やはり俺の出所後生活は間違っている (ミーアキャット)
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プロローグ

はじめまして。
初投稿です。
更新速度は速いときは隔日くらい、遅い時は何ケ月か空くかもしれません。
でも平均で週一くらいのペースになると思います。
割りかし書くことは決まっていますので、トンズラこくことはないかと。
暇つぶしにどうぞ。


 

 

 

ーーー「なるほど、君たちは退学の延期を申し出ているのか

 

ならひとつだけ聞かせてもらおう。 キヨシくん。君は胸と尻どちらが好きなのか…な!」

 

理事長は俺にそう問うた。

 

なんとなくだけど、この質問の答えいかんによってはこれまで脱獄の為に準備してきたことの全てが無駄になってしまう気がした。

だからこそ、俺は全力で考える。

おっぱいとお尻のどっちが好きかだって?

…そんなのおっぱいに決まっているじゃないか。

尻がおっぱいに勝っているはずがない。

だって俺は叶うのであれば今すぐにでもおっぱいを揉みたいし、許されるのであれば吸いたいし、しゃぶりたい。

頭をフル回転させ様々な角度から比較し、考察するもやはり導きだされる答えはおっぱいだ。

答えは最初から決まっていた。

 

 

(…でも、本当にそれでいいのか?)

 

 

なのに、ふと頭に浮かぶ一つの疑問。

この答えではいけないと、第六感は告げている。

違和感がある。

何だ?何が違う?

その時何かが頭に引っかかる。

それはいつしかのとある光景だった。

 

 

 

ーー『ふぅ、人一人分が通るくらいなら、この穴の大きさで十分だな。

脱獄に支障は無さそうだ。

 

あれ、あそこにいるのは、…理事長?』

 

 

『…残念だ。愛しい尻たちよ、俺たちは今日でお別れをしなければならない…。許してくれ…。

 

まずはアンジー、出会ったのは南米の小さい島でだったな。引き締まったいいヒップだった。今までありがとう。チュッ

 

次にセリア、あれは衝撃的な出会いだった。ドイツの街を歩いていた時だったか。幼い万里を連れていたが投げ出してつい追いかけてしまったよ…。肉感のあるいいヒップだった。今までありがとう。チュッ

 

次にニーナ、………… 』

 

 

『あ、あの人何をやっているんだ。尻の写真一枚一枚にお礼を言って、キスをしてから穴に埋めている。

…理解できない。』

 

 

『…愛しい尻たちよ、愚かな男に今まで連れ添ってくれて、ありがとな…。』

 

 

『や、ヤバすぎる…。うん…。み…見なかったことにしよう。』ーーー

 

 

 

(…………。)

 

 

あっぶなかった!

理事長尻好きじゃないか!

たまたまだったけど、見といてよかった。

あの時は正直、俺の通ってる学校はもうダメなんじゃないかと本気で思ったけど、とにかくよかった!

 

 

そう、理事長は尻の写真を愛しげに穴に埋めていた。

この事実は一つの仮定を導きだすのに、いや、証明するのにはあまりにも大きかった。

 

 

よし…、ということは、答えるべきはやっぱり…

 

 

満を持して、結論を出そうとする。

答えるべきものは今ので完全に断定された。

…だけど、それでも俺は答えられなかった。

第六感はそれでいいと言っている。

過去の記憶もその選択の正しさをアピールしている。

でも…でも…

やっぱり嘘はつくべきじゃない!

例え答えがそうであったとしても、相手に合わせた答えなんて何の意味もない。

理事長だってこの質問を半端な気持ちでしてなんかいないはずだ。

なのに、自分の本当の気持ちを騙して、相手に合わせた嘘の答えを言って。

 

 

一体何になるっていうんだ。

 

 

行け、自分の本当の気持ちを言え。

さらけ出すんだ、自分のおっぱいへの愛を。

伝えるんだ、理事長に魂の叫びを。

じゃなきゃきっと意味がない。

そうでなくちゃならない。

これは男と男の真剣な会話。

神聖なる儀式なのだ。

気づいてよかった。あと少しで水をさしてしまうところだった。

 

 

決意を確固たるものにし、そして俺は息を大きく吸い、真剣な表情で、ハッキリと宣言した。

 

 

「理事長!聞いてください!俺が好きなのは、俺が大好きなのはっ!

 

 

おっぱいです!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

「退学か…親になんていうかな」

 

そういってシンゴはため息をついた。

 

「そうだよね、濡れTコンテスト参加したかったなぁ。」

 

アンドレもしょんぼりと肩を落とす。

 

「今さら言っても仕方ないことではあるものの、やはりあと数日あれば、小生の策は成っていた。正直悔しいでゴザル。」

 

ガクトは顔をしかめた。

 

「ごめんみんな。俺があの時おっぱいではなく、お尻と言っていれば。」

 

自分のやってしまったミスは決して大きなミスではなかった。

二択を外したというだけだった。

しかし、自分の一言で周りのみんなの運命まで決まってしまったという事実は変わらない。

俺はあの時の自分の選択が間違っていたとは思っていない。

だけど、俺の勝手なプライドに、皆を巻き込んでしまったことへの不甲斐なさと申し訳なさが頭の中でうずまいていた。

 

「まあ確かに濡れTは残念だったけどよ、退学とはいえ、理事長が次の進学先を決めてくれたじゃないか。

全員一緒とはいかないみたいだがな。ゴホゴホ。」

 

ジョーがなぐさめの言葉をかけてくれる。

処置としては退学というよりは転校が正しいのだが、退学の方がセリフ的にかっこいいので皆がそういうことにしている。

 

 

あの時の選択は正解か不正解かで言えば、確かに間違いだった。

だけど、一つだけ良かった点を挙げれば俺の熱い心がなんとか理事長に伝わり、退学は完全に消滅させてはもらえなかったものの、転校という処置に収まり、次の進学先を探してもらえることになったということだった。

 

 

ーー「そうか。残念だ。この話はこれでおしまいだ。さらばだ諸君。

 

…と言いたいところだが、私としても今回の君達への処分に対して思うところはある。キヨシくんの胸への確かな愛も受け取った。正直痺れたよ…。

 

だからこれは私から君達への餞別だ。君達がこの学校を去ることは変えられないが、尻愛(知り合い)に頼んで他の学校にすぐ編入できるようかけ合ってみよう。君らの幸運を祈る…よ!」ーー

 

 

理事長のあの一言により僕らは最悪の事態は一応免れていたのだ。

 

「…総武高校か、どんな学校なんだろうな。」

 

理事長に言われた学校名をつぶやいてみる。

この学校には自分一人になってしまったので心配だ。

県も別だったし。

 

「なんかあったら連絡してね。」

 

アンドレが微笑みを浮かべる。

 

「そうでゴザルよ。我ら五人は共に一つの夢(濡れT)を追った仲。離れていても心は一つでゴザル。」

 

ガクトが涙ぐむ。

 

「ガクトはもうクソを漏らすなよ。ゴホッ。」

 

「ジョー殿、な、何を言うでゴザルか!」

 

「新しい学校、副会長様みたいなご主人様に出会えたらいいな。」

 

「まあ、どんな学校に行くにせよ周りが女子だらけだったり、いきなり監獄にぶち込まれたりなんてことはないんじゃねーの。」

 

皆が短い間だったけれど濃密であった思い出に浸ったりまだ見ぬ新天地に思いを馳せる。

言われてみれば確かにシンゴの言う通りだ。

今までのあの日々は普通ではなかった。

変で。痛くて。エロくて。難しくて。

俺が知る一般的な高校生活とは到底かけ離れていた。

だからこそ、これはある種のチャンスなんだ。

これから他のどの学校に行ったとしても、もう、変な事には巻き込まれたりしないはずだから。

普通の高校生としての生活を送れそうだから。

本来それが正しいんだよ…。

うん。きっとそうだ。

愚かしくも、この時の俺はそう思っていた。

 




監獄×俺ガイルのクロスオーバーです。
一見合わなそうに見えますが、書き始めてみると案外無くは無いなと思ったり。
プリズンが無い以上、脱獄はメインにはなりえませんが、キヨシが活躍できるようなシチュエーションに持っていけるよう頑張ります。

(11月30日 プロローグ改訂しました。もしかしたら今後も改訂は度々あるかもしれません。密度は変わっても、内容に大きな変化はつくらないようにするのでよろしくお願いします。)


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序章・遊戯部編
1話 藤野清志は覗き魔の烙印をおされる


第一話です。
まだ始まったばかりなので、キャラの絡みが微妙ですね。
というか、由比ヶ浜動かしづらすぎです。
でも、意外と原作でも彼女は大人数の時はあまりしゃべっていなかったりする特徴もありますし、そういうことで


 

 

青春とはエロスであり、夢である。

青春を謳歌せし男たちは常に女子のパンツを見ることだけを考え、そのためならば自らに白い目を向けられることもいとわない。 彼らはパンチラの四文字の前ならば、どんな一般的な解釈も社会通念も時には法律さえも捻じ曲げてみせる。 彼らにかかればバストもウエストもヒップも目測で測ることなど簡単なことであり、それをおかずとして飯を食えるのだ。 仮に挑戦し続けることが青春の証であるのなら、学校中でパンチラスポットを探し続けるのもまた青春のド真ん中でなければおかしいではないか。 しかし、女子たちはそれを認めないだろう。 男子ってサイテーと言うだろう。すべてにおいて女子は常に裁く側であり、男子は常に裁かれる側なのだ。

 

 

 

 

結論を言おう。

 

 

 

『パンツよりもマ◯コが見たい。』

 

 

 

 

ここまで書いて俺は無言で紙を引き裂いた。

思いかえせば、この授業の時間中ずっとこれを書いていた。

いや、ちょっとホント真面目に。

 

…バカすぎるだろ、俺。

 

正直、結構精神的にきてるのかもしれない。

 

 

総武高校に転校してきて早一週間。

現在六月の中旬だ。

新たな出会いに胸を躍らせ、六月中にはきっと童貞なんて卒業できると思っていた俺の幻想は入って早々に砕け散った。

 

なぜだか分からないが、転校先にまで俺が覗きで退学になったことが伝わってしまっていたからだ。

クラスに留まらず、学校中の女子から送られる数多くの冷たい視線は、プリズン送りにされた時に一度経験していたといってもやはり苦しいものは苦しい。

せめて、踏んづけて罵りでもしてくれれば喜びも生まれるというのに…。

 

 

こうして俺の童貞卒業計画は再び目の前から霧消したのだった。

 

 

しかし、唯一の救いは男子の方のリアクションが比較的良好であったことである。

女子と違い、覗きをされたからといって、全く困らない男子たちはそんな俺にも、積極的に話しかけてきてくれたのだ。

やはり、特に下ネタの話題は大いに盛り上がり、日に日に俺の席の周りに男子たちが集まってきた。

下ネタのコミュニケーションツールとしての偉大さというものを改めてよく知った瞬間であった。

 

 

今では男のコミュニケーションでは欠かすことができない、「一番好きなのは何カップ?」や、「あの子のパンツは何色か?」の討論を放課後に何時間も熱く交わすまでになったのである。

ちなみにこの討論会を開いてから、女子からの風あたりが更に強くなった気がするけど、気のせいだと思いたい。

 

 

だから現状としては監獄に閉じ込められることもないし、割と平穏に過ごせていると言えるかもしれない。

 

 

しかし、やっかいなことが一つ。

 

 

「おい藤野。私の授業を聞きもしないで、ポエムを書いているとはずいぶんといい身分じゃないか。」

 

 

生活指導らしき国語教師に目をつけられてしまったのだ。

 

 

「すみません。平塚先生。」

 

 

先ほどの彼女の授業中ずっと、謎の作文を書くことに費やしていた俺の行動は彼女に見られていたみたいで、あの後職員室に呼び出しをくらい、放課後のエロトークをすることもできず、今こうして先生のもとに訪れるハメになってしまっていた。

 

 

「まったく君というやつは。本当にいい度胸をしている。…まぁしかし、まさかこんなに早く学校に馴染むとは思っていなかったよ。入学直後は色々と大変だったのだろう?よくもまあこれだけの期間で…。相変わらず女子の好感度は変わっていないようだがな。」

 

 

ふふと少しだけ左の口角を上げ薄く笑う平塚女史。

美人な教師であり、ものすごい巨乳の持ち主の彼女に初めて会った時には俺の股間のアンテナは二本までたっていたのだが、彼女の人と成りを見た今となってはアンテナは一本もたたず。完全に圏外だ。

いやはや、危険度が高すぎるのである。

そう、彼女は考えるよりも先に拳が出る人なのだ。

しかも気持ちよくなれない方のタイプ。

副会長のお仕置きと違い、パンチラのようなアメはなく、ムチしかないのでこちらとしてはやっていられない。

 

 

まあ、それでも女教師でこれだけの美人で、あの巨乳を所持しているとなれば、それに投資したいと思ったことは正直何度もある。

フジノミクスと称しておっぱい革命を起こしたすぎた。

俺は今一度こっそりと彼女の胸を揉む方法を考えてみる。

…ふむ。

 

 

「衝撃の!ファーストブリットォ!!」

 

「ぐおはぁ!」

 

 

…なぜだ、いきなり殴られたぞ。

何も口には出していないはずなのに。

もしかして、あのおっぱいが邪な思いを察知するレーダーの役目をしているのか?

だとするとこれは早急に対策を打たなければならない。

つまり揉まなければならない。

千代ちゃんごめん。

俺はこんなところで負けてはいられないんだ。

意を決して俺はそろっと巨乳に手を伸ばしてーー

 

 

「悪い、昔の癖で人の武装色の覇気が見れてだな。藤野、あんまり余計なことをするようなら、うっかり私の抹殺のラストブリットまで出てしまうかもしれないぞ。」

 

「すみませんでした!」

 

 

ここが引き際、流れるように土下座へ移行する。

てか、先生って見聞色使えたんですね…。

 

 

「はぁ、君はこの年でどれだけスムーズな土下座をしているんだ。慣れすぎだろう、まったく。」

 

 

当の平塚先生は呆れた様子である。

 

 

「…うーん、やっぱりこいつもある意味更生が必要かな。…ではこいつはあそこに入れようか。あいつらは時々不安定になるから心配なんだよなぁ。もしかしたらいいカンフル剤になるかもしれんし。…うん、そうしよう。」

 

 

そしてその後、小さな声でぶつぶついってから先生は俺にこういった。

 

 

「藤野。お前は私の授業を不意にした。だからこれは罪だ。そして罪には罰を与えなければならない。なので君には奉仕活動を命じる。奉仕部にいくぞ。」

 

 

平塚先生は乳としてそう言った。

嬉々としてそう言った。

 

 

奉仕部?

一体何を奉仕するのだろう。

 

 

ついついあんなことやこんなことを考えてしまう。

同時にあれ、これってもしかするとチャンスなんじゃないか?などとも思う。

 

 

しかし一旦踏みとどまって考える。

たいていこういった上手い話には、裏があるに決まっている。

俺はここ最近で裏生徒会にも何度も騙されてるのだし、何度も同じ失敗を繰り返すのはバカだけである。

 

 

…いや、それでもやっぱり目の前にご奉仕が待ってる可能性があるのだとすれば、男ならやはり行くしかないか。男キヨシ、いざ参る…!

 

 

男とはいつだって性欲の前にはバカなのであった。

 

 

「…あー、藤野。残念ながら君の考えているようないかがわしい部ではない。学校のために働いてもらうだけだぞ。」

 

 

そして現実はそう甘くない。

やっぱり騙されたかっ!

くそう!くそう!

