やはり三浦優美子の青春ラブコメは幕を開けたばかりだ。 (Minormina)
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第1章 波乱の幕開け
比企谷八幡はいつも通りの新学年を迎える
春眠暁を覚えず、と古人は言ったそうだが、まさにその通りであると思う。とてつもなく眠いなか、いつものインスタントコーヒーを入れる。ソファの近くで丸まっているカマクラは絶賛夢の中なのだろうが。こいつ…たたき起こしてやろうか?
そう思いつつキッチンからリビングへと戻ると、相変わらず目の前では小町が着替えている。…っていうかここで脱ぐなって。
「ねぇお兄ちゃん、今日からわたしは高校生なんだよ?どう?似合ってる?」
小町が新しく袖を通した制服でその場でくるっと回る。
「似合ってるぞ小町」
小町がぱあっと顔を綻ばせてうれしそうに微笑む。
「そう?今の小町的にポイント高い!」
「ていうかそろそろ父ちゃんと母ちゃんを起こしてやったらどうだ?入学式間に合わなくなるぞ?」
「あ、そうだね…それじゃわたしは起こしてくるね」
パタパタと目新しい制服に身を包んだ小町が両親を起こしにかけていく。
(それじゃおれもそろそろ出ますか)
そう思って、机の上に置かれた昼食代500円を持ってかばんを手にして家を出た。
___________
いつも通り、自転車を自転車置き場に止め、下駄箱へと向かう。普段はそこまで人が群がらない下駄箱が今日に関しては異常なほど生徒でごった返していた。それは、「クラス替え」という一大イベントのためである。クラス替えによって編成された新クラスで自然とその年のスクールカーストが決まる。それで生徒たちは一喜一憂するのだ。しかし、俺はクラス替えなどに左右されない。…なぜなら、俺のスクールカーストはいつだって最底辺だから。…以上、自己考察完了。
そんなことを考えながら、3年の教室へと向かう。教室の扉をがらっと開けて教室をざっと見渡してみる。どうやら俺の席はあそこのようだ。まだホームルームまでは30分ほどあるらしく、俺は新学期特有の喧騒とした空気から逃れるため、イヤホンをはめて机に突っ伏そうとしたとき---ふっと見知った顔が目に飛び込んできた。
「…三浦……?」
かつて2年F組の最上位カーストにして統べる者。三浦優美子がなぜここにいるんだ?
「…ヒキオ?…おはよ…」
少しうつむきながらも俺だとわかったらしい三浦。お前やっぱ半端ねぇですよ。なんといったらいいかわからないけど。
「おう…」
右手を力なく上げて挨拶する三浦と俺。ていうかなにこの挨拶。「ひゃはろー」みたいに流行るのかこれ?…由比ヶ浜じゃないけどな。ていうかこのあとどう言葉を返せばいいんだ?仲いいやつだと昨日見たテレビの話とかするのだろうけど、ひきこもりにとっては女子との会話というのは非常にレベル、いやハードルの高いものなのだ。
そうこうしているうちに時間は経ち、結局それっきり会話が続かなかった。しかし、ちょっと引っかかったのがあの三浦の様子。何かにうちしがれたというか、絶望というか、どう表現したら良いのかわからない表情をしていた…気がする。少なくとも俺が見たことある三浦じゃなかった。
(まぁそんなこと考えても仕方ないか…)
そうどこかで一人ごちて、平塚先生の国語をいつも通り受けるのだった。
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そして比企谷八幡はパンドラの箱を開ける
あと、2話終了後のあとがきで、今後の展開に関するご意見を募集するのでメールいただけたら幸いです。
朝のよくわからないやりとりが終わった後も、俺は三浦とそれ以上はなすことはなかった。…もし、何か面倒なものに巻き込まれていたとしても、そんなものは俺にはわからないし介入する問題ではない。それはあくまでも葉山たちの仕事だ。…ただ、一瞬垣間見たどこか救いを求めるような表情は頭のどこかに引っかかった。
「…まん…ちまん。八幡ってば!」
国語が終わった休憩時間。なんとなく机に突っ伏していたらやさしく背中を揺さぶられた。…なんだ?俺は夢でも見てるのか?
「…戸塚が迎えに来てくれたのか?」
少しずつブラックアウトした視界が明るくなっていくと、なんともいえない微妙な表情をした戸塚が目の前に立っていた。
「…何のことかはよくわからないけど…とりあえずおはよう、八幡」
「おう、おはよ戸塚。今年も同じクラスだな」
そう言うと戸塚がぱぁっと明るくなり「今年もよろしくね、八幡」なんて言う。…なぜ戸塚は男なのだろう、なんていまさら思う俺。…そんなこと考えても仕方ないだろうが。
「ところでさ八幡。次のオーラルコミュニケーションの授業にはALTがくるらしいよ?」
「ALT?……ああ、そういえばなんか外国人を招いた実践的な授業をするって話だったな」
高3になって分かれた理系クラスと文系クラス。県内有数の進学校である総武高校ではよりグローバルで即戦力の人材育成を目指してALTのシステムを積極的に導入している。
…まぁボッチの俺にはあまり関係のない話だが。ちなみにたまたま父親にALTのことを言ったらなぜか目を背けられた。…意味がわからん。
「そうなんだよ~。八幡、楽しみだね」
そういって楽しそうに笑う戸塚。ホント天使だよ戸塚。
「おう、そうだな」
新学期早々イベントに巻き込まれて若干ブルーになっていた俺の心が戸塚の笑顔で幾分か癒され、いつのまにか俺も少し顔が緩んでいた。
___________
"Thank you very much for welcoming me. I'm Jhon Smith from Florida, for last two years, I'd studied Japanese culture and literature at Tokyo University. Now, I have this English class,it will be grately appriciated to improvement of your English."(お招きいただきありがとうございます。私はジョン・スミス、フロリダ出身です。2年間日本文化と文学を東大で学びました。さて、私がこの授業を持つに当たって、あなた方の英語力の上達に寄与できれば幸いです)
……教卓の前にたったALTの先生がこんなことを行っているが流暢過ぎてはっきり言ってなに言ってるのかさっぱりわからなかった。ていうか東大に2年間留学ってどんだけ頭良いんだよ。しかもフロリダ出身って典型的なリア充じゃねぇか。…知らんけど。
(まぁだるいしこの授業はぼぅーとするか)
この授業のすごし方が決まり、ぼちぼち省エネモードへと入ろうとしたときに、例のALTの先生によってその作戦が早くも打ち崩された。…侮れんな、このリア充。なんて考えつつ、とりあえず指名したので立つと、なぜか隣には三浦も立っていた。三浦がどんな顔してるかはあずかり知らぬことだが、面倒なことになるのは間違いない。そう俺の直感が告げていた。
"Now,I have two script.You talk to each other."(いまここに2本の台本があります。これでふたりで会話してみてください)
そういって先生から受け取ると、なんか普通の文章らしくはない英文がずらっと並んでいる。…なんだこれ?しかも日本語が書かれていないため、なに書いてるのかさっぱりわからんのだ。それに先生の目が「早くしろ」って言ってるようにも見える。…この眼力、雪ノ下といい勝負になるんじゃないか?まぁ仕方ないか。
"Hi,Yumiko.You look nice today,and do you have some time? "
(やあ優美子、きょうもかわいいじゃん。…それでちょっと時間いいかな?)
あの…いきなり展開が読めないのですが先生?どういう状況か説明してくれません?
"Hey,HIKIO,...but I have no time to stay and talk to ya."
