車を運転していたごく普通の一般人の姿形をした若い男性が私達をカプセルに入れる所で意識が再び途絶えました…。」

「昆布か…。恐らくあの怪人は倒されたかもしれないな…。」

F市市立病院の一室に男2人がいた、その2人は大怪我を負い三角巾や包帯を身に巻いていた。彼らは何者かが自分達の手当をしたという事で話をする、しかしその何者かとは彼らには分からなかったーー実際にこの病院に2人を搬送したのは智史達なのだがーー

そして2人とも目覚めたのを見計らうかのように黒い服を着た男ーーヒーロー協会の役人ーーが部屋に入ってくる。

 

「黄金ボールさん、パネヒゲさん。ようやく目が覚めたようですかね。」

「おや、ヒーロー協会の役人さんですか。何かあったのですか?」

「実は、B・C級以外の他のヒーローの方々にも連絡を回し、急遽調査を依頼する程の、急を要する事態でして…。本来なら大怪我を負われてしまって依頼すべきでない所を申し訳ないのですが、2人ともお目覚めになるところをお待ちしていました。」

「一体、何なんだ…?」

「これを、ご覧下さい。」

役人は端末を起動するとその画面を2人に見せた、そこには智史達の姿形を映した画像ーー昨日F市で桃源団殲滅の際に撮影されたものーーが映し出されていた。

 

「な…⁉︎この男性は、まさか…⁉︎」

「パネヒゲさん、何か見覚えがあるのですか?」

「あの男性は、見覚えがありますね…。怪人との戦いで負傷した私達をここに連れてきた人物ではないかと考えます。病院で意識を取り戻した後、ここの職員から話を聞かされたのですが、若い男性が私達を入れたカプセルを置いてそのまま去って行ってしまったと…。手当もプロの医師達も驚く程正確に行われていたそうで、この状態なら後遺症のリスクもなくそれ程時間も経たずに快復するだろうとの事でした…。」

「なるほど、つまりパネヒゲさん達はあの男性、我々ヒーロー協会では仮称「X」に助けられたという事でしょうか?」

「ええ…、確実にそうだと思います。」

「しかし、その下の化け物は何なんだ…?」

「桃源団がF市でテロを引き起こした事に連動して出現したと推測されます、少なくとも我々がこれ迄に見た事のない存在である事は確かなようです、しかも信じ難い事に、この映像が撮影された直後に光り輝く粒となって消失したという事象が確認されています。恐らくこれには「X」が関わっている可能性があると思われます。また未確認情報ですが、「進化の家」の本拠地と思われる場所で大気圏にまで達する爆煙を生じ、かつ直径50㎞圏内を跡形もなく消し飛ばした巨大な爆発や、Z市で発生した天候の異常なまでの変動も「X」が実行したという目撃情報も確認されています。」

「おいおい…、これ迄に起きた事象も「X」の仕業だというのか…?もし本当だったら災害レベル鬼ってレベルじゃねえぞ…。少なく見積もっても竜は下らねえ…。否それ以上か…?」

「ひょっとすれば、人類滅亡の危機、つまり災害レベル「神」かもしれませんね…。」

そう雑談をする役人と2人、そこに役人の電話が鳴り響く。

 

ーーピピピピ、ピピピピ!

 

「はい、私です。

ーーはい、強盗団「牛の胃袋」の首領、A級賞金首ブルブルが討伐され、ブルブルとその構成員達の死骸がF市の警察署に置かれていった…。何ですって?ブルブルと構成員達を皆殺しにしたのは、「X」?

分かりました、はい、連絡します…。」

「何か、あったのですか?」

「既に先行して聞き込み調査を開始しているヒーロー達から、「X」と思わしき人物が強盗団「牛の胃袋」の首領、A級賞金首ブルブルを構成員達諸共全員殺害して討伐の証拠としてF市の警察署に彼らの死骸を突き出したという情報がF市管轄の警察署より提供されたとの事です…。」

「A級賞金首とはいえど、強盗団を束ねる首領だぞ…⁉︎計画犯行とはいえど人の命を最初から奪う目的でやってる筈がない…‼︎」

「普通、賞金首は警察署に突き出すのが常識なのですが、それは生かしたままですからね…、人の命を奪っているならまだしも、彼らは人の命を奪ったという「罪科」がない。また罪科を引き起こしている総本人であるブルブルだけが殺されるのはまだしも、その末端の構成員まで皆殺しとは…、随分と惨たらしいですね…。」

「はい、そして先程の話に戻すのですが、桃源団の全メンバーも所在不明で…。これ迄に集めたデータから推測するに、先程の画像の化け物に全員が殺害されたと思われます。」

「こりゃアマイマスク並に容赦ねえな…。確かにさっき言ったものも含めたこれらの行為が結果論としてみれば俺達の為になっているとはいえど、世間の一般常識から見るに、度を逸しているぞ…。」

 

 

ーーほぼ同時刻、ワンパンマンの世界系の外。

 

「やはり、あの存在ーーリヴァイアサンは各々の世界系の掟に従おうとはせず、己の欲望のままに動き回るか…。」

「はい、これ迄に奴に目をつけられた世界系は破壊されるか、大きく変質してしまっています。本来のものに戻そうにも、既に修復不能なレベルです。」

「掟に従い、本来の定められた道を歩む事こそが正しい道だというのに…。まあいい、ここまでやるという事は奴にはそんな事など目にも入っていないだろうからな。幸運にも奴はこちらの意図を悟る事なく自分から弱点を晒して罠に引っかかってくれた。」

ライトマサルはワンパンマンと他の世界系を仕切る次元の壁の目の前で報告をしに来た斥候と会話をしていた、既に部下達の一部は自分達が外から来た存在であると感づかれないように細工をしてこの世界系に侵入し工作の下準備を始めていたものの、流石にいきなり将軍クラスの自分ーー細工しようにもオーラで悟られてしまう、大男総身に知恵が周りがねの状態ーーが行くのはリスクがありすぎると判断して敢えてここで指揮をとっていた。

 

「しかし、下手に手を出せばこの世界系にも甚大な被害が出るのでは?」

「そこを利用する。奴がこの世界系でしでかした事を宣伝して、共感を呼び、各世界系を超えた連合軍を結成し、奴の足を引きずる。それでベヒモス様が準備なされている兵器が完成するまでの時間を稼ぎ、その策から目を逸らさせて完成と同時に一気に引導を渡す。」

「なるほど…。しかし、こんな事途中で気付かれてしまわないでしょうか。」

「そのような最悪の事態にならないように我々が仕事を果たすのだ。一つとて手を抜くな、さもなくば感づかれるぞ。」

「はっ!」

そして用を終えた斥候は再び任に戻る、ライトマサルは思索にふけながらリヴァイアサンごと智史をいかに足止めするかを練る。

彼は自分達の策の真の目的が漏れないように厳重な防諜を敷いていた、そのお陰でリヴァイアサン=智史以外の全ての生命体にはその策謀は知られなかった。

そう、智史以外には。

とても残念な事に、智史は最初から彼らの様子を把握していた、そして更にタチの悪い事に、何度も言っているが彼は常に進化をし続けて、そのペースさえぶっちぎった勢いで上げまくっていた、あらゆる面で。当然、彼らがいくら防諜を頑張ってもそれを上回るペースで「知る」力が桁違いに強化されては全く無駄だった。

その策謀の一部始終が全て智史に筒抜けである事を彼らは知らぬまま策を進める事になる、それはある意味で幸せだったのかもしれないーー

 

 

ーー翌日

 

「ヒーロー試験、行ってくるわ。お前ら、今日はどうすんだ?」

「このまま家にいるのも手だが、あまり好きではない。隣のW市でぶどう狩りでもするとしよう。」

「ぶどう狩りか…。そこに至った理由は何なんだ?」

「昨日、『明日どこ行こうか』と考え色々と調べていたら、W市はぶどうの名産地と知ってな、その時にかつて1人で元の世界に居た時に山梨県の御坂という地でぶどう狩りをした事を思い出した。そこでやったあの時以来、新鮮な生のぶどうを食べてなくてな、だからだ。」

「なるほど、どういう味なのかしら、W市特産の生のぶどうって…。」

「結構おいしいぞ。おまけに無農薬かつ自然の肥料や環境に与える害が全くない方法で効率良く栽培しているんだ。ただ、W市の行政の方がこのぶどうを市のブランド品としてこのぶどうに関する権利を殆ど管理し、そして街により金を落とすようにっていう感じでW市市内でしか買えないようにしてしまったんだ。

こっから行こうにも金はかかるし時間はかかるし面倒くせえ…。ああ、W市のぶどう、食べたいぜ…。」

「味は食べてみないとわからない、だからこそ一度食べてみる価値はあるな。しかし、お金をより市に落としたいという努力は理解不能ではないが、やっている事は何か間違っている気がする、少なくとも消費者の観点で見れば。

敢えてW市以外でも食べられるように販売し、W市の知名度を上げ、観光客を呼び込めるようにインフラを整備しながら、ぶどうと引っくるめて街づくりを進めてみれば如何だろうか。個人的にはこの方がより税収も、街の収入も増える気がする。」

「F市を面白半分で半壊させたお前が言うなよ…。あ、そろそろ行かねえとやばい。行くぜ、ジェノス。」

「はい、こちらも準備できました。行きましょう。智史、騒ぎをまた起こさないでくれよ。」

「了解した。」

そしてサイタマ達は出かけていく、智史達も少しして出る、そして出るなら閉めておくようにと渡された鍵を使い、玄関に鍵をかけた事を確認する。

そしていざ出かけようとした時に、この住宅街の住人の1人ーー中年の女性と運悪くばったりと出くわしてしまう。

 

「すみません、あなたが一昨日のあの異常気象を引き起こした人なのですか?」

「はい、そ」

「言うなぁああ!」

その住人は智史が昨日の事件の実行者なのかと訊く、智史はそのまま「はい」と答えようとするものの、次の瞬間、ズイカクがそれを阻む。

 

「ど、どうしたんですか?」

「いえ、ただの見間違いです…。もう、あの異常気象を引き起こした奴にそっくりそのまんまの姿だから、疑われちゃうじゃないか!」

「は、はい…。すみません…。」

「そ、そこまでやらなくても…。分かりました、すみません、疑ってしまって。人違いなのかしら。」

ズイカクは智史を敢えて智史本人のドッペルゲンガーとしてガミガミ叱る、その意図の真意を察しながらもこれ迄の自分がやったことの無計画性を思い出した智史は少しへこたれる。

その様子を見た女性は本人ではないと信じ込まざるを得ず、これ以上やると可哀想だと判断してその場を去って行ってしまった。智史達も人気がない所ーーゴーストタウン化した場所ーーを探してそこで改めて話をする。

 

「すまんな、本当に無計画で。」

「まあそう落ち込まなくても。しかし弁慶が義経にやった事を学んどいてよかったぁ〜。」

「あれは助かった、ありがとう。だが言いそびれていた事がある。」

「たぶん、僕達の事がばれたという事なんでしょ?」

「ああ、まだ詳細の把握にまでは至ってないものの、既に見知らぬ存在がいるという事で我々を知ろうという動きが本格化している。」

「恐らく、その動きの主体はヒーロー協会かしら。」

「多分な。腐っても奴らは人類を守る、強いては自分自身の利益も守る役目を負っている。自分達の脅威となる事を目の前にして動かぬわけがあるまい。

そして、もう一つ告げたい事がある。」

「え、それは何?」

「何れ名前も、姿もわかるかもしれないが、私を快く思わぬこの世界系の奴らとはまた違う存在がこの世界の住人達の一部に対して策謀を仕掛け始めている、今はまだ表面には出てないものの水面下では既に工作が進みつつある。

これ迄自分の好きな様に派手に暴れて来たからな、そしてその世界でも派手に暴れてしまった。それをいい事にして奴らは民衆を、この世界の上層部を煽動して我々を追い詰める算段だろう。」

「…え、それってなんかやばくない…?」

「そうかもしれんな、しかしその策謀は私にしてみればこれとない機会だ。何も考える術を持たされないように教育され、いいように煽動されている民衆に対して自分達の愚かさ、弱さを知らしめ、逆にこちらの好きなようにする(盛大に暴れ、破壊の限りを尽くす事もこの中には含まれている)にはむしろ好都合だ。さて、この話は取り敢えず打ち切って、改めてW市に行くとしようか。」

智史はそう言い終えると昨日の化学消防車ーーRosenbauer Panther 6×6ーーと同じモノを再びその場に生成する、そしてゴーストタウンの一角からその消防車が出てきた。

彼らを乗せた消防車はW市に向かっていくーー

 

 

ーーほぼ同時刻、ヒーロー協会Z市支部

 

「アマイマスク様、これ迄に集めた資料並びに証言によるとここZ市に「X」は存在すると考えられます。」

「既にそれは本部の重役から聞いている。僕がここに来たのはそんな下らない報告を聞くためじゃない。「X」とは何者かという事を確かめたいからここに来たんだ。」

「ですがアマイマスク様、「X」はF市を半壊させています。我々人類の脅威である可能性はとても高いです。」

「確かにその可能性はある、だけどそれは桃源団の件と少なからずとも関連性がある、もし桃源団がそこにいなくても「X」はF市を半壊させるような真似をしたのだろうか?」

「い、いえ…、ですがそれは…。」

「この事は市民の避難が事前に完了していた事もあれど、我々人類に対する悪意があってやった事とは僕には到底思えない。もし人類に対する悪意があったとしたら今回のときより被害は拡大し、大勢の民衆が殺されていた可能性さえある。」

「は、はい…。」

「(「X」…、「進化の家」の生き残りであるアーマードゴリラによると「進化の家」を壊滅させ、社会の敵であるA級賞金首ブルブルを殺し、たった今入った情報によるとA級ヒーロー、パネヒゲと黄金ボールを助けたという。怪人に敗れた2人はヒーローとしての基準を満たしていない事はさておきとして、今の所「X」が民間人や我々ヒーローと積極的に敵対し、攻撃しているーー僕の言葉で言えば『悪』たる事を確信させる物証はない。寧ろヒーローがやるべき行為の一部をやっているとさえみなす事も出来る。確かに、圧倒的な力を有している可能性は高い、だから脅威たるリスクはあるという考えも否定できない。しかしまだ民間人や我々と敵対している事が明らかでないというのに、こちらから真っ先に『悪』と決めつけ敵対するというのは如何なものか。もしそれに元から我々人類に対する敵意がなかったら、それこそ面倒事を新たに生み出してしまう愚かな行為だ。

少なくとも一度会って何者なのかという事を確かめてみるべきだ、その上で人類の脅威ーー『悪』とみなすかは考えよう。)」

A級ヒーロー第1位にしてヒーロー協会内にて強大な権限を持つアマイマスクは仮称「X」ごと海神智史の事を知りたがっていた、彼はこれまで体験してきた経験や智史に関する「情報」を基にして智史はこの世界の脅威たり得るのかを考えていた、そしてその「答」を自分なりに見出すために智史を探し出して直接会おうと考えていたのだった。

そんな物思いに耽るアマイマスクに望んでいたというべき新たな情報が入ってくる。

 

「アマイマスク様!W市の監視を担当しているA級2位、イアイマンさんより報告です!『W市郊外にて「X」と思わしき人物一行が確認された、これより目標と思わしき一行の追尾を開始する』との事です!」

「了解した、分かり次第随時僕の方に報告してくれ。」

 

 

ーーW市市街地郊外のとあるぶどう農家。

 

「お客様、随分と立派な消防車ですね。マニアの方でしょうか?」

「いえ、私達マニアじゃありません…。単に彼の個人的好みで…。」

「…やっぱ消防車は度を逸して目立ち過ぎてるぞ、大きさも結構あるし、色合いも目立つし…。」

「君の創る物を全否定する気はないけど、流石にこれはマズイんじゃないかな?目立ち過ぎて周りの人間達から注目されちゃってるよ。」

「個人的好みを優先するあまりにこうなっちゃいました、スミマセン…。」

「別に揉め事になってないからいいけど。ところで人間達が構えているモノ、何って名前なのかな?」

「これの事か?これはスマートフォンというんだ。」

「形はちょっと違うけど…、何処となく似てるねえ。」

「こいつにはカメラの機能が当たり前のように搭載されている、カメラとはモノを記録し、2次元ーーつまり「絵」の形にして表現するものだ。そしてこいつにはインターネットに接続できる機能がある、ぶっちゃけて言えば皆に情報が知れるようにしてしまう機能があるという事だ。」

「げっ、それってある意味マズイんじゃ…。」

「ああ。もうとっくにヒーロー協会の方にはこの事は知れているだろうな。私は奴ら、否全ての人間に自分の事を知られたくて行動していたからな、これはある意味必然というべきか。」

「自分を知らしめたいという欲望ーー自己顕示欲か…、以前の僕だったら堪らずセルメダルを投入してたよ。あ、ごめん、よく見てみたら人間達僕らじゃなくてさっきまで乗ってたあの赤い車ーー消防車に注目してたよ。裏を返せば僕らに対する注意は殆どないって事が示されたね。」

「まあそうだな、人目をあまり気にせずにぶどう狩りができるな。行こうか。」

あの後智史達はのんびりと化学消防車に乗って今いる場所までやってきた、普段見かけない「デザイン」をしていたせいかその化学消防車は人々に注目されはしたものの、その分智史達に対する注意は大きく削ぎ落とされた。

なのでヒーロー協会の人間達や情報調査に出ているヒーロー達を除き、彼らの事が本格的に社会に大きく知れ渡る事は特に無かった。

そして智史達は消防車に注目し撮影している人の群れを尻目にしてのんびりとぶどう狩りを始めた。

 

「ぶどう、沢山あるね。」

「そうだな、種類が多すぎてどれから食べていいのか少し分からんぐらいだ。」

「しかも生き生きとしてるな…。相当な鮮度があるって見ていい…。あ、これ食べていいのか?」

「試食として無料で提供されている、別に食べても構わん。」

「なるほどな…。んじゃあおばさん、これ、遠慮なく頂きます。」

そしてズイカクは試食として提供されたぶどうの実ーーオリンピアを口にほうばった、彼女は少し驚いた、ぶどうはこういう味がするのかという事に。

 

「このぶどう、何って名前なの?」

「カッタクルガン。皮が薄く、シャキっとしているのに水気がたっぷりとある珍しい品種。栽培がとても難しく、そのため販売する店も少ない希少な品種だそうだ。」

「へぇ〜。これはここでは珍しい品種なのか…。」

「ここでは、な。ここ以外はそうとは限らないが。」

「智史くん、これ美味しそうだから、ア〜ンして。」

「(今試食品として提供されたのはデラウェア、ワインによく使われる品種か…。しかし琴乃、私は子供じゃないのに…?まあ愛情表現ならいい…。)…あ〜ん。」

「手が、手が届かない…。」

「だったら脚立でも用意してもらおう。(クラインフィールドで階段を作って切るのも手だがそれだと人ならざる存在という事を自分からまざまざと示しかねないから、危険すぎる。まあいずれバレるとは分かってても、大騒動は今は起こしたくないものだ、目立ちたいという欲望と相反して。やはり私は矛盾に満ちた存在であることを思い再び思い出すな、だが矛盾した存在であるという事を少しでも受け入れなければ自分を更に不幸にするだけだ。)」

そして4人はぶどうを次々と切っていった、バスケットはあっという間に水気のある新鮮な多種多彩なぶどうで満たされていった。

お会計を済ませ、4人は消防車に乗り込む。

 

「沢山ぶどう手に入ったね。サイタマ君の所にも幾つかお裾分けしようかしら。」

「そうだな、全部独り占めはおかしすぎる。しかし、カネがあまりにも多すぎて中々減らないな、まあ切らさなければ特に問題はないのだが。ところでぶどう狩りの最中、サイタマとジェノスのヒーロー試験に関するデータを記録しておいた。」

「なるほど、どんなものなのか見せてくれないか?」

「了解した、ただしお前達にしてみれば我が目を疑うものかもしれないぞ、特にサイタマはそうだ。」

そして智史はスマートフォンの画面をズイカクに見せる、そこにはサイタマとジェノスの体力試験中の結果の一部始終を記録した映像が映し出されていた。

 

「な、何だこれは…。人間でない私達が言うのもなんだが、こいつ人間の域を超えてるぞ…。」

「やっぱり見た目で判断してはダメだという事をまざまざと示してるね…。」

これを見たズイカクとそれを横から見ていたカザリはサイタマが人間ではないーー自分達すら超え得るかもしれないという事をまざまざと思い知らされてしまった、2人は普通そうな見た目に惑わされてはいけないという事を改めて感じる事となる。

それはさておきとして、4人を乗せた化学消防車はそのぶどう農家を出ようとした、その時であるーー

 

「あ!あの人達です!」

「⁉︎」

「お前達かぁ〜‼︎F市を半壊させた元凶は!」

何者かが大声を4人に掛けた、見ると茶髪のお団子頭の若い女性とタンクトップと髪型が虎模様の筋肉質なガタイのいい男がそこにいた。

 

「ヒーロー、タンクトップタイガー!参上!」

「あの人達とても危ないんです!何とかして下さい!一昨日に化物のようなものを出現させてF市を半壊させたり、次々と人を殺害したりして…、怪しいです!」

そのガタイのいい男はタンクトップタイガーと名乗った、彼はC級6位のヒーローだった、C級でも並の犯罪者なら撃退できるだけの実力の持ち主である事は間違いない。おまけに上位なのだろうか、そこそこ知られていたようだ、現に周りの人間は彼を見て彼の名を口にしていた。

そして女性は智史達がやった事を曲がりなりにも知っていたようだ、智史達に対して早く排除してくれと男ーータンクトップタイガーに態度で話しかける。

 

 

「如何にも。だが先程言われた行為の実行者は私だけという事は覚えておけ。

私はテロ集団「桃源団」を撲滅する時に面白半分で化物を召喚して彼らを攻撃した、F市を半壊させたのはその際の事だ。殺人?ああ、A級賞金首ブルブル率いる強盗団「牛の胃袋」を1人残らず皆殺しにした事か。お前達にしてみればむしろ都合のいい事だぞ、こいつらを皆殺しにしたという事はこれ以上こいつらから不当にカネを毟り取られなくて済むという事なのだからな。」

智史は消防車から降りる、そしてこれまでの事を素直に認めながら人外だという事を示すようにしてサークルを展開し録画しておいた証拠映像を見せながら呟く、周囲は彼が人外だという事、そして先の女性が言った事を実行した張本人だという事を明らかに認識し始めていた。

 

「ふざけないで下さい!あなたが法律を守ろうとせずに好き勝手に行動したから多くの人が迷惑してるんです!」

「迷惑、か。お前達側からみればまあそうなるな。だが私は平穏に過ごしたいという気はあれどこの世界の法律を守る気など根本からない。そして力がある者ーーつまり力の争いに勝利した者が法律を創るのだから、法律を守ることなど気にしてはいない。ところで、何故このような事態は勃発した?」

「な、何言ってるんだ?お前が暴れたからだろうが!」

「一理あるな。確かに私は今回の事態の最大の原因だ。だがお前達大衆はこの事態をみずみずと見過ごし、そして私の手によって街が半壊する事を許してしまった。何故か?

お前達大衆には『力』が、そして『勇気』が欠けているからだよ。もしお前達大衆が桃源団の暴走をその場で食い止めるだけの『力』と桃源団のようなお前達にしてみれば悪質な輩を自分から止めようという『勇気』があれば私がF市を半壊させる程好き勝手に暴れる事は無かったろうに。

それらが無いから桃源団が来た時お前達は我先にと逃げ惑い、桃源団の手の届かぬところでヒーローが桃源団を倒してくれるのを期待する。しかし彼らは必ずしも桃源団を倒せるだけの実力を持っているとは限らん、現にすべてのヒーローが桃源団を倒せるだけの実力を持っているとは限らないという事、つまりヒーローがお前達の期待に必ずしも応えてはくれない事が今回の事件で示された。

自分の身を最後に守るのは自分自身とよく言う、あまりに強過ぎる脅威を排除できないところは如何仕方が無いにせよ、日頃から脅威を排除する為の『力』や『勇気』を鍛え身につける努力はしようとはしないのか?単に逃げ、他者に脅威の駆除を任せているだけでは脅威は必ず去るとは限らないというのに。脅威は自分から取り除こうとしなければ確実に取り除けないというのに。」

「うぅ…。」

智史は自分の考えを、指摘を、大衆に突きつけるようにして言い放った、それは的確に急所を突いており、そして悉く「現実」に満ちていた。それを聞いた大衆は反論する言葉もグウも出ずに悉く沈黙してしまう。

 

 

「く、か弱い人々に強くなれという事を強要するのか、強くなる道筋さえも無いというのに⁉︎ふざけるな!」

「当たり前の事を言っただけだ、そうでもしなければまた同じような事態は起きる、こんな事態を引き起こしたくなければ強くなるんだな。道筋が無い?『強くなる道筋は無い』と単に決め付け諦めているだけだろう、無いと決まったわけでは無いのだから。そう考える事こそ一番愚かな事だ、自分の弱さを、愚かさを、諦める事によって自ら改めようとしないからだ。つまり、お前達大衆は自ら進んで弱者になっている程とても愚かなのだよ。

そのぐらい愚かだからこそお前達大衆は本来なら『自分達の害を駆除する』という自分達がなすべき事をヒーローという輩に任せて責任逃れをしている、それはつまり自分の弱さを変えようとしない行為を発現したものだ。

だが、それだけならまだしもヒーローに害を退治する事を依頼し、期待するだけで汚職とかそういう醜いものには目もくれん、ヒーロー協会というヒーローの為の組織も自分達の都合のいいように管理しようとせん。管理、意思判断は全部ヒーロー協会自身ににお任せだ。そしてヒーローは、ヒーロー協会の人間は必ずしもお前達のなすべき事を素直に反映してくれる輩ばかりではない、だからヒーロー協会は汚職が勃発し、ヒーローは見返りなくばお前達の願いを聞かなくなる輩ーーつまりお前達の為よりも己の私利私欲を優先する輩へと変わっていく、目の前のタンクトップタイガーたる男がそうであるように。

F市で、そしてこの星で圧倒的な力を以て面白半分に大暴れしている私を恨み憎んでも別に構わないが、その弱さを変えようとせず、自身がやるべき事を遠慮無く他者に擦りつける程に弱い自分自身も恨むべきだな。」

「く、くそ野郎…。そう言って更に好き勝手に暴れるというのか…。」

「まあそうだな、私を止める?止められるなら止めてみるがいい。

おっと、その前に大事な事を示し忘れていた。」

智史はそう言うと今度は女性の方に顔を向け、どんどん歩み寄っていく。

 

 

「や、やっつけてください、この人私に何かする気です!」

「こ、この野郎〜‼︎見るからに怪しそうな目だ、みんな逃げろ、こいつは化け物だぁ〜‼︎気に食わなければ皆殺しにされるぞ〜‼︎

これ以上お前の暴挙を許すわけにはいかん!人間として穢れきったお前を粛清してやる!」

そしてタンクトップタイガーは智史に襲いかかる、それは虎らしい動きをした戦い方であった。

彼は汚れた手段を使ってでもC級6位に登るだけの腕はあった、並の相手なら粛清は容易かったのかもしれない。しかし今回の相手は一際と最悪だった、その相手とは、彼はおろか、もう神の域を超越しているというのに更に力を求め進化している、史上最悪の破壊神というべき霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサンごと海神智史なのだから。

智史は下らないと笑いながらこれを片手でやすやすと防いでしまう、そしてタンクトップタイガーは額を指一本で止められたままピクリと動かなくなってしまった。

 

「どうした、その程度か?事前に予測していたとはいえど、やはりその程度か。『虎』が名前についてるのか、その名を名乗るならば、せめてこのぐらいの刺激は欲しいものだ。」

 

ーーガリィッ!

ーーザクッ!

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!目が、目が、見えねぇ〜‼︎痛え、痛えよぉぉぉぉ!」

智史はタンクトップタイガーの顔を思いっきり引き裂く、否その肉を骨と眼球ごと纏めて抉り取ってしまう。引き裂かれた部分から大量に血が飛び散る、鮮血が周囲の土を赤に染めていく。

 

「そんなに苦しいか。では今すぐ楽にしてやろう。」

 

ーードスッ!

 

「ぐふぅ…。」

そして智史は止めとばかりにタンクトップタイガーの胴を手刀で刺し貫き、その勢いで体を片手で宙に持ち上げた、先ほどまで暴れていたタンクトップタイガーは腕をだらりと垂らして完全に動かなくなった。

 

「実に醜く、下らない奴だ。さて、先ほど殺した奴に殺せと命じた女の正体をここで示そう。ふっ!」

 

ーードゴォン!

 

「うわあっ!」

智史の手元から一瞬強烈な重力子の衝撃波が女性に向けて放たれる、それは周囲の大気を大きく振動させ煙を生じる、あまりの強烈さに周囲の人間は思わずバランスを崩して尻餅をついてしまう、やがて煙が晴れるとそこには女性の姿は無く、代わりに白く光る人の形をした石の彫刻のような存在がそこにあった。

 

「く、まさかこんな形であっさりと正体を暴かれるとは…。」

「見ろ。こいつがお前達や先程殺したタンクトップタイガーを扇動していた存在だ。こいつは私が好き勝手に暴れている事をいい事にして更に対立を煽り、この世界を更に悪い方向へと導こうとしていたのだ。」

「な、何のつもりだ、この世界も、これまでの世界も次々と狂わせ、破壊しているお前が言う言葉ではない!」

「そうか?いずれ分かるかもしれないが、お前も含めたライトマサルとやらの手下が大衆共やヒーロー達やヒーロー協会の人間達に私を攻撃するように更に策謀を巡らし煽動する事で私がこの世界をライトマサルの軍勢諸共跡形も無く破壊するという最悪の結末へと突っ走らせているのだよ、私にはこの世界で好き勝手に暴れる気はあっても壊すという気はなかったのだがなあ。残念だ、お前達の『各世界系の歴史を本来の元に戻す』という自分達の都合を優先したエゴによって引き起こされた行動によってこの世界はお前達が望まない最悪の方向に走り始めたのだから。

まあいい。今後も思う存分どんどん対立を煽れ。愚かな大衆に味方して私に決戦を挑め。そしてこの世界をお前達の軍勢諸共跡形も無く無へ帰すとしよう。それこそが私が望んだ最高というべき終わり方なのだから。

ライトマサルに宜しく伝えておけ、お前達の都合を優先した行動のせいで本来守るべき大衆諸共この世界は消し飛ぶという方向に私を走らせたと。」

智史はその白い存在に対して自分が言いたい言葉を言い終える、そして今度はその存在の首を片手で掴み上げ、そのまま凍りつかせてしまう。

 

「ら、ライトマサル様…、申し訳ありませ」

 

ーーザクッ!

 

「ぐぼぁぁぅぅぅ…。」

 

「ら、ライトマサルとは…。」

「私を快く思わぬ輩の1人であり、同時にその輩共を束ねる1人でもある。奴等は私がやった事を気に入っていないようだ、まああれだけ暴れれば気に入らなくて当然だが。」

「そして滅ぼすとか言っていたが、まさかサイタマ達も消し去る気か…?」

「消し去る必要があらば、だ。そうでなければ滅ぼしなどしない。ジェノスがお前に何か言っていたようだが、その内容、言ってみろ。」

「あ、ああ…。あいつは「この世界を滅ぼさないでくれ」と私に頼んできたんだ。」

「成る程な、ジェノスやサイタマは私をここまで走らせた元凶ではないから別に悪くない。だが問題は愚かな大衆共だ、口でいくら言ったところで自分から変わってくれるわけじゃない、理解を示す訳でもない。先程言ったように自分の愚かさ、醜さを受け入れようともしない。無論半分好き勝手に暴れたとはいえよそれが最終的には自分達のためになっている事を引き起こしているというのに私は悪者扱い。

そして私を気に入らぬ輩達はそれをいい事として奴らを更に扇動して私を追い詰め彼らと協力して私を殲滅する腹だろう。今の私はこいつらを全員返り討ちにして返し刀で世界を、人類を滅亡させようという気分だ。もう既にこいつらを余裕で滅殺する準備は整え、そして力は必要以上に身につけている、まあ外の外の世界を旅して新たに蹂躙劇を次々と繰り広げる事を考慮するに越した事は無いが。口で言って和解しようとしても徒労に終わるだろう、寧ろコケにされるだけだ。

そんな状況下だというのに、ジェノスの為に世界を滅ぼさないだと?言語道断。それでは汚れたものは残り続けるではないか。破壊と憎悪を背負わずして世界を変える事などできるものか。それに今汚れたものを悉く滅殺しなければいつ誰が滅殺する?私以外に居ないだろうな。何よりも中途半端で終わるのは私が一番嫌いな事だ。今目処が付いてない状況でたった1人の為にこの忌み嫌うべき世界を滅ぼさないなどまさに中途半端。だから止めん。気に入らないもの、道を阻む者は悉く破壊するのみ。

さて、一名こっそりと見ているようだが、そろそろ顔を出してもいいのではないかな?」

智史は何者かが隠れ、盗み聞きしている事を知っているかのように言う、するとイアイマンが現れた、彼は智史達を尾行し彼が引き起こした騒動の一部始終を逃げずに観察していた、彼が若い女性を攻撃しようとした時は流石に刀を抜こうと身構えたーーつまり大衆を攻撃するのではないかと考えたが、その女性が人間ではなく、白い存在だった事、最終的には大衆を批判するのみで攻撃する兆候が無かった為にその気を収め、警戒しながら様子を見ていたのだ。

イアイマンは人混みを押し分け、裂き分けて智史達の元に歩いていく。

 

「“い、イアイマンだ…。”」

「“は、早くこいつを殺っつけてくれ…‼︎”」

「先程言った訓示を受け入れず、相変わらず他人に任せて自分は安全なところにいようとするその醜い面を見たら一秒でも早く、跡形も無く消し去りたいのだが。」

「その気持ちは痛い程分かるけど、ここはちょっと堪えようか。後でさっき言った事を受け入れてくれる可能性がまだ無くなったわけじゃないから。」

「そうだな、お前の言う通りまだ可能性は潰えている訳ではない、ここはもう少し様子を見るか。」

大衆は相も変わらず自分達の醜さを受け入れようとしなかった、智史はそれを冷ややかな目で見つめる、そして消し去ろうと考え呟く、しかし琴乃に諌められてここは少し様子を見る事とした。

 

「…俺がA級2位のヒーロー、イアイマンだ。お前が、仮称『X』か?」

「如何にも。私がお前達ヒーローやヒーロー協会の呼び名である『X』に該当する存在だ、だが私の本名は海神智史。これからはそちらで呼んで欲しいものだ。」

「ワダツミ サトシか…。正体が判明したとはいえ、先程人間のようなものを攻撃しようとした時は流石に身構えた、何故その正体が分かった?」

「常に何時も、その正体を把握し続けているからだよ。」

「つまり、いつも見通していたからという事なのか?」

「まあそういう事だ、そして今顔を合わせたからには何時までも追いかけっこ、尾行ごっこをしている必要はあるまい。そして私達を尾行していたという事は私に会いたい、私の事を知りたい人間が多分いるだろうな、いきなりですまんが、その人間の元に案内してくれないか?」

「な、何故この事を知っている⁉︎」

「何故って?さっきと同じ理由だよ。さあ、その人間の元へと案内してくれ。事前に場所は知っていれどお前も一緒なら少しは嬉しい。」

「わ、分かった…。」

智史はアマイマスクが自分と会いたがっているという事を踏まえてイアイマンに道案内を頼んだ、イアイマンは多少戸惑いながらもそれを承諾する。

 

「“お、おい、イアイマンがあいつらと一緒にあの消防車に乗り込んだぞ…。”」

「“何のつもりなんだ…?”」

 

ーーゴォォォォォ…。

 

「“行っちまった…。攻撃されはしなかったけど、この後どうするつもりなんだ、あいつは…。”」

智史達とイアイマンのやり取りを遠巻きに見ていた大衆は消防車に乗って去っていく彼等の真意を理解せぬまま、ただポカンと見守る事しかできなかったーー

 

 

ーーヒーロー協会Z市支部のとある一室。

 

「そうか、遂に『X』と接触したのか…。」

「“ああ、『X』は『ワダツミ サトシ』と名乗っている、こちらから自分から会いに向かいたいと言って現在ここへの道案内をしている最中だ。一般市民に対する攻撃の兆候は見られなかった、ただ、本格的に接触する直前に一般市民に扮した人ならざる存在を確認した、そして『X』は自分を妨害しようとしたC級6位、タンクトップタイガーを殺害した後、その人ならざる存在が大衆やヒーローやヒーロー協会の人間を自分を攻撃するように煽動しようとしていると発言していた…。”」

「それが事実なのかはまだ判明していないが、現時点で集まっている情報から見るに『X』は我々人間社会への攻撃をやろうという雰囲気は今の所無いみたいだな、こちらから戦端を開いてはいない事だし。タンクトップタイガー?ああ、僕が口出しする必要性の無いランクのヒーローか、しかも彼はヒーローらしからぬ行為ーー売名行為、新人潰しといった悪業をこれまでに何度もしているヒーローの1人だから彼が殺されても僕は別に気にしない。取り敢えず報告ありがとう、『X』との会談は僕が行おう、君は道案内を済ませたら後はもう下がっていい。」

「“…了解した。”」

アマイマスクはイアイマンと通信で会話していた、会話からの雰囲気を見るにアマイマスクはヒーロー協会内で強大な権限を持っている事が僅かながらも伺えた。そして通信が切れる、アマイマスクは少し溜息を吐いた。

そして窓に肘をかけて日が暮れる空を見つめた、智史と会うときはもう直ぐであると考えながら。

だが彼は知らない、既に自分を暗殺しようとし、そして『X』ごと海神智史を自分を暗殺した実行犯として仕立て上げ、それを契機とした戦争が勃発するように仕掛けられたライトマサル達の陰謀が動き始めていた事に。

そしてその事の全容は当然かもしれないが智史本人しか知らなかった、智史は自分とその世界系の住人との戦争へと至る陰謀が始まるのを嬉しそうに待ち侘びていたーー



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第48話 愚民は破滅を自ら招く

今作はあまり長すぎるのもよくないなと考えコンパクトに纏めました。
最近長すぎてダラダラ感があるなと個人的に感じたからです。
さて、アマイマスクさんは拉致され軟禁、そして救出されたと思いきや主人公に蹂躙劇の邪魔になると判断されて殴られ気絶というちょっと酷い扱いです。
とはいっても死にはしません。
そしてどんどんとんでもない展開に進んでしまっている感じがします、何とかハッピーエンドで終わらせてみたいと感じるところなのですが…、
それでは今作もお楽しみください。


「ほう、ここがヒーロー協会Z市支部か。随分と立派な形をしているな、表面がまるで磨きすまされている黒曜石のようだ。」

「随分と巨大ね、これでも支部なんでしょ?」

「ああ、A市にある総本部はもっと大きい建築物だ。ヒーロー協会がS級6位のヒーロー、メタルナイトに依頼してこの世界で最も固い建築物として建築された。」

「詳しいな、まさかこのことも調べていたというのか?」

「勿論だ、そして言うまでもなく、この総本部は『最も固い』建築物なだけであって絶対に『陥ちない』要塞とはとは言い切れまい。」

「そうだが…、まさか、総本部を破壊する気か?」

「今の所そこまではまだ考えてはいないが、今後の展開次第ではありうるぞ?」

「ライトマサルとやらが余計な事さえしなければ智史が更に暴走する事は無かったのに…、しかしライトマサルは一団を束ねる1人って言ってたんだよな、その上がいるとしたら、なんか怖いな…。」

智史達はヒーロー協会Z市支部の目の前にいた、あの後ここに移動するまでの最中にSNSといったメディアで自分達の噂を聞きつけた大衆により写真を撮られたりはしたもののヒーロー協会の人間であるイアイマンが乗っていたこともあり、特に進路を妨害される、パニックを引き起こして大混乱に陥るという事は無かった。それはさておきとして、この目の前にある建築物は支部とはいっても周りの建物より大きく巨大で、黒い外見と相まってより一層存在感を醸し出していた。

智史達はエントランスから建物の内部に入る、そこにはヒーロー協会所属の黒スーツの男がいた、彼はアマイマスクの所へと道案内する。

 

「あ、なんか青い髪のイケメンがいる。あいつか?」

「ああ、あれがアマイマスクだ、この世界のメディアでよく見かけ、大衆に良い意味で知られている存在にふさわしい見た目だな。」

「僕に匹敵するような清々しい面構えだね…。」

「カザリ、それは妬みか?あまり拗らしておくのは拙いぞ?」

やがて彼らはアマイマスクの所に出る、アマイマスクは彼が『X』ごと海神智史なのかという顔をし、智史に興味の視線を向ける。

 

「君が『X』ごとワダツミ サトシ君か。」

「ああ、その通りだ。私に興味の視線を向けているようだが、他の3人に用は無いという態度はあまり示さないで欲しいものだ、疎外感を感じてしまうだろうから。」

「なるほど…。んじゃあとりあえず入って。」

アマイマスクはここまで案内してきた男にご苦労様とジェスチャーで伝えると、4人を会議室に入れたーー

 

 

ーーほぼ同時刻、サイタマの家。

「A級スタートになっちまったな。あいつの試験勉強、とても役に立ったよ。大半の問題が学んだ事そのまんまに出てきたから楽勝だった。」

「そうみたいですね。C級スタートという下っ端からの結末は避けられたという事ですし。」

「あいつには感謝しねえと。さて、この時刻だとあいつらそろそろ家に帰ってくる筈なんだが…。何かあったのか?」

「携帯も持ってないようですし…。仮にあったとしても連絡先聞いてませんからね…。」

「ひょっとしてここにはもう用が無いからか?よく分からないな…。」

サイタマとジェノスは智史達が帰ってこない事が少し気になっていた、後にアマイマスクに会った事で帰りが遅いという事実が判明するのだが…。

 

 

「さて、ワダツミ君。この世界に来た目的は何だ?」

「旅をして、風景を楽しみながらそこで自分のやりたい事をやる為だ、この世界に限らず複数の世界でも同じような事をした。」

「なるほど、風景を楽しみながら自分のやりたい事をやりたい、か。では君が殺したC級ヒーロー、タンクトップタイガーについてだが、なぜ彼を抹殺した?」

「自分の行く手を阻んだ事も大きいが、自分の他人に求める人物像に全く相応しくないーー強くなろうとせずにしかも己より弱き者を卑劣な手段で潰しまくっていた挙句に非常時には自分から行動しようとせず、ただ他人任せな大衆を自分の好きなように扇動する偽善に満ちた卑劣漢だ、仮に改心させようとしてもしようとするだけ余計に無駄だと判断した、だから躊躇いもなく抹殺した。」

「つまり新人潰しや売名行為もそこに該当すると?」

「そういう事だ。」

「そうか。大衆に対してネガティブなイメージを抱いているようだけど、それなら何故大衆を積極的に攻撃しないのか?」

「こいつらを潰そうという理由・興味・嗜好が現時点で存在しないからだ、向こうからまだ仕掛けてない事もあるが、余りに馬鹿すぎて潰す気力が潰える所もある。」

「馬鹿すぎて潰す気力が湧かない、か…。これは面白いねえ…。先程タンクトップタイガーの事を『改心させようにも無駄だ』と言ってたけど、そのぐらい人間の愚かさを感じ取っていたのかな?」

「その通り。私は元『人間』であるが故に人類社会の負の部分を大いに感じ取ってしまった。この世界でも感じ取っているのだが、追い詰められれば本性が出る、些細な事で憎しみ合う、自分の都合を優先する、自分が間違っている所もあるかもしれないのに自分を正当化して自分が正しいという事を示そうとする事…。他にもたくさん感じ取った。」

「元『人間』であるが故にさっき言った事をこれまででも、この世界でもたくさん感じ取ったのか…。いい事じゃないか。実際君が言った通りの人間が我々ヒーローが守るべき大衆の中に居たよ、そして僕の基準で言えばもしヒーローだったら即失格というべき人間達でゴロゴロだ。」

「失格、か…。その基準、教えてくれないか?」

「『ヒーローは常にタフで力強く、そして美しく、速やかに、そして鮮やかに悪を排除できる存在でなくてはならない』だよ。」

アマイマスクは自分の理想論というべき基準を呟く、智史はそこから何かを自分と同じものを改めて感じ取る。

 

「なるほどな…。それ故に『悪』には容赦しないのか、自分が『悪』と感じ取った相手に対しては。ふっ、私も同類だ、安心しろ。敵対した相手は基本的に滅殺しなければ気が済まん性格だ。」

「同じ者同士、か…。智史が敵に対して情け容赦ない性格を持った理由はなんとなくわかる、自分の都合のいいように嘘をつかれてそして素直だからそのまま鵜呑みにして信じ込んでしまい傷ついてしまったから、もうこれ以上同じ事で自分が傷つかないようにしたかったという事情があるから。さっき智史が言ったように、お前も智史と同じ『何か』を持っているんじゃ?」

智史の『同じ者同士』という発言を聞いたズイカクは智史との関わりから得た記憶を基にしてアマイマスクにも智史と同じものがあるのではないのかと尋ねる。

 

「…『何か』、か…。ああ、僕にもあるね…。

僕の父親は『悪』の改心するという嘘を鵜呑みにして、そして騙されたまま奇襲を受け、母親や友人達を人質に取られ半殺しにされた後、彼らと共に殺されてしまったんだ…。

僕の父親は『相手の話を聞いた上でちゃんと説得すればきっと改心してくれる』と僕に言い聞かせてくれていた、僕はそれを必ず通じると信じてしまっていた、でもこのトラウマはそれは嘘である、通用しないという事を僕に刻みつけた…。

父親が言った事を悉く踏み躙られ、裏切られた僕は悲しみのあまりもう二度と傷つかないように彼、ワダツミサトシ君と同じように『悪』に対しては容赦しないようになったんだ。

ワダツミ君、君は僕を『同類』と言ってくれたけど、僕もそう感じるよ。君がこれまでに見せつけてくれた『敵』に対する容赦の無さは僕と同じだ。」

「ふっ、同じ者同士だという事がこれで明らかになったな、同時に自分ときちんと向き合ってくれる友人がいないと言えないにせよ、少ないという事も。ならば、この場で友人となってしまおうか、『類は友を呼ぶ』という感じで。」

「偶然の一致があるにせよ、だね。ただ僅かながら君が指摘してくれたように考え方、見方の違いの問題も多少はあるだろうし、お互いの考え方を完全とは言えなくとも理解し合っておく必要がありそうだね。」

「場合によっては直すべきところは直しておくようにしなくては、な。」

「そうだね。」

こうしてアマイマスクは智史を自分を理解してくれる者と認め、彼と友人関係になるのであった。そして自分から見れば『悪』とは言い切れない存在である事、同時に自分のやっている事が必ずしも正しいとは限らないという事も改めて感じるのであった。

 

「さて、他の3人に話を聞くとしよう、何故ワダツミ君と一緒について行くのかい?」

「んじゃあ、僕から言っていい?」

「ああ。」

「僕は、君の価値観から言えば元『悪』だった、彼と会うまでは。だけど彼に圧倒的な力の差を味わされて希望を見出そうと争う事さえ無力だと感じさせるほどに絶望させられた、そして彼について行くかと聞かれ、こんな絶望を見せつけられた後で再び人間を餌にするのも何か好きじゃなくなったから彼について行く事にした、当初は少し馴染めなかったけど、今じゃ旅をしている事で色々と知れて楽しい。」

「やはり、ワダツミ君は圧倒的な力を持っていると?」

「そういう事。彼が行く先々では必ずとは言えないけど、阿鼻叫喚が轟き、絶望が撒き散らされる。僕の力を遥かに上回る猛者達さえもあっさりと倒され、地獄を嫌という程味わされたんだ。」

「君の力は…、何となく分かる、少なくとも災害レベル『虎』ーー大都市壊滅とはいかなくとも不特定多数の人間に危機が及ぶーーぐらいはあるみたいだ。」

「虎か…、僕はネコ科系列の『怪人』だからこの程度かもしれないね…。まあ彼が旅で行く先々の環境は必ずしも僕に今のままでいいとは一言も言ってないから体を鍛えてはいるけれど。」

カザリはこれまでの事をアマイマスクに素直に話す、そして自分が人ならざる存在ーーネコ科系列グリードである事を自虐ネタも交えて暗に示す、当然彼、海神智史が人の域を超えた存在である事も。

 

「私は、智史くんと出会ってから彼と一緒に付いて行った、派閥争いの事もあるけれど、父親のようになりたいと鍛錬した私、そしてそこから出た自身の成績の優秀さ、それを上の人達が恐れた事が原因で私は監視下に半分置かれていた。

智史くんは私達人類と敵対していた『霧』という存在だった、そして智史くんと会った事で『人類』という社会の中での私の居場所は無くなってしまった。それを見抜いていたかのように智史くんはついて行くかと尋ねた、だからついて行った。智史くんは自分の欲望に正直過ぎて時にやり過ぎる事もあるけれどそれ以上に見捨てられない『何か』を持ち合わせている。そして智史くんとの関わり、そして旅でお互いに学んだ事もあった。」

「私も智史と同じ『霧』という種族だ、だが種族の『長』が智史は自分達と同じ仲間ではないとして攻撃するように命じた、私はこの命令に従って攻撃した、しかし智史の圧倒的な力の前に私の仲間達は次々と討ち取られ、私1人が何とか生き残った状態だった。

智史と会った当初は何をされるか少し不安だったよ、だがあいつは私を自分の好みという理由だけですんなりと受け入れてくれた。個人的エゴで助かった部分が多いとはいえど、私はあいつと交流した事で色々と楽しい事を学べた、そして今でもあいつの旅に同行して新たな事をたくさん学んでいる。」

「…なるほど、君達がワダツミ君について行く理由・背景はそれぞれという事か。」

アマイマスクはそれぞれの今に至る事情を聞いて少し納得したようだ、そしてこの後も話は弾んだ、会談の時間は二時間に及んだものの、彼らと会った事でアマイマスクは彼らは人類を攻撃する『悪』でないと判断し、その内容を明日ヒーロー協会の重役達に正式に通達する事にした。

しかし残念なことにその内容が通達される事よりも陰謀の方が一歩早かったようだーー

 

 

ほぼ同時刻、ワンパンマンの世界系の外では。

 

「見抜かれたのは、計算外だったようだな。」

「はい、防諜や偽装工作は念入りにやっていたのですが、まさかリヴァイアサン本人に正体をいとも簡単に見破られてしまった事は想定外でした。」

「そうか、予想以上の観察眼だな。それで、計画に齟齬はないか?」

「は、周りの大衆は既に奴に対してネガティブなイメージしか抱いておらず、奴の言ったことを聞こうとも、信じようともしませんでした。」

「なるほど、奴が大衆に対して言った事は我々のやろうとしていることを言い当てているから嘘っぱちとは言い切れんな。皮肉な事だがその世界系の中にいる人間の愚かさが我々の計画を着実に進めるファクターとなっている事実は認めねばなるまい。もしこやつらが奴程でないにせよ、かなり賢明だったら我々の計画が見抜かれ、最悪破算する可能性さえあるからな。」

「あまり賢明すぎるーー知能が高すぎるのもかえってよろしくない事ですね、現実を理解してしまう可能性もありますから。」

「そうだな、知らない方が幸せな現実が外にはゴロゴロと転がっている、それを知れないほど愚かな方がかえって幸せかもしれん。」

ライトマサルは人間の愚かさを感じるようにして呟く、実際その言葉通りであり、ワンパンマンの世界系の大衆達は智史が振るった圧倒的な力を見て彼を脅威とみなす第一印象が優先し、その煽りで周りの事ーー智史がやった事の結末、ライトマサル達がやろうとしている事も含まれていたーーが見えなくなってしまっていた、いや見ようとさえしなかった。当然智史の指摘した事など見ようとも、聞こうともしない。

 

「ライトマサル様、ヒーロー協会上層部並びに各マスメディア、政府機関への工作、完了しました。」

「そうか、契約を結ばなかった者達についての措置は、終わっているだろうな?」

「はっ、勿論です。」

そこへ工作を終えたと部下の1人が報告した、従わなかった者達は只では済んでいない事が暗示されていた。

ライトマサルは計画通りに事が進んだ事に安堵する、そして後は計画を実行してリヴァイアサンごと海神智史の足を引っ張り、最終的に討伐する流れへと持ち込むだけだと微笑む。

だが、彼らーーベヒモス達も含めた者全てもーーはリヴァイアサンごと智史の力を測りきれなかった、そして知らなかった、智史は油断し、奢っていたのではない、相手が仕掛けてくる策全てを見抜き、そしてそれら全てを座興として楽しもうとしていた、それ程までに余裕があったーー既に事態は、彼らに選択を許さぬ域、裏を返せば智史が彼らを思うがままに嬲れる事が許される域へと到っていたという事をーー

 

 

ーー会談終了後、サイタマの家。

 

「ただいま。」

「お、お前ら⁉︎こんな遅くに帰ってきたとは…。」

「一体、何があった?」

「ぶどう狩りをした後、アマイマスクというヤツとヒーロー協会Z市支部で会話をしてきた、奴自身が私に会いたがっていたから。」

「アマイマスクーーまさか、ヒーロー協会を取り仕切るA級一位のヒーローか?」

「ああ、そしてあいつは私と同じ同類だったよ。敵に対する容赦の無さでは。」

「そうか…。それで、結果はどうなった?」

「人類に直接攻撃を加えなければ敵と見做さない、との事で明日、公式声明を出すとの事だが、その前に何かよろしくない事が起きるような動向があるな。」

「そんな不吉な事を言うなよ、あ、おすそ分けのぶどう持ってきたからこれ遠慮なく食べていいぞ。」

ズイカクがW市のぶどう農家で収穫してきたぶどうをサイタマ達の目の前に出す、ジェノスはそれを黙って受け取る。

 

「ぶどうか…。(随分と艶々しい…。こうして直に見ると家族団欒としていた時の事を思い出すな…。)」

「ん?何かあったのか?」

「いや、何でもない…。」

ジェノスは過去の暖かい思い出を思い出したのか、少し回想をしていた、そしてぶどうを口にほうばろうとした、その時であるーー

 

「お、おい!テレビ見てみろ!」

「先生、何があったんですか?」

「智史がヒーロー協会に緊急指名手配されているぞ、アマイマスクの奴があいつに襲われたとか言い、全人類の敵だと宣言して何か訳のわからん姿をした奴らと手を組んであいつを撲滅しようと公式会見で今発表してるぞ!」

お気に入りの番組を見ようとテレビをつけたサイタマが形相を変えて智史達の所に現れた、表情から見るに信じられないという雰囲気が漂ってくる。

 

「“僕は、海神智史と人類を攻撃しないという契約を交わしました、しかし海神智史はこれを破って欲望のままにこの世界を蹂躙しようと僕を攻撃してきました、海神智史は圧倒的な力と市民を盾とするという卑劣な戦術で僕を苦しめました、しかしそこにライトマサル氏率いる軍勢が駆けつけ僕を、市民を助け、海神智史を追い散らしたのです!しかし海神智史は追い払っただけなのであって死んだ訳ではありません、つまりまた再び人類を攻撃してくる可能性があるという事です。なので我々は、海神智史を全人類の、いえこの世界全ての敵とみなし、この世界を守ろうと協力してくださるライトマサル氏と共に海神智史を撲滅する事をここに宣言します!”」

「ふっ、やはり当たったか…。」

テレビの画面には智史がアマイマスクを卑劣な手段で攻撃し、全人類の敵であるかのような映像が映し出されていた、智史はある意味嬉しそうに微笑む、これで自分の好きな凄惨な蹂躙劇が己の思うがままに開幕できると心の中で喜びながら。

 

「智史、お前、何か知ってるのか?」

「ああ、言ってもこんなものを見た後では多分信じてくれない、精々半信半疑だろうがな。」

「それは何なんだ?」

「あれは工作がたっぷりと入った放送だよ、勿論今私を全人類の敵として撲滅すると宣言しているアマイマスクはアマイマスク本人ではない。アマイマスクの皮を被ったさっきお前が言った「訳のわからん奴ら」の手先だ。本人は軟禁されてしまっている。」

 

智史本人の予想通り、Z市市街のとある倉庫ではーー

「ぐぅ…、僕を軟禁しておいて、これから何をする気だ…?」

「悪く思うな、お前の動きが我々にしてみれば邪魔に映ったからだ。当初はリヴァイアサンそっくりに扮した仲間にお前を襲わせる芝居をさせ、そしてそこを助けるという計画だったが、お前の能力を見るにそれは本当に上手くいくか確証が出てこなくてな。まあいい、リヴァイアサンが愚かな人間共と共に足を引きずられて混沌に飲まれて身動きが取れなくなるところをそこで見ているがいい。」

ライトマサルの部下の1人が椅子に縄に縛り付けられて動けない男にそう言い放つ、縛り付けられている人物は勿論アマイマスクだった、彼は智史達と会談を終えた後、高級な自家用車で帰宅しようとしたところをライトマサルの手先達に襲撃された、彼の戦闘能力はS級ヒーロー上位クラスに匹敵するものであったものの、相手はそれ以上の実力の持ち主で固められた戦闘集団だった、彼は力の差で圧倒され強引に地にねじ伏せられ、新陳代謝抑制剤と麻酔剤と思わしきものを投与されて鎮圧されてここに縛り上げられていたのだ。

 

「ライトマサル様、いやベヒモス様や至高神様の為にも、お前には逃げられるわけにはいかん。」

「ライトマサル、ベヒモス…、至高神…?誰なんだそれは?」

「至高神様はお前達の世界や他の数多の世界を守護されておる、ベヒモス様はそんな御方に仕えておられる勇将の1人。これまで他の世界を無差別に破壊しようとする動きはライトマサル様やベヒモス様を主とした我々が鎮圧してきた、今回もそうだ、だからだ。」

「まさか、ワダツミサトシが我々人類をこの世界諸共滅ぼす存在だと?確かに彼は人類に対してネガティブなイメージを持っていると言ったが、余程の理由がない限り攻撃はしないと言っていた、寧ろ彼に何かの手出しをする事こそが君たちの望む真逆の事態を招くのでは?」

「そう言うだろうと考えていたよ。こんな状態でお前本人に対し芝居の攻撃をやらせれば、結果的には不測の事態を招きかねない。だからこそ、お前をここに軟禁し役者にリヴァイアサンは全人類の敵であると欺瞞の映像付きで宣伝したのだよ。」

アマイマスクは智史に何かの手出しをする事こそがこの世界諸共人類を滅亡させるのではないかと指摘する、実際その通りであった、智史は愚かな人類がライトマサル達とともに自分に突っ込んでくる事を期待し、蹂躙して皆殺しにしようと考えていたのだから。

 

「まあいい、ここでじっくりと己の無力さを噛み締めながらこの策略の一部始終を見ているがいい。」

部下はそうアマイマスクに言う、だが次の瞬間アマイマスクも含めたこの世界系全ての時間が突如として停止した、この世界の時間を操る事さえ出来るライトマサル達の時間軸も強制的に操作され一瞬で時間を停止させられた、時間を止めようとしている動きさえ感じさせないほどの速さで。

そして誰一人ぴくりと動かない状態の中、部屋の中の空間を歪めて次元の穴から智史が現れる、智史は本物の方のアマイマスクを連れ去り次元の穴へとまた消えていった、本物そっくりのダミーのアマイマスクをそこに置いて。そして時間を止められていたという事は見る事、感じる事、考える事も強制的に停止させられていたので智史が何をしたのかは本人以外、誰も分からなかった。

因みにアマイマスクは気絶させられてしまった、目覚めさせたままでいきなり暴れ始めると何らかの形で足止め(物理的意味ではない)を食らう可能性があるからである。しかしそうだからといって、何時までも寝させておくのはちょっと味が無い。いつ起きるかどうか分からない状態で自分の企みをやるのが楽しいと彼は判断した為だ。

 

「あ、あれテレビに出てたやつじゃねえか!」

「ああ、あの放送が嘘っぱちである事を実際に示す為に軟禁された本人を倉庫から連れ出してきた。」

「という事はお前が無実である事を完全に立証できる筈だ!」

「駄目だ。あのまま立証しても私を討伐せんと気分が軒昂している世情の様子を見るに全く信じてくれん可能性が濃厚だ、人類の敵たる私の言う事など信じるものかという程に一致団結してしまっているから。どうせなら徹底的に追い詰め、苦しめた上で更なる奈落に叩き落とす為にこの事を示してやろう。」

「やめろよ、言ってる事は分かるけど、気に入らないからってみんなぶっ壊す気か?」

「まあそんなに興奮するなよ、智史。でもこうなってしまった事の背景にまともな理由が無いわけじゃないからお前がこう言いたくなるのも仕方ないな…。」

「ところでこの人、どうするの?」

「布団掛けて寝かせとくか。そのまま床にゴロっと転がしたままなのは流石に可哀想に思えてくる。」

智史はそう言うとアマイマスクを布団に寝かせる、とんでもない展開となり、そして悪夢に満ちた明日へと至るかもしれない1日はこうして終わったーー

 

 

そして翌日ーー

 

「海神智史を出せぇぇえ!」

「人類を滅ぼそうとする悪魔め!正義の使者に裁かれるがいい!」

サイタマの住むマンション周辺ーー避難命令が出た場所の外は朝から物々しい雰囲気に包まれていた、昨日のアマイマスクの偽物の放送やそれと連動したヒーロー協会の公表ーー調落され、洗脳された者達が主導していたーーを受けて興奮した大衆が日頃から溜まっていた衝動を発散できないストレスを叩きつけるのかのように殺気立って大量にサイタマのマンションがある立入禁止区域の周辺に押し寄せてきた為だ。それでもサイタマの家の周辺で食い止められている理由は警察をはじめとした治安機関が立入禁止区域に彼らがそこにいるのはライトマサル達やヒーロー達とともに智史達を排除する為の作戦の支障であると公式には発表されている。

しかし実際には彼らを盾にして彼やその仲間の良心を煽って心理的揺さぶりを与える手筈も込め、自分達が不利になったらその封鎖は解除する予定であった、とはいってもそこに民衆が居ないのでは本末転倒になりかねないので彼らの感情を維持し、より高ぶらせる為に敢えて立入禁止区域周辺にてライブ中継をしていたのだ。

 

「何か…、おかしいですね…。」

「ああ、展開にしてはあまりに急過ぎる…。敵に対する態度が残虐とはいえど俺達や一般市民を助ける様な態度を取った『X』がなぜ突然人類の敵として攻撃される事となる?」

「それに昨日彼を攻撃するように公表したアマイマスクさんの様子に不自然さが何気なく感じられたのです、態度はアマイマスクさんそっくりだというのに…、何故でしょうか?」

智史を攻撃するように召集されたヒーロー達の中にはある程度怪我から回復した黄金ボールとパネヒゲの姿があった、彼らは先日の放送から生じる急展開に疑問を抱いていた、しかし敵と自分達の上司たる雇用元ーーヒーロー協会が決め付けてしまった今、職業ヒーローとして応じないわけにはいかなかったーーもし下手をして刃向かったらそれこそプロヒーローとしての名誉はもちろんの事、明日を生きていく事さえ危うくなるからと恐れたからである。

 

「貴方達、この前怪人に敗れて無様な姿を晒したA級ヒーローの2人ね?」

「お、お前は…、」

「S級2位の、戦慄のタツマキさんですね…。」

「情けないわね、怪人に敗れた挙句に他人に助けられるなんて。今回もこの前と同じ無様な醜態を晒さないでよ、まあ今回の相手はとても骨がありそうね、貴方達じゃ到底歯が立たない相手だから訳のわからない人たちと一緒に援護してあげる。」

「こちらこそ気を付けて…。」

 

そしてヒーロー達は智史がいると思われるマンションーー勿論サイタマの家もそこにあるーー周辺に急遽設定された立入禁止区域へと侵入していく、討伐してくれと期待しながら自分達は安全なところに居ようとする大衆の声援を浴びながら。

 

「あれね。」

「お前達がヒーローという存在か。」

「そうだけど、貴方達が訳のわからない人達ね?随分と大きく、ゴツいガタイをしているじゃない。それで早速聞くけど、何故立入禁止区域をZ市の一部にしたの?」

「奴を速攻で倒せる、いやその程度に収め追い出すことができるという自信があるからだ。それにこちらが正義であるという罵声を奴に浴びせてやれば奴を倒せなくとも心理的打撃を与える事は可能だ。」

「ごもっともな作戦ね。でも貴方達何か裏がある…、矛盾みたいなものがあるのかしら、まあいいわ。」

 

 

ーーほぼ同時刻、サイタマの家の中では

 

「ふっ、来たか。私が彼らにしてみれば世界を滅ぼす元凶なのだから出ねばなるまい。」

「止めろよ、俺が代わりに出てぶっ潰してやるから。お前には多少の借りもあるし、それに下手に好き勝手にされたら更に滅茶苦茶だ。」

「(何故『私が出ると滅茶苦茶』になると決められるのかが何となく分かるがな、ある程度私がこの理由を作っているとはいえど、人間が喜ぶ笑顔が欲しいというある一種の自己満足もそこにあると言っていいだろう。とはいえ、サイタマやジェノスをかなり追い込んでしまっているな、すまんな、2人とも。本当に好き勝手で。後で謝罪として何か償わなければ。

さて、ライトマサル本人やその兵や各種兵器の戦闘能力についてだが、かなりのものだな、末端の兵士でさえも素体の能力だけでサイタマとノーガードで戦えるだけの能力がある、最強クラスであるS級全員を束ねても軽く一蹴できる…。それが私達がいる場所を取り囲む様にして一万、しかも全員がこちらの言葉で言えば装甲を兼ね備えたパワードスーツの様なものを着用…。オマケにこいつらを支援する兵器も多数…、勿論こんな化け物じみた猛者の群れを率いるライトマサルはそれ以上の実力の持ち主だ、結果は言うまでもあるまい、私が出る必要性は否応無しに十分にある。)そうか、なら好きにするがいい。但しお前が倒れたら私は遠慮無く出るぞ。奴らは私を苦しめ、甚振る為にここに来ているんだからな。」

「そうならないように頑張ってやるよ!ヒーロー協会からいきなりお前を攻撃する様に指示が来たってジェノスから聞いたけど、お前が無実だって事は分かってるからな!」

そしてサイタマとジェノスは家の外に出る、是迄の智史の所業で2人はリヴァイアサンごと智史がとんでもない人物であるという事を理解していた、そしてその付き合いから人類を滅ぼす気など元から無かった事を理解していた。

 

「お前らか、俺の家を今から滅茶滅茶にして智史を引っ張り出そうというやつらは。」

「あなた達は…、最近プロヒーローに登録されたA級の新人、ハゲマントと同じくS級の新人、鬼サイボーグね。今すぐここを引けばヒーロー協会が名簿に残しておいてあげるって言ってたわ。」

「断る、今ここで俺が引けばあいつが出てくる事になる、あいつはお前らや民衆が扇動されてる事を知ってて逆にこの状況を楽しみ、そして徹底的に蹂躙し破壊し尽くしてやると言わんばかりの魂胆だ、こんな異常な状態だというのに不気味なまでに余裕を持っている、本当に何か物凄い恐ろしい事が起こる予感がするんだ、真っ暗闇の奈落に向かって自分からどんどんと突き進んでいく様な。一旦頭冷やせよ、何であいつは突然討伐される存在になったんだ?そしてあいつを討伐する動きは、本当に正しい事なのか?」

「分からないわ、ただ人類の敵ならば排除するだけ。道を阻むなら例え協会の名簿に登録されているヒーローでも容赦はしないわ。」

「状況が理解出来ていないのか⁉︎人類の『敵』を討伐するという動きが、最終的には自分達の為になるのか考えてみろ!」

「敵がいなくなった分、気を、自分を引き締める機会が減って最終的には中から腐っていく話?」

「そんな生ぬるい話じゃない!眠れる獅子、いやそんなレベルじゃない、一度目覚めれば破壊の限りを尽くす『災厄』である事を理解せず己の力を過信し勝手に制して消そうとして目覚めさせようとしている状態なんだ!」

「こっちこそ状況を理解していないみたいね、奴の脅威はさっき言ってくれた事を簡略化すれば災害レベル『神』かそれ以上よ。あんな奴を放置すればいずれ爆発した際に人類が滅亡する程の被害を齎すわ、ならば爆発する前に一気に潰すのよ!」

2人は智史を刺激ーー攻撃すればそれこそとんでもない事態になると必死に伝える、しかし智史の予測通り、彼らの殆どは智史を滅ぼす事で曲がりなりにも団結し士気軒高なので聞く話を持とうとしなかった。

 

「くっ、ならば戦うまでか!先生、行きましょう!」

「ああ、ここで俺達が破れれば智史が出てくる事になるからな!」

そして戦端は開かれた、己の名を高めたいヒーロー達が反逆者たるサイタマとジェノスに襲いかかる、しかしサイタマは驚異的な戦闘能力の持ち主だ、ワンパンマンの名が作品名につく通り、原作でもS級上位でしかまともに戦う事ができない災害レベル竜クラスの怪人をワンパンで沈めている。その恐るべきワンパンで片っ端からヒーロー達を吹き飛ばしていく。

 

「中々やるみたいね。なら私が直直に相手をしてあげるわ。下がってなさいーー」

 

ーーズドッ!