 

というか、よくよく話を聞くと裏があるどころか表がなかった。

実質のただ働き宣告である。

あの獄中生活と状況は何ら変わりない。

なら仕方がない。ここは戦略的撤退が吉、…逃げよう。

 

 

そう決意をしていたところで肩にポンと手を置かれる。

前を見ると平塚先生が慈愛に満ちた笑顔を浮かべていた。

思わずこちらが恥ずかしくなってしまう。

その表情のまま平塚先生は言ったのであった。

 

 

「逃げたら私の拳を与えるからな。よし、ついてきたまえ。」

 

 

ものすごい落差の脅しに止まったままでいると、扉の前で平塚先生はこちらを振り返った。

 

「おい、早くしろ。」

 

 

 

どうやら俺はまたも脱獄に失敗してしまったみたいだ。

 

 

 

× × ×

 

 

 

「ここだ。」

 

 

そういって平塚先生が指したのは教室棟と中庭をはさんで反対の位置にある特別棟にある一つの教室だった。

 

 

プレートさえ何の装飾も施されていないその教室の扉に手をかけ、平塚先生はガラガラと開けた。

 

 

「じゃまするぞ。」

 

 

「平塚先生。入る時にはノックをと何度も言っているのですが。」

 

 

教室の中には二人の女子生徒がいた。

 

 

今平塚先生に注意をした生徒はまるで絵画から飛び出してきたような美少女だった。

綺麗な黒髪に端正な顔立ち、知的な雰囲気までまとった彼女はどこかの裏生徒会長に似ている。

…確かこの人って。

ここ一週間ほどの間の自分の記憶に問いかけ、一つの答えがひっかかる。

そうだ、二年生の雪ノ下雪乃さんだ。

クラスの男子との会話の中で何度か出てきたから覚えている。

 

 

「…はぁ、また厄介なものを連れててきたんですか。

 

既にうちの部室には目の腐った霊が取り憑いているのでお祓いを終えてからにしてもらえますか。」

 

 

なんか自然な流れで厄介なもの扱いされた気がする。

 

 

「さらっと人のこと幽霊呼ばわりするのやめてくれない。なんなの、成仏して地獄に落ちろっていいたいの。って地獄に落ちることは決まっちゃってるのかよ。」

 

 

今まで気づいていなかったが、よく見るとどんよりとした目の男子生徒もいたみたいだ。

恨みがましい視線を彼女に向けている。

 

 

「一応天国にはいけない自覚はあるのね比企谷くん。まあそんな観念的な話をするつもりはなかったのだけれど。

 

それで、あなたはまずは自己紹介でもすればどう?それとも幼稚園の時にやり方を習わなかったのかしら。」

 

 

どうやらあの男子生徒は比企谷さんというらしい。

雪ノ下さんとタメで話しているようだし、彼も二年生なのだろう。

そんな風に考察していると鋭角に罵倒が飛んできた。

 

 

「一年C組藤野清志!特技は服の早脱ぎです!」

 

 

こういうのは最初の印象が肝心だ。

表情をキリッとさせ、はきはきと答える。

 

 

「特技の紹介は微妙だった上に必要なかったと思うのだけれど…

 

それにしても最近転校してきたばかりでもうここに連れてこられるだなんてそこの小悪党よりも性根が腐っているということかしら。」

 

 

男たちを罵倒しながらも、どこか嬉しそうな表情を浮かべて彼女は言った。

 

 

「人を小悪党扱いするんじゃねーよ。確かに一緒にやってくれる仲間はいないから規模は小さいけど。ついでにできる悪さの規模も小さい。そもそもぼっちは人と関わらないから悪さもしない、世界的に考えてまじガンジー。」

 

 

「…うざ。」

 

 

フヒッと正直少し気持ち悪い含み笑いをうかべた比企谷さんに呆れた様子の雪ノ下さんは冷たい視線を向ける。

 

 

「…ってゆーかさ、あれってお風呂覗いたのが原因で転校してきた人だよね。ゆきのん、あの人大丈夫なの?」

 

 

もう一人の女子生徒が雪ノ下さんにポショポショと耳うちをしている。

彼女の特徴と言えば、男子の夢がいっぱい詰まった大きな大きな胸である。副会長と良い勝負かもしれない。それにギャルっぽい風貌ではあるが、かなりかわいい顔立ちをしている人でもある。

 

 

「まあ君たち、なんにせよ彼は性欲が服を着て歩いているようなものではあるが、それにさえ目をつぶれば人間としてはそこまで悪い人間ではないよ。

 

彼が以前通っていた学校もかなりの進学校だから、頭の回転も悪くない。そこまで心配しなくても大丈夫だ。」

 

 

平塚先生のフォローはまったくその役割を果たしていなかった気もするし、全くなかったらなかったでヤバい状況になっていた気もする。

つまり、俺は先生と由比ヶ浜さんのおっぱいはどっちの方が大きいかを考えるのに忙しいので、それどころではないのだ。

 

 

「それは人として致命的な欠陥だと思うのですが…。

 

はぁ、ですがそうだとすれば私たちが彼にしてあげられることなど何もありませんが。」

 

 

そうこめかみを指で押さえる仕草をしながら彼女はいった。

 

 

「まあそう結論を急ぐな。依頼は…そうだな…そう、彼の行動の監視だ。一応前科もあるし理由としては十分だろう。そして彼をここに連れてきた目的だが、彼にもこの奉仕部に入ってもらう。ほら、先日も新部員の補充について話しただろう。」

 

 

「適当じゃねーかよ…。」

 

 

比企谷さんはぼやく。

 

 

「わかりました。誠に遺憾ではありますが、彼も調きょ…失礼、無事更生させるようつとめます。」

 

 

…なんかヤバそうな言葉が聞こえた気がする。

 

 

「うむ。まあ別に君たちのやり方にどうこういうつもりはない。好きなようにやってくれたまえ。」

 

 

要するにここまで連れてきておいて丸投げだった。

 

 

「さて、人数が増えるなると、バトルロイヤルも楽しくなってくるな。」

 

 

平塚先生は楽しそうにハリのある胸をはる。

 

 

「バトルロイヤル?確か複数人で戦うやつですよね。何の話なんですか?」

 

 

正直今の状況にそぐわない言葉だったので一応聞いておく。

 

 

「ああ。藤野は知らなくて当然だが、今この部活ではバトルロイヤルの真っ最中なのだ。誰が一番奉仕できたかの勝負というやつだよ。まあ、勝敗は私の独断と偏見で決まるのだが。」

 

 

「正気ですか…。このどろどろした目の男の参加でだけでさえも身の危険を感じるというのに、彼の参加など論外です。」

 

 

「確かに怖いかも…。」

 

 

雪ノ下さんも由比ヶ浜さんも難色を示す。

 

なんでだろう?

ただの勝負じゃないのか?

 

怪訝な顔を浮かべた俺に平塚先生はその疑問に答えてくれる。

 

 

「…この勝負には戦利品があってだな、勝者は敗者になんでも好きなことを命令することができるのだ!ふふん、少年どもには夢の膨らむ提案だろう、なあ比企谷。」

 

 

「なんだって!!」

 

 

「べ、別に、え、エロいことなんか考えてねぇし…世界平和とか考えてるし…。」

 

 

 

 

おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい

 

 

 

……はっ!

気がついたら頭の中がおっぱいでいっぱいになっていた。

どうやら俺は今の一瞬、おっぱいのワンダーワールドに紛れ込んでしまっていたみたいだ。

…なんで帰ってきちゃったんだちくしょう。

 

 

でも、平塚先生の言ったことを整理するになんでもっていったらなんでも。

つまり、勝てば雪ノ下さんのおっぱいも由比ヶ浜さんのおっぱいも好きにしていいと言うことなのだ。

 

 

きょどる比企谷さんと、あわてて涎を拭く俺。

 

 

由比ヶ浜さんから「ひっ!」という小さな悲鳴があがった。

 

 

「…まあどちらにせよ勝負である以上勝てばなんの問題もないわね。

それに勝負するのなら、リスクは当然だわ。」

 

 

対照的に雪ノ下さんはそう言う割にあまり動揺していない様に見えた。

というか目が本気だった。

 

…正直ちょっとだけあの目で見下されながら踏まれたいと思ったのは秘密だ。

 

 

× × ×

 

 

こうしてこの調子で部活はこの後も続き、結局最後までこんなカオスな空気のまま、部活体験初日は終わったのだった。

 

 

…結局何の部活だったんだろうな。

 



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2話 いつだって比企谷八幡は人との関わりを避ける

時系列の話です。

遊戯部→由比ヶ浜の誕生日の流れが本来通りなのですが、
作品の都合上、由比ヶ浜の誕生日→キヨシの入部→遊戯部となっています。
脳内補完、よろしくお願いします。

ちなみに基本一人称はキヨシなのですが、今回は八幡視点になっています。


 

 

昨日藤野が新たに加わった奉仕部は四人になった。

一般的に考えれば人数が増えるということはプラス要素なのだろう。しかし、人と関わりたくない、でも関わらない、できれば一人で寝ていたい、勇気を出して、Zzz…!Zzz…!昼寝! という西◯カナ的な繊細な心を持っている俺にとってはどう見てもマイナスだった。

それ、繊細じゃなかったわ…。

 

 

まあ人が一人増えようが二人増えようが全体+一人になることは確定なので、俺はいつも通り影に徹していればいい。総武高校幻の六人目は人の前に姿を現さないのである。…ダメじゃん。

バスケ界のニュースターは今ここに現れなかった。

 

 

なんて放課後一人部室で考えていると、部室の扉がガラガラと開き、「こんにちは。」という挨拶とともに昨日入部した藤野キヨシが入ってきた。

 

 

「…うす。」

 

 

「あれ、比企谷さんだけですか?まだ全員揃ってないんですね。」

 

 

なんの気なしに藤野はそう言う。

 

…「だけ」ってなんだよ、母ちゃんの言う「今年も年賀状きてないのあんただけだね。」のだけかよ。

まあ最近では歯医者とかからくるから決してゼロではないけどな。

…自分で言ってて恥ずかしくなってきた。

 

正直なんて返事をしていいかわからないのであえて何も言わない。

 

 

「…いや、無視しないでくださいよ。」

 

 

そう言って俺から見て右側、つまり由比ヶ浜の席の正面に席を用意し、座った彼は不満そうに俺を見つめてきたのだった。

いや、俺にまともな返事を求めるお前が悪い。

 

なお無視を試みるが、藤野は俺から視線を外そうとしない。

なんなのお前俺のこと好きなの?

…考えただけで気持ち悪くなってきた。

 

はぁ…仕方がないな。

 

 

「…いや、クラスでなんかあるんじゃねーの?友達との会話とか。俺は友達いたことないからわかんないけど。」

 

 

俺はぶっきらぼうにそう返事をする。

 

「あー、確かにそうですね。そういうことってたまにありますもんね。…え、友達いないとかマジですか。」

 

返事をもらえたことに顔をほころばせた藤野であったが、それも一瞬。微妙な顔つきに変わる。

うるせぇよ。

 

 

後輩に友達いないことを知られ、同情される。

これは夜に枕に顔を押しつけて「アァーッ!」って叫んでしまうのレベルの黒歴史なんじゃないだろうか。

ついでに隣の部屋の小町に「お兄ちゃんうるさい!」って壁を思いっきり叩かれるまである。

スイーツ(笑)がいう壁ドンとかいうやつ。

もしかしてそこから恋が始まっちゃうのかしらん?

しかし、日本の法律では兄弟婚は認められていないので、始まる前に終わっていた。無念。

 

 

…にしてもなんとも微妙な空気になってしまった。

そのまま俺のこと無視し続けてくれればいいのにと思う。

しかし、事はそう上手くはいかなかった。

藤野は沈黙を嫌ったのか別の話に切り替えてきたのである。

 

 

「そういえば聞いてなかったですけど、比企谷さんって、巨乳派ですか?それとも貧乳派ですか?」

 

それも斜め45度の方向に。

 

 

「…え?お前何言ってんの?」

 

 

藤野の突然の質問にうろたえる。

いや、お前切り替え早すぎるだろ。

マイボ、マイボって叫ぶサッカー部かよ。

にしてもなんであいつら素人の俺がミスするとあんなに睨んでくるの、カルシウム足りてないんじゃないの?

 

…ってかそういえばってお前普段からそんなこと聞いてんのかよ。

ほぼ初対面の俺にすら質問するところからみてもかなりの人数にこの話を振ったとみえる。

これは正直童貞には酷な質問だ。例えば大岡とか。だって絶対キョドるし。

挙句に「ははは、そうだよなー。」とか相槌でごまかしちゃうレベル。ソースは中一の時の俺。

ちなみにそのリアクションをしたところ、「え?お前に話しかけてないんだけど」みたいな目を向けられた。

 

 

とにかくその質問は普通ではない上、この部室でそれに答えようものなら雪の女王が拗ねて、城を作り出してしまいかねないので答えられない。

 

 

「…いや、意味わかんねーし。」

 

こういう時はとりあえずごまかすに限る。

そして相手が「…あー、もう大丈夫だよ。ごめんね、急に話しかけちゃって…」と諦めるのを待つのだ。

だが、目の前にいる後輩はそれを許さなかった。

 

「意味わからないわけがないでしょう、この命題は男の人生そのものです!

 

そこに山があるから登るがの如く、そこに胸があるからこそ男は生きているのでしょう、答えられないはずがありません!」

 

 

八幡の逃げる!しかし後ろに回りこまれてしまった!こんな様子が頭に浮かぶ。

見れば、藤野の目はいたって真剣だった。

 

 

ヤバいこれは本格的にやばい。

何がやばいってお前それあれよ、「マジ、っべー」って感じで、「っべー」って感じよ。

つまり戸部になっちゃうくらいやばい。

 

 

どう逃げるか考えるも藤野の待ちのスタイルは変わらない。

どうやら答えないわけにはいかないらしい。

だから俺はそれに応えようと覚悟を決めて、息を吸い込んだ。

 

 

「俺が好きなのは、ーーー」

 

 

「ーーずいぶんと楽しそうね変態ヶ谷くん。」

 

 

まさに言おうとした瞬間、夏を目前に控えた空気が一瞬で凍らされたかの様な気がした。

扉の方を見ると白い目でこちらを見つめる目が四つ。

雪ノ下の後ろに隠れるように由比ヶ浜もいる。

 

 

なんていうかこう。

やはり俺の青春ラブコメは間違っている、そんな感じがした。

 

 

「勝手に締めないでもらえるかしら打ち切りヶ谷くん。」

 

 

終わらせてもらえなかった。

どっちかというと終わらせて欲しかったけど。

 

 

閑話休題。

 

 

あの後雪ノ下の「女性の価値は胸なんかで決まったりしないわ。胸なんてただの脂肪の塊なのだから百害あって一利なしだわ。」という内容の言い訳というか負け惜しみというかそういったものが延々と続いて、今ようやく解放された。

 

 

ちなみに由比ヶ浜は雪ノ下が話している間、エヘヘと照れていた。いや、俺何も言ってないんだけど。

 

 

藤野はそんな由比ヶ浜を見て、分かりやすくキョドっていた。

まあそりゃえっちぃお姉さんが目の前にいたらキョドりもするか。

仕方なかろう、まだ彼も高校生になったばかりなのだ。

ちなみにこれがもう一年もすればクソビッチが…と何をやっていても気にならなくなる。

少年よ強くなれ…。

ちなみに今のは死ぬまでに言ってみたいセリフ第八位だ。

 

 

そうしていつも通りに本を読んだり、携帯を触ったり、何をしていいか分からずそわそわしていて雪ノ下に睨まれたり、各々の思うとおりに過ごしている。

…やっぱこうやって仕事がないのとかマジ理想的。

働いたら負けっていうのがよく分かるわ。

俺は一人その心地よさに浸かる。

 

 

しかし、その静寂を破ったのは「助けてハチえもーん!」という暑苦しい男の声だった。

 

 

「材木座か…。ってかそんな呼び方すんじゃねぇ。知り合いかと思っちゃうだろ。」

 

 

声の主は材木座義輝。六月も半ばを過ぎたというのに相変わらず見るだけで暑い黒いコートに身を包んでいる。

 

 

「ハチえもん、あいつらひどいんだ!」

 

 

俺のセリフにも一切反応せず、材木座は話を続ける。

さすがにイラッとしたので部室から追い出すことにした。

 

 

「悪いな材木座。この部室、四人用なんだ。な、ジャイアン?」

 

 

「なぜ私を見るのかしら。」

 

 

雪ノ下のリアクションをよそに材木座は構わず話を続ける。

 

 

「まて、八幡本当にやばいのだ。

我は先日、ゲーム作りを将来の夢に設定してな、「ほぇ?ラノなんたらじゃなかった?」あるかな勢のみんなにも話をしていたのだが、それにケチをつけるやつがいてな、返り討ちにしてやろうかと思っていたのだが、話が流れに流れて我とそいつとがゲーム勝負で決着をつけることになってしまったのだ。」

 

 

途中の由比ヶ浜のリアクションも意に介さず、材木座は長々と話を続けた。

だが、正直話が見えてこない。

 

 

「まてまて、一度に話すんじゃねぇ。ゆっくり話せよ。つまり今お前が言ったことをまとめると、ケンカして、ゲーセンで対決して決着をつけようということになった。そういうことだな?」

 

 

「違う。あろうことかそいつはこの学校の生徒だったのだ。遊戯部に所属しているらしい。そこで格ゲーで対戦という算段になってしまっている。」

 

 

かぶせ気味に否定されてまたもやイラつく。

こいつ人をイラつかせる天才なんじゃねーの。

だが、ようやく理解が追いついた。

しかし、腑に落ちない点がある。

 

 

「それはあなた自身の問題ではないかしら。喧嘩をしたのはあくまであなたであって私たちではない。それとも何?あなたは自分の失敗も自分で拭えないの?うちの部活は餌の取り方を教えるのであって、餌を取ってあげる訳ではない。よって依頼は受け取れないわ。」

 

 

雪ノ下は俺の感じた疑問点をすぐに指摘した。

非の打ち所がないど正論は材木座の心に深く突き刺さる。

 

 

「ぐおはぁ!」

 

 

うざったらしくリアクションをした後に、地に倒れ伏す材木座。

今日も今日とて氷の姫の前に彼は敗れ、散る。どんまい。

ただいつもと違ったのは今回の彼は、ここで引き下がらなかったということだ。

 

「待ってくれ…今回は、今回だけは本気なのだ。確かに我は今まで中途半端だった。でも、一つのゲームに出会って我の価値観は変わった。楽しかったのだ。あんなに楽しいゲームは人生で初めてだった。

 

…なあ八幡よ、自分が楽しいと思ったことを他人にも伝えたいと思うことはそんなにいけないことか?我の夢のため、力を貸してくれ!」

 

そういって彼は頭を下げる。

確かに言っていることは正論ぽいし、もし本当にそうであるならば味方をしてやるべきだろう。

しかし、材木座は同じようなことをさんざん言った挙句、急に辞めると言い出した前科がある。

しかも、今回の件だってもっともらしく言っているが、喧嘩の仲裁をしてほしいというのが彼の本音であり、それがチラチラと見えている。

なぜ俺らがその尻拭いをせねばならん。俺が尻を拭うのは小町だけだ。

諦めろ。自分でまいた種だろ。

 

 

まあ、どうせまた今回もすぐ辞めるとか言いだすだろう。

悔しいならまず完成品を持ってこい。プロットじゃなくてな。

 

おそらく雪ノ下や由比ヶ浜も同じ考えなのだろう。

頭を下げる彼に対して彼女らがとった行動は無視だった。

…さすがだぜ!☆

 

誰の心にも響くことはなかった材木座の言葉。

しかしそれに反応したのは彼の今までを知らず、ここまで様子を見守っていた藤野だった。

げ…めんどくさいことに。

 

 

「待ってくださいよ。俺とこの人は今日初めて会った。だけどこんなにも自分の夢を熱く語れる人はあまりいません。少なくとも今俺は心を動かされました。俺からもお願いします!材木座さんの夢に手を貸してやってください!」

 

 

つまりだ。

誰もが本気にしていない材木座の戯言に、藤野はあろうことかに胸を打たれ、その夢を手伝いたいと言い出したのである。

俺たちと違って、藤野と材木座は初対面。

材木座の普段のブレブレな言動など彼は知りもしない。

だからこそ材木座の適当な言葉を信じてしまったのだ。

悲しきかな、材木座など信用するに値しない人物だというのに。

それに気づいてないみたいだけど、これ、材木座の夢どうこうじゃなくて喧嘩の仲裁に入れって言われてるだけだからね?