(ヒキオじゃない。悪いけどここでじっとあんたと話してるひまなんてないんだけど)
俺はどう転がってもヒキオなのかよ。いや、そもそも転がってないけど。…あとしょっぱなから罵倒されてる気がしてならないんですがどういうことですか?しかも相手のせりふがここには書かれていないために自分で聞き取るほかに意思疎通の手段はない。
"Guess what?"
(どうしてさ?)
"I'm going playing with them after school, so I dont wanna ruin my day with such shit."
(今日さ、ダチと一緒に遊びに行く予定なんだけど?……だからあんたと話してる間なんかないんだけど?)
三浦さん?…半ばリアルな感じでやってるような気がするのは俺だけなのだろうか。…まぁ三浦の場合、素がそのまま英語にも現れているだけなのだろうが。
"Indded but,I want you to answer a simple question."
(じゃあさ、簡単な質問に答えてくれないか?)
台本通りに読み進めていくが、結末がよくわからない。ていうかこの話、オチはあるのか?…落語じゃないけど。
"So what?"
(なによ?)
"Who on the earth catch your heart? "
(…じゃあ一体誰が好きなんだよ?)
その瞬間、周辺の雰囲気が一気に凍りついた。周辺、というよりも俺と三浦のあたりだけ。隣の席なのであいつの表情を読み取ることはできないが、なんだか様子がおかしい、というのはひしひしと伝わってくる。あまり考えたくはないが、朝のことってもしかしてこいつが関係してるんじゃないか。こいつと葉山グループの間に何か軋轢かなにかが生じたのではないか。…考えたくもないことが一瞬にして頭の中に流れ込んでくる。
「…だったらさ、ヒキオはなんとかしてくれるの?…」
「…え……?」
消え入りそうな声だった。千葉村のとき、雪ノ下と口論したときに流したという慟哭でもなく、テニスのときに俺たちに見せた正面から相手を見下す侮蔑でもなく、ただ純粋に相手に縋ろうとする三浦優美子の「本心」なんだろう。
いつの間にか、オーラルコミュニケーションの授業は終わっていた。その後、授業はつつがなく進んだのだろうか、教室は朝感じた新学期特有の喧騒に包まれていた。
第2話でした。英語で他人を罵倒する、と言うのは案外難しいものですね。…なに?英語と訳の日本語で字数稼ぎしてる?そんなこと言われても…仕方ないですよね笑。
さて、今回はコミカル回にしようと思ってたのに…がっつりアリアス回になっちゃいました泣。次は日常編。今回まで出でてこなかった、今作ではサブヒロインの方たちに登場してもらいましょう(予定)。
PS:八幡の父親が目を背けたのはALTというのは肝機能の数値の指標だからです。(念のため)
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新学年を迎えてもなお、奉仕部は活動する
さて、まぁ細かいことは置いておいてとりあえず本編をどうぞ。
朝の一件からしばらくして休憩時間。トイレから教室へと戻る途中、平塚先生に声をかけられた。
「比企谷、放課後に雪ノ下と由比ヶ浜と一緒に部室に集まってくるように」
「……あの、平塚先生?」
「何かね?」
「俺、今年受験なんですけど?」
「だからどうしたっていうんだ?みたところお前はまだ更生していない。それだから今年の奉仕部の活動計画を立てる、だから放課後に部室に来いよ」
冗談じゃない。今日は喧騒に包まれた分磨り減った体力を家で回復させようと思っていたのに。……朝の一件にせよ、物事はうまくいかないものである。だから、一応こう尋ねてみる。
「……拒否権は?」
「あると思っているのか?比企谷?」
笑顔で拳を握ってポキポキ鳴らすのやめてください。先生のパンチはマジで痛いです。……もしかして某ヒーローのそげぶといい勝負するんじゃないか?なんて思っていたら本当にパンチが飛んできそうなのでやめておこう。
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昼メシ。俺はいつものベストポジションで朝買った菓子パンをかじっていると、ケータイのロック画面にLINEの通知が1通来ていた。
☆YUI☆ お昼休憩部室でゆきのんと待ってるからね~
…いつも思うが由比ヶ浜は本当は相当なビッチなのではないか?本人には失礼だけども、そんな気がしてならないんだが……。とりあえず、500円玉から化けたパンを片付けて、部室のある部活棟へと足を運ぶ。
「……おーい、邪魔するぞ」
「ひゃはろ~、ヒッキー。久しぶり~」
「…久しぶりね、比企谷くん。春休み以来かしら」
「そうだな」
扉を開けたら、弁当を食べていたらしい由比ヶ浜が手をブンブン振ってくる。一方の雪ノ下はというと、もう食事を終えたのか小難しそうな文庫本を読んでいる。とりあえずいつもの位置に座り、授業中に凝り固まった身体をぐっと伸ばす。
「それで、どうかしたのか?」
そういうと由比ヶ浜は足元に置いたかばんからなにか取り出して、机にぽんと置いた。その様子はいつも活発な由比ヶ浜ではなく、どこかもじもじとしている。
「あのさ、ヒッキー・・・。この間ゆきのんと一緒にクッキー作ってみたから食べてみて欲しいんだ」
少しうつむきながらもすすっと弁当を入れる袋よりも一回り小さい袋を俺の目の前にもってくる。それを開けてみると、やや小さめのタッパーの中には、形の不ぞろいなクッキーが所狭しと並んでいた。去年みたときとは違う、クリーム色をした普通のクッキーに見える。・・・この一年で由比ヶ浜になにがあったんだ・・・?
「比企谷くん、それは由比ヶ浜さんが春休み中にわたしの家でお菓子作りの練習をした成果なのよ。味は保障するわ」
いつのまにか本を閉じた雪ノ下が俺をみて言う。・・・雪ノ下が「味は保障する」というのなら味は大丈夫なのだろうが、どうしてこんな時期に俺にクッキーなんかを作ってくれたんだ?そうすると、
「意味がわからない、って顔ね」
一発で見抜かれた。雪ノ下は、やれやれと呆れかえった顔で、
「由比ヶ浜さんは、去年作ったクッキーのリベンジをしたいらしくてわたしの家に来たのよ。・・・比企谷くんにおいしい手作りのクッキーを食べて欲しいって」
「・・・そういうことなのか?由比ヶ浜?」
「うん・・・・・・」
由比ヶ浜のほうを見ると赤くうつむいてこくんとうなづいた。なぜそこで顔を赤くするのかはよくわからんが・・・。まぁせっかく作って来てくれたわけだし、食べるとするか。俺は透明のタッパーを開けてクッキーをひとつまみして口へ放り込むと、ほのかな甘さとバターの風味が口の中にじわっと広がる。チョコチップやナッツといったトッピングなしのプレーン。そしてほどよい食感がなんともいえない。・・・ってこれ、売り物に出してもいけるレベルじゃねぇか?