 

「きゃあっ⁉︎(超能力を行使したにもかかわらず、一瞬で…⁉︎)」

タツマキは念動力による暴風攻撃をサイタマに対して行った、彼女の戦闘能力は先と同じくS級上位でしかまともに戦えない災害レベル竜クラスの怪人を「雑魚」同然にしてしまう程である、それに相応しい威力を込めた一撃なのだがサイタマの実力はそれ以上だった、サイタマは暴風に体を吹き飛ばされない様に踏ん張りながら暴風を強引に突っ切ってタツマキに一撃をかましたのだ。

 

「くっ…、やってくれるじゃない…‼︎」

 

こんな強い一撃を喰らってもタツマキは素早く態勢を立て直す、伊達にS級2位を務めている訳ではないのだ。

そして反撃を行おうとした時、ライトマサルの尖兵の兵士長らしき存在が止めろと手で指図をした、タツマキはその矛を収める。

 

「中々骨がある様だな、戦う前に名を聞いておこう。」

「サイタマだ。智史ってやつをぶちのめしたいんだろ?あいつが出てくる事になったら俺の住む街が滅茶苦茶だ、テメェらの好き勝手にさせるかよ。」

「そうか、なら始めようか、手始めにこやつらを倒して見せよ!」

そして今度はライトマサルの兵士達が一斉にサイタマとジェノスに襲いかかってきた、サイタマ達は再び応戦する、しかし智史の情報を念入りに調べた事による確実な根拠に基づく懸念は的中した、ライトマサルの兵達は先ほど戦ったヒーロー達とは違い、パワードスーツを着ていたとはいえ、彼らの攻撃を軽々と防ぎ、弾いてしまった。

 

ーーヒュッ!

「ぐぉわっ⁉︎」

そして反撃が加えられる、それは彼らにしてみればこれまでにない重い一撃だった、肉体が軽く悲鳴を上げる、しかしこれで戦闘不能になったという訳ではなく、サイタマ達は素早く受身を取って着地した。

 

「くっ、やるじゃねえか‼︎嬉しいぜ、こっちはワンパンでいつも終わっちまって詰まらなくて暇を持て余してたんだ‼︎本気を出すにはちょうどいい!」

「ですが、これまでにない一撃です、しかもあの一撃には余裕を感じます、気をつけて下さい…‼︎」

本気を十二分に出せる相手が目の前に現れた事にサイタマは喜ぶ、こう喜ぶのはあまりに強すぎて普段力を持て余しがちで退屈だった反動なのだろうか。

 

「必殺、マジシリーズ!」

そしてサイタマとジェノスは自身の本気の象徴と云うべき必殺技を繰り出してきた、その威力は本気なだけあり凄まじい。この世界の怪人も人間もひっくるめたあらゆる存在も一発で消し炭だろう。

しかし、これは『この世界』に限ればきちんと通用しうる話である。

何故なら今彼らと相対しているのは自分よりも遥かに強大なこの世界の『外』から入ってきた存在なのだから。

 

ーーズゴッ!

ーーボゴッ!

「(ひ、必殺技が一撃で破られただと…‼︎)」

彼らはバリアの様なものを展開すると先と同じく軽く防いでしまった、そして強烈なエネルギー波を伴った拳打が放たれ、2人を軽く吹っ飛ばす、そして2人はその真後ろのエネルギーで出来た半透明に輝く巨大な壁に叩きつけられた。

 

「す、すげえ奴らだ…、楽しい…、だけど俺達が破れたら智史が…、智史が…‼︎」

「リヴァイアサンがどうしたのだ?井の中の蛙の様な知恵しか持たぬ民族にしては大層頑張った様だが、ここまでの様だな。そうだ、一つだけチャンスをやろう。リヴァイアサンの居場所を教えてやればせめての敬意としてお前達の命を助けてやる。さあ言え、リヴァイアサンの居場所を!」

2人はこの一撃でほぼ満身創痍となっていた、今はもう満足には戦えない事が分かったーーつまり劣勢である事が自ずと示されていた。

ライトマサルの兵士長は最後のチャンスとして2人の命乞いを期待しながら尖兵達に強引に2人を担がせ、2人の喉元に“早く居場所を吐け、さもなくば命は無いぞ”と言わんばかりに刃を突きつける、それでも2人はなお抵抗しようとした、兵士長は2人に居場所は吐く気は無い様だと捉え2人の首を切り裂こうとしたーー

 

ーーシュッ!

ーーパキィン!

 

「⁉︎」

「…ふふふ、もうこの辺で止めておけ。私はここにいるぞ。」

「智史…‼︎」

「リヴァイアサン、とうとうこちらから姿を現してくれたか。これで手間が省けるわ!」

智史がもう止めておけ、ここからは自分が相手だと言わんばかりに刃をクラインフィールドの短剣を軽く投げつけて吹き飛ばした、彼の中では凄惨な蹂躙劇がいよいよ開幕できるという喜びが渦巻いていた。

いよいよ、この世界の者ならざる者同士の死闘、否この世界諸共消し去ってしまう程の一方的な殲滅のメロディーが奏でられようとしていたーー



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第49話 一つの区切り

最近ドラクエビルダーズを始めたもので意識がそっちに向いてる中で書いたので文章が滅茶苦茶かもしれません。
でも更新を止める気はありません。
話を簡潔にまとめて次に進もうと考えた上で色々と書きました。
次はナマモノ捕獲の為に鋼鉄の咆哮の世界系に向かいます。
ナマモノだけでなく、超腐心船とかも引っ捕らえる予定です。
そして理由は…、読んでみればわかるかもしれません。
それでは今作もじっくりとお楽しみ下さい。


「リヴァイアサン、とうとうこちらから姿を現してくれたか。これで手間が省けるわ!」

遂に自分の願いであるリヴァイアサンごと智史を撃滅する事への幕開けというべき策が始まった事にライトマサルの兵士達は喜びの声を心の中で上げる、仮に滅茶苦茶な負け戦となっても問題ない、退避できれば問題ないし、作戦として始まらせる事が成功すれば問題ないという余裕が彼らの中にはあった、智史は退避するだけの余裕を与えない程容赦ないという事を知らなかったからこう考えられたのかも知れないが…。

 

「“ご覧下さい、世界を滅ぼさんという元凶が遂に姿を現しました!”」

「おお…‼︎」

「あいつめ、とうとう音を上げて出てきたか…‼︎」

自分達にしてみればこの世界を滅ぼす元凶であるーーそう信じて中継用のテレビを見つめていた民衆は智史が現れた事に恐怖とどよめきを上げる。

 

「“人類を滅ぼそうとする悪魔をこれから討伐する!”」

「“殺れぇぇ!”」

「“ブッ殺せぇぇぇ!”」

「ふっ、その様を見るに上手く、洗脳しているみたいだな。」

「“その通りだ、まあそんな事など愚かな民衆には伝わらんがな…。”」

「はっ、ライトマサル様!ライトマサル様がお見えになる!道を開けよ!」

自分に対して向けられた「“この世界の人間は自分を殺すことを彼らに対して望んでいる”」という画面上のメッセージを見ても智史はピクリともせず、嬉しそうに微笑む。

そして兵士達が整列するようにして左右均等に別れる、一番奥の空間がそれに応えるようにして歪むとそこから強烈な光が程走る、智史を除いた皆の目が一瞬眩む、そしてそこから出てきたのは神々しい色に光り輝くオーラと鎧に全身を包んだ威厳のある銀色の髭を生やした老将のような風貌をした男ーーその男こそライトマサルだった、その姿はまさに『光将』の名に相応しい様だった。

 

「て、てめえか…、智史を引っ張り出そうとしていた黒幕は…。」

「そうだ、そして私はその黒幕の手先でしかない。」

「こ、これ以上お前達の好き勝手にさせるか…‼︎」

「ジェノス、よせ!」

ジェノスは智史の底知れぬ恐ろしさ、そして2人との間で起こる戦争がこの世界に破滅的な事態を齎すという事を何処かで理解していたのだろうか、それを食い止めようと満身創痍の状態でもライトマサルに突っ込んでいく。

 

ーーズゴォン!

 

「ぐはぁ!」

「ジェノス、大丈夫か!」

「お…、俺があの2人を止めなかったら、誰が、止めるというんですか…。先生、『ヒーローが逃げたら誰が戦うんだよ』って言ってましたよね…。」

ーーこの光景を見ていたら何だか心に突き刺さってくるものがある。このことを頭に刻み付けたままこの世界を滅ぼすのが少し辛くなってきてしまったな。何故だろうか?何故、親近感を覚えている状態でこの光景を見たら辛いと思えるようになっているのだろうか?やはり、心というものは分からないな…。

だがこいつらの為に今の世界を『破壊』せずにそのまま放置しておく事など言語道断。この世界の腐った社会といったゴミの山を大事に取っておくよりも徹底的に破壊し再構築した方がゴミも綺麗に無くなってマシかもしれないな。

 

智史はその様を見て僅かながらも過去を振り返る、必死にこの世界を守りたいという気持ちを目にしながら。

そしてそんな様に何か動かされるものがあったのか、後ろで待っていた琴乃達が智史の方へと歩いてきた。

 

「無理矢理にでも、丸ごと殲滅しようとか考えてるのか?」

「ああ、そうでもしなければこの状況は打破できないと私自身はそう考えている。」

「お前はとんでもなくクソ正直だな、自分で引き起こした事の責任は他人になすりつけようとせず、1人責任を負い、単独で戦い、解決しようとする。それはいい事だと思う。でもその解決策は他人によりマトモな解決策を相談し求めない自分なりのやり方であるが故に圧倒的な力と相まり壊滅的な被害を頻繁に齎していると私は考えるんだ、少なくともこれまでのお前の行動を見るにそれは悉く立証されてしまった。」

「何故、このことを口にする?私が単独でいつも戦ってばかりだからか、それともジェノス達に対する情があるからか?」

「わからないわ。でも今の智史くんはこのままだとみんな破壊する方向に走っている感じがする。智史くんは私達を心配して自分1人だけで戦っているって感じがある、でも同時に誰の介入も許すことなく自分1人で自分の望まない方向でも無理矢理解決してしまおうとする事がある感じがする。だからって安全な所に居てばっかで口だけで言ってばかりだと智史くんはやはり自分は1人だと考え傷ついて、心を閉ざしてしまうと考えた。」

「つまり何って言えばいいのかな、これ?」

「“一緒に付き添い、戦う事で智史くん本人だけでなく、サイタマ君達やこの世界を滅びから救う”って言えばいいのかな?少なくとも単独で判断するよりは心の余裕があると私は考えるわ。」

「要するに、私の心の余裕の無さを見抜いていたのか?」

「そうね、でもこんな危ない時でもないと智史くんは確実に傷つくと考えた。智史くんにはいつも危ない事から守ってもらってばかりだったし、『道』を創らせてもらってばかりだったから、そのお返しも兼ねて一緒に戦う。

私達智史くんより遥かに非力だし、サイタマ君がやられた事を考えるに、役立たずかもしれない、下手をしたら足手まといかもしれない。でもこうでもしなければ智史くんを止める事は叶わないと私は考えた。」

「役立たずでも、頑張ってやるよ。琴乃や私もお前が安全なところに居てばっかりの大衆に向かって言い放った言葉を聞いて過去の事を思い返してたんだ。確かにあいつらは馬鹿だ、自分の不完全さ、醜さを認めようとさえしない。ただ、サイタマやジェノス、アマイマスクとせっかく仲良くなれたというのに、そいつらを不幸にするだけでなく、お前自身も喜ばしくない結末にお前は突っ走ろうとしてしまっていると私は感じ、考えた。そんな結末に突き進むかどうかはお前次第だ、私にどうだこうだいうつもりはない。ただ、お前に少し思いとどまり、本当にそれはいい事なのか考えてほしくてな。」

「琴乃、ズイカク…。例え腐れきったゴミが山程残って居ても、か?」

「僕も色々見てきたけど、君が言ったような汚れきったゴミは沢山いる。だけど、その全てが変わらないとは限らないね、その可能性さえ跡形もなく潰すというのはちょっとってところはある。過去を見返さずに忘れ、また垢を勝手に出すようだったんなら跡形もなく滅ぼし、徹底的に蹂躙しても構わないけど、今はちょっと、この世界を滅ぼすのを思いとどまってくれないかな?少なくとも、あの2人のためにも。あの2人、君が前に言ってくれた『良いところ』を本当に見せてくれた。本当にいい奴だよ。」

「カザリ…、ふっ、要するに『この世界を破壊するのを今は少し思いとどまってくれ』という事か…。ふふふ、二度目は確実に無いにせよ、今は少し様子を見るとしよう。但しそれは目の前にいるライトマサルとやらが率いる連中とそれに扇動され、私達は敵だと本気で考えているヒーロー協会のメンバー全員を粉々に破壊してからだな。」

「そうね。あの人達に容赦し、同情する気は私も微塵も無い。智史くんの好きなように料理して構わないわ。」

「ふっ、ありがとう、琴乃。」

自分を心遣う諌言に智史はこの世界を滅ぼす事を少し思いとどまる事にした、しかしライトマサル達やその扇動された者達にも容赦するとは一言も言っていない。

 

ーーさあ、標的は減ったが、改めて凄惨たる蹂躙劇を開幕するとするか。

 

ーーパチン!

ーーゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 

「な、何だあれは!」

「くそ、何なのだ、光を悉く飲み込み食らうようなこのドス黒い霧は…‼︎」

智史は嬉しそうに指を鳴らした、すると先ほどまでの神々しい輝きの雰囲気が一気に失せ、禍々しい雰囲気がこの場を支配する、そしてライトマサル達やヒーロー協会の職業ヒーロー達の周り全てをドス黒い霧が覆い隠す、その霧は彼らに纏わりつくと奈落へと引きずりこむようにして蠢く。彼らは必死にそれを振り払おうとしたものの、その霧はそんな抗いを嘲笑うかのようなそれ以上の圧倒的な力で強引に引き摺り込んでいく。

ライトマサル達もヒーロー達も皆同じ様だった、こんな状態だとライトマサル達は本当に『強い』のかという疑問が湧かなくもない。確かに彼らは強い、ただ単に智史がその『強さ』を見た目で感じさせないほどに、今も貪欲に、圧倒的に強くなり過ぎてしまっているからこうも『強い』という感じが感じられないのだ。

 

「な、何が起きたんだ⁉︎」

大衆は先程のライブ中継の雰囲気が一変し恐怖に満ちた叫喚がそこから流れてくること、そしてそれを裏付けるかのように地が揺れ、裂け、ひび割れて人々は底にあったマグマに焼却炉に放り込まれるゴミのように容赦なく吸い込まれる、火山が咆哮して火砕流が次々と人々を逃げる暇も与えずに焼き尽くしていく。

それと同じくして空が裂けて太陽の光が飲み込まれ、代わりに空を暗闇の雲と火山から吹き出た火山灰、そして強烈な嵐が支配していく、暴風と巨大な津波が逃げ惑う人類や彼らが作り上げた物達を悉く蹂躙する。天変地異がこの地球の至る所で事に戦慄し震え上がる、眠れる獅子ーーいや海龍(リヴァイアサン)を本当に呼び起こしてしまったという現実に。

 

「“ひいいいい!”」

「“ぎゃぁぁぁぁぁ!”」

「“助けてくれぇぇぇ!”」

「これって、ひょっとしてやっぱり納得できないからみんなを滅ぼしちゃうパターン?」

「いや、本分は守ってはいるが。ただ全部破壊には至らないようにせよ、示威行為として一応彼らに対する攻撃行動を行なっている。『お前達を自分の都合良く守るものはもう居ないのだぞ』という現実を大衆に皆平等に突きつけてやる為に」

「そうか…、でも、そうだからこそ、随分と威圧感があるね…。恐怖こそが王をより『王』たらしめると態度で示してる…。」

「それにしてもこのパターンって…、まさか、異世界ーーそれもお前が創り上げた『世界』へと連れ去ったというのか?」

「ああ。この世界を今全部ぶち壊す気にはなれんのはさっきので決まった。だからこそだ。さて、サイタマ、ジェノス。こいつ等の末路を見届けたいか?観たいならそのまま連れてってやろう。」

「お前…、テレビ番組に出てくるような正真正銘の悪の権化たる大魔王だな…。この世界そのものを破壊しないようにするという約束を守ってるにせよ、やっぱりやることがえげつねえ…。多分結末は今ので何となくわかるけど、取り敢えず観にいくかな…。ジェノス、行けるか?」

「は、はい…。」

そして智史は空間を歪めてワープホールを出現させ、自分が創り上げた世界ーー彼らを蹂躙し破壊するための空間へと案内していくーー

 

「う、うう…。」

「こ、ここは…‼︎」

「“ようやく分かったかな?ここはさっきまでいた世界とは異なる世界。そして私がお前達を嬲り、蹂躙する為だけに創り上げた世界だ。”」

「な、何だと…⁉︎」

「お、おのれ…‼︎だがこれ以上好き勝手にはさせん!ライトマサル様!」

「うむ、ここを破らねばベヒモス様だけでなく、より多くの世界が不幸を味わうであろう!こういう劣勢な状況こそ、ベヒモス様の臣下たる我々の真髄を見せ付ける時よ!そして人間達よ、ここにそなたらを封じているあの化け物ーーリヴァイアサンと争わなければ此処からは逃れられぬぞ!突撃ぃ!」

「“ふふふ、それでいい…。さあ、来るがいい!”」

そしてライトマサル達と職業ヒーロー達は智史に向かって突っ込んで来る、その光景を期待通りとして彼は嬉しそうに微笑む、智史の実力はどうかとして、ここを抜け出すには智史本人を倒すしかないのだと彼らは直感で考えた。

尤も、智史本人は比べることさえも馬鹿馬鹿しくなる程に強くなりすぎているのだが…。(しかも恐ろしい事に彼の目線はとっくにこの世界系のまとまりの外を向いてしまっている、それに対応し、そして圧倒してしまうほどの強化と進化を今も突き進めている…。)

サイタマとジェノスを一蹴したパワードスーツ着用の兵士達がまず真っ先に襲いかかってきた、智史はキングラウザーーー見た目も、質も、もはや仮面ライダーブレイドキングフォームよりもそれを遥かに上回る力を持ち、今も進化を続けているリヴァイアサンごと海神智史が持つに相応しい恐るべき魔剣と化していたーーを構えるとそれを軽々と振り回し紙障子でも引き裂くかのようにパワードスーツ諸共次々と両断してしまった、その装甲の硬さは素の状態でもサイタマの必殺技、マジシリーズーー下手をしたら地球が崩壊しかねないほどの威力であるーーを一点に集中したものを受けても擦り傷一つさえ付かないほどのものだというのに、だ。

さて、ライトマサルの兵士達はパワードスーツ以外にも戦車や空中騎といったものを所持していた、智史に彼らが異世界に連れ去られるそれも一緒にここに飲み込まれた、という事は彼らがこれを使ってきてもおかしくないという事だ、現に彼らはこれらを使ってきた。

それらの攻撃は先程のパワードスーツのものよりも遥かに強烈な威力であった、それが何十何百も叩き込まれる。それはもはや掠っただけで地球などたやすく吹き飛びかねない程のものであった、爆発の余波がヒーロー達を襲う、ヒーロー達は吹き飛ばされないように地に伏せて踏ん張るのが精一杯だった、しかし悲しいかな、耐え切れなかった者は木の葉のように吹き飛ばされて消えた。

だが、こんな攻撃を以ってしても当然のように智史を『壊す』には全く程遠く、彼は全ての攻撃を吸収して己の強化元に回していた、そして当然のようにケロリとし、嬉しそうに笑っていた、勿論彼の気配は衰えるどころか増大していた、自己強化・進化によるものも多少は絡んでいるのだが、これを見せつけられる側は絶望しか味わうしかなかった。

 

「…終わりかな?さて、こちらも気配りの礼を返すとしようか。今遣われた以上のモノを以って。」

智史はそう言い終えると双神儀(ライトニングリターンズFF13に出て来る至高神ブーニベルゼが使う双剣)を瞬時に生成した。

 

「はっ!」

 

ーーキン!

ーーコン!

ーーカン!

ーーコン!

ーーキン!

 

ーーズガァァァァン!

ーーグワァァァン!

 

「グワァァッ!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

そしてそれをブーメランのような投げ方で超高速で投擲するという連続攻撃をライトマサルの兵士達に対して行った、双神儀が投擲され、ブーメランのように戻って来る度に彼らは面白いように次々と吹っ飛ばされ、ある者は一撃で下半身が砕け散り、またある者は血飛沫も残さずに一瞬で消えていく、そしてその際に生じる強烈な衝撃波はその凄まじさを更に際立たせる。

 

「ふっ」

ーーズガァン!ズガァン!

 

そして追い討ちと言わんばかりに手元に集まった兵士達に対して双神儀を地に叩きつけて衝撃波を発生させ、彼らを更に破砕させ吹っ飛ばした、骨も肉も一つも残さない程に。

 

「く、何て奴…‼︎こちらが煽りで吹き飛ばされてしまうほどの攻撃を受けてもケロリとしている挙句にそれ以上のものを繰り出すなんて!だけど私の攻撃が通用しないとまだ決まったわけではないわ!S級の意地、とくと味わいなさい!」

 

ーーズゴォォォォ!

 

タツマキはその光景を見ていてもS級のプライドなのだろうか、闘志を燃やして智史に対して暴風を発生させた、それは彼女の持てる全てを注ぎ込んだこれまでにない一撃だった、それは先程の攻撃の余波にも劣らぬものだった。

 

「ふんっ!」

 

ーーズグァァァァァァン!

だが智史はそれ以上の追い風を以ってこれをあっさりと払った、タツマキはこれを見越していたかのようにこの攻撃を辛うじて受け流す、しかし受け流すのが精一杯だった。まあ智史は一発で粉微塵にしてはつまらんと言わんばかりに彼女を生かさず殺さずという感じでかなり手加減していたのだが…。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!」

そしてタツマキは彼の元へと接近し組みつき、その体、いやせめて片腕でもと言わんばかりに渾身の一撃で千切らんとする、普段なら超能力ばかりで殆ど使う事の無い自分の体まで使っているという所にタツマキの凄まじい執念が伺えた。

だがそのメインとなる超能力のねじ切りのエネルギーは残念なことに彼の体をねじ切る前に分解されて吸収されていた、しかしそんな現実を突きつけられてもタツマキは受け入れようとはしない。

 

「ち、千切れなさいよ、うぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ほう、体を、命を使ってでも我が肉体が欲しいようだな。凄まじい執念だ、S級ヒーローの称号に相応しい。」

「う、煩い!あと一捻りであんたの腕は砕け散る!いやぁぁぁぁぁ!」

「しかし残念かな、お前の執念に満ちた一撃は我が肉体をくれてやる程には全く値しない…、何故なら私は強さを求め過ぎてもうとっくにお前が倒せる域を通り越して強くなりすぎてしまっているが故に。ふんっ!」

 

ーードガァァァン!

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!」

そして智史は軽く重力子エネルギーの指向性体内放射で彼女を跡形もなく消し飛ばした、今度は超能力を使っても全く防ぎきれないほどのエネルギー量だった、たとえ彼女が完全な状態だったとしても同じ結末に終わってしまうほどの。

 

「そ、そんな…‼︎」

「つ、強すぎる…‼︎ヤツは、バケモノか…‼︎」

当然の事ながら智史は戦闘に支障は無く、ピンピンしていた、対してタツマキが一瞬で消しとばされる光景を見たヒーロー達は戦慄した。

 

「随分と震えているようだな、だがこれだけでは全く足りないだろう?なあに、こちらは次々と鋼鉄の暴力を叩き込みたくて体が疼いて仕方がないから大歓迎だ。ライトマサルのお仲間達も一緒にしてやるぞ。はぁっ!」

 

ーーズン!

ーーズゴォォォォン!

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

そして追い討ちとばかりに今度は拳圧だけで地面を捲り上げ強烈な地殻津波を巻き起こす、捲り上げられた地盤が溶け、無数巨大な隕石と化して岩石蒸気と共に彼らに襲いかかった、逃れようにもこれは天変地異、いやそんな言葉でも生ぬるいレベルのスケールで襲いかかってくるのだ、ましてやこれは彼らを軽く殲滅できる威力なのだ、防ごうにも防ぎようもない。

彼らはあっという間に岩石蒸気に飲み込まれたり、隕石に吹っ飛ばされるなどして消滅してしまった、そしてそれが終わった後には敵はライトマサルとこの世界に強引に引き摺り込むも一度顔を合わせていた事もあり全く殺す気が湧かなかったので見逃されていたイアイマン、黄金ボールとパネヒゲを除いて跡形もなく消滅してしまっていた。まあこれも生かさず殺さずで加減が入っていたのだが…。

いずれにせよ、これは恒例というべきか、もはや戦闘の形を成さない一方的な虐殺劇だった。

 

 

「い、一方的過ぎる…‼︎」

「そして、何が起きてるのでしょうか…?巨大な炎の津波に飲み込まれたと思ったら次の瞬間には別の場所に転移させられていたり…。」

「この私を本領で押し返すことも許さずにここまで追い詰めるとは…。流石よなリヴァイアサン…‼︎」

「あ、あいつら生きてるのか。やっぱあいつらのこと、覚えていたのか。おい、智史、あいつらの為にもそろそろ真相バラした方がいいんじゃないのか?」

「ああそうだな、だいぶ追い込んだし、真相を教えてやるとするか。」

「な、何を言っている…⁉︎」

「まさか…!」

「お前達は大衆共と共にライトマサル達に踊らされていたのだよ…。『私を滅ぼすように』とな…。今からそれが事実であることを伝えてやる…。」

智史はそう言うとライトマサル達が裏工作をしている所を見事に収めた映像をデータサークル上に表示した、ライトマサルはそれに見覚えがあるのか、驚きもせずにこれを見つめる。

 

「ヤツを攻撃するように声明を出したアマイマスクは…、お前の…、手先だったのか…⁉︎」

「そしてヒーロー協会の重役達にもあなたの魔手が及んでいたとは…。まさか、あなたは私達を欺いていたというのですか…?」

「だとしたら、我々は何の為に戦っていたのだ…?」

「結果論で言えば自分達の世界を私に滅させる為に戦ったと言った方が相応しいかもしれないな、そうだろう、ライトマサル?

まあ連れが滅ぼすなとかで少し煩いから流石にこの世界を丸ごと滅ぼすのは控えたがそれでも示威行為も込めてかなり滅ぼしているぞ?」

智史はそう言う、そしてその映像は現実世界でも彼が引き起こした災害を免れた一部のメディアを通じて放映された、ライトマサル達がメディアやヒーロー協会を使ってまで彼を極悪犯罪人として仕立て上げたのを見た大衆達は衝撃を受ける、そしてこう考えた、そう、彼の思惑通りのことを。

 

「ライトマサルとその一味とやらがあいつを災害を引き起こす悪魔としてヒーロー協会を調略して仕立て上げ、自分達は何も考えもせずにそれを鵜呑みにしてしまったからあいつは本当に悪魔となって巨大災害を次々と引き起こし、皆に恐怖と破滅を撒き散らしたんだ。」

 

と。

彼の引き起こした災害から辛くも生き延びた全ての人間がそう考えたとは言えないが、それでも大多数の人間はそうだと考えた、これを見てそう考えない方がおかしいぐらいの極限の状況下に彼は大衆を追い込んだのだから。

 

「ふ、ふはははははは…‼︎見事な算段よ…‼︎まさか、欺瞞を全て見破りここまで計算していたとは…‼︎そしてその顔、ベヒモス様がこれからされようとしていることを知っているな…‼︎今も、これからも知っているかのようだ…‼︎

だがリヴァイアサン、お前とベヒモス様との戦いの結末を己が手で見られないようにしてしまうのが残念だ…‼︎ベヒモス様、私の身勝手による不忠をお許し下され…‼︎てやぁっ!」

ライトマサルは自分の策を見破り簡単に返り討ちにした智史に敬意を表す、そして渾身を込めて長剣を構えて智史に向けて突っ込む、智史はキングラウザーを構えると自分にに向けて突っ込んでくるライトマサル本人をその長剣もろとも真っ二つにしようとする。

そして両者の剣がぶつかる、次の瞬間目も絡む閃光がライトマサルの剣から生じられる。

 

「(甘いわ、リヴァイアサン‼︎)」

「(“ーー貴様がな。”)」

 

ーーシュッ!

ーーバシュゥゥゥゥ!

 

「わ…、我が肉体にこの一撃を避けて斬りつけたことをこの目に一時も悟らせず、理解もさせずに深い傷を付けるとは…。そしてこの余裕…、これほどまでにお前は強いのだな…。完敗だ、リヴァイアサン…、お前には一矢も報えず手も足も出なかった…。

だがリヴァイアサンよ、これは終わりではない…‼︎お前とベヒモス様、いや至高神様との戦いの始まりなのだ…!」

一瞬でライトマサルの身体には幅広く大きいクロス状の傷が刻み込まれていた、そこから体液がドクドクと吹き出す。

その傷を刻み付けられた彼は口からも体液を吐き出し息も絶え絶えだった、その様子から見るにかなり深くーー恐らく内臓にまで斬撃は達していたーー斬り刻まれたようだ、もう長くないのがそこから伺えた。

しかしそんな状態でも彼は命を振り絞るようにして智史と話をする、そしてーー

 

「ふふふ、そして、お前が…、最も欲しているものは、我が命だろう…?だが、たとえ戦に破れても、お前には我が命だけは渡さぬ…‼︎たとえ介錯としてもだ…‼︎さらば、リヴァイアサン…!」

 

…ザクッ!

…キラキラキラキラ…。

 

「(ライトマサル…、敵ながら見事。私に破れても己の意地を曲げず、最期まで守り通したか…。お前達は確かに強かった、少なくともサイタマを始めとしたこの世界系の住人達よりは。そしてそのお前達の本領の発揮を許さぬ程に私が強すぎる力を軽々と振るってしまった事は、謝っておこう…。たとえそれが何回もあろうともな…。)」

智史はそう心の中で呟き終えると、サイタマやパネヒゲ達の方を見つめる。

 

「わ、私達の世界はどうなったのですか…?」

「すまんな、示威行為をしなければならないと考えてしまったが故に完全に破壊しなかったとはいえどかなり破壊している。」

「示威行為とはいっても、映像を見るからに、やり過ぎだぞ…。まるでこの世の終わりみたいじゃないですか…。」

「過ぎたるは及ばざるが如し、か…。確かにお前達の価値観でみれば私は少々度を逸したかもしれないな。まあこの程度が私自身の価値観でみれば適度だと考えたのだが。」

「価値観のスケールが、違い過ぎだろ…。正真正銘の化け物か、お前は…。」

「非礼は詫びよう、頑張れば生きていけるぐらいには環境を『改造』するか。だがその後は自分で頑張るんだな。色々と壊した分、変え甲斐、作り甲斐、鍛え甲斐も沢山あろう?まあこれは私なりの考えでやっているのだが有難いと捉えなくても別にいい、だが支援のし過ぎであっという間に腐った社会に戻るのは如何なものかと考えたのでな。

まあいずれ腐るかもしれん、だからいつまで腐らないのかを数えるのが楽しみだ。さあ、元の世界に帰るとしようか。」

智史は指を鳴らすとサイタマ達を現実世界へと連れ戻していくーー

 

「うわ、本当だ、みんな無茶苦茶になってる…。アパート、跡形も無いんですけど…。」

「空も真っ黒、火山灰のようなものも降ってますね…。」

「当然このままでは満足には生きられんだろう、だからこれから元に近いように『改造』するのではないか。」

智史はそう言うと手を空にかざす、すると上空に巨大な無数の青のデータサークルが生じ、同時に巨大な次元の穴が開く、そこに雲や火山灰が吸い込まれていく、あっという間に空に青の色が戻っていった。

 

「次。」

そして今度は巨大な重機が無数現れ、荒廃した土地を掘り返し、整地していく。それだけではない、橋の形をした用水路のようなものや穀物を入れる倉庫、畑、家まで作られていった。

 

「す、すげえ…。でも畑仕事って…、どうやればいいんだ?」

「どれどれ、検索してみます…。…駄目だ、インターネットの殆どがやられてる…。」

「そうだろうな。だからマニュアルを残すとしようか。」

「…え、そこまでやらなくても…。」

「衣食住をきちんと確保しなければこの先やって行くことは困難だからな、不足していたら遠慮なくやるまでだ。」

あまりのスケールにサイタマ達は多少困惑していた、最も智史の一部の発想が欠けた破壊のせいで環境を変えられたことが困惑の主な原因となっていたが…。

 

「あ、テレビに出てたあいつだ…‼︎」

「こ、殺しに来るのか…⁉︎」

そこに生き残った民衆の2人が智史の姿を目に捉える、2人は智史がやった事、そして智史に対して起きた事を事実と信じているのか、恐怖の眼差しで智史を見つめる。

 

「ま、待て…‼︎」

「あ、アマイマスクだ…‼︎」

「出が遅いぞ、まあ元を言えば私がそうなる原因を作ってしまったのだから仕方あるまいな。」

「そうだな…、落ち着いてくれ、彼に攻撃の意思はない!」

「だ、だけど、ライトマサルとやらが作ったものと同じように、こいつも偽物かもしれない…‼︎」

「そうか?仮にそうだったらこうやって自信満々に本人であるとみなして話すことなど出来もしないのだが。そもそもお前達はこの目の前にいる『アマイマスク』が本物の『アマイマスク』なのかどうかという目を持たない、いや持とうとしないのか?先ほどの私の放送で認識しているようだが、自分で見て感じて得た経験だけで判断することが正しいと勝手に考えているのか?」

「う…。」

 

ーー私もそうかもしれんが、だからといってこのままの状態なのも宜しくない。

 

智史はその生き残った大衆にそう問いかける、大衆は思い当たる急所を突かれてしまったのか、沈黙してしまった。

 

「信じる信じないは別だ、だが何もせず、弱みを認めようとせず、変わろうとしないのは愚の極みだという事は覚えておけ。すまんな、サイタマ、ジェノス。私の気まぐれでこんな散々な結末で終わってしまって。」

「い、いや…、ただ色々とお前が滅茶苦茶過ぎてお前に街も、家も破壊された怒りも湧きもしない…。」

「この様子を見るにどう見てもやり過ぎだぞ…。お前が改変を加える前の環境よりも変わり様が凄すぎる…。しかも結局お前1人で事態が解決するって…。」

「そうね、結局私達は目に見える形で智史くんを助けられなかった。でも気持ちは受け取ってくれた。今はそれでいい。それにしてもまるで中世に出てくるファンタジーの世界みたい。心は落ち着く。」

「まあこの世界系もろともみんな滅ぶという結末よりは希望はある程度は残ってるからマシか…。」

「そうだな。さて、お別れだ。こんな様にし、派手に作り変えてしまった私を憎んでもいい、だが後の世界は自分達の手のみで作ってくれ。」

そして智史はワープホールを開く、彼らはリヴァイアサンへと帰還する、サイタマ達も含めたこの世界の生き残った住民達がこの後どんな世界を作るかは分からない、だが智史が引き起こした一連の行動に関する事実を知ってからは少しは自分の愚かさに気がついたのか、智史に破壊される『前』の環境には戻る気は今は無いようだ。

そう、今だけは。

何れは智史が忌み嫌い、半ば壊滅的なまでに壊した前の世界に戻ってしまうかもしれない、ただそれが『前』に戻る確率は下がった事は現時点でとはいえど下がった事は確かだったーー

 

さて、ワンパンマンの世界系の外で投錨して待機していたリヴァイアサンの方ではというと…。

 

「(さて、ワンパンマンの世界系を訪問し己が力を誇示した、これで私が優位性を誇示する為に行くと決めていた世界は全て制した。後は好き勝手にやるとしよう、ベヒモス達のこと、その外のことも気にかけながら、な。

まずは艦隊これくしょんの世界に行くか、とはいっても単に暴れるだけでは詰まらんなあ…。くくく、鋼鉄の咆哮の世界系でナマモノとやらを大量に捕獲してそいつらを魔改造した上でそっちの世界にまとめて放り込んでやろう、艦娘も、深海棲艦も、皆等しく根絶やしにするようにプログラミングした上で。

ふっ、この艦の、いや今の私のモデルとなった本家なだけあってたった1人艦体使わずに突っ込んでいくわけにはいくまい。本家に敬意を表し艦体も使って一つ残らず蹂躙してやる。それにアンチスパイラルとの戦い以来艦体の武装は火を吹いておらずに久しいからな。ふふふ、今からが楽しくて仕方ない…。)」

リヴァイアサンに帰ってきた智史はまるで自分を縛っていた『何か』から解放されたかのように微笑み妄想する、そしてリヴァイアサンはただ一隻待たされっぱなしだった憂鬱を晴らす機会が訪れた事に歓喜の声を上げるかのように機関を咆哮させて鋼鉄の咆哮の世界系へと突き進んで行く。

 

「今度は、どこ行くんだ?」

「鋼鉄の咆哮の世界だよ。あそこはおふざけ炸裂ではあるものの強大な猛者、もとい艨艟がゴロゴロと海原を跋扈している世界だ。」

「だけど、ニヤニヤが深いな…。何か別の事も同時になりたいのか?」

「ふふふ、それはお楽しみだ…。お前もだいぶ熟知してるかもしれないが、見た目に惑わされたらまずいものが転がっているぞ…。」

「それはそれでいいんだけど、一つの世界で終わる感じがしないと私は感じる。何か面白いことでも?」

「予感は大当たり。ただ中身は少し内緒だ。まあ行けばわかる、知らない方が楽しい事もあるだろう?悪いようにはしない。」

智史はそう言い終える、そして『本家』とそれを基に生み出された本家瓜二つの姿をした『モノ』同士の出会いが近づいていた。

 

ーーさて、ナマモノの大群を掻っ攫う際に本家海龍を摩天楼や取り巻きの邪魔な艦艇諸共一方的にぶちのめし真っ二つにする気分をどう表現しようか…。本家のスペックを遥かに凌駕し、今も過去の己を、外の敵を超え続けているとはしても、何とも言えない複雑な何かが転がっている予感がするな、それは快感なのか、或いは懺悔なのか…?



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第50話 本家を越える者

今作で丁度第50話です。
進化をし過ぎたリヴァイアサン=海神智史は呆気なく本家を打ち倒します、しかしどこか複雑な心境です…。
ナマモノ達が…、艦これの世界で悪さをする際に使うために力業で悉く捕獲されるという展開です…。
あとネタ兵器達(ヌターデストロイヤーや超腐心船など)も捕獲されます。


「…ライトマサルが…、そうか…。」

「はい、ヤツの実力は予想以上です、ライトマサル様の軍勢はヤツの圧倒的な力の前に為すすべもなくヤツが作り出した異世界へと力技で引き摺り込まれてしまいました…、その後の行方は不明です…。」

「今更かもしれんが…、捜索はきちんと行なっているんだろうな…?」

「はい…、ですが消息は未だ掴めては居ません…。ヤツが何事も無かったかのように健在なのを見るに、恐らくタダでは済んでいないと自分は考えます…。」

「そうか…。」

ライトマサルが行方不明ーー実際にはリヴァイアサン=智史との戦闘に敗北後、自決ーーだという報告を部下から聞くベヒモス、想像以上に事態は深刻であると悟る、実際には彼らの先の予測以上に深刻さは深いのだが。

 

「幸いにもヤツは恒例の如く、今回の世界も捻じ曲げ、破壊しています。その事実を我等の謀略に上手く出来るのは確かです。」

「奴には見抜かれていたようだがな…。まあよい、奴があちこち行く前に奴が破壊の限りを尽くす破壊者であるという嘘を盛り込まれた『事実』をばら撒ければいい、奴の本質を見る前に奴を攻撃せんと確信して我らと協力してくれる確率は高くなるからな…。」

「そしてそれは、最終的にはベヒモス様が作られているヤツを仕留める兵器を完成させるだけの時間を稼ぐことにもなりますな…。」

 

 

同時刻、鋼鉄の咆哮3 エリアL-5に該当する海域ーー

 

ーーキュルルルルル!

ーーバシュゥゥン!

ーーバシュゥゥゥン!

ーードガァァァン!

 

ここは、南極大陸の新独立国家と枢軸・連合両軍の艦隊同士の主戦場となっている海域である、戦況はとてつもなくカオスだった、確かに戦闘自体の激しさがカオス度を上げるのに関わっているものの、敵味方にわらわらといるアレ、そう、ナマモノ兵器とやらがよりカオス度を上げるのに貢献していた。

 

「左翼のアヒル艦隊、敵艦隊の波動砲により、消滅!」

「第二マガモ艦隊、敵ナマモノ艦隊と交戦中!戦況は、一進一退です。」

「我が軍のヴォルケンクラッツァー、敵の同型ヴォルケンクラッツァーと交戦を開始しました!」

「味方の水雷艦隊をヴォルケンクラッツァーの援護に回せ!」

新独立国家側の艦隊旗艦の艦橋では指示と報告が飛び交っていた、まあ最前線にいるのでそうならない方がおかしいのだが。

 

「敵機動部隊より発艦した航空機、多数接近中!」

「全艦輪形陣に移行!味方空母の周辺を固めろ!」

そこに敵ーー枢軸・連合軍の方から飛び立ってきた艦載機が襲来しているとの報告が入る、それをさあ迎撃せんと、艦隊司令は指示を出した、と、その時であるーー

 

「本艦隊正面12時方向に巨大な反応!なおも増大中!」

「な、何が起きている⁉︎」

「わ、分かりません!」

突如として発生した強力なエネルギー反応に両軍の兵士達は驚愕する、見ると海域のど真ん中に強烈な次元の歪みが生じ、そこから強烈な光が程走る。

そしてその光の穴から、霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサンがゆっくりとその巨大な艦体を現す。

 

「わ、我が軍の究極超兵器リヴァイアサンと瓜二つの姿をしている…。しかし何だこの大きさは…。少なくとも我々の方の究極超兵器の二倍以上はあるぞ‼︎」

「識別コード不明、どの艦種とも一致しません!」

「エネルギー反応は我が軍の究極超兵器、そしてナマモノのものさえ上回っている模様!」

智史側は当たり前のように姿を現しただけだが、そんなことなど知らない両軍の艦隊は未曾有の驚愕と混乱に包まれた、そして両軍はお互いよりもあの巨艦ーー自分達のリヴァイアサンと瓜二つの姿をした『別物』のリヴァイアサンに警戒を向ける。

 

「ここは戦場のど真ん中か…。そして何だか変なものがうようよと泳いでるぞ…。だがなんかマズイ(味的意味ではない、物理的意味)感じがする…。まさか、これを見せたくて内緒にしてたのか?」

「そして…、何か美味しそうだね…。どんな味なんだろう?」

「一度捕まえてバラして食ってみなきゃ分かんないな。調べたところによると普通に食料品ともなっているらしいぞ?」

「こんな、雰囲気的にマズそうなヤツが食料として出回ってるのか…。」

 

「さて、両軍から通信がひっきりなしに入ってくるな…。下手に未知の存在に手を出したらロクでもないことになると考えているのか。多分そう考えさせるだけの痛い事があったのだろう。まあ我々はこの世界の住人たる彼らにしてみれば未知の存在と見做されて当然だからな。

だが、残念だったな。こっちはナマモノを大量に捕獲するという目的の為ならば遠慮なく蹴散らす算段だ。

しかし通信に答えずにいきなり攻撃なのも気に乗らん。だからこう返信してやる、

『我、南極にも、枢軸にも、連合のいずれにも付かぬ。これより両軍を皆平等に撃沈してやる。』

と。」

智史は両軍からひっきりなしに『何者なのか、交渉する意志はあるのか』という通信に少しうんざりしながら『両軍を撃滅する』と返信した、両軍それぞれの基本言語で分かりやすくして。

 

「み、未確認艦より返信!『我、南極にも、枢軸にも、連合のいずれにも付かぬ。これより両軍を皆平等に撃沈してやる。』」

「未確認艦、此方に照準を合わせてきています!」

「くっ、徒労に終わったか…。全艦に告ぐ、未確認艦は敵艦と識別せよ!全艦、撃ち方はじめ!」

此方を攻撃するという意図を悟った新独立国家の艦隊は慌ただしく攻撃態勢を整えていく、枢軸・連合軍に向けられていた主なリソースがリヴァイアサン=海神智史に向けられていく。

 

「総司令、未確認艦は新独立国家側も此方も皆平等に攻撃すると宣言した模様です!」

「新独立国家側、未確認艦に攻撃する態勢を整えている模様!」

「そうか…。それにしても愚かな…。我々の艦隊、そして敵たる新独立国家の艦隊の実力を知らずしてこう宣言するか…。それが如何に愚かなことなのか徹底的に思い知らせて体に嫌という程叩き込んでやれ!全艦、砲撃態勢!」

そしてそれは枢軸・連合軍の艦隊側も同じだった、かくして両軍は異世界から来た『リヴァイアサン』に攻撃を開始した、特殊弾頭ミサイル、レールガン、エレクトロンレーザー、εレーザーにδレーザー、かに光線に光子魚雷や波動砲、重力砲といった鋼鉄の咆哮をプレイするプレイヤー側にしてみれば悪夢の飽和攻撃のオンパレードが両軍から一斉に智史達が乗るリヴァイアサンに叩きつけられる。

 

ーーキュルルルル!

ーーキュルルルル!

ーーズゴォォォォン!

 

「うわ、お前にはなんともない攻撃だろうけど、私にしてみればアンチスパイラルの時ほどではないけれど結構滅茶苦茶な攻撃だ…。これお前と会う以前の私だったら一発で粉微塵になってたかも…。下手したらハリマやアラハバキですら木っ端微塵になってたかもしれない…。」

「そうかもね。だったらズイカク、今のあなたの実力の把握も兼ねてこの艦の外に出してあげようか?智史くんの艦の中だと攻撃の規模が把握できないほどに堅く守られっぱなしだからよく分からないでしょ?」

「そ、それは勘弁してくれ…。あの攻撃の弾幕はキツイ…。」

ズイカクをからかう琴乃、当然会話の内容通り、リヴァイアサン=智史は全くの無傷だった、忌々しいといった感じで平然と爆煙と水柱を軽く払って飛び出してくる。何時ものように叩きつけられた攻撃は悉く吸収されて破壊の為のエネルギーとなるどころか逆に強化の基にされてしまっていた。

 

「マガモ艦隊の波動砲、効果ありません!」

「スワンのδレーザーも同じようです!」

「解析によると先ほどの攻撃は全て吸収されてしまっている模様!」

「慌てるな!ヤツの艦種は⁉︎」

「り、リヴァイアサンと瓜二つの形状から推測するに航空戦艦と思われます!」

「だったらアキレス腱ーー艦首、推進器や艦橋、飛行甲板に攻撃を集中しろ!一撃で撃破、沈黙させられることを期待するな、急所を集中して攻めて確実にダメージを蓄積させ、戦闘能力を削り取っていくことに専念しろ!」

そんな光景を見た両軍は僅かながら衝撃を受けた、しかし先ほどの事実を知らないせいなのだろうか、この光景と同じようなものを少なからず見てきたせいなのだろうか、戦法を切り替えてきた、『大量に攻撃を急所に加え続ければいずれ破ける』、『消化できる量を上回る量を叩き込めば潰れる』というある意味正解であり、しかし別の意味で全く外れていた考えを抱いたまま…。

 

「敵艦、艦載機を発艦させる模様!ですが自分の目が信じられません、ハンガーのような所から艦載機を出しているわけでなく、自動で生成してから発艦させる模様です!」

「させるか!発艦させる前に叩き潰せ!焼夷弾でもクラスター爆弾でも、いやそうでなくても今取り付けているものでも何でもいい!一瞬でもいいからヤツの艦載機の発艦を阻止しろ!」

「はい!」

そしてリヴァイアサン(智史側)が艦載機を発進させようとしている報告が入った、そうはさせんと両軍の航空隊は多少の衝突はあれど先ほどの考えを実践するかの如く、リヴァイアサン(智史側)の飛行甲板を航空機諸共破壊し使用不能にしようと襲い来る。

 

「敵艦、迎撃らしい迎撃を行ってきません!回避行動も取ることなく、依然飛行甲板上に艦載機を生成した上で発艦させ続けています!」

「妙だな…。単にこちらに気づいていないのか、あるいはこちらが来ることを知っていた上で、何か手札でもあるというのか?まあいい、これは好機だ、各部隊、爆撃体制に入れ!念の為対空火器に対しても制圧を行え!」

大空を制する鋼鉄の猛鷲ーーCFA-44 ノスフェラトやADF-01 ファルケン (いずれもエースコンバットシリーズより、この世界に行ったことがない鋼鉄の咆哮の世界の住人たる彼らはその名前を知らない)ーーが続々と飛び立ちつつある光景が彼らの目に入って来る、幸い飛び立った数は多くなく、迎撃らしい迎撃もしてこない。

彼らは不審に思いつつもこれはこれで幸いと予め腹に抱えていたありとあらゆるミサイル、爆弾、機銃掃射を目の前にいる強大な敵に向けて放ち始めた。

 

ーーシャァァァァァ!

ーーシャァァァァァ!

ーーヒュルルルル!

 

ーーズガァァァァン!

ーードガァァァン!

 

「第一波、全て命中!」

「やったか⁉︎」

リヴァイアサンの飛行甲板上に爆発と火炎が次々と程走る、傍目でみれば大損害を与えたーーつまり艦載機の発艦防止に成功したかのように見えた、それを見た全員が「やったか⁉︎」と一瞬思った。

 

「第二波、命中!」

「第三波、これより攻撃開始します!」

「対空火器並びに敵艦載機の制圧は順調です!味方艦隊より入電、これより航行能力の無力化を開始するとのこと!」

「よし、このまま押し切れ!」

そしてリヴァイアサンは爆発と火炎、水柱に包まれていく、それは傍目から見れば小島を根こそぎ吹き飛ばそうと言わんばかりの光景だった。このまま削り取っていけば上手くいくと皆は確信した、否そうなっておかしくない筈だと勝手に思い込んでしまっていたーー

 

「くっくっく…。愚かな。先ほどの態度はこちら側にしてみれば余裕があるからこそできる単なる座興だ。潰そうという考えは讃えよう、だがこれで確実に潰れたと勝手に考えるんじゃない。お前達にじっくりと絶望を刻みつける為に敢えて攻撃をことごとく受けたのだよ…。」

「ですよねぇ…。そう言うと思ったわ…。」

当然その台詞の通り智史側にはこれだけ見舞われても何ともなかった、勿論全て吸収して無効化し己の力へと変換されてしまっていた、そもそも相手の事を事前に知り尽くした上でこれを受けたのだ、これを浅く見ていると言う方がおかしい。そしてそんな思い込みは思い込みにしかとどまらないという事を指し示すかの如く、彼らにしてみれば驚愕というべき光景が始まる。

 

「て、敵艦、爆炎の中から艦載機を発進させました!」

「な、何ぃ⁉︎」

「し、信じられません、敵艦、こちらの攻撃を物ともせずに次々と艦載機を生成させ発進させています、爆撃を、雷撃を受け続けている、この状況下をです!」

「敵艦の飛行甲板、健在です!損傷らしき損傷は視認できません!」

「敵艦の推進器の反応、健在!雷撃は全て命中した、損傷は多少は与えた筈では…‼︎」

 

「さあ、驚愕と非常識を己の瞼にきちんと焼き付けたかな?今度はこちらから行こう、返礼はきちんとしなくてはな。」

 

「て、敵艦の上空に巨大なエネルギー反応!恐らくワープホールと思われます!」

「そこから未確認の機影多数!ですが恐らくーー」

「敵は、飛行甲板だけでなく別のところからも繰り出せるというのか…‼︎」

智史のその台詞に応えるかのように先ほどまで積極的な攻撃をしてこなかった鋼鉄の猛鷲達が一斉に彼らに対して隠していた爪を剥いだ、そして追い打ちとばかりにリヴァイアサンの上空に巨大な次元の穴が生じ、そこからF/A-37 タロンや無人戦闘機 E.D.Iーー形や生まれた元の世界は違えど同じ主が生み出し使役する鋼鉄の猛鷲であることは間違いないーーの群れが飛び出してきた、そしてリヴァイアサン=智史の僕たる無数の鋼鉄の猛鷲達はその主ーーリヴァイアサンごと智史より与えられたもはや絶望的というほどに隔絶している驚異的な戦闘能力を本領を発揮して、両軍の航空機部隊を突き、引き裂き、そして彼らから安全な空を容赦なく奪い取っていく。

 

「敵艦載機、本格的な攻撃を開始した模様、な、なんだこの速さは⁉︎」

「さ、さっきの遅さは本気ではなかったということか!」

「敵機捕捉、な、なぁあっ⁉︎ロストしただと⁉︎」

「さっきのよりも機動力が違い過ぎる!何なのだあれは⁉︎」

「メーデー、メーデー、敵に捕捉された、うっ、うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

ーーキュォォン!