 

 

しかし、そんな藤野の姿に雪ノ下は何を思ったのか、はぁ…とため息をついて、

 

 

「藤野くん。正直突っ込みたいところはたくさんあるのだけれど、あなたがそこまで言うのなら、この依頼引き受けても構わないわ。」

 

 

そう答えた。

マジかよ、今回雪ノ下さん甘すぎじゃね?

 

「…彼には一度明確な力関係を見せつけるためにも頼みを聞いてあげてもいいかもしれないわね。」

 

 

…って一瞬思ったけど優しさと見せかけてまさかの調教計画の一環だった。

さらにはこの依頼を通して藤野には何も得るものがないところがまたエグい。

雪ノ下さん、やっぱまじぱねぇっす。

 

 

「お主…。」

 

 

しかも、疫病神まで取り憑いたと見える。

見ろよ材木座が、なんか藤野を仏を見るのかのような目で見ていやがるぜ。

つまりはこれからあいつは材木座につきまとわれるってことだ。

キングボンビーを誰かに擦りつけた気分になった俺はなんでか高笑いしたい気分になった。まあ、桃鉄一人でしかやったこと無いんだけどな。わはははは。

 

「ヒッキーきもい…。」

 

 

しまった。いつもの変な笑い方をしてしまった。

 

こうして、面倒なことに奉仕部は材木座の依頼を受けることとなってしまったのだ。

 



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3話 思うに材木座義輝はヒーローにはなれない

今回で遊戯部編終了です。

監獄学園は漫画なので、キヨシの一人称というものが定まっていなく、書いていてすごい悩みます。
これから話を進めていく中で見つかればいいんですけどね…。

あと、これ以前の話が改訂により、ボリュームアップしています。
元々自分の文章力の無さが原因なのですが、言葉と言葉の間の描写がとても少なく、違和感を感じたので、その点を修正した次第です。
まあ話は基本変わってませんし、別に読まなくても大丈夫です。
もっと自分の頭の中のイメージを上手く伝えられるよう精進します。



 

 

「こんな部活もあったんだね。」

 

 

由比ヶ浜さんがふんふんと頷く。

確かに遊戯部なんてあまり聞かないし、八光学園にもなかった。

思うにこの学校は部活の創部に寛容なのかもしれない。かくいう奉仕部も世間では珍しい部類だろうし。

 

(…ん?)

 

俺はふと思った、果たしておっぱい部の創設は可能なのだろうかと。

活動内容としては、濡れTコンテストなどを企画したりとか、そんな感じ。

もし実現したならば夢のある活動ができそうだ。

 

 

…やっぱ駄目だな、それ創っても確実に集まるの男だけだし、そいつらと濡れTやっても地獄絵図にしかならないし。

もし実際にやるならば女子達にも参加してもらわないといけない。

というか不可欠だ。

結局のところ、それを実行させる為の強制力はたかが一部活には出せないのである。

まあ生徒会の権限とか使えれば別なのかもしれないけどさ。

 

 

「確かにそうですね。どんな活動してるのかとかちょっと気になりますよね。」

 

 

頭の中は興味1:下心9。ほぼ煩悩で構成されてる俺はそう言ってノックをしてから部室の扉を開ける。

 

 

戸を開くと中には積み上がったゲームや本。

なんか昔のエロ本とかおいてありそうな雰囲気だ。

 

 

「邪魔して悪い。ちょっと話があんだけど。」

 

 

中に進むと男子が二人そこにいた。

比企谷さんが声をかける。

 

 

二人は不審げな顔をしてこちらを向く。

上履きが同じ色なので、俺と同じ一年生みたいだ。

 

 

「…突然押しかけてごめんなさいね。私たちは奉仕部、今回は彼の依頼でここにきているの。」

 

 

雪ノ下さんがおそらく彼らの感じているだろう疑問に答える。

彼らは材木座さんとの約束をしていただけなので、俺たちの参加については何も知らないのだ。

 

 

「「あ、あれって二年生の雪ノ下先輩じゃ…」」

 

 

二人はそういって顔を見合わせる。

このリアクションはごく当然だ。

 

高一男子の中で女子のトークをしたら、間違いなく雪ノ下雪乃さんの名前はあがる。

それはまだこの学校に入って日が浅い俺の耳にも入っていたことからもよくわかる。

総評としては、何でも清楚な感じがそそるらしい。

うん、確かに彼女の外見はそんな感じだ。

会ってみた感じ、中身からはあまりその印象は抱かないけど。

 

 

驚く彼らの様子を見て、材木座さんはムンっと胸をはる。

 

 

「ふはははは!左様、我が依頼したのだよ一年坊主共!先日はよくも大口をたたいてくれたな!謝るなら今のうちだぞ!」

 

 

「…おい、前にお前が話してたのってこの人?高校生にもなってこんな痛い人いんのかよ。」

 

「…だろ?マジでありえないよな」

 

 

秦野と相模と名乗る俺の同級生たちは、材木座さんを見てくすくすと笑う。

…なんかこいつらの笑い方は見てて気分がよくないな。

 

 

「…で、こいつとのゲーム勝負なんだけどさ、悪いが格ゲーじゃなくて別のゲームにしてくんない?君格ゲー得意なんだろ?

 

ほら、見えてる勝負なんておもしろくないしさ、内容は君たちが決めていいから。駄目か?」

 

 

比企谷さんがそう話を進める。

これはあらかじめ部室で考えておいたことだ。

材木座さんの情報によると、向こうは格ゲーがものすごく強くて、このままでは勝負にならないらしい。

なので、前提としてまずは競技内容を変更する必要があるのだ。

 

 

…前に格ゲーはプレイヤーの腕前でかなり差がつくとシンゴがいっていたことを思い出す。

あいつ、中学生の時から格ゲー好きだったからなぁ。

 

他には杏子さんがめちゃくちゃ強いとかも言っていた。

…そういえばあいつ、彼女の乳首を見ちゃったって言っていたっけ。

あの時は許したけど、やっぱもう一発くらい殴っておいたほうがよかった気がしてきた。

よし、今度あったらやっぱもう一回シメるか、そうしよう。

あれからさすがにまだ会えずにいる我が旧友に思い(殺意)を馳せる。

 

 

「別に構わないですけど、ただで変えるのはなんていうか、その…」

 

 

「ま、確かにそうだわな。じゃあこうしよう。もし、俺たちが勝負に負けたら材木座に土下座させて君らに謝らせる。それでどうだ?」

 

 

「…まあ、それなら。」

 

 

「ああ。あと、競技を変えるといっても初見殺しのゲームはやめてほしい。それじゃあ変えた意味が無くなっちまう。」

 

 

「了解です。なるべく平等になるようなゲームにします。」

 

俺がそんなことを考えてる内に、無事に交渉は成功したみたいだ。

 

 

 

「…え、負けたら我土下座?ちょっ、ちょっと、は、ハチえもーん…」

 

 

よし、材木座さんの夢のため頑張るぞ!

 

 

× × ×

 

 

ダブル大富豪。

それは大富豪と呼ばれるゲームを二人用でやるというアレンジを加えたゲームだ。

 

ルールは

1.すべてのカードをプレイヤーに均等に配ること

2.ゲームは親からはじまり、プレイヤーがカードを出し、重ねていくこと

3.カードの強さは2が最強で、エース、キング、と続いていき、3が最弱であり、ジョーカーはワイルドカードであること

4.プレイヤーは場にあるカードよりも強いカードを出さねばならないこと

5.出せるカードがないときにはパスをすること

6.他のプレイヤーもパスをし、一巡まわったら、最後にカードを出したプレイヤーが次の親になること

7.以上を繰り返し、一番はやく手札がなくなったものが大富豪、次いで平民、ビリが大貧民。大貧民は次のゲームのスタート時に最も良いカードを大富豪に二枚渡し、大富豪は好きなカードを大貧民に二枚渡すこと

8.これらは千葉ローカルルールで行われ、革命、8切り、10捨て、スペ3、イレブンバックがありの都落ち、縛り、階段、ジョーカーあがり、5スキ、7渡しがなしであること

 

これをペアで1ターンごとに交代しながら行うのだ。

ペア間での相談は禁止らしい。

 

 

「…んで、まあこんな感じだ。やってくうちに馴れるだろ。」

 

 

今、大富豪未経験らしい雪ノ下さんに比企谷さんが説明をしている。

説明は終わったみたいだ。

 

 

「キヨシ殿、我と組まないか?」

 

 

「もちろんです。やってやりましょう。」

 

 

二人がそうしてる間に俺は材木座さんとガッチリと握手し、ペアが決定する。

雪ノ下さんは由比ヶ浜さんと組むみたいだ。

 

 

 

「…えっ。」

 

 

素っ頓狂な声があがる。

見ると比企谷さんがなんとも言えない表情をしていた。

それを見て嬉しそうに雪ノ下さんが言う。

 

 

「…あら、どうしたの余りヶ谷くん。どうやらこのゲームは偶数人で行うもの。全体で七人だから一人は余ってしまうわね。社会から余ってしまうわね。」

 

 

相変わらず人を罵倒している時の雪ノ下さんはキラキラした目をしている。

 

 

「なんでわざわざ言い直したの?社会からはじく必要なくない?

いや、まあ間違ってないんだけど。

 

…はぁ。ま、いーや…。俺は端っこで見守ってるから。頑張れよ。

 

か、悲しくなんてないんだからね!」

 

 

「ヒッキー…」

 

 

全員が同情の視線を彼にむける。

なんというか、プリズンでハブられていた時の気持ちを思い出して、いたたまれない気持ちになった。

 

 

「えっと…、その…。では、ゲームを始めます。」

 

 

敵である秦野たちもこの気の遣いよう。

こうして微妙な空気の中、ゲームは始まったのであった。

 

 

 

× × ×

 

 

「では、最終確認を。

勝負は5試合。最終戦の順位で勝敗を決します。よろしいですか。」

 

秦野がそう宣言して、それぞれにカードを18枚ずつ等分した。

 

 

「実質二対一なので、こちらが先手をいただきます。」

 

この勝負は俺と材木座さんのチーム、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんのチームのタッグチームであり、どちらかが勝てば材木座さんの勝利となる手はずになっている。なのでつまりは二対一なのだ。

 

 

こうしてゲームは始まり、大きな何かが起こることもなく何巡目かまで進んでいく。

 

スタートしてから、序盤での10捨てや三枚出しのおかげか、俺たちは順調にカードを減らしている。

いいスタートを切れたと思う。

 

そしてそれぞれの残りの枚数は俺たちが残り二枚、雪ノ下さんたちが三枚になるまでの段階にきた。一方、遊戯部はまだ五枚も残している。

 

自分たちで提案したはずの遊戯部からはあまり強さを感じなかった。

 

ターンは回り、由比ヶ浜さんがダイヤの6を出し、俺はクラブの8で切る。

次であがりだ。

そしてラスト一枚を材木座さんに手渡す。

 

 

「材木座さん、お願いします。」

 

 

「うむ。」

 

 

材木座さんはキメ顔で叫ぶ。

 

 

「これで終わりだ!いでよ!黄泉から蘇るがよい!場にデス・キングを召喚ん!…チェックメイトだ。」

 

 

決まった。鮮やかな勝利だ。

場にキングが出て俺たちの一位抜けとなる。

続いて雪ノ下さんたちがあがり、チーム奉仕部は1、2フィニッシュを決めた。

 

 

しかし、

 

(…何かがおかしい。)

 

俺は裏生徒会にハメられた時のような違和感を感じていた。

理由はすぐにわかった。

 

 

「いやー、秦野くん。うっかり負けちゃったねぇ。こりゃまいったなー。」

 

 

「そうだねー、相模くん。油断してしまったよー。」

 

 

突如おどけたような口調になる彼ら。

まるで台本に書かれた演技を読みあげるかのように棒読みのセリフを続ける。

 

 

「困ったね。」

 

「困ったな。」

 

ここでじっくりと溜めをつくり、

 

「「だって、負けたら服を脱がなきゃいけないんだから」」

 

そう言うが早いか彼らは一瞬にしてシュバっと上着を脱ぎ捨てた。

速い、なかなかやるな…。

いや、そうじゃなくって。

 

「なっ!?何よそのルールっ!」

 

由比ヶ浜さんがバンっと机を叩き、抗議する。

 

そう、負けたら脱衣。それは人類の生み出した英知の結晶、エッチの結晶。

しかし残念なことに、偉大な古人たちが残したそのルールはたいていの場合成立することがない。

今回の由比ヶ浜さんのように毎度反対意見が出るのである。

というか当たり前だ。

普通に考えて男はともかく女の人にとって、このルールにメリットはない。

だからルールは提唱した段階で、基本即断られてしまう。

やりたくてもやれないというもどかしさの残るルールなのである。

 

しかし遊戯部の二人は何をバカなことを?といった表情で笑っている。

こいつらはきっと、現実というやつを知らないのだな。チェリー共め。

 

「では、二回戦と参りましょう。」

 

秦野は話は終わったとばかりにシャッフルを始め、配りはじめる。

 

「ゆきのん、もう帰ろうよ、こんなん付き合う必要ないし…」

 

 

やはり。そう、こんなルール、受けてもらえるはずがない。いつか彼女をつくって、二人でキャッキャウフフとやるか、大学でテニスサークルに入らない限り実現はしない。

 

「そう?私は構わないのだけれど。勝てばいいのだし。」

 

 

しかし昨日のバトルロイヤルの話を聞いた時のように、雪ノ下さんは答える。

 

(…え?なんで?)

 

いいの!?もしかして奉仕部ってテニスサークルだったの?(錯乱)

予想外の展開に俺は困惑する。

 

 

「えぇっ!!あ、あたしはやだよ!」

 

「問題ないわ。このゲーム、いろいろとごちゃごちゃしたルールはあるけれど、基本構造は単純よ。場に出たカードを記憶し、予測を立てればそうそう負けたりしないわ。」

 

「そ、そうかもしれないけど…。もおぉ!ゆきのーんっ!」

 

 

なんとなんと雪ノ下さんが押しに押し、由比ヶ浜さんは反論できなくなってきたのだ!

ま…まじか。…ゴクリ。

 

 

「話はもう大丈夫ですか?では、始めましょう。」

 

 

秦野はニヤリと笑い、言質をとったとばかりにさりげなくゲームを再開させる。

 

「…にしても相手にはあのエロキヨシがいるぜ。…噂だとあいつはものすごい変態らしいし、こりゃもらったな。」

 

相模は秦野になにやら耳うちをしている。

 

その時の俺はというと、

いいのか?こんな淫らなゲームをしちゃってもいいのか?

そんないけない妄想が頭いっぱいに、おっぱいに広がっていて、それどころではなかった。

 

 

 

ゲームは再開する。

 

「じゃあ、まずはカードの交換を。」

 

秦野が手札から二枚をとって、材木座さんに渡す。

向こうからおくられてきたのはジョーカーとクラブの2。

それに対して材木座さんが返したの

はハートのキングとスペードのエースだった。

 

 

「はぁ!?お前ら何やってんだよ!なんで弱いの渡さねぇんだ!」

 

今までゲームに静観を決めこんでいた比企谷さんがそれを見て、詰め寄ってくる。

 

 

「…武士の情けだ。」

 

 

「一応止めようとはしたんですが、身体が動かなくて…」

 

実際俺の頭の中には裸の女性たちでいっぱいになっていて他のことを考えている余裕もなかったのだ。

 

カードを受け取った遊戯部は悪どく笑い、雪ノ下さんたちは冷たい視線をこちらに向けていた。

 

 

× × ×

 

 

千葉県一の知将の称号を与えたい革命児こと、遊戯部の二人は二戦目からは目に見えて巧妙なプレーをし始めた。

 

リスクを恐れぬ複数枚出し、特殊効果を使った一手がバシバシ決まる。

その多彩な戦法はそう易々と先を読ませてはくれたりはしなかった。

 

俺たちも雪ノ下さんたちもそれに食い下がったものの、遊戯部が二枚、雪ノ下さんたちも二枚、俺たちは八枚カードを残すという展開になっていた。

あれ?まったく食い下がれてなかった…。

 

 

「むー…」

 

ここで由比ヶ浜さんの手が止まる。

残り枚数も少なくなり、場は勝敗を分ける場面にきているので悩んでいるのだろう。

 

「こ、これで」

 

塾考した末に出されたのはおそらく彼女らの切り札であるハートの2だ。

このターンで勝負を決めにいくことにしたらしい。

幸いジョーカーは二枚とも俺たちが持っているので、これを流せば雪ノ下さんたちが勝てるはずだった。

 

しかし、

 

「おおっと、足が滑ったぁ!」

 

材木座さんが勢いよく俺を押し倒し、一枚のカードを弾き飛ばす。

そのカードは場にはらりと落ちた。ジョーカーだ。

 

「はぁ!?ちょっと何やってんの、中二!あんたサイテー!!」

 

由比ヶ浜さんが勢いよく椅子から立ち上がりこちらを睨むが、材木座さんは口笛を吹いてごまかしていた。

 

…ちなみに材木座さんが今場に飛ばしたジョーカーは、俺が指で強く押さえていれば場に出すことを防げたことは内緒である。

 

親は俺たちに変わり、材木座さんがクラブの6を出すと、秦野が8を出して流し、続けざまに相模がダイヤのキングを出して一抜けた。

 

こうなってしまうと残ったのは俺たちか雪ノ下さん・由比ヶ浜さんペア、つまりはそのどちらかが脱がなければならない。

 

雪ノ下さんたちはキング以上のカードを持っていなかったらしく、無念そうにパスをする。

 

それからその情報を得た俺らは何度も親を繰り返し、ついに俺らのカードは残り二枚。

俺に順番が回ってきた。

 

残るカードはジョーカーとハートのキング。

雪ノ下さんたちはキング以上のカードを持っていないことが現時点で判明している。

つまり、既に勝敗は決していた。

 

「キヨシ殿…。我の、いや我たちの夢、貴様に託したぞ…。」

 

「「頼む…キヨシ…。」」

 

キ・ヨ・シ!キ・ヨ・シ!