「・・・・・・ヒッキー・・・何かいってよ・・・」
半分泣き出しそうな顔で俺を見る由比ヶ浜。よほど自分が作ったクッキーへの評価が気になるのだろうか。
「おぅ、めちゃくちゃうまかったぞ、これ」
「・・・ほんと?」
ぱぁっと顔を明るくして由比ヶ浜はそのまま「本当にありがとー、ゆきのん」って言って雪ノ下の背中にしがみつく。雪ノ下も少し「暑苦しい・・・」といいつつも由比ヶ浜のなすがままにくっつかれている。割と微笑ましい光景だが・・・二人合わせるとさしずめ百合ヶ浜っといったところだろうか。
「・・・・・・なにかつまらないことを考えなかったかしら?」
百合ノ下・・・いや、雪ノ下が俺のほうをぎろり、と鋭い目線で睨む。そんな様子に少し気圧されながらも、
「……そんなことないぞ?」
「……そうかしら」
「……ヒッキー?」
由比ヶ浜が訝しげに俺を見る雪ノ下の後ろで頭にクエスチョンマークを浮かべながら首を傾げる。ホントにこうして見ていると由比ヶ浜って従順な犬にも見えるよな。
「……まぁいいわ。とりあえずこれで由比ヶ浜さんのリベンジは果たせたわね」
「……うん!」
「……それはいいけれども、もうそろそろ離れてくれないかしら?」
満面の笑みで頷く由比ヶ浜。よっぽど嬉しかったのだろうか、目には少し涙を蓄えたまま、拭おうともせずその姿を俺に見せる。
(……なんでそんな嬉しそうな顔をするんだよ……)
どこかに隠していたはずの負の感情が、どこからともなく湧いてくる。確かにこの一年、雪ノ下や由比ヶ浜たちと過ごすのは楽しかったし、俺の価値観にも幾分か影響を与えたことには間違いない。だが、なぜそれを自分に見せる必要なんてある?
(……とりあえずこんなこと考えても仕方ない、か)
……ぼっちに慣れてきた俺にしてはまだわからないのだろう。
「ヒッキー……?」
「比企谷くん?」
不思議そうに覗き込んでくる由比ヶ浜ときょとんとした雪ノ下を横目に、残りのクッキーをかじっていると、話題を切り出すように由比ヶ浜が、
「そいえばヒッキーってさ、春休みどうしてたの?」
……そいつは愚問だぜ、由比ヶ浜?
「比企谷くんのことだから、ずっと家にいたんじゃないかしら?」
そっと雪ノ下がピンポイントで痛いところを突いてくる。まぁ間違ってはいないが。
「そんなことはともかく、今年の奉仕部の活動についてよ」
俺のことは「そんなこと」で片付けられたんだが……。
「……うーん、今年は受験なんだし、基本的に自由参加でいいんじゃないかな?」
「それじゃ特別な依頼がない限り、そうしましょうか。それで構わないわね、比企谷くん?」
「俺はそれでいいぞ」
雪ノ下がそういってあっさりと今年の部活計画が決まってしまった。……まぁいいか。
「……これから平塚先生に報告しておくからお前ら戸締まりよろしくな」
「わかったわ」
「よろしくねーヒッキー」
手をパタパタ振りながらいつもより2割ましでご機嫌な由比ヶ浜と、そのとなりでどこかにっこりとしている雪ノ下を尻目に俺は部室を後にした。
さて……完全に結衣ルートという感じがしてならない話でした。まぁヒロインは変えないつもりですが、なかなか結衣って子は書いてると面白くて描きがいがありますねー。まぁ本編ヒロインの友人として今後も登場する場面がありそうなのでどうぞお引き立てのほど。
追伸;絶賛このSSの評価募集中です。まぁまだ3話だしよくわからん、というもあるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。(感想の方もよろしくね!)
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三浦優美子は倦怠感に襲われる
それでは第4話、三浦さん回をどうぞ。
あーしは西の空に赤く映えて沈んでゆく太陽を眺めながら、ただ時を過ぎるのを待っていた。まだ3月で少し肌寒い時期なのに、そんなことに構うこともなく。
(・・・なんで振られちゃったんだろう・・・)
さっきからこんなことの繰り返し。恋をするのなんて初めてじゃないはずなのに。人を好きになることなんて初めてじゃないのに。・・・なんとなく上着のポケットに入ってたウォークマンを取り出してテキトーに音楽を聞いてみる。シャッフルにしてみたのでなんだかにぎやかなJPOPが流れてくるけれども、歌詞なんて頭に入ってこやしない。
(はぁ・・・・・・このあと、もし隼人と会ったらどんな顔すればいいの?)
もしクラスがちがったっとしても、どっかでばったり会っちゃったりしたら、あーしはどう声をかけたらいいの?・・・それこそ隼人に会ったら目の前で号泣するなんてことを今のあーしならするかもしれない。でも、涙なんて出ない。どうして?こんなに苦しいのに。悲しいというのに。
・・・♪張り裂けそうな胸の奥で 悲しみに堪えるのは何故?
え・・・、あれ・・・なんであーし、泣いてるの?一旦まぶたからこぼれた涙がとめどもなく流れてゆく。
・・・♪好きなのに 泣いたのは何故?
・・・どうしてなの?…ってなんだ、ただ涙なんて流すきっかけがなかっただけなんだ。……上着がぬれることなんて気にせずにあーしはそのあともただ暮れ行く夕陽にむかって涙を流し続けた。
_______________
それから2、3日して春休みの宿題を片付けて少し休憩していると、ケータイがぶるっと震えた。
(・・・ん?誰からだろう・・・?)
机の端においているスマホを見てみると「由比ヶ浜結衣」って・・・あれ?これ通話?あわてて通話ボタンを押すと、
『あー優美子!?3日も連絡ないから心配したんだよ?』
「ごめんごめん。・・・ケータイ電源落ちてたから」
とっさに思いついたうそをつく。本当は誰とも連絡なんて取りたくなかったからサイレントマナーにしてただけなのに。・・・でもなんでこんな春休みにユイがわざわざ電話を?