ーーシャァァァァァ!

ーードガァァァン!

 

「お、落ちていく…。それも友軍ばかりだ…‼︎」

「我が軍の戦闘機は何をしてるんだ、こいつらを追い払ってくれぇ!」

「ダメだ、こっちは追い払うどころか逆に追いかけ回されている!」

「畜生、ダメだ、直ぐに追いつかれる‼︎」

「ジャミングも効かねえ!くそ、どうなってやがる!」

「ものすげえ数だ!後から金太郎飴のようにじゃんじゃん湧いてきやがる!」

「くそ、奴には限界という言葉が無いのか⁉︎」

「AAMが効かない!奴らは一体何で出来ているんだ⁉︎」

驚愕と絶望に満ちた悲鳴が無線中に響き渡った、そんな悲鳴を聞いたのか、これ以上好き勝手にはさせんとハウニブーで組まれた強力な航空機部隊が友軍を助ける為に向かってきた、しかしそんな彼らさえもそれは“無駄な試みだ、そして見た目で侮った洗礼を味あわせてやろう”と言わんばかりに同じ目に遭わせていく。

 

「くそ、AAMやバルカン砲を弾いたと聞いたがまさか小型レーザーやエレクトロンもまるで歯が立たないとは!」

「荷電粒子砲もだ!くそ、奴ら電磁防壁や防御重力場無しでもケロリとしてるなんてどんな魔法をーー」

「機動性が違い過ぎる!我々は悪魔を相手にしているのか⁉︎」

 

ーーピーピーピーピー!

 

「う、後ろにつかれた!」

「ダメだ、スピードが速すぎる、振り切れない!」

「何処が旧世代の技術の塊なんだ、まるっきり嘘っぱちじゃねえか!」

 

ーーズガァァァァン!

ーーボガァァァァン!

 

「わ、我が軍最強の性能を持つハウニブーが、こうも易々と叩き落とされていくとは…。我々が相対していたのは飼いならされた羊の集団ではなく、統率された餓狼の群れだというのか、う、うわぁぁぁぁぁぁ!」

鋼鉄の咆哮の世界系の中では攻守共に優れ、最強と名高い円盤航空機、ハウニブーシリーズ。

それさえも見も知らぬ艦載機の群れに易々と叩き落とされていくマリアナの七面鳥撃ちの如き光景は上下問わず両軍に戦慄と絶望を植え付けた。そしてこれらの風景と共に両軍のCICに響き渡る絶望に満ちた悲鳴は指揮官達を唖然とさせるのには十分すぎた。

 

「ぜ、全滅だと…。ハウニブー部隊も含めた2000機もの我が軍の攻撃隊が…⁉︎」

「全て撃墜された訳ではありませんが、それでも9割以上を損失…、我が軍の航空戦力はほぼ壊滅しました…。」

枢軸・連合軍の総司令が信じられんという形相で呟く、幕僚達も非情すぎる現実を前にして顔面蒼白といった様子だった。

 

「く、そこには精鋭という精鋭が居たのだ…‼︎もしそれが本当だったらこれから我が軍はどうなるのだ…‼︎」

参謀の1人が半分信じられないと行った様相で呟く、しかし現実はそんな彼を慰めてはくれない。むしろ過酷さを増していく。

 

「敵機、敵艦を中心として多数襲来!数、一万以上!なおも増加中!」

「い、一万以上だと⁉︎バカな、デコイをばら撒いているかもしれん!」

「嘘ではありません、外をご覧ください!」

クルーの1人がそう告げる、そして外を慌てて見る、見ると智史側から飛び立った艦載機が蒼空を埋め尽くして大挙して迫ってくる。

 

「きょ、今日は何という日だ…。これは、正夢なのか…?」

「く、くそ、迎撃しろ!ありったけの艦載機を出し、防空陣形を組みつつ退避する!それと空母は輪形陣の外側に出せ!」

「し、しかしそれでは!」

「さっきの報告で分かっただろう、こちらの戦闘機のエアカバーは長くは持たん!搭乗員と艦載機が悉く海の藻屑となった今、空母などただの箱だ!ならばせめて攻撃を吸引する囮として利用しろ!あんな化け物の群れがいるというのに全艦の生存を前提として生き延びるのは無謀だ、全滅は確定だろう。だが誰かが囮となって攻撃を引き受ければ、一隻、いや1人でも残せよう!」

「は、はい!」

リヴァイアサン(智史側)から飛び立った艦載機の群れに対し彼らはもう艦載機が出払ってただの箱でしか無い空母を輪形陣の外側に出し、戦艦やナマモノといった有力な艦艇を温存するという現代の見方では一見考えられない戦術を採った、しかし彼らは艦載機の出払った空母はもう役に立たないと判断した、敵がいない時ならまだしも今は敵軍が火砕流の如き勢いで迫ってきているのだ、できれば守りたいが、それでも兵員や艦艇を一つでも残す為ならばこういう非情な手段は取らざるを得なかった。

かくして空母は全て輪形陣の外に出た、距離が離れすぎていた艦艇は別々の形で逃走させることになったのだが。新独立国家の方でも様相は違えど逃げるという傾向は確かに目に見える形で現れていた。

そんな事などさておきとして破壊を使命とする僕達は両軍に等しく襲いかかってきた、攻撃隊の先鋒を務めていたCFA-44 ノスフェラトやADF-01 ファルケンといった護衛の猛鷲達が彼らの直衛として残っていた戦闘機に次々と群がり襲いかかっていく。

数質ともに絶望的なまでに隔絶した上での空中戦が開幕した、後がない彼らは我武者羅に食らいつくも数質の差は非情だった、彼らは一機、また一機と次々と、しかしあっという間に食い散らされ、大空に火球を咲かせて消えていく。

そしてエアカバーの無くなった空を突っ切るようにして攻撃隊が大挙して両軍の艦隊に次々と群がっていく。

 

「敵機、ミサイルを多数発射!くそ、ロケット弾か⁉︎弾速が速すぎる!」

「ロケット弾、八発着弾!迎撃が間に合わない!」

「護衛艦艇の半数、完黙!残存艦艇の大半も損傷!」

そして彼らにしてみればワンサイドゲームというべき悪夢の猛攻のオンパレードが始まった、手始めにB-3ビジランティⅡやアース(紺碧の艦隊より)から放たれた無数のフルメタルミサイルが護衛の艦艇に次々と着弾する、あまりの弾速ーーオリジナルを遥かに上回っているーーである為に戦艦の船体すら貫通し両断するものさえあった、そして弾速が速いということは凄まじい運動エネルギーを秘めていたということだった、当然防御重力場も殆ど意味を全くなさずに貫通を許してしまった。

フルメタルミサイルは爆薬を内包していない非常に硬い素材で出来た弾体だ、一見こいつは兵器としては役に立たないと捉えてしまうものの、ただ純粋に運動エネルギーを強みとした破壊兵器としての用途を求められたからこそこういうシンプルな形となったのだ、当然破壊力は無いわけではない、寧ろこの形となることで膨大な運動エネルギーを与えられた際にこいつは通常兵器を遥かに上回る破壊力を見せつける。

それを大量にぶつけられればどうなるかは撃ち込まれた後の護衛艦隊の惨状が物語っていた、すでに浮いている艦は指でも数えられる程だ、その殆どが大穴をあちこちに穿たれて火を吹いて傾き今にも沈もうとしている。

勿論彼等の思惑通りだろうか、空母も狙われた、バンカーバスターやJDAM、焼夷弾頭といった爆弾を抱えた機体が次々と急降下爆撃を行なった、爆弾は面白いように命中し空母は彼等の攻撃を吸引することと引き換えにその殆どが火達磨となり、艦底からの浸水も始まる艦が続出した。

 

「低空飛行を行う機影を確認、奴ら何をーー」

「雷撃だ、奴等め、あんな古臭い戦法を使ってくるということはこちらの攻撃など無駄だという事を指し示したいのだろう、恐らく喫水線に大穴を開けて引導を渡すつもりか…。」

その言葉の通り、瀕死となった彼等にトドメを刺すべく霧が使う恒例の兵器である侵食魚雷や超音速魚雷、光子魚雷、量子魚雷を抱え込んだXSB-1とSu-37jが接近してきた、彼等は必死に舵を切ったり迎撃しようとしたものの、先の攻撃の影響で動きが鈍く、迎撃もままならない。

もはや瀕死の状態だった彼らに鋼鉄の鳥達は容赦無く魚雷を投擲した、魚雷は次々と彼らに命中する、その度に爆発と水煙が海原に花開いていく、そしてそれが引いた後には彼らの姿は無かった。

しかしこれはある意味当然というべきか、空母部隊を喰らい尽くしても彼らの攻撃は収まらない。超兵器を中核とした主力艦隊や散り散りに逃げつつある艦隊にも魔手は伸びてきた。更に追加として飛来した新たな攻撃機の群れと護衛の戦闘機を排除し終えたCFA-44 ノスフェラトとADF-01 ファルケンがこれに加わり攻撃を益々苛烈なものへと変えていく。

 

「ナマモノ艦隊へのハッキング攻撃を確認、規模はなおも拡大中!」

「コンピューターウイルスが外部ネットワークから大量に流入!」

「流入元は⁉︎」

「例の未確認艦からです!」

「コントロールシステム並びに自立制御システム、乗っ取られます!」

「ナマモノ艦隊、全艦が沈黙、コントロール、一切効きません!」

更に追い打ちとばかりに彼らにしてみれば想定外の出来事が襲いかかる、リヴァイアサン(智史側)からの強制ハッキングによるコンピューターウイルスの流入により次々とナマモノ艦隊のコントロールシステムが制圧されてしまった、これによりナマモノ艦隊の艦艇は次々と沈黙し動きを止めてしまう。

省力化を計る目的でナマモノ艦隊の艦艇は無人制御システムで管理されていたーー人間による兵装、機関、ダメコンなど一切必要としない前提でーーものの皮肉にもそれが仇となり手動による復旧が儘ならぬ状態となってしまった。そしてそれは艦隊運動にも影響を及ぼしていく、ナマモノ達の足が止まってしまったことにより艦隊の陣形が乱れ始めた。

これを実現するには恐ろしいほどの演算能力ーー霧の超戦艦級のユニオンコアを使ってもまだ足りないーーが必要となったのだが、常に進化し続けている今のリヴァイアサン=智史にしてみればそんなことは朝飯前でしか無かった。

 

「ナマモノに接舷、何としても曳航して連れ帰れ!もしそれが出来なければ自沈させろ!」

「は、はい…‼︎」

「(しかし、何なのだ…。通常艦艇は片端から沈められているというのに、なぜナマモノは撃沈されない…?コントロールシステムが制圧されたのを見るに、何か利用する価値でもあるというのか?くそ、こんなことを考えている暇はない、ここで立ち止まっていたら奴らに狙ってくれと身を晒していることになる‼︎)」

新独立国家の艦隊司令は鋼鉄の嵐の如き航空攻撃が始まってからなぜナマモノに一切被害が出ていないのか少し疑問に感じていたもののこの光景を見て自分なりの答えにたどり着いた、それはある意味的中しており、またある意味では正解にはたどり着いてはいなかった。

 

ーーシャァァァァァ!

ーーズゴォォォォン!

ーーバゴォォォン!

 

一部の艦艇が沈黙したナマモノ達に接近しようとするもそれが目立っていたのか、未だ獲物に有り付けず暇を持て余していた鋼鉄の鳥達が続々と群がってくる、ただでやられてくれる訳には行かないので対空砲火を必死に放つも、先の結果と同じ結末が答えとして返ってきた、そして返礼として一撃で超兵器すら吹き飛ばしかねない攻撃が次々と片端から容赦無く叩きつけられる、その苛烈たる攻撃の前に接舷する事さえ叶わずにすべてが撃沈または完黙させられてしまった。

 

ーーシャァァァァァ!

ーーガガガガガガガガ!

ーーグワァァァァン!

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「うがぁぁぁぁぁぁ!」

 

ーーズガァァァァン!

ーードゴォォォン!

 

「主力艦艇の半数、沈黙!」

「ルイジアナ級、全艦撃沈されました!」

「我が軍の究極超兵器、ヴォルケンクラッツァーとリヴァイアサンにも被害が出ています!」

「被害規模、なおも拡大!電磁防壁、防御重力場共に許容限界を突破!阻止できません!」

「くそ…、これでは一方的な嬲り殺しだ…‼︎」

絶望的な報告が次々と入ってくる、ありとあらゆる艦の外も、中も、もはや地獄絵図と阿鼻叫喚だった、通路は血でぬるぬるし、機関室や弾薬庫を始めとした至る所が次々とと破壊され火災と破片がそこを支配していく、元からあった備品はもはや廃墟を廃墟らしくするパーツへと変わり果ててしまっていた。

 

ーーズガァン!

ーーキキンキンキン!

 

「後から後からどんどん来やがる!」

「電磁防壁が消えた…、こんな筈は…‼︎」

「主砲もレーザーもまるで効いていない!くそ、一矢も報えずに終わると言うのかよ…、こんなの受け入れられるかぁぁ!」

両軍の究極超兵器達も他の艦よりも激しく抵抗したものの、リヴァイアサン=智史側にしてみれば所詮は程度の問題だった、彼らもまた他の艦が辿っている結末を強制的に追わされ半ばグロッキーとされかけていた、この世界の住人達にしてみれば極めて高威力たる魚雷や対艦ミサイルが何十何発と次々と命中しているせいで至る所に深々と破口が開きそこから火を吹き傾いている、こんな様でも満身創痍と言わない方が全く可笑しい。

究極超兵器達は国家の権威を掛けて建造された艦艇である、それが通常艦艇と同じように簡単に沈まれては困るので当然の如く彼らには高レベルの電磁防壁や防御重力場、最高レベルの強度を持つ装甲材が使われていた、しかしそれらは先に記したあまりの猛攻に耐えきれずにもうとっくに吹っ飛んだり歪んだりしていた。特にヴォルケンクラッツァー級には艦橋にも爆撃や機銃掃射が念入りに行われそれらが行われるたびに爆煙が舞い上がり火達磨になった人間や破片が宙を舞う、そしてトドメとなる一撃が放たれたーー

 

ーーズグォォォォォン!

 

「リヴァイアサン艦内で大規模な爆発発生‼︎高エネルギー反応を確認!」

「燃料、弾薬が次々と連鎖誘爆している模様!音信不通!被害状況不明‼︎」

 

ーーバガァァァァァン!

 

「そ、そんな、ヴォルケンクラッツァーもか…。」

「ヴォルケンクラッツァーとの通信回復、被雷よる浸水過多、また爆撃により機関やダメコンも破壊された模様…。」

「先のリヴァイアサンのものと同じく、高エネルギーの過剰投与による爆発がトドメとなりました…。」

「火災、浸水共に収束の見込みなし、先程総員退艦が発令されました…。」

仕上げとばかりにエネルギー暴走弾ーー高エネルギーを弾体から過剰放出することで艦内のエネルギーを不安定化、暴走させて内部から破壊し尽くす兵器ーーが究極超兵器達に撃ち込まれた、それは波動砲や高威力レーザー兵器といった高エネルギーの逃し場を失った究極超兵器達には致命傷というべきものだった、人間の脳血管が膨らみ耐えきれなくなって破裂するかのように弱い箇所から順に連鎖して爆発が生じていった、それは弾薬や燃料も巻き込み巨大なものへと変貌し彼らを火達磨の醜い鉄塊へと変えていく。

そして両軍の艦隊旗艦にもいよいよと断末魔が迫っていた、多少様相は違えど既に船体は大きく傾き、砲塔という砲塔は悉く潰され、VLSがあった箇所には大きな穴が開き火煙が噴出していたのは同じことだった。

 

「ここまで強いとは…。願わくばこのことを戦う前に知りたかった…。」

 

異世界から来たリヴァイアサン(智史側)の圧倒的な攻撃力と防御力を見せつける現実を散々に味わった艦隊司令は絶望と諦観が混じった顔でそう呟く、しかし悲しいかな、覆水盆に返らずという諺があるようにタイムスリップとかを使わなければこの結末は変わらない。

 

「敵機、多数接近!」

閣僚達が顔を強張らせる中、艦隊司令はこの世での最後の言葉を口にした。

 

「(もはや、ここまでか…。)」

 

この直後、極超音速対艦ミサイルASM-3(超音速空対艦ミサイルXASM-3と外見は瓜二つ、但し威力は本家よりも桁違いに高い)が艦橋を消し飛ばしそこにいた新独立国家の艦隊司令や閣僚達を全滅させた、そしてその後超音速魚雷が8発命中した艦隊旗艦はあっという間に傾き船底を曝け出した後、まだ残っていた弾薬が誘爆したのか、巨大な黒煙を吹き上げて消えた。

この艦隊旗艦の轟沈を最後に一方的なワンサイドゲームと化した艦隊戦は当然の如く智史側の被害皆無という圧勝で終わった、沈黙させられたナマモノ達を除き、両軍共に全滅というべき被害だった。後はかろうじて浮いている燃え盛る鉄塊と化した全ての艦艇に引導を渡し、ナマモノを捕獲するだけだった。

 

そして、リヴァイアサン(智史側)ではーー

 

 

「………。」

 

智史は複雑な心境であちこちから火煙を噴き、まるで戦場の廃墟の如く至る所が破壊し尽くされもはや浮かぶだけの醜い鉄塊でしかない本家たるリヴァイアサンを見つめる、それでも圧倒的な力にモノを言わせた一方的な蹂躙に抗議するかのように、いや究極超兵器としての己の歴史を刻み残すかのようにまだ生き残っていた小型レールガンを旋回させて何発か撃ってきた、それはリヴァイアサン=海神智史に手傷を負わせる前に全て分解吸収されて、花火が消えるかのように儚く消えた。

本家だからといって手加減はしなかったものの、やはり今の自分の元となったモノを徹底的に嬲り蹂躙する気にはあまりなれなかった。仮にやっていたとしてもあまり喜べるものではなかった、寧ろ虚しさと哀しささえ感じた。

 

ーーキュォォン!

ーーキュォォン!

 

ーーズゴォォォォン!

 

これ以上酷い目に合わせてもただ見苦しい思いをするのならば一撃で終いにして楽にしてあげよう、それが元の本家や自分自身の為にもなると考えた彼は意地でも最後まで抗った本家に敬意を表すかのように砲塔レールガンを旋回させ放つ、一撃で本家は水爆が水中で爆発したかのような巨大な水柱と共に両断され、その巨大な水柱と共に姿を消した。

 

「円盤か…、しんみりとした気分を台無しにしてくれるな…。その姿いつ見ても忌々しい…。一撃で両断してくれる。」

枢軸・連合軍の円盤型超兵器ヴリルオーディン4機と超ヴリルオーディン一機が運悪くーー絶望的な戦況が入ってこなかったのだろうか、それともまだ友軍がいると信じて来たのだろうかーーリヴァイアサン=智史の目に入ってしまう、究極超兵器たる本家が為すすべもなく円盤に沈められた光景を元にそれを骨の髄まで忌み嫌う智史にしてみればそれは反吐がでそうな程だった。

そして哀れ、彼らは何もする間も無く、次の瞬間には重力子X線レーザーの一薙ぎで胴を一瞬で溶かされ真っ二つにされて溶けた破片を海に撒き散らしながら消滅してしまった。

 

「さて、円盤も全部木っ端微塵にした事だし、ナマモノを連れ去るか。とはいってもおとなしいままだと少し詰まらんからな、苦痛に満ちた悲鳴を聴きながら連れ去るとしよう。」

「き、鬼畜…。」

智史はそう言うと今度はシャドウホーク(トランスフォーマースーパーリンクより)の群れを生成し放った、そしてナマモノ達を制御していたコンピューターの制圧を解く、圧倒的な力で一方的に嬲ることによる、生で響き渡る苦悶と悲鳴をじっくり見て聴き楽しむ為に。

ナマモノ達は先の戦闘の結果からか、とても敵わないと判断して我先にと逃げ出そうとする、しかし智史はそれを嘲笑うかのように嬉しそうに微笑みながら自艦を中心として強烈な磁界を発生させた、それは一瞬にして自然と流れていた海流を沈黙させ次の瞬間には海龍ーーリヴァイアサンの名を持つ彼の意のままにしてしまう。

そして彼の意のままに海は蠢く、逃げようともがくナマモノ達を非情にも海は彼の方へとどんどんと押し戻していく。

 

「さあ、もっと抗え…!生き延びようと悶えるその様が私を更なる高みへと導くのだ…!」

 

「グワーー‼︎グワーー‼︎」

「クォォォ、クォォォ!」

「ピーピーピーピー!」

そして上空に居た無数のシャドウホークの群れがナマモノ達の上空に群がり次々と襲いかかってくる、ナマモノ達は必死に抵抗する、重力砲や波動砲も撃ちまくった。しかし当然かな、そんなものは全く効かずに吸収されてしまう。

シャドウホークの爪が、嘴が次々と食い込み体が強引に宙に持ち上げられ連れ去られていく、首や体にそれらが食い込み、皮が引き裂かれて中身が見える、その度にナマモノ達は苦痛と恐怖に満ちた悲鳴を上げる。そして彼らはナマモノ輸送艦(宇宙戦艦ヤマト復活篇に出てくる移民船がベース、横にナマモノエクスプレスと書き込まれている)という最早家畜を運ぶものでしかない鋼鉄の箱に次々と詰め込まれていく、ナマモノ達が次々と一つの容器に投げ込まれギュウギュウと押し込まれ壁やガラスにぺったりと張り付いていく様はまるで生命をモノ以下の扱いでしかないと見做しているように見えた。

 

「くくく、随分といい様だ…、笑いが堪えきれん…。」

「おおう…、酷いってもんじゃないぞこれ…。そしてバラして試し食いとか言ってたがそれにしては多過ぎじゃねえか…?」

「ああ。こいつらの他にも色々と捕獲してある目的の為に魔改造して別の世界にぶち込んでやるからな。」

「いつものように、イタズラがしたいの?」

「ああ。時には思い留まる必要性はあろうとも、自分のイメージした事ーー妄想を表現したくて仕方がない。さて、試食をしてみるか。」

そして智史はたっぷりとナマモノ達を詰め込んだ複数のナマモノ輸送艦を異次元の空間へと仕舞うと何匹かナマモノをシャドウホーク達に自分の元へ持ってこさせる。

 

「こ、これがナマモノか…。」

「既に息の根を止めてあるがな。モデルとなったモノと同じ調理方法でやれば同じ感じの味となるのだが、ただ…。」

「ただ?」

「本来の役割が兵器となっている以上、こいつらに使われているのは究極超兵器達に使われていた装甲に匹敵するほどの強度を持つ構成素材でな、モデルと同じマニュアル通りの調理方法だと当然人間は味わえん。何か工夫する必要があるな、まあ既にその『工夫』は具体的に見出してしまったのだが…。」

そして智史はナマモノを構成していた生肉のような構成素材をリヴァイアサンの外壁に叩きつけると挽肉にするかのように鋼鉄の麺棒で容赦無く滅多打ちにし、無理矢理柔らかくしてしまった。

 

「これで食えるようになったな、さて皆の衆、料理を始めるとするか。」

「何を作るの?」

「鴨スーゴのスパゲッティ。あとはタイ料理のカオ・ナー・ペッ(アヒル肉のせごはん)だな。作り方は説明するとしよう、お前にしてみればこの料理を作るのは初めてだからな。」

この後智史達は料理をみんなで仲良く進め、そして仲良く口に料理をほうばるのであった、初めて目にする料理ではあり、そして初めて作った料理だったものの、いざ食べて見たらどんどん箸が進んでしまう程の美味さだった。

 

「さて、腹を落ち着かせつつ他のところも巡るとしようか、ここだけで全てを済ませては詰まらんからなあ。」

「そうね、来たなら色々と見てみましょう。」

智史はそう呟く、そしてリヴァイアサンは観光もしつつ他の海域のナマモノも捕獲せんと言わんばかりに次の海域へと船足を進めて行ったーー




おまけ

究極超兵器にどう引導を渡そうかと考えた件について。

鋼鉄の咆哮3に出てくる超兵器船体は核融合炉でしか動かないという設定がある、核融合は制御が難しくすぐに消えてしまう(裏を返せば安全)ので、機関を破壊して高エネルギーを制御不能にする崩壊劇はあり得ないと判断して高エネルギーの過剰投与による崩壊という形で引導を渡すことにした。


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第51話 鋼鉄の世界巡り その1

前作の続きです。
前作では一部だけだったナマモノとアイテムの略奪の動きが本格化します。
特に智史は新型寝返り電波砲が欲しかったみたいです、何か目論んでいる模様で…。
そして彼は世界を横断し別の鋼鉄の世界でも略奪劇と観察をやりたいようです。
それでは今作もお楽しみください。


「…ぜ、全滅だと⁉︎バミューダ沖で枢軸・連合軍の主力艦隊と交戦していた我が軍の主力艦隊が⁉︎」

「は、はい…、当初この報告が入って来た時は我が目を疑ったのですが、何度問い返しても同じ答えしか返って来ませんでした…。」

「馬鹿な⁉︎あそこには究極超兵器が二隻とナマモノ艦隊がいたはず!向こうの究極超兵器と互角に撃ちあえる陣容を有した艦隊だ、それがそう容易くやられる筈がない…‼︎」

「そ、それが、向こうの艦隊も反応が確認できません…、恐らくは一隻残らず壊滅した模様…。代わりにいたのは我が軍の究極超兵器リヴァイアサン級と瓜二つの姿をした巨艦の姿でした…。」

新独立国家の艦隊司令部ではバミューダ沖で勃発した海戦の内容に驚愕し、戦慄していた、何せ自分達から見たら普通では起こり得ない事態が突如として勃発したのだから。

そして霧の究極超兵器リヴァイアサン=海神智史の艦影を捉えた写真が回された、皆はそれを見て唖然とする。

 

「そしてリヴァイアサンと瓜二つの姿をした例の巨艦は推定速度300ktという信じられないスピードで航行しています。」

「さ、300kt⁉︎敵ヴィルベルヴィント級巡洋戦艦よりも速いとは⁉︎」

「馬鹿な、これは兵器の常識を超えているぞ⁉︎」

「それで、ヤツの行き先は…?」

「は、それが閣下ご愛用の「ネコちゃん」達が枢軸・連合の艦隊に軟禁されている海域です…。」

「な、何ぃぃぃ…⁉︎」

新独立国家の海軍総司令の耳に智史達が自分のペットが軟禁されている場所に向かっているという報告が入った途端、彼の様相が変わった、焦燥が彼の顔を急激に変えていく。

 

「ならぬ!何としてもヤツがこの海域に到達する前にミーちゃん達を奪還しろぉぉぉぉ‼︎」

「は、はいいいいい!」

そして半分滅茶苦茶というべき命令が飛び出す、無理だとわかっていても、軍人たる彼らにしてみれば命令は命令だ、もしそれに従わなかったら最悪首が飛び、反逆罪として処罰されかねない。

かくして泣く泣く彼らの特殊部隊ーー艦隊だと悉く壊滅させられる可能性がある上に船を動かすにも到着するには時間がかかる場所であった為ーーは半ば無理であることを理解しつつリヴァイアサン=智史が向かっている場所へと急遽向かうことになったのであったーー

 

L-02に該当する海域ーー

 

「ここは?なんか迷路みたいに入り組んでるねぇ…。」

「って、なんか色々と変わった建物が建っているぞ?」

「歴史的建築物かしら…、これまで写真でしか見たことがなかったピラミッドにモアイ像やスフィンクスまで…。って何かビームみたいなもの撃ってきた。」

「これらに偽装した砲台だろう、随分と面白い見た目だな。まあいい、撃ってきたなら陸地諸共根こそぎ吹き飛ばしてやる。」

外見が世界遺産に登録されている建築物に似たレーザー・プラズマ砲台が侵入者たるリヴァイアサンごと海神智史に対し一斉に火を吹いた、それらは高レベルの電磁防壁を装備していなければ大型戦艦すら一発で沈める代物ばかりだった。

しかし悲しいかな、それは同じ世界の者達にしか通用しない。このリヴァイアサンは電磁防壁どころかそれさえも不要にし寧ろ上回ってしまう“能力”を骨の髄まで体に染み付け、しかもこれまでも、今もその“能力”を大から小まであらゆる面で強大に進化させ続けている化け物だ、撃ち込まれたレーザーやプラズマはその外皮を傷つけるばかりか悉く吸収され新たな力へと変えられてしまう。

そしてお返しとばかりに鋼鉄の暴風雨の如きAGSの霰が撃ち込まれた、それは砲台の群れを片端から根こそぎ抉り飛ばし、海水を消しとばし、その後に巨大なクレーターを無数刻み込んでいく。

 

「うわ、根こそぎだ…。せっかくの迷路が…。」

「なんかこちらに突っ込んでくる…。あれは何だろう?ひょっとしてこの前のやつの関連かなぁ?」

「あ、ホントだ。私が見たアラハバキ級とは違うけどこいつもドリルとソーを装備してる。」

見ると見た目は違えど名前と艦種は同じドリル戦艦であるアラハバキが現れた、目の前にいる未知の巨艦を沈めねば逃げられないと判断したのだろうか、窮鼠猫を噛むという感じで目潰しと言わんばかりに智史達がいる艦橋に対して兵装を撃ちまくりながら真っ直ぐに突っ込んできた。

直ぐに重力子X線レーザーが撃ち返され、高レベルの電磁防壁を貫き、上部構造物を一撃で跡形もなく消しとばし更地へと変えた、するとーー

 

「か、勝手に転覆したぁ⁉︎しかも艦底に何か兵装みたいの付いてる…。」

「リバーシブル戦艦か。しかも艦底らしく艦橋が潜水艦のものそのまんま…。ドリルも相まってこれまたロマンがあるな、これは。

だが、これを見る為だけに私はここに来たのではない。ナマモノの捕獲を邪魔するのか、ならば遠慮なく消えてもらおう。」

「捕獲、というか拉致だけど…。あと先ので嫌という程智史くんの圧倒的な力を理解させられたから邪魔するどころか生き延びるので必死な感じがする…。」

 

ーーキュォォン!

 

ーーズグワァァァン!

 

「邪魔者も一刀両断にしたし、次行こうか。」

そしてリヴァイアサンはナマモノ達がいる部屋へと突っ込んでいく、シャドウホークやV-22オスプレイ、CH-53Eスーパースタリオンの群れを生成して飛び立たせながら。それに伴い新たな惨劇もまた勃発する。

 

「あ、なんか変な連中が入ってきたよ?クチバシでつっついたれ、って、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

「やめろ〜‼︎どこへ連れて行く気だ〜‼︎」

「さっきのは嘘です!許して下さいぃぃぃぃ〜‼︎」

 

「侵入者だ!!全らっこ艦隊出撃 わが水族館に侵入した謎の敵艦を殲滅せよーー」

 

ーーキュォォン!

 

ーードゴォォォン!

 

「こ、降参です…。助けて下さい…。」

「嫌だな。宣戦布告をこちらから仕掛けておいて、劣勢になったらもう命乞いか?こちらの好きなようにじっくりと弄ってやろう。」

「ひぃい〜‼︎」

「おおう…、サディストの本領が発揮されていますねぇ…。」

哀れ、アヒルやらっこ達は種別問わず問答無用で次々とその場で生け捕りにされていく、白旗を上げても容赦無く。

逃げようとしてもシャドウホークやヘリの群れが直ぐに退路を塞ぎ、無数の引網を放って海底も掻っ攫ってまで悉く一網打尽にし、次々と見せ物にしていった。

そして彼らは訳の分からぬ見知らぬ場所ーー異次元に待機していたナマモノ輸送艦の中へとワープホールを通じて見せ物にでもされるかのように囚われの網の中から放り込まれていくのであった。

 

「あれは…、ムスペルヘイムか?それにしてみれば随分と小さいなあ…。」

「元いた世界の方にいた奴がデカすぎただけだ、それでもお前よりは大きい。一撃でお陀仏だ。」

その言葉と同時に、リヴァイアサンの大型ミサイルVLSの一つに特殊弾頭ミサイルが装填される。

 

「お駄賃だ。ほれ、貰ってけ。」

 

ーーシャァァァァァ!

 

ーーピカッ!

ーードゴォォォン!

そして彼の言葉とともに放たれた特殊弾頭ミサイルはムスペルヘイムの防御重力場と装甲を豆腐でも刺し貫くようにあっさりと貫通し、ムスペルヘイムの胎内に深々と食い込み、そこで炸裂した。

 

「また巨大なキノコ雲が…、今回も派手だねぇ…。」

「地形がぐちゃぐちゃだね…。地図を作る人達はまた書き直さなきゃならなくなるから堪ったもんじゃないかも…。」

一瞬でムスペルヘイムは閃光とともに跡形もなく消滅する、そしてその際にムスペルヘイムの胎内を食い破って解き放たれた爆炎が海を、いや海底も、その周囲の島々を一瞬で蒸発させた。

 

「あ、何か水路みたいなものがある。」

「だったら地形を無理やり食い千切ってでも突っ込もうか。」

 

「にゃー」

「さーて、ここでもナマモノみ〜っけ。」

「ね、猫ぉお⁉︎それも段ボール箱に入ってるぞ⁉︎」

「こいつもひっ捕らえて魔改造魔改造っと♫」

「き、鬼畜すぎる…。」

「あとこいつらには主人が居たからな、そいつにお前のお気に入りのネコ共を生け捕りにしたという事実を伝えてやる。」

そしてペットだろうが何だろうが、ネコもお構いなく連れ去られる、苦痛と恐怖に満ちた悲鳴をあげながら。智史はそれを嬉しそうに聞きながら映像を収め、新独立国家の海軍総司令部の回線をハイジャックするや否や、海軍総司令に対し、会話を試みるのであった。

 

ーーバァァァァ!

 

「き、貴様何者だ⁉︎」

「我が名は海神智史。お前達が未知の超巨大戦艦とやらと騒いでいる『存在』を代表する者だよ。」

「な、何いっ⁉︎」

「お前にはお気に入りのペットが居たようだが、これのことかな?」

彼はそう言うと猫がヘリ複数により強引に連れ去られる映像を見せるのであった。

 

「“みー!みー!”」

「どうだ、最前線にいるお前の雑兵共が味わっている恐怖を直接体感できない場所で、お前の好きなペットが酷い目に遭っているのを指を咥えて見る気分は。」

「ぎ、ぎぃやぁぁぁぁぁぁ!ゎ、わたしのみーちゃんがあぁぁぁぁ~~~。」

「こいつらを己が好きな風に利用したくなってな、だからだ。」

「や、やめろぉぉぉぉ!みーちゃん達を返してくれぇぇ〜〜〜〜‼︎」

「嫌だな。お前が金をいくら積んでもこっちは応じる気など微塵もない。何故ならお前やそれに関するものには微塵も興味がないゆえに。以上だ。」

 

「“ミニャッ‼︎”」

 

ーープッツ!

ーープーッ、プーッ、プーッ…。

 

さ、次行こうか。

 

「ね、ネコ泥棒め…。特殊部隊は何をしていたんだ…‼︎」

なんとか特殊部隊はネコ達が軟禁されている場所に到着した、しかし一歩遅く、そこにはとっくに彼がいた。

彼に睨まれた瞬間、『隙あらばやってみろ、直ぐに返り討ちにしてやる』と言わんばかりの凄まじい殺意の眼差しの前に一瞬で沈黙してしまった、そして次の瞬間には無意識にも、哀れ、本能的恐怖のあまりに腰が砕けヘナヘナと座り込み、中には失禁、脱糞してしまうという醜態を晒す者まで続出してしまった。

彼らを擁護するのならば、彼らは決して弱兵では無かったということだ、むしろ彼らは一般の兵士がこなしている唯でさえ厳しい訓練を上回る厳しさの訓練を日々積んできた猛者達なのだ。

 

「“そ、総司令…、聞こえますか…?”」

「貴様ら、何をしていたんだ⁉︎」

「は、はっ、奴に睨まれた途端、身の毛がよだち芯から震え上がらせるような恐怖が身に走りまして…。恐らく我々がここに来る事を知っていたような表情でした…。

そして、申し上げたい事があります…。」

「それはなんだ⁉︎さっさと言え!」

「“わ、我々が奴に睨みつけられる前にも奴は何故か枢軸・連合側のナマモノを連れ去っていました、閣下のネコちゃん達も一応ナマモノである事を考えると…。”」

「ま、まさか…、ヤツの目的は、ナマモノか…?」

「“そ、そうかと思われます…。恐らく他の海域のナマモノも奴は一匹残らず掻っ攫うつもりでしょう…。”」

「な、何ぃぃぃぃ…⁉︎ならぬぞ、ナマモノがいなくなったら、いなくなったらぁぁ…。」

総司令はナマモノがこの世界から居なくなることを恐れているようだ、何故なのかはわからない、恐らくはこの世界は農水産業が戦争の影響で色々と荒廃して盛んではないことによる食糧難を恐れたのかもしれない、そしてひょっとしたらナマモノがいなくなることによって戦場のカオスさが消えてしまうのを恐れたのかもしれない。

だがリヴァイアサン=智史はそんな事など意にも介さず次の海域へとさっさと向かっていた。

 

 

ーーエリアL-04に該当する海域に向かっている途中ーー

 

「あ、ナマモノ工場発見。ナマモノは連行だ〜〜‼︎」

 

「な、ナマモノ泥棒が来たぞ〜〜‼︎」

「くそ、何で強さだ、波動砲台の攻撃を一切寄せ付けないなんて!」

「レールガンも重力砲もまるで効いてない!こうなったら一匹でもナマモノを逃すんだ!」

「間に合うか‼︎一匹でも逃す暇があったらナマモノを置いてでもとっとと逃げた方がマシだーー」

 

ーーガガガガガガァン!

ーーボガァァァァン!

 

「グワー、グワー‼︎」

「さ、ナマモノ連行連行♬人間もナマモノも一匹残らず根絶やしだ♬」

「い、いつもよりテンションが鰻登りになってる…。お前まさか本気で一匹残らず狩り尽くす気か?」

「そうだ。一つ残らず狩り尽くさねば気がすまん。」

「て、徹底的だね…。」

 

そして、またある別の海域では…。

 

「輸送船団みーっけ。中身は何が入っているのかな?新型寝返り電波砲の実物が一番欲しかったし、そいつはナマモノ狩りの際に偶々いた赤い輸送艦から入手できたから満足なんだけど、この世界にはリヴァイアサンには備え付けられてないレア物が色々とあれこれあるな、よし、コレクションも兼ねて片っ端からぶっ潰して中身を奪うとしよう。」

 

ーーリヴァイアサン=海神智史に襲われる輸送船団側からの視点

 

「に、逃げろ〜〜‼︎海賊が来たぞ〜〜‼︎」

「護送船団め、我らを置いて逃げる気か⁉︎」

「何考えてんだお前ら!お前らがいなくなったら誰が俺たちを守るんだよ⁉︎」

「知るか‼︎南極の奴らの方がまだマシだぜ!今はそれどころじゃねえ!」

「な、ナマモノ泥棒め、ナマモノだけでは飽き足りずに我が軍が丹念込めて作った兵器を、全部、横取りする気かぁぁぁ〜〜‼︎」

ナマモノ泥棒、海賊と色々と騒ぎ、狂乱する輸送船団の者達。しかしそう喚いた所でリヴァイアサン(海神智史)が目の前から消えて無くなるわけではない。もしそれが成り立つのならばこの世界で起きている惨劇は一つも起きていないだろう。

 

「よぉ〜〜し、航空機や武装でぶっ潰すのは少しつまらんから、ラムアタックで破壊してやんの!」

智史の欲望に応えるようにしてリヴァイアサンは増速する、目の前にいる無数の哀れな生贄を一つ残らず食い尽くさんと言わんばかりに。

 

「敵艦、急接近!激突します!」

「ラムアタックか⁉︎」

「速すぎる、こんなの避けきれるかぁぁぁ!」

「うっ、うわぁぁぁぁぁぁー‼︎」

「ぎゃぁぁぁぁ〜〜〜〜‼︎」

 

ーースガシャッ!

ーーグシャッ!

ーーバガァァン!

ーードゴォォォン!

 

こうして智史の行くところあちこちで阿鼻叫喚が無数轟く、ナマモノを一匹残らず拉致し、ナマモノを作るものも悉く根絶やしにし、そればかりではなくアイテムも何もかも奪い尽くさんと言わんばかりにと言わんばかりに智史が確実に万人が引くか逃げるか泣き出すであろうドス黒い満面の笑顔を浮かべ我が物顔で思う存分暴れまわっている為だ。

巻き込まれる側は悲惨なものだった、突如として自分達を根こそぎ絶やす様な災厄が問答無用で襲いかかってくるのだから。

だがそれは張本人たる智史にしてみればそんな悲惨なことなど大した事ではない、むしろそんなことを起こしまくる事で自分の欲望が満たされるのならば大歓迎だった。

 

「あ、アムステルダムだ。あれは枢軸・連合軍を構成してる敵国の大都市の一つなんだよな。貨物船もたくさんいる。宜しい、ならば跡形もなく殲滅して略奪だ。そして根絶やしだ!」

 

ーーババババババババ!

ーーバゴォォォォン!

 

かくして、リヴァイアサンごと海神智史は巡業という名の下に次々とナマモノを捕獲ーーというか拉致であるーーし、アイテムも次々と収奪していく、その際に彼が通って行った場所は次々と業火が燃え広がる煉獄へと化していった。

 

「“ふん……、のこのこと我々のホームタウンへと入って来たか…。だがここは同時に我々の射程圏内だ!全て射程圏内だ!貴様などただのマトに過ぎんわ!”」

「射程圏内か。笑わせてくれるな。まあいい、貴様らが使う鋼鉄の神馬、そのまま貴様らの墓標にしてくれよう。」

「“な、何をーー”」

 

ーーキュォォン!

ーーバゴォォォン!

 

当然敵は激しく抵抗した、ナマモノやアイテムをそう易々と引き渡さまいとその場にあった超兵器やあらゆるものまで投入した、しかし無情かな、力の差は歴然としていた、これを指し示すかの様にこれらは悉く弾かれ、吸収されて消えた。

彼を完全に滅ぼすにはビックバンの10の何京乗倍のエネルギー、いやそれでさえ足りないほどのエネルギーが必要だったのだから、そんなものなど持ってない彼らには対抗する術は無きに等しく、滅ぼされるのはある意味必然だったのかもしれない。

 

「“おのれ…、あちこちで好き放題やりやがって…。ジュラブリはっしん‼︎”」

「ひみつ工場をぶっ壊し、アイテムを奪い、雑魚の超兵器共を一発で魚礁にし、ナマモノを新たに捕獲する間にヘキサゴンをぶっ壊したらやはり出てきたか、ジュラブリよ。」

「お前が創り出した奴と比べると数も少ないし小さすぎる…。まあお前が単に桁違いに強過ぎているだけだからな…。」

「そうかもしれないな、まあもっと強くなればますます好き放題やりたい放題だからそれはそれでいいんだが。」

「そしてお前に踏み躙られ、酷い目に遭わされていく奴らがますます増える…。お前はその不幸を見てますます喜び強くなる…。これ、ある意味負のスパイラルだぞ…。」

「私が倒れない限り永遠に続くかもしれないな、それは。さあ、邪魔な羽トンボは駆除だ。」

そして智史は天までも貫く様な大きさの青白いクラインフィールドの大剣を生成すると、次の瞬間空を引き裂く様にして一薙する、一瞬にして10機のジュラーヴリクは股体を真っ二つに裂かれる、そして綺麗な断面を一瞼に残した次の瞬間、内部の燃料が爆発したのか、臓腑が飛び散る。そしてそれらは全て海へ落ちて行った。

 

「な、ナマモノが…。ナマモノがぁぁぁぁぁぁ…。」

「工場も悉く根絶やしにされた…。重要な機密とともに…。」

「この世界は絶え間なき戦争によって多くの農地が戦火に焼かれ、より多くの兵士を動員する為に多くの食料が必要となった…。それを解決してくれたのがナマモノだった…。このままだと食糧難が勃発し、多くの国民が飢え苦しむ…。だが元に戻すのはもはや不可能だ…。これからどうすればいいんだ…。」

勃発した惨劇の爪痕が残る大地で生き残った者たちが嘆く、なぜこんな目に遭うのだと。彼らはその災厄の元凶たるリヴァイアサンごと海神智史を恨みつつももうこれ以上の災厄は望んではいなかった、しかし彼は戦闘は一度始めたら徹底的に殲滅するまで絶対に容赦しないという何処までも鬼畜な性根を持つ(メンタルモデル)だった。

 

「さ、トドメだ。死の灰、食糧難、資材難で極限に追い込まれた人間同士が醜い争いをおっ始めるのが観たくて仕方がない。子供を食らう、同族同士での食糧争いといった地獄絵図が広がるのが目に浮かぶわ。ワンパンマンの方が多少はマシに思えてくるほどに、な…。」

「おい、まさかモヒカンが跋扈し、暴力が全てである無秩序な世界に作り変えるつもりか…。」

「それ以上になるかもしれないな、くくく…。」

そうニヤニヤ笑いながら彼は無数の核弾頭を内蔵した巨大なミサイルポッドを上空、いや世界中の空に生成してしまった、そこから何十万、否何百万発という、地球最強の核爆弾、TNT換算で100メガトンというツァーリ・ボンバさえ遥かに上回る破壊力を持つ核弾頭を搭載したミサイルが一斉に極超音速で地上に流星の豪雨の如く降り注ぐ、それは荒れ狂う破壊衝動が雨となって降ってくるようだった、ミサイルは地面を貫き地中深くにめり込みそこで信管を作動させて自爆する、そして無数の汚い花火が地面を食い破って炸裂し、そして閃光、衝撃波と共に火煙を帯びたキノコ雲を咲かせるのであった。

そしてその際に解き放たれた無数の核の炎はそこにあったあらゆる物を一瞬で燃やし、焦がし、焼き尽くしていく、人間も、大地も、動物も、植物も、超兵器も、これから生まれるナマモノも、何もかも。

そしてその後には「何十世紀も後退した」と言わんばかりの悪夢の光景が広がっていた、かつて艨艟達が跋扈した海は干上がり、ほとんどの生物が死に絶えた。そして辛うじて生き残った者達にも、爆発の際に巻き上げられた炸裂時の泥やほこり、すす、そして強烈な、しかも未来永劫までその強烈な毒性を維持しかねない程の強力な放射能を含んだ大粒の黒い雨が生けるものを苦悶が永劫に続く地獄へと誘うかのように、静かに、空から降り注ぐ。

哀れ、強大な艨艟やナマモノが大海を駆け回るというロマンに満ちた鋼鉄の咆哮3の世界は智史の我儘一つで核の炎に包まれ、死の灰が何十年も空を覆い隠す死の星へと変わり果ててしまうのであった…。

 

ーー智史が生成したナマモノ輸送艦の一隻ーー

 

「うおおう…。たくさん収集したなぁ…。これ、このままでも動物園として使えそうなほどだぞ…。」

「そうだな、ぎゅうぎゅうに詰め込みすぎたからますます面白い。」

「それにしてもお前が収集してた兵器見たけど、茄子ビームやカニ光線とかで既にアホ全開というのに、汚物噴射してくるやつとか新型寝返り何チャラだっけ、あんな物まであるとか、この世界どんだけお馬鹿なものが流通してるんだ?役にも立たない唯のオブジェにしかならないアンティークな技術で出来た大砲、果てには弩弓まで…。こんなの要るかって思わず言いそうになっちゃうよ…。」

「でも技術力は侮れないわ。少なくとも智史くんが出現する前の世界のものと比べたら格段に優れてる。ナノマテリアルによる再生能力の点を除けば、こっちの技術は普通の霧を完全に超えてしまう程ね。」

「特に拡散波動砲や量子波動砲な…。アレは凄まじいわ…。威力、殲滅効率共に大戦艦級の超重力砲を上回っちゃってるぞ…。こんなのを人間が作り出すなんて…。やっぱ『物作り』の力は恐ろしいわ…。私達も『物作り』の力を手にしたら智史と同じく自分自身を対抗するように進化させない限りみずからの作り出した物によって滅ぶ可能性が常に付きまとうことになるからなぁ…。」

「そして『軍艦』らしくないものがまさかこんな高威力の『兵器』とやらを内蔵しているなんて。智史、君が調べたナマモノ関連の技術、少し見たけどそれだけでもこの世界の技術力はかなりある方だと思う。そして人の手を借りなくても動けるこんな化け物が無数流通していてもこれらを作った人間達が自滅しなかったということは、これらが君やそのベースとなっている人間のように万能ではないように作られたのかもしれないねえ。」

「それを意識しつつその創造主の命令に忠実に従うようにコンピューターシステムが徹底して作られたか。何れにせよ下手をすれば自分達を支配し、滅しかねないレベルのより高度な知能と能力を持つ知的生命体を自分達の手で生み出さまいと恐れていた節があるな。」

「そうね、自分達の都合のいい欲望を実現する為に技術があまりに進みすぎたと考えると、この推測は成り立つかもしれないわね…。」

「そうだな…、そして何故恐れ忌み嫌うのだろうな、自分の保身の為にせよ、未知の存在に自分達の意志決定を委ねるという行為を。悪いことばかりが起こるとは言えないのに、何故悪い方向に進むと勝手に解釈し自ずと避けるのだろうか。

人間も、動物も、いや植物も命を帯びた時から自分の意志を持っている気が私はしてならないのだ、そして自分が生き残る為に、栄える為に全ての命あるものは自分の予測が成り立っている上で自分による自分のための世界を築く為の本能的な遺伝子を体に組み込んだとしか私は思えない。

だから自分が予測できない未来は忌み嫌って避けたがるのだろう、自己中心で物事が進んでいく傾向が生き残る為には一番都合がいいのかもしれないからな。」

智史はそう呟く、その言葉の背景にはかつての自分の経験ーーイオナや千早群像達蒼き鋼や霧との接触、他の世界系での蹂躙劇の中で出していた答えの一つ一つがあった。

 

「さあ、次だ次。この世界は悲惨な結末になったとはいえ殆ど見尽くしたし欲しいモノも大体取り尽くしたし。今度は鋼鉄の咆哮2の世界だ、まだまだ鋼鉄の世界巡りは終わらないぞ。」

そしてリヴァイアサンは同じ世界系の中ーー灰燼と化した鋼鉄の咆哮3の世界からまた別の世界観を持つ鋼鉄の咆哮2への世界へと世界を仕切る壁を破って向かっていく。

 

 

ーー鋼鉄の咆哮2の世界、エリアd-01に該当する海域ーー

 

「あ、何か来たぞ。」

「見知らぬバカでけえ艦だが…。かといって第零遊撃部隊の奴らの様に我々を見くびっている様だな、って何だ⁉︎う、海が…。」

「す、吸い寄せてられているだと⁉︎」

「機関出力最大!これ以上は危険です!」

「それでも向こう側に引きずり込まれてるだとぉ⁉︎」

「ふん、だったらその元を絶ってしまえばいいだけだ!」

いきなりと言っていい程に彼ら超腐心船の船団は一方的というべき始まりでリヴァイアサンに襲われた、慌てて彼らはカニ光線、誘導荷電粒子砲Ⅲ、波動砲、αレーザー、重力砲、特殊弾頭ミサイルVLS、δレーザーⅢといった備え付けてあったありあらゆる兵装を叩き込むのだが、この艦は普段相手にしている第零遊撃部隊の艦艇とは訳が分からぬ程に格が違うバケモノだった、一発一発が対61㎝装甲でも耐えきれないほどの最高クラスの攻撃を呆気なく無効化しながら吸収してしまうというチートを通り越したとんでもないヤツなのだから。

 

 

「貴様、何が目的だ…⁉︎」

「おや、やはり人が居たのか。残念だな、お前達がそれを知ったところで何も役に立つものはないぞ。」

「我々をひっ捕らえてこの言い方とは、何か裏があるな…‼︎重力砲も波動砲も太刀打ち出来ないバケモノであることは認めざるをえん、しかし貴様にやすやすと引き渡すぐらいなら名誉ある死を!」

 

ーーカチッ!

 

「…何故だ、何故作動しない⁉︎」

「残念だな、お前達が使役している艦はお前達自身の名誉の為の道連れを望んでいない様だぞ。まあ私がハッキングで自爆制御のシステムを制圧したからなあ…。」

「く、ぐぞぉぉぉぉぉぉ!」

 

さ、邪魔者はバイバイだ。私の頭の中には超腐心船の群れを鹵獲し魔改造して艦これの世界に打ち込む事しかない。精々フカや魚の群れに食い尽くされるか、もがいて溺れ死ぬがいい。

 

この後超腐心船に乗り込んでいた工作員、もとい海の男達は智史が無数放ったダースベイダーの群れに短時間で悉く捕まってしまったーー海兵として鍛え上げられていた故あり常人と比べると体力はかなりある方だったのだが所詮は程度の問題だったーー後、縄袋に全員がぶち込まれて強引に縄袋とともに海に投げ捨てられてしまった。

そして超腐心船の方はというと、Mi-32やMi-26といった輸送用の大型ヘリコプターの捕獲用大型マジックハンドで掴まれた後に強引に吊り下げられた上で異世界で待機していたナマモノ輸送艦の中に次々と放り込まるのであった。

 

「…ところでこれは、漁船というものなのか?」

「正確に言うとイカ釣り漁船に偽装した工作船の姿を被った軍艦だよ。私の元いた世界ではこれが大事件の主役となって知られてたなあ。しかし元いた世界の工作船が漁船の皮を被っていたようにその工作船という皮を被った悪ふざけ兵器とは…。実に皮肉だな。」

「こんな船があるって事は、先の世界のようにこの世界にも変わった船があるって事かもしれないわね。」

「そうだけど…、ところで、イカと聞いたら何かイカの料理を食べたくなってきたな…。冷蔵庫の中にはイカはもう無いし。」

「そうだな、折角だし、何匹かイカでも釣っていこうか。ナマモノもいいが本物も何匹か獲っていこう。幸い近くーー日本海にイカの狩場があるからな。」

そしてこの後リヴァイアサンは日本海にわざわざと釣りをしに向かう、その道中でナマモノ兵器の一種たるボスねっしいと遭遇したが、懸絶した演算能力を用い無数生成されたワープホールから襲いくる天地を抉り飛ばすような濁流の如き強烈な重力子の津波と一発一発の威力が最早この世界の最強兵器の群れすら霞んでしまうほどとしか言いようがないAGSの砲弾の雨の二段構えで九州の陸地もろとも軽くズタボロにされ、そして彼の果てなき衝動による欲望の犠牲者の一匹としてナマモノ輸送艦に放り込まれてしまうのであった。

 

「あ、このイカ美味しい。」

「揚物にしてみるとより美味しいかもしれないぞ。」

「揚物か…。マグロを揚げて食べた事はあるけれどイカは無いな…。よし、やってみよう。」

「手伝おうか?」

「いや、自分でやる。」

 

「美味いな、これは。」

「そうだな、私が幼い時にはこれが小中学校の給食のメニューの一つとして出回っていた。」

「小中学校?給食?何だそれ?」

「私達世代の視点で言えば人生を人生として成り立たせるための基本的な教育をする所かな。給食は…、何だろう…。」

「『小中学校では学校教育の一環として組み込まれているものだ、社会に出ても問題のない食生活といった生活リズムを身につけるためにな。』と私は答えておこう。」

「成る程な…。お前達人間…、いや2人とも『人間』じゃなくなってるのか…。」

「私はな。この艦のメンタルモデルという時点で生物学的に人間ではない、まあ琴乃はまだ『人間』だが。」

「ちょっと、言い方が失礼ね〜〜。」

「すまない、琴乃。」

 

彼らの会話はいつも通りだった、しかしそんな会話の中でも、彼の蹂躙劇は進んでいく。

 

超アルウスとか飛んで変わった奴もいるだろうし、ストーリーの解釈と考察もしたいな。

 

霧ーーというか常識を超えた『何か』を下敷きとして生まれた霧のリヴァイアサンごと海神智史がこの世界に齎した地獄絵図。その地獄絵図はまだまだ終わりそうにはなかったーー




おまけ

新型寝返り電波砲について。
彼、海神智史は今後訪れるであろう世界で悪さをする際に銃型の洗脳兵器を使おうと目論んでいた、洗脳する仕掛けは十分なレベルで理解していた為に創る事自体は簡単であったものの、それでは何か物足りないと考えた彼は実物を鹵獲した上でじっくりと観察しながら作ろうと目論んでいる。
そしてそれを基にして作られた洗脳兵器の初陣はこの鋼鉄の世界とはまた別の世界の、『軍デレ』と呼ばれた女将官の部下達であったーー


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第52話 鋼鉄の世界巡り その2

今作は超アルウス、超播磨に超ストレインジ・デルタが登場します、ですが噛ませ犬と言わんばかりに呆気なく瞬殺です。
あと今作後半に出てくる鋼鉄の咆哮2の没超兵器、グロース・シュタットの扱いについてですが、スペックを見るに超ヴォルケンクラッツァーを上回る性能を持っているということから、果てなき欲望と結びついた物作りの力がやがて自分達人類に破滅を齎してしまうという展開にしてみました。
少なくともリヴァイアサンごと海神智史はこの世界を直接的には滅ぼしてはいません、引けば破壊的結末に至るように仕向けられた『引き金』は引きましたが。
それでは今作もじっくりとお楽しみください。


「何?未確認の軍艦だと?」

「は、突如として特殊船団(超腐心船)が未確認の軍艦が出現したという報告を残して通信を途絶しました。」

「異世界から転移した艦か?そして、第零遊撃部隊との関連性は?」

「第零遊撃部隊との通信記録は確認されていません、救援要請も、です。おそらく我々の攻撃を弾き飛ばすような力を持っている可能性が確実と思われます。」

「となると、超兵器を複数投入せねば勝ち目はないと?」

「それ以上の可能性があります。」

ここは、連合軍艦隊総司令部の最高司令室の中である、そこで最高司令官と参謀が例の未確認艦ーーもうわかりきっているので割愛するーーについて報告と会話をしていた。そして彼らは対応策を練ろうとした、と、その時ーー

「アリューシャン沖を哨戒中の超アルウスより入電、未確認の高エネルギー反応とノイズを検出!こちらに向かって接近中とのこと!」

「何と…、奴は第零遊撃部隊に味方するというのか?」

「まだ、わかりません、ですが少なくとも我々と同盟する気は無いという事は先の報告で確かになりつつあります、恐らくは…。」

 

「何だありゃ…。何か、飛行機みたいな軍艦だぞ?」

「あれが超アルウスという超兵器だ。」

「そして、お前が使ってた航空機みたいの飛ばしてくるんだが…、あれって、もう対応されたとかそういうパターンか?」

「いや違う。これは元々彼ら自身の世界にあった奴なのだろう。単に似ていただけだ。それに我々のデータを調べて対抗していないという事は既に調べて確認済みだ。さ、攻撃開始だ。」

そしてリヴァイアサンのミサイルVLS群から小爆弾を大量に内蔵したミサイルが一斉に放たれる、それは超アルウスの上空で次々と炸裂し内蔵していた小爆弾を解き放つ。

そしてその小爆弾は超アルウスの飛行甲板に命中するなり飛行甲板の表面に自分からめり込むようにして食い込んだ後、一コンマ置いて、一斉に炸裂した、一瞬で超アルウスの飛行甲板は無数の鋼鉄の破片が舞い飛び、次の瞬間には一面が紅蓮の火の海と化し、大小合わせて無数の破口が開いた。これでは航空機の発着艦は不可能である、しかし智史の本当の目的は彼女の飛行甲板を使用不能にして航空優勢を確保することではない、そもそも実力差ーー航空機、兵装をはじめとしたあらゆるスペック差がやり過ぎというべき進化のお陰で懸絶している為に飛行甲板が使えても彼女が負けるという結末は全く変わらない。そうだからこそ智史には相手を適度に甚振り変化を楽しむという余裕ーー油断ではないーーが自然と出来ていた。

そして、彼の思惑通り…。

「つ、翼が生えたぁ‼︎まさかこいつ空を飛ぶ気か⁉︎」

「そんなわけないだろう。第一反重力で浮かぶシステムも、飛行艇のようにその巨大な船体を飛ばすような強力な推進機構も確認されていないし、これらがない以上、どうやって飛ぶんだ?それにこいつは先の攻撃で上の飛行甲板が破壊されたから普段は格納していた予備の飛行甲板を展開しただけだ。」

「は、ははぁ…。ホントだ、航空機がそこから飛び立ってる。」

「でも、何かかっこいいなぁ…。ひょっとして、君はこれを見せたくてわざわざと?」

「そういう事だ。超兵器の魅力というものは、ある程度矛盾点と突っこみどころーーリアルとロマンを混在させたところにある。あまりにリアルだと超兵器特有のぶっ飛んだデザインーーロマンという魅力に満ちたデザインが出来ないからなあ。」

「ロマン、かぁ…。霧の超兵器達もそういうものはそこそこあったけどこいつはまた格別だな。今にも空を飛びそうって感じでなんかかっこいい。」

「そして本気出したみたいかな?でもこっちとの接近戦をやろうとは考えてはないみたい。」

「そうだな、だが逃す気は微塵も無い。」

超アルウスは先の攻撃で飛行甲板を大破したものの予備が生き残っていたのか、そこから航空機が飛び立ってくる。

それに彼女は飛行甲板を破壊されただけでそれ以外に特に大きな損傷は受けていなかった。彼女は航空機を出して応戦しつつリヴァイアサンとの距離を取ろうとする。

 

「追撃だ。蜂の巣の名の如く、その体を蹂躙し蜂の巣にしてくれよう。」

そしてリヴァイアサンの砲塔レールガンの砲身が超アルウスに照準を定める、しかし砲身の中が甲高い機械のような音とともに紫の光で満たされていく。

 

ーーピシュゥゥゥン!