 

頭の中にキヨシコールが聞こえた気がした。

期待の眼差しを一身に受ける。

こちらを見る三人の目はまるで生まれたての赤ちゃんのように無垢で、穢れのない目だった。

 

 

「…くっ。あの男たち、比企谷くんよりもドロドロと濁った目をしているわ。」

 

 

雪ノ下さんがなんか言っている。

…何も聞こえなかったことにしよう。

 

 

そうして俺はそんな彼らの期待を胸に、一枚のカードを場にスッと出した。

 

 

 

 

 

ハートのキング。

 

 

 

わっと遊戯部の二人からは歓声が上がる。

彼らも雪ノ下さんたちがキング以上のカードを持っていないことを知っているみたいだ。

 

 

「な、なぜだ…、キヨシ殿…。」

 

 

しかし、そんな彼らとは対照的に横にいる材木座さんはワナワナと震え、青ざめた顔をしてうつむいていた。

 

そして、俺が机に残した最後の一枚のカードを手に取り、仕方なさそうに残ったカード、

 

 

つまりジョーカーを場にだす。

 

 

「ジョーカー上がりは禁止。確かそうだったわよね?」

 

 

「「えっ…?な、なんで…?」」

 

秦野も相模も目を丸くしている。

 

 

どうにも俺は最初から腑に落ちていなかったのだ。

戦いの中で、相手の仕掛けたハニートラップに引っかかり、それによる恩恵を得られること。

男として生まれた以上、それはある意味冥利なのかもしれないだけど…

 

 

 

「見たいよ…確かに女子の裸は見たいよ…乳首が…乳首が見たい!

 

だけど…、男同士で交わした約束以上に勝るものなんてないんだ!

 

 

俺は昨日材木座さんの夢を語る姿に感動した。

そして、この人の夢の為に協力するって決めたんだ。約束したんだ。

だからこそ、俺は、自分の信念を曲げてだって、目の前にエロスがあったって、

材木座さんの夢を応援してやる!!

 

俺はこの人の夢を笑ったりは絶対しない。

どんなに周りから笑われたって、どんなにみじめでカッコ悪い思いをしたって、それでも一つの夢を諦めないで追い続けている。

誰もが簡単にできることじゃないだろう!?

例えどんなに難しいことだって、やってみなきゃ絶対に実現しないんだ。

失敗を怖がってちゃ前には進めないんだ。

だから、自分の夢も胸張って語れないやつに、材木座さんのでかい夢を笑わせたりはしない!!」

 

 

そうだよ、俺は忘れていた。

あいつらと一緒に濡れTコンテストに参加しようって約束していたことを。

だけど、それは俺の一つの選択ミスによって不意にしてしまった。

だからこそ、材木座さんには俺らみたいな思いはして欲しくないんだ。

だからこそ、俺は彼に感謝しているんだ。

あのままくすぶってしまいそうになっていた俺の目を覚まさせてくれたことを…。

材木座さん、あんたの夢、叶うといいな…。

 

 

そう一人うんうんと頷きながら悦に入る。

そんな俺に向かって、みんなはそれぞれ言ったのだ。

 

 

「…まったく、あなたは本当にバカね。言っておくけど彼を甘やかしたって何もいいことは無いのだから。…でも、あなたがそうすると決めたなら、それでいいと思うわ。最後までやりきりなさい。」

 

「…うん、そーだよ。自分自身を出すって、ホント怖いもんね。そうやって見てくれる人がいるって、なんかいいな…。」

 

「ばーか、お前が一番流されそうになってたじゃねぇか。めでたい頭しやがって、なんなの?年中ハロウィンなの?…でも、まあいいんじゃねぇの。材木座は確かにクズだが、そう言ってくれるやつがいると少しは安心するわ。本当に少しだけだけどな。」

 

「「…。」」

 

「うぅっ…。キヨシ殿…。我の夢をそこまで…。」

 

呆れた顔をしながらもどこか微笑んでいる先輩たちと感動に泣く材木座さん。

教室に温かい空気が流れる。

 

 

 

 

「……ん?いや、ちょっと待てキヨシ。

 

すげー感動的な空気になってるとこ悪いが、お前はハニートラップに引っかからなかっただけであって、最終的に勝負には負けてねぇか?」

 

 

しかしそんな空気は一瞬にして引き戻される。

 

え?

 

 

「「「「「…………………………。」」」」」

 

 

 

 

…今の比企谷さんの一言で、なんていうか台無しだった。

やめてくださいよ、雪ノ下さんなんか一転してすごい冷たい目つきでこっち睨んできてるじゃないですか。

初めてキヨシって呼んでもらえたけど、なんかそれどころではなくなってしまった。

せっかく格好よく決めたのに…

 

 

 

× × ×

 

 

まあなんにせよ、ゲームはあれから3回戦、4回戦と続いていった。

そしてかの俺らといえば、

 

「キヨシ殿。」

 

「材木座さん。」

 

 

「負ける気がしないな(しませんね)!!」

 

それはそれはもう息がぴったりとシンクロし、完全に無双していた。

 

そしてラストの5回戦まで、他を寄せ付けず、圧勝したのだった。

 

 

× × ×

 

 

あれから服を脱がされ続け、哀れにもパンツ一枚になってしまった遊戯部の二人。

しかし、彼らの表情はなんとなく晴れやかだった。

 

「あの、材木座先輩。笑ったりしてすいませんでした。」

 

「夢、叶うといいですね。」

 

相模と秦野は申し訳なさそうにそっと頭を下げる。

ちゃんと謝れるやつはいい奴だと思う。

 

「うむ。…ふははは!わかればいいのだ!なぁに後数年後にはこの剣豪将軍が企画した素晴らしいゲームが世に出ているはずだ!」

 

それに対して、材木座さんは豪快に笑う。

 

「はい、剣豪さんのゲーム、楽しみにしてます。」

 

「まあ、権利は会社のものなので、正確には剣豪さんだけのゲームではないけどね。」

 

「え?」

 

しかしそこで材木座さんの笑いは止まった。

 

「む、む?どういう意味だ。」

 

「いや、会社で作るものは基本会社の著作物になるんですよ。」

 

「あれ?もしかして知りませんでした?」

 

「い、いや、えっと…その…。」

 

「契約にもよりますが、最近はライターだと買い切りが普通みたいです。」

 

「買い切りだと売り上げとは関係なく最初の買い取り分しかもらえませんねぇ。」

 

「ま、マジでぇ!?」

 

それを聞いて材木座さんは床に崩れ落ちた。

 

「じゃ、じゃあ、やめようかな…。うん、やめるわ。」

 

「え?」

 

突然の材木座さんの夢を諦める宣言に俺は呆然とした。

いや、嘘だろ?だとしたらさっきまでのは本当になんだったんだ?

乳首を諦めてまでの俺の決断は一体なんだったんだ?

 

「…だから、いっただろうが。こいつを信用する意味がないって。」

 

「えぇ、そうね。キヨシくん。これで少しは現実の厳しさを知れたでしょう。…言っておくけれど、この件を手伝ったのは借りだから覚えておいて頂戴。」

 

「あはは…キヨキヨ、どんまい。」

 

比企谷さんが俺の肩にポンと手を置く。

俺は深い絶望の中に叩き落とされた気分だった。

さっきまであった高揚感は消え、残ったのは材木座義輝に対する怒りだけだった。

あの野郎。ガクトとどことなく似ていたから、気にしてやっていたのに。

 

一つ良かった点をあげるなら、かわいい女子の先輩に下の名前で呼んでもらえたところだろうか。

 

 

なんにせよ、人が信じられなくなりそうなこの一幕であった。くそう、あとちょっとで乳首が見れたのに俺は…!

 

 

「…だからいつも言ってるじゃん、世の中、嘘と欺瞞ばかりだってな。

やっぱボッチサイコーだわ。」

 

…この学校に入って、ろくなことが学べていない気がする。

どうしてこうなった。

 



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千葉村編
4話 ようやく藤野清志は奉仕部の活動内容を知る


文章力を上げる為、書き方を模索しています。
なので、最初の方の話と最新話で書き方がズレている可能性があります。
その度に前の文章を書き換えていこうとは思っているのですが、なにぶん時間のかかる作業になるのでご了承ください。

今回の話は自己紹介なども入ったつなぎの話なので、いまいち盛り上がりに欠けてるかもしれません。
こういう話の中でも見所をつくれるようになりたいものです。




 

 

「ドラゴンボール」を読んで

一年C組 藤野 清志

 

かの武天老師は言った。

 

「ギャルのパンティーおくれー!」

と。

 

つまりパンティーとはある道を極めた者にとっても手に入れたいものであり、七つの玉を集めてでも叶えたい願いなのだ。

だからこそ俺は言いたい。

パンツを見られたっていいじゃないかと。

女子は男子にパンツを見られると白い目を向けてくる。

集団で排斥を試みてくる。

確かにその気持ちはわからなくはないけれど、しかし所詮は布であり、水着などとそう変わらないものなのがパンツだ。

だからそもそもそこまで恥ずかしがる必要はない。

しかし、男子にとってはそれは見るだけで和やかな気分になれるものだ。ラッキーアイテムだ。

もし見れなければどうだということはないが、見れたとして困るものではないのは疑いようもない。むしろ手放しで喜べる。

ならば、女子は水着を見せるかのようにパンツを見せ、男子はそれに感謝し、女子に優しく接する。そう考えてみればどうだろう。

まさしくwin-winの関係じゃないかと俺は思うのだ。

女子がパンツをなかなか見せてくれないと、男子はもんもんとしてしまう。

しかし、たまに見れれば幸せな気持ちで満たされ、優しくなれる。

いつの時代も争いを起こすのは男である以上、その男たちが幸せに満ちている世界ではそんな争いは起きないのではないか。

つまり究極的には女子がパンツを見せ、それを解消することで世界平和までつながるのではないかとすら俺は思う。

だからあえて言いたい。

もっとしっかりとパンツを見せて欲しいと。

そしてさらに俺ははいつだってこうも願っている…

 

 

 

あわよくば、パンティーの中身も見たい!!

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

俺はたった今書いた夏休みの読書感想文に不備はないかと今一度じっくりと読み返してみる。

こうして見るとあまり文章力がないなぁと思う。

別に昔から国語は嫌いではなかったものの、好きでもなかった。

読書はしなくはないけれど、小説や評論よりは漫画派だった。

それもあくまでも勉強の教材として読むことが多く、自ら進んで読んだ経験はもしかすると片手で数えられるほどかもしれない。

 

 

最近俺が入った奉仕部というよくわからない部活では、先輩たちはよく読書をしている。

過ごし方に特に制限はないはずなのだが、彼らは会話をするよりも一人読書をする時間の方が長いのだ。

まあ、携帯をいじってる場合もあるか。

何にせよそんな空間の中で俺はいつも時間を持て余している。

単にどう過ごしていいかまだ分かっていないということもあるけど、元来俺は読書よりも会話の方が好きなんだ。

だからなんとなく話をしちゃいけない雰囲気の部室は少し気まずい。

ましてや、同じ空間に美少女が二人いるんだ。

むしろほとんど会話をしない現状がおかしいとさえ思うんだけど…。

そう思って前に一度だけ「俺…行くよ、女子とおしゃべりしてくる…」と謎のテンションのまま、雪ノ下さんに話しかけてみたらひたすらに罵られて終わったんだけど、あれは俺が悪かったのか…?

正直かなり疑問だ。

 

 

こういった風に遊戯部の一件から特に大きな何かもなく八月、つまり夏休みに入り、奉仕部という部活の在り方についての俺の疑問は増えてばかりいる。

 

「そもそも活動内容は何なんだろう?」とか、「由比ヶ浜さんチラチラ比企谷さんのこと見てるけど何でだろう?」とか、「比企谷さんが時々本を読んでニヤニヤしてるけど何読んでるんだろう?」とか、「雪ノ下さんはBカップは絶対ないだろうな」、とか。

 

我ながらどうでも良さそうなことばかり考えている気もしてるけど、要はあの部活、本当に何もしていないのだ。

思えば、入部二日目の遊戯部との一件以来、たまに材木座さんが原稿片手に部室に来るだけで、読書を抜けば基本は何もしていない。

いくらなんでも自由すぎるだろ…。

 

 

正直、自分をこんなよくわからない部活に入れた平塚先生の意図がわからない。

確かに俺は入学以降学校中の女子たちから嫌われてはいるけれど、孤立してしまってるわけじゃない。

「今の奉仕部は不安定だ」とかなんとかぶつぶつ言っていた事が関係あるのか?

 

 

…まあ、既に夏休みに入ってしまっている訳だし、その事は二学期に入ってから考えればいいか。

 

にしても、本当に女子っ気のない夏休みになったな…

 

 

× × ×

 

 

 

翌日の昼過ぎ、ふと携帯を見ると平塚先生からメールが届いていた。

 

なんで先生が俺のアドレスを知っているかといえば、先日強引にアドレス交換させられたからである。

あの時先生の目がなんだか必死だった気がしたのだけれどあれは一体なんだったのだろうか?

 

 

メールを開いて見ると、

 

 

From:平塚静

To:藤野清志

 

本文

 

お久しぶりです。

夏休みだからって夜更かしをして、昼までごろごろと寝ていたりしませんか?

身体のリズムを整えるためにもきちんとした生活を送ることも大切ですよ(笑)

夏休み中の奉仕部の活動についての連絡です。

この長期休暇を利用して泊まりがけのキャンプがてら、ボランティア活動の手伝いをしに行こうと思っています。

二泊三日の予定で千葉の高原に行く予定です。

言い方を変えると、合宿みたいなものですね(笑)

 

集合場所などの詳細はこの下にまとめてあるので目を通しておいてくださいね↓

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

というメールが届いていた。

てか、先生メールだと敬語なんだ。

(笑)とか含めてなんとなく怖いな。…なんでだろ?

 

これ以上深く考えるのは良くない気がしたのでやめておいた。

 

 

まあともあれ、女子っ気がない夏休みだと思っていたところでの合宿のお誘いである。

ボランティアという名目もあるけれど案外に嫌ではない。

奉仕部の活動ということは雪ノ下さんや由比ヶ浜さんも来るだろうし、ちょっとは胸が踊る。それに合宿ってことは…

 

…いや、それは後で色々考えよう。

とりあえず日が近いので準備をしておかなくちゃな…

 

 

× × ×

 

 

夏休み中の奉仕部の合宿初日の朝が訪れる。

起きた時、まず思いの外ワクワクしている自分に驚いた。

というか色々あって、超楽しみだったりする。

それはなぜか。

 

 

ここで少し話が逸れるが、今現在俺は東京から千葉に転校してきたので一人暮らしをしている。

男子にとっては女子を連れこむとか、一人行為にふけるとかそういった夢の膨らむ一人暮らしだ。

家に一人しかいないので、誰にはばかられることなく自由な生活。

自分の時間を作り放題だ。

 

ただ、そこまで遠くはないものの俺の住んでいる場所は東京から距離が離れている。

 

ので、定期的に連絡こそ取っているものの東京にいるガクトらの友人にもなかなか会い辛い環境にいる。

 

つまり、つまりだ。

言ってしまうと…

 

 

 

『この夏休み中、そこそこに暇だった。』

 

 

…まあ、だから内容が労働ぽくてもテンションが上がってるのだ。

 

忘れ物がないか念入りに確認し、俺は玄関を開け、集合場所に向かった。

 

 

× × ×

 

 

海浜幕張駅のバスロータリー。

そこに一台の目立つワンボックスカーが停まっていた。

 

「やあ、藤野。元気にしていたか?」

 

かけている黒いグラサンが妙に似合っている平塚先生が俺に声をかけてくる。

服装としては運動着のような格好をしているので、特別おしゃれどうこうという訳ではないのだが、普段ずっと白衣を着ているからか、新鮮な印象を感じる。

まあ、色気は皆無だけど。

 

「あーっ!キヨキヨこっちー!やっはろー!」

 

「おはようございます」

 

後ろから、元気な声が聞こえてくる。

振り返ると俺を呼んだ由比ヶ浜さんがいた。

ピンクのかわいらしいサンバイザーに裾の短いTシャツ。

なんというかその、胸が強調されてすごいことになっていた。

さらに特筆すべきは彼女が下にはいていたホットパンツである。

ホットパンツとは俺の脳内で毎年行われている「俺の選ぶ!最強にエロいアイテム選手権」で三年連続優勝を飾り、殿堂入りを果たしているアイテムであり、特に上にそれを覆い隠すぐらいのパーカーを着るとその戦闘力は計測不能になってしまうレベルだ。

 

じーーーっ

 

ホットパンツ教の盲目的信者である俺は多分ものすごい目付きで彼女を見ていたのだろう。

由比ヶ浜さんはちょっと嫌そうに視線から外れた。

申し訳ないとは思うけれど、男の性だから仕方がない。

 

 

冗談はさておき、

 

「キヨシくん、女性をいきなり凝視するのはやめなさい。外に出ている以上あなたの恥は奉仕部の恥なのよ。もっと自覚を持ちなさい。

旅の恥はかき捨てだなんて言わせないわ。」

 

それを横で見ていた雪ノ下さんにすっごい怒られてしまった。

なんていうか冗談で許してもらえなかった。

そして彼女の後ろには由比ヶ浜さんがこそっと隠れている。

いや…ほんとにすいませんでした色々と…。

 

なんとなくヤバい気がしたので、雪ノ下さんのファッションチェックはひとまず取りやめることにした。

 

 

× × ×

 

 

しばらくすると「…小町にだまされた」とぶつぶつと何かを言っている比企谷さんと背の低い女の子がやってきた。

 

「比企谷さんおはようございます。」

 

俺が比企谷さんに挨拶をする。

 

「…うぅん?え、えっーと、その、ど、どちらさまでしょうか?」

 

女の子が困った様子で聞いてくる。

それを見た比企谷さんが、

 

「…よう。

 

…あー、小町。こいつは藤野キヨシ、後輩だ。一応奉仕部なんだよ。」

 

ぶっきらぼうに挨拶を返したのちに彼女にこそこそと話す。

 

 

「はじめまして、藤野キヨシです。よろしく。」

 

「…あぁっ!これはこれは小町失敗☆ここにいる愚兄がいつもお世話になっています妹の小町です。」

 

「比企谷さんの妹…全然似てないですね。」

 

「ふっふー!よく言われます!」

 

「うるせぇよ…てかキヨシてめぇ小町に手ぇだしたらぶっ殺すかんな」

 

なんか物騒な話になった。

 

「…うわぁ、さすがにそこまでのシスコンはひくよお兄ちゃん。」

 

「いや、そいつは実際マジでやばい。下手に近づくんじゃないぞ。」

 

「さすがにそれは酷くないですか。」

 

「こいつはなぁ、前に…「はいはいわかったよお兄ちゃん!と・り・あ・え・ず あっちの方いっててねー、ほーらはいはい」…ちょっ、おまっ。」

 

小町ちゃんが比企谷さんをぐいぐいと押してひき離す。そして、

 

「…ええっとですね、その、兄はちょっと捻くれた人なんですけど、良いところも少しはあるので、仲良くしてあげてほしいです。」

 

そう言った。

 

「結構無視されることも多いけど、悪い人じゃないってのはわかってるよ。だから大丈夫、心配しないで。」

 

「ありがとうございます!ていうかキヨシさんお兄ちゃんの後輩ってことは小町の一個上ですね!もし来年小町が総武高に入れたらよろしくお願いしますね!」

 

「別にそうじゃなくったってよろしくだよ。」

 

「ははっ、確かにそうですねー」

 

 

そうして、妹さんとのあいさつを比企谷さんに睨まれながら終えると、もう一人見知らぬ女子がこちらに走りながらやってきた。

 

 

(か、かわいい…。)

 

なんだろう、格好はボーイッシュなんだけどそれを女子力が上回ってるみたいな。

そんな感じの美少女だった。

 

 

「わぁ、すごい大きい荷物だね。何が入ってるの?」

 

そしてその美少女は俺に話かけてきた。

 

 

「最初から、決めていました」

 

そういって俺は腰を90度におり、頭を下げ、彼女に右手を差し出す。

 

「えぇっ!えっと…その…ボク…」

 

突然の俺の行動に彼女は動揺した様子を見せる。

 

「いや、キヨシお前ねるとんかよ…

 

ちなみに戸塚は男だぞ。気持ちは分かるけど。」

 

比企谷さんが呆れた様子で突っ込んでくる。

 

にしても、え、男?