『明日さ、葉山くんたちとディスティニーランド行くって話だったじゃん?』
「そ、そうだったわね。・・・それで?」
葉山、という名前が出てきたときにドキッとする。この数日まったく隼人とも、海老名とかとも連絡を取っていない。
『それでね、明日10時に舞浜駅待ち合わせでいいかな?』
「・・・ごめん、ユイ。あーし明日行けそうにないからさ、隼人たちに伝えてくれない?」
それだけ言うのが精一杯だった。そうしてあーしはユイの返事を聞く前に電話を切ってしまった。
(ホントごめん、ユイ・・・)
あーしはその場でケータイを握り締めたまましばらく動くことができなかった。
……よくよく考えたらユイってヒキオのことが好きなんだよね。ユイがいつからか活発で自分に正直になったのはもしかしたらあいつのおかげなのかもしれない。でもさ、ユイが未だにヒキオに想いを告げないってのはやっぱり「今の関係」を壊したくないから、なのかな……。なんか恋愛ってわからなくなってきたかもしれない。
どこか気分が晴れないから、軽くジャージを羽織って出かけてみることにする。……誰にも会わなければいいのだけど。なんとなく大型のショッピンモールまで来てしまったけど、まぁひとまずスタバでひと息でもつこうっと。
まだすこし寒いから温かいキャラメルマキアートを頼んで、冷たくなった両手を温める。ほんの少し熱いけれども、なんだか心があたたまる心地がする気がした。そうしてしばらくはあんなことがあったことなんて忘れつつキャラメルマキアートを飲んでいると、
「ふぅー、ちょっと疲れたからスタバでも寄っていくべ」
「もうー、先輩はもう引退なんですからそんなに気をつわなくてもいいですから」
(……え?なんでここに戸部と
幸い、というかあーしは割と窓の近くのカウンター席で端っこに座っているからまぁあーしだとバレないとは思うけど……。
「んじゃここでいいか?」
「そうですね」
そういって2人はあーしからすこし離れた2人席に座った。でも、この位置に座られたらあーしは動くにも動けなくなってしまった。
(……ホント、あーしって何してんだろ……)
そんなあーしには気づかずに、戸部たちは話を続ける。
「そういえばさ、昨日隼人に会ったんだけどなんだか暗くてさー。……いろはすなんか知らない?」
「私に聞かれても困りますよ戸部先輩。……ってか奢ってもらってありがとうございます」
「いや、そんなことはいんだべ。……で、ホントに隼人のこと何か知らんの?」
「……本当に知りませんよ。わたしに聞くんだったら、三浦先輩に聞いた方が早いんじゃないですか?」
「……あいつに聞くのちょっとなんかなぁ……」
「戸部先輩って三浦先輩が苦手なんですか?」
「そんなことねぇけど、あいつに隼人のことを聞くってなんか悪いだろ」
「……それもそうですね」
なんて会話を10分ほどしてから2人はスタバを出て行った。……おそらく隼人が暗いのはたぶんあーしのせいなんだろうけど、今のあーしにはどうすることもできない。
(すっかり冷めてしまったなー……)
いつの間にか聞き耳を立てていたせいか、あったかかったキャラメルマキアートがぬるくなっていた。
___________
それからもいつの間にか数日が経って始業式の日になってしまった。運がいいのか誰にも会うこともなく、クラス替えの表を見て教室へと向かう。他に誰がいるのかとかあまり気にすることもなしに。
とりあえず席についてぼぅーとする。スマホを取り出して時間を潰すなんてことも考えることもなくホームルームまで待っていると、……うん?なんだヒキオか……。
「……三浦………?」
「…ヒキオ?…おはよ…」
一応挨拶を返しておく。まぁ席はとなりなんだし……。まさかことあとでああなるとはしらずにあーしはことあともただただ時間をつぶすのだった。
よくよく考えたら2日連続で投稿してることに気づきました。不定期なんて言っておきながら今のところ一週間ペースをなんとか維持できてます笑。
次回はまだどうするか未定です。なんか案はないかな……。
追伸;まだまだ評価や感想を募集中です。「こうして欲しい」とか「ここを直して欲しい」とかあれば送ってくれると幸いです。
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そして一色いろはは動き始める
少しずつ登場人物が増えてくる中で葉山氏をどこで出そうか?と考え中です……。できたら今週末にもう一回上げたいな……。(なぜかは……お察しください)
土曜日。俺は一週間の疲労とストレスを睡眠で発散しようと、惰眠を貪っている……はずだった。というのも、朝早くから放っておくとめんどくさいことが起こったからだ。
「……うん……?」
ブルブルと痙攣を続けるスマホに起こされた俺は、とりあえず時間を確認する。午前7時30分。……まだNHkの朝ドラすら始まる時間じゃねぇじゃんかよ。
(……こんな時間に一体誰だよ……)
まだ半分も醒めてないアタマにむち打ちながら、スマホのロック画面を表示させる。そこには、
一色いろは> 今日は時間ありますか? 7:28
……。はっきり言おう。あいつは何を企んでるんだ?休日のこんな時間に俺を叩き起こすほどのメリットがあることなのだろうか。
(とりあえず事情だけでも聞いてみるか……)
LINEをぱぱっと起動して一色のページを開く。……またなんか眠気が襲ってきた。まあ、無理もないか。休みの日にこんな時間に起きるなんて久しぶりだからな……。ともかく目を覚ますためにMAXコーヒーを取り出して飲んでいると、
一色いろは>もしかして既読スルーですか先輩? 7:32
なぜか知らんがあいつの若干上目遣いであざとく微笑む姿が一発で浮かんでくるんだ?
比企谷八幡>……あのなあ、こんな時間に叩き起こしてどうしたいんだよ? 7:34
せめてもの恨み言である。
一色いろは>ちょっと付き合ってほしいんですけど……あ、そういう意味じゃないですからね?勘違いしないでくださいね? 7:34
いろはすレス早っ!っていうかどんだけ文字打つの早いんだよ。……それになんでLINEになってまで拒否られないといけないんだ?
比企谷八幡>それで?どういう事情なんだ? 7:36
一色いろは>それは会ってからお話します。10:30ぐらいに千葉駅でどうですか?
それならこんな時間に叩き起こす意味なかったんじゃないか?
比企谷八幡>わかった。それじゃ10:30に千葉駅でな 7:38
一色いろは> わかりました〜 7:38
しばらくの間ぼぅーとして部屋の天井を眺める。早起きは三文の得とは言うが、実際3文てとんでもなく安いもんだと気付いてから早起きは返ってマイナスなんじゃないか?と思うようになったことは秘密だ。
______
4月とはいえまだ肌寒いので軽く薄めの上着を着て、千葉駅へと向かう。程なくして着いた俺は駅ナカにあるミスドで一色が来るのを待つ。まだ時計を見ると10時か……。
(そういえばあいつが休みの日にわざわざ呼び出すなんてよっぽのことなんだろうか?)
ふとそんなことを思ってしまう。あいつの場合、基本的に学校の放課後とか昼間に呼び出すことが多かった。それに生徒会選挙の時のように奉仕部に相談しにくる、といった様子でもない。となれば、雪ノ下や由比ヶ浜には知られたくないってことなのかもしれない。
「せんぱーい……ってこんなところにいたんですか?」
一色が小走りでやってくる。黒いニーソに少し丈の長めのワンピースに薄いカーディガンを羽織っている。その姿を言い表すなら、快活といった表現がぴったりだろう。
「……あの……私のことじぃーと見てどうかしたんですか?気持ち悪いんで勘違いとかホント勘弁してくださいねごめんなさい」
たぶんこういうところがなければ本当に俺、落ちてると思うんだがな……。
「……お前人を呼び出しておいてそれはないだろ……」
やれやれとしてやっぱ一色は一色なんだな、と痛感する。
「……あ……ごめんなさい。今日はホントに相談があって先輩に来てもらったんです」
さっきのあざとい表情から一転、急に真面目な顔をしてそんなことを言う一色。
「まぁ、とりあえず座れ、な?」
俺の目の前の席を促すと、一色は少しうつむいて座る。恥ずかしいのかなんなのかはよくわからんが。
「それで、一体どういうことなんだ?」
「実は……三浦先輩のことなんですけど……」
(三浦?なんでここであいつの名前が出て来るんだ?)
一色は自分で買ったらしいドーナツをひとかじりした後に続ける。
「戸部先輩によると、最近三浦先輩が異常ってぐらいに葉山先輩たちとの付き合いが悪いらしいんです。……戸部先輩はなにも事情を知らないらしいんですが、もしかしたら先輩なら何か知ってるかな……と思って」
それでピンときたのがこの間の授業の一幕だ。となると、何か葉山たちと三浦の間で何かしらの諍いがあった、と考えるのが自然か。
「このことに関して葉山は何か言ってたのか?」
こう聞いたのは一色自身はあの最上位カーストには属していないからだ。一色にこの話が伝わるまでに誰かしらクッションがあるはずだ。
「……いや、なにも聞いてないですね…」
「それじゃなんで三浦のことを?」
「三浦先輩にはいろいろお世話になってますし……。なにかできることがあったら助けになりたいんです」
(なるほど。三浦のオカン属性ゆえの人徳、か)
「……まぁ思いあたる節はあるんだが……」
あの最後にあいつが言い放った言葉が引っかかる。
「…だったらさ、ヒキオはなんとかしてくれるの?…」
俺がなんとか出来る問題ということなのだろうか。だが、三浦は俺が知る中ではかなりプライドは高いはず。そのあいつが俺を頼る、とは考えにくいんだがな……。
「……先輩?……やっぱりなにかあるんですか?」
一色が心配そうに俺を覗き込んでくる。といっても、原因や結果がわからないようじゃ「仮説」は立てられても論理性を持たない。雪ノ下ならそう突き放すだろう。……なら俺がここで取るべき最善の方法はなにか?