 

次の瞬間砲身から紫の螺旋状の光束が放たれた、そして光束は超アルウスの上空で一筋の光の球となって集まっていく。

そして一コンマ置いて光の球は突如として爆発するように無数の紫の光束を撒き散らした、それは超アルウスの船体を体を覆う鋼鉄の鎧もろとも串刺しにするかのように次々と貫いていく、それに呼応して無数の爆発が胎内で生じる、艦内の穴という穴から茶褐色の煙が吹き出し、すぐにそれは紅蓮の業火と化す。

 

「ついでに推進器も捥いでやろう。一応、「霧」である以上、雷撃も使えないわけでは無いからなぁ…。」

既に超アルウスは戦力たる価値を失った、ただ浮くだけの活火山の如く燃え上がる鉄塊と化していた、更に艦底からの浸水も始まっており、先の攻撃で防水隔壁、注排水システムやダメージコントロールシステムが完黙してしまった以上、沈没は時間の問題だった。

これだけでも十分だというのに智史は相変わらず容赦ない。リヴァイアサンは普段収納されている艦首の魚雷発射管を開放し、彼女に対し複数の波動魚雷と超音速魚雷を放った、先の攻撃で動きが鈍っている彼女の推進器に魚雷は吸い込まれるようにして面白いように命中する、その度に数百メートルはあろうかという巨大な水柱が彼女の艦尾に幾本も立つ、鋼鉄の船体が歪み、悲鳴をあげ、破片が次々と飛び散り、そしてどうしようもない規模の破口が生成される。

 

「トドメだ。戯れの締めには丁度いい。」

「え、えげつない…。」

智史は最早断末魔というべき最期を遂げようとしている超アルウスに対しレールガンの照準を定めた、最早オーバーキルだというのに。そんな時にオープンで通信回線が開く。その声は大層焦燥し、怯えきったような感じだった。

 

「“お、お前は何者なんだ‼︎ 我々が何をした‼︎”」

「おや、通信機器が運良く生き残っていたか。お前達は私に何もしていないのは確かだ。ただ単にお前達を壊したくなってなあ…。」

「“そ、それだったら第零遊撃部隊を狙え!我々よりは骨がある!”」

「別のところに行けと?ぷっ…、はははははははは…‼︎」

「“な、何がおかしい!”」

「言い訳が逃れる術とはなあ…。これで必ずと言っていいほど逃れられると思ったのか?そしてこれで私が満足するというのか?残念だったな。これでお前達を始末する方へますます肝が固まったよ。」

「“な、なに⁉︎”」

「沈め」

 

ーーキュォォン!

ーーバゴォォォン!

 

「ふう、次だ次。超アルウスを両断した際に立った水柱が打ち水の如く降ってくる。これで艦も少しは冷えるだろうか。」

「それジョークで言ってるのか?わざわざ艦に水掛けなくても大丈夫だというのに。それに艦の外そんなに暑いってレベルじゃないぞ。むしろひんやりしてる。」

智史は命乞いに満ちた声に優越感を感じながらも少しうんざりしていた、そして彼はもう命乞いを聞くのは十分だと言わんばかりにレールガンを放つ、その際に甲高い飛翔音が轟く、そして超アルウスはレールガンの青白い弾頭が着弾するや否や玩具のように引き裂かれて巨大な水柱を残して消えた、彼は冗談気分でその際に生じた水柱が雨のように降ってくるのを見て、艦が冷えそうだと言った、当然リヴァイアサンの冷却システムには何の問題も無いという事実を前提の上で言っているのだが。

 

「さて、次行くとしよう。」

「は、早いなあ…。あ、何か火山が噴火してる。」

「あの陸地は…、カムチャッカ半島か。あそこは緑がたくさんある自然の宝庫だからなあ。元の世界では一度も行った事がない。よし、行ってみるとするか。勿論敵のレーダーサイトもあるだろうからそいつらを掘り繰り返して粉砕した上で鑑賞だ。」

この発言の後、大型貫通爆弾mop2やデイジーカッターといった爆弾という荷物を腹に大量に詰め込んだXB-70ヴァルキリーやB-3ビジランティⅡ、B-2スピリッツにB-52スーパーフォートレスといった鋼鉄の鳥達が左舷飛行甲板から続々と飛び立ち、いつも通りに監視の業務についていたレーダー施設も引っくるめた軍事施設に対し、大空を跋扈しながら、迎撃せんという努力さえ跡形も無く吹っ飛ばしてしまう程に猛烈かつ一方的な鋼鉄の雹ーーもはや蹂躙劇の為と言うべきかーーをやりたい放題と言わんばかりに無数叩きつけ、そこに居た人員もろとも跡形も無く次々と根こそぎ掘りくり返し、悉く沈黙させ、廃墟へと変えてしまうのであった。逃げた者達が何名か居たようだが彼らもまた新たな鳥ーーA-10 サンダーボルトやAC-130H スペクターといった対地攻撃機やガンシップに追われ、そして鳥達の機関砲や榴弾砲の猛射を雨霰と、しかも正確無比に浴びせられて悉くミンチにされてしまう。

そして鋼鉄の嵐が過ぎ去り、蠢く物も悉く消えた後、智史達はゴムボートでゆったりと上陸するのであった、航空機でさっさと入るのもいいが船で入るのもまた楽しいと彼が判断したためだ。

 

「こんなに…、緑があったのか。何か、落ち着いてきたなぁ…。」

「やっぱり、人工物があまり無く、木々や自然があるところは何処か落ち着くわね。」

「そうだろうな、しかしそうなるのは何故だろうな。やはり、自然があるところは落ち着くようにとDNAに刻まれているのだろうか。そしてそれは動物の本能なのだろうか。」

「そうかもな。私も人間を知ろうとしているうちにそれが染み付いたのかもしれない。」

そこに広がっていたのは元の日本では見ることも出来ないような雄大な北方の自然だった、雪をかぶって美しい姿の火山の山々が遠くに見えた。

 

「そう遠くないところに温泉がある、そこでゆっくり浸かって更に自然を楽しむのも良かろう。ただ、65度とかなりの高水温の温泉がいくつか含まれていてな、水でぬるめないと少しまずい。」

「そうね、近くに水場がないとまずいわねーー」

「おーい、温泉の話阻んで済まないんだけど、何かぞろぞろとやってきたぞ…。ってこいつら軍隊だぁぁぁぁ!」

「恐らくさっきの爆撃でコテンパンにされた恨みを晴らしたいんだろうね、でも僕らはそんな恨みを喜んで味わう気にはなれない。」

「だったら蹴散らしそのまま温泉に直行するまでだ。行くぞ!」

『智史達がリヴァイアサンからゴムボートで上陸した』、その報告を聞きつけた軍隊がリヴァイアサンからの爆撃で基地を蹂躙され、そこに居た同胞を殺された恨みを晴らさんとばかりに智史達に群がってくる、しかしそれを見た智史は事前に見通していたこともあったのか、やって来ましたかという風に嬉しそうに微笑む、すかさず彼はレオパルド2a7+戦車を目の前に生成する。

彼らはサッサとその戦車の中に飛び乗りドアを閉める、程なくして対戦車ミサイルが複数着弾した、しかしそれは当然のことながら智史が作って使役しているものである、攻撃は呆気なく吸収されて無効化されてしまった、そしてレオパルド2a7+は平然と無傷でその爆煙の中から飛び出して来た。

 

「やはり、その程度でしかなかったか。まあいい、反撃だ。我々を見た目で侮った代償、骨の髄までとくと味わうがいい。」

そしてレオパルド2a7+の120㎜滑腔砲が咆哮する、一発一発が着弾する度に巨大な爆発と土煙を巻き起こし、カムチャッカの大自然を薙ぎ払い、消し飛ばすかのようにクレーターが生まれて行く、その際に敵軍がギャク漫画を思わせんばかりの面白い勢いで吹っ飛んで行く。

この光景を目の当たりにした敵は何が起きているのかが分からず恐怖する、しかし智史はそんなことは知らないとばかりにゲーム感覚で次々と虐殺していった。

勿論オリジナルのそのまんまではこんな滑稽な事を引き起こすだけの力などない。攻撃を始める前に数で叩き込まれて木っ端微塵だ。単に海神智史という最早『神』という言葉ですら生温い化け物の手により作られたからこそこんな事が出来ただけのことだ。

それはともあれ、戦闘は上記の如く、智史による一方的な殺戮が終始するという様であった、智史側が圧倒的優勢なのは言うまでもない。戦闘が終わった後、辺りには動く物など一つもおらず、ただそこには黒煙と焦土、無数の鋼鉄の骸と兵士達の亡骸が転がっていた、それはまるで無謀な攻撃を為した軍隊が辿る凄絶な最期を物語っているかのようであった。

 

「おおう、やり過ぎだぁ…、とはいってもそもそも軍隊が出て来たからこうなるんだよな。」

「さ、温泉温泉。もうすぐ着くぞ。」

「ねえ、土が、赤いね…。」

「そうだな、酸化した鉄が土にたくさん含まれているからな。」

この後彼らは温泉に到着した、予想通り源泉は熱かった。が幸か不幸か、既に何者かが先に、水場から水を注ぎ込まれていた状態へと造り変えていたので温泉の方はさほど熱くは無かった。

そして彼らは温泉に浸かる、温泉は一つしか無かったのか、混浴(?)の如き有様であった。智史はあまりの恥ずかしさのあまりに顔を赤らめてしまった、偶々この温泉はクマが多く訪れる場所だった、そこにあった風光明媚な景色と、そこにたたずむクマを見ながら皆が温泉につかっているという中で。

 

「星、綺麗ね。地上で見る時と宇宙で見たのではこんなに感じが違うなんて。」

「そうだな、それらを見る場所が違っているからこそ、こういった感動も有るのだろう。」

温泉に楽しく浸かった後、自然を楽しもうと散策しているうちに陽が落ちてしまった、夜の星空が綺麗だったので、今夜はそこでキャンプを展開して野宿をする事にした、とはいっても満足な食料は転がっているわけではないのでリヴァイアサンからヘリで輸送して来たのだが。そして翌朝、智史達は一泊の寄り道を済ませ、改めてリヴァイアサンに戻るのであった。

 

「カムチャッカという場所、こんなに綺麗な場所だったなんて、知らなかった。この世界も意外と捨てたものじゃないな。」

「ふっ、そうだな。こういう所で寄り道をするのも楽しい。さあ、改めてナマモノ狩りの再開だ。」

そしてリヴァイアサンはスラスターを吹かして動き始めた、しかしーー

 

ーーボゴォォン!

ーーズゴォォォォン!

 

「ば、爆発⁉︎何がーー」

「特殊弾頭機雷や反物質機雷を海中に散布していたか。私の船体(リヴァイアサン)が動きを止めた隙をついてこの機雷源を仕掛けたのか。その隙をつく動きは褒めてやる、だがそんな策など無駄だ、折角根気を置いて仕掛けたものが悉く無力化されて効かないのではな。このまま一気に突っ切る、中部太平洋に向けて進軍だ。」

「それは通常の艦艇だと非常に無謀だけど、智史くんだからこそ十二分に通用しうる選択肢ね。」

「まあ智史がアホみたいに強すぎるからこそ罷り通る選択肢だな。しかし外はこの有様だというのに、大きな衝撃が一つも身に伝わってこないなんて…。」

リヴァイアサンは自艦を取り巻くようにして形成された特殊弾頭機雷と反物質機雷で構成された機雷源に接触したようだ、接触した機雷が起爆したのを皮切りとして連鎖反応で次々と機雷が誘爆していく。辺りの海は一瞬で消し飛び閃光が程走り、海底が露出し、その際に高さが500mはあろうかという巨大な津波が生じる。

しかしリヴァイアサンはけろりとし、平然と爆煙の中から飛び出してきた、何故そうなったのかは言うまでもない。異常というべき学習・進化能力ーー自己再生強化・進化システムのお陰でこれらが成り立っている事は確かなのだが。

 

「今この世界が自滅しては詰まらん。此方はまだこの世界を楽しめていないというのに。」

 

そして彼のエネルギーベクトル操作能力により巨大な津波がみるみるうちに収束し、辺りは元の気配を取り戻していく。

 

「な、なんて奴だ…。この攻撃を耐え凌いだだけでなく津波も収束させただと…‼︎」

「地球を、半壊させる覚悟でこの攻撃を行ったというのに…‼︎」

「クソォ、バケモノめ‼︎」

彼に対しこの攻撃を仕掛けた将官達は自分達にしてみればあまりに理不尽過ぎる結末に戦慄し憤った、しかしこれで彼が止まる訳がない、彼は順調に中部太平洋へ向かっていたーー

 

ーー中部太平洋

 

「司令官、偵察機より報告、我が艦隊の北西350㎞に未確認の巨艦を確認、超アルウスを沈めたモノと同一の模様!偵察機が追随できない程のスピードで接近中!」

「な、我が軍の偵察機より速いだと⁉︎我が同盟国ドイツの超兵器シュトルムヴィント級ですらこんなスピードは出ないぞ!」

「ですが、紛れも無い事実です!このままでは30分も経たないうちに我が艦隊と接触します!」

日本海軍第六艦隊の旗艦、超播磨のCICは大騒ぎとなっていた、超アルウスを血祭りにあげた巨艦ーーリヴァイアサンが此方に真っ直ぐ向かって来るからだ。

程なくしてリヴァイアサンのものと思われる巨大なノイズが超播磨のレーダーに確認された、逃げようにもあまりに艦速が違うのでは逃げられないと彼らは悟る、彼らの艦隊は播磨型超巨大双胴戦艦の改良型である駿河型2隻に超球磨型、改秋月型といった史実よりも遥かに強力な艦艇で構成されたものだったが所詮は程度の問題であった、第一相手は彼らより遥かに強力な超腐心船の船団ーー彼らは知らなかったのだがーーを打ち破っていたのだから。

そしてリヴァイアサンに向けて一斉に雷撃、砲撃が雨霰と叩き込まれる、たとえ無駄でも大人しく殺られる気は彼等には無い。狙いはとても精密だった。彼らは日本海軍の軍人であるが以前に1人の軍人なのだから。

しかしそれはリヴァイアサン=海神智史にしてみればただの鬱陶しい光景でしか無かった、脅威などそこには全く無い、当たったものを悉く無力化して己の力にしてしまう程の余裕があったのでは。しかも非情な事にその余裕とやらはどんどん増大し今では量子コンピューターはおろか、ベヒモス達ですらその規模は全く把握不能な程である。当然その余裕を奪うには彼らの火力では全く足りない。

彼はゴミに用は無いと言わんばかりに重力子X線レーザー発振基から青白いレーザーを放ち海を軽く一薙した、その一薙で第六艦隊の艦艇はロウソクが溶けるように海水も巻き込み次々と赤々と溶けて蒸発していく、そして巨大な水蒸気爆発がその後に続々と巻き起こる。

 

「す、水雷艦隊、消滅…‼︎」

「直衛艦隊、今の一撃で全滅しました…‼︎」

「残るは…、この超播磨だけか…‼︎」

この超常的な光景を見た超播磨の人間達は絶句し、そして恐怖した、先の一撃だけで彼らの目の前であっという間に艦隊が呆気なく消滅し、レーダーからも彼らが消え失せてしまったからだ、何の有効な一撃も与えられずに、だ。彼ら全員がこの光景を観れたのは智史が先の攻撃をワザと外しただけの事であった。何れにしても智史は彼らを見逃す気は無い、一つ残らず喰らい尽くすつもりでいた。ただ死ぬ順番が早いか遅いか、それだけだった。

 

「“て、敵艦、接近してきます!”」

「“う、撃て、撃て…、撃ちまくれぇぇぇぇ‼︎”」

「くくく、圧倒的な力による死というモノを受け容れられずに死に物狂いか…。まあよい、とくと後悔しろ…。今日我が遊戯の材料として喰らい尽くされる立場に生まれた事を。私という化け物と出会ってしまった事を。なあに、私は慈悲深いぞ、一撃では殺さぬ、じわじわと、な…。」

「実際は慈悲深いってどころか、残虐さがじわじわと滲み出てるぞ…。言葉遣いがえげつない…。そしてあちこちで片端から蹂躙、蹂躙、蹂躙…。何という蹂躙ラッシュだ…。」

「それにしても私が見たモノとはちょっと違う感じがするわ…。何なのかしら、装甲板みたいな物が…。これ、展開するのかな?」

「まあ見ていろ琴乃。その予測の結末を今から明かしてやる。」

リヴァイアサンはゆっくりと超播磨に接近する、超播磨に乗っている者達は恐怖のあまり死に物狂いで抵抗する、もうこれは戦闘という枠を越えた一方的な蹂躙なのだからこの様で落ち着いていられるとなると死ぬという覚悟を決めた時ぐらいだ。

しかし当然の如くこの攻撃も無力化され、雨露が散るのかのように消え果てて終わった、当然リヴァイアサンの外殻には傷一つない。

そんな中で智史は彼らの恐怖と絶望に満ちた悲鳴と絶叫を楽しく聞き嬉しそうに微笑む、そして返礼が放たれる、リヴァイアサンからタナトミウム弾頭を搭載したミサイルが超播磨目掛けて放たれた、ミサイルは超播磨の甲板前部上空で炸裂し、赤い侵食球が超播磨の上部構造物を抉り取るかのように飲み込んで行く、そして侵食球が消えた後には綺麗な断面を残して抉り取られた上部構造物の姿があった、そしたらーー

「やっぱり…。船全体を覆う為にこの装甲板があったのね。でもこれではせっかくの自慢の武装を満足に撃てないと思うわ。」

「そうだな。「実弾防御装甲」とやらを展開し船体を覆ったお陰で主砲や副砲が使えなくなっている。まあその代替えとして60cm噴進砲や超音速魚雷、ミサイル、超怪力線による攻撃を主に使ってくるのだが。しかし、己が不利になるや否や盾を展開してまるで亀のような姿になるとは…、実に嫌らしいな。折角なら最初から展開していればいいのに。」

「お前が前甲板の構造物、侵食弾頭一発で吹っ飛ばしたからこうなるんだろ…。」

「そうだったな。だが盾を展開し殻に閉じこもろうが無駄だ。徹底的に剥ぎ取った上で奈落に叩き落とそうではないか。」

「その笑み…、バーニングゴジラのインフィニット熱線もどきをまた撃つ気だな…。まあこういうの清々しいからいいけど。」

そしてリヴァイアサンの重力子X線レーザー発振基から、船体からの周りのありあらゆる物を焼き尽くさんばかりのフレアの如き強烈なエネルギーの放射の後に複数の紅雷を纏ったこれまた強烈に赤々と輝く太く、とても力強い熱線が放たれた、それはもどきであるからこそ、大層手加減されていた、(前述したように今もなおも強く強大に、進化しすぎている影響で度を超えない程度にリアリティを出すための必要とされる手加減のレベルはどんどん上がってしまっている、もはや戦闘をどう加減して楽しむかという域に彼、リヴァイアサンごと海神智史は生息してしまっているとしか言いようがない)しかしそれでもエネルギー放射、それも掠っただけでこの世界最強の超兵器たる超ヴォルケンクラッツァーの電磁防壁や防御重力場を軽く消し飛ばし、兵装といったありあらゆる外装をボロクソに溶かし、焼き尽くし、内部も最早バーベキューってもんじゃないばかりに真っ黒焦げに焼き尽くしてしまう大層エゲツない代物だった。これを浴びせられる超播磨側は堪らない。

その言葉通りに展開していた実弾防御装甲はエネルギー放射だけで一瞬で自慢の高レベルの防御重力場諸共溶けて剥ぎ飛ばされ、更に返す刀で一気に外装も内装一緒に焼き尽くされてしまった。

これだけでもうスクラップは確定したものだった、そしてそこに本命と言うべき、紅雷を纏い、太く、赤々と輝く熱線が襲い掛かる、超播磨にこれに耐え切れる力などとうに無くーー万全の状態でも全く耐えきれない程のモノなのだがーーそれを食らった彼女は全てを味わう前に跡形も無く溶けて崩壊してしまった。

しかし智史は念入りに、だがまだ物足りないと言わんばかりに彼女がいた同じ箇所にその熱線を何発も浴びせた、その度に熱線が走った場所は次々とありとあらゆるものがいとも簡単に焼き飛ばされ、そして更に多くのモノを焼き尽くさんばかりにと無数の爆発と高熱の衝撃波が吹き上がり、彼女が居た場所の辺りに広がるもの、そしてその射線上全てが悉く火焔地獄に包まれていく。

空を埋め尽くす黒雲と地を赤く染める業火が広がる様は哀しくも、しかし美しい光景だった、そしてその光景は超播磨の最期を彩る鎮魂歌であるのかのように静かに彼の前に広がっていた。

 

「ふっ、次だ。ハワイに直行だ。米海軍太平洋艦隊の本拠地であると同時にナマモノ艦隊の根拠地だからなぁ…。」

「太平洋艦隊…、かつてヴォルケンが率いた霧の太平洋艦隊を思い出すな…。」

「ある意味、これは因縁深いと言うべきだろうか。それが因縁深いかどうかは少し分からないが。」

智史はその光景を見ながらこの世界のハワイはヴォルケンクラッツァー達と戦った過去を思い出させるような場所だと呟く、勿論そこは戦略基地であるという事実に基づく予測が入っていたが。その予測通り、ハワイには超ストレインジ・デルタという最高クラスの攻撃性能を持つ超兵器とそれに匹敵しうる実力をここに持ち合わせたナマモノ兵器がウジャウジャと駐留していた、彼らはレーダー網に超アルウスや超播磨を血祭りにあげた巨艦、リヴァイアサンを捉えたという報告を聞き、久々に骨のある獲物と戦えると喜々として出陣した、しかしそれは彼らが『強者』であるという前提だからこそ言える考えなのであって、数多の世界を揺るがす天変地異さえ軽く引き起こしかねない程の余裕を既に手にし、さらなる力を常に極限まで突き詰め進化していくような化け物の前ではそんな考えなどふさわしくない。彼らはもはや『強者』ではなく、ただの『弱者』でしかなかった。

そして喜々と出撃した彼らを待ち受けていたのは短時間だがしかし永劫に続くかのような一方的な蹂躙だった。

 

「な、なんだ…、海が…⁉︎」

「こ、凍っていく…。」

「そ、そんな馬鹿な‼︎ここは一年中温暖な海域なのだぞ⁉︎ましてや寒流が流れてくることなどない!それを凍てつかせるとは、一体…。」

まず一瞬で海が氷一面と化すという超常現象が襲いかかってきた、海面も海中も一瞬で凍りついたので艦隊は身動きが取れない。そして次の瞬間、レールガンの重く響くような甲高い発射音と共に超ストレインジ・デルタとそれを取り巻く艦隊が一撃で両断された、着弾した際に凍りついた海が砕け散り巨大な氷塊が無数と巻き飛ぶ。

 

「くそ、このまま動けないのでは嬲り殺しではないか‼︎ナマモノ艦隊全艦、撃ちまくれ!巻き添えを出しても構わん、何としても氷の海を砕いて海水を入れるんだ!」

「は、はい!」

理不尽というべきこの超常的な光景を見て不味いと判断した艦隊指令はナマモノ艦隊に波動砲といった高エネルギー兵器を撃ちまくれと命じた、その命令の通りに彼らは強力な高エネルギー兵器をその場であれこれとーーある程度道筋は立てていたがーー撃ちまくる、しかし次の瞬間に起きた光景はこれまたと信じ難いものであった。

 

「そ、そんな、レーザーが、波動砲や重力砲のエネルギーが、敵艦に吸い込まれていきます!」

「何だと、あのエネルギーはかなりのものだ、グロース・シュタットでしか耐えられぬ筈だーー」

「ですが敵艦は自らそのエネルギーを呼び込んでいます、それにこれまでの様子から見るに、自滅を望んでいるキチガイとは言えません‼︎」

「ま、まさかーー」

「ナマモノ艦隊のエネルギー反応、急激に低下!」

「本艦の電圧も同様です!このままではCICの機能が、維持できません!」

「させるな、もっと発電量を増やせ!」

「ダメです、供給が間に合いません!」

「エネルギー切れで行動不能になる艦艇が続出しています!波動砲も、重力砲も、もう撃てません‼︎」

「CIC、機能停止します!」

「な、なんてやつだ…。艦隊の電源を無力化しただけでなく、ナマモノ艦隊が持つ、膨大なエネルギーを、一つ残らず、全て喰らい尽くすだと…。耐えるという概念がやつには存在しないのか…?やつは、やつは一体…⁉︎」

彼らにしてみれば理解不能な現実ーーそれを引き起こす智史側にしてみればもはや朝飯前でしかない事なのだがーーが襲いかかって来た、その現実の前に彼らは驚き混乱した、しかし当然の事ながら、彼はそんなに気長にこの様を見るのは好きではなかった。

 

「さ、終わりだ。ナマモノを掻っ攫ったらハワイも奴らも消毒。なに、消毒するのは太平洋艦隊に関連する拠点だけよ。まあこの後を考慮するとそんな事など偽善というレベルだがな。」

「この後また何かとんでもない事をやらかす気だな、まあ見慣れたから止める気もないが。」

そしてシャドウホークやヘリの群れにより強引にここのナマモノ軍団も恐怖と絶望に満ちた悲鳴を叫びながら次々と連れ去られてしまうのであった。その後用済みとばかりに智史はリヴァイアサンのVLSから特殊弾頭ミサイルを1発づつ、ハワイの太平洋艦隊の基地と目の前にいる彼らに対して撃ち込む、炸裂するや否や巨大な赤々と輝く火の玉がそこに生じ、十数キロと離れたところまでの周囲のものを粉々に焼き尽くした。

 

「あとは進路を堂々と阻むように位置する北アメリカ大陸を塵にして、ドイツに直行だ。」

 

ーーキュォォン!

ーーズッゴォォォォォン!

 

リヴァイアサンは再び、主砲たる砲塔レールガンを一閃する、アメリカ大陸の向こうに巨大な光の球が一瞬輝くと次の瞬間には地の底も抉るような強烈な「破壊」でアメリカ大陸は跡形もなく木っ端微塵になってしまった。彼にしてみればまだまだ滅んではつまらないのでアメリカ大陸を完全に消し去った時点で「破壊」は収束させられたのだが。そしてアメリカ大陸があった場所を堂々と通って、彼はドイツに直行していくーー

 

 

ーードイツ軍超兵器、超巨大戦艦グロース・シュタット艦長の独白ーー

 

 

「“お前達人類を滅ぼす『力』は、既にお前達の祖先の手で積み上げられ、築きあげられたモノだ。つまりお前達、そしてその祖先は己の器の大きさを自覚せぬまま、自分で自分を簡単に滅ぼす凶器を欲望を満たす流れの果てに作り上げた、それも一度動けばもう修正の効かぬタチの悪い代物を。単に、その言葉通りになるように少し手を加えたのが偶々私だったという事に過ぎんよ。”」

 

ーー皮肉よな、このグロース・シュタットをグロース・シュタットたらしめる強大な力が自分達を滅ぼしうる力である事、しかもそれを創り出したのは他ならぬ自分達自身であることを…。

我々人類は、欲望の果てに我々自身を簡単に殺める威力を持つ凶器を作り上げてしまったのだな…。

 

 

私は、グロース・シュタットの艦長として最近着任した1人の将官だ。これまで私は祖国ドイツーーそこに住まう家族や部下達、そしてこれから生まれてくるであろう未来の世代に今よりも発展した明るいドイツを残す為、ましてや他国の軍靴にこのドイツを踏みにじる事など許さないという考えの下に指揮を十二分に振るい、どんな状況であろうが多くの仲間が生き残るようにして勇猛果敢に戦ってきた。

そんな私の功績を上層部は評価したのか、超兵器シュトルムヴィントやグロース・シュトラール時代のものも含めて今回私をこの艦の艦長に任じた。

より多くの命や強力なモノを命令一つで動かせるようになる分、責任は大きくなる、だからこそ私の軍人たる使命感と意欲は強くなっていく。これまでもそうだった。

しかし超兵器に乗って戦場に行くようになってからは人間の欲望の不気味さを強く感じるようになった、これほどの力がドイツを守っているのか、下手をしたら命令一つでドイツや世界を蹂躙でき、一隻だけで地球を滅ぼす事さえ出来る、こんなモノが出て来なければこのドイツは守れないのか、と。しかし私はそれを押しつぶして我が故郷を守る為に戦い続け、何度も戦功を挙げ続けた。上層部はこれを見て今回の艦に着任させたのだが、同時にこの艦の圧倒的な力が持つ負の側面が何となく見えてきたのを見て、ますます不気味さを感じた。

というのも、超兵器はその圧倒的な性能を引き出す為に膨大なエネルギーを必要とする、それを賄う為には従来の機関ではとてもではないが役不足である。

 

ーー『“神々の心臓”』ーー

 

そう言われるそれは超兵器を常に『神』たらしめるのに不可欠なものであった、しかしそれと同時に一歩使い方を誤れば人類に多大な被害を与える代物でもあった。

超兵器が強くなればその分だけ、性能を発揮させるにはそれは強くなければならない、しかし負の側面はその分だけ強くなっていく。

勿論この負の側面をそれを作った者達は無視していたわけではない、『拘束具』『リミッター』とやらを生み出し、それが自分達人類の制御下にあるように仕向けていた。

しかしそれはあくまでも『平常』の時であれば通用しうる話である、それ以外の時は通用するとは限らないのだ。

もし万が一暴走すれば大惨事を起こしかねない代物、それも最も強大なモノがこのグロース・シュタットには積み込まれていたのだ、グロース・シュタットはヴォルケンクラッツァー級をより強大に発展させた究極超兵器で、最高クラスの兵装ーー超重力砲に超波動砲、砲塔型レールガンといった高威力の兵器と高レベルの防御重力場に電磁防壁を積み込んでいる、それを常に動かすのには強大なエネルギーを常に供給できるモノが必要という訳なのでそれの最高クラスが積み込まれたのは理解出来ない訳ではないが、制御を外れた時に自分達では全く制御できない危険性を孕んでいるというのに、国を守るのにこんな危ういモノが必要とされる程に技術や戦争は進んでしまったのかと思い背筋に寒気を感じた。

それでも私は任に忠実に従った、軍人は私情だけを優先する事で生きる生き物ではないからだ。私情を優先すればそれは軍の統率に大きな影響を与えかねない。

私は願わくばこの艦をあまり動かしたくは無かった、しかし程なくして良くも悪くも、この艦が必要とされる機会がやって来てしまう。

 

「艦長、敵巨大戦艦はアメリカ大陸を一刀両断にした後、ヨーロッパに向けて真っ直ぐ進軍しています。」

「ルフトバッフェが改シュトルムヴィント級6隻を中核とした打撃艦隊と協力しこれを阻止しようとしましたが、無数の未確認航空機の襲撃を受け、音信を断ちました。」

「第零遊撃部隊との関連性は皆無。しかし少なくとも我々と敵対している事は確かです。」

 

突如として災厄は現れた、それは次々と他の国の超兵器や艦隊を血祭りに挙げ、アメリカ大陸を一撃の下に粉砕してこちらに向かって来ているという。我が同盟国日本の艦隊もそれに襲われたとの事だ、少なくとも第零遊撃部隊がこんな事を為すはずがない、彼らは短期間で次々と襲われたのだ。

音信を絶った艦隊の最期の通信内容から推測するにその巨艦は無数の航空機を運用出来るだけでなく、その航空機はこちらの攻撃を悉く弾いてしまう程強靭だったと思われる。つまりその巨艦はかなりの強敵だろう。実際、偵察機からの報告によるとムスペルヘイム級と同じ航空戦艦だという事が判明している。

この非常事態に対し、軍令部は本来なら第零遊撃部隊に対する切札たる超ヴォルケンクラッツァーと改ムスペルヘイムを中核とする打撃艦隊を急遽この巨艦の迎撃に投入した、が、一撃で呆気なく粉砕された、しかも彼らが叩き込んだ攻撃は悉く吸収されたという凶報付きで、だ。

2隻は爆沈する際に巨大な爆発を引き起こしたというが、それが『“神々の心臓”』に起因しているのかは分からない。いずれにせよこの2隻でも全く歯が立たなかったのは事実だ。となるとこの艦を止められる可能性があるのはこのグロース・シュタットだけという事になる。

私は上層部からの出撃命令に快くーー内心は止む無くという感じではあったがーー従い、この艦を出撃させた。

 

「敵巨大戦艦の艦影を先頭の駆逐艦隊がレーダーに捕捉!距離、17万2千‼︎」

 

その巨艦と我々が遭遇したのは北海だった、その巨艦は北ヨーロッパ沿岸に添うようにして通ったのだろう、実際にその巨艦の後ろには無数、大きな黒煙が天に棚引いていた。まるで怪獣が通った後の様な有様だ、恐らく悉く焦土にされたのだろう。

だがこの蹂躙劇をこれ以上許す訳にはいかない、ここを通せばドイツは火の海と化す。

艦隊司令が攻撃命令を出す、私はそれに従って艦を増速させる。程なくして巨艦の方も攻撃を開始した、それは手数自体こそ少ないが、一撃一撃がとても重く、次々と味方艦隊が紙切れでも吹き飛ばすかのように消滅し、味方が壊滅していくという被害報告が次々とCICに入ってくる。

 

「撃ち方はじめぃ!ヤツに沈められた同胞達の仇、我等がここで討つのだぁ‼︎」

その様を見た艦隊司令は思わず感情を露わにしながら攻撃命令を出す、既に敵艦は本艦の射程範囲内に入っていた、しかしこの時までに護衛艦は殆どが先の攻撃で悉く海の藻屑にされていた、いつこの艦に攻撃が降ってくるか分からない。

艦の砲塔レールガンが例の巨艦に砲身を定めるようにして旋回する、そしてレールガンが咆哮した、しかしその直後ーー

 

ーーキュォォン!

ーードグァァァァン!

 

「「ぐわぁぁっ⁉︎」」

「敵艦、主砲を発砲‼︎バイタルタート後部に直撃弾を食らいました!」

凄まじい揺れがCICを、艦中を襲った、上から下までの人間がヘビー級ボクサーのパンチを食らったのかのように思わずよろめく。恐らく命中弾を食らったのだろう、しかもここまで揺れるとなるとかなりの威力だと考えていい。

 

「被害報告、知らせ!」

「δレーザーⅢ発射基、並びに後部VLS全損!」

「後部レールガン砲塔、今の攻撃で基部が崩壊!ターレットも歪み使用不能です!」

「後部甲板にて大規模な火災発生‼︎現在消火活動中との事!」

「推進システムに異常発生!出力低下!先の直撃が原因の模様‼︎」

被害報告が続々と寄せられてくる、それは先の一撃がかなりのものであるという私の中の予測を事実に変えていく。

この艦は超ヴォルケンクラッツァー級よりも更に堅牢に設計されている、電磁防壁や防御重力場がない状態で100㎝80口径やレールガンβ、波動砲に重力砲を十数発食らっても何の支障なく余裕で戦闘を続行することが出来る。それをここまで揺るがすとなるとこの艦も後2、3発この攻撃を食らったら多分助かるまい。当たったら確実に死ぬと考えていいだろう。

 

ーー“逃げる?”

 

報告によるとあの巨艦は100ノットは超えるスピードを出す改シュトルムヴィント級を凌ぐ艦速だと聞く。対し本艦の最大速力は55ノット。しかも先の攻撃で推進機関に異常が発生して38ノットが精々だ。仮に逃げてもすぐに追いつかれて撃沈されるのが関の山だ。

それに逃げれば則ちあの巨艦にドイツが蹂躙される事が許されるという事だ。要約すると我々に逃げるという選択を選んで得られるメリットは皆無だったという事だ。

ならば1発でもまともに反撃せねばなるまい、あの巨艦の攻撃が直撃する直前に放たれたレールガンは大した効果が確認できなかったという。だったらこの艦の最強兵器たる超重力砲と超波動砲を最大出力で見舞わねばなるまい、ただこれをこんな状態で撃てばドイツや他の国々が滅ぶかもしれない。そしてあの機関が暴走し制御不能になる可能性さえあるかもしれない。

しかし戦争は非情な生き物だ、力無きものには手加減をする余裕、色々と試す余裕さえ与えてくれないのだから。

兎に角、やってみなければ何も分からなかった、そして何も変わらなかった。超波動砲の後部に対になるように位置する超重力砲がまず咆哮する、超重力砲から放たれた黒弾は巨艦に吸い込まれるようにして直撃し炸裂する。

 

「超重力砲、命中!」

「どうだ、やったか‼︎」

CICのモニターには爆発した場所を中心として周りのありあらゆるものが吸い込まれていく映像が映されていた、これでこの巨艦はもうまともには動けまいと皆が確信する。

 

「続けて、超波動砲、撃てぇ!」

 

“この勢いのまま一気に押し切れば”ーー

私は縋るようにしてそう願った、しかし現実は私の願いを裏切るーー

 

ーーキュォォン!

 

ーーズグァァァン!

 

「敵艦、再度発砲‼︎」

「艦首、大破ぁぁぁ‼︎」

「超波動砲、全壊‼︎発射不能‼︎」

何と信じ難い事に敵艦は黒いブラックホールの中から平然と主砲を再び撃ってきた、それは本艦の超波動砲に直撃した、当然超波動砲は基部から吹き飛んだ、そしてその衝撃で超重力砲の回路が断線し撃てなくなってしまった。これで超波動砲と超重力砲はもう撃てない。

しかも、何かがおかしい。前の攻撃よりも揺れがより強くここのCICに伝わってきたのだ。深く、斬り込まれたーー

まさかーー

 

「艦長、先の敵弾が機関室を直撃した事により機関の拘束具とリミッターが…‼︎」

「まさか…‼︎」

「エネルギー量、急激に増加‼︎許容限界を超えました‼︎」

「何とかしろ、このままではまずい‼︎」

「今やってます、ですがーー」

機関が、『“神々の心臓”』がこの攻撃で枷を壊され、我々の制御を完全に離れた、恐らくこの流れが行き着く先は自壊による崩壊だろう、エネルギーを収めきれなくなり、器が壊れるというプロセスを経て。

 

「敵巨大戦艦より、通信を確認‼︎回路、開きます!」

そしてそうなるのを待ちわびていたようにして例の巨艦から通信が突如として入ってくる。

 

「“気がついたかな?器に合わぬ力を扱おうとする己の愚かさを。”」

「お前は…、何者だ…‼︎」

「“何者、か…。だが知ったところでこの世界は確実に無くなるから無意味だな。だがお前達の乗っている艦の機関をこんな様にした張本人である事は認めよう。”」

その声の主は、例の巨艦を操り、このグロース・シュタットの機関のリミッターを破壊し、暴走させた者だと名乗った、声の雰囲気からするに恐らく彼が張本人である事は間違いないだろう。

 

「“私は、示したかったのかもしれないな、人間は己の身を滅ぼすほどに悉く浅はかな輩だと…。”」

「まさか、この為に本艦の機関を暴走させたのか…⁉︎」

「“ああ如何にも。だがそれは私が特に手を加えなくても一度枷を外せばお前達人類を滅ぼす『力』を既に持っている。それを創り上げたのは、誰だ?そこにいるお前達だけでは一晩で容易く出来る代物ではあるまい。だがお前達人類ならば作れなくもない代物だ、『物作り』の力をお前達人類は有しているからだ。律されていない、己を利する為の欲望に基づきその力を行使しモノというモノを積み上げていけばこの凶器は自ずと出来上がるのだから。

つまりお前達人類を滅ぼす『力』は、既にお前達の祖先の手で積み上げられ、築きあげられたモノだ。つまりお前達、そしてその祖先は己の器の大きさを自覚せぬまま、自分で自分を簡単に滅ぼす凶器を欲望を満たす流れの果てに作り上げた、それも一度動けばもう修正の効かぬタチの悪い代物を。単に、その言葉通りになるように少し手を加えたのが偶々私だったという事に過ぎんよ。”」

 

彼はそう言う、現にその言葉の通りだった。現に我々は自分の器に合わぬ力を全く制御出来ないでいる。しかもそれは自分達と同じ種族ーー人間ーーの手で生み出された代物だ。

 

「まずい、炉心崩壊が始まった‼︎」

「崩壊限度まであと800‼︎」

「複合崩壊だ!」

 

ーー終わり、か…。実に無様だ、己の手に御せぬ化け物を生み出した報いを、今、我々人類が受けるべくして受けるのだなーー

 

『“神々の心臓”』の暴走ーー

この異常事態による迫り来る断末魔を前にして阿鼻叫喚や絶叫が艦内で前兆として轟く中、そう最期の言葉を吐き終えた、その直後、光がCICを白く染めていく、それが私が見た最期の光景となったーー

 

 

ーーほぼ同時刻、リヴァイアサンにて。

 

「グロース・シュタットというモノが示した、律せられずに暴走した欲望が招いた、全てを破壊する世界の終焉…。実にいい様だな…。」

リヴァイアサンの艦橋の外で智史はそう呟く、彼の正面には中から断末魔の叫びをあげて今にも崩壊しようとしているグロース・シュタットの姿があった。そしてグロース・シュタットを中から食い破るようにして光の筋が一つ、また一つと外へと解き放たれていく、それが頂点に達した時、グロース・シュタットは地球を呑み込み食らうような凄絶な最期を身で示すようにして巨大な爆発を巻き起こした、当然白く光り輝く魔界の業火がリヴァイアサン=智史にも押し寄せてきた、智史はその業火を、しんみりとグロース・シュタットの断末魔と人間の愚かさを思い出して感慨に浸かりながら浴びるのであった。

やがて爆発は収まった、彼の目の前には青々と広がる海や空はもう無く、そこにはただ何も存在しない宇宙ーーただ岩塊が少しあるだけーーが広がっていた。

 

「己が器の大きさを自覚せぬまま己が御せぬ力を生み出し、そしてその力によって滅びる…、それも他の生物や星をも巻き添えにするとは…。群像達よりも遥かに馬鹿すぎて笑えぬわ。私抜きでも簡単に星諸共自滅できるではないか。」

「そうね、この事は反面教師として体の髄に染み付けておくべきね、“行きすぎた欲望は身の破滅を招く”、と…。」

「そしてそうなる可能性は奴らだけでなく私や、琴乃、お前達の中にも常日頃と存在する。それと如何に向き合うかが大切だな、まあ私は力を大きくした分だけその器も大きくするという方法で対処しているが。

しかし私は永久に生きられても、人間は永久に生きるという選択を選ばれずにいつか死ぬ…。」

「そうね、その人間がその罪の重さを知っても、それがその子供達に必ず伝わるとは限らないわ。結局、人類は何も学ばないのかもしれないわね、智史くんが言う根本的な本質を変えない限り…。」

「さて、ナマモノもおふざけ兵器も十分に掻っ攫った事だし、次行こう。少し残念な結末になってしまったが、まあよい。楽しめたからな。」

智史はこの星が滅びてしまう程の惨劇を引き起こした最大の原因は自分ではなく、己の器を自覚せず理性によるストップも効かないまま、欲望のままに動いてしまったこの鋼鉄の咆哮2の世界の住人達だという事実を含めて言い放った、こんな結末になるように『トリガー』を引いたのは他でもない智史本人だったが、その『トリガー』を引けばこんな破壊的な結末になるように因果と罪を積み重ねてしまったのは他ならぬ鋼鉄の咆哮2の住人達であったのは間違いのない事だった。

そしてナマモノやおふざけ兵器をたんと捕らえてご満悦の智史はリヴァイアサンを新たな世界へと航海せんと言わんばかりに動かす、リヴァイアサンは鋼鉄の咆哮2ーー名前こそ同じなれど中身は先ほどの世界とは違う世界ーーへと直行していくーー



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第53話 鋼鉄の世界巡り その3

今作は鋼鉄の咆哮2 ウォーシップコマンダーと鋼鉄の咆哮 ウォーシップコマンダーの世界を巡ります。
色々と詰め込んだせいで文章が少し雑です。
しかしアレスとグルーガーの扱いが雑どころか色々と弄られ拷問されで滅茶苦茶です。
ウィルシア海軍も結構酷い目に遭ってます。
テュランヌスという軍事組織がなぜ生まれたのかについて自分なりに考えながらその背景を描いてみました。
それでは今作もお楽しみください。


エリアg-01に該当する海域ーー

 

「こんな狭いところに船を突っ込むなんて、智史、何考えてんだ?まさか、ここにもナマモノが居ると?」

「それにしては、船の気配があまりないわね、空母が何隻かバラバラになって航行してるけど…。」

「ふっ、居るぞ…。この後目に耳に入ってくるようにして現れる…。」

リヴァイアサンはトンボの形をした湾が広がっている場所にワープホールを開いて出た、長さが2㎞以上もある巨大な船体を動かすにはかなり窮屈な大きさだった、またそこは特に重要な拠点や大きな港湾施設など無く、それに伴い艦艇や輸送船はほとんど見かけない。強いて言えば空母が一見襲う価値など無いよう見えた、しかしリヴァイアサンごと海神智史はそこに現れた、彼がここに訪れるだけの理由があったのは当然の事である、程なく、それを示すかのようにして人間が聞いてみれば気を悪くするようなお馴染みのあの音が漂い始めた。

 

「ん?なんだか気味の悪い音が辺りに響いてるぞ?」

「あれは…、ぷっ、サシバエだな。あとトンボまで飛んでいる。懐かしいなぁ…、と一瞬浸ってしまうところだが、トンボやハエがこんなにデカい訳がない。もしあったとしたらこの世界は余程デカくなる必要性に恵まれていると言っていい、しかし情報から推測するにこの必要性は大してなさそうだ。しかもこれらはナマモノ兵器の一種ということが判明している、現にこいつらは巣穴からではなく飛行場や空母の滑走路から続々と飛び立っているからな、従ってこれは我々を攻撃する予定と捉えていい。」

「空を飛ぶナマモノも居たのか…。んで、どうする?」

「くくく、襲ってくるならば一匹残らず叩き落としてやる。」

「おい、お前ナマモノ収集するとか言っておきながら今度は全部撃墜かよ…。まさか、また新しいものでも披露する気か?」

ズイカクは智史の気まぐれさに溜息を吐くが智史にしてみればそれは楽しいことを探しているだけなのである、そしてそれに応えるようにしてリヴァイアサンの甲板上のバイナルが急激に輝きを増していく、そして次の瞬間である、バイナルからプラズマジェットのような無数の細く青白い光筋が一瞼の間の衝撃波と甲高い音と同時に一斉に放たれた、それは群がっていたトンボやサシバエ達を一瞬で粒子レベルで分解し、次々と真っ二つにしていく。

 

「ふん、この光が脅威である事を知り避けるようになったか、だが単純に光を空に向かって伸ばしているだけではないぞ、一匹残らず薙ぎ払ってくれよう。」

これを見たサシバエ、トンボ達はビームから逃れるようにして散開して変則的な回避行動を取る、それは極めて高性能なミサイルでさえも命中を許さない程だった、しかし、膨大な演算能力を活かした目標周辺の環境並びに目標のステータスも念頭に入れて徹底的に演算した極めて緻密な座標計算に基づくゴジラも顔負けのハード、ソフト共に非の打ち所さえ見つける事さえ出来ないほどの見事な荷電粒子ビームの軌道制御による精密狙撃の前ではそんな回避行動など無意味だった、何とその座標計算のデータに基づきビームが綺麗に並列した状態で一斉に向きを変えたり、レンズで光を散らすかのように複数に拡散したりして襲いかかってきたのだ、それも一瞼の余裕さえない程の間に。しかもそれは甲板のバイナルだけでなく舷側のバイナルからも向きに応じて放たれ始めた。

それは洗練に洗練を極めた、圧倒的なまでに力ある者にしか許されぬ一種の見事な芸術だったとしか言いようが無い。

サシバエやトンボ達は、彼等自身複数を悉く刺し貫いても全く威力が落ちず、しかもそれを易々と両断する恐るべき弾速と貫通性、破壊力を併せ持った変化自在に、しかし正確無比に無数襲い来る殺戮光線の前に、面白いように次々と両断されて叩き落とされていく、その際に彼等の哀れな最期、そしてリヴァイアサンごと智史の圧倒的な存在感を彩るかのように燃え上がった彼等自身の骸が青い海へとボトボトと落ちていった。

 

「これは、シン・ゴジラ(ゴジラ2016)が行なった背鰭の間から数十本の熱線を拡散放射した技をベースにして新たに会得した能力だ。あの技はインパクトがあったからな、だから真似してみた。たまたまサシバエといったナマモノが飛んで来たから今回のやつを披露したくなった、それだけだ。」

「艦の表面から一瞬芸術のように見えてしまう見事に統率された動きのレーザー・ファランクス…。やりたい放題とはまさにこの事だな…。」

「ここまでやれるんなら、備え付けてある対空火器の意味無いと思うけど…。」

あ、こりゃ少々まずいな…。まあいいけど。

智史は時間の壁を次々と突っ切った情報収集を今も絶え間無く行なっていた、自己進化による情報の収集範囲を広め、一つあたりの情報の深度を深めていきながら。そして彼はシン・ゴジラという映画を見てしまった、元々彼はゴジラ映画には興味のある方だったが、このお陰なのだろうか、シン・ゴジラの存在感、そして何よりもシン・ゴジラの熱線放射シーンに強い感銘を受け、今回の能力を会得するに至ってしまったのだ。

 

「しかしお前は色々と詳しいなあ。私の知らないものもひょっとしたらまだまだ知ってたりする、いや新しく知っているかもしれない。」

「そうかもな。さて、飛行場の格納庫を漁るか。まだ飛んでないトンボやサシバエが何機か残っているからな。」

そしてこの後無数の航空機やヘリの群れが上空や飛行甲板に生成され続々と飛び立っていった、当然のように彼等はトンボやサシバエを捕まえて帰還して来た、トンボやサシバエ達があった場所からは濛々と炎が立ち上り、黒煙が天に噴き上がっていた、何をされたのかは言うまでもない、彼の行動に対し当たり前のように抵抗したことがこれらの原因である事は確かだが。

 

「おっと、ナーウィシアの主力さんはまだ来てない状態だったな。ならば彼等の行く先で盛大に悪さをしまくってやるか、ふふふ…。」

そして智史は何かをひらめいたかのように嬉しそうにニンマリと笑った、彼は次の場所ーーg-02のエリアへとリヴァイアサンを走らせるーー

 

 

程なくして、g-02に該当する海域

 

「おお、おつかいのエリアだ。」

「おつかいって、何を?」

「簡潔に言うと中心の港から周りの港を巡ってカレーの材料を買って回るというミッションがナーウィシア海軍の上層部から与えられたエリアなんだ。おつかいとはこのミッションのことを指す。」

「なるほどねぇ〜。でもカレーの材料わざわざ港巡らなくても他の場所で幾らでも調達できるじゃない。」

「そうだな。ならば、ウィルシアもナーウィシアも関係なく、皆平等にぶっ潰してやるとするか。」

そして艦載機が続々と飛び立ち飛んでいたサシバエといったナマモノ航空機達を「鴨撃ち」感覚であっという間に空から蹴散らすと青空を埋め尽くしていった、彼等から放たれた落し物はみるみるうちに鋼鉄の死の雨を形成していく、次々と黒煙が吹き上がり水柱が立つ。

 

「な、何なんだこいつらは‼︎」

「なんで、なんでこっちの対空火器を沢山食らっても平気な顔で飛んでられるんだよ‼︎」

「メーデー、メーデー、こちらウィルシア東洋第九艦隊、現在未確認の敵の猛攻を受けつつあり、ぎゃっ、ぎゃぁぁぁぁぁぁ‼︎」

敵は激しく抵抗するものの、護衛の任を務める航空機達が「鴨撃ち」と揶揄されたほどに呆気なく落とされて制空権を奪われてしまった為に迎撃は十分に効果を発揮できなかった。これらの悪条件のオンパレードのような出来事も全てにおいて彼、海神智史が優れ過ぎてしまっているからこそ起きたことである。そしてお返しとばかりに徹底した蹂躙が襲いくる。哀れ、奮戦虚しく彼等は一隻、また一隻と海の藻屑と消えていった。

勿論カレーの材料、あと烏龍茶は港湾施設群を次々と廃墟に変えた際にごそっと略奪したのであった。そしてナマモノもいつもの様に連れ去られた…。

 

「お、お偉いさん方はわざわざカレーを作るためにこんなお使いもどきを下っ端の艦隊に…。これ歩兵でも別にいいんじゃ?」

「そうだろうな。しかし、具材の質が随分といい。恐らくは…、高級レストランで出されるような海軍カレーでも食べようとしていたのだろうな。もしここでしか取れないような食材だったら艦隊を動かしてでも取ろうという理由にも多少納得が行く。そんな彼等には悪いがこの具材は頂いていこう。さあ、料理してみるとするか。」

「そうだな、折角だから海軍カレーでも食べようか。」

「そしてついでに遊覧のエリアも根こそぎ荒らしてしまえ。」

用をさっさと済ませた智史は間断もなく行動を続行する、この後ナーウィシア海軍の上層部が近日スワン型の遊覧船ーー遊覧船を使う時点で既にアホ全開なのだがーーで視察するであろうエリアーーg-03エリアへと突っ走る、ここには無数の砲台並びに潜水艦に駆逐艦と巡洋艦、レーザー兵器を搭載したアヒルが何匹かいたのだが、

 

「潜水艦?砲台?ふん、ナマモノ狩りを邪魔するのならば一匹残らず滅殺してやろう…。」

 

その一言と共にまたまた始まった、圧倒的量質差にモノを言わせた一貫して容赦の無い凄まじい航空攻撃の前に彼等はリヴァイアサンの姿を一度も拝むどころか満足に抵抗も出来ず、あるものは大地に鋼鉄の内臓を曝し、またあるものは無数の鋼鉄の銛を撃ち込まれて四散していった。

そして港湾施設も徹底して狙われ、要塞と艦艇を狩り尽くした鋼鉄の鳥達が順次群がり荷物を落として行く、そして落とされる荷物の量質が当然の如く、尋常ではなかった為に瞬く間に港湾施設は火の海に蹂躙されていった。

 

「超兵器の試験場と軍艦島は1発で焦土にしてくれる、わざわざ手間かけて攻撃する必要も微塵も感じない。」

g-03の遊覧エリアを悉く廃墟に変えても智史の欲望は完全に満たされていない。しかしg-04、g-05ーーそれぞれ敵兵器の試験場と軍艦島のエリアーーは態々航空機を飛ばし、手間暇かけてまで満たせるものなど無かったことから、特殊弾頭ミサイルとレールガンで一気呵成に壮大な規模で吹き飛ばし、焼き尽くす事とした。

ある程度近づいてから彼は敵兵器の試験場には特殊弾頭ミサイルと、軍艦島にはレールガンの一閃を叩き込んだ、天地を揺るがし、海を吹き飛ばし空の色が変わり果ててしまう程の巨大な爆発が巻き起こりそれらを根こそぎ吹き飛ばしていく、それが過ぎ去った後には直径が数十キロはあろうかという巨大なクレーターがぽっかりと口を開いていた。

 

「さあ、男のロマン漂う海へと行くとするか…。」

そして両者を綺麗さっぱりと消し飛ばした張本人はg-06エリアへと進路を取るーー

 

 

ーーほぼ同時刻、g-02エリア海域

 

「む、酷い…。」

「い、一体何がここでおきたんだ…?」

「わ、分かりません…。こんな光景なんか見たことがありませんから…。」

これは、智史の凄まじいまでの猛攻を受けて廃墟と化したg-02の海域ーーコンビニのエリアーーを目撃したナーウィシア主力部隊の様子である、彼等はこの海域の基地からの壊滅直前に放たれた救援要請を聞きつけて急行してきたのだが、そこに到着した彼等の目の前に広がるのは只々凄惨な光景であった、それは彼等を愕然とさせるのには十分な価値を持っていた。

 

「通信の内容から推測するに、敵艦はこれまで見たことのないものと推測されます、そしてそこにいないとなると恐らくは別の海域に移動している可能性があるかと。」

参謀の1人がそう予測を告げる、その予測は的中していたが、細かい面までは言い当てていなかった。そんな彼等をよそに智史は欲望のままに暴れ続けるーー

 

 

ーーg-06エリアに該当する海域

 

「あちこち忙しなく動き回るなあ…。ん?艦影の反応あり、たくさんいるな…。しかもおふざけではなく真っ当にガチなやつらばかりだ…。そして何か通信が入ってきたぞ?」

「おや、この世界のハリマからだ。どれどれ、通信を生で開いてみるか。」

そう言い智史は通信を開いてみる、内容は

 

「“我が名はハリマ

超兵器には珍しく巨砲主義を貫くナイスガイ

漢を語るに言葉は不要

夕日を背に殴り合いができればそれで十分!

さぁ、存分に漢の魂をぶつけ合いましょう‼︎”」

 

以上のものだった。

要約すると『漢のロマンに満たされた環境の中で威勢良く殴り合おうぜ‼︎』というものだった、漢のロマンがどんなものなのか分からないズイカクは少し困惑するのに対し、智史は心に響くものがあったのか、乗り気だった。

 

「漢の…、魂?」

「漢の、ロマンか…。この艦は純粋な大艦巨砲主義の塊ではなく、現代兵器をブラッシュアップして塗り固めている超巨大戦艦と究極超兵器の名を冠した航空戦艦なんだがな…。

まあいい、夕日を背に盛大に殴り合ってやる!」

「とはいっても、大した勝負にもならないと思うわ。」

「そうだよな…。これより強いナマモノの群れを軽くボコって捕まえているし、そもそもこいつのスペックが分かっちゃってるからな…。」

ハリマとの撃ち合いに乗り気な智史の様子を突っ込む琴乃とズイカク、そしてハリマの呼びかけに応えるようにしてリヴァイアサンは態々とハリマの主砲の射程距離に進入しようとする、ハリマは自分の呼びかけに応えてくれたことに感謝するかのように連れていた艦船を後退させて主砲を放ち始めた。

 

「これが…、漢の拳…‼︎凄い命中率だ、熱意が伝わってくる…!ならばその熱意に応えてこちらも漢の魂を打ち込もう‼︎」

 

ーーキュォォン!

 

ーーズッゴォォォン!