 

「あの…ボク…おとこのこです…。」

 

ハニカミながら戸塚さんと名乗る人はそう答えた。

 

「え?嘘ですよね。」

 

「本当よ。」

「本当だね。」

「本当ですね。」

「本当だな。」

 

全員にそう言われてしまった。

こんなの…ありかよ…

 

これが俺と戸塚彩加さんとの最初の出会いだった。

にしても衝撃の出会いだったな。

 

…まあ、なんにせよこうして一行は車に乗り込み、千葉村に向けて出発するのであった。

 

ちなみに今回は材木座さんは来ないらしい。




冒頭の作文。パンティーって簡単には見せてもらえないからこそいいものな気もします。知的好奇心を揺さぶる感じですね。
だって普通に考えて毎日「はぁーい。ボク、私のパンティー見たいんでしょ。かわいい子ねぇ、いいわよ。見・せ・て・あ・げ・る」とか言われても興奮しないですもんね。
…すいません全然しました。
というか土下座してでも見せてもらいたいかもです。

何にせよある意味キヨシらしくない作文かもしれませんが、今回の千葉村編のテーマにあたるものなのでお見逃しいただけるとありがたいです。

それから、女性の皆様には深くお詫び申し上げておきます。

(後になって気づきましたが、ギャルのパンティーを頼んだのはウーロンでしたね。ただ、変えるのが面倒なのでこのままでいきます。ご了承を)


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5話 ただひとり雪ノ下雪乃は不穏な空気を察知する


一週間ぶりの投稿になりました。
これからしばらくこのぐらいのペースでの投稿になると思います。

今回から新しい書き方を取り入れてみました。
今はまだ少し読みづらいかもしれませんが、またちょこちょこ書きつつ直しつつでいきたいと思いますのでよろしくお願いします。


 

 

車から降りるとあたりは山々に囲まれ見渡す限りに緑が広がる、気持ちのいい空気が澄み渡っていた。

 

「んーっ!きっもちいいーっ!」

 

由比ヶ浜さんが車から降りると大きく伸びをする。

 

「…人の肩を枕にしてあれだけ寝ていればそれは気持ちいいでしょうね。」

 

「…あっ!ごめんゆきのん!」

 

しかし雪ノ下さんにチクリと言われ、とっさに謝った。

 

「でも本当に空気がおいしいし気持ちいいよね。」

 

「まあ、小町は去年もきたんですけどねー」

 

戸塚さんと小町ちゃんもそれに続く。

二人とは車内で並んで座っていたためずいぶんと仲良くなった。

 

「俺もここまで山に囲まれてるところに来たのは初めてだよ。」

 

「あぁっ!そういえばキヨシさん東京でしたっけ!」

 

「まあ東京にも似たような施設はあるんだけど、一応都内だから周りにこんなに山があるわけじゃなかったからね。」

 

東京にも周りを木に囲まれた宿泊施設はあるものの、人工物なのでこういった空気や開放感は感じられない。まあ、つくってしまえてるだけで既に十分にすごいことなんだけど。

 

「へー!そうなんだ!」

 

「くぅー!やっぱ都民は違いますねー!」

 

二人は目を輝かせる。

別に東京だからどうとか思ったことはないけれどなんか自分が褒められてるみたいで嫌な気はしない。

そう考えると案外俺は単純なのかもしれない。

 

「…はっ、小町お前分かってないな。千葉県民として全然なっちゃいない。千葉愛が足りなすぎだ。

 

いいか…千葉はな、言うなれば自然のある東京なんだ。自然の良いところと都会の良いところをミックスしたニューカマー、それが千葉。それに名前こそ東京だがあのディスティニーランドも千葉県だ。よって千葉は東京より偉い。分かったか。」

 

「…話飛びすぎだよ、三段論法だよ、お兄ちゃん。」

 

しかしそんな東京の扱いを許さない者が一人。

というか比企谷さん無茶苦茶すぎじゃないか。

 

「でもその話でいくと千葉村も群馬県だよねー」

 

しかし持論を一蹴されてしまった比企谷さん。

親の仇を見るかのように恨みごもった視線を小町ちゃんに向ける。

だが、こういったことには慣れているのか小町ちゃんはどこ吹く風だ。

ちなみに三段論法の使い方間違ってるんだけどなぁ…。

というか戸塚さんはスルーなのか。

 

到着したテンションも相まってか、各々やいのやいのと話に花が咲く。

 

 

「おい君たち。はしゃぐのもいいがそろそろ時間だ。車から荷物を出してくれ、ここからは歩いて移動するぞ。」

 

先ほどまでタバコを吸いながら俺たちを見守っていた平塚先生が指示を出す。

 

指示通りに荷物を降ろしていると、もう一台ワンボックスカーが現れた。

中から出てきたのは若い男女四人。

この時期は結構人がいるんだな。

…別にうらやましいとか男死ねばいいのにとか思ったりはしていない。

 

「よ、ヒキタニくん」

 

「…ん?って葉山か」

 

 

と、邪念を彼らに送っていたらその集団の一人が比企谷さんに声をかけていた。話し方からみるにどうやら知り合いみたいだ。

 

「あれー?優美子たちも来てたんだ!」

 

「ああ由衣。あーしらはここでキャンプできるって聞いたから来たんだけど。」

 

こちらはこちらで知り合いらしい。

キャピキャピと楽しそうにおしゃべりをしている。

あれ?あの縦ロールの人、どっかで見たことがあるようなないような…

まあ、気のせいか。

 

整理してみるとこの集団は比企谷さんたちの知り合いであるらしい。

というかクラスメイトなのだと。

比企谷さんとさっきまで話をしていたいけ好かないイケメン野郎があの女子に人気の高い二年の葉山隼人。

男など興味はないけれど一応校内の有名人なので知っている。

女子にがっついてなくて余裕のあるところが勘にさわる男だ。

 

「さて、全員揃ったみたいだな。」

 

ここで平塚先生が改めて口を開く。

…あれ?今全員って言った?

 

「…全員ってどういう意味ですか。」

 

同じことを思ったのだろう比企谷さんが代表して質問する。

 

「言ってなかったか?葉山たちもこのボランティア活動に参加するんだよ。」

 

特に悪びれることもなく平塚先生はしれっと言う。

ようやく合点がいった。別にそうならそうと先に言ってくれていれば構わなかったのに。

一瞬そう思ったけれど今はそれよりも、

 

「…あれ?小町合宿だって聞いてたんですけど…。」

 

「俺らはバーベキューって聞いてたぜー」

 

この合宿の趣旨すらまともに伝わっていなかったことの方が問題だった。

小町ちゃんと、先ほどいた四人組の中で一番チャラそうな人が驚いた声を上げる。

というかどう伝えたら皆聞いてた情報がこんなにも違くなるんだよ。

平塚先生は彼らに一体どんな風に伝えたのだろうか?

 

「俺はボランティアだって最初から聞いてたけど。というか翔にもそうメールしなかったか?」

 

しかし、いけ好かないイケメン野郎がそう言った。

 

「あーれそうだったっけー?」

 

ああ、なるほど。

 

つまりだ、これは多分平塚先生が皆を騙したとか説明不足とかそういうのではなくて、連絡が伝言ゲーム方式で伝わっていく中でみんながそれぞれ勝手に解釈をし、色々と情報が入り混じってしまったため元々の趣旨が伝わりきらなかった。そういうことだった。アホすぎる…

 

「む…。一応全員にしっかりと連絡はしたはずなのだがな。まあいい、今日から三日間の間、君たちには小学生の林間学校のサポートをしてもらう。意外と大変な作業になるかもしれないが作業態度いかんによっては内申点の向上も検討しよう。自由時間は好きにしてもらって結構だ。」

 

話がある程度まとまったのを見て平塚先生が説明を進める。

それを聞いていて俺はふと思った。

 

「いや、それって結構な重労働ですよね。」

 

そもそも奉仕活動と聞いていたからそれなりに大変だろうとは予想していたが、それでもゴミ拾いとかそういうことだと俺は思っていた。

だけど、これが小学生の宿泊学習の手伝いなどとなるとかなりの作業量になってしまうだろう。

自由時間といいつつも日中はあまりとれなそうだ。

 

…この様子だと、俺の計画も一度見直さなくてはいけないかもしれないな。

一人頭の中で考える。

 

「何にせよ時間は迫ってきている。一度本館の部屋に荷物を置いてからもう一度集合だ。では行くぞ諸君。」

 

そう言った平塚先生の言葉を皮切りに俺らはぶつぶつあれこれ言いながらもひとまず彼女に着いて行くにした。

駐車場から市民ロッジまでつながる道を二列になって歩いていく。

 

「にしても、手伝いって俺たちだけじゃなかったんですね。皆さんは知ってたんですか?」

 

「いやー初めて聞いたからびっくりしちゃったよー」

 

「…というか俺の場合泊まりだったことさえ初めて聞いたんだが」

 

知らなかったのはどうやら俺だけじゃなかったみたいだ。

 

「でも、こういうのって結構楽しそうだよね。」

 

「ああ、そうだな戸塚。二人の思い出たくさんつくろうな。」

 

「ヒッキーさいちゃん好きすぎでしょ!!」

 

まあでもなんだかんだでみんな楽しそうだ。

集合の先頭では雪ノ下さんが平塚先生に抗議をしているのが見えた。

 

「…なぜ葉山くんたちがここにいるんですか。」

 

「そもそもこれは奉仕部の活動ではなく、総武高校そのものにされた依頼だ。よって君たちだけを連れていくと周りから君たちだけを贔屓しているとも見られかねない。そうすると非常に面倒なことになるのだよ。

最近は保護者の目なども厳しいしな。

 

それに元々ある程度の人数も必要だった。だからあらかじめ学校の掲示板の方で募集をかけたんだよ。それで来たのが葉山たちだったわけだ。不服かね?」

 

そう言われれば雪ノ下さんに返す言葉はない。

うつむく雪ノ下さんに対し後ろからぬっと顔を出し、フォローしたのは意外にも比企谷さんだった。

 

「不服ですね。そもそも俺や雪ノ下があの辺の連中と仲良くやれるわけがないでしょう。」

 

「…勝手に私まであなたと同じにしないでもらえるかしら。」

 

雪ノ下さんはそう言いながらもどこか嬉しそうに見える。

 

「…はぁ、全く君たちときたら相変わらずだな。

 

いいか、私は仲良くしろとは言っていない。仕事をする上で彼らとも適当に折り合いをつけ、ビジネスライクに接しろと言っているのだ。

言っている意味のわからな君らではないな。」

 

そんな二人をあきれたように見ながら平塚先生はそう言った。

 

「…なるほど。わかりました。善処します。」

 

「…はぁ、まあそういうことなら。」

 

あくまでしぶしぶといった様子で二人は納得する。

 

「まあいい、話は終わりだ。本館に着いた。荷物を置いてきたまえ。」

 

少し微笑みながら平塚先生はそう言った。

 

 

× × ×

 

 

「おお…結構広いですね。」

 

本館についた一行は女子と男子に分かれそれぞれの部屋に通される。

俺たちが通された部屋は10畳ほどの部屋だった。

 

「…まあ男が全員泊まるわけだしな。にしてもキヨシ、お前荷物大きすぎだろ。なんなの、女子なの?」

 

「いやぁ、必要なものとか結構あったんで。」

 

何に必要かは今はまだ言えないけど、今回の合宿に俺は結構な量の荷物を持ってきている。

 

「…にしてもそれだけ大荷物だとかなり重かったんじゃないか?軽々と持っていた様にも見えたけど。」

 

「確かに言えてる!ふつうに考えてそうだべー!?」

 

「ちょっとは鍛えてるんでこのぐらいならなんとか大丈夫なんですよ。」

 

プリズンにいた時の影響か、俺は退学してから毎日筋トレを欠かしていない。

その為、当時の筋肉をまだ保っているのだ。

 

「…まあいいや、あんましゆっくりしてると平塚先生のボディブロー食らうぞ。早くいこーぜ。」

 

「そうですね。じゃあ行きましょうか。」

 

俺も正直平塚先生の拳をもらうのは控えたいので、素直に従う。

そういって各々準備を終え、部屋を出て入り口の方へみんなで歩いていく。

 

「…あ、ちょっと先行っててください、忘れ物してしまったので。すぐに戻りますから。」

 

その途中、あることを思い出した俺は周りに先に行っててもらうことにした。

そうして俺は一人部屋に戻るのだった。

 

 

× × ×

 

 

「…おい、遅ぇよキヨシ。何やってたんだよ…。」

 

「…すみません。ちょっとお腹を壊していたのでトイレに寄ってたんです。」

 

俺が広場へ到着すると既に小学生の生徒達の前で教師がオリエンテーリングの説明をしているところだった。

どうやら遅刻してしまったみたいだ。

 

「…まあいいや、なんにせよオリエンテーリングの説明はもう終わる。これからそれぞれ小学生のサポートに回れだとさ。」

 

「…結構ハードなスケジュールですね。」

 

「まったくだ…。せっかく貴重な夏休みだってのに。早く家帰って部屋でごろごろしてぇ。」

 

「夏休みの過ごし方としてそれはどうなんですか…。」

 

だが冷静に考えると俺もクラスの男子と何度か遊んだくらいで、夏休みの過ごし方を人に言えた状態ではなかった。

 

俺がふと説明している教師の方を見るとちょうど説明も終わったみたいだ。

そしてその後拳を高くあげ、教師はこう叫んでいた。

 

「では!オリエンテーリングスタート!」

 

かけ声と同時に小学生たちは地図を片手に四方八方に散らばっていく。

それを見て俺たちもそれについていくような形で動き出す。

こうして俺達のボランティア活動は始まった。

 

 

× × ×

 

 

オリエンテーリング 森の中

 

教師達のかけ声で小学生たちが五、六のグループに分かれ、行動を始める。

おそらく事前に決めてあった班分けだろう。

森の中にあるチェックポイントを探し、皆ワイワイと楽しんでいた。

 

ボランティアの一行は先にゴール地点に行き、夕食の飯ごう炊飯の準備をすることを平塚先生に指示されていた。

もちろんそんなに早く着く必要もないので手分けして道中で出会った小学生たちの手伝いなどをする。小学生たちよりも少しだけ早くゴール地点に着き、準備をしさえすればよい。

効率をよくするため葉山、三浦、由比ヶ浜、雪ノ下、比企谷のグループ、そして戸部、海老名、小町、戸塚、キヨシの二つグループに別れて行動することにした。

 

しばらくして、葉山グループはある女子小学生の五人グループに出会っていた。

彼女らは他の小学生たちのグループの中でもとりわけ元気のよい、活発な子たちだった。

高校生たちを見つけると珍しいからか積極的に話しかけてくる。

 

「ねぇ!ここのチェックポイントがわからないんだけど、お兄さんたち手伝ってよ!」

 

それに葉山が対応する。

 

「じゃあここの班だけ手伝うけど、ちょっとズルいから他の班には内緒な。」

 

「「「うん!」」」

 

爽やかに微笑む葉山に小学生たちは元気よく返事をする。

共通の秘密を作るという子供の喜ぶ方法をおさえたうまいやり方だ。

 

しかし、そんな小学生グループの中で首からカメラを下げた一人の女子が少し離れて歩いていた。

綺麗な黒髪に大人びた雰囲気がある、一般的にかわいいと言われる目立つ容姿の子だ。

そんな彼女を他の四人は時折チラチラと見てクスクスと笑う。

嫌な笑みである。

 