「……由比ヶ浜なら何か知ってるかもしれない」
三浦に一番近い存在といえばこいつと海老名あたりだろうか。ここらあたりから考えてみるしかないか……。
「……そうですね……。なら、私は結衣先輩に聞いてみますね」
「わかった」
まだどこかすっきりとしない顔の一色。……それでもさっきよりは幾分か顔色は良くなっていた。
______
先輩が帰った後、しばらく私は三浦先輩のことを考えつつ、ショッピングモールを回っていた。……なぜなら、三浦先輩がああなった原因のだいたい予想がついたから。
(おそらく、三浦先輩は葉山先輩に告白して振られたんだろうな……)
私も葉山先輩に振られたうちの1人。三浦先輩が葉山先輩のことが好きだったってことも知ってたし、どこか葉山先輩も三浦先輩を意識してたところがあるのも知ってた。
(なら、どうして葉山先輩は三浦先輩を振ったの……?)
そこが一番納得のいかないところだった。あと、先輩が一瞬見せたあの顔。先輩もどこかで三浦先輩に想うところがあるのかな……。なんて思っているうちに家からの着信を知らせるケータイが震えていた。
さて、だんだんと長くなってきました……汗。に比べてなかなか話が進展してないような……?気はしますが。
次回は再びあーしさんの出番がある……はず。
PS;なんだか知らない間にUAが5000超えで全話pvが13000なんかになってました(驚愕)。……まだまだみなさんの評価やコメントを待ってますので、気になったら是非とも。……それでは、また〜。
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三浦優美子は予想外の人物と出会う
……とにかく、誕生日おめでとう!(苦笑)
なんだか心の真ん中にぽっかりと穴の開いた気分だった。ユイにも本心を打ち明けることもできないでいるし、不本意ではあるけれども「獄炎の女王」といわれてる手前、他の女子からも敬遠されるところもあるし、こんなところでもし弱みなんかみせたらおそらくあーしは格好の獲物になってしまう。…っていうかまずあーしのプライドがそうさせないと思う。
(こういう時って、なにかに打ち込んだりするって言うけど・・・)
ふっと教室のあーしのロッカーを見てみると、袋に入ったラケットとジャージが入っていた。テニスウェアはないけど、どうにかこれでテニスができそうかな・・・。なんとなく更衣室へと向かってジャージに着替え、放課後のテニスコートへと向かう。
もちろん、放課後はテニス部が活動してるはず。・・・前みたいに割り込む気力は、今のあーしにはない。あわよくば練習に参加させてくれればいいな、って感じだった。
「・・・・・・三浦さん・・・・・・?」
すごく女子みたいな声がしたのでふっと振り返ってみると、
「・・・戸塚・・・?」
テニスラケットを持って緑のジャージを着た、・・・たしか戸塚彩加だったけ?がいた。
「……うん?三浦さんもテニス部だったけ?」
「……いや、違うんだけどね…?」
あーしがジャージにラケットを持っていることが不思議なのか、戸塚は少し首を傾げてこんなことを言う。そして、
「あのさ、……少し、練習参加させてくれないかな……?」
自分でも不思議に思うような発言だった。普段のあーしなら絶対言わないような台詞。それがなぜかためらうことなく出てきた。
「……?……え……あ、ああいいよ!?三浦さんがいいなら!」
一瞬ぽかんと半分口を開けたまま固まってる戸塚。……そりゃ無理もないか……。だってあーしは去年ヒキオと戸塚に思いっきりケンカ吹っかけたワケだし。……まぁあそこに雪ノ下がいたのも原因かもしれないけど。
戸塚は「ちょっと待っててね」と言って部員が練習しているコートの方へと走っていく。
(……一体何するの……?)
コートの方からは戸塚のホイッスルの音と何やら言ってるのがかすかに聞こえるけど、どんな話してるのかはわからない。しばらくして、戸塚が戻ってきて、
「これから僕とシングルスで練習試合してくれないかな……?」
「……へ……?」
予想外の申し出だった。なぜあーしに試合申し込んでくるのかよくわからないんだけど。
「……去年さ、僕たち三浦さんたちと試合したでしょ?……そのとき思ったんだ。やっぱ三浦さんってテニス強いなー……って。確かに八幡とか雪ノ下さんと何かあったのは事実だけど、僕は純粋に三浦さんがすごいな……って思って」
あははー……とちょっと照れながらいう姿は女子にしか見えないんだけど……ってそんなことじゃなくて、
「……それじゃホントにあーしでいいの?」
「うん!」
楽しそうに頷く戸塚。彼は純粋にテニスを楽しんでるんだ。強いとか弱いとかというのにこだわらずに。それからコートに入ったあーしはコートのフェンス越しにあーしらの試合を見守る部員たちをバックに、久しぶりの真剣試合を始めるのだった。
______
結果は3セットやって2-1であーしは負けた。……たぶん1時間ほどは試合していたのか、時計を見ると最終下校時刻が近づいている。にしても、まさかここまで強くなってるとは思わなかった。
「今日はありがとね、三浦さん」
笑顔でそんなことをいう戸塚。どこか隼人とは違う清々しさ、というか……なんと言えばいいかわからないけど、何かしらすっきりとはした、そんな試合だった。気づいたら、
「……こちらこそ」
……なんて柄にもないことを言ってしまうあーし。そんな様子にきょとんとして再び固まる戸塚。……なんか既視感ってこんなことを言うんだっけ。
「……うん!……それじゃまたね」
またね、というのが何を指しているのかはわからないけど、少なくともあーしはその声がどこか嬉しかった。
そのあと着替えたあーしは部活棟から下駄箱を目指して少し急ぎ足で戻る。そもそもこんな時間になるなんて思ってもなかったし。そんなとき。
「……なぁ三浦」
「平塚先生?」
背後から何か声をかけられたとおもったら平塚先生だった。……でもあーしなにかした?平塚先生はしばらくあーしを見てから、
「……いや、なんでもない。……まぁその様子じゃおそらく大丈夫だろう。……悪いな、引き止めて。早く帰るんだぞ」
そう言って踵を返して職員室へと戻っていく。平塚先生が何を言いたいのかよくわからないまま、あーしは首を傾げつつ再び家路についたのだった。
______
夕食を済ませてお風呂も上がったあーしは、とりあえず勉強を済ませてから、ベットに横になる。といっても、まだ寝るわけじゃなくて、天井を向いてスマホを触っていると、
(……ん?って海老名からじゃん)
バナーにメッセージが表示されるので見てみると、
海老名姫菜 >あまり何があったかは追及しないけど、なにかあったら相談して欲しい 23:19
彼女らしからぬ言葉だけど、あーしは結局海老名にも迷惑かけてた、ってことか……。あいつはあいつであーしのことを心配してくれてたんだ。……でも、これはあーしがいつか自分で決着つけなきゃダメだから。
(……ホントにそんなことできるの、あーし?)