 

ハリマの砲弾はリヴァイアサン自体が大きい事も相まって吸い込まれるように命中する、躊躇いなどそれらにはなかった、寧ろ大艦巨砲主義の権化たる自分の魂を全力で叩きつけているように見えた。そんな彼の気持ちに智史は正直に応えてしまう、躊躇いなど忘れて漢の魂を叩きつけ返さんとばかりに気合を入れ、砲塔レールガンを一閃したところ、ハリマは1発で沈んでしまった、その際に巨大な水柱が天に向かって立ち上る。

 

「圧倒的に強すぎるからワンパンで終わってしまった…。嗚呼…。まあよい、ワンパンとはいえ勝利して真の海の漢になったし、勿論ロマンの分かる超兵器を殴り倒して友情が僅かながら芽生えたからな。レースのエリアを突っ切ってもう一つのエリアへ行くぞ、とはいっても見かけたものがまたいるからなあ…。」

かくして呆気なく殴り合いは終わった、智史はこのエリアに見切りをつけるとさっさと次のエリアへと向かって行く、The Justice Ray Part4というヴィルベルヴィント戦で使われた曲を脳内再生して嬉しそうに微笑みながらーー

 

 

「何だと、我が軍の港湾施設を焼き尽くした元凶を発見しただと?」

「はい、憶測ですが、敵艦隊に囲まれて孤立無援だった友軍艦がそう報告してきました。少なくともウィルシア帝国海軍のどの艦のデータにも当てはまらないのは事実です。」

「憶測だと?だったらウィルシア帝国が新たに建造した最新鋭艦の可能性があるぞ?」

「だとしたらウィルシア帝国海軍に被害など一つも出ていないと考えますが。あの未確認艦は我々の港湾施設だけでなくウィルシア帝国海軍の艦船を積極的に次々と沈めています。」

「つまり、ウィルシア帝国海軍に所属する艦でもないと…。」

「はい、多分この艦こそが我々の港湾施設を焼き尽くした元凶と類推していいでしょう。それにしても個人的にはこの出来事にはある意味感謝したいですよ、カレーの材料を集める為に態々と艦を動かせとか…。海軍としての誇りを損なうようなあんな馬鹿馬鹿しい任務を上層部は与えたんです。」

「冗談はそこまでにしておけ、幾ら上層部が馬鹿の群れだから憎いといって、何者かによって我々に犠牲が出たのは確かだ。」

先のg-02エリアの友軍基地の跡に駆けつけて少し経った後にg-03エリアのウィルシア軍施設が壊滅したとの報告が入ったナーウィシア主力艦隊の旗艦のCICの様子である、艦長はこの事件に対し海軍軍人としてのプライドを潰されずに済んだので本音で歓迎していた、それを含めるかのように愚痴を呟く、それを艦隊司令はある程度は内心で共感しながらもかといって私情を優先する事を許さずに彼を諌める、そこに、通信士が駆け寄ってくる。

「報告!友軍遊覧船の前線視察先のウィルシア軍施設、悉く壊滅している模様‼︎何者かによる襲撃を受けたものと推測されます!」

「これもこの艦の仕業でしょうか?」

「ヤツ以外の可能性は?」

「偵察部隊からの映像、モニターに出します!」

その報告を視覚で納得させるようにしてモニターに映像が映される、

 

「これまた、酷いな…。」

「酷い有様ですねえ…。皮肉な事ですけれどこのお陰で我々が馬鹿上層部の遊覧船による前線視察という馬鹿げた任務の手間が大いに省けますよ。あ、そうだ、敵艦の様子は?」

「いえ、一隻も確認されず。恐らくは襲撃の際にまとめて沈められた模様。」

「ますます気楽だ、おおっと、不謹慎でしたかな。」

艦長は例の未確認艦ーーリヴァイアサンごと智史が自分達よりもウィルシア軍を頻繁に狙っているのではと考えていた、だからといって当然自分達に味方する勢力ではないという事は承知していたので楽観視など一つもせず、警戒は相変わらず緩めなかったが。

そして彼の予想通りウィルシア側はもっとえらいことーー情報が錯綜し混乱状態となり、味方基地や艦隊が次々と壊滅させられているという情報が末端の兵士達にも流れて士気に影響が広がっていた。

そして、当のウィルシア軍側はーー

 

「おい、我が軍の兵器試験場が何者かの攻撃で跡形もなく消え去ったらしいぞ。」

「あ、ああ。通信を盗み聞きしたらそうらしいぜ。噂によると軍艦島の港湾施設も消しとばされたんだと。」

「敵の物資を船諸共沈めようと向かった空母艦隊やナマモノ艦隊も音信途絶したらしい、“いきなり無数の航空機に襲われた”とかって…。」

「ナーウィシアのヤツ、何か隠し持っているーーシッ、士官が来るぞ!」

兵達の間に味方の基地が壊滅したという噂は徐々に広まっていた、彼らは当初被害が一つ二つだった頃は嘘だろうと思い半信半疑でいたもののそれが複数入って来るにつれてそれは事実なのではないかという確信に切り替わっていった、それに伴い僅かながらも士気に影響が出始めていた。

 

「おい、貴様ら。あの噂を信じてはいないだろうな。」

「サー、信じていないであります!」

「よろしい、そんな噂を信じたら我が艦の士気、下手をすれば致命傷に繋がる。そうだったら2度と信じるんじゃーー」

そう士官が言おうとした直後、突如として警報が鳴り響く、

 

「敵性未確認艦を捕捉、総員戦闘配置につけ、繰り返す、総員戦闘配置につけ!対艦戦用意!」

「敵が来たのか…。日頃から積んで来た訓練の成果を見せろ!噂などをほざいて仲間の足を引きずるんじゃない!」

敵性未確認艦ーーリヴァイアサンごと海神智史が発見したという警報が鳴り響く中、士官はそう発破を掛けた、しかし、それが彼のこの世での最後の言葉となった。直後に何かがリヴァイアサンから彼らの艦隊に撃ち込まれブラックホールとなって艦隊を飲み込み、一瞬にして彼らも諸共塵に変えたからである。それは数秒も経たぬうちに終わった、まさに瞬殺であった。

 

「これでモグラ叩きのエリアの奴らは始末完了っと。さて、もう直ぐ頭合わせの場所かな。見つかったけれど気にしない気にしない。いつも通りにマイペースに暴れよう。」

智史はその様を見届けるとニッコリと笑いながらアラハバキ2が待ち構えている水路に侵入する。

 

「“ドリルといえばアラハバキ

アラハバキといえばドリル

そうドリルなアイツが帰ってきました

しかも今度は二本立て

ドリルが2倍、ロマンも2倍、まさにドリドリ

思う存分ドリドリを堪能してください‼︎”」

「外見は同じヤツだけど中身が完全に狂ってるなあ…。ハリマのヤツよりも更に度を増している…。」

「頭と頭を合わせて真剣勝負を所望、か。面白い、ガチンコで吹っ飛ばしてやる。来い…!」

アラハバキ2は自慢のツインドリルとソーを回転させて突っ込んでくる、これに応えるかのようにリヴァイアサンはスラスターを全速で吹かしてラムアタックでも仕掛けるようにして突っ込む。

結論言うならば、当然これも激突した瞬間にリヴァイアサンごと智史の圧勝で終わった、構成素材の強度を始めとしたあらゆる差が懸絶していた事もあるがそもそも大きさやスピードが違い過ぎたのだ、強烈なラムアタックを受けたアラハバキ2は自慢のツインドリルをあらぬ方向に捻じ曲げられ一瞬でひしゃげる、そしてその勢いのまま押されに押されて陸地に盛大に叩きつけられ押し潰された次の瞬間、完膚なきまでにスクラップとなってしまった、中身が飛び散り弾薬が次々と誘爆したのか多彩な巨大花火が地上に花開き大地を色染めていく。

 

「あっさりと潰れたか…、だがこれで終わり…、ではないな、不思議時空が漂い始めた。まだ終わったわけではないと言っているかのように。ウィルシア軍超兵器、ヴォルケンクラッツァー2とやらがその元凶だ、ヤツは下らん事ーーこの世界の征服でも考えてるな。」

「ヴォルケンクラッツァー“2”って…。直訳すると『摩天楼“2号”』とかだよな…。何かネーミングが安っぽい…。そして世界征服して…、何の為になるんだ?この世界を自分なりとはいえ平和にするつもりでやってるならまだしも…。」

「恐らくヤツの頭を支配しているのは餓鬼の発想だろう、『世界征服しました、はいおしまい』っていう感じの。」

「こんなヤツまで敵軍にいるのかよ…。アラハバキ2といいハリマといい敵軍もどうかしてるぞ。」

「そうそう。敵も味方も度を逸したギャグ満載の展開…、しかしこれが鋼鉄の咆哮の世界の魅力の一つなのよ。」

アラハバキ2をそんな感じで沈めた直後、不思議時空が漂い始めた、まるでアラハバキ2を沈めたその時を待ちわびていたかのように。

智史はその元凶の考えに半分白けながらも元凶を断つべくg-10のエリアに進撃する。

 

 

ーーエリアg-10に該当する海域

 

「“ふはははは、我はヴォルケンクラッツァー2!我を倒さない限り、この先へは進ません!”」

「“この先”とは、何だ?未来か?」

「う〜ん、何だろう?ヴォルケンクラッツァー2の後ろのことの様に一見聞こえるけど、実際は智史くんが指摘した言葉の通りかな?」

「だといいんだがな。悪の戦闘員とやらはチャッチャと駆逐してやる。しかし、攻撃方法も出尽くした感があるな、面倒くさいから機関砲の弾を適当にばらまいてやる。」

悪の戦闘員、もといヴォルケンクラッツァー2配下の艦隊がヴォルケンクラッツァー2までの進路を阻むようにしてリヴァイアサンの前に立ち塞がるが、適当な攻撃という名の周りの地形を易々と作り変えてしまう程の威力を持った熾烈な夕立の様な機関砲の猛射で一瞬にして全艦が蜂の巣となってしまい、骸を晒してあっさりと沈黙してしまった。

そして燃え盛りながら後は沈むだけの彼らを横目にリヴァイアサンはさっさと進んでいく。

 

「“ふはははは 我はヴォルケンクラッツァー2

我が配下を退け、よくぞここまで辿り着いた

貴様の力の限りをもって挑んでくるがよい

最後に立っていた者が世界を制するのだ!”」

「こんなにあっさりと部下が沈んでもなお、よくこんな感じで言えるとは。その精神は大したものだ。そしてこの世界だけを制する、それだけで満足のつもりか。その頭の中身を是非とも拝見願いたいものだ。」

「“我をコケにしているつもりか…⁉︎”」

「ああ如何にも。そして貴様の世界征服という行為の評価はその行為が終わった後の行動で決まるのだよ。今のままだと後ですごい苦労をするな、もし世界征服を為した後に自己中心とはいえ、全てのものとはいえなくとも、大多数の他者のためにもなる世界の平和を築く為の実力や方策があるのならばその世界征服には賛成しても良いが。」

ウルトラマンもそんな感じだったがな。まあそいつらは私自身の欲望を満たす為にぶち殺したからそう言ってる自分自身が馬鹿臭いのだが。

 

「“黙れぇぇぇ!貴様にそう言われる理由は無い!”」

 

ーーバシュゥゥン!

ーーバシュゥゥン!

 

そうか、未熟な己を認められないか。ならば頭を冷やせ、そして未熟さを噛み締めろ、己はまだ世界征服という行為を成すのに相応しくない器だという事を骨の髄まで味わいながら。

リヴァイアサンごと海神智史が自分の配下をあっさりと蹴散らしたのを見てもヴォルケンクラッツァー2は威厳あるように振る舞う、それを見た智史は世界征服を為した後きちんと事を解決するだけの方策や実力が無ければその世界征服は単なる愚策でしか無いーーつまり、後始末をきちんと出来るだけの方策や実力が無ければその世界征服は単に苦労を増やすだけだと指摘した、しかしその指摘に逆上したヴォルケンクラッツァー2は艦首の波動砲を乱射して来た。

 

「消えろ」

 

ーーキュォォン!

ーーズドォォォォン!

 

「“そ、そんな…、我が人生に一片の……ぐふっ…。”」

だがそれは当然リヴァイアサンには全く効いていない、次々と吸収されてこれまでと同じ展開に終わる、まるでヴォルケンクラッツァー2が世界征服という行為を成すのに相応しくない小さな器であるという事を冷徹に示すのかのように。逆にリヴァイアサンの砲塔レールガンから光弾が放たれる、それはヴォルケンクラッツァー2の波動砲の光を軽々と押し切ってこの世界の最強クラスに近いと言われた装甲をいとも易々と貫き船体を深々と抉る、船体は二つにかち割れ巨大な水柱がその際に天に立ち昇る。

ヴォルケンクラッツァー2は何かを言おうとした、しかしそれが最後まで出る事は無く、真っ二つとなった彼は力尽きたかのように海の底に吸い込まれていった。

 

「これで、終わったか。しかしナーウィシアの奴らが私に勘付いたのかこっちに向かって来ているな。簡単に蹴散らせるが、かといって話し合い、接触にでも発展したら面倒くさい。もうナマモノも十分に掻っ攫った事だし、次の鋼鉄の世界へ行くとしよう。」

「人見知り?ひょっとしてコンゴウが乗り移ったの?」

「さあな。ただコンゴウの口癖も頻繁に使うのは宜しくないのは確かだ。」

ナーウィシア勢はウィルシア軍や自分達にも被害を与えたリヴァイアサンの存在にいよいよと勘付いたのか、リヴァイアサンが居るエリアg-10の海域へと向かって来ていた、しかし智史はわざわざ彼らと会うだけの必要性を見いだせず、寧ろ面倒くささを感じたのか、彼らがこの海域に到達する前にさっさとワープホールを展開して鋼鉄の咆哮 ウォーシップコマンダーーー軍事組織テュランヌスとレジスタンスが世界の覇権を巡り熾烈な戦いを繰り広げている世界へと進撃する。

 

 

「未確認艦が駐在すると思われる海域に到着しました!って、あれ?おかしいですね、反応が無いんですけど…。」

「また取り逃がしたのか、それとも、異世界へと消えたのか…?」

程なくしてナーウィシアの艦隊が到着したものの先に示した通り、既にリヴァイアサンは去って行った後であった。

結局、彼らは未確認艦ごとリヴァイアサンは何者なのかを理解出来ぬまま、ただ未練を抱え込んでポカンとするしかなかった。

さて軍事組織テュランヌスとレジスタンス、二者は己が思い描く世界の為、世界の覇権を握る為、そしてそれを阻む者を退ける為に熾烈な戦いを繰り広げていたのだが、皮肉にもその際に産み落とされた業の数々は世界を我が物顔に暴れ回り食い散らす凶悪たる破壊神を呼び寄せたのだった。

更にタチの悪いことに彼は両者の事は知れど特にどちらかに味方しようとも考えてもいない、興味もない。疲弊させあって制圧しようとも微塵も考えようとしない。

ただ彼の頭の中にあるのはナマモノやおふざけ兵器の強奪の事だけであった、それも単に悪さをするための。

彼が鋼鉄の咆哮 ウォーシップコマンダーの世界に行った後一体何がこの世界で起きたのかをアレスの独白を交えて説明しようーー

 

 

軍事組織テュランヌス総帥、アレスの独白ーー

 

 

こ、これは何の悪ふざけだ?

私の目の前で起きている光景は何なのだ?

私は、私は時代に選ばれた存在だ、

なのに、なのに、なぜこんなことが起きている⁉︎

私はかつて一介の科学者だった、昔の偉人達のように末代まで語り継がれるような功績を残し、人間の新しい未来を切り開けるようなモノを作りたいと願って新しいテクノロジーの開発を進めていた。

しかし政府はその研究成果を恐れ警戒した、そして自分のものにせんと各国の政府も含め我先にと手を出して来た、私の研究は新たなパワーバランス構築の材料としてしか彼らの頭の中には無かったのだろう。

そして大衆は愚かにも自分の国の政府の策略で思うように踊らされ私は社会の敵と化していた、幾ら私が平和のためだと言っても大衆は政府の事を鵜呑みにして耳を貸さない、娘も家族も私の研究成果に関する醜い奪い合いと争いで命を落とした。

 

私は、嘆き悲しんだ。そして、悟った。大衆は結局愚かな存在でしか無いのだと。そして自分が食われる事を恐れ只々強者に付き従おうとするだけのモノでしか無いのだと。そして政府は自分たちの事をメインとしているだけで、皆が手を取り合おうという未来は全く考えようとしていないのだと。

 

ーーならば、造り替えてやろうではないか。この世界を。

 

幸いにして私の研究成果は先の如く応用してしまえば世界を造り替えうる力を持っていた、そしてそれを応用して造り替えうる手段はまだ私の下にある、何故なら各国の政府が私の研究成果を新たなパワーバランスのキーとして欲しているという状況は裏を返せば政府による金銭的な支援、受けられやすいし、コネも築きやすいという事だ。それを生かせば世界を造り替える程の力を持つ軍事組織は創れる、私の望んだ世界を創るための。

何、彼らは踏み台として利用し尽くして用が済んだら使い捨てればいい。皮肉な事だが時代は私をこの世界を造り替えるのに相応しいと選んでくれたのだ。

そして私は各国政府の権力者と間を渡るようにして接触しその研究成果を武器として研究成果を開示するのと引き換えに豊富な資金と莫大な兵力を徐々に得ていった。そしてそれを元手に研究成果をさらに発展させ、この世界の技術水準を遥かに超越した技術の塊、それによって圧倒的な力を持った破壊の化身というべき鋼鉄の化物ーー超兵器の開発に乗り出した。

因みに組織の名前はラテン語で“暴君”を意味する言葉ーーテュランヌスと命名した、圧倒的というべき暴力の権化を複数持っている事や、そもそも各国政府は“賢君”たろうと必死に醜い部分を綺麗事で隠しているのだ、ならばあえて“暴君”となりてその醜い部分を彼ら諸共始末しようという事からこの名が相応しいと考えたからだ。

その組織の設立者はもちろん私だ、目立たぬように準備は着々と進めた。そして準備は整う、復讐は始まった、本性を現すようにして私はテュランヌス初代総帥と高々に名乗った。

まずはかつて自分の研究成果を利用しようと自分の望みを妨害した欲まみれの権力者共を国家機関と共に用済みとばかりに粛清し、自分が新たな国主となって国を治めた、そして愚民どもを監視下、統治下に置き、反乱する者は次々と強制労働、粛清、果てには都市や国ごと跡形も無く焼き尽くすという手法で見せしめとしてより支配を強固にしていった。愚民は所詮君主たる者、この私に怯え従っていればいいだけなのだ、何もしなくてもいい、むしろ厄介だ。

しかし、当然というべきか、それを見た者達、特に政府の下で与えられたモノでしかない自由を謳歌し欲にまみれていた者達、私の理想を理解しようとせぬ者達は反乱を引き起こした。ある者は私の理想をゲリラの如く妨害し、またある者は私の研究成果を盗み応用し私の手元にある超兵器と同じ物ーー組織の名を冠した最強兵器を破壊しようという動きまでーーを製作してまで抵抗した。

今私と彼らは部分的には拮抗している、しかし私は世界を操り動かすモノを創り出した時代に選ばれし者だ。現に私は彼らのコピー品のそれ以上のモノを創り出して全体的に彼らを徐々に押し込んでいる。

 

ーーこのまま行けば私が世界を制するのは確実だ。

 

しかし好事魔多し。それを示すかのようにそう思った矢先に、冷や水を差すような事態が勃発する。

 

「総帥、緊急電です!たった今ゴーダ司令直轄の艦隊がレジスタンスの艦隊と交戦中に正体不明の敵に襲われ壊滅しました!」

「シンガポールの艦隊基地、敵の攻撃により殺られました…‼︎」

「何だと⁉︎あそこは私が開発した特殊兵器がある‼︎レジスタンスの奴らでも容易くは手は出せん程に防御を敷き、艦隊も置いていた筈!」

「“無数の敵航空機、襲来。我が基地の設備や軍備では悉く歯が立たず、逆に敵の紅蓮の業火の如き猛攻の前に次々と全てが焦土と帰しつつあり。艦隊もまた鯱の群れに食い荒らされる鯨の如く蹂躙され海の藻屑となりつつあり。我に頼れる友軍無し、至急救援を”という電文を最後に音信不通になりました…。」

「生存者からの報告によると総帥の作られた特殊兵器は悉く略奪された模様です、なんと許しがたい事か‼︎」

突如として正体不明の敵が現れたという報告が私の元に寄せられてきた、初めはふざけているのかと思い無視しようとしたものの、本当にふざけているとしか思えない勢いで次々と我々の艦隊が海の藻屑へと変わっていく、私の作った超兵器を含めた艦隊も一瞬にしてミンチにされたという報を聞いた時には自分の思い上がりというべき考えがあるということを僅かながら悟らされてショックを受けた。

それでも今座乗している最強の超兵器、そして私の傑作というべきこの超巨大航空戦艦、テュランヌスまでも負けているという事が確定したわけではない。沈められたのは皆テュランヌスよりも先に造られ、しかしどうしてもテュランヌスよりスペックの劣る艦だ。

 

私は時代に選ばれし者だ、テュランヌスが負けるわけがない、木っ端微塵にしてくれるーー

 

そう私は意気込んで正体不明の敵を粉砕してやろうとリベンジを目論む、しかしこれらはこれから始まる悪夢の前兆でしかなかった。

 

「前方に艦影確認、次々と我が軍の艦隊や施設を破壊した敵艦と特徴が一致、距離7万8000!」

「敵艦、照準を定めてきている模様!」

 

程なくして私のリベンジの機会は訪れた、同時にこの敵がどんな外見をしているのかも分かった。我々が鹵獲したマレ・ブラッタのようなシンプルな形状をしながらも巨大な飛行甲板が後部に広がっている事から敵艦は航空戦艦と断定できた。

 

ーー恐ろしくでかい、このテュランヌスが小舟に見えてしまう程に。しかし大きさに惑わされはせん。私の作ったこの艦は最強なのだ、こんなヤツなど張りぼて同然に木っ端微塵にしてくれる。

 

そして私の艦隊は攻撃を開始しようとした、しかしそれを見計らうようにして敵艦から何か飛び出してくる。それはこのテュランヌスの前甲板に堂々と着地して船を軽く揺るがす。

それは黒々テカテカと鈍い輝きを放った全高は軽く3mはある大きな人型の戦闘機械だった、我々もこれに近いモノを試作していたが、こんなに大きくはない。

その戦闘機械はクルリと首の部分を一回転させて周りを見つめる、そして身構えると両腕に取り付けてあった銃を我々に向けて定めた。

 

ーーええい、所詮はブリキの人形もどきだ!木っ端微塵にしてくれるわ!

 

私は本能に駆られたのか、その戦闘機械を攻撃するように命ずる、そして、悪夢の如き一方的な蹂躙が始まった。

 

「○△△△△△△△‼︎××□□□□□□□‼︎」

 

ーーガガガガガガガガ‼︎

 

その戦闘機械は火蓋が切られたのと同時に何かが吹っ切れたのだろうか、狂ったように笑いながら両腕の銃を周りの艦に向けて凄まじい勢いで乱射した、そして大きさの割には威力が可笑しい、たった数十発撃ち込まれただけでミシガン級が分厚い鋼鉄の装甲諸共ミシンのようにぶち抜かれて跡形もなくミンチになってしまうのだから。あっという間に周りの艦は狂喜に満ちた笑い声と共に次々と火達磨となり、そして海の波間へと消えていく。

 

「撃て、撃てぇぇぇぇぇぇ‼︎」

 

ーーズドォン!

ーードカァン!

 

「あぁ〜ん?」

「ひ、ヒイッ!」

 

ーーバキイン!

 

「どわぁ〜‼︎」

 

ーーボカシャァァン!

 

勿論56㎝、61㎝といった大口径砲、超怪力線、エレクトロンレーザーはその戦闘機械に次々と命中していたもののまるで太刀打ちできず、狂気の乱射は終わらない。逆にその攻撃を撃ち込まれて気が付いた、いや怨みを叩きつける対象を見つけられたのが嬉しかったのか、狂気は収まるどころか益々暴走する、テュランヌスの砲塔が根元から引き千切られて戦艦の一隻に叩きつけられる、その戦艦は一撃で真っ二つとなる、そして先の狂気が銃弾、ミサイルとなって彼らに叩きつけられ、その船体を更にズタズタに引き裂いていく。

 

「うわ〜はははははは‼︎ひゃ〜はははははは‼︎」

 

ーーズドォン!

ーードガァン!

 

ーーば、馬鹿な…、こんな事があろうか…⁉︎味方が次々と…対して奴は凄まじい力を放って狂ってる、まさに狂える鬼だ…‼︎

 

やがてこのテュランヌスを取り巻いていた護衛は殆どが水底に消え、残った艦も紅蓮の業火に包まれ今にも沈もうとしていた、すると奴はそれらに向けていた狂気に満ちた矛先をこちらに向けてきた、今度は銃ではなく、大型のグレネード?のようなモノを乱射してきたがこれもまた強烈だった、一撃一撃が撃ち込まれる旅にテュランヌスの飛行甲板は紙のように破片となって捲れ飛び、艦首に誇らしく鎮座していた巨大な大砲やVLSもレーザージェネレーターも次々と巨大な爆発によって吹っ飛び紅蓮に包まれた醜い鉄塊へとみるみるうちに変わっていく。

 

「ば…、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なテュランヌスが…。こうも簡単に…。」

そのグレネード?の発射の速度は先の銃よりは遅かったもののそれが攻撃の強烈さと相まってかえって圧倒的な恐怖を煽り立てる、そう、まるで一瞬には殺さずにジワジワと苦しめて殺すような。思うがままに一方的に振るわれるその圧倒的な力の前に、ヨーロッパの全兵力を凌駕する攻撃力を持ったこの最強の艦は今ややりたい放題に蹂躙され、そしてそれには誰も手も足も太刀打ちも出来なかった。勿論私は何も出来ずにそんな無茶苦茶な現実を無理矢理見せつけられ、押し付けられて恐怖するしかなかった。

 

ーー鋼鉄の狂鬼。

 

その言葉が奴には相応しいのかもしれない、狂気のままに圧倒的な力を存分に叩きつけているのだから。奴はパンチを放つ、当然これも威力が桁違いなのだろうか、それが叩きつけられる度に面白いようにテュランヌスの巨大な船体が紙細工でも潰すように滅茶滅茶にひしゃげる、船の肝たるキールもこれでは折れ曲がったと言っていい。私の傑作は形無しだ。

 

ーードゴォン!

 

「○△△△△△△△△△△‼︎(みぃ〜つけた〜ぁぁぁぁぁ〜‼︎)」

そしてとうとう奴はこのテュランヌスの全てをスクラップに変えて終わりが近いと見たのか、その証拠とばかりに目を爛々と輝かせ艦橋の壁を破壊して私の所にやってきた。

 

「く、来るな、来るなぁぁぁぁ!」

 

私は手元にあった銃を乱射した、その程度では全く致命傷にはならないとしても、こんな悪夢からは逃れたい、逃れたかった。

しかし奴は大口径砲やエレクトロンレーザーといった高威力兵器を食らっても無傷でピンピンしていたのだ、当然のようにそれは全く効いていない。

 

ーーガシィ!

 

「□□□××××××。(つぅ〜かまぁ〜えたぁ〜。くっくっくっくっく…‼︎)」

そして奴は私を捕まえてテュランヌスから離れる、テュランヌスが散々に嬲られてもはや引き裂かれた紙細工のようにスクラップ同然になったのが空から見て一目瞭然だった。

 

「×××××○○‼︎(ひゃ〜はっはっは‼︎皆殺しじゃ〜‼︎)」

 

ーーズガガガガガガガ!

 

奴はトドメとばかりにスクラップ同然となった姿のテュランヌスを八つ裂きにして跡形もなく水底に消してやると言わんばかりに銃を乱射する、これまでより大きな爆発と水柱が無数立ち上ってテュランヌスだったモノがあちこちに飛び散る。

こうして悪夢の如き一方的なワンサイドゲームは我が艦隊の全滅というお先真っ暗な感じで幕を閉じた。そしてこの後私という総帥を失ったテュランヌスは奴の為すがまま、容易く蹂躙されその全てを失って滅び、残されたものもいつ終わるかわからない地獄絵図を味わされるいう悲惨な末路を辿るという私の夢、野望とその努力が根本から否定され紙屑以下にされるという悪夢を徹底して脳裏に焼き付けられた。しかし私に対する悪夢はまだ終わらない、寧ろ家畜以下の酷い扱いが新たに待ち受けていた。

 

ーーカキィン!

ーーズゴッ!

 

「うぐうっ!」

 

「とらぁ!もう一丁!」

 

ーーカキィン!

ーードカッ!

 

「ゲボッ!」

 

あの後私は反テュランヌスの組織の一つの長を務めながらも権力をより多く手にしようと超兵器の開発を進めようとし反対派の将官と対立して左遷され、その反対派の将官に対し恨みを募らせこのテュランヌスを乗っ取ろうと私に近づき私に代わって総帥の座を乗っ取ろうとしたクルーガーとやらと一緒に私は奴ーーあの戦闘機械の中に入っていた男に慰み物として打ち出された野球ボールを打ち返して顔や股間に命中させたらホームランというこれまた酷いルールの下に一方的に弄ばれていた、体が動くならまだしも、体を動かせないように徹底的に拘束させられ、しかも顔あるいは股間を丸出しにさせられた状態で奴が打ち返した野球ボールを浴びせられ続けている。

その野球ボールの威力はかなり身に来る、既に私の顔は何発も直撃を食らって骨が砕けたのか、原型留めない程に歪んだ、もはや化け物同然だ、これでは合わせる顔もない程に。

 

「ゆ、許してくれ、許してくれ、許してくださいぃぃぃぃぃぃ‼︎」

「嫌だな。貴様は私にしてみればとても都合のいいサンドバックだ。嬲って嬲って嬲り尽くしてくれるわ。」

 

ーーグイッ!

 

「あがあがあががががががが‼︎」

 

またグルーガーの方も悲惨だった、彼の股間は奴の遊戯のせいで『壊されて』しまったのか、血が垂れて小便と糞が止まらずにダダ漏れと悲惨なことになっている、また脳を野球ボールで盛大に打たれたショックか、ひどく錯乱している。当初は傲慢そうにしていた彼は今では悲鳴と嗚咽を上げ必死に許しを懇願している状態だ、しかし当然奴はそれを見て喜び許すどころかその戯れをより一層と苛烈にしていく。奴は笑いながら彼に対し首締めを行い彼が苦しみ悶える顔を見てますます喜ぶ。

やがてグルーガーの体からは活力が徐々に失われていった、助けを叫ぶ気力も失われていく。私もそうだった、こんなに殴られては抵抗する力が無い。

 

「ここまでは実にいい気味だ。しかし残念ながらトドメだ。そろそろ悲鳴と叫喚を叫ぶ気力が貴様らには無くなってきたみたいだからこちらが飽きてきたわ。貴様らの尻から異物を存分にぶち込んだ上でロケットで打ち上げ、醜い花火にしてやろう。」

 

奴は戯れのせいで活力が無くなってきたそんな我々を見て、終いにしてやろうと呟く。そしてその言葉通りに奴は鋼鉄のパイプを我々の壊れた股間にぶち込むや否やそこから砕石が混じったコンクリートを腹にたっぷりと詰め込んでいった。やがて腹にコンクリートがかなり入ってきたのか腹がどんどん膨らむ、吐き気がする、そして我慢出来なくなって吐いた、その吐いたモノの正体は食べカスや糞と共に混じったコンクリートだった、コンクリートをどんどん入れられているせいか何度も何度も吐き気を催して吐く、奴はそれを見て笑い転げた。

 

「じゃあな、冥土の土産として醜い花火として散った事を黄泉にいる者達に誇るがいい。」

 

ーーカチッ!

ーーズドォォォォォォォ!

 

ーーやっと、解放されたかーー

私もグルーガーも、散々に嬲られたせいか口が動かない、言葉が出ない。それでも私は色々な意味を込めて呟く、奴の戯れから解放された嬉しさ、一生が終わってしまうという寂しさ、努力が悉く破壊され否定された虚しさなどーー

私の一生は、奴が私とグルーガーを強引にくくりつけて打ち上げられたロケットの爆発と共に終わったーー

 

 

ーーロケット爆発直後、リヴァイアサン後部飛行甲板

 

「智史くん、やっぱりちょっとやり過ぎじゃない?グルーガーって人、最初はこっちを見下したりして嫌いだったけど、アレスと一緒に智史くんにボロボロになるまで散々にバッティングで弄られてるの見ると段々気の毒に見えてきたわ。」

「悪党にはこのぐらいやるのがふさわしいし個人的にはこれが一番スカッとすると私は考えたのだが。琴乃、やはり私は壊れすぎていて最低だな、何かを始めると終わるまで徹底的になってしまう、お前のアドバイスを一つも省みようともせず、ましてや中途半端があってもいいと考えようともしない。」

「別に全部省みようとしていないと言いたい訳ではないわ。頼み事も役割もちゃんとやってくれてるじゃない。ただやっぱりハッキリと白黒付け過ぎてやり過ぎるのはちょっとまずいかな?」

「そうだな、色々ハッキリした方がいいと事を進め過ぎてるせいで数多の世界が壊されたり滅ぶという酷い惨劇が複数起きているからな。まあそれでもいい、もし滅ぶのならば、滅ぶべくして滅ぶ時が来た、ただそれだけの事よ。」

「ここまで深く考えられる様になったのは常に生き残る為やより自分を成長させる為に情報を掻き集めているお陰かしらね。」

「そうかもな。自分は最低だ、外と比べるとまだ弱い方だ、いつかより強い者に仕返しされると無意識に自罰的になってしまっているからこそ無意識に強くなろうという願望が芽生えてしまっている。その願望も手伝って私はここまでも、これからも強くなれるのかもしれないな。今の自罰的な性格もあまり悪くはないのかもしれない。」

「そうね、自分の弱さを知っている人こそ真の強者だと思うわ。グルーガーとアレスが智史くんに完膚無きまでに負けたのはその考えの有無なのかもしれないわね。」

「そうだな。」

智史と琴乃は日が西に傾いてきた空を見つめながらそう会話した、これまでの自分がやってきた事の背景としてある智史自身の考え方や色々と自分を成長させる為に情報を収集して練りこんだ考えを回想しながら。

 

「さて、ナマモノもおふざけ兵器も全部頂いたしテュランヌスも地面を根こそぎ吹っ飛ばすような爆撃で悉くぶっ潰して全部クレーターにしてやったからここの世界にはもう用は無いな。この世界の人間もアレスが考えているようにかなり愚かだが、そもそも憎しみとかの感情をお互いに持たないせいであまりやる気が湧かぬ。さ、次行くとしよう。」

「同じ名前の系列の世界系といっても色々と違って楽しいわね。次はどこへ行くのかしら?」

「ウォーシップガンナー2の世界へと行くとしよう、ヴァイセンベルガーとやらが性能がリヴァイアサンの約10倍(当社比)とやらのナマモノ兵器を世界各国にがっぽがっぽと輸出しようと目論んでる、『リヴァイアサン』といっても私ではなく面汚しのタツノオトシゴの方だがな、だが私の方も指していると捉え切れる以上、咬ませ犬という汚名は徹底して晴らさせてもらう、私まで同類と見做されたら困るからな。」

智史はそう言う、ヴァイセンベルガーの自慢の究極ナマモノ兵器ーーキョウフノダイオウイカの宣伝の内容が自分よりも優れていると勝手に発言しているように聞こえてしまうからか、ヴァイセンベルガーのやっていることは全く気に入らなかった。

彼は同時にこれまで通りにナマモノやおふざけ兵器の捕獲と各地の訪問も実行しようと目論みながらヴァイセンベルガーにキツイ仕置きを実行しようと企む、彼はワープホールを展開する、そしてリヴァイアサンはウォーシップガンナー2の世界へと進撃していった。

ヴァイセンベルガーは無論この事は知らずこのキョウフノダイオウイカの養殖・輸出を目論んでいたが、勿論この後智史の手により無理やり阻止され、その目論見が叶うことは無かったーー




おまけ

テュランヌスが生まれた背景の描写について

本家の鋼鉄の咆哮 ウォーシップコマンダーでは軍事組織テュランヌスが如何にして生まれたのか、アレスはどういう人物だったのかがあまり描写されていなかった。しかし因果ありきで物事は生じるという考え方から推察するにテュランヌスが生まれた背景は個人的には必要であると判断しアレスのキャラクター性と一緒に描写した。
尤も、アレスの性格、扱いは個人的考えからかなり酷いものとしているのだが。


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第54話 鋼鉄の世界巡り 最終章

今作で鋼鉄の世界巡りは終わりです。
少し更新が遅かったでしょうか。
今回は天城とヴァイセンベルガーが文字通り彼、海神智史によりアートにされるというもはや鉄板?という酷い目にあってます。
艦これについてですが、少し情報を調べた上で自分なりの考えを元にして艦娘達を奈落に叩き落す事にしました。
デザイン?台詞?ステータス?いや目によく見えるそんなもんじゃない。
彼らを構成しているもっと根本的な部分です。
その部分で彼も少し考え、悩んでいますが。
それでは今作もお楽しみください。


「ウォーシップガンナー2の世界に出たぞ、ここはな…。」

「ん?なんだあれは?この島は人気の無い離れ小島だというのに随分と豪華な建物が建っているなあ。ホテルか?」

「あれか?あれは日本帝国海軍大佐、天城仁志という奴が住み込んでいる家だ。通称は『天城のおうち』としておこう。」

「そしてこのお家から何か強い電波が発信されてるなぁ、どれどれ?」

「念の為付け足しておくが、随分と下手くそな歌だから気を付けておけ。」

これまでの鋼鉄の世界も荒らして破壊し、海賊さながらの略奪も盛大に行い、鋼鉄の咆哮 ウォーシップコマンダーの世界も散々に引っ掻き回したリヴァイアサンはSPE-A-700 「有人島漂流記」の海域にワープホールを展開して出現した、この海域は天城が独身貴族生活と称して建設したマイホーム、通称天城のおうちがある島が存在する海域である。

そしてその天城のおうちからはラジオ電波のようなものが発信されていた、その中身が気になるのかその詳細を見極めようとするズイカクに智史はそう警告する、彼はウォーシップガンナー2の知識をリヴァイアサンのメンタルモデルとして転生する前からある程度持っていた、そしてその中には天城の下手くそな歌に関する事が含まれていた。それをより正確なものにする為に今いるウォーシップガンナー2の世界系を調べ上げていた結果、杞憂ではなく正確な情報と判明した為に彼は警告したのだ。そしてその予想通りーー

 

『“ちゃ〜んちゃんちゃんちゃかちゃんちゃんちゃんちゃかちゃんちゃんちゃんちゃ〜ん!”』

「う、耳がおかしくなる…。」

「何なんだ、これは…。音楽はあまり聞いてないけれど凄まじく肝を逆撫でしてくるような声だ…。」

そこから流れてくる天城の下手くそな歌はズイカク本人とその側にいたカザリが気味を悪くする程に強烈であった、当然直ぐにその『音楽』はシャットアウトされた。

 

「こんなのが周りの他の通信電波をシャットアウトしてしまう高レベルで発信されているとなるとかなり迷惑している人間が居るはずだぞ。」

「確かに、この島の周りに複数の艦隊がいるなあ。何故なんだろうか?」

「ウィルシア王国近衛艦隊とその同盟国、日本帝国の艦隊が主だな。交流も兼ねた合同演習だと私は考えるが。運悪く場所が場所なだけにこの歌を延々と聞かされたのだろうな。とっとと天城の奴を黙らせてやるか。」

智史はそう呟く、そしてリヴァイアサンは天城のおうちへと接近する。

 

「“月月火水木金金〜♪”」

「お前が天城仁志か。随分と下手くそな歌を流してくれるものだ。」

「“おわっ、誰だ貴様ら⁉︎なっ、何をしに来た⁉︎そうか!私のこの素敵ハウスを奪いに来たんだな⁉︎”」

いや違うのだが。寧ろお前を攫ってアートにしたりして弄びたくて私は今仕方がない。

 

「“やっと手に入れた念願の南の島のまいほーむ、カラオケセット付き!夢の独身貴族生活を壊させはせんぞ!”」

「独身貴族、というよりは隠居生活にしか見えて仕方がないのだが…。」

「“だまらっしゃい!”」

「うわ、生意気にも武装してるぞ、こいつ…。」

「ならば、あのウサギ小屋を根こそぎ畳んでしまおう。その駄物というべき努力の全てが全て灰燼に帰すようにして。」

砲撃が天城のおうちの周辺から飛んで来た、少なくともこちらを撃退してやろうという感覚は感じられた、何れも着弾と同時に無効化、吸収されて終わったが。当然やり返さんとばかりに直ぐに焼夷弾頭ミサイルと多弾頭ミサイルがリヴァイアサンのVLSから轟音を奏でて連続して夜空に向けて放たれた、ミサイルの群れは軌道を変えると次々と天城のおうちと砲台含めたその周りの建物に次々と命中し木々を薙ぎ払い地面を吹き飛ばして周囲を紅蓮地獄へと変えていく。あっという間に天城のおうちは根こそぎと跡形もなく粉砕されてしまった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!折角のまいほーむがぁぁぁぁ!」

いい様だな。さて、連れ去ってアートにしてしまえ。

念願の隠居生活を木っ端微塵にされた天城は泣き喚く、しかし智史にしてみれば彼の心情に同情する点は無かった、当然のことながら立場、価値観、考え方が悉く違っていた為である。

彼はさっさとシャドウホークを一機生成する、シャドウホークは泣き喚く天城を鷲掴みにし宙ぶらりんにし、彼に醜態を晒させる形でさっさと連れ去ってしまった。

 

「さっきからガンガンうるいんじゃ、コラっ!」

「下手くそな歌はもーえーかげん聞き飽きたんじゃ、ドリャァ⁉︎」

いやいや、こんな歌歌ってるのは私達ではないのだが。

そしてその騒ぎを聞きつけた怖いおにーさん達、もといウィルシア王国近衛艦隊と日本帝国艦隊がリヴァイアサンに絡んで来た、彼らは先に示したように合同演習をしていた所、偶々その合同演習を行なっていた場所が天城のおうちがあった場所の近くであった為に天城の下手くそな歌を延々と聞かされた被害者達であった。

 

「ああ〜ん?何ごちゃごちゃゆーとんじゃ?もしやお前らその下手くそな歌を歌った奴とグルかぁ〜⁉︎」

「奥歯がたがたいわして沈めんぞ?」

ほほう成る程、そんなに喧嘩がしたいのか。

「よろしい、ならば貴様等も一緒に始末してやろう。見た感じでグルと判断した事をじっくりと後悔するんだな。」

彼は自分達は関係無いと事実を踏まえて説明するものの既に彼らは自分達を天城とグルだと捉えてしまっているせいなのか、それは彼らの神経を逆撫でする。彼らは自分達を木っ端微塵にしてやろうと脅して来る、これ以上の説得は無駄ーーそう判断した彼ははっきりと殲滅する意向を表す、そしてそれに応えるようにして彼らの方から無数の超怪力線やミサイルが放たれ、リヴァイアサンに襲いくる。

 

「これは…、テネシークラスとミハイル・トハチェフスキー(史実版ソビエツキー・ソユーズ)クラスか⁉︎しかしどう見てもレーザーを撃ってくる雰囲気を出すような見た目じゃないのにレーザーガンガン撃ってくるのって、まるで私達霧みたいじゃないか…。」

「そうかもな。何れにせよ黙らせてやるから気にはしないが。」

智史はそう言うと片手を上げる、すると襲い掛かって来た超怪力線やミサイルがリヴァイアサンの手前で次々と何かに押し止められたのかのように動きを止めていく、敵が攻撃を続ければ続けるほどそれ等はどんどんリヴァイアサンの周りで群れをなして蓄積されていく。それを見た敵は自分達の常識を超越した光景に畏怖したのか、不気味がって、ーーいや、生物が本来持っているプログラムの一つである好奇心故にかーー攻撃を止めた、そしてーー

 

「お返しだ」

 

ーーサッ!

ーーババババババババ!

 

ーーズガドガガガガガ!

 

彼が再び手を動かすとそれらは彼らの方へと踵を返して一斉に牙を剥ぐ、そして次々と彼らを電磁防壁諸共刺し貫き、穿ち、鋼鉄の悲鳴を奏で、コンマを置いて無数の爆発が轟いて彼らの身体を次々と引き裂いていく。

 

「ほほう、もうお開きか?向こうから喧嘩を売られたから存分に撃ち合おうとこっちは気分を高めたのに随分と不甲斐ない。」

「わ、分かった、下手くそな歌を歌った奴じゃない事は分かったから止めてぇぇぇ!」

「何?“助かりたい?”」

「そ、そうやそうや…、堪忍したってぇぇぇぇ!」

「笑止。一匹も生きて返すものか。地獄はまだまだこれからだ。一瞬で楽になれるだけマシだと思え。」

「うわ、うわぁぁぁぁぁぁ!」

先の一方的な攻撃で劇的なまでに彼らは次々とこの世から姿を消していく、それを見た生き残った者達ーー運悪か死ぬ順番が後になってしまっただけの者達ーーは戦慄し怯える、中には命乞いする者も居た。

しかし彼は当然の事ながら白黒はっきりしている事を好む、敵対した者には余程の事情がない限りは絶対に容赦しない。それを指し示さんとばかりに今度は重力子X線レーザー発射基が咆哮し、他の鋼鉄の咆哮の世界の波動砲や新劇場版序に出てくる第六の使徒のものよりも遥かに太々と力強く、強烈なプラズマジェットのような青白く輝くレーザーを放った、掠っただけでも哀れ、一瞬で彼らは周りのものと一緒に蒸発してしまう、そして横に薙ぎ払うようにして放たれた為に海が一瞬で次々と蒸発して水平線が巨大な炎に染められていくという劇的な場面が現出する。当然命乞いも虚しく、彼らは次々とその光束の前に呆気なく原子レベルで分解されて消滅していく。そしてその光景の後には壮絶な、しかし誰1人も残らないどこか静寂に満ちた紅蓮の地獄絵図が広がっていた。

 

「嫌じゃぁぁぁぁ、おうちに帰りたいいい!」

「随分と煩い口だ…。黙らせることも出来ないのか、ならば私が黙らすのを手伝ってやろう。」

「な、何をする気じゃ〜‼︎」

「簡単だよ。顎を外して強引に口を開きっぱなしにし、玩具にしてやるのさ。口が開きっぱなしという事はもう満足に口を動かせまい?口の中が外気にさらされっぱなしだから乾くぞ、くくく…。」

 

ーーゴキッ!

 

「アゴォ!あへてあへてあへてあへてぇぇぇ!」

「安心しろ。顎を引き千切りはせん。そのまま顎を縦に引っ張ったら口が裂けてしまうからなぁ。だから細胞分裂促進剤を投与した上で開きっぱなしにするのだよ。開きっぱなしになった様が大体イメージが付いているとはいえ楽しみだ…。」

「うわあ…、拷問だねこれは…。」

そしてあの後リヴァイアサン艦内の工作室で彼はニヤニヤと笑いながら天城にアートという名の非人道的な人体実験に等しき改造を平然と行う、その意図を察したのか天城は悲鳴を上げて逃げようとするも直ぐに彼の手により強引に部屋へと連れ戻される、そして工作室からは天城の悲鳴と彼の笑い声、そして工作機械の音が延々と響く。やがて笑い声と工作機械の音が止む、彼が天城を連れて出て来た、哀れ、天城の顎と口は補強材として入れられたとてつもなく重い縦長の鋼鉄の金具により無理矢理と縦へと補強拡張され、DVD(Blu-rayも含む)と本を入れる棚へと破茶滅茶に改造されてしまった、当然そんな悲惨な改造を受けた天城は涙目だった、そして天城は彼の道具、もとい玩具として使われる為に彼に首根っこを掴まれそのまま左舷飛行甲板へとズルズルと引き摺られる様にして連れて行かれる。

 

「本来なら私の玩具としてフルに弄びたいのだが、本来の流れの宅配便の事を少し思い出したのでな。横須賀へ宅配してやろう、故郷たる横須賀に帰れるだけ有難く思うんだな。」

「お、おげえええ…。」

 

ーーガンッ!

 

彼はその場でB-3ビジランティ2を生成するとそのウェポンヘイに改造された天城を詰め込んだ宅配便用の木箱を押し込む、ウェポンヘイの扉が閉まる、そして天城を入れた木箱を積んだビジランティ2は横須賀に向けて飛び立っていくーー

 

そして、横須賀海軍基地ではーー

 

「未確認機接近、繰り返す、未確認機接近。敵味方識別装置に応答無し、基地内の非戦闘員はシェルターに退避。総員直ちに持ち場につけ」

「敵襲、敵襲だ〜‼︎」

程なくして天城を詰め込んだ木箱を積んだビジランティ2は横須賀の海軍基地の上空へと到達した、当然の事ながら彼ら日本海軍の機体では無かったので未確認機と看做され警報が出される、程なくして基地の周辺の防衛施設からミサイルや対空砲が放たれ始めた、元々ここは日本海軍の主要軍港という防衛の重要度が極めて高い場所だった為に何百機もの航空機や戦艦等の大型の戦闘艦艇複数が襲来しても十分に弾き返せるだけの重厚な防御施設が敷設されていた、なので対空砲の曳光やミサイルが無数と言わんばかりに大量に放たれ空を埋めつくさんがばかりに次々とこの機体へと集中する、並の機体ならーー中には46㎝、51㎝といった戦艦の大口径砲を応用した対空砲もあるので下手すれば飛行型超兵器アルケオプテリクスすら木っ端微塵になるレベルだ、こんなのに耐えきりながら飛行するとなるとアルケオプテリクスが持っているような戦艦レベルかそれ以上の重装甲が必要となるだろう。だがこんなに熾烈な砲火の雨を全身に浴びせられても機体は避けるどころかこれを全て受け止め吸収し弾き返して堂々と低空に舞い、悠然と一路横須賀の司令部目指して飛んでいた、それも全くの無傷かつ一つも気にして居ないかのように。当然戦艦レベル以上の装甲を持っているのは一目瞭然である、実際その通りでこの世界の最強の兵器たる波動砲や反物質砲すら全く効果を成さない程に強靭なのだが…。そしてこの機体は当然の事ながらリヴァイアサンごと海神智史の使役するモノにして同時に『彼』でもあるのだ、しかも彼はこんな化け物じみた機体を無量大数いやそれ以上ワンサカと生み出してもなお底が全く見えない程に余力が有り余るというとんでもない域に居ながら今もこれからも外へ外へ進出するために更に力をどんどんと付けている有様である。当然これはもはやこれは大人と子供程の落差どころではない程の酷過ぎる差であった。

 

「あ、アメ公のマークだ‼︎」

「アメ公のヤツ、我が軍の切り札が全く通用しないこんなバケモノを作ってたのかよ!」

「くそ、阻止出来ねえ!基地の上空に侵入しやがった!」

天城を詰め込んだ木箱を中に積んだビジランティ2はそのまま堂々と彼ら日本海軍横須賀基地の人間達の視界にハッキリと入る形で横須賀海軍司令部の上空、それも低空へと到達した、対空砲火が相も変わらず熾烈に浴びせられているのだが先と同じように全く警戒するにも当たらないと言わんばかりの余裕の態度で全て吸収し同じ結果を見せつけていく。

そしてビジランティ2は横須賀海軍司令部の建物とその正面玄関前の広場を己の正面に捉えるようにして飛来すると天城を詰め込んだ木箱を投下する、木箱は詰め込む際に装着されたパラシュートを展開しゆっくりと正面玄関前の広場へと降下していく。木箱を投下し終えたビジランティ2はそのまま踵を返してリヴァイアサンがいる南の方へと来た時と変わらず堂々と飛び去っていった。

 

「ば、爆弾なのか…?」

「それにしては、様子がおかしくないか?何か詰め込まれているような感じだ。」

天城を詰めた木箱は破損もなく無事に着地した、しかし見かけがどう見ても爆弾ではないということが分かっても中に天城が詰め込まれていることを彼ら日本海軍横須賀基地の人間達が正確に知っているわけではない、一応念のために付け足しておくと『横須賀海軍基地宛ての送り物です、爆発物に非ず』とシールが貼られていたのだが。やはり中身は爆発するのではないか、あるいはその中に化学兵器が詰め込まれているのではないかと警戒しながら横須賀海軍基地直属の爆発物処理班が爆発物処理用のロボットで慎重にその木箱の中身を開けるーー

 

「おが、おがががが…。」

「あ、天城大佐だ…。戦死された筈では…?」

「い、生きておられたのか…?」

「しかしそれにしてもこの様は、一体何があったんだ…?」

「何か口が訳わからんぐらいに広がってるぞ…。それに口の中には大きな金具…。天城大佐はそのようにされてしまう程の拷問を受けたのか?」

中には勿論天城が入っていた、しかし天城は先に示された通り智史に無茶苦茶な改造をされているのである、当然その様を見た人間達は皆驚愕し言葉を失う。

 

「ん?何かメモがあるであります!」

「メモだと⁉︎読み上げてみろ!」

「はっ!『これは天城仁志という人間を本を入れる為の家具として作り変えた物です。どうぞ好き勝手に嬲って弄んでお使いください』と書かれております!」

「か、家具だと…。我ら日本海軍軍人の鏡たるあの天城大佐を、家具として利用して下さいだと…。なんと破廉恥な!」

「そういえば、天城大佐を詰め込んだ木箱を投下した未確認機はアメ公のマークを付けていたであります!」

「何ぃぃぃ…⁉︎アメリカめ、我々の兵器が効かない機体を作った事をいい事に天城大佐をこのように弄んだ挙句に我々など所詮唯の黄色い猿であると見下すためにこの様な暴挙を…、許すまじ!」

実は、アメリカと日本はヴァイセンベルガーのクーデターの関連で一時期交戦状態にあった。彼ら日本海軍とウィルキア帝国海軍を打ち破り日本を敗戦へと導いたのは主に亡命ウィルキア近衛海軍の将官、ライナルト・シュルツが率いる艦の働きの影響であったものの、その彼らと同盟し、支援し、時に彼らが齎した影響を利用して自分達の母国たる日本に侵攻し一時期自分達を動けなくしたアメリカもまた彼らを打ち破った働きに関わったと言ってもいい。今では和平も結ばれ自由に動けるもそれは最近の事である。自分達を打ち破り多くの同胞を海の藻屑と消したウィルキア王国海軍とそれらを支える形で関わったアメリカに対する憎しみはまだ消えてはいなかった。

そこに智史の放ったビジランティ2による家具として悲惨な改造を受けた天城がプレゼントとして送られたのだ、本人がアメリカの仕業と見做させる為にそんな外見を選んだというよりはただ単によく使うから出した機体が偶々アメリカ軍がよく使う機体のマークの特徴とごっそり一致していたから彼らはアメリカ軍の新鋭機体と誤解したのかもしれない。また天城は彼ら日本海軍軍人にしてみれば軍人の鏡というべき人物であった、彼の乗る自国の切り札だった超兵器アラハバキはシュルツの艦に沈められて表向きは彼は戦死扱いだった。しかし彼の乗る艦を沈めたのがシュルツやウィルキア王国海軍であれど、上記が示す通りアメリカは彼らを支援する形で関わっていたのでアメリカ軍がその事件に関わったと見なすことも出来なくもなかった。

知らず知らずのうちに彼らの頭の中には「アメリカが負けた自分達を更に見下しコケにする為に天城の乗ったアラハバキを沈めた挙句に天城を強引に連れ去りアートにしてここ横須賀に宅配した」という推測が成立してしまっていた。

何れにせよこの事件については当初は緘口令が敷かれたもののどこからか漏れたのか、一部のメディアがこの事件の内容をいいように脚色し報道したことで(※天城は世間からも比較的高い評価を受け軍神に並ぶ英傑とまで言われていた)国内中の反米感情が一度に再燃して国内は大混乱となってしまい、一時期日米間に再度の武力衝突が発生しかねない事態となってしまった。

結局この事件については日本海軍上層部から何人かの更迭者を出し、その報道をしたマスメディアを報道停止にするなどして取り敢えずは収束させようとはしたものの(アメリカと再度戦うことが国益の観点上無策であると判断しているエリート達が内閣には何人かいた)、彼ら国民の反米感情がこの程度で収まるわけではなく、最終的にその時の内閣が総辞職に追い込まれるほどであった。ともあれ幸か不幸か、この内閣総辞職を契機にして反米感情は取り敢えず収束し、日米再度の激突は避けられたのであった。

さて、この騒ぎを皮肉な事にも引き起こした張本人、リヴァイアサンごと海神智史はこの顛末を知ってこう言った、

 

「起きるべくして起きてしまったか」

と。

彼はこの世界の日本の反米感情の事を事前調査でかなり知っていたものの、特に大きな関心や重要性は持っていなかったので起きても特に大きな問題はないと判断した上で引き起こしてしまった、実際起きて万が一最悪の事態ーー自分達がこの事件の元凶である事が判明してベヒモスの支援を受けて纏めて突っ込んで来るケースとなろうとも特に自分達に多大な悪影響を齎す訳でも無かったが。裏を返せば彼、リヴァイアサンごと海神智史はこれほどにまで余裕があり過ぎているという事になる…。

さて、家具化天城横須賀投下事件のその後の彼の動きの方に話を戻そうーー

 

「我らはドリル三兄弟の末弟、アラハバキなり!よろしく!」

「ドリル三兄弟、か…。だがもうドリルは散々見てきたから飽きたんだがな。確かお前は末弟か…。兄弟を呼べ、纏めて掛かって来い。速攻で冷たい屑鉄に変えてやろう。」

「おのれ、我らドリル三兄弟をよくも馬鹿にしたなぁ‼︎その言葉後悔させてやるぅ!」

リヴァイアサンは今この世界のアラハバキと対面していた、しかし智史は何度も形は違えどドリルを持った『アラハバキ』と相対した事からこれ以上同じことを続けるのはもう飽きたと呟いて冷淡な態度を見せる、アラハバキはそれに激昂したのか、ドリルとソーをフルに回転させて最大船速で突っ込んできた、しかしリヴァイアサンごと智史は面倒くさいと心の中でぼやきながらこれまでと同じようにアッサリとそれをクラインフィールドで防ぐ。アラハバキは諦めが悪いのか、諦めずに全力を出して何度も何度も体当たりをするもこれまでの経歴が裏付けるかのように彼のクラインフィールドは鋼鉄の城壁のように途轍もなく硬く、一つもビクともせず悉く防がれてしまう。

 

同じ事の繰り返しは少し飽き飽きしたな…、これで何回目だ?まあいい。

「お前の本気はその程度なのか?このままでは私は寝てしまうぞ?」

「え?」

 

ーーズダァァァン!

 

そして彼は何十層ものクラインフィールドを瞬時に生成するや否やそれでアラハバキを思いっきり殴り飛ばす、アラハバキはリヴァイアサン程でないにせよかなり巨大な船体であるにも関わらずまるで木の葉のように何十kmも恐ろしい勢いで吹っ飛ばされて島の一つに横殴りにされるかのように激突する。

 

「に、にーちゃぁぁぁん!こいつがにーちゃん達を馬鹿にしてきた挙句にいじめるよぉぉぉ!」

「我が名は『あら、葉巻?』ドリル三兄弟の長兄なり!」

「同じく次兄アマテラス!弟が世話になったようだな…、弟と共に我ら三兄弟束になって掛かって来いとは…。その無謀に等しき度胸、褒めてやろう!」

「アマテラスと『あら、葉巻?』何だそりゃ?しかし何か、煙ったくなってきたぞ…。」

「長兄は名前が示す通りにタバコ二本吹かしているからな…。だが私はタバコの匂いはすごく嫌いだ。今にも反吐がでる。」

智史の冷淡な挑発に乗せられ返り討ちにされたアラハバキはアマテラスとシュールなネーミングの長兄“あら、葉巻?”を呼ぶ、程なくしてアラハバキと同じ形をした二隻の超兵器が水平線からゆっくりとその姿をあらわす。そして智史とズイカクがタバコの煙と匂いが漂ってきたと言っている通りに辺りがタバコの煙のような靄に包み込まれ始めた。

 

「に〜ちゃん、こいつおらの攻撃をまるで寄せ付けなかったんだ‼︎だけどに〜ちゃん達はとんでもなくつええぞぉぉぉ!」

「自慢話はもういい、弟。末弟たるお前が弾かれた以上、連携して攻撃を繰り出さねば勝てない相手であることは分かっている。」

「ならば大にーちゃんのタバコの煙に隠れて隙を誘い突撃を行う撹乱ゲリラ作戦かぁ⁉︎」

「ああそうだ!兄貴のタバコの凄まじい吹かし、あれはあまりに煙たいから普段は迷惑極まりないが戦闘の時となれば我らの身を隠し大いに役に立つ!行くぞ!」

そしてドリル三兄弟は長兄のタバコの靄に姿を隠して撹乱し隙を誘うかのように靄の向こうから積極的に攻撃を仕掛けてくる、一隻が注意を誘うように攻撃を仕掛け、また島々が点在しているという地の利を活かしその島の陰に隠れる形で他の兄弟が息を潜め沈黙し待ち伏せている所へと誘導し一気に葬り去ろうと彼らは目論んだ。

彼らドリル三兄弟は一見肉弾戦好みなように見えて実は策謀に満ちた巧みな連携プレーを実行したり出来たりするのだ、実際に彼らはこの戦術以外にも複数の作戦を使って自分達の縄張りに侵入してきた者達を始末していたりする。

 

「な、何も見えない!まるで雲の中にいるようだ!」

「ほう、なかなかの策を使うようだな。単純な剛力馬鹿だと思ったが意外と頭を使うではないか。」

「その通り!その状況下でこうも冷静で居られるとはなかなかの肝を持っているな!だがこの兄貴のタバコの靄は単にタバコ臭いだけではなくてな、光もレーダーの電波も乱反射するという優れものだ!おまけにこの海域は特に大きな気流も吹いてない!従って長期間兄貴のタバコの靄は漂い続ける!

お前達はその靄の中では我らの姿は見えまい、しかし我らはお前達の姿を見抜く術がある!お前達は我らの姿が見えないまま我らに翻弄され続けるのだ!」

「なるほど、こんな中でも位置関係を掴む為の抜け穴は有ったのか。まあそんな抜け穴も今の私にしてみれば大した意味も重要性もない。」

「な、何だとぉ⁉︎」

「何故なら私は今靄そのものを力業で消し去ろうとしているのだよ、フーム!」

 

ーーブォォォッ!