「…はぁ」

 

雪ノ下がそれを見てため息をついた。

 

「チェックポイント、見つかった?」

 

優しく葉山は話しかける。

 

「…いいえ」

 

対して、大人びた少女はそう短く答えた。

 

「そっか、じゃあみんなで探そうか。俺は葉山隼人。君の名前は?」

 

「鶴見留美」

 

ぶっきらぼうに少女は答える。

俯いた顔にはどことなく嫌そうな表情が浮かんでいた。

それを見て雪ノ下は顔をしかめる。

 

「あまりいいやり方ではないわね。」

 

その小学生を見て雪ノ下が思い出したのはかつての自分に起こったあることだった。

『ハブり』。それは小・中学生あたりの年代で起きうる一種のイジメ行為。

何度も自分もさいなまされたその行為を目の当たりにして雪ノ下は嫌悪感を抱いた。

 

「だな、ああいうのは誰も見てないところで話しかけなきゃだめだ。」

 

同じくボッチ歴の長い比企谷も言う。

 

事実葉山が留美をグループのところに連れて行くと場に緊張感が走り、他の四人は露骨に態度に出したりはしないものの、異物感がでてしまっていた。

その空気に留美は怯えるようにビクンと小さくはねた。

 

(…あれ、どこでもあるんだよな。)

比企谷は思った。

 

一瞬微妙な空気になってしまったが、葉山は取り繕うようにその班に話しかけ、小学生たちもそれに愛想よく笑い、返事をする。

しばらく一緒に歩いていたらチェックポイントの場所についた。

 

「着いたみたいだね。」

 

葉山がそう言うと

 

「ありがとう!」

 

と小学生たちはお礼を言い、そこで彼女らとはお別れとなった。

一行はそのまま森の中を進み、ゴール地点へ到着する。

時間的にはちょうどくらいであった。

 

× × ×

 

一方の戸部たちは子供たちと積極的に絡む。

お調子者の戸部に、優しい海老名。

親しみやすい小町と戸塚はすぐに小学生たちに馴染み、それぞれ別々のグループに付き合ってやる。

微笑ましい光景だ。

彼らは更に効率を良くするため、五人をバラけさせて、一人一人が小学生たちの手伝いをする方法をとった。

しかし、夢中になりすぎてしまったため、彼らは集合時間に少し遅れそうになり、急いでゴールへと向かう。

少し遅れてしまったもののなんとか小学生たちの到着前にはたどり着いた。

 

 

× × ×

 

 

「おお、遅かったな。早速だが蒔の移動と飯ごう炊飯のデモンストレーション用の準備を頼めるか。」

 

広場にはワンボックスカーを運転し、先に来ていた平塚先生がいた。

 

その作業は皆で手分けして行われる。

男子は蒔、女子はデモンストレーションの準備といった風に再び班分けをする。

 

 

こうして自分の作業をしながらふと、雪ノ下は違和感を感じとった。

 

 

先ほどから何かが足りていない気がしているのだ。

少し考えた後、雪ノ下は一つの結論に達した。

 

 

(…そういえばキヨシくんの姿がさっきから見えないわね)

 

 

そう、藤野キヨシがどこにも見当たらない。

最初に小町の班が戻ってきた時に雪ノ下はキヨシがいないことには気づいていた。

しかし、おそらくトイレか何かだろうと思ったため特に指摘はしなかった。

最悪サボっていたからという可能性はあるが、だとしても後で痛い目にあわせればいいくらいに雪ノ下は思っていたのだ。

 

結果的に言えば、その違和感は所詮違和感でしかなかった。

蒔をとって戻ってきた男たちの中にキヨシは既にいたからである。

 

(…と、思ったけどやはり大したことじゃなかったみたいね)

 

なので、彼女は深く追求しない。

気を取り直して彼女はデモンストレーションの準備にとりかかったのだった。





新しい書き方、三人称です。
監獄学園に寄せていくとどうしても一人称に限界があるのでこんな感じになりました。
とりあえずキヨシ、比企谷が一人称、他が三人称でいこうと思っていますが、読みづらそうならまた色々と考えますが当分はこのかたちで進みます。


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6話 思惑は動き出し炎と氷はカーニばる


毎話投稿期間が少しずつ長くなってきていますね。
その代わりといっては何ですが、今回は二話分を一つにまとめたので今までで一番長くなってます。
それにしても年末年始は本当に忙しいです。
次回は正月くらいにまた更新したいとは思っていますが…どうなるんでしょうかね。

やっぱりガクトや花がいないと監獄側の疾走感やエロさがなかなか出ませんね。はやく出したいです!

では最後に、メリークリスマス!


 

 

男子 薪調達班

 

 

「…あれ?そういえばキヨシは?」

 

 

俺は頭の中で思ったことをぼそっと口にだす。

薪が中に高く積み上げられている小屋からせっせと薪を運び出す単純な作業をしつつ、一人色々と考え事をしていたらふとあいつがいなくなっていたことに気がついたのだ。

てかなんで夏休みなのにこんなに働いているんですかね。

俺ったらいつから社畜になったのかしらん。

今すぐにメーデーを起こすまである。

と思ったけど俺集団行動とかできないから無理だった。

お一人様メーデーとか何それ罰ゲーム?

それに時はすでに八月だ。

つまり次回のメーデーはあと丸々一年近くも先なわけで…

というわけで何もかもが手遅れなのである。

 

 

「え、キヨシくん?あれ、そういえばいないね。」

 

俺としては誰に語りかけたわけでも無いのだが、すぐ近くにいたため聞こえたのか、マイエンジェルこと戸塚がそう返事をする。

その瞬間、ふわーっとした清涼感が俺を駆けめぐった気がした。

まるで風鈴がなったかのようなこの清涼感、さすがの戸塚ボイスである。

戸塚風鈴、アリだと思います。

 

 

「あれーキヨシどーこいっちゃったんー?」

 

おい戸部、てめぇはしゃべるんじゃねぇ。

せっかく戸塚が俺を涼ませてくれたのにまた暑苦しくなったじゃねぇか。

多少当たりは強い気もするが相手は戸部なのでしょうがない。

 

 

「というか翔たちが戻ってきた時にはすでに藤野くんはいなかったと思うけど。」

 

葉山も続けてそう言う。

だーもう鬱陶しい…なんなの?お前らワザとなの?それとも戸塚に魅せられて嫉妬しちゃってるの?戸塚はかわいいから仮にそうなっても仕方ない。いや、やっぱ俺のものだから誰にも渡さん。…って俺のものでもなかったな。

 

「あれ?そうだったっけ?」

 

「あーれそういやキヨシいつからいなかったんだっけー?」

 

頭にクエスチョンマークをつけ、考えこむ戸塚と戸部。

まるで考える像、別名考えてるフリをして働かない像のようにうーんと一同は考える。

ああ…俺も何もせずただじっとしているだけでいいあの像になりたい…

 

 

「…とりあえず、キヨシを探さねーとな」

 

俺はそう結論づけ、周りも頷く。

全員の意見が一致したため、手分けして探すことになった。

そしていざ、探しに行こうとなった時、

 

「すいません遅くなっちゃって…」

 

キヨシはやってきた。

遅れてやってくるとかお前なんなの、ヒーローなの?

 

「あーキヨシくん!どこいってたの?」

 

爽やかな風を纏いながら戸塚が聞く。

何それ、なんか中二っぽくてかっこいい。

 

「え?いや、俺腹痛いんでトイレに行くってさっき言いましたけど…」

 

キヨシはしれっと言う。

でもお腹が痛くなって遅れるヒーローとかないな。

うん、キヨシは所詮キヨシ。問題ない。

 

「あれ、そうだったっけ?最後の方走ってたからよく聞こえなかったや。」

 

戸塚は首をかしげながらそう言った。そんな仕草もかわいらしい。

 

「んだべー。危うく集合時間に遅れかけたしなー。」

 

戸部もまたそう言う。

おい、お前はちゃんと把握しておけよ。何やってんだ、人の話くらいちゃんと聞いておけよ。

そしてキヨシは一瞬考えたような様子を見せた後、

 

「…そうっ!多分そういうことですよ皆走ってたから聞こえてなかったんですね」

 

小さく笑いながらそう答えた。

 

 

× × ×

 

 

(ふぅ…なんとかごまかせたか)

 

俺はひとまず安心をし、ほっと胸を撫で下ろす。

正直今まで薪を集める作業をしていた男班には自分がいなかった本当の理由を説明しても良い気もするけど、信頼関係がまだ出来上がっていない今、彼らには言えない。

これを言ったら下手すると比企谷さんとかは敵にまわるかもしれないし。

…というか戸塚さんと戸部さんが抜けてる人たちで本当に良かった。

この様子だとおそらく小町ちゃんと海老名さんも気づいていないだろう。

小町ちゃんもまた結構抜けてるところがあるし、海老名さんはほんわかとしていて、あまり深く考えそうなタイプじゃないし。

多分大丈夫なはずだ。

 

俺はオリエンテーリングの班を二つに分ける際に少し工作をした。

雪ノ下さんや比企谷さんなど頭の回転が回りそうな人たちと、そうでない人たちとにこっそりと分けたのだ。

理由としては全体が十人なので五対五に分けるべきだというもっともらしいことを挙げた。

ただ、そうすると戸部さんたちは元々四人グループで来ているので一人奉仕部側から人員を送らねばならなくなってしまう。

普通に考えて向こうにおくられた人は急に知り合いの人以外と組まされる訳であって嫌だろう。

それを察した由比ヶ浜さんが向こうに行こうする前に、俺がそれを制止し、せっかくだからそれぞれ半分にしてグループを組まないかと提案したのだ。

親睦を深めるとかまたも適当なことを言って。

 

雪ノ下さんや比企谷さんはもしかしたら渋るかもしれないと思っていたけれど、葉山さんの同調もあったからか意外にもすんなりと決定した。

あとは俺が適当を装って、自分に有利なようにライン引きをした次第だ。

俗にいうここから半分があっち側のチームで、ここから半分がこっち側チームね!ってやつ。

 

勿論班を分けた先でも、念のため五人をバラけさせるような小学生たちの手伝い方をとった。

より簡単に一人抜け出す時間を作るためである。

正直先ほど言った親睦を深めるということとは矛盾した発言だったけれど、狙い通りこちらの班ではそれについて誰も疑いもしなかった。

ふっ…ここまでくると我ながらあっぱれな作戦だ。

むしろちょっと上手く行きすぎてる気もするけどまあ心配ないだろう。

俺もいよいよ知将の称号を名乗ってもいい頃かもしれない。

 

ここまでである程度本来の作戦の目処はたった。

決行は今日か明日。

もしかすると実りのある結果が生まれるかもしれない。

 

 

 

× × ×

 

 

 

「あー!おかえりー!」

 

由比ヶ浜さんがぶんぶんと手を振る。

どうやら向こうは食材の準備をしているらしい。

男たちとの会話の中で、俺が離脱していた時の流れはなんとなく把握できている。ボロは出さずに済みそうだ。

 

しばらくすると小学生グループがぽつぽつと戻ってくる。

小学生たちが全員戻るまでの間、男子は平塚先生のレクチャーを受けた後、火起こしの作業に移る。女子は依然として食材の準備をしているみたいだ。

 

パタパタパタパタ

 

うちわを振って火がよく燃えるように酸素をおくる。

暑さはあるけれど、近い内に夢が叶うかもしれない俺のモチベーションは高い。

今ならなんでもやれる!

 

 

× × ×

 

 

カレー。それは野外で作るものとしては鉄板といっていい料理だ。

誰が作っても一定以上の味になるし、失敗する確率も限りなく低い。さらに作ったのが同じ班の女子というだけで男子にとってはもう一種のスパイスが追加されたとも言えるだろう。

ましてやこの炎天下の中でのカレー作りだ。汗の一滴や二滴混じっていてもおかしくない。

女子の汗入りカレー。どんな香辛料よりも食欲と性欲をかきたてる隠し味だ。

 

 

「暇なら見回って手伝いでもするかね?」

 

そんなことを考えていたら大きな乳を揺らしながら平塚先生がそう聞いてきた。

正直、全然行きたくない。

俺は今、キャピキャピしながら料理をする女子の胸を見るので忙しいのだ。

トントンと小気味よく野菜を刻む包丁に呼応して、胸が揺れるのである。ほら、由比ヶ浜さんとか見てみろよ、バインバインだぜ。

リズムはなんかめちゃくちゃな感じがするけど。

その点雪ノ下さんの刻むリズムは一定で、聞いてる分には楽しい。あくまで聞いてる分には。

 

「いえ、俺はしっかりと(おっぱいを)見ていたいので大丈夫です。」

 

「気にするな藤野。私が(火を)見ていてやろう」

 

「え?先生が見るんですか?」

 

一体どういうことなんだ?

女が女の乳を見る。なんて官能的な言葉の響きだろう。

先生ってもしや、そっちの趣味なんじゃ…

 

「ふん!!」

 

「ごほぁ!」

 

「すまんな、何やら不穏な気配を感じたんだ。許せ。」

 

なんで…俺の思考が読まれたんだ…

前から思っていたけど平塚先生はちょこちょこ人の心の中を読む。

邪なことを考えたりした時なんかは一発だ。

…ってことはやはり俺の計画の実行に脅威になるのはこの人かもしれない。一応最大限に警戒しておかないといけないな…。

 

「ほら、つべこべ言わずに行け、あの比企谷ですらもう行っている。それに小学生と話す機会なんてそうそうないぞ?合法的に女子小学生と話ができるんだぞ?」

 

まぁ、確かに普段の生活の中で小学生に話しかけたらロリコン扱いされるけど。

だが、俺はあくまでも育ちきったおっぱいが好きなのであって、小学生の小さいおっぱいなどに興味などないのだ。

「ほらほら、行った行った」と平塚先生に背を押され、仕方なく小学生たちのところへ歩いていく。

その後辺りのいくつかの班の小学生たちの手伝いに回り、その胸を舐めるように眺めまわしていると気づいたことが一つ。

 

(あれ…この子たち雪ノ下さんとカップ数変わらないんじゃないのか…?)

 

そう考えた瞬間、背後から凍えるような視線を感じ背筋がゾクっとする。

おそるおそる振り返ると食材の準備は終わったのか、今の今まで考えていた雪ノ下雪乃さん本人がそこにいた。

 

「あら、ずいぶんと暇そうね、キヨシくん。」

 

…これ、ヤバいんじゃないのか?

特に何も声にして発していないし、雪ノ下さんも何も言っていないけれど、すでに詰んでしまっている気がする。

 

「…ホント、ばかばっか」

 

しかしちょうどいいタイミングで横から声が聞こえ、危なげな雰囲気の会話が止まる。…あっぶなかったぁ

見ると比企谷さんの隣でボソッと呟く少女が一人。

その声はとても冷たく寂しげに響いていた。

 

「世の中は大概そうだ。早めに気付けて良かったな」

 

「……」

 

「あなたもその大概でしょう?」

 

少女が値踏みするような視線を俺たちに向けていると雪ノ下さんの氷点下の毒が飛んで来た。

 

「あまり俺を舐めて貰っては困るな。大概とかその他大勢でも1人になれる自信がある」

 

「それを誇らしげに言えるのはあなたくらいでしょうね……。呆れるのを通り越して軽蔑するわ」

 

てか、そこは普通尊敬じゃないんですか…。

 

「名前」

 

比企谷さんたちの会話を聞いていた少女が不意に言った。

というかやべぇ、俺うっかり会話に入るタイミング逃した…。

 

「そういう言い方じゃ駄目だよ。名前を聞く時は自分から言わないと。」

 

出遅れを取り戻すべく俺は彼女に注意をする。最初のセリフがこれとか俺、大丈夫か?

ちょっと説教くさいことを言ってしまったかもしれないけど、今このタイミングで俺がこれを言わないと彼女が雪ノ下さんに泣かされてしまう。

こんな小さい少女にそれはさすがにかわいそうだ。

急に注意をした俺を見てびっくりしたのか、少女は少し気まずげに視線を逸らす。

 

「鶴見留美」

 

少し間をあけた後、自分が悪いと理解したのか留美ちゃんは素直に小さい声で自分の名前を言った。

言われたことを素直に直せるなんて、こんな小さいのに偉いと思う。

 

「まあ心配するな。ここはぼっちしかいないから。」

 

「いや、俺ぼっちじゃないんですけど。」

 

「大丈夫だキヨシ。学校中の女子に嫌われている時点でお前にもその素質はある。」

 

「そうね、第一年上しかいない部活の活動に後輩として一人だけ参加しているのだから、その点は問題ないと思うわ。」

 

それってむしろコミュ力高いんじゃないのか…?

確かに俺も「人間はそもそも一人なんだ…」とか思ってた時もあったからあながち間違ってるとは言えないんだけど。

もう少しオブラートに言ってほしかった。

 

「……なんかそっちの2人はあのへんの人たちと違うような気がする」

 

唐突に留美ちゃんが比企谷さんたち(俺以外)を見ながら言う。あれ、俺今ナチュラルにはぶかれた?やっぱり俺もぼっちなのか…?