海老名への返事を打とうとして固まる。……スマホを支えた右手を天井に向けたまま。
三浦優美子>……とりあえず今のところは大丈夫だし 23:24
とにかく反射的にそう送ってしまうと、
海老名姫菜 >……本当に? 23:26
海老名のその一言がまるであーしの心を覗き込んでいるかのように、深く突き刺さる。彼女はもともとそんな詮索ばかりするようなキャラじゃない。……だからこそ、余計にそう思う。
三浦優美子>……海老名ってばしつこくない? 23:29
そう返してあーしはばたっとスマホを持ったまま、腕を力なくばさっとベットに沈めてしまう。
(……結局、あーしはまだ向き合えてないってわけか……)
大きなため息をつくが、誰も見向きはしない。ここで泣いたとしても、誰も気づきはしないだろう。
「……うぅ……」
誰もいない部屋の中で、あーしは意識を手放すまで嗚咽を漏らしていた。
今書いてて思ったんですけどあーしさんちょっとセンシティブすぎる気がしてきました……。でもあーしさんとエンジェル戸塚(誤字にあらず)がまともに会話してるなんてたぶんないと思いますが、これはこれで書いてて面白かったです。
……あれ?いつの間にかPVが30000超えてたけども、気のせいかしら?いろいろな人に読んでいただけてるってことでしょうか。
PS;実はこれまでのところにちょっとした仕掛けというかなんというかを入れてたのですが、思ったよりも分からないものなのですね(ボソ)。……引き続き感想や評価を募集してまーす(ログインなしでも感想書けるようにしました!)。
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由比ヶ浜結衣は相談する
優美子が来ないということにはなったけど、結局次の日あたし達はディスティニーランドへと行った。……でもみんなどこか何か足りないというか……あー……こういう時ってなんて言ったらいいんだろう……と、とにかく何かが足りなかったの!
あたしは帰りの電車の中で、少し考えてみる。
(おそらく、みんなと優美子の間で何かがあったんだね……)
そう予想することはあたしでもできた。でもそこから、何かしてあげられるか、というと難しいと思う。……だって今はみんなクラスもバラバラだし、おそらく優美子はこういうことを嫌がると思うから。
(だったらさ、どうしたらいいの……?)
ヒッキーに頼ってみようか、という考えが一瞬頭をよぎる。たぶんヒッキーならなんとかしてくれると思う。でも、ヒッキーに丸投げというのもどこか納得がいかないし……っていうかあたしもなにかしてあげたいし……。
「由比ヶ浜?」
「…………うーん……………」
「……由比ヶ浜?なんか唸ってるけど大丈夫か?」
「……へ?……ってヒッキー!?い、いつからいたの!?」
思わず2、3歩後ずさって間の抜けた声が出てしまった。……ホントにいつからいたの?
「……ついさっきだよ。ってそんなとこで悩んでないで、とりあえず部室にでも行けばどうだ?今日は雪ノ下も来てることだしな」
相変わらず腐った目・・・というかどこか虚ろな目をしたヒッキーがそんなことを言ってくれる。
(・・・こんなところが優しいんだけどね・・・)
でも、ヒッキーは自分からどこか他人からの好意というのから逃げている、と思う。・・・たぶんゆきのんもそう思ってるはず。
「珍しく考え込んでるな・・・。新しい宗教にでも目覚めたのか?」
ニヤッとしながらそんなことを言うヒッキー。これにはカチンときた。
「はぁ!?い、意味分からんないし!…ヒッキーのバカ!」
「……なんでこんな罵倒されてんだ俺?そこまで悪いこと言ったか?」
まったく……なんでヒッキーってばこんな空気読めないの?…それでも変なとこ真面目だし、かっこいいし。……ってそんな場合じゃなかった。
「……なんか今日のお前はいつもより増して変だな……ほら、部室行くぞ」
そういってあたしの半歩先を歩くヒッキー。猫背で姿勢も悪いのに、どこかその存在を頼もしく思うのは、おそらくあたしだけじゃないのだろう。……ゆきのんや隼人くん、川崎さんにさいちゃんだってそう。
(ヒッキー、ヒッキーはもうぼっちなんかじゃないから)
ただ、ヒッキーはそうじゃないって否定すると思うけど。……あたしはそんなことをどこかで思いながら部室へと向かった。
__________
「……なるほど、それは面倒ね」
ゆきのんは苦々しい顔をしていう。
「由比ヶ浜さん、それだけだとあまりにも情報が少なすぎるわ。もし何かしらしてあげるのにしても、一歩間違えると逆効果になるわよ」
「……お前が三浦に肩入れするとはまた珍しいな」
そういえばそうかも。ゆきのんと優美子といえばテニスの時といい、千葉村の時といい何かにつけて意見が合わなかったからなぁ……。
「……他ならぬ由比ヶ浜さんの頼みだもの……」
制服の裾をきゅっと掴んでうつむきながらそんなことを言うゆきのん。思わずあたしもヒッキーも目が点になったけども、
((……なにこの可愛い生き物))
……と生ぬるい視線を送っていると、正気に返ったゆきのんがリンゴみたいに赤くなるのがどこか新鮮だった。
閑話休題。
「……それで比企谷くんはなにか手立てはあるかしら?」
どうやらヒッキーはこの間いろはちゃんに会ったらしく、相談を受けてたらしい。ヒッキーが言うには、異変に気付いたのは戸部くんだったらしい。
「そうだな……まずは聴き込むにしても葉山グループに属していないことが必須になるだろ?」
「どうして?」
あたしが首を傾げると、ゆきのんがやれやれという顔をして、
「もし内部の犯行だとしたら他のメンバーをかばうかもしれないでしょ?……ただでさえ
「確かにそうだね……」
ゆきのんが少し不機嫌そうな顔をしてそんなことをいう。あたしとしては、ホントはそんなことする人がいないと信じたいんだけども……。
「とにかく、一色を一回ここに呼んでみたらどうだ?状況を整理するにはそれが一番効率的だろ」
「そうね」
「それじゃいろはちゃんを明日連れてくるねー」
そういうことになって今日の奉仕部の活動は幕を閉じた。
__________
(最近、優美子の付き合いが悪くなった理由、か……)
ゆきのんが言ってた内輪揉めじゃないのだとしたら、何が原因なんだろう。確か川崎さんも優美子とはあまり仲が良くなかったけど、それが直接隼人くん達と付き合いが悪くなる理由にはならないよね……。
(……うーん……)
これじゃさっきと同じじゃん、と思いながらあたしは家に帰ったのだった。
__________
For rich and the poor ones (War is over)
The road is so long (Now)
……クリスマスシーズンには程遠いがすでに古人、いやかの大スターは既に悟っていたのだろう。リア充と非リア充の戦争を終わらせる道はまだまだ遠い、と。
「……お兄ちゃん、また絶対バカなこと考えてる」
横で小町がそんなことを言ってるが、俺はこの曲に感銘を受けた。この偉大な曲は、非リア充がいかにヒエラルキーが低いところに位置しているか、それを的確に突いている。
「……これだからごみぃちゃんは……」
となりで呆れた声を出しながらため息をつく小町を横目に俺はしばらくこの曲を聞いていた。
「……それでさ、お兄ちゃん。お兄ちゃんがおかしいのはいつものことだけど、またなにかあったの?」
……どうやら小町にはまた見抜かれたらしい。全く、こいつには隠し事ってできないんじゃないか?こいつを嫁に取るやつは大変……ってまずは俺の屍を越えた者でないと認めん。
…。
……。
…………。
とりあえず、これまでのくだりを話すと、
「……うーん、そんなときってわたしだったらそっとしておいてほしいかな」
少し考え込んだ小町がそう言う。
「……というと?」
「……たぶん三浦さん、友達か好きな人に嫌われたんだと思う。お兄ちゃんにはそんな経験はないと思うけど」