 

「な、何ぃぃ⁉︎」

しかし智史は彼らドリル三兄弟の隠れ蓑となる靄を片手を振り払って強烈なオーラを発生させて一瞬で消し去る、清々しいまでに青い空と青い海が再び彼らの視界に戻ってくる。靄の中から陽動撹乱攻撃を行うという彼らの作戦は一瞬にして破られてしまった。

これまで通用してきた彼らの作戦の常識は彼には尽く通用しない、何故なら彼は良くも悪くも進化のし過ぎの影響でその常識の根幹さえも思うがままに操作し、捻じ曲げ、作り変えてしまう域にとっくに生息してしまっているからだ。少なくともこの世界の当たり前の常識など彼の前では何の役にも立たない。

 

「そこだぁ!」

 

ーーグオオッ!

ーーダガァァァァン!

 

「そ、そんな馬鹿な…‼︎」

「に〜ちゃん、体が、体が、く、くっついて動かんんんん〜‼︎」

「こ、これは…、二隻を互いに巨大な磁石に変えたのか?」

「その通り。二隻の船体は磁気を帯びて非常に強力な強力な磁石となっている。引き剥がそうにも引き剥がせまい?」

そして靄の中に隠れていた二隻ーーアラハバキとアマテラスの姿はさあリヴァイアサンの船体に突っ込まんと言わんばかりの姿態勢を青空の下に丸々と晒すという形で尽く丸見えとなる、そうでなくとも二隻がそうするという事をとっくに理解していた彼はそれを逆用する事を瞬時に考えつく、エネルギーベクトル操作能力を利用し二隻の船体の周辺にコイルのような規則的な電流を発生させ、構成素材に強制的に磁気を帯びさせるというプロセスを用い同時に二隻の突進の勢いを逆用した事も相まってーー念の為海流も操作していたーー二隻は磁石がピタンとくっつく様な勢いで頭からガッチリと合体してしまった。

二隻は互いに身をよじらせ引き剥がそうとするも磁気を帯びた互いの船体はガッチリと二隻を掴んで容易くは離さない。そしてーー

 

ーーブォォン!

 

「ど、どけどけぇぇぇぇぇ!」

「あ、兄貴ぃぃぃぃぃ!」

 

ーーグワシャッ!

残っていた“あら、葉巻?”も彼にロックビームで呆気なく捕捉されそのまま二隻の方へと思いっきりぶん投げられた、お互いに避けようとするもアラハバキとアマテラスは先に示した様にガッチリとくっついたまま、“あら、葉巻?”の方は高速を発揮できても所詮は三隻共水上艦、当然宙を自在に舞える手段を特に持っている訳でもないので避けようにも避けられない。

“あら、葉巻?”は叩きつけられるようにして二隻に激突した、船殻がひしゃげ、裂ける音が響く。そしてその後には見事な醜態のこんがらがりの団子が洋上に出来上がる。

 

「じゃあな、三隻仲良く砕け散れ。」

 

ーーグワシャァァァァン!

そして彼は艤装を展開する事なく彼らの周辺にミラーリングシステムを展開するとそのまま数百枚もの巨大なクラインフィールドを団子となった三隻を左右から挟み込むようにして瞬時に生成するとそれを三隻をプレスに掛けて押し潰すのかのように叩きつけた、三隻は豆腐が潰れるかのように原型を残さずに鋼鉄の内臓を爆発と共に撒き散らして潰れた。

 

「さて、次行くとしようか。今度は実体が永遠に視界に写すことが出来ない哀れなゴキブリ三姉妹を轢き潰そう。」

そして彼はいつもと変わらない様子でもうこの場所には興味がなさそうにそう呟くとSPE-C-720の海域ーーパーフェクトプラッタ三匹、もとい三隻が潜む海域へとリヴァイアサンで足を伸ばす。

 

「どうだ、実体を得た気分は?」

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!気持ち悪いぃぃぃ!いくら姿が見えないし名前がゴキブリだからってこれはあんまりよぉぉぉぉ!」

「ぷはははは、それは残念だ。お前達の最期の望みとして姿を見せられないという悩みを私なりに消してあげたというのになあ。」

「いくらなんでも、これは最悪よぉぉぉぉ!」

パーフェクトプラッタ三隻は当然彼の事を知っておらずいきなりと襲われたので一応抵抗しはした、しかしこの世界の超兵器の中では比較的弱かった部類だったのか、または彼、リヴァイアサンごと海神智史が常識という常識を遥かに超えて強過ぎたのか、抵抗らしい抵抗をさせて貰えず呆気なく無力化されてしまう。

そして彼らの悩みのタネでなる眼に映る実体が無いという悩みは名前の通りに超巨大な、それ故に途轍も無い醜さと恐怖心を心の底から煽り立てるようなゴキブリの姿を得るという余りにも悲惨な形の最期の願いとして彼によって叶えられた。

そして最期の願いと言った通りにパーフェクトプラッタ三隻は先のドリル三兄弟と同じく彼に纏めて団子にされ焼夷弾頭ミサイルを雨霰と浴びせられて嬲られながらまるで荼毘にされるかのようにその身を骨の髄までとじっくりと徹底して焼き尽くされていく。

 

この世界でも少し寄り道をしたがヴァイセンベルガーの居る南極だ。色々あったが、鋼鉄の世界の旅もこれで締めとしようか。

 

この世界で彼が見たい、行きたいと思えるような場所はもうなくなった、そしてこの世界は彼が最後に訪れた鋼鉄の世界である、裏を返せばもうこれ以上新しい鋼鉄の世界は無い。彼はこの世界での全ての締めと言わんばかりにヴァイセンベルガーがキョウフノダイオウイカと共にいる南極へとただまっしぐらにと向かっていく。

 

 

「あ、ナマモノや悪ふざけ兵器が飼育されてる場所を見っけ。お約束通り略奪略奪っと。」

まっしぐら、とはいっても厳密にはナマモノを飼育、いや維持建造している軍港は既に発見しているので実際には寄り道という形でそこを襲撃してナマモノや悪ふざけ兵器を略奪してナマモノ輸送艦に放り込んだ上でヴァイセンベルガーのいる南極へと向かっているのだが。

 

 

「フォッフォッフォッ、と、なんだあれは…⁉︎リヴァイアサンだと…?まさか他の国が同型艦を…‼︎」

「遭いたかったぞ、(注意、誤字に非ず)バルタン星人、いやヴァイセンベルガーのジジイよ。貴様が『リヴァイアサンの約10倍の性能』と評する究極のナマモノ兵器を出してくれ。」

ヴァイセンベルガー本人は智史達のことは全く知らなかったのでまさかリヴァイアサンの同型艦が造られていたのかと驚愕した、まあ彼らは当然この世界の住人では無いので驚愕して当然なのだが。

 

「まさか、例の究極ナマモノ兵器を知っているというのか⁉︎まあいい、計画共々知ったら知ったで生きては帰れぬ。所詮貴様は『リヴァイアサン』なのだから!ってうぉ〜っ、お、落ちる〜‼︎」

「一体、何してんだあの人…?」

「何かの真似でもしてたみたいだけど…。何かしら?」

「いずれにせよあのナマモノを撃沈とは行かなくとも如何にかしないと駄目だ。下らぬ評価も消し去らなくては。」

キョウフノダイオウイカは眠りについていたところをヴァイセンベルガーにより復活させられたものの先の光景が示すように自分自身を復活させたヴァイセンベルガー本人に従うという意志はどうも無いようだった。

それはさておきキョウフノダイオウイカは早速と言わんばかりに闘争心を吐き出しとして己に備え付けてあった牙、もとい兵装をリヴァイアサンに向けて撃ち放ってきた、ヴァイセンベルガーの命令でもなく、あるいは誰かの命令でもなく、当然智史本人の意思でもない。ただ己の本能にままに。

 

ーードピュゥゥゥゥゥゥ!

 

「…所詮この程度があのジジイが『リヴァイアサンの約10倍の性能』と評する究極ナマモノ兵器の力か…。これではただの馬鹿でかいイカではないか。」

しかし悲しいかな、ある意味この世界最強というべきナマモノ兵器、キョウフノダイオウイカさえも彼には全く手も足も出なかった、数多のプレイヤー、もとい艦船を尽く屠った並レベルより遥かに威力を上げた反物質砲や光子榴弾砲を無数ヤケクソに撃ち込んでも悉く矛を捻じ曲げられ折られ弾かれたのかのように吸収され無力化されてしまうのだから。あの後キョウフノダイオウイカは至近距離までリヴァイアサンに肉薄し触手を絡ませてまでイカスミ波動砲を何発もリヴァイアサンに浴びせ続け艦橋に野晒しで立っていた智史諸共外殻をイカ墨で真っ黒けにしたものの所詮それだけだった、単にイカ墨を浴びて真っ黒になっただけでそれ以外の事は何も起きていないのだから。もし起きていたとしたらイカスミ波動砲のイカ墨の破壊エネルギーを尽く吸収して己の力へ吸収消化した事ぐらいだろう。当然リヴァイアサンの外殻も、彼自身も何のダメージも受けてない、吹き飛んでもいない。

彼はイカスミ波動砲を何発も浴びせられる中悠然と右手をキョウフノダイオウイカに向けてかざした、右手から次の瞬間青白く輝く重力子のブレードが出現してキョウフノダイオウイカのイカスミ波動砲の砲口ーー普通のイカでいう漏斗の部分を一瞬で勢いよく刺し貫いた、刺し貫かれた背の部分からイカスミがまるでエネルギーが逆流した波動砲が暴発したようにして盛大に噴き出す。

そして重力子のブレードは光粒が天に昇るようにして消滅した、だがキョウフノダイオウイカにしてみればその攻撃は致命的な一撃であった、イカスミ波動砲を始めとした各機構が刺し貫かれ胴体に大穴を穿たれるという形で一瞬で根本的に破壊されたのだから。一応ナマモノなのでここは無理せず後退してその損傷を癒すべきだったのだが、自分にそんな能力が有るなど自覚していなかったのだろうか、キョウフノダイオウイカは無理押しで再びイカスミ波動砲を放とうとした、しかしその意思に反してイカスミ波動砲はあらぬ方向から発射される、そう砲口ではなくて先の攻撃で胴体に穿たれた大穴から。

キョウフノダイオウイカはなおもそんな大傷を負わせたリヴァイアサンに向けて怒り、憎しみを覚えているかのようにまたしてもイカスミ波動砲を放とうとしたものの、既に身体にはその膨大なエネルギーに耐え切る強度はほとんど無かった、背後にまで穿たれた大穴からイカスミ波動砲のエネルギーが噴出して構成組織を蝕み、破壊し、よりその大穴という傷口を巨大化させていく。

それがピークに達した時にキョウフノダイオウイカは目の前のもの全てが真っ白になり光も影も分からなくなるほどに目も眩むような巨大な大爆発を引き起こした、その大爆発はヴァイセンベルガーの荒唐無稽な野望により建造された海底にあるキョウフノダイオウイカ養殖施設や周囲の氷山や氷塊を次々と吹き飛ばして巨大な津波を生じた、津波は南米や南アフリカ、オーストラリアの沿岸部を襲い壊滅的とは行かなくともかなりの被害を与えた。

やがて爆発は終息して海と静寂が戻ってくる、その爆発の中心地に居たのは大爆発の衝撃で表面に付着したイカスミが全部取れたリヴァイアサンだった、まあそのイカスミも取り除こうという気になれば全部取り除けてしまうのだがーー

 

 

「ヴァイセンベルガーのジジイは何処に消えた?まああっさりとその居場所を見つけてしまったから今言っても仕方ないのだが。」

「また、魔改造する気?」

「そうだな、このままだとよく見かける傲慢でつまらん奴だから普通にウィルキア王国近衛海軍アルベルト・ガルトナー大佐殿宛に宅配で送ってやる。さて、相手となるガルトナー大佐殿が見たらたんとドン引きするようにどう楽しく工夫しようかな?顔にたくさんペイント、いやタトゥーを焼き入れでもしてやろうか、あ、そうだ、下ネタ描くのも面白い。くっくっくっく…。」

「何かこの後のオチが読めてきたな…変竹炭な野望で半分自滅しかけたとはいえ、これから智史さんの手により死んだほうがマシな程に酷い目に遭うヴァイセンベルガーさんに黙祷しよう…。」

そう呟き心の中で彼、海神智史により酷い目にあった者達の事を思い出しながらこっそり黙祷するズイカク、実際その予想通りにヴァイセンベルガーは彼の手元に連れてこられた後、手始めに顔から落書きされ、髪の毛を無理矢理と毟り取られていった、隠し持っていた短刀を何発か彼に突き刺すが、

 

「ほう、そんなに楽しんでくれているのか。ならば壊れるまで徹底的に嬲り楽しませてやろう。」

 

それは彼に「やってくれたな?」と言わんばかりに凶悪な笑みを浮かべさせただけで終わり短刀は彼を止める役割を全く果たせずに持っていた刀身を見事に握り潰された。逆にそれはアート作成を更に加速させ、威厳ある軍官の服をバリバリと破かれ剥ぎ取られ代わりに中年オヤジが着る服を着せられる、終いにはハイテンションになり暴走した彼により納豆や日本酒を頭に掛けられるわ卵や絵の具は投げつけられるわでグルーガーやアレス、天城とはまた別の意味で軍人としてのオーラも殆ど無いただの汚い中年オヤジという悲惨なアートにされてしまった…。

勿論天城と同じように彼はヴァイセンベルガーを宅配用の木箱に詰め込む、今度は弾道ミサイルの弾頭部分にその木箱を装填するという形だった、どちらも普通の宅配方法でない事は一目瞭然なのだが。

 

 

「い、一体何なのだこれは…、シュルツ少佐…、これはヴァイセンベルガー、なのか…?」

「随分とやりたい放題にやられてますが…、多分ヴァイセンベルガー本人でしょう…、それよりも凄まじく臭い…。鼻にツンと来る臭いまでします…。」

「それはともかくとせよ凄まじいことになっているな…、ある意味で芸術作品のようだが…、一体誰にこんな事をされたのだ?」

リヴァイアサンから放たれた弾道ミサイルは無事にヴァイセンベルガーをガルトナーの所へと宅配した、突然木箱が空から降ってきたので当然彼らは驚愕し警備兵が慎重に中身をこじ開けたというプロセスを経て智史により無残に改変されたヴァイセンベルガーはガルトナーとシュルツを戦慄させた。念の為一応付け足しておくならばこの2人は家具化天城投下事件のことを知らなかったのだが。

だがヴァイセンベルガーは彼らにしてみれば自分達の祖国をクーデターというもので奪い改変して我が物にしようとした張本人である、彼、海神智史がこのクーデターを大した価値もない下らない争いだと他人事のように冷めた目で吐き捨てても、彼らにしてみればこのクーデターで自分達の本来のあるべき『理想の世界』をヴァイセンベルガーという他人に壊され掛けたのだからヴァイセンベルガーは彼らにしてみれば裁きという名の報復を受けるべき存在だった、しかし形は違えどそれはヴァイセンベルガーも他の他人にもごく普通にありうる事である。だからこそ彼はこのクーデターをどこか冷めた目で見ているのだが。

話が少し逸れたが直ぐに2人は我に返るとヴァイセンベルガーを衛兵に捕縛させて政治犯を主に収容する刑務所へと連行させた、一応この様を見てショックを受けても彼らはウィルキア王国の海軍軍人である以前に1人の国民である、国家という自分達を守る家を維持する為には国民は国家が定めた様々な形の法律に一つ一つ忠実に従わなければならない以上この行為は当然だったのかもしれない。

何れにせよヴァイセンベルガーの今後に明るい未来などない事は確かだったーー

 

 

ーーほぼ同時刻。

 

「さて、ヴァイセンベルガーのジジイはウィルキア王国の国民達に逆賊扱いされながら処刑されるというオチとなったか、少し気まずいとはいえ世界を支配する傲岸不遜なカリスマから一気にダメダメの穢れた中年オヤジへと叩き堕とす形で散々に貶して汚しまくった末の末路に相応しくもあるから一応これでも気味がいいな。

しかし…。」

「何か、思い当たる事でも?」

そしてヴァイセンベルガーを汚した張本人たる智史はリヴァイアサンのCICにてヴァイセンベルガーの結末を見て悦楽に酔い、浸る、しかし次の瞬間何かに思い当たっているかのように沈黙する、その何かについて琴乃は彼に尋ねる、彼は続けるように語り始める。

 

「いや…、艦これの艦娘どもを根本から論破して奈落に叩き堕とす為に艦娘、その存在とは何かについて少し考察していた所な…。自分があたかも本家の為と言いながらも実際には本家海龍の栄誉を汚しまくっている愚者かもしれないという事に新たに気がついたのだ…。」

「それは、どういうこと?」

「戦艦大和のif話について興味本位で少し調べて考えてみた所、『艦娘』というものは既に終わり目に映らぬ艨艟達の情報、事実であるとその時点で確定された情報を集めて生み出された「本物」を模して真似て生まれた「幻」か「亡霊」なのではないかと思い当たったのだ。それがあたかも「本物」のように、まるでまだ生きているかのように振る舞う、その元の元となった「本物」の歴史は既に終わっているというのに。

これは、既に終わっている「本物」の歴史を根本から改変する行為とも受け取れる。この振る舞いは、許される事だと言っていいのか?」

その何か、とは一言で言い表すならば「本物」を真似て本物のように振る舞うという行為であった、しかもそれは既に終わった「本物」の歴史を良くも悪くも捻じ曲げてしまう行為そのものだった。

 

「だからこそ…、智史くんは自分自身もそうかもしれないと責めるの?」

「そうだな、結局のところ私は元を辿れば「リヴァイアサン」を模した「幻」だ、それが「本物」の為と言いながらとはいっても、あたかも「本物」のように振る舞いしかも「本物」にはない振る舞いや能力まで悉く行使して「本物」の歴史やイメージを揺らげ捻じ曲げたという事実は変わりない。それに「本物」の歴史は私の手によって幕引きをされている。

私は、ある意味で自分の手で「本物」の歴史を揺らがせ捻じ曲げたのだ。」

彼は言葉を続ける、自分がしてきた「本物」の為の行動は自分自身の欲求を満足させるための一種の自己満足であり、しかもそれらにより引き起こされた行為は「本物」の歴史やイメージをある意味で汚し、捻じ曲げていたと彼は言葉に込めて呟く。

 

「その通りかもしれないわね…。でもそれは「本物」の歴史ではなくても智史くん自身の歴史なんじゃない?」

「私自身の「歴史」?」

「これまでの智史くんの振る舞いの歴史は「本物」の歴史を汚すものだったけれど、いずれも智史くん自身のものなのよ。だったらこれらを一層の事「本物」と決別して「幻」としての歴史と定義したらどうかしら?」

それを聞いた琴乃はこれまでの彼の振る舞いは「本物」の歴史ではなく、「本物」を汚していたという事を認めながら、これらを一層の事「幻」の歴史としてこれらを定義してみてはどうかと自分の意見を言う、「本物」の歴史ではなくてもこれは彼自身が築いたものだからだ。彼女は彼の自罰的、自己破壊的な性格を彼との付き合いで理解していたからこそこの意見を出せたのかもしれない。

 

「「幻」としての歴史、か…。

ふっ、わははははははは!

そうか、「幻」か…‼︎

ならばよかろう!

私は、「本物」を装い「本物」に生きるのではなく、

「幻」

即ちリヴァイアサンの姿をした紛い物として、

海神智史という存在としていっそ本家とは異なる歴史を刻んで生き抜いてやるわ!」

そしてそれを聞いた彼は意気揚々と「幻」として生き抜くと思いっきり割り切る、たとえ「本物」に縛られ囚われ「本物」の歴史やイメージを汚している事実が存在し、そしてそう言われようとも。

 

「すまんな、琴乃、ズイカク、カザリ。これまでも今回もこれからも己の私利私欲第一で私は動き続ける。たとえ何回それを繰り返してでもそんな私に付いてきてくれるお前達に感謝したい。」

「何回もって…。自罰的過ぎるよ。まあこちらが多少の苦労をしている事に一度も感謝しないよりは断然こちらの方がいいと僕は思うけど。」

「むしろこれで居てくれる方がある意味いつも通りだから大して心配してないぞ?まあ白黒はっきり付けて盛大にやりすぎるのが玉に瑕だけどな…。」

「そうか。ならば鋼鉄の世界とおさらばして艦これの世界に直行するとしようか、破壊と混乱をばら撒く為に…。」

「(ある意味、いつも通り…。)」

そしてリヴァイアサンは艦これの世界へと直行する、これまでに略奪したナマモノや悪ふざけ兵器を満杯に詰め込んだ巨大なナマモノ輸送艦を背後に無数、護送船団のように引き連れて。

艦これの艦娘と深海棲艦達は互いの縄張りを巡って争っているといういつも通りの偽りの日常を送っていたがそんな日常は萌えによる無理矢理なアピールを徹底的に忌避する思考の持ち主、リヴァイアサン=海神智史の襲来をトリガーとする真実の暴露と共に悉く崩壊してしまうのである。それを彼が来るまで知らなかったという事は彼女らにしてみれば幸なのか、または不幸なのだったのだろうかーー



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第55話 兵器とは何か

今作は前作の終わりで僅かに描かれていた艦これの世界系への侵略が行われます。
アンチヘイトらしく悪意的な扱いをしている(作者である私自身が萌えをすごく嫌ってます)とはいえ、艦これのゲームシステムについて色々と考えてみました。
今の世界は現代兵器が主役であり、こんな少女達が主役として戦う世界ではないと思います。
なのでどうしたら彼女達が主役になりうる世界が出来るのかを非常に悪意的ですがゲームシステムの設定も取り込みつつ現実的に描いてみました。
それでは今作もお楽しみ下さい。


「ベヒモス様、奴らは我らに監視されていることもお構いなくこの世界でも我が物顔で暴れておりましたな…。単純な剛力だけの馬鹿なのか、それともその事実を知っていた上で何か企んでいるのでは?」

「確かにな…。この世界でも急遽とはいえ我々は監視を行っている、そしてそのまま暴れてくれた事は嘘を確証、真実に変えていく…。それはある意味嬉しい事なのか、あるいは…。何れにせよライトマサルの件も考慮して交戦は避けさせ積極的な工作も控えたが…。」

「下手に手を出せばかえって奴による被害が拡大する可能性があるということがライトマサル様の例で示されましたからな…。ただライトマサル様は常に転がっているであろうこんな可能性を示される為に死なれたのだろうかと時折考えてしまいます…。」

「下手に、か…。戦略の一つや二つ変更する必要性が出てきたな…。今の戦略だと第二第三のライトマサルを生み出しかねない。同じ戦略はもう奴には通用せんだろう。

どうやら我々はどうやら世界系一つ一つをきっちりと守らんとする事にこだわり過ぎてかえって本質を読み違えたのかもしれん。」

「どういう事ですか?」

「奴による犠牲の拡大を防ぐ為に世界系の一つや二つ、もしかしたらなのだがこの残りの世界系全てをあえて犠牲にしようと考えている、奴を誘い込み、葬り去る為の算段として。」

「ま、まさか…⁉︎」

「至高神様には申し訳ないが、下手に形式に囚われて真っ当な対策も打てぬまま、これ以上の奴による被害の拡大を許す訳には行かんのだ。

あくまでもこれは最悪の中の最悪の事態だ、まあそうならないように事が進めばいいのだが…。」

「もし奴が我々の算段を知り尽くしていた上で行動していたらと考えるとその考えも単なる狂気の沙汰とは言い切れるとは考えられませんね…。」

「切り札もだいぶ形になりつつあるが…。何れにせよ油断は出来ないな…。」

あまり描写されていなかった出来事なのだが、実は急遽とはいえ彼らは鋼鉄の世界系に侵入したリヴァイアサンごと海神智史を監視していた、なのに彼は何処か悟っているような相も変わらず不敵な余裕に満ちた態度を見せている、そんな彼の態度にベヒモス達は何処かに不気味さと不安を徐々に感じ始めていた、嘘がどんどん確信に変わって他の世界のリヴァイアサンに対する抵抗機運を十分に煽り、反リヴァイアサン連合軍を結成できる状況だというのに、だ。

 

「急遽設置したとはいえ光学迷彩を施した機雷のトラップ網も悉く突破されています。」

「それも抜け穴を使わず、正々堂々と突破したからな…。あくまでも奴に対する時間稼ぎ、抑止が主目的とはいえあの機雷は一つ一つが先の奴のもの程でないにせよ数多の世界系を一瞬で跡形も無く吹き飛ばせる威力を持っている。

それにあのウイルスも撃ち込んだ直後という上でこの結果なのだからな…。」

「奴があの化け物からの発展体とはいえ、あの化け物の製造過程をベースにして開発された機能停止プログラムを組み込んだ腫瘍型ウイルスに対する異常なまでの高い抗堪性を持っているとは…、予想されていた事とはいえ由々しき事態ですね…。奴に対する評価を修正する必要があります…。」

そんな彼らをさておきとして、一方その頃。

 

「何だかんだでドカンドカンうるさかったな。まあお前はいつもの様に進化しすぎてて何とも無いから言う事はそれだけだけど。」

ズイカク、私の元となった生命体の製造過程をベースとして開発された癌のような働きをするウイルスとやらを撃ち込まれたが、事前調査のお陰もあるとはいえ、これにすんなりと対処できたばかりか逆に分解吸収して更なる強化の礎にしてしまった。そういう事実が成り立っているからこそお前は余裕でこう言えるのだがな。

勿論、ナマモノをギュウギュウと詰め込んだ輸送船団もまんまトラップに突っ込ませてもいい程に堅牢にし過ぎたからナマモノも無事なのだが。

ナマモノをゴキゴキと詰め込んだ輸送船団という容れ物の群れを引き連れたーーというかこれらは智史が作り出して使役しているものなのだがーーリヴァイアサンは艦これの世界系の外に堂々と出現した、先に示したベヒモスの配下達が急遽敷設した機雷群を強行突破して。

機能停止仕様の腫瘍型ウイルスーー自分の元というべきモノから生み出されたーーを撃ち込まれた上でこれらに輸送船団諸共真っ向から接触した訳だが先に示した通り最早やり過ぎをとっくに通り越したレベルの自己の強化・進化や超広範囲の情報収集による高度な複合対処により易々とウイルスを無効化した上で機雷群を一隻の撃沈も許さずに先に示した強行突破を彼は実行してみせた。

ただし彼には全く効かなかったとはいっても、その腫瘍型ウイルスは只の駄作という事は全く決まってはいない。そのウイルスは『チート』と称される兵器や生物ーー具体例として上げるなら、アストラナガンやイデオン、ゴジラ、鎧モスラかーーの能力を易々と封じ、消し去って弱体化させる事が可能な恐るべき力を持つ代物なのだから…。

 

「さっき、ナマモノ達を艦これの世界に放り込むとか言ってたけど、あれってあのまま放り込むの?」

いいところを突くな、カザリ。

話題を変えるかのようにカザリが話し掛けてくる。

 

「そのまま放り込むのは丸々無策だ、今のままでは深海棲艦や艦娘共を積極的に狙ってくれるわけでは無い。第一こいつらは深海棲艦や艦娘の事を一つも知らない。

まあ元で生息していた世界が奴らと相対する世界では無いからこれは仕方ないのだが。

なので品種改良も兼ねた徹底的な調教を行う。」

「調教?というか彼らを洗脳しようと企んでる顔つきだね…。」

まあその通りだが。

智史はそう言い終えニヤリと笑うと指を鳴らした、と同時にナマモノ輸送艦群の中のありとあらゆる部屋の中で突如としてまるで蛇のような艶みを持つ青黒いウネウネとした触手が無数出現してナマモノやおふざけ兵器達にまずはじっくりと力強く締め上げるようにしてまとわりつく、そして触手は木の幹から枝が分かれるようにしてこれまた無数と分裂しナマモノやおふざけ兵器達の表皮を食い破り、また穴という穴から食い込むように侵入し中でまた分裂して彼らの体内を彼の都合のいいように侵食しながら根をどんどんと伸ばしていく。それに伴って青黒い侵食が木の根がどんどん伸びるようにーーまるで霧の艦隊のバイナルの模様だったーー彼らの表面に現れていった。

 

「グェェ、グェェェェェ!」

「ミギィィィィィィィィ!」

「そうだ、いいぞ…。もっと苦しめ、もがけ、喘げ…‼︎」

「キィィ、キィィィィィィ!」

「ナマモノという名前や記憶、プライドに縛られるお前達自身を、振り払い、破壊しろ…‼︎」

「グェェェェェ!」

「ウギィィィィィ!」

「そうだ、破壊しろ、何もかも…‼︎ただ単純に、破壊の為の力だけを求めるのだ…‼︎」

ナマモノ達はその侵食に対し苦悶と凄絶さに満ちた悲鳴を次々と上げていく、追い出そうにも今の、それ以上の凄まじい力で侵食され、体を彼のいいように蹂躙されていくのだから無理もない。

しかも悪趣味な事に彼はあえて凄まじい苦痛をじっくりと味わせる為に「意識」や「感覚」の侵食は後回しにして先に身体のありあらゆる部分の侵食を徹底しているのだ。

 

ーーズチュルルル!

「この侵食はお前達に対するフィニッシュだ…。あと一刺しで、お前達の全てが絶たれる…‼︎」

やがて身体のありあらゆる部分の侵食も終わった、それを示すかのように彼らの身体の至る所に木の根のように青黒いシミのように滲んだ侵食痕が痛々しく全身に現れている、そしてフィニッシュとして彼は「意識」と「感覚」の侵食を開始した、彼らの頭部に木の根のような侵食が伸びて更にえげつない事に中には目を突き破ってそこから触手がウニョウニョと伸びてまた別のところを食い破り侵食するという光景を現出したナマモノもいた。ナマモノ達は自分が自分で無くなっていく、「自分」というものが消滅していくという感覚に容赦無く恐怖させられていく。

 

「グェェェェェ…‼︎」

「ゴギィィィ…!」

「怖いか、この一撃で一生も、記憶も、何もかもが絶たれるのが、怖いか?

心配するな、もう迷うことは無い…。お前達の運命は、既に私の手の中にあるのだから…‼︎」

「コベッ、ゴベェェェ…。」

「ふふふ、それでもナマモノで在りたいか…。どうやらお前達は大事なことを忘れているようだな。ならばお前達ナマモノは何の為に生み出されたのか冥土の土産として教えてやろうか?

 

お前達はその創り主にナマモノそのまんまとして生きる為に生み出されたのではなく、破壊衝動をこの世に具現化し、破壊を撒き散らす為の道具ーー兵器として生み出されたのだ。

 

要するにお前達はナマモノである以前に兵器ーーすなわち破壊の為に生み出されたのだ。兵器の本質は破壊…、ナマモノというただただ下らんモノを維持する為ではない。兵器はありあらゆるモノ全てをただ破壊するだけにあるのみ。」

「ゴエ、ェェェェ…。」

ーーブシュッ!

 

「あ〜りゃりゃ…。こりゃ随分と酷いねぇ…。」

カザリはこの侵食、というよりは洗脳劇の一部始終を見ていつも通りに酷いなというスタンスも込めて言う、そんなカザリの反応に同意するかのように彼は呟く、

 

「こいつらは今、私の手に落ちた。」

と。

 

「さあ、ナマモノの改良も終わったし、地獄絵図に満ちた饗宴を始めるとしようか…。」

ーーオウミ、モンタナ、イオナ、ヤマト…。これから私の手により艦娘や深海棲艦に対して引き起こされる地獄絵図を、お前達はどう捉える?

艦娘、深海棲艦全てを『紛い物』と言い放ち罵り、破滅と絶望を与えるーー

それを今まさに行おうとしている前に、彼はふと前世では戦艦大和の姿を模した艦娘だったメンタルモデルオウミの事を思い出す、それを見たら彼女らはどう思うのだろうかと思考の海に耽ってしまう。

 

…少なくともいい思いはするまい、しかし当然の事ながら自分達と同じ世界の種族でもないが故に自分達の事でもない、当然怒りもするまい、どうやら彼女らの胸中に渦巻くのは複雑な気分だろう…。

 

彼はそう考えてしまう、それに伴い罪悪感も心の中の何処かで渦巻く。

しかし中途半端で物事を勝手に終わらせてしまう事は当然の事ながら彼が骨の髄まで忌み嫌い、もしそうしたらそれを上回る後悔に襲われてしまう出来事なのだ。

そのいい例がワンパンマンの世界での出来事であった、中途半端で終わった事は他の存在にしてみればある意味いい事だったが彼にしてみれば最初に決めた事を曲げられた所もあって強い後悔と自責が渦巻いていた。

彼はその罪悪感を意識しつつもそれに囚われないようにと行動を開始する、艦これの世界系の外に居たリヴァイアサンは侵略を開始するかのように艦これの世界系の壁を無理矢理と食い破って艦これの世界に堂々と侵入する。

 

「ア、アレハ一体…‼︎」

「忌々シイ人間ノ…、船デハナイ…‼︎」

驚いているか…、だがこっちは兵器を勝手に気取る貴様らを嬲り殺したくて仕方がない。

 

かくして侵略は開幕する、無数のナマモノ輸送艦が空を幾重にも埋め尽くすようにして出現する、太陽の光がそれによって遮られ暗雲も立ち込める。

 

「行け、偉大なるナマモノ達よ。お前達の優秀さと偉大さを勝手に『艦』を気取り奢る愚か者共に教育してやるのだ。」

 

「“ナ、ナンダコイツラハ⁉︎”」

「“艦娘…、デハナイ…‼︎”」

ーーキュルルルルルル‼︎

ーーシュボァァァァン!

ーーシュボァァァァン!

彼による魔改造、いや洗脳を施されたナマモノやおふざけ兵器達が彼の号令とともに開放されたナマモノ輸送艦のハッチからワラワラと飛び出してくる、目の前にいる哀れな生贄を食い散らして飢えを満たさんと言わんばかりに。

深海棲艦達は今まで見た事もないものが現れたのを見て驚くも、そんな事など今や彼の立派な僕となったナマモノやおふざけ兵器達には御構い無し。

彼の敵意や憎悪を代弁し、虫ケラを食い散らし踏み散らすかのように彼等は無慈悲なまでの猛攻を加え始める、波動砲や重力砲、特殊弾頭ミサイル、量子魚雷、超音速魚雷といった超高威力兵器が彼等に向けて放たれ凄まじい速度で犠牲者を量産していく。彼等はすぐに彼等を敵対者と理解した深海棲艦は16インチ、18インチ、20インチ砲などで慌てて抵抗を開始するも反対に更なる殺意を煽りたてるだけだった。

損害?

量子波動砲は兎も角として波動砲や重力砲、光子榴弾砲、100センチ砲弾、特殊弾頭ミサイルの嵐にもピンピンと耐えられるような唯でさえ高い防御力を洗脳も兼ねた彼の魔改造で更に高められた彼等に16インチ砲、18インチ砲やこの世界最大の砲である20インチ砲を雨霰と叩き込んでもまともな損害を果たして与えられるのだろうか?精々焼け石に水程度だろう。

そもそも投入された彼等の数は物凄い数ーーまさに地球を侵略して滅ぼさんと言わんばかりに海という海、そして空までも埋め尽くすようだった、実際に彼はその世界の人類を艦娘と深海棲艦諸共一匹残さず根絶やしにせんと目論んでいたーーなのだ、少なくとも自分達深海棲艦の数より遥かに多い。

 

「“カ、数ガ多スギル‼︎”」

「“ダメダ、主砲ヤ魚雷モ効カナイ、ギッ、ギャァァァァ‼︎”」

「“カ、艦載機ハドウシテイル⁉︎”」

「“飛行場姫様ヤ空母棲姫様達ガ艦載機ヲ発進サセタ筈ダガ…。”」

 

まるで生物みたいな艦載機共か。出たら出たで一発で殺すのではなくリンゴの皮を剥くようにじっくりじっくりと追い詰め、母体諸共食い物にしてやれ。まあ艦娘の艦載機『擬き』よりは気味悪さが幾分かマシだがな。何れにせよ主人の為にこいつらは行動してるだろうからそれに則り一匹残らずぶち殺す気で行け。

飛行場姫や空母棲姫達が艦載機を発進させて大海や大空を自在に跋扈し暴れまくるナマモノ達を撃退しようとしたものの結局は何も変わらず、むしろ逆効果だった、圧倒的な量質差にモノを言わせて攻撃を悉く弾くわ躱すわ、吸収するわの一方的なやりたい放題で潰した後に艦載機達を逆追撃し嬲るのかのように喰らい始める、艦載機達は母艦達を守るどころか生き残る事に必死な有様で有った。

彼らは自分達の艦載機が為すすべも無く蹴散らされるのを見て歯噛みする、しかしそれを愉しむかのように気を良くしたナマモノ達はさらなる凶行に打って出る。

 

「“ギャァァァァ!来ルナ、近ヅクナァァァァァ!”」

「“痛イ、ヤメロォォォォ!”」

 

ーーザシュッ!

ーーブチブチブチィッ!

「“ヒ、飛行場姫様ガ…‼︎”」

「戦艦棲姫様モ、次々ト…‼︎」

あるナマモノは他のナマモノと協力し二匹掛で噛みつき、艤装という飾り物諸共引き千切り、またあるナマモノは口に咥えた深海棲艦を他のナマモノに八つ裂きにさせてしまう。いずれも深海棲艦の内臓や体液が無茶苦茶に飛び散るというとんでもなく惨たらしい殺し方だった。

 

ーー単純にぶっ殺すのは簡単だが何処かつまらない。どうせなら殺すのも楽しく。

 

これまでの世界でも散々に破壊と恐怖をばら撒く元凶となったそんな智史の性格が魔改造による洗脳によってナマモノ達に染み付いたのかもしれない。

 

 

「“逃ゲロ、コイツラ化ケ物ダ!勝チ目ガ無イ‼︎”」

「逃げる?一体何処が逃げるに相応しい安全な場所だというのだ、この星の至る所でこれと同じ光景が広がっているのに?

この星の外へと出ない限りお前達の安全な逃げ場は何処にも無いぞ、この星のありあらゆるもの殲滅して好きなように作り変えるからな。」

さて、この星の外に出る手段がないお前達はどうやってこの星の外へと出るのかな?もし有ったら教えてもらいたいものだ、何回調べ尽くしてもそんな方法が未だに見つかってないのでな。

おっと、背水の陣、窮鼠猫を噛むといったな。後がないほどに追い詰められた弱者が強者に逆襲してくる事例がある。それを見て徹底して弄ぶのも楽しいが、一応念を入れておく事に越した事は無い。

 

勝たなければ誰かの養分。

即ち敗者は勝者の栄養として食われる。

この世界だけとはいえ、深海棲艦は確かに強大な敵ではあった。何故なら彼らは艦娘というものを除き、この世界の最高水準の現代兵器ですらやりあう事が困難な程の戦闘能力を持った生命体だった。

だが相手はそれ以上の力、火力で自分達を一方的に容赦無く虐殺し、自分達を次々と食い物にして食い散らしていく。艦娘ですらこんな悪夢のような出来事は引き起こさなかったはずだ、敢えて『引き起こせない』ではなく『引き起こさない』と書いたのには裏事情があるのだが。

ナマモノ達に餌として一方的に食い散らされる深海棲艦の悲鳴と阿鼻叫喚が轟く、大小問わず世界の海の各地の海底に存在する巣穴に逃げ込もうにもそこも安全な場所ではない、波動砲やレールガンといった超高火力兵器の一閃で一瞬で根刮ぎ奥深くまで消し飛ばされてしまう、それを見た他の深海棲艦は恐慌状態に陥り、今更逃げるに値する安全な場所が無いというのに只々狂乱して逃げ惑うだけであった。

 

「ふっふっふ、奴らが八つ裂きにされ内臓が飛び散るという背筋に寒気が走るような光景も、やはり決定的な憎悪が有ると無いのと、それとその悪夢を己の手でやるかやらないかでは味が格別に違う。」

ナマモノやおふざけ兵器達による凄まじい殺戮劇による阿鼻叫喚の雰囲気とは対照的な場所ーーリヴァイアサンの艦橋でゆるりと海風に吹かれながら智史は楽しそうにグラスに注いだブドウのワインを飲みながら見つめる、そんな風に彼らの苦悶を楽しそうに嗤う彼に一矢でも報いんと突っ込んでくる深海棲艦がいた、例えその後討ち取られても、この世界を侵略した張本人たる彼に一発でも報いないと気が済まないとばかりに。

 

「“ユルサナイ、ユルサナイィィィィ‼︎”」

「ほう…、深海双子棲姫か。お前も人間達の愚かな行いの為に産まれた者の一人だったな。だがその愚かな行いに加担するのならば一片も容赦はせぬ。」

「“ナ、ナニ⁉︎マサカ…⁉︎”」

「ふっ、事前に調べていたとはいえあくまでも予測だった物事、この様子だと真実に近くなったようだな…。」

智史はナマモノ達に敢えて自分がいる場所ーーリヴァイアサンの艦橋ーーに至る道を開かせた、深海双子棲姫はそこを一直線に駆け抜け智史の元へ到達する。

彼女は既に片方を失って傷まみれだった、同様に多くの仲間も失っている、だからこそ先述のような様相なのだが。

 

「そして『許さない』と喚いていたようだが、行いに加担している以上、一体何を許せないのだ?私にはさっぱり分からん。」

「“オノレェェェェ‼︎”」

深海双子棲姫は何かが吹っ切れたのか突っ込んでくる、しかし智史はあっさりと限界を見抜いていた、彼は敢えて攻撃を受け流しじっくり追い詰めるように残った艤装を、急所をすれ違い様に狙っていく、航空機といった飛び道具は既に艦載機が潰されるなどして使い物にならなくなっていたので彼女には突っ込むという選択肢しか無かったのだがこの様では言うまでもない。

 

ーーやはりこいつらには、艦娘共とそのバックと深いコネがあるぞ。

しかしもしそうなら艦娘共がゴロゴロと深海棲艦の救援に向かっているはず、そうなると彼らを使っている、いや逆に使われている提督達に何か裏があると疑われる可能性がある。

『何で敵である筈の深海棲艦を守りに出撃するんだ?』

と。

そこまでストレートに真相をバラす程にカラクリが正直に出来ていないのは確かなのだが、果たしてどうなるのかな?

 

ーードゴッ!

「ゴェッ!」

ーーズガッ!

「アガッ!」

ーーゴキッ!

ーービチャッ!

 

「うむ?果たしてこれは情報精査による予測をさらに真実に近づけるものなのか?やっぱり何か隠し事がある事は確かなのだが。」

「それ、何だ?何かの識別タグか、送受信機か?」

「さっきのヤツをボコボコにしてバラバラに解体した際に出てきたものだ。何らかのデータと一緒に隠滅しようとしたみたいだが…。」

かくして彼の手により深海双子棲姫はグロッキーどころか徹底的にバラバラにされトドメに首を引き抜かれて完黙した、何かを隠滅しようと隠蔽プログラムが作動したみたいだが一つも隠滅する前にプログラムが演算により強制停止されたのでデータはまるまる残っていた、とはいっても完黙した事はデータ保存記憶に関する機構の維持機能の停止と同義である以上、いつデータが消え去っても可笑しくは無い。

 

「艦橋があいつをバラバラにした際の血で汚れた。そのままはみっともない。特にこれと急ぐ必要もないから折角だ、そこを念入りに清掃してしまえ。進化しすぎていても体を動かさないのはかったるい。」

「そうね、折角だし気分転換としてやるのも悪くないわ。」

深海双子棲姫が完黙したのを最後に戦況の趨勢は決した、もう既に五体満足に動いている深海棲艦はいない、皆ナマモノ達に喰われるか、巣穴共々吹っ飛ばされるか、または生け捕りにされたかだ。まあ彼の性格上生け捕りよりもとっとと死んだ方がまだマシかもしれないが。

さて、彼がその首を腐敗防止液で満たした保存容器に入れると、彼らは体液や肉片でぐちゃぐちゃになったリヴァイアサンの艦橋を律義に清掃する、彼にそれらを瞬時に消し去れる能力があるといえよ、前の世界で染み付いた習慣の影響からか、やっぱり自分自身でもあり自分達の家でもあるリヴァイアサンをきちんと自分の手で直接清掃しないとどうも気が済まないらしい。

 

「さて、さっきぶっ殺したヤツから取り出した脳みそとICチップのような何かを調べてみるとするか。(隠蔽プログラムを無効化し、そもそもそれ以前にその陰謀の殆どを紙に穴が開くほどに把握し尽くしたとはいえ、間違って消してしまうのも面白くない。)もしこれと同じものがひっ捕らえた深海棲艦共にまだあるのならばそのまま消化せずに吐き出せ。」

「「「グワッ!」」」

よおし、この世界の深海棲艦や艦娘、そして人間共を新たな生態系の肥やしにする為の施設、強いては人類文明全てを破壊し尽くす根源となる『コロシアム』の建造を始めるとしますか。

アホなこいつらに振りかけるものがあったらご飯に振りかけた方がマシだからな。

艦橋の掃除も終わり、智史はデータの可視化にいよいよと着手する、そして同時に指を鳴らして今や完全な廃墟と化した世界各地の海底の深海棲艦の巣穴の上空に巨大なワープホールを生成するとそこから無数の工事用機械、海底重機やそれらをバックで運用する為の最早戦略工事基地というべき超大型のメガフロートを複数転移出現させる、それが終わるや否や先述した深海棲艦の巣穴だった場所を大改装し始める、圧倒的な物量にモノを言わせた超大規模工事はそれに相応しい圧倒的な迫力と重みを伴いながら信じがたいペースで進んでいく、青々と綺麗に広がる太平洋の洋上にモンサンミッシェルのような、軍艦のような様相を呈しながら自然美も交えたとても大きな島がみるみるうちに出来上がっていく。

 

「これが、『コロシアム』…。凄えの相変わらず作るなぁ…。」

「でも理由が無いわけではない。君に改造されたナマモノ達に捕らえられた彼女達、深海棲艦っていうんだっけ?恐らく彼女達に関する事でこれを創ったんでしょ?」

「その通り。あと彼女らと深い関係がある艦娘や人間達もここで新たな世界の為の肥やしにする。」

「人間?まさか、何か陰謀でもあると?」

「そのまさかだ。さっきのやつから得られたデータが私の中の予測を確証へと変えてくれた。これを付けてくれ。」

そして彼は解析されたデータを元に作成されたVRーー直訳すると仮想現実ーー映像を映す為のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を複数生成するとそれを付けるようにと促した、琴乃達はそれに促されるようにしてHMDを付ける。

 

 

仮想現実映像をHMDで観ている智史達の様子ーー

 

「こ、これは…!」

「培養工場だ。深海棲艦の素体となるパーツを構成する役割を果たす為の製造ラインだろう。」

「何か、データを見つめている人達がいる…。技術者かしら?」

「何か偉そうな奴が私達の方を見つめて話しているぞ…。」

「ズイカク、落ち着け。自分自身を深海棲艦やそれに関係する者達自身としての記憶を辿っているだけに過ぎない。」

「何か作られてる…。新たな巨大な繁殖用、修理用の施設の材料なのかな、これは…。もし単に各地の地下にある工場から深海棲艦を出してるだけだったら何れ感づかれるかもしれないからね…。」

「欲深い人間達が造った地下工場で深海棲艦は生み出された、その真実を隠す為の撹乱、隠蔽も兼ねているのだろう。」

「もし彼らが自然発生したとしたら何で人類を根こそぎ滅ぼそうと考えた際に陸地を襲わないのかなぁ?海から人類を駆逐しても人類は消えないわけじゃないのに。進化して陸に上陸してくる可能性さえあるのに。」

「進化、か。今は『海』という世界の中でしか生きられないとしても進化する力があったらその欠点を何れ克服して極端な場合、人類も滅ぼしかねない。何れにせよこれは深海棲艦が欲深い人間達のコントロール下に徹底して置かれているという事実をより補強しかねないな。」

「そして一部には撃破すると艦娘に変わる深海棲艦もいるわ。しかも艦娘も深海棲艦と同じくなるべく共通化された上で培養されて製造されている、さっき智史くんが取り出したものも埋め込まれてるわ…。これらから推測するに艦娘も深海棲艦と同じ素体から製造されたのかしら?」

「そうかもな。案外互換性が効くような造りなのかもしれん。その逆もまた然りなのだが。

生い立ちがそんな有様だというのに『誰1人沈むことなく深海棲艦を殲滅・撃沈して、悲しく辛い転生ラッシュから深海棲艦化した艦娘達を解放する』だと?そんな綺麗文句、こんなアンポンタンな事実を隠すのに相応しいからこそ有るのではないのか?

第一、深海棲艦が本当に居なくなったらそれに対抗しうる艦娘というモノの価値、強いては奴らとの戦闘に関する収益が滅失するぞ?深海棲艦という敵がいるから戦争起こる、戦争は勝つ為、守る為には資材をたくさん食う、でも勝たなきゃダメ、まるでホールドアップ問題によく見かけられるような必然性のお陰でじゃんじゃんと利益が得られるというのに。

そんな美味しい収益源を欲深い奴らが『深海棲艦が絶滅しました、それでおしまいです』って感じで簡単に手放したいと思うか?」

「手放したくない理由でも何かあるというの?」

「あるな。欲深い奴らも、それに操られている奴らもそうでない奴らも皆、貨幣経済による秩序が成り立っている限りは生きて栄える為には良くも悪くも利益を、儲けを得なければならないのさ。

少なくとも奴らはどちらかにパワーバランスが偏らないように、使われている男共を飽きさせないように、しかし真相を悟らせないようにと新種の深海棲艦を造ったり、新種の艦娘を投入するなどと匙加減をして延々と利益を生み出すという方法で儲けを得ているが。

だがそんなどす黒い陰謀に態々手を染めなくても真っ当な方法で利益、儲けを得て生きている奴もうようよといる。あんな欲深い連中と同じ環境下でも真っ当に生きている奴らがいる限り、『生きていく為には仕方がなくやったんだ』『環境が悪いからこうせざるを得なかったんだ』と連中の罪を勝手に別の所に転嫁し、言い訳するなどと許されるか?私は絶対に許さないが。

まあ今の本人がそうでなくともその子孫が第二第三の欲深い連中になりかねないから人類滅殺はもう確定だがな。」

「やっぱりそう出ましたか…。まああまりにも筋が通り過ぎてるから止めようがないけれど。」

「何れにせよ艦娘達が男の人達が好き好むような格好を何故するのか、深海棲艦が艦娘に何故近いのかがこれではっきりとしたわね。滅ぼしてももう心が痛まないほどに醜い真相だけど。」

映像は随分と残酷な内容だったが深海棲艦に関する彼らの記憶や事実に沿って作成されているので嘘っぱちの空想事など一つもない。もし嘘っぱちの空想事ばかりだったらーーいやそもそも嘘をつく事自体が彼にしてみれば苦痛かつ忌み嫌うべき物事の一つなのだからじっくり侵略しようとも微塵も考えないだろう、まあ一発で滅ぼされることはあり得るが。

それに今に対して隠蔽は出来ても過去に対しては完全な隠蔽など出来もしなかった、何故なら過去に逆行できるタイムマシンなど彼らは持っておらず、そのお陰で過去の記録を改竄出来なかったからだ、改竄したらしたで別の問題が浮上してくるが。

智史は今の情報や人間の記憶だけでなくこれより過去の時系列もきっちりと調べ上げていたのだが上記の理由も手伝ってこれは事実であるという強い確証を得ることが出来た。

 

「おっと、そろそろ楽しいエサ付けの時間だ。深海棲艦の阿鼻叫喚が轟くぞ…。」

そうこうしているうちにエサ付けーー実態は捕縛した深海棲艦の捕食解体ショーなのだがーーの準備が整ったようだ、それを知った彼はニンマリと笑うと『コロシアム』の特等席へと琴乃達も一緒に連れていくのだった。

 

「これが、特等席か?茶会でもしたいのか?」

「そこで抹茶や和菓子を食いながらエサ付けを鑑賞するのだよ。単に眺めて騒ぐだけはどうも虚しくてつまらんからな。」

「窓から見える会場と随分と対照的な造りだけど何も芸術的…。だけどやる事はこれまた対照的で血生臭い…悪趣味な事で。」

ズイカクの言葉通り特等席から見える会場の風景はまるで茶室をする和室のような雅な雰囲気のものとは対照的で何処か歴史的風味のある無機質な、まるで旧ローマ帝国のコロッセオのような雰囲気がふんだんに出ていた。そして試合場にも受け取れる広い場所にはベルトコンベアが搬出口からエサ貯め場まで真っ直ぐに伸びていた、それとエサ貯め場を囲むようにしてナマモノ達がぎゅうぎゅうと詰め寄せていた。

 

「始まったぞ。」

 

ーーゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「“ナ、ナンダ…‼︎”」

先の戦いで捕縛された深海棲艦が満足に動けない満身創痍のままベルトコンベアに乗せられて続々とナマモノ達の目の前へと運ばれてくる、そして音楽ーー『アヒルのテーマ』が流れ始めた。

 

「“ギャァァァァ!”」

「“イヤァァァァァ‼︎”」

「グワッ!」

ーーズシャッ!

ーーベキャッ!

 

「“ハナゼェェェェ‼︎”」

「ミィッ!」

ーーミチャッ!

 

『アヒルのテーマ』は曲自体は随分と陽気で抜けた感じなのだがナマモノ兵器の見た目の抜けた感じに反したガチで無茶苦茶な強さから一種のトラウマBGMとしての側面も持ち合わせていた。

そして今繰り広げられているエサ付けという名の深海棲艦の一方的な殺戮はこの曲の陽気な雰囲気に原作とは別の意味で随分と反している為に新たなトラウマを現出していく、しかもやっつけ仕事でありながら機械的なベルトコンベア作業のように深海棲艦がいとも簡単に解体・捕食・処理されていくプロセスがバックにあるのでそれがトラウマをより強く色付けしていく。

そしてナマモノ達は捕食をしながらお尻からプリプリと何かを出し始める、それは卵だった、卵は新たなナマモノとして孵化する、そのナマモノ達は他のナマモノ達の深海棲艦の残り物や食べ残しに食らいつきみるみると成長していく。

それでも彼らを食い尽くしても残った、というかあえて残したーー艤装といったモノはおふざけ兵器達の新たな製造用素材として全て回された。

勿論、ICチップのようなものは全て吐き出されて分別されていた、地下工場で作られてないモノも混じってはいたものの全てに共通していた事は欲深い人間達の指示を忠実に聞かせる為にこれらは深海棲艦の中に埋め込まれていたという事実だった。

やがてエサ付けの為の深海棲艦がほぼ底をついた、それに伴いエサ付けも終わる、エサ付けで増えたナマモノ達は揚々と会場を出ていく、新たなエサとする艦娘、人間達を捕らえる為に。

 

「グワグワ!」

「どうした?何かあったのか?」

「グェッ!グェッ!」

「ほう、なるほど…。ますます面白い事になって来たぞ…。」

エサとする獲物を捕獲する為に出ていくナマモノ達と入れ替わって親アヒルが一匹、智史達の間近に近づき報告をしに来た、言葉は一見人間の言葉ではない為に解読不能、理解不能な挙動に見えるものの彼はその声のトーンと内部の思考回路も一緒に見て真意を一瞬で理解しニヤリと笑う。

 

「一体、何って?」

「“艦娘達が先程の侵略を見て不審がり、自分達の基地周辺の偵察をおっ始めたらしい、いずれ滅ぼすとはいえ、捕まえていいのか”と言っていた。」

「なるほどね…。さっき映された映像の内容、彼女達はどう受け取るのかしら。」

「受け入れたくないあまりに虚構だと言い張るかもしれないな、そんな都合の悪い物など知らされていないから。例えそれが事実であろうとも。」

「そうね、都合よく知らないようにされているから受け入れたくないのかもしれないわね…。」

琴乃とそう会話しながら彼はその親アヒルに対し先程の艦娘達を捕まえてここに連れてこいと命じた、親アヒルは了解したように鳴くとその場を立ち去っていく。程なくしてナマモノ達に捕獲され檻に入れられた艦娘達が連行されて来た。

 

「“イ、一体何者ダ、オマエタチハ…‼︎”」

「私達か?ああ、侵略者御一行だよ。お前は確か戦艦水鬼だったな?」

「“ケ、ケダモノメ、クタバレ‼︎”」

「くたばる?お前が装備している砲は確か20インチ砲だったな、その主砲で私をくたばらせてくれたら嬉しいなあ、何せ私は死のうとしていないのだから。」

 

ーーズガァン!

ーーズガァン!

 

「“ナ、ナニィ…‼︎”」

「どうした?それで終わりか?やはり、この程度か。」

 

ーーガッ!

 

「“ウゲッ、ハナセェェ‼︎”」

「離す?いいや離さない。お前にはまだ利用価値があるのだから。」

その際に彼は敢えて生かしておいた戦艦水鬼を監禁から解くや否や20インチ砲という名の兵器をボカボカと打ち込まれても全て吸収して全く意に介さず、そのまま彼女の艤装を掴み嬉しそうにズリズリと引きずり艦娘達を入れた檻が置かれた場所へと歩いていくーー

 

 

「一体、何が起きたんだ…‼︎」

「分からない、でも深海棲艦が一匹も見つからないのは確かだわ…。」

さて、ナマモノ達により捕まった艦娘達はというと少し、というか大いに不安げな気分であった、何せ深海棲艦という『敵』しか居なかった海に突如として未知の存在が現れ、自分達を攻撃し深海双子棲姫すら上回る圧倒的な力で叩きのめした挙句に彼らにひっ捕らえられてしまったのだから。

そこへ戦艦水鬼をズリズリと引き摺りって彼と琴乃達が現れる、そして彼は艦娘達に対して口を開き始める。

 

「『はじめまして』とまずは言っておこうか。艦娘よ。」

「誰だ、お前は…。まさか、あちこちで深海棲艦が何者かに襲撃されるという事件の黒幕か…!」

「ああその通り。私が黒幕だ。どうも気に入らぬ事柄があったのでなあ。まず一つ尋ねてみよう、お前達は、“何者”なのだ?」

「な、何ふざけて言ってるんですか‼︎私達は艦娘です!貴方こそ何者なんですか⁉︎」

「艦娘…。先程口に出したそんな呼称を私は聞きたかったのではない。」

「だったら一体何⁉︎」

「私は、お前達の存在定義は一体何なのかと聞きたかった。」

「な、何ですって⁉︎」

「私はこう思う、『意図的に仕組まれたとはいえ、お前達は史実に存在した艦を勝手に解釈し、あたかも自分自身が本物そのものであると気取り装っている紛い物以下でしかないパーツ』と。」

彼は檻に入れられた艦娘達に自分の考えを告げた、内容は彼の艦娘達に対する敵意が存分に含まれていたとはいえ殆どが自分達が実際に見た事実である以上非常に本質的なものだった。

 

「な、何のつもりなのよ…‼︎どうせ私達をいいように罵り、勝手に自分が正しいと気取っているくせに‼︎」

「ああその通りだ。その行動理由の正誤に関わらず、何かしら理由を付け自分を正当化しなければこんな事など出来ぬ。所詮私はそうする事でしか自分を満たせない存在だ。

尤も、その理由の正誤は別の話だがな…。」

「正誤…⁉︎一体何なんだ⁉︎」

「ふむ、知らないようだな。それを質問で明らかにしてやる。

まず、お前達は史実に存在した艦を模した装飾品を身につけておきながら、何故男を好き好んで誑かすような格好をしているのだ?単に深海棲艦と戦うのならば装飾品はまだしもそんな格好は必要ない。兵器は効率的な破壊を極限まで追求したデザインを具現化したモノだ、そんな格好、破壊の為でも必要と?