 

「私も違うのあのへんと。周りはみんなガキばっか。その中で上手く立ち回ってたけどなんかそういうのくだらないから止めた。1人でもいいかなって。別に中学に入れば余所から来た人と仲良くすればいいし」

 

留美ちゃんはそんなことを言う。まあ人数が増えれば確かにそれはあるかもしれない。

 

「残念だけどそうならないわ」

 

と、俺は思っていたのだけれど、ぼっち代表として雪ノ下さんが留美ちゃんの言葉をぶった切った。

………えぇ。まじですか。

やっぱり俺は流石にこの人たちよりはマシなんじゃないだろうかと思う。

 

「あなたの通っている小学校からも同じ中学に進学する人もいるのでしょう? なら、同じことが起きるだけよ。今度は余所の人も一緒になって」

 

「……やっぱり、そうなんだ」

 

それを聞いた留美ちゃんは諦めたような声で小さく呟く。

いや、それこの人たちが特殊なだけだと思うけど…。

 

それから彼女は教えてくれた。誰かがハブられることは何度かあり、しばらくしたらそれは止むと。そして誰かが言いだすと他の子もそういう雰囲気になり、また別の誰かを孤立させる。そして、それが今回は留美ちゃんの番になっただけ。

そこで彼女は放っておけばいいと思い何もしないでいたのだと。

 

「中学校でも……こんな風になっちゃうのかな」

 

嗚咽が入り混じった震える声音。瞳には悲しみの色が写っている。それがとても印象的だった。

 

 

× × ×

 

 

カレーも完成して後は食べるだけとなった。

全員で1対のベンチに座って食べる。細かい部分を言うのは面倒なので省略するが、左半分が奉仕部で右半分が葉山さんグループ。

両グループの間に俺と由比ヶ浜さんがクッション的に入るというフォーメーション。つまり正面は由比ヶ浜さん。視界は良好である。

 

「なんだか給食みたいだね」

 

戸塚さんがそう言う。

 

「まあメニューもカレーだしな」

 

「男子ってカレー好きだよね。献立見ただけで超騒いでるし。」

 

また、そう言う比企谷さんと由比ヶ浜さん。

 

「そうそう。で、給食当番がカレーの鍋ごとひっくり返して、すっげぇ非難浴びたりするんだよな」

 

「あったわー、それマジあったわー」

 

なんだかんだでカレーあるあるで盛り上がる。せっかくなので、俺も乗ってみることにした。

 

「そういう時ってなんとかごまかさなきゃって、代わりに水足してカサ増しさせたりしますよね。」

 

「いや、キヨシそれはさすがにねーわ」

 

「うん、それはやり過ぎかな…」

 

「普通に皆、気づいてると思うよ…」

 

しかし、なぜか皆から凄いものを見る目で見られてしまった。いや、なんで俺だけ…

 

 

 

それから時は過ぎ、孤立していた留美ちゃんの話になった。

まず、助けるか助けないかの話になり、結局助けようということになった。

三浦さんの『他の子に話しかければオールオッケー作戦』、海老名さんの『趣味に生きよう! 出来れば、腐腐腐作戦』などの案がでるがイマイチパッとしない。

ちなみに俺から言わせてもらうと海老名さんのそれは本当にやめてほしい。

俺からすれば、ガクトと互いのケツを掘りあっているという嫌な疑惑をかけられたこともあったので、BLという言葉を聞いただけで悪寒が走るのだ。

まあだけどまともな意見が出てこないのも当然である、これはあくまでも本人たちの問題であって、部外者でしかない俺たちにはどうすることもできないから。

俺たちは同情することはできても、共に戦ったり、支えてあげたりなどできやしない。

酷ではあるが、これはあくまでも彼女が自分で乗り越えなければならないことなのだ。

 

「やっぱり、皆で仲良くできる方法を考えないと根本的に解決できないか」

 

不意に葉山さんがそう呟く。それを聞いた比企谷さんが、乾いた笑いを漏らす。

 

「そんなことは不可能よ。ひとかけらの可能性もありはしないわ。」

 

そして雪ノ下さんもまた凛とした口調で、冷徹に葉山さんの意見を突っぱねた。

 

「ちょっと雪ノ下さん?あんた何様?」

 

しかし、それに納得がいかなかったのか、三浦さんが噛みつく。

 

「何が?」

 

「その態度こと。せっかくみんなで仲良くやろうってのに、なんでそんな態度なわけ?別にあーし、あんたのこと全然好きじゃないけど、楽しい旅行だからって我慢してんじゃん」

 

「まあまあ優美子」

 

「あら、意外に好印象だったのね。私はあなたのこと嫌いだけれど」

 

「ゆ、ゆきのんも抑えて抑えて」

 

「ちょっとユイー?」

 

「…あなたは、どちらの味方なのかしらね?」

 

両者の間に挟まれて、フォローにまわったはずの由比ヶ浜さんが小さく縮こまってしまった。南無。

 

「…材木座のやつ元気にしてるかなぁ」

 

「…きっと今頃新しく買った抱き枕と会話してるんじゃないですかね」

 

「…現実見ようよ、八幡、キヨシくん」

 

 

その後火花を散らす両名がその場を立ち去り、静まり返ったベンチで残された者たちは話し合いなんかできるわけもなくすぐに解散となった。

 

 

 

× × ×

 

 

 

あれから部屋に戻った俺たちは風呂に入ることになった。

最初は今日計画を実行しようか、なんて思っていたけど、女子側のギスギスしたあの状態を見るに決行は明日にしておいた。

それにもう少し準備することもあるし。

 

「……」

 

カポーン

内風呂を使わせてもらえることになった男子が一人ずつ入る。

ちなみに女子は大浴場。時間によって男女の入れ替えがあってこの時間は女子の時間なのである。

今日のように夜も遅い時間であれば、向こうは貸し切り状態になっていることだろう。

俺は一番年下だから、順番的には一番最後に風呂に入る。そこに不満は特にない。

ただ今日はなんだかんだ疲れたし、明日もやることは山積みだ。

しっかりとリフレッシュしておかないと。

 

 

風呂から出た俺は平塚先生の部屋を訪れる。

いや、決して夜這いなどではない。

ホントだぞ。さすがにまだ死にたくない。

コンコンと部屋をノックする。

 

「なんだー?」

 

ドタドタと足音が聞こえ、ガチャリと扉が開き、先生がでてきた。

 

「ん?藤野じゃないか、どうした。」

 

先生は一応部屋着に着替えていた。やっぱ部屋着ってちょっとエロいと思う。

 

「先生、明日の予定を今日の内に聞いておきたいのですが。」

 

「おぉ…どうした、いつになくやる気じゃないか。」

 

「はい。明日は頑張ろうと思っているので。」

 

俺がここに来た理由。

それは、明日の予定を聞くためだった。

俺の計画を実行する上でスケジュールの把握は絶対に必須である。

少なくとも今日の内に絶対に聞いておかなければならない情報なのである。

 

「ーーーだ。こんなもんでいいか?」

 

「はい、ありがとうございました。」

 

情報を無事に得た俺は部屋へと戻る。

 

 

× × ×

 

 

部屋に残されたのは俺と戸部と葉山。

キヨシと戸塚を除いた三人だ。

二人は今、バルコニーに出ている。

戸部は暇を持て余しているようで携帯をいじっていて、葉山はタブレットを操作してPDFを見て勉強していた。

てか、イケメンがあれやると様になっていると思う。結局世の中顔なのだ。それでいくと俺も結構イケメンの部類なのになぜ俺があれをやるとあんな風になりそうにないのか。原因は目ですか。そうですか。

仕方のないことだが小町の持ってきた荷物には何も暇つぶしになるようなものは入っていなく、俺はやることがないので携帯をポチポチといじるに落ち着いていた。

しばらくすると風呂から上がった戸塚が帰ってくる。

 

「なぁー、キヨシのこのデカいカバン。隼人くん何が入ってると思う?」

 

「いや、さすがに俺も分からないな。」

 

バルコニーから部屋の中に入ってきた戸部の第一声がそれだった。

不意に誰もが思っていただろうキヨシのデカいカバンにふれる。

…というかあいつらいつの間にキヨシと仲良くなってたんだよ。男子限定でキヨシコミュ力高すぎない?

 

「てか、女子でもないのにこんなデカいカバンやっぱ変じゃね?

 

ちょこっとだけ見てみない?ちょこっとだけ。」

 

「やめとけよ。人のカバンを勝手にあさるなんてよくないぞ。」

 

葉山の言っていることは確かに正論なのだが、正直俺もカバンの中は気になっていたので、戸部を応援する。いいぞ、戸部もっとやれ。

 

「まあまあ、大丈夫だって。キヨシのやつのことだから、どうせ入っててもせいぜいエロ本くらいだってー」

 

「でも…ボクもちょっとだけ、気になるかも。」

 

戸塚も気になっているのか戸部の援護にまわる。

なら俺も乗るか、このビッグウェーブに!

 

「…戸塚が見たいって言ってるんだ。開けちまおうぜ。」

 

「お前ら…俺はパスするからな」

 

葉山…場を乱さないように振る舞っているみたいだが、俺はさっきからあいつの視線がキヨシのカバンに移っているのを知っている。

やはりあいつも気にはなっているのだろう。

 

「ちょっと隼人くーん!ノリ悪くない?ヤバそうだったらすぐやめるってことで。ここにいる皆が内緒にしてれば問題ないって。な?」

 

「はぁ…わかったよ。でも絶対に内緒だからな。」

 

こうして最後の砦である葉山も折れたのであった。

なんというかずいぶんと脆い砦だったな…

 

それにしてもたいていの場合こうした内緒話はどこからか漏れてしまう。

あれってなんでなんだろうね?あんなに話すなっていってるのにね。なんなの?ダチョウ倶楽部なの?

まあ、何にせよ満場一致で、キヨシのカバンの中身を見ることに決まったのだった。

 

「じゃあ、いくぞ」

 

戸部がそう言い、カバンのチャックを開ける。戸部はまず開けてとりあえず一番上に置かれたものから、思いっきり引っ張りだした。

一品目。

 

 

「…黒の全身タイツ」

 

 

「「「黒タイツ!?」」」

 

いや、何でだよ、何に使うんだよ。

そう思ったのは他も同様だったようでその場にいた全員が絶叫する。

つい俺も気持ち悪い声だしちまった…

 

「あ、待って。なんかタイツの下に紙が…」

 

戸部がカバンの中にあったそれを取り出し、そして、そこにそこに書かれていた文字を読み上げる。

 

「ドンキホーテ…3,480円+税」

 

「わざわざ買ったのか!?」

 

葉山がすかさずつっこむ。

というかレシートごと持ってきてるのかよ。

葉山だけでなく、男子四人とも既に『キヨシのカバン』の異常さに冷や汗を垂らしていた。…てかキヨシ…お前マジでなんなんだよ…

 

「…なあ、やっぱもうやめとかないか?」

 

不穏な空気を察知した葉山がすぐに撤退を提案する。だけど、

 

「…いや、最初にこれきちゃうとこの次何くるか気になっちゃわね?」

 

そう言う戸部の言葉に、反論するものは誰もおらず、全員が無言で頷き次に進むのだった。

 

二品目。

 

「…セ、セルフィースティックっ!」

 

「「「いや、だから何のために!?」」」

 

本当に訳が分からない。…ていうかこれが必要になる合宿ってねぇよな?俺がボッチだから知らないとかじゃないよね?

というかそんな世界を見なければならないのなら俺は一生ボッチでいい。

空気は大分あれになってしまったが、戸部はさっさと次の品を取り出す。

三品目。

 

「…ウィッグ」

 

「「「セルフィースティックと繋がった!!」」」

 

まさかのリンクに一同は驚愕する。

というかキヨシてめぇ一体どうなっちまってるんだよ。女装して自撮りしちまうのか?そんでもって「わたしたちズッ友だよ」とか言って、Twitterにあげちまうのか?

 

「…しかも、ツインテールバージョン」

 

「きっと強いこだわりがあるんだね…」

 

戸塚が神妙な面持ちでつぶやく。

というか女装趣味に強いこだわりとかマジでなんなの。

 

「…やっぱ、もうやめといた方がいいかもな。」

 

俺はすかさずそう言ってしまう。

だってこれ以上見てしまったらこの後あいつと顔合わせたとき気まずくなるじゃん。

…今でも二人だったら気まずいけどさ。

 

「いーや、こうなったらやけっしょ!」

 

しかし、戸部は止まりはしなかった。

 

四品目。

 

「…セロハンテープ」

 

「「「ここにきて普通!」」」

 

普通すぎて逆に怖かった。

 

「…いや、普通セロハンテープとか持ち運んだりしないと思うけど。しかもこれ、土台付きのやつじゃないか。」

 

一人葉山が冷静に分析する。

確かにこれまでに比べると普通すぎるのだが、冷静に考えてみると今ここにあるような代物ではなかった。

 

「…次いくべ」

 

五品目。

 

「…エロ本」

 

 

「「「………」」」

 

 

………………。

 

それを見た俺らは真顔、そして無言のままそっとカバンのチャックを閉じたのだった。

 

 

 

「あれ…皆さん何してるんですか?」

 

「…!!」

 

突如として後ろから声がかかり、振り返ると後ろには風呂から帰ってきたキヨシがいた。

やっべぇ、カバンに集中し過ぎて戻ってきているのに気がつかなかった。

しかし、ちょうどカバンを閉めたのがラッキーだったのか、キヨシがカバンを開けられたことに気づいた様子はなかった。危なかった…。

 

「…やあ、キヨシ。風呂、長かったな。」

 

「はい、つい長風呂しちゃって…」

 

ごまかすためか葉山がキヨシに話しかける。というか逆にここですっと話しかけられるリア充すげぇ。俺には絶対にできない。

ただ、こんな時に限ってキヨシは妙に鋭かった。

 

「…あれ?皆さんなんか雰囲気ぎこちなくないですか?」

 

「そんなことないよ、ちょっと留美ちゃんのことを話していたから気持ちが盛り上がらないだけだ。」

 

むしろさっきまでは異様に盛り上がっていたけどな。

 

「そうだべー!いーや、やっぱ難しい問題っしょー!」

 

おい戸部、お前はやめておけ。ボロが出そうだ。

 

「そうですか…まあ、ならいいんですけど」

 

なんとかキヨシが引き下がり、俺たちはひとまずホッとする。

こうして、キヨシのカバン捜索は終わりを告げたのである。

 

 

× × ×

 

 

このまま横になっていても寝れる気がしない。

手元にある携帯電話を見るとまだ二十三時を少しまわったくらいだった。

仕方なく、少しだけ夜風に当たろうと思い、俺は四人を起こさないようにこっそりと部屋を抜け出す。

ここは千葉村という都市部から離れた土地。そのため、街灯もなく真っ暗だ。

だけどこの静かな夜は俺は嫌いではなかった。

高原の夜というものはひんやりと涼しくて気持ちがいい。

部活の合宿としてよく選ばれる理由がわかる気がした。

そんなことを考えながら歩いていると暗闇のなかで綺麗な歌声を聴いた。目を凝らすと雪ノ下が独りで歌っているところに出くしたみたいだ。邪魔しては悪い、と引き返そうとしたのだが小枝を踏んでしまう。パキッ

 

「…誰?」

 

簡単に見つかってしまった。俺ってばずいぶんとうっかりさんね。…我ながら気持ち悪い。

 

「…俺だよ」

 

「…誰?」

 

なんでさっきと同じ問いなんだよ。一応顔見知りだろうが。

キョトンと首を傾げた雪ノ下は顔がかわいい分余計に腹がたつ。

 

「…で、なんでこんなところに?」

 

「ちょっと三浦さんと揉めてしまってね。…三十分ほどかけて徹底的に論破して泣かせてしまったわ。」

 

何故こんなところにいるのか聞いたらどうやら、氷(雪ノ下)vs.炎(三浦)の戦いは氷の完全勝利に終わったらしい。氷の女王強すぎだろ。

サイヤ人化したベジータかよ。

いや、キャラ的にどっちかっつーと人造人間18号の方か。

 

「そんなことより……キヨシくんの行動が少々引っかかってね」

 

「……何かあったのか?」

 

深刻そうな顔で俺を見る雪ノ下。

キヨシ?あのキヨシがなんかしたのか?いや、俺にはあいつが何かをしているとは思えない。だって現に今日もいつも通り変だったし。

 

「…まず、オリエンテーリング集会での遅刻ね。いくらなんでも来るのが遅すぎるわ。」

 

「ああ、あれはトイレに行ってたんだとよ。お腹壊してるんだとさ」

 

「それに……班行動での手伝いね。あの子、戻って来たときは居なかったわ」

 

「それも、同じ理由だ。お腹壊してる時はどうしてもトイレが近くなるしな。小町たちに一応行くことは伝えたらしいけど、あいつら聞いてなかったみたいだ。」

 

「でも、ちょっと理由として完璧すぎやしないかしら。違和感の割に理由がきちんとしすぎてるというか。」

 

「…それはあいつが最初から意図的に抜けだしていて理由まであらかじめ用意していたということか?考え過ぎじゃないか、第一そんなことをしたってあいつにメリットはない。

……いや、仕事をサボれるか。よし、じゃあ俺も明日やろうかな」

 

「…もしあなたがあした腹痛になっても引きずってでも働かせるわ。あなたそんなことばかり言っていて恥ずかしくならないの?」

 

「ならないね。むしろこれが俺のアイデンティティーだ」

 

「まさか無い方がましに思えるアイデンティティーがあっただなんて」

 

雪ノ下はこめかみに指を押しあて、溜め息をこぼした。

 

「何にせよなんとなく嫌な予感がするのよね。あくまでも予感なのだけれど」

 

しかし雪ノ下が明確な理由もなしにこうやって相手を疑うことは珍しい。

いつだって雪ノ下雪乃は何かに基づいて行動をしているのだから。

そんな雪ノ下のなんとなく違和感を感じるという発言は俺にとっても衝撃であった。

とっさに言葉が出てこない。

 

「……それじゃ、私はそろそろ戻るわ」

 

「……ああ」

 

普段とは少し違うように感じた雪ノ下。その意外さに俺は彼女が去った後もその場に立ち尽くすのであった。

 



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7話 対して由比ヶ浜結衣は何にも気づいていない


千葉村の本館の中の設備ですが、自分は行ったことがないので、作者が勝手に考えたオリジナルになってます。
ご都合主義っぽいのはご愛嬌ということで。

ここからキヨシが大きく動きだします。
こうやって自分で書いてみて、本家監獄学園の作者の発想力に驚かされる次第です。恐ろしい。


 

 

 

海老名姫菜は一人考えていた。

昨日のオリエンテーリングの手伝いの際に一人の少年がさりげなく消えていたことを。

その時はサボってたのかななどと思っていたのだが、今になって大きな違和感が頭をよぎっていたのだ。

なぜなら彼は仕事をサボるような男にはどうしても見えなかったから。

普段周りの空気を良く読んでいる姫菜だからこそ感じているのかもしれない違和感。

その後の活動では彼はむしろ積極的に働いていた。

力仕事はもちろん、子供たちと談笑している姿さえ見えた。

別に悪ぶったキャラクターをつくっている訳でもない。

だからこそわからない。これが正直なところ、彼女の今の感想だった。

 

「…藤野キヨシくん、なんか気になるなー」

 

これは別に恋だの愛だのそんなものではない。

ただただ不思議な行動をする少年への純粋な興味。

それぞれの色々な思いが錯綜する。

 

 

× × ×

 

 

「…暑い」

 

時刻はお昼前、俺たち男子は今夜のキャンプファイヤーの準備をしていた。

俺と戸部さんと戸塚さんが薪割りと運搬、葉山さんが薪の積み上げ、比企谷さんが井の字型への組み立ての役割を担っている。

大変な作業ではあるけど、これが終われば夜まで自由時間とのことで結構ウキウキしていたりする。

そして夜の肝試しとキャンプファイヤー本番が終わったら…

(…ごくり)

おっと危ない危ない。つい涎が出てしまった。

まあ、楽しみは多いに越したことはない。せっかくの夏休みだしこれくらいはいいだろう。

 

 

「ご苦労だったな」

 

少ししてから作業の進捗を見に来た平塚先生が缶ジュースを三本差し出してくる。

それをありがたくいただいていると、先生はこうも言った。

 

「お前たちの作業はこれでもう終わりみたいだな、先にあがってしまって構わないよ。あとは夕方の肝試しまで自由にしてていい。」

 

「あれ?まだ八幡たちはやってるみたいだけど先に帰っちゃっていいのかな?」

 

「だべー。なーんかちょっと悪い気するっしょー」

 

「そうですか?多分向こうもすぐに終わると思うので大丈夫だと思いますけど。むしろ残った方が邪魔になっちゃいそうじゃないですか?」

 

他の二人は少し渋った様子を見せたが、俺にとっちゃ男が残って作業していようが知ったこっちゃない。

わざわざ手伝いに行く必要を感じなかった。

 

「…まあ別に手伝いたいというならそれでも構わんが、多分心配ないだろう。私もこのままあいつらのところに“コイツ”を渡しにいくしな。」

 

缶ジュースを二本見せつけながら平塚先生が微笑む。

その姿はとても様になっていてなんというか格好よかった。

そんな平塚先生を見ていると、ふと胸に目がいってしまう。相変わらずでかいな…じゃなくて。

少し冷静に考えてみるとここ最近の俺の行動がおかしいことに気づく。

 

(…あれ?そういえば、俺最近おっぱいばかり見過ぎじゃないか?