おい。一言余計だぞ小町。それが敬愛する兄への態度か。……知らんけど。でも、そうとれば確かに納得がいく。三浦が葉山たちと距離を置いていることにも説明がつく。
「・・・友達であってもそっとしておいて欲しいときがあるってか?普通は逆じゃないのか?」
「ぱっと見た感じ、三浦さんは『余計なお世話』で逃げそうな気がするの」
まぁなんとなくはわかる。なんだってあのプライドの高く、男子からは「獄炎の女王」なんてささやかれてたあーしさんなわけだからな。
「・・・そうだな。・・・でも一色とか由比ヶ浜とかが心配している以上、野放しにもできる問題でもないだろ?」
「・・・それもそうだね」
小町はどこか納得したのかそれ以上は何も言わなくなったが、俺はこの問題の終着点はいっったいどこになるんだ?と一人思索にふける。
(タイミングを違えれば最悪の事態にもなりかねない)
俺がかつて文化祭のときにやったように。
__________
あれから一週間ほどしたとある日の放課後。俺たちはこの間の打ち合わせ通り、部室で顔を合わせた。雪ノ下のとなりには由比ヶ浜、由比ヶ浜の前に俺、そして俺のとなりに一色、という配置で座った。
「……とりあえずお茶を淹れましょうか」
「そうですね」
相づちを打つ一色と部室の端へと行く雪ノ下。まぁこれから話すことも割と陰気というか、ネタがネタだからどこか部室の空気も澱んでいる。
「……そういえば先輩って文系にしたんですか?」
ふとそんなことを聞く一色。なんで俺に聞くのかは知らんが、……こいつも2年後には選択するわけだからな。
「……そうだけど、それがどうかしたのか?」
「……ただ聞いてみただけですよ。特に深い意味はありません」
なんか謎な後輩だ。突然キモいですとか罵倒するのかと思いきやなんか急に顔を赤くするときもあるし、なんだかあざとい、というレベルじゃないときもある気はするのだが。……それはたぶん俺の気のせいだろう。
「……はい、どうぞ」
「おう、サンキュ」
「ありがとうございます雪ノ下先輩」
すっと後ろから雪ノ下が俺と一色の前に少し湯気の立ったティーカップを置く。余程いい茶葉でも使っているのだろうか、やはりペットボトルのリプトンとは違う。
「これは由比ヶ浜さんの分ね」
「ありがとう、ゆきのん」
とりあえず、4人して紅茶でひとときを過ごす。……まるで相棒の杉下右京のようだとはこの環境で言えたもんじゃないが、ぴったりである。……座布団一枚ぐらいもらえるだろうか?
『はい、八幡さん』
『紅茶と掛けまして手がかりのない難事件と解きます』
『その心は?』
『メガネ(=右京)がいないと解けません』
『山田くん、八幡さんに1枚やって』
・・・こんな感じにはならないだろうか。
「あの顔はバカなこと考えてるわね」
「そうですね」
・・・ひどいいわれようだ。俺そんな悪いこと考えた?
閑話休題。
「・・・なるほど。それは最終的に三浦さん自身の問題になってくるわね」
一色や由比ヶ浜からの話をまとめてみると、2年の終業式の日を境に、三浦と葉山たちの仲が悪くなった、ということで間違いはなく、どうやら新学年になった今もその状態が続いている、ということだった。
「……そういうことだな」
全くもってその通りだ。ただ、あの女王をあのようにさせるほどの事件……となればやはりこいつには葉山が絡んでると見て間違いないだろう……。
「……なぁ雪ノ下。この一件、俺に任せてくれないか?」
話を聞いてた3人はきょとんとして、
「……ヒッキー、なにか方法があるの?」
「……一体どうするつもりですか?」
「比企谷くん、それはどういった手段なのかしら」
なんて口々に言うが、ここでそれを言えば間違いなく反対されるだろう。
(結局、俺のやってることは文化祭のときと本質的に変わらないんだろうな……)
相模南の一件。それがいまでも鮮明に脳裏に浮かぶ。折本かおりのこともそうだ。葉山に言われてもなお、俺はこの方法しかとることができない。……それが俺という人間なのだから。
「……とりあえず3日間時間をくれ」
少し怪訝な顔をすり周りの三人にはそうごまかすしかなかった。
知らない間に日間ランキング18位になってました。……ホント需要があるようで……。お気に入り件数もおかげさまで200超えました(ぺこり)。
まだまだご意見やご要望とか募集してますので感想や活動報告のところにどんどん書き込んでください〜。それでは、またー。
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比企谷八幡は葉山隼人と対峙する。
だいたいの推測は簡単だった。おそらく三浦は葉山に振られたのだろう。三浦の言動やそれに対する葉山グループの対応から予想がつく。……ただおかしいとすれば、その葉山グループの長たる葉山がなにも意思表示していないということである。他人との調和をモットーとする葉山がどうして全く行動を起こさないのか。そこが疑問で俺は時間をもらった、という訳だ。
(ただ、あいつと連絡とろうと思ったら陽乃さんを通さないといけないわけか)
あの人が絡むとはっきりと言ってややこしくなるのは間違いない。……絡んでこないことを祈るか。ケータイを取り出し陽乃さんの番号を呼び出すとすぐにつながった。
「もしもし陽乃さんですか?」
『やっほー、って比企谷くん?君から電話なんてかかってくるって珍しいけどどうしたの?』
やはりそう思うのが自然だろう。……ただうまくここを避ける策がないものだろうか、と考えながら淡々と用件を述べる。
「……あの、単刀直入に言いますが、葉山の連絡先を教えて欲しいんです」
電話の向こうからの返事は予想に反してシンプルなもので少し拍子抜けしそうになった。
『・・・それは構わないけどわたしから聞いたっていうのは秘密にしてね。・・・隼人、わたしを警戒してるとこがあるから』
深く追求されなかったのがある意味奇跡的かもしれない。あの人ならとにかくそういった話題には必ず何かしら反応するのが常だったしな・・・。……もっとも、今回は雪ノ下が絡んでないからかもしれないが。
(これで舞台装置は整った・・・が、あとはどうまとめるか、だな・・・)
虚空を見つめながらそんなことを考えちまう。
『……バカ……』
胸の辺りがきゅっと締め付けられるような衝動に襲われ、少しめまいのするところだった。・・・あの職場見学のときに由比ヶ浜に言われたあのひとことが鮮明に俺にいまさらながら刃をむけるのか?
(・・・馬鹿らしい、って前の俺なら一蹴してたところなんだろうが)
一人で飯を食い、一人で授業を受け、一人で登下校する生活が身についちまってた。……でも、いつの間にか俺の周りには雪ノ下や由比ヶ浜、戸塚に認めたくはないが材木座とかを始め、他人じゃ済まされない間柄になっちまった……といえばいくらなんでも自分勝手、だろうか。
(でも……どうしてあの場面で俺に頼ろうとしたんだ……?)
一番わからないのはそこだ。……そんなことは後でもわかることか。どこから出てきたかもわからないため息をつきながら俺は虚空を見つめるのだった。
_______
「……どうしたのかな、比企谷くん?」
こいつはこんな時でも俺に笑顔を振りまいてくる。……まるで赤の他人かそれとも親友に見せてる笑顔かわからないほどの精巧な笑顔。
「……ちょっと聞いてほしいことがあってな」
俺がそういったとき、屋上に風が俺たちの間をすっと駆け抜けていく。…………葉山はまるで風がそうさせたように一変して真剣な顔つきになり、
「……優美子のことか」
悲痛な声、といえば聞こえがいいだろうが、どこかこの男から発せられた声は様々な感情が絞り出されたような深いものものだった。
「……ああ、さすがご明察、っといったところか」
俺はあえておどけてこいつにいってやる。……こいつがどこかで夢見ている「幻想」を打ち砕くために。
「……ふざけるなよ……お前……」
葉山は両手を握りしめて攻撃的な視線を容赦なく俺に向けてくる。……それは単なる怒りだけだろうか?おそらくそうじゃない。こいつのことだ。……もう気づいてるんじゃないのか?