『史実』を模しながら男を誑かすような格好をして男共の支配欲を満たすようにして誘惑し、富を搾り取るためのシステムに組み込む。

それしかこの格好の必要性が分からん。他に何か必要性でも有るのか?」

「確かにその言葉通り私達は多くの男を誑かして提督にした、そのせいで私達に富の全てを投資しすぎるあまりに破産し没落してしまった提督もいるわ‼︎そこまで行かなくても私達に富を投資している提督もいる…。でもそんな格好をするのは深海棲艦に対する対策の為よ!」

それ見ろ。大当たりだ。

「深海棲艦への対策、か。真実を都合よく隠して色付けするのに相応しい大義名分だなあ…。仮に裏がなくてもお前達を生み出した組織をより盤石にし、肥え太らせる為の口実には十分すぎる。

さて、それ以外を考えてみよう、深海棲艦はお前達のその格好を見て自ずと積極的に隙を晒したとでも?深海棲艦は雄まみれか?」

ーー無い。

そんな事例など彼女らは1回も見ていなかった。もしそんな事例があったとしたらそれは彼女ら艦娘にしてみれば絶好の好機だろう、しかし仮にあったとしてもそんな事例を突いて勝利したという時点で敵である深海棲艦側はその事例は自分達の弱点であると自覚し改善を試みその事例を利用した戦術はいずれ効かなくなるだろう。

深海棲艦とて生物なのだ、彼らはアホでもマゾヒストの集団でもない。

ただし艦娘と深海棲艦が裏での繋がりも何も無く、まともに対立していたらという事実が成り立っていたとしたらなのだが。

 

「それか身を守るにも値せぬモノばかりでも身を守る術や余裕を確保できていたとでもいうのか?ふむ、そうなのか確かめてみよう。

さて、戦艦水鬼よ。跡形も無く死んで貰おう、死と引き換えにお前は立派な役目を得られるのだからな。」

「ヤ、ヤメロ、ケダモノメ‼︎」

智史はそう言い終えるとズルズルと引きずるようにして連れて来た戦艦水鬼を苦しみながら死んで行くのを愉しむかのような目つきで無理矢理と鉈で引き千切って解体してしまう、戦艦水鬼だったモノが、彼女の肉塊が、体液が、苦痛に満ちた悲鳴と共にズタズタに飛び散る。彼のその周囲にあった石畳がそれらで染め尽くされて彼がしたことの凄惨さを暗に物語る。

そして彼は水鬼のモノだった20インチ主砲を片手に取ると艦娘の一人に向けてそれを撃ち込んだ、着弾と同時に凄まじい爆風が生じる。

程なくして爆風は晴れた、そこには服が破け、艤装が半壊しながらも四肢はおろか、傷一つさえ付いていないーー強いて言うなら汚れが付いた程度ーー生肌を晒した艦娘の姿があった。

 

「やはり、数発撃ち込んだだけでニミッツ級のような大型艦をスクラップにするようなこれを撃ち込んで『撃沈』されても粉微塵にはならないか。素晴らしいな。」

「当たり前じゃない!そうでなきゃ深海棲艦なんか倒せないんだから!」

「そう、それで当然だ。何故ならこの世界で最高の技術を用いた素材がお前達に使われているからだ。

そしてその『当たり前』が成り立っていなければ大型空母を紙屑のように引き裂くような砲弾の一つ二つ、食らっただけでこんな布切れや飾り物が破ける程度の『撃沈』で済むどころか肉体四肢も形留めず木っ端微塵という事例が生ずるからな。」

 

ーードシャ!

 

「こ、これは…‼︎」

「分かるか?これは誰が作ったのかが。さっきバラバラにした戦艦水鬼や他の深海棲艦からも嫌という程と出て来たのだがな。お前達にも埋め込まれてるぞ?」

「最高の技術、チップ…。一体、何を言いたい訳⁉︎」

「そう考えるだろうな。何故ならお前達はその事を都合よく覚えていないようにと欲深い人間達に道具の一つとしてコントロールされていたのだから。」

「道具…。確かに私達は提督や各鎮守府や背後の組織の指示に従っている、その面だけ言えばそうかもしれないけど…。」

「そして深海棲艦は何故鎮守府を積極的に攻撃しようとしない?もしお前達艦娘が深海棲艦から見て本当の脅威ならそのバックを支える組織もろとも積極的に襲撃して徐々に壊滅状態に追い込んでいく筈だ。」

「で、でも深海棲艦が鎮守府を襲ってきた事はあるわ!」

「それは『襲ってきた』フリでしかない。何故一つも死人を出す事も、一つの被害も出す事も許さずに提督同士の大した連携も無いような状態で各所に散らばった少ない兵力でマトモに撃退できている?絶滅するまでに巣穴諸共狩り尽くした深海棲艦の数は優に一千万は下らん。仮に実力拮抗でも他を無視して戦力を一箇所に大量に集中すればお前達の戦線は各個撃破などで食い破れぬ事はなく、大型艦や小型艦を真っ二つに出来るような兵器を数多揃えている以上、鎮守府の一つや二つは破壊出来ない訳ではない。

深海双子棲姫やこれらのチップから取り出したデータを元にその答えを導き出したのだがな。」

智史はそう吐き終えると深海双子棲姫や他の深海棲艦から入手したデータを元にして作成した映像を映した、先述した通りその内容は彼女ら艦娘にしてみれば信じがたく、受け入れ難い内容だった。

 

「こ、これが真実なの…⁉︎」

「その通り。これが真実だ。」

「深海棲艦が私達では倒せない程強大だったのは解るけど…、まさか、深海棲艦が、同じ組織の元で作られていたなんて…!」

「私達や深海棲艦は、本当に組織に提督達や他の人達から金を搾り取らせる為に生み出された、だったら、今までの戦いは何だったんですか…⁉︎」

「『組織の為の富を効率よく無知な愚民達から搾り取る為の手段だ』と私は答えておこう。」

「でも富を搾り取る為の口実たる深海棲艦は絶滅した…、だったら、あなたの目的は…⁉︎」

「まさか、気に入らないからとみんな滅ぼす気か‼︎」

「大正解。みんな滅ぼして新たな世界の礎としてやる。」

艦娘の一人の極論に近い問いに智史はそう平然と答える。

 

「何故、私達をそこまで憎むんですか、私達が、あなたに、何か酷い事でもしたというんですか…⁉︎」

「酷い事?もうとっくにしている。いいように利用されていたとはいえ貴様等はそのカラクリに加担していた、その事実だけで既に十分だ。

『悪党に都合よく利用されていたから無罪放免してください』だと?ほざくな。立派な責任逃れだ。」

その答えに艦娘の一人が震えながら疑問を投げかけた、しかしその内容が最早立派な責任逃れにしか聞こえなかった彼は静かに、しかし凄まじさを込めた怒りを露わにする。

 

「何より貴様等を構成するコンセプトには今にも反吐が出そうだ、『男の欲望を満たすような見た目やイメージ、雰囲気を作ってゴリ押しすればどうにかなる、売れる』だと?それ以外は蔑ろにしてもいいのか。本当に素晴らしいな、現に貴様等の中身がスカスカのパッパラッパーだというのに。

許せるか、そんなもの。私はキモオタやロリコンといった変態や思考停止のアホ共などと同義な存在にされたくない。」

「でもそうでない提督もいる!だったらみんな滅ぼさなくてもいいじゃないですか!みんな滅ぼす以外にも何か解決策があるはずです!」

「確かにな。だが常に正しい選択肢を選ばなければいけない道理など貴様等にも、私にも無い。仮に滅ぼさない事が正しい選択肢だとしても。それに正しくない選択肢でも適応、対処、進化すれば全く問題なかろう?ならば後は自分の納得する選択肢を選ぶだけだ。

消してやる、跡形もなく。殺れ。」

「「グワッ!」」

智史は怒りに満ちた罵言を全て吐き終えると指を鳴らして彼女等に後ろを向けてその場を立ち去っていく。

立ち去っていく彼の後ろで艦娘達の凄まじい悲鳴と許しを願う声、ナマモノ達の怒声と罵る声、そして食いちぎられる音、臓腑が飛び散る音が入り混じっていた。

 

「智史くん、ちょっと聞いていい?」

「何だ?」

「ナマモノ達は兵器だ、兵器は破壊の為に存在するって言ってたけど…。最終的にはナマモノを中心とした新たな世界を構築する結末にしちゃってる以上、ちょっと当てはまりにくいんじゃないのかな?仮にあの子達が破壊の為に存在していたら何もかも残らないんじゃ…。」

「『全てを破壊する』と一瞬、考えてしまったのか?」

「そうね、さっきの言葉、全て破壊してやるとも捉えきれなくもなかったわ。」

「そうか、私はあくまでもこの世界の人類、艦娘、深海棲艦全てを破壊せよと彼等に指示を出したのだが、この後の結末の内容を考えると彼等が『兵器』ではなく『動物』になってしまう事に少し笑ってしまう。すまん。」

「まあ『兵器』か『動物』どちらでないにせよ、襲われる側は災難だけどな…。」

そして艦娘達への凄惨たる仕打ちを終えた後、リヴァイアサンへの帰路の途中、琴乃が「このままだとナマモノ達は『兵器』ではなくなるのではないのか」と問いかけてきた。この問いに智史は少し苦笑する、なにせ今からやろうとしている事は短期的には『兵器』の定義を満たすものの人類や艦娘達が絶滅した後、つまり最終的にはその定義を満たさなくなってしまう事だったからだ。まあいつまでもその定義を満たし続けようとしたらある意味詰まらないのだが。

 

さてと、ここからが世界再生の幕開けだ。人類よ、艦娘よ、覚悟するといい。

智史はそう心の中で呟くと組織の本部ーー横須賀軍港の方を睨みつけるように見つめた、リヴァイアサンはゆっくりと進路を横須賀に取る。

既にエサ付けの対象は根こそぎ絶滅した深海棲艦ではなく、人間と艦娘達に向けられていた、ナマモノやおふざけ兵器達は積極的に彼等がいる場所という場所を積極的に襲撃し根こそぎ抉り飛ばして徹底した破壊をばら撒いていく、『自分達は兵器だ、兵器は破壊のために生み出された』という定義をとことん言わんばかりに。各所に建設されたコロシアム、そして新たに陸地の各所に簡易版コロシアムとして建設されたナマモノ達の巣に先の無慈悲なまでの破壊の嵐を生き残った彼等はナマモノ達に捕らえられて運び込まれる、そしてそこからは彼等の怨嗟と断末魔が延々と響き渡り、新たなナマモノ達やおふざけ兵器達がそこからワンサカと飛び出してくる。

人間や艦娘をじっくりと追い詰め滅ぼし、兵器の定義を成立させて新たな生態系を構築する為にーー




おまけ

艦これの扱いが悪い理由。

・冒頭や作中に書いた萌えのゴリ押しが嫌いだから。
・それに則りゲームシステムも考えて論理的かつ現実的にストーリーを作成したら狙い通り扱いが悪くなった。
・仮に深海棲艦が居なくなったら、それは戦争の終結を意味するので艦娘達を後方で支える支援要員や妖精さん達は戦時程多くは必要とされないのでどうしても余ってしまうし、需要も減少するので供給過多になってしまう。
自分達にしてみればマイナスばかりでしかないそんな事を果たして軍需企業は積極的にやりたがるのだろうか。


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第56話 悪意と真実

第55話の続きです。
ファンは何者なのか、大人は果たして嘘つきのままでいいのか、そして戦争の負の記憶は果たして人々の中に残っているのかを考えながら執筆しました。
内容は相変わらずキツイです。
カイジで有名な焼き土下座を智史が誠意のある謝罪を行えるかを見極める、というよりはじっくり嬲って殺す為に深海棲艦と艦娘を使って利益を貪るというシステムを造った組織の重役達に対して執行します。
当然、カイジで行われたものより更に厳しくなっています。(10秒→60秒、それも半身にガソリン掛けられて半分火達磨の上で)まあその分だけ耐え抜いて謝れた時に示される誠意も重く、大きくなりますが。
それでは今作もお楽しみ下さい。


「何だと…。深海棲艦が次々と殲滅された挙句、そこから我が社の機密が漏れただと…‼︎」

「はい、深海棲艦は世界各地に突如として出現した未確認生命体に襲撃され次々と殲滅されました。その際に深海棲艦の隠蔽プログラムが無効化された後、我が社のネットワークに大規模なサイバーテロが行われ機密が次々と漏れた模様です。」

「一体、誰がこんな事を…‼︎まさか、艦娘達ではあるまいな!」

「各鎮守府の周辺海域の艦娘もまた、未確認生命体の襲撃を受け、鎮守府共々音信不通です。」

「成る程…、兎に角、誰がこんな事を行なったのかを直ぐに調べさせろ。我々が利用している者達の中に真相を悟った者が居るのかもしれんが、ここまでやるとは到底思えん。真相を暴露される前に何としても処理するんだ。」

これはリヴァイアサンごと智史に洗脳されたナマモノ達の侵略開始から少し経った後の組織の会長室の様子だった、自分達が作った深海棲艦と艦娘を都合よくコントロールして利益を生み出すという所得システムが露見したら今までそれに利用され続けて金を延々と毟り取られた者達に凄まじい報復を受けるのではないのかという思考が彼らの中にあった。何せ智史の発言通り深海棲艦と艦娘を生み出し、綺麗事で事実を隠して戦争というビジネスで儲け続けていたのだから。

彼らの頭の中には『何か物事をする時に醜い事、言いたくない事があったら極力それを隠してしまう事』というルールがあった、それに則り彼らはこのビジネスをうまく成功させたのだ。しかしその成功は大きくなればなるだけ『隠す』事を無意識に彼らに強要し、ましては『隠す』事で得られたモノを守る為へと彼らの人生を変質させてしまうという危険な面もまたあった。それに彼らは全く気が付けていない、それはある意味幸せなのだろうか、それとも…。

そして彼は『隠す』事が大の嫌いだった、例えそれが自分に都合の悪いモノであろうとも。彼は先述した面を見抜いてこう罵った、

 

「『隠す』事によって得られた成功に縛られる馬鹿共め、自分達がそうなってしまっている事に未だに気が付けない程に欲にまみれて愚かなのか。何とも欲深き輩だ」

 

と。

尤も、彼等がこの事に気づく気づかないに関わらず、彼は彼等を艦娘や人類共々巻添えにする形で滅ぼす気満々だが。

現に、彼の意向を反映するようにこの世界の中ならば至る所で艦娘や人類が物凄い数に膨れ上がったナマモノ達の圧倒的な火力にものを言わせた容赦の無い猛攻で吹っ飛ばされたり、形残さず消滅したり、そして彼等ナマモノ達の養分となり肥やしとなって次々と捕食されてしまったりしていた、無論その後にはぺんぺん草も何も生えず、人間や艦娘と呼べるものは誰も居ない世界が広がっていた。

 

 

「何だ、あの巨大な艦は‼︎」

「他の鎮守府が目撃した化け物どもがその周りを取り巻いているぞ!」

そしてリヴァイアサンごと海神智史の行く先々でもそれと同じ事は現出する、これはフィリピン方面にある鎮守府の一つでの事だったが、当然この後リヴァイアサンを取り巻くように存在していたナマモノ達が一斉に鎮守府に襲い掛かってきた。

 

「ええい、何としても撃退しろーー」

ーーズガァン!

ーーグワシャァァン!

鎮守府が本格的に襲われる。

こんな事例を一応、想定していたとはいえよ、あくまで真実を隠す為の手段の一つという程度でありーー即ち表面的、そして深海棲艦は組織のコントロール下に置かれ、ゲームバランスを保つ為に本格的に襲わせようとはしなかった事の裏返しでもあったーー本当に本格的に襲われる事は想定したまでには至っていなかった。まあ本当に想定していて造っても、甘く見積もって深海棲艦の局地的猛攻を防げる程度が最大でしかなく、智史の魔改造ナマモノ、おふざけ兵器達の猛攻を防げる程度に達するには茨という茨の道なのだが。

 

「うわぁぁ、助けてくれえ!」

 

ーーシュボァァァァン!

ーーゴォォォォォォォ!

ーーズゴォォォォォン!

 

「ギャァァァァ!」

「いやぁぁぁぁ!」

 

申し訳程度に付いていた中身スカスカの防御施設は紙屑同然にぶち破られナマモノがそこから鎮守府の中へと次々と突入して自身に備え付けてあった兵器を滅茶苦茶と言える程に乱射しながら縦横無尽に駆け回って必死に抵抗する艦娘や基地要員達を嘲笑いつつ、その防御網をズタズタに引き裂き暴れ回って蹂躙の限りを尽くす。中は仕組まれたゲームとはいえど『鎮守府』としての機能を果たす為の機能が最優先で重視されており当然の事ながら『防御施設』としての機能は外ほどあまり重視されていない。要するに外よりも中が脆い状態なのだ。

そんな状態で防御施設という名の外壁をぶち破られたらどうなるかは先述の通りである、一応『鎮守府』を構成するパーツとしての風格のあった建物の群れは見る影もないレベルで破壊し尽くされ、艦娘や基地要員達は吹き飛ばされるか、ナマモノ達に食われて殺されるか、あるいは智史の悪趣味に使う為に生け捕りにされると云う救い様の無い惨状であった。

そして智史はそこに居た提督達を直ぐには殺さず、あえて生け捕りにした、真実を伝えるというより

『悪魔』『鬼畜』『外道』『魔王』

そういう風に自分を認めて欲しいという承認欲求を満たす為に。万人に一見いいイメージを与えそうな承認欲求は偽善的と見做して一切持とうとはしなかったが。

さて、彼はそこで生け捕りにした提督達を詰め込んだ、瓦礫の山と化した鎮守府の残骸を一掃して設置した牢屋の群れーートレーラーに詰め込んで大衆の見世物にでも出来そうな程に空風通る鋼鉄の檻がメインのコンテナタイプのプレハブ式で作成したものなのだがーーへと歩いていくーー

 

 

「“うちの艦娘達は、どうなったんだ…⁉︎”」

「“分かるかよ、ここまで徹底した襲撃などこれが初めてだぞ…?俺の方もこの様だ、こっちの事など構ってられるか。”」

「艦娘、艦娘、艦娘、艦娘…。実に愚かな連中だなぁ…。本質はブラックだというのに。」

智史は牢屋群に着くなりそう冷たく呟いた、何処か醒めたような眼差しでコンテナタイプの牢屋にぶち込まれてもなお自分が所有する艦娘達の行方を心配する自称提督達を見つめながら。

 

「お、お前は誰だ!」

「『お前』?ふむ、私のことか。」

「そうだ!」

「あの化け物の群れを率いてるのは、お前か!」

「その通り、他ならぬ私だよ。そして私はお前達をここに軟禁し、これから救いようの無い地獄を味わせようとしている。」

「な、何だと⁉︎」

「まさか、うちの艦娘達を手に掛ける気か!」

「そうだ。」

彼らは彼を視線に捉えた、そして尋ねた、その問いに彼は何も隠さずストレートに答えた、深海棲艦によるビジネスに絡んでるからには艦娘も人間も皆平等に撃沈してやろうとはっきり決めていたからだ。

 

「本題に僅かながら関わる話だが、艦娘の格好について、考えた事はあるか?」

「こんな目に遭わせておいて、一体何様だ!」

「答えられるか!艦娘達は提督である俺達にしてみれば大事な存在だ!」

「艦娘達は深海棲艦を撃退するのには不可欠だ!格好などどうでもいい!」

「随分と稚拙な答えだな。だが、これでいい。」

「何い⁉︎」

「そんな言葉が易々と出てくる程組織に『依存』させる為に艦娘達はお前達を誑かすような格好をしていたのだよ。そうでなければ富などお前達からじっくりと搾り取れまいて。」

彼は艦娘の格好について尋ねた、彼らは彼の何処か醒めた態度に激高して答えられるか、艦娘は大切な存在だと感情的な答えを返す。

問いの本質から外れているが彼から見た場合、答えとしては十分だったようだ、自分の考えを確実に固めるのには。

 

「深海棲艦、艦娘のバックアップ並びに鎮守府の運営も担当する『組織』…。その二つに実は繋がりがあるとは、まさか考えもするまい?」

「ふざけるな!うちの艦娘達も、組織も、日々深海棲艦を撲滅する為に活動している!」

「“ふざけるな”?私は事実を言ったのだが。それはあくまで事実を隠すのに欠かせないというべき表向きのパフォーマンス。つまり組織側にとても都合のいい答え。事実、真実の答えではない。」

「な…⁉︎」

「見せてやろうか?本当の答えを。既にお前達がバケモノと罵るナマモノ達のエサに変えた艦娘共に見せたのだがなあ…。」

そう言い終えると彼は少しうんざりしたーーいくら事実要素がゴロゴロと詰め込まれていてもでも彼らにしてみれば所詮都合の悪いものでしかないから『偽造だ』『まやかし』とか考え言い張り「艦娘は自分達にしてみれば必要である」という思考停止状態を改めようとしないなと彼は見抜いていたーー顔で深海棲艦や組織の人間達並びに最深部のコンピューターなどから採取したデータを元にして作成したVR映像を大型のスクリーンを即座に生成するや否やそこに投影した。

 

「艦娘達や、深海棲艦は、全て組織の儲けの為に造られ、俺達はその儲けのシステムに組み込まれていると…⁉︎」

「その通り。これが現実、そして真実。事実に徹底して近づけた、事実の光景を収めていない作り物の映像とはいえど真実と現実を詰め込んだ上で再現したからには事実に等しい。」

「…ふざけんな、これは作り物だろ…⁉︎もしそれが本当だったら、俺達は、単に利用されていたという事じゃねえか‼︎こんなふざけた事認められるか!」

「そうだ!艦娘達が居なかったら深海棲艦によって俺達人類は滅亡してしまう!どこが真実だ!」

そして彼の予想通り彼らは『偽造だ』『作り物だ』と騒ぎ始めた、まあ予想通りなので改心してくれるとは一切期待しておらず、寧ろこのまま奈落に叩き落とせると彼は内心喜んでいたが。

 

「深海棲艦が猛威を振い始めた時にタイミング良く艦娘達が出てきた事も、一欠片も考えられない程に思考が止まってるか。実に心地いい。そのままで居てくれ。」

 

ーーパチン!

そう本音を告げた後、智史は指を鳴らす。牢屋コンテナにフォークリフトが次々と接近する、そしてフォークリフトは彼らを詰め込んだ牢屋コンテナを順々に列車に積載していく、そして牢屋コンテナを全て積み込んだ列車は彼が搭乗したのを見計らったかのように処刑場へと発車していった。

 

「ここは…‼︎」

「処刑場だよ。さっき呟いた自分の本題をきちんと履行する為の。」

列車は処刑場へと到着した、ここは正真正銘の処刑場だと彼がそう呟き終えると同時に逆さ吊りにされた艦娘達が懸垂型のコンベアで搬入口から運ばれてくる、彼女らは先述した通り敢えて殺さずに生け捕りにされた、彼の玩具として。

 

「て、提督、助けて!」

「あいつを、どうにかしてくれ!」

「お願いだから、助けて!」

「て、天龍!」

「高雄!」

「やめろ、俺の命はいい、だが俺の艦娘達は!」

聞くだけで今にも反吐が出そうな気味の悪い命乞いだな。

 

「やかましい」

その命乞い達を気味悪く感じた智史はそう一喝する、先程まで叫んでいた艦娘、提督達がその一喝で静かになる。

 

「随分といい服を着てるではないか。おや、そこのお前も綺麗な服を着て。顔色は悪そうだが、その艶のいい肌、生気に満ちた肌色…。史実と看做されたモノを模した装飾品を付けて、仕組まれていたとはいえ組織とやらの利益の為に男を誑かしたくて仕方が無いんだろうなぁ。まるでキャバクラ嬢みたいだ。」

彼は逆さ吊りにした艦娘達を自分の近くまで下げさせると、冷たい笑みを浮かべながら彼女らをじっくりと触る。当然触り方も厭らしいというよりは今にも殺してやろうと言わんばかりの悪意に満ちた触り方だった。

 

「嫌ぁぁぁ!触らないでぇぇ!」

艦娘の一人が彼の手を振り払おうと暴れる、この後何かされると怯えているが故にだろう。

 

「振り払おうが気にはせん。こう暴れられるだけの事は私はしているのだから。だが今からやる処刑はこんな些細なもので行う事ではない。お前達は組織の利益の為に仕組まれたとはいえ、あまりに思考が止まっている。」

「そ、そんな…。」

「真実を告げるのももう飽きた。いくら真実でも頭が止まってるし、第一都合が悪いから『虚構だ』とか言い放って己を正当化するからなぁ。バイバイ菌だ。」

そして智史は右手にMAC11を瞬時に生成すると逆さ吊りにした艦娘の一人に向けて乱射した、オリジナルはあくまで人間を殺せる程度の鉛弾をばら撒くモノなので、当然このままでは艦娘達をまともに殺傷する事など不可能だが、この『模造品』、否『模造品』であるが故に桁違いに破壊力が高められていた、深海棲艦、戦艦水鬼の20インチ砲などと比べ物にならない凄まじい破壊をばら撒く程に。

それを物語るかの様に弾丸が発射される度に空気が激しく震える、あっという間にその艦娘は全身を蜂の巣のように穴まみれにされ、何をされたかわからないまま絶命した、だが彼はその艦娘が絶命しても飽き足らず既に穴まみれの挽肉同然だというのに徹底的に弾丸を撃ち込んだ、四肢が千切れ内臓が吹き飛んでも。まるでこの世から一つ残らず消し去ってやろうと言わんばかりに。

 

「さて、次に死ぬのはどいつかな?」

「うわぁぁぁ、助けてぇぇ!」

「やだぁぁ、許してぇ!」

彼の行動で艦娘達が悲鳴を上げて再びここから逃げようと騒ぎ始める、とその直後艦娘達を吊り下げていた上のコンベアのレールが動き出す、実は艦娘達が今吊り下げられていたこのレールは懸垂式のトラバーサーだったのだ。

艦娘達を吊り下げたままトラバーサーは彼がいる方から反対向きにしばらくーー40m程度ーー走って停止した、と同時に艦娘達とトラバーサの真下の床がゆっくりと開く、そこに待ち受けていたのは、廃車となった自動車や粗大ゴミを破砕する為としか言いようがないオーバースケールな大きさの黒々と黒鉄色に輝くライオンシュレッダーだった。

 

「一体、何をする気だ‼︎」

「艦娘達の『解放』だよ、ライオンシュレッダーで裁断してやるという形でな。」

ーーガガン!

ーーガガァン!

そして彼は艦娘達とトラバーサーを繋いでいる鎖に向けて再びMAC11を放った、いっぺんに殺すのでは無く一人一人の悲鳴と断末魔、ライオンシュレッダーで裁断される際に響く肉が千切れ、骨が砕ける音を集音マイクを通じてじっくりと楽しむように。

 

「嫌ぁぁぁ、嫌ぁぁぁ‼︎」

 

ーーガガン!

 

ーーガコッ!

ーーゴキゴキッ!

ーーブチャッ!

 

「き、貴様、こんな事をしてタダで済むと思うなよ!」

「往生際の悪い言葉だな、だがこれでよい。」

 

ーーガガァン!

 

ーードカッ!

ーーバキィッ!

ーーゲシャッ!

 

檻に閉じ込められた提督達はその様子を見て声を荒げ悲鳴を上げる、だがこんな事などお構い無く、いや狙い通りに行ったと寧ろ嬉しそうに彼は処刑を続行した。

何故なら彼は『手に届きそうな所にいるのに手が届かない』つまり艦娘達を直に見ようと思えば見れる、でも彼女らに対して何かしてやれる事は無い、何も出来もしない、そんな場所に強制的に提督達を入れ込み、自分達のお気に入りというべき艦娘達の処刑の光景を直に見させる事で後味の悪さと歯痒さをじっくりと彼ら提督達に味わせたかったからだ。

 

「な、那智…⁉︎那智…⁉︎」

「大淀…、扶桑…⁉︎」

「これで全員『自由』になった。死んでナマモノ達の為の謎肉缶詰になるという形でな。」

謎肉缶詰…、主な成分は艦娘達の肉だから、「人肉」ではなくて「艦娘肉」か?何れにせよこりゃソイレントシステムさながらだな。

やがて処刑は完了する、彼は冷徹に処刑を完遂したと提督達に告げる。しかし内心ではその謎肉缶詰の主成分は元を辿れば艦娘達なので「人肉」ではなく「艦娘肉」と呼べばいいのかと少し戸惑う。何れにせよ彼らと艦娘達を痛めつけた事に罪悪感は感じてもいなかったが。

 

ーーガシャァァン!

ーーガシャァァン!

 

「い、今更檻を開けて何のつもりなんだ…‼︎」

「そうだ、こんな酷いモノ見せたくせに‼︎」

「今更怖気付いて許してくれと⁉︎ふざけるな‼︎」

「そう思って当然な程憎いだろう?こんな酷い光景を味わせた私が。艦娘達をゴミ同然に皆殺しにした私が。そして私に対する復讐の機会をやる為とはいえど、救うには今更のタイミングで檻を開けた私が。

私に先程の復讐をしたいなら今がチャンスだぞ、こんなチャンスは二度もやるつもりは私には無いからな。

さぁ、やりたいなら掛かって来るといい。ただしここで復讐を仕掛けてくるのを何時迄も待つつもりは私には無い。私は己が欲のままに赴くから気まぐれなのだ。

まあ、辿り着いたらだがな…。」

彼は今更だというのに何故か檻を開けた、そして『私を殺すなら今のうちだぞ』と吐き終えるとこれ以上の関心は無さそうに冷淡な態度を示し踵を返してこの場を立ち去ろうとする。

 

「こ、この野郎…‼︎」

「俺の、艦娘達を…‼︎てめぇはぁぁぁぁ‼︎」

彼に復讐をしたところで艦娘達が帰ってくる訳ではない。

彼ら提督達は流石にそれは分かってはいたもののそれでも彼に一矢報いねば気が済まなかった。

 

「ゔぁぁぁぁぁぁ!」

「おぁぁぁぁぁ!」

 

…愚かな。

何故今更と檻を開放し『復讐の機会は今のうちだ』と言って興味の無さそうな態度を示したと思う?それに「何故だ?」とふと我に帰って気がつかないのか?『辿り着いたらだがな』とさりげなく警告したのに。

まあその行動の真意を考えようとせぬ程に『熱く』してしまったのは他ならぬ私なのだから今更こう問いかけても仕方がないのだが。

ともあれアウトだ。「私に復讐をしてやる」と思った時点で。まんまと引っ掛かったな。

ゆっくりとその場を立ち去ろうとする彼の後ろから提督達が「復讐」せんと追い掛けてくる。だが彼は特に慌てず、何の反応も示さず、ハマったなと提督達を冷たく嗤う、するとーー

 

ーーグォン!

 

ーーザシュザシュザシュザシュザシュザシュ!

 

「な、何っ」

 

ーーバシュバシュバシュバシュバシュバシュ!

ーーゴシュズゲシバシュバシュバシュバシュ!

 

突如巨大な黒い影が提督達の真下に出現する、提督達をすっぽりと飲み込むようにして。突然と大きな物体が出てきて光を遮ったという訳ではないというのに。

次の瞬間、そこから無数の黒い刃が次々と提督達を串刺しにした、何が起きたのかを悟る間も無く彼らは黒い刃に全身を貫かれて絶命した。

 

清々しく返り討ちにする。

これが私が敢えて檻を開けて「復讐して来い」と復讐を誘った本当の理由だというのに。

『大人』は自分から積極的に答えようとはしない、相手側から質問をされない限りは。仮に相手側から質問をされて答えたとしてもそれは自分に都合がいいと判断した時だけ。それ以外は一切答えようとはしない。

だからこそ私は『大人』が大の嫌いなのだが。とはいっても私が今為したこの事は本質に限るとはいえ『大人』がやる事と同義だからな、皮肉というべきか。

 

「琴乃、ズイカク、奴らへの仕打ち、終わったぞ。」

「智史、相変わらずお前は辛辣だなぁ、特に好きでないものに対しては。」

「ズイカク、お前だって好きでないものにはそうしたくなるだろうに。」

「私もよ。智史くんが仕打ちを始める前の提督達の様子見たけどあまりに気持ち悪かったわ、普通彼女達が居なくても別の生き方を選べば生きていけるのに、彼女達が居ないと生きていけない、心に余裕の無い駄々っ子みたいな感じが漂ってたから。」

「艦娘達に夢中になり過ぎるあまりに他の生き方を自ら放棄した、か。嵌められたとはいっても艦娘達に夢中になって居たのは事実だからな。そして私は、そんな彼らと『同じ』なのだろうか。」

「全く違うと思うわ。特にこれと夢中にもなり過ぎず、自罰的過ぎるけど自分をよく振り返って考えてる。提督達や艦娘達の様子や状況を冷静に見れてるじゃない。『やり過ぎじゃない?』って事はよくあるけど『本当に我慢できない』って事は智史くんには無いから。」

捕虜にした艦娘と提督達の処刑を終えた智史は自分は「自分自身も特定の事に夢中になり過ぎるあまりに彼ら提督達と同様、考えが止まってないか」とふと悩んで振り返った。自分が忌み嫌っている存在が実は自分自身もそれと同じ要素があったとしたら、物凄く馬鹿らしくて笑えなかったからだ。

だからこそ彼は先述した彼らと全く同じ存在ではないのだが。ただ他の生き方を放棄している点は形違えど彼も同じなのでそこだけを究極的に突き詰めるのなら彼らと同じだが。

 

「ところで…、智史、さっき『P38EX』と独り言言ってニヤニヤ笑ってたけど、何かおかしいのか?」

「おかしい?ああ、この機体はP38ライトニングにしては随分とオーバーなスピードと88㎜砲といった重武装を持った機体でな。そして似たようなモノとしてセイラン(晴嵐)が霧にはあった事を思い出した。」

「P38EX…、セイラン…。まさか…、もう嫌な予感しかしない。」

「それで当然。ハウニブーシリーズも真っ青な性能のWW2米軍モドキ機体をワンサカと作ってやる。ガチな光学兵器と特殊兵器満載のオンパレードだ。あとガトー級の霧verもな。艦娘達のトラウマスイッチ、折角なら限界まで押し込んでやる。

自分自身でもあるリヴァイアサンの兵装など態々使う価値も、ましてや直接相手をする価値などこいつらにはあるのか?勿体無い。」

彼はそう呟き終えるや否や早速これらの製造に取り掛かった、更なる高みへ達する欲望を満たす為に今もペースを目も眩み過ぎる程に上げ続けている物質生成能力が今回も猛威を振るい始まる、まずは全長6000mという巨大な滑走路を二つも備え、あくまで自己防御用とはいえ下手をしたらフィンブルヴィンテルすら一太刀も浴びせられずに簡単に消し飛ばしてしまう程の凄まじい火力とそれに見合った防御を備え付けた巨大な戦略メガフロートが20隻に霧ミッドウェイ級が100隻、それを取り巻くように戦艦、防空巡洋艦、イージス艦ーー何も霧の基本装備を搭載していたーーといった無数の護衛用艦艇が10秒も掛からぬうちにリヴァイアサンを囲むようにして生成された、既に日本列島以外の場所という場所はナマモノ達やおふざけ兵器達に制圧されて改変されてしまっているので、日本列島しか残っていなかったとはいえ、これだけでも日本列島を跡形も無く消し去るには十分過ぎる兵力だというのに、先述した通りにF6Fヘルキャット、F4Uコルセア、P-51Dマスタングに戦艦大和を始めとした多くの日本海軍の艦船を海の藻屑に変えたSB2CヘルダイバーにTBF/TBMアヴェンジャー、あと無差別焼夷弾爆撃や世界初の原子爆弾で日本全土を焦土に変えた悪名高きB-29スーパーフォートレスといった史実モドキーー何も艦娘達のトラウマスイッチを限界までに押し込む為に選んだのであり、手加減する気は全く無いーーにして実質はオーバーパワーな高威力兵装を無数装備した艦載機の群れが加わるのだからそれはそれは凄まじい事この上ない。

かくして、彼の手により生み出されて使役された大艦隊のメガフロートの滑走路から手始めにとB-29モドキ達が発進していく。

 

「お、おい…。なんだそのへんちくりんな絵の描かれたミサイルは…。」

「あれか?ああ、この世界の日本への怒りか、それとも私が居た元の世界への怒りか…。何れにせよ一度はやってみたかった。『神』すら超える立場になったからこそ出来るくせに、力が無いからと怯えて何もしようとせずに逃げたくせにと言われてもやってやりたかった。」

「何れにせよその場ばかりの平和を維持しようとして近視的な政策ばかりを繰り出し、結果として相手をより増長させる事態を生み出した政府への怒りとも受け取れるわね…。」

「その話の様子だと、何かとんでもないものを積み込んでるねぇ…。」

「その通り。全部熱核弾頭だ。先人達が戦争の恐怖として刻みつけたあの光、思い出させてやる。」

何故か一部のB-29は「将軍様のミサイル」と側面にデカデカと書かれ、先頭部分には某北半島の独裁者がデカールされた大型ミサイルを腹に抱え込んでいたのだが。

それと護衛のP-51DとF6F達が続々と飛び立っていく、表現する言葉がない程の地獄絵図を日本列島に撒き散らす為に。

 

「な、何だあれは?」

「B-29にP-51、F6Fみたいだが…。凄い数だ…。だがあんなアンティークなレシプロ機の群れを投入するとは、何なんだ?」

「気をつけろ、深海棲艦を滅ぼし、世界を蹂躙しまくった連中の一味かもしれん。」

「そうか?何れにせよ連中、日本列島に向かっているみたいだが…。」

「だったら退去通告は無用だ、撃ち落とせ!」

「そう言われなくても、うおっ!連中の方から仕掛けて来たぞ!」

進軍の道中、レーダーサイトに捕捉されたからか、F-15、F-2といったジェット戦闘機ーー恐らくはこの世界の日本の航空自衛隊か。全く別の世界のものだが便宜上、空軍と表現しておこうーーが本土の方から続々と飛び立って来た。仮に爆撃群が彼らを無視しても日本を徹底的に爆撃するという任務が彼により与えられている以上、彼らと一戦交える事はどうやっても避けられない。

彼ら空軍の迎撃戦闘機群だって日本を爆撃しようとする爆撃群の通過を許したとなったら笑えない。深海棲艦の影響で艦娘の航空機もどきが防空の主力を担わなければならない状態だといえ、深海棲艦群に各所が致命的に攻められていない以上、既存の脅威は滅失した訳ではないのだ。何れにせよレーダーサイトに捕捉された以上、空戦は必然だった。

そしてB-29の護衛に就いていたP-51とF6Fの一部、それだけでもが5000機もの数が彼らに襲い掛かってくる。彼ら爆撃群の護衛達の取る戦術は基本的には圧倒的な数の暴力と性能差を生かしたスチームローラー戦術だ。

 

「こいつらレシプロ機かよ!なんてスピードだ!」

「滅茶苦茶な機動だ!くそ、振り切れない!」

「レーザー兵器を装備してやがる、しかも全方位かよ!反則だろ!」

「くそ、三番機がやられた!」

「拡散ビームかよ!こんなものまで積んでるのか!」

圧倒的な数の暴力に対する彼ら迎撃戦闘機群の戦術は各個撃破だというべきだろう。いくら相手が旧式だからだといっても物凄い数なのだ。レシプロ機でも、複数相手にしていたら撃砕される可能性は大きい。彼らはあくまでもスピードがレシプロ機より滅茶苦茶な出る事とレシプロ機よりも遥かに多くの兵器を積みこめる事が出来るだけなのだ。

かくして迎撃戦闘機群は一つ一つ撃破する事を目的にして撹乱と陽動を試みた、しかし彼らはそれを読んでいたのか、迎撃戦闘機群と同じ戦術でレシプロ機とは思えぬ機動力で迎撃戦闘機を一機一機と集中して狙っていく。

 

お互いの戦術が同等ならば、火力が高い方が勝つのが道理。

 

この場合ならば戦術を戦術で無効化したあとは数と質の圧倒的暴力で叩き潰す、ただそれだけ。空戦は劇場版アルペジオDCでヒエイが言っていた先の言葉を具現化したような一方的な戦いへと変貌していく。

彼ら迎撃戦闘機群は騎射突撃に等しい一斉突撃を食らい、傷つき、隊列を乱す。それで逸れた者は待ち構えていた別の戦闘機隊の各種レーザーによる集中攻撃を食らって容赦無く大空で散華させられる。

仮にレーザーの死角から攻撃しようとしてもパルスレーザーを除いた彼らのレーザー兵器自体が前方に隙なし、後方に隙なし、全方位に隙なし、しかも広範囲攻撃が可能というモノが大半を占めているのでどうしてもレーザーの死角は狭まってしまう。

アクロバット飛行の様な芸術的かつ徹底して効率的な空戦機動も組み合わせた多彩な花火が現出しているような鉄壁というべき凄烈なレーザーの射撃は彼らに近づく事を一切許さない、一機の後ろに付いても、後方に向けてレーザー、別の方向からも、あちこちからもレーザー、レーザー、レーザーの嵐といった感じで。幾ら何でもこれは無茶苦茶な無理ゲーに等しい。しかも鋼鉄の世界系にある高レベルの電磁防壁を持ってきてもまだ足りないという狂いすぎている有様だ。彼らは鴨撃ちのように一方的に叩き落とされる。

 

「新たな敵機が12時方向より接近中!」

「我々の退路に待ち構えるようにして敵機が展開していきます!」

かくして迎撃隊の戦闘機の数は3割を切った、そしてトドメを刺すように先の5000機の戦闘機隊とほぼ同数の戦闘機隊が到着するという絶望的な凶報が彼らの耳に襲来する。

これでは逃げようにも逃げ切れない。

そう確信した彼らは一機でも道連れに叩き落とすべく突っ込んで来た、しかしそれはより容赦のない追撃を招き寄せる、レーザーの嵐が必死に戦闘機群を叩き落とそうとする迎撃隊を、そんな彼らから放たれたミサイルを嘲笑うように一機、また一機、一発、また一発と絡め取っていく。最終的に彼らは一機も撃墜できずに全滅してしまう。

だが、彼ら迎撃隊は全滅した事で皮肉な事だが地獄絵図を見ずに済んでいた。さて、彼らが守ろうとした日本本土の様子はというとーー

 

ーーほぼ同時刻、東京上空

 

ーーキュルルルルル!

ーーキュルルルルル!

ーーゴォォォォォ!

 

ーーシュボァァァォン!

ーースゴォォォォン!

襲来したB-29モドキが低空、高空問わず悠々と大空を舞いながら機体に取り付けた超高威力兵装を無差別に撃ちまくり地上に煉獄という煉獄を量産している、B-29モドキ達がその上空に到達するつい30分程前まではここは東京という名の鎮守府を束ねる組織の本社を初めとした大企業の本社の高層ビルやオフィスビルが立ち並び、港湾施設が海辺にわんさかと並んでいた大都市だった。

だが、彼らが到達してからのその30分だけで東京はものの見事に煉獄に変わり果てた、何百何千もの超怪力線、エレクトロンレーザーにX線レーザー、各種荷電粒子砲、レールガン、各種特殊レーザーにカニ光線、ねこビームになすビー夢がまず対空射撃を行う軍隊や艦艇、戦闘機を発進させる飛行場といった軍事施設に対し集中的に浴びせられ、片っ端から彼らを飴細工のように融解させ消滅させていく。そして彼らを薙ぎ払った後は波動砲に重力砲、光子榴弾砲に特殊弾頭ミサイルが合切を塵芥に変えんとばかりにこれに加わる、港湾施設が、高層ビルの群れが、コンクリートジャングルが、そこにあるもの全てを飲みこむブラックホールに飲み込まれたり、地下の構造物も根こそぎ抉り消し去るような地下からの爆発により宙を舞い、溶けて、消えていく。

一応彼らの襲来に対する避難命令が発令されていたのでそこに済んでいた住民は避難を開始していたものの、まともに避難するにはあまりに時間が短すぎた。組織のトップは短時間で脱出できるような手段を確保していたおかげだろうかすぐに脱出したもののそうでない者達の殆どはまともに避難も出来ぬままレーザー攻撃や波動砲や重力砲を無差別に撃ち込まれて何が起きたのかも分からぬまま悲鳴と断末魔を奏で合切を塵芥に帰す煉獄の焔に焼き尽くされ、この世から消えていく。彼らの襲撃が終わった後には大都市東京としての面影も、記憶も、存在も一切合切無いただ雄大に広がる火焔地獄が広がっていた。その光景は東京大空襲以上の一切合切根切りにせんばかりの凄まじい攻撃が行われた事を当然の如く物語る。

しかし仕打ちはまだ終わらない。熱核弾頭を内蔵したあのミサイル、そう「将軍様のミサイル」を搭載したB-29が日本全土にトドメとばかりに「将軍様のミサイル」を次々と撃ち込み始めたのだ、着弾する度にアトムの光が輝き巨大なキノコ雲が立ち昇る、着弾地点の、いや日本列島の地形そのものが核で変わり果てても完全に消え去るまでそのミサイルは撃ち込まれ続けた、広島と長崎の核の記憶を、太平洋戦争という負の記憶を、日本全土に染み込ませ、二度とこの世に日本という国を存在させないと言わんばかりにーー

 

 

ーー日本本格空襲の開始から2時間後、日向灘沖の様子

 

「な、何とか逃げ出せた…。でも鎮守府は…‼︎」

「アメ公を模した機体の群れに街ごと容赦無く蹂躙され尽くされた挙句、あの忌々しい光によって、残っていた仲間も一緒に焼き尽くされたよ…。」

「そんな…、これから私達はどうなるんだろう…。」

「B-29やP-51にF6F…、あんなアンティークな機体のクセに、どうして、どうして落ちないの…‼︎」

「しかも仲間は一方的に…。かつての私達が味わった悪夢が、再び蘇ったというの…?」

「悪夢は、もう味わない筈だったのに…‼︎」

「そして、訳のわからない化け物が世界各地で跋扈してるからには、他の鎮守府も頼れない…。」

艦娘達が会話をしていた、様子を見るに恐ろしく怯え、震えていた様子だ。服や艤装が汚れ、破け、壊れている艦娘が沢山いた。

その原因は言うまでもなく、彼による容赦の無い空襲が原因だった。日本本土に居た艦娘達は大半がこの凄まじい攻撃で殲滅されたが、一部はこの地獄から何とかと脱出した、彼女らはその一部だった。しかし、地獄から抜けても次に待ち構えて居たのは地獄だった。

 

「一時の安息と不安に大いに酔いしれろ。そして絶望と悔恨に満ちた数多の末魔を私に捧げよ…‼︎」

 

何故なら智史がそのようなえげつない手段で絶望へとどんどん突き落として彼女らの絶望に満ちた最期をじっくりと味わいたかったからだ。

 

ーーシャァァッ!

ーーヒュォォッ!

 

「ぎょ、魚雷⁉︎潜水艦が潜んでいるというのか‼︎」

「音探に反応は‼︎」

「ありません!」

「6時方向から、複数の物体が接近!」

「14時方向からも接近音!」

「20時方向からも!なおも増加中!」

突如として現れた無数の物体ーー魚雷の反応が彼女らの一時の安堵と不安を無理矢理引きちぎる、彼が生成した霧ガトー級の潜水艦隊が次々と魚雷を放ったのだ。

 

「深海棲艦のものよりも非常に速度が速く、航跡が視認出来ません!気をつけて下さい!」

「とにかく回避運動を取れ!散開するんだ!」

「は、はい!」

慌てて彼女等は散開し回避運動を取る、しかし魚雷は追尾してきた、そして雷跡が確認出来ずしかも600ノットは超える雷速を持つ高性能な水中ジェット推進である為に全弾とまでは行かなくても大多数の魚雷が彼女等の足では振り切れないスピードで迫ってくる。

 

「こ、来ないでぇぇぇ!」

ーーズゴォォン!

ーーグシャッ!

 

ーーバガァァン!

ーービチャッ!

 

そして魚雷に追いつかれた者から順に、巨大な爆発が生じる、魚雷が命中したのだ。魚雷が命中した彼女等は全身傷まみれになったり、腕や足、四肢や艤装を飛び散らせる。当然それは深海棲艦の武装を遥かに上回る凄まじい威力を誇る光子弾頭を搭載していた、深海棲艦に転生して艦娘で無くなっても徹底して消してやると言わんばかりに。彼女等は敵を発見出来ず、一太刀も浴びせられずに良い様に一方的に攻撃を受け続けて数を減らし、波間に消えていく。

 

「み、みんなをこれ以上は…。あぁぁぁぁぁ!」

「やめろ、朝潮!自殺行為だ!」

そんな一方的な状況に一部の艦娘は耐え切れずに半ば自暴自棄と化して主に魚雷が来た方向に向けて闇雲に爆雷や対潜兵装を乱射した、相手の居場所が分からないという事は闇雲に撃った場所にガトー級が居ない可能性が高いという事である、しかしガトー級が絶対に居ない訳でも無い。兎も角何もしないまま一方的に痛めつけられるのは嫌だったのだろう。だがそれは当然の事ながら余計に自身の存在を際立たせる行動でもあった。

 

「ぎょ、魚雷…⁉︎それも、10発、20発、数え切れない…。本当に、死ぬ、の…?」

 

ーーズシャァァァン!

ーーボガァァァン!

 

「朝潮!」

新たに放たれた無数の魚雷がその艦娘達に次々と容赦無く命中する、魚雷の炸裂で全身が砕け吹き飛ぶ、艤装も何も跡形も無く。

この時点で艦娘達はほぼ半数が壊滅するという有様だった、それも戦闘開始から僅か5分程度の時点で、だ。元々ここに居た彼女らは先述したように日本各地の鎮守府から何とか脱出した寄せ集め集団でしかない。冒頭で述べたように大小問わず大半が脱出の際に何らかの被害を受けていた為に無傷はほぼいない。その為躱そうも迎撃も上手く出来ぬまま魚雷を次々と食らってこうも全滅寸前になるのには時間は掛からなかった。

尤も万全の状態でもこうなるまでの時間が精々10秒程度しか延びず、こんな状況を変えるにはまだまだ力不足という現実が待ち構えているのだが…。リヴァイアサンもとい海神智史さん、今も膨張し続けている更なる高みへの欲望を満たす為とはいえ、あなたはあまりにも強くなり過ぎている。

兎も角彼女らがこんなに追い詰められても魚雷はなおも殺到し続ける、最後の一匹も残らず消してやるとばかりに。彼の艦娘達に対する悪意と殺意を物語るかのように。

そしてそれらの嵐により艦娘達は散開に転舵を重ねてあっちこっちにバラバラに散らばってしまっていた、艦隊陣形を乱さずに維持し続ける余裕も何も、ありゃしない、こんな悪夢のような魚雷の嵐の前では。陣形を組むなどこんな状況ではまるで自分達から射的の的になっているようなものだ。

しかし、艦隊陣形は何の為に存在するのか考えてみよう。

単に敵の魚雷に効率よく仕留められる為の方法なのか?

否。

戦闘を有利に進める為に生み出された戦術だ。

これを一つも為していないという事は何を意味するのか。

味方同士での連携が上手に取れておらずに各々が孤立してしまっているという状態なのだ。

この状態が戦闘上いかに恐ろしい事なのか。

それは各個撃破されるリスクが格段に増大した事である。まさにその通りと言わんばかりにに南の方からわんさかと航空機、それも旧日本海軍のトラウマそのまんまを模した機体の群れが彼女らに襲いかかってきた。

水中からの霧ガトー級潜水艦隊による魚雷飽和攻撃はまだ終わってなかったから、彼らがここに加わった事により艦娘達は脱出時の手傷、そして先の魚雷攻撃を食らってそれを更に深めて立ち直れないまま、海中と空中、その両方から徹底して苛烈たる同時攻撃を受ける事が確定した。

 

「ヘルキャット、コルセア、アヴェンジャーに、ヘルダイバー…。」

「嫌ぁ!もう嫌ぁ!ねえ、私達をそんなに苦しめたいというのぉぉ⁉︎」

「くうう…。もはやこいつらからは純粋な悪意と殺意しか感じない、深海棲艦ですらここまでの悪意をぶつけて来たと思うか…⁉︎」

そのトラウマの群れを見た艦娘達は泣き喚いたり、戦慄する、しかしトラウマ達はそれに反応を何も示さない、そもそもトラウマ達は彼の僕であり彼自身でもあったからだ。彼らはそれに構わず彼に与えられた仕事を忠実に遂行する為に散り散りとなった彼女らを連携を断ちながらガトー級潜水艦隊と協力して一つ一つ仕留める一斉攻撃を開始した。

 

ーーガガガッ!

ーーギュゥゥゥゥゥン!

ーーヴォォォォォォォ!

ーーバババババ!

 

そしてトラウマ達は機銃掃射やロケット弾、爆弾、魚雷を次々と艦娘達に叩きつけた、機銃の曳光が逃げ回る彼女らに彼女らに吸い込まれ爆弾やロケット弾が至近で炸裂して破片、否子弾頭が彼女らの肉体に食い込む。

 

「あ…、熱い!ぁぁぁぁぁ!」

「熱いよぉぉぉぉぉ!お洋服がぁ!」

「く、焼夷弾か…‼︎連中、一撃で吹き飛ばさずにじっくりと追い詰めるつもりか、どこまであのトラウマを蘇らせるつもりなんだ‼︎」

撃ち込まれた機銃弾や子弾頭の一部には彼女らの構成物質に爆発的な化学反応を連鎖的に引き起こしその際に凄まじい高熱を発させる化学反応型焼夷剤が濃縮されていた、それが撃ち込まれた彼女らの体内で解放され拡散し彼女らの構成物質と爆発的な化学反応を引き起こしてその際に6000℃という高熱ーーフィンブルヴィンテルの配下の虫達に用いた100万℃というエゲツない熱を発する焼夷弾には全く及ばないものだった、これを使った方がもっと効率的に短時間でに彼女らを殺せるのだが、裏を返せば彼女らをじっくりと苦しめる時間を大幅に短くする事にもなる他、いくら収拾出来るとはいえ、周辺環境に与える影響も先のものより遥かに膨大になる為、この焼夷弾は用いられなかったーーを発して彼女らの全身を瞬時に紅蓮の炎に包んでいく、その様は傍目から見れば火達磨様々だった。

火を消そうと必死にもがき海水を浴びようとするも通常の火とは大違い。優に1000℃は上回る高熱なので海水が簡単に蒸発してしまう。それに火はあくまでその焼夷弾が引き起こした化学反応の結果として生じた現象でしかない。根本たる構成物質との化学反応を断ち切らない限りは高熱も火も消えない。

彼女らは化学反応も、火も消せないまま全身を焼き尽くされ、やがて形を崩していく。しかし形が崩れても火は化学反応の元たる彼女ら自身の構成物質を焼夷剤が一つ残らず食い尽くすまで盛んに燃え続けた。

 

ーーピーピーピー!

ーーミィィィィ!

ーーピャォウォァァァ!

 

「あぁぁぁぁ!」

「げほっ!」

勿論、このトラウマ達にも光学兵器は搭載されていた、爆弾や魚雷にロケット弾を撃ち尽くして背を翻してはい帰還、それは絶望をより深々と与え続けるのにはあまりふさわしく無かったからだ。延々と永劫に討ち取るまで一方的かつ容赦の無い追撃を続ける事こそが絶望を与え続けるのがこの場には相応しかった、だからこそ。

トラウマ達は空母を模した艦娘から迎撃として放たれた『艦載機』もどきを歯牙にも掛けずに簡単に蹴散らすと上空を我が物顔で縦横無尽に飛び回りながらじっくりと追い詰め八つ裂きにするかのように執念深くかつ正確に光学兵器を次々と浴びせていく、それでもすれ違いざまに最後の抵抗として対空砲が彼らに向けて放たれたものの、命中しても悉く弾かれ、吸収され、彼の力の元として消えていく、嘲笑を浮かべているかのように。

そして艦娘達は機銃掃射や光学兵器のレーザーに切り刻まれ、艤装もろとも裁断され、縫われて次々と爆散したり、四肢を撒き散らして砕け散っていく。こうも苛烈では『深海棲艦』化して生き延びられた艦娘は全く皆無だった。

 

ーーギュゥゥゥゥゥン!

ーーグォォォォォォ!

 

「お…、お前らは、お前らはぁぁぉぁぁぁ!」

艦娘を皆殺しにしたトラウマ達は何処か誇らしげに、残った半ば手負いの艦娘、武蔵(※アルペジオのムサシとは別人)の上空を飛ぶ、手負いとはいえ先述したように自分の攻撃が悉く歯が立たず、自身の奮戦虚しく、自分を横に置いて仲間達が次々と嬲り殺しにされていくトラウマというトラウマを見せ続けられた彼女はこの行動で完全に吹っ切れた、彼の思惑通りに。

 

「せめて、せめてお前だけでも!」

彼女は残った主砲を死に物狂いでそのトラウマの一機に乱射したものの悉く弾かれて吸収されて同じ結果になるのが返答として帰ってきた。そして他のトラウマ達から無数の光学兵器が一斉に斉射され、彼女の全てを悉く貫き、完膚なきまでに切り刻んだ。彼女はその際に生ずる苦痛と絶望に満ちた断末魔を最期に挙げて、体液を撒き散らして完黙した。

 

 

「やっぱりいい絵だ…。これでこそ戦争。奴らの絶望とトラウマに満ちた最期が私に悦びを与える。

そして奴らはこれで絶滅した…。人間も同様にな。

しかし、いくら陰謀で非が沢山とはいえこいつらはサクラや提督達(イージスミサイル超戦艦 AGSBB 信長の登場人物。本作はこの作品とコラボしている部分がある)と相性が近い。共通点も沢山ある故にか。サクラや提督達はこれをどう考えるのだろうなあ…。取り敢えず報告、かな。」

「サクラ?提督?この世界の『提督』達じゃなくて?」

「ああ、全くの別人。かつて私と一緒に戦った仲間だ。」

「ふぅ〜ん。でも何れにせよこれでこの星はナマモノ達の星になっちゃったって事だね。既にナマモノ達が空と海を埋め尽くしちゃってる。」

「これからはこの世界ではナマモノが沢山取れそうだ…。この世界の生態系のバランスぶっ壊しちゃってる事がその証拠だけど。」

「環境の変化に適応、対抗出来なければその生物は滅びる。そうなるのは必然。」

「必然って…。ドSだなあ…。ところで、あいつらどうするんだ?」

「ああ、艦娘や深海棲艦を造り、その争いで利益を貪るシステムを創った元凶共か。殺すに決まってる。」

文字通りトラウマスイッチを限界まで押し込む程の殺戮劇の一部始終を見届けて満足げに笑うもどこかに複雑な思いーーかつて自分と共にフィンブルヴィンテルと戦ったサクラ達の事が主だったーーを抱えた智史はズイカクに組織のトップ達の処遇のことを訊かれ、艦娘達と同じく殺してやると答えた。彼らもまた、進化という形で研鑽に研鑽を重ねた彼の目からは逃れられず、乗っていたシャトルは彼のロックビームに呆気なく捕らわれリヴァイアサンの後部飛行甲板にいる彼の目と鼻の先に叩きつけられて大破した。

そして組織の重役達が大破したシャトルのハッチを開いてそこから湧き出してくる、彼らが死なないように加減したから当然な結末なのだが。

 

「うう、ここは…。」

「馬鹿共を騙して利益をうまく貪った挙句にいざ危機となると馬鹿共には黙って極秘のルートで脱出…。まあ馬鹿共をうまくこき使ったものだ。」

「だ、誰だ貴様は!」

「この星の侵略を世界各地で繰り広げ艦娘や人類を滅亡に追い込んだ張本人だよ。この嘘つき共が。

見たぞ。お前達が仕組んだ陰謀の全てを。そして自分に都合のいい嘘をつきまくって散々に利益を貪った事を。」

「そうしなければ、ここまで組織を大きくできぬし、第一組織が成り立たぬわ!利益を上げるのに印象やイメージは大切なのだ、例え嘘を吐き、真実を隠してでもいい印象を与えねば、利益はより上げられぬ!」

「欲深い、卑しい、下衆臭い。そして虚構ばかりで真実とは程遠く薄っぺらい。こうだから私は嘘を吐くのが大嫌いだ。特に見せびらかしたら都合の悪いモノは訊かれたら気が進まなくても吐いてやる。まあ訊かれたらの話だが。

嘘を吐きまくって繁栄を得ても最終的にはその報いが返ってくる、嘘を真実に、真実を嘘にしなければならないという事に縛られ続けるという形で。例え損をしても己が信念を曲げるつもりはない。」

ここまで言ったら、寧ろ裏で嘘を吐いていそうな感じもしなくないな…。だがそれから逃げても仕方がない、立ち向かうだけだ。

「何と愚直な!自分の本当のものをわざわざと素直に見せびらかすと!これではまるで子供だ!」

「こういう言葉が多くの大人の口から出てくるから大人は嫌いだ、お前達ほどそうでなくても自分に都合の悪い物を隠したがるから。本当の物事は都合の悪い時は全く言おうとせず、隠したがるからなあ。

子供、餓鬼と罵られて結構。寧ろ大人と言われる方が嫌いだ。そしてお前達の理想に基づく大人は子供以下だな。」

「な⁉︎」

「お前達は謝れるか?心を痛められたか?嘘に踊らされ、お前達に良い様にこき使われた馬鹿共達に。」

「そんな事あるか!愚民はこき使って利用して当然のモノだ!」

「そう言って当然だろうな。馬鹿共達を良い様に利用しこき使って当たり前と考えていたからな。だからこそその痛みを味わなかったのだろう。

まあ、『謝った』らこの事は許して見逃してやる。」

「あ、謝れだと⁉︎立場を弁えろ!」

「成る程、そんなに謝るのが嫌いか。ではこの場で今すぐ殺す。とにかく、過ちを認めるのが嫌なのだろう…?」

「随分と舐めた真似をしてくれる、だが貴様さえ討てばその野望は破綻する!」

確かにその通り。だがそうは甘くないぞ。

重役達の一人が隠し持っていたレーザー銃を智史に向けて撃つ、人間なら当たっただけで確実に死ぬ威力のある代物だった、この中年男は彼を人間と認識したからこそ撃ったのかもしれない。

しかし彼は見かけは人間でも中身は人間ではない。人の姿を模したメンタルモデル、いや終わりなき進化を続けるリヴァイアサンなのだ。

 

ーーパキィン!