あまりよくないな…

適度にお尻も見てバランスをとらないと…)

 

 

「…じゃあ、先に戻ってよっか。」

 

そんなことを考えていた俺は戸塚さんの一言で我に帰り、一つ頷いて俺たちは一足先に部屋に戻ることに決めたのだった。

 

 

× × ×

 

 

しばらくして葉山が部屋に戻ってくる。

 

「あ、隼人くーん。おつかれー!」

 

戸部がねぎらいの声をかける。

 

「あれ?そういえば八幡は?」

 

「八幡?…ああ、ヒキタニくんのことか。寄るところがあるってどっか行っちゃったけど。」

 

「そっかぁ…」

 

比企谷がいないことを知り、しょんぼりとした様子の戸塚。

そんな戸塚に葉山が声をかける。

 

「そういえば、さっき優美子から今、川で遊んでるってメールがきてたな。行ってみるか?もしかしたらそこにヒキタニくんもいるかもしれないし。」

 

「川!そういや水着持ってこいって言ってたっけ!テンション上がるわー!」

 

「そうだね。じゃあ行ってみよっか!」

 

はしゃぐ戸部とにこやかに笑う戸塚。

こうして一行は着替えてから川に向かうことに決めた。

 

「…あれ、そういえばキヨシのやついないな?どこいったんだ?」

 

はっと気づいた葉山。

一緒に行こうと誘おうと思っていたのにキヨシの姿が見当たらなかったからだ。

 

「あーれ、あいつまたいないなー。って、…もしかしたら先に川行ってんじゃね?あいつそういうの好きそうだし。」

 

「まあ、それもそうだな。」

 

多分そうなんだろう。そう思った葉山が先導し、三人は川に遊びにいくのだった。

 

 

× × ×

 

 

現在、藤野キヨシこと俺は一人で大浴場でお湯に浸かっている。

夏なのになんでそんなことを、と思うかもしれないが、まあこれはあくまで計画のついでである。

ちなみに昼から夕方にかけては大浴場は男風呂になっている時間帯、これは事前に調べた通りだ。

 

俺は昨日から綿密に計画を練ってきた。

その一部を今から発表しよう。

いや、『誰に?』とかそういう野暮なことを言うのはやめてほしい。

今回俺は一人だから、誰かに話したい気分なだけだ。

 

ーーまずは初日部屋に忘れ物を取りに戻ると言った時。

当然、本当にうっかり忘れていたなんてことはない。

一人で部屋に戻る必要があったからこそ、そう言っただけだ。

この時俺は部屋に置いてある大きなカバンからアイテムを三点ほど持ち出した。

セロハンテープ、セルフィースティック、ピッキングキット一式だ。

これらを手に持ち俺はあの時もここ大浴場へと向かっていた。

 

 

まずはフロントに行き、大浴場の場所の確認。

これは最上階の4階にあると分かった。この階にそれ以外の施設はなく、あるのは温泉だけなこともまた確認する。

次に温泉の使用時間。

この大浴場は男女兼用で一つしか無く、時間帯で区切られている。

俺たちの滞在する二日間は男風呂になっているのは朝と昼後、夕方そして深夜、女風呂になっているのは早朝、昼前、夜。

わかりやすく言うと数時間ごとに男女交互に変わっていくということだ。

 

とりあえず俺は昼後の時間帯である時に、大浴場に来ていた。

風呂の中に入り、まずは窓の構造を確認する。

窓は覗き防止用の曇りガラス。

大浴場は最上階にあるから外から覗かれる心配はほとんど無いだろうけど、防犯上の都合でそうしているのだろう。

窓は上にある空気を通すための小窓と、その下の大窓の上下二つで、それが壁一面に六枚ほど並んでいる。

 

それを見て、俺はとりあえず前からやってみたかった実験を行った。

それは、『あら不思議!曇りガラスにセロハンテープを貼るとそこが透明になって透ける!?』と、いうやつだ。

なんでも、曇りガラスの曇り部分は凹凸の形になっていて、セロハンテープもまた表面が凹凸になっているため、それらが組み合わさって平らになり透明化するらしい。

これは実際、数年前に一部でまことしやかに囁かれていたものだ。

もし実現するのならまるで夢のような話だが、本当にそうなるのか知りたかった俺は、百聞は一見にしかず。と、とりあえずやってみる。

 

(…なんかわくわくするな!)

 

 

満を持して俺は土台付きのセロハンテープを長めにとり、ドキドキしながらガラス窓に貼り付けた。

 

 

ペタっ

 

 

セロハンテープがくっ付く時特有の音がする。

 

 

…わくわく

 

 

 

…わくわく

 

 

…わく

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何も起きねぇじゃねぇか!!!」

 

 

 

俺は一人浴室で絶叫した。

壁に反響してよく響く。

なんという無念…。

都市伝説は所詮都市伝説だったみたいだ。

それに内側からだと、熱気が充満しているため、セロハンがくっつきずらいったらありゃしなかった。

何だよこれ。

これ言い出したやつ出てこいよ。シメてやるから…。

 

 

しばし見知らぬ誰かに対する怒りに打ち震える。

まあ、気を取り直して次の作戦。

上窓を内側から開けるという単純な行為だ。

今の季節は夏だから上窓を開けていないと熱気が抜けていかず、蒸し風呂状態になってしまう。

だからこそ、内窓を開けておく。

いや…何普通のこと言ってんの?と思うかもしれないが、これはある意味俺の計画を進める上で最も重要な実験なのである。

まあ、この効果については後で考えるとして。

 

それにしても時間がヤバい。ちょっと抜け出すと言っただけだから、早く戻らないと怪しまれてしまう。

とりあえず今やれることは全部やったので、俺は急いで集合場所に急いだ。ーーー

 

ーーー小学生のオリエンテーリングの手伝いから一人抜け出した俺は、本館の外、大浴場の真下辺りにいた。

先ほど風呂の場所を尋ねた際に、ここに非常階段があることを知って、やってきたのだ。思えばこの非常階段ありきで、この作戦は組み立て上がったと言っても過言ではない。

 

おそらく館内地図を見る限り、この非常階段は屋上にまで繋がっているはずだ。

と、思ってやってきて、この非常階段を登ってきたのだが、なんと、屋上の扉には鍵がかけられていた。

学校の屋上的なあれか?

まあ、俺にとってはそんなものは無いに等しい。日本の男なら誰でも持っているはずであろうピッキングスキルを使って、手早く鍵を開ける。

うん、春に八光学園の屋上に登った時よりも手際がよくなってるな。

腕は鈍っていないようだ。

 

そして俺は屋上へと出た。

屋上に着いた俺はある一辺のところに歩いて行く。

この真下には温泉の窓がついているのだ。

落ちないように気をつけながら下を覗く。

見れば、俺が先ほど開けた内窓が確認できた。

(…狙い通りだな)

 

しかし、当然と言えば当然だが、手を伸ばしても届かないほどに少し距離があった。

これ以上身体を伸ばすと落っこちてしまいそうだ。

そこで俺はあるアイテムを取り出す。

 

 

 

ご存知!テレテテッテテー!

 

『セルフィースティック〜!』

 

 

 

ちなみにこれもまた今、屋上で一人で言っている。

もし、これを誰かに見られでもしたら直ちに屋上から紐無しダイブを決行することになるだろう。見られてなくてよかった。

試しに下に伸ばして小窓のところまで伸ばし、窓の中に差し込む。

ギリギリだったが、なんとか届きそうだ。

ちなみに八光学園で以前やった通りにロープに二つの携帯をくくりつけて吊るすという案は却下した。

理由は前回それで失敗した上に、携帯が二つもないからだ。

(…俺は同じ失敗を二度は繰り返さない男、この辺りは抜かりがないのは当然のことだ!)

 

さて、ここまで一通りやってみて、俺は自分の計画の完璧さに身体をうち震わせた。

…やべぇ、失敗する気がしない!!

だからこそ俺は屋上で一人不敵に笑う。

 

「フッ…ククク…!」

 

作戦は決まった。

後はバレないように実行するだけだ。ーーー

 

 

そして二日目の今に至る。カポーン。

まあ、単純にもう一回上窓を開けに来ただけなんだけど。

 

結果から言うと俺の見通しは正解だった。

今ここにきた時は上窓は閉まっていたけれど、昨日の深夜にこっそり部屋を抜け出して風呂に行ったときはまだ窓は開いていた。

つまり、誰も上窓が開いていたことに対して違和感を感じていないし、閉められてしまう可能性も無いということである。

大方四階にあるから外から覗かれる心配も無いと思っているのだろう。

まあ、そもそもそんなことを目論む奴がほとんどいないから発想に無いだけだろうが。

 

ここまでの成果に感動しつつ、俺は次の作戦の為に風呂からあがり、再び動き始めた。

 

 

× × ×

 

 

水着を忘れてしまっていた俺は、他の連中が川から遊んでいるのを眺めていた。

男子は素手で魚をつかもうとなんか修行みたいなことに熱中している。

俺も水着持ってきてれば戸塚と遊べたのになぁ…水のかけっことかしたかった…何て思いながら見ていたら女子たちの中でウォーターバトル(ただ水をかけあっているだけ)が開幕していた。一名女子とは言えない人がいるけど誰だろうね?言ったら確実に殴られるから言わないけど。

なんて一人ぼーっと暇つぶしをしていると、脇の小道から一人の少女が現れた。鶴見留美だ。

 

「よっ」

 

俺が声をかけると留美はうんと頷き、俺の隣に腰かけた。

二人して無言のまま、川で遊ぶみんなの様子を見ている。

 

「…ねぇ、あんたは混じらないの?」

 

しばしの沈黙の末、しびれを切らしたように留美が口を開いた。

 

「水着持ってきてねぇんだよ。お前は?」

 

「私の方はね…今日自由行動なんだって。まあ、朝ごはん食べて部屋に戻ったらみんなどっか行っちゃってたからよくわかんないけど。」

 

えげつねぇ…今時の小学生はそこまでするのか。

と、思っていたがよくよく考えてみると俺も小学生にして同じようなことされてたわ。ボッチの最先端行き過ぎでしょ俺。もしかして俺ってばきゃりーぱみゅぱみゅ?

 

「…そっか。」

 

そうして俺たちは再び川の方に視線を向ける。

しばらくして俺たちの視線に気づいた由比ヶ浜と雪ノ下がこちらに近づいてきた。

 

「留美ちゃんも一緒に遊ばない?」

 

やってきた由比ヶ浜が腰を屈めながら尋ねるも留美は無言のまま、首を横に振るだけだった。

 

「…あ、ごめんね」

 

申し訳無さそうな顔をする由比ヶ浜。

 

「ねぇ八幡。」

 

俺の方に向き直り、話し始める留美。

てか、いきなり呼び捨てかよ。…別に構わないけど。

 

「…なんだ?」

 

「八幡は一人でいるけど嫌じゃないの?」

 

「嫌じゃないね、むしろ自分から進んでなってるまである。」

 

「…あなたの場合ならずにいようと思ったところで無理だと思うけれどね」

 

間に口を挟む雪ノ下。…いやほっとけよ。

 

「…つまりお前はそれが嫌だってことか?」

 

「違う。一人でいることが嫌なんじゃない。シカトされてると、周りから一番下に見られてる気がして嫌なだけ。なんか惨めっぽいし。」

 

留美は続けて言う。

 

「高校生くらいになれば私の今の嫌な状況も変わるのかな…」

 

「少なくとも今のままでいるつもりなら絶対に変われないだろうな」

 

「…そっか、そうだよね。私だって前に友達を見捨てちゃったし。惨めなのは嫌だけどさ…」

 

ああ、俺は彼女の言いたいことが分かってしまった。

おそらく彼女は自分とその周りとを見限ってしまったのだ。

勝手に期待して、期待されて、裏切って、裏切られて。そんなことを繰り返す内に彼女は気づいてしまったのだ。

何かを求めることそれ自体が欺瞞であると。そんなものなどありはしないのだと。

だからこそこんな考えに行き着いてしまう。俺は分かっている。彼女の今考えていることは間違っていると。

だけど、他ならぬ俺にはそれが言えない。なぜなら俺が今までずっとそうだったから。そしてそれは今もまだ変わってなどいないのだから。

 

「…肝試し、楽しいといいな」

 

だから俺は留美にただ一言そう告げて立ち上がる。既に腹は決まっていた。

 

 

× × ×

 

 

「ねぇ、雪ノ下さん。ちょっとお話しいいかな」

 

川遊びを終えた後、部屋に戻る道をみんなで歩いていた時に海老名姫菜は雪ノ下に話しかけた。

 

「何かしら。」

 

凛とした口調で雪ノ下はそれに応え、話の先を促す。

 

「キヨシくんのことなんだけどさ、どこ行ってたか知ってる?」

 

海老名の口から出た思わぬ人物名に雪ノ下は驚いた。

 

「キヨシくん?…悪いけど、知らないわ。彼が何かしたの?事と次第によっては警察に通報するけれど」

 

何かキヨシが悪いことをしたと決めつけているかのような口ぶりをしている雪ノ下だが、彼女自身も昨日から彼の動向に違和感を感じていたため、既にこの話に興味を持っていた。

 

「いや、何かされたって訳じゃないんだけどね。

ちょこちょこ居なくなってるのが気になっちゃって。」

 

しかし、そこまで話を聞いた時、雪ノ下はある一つの仮説にたどり着いた。否、たどり着いてしまった。

もしかしたら『キヨシは孤立していて気まずい思いをしているのではないのか?』と。彼女はそう思ってしまった。

まあ、確かにそう考えればこの違和感に説明がつかなくもない。

 

「まあ、彼ももう高校生なのだし、多分大丈夫よ。」

 

「…え?うん…ああー…そうだねー」

 

だからこそ、雪ノ下雪乃はこの時、海老名との会話を途中で切ってしまった。海老名が何を言おうとしていたのかを聞きもせず、何を考えていたのかを読み取ろうともせず、自分の中で勝手に答えを出してしまった。

これは一人でなんでもできるという自負がある雪ノ下だからこその解答だったのか、それとも仮にも自分の部活の後輩を理由もなく疑いたくはないという罪悪感に駆られての行動だったのか。

何にせよ、こうして雪ノ下雪乃はらしくもなく途中式を間違えたまま、答えを出してしまったのだった。

 

 

× × ×

 

 

「ふう…こんなもんかな。」

 

作業を終えた俺はようやく一息をつく。

思えば自由時間だと言うのに、全く遊んでいなかった。

ちょっとだけ勿体ないとも思ったが、お楽しみを後にとっておいたと考えれば損した気になりはしない。

そして俺ははやる気持ちを抑えながら、心の中で今夜のミッションの目的を反芻した。

 

(今度こそやってやるぜ…

 

 

 

 

 

 

 

俺は!覗きを成功させてみせる!)

 

 

バカな男が一人。人知れず、森の中で決意を固めた瞬間であった。

 





一瞬キヨシをブーメランパンツで川に放り込もうかとも思ったのですが、その後の展開が続きそうになかったので止めました。
完全に出オチになっちゃいますもんね。

さあ、キヨシの陰謀がようやく明らかになりましたが(特に隠す気もなかったので見え見えでしたけど)、普通に川行って水着見てたらリスクなしでかなり得できたんじゃね?とかすっげー思います。
まあ、キヨシは川で女子が水着になってることなんて全く知らないのでしょうがないっちゃしょうがないのですけど。

果たしてそんなキヨシの運命やいかに。
ではまた次回の更新で会いましょう。


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