「……ふざけるな?それはこっちの台詞だ葉山。……お前は最低だぞ?俺以上にな」
「……俺が一体何をしたっていうんだよ……」
「……シラを切るのか?……お前が一番望んだものを自分で砕いたことぐらいお前が一番知っているだろ?」
「…………っつ……‼︎……」
途端に葉山は俺の胸ぐらを左手で掴んで握った右手を大きく構える。……でも、こいつはここで俺を殴ることはできない……。
「……だったら、どうしたらよかったんだよ……」
右手を下ろしてうつむきながら声を絞り出す葉山に俺はこう問いかける。
「……お前はどうしたかったんだよ……?」
「……わからない……」
「……そうか」
「……俺は確かに今までいろんな人に告白されてきたけれども、みんな断ってきたんだ。……でも、まさか優美子に言われるなんて……」
「……それは嘘だな。……お前は気づいていたはずだ……三浦の気持ちに」
再び俺たちの間をまとまった風が吹き抜ける。
「……どうしてそれを君が知ってるんだ……?」
「……馬鹿野郎。……俺を誰だと思ってんだ。……ぼっちの洞察力をナメるな」
「・・・・・・ときどき君を羨ましく思うときがあるよ」
ふっと落ち着いたのか若干ではあるが表情が和らいだ葉山。どこか皮肉がこめられている気もするが、この際はどうでもいい。
「それで・・・お前はどうこの件にケジメをつけるんだ?」
・・・なんだかやーさんみたいな言い回しになっているが気にしないでおこう。
「・・・優美子には・・・許して貰えないかもしれないけど、ちゃんと断るよ」
「・・・そうか。・・・・・・それがお前の出した答えなら、俺はそれ以上は何も言わない」
「・・・ほんとに君は卑怯だよ・・・・・・・・・」
ぼそり、と葉山は何かを言った気がするのだが、その声はふっときまぐれに吹いた風に流されて俺には聞き取れなかった。・・・そして俺は葉山がいなくなり静まり返った屋上に、
「・・・これでいいんだろ・・・?」
そう、どこかで過去の自分を納得させていた。……まさか、この場所にあいつがいたことなんてこのときは知る由もなかった。
……とりあえず第1章としての締め括りはここまでと考えてます。三浦さんが再び本格的に出てくる第2章……はまだ考案中ですが、アドバイスなどあれば是非とも。……それでは、また。
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[番外編]川崎沙希の受難(?)
季節が春から夏に変わろうとするとき、まるで梅雨を予兆させるかのように生ぬるく湿った空気が吹きぬける。それはこの屋上も例外じゃない。・・・そんなにうっとうしいならこなくちゃいいのに、なんて思うけどここが一番あたしが落ち着く場所であったりする。
(……あったかい……)
珍しく晴れた日だったのか、降り注ぐ日の光が心地いい。……そんなときはゆっくりと……。
「…………えーと、お邪魔だったか?俺」
がちゃりと無機質な屋上への扉の音が聞こえ、相変わらず死んだ目をしたあいつがのそりと屋上へと現れる。
「…………別に。好きにすれば」
ついあっけらかんとそんなことをいってしまうけれども、実はあたしはこいつに頭が上がらない……というより好意を寄せていたりする。……もちろんこいつはそんなこと知らないし、ってか大志すら知らない。
(……ってあいつにバレたら……死ぬ。間違いなく死ぬ)
……コレってもしかしてあたしが告白するしかないんじゃ……?
(……あああああ……!)
「……なにしてんだお前?」
「……な、なんでもないから!あ、あんたには関係ないでしょっ!?」
ついいつもの悪い癖でわーわーとまくしたてて言わなくてもいいことをいってしまうあたし。
「まぁ……確かにそうだが……」
歯切れ悪くどこか落ち着かない風にそう答える比企谷。そりゃそうだ、目の前に顔を真っ赤にしてわたわたしてる・・・ってん?あたし、今顔・・・・・・。
「・・・・・・あんた今こっち振り向いたら殺すからね」
背中越しに心配そうな視線を感じるけれども、ここはあたしのプライドにかけても赤くなってるのは悟らせないようにしないと・・・。
「・・・・・・おう・・・」
あたしの後ろでびくっとしてきまずそうにあいつが気を紛らわせるためにスマホを触り始めるけど・・・。なにこの空間。気まずすぎるんだけど・・・。
「・・・・・・そ、そういえばさ、けーちゃん元気にしてるか?」
あいつも気まずく感じたのか、けーちゃんの話題を切り出してくる。・・・・・・こういうところがちょっとおせっかいというかやさしかったりするんだけど・・・。
「うん・・・・、元気にしてるよ。・・・ひさびさに『はーちゃん』に会いたいって言ってたわ」
(・・・・・・・ってどさくさにまぎれてこいつのことはーちゃんなんて言っちゃって・・・・・・!!)
なんか自分でも何言ってるのかわからなくなってきちゃって、けーちゃんがさびしがってるとかなんとか言っちゃったけど・・・、
「おう。そんじゃ今度お前ん家かどっかで久々にけーちゃんと遊んでやるか・・・・・・って川・・・なんとかさん?」
まだ頭いっぱいの・・・・・・って・・・・え・・・?・・・・・・・・一瞬何が起こったかわからなかった。きょとんと狐につままれたような顔をしてる比企谷と・・・あたし?一瞬現実から逃避しようとぱちくりとしてみても、目の前には比企谷。
「・・・・・・・・・・あんたのバカーーー!!!」
途端に何も考えられなくなったあたしは、ささっと脱兎の如く屋上を後にする。・・・・・・絶対死ぬ。あいつにあの顔を間違いなく見られた。
(・・・・・・・どうしよう、ああ言っちゃったからいまさら後には引けないし・・・)
ばたばたと廊下を走りながら熱くなった頭を冷やそうと必死になる。階段を降りて教室へと向かおうと角を曲がろうとしたとき、
「……わっ……!?」
「……キャッ……」
どさり、と思い音が辺りに響いてお互いに尻もちをついた格好になる。……なにも考えずにただ走ってるからだ……。
「……ごめん。ちゃんと角確認してなかったから……大丈夫?」
比較的痛みもなかったのでゆっくりと立ち上がっておしりを払って、右手を差し伸べる。……って三浦?
「……ありがとね。あーしの方こそぼぅーとしてたから……」
三浦はあたしの差し伸べた右手をぐっと掴んで身体を持ち上げる。……っていつもと調子違うような気がするんだけど……。いつもはこう……強圧的というか、なんというか。
「……いいえ、こちらこそ。怪我してない?」
「……うん。大丈夫だし……」
そういうと立ち上がった三浦は廊下の先へとどこか力なくあたしに背を向けて歩いて行く。あたしはさっきの出来事は頭からいつの間にかすっかり抜けていた。
初めてのサキサキ回にして初めての番外編でした。なんとなくサキサキを書きたい衝動に駆られて書いてみたのですが・・・、うまくかけているかはちょっと心配です。
いまあげておいて言うのもなんですが、もしかしたらこの続編を作るかもしれません。・・・そこらへんは活動報告とかのほうでもみなさまに聞いてみようかと思ってますのでぜひともコメントをいただければ。
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