ーーパキィン!

「な、何故効かん⁉︎何故だ⁉︎」

「どうした、これで私を殺せる筈ではなかったのか?他に策はあるのか?」

放たれたレーザーを全て吸い込むようにして吸収し、そう言いながら彼は凍てつくような殺気を放って迫ってくる、やれるならやってみろ、すぐに消してやるとばかりに。それを見せつけられたその重役は死を恐怖し、ガタガタと身を震わせ失禁し身を硬直させてしまった。

 

「あ、あ、あああああ…。」

「興を削ぐ様なその下らん面を二度と見せるな。死んでくれ。」

もはやただの置物と化したその重役の一人の首に彼は手を掛けるや否や次の瞬間、力任せに切断してしまった、一瞬、男の切断された首の断面から勢いよく血が噴き出す。

 

「さて、次は誰だ?」

「わ、分かった、とにかく謝れば良いのだろう‼︎」

そして彼は他のトップ達を睨みつけた、先程の光景を見て怖気付いた重役達は慌ててその場しのぎで謝る。

 

「違う、同じ事は二度としまい、そういう誠意のない形だけの『謝り』など私は求めていない。しかもこれには何の痛みも無い。謝りたい気持ちでいっぱいなら何処ででも謝れるはず、いや謝らずには居られない筈だ。謝らずに居られないという事はそのぐらい心が痛いし辛いし同じ事を繰り返さまいという誠意もまた同じ位あるのだ。たとえ体を痛めつけてでもその心の痛みが一つでも消えるのならば肉焦がし焼く焼けた鉄板の上でも進んで謝れる筈だ…。その痛みに耐えてこそ、初めて示せるのだ、誠意を…‼︎」

しかしその謝りは所詮その場しのぎで無かったが故に誠意が無かった、彼はそれに不満と不信を覚え、誠意のある謝りは何かという事について自論を吐き終えると指を鳴らしてバーベキュー用のものにしては随分と大きすぎる鉄板と石炭で一杯のグリルを生成した、そして彼はそのグリルの中へと火のついた木の棒を放り込む、石炭は瞬く間に燃え出し炭火へと変わる、炭火の上に置かれた鉄板は赤々と輝き高熱を帯び始めた。

 

「ま、まさか焼けた鉄板の上で謝れと!」

「その通り。これがお前達の誠意を見極める為の方法、通称、『焼き土下座』だよ。焼けた鉄板の上で60秒間、半身を炎に包まれた上で土下座をする事が達成条件。額を鉄板に付けてからが60秒のスタートとなる。もし土下座が60秒に至らないのならばやり直し。土下座の途中で火が消えてもやり直しだ。炎に包まれたまま始めから謝ってもらう。60秒の土下座に至るまで何度でも何度でもだ。それこそ皮も肉も全て溶け、焼け、骨を直に焼こうともな…。」

「や、止めろ、そんな事をされたら焼け死んでしまう!」

「焼け死ぬ?お前達に焼き土下座を拒否する権利は無い。戦いに勝って初めて実効性を伴って得られる資格、それが権利。私との戦いに敗れたお前達ゴミが主張する権利など最早聞くに堪えぬゴミ以下の醜聞。それでも権利を主張したい、主張したいのならその刑の執行を実力で止めてみるんだな。」

彼は淡淡と彼ら組織の重役達の命乞いを一刀両断する、そして再び指を鳴らすと彼らの周りを取り囲む様にして

黒いコートを纏った筋骨隆々な5mという高さの人離れした巨大な体格の灰色の肌が露わなスキンヘッドが特徴的な男達、通称T-103(バイオハザードシリーズより)が何体と現れた、T-103の群れは次々と重役達を鷲掴みにして捕まえると赤々と焼けた鉄板の所へと連れて行く。

 

「お、おい、そこの女の人、カネは幾らでもくれてやる、今から更生するからこの化け物を止めてくれ!」

「ダメね。智史くんはカネや権力にはあまり興味がない人だし、それにあなた達が言うカネと権力、幾ら馬鹿とはいえ多くの人をこき使い犠牲にして得たモノでしょう?

そういえばあなた達の立場なら、その気になればボディーガードや作り物を呼べるんじゃないかしら?」

重役達はそれでも往生際が悪いのか、T-103達に鷲掴みにされ連行されながらも喚く、金をやる、権力をやる更生する、だから助けてくれと。その命乞いに卑しさをふんだんに感じたのか、冷たく一蹴する琴乃。

 

「あ、ああ…、ああああああ‼︎」

「根絶やしにした今では来れそうにもないな…。そして相変わらず誠意の全くの無さよ。最期の時に誠意の厳しさをじっくりと骨の髄まで味わえるというのに。やれ。」

 

ーービチャァ!

ーーゴォォッ!

「おぁぁぁぁぁ!」

「ぎぃぁぁぁぁぁ!」

 

ーーガッ!

ーージュゥゥゥゥ!

「うごぉぉぉぉぉぉぉ!」

「一度にやるのは詰まらん、一人一人、じっくりとやってやれ。」

そして重役達は一人一人、半身にガソリンを浴びせられた後火をつけられ半身火達磨にされた上で赤く焼けた鉄板の上に叩きつけられるようにして放り出された。

半身が燃え盛るガソリンで焼かれるので跳ね回るも、消そうにもそこに接しているのは赤々と焼けた鉄板。

まさに、焼き地獄である。こんなモノなど人間にしてみれば最早度を逸した拷問だ、あまりの高熱に動かずには居られずに苦悶を上げて跳ね回ってもおかしくない。

しかし、こんな事を延々としてもこの焼き地獄は終わらない、この状態のまま額を焼けた鉄板に付けて60秒土下座をしない限り終わらないのだ。

 

「“ああああああ!おぁぁぁぁぁ!”」

ーーガンッ!

ーーガンッ!

ーードシャッ!

ーードシャッ!

「ひ、ひぃ、ヒィィィィィ!」

「やだ、やだァァァァァ!」

「ふふふ怯えろ…。もっと怯えろ、恐怖を共鳴させるのだ…‼︎誠意の厳しさを深く胸に刻み込め…。」

炎に包まれ苦悶を上げて跳ね回り、そして追い打ちとばかりにT-103達にその焼きかけの身体を赤々と焼け焦げた鉄板に何度も何度も叩きつけられる男達を見た他の重役達は動揺し恐怖する、そして震え上がる。

智史はそれを見て満足気に笑みを浮かべた、別に土下座が達成されない様な事を巻き起こしても彼は全く気にしなかった、「殺す」と発言していた通り、当初から彼らを生かして返すつもりなど毛頭すら無かったからだ。

 

「ふむ、焼き地獄に耐えきれずにくたばったか。次。」

「や、やめろ、やめてくれ」

ーーボアッ!

ーーゴオン!

ーージュゥゥゥゥ!

「うがぁぁぁぁぁぁ!」

やがて一人が全身を焼く苦しみにのたうち回った上に同じように焼きかけの身体を何発も赤々と焼け焦げた鉄板に叩きつけられて滅茶苦茶な様で焼け死ぬ、それを見届けると彼はまた別の重役を放り込む、その男も全身を焼かれる苦しみに耐えきれず、土下座もせずにのたうち回り、同じように叩きつけられてまた滅茶苦茶になって焼け死んでいく。

それが繰り返される、その度に一つ一つ違う苦悶が響いては消えていく。やがて最後の重役がグチャグチャの黒焦げとなって焼け死んだ、他の者達も皆グチャグチャに叩きつけられて原型留めないほどの黒焦げと成り果て苦悶や恐怖を刻みつけた様相すら分からないほどの様となって息絶えていた。

 

「ほんのちょっと負荷を加えただけで土下座のポーズさえ出来ずにのたうち回るとは、実に醜い。誠意の一つすら実行出来ない本性に相応しい苛烈な末魔が見れて満足だ。」

「いやいや、求めている誠意があまりに厳し過ぎる点もあるんじゃないの?まあこうでもなきゃ同じ事をまた繰り返すかもしれないからな。ところで、焼き土下座って発想、何処から来た?」

「カイジという漫画作品の中で兵藤という男が失態を犯した部下を制裁する際にその罰が用いられたシーンから来た。誠意の無い謝罪のポーズには不満足なんだとさ。」

結局、厳し過ぎる厳し過ぎないにせよ、これらに耐えきり60秒の土下座を成し遂げここを凌ぎ切った重役は誰も居なかったという事は明らかだった。

 

「さてと、ここは完全にナマモノの星になったし、ここでやりたい事、やるべき事は全部やり尽くしたから満足だ。次はフロントミッションの世界系に行くとしよう。寝返り電波砲を使って部下を洗脳して軍デレを弄んでやる。」

「軍デレ?誰だそれは?」

「リン・ウェンライトという女上官だよ。こいつは鬼上官の様に振舞いながら好きな奴に対してはツンデレだからな。ツンデレの焦らしは本当にイライラするから気に入らん。どういう風に嬲ろうか、マーライオン擬きにするあたりが面白そうだな。」

「やっぱり、ツンデレか…。新型寝返り電波砲を見てはニヤニヤ笑いながら小型寝返り電波砲を作ってた理由が分かった…。あ、そろそろ夕飯の支度した方がいいんじゃないのか?」

「そうだったな。琴乃、夕飯作り始めようか。」

夕飯食べ終えた後、サクラと提督達に艦これの世界系の一つでの仕置きの内容を説明しようか。

そして彼らはリヴァイアサン艦内の厨房へと向かっていった、夕飯といっても様々な世界を飛び回っているので時間の違いによる混乱を防ぐ為に最初に出現したアルペジオの世界の時間を基にして食事の時間を設定し、それに従っただけの事である。

それと同時にリヴァイアサンは人類も艦娘も深海棲艦も皆絶滅し最早立派なナマモノ天国となった艦これの世界を出発し、智史の欲望を満たす新たな生贄として選ばれてしまったフロントミッションの世界系へと向かっていった、家になってもいつも通りの顛末でーー



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おまけ話 玩具と都合

本編の間の息抜きとしてマイペースに何気なく執筆してたら内容は膨らむわ月日は経つわで色々ありました。
しかし日常の中で新たに学んだ事もあるのでそれも踏まえながら執筆しております。
本編で登場した人物達が多数登場しますが、決して本編ではありません。
それを踏まえた上で読んで頂ければ幸いです。


これは、本編の事実を基にしつつも本編とは異なるまた別の流れの話である、本編に関わる話はあるも決して本編に非ずーー

 

「し、しおい…。他の艦娘達も…。一体、何があったの?」

「い、イオナちゃん…‼︎うわぁぁぁぁぁぁん!リヴァイアサンがぁぁぁぁぁぁ!」

「史実を模したモノを付けて勝手に本物のように振る舞うんじゃないって言って私達を…。私達を…。」

イオナは半分唖然としていた、何せ彼女の目の前には服も艤装も破れ壊れ、ズタボロにされ、血に染まり、汚れも付いた包帯やガーゼがあちこちに見受けられる艦娘達が無数いたのだから。

そんな彼女に艦娘のイ401ーー通称しおいが泣き付いてきた、しおいもまたリヴァイアサンごと海神智史に情け容赦のない仕打ちを受けた艦娘の一人であった。

 

「…誰だ、艦娘達をこんな目に遭わせ泣かした奴は?」

「他でもなく、私だ。」

杏平はこれを見てこんな事をしたやつは誰だと尋ねる、智史は嬉しそうに自分だと名乗る。

 

「…アホ、艦娘達はボコボコにして泣かすものじゃねえ‼︎別の世界のものとはいえイオナはこいつらと一緒に深海棲艦と手を組んだ他の霧と戦ったんだそ!」

「そうか。別に気に入らないからどうでもいい事だが。」

「おめえが気に入らなくても、お前にとってサクラ達が戦友であった様に俺達、特にイオナにしてみりゃ艦娘達は戦友なんだ!」

「だから?愚劣かつ器の小さな奴程、自分の都合が悪くなった時に自分達のことを考えろとよく騒ぐな、かつての私がそうだった様に。

気に入る気に入らないに関わらず、艦娘共は私と戦い負けたのだ。もし勝ってたら避けられた事柄だ、こんな目に遭うのは必然。」

「何だとぉ⁉︎艦娘達が酷い目に遭った事を反省しねえのかよ‼︎」

「反省?するつもりはない。させたいならやってみるがいい。ところで、お前は、何かを利用し、犠牲にする事なく喜びを掴めたことがあるか?」

杏平は智史に艦娘達を痛めつけたのは反省すべきだろと詰めかける、しかし彼は内心これを醒めた目で見ていた、これまでの終わりなき進化の際に習得した様々な経験や情報が彼にそんな態度を取らせていた。

 

「何を突然…⁉︎」

「突然で驚くだろう?だがそういう事はお前には無いみたいだな。仮に利用していると自覚しなくても何かを手に入れるために人間も、動物も植物も、私も形が違えど何かを利用し犠牲にしているのだ。そうでもなければ喜びは掴めない。今回の場合喜びの対価として利用され犠牲になったのは艦娘達だという事だ。

さて、本題に話を戻そう。杏平、艦娘達が自分の大切なものに含まれているからこそ、艦娘達が私に攻撃され痛めつけられた事にお前は怒っているのであり、それ以外なら怒りもせず、私と同じ態度を取るだろう?

お前は、自分が大事だと思っていないものの頼みに耳を貸した事があるのか?お前は自分の都合を高々と主張していただけなのだ。」

「ぐ…。」

智史は自分に関心の無いものの頼みに耳を貸していた事があるのか、自分の都合を主張していただけだなと言い返して突っ込んだ、その辛辣な鋭い指摘に杏平は何かグサリと来たのか、ぐうも言い返せずに沈黙してしまう。

 

「貴様が天城を‼︎よくも…、よくも…‼︎」

「すみません、どなた様で?」

「そこのお前はいい!海神智史に用がある!」

「おまえ、どんだけ暴れたんだ…?」

そこに筑波貴繁が鬼の様な様相で乱入して来た、筑波は天城の戦友だった、その天城は彼の手に掛かり家具にされ今もその際の後遺症で苦しんでいる、それに筑波は激怒していた。

筑波は誰だと尋ねてきた杏平を他所にしてその張本人たる彼に掴みかかった。

 

「なぜ天城をこの様な目に遭わせた!」

「気に入らない奴をこういう悲惨な目に遭わせるのが楽しかったからだ。」

「天城の何が気に入らない⁉︎」

「所詮独身貴族という名の隠居生活の癖にマイホームを奪われたくないと子供の様に生意気に振る舞った、それが理由。」

「そんな些細な事が天城をこんな目に遭わせた理由だというのか!いいか、貴様がいらん事をしたせいで天城は見る影もないぐらいに顔が歪み後遺症に苦しんでいるだけでなく、日本国内が一瞬即発になりかけ混乱し、何十人もの犠牲者が出たのだぞ!」

「そうか。まあ他人事だから別に痛まないが。筑波貴繁、お前だって多くの不幸と呻きの上に筑波貴繁自身の為の今の地位を、幸せを築いていたろうに。今のお前の行動は所詮感情的でしかない。」

「他人が苦しむ事を平気な顔でする稚拙な頭しかない貴様にその様な事を言われる覚えはない!」

「これはこれは、軍人に相応しくない様相だ。幾ら凄まじく怒り狂える事があるとはいえそのまま激情に身を任せ独断で動くとは。まあそのまま激情をぶち撒けたいなら軍人としての栄誉もプライドも何も捨てるといい。」

智史は淡淡と理由をはっきり述べ、筑波の行動は所詮感情的な自己中でしかないと何も包み隠さずストレートに指摘した、当然この指摘を聞いた筑波は完全にブチギレた。

 

「こういうもの、何回も見たから何とも言えんな。」

ーーベコキッ!

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

筑波は彼を殴ろうとした、しかしその腕が届く前に彼はそれを掴みそのままあらぬ方向に捻じ曲げてしまう。幾ら鍛え上げの軍人とはいえ筑波は所詮人間という生物の域を抜け出でてはいない、対して彼、リヴァイアサンごと海神智史は霧のメンタルモデル、それも常に終わりなくペースを上げて進化をし続けている懸絶した力を持つ超規格外の化け物なのだからこれはどうしようもない。

 

「さて、いつか私に復讐したいか?私をいつか必ず殺したいか?」

「ああ、いつか必ず殺してやる!」

「そうか、ではその勝負をいつかではなく、今やろう。筑波貴繁の様に私に挑み、勝ったらお前達が受けた扱いの悪さを私が引き受けるとしよう、無論負けたら徹底的に叩きのめして死んだ方がマシなぐらい栄誉も何も地に落としてやるよ。」

「ぐ…、好き放題言うな、ケダモノ!」

「ほう、吠えるだけか。今のは条件の厳しさのあまり真剣になれず躊躇している事の裏返し。『保留する』事こそがお前達の本質。即ち今のお前達の怒りは偽り。

お前達は死ぬまで純粋な怒りなんて持てない、ゆえに本当の勝負も生涯できない。つまりお前達は死ぬまで保留するビビリ虫だな。」

「「…………。」」

苦悶の表情を浮かべ悶える筑波を尻目に彼は艦娘達の方を睨みつけるように再び見つめ、復讐をしたいかと問いかけ、そして負ければ命や名誉を失うリスクを伴う真剣勝負を叩きつけた。凄まじいリスクなので彼女らは思わず保留という本音が出てしまう。

 

「とここまで言いたい放題言っても所詮は口だけの低俗で終わり…。今、実力で全てはっきりと決めようか。」

「やめて!」

「おい、やめろ馬鹿!」

彼は手元にキングラウザーを取り出すと艦娘達をその場でとっとと斬り捨てようとする、イオナと杏平はそれを慌てて制止しようとする。

 

「落ち着け、リヴァイアサン。一理あるとはいえ今の貴様の言動は虫ケラの心を深々と抉り、傷つける。」

「フィンブルヴィンテル…。」

「ここはどこだと考えている、幾ら敗者とはいえ奴らは401とその仲間にしてみれば大事な存在だ、皆殺しにしたら彼らの心に深い傷が付く。」

「ヴォルケン…。」

「リヴァイアサンを一旦外に連れ出すぞ。今の状態の奴は何の刺激も与えないほうがいい。」

「了解した、幾ら憎くても今のお前の発言は正論だ。海神智史をあのまま放置すればここは見事な血の池地獄になりかねない。」

幸い偶々その場を通りかかったフィンブルヴィンテル達がその場を鎮めた為に智史は暴走しなかった、彼はフィンブルヴィンテルと共に部屋を退出した、彼が出て行ったことにより緊迫した雰囲気は消滅していく。

 

「モンタナ、彼らの処遇はどうする?」

「そうね、智史さんの意見も無視出来ないわ。」

「どういう事だ?」

「『艦娘を助ける事など所詮自己満足。問題はその自己満足をどういう風に軋轢なく自分達の発展につなげるか。身を滅ぼすのも彼らを増長させるのも、共存するのも全て自分達次第』って私に言ってたわ。

つまり人間の言葉で言う私益公益論と私悪公益論、私益公悪論と私悪公悪論の問題ね。理想なのは私益公益論だけど。」

「しかし艦娘達がクズではないとは完全には言い切れないからな…。それに今回の彼らは提督とやらに依存しているフリをして実はうまく騙して利用していたと海神智史は話していた。」

「智史さんが言う様に全員滅ぼした方が賢明かしら?」

「それは行き過ぎだが…、直ぐに信用出来る者達とは言えないな…。そもそも、海神智史がこうも暴れなければこういう事態にはならなかったのだが…。」

「でも私達には智史さんを止める程の力は無い。前よりは強くなってるけど、彼はそれさえ帳消しにするような懸絶した勢いで強くなってるわ…。」

「外の世界へと旅をする事自体を悪く言うつもりはないが…。こうも凄まじい暴れっぷりが伴うのでは、我々霧に対する誤った評価が定着しかねないぞ…。」

「『お前達がリヴァイアサンを他の所に押し付けた』という風評もかしら。私達は彼を別に押し付けてなどいないのに。」

「お前達がリヴァイアサンごと海神智史を管理しないから自分達が滅茶苦茶な目に遭ったんだという考えも出て来そうだ、幾ら私達に無理な所があっても、これには一理あるからな…。」

ヴォルケンはそう愚痴を思わず呟く、風評は気にし過ぎても良くないが、かといって気にしないのも問題だった。

リヴァイアサンもとい智史があちこちで好き放題暴れ、破壊、蹂躙、暴虐非道の限りを尽くしたせいで、霧に対する何らかの負のイメージが付きまとっていたからだ。

そんな感じで彼女達は悩む、そしてフィンブルヴィンテルと共に退出した智史はーー

 

「これは、スラム街か?」

「一応、貴様に破れ放り込まれた者達が霧という下衆共の庇護下の元保護されている区域だ。貴様も一応、『霧』である以上貴様に処遇を押し付けたら『霧』の評価を暴落させかねないとの判断でここが建造されたそうだ。」

二人の視線の先にあったのは、急遽建設されたスラム街ならぬ彼に滅ぼされた世界に存在して居た異邦人達の居住区の一つであった、そこは彼らに対する衣食住は保障されているものの雇用問題を始めとした待遇に対する不満や元いた世界とこの世界のギャップや思想の違いから一部が暴発し頻繁に犯罪や抗争を引き起こし弱肉強食の掟が成立し暴力と恐怖が全てを決める場所に変えてしまった為に治安が極めて悪化していた場所だった。

当然、弱い者より弱い者を虐げ、そしてその者はより苦しむという世紀末のような有様がここには存在した。

 

「暴落するから?保護という形で何も働かせず、ただおまんま食わせるだけだったら、維持も手間暇かかるだろうに。むしろこれで管理が出来なければ更に大暴落だ。そもそもこういう状況が生じている原因は私だから私自身がどんな形であれケリをつけるべきだ。」

「リヴァイアサン、その考えはよく分かるが貴様のやり方は極端過ぎる。だから本来貴様が負うべき負債を奴らがあえて背負う事になっているのだ。」

「まあその通りだがな…。おや?」

智史は自身に向けられた視線の元に目を向けた、そこには彼に敗れ自分達の世界を滅ぼされたウルトラマンや仮面ライダーの世界系の住民達がそこに居た。

 

「わ、海神智史だ…‼︎」

「こっちに、気がついた…。わ、笑ってやがる…‼︎」

「に、逃げろ、本当に殺されるぞぉぉぉぉぉ!」

「貴様、余より遥かに強そうなあの超人どもをここまで震え上がらせるとは、一体どれほどの事をしたのだ?」

「武器火器を撃ちまくり吹っ飛ばして氷漬けにした後にブラックホールで一切合切を消滅させてやった。この他にも世界をたくさん滅ぼしている、数は一応覚えてはいるが、口に出しても貴様には訳が分からん数だろうな。」

「なるほどな…。だがここまでやったらそれを警戒する者達が出てこない訳がない。」

「その通り。現に世界系を守護管理する者達とやらが私を始末しようと色々と策を仕組んでいる。フィンブルヴィンテル、私も貴様にもそこと繋がりがあるぞ?」

「繋がり?余と?何の繋がりなのだ?」

「貴様自身の出生元だよ。誰に造られたのかという事。」

「生まれ?そういえば、余はーー」

フィンブルヴィンテルは智史に自分は何処から生まれたのかと訊かれ少し悩む、そして言葉を繋ごうと次の言葉を出そうとした時ーー

 

「きゃぁぁぁぁぁ!」

「何だ?叫び声か?」

叫び声が聞こえた、ここからさほど離れていない場所で。

少なくとも異邦人達の居住区の中からではないが、その近くであることは間違いなかった。

 

「この続きは後で話すとしよう、今はその叫び声が気になる。」

「嫌な…、予感しかせぬな…。」

その声が気になった智史はその声が聞こえた方へと歩いていく。

 

「蒔絵を、離せ!」

「ふん、離すかよ。手元にある金を出さなきゃこのガキの命はねえ。」

「く、くそ…。ここは市街地だからといい気になりやがって…‼︎」

そしてそこには仮面ライダーや超人達が複数人ーー通称超人強盗団が蒔絵を人質に取り思うように実力を振るえないハルナとキリシマを甚振り金を要求する光景が存在していた。

 

「これは、強盗団か…。」

「私に襲われた者達の一部が、様子見とはいえ私がヤマトや群像の言いつけに従って大人しく何もしない事をいい事に好き放題に暴れているという目に見える事象の一つ。」

「なるほどな…。しかしその理由の中には貧困もあるぞ…。」

「そうだな。他には教育や思想の問題か。私は白黒思考型の実力・武力による統治を主とする覇道に基づく政治を好むのに対してヤマトや群像は仁徳による統治を主とする王道に基づく政治を好む。白黒思考による実力・武力による統治は乱を沈めるのには最適だが同時に一時的とはいえ凄まじい恐怖と絶望を撒き散らす。そしてそこに安らぎは無い。だからさっき貴様が言ったように大人しくしていろという事になったのだ。」

智史は『大人しくしていろ』という理由を解決の仕方の違いやその根底にある考え方の違いも含めてそう呟いた、自分は覇道に基づく解決方法が主流なのに対してヤマトや群像は王道に基づく解決方法が主流という違いがこの理由の主であると考えて。

 

「何だ、お前は…。海神智史か…。」

「聞いたぞ、ヤマトの犬め。今ここで手を出せばヤマトの機嫌を損ねるぞ。」

「………。」

彼は『ヤマトの機嫌を損ねる』と自分に感づいた彼らに脅される、彼は答えを返さなかった、しかしそれはヤマトの機嫌を損ねる事を恐れていた訳ではなかった。

 

「どうした、ヤマトとやらの機嫌を損ねたくないと怖気付いたかこの腰抜けめ。だがもう遅いわ!」

「生徒会とやらも思うように動けず、裁けない今、俺達は好き放題よーー‼︎」

だが彼らはこれを『ヤマトの機嫌を損ねる事を恐れている』と解釈したのか調子付いて騒ぎ立てる、彼を臆病者と罵るように。

 

「“智史、貴方に制裁を一任すれば極論を出しかねません!”」

「“君に全てを一任したらちょっとした事でもみんな壊しかねない程の惨劇を引き起こしかねないんだ。”」

だからといって緊急時でも他者に判断を任せてその時まで何もせずうじうじとしていろと?

現にヒエイ達生徒会が半殺しにされる事件が目の前で起きたのに。

愚かな。馬鹿すぎる。

それでも敢えて私は従った。

何故か?

お遊び感覚とはいえ一度引いてヤマトや群像達の力量を見極めるのも勿論のこと、怨みを溜めて気に入らぬ者達を徹底的に叩き堕とすためだ。無論ヤマトや群像達の力量が優れ私が怨みを存分に貯める環境が生じなければそこまでだが。

そして念の為言っておくが気に入らぬ者達にはヤマトや群像達とその仲間達は含んでいない。一応『仲間』である以上敵対しない限りは手を出す気にはなれない。

自分で墓穴を掘るとはな。ヤマトや群像の命令にあえて従い溜めに溜め続けた怨みをぶち撒けるには絶好の機会だ。

さあ、その怨みをぶち撒けるか。

彼はその罵りに対しこう内心で本音を呟いた、これまでの極端な所業の影響で制裁権を取り上げられ制裁に許可が必要になったのは分からぬまでも無いが、ごく数日前にヒエイ達霧の生徒会が異邦人の犯罪者達に半殺しにされかけ現時点で行動不能になってもなお許可を得なければ制裁ができないのか、と。そしてそれを呟き終えるのとほぼ同時に彼は右手にキングラウザーを取り出して斬りつけた。

 

ーーザシュッ!

ーーババババババシュッ!

「グハッ!」

「さ、智史⁉︎」

「そろそろぶち撒けよう、我慢の代償として溜めていた怨みを。

これよりこの世界のルールに従わずに他の者達に害を撒き散らしている異邦人達を全て嬲り、塵殺する。」

彼は次の瞬間超人強盗団のメンバーの一人を無惨なまでに切り刻んでいた、そしてルールを守らない異邦人達を殲滅すると宣言する。

 

ーーバシュ!

「ヒイッ!」

「本当に、殺りやがった…‼︎」

ーーズバズバズバ!

「ギャハッ!」

「やめろ、一体何を考えている‼︎」

「お前には総旗艦ヤマトからの制裁許可が降りてないというのに!」

「構わん。私には元からヤマトの命令に盲目的な程忠実に従う気など無かった。そもそもこいつらは私が玩具として取っておいた者達だ。だから私は鬼畜だし畜生だ。霧の評判を穢すほどに外道だ。そういう訳で手を汚しても何も痛まん、既に手を何度も何度も数多、汚している故に。アドミラリティコードやら命令やらに違反しても構わん。

いずれにせよ何もせずただ指咥えていれば私はおろか、ヤマトもお前達も更に軽視される事になろう。極端な手段でも元凶一切合切を解決出来れば問題は無い。徳を汚す事を恐れるあまりに表面をどうにか取り繕うという姿勢で物事の根本が解決できる方がおかしい。

幸い私という鬼畜外道がいるからその問題は解消出来よう。ヤマトや群像達は王道のままで居てくれればいい。私を命令違反を犯した外道と罵れる立場でいればいい。私は私自身が望む道ーー外道に等しき覇道を貫くだけ。」

「な…。命令違反は最初から決めていたのか‼︎」

「そうだ。そして外道と罵り穢れた私を切り捨てれば霧は穢れなくて済む、ただそれだけの事。」

「(正気か、奴は…‼︎何れにせよこのままでは…!)」

彼の心の本音を直に聞いたフィンブルヴィンテルは衝撃を受ける、しかし覚悟は兎も角、彼、海神智史の暴走が始まった事はフィンブルヴィンテルは同時に確信していた。彼に世界を滅ぼされた者達の一部が悪業を起こしたせいで彼の暴走に拍車が掛かってしまった事に。勿論暴走する理由の中に彼がヤマト達や他の仲間達の事を自分なりに考えている故の結果も含まれていた事は理解していたが。

 

「行け、蒔絵。ハルナとキリシマの元に。これより私は玩具を嬲り喰らう悪鬼となる。」

「でも、この人達は、あなたに、お家を奪われた不幸な人達だよ…?そしてその上に更に不幸を振りまいて、本当に後悔しないの…?」

「甘い。家を奪われたから、玩具にされたからという理由で強盗や窃盗が許されると?笑かすな。そんな免罪符が罷り通ればそれこそ更なる不幸がばら撒かれるわ。そんな輩を法の実効性を保つ為にとっとと根切りにした方が不幸が少なくて済む、だから。

フィンブルヴィンテル、ハルナ、キリシマ。周りの者に私がヤマトの命を破り法に従わぬ一部の異邦人達に対し見せしめとしての殲滅行動に乗り出した事を早く伝えろ。非難は許しても気が済むまでの間妨害は許さぬ、奴らと同様と見做して法を破る事に対しての見せしめとして徹底的に撲滅するという事も加えて、な。」

「見たか、今の奴を下手に刺激すれば火に油を注ぐような事態になりかねない。

ここは奴の言う通り周りの者に知らせねばならぬ。特に奴の側にいるあの女ーー天羽琴乃には。」

「了解した、やる気満々の智史に手を出せばこちらに火の粉が降ってくるかもしれない。あいつを止められるのは琴乃ぐらいだ。」

フィンブルヴィンテルとハルナ、キリシマは彼の言葉を聞いて蒔絵を連れて立ち去っていく、スイッチが入ってしまった智史を多大な犠牲を出してでも止められるなら兎も角現実は全く止められないので周りの人間に知らせた方がマシという考えが彼らの中で共有されていたからだ。

その光景を静かに彼は見届けると残りの超人強盗団のメンバーを凍りつくような眼差しで見つめた。

 

「に、逃げろ、逃げろぉぉぉぉ!」

「そうだ、逃げてみろ、逃げ切れるのなら…。」

その瞳に籠った殺意を彼ら超人強盗団の残りは敏感に察したのか、蜘蛛の子を散らすようにこの場から逃げ出そうとした、しかし彼はすぐさまクラインフィールドの結界を展開して彼らを強引に拘束する。

 

「あわわ、あわわわわ…。」

「てやっ!」

「うわぁぁぁ!」

ーーバンッ!

「もう抗いもしないか。飽かせないでくれ。」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

ーーバシャッ!

そのクラインフィールドの結界は彼の日頃の進化研鑽のお陰か、殆ど労力を使っていない程度のものとはいえ、途轍もなく硬かった、彼らの必殺技、合体技も悉く簡単に弾き吸収してしまうほどに。彼は死に物狂いの抵抗も全く意に介さず、狂気に満ちた笑みを浮かべ、その残りを一人、また一人と嬉しそうにキングラウザーで斬殺していった。

 

「いくら玩具とて、秩序を守らぬ者はこの世にはやはり要らぬ。せめて心地よい末魔を奏でる道具となれ。」

そして彼はその異邦人達を悉く惨殺すべく次々と兵器、兵隊を次々と生成し始める。

 

「始まったか…。どうする?口頭で知らせながら行くか?」

「概念伝達を使うぞ、口頭や人間の言葉で言うSNSを使うよりはこちらの方が貴様ら霧にしてみれば情報の拡散が早い。使えるものは使え。」

その光景を遠くから見ていたフィンブルヴィンテルは概念伝達を使った方がより情報の拡散が速いと提案した、かくしてフィンブルヴィンテル達は智史が暴走を開始した事を概念伝達で拡散し始めるーー

 

ーーほぼ同時刻

 

「わかった、直ちにヴォルケン様に伝える。」

 

ーーガチャ!

 

「ヴォルケン様、一大事です。」

「何事だ、シャドウ。」

「フィンブルヴィンテル、ハルナ、キリシマから概念伝達で知らされたのですが、たった今、リヴァイアサンが兵を生成して異邦人達の殲滅に乗り出したとの事です。」

ヴォルケンの直属の部下の一人、シャドウ・ブラッタが入室してきた、会話を見る通り彼女はフィンブルヴィンテル達からの智史が独断で排除行動に乗り出したという概念伝達の内容をヴォルケン達に伝える為にここに入室したのだ。

 

「何だと、それで原因は?」

「は、大戦艦ナガト元配下のハルナとキリシマが刑部蒔絵と共に買い物の帰りの最中、強盗事件に遭った模様。偶々現場近くを通りかかったリヴァイアサンによりその犯人は確保、いえ、殺処分されました。」

「つまりその犯人が、またも異邦人だったという事か?」

「はい、リヴァイアサンに故郷を破壊され、ここに保護されている異邦人達の一部がここ最近、支援不足による極貧生活に基づく頻繁な強盗事件や思想の違いから抗争を頻繁に引き起こしています。」

「その強盗事件や抗争に我々の仲間や人間達が巻き込まれ、異邦人の保護に対する抗議も来ているという事実も存在している。そこだけ見ればたとえ私利私欲とはいえど、海神智史の排除行動も理解できなくはない。」

「ですが我々の施策に対する理解を示し、同化を始めている者もいます。」

「そうだろうな、海神智史も現に、自分が関心や好意を持っている者とはいえ、一部の異邦人に対する支援も行なっている。

しかしそれはあくまで海神智史自身が関心や好意を持った者でしかない。恐らくその排除行動はそれ以外の者、我々のルールに従おうとしない者だけでなく奴が気に入らない者に対しても行われるだろう。シャドウ、それで大体あってるか?」

「はい、奴が気に入らない者の中には我々にしてみれば消したら消したで政治的悪影響を与えかねない者達も僅かながら居ます。彼らがいるからヤマト様は敢えてその張本人たる奴に任せなかったのでしょう。」

「義務感や責任感はあるだけマシだが…。それが徹底した白黒思考のせいで少なくとも我々にしてみればマイナスの方に働いてるな…。」

「保留というものを奴に持って欲しいということでしょうか。ただ奴の言う通り、うじうじと判断を先延ばしするのも如何かと考えます。」

「そうだな…。概念伝達でこの情報が拡散されたという事は、ヤマト様はこの事を知られているのだな。」

「ええ、まずは奴の出した兵の排除対象に対する排除行動を直に妨害するのは控える様にと命令を出されています。但しそれ以外に被害が拡大する様ならば阻止行動に移しても構わないと。」

「言うことは簡単だが、いざやるとなると難しいな…。奴の機嫌を伺いながら、法を破った者達以外の異邦人達を守らなければならないのだから。何処から何処までが『悪党』と『それ以外』を分ける境界線なのだ?奴の考えの様に世界が白黒はっきりしていたらそんな苦労などしなくて済むのに。」

「今は、やれる事をやりましょう。何もしなければ奴の好き放題です。」

シャドウはヤマトからの命令に関する事で悩むヴォルケンに何もしないよりはまだマシと進言した、ヴォルケンはその進言に首を縦に降る。

 

「奴が、リヴァイアサンが、私達を殺そうというの⁉︎」

「そういう訳ではない、ただ異邦人の一部が問題を起こしたせいで海神智史がそれに対する行動を起こしたというだけの事だ。」

「でも、あそこには、私達と同じく、彼によって仲間を殺された人達が…。せっかく仲良くなれて希望が芽生えたというのに…‼︎」

「リヴァイアサンのこれ以上の横暴を、専横を許す訳にはいかない…‼︎私達も同行させて!」

その話の内容をその場で聞いていた艦娘達は智史が行なっていることの詳細を知るや否や彼の凶行を、殺戮を許すわけにはいかない、同行させてくれとヴォルケンに凄まじい様相で食い下がる、しかしモンタナは彼女らの行動を冷ややかな目で見つつこれを遮った。

 

「横暴、専横…。智史さんのその行動を貴方達はそう捉えているでしょうけど、では智史さんはその行動を何故取ったか、分かるかしら?」

「もしかして、私達も含めた異邦人の一部が、問題を、起こしたから…?」

「そうよ。その問題で私達の仲間がどれほどの苦しみを味わったのか、分かるかしら?そもそも誰のおかげで居住区とやらに枕を高くして眠れている訳?」

「モンタナさん達も含めた霧の皆さん…、ですか?」

「その通りよ。幾ら智史さんが貴方達外の世界の住民達に暴力を振るったせいでその問題の遠因を作ったとはいえ、実際に問題を引き起こしているのは貴方達外の世界の住民達よ?貴方達を今の状態にした智史さんに一人で責任取りなさいと問題の解決を丸投げしていたら貴方達の命はとっくに無いでしょうね。」

「「「……。」」」

「まあ、智史さんに対する恐怖に駆られて智史さんを抑え込みたいという衝動は分からなくはないわ。ただ、その衝動に駆られて勝手に行動されたら彼らと同じく問題を引き起こした事になるわ。そうなるともう擁護は出来ないわ。智史さんの肩を持たざるを得なくなるわね。」

モンタナは今の現状を含めた物事を冷たく現実的に言い放った、恐怖に駆られていたとしてもそれはそれ、これはこれで破ったらもう擁護は出来ないと。

総旗艦ヤマトは群像達と協議し智史に異邦人達の処分を一任せずーー実際には玩具として確保した異邦人達をこの世界に放り込んだら一体どうなるか見極めたかった為に彼はあえてそれに従ったーー自分達の手で行う事を彼を除くすべての霧に命令した、しかしそれは同時に異邦人達の管理を行う際の負担が彼女らにのし掛かるように命令したという事でもあった。

そしてその負担は半端ではなかった、何せその異邦人達は彼に面白半分で滅ぼされた何万何億という数の世界系のあちこちに住んでいた元住民達なのだから。その中には当然のことながら彼には手に負えても自分達では中々手に負えない者達もいた。

何より彼女らには外の世界系の住人達に対する「経験」が無かった、それ故に本当に害のある者かそうでない者か見分ける為の十分な経験を体験していないままいきなり彼に世界系を滅ぼされた異邦人達を保護しなければならないという状態に直面しこれまでの経験とは違う水面下から表面へ次から次へと噴出してくる問題に彼女らは四苦八苦していたのだった。

モンタナの放った言葉にはこれらに対する愚痴が含まれていた。

 

「ヴォルケン、モンタナ…。」

「401、お前は艦娘達が勝手に行動しないようにその場に留まってくれ。彼女らが奴と下手に交戦すれば逆に奴に弾圧の口実を与えかねない。」

ヴォルケンはイオナにこの部屋にいる艦娘達が勝手に行動しないよう命令を出した、イオナはそれを了承する。

ヴォルケンとイオナは共にヤマトの指揮下に入っている上にまともに対立する理由が無い以上、本編のような敵対状態ではなかったからだ。

 

「行くぞ、リヴァイアサンもとい海神智史の暴走の拡大を抑制する。」

そしてヴォルケンはモンタナと部下達を引き連れ部屋を出て行った、これだけの騒ぎを起こせば彼女達が出てくるだろうという彼、海神智史の現実的なシミュレーションの結果通りに。

さて、その問題の居住区ではーー

 

「逃げろ、海神智史が攻めてきたぞぉぉ!」

「なんで、俺達までこんな目に遭わなきゃならないんだ!」

「一部の奴らが好き放題やりやがったせいで…‼︎」

智史が居住区に攻め入って来た事を知らせるサイレンが鳴り響く、そこにいた住民達は戦慄し慌てて彼から逃げ惑う、問題を引き起こした一部の住民達のせいで自分達がこんな目に遭わなきゃならないのかと喚きながら。

 

「おや?ここに私から逃げ遅れた者達がいるな。」

ーーバガァン!

ーーガガガガ!

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

ーードガァァァン!

ーースガァァァン!

「奴等の全てを奪い、壊し、悉く焼き尽くしてしまえ。殺戮が奏でる末魔を一時とし、より深く我が心に響かせる為に。」

智史は僕達を率い自ら陣頭に立ってその異邦人居住区に突入するや否や片っ端から蹂躙の限りを尽くしていた、彼の左手に握られているダネルMGLが火を噴くその度に随分と手加減されているとはいえ着弾した半径数百m以内には圧倒的な火力の嵐が吹き荒れ、抵抗する者達を、そこに存在していた交流の記憶も、幸せの記憶も、憎悪、憎しみと共に吹っ飛ばして耕していく。

 

「私の身はどうでもいいから、せめて子供だけは、助けて…‼︎」

そんな彼に近づく者は悉く戦場の塵にされるか吹っ飛ばされ動かぬ骸になるかが殆どであった、しかし運良く生き残ったのかあるいは予め狙いから外されていたせいか、手に赤子を抱いた若い母親が心身怯えきった表情ながらも彼に近づいて子供の命乞いをする。

 

「見逃す?ふっ、者として果たされるにふさわしき役目がそんなに嫌なのか?」

ーーザシュッ!

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!人殺しいいい!」

ーーバシャッ!

「子供を殺されその相手を罵りながら死ぬ…。なんと心に響く末魔か。」

しかし彼は冷たい眼差しでこれを一瞥すると次の瞬間には手元にあったキングラウザーで母親を子供諸共斬殺してしまった。

 

「奴等の女子供も悪業を止めようとせず関連するのなら全て同罪、骸の平原とせよ。」

彼は女でも子供でも悪党に関連する者ならば一切合切容赦せず、その破壊の意志を映すのかのように僕達も逃げ惑う者達共々と攻撃を次々と浴びせてホロコーストさながらの勢いで居住区の人間達を悉く殺戮していく。そしてその後には人なのか何なのか分からない程に形を留めていない無数の焼け焦げた肉塊や骨が建物の残骸とともに辺り一帯に散乱していた。その凄惨たる光景はまさしく、地獄絵図に相応しい有様だった。

 

「ははは、そうだ逃げ惑え、苦しみ、泣き喚き、喘げ。そして生を閉じるとよい…‼︎」

当然、地獄絵図と化したその居住区から逃げ出そうとする輩は出ないわけではない。こんな凄まじい有様だというのに寧ろ逃げ出さない輩が出ない方がおかしいのだ。しかし逃げ出そうにもそこは海神智史、彼は僕達を新たに生成して既に十何重にも包囲網を形成させていた。

 

ーーガガガガガガ!

ーーシャァァァァァ!

「うぎゃぁぁぁぁぁ!」

「おぁぁぁぁぁぁぁ!」

地上という地上を黒く埋め尽くす無数の戦車とパワードアーマーに戦闘兵器、空を黒く染め尽くす程に存在する無数の戦闘ヘリ、戦闘機、地上攻撃機、爆撃機。その分厚く精密無比な包囲網から徹底した統制とデータ共有による連携に基づいて浴びせられる無数無限の銃弾、砲弾、ミサイル、レーザーの猛射は容赦なく逃げ惑う住民達を捉え、吹き飛ばし、悉く形一つさえ無い屍へと作り変えていく。

こんな苛烈な攻撃、弾圧など今もこれからも進化し常人からしてみれば訳がわからない程に力を手にし過ぎている彼にしてみればお茶の子さいさいである。

やがて居住区からは壊すものも殺すものも全て無くなった、壊すものも殺すものもなければ地獄絵図は続かないので地獄絵図は自然と終息していく。

 

「ふう、清々しいぐらいにスッキリした。ぐちゃぐちゃだった街並みが軒並み吹っ飛ばされるとこうも広々となるのか。この程度朝飯前とはいえ、スッキリしてるのは気持ちいいものだ。

さて、この跡地、超大型の教育施設なりオリンピック施設や各種スポーツ、アスレチック施設に作り変えてしまおう。その方がよっぽど公益性が高いと考えるんだが。

まあそれはさておきとして、法破りの外道としての評がこれで存分に広まった今、私を外道、魔王と罵る者達が数多沢山と世を埋め尽くす。その光景を存分に喜び、そして誇るとしよう。」

広々とスッキリとした居住区だった跡地を智史は一瞥する、その彼の足元や周囲には先述したように何が何なのか分からない程に原形を留めないまだプスプスと黒煙を立てる無数の残骸が転がっていたか。

その視線に彼は琴乃を捉えた、フィンブルヴィンテル達が彼女に彼が暴れている事を知らせた為だ。

彼は気分を即座に切り替える。

 

「随分とやってくれちゃったわねぇ…。」

「琴乃か。こんな身勝手な事をしたらお前に嫌われるとは薄々と考えていた。私は責任のせの字さえ全く取ろうとしない欲望のままに蠢く外道という性分である故に。」

「責任のせの字さえ取ろうとしない外道と言ってる時点で無責任な人じゃないわ。それに智史くんがこうも凄まじい事をやった本人とはいっても、一概に智史くんが悪いとは言い切れないから。」

「ヤマトや、モンタナ達の、事か?」

「そうね。智史くんが半分お遊び感覚でこの世界に放り込んだとはいえ、彼女達が智史くんに世界を消された人々を保護するとか言わなければ智史くんに処刑されて終わりという展開でこんな事なんか起こらなかったのに。

しかし難しいね。今回の場合智史くんに処刑を一任したら霧という種族に対する誤った評価が定着するかもしれないし。そもそも智史くんが外の世界で憂さ晴らし感覚で大暴れしなきゃこんな事にはならなかったかもしれないし。」

「いずれにせよ私が霧という看板を背負っている一員であるゆえに、か。だが、不幸なき喜びは無い。喜びなき不幸も、また無い。それが現実。自分本位の幸せや喜びを掴む為に私は誰かを、何かを悉く犠牲にしていった。そうだからといって性格を変えてもまた同じ事を、偽善を繰り返すのかと考えるととても虚しい。ならばやる事は一つ、欲望、本能のまま暴れ、嬲り、壊し尽くすだけ。人格を変える事も、改心する事も謝る事さえも、私は止める。」

「要するに智史くんはもう同じ事、過ちを繰り返すのは嫌だから自分本位のままに行動するという形で『逃げてる』のよね。しかし『逃げてる』と指摘しちゃうと智史くんは『逃げた』自分自身を自虐自罰してしまって思い詰めてしまう…。では他はそうではないのかというとそうでもなくて、私もあなたも、形違えど根本的には傷つくのが嫌で傷つかまいと何度も『逃げてる』のよね…。」

「そうだな、そして矛盾、矛盾、矛盾…。まるで同じ展開のリフレインだな…。このリフレインは知能あるが故の宿命なのか、或いは自身の欲望が生み出した宿業なのか?私には分からん、どうすればいいのか、どこへ行けばいいのだ?いや、それらは全部自分で決めるべき事、か…。」

智史はこれまでの苦悩葛藤を思わず吐く、自傷自罰的な性格は相変わらず変わっていない。それは彼の心の感覚が過敏な故か、矛盾無き完璧を求めた故に生じた白黒思考が齎した結果か、或いは「絶対に正しい」道に生きる道理が何処の世界にも無き故に自由奔放に暴れまわった結果の裏返しか。

 

「海神智史を止めろー!」

「このまま海神智史を暴走させれば我々に明日はない!」

「あの男の暴虐無道を許すなー!武器を取れー!」

「我らにも生きる権利があるー‼︎」

む?下衆共か。負けて落ちぶれ『保護』されている身分の輩が権利の一つさえ勝ち取っていないのにそれを主張できるとでも?恐怖と衝動に駆られた単なる狂乱よ。だからこそ下衆共の狂宴は面白い。楽しんで楽しみ、次の瞬間には跡形も無く焼き尽くすまで。

「琴乃、下がっていろ。こいつらの狂宴を少し楽しんだ後、纏めて塵芥にする。」

「手加減、忘れないでね。」

「心得ている。」

そこへ精神的に追い詰められ半ば暴徒と化した他の居住区の住民達、それを侮辱と軽蔑の眼差しで彼は暴徒達を見つめると、彼らを纏めて巨大なクレーターにしてやろうと地中噴進型特殊弾頭地雷を瞬時に生成して構えた。

 

ーーザザザザザザ!

「そこまでだ!これより先は通さん!」

「おや、ヴォルケン達か。これから一時に激しく盛り、次の瞬間には跡形もなく沈むであろう仕組まれた狂乱の宴を鎮めに来たか。(まあ予測していたから大した問題では無い。これが続けば私以外の者達が被る不利益は莫大だからな。鎮めようと考えぬ訳がない。)」

その一触即発の状態を丁度到着したヴォルケン一行と武装した機動隊が間を裂くようにして遮った、彼のテンションはそれを遮られた事により下がる。

 

「何故海神智史に味方するー!」

「統合政府はあの男の暴挙を許容し、我々を弾圧するというのかー!」

「海神智史の暴挙を許容するかどうかは兎も角、ここは通さん!即刻立ち退け!さもなくば実力行使に踏み切る!」

「あの男に惑わされ魂を売り、我々を斬り刻むというのか、この外道どもー!」

「そうだ、暴力反対ーー‼︎」

実に下衆らしい様だな。これに直面したヴォルケンがどんな態度を取るか言うまでもない。まあお節介かもしれないが万が一ヴォルケンがしくじった際に備えてバックアップは取るか。

彼への道を遮られ怒りの行き場を失った暴徒達は今度はヴォルケン達に怒りをぶつける、既に自分達がルールを破った事に気付かないまま。

彼はその様を見てヴォルケンは警告として一人なり誰か斬るだろうと推測する、現に暴徒の一人がヴォルケンに詰め寄ってきた。

 

ーーザンッ!

ーードシャッ!

「既に暴力を振るおうとルールを破っている者が暴力を自分達に振るうなと勝手に主張するな!これは通告だ、それでも進もうというのならば全員斬り捨てる!」

「あ、ああ…。」

「逃げろ、逃げろぉぉぉぉ!」

彼の予想通りヴォルケンは実力を行使してでもここは通さないという意志が本物であると示す為に実力行使としてその詰め寄った暴徒の一人を容赦なく斬り捨てた、暴徒達は次は自分達が先の者と同じ目に遭うのではないかと恐怖し蜘蛛の子を散らすように我先にと逃げ出した。

 

「リヴァイアサン、ここまでです。これ以上の独断行動は総旗艦代理が許可されていません。」

「潮時…か。400はそう言っているのか、402?」

「そうだ。法を破る者達への見せしめとしては有効とはいえ、あなたの『制裁』という名の欲望のままの暴走により既に多くの犠牲や混乱が出ている。」

「有効、か。私の独断行動はそんな側面もやはり持ち合わせていたか。」

「結果は良かれど、独断行動は独断行動です。総旗艦ヤマトや私達の方にも非はあれど、あなたも独断で制裁に踏み切るという形で非を犯しました。あなたには然るべき処遇が総旗艦より下されるでしょう。」

「承知。所詮従うからには然るべき処遇を受けなくてはならない。その事も理解した上でこの独断行動をやったからな。」

そして彼は400と402に連れられこの場を後にした。

この後、彼、海神智史には独居房で3ヶ月謹慎という処罰が下された、命令違反並びに彼自身が気に入らない者達を独断で始末しようとしたことへの罰を含めて。当然彼は一部の異邦人達から鬼畜と罵られた、それに彼は望み通りだと満足気に微笑む。ただしパワーバランスの関係上、霧の艦隊から永久追放されることは無かったが。

謹慎の間、彼は過去と未来を見つめ、自己進化・研鑚を、そのペースを猛烈な勢いで早める事も今も続けつつ、こう思惟に耽っていた、

「今の自分はこの事件に対しどう『責任』を取るべきなのか」

と。

彼はこの事件に対し一定の反省をしつつも、自分なりに同じ事件を繰り返さない工夫をする、それが今回の事件の「責任」を取る事だと考え込んでいた。まあ欲望のままに生きる性分なのでその考えが活かされるかは分からないが。

 

「シュルツ少将、彼が海神智史ごと霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサンのメンタルモデルです。」

「ウィルキア海軍少将、ライナルト・シュルツです。」

「海神智史だ。シュルツ少将、私がヴァイセンベルガーをボコボコにして貴官達の元へ宅配した件の話でここに来たのか?」

「ええ、ヴァイセンベルガーを滅茶苦茶な様にしたとはいえ、貴方が我が国のクーデターの主犯、ヴァイセンベルガーの逮捕に貢献した人物である以上、何かしなければと思いここに来ました。」

そんな謹慎の最中、ライナルト・シュルツウィルキア王国海軍少将が琴乃とイ400立会いの元、彼の元を訪れた。

「悪ふざけもやり方次第では『善行』に結びつくこともあるのだな。それで、私に何をしたい?」

「はい、国家転覆並びに世界征服を企てた主犯なので特一等感謝状と報奨金を服役が終わった後、貴方に出そうかと。」

「報奨金?それはウィルキア王国関連でしか使えない現金か?」

「いえ、そんな事は…。」

「もしそうだったらやめておけ。使う必要性がないならただ紙切れや資源以外の価値はない金属の礫を増やすだけに過ぎん。兌換性があるものにしてくれないか?」

「兌換性、といいますと…。」

「そうだな、金か、銀だな。好きなだけ報奨金の代わりとして価値相当分出すがいい。まあ出さなくても良いがな。金や銀、作ろうと思えば幾らでも作り出せるのでな。」

彼はそう言い終えると金銀の山を生成し始める、それはみるみるうちに12畳の部屋の床中に広まり、金銀の海となってシュルツ達を埋めていく。

 

「………。」(築き上げられていく金銀の海を目の前にして言葉が出ず唖然としている)

「そこまでです。シュルツ少将が顔を引き攣らせています。」

シュルツはこれを見てみるみる顔を青くし冷や汗を吹き出す、この能力が下手に振るわれれば経済バランスがあっけなく崩壊してしまうという『一般』的な考えが彼の頭に浮かんだからだ。400はそれを見計らってか、話の流れから大分ずれている事をやっている、もういいぞという表情で智史を制止した。

 

「シュルツ少将、彼は規格外の性能を有した霧のメンタルモデルで、滅ぼそうとその気になれば国ひとつやふたつ、簡単にひっくり返し、下手したら指先一つで星や世界ごと根こそぎ滅ぼしてしまう事など朝飯前なんですよ。

この世界が外敵の襲来無く比較的平穏なのは皮肉な事に彼一人だけでその平穏を維持できているからです。

一見彼は格下な様に見えるんですけど実際は世界という名の彼に管理されたおもちゃ箱の中に私達が詰められているだけであり、刑罰に大人しく従ったのはこんな刑罰の状態下に置かれても全く問題ないからなんです。

従ってこんな騒ぎが起きたのは彼の管理能力に問題があったからではなく、実は彼が仕組んだお遊びです。問題を起こした異邦人達も所詮は彼の玩具でしか無かったんです。」

「彼にしてみれば多くの生命体はおもちゃ同然か…。ヴァイセンベルガーが、悲惨な目に遭って捕まるわけだ…。」

シュルツはある意味納得した表情でそう呟いた、実力を示された上で琴乃の先の説明が来るのだからこうならない筈が無かった。

 

「いずれにせよ気持ちとして受け取らぬ訳にもいかまい。そのぐらいの『善行』を行った事もあるだろうし。」

「あ、ありがとうございます…。」

そして結論として放たれた智史の『受け取る』という返事にシュルツは取り敢えずお礼を述べた、実力を見せつけられ半分ドン引きしていたが。

 

「そういえばシュルツ少将、貴官は天城と筑波に起きた出来事をご存知か?二人ともヴァイセンベルガーと同じく私の手により酷い目にあったのだがな。」

「あの事件のことですか?天城大佐の事で筑波教官が貴方に殴り掛かって返り討ちにされたという…。」

「その通り。そして貴官はそれをどう捉える?多分複雑な心境を抱いているというのが私の予想だが。」

「ええ…。天城大佐が我儘な引きこもり生活を送ろうとしていた事を考えても、玩具にして弄させるという処置はあまりにもやり過ぎではないかと…。」

ドン引きの表情のシュルツは彼にしてみれば中々滑稽で愉快だったが、彼はもう一押しとばかりに天城と筑波の話を振り出し、それに対するシュルツの反応を聞き出す、シュルツは“やり過ぎ”と回答する。

 

「やり過ぎか。それは貴官自身の価値観は正しいと主張したいという、無意識の内に出た“欲求”の一種だと私は思うのだがな。」

「いえ、そんなつもりは…。」

「“そんなつもりは、無い”と言いたいのか、その欲求は既に出ていたというのに?笑かすのは控えてくれ。

正しいは“都合がいい”という。つまり私の天城に対する行動が貴官自身にしてみれば価値観上の“都合が悪い”ものだから『やり過ぎ』という否定的な形で主張したのだろう?」

「……。」

「この世に蔓延る『正義』や『悪』は所詮“都合”でしかない。ヴァイセンベルガーの“都合”を力で制して勝利したからこそ、貴官達は自分達の“都合”を『正義』とし、ヴァイセンベルガーの“都合”を『悪』と声高に主張できているのではないのかな?」

彼はそれを聞いて杏平に放ったものと形違えど根本的には同一の指摘をした、あまりに本質を鋭く突いていたのでシュルツはグウの音も返せなかった。シュルツは『彼はとんでもなくヤバイ存在』という印象を渦巻かせながら400や琴乃と共にその部屋を退室する。

そんな感じの会話があった後、彼は3ヶ月の謹慎を終えた、反省の程度は形式的レベルなのだが。

対して問題を引き起こした異邦人達の一部に対しては毅然とした厳しい裁定が下される、彼の指摘した通り、いくら酷い目にあったからといってまた混乱を引き起こすのならば彼の独断制裁を無条件で許可とは行かなくとも世界の外に追放ーー霧のメンバーで世界系の外に追放できるのは言わずとも彼、リヴァイアサンごと海神智史たった一人であるーー必要ならば彼による直接制裁という選択肢も辞さないという脅しも含めて。

無論、それ以外の異邦人達に対しても、法を外れる事に対する脅しで有りはしたが。ただ智史が好き放題にこの世界を他化自在に捻じ曲げる『絶対神』に等しき圧倒的な立場にあり半ばやりたい放題に動いている今、果たしてその裁定に重みはあるのだろうか?何れにせよ彼がいる限りそれは脅しとしての効力はあるのだが。

 

「もう異邦人達をおもちゃ感覚でこの世界に放り込むなよ、智史。」

「懲り懲りか。なら良かった。外の世界から持ち込む事さえ控えれば、お構い無く外の世界の者達をおもちゃにして嬲れるな。」

「「「そういう事一つも言ってないよ!」」」

程なくして彼はまた外の世界へ旅という名の蹂躙劇をしようと旅支度をしていた、その際にキリシマに外の世界の人間達をおもちゃとして放り込むなと言われ、それに対しこの世界にさえ放り込まなければあとは好き放題でいいのだなと返事をした、そしてそういうつもりは無いと彼は皆に突っ込まれる。しかし半分好き放題も混じっているとはいえ、霧の中で外の世界に対する経験を最も多く積んでいるのはリヴァイアサンごと智史である以上、あまり深く突っ込めはしなかった。

さて全ての支度が整うとリヴァイアサンは機関を唸らせて出航する、膨らみ続ける彼の欲望を満たす為に新たな犠牲者が生まれる運命が今回も確定してしまったのだった。




おまけ

おまけ話の内容について
当初は智史が皆を守る為と称して異邦人の無法っぷりを止めるべく独断行動を起こすコンセプトの話であったもののいざ執筆してみたら内容に不満が生じた為に智史に大物感を漂わせつつ強者の都合に周りの人物達が振り回されるというコンセプトに切り替えて執筆。


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